消えたバラのお茶会。マカロンを添えて。 (かしうり)
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消えたバラのお茶会。マカロンを添えて。

軽率にラブコメibを書いたと思ったんだ。そしたら珍妙なシリアス短編ができていたんだ。
不思議だろう?不思議だなぁ。


ある日晴れた昼下がり、ぼろいコートを着て、自宅の整理を慌しくする男が一人。

頭はなすびのような紫色をしていてわざと一部だけ残したような藍色の髪の毛がヘタを連想させ茄子をより彷彿させる。

 

「ってぇ!?どこのどいつよ!私の髪の毛が茄子みたいとか言ったやつぅ!?」

 

失礼。ギャリーはいつもの着こなしで部屋の中を掃除していた。

曰く、かのゲルテナ伯の美術館にて起きた怪奇を共に乗り越えた少女、イブとの幾ばく目のお茶会。

その開催に先立ち、ギャリーは休日にしては早起きをし、少々汚い自室を整え、昼までに美味しいお茶菓子(主にマカロン)を買ってきて紅茶を作る準備をして、少し考え事をしながら待つ。

果たしてイブは喜んでくれるのか。この部屋はいいとこ育ちのイブには汚く映らないか。今日の髪形もいつもと変わらないか。など。つらつらと多くのこれからのお茶会のことについて考える。

「はぁ・・・。それにしても、ホントよくお父様とお母さまが許してくれたわよね・・・」

これから一緒にお茶を飲むイブという少女は小学生だ。いわばロリに当たる。そんな彼女の両親がよく大学生くらいのオネェ口調の胡散臭い男と遊ばせてくれるものだとギャリーはしみじみと感じる。

しばらくそんな時間が続き、デジタル時計の表記が13:00になろうとするころに呼び鈴がなる。彼女が、イブが来た。そう思ってはーいと大きな返事をして、ドアを開ける。

「・・・こんにちは、ギャリー。」

ドアを開けると予想通り彼女とそのご両親がいた。焦げ茶色の髪。紅い目。白いシャツに赤いスカートを着て少しぼーっとしている女の子。イブだ。

「えぇ!こんにちはイブ!待っていたわ!それとご両親もいつもありがとうございます。」

そう返し、イブのご両親に頭を下げる。これも幾度となく繰り返された社交辞令のようになっているがそれでもしっかり感謝を込めて頭を下げる。

「いえ、こちらもいつも戻ってくるとイブが楽しそうに話してくれるのでいつも笑顔で送り出せますよ。」

と朗らかに笑うイブのお父さんに、

「えぇ。イブったら今日も早く行こうと私たちをせかして「おぶぅっ!?どうしたんだいイブ!?」・・・あらあら。」

少し茶化そうとして笑うお母さん。少し照れ臭そうにお父さんに綺麗なボディブローをかますイブ。・・・いやあれはやりすぎよ。完全にみぞおち入ってたわ・・・。

「いこ。ギャリー。」

そう急かしてくるイブに引きずられながらでは、とドアを閉める。

そうしてお茶会が始まる。

イブに紅茶をいれて、お菓子を取り分ける。

本日のラインナップはマカロンとマカロン(大事)とクッキー。二人で対面に座り、お茶を飲み始める。そこで二人で様々な近況を話したり、少し席を離れてゲームを二人でやってみたりする。

その中でイブが楽しそうにしているのを見てただひたすらに微笑ましい。アタシにとって彼女は妹のような存在だ。彼女がアタシを少なくとも兄のように思っていてくれたらいいのだけど。そして何よりあの美術館で起きた悪夢を少しでも忘れてくれたら、なんて思いでこのお茶会を続けている。

アタシとイブは美術館の中で出会い、さまざまな苦難を乗り越えた。でもその代わりに美術館という言葉や何かが飾ってあるときに恐怖や動くんじゃないか、という懐疑心をどこかでアタシ達は抱くようになってしまった。イブは特に。彼女は何かが展示されている、飾ってあるということに酷く恐怖を覚えるようになってしまった。いつかそれが反抗するのではないか?いつか自分を陥れようとするのではないか?そういった恐れを常に抱いて生きている。そんな彼女に寄り添えるなら、何か助けになるなら。そう思って。

最初はそれは酷いものだった。テレビすら見れない。小綺麗に並べられた食べ物すら無理。

ご両親も手が付けられずに居たらしく、困り果てたとこに私の連絡先をご両親にイブが教えて、今のような流れになった。アタシもその頃は無理だった。ゲルテナという言葉を聞くだけで吐き気がしたし、写真や肖像、バラを見るたびに目を瞑って走って逃げていた。でもイブと再会し、マカロンを食べに行ったりして、社会に適合してきている。ここまで戻ってくるのに何時だって二人だった。だから、こんなことが起きたのだろう。

気が付けばアタシはイブに押し倒されていた。イブの顔を見つめると少し悲しそうな顔をしている。何がそんなに悲しかったのだろう。

「・・・イブ?」

そう問う。反応はそんなに期待してはいない。イブが話したいタイミングで話してもらうのが一番だからだ。

「ギャリー・・・。私は怖いの。いつか、元に戻って、全部元通りになったらギャリーともお別れなんじゃないかって。それだけは嫌・・・。そうなる前に、何かしたくて・・・。でも・・・どうすればいいか・・・わかんなくて・・・。ごめんなさい。」

彼女の独白。寂しさと恐怖が入り混じったイブの告白。アタシはイブを抱きしめる。

「大丈夫。確かにいつかアタシとイブはお別れするかもしれない。」

イブのアタシを掴む力が強まる。

「でもね。そうなる方が実はいいの。いつまでもあの美術館でのことを引きずっていられないでしょ?きっと忘れるための最後の方法はイブと会わなくなることなんでしょうけど・・・。アタシも今のところムリ、ね。一人で立ち直れる自信はないわ。」

イブが驚きの表情をしてアタシを見る。

「だから、これはアタシも同じなの。一緒にこれを治して。いつか他のみんなと笑えるように。ずっと外に出れないメアリーのためだとも思って。頑張りましょ?」

メアリーは燃やした。だからもういないがきっと彼女だってゲルテナの被害者。それを弔うくらいはしてやってもいいと思う。イブにそういいながら笑顔を見せると、

「・・・うんっ!」

イブも笑顔を見せてくれた。

「じゃあ、お茶冷めちゃっただろうし入れ直すわね。ちょっと待ってて?」

そういいながらイブを抱きつつ立ち上がり椅子に座らせ、ティーポットをもって台所に向かおうとする。すると、

「ギャリー。私も手伝う。」

そういいながらアタシのそばを歩くイブ。

アタシは苦笑しつつじゃあ、お願いしようかしらなんて頼んでみる。

 

お茶会は、まだ始まったばかりだ。

 



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