提督が鎮守府より“出撃”しました。これより艦隊の指揮に入りま………え? (夏夜月怪像)
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W編『風都艦隊』 第1集
0話 : 行き倒れて辿り着いた、其処は………


艦これ提督に着任して、1年……そして、当サイトにて小説の連載を開始して半年が経ちました。

これを一つの節目として、現在連載中の『着任先の新提督が色々とマトモじゃない。』の別視点を描いたお話をこちらで始めようかと思います。


※尚、本作はあくまでスピンオフ、或いはBサイドの物語なので、かなり更新が遅れます。
自己解釈、ご都合主義などてんこ盛りですので、生温かい眼差しで見守っていただければ幸いです。


《艦娘》―――

 

 

それは、人々の安全と平和、そして海を脅かす脅威《深海棲艦》と戦うことを定められた少女たち。

 

しかし、現実は想像を絶するものだった。

 

 

艦娘を指揮する立場にある《提督》や、艦娘や提督たちの拠点である鎮守府を管理する《大本営》の中に、艦娘を非人道的に扱う者たちが多数存在し、彼女らの心身を蝕み、苦しめていたのである。

 

 

 

「『石ノ森鎮守府に新たな提督が着任』……かぁ」

 

今朝の新聞を眺めながら、一人の少女が見出しを読み上げる。

 

 

少女の名は《(さざなみ)》。

今は亡き智将が運営していた、赤塚鎮守府に在籍していた艦娘である。

 

その智将が亡くなって、鎮守府には後継者が一人も居なかったために解体され、在籍艦たちは散り散りとなってしまった。

 

 

姉妹や仲の良い仲間たちとも別れてしまい、漣は独りトボトボと宛も無く歩き続けていた。

 

 

「くぁ〜……。艦娘が陸路を進むとか、誰得なシチュエーションだっちゅーの……」

 

 

誰も居ないからこそ、余計に出てくる愚痴。

 

しかし、その愚痴をツッコんでくれる姉妹も悪ノリしてくれる仲間も居ない………。

 

 

「あはは……参っただすなあ……こりゃあ…」

 

 

やがて、漣は通りかかった近くの公園で一休みすることにした。

 

 

途端……漣はバッタリと横倒しになってしまう。

 

 

「っ…やっべ………目眩とか…ガチヤバス……」

 

 

ここに来て、漣は己の状況を再認識した。

 

 

 

鎮守府が解体された際、慰謝料として幾らかばかりの資金は各自配給されたが、その貯えも既に無し。

 

それから4日。

 

 

もう、何も食べ物を口にしていない………。

 

 

「ハァ……ハァ……ッ……お腹…空いた……」

 

 

こういう時ほど、昔を思い出してしまう。

 

 

間宮や伊良湖、鳳翔が作ってくれた料理の数々。

 

提督が連れて行ってくれた、小さなレストランで食べたオムライス―――。

 

 

「ご主人…さま………ゴメン、ナサイ……」

 

 

 

漣は……今から、そっちに………

 

 

 

意識が途切れる直前、漣は穏やかな風と温もりを感じた―――。

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

風の吹く街《風都》―――。

 

その名に相応しく、街の至る所で、大小様々な風車が回っている。

 

 

この街では、小さな幸福も大きな不幸も、等しく風が運んでくる。

 

俺に出来ることは、その悲しみを少しでも拭い去ってやる事ぐらいだ………。

 

 

 

「………今日の風は、ちょいと塩気を感じるぜ……」

 

 

……などと、独り夜の街を眺めているこの男の名は《左 翔太郎》。

 

この風都にて、探偵業を営んでいる。

 

 

愛用のケータイで自撮りをして、いい画を撮れたと満足しながら事務所へ帰ろうとした…その時。

 

 

「………?おい、大丈夫か!?」

 

 

公園のベンチで横たわっている少女――漣を発見。

 

尋常ではないその様子に、翔太郎は危機を察知。

 

迷う事無く119番通報をした。

 

 

 

―――これは、海で戦うことを定められた少女たちと、人々の自由と平和を守るために戦うことを運命づけられた男たちの出会いと共闘の物語である………。




ハイ、ちょっと悪ノリし過ぎました(-_-;)


だが私は謝らn(((殴


今後もボチボチやっていく予定です(^_^)ノシ


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1話 : Sとの邂逅/ 探偵と捨て猫

―――こんな夢を見た。

まず見えたのは、巨大なビル。そこに巨大なヘリコプターが現れ、探照灯を点けて何かを捜している。

次に見えたのが、夜闇の中でもくっきりと浮かび上がった白いスーツに白いソフト帽という派手なコーディネートの紳士と、それに付き従う若い男。

その二人は、ビルの職員と思しき黒服の集団に追われており、やがてビル内部の屋上に着く。


そこに設置された大掛かりな機械の中にいる、寝間着姿の少年を連れ出し、脱出しようとした………その時。


白いスーツの紳士が、敵の撃った凶弾に倒れる。


自身の被っていた帽子を付き添いの男に被せると、男性は力尽きてしまう……。



「おやっさああぁぁぁぁんッ!!!」


泣き叫ぶ男に、少年は問いかける。


「悪魔と相乗りする勇気……あるかな?」


やがて……

刺客たちに追い詰められた二人は、紳士が携えていたアタッシュケースから中身を取り出し、構えた……。


「うあああぁぁぁぁあッ!!!!!」




ビルは爆発。常人なら、まず助からないその猛攻を受ける直前。


二人の姿は消え


代わりに、一人の異形が炎の中に立っていた………。


「―――ハッ!?」

 

 

夢と言い切るには、あまりに生々しい内容を見た少女――漣は飛び起きるようにして目覚めた。

 

 

「っ痛……」

 

 

直後…腕に微かな痛みを感じ、見ると点滴を打たれていた。

 

 

 

そして、ここに来て漸く、漣は己が病院に居るのだと理解出来た。

 

 

「……此処は……」

 

 

「よぉ。目ぇ覚めたか?」

 

 

そこへ、漣を見つけた張本人―――左 翔太郎が入室する。

 

 

「ぁ……」

 

先程見た夢に出てきた、帽子を被せられた方の男だと気付き、漣は思わず声を洩らす。

 

 

「ん?どうした?」

 

「あ、いえ……ちょっと、ビックリしちゃっただけ…です………」

 

 

夢で見た顔とそっくりだから……とは流石に言えないので、漣は不自然にならない程度に誤魔化すしかなかった。

 

 

「ビックリしたのはこっちも同じだぜ?お嬢さん。何だって、あんな所でぶっ倒れてたんだい?それと…名前は?」

 

 

「っ!!」

 

 

名前―――それは、漣が何者であるかを示すには充分過ぎる物だ。

 

 

答えねば……

 

答えねば、此処へ連れてきてくれた彼に迷惑がかかってしまう。

 

 

しかし、仮に答えたとしてどうなる?

 

艦娘を人外の化物扱いする民間人は今だ数多くいる。

 

 

それが人を怖れさせる一因であると共に、邪な欲望を抱いた連中が自分たちに対して犯す、醜い行為を正当化する理不尽な言い訳として通用していたのだ。

 

 

まさかと思うが………

 

 

 

シーツを握りしめる、漣の手が震えているのを、翔太郎は見逃さなかった。

 

 

 

だから……

 

 

 

「………答えたくないなら、それで良いさ」

 

「えっ………」

 

 

今は、何も聞かない。

 

 

いつか、彼女が自分から話せるようになるまで……。

 

 

 

「とりあえず、病院のスタッフには適当に言い訳しておくさ」

 

 

「……あ、ありがとう……」

 

 

漣の礼に対し、翔太郎はフッと気取った仕草で「気にすんな」と伝え、病室を後にした。

 

 

「………変なの…」

 

 

 

翔太郎の背中を思い返し、漣はそう呟くのだった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

病院の受付で、約束通り適当に言い訳をしてナースを納得させた翔太郎は、改めて救助した少女……漣について考えていた。

 

 

(見つけた時の状況が状況だったんで、さっきは気を遣ってああ言ったが……。やっぱ、ただの家出娘ってワケじゃあなさそうだな)

 

 

と、此処で病院内のテレビに目をやると。

 

 

深海棲艦と艦娘についての特番が放送されていた。

 

 

 

『―――では、ここで深海棲艦及び艦娘について研究をされている、曽根崎 進(そねざきすすむ)さんに意見を伺おうと思います。曽根崎さん、どうぞよろしくお願いします』

 

『よろしくお願いします』

 

 

番組のMCらと挨拶をするのは、如何にもエリート意識の高そうな、研究家とは名ばかりの評論家気取りの口が悪い男だった。

 

 

『やはり、艦娘が使う武装である艤装の汎用化と量産を積極的に推進すべきでしょう。いくら深海棲艦に対抗出来るのが艦娘以外に存在しないとは言え……女性を危険に曝すなど非人道的過ぎますよ。政府はもっと、倫理観を以って……』

 

 

「―――ッチ……!」

 

 

暫く観ていた翔太郎であったが、曽根崎の言い方に段々腹が立ってきた為、漣の病室へ戻ることにした。

 

 

「…おっと……イカンイカン。如何なる時にも心ブレない男………それが…ハァ〜〜〜ドっボイルドだ……そうだろ?俺………ん?」

 

 

漣の前で、みっともない怒り顔を見せないため。

 

そして、己の掲げる生き方―――ハードボイルドを貫くため、翔太郎はクール振って病室の扉を開けた。

 

 

「待たせてすまなかったな。ほんの僅かではあるが……寂しい思いをさせちまったな?リトル・レディ……ん?」

 

 

 

しかし

 

 

そこに居る筈の漣は居らず。

 

ただ、病室の窓が開けられているのみだった……。

 

 

 

「…………なっ……?」




突然、ダッシュがダッシュを呼ぶ展開に!


半熟の探偵、街を駆ける!駆ける!!


どうぞ次回もお楽しみに!


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2話 : Sとの邂逅/ 風の街の艦娘

連載開始から僅か数日なのに、なんとゆー注目度……!!


ナズェミテルンディスッ⁉


病室に居る筈の少女が消えた―――。

 

 

どう考えても、これは只事ではない。

 

 

「まさか!?」

 

 

名を尋ねたとき、彼女の手は震えていた。

 

 

あの震え方は……恐怖から生じたものだ。

かつて、『恐怖』に支配された事のある身だからこそ分かる。

 

 

もしかしたら、名を知られてはまずい状況に遭ったというのか……。もしそうなら、うっかり聞かれる事の無いように早まった行為に及ぶ可能性も決して無いとは言い切れない。

 

 

 

(しかし………)

 

 

飛び降りたのなら、自分が病室に向かうまでにとっくに騒ぎが起きている筈。

 

 

なら、外から身を乗り出して隠れた……?

 

いや、彼女の衰弱具合を考えると、壁に張り付く体力が保たない筈だ。

 

 

 

「くっそ!」

 

 

悔しげに声を荒げると、翔太郎は病室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

………その直後だった。

 

 

少女―――漣は、病室のロッカーから姿を現した。

 

 

「……まさか、こうも上手くいくとは予想外……でしたわ」

 

 

そろりそろりと病室の扉を開けて、漣は部屋を出る。

 

 

 

(あんなカッコつけ野郎だけど………変な奴だけど………)

 

 

翔太郎の気取った態度を思い返し、不意にクスッと笑う漣。

 

 

「……まあ良いさね。もう、二度と会う事も無いだろうし―――」

 

 

 

 

「どうやら、そうとも限らねえみたいだぜ?お嬢さん……」

 

 

「っ!?」

 

 

声のする方へ振り向くと、そこには外へ行った筈の翔太郎が。

 

 

「素人にしちゃあ、なかなか悪くないトリックだったぜ。人間心理を突く、的確な仕掛けだ」

 

 

 

 

 

 

そう……

 

翔太郎の言う通り、漣は()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

 

 

「窓を開け放つことで、相手に『飛び降りた』と思い込ませ…自身は適当に身を隠せる場所で息を潜める。……んで、相手が遠くに行ったところを見計らって、別ルートから脱出する……予定だったんだな?」

 

 

 

漣の脱出計画を推理して、その大まかな内容の確認を漣本人に取る探偵・左 翔太郎。

 

 

 

「…………ッ………」

 

 

 

読みが甘かった……

 

相手の力量を見誤った……

 

こんな所、あのクズに見られようものなら、只では済まされない。

 

 

酷い罵詈雑言や暴力が振るわれ、仕舞いには周りの艦娘を巻き込もうとするだろう。

 

 

「ごめん、なさい………!ごめんなさい………!!」

 

 

それを思い出してしまった為、翔太郎に対し、漣は震えながら謝った。

 

 

それを目の当たりにした翔太郎は、確信した。

 

 

漣の正体……そして、彼女が何故行き倒れていたのか……という、その全ての答えを。

 

 

 

「……そうか………」

 

 

漣に歩み寄る翔太郎。

 

恐怖のあまり、漣はギュッと目を瞑ってしまう。

 

 

 

……しかし。

 

 

翔太郎は漣の頭を優しく撫でた。

 

「ゴメンな……怖かったろ?」

 

 

「………え……」

 

「俺一人が謝ったって、お嬢さんの過去が変わる訳じゃねえけど………でも、せめて今だけは、その怖い気持ちを抑え込まないで、本音を明かして欲しいんだ………」

 

 

 

その言葉が、言葉の温もりが。

 

 

今はもう還らない、大好きな『ご主人様』と重なって。

 

 

「グス……くすん……ぅう…ふぇぇええ……っ!」

 

 

 

この時……漣は、生まれて初めて、誰かに縋り付いて泣いたのであった……。




ちょっとばかり、強引な展開にしちゃいました(-_-;)


次回、いよいよ事務所に向かいます!!


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3話 : Sとの邂逅/招かれた客人

俺は左 翔太郎。
極めてハードボイルドな私立探偵だ。


街の夜景を美しく照らす満月が、俺を求めるかの様に妖しく輝いていたので思わずふらりと外に出ていたところ……住民の憩いの場である、公園の片隅に置かれたベンチの上で倒れている少女を見つけた。


幸い、救急車を呼ぶのが早かったおかげで大事には至らずに済んだが………

道行く人を振り向かせる桃色のツインテールに、見るものを虜にしてしまう桃色の瞳をしたその小さなレディは、人には決して話せない大きな秘密を抱えていたんだ………。


「―――って、なぁ〜にをカッコつけとんのかオノレはッ!!」

 

 

 

一人回想に浸っていた翔太郎の頭を、『カッコつけんなや!』という文字がプリントされたスリッパで引っ叩いたのは、翔太郎が営む《鳴海探偵事務所》の所長『鳴海亜樹子』。

 

 

「あぃっ痛!?何すんだよ亜樹子ォっ!?」

 

 

「やっかましい!!散歩してくるとか言って、何処をほっつき歩いとるのかと思えば!こんな可愛らしい女の子が行き倒れてるのを見つけて、病院に運び込んだって!?そーゆーことは帰ってくる前に、事務所の所長であるあたしに報告しなさいっての!!報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)!コレ、大事ィ!!」

 

 

文句を言おうとする翔太郎に、亜樹子は翔太郎から送られた漣の写真を突き出しながらガツンと説教する。

 

 

「し、しょうがねえだろ!俺だって、結構混乱してたし………」

 

 

尚も弁解しようとする翔太郎に対し、亜樹子はまるで仁王像の様な形相で睨みつけながら『口答え禁止!!』の文字入りスリッパを追加。スリッパ二刀流で構えた。

 

 

 

これには、流石の翔太郎もおっかなくて堪らない。

 

 

「だあぁ!!わかった、悪かったよ!!これ以上引っ叩かれたら、俺の髪が乱れちまうって!」

 

 

 

余談だが、漣は結局その日は病院に預けて、翌日改めて宿探しを行うことになった。

 

 

 

「えっと……それで?その女の子との話は済んだの?」

 

 

「いや……とりあえず、昨夜はそのまま病院に預けてきただけだ。今日の昼頃、また改めて相談しに行くって約束してきた」

 

 

ふうん、と相槌を打つ亜樹子の横で、事務所のドアをノックする音が鳴る。

 

 

 

「おっ!翔太郎くん、お客さんみたいよ?」

 

「おっと……。どうぞー!」

 

 

先程の騒ぎを悟られないように、翔太郎たちは周りを簡単に整理して、迎える準備を整える。

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

「失礼します」

 

 

入ってきたのは、亜麻色の長いストレートヘアにクリクリっとした緑の瞳で、小動物的な雰囲気をまとった黒いセーラー服姿の少女と、長い茶髪を首後ろでまとめた、大人びた女性の二人連れだった。

 

 

「初めまして……。私、白川小百合(しらかわさゆり)と申します。こちらは娘の志穂理(しほり)です」

 

「ぽい?」

 

 

挨拶をしてくれた小百合を他所に、志穂理は奇妙な反応をする。

 

 

「いや、ぽいって……」

 

 

あまりに予想外な反応だったので、翔太郎と亜樹子は思わず苦笑い。

 

それに対し、小百合は頭を下げた。

 

 

「すみません……志穂理は、その……ちょっと普通の人とは感覚がズレてると言いますか……天然なところがありまして」

 

 

「いえいえ、お構い無く!ウチの探偵もかなりの変人なので!」

 

「ぐっ…」

 

(納得いかねえ評価だけど……まずは依頼を伺わねえとな)

 

 

 

私立探偵・左 翔太郎、探偵業の開始である。




次回、いよいよ翔太郎の探偵業開始です!!


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4話 : Sとの邂逅/涙を失くした少女

W編のストーリーですが、クウガ編を考えるのと同じくらい楽しいです!


とゆー訳で、張り切って参ります!


「では、改めまして。私が、所長の鳴海亜樹子です!それから、こっちが……」

 

「探偵の左 翔太郎です、初めまして」

 

 

自己紹介もそこそこに、二人は白川母娘を応接間へ案内する。

 

 

 

「それで……今回は、どういったご要件で?」

 

 

亜樹子にお茶を淹れてもらい、差し入れる翔太郎。

 

 

しばらく俯いたまま黙り込んでいた白川夫人だったが、やがて口を開いた。

 

 

「実は……主人が行方不明になってしまって……。探偵さんに、捜索をお願いしたいのです」

 

 

「ご主人の?」

 

「志穂理ちゃんのお父さん、ですか?」

 

 

翔太郎と亜樹子の問いかけに、白川夫人は小さく頷く。

 

 

 

「主人は、都内にある海軍兵学校の教官を勤めておりまして……士官候補生や、艦娘と呼ばれる女の子たちからも大層慕われていたとか」

 

 

 

「フム………」

 

 

 

 

 

―――その後、白川夫人からご亭主・「白川成一(せいいち)」さんについての話を一通り聞き終えた俺は、横でボンヤリと事務所内を眺めている、志穂理ちゃんの方へ目が向いた。

 

 

ぱっと見た様子だと、父親の行方不明について何も感じていないのかと思われたが、第一印象で相手の心境を決めつけるなど、ハードボイルドな俺は決してしない。

 

 

だから、不安を煽らないように話しかけることにした。

 

 

「お父さんの事は心配しないで。俺が……いや、俺たちが必ず君のお父さんを見つけてみせるよ」

 

 

すると、翔太郎の言葉が嬉しかったのだろう。

 

「探偵さん……ありがとう!」

 

 

可愛らしい笑顔を見せてくれた。

 

 

「……分かりました。依頼の件、承りましょう!」

 

 

「え?い、良いんですか!?その……調査期間とか、前金のお支払いとかの相談は…!?」

 

 

 

慌てふためく白川夫人に対し、翔太郎はそっと語りかけた。

 

 

 

「探偵を頼る依頼人はみんな訳ありだ。細けー事を一々気にしてたら、探偵なんか出来ねぇ……」

 

 

 

「えっ………?」

 

「ぽい?」

 

 

首を傾げる二人に、翔太郎はフッと柔らかな笑みを浮かべる。

 

 

「―――俺が尊敬する、先代の受け売りですよ。安心して下さい!必ずご主人を見つけ出して、お二人の下へ連れ戻します!」

 

 

「……ありがとうございます……!どうぞ、よろしくお願いいたします……っ!!」

 

 

その言葉がよほど嬉しかったのであろう、白川夫人は涙を流しながら深々とお辞儀をした。

 

 

情報が集まり次第、改めて連絡をする約束をして、その日は二人を見送った。

 

 

 

「なんか、不思議な感じの娘だったね?志穂理ちゃん」

 

「確かにな。………けど、ま。しょうがねえんじゃねーかな?大好きな親父さんが、突然居なくなっちまったんだ……行方不明だっていう事実に対して、実感が湧かないのか……それとも………認めたくないから、なのか…………」

 

「うーん……きっと、すごいショックだったんだろうね……」

 

 

 

 

 

「―――実に興味深い」

 

 

その時。

 

 

カーテンの奥から声がしたと思えば、そこから1冊の本を手にした腕が伸びてきた。

 

 

「おっと……悪いな。起こしちまったか?“フィリップ”」

 

 

謝る翔太郎に、フィリップと呼ばれた主は朗らかに返した。

 

 

「問題無い。僕もちょうど目が覚めた所だからね。それより……君が帰り際に遭遇したという少女……。非常に興味深い存在だ」

 

「へ?何何、どーゆーコト!?」

 

 

話が見えない亜樹子はズズイっと詰め寄る。

 

 

「さあな………。いずれにしろ、白川さんたちもあの女の子も、まとめて救って見せるさ」

 

 

「えぇ〜……そう言って、まぁた失敗するんじゃないのぉ?」

 

 

ジトーっとした目を向ける亜樹子に対し、翔太郎はムスッとした顔になる。

 

 

「またとは何だよ、またとは!!―――何度も言ってるだろ?この街は俺の庭だ。行方不明の男一人ぐらい、あっという間に捜し出して見せるさ」

 

 

 

ハッハッハー!と高笑いをするなど、ハードボイルドの欠片も無いような態度に呆れつつ、亜樹子は翔太郎を見送るのだった。

 

 

 

「……どー思う?フィリップくん。あたし、今回もあの半熟男はしくじると思うんだけど……」

 

「……相棒として、弁護したい気持ちが無い訳でもないが……亜樹ちゃんに同意見だね」

 

 

そう。

 

 

ハードボイルドを謳っているのは、あくまで形や振りだけ。

 

実際の左 翔太郎は、些細な事でムキになったり調子に乗ったりと、とてもハードボイルドには程遠い…“ハーフ”ボイルドと言われ続けているのである。

 

 

 

「何か、良からぬことに巻き込まれなければ良いんだが……」

 

 

残念ながら、フィリップのささやかな望みは、時を待たずして呆気なく消えてしまうのである……。




次回、翔太郎の探偵業・捜査と漣との再面談が行われる……ハズ。


何か、良からぬことが起きそう?!


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5話 : Sとの邂逅/風に誘われて

皆さんごきげんよう、漣です。

私は昨晩、風の絶えぬ不思議な街『風都』に流れ着きました。


そこはちょっと大きめな川もあれば、海水浴場なんかもあるそうで……正直言って、名前だけで街の規模を見くびってました(;´Д`)


極めつけは、なんと言っても《風都タワー》!

街の何処に居ても見えるデカさの風車塔って、アレですよ。東京タワーとか東京スカイツリーとか、エッフェル塔並の自己主張っぷりですよ。


そんな街で、たぶん唯一のご意見番なんですかね?



あのキザ探偵は………


「!」

 

 

漣が病室のベッドの上で風都のガイドブックを読んでいた所へ、約束通り、翔太郎が見舞いに訪れた。

 

 

「よぉ。ちったあ元気になったかぃ?お嬢さん」

 

 

「おかげさまで……探偵サン」

 

 

先に断っておくが、両者は単に呼びたい様に呼んでいるだけであり、お互いにこれといった他意は無い。

 

 

「ちぇっ、まだ素直にはなってくれねぇのな」

 

 

言い回しは残念そうだが、翔太郎は安心した様子だった。

 

 

「今日は快晴だな?いい風が吹いてやがる……」

 

 

「いつも風が吹いてるのに、そーゆー違いとか判るんですか?」

 

 

またカッコつけてるのかと思い、漣は嫌味っぽく聞いてみる。

 

 

「判るさ……。この街は俺の庭だからな。そこで、誰一人泣いて欲しくねえんだ」

 

 

「……ふうん」

 

 

その一言だけは、カッコつけ等ではない、翔太郎の本心を感じた。

 

 

「さて、と。お嬢さん、これからどうするよ?行く宛が無えってんなら、ウチで良けりゃ飯と寝床ぐらいは提供出来るが」

 

 

mjdk(マジでか)!?」

 

「―――は?」

 

「ハッ……あ、いや……ゴホン。ほんとに、良いんですか?」

 

 

「お…おお、君さえ良けりゃ……な?」

 

 

 

一瞬、漣が別人になったような………

 

 

口調の変化に驚きはしたが、気にするほどではないとこの時の翔太郎は思っていた。

 

 

そう、この時までは………。

 

 

 

「………よし。それじゃ、夕方頃にまた迎えに来るぜ。とびっきり美味い飯やコーヒーを御馳走してやるよ」

 

 

じゃあな、と翔太郎は仕事へ戻った。

 

 

「…………」

 

 

 

翔太郎が病院を出るのを見届けた後……。

 

 

「ぶはぁ〜〜〜ッ!!!あっっぶねえぇ〜!思わず“地”が出ちゃうトコだった〜〜もぉ〜」

 

 

そのハイテンションかつ独特過ぎる喋り方は、先程までの薄幸な少女と同一人物とは思えないほどの変わりようだった。

 

 

「『この街は俺の庭だ』……くぅ〜!顔だけはいっちょ前だけど、台詞にオーラが伴ってねえってのオーラが、ヨッ!!……ハァ…」

 

 

翔太郎の台詞を復唱し、独り文句を垂れてみるも、すぐに虚しくなってため息を吐く。

 

 

「何なんだろ………ただのカッコつけ野郎なのに…初対面なのに……ちっとも似てないのに……」

 

 

「なんで……統也提督(ご主人様)と重なるの……?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

さて……居場所を失くした少女を励ました後は、本来の仕事に戻るとしようか。

 

 

知っている奴には言うまでもないが……俺は基本、自分の足で情報を集めるスタイルだ。

 

 

聴き込みは勿論、贔屓にしている情報屋を頼ることだって少なくない。

 

ネットジャンキー、女子学生、屋台の店主、ペットショップの店長、カフェのマスター……といった具合にな。

 

 

 

「………ッ……しっかし……」

 

 

ここに来て、左 翔太郎は己の見込みの甘さを痛感した。

 

 

 

人捜しとは言っても、相手は『正規の軍人』である。

現代社会に於いて、戦局を大きく左右するもの……それが『情報』だ。

 

いくら家族からの捜索依頼であろうと、現役軍人の個人情報が、一探偵の聴き込み程度で簡単に手に入る訳がなかったのである。

 

 

 

「ぐっ………!こんな…こんなハズでは…ァ……」

 

 

その悔しげかつ苦々しい、愉快な表情にハードボイルドのハの字も残っていなかった。

 

 

 

「うーわ…案の定だヨ」

 

 

「うっせ!!何が案の定だよ亜き…こ………?」

 

 

冷ややかな声に対し、翔太郎はムキになりながら振り向いた。

 

 

「……ぉ……」

 

「夕方頃には迎えに来るぜとか、調子の良い事を抜かしといて……何矢吹ジ○ーみたいな落ち込み方をしてるのよさ?」

 

 

我が探偵事務所の所長サマに似た、冷ややかな態度を取っていたのは、昼間会話をした少女―――漣であった。

 

 

「えっと……なんか、最初に会ったときとキャラが違い過ぎるんですけど?」

 

「あんまり痛々しくて、取り繕ってる自分がバカみたいに思えたもんですから」

 

「痛々しいッ!?」

 

 

「それに………、私がホントのことを話せるようになるまで待つって言ってくれた恩人に、いつまでも隠し事をするのは反って失礼っしょ?半熟どん♪」

 

 

その笑顔が、彼女の心が少しでも開放されたことの表れであることを翔太郎は理解した。

 

 

だから……

 

 

「………ん?オイ!今、半熟つったか!?」

 

「だって事実じゃ〜ん?半熟どん、ハーフボイル丼〜〜☆」

 

 

「っの……!漣ぃいいッ!!」

 

 

 

彼女を……漣を含めた《艦娘》も含めて、自分が悲しみを拭い去ってやると、密かに誓いを立てた。

 

 

 

「―――つか、依頼ィィィッ!!!」




皆さん、安心して下さい。

W編は終わってません…終わらせませんよ!!?


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6話 : Sとの邂逅/漣の着任

W編、激動の時。


そんな6話目です。


行方不明の家族を捜して欲しい―――その依頼を受けた横で、《探偵》左 翔太郎は行き倒れていた《艦娘》の少女・漣を引き取ることにして、一旦鳴海探偵事務所へ戻った。

 

 

「此処が、半熟どんの仕事場……」

 

「半熟どん言うな。仲間に説明してくるから、ちょっと待ってな?」

 

「説明って……漣のコト、話すの……?」

 

 

漣の不安げな顔を、翔太郎は見る。

 

 

当然と言えば当然である。

翔太郎も聞いたばかりの話だが、艦娘を指揮する組織《鎮守府》の管理・運営をする提督や、それらを直轄管理する《大本営》と呼ばれる総司令部に居座る上層部の一派が、艦娘の力を怖れるあまりに人外という認識を大衆に植え付け、艦娘に対して非人道的過ぎる行為を重ねているというのだから。

 

 

 

「……大丈夫だ。俺の仲間は、そんなつまらねえ事を気にはしねえさ」

 

「でも………」

 

「良いから。いざって時にゃ、俺が体を張ってでも守るさ」

 

「………うん……」

 

 

 

小さく頷く漣を見て良しとした翔太郎は、事務所のドアを開けた。

 

 

「おいフィリップ、亜樹子!ちょっと良いか?」

 

 

「何何?今度はどうしたのよ、翔太郎くぅおわあぁあおっ!!?」

 

 

何事かと顔を出した亜樹子だったが、チラッと見えた漣を見て面白い声をあげた。

 

 

(っ……やっぱり、漣は……)

 

 

拒絶される―――

そう思い、ぎゅっと目を閉じた…その時。

 

 

「カワイイぃぃ〜っ!!!天使や、天使が降りてきたぁぁあっ!!!!」

 

 

黄色い声があがった。

 

 

「………ほぇ?」

 

「ちょっとちょっと、翔太郎くん!!例の美少女を連れてくるとか私、聞いてない!!」

 

「っ……そういうリアクション取ると思ったから、まず話をしようとだな……」

 

 

「よろしい!!所長権限で、その娘の下宿を認めちゃいます!!認めまくりますッ!!!」

 

 

心なしか鼻息が荒い気もするが、気のせいだろう。

 

翔太郎はそう思うことにした。

 

 

「い…良いの……?」

 

「ああ……所長が許可を出したんだ、遠慮は要らねえよ」

 

「………っ…ありがと…ホントに、ありがとう……!!」

 

 

漣は、笑顔になりながらも涙を溢れさせた。

 

 

「よし!じゃあ、早速だけど夕飯の買い出しに行かなきゃだね?えっと……そうだ!私は鳴海亜樹子。貴女のお名前は?」

 

「漣…です、所長サン」

 

 

自己紹介をする漣に、翔太郎が一言。

 

 

「ああ、漣。そいつは亜樹子って呼び捨てで良いぞ?」

 

 

「ちょっ!!漣ちゃんの前で、その態度は無いでしょお!?」

 

「うるせぇな!ここぞとばかりに威張るなっての!大体なんだよ、所長権限って!?初耳だぞ、んなモン!!」

 

「なによぉ!!」

 

 

 

「………」

 

その騒がしさは、かつて漣の過ごした赤塚鎮守府の面影を少しだけ感じさせた。

 

 

「…エヘヘ♪漣、着任させていただきますゾイ♪」

 

 

そっと呟き、敬礼して見せた。

 

 

 

 

その後、翔太郎は漣を連れて買い出しに行ったのだが、その帰り……事態は急変する。

 

 

「誘っておいてなんだが……ホントに良かったのか?」

 

 

「もぉ〜、今更何を言うとですかぃ?ご主人様は漣を迎えたんですから、もっと堂々としていてもらわなきゃ!そんなんじゃ、半熟どん卒業は出来ませんよー?」

 

「だから半熟言うなッ!!――ん?つかお前、今何つった?」

 

 

あまりにさらっと呼ばれたため、翔太郎は耳を疑った。

 

 

 

漣は自分を何と呼んだ?

 

聞き違いでなければ、彼女は自分を『ご主人様』と呼んだ。

 

 

「半熟どん」

 

「ちげーよ!その前だ!」

 

 

そこまで言われて、漣は「あっ…」と思い出し、頬を少しだけ赤らめる。

 

 

「ご主人様……そう呼んじゃダメすか?」

 

メイドでも、主人でもない。ただの行き倒れの艦娘と拾い主の探偵……それだけの関係。

 

しかし、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

「……好きにしな」

 

そう告げた翔太郎は、最初に漣を受け入れた時と同じく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

『イイな〜』

 

 

「えっ…」

 

「ッ!?」

 

 

『にっこり笑顔、イイなぁイイなあ〜〜〜?』

 

 

その時。

 

二人の前に、のっぺらぼうの顔をしたピエロの様な外見の怪人が不気味に頭を揺らしながら現れた。

 

 

「な…なに………!?」

 

明らかに深海棲艦と異なる、その不気味な姿と気配に漣は怯える。

 

それを庇う翔太郎は目を逸す事無く睨み返す。

 

 

「何者だ?テメェ……」

 

 

その不気味なピエロは、表情の無い顔でクスクスと笑う。

 

 

『さあ、ステキなパーティーを始めましょ?』




いきなりネタバレにしちゃったか……?


だが後悔はしていない(震え)


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7話 : Sとの邂逅/街を泣かせる者

前回までの『仮面ライダーW-風都艦隊-』―――


かつて在籍していた鎮守府が解体され、行く宛の無いまま風都へ流れ着いた艦娘の少女・漣を見つけた私立探偵・左 翔太郎。

そんな彼の下に、行方不明となった現役海軍教官「白川成一」の妻子より捜索の依頼が舞い込む。


いつも通りの調子で捜査に乗り出す翔太郎だったが、初日は収穫ゼロ。
情けない所を漣に見られながらも、翔太郎は彼女を引き取ることに決める。

そして……夕飯の買い出しに行った帰り道。
二人の前に、異形の怪人が現れた……!


「ちょっとちょっと!ご主人様、アレ何!?」

 

「もしかしなくても……ってヤツだな」

 

 

パニクる漣に対し、()()()()()()()()()()()()翔太郎は至って冷静だった。

 

 

『怖くないの?』

 

ピエロの様な怪人が問いかける。

 

 

「職業柄、何かと縁があるもんでね?」

 

 

さらっと言ってのける翔太郎を見て、漣は驚きを隠せない。

 

(イヤイヤイヤ!!何をどうしたら、探偵さんにあんな怪物とご縁があるのよ!?誰かーッ!誰か説明をプリーズッ!!)

 

 

 

『へー……じゃあ、怖い物とか無いんだ?』

 

そう言うと、怪人は笑顔が描かれたボールを取り出し、ジャグリングを始めた。

 

 

「怖い物が無いかって?……あるに決まってるだろ。人間なんだから、よっ!」

 

 

言い終えた瞬間。

 

 

翔太郎は漣の手を取り、買い物袋を引っ提げたまま走り出した。

 

 

『鬼ごっこ?楽しそー!』

 

 

すると、怪人は先程までジャグリングしていたボールを投げつけてきた。

 

 

それを見た漣は、身の危険を直感した。

 

 

「ご主人様!全力疾走だおッ!!」

 

「言われなくても、そのつもりだよ!!」

 

 

二人の予想通り、怪人の投げてきたボールは爆弾と化しており、着弾した瞬間から爆発していった。

 

 

 

「うぅぅおおおぉぉったたたッ!!?」

 

「のぁあばばばばばばばばッ!!!」

 

 

逃げに逃げまくったのだが、ボールは無数にバラ撒かれてしまい、逃げ場を失くしてしまった。

 

 

 

そして―――。

 

 

通り一帯が爆発、炎に包まれたのだった。

 

 

『あーあ……つまんないっぽい』

 

怪人は諦めて、その場を去った。

 

 

 

 

 

「………行ったみてぇだな」

 

「ほ…ほい……」

 

 

しかし。

 

寸でのところで、翔太郎たちは脱出に成功していた。

 

 

翔太郎が左腕に着けている、デジタル腕時計から発射されたワイヤーで上空に逃れたのである。

 

 

「はぁ…はぁ……。ご主人様…それ、もしかして……」

 

 

「ああ……探偵を助ける秘密道具ってヤツさ」

 

 

気取ってるのか、素の状態で言ってるのか。

 

この状態では確かめようもないので、漣は一言呟いた。

 

 

「くぅ〜……、何も言えねえ……」

 

 

 

炎に気をつけながら地面に降りた後、翔太郎は念の為に110番通報。

 

消防署にも通報して、消火活動をお願いした。

 

 

 

「ハァ〜、やれやれ。お前はホント、厄介事に縁があるよなぁ翔太郎、ん?」

 

到着した警察が現場検証をしている中、ツボ押し器で肩を軽く叩く中年刑事・(ジン)さんこと刃野刑事に絡まれる翔太郎。

 

 

「ハハ……まぁ、否定はしねえけどさ」

 

それに対して苦笑いする翔太郎を見て、漣は翔太郎と刃野刑事の付き合いの長さを朧気ながらも感じた。

 

 

「しかし、これまたハデにやらかしたもんだな……お前が遭遇したっていう怪物、ドーパントと見て間違い無さそうだな?」

 

「ああ……それについては、俺も同意見だ」

 

 

(ドーパント?)

 

翔太郎たちの会話の中に、漣は聞き慣れぬ単語があることに気が付いた。

 

 

「ところで……翔太郎?そのお嬢さんはどうしたんだよ?お前が所長さん以外の女の子を連れてるなんて、珍しいこともあるもんだな?」

 

「あぁ……その話はまた追々」

 

 

刃野刑事に気付かれぬよう、翔太郎は漣に「大丈夫だ」と目配せをして、漣もそれに安堵の笑みを浮かべた。

 

 

「…それより、刃さんたちこそどうしたんだよ?いくら風都署が近いつっても、随分到着が早かったじゃねえか」

 

 

そう尋ねる翔太郎に、刃野刑事は暗い顔をしながら答えた。

 

 

「近くに居たんだから、そりゃあ着くのも早くなるさ。何せ……この付近で殺人が起きたんだからな」

 

 

「えっ……!?」




スゴイ……

スゴイ勢いで『風都探偵』に染まっていきおる……っ!!

どうぞ、次回もお楽しみに!


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8話 : Sとの邂逅/地球(ほし)()る悪魔

連載から僅か8回……


なのに、まさかのUA6000超えにお気に入り登録者数51名ですって!?Σ(゚∀゚ノ)ノキャー


どうしましょう!?
よころんでいいですか!?

とゆー訳で第9回、いきます(^_^)ノシ

※驚きのあまり、誤字ってしまいました(^_^;)


風都で殺人事件が起きた……

 

 

己が愛するこの街で、尊い人の命が…血が流された事に、翔太郎は胸を痛めた。

 

 

刃野刑事から特別に許可を貰い、現場へと足を運ぶと。

 

 

「…………」

 

「ご主人様……」

 

 

 

翔太郎は遺体に手を合わせる。

 

それを見て、漣も同じく手を合わせた。

 

 

「………」

 

 

遺体の状態は、実に無惨なものだった。

 

大型の動物か何かに襲われたかの様な咬み痕が無数に刻まれており、さらには火傷と思しき傷も見つかったのだが、遺体を不気味にしているのはそれが原因ではない。

 

 

 

 

これほどの重傷であるにも関わらず、遺体は笑っていたのだ。幸福(しあわせ)そうに。

 

 

「特別に被害者(ガイシャ)の遺体を見せてやったんだ。なんか情報を掴んだら、その時は頼むぜ?探偵」

 

 

ツボ押し器で背中を掻きながら、刃野刑事は翔太郎に念を押した。

 

 

「ウッス…」

 

昔馴染みの腐れ縁ということもあり、翔太郎は頭が上がらないのだなと漣は理解した。

 

 

 

「……っし。漣、一旦事務所に戻ろうか?依頼人に、中間報告をしなきゃだしな」

 

「あっ、はい!」

 

 

 

この時、事務所へ戻る二人の背中を静かに見つめる影があった。

 

 

その手には、骨の様な装飾を施した不気味な小箱が握られていた………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

翔太郎を始めとした、多くの客に愛される喫茶店《喫茶・白銀(しろがね)》。

 

白川母娘と落ち着いて話をするべく、漣に事務所で留守番する様に言い聞かせ、依頼人たちには其処の美味いコーヒーや紅茶を御馳走すると誘ったまでは良かったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

肝心の依頼主である小百合は来ず、来たのは娘の志穂理のみ。

 

さらに、彼女から発せられた一言が翔太郎たちを驚愕させた。

 

 

 

「お父さんが見つかった!?」

 

 

 

「ぽいっ!」

 

 

驚きのあまり、大声を出した翔太郎と亜樹子に対する、志穂理の返事はその一言のみだった。

 

 

 

「いや……あのな、志穂理ちゃん?返事に元気があるのは結構なんだが……その…もう少し、人と会話してくれないか?」

 

「ぽい?」

 

「だからね?その『ぽい』をちょっとだけ遠慮してもらえないかなあって……。いや、カワイイんだけどね?お姉さんたち、反応に困っちゃうのよ…ウン」

 

 

苦笑いしながらも、歳上らしくお姉さんぶって志穂理に説得をする亜樹子。

 

 

 

(これじゃあ、まるで子守だぜ………)

 

 

 

翔太郎は、事務所で控えている“相棒”の助けを願わずにいられなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

一方……鳴海探偵事務所にて留守番をしていた漣はと言うと。

 

 

「ヒマだ〜……ああ〜ヒマだあぁ〜あぁ〜〜」

 

艦娘としての役割から離れた時間に不満を感じ始めたのか、ソファーに寝そべったまま文句を垂れ始めた。

 

 

「いくら前職の環境が最悪だったからってね?引きニートになりたいなんて、だぁ〜れも言ってやしませんのだヨ?マヂなハナシ。あのカッコつけ半熟丼なら、前の前のご主人様ほどでわないにせよ?漣を良くしてくれるかもしれないから、ひとまずお誘いに応じたワケで………」

 

 

そうまで言いかけたところで、漣は部屋の片隅にある、翔太郎愛用の帽子が掛かっているスペースに視線を向ける。

 

 

壁に掛かっている帽子の殆どは、翔太郎が自分で選び、購入した《WIND SCALE》ブランドである。

 

 

しかし……そんな多くの帽子の中で、一つだけ上段に掛けられた、縁割れの白い帽子が存在感を放っていた。

 

 

「…………」

 

 

使い込まれたものであろう、その白い帽子に惹きつけられるように、漣は近付いた。

 

 

「コレ………あの夢に出てきた帽子(ヤツ)だ………」

 

 

 

そう……

 

その帽子は、あの日見た夢に出てきた、白いスーツを着た男性が被っていたものであり、その後男性に付き添っていた泣き虫少年が受け継いだ物と同じだったのだ。

 

 

 

「なんで…………って、おろ!?」

 

 

帽子を手に取ろうと、壁に手をかけたその時だった。

 

 

 

壁が扉の様に開き、漣は転げ落ちてしまう。

 

 

「あぃだっ!……痛っつ〜…。探偵事務所に隠し扉って……どーゆー事か説明をキボンヌ…」

 

 

普通なら、漣以外は出払っている()()なので、答えは返ってこない。

 

 

しかし

 

 

薄暗い、非常灯だけの点いたガレージの様な空間が広がっている中で、少年の声が返ってきた。

 

 

「此処が鳴海探偵事務所の地下ガレージであり、僕が身を隠すためのスペースにもなっているからさ」

 

 

「!?」

 

 

唐突な返答に、思わず身構える漣。

 

 

そこに、美しいエメラルドグリーンの髪と色白の肌をした少年が現れた。

 

 

「ぁ………」

 

 

漸く、目が慣れてきたのか。

 

漣は改めて周りを見回す。

 

 

自分と目の前の少年が居るガレージはとても大きく、少年の背後にはホワイトボードが壁や天井付近にまで設置されており、傍らにはマジックといった筆記具も大量に置かれていた。

 

 

「えっと……あなたは?」

 

 

「ああ…そうか、自己紹介がまだだったね?《艦娘》漣」

 

 

「ッ!!」

 

その言葉に、漣は驚きを隠せない。

 

故に、尋ねた。

 

 

「あなた……何者なの?」

 

 

「―――フィリップ。君を助けた、左 翔太郎の相棒だよ。そう覚えて貰えれば充分さ」

 

 

微笑みの自己紹介をされた後、漣は確信した。

 

 

 

間違い無い―――。

 

彼も、夢に出てきた人物だ………。




どーも、更新お待たせしました。

いかがでしょうか?


どんどんW節が入って参ります!


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9話 : Sとの邂逅/俺たちは二人で一人

本作も、たくさんの方々に注目して頂いているようで……早くもUA数が7000台!


エムおばさん、聞いて!
私の小説を面白いって読んでくれる人がいるの!(by ド○シー)


「ご主人様の……相棒?」

 

自らをフィリップと名乗った、漣より少し歳上と思われる少年の発言に対し、漣は眉を(しか)めた。

 

 

「まぁ…今日が初顔合わせだし、君も翔太郎から話を聞いていないから、怪しむのも無理はない」

 

 

少しばかり警戒している漣の反応を当然であると受け止めながら、フィリップは漣をソファーへ促す。

 

「掛けてくれ。新しい事務所の仲間を、僕にも歓迎させて欲しい」

 

 

「ど…ども………」

 

翔太郎とはまた違う、ミステリアスな雰囲気を纏ったフィリップの言動に戸惑いつつも、漣はソファーに腰掛けた。

 

 

「………ん?」

 

 

ふと、ホワイトボードを眺めてみると、そこには沢山のことが箇条書きされていた。

 

 

深海棲艦や艦娘のこと。

 

艦娘と同名の軍艦、その歴史と繋がりについて。

 

 

中には、旧日本海軍と現在の新生日本海軍との比較表なども書かれていた。

 

 

 

 

「綾波型駆逐艦《漣》。元赤塚鎮守府所属、《海上の脚本家》と讃えられた海軍中将・沼田統也の初期艦にして艦隊のムードメーカー……。その明るさや急時の際の判断能力の高さから、多くの仲間に慕われていたんだね」

 

 

「ッ!!?」

 

急に何を言い出したかと思えば……

フィリップは、話してもいない『漣の半生』をスラスラと暗唱。それに対する感想まで添えてきた。

 

 

 

「その後については……君が直接、翔太郎に話すまで伏せておこう。一度調べ始めると、その全てを知りたい欲求に駆られてしまって、抑えが効かなくなってしまうのが僕の“悪い癖”なものでね」

 

そこまで言うと、フィリップは漣と目線を合わせる。

 

 

「君が受けた傷は簡単に癒えるものではないかもしれない……でも彼は、それを百も承知だ。後は僕らが…君が、僕の相棒を信じてくれれば充分だ」

 

 

その暖かな言葉と眼差しは、翔太郎と同じ温もりを持っていて。

 

漣は小さく頷き、その言葉を信じることにした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どうやら、心配要らなかったみてーだな?」

 

「あっ!ご主人様?所長サン!」

 

「ただいまぁ〜」

 

 

そこに、志穂理との話を終えた翔太郎と亜樹子が戻ってきた。

 

 

「ありゃ?フィリップくん!もう漣ちゃんと仲良くなったの?」

 

「その『仲良くなった』という定義が、亜樹ちゃんの判断基準に該当するかは、まだ検討の余地があるけど……とりあえず、君の相棒であることは認めてもらえたよ。翔太郎」

 

 

そうか、と翔太郎は朗らかな笑みを浮かべ、漣にも微笑みかけた。

 

 

「焦らなくていい。少しずつ……お前が大丈夫だと思えるペースで進めば良い。俺たちは、ちゃんと待ってるから」

 

 

翔太郎の言葉に、漣はまた泣きそうになる。

 

しかし、すぐに涙を拭い。

 

「漣の本気、必ず見せたげるからね?ご主人様!♪」

 

にかっと笑った。

 

 

「その意気だ♪………さてと」

 

そう言うと、翔太郎の目付きはキッと鋭くなる。

 

 

「捜査の進み具合は、あまり良くないようだね?」

 

「ああ……何しろ、現役軍人の捜索に加えてドーパントの捜査だ……。こいつぁ、また骨が折れそうだぜ」

 

 

そこまで言った後。翔太郎はフィリップにこう告げた。

 

 

「『検索』……頼めるか?相棒」




ハイ、また半端なところで切りますスミマセンm(_ _;)m


次回、本作初の『検索』!


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10話 : Sとの邂逅/微笑みの爆弾

お待たせしました。

W編魅せ場その1です!


『検索』………

 

そう聞いた漣は、いったい何をするのかと首を傾げた。

 

「ご主人様、所長サン?あの人……えっと、フィリップさんでしたっけ?検索って、これから何を……」

そう問いかける漣に対し、翔太郎は一言。

 

「まぁ、いいから見てな」

 

 

そして、フィリップは静かに目を閉じた。

 

 

「検索を始めよう」

 

 

そう告げると、フィリップの意識は“深い所”へとダイブしていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

地球(ほし)の本棚』と呼ばれる、巨大なデータベースがある。

そこには、地球という人智を超越した生命体に刻まれた様々なデータ・記憶が内包されており、フィリップは精神をそこにアクセスし、本棚として収められた様々な情報を愛用の白紙の本に映し出し、読むことが出来る。

 

 

しかし……地球が持つデータの量は、文字通り次元が違う。

闇雲に探すだけでは、どれだけ時間があっても知りたい情報には辿り着けない。

翔太郎が集めた情報やキーワードを基に検索し、情報を絞り込んでいく必要がある訳だ。

 

 

そして、今。

フィリップの『検索』が始まった。

 

 

「知りたい項目はメモリの『名前』。最初のキーワードは『道化師』……」

 

フィリップが単語を提示すると、《pierrot(ピエロ)》の文字が浮かび上がり、空間上の本棚が動いていく。

 

「『爆弾』……『快楽』……『遊戯』………」

 

 

翔太郎が得た情報や、遭遇したドーパントと思しきピエロ姿の怪物の特徴を基に検索を進めるが、それでも本棚二つ分の情報が残った。

 

 

「316件の情報が該当した。対象に幻覚を見せる、精神干渉タイプのメモリの総数だ。全てを閲覧するには、なかなか骨が折れそうだね……」

 

フィリップの言葉に、翔太郎はフム…と考える。

 

「もう一段絞り込みたいな……『白川成一』はどうだ?」

 

ひょっとしたら、今回の依頼と関連性があるかもしれない……そう思い、追加キーワードとして挙げてみた翔太郎だったが、フィリップは首を横に振った。

 

 

「その名前については既に検索してみたが、今回のドーパントとの関連は薄い……というより、関わりようが無いね」

「っ?どういうことだ?」

 

相棒の言葉に疑問を抱く翔太郎。亜樹子や漣も耳を傾けた。

 

 

「白川成一は、3ヶ月前に勤め先の士官学校で起こった集団失踪事件で既に亡くなっている……」

 

「!!?」

 

フィリップの口から語られた、その衝撃的過ぎる情報に翔太郎たちは驚愕した。

 

「ちょ!?ちょっと待って!?志穂理ちゃん、お父さん見つかったって言ってたんだけど!?ねっ!翔太郎くんも聞いたよね!?」

「あ…ああ、確かに……しかも、あんな嬉しそうに……」

 

 

瞬間。

 

翔太郎は、刃野刑事から聞いた謎の殺人事件と遺体の状態を思い出す。

同時に、志穂理の幸せそうな笑顔が遺体の表情と重なった。

 

 

「………そうだ、笑顔だ!フィリップ!追加キーワードは『笑顔』!!」

 

 

『笑顔』―――『smile』を提示したことにより、フィリップの前に1冊の本だけが残された。

 

そのタイトルは……『SMILE』。




さて……いよいよ動き出します、W編!

どうなる、この事件!?


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11話 : Sとの邂逅/魔性の小箱

W編、少しずつですがギアを上げて参ります!


あと、『風都探偵』6巻GETしました!

