ロリコンがロックマンエグゼの世界で生存を誓う話 (ラゼ)
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1話
目の前に揺れる、小さな尻を突きあげる。ここしばらく抜いていなかったせいか、はたまたこの体においては童貞だったせいか、信じられない量の精液が幼い膣を満たす。同時に、くぐもった嬌声が部屋に響くが、その声にはどこか幼さが混じっている──のはまあ、当然の話だ。彼女は中学一年生と言っていたから、つい一年前までは小学生だったという計算になる。
だというのに処女ではなかったあたり、そこはかとない闇を感じるが……なんといっても近未来的かつ、倫理も法も良い意味でガバガバな世界だ。元いた世界でも小学生の非処女率はどんどんと上がっていたのだから、未来の文明社会であれば更に進んでいるのかもしれんな。
まあ幼マンコを堪能できて、なおかつ今夜の寝床もゲットできたのだから不満などある筈がない。問題があるとすれば──根無し草の生活に辟易としていることくらいだろうか。まったく、転生か転移か憑依かはわからないけど、せめて戸籍ぐらいはあってほしかった。
文明レベルが高いということは、それすなわち戸籍管理もバッチリということだ。そんな国に身一つでいきなり出現するとか、どうしろっていうんだ。しかも大人であればともかく、小学生である。
もちろん記憶喪失だのなんだのを装い、天涯孤独の孤児として孤児院に身を寄せるなんて方法もあった。しかしそれは僕の『持ち物』の特殊性が許さない。身一つとは言ったが、服と
しかし──ヒクヒクと痙攣しながらベッドにうつ伏せになっている少女を見ると、妙な達成感を覚えるな。若返りに伴って小さくなったチンポだが、近い年代の少女であれば丁度いい締まりだ。まあ同年代と比べると大きめチンポであるのは、正直ありがたい。
気絶した少女の口を使って、ガポガポとチンポを掃除していると──また勃ってきそうだが──近くに置いていた『PET』から声が聞こえてくる。これが僕の唯一の持ち物であり、生活必需品であり、そして“僕自身”である。
『終わったのかい?』
「…ん、ああ。めっちゃ気持ちよかったよ。小学生同士なら犯罪にもならないし、エロ的にはありがたい状況だよね」
『そりゃあ重畳。羨ましい限りだ』
「まあまあ、拗ねるなよ。もうちょっと稼いだら、エロ系のプログラム組むから我慢してくれ。環境さえ整えばなんでもできる
『ま、それもそうだけどさ……でもやっぱ、電脳世界っていまいちしっくりこないよ』
「うーん……そこだけは共感できないからなぁ。文句は超常現象を司る神様にでも言ってくれよ……居ればの話だけどさ」
『僕が神様なんか信じるわけないって、他ならぬ君が知ってるじゃないか』
「はは、そりゃそうだ」
『PET』──電脳世界を自由に動く『人工AIが搭載されたナビゲーション』の、住み家のようなものだ。人工AIとはいっても、超ハイテクなこの世界……もはや人と変わらない自我を持ち、感情もきちんとあるわけだから、一種電子的な生物とすら言えるだろう。
基本的に誰でもこのナビを持っているし、そもPETを持っていない人間などまずいない。そういう意味では、現実世界といえど電脳と大して変わらない。ネットワークに異常が出れば、すぐに脆弱性を露にするいびつな世界だ。
実際、ゲームではアホみたいに世界の危機が頻発していたし、もし人々が『元の世界のような人間性』であれば、瞬く間に世界は滅びるだろう。
そう──この世界のガバガバっぷりは、そもそも人の善性が非常に高いからこそ成り立っているものなのだ。人口十万人あたりの殺人事件の数知ってる? ゼロだよゼロ。ちなみに元の世界の日本はニ厘くらいだ。
もちろん完全無欠にゼロという訳ではないんだろうが、統計算的にゼロと表せるレベルということだ。そもそも一番ヤバイ裏組織とかでも、積極的に殺しとかしないあたりが凄いよね。一ヶ月ほど放浪して実感したが、この世界の人々は本当に善人が多い。
今日だってそうだ。ちょっとウイルスにやられかけていたのを助けただけで、家に泊めてくれて……ついでに夜のお世話もしていただいた訳だし。まあ僕は押しが強く、彼女は押しに弱かったというのもあるだろう。処女じゃないのも、昔の彼氏にグイグイこられたとかかな。
──さて、話を戻すが……気が付いたらこの世界にいた僕が、なぜPETを持っていたのかは不明だ。そしてそのPETに入っていたナビが『僕』だったのは、もっと意味不明である。
しかし事実は事実。電脳世界にも僕はいるし、現実世界にも僕はいる。少なくとも記憶を確認した限りでは、彼は僕を僕と認めて、僕は彼を僕と認めた。僕は彼が僕で彼の僕が……ん? なに言ってるかわかんなくなってきたが、とにかく僕は二人いるのだ。
そこには明確なメリットとデメリットがあるが、まあ気にしてもしょうがない。とにかく僕は今日と明日を生きるのに精一杯で──なんとかそんな生活を抜け出したいと思ってる、ごくごく異常な小学生である。
■
今日も今日とて、ウラインターネットで日銭を稼ぐ毎日。この世界、小学生が働いても特に問題はないのだが──流石に住所不定で親の承諾すらない状態では難しい。ならばどうするかと言えば、電脳世界でのデータ集めだ。
何故か普通にお金落ちてるし、チップデータも落ちてるし、なんならウイルスを仕留めればチップも落とす。そしてゴミみたいなチップでも高額で取引されたりする謎。
いやまあ、謎ではないか。ゲームではロックマンがバカスカバカスカとウイルスバスティングをしていたが、一般的にそれは異常の一言に尽きるのだ。加えてチップデータを奪いたいなら、高ランクでのバスティングレベルを要求される。
要はこちらがダメージを受けず、なおかつ相手を瞬殺するような技量がないと中々チップを手に入れることはできないのだ。だからこそゲームでも、ゴミチップに十万ゼニーとか出す人とか、大したチップも入ってないフォルダに五十万ゼニーとか払う、某ミリオネアおばさんとかがいたのだろう。
ちなみに僕が電脳世界で強者足り得ているのは、前に言った『メリット』──ナビと僕が同一人物という特殊性が生み出す、シンクロニシティによるものだ。
ナビとオペレーターの一体感こそが、実力を何倍にもするというのは実際に存在する理論である。というかゲーム内でもあったし、その状態になったロックマンは確かにチート性能を発揮していた。
主人公である熱斗くんと、ロックマンの元になった人物『彩斗』は双子の兄弟である。DNA構造が同一であり、うんたらかんたらがなんやらかんやらでシンクロしてチートロックマンが完成する訳だが──僕に関してはまさに完全一致の同一人物なのだ。DNAどころか精神性までまるっと同じだから、彼等よりも更に親和性が高くなるのは当然の話だ。
つまり常時シンクロ率二百%の暴走モードである。拘束具外れちゃうよね、まったく。まあそんな訳で初期からチートだった訳だが、問題は『デメリット』の方だ。あまりに意味不明な理論で笑ってしまうが、ナビとシンクロ状態にあるオペレーターは、一体化しすぎてダメージまで共有しかねないというクソ理論。
ほんと謎だけど、確かな事実である。つまり一度でも電脳世界の僕がデリートされると、もしかしたらリアルの世界の僕も死んでしまう可能性があるということだ。怖すぎワロッツァ。
なら引きこもってろよと思われるかもしれないが、状況がそれを許さない。孤児院暮らしになると、いま持っているPETがどうなるか不明なのだ。同一人物なだけに、オペレーションしていない状態でもシンクロしている可能性もある。その場合、もしPETを手放さなければならない状況に陥れば──心臓を剥き出しでお散歩させているようなものだ。ストレスマッハで胃に穴が空きかねない。そして孤児院暮らしを忌避するとなると、自分の腕で稼ぐ道しかない。
結局命の危険に晒されるなら、チート性能を活かしてどんどん
──この世界にきて既に一ヶ月。かなりの安全マージンを取りながらでも、ウラインターネットへと接続できるまでに至った。というか最深部でも問題はないだろうけど、やっぱり不測の事態を考えれば浅いところをウロウロしている方がいい。
正直落ちてるミステリーデータだけでも、サラリーマンの月収など軽く超えてくるのだ。チップを売るツテが少ないので、そちらは貯まる一方だが──然るべきところに行けば既に一財産だろう。そして小学生が一人でホテルに泊まっても怪しまれないのが、この世界のいいところだ。流石に長期的に留まり続けると、心配で声をかけてくる人もいるけどね。
それを避けるために放浪し続けているのだが、今の所たいした問題は起きてない。なんせフリーのアクセスポイントがそこかしこにあるし、電脳世界は基本的にどこでも繋がっているからだ。
『おっ、ミステリーデータ……おおう、十万ゼニーだぜ、僕』
「おお、今までの上限超えてきたな。これで……ひー、ふー、みーの…」
『いつ、むー、なな、やー……そういえば目標金額は特に決めてなかったけど、いくら溜まったら本格的に動き出すんだい?』
「それ聞く? 答えは一緒だろうに」
『いやいや、元が同じでもさ……いったん分かれた上で違う世界を生きてるんだぜ? そろそろ違いが出てきてもおかしくないよ』
「なら目標金額は?」
『一千万ゼニー』……と、声がダブった。まあ当然の結果だろう。結局は僕は僕で、僕は僕だ。そうそう感性など変わるもんじゃない。何があっても当面の間は大丈夫な金額──僕にとっては一千万ゼニーくらいがその目安である。
『んじゃさっきのでほぼ達成だね。次はどう動く? 流石に戸籍の偽造は難しいだろうし…』
「そこなんだよね。ある程度は馴染んできたし情報も仕入れたけど、根本的な部分での常識がないからさ、僕たち」
『ならどうする?』
「…って言っても、考えてることは同じじゃない?」
『まあそうだよね…』
この世界のことを何も知らないかと言えば、実はそうじゃない。特定の人物の人間性、権威、権力の強さ……そして取りそうな行動は知識にある。ゲームが現実になって変化している部分があるにしろ、準じているところはあるだろう。
「でも常識的に考えてなぁ……見ず知らずの子供のお願いとか聞く?」
『僕らの常識とこの世界の常識は違うぜ』
「まあ良い関係を築けたら、色々と捗るのは確かだよね。なんせ知り合いに対してはセキュリティガバガバな人だし」
『自分の子供とはいえ、大事なデータやら認証コードやらぽんぽん渡すもんなぁ…』
「むしろ世界が危機に陥る原因の半分は、光一族にあるんじゃないか説」
『あると思います』
しかし自分同士であるだけに、会話が弾むぜ。なにせ考え方が一緒だから、会話のキャッチボールも完璧だ。しかしこの先どうしたもんか……ん? おや、遠目に見えるは最強の自律ナビと名高いあの方では? ──ここは裏道を行く悪の巣窟『ウラインターネット』。うんうん、確かに出会ってもおかしくはないね。
「なにやらマントを着た漆黒のナビが見えますね」
『そんな存在は一人しか知りません、どうぞ』
「なんか近付いてきてない?」
『ああほら、あの子って『強者の波動』とかいうわけのわからんものを求めて彷徨うタイプのナビだから』
「なるほど……思い上がりじゃなければ、僕らってたぶん世界最高峰レベルだろうしね。少なくとも性能だけは間違いなくチートだ」
『どうする?』
「どうしようか?」
『勝算は?』
「アリアリ」
『戦う気は?』
「ナシナシ」
『同意見だね……じゃあプラグアウトしよっか』
「ガッテン」
『ところでプラグアウトボタンが利かないんだけど…』
「ああ、ゲームでもそんなエリアあったね……ここは違うはずだけど。彼がなにかしてる可能性が微粒子レベルで存在してる感」
『つまり?』
「走って逃げるしかない」
「クク……強者の波動を感じるぞ…」
「あ、僕らそういうんじゃないんで」
『失礼しま──うわっ!? 問道無用かよ!』
「仕方ないか……エスケープオペレーションセット!」
『イン! ──って冗談言ってる場合か!』
やべぇやべぇ、さっさとプラグアウトできるエリアに逃げなければ。というかいっつも思うんだけど、エリアの移動が自由すぎるナビってどうなってんの? こちとら石があるだけで通れなくなるってのに、不公平にも程があるぜ。
やめて、フォルテさんこっちこないで。なんだよ強者の波動って。中二病かよ。仕方ない、軽く相手して帰ってもらおう。そこそこいい感じに戦ったら、満足して『いずれまた…』とか言うタイプの中二だった筈だ。
