食べ歩く蜘蛛 (黒猫街夜)
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脈動

無謀にも新作を書くダメ作者! どうも黒猫さんです。まぁ書きたくなったのです。更新は基本的にマーリンの弟子が優先ですかね。

ではごゆっくり


 死体が転がっている。まるでゴミのように打ち捨てられて、内蔵を引きずり出され、頭部をザクロのように弾けさせ、四肢を切り落とされ喉に大穴を開けている。

 そんな惨殺死体が散乱としており、誰もが吐き気を催すであろう光景がまるで当たり前のようにそこにあった。

 しかしそんな中に佇む子供がいた。その子供は黒いレインコートを着ており、その顔は見えない。

 

 「……いただきます」

 

 あぁ今日も人間を殺した。だがこれは正当な権利だ。父さんと母さんがどれだけ苦しんで死んでいったか願わくば地獄で知るといい。確かにこの人間は俺とは何の接点もない赤の他人だ。しかしコイツらは人間だ。なら俺にとってはそれだけで殺す価値がある。

 家族を、友達を殺した人間共を、俺は絶対に許さない。死のまぎわまで恨み続けてやる。

 

 まぁそれはさておき、俺はコイツらを食べなくては。母さんはいつも言っていた。“今日も食べられることに感謝して食べなさい“と。だから俺は人間を食べよう。とはいえ流石にこんな量は食べられないからいつも通りかなり残すことになるだろう。

 人間には相応しい最後だ。

 

 落ちていた腕を拾い上げ、噛み砕く。今日の肉はそんなに美味しくはないが贅沢は言ってられない。俺は少しでも肉を食って、強くならなくてはいけないのだから。

 バリバリと音を立てて骨を咀嚼する。やっぱりそんなに美味しくないな。

 

 その時だった。人ならざるものとしての超感覚にこの裏路地に侵入者の気配を察知する。今日はもう食事を用意する気はないんだけど……仕方ない、ここは見逃してやろう。

 運が良かったと咽び泣くといい。

 

 俺は落ちていた肉の1つを拾い上げるとさらに奥の暗がりへと消えていった。

 

*******************

 

 「これは酷いですね……」

 

 「全くだ。相変わらずえぐい殺し方しやがる」

 

 東京10区、とある裏路地で複数の死体が凄惨な姿で発見された。発見したのは近所でも有名な不良グループの少年達で、死体を発見してからすぐに、慌てて駆け込んできたらしい。

 

 「この殺し方、また『喰い残し』ですか?」

 

 「あぁ間違いないだろうな。こんな殺し方は『喰い残し』くらいしかできないさ」

 

 「今度は……パッと見4人ってところですか」

 

 「相変わらず見境ないな。この間はアパートに押し入って老夫婦を惨殺。その前は施設で子供を3人を惨殺。しかも毎回身体の半分はその場に残していく。襲撃数と被害者数は喰種の中でも異常な数になる」

 

 喰種。それは人間を喰らう、化け物の名。

 人間に紛れ、人間を喰らう捕食者達の総称。

 

 「で? どうしますか? 先輩」

 

 「そりゃあ痕跡を追うしかないだろうさ。面倒だがな」

 

 2人の男の視線の先には何かを引きずったかのような血痕の道があった。それはまるで獣が餌を巣に運んだ跡のようにも見える。これからその跡を追っていくのは、かなりの危険が待ち受ける可能性がある。しかしそれを理解した上で男達は進む。

 

 注意深く辺りを見渡しながら、その手に銀のアタッシュケースを持って。

 

 グチャ

 

 「ッ! 先輩! 今の音!」

 

 「……間違いねぇな。『喰い残し』だ。まだ食事中だったらしい」

 

