盾(ガードベント)の勇者(元懲役10年脱獄囚)の成り上がり(成り上がるのはどうでもいい) (獄卒盾勇者)
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脱獄勇者爆誕

 


 (…どういうことだ?)

 

 蛇の皮を用いたと思われる衣服に、獲物を睨み付けるように鋭い目。髪の色は金色だが艶がなく、くしゃくしゃな男、浅倉威が意識を取り戻したとき、彼の頭によぎったことは様々な体験だった。

 因縁の相手である仮面ライダーゾルダと戦い勝ったと思ったら、中身は憎き北岡弁護士ではなくその助手の由良吾郎で、イライラが頂点に達し警官隊に突撃かまして銃殺された記憶。

 黒色に変色した仮面ライダー龍騎に合体したモンスターを殺され、ブランク体に戻された挙句、かつてイライラして殺した女の妹に止めを刺された記憶。

 自分を含めた多人数のライダーで取り囲んで殺そうとした城戸真司にまさかまさかの逆転をされ敗北した記憶。

 犯罪者とはならずちょっと柄が悪い一般人として生き、城戸真司のスクーターを足にぶつけたくらいしかライダーバトル常連と関りがなかった記憶。

 不思議なことにその全てが誰かに植え付けられたとかではなく自分自身が間違いなく体験したことであると言えるくらいに違和感がなかった。

 

 ふと辺りを見回せば、目の前にはガキが三人とローブをまとった男、彼らも自分と同じ人間のようだ。

 今回のライダーバトル参加者はこいつらかと考えるが、ここはミラーワールドという訳ではないと感覚が訴えていた。

 

このまま立っていてもらちがあかないと踏んだ浅倉はまず状況を尋ねてみることにした。

 

「おい、ここはどこだ?」

 

 「おお、勇者様方ッッ!この世界をお救い下さいッッ!!!」

 

 「「「「は?(アァ!?)」」」」

 

 ローブ男以外状況の分からない4人は声を揃えてそう答えるしかなかった。

 

「それはどういう意味だ?お前が今回のライダーバトル主催者か?」

 

「(ライダーバトル?)…色々と込み合った事情があります故、ご理解する言い方ですと、勇者様達を古の儀式で召喚させていただきました。」

 

「召喚だと?」

 

 召喚という言葉を耳にして、浅倉は思考を巡らせていく。召喚とはとどのつまり、何処かから呼び出されたという事であろう。普通ならば一笑に付すであろうが、浅倉に限ってはそうではない。

 話すと長くなるが浅倉はかつて現実世界とは異なる世界であるミラーワールドと呼ばれる世界でデスゲームをやっていた記憶があったためそういったことに対する耐性はあるほうだった。

 しかしながら浅倉にも疑問に思う部分はあった、何せ今回ここに自分を呼び出したのはいつもの神崎士郎でもなければ名前も知らない女(ジオウ参照)でもなく、全く見知らぬローブをまとった男だったからだ。 

 だが、こんな非常識なことを行う行事はライダーバトル以外には無い。つまりはこいつが今回のライダーバトルの主催者なのだろうか、そんなことを考えているとローブ男が再び口を開いた。

 

「この世界は今、存亡の危機に立たされているのですッ!勇者様方、どうかお力をお貸しくださいッッ!!」

 

 ローブを着た男は頭を深々とさげて4人にお願いする。

 

「嫌だな。」

 

「そうですね。」

 

「元の世界に帰れるんだよな?話はそれからだ。」

 

 ローブを着た男の願いに対して3人はこう答えた。

浅倉は特に何も言わずチラリと3人の顔を見やると、それぞれに不敵な笑みを浮かべていた。

 

 (ほう、こいつら口ではあんなこと言ってやがるがライダーバトルには意欲的のようだ。少しは楽しめそうだな。)

 

 …ついでに盛大な勘違いをしていた。

 