「こういう時、ナビチップ無いのがキツイよな…」
『まあネームドと知り合える機会ってあんまりないし』
「というかチップの回りわるっ」
『アドアド』
「オーケー。それまでは──よけろピカチュウ!」
『ピッカー! って、いまそれどころじゃないんですけど!』
「PA送るぜー」
死なないコツとは、焦らないことだ。多少ふざけるくらいがリラックス状態を維持する肝である。なんといっても、操作自体はマジでゲームのようなものなのだ。となれば、精神状態が操作に及ぼす影響は計り知れない。焦りと苛立ちは死に直結する。
「フン……悪くない。いずれまた戦う時が来るだろう…」
『あっ、はーい』
「お疲れ様でーす」
ふいー、やっと終わった。オモテまで逃げたのについてくるんだもんな。エリアもボロボロだ……僕のせいじゃないけど。僕のせいじゃないけど。幸い人的……いや、ナビ的被害はなかったようだし、さっさとプラグアウトするか。
「君は、いったい…」
「え? あ、人いたんだ──ゲッ」
量産型ナビが話しかけてきた……と思ったら、オフィシャルネットバトラーのマークがチラリと見える──そう、いわゆる自治厨だ。いやごめん、間違えた。いわゆるネット警察だ。とはいえ公務員といった訳ではなく、実力あるネットバトラーを国が『オフィシャル』として認定した存在である。権力は割と強め。
「あー、いや今のはネットバトルじゃなくて……その、ウイルスバスティング的な感じでして」
子供型ナビの私的な戦闘は、基本的にご法度である。もちろんルールを決め、場所を考えた上での模擬戦なんかは大丈夫だけど──今のは完全無欠にデリート勝負、殺し合いだった。あちらが襲ってきたとは言え、傍目からはどっちが悪いかなどわからないだろう。
「…いま、『WWW』の動きが活発になってきているのは知ってるかい?」
WWW。いや、草を生やしてる訳じゃない。ワールドスリーという、ワイリーさんを首魁とするネット犯罪者集団だ。世界を破壊しようとしたり、世界を征服しようとしたりする集団でもある。彼等が世界を掌握すれば、エグゼの世界からエックスの世界へと変化するとかなんとか。まあ僕が生きてる内にそこまで変化するとは思えないけど。
それで、それがどうかしましたか? 僕そんなやつらの仲間じゃないですよ、ほんとに。え? WWWに対抗するためのオフィシャルネットバトラーが全然足りていない? ははあ、それで僕に目をつけたと。確かにフォルテさんとのバトルは、一流すら目を剥くレベルだったことだろう。だからといっていきなりスカウトするとか、柔軟すぎるだろ。そんなんだからさらっとスパイに入られるんだよ。
しかしオフィシャルか……そりゃ入れたらエリートまっしぐらで言うことなしだけど、認定の際は確実に個人情報がいるだろう。オフィシャルに入るから戸籍くれとか言ったら、孤児院コースまっしぐら……いや待てよ? 小学生に就労の義務はないが、権利はある。一人で生活できる基盤があれば、保護される必要もないというのがこの世界の基本理念だ。一人暮らしの小学生とか結構いるし、基本的に自立心を尊重しているのだろう。
オフィシャルが僕に価値を覚えてくれたなら、多少の特別扱いは期待してもいいのかな…? しかし現状を言ってしまったが最後、大きな流れに逆らえなくなるだろう。流石に戸籍がないとわかった子供を放置するオフィシャルはいない。
「──あー……“僕”?」
『ま、いいんじゃない? 最悪PETを取り上げられても、野良ナビとして生き残っとくからさ。状況が落ち着いたら迎えにきてよね』
「んー……まあここまで強化できてれば問題ないかな…?」
そうと決まれば──やあやあ、オジサマ。ちょっと複雑な我が身の事情を聞いてくだされ。便宜を図ってくれたなら、オフィシャルの犬として働くことも吝かではありませんぞ。
■
──結果として、ゲームでも話のメインとなる『秋原町』に一人暮らしすることとなった。いきなりすぎるって? いやいや、ぶっちゃけると当たり前の話じゃないか。オフィシャルになったなら、何をすべきか……それはもちろん、電脳の平和を守るべきだ。
常識的に考えて、アホみたいに世界の危機が訪れる状況を放置するとかあり得ないじゃん? そんでもって、世界の危機は秋原町から発信されるというのが、ナウなヤングの中で流行っている噂だ。
最低でも見届けとかなければ、怖い。自分の知らないところで独裁者が核のスイッチを押そうとしてて、それを止めようとするのが一人の小学生しかいないみたいな状況だぜ? 安心して眠れる? 僕は絶対に無理。未然に防げるものは防ぐのが当然の選択である。
ちなみに時期の推測は、ナビの性能を見ればなんとなくわかる。目まぐるしく変化するナビカスタムの性能において、今の状態は初期も初期だ。つまり今は物語の始まりの時期であり、これから色々と技術が進化していくのだろう。ということは、それに置いていかれる=死の危険が高まるということになる。このあたりは元の世界と変わらない……数年も経てば、ハードもソフトも時代遅れになるからね。
さて、並み居る試験官を瞬殺して、オフィシャルとして認定されたはいいものの……義務教育が免除されるかといえば、そうでもない。まずは学校に通えとか言われたため、希望した『秋原小学校』に転校予定である。かのエースネットバトラー『伊集院炎山』は自由に行動してるじゃないかって文句言ったら、彼の知識は既に大卒レベルだから問題ないと返された。
はは、じゃあ僕も高卒認定受けるって言ってやったよ。今更小学校なんていう窮屈なものに縛られたくはないし。
…じゃあなぜ小学校に通うのかって? 察してくれ。
「おいおい、見てみろよ僕」
『すごいなあの豪邸。もしかしてあれが“秋原の光るオデコちゃん”こと、やいとちゃんのホームかな?』
「いったいどんな悪いことをすれば、あんな豪邸が建つんだ…」
でっか。ゲームでは省略されていたが、実際には『ザ・お金持ち』といった豪邸である。あらゆる部分に金をかけているのがわかる。庭は……おお、自動的に、水撒きがなされている。芝生も最高品質なのだろうか、青々と輝いている。将来は僕もあのくらいの家に住みたいものだ。つーかあの家で一人暮らしってすごいよな。どれだけ家事が自動化されてるんだって話だよ……専業主婦率とかすごい低そう。
おっ、玄関から幼女が出てきた。あの特徴的なオデコは、間違いなく『綾小路やいと』ちゃんだろう。やたらとしかめっ面をしているが、地の顔があんな感じなのだと思われる。しかし実際には、飛び級する頭脳に加え、情に厚く、作中屈指に気も遣える、なぜヒロインではないのか疑うレベルの幼女である。
──そんな幼女がこちらにつかつかと近付いてきて声をかけてきた。
「ナニ見てんのよ」
「ああ、こりゃ失礼……凄い豪邸だったから、見入っちゃってさ」
「ふふん、そりゃそうよ。このやいとちゃんの家は、そんじょそこらのものとは訳が違うんだから」
「確かにそうだねぇ。住んでる娘も可愛いとくりゃ、欠点が見当たらないぜ」
「あら、あなたモノがわかってるじゃない」
ちょっとは謙遜しろよ。しかしスネオのような嫌味っぽさを感じないあたり、本物のお金持ちオーラが凄い。生まれつきのお金持ちってのは、やはり何かが違うんだろう。
「それにしても、この辺じゃ見ない顔だけど……どこのどちら様?」
「ん、ああ──今日引っ越ししてきたんだ。明日秋原小学校に転校予定だから、また会えるかもね」
「へぇ……なら一緒にきなさいよ。これからみんなで遊ぶから、紹介してあげる」
「やあ、そりゃ嬉しいな。けどまだ片付けが残ってるから、明日の楽しみにしとくよ──じゃね」
手を振って見送ってくれるやいとちゃん。転校生って最初に馴染めないと悲惨だからなぁ……たぶんその辺も考えてわざわざ誘ってくれたんだろう。スネオから嫌味要素を抜いて、出来杉君を足したような幼女である。
──それはさておき、ようやく念願の『家』だ。賃貸とはいえ、毎日帰る場所ができたというのは非常に喜ばしい。セックスする場所にも困らないし、PETの方の僕にもようやくエロい場を提供できる。もちろん18禁のプログラムだが、認証プログラムは大したセキュリティでもない。
きっとお偉いさんも、男子のロマンを壊したくはなかったのだろう。ガバガバセキュリティが多いこの世界基準でも、さらにガバガバなのがエロコンテンツである。
「今夜は徹夜かなー…」
『別にそんな急がなくてもいいぜ、僕』
「本音は?」
『一秒でも早くセッティングしてほしい』
「うん、僕もそう思う──だから君もそう思う」
『まあそうだよね……ところで女の子型のナビって、オマンコついてるのかな?』
「さぁ…? 専用のプログラムならともかく、必要のないナビにつけるとは思えないけど」
二人して唸りながら腕を組む。同族嫌悪という言葉があるが、僕には当てはまらないようだ。自分が嫌いな人間だと地獄だったのだろうが、僕は自己愛が強くてよかったぜ。さて──明日は十数年ぶりの小学校か……楽しみだな、うん。
■
秋原小学校職員室。五年A組の担任『大園まりこ』教諭が、軽くクラスの人物の説明をしてくれている。一クラスあたりの人数が十に満たないからこそできる丁寧さだ。しかし顔も可愛い、おっぱいも大きい、極めつけに明るくて優しい、そんな人が小学校の先生ってどういうことなんだろう。なんて贅沢なんだ。彼女で精通を迎えた生徒は多い筈だ。
「…? どうしたの? 宙くん」
「いや、まりこ先生のおっぱいは大きいなぁと──あだっ!?」
「最初の授業は『女性への接し方』がよかったかしら?」
「ってー……大丈夫だって先生。でも『女性の扱い方』の授業なら、実践を交えて、ぜひお願いします」
「はぁ……最近の子はマセてるわねぇ」
「そうでマスねぇ。あっしの小学校時代なんかは、先生なんてみんなオジサンオバサンにしか見えなかったでマスが…」
「…」
「──はっ! ち、違うでマスよ! まりこ先生をオバサンと言っているわけでは…!」
「ほんとほんと。まりこ先生より可愛い先生なんて見たことないよ」
「こーら! 先生に向かって『可愛い』なんて言っちゃダメでしょ? …ふふっ」
「じゃあ『美人』は?」
「うーん……それならいいかな」
「いよっ! 秋原町一の美人教師!」
「そ、そう? やだ、ちょっと褒めすぎよぉ」
小学五年生なら、エッチなイタズラもギリギリ許されるだろうか? まりこ先生の許容範囲を見定めつつ、最終的におっぱいくらい揉んでみたいものだ。美人で巨乳の女教師とかいう、創作の中にしか存在しないような存在だ。これだけでも小学生になって良かったと思えなくもない……いや、だからこそ高卒認定に落ちたという説もあるな。そうだ、僕の頭が悪かったんじゃないんだ。
さて、まりこ先生ともう一人──日暮さんがここにいるということは、彼がまだWWWに在籍しているということだろう。実習生になりすまし、各地の小学生に『WWW洗脳プログラム』で催眠をかける任務を負っている……とかなんとかいった感じだった筈。いかんせん、ゲームのシナリオなど事細かに覚えている筈もない。事件の頻度が高いことは知っているものの、場当たり的な対処が多くなるだろう。
とりあえず、何も起こしていないのに逮捕なぞできるわけもない。馬脚を現したら対処すればいいか。まずは転校生として上手くやれるように頑張るべきだろう。精神年齢が違いすぎて疎外感を覚えるかもしれないが、仲良くするに越したことはない。先を行くまりこ先生のケツをガン見しながら、教室へと赴いた。
教室の広さの割に席数は少なく、そこかしこにハイテクな機器が置かれている。改めて、自分がロックマンエグゼの世界──近未来の世界にきてしまったことが実感できる。やいとちゃんに軽く手を振った後、まりこ先生に促されて自己紹介を始めた。
「『
「そ、それでいいの…?」
まりこ先生がずっこけながら冷や汗を流している。昭和の漫画キャラかな? 他にも微妙な表情をしている生徒が数人いるが、それ以外の一人──おそらく熱斗くんが目を輝かして手を挙げた。おそらく僕の名字が自分の苗字と同じだったせいだろう。偶然というものは、小学生にとって妙な可笑しさを感じるものだ。
「なあピカチュウ! 俺もひか──」
「先生、イジメです。変なあだ名を付けられました」
「自分で言ったのに!?」