 彼らがさっきから口にしている『喰い残し』という名前。それはこのところ、10区に出現するようになった喰種の呼称である。

 そして『喰い残し』とは、月に10件以上の捕食を繰り返し、被害者数に至っては、50人以上という、かなりの大食いの喰種であり、そしてその特徴として人間の身体を半分程しか食べずに、残りはその場に放置して消えていくことから付けられた名前。

 本来喰種は月に1人捕食すれば1ヶ月は何もしなくてもいいそうだ。それを聞けばこの喰種の異常性が把握できるだろう。

 

 そして今回、ついに喰い残しの捕食現場に遭遇した。これは千載一遇のチャンスだ。謎の喰種、喰い残しの容姿や赫子を確認するには今自分達がやるしかない。

 喰種対策局、通称CCGの一等捜査官、羽倉真斗(はねくらまなと)はそういきり立っていた。

 そばにいる部下である、宮船健吾(みやふねけんご)三等捜査官は一応喰種との戦闘経験はあるもののその全てがバックアップ。

 戦力としてはあまり期待できないが、それでもまだいないよりはいいだろう。

 

 「じゃあ行くぞ宮船三等!……宮船三等?」

 

 返答はなかった。羽倉一等を猛烈な嫌な予感が襲う。

 何かがまずい! 今すぐにこの場から離れなくては!

 しかし不幸なことにこの裏路地の出口は宮船三等がいるはずの背後のみ、前は行き止まり、後ろは得体の知れない何か。絶対絶命とはまさにこのことだろう。

 しかし羽倉一等捜査官はここから逃げる訳にはいかなかった。

 なぜなら、今度は真後ろからグチャグチャと、咀嚼音が聞こえてきたからだった。

 人生で今まで経験したことがない程の汗を流し、立て付けの悪いドアのように、ゆっくりと、恐る恐る振り返る。

 そこには………………鮮血の海が広がっていた。

 噴水のように本来頭のあった位置から血を吹き出している男は間違いなく先程まで羽倉一等と会話をしていた男だった。

 そして、宮船三等は腹部を赤い触手のようなもので貫かれている。

 あれこそが喰種が獲物を狩るための捕食器官、赫子である。

 

 腹部を貫いていた赫子がズルリと抜かれると、支えを失った宮船三等は前のめりに倒れ込む。それによって宮船三等の背後にいた喰種が見えるようになった。

 真っ黒なレインコートに顔には喰種のように複数の赤い瞳を爛々と輝かせる蜘蛛の仮面を被った子供だった。

 

 「くっ! まさか喰い残しがこんな子供だとはな! だが俺は容赦しないぞ!」

 

 ガチャリと音を立てて白いアタッシュケースから無骨な剣が出てきた。

 

 「クサガミ! これでお前を殺す!」

 

 どうやらあの剣の名前はクサガミという名前らしい。

 

 「……ふざけんな」

 

 「あぁ!? 何がだ!」

 

 「確かクインケだったか? それは俺達喰種の仲間が素材なんだろ? なら返してもらう。その後ちゃんと供養するさ」

 

 「はぁ? ……お前何言ってんだ? これは俺達の物だ。どう扱おうと関係ないだろ?」

 

 「……そうか。なら遠慮は要らないな?」

 

 「はっ! やってみろ!」

 

 羽倉一等はクサガミを振り回し、裏路地にあった鉄パイプや、壁を削りながら少年へと迫る。

 しかし少年にはハエが止まるような速度に見えた。

 

 これで殺せると勘違いした羽倉一等は次の瞬間、2人の姿を見下ろしていた。脳が理解できないまま、羽倉一等は意識を暗転させ、その障害に幕を閉じた。

 

♢♢♢♢♢

 

 刎ねた首がぼとりと落下して俺の足元に転がってくる。それを拾い上げて、近くの壁へと赫子を突き立てる。その瞬間、壁がぐにゃぐにゃと生き物のように歪みだし、壁の向こうに不思議な空間が現れた。

 少年はその中へとクインケを拾い上げて歩き消えていく。

 その場にのこったのは死体と静寂だけだった。

 

