ようこそコゴクエリアへ! (ニホニウム)
しおりを挟む

12.2話 とうだい

「すっごーい!かばんちゃん、アレ何だろうね?」

「うーん...ロッジ、みたいな物じゃないかな...?でも、随分と違うし...」

 

大海原を行く小さな船、ジャパリバス。

性格に言えば、バスだった物を水陸両用に改造した船の中に、誰かが居ました。

彼女たちの名前は、"フレンズ"。動物、もしくはその一部が"サンドスター"と呼ばれる不思議な物質が当たる事により、"アニマルガール"と呼ばれる少女になる現象の事を"フレンズ化"と呼びます。

 

「さっすが、かばんちゃんだよ!!私には全然分からなかったのに...」

 

サーバル、と呼ばれた少女が嬉しそうに答えます。

サーバルは訓練次第では人に良くなつき、人の感情を読み取るのにも長けているため高級ペットとしても取引される程人気が有る動物です。

フレンズには元の動物の特徴を受け継ぐ、と言う能力が有るため友達思いと言う特徴に受け継がれたのかもしれません。おっちょこちょいなのは、性格の問題だと思われますが。

 

「サーバルちゃんの方が凄いよ...それに、多分違うと思うし...」

 

かばんと呼ばれた大きな帽子を被る少女は、"人"のフレンズです。

彼女自身それを知らなかったのですが、紆余曲折有り、フレンズと別れ人探しの旅に出かける事にしました。

その道中、友達のサーバルと後ろから"誰か"が付いて来たのです。

 

「カバン、アレハ灯台ダヨ。」

「ラッキーさん?」

 

かばんの腕から、機械的な声が聞こえました。

声の持ち主は"LB"ラッキービーストです。フレンズからは、ボスと呼ばれ親しまれて居る機械の事を言います。

現代の人工知能とは違い、規律ギリギリの範囲内でフレンズと自発的に話したり、時には相手の考えを理解したりする...など、現代の技術とは大きくかけ離れた性能を持っています。

紆余曲折有り、今は体を失ってしまいましたが、それでも性能には殆ど問題有りません。

問題が有るとすれば、自発的に動く事が出来ない...それくらいでしょう。

 

「灯台ハ、船ノ航路ヤ安全ヲ確認スルタメニ、港湾ヤ沖ノ先端ニ作ラレタ物ナンダ。」

 

灯台。

船の航路を確認するために作られた施設で、最上部には遠くからでも認識が可能な光源が設置されています。

灯台の起源はとても古く、記録に残っている物では紀元前7世紀、古代エジプトで使用されたとも言われている程です。

 

「...ニシテモ、可笑シイヨ。コノ辺リニ、灯台ナンテ無カッタハズ...」

「どういう事ですか...?」

 

キョロキョロと、二人は辺りを確認します。

ですがそこには確かに、立派に灯台が存在していました。

 

「モシカシタラ、新シク建テラレタ物ナノカモシレナイヨ。僕ノデータハ長イ間、更新サレテイナイカラネ。」

「なら...人が、戻って来て建てた物かもしれないって事ですか?」

 

少し興奮ぎみに、かばんがラッキービーストに質問します。

人と会えるかもしれない、そんな期待をしているのかもしれません。

 

「ソウダネ、カバン。モシカシタラ、コゴクエリアニハ人ガ――」

 

ラッキービーストが何かを言いかけた時、大きな音と共に船が揺れて、二人は共に股がるような体勢になってしまいました。心なしか、かばんが恥ずかしそうに見えます。

 

「うわわぁ!?ご、ごめんね、サーバルちゃん...」

「い、いてて...へーき、へーき。大丈夫だよ。かばんちゃん。」

 

「な、波...?」

 

ザッブーンっと、大きな波がかばんたちを襲い、体を濡らしました。

次第に海面がぶくぶくと泡立ち、中から何かが現れました。

 

「フレンズさん?」

 

上から、黒、黄色、白、水色のイルカを思い浮かべる髪型をしたフレンズがそこに居ました。

 

 

 

...

