セックスとチートと、時々、無双 (ishigami)
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01 天国は廃都


 あなたは、この世界で唯一の男だ。
 あなたは、断裁と拘繋を繰り返すこの宇宙で世界を救う勇者にならなければならない。
 あなたは、あなたと愛し合う麗しき従者たちと共に今日も戦仕事で精を出す。

 もちろん、マイルームでのめくるめく淫蕩の宴においても。















 

 1.

 

 

 

 あなたの視界は砂嵐に包まれている。

 

 あなたは顔を覆うバンダナとゴーグルがなければ手の中の〈魔力針(コンパス)〉を読み取るどころか息を吸うのにも苦労しただろう。かれこれ一時間くらいは歩き続けていたが砂嵐を抜けられる様子は一向になく、〈魔力針〉の反応にも変わりは現れていない。

 だが暑さなどの疲労もあってあなたは深く柔らかく積もった砂に足を取られそうになった。それを隣を歩く赤髪の女が咄嗟でありながら危うげなく支えてくれると、あなたは女に感謝を告げた。

 

 〈わるいね。本当なら休ませてあげたいんだけど〉

 

 あなたの従者であるネル(・・)ゼルファー(・・・・・)は、あなたに身を寄せながら念話で申し訳なさそうにそう言ったが、この嵐は彼女のせいではない。むしろ小柄で体力のない己の不甲斐なさを謝ったあなたに、ネルはバンダナ越しでもわかるやさしげな笑みを浮かべる。

 

 〈メドゥーサが、何か見つけてくれればいいんだけどね。このままだと路を失いかねない〉

 

 この言葉がきっかけになったわけではないだろうが、先行しているあなたのもう一人の従者から緊迫した声が届けられたのは、そのときだった。

 

 〈マスター。ネル〉

 

 〈どうしたんだい〉

 

 〈警戒を――〉

 

 空をも包み隠す嵐の向こう側に、眩い輝きがいきなり現れる。

 即座にネルに抱えられて飛び退いたあなたは、甲高い断末魔めいた音と共に放たれた光撃が砂漠を割断するのを目視した。

 

 〈マスターっ〉

 

 凄まじい威力。吹き飛んだ土くれが嵐に舞い上がって見えなくなり、更なる光が嵐の向こうに浮かび始めるや、あなたはすぐさま〈ビショップ〉として習得している魔術を行使した。

 

 【フィールドバリアー】

 

 悪意ある攻撃への抵抗を得る障壁を自身を含む三人に展開すると、あなたは追いすがるように放たれる破壊閃から俊敏に逃げ回るネルに抱えられたまま次々と現れる強烈な輝きを見た。

 

「【風よ】!」

 

 途端にネルの躰が〈旋術〉による小さな竜巻をまとい、砂塵の影響を緩和したことで俊足は速度を増したものの、放たれる光は一つや二つではない。優に二〇はある。

 

 〈まずいね、囲まれてる。いったいいつの間に〉

 

 視界不良のなかで戦うのは明らかに不利だった。この状況を解決するべく、あなたが念話で思いついた作戦を仲間たちへ伝えると、彼女たちの反応は素早かった。

 

 〈わかりました〉

 

「……【黒鷹旋】!」

 

 眼前の光源へ、ネルがマントから抜き放った太刀は黒い渦を巻きながら嵐を裂いて飛来する。命中したのだろう、野太い獣のような悲鳴が響き渡るのを聞きながら、あなたは上級魔術の励起を詠唱した。

 

 【蒼溟たる波涛よ】

 【旋渦となりて】

 【厄を飲み込め――】

 

 〈対衝撃体勢!〉

 

 【タイダルウェイブ】

 

 あなたは躰から魔力が失われるのを感じた。そして次の瞬間、吹き荒ぶ砂漠の世界に大洪水が起きた。幻覚ではない。亜空域から噴出した波濤が視界のすべてを大海に浸し、嵐と砂岩とあなたを守るように抱きしめているネルたち諸共に呑み込んだ。

 

「―――」

 

 あなたの発動した魔術が再び虚空へと消失すると、砂嵐は消え去っていた。一帯の大地は黒々と濡れ尽くし、干ばつに喘ぐ魚のように地表で動いているのは、全長二メートルほどの緑の翼竜だ。

 あなたはその竜に見覚えがあった。触角を思わせる細長い角と眼球を保護する赤いゴーグルのような特徴的構造を兼ね揃えた竜の名を、この世界で目覚めて数か月を生き延びたあなたが間違えるはずはない。

 

フライゴン(・・・・・)、ね……つまりこの砂嵐は、あいつらが?」

 

 そうだと肯定しつつ、あなたは〈知識〉にある情報を余さず従者たちに伝えた。フライゴンには〈すなあらし〉というスキルがあること、砂漠を割断した破壊閃が恐らく〈はかいこうせん〉という強力なエネルギー攻撃であること、彼らには氷属性が弱点であるということなどを。

 地上に墜ちているのは二〇どころではなかった。五〇は超えるであろうフライゴンたちの大群に、流石のネルも冷や汗を浮かべている。「私たちは縄張りに踏み込んだってわけかい」

 

 竜たちは戦闘不能(せんとうふのう)になったわけではない。相貌の炯々とした力強さは失われておらず、翼を動かして今にも起き上がろうとしている。一体ずつ仕留めるにはあまりにも時間が足りていない。

 進むか退くか。嵐を払った今ならば遮二無二駆ければシティエリアに逃げ帰ることは可能だ。しかし強力な霊波を指し示す〈魔力針〉の反応を見るに〈ターミナル〉が存在すると思しき霊地は此処からそれほど遠くない。

 

 急に地面が隆起し、そこからつるりとした焦げ茶の顔が三つ現れた。円らな瞳でピンク色の鼻。デフォルメされたモグラのような珍妙な生き物はじっとあなたを睨んでいる。これもあなたには見覚えがあった。フライゴン同様に。

 竜たちが一斉に叫び声をあげた。あなたの足元が爆弾でも落ちたかのように激しく揺れたのは、その直後だった。

 あなたは〈アイシクル〉を発動したがダグトリオ(・・・・・)は既に地中に潜っている。そしてフライゴンが空へと舞い上がり、その口腔にエネルギーを収束させ始めていた。

 

 〈じわれ(・・・)〉が眼前に迫っている。あなたはネルの背に負ぶさりながら強行突破する決断を伝えた。〈アグリゲットシャープ〉によって身体機能を向上させ、崩壊する大地の裂け目を飛び越えてあなたたちは走り出す。だが視線の先には一〇を超えるダグトリオが待ち構えており、一斉に口から黒い何かを射出してくる。

 囲うように放たれた〈どろばくだん〉を、ネルは鮮やかに回避しつつ三本の氷のクナイから成る〈凍牙〉で撃ち落とした。

 間髪入れず〈だいちのちから〉による間欠泉にも似た衝撃波が足元から噴き出したものの、それだけで歴戦の感を有する俊敏なネルを捉えることはできない。あなたはネルにしがみ付きながら魔術の詠唱に集中する。地中を自在に移動するダグトリオたちを風のように駆け抜けた先で、続々とフライゴンが〈はかいこうせん〉の発動準備を終えようとしていた。

 

「っ――」

 

 顎が大きく開かれる寸前、フライゴンの動きが固まった。顎下に鎖が巻き付いている。長い首が強引に隣に向けられると、止まらず溢れるように迸った破壊閃は、翼竜たちを横薙ぎに撃ち払った。

 瞬く間に狂乱状態に陥ったフライゴンたちへ、あなたは完成した魔術を行使する。

 

 【アイストーネード】

 

 虚空から生じた大規模な嵐が、翼竜たちに襲い掛かった。同じ「嵐」とはいえこれは竜たちに馴染み深い砂の刃ではなく、その正体は氷雪の鋭い牙だ。効果は抜群(こうかはばつぐん)であり、氷の嵐に囲まれた逃げ道のない竜たちを殲滅するには十分すぎる威力を持っていた。

 

「マスター」

 

 魔術が効果を失うと、今度こそ戦闘不能(せんとうふのう)になったフライゴンたちが地面に倒れ伏していた。範囲外にいたことで嵐から免れたものもいたが、破壊閃や〈すなあらし〉を放つ間もなく〈黒鷹旋〉で切り裂かれていたり鎖で締められたところを刈られなどするして、動けるものはすっかりいなくなっている。

 

 ひとまず飛竜たちの群れはこれで壊滅したと考えたあなたは、息を潜めるように固まっているダグトリオたちの群れを見やった。あなたは駆け寄ってくるあなたたちと同じようにマントを羽織っている紫髪の女に目配せし、自身に〈スペルエンハンス〉を掛ける。

 

 【地に伏す】

 【愚かな贄を】

 【喰らいつくせ――】

 

 更にあなたは例え彼らが地中に逃げようとも逃げ果せないであろう上級魔術を発動待機状態にしたうえで、敵意を発し続けているダグトリオたちと睨み合った。

 

「―――、」

 

 頭が一斉に穴のなかに消える。ネルが息を止めたが。

 

 襲ってくることはなかった。敵意も消えている。

 どうやらダグトリオたちは逃走を選んだらしい。

 

「……助かったよ、メドゥーサ」

 

 構えを解いたネルと一緒に、あなたは〈グランドダッシャー〉を破棄すると改めてメドゥーサ(・・・・・)に礼を言った。

 

「いいえ。むしろ私の発見が遅れたせいでマスターを危険に……」

 

 背の高い彼女はあなたと身長に大きな開きがあるため、仰ぎ見るような姿勢になる。しかしメドゥーサの性格をよく知っているあなたが彼女に威圧感や恐怖を感じることはない。今は負担軽減のためバイザーがされている彼女の双眸は、きっと宝石のように美しくも不安の色に揺れ動いている。

 

 あなたはメドゥーサの手を取って丁寧に想いを伝えた。「……マスター」するとあなたはぎゅっと抱き寄せられ、マントの上からもわかる彼女の豊満な胸に埋まりそうになった。「ありがとうございます」

 

 ネルはそんなやり取りに、苦笑を浮かべている。

 

「すみません。……みんな、砂まみれですね」

 

「そうだね。まだ任務の途中だっていうのに、シャワーが恋しくなる」

 

 メドゥーサの機嫌が持ち直したのを見て取ると、あなたは次いで〈魔力針〉の反応を確認した。翼竜たちが起こしていたと思われる嵐は解かれているため、視界は遠くまで把握できるようになっている。

 

 赤土のような肌色の山岳が、砂漠の果てを囲んでいた。

 視力に特化した「強化」を施すと、洞窟のようなものが見て取れる。〈魔力針〉もそこを示している。

 

「行こうか」

 

 また砂嵐が起こったり、敵が現れたりしないとも限らない。速足で洞窟に向かったあなたたちの背後では、頽れたモンスターたちの肉体が急速に干乾び、変色し、原型を失くして土と同化してしまうと、あっという間にそれらの痕跡はなくなっていた。

 

 

 

 2.

 

 

 

 乾き切った砂漠の環境とは対照的に、洞窟の中は涼しくそして湿度に富んでいる。

 どこからか水の流れる音が聞こえてきていて、太陽がないにもかかわらず燐光を放つ鉱物が洞窟の至る所に含まれているらしく、あなたたちが道具箱(アイテムボックス)からわざわざ松明を取り出すまでもなく洞窟(ダンジョン)の内部は明るかった。

 とはいえ探索中に何も起こらないはずもなく、あなたたちは常に波打ち続ける人型を象った泥の魔物や鋼の鎧で覆われた怪獣めいた二足歩行のモンスターなどを退けながら巨大な洞窟を進むこととなり、それでもまだこのエリアの「ボス」とも言うべきモンスターとは遭遇していなかった。

 時おり背後からメドゥーサの気遣うような視線を感じるが、休憩を取ったのはほんの一〇分前のことであり、あなたの従者は少し過保護になっているらしい。あなたはメドゥーサを呼び寄せて手を繋ぐことにすると、足元に気を付けながら、戦闘には十分すぎるほど広い洞窟を見回した。

 

「ご主人」

 

 先導するネルの足が止まっている。唇に指を当て、岩陰に隠れながら向こう(・・・)側の様子を示唆した。

 ドームのような大きく開けた空間に、モンスターが一体、陣取っているのが見える。

 全身をクリスタルのような結晶体で構築されており、躰と同じ素材らしい槍と盾を装備した半人半獣(ケンタウロス)が、周囲の幻想的な燐光も相まって騎士のような雰囲気で佇立している。

 他に道は見当たらない。路を間違えたというわけでもないだろう。

 

「あれがボスだね」

 

「……見覚えがありますね」

 

「ああ」

 

 これまであなたたちが攻略したエリアの状況を思い出すと、〈ターミナル〉のほとんどは霊脈の吹き溜まりである霊地を基点に構築されており、近づくにつれモンスターたちは強力になっていくという傾向にあった。

 具体的にはそれらがマッドマン(・・・・・)であったりボスゴドラ(・・・・・)であったりするのだが各エリアごとの最初の――つまりこの砂漠エリアで言えば目の前の――〈ターミナル〉に張り付いているモンスターたちには、特筆すべき共通点がある。

 

 即ちボスのいずれもが、クリスタルで構築された半人半獣(ケンタウロス)であるという共通点が。

 

「さすがに三度目ともなれば、偶然じゃない。いよいよFD人の奴らが関わってる可能性が高くなってきたね」

 

 あなたたちは輪になって作戦を立てた。幸いにもクリスタル・シリーズとは二度戦い二度とも勝利している。混戦になれば面倒だが、相手が一体と判っていれば対処はそう難しくない。戦場が開けた場所ということもあって状況はあなたたちに有利に働いている。

 

「あまり美味しそうではありませんが……ご命令とあらば、屠ってご覧にいれましょう」

 

「アペリスのご加護を」

 

 メドゥーサが古き言葉で諳んじた。虚空に幾何学の魔法陣が現れ――わざわざ鎖のついた短刀で自らの首筋を裂いて血を媒介にするまでも無く――白い翼の天馬が召喚された。

 

 【フィールドバリアー】

 【アグリゲットシャープ】

 【スペルエンハンス】

 

「ペガサス。あなたはマスターを」

 

 ペガサスがあなたに寄り添うと、ネルとメドゥーサは戦場に意を決して飛び込んだ。存在を感知したらしいクリスタル・シリーズは槍をエンジンのように回転させ、一〇〇〇〇馬力もかくやという速度で突撃してくる。

 メドゥーサは闘牛士のようにひらりと躱しざま、短刀で鋭く人馬の脚を斬りつけた。反撃の槍が振るわれる前に速やかに離脱すると、入れ替わるようにネルが〈凍牙〉を撃ち放つ。

 クリスタルは飛来する氷刃を物ともせずに突進するが、ペガサスに騎乗して戦場を見下ろしているあなたにとっては人馬の騎士は格好の的でしかない。

 

 【イラプション】

 

 クリスタルの足元に形成された魔法陣から、赤い輝きが噴き出した。中級魔術による超高温の溶岩流は小規模でありながら威力は自然のそれと同等であり掠めただけでも激しい損壊をもたらすが、クリスタルは平然と溶岩流の衝撃を飛び越え、メドゥーサを刺殺せんと突き放った。

 

 〈氷は違うね。それと炎も〉

 

 しかし恐るべき人馬を軽々といなし(・・・)、潜るように駆け抜けたメドゥーサは今度は逆の脚を斬り裂く。

 

 〈硬いですね。それに再生能力持ちですか〉

 

 メドゥーサの視線は、最初に斬り裂いたはずの脚に向けられている。

 刻みつけたはずの疵は、研磨されたように綺麗に無くなっていた。この数瞬で修復したということなのだろう。氷刃の痕も。火傷の箇所すらも。

 

 〈とはいえやはり、物理と比べて魔術への抵抗は低いようです。私の魔眼も通じる〉

 

 【サンダーブレード】

 

 あなたからの念話でネルたちが飛び退くと同時に、虚空から巨大な稲妻を帯びた(つるぎ)が出現した。

 足元に魔法陣が構築された瞬間、これまでとは違ってクリスタルの反応は顕著だった。

 人馬の回避判断は素早かったが、直撃を外しても地面を伝う雷撃から完全に逃げ切ることはできない。剣が消えると、クリスタルの双眸――恐らく頭部に該当する部分――があなたを見た。魔力の発生源を探知したのだろう。

 

 ネルがわらった。向けた掌から〈旋術〉による雷撃が迸る。龍のように飛び回る〈雷煌破〉がクリスタルに食らいつき、なんとか回避しようと動くもののメドゥーサが本腰の〈魔眼〉を発動させたことで逃がさず、電流を浴びせ続けた。

 

 稲光が消えると、ネルの表情には加虐の色が浮かんでいる。

 メドゥーサも同じく。

 

 飛び込んでくるのを避けながら、ネルたちは傷を注視した。

 瞬く間に修復されてゆく傷。だがその治り方は、先の攻撃時と比べて数秒ほど遅くなっている。

 

これ(・・)だね」

 

 隙が、明らかになったところで。

 そこから先の展開は、まさに一方的だった。

 最初に取り決めていた通りに。

 

「やれやれ、そんなものかい?」

 

 【黎明へと導く破邪の煌きよ】

 【我が声に】

 【耳を傾けたまえ――】

 

 クリスタルはヒット&アウェイで注意を引き付けるネルたちを無視できず、空を飛び回るペガサスとあなたを捉えることができない。

 

「お覚悟を」

 

 【聖なる祈り】

 【永久に紡がれん】

 【光あれ】

 

 【グランドクロス】

 

 回転する魔法陣から発せられた光が、クリスタルの巨体を上空へと突き上げる。浮かび上がった人馬の脚に鎖が絡みついた。そのまま勢いよく地面へ叩きつけると、瞬間的に〈怪力〉を用いたメドゥーサはクリスタルを振り回し壁に激突させた。

 

「【封神醒雷破】!」

 

 球状に力場を構築したネルが、収束した凄絶な雷砲を解き放つ。

 怒涛の勢いで破損してゆくクリスタルは修復機能が明らかに間に合っておらず、クリスタルの表面の煌めきには陰りが現れつつある。

 あなたは落下する人馬の躰を、すかさず〈グランドクロス〉で宙へと浮かび上がらせた。

 

「【重圧軽量】」

 

 それを、メドゥーサがキャッチして叩きつける。自身の鮮血を塗布した刃で斬りつけているために血を媒介にしたメドゥーサの神代に近い〈魔術〉が成立し易く、クリスタルはより浮きやすく投げ飛ばし易い存在に強制され続けている。加えて儀式呪具でもある鎖を通して〈吸血〉を発動しているため、修復に回されるはずのエネルギーは投げ飛ばされるたびにメドゥーサに強奪されており、クリスタルの輝きは一晩で枯れる花のようにみるみる(しお)れてゆく。

 

 【サンダーブレード】

 

 横やりが入らないためもはや袋叩き状態であり、あなたたちはお手玉(・・・)を繰り返した末に、ついにとどめを差すことにした。

 

 【聖なる意思よ――】

 

 クリスタルにとっての不幸は、単体で複数に挑んだということだろう。周辺を徘徊するモンスターが相手ならば修復能力と突貫力にものを言わせて正面から撃破することも可能だろうが、マッドマンなどと比較すれば断然小さくて俊敏なあなたたちに狙いをつけるのはクリスタルでなくとも至難の業だ。

 

 【我に仇為す】

 【敵を討て】

 

 【ディバインセイバー】

 

 収斂した神威の雷が、眩い轟音を率いて騎士を討ち砕いた。

 

「―――」

 

 あなたは上級魔術による負担を感じながらも、崩れ落ち、表面が融解し切っているクリスタルを見つめた。警戒を切らさないネルたちと同じで、まだ気を抜くことはできない。

 冷たく澄んだような音が聞こえ、続いて乱雑な、金属の破断する音が数度響くと、クリスタルは細かくバラバラに砕け散った。腕も。脚も。槍も。盾も。そして堰を切ったように黒ずむと、より微細な塵に分解され、たちまち消えてしまった。

 

「終わったね」

 

 クリスタルの斃れた場所に、小粒の、虹色に照り返す鉱石がぽつんと落ちている。聖なる気配を放つ、たった今あらわれたばかりの美しい宝石。

 あなたはペガサスから降り立つと、背筋を軽く撫でて別れを告げた。すると歯車が駆動するような轢音がドームに反響し、向こう(・・・)側に隠し通路が出現していた。

 ネルが宝石を拾い、あなたに渡す。あなたはあまたの未来を確定させる概念の結晶体である〈疑似霊子物質〉を道具箱(アイテムボックス)に入れると、二人の従者を連れてドームの先へと進んだ。

 

 暗い。あなたは空気が切り替わるのを感じていた。洞窟特有の埃っぽさが消え――濃密な霊気の影響だろうか――温度が急に落ち込み始める。松明を(とも)して一分ほど歩き続けると、水の流れる音が近づいてきて、不意に、辺りが明るくなった。

 視界が開けると、そこは六角形の聖堂のような場所だった。一つ一つが繋がった複雑怪奇な模様が部屋全体に張り巡らされており、しかもその模様にちょうど沿うようにして水が流れている。水は重力を無視して天井の模様のほうにも流れていて、神秘的でありながら一方では、まるで拡大した血管を眺めているような印象さえ見る者に与える。

 

「これですね」

 

 中央に見覚えのある台座が置かれていた。〈ターミナル〉だ。あなたが近づくと、半透明の空中画面(ウインドウ)が視線上に投射され、解読不能の文字列が次々と下のほうへと流れていった。いきなり空中画面(ウインドウ)が消える。しばらくすると、部屋に張り巡らされた模様が淡く何度か発光を繰り返し、そのたびにメドゥーサは不安そうに見回したりしていたが、やがて再び空中画面(ウインドウ)が現れると、点滅はようやく収まりを見せた。

 

「問題は?」

 

 腕を組んで見守っていたネルに、あなたは無事に〈ターミナル〉を再起動できたことを伝えると、改めて空中画面(ウインドウ)の映像を見つめる。よくできましたと言うようにメドゥーサがあなたを後ろから抱きしめてくれる。甘やかな香りを感じつつ、あなたは表示されている立体地図を確認した。

 操作方法はシティエリアや他の解放済みエリアの〈ターミナル〉と変わらない。あなたはここ第一〈ターミナル〉の設定から第二〈ターミナル〉を起動できるか試してみたものの、やはり直接出向いて操作する必要があるらしく、そのことを彼女たちに伝えた。

 二人とも苦笑いを浮かべている。

 

「まあ、そう簡単にはいかないだろうと覚悟はしていました。落ち込まないでください、マスター」

 

「仕方ないさ。でも、とりあえず第一目的は果たしたからね。ご主人も疲れたろう、今日はこれくらいにしておこうか」

 

 あなたは頷くと、三人で台座の近くに立った。

 

「帰ったらまずはシャワーを浴びないとね。服に砂が入ってひどいから。そのあとは……なんだい、その目は?」

 

 情報連結を固定。

 目標座標を確認。

 

「ご褒美ねえ。そうはいっても、どうせいつも(・・・)していることじゃないか。飽きもせずに」

 

 目標座標:永世市民級避難生活区中央管理〈ターミナル〉。

 転送座標を承認。

 

「マスター。私もマスターのご褒美がほしいです」

 

「メドゥーサ、あんたね」

 

 転送準備開始。

 転送準備完了まで残り――

 

「ふふ。……素直じゃありませんね、ネル。昨日だって、あんなにもマスターに貫かれて、泣きながらかわいい声を上げていたのに」

 

「それはっ。……まったく、それ以上いうんじゃないよ。怒るからね――」

 

 空間が歪み、光があなたたちを包む。

 

 光が消えると、聖堂には誰の姿もなくなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ◇あなた
 ・本作の主人公。テイルズオブザワールド/1.2.3.に登場する「ビショップ」の術技を網羅する魔法使い。
 ・発情フェロモンを振りまくマジカル☆デカチンポの持ち主。ショタ。
 ・それ以外はお好みでどうぞ。

 ◇ネル・ゼルファー
 ・忠誠度maxのド☆スケベ要因。隠密部隊を率いる身でありながら視線を集めてやまない素晴らしき美脚の人。
 ・お姉さん。美声。

 ◇メドゥーサ
 ・絆レベルmaxのド☆スケベ要因。目にしただけでエロエロエロイムエッサイムしそうな心やさしき玲瓏の巨乳の方。
 ・お姉さん。美声。














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02


 ・多数の♡マークを採用しています。
 ・頭のわるい会話と淫語のオンパレードです。

 ・許せる方だけどうぞ(^^)b


















 

 3.