「…いいかい熱斗。言葉を額面通りに受け止めるなんてのは、小学生までだ。僕の言葉に込められた『ほんとはピカチュウなんて呼ばれたくない』──そんな気持ちを汲み取ってこそ、良い大人になれるんだよ」
「む、むちゃくちゃ言うな……ま、いいや! じゃあ宙でいいよな? 実は俺も『光』って言うんだ──すげえ偶然だよな!」
おお、さすがはコミュ力お化けこと主人公。一言交わしただけの相手でも、いつのまにかメールアドレスを交換しているだけはある。輝く笑顔で名前を呼ばれると、それだけで嬉しくなってしまう……これもカリスマというやつだろうか。ショタ趣味は一切ないが、妙に惹かれてしまう。
「ああ、僕の名字が『光』なのは偶然じゃなくて……君のお父さんの愛人の息子だからさ。君とは腹違いの兄弟ってことになるね」
「…へっ…? え、パパが──う、え……え、嘘だろ!?」
「嘘だよ」
「嘘かよ!?」
「…いいかい熱斗。言葉を額面通りに受け取るなんてのは、小学生まで──」
「さっき聞いたよ! っていうか俺らまだ小学生じゃねーか!」
さっきからツッコミが光るな……光だけに。ユーモアセンスを組み込んだロックマンに、的確なツッコミを入れるだけのことはある。
まあそんなこんなで自己紹介もつつがなく終え、前もって用意されていたらしき空席へと向かう。勉強嫌いな生徒から大人気な、一番右奥の席──の、一個左だ。隣はやいとちゃんであり、嬉しくて思わずキスをしたくなった。しないけど。
「や、同じクラスだったね」
「ふふん、このやいとちゃんと同じクラスで──しかも隣の席なんて、人生の幸運を使い果たしたんじゃない?」
「あれ? 宙、やいとと知り合いだったのか?」
「うん。将来を誓いあった仲ってやつかな」
「ぶっ──!? あ、あんたナニ言って…」
「う、嘘だろ!?」
「嘘だよ」
「やっぱりかよ!」
「…いいかい熱──」
「それはもういいって!」
一番前の席からですらこのツッコミだ。ネットバトラーとしても超一流だというのに、お笑いですら天下を取れそうなこの動き──流石は光一族の血を受け継ぐ者。しかしロックマンにも早く会いたいものだ。あらゆる世界においてビッグネームたるロックマン先輩。やはり纏うオーラも違うのだろうか。
「ハァ……光くん以上の問題児が入ってくるなんて思いもしなかったわ…」
「先生ヒデー!」
「先生、『光くん』じゃ紛らわしいので下の名前でお願いします」
「え? あ、そっか。じゃあ熱斗くんと、宙くん……ね。そうそう、みんなに言っておくけど──宙くんは小学生だけど、オフィシャルネットバトラーとしても活動しているの。学校を休むこともちょくちょくあるけど、それは事情あってのことだから覚えておいてね」
ざわりと教室が揺れる。いやー、良い紹介の仕方だぜまりこ先生。ほらほら、僕って凄いんだよー。崇め奉り、後世まで語り継ぎたまえちびっこ共。
「小学生でオフィシャル!? う、嘘だろ!?」
「嘘だよ」
「そ、そうだよな……びっくりしたぁ」
「そ・ら・く・ん? あんまりお友達をからかっちゃいけません!」
「でも、最初に嘘つき呼ばわりしたのは熱斗のやつです」
「俺のせい!?」
「…いいかい熱斗。なんでもかんでも人を疑うなんてのは、小学生までだ。人を信じる心こそが、良い大人の証──」
「さっきと言ってること真逆じゃねーか!」
「時には真実、時には嘘……酸いも甘いも噛み分けてこそ、一流のオフィシャルなんだぜ」
「ぜってー嘘だ…」
なんだかみんな疲れた顔をしているが、まだ一時間目も始まっていないというのに惰弱千万だな。現代っ子は保護されすぎて、メンタルも体力も免疫も低いというが──未来だとなおさらにと言ったところだろうか。まあ僕もゆとり世代だけど。
「あのー……紹介はまだでマスか…?」
「あっ!? ご、ごめんなさい! 完全に忘れてた…」
「ひ、ひどいでマス!」
ああ、そういえば教室前で待機していたんだったな。哀れな日暮さん。まりこ先生に教生として紹介されるも、生徒たちからは散々な評価である。いわくオタクっぽくて気持ち悪いだの、変な人だの……まあ語尾に『マス』をつけてる教生がきたら、僕もあまり関わろうとはしないだろう。みんな的確な評価をしているともいえる。
HRが終わり、一旦まりこ先生と日暮さんが退出していく。しかし小学校にHRなんてあるもんなんだなー……時代が変わったのか、それとも地域性なのか。『終わりの会』とかいう無駄な時間はあったような気がするけど、なにぶん十年以上前のことだし覚えていない。
先生がいなくなった途端、熱斗くんを筆頭に数人が寄ってくる。ここで質疑応答を間違えると、灰色の学校生活が待ち受ける──いわゆる転校生の試練というやつだ。
「どうしたんだい、熱斗兄さん」
「まだそのネタ引っ張っるのかよ!」
「ふふっ…! 宙くんって面白いね」
「やあ、それはどうも。メイルちゃんも可愛いね」
「へっ? ア、アリガト……っていうか、なんで名前知ってるの…?」
「そりゃもう、見るからに『メイルチャン』って感じの顔だし」
「どういうこと!?」
「僕って、人の顔を見ればなんとなく名前がわかるんだよね」
まあゲーム的な意味で知ってるとは言えまい。熱斗くんのお嫁さんこと『桜井メイル』ちゃんをからかいつつ、適当にお茶を濁す。すると今度は、一キロ先からでも判別できそうなくらい個性的な男子が話しかけてきた。
「へへっ、じゃあオレの名前もわかるのか?」
「ボブ」
「ぜんぜんちげぇよ!」
憤慨するデカオくんを宥めつつ、集まった面々を見返す。この、なんというか……ジャイアン、スネオ、静ちゃん的なミックスは伝統なのだろうか? もちろんデカオくん、やいとちゃん、メイルちゃんが藤子キャラクターズに似ているという訳ではないが、なんとなくそれっぽさもあるよね。
熱斗くんはと言えば、常に劇場版状態ののび太くんって感じだし。ということは、僕は出来杉君なのか…? 優秀ゆえにぼっちな出来杉君なのか?
「しっかし宙がオフィシャルなー……ぜんぜんそう見えねえ」
「まあ最近入ったばっかだしね」
「オフィシャルってどうやって入るんだ? オレ様の実力なら、声がかかってもおかしくねぇのによ…」
「正規の入り方は知らないけど……僕の場合で言えば、ウラインターネット最強のナビと戦ってるとこを目撃されて、スカウトまっしぐら──って感じかな」
「嘘くせえ…」
「いや、それは本当だけど」
「マジで?」
「マジに」
「へえぇ……なあなあ、後でちょっとネットバトル──」
「ちょっと光くん! 子供同士で勝手にネットバトルしちゃいけないのよ!」
「いや、僕はオフィシャルだし」
「そっちの光くんじゃなくて──ああもう! まぎらわしいわね!」
「ヒデェなやいと!」
「じゃあ僕の方は『宙』でよろしく。僕も『やいと』でいいかい?」
「う……と、特別だからね? 光栄に思いなさい」
「そりゃあもう、格別の親愛を込めて呼ばせていただくよ」
「そ──そう?」
「ハハハ! デコチビの癖に照れてやんの!」
「な、なんですってー!」
オデコを真っ赤にして、デカオくんに怒るやいとちゃん。いや、怒りなのか照れなのか……うん、怒りだな。しかし彼等はもうちょっと仲が良かったイメージだが──今の時点ではそんなに付き合いも長くないのかな? まあなんにしても、暴言を吐いたデカオくんを諌めるとしよう。大人としての義務ってやつだ。
「デカオ」
「な、なんだよ?」
「人の身体的特徴をあげつらって罵るなんて、一番やっちゃいけないことだ」
「うっ…!」
「君だって、ハゲデブモヒカン魚人野郎なんて言われたら腹が立つだろう?」
「お前が一番ひどくねーか!?」
「そういうわけだから、あんまり友達を馬鹿にしちゃダメだよ」
「そのセリフが一番納得いかねぇ…!」
「もちろん、やいとちゃんが君を馬鹿にした時は──やいとちゃんに付くさ」
「なんでだよ!?」
「綾小路家は……オフィシャルの予算の、実に一%を賄っているんだ」
「最悪だコイツ!」
「やいとちゃんは必ず僕が守る」
「込められた意味が最低すぎる!」
権力には逆らうべからず。やいとちゃんの手をしっかり握って抱きしめたら、そのまま頭突きをくらった。照れるな照れるな。
──おっと、チャイムが鳴った。一時間目の始まりだ。教師がまりこ先生ってだけでテンションがあがる。前の世界も、教師を美人女教師のみに限定すれば、不登校やイジメが減ったんじゃないだろうか?
「まりこ先生は体調不良でお休みでマス! この時間は自習にするでマスから、後で算数のドリルを提出するでマス!」
「ちぇー! 遊べると思ったのに…」
いや、数分前までピンピンしてたじゃねーか。怪しすぎることこの上ない。そういえばこんなシナリオだったか──はっ! 思い出した! 確かこの後、熱斗くんが縛られたまりこ先生を救出するのだ。『縛られた』『まりこ先生』……これは放っておけないな。どさくさに紛れておっぱいを……じゃなかった、人命救助のために一刻も早く向かわなければ。
「おっ、おい宙!? どこ行くんだよ!」
「ゴメン蘭姉ちゃん! ちょっとトイレ!」
「蘭姉ちゃんって誰!?」
素早く教室を後にして──ん? なにやらロックがかかった音がしたような……まあ後で調べよう。さて、名探偵ピカチュウの推理を始めるとするか。大の大人を縛り、閉じ込めておくのに適当な場所といえば…? まさかそのまま保健室ってこともないだろうし、人の来ない倉庫かなにかが適当だろう。
五年A組から職員室までの間にある倉庫といえば、体育用具室だけだった筈だ。なにより、HR終わりから一時間目の始まりまで大した時間は経っていない。その間にまりこ先生を襲い、縛り、閉じ込める──そう遠くはないだろう。
「ここかな?」
「むぐー! むー!」
「まりこ先生!」
「むー? むぐー!」
おお、後ろ手に縛られながら猿ぐつわを噛ませられている女性を見るのは初めてだ。しかも何やら懇願しているような表情だし、背徳感が性欲を煽る。
「…見損ないました、まりこ先生」
「むぐっ!?」
「生徒を放っておいて、日暮先生とこんな変態プレイを…! 聖職者としてあるまじき痴態です」
「むぅぅぅっ!」
違あぁぁう! って感じの表情だ。わかってまんがな。ちょっとしたジョークってやつじゃないですか。近付いて縄に手をかける。噛まされた布が唾液でグチョ濡れで、ちょっとエロい。ものすごくモジモジしているが、もしかしてトイレを我慢しているのだろうか。
「縄が固いな…! あ、手が滑った」
「ひゃん!? ふむっ、ふぐぅぅ!!(こらー! 宙くん!)」
「わー、まりこ先生のおっぱいやわらかーい」
「ふむっ、んっ、んひゅっ──んんっ!?」
ぐにぐにと胸を揉みながら、口元の布を外す。べちょりとした音が床から聞こえると同時、まりこ先生のお怒りボイスが用具室に響き渡る──その寸前、彼女の唇を塞いだ。もちろん僕の唇で。
「んっ、ぐっ、んむ──はぁ……っ、そ、宙くん!? いけないことよ、こんな…!」
「えー……でも、もっとまりこ先生とキスしてたい」
「だ、だから、こういうのはもっと大人になって──同じくらいの娘と、好きな人とすることなんです!」
「僕、まりこ先生のこと好きだよ?」
「だからそういう好きじゃなくて……うぅ、誰よこの子に情操教育したの…」
「あはは、された覚えはないかなぁ。物心ついた時には一人だったし」
「──っ! あっ…」
僕の特殊な事情は、当然担任である彼女には伝えられている。オフィシャルといえど子供というのに変わりはなく、当然の処置だろう。まあ割と複雑な感じでオフィシャルには伝えといた訳だが──ようは『可哀相な子』といった感じだ。
実際問題、あらゆる縁も財産も唐突に消え去って、縁もゆかりもないこの世界にきた僕は、割と可哀相なんじゃなかろうか。こんなフィクションみたいな世界にきたがってる奴なんてごまんといるんだから、世に不満なんか抱いてない僕を選ばれても困るよね。
「…なーんて、ちょっとした冗談だって。すぐ解くよ」
「…」
ちょっと悲しげな顔で黙々と縄を解く。母性本能マックスなまりこ先生なら、先程の蛮行など既に彼方だろう。ふふふ、これが天涯孤独の小学生の特権ってやつだ。言ってて悲しくなってきたが、とりあえずまりこ先生のおっぱいは気持ちよかったし、唇もやわやわふにゅふにゅで美味しかった。これ以上は流石に無理だろうし、ギリギリ小学校のイタズラで済まされる限度いっぱい……いや、ちょっと超えてしまったかもしれない。やっぱりおっぱいだけにしておくべきだったか。どうか訴えられませんように…!