 

 

 

 

 

 この時この少年は10歳。

 人間からも、喰種からも恐れられるようになる喰種へと成長する最凶の喰種の話。

 

そして10年後、20区のとある喫茶店に青年となった男が訪れていた。

 

────カランカラン

 

 「いらっしゃい。おや、(ひいらぎ)くんか」

 

 「こんにちは店長、お久しぶりです」

 

 ニコニコと、俺と同じ喰種だとは思えないほど邪気のない真っ直ぐな笑顔を向けてくる。

 

 相変わらずここは変わらない。20区に存在する喫茶店、あんていく。人間からも喰種からも愛される隠れた名店。今日は他の客はいないようだが、それなりに人気の店で常連さんも多いらしい。

 それよりも今日の予定を済ませてしまおうか。

 

 「いつもの橋の下に置いてあります。夜にでも取りに行ってください」

 

 「あぁ毎回助かるよ。ありがとう」

 

 店長、芳村功善(よしむらくぜん)は喰種としては非常に珍しい人間を愛する喰種。大抵の喰種は人間を捕食対象としてしか見ていない。だが、たまに人間とも仲良くできるはずだなんていう考えを持った喰種が現れる。

 目の前の店長もそのうちの1人で、それに影響されて店員も、人間に対してある程度好意を持って接している。

 

 あぁ、なんて、なんて──────()()()()()()()()

 

 人間は喰種を恐れ、喰種は人間を喰らう。これこそが俺達のルールであり、そこに例外はない。

 調子に乗った人間共を殺し尽くすことを考えたこともある。しかしその場合は、貴重な食料源である人間がいなくなってしまうことを意味する。

 

 この店でマシなのは霧島董香(きりしまとうか)ぐらいなものだが、あれは芳村に恩があるからと、ここを離れることはないのだろう。

 それはとても勿体ない。

 俺達は捕食者、人間が餌。

 こんな基本のことさえ分からなくなった喰種のなんと弱いことか。情けなくて涙が出てくる。だが最近20区にかなり気合いの入った喰種が来たらしい。他人の餌場を荒らして、喰いたい放題らしいが、面白い奴だったら俺達の組織に勧誘してもいいかもしれない。

 

 「じゃあ俺はこれで失礼しますね?」

 

 「あぁいつもありがとう……しかし柊くん、最近少し食べ過ぎじゃないかい? 気をつけるんだよ?」

 

 「……えぇ分かりました。ありがとうございます」

 

 あぁなんて五月蝿いクソ爺。老いぼれは黙って死ぬがいい。これからは若者の時代なんだよ。

 これだから実力がある馬鹿は……出来損ないのゴミめ、さっさと死んでこの世から引っ込め。それがこの世にお前の残せる数少ないことなんだから。

 今はせいぜいそこで傍観してろ。いずれそこから引きずり下ろしてやるよ。

 

 俺達、“()()()()()()”がお前を殺す。それまでは余生を噛み締めて生きていけ。

 

 表面上は笑顔で、内面では壮絶な殺意を滾らせながら、俺は店を出る。

 

 「きゃっ!」

 

 「うん? あぁすみません、不注意でした」

 

 「あっ、いえいえこちらこそ」

 

 だがその際、入れ替わるように店に入ってきた親子とぶつかってしまった。そしてその正体を匂いで察する。

 

 コイツらも俺と同じ喰種か。しかしそんなに血の匂いがしないな。ということは狩りが苦手なタイプの喰種か。……それは喰種としての存在意義の欠如だろうに、全くもって度し難い。

 俺達喰種は生き血を啜って、死肉を喰らい、必死に生へとしがみつく生き物。天敵である人間は同時に、俺達の餌。弱ければ死に、強ければ生き残る。

 

