地獄兄妹シンフォギア (アルテール)
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地獄兄妹シンフォギア

【小説書くまでの経緯】

ある日仮面ライダージオウ見ながら思った。
グレビッキーって全て失ってるし、地獄兄弟とであったら迎えられるんじゃね?
しかも拳で殴っているから変身するなら完全にパンチホッパーだよな-。

…………あれ?条件揃いすぎじゃね?

でも探しても戦姫絶唱シンフォギアに地獄兄弟に迎えられる小説ないなぁ。


書 く っ き ゃ ね ぇ ! !(錯乱)


そんな感じ。


雨が、降る。

 

 

東京某所の裏路地、光の射さない薄暗い空間。天から降る水滴が水たまりを作り、土やゴミと混ざった濁った茶色となって周りの風景を反射する。

そんな水たまりに足を踏み入れ、一人の少女が水たまりや空から降る雨に濡れる身体すら気にせずビルに寄りかかりながら何かから逃げるようにふらつくその足で歩いていた。

 

「……………あぁ」

 

 

(――何が、悪かったんだろう)

 

 

少女の思考は何度も過去を反芻し、巡らせながら擦り切れた心で独白する。

生気のすり果てた顔に、所々汚れた橙色の外にはねているセミロングヘアー。げっそりとしたような頬や体つきをボロボロの灰色のパーカーで覆いながら、死んだ魚のように濁り虚ろで諦観に満ちた焦点の合わない瞳に外の景色をうつしていく。

 

少女は数日前まで友達に誘われ、しかし友達が家庭の事情で来ることができなくなってしまった為一人でツヴァイウィングと言うアイドルのコンサートに出向いてから、全てが変わり果てた。

 

―――特殊災害『ノイズ』

 

生態系の頂点、万物の霊長とまで自らを称するほどに繁栄した人類に対し、突如現れた天敵種。草は虫に食われ、虫は鳥に食われ、鳥は獣に食われ、獣は人に食べられるように生物は自然界に存在する以上、一対一では絶対に勝てない何らかの上位種というものが存在するものだ。

そして、生態系の頂点に立ち、天敵という上位種が存在しなかった人類が、安心と驕りに満ち満ちたその時代、何の前触れもなく『彼ら』は現れた。

 

生きるために食べるでもなく、人類がその生息圏を侵したわけでもなく、憎悪や確執を原因とするわけでもなく、人間であれば問答無用で無差別に襲い掛かり、彼らに触られた人間は、たとえ分厚い装甲服越しであっても即死する。人に触れたノイズは、自分ごと対象の人間を炭素の塊へと転換させてしまうのだ。

ノイズには皆一様にこの世界に己が存在する比率を操作する事ができる『位相差障壁』という能力を持ち、存在比率を上げて人を殺し、逆に人からの反撃は存在比率を下げて回避することで彼らはあまりにも一方的な虐殺を行った。そして何の脈絡もなくどこにでも現れ、発生してから少しの時間を置いて自壊する。まるで人を殺さない自分達に存在意義など無いとでも言うように。

 

そんな化物が突如少女がいたコンサートに現れたのだ。

そして、阿鼻叫喚の大パニックとなった。

 

人々が次々に襲われ、触れた途端炭化して死んでしまう。

 

少女はそのパニックの中、不思議な光景を目にしてしまう。

不思議なスーツを着て、ノイズと戦うツヴァイウィングの二人と、緑色の人型の何か。

 

あまりにも非現実離れした光景に逃げることすら忘れ、そしてノイズの攻撃で吹き飛ばされた何かが身体を貫き、重傷となったものの、運良く生き延びた。

 

少女は病院でどうにか意識を取り戻し、すぐさまリハビリに励んだ。なんて事はない、早く元気になって家族を安心させようとした少女の優しさだったのだろう。

だが、学校に復帰した少女に訪れたのは地獄だった。

 

多くの死者が出る中で、多くはノイズが直接の原因では無く、混乱の中逃げまどう人々の所為で生じた二次被害の結果による死者が多い。故にマスコミによって生存者は人殺しという認識となってしまったのである。

 

結果、少女は『人殺し』として、いじめや迫害の対象となり学校はもちろんのこと家ですら心無い迫害を受けてしまうことになったのである。

それは少女の家族ですら例外ですらなく巻き込まれ、父親は行き先も告げず家を飛び出し帰ってこなくなり、少女の大切な親友は知らないうちに引っ越しており誰も少女の支えになってくれる者はいなかった。