 

 

 

「ごめんねー...君たちに追い付きたくて、ジャンプしたんだけど...」

「へーき、へーき。ちょとびっくりしちゃたけどね...」

 

テヘペロ、と言う文字が正しいようなそんなポーズをしながら謝っているのは、マイルカのフレンズです。

マイルカ、と聞くと"真のイルカ"...と思い浮かべる人も多いと思いますが、それは和名で、英名では"普通のイルカ"と言う意味で呼ばれています。

知名度はバンドウイルカに劣り、中々真のイルカとは呼びにくいような...そんな名前です。

バンドウイルカとは違い、やや神経質な性格で中々知名度が上がらないのも、そのせいなのかも知れません。

いつしか、真のイルカと堂々と呼べるような時代は来るのでしょうか...

 

「私の名前は、マイルカ。気軽にマルカって呼んでね?」

「マルカ...さん。よろしくお願いします。僕の名前は、かばんって言います。この子は、サーバルちゃんです。」

「よろしくねー!」

 

元気良く、二人はマイルカのフレンズに挨拶をしました。

にっこり笑っていて、マイルカも思わず笑顔になります。

 

「かばん...いったいどんなフレンズなの?」

「かばんちゃんは、人のフレンズなんだよ!とっても凄くて、大きなセルリアンもやっつけちゃうんだ!!」

「さ、サーバルちゃん...」

 

サーバルの無意識な発言に、かばんの顔が真っ赤になります。

一方で発言者のサーバルはきょとんとしていて、どれだけかばんの事を好きでいるのかが良く分かります。

人間で例えれば、見ていて恥ずかしくなるようなラブラブなカップル...でしょうか。

 

「......人、かぁ。昔に良く遊んで貰ったなぁ...」

「人を!?...人の事を知っているんですか?」

「フレンズになる前の話だけどね。良く帽子を被った人と、遊んでいたんだ...」

 

懐かしそうに、マイルカは答えます。

かばんは目を見開いて問ますが、それにも曖昧に答えるマイルカ。

二人には明らかに温度差が有りますが、かばんが人を探している事をマイルカは知らないので仕方ないでしょう。

 

「実は、人を探していたんですが...」

「ごめんね、あんまり覚えていないんだ。手伝う事は出来なさそう...」

「そう...ですか。お気持ちだけでも、嬉しいです。」

 

敬語で話すかばんに、サーバルが問ます。

 

「ねぇ、かばんちゃん。あれって人が建てた物なんだよね?」

「そうだと思うけど...どうしたの?」

 

きょとんとした顔のかばんに、サーバルが例の顔をして高らかに宣言します。

かばんは先の展開が読めたのか、少し後退りしながら聞き返しました。

 

「灯台、サバンナの木みたいに登ってみない?」

 

 

...

 

 

 

「じゃあ、やってみるよ!」

「さ、サーバルちゃん、別の道を――」

 

嘘みたいな、冗談みたいな話し合いですがフレンズは基本的に皆、野性的に生きているのです。

なので、時々脳みそがとろけてガーリックになりそうな事を話し合い、それを実行してしまいます。

実行してしまう身体能力が、存在してしまっているのです。

なので、割りとシャレにならない事もしてしまいますが...そこはけものなので大目に見て上げてください。

 

「うみゃみゃみゃみゃみゃー!!」

 

これが野生の登り方だ!と言わんばかりにサーバルは大きく前にジャンプ。

しばらくの間は空中を浮遊していましたが...物理法則には勝てず、落下。

ざっぶーん...と大きく頭から海に落ちてしまう結果になってしまいました。

 

「サーバルちゃん!?」

「うみゃ、うみゃ...みんみー(ぶくぶく...)」

 

 

...

 

 

 

「マルカさん...ありがとうございます。」

「あ、あははは。ありがとうね、マルカちゃん。」

 

サーバルは、泳ぎが得意ではないのでマイルカが居なければ大惨事になっていたかもしれません。

かばんは、他の動物と比べると泳ぐ事は得意なのですが...それでもマイルカには遠く及びませんし、泳ぎ方を教わった事が無いので、救出する事は難しかったでしょう。

 

「あははー別にいいよ。それより、怪我が無くて良かったよ...」

 

水は普段は柔らかく粘性が低いので当たっても死なない、と思われがちですがそれは低い場所から当たった場合で有って、高所...例えば100mの高所から落ちるとすると、コンクリートと同じくらいの強度になると言われています。

サーバルももう少し高く飛び込めば...全身を強打するなどの怪我をしたかもしれません。

時々、映画などで海に飛び込むシーンが有りますが皆さんはふざけて崖から海に飛び込むなどの行為は、絶対に行わないようにしましょう。

 

「それより、あそこに入りたいんだよね?私が連れていってあげようか?」

 

 

 

...