 

 

 

 シティエリアでも一等地に立つ高層ホテル。その最上階に贅を尽くして作られた大浴場は、あなたが目覚めてからずっとあなただけのプライベートな空間になっている。

 そのことに文句をつける人間は一人もおらず、あなたは水で膨らませたベッドに身を投げ出して、ゆるゆると姿勢を楽にしていた。

 

「……どうですか……?」

 

 ちゅっ♡ちゅ……♡

 しゅるっ♡しゅるっ……♡

 

 メドゥーサはバイザーを外し、一切の衣を脱ぎ捨てた格好で、美しい素肌と髪を惜しげもなく晒しながらあなたの身体を丁寧に撫でている。対石化装備の「お守り」を結び付けている足首、足裏、腿、膝といった部位を、ジェルを泡立てた手や、大きな乳房で丹念にやさしく、間違っても傷つけないよう気を付けながら、口づけを落としつつ、愛おしげに汚れを落としている。

 

 すり♡すり……♡

 

「……きもちいいですか? ……マスターの身体……こしこししていると……ちゅっ♡私も、あそこがあつくなってきて……ふふ♡れろろっ♡すごい……ぢゅるるっ♡ちゅぷっ♡……ちゅぱっ♡おいしいです、マスター……どこをなめても……」

 

「……ゆるんだかお。気持ちいいんだね、ご主人……」

 

 耳元で囁かれるネルの声に、あなたはぼんやりと夢心地で答えた。あなたは頭を二つの柔らかな果実に預けながら、後ろからあなたを支えるネルのしなやかな指先がやわらかく陰茎を包んでいるのを感じる。

 

「……いま、びくっ、ってしたよ……出したいのかい? いいよ、いつでも出して……私の手に……でちゃうの……白くてあったかいの……ぴゅーっ♡って……がまんしないで……ちゅっ♡……」

 

 ネルはあなたの首元や肩にキスを繰り返しながら、第二次性徴期を終了する前の小柄な身体に反し、大人でさえも真っ青になるほど凶悪な、馬並み(・・・)に極太でずるり(・・・)と隆起したあなたの肉棒を、緩やかに刺激していく。あなたの耳をやわらかくはみながら。どんなに浅ましい欲望でもすべて受け入れてくれそうな、深い母性に満ちた声で囁く。

 

「……ねえ、でもさご主人……きっと……がまんしたほうが、もっときもちよくなれると思うよ……だからもっと……きもちよくなりたいのなら……がまんできる? ぴゅーっ♡てするの……」

 

 あなたは、だらしなく快楽に浸りながら頷いた。ビクビクッと彼女が身をふるわせる。あなたの髪が、ぷっくりと固く尖ったネルの乳首を掠めたためだ。「ん、ふぅ……♡」くぐもった、甘やかで艶っぽい吐息が耳にかぶさってくる。どうやら些細な刺激でも軽く達してしまったらしい。濃密な匂いに抱きしめられながら、あなたは顔を向けるよう言われた。

 

「……えっち……えらいね……いい子だね、ご主人……じゃあ……いい子で……えっちなご主人には……もっともっと、きもちいいこと、してあげる……あむっ♡……」

 

 ネルの唇があなたと近づき、舌が口のなかに入ってきた。

 

 はぷぅっ♡れちゅるっ……♡

 

 吸い込まれそうになる。歯茎を撫ぜられ、啜られ、舌同士でこすりつけ合うと、あなたはネルの手の動きでますます興奮が高ぶるのを感じる。

 

 れろろろぉ……♡ちゅぷぷっ……♡

 

「……マスター。お手を……」

 

 メドゥーサはあなたの恍惚とした様子に嫣然としながら、あなたの指を口に含んだ。

 

 じゅるるっ……♡れちゅるる……♡

 

 赤い舌が、まるで蛇のように熱く絡みつく。視線はあなたに向けられたままだ。メドゥーサは普段の冷然とした相好を崩し、頬をすぼませると、一指ごとに丁寧に垢を舐め取ってゆく。ビクビクッと時おり震えながら。すべてを唾液で綺麗にコーティングし終えるともう片方の手に移り、それからあなたの腕を乳房で挟んだ。

 

 にゅる……♡にゅる……♡

 

「……きもちいい? ……がまんだよ、がまん……ちゅぱ♡……ご主人ならできるさ……がんばって……ほら、もっとちゅーしよ♡……はぷっ♡じゅるる♡……」

 

 愛情たっぷりのベロチューご奉仕を受けながらの応援手コキ、しかも別の美女に指フェラとパイズリをさせている状況が、あなたの股ぐらを更に元気にいきり立たせる。

 

「……またおっきくなって……♡んぁっ♡……い、いけません、マスター……そんなにぎゅって……私、うまく洗えな……あああっ♡♡♡……いっ、いじわる♡……マスター……ちゅぷ♡れろれろれろぉ♡……だいすき、です……♡」

 

「……ふふ♡きもちいいね……だいすきって言われて、またぴくっ♡てしたよ……ちゅっ♡かわいいかお……でちゃう……でちゃうの……? ……だーめ♡……がまん……がまんだよ、ご主人♡」

 

 あなたは鋼の意志を動員し努めて我慢する。メドゥーサがお腹や胸を洗い終えた頃には、なんとか射精せずにいられたものの、流石に我慢は限界であり、もはや爆発は切実な時間の問題となっていた。

 フェロモンを放ちながら盛大に勃起したものを間近で魅せ続けられ、それでも触れさせてもらえなかったことでいっそう発情に潤んでしまっていた、メドゥーサにとっても。

 

「……んっ♡はい、綺麗になりましたよ、マスター……」

 

「よく我慢できたね……えらいえらい♡じゃあ、今度は後ろだ。立って……ほら、メドゥーサ。咥えてあげて……」

 

「えっ♡い、いいんですか、先にいただいても……?」

 

「あんたも限界なんだろう。ご主人も。我慢できたんだからご褒美をあげないと……ご主人? ほら、いいってさ……」

 

「では……失礼して……♡……マスター……♡」

 

 仁王立ちになったあなたの前で、膝をついたメドゥーサが「れろぉ♡」と大きく口を開けた。

 

 

「マスターのおチンポさま♡……メドゥーサのお口マンコで♡♡……パコハメ射精してください……♡♡♡」

 

 

 むごごっっ♡♡もぶぷううううううぅぅぅぅ♡♡

 じゅぽぽっ♡♡じゅぷぷぷぷぷっっ♡♡♡

 

 愛しい従者のチンポハメ乞いを断れるはずもなく、あなたはガチガチに怒張したチンポを、あなた専用のお口マンコに一気に突き入れた。

 

「じゅるるるるるるる♡♡♡」

 

 喉奥にまで達した雄臭い特濃チンポを、メドゥーサは蕩け切った眼で受け入れながら歓喜して頬張る。喉を肉壺のように動かして亀頭をしごき、漏れ出していたカウパーやあなたが一晩でたっぷりと熟成させたチンカスを「ぞりゅりゅりゅりゅ♡」と掃除機のように吸引すると、たったそれだけの動作でメドゥーサは激しく下肢を震わせた。彼女の子宮のかたちをなぞるように(・・・・・・・・・・・・・)腹部から付け根にかけてハート型に浮かび上がっている紋様のすぐ下のところ、無毛の割れ目から、大量の蜜を恥ずかしげもなく噴き出している。

 

「むごごお”ぉぉぉ♡♡もぼお”お”お”ぉぉぉぉぉぉぉ♡♡♡♡」

 

 イキ続けるメドゥーサに構わず、あなたは極太ペニスをお口オナホに「パンパン♡」と打ち付け、陰嚢に溜め込んだ新鮮なザーメンを吐き出さんと無心に腰を振る。

 

「あーあ。最初から容赦ないね、まったく……」

 

 途端にあなたは尻穴に何かが「にゅるり♡」と入ってくるのを感じ、声を上げてしまった。

 

「……ふふ♡ いいよ、イッちゃえ♡ お尻に指を入れられて、ビュクビュクって♡ お口マンコにザーメン出しちゃえ♡ちゅーっ♡ぢゅるるるっ♡♡」

 

 一見するとクールで頼りになるお姉さんに一心不乱にチンポをしゃぶらせながら、方や別の極上メスに前立腺を刺激されつつ濃密な密着ベロキスを愉しむあなたは、ついに耐えていた欲求を解き放った。

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡

 

「お”ぼぉお”お”お”お”ぉっっ♡♡♡」

 

 溢れ出る夥しい量の白濁液で、睾丸に顔を埋めながら絶頂の最中にあるメドゥーサは、意識が飛びそうになりながらも決してチンポから口を放そうとはしない。溺れるほどのチンポ液をごくごくと必死で飲み干しながらも、むしろ喉を収縮させることで更なる射精を促そうとしており、あなたはメドゥーサの頭を抱きしめるように押さえつけながら、ザー汁便器である口マンコに思うがままに欲望を吐き出してゆく。

 

「……っ♡♡……っ♡♡」

 

 射精の勢いが緩やかになると、あなたはチンポを「ずりゅりゅりゅっ♡」と引き抜いた。

 

「こんなに出して……まだ硬い。ふふ、あったかい……そうだね……まだぜんぜん、ヤリ足りないもんね……」

 

 すりすりと手でしごきながら、ネルが蠱惑的に囁く。メドゥーサの恥丘から迸ったアクメ汁で足元はびしょ濡れであり、彼女は絶頂の波から帰ってくると、自分から遠ざかってしまった肉棒を見上げ、中毒者が薬に縋りつくような声を上げた。

 

「ああっチンポ♡チンポ行かないでぇっ♡マスターぁっ♡私、もっとちゃんとおしゃぶりしますから♡じょうずにチンポしゃぶりますからぁっ♡取らないでぇっ、私のおチンポ……っ♡」

 

「……それに対して、これ(・・)……どうするんだい、ご主人?」

 

 鼻から精液をこぼしながら「ごめんなさいぃ♡」と媚び泣いている、彼女の姉らが知れば見下げ果てることこの上ない醜態のメドゥーサを見やりつつ、ネルは呆れた口調で言った。

 

「許可なく勝手に飛ぶ(・・)くらいアクメしたくせにご主人さま(・・)のおチンポを自分のもの呼ばわりしてるこの女に、まだチンポザーメン飲ませてあげたい? それとも……」

 

 ネルはあなたの手を取ると、ささめきながら彼女の秘裂に導いた。メドゥーサと同じように淫紋を刻み込まれている、あなたにしか使えない、あなたを気持ちよくしてくれる快楽の坩堝へと。

 

「こっちのマンコにする? ご主人さま専用の、きつきつで気持ちいいトロハメエロマンコに……ほかほかのザーメンぴゅっぴゅっ♡って、孕ませ射精する……?」

 

 中は熱くとろとろになっていて、あなたの指が膣壁を浅くひっかくと、それだけでネルは全身をぶるりと震わせ、むせかえるほどの淫臭を放った。

 

「お願いですっ、マスター♡私に……♡」

 

「ねえ、ご主人……♡」

 

 あなたは溜め込んでいた欲求をたった今解放したばかりだというのに、ネルの手コキと淫らな誘惑、そして今は全裸土下座までしているメドゥーサの無様で愛らしい姿のおかげで、すぐにペニスをギンギンに勃起させてしまう。

 あなたは大いに悩んだ末に、しかしネルの提案にかぶりを振った。すると、分かっていたというように微笑まれる。

 

「……やさしいね、ご主人。一発目のガチパコオーラルセックスで即行アクメ決めるようなメスザコマンコのチン媚びにもう一回チャンスをあげるなんて……」

 

「あはぁっ♡マスター、ありがとうございます♡はいっ、頑張ります♡私、ぜったいに負けませんから……っ♡」

 

 メドゥーサはあなたが再びチンポを差し出すと、飛びつく様に口内に「かぽっ♡」と咥え込んだ。今度は焦らずじっくりとワインでも味わうかのごとく、目にハートマークを浮かべた陶然とした表情のまま、舌と頬肉で奉仕を始める。

 

「仕方ないね。じゃあご主人は、そのまま動かないでね。私はこの間に、後ろを洗うから……」

 

 まだ洗身が前しか終わっていなかったあなたは、メドゥーサの頭を握ってバランスを取りながら、ネルの動きにまったりと身を委ねた。

 やわらかな唇とぷるんとした乳房で洗われ、毛穴という毛穴、更にはお尻の穴に舌を突っ込まれた際には思わず二度目の不意打ち射精をしてしまい、あなたは精液に含まれるフェロモン(・・・・・)の効果で強制絶頂からのお漏らしをしてしまったメドゥーサに更なる興奮を覚えたりもしたが、一〇分もすればたちどころに、すっかり汚れは綺麗に落とされていた。

 

「お”ぉ♡……ご”……♡♡♡♡」

 

 一方で肥大したクリトリスを爪先で弄られ続け、三度目でもまったく薄まらないあなたのザーメンを喉奥に叩きつけられたメドゥーサは、潰れたカエルのように仰向けに倒れてしまっている。よだれを垂らしながら、「ひくひく♡」と蠢いている女神マンコを惜しげもなく露わにしている。

 アクメ液の撒き散らされた床は環境浄化層の処理が間に合わないせいで水溜まりを作っており、浴場はところせましと淫臭が噎せ返るようだった。

 

「結局、こうなったか……」

 

 あなたはこのまま彼女を寝かせておくわけにもいかないので、いっそ無理やりチン媚び子宮をラブハメレイプして起こそうかと手を伸ばしたが、途中でネルに止められてしまう。

 

「そのまま放っておきなよ。私たちは風呂に入りに来たんだから。それに……まだ出したりないんだったら、こっちにもあるだろう……?」

 

 ネルは隠しきれない期待と恍惚の眼差しで、あなたを見つめた。

 

「目の前で見せつけられて、じらされ続けて……こっちも限界だったんだからさ♡」

 

 愛液たっぷりのハメ穴を「くぱあ♡」と広げて、ネルが言った。

 

「私のおマンコにも、ご主人のご褒美ザーメン、ドピュドピュちょうだい……♡♡」

 

 あなたはネルの乳房を「むにゅぅっ♡」と鷲掴んでそれに応えると、受け入れ準備万端となっていた専用オナホ穴を熱々のチンポで貫いた。

 

「きたぁ……お”っ♡いき”なりっ♡♡あ”っ♡まっ♡い”っ♡イ”ぐぅうぅぅぅ♡♡♡♡」

 

 嬌声が木霊する。

 湯船のなかであなたは気絶から復帰したメドゥーサを交えてそれぞれチョロザコマンコに二発ずつ種付けしたものの、二人の従者を前にあなたの性欲は衰えることを知らず、やがて交尾の舞台はホテルの寝室へと移された。

 

「お”ぉぉぉ♡♡お”お”お”お”お”ぉぉぉぉ♡♡♡♡」

 

 あなたは王様ベッドの上で四つん這いになったネルの桃尻をがっちり掴みながら、ゴリゴリと屈服マンコを抉り続ける。

 風呂場から始まってぶっ通しでイカされ続けているネルはご主人様チンポから何とか逃れようとするが、震えながら尻を突き出して「フリフリ♡」する動きはチン乞い以外の何物でもなく、あなたは容赦なく腰を引き寄せると勢いよくデカチンポで子宮を押し潰した。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♡」

 

 仰け反りながらポルチオアクメしたばかりのネルへ、あなたは相手の負担など考えない自分勝手なラブハメレイプを続行する。後ろから乳首を「ぎゅゅぅっ♡」と握りしめると、敏感になり過ぎているネルはそれだけで肉壁を痙攣させた。

 

「やあぁぁぁ♡♡もうい”ぎだぐな”いぃぃぃぃぃ♡♡♡♡」

 

 頭を振りながら泣き喚くネルに抱き着き、汗でてらてらと光る背中に唇を押し付けながら尻と尻をぴっちり逃げ場なくくっつけ合わせる。あなたは揺れ動く乳房を揉みしだきながら、本日で一〇度目となる噴射を行った。

 

「ぃ”ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡」

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡

 

 亀頭とディープキスした子宮は本能的に「ちゅーちゅー♡」とザーメンをしごき上げ、そして敗北済みメスマンコもオスチンポを気持ちよく射精させるためだけに「ぎゅーっ♡」と求愛の抱擁を強める。

 

 長い射精を終えると、あなたは肉棒は抜かないまま弱々しく喘いでいるネルを仰向けにし、折り重なるような姿勢で唇を奪った。絶頂の余韻で朦朧としていても、ネルはあなたの動きに反応してすぐに舌を絡めてくる。唾液を注ぎ込めば雛鳥のようにこくこくとそれを飲み、舌を差し出せば甘噛みと吸引で愛撫を繰り返す。切れ目の双眸は今は雨に濡れた子犬のようで庇護欲を掻き立てられる。あなたはバイオレンスでさえあった激しい快楽の交接とは対照的に、今度は緩やかなベロキスのまぐわい(・・・・)に変えてネルの身体を労った。

 しばらくして落ち着きを取り戻したネルは目を三角にしてあなたの手籠めのやり方に抗議を示したが、その方法もあなたの唇に吸い付き続けて呼吸を困らせたり、あなたのお尻に指を入れたりするなどといった言わば抗議しつつもそのじつ恋人に甘えているような愛らしいものだった。あなたも反撃とばかりに真っ赤な耳をしゃぶったり勃起した乳首に噛みついたりするなどして、あなたたちはじゃれ合いながら水気の音だけが際立つ睦言を交わし、互いの体温を共有することにした。

 

 ノックの音が響き、部屋の扉が開かれる。あなたが顔を向けると、下着をつけただけのメドゥーサが配膳台を押して入ってきたところだった。

 

「夕食にしましょう」

 

 あなたが膣からペニスを引き抜くと、ネルは心得ているというようにすかさず精液塗れのものを口に含んだ。あなたはお掃除フェラの感触を楽しみながらネルの赤髪をやさしく撫で、テーブル周りに夕食が並べられてゆく様子を見つめる。

 

「今日はピッツァを選んでみました」

 

 一〇種類のピッツァから立ち上る香りは、あなたの三大欲求をとてもよく刺激した。

 このホテルの各部屋には物質転送装置が配備されているため、要請を出せば飲食にとどまらず衣類も極短時間で用意することができる。引きこもりを覚悟すれば部屋から一歩も出ずに生活し続けることも可能であり、あなたたちは食事は日替わりで選択することに決めていた。

 

「……ちゅぷっ♡……はい、おしまい。いい香りだね、それ。でもピッツァって、少し変わった名前してる」

 

 こびりついたものを舐め取ったネルが、行為後のけだるさの入り混じった声で言った。下着を手に取り、入りきらなかった精液が膣から流れ出すのを抑えながら身に着けると、メドゥーサから渡された冷えたドリンクをあおる。

 あなたも同じように喉を潤しながら席に座った。美味しそうな匂いが、忘れかけていた食欲を呼び覚ます。

 メドゥーサがあなたを見つめていた。正確にはあなたの綺麗になった肉棒を。つられるようにネルも見ている。あなたの肉棒は、気が付けば半勃ちの状態になっていた。

 二人ともあなたが〈強化〉と〈回復〉を施せば何度でも戦えることを知っているため、呆れるような笑みを浮かべている。

 

「一応言っておくけどね、ご主人」

 

 小さい子供をたしなめるような口調で、ネルが言った。

 

「今はだめだよ。そういう取り決めにしただろう、食事はちゃんとするって。えっちの続きは、食事が終わった後に。分かってる?」

 

 その声と眼差しは、けれど誤魔化しようもなく淫靡な艶めきで濡れている。

 

「ご、ご主人? ……ぅぅ♡♡だ、だめだってば、いくら大きくしたって。ち、近寄らないでご主人っ。デカチンポ近づけないで♡本気で怒るからね、って、え……?」

 

「ま、マスター? 私、ですか?あっ♡だ、だめですよっ。いけません、ネルがだめだから私に、やあっ♡それだめですっ♡おチンポでつんつんしないで♡……えっ、私がマスターの上に? でも座ったらおチンポ入ってしまいますよ……♡んうぅっっ♡す、座るだけ?それは、そうですが……命令? ……め、命令なら、あぁっ♡あつい……♡そう、ですね。わ、わかりました……♡」

 

「メドゥーサっ」

 

「ごめんなさいネル、でも、マスターのご命令だから……♡お”おぁぁぁぁぁぁ♡♡♡……は、入ったぁ……♡」

 

「こ、こらっ、二人とも――」

 

「だ、だいじょうぶですよネル♡これは、おマンコえっちじゃないですから♡おマンコえっちじゃなくて、マスターがお食事する間の、おチンポケースになってるだけですからぁ♡はうっぅぅぅ♡♡マンコ、あんなに出してもらったのに、まだきゅんきゅん♡って欲しがってます……♡ご、ご心配なく♡マスターのおチンポは、ちゃんと私が保護してあげますから♡ネルも安心して食事を……あっ♡はい、なら、私が食べさせてあげますね♡マスターは、私のなかでゆっくりチン休めしてください……♡♡ふふっ♡はいっ、お口を開けて……♡」

 

「……あんたたちって奴らは、まったくどれだけ色ボケてる……もう! いい加減に――」

 

 そうして結局、あなたが食事を終える頃には――ついには一人放置されて拗ねてしまったネルを交えながら――三度の絶頂を迎え、みんなで三大欲求のうち二つを同時に満たす運びとなった。

 

 

 

 4.

 

 

 

 あなたは行為で汗だくになった身体を部屋付のシャワーで清め、ようやく三大欲求最後の一つにいよいよ目を向ける。

 そしてあなたたちは食事した場所とは別の階(・・・)の部屋の汚れていない王様ベッドに川の字に横たわり、今日という一日が無事に終わったことへの感謝を改めて口にする。

 

「おやすみ、ご主人。明日も頑張ろうね」

 

「おやすみなさい、マスター。あなたの眠りが穏やかなものでありますように」

 

 外は天蓋背景(スクリーン)が星々と夜の帳を再現しているが宇宙(そら)を飛行する衛星や航空機の姿は見当たらず、また眼下の街に人たちの営みを示す熱源が点されているということもない。

 

 広告が表示されている。誰も見てはいないというのに。

 公共車両が走っている。誰も乗りはしないというのに。

 建設系が稼働している。誰も住みはしないというのに。

 

 誰にも利用されずとも、代理人(エージェント)は機械的に延々と仕事をし続けている。

 遺伝子操作や重力磁場及び人工太陽を管理することでありとあらゆる作物の育成ができるようになった地下農場。人類が発生してから今日までに生み出されたありとあらゆる芸術的模様(パターン)をインプットしたことで無限の組み合わせが可能となった縫製工場。無くてはならない完全安心発電所や転送中継制御施設に、一〇〇%クリーンな廃棄物及び汚水循環処理場。交通万全運営システム、二十四時間対応の料理製造業社。非更新の最新(・・)情報配信機関。etc.etc.etc.