 

そして、母親と祖母が悲しむ中、少女は悟った。悟ってしまったのだ。

 

 

 

私は生きてはいけなかったのだ、と。

 

 

 

そして、少女は家から飛び出した。

 

絶望と後悔と哀しさと孤独さと、無数の感情が混ざり合い少女ですらわからない感情の絶叫の赴くままに街を歩き、寝ずに歩いて、何も食べずに歩き回った。

もしかしたらそれは少女のことを知る人がいない所へ少女は逃げ出そうとしたのかもしれない。

 

『次のニュースです。ノイズ襲撃事件のことで――』

『解説!あの日、あの場で何があったのか!』

『殺された人!仕方なかったのか?』

 

だが、世界に逃げる場所などなかった。どこもかしこもコンサートのことを取り上げて、誰もが生き残った人に対して厳しかった。まるで世界全てが少女の死を望んでいるかのように。

生きるのを諦めなかった少女に訪れたものは少女の全て、少女の傍にあるもの全てが不幸になるという事実だけだった。

 

そして少女はここにいる。

 

何日も風呂に入っていない汚い体に着替えないことでボロボロになった服を着て、何処のあてもなく彷徨っている。

そして遂に体に限界が来たのか足に力が入らず、ドサリと濡れた地面に崩れ落ちるように座り込んでしまう。

 

(………ここで、死ぬのかな)

 

もはや動きようのない自分に少女は自嘲していると突如20メートル程度先の大通りの空間から滲み出るようにわらわらと己の人生を狂わせた憎々しいノイズの群れが現れた。

そして数分遅れてノイズが出現したことを伝えるアラームが鳴り響いた。

 

「………………ぁ、あはは……」

 

そのノイズの大群を見て、少女は笑った。

ようやく死ねるとでも言うように。

これほど憎い相手に何もできない自分を自嘲するように。

 

あまりに弱々しく、儚く、空気に掻き消えそうな声で笑った。

 

そしてノイズがこちらに気がついたのかそのうちの一匹が少女に目掛けて槍のように高速で突進してきた。

回避は不可能、元々回避するつもりもないのだ。少女は瞬く間に炭素に変換され死ぬだろう。

 

(………………やっぱり、私は呪われているんだなぁ)

 

少女はそう考え、目を瞑った。

 

己の最期を喜んで受け入れるように。

ようやく死ねることに喜ぶように。

 

そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おい。今……誰か俺を笑ったか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチュッ!とまるで肉が踏み潰されるような鈍い音が路地裏に響き渡った。

 

「…………え?」

 

少女が恐る恐る瞳を開けると目の前にあまりにも理解不能な光景が映っていた。

 

そこには、一人の少年が立っていた。

 

薄着のシャツの上にボロボロのコートを着た少女より少し背の高い少年が蹴り上げた先に建物の瓦礫に潰され、炭化したノイズだったものが鎮座していた。

 

それは、本来ありえない光景だった。

先程も言ったがノイズは『位相差障壁』という能力を持っている。ノイズ自身の「現世に存在する比率」を自在にコントロールすることで、物理的干渉を可能な状態にして相手に接触できる状態、相手からの物理的干渉を減衰・無効化できる状態を使い分ける為、人間の行使する物理法則に則った一般兵器では、ノイズに対してゼロから微々たる効果しか及ぼすことができない。

 

だが、何事にも例外が存在する。

 

彼らの位相差障壁はその性質上、攻撃の際に『自分が世界に存在する比率』も引き上げなくてはならない。自らが世界に存在する比率を下げれば受ける攻撃もスカるが、放った攻撃もスカってしまう。操作するものが世界に存在する比率なら、当然の理屈だろう。

 

つまりあくまで理屈の上での話だが、『ノイズが自分に触れそうになった瞬間に直接触れずにカウンターを叩き込む』という神業を行えばノイズを殺すことは可能なのだ。

……まぁ、だからといって出来るかといえばまた別の話なのだが。

 

「――――」

「あぁ、そうだ……笑え、笑えよ……どうせ、俺なんか………」

 

言葉を失い、目の前の光景に呆然としてしまう少女へと少年目つきの悪い昏い瞳を向け、小さく自嘲するように嗤う。

そんな少年を尻目に未だ大通りでわらわらと屯っているノイズ達が少年に気づいたのかまるで餌を見つけたアリの集団の様に集まってきた。

 

「危な――」

 