「はぁ……こんど個人的に女性への接し方を叩き込みます! 覚悟しておくように!」
「はーい」
「もう少し反省しなさい!」
「まあまあ、そんなに怒らなくとも。まさかファーストキスってわけでもあるまいし」
「…っ!」
「あれ? え、まさかその歳で…」
「だ・ま・り・な・さい!」
「あだっ!?」
社会人でキス未経験ってやばない…? どんな人生過ごしてきたらそんなおぼこになるんだよ。しかもその容姿でそれって、親に監禁されて生きてきたくらいのことを疑うぜ……まあそれはともかく──これで『性的な知識が歪な小学生という』認識を得たわけだ。
エロは一日にしてならず。コツコツと積み上げることが大事なのだ。一日にしてなるとすれば強姦か、あるいは相手がビッチだったかくらいのものだろう。もちろんビッチは嫌いじゃないが、せっかく小学生になったのだから──やはり大人になったら(法的に)味わえない、少女というものを味わってみたいね。
さて、騒動は熱斗くんが解決に向かってるだろうけど……僕もオフィシャルとしての義務を果たしましょうか、っと。
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2話
縛られていた上、抜け出そうとして乱れに乱れた着衣。まあ僕がおっぱいを揉みしだいたというせいもあるのだが──女性が着衣の乱れを直す姿というものは、妙にエロいものだ。手伝う振りをしながらお尻を触ったら、またもやゲンコツを落とされた。これは生徒への虐待ではなかろうか。
「──ここか!?」
「きゃっ…! ね、熱斗くん?」
「まりこ先生! …と宙!? こんなとこでなにを…」
「ちょっとばかし大人の授業をね──あだっ!」
「馬鹿言いなさい! …それより熱斗くん、急いでるみたいだけど…?」
「あ、そうだ! 学校中でWWWの演説プログラムが流れてて──まりこ先生のパスカードがいるんだよ!」
「やっぱり日暮先生が…! わかったわ、持っていってちょうだい」
『やっぱり日暮先生が』からの『わかったわ、持っていってちょうだい』という、セリフの繋がりが理解できない件について。まりこ先生、それでいいのか…? 相手は小学生だぞ。いやまあ、熱斗くんの腕が一流だというのは、少なくとも秋原小学校においては周知の事実だ。緊急を要する事態であれば、建前よりも実を取る──そう考えればとても素晴らしい判断といえる。
「ちょっと待った熱斗、僕も行くよ。オフィシャルの沽券に関わるし」
「ああ! お前が一緒なら心強いぜ!」
「…っ」
くっ、ナチュラルに心をくすぐってくるな。人好きのする人間というのは、熱斗くんのような人物を指すんだろう。人気者というのも頷ける。彼にならケツを貸してやってもいい……いや冗談だ。絶対に御免こうむる。
しかしよく考えたら、僕は熱斗くんを諌めなければならない立場ではなかろうか。『素人は引っ込んでいろ……ここからはオフィシャルの管轄だ。腕自慢がしたいなら他を当たりな』みたいな。
「熱斗、急いでいるところ申し訳ないんだけど……オフィシャルとして、僕は君に警告しなけりゃならない」
「な、なんだよ?」
「廊下を走るのはよくないよ」
「それどころじゃねーだろ!?」
うむ、いい突っ込みだ。まあそれはともかく──やはり一般人を事件にかからわせる際は、なにかと制約がかかる。どう考えても一般人から逸脱した熱斗くんではあるが、立場的にはごく普通の小学生だ。『止められる状況にあって、しかしそれをしなかった』事実は、僕の責任問題に発展しかねない。まあそんなことで糾弾してくる輩がいるとは思えないけど、転ばぬ先の杖ってやつだ。対策しておくに越したことはない。
「一応、オフィシャルとしてさ……事にあたって、捜査権限を持たない人と一緒にってのはまずいんだよね」
「で、でも! みんなが危ないんだ! 黙って見てられるかよ!」
「うん、その気持は僕も汲みたいよ。だから──これを受け取ってくれるかい?」
「これは……『オフィシャルパス』…?」
「うん。それを持ってれば、一時的にオフィシャルと同等の権利を有することになる」
「い、いいのか?」
「もちろん、いいことばかりじゃないぜ。権利には義務も付随する……それを持って任務に当たる際、怪我や事故は自己責任になる」
「えーっと…?」
「熱斗が死んでも、僕のせいじゃないっていう証明がほしいんだ」
「こえーよ!」
責任とは逃れるためにあるものだ。なんかイヤなものを手にしたとでもいうような表情をされているが、結構貴重なものなんだからもっと喜んでほしいな。というか渡した時点で結局、いくばくかの責任は取らされるんだけどさ。まあ渡さないで好き勝手されるより、渡して好き勝手された方がマシだろう。
「一応、『受け入れた』って証明のデータが必要だから、取らせてもらうね」
「えっと……どうすりゃいいんだ?」
「ちょっと難しいから、そのまま復唱してくれればいいよ。まずは……『電脳法三条二項、オフィシャルネットバトラーニヨリオフィシャルパスヲ付与サレタ者ハ、コレト同様の権利ヲ有スル』」
「で、電脳法さんじょう、にこう…? オ、オフィシャル……~~」
「うん、そうそう。次は『役務上デノ行動ハONNノ規定ニ基ヅキ、マタ担保サレル。乙ハ甲ニ従シ…』」
「えーっと……ヤクムジョー……~~」
「『乙ハコレニ同意シ、受ケ入ルモノトス』」
「『乙ハコレニ同意シ、受ケ入ルモノトス』」
「『俺は桜井メイルを愛しています』」
「『俺は桜井メイルを愛しています』……んっ!? ちょっ、まっ…!?」
「やだぁ、熱烈な告白データ取れちゃった。切り取って大切に保存しとこっと」
「おおぉぉい!?」
「大丈夫だって、必要な時にしか使わないから」
「脅迫にしか使えないけど!?」
「急ごう、時間がない」
「誰のせいだよ!!」
さて、熱斗くんに対する絶対のカードも手に入れたことだし、さっさと事件を解決しよう。まりこ先生のパスカードを使って電脳にプラグイン。いつの日かまりこ先生にもプラグインしたいところだ……よし、おちゃらけはここまでにするか。僕にとってのプラグインとは、どんな時であれ死の危険がつきまとう。それを交通事故にあう程度の確率にするか、天和を上がるくらいの確率にするか、飛行機事故に巻き込まれるような確率にするかは僕次第である。
敵が瀕死状態であろうとも、油断してムラマサなんか食らっちゃったら目も当てられない。まあそんなレアチップを持っている人なんてごく少数だけど、それでも絶対じゃないんだ。だからこそ電脳世界では、リラックスしつつ警戒を張るという矛盾した行動を取らねばならない。
──さ、行こうか『マイン』。
■
まりこ先生のおっぱいを堪能できるとは、なんと羨ましいんだ僕め。まあ昨日の夜、散々楽しんだ僕がいうことでもないかもしれんけど。さすが近未来の技術の粋がつまったエログラムというべきか、現実世界ではけして味わえない素晴らしい体験を堪能できた。
「君が宙くんのナビかい? ボクはロックマン! よろしくね!」
「よろしくお願いします先輩!」
「せ、先輩!? ど、どういうこと?」
「いやあ、まさかあの高名なロックマンさんを呼び捨てになんてできませんし…」
「え、えぇ…? よくわからないけど、オフィシャルのナビである君の方がすごいんじゃない?」
「それもそっか。頭が高いぞロックマン」
「手の平返しがひどい!」
「冗談冗談。僕のことはマインって呼んでよ……よろしく、ロックマン。ロックマン……ロックマン……んん、ちょっと長くて呼びにくいな。縮めて呼んでもいいかい?」
「うん、僕もその方が嬉しいかな」
「じゃあよろしくね、ロッ。」
「そこで止めちゃうの!?」
「じゃあロックで」
「う、うん…」
すごく微妙な表情をしているロックと共に、電脳の奥を目指す。ウイルスバスティングの腕は、僕が見ても惚れ惚れするほどだ。大したチップは使っていないけれど、その上で的確に敵を処理していく。オペレーターと息の合ったナビを客観的に見ると、こんな風に見えるのか。
「──すごいねマイン! こんなにオペレーターと息の合ったナビ、初めて見たよ!」
「そっくりそのまま返したいセリフだけど……まあ僕とぼ──宙の方が息はあってるっちゃあってるか。ま、当たり前の話だけど」
「やっぱりオフィシャルではこれが普通なの?」
「まさか。ロックと熱斗くんの実力なら、オフィシャルでも最上位レベルの腕前だぜ」
「そ、そう? ほんとだったら嬉しいけど…」
…顔を赤らめるんじゃありません。僕が変な道に目覚めたらどうしてくれるんだ。しかしほんと、普通のナビのオペレートは難しいんだろうなぁ。二人でのネットバトルというのは、わかりやすく言うなら『二人羽織』である。瞬間的な判断が連続して続く状態で、ピッタリ息を合わせるのがどれほど難しいことか。同一人物である僕たちですら、最初の方は少しだけ手こずったものだ。
状況に対して同じ解を出せるとはいえ、視点は違う。ウイルスと目の前で対峙する僕と、それを現実世界で俯瞰気味に見ている僕では、どうしても認識の差が出てくる。それをすり合わせることこそが、ネットバトルの肝なのだ。
とはいえさして時間もかからずに──というより、強制的になるべくしてなったような最終フォーム『パーフェクトフルシンクロ』は、オペレーターとナビの間にあるタイムラグなど消え失せる。世界が違っても僕たちが『僕たち』であるのは、この同調状態によるところが大きい。
あらゆる感覚が研ぎ澄まされ、あらゆる能力値が大幅に上昇する『パーフェクトフルシンクロ』。この状態の僕に不意打ちできる存在は、おそらくいないだろう。ウイルスがロックに奇襲を仕掛けようとしているのもお見通しだ。
「わっ!? しまっ──」
「──油断は禁物だよ、ロック」
「わ、速っ…!? あ──……ありがと、マイン」
「どう致しまして」
「すごい……こんなに速く動けるナビ、見たことないよ」
「んー……『攻撃に当たらないように』じゃなくて、『当たったら終わり』って感じだしね」
「…? そういう志で臨んでるってこと?」
「いや、物理的な話さ」
「う、ん…?」
火傷を負おうが腕が折れようが、僕の方はリカバリーチップを使えば問題ないが……現実の僕はそう上手くいかない。この世界の人間はやたら頑丈なようで、室温が百度になっても重傷で済むような、スーパーマサラ人もどきがゴロゴロしているのだが──傷の治りがそこまで早いという訳ではない。故に僕たちの常軌を逸した能力値を、更に偏向型にすることで無類の速さを得ると同時、絶対に攻撃に当たらないよう気をつけているのだ。
怖いのは一撃が重い攻撃ではなく、軽くとも攻撃範囲の広い攻撃である。なんせ現実の僕って痛がりだし……となれば、当然ながら僕だって痛がりだ。なぜナビに痛覚を積んでいるのかと、製作者に小一時間ほど説教してやりたい。なんにしても、攻撃にあたるのはどっちの僕にとっても望ましくないのである。
戦闘を介して親交を深めながら、奥へと進む。その先で待ち受けていたのは──電球のような頭が特徴的なナビ『ナンバーマン』だ。演説プログラムの基盤を守っているようで、ガーディアンのように立ちはだかっている。
「──首謀者はお前か! 演説プログラムを止めるんだ! みんなおかしくなっちゃうじゃないか!」
「ふむ、ここまでやってくるのは中々のもの……しかしなぜ止める必要が? WWWの忠実なシモベとなれるのならば、それはとても幸せなこと……そうですよね、日暮さん」
『その通りでマス! WWWはとてもお給料が良いのでマス──レアチップ集めも捗るでマスし、みんなもお金が稼げて万々歳でマス!』