泣けたです…マヂで……(つд⊂)エーン


「ビンゴだ。メモリの正体が判明したよ」

 

地球(ほし)の本棚』にアクセスし、検索を進めたことにより導き出した情報を手に取ると、フィリップは解説を始めてくれた。

 

 

「メモリの名称は『スマイル』……文字通り『笑顔の記憶』のガイアメモリだ」

 

「ガイアメモリ……?」

 

聞き慣れない単語に対し、漣は疑問を浮かべる。

それを受け、翔太郎はフィリップや亜樹子とアイコンタクトを取ると、1枚の写真を取り出した。

それは大型のUSBメモリを撮った写真で、骨の装飾などで化石の様なデザインに飾られている外装と表面に浮かび上がったアルファベットを象ったアイコンが不気味さを際立たせていた。

 

 

「何すか、コレ……?」

「『ガイアメモリ』……コレを身体に刺した人間は、中に詰められた膨大なデータを受けて超人になる」

 

「まあ…超人っぽい見た目の奴は少ないけどね………。言っちゃ悪いけど、たいてい怪物」

 

翔太郎の説明に、亜樹子がジェスチャーを混じえながら補足したことで、漣は先程の怪物を思い出し、表情が強張る。

 

「怪物………」

 

その様子を見て、翔太郎は改めて話すことにした。

 

風吹くこの街に秘められた闇の話を……。

 

 

 

「かつて……この街にメモリをばらまいていた組織が存在した。それは壊滅したんだが、今でもメモリは街に残り、(かえ)ってレア化して、高額で闇取引されたりしている。つまり、この街には今でも人間を容易く悪魔に変える、小さくて危険な遺産(レガシー)が数えきれないほど眠っているのさ。恐らく、彼女たちもそのメモリの毒気に……」

 

翔太郎の推理に対し、フィリップが小さく頷いた。

 

「可能性は極めて高いね。スマイルメモリは、その名称と内包された記憶の通り、対象にとって最も笑顔になれる幸福な瞬間や記憶を読み取り、幻覚の様な形で投影し、見せることが出来る。勿論、既にこの世に存在しない家族との再会だって不可能ではない」

「スゴイ………でも」

 

フィリップの説明の途中、亜樹子は何かを言いかけて口をつぐんだ。

その訳を知っている二人は、亜樹子の言いかけたことに対して頷く。

 

「所長サン…?」

「死んだ人間は還らない………それは漣ちゃんもよく理解している事実だ。スマイルメモリが見せるのは、あくまで『対象者が幸福だと感じる過去』だけだ。現実ではない」

 

すると、今度は翔太郎が質問を投げかける。

 

「精神に働きかけて、強い暗示をかける特殊系なメモリって訳か………。しかし、俺と漣が遭遇したあのドーパントは、ジャグリングのボールみたいなのを投げつけて爆撃しようとしたぜ?そこん所はどういう事なんだ?フィリップ」

「その事についてなんだが………一つ、とんでもないカラクリが判明したよ」

 

本のページを捲りながら、フィリップは表情を険しくした。

 

 

「翔太郎。君たちが遭遇した、スマイル・ドーパントから投げつけられた物……それはただの爆弾ではない」

「えっ!?」

 

「スマイル・ドーパントは、標的とした人間に球状のエネルギーを当てたり触れさせることで対象者の記憶を読み取り、模写している。記憶を読み取ったボールをドーパントが持ち続ける限り、対象者は永遠に幸福な記憶の中に浸り続ける……覚めない夢の中で眠り続けるかのように」

 

「なんだって………!?」

「しかも、写し取った記憶に対する想いや執着心が強いほど、読み取ったボールを攻撃に転用した時の威力が強まるそうだ。しかし……」

 

 

「ボールに内包された記憶も一緒に破壊されてしまう。その影響は、コピー元になった対象者自身の記憶も例外ではない」

「ッ!!!」

 

フィリップの読み解いた、スマイルメモリがもたらす怖ろしい副作用に翔太郎たちは戦慄した。

 

 

「ドーパントが……白川さんたちの記憶を壊したってのか………!?」

 

 




どんどん、どんどん…

狂っていきますぜ!!

次回、翔太郎たちはどう動く!?


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12話 : Sとの邂逅/半熟野郎(ハーフボイルド)

思った以上の長期化に、まず謝罪をm(_ _;)m


『風都艦隊』第1集、折返しで御座います!


南風原(はえばる)町……

風都内の小さな地域の通りで、またも惨殺死体が発見された。

 

 

「くっ………!」

 

帽子を目深に被り、悔しげに歯を食いしばる翔太郎であったが、今は犠牲を出したことを悔やんでいる暇は無い。

これ以上の犠牲を増やさぬためにも、一刻も早くスマイル・ドーパントを見つけ出し、撃破せねば。

 

 

(よくよく考えたら、刃さんたちが動いている時点で察するべきだった……。ガイアメモリの犯罪を専門的に扱う筈の《超常犯罪捜査課》が、普通の殺人事件を調べる訳が無いんだ………)

 

状況を整理しつつ、翔太郎は新たに発生した殺人事件の事をフィリップにケータイで報告した。

 

 

『また“笑顔の死体”が発見されたか……。被害者の身元は判っているのかい?』

 

「ああ……被害者の名前は《栄山英介(さかえやまえいすけ)》。南風原町に住む、サラリーマンの34歳だ……」

 

 

 

「南風原町……最初に通報のあった木枯坂(こがらしざか)とは真逆の方角だね。となると、犯人の目的は怨恨ではなくメモリの毒素による破壊衝動からくる無差別殺人ということになる……。遺体の“表情”は、やはり?」

 

フィリップの質問に対し、翔太郎はああ、と肯定した。

 

「笑っていたよ………幸せそうに、な……」

 

笑って死を迎える………

それは、人が凡そ望む人生の終え方であろう。

 

だが、罪深き者によって殺され、その上で笑みを浮かべながら死を遂げる事ほど怖ろしく、哀しいものは無い。

 

望まぬ形で命を終えた被害者たちの無念を、我が事のように悔やむ相棒に対し、フィリップは言葉を続けた。

 

 

「……翔太郎。現時点での僕の推理を言おう」

 

 

 

「スマイルは白川志穂理だ」

 

「…………」

 

 

フィリップの推理を、翔太郎は黙って耳を傾けた。

 

「母である小百合さんの話によれば、彼女は父の白川成一を深く愛していた。しかし、それ故に最愛の父親を喪ったという事実に対する絶望感と現実からの逃避、そして埋めようのない喪失感が彼女の心を病ませてしまい……ガイアメモリに手を出す結果となった。そして、メモリの毒素に精神を侵されたために、幸せそうな人間を手当たり次第に襲い始めた………」

 

 

そう推理するフィリップに対し、翔太郎は一言。

 

「俺も………同じ推理だ。現時点では……」

 

しかし……その言葉はどうも歯切れが良くない。

フィリップはそれを瞬時に見抜いた。

 

「言葉の歯切れが良くない。君がそういう口調になる時は、まだ何かしら引っかかるんだろう?」

「ああ……、それが何なのかは、これから解き明かして見せる!」

 

そう言うと、翔太郎はケータイの通話を切り、捜査に戻るのだった。

 

 

「……やれやれ。我が相棒はどこまでも優しすぎる……。それが彼の魅力であり、同時に弱点でもある訳だが………。今回は、一筋縄ではいかなそうだね………」

 

 

そう呟きながら、フィリップはホワイトボードに情報のメモを書き留めていくのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……ハァ〜〜…」

 

フィリップとの連絡を終えてから、約1時間半。

一向に手がかりが掴めず、翔太郎は捜査が行き詰まってしまった。

 

「ドーパントの手がかりどころか、依頼人まで姿を眩ましちまうなんて………。何がどうなってんだ?」

 

行きつけのカフェで椅子にもたれ掛かり、帽子で顔を伏せて凹んでいたその時。

 

 

「ご主人様、大丈夫?」

「!」

 

漣がひょっこり現れ、翔太郎の向かい側に座る。

 

「お仕事の方、だいぶ行き詰まってるみたいですな」

「ん……まあな」

 

モンブランとコーヒーを二人分注文して、翔太郎は一旦頭を休めることにした。

 

「小説とかドラマを見てて、探偵の苦労みたいなのはある程度知ってたつもりだけど……実際の探偵さんは、冗談抜きで体力勝負なのね?」

「そうだな……時には、この前みたいに命懸けな仕事を受ける場合もある」

 

そう返す翔太郎を、漣は励ましの言葉をかける。

 

「大丈夫!ご主人様みたいな、カッコ悪いけどカッコいい男はそうそう居ないもん!ちゃちゃっと事件を解決しちまえば……」

「…………」

 

「……ご主人様?」

 

 

「……俺は…カッコよくなんかねえよ」

 

そう呟いた翔太郎は、悲しげで頼り無さげな顔をしていた。




次回……「Sとの邂逅/街の切り札」

翔太郎の弱音を漣が受け止めます。




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13話 : S との邂逅/街の切り札

一目で惚れた。

その佇まい、仕草…そして、強さと優しさを兼ね備えた眼差しとでっけえ背中……あの人の全てに憧れた。

あの人みたいになりたい。
どんな障害にも、困難や苦境にも負けない。

そんな男に、俺も―――


「俺は……カッコよくなんかねえよ」

 

 

翔太郎の発言に、漣はポカンとなる。

構わず、翔太郎は続けた。

 

「俺の台詞は……大体が師匠であるおやっさんの受け売りだ」

「ご主人様の……お師匠」

 

「ああ。探偵助手をやっていた頃……いや、ガキの頃初めて見た時からの憧れだった。俺もいつか、おやっさんみたいにみんなから頼られる街の切り札になるんだ……って…」

 

そこまで言いかけると、翔太郎は悔しそうに表情を歪めた。

 

「けど、まだ足りてねえ……。俺はまだ、おやっさんの背中に一歩も近付けてねえんだ………。その結果が、この体たらくって訳さ」

「ご主人様………」

 

 

この時、漣は己の翔太郎に対する無知さと認識の誤り、そして考えの甘さを強く恥じた。

 

自分が見てきた人間は、敬愛する沼田統也を(おとし)めた屑提督や大本営の権力者に限らず、己の欲求や利益を優先し、他者を傷つけることに何の罪悪感も抱かない者たちばかりだった。

ならばと、漣も無意識のうちに利益や見返りを求めるようになってしまっていた。

 

 

だが、目の前の彼はどうだ?

 

仕事とはいえ、最悪人から恨まれかねないような役目を引き受け続けている。

しかも、仕事に対して過剰な見返りも利益も求めない。

 

依頼人の悩みを聞き入れ、解決するために駆け回る―――行動原理は、至ってシンプルだ。

 

 

「ご主人様……」

 

しかし……そのために、いったいどれ程傷付いてきたのだろうと思う。

損をするばかりで、苦労が報われなかったことも少なからずあった筈だ。

 

そう考えると、漣は再び、翔太郎に統也の面影を重ねずにはいられなかった。

 

「……ねえ、ご主人様。こんな言い方すると、怒られるかもしんないけどさ?私……」

 

 

漣が言いかけた、その時。

 

 

 

「見ぃ〜つけたぁ………」

 

「!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

翔太郎と漣の前に、一人の男が現れた。

 

「コイツ………!!」

「知ってるのか?漣」

 

翔太郎の問いかけに、漣は頷く。

 

瀬尾島啓太(せおじまけいた)……漣たちの前提督(ご主人様)を奪った、大本営一派の回し者よ!」

 

「ハッハハ!兵器がいっちょ前に人間振ってんじゃねえよ?つか…お前みてーなちんちくりんが、なんでこの街に居やがる?」

 

憎悪の眼差しを向けられながらも、瀬尾島は下品な笑い声をあげながら漣を罵倒する。

 

「それはこっちの台詞だよ!お前みたいな奴が、なんでこの街に…あぅっ!?」

 

それでも負けずに問い詰める漣だったが、瀬尾島は不快そうな顔で漣を平手で殴り倒した。

 

「漣!!」

 

「此処は俺の地元だ……俺の街に、俺が何処に居ようが俺の勝手だろうが!!ガラクタごときが、人間サマに意見してんじゃねえよ…あぁん?」

 

漣を気にかける翔太郎を他所に、瀬尾島は漣に歩み寄る。

 

「大体、テメェんとこのパパラッチブスが後任の提督の事を密告(チク)ったせいで、俺らまで巻き添え食ったんだぞ?それについて謝罪も無しとか…調子こいてんじゃねえぞ!」

 

漣の腹を蹴り、瀬尾島は下らない不満をぶつける。

 

「ここまで人間サマをバカにした罪は重いぞ?本当なら、テメェじゃなくてあのクソパパラッチが良かったんだが……そうだなぁ、ロリコンの豚どもに売りつけて、腰振りのダンサーにでも―――」

 

「おい」

「――あ?」

 

 

翔太郎に声を掛けられ、振り向いた瞬間―――気付いた時には、瀬尾島の顔面に翔太郎の右ストレートが飛び込んでおり。

 

瀬尾島は石畳に叩きつけられていた。

 

「ぐぁっ…かは!?で…デメ゛ェ゛……!!」

綺麗に入ったためか、顔を押さえている瀬尾島の指の隙間からは鼻血が止めどなく溢れていた。

 

 

「大丈夫か?漣」

「ご、主人…さま……」

 

殴られた漣の頬に触れる、その手は暖かく。

安心したのか、漣は涙を溢れさせた。

 

「すまねえ………ヤツの手が早かったから…なんて、言い訳にもなりゃしねえな………腹の方も大丈夫か?だいぶ蹴られただろ?」

「うん……まだちょっと痛いけど、最初よりはマシかな……。ご主人様が手を握ってくれたからかも。アリガト…」

 

そう言って感謝の気持ちを伝えると、漣の頭を翔太郎の手が優しく撫でた。

 

 

「ちょっと待ってな。すぐに終わらせるからよ……」

 

漣にそっと微笑みかけた翔太郎の眼は、瀬尾島の方へ振り向いた途端に鋭い視線を投げかける。

 

「な、何のマネだ?テメェ……まさか、そのガラクタを庇うつもりかよっ!?」

 

 

漣を―――艦娘を卑下する、醜い言葉で翔太郎を罵る瀬尾島に対し、翔太郎は静かに反論した。

 

 

「何のマネか……それはこっちの台詞だぜ。こんなにもか弱い……優しい女の子を平気で傷つけて……その上、街まで泣かせたんだぞ。恥ずかしくねえのか!」

「な…なに言って……」

 

「それともう一つ……テメェは大きな勘違いをしているぜ。『お前の』じゃなくて、『俺たちの』街だ!俺だってこの街で生まれ、育った人間だ。だが、だからこそ街に住む人たちへの尊敬や『街に住まわせてもらってる』ことへの感謝を忘れたことは一度もねえ!テメェみたいな、自分のことしか考えねえ悪党が街を泣かせることを…俺は絶対に許さねえ!!街で生きている……艦娘を受け入れる理由なんざ、それだけで充分だ!」

 

 

「ハッ……だったら、仲良くくたばれや!リア充がッ!!」

 

 

そう吐き捨てると、瀬尾島はズボンから1本の禍々しいメモリスティックを取り出した。

 

「!!ご主人様、あれって………!!?」

「なるほどな………そういう事か」

 

 

《ハイエナ!》

 

瀬尾島が手にしたメモリスティック――ガイアメモリのスイッチが押され、瀬尾島は自身の左前腕部に刻まれた、黒いコネクタの様な模様にメモリを突き刺した。

 

 

すると、瀬尾島の身体はブチ模様の毛皮に覆われていき、ハイエナの様な獣人の怪物に変わった。

 

「怪物……ドーパントに、なった………!?」

 

怯える漣に、翔太郎は手を伸ばして庇う態勢を取る。

 

「心配するな、漣。これ以上奴の好きにはさせねえ。お前も、この街も……俺が絶対に守ってみせる」

 

 

いや……

 

「“俺たち”が……な」

 

そう言うと、翔太郎はジャケットの内ポケットから2つのスロットが備わった大型の端末を取り出し、腹部に充てがった。

 

端末・ダブルドライバーからベルトが伸び、翔太郎の腰に装着された。

 

 

そして、懐に忍ばせていた「漆黒のガイアメモリ」を取り出すと、翔太郎はメモリのスイッチを入れた。

 

 

《ジョーカー!》

 

「行くぜ?フィリップ!」

 

 

 

―――同じ頃、鳴海探偵事務所の地下ガレージ。

 

フィリップの腰に、翔太郎が身に着けたものと同型のドライバーが装着された。

 

 

「了解だ、翔太郎」

 

その場に居ない筈の、翔太郎の呼びかけに応え、フィリップも「緑のガイアメモリ」を取り出した。

 

 

《サイクロン!》

 

 

 

2つのメモリ、そして2人の人間を1つのドライバーが繋ぎ、1つの意思を形にする合言葉(キーワード)が発せられた。

 

 

「変身!」/「変身!」

 

 

 

まず、フィリップが右のスロットにメモリをセット。

すると、メモリは転送され、同時にフィリップは昏倒する。

 

 

「ほいっ!」

 

そこへ、待ち構えていた亜樹子がフィリップの身体を抱き止める。

 

「ふぃー……」

 

 

 

そして。

 

翔太郎の装着したダブルドライバーの右側のスロットに、フィリップの刺したメモリが転送されてきて、翔太郎が改めてこれをセット。さらに、自身のメモリも左側のスロットにセットして、ドライバーは2本のガイアメモリを刺した状態となった。

 

「ご主人様、なにを!?」

 

 

漣が問う暇も無く、翔太郎はダブルドライバーのスロットを展開。「W」の形にした。

 

 

《サイクロン!/ジョーカー!》

 

 

 

力強い“地球の声”に身を委ねるかのように。

 

「探偵」左 翔太郎の姿は、緑と黒の“超人”へと変わった。




ずっと、ずっと書きたかった場面その2が完成しましたっ!!


次回、彼らの闘いが始まります!!


これで決まりだ!!


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14話 : Sとの邂逅/2色のハンカチ

エコロジー都市《風都》。
常に心地好い風が吹き、街の至る所で風車が回っている。
街に住む人々は『我が街』を愛し、街に生きている。

……だが、究極の理想都市とも言えるこの地で、奇妙な犯罪が横行していた。


《ガイアメモリ》―――『地球(ほし)の記憶』を内包した、特殊なUSBメモリを身体に刺すことで、人はドーパントと呼ばれる超人になるのだという。

ドーパントたちが起こす超常犯罪を前に、警察は無力に等しかった。

陰謀に満ちたこの街で、悲しみを解き放てるのは彼らしか居ない!


『左 翔太郎』
ハードボイルドを標榜する半熟野郎(ハーフボイルド)

『フィリップ』
地球(ほし)の本棚』に入り、様々な情報を閲覧・引き出すことの出来る、謎多き魔少年。


彼らはふたりで1人の探偵コンビ。
運命の街・風都とそこに生きる人々を守るため、数々の怪事件に挑む!


彼らは、《ふたりで一人の仮面ライダー》なのだ!!


「ご主人様……?」

 

『テ…テメェは……!?』

 

風が吹き、風車が回る。

 

その中心に立つのは、緑の右半身と黒の左半身を持つ一人の超人。

 

漣や目の前の怪物――ハイエナ・ドーパントは、驚きを隠せない。

 

「……仮面ライダーW!」

 

 

クールな仕草でドーパントを指差し、仮面ライダーWは宣告した。

 

 

「『さあ、お前の罪を数えろ!」』

 

 

======================

 

 

 

 

漣は、目の前の光景から目を離せずにいた。

 

一方は、かつて自分の敬愛する提督を奪った悪党の一人が姿を変えたハイエナの怪物。

もう一方は、行き場を失くした自分を受け入れると言ってくれた優しい探偵が変わった、緑と黒のツートンカラーの超人。

 

右肩から伸びる、その白銀のマフラーと背中を見て、漣はハッとなる。

 

 

(同じだ………夢に出てきた、マフラーを靡かせた影と同じだ!)

 

 

 

『グゥ…!コノ、チョロチョロしてんじゃねえぞッ!!』

 

 

数発のパンチと膝蹴りをテンポ良く繰り出し、怯んだところへすかさず風を纏わせた右脚の回し蹴りがハイエナ・ドーパントを捉える。

しかも、時折攻撃の手を止め、様子を伺う仕草を見せる為、ハイエナ・ドーパントには挑発されているように感じていた。

 

 

『サバンナの掃除屋、ハイエナのメモリか……なるほど』

 

ハイエナ・ドーパントの攻撃を往なしながら、フィリップは得心がいったような物言いをする。

 

「『検索』で何か判ったのか?相棒」

 

翔太郎の問いかけに、フィリップは肯定の意を示した。

 

 

『ああ。そして、この情報は君の推理とも一致する………そう断言しよう』

「そうかい。なら……」

 

 

「『一気にカタを付ける!!」』

 

『何をブツクサとォオッ!!』

 

Wとして一体化している、翔太郎とフィリップの会話に、馬鹿にされていると見なしたハイエナ・ドーパントは、怒りと本能のままに暴れ始めた。

 

 

「おっと!?」

『動物タイプのメモリとは言え、予想外の戦闘力だ。恐らく、適合率が上昇しているんだろう』

「なら早いとこ片付けねえと、それこそ取り返しのつかねえ事に………っ!」

 

 

ハイエナ・ドーパントの動きの違和感に、翔太郎が気付いた時には既に遅かった。

 

『そらっ!』

「うおっ!?」

 

ハイエナ・ドーパントは持ち前の身軽さで跳び上がると、口から吐瀉物の様な塊を吐き出し、Wの足に付着させる。

 

すると、それはみるみる硬質化し、Wの足を固めてしまった。

 

「こいつは……!」

 

『そいつは固まったが最後、簡単には壊せねえぜ。人をコケにした罰が当たったな、クソが!』

 

勝ち誇ったように笑いながら、ハイエナ・ドーパントは漣の方へ振り向く。

 

『翔太郎、この攻撃はメモリの使用者に強烈な空腹感を発生させる!』

「なに!?まさか、ヤツは漣を……!!」

 

『そうさ。この際だから食うことにした……その後は、テメェも食ってやるけどな』

 

「ひぅ……!!」

 

怯え、固まってしまって漣にゆっくりと近付こうとするハイエナ・ドーパントだったが。

 

 

「大丈夫だ、漣!!お前は絶対に死なせねえ、俺を信じろ!!」

 

「ご主人様……!」

『ハッ!動けねえ奴が、何をわめいて……!?』

 

 

ハイエナ・ドーパントが驚いた、その理由は2つ。

1つは自分の体が急に動かなくなった事。

 

 

もう1つは、Wの色が「半分」変わっていて、緑が黄色になっているだけでなく、右腕が伸びて自身の身体に巻き付いていたのである。

 

 

《ルナ!/ジョーカー!》

 

 

『翔太郎、一つ訂正をしてもらおう。「俺を」ではなく「俺たちを」と複数形であるべきだ。違うかい?』

「へっ……そうだった、なっ!!」

 

 

ハイエナ・ドーパントを拘束したまま、Wは右腕を振り回し、ハイエナ・ドーパントを地面に叩きつけまくる。

 

 

『ぐっ……ぇが……ぁぐ……!』

 

だいぶ打ちのめされた為か、ハイエナ・ドーパントは意識が朦朧とし始めていた。

 

当然、このチャンスを逃す手は無い。

 

 

『翔太郎、このままメモリブレイクといこう』

「オーケー。ならこれで決まりだ!」

 

右サイドのメモリを、ルナメモリからサイクロンメモリに戻し、再び緑と黒の姿・サイクロンジョーカーとなる。

 

 

続けて、Wはジョーカーメモリを抜き、右腰のスロットにセットした。

 

 

《ジョーカー・マキシマムドライブ!!》

 

 

メモリの力を全開にして、Wは風に包まれる。

風の力によってハイエナ・ドーパントの吐瀉物は砕け散り、Wはそのまま空高く浮かび上がる。

 

 

そして

 

 

「『ジョーカーエクストリーム!!」』

 

 

空中で一回転。

両脚を揃えて急降下すると同時に、Wの身体が左右に分かれ、左サイド、右サイドの順に2段キックを繰り出した。

 

 

『うぐっぅ!?うが…あぁああああああぁぁあっ!!!!?』

 

 

Wの攻撃に耐えきれなくなり、ハイエナ・ドーパントは爆発。

 

 

「きゃっ!?……あっ!」

 

 

Wが着地し、瀬尾島が倒れたその直後。

 

バラバラに砕けたハイエナメモリの破片が散らばった。

 

 

「…………」

 

 

とんでもない出来事が立て続けに起こり、理解する暇も無かったために言葉を失った漣は、静かに佇む超人の姿を黙って見つめることしか出来なかった。




W、まずは1体撃破しました。
『風都艦隊』第1章、もうじきクライマックスです!


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15話 : Sとの邂逅/空っぽの笑顔

本作のUAが13000を突破!
お気に入り登録者数が90名越え!!

皆さん、ありがとうございます!!

Aパートの『着任先』も、UA53000越えてお気に入り登録数も260名を突破しました……

もう、ホントに嬉し泣きしか出来ねえです……!!(`;ω;´)


スマイル・ドーパントの捜査中、漣が慕っていた提督を陥れ、その報復を受けたことを逆恨みした元海軍司令部職員・瀬尾島啓太(任官当時:曹長)の奇襲を受けた翔太郎と漣。

 

しかし、ハイエナ・ドーパントと化した瀬尾島を迎え撃つべく、翔太郎は漣の前で『仮面ライダーW』に変身。

見事これを撃破し、メモリブレイクも成功。

通報を受けた、超常犯罪捜査課の警官たちによって連行されていったのであった。

 

 

「ご主人様…今のって……」

「あー……悪いな、漣。これは一般には秘密なんだ。出来れば、他の人には言わないで欲しい。頼む!」

 

 

両手を合わせ、頼み込む翔太郎。

 

「そ、それは良いですけど………!漣が聞きたいのは、瀬尾島の奴がガイアメモリを出したとき『なるほど、そういうことか……』とか言って、独り納得してた理由ですぅ!!」

「へっ?……ああ、その事か」

 

(わり)ぃ悪ぃと、軽く苦笑いしながら謝ると

 

 

「……出てこいよ。お前が手を出す様な被害は出ちゃいねえぜ?」

 

 

人が居ない筈の物陰に向かって、翔太郎は呼びかけた。

 

 

やがて……

 

『………う…ぁ………』

 

「アレは……この前のヤツ!?」

 

 

翔太郎と漣に襲いかかった、スマイル・ドーパントが姿を現した。

 

………しかし、何処か様子がおかしい。

弱っているのか、足もどこか覚束無(おぼつかな)い。

 

「ご主人様!早く逃げないと……!!」

「いや……逃げる必要はねえ」

 

 

翔太郎の言葉に疑問を抱いた、その時。

 

スマイル・ドーパントが倒れ、メモリが排出された。

 

「えっ………!?」

 

その正体は、フィリップが当初推理していた通り、白川志穂理だった。

 

 

 

 

「う…そ……。なんで………」

「漣……お前になら分かるな?()()()()()()()()()()()

 

 

目の前で倒れている少女の下へ、漣は震えながら歩み寄っていく。

 

 

「ゆぅだっちゃん………。夕立ちゃああぁぁぁあんッッッ!!!!!!」

 

 

間違える筈が無い。

 

目の前の彼女は

 

 

自分と同じ、元・赤塚鎮守府所属の“艦娘”。

 

 

白露型駆逐艦《夕立(ゆうだち)》だった………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

スマイル・ドーパントの正体は『白川志穂理』ではなかった―――。

 

当初の依頼……『白川成一の捜索』と『死去して還ってこない筈の捜索対象が見つかった』という大きな矛盾。

これらを結びつける手掛かりがあると思われた、依頼人『白川小百合』と白川成一の娘である志穂理……彼女こそがスマイル・ドーパントの正体であり、『笑顔の死体』を生み出している元凶かと思われたが、彼女を目の当たりにした漣の反応から、その推理は外れた。

 

しかし……同時に、微かに浮上していた可能性が確信に変わった。

 

 

 

風都警察病院 03:38 p.m.

 

酷く衰弱していた為、白川志穂理改め『白露型艦娘・夕立』は警察病院へ搬送されることとなった。

 

 

それと時を同じくして、フィリップは翔太郎と共に戻ってきた漣の了解を得た後、『本当の白川志穂理』について検索を開始した。

 

 

「検索の結果が出たよ。本物の白川志穂理の行方についてだが……残念ながら、彼女も既に亡くなっているようだ」

「そうか……」

「そんな……じゃあ、あの娘は志穂理ちゃんに成り済まして小百合さんに近付いたってこと?」

 

「ゆうだっちゃんは、そんな悪どい考えで人に接したりしないです」

 

亜樹子の質問に対し、漣はキッパリと答えた。

 

「私の前の前のご主人様……沼田統也中将との『人に優しくできる娘になりなさい』っていう約束を守り続けてたゆうだっちゃん……夕立が、そんな事する訳がありません!」

 

その眼差しは力強く、微塵も疑いはしない決意に満ち溢れていた。

 

「漣ちゃん……しかし」

 

フィリップが反論しようとした時。

翔太郎がフィリップを制した。

 

 

「漣……俺も信じるぜ。お前が信じる、あの娘の心をな」

「ご主人様………ありがとう!」

 

翔太郎の言葉で、少しだけ元気を取り戻した漣の笑顔を見て、翔太郎は安心する。

 

「さてと。俺はもう一度聴き込みをしてみる。フィリップはいつでも検索出来るようにスタンバっててくれ!亜樹子は万が一に備えて、照井に連絡を!あー、それとだな……」

「ん、分かってる。夕立ちゃんと漣ちゃんについてはまだ秘密…でしょ?」

「さすが」

 

 

翔太郎の指示に対し、フィリップが頷き、亜樹子が了解した時。漣はキョトンとした。

 

「え?所長サン、ご主人様。今のってどおゆう?」

「あー…そうだった。漣にはまだ言ってなかったな。亜樹子の旦那、この街の警察なんだよ」

 

「うん。あっ!でもだいじょーぶ!仕事はちゃんと仕事として分けてるんで。依頼人やワケありさんのプライベートや秘密はキチンと守りますよ?」

 

「……ま、そーゆーこった」

 

そう言うと、翔太郎がバイクに跨り、出発しようとした時。

 

「待って!ご主人様、漣も一緒に行きたい!」

「えっ……!?いや、しかしだな……」

 

まさかの申し出に戸惑う翔太郎だったが、漣の意思は強かった。

 

「ゆうだっちゃんがこんな事になっちゃった原因は、漣にも関係してる事だと思うの!逃げずに向き合わなきゃ……艦娘として、ゆうだっちゃんの友だちとして戦わなきゃ、沼田提督(ご主人様)が安心して眠れない!だからお願い、ご主人様!漣にも戦わせてッ!!」

 

 

その目と言葉に、翔太郎は胸が熱くなるのを感じた。

彼女がここまで尊敬する、前提督の人望の厚さと指揮官としての優秀さ・偉大さに敬意を。そして、漣と会わせてくれた事への感謝の念を抱いた。

 

 

「……分かった。でも、ヤバくなったらその時は絶対に俺の指示に従ってもらうぜ?じゃなきゃ、俺がお前の元司令官に殺されちまうからな」

「ニシシ♪ご主人様の性格上、半熟丼の甘さは許容範囲だと思われますよ〜」

「なんだそりゃ……まっいいか。さあ、行くぜ?」

「ラジャスタン!」

 

 

フィリップから予備のヘルメットを借り、漣はそれを被ると翔太郎の後ろに乗り、しっかりと掴まった。

 

「よし……ちょっと飛ばすぜ?」

「ん!」

 

 

スロットルを回し、翔太郎は漣を乗せて出発した。




風都艦隊第1章、もうちょい続きます(^_^;)


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16話 : Sとの邂逅/笑顔の徘徊者

スマイル・ドーパントの真実……今こそ、解き明かしましょう。

ハンカチを手に取るか、壁を殴るか……
判断は、皆様にお任せしますです。


スマイルメモリを所持し、ドーパントとなっていたのは依頼人の娘である『白川志穂理』だった。

 

しかし……彼女は既に亡くなっており、翔太郎たちが出会った彼女の正体は夕立という『艦娘』だった。

 

 

そして、それらの情報や更なる聞き込みの末。

『笑顔の死体』が発見された現場で、スマイル・ドーパントが現れる前にハイエナ・ドーパントと思しき怪物の姿が目撃されていた事が判明した。

 

 

 

「此処が、その怪物が最初に目撃された現場か……」

「そーそー!夜遅く、残業帰りのサラリーマンが帰り路を急いでる所へ、ブチ模様の野獣が襲いかかり!噛みつきまくって死に至らしめたってゆーハナシ!」

 

ちなみに、今回情報を提供し、現場付近へ案内してくれたのはウォッチャマン。

独特な雰囲気と口調の変わり者だが、ブロガーとしての情報収集スキルは本物で、翔太郎が頼りにしている情報屋チーム『風都イレギュラーズ』のメンバーの一人でもある。

 

「ウォッチャマン氏!最近の特ダネは何ぞ?」

「オォ〜!(さざなっ)ちゃん、食い付きがイイね〜!ボキが最近注目してるヤツなんだけど、『未確認生命体事件』って知ってる?10年以上前に関東地方を中心に起きた事件があるんだけど……」

「フムフム」

 

2人の楽しそうな雰囲気から、これなら風都イレギュラーズのみんなとも上手くやっていけるなと翔太郎は安心した。

 

 

「ウォッチャマン。その野獣が去った後に、何か他に怪しい影が現れた…みたいな情報はねえかな?」

「野獣以外の怪物?ん〜……あっ!あったよ、ウン!あったよその情報!なんかね、ピエロみたいな格好してたとか……」

 

と、ウォッチャマンが最後まで言い終わらぬ内に、翔太郎はウォッチャマンのシャツの胸ポケットに、情報料として1万円札を突っ込んだ。

 

「サンキュー、流石の情報網だ。帰って、コイツで美味いもんでも買って食ってくれや。漣、行くぞ!」

「あっ、ほーい!」

 

 

翔太郎の専用バイク《ハードボイルダー》に跨ると、翔太郎は漣が後ろに乗ったことを確認し、スロットルを吹かして出発した。

 

「ご主人様!次は何処へ行くの?」

 

漣の問いかけに、翔太郎は答えた。

 

 

「スマイルメモリ本来の所有者の所へだ!」

「えっ!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕凪町 白川邸宅 04:46 p.m.

 

 

依頼を受けた際、連絡先を交換していた為、白川邸に着くのに然程時間は掛からなかった。

 

「ご主人様…此処って……」

 

漣は問いかけるも、翔太郎は何も答えずにチャイムを鳴らした。

 

 

 

程無くして、小百合が玄関を開けて出迎えた。

 

「………。そろそろ、来る頃だと思っていました」

 

その表情は、初めて会った時と変わらず、暗く沈んだ様子だった。

 

しかし……翔太郎の目には、それが示す意味を別の物として見ていた。

 

 

「ご主人様……?」

 

やがて、翔太郎は口を開いた。

 

 

「白川小百合さん……あんたは依頼人には違いないが、それと同時に罪を数えるべき人でもある……この言葉の意味が判るな?」

 

「えっ……!?」

 

翔太郎のとんでもない発言に対し、驚きを隠せない漣。

そこへ追い打ちをかけるように、小百合は小さく頷いた。

 

 

「左さんの仰る通り………『スマイル』のメモリを購入し、使おうとしたのはこの私です」

 

「使おうと…した?」

 

小百合の言っている意味が分からず、漣は頭の中が混乱し始める。

 

 

それに対し、翔太郎は努めて冷静だった。

 

 

「……話していただけますね?なぜガイアメモリを、彼女……艦娘・夕立に使わせたのか。いや……使わせてしまったのか………」

 

その問いかけに、小百合は重い口を開く。

 

 

 

 

「主人が亡くなって、娘と二人だけになった時……私は、まだどうにか心を支える気力がありました。志穂理も、私を支えようと懸命に尽くしてくれて……。それだけに、あんな事が起こるなんて娘共々思いもしませんでした」

 

 

「2ヶ月前の……ひき逃げ事件ですね?それが、貴女の心を壊した」

 

翔太郎の言葉に、小百合は頷く。

 

「ひき逃げって……酷い……!!」

 

凄絶な過去に、漣も声を洩らす。

 

 

「主人を喪い……唯一の支えであった娘までも喪ってしまった私に、生きる意味なんか無い……思い切って、二人の待つあの世へ行ってしまおうかと考えていたある日、(くだん)のメモリの売人と出会いました」

 

「幸い、遺産とは別にいくらか預金を持っていましたから、購入その物は簡単でした。これで、覚めない夢に浸りながら終わろう……そう、するつもりでした。私の前に、あの子が現れるまでは」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

スマイルメモリを購入し、幸せな夢に浸る快楽を得たことで、メモリの力に取り憑かれていた頃。

 

私は、家族でよく遊びに来ていた、凪咲(なぎさ)海岸で、倒れている一人の女の子を見つけました。

 

「………えっ!?志穂…理……!?」

 

 

それがあの子……艦娘・夕立との出会いでした。

あまりに娘とそっくりだったので、最初は夢でも見ているような気持ちでした。

 

ですが、それはメモリによるまやかしであり、娘も夫も帰ってこないと自分に言い聞かせて、彼女を保護しました。

幸い、怪我も特に無かったので、すぐ意識を取り戻しました。

 

 

すると、私はこう思い至りました。

 

 

『あの子は志穂理によく似ている。ひょっとしたら、志穂理として迎えられないかしら』と………。

 

 

 

 

それから、小百合はスマイルメモリを使い、夕立を『自分の娘・志穂理』として記憶を書き換えようとした。

 

だが、この時小百合は忘れていた。

 

スマイルメモリが見せるのは、あくまで球体《スマイルボール》に触れ、記憶を読み取った相手の《その人が笑顔になれる瞬間》のみ。メモリの使用者が都合良く記憶を書き換えられる訳ではない。

 

 

だが……精神的に不安定だった小百合は、家族を求めるあまり、そこまで考えが至らなかった。

 

 

メモリを手にした小百合を夕立は警戒し、メモリを使おうとした小百合を止めにかかった。

 

それから二人はもみ合いになり、小百合は夕立を払い除けようと、強く突き飛ばした。

 

 

………その時。

 

夕立の首筋に、スマイルメモリが刺さってしまったのだ。

 

 

生体コネクタを持たぬまま、ガイアメモリを直に刺したものがドーパントになれば、その強い毒素に耐えられず、適正値の低い者はその場で死に至ることもある。

 

 

そうならずに済んだのは、夕立が艦娘という特殊な存在であった事が一つ。

もう一つは、夕立がスマイルメモリに対して高い適合性を持った艦娘だったからだ。

 

 

 

こうして、図らずも第2のスマイル・ドーパントが生まれ、その後街を徘徊するようになった。

 

 

そんな中、大本営より解雇処分を言い渡された瀬尾島がハイエナメモリを購入。無関係な住民たちにその力を振るうことでストレス発散していたのだが、ドーパント化し、街を徘徊していた夕立がハイエナ・ドーパントに襲われ、死にかけている人を発見。

 

苦しんでいるその姿を見て、『笑顔にしたい』欲求が芽生えたことで、スマイルボールを生成。

相手にボールを与え、対象者の幸福な記憶を蘇らせつつ、最期を看取った。

 

これが、翔太郎たちの推理した《笑顔の死体》が出来上がるまでの仕組みである。

 

 

「以上が、俺たちの推理だ……。小百合さん、訂正する箇所があるのなら遠慮なく言ってくれ……」

 

 

小百合は何も答えず、顔を両手で覆いながら泣き、震えていた。




次回……

仮面ライダーW『風都艦隊』第1集、完結です。


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17話 : Sとの邂逅/無期限の依頼

少女は夢を見た。

雲一つ無い、澄んだ夜空。

その中で浮かぶ、金色の満月……

そして、月光に映える銀色のマフラーが風に靡いているのが見えた。


―――その影は、不思議な姿をしていた。

右半身が鮮やかな緑で、マフラーは右肩から伸びている。

左半身は渋い黒で、月の光とのコントラストが美しいと思えた。


その影が見ているのは、巨大な風車が回る夜の街。


此処は……そうだ

私が流れ着いた……



―――少女の夢は、そこで途切れた。


スマイル・ドーパントとその秘密を巡る戦いは、ひっそりと終わりを告げた。

 

 

「…………」

 

 

タイプライターで報告書を作成する、鳴海探偵事務所の私立探偵・左 翔太郎。

 

事務所で独り作業をしつつ、彼は事件解決直後の一幕を回想していた…………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

スマイルメモリの本来の持ち主であり、たまたま遭遇し、保護した艦娘の夕立を、亡き娘として傍に置いていた依頼人の白川小百合……彼女は、翔太郎の推理によって暴かれた事の真相を全て認め、警察に連行されて行った。

 

パトカーに乗せられ、ドアの閉まる直前まで微かに聞こえていた「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい………」という小百合の謝罪が強く印象に残った。

 

 

「ご主人様……。ホントに良かったのかな、あのまま連れて行って……」

「確かに、彼女は犠牲者の一人には違いねえ。けどな……彼女は、一度失くしたら二度と還らない物を強く求め過ぎた。結果、夕立という一人の女の子を巻き込んで、苦しめちまった。それが、彼女が数えなきゃならない罪だと、俺は思う」

 

 

全ての謎を解き明かした直後、翔太郎は一度、小百合に自首するよう説得を試みた。

 

 

……しかし。やはりと言うべきか、他の例に漏れず、ガイアメモリの毒素にやられ、依存症に陥っていた彼女は、あろうことかメモリによる贖罪を懇願した。

 

 

『このメモリを使えば、他の皆さんを苦しみから開放出来るんです!お願いです…どうか、私に償いのチャンスを……!!』

『ダメだ!そんな事しても、あんたの罪を増やすだけだ!メモリをこっちに渡して、その後ちゃんと法に則った上で償いをしてくれ!!』

 

『いや……いや!いやあぁぁあっ!!!』

 

 

それまで大人しかった雰囲気はかき消えてしまい、小百合は狂ったように室内を逃げ惑う。

 

 

………その時。

 

 

「この………大バカ野郎ッ!!!」

 

 

小柄な体躯を活かし、小百合の死角に回り込んだ漣が、小百合の腕を掴み、背中に飛び乗って押さえ込んだ。

 

同時に、スマイルメモリは床に落ち、翔太郎が慌てて回収する。

 

 

「離して…!お願い、離してッ!!」

 

「小百合さん…いい加減、目ぇ覚ましなよ……!あんたがどんなに辛い想いをしたかは、大事な人を亡くしたことのある私にはイヤってほど分かる!分かるけど……亭主も娘さんも、もう帰ってこねーんだよ……いつまでも現実逃避してんじゃねえよッ!!」

 

「……っ…う…うぅ……ッ…!」

 

 

漣の強い喝に、小百合は涙を溢れさせ、抵抗する意思を失った。

 

 

 

それから、翔太郎は警察を呼び、小百合の身柄を引き渡したのだった………。

 

 

 

 

「………」

 

(確かに、幸せな夢や想い出に浸り続けられるなら、辛い想いを忘れるのに都合が良いかもしれない。……でも)

 

(その向き合わなくちゃいけない、辛い過去も引っくるめて、「今の自分」を形成しているのだと思えてならない)

 

 

「翔太郎くん。夕立ちゃん、意識が戻ったって」

「そうか。じゃあ、挨拶に行くか。漣、来るか?」

「モチコース!」

 

 

そして、翔太郎たちが警察病院に着くと……

 

 

「……ん?」

「あれって………あっ!曽根崎進!?」

 

亜樹子が驚き、指差した先に居たのは、艦娘及び深海棲艦の研究家、曽根崎進であった。

 

「ん?何です、あなた方は?」

 

あからさまに面倒臭そうな態度を取る曽根崎を見て、翔太郎は不快感を抱いた。

 

「…鳴海探偵事務所の左です」

「同じく、所長の鳴海亜樹子でぇす……」

 

亜樹子もその嫌な雰囲気を感じ取ったらしく、苦笑い混じりの愛想笑いをした。

 

 

「ご主人様……どちらさんッスか?アレ」

 

小声で尋ねる漣に、翔太郎も小声で返した。

 

「自称・艦娘と深海棲艦について研究してる評論家…だとよ」

 

 

評論家が警察病院に何用かと、翔太郎たちは不審がりながらも夕立の居る病室へと向かう

 

………が、しかし。

 

なんと、曽根崎と目的地が全く同じ、夕立の病室だったのである。

 

 

「はいぃ!?」

「ちょっと、私、聞いてないっ!」

 

動揺する亜樹子と漣を見て、「喧しい猿共め……」と小声で呟きながら、病室へと入ろうとした。

 

「おっと、待ちな。この先は訳ありの病人しかいないぜ?」

 

翔太郎が呼び止めるも、曽根崎は一言。

 

「艦娘が居ることぐらい、私が知らぬとでも?」

 

それだけを言うと、さっさと入った。

 

 

「っな?!ちょ、おまっ!!」

 

 

 

室内に入ると、夕立はちょうど目が覚めたのか上体を起こし、窓の外を眺めていた。

 

「おい、アンタ!面会の許可は取っ―――」

解体(スクラップに)する役立たず(ガラクタ)などに、言葉など要らん」

「―――ハ…?」

 

 

曽根崎の言葉に、翔太郎は目を見開いた。

亜樹子もポカンとしている。

 

「ガラクタ……だと…」

「武器も無い、整備もされていない。おまけにドーパントなどになっていただと?そんなモノに使い道など無いに決まっているだろう?さっさと解体して、次の兵器開発に資材を当てる方がよっぽど合理的だ」

 

 

淡々と、当たり前のように話す曽根崎の胸ぐらを掴み、翔太郎は詰め寄る。

 

「ちょ、ご主人様!?」

 

「撤回しろ……」

「何をだ?あと、その手を離せ」

「夕立に対して、人格を否定する物言いを撤回しろつってんだよ!!」

「オイ、この馬鹿を摘み出せ。あと、この私に対する無礼な態度の謝罪と賠償金を要求する」

「無視してんじゃねえッ!!!」

 

怒りを露わにした翔太郎を見て、曽根崎は呆れ顔をする。

 

「何を熱くなっている?艦娘を人間だとでも思っているのか?まったくめでたい奴だな……艦娘など、人の形をしているだけの兵器だろう?」

「テメェ……!!」

 

翔太郎が予感していた通り。

 

曽根崎は、艦娘を消耗品や兵器として見なす、『艦娘人格否定派』の人間であった。

 

 

いつになく、ハードボイルドらしからぬ激情に駆られ、翔太郎は曽根崎を殴り倒そうとした。

 

 

しかし……

 

 

「探偵さん。夕立は……気にしてないっぽい」

 

「!!」

 

 

そんな翔太郎を宥めたのは、あろうことか夕立だった。

 

「夕立は艦娘だから……特に気にしてないっぽい。ちょっとの間だったけど……私、人間になれて嬉しかったっぽい」

 

 

そう言って、明るく笑って見せた夕立の目には

 

ハッキリと涙が浮かんでいた。

 

 

「フン……さすが、兵器は物分りが良いな?さあ、バカな探偵気取り。その手を離せ、命令だ」

 

 

 

翔太郎が歯を食いしばりながら、手を離しかけた…次の瞬間。

 

 

「ごめぇえんくうださあぁぁいッ!!」

 

 

横から、第三者の左フックが飛んできて。

曽根崎の顔を殴り飛ばした。

 

「ぐあっふぇ!!?」

「っ!!?」

 

 

振るった拳を軽く振り、ポキポキと指を鳴らしながら、軍服姿をした一人の男が立っていた。

 

「ヨッス、自称・艦娘評論家さん。俺の顔、覚えてるよなぁ?忘れたとは言わせへんで」

 

 

「きっ……貴様…!!《謎》の……!?」

 

 

―――《謎の鎮守府》という通称で知られる、とある鎮守府の噂がある。

 

そこは、艦隊として優れた活躍をするのみならず、ブラック鎮守府をリストアップし、徹底的に駆除してまわる《影の艦隊》としての顔を持っていた。

 

そして、その《影の艦隊》リーダーであるのがこの男……『ヒィッツ=カラルド』中将(コードネーム)である。

 

 

「はいー、お勤めごくろーさんでした〜。あんなぁ、オタクについてちぃーっとばかし黒い話を聞いたもんやからね?軍警部まで同行してもらえる?」

「は……はぁあ!?人を殴り飛ばしておいて、謝罪も無し?挙げ句の果に、この私を容疑者扱いだと!?それを言うなら、あの探偵気取りが居るだろうがっ!!この私を誰だと思ってやがるっ!!」

 

喚く曽根崎に対し、ヒィッツは冷ややかな目で見ながら伝えた。

 

 

「元赤塚鎮守府の資金横領、大本営保守派との癒着……まだまだあるでぇ?」

 

その口から語られるのは、曽根崎がこれまで重ねてきたキャリアや自尊心の象徴を尽く破壊する『罪の山』。

 

 

「う…嘘だ……デタラメだ……!私は違う……私は…俺は…俺は違う……!!俺は違うッ!!!」

 

 

流れ出る冷や汗、震えの止まらない体。

 

 

膝から崩れ落ち、みっともない様子で逃げようとする。

 

 

その先には

 

 

「……ひっ!?」

 

赤いレザージャケットに赤いズボン、革のブーツでコーディネートした眼光鋭い男だった。

 

「だっ…誰だ、お前はぁ!?」

 

 

エリート公務員の面影は微塵も無く、小悪党の様に狼狽える曽根崎を、男―――照井 竜は静かに告げた。

 

 

「俺に質問をするな……!」

 

 

 

「ご主人様、あの人は?」

「ああ、亜樹子の旦那だよ。風都署・超常犯罪捜査課の警視《照井 竜》。この街で、最もガイアメモリ犯罪を憎む警察官さ」

 

翔太郎が軽く紹介するも、漣はふと気になる点を見つけた。

 

「ほえ?照井って……」

「あー、お父さんから継いだ事務所が通り名なんで、旧姓を名乗ってるんだ・け・どぉ…」

 

「あたし、戸籍上は照井亜樹子でぇー〜すっ!!」

愛する夫へのラブラブオーラを振り撒きながら、漣に紹介する亜樹子。

しかし、そんな妻のノリをクールに流しつつ、照井は仕事をこなす。

 

「曽根崎 進だな。海軍運営資金横領と海軍総司令部との癒着の件について聞きたいことがある。署まで同行願おうか」

「あ……あれ?竜くん…竜くん、スルー?竜くーんっ」

 

 

「しらない……しらない…」

 

「刃野刑事。真倉刑事」

 

「はい」

「はいっ」

 

すっかり魂の抜けた人形の様になってしまった曽根崎を連れて、刃野とマッキーこと真倉は病室を後にした。

 

 

「ヒィッツ中将、捜査のご協力感謝します」

「良いって良いって。ああゆう連中を公的に叩けるんやから、寧ろ願ったり叶ったりやて」

 

照井の謝辞に対し、ヒィッツはケラケラと笑う。

 

 

「左。彼女たちに言うべきことがあるんだろう?」

 

「うっ……わーってるよ…」

 

 

漣、そして唐突な展開にポカンとしたままの夕立を前にして、翔太郎は頭を下げた。

 

「二人共……すまねえ!守ってやるとか、偉そうなことを言っておいてこのザマだ……!!いくら詫びても許されない、最悪な思いをさせちまった……」

 

「ご主人様、止しなよ!」

「夕立も特に気にしてないっぽいー!」

「しかしだな……」

 

 

翔太郎の謝罪を許そうとする漣と夕立に対し、このままでは気が済まないと言う翔太郎。

 

そこに、ヒィッツがこんな事を言い出した。

 

「そんならなぁ……左 翔太郎!俺から無期限の依頼を出させてもらうで?」

 

「無期限の…依頼?」

 

 

「そっ。内容はズバリ!『漣と夕立、そして探偵事務所のメンバーと共に、風都艦隊を作れ!!』これで決まりや!」

 

「えっ……?」

 

 

「えええぇぇぇええっ!!?」

 

「mjdk!!?」

「ぽい!?」

 

 

「つーわけで!がんばりや〜?」

 

ハッハッハーと笑いながら、言いたい事だけ言ってヒィッツは帰ってしまった。

 

「………えっと…」

「………まっ。中将閣下のご命令ならば、拒否権はありませんわな?」

「探偵さん。もとい、提督さん。改めまして、これからよろしくお願いします!」

 

漣、そして夕立の敬礼を受け、翔太郎は苦笑いを浮かべた。

 

 

「ハハハ………。マジかよ……」

 

 

 

 

この日、風吹く街にとても小さな、しかし巨大な鎮守府と艦隊が誕生した。

 

そして……

 

この艦隊は、後に大きな奇跡を起こすこととなるのだが、それはまた後のお話。




風が吹く。街が泣く。
その時が、ふたりの出番だ。
街に笑顔が戻ったとき、ふたりはそっと翼を休める。
そんな英雄に、風は優しい。(「仮面ライダーぴあ」より)


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登場人物紹介・W編

『風都艦隊』の登場人物を紹介いたします。

これで決まりだ!