 

 この狭くて大きな街で動くものはすべてシティエリアの統一組織が管理する代理人(エージェント)でしかなく、準市民であるネルやメドゥーサを除いた場合、正式な市民権を有する生物は現在あなた以外には誰一人として存在していない。

 

 あなたは、この世界で唯一の男だ。

 

 あなたがこの世界で目覚めた最初の日までこの無人の廃都を清潔に保ち続けてきた代理人(エージェント)たちは、あなたが目覚めてからも、そしてあなたが自らに課せられた役目を果たせずに死ぬようなことがあったとしても、何一つ変わらずに働き続けるだろう。いつか不良が起き稼働限界を迎え、廃棄物として処理されるそのときまで。何の疑いを抱くこともなく。

 

 あなたは頬にやさしいキスのぬくもりを感じる。

 あなたは強張りを解き、やがて静かに瞼を閉じる。大切な従者であり言葉を交わせる数少ない相手である彼女たちの存在を近くに感じ、そして彼女たちにあたたかく見守られながら。安らかに眠りにつく。

 

 

 

 5.

 

 

 

 眠ったね。

 ええ。かわいい寝顔です。

 そうだね。流石に疲れたんだろうさ、あんなにしたんだから。

 底なしですよね、マスターは。

 ほんとに。あれだけしないと収まらないんだから……どこにあれだけの量をため込んでるのか、不思議でしょうがないよ。

 それは、もちろんここでしょう。

 ばか、起こすんじゃないよ。

 大丈夫です。むしろ気持ちよさそう。

 そういう問題じゃないだろう。

 冗談ですよ。

 まったく。どうだか。あんたには前科があるからね。

 そうでしたか?

 茶化すんじゃないよ……真面目な話、いくらこの子が若いからって、一時は呪いでもかけられてるんじゃないかと心配になったくらいなんだから。

 呪いでないかどうかは、何度も調べたはずでしょう。呪いではなかった。単純に、マスターは人よりも性への欲が強いというだけのことでしょう? まあ、癒しの魔術で体力を水増しできるという器用さには、私も驚きましたが。

 そう単純な問題にしていいものかな。

 というと?

 ……なんでもない。そうだ、メドゥーサ。

 なんです。

 私、やっぱり考えたんだけど。

 はい。

 今日行った砂漠エリア。モンスターも明らかに強くなっていたし、やっぱり仲間がもう一人いたほうがいいと思うんだよ。

 仲間、……つまり新しく召喚を?

 ああ。フライゴンに囲まれたとき、もう一人いれば対応は楽になっていたはずだ。今の態勢だと、どうしてもご主人をどっちかが守りながら戦わなくちゃならないから、そのぶん対応が後手にならざるを得ない。必要なエネルギー分の結晶は、今日ので集まったわけだし。どう思う?

 そうですね。確かにいつでもペガサスで避難させられるわけではありませんし。いい案だと思います。

 よかった。じゃあ明日、ご主人を説得しないとね。あんたも協力するんだよ?

 大丈夫でしょう、マスターもわかってくれます。新しい子は、どんな娘になるんでしょうね?

 まだ女と決まったわけじゃないだろう。

 ですがマスターが聖遺物なしに召喚する場合、(えにし)になるのは召喚者との相性らしいですよ。私たちのマスターのお相手が、男に務まると思いますか?

 それって、もしかして(とぎ)の話かい。

 もちろん。大事なことでは?

 あんた素面でもそんなことばっかり考えてるんじゃないだろうね。……まあね、そりゃあ相性はいいよ。自分でも怖くなるくらいに。でもそれはサーヴァントに限った話だろう。

 私もサーヴァントですよ。受肉はしていますが。

 受肉ね。そうじゃないサーヴァントは、みんなマスターの魔力に存在を依存するんだったね。

 ええ。ただ受肉には聖杯が必要なのですが……私の場合は初めから受肉していましたし、もしかしたら少し事情が違うのかもしれません。

 どういうことなんだろうね。謎だ。そればっかりだよ。……私もそうだ。

 ネル?

 私の話はしただろう?

 あなたが本当は死人(しびと)であるということですか。

 記憶がある。はっきりとした記憶がね。FD人を倒して、私たちの世界を守ったという記憶。そのあとは、旅を終えた私は王国に戻って、後進を育てて、後継ぎを生んで……平穏に暮らして、あの国で確かに死んだはずなのよ。でも何故か、私はこの世界で目覚めることになった。それどころか身体も、仲間たちと旅した時の年齢にまで若返っていた。

 やっぱりサーヴァントに似ています。私たちサーヴァントも、要するに死人(しびと)ですから。あなたが何らかのクラスに当てはめられて全盛期の姿で呼び出されたということもありうると思います。

 でも私に召喚された記憶はないんだよ。気が付けば見知らぬ土地にいて、モンスターに襲われているご主人を見つけたのが最初なんだから。あんたみたいに、自分はサーヴァントですって確信できるような知識が私には備わってない。……そもそも仮に、今の私の姿がネル・ゼルファーの全盛期だったとして、誰がそう判断したんだい?

 それは。……聖杯、でしょうか。

 なんでも叶える願望器か。そんな都合のいいものがあったとして、作った奴は間違いなくろくでなしだね。

 そうですね。

 あんたは本当に、どこかに聖杯があると思う?

 どうでしょう。探索できていないエリアはたくさんありますから、そこにあるのかもしれませんが。

 探してみないことにはわからないか。……うん、やっぱり仲間が必要だね。

 はい。

 もしかしたら、またFD人の奴らと戦うことになるのかもしれない。もしそうなったとしたら、そのときはなんとか、この子だけは守らないとね。

 ええ。分かっています。マスターには傷一つ付けさせない。ぜったいに。この身に代えても。

 うん。そうだね。

 ……ふふ。

 なんだい。

 なんでもありません。ただ、ネルがかわいらしいな、と。

 なんだいそれ。おちょくってるのかい。

 いいえ。嬉しいんです。私のような怪物にも、やさしくて素敵で、守りたいと思えるようなマスターと、かわいらしい仲間ができたことが。喜ぶのは不謹慎かもしれませんが、それでも……この出会いがあって良かったと、ふと思ったんです。

 そうだね。……私も、こんな状況だけど。あんたたちと一緒にいるのは、楽しいと思ってるよ。

 嬉しいです。マスターもそう思ってくれているでしょうか。

 ああ。きっとそうだよ。なにせ私たちは、仲間なんだから。

 

 ……おやすみなさい、ネル。

 ……おやすみ、メドゥーサ。

 

 よい夢を。

 

 

 

 6.

 

 

 

 あなたは公共車両に揺られながらシティエリアの街並みが流れてゆくのを眺めている。

 

 あなたは従者たちのおかげか昨日はよく眠れたので目覚めた時からすこぶる体調が良かった。朝食を摂り終えたあなたたちは当初は予定通り未開放エリアの探索を行うための準備をするはずだったが、しかしネルの提案を受けて、行き先をシティエリア中央に建つひときわ大きな円柱(タワー)施設の管理局へと変更していた。

 街のどの位置から見ても天蓋背景(スクリーン)の青空を突き破って伸びているようにしか見えない巨大な円柱建造物は、視点を変えればこの代理人(エージェント)で溢れた無人の世界を支えている柱のようにも見えなくはない。あなたは失礼なほどに丁寧過ぎる自動運転の車両から降りると、タワーの規格外の大きさに圧倒されながら入り口で認証スキャンをパスした。

 

 中はただただ広い。そして静かだった。入って正面のところに受付スペースが一つあり、施設内利用限定の〈ターミナル〉が両壁付近に合わせて一〇台設置されている。

 

 あなたの視線上に空中画面(ウインドウ)が表示された。すぐに案内用代理人(エージェント)の立体映像に変化する。網膜情報からあなたが正規の市民であることを認識したのだろう、代理人(エージェント)は管理局からあなたに許可されている施設内利用権に対する確認などを訊ねてきたが、あなたが今回の来訪目的である物質転()装置の利用に関して告げると、再び認証を求めてきた。

 当然ながら問題なくクリアしたあなたたちは、代理人(エージェント)に先導されながら〈ターミナル〉で別のフロアへと何回も移動すると、やがて〈ターミナル〉に比べれば間違いなく何世代も旧式であるはずの、昇降機しか存在しない部屋へと辿り着いた。

 あなたたちは、その旧式にしか見えない昇降機に躊躇なく乗り込む。中には別の代理人(エージェント)が待機しており、ネルが行き先を告げた。

 

「地下九九階」

 

 あなたはあなたに許可される権限を用いて深層階に近づくにつれ何度も求められる厳重な認証を軽々と通過し、メドゥーサらと言葉を交わしつつ、しばらくしてついに昇降機の動きが止まったのを感じた。

 

 扉が開かれる。

 

 あなたはその空間へ踏み出した途端、夥しい霊気が肌を撫ぜるのを感じた。無数の機械で埋め尽くされていながらも此処は超一等の霊地であり、部屋の中央には見覚えのある物質転成装置(サークル)が設置されている。

 

「さ。ご主人」

 

 道具箱(アイテムボックス)から〈疑似霊子物質〉を取り出したあなたは、従者たちを一度振り返ってから上位物質転成装置(サークル)のほうへと踏み出した。

 あなたの存在に励起されたように、上位物質転成装置(サークル)が燐光を放ち始める。

 

「ご安心を。何が現れても、私たちが必ずマスターを守りますから」

 

 武器を抜いたメドゥーサが身構えている。ネルも。

 

 あなたは手の中の〈疑似霊子物質〉を、上位物質転成装置(サークル)へと投げ込んだ。

 

 爆発するような凄まじい光が巻き起こる。

 

 

 

 7.

 

 

 

 光が収まると、上位物質転成装置(サークル)に誰かが立っていた。

 

「―――」

 

 その人物は一見して、少女と判る。

 白いブラウスに赤いリボン。長い赤髪を後ろで一つにまとめ上げており、涼やかな顔立ちで背はあなたよりも高く、ネルよりは少し低いくらいか。

 

「何だ、なにが……ここは」

 

 ネルやメドゥーサともよく似た声質の少女と、あなたの目が合う。

 

「君は」

 

 呟いた少女の眼差しが、背後に控えるメドゥーサを捉えた瞬間だった。

 

「お前は!」

 

「ご主人っ」

 

「【文曲零零、急ぎて律令の如く成せ】――」

 

 少女が飛び退くと、その掌には赤く輝く召喚陣が現れている。あなたはネルに抱えられて彼女から距離を取ると、爪に呪紋の描かれた少女の五指が召喚陣の奥にある何かを掴み取ったのを見た。

 

「【千歳の儔、雷切】」

 

「………、」

 

 少女の掌から引き抜かれたのは、雷電を刃に纏わせた刀だ。険しい表情をして、少女はあなたたちを睨んでいる。

 

「何をした、お前たち。ここはどこだっ。私に何をした!?」

 

「それを話すには、ひとまず武器を下げてもらう必要があるね」

 

「なぜ妖魔が人間と共にいる……?」

 

 あなたは、取り乱している様子の少女に見覚えがあった。

 

「先に名乗っておこうか。私はネル・ゼルファー」

 

「……メドゥーサです」

 

「メドゥーサだと。見るものを石にするという、あの? ありえない、嘘を吐くなっ」

 

 あなたも名乗ろうとしたが、少女はどうやら混乱を極めていて聞こえていないらしい。

 

「落ち着きなよ。こっちにあんたを傷つける気はない。まずはあんたの名前を教えてくれないか」

 

「私は」

 

 少女は、隙を見せればあなたたちが襲い掛かってくるのではと警戒をし続けながらも、押し殺すような声で言い放った。

 

 

「私の名は、草壁美鈴(・・・・)。――悪鬼羅刹を討ち滅ぼす、草壁の陰陽師だ。お前たちは何者だ?」

 

 

「……そうか。じゃあクサカベミスズ。私たちが何者かという質問だけれども、その前にあんたに謝らなくちゃいけないことがある」

 

 突然、少女の刀から雷電が消失した。慌てて少女は召喚陣を開こうとするが掌には反応がない。そしてあなたの背後で扉が開くと、武装した代理人(エージェント)たちが大量になだれ込んできた。

 

「お前たちは――!」

 

「騙したわけじゃない。ただ、この区画は戦闘に類する行為が禁止されていてね。問答無用で鎮圧の対象になるのさ」

 

「この!」

 

 代理人(エージェント)の腕から放たれた光の輪が少女を縛り上げ、何もできずに地面に組み伏せてしまう。

 

 あなたは、せめて睨みつけてくる少女の誤解を解こうと、頭を下げることにした。

 

「ふざけるな!」

 

 どうやら、逆に火に油を注いでしまったらしい。

 

「仕方ないね」

「仕方ないです」

 

 あなたは拘束された草壁美鈴が連れて行かれるのを見送ったあと、雷電を帯びていた少女の刀がその場に忘れられていることに気が付いた。ネルがそれを拾い、試すように一閃する。

 

「退魔刀ってところだね」

 

「彼女、なかなか期待できそうですね」

 

「あんたはさっそく嫌われたみたいだけど?」

 

「ネルもでしょう。すごい顔で睨まれてましたよ」

 

「かもね。まあいいさ、召喚は成功した。行こう、ご主人」

 

 あなたは頷くと、昇降機で地上へと戻ることにする。

 

「……なかなか気の強そうな娘だったけれど、そこは期待しているよ、ご主人」

 

 

 あなたはプレッシャーを感じながらも、苦笑いでそれに応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ◇草壁美鈴 
 ・親愛度レベル1のド☆スケベ要因。ぴちぴち肌とけしからんムチムチ尻を兼ね揃えた高嶺の美少女学生退魔師。
 ・お姉さん。美声。























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03 異史記録体更新






















 

 1.

 

 

 

 あなたは透明な衝撃吸収防護壁越しに睨みつけられている。

 

 あなたは管理局地下九九階に設置された上位転成儀式界域でこの世ならざる人間の少女を召喚して危うく戦闘になりかけたがあっさり拘束された三人目の従者候補である彼女を見送ったのち、いったん昇降機で地上に舞い戻った。それから担当の立体映像代理人(エージェント)に事情を説明すると――シティエリアで唯一の正市民からの要請は速やかに認可され――あなたは代理人(エージェント)に案内されながら管理局に存在する非協力的転成種一時隔離階層へと移動した。

 

 目的の部屋は、無菌室を思わせる清涼感で息の詰まりそうなほど白い廊下を進んだ先にあった。

 

「さ。入ろう」

 

 あなたの信頼する頼もしい従者であるネル・ゼルファーは、立ち止まったあなたの肩に手を置いて言った。「向こうも待ちかねているだろうし」低く、魅力的な声でそう呟くと、隣に並んでいるもう一人の従者であるメドゥーサもおっとりと頷きながら、ネルと等しく綺麗な声をして言った。

 

「行きましょう、マスター」

 

 あなたが認証をパスすると、扉は自動的に開かれた。すると部屋の中央に佇んでいた少女が気配に気づき、勢いよくあなたのほうを振り返った。

 上位物質転成装置(サークル)から現れた直後と同じで、怒りと困惑のアマルガムのような表情をしたままあなたに近づこうとするものの、透明な衝撃吸収防護壁に敢え無く阻まれたことで睨みつけてくる。

 

「ここから出せ」

 

 扉が閉まり、代理人(エージェント)が光に溶けるように見えなくなるや、少女が口火を切った。

 

「それはこれからあんたにする質問の返答次第だね。もちろん、私たちは出してやりたいと思ってるけど」

 

 鋭い眼光にも、胸の下で腕を組みながらネルは悠々とした態度を崩さない。

 

「まずは私たちの話を聞いてからだ。さっきはゆっくり話す時間もなかったから……でもその前に。ご主人」

 

 あなたは前に出ると、最初にいきなり少女を拘束したことを謝った。あれは正確にはあなたのせいではなかったが、あなたはとりあえず警戒心が怒髪天を衝いている少女に誠意を見せる必要があると考えて少女が混乱するのは無理もない事だと頭を下げると、不満や不安があるのは重々承知しているがひとまず自分たちの話を聞いてほしいと伝えた。

 

 少女は当初はわなわなと唇を噛んでいたが、あなたの態度と謝罪にいくらか留飲を下げたらしい。部屋に入ってから一度も喋っていなかったメドゥーサを睥睨すると、話を促した。

 

「何から話そうか。話すことはあまりにも多いけれど、そうだね。改めて自己紹介を。私はネル・ゼルファー。かつては聖王国シーハーツ封魔師団の隠密部隊長を任せられ、女王からはクリムゾンブレイドの称号も戴いた。今は……色々あって、この子の従者をやっている」

 

 少女の目が点になったのも気にせず、メドゥーサがようやく口を開いた。

 

「メドゥーサです。クラスはライダー。ゴルゴン三姉妹の末妹で……好きなものは読書と、姉さまたちです。嫌いなものは、エメラルドと、あとは、わかめです。マスターのサーヴァントをしています」

 

 あなたも続けて自己紹介をした。教えられることはそれほど多くはなかったが、少女は途中で言葉を挟むでもなく静かにあなたを見つめ続けていた。

 

草壁美鈴(クサカベミスズ)。あんたはこの世界の状況について、どこまで理解している?」

 

 少女は口端に力を込め、皮肉るような笑みを浮かべた。

 

「この世界は滅びかけている」

 

「うん」

 

「滅びを解決するために、私は呼び出された」

 

「そのとおり」

 

「君が、私を呼び出したのか?」

 

 召喚時に形成される霊子経路(パス)を辿って判ったのだろう。あなたは頷いた。そしてあなたたちがこの世界で課せられている役割について話すと、いよいよ少女は顔を引き攣らせた。

 

「おかしくなりそうだ。私のなかに、私の知らないはずの知識や経験がある。ついさっきまで私は鬼どもと戦っていたはずだ。私にはその記憶がある、それは確かなことのはずだ、なのに気が付くと、光に包まれて、君たちが目の前にいた。見たこともない場所で、見たこともない機械たちに連行されて……此処に閉じ込められて。頭のなかには、私の知らない私が詰め込まれている」おかしくなりそうだよ、と少女は低い声でわらった。「おまけに世界が滅びかけているだと。何の悪夢だ、これは。新手の妖術か?」

 

「なんだか、あんたは自分がサーヴァントじゃないって言ってるようにも聞こえるけど」

 

「意味は分かる。サーヴァント。要するに式神ということだろう。知識にあるさ(・・・・・・)。だが私は、……死んだのか? そんなはずは」

 

 〈よくないね、これは。召喚に不具合があったのか〉

 

 〈私のときとは異なりますね。私は自分がサーヴァントであることに自覚的でしたし、自分の死についてもはっきり認識していました。ですがこの()は恐らくそうではない。召喚の際にサーヴァントとして入力される知識だけしか持っていない〉

 

 〈それまで別の場所で暮らしていて、いつの間にか此処に召喚されていたっていうのは、つまりサーヴァントとしての自覚はないと見るべきだね。記憶か記録に欠落があるのか、……最悪そもそもサーヴァントではない(・・・・)なんて可能性もある。また新しい厄介だね〉

 

 メドゥーサたちがひっそりと嘆息したのにも少女は気づかない。俯いていた双眸が、あなたをうつろに映した。黒曜石の瞳。美しく普段は気高いであろう眼差しには、あなたの知るどのサーヴァントのものとも違う縋るような弱さが見え隠れしている。

 

「私は、帰れるのか?」

 

 〈……まあ、そうなるか。どうする?〉

 

 あなたは口を噤んだ。サーヴァントは自分を死者(かこ)と認識できるからこそ、本来は在り得ない仮初の躰を得て再び地上を踏むという奇跡と引き換えに協力を取り付けることができる。だが少女は例外のようだった。ネルやメドゥーサとは違う。切り離された二度目や三度目の生ではなく、最初の一度目と地続きの認識でいるのだろう。

 

 あなたは逡巡するも、本当のことを告げた。即ち、わからない、ということを。

 

「そうか」

 

 項垂れている。それでも、これからの関係性を考えると嘘は吐くべきではなかった。

 

 〈どうなるかな〉

 〈さて〉

 

 少女が何かを言った。「なんだって?」聞こえない。目も、耳も閉じている。己の裡に渦巻くものを確かめるように。あるいは迷い込んだとしか言いようのない夢と現実の狭間の何処に自己を確立するか手探りしているかのように。

 程なくして少女は艶のある長い髪を揺らし、あなたを見据えた。

 

「どうすればいい」

 

 先ほどまで囚われていた怒りは抜け落ち、落ち着きを取り戻した声色で、言う。

 

「私は、どうするべきだ?」

 

「それはつまり、協力してくれるってことかい」

 

「ああ」

 

 諦観交じりに笑った少女に対し、ネルはまだ疑わしげだった。

 

「あれだけ激昂したのを見ているからね。物分かりがいいのは有り難いけど、わけを聞いても?」

 

「――世界が危機に瀕している。たとえ異世界であったとしても、私の力が求められているのなら、私は草壁美鈴として力を揮わなければならない。それが理由だ」

 

「帰れないかもしれないよ。はっきり言って、現時点だと帰れない公算のほうが高いと思う」

 

「いいさ。いいや、よくはないが。だからといって見過ごすわけにはいかない。……君のような小さな子供を、放っておくことなど。そうだろう?」

 

 ネルは暫し見つめると、あなたのほうを向いた。あなたは、無言の問いかけに頷くことで答えた。戦力の充実という意味でも彼女の加入は喜ぶべきものだ。続いてメドゥーサにも確認を取ると、再び少女に視線を注いだ。

 

「わかったよ。あんたを歓迎する」

 

 あなたは虚空に呼びかけ、待機状態から復帰した代理人(エージェント)に衝撃吸収防護壁を解除させた。

 透明な境界境が取り除かれ、触れ合える距離で少女と対峙しながら道具箱(アイテムボックス)を開くと、そこから取り出したものに少女は俄かに息を呑んだ。

 

「それは……雷切(らいきり)

 

 刀身の根本が折れ曲がった形状をしている、今は雷電を帯びていない「文曲」の太刀。草壁五剣。回収しておいたそれをあなたが差し出すと、少女はおずおずと受け取った。柄を握り、感触を確かめている。

 

 当然のことながら、あなたは少女の間合いの内側に入っていた。

 もしあなたを人質にして逃げ出そうと企んだとしても、非協力的転成種一時隔離階層は上位転成儀式界域と同様に無認可の能力の発動を妨害する機能を兼ね揃えているため制圧すること自体は容易い。それでも、顔色一つ変えないながらもネルたちが緊張したのが伝わってきた。

 

「たしかに」

 

 しかし心配は杞憂に終わり、少女は赤い召喚陣を手元に開くと、雷撃を操る妖刀を呪紋に収納した。

 

 あなたはそれを確認してから、そっと彼女に手を伸ばした。少女は差し出された掌をきょとんと見下ろし、一拍遅れて苦笑しながら握り返してきた。

 契約してくれたことへの感謝と期待の言葉を掛けると、少女はあなたと目線を合わせるように膝をつき、表情を引き締めて厳かに告げた。

 

「今この時より、草壁美鈴は君の式神となろう。君が正しさを違えない限り、私は悪を祓う刀として、君を傍で守り続けると。我が先祖の御魂に固く誓おう」

 

 あなたが神妙に頷くと、草壁美鈴(・・・・)はやわらかく微笑んだ。次いですっと立ち上がり、ネルとメドゥーサを順番に見やると頭を下げた。

 

「すまなかった。この通りだ」

 

「……お互い様さ」

 

「ええ」

 

 事情を理解するあなたたちはあっさりと謝罪を受け入れて、それでようやく張り詰めた空気はやわらぐ兆しを見せた。

 

「これからいろいろ世話になる。ゼルファーさん。メドゥーサさん」

 

「ネルでいいよ。長い付き合いになるだろうからね」

 

「私も呼び捨てで特に問題ありません」

 

「わかった。私のことも、下の名で呼んでほしい。ネル。……メドゥーサ」

 

「じゃあ行こう、ご主人。ミスズを登録しないといけないからね。そのあとは訓練施設(キルハウス)で、どれだけ戦えるのか確認させてもらうよ」

 

 面談室を後にすると、あなたは最後尾に並んだ新しい従者の隣に立った。受付フロアに着く間、時おりあなたをちらちらと見ながら、何か考え込んでいる。

 

「どうしたんだい」

 

「うむ。ああその、私は、……君のことを何と呼ぶべきだろうと思ってね」

 

 誤魔化されたような気がしながらも、あなたは好きに呼んで構わないと答えた。しかし先輩たちの「私は“ご主人”って呼んでる」「私は“マスター”ですね」という言葉に、ふむ、と歩きながら小首をかしげると、不意に名案を閃いたというように顔を上げた。

 

「“あるじ殿”。どうだろう、これならば二人ともかぶらずに済む。君をそう呼んでも、構わないだろうか」

 

 あなたに異論などあるはずがない。「決まりだな」快諾すると、美鈴は凛とした声で口元をほころばせながら言った。

 

「これから、よろしく頼むよ。小さなあるじ殿」

 

 

 

 2.