『そんな汚いお金で集めたレアチップなんか、なんの価値もないだろ! そんなことのためにまりこ先生に酷いことしたのか!』
『うっ…! た、確かにちょっと気は引けたでマスが…』
『どこまでやったんだ! 正直に言え! おっぱいは触ったのか? もしかして膜まで破ったんじゃ──痛いっ!』
『そ・ら・く・ん?』
『ば、場を和ませるジョークって奴だから……あでででっ! くっ……まりこ先生、あなたをオフィシャル役務執行妨害で逮捕する! 取り調べ室ではエッチな尋問を覚悟するんだな! ──いでででっ、み、耳はほんとに千切れやすいんだから、やめて…』
『なにやってんのお前…』
まりこ先生の尋問プレイかぁ……ぜひやってみたいよね。まあそれはともかく、ナンバーマンも──そしてオペレーターの方も気が緩みきっている。ゲームとの一番の違いは、『よーいドン』で戦闘が始まるわけじゃない、というところだ。現実の方の僕もふざけた行動を取ってはいるものの、手元の動きは正確だ。気付かれないようにチップを送ってくれている。
「遊んでる場合じゃないよ! 早くサーバーのアクセス権を取り返さなきゃ──えっ?」
ロックが後方で叫んでいるが、そのセリフに意味はない。なんせもう終わった話だし。崩れ落ちるナンバーマンが日暮さんに謝罪しているけど、それは被害を受けた生徒たちへと向けてほしいものだ。
「ガ、ガガッ──も、申し訳あり……ぐ……さん…」
「はい、終わりっと。敵を前に油断しちゃダメだぜ、ナンバーマン」
『へっ…? え、もう終わったのか…?』
『だね。馬鹿なやり取りで敵の気を緩ませるのも、戦術の一つさ』
『そ、そうだったのね……ごめんなさい、宙くん。私ったらてっきり…』
『ええ、償いは体で払っていただこうかと──あぶっ!?』
速さこそが強さである──とか言ってると噛ませになりそうなので、口にはしないでおこう。古今東西、スピードキャラとは強キャラの踏み台にされる運命なのだ。まあ今はそんなことより、初めてのナビチップゲットを喜ぼう……ナンバーマンって運に左右されるとはいえ、結構強いんだよね。ありがたやありがたや……ちなみに完全デリートしなかったのは慈悲じゃない。V3ナビチップがいっぱい欲しいからだ。期待していますぞ、日暮さん。
■
職員室の巨大サーバー前で、大の大人が小学生に説教されている。熱斗くんのお説教って、ほんとに相手のためを思ってるってのが感じ取れるな……そのおかげか、日暮さんも改心したようだ。僕じゃこうはいかないだろうし、流石は主人公だぜ。
メイルちゃん、デカオくん、やいとちゃん、熱斗くん、まりこ先生……そして僕。この六人の前で、贖罪を誓う日暮さん。なんだか闇が抜けきったようで、善きかな善きかな。さて、一件落着といったこの雰囲気の中だが、職務は遂行せねば。
「ま、大事に至らなくてよかったね」
「だな! 宙がスゲエやつってのもわかったし──ん? ナニ持ってんだ?」
「手錠」
「…なんで?」
「なんでって……『反省しましたはい終わり』で済んだら、オフィシャルなんていらないだろ? 集団への洗脳は『暴行罪』が適用されるし、WWWが絡んでるなら『政治目的騒乱煽動罪』も追加だね」
「で、でも日暮さんはもう悪いことしないって…!」
みんながもどかしいような目でこちらを見てくる。『理屈はわかるが、それでも…』といった感じだ。もっとも日暮さん本人は投降する気があるようで、神妙な面持ちである。
──ちなみに彼等が日暮さんへの温情を求めているのは、実のところ一定の効果がある。性善説に基づいて定められているのが“元の世界の法”であり──そして性善説を
なんとなんと、現場の状況と当該人物たちの判断如何によっては、罪を罪と認めないこともできるのだ。ガバガバのガバだが、日本転覆を企んだWWW構成員ですら、反省したと見なされれば数ヶ月で出所するのがこの世界。それを考えればむしろ当然なのかもしれないし、人の根本が違うのだから、この世界の司法に対し僕が文句をつけることは無粋だろう。死刑制度など元から存在しないあたりが、優しい世界の証明ってやつなのだろうか。
「…罪を償うと仰っていましたが、それはどういった手段で?」
「…店を開きたいんでマス! みんなにもっとチップが行き渡るように…! みんながもっとネットバトルを楽しめるように! 個人的に作ったルートはたくさんあるでマス。できればこの秋原町に店を開いて、今日迷惑をかけた生徒のみんなに償いをしたいんでマス…」
「なるほど…」
腕を組んで、考え込む──振りをする。彼が経営する『ヒグレヤ』は非常に便利な店である。希少なチップもたまにあるし、後々にはお取り寄せサービスなる便利なものも提供してくれる。故に、そもそも逮捕などという勿体ないことをする筈もない。
ならばなぜこうも弾劾しているのかと言えば、ヒグレヤを利用するにあたってさらなるサービスを受けたいからだ。お金って大事。
「勘違いされることも多いですが……懲役刑とは罰ではなく、反省を促して社会復帰を目指すための制度です。既に反省し、社会に貢献しようとしている人間のためのものではない」
「そ、それじゃあ…!」
「──条件付きではありますが、あなたの贖罪を見届けましょう」
「か、感謝するでマス!」
「それで、条件って…?」
鋭い眼光で日暮さんを射抜く。僕と日暮さん以外の全員がゴクリと喉をならし、どうなることかと見守っている。僕は一つ真面目に頷いて、口を開いた。
「チップ屋を経営するにあたって……常時僕だけ半額サービス。これで手を打ちましょう」
「職権濫用じゃねーか!」
「だまらっしゃい。この世は義理と人情でできてるんだよ、熱斗」
「おもいっきり私情じゃん!」
「日暮さん……新しく開いたチップ屋が、一年以内にどれだけ店を畳むか知ってますか?」
「し、知らんでマス…」
「その数、実に六十%。経営手腕がかなり問われる職業と言えますね」
「ナ、ナニが言いたいんでマス?」
「店には“売り”が必要です。つまり──オフィシャルネットバトラー御用達の店となると、それは実にいい宣伝材料になる。常時半額なんてサービス、広告費として破格では? もちろん常識的な買い物しかしませんよ、僕は」
「おお…! なるほど……でマス」
「これが“ゆちゃく”ってやつか…」
「見てはいけないものを見たような…」
「拒否して豚箱にぶちこまれるか、輝かしい未来を手にするか! 選ぶんだ日暮さん!」
「脅迫じゃねーか!」
「長いお付き合いをヨロシクでマス!」
「あんたもそれでいいのか!?」
ガッチリと手を組んで、契約を交わす。たとえ周囲に白い目で見られようとも、これが僕と日暮さんの友情の証だ。まさにこれにて万事解決、一件落着。別に犯罪とはいえないし、ちょっとした役得といったところだろう。
──もっというと、フォルダの強化に関しては割と切実なのだ。最強に憧れてはいないけど、最強であり続けなければならない業を背負ってるわけだし。ヒグレヤの開店と同時、いの一番にチップトレーダーを専有してやろう。ふふふ……実に楽しみだ。
■
さて、WWW騒動が終わって数日……秋原町も秋原小も、非常に平和である。そもそも学校全体を巻き込んだ騒動だというのに、二時間目からは普通に授業をしていたあたり、世界の違いを痛感する。生徒も先生も、メンタルどうなってんだよ。惰弱千万とかいって悪かったよ。警察に通報すらしないって凄いよね……まあ一応オフィシャルである僕がいたから、報告はしたようなものって感じだったのかもしれないけどさ。
それはともかく、日暮さんの改心によって『WWWメトロパス』を手に入れ──WWW本拠地への切符を手に入れることができた。もちろん上には報告済みだし、悪の組織が壊滅するのも秒読み状態である。
ワイリーさんは常にあそこにいるからいいとして、問題は幹部共だ。なるべく本拠地に揃っている状態で制圧しなければ、後々に面倒なことになる。留置所が襲われるなんてことも十二分にありえるだろうし、そうでなくとも死に物狂いで奪い返しにくるのは間違いない。なんであんなマッドサイエンティストに忠誠を誓うのか、ほんと意味不明だよね。
まあ近々大規模な制圧任務が課されるのは確かだろうし、ある程度の覚悟はしておこう。この世界の戦いは何故か電脳バトルの比重が大きいが、一応物理的な戦闘も可能性としてはある。フィジカルで言えば小学生なんだから、あまり無茶はできない。
…まあこの体もそうだし、他人の体もそうなんだけど──めちゃくちゃ頑丈なんだよな。熱斗パパは、常人なら焼け死ぬ部屋にいても無事だったし……熱斗くんだって、高圧電流を流されても『うわーーー!!』で済むし。光一族だけの特別かと思っていたが、この前、誤って二階から落ちてしまっても無傷だったことを考えると、そもそもこの世界の人々はホモ・サピエンスではないのだろう。
だからといって銃に撃たれれば流石に死ぬだろうし、無理は禁物だ。一応、戦車とかもあるみたいだし。まあゲームにおいては生身で立ち向かっていたあたり、銃で撃たれても死なない可能性はあるけどさ。
──まあそんな先のことはおいといて、だ。今は目の前のことに集中したい。眼前にはオデコがキュートな幼女……ご存知、世界有数の財閥のお嬢様、やいとちゃんである。授業も終わったというのになぜ教室にいるかというと、彼女にネットバトルのコツを教授してほしいと頼まれたからだ。
もっというと、『算数を教えた代わりにネットバトルを教えなさいよ』と命令されたからだ。いや……ほら、言い訳じゃないんだけどさ。分数の掛け算とか割り算とか、社会人になってから使わないじゃん? 公式なんて記憶の彼方だし、僕が覚えてないのも当然……いや、もはや必然と言っていいだろう。僕が馬鹿というわけでは、けっしてない。
その証拠に、国語とウイルスバスティングの成績は常に満点だ。他? 他は……まあ社会とかはさ、僕この世界の歴史とか知らないから。一から覚え直しってことは、最初は成績悪くても仕方ないよね。
理科? 理科はほら……この世界って、ガチで物理法則がちょっと違うんだよね。公式とかの違いが微妙なせいで、逆に覚え辛いっていうか。英語はまあ……普通だ。総じて言えば平均ってとこだろうか。
対してやいとちゃんはと言えば、ほぼ全て満点という才女だ。苦手なものといえば体育くらいのものだが、そもそも彼女は年齢的に二学年下である。三年生と五年生は二歳しか離れていないが、子供の頃の二年は非常に大きい。
頭脳は小五、実年齢は小三、体は小一なみ……それがやいとちゃんである。僕が勝てるのは国語とネットバトルとフィジカルのみだが、まあ気にしてもしょうがない。人間には得手不得手というのが存在するのだ。一つ突き抜けてれば、それを芯にして生きていけばいいのさ。
ちなみに、ネットバトルも好成績なやいとちゃんがなぜ教えを請うのか──ってのは説明するまでもないだろう。彼女は小学生の中でトップクラスだが、僕は世界の中でもトップクラス。井の中の蛙を良しとしないやいとちゃんは、向上心も抜群だ。超一流に訓練してもらえるという、ある意味美味しい状況を、十全に利用してやろうって魂胆だろう。
そもそもとして、彼女はネットバトルにおいて自分を優秀だと認識していない。僕は言わずもがなとしても、同じクラスに熱斗くんやデカオくんがいるのだ。前者は言うまでもなく一流、そして後者も実は大概である。そのうち『ウラランキング四位』になるような逸材だぜ? 今でも充分おかしいレベルだし、オフィシャルに入っていても違和感はない。