左 翔太郎

 

風の吹く街・風都にある《鳴海探偵事務所》にて私立探偵を勤める青年。

心振れない、男の中の男・ハードボイルドを標榜し、常日頃から振る舞いを心掛けているが、実際はすぐに感情が高ぶったり、美女相手にはカッコつけたりするため、ハードボイルドになり切れない『ハーフボイルド』と揶揄されている。

 

風都で生まれ育ち、幼い頃から風都を『俺の庭』と呼び、そこで生きる人には誰一人泣いて欲しくないとして、街を泣かせる悪党を決して許さない、真っ直ぐな正義感を持つ。

 

そのもう一つの顔は、街を泣かせる巨悪がもたらすガイアメモリと、それが囁いてくる悪魔の誘惑に負けた者が変わる存在『ドーパント』から街と人々を守るために戦う戦士・仮面ライダーWである。

 

 

とある悲劇から、帰る場所を失った艦娘・漣を拾い、探偵事務所へと迎え入れた。

さらに、ガイアメモリ犯罪に関わっていた艦娘・夕立を新たに保護したことがきっかけで、謎の鎮守府提督・ヒィッツ=カルド中将より、風都にて鎮守府及び艦隊の編成を言い渡され、提督業を兼務することになった。

 

 

 

フィリップ

 

鳴海探偵事務所に所属する、翔太郎の相棒。

ミステリアスな雰囲気をまとった魔少年で、『地球(ほし)の本棚』と呼ばれるデータベースへとアクセスし、情報を検索する能力を持つ。

基本物静かな性格だが、一度興味を惹かれたものに対してとことん追求する癖があり、一つの物事にハマると全てを閲覧し、理解し終えるまで周りが見えなくなることもしばしば。

 

探偵業の際には、翔太郎がかき集めた手がかりやキーワードを基に『地球の本棚』にて検索・事件の真相を調べるのが基本パターンである。

 

『ふたりで一人の仮面ライダー』仮面ライダーWの片割れであり、主に戦闘の分析とアドバイスを努めているが、時には彼が主体となって戦うこともあるらしい。

 

 

 

鳴海亜樹子

 

鳴海探偵事務所の所長にして、先代所長の一人娘。

明朗快活で思い切りが良く、翔太郎たちをぐいぐいと引っ張ることもあれば、空回りして振り回すことも。

関西出身のため、興奮すると関西弁になることがある。

 

慌てん坊で、捜査の最中ピンチに陥ることが多いが、父譲りの気丈さで、体を張って依頼人を守る。

 

風都署の警視・照井 竜と結婚しており、戸籍上は照井亜樹子である。

 

漣と夕立を迎えた際、『所長権限』なる物を行使して艦娘を保護することを決定した。

 

 

 

照井 竜

 

風都署・超常犯罪捜査課の警視。

鳴海亜樹子の夫であるが、結婚前から変わらず「所長」呼びで一貫している。

風都を守る、仮面ライダーの一人でもあり、口癖は「俺に質問するな」。

 

スマイル・ドーパントの事件にて明らかになった、夕立の身柄を『担当者』に伝えた後、特例措置という名目の下、翔太郎たちに託した。

 

 

 

 

綾波型駆逐艦9番艦娘。

独特な口調と仕草で周囲を惑わせるが、心根は素直で健気な少女。

 

元赤塚鎮守府所属の艦娘で、鎮守府解体後は宛もなく彷徨っていた。

風都に行き倒れた際、翔太郎に拾われたのだが、当初は艦娘としての身を利用されるのではないかと怯えていた。

しかし、翔太郎の言葉と優しさに触れたことで立ち上がる力を取り戻し、翔太郎を新たな「ご主人様」として支えることを決心した。

 

その後、同鎮守府の友人であった艦娘《夕立》と再会。照井とヒィッツ、司令部のとある人物の計らいにより、夕立と共に翔太郎を提督として迎えることになった。

 

 

夕立

 

白露型駆逐艦4番艦娘。

清楚な見た目に加え、小動物的な雰囲気を持つ少女。

漣と同じく、元は赤塚鎮守府に在籍していた。

父のように慕っていた提督や鎮守府を失くし、行き場を失い、行き倒れていたところを白川小百合に拾われる。

 

その時、ガイアメモリを購入していた小百合の手で亡き娘に仕立て上げられそうになり、抵抗したのだが、運悪くガイアメモリが刺さり、ドーパント化してしまう。

 

翔太郎たちに身柄を確保され、艦娘を兵器や資材の塊程度にしか見ていない曽根崎に引き渡されそうになるが、翔太郎たちの尽力によって解体は避けられ、その流れで翔太郎の下に迎えられた。

 

「ぽい!」という語尾が付くのが特徴。




W編のメインキャラを紹介させていただきました!


次は、W以外の誰が出るのか?


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18話 : Sとの邂逅+a/探偵提督

『ドロップ』―――
艦娘と深海棲艦の戦いにおいて、そう呼ばれるものが時折発生する。

しかし、それはあくまで深海棲艦との戦闘後に起きる現象として、その場の状況などからそう名付けられただけであって、原理その物までが解明されている訳ではない。


それでも……

我が相棒が迎え入れた艦娘(かのじょ)たちも、ある意味ではドロップによる拾い者……と呼べるかもしれない。


「提督さん、ほらキチッとして?」

 

「おい、コラ夕立!勝手にシャツをいじるなっての……」

 

 

先日起こった『スマイル・ドーパント徘徊及びハイエナ・ドーパント殺傷事件』にて、不運にもドーパント化していた夕立を引き取って、はや2日が経過。

 

風都署と協力関係にあるヒィッツ中将より、『艦娘を集めて風都艦隊を結成せよ!』という依頼の名を借りた命令が発せられ、翔太郎は正式に提督業を兼務することになった。

 

「はい!ご主人様、提督服の着付け終わったお?」

 

「お…おお、サンキューな?漣、夕立……」

 

 

そして……

 

今日この日は、《左 翔太郎》の着任式が行われる。

 

そのため、翔太郎は海軍本部より支給された提督服を着付けられていたのであった。

 

 

「ほえ〜……翔太郎くんてば、意外と白も似合うね?いつも黒がメインだから、すごい新鮮!」

 

素直な感想を述べる亜樹子に続いて、フィリップも賛辞を贈った。

 

「なかなか決まっているね。悪くない」

 

「ありがとよ……。しかし、白ってのはどうも落ち着かねえな……」

 

 

いつもの自分が選んだコーディネートではないだけでなく、白い軍帽というこれまた慣れない物で身を固めたため、翔太郎はソワソワしっぱなしである。

 

 

「もぉ、本部の決めたセンスに文句をつけてもしょうがないでしょ?ホラ、迎え来ましたよ?」

 

「ちぇ……わかったよ」

 

 

こうして、翔太郎は漣と夕立を連れて、都内にある新生日本海軍総司令部へと出向いたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「左少尉でありますか?私は本日、少尉殿たちの護衛と案内役を仰せつかりました、『あきつ丸』と申します。着任式の間、よろしくお願い致しますであります」

 

車で送迎された翔太郎らを門前にて出迎えたのは、黒い制服にミニスカートと、それに反するように色白の肌が特徴的な艦娘であった。

 

 

「あきつ丸………って、あんたも艦娘なのか?」

 

「ええ、《揚陸艦》という艦種であります」

 

どうぞ、と促され、翔太郎たちは敷地内へ。

 

 

 

建物内部には、既に多くの提督たちが出席しており、制服に着けた階級章などから見て、少将や中将といった幹部級の面々が多数だった。

 

 

「あれが、今回元帥閣下が承認したという、新米の提督か……」

 

「まだ青二才ではないか、閣下も悪い冗談を……」

 

 

ちらほらと聴こえてくるのは、翔太郎を馬鹿にする陰口や見下した発言ばかり。

 

着任式として、翔太郎らを迎える雰囲気は皆無だった。

 

 

「提督さん……」

 

「言いたい奴には言わせとけ。ああいう保守的な奴らに限って、自分の都合のために使えそうだと見た奴には、急に掌返して媚び売ってくるもんさ」

 

 

そう……

 

あくまで、自身をあれこれ言うことならば翔太郎は特に気にしないのだ。

 

 

しかし……

 

「聞きましたか?あの若僧が引き連れた艦娘……()()赤塚の忘れ形見だとかいう話ですが」

 

「フン…『海上の脚本家』と持て囃されていた男が居なくなった途端に乗り換えるとは……随分と薄情なものだ」

 

「いや、国家転覆を企てるような奸臣など部下の方が切り捨てて当然でしょう。ハッハッハ…」

 

 

翔太郎にとって大切なものに関する悪口ならば、話は別だ。

 

 

「おい……おっさん。今、何て言った?」

 

「ご…ご主人様……!?」

 

「ん?なんだ急に……ぐっ!?」

 

 

漣たちの元提督・沼田統也を悪く言うばかりでなく、嘲笑ったダルマ太りの中年提督の胸ぐらを掴み、翔太郎は詰め寄った。

 

「なっ……何をする……!?キサマ、ワシが誰か知らんのか…」

 

「あんたが誰だろうが関係ねえ……。そのブタ以下のツラと脳ミソで、あいつらの大事な人をバカにした!それさえ分かりゃ充分だ!!」

 

 

襟首を掴む手に力がこもると、漣たちのみならず、あきつ丸もあわあわと狼狽えだした。

 

「ひ、左殿!この場ではマズイであります!最悪、提督の任を解かれる怖れが……!!」

 

「はっ……それならそれで、願ったり叶ったりだぜ。元々、依頼として受けただけだしな」

 

中年の提督を振り払い、尻餅をつかせる。

咳き込みながら、中年提督はわめき出した。

 

 

「艦娘ども!憲兵どもォ!!何をしてる、この無礼者を捕らえんかっ!!!」

 

 

しかし……艦娘たちは勿論、憲兵たちさえも、提督の命令に従わなかった。

 

 

従える筈がなかったのだ。

 

翔太郎の犯した行為の理由が、「自分のため」ではなく、「艦娘が大事にしていた、今は亡き先代提督の心を守るため」だったと、皆気付いていたから。

 

 

「何をしている!?中将である、ワシの命令が聞こえんのか!!役立たずめらがぁっ!!!」

 

本音混じりの暴言を吐き散らすその中将に対し、「ハッハッハ…」と笑う一人の男の声が聞こえてきた。

 

 

「だ、誰だ!!中将であるワシを笑う…の、は………ッ!!?」

 

 

 

 

「おーおー……中将ともあろう男が、見苦しいったらねえなぁ、ええ?須磨木原(すまきばら)……。元々、野心家かつ小悪党みてぇな奴と思っちゃあいたが……まさか、ここまで落ちぶれてるとは思わなかったぜ……」

 

 

そこに、軍帽を被り、儀礼用の模造刀を帯刀し、軽空母《鳳翔》と軽巡洋艦《川内》を連れた一人の軍人が歩み寄ってくる。

胸に着けた階級章は―――《元帥》。

 

怒りで真っ赤にしていた中年提督―――須磨木原の顔が、みるみる青ざめていった。

 

 

「あ…あぁ…ああ、あなたは………!?」

 

須磨木原の問いに、元帥は軍帽を脱いで応えた。

 

 

「警視庁鎮守府……及び、海軍総司令部元帥……山県茂正(やまがたしげまさ)である……!!」

 

 

「や…山県元帥!!?」

 

「『総統』の懐刀とされる、あの『鬼』の……!?」

 

 

山県が名乗った途端、辺りが騒然となる。

 

「元帥……ってことは、あんたはお偉いさんの一人ってことか?」

 

翔太郎の口調に、漣やあきつ丸は「ひええっ!」となる。

 

 

提督になりたての民間人が、元帥という大幹部相手に取っていい態度ではないのだから当然である。

 

 

しかし、山県はそんな翔太郎を見てガハハと笑った。

 

 

「ガッハッハ!なるほどなるほど…ヒの助が言っていた、『提督に相応しい半人前野郎』ってのぁ、オメェのことかぃ」

 

しかも、どこか嬉しそうである。

 

「げ…元帥閣下……!こ、この不届き者めに、しかるべき罰を……!無論、私めが責任を以て……」

 

「黙らんか、往生際の悪い!!」

 

「ヒイイッ!!」

 

性懲りも無く、翔太郎を排除することで自らを正当化しようとする須磨木原に、山県は鬼の形相を向けて一喝する。

 

 

「須磨木原、貴様のしてきた事すべてを、我らや総統閣下が気付いておらぬとでも思うたか!浅薄なことを……日ノ本の軍人としてのみならず、一人の人間としての恥を知れぃ!!後日、改めて総統閣下より直々に沙汰が下されるであろう……覚悟せいッ!!!」

 

 

その言葉がトドメとなったのであろう。

須磨木原は青ざめた顔で泡を噴き、倒れた。

 

 

「……医務室へ連れて行け。目が覚めるまでの間に、憲兵を手配しておけ」

 

「かしこまりました」

 

鳳翔らに伝えると、山県は改めて翔太郎らの下へ。

 

 

「若僧……改めて、名を聞いておこう」

 

「左……左 翔太郎です」

 

 

気付けば、翔太郎は山県に対し、自然と敬語になっていた。

 

雰囲気こそ違うが、その覇気に師・鳴海荘吉の面影を見た気がしたのだ。

 

「翔太郎……か。うむ……いい名じゃねえか、風吹く街を守る男にピッタリだぜ」

 

 

「あっ……ありがとう、ございますっ!」

 

風都に相応しい―――

 

それは、風都で生まれ育ったことを何よりの誇りとする翔太郎にとって、異世界の鳴海荘吉(おやっさん)から「帽子がサマになっている」と言われたときと同じくらい嬉しい言葉だった。

 

故に、翔太郎は深々と頭を下げて礼を述べた。

 

 

「ああ、そうだ。それから……翔太郎。オメェは、今度から提督服(ソイツ)を着なくていいぞ?本業が探偵ってんなら、一々着替えるのも面倒だろぃ?総統や他の元帥たちには、俺やヒの助がなんとか言っとくからよ♪」

 

「はい……はいっ!」

 

 

「ご…ご主人様?ひょっとして……泣いてる?」

 

「ぽい?」

 

 

声と肩が震えている翔太郎を見て、漣と夕立は様子を伺う。

 

「ばっ…バカヤロ!泣いてねえよ……!!」

 

「目が潤んでるっぽーい!あと鼻声っぽいー!」

 

「うるせーっ!」

 

 

そんな微笑ましげなやり取りを、山県や隅っこで弁当にがっついていたヒィッツは満足げに眺めていたのだった。

 

 

この男ならやれる―――そう、信じて……。




4割ほど、『鬼平犯科帳』みたくなっちゃいました(;´∀`)


鬼平大好きだもん!!吉ちゃん、カッコいいんだもんッ!!!(`;ω;´)


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ファイズ編 1章
19話 : 野豚と呼ばれた男


本作も、様々な人やキャラクターが登場します。

カオスが嫌な方は、片眼を閉じてご覧下さい。


関東のとある地域に、一つの鎮守府があった。

 

そこに着任している提督《春島勇矢(はるしまゆうや)》は、若いながらも中佐の地位に着いており、指揮能力も悪くなかった。功績もそれなりに立てていて、地域の住民との付き合いも良好と、悪い噂なども無い、好青年として知られていた。

 

 

 

―――世間的には、の話だが。

 

 

「ぐすん……ひっく…ひっく………」

 

駆逐艦《文月(ふみづき)》は、この鎮守府に在籍する艦娘であった。

着任当初、暖かく迎えてくれた提督に対し、文月は優しい人に迎えられたと喜んだ。

 

 

「文月……君にしか頼めない、特別な任務があるんだ。引き受けてくれるかい?」

「なぁに?司令官」

 

 

()()()()に遭うまでは……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「きゃっ……!」

「…すいません。ちょっと、考え事をしていたものですから……」

 

 

文月が在籍する鎮守府に、工廠の出入りをしている一人の男が居た。

 

歳は40代半ば、太った体型と丸顔、そして団子鼻で垂れ目という容姿から《豚》と陰であだ名されていた。

 

「うわっ、なにあのオジサン…?」

「あー…あのオッサン?気にしないで良いよ、ただの豚だから」

 

道端で雑談をしている、女子学生たちがヒソヒソと話をする。

 

「あのブタだけどね、あの春島中佐が管理してる鎮守府に出入りしてるんだって」

「ウッソ!?そしたら艦娘の娘とかヤバくない!?襲われたりしてるんじゃ……!!」

「ちょっ、声がデカイって!こないだ、裏通りの隅っこで中学生くらいの娘が泣いてるのを見つけたんだけど……その娘、艦娘だったのよね。で……話を聞いたら、知らない男に襲われたっていうのよ。それもヤンキーとかヤクザ関係っぽい連中に」

 

「うーわ……」

「提督さんも、犯人探してるみたいだけど見つかってないって……」

「まさか、そいつらをあのブタが手引きしてるとかだったり?」

「有り得そー……つか、ほぼ確定じゃね?」

 

 

 

ヒソヒソ話だが、男には聴こえていた。

 

聴こえてしまうのだ。聴きたくない話であっても。

 

 

自分が鎮守府を出入りしているのは仕事のため……それは事実だ。

しかし、それ以外で関わったことは一度も無い。

 

艦娘という、海で怪物と戦っている少女たちと交流したこともほとんど無い。工廠ですれ違うとき、会釈する…その程度である。

 

ましてや、艦娘が暴行を受けている話など、知ったのはつい最近の事だ。工廠での仕事仲間である妖精が、半ベソの状態で相談に来るまで、自分は知りもしなかった。

 

 

そして、今日。

 

 

また、新たに被害を受けたらしい艦娘が、ドックの裏で泣いているのを見つけてしまった。

 

 

「………どうした?」

 

「ぁ……っ…おじさん……もしかして?」

猪宮忠夫(いのみやただお)……ここの工廠で、整備の手伝いと清掃を任されてる者だ。外や周りの連中(モン)からは……豚って呼ばれてる」

 

隣いいか?と尋ねられ、文月は小さく頷いた。

腰掛けた猪宮の丸みを帯びた姿を見て、文月は豚よりもダルマを連想した。

 

「ホレ……俺の夜食に買ったやつだが、良かったら食いな?」

コンビニで買った焼きそばパンを文月に渡すと、猪宮は改めて尋ねた。

 

「何で泣いてた……こういう隅っこじゃないと、泣けない訳でもあるんか?」

 

一瞬、文月はビクリと反応して、恐る恐る猪宮の顔色を伺った。

 

 

「……言えんのなら、それで良ぇ。ちゃんと話せる相手が居るなら、身内なり友だちなりに話しな」

 

立ち上がろうとする猪宮を、文月はアワアワしながら引き留めようとした。

 

 

そこに

 

「どぉした、猪宮(イノ)さん?んな所でよ」

「ん……(いぬい)か」

 

「…その人、は……?」

急に現れた、無愛想な男について尋ねる文月。

 

「3日前に来たばかりの新人だ……。口は悪いが、覚えはそれなりに良い。ホラ…挨拶ぐらいしてやれ」

 

猪宮に促され、その男は名乗った。

 

 

「―――乾巧(いぬいたくみ)だ」




ハイ、皆さんかなりグダグダな展開になってしまいました(-_-;)

サブタイと関係なくね?と思われた方も大勢いらっしゃるでしょうが、どうかご勘弁を!(汗)


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20話 : 人の皮を被った(けだもの)

初っ端から胸糞悪い展開にして申し訳ないファイズ編。

その第2話目をお楽しみ下さい。


「いやあ、話に聞いてはおりましたが、春島中佐は噂以上のお人ですな!」

 

 

執務室で、春島は、海軍への資材提供を行っている企業の幹部たちと共に、新たな輸送航路の確保についての検討や資材の量を増やせるかなど、鎮守府運営に関する交渉をしていた。

 

「いえいえ、そんな……社長を始めとした、会社の方々のお力添えがあってこその我々です。この国の平和を築くため、国民一人一人のために骨身を惜しまずに戦うのが、我々海軍の使命ですから」

 

 

苦労を苦労とも思わぬ発言をにこやかにする春島を、社長らは尊敬の眼差しを向ける。

 

 

「提督……失礼します」

 

そこへ、連絡員として在籍している艦娘《千歳》が入室してきた。

 

「ん?おお、これはこれは!千歳さん、でしたかな?先日の護衛任務ではお世話になりました!」

 

社長が朗らかに微笑み、握手をしようと手を差し伸べた。

 

「いえ、そんな……」

 

 

この時

 

一瞬ではあるが、千歳を鋭い視線が突き刺さった。

 

「コラコラ…千歳。資材を提供してくれている恩人に対して、素っ気無い態度は良くないよ?」

 

 

ニコニコと笑っている、春島から。

 

 

「は、はい……」

 

苦笑いしながら、社長の手を握り返す。

 

 

その手は、冷え性なのかちょっとだけ冷たかったが、社長の人柄が現れているかのように温かだった。

 

 

「それでは、提督。お見送りしてきますね」

「ああ、頼むよ」

 

 

 

社長らを門前まで送ると、社長は振り向き、改めて礼を述べた。

 

「何度も同じことを言って申し訳ないが、君たち艦娘や春島中佐には本当に感謝の言葉しか出ないよ。何しろ、深海棲艦が集中して襲ってくる海域を通らないと燃料やボーキサイトを運べないから」

 

「いえ、そんな!社長さん、顔を上げて下さい!礼を言わなきゃいけないのは、むしろ私たちの方です!でないと………」

 

そこまで言いかけて、千歳は黙り込んでしまう。

 

「千歳さん?大丈夫ですかな?急に、顔色が……」

 

心配そうに話しかけてきた社長に対し、千歳はハッと我に返ると笑いながら手を振る。

 

「い、いえ!ちょっと疲れが溜まってるのかなーなんて……。お気遣い、感謝します。今後も協力お願いします」

 

 

そうしたやり取りを経て、社長らは鎮守府を後にした。

 

 

「………ごめんなさい……」

 

鎮守府に戻る途中、千歳はポツリと呟きながら涙を流したのだった………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

社長らが鎮守府を出て、僅か数分後のこと。

 

 

突如、社長らの乗った車が不審な強盗グループに遭遇。

 

「な…何だ、お前たちはっ!!?」

 

 

社長を守ろうと、SPが対処しようとしたが

 

 

「っ!!?ま、待て!!()()()()()()………!!」

 

 

黒フードで隠した、一瞬見えたその顔に、社長は心当たりがあった。

 

間違えるはずが無かった。

 

 

何故なら……

 

 

「……ごめん…なさい……っ!」

 

 

 

襲ってきたそのグループは全員、春島の部下である艦娘たちだったのだから。

 

 

―――一方。

 

春島の執務室に、電話が掛かって来た。

 

 

「俺だ。……そうか…」

 

受話器の向こうの相手は、嗚咽混じりに話しているため、言葉が途切れ途切れになり、聞き取りづらい。

 

 

「標的は()()()()()始末したんだな?なら、それで良い。解っていると思うが、確実に殺せよ?下手に生かすと、残りの資材を回収出来なくなるからな」

 

「あと……解っていると思うが、お前らに拒否権なんか無いからな?解体(ころ)されて死ぬか娼婦(おんな)として死ぬか……逆らいたきゃ、どちらか好きなのを選べ。逃げようなんて真似は、考えるだけ無駄だ」

 

 

淡々と話す春島の目は、先程とはまるで別人のように暗く、冷たい眼をしていた。

 

「死にたくなきゃ、命を削れ」




………ハイ、胸糞展開がまた起きてしまいました(-_-;)

次はたっくん、たっくんが出るはず!

出るように善処します!!


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21話 : 月下の大猪(おおしし)

再就職先の内定が決まるなど、バタバタしていますがなんとか進めて参ります。

サブタイは単なる比喩であり、特に意識はしてませんです(^_^;)


場面は少し遡って、春島中佐の謀略による、輸送会社社長襲撃事件が起きる少し前。

 

 

工廠の清掃員である猪宮と新入りの乾 巧は、工廠の裏手で独り泣いていた艦娘・文月を発見、泣いていた訳を聞こうとしていた。

 

 

「え……えっと…」

「だから、どうしたのかって聞いてんだろ?別に難しいこと聞いてる訳じゃねえのに…」

 

「バカ野郎が!そんな頭ごなしに攻めかかる奴があるか!」

 

飾り気の無い、良く言えば裏表の無い、悪く言えば乱暴な巧の言葉に戸惑う文月。

猪宮は巧の頭を叩いて叱責し、文月を庇った。

 

「いってぇな!何すんだよ、イノさん!」

「ちょっとは異性に対する接し方を学びやがれ!」

 

「あ、あの!おじさん、文月は気にしてないよ?」

 

二人の言い争いを見ていて、流石にこれ以上泣きっぱなしは良くないと思い、文月は涙を拭いて二人の仲裁に入ったのであった。

 

 

「い…いただきますっ」

 

出会った直後、猪宮からもらった焼きそばパンを頬張り、文月は顔を綻ばせた。

 

「フミィ〜……久々のご飯だよぉ…」

 

 

「久々って……いったいどの位前から食ってなかったんだよ?」

「んぅー……今、日付が変わったから…ちょうど4日くらいかも?」

 

「……そうか」

「4日も放ったらかすとか、あの提督は何やってんだ?」

 

巧が新たに質問を投げかけるが、文月は再び表情が曇って俯いてしまう。

 

「…それは………」

 

すると、猪宮が立ち上がった。

 

「おじさん…?」

 

「………今日はもう遅い。乾、文月を艦娘の寮まで、送っていってやれ」

 

「は?」

「えっ……い、いいよ!パンまでご馳走してもらったのに、これ以上は甘えられないよぉ!」

 

突然の申し出に、文月はアワアワしながら断ろうとする。

 

「……俺で良いってんなら」

 

「乾さん〜……」

 

 

何かしらの気配を感じながら、巧も猪宮の案に賛成する。

 

「迷子になるよかマシだろ」

「乾……そういうのを余計な一言っつうんだが、知ってるか?」

「辞書は(きれ)ぇだ」

 

「チッ……口の減らんガキだな、お前も」

「年長者振って、威張る年寄りなんて可愛くねえんだよ」

 

言葉遣いこそ互いに乱暴だが、それは裏を返せば、本音を言い合えるほど打ち解けているということ。

 

着任して日の浅い文月だが、そのことについて他の艦娘たちのやり取りを通して学んでいた。

 

「えっと……じゃあ、よろしくお願いします」

「ああ。イノさん、悪いけど用具の後始末頼むわ」

「おう」

 

そう言って、猪宮は文月と巧を見送った。

 

 

「………あいにくだな。ここにゃ、もう俺一人しかいないぜ?」

 

倉庫の物陰の方へ呼びかけると、そこからチンピラと思しきグループが4人ほど出てきた。

 

 

「チッ!この時間なら、豚も消えてるから楽勝だって聞いてたのによぉ!」

「まったくだ。おい、このまま行かせてくれるってんなら、オッサンには手ぇ出さないでやるよ」

「まっ、向こうのかわい子ちゃんたちには手出しまくりの中出しまくりだけどな?」

「キモッ!お前、盛りすぎだろ?」

「人のこと言えんのか?ギャハハ!」

 

どうやら、このチンピラたちは何者かの手引きで潜り込んできたらしい。

 

「………ハァ…呆れたもんだな」

 

「………は?」

 

猪宮の唐突なため息に、リーダーらしいチンピラが苛立ちを見せる。

 

「お前らの幼稚臭さに呆れたって言ったんだよ。それ以上に……()()()()()()()()()()()()()()()()ことが、情けなくてたまらない」

 

 

心底残念そうに呟く猪宮に対し、グループの一人がナイフを取り出した。

 

「おい、クソブタ……今から5数えるから、それまでに土下座して消えろ。嫌ならここで即刻・死ね」

「あっ、言っとくけど拒否権無いからー。ちゃんと四つん這いになってから『人間サマ〜、生意気言ってスミマセンでした〜ブヒブヒ』って言ってね〜」

 

 

猪宮は、心の底から哀れみを抱いた。

 

何故、人間は正しくあろうと努力することをせず、外道に堕ちることを選び、際限無く堕落し続けることが出来るのか。

 

 

自分にはもう、『普通の幸せ』というものを求める資格すら無いというのに………

 

 

「はい、いくよー?5…4…3……」

 

しかし……

 

 

「2……」

 

 

それでも、自分が守りたいと思うものに、手を差し伸べることを許されるのなら

 

 

「喜んで……化物(ブタ)になろう」

 

「はい、い〜…………えっ!!?」

 

 

カウントを切られる直前。

 

猪宮の顔に、隈取の様なおどろおどろしい模様が浮かび上がった。

 

眼は白く濁り、その体躯を灰色の物へと変異させる。

 

 

 

豚の頭部を思わせる意匠の入った、スリットの入ったバイザー付きの騎士兜。

丸みを帯びた、分厚い鎧に身を固め、両肩にはそれぞれ、タックルの威力を高めるための鋭いスパイクが3基ずつ備わっていて、右手にはトゲ付きのメイス、左手には円形の盾を装備。

 

腹部には、盾に描かれた物と同じ紋章が飾られており、その姿はさながら、中世の騎士か剣闘士を彷彿させた。

 

 

「うっ…うわあぁぁああっ!!?」

「かか、かっ…怪物ううぅうう〜〜っ!!!」

「ヒイイィ〜〜〜〜〜ッ!!」

 

先程までの高圧的な態度は瞬く間に崩れ、チンピラたちは我先に逃げようとする。

 

 

豚の怪物の影が、猪宮の姿を映し出すと、猪宮は怒りの眼差しを向けながら言い放った。

 

 

「力はおろか、言葉の一片(いっぺん)さえも虎の威を借りただけの藁小屋(わらごや)ども……。己の卑しさと矮小さを知れ……!!」

 

 

工廠の片隅で、身元不明の衣服4人分と正体不明の灰が見つかったのは、朝になってからだった。




久方ぶりの執筆…そして未だ慣れぬファイズ編……(;´∀`)


そろそろ、読者離れのピンチかしらん?(;´∀`)


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22話 : 時告ぐ鐘、命の鼓動

CSMファイズギアやキャラ百科を駆使して、たっくんのキャラを掴もうと悪戦苦闘しております(;´∀`)


ファイズ編、ちょっとずつ進めていきます。


朝方……

 

カーテンの隙間から洩れる陽の光で、巧は目を覚ました。

 

――と言っても、文月を送り届けた後、宿直室ですぐ寝付いた訳ではない。

 

 

「…………ハァ…」

 

寮に着いてから、巧はさっさと戻るつもりだった…のだが、「久々にお腹いっぱいになったから、寝坊しちゃうかもぉ〜」と文月に懐かれてしまい、結局、同室の姉妹艦《長月》と軽巡洋艦《五十鈴(いすず)》に許可を貰い、毛布を借りて一泊することになったのである。

 

 

これだけなら、一般的に羨ましがられる展開であろう。

 

しかし、昨夜はそれだけでは済まなかったのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ふあ……ぁふぅ……。あっ?乾さん、おはよ」

 

「ああ…おはよう」

 

長い髪の寝癖を直しながら、欠伸(あくび)混じりの挨拶をする五十鈴。

それに対する巧の返しも、あっさりとしたものだった。

 

 

「昨夜はよく眠れた?――ありがとね。文月(あの子)…ここ最近、ずっとロクに眠れてない様子だったから」

 

 

巧がすぐに帰れなかった理由……それが、文月の要求だった。

 

食事もまともに摂れず、春島から数々の『汚れ仕事』を強要されたことによる精神的疲労から、文月は睡眠をとることが出来なくなってしまっていたのだが、巧や猪宮と触れ合い、パンを食べたことにより、久方ぶりの生活リズムが目覚め、眠気が生じたのだ。

 

しかし……それは同時に、これまでの疲労を回復するために深く寝落ちする可能性が高いということ。

もし寝坊することになれば、どんな仕打ちを受けるか分からない。そのため、文月は無理を承知で巧に目覚まし役を願い出たのである。

 

 

「気にすんな。俺は元々、夜更かしする割には目覚めが早ぇだけだ」

 

軽く返した巧であったが、正直なところ、巧だって人並みに眠気は来るし、食欲だって普通にある。

 

それでも、昨夜、巧が文月の傍から離れなかったのは、もう一つ理由がある。

 

 

それは……

 

「!」

 

突如、鎮守府内の緊急事態を報せるサイレンが鳴り響いた。

 

 

「なんだ?」

「まさか……また!?」

 

すると、サイレンの音でようやく文月は目を覚ました。

 

「フミィ……あ、たくみちゃんおはよぉ…」

 

まだ半分寝ぼけているのか、声が普段以上にフワフワとしていて頼りない。

 

「起きろ、文月!緊急警報だぞ?」

「ふえぇ……?えっ、警報!?」

 

巧の呼びかけと頬を軽く叩かれたことで、文月は意識をハッキリさせた。

 

 

 

 

「これ…って…」

「服……?なんだって、こんな所に……」

「それに、何?この粉みたいなの……灰?」

 

騒ぎと人集りのある方へ向かうと、そこにはチンピラが着ていそうなチャラチャラした服装や流行り物の服、そしてアクセサリーやナイフが不審な灰の中に埋もれていた。

 

 

「コレって……まさか、また?」

「また…って、以前にもあったのか?」

 

尋ねると、長月はああ、と頷いた。

 

「ここ最近になって、敷地内でこういった灰の山と持ち主の分からない服や所持品が見つかるようになったんだ。提督も、原因について調べてるらしいけど……よく分からないみたいだ。まぁ……アイツがまともに取り合ってくれているかどうかなんて、期待するだけ無駄だろうけどさ」

 

 

冷ややかにぼやく長月を他所に、巧はさり気無く視線を泳がせた。

 

もし、これが“奴ら”の仕業なら、怪しまれないよう人混みに紛れている筈。

今のうちに当たりを付けておかなくては、手遅れになってしまう。

 

 

「乾…どうした?」

 

「!」

 

その時、背後から猪宮に声を掛けられた。

 

「イノさん……いや、なんでもねぇ」

「そうか……」

 

 

まさかな……

 

 

この時まで、巧は本気でそう考えていた………。




来週の連休明けより、正社員として再就職スタートです!

更新ペースはますます遅れると思いますが、今後も応援よろしくお願い致しますm(_ _)m


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23話 : 艦娘と野良犬

艦これ提督として着任して、最初のイベント攻略。

丁作戦ながら、紆余曲折を経て。

攻略致しました!!(∩´∀`)∩ナハッ‼


「何をしている。さっさと持ち場に戻れ」

 

 

冷たく響く、まるで録音されただけの音のような声に、一同が振り向いた。

 

「提督……」

 

 

艦娘一人一人に目を向け、春島は地面に残された灰の山に目を向ける。

 

 

「またか……」

 

まるで汚物を見るような、心底不快そうに呟くと千歳に告げた。

 

「そのゴミをさっさと処分しておけ。明後日には大本営の役人が来るんだからな」

「はい……」

 

「施設内の清掃、それから遠征や演習といった基本業務も怠るな。お前ら1隻がしくじれば、組織の評価は100下がるものと思え」

 

 

施設へ戻る直前、春島は巧と目が合った。

 

「――後始末、よろしく頼むよ?清掃員」

 

 

その一瞬だけは、春島はにこやかに微笑んで見せた。

 

 

「………」

 

その笑顔に、何か得体の知れない不気味さを感じた巧は、黙り込んでしまった。

 

 

そして、春島の姿が見えなくなるまで、警戒し続けた。

 

 

「……長月」

「どうした?」

 

「お前ら……すぐに此処を出ろ。アレはやばい」

「えっ………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

水上機母艦千歳型1番艦娘《千歳》と2番艦娘《千代田(ちよだ)》。

 

二人は、艦娘であると同時に人間としての戸籍を持っていた。

両親は普通の人間だったのだが、幼い頃に突如、二人同時に艦娘の力が覚醒。

以来、人目を避けるようにしながら生活することを強いられることになってしまった。

 

この当時は、艦娘に対する偏見や差別が今よりも酷く、千歳姉妹の両親や近縁者までもが、人として扱われなくなるという事態に陥っていたのである。

 

そんな二人が、大切なものを守るためとはいえ、艦娘として海軍に志願、戦場に立つ道を選んだことが、彼女らをより長く苦しめることになるとは、当時は夢にも思わなかっただろう。

 

 

 

「………」

 

そして、今。

自分たちの指揮官として就いている提督・春島から、これまでに様々な汚れ仕事や過酷な任務を強要され続け、先程も雑務を押し付けられた……のだが。

 

「おい」

 

目の前の無愛想な雰囲気の男――乾 巧に、突然呼びかけられた。

 

「乾さん……何ですか?」

片付け(それ)は俺たちの仕事だ、勝手に取るなよ」

 

そう言うと、巧は千歳を軽く押し退けて灰や衣類などを片付け始めた。

 

「あ、あの……乾さん?」

「提督に言われたから…とか、命令だから…とか。イヤならイヤで、自分の意思をハッキリさせねえと、ヤツの操り人形になっちまうぞ?」

 

「乾さん……」

巧の言葉に、五十鈴や長月らは人間らしい暖かさを感じた。

 

「……あ、あのっ。私も手伝います…というか、手伝わせて下さい!」

「千代田…」

「はぁ?だから、人の仕事を取るなって…」

 

「文月も手伝う〜!」

「って、文月!」

 

だからだろうか。

 

 

気付けば、巧の周りには小さな集まりが出来ていた。

 

 

「乾……」

 

その様子を眺めながら、猪宮は安堵の笑みを浮かべていた。

 

 

 

一方……

 

執務室の窓から、巧らの様子を不愉快そうに見下ろす影があった。

 

 

「アレもか……使()()()()()




どんどん、話の土台が当初の予定から外れていく……(;´Д`)

次回、かなりムチャな急展開にするかも!?


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24話 : 支配者の傲慢さ(プライド)と豚の意地(プライド)

長らくお待たせしました。

ファイズ編、かなり強引ながら展開を進めさせていただきますm(_ _)m


いやぁ、ホントムズカシイ(;´∀`)


巧たちが清掃を行った、その日の夜。

 

 

春島の執務室に呼び出されたその人物は、春島から暴行を受けていた。

 

「ゴミ処理もロクに出来ねえのか?俺の鎮守府を汚くしてんじゃねえぞ、役立たずが」

 

 

その眼は、昼間の灰の山や艦娘たちに向けたものと同じ、物や汚らしい物を見るような不快感を露わにしたものだった。

 

「……申し訳ありません……提督…」

 

謝罪をするも、男は春島に()()()()()()()

 

「ご主人様……だろ?木偶(デク)の棒」

 

にっこりと微笑むが、そこには明確に殺意があった。

 

「それとも、見かけに相応しいように豚と呼ぼうか?ん?」

 

 

これ以上抵抗すれば、冗談抜きに始末される……

 

そう感じて、男――猪宮は従った。

 

 

「失礼しました………ご主人、様………」

 

 

だが

 

 

構うものか……

 

大切なものを守れるのなら、いくらでも家畜に成り下がってやる―――

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

清掃作業を切っ掛けに、巧は今まで以上に艦娘たちと交流……もとい、声をかけられ、ちょっかいを出されるようになった。

 

特に、最初に会話をした文月や姉妹艦の《睦月》を始めとした無邪気な艦娘や、巧の無愛想な態度を改善しようという名目で親しくなろうとする者たちに振り回され、巧はこれらを鬱陶しがった。

 

 

「たくみちゃーん!一緒にお買い物行こ〜!」

「まだ仕事残ってんだよ、つか“ちゃん”付けで呼ぶな!」

 

駆逐艦からは「巧ちゃん」と、ちゃん付けで呼ばれ、それ以外からは専ら「たくちゃん」か「たっちゃん」呼びされていた。

 

「うふふ、たっちゃ〜ん。一緒にお昼ど〜ぉ?」

「だから“ちゃん”付けで呼ぶなっ!!龍田(お前)だって、そんな呼び方されたらイヤだろぉが!」

「あらぁ、じゃあたっちゃんは何て呼べば許してくれるの〜?」

 

五十鈴以外の軽巡洋艦で、絡まれる機会が特に多い艦娘《龍田(たつた)》に問われ、巧は答えた。

 

「普通に巧って呼べ。それが無理なら、乾で良い」

 

 

「良いじゃねえか…あだ名で呼ぶってことは、気を許してくれてる証拠だろぉが」

 

そこへ、工廠の作業が一段落した猪宮が歩み寄ってきた。

 

「イノさん……」

「猪宮さん、こんにちは〜」

 

「………また腕上げたみたいだな、龍田」

「うふふ……やっぱり判っちゃう?」

 

 

天龍型軽巡洋艦2番艦娘《龍田》。

 

この鎮守府において、彼女は艦隊のエースとして活躍していた。

 

否……こき使われていた、というべきかもしれない。

 

龍田は、この鎮守府に在籍している千歳・千代田姉妹同様、人から艦娘へと覚醒したタイプの人間だった。

 

《建造》から生まれた、いわゆる《オリジナル》と比べれば基礎能力は決して高くはないが、その潜在能力の高さや成長率は大本営も一目置いており、春島もそのポテンシャルの高さに期待して、通常の海戦のみならず《特殊任務》という名目の汚れ仕事を他の艦娘以上にやらせて来た。

 

それはつまり、心身共に疲弊しているということでもあった。

 

「ホント……ただの出撃任務だったら、いくらでも頑張れちゃうんだけどねえ…」

 

それでも龍田が耐えられたのは、猪宮の存在があったからだ。

 

彼女は気付いていた。猪宮が、自分たちと同様、本職とは別の何かを強要されているらしいことに。

それが何なのかまでは分からないが、彼も何かを強要されて、悩み苦しみながらも仕事に取り組んでいるのなら、自分もそれを見習わなくては……そう思いながら、今日までやってきたのだ。

 

しかし……

 

 

「でも……そろそろ、限界かも……」

「………」

 

滅多に見せない、龍田の苦笑い。

 

それはつまり、本当に精神が限界ということ―――。

 

 

「………乾。龍田と、他にチビたちを何人か連れて外に行ってこい」

「イノさん……」

「猪宮さん?」

 

「ちっと……提督に文句を言ってくらあ」

 

よっこらと立ち上がり、歩きだした。

 

「待てよ。だったら俺たちも――」

「オメェらは足手まといだ、すっこんでろ……!」

 

声そのものは荒げていないが、静かに発したその言葉から凄みが感じられた。

 

「っ……!」

「……おう」

 

これには、流石の巧や龍田も思わずビクッと反応してしまい、大人しく従うことに。

 

 

そして、遠ざかる二人の背中を見届けながら、猪宮は小さな声で呟いた。

 

「じゃあな、乾……艦娘たちを頼んだぜ」

 

「それから……。最期までダメなパパでゴメンな………『紫苑(しおん)』」

 

 

周りに艦娘が居ないことを確認し、猪宮は意識を集中。

 

チンピラたちの前で見せた、豚の様な灰色の怪物に変異した。

 

「っ!?」

 

変異する直前、たまたま通りかかった妖精さんに目撃されたが、怪物は妖精さんに「さっさと行け」と軽く手を振って逃してやり、そのまま執務室へと向かった。

 

 

そして

 

到着した執務室では、春島一人が待ち構えていた。

 

 

「それが答え……か」

 

執務室の壁面に、猪宮の影が浮かび上がり、怒りの表情を剥き出しにした。

 

 

『改めて分かったよ……。お前は提督の器なんかじゃない!!』

 

それに対し。

 

春島は椅子から立ち上がると、これまで以上に不愉快そうな眼差しを向けてきた。

 

「豚が……いや…《オルフェノク》の恥晒しが、人間のマネをするな!!烏滸がましい!!!」

 

そう声を荒げると、春島の顔に隈取が浮かび上がり。

 

怪物姿の猪宮――《ボアオルフェノク》に似た、西洋騎士の様な甲冑を纏ったライオンの様な怪物――《レオオルフェノク》に変異した。

 

『そもそも…マトモな戦果も挙げられず、妻子を死なせた無能な役立たずが!組織から提督の座を取り上げられてもなお、鎮守府に居座り続けること事態、不自然なんだよォっ!!』

 

影の中に春島の姿が浮かび上がり、ボアオルフェノクを口汚く罵り始める。

 

 

幅広の大剣を振るうレオオルフェノクに対し、ボアオルフェノクのメイスは一回りほど小振りな為、接近戦では不利に見えた。

 

それでも、ボアオルフェノクは盾や硬い体で防御しながら、反撃の隙を伺った。

 

 

『っ!グルル…ゴオオオォォアッ!!』

 

一瞬。間合いを開いたタイミングを好機と見なし、ボアオルフェノクは身体を膨れ上がらせ、下半身を四脚のイノシシに変化。爆走態となった。

 

『見せてやる………家畜(ブタ)意地(プライド)を!!』

 

 

 

―――同じ頃。

 

「――!」

 

ふと、龍田は歩みを止めた。

 

 

「龍田さん?」

 

文月が尋ねるも、龍田は反応しないまま、鎮守府の方を見つめていた。

 

 

「―――お父さん…?」




ファイズ編、クライマックスまでもう少し。

夏夜月が考えた話の中では、たぶん新記録なレベルの胸糞悪さ&切なさです(汗)


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25話 : 夢無き夢の()(びと)

その男には、夢がなかった。
だから、人の夢を守ることにした。
やがて、夢は見つかった。
その日の空は青かった。

どこまでも澄んだ空に―――砂が舞った。(「仮面ライダーぴあ」より)


「はっ……はっ……!」

 

 

気付けば、巧と龍田は鎮守府に向かって走っていた。

 

「たくみちゃん、龍田さーん!どうしたのぉ〜?」

 

付いてきていた文月や長月も、何事かと追いかける。

 

 

「お前らまで付いてくんな!ちょっと待ってろ!!」

「あら?たっちゃん、女の子を放ったらかしにするなんてヒドイわ〜」

「そういうお前だって、真っ先に一人で行こうとしてたらぉが!」

 

出会って、まだ一日も経っていないのに、巧と龍田のやり取りは漫才の掛け合いの様に呼吸がぴったり合っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

騒ぎを聞きつけ、何事かと寮内の艦娘たちも外に出てきた。

 

「な……何、アレ………!?」

「お…お化けでしょうか……!?」

 

一番に現場を目撃した五十鈴と、白露型駆逐艦《春雨》は身を潜めながら、2体の灰色の怪物……レオオルフェノクとボアオルフェノク・爆走態の争いを窺っていた。

 

『フウウ……!』

『ゴルルル…ッ、グルアァァアオッ!!』

 

五十鈴たちの視線を感じ取り、ボアオルフェノクは彼女らを巻き込むまいとして、鎮守府の敷地外へとレオオルフェノクを誘導していった。

 

艦娘(捨て駒)共を捨てた分際で、今でも情を抱いているとでも言うつもりか?能無しめ!』

『捨てたつもりは無い!お前たち《官僚派》が、俺たちを嵌めたんだろうがッ!!』

『………はっ。()()()()()()()()()()()に、そんな力があるとでも本気で思っていたのか?』

 

『………な、に?』

 

 

たかが人間―――

 

その一言に、ボアオルフェノクは目を見開いた。

 

 

世間から消え失せ、15年もの月日が経った今もなお、影に潜んでいるだけなのでは……と囁かれ続けている、とある企業体の名を冠した『組織』の名が甦ってきた。

 

 

しかし……と、ボアオルフェノクは動揺した。

 

『組織』の壊滅と艦隊司令部の設立には、大きなブランクがある。

ましてや、『組織』のトップや幹部はとうに破滅しており、企業その物も解体されている。

 

 

『まさか……お前は………!!?』

 

 

 

―――巧と龍田たちが鎮守府の門前に着いた頃。

ほぼ同じタイミングで、駆逐艦《三日月》が飛び出してきて、巧とぶつかった。

 

「っと……!お前、三日月か?」

「乾さん!!猪宮さんが……猪宮さんが……ッ…」

 

 

瞬間――

 

巧も龍田も、嫌な予感が脳裏を(よぎ)った。

 

 

「巧ちゃん……先、行くわね」

 

そう言うが早いか、龍田は独り走り出した。

 

「龍田!!………くっ!文月、長月!そいつは任せたぞ?」

「え?あ…ああ!」

「ふえ!?ちょ、たくみちゃーん!」

 

引き止めようとする文月の声を振り切って、龍田の後を追いかけた。

 

 

そして……

 

龍田を見つけたとき、巧の眼に映ったのは、龍田の傍らで傷だらけの身体を横たえている、ボアオルフェノクの姿だった。

 

 

「……巧ちゃん…」

「龍田………そいつは…」

 

「解ってる……。この人は……私の父よ」

 

「……………」

 

 

様々な感情を押し殺しながら、そう答える龍田に、巧は一瞬、口を閉ざす。

 

しかし、ボアオルフェノク――猪宮と目が合ったので、彼の傍に歩み寄った。

 

 

『……い…ぬい……か?』

 

影の中に猪宮の姿が現れ、弱々しい声で呼びかける。

 

「…ああ、居るぜ。あんたの娘も一緒だ」

『………そう…か……やっぱ…バレてたか……。はは、俺も……ずいぶん…隠し事……ヘタクソになった、もんだ…なぁ……』

 

ボアオルフェノクの手を取り、龍田は穏やかに微笑んだ。

 

「……判るよ。お父さん、嘘吐いたり隠し事があると、傷つけたくない人を必ず遠ざけるじゃない。お母さんや、私を守ろうとした時もそうだった……忘れたの?」

『……そう、だったな……』

 

 

かつて……猪宮忠夫が提督を務めていた頃。彼には妻子が居た。

家族と等しく、艦娘たちも大切にしていたので、『子煩悩提督』とあだ名されていたほどだ。

 

しかし、そんな彼の運営方針と少将という地位を気に食わない《艦娘蔑視派》や官僚主義の権力者である少数の一派たちが、力量に不釣り合いだとか提督として不適合だとか、あれこれ難癖をつけてきたのである。

 

それらを気にも止めず、「言いたい奴には言わせておいて、自分のやり方は貫く」をモットーとしていたのだが、それが連中の怒りに火を点ける要因となってしまった。

偽の任務書によって、連中が隠してきた悪事の全てを引き受ける結果となってしまい、罪人に仕立て上げられてしまったのだ。

 

懸命に無実を訴えたが、軍事裁判の役人たちさえも彼らの息のかかった者たちで構成されていた為、まともに取り合って貰える筈もなかった。

 

挙げ句、自ら考えることを放棄したチンピラ同然の憲兵によって捕らえられ、執拗な拷問を加えられた上に、劇薬を浴びせられたことで、顔も酷く傷つき、人としての全ての権利を奪われ、否定されてしまったのである。

 

絶望し、“死”を強く望んだその時、猪宮はオルフェノクとして目覚めた。

 

長い潜伏期間を経て、一人娘である紫苑の行方を捜しに行動を起こして程なく、彼女が《艦娘》として前線に出ているという話を耳にしたが、まさか彼女の居る鎮守府が、かつての自分の職場だと知った時は、なんという皮肉かと思った。

 

紫苑や艦娘(娘たち)と共に過ごした執務室に居座る若僧……春島が、かつて自分を貶めた連中の誰かの身内と知った瞬間、怒りが湧いたのと同時に好機だと思った。

 

これはまたとない、復讐のチャンスだと………。

 

 

幸い、奴は過去の自分しか知らない。ならば、誰にも不審がられぬよう入り込まねば……勿論、ただ復讐するだけでは物足りない。現場の艦娘たちから、少しでも奴を仕留めるに値する『理由』を集めねば。

 

全ては、この身で守れなかった大切な者たちへの贖罪と、この身を人ならざるモノに変えた者たちへの報復のため……

 

 

「ずっと……私たちを守るために、みんなから嫌われ続けてくれたのね。ブタって陰口を言われながら……ずっと、ずーっと……」

 

ボアオルフェノクの右手を、自分の左頬に触れさせながら龍田は愛おしげに微笑んだ。

 

その眼に、涙を浮かべながら。

 

「バカね……私のパパは、世界で一番優しいブタさん(パパ)だけよ?」

 

『………っ……ゴメンな……ゴメンなあ……しお―――』

 

 