 

 

 

「ここが入り口だよ。」

「広いですね...あれは階段でしょうか?」

 

かばんが上に続く階段指差して言うと、ラッキービーストが反応しました。

 

「カバン、アノ階段カラ上ニ登レルヨ。」

「すっごーい!ひっろーい!!」

 

さっきからサーバルの言語能力がお釈迦になっていますが...サーバルにとって、この"旅"は初めての体験ばかり。

いわば何も知らない子供のような物なのです。普段からこんなのだと言うのは、きっと気のせいです。

 

「ここは、人が休憩するのに使われていたらしいよ!」

「らしいって事は...誰かから聞いたんですか?」

 

かばんの瞳が輝いて見えます。

きっと人の事を知っているフレンズに出会えるかもしれない、そう思っているのでしょう。

 

「そうだよ!お母さんに教えて貰えたんだ。」

 

お母さん...フレンズが親子でフレンズ化する事は確認されていませんが、フレンズを実の子供のように育てるフレンズは確認されています。きっとマイルカはそのようなフレンズに育てられたのでしょう。

 

「お母さん...?」

 

かばんがきょとんと答えますが、サーバルは理解したように頷きます。

かばんはサーバルと共に暮らして来たのでお母さん、と言う感覚が分からないのかもしれませんが、サーバルはカバのフレンズに育てられたので、そう言う存在を理解出来るのでしょう。

 

「お母さんって言うのはね...うーん、どう言えばいいんだろう?」

「オ母サンッテ言ウノハ、親シミヲ込メテ言ウ場合モ有ルケド...基本的ニハ女性デ、自分ヲ育テテクレタ人ヤフレンズノ事ヲ言ウンダ。」

 

かばんには理解が難しい...ラッキービーストはそう判断したのか、人から身近な存在のフレンズと言う言葉に変えて説明しました。

実際、かばんは難しそうな顔をして考え、ラッキービーストの説明で理解出来たのか顔色をパッと明るくしました。

 

「じゃあ、サーバルちゃんが僕のお母さんって事?」

「育テタ、ト言ウ観点ニ置イテハ、ソレデ正シイダロウネ。タダ、産ミ親ト言ウナラ――」

 

ラッキービーストが何かを言いかけた時、パッとかばんたちに光が射し込みました。

 

 

 

...

 

 

 

「わぁ......!」

「すっごーい......!」

 

灯台の上から眺める海は、サンドスターを思い浮かべるような光が射し込み、キラキラと輝いて見えます。

二人は思わず、感嘆の声を上げました。

 

「わっー!すっごーい!すっごーい広いよ!かばんちゃん!」

「うん!海って広いんだね!」

 

海はとても広く、地球の約70.8%をしめているのは、このどこまでも続く海です。

海には多くの生物が活動しており、人類はそのたった1%しか知らないと呼ばている程です。

まさに、海は青く輝くダイヤモンドなのです。

 

「カバン、アソコニ見エル大キナ島ガ、コゴクエリアダヨ。」

「あそこがコゴクエリア...」

 

かばんが、これからの冒険に色々な思いを込めてなのか、心配そうな表情をします。

これからの旅、どんな旅になるのか分からない...そんな旅に、わがままに付いてきてくれたサーバルにお礼を言うため、クルッと半回転して真っ直ぐかばんはサーバルを見つめます。

 

「ありがとう。サーバルちゃん、マイルカさん。」

『え...?』

 

サーバルとマイルカは首を傾げます。いきなりの感謝の言葉に戸惑っているのでしょう。

 

「サーバルちゃんは、僕の『人を探す』わがままに付いてきてくれて。」

 

―正確に言えば、サーバルの方から付いて行ったのですが。

かばんにとってはそれが、とてつもなく嬉しかったのでしょう。

そしてかばんは、不思議そうな顔をするマイルカに向かって言葉を続けます。

 

「マイルカさんは、僕たちにこんなに素敵な場所を教えてくれて。」

 

二人は不思議そうに見つめ合った後、ふふっと笑い合いました。

そして、かばんの顔をしっかりと見つめて...

