雪鳴響はあきらめない (ルルー)
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雪鳴響(ゆきなりひびき)はあきらめない。

 崩れた家やビルの瓦礫で海と化した街に少女がいた。

 あたりに少女以外に人影はなく、風の音だけがあたりに響いている。

 周りには何かと争った跡が残っており、少女の姿も普通とはいいがたいものだった。

 両手には赤い銃があり、全身には銃と同じ赤い色のスーツが張り付いて腰にはスカートのような赤い外装、胸には赤い結晶体が装着されていた。

 

「……」

 

 そんな少女が、無表情のままあたりをにらみつけていた。

 空は雲が覆っており、まるで灰色の絨毯のようで、雨でも降りだしそうな様子だった。

 だが、振り出したものは雨粒などではなく全く別の物で、オレンジという派手な色合いをした怪物――ノイズと呼ばれる者たちだった。

 

「また来た……」

 

 その時、少女の口が歌を紡ぎ始める。 無表情の顔からは想像できないような勇ましい歌を、それと同時に少女の両の手の銃が変形し始めた。

 銃身は扇子のように広がり、ハンマー部分が伸び、その形状はまるでクロスボウのようだった。

 赤いエネルギー状の矢が五本装填され、少女はトリガーを引いた。

 放たれたエネルギーの矢は空から降ってくるノイズたちの命中しその存在を崩壊させていくが、ビルほどの大きさの大型ノイズはその攻撃でなどで倒されることなく地上に降り立つことに成功していた。

 

「面倒な……」

 

 それを確認した少女は空から降るノイズをあらかた倒してから、大型ノイズの方向に向く。

 銃を下し腰に装着されているアーマーが大きく姿を変える。

 明らかに物理法則を無視した動きで形成されるのは大型のミサイルだった。

 

「食らえ」

 

 発射されたミサイルが大型ノイズに命中し、大きな爆発を巻き起こし打倒す。

 だが、安心するのはまだはいやいと言わんばかりに少女の周囲に空間のゆがみが発生する。

 新たに出現したノイズたちが、少女の後ろから攻撃を繰り出してきたのだ。

 

「……危ない」

 

 

 両の手に刃を持つ武士のようなノイズが少女へと切りかかるが、少女は何とか気づくことに成功し、前へと転がることで回避した。

 そして ハンドガンの形状に戻していた銃で武士のような姿のノイズ打ち抜いた。

 それから雨のように降るノイズを倒していくと、突如として雲が晴れた。

 

「でか……」

 

 空から先ほど倒した大型ノイズを超える大きさのノイズが降ってきたのだ。

 大きな地響きと共に地面に着地すると、超大型ノイズは少女に向けてその巨大な両腕を振り下ろした。

 逃げようにも範囲が広く、少女はその攻撃を受けてしまった。

 少女のいたところは大きなクレーターが形成され、周囲にあった壊れかけのビルが崩れ彼女は生き埋めになってしまった。

 超巨大ノイズは敵対者がいなくなったと認識し、その場から離れ別の場所へと向かおうとクレーターを背に、ほかの街にいるであろう人類へと向けほかのノイズと共に行進しようとする。

 

 だが、超巨大ノイズの背後から強大な破壊音が炸裂する。

 超巨大ノイズと、ほかのノイズたちが音の方向へと向き直ると、そこには先ほどまで纏っていた者とはまた違うものに変わった少女が立っていた。

 先ほどまでのような赤い色の姿ではなく、明るい黄色の色に変わっている。

 両の手の銃はどこかへと消え去り、代わりに両腕に無骨なアーマーが装着されている。

 さらには少女の表情は依然として変わらなかったが、口から紡がれて歌は先ほどまでとは別の物へと変わっていた。

 勇ましかった歌声は、周囲の物を振り立たせるような明るい物へと変わっている。

 

「……生き埋めになるかと思った」

 

 そう言いながら少女は、足に力を籠め高速で超巨大ノイズを殴り飛ばした。

 殴り飛ばされたノイズは一溜りもなく吹き飛ばされ倒された。

 少女は超大型ノイズを倒したことに気にも留めずに集まってきているノイズたちへと攻撃を再開する。

 再び足に力を籠め、一気にノイズの大群の中を一直線に押し通るという力技で倒していく。

 

「きりがないなぁ……」

 

 そう思いながらも少女はこの語、赤や黄色だけではなく、青、白、緑、紅、紫、など様々な色の装備へと姿を変えてノイズを倒していった。

 そして、戦い始めて三十分ほどたった頃、突如としてノイズたちの動きが止まりその姿を消していった。

 まるで、もう時間切れだと言わんばかりに。

 

「はぁ……終わった」

 

 戦いの疲労からか、少女はその場に倒れ込む。

 それと同時に世界が晴れる。

 今まで戦っていた崩壊した街は一瞬で消滅し、代わりに無機質な部屋へと変貌していた。

 

「あの神の野郎……」

 

 少女は倒れ伏したまま無表情にそうつぶやいた。

 そして少女はこの世界に来るきっかけとなったあの時のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

雪鳴響

 

 

 

 

 

 