別れの言葉はおろか、謝罪の言葉も言い終わらぬうちに、ボアオルフェノクこと猪宮忠雄の肉体は灰となって崩れ落ち。

 

龍田の手を…頬を灰で汚すことだけを最後に、その二度目の生涯に、静かに幕を下ろした………。

 

 

「………ごめん…たっちゃん。ちょっとだけ……作業着を濡らしちゃうね?」

 

「……勝手にしろ」

 

そう言いながら、巧が龍田の頭に手を置くと、龍田は巧に抱きつき、大声を上げて泣き出した。

 

追いつき、傍で聞いていた三日月や文月たちも、大粒の涙を流しながら泣き叫んだ。

 

 

あやすように、龍田の背中を叩きながら、巧は小さく呟いた。

 

 

「何がブタだ……。アンタだって人間だろうが……バッカヤロォ……」




小さな地球(ほし)の話をしよう。

夢を抱くもの、夢を奪うもの。

そして……誰かの夢を守るために、誰かの夢を潰すものが居た。

その守り人は紅い閃光と共に現れ……己が使命を罪と呼んだ。


次回『JustiΦ's』


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26話 : JustiΦ's

守りたいものがある。

だが、時には守るために戦わねばならない場合がある。
戦いは避けたい……

しかし、戦わねば守れない……。


終わりなきジレンマの下、孤独な狼は疾走(はし)り続ける。

己が信ずる道を、貫くために―――。


オルフェノクだった猪宮忠夫の最期を看取った巧と龍田、三日月たちは、残された僅かな灰を集めた後、猪宮の遺品を捜し、妖精さんたちの協力の下、工廠の裏手に小さな墓を作った。

 

 

《誇リ高キ勇将 猪宮忠夫 此処ニ眠ル》と墓標に刻み、猪宮が提督時代に被っていた軍帽と軍刀を飾ると、巧たちは改めて手を合わせた。

 

 

やがて、立ち上がると巧は龍田にこう告げた。

 

「龍田……妖精や文月たちと一緒に鎮守府を出ろ。千歳たちには先に言ってるから、後で合流出来る筈だ」

 

「フミィ…たくみちゃんは?」

「俺は……ちょいとやることが残ってるからな。そうだ……長月、一つ頼みたいんだが」

「?」

 

 

言いたいことだけ伝えると、巧は春島の執務室へと行ってしまった。

 

「長月ちゃん、何頼まれたの?」

「よく分からない……。ただ、巧の部屋に置いてあるアタッシュケースを持って、駐輪場へ行け……としか言われなかったからな」

 

「でもな……駐輪場に行けったって、見慣れない形のバイク1台しか無い筈だろ?アタッシュケースを持っていって、どうしろってんだか……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

猪宮を屠った後の執務室。

 

春島は深く息を吐き、昂ぶった感情を落ち着かせようと椅子にもたれ掛かった。

 

「ふー………。まったく…どいつもこいつも……使えねえ雑魚ばかりだ……」

 

 

オルフェノクとして覚醒し、組織に迎えられてから、春島は組織の為という名目で様々な手を尽くしてきた。

企業の利益を上げ、要職に就き、名を売り、時には上司や新入りのPRをするなどの、他人の売り込みという一番嫌いな仕事もこなしてきた。

 

それなのに、自分が最後に目指すべき目標は、どこの誰とも知れぬ反逆者たちによって消された。

 

この時の、全身から炎を噴き出すような怒りを春島は一度として忘れたことはない。

 

 

「クソが……王は俺が成ってこそだろうが……あんな裏切り者どもに殺られる程度の奴を……」

 

 

「なるほどな。要するに、テメェは《スマートブレイン》に拾われた身分だが、王に成り代わろうとしたクチって訳か」

「!」

 

 

振り向くと、巧が執務室に入ってきた。

 

「清掃員……いや…乾 巧……だったか」

「ああ。別段、覚えて欲しい訳じゃねえが、一応礼は言っとくぜ?」

 

相変わらずのぶっきらぼうな口調と態度であるが、それまでと唯一違うのは、その眼の奥に覚悟の炎を宿している点だ。

 

一方の春島は、そういった眼をした存在が大嫌いだった。

それらに出会す度に、圧倒的な力で屈服させ、時には絶望を味わわせ、自分に歯向かったことを後悔させながら排除してきた。

 

だから

 

「……なあ、乾。お前は艦娘をどう思う?」

 

今回も、絶望で苦しめながらいたぶるとしよう―――。

 

「?」

「知っての通り、艦娘たちはかの第二次世界大戦などで活躍し、沈んだ軍艦の魂が人の形を生み出した存在であると言われている………つまり、アレらの姿や力は、自ら望んで得たものではないんだ」

 

それまでの冷淡な目つきが消え失せ、穏やかな表情を見せ始めた。

 

「…つまり?」

 

唐突な展開に戸惑いを隠せない巧は聞き返した。

 

 

「周りの人間たちは、勘違いをしているんだよ。俺がやっているのは、艦娘に対する呪縛からの《開放》だ。知っているだろう?艦娘は人間……それも女の姿をしている。故に、下卑た欲望にまみれた蛆虫が集ってくる。結果、それに対して、艦娘に人権を…などとわめき出す連中が出てくる……その繰り返しだ」

 

「それを終わらせる、手っ取り早い方法があるのに、何故みんなやろうとしない?艦娘は軍艦の残りカス……兵器の延長線だろう?だったら、《ヒトの形》に惑わされないように使う。道具として使い、使い物にならなければ処分して代用品を調える……ただそれだけのことを、何故やらない?」

 

 

政治家の演説のように朗々と語る、春島に対し、巧は一言告げた。

 

 

 

「―――言いたい事は、それで(しま)いか?」

「?」

 

静かに、しかしハッキリと問うた巧は、より強く眼をギラつかせた。

 

 

 

「龍田さーん!たくみちゃんの言ってたアタッシュケース、見っけたよぉ〜!」

 

春島が巧に演説をしていた頃、龍田たちは巧の泊まり部屋に放置されたリュックの中に押し込められていたアタッシュケースを発見。

リュックだけ置いていくのも面倒だったので、リュックに突っ込んだまま長月がリュックを背負って駐輪場へと赴いた。

 

「ご苦労さま。重かったでしょ?」

「まぁ、かなりゴツいからそこそこ…な」

 

アタッシュケースを取り出すと、ケースには《SMART BRAIN》のロゴが刻まれており、その上には『俺がいないとき、どーしてもガマンできないことがあったらケータイで5821か5826を押せ』と書かれた1枚のメモが貼り付けられていた。

 

「ケータイって………」

 

不審がりながらも、龍田はアタッシュケースを開け、中身を確認した。

 

 

「……なによ、コレ……」

 

そこに入っていたのは、折り畳み式の携帯電話とトーチライト、ホルダー付きのデジタルカメラ。

 

そして、大型のベルトだった。

 

「巧ちゃん……貴方、いったい………」

 

龍田が思わず呟いた、その時。

執務室の方向からガラスの割れる音が聞こえてきた。

 

 

 

時は少し遡って、春島の演説を聞き終えた直後。

 

「乾……何か言ったか?」

 

春島が聞くと、巧は答えた。

 

 

「だから……言いたい事はそれで終わりかって聞いてんだよ」

 

言うが早いか、巧は春島に向かって殴りかかった。

 

 

「ッ!!(コイツ……なんて速さだ!)」

 

巧の右ストレートが顔面に来る直前、春島は合気道で往なしつつ、態勢を崩そうと後ろへ退がった。

しかし、巧はそのまま膝を着き、跳び上がる勢いを利用して左アッパーを春島の顎に叩き込んだ。

 

「ッが……!」

「どぉした……見せてみろよ、お前の“本当の姿”を」

 

「ッの……ザコがぁ……!!」

 

挑発を返され、春島は苛立ちを露わにした。

そして、レオオルフェノクへと変化すると巧に向かって剣を振り回し、一気に仕留めようと暴れかかった。

 

長年の戦いの経験を活かし、巧はその力任せな剣戟を全て躱していく。

その流れで、執務室の窓が壊れ、両者は外へ。

 

 

「巧ちゃん!」

「たくみちゃーん!!」

「巧!大丈夫か!?」

 

その時。

騒ぎを聞きつけて、龍田や文月らが来てしまった。

 

それは、巧にとって最悪の展開だった。

 

「ひっ!?お…オバケ……!?」

 

レオオルフェノクを見て、文月は恐怖のあまり固まってしまう。

 

レオオルフェノクは、これを好機と見て、春島の影を浮かび上がらせると龍田に呼びかけた。

 

『やあ、龍田。ちょうど良かった、来てくれて助かったよ。ちょっとそこの反逆者(ゴミクズ)を片付けてくれるかな?』

「嫌よ。私は…私たちは、もう貴方の言いなりにはならない」

 

薙刀を振るい、龍田はレオオルフェノクに刃を向けた。

 

しかし、春島はハッハッハとにこやかに笑うのみ。

 

『君がどうしたいかを聞いてるんじゃない。ゴミを処理してくれと言ってるんだ』

「お断りよ」

『お断りするかどうかは聞いて…』

「黙りなさいよ!」

 

拒否権は無いと言い続けた春島に対し、龍田は強い意思を以て命令を拒んだ。

全ては、自分に正直になる生き方をするために……

 

 

その意思を感じ取ったからであろう、春島は本性でもある感情の見えない冷めた表情に変わった。

 

『……駆逐艦ども。そこのゴミを処分しろ。人間のマネをしたがるゴミと、反逆するゴミだ……殺れ』

 

 

その眼と声……春島の存在その物に対し、文月たち艦娘は支配され続けてきた。

拒めば解体処分されるか、娼婦として売り飛ばされるか……逃げることも許されない、文字通りの囚人か奴隷同然の状態にあったのである。

 

 

『壊されたくないんだろう?さっさと殺れ』

 

怖い……

怖い……!

 

単装砲を持った、文月の手が震える。

 

猪宮のおじさんと同じく、自分に優しくしてくれた巧を殺さねばならない……でも、殺したくない。

 

でも、殺さねば自分が殺される……逃げ場が無い。

 

 

『さっさと殺れよ、クズがっ!!』

 

「巧ちゃん……ごめんなさい!!!」

 

 

これ以上、大切な誰かを傷つけるぐらいなら……そう思ったのであろう文月は、単装砲を自身の首元に突きつけた。

 

 

「なっ……!!?」

「フミ、止めろォォッ!!!!」

 

驚愕する巧、大声を張り上げながら止めようと走り出す長月。

 

「ダメェェェェっ!!!!!」

 

 

これ以上、大切なものを喪いたくない―――

その一心で、龍田はアタッシュケースからケータイを取り出し、巧の書き置きにあった番号《5821》を入力。ENTERキーを押した。

 

 

【AUTOVAJIN COME CLOSER】

 

 

コードを入力した瞬間。

 

駐輪場にポツンと置かれていた、1台のオートバイが独りでに起動し、巧たちの下へと向かって走り出した。

 

「ん……?え!?ちょ、えぇっ!!?」

 

鎮守府の門前で待っていた千歳・千代田姉妹らは、その異様な光景を目撃し。

 

 

さらに

 

「………え?」

 

コードを入力した龍田や、文月たちはさらなる光景を目の当たりにした。

 

 

駆けつけたオートバイが人型に変形、自立し。

レオオルフェノクに向かって突撃、パンチやキックを繰り出し始めたのである。

 

「………」

「なに…コレ……」

 

呆然としてしまった艦娘たちの下へ歩み寄ると、巧は文月の頭を軽くゲンコツで叩いた。

 

「ふみゃっ」

「ったく、ヒヤヒヤさせやがって……。家族を泣かすようなマネすんなっつうの」

 

家族……その言葉に、文月は長月たちを見る。

 

「……う……ふぇ……っ……うわあぁ〜〜ああん!!ごめ…ごめんなさぁあああいっ!!」

 

長月に抱きつき、人目も憚らずに大声で泣く文月。

 

それに対し、企みを尽く潰されたレオオルフェノクは怒り心頭といった風で唸り声をあげている。

 

 

ロボットに変形したオートバイ・SB-555V《オートバジン》は文月らの前に立ち、「手出しさせない」といった様子で立ちはだかった。

 

 

「龍田。ケースん中にベルトとかがあったろ、残り全部出せ」

「え?……う、うん…」

 

何をするつもりなのか、ロボットになったバイクは何なのか……聞きたいことを挙げたらキリが無いのだが、今はとにかく現状の打破である。

 

 

巧はベルトを腰に装着すると、トーチライトを右のサイドバックルに、デジタルカメラを収めたホルダーを左のサイドバックルにそれぞれセットした。

 

そして、龍田から携帯電話・SB-555P《ファイズフォン》を受け取ると、開いてテンキーを《5・5・5・ENTER》と入力した。

 

 

【STANDING BY】

 

 

フォンを畳み、右手に持ち替えると空高く掲げ、巧は叫んだ。

 

 

「変 身 !!」

 

 

ベルト・ファイズドライバーのバックルにインサート、右回りに倒すと全てのコード入力が完了した。

 

 

【COMPLETE】

 

 

バックルに備わった装置を起点に、赤いラインが巧の身体を覆い、やがて深紅の輝きを放った。

 

「っ!………えっ」

 

 

 

光が収まると、そこに乾 巧の姿は無く。

 

代わりに、黒と銀の装甲、赤いラインの走るスーツと『Φ(ファイ)』を思わせるマスクで身を包んだ謎の戦士が、右手首を軽くスナップさせながら立っていた。

 

その姿に、レオオルフェノクは初めて驚愕の表情を見せた。

 

 

『3本のベルトの1つ……《ファイズ》!?何故、それを貴様がッ!!?』

 

「ゴチャゴチャうるせえな……。さっさと来やがれ!」




ちょっと、欲張って詰め込み過ぎましたぁ(;´Д`)

ダルかったらスミマセンですm(_ _;)m


次回、ファイズとバジンたん大暴れですぞいっ!!


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27話 : その名は555(ファイズ)

ファイズ編第1章、いよいよクライマックスです!

疾走する本能を、今!!


その鎮守府は、世間的には問題の無い鎮守府であると言われ続けていた。

 

だが、それはあくまで表の顔に過ぎず、提督・春島勇矢の統率という名の独裁支配を受けていた。

そうした一切の情報が露呈しなかったのは、秘密を探ろうとした者や彼に利用され続けた末に見限られた者、彼の支配から艦娘を逃がそうとした者が尽く消され、彼にとっての駒である艦娘たちを力と恐怖で抑え込んでいたからだ。

 

そうした支配から、艦娘となった娘や他の艦娘たちを開放しようと、春島と関わりのある大本営の一部派閥から追放された元提督・猪宮忠夫の遺志を継ぎ、無念を晴らすべく、一人の男が立ち上がった。

 

しかし……その男は、自分は正義などではないと言った………。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「巧……ちゃん?」

 

怪物としての正体を明かした春島ことレオオルフェノクと対峙すべく、レオオルフェノクが《ファイズ》と呼んだバトルスーツ姿に“変身”した巧を、龍田たちは凝視していた。

 

「ひょっとして……仮面ライダー…?」

「仮面……ライダー……?」

 

文月の呟きに、長月が反応する。

 

 

 

艦娘や深海棲艦の存在が確認される、そのずっと昔……世界各地に、人々の平穏を脅かす悪と戦う、仮面を着けた戦士が存在するという都市伝説が語り継がれていた。

 

バイクを駆り、風と共に現れ、嵐のように闘い、そして風と共に去っていく男………

 

人々は彼らを、《仮面ライダー》と呼んだ―――。

 

 

「フッ!グルルァっ!」

「ふん!はっ!おらぁ!」

 

レオオルフェノクの振るう大剣を躱しつつ、ファイズは小刻みにパンチや膝蹴りを繰り出していく。

 

「グッ!」

 

怯んだ一瞬を逃さず、ファイズは大振りのパンチやキックを叩き込み、反撃の隙を与えない。

 

「すごい……。巧ちゃん、戦い慣れてる……」

「でも、あれじゃヤンキーとかチンピラのケンカと変わんないぞ……」

 

長月の言う通り、ファイズの戦い方は、型にはまらないラフファイトその物で、オルフェノクとはいえ、軍人としての教養と武道の基礎を心得ているレオオルフェノクとは真逆のスタイルだった。

 

その為、徐々にではあるが、戦局はファイズの優勢へと傾き始めていた。

 

 

『ぐっ……この、ザコがぁあっ!!』

 

自身の劣勢を認められないレオオルフェノクは、マントをライオンの(たてがみ)のように逆立てると、起爆性の針を無数に発射した。

 

「!!」

 

ファイズは辛うじて躱していくが、その脅威は龍田や文月たちにまで降り掛かった。

 

「キャアアァァッ!!!」

 

逃げ切れない……そう思い、龍田は文月らを抱きしめて強く目を瞑った。

 

 

しかし、次の瞬間。

 

オートバジンがビークルモード時の前輪・バスターホイールを構えると、弾幕を張って龍田たちを守った。

 

「っ!!?グアァッ!!」

 

その弾丸の雨は、防御手段を持たないレオオルフェノクを捉え。

ファイズの打撃以上の攻撃を加えた。

 

………が、その猛威はファイズにも及び。

 

「っとと!?…おいコラ、テメェ!!前と同じことやらかしてんじゃねえっての!」

 

ギリギリ被弾は免れたものの、ファイズはオートバジンの脇腹を殴りつけた。

 

「前と同じ……って、前にもあったの?」

 

文月の問いに「まぁな」と簡潔に答えると、ファイズはオートバジンの胸部のスイッチを押して、バトルモードからビークルモードへ戻した。

 

「……さっさと終わらせる」

 

バスターホイールの乱射が効いていたらしく、レオオルフェノクはフラついており。

 

ファイズの発した一言に、恐怖を感じ取った。

 

「グッ……ウゥ……!」

 

「恨むなら俺を恨め。お前の夢は、俺の夢を潰す……コイツらの夢も潰す。だから……俺は、俺やコイツらの夢を守るために、お前の夢を潰す!」

 

 

右腰のトーチライト・SB-555L《ファイズポインター》を取り、ファイズフォンにセットされたミッションメモリーをセット。

筒状のパーツが延長すると同時に、【Ready】の電子音声が発せられ、ポインターユニットとなる。

 

 

右脚のスネ部分のスロットに装着し、そのまま腰を低く落とすと、フォンを開いてエンターキーを入力した。

 

 

【EXCEED CHARGE】

 

 

フォンを閉じると、バックルから右脚のラインに沿って光が走り、ファイズは走り出した。

 

「グル……グルァア……!!」

 

 

今までに感じたことの無い、恐怖という感覚に支配され、レオオルフェノクは後退りを始めた。

 

しかし、それも最早手遅れだった。

 

 

跳躍、一回転した直後に両足を揃え、前に突き出したところでファイズポインターから深紅の光が一直線に放たれ、レオオルフェノクの心臓部に打ち込まれると、光は円錐形に広がり、レオオルフェノクの動きを封じた。

 

そして

 

 

「でぁあああああッ!!!」

 

 

円錐形の光の中心部に向かって、ファイズはキックの態勢で飛び込み。

 

光と同化、ドリルのように回転。

 

必殺キック・クリムゾンスマッシュを()めた。

 

「グゥっ…ゥア……アガアァァァアアアアアアアアっ!!!!!!」

 

 

やがて

 

光が消えると、ファイズが姿を現して、着地。

 

 

瞬間……レオオルフェノクの背後に『Φ』の印が浮かび上がり、同時に青白い炎が全身を包み込んだ。

 

そして、砂の城が崩れ落ちるかの如く、レオオルフェノクの肉体は崩壊。

 

 

「………」

 

 

この、人殺しめ―――

 

崩れ落ちる寸前、レオオルフェノクこと春島に、そう罵られたことをファイズは思い返す。

 

ゆっくりと振り向き、遺された灰を見つめながら、一言だけ呟いた。

 

 

人殺し(テメェ)にだけは、言われたかねえよ」




ファイズ編、1章完結まであと少しです!


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28話 : ついでだ

ファイズ編1章、完結編でございますm(_ _)m

暁の水平線に、紅い勝利の刻印を刻んだ男の行く末は?


猪宮、並びに春島の死から一夜明けて。

 

今だに激闘の傷跡が残る【流星鎮守府】の食堂で、龍田たちは朝食を摂っていた。

 

 

「………」

「……龍田、大丈夫?」

 

沈黙の空気を変えようと、思い切って五十鈴は龍田に話しかける。

 

「ん……うん。おと……猪宮さんの事は、まだ割り切れてないけど……」

「良いよ?無理しなくて……。三日月たちから聞いたわ、猪宮さんとあなたの関係。だから……ちゃんと“お父さん”って呼んであげないと、安心して眠れないわよ?」

 

 

五十鈴の暖かい言葉に、龍田は再び涙を溢れさせる。

 

龍田の左隣に座っていた春雨が、優しく背中を撫でた。

 

 

「……乾さん、早く帰ってこないかな………」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

大本営 海軍総司令部 懲罰房

 

春島勇矢中佐殺害の容疑で、男――巧はそこに居た。

 

戦闘中、騒ぎを聞きつけ、状況を目撃した市民が通報した為、戦闘の終了直後、憲兵隊が到着。

 

「貴様がやったのか………?」

「ここの鎮守府の提督はどうした!」

 

憲兵からの質問に対し、ファイズの変身を解除した巧はあっさりと答えた。

 

 

「俺が殺した」

 

理由も、経緯も話すことなく。自分の犯した行為だけを簡潔に伝えて、そのまま連行されたのである。

 

そして現在。改めて取り調べを受けるべく、身柄を拘束されていた。

抵抗する気は更々無かったのだが、「万が一ということもある」として、一人の生真面目な憲兵から手錠を掛けられた。

 

「ハア……」

 

面倒臭い手続きがあるのは、どこも一緒か……などと考えていると

 

「出ろ。取り調べを始める」

 

巧に対して慎重な姿勢を崩さない、憲兵中佐が扉を開けてきた。

 

よっこいせと立ち上がり、取調室へ向かった。

 

 

「おー、憲ちゃん。今日も精が出ますわノー?」

「ヒの字、お前こそ今日はまた何の用だ?」

 

移動中、向かい側から歩いてきた男・ヒィッツに声をかけられ、憲兵中佐は少しばかり嫌そうな顔をする。

 

「提督や海特警としての仕事に、一々理由を求めんなよ」

「お前の場合は、理由がガキ臭いか理不尽か暇潰しかのいずれかしか無いからな」

「ひどいや」

 

まーいーや、と切り替えて行きかけたが、ヒィッツは巧をチラッと見て一言。

 

「そいつ、気をつけてやれよー」

「?」

 

中佐も巧も、何の事かと首を傾げつつ、取調室へと入った。

 

 

「失礼します。罪人をお連れしました」

「ご苦労、入ってくれ」

 

入室すると、待っていたのは審問官ではなく、明らかに要職の軍人だった。

 

 

「初めまして。私は海軍総司令部査察局の指揮官をしている、花田だ」

 

簡単な自己紹介をしてもらったので、とりあえず軽く会釈する巧。

 

「中佐、後は私が引き継ぐ。彼の手錠を取ってやってくれ」

「しかし……」

 

花田司令の言葉に対し、憲兵中佐は渋るも。

 

「……分かりました」

 

花田の無言の睨み付けに、若干怯みつつも従い、巧の手錠を外し、退室した。

 

 

「………良いのかよ?人一人殺したのは事実だぜ?」

 

巧が尋ねると、花田司令は静かに口を開いた。

 

 

「―――スマートブレイン。そして、オルフェノク………。過去の亡霊については、ある程度の情報を仕入れてはいたが、まさか軍内部に潜んでいたとは迂闊だった」

「!」

 

 

スマートブレインを知っている……?

取り調べの為、現在ファイズギアを没収されているが、巧は警戒態勢を取る。

 

「そう身構えんでくれ。私は何も、君をどうこうしようというつもりは無い。寧ろ、感謝をしているんだ」

「…?どういうことだよ?」

 

「流星鎮守府の先任提督である、猪宮少将のこれまでの事情は、ウチのあきつ丸や知人の指揮する海特警、それから諜報機関などが把握していた。だが…彼を追放した保守派のクズ共や取り巻きのゴミは処理出来ても、肝心の鎮守府に居座る奴が尻尾を出さない上に、近隣の住民らもそいつの本性を疑いもしないという、まるで洗脳されているかのような異常な状況下にあったから、手の出しようが無かったんだ」

 

 

花田司令の言う通り、春島は市民を集めての親睦会を積極的に行っており、住民一人一人に対し、丁寧に接していた。

 

思えば、先の戦闘中、文月らに投げかけた言葉も、そうした洗脳を行うための話術の一つだったのだろう。

 

さらに、猪宮が清掃員として鎮守府に戻ってきたときには、その変わり果てた容姿を利用して、全ての罪や容疑を彼に向けさせることで、スケープゴートにしていたのだと巧は理解した。

 

 

「近いうちに、流星鎮守府の査察を検討していたので、その日に合わせて春島を尋問しようと考えていたんだが……こちらの行動が一歩遅かったために、猪宮閣下を死なせてしまった。しかし、君が春島を討ち倒してくれたお陰で、流星鎮守府とそこに在籍する艦娘たちは救われた。猪宮閣下に代わって、礼を言わせてほしい―――ありがとう」

 

 

深々と頭を下げる花田に対し、巧はなんとも言えない気持ちになった。

 

「……俺は、俺が気に食わないと思った奴をぶちのめしただけだ。正義がどうとか、そんなもん俺にはねえ」

「分かっている。君のその飾らない姿勢こそ、閣下が君を推薦していた理由の一つだろう」

 

「………は?推薦?」

 

そうだ、と花田は頷き。後ろに控えていた秘書艦【蒼龍】から一枚の用紙を受け取ると、机に置き、巧の前に差し出した。

 

 

「単刀直入に言う。乾 巧、君に――」

「断る」

「即答っ?!」

「……まだ何も言ってないぞ?」

 

驚く蒼龍や花田に対し、巧は嫌そうな顔をした。

 

「提督をやれってんだろ?俺はそんなのやる気はねえし、ガラでもねえ」

「……まあ、そう言うだろうとも少しは覚悟していたさ」

 

「………しかし。そうなると、もう流星鎮守府をまとめる提督は、候補者すら居ないことになる。これまでにも、後任を育てる意味も兼ねて若手を送ろうとはしたんだが、春島の息のかかった暴漢などに暗殺されたり、暴行されたりしていてね……総司令部の元帥閣下や『総統』閣下が任せられる、適任者が居なくなってしまったんだよ」

 

「…だから、このまま提督になる奴が居ないなら鎮守府は解体するってのか?あいつらの居場所はどうなる?」

 

提督が居ない………その状況から続く結末に対し、巧は不満を露わにする。

 

「別の鎮守府への異動が主になる……が、それを拒むのであれば退役……市民票を受領して、一般人として生活することになるな」

「………」

 

艦娘が一般人として暮らす―――

 

それ自体はさして珍しいものではない。

都内には保育士として務める者もあれば、新聞記者として頑張っている者もいるくらいだ。

 

しかし……今回はそう楽観視出来ないだろう。

 

市民から支持を得ている提督の突然の訃報、そして主犯として連行された鎮守府の職員。

 

そんな単純明快な状況にあって、提督を護るべき立場である筈の艦娘が何の対処もしなかった……

 

艦娘軽視主義の人間や、春島を支持していた者たちからすれば、艦娘たちは間違いなく非難の対象となる筈だ。

最悪、これまで以上に辛い思いをすることになるかもしれない。

 

そうなれば、龍田を始めとした艦娘(むすめ)たちの身を何よりも案じていた父親(イノさん)の想いが無駄になってしまう……

 

 

巧の中で、迷いが生まれだしたその時。

 

「たっちゃん!!」

「たくみちゃーん!」

「巧……!」

 

龍田と文月、そして長月の3人が取調室に飛び込んできた。

 

「申し訳ありません、司令!!彼女らが、急に容疑者を釈放しろと言って飛び込んできたもので……」

 

「お前ら……?」

 

職員の憲兵が謝罪するも、花田は軽く手を挙げて「構わんよ」と許し、龍田らを残して下がらせた。

 

 

「たっちゃん……」

「たくみちゃん……イヤだよ…文月、たくみちゃんとお別れしたくないよぉ!!ふぐ…ひっく……ふぇええ〜〜ん!!」

 

龍田は悲しげな眼で見つめ、文月は耐えきれずに泣き出し、巧にしがみついた。

 

「お前ら、どうやって……って…まさか……」

 

どうやって来たのかと思ったが、巧はすぐに理解した。

 

オートバジンにはファイズを的確にアシストすべく、自立型の超AIを内蔵している。

学習能力も高い為、ファイズの適合者でなくとも簡単な指示を聞き取り、実行することが出来る。

 

恐らく……否、間違いなく、文月あたりが見様見真似でオートバジンに指示を出して、ここまで運んでもらったのだろう。

 

(あのクソバイク……)

 

すると、長月も巧の前に出て。

 

「巧。私は、正直、あんたが苦手だ。口が悪い所とか、猫舌な所とか……私と似た所が多くって、同族嫌悪?みたいなのがどうしても拭えない」

「………でも。大事にしたいって思うのは嘘じゃない。だから……」

 

「だから!“私たちの鎮守府(ウチ)”に居てほしい!これからも…ずっと!!」

 

長月なりに、相当な勇気を振り絞ったのだろう。

 

眼は潤んで涙を浮かべており、握りしめた拳や足は震えていた。

 

「たっちゃん……お願い」

 

龍田も、同様に巧の眼を見つめる。

 

 

「…………」

 

純粋な眼で見つめられること……巧は、それが苦手だ。

 

そうした眼差しや期待を裏切ること……巧が最も怖れていることなのだ。

 

しかし……今の彼は、もう独りではない。

 

遠く離れていても、巧を想い、帰りを待ってくれる、守りたい人たちが居る。

 

こんな自分を仲間と呼び、並び立つ者たちが居る。

 

それなのに、自身への不信や不安を抱えるばかりで、思いに応えないでどうする?

 

 

「………清掃員のバイト。そのついでだからな?」

 

 

だから

 

「逆じゃないのかい?普通」

「知るかよ。俺があそこに居たのは、元々清掃員としてだ」

「じゃあ、お掃除提督って呼んじゃう〜?」

「何だ、そりゃ……」

「フミィ〜♪たくみちゃん、居てくれるのぉ?」

 

 

今は、そこから始めてみようと思う。

 

「じゃあ、正式な手続きは明日以降、また改めて」

「ああ」

 

 

俺の夢を叶え続けるために。

 

それから……ちょっと形は違うが、お前の夢も叶えてやるよ。

 

 

なあ……木場。




長かった……

ここまで苦心したのは、クウガ編以外で初めてですわぁ(;´Д`)


ファイズ編、第1章。お疲れ様でした。


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登場人物紹介・ファイズ編

Open your eyes, for the next Φ's.



ファイズ編の主な登場人物紹介といきます。


乾 巧/仮面ライダーファイズ

 

流星鎮守府にて清掃員のバイトをしていた、フリーターの青年。

 

西暦2003年、都内のみならず世界規模に影響を及ぼした大企業・スマートブレインが開発した“3本のベルト”の一つ、ファイズギアの所有者であり、人類を滅ぼさんとするスマートブレインやその構成員と言うべき怪物《オルフェノク》を相手に、人の夢を護るために戦い続けた。

 

良く言えば裏表の無い、悪く言えば口の悪い性格で、無愛想な態度と相まって冷たい人間だと誤解されがちだが、その内には人の心を守ろうとする、誰よりも熱いハートを秘めている。

 

鎮守府を支配していた提督・春島を倒したことにより、自分の用は無くなったとして鎮守府を去ろうと考えていたが、戦いを最後まで見届けた龍田たちからの説得もあり、海軍総司令部査察局長・花田刀治郎からの流星鎮守府提督着任の命を受諾。

ここに、人類の未来や海の平和のみならず、人の夢を護るために戦う提督が誕生したのである。

 

 

龍田

 

天龍型軽巡洋艦2番艦娘。

 

各種資材の合成による《建造》から誕生する《オリジナル》と呼ばれるタイプと違い、人間から覚醒したタイプとされる《ライズアップ》で、本名を『猪宮紫苑』という。

『龍田』らしい、おっとりした雰囲気の少女であるが、その戦闘センスと成長速度は天賦の才とされており、大本営や春島から期待を向けられ、その分ハードスケジュールの下で任務をこなしていた。

 

7歳の頃、実父である猪宮忠夫と生き別れてしまい、艦娘となってから流星鎮守府で再会したが、お互いに変わり過ぎてしまった為、なかなか話しかけられずにいた。

 

春島の手から、龍田や他の艦娘たちを開放しようと戦った猪宮を喪ったが、父の遺志を継いで仇を取ってくれた巧に深い感謝の念を抱くと共に、彼とならどんな苦境でも乗り越えていけると確信。提督になってくれるよう説得した。

 

 

文月

 

睦月型駆逐艦7番艦娘。

 

流星鎮守府に在籍する艦娘の中で一番の新参者で、着任して日が浅いこともあってか、かなりの甘えん坊である。

 

着任して間もなく、春島から『特別なお願い』として、資材の補給を担う貨物船を強襲、乗組員を皆殺しにしてしまう。

守るべき人間を手に掛けてしまったことを悔やみ、泣いていたところで猪宮と巧に出会った。

 

手を差し伸べられたことから巧に懐き、彼が鎮守府を去ろうとした時には泣きつき、しがみついてまで留めようとした。

 

巧が提督となることが決まってからは、巧に甘える目的で任務に勤しむようになったとか。

 

 

長月

 

睦月型駆逐艦8番艦娘。

 

春島が提督になる、少し前に着任した艦娘で、艦娘寮では文月と五十鈴の2人がルームメイトである。

凛々しい雰囲気に違わず、勇敢かつ男前な性格で、春島からの暴挙にも臆することなく立ち向かっていたが、彼の言葉を信じて疑わない市民たちから反感を買う結果となり、前線から外れ、《特別任務》と称した春島にとっての反乱分子を排除する汚れ仕事や、遠征ばかりを繰り返す日々を過ごすようになった。

 

巧が提督となることが決まってからは、文月を見倣って「誰かに甘える」練習をしている模様。ちなみに、実は高い所が苦手。

 

 

五十鈴

 

長良型軽巡洋艦2番艦娘。

 

大きく伸びたツインテールとハキハキした性格が特徴で、改装済。

文月と長月の二人とは寮のルームメイトであり、二人に取っては面倒見の良い姉代わりでもある。

 

猪宮とは彼が提督だった頃からの顔見知りで、彼の復讐に対し、素直に賛同は出来なかったが、可能な限りの情報提供をするなどの協力はしていた。

 

巧が提督となってすぐ、猪宮の秘密と最期を聞かされた際には、独り彼の墓に花を供え、助けられなかったことへの謝罪と感謝の意を伝えた。

 

余談だが、個体差なのか着痩せするタイプらしく、通常の《五十鈴》よりも大きな胸がコンプレックス。

 

 

猪宮忠夫/ボアオルフェノク

 

流星鎮守府元提督。階級は少将。

 

《子煩悩提督》とあだ名されるほど、家族や艦娘を大切にしており、愛妻家としても知られていた。

艦娘の指揮についても非の打ち所が無く、艦娘たちからの信頼も厚かったのだが、当時の上層部一派はこれが気に食わなかったらしく、自分たちが犯してきた数々の悪事を、卑怯な手口で押し付け、一方的な決断で海軍から追放。さらに金で雇った暴漢たちに襲わせ、散々に痛めつけた。

 

自身に降り掛かった災難を恨み、絶望したとき、オルフェノクに覚醒。艦娘たちの開放や自分の復讐を果たす為に、清掃員として鎮守府へと潜入した。

 

変わり果てたその容姿から『豚』と陰口を叩かれようと、暴力を振るわれようと、大切な家族を取り戻し、守れるのならという一念で辛抱強く耐えていたが、標的であった春島までもがオルフェノクであった為、力の差で敗れてしまい、巧と実の娘である龍田こと紫苑が見守る中、その二度目の生涯を終えた。

 

 

春島勇矢/レオオルフェノク

 

流星鎮守府提督。階級は中佐。

 

関東海軍士官学校を次席で卒業するほどの秀才で、一軍人としての能力も高かった。

 

そんな彼の最大の問題点はただ一つ、『人間性』にあった。

 

優秀とされる人間を輩出してきた名家に生まれ、金も地位もある環境で生まれ育ったが故か、常に自分が他人の上に立っていなければ気が済まない、傲慢不遜な性格で、その対象は艦娘であろうが目上の人間であろうがお構い無しだった。

 

ある時、スマートブレインから送り込まれたオルフェノクの襲撃を受け、使徒再生の攻撃によってオルフェノクに覚醒した彼は、自身の力を試したいという身勝手極まりない理由で、邸宅内の人間を全て、襲撃してきたオルフェノク諸とも皆殺しにした。

スマートブレインに入社後は、あらゆる手を使ってのし上がり、最終的にはオルフェノクの王になろうとしたが、本社が倒産した為に失敗。

 

その後、自身に媚びる或いは従う者のコネを使って流星鎮守府の提督として着任し、艦娘を使っての人類滅亡計画を進め始めるも、これに気付いた猪宮の妨害や巧たちの反発によって阻まれ、倒されて生涯を終えるという、本人に取っては屈辱極まりない最期となった。



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《番外編》戦う鋼鉄(てつ)の兄2人ー前編ー

明けましておめでとうございます!

本作は基本、艦これと仮面ライダーのクロスなのですが、番外編ではそれ以外のヒーローが出てきちゃいます!!

今回はお正月特番的なノリで楽しんでいただければと思います!


僕たちの鎮守府に“兄”がやってきたのは、鎮守府近辺の桜並木が青々と茂り、初夏の気配を報せている頃のことだった。

 

 

「初めまして。今日から、こちらでお世話になる兄の譲治(ジョージ)と……」

 

「弟の竜治(リュージ)です!ヨロシク!!」

 

 

「…………へ??」

 

 

それは、本当に突然だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Ex.episode『戦う鋼鉄(てつ)の兄2人』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

皆さん、初めまして。

僕はレーベレヒト・マース、艦娘です。

 

先日、僕たち艦娘に兄が出来ました。

 

それも一度に二人も。

 

 

「提督、次の資料なんですが……」

「ああ、大淀。それについての資料なら―――」

 

 

上の兄・譲治。

 

この鎮守府で提督を任されることになった人で、階級は中佐。

でも、階級に見合わない冷静かつ合理的な分析力を持っていて、しかも目先の利益ばかりに囚われない柔軟な思考の持ち主でもある。

 

『温故知新』という格言を聞いたことはあるけど、この人のためにこそあるんじゃなかろうかと思ってしまうほどの智将だ。

 

 

「少佐ー、お腹空いたよ〜」

「おう!ちょいと待っててくんな!」

 

下の兄・弟の竜治。

 

兄が知に優れているのなら弟は力だと言わんばかりに、こちらは腕っぷしが立つ。

でも、この剛力が自分のために振るわれた場面は一度も無い。

 

力持ちではあるのだが、それを発揮するのは艦娘や人助けのため。

また、手先が器用らしく、間宮さんたちに混じって厨房に立ち、みんなに料理を振る舞ってくれるなど『家族サービス』(本人談)を惜しまない。

 

 

(しかも美味しい……)

 

お陰で、大半の駆逐艦や一部の艦娘たちからは揺るぎない信頼を得ている。

 

 

 

ところが、だ。

 

 

これほど話題に事欠かない二人なのに、今まで一度も姿を見かけた事も無ければ、名前を聞いたことさえ無い。

 

ハッキリ言ってしまえば、何もかもがノー・データ。大本営の方でさえ確認が取れていないのだ。

 

 

(まさか………?)

 

あの二人は、噂に聞く人の姿を借りることの出来る化物……『揚陸侵艦』なのではないか?

 

しかし、それにしては会話が成立するというのも引っかかる。

 

考えれば考えるほど、謎が謎を呼び、レーベは頭がパンクしそうになった。

 

 

「レーベ?」

「っ!ぁ……アトミラール……」

 

ウンウン唸っているところへ、譲治が心配そうに声を掛けてきた。

 

「どうしたんだ?また報告書に誤字脱字でも見つけたのか?」

「ちっ、違うよ!?僕はただ、アトミラールたちが……!」

「俺たちが?」

「ぁ…ぅ……」

 

 

 

聞けない……。

 

聞けるわけ無い………

 

こんな、穏やかで純真無垢な眼をした人に、『実は人間じゃないのではないか?』なんて………

 

 

「………アトミラールたちは、いつも言うよね?僕たち艦娘は“妹”……かけがえの無い、大切な家族だ……って」

 

「………ああ」

 

レーベの不安げな態度を感じたのか、譲治は少しだけ間を取って隣に腰掛ける。

 

「でも……アトミラールなら聞いたことあるでしょ?『家族』っていう言葉で人を支配して、全てをメチャクチャにしたっていうヒドい事件のニュース……」

「……ああ。あれは本当に惨たらしい事件だった」

 

「だから怖いんだ……僕が…僕たちが感じている、この幸せも……もし、偽りの物だったらって……!」

 

 

「レーベ」

 

膝を抱え、震えだしたレーベの頭に、譲治の右手が優しく触れる。

 

「お前は今、俺の手をどう感じている?」

「…………あたたかい」

「ちょっと、抱き寄せるぞ?―――どう感じる?」

「っ……ちょっと、ゴツゴツしてて……でも、やっぱりあたたかい……」

 

「その暖かいと感じる気持ちが、みんなで過ごした毎日が、全部夢だと思うのか?」

「アトミラール……」

 

大きく、暖かい手がレーベの頭の上だけでなく、胸の内にまで温もりを届けていく。

 

 

「お邪魔だったかな?」

「竜治」

「リュージ少佐!?マックスたちも、いつの間に…!」

 

すると、そこに二人を探しに来た竜治が、駆逐艦を数人連れて現れた。

 

 

「アニキ〜?いくら兄妹仲睦まじくつったって、一線を越えるのはマズイんじゃねえかぁ?」

「なんだよ、それ」

「い、いい…一線って!?」

 

 

ニヤニヤ笑いながらからかう竜治の冗談に苦笑いする譲治と、真に受けて顔を真っ赤にするレーベ。

 

「見ろ竜治、レーベが固まっちまったじゃないか?」

「あっれ?レーベってばジョークが通じないのなあ?」

「リュージ少佐のジョークが、あまりシャレにならないためかと」

 

マックスの鋭い指摘に苦笑いする竜治と、それを見て笑う一同。

 

 

………しかし。

 

今夜はそれだけで終わらなかった。

 

 

「……?何あれ……雨?」

「え?まさか…今日は快晴って………」

 

 

突然、降り出した謎の粒。

 

しかし、それは雨ではなかった。

 

 

粒子は塊となり、塊は形を成し。

 

 

『ギギ、ガガ……ギガゴガ……』

 

深海棲艦のような特徴を備えた、人型の異形が数体出現した。

 

 

「なっ!?」

「なに、なに!?」

 

「深海棲艦……なのか!?」

 

突然の襲撃者に、レーベたちは警戒する。

 

 

『カン・ムス…カカ、カンム・ス、スス……』

 

『カク、カカロカクカカクロカカロカク…』

 

(鹵獲……!?)

 

 

壊れかけたビデオテープのように声が再生されたことで、レーベたちは「艦娘」「鹵獲」という単語を聞き取った。

 

 

「竜治、艦隊一同!みんな、逃げるぞッ!!」

 

譲治の号令により、艦娘たちは一斉に退避を開始した。

 

 

しかし、“敵”は一筋縄ではいかなかった。

 

 

深海棲艦に似た謎の怪人軍団は既に、鎮守府一帯を囲んでいたのである。

 

 

「くっ…、数が多い……!」

「ビスマルクお姉様!門が壊されそうですッ!!」

 

「やむを得ん……!提督、撤退を!!」

「提督!!」

「アトミラール……!!」

 

 

撤退を促す艦娘たちだったが、譲治と竜治は微動だにしない。

 

 

「仕方ない……。久しぶりに暴れっか?アニキ!」

「ああ、竜治!」

 

 

譲治と竜治。

妹たちを、大切な家族を守るため、兄と弟は立ち上がった。

 

 

譲治は右腕を、竜治は左腕を胸の前にかざし。

兄弟の合言葉を叫んだ。

 

 

「チェンジ、ダァーインッ!!!」

 

 

 

「―――え…」

 

次の瞬間……僕たちは目が離せなくなってしまった。

 

譲治提督と竜治少佐の身体が、不気味に変化……否、『変形』したのだ。

 

譲治提督はロケットの様な頭をした紅い身体の姿に。

 

竜治少佐はタイヤなどを備えた青い身体の姿になり、二人の姿はどこからどう見ても“ロボット”だった。

 

 

『サイバロイド!スカイゼル!!』

『サイバロイド!グランゼル!!』

 

 

『宇宙鉄人!キョー、ダイィーンッ!!』




番外編なので、1本立てにする予定だったのですが、諦めて前後編に分けます(-_-;)


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《番外編》戦う鋼鉄(てつ)の兄2人ー後編ー

この二次創作を、故・石ノ森章太郎先生に捧げる―――
そんな気持ちも込めて、書き上げました。

“妹”たちを守るため、戦え!


宇宙鉄人!キョーダイン!!


前回のあらすじ。

 

とある鎮守府に着任した、譲治提督と竜治少佐の兄弟。

 

艦娘たちと打ち解けはしたが、秘書艦である駆逐艦レーベレヒト・マースは、前歴が一切不明の二人に対し不安が拭えない。

そんな彼女に寄り添い、心を通わせる譲治。

 

しかし、その時。

深海棲艦に似た謎の怪人軍団が出現、鎮守府を包囲。

 

陸戦に適した装備が整っていないレーベたちの軍備では対処しきれない。

 

その時、譲治と竜治がロボットの戦士へと変化。

 

真の姿《宇宙鉄人キョーダイン》となった!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Ex.episode『戦う鋼鉄(てつ)の兄2人ー後編ー』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ア…アトミラールさん……リュージ、さん……?」

 

レーベたちと同じく、譲治と竜治の変化を目撃した艦娘、プリンツ・オイゲンは震える声で呼びかける。

 

『ギ…ギギ……』

 

人型の深海棲艦たちも警戒を強めた。

 

 

『すまない、プリンツ。説明は後だ!』

『そういう事!』

 

赤い身体のロボット・スカイゼルと青い身体のロボット・グランゼルの二人は、直立不動のままガシャンガシャン、プシューッと体のパーツだけを動かし、余熱を発しながら自分たちの身体状況を確認すると、改めて“敵”を見据える。

 

 

『俺たちの可愛い“妹”は、誰一人渡さん!!』

『行くぞ!《ダダロイド》ッ!!』

 

『トアッ!!!』

 

一糸乱れぬ動きで突撃の構えを取り、鋼鉄(てつ)の身体と熱い心を持った兄弟は立ち向かっていった。

 

 

「………」

「そんな……あれが、本当にアトミラールと…リュージ少佐なの………?」

 

「………」

 

呆然と眺めるマックスの隣で、レーベは頭の中が真っ白になっていた。

 

 

アトミラールたちがロボット……。

 

ずっと、僕たちを騙してたの……?

人の姿に化けてまで……僕たちを騙したかったの……?

 

 

レーベは、マックスと二人で数多の海軍基地を異動してきた。

 

巡ってきた司令部の大半が、艦娘を兵器や戦闘のための道具としか見ていない場所で、勿論全ての人間がそうだった訳ではないのだが、優しくしてくれた人に限って早死をしたり、提督などに排除されたりしてしまった。

 

それ故に、レーベは感情が希薄になってしまい、笑顔を失くしてしまった。

 

譲治と竜治、二人に出会うまで………

 

 

(………違う!アトミラールたちは、僕たちを騙してなんかいない!!)

 

目の前で起こった出来事に対し、黒い影が胸の奥から湧いてくるのを感じるが、レーベは涙を拭いながら振りほどく。

 

アトミラールたちは自分たちを騙してなどいない。

ただ、打ち明けられなかったのだ。

 

自分たちが怯えてしまうことを心配して……ずっと、ずっと話す機会を伺っていたのだ。

 

(アトミラールたちを……二人の気持ちを理解しようとしていなかったのは、僕たちだ……!!)

 

「くっ!!」

「レーベ!?」

 

 

次の瞬間、レーベは飛び出していた。

 

 

『ぐおっ!』

『スカイゼル!ぐあっ!?』

 

 

2対4……初めは乗り切れると見ていた戦闘だったが、途中、深海棲艦型の戦闘ロボット・マリーナパームは合体。半人半艦型の《軽巡棲姫》に似た形状の大型ロボットにパワーアップしたのである。

 

 

『ク……!まさか、合体するとは…!!』

『マズイぞ…アニキ……こんな大事なときに、エネルギーが切れかかってやがる……ッ…』

 

 

無理もない。

これまで、必要最低限の分しかエネルギーを補給していない。

にも関わらず、激しい戦闘を行っているのだから、エネルギーの切れが早いのも当然だった。

 

 

「アトミラール!!リュージ少佐ー!!」

 

『ッ!?レーベレヒト・マース!?』

『バカヤロー!!なんで逃げなかったんだっ!?』

 

驚くスカイゼルと、怒鳴るグランゼル。

 

しかし。レーベは負けじと言い返した。

 

「逃げられる訳無いでしょ!?アトミラールたちが……スカイゼル“兄さん”とグランゼル“兄さん”がピンチなのに、()()()()()()()()()だけ逃げて、どうするのさ!!」

 

『!!』

『レーベ……お前……?』

 

「ピンチの時こそ、力を合わせるのが家族……でしょ?兄さん……!」

 

 

レーベがそう言い終えた直後。

 

マリーナパームの右腕が、レーベの頭上に振り下ろされた。

 

 

「レーベ、逃げてぇぇぇッ!!!!」

 

マックスの叫びも虚しく、マリーナパームの巨腕は地面を叩き、砕いた………

 

 

 

筈だった。

 

『………ッ!?』

 

 

赤と青、2種類の腕が受け止め、レーベを護り

 

『ウ……オ、オォ、オオオオォォォォオッ!!!!!』

 

マリーナパームの巨体を、たった2人で持ち上げたのである。

 

『サイバエナジー、数値2京ダイン!!限・界・点・超・突・破(リミットブレイク)!!!』

 

 

勢いそのままに、マリーナパームを盛大に転ばせると、宇宙鉄人は高々とジャンプした。

 

 

『チェンジ、ダァーイン!!』

 

 

スカイゼルは手を生やしたミサイル型のバトル形態・スカイミサイルに。

グランゼルは6輪戦車型のバトル形態・グランカーにそれぞれが変形、マリーナパームに向かって突撃を開始した。

 

 

「レーベ!!」

「マックス、みんな…!」

 

 

『スカイミサイル、発射!!』

『グランランチャー、一斉掃射!!』

 

 

スカイミサイルの突撃を援護すべく、グランカーは内蔵されたミサイルポッドの弾頭全てを発射。

 

スカイミサイル本体も、マリーナパームの放つ砲弾の雨を掻い潜り、弱点である動力炉へと突撃した。

 

 

『どんなもんじゃあぁぁぁっ!!!』

 

 

敵の機体を貫通、破壊したときのスカイゼルの決め台詞がそれだった。

 

 

―――それから、上層部に事の顛末を改めて報告したり、詳細な情報を提供するべく、資料の整理をしたりといった一悶着がまたありまして。

 

譲治兄さんと竜治兄さんは、正式な海軍提督と補佐官に任命されました。

 

 

「君たちの素性については、我々海特警と総司令部の一部のみが情報を有し、身の安全と権利を保証する」

 

「ありがとうございます、徳川元帥閣下!」

「ありがとうございます!!」

 

 

―――僕たちには、二人の兄が居る。

 

賢くて、勇敢な兄と

優しくて、たくましい弟。

 

彼らを知る人は、こう呼ぶ。

 

 

《宇宙鉄人キョーダイン》と―――。




かなりムリヤリに終わらせちゃいました(;´∀`)

特別編、いかがだったでしょうか?

今年も、どうかよろしくお願いします!!