――い、と少女は危険を知らせるその言葉を少年に言おうとして呑み込んだ。

 

知らせる?知らせてどうなると言うのだ。

これほどのノイズの大群から逃げ切ることなど不可能であり、ましてや此処で死ぬ自分が目の前の少年の身を案じてどうすると言うのか?ここで少年が生きようと死のうと自分が死ぬことは変わりがないのに。

 

こんな変われ果て、最期を迎える時ですら人助けをしようとしてしまう自分に吐き気がした。

少女はそう内心自嘲しながら諦観に満ちた瞳でこちらに迫り来るノイズの大群を見つめていると少年が動いた。

己のボロボロのコートをずらし、腰に巻いてある銀色の無骨なベルトのバックル部分に手をかけると前半分を開閉したのだ。開かれたバックル部分はちょうどベルトと直角となる様に開き、まるで何かを置くかの様な小さな台座へと変形した。

 

同時にその行動が合図だったかのように何処からとも無くその少年の元へ緑色の閃光が地面を跳躍と着地を何度も繰り返し駆けていく。

そして少年は少年の元まで跳躍したソレをまるで最初から来ることがわかっていたかの様に左手で掴み取った。

 

ソレは一言で表すならばバッタ、だった。

 

バッタをモチーフとした金属特有の光沢を持った手のひらサイズの機械でできたソレ『ホッパーゼクター』は緑と茶色を半々に分かれて彩られている。

少年はその『ホッパーゼクター』の深緑色の部分を表面にして、先程バックルを半分開けて台座に変形させたところへと差し込み、呟く。

 

まるで、己の存在を否定し、嘲笑う様に。

 

「変身……ハァー……」

 

【HENSHIN】

 

瞬間――聞きなれない電子音と共にため息を吐きながら項垂れた少年が填め込んだ【ホッパーゼクター】を中心に深いグリーンカラーのプロテクターが少年を覆うように展開され、瞬く間に少年の顔をバッタをモチーフとした装甲が覆い、二つの複眼が紅色に煌めいた。

 

「―――嘘……」

 

それは、一人の戦士。

 

ノイズという特殊災害を前にして、ある日突如出現した正体不明の未確認生命体。

人間を蹂躙するはずのノイズをまるで立場を入れ替えた様にたった一人で蹂躙する。

本来、触れることすらできない『位相差障壁』の壁を知らぬとばかりに蹴り飛ばし、触れれば炭化するはずのノイズの体をそれがどうしたと蹴り穿つ。

 

誰が、何を、どうして、どうやって。いくら考えようとも何一つわからない理解不能な現象をさも当然のごとく起こす体現者。

 

その姿を少女は知っている。

その名を少女は知っている。

 

何故ならあの阿鼻叫喚のコンサートで少女は見たのだから。

 

今、この視界に映る深緑と銀に彩られたあの背中を見たのだから。

 

誰が言ったのか。いつしか、未確認生命体はこう呼ばれていた。

姿を隠し、顔を隠し、ノイズが現れるとともに現れる存在として。

仮面を被り、ノイズのいる場所に乗り込む者として。

その名を――

 

「――仮面…ライダー……ッ!」

 

【Change Kick-Hopper】

 

紅い二つの複眼を輝かせ、地獄の力を振るう戦士『仮面ライダーキックホッパー』が今、ここに顕現した。

 

 

雨が振り続ける暗い大通りで紅色の閃光が舞う。

キックホッパーが蹴りを振るう度に、ノイズの体が弾け飛び、瞬く間に炭の残骸と成り果てる。

オタマジャクシ型のノイズが飛びかかる――中段前蹴りで体を粉砕され飛びかかった勢いのまま炭の残骸に変化する。

鳥型のノイズが体を槍状に変え上空から襲いかかる――首を傾けることで避けられ、回し蹴りにより仲間のノイズ諸共弾け飛ぶ。

手が刃状になった人型のノイズが特攻する――振るわれる刃状の手が衝撃諸共を逃がされるかのように左脚に受け止められ、カウンターのハイキックがノイズの頭を消し飛ばす。

 

数々のノイズが全てキックホッパーに向けて攻撃を放つが全てが避けられ、脚に軌道を逸らされ、勢いを逃がされるかのように受け止められ、カウンターで全てが炭の残骸と成り果てる。

最早それは戦闘ではない、良くても蹂躙であり、駆除である。

 

「………………あぁ」

 