 

 

 

 あなたは美鈴を他の二人のようにシティエリアの準市民として管理局で登録したあと、管理局を訪れたときと同じように公共車両に揺られながらシティエリアに幾つかある訓練施設の一つへ向かった。

 

 あなたたちは自分たち以外誰もいない座席を自由にするのに慣れていたが、この街の新人である美鈴は窓際で外を眺めながら、最初に管理局の外に出て目の当たりにした驚愕から未だに持続する彼女の知識にあるどの街とも違う巨大構造体が乱立する未来的景観の衝撃に「本当に異世界なのだな」と半ば青ざめており、ぽつぽつとため息を漏らしては打ちのめされたように首を振ったりしている。

 彼女を気遣うあなたやネルがどんどん話しかけるようにしていると、美鈴も疎んじるようなことはせず、メドゥーサも偶に加わって互いの話題に花を咲かせることになった。

 

「――そうやって、星の海を駆ける船で旅をしたこともあったくらいだからね。この世界で目覚めた時も、この世界の外にいろんな世界があると知った時も、驚きはしたけど受け入れることはできたよ。驚き慣れてたのが役に立ったってわけさ」

 

「す、すごい話だな」

 

 美鈴がかつて身を投じた“赤い夜”を巡る因縁やその後も続いた闇精霊(ラルヴァ)との戦いを簡単に語り終えると、ネルもお返しとばかりに襟を開いて自らの冒険譚のあらましを披露し、結果として美鈴は予想外のスケールの大きさに吞まれて、またもやあんぐりとした表情になってしまっていた。

 

「とても壮大だ。壮大過ぎて……ちょっと想像がつかない」

 

 〈これでも控えめに言ったつもりだったんだけど〉

 〈私は生前はそういうことはありませんでしたね〉

 〈あんたは人間に討伐された立場だからねえ〉

 

「メドゥーサは?」

 

 いくら仲間になったとはいえ、やはり美鈴の反英霊であるメドゥーサに向ける態度には微妙な違いが含まれていたが、メドゥーサもその辺りの事情は判っているのだろう。敢えて指摘して波風を立てるような真似は控えていたが。

 

「ないです」

 

「そ、そうか」

 

 〈あんたはもう少し優しく言いなって〉

 〈これが普通ですよ。ねえマスター〉

 〈ただでさえ苦手に思われてるんだよ〉

 〈私はそもそも人間にあまり興味がないので〉 

 

 〈おい〉

 

 〈冗談です。ミスズは私の好みに合っています〉

 〈ならさ。あるだろう〉

 〈そうですね〉

 

「ですがサーヴァントになってからであれば、七つの聖杯を巡る探索に参加した記録はあります」

 

「聖杯っ?」

 

「ええ。人理焼却を企む魔術王との戦いです」

 

 仔細を訊くと、美鈴はまたしても愕然とし、しまいには乾いた声で肩を揺らした。

 

「途轍もないな、貴女たちは。まさしく歴戦の猛者だ。なんだか私は早々いらない気がしてきたな……」

 

「あんただって十分に修羅場をくぐってるじゃないか。そう卑下したもんじゃないと思うよ。あんたには期待しているんだから」

 

「その期待に応えられるといいが」

 

 微かに自嘲するような響き。ネルはそれに気づかないふりをして、それにしても、と呆れたように背もたれに身を預けた。

 

「どの世界にも、世界を滅ぼそうとするやつっていうのはいるものなんだね」

 

 公共車両が止まり、あなたたちは目当ての縦長建造物の複数ある入り口の前で下車した。

 

 二体の威圧的な守衛級代理人(エージェント)の認証をパスして入場すると、生体反応を感知したらしい案内用代理人(エージェント)の立体映像に案内の要否と本日の用向きを尋ねられたが、あなたがこの施設を利用するのは今回が初めてではない。

 あなたはあなたの市民権限を網膜走査した代理人(エージェント)に施設利用の許可を得ると、メドゥーサたちと一緒に施設内限定〈ターミナル〉を使って目的のフロアまで移動した。

 

 そこは薄暗いため橋のように誘導灯が両側に点されており、その上を進んでいると突如として巨大な空間があなたたちを出迎えた。

 

 人が米粒に思えるような高さの天井。大観衆を収容できる運動競技場(スタジアム)のような規模の空間と、床面に整然と敷き詰められている白い棺桶のような無数の機械装置群。その中央には深さが人のくるぶしほどしかない浅いへこみ(・・・)があり、非揮発性の砂のようにさらさらとした液体が水槽のように並々と満たされている。

 

 一〇〇〇〇〇〇㎥を優に超える広さは入場前の建物の外観から推測できる大きさと明らかに矛盾していたが、シティエリアの建造物の多くに使われているのと同じように此処も空間拡張技術を用いて造られているのだろう。

 

「いったいどれほどの……」

 

 美鈴が圧倒されるように吐息を漏らすのを聞きながら、あなたは広大な空間にぽつんと設置されている操作卓に触れた。

 

 【異史記録体再現選択】

 

「最初は誰にするんだい」

 

 あなたは少し悩んだ。この施設を訪れたのは、実戦の前に美鈴の実力を把握するのと同時に美鈴にあなたたちの戦いがどういうものであるのかを確認させるためだ。“この世界”は草壁美鈴のいた世界とは別物であり、その敵の能力(スキル)種族(タイプ)も異なっている。はやく慣れて貰わなければならないし、あなたたちも今までの三人組(トリオ)ではなく四人組(カルテット)としての戦いのかたちを探らなければならなかった。

 

「うん。いいんじゃないか」

 

 ネルと相談しながら美鈴をあまり驚かせ過ぎないよう対戦相手をピックアップしてゆくと、敷き詰められた箱型の〈蓄験機〉の一つが輪郭に沿って発光し、水槽のなかの液体も黄金(こがね)色に輝き始めた。

 

「メドゥーサ。ふと気になったのだが」

 

「なんです」

 

「貴女は、ギリシャ神話に出てくるあのメドゥーサなのだろう?」

 

「ええ。と言っても、あれも真実を語っているわけではありませんが。概ねその認識で間違いはありません」

 

「私はギリシャ語は話せないし、私が話している言語は日本語なのだが、なぜ言葉が通じているんだ?」

 

「……さあ。たぶん聖杯の奇跡とか、そういうものなのでは?」

 

 【異史記録体出力形成】

 【量子性荷魄粒砂注入】

 

 あなたの操作を受けて足元の床材が隆起し、人間工学に基づいた曲線の肘掛け椅子に早変わりした。ネルたちのぶんも用意すると、あなたは腰かけて視線上の空中画面(ウインドウ)に目を向けた。

 

「用意はいいね」

 

「ええ」

 

「う、うむ」

 

 遅れて美鈴が席に着くのを確認してから、あなたは一列に並んで空中画面(ウインドウ)の【警告】に同意した。

 

 【仮想領域点構築完了】

 【異史記録体演算開始】

 

 【没入】

 

 光が網膜から神経に浸透し、あなたの意識は奔流に呑み込まれた。

 

 

「―――」

 

 

 あなたの頭上に鉛色の空が広がっている。

 

 眼前には倒壊した建造物や投棄された機械が積み重なっており、何処からか吹く木枯らしがネジの錆びついた解読不能のプレートを揺らして軋む音を鳴り響かせている。

 

 亡霊街(ゴーストタウン)の朽ち果てた大通りが交わる交差点に、あなたは立っていた。

 

「マスター」

 

 気配に振り返ると従者たちは三人とも勢揃いしており、美鈴などは一変した景色に子供のように目を瞬かせていたが、ネルとメドゥーサは既に臨戦態勢で周囲に意識を張り巡らせている。

 

「凄いな。まるで本物の街にいるみたいだ」

 

「本物じゃないさ、よくできてるけどね。それよりミスズ。驚くのはわかるけども、後にしな」

 

 はっとして自身の浮かれた姿に気づいた美鈴は、ごほん、とわざとらしく咳払いをして呪文を唱えた。じゃっかん早口で。羞恥に頬を色づかせながら。

 

「【牡籥(かぎ)かけ(とざ)す総光の門】【七惑七星が招きたる由来艸阜(そうふう)の勢】――」

 

 あなたは〈……可愛いですね〉というメドゥーサからの念話に同意しつつ、道具箱(アイテムボックス)から以前メドゥーサが敵の遺留物を加工して作ってくれた専用の戦闘杖を取り出して〈ビショップ〉の補助魔術を口ずさんだ。

 

 【フィールドバリアー】

 【アグリゲットシャープ】

 【スペルエンハンス】

 

「【巨門零零(こもんれいれい)、急ぎて律令の如く成せ】――【千歳の(ともがら)小烏丸天国(こがらすまるあまくに)】」

 

 八尺余りある吸い込まれるような闇色の直刀が呪紋から引き抜かれ、美鈴が「巨門」の太刀である小烏丸天国を構えたのと、空から何かが降ってきたのは同時だった。

 

 ひび割れた道路にボールのように弾むと、ぽてんと転がって正面に止まり、それは真ん丸の目玉を見開いた。

 

「これは、なんだ」

 

 唖然とした美鈴と違い、あなたたちは知っていた。青緑の身体と白く膨らんだ腹を持つ、あなたよりも背の高い、巨大なオタマジャクシのマスコットのような(エネミー)の名を。

 

「作戦を伝えるよ。ご主人が後方で魔術による支援。メドゥーサはご主人の護衛で、私とミスズは前線の維持」

 

 大量に降ってくる。一つや二つではなかった。大きさは一緒だが体表が黄色であったり桃色であったり兎耳が生えていたりと様々に種類があり、それらは次々と目玉を全開すると、一斉にあなたたちのほうを凝視した。

 

「ミスズ、あんたは好きに動いてくれていい。今日はあんたの戦いを見るのが目的だからね。何かあれば私が援護する」

 

「あ、ああ」

 

「ちなみにだけど、こいつらの名前はオタオタ(・・・・)。見た目からして、こんな間の抜けた感じだけど――」

 

 言いざまネルが踏み込み、鋭く一匹を両断した。固まっていたオタオタが地面を飛び跳ねながら一挙に襲い掛かってくるのにも動じず、「【肢閃刀】」〈施術〉と太刀の織りなす斬撃を衝撃波として放ちながら切り裂くと、ネルの凍り付くほど凄まじい技量に目を奪われている美鈴を見やり、普段と何ら変わらない口調で言った。

 

こんな(・・・)でもけっこう強いから。本物じゃないって気を抜くと、簡単にやられるよ」

 

 あなたはオタオタの群体から魔力の流れが変化するのを感覚した。魔術に心得のあるメドゥーサが素早く短刀の繋がった鎖を奔らせて手近な一匹を捕らえ、群れの中で声なき言葉で魔術を詠唱していたウサウサ(・・・・)に叩き込むと、〈怪力〉で薙ぎ払って巻き込みながら容赦なく投げつけた。

 

「さ。お手並み拝見といこうか、陰陽師さん」

 

 斃れたオタオタたちの身体が傷口から急速に時間が進んだように変色し、砂のように崩れ去って消える。跡形も残っていないが、他のオタオタたちは元気にたくさん跳ね回っている。

 

 美鈴は覚悟したように頷き、独自の走法でオタオタに肉薄した。尻尾を駆使した見た目にそぐわない強烈な斬撃を躱しつつ、一閃。一撃で斬り伏せるや跳躍し瞬く隙に別の獲物に斬りかかり、横薙に尻尾を弾き飛ばした。小烏丸天国の起こす刃風が群れの合間を疾り抜け、枝毛でも刈るように敵の霊基(いのち)を截ち切ってゆく。

 

 あなたは、もしこれが実戦であるのならオタオタの〈ディープミスト〉や〈サイクロン〉を始めとする厄介な魔術攻撃を避けるべく比較的詠唱の早い魔術で攪乱したところをネルたちに一気に追撃させる即行戦法を取っただろう。しかし今回は事前に高威力の攻性魔術の使用は控えるよう言い含められていたため、あなたは美鈴の技量を見極める妨害をする魔術の介入を適度に防ぎながら基本的には視界の端でおたおたしているオタオタを〈ライトニング〉や〈ファイアボール〉で潰しながら状況を見通す役割に徹した。

 ネルも〈チャージ〉や〈影祓い〉であしらっていたが、あくまで掃討は美鈴の手腕に任せている。

 

 美鈴は迫りくる攻撃を目まぐるしく間合いを操りながら躱していた。峰や刀身(はら)で受けたりもせず、すべて躱している。踊るような円運動で背後からの強襲をいなし(・・・)、逆に懐に踏み入って純黒の切っ先を撥ね上げた。斬り降ろす。馳せ違う。〃、々。そのたびに、骸が積み上がってゆく。刀や裂帛には気が漲っているというのに太刀筋は静流のそれであり、確実に討ち果たしている彼女は容姿こそ学生然としているが、あるいは今魅せられているものは生涯に亘る激闘を制した末に草壁美鈴の辿り着いた退魔術の一端であるのかもしれなかった。

 

「やりますね」

 

 あなたに近づこうとするオタオタを叩き潰して引き摺りまわしながら、メドゥーサが感心したように言った。短刀の突き刺さった刃先では、オタオタが消し炭になっている。

 

「これで最後か」

 

 残りの一匹を仕留めたとき、美鈴はほとんど息を切らしていなかった。けっきょく陰陽術による式神召喚は一度も使わずに剣一本で平らげ、しかし酷使した小烏丸天国には刃こぼれの一つもない。口に指を当てて呪言を唱えると、刀に付着した再現された脂が日焼けした皮膚のように剥がれ落ちた。

 額に掛かっていた髪を手で整えると、美鈴は僅かに目を細めた。手甲に一筋の浅傷(あさで)がある。あなたが〈ファーストエイド〉を唱えると美鈴は何かを言いかけ、消えた痕を見つめながら小さく礼を言った。

 じっと見下ろしている。傷を受けたことがそれほどまでにショックだったのか。メドゥーサと二人で首を傾げていると、視線を悟ったらしい美鈴は笑みを作った。

 

「これで終わりか?」

 

「まさか」

 

 移動するよ、とネルが先導した。

 

 崩壊した街を歩き進む。両端の電柱が建物の壁面に寄りかかるように折れ曲がって不安定な橋を架けており、たわんだ電線が風に揺れている。穴だらけで永遠に修復されない道路。活動限界を迎えて野ざらしにされている機械装置。破けて散乱する生活必需品の容れ物。腐蝕した鉄塔。掠んで消えかけているアラビア数字のハードコピー。

 

 都市の残骸。

 

「似ているな。私のいた世界の、私の暮らしていた時代の都市に」

 

「ここまで壊れちゃいなかっただろう? 人も、物も」

 

「それはそうだ。……此処は、どれほどの時間が流れたのだろう。人が去ってから」

 

「あくまで再現だからね。もとになった場所はあるだろうけど、錆とか、これなんかの放置された具合を見るに、だいたい二、三〇年ってところじゃないか」

 

「ネル。先ほど向こうに機械が転がっていたのですが、あれは代理人(エージェント)と似た雰囲気がありました」

 

「ほんとかい」

 

「もしそうだとすれば、此処も、かつては私たちの街と同じようなところだったのでは?」

 

「在り得るね、それは」

 

 ご主人はどう思う、というネルからの問いは、あなたにしてもなかなかに答え辛いものだった。

 荒廃の状態がそのまま経過年数に直結するとは限らない。例えばあなたたちの生活するシティエリアから人類が消えたのは一八〇〇〇年も前のこと――非更新の最新情報記録が正しければ――だが、大勢の建設系の代理人(エージェント)が随時稼働しているシティエリアでは再現都市(ここ)と違って街の機能が失われる事態には至っていない。メドゥーサの見たものが建設系であったとすれば、実際に人が消えてから経った時間を推測するのは難しかった。少なくとも、建設系が活動を停止してから数ヶ月後ということはないのだろう。

 

「これまでそういうふうには気にしてこなかったからね。戻ったら調べてみようか」

 

 微笑にどこか陰のある美鈴を見上げながら、あなたは話題を変えた。先ほどの戦いで感じたことについて。

 

「念話?」

 

「そうだね。使えるに越したことはない。使ってみるかい――/――こういう感じさ〉

 

「わっ。頭のなかで声がする。これがそうなのか?」

 

 〈口で喋るよりも早く思考が伝わるし、特別な術もいらない。離れていても通じるから、慣れれば連携に便利だけど〉

 

 美鈴は目を閉じて「むむむ」と唸っているが。「ネル、聞こえるか?」

 

「それは念話じゃないね。声に出して言ってる」

 

 だんだん眉間にしわが寄り、水中で息を止めているような顔になった。

 

「だめか?」

 

「うん。さっぱり。ご主人とはできるかい」

 

 あなたが念話を送ると、〈聞こえる。聞こえているか?〉とすぐに応答があった。

 

「やっぱり霊子経路(パス)を直に通しているぶん、ご主人には通じやすいんだね。私とミスズの繋がり方はご主人を中継するようなかたちだから、慣れないとちょっと難しいかもしれないね。ま、こっちからは伝えられるんだ。おいおいやっていけば――」

 

 唐突に、低い電子的な鳴き声が聞こえた。

 瞬時に身構えたあなたたちの前に、新たな敵群が崩れかけの高層建築物から姿を現す。

 

 あなたは現れた“それ”を当然ながら知っていた。オタオタ同様に。U字型に曲がった磁石のようなユニットを左右に接着したはがね/でんきタイプであるコイル(・・・)が磁力線によって三つに連結したポケモンであることを。

 

「【黒鷹旋】!」

 

 開幕一番、ネルの放った太刀が黒い渦を巻いて先頭のレアコイル(・・・・・)を撃墜した。すぐさま別のレアコイルが〈でんじほう〉を放ち、あなたはメドゥーサに抱きかかえられて回避しながらさっそく念話でレアコイルの弱点を全員に伝え、切れていた補助魔法をかけ直した。

 

「【廉貞零零(れんじょうれいれい)、急ぎて律令の如く成せ】――【千歳の儔、火車切広光(かしゃぎりひろみつ)】」

 

 走りながら小烏丸天国を収納すると、次いで美鈴は小烏丸天国の二倍はあろうかという幅広の大太刀を引き抜き、矢継ぎ早に呪文を重ねた。

 

「【護身破敵とともに、禍災を除かむることを請う】――【神隠す十拳(とつか)の如く火産霊(ほのむす)び、火車来々、焔羅(えんら)に送られん】」

 

 レアコイルはオタオタほどではないが数が多かった。「廉貞」の太刀が炎の輝きを纏い、足を止めた隙を狙って〈ラスターカノン〉が美鈴に殺到したが。

 

「【火焔呪、急々如律令】」

 

 一瞬動きを止めたレアコイルを、逆に召喚された火炎流が勢いよく呑み込んだ。

 

「【壱の閃】、【弐の閃】――【参の祓い】!」

 

 (くら)ませた隙にエネルギー照射点から飛び出していた美鈴は、赤熱化した太刀を重たげなく振るって跳躍/割断。レアコイルは斬り口から火を噴きながら斃れ、直後に美鈴の背後には〈スパーク〉を仕掛けようとする別の数体が迫っていたが、美鈴は体軸を乱さず続けざまに独楽(こま)のように回転して難なくそれらを斬り捨てた。

 

 〈金属音(きんぞくおん)〉。金属を擦り合わせたような〈いやなおと〉が都市に残響した。視界の端で、レアコイルたちが今にも増幅した電力を放とうとしている。

 

「だめです」

 

 メドゥーサの視たものを石化させる〈魔眼〉が間に合わなければ、一番近くにいた美鈴は浴びるのを避けられなかっただろう。発動間際で停止した敵群へ、〈ファイアボール〉とネルの〈ファイアボルト〉が命中した。爆撃でふらついたところに火車切広光を斬り下ろし、美鈴があなたたちを振り返った。

 その足元で、斃したはずのレアコイルががんじょう(・・・・・)な体力を振り絞って〈ほうでん〉した。

 

「ミスズっ」

 

 けたたましい雷光が吹き飛ばした。受け身も取れずに横転し、不意を衝かれた美鈴は麻痺したらしくすぐには立ち上がれずにいる。上空に逃れた他のレアコイルたちは好機を見逃さず、一気に球体状に電気塊を生成。特大の〈エレキボール〉を撃ち放った。

 それを、ネルの投じた〈黒鷹旋〉がきわどく迎撃した。電気塊が掻き消され、再びメドゥーサが〈魔眼〉を発揮すると、あなたは〈メディテーション〉で美鈴を治癒しながら呼びかけた。

 

「……すまない。油断した」

 

 合間にネルがとどめを刺し、メドゥーサが一体を引き寄せて霊基を蹴り砕いたが。

 レアコイルのほとんどは手の届き辛い高度へと位置を変えていた。接近は止めて遠距離攻撃に徹するつもりなのだろう。美鈴は悔しげだった。

 

「問題ないさ。問題ってほどじゃない」

 

 三つの光線から成る〈トライアタック〉を躱しながらあなたは魔術を唱え続けた。道路が陥没し、破壊音が重複した。粉塵が舞う。爆圧が打ち叩く。だが当たることはない。幾つもの戦場を生き延びて〈ターミナル〉を解放してきた実力は伊達ではない。ネルの言うとおりだった。失点と云うほど深刻ではない。失点であったとしても取り返す方法は豊富にある。その機会も。

 あなたは美鈴にあなたの魔術の一端を魅せることにした。

 

 【歪められし扉】

 【今開かれん】

 

 【ネガティブゲイト】

 

 空中に開かれた魔空間の門から闇色の球体が生じ、初級魔術を上回る苛烈さで敵を拘束した。ネルは〈施術〉を利用して建造物の壁面を地上と同じように駆けながら〈黒鷹旋〉で邪魔をし、避け切れなかったレアコイルをメドゥーサが銀鎖で縛って激しく衝突させた。

 

 あなたは鮮やかな連携を見ていた美鈴に、あまり気負い過ぎる必要はないということを伝えた。彼女はあなたを見つめ、切り替えるように深呼吸を一つすると、「そうだな」淀みなく格子のように(いん)を切った。

 

「【北帝勅吾(ほくていちょくご)】【千鳥や千鳥、伊勢の赤松を忘れたか】――」

 

 敵を見据えて駆け出した美鈴の手には、人型の紙片が握り込まれていた。泉が湧き出すように嵩増すと、それらは意志を宿したように浮遊して標的に突貫した。すかさずレアコイルが放電し式紙は焼き払われるがそれ以上の数量で張り付いて動作を封じ込めると、あなたは美鈴にレアコイルを落下させるよう頼んだ。

 

「ああ!」

 

 美鈴の指に合わせて滝のように上から式紙が圧し掛かり、レアコイルが下まで沈み落ちてきた。

 

 【イラプション】

 

 待ち構えていた魔法陣から超高温の溶岩流が噴き出し、無慈悲に落下物を迎え入れた。効果は抜群であり、あっという間にレアコイルは襤褸紙のように塵となった。

 

 【吼えよ】

 【古の炎】

 【不浄の生命を灰燼へと誘え――】

 

 形勢の不利を悟ったのか、残り少なくなったレアコイルたちは背を向けると一目散に逃げ出した。

 メドゥーサは鎖を引き戻し、ネルも降りてきて、敵の姿はみるみるうちに遠ざかってゆく。

 

「いいのか、あのまま追わずとも」

 

「殲滅が目的じゃないからね」

 

 あなたはせっかく完成した上級魔術〈エンシェントノヴァ〉をちょっぴりがっかりしながら破棄すると、すっかり遠のいてしまったレアコイルたちの空を見やった。

 

 そして虚空に亀裂が奔り、内側から裂けるように縦に抉じ開けられると、レアコイルたちが突如として目の前に出現した“(あぎと)”の大口(なか)に飛び込んでしまったのを見た。

 

「………、」

 

 鼻の尖った白い仮面をつけ、夜の切れ端のような黒布を全身に纏っているそれの全長は高層建造物に匹敵する(おお)きさであり、それはレアコイルを飲み込んだ口をぐちゃぐちゃ(・・・・・・)と動かしている。

 悪霊(ホロウ)。そのなかでも強力な大型種である大虚(メノスグランデ)だった。

 

 あなたたちは建物に身を隠しながら、咀嚼するギリアン(・・・・)を遠巻きに窺った。

 

「あれも、見過ごすのか?」

 

「不満かい」

 

 美鈴は大虚(ギリアン)を寂れた遮蔽物越しに一瞥すると、静かにかぶりを振った。

 

「それが方針ならば、私は従うさ」

 

 陰陽師である美鈴にとっては快い選択ではないのだろう。あなたは火車切広光を収納した彼女に声をかけた。彼女の指があなたの髪に伸び、乱れていたのをやさしく――まるでかつて子供によくそうしていたかのように――整えると、美鈴は微笑みながら頷いた。

 

「先へ進もう」

 

 あなたたちが目的の構造体を見つけたのは、それから体感で二時間ほど歩き続けた後のことだった。

 

 

 

 3.