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(ブレイド)編 1章
29話 : 喫茶店のマスターは提督


まず謝罪を。

本作はあくまで二次創作という名のフィクションです。
今回は、これまでに無いくらい原作を無視した作りになっているかもなので、ご容赦下さいませませm(_ _;)m


都内某所に設置された、牧歌的な雰囲気を持つ海軍基地《鎮守府喫茶ハカランダ》。

 

海から少し離れた立地であるが、とある大企業の支援により、海域へと直接出撃できる専用のラインが工廠内に設けられた為、艦娘への負担はそれほど重くはない。

 

 

何より、艦娘への扱いが非人道的なブラック鎮守府やブラック提督の話が絶えないこの時世にあって、当鎮守府の提督は艦娘のみならず、妖精たちからの評判も良好だった。

 

というのも、鎮守府“喫茶”と掲げているだけあって、任務や執務をこなす以外の時間は

 

 

「いらっしゃいませー!」

「……いらっしゃい」

 

一般市民も気軽に来店できる、純然たる『喫茶店』ハカランダとして運営していたのである。

 

「提督ー!…じゃなかった、“マスター”!ハカランダ・オリジナルブレンドとバナナクレープ2つお願いしまーす!」

 

「了解」

 

「おや、お兄さんがマスター?顔を見るのは初めてだけど、随分と若いねぇ!」

 

「…よく、言われます」

 

入店してきた男性に話しかけられ、はにかむ店長兼提督。

 

「名前、何ていうんだい?マスターって呼び方じゃちょいと堅苦しいし、よかったら教えてよ?」

 

男性の気さくな笑顔に促されるようにして、提督は応えた。

 

 

 

(はじめ)……相川(あいかわ)始です」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

「ごちそうさまー!」

「また来るよー!」

 

 

この日も、ハカランダは鎮守府本来の機能よりも喫茶店としての役割の方に傾き、始や艦娘たちは多忙な一日を過ごした。

 

 

「司令官、ただいま遠征……じゃなかった、買い出し完了しましたー」

 

「おかえり、白雪。初雪や陽炎(かげろう)たちも、ご苦労さま」

 

食材やストローなどの買い出しから戻った、艦娘の白雪、初雪、陽炎を労う始。

 

「良いのいーの、買い出しも司令官からの立派な任務だし?」

「私だって、買い出しくらい出来るし……」

 

「そうだな。初雪だって、ちゃんと仕事出来るのはみんな解っているさ」

 

普段、周りと比べるとのんびり屋な雰囲気が強い初雪の頭を優しく撫でると、初雪は「むふーっ」と満足げに微笑むのだった。

 

「すみません……提督、ちょっとよろしいですか?」

 

すると、秘書艦である鳥海(ちょうかい)が声をかけてきた。

 

「鳥海。――どうしたんだ?」

 

「提督にアトリエに来て欲しいと、秋雲ちゃんが。とんでもないモノを撮ってしまったとの事で……何やらひどく慌てて…というか、怯えている様子でした」

 

鳥海の心配そうな様子に、始もこれは尋常ではないなと直感。

 

承知すると、片付けと夕飯の支度を白雪たちに任せ、始は店内……もとい鎮守府の地下に設けられた写真機材等を置いているアトリエに向かった。

 

そこには、明るい茶髪をサイドテールに結わえた少女・艦娘《秋雲》が待っていた。

 

「あっ…提督……」

「すまん、待たせたな」

「ううん、そんな事無いよ!むしろ、こっちの心の準備が済むよりも早かったぐらい……って、んな事はどぉでもいいや……!」

 

「落ち着け……らしくないぞ?―――たしか今日は、石ノ森に新しい提督が来て、《六本脚鎮守府》の艦隊と初演習をするんだったよな?それの風景画を描きたい、との事で、単独での外出を許可した訳だが……」

「ぅん……その帰りに、ね?えらいなモンを見ちゃったんだ……あたし……」

 

秋雲がそう言って、始に差し出したのは、数枚の写真。

 

 

「…これは………」

 

 

それは、明らかにこの世のモノではない異形の姿を捉えた物ばかりだった。

 

そんな写真の中に、始の目に留まったものがあった。

 

 

人間(ヒト)が…ライダーに変わっただと……!?」

 

それは、魚のような特徴を持った怪物に向かって殴りかかる一人の男が、()()()()()()()に変わる瞬間をコマ撮りしたものだった。




ハイ、まったくの別物感バリクソですよね(^_^;)

今回のパートはちゃんと出来るのか……
どうか、生暖かく見守ってやって下さいm(_ _;)m


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30話 : 許されない願い

のっけから反響の大きなブレイド編。

その第2話でございます。


鎮守府喫茶ハカランダ―――そのマスターにして、提督でもある始を補佐する艦娘の一人・秋雲が入手した写真。そこに映っていたのは、かつて世間を恐怖に陥れた未確認生命体と激しい死闘を繰り広げ、人々を守ったとされる英雄『未確認生命体第4号』と、見たことの無い異形のツーショットだった。

 

 

「秋雲……これをどこで撮ったんだ?」

「石ノ森市の明日花町だけど……それよか提督、ライダーって何?」

 

首を傾げながら尋ねる秋雲を見て、始はハッと落ち着きを取り戻す。

 

「ああ…そうか。秋雲は着任して日が浅いから、知らないのも無理はないな」

 

 

そして。

 

大まかにではあるが、始は秋雲にライダー―――すなわち『仮面ライダー』について教えた。

 

「人間の自由と、平和の為に……自分を捨てて戦う仮面の戦士……。スッゴイ!カックイーじゃん!!滅多に居ないっしょ、そんなヒーローみたいな人!」

 

漫画かライトノベルでしか聞かないような話に、秋雲は目を輝かせながら称賛した。

 

 

「ヒーロー……か…」

 

ところが、始の表情は何故か悲しげだった。

 

「提督?」

「……ん?ああ、いや……すまない。なんでもないよ」

 

いつも通り、穏やかに微笑んで見せ、始は秋雲の頭に手を置いた。

 

 

「仮面ライダーは人を守るヒーロー……それは間違い無いと思う。俺も、仮面ライダーである友に救われた一人だからな」

「マジで!?じゃあ、生ライダーも見ちゃってたり?」

 

「秋雲が撮った影とは、別人だけどな」

「そうなの?」

「ああ。しかし……俺はもう、“彼”と会うことは出来ない」

「えっ……なんで?」

 

 

友達なのに、会うことが出来ない―――

 

どういうことなのか聞こうとするも、始はこう答えただけだった。

 

 

「すまん…一つ、訂正だ。会うことが出来ないのではない………。“会ってはいけない”んだ……」

 

 

友との再会……それは、始にとっても“彼”にとっても強く望むことだが、同時に求めてはならない望みであった。

 

何故なら……会えば、それが最期となってしまうから。

 

再会が、『合図』となってしまうから―――。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

東オリョール海―――

 

鎮守府喫茶ハカランダに所属する潜水艦娘たちは、遠征任務から帰投する道中、異様な光景を目の当たりにした。

 

 

「な……なんでちか?これは……」

 

「し……深海棲艦が……敵艦隊が、全滅してる………!?」

 

それは、通常なら自分たちに襲いかかってきていた筈の深海棲艦たちの屍の山だった。

 

砲撃を受けた弾痕はほとんど見当たらず、大きな刃物で付けられたような『切り傷』が、屍をより一層不気味なものにしていた。

 

「こんな大きな切り傷、初めて見たのね……」

 

伊号型潜水艦の一人である、イクこと《伊19》はまじまじと傷跡を見つめる。

 

「いずれにしろ、提督に報告すべき案件であることは確定ですね」

 

同じく潜水艦娘の《伊8》の提案に一同は賛成。

始に報告する為、鎮守府へと急いだ。

 

 

 

剣を携え、翼を広げた飛翔体には気付かぬまま。




次回、さらなる激動の展開が!?


次回『(ハート)を持つ騎士』(カッコカリ)


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31話 : (ハート)を持つ騎士

長らくお待たせ致しました!

みんな、新型コロナに負けないで!!

僕もガンバるっ!


「――報告は以上なの」

 

 

遠征から戻った、イクこと伊19たち潜水艦隊が発見した深海棲艦の残骸の山についての報告を、始は険しい表情をしたまま聞いていた。

 

「《大振りな刃物による斬撃》……そして《キックによる打撃痕》……か……」

 

「あの……司令官さん?」

 

 

この日、当番秘書艦であった鳥海が何度か呼びかけるも、始は険しい表情を崩さぬまま、何かブツブツ呟きながら考え込んでおり、呼びかけに気付かずにいた。

 

「司令官さん!」

「っ!ああ、すまない……。少し、考え事をしていた」

 

「そんな単純な様子には見えませんでしたよ?すごく深刻そうな顔をなさってましたから」

 

鳥海の指摘を受け、始は「そうか…」と他人事のような反応をしたが、一時とはいえ、鳥海の呼びかけに気付かぬほど深く考え込んでいたのだから、そう反応してしまうのも仕方のない事ではあった。

 

 

「イク、みんな。貴重な情報をよく報せてくれた、ありがとう。今日はゆっくり休んで、明日の午後から店の業務に加わってくれ」

「はいでち!」

「ふふーん、イクの接客のウデが鳴るの!!」

「私としては、提督の特性たらこスパをオススメしたいと思います!」

 

キャピキャピとはしゃぎながら、伊19たちは自室へと戻った。

 

「鳥海、お前も上がっていいぞ?後は俺一人でも片付けられる」

「いえ、秘書艦として最後までお手伝いします」

 

始が提督に着任して間もなく、鎮守府に着任した鳥海は、その真面目な性格と相まって、黙々と作業をこなす始や、一つの事に集中して取り組む粘り強さを持つ秋雲と気が合い、何かと一緒に居る機会が多かった。

 

故に、お互いに相手が何を考えているのか、ある程度解るようになってきた訳で。

 

 

「司令官さん。ゴーヤちゃん達が見つけた、深海棲艦の残骸……何か心当たりがあるんですね?」

「………」

 

鳥海の問いかけに答えない始。

 

 

この様に、始が黙り込む時は図星である……最初にそうと気付いたのは秋雲であった。

新米イラストレーターとしての顔を持つ秋雲は、画力のスキルアップの為、人間観察もそれなりにこなしてきている。

 

基本、無愛想な雰囲気の始であるが、自分に直接関わる問題よりも、その問題が周りの人に影響を及ぼすかもしれないという時に動揺したり、感情が高ぶることがある。

初期艦である那珂(なか)の話によれば、艦娘の数が十分でなかった頃は出撃や遠征に同行しようとしていたとか。

 

「どうしても、答えていただけませんか?」

「……知ったら、お前たち艦娘をより危険な目に遭わせることになる」

 

始がそう返した、その時。

軽巡洋艦・神通が執務室に駆け込んできた。

 

「店長!!…じゃなかった、提督!緊急事態です!!」

「どうした?神通」

「怪物が…深海棲艦と違うタイプの怪物が街に!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

《鎮守府喫茶ハカランダ》近辺―――

 

街の大通りに、ゴキブリかトカゲの様な特徴を持った人型の怪物が無数に現れ、人々に襲いかかっていた。

 

「キャアアアァッ!!」

「たす、誰か助けてぇっ!!」

 

逃げ惑う人混みをかき分け、相川艦隊の艦娘・扶桑(ふそう)と山城、名取、鬼怒(きぬ)が駆けつけたが、既に何人かが怪物の犠牲になってしまっていた。

 

「不幸なんて生易しいものじゃないわ………ごめんなさい…ごめんなさい……ッ」

「山城……気持ちは分かるけれど、今は怪物を迎え撃つのが先決よ」

 

母娘の遺体を見つめ、涙を流す山城に、姉である扶桑は静かに、しかし力強く言葉をかける。

 

 

「っ!!姉様!危ない!!」

 

怪物がククリを手に、扶桑の背後から襲いかかってきた所を、山城が前に飛び出す。

 

 

そして……

 

 

ザシュ!!

 

 

「………!?山城!!」

 

艤装による防御と制服の強度によって、致命傷は避けられたが、それでも大怪我を負ってしまった。

 

『ギシャギシャ…!ギシャア!!』

 

「扶桑さん!!山城さん!!」

 

鬼怒と名取は助太刀に向かおうとするが、不気味なことに怪物たちは何度砲撃を喰らわせても立ち上がり、行く手を阻んでくるのである。

 

「もぉ…!コイツら、なんで倒れないの!?」

 

そうこうしている間にも、怪物たちは扶桑たちに迫る。

 

 

その時。

 

オートバイを駆り、一人の男が飛び出してきた。

 

 

「!!て……提督……!?」

 

ヘルメットを脱ぎ捨てると、男――相川 始は怪物たちを見据えて怒りの声をあげた。

 

 

「彼女たちに……街の人たちに、手を出すなッ!!!」

 

 

提督服の上着をはだけると、腰にはハートのエンブレムを象ったバックルを備えたベルトが装着されており。

 

「……変身!」

 

懐から1枚のトランプを取り出し、バックルの中央部に備わったカードリーダーにスラッシュ(読み込み)をした。

 

 

【CHANGE】

 

 

ベルトから謎の音声が発せられた瞬間、始の姿は(ハート)とカマキリの特徴を持った騎士に変わった。

 

「て…提督……?」

 

柄の両端に刃を備えた弓状の武器を手に、騎士は名乗りを上げる。

 

 

「仮面ライダー、カリス!!」




やっと書きたかった場面、その第一段階を出せました!(;´∀`)

次回、カリスが踊る!!


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32話 : ROUND ZERO~交わる2つの刃~

どぉも近頃、天気も心も不安定気味。


そこに追い打ちをかける、謎の『戦え』コール……

ナニコレ?(←気にするなッ‼)


突然現れた謎の怪物の群れが、街の人々を襲い始めた。

扶桑を始めとする、鎮守府喫茶ハカランダの艦娘が迎え撃つも、怪物たちはなかなか倒れず、山城が負傷してしまう。

そこに始が駆けつけ、扶桑たちが見ている前で『変身』。仮面ライダーカリスとなったのだった。

 

 

「て、提督?その姿は、いったい……」

「説明は後だ。今はとにかく、コイツらを倒すぞ!」

「は、はい!」

 

カリスの言葉に、扶桑たちは再び士気を高め、怪物たちを相手に戦闘を再開した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『ギシャアァ!!』

「ハッ!!」

 

数で圧しにかかる怪物たちを相手に、カリスは専用武器・醒弓カリスアローを振るい、次々と切り裂き、矢を射る。

 

その姿はあまりに荒々しく、普段の始とはまるで別人かのように感じられた。

 

「すごい……」

 

カリスの戦う姿に、追いかけてきた鳥海が呟いた。

 

途中、ベルトのバックルを取り外し、アローに合体させると、右腰のホルダーからシュモクザメらしき姿を描いた《ハートの3》と、鷹と思しき鳥の姿を描いた《ハートの6》、計2枚のカードを取り出し。

 

カリスアローにセットしたカードリーダー・カリスラウザーに読み込ませた。

 

 

【CHOP】【TORNADO】

 

《SPINING WAVE》

 

「はああああ……」

 

強烈な竜巻を身にまとい、右手にエネルギーを込めると、反撃にかかった怪物たちに向けて鋭いチョップを叩き込んだ。

 

「とあああぁっ!!!」

 

『ギシャ!?ギガガ…ァガ……!!』

 

 

よほど威力が凄まじかったのであろう、怪物たちは爆発四散し、消滅した。

 

「て…提督さん……」

 

聞きたいことが沢山あり過ぎて、何から尋ねるべきか名取が迷っていると

 

「大丈夫か?みんな」

 

カリスが振り向き、皆の無事の確認をした。

 

「ふえ?え…あ、はい!でも……」

「提督!妹が…山城が……!」

 

名取が返答した直後、扶桑がカリスに呼びかけた。

 

「ああ、分かっている。山城。傷が痛むだろうが、入渠するまでの辛抱だ。なんとか耐えてくれよ?」

「は、い……提督……」

 

扶桑に代わり、カリスが山城をお姫様抱っこして、一行は鎮守府へと帰投したのだった。

 

 

 

「ていとく!バケツはつかいますか?」

「いや……いい。今回、無理をさせてしまったからな……。ゆっくり休ませてやりたい」

「りょーかい!」

 

入渠施設の管理をしている妖精さんに指示を出すと、始は扶桑たち出撃組と鳥海、秋雲を執務室に呼び集めた。

 

 

「司令官さん。お話があるとのことですが、何か……?」

「ひょっとして、昼間の怪物について何か知ってる……とか?」

 

鳥海と扶桑の問いかけに、始は静かに答え始めた。

 

 

「奴らは《アンデッド》……不死生命体だ」

「不死って……死なないの!?」

 

驚愕の表情になる鬼怒に対し、始は言葉を続ける。

 

「…と言っても、先程の奴らはアンデッドのデータを基に生み出された劣化・コピー体の様な物で、全くの不死身という訳ではないようだがな」

「ほっ……なんだ、そっかぁ……。ただ単に頑丈なだけなんだね」

 

「秋雲ちゃんが目撃したという、第2の未確認生命体や《未確認生命体第4号》とは別に、そんな厄介な怪物まで出てくるなんて……」

「その第4号も、ひょっとしたらさっきのアンデッドみたいに……」

 

「第4号は人を傷つけはしない。彼は、人間やお前たち艦娘の味方だ。怖れる必要は無い」

 

不安そうな名取の言葉に、始はキッパリと言い放った。

 

「提督さん……第4号を知ってるんですか?」

「以前……危ないところを何度か助けられたんだ。たった一度だけだが、共に戦ったこともある」

 

「そうなんですか?」

「提督、マジぱない!」

 

「そこまで褒められるような者ではないさ、俺は」

 

アンデッドの襲撃についての報告書をまとめるため、始は扶桑たちにも休みをプレゼントした。

 

 

「……ねえ、提督」

 

扶桑たちが退室してしばらく経った頃。始を手伝うと言って残った秋雲が、ふと声をかけてきた。

 

「ん?」

「提督って……仮面ライダーなんだよね」

「……ああ」

 

「すっごい失礼な質問をするけど……なんで、()()()()()()()()()()()使()()()()?」

 

 

山城を入渠室へ運び、後の事を扶桑たちに引き継がせた後。

秋雲は、カリスが人目のつかない物陰で変身を解く光景を目撃していた。

 

その時、カリスは()()姿()()()()()()()()《ハートの2》をカリスラウザーにスラッシュすることで、始の姿に戻ったのである。

 

 

「………」

「あ…いや!なんとな〜く気になっただけだから!気にしないで――」

「俺は人間ではない」

「いいよ………って…え……?」

 

「俺も……アンデッドだ」

 

突然すぎる始からの告白に、秋雲は腰が抜けてしまった。

 

「それ……って、提督も……さっきの怪物と……おなじ……?」

 

驚きすぎて、声も震えだす。

 

 

「『怪物の言うことは、信用出来ない』……か?」

 

過去、数度に渡って自身の秘密を知った人たちから拒絶され続けてきた始。

怪物であるアンデッドを怖れることは間違いでは無い。

己を拒むことも当然の事として、今までも受け入れ続けてきた。

 

だから、今回も艦娘たちから怖れられ、拒まれたとしても彼女たちを恨んだりなど……

 

 

「……ううん。提督は私たち艦娘を、一人の《人間》として大事にしてくれてる。それに…さっきは《仮面ライダー》として、私らだけじゃなくて街のみんなも助けてくれたでしょ?そんな優しい提督を、人間じゃないからってだけの理由で拒みたくないよ」

 

「…!」

 

 

しかし……そんな始の思いを知ってか知らずか、秋雲は始の全てを受け入れると決めた。

 

怪物でも構わない。自分たち艦娘と共に、街の人々を護り、生きてくれているのだから。

 

 

「ほら!いつまでもそんな辛気臭い顔しないで!一段落ついたことだし、店の新作メニューでも考えよ?店長♪」

「秋雲……」

 

いつもと変わらぬ、快活な笑顔で手を差し伸べる秋雲に、始は笑顔になった。

 

 

―――と、その時。

 

“何か”が近付いてくる気配を、始は感じ取った。

 

 

「っ!」

「提督?」

「この感じは………まさか…!?」

 

 

秋雲が尋ねるも、始は鎮守府の外へ飛び出した。

 

「ち、ちょっと!提督!?」

 

 

始の後を追いかけ、鎮守府の広場に着くと。

 

始は驚愕……というより、悲痛な表情で目の前の相手を凝視していた。

 

 

()()………!!」

 

 

その相手は、カブトムシを連想させる青と銀の鎧に身を包み。

胸とベルトのバックルには(スペード)の紋章が刻まれていた。

 

「司令官?もしかして、その人お知り合い…ですか?」

 

「剣崎……何故だ?何故、また俺たちの前に姿を見せた!?」

 

たまたま近くを通りかかった白雪が問いかけた、次の瞬間。

 

 

「ウゥアアアアアアァァッ!!」

 

『剣崎』と呼ばれた、その青い騎士はカブトムシの角を模した大剣を振りかざし。

 

始に向かって斬りかかった。

 

「ッ!!?」

「提督ッ!!!」

 

「…変身!!」

 

【CHANGE】

 

 

ギリギリのところで躱し、始はカリスに変身。

再び剣を振るってきた剣崎の刃を、カリスアローで受け止める。

 

「止せ、剣崎!!こんな所で《バトルファイト》を始めるつもりかッ!?」

「ルアアアアアアァァアア!!」

 

「て、提督!?ちょ……何がどうなって……!!」

「お前たちは下がっていろ!!これは……艦娘(おまえ)たちが関わっていい戦いじゃない!!!」

 

 

いつになく激しい態度の始、そして目の前に現れた謎の騎士。

 

果たして、この出会いは何を意味するのか………




長らくお待たせしました(~_~;)

次回、《人を愛したJOKER(おとこ)と人を捨てた英雄(おとこ)


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33話 : 人を愛したJOKER(おとこ)と人を捨てた英雄(おとこ)

たった一人、君という存在が
僕の世界の全てを変えた。

だが……その時、此処に残ったものは希望か、絶望か……


街中に現れた怪物・アンデッドを撃退し、一息ついていた始と艦娘たち。

 

だが、そこへ始が『剣崎』と呼ぶ青い騎士が現れ、始に襲いかかった。

 

 

「ちょ……ちょっと待ってよ!?」

 

カリスと激しいぶつかり合いをする騎士・剣崎を止めようと、鬼怒は羽交い締めにかかった。

 

「鬼怒!?止せ!!」

 

「提督は黙ってて!よく知らないけど、その見かけだとあんたも仮面ライダーなんでしょ?なんで提督を攻撃してるのよ!?」

 

説得を試みるも、剣崎の耳にはまるで届いていない様で。

 

 

「フウウ……!ウアアアアァァっ!!」

「キャアっ!?」

 

「鬼怒ちゃん!!」

 

剣崎の剣戟を受け、鬼怒は傷を負ってしまった。

 

「鬼怒!!……クッ!剣崎、《ジョーカー》の力を抑えられていないのか……!?」

(え……ジョーカー?)

 

カリスの呟きに、秋雲は《ジョーカー》という単語が引っかかった。

 

その時

 

 

「まったく……遠征から戻ってみれば、何なんだ?この状況は」

 

 

長身に銀髪、左頬の傷にパイプ、白い軍服と艤装が特徴的な艦娘が現れ、剣崎に向けて発砲した。

 

「っ!!ガングート!」

「その声……貴様、提督か?なんて奇妙な格好をしとるんだ」

 

「ごめんなさい、ガングートさん!今は説明してる暇が無いんです!」

 

鳥海が詫びると、「分かっている」とガングートは返し。

 

「コイツは私が外へ誘導する!貴様らは、早いとこ工廠へ避難しろ!!」

「…すまん!」

 

ガングートが剣崎の注意を引きつけている隙に、カリスたちは工廠へ向かい、鬼怒を入渠室へ運び込んだのだった。

 

 

―――同じ頃。

 

鎮守府からほど近い海岸にて、不気味なローブ姿の怪人が立っていた。

 

『遂に……二人の【JOKER】が揃った……』

『両者が戦い……どちらかが倒れ、封印された時……』

 

『世界はリセットされ……新たな【バトルファイト】が始まる……』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

【SPIRIT】

 

鬼怒を入渠室に入れた後、カリスは秋雲たちの前で《ハートの2》を使い、ヒューマンアンデッド―――すなわち相川始の姿となった。

 

「え……?司令官さん、今のは……?」

「鳥海、ゴメンだけどその件はまた後で。―――提督、あの剣崎って人について教えてくれる?」

 

始の秘密を聞いた後ということもあり、秋雲はこの場の誰よりも冷静になろうと努めていた。

それを感じ取り、始も応えることにした。

 

 

「―――奴の名は剣崎一真……またの名を《仮面ライダーブレイド》だ」

「仮面ライダー……ということは、剣崎さんも……?」

 

扶桑が尋ねると、始はゆっくりと頷いた。

 

「ああ。奴もアンデッドだ………だが、元は人間だった」

「え!?」

 

皆が驚くのも無理は無い。

始が実は人間ではないということだけでも驚きなのに、人間が怪物になるという、SF小説みたいな話がある訳ないと思っていたのだから。

 

 

皆が落ち着くのを待ってから、始は語り始めた。

 

人ならざる己と、かつては人間(ヒト)であった剣崎。そして、両者を中心に取り巻くようにして繰り広げられた戦いの記憶を………

 

 

 

「53体のアンデッドによって行われるバトルロイヤル……《バトルファイト》。勝ち残った者には“万能の力”が与えられ、世界を支配することが出来るという」

「53体……まるでトランプみたい……」

 

「―――だが……【JOKER(ジョーカー)】である俺が勝ち残ってしまうと、世界は《リセット》と称して滅ぼされてしまう。それが、14年前の戦いの結末になる筈だった………」

 

「なるほどな……。あの男は、自らアンデッド(化物)となることで、世界の滅亡を阻止した…という訳か」

 

 

始が説明している途中、剣崎改め、ブレイドを振り切ってきたガングートが輪に加わり、始は頷く。

 

「ああ……アンデッドが2体いれば、戦いは終わらない。そして剣崎は、二度とバトルファイトが始まらないようにと、俺たちの前から姿を消した。俺が……人間たちの中で生きるように告げて」

 

「そこまでした人が……どうして?」

 

そう……

 

ここまでの話だけを見れば、剣崎という人間は自己犠牲を以て、始やこの世界を救った英雄的人物である。

 

それほどの人物が、何故救った相手を襲わねばならないのか。

 

「バトルファイトを管理する存在(モノ)……【統制者】。奴がジョーカーの意識を暴走させている」

「そいつを倒すことは出来んのか?」

 

ガングートが尋ねると、始は静かに首を横に振った。

 

「奴はバトルファイトというシステムその物。倒すことは出来ない……」

「そんな……」

 

すると、始が急に外へ向かって歩きだした。

 

「司令官さん?何処へ……?」

 

鳥海が尋ねると、始は歩みを止めた。

 

「剣崎が近くに居る以上……これ以上留まるわけにいかない」

「それって、つまり……」

 

 

「ああ……提督を辞職して、なるべく遠くの地へ移ろうと思う」




中途半端に切るの、アンタほんと好きねぇ?(誰目線やねん)

次回、新たな敵が乱入&誰かが何かに目覚める!?


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34話 : 定められた運命、抗うココロ

新型コロナ、ホントイヤですねえ……

みなさんもお身体を大事になさって下さい!


かつて、世界の滅びを阻止し、友である人ならざる者・ジョーカーこと相川始をも救った男・剣崎一真。

 

しかし……バトルファイトを管理する存在【統制者】によってジョーカーの意思が暴走、始と戦いを再開してしまった。

 

そして、始はバトルファイトを止めるために、提督を辞職し、秋雲たちの下から去ると言い出した。

 

「提督……本当に辞めちゃうの?」

「……ああ。お前たちと別れるのは、正直辛いが……最悪の事態を避けるためには仕方無い」

 

「貴様はそれで良いのか?」

 

ガングートが尋ねると、始は静かに微笑んだ。

 

 

「―――元々、(ヤツ)から貰った人生だ。世界の滅びを避ける為に……運命から逃げ続けるというのも悪くない」

「そんな……何も出来ないなんて……ッ」

 

始の哀しげな言葉に、鳥海は己の非力さを悔やんだ。

 

今まで、始は提督として……喫茶店のマスターとして自分たちを支え、頼りにしてくれた。

だから、始が悩み、立ち止まってしまった時こそ自分たちがそれに応えるのだと意気込んでいたのに……

 

ここまで来て、何も出来ないのか―――

 

 

「……巻き込んでしまって、すまなかったな」

 

謝罪の言葉を述べると、始は鎮守府を去ろうとした。

 

 

……しかし。

 

そこへ、始の気配を見つけたブレイドが、アンデッドとしての武器である禍々しい剣を突きつけながら現れた。

 

 

「剣崎………!」

 

「剣崎……一真……」

 

 

「止めてくれ…剣崎……!これ以上は……俺も《ジョーカー》としての本能を抑えられなくなる………!!」

 

最後の希望に賭け、始はブレイドに呼びかける。

しかし、ブレイドは唸り声をあげながら剣を振り下ろしてきた。

 

「くっ……!!」

 

すかさず変身、カリスとなり、剣を受け止める。

 

 

「ここで俺たちが戦ったら!!お前が人間(ヒト)として捨てた14年は……いったい何だったんだッッ!!!」

 

「ウゥアアアアッ!!」

 

カリスの必死の呼びかけも虚しく、ブレイドは攻めの手を止めない。

 

「司令官さん!!」

「提督!!」

 

その時。

 

ガングートと扶桑がブレイドの攻撃を受け止めた。

 

「グッ……!コイツは我々がなんとかする、行け!!」

 

「提督!貴方は、こんな所で留まってはいけません……!!」

 

「っ……スマン……!!」

 

二人の思いを無駄にしないためにも、カリスはその場を去ろうとした。

 

「ッ!?提督!!」

「ぐっ!?ウアアァァっ!!?」

 

しかし……そこにボロボロの黒ローブの怪人が現れ、カリスと秋雲の行く手を阻んだ。

 

『続けろ……バトルファイトを』

「!!?」

「キサマ……何者だ!?」

 

『今こそ……全てを正す時……』

 

怪人がカリスに向けて右手をかざすと、カリスの内にあるアンデッドとしての本能が高ぶり始めた。

 

「ッ!!?ぐっ……う、ああぁ……!!」

「司令官さん!?」

「ちょ…提督!?大丈夫!?」

 

「ちょぉ…かい……!あき、ぐっも……みんな……にゲロ……!!!」

 

苦悶するカリスであったが、怪人のもたらす力は思いの外凄まじく。

 

「ッウグゥ…!!ウガアアアアアアアァァっ!!!!」

 

 

カリスの姿は、黒と緑の体に覆われたカミキリムシの如く禍々しい異形………【JOKER(ジョーカー)】の姿に戻ってしまった。




またもスランプ気味(血涙)

誰か……誰かワテクシに光をっ!!


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35話 : 久しぶり

皆さま、長らくお待たせしました。

(ブレイド)編、続きでございます!!


「ハ…ハジメ…ちゃん……?」

 

 

ガングートとは別の遠征任務から帰還した那珂であったが、その眼に飛び込んできたのは、見たことの無い鎧姿の騎士や黒いローブ姿の怪人と戦う仲間たちと、苦しそうに身悶えている黒と赤の鎧に身を包んだ騎士が提督……始の姿となり。

 

『ガアアァァアッ!!!』

 

さらに、緑と黒の外殻に身を包んだ、カミキリムシのような怪物となった光景だった。

 

 

「!?…那珂ちゃん!!」

「ッ!!」

 

鳥海と秋雲が那珂に気付き、目を見開く。

 

 

「よりによって、こんな状況で……!不幸、いえ最悪だわ……!!」

 

この鎮守府のメンバーの中で、那珂が人一倍繊細な心の持ち主であることを知っている為、扶桑は己の力不足に怒りを感じた。

 

 

『軍艦の亡霊ごときに、出る幕は無い』

 

黒いローブの怪人が手をかざすと、影からゴキブリのような姿の怪物・ダークローチやヤモリのような怪物・ゲルニュートが現れ、艦娘たちに襲いかかった。

 

 

「コイツら、街で暴れてた……!!」

「なんだと!?それじゃ、全てはコイツの謀略ということか!!」

 

 

『フウウ……!』

『グルアアァァアッ!!』

 

53番目のアンデッド【JOKER(ジョーカー)】と2体目のジョーカーとなった【仮面ライダーブレイド】。

 

種族を超え、友情を育んだ筈の二人は

 

互いに拳を振るい、異形の証である『緑の血』を流しながら、哀しき闘いを再開してしまった………

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なんで……なんでハジメちゃんがオバケになって……みんなが戦ってるの……?」

 

状況を現実だと受け入れられない那珂は、茫然と立ち尽くしてしまう。

 

「那珂ちん!危ないっ!!」

 

咄嗟に秋雲が抱え、ダークローチの攻撃から守ると、那珂の両頬を強く叩いた。

 

 

「那珂ちん、しっかりしなよ!!いつもの、明るく元気なハカランダのアイドルはどうしたのさ!?」

「っ!」

 

その一言で、ようやく落ち着きを取り戻したのだが

 

今度は、あまりの悲しさに涙が溢れてきた。

 

「だって……こんな状況見せられたら、笑顔も何も無いじゃん!!変なのが居て!みんなを攻撃してて!しかも提督までバケモノに変わっちゃって!!冷静になれっていう方が無理だよッ!!」

「そう、だね……解るよ、その気持ちはみんな同じだと思う」

 

「でもね?あたし思うんだ……提督も、ホントはずっと辛かったんだろうなって。自分は人間じゃない、でも人と触れ合って、人を守りたい気持ちが生まれて……正体がバレたら怖がられたり、拒まれたりするだろうってことも気にしないで、ずっと戦ってくれてたんだって」

 

「そうだよ……提督はバケモノなんかじゃない。あの人らと……《第4号》や剣崎さんと同じ、仮面ライダーなんだよ!!」

 

 

 

 

そう言うと秋雲は立ち上がり、何を思ったのか身に着けていた艤装を取り払った。

 

「秋雲ちゃん、何を……!?」

「せっかく再会したのに……マブダチ同士で、バカやらかしてんじゃないっつうの!!」

 

そして、JOKERとブレイドの元へ飛び出した。

 

 

「こんんの……、バカちんどもがぁああッ!!!」

 

 

それは、JOKERとブレイドが互いの拳を突き出したことで起きた。

 

 

「―――ッ……ゴ……フ……」

 

「―――ッ!!」

『…あ……秋…雲……!?』

 

JOKERの拳が秋雲の胸を、ブレイドの拳が秋雲の背中をそれぞれ貫いたのである。

 

 

「あ……秋雲ちゃん―――ッ!!!」

 

 

しかし、血を流しながらも秋雲は奮起し、両者の腕を押さえた。

 

「駆逐艦秋雲……やってやんぜぇええおりゃあぁぁっ!!!」

 

 

その時、JOKERとブレイドのベルトがやわらかな輝きを放ち。秋雲を含めた3人を包み込んだ。

 

「ッ!?秋雲!!」

 

その光景に、ローブ姿の怪人を相手に戦っていたガングートがようやく気付き。怪人を払い除けて駆け寄った。

 

『………馬鹿な…!?』

 

ブレイドたちが倒れた直後、ガングートに抱き止められた秋雲を眺めながらそう呟くと、ローブ姿の怪人は姿を消した。

 

 

「秋雲?秋雲!しっかりしないか、同志秋雲!!」

「ち……ちょ、ちょっと……ガンちゃん、あんま揺らさないで?マジで死んじゃう……」

 

「何をノンキな事を!胸とお腹を刺されたのよ!?」

 

鳥海たちも駆け寄り、身を案じるが

 

「………あれ…?傷が、無い……?」

 

最上の言う通り、秋雲が負った筈の傷は無くなっており、穿(つらぬ)かれたのであろうという痕跡は衣服の穴しか残っていなかった。

 

 

「……あっ、そうだ!提督たちは!?」

 

何事も無かったかのように飛び起きた秋雲は、JOKERから戻った始とブレイドの変身が解けたらしい男――剣崎一真の様子を伺った。

 

 

「………っ……うぅ…あれ?此処は……?」

「剣崎……!正気に戻ったのか……!?」

「ああ、その子のお陰でな……それより、ホラ」

「?」

 

剣崎の指差す方へ振り向くと、鳥海たちが一斉に駆け寄ってきた。

 

「司令官さん!」

「提督…提督だよね?僕たちの大好きな、いつもの提督なんだよね!?」

 

「っ!…あ、ああ……」

「ハハ、たくさんの子たちに慕われてるみたいだな?」

 

「秋雲ちゃん、何をしたの?」

 

扶桑に尋ねられるも、秋雲は首を横に振った。

 

「分かんない……ただ、提督たちをどうにか元に戻したいって思ったら、提督たちのベルトが光りだして、そしたら力が湧いてきたの。それ以上のことはさっぱり……」

「そう……って、あ!?」

 

話し終えた直後、秋雲はパタリと意識を失い、そのままガングートの腕に抱かれる形となった。

 

「秋雲!?おい!」

「……すぅ……はぁ……」

 

「……大丈夫、気を失っているだけのようです」

 

鳥海が確認をしてくれたことで、皆はほっと一息つく。

 

「秋雲……貴様は甘過ぎる……」

 

そう呟くガングートに、一真が声をかけてきた。

 

「彼女は俺に任せてくれ。信じてもらえないか?」

 

 

その言葉に、皆は一瞬迷った。

 

いくら始の友人で、敵と呼ぶべき相手に操られていただけとは言え、初対面の人物を信用していいのか……

 

 

しかし、ガングートは立ち上がり。

秋雲を一真に預けた。

 

 

「言っておくが……今、私が信じるのは貴様の言葉ではない。秋雲の……我が同志の覚悟と心だ」

「――ありがとう」

 

それに対し、一真は微笑みながら応えた。

 

 

「剣崎、鳥海。秋雲を頼む」

「はい」

「ああ、彼女を看病したら俺もすぐに戻るよ」

 

鳥海と共に入渠室へ向かおうとした、その時。

 

「ああ、そうだ。始!」

「……なんだ?」

 

振り向き、言い忘れていた大切な言葉を贈った。

 

「――久しぶり」

「……ああ」

 

 

微笑みながら挨拶をする友に対し、始もまた笑顔で返し。

秋雲を運んでいく二人を見送るのだった。




人が好きだから、人を守る。

でも、人を守ることは、大変だ。
口で言うほど、簡単じゃない。

じゃあ、どうすればいい?
彼なら答えてくれるだろうか。(「仮面ライダーぴあ」より)


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36話 : 甘さと優しさ

色々と反響のあった剣編。

折り返しと参りますm(_ _)m


仮面ライダーブレイド―――剣崎一真。

 

53体のアンデッドによるバトルロイヤル【バトルファイト】の運命を覆し、人類と人を愛する心を宿したアンデッド・ジョーカーを救った一人の男。

 

その彼とジョーカー=相川 始の再会を、『艦娘』秋雲の命懸けの行動が実現させたのだった。

 

 

 

「………クッ!!こんなふざけた戦いを仕組んだ奴を、許すつもりは無い………!!!」

 

抑え切れぬ怒りを拳に込め、ガングートは庭木を叩いた。

 

「私も、秋雲ちゃんや街の人たちを傷つけた連中は絶対に許さない!」

 

那珂の言葉に、始や皆も頷く。

 

 

「秋雲が命懸けで作ってくれた、この僅かな期間を無駄にしない為にも……!」

 

 

ガングートたちの方へ向き直り、始は『提督』として力強い号令をかけた。

 

 

「ハカランダ艦隊、整列!!敵は深海棲艦とは異なる、未知の脅威だ!この混乱に乗じて深海棲艦の乱入や、敵が深海棲艦を手駒として使ってくる可能性も十分考えられる!」

 

「一瞬の油断も許されない!みんな、頼むぞ!!」

「了解ッ!!」

 

ハカランダ艦隊の艦娘たちは総員敬礼、鎮守府及び周辺区域の巡回と街の人々の避難誘導を開始した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『【カイリ】……アンデッドですらないモノごときに、まさかあの様な力があるとは……』

 

今回の戦いを仕組んだ、黒ローブの怪人が独り言を呟いていた、その時。

 

 

「ヤット見ツケタ!探シタゾ?コンナトコロデ何ヲヤッテイタ?」

 

黒ローブの怪人の前に、人型の深海棲艦《重巡リ級》が現れ、声をかけてきた。

 

『……?貴様…どうやって此処へ来た?』

「ン?ドウッテ……水聴音機デ場所ヲ探リダシタニ決マッテルダロウ?」

 

『成程な……。シンカイセイカンとやらは、()()()()()()()()()()()()()()()()

「サッキカラ何ヲ言ッテ……ン…!?」

 

黒ローブの怪人がフードを脱ぐと、その素顔は色白の肌に赤い光の宿った瞳をした深海棲艦―――《戦艦ル級》だった。

 

しかも、傍らにはリ級さえ見たことの無い、不気味なモニュメントがいつの間にか出現していた。

 

()()()……我が手足となれ……!!』

「ギッ!?ァガ……アアア……!!」

 

黒ローブ怪人の正体……戦艦ル級が手をかざすと、リ級は苦しみだし、やがて力無く項垂れ、膝を着いてしまった。

 

 

『立て……』

 

ル級が指示をすると、リ級は糸で繋がった操り人形のようにユラリ…と立ち上がった。

 

 

『深海棲艦を使ってカイリを無力化し……』

「ジョーカーの1体諸共、この世から消す……」

 

ル級とリ級、2体の深海棲艦は一糸乱れぬ動きで散らばっていた駆逐艦などを集めた。

 

 

『「行け……」』

 

 

その言葉に、駆逐艦たちもまた忠実に動き、散らばったのであった………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方。

 

深海棲艦側の動きを把握していない始たちは、迎撃の準備に取り掛かろうとしていた。

 

妖精さんたちと共に艤装の点検をしていたガングートの様子を見に、始が工廠へ足を運んだ。

 

 

「提督……具合は良いのか?」

「ああ……そこそこな。それよりも気がかりなのは、秋雲や皆の事だ」

 

「【統制者】……だったか。今回の件の黒幕は」

「ウム……【統制者】は恐らく、まだ諦めてはいまい。俺か剣崎……どちらかを封印し、今度こそ世界を《リセット》しようとするだろう」

 

始の推測に対し、ガングートはフンっと鼻で笑った。

 

「どんな小賢しい策を弄してこようが、私は同志たちと共に戦うだけだ」

「……前から気になっていたんだが、お前と秋雲は家族なのか?」

 

艦娘としての艦種(タイプ)は勿論、国籍も異なる二人だが、ガングートの秋雲に対する気にかけ方は単なる友情を超えた想いがこもっているように感じた。

 

しかし、ガングートは首を横に振った。

 

「いや……だが、かつて同じ鎮守府に籍を置いていたという意味では、家族と呼べるのかもな。私と秋雲……そして、扶桑と那珂も」

 

 

 

作業を進めながら、ガングートはポツリポツリと話してくれた。

 

自分を含めた、秋雲と那珂、扶桑の4人は、かつて《海上の脚本家》と讃えられた智将の抱える鎮守府に在籍していた事。中でも自分は初め、秋雲たちと敵対する形で出会ったことを。

 

「分かりやすく言うとだ。私は艦娘の中でも変わった生まれ方をした一人……《拾われ者(ドロップス)》なんだよ」

「ドロップス……」

 

「だが……アイツらは、そんな私を仲間と呼び、受け入れてくれた。裏切るかもしれない……そんな疑いを、少しも持たずに」

 

そうして、ガングートを迎えてくれた提督―――沼田統也がこの世を去ったのは、ガングートが皆と打ち解け、秋雲と“同志の誓い”を交わして間もなくのことだった………。

 

 

「……人間とは、不思議な生物だ。たとえ、自身の命が危うくなっても、自分ではなく…他人のために何かを遺そうとする。かつて、俺が手にかけてしまった男も…剣崎も……そして、秋雲や沼田も」

「……アイツらは、本当に甘い。寝首をかかれるという事を知らんのかと、問い質したいことが何度あったか……っ」

 

始の言葉に、ガングートは胸が熱くなり、眼が潤んだ。

 

「そうだな……だが、その“優しさ(甘さ)”が人間の“強さ”だ。俺もお前も……もっと甘くなるべきなのかもしれないな」

「…甘く、か……」

 

 

―――俺は、人を愛しているから戦うんだ!

 

かつて、剣崎が口にした言葉を思い返しながら、始は己に厳しいガングートへ言葉をかける。

 

そして、ガングートもまた、秋雲の無邪気な笑顔を思い浮かべ、「甘くなる」ことの意味を噛みしめるのだった。




次回、剣編後半戦!

戦士たちの【切り札】は、果たして!?


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37話 : ()を手にした英雄

心に秘めた剣、刃に輝くは勇気。

我、奇跡という唯一(ただひとつ)の切り札なり―――。


始とガングートが話を終えた、その時だった。

 

 

「――っ!この気配は……!」

「深海棲艦……いや!それだけではない……。――提督!外だ!!」

 

一真が現れた時とは違う、より強大な気配を感じた二人は港へと急いだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「くっ!何がどうなってるのよ!!」

「提督の言ってた【統制者】ってのは、剣崎さんか提督のどっちかを操ろうとしてたんじゃなかったのか!?」

 

鎮守府近郊の港湾一帯を見回っていた飛鷹と加古、扶桑、風雲は、突然大量に出現した深海棲艦とゲルニュートの混成部隊に苦戦していた。

 

「扶桑さん……」

「風雲ちゃん。貴女も気付いたのね?コイツらの動きがおかしいことに……」

 

扶桑と風雲が気付いた違和感……それは、アンデッドもどきと言うべき、ゲルニュートの群れや深海棲艦たちの動きにあった。

 

最初に遭遇した時、連中は無差別に人々を襲い、攻撃していた。しかし……今回はそうではない。

 

何かを誘き出そうと、時間稼ぎをしているような……

 

 

「……まさか!?」

 

扶桑が察した時、カリスに変身した始とガングートが駆けつけた。

 

「提督!?ガングートさん!」

 

「っ!!戦艦ル級…!?しかし、この気配……貴様、先程の刺客か!?」

 

ガングートが指差した、戦艦ル級と隣に居る重巡リ級は一瞬、彼女の方へ視線を移すが、すぐにカリスの方へと視線を戻した。

 

 

「【JOKER】……」

「バトルファイトを再開する……」

 

「俺たちはもう、暴走しない!貴様の思い通りにはならん!」

 

【統制者】の意思を宿したル級たちに対し、力強く言い放つカリス。

 

しかし、【統制者】の返答は意外なものだった。

 

「「お前たちを戦わせる必要は、もう無い」」

 

「なんだと?」

 

「我が下僕たちよ……」

「奴らの動きを封じよ!」

 

【統制者】の命令に従い、深海棲艦やゲルニュートたちは一斉にカリスや扶桑たちに攻撃を仕掛けてきた。

 

「っ!?」

「キャアッ!!」

 

「深海棲艦!何故、貴様らが手を貸す!!」

 

「無駄だ、ガングート!奴らも既に操られている!」

 

 

ガングートらの砲撃を援護すべく、カリスも応戦する。

 

 

しかし……撃てども撃てども、深海棲艦もゲルニュートも倒れる様子が無い。

 

「コイツら……痛みを感じてないの…!?」

 

あまりの(おぞ)ましさに、風雲は恐怖のあまり動きが止まってしまう。

 

それに対し、カリスが庇いながら敵艦を押し返した。

 

「深海棲艦は本来、人間への憎しみを基にして活動している。意思を奪われ、操られている以上、感情の無い人形と同じだ……!!」

 

 

と、その時。

 

「無駄な足掻きだ……」

 

雷巡チ級がカリスの死角を捉え、奇襲を仕掛けてきた。

 

「ッ!!提督、危ない!!!」

「っ!?」

 

しかし…寸でのところでガングートが前に飛び出し、カリスはダメージを負わずに済んだ。

 

「ガングートさん!!」

「ガングート!大丈夫か!?」

「っぐ……あ……!」

 

「どうして……どうして、こんな酷いことが出来るの!?私たちが何をしたって言うのよ!!?」

 

抑えきれぬ怒りと悲しみから、風雲は【統制者】に質問を投げかける。

 

「邪魔をするな、カイリ……」

「お前たちと同質の存在である、深海棲艦の力を使って【JOKER】の一体を無力化し、お前たち諸とも【深きところ】へと封印する……」

 

「【深きところ】……!?」

 

 

【深きところ】………それは、深海棲艦が生まれ出てくる場所として、海軍総司令部が用いている仮の呼称であり、深海棲艦を根絶やしに出来る一つの可能性として探し続けている領域であった。

 

「それにより、世界はリセットされ……新たなバトルファイトが始まる」

「その為に、深海棲艦を利用したのか!?」

 

「元々、バトルファイトに【JOKER】は1体……」

「ここで余分な存在を排除し、正しき形へと戻す……」

「……それが、キサマの狙いか!!」

 

カリスは怒りに震えた。

 

確かに、本来のバトルファイトは【JOKER】である自分を含めた53体のアンデッドによって行われていた。

 

だが……ヒューマンアンデッドの姿を得て、人と交わりながら生きるうちに、人を愛する心が生まれ、遂には友を得た。

 

さらに、その友は自分の為に人であることを捨てて、運命を変えてくれた。

 

しかし【統制者】は、それが気に食わないというだけの理由で、この戦いに何の関係も無い深海棲艦や、罪も無い艦娘をも巻き込んでルールを戻そうとする……

 

こんな理不尽、許されていい訳が無い!

 

怒りの言葉を叫びそうになった、その時だった。

 

 

「―――どこまでも、貴様は気に食わん存在のようだなあ?」

 

「なに……?」

 

「我が同志……いや…我が姉妹(きょうだい)をあんな目に遭わせ……提督たちの運命を翻弄し…この世界を壊そうとする!それだけでは飽き足らず……今度は提督を深海棲艦に送りつけるだと!?」

 

傷を押さえながら、ガングートが立ち上がり、【統制者】の器となっている深海棲艦たちへ怒りの眼差しを向ける。

 

 

「そうだ!深海棲艦もカイリ同様、この世界に不要な存在!」

 

「この世界の生物や、カイリと深海棲艦も全て【JOKER】によって滅ぼされる!!」

 

「この世界には大勢の同志や英雄たちが眠っている!!!敵対した者もいるが……それでも、敬うべき英霊たちが眠る聖域を、貴様のふざけたゲームなんかで(けが)されてたまるかッッ!!!!」

 

 

それは、『戦艦』としてガングートの胸に刻まれた確かな記憶から発せられた言葉だった。

 

「っぐ……!」

 

しかし、その想いも【統制者】には関係の無いこと。

 

「愚かな……」

 

まだ傷の痛むガングートに向けて、艦隊の一斉掃射を放つ。

 

 

「ガングートさん!!!」

 

「トアっ!!!」

 

 

しかし、その全てをカリスが切り払い、守った。

 

「提督……!!」

「提、督……」

 

「ガングート……お前も充分、甘い女だ」

 

仮面越しにではあるが、カリスは微笑んだ。

 

それに対し、ガングートたち艦娘も微笑み返した。

 

「ふん……の、ようだな」

 

 

今回の事件の黒幕である【統制者】及び、その手駒と化した深海棲艦に向けて、ガングートは宣言した。

 

 

「かかってこい!我らカリス艦隊が、貴様をこの世から消し去ってやる!!」

 

 

エャ(いや)……、オルガクサムヲムッコロス(俺がキサマをぶっ殺す)!!!」

 

同じく、己の戦いを今度こそ終わらせるため、カリスも改めて宣戦布告した。

 

「無駄だ……。この私を消すことも、殺すことも出来はしない!」

「運命に従い……滅びよ!」

 

嘲笑うかのように、再び砲撃を繰り出した、その時。

 

 

「よぉーし!!いっちょあがりーぃっ!!!」

 

「弾着観測射撃、撃てぇッ!!」

 

「!?…秋雲!」

「それに……那珂、鳥海も!?」

 

突然の増援に、驚きを隠せない一同。

 

「ハジメちゃん、ゴメン!ホントは来ちゃダメだって分かってるんだけど……どうしても、ガマン出来なくて……」

 

「……いいや。寧ろ、礼を言わせてくれ。よく来てくれた」

「ハジメちゃん……」

 

「秋雲!もう、大丈夫なのか……?」

「うん。鳥海さんがしっかり診てくれたし、剣崎さんも居てくれたから」

 

「すみません……本当なら、二人を止めなきゃいけない筈なのに……」

 

「気にしないで。みんなの士気を高めてくれる、大切なメンバーだもの」

 

 

またしても予想外な展開に対し、【統制者】は苛立ちを露わにする。

 

 

「駆逐艦・秋雲……カイリの中でも脆弱なカテゴリーの分際で【JOKER】の力を抑え込んだ、イレギュラーな存在。貴様は危険過ぎる、この世から永遠に抹消してくれる!」

 

 

【統制者】が力を行使し、カリスたちは守ろうと身構えた。

 

 

その時、一人の男の声が轟いた。

 

 

「そうはさせない!!」

 

《ABSORB QUEEN》

 

「艦娘も…この世界も!お前なんかの好きにはさせない!!」

 

「―――変身(ヘシンッ)!!」

 

 

《EVOLUTION KING》

 

 

周囲に金色のカードが現れ、やがて金色の柱へと集まっていく。

 

そこに居たのは、金色に輝く剣を手にした、金色の騎士王だった。

 

 

「キサマッ!!」

 

【統制者】の叫びに対し、騎士王は応えた。

 

 

「仮面ライダー、(ブェイッ)!!!」




夜中のテンションか、はたまたオンドゥルの呪いか……ちょっと悪ノリが過ぎたかもしれません(-_-;)


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38話 : ELEMENTS

短いようで、これまで以上に長く感じた剣編。

クライマックスに向けて切り込んで参ります!