「人の同意なしでいきなり呼んだ事に対する罪悪感をお前らは持っているのか?」

 

 剣を持った、見るに恐らくは高校生くらいの男がローブを着た男に剣を向ける。

 

「仮に、世界が平和になったらっポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですしね。」

 

 弓を持った男も同意して、ローブを着た男を睨みつける。

 

 「こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ? 話によっちゃ俺達が世界の敵に回るかもしれないから覚悟しておけよ。」

 

 槍を持った男が槍を構えながらそう続ける。

 

 「なんでもいいがとっとと始めさせろ。…待たされるとイライラしてくる。」 

 

 イラついた雰囲気を漂わせた浅倉がデッキを構える。

 

 

「ま、まずは王と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします。」

 

 ローブを着た男達の代表が、重苦しい扉を開けさせ道をを示す。

 

「.....しょうがないな。」

 

「ですね。」

 

「ま、どいつを相手にしても話は変わらないけどな。」

 

 3人はそう言いながら着いていき、浅倉も後を追った。

 

それから浅倉達は薄暗い部屋を抜けて、石造りの廊下を歩いていた。

そして窓から見える風景に浅倉は唖然とする。

 

 (おいおい、マジでここはどこなんだァ?)

 

 どこまでも空は高く、中世ヨーロッパの様な街並みが広がっていた。明らかに今までのミラーワールドとも現実世界とも違っていた。そんな街並みに長く目を向ける暇はなく、謁見の間に到着した。

 

「ほう、こやつ等が古の勇者たちか。」

 

 値踏みする様な視線に、どこか見下している様にも感じられる視線に浅倉はイラついたが、神崎士郎も大差ないかと思い平常に戻る。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ顔を上げいッッ。」

 

 威厳に満ちた...というよりは尊大という方が近い様子で話す王。無論浅倉は顔を下げてもいなかったので上げる必要はなかった。

 

 

 

「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向かいつつある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

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「終末の予言に、次元の亀裂……まさかライダーバトルじゃねーのか?」

 

 

 

 王の話をまとめると、まずこの世界には終末の予言なるものが存在するし、予言によれば、いずれ波というものが幾重にも繰り広げられ、その波の齎す災害を退けねば世界が滅ぶという。

 その予言の年が今年であり、予言の通り古より存在する龍刻の砂時計という道具の砂が落ち出した。この龍刻の砂時計は波を予測し1ヶ月前から警告するという機能を持っているらしい。

 そして1つの波が終わる度に1ヶ月の猶予が生まれ、また襲いくるという。そうなると次元の亀裂がこの国メルロマルクに発生し、凶悪な魔物(ミラーモンスターではない)が大量に亀裂から這い出してきたという。

 …見事なまでにライダーバトルのラの字も出ない説明に浅倉はとうとう理解する。自分はライダーバトルではないなんかよく分からない場所に連れてこられた挙句、害獣退治をしろと言われているということだと。

 

「話は分かった。で、召喚された俺達にタダ働きしろと?」

 

「都合の良い話ですね。」

 

「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ。」

 

「ぐぬ……」

 

「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です。他に援助金も用意できております。ぜひ、勇者様たちには世界を守っていただきたく、そのための場所を整える所存です。」

 

 それを聞いた、浅倉以外の3人は小さくガッツポーズをする。一方浅倉は存分な報酬というところにピンと来る。

 

「では勇者達よ、それぞれの名を聞こう。」

 

「俺の名前は、天木練。年齢は16歳、高校生だ。」

 

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ。」

 

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生です。」

 

 …話を聞いてとりあえず言えることはこいつら龍騎やゾルダ程自分を楽しませてくれるのは期待しないほうがいいかもしれないということだ。

 

 そして最後になった浅倉は気だるそうに自己紹介をする。 

 

 「浅倉猛、25歳。おい一つ聞きたいことがある、さっきの報酬云々の話だが…」

 

 「ん?」

 