 

 

 

 その“オブジェクト”に辿り着くまでの間にあなたたちが遭遇したエネミーは、実に様々な外見のもので溢れていた。

 

 デフォルメされた人形のような見た目のジャックフロスト(・・・・・・・・)

 青く丸まった透過性の身体で巨大な単眼とそこから触手を生やしているモンスターセルリアン(・・・・・)

 翼を生やし鎧を(まと)った下級大天使アプラウド(・・・・)アフィニティ(・・・・・・)の集団。

 人と蝶が融合したような美しい姿のアラガミサリエル(・・・・)

 

 神々しい威容を放つものや果たして本当に生物なのか判断が付きかねるモノたちと戦い、時にやり過ごすなどして進んだあなたたちは、当初の目的通りに打ち解けて結束を深められたと言っても過言ではなかった。連携も噛み合うようになり、構造体(オブジェクト)を守るように配置された敵に対しても全員で怯みなく対処できるようになっていた。

 

「【護身破敵とともに、禍災を除かむることを請う】――【神隠す十拳の如く火産霊び、火車来々、焔羅に送られん】」

 

 幅広の道路を占有する巨大なイソギンチャクめいた食人植物であるモルボル(・・・・)の触手攻撃を華麗に掻い潜りながら、赤熱化した火車切広光で道を斬り開き間合いを切り詰めてゆく美鈴。

 モルボルの特徴である悪臭は〈サイクロン〉の風で無効化しており、襲い掛かってきたもう一体のモルボルは倒壊した建造物の下で黒焦げになって消滅しかけているため、残るはこの一体だけだった。

 メドゥーサが拘束した鎖を通じて攻性魔術を流し込み、ネルとあなたが美鈴を支援して触手を消し飛ばしながらモルボルの注意を引き付ける。

 

「――【火天墜衝(かてんついしょう)】」

 

 肉薄したところへ火車切広光の奥義が衝き刺さり、モルボルの体内で炸裂が巻き熾った。

 爆散する肉片を飛び退いて避けると、崩れたモルボルが急速に変色し、その巨体は間もなく内側から焼かれて塵になった。

 消滅を確認する。辺りに静寂が戻ってくる。

 

 【水克火(すいこくか)、救急如律令】。美鈴が唱えると火車切広光の帯びる炎が解かれ、刀身が元の色を取り戻した。

 

「さて。ここまで来たわけだけど」

 

 あなたたちはモルボルが守っていた道路の真中に佇立する“それ”を見つめた。

 “それ”は高度な科学技術の行き届いた都市には明らかに馴染まない非現実的なオブジェクトであると同時に都市の様相と違ってまったく劣化の痕跡が見られない構造体であり、都市を探索してきたあなたたちの目的でもあった。

 

「疲れたかい?」

 

 あなたがかぶりを振ると、ネルは他の二人を見やった。

 

「次で最後だ。準備は」

 

「ええ。構いません」

「覚悟はできている」

 

 皆の視線に、あなたも頷いた。

 

 オブジェクトに触れる。大量の空中画面(ウインドウ)があなたたちを囲うように展開され、あなたの意識は光の奔流に呑み込まれた。

 

 

「―――」

 

 

 あなたの視界に、新たな景色が広がっている。

 

 シティエリアではなかった。再現都市でもない。

 鉛色の空の下、あなたは“赤い海”の上に立っていた。

 

「海!? しずっ、……まないのか。浮いている? それにこの赤は、まさか(・・・)

 

 海を、地面と同じように踏みしめて。赤潮よりも遥かに毒々しい色合いは底のほうから発せられており、赤い花弁が咲き乱れるようにして海上の至る所に浮かんでいた。

 

「彼岸花、か?」

 

 地平線が見える。そこから近づいて来る人影に〈強化〉した視力で気が付くと、あなたは戦闘杖を片手に補助魔術を唱えた。

 

 【フィールドバリアー】

 【アグリゲットシャープ】

 【スペルエンハンス】

 

 ネルが太刀を抜き、メドゥーサが短刀を構える。「【文曲零零、急ぎて律令の如く成せ】――」美鈴が遅れて雷切を手元に召喚したのと、五つの敵影がはっきりと肌の粟立つような気配を発しながら存在を現したのは同時だった。

 

 あなたは、“彼女たち”の名前を知っていた。

 

 人類の危機に出現した海の守護者。

 深海棲艦と対を為す(ふね)の擬人体。

 

 艦娘(かんむす)。なかでも旧日本海軍時代に建造され、最旧式ながらも大戦で勇猛に奮闘した武功艦。

 神風型駆逐艦(・・・・・・)

 

「あれは、人か」

 

「いいや。敵さ」

 

 一番艦神風。

 二番艦朝風。

 三番艦春風。

 四番艦松風。

 五番艦旗風。

 

 振袖に袴という大正の風俗を現した着物姿の艦娘たちが、単縦陣で海上を航行しながら接近してきていた。

 どこまでも昏い双眸であなたたちを睨みつけながら。人ならざるあかしに、〈12.7cm単装高角砲後期型〉と〈10cm高角砲+高射装置〉を幽鬼のように青白い細腕に(まと)いながら。

 

「ご主人」

「マスター」

「あるじ殿」

 

 作戦内容を確認する。

 作戦目標は、誰一人欠けずにこの戦いを勝利すること。

 

「アペリスのご加護を」

 

 ネルがからっと笑い、

 

「ご命令とあらば」

 

 メドゥーサが口元で微笑し、

 

「必ずや勝利を」

 

 美鈴が生真面目に頷いた。

 

 あなたは彼女たちを見回した。遮蔽物一つない戦場で、あなたはこれまで戦ってきた魑魅魍魎とは別種の絡みつくような悍ましい殺気が自身に向けられているのを感知し、その殺気の正体があなたを殺傷するに十分すぎるほどの戦闘力を持った敵性存在であること――しかも敵の移動速度が特殊な海上(フィールド)ということもあってかメンバーで最も速力に優れるメドゥーサをも凌ぐほど(・・・・・・・・・・・)に素早いという厄介な性質であること――を思い出し、しかし同時にあなたを常に守ってくれる従者たちの美しくそして頼もしい姿に、肩に入っていた力が程よく抜けるのを感じる。

 

 火蓋が切られ、五体の構える砲塔が立て続けに激しく火を噴いた。

 

 絶叫のような砲声が響き渡るのを耳にしながら、あなたは戦闘杖を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ◇草壁美鈴 
 ・親愛度レベル1(ティロリン♪)→3に進展したド☆スケベ要因。ぴちぴち肌とけしからんムチムチ尻を兼ね揃えた高嶺の美少女学生退魔師。
 ・お姉さん。美声。

 ◇神風型駆逐艦隊
 ・かつて「あなた」ではない誰かの指揮下で奮闘した少女姿の付喪神。条件を満たしていないため、あなたのパーティには加入しない。



















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04





















 

 4.

 

 

 

 あなたは美鈴と向かい合っている。

 

 お互いに下着姿で。ふかふかの王様ベッドの上で。

 

「ほんとうに」

 

 ぺたんと座り、物質転送装置で調達した自身のランジェリーをあなたの視線から腕で隠すようにしている美鈴は筋肉質でありながら柔らかな曲線美を併せ持つスレンダーな体型と新雪のような肌をしており、(うるわ)しく女性的で象徴的かつ豊満な胸を露わにしながらあなたに問いを投げかける彼女は、散る前の桜の花びらのように赤らんでいた。

 

「……す、するのか?」

 

 ホテルの一室にて。

 ネルとメドゥーサの姿は、今は近くには無い。「うまくやりなよ」そう言い残し――メドゥーサはじゃっかん名残惜し気に――先ほど手を振って出て行ってしまった。

 

「君は……」

 

 発端は、訓練施設(キルハウス)で連日のように再現エリアを探索していた美鈴が途中で敵からの襲撃に遭い、パーティから脱落したことにあった。

 

 現れた敵、魔剣/碧の賢帝シャルトスを抜剣覚醒して獣耳を生やした元軍人の家庭教師であるアティ(・・・)何某と、トリステイン王国の王女にしてトライアングルメイジであるアンリエッタ(・・・・・・)()トリスティン(・・・・・・)と、全身に甲冑を(よろ)った王宮騎士団の団長騎士である白銀純(・・・)たちを相手取って真っ先に敗北し――

 

 別の日には人型万能機動要塞(インフィニットストラトス)を操るシャルロット(・・・・・)デュノア(・・・・)と、万能な魔法師である七草真由美(・・・・・)と、優秀な手騎士(テイマー)である杜山しえみ(・・・・・)と、妖刀使いである園原杏里(・・・・)と、武術家であるクイニー(・・・・)ヨウ(・・)と、エレメント能力者であるゼシカ(・・・)ウォン(・・・)らの異史記録体に斃されてしまった美鈴は、反省会の席で思いつめたように口にした。

 

 「私は弱くなっている」、と。

 

 特に同じ刀使いである園原杏里に剣術で競り負け、しかも妖刀の正体である「罪歌」の子として操られあなたたちに牙を剥く失態を晒したのは彼女にとって認めがたい衝撃であったらしい。

 

 ――「私には、知識がある。此処にいるこの草壁美鈴(わたし)ではない、この草壁美鈴(わたし)が研鑽を積めばいずれ辿り着くであろう未来の草壁美鈴の知識、技術が今の私には存在している」

 

 未来の自分の経験を現在の自分に降霊させているようなものだ、と美鈴は言った。

 

 ――「だが私はそれを扱いきれていない。いいやむしろ未来の自分と今の私がまぜこぜになって、逆に弱くなってすらいる。“こうすればいい”ということは理解しているし納得もしているのにその経験が躰に馴染まず、咄嗟に動くべき時に限って足を引っ張る結果になってしまっている」

 

 原因は、やはり草壁美鈴(ほんにん)の認識と草壁美鈴(サーヴァント)の認識に齟齬があるためなのだろう。

 召喚の不具合と言うべきか、項垂れる美鈴の内面は相当に不安定な状態になっておりその後も再現エリアで戦闘を重ねたが状態が好転することはなかった。

 

 そんなときに、提案がある、と言い出したのはネルだった。二日前のことだ。「あんたの悩みを解決できるかもしれない」悩める美鈴に対し、ネルは外聞を憚るように声を落として解決策を告げた。

 

 告げられた美鈴は直後耳を疑うように目を見張り、馬鹿にしているのかと羞恥に声を荒げたが。確かにその方法は一聴してふざけていながらもあなたたちの経験上(・・・)、間違っているとも言い切れない内容だった。メドゥーサも「なるほど」と頷いていたほどで、問題は美鈴の同意と治療の為にあなたが肌を脱ぐ必要があることぐらいだったが、この方法を用いればシティエリアの技術で用意できる薬品を試さずとも不調を取り除けるかもしれず、けっきょく最後はあなたの熱心な説得もあり、そのまま美鈴が折れることで治療の機会が設けられたのだった。

 

「まっ、待てっ」

 

 そしてまさしく今、あなたは美鈴のために肌を脱いでいた。

 本当に文字通りに。まったく嘘偽りなく。

 

 あなたは小動物のようにあなたを警戒している美鈴にじりじりと近づいた。本人は気づいていないらしい甘やかな体臭があなたの鼻腔を刺激し、ついと下げた視線があなたの下腹部で首をもたげつつあるものを認めると、美鈴は更に羞じらって慌て始めた。

 

「や、やっぱりよそう。わざわざ房中術(・・・)なんかに頼らずとも……意味は分かるがこんなことをして君に迷惑をかけるわけにはいかないし、というかそもそも私たちがこうするのはなんというか、その、非常に倫理的にいろいろとよくない気がするのだがっ」

 

 あなたはこの期に及んで覚悟ができていない美鈴に内心で呆れながらも表面に出すことはせず、強張った彼女の防御を城攻めするようにやわらかくするところから開始した。

 まずは美鈴の手をそっと取り、固くなった躰と頑なな裡側をほぐすように、ゆっくりと撫で始める。マッサージするように。

 

 美鈴は、もしいきなりあなたに飛び掛かられでもしたら場合によっては反撃ないしこの場から逃げ出していたかもしれなかったが、あなたはそんな急いて事を仕損じるような下手は打たなかった。あなたはすりすりと優しく手や腕に触れながら、出会ってから今日に至るまでの美鈴への想いを口にした。あなたは慈しむようにさすりながら、美鈴が仲間になってくれたことをどれほど嬉しく思っていて感謝しているかを何度も繰り返した。決して無理強いをするつもりはないことを約束すると、彼女の緊張が少しずつ解けてゆくのが感じられた。

 あなたはこのまま房中術の真髄を実践せずともあなたとの波長を調節する効果は微々たるものだが得られるのだと告げ、続けて、だからこのままこうして美鈴に触れていてもいいかと訊ねた。

 

「私の身体など、面白くもなんともないだろう」

 

 指先に感じる体温は上がりつつあり、少し汗で湿り始めていた。あなたは美鈴の手を握った。戦いと縁深く、消えない傷痕の刻まれた手を。

 

「かたい手だろう」

 

 長い沈黙を破るように、ふと美鈴が呟いた。

 

「刀ばかり握り、修行に明け暮れていたせいで、今では女子(おなご)らしからぬ手になってしまった」

 

 あなたは微かに寂し気に笑った彼女の手に、静かに唇を落とした。甲。指先。付け根。手首。裏面。あなたが口づけしていると、美鈴は身動ぎしたものの振りほどいたりはせずに、あなたの好きにさせていた。

 美鈴の掌は鍛錬のために表皮が硬く分厚くなっている部分もあったが柔らかさも残しており、何より都市に存在する無数の代理人(エージェント)とは違う、人の血の通う温かさがあった。

 

「あたたかい、か。……自分ではわからないよ」

 

 あなたは美鈴の目を見つめ、好きだと告げた。深い夜のような黒曜石の双眸も、雨上がりの夕焼けのような鮮やかな赤髪も。仲間を守ろうとして自分が傷つくのを恐れない気高い性格も、あなたを助けて導いてくれる美鈴の手の温かさも。

 美鈴の笑顔が。何より好きだと、沈黙に沁み亘らせるように言った。

 

 美鈴は口を噤むと、あなたから目を逸らした。あなたは何も言わず、ただ美鈴の横顔を見つめた。

 

「――ありがとう」

 

 何かを堪えるような、か細い声だった。

 

「君は、やさしいな」

 

 あなたは再び指を動かし始めた。静かな部屋の空気に、次第に美鈴の吐息が混じ入るようになった。喘ぐというほど大きくはないがそれは口からこぼれるような吐息で、「んっ――」徐々に彼女の感覚が敏感になってきていることの証左でもあった。

 

「もう、いいんじゃないだろうか。そろそろ。これくらいで。今日のところは……」

 

 あなたは止めず、敏感になっているところを探り当てるとすまし顔でそのあたりを撫で続けた。「んっ、……んんっ」美鈴の意識が、あなたが話している間は空気を読んで威圧感を控えていた股ぐらの今は既に雄々しく主張し始めているものにちらちらと向けられていることに気づきながらも、あなたは気づいていないふうに装いつつ、美鈴の気分が順調にフェロモン(・・・・・)の効果で高まってきていることを確かめた。

 

「まだ続けるのか……?」

 

 あなたが横になるよう言うと、美鈴は戸惑いながらも素直に従った。何も疑わない様子で。

 

「ひゃうっ♡んんっ、そこはっ……」

 

 仰向けになった美鈴の乳房がたぷんと振動し、あなたは指の探索範囲を広げることにした。指から腕、腕から肩、肩から脇、脇から胸――

 

「ふぅぅっ♡……そんなところまで、触る必要があるのか……?」

 

 あなたは平然と続けながら、布越しにも固くなっている乳頭には敢えて触れずに柔らかく弾力のある胸を揉み、「んっ♡」更に腰へと下がって行くと、ひとこと断ってから美鈴の上に跨った。

 互いの足と頭が逆の位置になり、あなたがむわりと蒸れている美鈴の白い布を覗き込むと、美鈴は必然的に彼女の目と鼻の先に突き付けられるかたちとなった下着越しでも臨戦態勢だとわかるあなたの一物に対し、「ひっ♡」と豪胆な退魔師とは思えないような悲鳴を上げた。

 

 あなたはそれを無視しながら、腿の内側を愛撫していった。

 

 はぁっ♡はぁっ♡はぁっ♡はあっ……♡

 すんっ♡すんすんっ♡すんすんすんっっ♡すんっ♡

 

 すぅぅぅぅ……っ♡♡

 

 臭いを嗅ぐ音。

 

 ごくっ……♡♡

 

 生唾を吞む音。

 

 聞かれていることにも気づかないほど美鈴は眼前のものに食い入っており、反応が明らかに強くになっているのは、彼女のなかの警戒と枷がフェロモン(・・・・・)のおかげで外れつつあるためなのだろう。

 

 あなたは、知らず「くんくん♡」と犬のように口を開けて鼻を鳴らしていた美鈴に、一つお願いをした。

 

「ばかものっ。それはっ、……ぅぅ♡……だが……わ、わかった。そんなにくるしいのなら……」

 

 理性と戦うように呻きながらも、美鈴は意を決したようにあなたの下着に手を伸ばし、それを脱がせた。

 

「あ……♡……」

 

 〈おちんちん、おおきい……なんだっ、このっ、こんなちんちん、みたこと……〉

 

 ブルンッッと狭苦しい布の壁から解放され、改めてまじまじとあなたの勃起性器を目の当たりにした美鈴から、劣情に染まった念話が聞こえた。

 

 〈ふああぁぁ♡♡すごいにおい……かいだだけなのに……からだ、あつくなる……♡〉

 

 強い感情が無意識に念話としてこぼれているらしく、美鈴は現在進行形で脳内で垂れ流している卑猥な実況が外に漏れていることに気づいていない。

 あなたは面白いので念話については黙っていることにし、いざいざ触ってもらえるように頼んだ。

 

「つ、つらいのか? ……わたしのせいで、こんなに……? ……し、しかたない、な……さっ、さわるぞ……♡」

 

 美鈴の手がそろそろと伸び、あなたの馬並みペニスをふわりと握った。

 

「ひいっ♡♡ビクッ、ってした……♡」

 

 〈おちんちん、みゃくうってる♡ああ、あつい……てが、やけどしてしまう……こんなにちいさなこなのに……ちんちん……はれんちだ……わたし、なのにさわって……♡〉

 

「うご、かす? こ、こうか……?」

 

 しなやかな美鈴の指が怖気づきながらも陰茎をしごき、先端から滲みだしたカウパー液が動きを滑らかにさせてゆくと、あなたも指の動きを再開した。

 

 すり♡すり……♡♡

 しこ♡しこ……♡♡

 

「まて、そこはっ……♡」

 

 いよいよ脚の付け根を隠すショーツをずらすと、繁みは愛液でべったりと濡れていて、なかは潤っていた。

 

「だめだっ、みるなあぁっ♡♡んんんっ♡……やぁぁ……たのむ……おねがいだ……だめっ♡ぅぅ、みないでぇ……♡♡」

 

 あなたは恥しさのあまり閉じようとする足をがっちり抑えつけると、これも必要なことだからと、潤いきっている肉厚な秘裂に人差し指と中指をぬぷぷぷっ♡と侵入させる。

 

「だめっ♡だめだだめだぁっ♡やだあっ……そこはっ……ふうぅううっっ♡♡」

 

 とろとろの陰部は、触ってもらえなくて寂しかったと言わんばかりにぎゅーっ♡とあなたの指を締め付けてくる。あなたは淫猥な躰の発した喜声に応えるべく、まずは浅いところからさながら打音検診のようにこりこりっ♡ぐちゅぐちゅ♡と膣内を探索し、ぞりぞりっ♡つんつんっ♡とスポットに刺激を加えてゆく。喘ぎ声はどんどん大きくなり、水音を聞かせるように激しくすると「そんなのききたくないぃ♡♡」と美鈴はうわ言のように嬌声を上げながら、しかし躰はしっかりと快楽を悦んでいた。

 

「き、きもちよくなど……っ♡んあっ♡♡んふぅっ♡♡……んあああっだめだそれぇっっ♡♡」

 

 あなたが訊くと意固地にも蕩けた声が返ってきて、あなたはそれならと、もっと気持ちよくしてあげることにした。

 

「だめっ……いやっ♡いやあ……ぁ♡♡あうぅうぅぅっっ♡♡まっ、てっ♡♡……」

 

 肥大化した愛液まみれの陰核と膣口を、内と外から狙い撃ちにすると、美鈴はびくんびくんっ♡♡と悶え踊った。

 

 ぐちゅ♡ぐちゅ♡♡ぐちゅ♡ぐちゅ♡♡

 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡

 

「はあっ♡はぁーっ♡♡ふぅーっ♡ひぅうっっ♡♡うぅっっぎぃ♡♡ぃっ♡♡ぃっ♡♡……」

 

 奥へ奥へときゅうきゅう♡締め付けてくる蠢きに、そろそろ達する塩梅なのを察したあなたは、かぶりを振ってなんとか逃れようとしている美鈴に、本日最初の絶頂をお見舞いした。

 

 〈だめ♡♡だめだ♡♡だめ……♡♡くるっ♡♡……いや♡♡……きちゃう……だめっ♡♡……いっ――〉

 

 ぐりっっ♡♡♡

 

 

「イ”っ”……ぐぅ”ぅ”う”う”う”う”う”っ”っっ♡♡♡♡」

 

 

 えげつない悲鳴が部屋に木霊し、ぴゅーっ♡とメス性器から噴き出した潮が、たぱたぱとベッドを汚してゆく。美鈴は足先までぴんと伸ばし、汗の浮かんだエロ双丘を上下させながら、「はーっ♡はーっ♡」とふるえていた。

 

 〈イッてしまった……わたし、こんなちいさいこに……♡イかされてしまった……♡♡〉

 

「……おわり……もう、おわりに……♡」

 