仮面ライダーブレイドこと剣崎一真を操り、カリス=【JOKER】こと相川 始を戦わせ、《リセット》と称した世界の滅びを起こすことで新たなバトルファイトを始める企みを露わにした【統制者】。

 

しかし、始やガングートを始めとした艦娘たちはそれを阻止すると宣言。その意志を嘲笑う【統制者】だったが、その時、奇跡によって意思を開放したブレイドがもう一つの切り札・キングフォームへ究極進化して復活した!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「剣崎!!」

「始!悪いな、遅くなった!」

 

待ち合わせに遅刻してゴメン、といった感じのノリで謝るブレイド。

 

「フッ……14年も待ったんだ。これぐらい、どうって事は無い」

 

昔と変わらぬ友に対し、同じノリで返すカリス。

 

「仮面ライダーカリスに、仮面ライダーブレイド……。ダブル・ヒーローのご帰還ってヤツか!」

「だな!」

 

アニメや特撮のヒーロー好きである加古は、嬉しさと興奮のあまりガングートの言葉に思わず反応する。

 

「くぅ〜!!サイッコーに迫力満点なツーショット!イラスト書きたーいッ!!」

 

同じく、秋雲もイラストレーターとして盛り上がっていた。

 

 

「おのれ……どこまでも抗うか!」

 

「抗うよ!抗うことが…戦うことが運命だと言うのなら!私たち艦娘も、その運命と戦う!!仮面ライダーと一緒に……戦えない、みんなの為に!!」

 

【統制者】に対し、力強く睨み返しながら那珂は言い放った。

 

 

そう……

 

自分は、もう役立たずでもなければ「要らない余り者」でもない。

必要だと言ってくれる人が…一緒に戦ってくれる仲間がいる。

 

なら、いつまでも逃げてはいけない!

 

「よく言った、那珂!」

「それでこそ私たちのスターよ!!」

 

「お前たちに、運命を変える力など無い!」

「滅びよ、艦娘!仮面ライダー!!」

 

 

「行くぞ、始!那珂!秋雲!鳥海!!」

「ああ、剣崎!――扶桑!風雲!加古!飛鷹!ガングート!遅れるな!!」

「了解ッ!!」

 

「ほんじゃ、団体さんのお出ましってワケだし。挨拶くらいはちゃんとしなきゃだよねえ?」

 

 

皆が思わず首を傾げると、秋雲は深呼吸を一つ。

 

主砲を構え、声を張り上げながら開幕砲撃を繰り出した。

 

 

「いらっしゃいませえぇぇッ!!!」

 

 

「ッ!?」

 

不意打ち同然の一撃に対応出来る筈もなく、深海棲艦の一体は轟沈。

 

仮面ライダーカリス率いるカリス艦隊と仮面ライダーブレイドの連合部隊による【統制者】率いる深海棲艦の殲滅戦は、こうして始まった。

 

 

「全艦娘に伝える!敵は深海棲艦とアンデッドもどきの混成部隊だが、相手は恐らく数と火力だけで押し通そうとするものと思われる。必要以上に怖れることはない。演習やこれまでの経験を活かし、落ち着いて立ち向かえ!」

 

「最後に…一つだけ命令を伝える。―――死ぬな!!全員で、生きて戻るぞ!!!」

「了解ッ!!!」

「よし!各員、散開!!」

 

艦娘に指令を出すカリスの姿を見て、ブレイドはくっくと笑いだした。

 

「…何かおかしかったか?」

「いや、別に?」

 

幸せに生きているんだと改めて分かったので、嬉しくてつい……などと言ったところで、彼は照れ隠しに無愛想な態度を取るだろうと思い、ブレイドはあえて誤魔化すことにした。

 

「そうか……じゃあ、いくか?剣崎!」

「ああ!」

 

深海棲艦は秋雲たちに任せ、二人はダークローチやゲルニュートの群れを片付けることにした。




またしても中途半端でありますが、ブレイドとカリスの戦闘シーンを次回に持ち越しますm(_ _;)m


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39話 : 『切り札』は君の中

剣編、決戦!!

立ち向かえ、ヒーローズ!!


迫り来るダークローチとゲルニュートに対し、ブレイド・キングフォームとカリスは武器を手に迎え撃つ。

 

「ふん!」

「はっ!」

 

ブレイドの頑強さとカリスの手数の多さは、群がる怪人軍団をものともしない。

 

「あのさ!橘さんに、カードを勝手に持ち出したこと謝っといて!」

 

敵の攻撃を往なしつつ、カリスに頼み事をするブレイド。

 

 

14年前の戦いの後、一真は変身用のベルト・ブレイバックルとブレイド用のカードを返納していた。

 

だが、【統制者】に操られた際、新人類基盤史研究所《NEO BOARD》に保管されていたツール一式を持ち出していたのだ。

 

 

「それが無ければ、お前を助けることも、被害を抑えることも遅れていた。結果オーライって奴だ」

 

ソカァ(そうか)アタァ(あとは)ムッキ(睦月)コタオ(虎太郎)、それからヒロシ(広瀬)サニモ(さんにも)…」

ケンタキ(剣崎)

 

心配や迷惑をかけてしまった、沢山の仲間や恩人の名を次々と挙げていくブレイドに対し、カリスが呼びかける。

 

 

「皆に話したいことが山ほどあるとは思うが、それは後にしよう。今は此処で奴らを食い止め、倒すことが先だ!」

「そうだな!お前と居られるだけで、俺は嬉しいッ!!」

 

 

巨大な剣・重醒剣キングラウザーを振るい、ブレイドは雄々しく戦う。

 

カリスの身軽で、踊るような動きとは対象的な、まさにキングの名に相応しい堂々とした姿であった。

 

 

「っ!剣崎!!」

 

途中、ブレイドに倒されながらも微かに息のあったゲルニュートが背後に迫るが、気付いたカリスがアローで射抜き、トドメを刺した。

 

「悪い!」

 

礼の言葉をかけるブレイドだったが

 

「っ!始!!」

 

カリスが仕留め損ねたダークローチが、カリスの背後に飛びかかった。

 

だが、そこへブレイドが回り込み、背中を盾にしたことで不意打ちを防ぐ。

 

「ドリャアッ!!」

 

お返しの左ストレートで、ダークローチを吹っ飛ばした。

 

「…すまない!」

「気にすんな」

 

 

すると、新たに現れたダークローチとゲルニュートが二人の背後に襲いかかった。

 

 

しかし……ブレイドは左腕で、カリスはカリスアローの刃で、振り向くこと無く攻撃を受け止めた。

 

『ッ!!?』

 

信じられない展開に驚く怪人たちに、二人の騎士は反撃の一撃を食らわせる。

 

 

そして

 

「剣崎!!」

「オォ!!」

 

 

一閃。

 

王者と戦士、二つの刃が大群を斬り伏せ、撃破した。

 

 

「やったな!」

「ああ。次、行くぞ」

 

そう言って、秋雲たちの下へ向かおうとするカリスに対し。

 

「あっ!そうだ、始!今度発売()た写真集、見たぜ。良い()を撮るようになったじゃねえか?」

 

手でカメラの形を作り、空を眺めるブレイド。

 

「っ!見たのか!?というか……知ってたのか!」

 

突然の話題に動揺するカリス。

 

「ああ。けどお前、勝手に(ヒト)の名前をP(ペン).()N(ネーム)に使うなよなぁ〜?」

 

「ッ……そうか……」

「あ、オイ!……ったく。無愛想なのは相変わらず、か」

 

 

恥ずかしさのあまり、素っ気無い態度で先を行くカリスに対し、ブレイドは苦笑いしながらも後を追うのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方、開戦の火蓋を切った秋雲と那珂、風雲は重巡リ級を操る【統制者】と戦っていた。

 

 

「ひゃあんッ!」

「うわっち!?」

「キャアアッ!!」

 

元々耐久力と火力の高さが特徴の重巡リ級であるが、【統制者】が操ることで全体のスペックが強化されているのか、エリートクラスの力を発揮。秋雲たちを圧倒していた。

 

 

「秋雲ちゃん……大丈夫…?」

 

「ちょ……っと、ピンチかも?やっぱ、ムチャしたからかな……力が出ない……」

「そんな……!」

 

その様子に対し、【統制者】は異変を見抜いた。

 

「貴様……魂が消滅しかけているな?―――そうか。艦娘としての生命力を削ることで、【JOKER】たちの暴走を抑え込んでいるのだな」

 

「!!」

 

それを聞いたとき、風雲と那珂は驚愕した。

 

秋雲が、提督たちを助けるために命を削っている?

 

ということは、このままどんどん衰弱していけば……

 

 

「駆逐艦秋雲。貴様の命が燃え尽き、消滅したその瞬間、【JOKER】は再び暴走を始める!所詮、貴様たち軍艦の亡霊に……《始祖の無い生命》に、運命を変える力など有りはしない!!」

 

 

【統制者】の嘲りに、悔しさから涙を流す那珂と風雲。

 

……しかし、秋雲は立ち上がり、言い放った。

 

 

「……運命運命、喧しいっての!なに?お宅ってばベートーベン推し?」

 

「そうだよ……艦娘は軍艦(フネ)の記憶を引き継いで生まれた人とか、艤装に適合した人みたいに『血の通った人』ばかりじゃない。文字通り、残りカスから生まれた艦娘(タイプ)も確かに居るよ……《拾われし者(ドロップス)》なんて、皮肉っぽい呼び方されてるけどね」

 

「秋雲ちゃんも…なの…?」

 

恐る恐る尋ねる那珂に、秋雲は黙って頷いた。

 

「ゴメン……あたし、那珂ちんみたいな度胸の無いビビリだからさ?ガンちゃんが提督に打ち明けたときも、怖くて言えなかった……」

 

でも

 

「このバカがほざいた、艦娘を全否定する亡霊発言にはガマン出来ねえワケよ!!」

 

「艦娘に始祖が無い?元がフネだから命が無い!?ロクにゲームのシナリオも管理出来ねえド三流が偉そうなこと言ってんじゃないよッ!!あたし達は生きてる……艦娘として!一人一人が命を!心を持った《人間》なんだ!!!こんな所で、倒れるなんて絶対に嫌だァァァっ!!!!」

 

 

「無駄な足掻きを……」

 

主砲を放とうとした、その時。

 

秋雲と艤装を包むように、柔らかな光が発生した。

 

否、秋雲だけではない。

 

那珂や風雲、ガングートたち戦闘中の艦娘たち一人一人を光が包み込んだ。

 

 

「……?」

「これは……いったい……?」

 

「馬鹿な……!こんな…こんな事が……!?」

 

 

【統制者】が動揺しているうちに、光は収まり。

見ると、秋雲たちの手には数枚のカードが握られていた。

 

「コレ……提督たちのカードと似てる…」

 

 

そこに描かれている物……それは《舟を従えた女騎士》《艤装を象った動植物》《トランプのスートを模した錨のマーク》だった。

 

 

さらに、艤装の一部にブレイドたちのラウザーを模したスロットやカードのホルダーが追加されていたのである。

 

 

「秋雲ちゃん!これって……」

「……?あれ?体が、ダルくない…むしろ、体力マシマシ!?みたいな!?」

「ホント!?」

 

今、新たな奇跡が……新たな『切り札』が生まれた。




かなりムリヤリな展開になってしまいました(土下座)


だが私はあやm

次回、新たな力を使いこなせるか?


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40話 : ヴァルキリー・フリゲート

今まで、生まれてきて良かったと思えた事なんて一度も無かった。

死んでしまいたい、この命を終わらせてしまいたいと何度思ったか分からないくらい、運命を呪った。


でも、あの人に会って全てが変わった。

そして、この気持ちを他の誰かに伝えようって決めた。

それが、あの人だった―――。


【統制者】との戦いの中、苦戦していた秋雲たち。

 

だが、戦いを終わらせたいという強い意志が奇跡を起こし、【統制者】が生み出したラウズカードと異なる《フリゲートラウズカード》が誕生した。

 

「あ!秋雲ちゃん、風雲ちゃん!コレ、ハジメちゃんの使ってるのと似てない?」

「あ!ホントだ…!」

 

「じゃあ、コレはあたしらの使っていいアイテムってこと?」

 

「させんっ!!」

 

【統制者】の操る重巡リ級が、新たに駆逐艦の大群を呼び寄せ、仕向ける。

 

 

「えーっと……まずはとりあえず…コレ!」

 

【STORM】

 

攻撃に使えそうなものを選び、秋雲は《鎧を纏ったハヤブサ》のカードを艤装に追加されたカードリーダーにスラッシュした。

 

すると、砲弾の発射速度が上昇し、機銃並みの連射が実現したのである。

 

 

「ウソぉ!!?コレ、ホントにカードで出来ちゃうの!?」

 

 

「秋雲ちゃんたちの様子が変わったみたいね。でも……コレ、大丈夫なのかしら?」

 

不安を抱きながらカードを眺めているところに、砲弾と爆撃の雨が降り注いだ。

 

「ハッ!!」

 

【IRON】

 

咄嗟に【鋼鉄で形作られたシャチ】のカードをスラッシュしたが、そのまま扶桑は被弾してしまった。

 

 

「扶桑さん!!」

「不味いよ……あんな一斉射撃、マトモに食らったら……!!」

 

飛鷹と加古が心配するも……

 

「……え!?」

「ふ…扶桑さん……!?」

 

煙が晴れると……扶桑は全くの《無傷》だった。

 

「ふ…扶桑さん!大丈夫、なの……!?」

 

飛鷹が恐る恐る尋ねると

 

「えっと……そうみたい。自分でもビックリ……」

 

カードの力により、(にび)色の光に包まれた扶桑は、普段と比べ物にならない防御力を獲得していた。

 

 

 

「よし……扶桑たちは大丈夫そうだな」

 

扶桑たちの無事を確認したガングートは、砲撃を続けながら改めて手元のカードを見る。

 

(どうやら、我々のカードは種類は同じだが、それぞれ人数分与えられているらしいな。なら……)

 

「戦艦らしく、火力で押し切らせてもらう!!」

 

 

【CANON】 【SHELL】 【SPLASH】

 

《OCEANS BREAK》

 

 

【砲台の様な姿のキリン】と【武装したイッカク】、【水を纏ったイルカ】……合わせて3枚のカードをスラッシュ。

 

艤装の砲塔がゲルニュートやダークローチたちに照準を合わせ、青い光を放ちながら力を溜めていく。

 

「喰らえッ!!!」

 

 

一斉砲火にも関わらず、ガングートの足場は安定しており、反動を最小限に抑えつつも火力を損なうこと無く。

 

眼前の敵を一撃の下に葬り去った。

 

 

「………ふうぅ…」

 

想像以上の力に、ガングートは思わず溜息を吐いた。

 

 

「ガンちゃーん!!」

「っ!秋雲、みんな!」

「スゴイね!?今の何?ひょっとして、カード使ったの?」

 

「ああ……まあ、な。それより、【統制者】は?」

「逃げられたので、今追いかけてる途中です!」

 

風雲の答えに、「そうか」と頷くと

 

「此処から北東へ進んだ先に、深海棲艦の艤装の残骸が集まった海域がある。恐らく、奴はそこで我々を片付けるつもりなのだろう」

「艦隊決戦……ですね」

 

ガングートの推理に、鳥海は呟く。

 

「っ!ねえ……アレ」

 

那珂が指差した方角を見ると、ブレイドと【統制者】が操っている戦艦ル級が移動している姿を発見。

 

「剣崎さん!」

「ガングートの読み通り、【統制者】はあそこで決着をつけるつもりのようね」

 

「らしいな。みんな急ごう!提督も向かっている筈だ!!」

「応ッ!!」

 

暁の水平線に勝利を刻むため、カリス艦隊はボス海域へと進路を取った。




次回『BLADE BRAVE』


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41話 : BLADE BRAVE

剣編、決着!!!


秋雲たちカリス艦隊が深海棲艦やダークローチらを撃破し終えた頃。

ブレイド・キングフォームは【統制者】が操る戦艦ル級との一騎打ちに臨んでいた。

 

「ぬうう……!」

「この前はうっかり油断して嵌められたけど、今度はそうはいかねえぞ?」

「運命に…従えぇっ!!」

 

艤装を構え、砲撃した瞬間。

 

【METAL】

 

ブレイドの身体が硬質化し、砲弾の直撃を物ともしない。

 

「チィッ!!」

 

接近戦を試みるが、すかさずブレイドは右拳に力を込めた。

 

【BEAT】【MAGNET】

 

「オリャアッ!!」

「ぐあっ!?」

 

強化されたパンチに吹っ飛ばされるル級を、ブレイドは逃しはしない。

 

【TACKLE】

 

「オオオオォォッ!!」

 

しかし、それよりも先に駆逐艦の群れに阻まれ、追撃に失敗してしまった。

 

「今だ…!!」

 

がら空きとなった背中を狙った、次の瞬間。

 

【TIME】

 

ブレイド以外の『時間』が停まり、攻撃は不発に終わる。

 

さらに

 

【SLASH】【THUNDER】

 

「ウェイッ!!」

 

時間を解除した瞬間、雷撃を付与した斬撃を繰り出し、【統制者】に一切の反撃を許さない。

 

 

「グッ……アア…!!」

 

【KICK】【THUNDER】【MACH】

 

《LIGHTNING SONIC》

 

すかさず、3枚のカードを召喚。通常装備・醒剣ブレイラウザーに読み込ませ、コンボ発動。

 

雷を纏った超加速による体当たりで牽制、相手を怯ませたところで跳躍。

 

「ウェエエエエエエイッ!!」

 

キック技《ライトニングソニック》を叩き込む。

 

「グオオオっ!?な…なんという力……!13体のアンデッド、全ての力を支配し…使いこなすとは……!!」

 

悔しげに呻く【統制者】の声に混じり、女性らしき声をブレイドは耳にした。

 

“……テ…”

「!」

 

“オネ、ガ………。ワタ…ヲ……、…ムラ…セ………”

 

見ると、【統制者】の器となってしまったル級の眼から涙が溢れていた。

 

 

「……分かった」

 

ル級の望みを聞き入れ、ブレイドは小さな声で応えた。

 

そして、キングラウザーを取り出し。ブレイラウザーとの二刀流になった。

 

 

「これが……俺の力だッ!!」

 

【SPADE2 3 4 5 6】

 

《STRAIGHT FLASH》

 

「ハアアァァ……!ウェエエエエエエエエイッ!!!」

 

キングフォームの力により、進化したラウズカード・ギルドラウズカードのエネルギーを完全開放した2連撃はル級を切り裂いた。

 

「グッ…!?アアアアアアァァ!!!」

 

力尽き、爆発する寸前。ブレイドの耳に、届いた声があった。

 

“アリガトウ……”と。

 

 

「………」

 

「剣崎!!」

「剣崎さん!」

 

そこへ、少し遅れてカリスと艦隊一同が合流。残ったのは重巡リ級のみ。

 

「おのれ……!!どこまでも運命に逆らうか……!!」

 

悔しげに表情を歪める【統制者】に、カリスとブレイドは言い放った。

 

 

「何度貴様が立ちはだかろうと、俺たちはもう逃げはしない!!」

 

「運命を変えられないのなら……戦うことが運命だと言うのなら、俺たちはその『運命』と戦う!!そして……勝ってみせるッ!!!」

 

【SPADE 10 J Q K A】

 

【ROYAL STRAIGHT FLASH】

 

 

キングラウザーにラウズされたカードを模したエネルギーが5つ、リ級に向かって並び。

キングラウザーを構えたブレイドが突撃、究極の一撃『ロイヤルストレートフラッシュ』をキメる!!!

 

「ウェエエエエエエエエエエエエエエエエエエイッ!!!!!!!!」

 

 

防御用に放った大量のダークローチや深海棲艦諸とも、リ級を豪快に斬り伏せた。

 

 

『…この身体も、限界か………』

 

リ級も轟沈、【統制者】が操っていた深海棲艦や怪人たちは全滅した。

 

「終わったの……?」

「……いいや。まだだ」

 

那珂の問にカリスが答えると、一同の前に謎のレリーフ・モノリスが出現した。

 

 

『艦娘……仮面ライダー……!お前たちは愚かだ……いずれ後悔するぞ……運命に従わなかったことを……!!』

 

 

「んもぉ〜〜!!いい加減しつっこいよ、この捻れコンニャクっ!!」

 

怒りのあまり、秋雲はモノリスに向かって怒鳴りつけた。

 

「秋雲、下がれ」

 

ガングートと扶桑が前に出ると、二人は一斉に砲撃。

モノリスを粉々に破壊した。

 

 

「これで、どうかしら?」

 

その時の扶桑の微笑は、鳳翔が本気で怒った時よりも怖かった。(秋雲の日誌より)

 

 

「これで……今度こそ終わったんだよね?」

 

秋雲が確認をするが、カリスはまたも首を横に振った。

 

「いや……モノリスは、あくまで【統制者】が自分の意思を俺たちに伝えるために使う、ただの端末に過ぎない。いずれまた、何かしら策を講じてくるだろう」

 

「でも、まあ。しばらくは大人しくしてるんじゃねえかな?ただの勘だけど」

 

ブレイドの言葉に、皆は一瞬ポカンとなる。

 

「………あれ?何?この空気…」

「……フッ。本当に、お前は相変わらずだな?剣崎」

 

 

それから……一行は鎮守府へと帰投した。

 

「そうだ!提督たち大丈夫なの!?その…ジョーカーの意識がどうとか言うのは……」

 

「ああ。アンデッドとしての“疼き”は起きていないから、少なくとも今日一日は大丈夫だろうと思う」

「そう…ですか……」

 

始の言葉に安堵の笑みを浮かべる扶桑。

すると、山城や鬼怒たちが皆を出迎えに駆け寄ってきた。

 

「あ!提督〜〜!!みんな〜〜!!」

「あ!あの人が提督とお友達の剣崎さんなの?」

 

「この際だ。ウチの店で飯を食っていかないか?美味いコーヒーと、女将自慢の料理をご馳走してやる」

「え?マジ!?やった!」

 

「じゃあ、那珂ちゃんはスペシャルステージをサービスしちゃおっかな?」

 

「それなら、後で大淀さんたちにお願いして記念写真撮ろうよ!」

「あ!それ名案〜!!」

 

 

10数年ぶりの友との再会、そして新しい家族との幸せなひと時を、剣崎一真と相川 始は共有し、この幸せを守り、引き継いでいくことを改めて誓うのだった―――。




剣編、完結。

長い間、お付き合いいただきありがとうございましたm(_ _)m


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登場人物紹介・(ブレイド)

結構ご高評いただけた剣編。その登場人物の紹介に当たらせていただきます!


相川 始/仮面ライダーカリス

 

鎮守府喫茶ハカランダにてマスターを兼務する提督。

その正体はあらゆる生物の始祖とされる不死生命体アンデッドの中でもイレギュラーとされる【JOKER】である。

14年前、封印から目覚めた53体のアンデッドによる地上の支配権を賭けた争い《バトルファイト》で勝ち残ったことにより世界が滅びかけたのだが、種族を越えた絆で結ばれた親友・剣崎の自己犠牲により、世界と共に救われた。

 

現在は提督と喫茶店のマスターを営む傍ら、カメラマンとしても活動している。

始の淹れるコーヒーと手作りのたらこスパゲッティは艦娘たちに人気らしい。

 

 

剣崎一真/仮面ライダーブレイド

 

旧人類基盤史研究所《BOARD》の元職員であった青年。

アンデッドを封印したカード・ラウズカードの力を最大限引き出すことの出来る素質を持ち、力を酷使し続けたことでアンデッド化。ジョーカーアンデッド=相川 始の未来と世界を救った英雄的人物である。

 

【統制者】の策略により、ジョーカーとしての意識が暴走、始と戦ってしまったが、秋雲の命懸けの活躍によって正気に戻り、仮面ライダーとして復活。カリスや艦娘たちと力を合わせ、【統制者】の野望を砕いたのだった。

 

 

秋雲

 

陽炎型駆逐艦19番艦娘。

おちゃらけた言動が目立つものの、戦闘スキルはそれなりに高い。

元は赤塚鎮守府所属の艦娘で、その前はイラストレーターを志望していた。

だが、彼女の生い立ちは艦娘の中でも極めて特殊なタイプで、《ドロップ》と呼ばれる現象から生まれた《ドロップス》である。

 

【統制者】の企みを知る少し前、休暇を利用して長野へ旅行に行っていたのだが、そこで《未確認生命体第4号》と《揚陸侵艦》の戦いを目撃。

その後、仮面ライダーブレイドこと剣崎と出会い、始との争いを止めるべく命懸けの説得を行い、それがきっかけとなり、フリゲートラウズカードを手に入れた。

 

 

扶桑

 

超弩級戦艦扶桑型1番艦娘。航空戦艦に改装済。

元赤塚鎮守府所属で、鎮守府解体後、姉妹艦の山城と共にハカランダへ異動してきた。

かつては淑やかな性格であったが、前任の提督・沼田統也を喪った影響から彼の分まで強く生きようと誓い、精神的にたくましく成長した。

始を尊敬すると共に、何処か自分たちと距離を取ろうとしている様子の始に寄り添い、支えたいと思っている。

 

 

那珂

 

川内型軽巡洋艦3番艦娘。始が提督に着任した際、初期艦に迎えられた。その付き合いの長さ故か、始を「ハジメちゃん」と呼び、兄のように慕っている。また、始も那珂を妹のように愛情を注いでいる。

 

始の正体や過去を知ってなお、彼を助けようと懸命な秋雲に同意し、始の支えになると決心。そうした意味も含めて、始とのケッコンカッコカリを真剣に考えている。

 

艦娘としての任務以外では、喫茶ハカランダの看板娘兼歌姫として、老若男女問わず愛されている。

 

 

ガングート

 

ガングート級戦艦1番艦娘。

 

元赤塚鎮守府所属のロシア出身艦娘。秋雲と同様、艤装の残骸や各資材の廃棄品を元に生まれた《ドロップス》であり、故・沼田提督に拾われた経緯から《拾われ者》と自嘲している。

戦闘能力は非常に高く、肉弾戦も問題無く対応出来るほど。また、戦場で散っていった軍人や軍艦、艦娘などを敵味方関係無く『英霊』として敬う、誇り高い性格で、それらを侮辱したりする者は決して許さない。

 

【統制者】の企みにも激しく怒り、戦艦らしく力強い活躍で勝利に貢献した。なお、これがきっかけとなったのか、始を異性として意識するようになった模様。




次回、誰の物語が来るか?

番外編か、それとも他のメインスポットに戻るのか!?


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W編『風都艦隊』 第2集
42話 : mの(いざな)い/風の街の提督


長い長い休眠期を迎えまして。

『風都艦隊』第2集でございます!!

いい風を届けたい………。


風吹く街《風都》。

 

 

その中にある《鳴海探偵事務所》について、こんな噂が流れていた。

 

 

曰く、探偵事務所が《連邦統合海軍省》の監視下に置かれた……と。

 

 

「……まあ、噂は噂だし。ご主人様が一々気にすることは……」

 

「気にするっつうの!!山さんのお墨付きで、提督業を兼務することになっただけだってのに!なんでこんな捏造記事が出回ってんだよ!?」

 

 

事務所内はそのままに、秘書艦兼連絡員を務めてくれる漣のフォローを受けつつ、《探偵》左 翔太郎はぼちぼちながら提督業をこなしていた。

 

 

「提督さーん!依頼されてた(マロン)ちゃん、見つけたっぽーい!!」

「ただいま〜……。もぉ、マジだるかった〜」

 

そこへ、前回の事件で迎えた夕立と、提督に着任して最初の『建造』で迎えた駆逐艦《望月(もちづき)》が、この日依頼されていた、捜索対象の猫を連れて帰ってきた。

 

「おっ?おお!でかしたぞ夕立、望月!ありがとな、よくやってくれた!!」

「ゆうだっちゃん、もっちー!おつかり〜!」

「ぽ〜い!!」

「はへぇ…」

 

翔太郎からの労いに、夕立はガッツポーズで応え。望月はぐったりとだらけるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「《鳴海探偵事務所》探偵 兼《風都鎮守府》提督……階級は現在《大尉》止まり、か………。立身出世に伸び悩むのは、実に君らしいねえ?翔太郎」

 

地下のガレージ。

 

ホワイトボードにデータを書き込み、近況を再確認するフィリップに対し、翔太郎は「うるせえ!!」とツッコむ。

 

 

「元々、俺はハァ〜〜〜〜ドボイルドな探偵だぞ?漣たちの事があるから、兼業として受けた訳で!別に昇進がどうとかは興味ねえんだよ!」

 

「ムキになってる時点で、ハーフボイルドやん」

 

そこへ横から亜樹子がグサリと指摘。それに対し、当鎮守府で数少ない主戦力の一人である《摩耶》と《瑞鶴》がウンウンと頷いた。

 

「ちょっ?お前らァっ!?」

「だって所長さんの言うとおりじゃない。否定とか反論の余地は無い筈だけど?」

「大体……お前みたいなハンパ野郎が、なんで提督を任されたのか今だに信じらんねえんだけど?漣とか夕立の話を聞いても納得いかねえよ、あたし」

 

「んだと、コラーッ!!」

「ご主人様、どぉどぉ!!」

「今怒ってもしょうがないっぽい〜!」

 

相変わらず、ハードボイルドの欠片もない有様で、新たに迎えた艦娘にまでもからかわれる翔太郎なのであった。

 

 

そんな、今まで以上に賑やかになってきた事務所のドアは、また誰かによって叩く音を奏で。街を吹き抜ける風と共に届けるのである―――。




『風都艦隊』第2集。

果たして、今回はどんな依頼が?


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43話 : mの誘い/縁を取り戻せ


探偵事務所に置かれた《風都鎮守府》。

探偵提督、提督に着任して最初の依頼です。


―――その依頼は、これまでに引き受け、扱ってきた様々な事件に引けを取らない……そして、良くも悪くも忘れられない事件の始まりだった。

 

 

「えっと……初めまして。()(じま)(がり) (もと)()って言います……」

(みな)()(がわ) ゆかりです……」

 

 

訪ねてきたのは一組の男女で、第一印象は、どこにでも居そうな、ごくありふれたカップルといった感じだった。

 

しっかりと手を繋いでいる事からも、仲の良さを窺い知ることが出来た………かに見えた。

 

 

「もしかして、お二人さんは恋人同士っぽい?」

 

唐突に夕立が尋ねると、返ってきた答えは翔太郎たちを驚かせた。

 

 

「いえ……2日前まで、お互いに名前も顔も知らない、赤の他人でした…」

 

「ええぇぇえッ!!?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

男性の名は『津島狩幹雄』。風都市内にある、数少ない自動車整備を営む会社『風都モータース』に勤務する、入社2年目の若手社員。

 

連れ添っていた女性『水面川ゆかり』は、1ヶ月ほど前に風都へ引っ越してきた新卒者で、就職活動をしていた所で今回の事件に巻き込まれたとの事だった。

 

 

「それじゃあ……改めて、今の状態に至るまでの出来事について、詳しく聞かせて下さい」

 

「…はい……」

 

 

事の始まりは、2日前。

 

いつもの様に仕事を終えた津島狩は、翌日が休みということもあって、ファミレスでのんびりと時間を潰していた。

そして、そろそろ家に帰ろうかと店を後にした……その時。

 

「キャアアッ!!」

「へ?…うわっ!?」

 

近くを通りかかった水面川が、いきなり津島狩に『引き寄せられ』て密着。

幸い、どちらにも怪我は無かったのだが、問題はその後だった。

 

 

 

離れられなくなってしまったのだ。接着剤で貼り合わせたかのように。

 

 

「嘘ぉ……」

 

話を聞き終え、瑞鶴は思わず本音を洩らした。

 

それは、誰だって耳を疑うであろう。出会い頭にぶつかって、それ以降離れられない……なんて、冗談みたいな話をマトモに信じる方がおかしいと思うのも無理は無い。

 

 

しかし……どんな悩みであろうと、頼ってきた人の話を聞くのが、この探偵事務所のスタイルだ。

 

だから、漣と夕立はまず、津島狩と水面川の『繋いだ手』に注目した。

 

「えっと……。最初にぶつかったときは、全身で密着したので?」

 

漣の質問に、津島狩は「あ…はい」と答える。

 

「変な誤解を与えるとマズかったし、慌てて離れようとはしたんですが……右手だけは、どう頑張っても離せなくって……」

「私も、津島狩さんにぶつかる前、左手に妙な違和感があって……くっついてしまったのはそのすぐ後でした」

 

「フム……」

 

考え込む翔太郎であったが、津島狩は深く頭を下げた。

 

 

「お願いします!!彼女を……水面川さんを助けて下さい!!」

「おぅっ?」

 

その必死な様子に、思わず驚きの声をあげる亜樹子。

 

「実は俺、婚約者が居るんですけど……コイツが変な誤解を持ってしまったらしくて、彼女に嫌がらせをするようになってしまったんです!いくら話をしても聞く耳を持ってくれないし……このままじゃ、水面川さんが体を壊してしまうかもしれない……!!」

 

「津島狩さん………私は大丈夫です。むしろ、貴方の方が……」

 

 

そのやり取りだけでも、二人とも誰かの痛みや苦悩を受け止め、思いやれる人なのだと理解出来た。

 

 

「……分かりました。その依頼、お受けします」

「提督!?」

 

翔太郎の承諾に、摩耶は驚きの声をあげた。

 

明らかに普通じゃない、異常な案件に対し、何故受けようと思えるのか。摩耶と瑞鶴には信じられなかった。

 

 

「津島狩さん、水面川さん。お二人を縛り付ける、その手は、必ず俺たちが開放します」

 

「あ……ありがとう、ございます……!!」

「よろしくお願いします……!」

 

《探偵提督》左 翔太郎、捜査開始である。




望まぬ結びつき、果たしてその正体は?


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44話 : mの誘い/狂わす磁気

暑さや湿気、コロナとたまらん日々ですが、みなさんお身体を大事に!


依頼を引き受け、津島狩と水面川の二人を見送った後。

 

翔太郎は「さて……」と一息吐き、フィリップに尋ねた。

 

 

「フィリップ、《デンデンセンサー》で何か分かったか?」

 

翔太郎が話を聞いている間、フィリップはメモリガジェット・デンデンセンサーで依頼人たちの手を縛る“何か”を調べていた。

 

 

「繋がれたそれぞれの手に、強力な磁気が発生していた。恐らく、あの二人の手が磁石に変異した為に、今回の様な事態になったのだろう」

 

「人の手が磁石になるって……提督さん、そんな事が起こるの?」

 

 

夕立が尋ねると、翔太郎は頷いた。

 

「通常なら有り得ないさ。だが……夕立、お前なら分かる筈だ。“有り得ない事”が実現する、たった一つの方法を」

 

 

そう言われて、夕立と漣はハッとなる。

 

「……ガイアメモリ!?」

「っぽい?」

 

「ぽいどころじゃなく、ほぼ間違いなく……だな」

 

「ん〜……ゆうだっちゃん、その独特な口癖は何とかなんない?」

 

 

夕立の口癖でもある「ぽい」に対し、亜樹子は未だ馴れていないのだった。

 

 

「っし!お前ら、捜査開始だ!」

 

「ラジャ!!」

「ぽーい!!」

「お〜」

 

「摩耶ちゃんと瑞鶴ちゃんも、聴き込みのサポートよろしくね!」

 

「え?あっちょ!?所長さーん!?」

 

 

鳴海探偵事務所・別名『風都艦隊』は散らばり、事件に関する手掛かりを探るべく、奔走を開始した。

 

 

 

「おっちゃん!こんにちはー!」

「おう、さざなっちゃん!今日はゆうだっちゃんと一緒かい?」

「にへへ〜。あ、そーそー!ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

 

「クイーン、エリザベス!ちょっといいか?」

「お!まややんだぁ〜!」

「てことは、仕事?」

「そんなとこだな。で、早速質問なんだけど……」

 

 

風都艦隊―――その認知度と浸透率は、翔太郎や翔太郎を提督に推したヒィッツ中将や山県元帥の想像を越える高さと勢いで広まり、翔太郎自身の人柄や人脈もあって、多くの風都市民から受け入れられていた。

 

 

「提督さーん!」

「瑞鶴!」

「……って、いつの間に望月をおぶってたの?」

 

「くー……」

 

瑞鶴が指摘する通り、望月は翔太郎に背負われ、安心しているのか熟睡していた。

 

 

「まあ、そう言うなよ。今朝まで、夕立と一緒にペット捜索を手伝ってくれてたんだから。ちょっとでも休めるなら、ゆっくりさせてやりてえじゃねえか」

 

 

駆逐艦《望月》……鳴海探偵事務所兼風都鎮守府、最初の『建造』で迎えられた艦娘であり、風都鎮守府所属の艦娘第一号という事もあって、先輩分である漣や夕立、所長である亜樹子などからも猫可愛がられていた。

 

 

しかし、口や態度にまでは出さずとも、本人なりに思うところがあるのか、気怠げな態度で誤魔化しつつ、人一倍仕事や任務に励んでくれていることを、翔太郎たちはみんな分かっていた。

 

だから、彼女が常日頃口に漏らす「ダルい」とか「メンドー」を聞いても、あまり厳しくは注意しないでいるのだった。

 

 

「……で。何か分かったか?」

 

「うん。どうやら、例の磁石化現象は今回の依頼人たちが初めてってワケじゃないみたい」

 

「フム……」

 

 

―――この奇怪な事件が、後にさらなる事態を引き起こすことになるとは、この時点では誰一人思いもしなかった………。




嗚呼、やはりムズカシイ……(;´∀`)


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45話 : mの誘い/強いられた縁

謎の引っ付き現象………果たして、元凶とその正体は?


鳴海探偵事務所、地下ガレージ・・・

 

翔太郎たちが情報収集をしている中、フィリップも『地球(ほし)の本棚』にて『検索』を進めていた。

 

 

ところが………

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「えっ?情報を絞り込めないって?」

 

 

一旦、合流した翔太郎たちであったが、フィリップからの中間報告を聞いて驚いていた。

 

 

「どういう意味だよ、そりゃ?」

 

『言葉通りの意味だよ、摩耶ちゃん。津島狩 幹夫と水面川ゆかりの身に起こった磁石現象………その正体に辿り着く為のキーワードが不足しているんだ』

 

 

翔太郎の持つ携帯電話型ガジェット《スタッグフォン》の受話器越しに、摩耶の問いに応えるフィリップ。

 

 

「……して。君たちの方は収穫はあったかい?」

 

『ああ……それなんだが』

 

 

翔太郎や漣、摩耶たちが街の彼方此方(あちこち)を走り、聴き込みを行った結果。

 

中学・高校生を含めた若年層から婚活に励んでいる熟年層といった幅広い世代の女性を中心に人気を集めている、奇妙な『占いサイト』が存在する事を突き止めた。

 

 

サイトの名称は『赤い糸の結び目〜あなたの運命の人は、すぐそこに〜』―――。

 

名称は勿論だが、ホームページの怪しさもコテコテな物で、真っ当な人間なら間違い無く相手にしないであろうサイトだ。

 

匿名による投稿も受け付けているらしく、同サイト内に掲載されているコメント欄の中には「願いが叶った」と喜ぶ相談者たちの感謝の言葉が多数綴られていた。

 

 

・・・・・・ところが、だ。

 

調べを進めていく内に、俺たちはそのサイトに潜む、ドス黒い闇を見つけてしまった。

 

 

「クイーン&エリザベスの二人から仕入れた情報だがよ………別の匿名掲示板に、『赤い糸の結び目』と関係有りそうな書き込みがあったっつーんだよ」

 

 

仕入れたデータと問題のサイトの感謝メールを照らし合わせてみると、匿名掲示板に書き込まれているのは『願いが叶った』と喜んでいるユーザーの、いわゆる『運命の人』に該当する人たちの呟きで。

 

 

その内容は、驚きこそあるが喜びの声は皆無に等しく、寧ろその逆………『初めて会ったばかりなのに、一方的にプロポーズされた』とか『結婚して、子供も居るのに、夫の前で抱き着かれたせいで離婚しなきゃならなくなった』などといった、悲しみや絶望の声がほとんどだった。

 

 

「………っ」

 

「何が運命の人だよ……こんなの、仕組んだ奴の自己満足にしかならないじゃねえかッ!!」

 

「同感ね。取り敢えず、証拠集めとして現存してる書き込みには一通り目を通したけど……案の定と言うべきか、問題のサイトに書き込みをしていない被害者側のほとんどが泣き寝入りしちゃってる状況みたいよ」

 

 

ショックのあまり、言葉を失う亜樹子と怒りを露わにする摩耶。それに対し、瑞鶴は怒りを抑えつつ、被害者達の現状を教えてくれた。

 

「提督……」

 

「!」

 

すると、そこへようやく望月が目を覚ました。

 

「望月……悪いな、起こしちまったか?」

「ん……良いよ、気にしなくって。それよりもさ………なぁんかムカつくよね、この結び目」

 

「結び目?」

 

寝起きの望月が発した、何気無い一言。

 

 

翔太郎の中で、『何か』が見えた。

 

 

「―――フィリップ!『検索』を頼む!!」




嗚呼・・・これまた、かーなーり難産になるやも(;´∀`)

次回、ひょっとしたら犯人とメモリが判明するかも?


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46話 : mの誘い/危険な結び目

原因不明の磁石化、そして極端な二面性を持った占いサイト。

街を泣かせる悪党を懲らしめるべく、ハーフボイルド探偵が仕掛けます!!


※長いこと間を空けてしまい、申し訳ありません!


地球(ほし)の本棚』にて、翔太郎から提示された追加キーワードにより、ついに真相へと辿り着いたフィリップ。

 

 

「………ビンゴだ、相棒!謎は全て解かれた!!」

『ホントか!?』

 

「ああ。今回の事件の黒幕、そして犯人が用いたメモリは―――」

 

 

 

======================

 

 

風都市内の一区、()和木(わき)町。

 

そこに建つ、一軒の手相占い屋へと翔太郎は訪れた。

ちなみに、この時も望月が同伴していた。

 

 

ベルを鳴らした後、鼻を摘んで声を変えながら呼びかける翔太郎。

 

 

「ごめんくださーい。郵便で〜す」

 

「どうぞ〜」という返事から、翔太郎たちはドアを開ける。

 

 

奥から小太りの中年男性が現れ、翔太郎らの顔を見る。

 

すると、翔太郎は開口一番。店主と思しき男性にこう呼びかけた。

 

 

「せっかくの人気店だってのに、本業は休んでばっかりかい?そんなにホームページのチェックが忙しいかよ……(ちょう)()(まさ)()!」

 

 

「いや・・・《コネクション・ドーパント》!!」

 

 

中年男性こと張田の『裏の顔』、そして彼が所有しているガイアメモリの名を投げかけた瞬間。張田の表情が驚愕したものに一変する。

 

「なっ……何の話ですっ!?」

 

何を言い出すんだといった様子で抗議しようとする張田に、望月がファイルを突きつけた。

 

「はーい、これはアンタが掲載してるホームページの、今朝までの記録ね。言っとくけど、捏造だとか言いがかりつけるのは無駄だかんね?お巡りさんにも、ちゃ〜んと見てもらったから」

 

「そ、それこそ捏造じゃないのか!?確かに、わたしゃホームページも開設してはいるが……」

 

「だが!アンタのホームページに寄せられた『喜びの声』と、別の掲示板に書き込まれた『被害者の訴え』の内容が、時間的にも違和感が無いんだよ。それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()くらいに…な」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

―――事件の捜査が難航していた時。望月が何気なく口にした「結び目」というワード。

この一言が、翔太郎たちの大きな助けとなった。

 

 

「やったよ、翔太郎!!津島狩幹夫と水面川ゆかり達を結びつけている原因は、確かに磁力だが、磁石その物ではなかった!怪現象の原因とメモリの存在を関連付けることに拘り過ぎた為に、僕たちは肝心な本質を見落としていたんだ!!」

 

興奮混じりに解説するフィリップの声を受話器越しに聞いていた翔太郎達だったが、一部の艦娘は、フィリップの普段とのあまりの違いに戸惑いを隠せずに居た。瑞鶴と摩耶に至っては、若干引いていた。

 

 

「……それで、だ。メモリの正体は分かったのか?相棒」

 

どうにかフィリップを落ち着かせ、本題に戻す翔太郎。

 

 

「ああ、すまない。久しぶりに、ちょっと興奮してしまった」

 

今でも時々、漣さえ引くほどのテンションの上げっぷりを見せてくれるんだが……と内心苦笑いしつつ、翔太郎達は改めて耳を傾けた。

 

 

『コネクション』―――『結合の記憶』を内包したガイアメモリは、磁石同士や金属同士といった無機物のみならず、有機物同士や、磁石と非磁石による接合・分離をも自在に操るという。

 

 

「これが、磁気を操るだけのメモリなら良かったんだが……結合という事は、対象物が磁石である必要は無い訳だ」

 

「と、言いますと?」

 

フィリップの指摘に対し、首を傾げる漣であったが、そこへ瑞鶴がフォローしてくれた。

 

「要するに、何かしらの物を繋ぎ合わせる部品とかを好きに出来ちゃうって事よ。例えば、ビルの鉄骨を繋ぎ合わせるボルトとか……」

 

「ふげぇえっ!?そそ、そしたらメッチャクチャやばいじゃん!!翔太郎くん、フィリップくん!!」

 

「落ち着け、亜樹子!!幸い……なんて言いたかねえが、現在のドーパントの行動は、あくまで人と人を無理矢理引っ付き合わせる事に留まってる!巣穴から引っ張り出すチャンスがあるとしたら、今のうちだな……!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……これでも、まだシラを切るつもりか?」

 

翔太郎の問いかけに、黙り込んでしまった張田。

 

 

………しかし、突然笑い出した。

 

 

「クッ…クヒヒヒ……。そんな事を確認しに、わざわざ足を運んできたのかい?」

 

「なに……」

 

「ッ!?提督!!避けてッ!!」

 

 

望月が違和感を察知、翔太郎を逃がそうと動いたが、一歩遅かった。

 

 

『コネクション!』




次回、後半に突入なるか!?

そして、この悪党を倒すことは出来るのか!!?


「これで決まりだ!!」


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47話 : mの誘い/月の満ち欠け

遂に暴かれた磁石化現象のカラクリと犯人。

しかし、悪事を暴いてシバいてハイお終い…と、すんなりいかせてくれないのが『仮面ライダーW』ですよね……やっぱり(冷汗)


『コネクション!』

 

 

隠れて行っていたガイアメモリ犯罪を暴かれたにも関わらず、《コネクションメモリ》の所持者・張田正紀は不気味な笑みを浮かべながらメモリを取り出し、スイッチを入れると己の右こめかみに突き刺した。

 

『クフヒヒヒ……!仲良く潰れちまいな!!鉄クズの山でなあッ!!』

 

糸くずの塊ともツギハギな人形とも見える、一見コミカルな容姿のドーパントと化したが、掌から放たれたエネルギー波によって、建物の骨組みである鉄骨の継ぎ目が消失、さらに鉄骨その物の長さもバラバラとなり、建物全体のバランスが崩れた。

 

「ッ!!?しま……」

「提督ッ!!!」

 

脱出しようとしたが、張田の店は崩落。翔太郎と望月を生き埋めにしてしまった。

 

『ア〜バヨ!バカなヒーロー気取りさん?キヒャーハハハハハッ!!』

 

 

張田が変身したコネクション・ドーパントは、その身を一本のヒモ状に変化させ、瓦礫の隙間を抜け出していった・・・・・・。

 

 

======================

 

 

 

突然の家屋崩壊の通報を受け、超常犯罪―――すなわちガイアメモリ犯罪関連の疑いありと見た照井は、刃野と真倉を率いて現場検証に訪れた。

 

「うへぇあ……周りの建物を一切巻き込まずに、この一軒家だけキレ〜〜にぶっ壊れてやがるとは……」

 

現場の様子を見て、慄く刃野。

 

「課長。これはやっぱり、ドーパントの仕業……ですかね?」

 

照井に意見を求める真倉であったが、照井は無言のまま答えず、周りを調べていた。

 

「……課長?」

「こりゃあ……お決まりのアレかねぇ?『俺に質問をするな』……って奴?」

 

などと、二人が雑談をし始めた、その時だった。

 

 

「!」

 

瓦礫の中から人が出てきた。

 

「ひぃええっ!?」

 

不意打ち同然だった為、年甲斐も無く悲鳴をあげる刃野と真倉の二人の前に現れたのは……

 

 

「翔太郎!?それと……お嬢ちゃんは?」

 

「けほ……んぁ…?ぇっと……あー…望月でぇ…す……」

 

 

艤装を展開し、瓦礫から翔太郎を守りながら立ち上がる望月であった。

 

しかし……いくら艤装を纏っていようと、望月は駆逐艦で、しかも着任してまだ日も浅い。

身体的にも未熟で、艤装の練度も十分でないというのに、身を挺して翔太郎を瓦礫の直撃から守ったのである。

 

「ッ……ぐ……、あ!?望月!?」

 

それでも、多少のダメージは負っていたのであろう。気を失っていた翔太郎は目を覚まし、望月の姿に目を見開いた。

 

「望月!!お前、怪我を………!?」

「ぁー……いーよいーよ別に。シッポ巻いて逃げるよりは、マシ……っしょ………」

 

翔太郎が無事である事を確認し、安心したのか。額から血を流しながら、望月は翔太郎の腕に抱かれるようにして倒れ込み、気を失った。

 

「望月!?望月!!しっかりしろッ!!!」

「いかん!!翔太郎、すぐに救急車を……」

 

「刃野刑事、真倉刑事。それは俺が済ませておく。二人は引き続き、現場の検証を」

「え?あ、ハイ……」

 

 

当然と言うべきか、艦娘の傷は通常医学で治癒することは出来ない。

《入渠》と呼ばれる、艤装の修繕行為と並行して行われる艦娘用の特殊な薬湯を用いた湯治が必要なのである。

 

そして……その入渠設備は本来、提督が管理・運営する鎮守府に置かれるのだが、【風都鎮守府】本部は鳴海探偵事務所が兼務している為、そこまでの敷地が確保出来ていない。

翔太郎を提督に推薦した山県元帥が提供してくれた、臨時用の入渠施設を借りることで、不足分を補っているのが現状だった。

 

 

「左、此処で良いんだな?」

「ああ……すまねえな、照井。助かった……」

 

「気にするな。彼女らの……艦娘についての事は、ある程度落ち着くまで秘密にしたいのだろう?」

 

 

これまでの付き合いもあるから、刃野たちが艦娘に関して妙な偏見を持ったりしないことは十分理解している。

しかし、反って必要以上に気を遣わせてしまうのでは?という気まずさから、翔太郎は漣たちの事を今だに話せずにいた。

 

「ッ……。ああ…すまない……」

 

設備の管理をしてくれている妖精たちに望月を預け、運んだ後。悔しさから翔太郎は奥歯を噛み締めた。

 

 

そして……望月が着任して間もなく、フィリップに頼んで『検索』してもらった時の事を思い返すのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「【駆逐艦】望月について知りたい?それはまた随分と勤勉だね、翔太郎」

「ほっとけ!山さんからも期待されちまってる以上は、やっぱ戦時中の軍艦について、ちょっとは知っとかなきゃだろぉがよ?」

 

 

その時の翔太郎は、尊敬する師の面影を匂わせる海軍元帥・山県の期待や漣たち艦娘の信頼を裏切らないようにと、提督として成長しようと躍起になっていた。

 

そんな中、事務艦として派遣された大淀から勧められた『建造』にて望月を迎えた。

 

彼女の()(だる)げな態度が気になった翔太郎は、その原因を突き止め、改善出来るのならしたいと思い、フィリップに検索を頼んだ次第であった。

 

 

そうして得た答えは、戦争を経験したことの無い時代に生まれ、育った翔太郎やフィリップにはあまりにも衝撃的な記憶だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それ以降、翔太郎は『提督』としての己に二つのルールを課した。

一つはこれまで以上に己の考えを押し付けたり、過信しない事。一つの考えに凝り固まれば、かつての様な『勝手な決断』へと繋がりかねないからだ。

 

もう一つは、艦娘の努力や働きを讃え、個々の意思を尊重する事。戦線に赴く彼女達の覚悟や力を蔑ろにすることは、決してあってはならないのだと。

 

 

それなのに……自分の油断が望月を…大事な仲間を傷つけた。

 

これでは探偵として半人前でも、提督としては半人前以下だ。

 

 

「……クソっ」

 

 

情けないあまり、泣きそうになった…その時だった。

 

 

「泣かないでよ提督。カッチョイー帽子と男前が台無しだよ?」

「!?」

 

今ではすっかり聞き慣れた、気怠げながらもどこか憎めない声に、翔太郎はバッと顔を上げる。

 

 

「妖精さん達がさ、なんか気を利かしてくれたっぽくて。バケツ使ってくれたみたい……って、おわっと?」

 

「望月ぃぃいっ!!」

 

まるで、ドッキリを仕掛けて驚かせてしまったことを謝るようなノリで事情を話してくれた望月に対し、嬉しさのあまり翔太郎は力強く抱きしめた。

 

「望月!!ゴメンな…さっきは、ホントにゴメンなあ……っ」

 

普段のカッコ付けた様子が微塵も感じられない、むしろ今まで以上に親しみやすい様子に、望月はちょっとだけ安心した。

 

正直なところ、望月は翔太郎に対して、どこまで踏み込んでいいのか距離感を掴めずにいた。

提督として振る舞っている時や探偵業をしている時の彼と、普段、事務所のメンバーや知人らと話している時の“普段の翔太郎”に差があり過ぎて、どちらが本来の翔太郎なのか測れなかったのだ。

 

しかし……今、こうして二人きりで面と向かって話し、触れ合えた。だから、今なら分かる。目の前にいる翔太郎こそが、“自分が頼るべき提督”なのだと。

 

 

「提督、もう泣くの止めなってぇ。誰かに見られたらみっともないよ?サスガに」

「っ!?この…人が心配してる時に、随分と余裕じゃねえかコラ!!」

 

「はぁい、はーい!説教なら“任務”終わらせた後でいくらでも聞くから。それよか今は、あの糸くずオヤジからメモリを取り上げなきゃ…でしょ?」

 

態度は相変わらず気怠げだが、その眼はむしろやる気に満ち溢れているのが見えた。

 

「……へっ。そうだった、な!」

 

帽子を被り直し、翔太郎は立ち上がった。

 

 

「そんじゃ、気を取り直して。お仕事再開だ!望月!!」

「はいよぉ、提督!」




次回、コネクション・ドーパントへの反撃にかかります!!