そんなのが周りにいたら、自分が大した腕前だと思えないのは当然だ。だからこそ僕に頼んできたんだろうし……あとは単純に仲が良いから頼みやすかったってのもあるだろう。なにかにつけてやいとちゃんを構っていた効果が発揮されてるのかもね。ちみっこい彼女を抱きしめても、妹分を猫可愛がりしてるようなものだ。小学生という年代で、その行動に性的なものを感じる人間は少ないだろう。まりこ先生はちょっと不安そうに見てたけど。
「やいとちゃんはチップに頼りすぎる癖があるね。もちろんスタイルはそれぞれだろうけど、防御や回避までチップ頼りにするのは危険だぜ。インビジブルだって突き破ってくるウイルスはたまにいるし、そうでなくともチップの回りが悪いと途端に劣勢になる。運命力を期待するオペレーターは、二流の証さ」
「ウーン……そりゃ理屈ではわかるけど…」
「グライドは元々機動力の高いナビだし、いくらコードが合ってるからってバシバシとチップを送る必要はないよ。ナビ側からするとね、次のチップが送られてくるまでに使い切らなきゃって焦りに繋がる。結果として、半端なタイミングで使って無駄になったり──最悪、隙をさらけ出すことになる。『ナビは不満を言わない』……これ割と重要だぜ。もちろんナビの性格によっては喧嘩するなんてこともあるだろうけど、グライドは見るからにイエスマンよりのナビだ。だから君がよく見て察する必要がある」
「…っ。──ハァ……ほんと、憎たらしいくらい的確。耳が痛いわよ」
「やいとちゃんが大切だからこそ、嫌われる覚悟で苦言を呈するのさ。どうでもいい相手なら、適当に褒めて終わらすし」
「う…」
オデコを赤くしながら、はにかむやいとちゃん。可愛い。まあ小学生の男子なんて、意地っ張りと照れ隠しの塊のようなものだ。ストレートに好意を表す僕みたいなのは、あんまりいないだろう。膝の上でおとなしく撫でられている姿は、まるで懐きかけの小動物のようだ。
ん? なぜ膝の上なのかって? そりゃあPETの扱いを見るのはこの位置が一番見やすいし、そもそも僕の教え方は、彼女の手を使いながらグライドを操作するという実践的なものだからだ──それが一割。残りの九割は、小さなお尻の感触を堪能するためである。どこもかしこも柔らかくてぷにぷにで、一生こうしてたいくらいだね。
まあ授業自体はちゃんとしてるから別にいいだろう。細かい判断の部分なんかは、口に出して指摘するとすぐに吸収してくれるのがやいとちゃんクオリティ。後はチップがない状態でのナビ支援を教えるくらいだけど……やいとちゃんのネットバトルにおいてなにが一番問題かって、手の小ささである。PETって意外とでかいもんだから、年齢よりも更に小さいおててを持つ彼女には、少し扱いづらいだろう。
そもそも世の中は彼女のような低年齢に、高度なウイルスバスティングを求めていない。普通に使う分にはそこまで不便ではないからこそ、小さいPETは必要とされていないのだろう。しかし上級レベルとなると、指の移動の一瞬が勝敗をわけることもある。物理的なタイムラグが出てしまうのは、かなり不利となってしまうのだ。
言ってしまえば、ピアノの奏者みたいなものだろう。あれもプロレベルになってくると、小さい手や短い指は欠点として表れる。手術で指の間を切り取って、可動域を長くする人間だっているくらいだ。
「…さ、今日はこんなもんかな」
「ん、アリガト。頼んでよかったわ……自分でも上手くなったって実感できるもの」
「どう致しまして。じゃあお礼の方を…」
「あら、算数を教えたお礼でしょ?」
「ふっ……分数を教えるくらい、そのへんの馬鹿でもできるさ。でもこのレベルのネットバトルを教えられるのは、限られた人間だけだぜ。釣り合ってない分は払ってもらわなきゃね」
「暗にそのへんの馬鹿以下って自虐してない?」
「…」
「…」
「…数学ができなくとも、人間は死なないんだ」
「算数くらいはできといた方がいいんじゃない?」
「ぬぅ……ああ言えばこう言う幼女め」
「その幼女に算数を教わる馬鹿はどこのどいつかしら」
「ふふん、僕は世間的に認められたオフィシャル様だぜ。僕を馬鹿にしたいなら、馬鹿にできる立場になってから出直してくるんだね」
「ガブゴン社の社長令嬢に逆らうつもり?」
「…権力を笠にきる奴って、ろくなもんじゃないぜ」
「自分の言動を振り返ってらっしゃい」
ううむ……口では敵わないようなので、実力行使でなんとかしよう。体中をくすぐったり突いたりしてイチャイチャしてると、やいとちゃんの激しい動きで下半身が刺激される。最終的に対面座位のような体勢になったが、ここまでくると流石の彼女も恥ずかしいようだ。
床へ降りようと藻掻く彼女も可愛い。しかし腰に手を回してそれを阻止する。あんまりやりすぎると嫌われちゃうかもしんないけど……勘違いじゃなければ、かなり好意は持たれているだろう。知性の高さからくる大人びた部分と、年齢ゆえの幼い部分が混在したやいとちゃん。子供の体に大人の精神が入った僕にちょっと似てるし、短い付き合いながら非常に馬が合う。
彼女から見た僕は、このネットワーク社会において優秀さの象徴ともいえる『オフィシャル』で……それに加え、常に自分へ好意を寄せた態度をとる人間だ。やいとちゃんにとって『気になる男の子』か、それ以上の認識となるには充分だろう。
「そ、宙…? ちょ、ちょっと…!」
「イヤかい?」
「い、イヤじゃない……けど…」
「じゃ、目を瞑って」
「う、あ…」
顔を真っ赤っ赤にして目を閉じるやいとちゃん。可愛すぎて心臓が止まりそうな上、先程の激しい攻防で刺激されたチンポが、完全に臨戦態勢に移行した。さっきから小さいお尻に押し付けてるんだけど、彼女は意味を理解しているのかいないのか……この年代の性知識ってどうなんだろね? 男だとギリギリ目覚めてるか目覚めてないかくらいだと思うけど。
まあそんなことはどうでもいいか。ぷるりとした桜色の唇が、目の前で待ち惚けているのだ。折れそうなほどに華奢な体をギュッと抱きしめて、そっと顔を近付ける。
「ん、ちゅ、んっ……──んむっ!? や、ちょっとそら──んぅっ…!」
流石に舌を入れられるとは思っていなかったのか、目を見開いて驚くやいとちゃん。しかし弱い抵抗を無視して、彼女の口内をねぶり続けると──次第に目がトロンとしてきた。軽視されがちだが、ディープキスというものは非常に刺激が強いのだ。
性感帯のように強い刺激は得られないものの、感覚器としては体内体外含めて断トツで神経が通っている。『舌』とは生殖器にも劣らない受容帯であり、未熟な子供であっても快感を得やすい器官だ。痛みを伴わないぶん、ダイレクトに味わえるというのも重要である。
舌を絡ませあい、両手の指を絡ませあう。肉体への依存度が大きい男性とは違い、女性が快感を得るには、精神的な高揚が必要となる。もちろん『のぼり棒大好き女子』などが存在する以上、体の方も無視はできないだろうけど、やはり雰囲気というものは無視できない。
女性がムードを気にしたりするのは、そういうわけだ。『愛されている』という認識は、女性がセックスを楽しむにあたって重要な位置を占める。だから無理矢理はよくないよね。幼い唇を貪りながら言うことじゃないかもしれんが。
かなり長い時間、繋がりあったせいか──やいとちゃんは脱力しきっている。火照った体をこちらに預けてくる姿は、幼さとは無縁な筈の『性』を感じさせ、その相反するギャップが、背徳感をこれでもかと煽ってくる。犯罪を犯すつもりは毛頭ないが、小学生同士の恋愛を縛る法はない。今だけに許された特権だろう。
「あ……え…? そ、そらぁ…?」
「大丈夫大丈夫、僕に任せて」
「ひっ、んっ……そ、そこは…」
性欲が高まった男の『大丈夫』は、『行けたら行きます』くらいに信用ならないものである。まあそんなどうでもいいことは置いといて、彼女の太ももに手を這わせ──秘所へと近付ける。ただでさえ温まった体の、更に熱が溜まる場所。シルクのガードをくぐり抜け、産毛の感触もない恥丘を撫でる。少し怯えたようなやいとちゃんに再度キスをし、まだ露出もしてないクリトリスを弄る。
「はっ、んっ、あっ…? そ、そら、なにかへんだから……んくっ!? あ、う、っ…」
「ここはどう?」
「んっ──あっ、な、にか……ピリって…」
「怖がらなくていいから……ほら、もっかいキスしよっか」
「ん、んむ、…っ、あ、え、な、ナニこえ──あぐっ…! う、あ、あ──んきゅっ…!」
幼い体を震わせて、絶頂に至ったやいとちゃん。ちょろちょろと零れる黄金水……染みが広がっていく僕のズボン。床に水たまりが広がっていくと同時、後悔も広がっていく。なるほど、予測されるべき未来だった。
息を荒げたやいとちゃんがやっと自分を取り戻し、ふと我に返る。目の前の惨状を見て、慌てて取り乱す様子もまた可愛い。そういえばゲームでもちょっと漏らしてたな。まあ子供の膀胱が緩いのは生物として当然だ。
「え、え、えっと…! その、と、とにかくズボン脱いで…!」
「…そうだね」
「…っ……~~っ!?」
濡れたズボンと下着を脱ぎ捨てて、いきり立ったチンポをさらけ出す。絶頂やら羞恥やらで赤くなっていたやいとちゃんの顔が、さらに紅潮してピシリと固まる。見たことはなくとも、勃起という現象くらいは知識にあるのだろう。
「やいとちゃんも下着脱がなきゃ……ごめんね? ちょっとやりすぎちゃった」
「え、あ、えっと……うん…」
僕に背を向け、びしょびしょになった下着を脱ぎ捨てるやいとちゃん。スカートが濡れていないのが幸いだ。ちょうど脱ぎきった瞬間を見計らい、ひょいと彼女を持ち上げる。床の濡れた席から離れて、一つ隣へと腰を下ろした。
「…! そ、そら? 早く掃除しなきゃ…」
「後でいいよ」
「で、でも…」
ぐずるやいとちゃんの唇を塞ぎ、彼女の太ももに剛直を挿し込んだ。濡れそぼった秘所は、おしっことは明確に違う粘性の液体が溢れている。割れ目というよりも一本の筋といった表現が似合うそこから、幼さとは無縁の液体が分泌されている事実に興奮する。
小さいクリに擦れるようにピストンを開始すると、先程の余韻もあってかすぐに喘ぎ始めるやいとちゃん。幼女の素股とは非常に贅沢である。流石に挿入はキツイものがあるので、慣れてくるまでは見送るとしよう。
僕たち以外は誰もいない教室に、粘りを含んだ水音が響く。ぐちゅぐちゅ、ぐぷぐぷと淫らな音が幾度も繰り返され──そこに肌を打ち付け合う音も混じる。切なそうに潤んだやいとちゃんの瞳が、下から覗きあげてきて……我慢できずに唇を貪った。
どれほど肉棒を抜き差ししただろうか──やいとちゃんがビクンと体を震わせて絶頂したのを合図に、込み上げていた射精感を解放した。閉じた太ももに溜まっていく精液の量が、そのまま快感の量を示しているようだ。力の抜けきった彼女を机に寝かし、付着した白濁液をティッシュで拭き取っていく。
一部ゼリー状になっていた濃い精液を、指と共に膜付きの穴へツプリと侵入させた。ビクンと跳ねたやいとちゃんを落ち着かせるようにキスをして……教室の情事は終わりを迎えた。
──かと思いきや、突然教室のドアが開いた。淫らな香りが充満する教室に乗り込んできたのは、羞恥と怒りが入り混じった表情のまりこ先生だ。
「こ、こ、こ、こらー! ま、まさかと思ったけど──ほんとに手を出すなんて…!」
「合意ックスです」
「関係ありません! というか場所! ここは学校ですよ!?」
「よくあるパターンですね」
「あってたまりますか!」
お怒りのまりこ先生から隠れるように、あわあわしながら僕の後ろに回り込むやいとちゃん。可愛い。大丈夫大丈夫、心配することないぜ。処女のまりこ先生より、疑似的とはいえセックスしたやいとちゃんの方が生物として格上だ。ふんぞり返って『なにか?』とでも言っておけばいい。なにも犯罪を犯したわけじゃないんだから。