 言い忘れていたが、俺は運び屋をやっている。人間の肉を売りさばき、武器を仕入れては売りさばき、喰種用の薬物を生成しては、売りさばく。やってることはただのクズだが、俺としてはこういう自分で狩れない喰種がいるからこそ、仕事になっていると言ってもいい。

 色々と思うことはある。こんな負け犬なんて放っておいて俺は俺の生き方をするべきなんだろう。だが残念なことに今の俺は1組織のリーダー。ならばそのための活動資金を集めなくてはならず、渋々こんなことをやっている。

 まぁどうでもいいか。

 客は客、顔ぐらい覚えておけば今後会った時にもしかしたら役立つかもしれない。

 

 まぁこんな戦えない喰種の顔なんて覚えてもしょうがない気はするが。

 

 「初めまして同族さん。柊燐(ひいらぎりん)といいます」

 

 「ッ! は、初めまして、笛口リョーコといいます。この子は雛実(ひなみ)です」

 

 「……初めまして」

 

 笛口リョーコと笛口雛実ね。この店に慣れた感じだと、この店の常連らしい。それはつまり、俺の客でもあるわけだ。まぁ俺が何をしているのかを教えるつもりは無いし、どうでもいいか。

 

 そう思ってちょっと挨拶したらさっさと隠れ家に帰ろうと自然に会話を続ける。しかしその目論見は、一瞬で頓挫する。初対面の相手だからだろうか? 俺のことを警戒の眼差しで見つめ続ける笛口雛実からは俺と同じ、2種の赫子を持っていることが匂いで分かる。

 あぁなんという才能の塊か。磨けば光る原石を見つけてしまった。だがしかし、俺がどうこうできる事でもない。

 喰種は強者に従うもの。3年前に、芳村との戦いで敗北した俺は、20区での捕食を禁止されている。

 

 基本的に俺は特定の場所に住み続けることは無い。24区を通って、別の区へと渡り歩く1匹の蜘蛛。

 芳村のことは死ぬほど嫌いだが、この街の雰囲気は俺のお気に入りである。適度に死に、適度に生存できるまさしく調和のとれたいい街だ。

 

 だが俺はこの歪みきった世界を基本的にはのんびり生きられればそれでいい。

 

 まぁこの笛口雛実なら将来的にとんでもない力を発揮する可能性だってある。そのための先行投資だと思えば安いものだ。

 これからしばらくは、あんていくに卸す肉はもう少しランクの高いものにしておこう。喰種の成長は食事が大事。あぁ今からこの少女がどう育つのかとても楽しみだ。

 

 俺はそんな変態じみたことを考えながら視線を外し、店を出る。

 

 「よぉボス」

 

 「あん? あぁ、お前か『ハートレス』」

 

 店の傍の裏路地から、短く切りそろえた灰色の髪に、隠しきれていない自虐的な笑みを浮かべた男が現れた。

 黙っていれば確実にモテるであろう顔立ちだが、その内面が異様すぎて絶対に続かない。

 『ハートレス』はロシアから来た元医者の喰種で、そのロシアのとある病院で患者を48人殺害。そのまま日本に亡命。しかしその際に負った怪我で、動けなくなっていたところを俺が見つけて拾った。それからは俺の組織に入り、攫ってきた人間達で人体実験を繰り返している。

 喰種の腕を切り落とした後で、切断した人間の腕を縫合してから、腕を再生させてみたり、人間に人間の肉だと教えずに食べさせた後、それを教えてみたり。

 仲間だが、悪趣味としか言い様のない悪辣な実験を繰り返している。まぁすぐに趣味を優先するやつだが、それ以外なら非常に役立つ男だ。

 

 『ハートレス』の由来は、その残虐性から付けられた呼称らしい。

 

 「良かったのかい? あのお嬢ちゃん。中々の逸材だろう? 人材集めはボスの趣味なのになぁ?」

 

 「まぁ機会があれば勧誘するけどな。あれはぬるま湯に浸かりすぎてる。引き込むならまずは死に慣れて貰わなきゃな」

 