 当然ながら、あなたはこれだけで終わらせるつもりは毛頭ない。この機会に「うまくやりなよ」とネルにも言われているのだから。

 何よりもあなたは、完全にできあがっている最上級の生パコ専用発情メスまんこを前に引き下がることなど、できるはずもなかった。

 

 あなたは起き上がると、姿勢を変えて美鈴の前に立った。彼女の首の両側に膝をつき、今度は正面から鼻先にデカチンポを突き付ける。美鈴が慣れない手つきでしこしこしてくれたおかげで十分にバキバキになったオスチンポからむわぁっ♡とトロトロの先走りに混じるフェロモン(・・・・・)がこぼれ出し、美鈴のくぱぁ♡と情けなく開いた淫裂からは、どくどく♡と更なる愛汁が湧き出してきた。

 

「あっ♡……あぁっ♡♡……ふぅぅっ♡……すんすんっ♡……んんうぅ♡♡……っはぁっぁ♡♡……」

 

 〈ちんちんすごい……♡これだめ……だめだ……これいじょうは……♡いわないと、だめって……いって……やめさせないと……このままだと……でも……♡♡〉

 

「……あっ♡……あぁっ♡……すーっ……♡んぅーっ……♡♡」

 

 〈いえ……いうんだわたし……ちゃんと……ちんちんだめって……つきつけちゃだめって……♡……こんなごくあくちんちん……つきつけるの、ゆるさないって……♡♡……〉

 

 あなたは、無言で美鈴を見下ろした。美鈴はぱくぱくと口を開き、淫欲に呑まれつつある頭で必死に伝えようとしていた。

 

 〈……いえ……くさかべみすず……いえ……ちんちんいやって……いえ……いえ……っ♡♡〉

 

 美鈴の赤い舌が、蠢き――

 

「はぶぅっっ♡♡」

 

 じゅるるるっっ♡♡じゅぞぞぞぞぞっっっ♡♡♡

 

 桃色の唇が、あなたのオスチンポにむしゃぶりついた。

 

「ぶもっ♡ずじゅるるっ♡ぶぢゅるっじゅぷぶぷっ♡♡ずじゅぅうっぅぅぅ♡♡♡」

 

 唾液にまみれた頬をすぼめ、肉幹をぬぷりと包み込んで亀頭を這いずり回す学生口オナホ。その表情は純な少年が見ればその場で射精しかねないほど淫靡に染まっており、ぶっといカリ首周りのチンカスを嚥下するたびに達してぴくぴくと戦慄くと、全身から代謝した汗に交じってぶわりと放たれるメス臭は、部屋の壁にへばり付きそうなほどに濃くなってゆく。

 

 〈ぁぁぁぁ♡♡ちんちん……ちんちんだめ♡おちんちんおいしすぎる……♡♡こんなのおかしい……いけないのにっ♡♡くちがかってに……ちんちんほしがって♡♡このちんちん♡♡……すきっ♡♡こんなの……こんなのおかしくっっ……♡♡やっ♡♡だめだっ♡いく♡♡ひぐぅぅぅっ♡♡♡〉

 

「ずぼぼっ♡♡♡ぶぢゅずずずっ♡♡ぢゅぶぢゅじゅっ♡♡ずぶぼぼぼっ♡♡♡れりゅじゅっ♡♡じゅるるっ♡ぷちゅるるるっ♡♡……っっ♡♡♡」

 

 〈すきっ♡♡……だめだっ……とまって♡♡♡これいじょうはっ♡♡……すきっ♡♡……しっかりしろっ♡♡あたま……ちんちんでだめになるっっ♡♡すきっ……♡♡〉

 

 ペニスから分泌される多幸感物質を五感であますことなく根こそぎ舐めしゃぶり尽くし、「ふーっ♡ふーっ♡♡」と鼻息荒くして甘イキを重ねながらもチンポキスや媚びフェラを決して止めようとしない美鈴はもはや気高く凛々しい退魔師の恰好を捨て去り、挿入する前からアクメ中毒者の様相を呈していた。

 

 〈みたされる……しあわせになってしまう……♡♡すきっ……♡♡ちんちんすきっ……♡♡このちんちんすきぃっっ♡♡〉

 

「じゅずずずずずず♡♡♡ぶじゅるっ♡♡じゅぶぶぶっ♡……ぷはぁっっ♡♡♡やっ♡♡まって……♡♡」

 

 あなたが口マンコから引き抜くと、大好きなものを取り上げられる子供のように悲痛でしかし加虐心をくすぐる悲鳴をあげた。

 あなたは、既に抗えない美鈴の腰を浮かせてレースのついた愛液まみれの下着を剥ぎ取った。最後の理性のほんのひと欠片が涙交じりの瞳に灯り、あなたの最終目的を悟ったらしく、美鈴はオルガスムスの痙攣でしびれている躰で弱々しく抵抗しながらも哀願した。

 

「だっ、だめだっ♡それだけは……それだけはゆるしてくれ……わたしには、おっと(・・・)も、むすめ(・・・)もいるんだ……」

 

 〈いまいれられたら……おちてしまうっ♡♡こんなちんちんでまんこパコられたりしたらっ♡♡生ハメえっちでしきゅうにチンポざーめんそそがれたりしたらっっ♡♡ぜったいアクメするっ♡♡ぜったいアクメして……メスのしあわせおもいしらされてっ、もどれなくなってしまう……このこのこと、オスとしてすきになってしまうからっ♡♡それだけはっ……♡♡〉

 

 あなたは開脚させ、俗に言うマンぐり返しの姿勢を取らせると、みっともないほど哭いているハメ穴を更に躊躇なく掻き回した。

 

「お”ぉ”ぉおおっっ♡♡お”お”お”お”お”っ”っっっ♡♡」

 

 肉襞は「じゅぷっ♡ぷぴゅーっ♡」と噴いたジュースでてらてらと濡れ光っており、ふと興味に引かれて淫裂の最奥を覗き込むと、あなたは神聖な子宮へ通じる産道を遮るように、あるはずのない壁があることに気が付いた。

 

 〈みてる♡……みられてるっ♡♡なんで……はずかしいっ、のにぃ♡♡……あっイクっ♡♡またイクッ♡♡♡……こえでちゃってる……♡♡おさえられないっ……♡♡♡だめだっ、たすけて……♡♡これいじょうは、もうっ……♡♡やだっ……♡♡ひぐっ……♡♡♡〉

 

 弱点スポットへの集中攻撃で、すっかりイキ癖のついたフェロモンガンギマリボディを震わせている美鈴だったが、あなたが〈強化〉した目で気づいたものは、紛れもなく美鈴の処女膜だった。

 

 あなたは美鈴に無理強いはしないと約束した手前あなたから最後の一線を越えるつもりはなかったが、それでもけっきょくはラブハメレイプすることになるであろう美鈴のとろけきった泣き顔を見た。

 処女膜の存在は娘がいるという彼女の言葉と完全に矛盾していたが、娘を持つ人間がサーヴァントになって若返ると処女膜が復活するなどという現象は本人に特別な伝承でもない限り考えにくい。つまり美鈴の認識している現実(むすめ)草壁美鈴(サーヴァント)としての記録であり、此処にいる美鈴の実体験ではないと考えるのが道理だった。

 

 要するにあなたの前でいやらしく愛液を撒き散らして絶頂地獄に溺れかけている美鈴には夫はいないし、娘もいないということになる。この世界に召喚されなければやがて夫となる恋人と結ばれたかもしれないし彼女によく似た愛らしく美しい娘を授かる未来に合流したかもしれなかったが、もはやあなたの“因子”に引かれてこの世界に召喚されてしまった以上は、ベッドの上で自分よりも小さな子に組み敷かれてドスケベえっちなハメ頃ボディをあられもなく晒している美鈴には、逃げ場などどこにもない。

 

 何故なら美鈴はあなたの従者だからだ。

 あなたは美鈴のあるじ殿であり、あなたはこれからも戦い続けるために徹底して彼女を身も心も自分のもの(・・)にしておく必要があった。

 

 あなたはこすこす♡とフル勃起したオチンポ様を膣口にこすり付けながら、美鈴に彼女がヴァージンであることを伝えた。激しく主張するクリチンポを指の腹でしこしこ♡と刺激してあげ、汗だくでいやいやかぶりを振る彼女にこのまま挿入しても夫や娘を裏切るわけではないと囁いたうえで、あなたは改めてお願い(・・・)をした。

 赤黒く充血しご立派になった肉棒を美鈴に鎮めてほしい、どうか受け入れてほしい、と。

 

 〈……わたしは……〉

 

 あなたたちは見つめ合った。互いに動きを止めて。

 

 〈……つらそうなかお……こんなにおっきいから……そうだ……くるしいはず……つらくないはずない……でもわたしのためにがまんして……わたしのせいで……がまんさせて……〉

 

 熱く触れ合う性器から、唾液か涙のように雫がこぼれる。

 

 〈わたしはなんのために……なんのためにここにいる? ……この子をたすけるためだ……わたしは……この子のために……〉

 

 美鈴が目を閉じる。沈黙があった。悩んでいる。平時の理性が戻りかけていた。

 それでもあなたは、急かさなかった。動かなかった。あなたは確信していた。

 

 美鈴は目を開くと、あなたに微笑んだ。

 

「……わかった。いいよ(・・・)――」

 

 慈悲深い、母性に満ちた表情をして。自ら挿れやすいように、ゆっくりと開脚までして。

 

 〈……わたしがうけいれてあげないと……わたしの事情じゃない……わたしはこの子のためにと誓ったのだから……〉

 

 それに……、と。

 受け入れ姿勢の裏側で、艶めかしい響きが独り言のように付け加えられた。

 

 〈……こばめるはず……ないだろう……っ♡♡〉

 

 そのメス顔は、恍惚に歪んでいた。

 理性の糸は、あなたがもたらす二ケタを超える幸せアクメを前に、とうに色欲に絡め取られていた。

 

「いれてくれ……あるじどの……♡♡♡」

 

 あなたはにっこり礼を言うと、一気に腰を押し込んだ。

 

 ぶちぶちぶちぶちぶちぃっっっ♡♡♡♡

 

「ふぅうう”う”う”う”う”う”っっっ♡♡♡♡」

 

 未使用の膜を突き進み、ぶち抜いてごつんっ♡と挨拶代わりにチンポで子宮穴を押し上げると、素早く〈メディテーション〉で破瓜の出血と痛みを治癒する。

 

「はぐぅうっ♡♡……はーっ♡♡はーっ……♡♡だ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから……イッてしまった……そのままうごいて……いたくないから……んぉああっ♡♡ひぐぅううっ♡♡お”っ”、っお”お”お”お”お”っっ♡♡♡」

 

 あなたはむっちり尻肉にばちゅん♡ばちゅん♡♡と打ち付ける鬼つよピストン攻撃で、挿入前からクールフェイスのくせにクソチョロ泣き虫ザコマンコなのがバレバレだった膣穴を欲望の赴くままに蹂躙した。

 

 二人の麗しき従者とも異なる、こりこりでつぷつぷな肉マンの感触を楽しみながら耕す作業に没頭し、それでも相手からすれば好き勝手に我が物顔でおまんこを使われる美鈴は、とはいえ焦らされ続けてきただけあって念願のご主人さまチンポを挿入した瞬間に即デレ雌マンコと化しており、外では感動泣きしながら内では「ぎゅ♡ぎゅっ♡ぎゅーっ♡♡」とあなたのストロークに合わせてマン肉ご奉仕し、あなたのフェロモンたっぷり馬並みチンポを根元まで貪欲に受け入れていた。

 

「お”っ♡お”っ♡お”お”っっ♡♡お”お”お”っっ♡♡♡」

 

 あなたは隙間なく纏わりついてチンコキする膣内(なか)をカリ首で掻き回して泡立てながら、くびれたウエストをがっちり掴んでほぐれきったポルチオにあなたのかたちを教え込んでゆく。

 

 引き抜こうとすると僭越なメスマンコは蛸壺のように「ちゅーっ♡」と鈴口に吸い付いて「いかないでっ♡」と懇願抱きしめベロチューをしてくるが、あなたは立場を弁えないハメ穴に誰が主人で誰が従者なのかをわからせ(・・・・)るためにごつごつっ♡♡と抉って孕ませ部屋をチンポ殴りし、かつて美鈴のいた世界の多くの男を魅了したであろうデカパイを鷲掴むとエロ乳輪とスケベ乳首に噛み付いた。

 

「お”ぼごっっ♡♡♡かひゅっっ♡♡いひゅっ♡♡や”っ♡♡い”っひゅっ♡♡ひ”ゅぐっ♡♡♡」

 

 あなたは巨乳のあいだに顔をうずめて汗と淫臭を嗅ぎながら、長い間耐えてきたその瞬間が近づいているのを感じて腰振りを速めた。

 膣肉は雌の本能でそれを感じ取ったように締りを強め、美鈴の脚があなたの腰にしがみ付くようにぎゅっと巻きつけられた。

 

 〈はらまされる……♡わかる……♡♡チンポまたおっきくなって……しきゅうひらいちゃってるから♡♡……そそぎこむきだ……わたしのめすまんこに……チンポざーめん……はらませこだね……♡♡ぜったいにそそぎこむきだっ……♡♡……〉

 

 そしてついにあなたが中だし宣言を行うと、美鈴は数えきれない量と質のアクメを遂げながら目にハートマークを浮かべて、「はいっ♡♡」と完全陥落種乞い宣誓を叫んだ。

 

 〈くる……♡♡くるっっ……♡♡きてぇっ……♡♡〉

 

「だしてぇっっ――♡♡♡」

 

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡

 

 

 どちゅんっっ♡♡と突き刺し、あなたは恥丘を密着させ、本日最初の新鮮ザーメンを叩き込んだ。

 

「お”お”お”お”お”お”お”お”お”おぉぉぉぉっっ♡♡♡♡」

 

 ぷるぷると全身を紅潮させ、潮噴きお漏らしを繰り返す美鈴に、あなたは吐精が収まるまで種付けプレスをし続けた。

 

 「お”……お”……お”……お”……っ♡♡♡」

 

 〈……♡♡ああっ……♡♡こだねザーメン♡♡♡しこまれてるっ……♡♡♡……わたし……このこのおんな(・・・)にされてる……♡♡〉

 

 オス媚び著しい良妻マンコは一滴たりとも逃さないというようにチンポを呑み込み、雌しか味わえない幸福で満たしてくれた亀頭と竿を丁寧にしごきあげると、陥落開門した赤ちゃん部屋へと、悦びに打ち震えながら大群の精子をいざなってゆく。

 

 あなたは絶頂から戻れていない美鈴に、まだ大きいままのチンポをうずめたまま、このまんこは誰のものかと訊いた。

 

「それ、は……」

 

 ぐりっ……♡♡

 ぐりっぐりぃっっ……♡♡

 

「お”ごお”っ……っ♡♡♡いうっ、いうから……♡♡チンポぐりぐりしないでっ♡♡おくっ、イッてるのに……またイッちゃうからっ……♡♡♡」

 

 どちゅんっ♡♡と先を促すと、小さな舌を出しながら、ふにゃりとアヘ顔で美鈴は言った。

 

「……きみの、もの……♡」

 

 囁く声で。愛しい人を見る目をして。

 快楽に溺れ切った淫靡な躰で。

 

 〈みとめてしまう……わたし……もう、みとめてしまったから……♡♡……ごめん、みゆ(・・)……かける(・・・)……うらぎるわけじゃない……きみたちはたいせつにおもってる……でもいまは……このせかいにいる、いまだけは……このわたしは……この子のじゅうしゃだから……♡♡〉

 

「わたしは、きみのもの、だよ……♡♡」

 

 まんこも、おっぱいも、おくちも、ぜんぶ。

 きみのものだよ……♡♡♡

 

「やあっ♡♡またっ……ちんちん♡♡まだおおきくなるのぉっ……♡♡」

 

 美鈴はあなたの想像通り、どれだけチンポ殴りしても健気に吸い付いてくる高嶺の花に相応しい優等生まんこの持ち主だった。

 あなたはこの極上メス穴に更なるマーキングをし、いつでもあなたの気の向くままにハメられるお手軽チンポケースとして躾けるべく、教育的抽送を再開した。

 

 処女だったこともありそれまで手加減していたあなただったが、二回目からは美鈴も慣れてきたであろうということで、お上品なおセックスではなく容赦なしの性欲満漢けだものファックへとギアをあげる。

 

 お”お”お”っお”お”お”お”っ♡♡♡

 お”お”っ♡♡ん”ぎっ♡♡♡ひぎゅっうっうう♡♡♡

 

 お互いの対液まみれになりながら、あなたは新しく手に入れた玩具に夢中になる子供のように真剣にハメ遊び、美鈴もあなたにおまんこ遊びされながら強制絶頂ラブパコセックスの沼にどっぷりと沈められ、とても幸せそうにヨガり狂い続けた。

 

 ん”ん”ん”ん”あ”あ”あ”ああああああああ♡♡♡

 れるるるっち”ゅううぅずるるるるっるっっ♡♡♡

 

 アヘアヘ腰振りを見上げながらドスケベ乱舞する乳を揉みしだき、何一〇回目の中だし射精をすれば、ご主人さまの不意打ちザーメンアタックに合わせたメス哭き絶頂を覚えるようになったり。

 

 んちゅ……♡♡ちゅう……♡♡ちゅっ……ちゅっ……♡♡

 ぢゅるるるるっ♡♡♡ちゅぱっ……♡♡んくっ……♡♡ごくっ……♡♡

 

 貪るようなキスハメで愛情(しんらい)を確かめ合いながら絶倫チンポを貫き通し、気絶するたびに子宮を抉り込んでアクメ覚醒させた瞬間を狙って中だしベロチューぴゅっぴゅをすれば、エンドレスオーガズムを迎えて人間の尊厳を失ったような顔になったり。

 

 ん”ひ”ぃ”っ♡♡い”ぃ”い”いい”ぃ”い”いっっ♡♡

 お”お”お”お”お”お”お”お”おお”お”お”お”お”お”お””♡♡♡♡

 

 第一印象からして兆候はあったが案の定ケツハメに弱かったので重点的にねちっこく攻め続けると、何処に出しても恥ずかしくない立派なケツアクメ顔を披露するようになったり。

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡

 

 そのうち五〇を超える頃には徐々に気絶耐性を学習し始めたり。

 

 耐性など無意味と言わんばかりに突破されてチン負けディープキス無様アクメをキメる美鈴を、あなたは魔術で回復し、「しぬっ♡♡ちんちんにころされる……っ♡♡」などという情けない悲鳴にチンイラ喚起されながらひたすらハメ潰し、空腹を感じれば繋がったままで飲食を摂ったり――もちろん口移しで――

 

「わたしの……♡♡わたしのちんちんなんだぞっ……♡♡わたしのちんちんっ……なのにぃ……っ♡♡♡」

 

 あなたの寵愛(せいし)を浴び続けたことで調子に乗ったメスばかマンコが、美鈴とあなたが唯一のつがい(・・・)であると勘違いを主張し始めた時には、様子を見に来たネルとメドゥーサに協力してもらい、動けないよう羽交い絞めにした美鈴の目の前で濃厚な種付け交尾を行ったり――

 

「お”っ♡♡お”っ♡♡……ち、ちがうだろう……? ごしゅじん”っ♡のっ、おチンポは……ご主人の、ものなんだから……私たちは、ご主人にハメてもらう……メスパコオナホなんだよ……♡♡ちゃあんと、わきまえなきゃ……ふふ♡キスしたいの、ご主人……? いいよ、ほら……べろちゅーしよ……? いやらしく、舌までからめて……ちゅるっ♡れろぉっ♡♡あむっ♡♡ちゅぷっ♡♡……あんたの大好きな……あんたのことが大好きな、ドスケベ雌どれいとのべろちゅーセックス……♡♡ほら、もっと……しよ……? ちゅー…っ♡♡……ちゅっ♡ちゅ……♡♡……」

 

「わたしの……わたしにもほしいよぉっ……なんで、だめなんだ……どうして、わたしにしてくれないんだぁ……っ♡♡」

 

「いけませんね、ミスズ……そのような思い違いをしていては……もう、マスターに恵んで頂けませんよ……♡♡マスターのおチンポさまは……入れていただけるだけで、すっごく幸せに感じられて、みたされて……ほんとうに……ああ、自分が女でよかった、おまんこがついててよかったって、思えるんです……あなたも知っているでしょう? ほら、ミススのここ(・・)、こんなに指を締め付けて……私の指をおチンポと勘違いしているんですね……かわいい……♡♡」

 

 常時ダイレクトに脳裏に響くオス媚び念話を愉しみながらネルとムラムラ解消ラブラブえっちに励んでいる間は、美鈴の相手をメドゥーサに任せたりもした。

 

 〈イクっ……♡♡ちんちんじゃないのに……っ♡♡イッてしまうっ……やだっ♡♡ちんちんがいいのに……っ♡♡あるじどののオチンポでイキたいのにっ……っ♡♡いぐっ……♡♡♡〉

 

「ほら、イッちゃえ……♡♡♡」

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡

 

 オトコもオンナもどちらもイケるメドゥーサは嬉々として美鈴の躰の隅々を弄り尽くしながら、あなたの従者としての夜伽の心得をささめくように説き、心の底にまで沁み込ませている。二人の美人が絡み合い嬌声する光景はますますあなたを興奮させ、最初期からの従者であるネルの従順めすまんはめざとく昂りを察し、普段の戦いぶりからは想像もつかないくらいドへんたいな淫語をあなたの耳朶に送り込んできたりもしつつ――

 

 それでも今回のメインはあくまで美鈴であるからと、あなたは彼女の強靭な精神が改心したタイミングを見計らい、そこらじゅうに愛液と諸々が散らかってびちゃびちゃになっている床に全裸でひれ伏し続けている美鈴に、静かに声をかけた。

 

「……もうしわけありませんでした、あるじどの……♡♡わたしがばかで、あさはかだった……♡♡こいびときどりでかんちがいした、おろかものまんこに……どうか、ざーめんべんじょでも……おてがるオナホケースあつかいでもいいから……おねがいします……♡♡きちょうなおせいしさまを……どうか……めぐんでくださいませ……っ♡♡♡」

 

 あなたの視線を感じて軽くイキながら、その拍子に子宮から流れ出た精液の感覚で更にイキつつ、三つ指ついた美鈴が顔をあげると、あなたは後悔と不安と期待と興奮で泣いているその鼻先に、衰えることを知らないオスチンポを突き付けた。

 

 美鈴の表情に感謝が花開き、瞳を閉じてぷるぷるの唇をそっと捧げると、朱の差した頬に涙を伝わせながら、あたかも敬虔なる信者が祈りを捧げるかの如く、あなたのおちんぽ様に恭しく口づけした。

 

「……はいっ♡♡ちかいます……♡♡わたしは……くさかべみすずは……あなたのオナホたいまし……♡♡いついかなるときも、あなたさませんようの……いつでもハメられる……にくあなよめオナホとして……♡♡みらいえいごう、あなたさまをおまもりしつづけます……♡♡♡」

 

 ちゅっ……♡♡

 

「あっ――♡♡」

 

 皮膚(はだ)の下から。

 異史記録体が情報更新され、子宮のかたちをなぞるように(・・・・・・・・・・・・・)腹部から付け根にかけてハート型に紋様がむくりと浮かび上がり――

 

 どちゅんっ♡♡

 

「お”お”お”お”お”お”お”お”お”おぉぉぉぉっっ♡♡♡♡」

 

 無事にチン墜ちさせたところで、あなたたちは意地悪してごめんなさいと謝りながらの仲直りイチャラブセックスに突入した。

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡

 

「ミスズばっかりじゃなくて、私たちのことも、忘れないでおくれよ……♡♡」

「こちらのオナホ穴も、まだまだザー汁……吞み足りないので……♡♡」

 

 もちろんあなたは、その後もハメ乞いに必死な愛すべき仲間たちに平等にあなたの無限に生成される熱い想い(物理)を注ぎ込んでいった。

 

 どちゅんっ♡♡

 ごちゅんっ♡♡♡

 

 びゅくびゅくびゅるるるぅうううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♡♡♡♡

 

 

「「「イ”ぎぅ”ぅ”う”う”う”う”う”っ”っっ♡♡♡♡」」」

 

 

 房中術の名を借りた新入生篭絡作戦は、パーティ全員が参加して丸二日間ぶっ通しで続けられ、そのあいだ建物から阿鼻嬌声が絶えることは一度もなかった。

 

 

 

 5.