「まあまあ落ち着いて……あ、じゃあ先生も混ざりますか? ──ぐふぅっ!?」
余裕風を吹かせて飄々とお誘いしたら、ゲンコツを落とされて──後ろのやいとちゃんにも金的を蹴り上げられた。嫉妬に年齢は関係ないんだなぁ……というのが、本日の教訓である。ま、結果としては万々歳だろう。
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3話
今日も今日とて電脳の平和を守るため、適当にエリアをぶらつく午前二時。成長ホルモンとか大丈夫かな…? まあ前の世界よりあらゆる面で優れた、この世界の人体を得た僕だ。多少の無理は問題ないだろう。
元の世界であってもネットの接続がかなり少なくなるこの時間帯……この世界だと更に少ないようだ。みんな健康的ってことなのかな? ブラック企業が非常に少ない関係かもしれんな。この時間帯は、掲示板の巡回などがベストと最近わかってきた。
ナビが書き込みにくる頻度が極端に少なく、それでいて『掲示板』というのは割と信憑性のある噂が多いのだ。ゲームでもそうだが、やたらと情報通がいるのが掲示板というものである。それは何故かというならば──やはり『インターネット』そのものが、元の世界とは根本的に違っているからだろう。
たとえばナビの性能についてだが、ほぼ人間と変わらない彼ら──まあ今の僕もだが──は、馬鹿みたいに容量を食う。そして思考、感情、その他を人間同様としたいならば、信じられない量の演算処理が必要である。しかしそんな性能が『PET』にあるのかといえば、否だ。スマホなどよりは遥かに高性能ではあるが、それでも前世界のスパコンなどと比べると遥かに劣る。
この世界の技術でも、手の平サイズのPETで『ナビ』を完全再現するのは不可能に近い。最低でも半導体が三十億個は必要だろう。ならばいったいどうやってナビの存在を確立させているのかといえば──『インターネット』そのもので、だ。
電脳の世界に広がる無数の仮想回路一つ一つが、演算機としての役割を持ち合わせているのだ。PETがナビの『住居』と言ったのは、比喩でも何でもない。ナビとは本質的にインターネットに依存した存在であり、彼らにとっての『世界』が電脳というのは、文字通りの意味である。
だからこそゲームでも、別の場所で倒したナビの亡霊データが、そこかしこで彷徨っていたりするわけだ。そんでもって、この理論を提唱した人物こそが熱斗くんのお爺ちゃんである。そのせいでワイリーさんが主導していたロボット工学が隅に追いやられたってのは、ちょっと可哀想ではあるよね。
要はエックス世界とエグゼ世界の分岐点を作った理論がそれだ。そしてこの技術の最大の欠点……それはインターネット“そのもの”がCPUやメモリとして機能している関係上、独立したネットワークを創造することが不可能といった点にある。
もちろん遥かに性能が劣ったクローズドネットワークを作ることはできるだろうが、互換性がなくなる上に、それ専門の技術者を多数用意しなければならないデメリットがあり──少なくとも、僕が知る限りにおいては存在しない。
要はあれだ。金融とか警察関係の、絶対に流出してはいけないデータは、物理的にネットワークから切り離されているのが『前の世界の普通』。対して、ネットワークの性質上それができないのがこの世界。
つまり理論上は、どんな機器から接続しても国の中枢にたどり着くことができるってことだ。ゲームでシャドーマン先輩が日本のネットワーク基盤を破壊寸前にまで追い込めたのは、そういった事情もあってのことだろう。たぶんセキュリティ面だけでいえば、前の世界の方が優秀かもしれない。
『世界は全て繋がっている』といえば聞こえはいいが、それは同時にリスクの分散が非常に難しいということでもある。だからこそ何度も何度も世界が危機に陥ってるんだろう。もちろん技術者たちはそれを理解しているし、そういった事情の中でもなんとか頑張って生み出されたのが、ウラインターネットやシークレットエリアだ。今は犯罪者の温床になってはいるものの、元々はリスク軽減のために科学省が作ったエリアなのだ。
──話を戻そう。つまり掲示板の噂などに一定の信憑性があるのは、ありとあらゆるネットワークが完全に繋がっているからこそだ。たぶん完全な隠匿というのは、電脳世界に限ると不可能である。だからこそ、犯罪の種を見つけるのに持ってこいってわけだ。
どれどれ……この掲示板は──おお、これが噂のアシガル板か(※秋原小学校ガールズトーク板)。この世界のガルチャン民はどんなもんか……いや、そう表すにはコミュニティが狭すぎるか。そもそも秋原小学校って一学年に二つか三つしかクラスがない上、一クラスが十人前後しかいない。そう考えると、女子の数は百人にも満たない計算だ。匿名性もクソもないな。
しかもウラインターネット以外は、基本的にコテハン(※固定ハンドルネーム)だらけなのだ。プライバシーを自ら放り投げる人の多いこと多いこと。まあ前にも言ったけど、そもそも『優しい世界』っていう前提が、個々におけるネットリテラシーの善性に繋がっているんだろう。
ふむふむ……おや、ここにも『コーエツ兄さん』と『名人』が出没してるじゃないか。秋原エリア三大クソコテ(※糞固定ハンドルネーム)の二人は、実はロリコンだったらしい。さっさと出て行けと、フルボッコにされて涙目で敗走している。女児にレスバで負けるような彼らではないが、流石に住民全員に叩かれてはどうしようもないだろう。むしろなんで書き込んだの?
さてさて、秋原小の少女たちの話題は、と……ほうほう、処女の喪失時期について盛り上がっているようだ。男の童貞弄りはよくあるが、実は女の子も、言うほど処女を大事にしているわけじゃない。ある程度の年齢になれば、やはり未経験を馬鹿にされる風潮は確かにある。
…おや、『ま、私は処女じゃないけどね…』みたいなレスがあるな。こういったレスの九割は処女な気がするけど、どうなんだろう。ほうほう、つい先日喪失したと……詳細に書き始めるあたりが、ますます胡散臭い。嘘を付く時は饒舌になる──これはどんな世界でも真理だ。
ふーむ、放課後の教室で…? おいおい、大丈夫かこの娘。確率八十分の一くらいでバレるの理解してる? なになに、彼氏は優秀なネットバトラーで…? ほう、オフィシャルにも勤めて──……あの、やいとちゃんさん? 勘弁してもらえます? …ううむ、オフィシャル権限で消しとこう。というか君まだ処女だからね。挿れてないからね。
「低俗な書き込みだな…」
「──っ! っとと……あ、こんちゃっす、ブルースパイセン」
『あ、炎山パイセンもお疲れ様っす』
『…そのパイセンと言うのをやめろ。不愉快だ』
『サーセン』
『“申し訳ございません”だ』
『はは、そんな丁寧に謝らなくても。まあでも受け取ってやるか』
『斬れ、ブルース』
「ハッ!」
「うぉわっ!? ──マジでやるなよ!」
掲示板を見上げていたら、いつのまに来たのかブルースが横に居た。危ない危ない、もし敵だったら攻撃を食らっていたところだ。深夜のスクエアと言えど、完全に油断するのはダメだな。しかしいつ見てもカッコいい容姿のナビだ……グラサンがいいよね、グラサンが。
『伊集院炎山』。小学生ながらもオフィシャルのエースネットバトラーであり、同時に大企業の御曹司でもあり、副社長でもある。ついでにイケメンで、欠点らしい欠点といえば卵の殻を頭に被っていることくらいだろうか。彼のナビ『ブルース』も硬派で寡黙、クールでかっこいい実力派だ。
「…? 手元を弄って、なにをしている」
「え? いやだって、今のは明確に傷害だし……オフィシャルとしての職務規定にも違反してるし、報告書を…」
『…っ! 貴様…!』
『いやー、いくらからかわれたからって攻撃はダメっすよ……いや、ダメ
『…』
『伊集院財閥の御曹司がなー。傷害かー。ねえこのデータどうしよっか? 炎山くーん?』
『…』
『足でも舐めちゃう? それとも土下座ぁ~?』
『…』
『なあなあ炎山よぉ……ちょっと、黙りこまないでほしいっす。あはは、ほら、ただの冗談ですって──』
『ブルース、録音したな?』
「ハッ!」
『へっ?』
『光宙とマイン、貴様らを脅迫の現行犯で逮捕する』
『ちょ、おまっ』
「──お、俺は悪くねえ! 全部そこのオペレーターが…!」
「言い訳は後で聞こう。大人しく両手を出せ」
『ち、ちくしょう…! ここまでか…』
くそ、なんて卑怯なやつなんだ。しかし流石はエースネットバトラー……おちょくられるままの人たちとは、ひと味もふた味も違う。僕は目の前のブルースに両手を差し出し、負けを認めた。
『ま、冗談はここまでにして……どしたんすか? 炎山先輩。この辺は巡回範囲から外れてますけど』
『…WWWが本格的に動き出した。例のデータだが、アクアデータに関しては俺に一任されている。守るよりは囮に使おうかと考えているんだが…』
『大胆っすねー……まあ上が慎重すぎるってのもありますけど』
『貴様の言うとおりだ。既に本拠地は割れているというのに、いったいなにをグズグズしている──』
『あの、貴様っていうのやめてくれます? だいぶ失礼だと思うんすけど』
『…ふん……“貴様”とは本来、敬うべき相手に使用するものだ。失礼には当たらん』
『なるほど。じゃあ炎山、メロンパン買ってこいよ』
『斬れ、ブルース』
「ハッ!」
「だから僕じゃないって!」
炎山くんが『僕』を敬うって言ったんじゃないか……パシリ宣言みたいなもんだろ? まったく乱暴だな。しかし新人の僕たちにわざわざ報告しにきたってことは、わりと信頼されてるのかな? 試験の時に僕らのことは見てたみたいだし、少なくともネットバトルの実力は認めてくれてると考えていいだろう。
PETを通して喋っている炎山くんと『僕』。こっち側はちょっと手持ち無沙汰気味だし、ブルースとの親交でも深めよう。ついでにぽろっとナビチップでも落とさないかな。
「ブルースは最近どう?」
「最近も昔もない。俺はただ炎山様に従うのみだ」
「えー? そんな杓子定規じゃつまんないよ」
「つまらないかどうか……か。あいにく、俺はそんなところで生きていない」
「ふーん……ただ唯々諾々と従うナビなんて──強いとは思えないけど」
「…なんだと?」
おっ、やっとこっちに感情を向けてくれた。別に男に好かれたいってわけじゃないんだけど、会話というものは楽しくあるべきだ。そして会話を楽しくするために重要なのは、相手を楽しくするという部分にある。相手が楽しいのなら、自然とこちらも楽しくなるのが真理というものだろう。
そして言葉の少ない相手、こちらに興味がない相手ならば、まずはどんな感情であろうとも向けてもらわなければ話にならない。好きの反対が無関心とはよく言ったものだ。
「『ただ盲目的に従う兵士の軍は、無能の集団である』──こんな古い言葉を知ってるかい?」
「…俺の記憶領域には入っていない」
「僕がいま作ったからね」
「──シッ!」
「どぁっ!? ──おや、今のは炎山くんの指示なのかな?」
「くっ…」
「ま、それは置いとこっか……さっきの言葉はふざけて言った訳じゃないよ。だって、ただただ命令に従う兵士しかいないってことは──指揮系統一つ奪えば、それでおしまいじゃないか」
「む…」
「仮に炎山くんが父親を人質に取られて、PETへの接触も大幅に制限された場合……ブルースはどうするの? 従うだけじゃ誰も救えないぜ。自分の意志で助けるなり、助けを求めるなりしないと」