 「波だかモンスターだか知らんがとにかくぶっ殺せば、報酬が貰えるんだろ?」

 

 「ああ、もちろんだ。」

 

 「だったら、その時は俺をもとの世界に戻してライダーバトルを再開させろ。今度こそ北岡や城戸をこの手でぶっ殺す。」

 

 浅倉は連続殺人犯のごとく凶悪な人相を浮かべて王に問いかける。王は困惑したかのようにそれに返す。

 

「……あいにくだがその方法は無い。再召喚するには全ての勇者が死亡した時のみだと研究者は語っておる。らいだーばとる…だったか?そちらについては聞いたことすらない。」

 

「……なんだって!?」

 

「そんな……」

 

「う、嘘だろ……」

 

 まさかの事実に浅倉以外の3人は王の言葉に狼狽えながら、そう呟くしか出来なかった。そんな三人を無視して話を続ける。もしこれが普通の浅倉だったらイライラが頂点に達し、すぐに王をぶっ殺そうとしていただろうが、今の浅倉は犯罪者にはならなかった世界線の記憶と経験もあったため少しは冷静になれた。

 

 「話にならんな…イライラさせやがる。もういい、確かモンスターは次元の亀裂から出てくるとか何とか言っていたがそれは本当か?」

 

 「ああ、研究結果でもそうなっておる。そこは確かだ。」

 

 「だったらそれを利用する。それまでの飯と寝床、それぐらいは用意できるな?」

 

 「…無論だ。」

 

 そんなこんなで話はいったん纏まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視してもらいたい。」

 

 

「ステータスだと?どうやって見るんだ?」

 

「何だ、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」

 

 練が呆れた表情を浮かべながら、そう答える。浅倉はイライラが貯まった。

 

「何となく、視界の端にアイコンがないか?それに意識を集中する様にしてみろ。」

 

 練に言われるがまま視界の端にあるアイコンに意識を集中する浅倉、すると軽い電子音がしてブラウザの様な画面が大きく視界に映る。

 

 

『名前 浅倉武

 

職業 盾の勇者 Lv1

 

装備 仮面ライダーガイ

  ・ストライクベント メタルホーンを召喚 2000AP

  ・コンファインベント 相手の効果を無効にする

  ・アドベント メタルゲラスを召喚 4000AP

  ・ファイナルベント ヘビープレッシャーを発動 5000AP

 

スキル 仮面ライダー王蛇 悪食 ????

 

魔法 無し』

 

 

「Lv1ですか.......これは不安ですね。」

 

「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな。」

 

「と、いうよりも、なんなのだコレは?仮面ライダーガイ…そういう名前の盾なのか?APって何?何のステータス?」

 

「この世界には存在しないステータスですね。おそらくらいだーばとるだか何だかに関係するものでは?」

 

 浅倉のステータスを見た一行は興味ありといった感じに各々の意見を述べる。一方浅倉は特に興味無さそうにこれからのことを聞く。

 

「それで、これからどうすれば良いんだ?」

 

「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです。」

 

「つまり今まで通りモンスターや人間を殺して強化すればいいって訳か。」

 

「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです。後人間は殺してはダメです。ちなみに勇者様方は別々に仲間を募り冒険に出る事になります。」

 

「それは何故ですか?」

 

「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様たちだけで行動すると成長を阻害すると記載されております。」

 

「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」

 

そんな説明を受けていると、皆、伝説武器のマニュアルとヘルプを見つけた。

 

 『注意、伝説の武器同士を所持した者同士で共闘する場合。反作用が発生します。なるべく別々行動しましょう。』

 

「本当のようだな.........」

 

武器の使い方等が懇切丁寧に書かれているが、皆後回しにするようだ。

 

「となると仲間を募集した方が良いのか?」

 

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく。」

 

 「当然ですね。」

 

 「それくらいしてもらわないと割に合わねーしな。」

 

 「ですね。なんてったって勝手に召喚された挙句返す手段がないとかですからね」

 