その光景を見て、少女は思う。

どうして自分にはあの時目の前の彼のような力が無いのか、と。

そうすれば自分は全てを失うことは無かったのに。

そうすればこんな変われ果てていなかったのに。

 

少女は目の前で戦い続けるキックホッパーを独白しながら見続けていると、最後の一匹である高さ五メートル台の巨大な首の無い人型ノイズがキックホッパーへと拳を振るう。

 

「――………チッ」

 

キックホッパーは後方宙返りを行うことで回避し、お返しとばかりにカウンターの横蹴りを放つが指を一本、四散させ消し飛ばすだけで殺すことは出来ず、ノイズは指が無くなったことを気にせず巨大な腕をキックホッパーへと叩きつけた。

キックホッパーは生半可な攻撃ではすぐに倒せないことを悟り、小さく舌打ちすると一旦後方に下がることでノイズの攻撃を避けながら距離を取る。

 

そして、バックルに差し込んである【ホッパーゼクター】のレバーに触れ、ガシャンと一気に反転させた。

 

「ライダージャンプ……ッ!」

 

【ライダージャンプ】

 

そんな機械音が流れ、瞬間――赤雷を残してキックホッパーの姿が消失した。

 

否、思わず消えたと認識してしまうほどの高速で五メートル超えのノイズよりも遥か上の上空へと跳躍したのである。

そして空中へと跳躍したキックホッパーは再度【ホッパーゼクター】のレバーに触れ、ガシャンとレバーを元に戻した。

 

「ライダーキックッ!」

 

【ライダーキック】

 

【ホッパーゼクター】の機械音と共にキックホッパーの脚から赤雷のエネルギー体が発生し、脚から腰、胸、そして頭にまで赤雷が行き渡りと瞬く間に両脚に収束、高密度の赤雷が空中を翔けるキックホッパーの両脚に行き渡り、空を見上げることしか出来ない敵対者へと地獄の牙を向ける。

 

それは例えるならば嘆きと怨嗟に満ちた禍々しい負の一撃。

 

キックホッパーの両脚に収束した高密度の赤雷のエネルギー体が高速で回転し、不協和音(ノイズ)に満ちた嘆きの狂想曲を響かせる。

 

「らぁッッ――!!!」

 

上空から急降下をも力に変えたキックホッパーの飛び蹴りが人型のノイズへと炸裂する。

ただ一秒の拮抗もなく、一瞬の抵抗も無く、キックホッパーの蹴りは人型ノイズの胸に直撃し、脚に着いてあるジャッキが衝撃を一切の拡散も無くノイズの身体に伝導させ、吹き飛ばした。

キックホッパーがキックの反動で後方宙返りし、着地すると同時に吹き飛ばされたノイズの肉体に赤雷がいくつも奔り――

 

「じゃあな」

 

――キックホッパーがノイズから背を向け数歩歩き出すと共にノイズの身体は赤雷に包まれ爆裂四散した。

 

先程までの雨が更に強くなり止まることのない水の入ったバケツを逆さまにしたような暗がりの大雨の中、紅の光が一瞬辺りを照らし出す。

先程まであれ程騒がしかった雑音(ノイズ)は消え失せ、雨音と水が流れていく音だけの環境音が戦場を優しく慰めている。

キックホッパーはバックルに差し込んだ【ホッパーゼクター】を取り出すとまるで空気に溶けるようにキックホッパーの装甲が解け、瞬く間に輝く粒子へと変換された。

 

そして、キックホッパーから元の少年に戻った少年は手から跳びのき何処かへ跳んでいく【ホッパーゼクター】を一瞥するとずぶ濡れになる己の身体を気にせず大通りから少年を見つめ続ける少女のいる路地裏へと歩いてくる。

 

「あの……ありがとう、ございます……」

「…………別に、お前を助けた訳じゃない」

 

ボソボソと掠れた小さな声でお礼を言う少女に少年は少女の方へと顔を向けず、冷たい返答を少女に送った。少女はその少年の言葉に「そう……ですか……」と呟くと顔を俯け、雨に濡れることすら気にせず塞ぎ込んだ。

まるで、此処で果ててしまいたいとでも言うように。

まるで、外界の全てを拒絶するように。

 

そんな少女を気にせず少年は少女の姿に見覚えがあったのか疑問の声をあげた。

 

「……!、お前……確かあのコンサートで居た女だろう。どうしてここにいる?何故シェルターに行かない?」

 