 「……何かやるつもりか?」

 

 「とりあえずあんていくに卸す肉のグレードを上げる。話はそれからだな」

 

 「クハハハッ! あのお嬢ちゃんも災難だなぁ!」

 

 「とりあえずいつもの場所に集合するぞ。だからその死体は片付けておけ」

 

 「へいへい、まぁこの死体は遊び尽くしちまったしなぁ。……24区ならいいよな?」

 

 「遊び尽くしたんじゃねぇのかよ……まぁいいけどさ」

 

 「流石はボスだぜ!」

 

 『ハートレス』が出てきた裏路地の壁に赫子を突き立てる。すると、ぐにゃぐにゃと壁が蠢き、入口になった。

 

 「じゃあ行くぞ?」

 

 「おうよ! 久々の集会だもんなぁ! 楽しみだぜぇ!」

 

 こうして、誰も知ることなく、地獄が目覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、お気に入り登録などしていただけると、作者が喜んで庭駆け回ったり、こたつで丸くなったりしますw


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集会

今回はオリキャラのオンパレードです! 苦手な方はブラウザバック推奨です。


 「なぁボス、今日の集会は何人来ると思う?」

 

 「四人来ればいいほうだろ」

 

 「だよなぁ〜全く、集まりの悪いヤツらだぜ」

 

 ここは存在しないはずの東京24区。“プロテアの夜”の本拠地。たまに喰種捜査官がモグラ叩きとか言ってこの辺りまで来る事があるが、その時はしっかりと叩き潰して肉塊に変えている。

 たまに独特過ぎる喰種が攻めてくる事もあるが正直そんなに強くない。

 だから俺達にとっては、ここ24区は他とは比べ物にならない程過ごしやすく、それでいて憎き喰種捜査官共を殺せる最良の地になっている。

 

 カツンカツンと靴音を響かせてとある建物の中に入ると、中には大きな円卓のテーブルとその周りに控える百人程の喰種達、そして円卓に座る三人の喰種。

 

 どうやら今日はそれなりに来たらしい。いつもなら一人か二人ぐらいしか揃わない事に比べたら、十分な人数が集まっていると言えるだろう。しかし彼らはこっちを見向きもしない。一応俺がボスなんだけどなぁ。

 俺達二人が座れば、空いている席は三つのみ。まぁ今回はそれなりに出席した方かな。

 

 手を叩いて注目を集める。

 

 「ハイハイ注目、会議始めるぞ〜」

 

 そこでようやく席に座っていた喰種達がこちらを向く。全員マスクは付けておらず、素顔を晒している。

 

 「やっほ〜ボス! 最近元気?」

 

 「それなりだな、お前はどうだ? 『人形師』」

 

 「最近は絶好調だよ! お人形も増えてきたしね〜」

 

 早速話しかけてくるのは背中の部分を大きく開けたワンピースを着ている十三歳の少女。しかしこの天真爛漫な笑顔を浮かべる少女は鳩から『人形師』と呼ばれて恐れられている“レートS+”に認定される程のかなりの実力を持った喰種。名は栗沼(くりぬま)リコ。

 出会ったのは一年前、まだなんの力も持ってないただの弱小喰種だった頃、彼女は複数の喰種達の穢れた欲望の餌食になる寸前だった。そこにたまたま通りかかった俺がその喰種達の首をはねた。

 助けたのは複数の赫子の匂いを感じ取り、これから化けるかもと思い、そばに置くことにしたのだ。

 

 しかしリコは、たった数ヶ月の修行で赫子を使いこなし、さらには俺に対する憧れからか、俺の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「めぇぇぇぇぇぇしぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!」

 

 「騒ぐな『タンク』、うるせぇんだよ」

 