 「余計な事すんじゃねぇ。仲間なんざ不要だ、俺はやりたいようにやる。」

 

 「ぐっ……」

 

 浅倉のおかげで知りたくもない事実を知った三人はでかい態度で王に返す。とはいえそれ以上は王も4人もどうしようもなかったので皆、食事の時間まで王の用意した来賓室で休む事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事までの間、来客室に浅倉達は待たされていた間に各々の情報交換となったわけだが…

 

「ライダーバトル…そんなゲームは俺たちの世界じゃなかったな。」

 

「2002年にそんな高度なゲームが出ていたなんて信じられん。」

 

「ええ…(困惑)」

 

 

 3人は浅倉の元の世界の話を聞いて驚いていた。浅倉以外互いが互いにアレコレと抽象的にゲームに似ているとか言っているので一発で分かる答え合わせをした。

西暦何年だったか、答えるというものだ。結果、浅倉の世界が4人の中でもっとも過去であることが判明した。ちなみに浅倉は自分が犯罪者だとは言っていない、飯の前に面倒なことになりそうだったからだ。

 

 「何言ってやがるこんな最高なゲームはねぇぞ。何せ互いに全力で殺しあうことができる。」

 

 (((うわぁ…この人重度の廃人だ。)))

 

 そういう訳で命がけのゲームとは知らない三人は浅倉のことを廃人と認識していた。

 

 「そんなことより俺以外はこの世界の事は熟知しているという事であっているのか?だったら聞かせろ。」

 

 「ああ、いいぜ。アンタには元の世界に帰る方法がないことを暴いてもらったしな。常識の範囲で教えてあげよう。まずな、俺の知るエメラルドオンラインでの話なのだが、シールダー……盾がメインの職業な。最初の方は防御力が高くて良いのだけど、後半に行くに従って受けるダメージが馬鹿にならなくなってな。」

 

 「ほう…」

 

 「早い話が高Lvは全然居ない負け組の職業だ。」

 

 「負け犬か…確かに言いえて妙だ。」

 

 話を聞いて浅倉は薄く笑う。仮面ライダーガイは基本的にどの世界でも悲惨な末路を辿ってきており浅倉がそれの原因となったこともあるからだ。

 

「なんだ、取り乱したりしないんだな。」

 

「盾なんて使い捨てで十分だ。近くにあれば使う、それだけだ。」

 

 「ふーんそういうもんかね。」

 

 そんなこんなしていると案内役が晩飯を知らせに来た。

 

「勇者様、お食事の用意が出来ました。」

 

「やっとかとっとと案内しろ。」

 

 

 皆が扉を開けて、騎士団の食堂に案内された。高い天井に、吊るされた豪華なシャンデリアと、食卓を飾るロウソク台等が中世ヨーロッパをイメージさせる。基本都会で活動していた浅倉には新鮮だったが同時にどうでもいいことでもあった。

 

「これ食っていいのか?」 

 

「ええ皆様、好きな食べ物をお召し上がりください。」

 

食事はバイキング方式の用で、様々な料理が所狭しと並んでいた。浅倉は早速近くにある適当な料理をひっ掴むと、夢中でかきこんだ。

 浅倉が目の前の料理を次々にがっつく様を、三人が唖然として見ていた。マナーもへったくれもない。

 

 「うわぁ…」

 

 「あれが廃人の末路か…」

 

 「ゲームに集中することが多すぎて食事のマナーまで忘れるとか…ああはなりたくないですね。」

 

 食事だけではなくきっと部屋ではボトラーだったのだろうと三人は変な勘違いをする。するとさらに驚くべき光景が繰り広げられることとなった。

 

 「げ…あの人貝殻ごとパスタ食ったぞ。」

 

 「嘘だろ…いやこの音はまさか…マジかよオイ!!」

 

 「多分貝殻をかみ砕く音ですね…」

 