 

 

 

 ふう。長く険しい戦いだったね。

 ええ。充実した二日間でした。

 ご主人も、お疲れさま。ゆっくり休もうね。いい子、いい子。ねんねしな……

 英気を養って、明日から、また。お願いしますね、マスター……

 

 ぁぁぁぁぁ……!

 ……メドゥーサ。

 ぁぁぁぁぁ……私はなんということを……っ、

 なんです、ネル?

 なにって、あれだよ。アレ。ずっとあの調子だけど。

 ぁぁぁぁぁ……、

 ああ、ミスズですか。はい。ずっとあの調子ですね。

 ありえない……なぜあんな……あんな卑猥なことを私は口走って……信じられない……信じたくない……私は……ぁぁぁぁぁ……、

 いちおう大声じゃなくて、声を抑えて悶えているあたり、たぶん無自覚なんだろうけど。育ちの良さを感じるね。

 あれだけ乱れてしまいましたからね。元々が清楚で硬派な性格のようですから、余計に。

 人のことは言えないだろう。というか、狂いっぷりは三人とも変わんないよ。まあ分からなくもないけどね。私も初めの頃は、正気に戻ったとき同じようになったのを覚えてるよ。しょうじき言って、忘れたい記憶だね。

 今はどうです?

 慣れって恐ろしいね。

 同感です。……どうします?

 放っておくわけにもいかないだろう。このままだとご主人が起きかねないし。こら、ミスズ。気持ちはわかるけど、あまり騒ぐんじゃないよ。騒いだところで、消えるわけじゃないんだし。これからも続くんだよ?

 ぅぅぅぅぅ……、

 聞いちゃいないね。

 ネル。

 なんだい。

 提案があります。

 へえ?

 

 ―――。

 

 はあ。

 ………。

 はあ。ため息ばかり。よくないな、はしたない。……しかし、……はあ。私ひとりに任せるだなんて。何かあったらどうする気なんだ。べつに、何かする気はないが。信頼されている、ということなのだろうか。

 ……はあ。

 ……よく寝ている。

 かわいい寝顔だな。こんなまだあどけない子供に、私は、あんなふうになって……ああっ、まったく。

 まったく、君というやつは。とんでもない男だな。わるいやつだ。ひどいやつだ。信用ならないケダモノめ。この、この。

 

 ……いいや。それは、私も、だな。

 ……わかっている。……恨んじゃいないさ。私が未熟だから……思い返すだけで恥ずかし死(・・・・・)しそうになるが……告白すると、あ、あんなに求められたことなんて……女として、満たされたことなんて……

 は、初めてだったんだ……だから、その……強引ではあったけれど……

 まさか、起きてる?

 ……よかった、ちゃんと眠ってる。うん、聞かれてなどいない。聞かれていたら本当に恥ずかし死(・・・・・)してしまうからな。ふう……

 まったく。

 きみは。……君はこんな、滅びかけの世界で。こんな小さな身体で、ずっと戦ってきたんだな……こんな、私たち以外には誰もいない、おそろしい世界で……

 

 ……安心しきった顔。

 ああ、でも。これも、運命か……この想いは、本物なのだから……

 

 ……なあ。いいかい。乙女を無理やり手籠めにしたんだ。責任は取ってもらうぞ。

 代わりと言っては、何ではあるけれど。改めて、誓うよ。行為の時も言ったけれど……あれはその、勢いみたいなものだったから……だから改めて。

 

 我が名に懸けて。君を守るよ。君の敵から。すべての敵から。

 

 

 

 わたしの、あるじ殿。

 

 ……どうか、幾久しく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ◇草壁美鈴 
 ・親愛度レベル3(ギュギューン♪)→9に進展したド☆スケベ要因。マジカル☆デカチンポに強靭な精神力で対抗したが奮闘むなしくも幸せアクメに覚醒してしまった美少女学生退魔師。
 ・お姉さん。美声。

 ◇元軍人/王女/騎士団長
 ・条件を満たしていないため、あなたのパーティには加入しない。

 ◇機動兵器操縦者/魔法師/手騎士/巨乳眼鏡/武術家/エレメント能力者
 ・条件を満たしていないため、あなたのパーティには加入しない。





















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05























 

 6.

 

 

 

 踏み込んだときから、その街は燃え盛る炎に包まれていた。

 

 引き裂かれた家屋。捲れ上がった地表。飛散して煤けた破片。打ち砕かれた無人の城下町。それらは禍々しい蒼い炎に呑まれ、黒煙を灰色の隙間なき天蓋へと立ち昇らせていたが、しかし街そのものは遥か昔に沈黙し長らく放置されてきたかのような埃の積もった印象を感じさせる。すべてがくすんだ景観に、炎の蒼さだけが浮かび上がるように色づいている。

 

 遠くに見える、街の中央には、かつては優麗であったであろう面影を残した王城がそびえていた。

 

「ご主人」

 

 足音が聞こえる。あなたたちのものではない。近づいてきている。気配に備えあなたが戦闘杖を握ると、不意に激しく炎が揺れ動いた。瓦礫の向こう側から何かが飛び出す。

 人型。複数。

 

「【疾空斬】」

 

 旋風のような回転斬りが、伸ばされたオールドギア(・・・・・・)の腕を斬り落とした。間合いを詰めるネルは頭蓋と胴を刎ね断ち、舞うように同時に二体の霊基を刈り取る。他の二体の殺戮人形(キリングドール)は深緑の体躯をバレエのように躍らせて真っ直ぐ飛び掛かってきたがあなたの唱えた三つの光弾から成る〈デルタレイ〉が空中で邪魔をし、態勢を崩した隙に前に出た美鈴が雷切を閃かせた。一撃で頸を精確に斬り落とし、残る一体が蹴撃〈骨を断つトロワ〉を届かせようとするものの躱しざま背後を取った美鈴が斬撃を送り、赤黒い機械の覗いている胴を斜めに斬り伏せた。

 

 機能停止したオールドギアは、痛痒の存在しない無貌の残骸を転がし、塵と化して消失する。あなたたちが足早にその場を後にすると、騒動を聞きつけたらしい巡回するスケルトンナイト(・・・・・・・・)アンデッドアーチャー(・・・・・・・・・・)の集団が骨と鎧をかたかた鳴らしてやって来たが、感知能力が低いため建物に身を潜めているとそのまま素通りして行ってしまった。

 

 あなたは息をつくと、隣で汗の一つもかいていない美鈴に今日で何度目かになる確認をした。

 

「ああ。大丈夫だとも」

 

 美鈴は、軽やかな笑みを浮かべてあなたに頷いた。双眸にはこの間まであった焦燥感のようなものは残っておらず、むしろ心身の充足による自信と余裕が現れている。

 

「ここまで連戦を重ねてきたが……疲れるどころか上り調子だ。少し前までが嘘みたいに、身体が軽い」

 

 事実、訓練施設で最初に測った時と比較しても――そのときですら見事な剣技だとあなたたちは感心していたが――こうして新エリアに侵入して〈魔力針(コンパス)〉の導くままに霊地を探索する美鈴の身のこなしようは明らかに鋭さと柔らかさを増し、陰陽術の冴えも向上していた。

 

 あなたとの交合(セックス)にサーヴァントの体調を整えたり場合によっては能力を向上させる効果があるのはネルやメドゥーサで証明済みだったが、つまりはこれこそが、房中術の働きで引き出された草壁美鈴の本来の実力であるということなのだろう。

 

 君のおかげだな。そんな呟きと共にあなたに注がれる美鈴の視線には、感謝と親愛はもちろんだがそれ以外の意味合いも込められている。あなたが美鈴の手に触れることで理解していることを示すと、彼女は戦闘では欠片も動揺しなかった表情を嬉しそうに綻ばせながら、ぎゅっと握り返してきた。

 房中術の効果は永続ではないから定期的に調整する必要があるものの、丸二日間の交合を経て結び直された今のあなたとの関係性があれば、もしそうなったとしても断られたり悪化したりする心配はなさそうだった。

 

「やれやれ。見つめ合っていちゃいちゃするのは勝手だけど、もうちょっと時と場所を選んでほしいもんだね……せめて敵地じゃなくて、シティエリアに帰ってからとかさ」

 

 じとーっとした眼差しに気づき、赤面した美鈴がしどろもどろになっているのを見やりながら、ネルが呆れたようにため息を吐いた。

 

「最初の印象じゃ、もっと真面目かと思ってたけど。そのうちメドゥーサみたいにどこでも発情するようになるんじゃないだろうね。いやだからね、いきなりしたくなったからって言って、人に見張りを押し付けて岩陰でお構いなくおっぱじめる様子を聞かされるだなんてのは」

 

「そんなことするはずないだろう!?」

 

「まあミスズなら問題ないと思うけど。いちおう、釘を差しておかないとね」

 

 もし当人がこの場にいれば「私を何だと思っているのですが」と抗議されたかもしれなかったが、メドゥーサは今は斥候役として先行しているため聞かれる心配はない。仮に聞こえていたとしても、あんがいしれっとした顔で「じゃあ次からは一緒にしますか?」とのたまうかもしれなかったが。

 

 むくれる美鈴をあなたが宥めていると、ネルは肩をすくめながら言った。

 

「相性か。メドゥーサの言うとおりだったな」

 

「なにがだ」

 

「なんでもない。三人目があんたでよかったって話さ」

 

 〈マスター。“ボス”がいると思われる場所を発見しました〉

 

 メドゥーサからの念話に、あなたは一瞬固まった。

 

 〈……何かありましたか?〉

 

 いきなり美鈴が立ち上がり、一閃した。ネルに抱えられて飛び退くと、あなたはあなたの背後に現れかけていた瘴気が霧散するのを目視した。幅の広い路地に出て周囲を見回す。何処からか哄笑が響き渡った。

 

「離れるな、あるじ殿」

 

 素早く陣形が組まれると、剥がれかけの壁材から瘴気の渦が滲み出した。

 真っ黒な瘴気が人間大の浮遊する塊になり、暗黒のマントのようにはためきながら真っ白な仮面を被った怪物としての姿を現す。

 鳥の足のように細い腕には、巨大な血に錆びた(はさみ)が握られていた。あなたは特徴的な武器のおかげで即座に見当がつき、ネルたちにこの悪魔の正体を教えた。その弱点についても。

 

デスシザーズ(・・・・・・)か」

 

 ネルが〈施術〉を漲らせ、太刀を振るった。迎え打つ鋏を弾き飛ばし、仰け反らせたところで入れ替わりに肉薄した雷切が煌々と光輝く。

 

「【五雷神君奉勅(ごらいしんくんほうちょく)】――【我が剣に歳星の気を宿さん】」

 

 帯電した斬撃を放った。鋏の片刃が破砕され、デスシザーズは赤いオーラを発しながら苦悶の声を上げて鋏を振り回すが、冷静を失った攻撃が美鈴たちに当たるはずもない。二人の連携がデスシザーズを苛烈に追いやった瞬間、あなたは悪寒に襲われた。

 低く転がり込むように飛ぶと、寸前まであなたの頭の在った空間を鋏が斬り裂いた。

 

「ご主人――」

 

 ネルたちの眼前で嘲笑するものと同じ黒い瘴気と白い仮面が、あなたの前で死臭を発しながら鋏を振り被ってくる。潜んで隙を伺っていたらしい二体目のデスシザーズの突撃はそこそこの速度だったが、あなたは危うげなくそれを躱した。ネルとの危機察知訓練で回避能力が鍛えられていたおかげだ。あなたは詠唱の短い〈アイシクル〉で反撃した。氷槍は鋏で防がれたが、しかし距離を開くことはできた。

 

「【風刃斬】」

 

 一体目を消滅させたネルが、太刀を奔らせて飛ぶ斬撃を打ち放った。繰り出された斬撃は二体目の鋏に弾かれるが、その直後にあなたは従者からの念話を聞いた。

 

 途端に、空から稲妻のような蹴撃がデスシザーズの顔面に突き刺さった。

 あまりの衝撃に地面が陥没し、叩きつけられた悪魔の仮面がひび割れ、破片が舞い上がる。

 

「メドゥーサっ」

 

 ペガサスからダイヴして飛び蹴り(アサルトアタック)を命中させたメドゥーサは、紫色の長い髪を靡かせながら〈魔眼〉で動きを封じ、デスシザーズの腕を〈怪力〉で捩じ切った。鋏を強引に奪い取り、苦悶の表情に変化する仮面のひび(・・)に突き立てると、ダメ押しとばかりに身体を回転させ脚とぴったり一体化したブーツで柄頭を思い切り蹴りつける。

 砲弾のように壁に激突し、鋏は仮面もろともに砕け散った。デスシザーズはぐったりと倒れ、そのまま起き上がらずに消滅してゆく。

 

「お待たせしました」

 

 あなたに怪我がないかどうかを確かめると、メドゥーサはあなたにダイナミックな着地を褒められてじゃっかん声を浮き立てながら、持ち帰ってきた情報を共有した。

 

「いよいよ、だな」

 

 美鈴が神妙に呟く。

 

 メドゥーサに先導を頼み、あなたは炎と死霊の跋扈する街を進んだ。

 

 遭遇戦を避けながら一時間ほど歩いて辿りついたのは、寂れた教会だった。

 

 王城から南東の程近い場所に建ち、数一〇〇人は入れそうな広さであることから栄えた勢力だったのだろう。ただし今では天井の一部が崩落し、脇にどかされている長椅子は何かに押し潰されたように圧し折られており、象徴と思しき左右の長さの違う十字架は無残に床に放置されている。

 

 今にも落ちてきそうな曇天の下で、クリスタルの結晶体で構成された半人半獣(ケンタロス)の騎士が蹲るように活動を停止していた。

 

「問題は?」

 

 顔を見合わせる。

 

「ない」

「ありません」

 

 あなたは頷いた。

 

 【フィールドバリアー】

 【アグリゲットシャープ】

 【スペルエンハンス】

 

 ネルたちが武器を構えると、高まる魔力を感知したのかクリスタルが起き上がった。

 気力は充実している。初めて目にするクリスタル・シリーズにも美鈴は動揺していない。たとえボスであろうとなかろうと、すべきことは変わらないというのが彼女の言だった。

 

「アペリスのご加護を」

 

「ご命令とあらば」

 

「我らに勝利を」

 

 槍と盾を轟然と唸らせ、クリスタルが突撃してくる。少しも怯まず、ネルと美鈴が飛び出した。太刀を振るうのを見やりながら、あなたは移動しつつ攻性魔術を詠唱した。ペガサスで飛び回るには場所が狭いため今回は助けは借りず、代わりに護衛として付いているメドゥーサもあなたの傍で魔術の援護を始める。

 

 【サイクロン】

 【スプレッド】

 【ナイトメア】

 【サンダーブレード】

 

 特別なことは何もなかった。作戦はいつもと変わらない。

 まずは敵の弱点を調べる。敵に弱点属性が無ければ連携を繋いで一方的な攻撃を畳みかけ、反撃の暇を与えずに絶えず戦場を支配し続けるだけだった。

 

「【白隼刃】【斬渦剣】【鷲爪羅閃】【黒鷹旋】」

 

 縦横無尽の機動から繰り出される、斬撃の嵐が半透明の人馬を翻弄し――

 

「【牡籥かぎかけ闔とざす総光の門】【七惑七星が招きたる由来艸阜の勢】【四星零零(しせいれいれい)、急ぎて律令の如く成せ】――

 【千歳の儔、火車切広光】

 【並びて来たれ】

 【千歳の儔、鉋切長光(かんなぎりながみつ)

 【雷切】

 【小烏丸天国】」

 

 五宝のうちの四つを召喚した美鈴は、用途に合わせて呪文で手元に呼び寄せながら、草壁流の絶技を披露した。

 

「【火焔呪、急々如律令】」

 

 至近距離から放たれた爆炎が表皮を焼き焦がし、クリスタルの耐久を減らしてゆく。傾きながらも暴威を纏って突き出された槍の穂先へ、美鈴は僅かに身を引くと、五剣のなかで最も硬い斬鉄の太刀である「禄存」鉋切長光を寸分狂いなく突き合わせた。

 

「【忌剣(きけん)蟲喰(むしばみ)】」

 

 甲高い壊音が反響した。

 クリスタルの動きが一瞬止まる。硝子のようなものが宙を舞った。鉋切長光の刀身には、傷一つ付いていない。対して勇猛に振るわれた巨槍は、その刃先が、原型を留めないほど粉々に砕け散っていた。

 

「【五雷神君奉勅】――」

 

 鉋切長光を握る手には、次の瞬間には雷切が召喚され、雷電を(まと)っている。

 

「【千鳥打ち】!」

 

 振り下された雷撃が亀裂からクリスタル内部へ浸透し、人馬はついに耐えかねたように膝を付いた。

 

 【焔の御志(みし)よ】

 【災いを灰燼と化せ――】

 

 念話で退避するよう告げ、あなたは上級魔術を発動した。

 

 【エクスプロード】

 

 虚空から、超圧縮された炎の塊が落ちてくる。足元に魔法陣を展開され、回避するには遅すぎる標的を目掛けて。

 

 着弾/炸裂。

 

 爆風が長椅子を吹き飛ばし、爆心地で直撃したクリスタルは、半ば融解しかけた状態で起き上がろうとするが。

 

「【裏桜花炸光】」

 

 自己修復能力はメドゥーサの鎖を通した〈吸血〉で阻害しているため、回復が追い付いていなかった。更にネルによる怒涛の斬撃が防御を打ち砕き、畳みかけるように赤熱化した火車切広光の奥義〈火天墜衝〉がクリスタルの懐に叩き込まれた。

 

 【吼えよ】

 

 メドゥーサが〈魔眼〉を瞬間的に最大発揮し、クリスタルの逃れるすべを封殺する。

 崩落した天井を覆い隠すように生じた大魔法陣は、注ぎ込まれるあなたの魔力に歓喜するかのように輝きを強めた。

 

 【古の炎】

 【不浄の生命を灰燼へと誘え――】

 

 魔術が完成する。

 破壊を解放した。

 

 【エンシェントノヴァ】

 

 遥か高みから。星の如き輝きを放ちながら、太古の時代の業火が降り注いだ。

 

 光の柱に押し潰されるように、クリスタルは抵抗も意味を為さず倒れ込む。そのまま灼熱の箱に閉じ込められると、教会を揺るがすほどの光と爆発が巻き起こった。

 あなたはメドゥーサに余波から庇われながら、うっすらと細目にクリスタルを見た。

 

「……やったか?」

 

 激しい剣戟から打って変わって静寂が訪れ、冷たく澄んだような音が響いた。聞き覚えのある金属の破断音が数度し、あなたはメドゥーサの腕のなかでようやく戦いが終わったことに胸を撫で下ろそうとして、ネルの焦った声に顔を上げた。

 

 急速に黒ずんでゆくクリスタルの足元に、突如として巨大で複雑な魔法陣が現れていた。発光しながら、それ(・・)はゆっくりと回転を始めている。

 

「なんだ、なにが」

 

 あなたは詠唱などしていない。だがあなたはその魔法陣から滲み出す気配に、強い既視感を覚えた。

 

「マスター?」

 

 回転速度が速まるにつれ魔法陣から生じる光が増し、かろうじて形を保っているクリスタルを呑み込んでゆく。あなたはその魔法陣が、シティエリア管理局地下九九階の一等霊地に設置されている上位物質転成装置(サークル)と近しいものであることに気が付くと、すぐさま〈ファイアボール〉を打ち放った。

 

 だが火球はクリスタルに届くことなく、その手前で唐突に爆発した。まるで透明な壁が存在しているかのように。魔法陣から発せられる光を揺らすこともできない。

 

 クリスタルの前に、空中画面(ウインドウ)が表示された。

 分析不能の文字列と数式が大量に流れ、それも一つではなく、無数の空中画面(ウインドウ)がクリスタルの姿を隠すように次々と表示されてゆく。

 ネルが〈雷煌破〉を奔らせ、遅れて美鈴が〈火焔呪〉をぶつけるも、やはり手前で弾かれて羅列と回転は止められない。

 

「何が起きている!?」

 

 何かが起きようとしていた。クリスタルを斃せばあとはこのエリアの〈ターミナル〉を再起動するだけでよかったはずが、尋常ならざる事態になっている。それも決して快い方向ではなく。

 

「なにか……来るぞ(・・・)っ」

 

 魔法陣の奥から、ひときわ気配が膨れ上がった。

 

 光が膨れ上がるや、あなたたちはけたたましい咆哮が教会に反響するのを聞いた。単なる咆哮だけで建物に亀裂が走り、あなたは肌に痺れるような圧を感じながらメドゥーサに抱えられて教会を飛び出すと、背後で爆発的な魔力と、大気を劈くような極光が上空へ伸びるのを見た。

 

 天蓋を覆う灰色にぽっかりと穴が開き、瞬く間に曇天が掻き消されてゆく。

 代わりに現れたのは、闇だった。星一つない、真なる暗黒が広がっている。

 

 調律の狂った鐘の音が二度鳴り響いた。三度目は鳴らなかった。光を放つ教会の建物が内側から弾け飛び、突き破るように巨大な翼を持つ“それ”が顕現した。

 

 “それ”は巨大だった。生物として、ただそこにいるだけで他者の魂を圧迫する規格外の存在規模(スケール)だった。

 

ドラゴン(・・・・)……」

 

 漆黒の鱗に覆われた爬虫類の如き体躯に一対の翼を生やし、黄金の恐るべき双眸と同じく鋭い牙と爪を持つ、伝説の存在。万夫不当の英雄たちが死に物狂いで立ち向かう御伽噺の怪物(ファフニール)

 キリングドールやスケルトンのような小物とは比較にならない。フライゴンやボスゴドラのような愛嬌は皆無であり、幻想種の頂点に相応しい威容を発しながら小人(ミニチュア)のあなたたちを見下ろしている。

 

 美鈴が唖然としていた。太刀を握りしめながら、ネルが口元を引き攣らせていた。メドゥーサもだ。

 しかしすぐに引き締められる。あなたがそうであるように、誰も混乱こそすれ絶望はしていなかった。

 

「どうなっているんでしょう。クリスタルを斃せば〈ターミナル〉への道が開かれるはずでは」

 

「考えるのはあとにしな。むこうには、私たちを逃がすつもりはなさそうだ。ミスズ?」

 

「流石に竜退治は初めてだ。あとこんなに大きな敵を相手にするのも」

 

「そう言いながら、顔が笑っていますよ、ミスズ」

 

「すまない。本音を言うと、すこし、わくわくしている。不謹慎かもしれないが」

 

「この状況で笑えるんだ、頼もしいね。まあいつも通りにいこう。ご主人、連戦になる。でも、大丈夫だろう?」

 

 あなたが頷くと、わしわしと頭を撫でられた。

 

 クリスタルがドラゴンに変異したのか。それともクリスタルを材料に、ドラゴンは召喚されたのか。

 上位物質転成装置(サークル)と酷似した魔法陣。召喚を手助けするように表示された空中画面(ウインドウ)

 それらについて思考を巡らせるには時間が足りなかった。あなたたちはまずはこの窮地を生きて踏破しなければならない。

 

 効力の消えた補助魔術を掛け直しながら、あなたたちが作戦を立てようとしたときだった。

 