「これで決まりだ!!」


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48話 : mの誘い/縁切りの疾風(かぜ)

『風都艦隊』第2集、反撃編です!


望月の入渠、そして艤装の修理も完了した旨の報せがフィリップや亜樹子、漣たちの元に届いたのは、翔太郎と望月が入渠施設を出てすぐの事だった。

 

 

「そうか……張田正紀はメモリを使って自らの店を崩落させ、破棄したか」

 

「ああ。だが、いくら奴が悪質な縁結びサイトで稼いでいると言っても、表向きの顔である手相見の店をアッサリと捨てるのはあまりにも妙だ」

 

「じゃあ、そのドーパントさんは隠れ家を別に持ってるかもしれないっぽい?」

 

スタッグフォンで話すフィリップと翔太郎に対し、夕立が割り込むと翔太郎が応えた。

 

 

「その可能性は大いにあるな。コネクションのメモリが万物の『接合』を自在に操ると判明した以上、材料や土地さえ揃えば、ある程度の仮住居くらいは(こしら)えられる筈だ。問題は……」

 

「ああ。奴が現在、何処に身を潜めているか…だ」

 

二人の会話を聞きながら、摩耶と瑞鶴は不審がっていた。

 

悪質な縁結びを強要している犯罪者を取り逃がしたのに、何故この二人はこんなにも落ち着いているのか?ましてや、犯人の行方も分かっていない状況なのに。

 

そんな二人の様子を見て、亜樹子は摩耶達の肩を叩き、微笑んだ。

 

「大丈夫!ウチの探偵提督達を信じなさいっ!!」

 

ピースを決める亜樹子に対し、摩耶と瑞鶴は「この所長も案外暢気だなぁ……」と半ば呆れてしまうのだった。

 

 

======================

 

 

連邦統合海軍総司令部にて。

 

翔太郎を提督に推薦したヒィッツ中将同様、翔太郎に大きな期待を寄せている司令部幹部の一人である山県茂正元帥は、ネットニュースに上げられていた風都市内の家屋倒壊について目を通していた。

 

「提督、失礼するぞ」

「オオ、武蔵。《遠出》はどうだった?」

 

執務室へ入ってきたのは、戦艦《武蔵》。山県の艦隊の主力メンバーの一人にして、山県の提督権限により《特命大佐》の地位と一定の行動の自由権を与えられた艦娘の一人である。

ちなみに、山県の言う遠出とは、査察の是非に対する調査と管轄区域の見廻りである。

 

「今のところ、これと言って危惧すべき要素は無い…かな。大本営や本丸たる連邦政府周辺は、海特警やNPFらがしっかりと睨みを利かせているしな。そこらのチンピラ共よりも大人しいくらいだ」

「そうかそうか。まぁ、折角だ。部屋に戻る前に、一杯飲んでいけ」

「かたじけない」

 

鳳翔に茶を淹れてもらい、二人で乾杯する。

 

「……時に提督、いや…親父殿。既にご存知とは思うが、その……風都で」

「ああ、一軒家倒壊の件だろう?それについては心配無い。ちゃんと地元の探偵が探りを入れておるともさ」

 

自信に満ちた山県のその言葉に、武蔵も自然と笑みが溢れる。

 

「親父殿が目にかけている、例の“探偵提督”か」

「ガッハッハ……まだまだ青臭ぇ所はあるが、それがあの若僧の良い所でもある。俺もヒの助も、アイツはいつか、でけえ事を成し遂げる気がしてなあ。そいつが楽しみでならんのだ」

 

子供のように笑う山県に対し、やれやれと笑う武蔵であった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方、翔太郎たちを仕留めたと思い込んでいる張田は浮かれていた。

 

当然と言えば当然であった。現時点の彼には、翔太郎たちは“ただの探偵”という認識でしかないのだから。

 

ちなみに、張田が避難した隠れ家は、彼が正規の手続きを行って所有している中規模の倉庫であった。

とは言え、倉庫に隠しているのはこれまでのサイトによる収入などで得た脱法ドラッグや『旧組織』の工場跡地から発見・回収したガイアメモリである為、使い方には問題があるだろう。

 

しかし……そんな事はどうでも良い。とりあえず、自分の商売の邪魔になるヒーロー気取りは始末したのだから。

 

 

「さぁて……早速、次の相談をチェックしなくちゃな」

 

ノートパソコンを取り出し、サイトのチェックをしようとした……その時。

 

 

「ッ!?」

 

張田の前に、クワガタムシやコウモリ、クモの形をした小型メカが飛来。パソコンに触れさせまいと攻撃を仕掛けてきた。

 

「なっ!なんだ、こりゃあ!?」

 

懸命に振り払おうとするが、小型メカ達は巧みに動き回り、これを回避。

 

 

やがて、倉庫の入口へと飛び移っていき。そこには三人の人影が。

 

 

「ッ!!?なっ……そ、そんな馬鹿なッ!!」

 

その姿を見て驚きを隠せない張田に、影の主の一人……翔太郎は、帽子で軽く目元を伏せながら睨みつける。

 

 

「どうやら……他人(ひと)の縁は好き勝手に出来ても、自分の縁だけは思い通りに出来ねえみたいだな」

 

「ク……クソがぁアッ!!」

 

半ばヤケクソといった具合に、コネクション・ドーパントと化した張田を見据えながら、翔太郎はダブルドライバーを装着し、フィリップと共にメモリを取り出す。

 

《ジョーカー!》

 

《サイクロン!》

 

「行くぜ?フィリップ!望月!」

「ああ、翔太郎」

 

「あーい!」

 

「変身!」/「変身!」

 

《サイクロン/ジョーカー!!》

 

 

フィリップの身体が昏倒し、翔太郎は仮面ライダーWへと変身。

 

望月はフィリップの身体を抱え、安全な所へ避難させる。

 

 

『望月は大丈夫そうだが、君の方はどうなんだい?翔太郎』

 

飛びかかってきたコネクション・ドーパントの攻撃を躱しながら、フィリップが尋ねる。

 

「ああ。アイツに助けられたお陰でな……だが」

 

しなる様に襲いかかるコネクション・ドーパントの腕の攻撃を受け止め、Wは力強い左ストレートを顔面に叩き込んだ。

 

「コイツをブッ飛ばさねえと、いくら詫びても詫びきれねえ……!!」

 

そして、戻ってきた望月がコネクション・ドーパントの不審な動きを目撃。

 

「提督!ちょっとゴメン!」

 

機銃を発砲し、牽制。Wの援護に成功した。

 

「…また助けられちまったな」

「止してよ、お礼言われる程の事じゃ無いんだから」

 

『ク……!!どいつもコイツも、俺の邪魔をォ……!』

 

「悪いな。テメェの行いが街を泣かせている以上、止めるのが俺達の役目だからな」

「……つー訳で。アンタにはぶっ倒れてもらうよ」

 

苛立ちを剥き出しにするコネクション・ドーパントの攻撃を避けつつ、Wは青いガイアメモリ『トリガー』を取り出し、ジョーカーメモリと交換した。

 

 

《サイクロン/トリガー!!》

 

望月の砲撃に合わせて、敵に反撃の隙を与えぬよう専用武器・トリガーマグナムによる銃撃を繰り出す。

 

 

「ヘェ?結構良いウデ持ってんじゃん、提督」

「お前らほどじゃねえさ」

 

 

やがて、次第に追い詰められたコネクション・ドーパントは、今度こそWたちを始末しようとまたも能力を使おうとした。

 

 

『決めるよ?翔太郎!』

「ああ!望月、遅れんなよ?」

 

「りょーかい!」

 

《トリガー・マキシマムドライブ!!》

 

内蔵されたスロットにトリガーメモリをセット、マグナムを高火力のマキシマムモードへと変形させる。

 

連装砲を構えた望月と共に照準を合わせ、言い放った。

 

 

「『さあ、お前の罪を数えろ!!」』

 

「これで決まりだ…!!」

 

 

「『トリガーストームボム!!」』

 

トリガーマグナムから、竜巻の如く強力な風のエネルギー弾が放たれ。望月の放った砲弾を取り込んだ事で、その破壊力は増大。

 

倉庫の壁ごとコネクション・ドーパントを吹き飛ばし、完全撃破。

土煙が晴れると、そこにはズタボロになって倒れた張田と、粉々になったコネクションメモリだけが残されていた。




次回、一部のタネ明かしと後日談であります。


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49話 : mの誘い/望みを照らす月

改めて思いますのは、ガイアメモリのアイデアとロゴのデザイン、さらにドーパントの姿の秀逸さですよね。

やっぱり特撮世界もアートだなぁ……という訳で、第2集フィナーレです。


―――コネクション・ドーパントによる悪質な縁結び事件は、犯人である張田が逮捕されたことにより、無事に解決した。

 

奴の身勝手な欲望を満たす為だけに存在したサイトも削除され、街の風通しはまた良くなるだろう。

 

 

とは言え……奴の犯行に巻き込まれた被害者達の心身の傷は、簡単に癒せるものではない。

時間を掛けて、少しずつケアしていくしかないと分かってはいるが、その為に何も出来ないという事が悔しくてたまらない……

 

 

「提督さーん!」

「って、おわぁっと!?いきなり飛び付いてくんなよ、夕立!」

 

報告書を書き終え、窓の外を眺めながらコーヒーを飲もうとした翔太郎に、夕立が背後から抱きつく。

 

「え〜〜」

「…とか言って〜。ご主人様も案外満更でも無さそうじゃないですか〜?」

 

単に甘えたいだけなのに、注意されて不満げな夕立と、そんな二人のやり取りを面白そうに笑う漣に挟まれ、翔太郎は困惑の表情を見せる。

 

 

「漣ちゃん、夕立ちゃん。あまり翔太郎をからかわないでやってくれ。彼は、これまで女性に泣かされた経験しか無くてね。そういう純粋な好意を向けられることに免疫が無いんだ」

 

「おいコラ、フィリップぅっ!!?」

 

助け舟が来たかと思いきや。フィリップから贈られたのは、ある意味無慈悲な一撃だった。

 

 

「もぉ〜……提督さんってば、まぁた仕事ほったらかしてるし」

 

その光景に対し、亜樹子や瑞鶴らが呆れた様子で見ていた。

 

「なあ所長。やっぱりアイツ、提督向いてないんじゃ……ん?」

 

摩耶が亜樹子に聞こうとした、その時。津島狩幹夫と水面川ゆかりが訪ねてきた。

 

「ごめんください」

「おっと……。津島狩さんに水面川さんじゃないか、どうしたんだ?」

 

「えっと……今日は近況報告を兼ねて、お礼の挨拶に……」

 

======================

 

 

事件が終わってすぐ、津島狩さんは婚約者であった女性・松本智絵里の元へ、事件解決の報告に向かった。

ゆかりさんも改めて謝罪をするべく同行したのだが、しかし……当の彼女は、彼が水面川さんと浮気をしたと決めつけ、一方的に婚約を破棄。それだけでなく、事件が解決する前の日に張田のサイトを利用し、新たに男を作っていたことが判明。

 

 

「先に浮気をしたのは、そっちじゃない!!」と、彼の話をマトモに聞こうともしなかった事を棚に上げて、津島狩さんを一方的に責めたのだが、その時。

 

水面川さんが松本に対し、平手打ちをしたのだという。

 

 

「お言葉ですが……初めてお会いした時から、私には貴女が本当に幹夫さんを愛していらっしゃるという気持ちが全く感じられません!貴女が幹夫さんと結婚しようと思ったのは、彼に対する想いなどではなく、お金欲しさからだったのではありませんか!?」

 

水面川さんの指摘した通り、松本が選んだ新しい男も、中小企業ながらそれなりに稼いでいる社員であり、預金もそれなりに持っている裕福な男だった。

 

 

ちなみに、フィリップの検索によれば、松本は酷い浪費癖があり、学生時代からあちこちで金を巻き上げては湯水のごとく使っていたとの事。

 

そんな訳で、全てを暴かれた松本は新しい男からも家族からも捨てられ、残ったのは多額の借金のみとなった。

 

その金額も相当なものらしく、生きてる内に返せるかどうかすら怪しい……との事だ。

 

 

「うへぇあ……。自業自得とは言え、一生返済生活だなんて、恐ろしいですなあ……」

 

話を聞き終え、感想を述べる漣。

 

「しかし……水面川さんの洞察力も相当なもんだな?」

「ホント。探偵やってる時の提督さんみたいっぽい!」

 

翔太郎と夕立が褒めると、水面川は照れ臭そうに笑いながら答えた。

 

 

「小さい頃、祖父からよく言われたんです。『人を上っ面だけで判断するな。内面や見えないところをよく見て、それから見極めろ』って」

 

「ほぉ……」

 

一同が感心していると、「……あれ?」と津島狩が反応した。

 

「どしたの?」

 

望月が尋ねた。

 

「いや……ウチの社長も、同じことをよく言ってたなあと思って……」

「同じも何も……あっ、しまった……」

 

今度は、それを聞いた水面川が反応したが、途中口籠ってしまう。

 

 

「え?えっ…ちょ、ちょっとどーゆーこと??」

 

状況が飲み込めず、混乱する亜樹子。

 

 

「……水面川さん。貴女のお祖父さんの名前は?」

 

何かを察したのか、翔太郎が質問する。

 

 

「……千葉(ちば) 基晴(もとはる)。《風都モータース》の社長です…」

 

「えええぇえ〜〜〜ッ!!?」

 

 

ここに来て、まさかの新事実。亜樹子と艦娘一同が驚きの声をあげた。

 

「み…水面川さんが、社長のお孫さん……!?」

 

驚きを隠せない津島狩に、水面川は「ごめんなさい!」と頭を下げる。

 

「私……小さい頃から、『社長の孫』っていう肩書きでチヤホヤされたり距離を取られたりしてて……それが嫌で、風都から離れていたんですけど……でも、お祖父ちゃんの事まで嫌いになるのは嫌だった!だから、その気持ちだけでも伝えようと思って、この街に帰ってきたんです…そしたら……」

 

「今回の、超常犯罪に巻き込まれたんですね?」

 

「はい……。幹夫さんは初対面だった私にも良くしてくれて、本当に嬉しかったんです……でも、その時はまだ彼には結婚相手が居ましたし、それに…私の事を知ったら、もう親しく接してくれなくなると思ったら……急に怖くなって……っ!!」

 

 

震えながら泣き出したゆかりであったが、そんな彼女の頭を望月が優しく撫でた。

 

「………え…?」

「望月……?」

 

 

「ゆかりさん。アンタ…強いね。引っ付いたまんまなのも怖い筈なのに、自分の事よりも相手の事を思い遣ったり、誰かの為に怒ったりなんて……普通、出来るもんじゃないよ?津島狩さんもそうだよ……とばっちり食らってさ?八つ当たりの一つもしたくなるような状態なのに、そんな気持ちを抑えられる強さは、今時の提督にもあるかどうか知んないよ。こんな言い方は変だと思うけどさ……二人ほどお似合いなカップル、あたしは無いと思うよ?」

 

 

「望月……」

「もっちー……」

 

それは、曇りの無い満月のように、偽りの無い望月の本心から出た言葉だった。

 

 

誰かを思うが故に思いを伏せ、時には己を偽る。

 

風都が最初の鎮守府である為、望月は漣や夕立の様な過酷な過去を経験してはいない。

 

しかし……最も身近な存在として、思いを伏せ、偽る素振りを見せることもある男が居るので、その辛さは少しだけ分かる。

 

だから、津島狩と水面川の二人はどちらも強い心を持っていると理解した望月は、二人に言葉をかけた。

 

 

「お疲れ」と―――。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

鳴海探偵事務所に津島狩と水面川、二人の婚約が改めて決まったことの報告と、提督としての翔太郎を『少佐』に昇格する辞令が届いたのは、それから数日後の事である。




久しく書き込みましたぁ……(ヽ´ω`)

もっちー、かなりキャラ変わり過ぎたかもですが、どうか『風都の望月』ってことでご容赦を……

『風都艦隊』第2集、完結でござい。


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電王編 第1章
50話 : 時を刻む少女


えー、『着任先』並びに『出撃』を応援して下さっている読者の皆様。まずは謝罪をさせて下さい。


やっちまいました。


とある鎮守府にて……『それ』は起こった。

 

 

「ぐっ……うげ……ぁ……!?」

 

「へっ!軍人だっつーから、ちったあ楽しませてくれると思ったんだがなァ?とんだ拍子抜けだぜ」

 

 

鎮守府を私物化し、支配するブラック提督やそれに加担する憲兵達を、そこに所属する一人の「駆逐艦」が叩きのめしたのだ。

 

 

ところが……事件を目撃した艦娘の証言によると、その時の駆逐艦は、一般的に知られているどの艦娘にも当てはまらない「異様な気配」を放っていたという………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

事の始まりは、少々遡る。

 

件の鎮守府についてだが、其処は艦娘に対する扱いの酷さは勿論、資材の消費や提督による運営資金の私物化などといった数々の問題を抱える、典型的なブラック鎮守府として知られていた。

 

そこに在籍する一人の艦娘が、思い切って抗議しようとしたのだが、指揮官たる提督は聞く耳を持たなかった。そればかりか「口答えするな!!」と逆上、『見せしめ』として多くの艦娘達の前で暴行を加え、その身を汚した。

 

それ以降、この鎮守府に巣食う醜い人間達に逆らう艦娘は居なくなってしまった。

 

 

 

白露型駆逐艦《時雨》は、そんなブラック鎮守府の中で過酷な重労働を強いられながらも、人間に対する憎しみや絶望に負けぬよう、日々を懸命に生きていた。

 

 

「過去がどんなに悪くても、辛くても、今をほんの少しだけ頑張れば、未来はいくらでも変えられる」

 

かつて、この鎮守府に在籍していた扶桑の言葉が、時雨の支えとなっていた。

 

 

しかし……その扶桑は、提督の無茶な進軍が元で轟沈した。

 

それでも……提督一派を排除する為のクーデターに加わろうとしない時雨に対し、山城や満潮たちは憤慨。「弱虫」「臆病者」と罵る者も居た。

 

 

確かに、時雨は怖れていた。しかし……それは決して、提督達に対してではない。

提督達に敵対することで、また誰かを喪うかもしれない……その結果、独りになってしまうことが怖くてたまらなかったのだ。

 

 

だから……

 

「扶桑。貴女は怒るだろうけど……ちょっとだけ早く、そっちに行くよ」

 

 

そうならない様に、そうさせない為に動くとしよう。

 

この身一つで、艦隊のみんなを守れるのなら安いものだ。

 

 

「……よし」

 

艤装を整え、時雨は今日の遠征任務へ向かった。

 

 

 

上空に浮かぶ、謎の発光体に気付かぬまま。

 

 

 

―――時雨が遠征に向かう、少し前。

 

果てしなく広がる、銀色に輝く砂漠を一台の列車が走っていた。

 

その列車が、後に何をもたらすのか。

 

この時はまだ、誰も知らずにいた………。




序章っぽく仕上げてはみましたが、やっぱり無茶だったですかね(汗)


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51話 : 俺達、参上!!

あらゆるライダーと艦これ世界をクロスさせてきた作者でありますが、今回ほどやりたい放題してしまったのは愚かだという自覚はそれなりにあります。

だが私は謝らない。


西暦2007年……この時代を起点に、人々は「時間」を狙われるという、かつて無い災難に見舞われた。

 

 

時間とは『記憶』……すなわち『過去』から『未来』へ続く全ての事であり、時間を手に入れようとするその災厄は、『現在(いま)』との繋がりを持たない『存在しない未来』に存在する思念体……『イマジン』と呼ばれた。

 

イマジンは『過去』を持たぬが故に記憶も実体も持たず、取り憑いた人間の記憶を利用して実体を得る。

 

その実体を得る為に、イマジンは取り憑いた人間と“ある事”を行う必要があった………。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「しっかしよぉ…早えもんだな。あれからもう10年だぜ?」

「先輩。正確には11年だよ、11年」

「何にせよ、モモの字が言うとるのは月日が経つのは早いなっつーことやろ?」

「ね〜、まだ着かないの〜?」

 

 

都内を走る特急電車。その一車両に、異様な風貌の四人組が一般の乗客に混じって乗車していた。

 

その異様さは凄まじく、一人は赤鬼の様な姿で、一人は亀甲模様のある体で青い亀のような顔をしている。

さらに、残る二人はそれぞれ、一角単眼に黒と金の体をした大男と、ロングコートを纏った紫の竜という、いずれもマトモじゃない取り合わせであった。

 

 

「おかあさん、アレ…」

「見ちゃダメっ!」

 

…などと言うやり取りが展開されても、見るなという方が無理な光景であった。

 

 

彼らは人であって人ではない。

この四人組もイマジンと呼ばれる、未来から来た存在である。

 

しかし……彼らはイマジンでありながら、一人の少年と共に、他のイマジンや数々の脅威から人々や時間を守るために戦った。

 

 

そして、現在は『一つの未来』として繋がったこの世界に居場所を見つけ、それぞれが気ままに暮らしていた。

 

 

そんな彼らだったが、ある時、突然呼び出しを受け、突然に指令が下った。

 

 

 

「『シンジュクにカントクとして着任しろ』……なんて、オーナーのおっさんもムチャ言うよな」

「先輩、それを言うなら『鎮守府』ね。あと監督じゃなくて『提督』だよ?聞き間違いも程々にしてよね」

 

赤鬼のイマジン・モモタロスが愚痴ると、青い亀のイマジン・ウラタロスが指摘する。

 

「やーい!モモタロスのバ〜カ」

「んだと!?ハナタレ小僧!!」

 

竜のイマジン・リュウタロスにからかわれ、ムキになるモモタロス。

 

「リュウタ。先輩が馬鹿なのは認めるけど、流石に気の毒だよ?」

「んだと!?スケベ亀ッ!!」

 

「コォラ!!こないな道のド真ん中で騒いで、みっともないやろ!」

 

金色のイマジン・キンタロスが注意する通り、道行く人々が奇異の目を向けていた。

 

 

「クッソ〜……クマ公の癖に、偉そうにしやがって」

「まぁ、キンちゃんの言うことにも一理ある…かな?確かに、こんな所で揉めててもしょうがないし」

「はーい…」

 

「……ん?」

 

と、ここでモモタロスが妙なものを感じ取る。

 

「先輩?」

「どしたの?」

 

「臭う……こりゃあ、イマジンの匂いだ…!」

 

 

この時、彼らが目指す鎮守府から《艦娘》時雨が遠征に向かい。その後を、謎の発光体が追いかけていったのである。




ハイ。やらかしました。

ここまで暴走するとは思いもしませんでした。


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52話 : ささやく悪の誘惑

もうすぐ2020年も終わり、幼き頃は夢物語同然だった2021という数字も今や目の前……

年明けてもその後を超えても、みんなでこの状況を変えていきたい。そんな訳で、電王編の続きでございます。


「よし……そろそろ戻らないと」

 

必要な資材を確保し、時雨たち遠征部隊は鎮守府への帰投を開始した。

 

 

「……ん?」

 

海域へ出ようとした、その時。時雨は道端に落ちている何かを見つけた。

 

「…何かな?コレ……」

 

“それ”は、懐中時計を模したマークをプリントしたパスケースの様だった。

 

 

「時雨ちゃーん!行くよー!」

「あ、うん。今行くー!」

 

 

鎮守府に戻ったら、誰かに見つからぬうちに交番に届けよう。

特に注意すべきは提督だ。珍し物好きな彼の事だ、持ち主は探したが見つからなかった…などと嘘を吐いて、自分の私物にしてしまいかねない。

 

 

制服のスカートのポケットにパスケースを仕舞うと、時雨は皆の後を追った。

 

同じく、謎の発光体も時雨の後を追いかけるのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ね〜、カメちゃん。ボク達、いつまでこのカッコしなきゃいけないのお?」

「しょうがないでしょ、キンちゃんがお店とかを壊しちゃったんだから」

 

 

そう…それはモモタロスがイマジンの「匂い」を感じ取り、皆で追跡を開始した時のこと。

 

街が入り組んだ地形をしていた為、固まって探すには効率が悪いとウラタロスが判断。モモタロスに提案し、手分けして探すことになったのだが、モモタロス達のその個性的過ぎる見た目が災いして、不要な大騒ぎを起こしてしまったのだ。

 

結果、それを聞きつけた憲兵隊と争う羽目になり、「かくなる上は、小細工無しの正面突破や!!」と、謎の持論を展開したキンタロスの怪力によって事態は悪化。

商店街の一部の露店や屋台が破壊され、憲兵も数人を病院送りにしてしまった。

 

 

普通なら、ここまで騒ぎを大きくしたのなら警察やらに連行されておかしくない筈なのだが、モモタロス達が現在行っているのは、商店街の復旧作業と着ぐるみを纏っての呼び込みの手伝いである。

 

「まさか、またゲンさんに助けてもらえるなんてよぉ!」

「ガッハッハ!モモちゃん、前にも言ったろ?困った時はお互い様だって!!」

 

 

そうならずに済んだ訳は、商店街の代表を務める人物が、かつてモモタロスが諸事情からホームレス生活をする羽目になった際、年長者として面倒を見てくれた元ホームレスのゲンさんだったことが一つと、この地域の憲兵達はブラック提督の配下同然の輩であり、散々好き放題に暴れていた事から商店街を始めとする近隣住民に嫌われていた為だ。

 

 

「しっかし、モモの字の人付き合いも馬鹿に出来んなあ……」

 

ゾウの着ぐるみを纏ったまま、キンタロスが感心していると、金物屋の店主が深い溜め息を吐いた。

 

「ん?おっちゃん、どないした?」

「キンさん。いやね……あそこのお偉いさんも、キンさんやモモちゃん達みたいに気持ちの良い人だったらなあ…と思ってね」

 

「そーいや、ゲンさんも言ってたな?さっきの連中は憲兵じゃねえだの何だのって…」

 

「……そうだな。モモちゃんとそのダチなら、この生き地獄をなんとか出来るかもしんねえな」

 

ゲンさんの営む雑貨屋に招かれ、モモタロス達はこの街と鎮守府を中心に起こっている事情を聞くこととなった。

 

 

 

一方、モモタロス達に叩きのめされた憲兵の一人は駐屯地へ戻っている途中で、“それ”と遭遇した。

 

 

「ッ!?」

 

背後から何かに入り込まれた様な感覚に襲われ、同時に砂を被った状態になる。

 

 

「な、なんだ……ヒッ!?」

 

その砂は意思を持ったかの様に蠢き、上半身と下半身の配置が上下反対になった“何か”を形作った。

 

 

『お前の望みを言いな。どんな望みでも叶えてやるよぉ?大丈夫!お前が払う代償は、たった一つだけだからぁ……』




またも無理矢理な結び付け、ゴメンナサイ。

次回、どんどこ艦これが電王化していきます(;´∀`)


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53話 : 未来(みち)との遭遇

2020年も残すところ約1週間。

年末も年始も関係無く、暴れる奴らは暴れるワケで。


(おう)(まが)(どき)鎮守府―――

 

それが、時雨の在籍する鎮守府の名であり。彼女にとって、様々な想い出の詰まった居場所だった。

 

「お帰りなさい、みんなお疲れ様」

 

この日の当番秘書艦である陸奥が、提督の代わりに皆を出迎えてくれた。

すると、時雨と共に遠征に出ていた長良や陽炎が辺りをキョロキョロと見回し始める。

 

「?」

「陸奥さん。あの男……いや…司令官は今、留守?」

 

陽炎に尋ねられ、陸奥は苦笑いしながら答えた。

 

「ついさっき《お仕事》に行ったところよ。毎度ながら、勤勉なものね……まったく」

 

 

陸奥が口にした《お仕事》とは、この鎮守府内においては提督業務を指すものではない。早い話が、政府官僚との会食や風俗店への豪遊を意味する隠語である。

 

「その励みを、ちょっとぐらいこっちの業務にも充てて欲しいよね……」と愚痴る長良。

 

「さぁさぁ。提督が帰ってくるまでに補給を済ませて来なさいな?今日は間宮さんや鳳翔さんが奮発してくれたそうだから、お言葉に甘えましょ」

「はーい!」

 

艤装を片付け、皆を追って食堂へ向かおうとした時雨であったが……その時。

 

「っ!」

 

背後から“何か”が入り込んだような、不可思議な感覚に襲われた。

 

さらに、何処から降ったのか分からない、白い砂を被った状態になってしまった。

 

(砂……?なんでこんな物が………っ!?)

 

 

戸惑う暇も無く、溢れた砂は時雨の前に移動し。何かの形を作り出した。

 

それは、地面から上半身が現れ、下半身がその頭上に浮かんでいるという、見方によっては砂時計の影絵のような形をしていた。

 

 

『突然のお声掛け、誠に申し訳無い。しかし、これも我に命ぜられし振る舞い……平にご容赦を』

 

「な…何?君は、誰なんだい?」

 

 

未知の気配を放つ“それ”に対し、恐怖していることを悟られぬよう平静を装いながら時雨が尋ねると、現れた砂の影は(うやうや)しくお辞儀しながら答えた。

 

(おそ)れながら……貴女の望みを窺い、それを叶えるべく参上致しました』

 

「僕の……望み?」

(シカ)り。如何なる些細な事でも構いませぬ。望みを聞き届け、その思いに応える事こそが、我が喜び……』

 

 

すると、廊下の奥から時雨を呼ぶ声が。

 

「時雨ー!みんなご飯食べちゃうよー!」

「あ、ごめーん!今行くよ!―――ごめん、その話はまた後でね?」

 

『…え?あ…後でって?ちょっ、そんなのアリですか!?ま…待ってぇ〜〜!!』

 

謎の影は、時雨に無視されてしまったと思い、慌てて追いかけたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方。汪曲刻鎮守府の提督は、会食を済ませ、鎮守府へ帰っている最中であった。そこへ、提督のスマホに着信が入る。

 

「私だ……なに?商店街で妙な連中に叩きのめされただぁ?茶番をするならもっと面白いネタを考えてからにしろ!!」

 

連絡をしてきたのは、提督が取り巻きに使っている憲兵で、要件は商店街に現れた集団……モモタロス達にボコボコにされたので、艦娘を貸してくれという要求だった。

 

「バカバカしい!何のために金を払って使ってやってるのか、まるで分かっとらん……役立たず共め!!」

 

 

 

「ふぅ……。良いよ?出てきても。今なら誰も見てないから」

 

食事を終え、寮部屋に戻った時雨。ルームメイトでもある姉妹艦の白露が風呂に入っている間を見計らい、改めて先程の謎の影と話をしてみる事にした。

 

 

『うぅ…かたじけない……』

 

聞こえてくる声や、影の雰囲気からして男性なのだろう。申し訳無さそうに姿を現した。

 

「僕は構わないさ。ただ…この部屋にはもう一人住んでいるからね。万が一見つかったときには、君のことをちゃんと話させてもらうよ?」

『……承知いたした…で、ござる』

 

 

「じゃあ……まず、最初の質問。君は何者だい?深海棲艦じゃないのは、間違い無いよね」

『……シカり。ソレガシめは、《イマジン》と呼ばれる存在にござる』

 

「イマジン……」

『シカり。信じてもらえぬ事とは存じますが……ソレガシめは、この時よりも遥か彼方の時……未来より参りました』

 

「え……」




一部、マンガチックな展開になってしまいました。

果たして、時雨に取り憑いたイマジンは何者なのか?

そして、このブラック提督が立ちはだかる時、艦娘たちはどうなるのか!?


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54話 : 願い、聞き届けたり!

僕は時雨、世間一般の言葉を借りるならブラック鎮守府と呼ばれる汪曲刻鎮守府に所属する駆逐艦娘だ。

遠征任務から戻る途中、不思議なパスケースを拾ったのだけど、それから鎮守府に戻ってすぐの事。
今度は、自分を未来から来たと言う謎の影《イマジン》と遭遇。彼(口調と声音から察するに、恐らく男性だろうと思われる)が言うには、僕に接触してきたのは僕の『望み』を聞き、契約を交わす事らしいが、果たして………。


時雨がイマジンと改めて話をして、モモタロス達がゲンさんから鎮守府周辺の街で起きている問題を聞いていた同じ頃の事。

 

 

「っ!」

 

鎮守府敷地内に、黒塗りの高級車……ロールス・ロイス・ファントムⅦが進入。本部玄関前に停車すると、後部座席から軍服姿に似つかわしくない雰囲気を漂わせた男が姿を現した。

 

執務室の窓から様子を眺めていた陸奥は、苦々しい顔で呟いた。

 

「相変わらず、金使いの荒い男……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

汪曲刻鎮守府提督・片倉中佐。

 

 

元は大本営政府直属の中堅将校であるのだが、軍営資金の不正受給やそれを利用しての支援を受けている各企業団体への賄賂。さらに艦娘を『密売』するなど、外道極まり無い悪業が次々と露呈。真っ当な人間であれば、軍法会議に架けられ、有無を言わさず軍籍剥奪、厳正な処罰が下されるべきと思うだろう。

 

 

それが、「少将」から「中佐」への二階級降格と左遷のみという、素人目にも「軽過ぎる」罰で済まされた主な理由として、片倉が備えていた『保険』が挙げられる。

 

早い話、連邦政府や各組織の幹部の中に、片倉から賄賂を受け取り、同時に弱みを握られている連中が数多く居たのだ。

 

 

この男、欲に溺れているだけの無能かと思いきや、自身がより多くの利益を得るために必要な最善手は何かを見出す悪知恵だけはあったらしく。連中が『最も困るもの』を奪い、時には脅しの材料として利用し、資金を得るだけでなく、自身が逃れる為の囮に使うなど、文字通りやりたい放題をしていたのである。

 

そして、そんな事にも気付かず、片倉のバラ撒く金という名の餌に食いつき、まんまと私兵に成り下がっているのが、当鎮守府でイナゴかアリの群れのように集っている現在の憲兵達なのだ。

 

 

 

「おい、戻ったぞ」

「お帰りなさい……『ご主人様』」

 

不躾な呼びかけに対し、不快感を抱きつつも堪えながら応じる陸奥。

 

「まったく……酒か茶の準備すらしてないとか、ホンット鈍臭えな?ええ、ムッチリさんよぉ!」

 

ドッカリと執務机の椅子に座ると、わざとらしい言い間違いをしながら、左側に立つ陸奥の尻を叩く。

 

「きゃっ!」

 

「……ったく、資材も全然足りてねえし。こりゃあ遠征部隊24時待った無しだな…つか確定だわ、カクテー」

 

 

「………ッ」

 

まただ……

 

また駆逐艦を始めとした、多くの艦娘を道具のように扱う……

 

「今日は……お、昼間の分、時雨が出てたのか。ラッキー、編成を組む手間が省けたわ」

 

 

艦娘の自主性を尊重する……その一言だけを理由に、片倉は鎮守府内のあらゆる業務を丸投げしていた。

しかし……「自主性を尊重する」と言っておきながら、一度編成した艦隊はどんなに疲労困憊していようと、ボロボロになっていようと入渠や補給は勿論、一時の休息さえ許さなかった。

「一度組んだ艦隊は、出撃したら“最期”まで責務を果たせ。途中で撤退したり、貴重な資材を使うことは許さない」―――

 

艦娘に対する片倉の考えは、他のブラック提督と大して変わらない。『道具』としか見ていなかったのである。

 

 

 

 

『そんな……なんと非道な……っ』

 

一方、時雨から鎮守府内の現状を聞かされたイマジンは、顔を片手で覆いながら嗚咽をあげた。

その様子を見て、この影は悪い人(?)ではないと時雨は確信。

 

話を聞いてもらった以上、こちらも求めに応じなくては筋が通らない。

 

 

「……あのさ。『望みは無いか』って言ってたよね」

『?……シ、シカり』

「一つ……大したことじゃ無いんだけど……」

 

 

 

「時雨ー。お風呂空いたよー?ちゃっちゃと入って……」

 

 

「……え??」

 

 

風呂から上がった白露が目にしたモノ。

 

それは、一言で表現するならば鹿(シカ)だった。

 

だが、鹿と思しきソレは鎧武者のような形をしており。

人相は鹿の頭部を模した兜を被ったドクロの様で、後頭部にはブドウの様な飾りが一房備わっている。

 

肩掛けも左右それぞれがブドウの葉に似た形状で、背中には戦国武将の様に旗を挿して、礼儀正しく正座をしていた。

 

 

「えっと………え??」

 

目の前で何が起こっているのか、戸惑いを隠せない白露を他所に、時雨と出会い、彼女の望みを聞いたイマジンは『契約』を交わし、実体を得た。

 

 

その望みとは

 

 

「僕は今日、死ぬと思う。だから……僕が居なくなった後、僕の代わりにみんなを守ってくれるかな」―――

 

 

自分の為ではなく、自分が守りたい、大切なみんなの為に……

怖くない訳が無いのに、大切なものを守るために自分を犠牲にしようとする時雨の心に、イマジンは深い感銘を受けると同時に、時雨の望みを「破る」と密かに誓った。

 

何故なら、自分が守らねばならない「みんな」の中には

 

 

「“我が主”の願い、聞き届けたり……!!」

 

 

「仕えるべき主」が居るのだから。




ハイ、どうにかギリギリ山場一つ目を書き上げることが出来ました(ヽ´ω`)

構想はボンヤリとあるのに、何度もあーでもないこーでもないと練り直しを繰り返し、やっと年越しの前に出せましたぁ………


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55話 : 時を紡ぐ雨を阻むモノ・前編

明けましておめでとうございます!

現在、You Tubeにて無料配信中のクウガも遂に終盤へ差し掛かりました!!

直撃世代として共に思いを深めた方々や、初見のみなさんと感動を共有出来ることを心から嬉しく思います(´∀`*)


そんなこんなで、年明け早々のハプニングです。


時雨と向かい合い、座っている鹿の怪物を目にした白露は、驚きのあまり言葉を失っていた。

 

 

「あ……白露。えっと、彼はね……」

 

事情を説明しようとした、その時。

 

鹿のイマジンはすっくと立ち上がり、部屋を出ていこうとした。

 

 

「え?あっちょ!何処に行くの!?」

「ま、待って!?」

 

二人が呼び止めると、イマジンはハッキリと答えた。

 

 

「決まっている。主とその姉妹、さらに同胞らを辱め、苦しめ、私腹を肥やしている不届き者めらを成敗するのでござる!」

 

「えぇ!?」

「そ、そんな突然過ぎるよ!?それに、僕が君に頼んだのは……!」

 

慌てて時雨が訂正しようとするが、鹿のイマジンは静かに首を横に振る。

 

「我が主。貴女が命を散らすようなことがあれば、それは某の破滅に繋がります。何より……万が一でもその様な事が起これば、貴女を想う姉上や妹君らが悲しみます」

「でも……っ」

 

「仮に某がくたばろうと、主が生きてくれさえすれば、幸運は必ず巡って参ります。貴女の手にしたそれが、きっと力になってくれる筈」

「………」

 

「では、これにて……」

 

一礼し、イマジンは部屋を後にしたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「!!」

 

夕飯をご馳走になり、その後もらったバイト代で銭湯に行っていたモモタロスたちであったが、その帰り。モモタロスはイマジンの匂いに感付いた。

 

「?」

「どうしたの、先輩?」

 

「イマジンだ!昼間の奴とは違う、別の匂い……近えぞ!!」

 

そう言うと、タオルやらを入れた桶をウラタロスに預け、モモタロスは走り出した。

 

「えっ!?ちょっと、先輩!」

「亀!お前らは先に戻ってろ!!ゲンさんにはすぐ戻るって言っとけ!!」

 

「モモタロスずる〜い!!ボクも行くー!」

「リュウタ!お前は迷子になるからアカン!」

「わああ!クマちゃん離してよお!!」

 

「ん〜……しょうがないなあ」

 

 

正直なところ、この時のモモタロスの行動についてウラタロスは素直に賛同出来なかった。

 

モモタロスの持つ、イマジンを感知できる嗅覚は重宝すべき能力であり、その嗅ぎ分けに間違いがほとんど無いことは確かだ。しかし……

 

(『牙王』の時みたいに、嗅ぎ分けと追跡を逆手に取られるようなことになったら……マズいよね、かなり)

 

 

断片的な情報しか得られていないが、艦娘と呼ばれる女性達が戦っている深海棲艦という存在の中には、艦娘に酷似した姿と高い知性・戦闘能力を持った個体も少なからずいるとの事。

 

もし、それらが自分達の事をすでに把握していて、陽動する為の罠を仕掛けているのだとしたら?

 

そうだとすれば、深海棲艦がはぐれイマジンと結託している…なんて嫌な可能性まで出てくる。

 

ならば、此処は慎重になるべきでは……と思っていたのだが。

 

 

「……ま。脳ミソ干物な先輩に、そこまで悩むアタマは無い……か」

 

 

 

一方、鎮守府近辺。

 

「ぐ……ぁ…」

「も……もぉ、止めでぐれえ……っ」

 

 

昼間、モモタロス達に叩きのめされた憲兵たちが、他の整備士などに混じって、謎の巨影に痛めつけられていた。

 

 

「悪く思うな。これも『望み』を叶えるためだ」




新年早々、不完全燃焼でゴメンナサイ。

ダラダラと長ったらしくなりそうだったもので、一区切りさせていただきますm(_ _;)m


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56話 : 時を紡ぐ雨を阻むモノ・中編

艦娘とイマジンの出会い、どんどん参りますドンドン。


鹿のイマジンを追いかけ、寮を飛び出した時雨と白露。

 

 

直後……鎮守府内で悲鳴が聞こえた為、「ああ、これはやらかしたかな……」と思ったのだが

 

その悲鳴は、時雨たちが追っている方角とは全く関係の無さそうな方面からも聞こえてくるのだった………

 

 

「………??」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ひゃああぁぁっ!!」

「うぉああばばばばばっ!!?」

 

イマジンの匂いを辿って、モモタロスは汪曲刻鎮守府の敷地内へと入り込んだ。

 

 

入り込んでしまった、と言う方が正確かもしれない。

 

いかに彼らが様々な時代や時間を渡り、冒険したと言っても、全てを見聞きした訳ではない。

 

人間同士が互いを傷付け、血を流した、辛くとも忘れてはならない『戦争』という記憶。

その記憶と最も強い繋がりを持った存在である艦娘と、艦娘を指揮する『提督』が運用する拠点・鎮守府がどういった物であるか、モモタロスが知らないのも仕方の無い事ではあったのだが

 

「お……おっおお、おばっおば、オバケえぇ〜〜〜っ!!?」

 

鎮守府内で一番最初に遭遇したのが、艦隊の中でも人一倍怖がりである艦娘《ガンビア・ベイ》だった事は、モモタロスに取って、ある意味不運だったのかもしれない。

 

「ハァ!?お、おい!ちょっと待て!!確かにセンスのねぇ見た目とは思うが、さすがにオバケはねーだろ!?オバケは!!」

「NOooo〜〜〜!!!」

 

必死に拒むガンビアだったが、英語で訴えかけている為、モモタロスには何を言っているのかサッパリである。

 

「騒がしいぞ、いったい何がどう…し……」

 

 

さらに、騒ぎを聞きつけて那智が様子を見に現れたことで、事態は悪化。

 

 

「敵襲ぅぅぅッ!!!」

「ハアアアァっ!!?」

 

当鎮守府で陸奥や山城、長門に次いで実力者であり、鎮守府を支えている艦娘の一人である那智が指揮する迎撃部隊に追われる羽目になったモモタロスは、咄嗟にガンビアを連れて外へ飛び出してしまった。

 

 

「しまった!!ガンビィを人質に取られた!何としてでも敷地外へ逃がすな!!」

 

「だああぁぁっ!!!…ったく、どいつもこいつも人の話を聞こうとしやがらねえ!!なんでいっつも俺ばっかりこんな目に遭わなきゃなんねえんだよぉっ!!!」

 

 

ガンビアを抱えたまま必死に走り回り。工廠の資材置き場の片隅へ逃げ込み、ようやく一息つくことが出来た。

 

 

「ぜぇ…ぜぇ……」

「きゅ〜……」

 

モモタロスに連れ回される形となっていたガンビアも、直接ではないにしろ疲労はしていた。

 

少し落ち着いてきた為、今のうちに逃げられないかと立ち上がろうとしたのだが。

 

 

「ちくしょー……何なんだよ、揃いも揃って……オバケだなんだって、ヒトを悪者呼ばわりしやがって……」

 

「………Oh…」

 

モモタロスのあまりの凹みっぷりに、何だか申し訳無い気持ちになった為、とりあえず話だけでも聞いてみることにしたのであった。

 

 

 

 

「参ったな……見失っちゃった」

「あのシカさん、那智さんとか戦艦枠の人たちに見つかってなきゃいいけど……。下手したら、ボコられるだけじゃすまないよ?」

 

鹿イマジンを追いかけるうちに、反対方向から聞こえてきた騒ぎのする方へと足を進めてしまい、時雨と白露の二人は工廠へと来ていた。

 

「……あれ?」

「ん?」

 

「ガンビアさん?それと、隣にいるのは……」

「………ん?うんっ!?」

 

二人が目にしたもの……それは、体育座りをしていじけている赤鬼の様な怪人と、それに対してオロオロしながら謝るガンビア・ベイの姿だった。

 

 

「………何アレ??」

「……さあ?」




悩みに悩んで、結局分割してしまいました汗

果たして、電王編は終わらせられるのか!?

終わらせないと、なのだけども!!(泣)


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57話 : 時を紡ぐ雨を阻むモノ・後編

もうすぐそこまで来ている春の匂い。

寒暖の差がまだまだ激しいこの季節、みなさんもお気をつけて。


現在、汪曲刻鎮守府は騒々しくなっていた。

 

主な理由は二つ。一つはモモタロスがガンビア・ベイと遭遇し、他の艦娘達に襲撃者と誤認され、弾幕を浴びせられそうになり、死にものぐるいで逃げ回っていたからだ。しかし、どうにか落ち着いて話をする機会を得られたお陰で、この誤解はなんとか解けそうである。

 

もう一つの理由は、モモタロスが嗅ぎ取った新手のイマジンが暴れている為である。

 

 

======================

 

 

「ったく!何がどうなってるんだ、この騒ぎはよぉ!?」

 

当鎮守府の提督である片倉は、腹立たしげに執務机を叩く。

 

「連絡員からの報告では、怪物が鎮守府内を暴れまわっているそうで……」

「ジョークは俺がゴキゲンな時だけにしてもらおうか?ブッ殺されたいならいくらでもふっかけて構わんが」

 

報告をした駆逐艦に対し、にこやかな表情で脅しをかけると、その艦娘は恐怖のあまり、青ざめた表情で黙り込んだ。

 

 

(とは言え……深海棲艦が来たなら来たで、細かに報告が来るはず。とすると、コイツらの報告は強ち嘘ではない……か)

 

面倒事は嫌いなので、早く片付けたい片倉は指示を出そうと席を立った……その時。

 

 

「失礼致す」

「?」

 

丁寧な挨拶と共に、シカと鎧武者を足して2で割った様な怪物が執務室に入ってきた。

 

「……は?」

「当鎮守府の指揮官殿であらせられるな?我が主の望みを果たすため……、貴殿を成敗致す!」

 

いつの間に拾ってきたのか、シカの怪物は竹刀を手に構えた。

 

 

 

「えっと……それで?おじさんは何なの?」

「おじさんじゃねえ!モモタロスだッ!!」

 

その頃。モモタロスとガンビーを見つけた白露と時雨が、これまでの経緯を話し。反対に、モモタロスとガンビーの事情を聞こうとしていた。

 

「モモ…タロ、ス?ブフッ!」

「白露、ダメだよ!人の名前を笑ったりなんかしちゃ」

 

「オオ!そっちのアホ毛は分かってるじゃねーか?確かにセンスのねえ名前だが、それでも俺には大事な名前なんだぞ」

「えへへ、ゴメンゴメン」

 

意外と素直に謝ったので、モモタロスは白露がそれほど悪い娘ではないと思った。

 

「それで……モモタロスさんは、どうしてここに?ガンビアさんも一緒だなんて」

「そ、それは〜……私が怖がり過ぎちゃったせいで、モモさんを悪者扱いしてしまって……」

 

「だから、それはもう良いつってんだろうが?我ながら情けねえが、そういう扱いにはもう慣れてるしよ……」

「うわあ……」

 

そして、モモタロスが此処へ来た理由を説明しようとした、その時。

 

「キャアァァァっ!!」

「ワアアァァァっ!!?」

 

「ッ!!」

「ベイっ!?」

「こ、今度は何、なに!?」

 

悲鳴と同時に、壁が倒壊する音が轟いた。

 

何事かと時雨やモモタロス達が飛び出すと、外には片倉達の他に、時雨と契約したシカのイマジン、そしてライオンと馬の特徴を備えたイマジンらしき怪物が対峙していた。

 

 

「間違いねえ、どっちも当たりだ!!」




次回、時雨と契約したシカのイマジンが新手のイマジンと争うことに?

そしてブラック提督・片倉を前に、モモタロスやシカのイマジンはどうする!?


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58話 : 俺、ようやく参上!!