 それを一言でいえば適当だった。

 響はその時のことを一言で表すならそう答える。

 この世界に生まれる前、いわゆる前世の世界で何の因果化若くして死んでしまった響はオフィスの応接室に座っていた。

 響の頭は不思議で一杯だった。

 記憶の中に確かに死んでしまったという記憶が確かに残っているというのに、気が付けば無機質な場所で目を覚ましたのだ。

 死んだのは夢だったのか? そう思っていた響きのもとに扉を開けて入ってくるものがいた。

 ジャージを着ただらし名のない男性だった。

 当然警戒する響だったがその男は口早に話し始めた。

 

「お前、今から適当な世界に行ってもらうから、あ、拒否権はないから」

 

「は?」

 

 男の突然な意味不明な発言に困惑する響。

 だが、男はそんな響のことを顧みもせずに言葉を続ける。

 

「世界はほぼほぼお前が生きてた地球だ。 特典としてお前さんが見てたぁ……あれだ。 戦機なんとかってアニメのギアを持たせるからそのつもりで」

 

「なにを言って……」

 

「あとその地球はほかのやつらがいじくってからいろいろ変わってる。そこで精々あがいてあいつらを楽しませてくれや、じゃあな」

 

「ちょっと待って……」

 

「待たない、じゃあな」

 

 男が指を鳴らすと、響の意識がもうろうとしていく。

 落ちる意識の中で響きが最後に見たものは、男が響に向けて光の球を投げ込んだ光景だった。

 

 

 

 

 

 そして、生まれて五歳のころに熟睡していた響の頭を直接ハンマー叩いたような衝撃と共に記憶が戻ったのだった。

 記憶を取り戻して響きがまず行ったのは世界の情報を調べることだった。

 心配する両親を演技で何とかごまかしながら病院から帰る車の中でスマホを狩り調べると、ほとんど響きが生きた地球だということが分かった。

 だが、心配して損をしたと思った響が見つけたのはとある画像によってその思考は浅はかだったと知る。

 そこには、彼女が知るアニメに登場する存在がいたのだ。

 バラルの呪詛と呼ばれる物によってバラバラとなった人類が効率よく人間を殺すために生み出した兵器、ノイズが映った画像だった。

 何の間違いかと思い調べていけば、まだ都市伝説のように扱われているが複数の接触例が見つかった。

 つまり、ノイズが存在するというのだこの世界には。

 

 そのような衝撃的な真実に不安のまま家に帰り自分の部屋に戻ると、机に見知らぬ箱が置いてあった。

 嫌な予感がしながらも箱を開けるとそこには、赤い結晶のタイのようなペンダントがあった。

 響はそれをよく知っている。

 アニメにおいて、戦姫絶唱シンフォギアと呼ばれる作品において、最重要アイテムであったからだ。

 

「シンフォギア……」

 

 ギアを手に取ると、胸から歌詞をが頭に浮かぶのを感じる。

 おそらく使えるのだとあたりを付けた響は、劇的な事実に目を廻して一度倒れてしまった。

 

 そして、倒れた響の意識は暗い闇の中にあった。

 目覚めたくないと重いなら闇を揺蕩っていると、突如として光が現れた。

 目を凝らしながらにらみつけると、その光からジャージの男が現れた。

 

「おう、伝えてお雪鳴響(ゆきなりひびき)かないといけないことあっから黙って聞けー」

 

 適当に聞いた声は、初めて会った時と全く変わらなかった。

 響は必死に叫ぼうとするが音は全く出てくれはしなかった。

 

「えー、まず無事転生おめでとうと言っておこうか。 さて本題だ。 簡潔に言うぞ、お前が動かなかったらこの世界はまず間違いなくノイズに滅ぼされる。 あと、この世界にもほかのやつらがいじくったせいで出現したものがあかるから、デュラなんとかとかソロ何とかほかのもいろんなものが埋もれてるらしいぞーがんばれー」

 

 棒気味でそう言うと男は再び光となり消えてしまった。

 

「ふっざけんなーーーーー!!」 

 

 やっと出た叫びと共に響の意識が現実に戻る。

 起きて時計を見ると、気絶していた時間は一分もたってなどいなかったらしい。

 

「……あの野郎ぶっころす」

 

 響は胸からあふれる漆黒の闇のような殺意を胸に、シンフォギアを握りしめそうつぶやいた。

 今世で世話になっている家族にはもうすでに愛情を受けており、響もまた同じく愛情持っている。

 あんなふざけたやつらに好きにさせてたまるかと思うほどの意志が芽生えている。

 立った五年だとしても、そこには計り知れない物があったから。

 響きは決意する。

 響の中には当然不安があった。

 だが、手に持つそれが奇跡を生み出すことを知っていた。

 

 諦めなどしない、必ず守り抜く。

 意志は固く折れることはない。

 

「……でも、まずは戦えるようにならないとなぁ……」

 

 そう呟きながら、来る未来に思いを乗せた。

 

 

――少女の歌には、血が流れている。

 

 

 

 

 雪鳴響(ゆきなりひびき)はあきらめない。

 

 胸に宿る歌がある限り。

 

 



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