 翼が広げられ、ドラゴンが空へと飛び上がった。重力を操作しているのか、翼を動かさずとも落下する様子はない。崩壊する建物を地上に残し、まるで大空の支配者であるかのように滞空し(あぎと)から咆哮を叫び散らした。

 音響兵器さながらの咆哮。それは歓喜か、はたまた嘲笑か。

 

「……飛ぶのか。あの巨体で」

 

「……まあ、翼がありますし」

 

 飛行するドラゴンを相手に取れる戦術は限られてくる。だが、方法がないわけではない。

 

 【幾星霜の】

 【時を翔ける星空の旅人よ――】

 

 的を絞らせないよう散開し、あなたは戦場を駆け回りながらあらゆる知識を動員して戦った。

 

 【天理のもとに】

 【終焉をもたらせ】

 

 【メテオスォーム】

 

 星の海に通じる虚空から小惑星を呼び寄せて降り注ぐ魔術で上空への退路を封じ、あらゆる構造体を焼尽せしめる〈ファイアブレス〉を回避しつつ絶対零度の大氷塊で押し潰したり閉じ込めたりする上級魔術〈インブレイスエンド〉でドラゴンを大地に押し留めながら、あなたたちは果敢に戦い続けた。

 

「蹴散らしてあげます」

 

 メドゥーサの宝具。魔力の防壁を展開した白馬(ペガサス)の吶喊で吹き飛ばすが、一撃では沈まない。一度で足りなければ、二度、三度を重ねるまでだった。

 

「【騎英の手綱(ベルレフォーン)】!」

 

 最後は片翼を斬り落としたところに膨大な裁きの雷を極限まで殺到させる〈ビショップ〉の奥義を叩き込んで城内の庭園に引き摺り落とし、〈強化〉と〈怪力〉を重ねたメドゥーサの鎖で縫い留めた隙に飛び乗った美鈴がドラゴンの片目に小烏丸天国を突き刺して退魔刀に蓄積した妖力を瞬間開放したことでようやくドラゴンの霊基(あたま)を爆散させ、耳障りな嗤笑を永遠に黙らせるのにあなたたちは成功した。

 

 一切合切終了したその頃には、城下町はすっかり更地と化していた。

 

 城も教会も住居も広場も、あらゆる歴史ある建造物は跡形も無くなっている。燃え盛る蒼い炎だけは健在であり、むしろ破壊が余すところなく撒き散らされたおかげか炎の範囲は拡大していたが、これほどの激闘であっても脱落者が一人もいないのは幸運の女神が一行に微笑んだからとも言えた――もちろん、あなたたちの努力があってこそ掴み取れた幸運の成果ではあったが。

 もしあなたが瀕死から蘇生させる〈レイズデッド〉を習得していなければ、事態はもっと惨々たる結果になっていたことだろう。

 

 あなたが覚えている限りでは(・・・・・・・・・・・・・)、予期せぬ問題が起こったのはそのあとだった。

 

「マスター!」

 

 崩壊するドラゴンの傷口から光の粒子が蝶の大群が羽ばたくように広がってゆく。あなたは幻想的な光景に誘われるようにその一つに手を伸ばした次の瞬間、足元に展開された上位物質転成装置(サークル)と酷似した魔法陣の眩い嵐に巻き込まれた。

 

「あるじ殿!」

 

 無数のあなたからの操作を受け付けない空中画面(ウインドウ)に囲まれて身動きが取れなくなり、ネルたちが何とか魔法陣からあなたを助け出そうとするが透明な壁に無効化されて絶叫する様子を間近にしながら、あなたは回転する魔法陣の輝きが強まるのに目を瞑った。

 

「ご主人っ!」

 

 あなたの意識は光の奔流に呑み込まれた。

 

 

 そして――

 

 

 

 

 7.

 

 

 

 あなたは、水底から意識が浮上しかけているのを感じた。

 

「――■■■――■■■■――」

 

 誰かの喋り声と誰かの気配を近くに感じ、その干渉が意識を覚醒状態へと押し上げてゆく。

 

「――■――■■――■?」

 

 あなたは目蓋を開いた。

 

 あなたを見下ろしている者と、目が合う。

 

「………、」

 

 至近距離に、顔があった。

 色白で、凛と鼻筋の通った女。口元にほくろがあり、両目は黒い目隠しのようなもので覆われているが、あなたには“目が合った”という感覚があった。

 あなたは咄嗟に道具箱(アイテムボックス)から()んだ戦闘杖で振り払った。女は銀髪(シルバーブロンド)を揺らしてしなやかに躱すと、飛び退いてあなたから距離を取った。

 

「……起きた(■■■)ポッド(■■■)?」

 

 唇が動いたのはわかったが、何を言ったのかはよく聞き取れなかった。黒いゴシックドレスのような恰好の女の傍らには箱に手足の付いたような機械が浮遊しており、それが応じるように合成音声を発した。

 

報告(■■)対象者の心拍数上昇(■■■■■■■■■)脳波の状況から(■■■■■■■)極度の緊張状態にあると推測(■■■■■■■■■■■■■)

 

 あなたは女と浮遊機械に見覚えがあり(・・・・・・)、思わず声を上げた。びくりと反応するが、女が襲い掛かってくることはない。

 あなたがいる場所は鉄材で作られた部屋だった。狭いというほどではないが決して広くはない。剥き出しの配管が張り巡らされている。小さな暖色の照明がつけられており、あなたはゴムのように弾力のあるベッドの上で断熱性の毛布をかぶせられて寝かされていたらしかった。

 

 女はあわあわと何度か浮遊機械のほうを見たあと、あなたが道具箱(アイテムボックス)から取り出したように何もない場所から粒子化した大剣を呼び出した。あなたの警戒する様子を見て片手を突き出し、そっとしゃがんで剣を置くと、今度は両手を挙げながら静かに、しかし緊張したように言った。

 

()安心してほしい(■■■■■■■)私たちはあなたの味方(■■■■■■■■■■)です(■■)あなたを傷つけたりはしません(■■■■■■■■■■■■■■)

 

 あなたは平静を取り戻しながら、言葉が判らないということを伝えた。女も、あなたの使っている言語が通じていないらしい。困ったように浮遊機械とあなたを見比べている。

 

言語基体分析完了(■■■■■■■■)該当あり(■■■■)情報同期(■■■■)調整完了(■■■■)

 

 小さく息をついた女が、おずおずと口を開いた。様子を見るに、やはり敵意は感じられない。

 

「通じていますか……?」

 

 女の口から出たのは、あなたの使う聞き慣れた言語だった。あなたが笑顔で頷くと、女は心から安堵したように笑みを浮かべた。

 

「私は自動歩兵人形、ヨルハ二号B型(・・・・・・・)戦闘用アンドロイド、です。私たちはあなたの敵ではありません。此処は、私たちの活動拠点の一つです……セーフガード(・・・・・・)の脅威もありません。ポッドが探知妨害の電波を発しているから。私たちは、上の階層であなたが倒れているところを発見、救助しました。あの、あなたは――」

 

 生存のための希望にも似た期待と、同時に期待が裏切られることを恐れるように声を震わせて、感情を持つことが禁じられているはずの2B(・・)はあなたに問うた。

 彼女にとって、彼女たちアンドロイドの存在理由である核心の問いを。

 

「ニンゲン、ですか?」

 

 あなたは答えた。迷うことなく。そのとおりだ、と。

 

 2Bは呆然としたようにあなたを見つめ、少しの沈黙を挟むと、触ってもいいかと口にした。あなたが頷いて手を差し出すと、恐る恐る寄ってきてあなたの手の平を確かめ始める。

 

「あたたかい」

 

 腕、肩、そして胸。壊れものを扱うように触れる。「心臓の音……うごいてる」聞き入るようにそうしており、あなたはむず痒いのを耐えてじっとしていると、ぽつりと呟かれるのを聞いた。

 

「本物の人間。生きている……ほんものの」

 

 2Bは目隠し(ゴーグル)を外し、あなたを見た。素顔になった彼女の(まなじり)には光るものが伝っており、あなたの手を自身の頬に押し付けると、人間の機能を再現した躰であなたの体温を感じ取ろうとしていた。

 

 あなたは暫らく好きにさせ、その間に念話で従者たちに呼びかけてみた。応答はない。ここに来るまではあったはずの繋がり(・・・)も感じられなくなっている。

 あなたが声をかけると、はっと我に返った2Bは立ち上がって目元を拭い、随行支援ユニットであるポッド042(・・・・・・)を振り返った。「ポッド」

 

「報告:分析の結果、対象者が人類であることは99.9%確実。ヨルハ機体2Bはこの生存者の安全を保障し最優先で保護するべきと判断する」

 

「当たり前のことをわざわざ言わなくてもいい」

 

 2Bはぶっきらぼうにポッドに返事すると、姿勢をしゃん(・・・)と正し、胸に手を当てながら敬礼した。涙ではなく、強い決意を秘めた眼差しをして。

 

「あなたは私が守ります。それが私たちの使命だから。人類と、再びお会いすることができて――とても光栄です」

 

 あなたは2Bの迸らんばかりの熱意に、彼女たちアンドロイドに組み込まれている“使命”を察してその心情を解しながら、記憶が断絶する前のことを思い出そうとした。

 ドラゴンとの激闘。斃したあとの、眩い召喚陣の光。気が付くとあなたは此処にいた。ならば、ネルたちは何処にいるのか。

 

「他にも人がいるのですかっ?」

 

 2Bが発見したのはあなただけだったらしい。あなたは自身に起きた幾つかの可能性を考えながら、そもそも此処は何処なのかを訊ねた。

 

「解答:建設作業機械によって無作為に成長を続ける無人都市。工事を途中放棄された区画。呼称名は不明。現階層の全貌を把握することは困難」

 

 あなたはやはり自分の目で確かめるために立ち上がり――気怠さは残っていたが動けないほどではない――2Bがあなたを発見した場所までの案内を頼んだ。当然ここを出ることの危険性を説かれたがずっとこのまま閉所に引き籠り続けるわけにもいかないため、あなたは2Bが守ってくれるから心配はしていないと気楽に言って出立の用意を始めた。

 ポッドの小言を尻目に道具箱(アイテムボックス)を改める。

 

 発信機。

 魔力針(コンパス)

 熱電小刀(ベクトルナイフ)

 瞬間固定泡(バブルテープ)

 擬装粒子散布端末(ステルスメイカー)

 防水防刃防弾外套(ユニバーサルコート)

 耐麻痺耐毒耐石化耐呪殺耐凍結耐火傷耐封印耐停止耐病魔耐幻惑礼装/チェック・シリーズ。

 魔力活性剤。回復促進剤。栄養補給剤。

 等々。

 

 万が一味方とはぐれて単独行動をせざるを得なくなったときのサバイバル・キットは一通り揃っていた。中身に問題はない。

 

「……わかりました」

 

 安全を保障すると誓った手前2Bとしても「やっぱり守れません」と否定はできず、人類への奉仕を根幹にプログラムされているアンドロイドがあなたのお願いに逆らえるはずもなかった。

 

「ですが、一つ質問をよろしいでしょうか。――あなたのことを、私たちは何と呼べば?」

 

 あなたは少し迷った。思考を挟み、それからあなたは“ビショップ”と名乗った。

 

「わかりました。ビショップ。……ビショップ……ビショップ……」

 

 2Bは噛み締めるように何度も呟くと、操作パネルに触れて隔壁を解除した。付近に敵性存在がいないかどうかをポッドに走査(スキャン)させながら東洋の刀を思わせる小型剣〈白の契約〉を片手に呼び出し、確認するように振り返る。

 2Bに頷き返し、大きな音を立てないよう気を付けて外に出るや、あなたは喉を引き攣らせた。

 

 視界いっぱいに続く巨大構造体の壁と、海溝のような空間の断絶に圧倒される。踊り場は金網で組まれているため、顎を開いた渓谷の上を歩いているような感覚があなたを襲った。いったいどれほどの(たか)さなのか。メートル換算で数一〇〇〇メートルはありそうな断崖だった。堪らず脚を震わせるあなたの目の端で、ポッドがじっと浮遊している。鉄や化学薬品の臭いの混じった風が流れてきてあなたの前髪を揺らした。

 

「ビショップ。こっちです」

 

 石材で造られた灰色の階段で2Bが待っていた。階段は建物に絡みつくように曲がりくねりながら続いている。こちらは、金網のように踏んでも弛んだり弾んだりはしない。

 あなたはバンダナを取り出して空気中に交じる粉塵を避けながら時に2Bに気遣われつつ数一〇〇段を登り終えると、なおも果てしなく続く大空間に言葉を失った。

 

 高さの違う巨大建築物が乱立し、槍のように壁に突き刺さる細長い機械構造体の上部に埋め込まれた発光体が何処までも続くばかばかしいほどの広がりを照らしている。

 視力を〈強化〉しても奥まで見通すことは叶わず、優れた精度を誇る2Bのゴーグル機能やポッドの走査能力でも“底”までの距離を測ることはできないという。

 向かいの壁に“建設者”が張り付きながら作業を行っている。単体ではなく群れでいる姿は蟻や蜂の蠢くさまを連想させ、別の場所では斜面に不規則に連なる通路を建造していた。こちらから攻撃を仕掛けなければ、特に放置していても問題はないようだった。

 

 断絶に架けられた斜張橋を渡り終えた頃、あなたは先導してくれている2Bに“サーヴァント”という言葉を訊いたことがあるかと訊ねた。「サーヴァント。何かの暗号ですか?」2Bに魔力反応はなかった。知識もないらしい。つまり、聖杯に召喚されたりしたケースとは異なるのか。

 あなたは他にも色々と訊いた。そのなかには、お願いも含まれていた。

 

「言葉遣い……ですか。しかし、人類であるあなたを相手に敬語を使わないようにと言われても」

 

 あなたは2Bの身内に対する普段の口調を知識で知っていた。それはあなたから見ても好ましいものであり、是非そうしてくれたほうが自然であなたにとって精神衛生上都合がよかった。

 

「わかりま、……わかった。……これで、いい?」

 

 あなたは元気よく頷いた。2Bは不思議な要求をする人間相手に、慣れるのに時間がかかりそうだった。 

 訊くことはまだ残っている。薄々勘付きながらも、あなたは更に踏み込んだことを訊いた。此処(・・)には2Bの他にアンドロイドはいないのか、ということを。

 

 2Bの歩調は変わらない。声質も。ただし空気が変わったのをあなたは察した。

 

「今は、私だけ」

 

 ぽつぽつと語り始める。

 今から三五〇四〇時間前――つまりは四年前(・・・)――2Bは、“此処”より遥か下層の衛星軌道基地(バンカー)のなかで目覚めたという。そこには2B以外にも22B、21O、6O、A2、ヨルハ部隊司令官やそれぞれのポッドらがいて、バンカーは巨大構造体の壁の中に埋まるように不時着していたらしい。

 

 “らしい”というのは不時着の前後記録を誰も持っていなかったからで、バンカーはシステムに甚大な被害を受けていたが司令官の指揮によって部隊が情報収集を進めた結果、一部の構造体に人類の生活痕跡が在ることを突き止めるに至った。アンドロイドの宿敵である機械生命体やエイリアンが存在せず、代わりに未知の生物が無限とも思える垂直に連結した巨大構造群体を動き回る2Bたちの元いた場所とは何もかもが違う世界で、部隊は何とか人類を探し出そうと探索を続けていたが。

 

「誰も見つからなかった」

 

 誰も見つからないまま半年が過ぎた頃、その敵は現れた。

 

「セーフガード。奴らに、仲間は皆、殺された」

 

 防衛に失敗し、僅かに生き残った人員で完全に破壊されたバンカーを去り、アンドロイドの悲願を叶えるために探索を続けたが一人また一人と斃され、数を減らし――そうして現在(いま)に、あなたに辿り着くことになったのだという。

 あなたは俯いた2Bの横顔に、彼女があなたに寄せる思いの丈を推し量った。仲間を失い(ポッド042がいるとはいえ)一人で戦い続けた末に人類(あなた)を見つけられたことは彼女にとって、どれほど衝撃的な救いであったのかを。

 

 あなたは悩んだ末、自分もまたそうなのだと告げた。

 真剣な声音に脚を止めた2Bに対し、あなたは自らの正体を打ち明けることにした。即ち、あなたは2Bの世界の住人でもこの世界の住人でもない、別世界の人間なのだということを。

 

「別世界の、人類……」

 

 あなたは語った。この物語(せかい)には次元の壁を隔てて様々な世界が存在しているということを。あなたはそのうちの一つにして滅びかけた世界を救う役割を担わされており、これまでにも従者たちと共に多くの世界を巡ってきたのだと。

 そして“この世界”もまた、様々な世界のうちの一つなのだと。他ならぬ2Bや2Bの語ったセーフガードという聞き覚えのある存在がその証明になるのだと説明した。

 

 2Bとポッドは途中で言葉を挟んだりしなかった。ただあなたの話に耳を傾けていた。

 

 沈黙があった。2Bたちに、あなたがアンドロイドを生み出した人類でないことを知られればどうなるのか。守るべき対象(じんるい)ではないと見放されてしまうのか。ネルたちとは連絡がつかない。あなたには2Bの協力が必要不可欠だった。だからあなたはこのことを黙っていることも出来た。だが正直に打ち明けてくれた2Bを前に、あなたは不誠実でいることを選ばなかった。

 

「わかった」

 

 2Bの声は小さかったが、敵意は含まれていなかった。

 

「ここに来るまで、探索の道程で人類と遭遇したことは一度もなかった。だからあなたを発見したとき、私はもしかしたら、あなたも私たちと同じような境遇なのかもしれない、と考えた」

 

 あなたは見つめ合った。ゴーグルで隠されている彼女の双眸と。

 

「司令官は、私たちの守っていた地球とこの世界は別物である可能性を口にしていた。だけど人類が生きているのなら、たとえ別世界であっても、それを助けるのが我々の使命だ、とも言っていた」

 

「肯定:人類の保護と情報収集は我々の存在意義。これは最優先の重大事項であり、この目的が他の命令によって脅かされることは決してない」

 

「あなたの横たわる姿を目にした瞬間、私も司令官と同じことを思った。これが私の使命なんだって。だから安心して。ビショップは、私が守ります」

 

 あなたは礼を言った。信じてくれて、助けてくれありがとう、と。

 

 2Bの口元が、それと判るように微笑んだ。

 

 歩き進んでいるうちに、幾つもの金属レールが集まる場所に到着した。

 

 鋼鉄製の中型昇降機がある。これであなたの倒れていた階層まで昇れるらしい。乗り込むと、箱型昇降機が大きく軋み揺れた。思わず不安になるほどに。

 

「報告:保護対象者ビショップの心拍数上昇」

 

 2Bによれば動作に支障はないらしいが、扉が閉まると突き上げるように上昇が始まり、加速が増すとレールが激しく火花を散らした。

 窓ががたがた鳴き、きゅるきゅると金属音が鳴っている。

 あなたは座席に腰を落ち着けず出来るだけ2Bの傍に寄り、移動が無事に終わるまでアトラクションさながらのサスペンスと付き合うことになった。

 

 あなたに頼られている2Bはまんざらでもない様子でずっとあなたと手を繋ぎ、ポッドはふわふわと浮きながら、あなたにとってはびみょうに気恥ずかしい光景を記録し続けていた。

 

 

 

 8.

 

 

 

「ここ」

 

 2Bが立ち止まる。

 

 古びた建物のなかにある、小さな広場だった。廃墟でありながら他の建築物と違い瓦礫の散乱が少なく、建設者によってでたらめに作り替えられた形跡もない。

 

「ここに、あなたは倒れていた」

 

 広場の中央には石碑のようなものが立っていた。

 それを見た途端、あなたは奇妙な感覚に襲われた。ポッドが以前調べたが何もなかったと報告してくるが、あなたが近づいてそれに触れると、沈黙する石碑は突如して“起動”した。

 

 空中画面(ウインドウ)が表示される。〈ターミナル〉の再起動時のように表示された画面は高速で下に流れていくため、いちいち文字を読み取ることはできない。

 空中画面(ウインドウ)が、電源が落ちるように消失した。

 

 何も起こらない。

 

「ビショップ……?」

 

 するとあなたの期待とは裏腹に、随行支援ユニットが淡々と報告を上げた。

 

「警告:付近に膨大な電磁力場の出現を検知」

 

「まさかっ」

 

「報告:信号解析の結果、電磁力場はセーフガード出現時の傾向と98%の確率で一致」

 

 2Bが走り出し、あなたも構造体の外に飛び出した。

 

 通路に、目が眩むような放電現象が起きている。夥しい電流が渦を巻き火花を噴きながらますます拡大して通路や瓦礫を呑み込み、それらの物質的特性である材質や体積をまったく無視して何処からか送り込まれてきた(・・・・・・・・・・・・・)情報に則り異なる存在へと強制的に上書きし再構築してゆく。

 

 五つの放電現象が止み、道路や壁材であったものが人型の機械に変貌し終えたのはほぼ同時だった。

 

 五体。その機体(ボディ)は首や関節や掌部の黒を除いて全身が白で統一されており、頭部は仮面めいた感知器と分析器で覆われていてあなたの数倍の大きさを誇り、昆虫めいた四足歩行でありながら獣の如き敏捷さであなたに飛び掛かってきた。

 

 奔る音。それ自体が鋭利な重金属の刃である五指があなたに届く前に2Bが拳撃で吹き飛ばすと、小型剣で一体を斬り払い、勢いのまま投擲して別の個体を縫い留めるや喚び出した大型剣〈白の約定〉を片手であなたに当たらないよう振り回して蹴散らした。

 ひっくり返った“駆除系”を一息で両断する傍ら、あなたは〈デルタレイ〉で接近しかけていた個体を攻撃しながらまだ放電が続いている六つ目の箇所に〈ファイアボール〉をぶつけた。

 

「ポッド!」

 

 火球は効いておらず、放電現象は止まらない。瞬く間に五体目を粉砕した2Bが命じるとポッドの外装が変化し、けたたましい銃声を発しながら重機関銃のように弾丸を連射した。

 全弾命中。だが止まる気配はなく、ポッドは続けて貫通レーザーまでもを放ったが不可視の電磁場によって弾かれてしまう。

 

 異質な放電現象が収まると、現れた“それ”はそれまでの機械人形たちと違って白ではなく黒の外殻機械(スキンスーツ)(まと)っており、他の機械人形のような仮面ではなくはっきりとした人相があった。

 

「あああ……! おまえは!」

 

 途端に2Bが、悲鳴にも怨嗟にも似た絶叫を上げた。

 

 

「私/■■(われわれ)セーフガードは」

 

 

 “それ”は目を開き、無感動に。

 無機質に、あなたたちに告げた。

 

 

「排除する。おまえたち〈アル・トネリコ〉接続権を持たない不法居住者を」

 

 

「――サナカン(・・・・)!!」

 

 

 上位識別個体(サナカン)の背後で放電現象が始まっている。数にして一〇。

 

 サナカンは憎悪を剥き出しにする2Bとあなたを見やると、外殻機械(スキンスーツ)の右腕部に接続された武装の照準を合わせた。

 

「警告:高熱量反応増大」

 

 ポッドの報告に次いで。

 

 

 重力子放射線射出装置(・・・・・・・・・・)が高周波を発し、すべてを灰燼に帰す強烈な閃光が解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ◇ヨルハ二号B型(2B)
 ・銀髪眼帯ゴスロリスタイルでしかも得物が日本刀&大型剣というちょっと尋常じゃないくらい属性を盛りまくった美尻クール系人類奉仕型女性アンドロイド。
 ・条件を満たしていないため、あなたの召喚に応じることはできない。

 ◇重力子放射線射出装置
 ・直撃すれば耐えうる素材は存在しないとされるビーム弾を発射するエネルギー・ウェポン。第一種臨界不測兵器とも。























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