 

『どういたしまして!』

 

サーバルとマイルカは、かばんに向かって満面の笑みを浮かべました。

心からそう思えたのか、二人はマリーゴールドのような笑顔でした。

 

 

 

...

 

 

 

「今日はありがとうございました。本当に有意義な時間を過ごさせて貰えて...」

「私の方こそ、久々に"人"に会えて嬉しかったよ!きっと、お母さんに話したら喜ぶんだろうな...」

 

人と言う言葉に懐かしむよう、マイルカはどこか遠い場所に視線を剥けます。

そんなしみじみとした雰囲気が流れる中、マイルカのお腹がギュルル...と可愛らしく鳴りました。

思えば、マイルカは昼からご飯を食べていません。そろそろお腹が空く頃なのでしょう。

 

「よければ...これ、食べませんか?」

 

かばんは、ジャパリバスの中からジャパリまんじゅうをいくつか取りだし、マイルカに渡したました。

クンクン...と匂いを嗅ぐようにして、マイルカは口の中にジャパリまんじゅうを放り込みました。

 

「...!?美味しい...」

「ふふ。喜んで貰えて良かったです。」

 

ジャパリまんじゅう、フレンズがサンドスターを補給するために食べるその食べ物は、各エリアごとに味や種類が違い、ご当地ジャパリまんじゅうなどとも呼ばれています。

フレンズたちが飽きないように...そう思い作られた物ですが、交通網が壊滅している今、フレンズが他のエリアの物を食べる事は難しいでしょう。

 

「そうだ......こんな事、前にも。」

 

小さな声で、そっとマイルカは呟きました。

 

「...ん?どうかしましたか?」

「いや、ちょと昔の事をね...思い出して。」

 

「昔...何か有ったんですか?」

「記憶はおぼろげで、本当に有ったのかも分からないんだけど...」

 

記憶を確かめるように、少しの間を置いてからマイルカは言葉を続けます。

 

「かばんちゃんと似たような人から、ご飯をもらった事が有ったなって....」

「マイルカさん...」

 

 

...

 

 

 

「では、私たちは行きます。」

「ばいばーい!また会おうねー!!」

 

ジャパリバスの上でカバンがペコリと一礼。サーバルはブンブンと腕を振ってイルカに別れを告げます。

ラッキービーストがジャパリバスを起動しようとした寸前、マイルカがかばんに向かって声をかけました。

 

「かばんちゃーん!」

「はい?」

 

不思議そうにかばんはマイルカを見つめ返します。

そんな彼女に向かって、マイルカは意を決したような表情をして。

 

「きっと貴方なら人と会えるから、だから――」

「――この先の旅も、頑張ってね!」

 

そう言い終わると、マイルカは勢い良く海に飛び込んで行きました。

 

 

...

 

 

 

「行っちゃたね...」

「...ねえ、サーバルちゃん。僕、本当に人に会えるのかな...?」

 

かばんが、心配そうにサーバルを見つめます。その体は微かに震えていました。

 

「僕、どうしようもなく弱いんだ。マイルカちゃんとお話している時も、ずっと怖かったんだ。」

「かばんちゃん...」

 

「マイルカちゃんは、多分それを励ます為に応援してくれたのに...僕は...」

「かばんちゃん、大丈夫だよ。誰だって怖い事くらい有るよ...それに。」

 

サーバルは、ギュとかばんの手を握りしました。

 

「かばんちゃんは、私を、皆を助けた強い子だよ。さっきも言ったでしょ?」

「あ......」

 

サーバルは、ただのトラブルメーカーではありません。

時々人やフレンズの事を物事の本質に気づかせてくれる、不思議な力を持っている優しい子なのです。

おっちょこちょいで、その殆どを無駄にしてしまっていますが。

 

「ふふ、サーバルちゃんには、やっぱりかなわないや...」

 

二人の絆が、より固まったような気がしました。

 

 

 

...

 

 

 

「カバン、モウスグデコゴクエリアダヨ。」

 

パチクリと目を覚ますかばん。

ジャパリバスの前列に身を乗り出して確認すると、そこには小さな港が有る目視では確認出来ない程大きな島が堂々とそこに存在していました。

 

「あれが...コゴクエリア?」

 

二人とラッキービーストの旅は、まだまだ続くようです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。