その言葉を聞いて少女はあぁ、そういえば……と今更ながらに理解した。目の前の少年は仮面ライダーなのだ、あの時のコンサートで戦っていたのはあの不思議なスーツを着たツヴァイウィングだけではない、少年も戦っていたのだから自分のことを知っているのは至極当然のことだった。

 

「もう……私が生きてる意味なんて無いから……です……」

 

そして、ポツリと少女は言葉を零した。

少しずつ、少しずつとまるで水滴が零れ落ちていくかのように少女は言葉を零していく。

コンサートで起こった悲劇の後、病院で目覚めたこと。

家族を安心させるために、リハビリを行ったこと。

そしてなんとか入院から復帰した先で待っていたのは迫害だけだったということ。

学校では生徒達からの拒絶と虐めを受け、家では父親が逃げ、家庭崩壊し、唯一支えになってくれた親友は知らぬ間に引っ越して居なくなってしまったということ。

関係も、家も、友達も、居場所も、拠り所も、何もかもが無くなり、失ってしまったということ。

 

一度口に出して仕舞えば止まらない、口は留まることを知らず少女の心に深く傷をつけ過ぎた忌まわしき記憶が蘇り、いつしか目尻から雨かも涙かもわからない水滴が流れ落ちていく。

もしかしたら少女は誰かにこの苦しみを話したかったのかもしれない。少女の助けに応えてくれる誰かを探していたのかもしれない。

 

「私にはっ……もう、何も無いっ!誰も助けてくれなかったっ!私の傍にいる人は皆っ!皆不幸になったっ!だったら私はっ、私なんて………っ!!」

 

――独りで、勝手に死んでしまえばいい。

 

その言葉を少女が続きを言わずとも容易く想像することが出来るだろう。

最早少女の顔はぐちゃぐちゃになる程の泣き顔に歪み、涙か雨水かもわからない水が少女の顔を汚していた。

 

きっと、これは誰かが悪いというものでは無かったのだろう。それは強いて言うならば『間が悪かった』という不幸、ただ、それだけの話なのだ。

 

あの時、ノイズが現れなければ。

あの時、コンサートに行かなければ

 

無限に存在するif(もしも)の中の一つが偶然にも成立してしまった、という唯それだけの話なのだ。

何度も絶え間無く嗚咽を漏らす少女に少年は何も語らず、聞くことに専念していた。

そして、嗚咽を漏らす少女へとさっきまでの沈黙を破るかのように口を開き――

 

 

「――お前はいいよなぁ……そうやって泣くことが出来て………」

 

 

――そう、言った。

 

その言葉に、少女の思考に空白が生まれた。

 

それは決して同情や憐れみなどでは一切ない。

ただただ、純粋な嫉妬。

 

「………………………え?」

 

そして、疑問の声を上げ嗚咽を漏らしていた少女が顔を上げることで漸く少女は気づいた。

少年の、瞳に。

 

混沌でありながら空虚。

 

少年の瞳は一言で言えばそう表現するしかなかった。

怒り、悲しみ、憐れみ、苛立ち、諦観、拒絶、否定、虚無、etc、etc……最早あらゆる負の感情を詰め込み、混ぜ込んだのではないかと思える程の形容できない深淵の闇でありながらその瞳はどうしようもなく()()()()()

 

そんな矛盾している眼を持った少年を見て、少女は悟る。

 

(………………同じだ、私と………)

 

少年の眼は少女の眼と決して同じものではなかったが近しいものだった。

そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()瞳だったのだ。

 

「………俺は、涙なんてものはとっくの昔に枯れ果てた………」

 

そう言って少年は嗤った。

呻くように、悲しむように、嗤って、嗤って、嗤って、嗤う。

 

そしてひとしきり笑った後、ジロリッと少年は少女を見つめた。

その行動に少女が僅かに身体を硬直させるがすぐさま目を伏せて少年から視線を外してしまう。

だが、次の少年の一言で無意識に再度少年へと視線を戻してしまうこととなる。

 

 

()()()()()()()()()()

 

「………………………………え?」

 

少女は自分の呼吸が止まったのかと錯覚した。

殺す?ノイズを?私が?どうやって?