しばらくして、ドン引きする面々を他所に満足し終わった浅倉空の食器をテーブルに置き、服の裾で口元を拭った。

 

「城戸の餃子や北岡の助手のパスタには劣るが久しぶりにうまいもんを食ったな……」

 

 そういうと、満足げな表情を浮かべくるりと背を向けて、どこかへ去って行った。

 

 

 「さてそろそろ試すか」 

 

 自分に割り振られた部屋に戻った浅倉はデッキを窓に向けてかざす。

 

 「変身!」

 

 仮面ライダー王蛇となった浅倉は満足げな様子を浮かべる

 

 「変身できたということはミラーワールドにもいけそうだな…」

 

 浅倉はおもむろに窓へとダイブする。普通だったら窓は割れるのだが、そこは神崎士郎製仮面ライダー、ミラーワールドへと続く扉を形成し降り立つ。

 降り立った先、そこは左右反転した城の内部だった。

 

 「やはり誰もいねぇか…」

 

 最初から期待はしていなかったが、他のライダーがいる気配は皆無だった。それどころかミラーモンスターの気配すらない。

 

 「チッ、つまらん。」

 

 浅倉はそう吐き捨てるがお供の三体のミラーモンスターは大いに焦っていた。何せここには大好物のほかのミラーモンスターが存在しないのだ。つまりは日々の糧に事欠くということに他ならない。

 

 「そういえばこいつが俺の装備…盾だったな。どう見てもデッキにしか見えないが。」

 

 浅倉の盾の勇者としての装備、それは仮面ライダーガイのデッキだった。しかし浅倉はすでに王蛇としてのデッキを持っている。しかし盾というからには何らかの使い道があるはずだ、そう考えた浅倉はとりあえず仮面ライダーガイをゾルダのファイナルベントの身代わりにした時のことをイメージする。

 

 するとデッキは突如として光だし、棒立ちの仮面ライダーガイとなった。

 

 「はっ!こいつは傑作だ!!まさに盾そのものだな。いいだろう、せいぜい使いつぶしてやるぜ。」

 

 浅倉は棒立ちのガイを見て大いに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日朝食の後、案内役の男に後程、王からの呼び出しがあると伝えられた。案内役の男に案内されて、謁見の間に通される。

 

「さて、勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ。」

 

 オルトクレイの言葉に新たに12人が扉から現れる。

 

「さぁ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 

 オルトクレイの言葉に浅倉達は横一列に並ぶよう家臣からの指示。とりあえず朝食をとって気分がよくなったので浅倉もその通りに並ぶと、12人がそれぞれ各勇者達の前に並んでいく。

 

 …浅倉の前には誰も並ばなかった。理由?浅倉の風貌と目つき、雰囲気と言えば大体伝わるだろう。

 

「う、うむぅ……さすがにこれは予想外じゃった」

 

 オルトクレイはそう言うが、浅倉はどこ吹く風だ。

 

「もういいか。俺は好きに動く。」

 

 浅倉はそう告げて、さっさと歩き出した。いやいやいや、と元康達は思わずツッコミを入れる。

 

「あ、それなら私が行きます」

 

 すると元康の所に並んでいた、女冒険者の1人が手を上げて名乗り出る。赤毛をセミロングにした女だ。浅倉のイライラゲージが貯まる。

 

「アァ!?いらねぇよ。」

 

「そんなこと言わずに……ね?」

 

「他の者はどうだ?」

 

 オルトクレイは問いかけるが、誰もいない。

 

「これ以上は気に入った仲間を自身でスカウトして貰う他あるまい。」

 

 「ふん、どうでもいい。ただ、俺をこれ以上イライラさせるな…」

 

 「…それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ。」

 

勇者それぞれに、それなりの重さがある金袋が手渡される。

 

 「勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと盾の勇者様、私の名前はマイン=スフィアと申します。これからよろしくね。」

 

 

「付いてくんじゃねぇよ…」

 

