なお当の夜見さんと寿々花と清香は当たらなかった模様。悲しい。
後書きは最後に夜見さんが結芽に言った言葉です。
五月末の親衛隊執務室。
「ウェディングドレスを着た刀使の撮影……って、去年私もやった雑誌のお仕事?」
燕結芽は目の前にいる獅童真希に尋ねる。
「ああ。前回のが好評だったから今回も是非に、とね」
特に結芽、君のがね。と言った真希の言葉に、結芽は頬が緩む。
「えっへへ……それで、今回も私がやるの?」
「いや、今回は前回とは違うメンバーだ」
「そうなの?」
――なんだ、つまんないの。
またあの衣装を着れるかと楽しみにしていただけに、結芽は少し面白くないと思ってしまう。
と、執務室の扉が開かれた。
「ただ今戻りました」
「無事、任務完了ですわ」
姿を見せたのは皐月夜見と此花寿々花だ。
「ああ、お帰り二人とも」
「あら? 真希さん、それはなんですの?」
寿々花は真希が手にしている資料を覗き込む。
「結芽にも話したんだが、ウェディングドレスを着た刀使の撮影の仕事の依頼があってね。これはその資料だよ」
「去年、燕さんが参加したあれですね」
「今年は違う人がやるんだって」
「そうですか……」
真希が持っているのと同じ資料を寿々花も手にして読み進めていく。
「今回参加するのは……柳瀬舞衣、古波蔵エレン、六角清香、播つぐみ、長崎澄、下石井千夏……この小池彩矢さんと言う方は……?」
「ああ、彼女は資料にもある通り平城の生徒なんだが、今は御刀を返納していて刀使じゃない。だけど今回の撮影でどうしても、と先方からね」
「そういう事でしたのね。……あら? わたくしと夜見さんの名前もありますわ」
資料に夜見の名前がある、と耳にした結芽がピクリと僅かに反応する。
「私もですか」
――夜見おねーさんのウェディングドレス姿……。
「二人も是非とも、とお願いされてね。去年、結芽が参加したのが切っ掛けでボク達親衛隊もこの手の依頼が増えているよ」
苦笑いを浮かべながら真希が答える。
「そ、その……真希さんは?」
「ボクは生憎、この手の衣装を着る仕事はなくてね……。まぁ、こんな綺麗な衣装はボクには似合わないだろうけど」
「真希おねーさんはドレスよりタキシードのが似合うからじゃないの~? ね、寿々花おねーさん!」
「そ、そうですわ! 真希さんはタキシードでわたくしの隣――な、なんでもありません!」
「……?」
話を振られて余計な事まで口走りそうになった寿々花を横目に、結芽は資料をジッと見つめる夜見に目を向ける。
その視線に夜見はすぐに気付いた。
「どうしましたか、燕さん」
「夜見おねーさんもウェディングドレス着るの楽しみなのかなって」
「いえ、特には」
普段通り表情も変える事無く淡々と返す。
「むー……夜見おねーさんなら凄く似合うと思うんだけどなぁ」
「そうでしょうか」
「そーだよっ!」
にっと笑顔を浮かべる結芽の言葉に、夜見は「そうですか」と返して再び資料に目を落とした。
「あぁそうだ。その撮影日だけど、ちょうどボクと結芽の予定も空いてるよ」
「っ!?」
「ホント!?」
真希がそう言うと、寿々花と結芽がそれぞれ反応を見せる。
「急な出動が無い限りだけど、ボク達も見に行こうか、結芽」
「やったぁー!」
――夜見おねーさんどんな感じになるかなぁ。楽しみ!
「真希さんがわたくしの花嫁姿を見に……これは気が抜けませんわ……」
などと寿々花は一人で静かに決意していた。
× × ×
撮影日当日。
今日の撮影のスタジオになっているチャペルに来た結芽と真希。
「おっきぃ~っ!」
チャペルの大きさに、今日の事が楽しみで元々高かった結芽のテンションが更に上がる。
「去年の結芽の撮影も似たような所だったじゃないか」
「そうだっけ? まぁいいや!」
結芽はそう言うと待ち切れずに走って行き、大きな扉を開けて中へと入って行く。
「真希おねーさんも早くー!」
「結芽、あまり騒いで撮影の迷惑にならないようにするんだぞ」
「分かってるよっ!」
真希は「やれやれ……」と言って、結芽の後を追うようにチャペルへと足を踏み入れた。
「あっ、寿々花おねーさん!」
先にチャペル内へと入った結芽は、まず寿々花を発見した。
「あら、結芽。来ましたのね」
「うんっ! わぁ……寿々花おねーさんのドレス綺麗!」
マジマジとウェディングドレス姿の寿々花を見る結芽。見られている当の寿々花は少し顔を赤らめる。
「流石に少し恥ずかしいですわね……」
「とても似合っているよ。寿々花」
「ま、真希さん!?」
真希から突然声を掛けられて寿々花は驚く。
「パーティーの時みたいなドレスも似合ってたけど、こういった物まで着こなせるのは流石だね」
褒める真希の言葉に、寿々花の頬がより赤くなっていく。
「うぅ……」
――なんか邪魔しちゃ悪そうだし、夜見おねーさん探しにいこーっと!
にやにやしながら二人の様子を見ていた結芽だったが、まだ姿を見ていない
「ここにいるかな?」
結芽は何人かの刀使と撮影スタッフが行き来している部屋に入る。ここで今回の撮影をしているようだ。
と、その中の一人を見て結芽は息を呑んだ。
「……燕さん」
その声にハッとする。
「夜見おねーさん、だよね……?」
「燕さんには、私が別の方に見えるのですか?」
目前までやって来た人物は、確かに結芽が探していた夜見本人である。
「そ、そーじゃなくてっ! その、夜見おねーさんがとっても綺麗で……」
「そうでしょうか」
「そうだよ!」
この撮影の資料を読んでいた時と同じように淡々と返す夜見に、つい結芽の語気も強くなってしまった。
――でも……。
「燕さん?」
ウェディングドレス姿の夜見を見て、ふと結芽は考える。夜見の声にも気付かないほどに。
――いつか、こんな夜見おねーさんの隣には、私じゃない他の誰かが立ってるのかな……それはなんだか――
「嫌だな……」
今回は雑誌の撮影で着ているが、もしもこの先、夜見に伴侶となる人が出来て、本当にウェディングドレスを着る日が来るかもしれない。
もしかするとその時を結芽は見られない可能性もある。だが問題はそこではない。
――どこの誰かも知らない人が、夜見おねーさんの隣にいるなんて――
「皐月さーん! 次、お願いしまーす!」
夜見を呼ぶスタッフの声に、つい考え込んでいた結芽は驚く。
「はい」
返事をした夜見だったが、そのまま向かわず結芽に近付いてくる。
「夜見おねーさん……?」
その瞬間に結芽が見た夜見の表情は、一瞬ではあるが僅かに微笑んだようだった。
「燕さん――」
「っ……!」
夜見は結芽の耳元で何かを囁いた後、撮影のために自身を呼んだスタッフの方へと歩いて行く。頬を赤く染めた結芽を残して。
――燕さん以外を隣に立たせるつもりはありません。
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