 

少女の脳内に幾つもの疑問が出現すると共に駆け巡り、混乱をもたらした。

 

「お前がノイズを憎み、殺す力を求めるならその力を手に入れる手助けをしてやる。どうする?」

「…………ちか、ら?」

 

少年の言う言葉が少女の心に反芻し徐々に染み渡っていく。それはまるで和紙に落ちた水滴がじわじわと広がっていくかのように。

少年は少女へと手を差し伸べるようなことはせず、ただ座り込んでいる少女と同じ目線になるようにしゃがみ込み、泥に汚れることすら気にせず言葉を紡いでいく。

 

「そう、力だ。だが、妙な期待はするな。あくまで俺がするのは手助けでしかない、力を手にできるかどうかはお前次第だ。手に入れられない可能性も当然あり、最悪――」

 

――死ぬことになる

 

言外にそう言った少年の言葉に少女は言葉を詰まらせ、逡巡してしまう。

だが、その躊躇は一瞬、少女はさっきまでの濁った空虚な瞳とは違い、僅かに光が灯った瞳で少年を見つめた。

 

「………貴方に着いていけば……私はノイズを殺せ……ますか?」

「さぁな。言っただろう、妙な期待はするなと。手に入れられるかどうかはお前次第だ」

 

少女の質問に少年は淡々と返答しながら少女へと手を差し出した。

それは、まるで一つの契約であるかのように。

互いに契りを結ぶかのように。

 

「代わりにお前、俺の――」

 

雨音が少年の言葉をかき消す程に更に強くなっていく。

少年が少女へと言葉を紡ぎ、それを聞いた少女はゆっくりとしかし確かに少年の手へと手を伸ばしたのだった。

 

 

ザーッと収まることなく振り続ける雨の中、少年は少女を背負いながら大通りを歩いていく。背負われている少女は身を投げ出すように少年へと体を預け、今にも眠ってしまいそうな焦点の合わない瞳を彷徨わせている。

 

「そういえばお前の名前をまだ聞いていなかったな。お前、名前は?」

 

少年の言葉に少女は少年の背中につけていた顔を僅かに上げて、雨音にかき消されそうな声で呟くように言った。

 

「………()、『()()()』。貴方は………?」

「……想司、『矢車想司(やぐるまそうじ)』だ。矢車でも、想司でも、好きに呼べ」

 

少女、響が尋ねた言葉に少年、想司は少女の体を背負い直しながら少女の質問に答える。

その言葉に少女は小さくしかし少女にとっては久し振りに頰を緩ませながら言った。

 

「………じゃあ、『お兄ちゃん』って呼ぶことに……する……」

「……おい、待て立花。確かに『俺の妹になれ』と言ったのは俺だがいきなり兄呼びはどうかと――」

「………私も響で……い…い……」

「おい、聞け!立花!おいっ!」

 

そう言ったっきり響はスイッチが切れる様に意識を失い規則正しい呼吸をしながら微睡みに落ちた。恐らく余程疲れていたのだろう、想司に出会うまで精神をすり減らしながら何処に行けばいいかもわからないまま彷徨っていたのだからある意味当然なのだが。

 

――俺の妹になれ。

 

それがあの時、想司が響に言った言葉だった。

互いに全てを失った者だから、どちらも居場所()を失ってしまった者達だから。

 

だからこそ想司は響を妹にさせたのだがそれはあくまで少女にとっては利用するだけの関係の筈だ、想司にとって『お兄ちゃん』呼びは流石に予想外だった。

もしかしたら、この少女も暖かい居場所が、傍に居てくれる誰かが欲しかったのかもしれない。

 

――――兄貴っ!!

 

嘗ての記憶から聞こえる懐かしさを感じる声を思い出して、想司は苦々しく表情を歪めた。

だがそれは一瞬のこと、すぐさま普段の表情に戻り響を背負いながら歩き出す。

路地裏の光の差さない闇の中へと。

 

「行こう()。光の差さない地獄へと」

 

そう呟いて想司は雨の止まない夜の中、響を背負って闇の奥へと消えて行った。

 

◇◆◇

 

そして流れるように時が過ぎて、2年後。

 

辺りは暗くなり、建物から幾つもの明かりがついて薄暗い夜を輝く夜景へと色変わりする中、灰色のパーカーを着た一人の少女がビルの上でしゃがみこみながら夜景を眺めていた。

 

少女の名を、『立花 響』

 

嘗ての惨劇により全てを失った少女は15歳となった今でも、兄と呼ぶ少年によって手に入れた力を振るい、ノイズを殺し続ける日々を送っていた。

何も喋らず、無言で夜景を見続ける響の瞳に映る感情は嫉妬か、それとも憧憬か、はたまた恨みか。響自身にも分からないし理解しようともとも思わなかった。

 

