フルメタル・パニック! 蒼き死神 (砂岩改(やや復活))
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蒼き死神

 

 日本の東京で起きたラムダ・ドライバ搭載兵器《ベヘモス》の事件。港湾施設をズタズタに破壊されたあの事件は秘密組織《ミスリル》とアーバレストによって鎮圧された。

 

 だが現実には違った。アーバレストが搭乗者である相良宗助に届く前に深紅の巨人は駆逐されてしまっていたのだ。全ての悲しみを体現したような真っ青な機体。

 

 突如現れたその機体は怒りに震える赤い眼を輝かせながらベヘモスも蹂躙した。蒼き死神《BD-01》によって。

 

 

 クルツによる狙撃が成功し軽トラでアーバレストの降下地点である東京ビッグサイトに向かう途中。その機体は目の前で佇んでいた。

 

「なんだ、あのASは?」

 

「分からない。大佐殿は知りませんか?」

 

「いえ、あんな機体見たことないわ」

 

 第二、第三世代の中間とも言えるような外見。その機体はたった一機で立ち尽くし迫り来るベヘモスを見つめる。

 

「EXAMSYSTEM STAND-BY!」

 

 機体から無機質なシステム音声が流れると雰囲気が一変する。機体各部が赤色に変色し緑色のバイザーが赤色に染められる。

 

「なに、この機体…」

 

 目の前で変化した蒼い機体から放たれる強烈な否定の意思。それを感じ取ったテッサは気圧され、息を飲む。その異様な雰囲気を感じとりその機体を見つめる。

 

「行くぞ、メリダ」

 

 パイロットはそう呟くと機体を動かしベヘモスに対して真っ直ぐ突っ込む。巨体を誇るベヘモスの動きは鈍重だがラムダ・ドライバを搭載している未知の兵器だ。その行動は愚作とも言える。

 

「すごい機動力だ。だがベヘモスにはラムダ・ドライバが」

 

 戦闘の様子を伺っていたクルツの言葉通り。蒼い機体はラムダ・ドライバの産み出す盾によって進路を阻まれ派手にぶつかる。全身のブースターを使ってさらに加速するがそんなものでラムダ・ドライバを突破できるものではない。

 

「やはり固いな…メリダ、行けるか?」

 

《楽勝よ!》

 

 バイザーが激しく光ると蒼い機体は少しずつ進んでいく。まるで盾を侵食しているように徐々にめり込み、突き進む。

 

「まさか!」

 

「あの機体もラムダ・ドライバを…いや、違うわ。あれはラムダ・ドライバとは違う!」

 

 盾を突破した機体はベヘモスの頭部に降り立つと持っていたマシンガンでバルカンを木っ端微塵に破壊すると股から取り出したナイフでズタズタに切り裂く。

 

「タクマ!」

 

「ダメだ、危ない!」

 

 切り裂かれたベヘモスの部品が飛び散りクルツたちの所に落ちてくる。

 

「とにかく、アーバレストの所に行こう」

 

「そうね、宗助の所にいきましょ!」

 

 所属不明の機体が暴れている間に退避するカナメたち。イレギュラーであったがベヘモスの暴走はこれで終わる。ミスリルがここにいる意味もなくなった。

 

《ユウト。見つけたわ!》

 

「あぁ、悪いが死んで貰おうか…」

 

「あぁ、姉さん!」

 

 剥き出しになったコックピットの前で拳を振り上げたのはあの機体。その機体は容赦なく左のシールドを振り下ろしタクマを潰すのだった。

 

「よし、一人殺った」

 

《まだよ!》

 

「あぁ、もう一機来たからな…」

 

ーー

 

「カナメ、大佐殿、ご無事で」

 

「はい、あの機体がいなければどうなっていたか…」

 

「そうね、でもあれは味方の気がしないのよね…」

 

「同感です。すぐにここから…」

 

ドンッ!

 

 アーバレストに搭乗した宗助と合流を果たした一同。だが退避しようとした瞬間。壁などを破壊して迫ってくるような音と振動がこちらに伝わる。

 

「ちっ、今度はこっちの番って訳かよ!」

 

「見つけた、2機目のラムダ・ドライバ!」

 

「クルツ、二人を!」

 

「任せろ!」

 

 スラスターを使った爆発的な加速によるタックルを正面から受け止め吹き飛ばされるアーバレスト。その瞬間、左腕のシールドの先端がコックピットを貫かんと迫る。

 

「くっ!」

 

 アーバレストの柔軟な動きでなんとか回避するが離れたと思えばマシンガンによる射撃が襲いかかる。

 

「宗助!」

 

「こいつ!」

 

 アーバレストも手持ちのライフルで反撃に出るがすべてシールドに阻まれてしまう。アーバレストの機動力を存分に使い四方八方から狙うがすべて分かっているように防がれる。

 宗助は上下も織り混ぜた攻撃を繰り返して敵の死角を探すが全く読めない、それどころか着地地点を読まれ距離を詰められる。

 

(まだだ…)

 

 ASのシステムに頼らない。純粋なパイロットの技量による攻撃であるナイフ投擲は宗助の攻撃手段のなかでも必中に近い攻撃であった。ライフルによる牽制で気を引きナイフの投擲で仕留める。その為にライフルによる一定のパターン攻撃を繰り返していたのだ。攻撃タイミングは敵が距離を積めてくる瞬間。

 

「今だ!」

 

「なっ!」

 

《大丈夫よ!》

 

 完璧なタイミングのナイフ投擲。機体の頭部に真っ直ぐ飛来するナイフだったが難なく掴まれてしまう。

 

「なに!?」

 

「マジかよ…」

 

 宗助の一瞬の動揺。それによって対応が遅れライフルを掴まれ握力でへし折られる。

 

(殺られる!)

 

 死を直感した宗助。それが引き金となってアーバレストのラムダ・ドライバが発動。不可視の盾が敵機の攻撃を防ぐ、だがそれも一瞬。シールドの先端によって左腕を叩きちぎられる。

 

《ラムダ・ドライバが阻害されました。原因は不明》

 

「そんな事は分かっている!」

 

 アルの言葉に怒鳴りかえす宗助、首を掴まれ、締め上げられるアーバレスト。

 

《ラムダ・ドライバ介入による全力稼働で機体各部がオーバーヒーローしてるわ。機体とユウトの精神混濁率上昇、これ以上は危険よ》

 

「分かっている。すぐに…と…ど……めを…」

 

《無理よ、相手はラムダ・ドライバの使い手じゃない。いつでも殺れるわ》

 

「ぐっ……」

 

《EXAMSYSTEMを強制停止。撤退しなさいユウト》

 

「くそっ!」

 

 異常な馬力でアーバレストを拘束していた蒼い機体は突然。スイッチが切れたようにアーバレストを離すと全身から高熱の蒸気を噴出する。

 先程の大暴れが嘘のように静まり返った機体はアーバレストを見つめると静かに退いていく。

 

「なんだ?」

 

「助かったのか?」

 

 明らかに必死の状況を抜け出してしまった宗助は思わず唖然とするが蒼い機体は振り向きもせずにその場を去るのだった。

 

「BD-01か…」

 

 肩に大きくマーキングされた英数字を見て宗助は静かに呟くのだった。

 

 



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