 マインという女は人当たりの良い笑顔を浮かべ、親しみやすい態度で接してくる。しかし浅倉は自分を観察する様に見るこの女の眼差しを見逃さなかった。浅倉のイライラゲージがさらに貯まる。

 

 「これからどうします?」

 

 城門を出て、街中にはいると、石造りの整った街並みに、活気溢れる様子は、中世ヨーロッパに紛れ込んだ様だ。

 

 (やっぱり全く知らねぇ場所だな…)

 

 ストレス解消のために体を動かそうと思ったが、道が分からないのではさらにイラつきそうだ。

 

 「(この女に道案内させるか…)おい少し手に入れたいものがある。」

 

 「武器ですか?それとも防具ですか?私いい店を知って…」

 

 「いらねぇよ、俺が欲しいのは手鏡だ。」

 

 「て、手鏡!?そんなものを何に?」

 

 「どうでもいいだろそんなこと。知ってるのか知らないのかはっきりしろ。」

 

 「…知ってますけど」

 

 マインは浅倉がなぜそんなものを欲しているのかまるで見当がつかなかった。見たところ身だしなみに気を遣うような人間ではないのは確かだ。だが、この後の計画のことを考えるとここで拒否するのはおかしいと考え店に案内することにした。

 

 ……もしも彼女が後に自分の身に起こることを知っていたのならば全力で否定しただろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 買い物を終え関所の門を抜けると、限りない大草原が広がっていた。

一応、石畳で道が舗装されてはいるが、少し外れると、一面の緑が眼前を覆う。

 

 「では勇者様、このあたりに生息する弱い魔物を相手にウォーミングアップしましょうか。」

 

 「フン、俺が楽しめるモンスターはいるんだろうな?」

 

 浅倉としてもこの世界のモンスターがどの程度の強さなのかは興味がひかれるところだった。

しばらく草原をとぼとぼと歩いていると、なにやら目立つオレンジ色の風船みたいな何かが見えてくる。

 

 「勇者様、居ました。あそこに居るのはオレンジバルーン……とても弱い魔物ですが好戦的です。」

 

 買ったばかりの手鏡を、軽く地面に放り投げた。

 

 「えぇぇぇぇぇ!?買ったばかりなのにいきなりなんてことを……!」

 

 マインの声に構わず、浅倉はポケットから紫色の物体を取り出した。

金色の、蛇のような紋章が中央に描かれている。

それを地面の手鏡に向かってかざすと、驚くべきことに機械でできた銀色のベルトのようなものがどこからか現れ、浅倉の腰に装着される。

 

 「い、一体それは?」

 

 困惑するマインには目もくれず、浅倉は右手の甲を鏡に向け、左からゆっくりと、半弧を描くようにして胸の前あたりに持ってくる。

そして手のひらを返すと、勢いよく前後させ、叫んだ。

 

「変身!」

 

 一連の動作が終わると、左手に持っていた紫の箱を、先ほど現れたベルトのようなものの真ん中にある、大きなくぼみに素早く差し込む。

すると、高い音が鳴り響き、ガラスの割れるような音とともに浅倉の姿が一瞬で変化した。

 

 「アァ…せいぜい楽しませろよ…」

 

 つり上がった線が数本描かれた仮面に、蛇の意匠が見られる紫色の装甲。

毒を連想させるその色は、装着者の危険な性格を表しているかのようだ。

 

浅倉もとい仮面ライダー王蛇は、ため息とともに首を回し手を払った。

 

「な、何なのよ、アレ……」

 

 マインは一体何が起こったのか分からず、唖然としていた。

王蛇は、蛇の頭がついた紫色の杖をどこからともなく取り出すと、その頭の一部分を縦にスライドさせる。

続けて、先ほどベルトに押し込んだ箱から一枚のカードを引き出すと、杖のスライドさせた部分に差し込み、元の位置に押し戻す。

 

すると、その杖から声が聞こえた。

 