「おい、響」

 

そして、そんな響へと片手に二本の飲み物を持った少年が屋上へと繋がる非常階段を登って響へと声をかけた。

 

少年の名を『矢車 想司』

 

響が兄と呼び、慕う少年想司が響へと橙色の液体が入っている飲み物を渡した。

 

「ほらよ」

「……ん、ありがとう。お兄ちゃん」

 

響は想司にお礼を言いながら飲み物に手を伸ばし、キャップを捻って蓋を開けカラカラになっていた喉を潤した。

想司も己の飲み物である缶コーヒーを開けて、グビグビと飲み干していく。

 

「……街を見ていたのか」

「……うん」

 

缶コーヒーを口から離し、呟く想司の言葉に響は小さく頷いた。

 

「懐かしいのか?」

 

嘗て(そこ)にいた自分が。

そう尋ねる想司に響は首を振りながらあっさりと否定した。

 

「――別に?ただ、綺麗だと思っただけ」

「……そうか」

 

響の淡々とした言葉に想司は何を思ったのかそれ以上触れることなく小さく納得の言葉を呟いて、黙り込んでしまう。

 

そして訪れる沈黙。

 

その沈黙は数分続いたものの互いの飲み物が空になってきた時に破られることとなる。

 

「―――ッ!……ノイズが現れた。近いな、南西200mだ」

「……いつも思うけどお兄ちゃんって、どうしてノイズの出現場所がわかるの?」

「勘だ」

「………………そう、わかった」

 

そうさも当然とばかりに立ち上がり呟く想司に響は一瞬、怪訝そうに見るがまぁいいかとでも言うように頭を振り、飲み物を置いて、立ち上がった。

 

「それじゃあ、早く行こう。ノイズを殺さなくちゃ」

「あぁ、そうだな。響、ホッパーゼクターはどこだ?」

 

そう尋ねながら想司は左手を出すと、響は此処とでも言うように自分のフードに指を指すと響のフードがもぞもぞと動き、そこからピョコとでも言うように【ホッパーゼクター】が顔を出した。

それを見て、想司が【ホッパーゼクター】に向ける視線が冷めたものに変化した。

 

「……何故、フードの中にいる?」

「さぁ?お兄ちゃんがホッパーゼクターを持ってろと言ってたから適当に置いてたらフードの中に……」

 

そう心底不思議そうに言葉を零す響の言葉を聞いて想司の【ホッパーゼクター】を見る視線の温度が更に低下する。【ホッパーゼクター】はその視線に耐え切れなくなったのか知らないがフードから想司の手の中へと跳んで来た。

 

「………まぁいい、さっさとノイズを殺すぞ。――変身……」

「うん。――『Balwisyall Nescell gungnir tron』」

 

【HENSHIN】

 

瞬間、二人の姿が変化する。

 

響の背中から機械と歯車で構成された翼のような何かが幾つも生えては心臓の鼓動に合わせて響の体に戻っていく。

それは正しく力の鼓動。

 

心臓の鼓動に合わせて響の内側から不可視の力が生成され、光となって響の体の各部分に集まり、収束し、響を少女から一人の戦士へと変化させていく。

 

そして、力の鼓動が終わると共に一人の戦士が現れる。

 

それは正しくこの世の雑音を殺し、歌を纏う常人を超えた存在。

 

響の体を覆うように橙色のメインに()()()と白色に彩られた装甲が少女を覆っており、両腕にはハンマーパーツが装着されたガントレットが装着され、足にはブーツ型のユニットが付けられている。

頭部には左右に角のように天を頂くヘッドギアが生み出され、響の首元には夜風に靡くマフラーが形成されていた。

 

その力をノイズに対抗できる力『シンフォギアシステム』であることを少女は知らない。

 

──FG式回天特機装束。通称、シンフォギア。

 

詳しい説明を避けるが簡潔に言うと、響が使うこの力は三つの特徴がある。

一つは、ノイズの炭素変換を無効化するバリアコーティング機能

二つ目はシンフォギアから放たれる特殊音波でノイズを強制的に実体化させる調律機能。

最後は、シンフォギアを装着した者──『装者』が歌うことによってポテンシャルが上がる特殊機能。

 

要はノイズの倒すことができる兵器と思ってくれればいい。

 

【Change Kick-Hopper】

 

同じく緑色の装甲を纏いキックホッパーとなった想司と比べてみるとまるで響が拳で想司が蹴りとでもいうように二人は綺麗に対比していた。

二人は互いを見ると、コクりと頷いた。

 