 椅子からはみ出る程太った男、鳩からは『タンク』なんて呼ばれてる。レートは“A+〜”であり、赫子は甲赫を操る。

 理性が飛んでいるから、名前は知らないが、それなりに強いからとても重宝している。

 俺達の組織に入った経緯は、偶然24区に紛れ込んだところを俺達が保護して、それ以来指定の地点に投下して暴れさせる爆弾のような扱いをしている。それでも生き残っているのが、コイツのしぶとさを物語っているだろう。

 

 「どうでもいいけどさぁ〜そろそろ大規模な作戦とかないの? 僕超暇なんだけど?」

 

 「喜べ、今日はその話をしに来た。内容もお前好みだぞ『ベルセルク』」

 

 「やったね!」

 

 子供のような無邪気さで笑いながら、数本のナイフでジャグリングをして遊んでいる青年、鳩から、『ベルセルク』と呼ばれて恐れられている“SSレート”喰種。

 誰よりも残虐であり、人を殺すことが誰よりも好きな男であり、『ハートレス』とかなり仲がいいらしい。

 よく二人で、どれぐらいの拷問なら人間は死なないとか、ここを傷つけたらこういう反応をするとか、趣味の悪い会話を嬉々として話す“プロテアの夜”の二大イカレ喰種の一人。

 

 他にも今日は来ていないが、般若(はんにゃ)の面を付けて喰種捜査官から奪った刀を振り回す『夜叉』と呼ばれる“Sレート”喰種とか、鳩と戦いながらも、ずっと本を読み続ける『ビブリオ』とか、13区で食べ過ぎたせいで、あの有馬貴将から目を付けられた喰種、『ランタン』など。

 かなり濃いメンツが揃っている俺の組織だが、団結力はそれなりにある。どいつもこいつも人間を殺す事になんの躊躇もない正しき喰種達。人間を餌だとしっかり理解できている彼らは、積極的に人間を狩り、軟弱な喰種を喰らい、東京の闇を暗躍する。

 

 俺達こそが東京の闇、喰種の見本。とはいえ別に喰種にも狩りが苦手なヤツがいることは知ってる。問題なのは人間を喰う事を嫌がり、自分はただの肉を食べていると、自己暗示をかけてる馬鹿共。

 俺達は人間を食べなくちゃ生きてはいけない。それすら拒否するのは今まで鳩に殺されてきた全ての喰種に対する侮辱でしかない。

 

 だから思い知らせてやるのだ。喰種の正しき姿を、喰種に生まれたという意味を。この世のほとんどの喰種が、喰種として生まれたことに思うところがある。いったいどれだけの喰種が、人間に生まれたかったと涙を流して死んでいったのか。

 だからこの作戦は弔い(復讐)だ。人間に生まれたってだけで自分達はのうのうと生きていいと勘違いした人間に対する。

 

 「これから16区侵攻作戦について説明する! いいかよく聞けよ! 16区侵攻作戦だ!」

 

 俺の言葉が建物の中を嫌に響く。それは静寂、ここにいる全ての喰種が徐々に俺の言葉を理解していく。そして一拍、────大歓声。

平和ボケした人間達に、死の鉄槌を下せるのだと、同胞達の仇を討てるのだと、遠くない未来、自分達が中心となって起こる殺戮に、今から猛っているのだ。

 

 『人形師』も、『ベルセルク』も、『ハートレス』も特に叫ぶ事はしないが、双眸を爛々と、好戦的に輝かせている。『タンク』はいつも通り。

 

 「作戦内容は追って伝える! 各々いつでも人間を殺せるように準備しておけ! “家畜小屋”と“食料庫”の肉はしばらくの間大解放だ! 好きなだけ食え!」

 

 「「「「「ぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」」」」」

 

 「今日来てない幹部にも連絡しておけよ! “プロテアの夜”初めての総力戦だ!」

 

 平穏な16区に破滅が迫る。

 

 行き着く先に平穏はない。

 

 

 

 

 

 

 

 



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