『SWORD VENT』

 

直後、手鏡から金色の物体が飛び出し、王蛇の手に収まる。

 

まるで蛇の尾のような、螺旋状のラインが施された金色の刀身に、紫色の持ち手。

微妙に反れたその太い刃は、斬るよりも叩くといった使い方が適していそうだ。

 

ベノサーベルといわれるその剣を、王蛇は手に持ち、目の前に構える。

 

「どうした? やらないのか?」

 

「ガア!」

 

 鳴き声をあげて、烈に襲い掛かる風船の様な見た目の魔物。それに対して王蛇はベノサーベルで切り裂く。

魔物はその場で真っ二つになった。

 

「…弱すぎる。」

 

 浅倉が不満げに呟くとピコーンと電子音がし、EXP1という数字が見えた。

 

 「おい、このEXPというのは何だ?」

 

「それは、経験値の事です。一定数集まると、レベルが上がりステータスが上昇します。」

 

「ほう…そいつは便利だな。」

 

「それを貯めていくとレベルが上がります。」

 

 

 

 

 

 浅倉は戦利品である、オレンジバルーンの死骸を拾うと、ピコーンと仮面ライダーガイのデッキが鳴った。デッキに死体を近付ければ、淡い光となってデッキに吸い込まれていった。

 

 「これが伝説の武器の力ですか。」

 

 「らしいな…この辺りはライダーバトルと同じか。おい、ここでは流石に魔物が弱すぎる。もっと強い魔物が出る場所を教えろ。」

 

 

 

「そうですね。もう少し先に進むと良い狩場があります。」

 

 

マインの案内で浅倉達は森の方へと進み、イエローバルーン、レッドバルーンという色違いやウサピルという魔物を狩った。そして浅倉はさらに強い魔物を教えろと言い出す。もっともマインはそのことを割とすぐに後悔することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マインは困惑していた。

 

 何なんだこいつ、というのが彼女の心境だ。

 マインの予定では街に帰り酒に酔わせて、強姦魔にでっち上げ、ついでに金品も頂く予定であったのだが予定がかなり遅れている。

既にメルロマルクの城下町からかなり離れている。帰るには一苦労だ。

 だがそれだけなら浅倉に対する評価はちょっと熱心な冒険者どまりだ。マインが困惑している本当の理由はというと…

 

 「おぉ…」

 

 「あの…勇者様いったい何をなさっているんですか?」

 

 「飯だ。」

 

 「飯!?」

 

 焚火をし何かの肉を焼く浅倉。焼かれている肉はいい感じに焼け、実に食べごろといった状態になっている。

 

 「あの…失礼ですが勇者様はどこか状態異常にでもなられたのでしょうか?」

 

 浅倉はマインの言葉を無視し、いい焼き加減になった兎や蜥蜴のような何かをかじり、食べ始める。

 

 (コイツ…モンスターを食っている!?マジかよ…)

 

 マインが困惑している理由、それは浅倉が食べているものがモンスターの死体だったからだ。

 

 「結構いけるなこれ…お前も食うか?」

 

 「た、食べません…」

 

 差し出される蜥蜴のような何かを見てマインは心底いやそうな顔で拒否する。ちなみにこれは浅倉の持つスキルの一つ【悪食】があっての行動だ。良い子は異世界転生してもなるべくマネしないようにね。

 結局その日は野宿となりマインは浅倉を絶対に破滅させてやろうと誓う。

 …だがマインは知らなかった悪食なのは浅倉だけではないのだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日メルロマルクの城下町に帰ってきた浅倉はマインの案内で城下町を見て回り、地図を買ったり手鏡の予備を買ったりした後宿で別れた。ちなみに夕食時にマインが勧めてきたワインを浅倉は飲んだが、スキル【悪食】のおかげで体に変調はなく部屋で手鏡に向かいこれからのことをよくつるむ悪友と命を狙ってくる下僕に話す。