こぼれ落ちる砂のように、誰も時を止められない。

例え、それがどれだけ取り戻したい過去であろうと……


時雨、白露、そしてガンビアとモモタロスの4人が発見した2体のイマジン。

 

片方は時雨の望みを叶えるとして、片倉中佐に襲いかかったシカのイマジン。

もう一方は、モモタロスらとは別に侵入したらしい、ライオンの外皮の様なマントを纏ったウマのようなイマジンであった。

 

「長良!大丈夫!?」

「白露!良かった!コイツらが急に、執務室に押しかけて来たんだけど……」

 

事情を話そうとした長良であったが、シカイマジンはそれを制する。

 

「我が主の姉上……案ずる事はありませぬ。主たちの同胞には傷一つ付けさせませぬ!某めが討つは(ただ)一人……それは貴様だ、外道!!」

 

そして、片倉に対し、竹刀の鋒を突き付けた。

 

「……オイ。何がいったいどうしたってんだ?」

 

イマジンが入り込んでいる、現状以外の事情をまったく知らないモモタロスは首を傾げる他無かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ?オイ、お前……今、俺を倒すとかほざきやがったか?」

 

シカイマジンの宣告に対し、片倉は不愉快そうに聞き返した。

 

「シカり。貴様が……」

「危ない!!」

「ッ!?」

 

シカイマジンが返答しようとしたところに、ライオンのマントを羽織ったウマの様なイマジン・レオドンキーイマジンが猟銃を模した棍棒を振るい、殴りかかってきた。

 

「うおっ!?」

「っく……!」

 

「提督!?」

「司令官!」

 

シカイマジンと片倉は辛うじて避けるも、レオドンキーイマジンの腕力は思いの外凄まじく、執務机は真っ二つに破壊されてしまった。

 

「なっ!?テメェ、人の大事な仕事道具に何しやがる!!」

 

「良いじゃねえか。どうせ仕事なんか出来なくなるんだしさァ」

「なに……?」

 

怒る片倉に対し、レオドンキーイマジンはあっけらかんと言い放った。

 

 

「お前、提督ってんだよな?提督ってのは偉くて強いんだろ?俺は《強そうな奴ら》を探してんだよ。それがアイツの『望み』だからなあ」

 

「望み?それに、アイツだと……?」

 

イマジンの発言に、まったく心当たりの無い片倉は首を傾げる。

 

 

しかし、同じく話を聞いていた時雨や長良たちには、一人だけ思い当たる人物が居た。

 

 

 

「……ひょっとして、追川(おいかわ)さんの事?」

 

 

 

===================

 

 

汪曲刻鎮守府に所属する憲兵、『追川逸郎(いつろう)』。

 

片倉がばら撒く金に目が眩み、ゴロツキに成り下がった憲兵隊の中では、比較的マトモと言える部類の人間だった。

 

いかに資金難に苦しんでいたとは言え、非合法な手段で稼いだ資金を受け取ってしまった時点で、片倉の手下になる以外に道は無かった。

 

かつては高い志を胸に軍職に就いたというのに、周りは職権乱用をする低俗な連中ばかり。責任重大である提督という立場にありながら、人も艦娘も消耗品程度にしか見ていない男を相手に怒りと不満を抱きつつも、先輩などに押さえつけられて何も出来ずにいた。

 

そして、そんな中で今回、憂さ晴らしを兼ねて暴れていたところを不審な連中に叩きのめされ、さらに先輩連中から理不尽な八つ当たりを受けてしまった。

 

 

(何でだ……何でいつも、俺ばっかり……!!)

 

 

力が欲しかった。

 

威張り散らすばかりで何もしない奴らを……欲にまみれて、力の持ち方を忘れた馬鹿な連中を黙らせる為の大きな力が欲しかった。

 

そして……『そいつ』が現れて、話を持ちかけてきたのだった………。

 

 

===================

 

 

「まさか……その者も、この男や一派に!?」

 

 

シカイマジンがレオドンキーイマジンに問い詰めようとする一方。

 

 

「オイ、なんで行っちゃダメなんだよ!」

「今割り込んだら、余計にモモタロさんが悪者になっちゃいますよ〜」

 

イマジン相手に戦いたくて仕方ないモモタロスを、ガンビアや陽炎が抑えていた。

 

 

「ぐぅぅ……お前ら、周りから頑固だなとか言われたりしてるだろ?」

「ベイっ?」

「いや、あたしらは特には……。言われてるとしたら……」

 

 

そう言いながら陽炎が視線を向けたのは、時雨だった。

 

 

「……なるほどなぁ。持ってる奴に対する、持ってない奴の嫉妬ってのは醜いねえ?」

 

話をある程度理解したのか、片倉の口から出た言葉は相変わらずの物だった。

 

 

「お前も可哀想になあ?そんなクソザコなんか捨てて、俺の手下になれよ。強そうな奴を探してんだろ?俺がお前を有効活用して……」

 

「何を勘違いしてやがる?バカか?」

 

取引をしようとした片倉の言葉を遮り、レオドンキーイマジンは嘲った。

 

 

「『誰よりも強くなりたい』―――それが、俺の契約者の『望み』なんだよ。だから、お前もコイツらと一緒に潰れろ」

 

「………は?」

 

呆けた一瞬の隙を突いて、レオドンキーイマジンは棍棒を振り下ろした。

 

 

「提督!!!」

 

棍棒が当たる直前、反射的に飛び出した時雨が片倉を突き飛ばし。

 

棍棒は身代わりとなった時雨の頭を殴りつけた。

 

 

「時雨ぇーッ!!」

「主ぃーッ!!!」

 

 

「ッ………ぁ……くぅ…」

 

身体の丈夫さに加え、寸での所で致命傷を避けられた為、激しい痛みこそあるが意識を失わずに済んだ。

 

「主…主!我が主よ、気を確かに!!」

 

シカイマジンに呼びかけられ、時雨は体を起こそうとした。

 

「良かった……すぐ入渠に…」

「オイ……」

 

「!」

 

白露がシカイマジンと共に運ぼうとした、その時。

 

「この……役立たずのクソガキがぁ!!」

 

怒り爆発といった様子で、片倉が時雨を蹴り飛ばした。

 

「提督!?」

「貴様!!主は貴様を庇って負傷なさったのだぞ!?その必死の働きを、役立たずなどと……!!」

 

「うるせぇ!!俺に口答えすんじゃねえよ、クズが!!俺がわざわざ奴を引き止めてやってたってのに、さっさと始末しねえから俺の完璧な作戦が台無しになっちまったじゃねえか!!」

 

「役立たずはどっちよ!!作戦ですって?偉そうな口を利くのも大概にしなさいよ、この金食い虫!!!」

 

時雨の厚意を汚され、怒りが頂点に達した白露は片倉を罵り返した。

 

しかし、片倉はそれすら聞き流し。これ以上無い、最低な命令を下した。

 

 

「―――死ねよ」

 

「なに……?」

 

「ここまで俺に恥を掻かせたんだ。死ぬのが当然の償いだろうが?ほら、死ねよ?早く。一人が嫌なら他にも連れてきていいぞ?連帯責任だ。み〜んなで仲良く……死・ね・や♪」

 

 

「……」

 

白露やシカイマジンは勿論、時雨も頭が真っ白になった。

 

 

テレビや新聞、そして人伝に悪い人間のあれこれを耳にしてきた。

しかし……ここまで堕落した、悪意の塊のような人間がいるだろうか?

 

時雨たちの為に剣を取る……そう決心していたはずのシカイマジンであったが、絶望のあまり、動けなくなってしまった。

 

 

「オイ、提督の命令が聞こえねえのか?さっさと……」

 

「…るせぇな」

「あ?」

 

 

「うるせぇつってんだよ!どクズ野郎がッ!!」

 

しかし……立ち上がり、片倉を目一杯殴りつけて吹っ飛ばした人物が一人現れた。

 

 

「……あ…あっと、あの…えっ??」

 

それは、重傷を負ったばかりの時雨だった。

 

しかし……目の当たりにしたその姿に、白露や周りの艦娘たちは動揺した。

 

 

温厚な人柄が表れていた、優しげな青い眼が紅く輝き。

目尻は上がって鋭く、攻撃的な雰囲気を醸し出していた。

髪型も前髪が逆立ち、特徴的なアホ毛も上方へと跳ね、後ろ髪の三編みは解けてシンプルな一つ結びとなっており、赤いメッシュが混ざっていた。

 

「し…しぐ…れ?」

 

「あ、あれ?モモタロさんは!?」

 

白露は豹変した時雨を見て、ガンビアはいつの間にか姿を消したモモタロスに対して驚いた。

 

 

そして……豹変した時雨が言い放ったのは、これまた時雨らしからぬセリフだった。

 

 

「“俺”、参上……!!」




必死に展開を考えた結果、かーなーり強引に(ヽ´ω`)

ちゃんと一区切りつけないと、なのに……


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59話 : 突撃!隣の艦娘

ムカっ腹の立つ野郎だった。

今までにも、とんでもねえ卑怯や(きったね)えマネをする奴らを散々見てきたつもりだったが、目の前のソイツは比べ物にならねーくらいのゲス野郎だった。


自分が怪我するのも構わねえで、命懸けで庇ってくれた奴に感謝しないばかりか、自分のバカさを棚に上げて逆ギレしやがったんだぞ?それに対して文句を言った途端に、今度は「責任を取って死ね」だと!?


冗談じゃねえ!!

あんなクソ野郎に、これ以上デカい(ツラ)させてたまるかッ!!


……頭が痛い。

 

微かにだけど、白露とシカっぽい彼が必死に呼びかけてくれているのが聞こえる。

 

なんとかして目を開けなきゃ、そう思ったんだけど……

 

今度はお腹に強い衝撃と痛みを受けた。

 

ああ……また提督が怒っているんだろうな。

 

白露たちが声を荒げているみたいだ……抗議してくれているのかな?

 

 

ありがとう……でも、もう良いんだ。

 

これ以上、みんなに迷惑をかけられないから……

 

 

『もう勘弁ならねえ!ちょっと借りるぜ!!』

 

意識が朦朧としている中、そう呼びかけられたと同時に『何か』が重なったように感じた。

 

そして、意識が途切れる直前に見えた光景───それは僕が立ち上がり、提督を殴り飛ばす瞬間だった………

 

 

======================

 

 

「し……しぐ、れ?」

 

目の前に立つ、豹変した時雨を前に、白露は呆然としていた。

 

口調や顔付きは勿論の事、髪型や眼の色、声音まで低くドスの効いた物に変わっている。

 

「ガハ……ッ…お、お前……なんで立って……!?」

 

殴られた顔を押さえながら、片倉は時雨を睨みつける。

 

「わざわざ助けてくれた奴に、恩を仇で返すような真似をするたあ、やってくれるじゃねえか?」

「な、何を……!?」

 

「ここまでやらかしたんだ、当然覚悟は出来てるよな?良いか……俺に前振りは無ぇ。最初から最後まで、徹底的にクライマックスだ!」

 

 

「えっとぉ………」

「シラツユちゃん、これはいったい……?」

 

混乱しっぱなしの気持ちをなんとか落ち着かせ、白露とガンビアは目の前で起こっている状況を整理することにした。

 

 

まず、ガンビアは自身の傍に居た筈の赤鬼……モモタロスが消えたことを確認。

次に、白露は片倉などから受けた暴行により、怪我をして動けなくなっていた時雨が立ち上がったことを目撃した。

 

そして……現在の時雨は、先程出会ったモモタロスと同じ口調で喋り。気配も時雨とは全くの別人となっている。

 

 

「これって……」

「つまり……」

 

 

「「モモタロさんが、時雨(ちゃん)に取り憑いちゃった!?(ベイ!?)」」

 

 

当然ながら、白露と同様、傍で見ていたシカイマジンも戸惑いを隠せない。

 

「貴殿はもしや……先程まで身を潜めていた御仁か!?」

「だったらどうした?」

 

「貴殿は、我が主とは何の関わりも無い筈……なのに何故、こんな真似を?」

 

時雨に憑依したモモタロス────通称M時雨は、シカイマジンの方へ一瞬振り向くも、すぐ片倉の方へ視線を戻した。

 

 

「……似てんだよ、コイツ。“どっかの誰かさん”に、これでもかってくらいによぉ」

 

その様子に対し、何かを察したレオドンキーイマジンは片倉以上に警戒を強めた。

 

「まさか、キサマ……」

 

 

すると、そこへ騒ぎを聞きつけた別の憲兵たちが続々と集まってきた。

 

「片倉中佐!!これはいったい……!?」

「遅いぞ、ボンクラ共!!そいつらを一人残らずぶっ殺せ!!生き残ったメス共は好きにしろ!」

 

「なっ……!?キサマ、どこまで下衆な……!!」

 

「えらくゴチャゴチャしてきたな……ちっ、しょうがない。此処は一旦退くか」

 

「なに?あっ!待てコラ!!」

 

密集した状況が面倒になったのか、レオドンキーイマジンは退却。M時雨は追いかけようとしたが、敵は思いの外逃げ足が速いらしく、あっという間に見えなくなってしまった。

 

「……クソっ、コソドロみてぇにすばしっこい奴だな?」

 

出来ることなら、イマジンを追いかけたいところだが、誰かがピンチに陥っている状況を見捨てるような非道は、「カッコ良く戦う」を信条とするモモタロスには出来ない。

 

『…う…うぅ……ん……』

 

その時、時雨本人の意識が目覚め始めた。

 

「っ!」

『あれ?……僕、なんで立って……』

「よう。目ぇ覚めたか?」

 

『……えっ?その声……もしかして、君は……』

「話は後だ。さっさとコイツらをブッ倒さねえと、他の連中が危ねえぞ?」

 

『……分かった。でも、やり過ぎないようにね?』

 

「あんな目に遭ったばっかだってのに、相手の心配かよ……」

「……まっ、嫌いじゃねえけどな?」

 

 

こうして、M時雨はイマジンを追えなかった不満や片倉とその配下たる憲兵への怒りをぶつけるかの如く、シカイマジンと共に大暴れ。

 

その怒涛の攻めっぷりに恐れを()し、一人逃げようとした片倉であったが

 

 

「他者を傷つけ、踏みにじり……己は高見の見物をする勝利者気取りか?笑わせる!」

 

ブドウの房を思わせる刀身の刀を手に、シカイマジンは構えた。

 

「た……たっ、たす…助けてくれ!か、かっ…金ならいくらでも……!!」

「見苦しい……成敗ッ!!」

「ヒッ!!?ヒイイィィィイイっっ!!!」

 

 

那智や陸奥からの通報を受け、強制査察に駆けつけた海軍特別警察隊が見たものは、精神的ショックから白髪になり、気絶した片倉と、M時雨とシカイマジンによってボコボコに打ちのめされた憲兵たち。

 

そして、白露の傍で跪き、控えているシカイマジンともう一人……

 

「へっ!軍人だっつーから、ちったぁ楽しませてくれるかと思ったのによぉ?とんだ拍子抜けだぜ」

 

これまでに見た事の無い、駆逐艦《時雨》の荒々しい姿と態度だった。




やっと絞り出せたぁ……。

次回、やっと『電王編』本筋にかかれるかもです……(ヽ´ω`)


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60話 : 時間(とき)の彼方からごきげんよう

提督としての権力を私欲の為に振るい、鎮守府の支配者として、やりたい放題をし続けた片倉とそれに与する憲兵らを叩きのめした時雨(inモモタロス)とシカイマジン。

顛末を本部に報告せねばならぬ為、形式的にではあるが事情聴取を行うことになったのだが………


海軍特別警察隊の隊員達から事の経緯を尋ねられていた時雨は、困惑していた。

 

 

(どうしよう………)

 

 

鎮守府内の誰かが海特警を呼んでいて、しかも気が付いた時には自分まで連行されているなど、夢にも思わなかったからだ。

 

 

(シカの彼やモモタロスさんが暴れたとか、そういう事は無かったみたいだけど………だいぶ警戒されてるなあ……)

 

 

ちなみに、「艦娘(おんなのこ)同士の方が話し(やす)かろう」という『大隊長』の厚意により、時雨に聴き取りをするのは『足柄』と『妙高』の2名となった。

 

 

しかし……時雨が思っているよりも、妙高と足柄は警戒などしていなかった。

 

 

(案の定、と言うべきか……。必要以上に固くなっちゃってるわね)

 

(話を聞くつっても、主犯はあの風俗スキーなド三流の提督かぶれでしょ?妙高姉さん、どうにかして緊張を(ほぐ)してやれないかしら?)

 

(そうは言っても…ねぇ……)

 

 

実力行使が主な活動内容とも言える海特警の所属艦であると同時に、対話による悩み相談を受け持った経験が極端に少ない足柄。

それに対し、思慮深い面も併せ持つ妙高はそれなりにカウンセリングの経験も(こな)していたのだが、それも鎮守府内や縁のある周辺地域であった為、今回の様なケースは初めての事だった。

 

 

どうしたものかと二人が悩んでいた同じ頃、時雨も同様に悩んでいた。

 

 

(モモタロスさん達のことを話すべきだろうか……?でも、そしたらシカの彼にも迷惑を掛けちゃう……)

 

 

そもそも、『未来から来た時の侵略者』などという話を信じろというのが難問だ。

 

正気を疑われて病院送りか、良くても謹慎処分は確実だろう。

 

(折角、モモタロスさん達が助けてくれたのに……)

 

このままでは、彼らに取ってとんだ無駄骨となってしまう。

 

 

終わりなきジレンマにハマり始めようとした、その時。

 

「妙高さん!足柄さん!」

 

「うん?」

「どうしました?」

 

 

海特警のC級エージェントの一人が入室し、小声で何かを連絡した。

 

 

「………え?どゆこと…??」

 

 

伝言を聞いてすぐ、足柄が聞き返す。

 

「自分も、ただそう伝えるようにとしか言われていないものですから…詳しいことは何とも……」

 

「そう……分かりました。後は私たちが引き継ぎます、お務めご苦労さまです」

 

「いえ……それでは、失礼します」

 

エージェントが退室すると、妙高は時雨に向き直った。

 

 

「汪曲刻鎮守府所属、時雨さん。今回の騒動における、貴女の行動とそれに対する処遇についてですが……」

 

「一切、不問に付す事とします。これは海軍特別警察隊総帥、徳川成光元帥閣下直々の決定であります」

 

 

「は……は…へ?えっ?」

 

時雨は耳を疑った。

 

自身が所属する鎮守府内で散々暴れただけでなく、提督や憲兵を始めとした関係職員に手を上げたというのに、お咎め無し?

 

これは一体、どういう事だろうか?

 

「あ……あのっ!」

「なぁに?」

 

「不問に付す……って、どういう事ですか?」

 

間接的にとは言え、自分のした事の重大さを時雨は理解していた。

 

それだけに厳罰を覚悟していたのだが、ここに来てまさか不問に付されるとは夢にも思わなかった。

 

訳を聞こうと妙高に尋ねたのだが

 

 

「どうもこうも……上層部(うえ)の方で、そうなる様に働きかけがあったという事でしょう。何にせよ、あなた達をこれ以上追い詰めるようなことにならずに済んで良かったわ」

 

 

時雨の肩に手を置き、妙高は微笑みかけた。

 

 

その後、簡単な事務処理を済ませると、海特警は片倉やそれに加担していた一派を拘束。軍警察本部へと連行して行った。

 

 

「終わった……のかな?」

 

白露が尋ねる。

 

「……どうだろう?都合の良い事ばかりじゃないのが世の中って物なのは、これまでに散々教わった筈だろう?」

 

 

そう切り返す時雨の眼は、何処か「諦め」にも似た気配を漂わせていた。

 

 

 

「………ん?あ!」

 

寮部屋へ戻り、着替えようとした時。スカートのポケットに何かが入っている事に気付いた。

 

それは、遠征の帰り際に拾ったパスケースだった。

 

 

(しまった……!!帰ってすぐ、あの騒ぎになったもんだから、すっかり忘れてたッ)

 

 

スマホを取り出し、時間を見る。

 

(22時…8分か。早く交番に持って行かないと…持ち主の人、絶対一度は交番に来てる筈だよぉ……!)

 

簡単にではあるが、身支度を調える。

 

この時、時刻は22時……夜の10時9分を廻っていた。

 

玄関先へ向かい、靴を履き終えたのが10時10分5秒。

 

 

「よし……」

 

7……8……9……

 

 

パスケースを片手に、時雨がドアノブに手を掛けた時間は【10時10分10秒】を指していた───。

 

 

「…………へ?」

 

 

玄関を開けた先に広がっていたのは、未知の風景だった。




書けた……

やっと……やっと、次の展開に向けたステップを書けたァ……(ヽ´ω`)


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61話 : イッツ・ア・タイム・デザート

遠征先にて、たまたま奇妙なパスケースを見つけた時雨。

交番に届けるべく部屋を出ようとしたのだが、玄関を開けた先は未知の世界へと変わっていた‥‥‥


「‥‥ふえぇっ??」

 

目の前に広がる光景に対し、時雨は思わず困惑の声をあげた。

 

空にはオーロラが輝き、朝焼けにも夕焼けにも見える幻想的な雰囲気を漂わせ。果てしなく広がる砂漠の他には、グランドキャニオンの様な巨大な岩山がいくつもそびえている。

 

 

「なんで、鎮守府の中に砂漠が‥‥‥」

 

 

夢でも見ているのかと思い、左腕を(つね)ってみるも

 

 

「‥‥痛い」

 

つまり、これは夢ではない。

 

自分は、ただ落とし物であろうパスケースを交番に届ける為に部屋を出ようとしただけなのに‥‥‥

 

 

どうしたものかと立ち尽くしていると、何か軽快なメロディが聴こえてきた。

それと同時に、何も無かった筈の地面に“線路”が敷かれ。

 

 

「‥‥ええぇえっ!?」

 

 

さらに、その線路の上を一台の電車が走ってきたのである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

謎の電車が停車した事で、時雨は目の前の出来事に対して必死に考えようとした。

しかし、疲労に加えて信じられない事が立て続けに起こったことで、頭の中がパンク寸前となり、気絶しそうになってしまう。

 

『主‥‥我が主!』

「‥‥はっ!」

 

だが、そこへシカイマジンが時雨の意識に呼びかけたお陰で、どうにか持ちこたえた。

 

『如何なされた?此処は《時の狭間》‥‥普通の人間が容易に踏み入れる空間ではありませんぞ?』

 

「時の‥‥狭間?それって、どういう‥‥」

 

 

「あっ!?お前、さっきの!!」

「へ?‥‥あっ!」

 

聞き覚えのある声に呼びかけられ、振り向くと。

 

目の前の電車の、何両目かの乗降口から、赤鬼のような姿をした「恩人」―――モモタロスが顔を出していた。

 

 

 

「本日も、デンライナーをご利用いただき、ありがとうございまーす!御用がある時は、客室乗務員のナオミが承りますので、どうぞ気軽にお声がけ下さい!」

 

 

モモタロスに促される形で電車‥‥《デンライナー》に乗車した時雨とシカイマジンは、モモタロスの仲間であるウラタロス、キンタロス、リュウタロスとの挨拶も済ませた後、《時の砂漠》とも呼ばれるこの空間へ迷い込んだ経緯を話した。

 

 

「パスを遠征先で拾った?」

「うん。最初はただのパスケースかと思ったんだけど、この電車やモモタロスさん達と出会った理由が、全部このパスにあるのなら納得出来る。モモタロスさんが僕たちの鎮守府に来たのも、これを探してたからだよね?本当なら、もっと早く返さなくちゃいけなかったのに‥‥遅くなってごめんなさい」

 

ハンカチでパスを軽く拭うと、時雨は両手で丁寧にパスを差し出した。

 

「某めからも謝罪を。‥‥ただ、もし許していただけるなら、どうか我が主にだけは寛大な処置を願いたく‥‥」

 

「‥‥‥‥」

 

時雨とシカイマジンが深々と頭を下げる中、モモタロスたちは黙り込んでしまう。

 

‥‥が、次の瞬間。

 

 

「っ‥‥ぐっ‥‥くうぅ‥‥」

「グス‥‥ク‥‥ふぐぅう‥‥!」

 

 

「「‥‥‥え??」」

 

モモタロスら4イマジンは、一斉に泣き出した。




かーなーり、試行錯誤した結果。

こうなりました((殴


次回の展開、果たして何がどうなるのか?

応援して下さっている皆さん、大変申し訳ありません!


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62話 : あの日来た彼らが提督になる事を僕らはまだ知らない

これまで色々ありまして、新年を迎えました。今後も今後で色々あるでしょうけども、失踪と未完だけはすまいと必死になっているこの頃です。


「ゔぁ〜〜〜ッ‥‥。まったく、みっともねえ所を見せちまったぜ」

「ホント、女の子の前で鼻水垂らしながらベソかくなんてカッコ悪いよ?先輩」

「カメ公だってメソメソしてたじゃねぇか!?あと、鼻を噛んでたのはクマだろーがッ!!」

 

「そんな‥‥そこまで気にする必要無いよ?」

「そ、そうでゴザル!主の話を聞いていただいただけでなく、涙するほどに同情していただいた‥‥。皆様方が我らに対し、恥と思う道理が何処にありましょうッ」

 

 

時雨から話を聞き、彼女や彼女の住まう鎮守府の状況を改めて把握したモモタロス達は、時雨の何処までも他者を優先する姿勢や、様々な要素が重なり合ったお陰で助かった事への感謝ではなく、自分たちの問題に巻き込んでしまった事に対する謝罪を述べた事に対し、涙を流した。

 

 

大袈裟かもしれないが、泣かずにいられなかったのだ。

 

 

基本、モモタロス達はそれぞれが己の信条や欲求に忠実過ぎるだけで、心根は気の良いイマジンの集まりである。

勿論、悪ノリが過ぎて、騒ぎを起こす事もあるにはあるが、それでも普段は周りに迷惑をかけない様、振る舞いには気を付けている。

 

しかし‥‥商店街にて、ゲンさん達からブラック鎮守府問題の話を聞いた後ということもあって、非道な仕打ちを受けながらも懸命に堪え、他人の為に行動する時雨の健気な姿に心打たれ、涙が溢れたという訳だ。

 

また、時雨と契約したらしいこのシカイマジンも他者の気持ちを(おもんぱか)って行動する事を信条としている様子。

腕前に関しては、一時、共闘したモモタロスから見ても「筋は悪くない」との事。

 

「オイ、アホ毛娘。お前の名前‥‥まだ聞いてなかったな?」

「時雨‥‥‥白露型駆逐艦の時雨だよ、モモタロスさん」

「“さん”付けは無しだ‥‥時雨、トナカイ」

 

「えっ‥‥でも」

「いや‥某はトナカイではなく、シカなのでありまして‥‥」

「どっちも似たようなモンだろ。大体‥‥んな事、今はどうだってイーだろぉが」

 

「?」

「先輩‥‥?」

 

訂正を却下された事で落ち込んだシカイマジンを他所に、何か意を決した様子のモモタロスを前に、何事かと様子を窺うウラタロスとキンタロス。

 

「亀公。オーナーのおっさん、何処の基地に行けとかゆー場所決めはしてなかったよな?」

「確か、これといった指定は無かったような‥‥って、先輩まさか!?」

 

「時雨。お前らの鎮守府、新しい提督ってのは決まってんのか?」

「へ?‥‥ううん、まだそういう話は来てないよ?」

 

 

「なになに?」と興味津々なリュウタロスに対し、半分寝ぼけた様子のキンタロス。

一方、モモタロスの考えを察したウラタロスは呆れ半分といった様子で顎に手を当てながら溜息を吐いた。

 

 

「時雨。俺たちをお前の仲間に入れてくれよ」

「‥‥‥え??」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その頃、白露たちは突然姿の消えた時雨を捜して大騒ぎになっていた。

 

「居た!?」

「ダメ‥‥白露、そっちは?」

 

「こっちも手掛かり無し‥‥」

「そんなぁ‥‥‥」

 

シカイマジンやモモタロスの協力もあって、やっと鎮守府内の問題が片付いたのに‥‥

 

己の非力さに、ガンビアは涙を浮かべた。

 

「まさか‥‥あの赤鬼が?」

 

モモタロスやシカイマジンが片倉元提督らを片付ける手伝いをしてくれた事は聞いていたが、それでも那智や一部の艦娘たちはモモタロスの容貌に対して警戒心を拭いきれずにいた。

 

「モモさんは違うよ」

 

しかし‥‥

 

白露がそれに対して否定の声をあげた。

 

「モモさんだけじゃない‥‥時雨の味方をしてくれたシカさんも絶対に酷いことはしない。あの人たちが、いっちばん私達に優しくしてくれたもん!」

 

 

時雨がモモタロスらを連れて鎮守府に戻ってきたのは、深夜11時を過ぎての事。執務室のロッカーから時雨が出てくる瞬間を青葉が発見、次いでシカイマジンやタロウズが出てきた事で、鎮守府内はまた大騒ぎになるのだが、それはまた別の話。




かなりの久しぶりとなりました。

久しぶりなんて言葉じゃ済まないくらいの長期停滞でした(ヽ´ω`)


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63話 : 波を乱すモノ

前回のあらすじ。

遠征先にて謎のパスを拾ったその帰り、未来から来たという謎の存在〈イマジン〉に取り憑かれた艦娘・時雨。
鎮守府に戻ってからもイマジンが次々に乱入し、基地内は大騒ぎ。

加勢してくれた赤鬼のイマジン・モモタロスのお陰もあり、事態は一旦収まったが、艦娘を傷つけ、苦しめているブラック鎮守府問題について、街の人たちからある程度聞いていたモモタロスは、このまま放っておく気になれず、時雨に自分たちを仲間に入れるよう要求したのだった。


時雨とシカイマジンの丁寧な説明と懸命な説得により、モモタロス・ウラタロス・キンタロス・リュウタロスのイマジン4名は、汪曲刻鎮守府の艦娘たちに一応受け入れてもらえる事になった。

‥‥と言っても、皆に話を聞いてもらうまでの間、モモタロスが初顔合わせの艦娘に怖がられたり、ウラタロスが「怖がらないで、どうか話を聞いて欲しい」などと(もっと)もらしい理由を付けてナンパしたり、リュウタロスが妖精と勝手に遊び始めたりと、今までにあった様で無かった様な、とにかくメチャクチャな展開がこの鎮守府内で繰り広げられたのだが。

 

「まぁ‥‥その、なんだ?言い出しっぺは俺なワケだから、細かいコトは言わねーけども‥‥」

 

「何なんだ!?この服装(カッコ)はよっ!?」

「わーいわーい!船長だ〜」

 

モモタロス達の鎮守府着任が認められた証として、各員、軍服を着用するようにとの辞令が届いたそうなのだが、いくつか疑問が生じた。

まだ申請すらしていないのに着任が認められたり、それぞれのサイズに合わせた軍服まで用意されているとは、あまりにも対応が早過ぎる。

 

「陸奥さん、これはいったい‥‥‥?」

 

時雨が尋ねると、陸奥もよく分からないといった様子で答えた。

 

「3ヶ月ほど前よ。艦隊司令部に《司令長官》を名乗る老紳士が突然やって来て、『近いうちに汪曲刻鎮守府の指揮を取るに相応しい者たちがやってくるから、彼らを迎える準備をしておいて欲しい』って頼んだそうなの。勿論、最初は敵勢力の刺客かと警戒したらしいのだけど‥‥総統や元帥たちに贈った『お土産』がキッカケで、交渉は成立したみたい」

 

 

二人のやり取りに対して耳を傾けていたモモタロスとウラタロスは、謎の老紳士の正体についてほぼ確信した。

 

ああ‥‥絶対オーナー(あの人)の仕業だ‥‥と。

 

「先輩‥‥僕たち、完全に釣られちゃったみたいだね?」

「ああ‥‥ったく。あのオッサン、本当に得体が知れねえぜ」

 

「ところで、話は変わるけど‥‥そちらのシカっぽい怪人さんが、時雨の新しいお友達?」

「いえ。某としては、その様な畏れ多い立場ではなく、主にお仕えする者と心得ております」

 

陸奥に問われるも、シカイマジンは跪いて答えた。

 

「僕は止めてってお願いしてるんだけど‥‥」

「何を仰る?艦隊の皆を守る為、力を尽くして欲しい‥‥それが貴女の願いでございましょう?我が主」

「あらあら‥‥」

 

シカイマジンの言動から、陸奥は理解した。

 

このシカ男は真面目だ。真面目であるが故に、考え方が少し固くて融通が利かないのだ、と。

 

「もぉ〜、それなら名前ぐらい付けさせてよ〜」

「‥‥ん?名付け?それって、どういう事?白露ちゃん」

 

「あぁ、そっか。陸奥さんたちには言ってなかったよね」

「僕も完全には理解してないんだけど‥‥彼らイマジンは、未来から来た存在なんだけど、過去の記憶を持ってないんだって。その影響なのか、実体も持てないから適当な人間に取り憑いて、その人の持つイメージを利用して実体化するから、怪物みたいな姿になっちゃうみたい」

 

ふぅん‥‥と話を聞いていたところで、駆逐艦の一人・浦風がポンッと手を打った。

 

「そんなら、うちらでシカさんの名前考えるってのはどうじゃ?時雨に考えてもらうんは申し訳ないんじゃろ?」

「え?」

「おお!浦風、(あったま)良いっ!!」

「ちょちょ、ちょっと待たれよっ!?」

 

浦風の提案に白露が同意したのを皮切りに、話は妙な方向へと進み始めた。

 

「う〜ん‥‥侍っぽくてシカな見た目じゃからのう。〈ブシジカ〉とかどんげね?」

 

最初に立候補したのは言い出しっぺの浦風。

 

「武士とシカをそのまま組み合わせただけじゃない。ここは一つ、捻りを入れて〈ディアーズ武士(モノノフ)〉でいきましょう!」

「売れない芸人みたいな名前だね‥‥」

 

得意げに提案をしたビスマルクのネーミングセンスに対し、流石の時雨も思わず苦笑い。

 

「ウラちゃん達からは何か無い?」

「う〜ん‥‥無くはないんだけど、僕たちが候補として思いつく名前って、どうしても〈タロス〉が付いちゃうというか‥‥むしろタロス繋がりじゃないとしっくり来ないってゆーか‥‥」

「難しい所やなぁ」

 

ウラタロスとキンタロスの意見に、シカイマジンの名付け大会は行き詰まってしまった。

 

「困ったわねぇ‥‥」

「時雨。時雨は考えたりしてないの?シカさんの名前」

「えっ‥‥」

 

一同が頭を捻る中、村雨が時雨に尋ねる。

 

暫しの沈黙の後、時雨ははにかみながら答えた。

 

 

「――〈シド〉。シカっぽくて、侍が武士道を貫くみたいに真っ直ぐな信念を持っている、優しい人だから」

 

「主‥‥」

「ヘッ!良いじゃねえか?他の連中より、よっぽどセンスのある名前だぜ?」

「モモタロス殿‥‥」

「うん。いい感じ、いい感じ♡」

 

皆にも意見を求めたところ、「やっぱ名付け親はご主人が一番だよね」と納得してもらえた為、シカイマジンの名は〈シド〉に決定した。

 

「我が主。シドの名を賜りし事に対する感謝と共に、貴女への忠誠を改めてお誓い申し上げる!身命を賭して、貴女の期待と願いに応えてみせましょう‥‥!!」

「うん‥‥気持ちは嬉しいけど、まずはその堅苦しい態度を止めてくれないかな?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方‥‥時雨たちが鎮守府で騒いでいた頃。

 

レオドンキーイマジンは追川を連れ回しながら、鎮守府周辺に居るゴロツキや憲兵といった、とにかく体格の良い「強そうな見た目の人間」を片っ端から襲っては痛めつけていた。

 

「フゥ‥‥。まだか?お前の望みは?」

 

レオドンキーイマジンの問いかけに、追川は力無く首を横に振る。

 

「‥‥チッ!まだダメなのかよ」

 

舌打ちをしつつ、レオドンキーイマジンは次の標的を探しに動き出す。

 

その後ろをついて行きながら、追川はブツブツと呟くのだった。

 

「強くならなきゃ‥‥俺は強くなきゃダメなんだ‥‥」と。




ハイ。スランプが激しく続くのに加えて、去年から精神科の病院にてカウンセリングを受けている最中の夏夜月で御座います。
求職どころか執筆も思うように捗らず、頭の中で組み立ててもそれを文章に著すことが出来ないという苦しみの中、ようやく自身が納得出来る物に仕上がった(‥‥と思いたい)ところです(ヽ´ω`)


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64話 : 願いを借る侵略

長いことお待たせして申し訳ありません、続きであります。


モモタロス達との出会い、そして鎮守府内での騒動から一夜明けて。

 

汪曲刻鎮守府の食堂は、これまでに無い明るさと賑わいを見せていた。

 

「間宮さん、おかわりちょうだーい!」

「はーい!」

「リュウタロス提督、食べ過ぎは良くないですよ?」

「だって、間宮さんのご飯おいしいんだも〜ん」

 

「美味い!!ウマイでーッ!」

「キンタロス提督は、もう少し落ち着いて食べて下さぁ〜いっ!!」

 

「ウラタロス司令官、この後の遠征についての相談なんですけど‥‥」

「ふぅん‥‥作戦の難易度と、出撃予定の娘たちの熟練度の釣り合いが取れていないね。編成の変更は出来るかな?」

「はい、少し急げばなんとか」

「それじゃ、早速始めようか。釣りの基本は良い釣り場と竿選びから‥‥。過去の出撃記録は一通り見せてもらったけど、前任者はかなりの脳筋だったみたいだねえ」

 

本来、《提督》と呼ばれる者は一つの鎮守府に一人在籍しているのが基本なのだが‥‥此処、汪曲刻鎮守府は異例中の異例と言える状態であった。

個性的過ぎる容姿と性格、素性も知れない怪人4人組が、大本営より正式に《提督》として認められ、着任したのである。

 

「だ・か・らッ!!俺は誰も脅してねえし、イジメたりしてねえっつうの!!」

「やらかした奴は、みんなそう言うんだよ」

「いや、こんな見た目で艦娘にちょっかい出す奴とか居ねーだろッ!!」

 

当然ながら、鎮守府内の艦娘全てが彼らを受け入れている訳ではない。特に、時雨を守る為だったとは言え、鎮守府で大暴れしたモモタロスは今だに警戒されており、艦娘に対して暴力を振るったのではないかという疑いの目を向けられていた。

 

そんなモモタロス達の様子を眺めながら、時雨と白露、シドは和んでいた。

 

「おかしいよね。初めて会って、まだちょっとしか経ってないのにさ?なんかずっと前から、こうだったみたいな気分になっちゃう」

 

白露の呟きに対し、時雨も小さく頷く。

 

「そうだね。うん‥すごく不思議な気分だよ」

「この穏やかな時を確たる物とする為にも、某が尽力致します。我が主」

「ん‥‥うん、ありがとう‥シド」

 

決してブレる事の無いシドの姿勢に対し、時雨は穏やかに微笑み、白露も苦笑いを浮かべるのだった。

 

そこへ、尋問が済んだらしいモモタロスが、寛ぎに来た。

 

「ぶはぁ〜‥‥疲れたぁ。ったく‥どいつもこいつも人を悪者呼ばわりしやがって」

「だ‥大丈夫で御座るか?モモ殿」

 

心底くたびれた様子なので、心配になって呼びかけるシド。

 

「んあ?あー、気にすんな。これくらい屁でもねーョ」

「さ‥左様に御座るか‥‥」

 

「‥‥」

 

一息ついたところで、時雨は改めてシド達に疑問を投げかけた。

 

「シド、モモタロス。君達イマジンは、未来から来た存在だと言っていたね?肉体が無いから、実体を得る為に取り憑いた人の望みを聞いて、契約を交わす‥‥とも」

「‥シカり」

 

「昨夜のイマジンの言動を思い返してみたけど、彼は本当に契約者の望みを聞いたのかな?僕には、とてもそうは思えない!」

 

時雨の真剣な眼差しを見て、モモタロスは静かに息を吐き、シドは黙って俯いた。

 

「‥‥馬鹿正直に契約を果たそうとする奴なんざ、シカ公とかクマ公みてーな変わり者ぐらいだ。ほとんどの連中は、契約の内容と記憶が繋がりさえすりゃ後はどうだって良いのさ」

 

「何しろ、望みを聞くってのは《過去の時間》に跳ぶ為の手段でしかないんだからな」

「えっ‥‥過去‥‥?」




かーなーり、中途半端な所で切っちゃいました(泣)

次回、逃したイマジンが遂に動く!?


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65話 : 艦隊抜錨!!目指すは過去!?

長々と考えて、それでも文字に著す事を怖れる事を繰り返し。

なんとか書く事が出来ましたm(_ _;)m


イマジンが取り憑いた人間の望みを叶えるのは、過去へ跳ぶ為────

モモタロスから話を聞いた時雨と白露は、思わず耳を疑った。

 

彼の言葉を信じるなら、イマジンの大半が、契約者を自分の目的を果たす為の道具程度にしか見ていないという事になる。しかし‥‥契約を交わし、望みを叶える事が過去へ跳ぶ為‥‥即ち、時間を越える為の手段であるならば、契約を完了する為の「条件」を満たさぬ限り、イマジンの目的は叶わない筈。

 

「ねぇ、モモタロス。さっき、『契約者の望みと記憶が繋がりさえすれば、後はどうでも良い』とか言ったよね?それって、どういう事?」

 

白露の問いに対し、モモタロスが答えようとしたところでシドが挙手。

 

「失礼ながら、某が代わってお答え致します。まず、第一に‥‥この世の理は“時間”と“記憶”によって成り立ち、守られております。それは、我らイマジンも同じ」

「姿形は勿論‥‥契約者から承る望みも、過去へと跳ぶにも、記憶に依存しているのです」

 

「時間と、記憶‥‥」

 

「シカり。その為、契約者の望みとそれに関する記憶が強く繋がりさえすれば、最後まで契約を完了せずとも、契約者の記憶に関する時間(かこ)へと渡る事も出来るので御座います」

「‥‥要するに、だ。辻褄さえ合ってりゃ、望みの叶え方が多少無茶苦茶でも、過去へ行くには何も問題無ぇってコトだ」

 

「!!?」

 

モモタロスがシドに対し「センパイが話してんだから急に割り込むんじゃねえ!」と文句を言い、シドが「も、申し訳御座いません‥‥」と詫びている横で、時雨たちは情報の整理を始めた。

 

まず、イマジンが過去へと跳ぶには、契約者の過去の記憶が必要不可欠であり、鍵となる記憶を引き出す為に「どんな望みも叶えてやる」と話を持ちかける。

 

これだけでも充分悪質だが、「内容の辻褄さえ合っていれば特に問題は無い」という話から想像するに、イマジンは契約者の望みを勝手に解釈し、自分のやりたい様に行動して、強引な形で契約を終わらせようとする自己中心的なゴロツキ同然の存在らしい。

 

‥‥と、此処で改めて疑問が浮かんだ。

 

「モモタロス達やシドは、イマジンなのにどうして僕達を助けてくれたんだい?」

 

モモタロスが漏らした、「時雨が“誰かさん”に似ていて放っておけない」という言葉と関係あるのだろうか?

 

そう思いながら尋ねた、その時。

 

「!!」

「どしたの?」

 

「イマジンの匂いだ‥‥間違いねえ、あのウマ野郎の匂いだ!近えぞッ!!」

「なんだって!?」

「真で御座るか!?」

 

時雨とシドは立ち上がり、モモタロスと共に外へ飛び出した。

 

「きゃっ!?ちょっと時雨、どうしたのよ!?そんなに慌てて!ビックリするじゃない!」

 

 

その途中、時雨の友人の一人である朝潮型駆逐艦《満潮》と玄関前で衝突しかけるも、寸での所でお互いに立ち止まった為、ぶつかりはしなかった。

 

「ゴメン、満潮!事情は後で説明するから!」

「そういう訳で、失礼!!」

「ちょっ、白露まで!?」

 

一言謝ると、そのまま行ってしまった時雨たちを見て、満潮はいったい何事かという疑問を抱くと同時に、時雨たちがまた危険な目に遭うのでは‥‥という不安が生じた。

 

「〜〜〜もう!駆逐艦2隻(ふたり)だけで外に出るとか、不用心でしょうがーっ!!」

 

結局、満潮は時雨たちを追いかけ、そのままレオドンキーイマジン捜索に同行する事になったのである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『誰よりも強くなりたい』―――追川との契約を完了させるべく、レオドンキーイマジンは鎮守府内外問わず、腕っぷしの強そうな輩を中心に襲っては、痛めつけて廻っていた。

 

「さぁ〜て、と。そろそろ良い具合かなぁ?」

「な‥なに?」

 

「居た!!」

「させねえぞ、ウマ野郎!」

 

ゆっくりと追川に迫るが、そこへモモタロスや白露達が駆けつけ、跳び蹴りと機銃掃射が炸裂する。

 

「ぐあっ!?またオマエらかよ!!」

「過去になんて行かせないんだから!」

 

怒りを露わにするレオドンキーイマジンに対し、啖呵を切る白露。

 

「邪魔する気か?出来るもんなら‥‥」

「やってやるわよっ!!」

 

少し遅れたが、追いついた満潮が連装砲を撃つ。

 

しかし‥‥

 

 

「艦娘の癖に勉強不足だなァ!」

 

なんと、レオドンキーイマジンは自身の羽織ったライオンのマントを翻すと分身を生成。二手に分かれて砲撃を躱した。

 

「なっ!!?」

 

「「契約完了〜〜!」」

 

動揺し、艦娘達の動きが止まった一瞬を突いて、レオドンキーイマジン(ロバ)は分身のライオンと共に追川を基点に《時の扉》を開き、過去へ跳んでしまった。

 

「何何!?今、何が起きたの!?ロバのイマジンがぐにょー!って分かれて、追川さんがパッカーンて割れて!!」

 

突然の出来事が立て続けに起こった為、白露は頭がパンクしかかっていた。

 

「落ち着け!あのウマ野郎は、過去に跳びやがった!!」

「過去??」

 

取り出した《ライダーチケット》を、追川の頭にかざすモモタロス。

 

すると、チケットにはレオドンキーイマジンの姿と《2015.09.17》の「日付」が浮かび上がった。

 

「これは‥‥日付?」

 

イマジンが過去へ跳ぶ、という話は聞いていたが、あまりにも日付が具体的過ぎるので、気になった満潮は聞いてみた。

 

 

「2015年の9月17日‥‥この日付に心当たりは?」

「‥‥忘れるもんかよ。自分(テメー)がどれだけ世間知らずのバカか、思い知らされた日なんだから」

 

「―――俺、ガキの頃から《正義の味方》に憧れててさ。勉強は元々からっきしだったんだけど、運動もパッとしなくてよ‥‥。せめて気持ちだけでも折れないように、真っ直ぐ貫くつもりだった」

 

しかし、そんな彼を耐え難い屈辱が襲う。

 

それが、『深海棲艦』の出現と『艦娘』の導入だったのである。

 

「バカみたいだろ?女同士のドンパチに、男が首を突っ込む必要あるのかってんだ」

 

 

そうした図式に対して不満を抱いた者たちの集まりが徐々に勢力を拡大していき、遂には《艦娘擁護派》だった前任提督を追放。後任として《艦娘蔑視派》筆頭であった片倉が地位に就き、シドやタロウズが現れるまでの間、鎮守府を支配していたのである。




リハビリ混じりの執筆な為、半端な所で切れてしまいました(汗)

次回、デンライナーが時を越える!


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66話 : 作戦名【2015.09.17 追川逸郎の記憶並びに時の運行防衛戦】

2月から再就職先へと出勤です。

いやあ、長かったなぁ〜‥‥色んな意味で(遠い目)


誰よりも強くなりたい―――レオドンキーイマジンにそう望んで契約し、鎮守府内を荒らされ、契約完了と見なされた結果、過去へと飛ばしてしまった追川。

 

彼の記憶と強く結び付き、イマジンが居る日付が刻まれたライダーチケットを見つめながら、時雨は追川を悲しげに見つめていた。

 

そんな彼女らに対し、かつての“記憶”と重ねたのだろう、満潮は追川の頬にビンタをかました。

 

 

「うおっ!?」

「み‥満潮?」

 

突然の割り込みとビンタに、驚きの声を上げる時雨とモモタロス。

 

「‥‥だから何?自分は役立たずだって、独りで拗ねて、ムキになって!《弱い自分》を認めたくないから悪党の手下に成り下がるなんて、それこそ最低でカッコ悪いわよ!!」

 

 

「放ったらかしにされるだけが役立たずだと思わないでよ?艦隊(みんな)で一緒に攻略するって約束したのに‥‥誰かを独りぼっちにして消える事がどれだけ辛くて、罪深いか解るっ!?小さいけど大事な約束‥‥それすら守れない奴の方が、ずっと役立たずよ‥‥っ!!」

 

 

この時、満潮は怒り顔であったと同時に、眼に涙を浮かべていた。

これまで、鎮守府の皆を救えなかった過去と別に、時雨を独りにしてしまったかつての『満潮(ジブン)』が、頭の中に浮かんだ影響もあるかもしれない。

満潮の悔しさと悲しさ、そして優しさは時雨だけでなく、モモタロスらにも充分過ぎる程伝わった。

 

 

「‥‥‥チッ。オメーもオメーで、“侑斗”みてぇな事を言いやがる‥‥」

「?‥ゆぅと??」

 

モモタロスの呟きに、時雨は尋ねようとしたが

 

「行くぞ」

 

この一言に遮られてしまった。

 

「あの‥‥行くって?」

 

「決まってンだろ。“時刻(とき)”を越えて、あのウマ野郎をぶっ倒す!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「モモタロス、此処は‥‥?」

「カンタンに言やあ、デンライナーの操縦室だな」

 

白露、満潮と共にデンライナーに乗り込んですぐ、時雨がモモタロスに案内されたのはデンライナーの1号車・コントロールルーム。

本当に簡単な説明だが、それ以上に操縦室の内装はシンプルで、一台のバイクが台座に設置され、正面と左右にモニターが備え付けられているのみ。

 

「ヨシ。時雨、さっきのチケットくれ」

「う‥うん」

 

受け取ったライダーチケットをライダーパスにセットし、モモタロスはバイク型コントローラー《マシンデンバード》のスロットにパスを挿入。

 

すると、行き先と言うべきチケットの日付がデンライナーに読み込まれ、さらにデンライナーの駆動が自動操縦(フルオート)から半自動操縦(セミオート)に切り替わり、スロットルを吹かすと共にベルが鳴り、発車した。

 

「‥‥‥!!」

「振り落とされんなよ?結構飛ばすぜ」

 

デンバードに跨ったモモタロスがハンドルを操作し、デンライナーを運転している間、時雨は考えていた。

 

 

「バイクの免許、現代(こっち)でも通用するかな‥‥」と。

 

 

【2015年 9月 17日】

 

世間‥‥否、世界は海に潜み、海の彼方より攻めてくる謎の侵略者《深海棲艦》の脅威に怯えながら日々を過ごしていた。

 

とは言え、世界は何もしていない訳ではなかったが、通常兵器による深海棲艦の排除・撃退は出来ず、無力に等しい有様だった。

 

そんな時、2013年に突如として現れた《艦娘》の存在が、状況を変えていった。

 

だが‥‥人々が艦娘の存在を心強く、頼もしく思う一方で、艦娘の存在を心良く思わぬ輩も、その勢力を強めていた‥‥‥

 

 

そして、そんな勢力の下部組織に属するゴロツキに誘われた新米憲兵の一人こそ追川だったのである。

 

「がっは!?」

「オラ!学校で習わなかったのかァ?先輩の命令(言うコト)はちゃあんと聞けってよぉ!!」

「ごふっ!?ぁ‥‥っ!!」

 

当時、士官学校を卒業して間もなかった追川は、高い志を持っていた。今はこんな有様でも、自分を曲げずに、堪えていけば、きっと皆解ってくれると。

自分が皆の手本になって、この状況を変えるんだ‥‥と。

 

 

「オイ。まぁだオシオキが足らねえみてぇだ‥‥っ?!」

 

 

先程まで散々追川をいたぶっていた先輩分の憲兵とその取り巻き数人の前で、追川の身体から場違い過ぎる砂が溢れ出し。

 

レオドンキーイマジンが実体化した。

 

「ハァァアアア‥‥」

 

「うっ‥‥ウワァァアアアアッ!!?」

「かか、かっ怪物だああぁぁあっっ!!!」

「ヒイイィィィ〜〜〜〜ッ!!」

 

追川がその場に倒れ込むと、レオドンキーイマジンはそれを置き去りに基地の広場へと移動。

 

「さあ〜ぁて‥‥っとぉ!!」

 

狐の尻尾を模したブーメランを投擲、鎮守府の施設を無差別に破壊していく。

 

当然、鎮守府内と周囲は大混乱。艦娘も整備士も、民間人も大騒ぎで避難に見舞われた。

 

「‥‥んん?」

 

その時。

 

場違いな程に軽快なメロディが聴こえてきたと思いきや、空の彼方から赤いヘッドの列車・デンライナーが現れ、そこから時雨とモモタロス、そして白露と満潮が降りてきた。




リハビリも兼ねてるので、またも切り悪くて申し訳ありませんm(_ _;)m


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