「行こう、響。この……光のない地獄の中を」

「お兄ちゃんとなら……どこへでも」

 

変化した深緑と橙の戦士はある場所を目指して夜空を翔けていった。

 

 

この物語は

 

 

「嘘だろ!?なんで……私のガングニールが!?」

「……これ、ガングニールって言うんだ。まぁ、別になんだっていいけど」

 

 

全てを失った少女が

 

 

「馬鹿なッ!何故貴様の傷口は炭化しているッ!まさか、まさか貴様は――!!」

「……どうせお前も……俺を馬鹿にしてるんだろう?」

【ライダーキック】

 

 

やさぐれた一人の少年と出会い、

 

 

「じゃあな、立花響。お前との兄妹ごっこはおしまいだ」

「お兄ちゃんッ!!?」

 

 

地獄を彷徨いながら

 

 

「俺の邪魔をするなッ!!響ぃ!!」

「お兄ちゃんは死なせない。私が止めるッ!――変身ッ!!」

 

【HENSHIN】

 

【Change Punch-Hopper】

 

 

様々な戦いを駆け抜け

 

 

「そうだっ、二度と失わない。たとえ地獄に落ちても()だけは消させてなるものかッ!!――変身ッ!」

 

【HENSHIN】

 

「キャストオフッ!」

 

【Change Beetle】

 

 

光を見つける物語。




続かない。

ちなみに奏は生きてます。

【人物説明やクロスした作品の説明】

『矢車想司』

本作の主人公。理由は不明だがやさぐれおりハイライトが消えている。
ノイズが現れるところに現れ、【仮面ライダーキックホッパー】となって殲滅させている。オリ主にしたのは地獄兄貴を描写するのが難しかったから。
顔つきは日本人らしいが戸籍は存在せず、親もいないため全くの正体不明の人物。
何故キックホッパーになれ、本来触れられないはずのノイズを殺すことができるのか?その技術はどこから手に入れたのか?彼は一体何者なのか?この物語は基本的に主人公の過去を判明させていくながれなる。(設定上は何者か決まっている)

『立花響』

『戦姫絶唱シンフォギア』の主人公、原作では空気を読まない元気いっぱいのギャルゲーの主人公みたいな性格なのだが、本作では原作の平行世界の響、通称『グレビッキー』と呼ばれる少女。支えてくれる人がいなくてノイズに殺されかけたところを主人公に救われ、兄妹となった。ぶっちゃけ依存している。
心臓付近に聖遺物『ガングニール』の破片が埋まっており、そこからシンフォギアとしての力を引き出している
ちなみに二年経って戦い続けても聖遺物に体が侵食され、異形の存在になり果てないのは想司が持たせたホッパーぜクターが関連しているようだが詳細は不明。
もし仮に連載すればパンチホッパーになる可能性がある子。

『戦姫絶唱シンフォギア』

ガチで()()()()()()()少女達が殴ったり斬ったりして戦う物語。作者はアニメを見ていないからあまり知らない。
ところで歌っているのにどうやって会話しているのだろうか?

『仮面ライダーカブト』

一言で言えば人間に擬態する『ワーム』という化物とライダーが戦う話(ただし戦う速度は戦っている人たちからすれば周囲が停まっていると感じるレベルで早い)

『仮面ライダーキックホッパー』

地獄兄弟の兄、『矢車想』という最初は『ZECT』という仮面ライダー(作中ではマスクドライダー)を開発し、日々ワームと戦う組織で働く優秀な完璧主義者がとある理由で行方をくらまし、やさぐれた状態で再度登場した時に変身した姿。蹴りに特化したライダーであり『矢車』は作中で蹴りだけで戦い、作中ではキックホッパーで()()しか敗北したことがないという戦績を持つ。

『ホッパーゼクター』

体の半分半分が深緑色と茶色に分かれたバッタの形状をした変身道具。無骨なベルトのバックルが開かれた部分に差し込むと緑色の方を外側にすると蹴り主体のキックホッパーに、茶色側に差し込むと拳主体のパンチホッパーになる。変身すると気にどこからか跳躍を繰り返し現れる。まさかの作中でどうやって手に入れたか()()も描写されていない謎の変身道具。
この物語では基本的、ビッキーのフードに隠れているマスコット。けしからん。一応想司が変身するときは跳んでくるため自分の役目は果たしている模様。


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