 

 「おい、お前らもそろそろ腹が減っているだろう。」

 

 その問いにベノスネーカーとエビルダイバーは頷く。唯一メタゲラスだけは特に何も反応を示さなかった。

 

 「俺についてきていた女、あいつ食っていいぞ。」

 

 浅倉はいとも簡単にマインに死刑宣告を行う。ミラーモンスターが現在のところ自分の下僕以外に存在しない以上、ミラーモンスターの命を食わせることによる餌やりは不可能だ。

 なので人を食わせる必要があるのだがここは異世界だ、ここの人間も前の世界と同じように餌となりえるのかどうか試す必要がある。

 そこで白羽の矢がっ立ったのがマインとかいう女だ。あの女表面上は協力的だが時折自分を見下すような目つきをしてくる。裏切るのは時間の問題だろう。だったらそれ相応に扱ってやればいい、浅倉はそう考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さ~てそろそろ睡眠薬の効果が出てきたころかしらね♪」

 

 少し遠回りになったが計画が上手くいったことにマインは満足そうにする。後は強姦魔にでっち上げ、ついでに金品も頂くだけだ。幸いにしてあの男は大量のモンスターを狩った上に装備品も買わず、出費も少なかったため結構な金を持っている。今からその全てをいただき絶望する顔を拝めると考えるとワクワクが止まらない。

 

 「そういえばあいつ何で私に予備の手鏡持っておくように言ったのかしら?」

 

 マインは浅倉から預かった手鏡を見る、それは特に魔術的なコーティングをされたものでもない至って普通の手鏡だった。

 あの男が能力を発揮するには鏡が必要なのはわかっていたが、それならば自分で持っているのが普通だろう。少し考えるが答えは出なかったので、あの男が自分を信頼して生命線を預けるに至ったのだろうと考えた。

 

 「さて、あいつの金をいただくとしますか。」

 

 そう呟くとマインは手鏡をベッドに放り捨て浅倉の部屋に向かおうとする。

 しかしその瞬間得体のしれない感覚がマインを襲う。

 

 「え?何!?」

 

 恐る恐る振り向くマイン、そこで彼女が目にしたのは手鏡から出てきた蛇のようなモンスターが口を開けている光景だった… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 旨い!!それがベノスネーカーの感想だった。彼が人間を食うのは初めてではない、浅倉がいくつもの世界線の記憶を持っているのと同様に記憶を引き継いでいた。なので人を食うのは初めてではなかったのだが、この世界の人間は前の世界の人間よりもずっと旨いことにベノスネーカーは驚いた。

 何というか生命力が強いのである。もしかすると前の世界の人間よりも過酷な環境で生きていることや、魔力とかいう未知の力を持っていることが関係しているのかもしれない。

 

 その様子をエビルダイバーは恨めしそうに見ていた。彼は浅倉に対する反骨心からマインを食うのを拒否していたがべノムストーカーの満足そうな様子を見て自分も参加すればよかったと後悔していた。

 そんなエビルダイバーに対してベノスネーカーは若干勝ち誇ったかのような様子で〈何、次があるさ〉と意思疎通した。

 

 

 なお完全に余談だが、翌朝浅倉は何事もなくしれっと城に向かい、「道案内していた女(マイン)が宿からいなくなったがそっちに帰ってないか?」と何食わぬ顔で聞いたという。




 《浅倉猛》
 様々な世界線の浅倉がユナイトベントしたハイブリッド浅倉猛。龍騎最終回のライダーバトルのない世界の人格も混じっているため少し白め。
勇者としての武装は盾(ガードベント)で転移した後の世界の剣などは使えないが、異界の技術の結晶である仮面ライダー王蛇は問題なく使用可能。

 《べノムストーカー》
 言わずと知れた浅倉のソウルフレンド。変なもの食べちゃいけません!!

 《盾(仮面ライダーガイ)》
 今のところはただのガードベント。


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