「…炎山様が、そんな失態を犯す筈はない」
「答えになってないよ。物事に絶対はない」
うーむ、こんなに頑なだったっけか。最初はこんな感じだったっけ? 実はロックマンに絆されて柔らかくなっていったのか、もしくは炎山くんがデレる内にブルースも影響されていったのか……どっちにしても、ぼっちというものがつまらないのは確かだろう。
「一人じゃ限界はあるし、もしさっき言った状況になんかなったら……絶対に誰かの助けがいるよ。友達の一人くらいは作っといた方が捗るもんさ。打算、利用、効率、下心……どんな始まり方でも、きっといつか真実になるから──そしてそれが“強さ”にもなる」
「…」
「だから……さ。もし君が望むなら、僕が──」
「…!」
「月十万ゼニーで友達になるよ!」
「シャァッ!!」
「どわぁっ!?」
あ、危なっ! 今までで一番キレがあったな……まあ過激なツッコミだと思えば、これはもう友達になった証みたいなものだろう。つーかソニックブーム出してこないでよね。それって無印の攻撃になかっただろうに。
『何を遊んでいる、ブルース』
「…っ! 失礼いたしました、炎山様」
「あはは、友情の確認ってやつだよ炎山くん」
『ふん……ブルースに友人など必要ない』
『ぷぷっ、ナビに先越されて拗ねてるんすね』
『斬れ、ブルース』
「ハッ!」
「うわぁっ!?」
マジで殺人……いや、殺ナビ未遂で訴えるぞちくしょうめ。ま、現実の方の話は纏まったみたいだし、そろそろ本格的な任務を覚悟しておいた方がいいかな。敵に女の子型のナビでもいればやる気も出るんだけどなぁ……アイスマンくらい? 可愛いって言えるのは。まあショタ趣味はないから、結局やる気は出ないけどさ。
■
自分だけが特別なんだと──そう思うことは、人生で何度もあると思う。でも結局、現実に打ちのめされて色んなことを思い知らされる……人生そんなもんだよね。なんでもかんでも上手くいくって方がおかしいんだよ。
「──だから、そんなカッカするもんじゃないっすよ、炎山先輩」
「そんなことをした覚えはない。ただ──呆れているだけだ。上層部の無能にな」
「まー、同意する部分もありますけどね」
「そもそもお前が一番憤るべきだろう。手柄を潰された形になったんだ」
「別に手柄とかはどうでもいいんすけど、面倒なことになったなって」
さくっとワイリーさんの野望を打ち砕けば、それ以降の面倒事は大幅に減る──そう思っていた時期が僕にもありました。まあこっちが動けばあっちも動くよねって話よ。敵がガバガバ過ぎて馬鹿にしていたが、よく考えたらこっちのセキュリティもガバガバなことをすっかり忘れていた。ガバを覗くとき、ガバガバもまたガバってやつだ。
ワイリーさんたち、メトロ駅に繋がってた本拠地から引っ越しちゃったぜ。これで元々おぼろげだったゲーム知識が、余計に役に立たなくなってしまった。とりあえず、ネット社会を破滅に追い込む『ドリームウイルス』完成の鍵……『アクアデータ』『ファイアデータ』『ウッドデータ』『エレキデータ』の内、ファイアとウッドがあちらの手に渡っている現状。こっちとしても、残り二つは絶対に渡せない。
「まあ資金繰りに難航してたのは確かみたいっすから……あれだけの大移動のことも考えたら、余計に苦しくなってるでしょう。WWWは無頼の寄せ集めじゃなく、高給を約束されたエリート犯罪者集団って部分が強みっす。末端に払いを渋り始めたら…」
「蜘蛛の子を散らすように逃げていく、か…」
「元幹部からの情報によると──目的そのものは共有されてますけど、その実行手段は明かされていない。となると、金の切れ目が縁の切れ目ってやつっす」
「…その元幹部は大丈夫なんだな?」
「これでも人を見る目はあるつもりっす」
炎山くんが任された『アクアデータ』はある程度セキュリティを薄くして囮にし、エレキデータの場所はなんとなく覚えていたため既に僕が確保済みだ。後者に関しては、炎山くんと相談して上には内緒にしてある。若干ながら背任っぽい感じがしないでもないけど、今回の件で思いっきり失態をかましてくれた上層部に、最後の鍵を預けるのはちょっと怖い。
「幹部の顔は知れてるんすから、手配に引っかかってくれれば手っ取り早いんすけどね…」
「ああ、あの画像データもお前が情報源だったな」
「正しくは元幹部さんからっすけどね」
今のWWWは、必要なデータよりも資金を稼ぐことの方に力を入れる可能性が高い。頭脳が優秀であろうとも、手足がなければ話にならない──そんなことは当然の話だ。ゆえに、アコギな商売や詐欺事件などをメインに追っているのが、今の僕たちである。
善人が多いということは……つまり幼稚な詐欺事件にも結構な被害者が出ることを意味している。騙されやすい人が多いのだ。やっぱり良いことばかりじゃないよね、優しい世界。
「うーん…」
「どうした?」
「いやぁ、どこで情報が筒抜けになってるかわかんない以上、次のWWW制圧作戦はたぶん少数精鋭になるっすよね」
「ああ。俺とお前は間違いなく入るだろうがな」
「民間に凄腕の知り合いがいるんすよ……特に何か依頼するつもりはなかったんすけど、こうなった以上、力になってほしいかなって」
「ふん……お前が凄腕というくらいだ──信用がおけるなら、協力を求めてもいいだろう」
「実際、例の元幹部が起こした事件で活躍してますしね。ただ年齢が…」
「年配の方か?」
「や、逆っす。同級生なんすよね」
「なに?」
別にゲームがなんだ、原作がなんだ、やっぱり主人公に任せなきゃ、などと気にするつもりは一切ない。だからこそ『WWWメトロパス』を上に渡して、さっさと解決したかったんだが──少数精鋭でWWWの本拠地に行くとなれば、実力の高いオペレーターに来てほしいのは当たり前だ。
冗談は一切抜きで、熱斗くんは超一流である。世界大会で優勝したり、ウラインターネットの王になったり、何度も世界を救ったりしたのは『主人公』だからじゃない。彼らの実力が図抜けているからこそ、そうなったというだけの話だ。もし任務についてきてくれたなら、成功の確率は飛躍的に上昇するだろう。問題があるとすれば、やはり危険な任務に小学生を連れて行くという、非常識な要請そのものなのだ。
…ん? よく考えたら僕と炎山くんも小学生じゃねーか。そんな非常識でもないか…? 完全に僕の尺度で考えてるし、この世界なら案外ありえるのかもしれん。というか、いま考えることでもないか。まずは新しいWWWの本拠地を見つけないと、話にもならない。
「…役には立つんだな?」
「うーん……決断力高し、判断力低し。視野狭め、直感力高め、ネットバトルの腕は炎山先輩と遜色なし──って感じっすかね」
「…俺はまだ、お前に本気を見せたことはない」
「そんじゃま、炎山先輩の一段下くらいってことで」
「…」
黙り込んじゃった。自分に絶対の自信がある人って、生きるの面倒くさそうだよね。生きていく上でプライドは必要なものだが、その高低が本当に難しい。慢心には痛いしっぺ返しがつきもので、しかし卑屈には余計なトラブルがつきものだ。横柄と謙虚の間にあるちょうどいい隙間こそが、人間性を求める上で目指すものなんだろう。
さて、話も一段落ついたことだし──そろそろ捜査を再開しよう。炎山くんと遥々やってきたのは『デンサンタウン』。なんだかんだ一緒に行動してくれるあたり、案外とデレ期に突入してるのかもしれんな。まあエースネットバトラーとはいえ、オフィシャルの中で一番年下だったのは確かだ。この年齢ながら年功序列を大切にする彼に──明確な『後輩』ができたのは初めてだろう。敬語を使う必要がない同僚は僕だけのはずだ。実は内心嬉しがってるとかだったら、ちょっと可愛いじゃないか。よし、そう思っとこう。
「じゃ、ここでひとまず分かれましょっか……炎山先輩はどっちがいいっすか?」
「どちらでも構わん」
「不思議系かわい子ちゃんと、不思議系を装ったかわい子ちゃんどっちがいいっすか?」
「どちらでも構わんと言っている」
「ピチピチ十六歳とゆるふわ二十三歳、どっちがいいっすか?」
「お前の享年を十一歳にしてやろうか?」
中々に怖いことを仰るな。しかし君がむっつりスケベだという調べはついているんだ。どうせおっぱいの大きいほうがいいんだろう? そうなんだろう?
「んー……じゃあ、僕は大園ゆりこさんのところへ行きましょうかね」
「…待て。やはり──お前では温情をかける可能性がある。犯罪者の方は俺が受け持とう」
「“元”犯罪者ですって。今は足抜けしてるんすから、酷いことしちゃダメっすよ?」
「ふん……人の本質などそうそう変わらない。俺は俺のやり方で見極める」
「うーん……心配っす」
『大園ゆりこ』──まりこ先生の双子の姉である。デンサンタウンで塾講師をしているらしいんだけど、実は彼女、WWWの元構成員なのだ。日暮さんが秋原小学校へ教生として潜入する際、妹のツテを利用して彼を斡旋したわけだ。教職員をコネで雇わせるって、いったいどんな雇用形態してるんだろうね秋原小。
足抜けしたのは日暮さんより後とのことだから、彼よりも最近のWWWを知っているということになる。ヒグレヤの開業準備を手伝っている際にそんな情報を聞けたので、わざわざデンサンタウンに赴いて話を聞きに来たわけだ。
後はついでと言うのもなんだけど、同じくデンサンタウンに身を置く“ネットエージェント”──『黒井みゆき』さんに、デンサンタウンとデンサンエリアの近況を伺いにきたのだ。古物商の資格を持ち、この街で骨董品店を営んでいる彼女。ネットバトルの実力も高く、エージェントとしてもお墨付きだ。彼女には炎山くんが話を通していたみたいで、どうせならと一緒にこの街へ向かったのだ。
しかしそう考えると、やっぱり僕がゆりこさんで、炎山くんがみゆきさんの方へ向かうのが自然ではなかろうか? 結局おっぱい大きい方がいいんだろうか。まりこ先生と双子ってことは、当然ながら豊満なおっぱいを持ち合わせているってことだ。みゆきさんという未知数より、確実なおっぱいを選んだ……ナルホド、むっつりめ。
──いやまあ、炎山くんはまりこ先生を知らないから関係ないか。さて、やたらハイテクな街並みを歩いてたどり着いたのは、まったく繁盛していなさそうな骨董品店。といっても、繁盛している骨董品店なんか見たことないけどね。開店準備中と書かれた札を無視して、一声かけつつ店へ入る。
「失礼しまーす」
「…いまは開店準備中……営業はしていない…」
ぼそぼそと口数少なく喋るのは、黒と紫を基調にした度し難いファッションの女性。帽子も紫と黒が混ざり、ど真ん中にドクロマークがデデンと貼っ付けられている。おさげの先には金色のリングがぶら下げられており、なんともパンクな女の子だ。
いまいち視点の定まらない目で、ぼうっとしている。そっとおっぱいを触ればバレないんじゃないだろうか? そんな感じの雰囲気だ。いわゆる不思議ちゃんってやつだろう。一応ゲームに出てきてはいた筈だが、ほとんど覚えていない。
「…! あなたの魂と……ナビは……普通じゃない。私には見える…」
「へえ、そりゃ凄いね。あ、オフィシャルネットバトラーの『光 宙』です。ちょっとお話を聞かせていただいても?」
「ナビの輝き……あなたの輝き……まったく同じ光。不思議…」
「おっぱい触ってもいいですか?」
「さっき来た男の子と似てる……けど……それよりも更に同調して…」
話が通じやしねえ。不思議ちゃんレベル高すぎだろ。問題は彼女の言っていることが百%真実だということくらいだろうか。まあ呪いが実際にあって、実害も出るような世界だ。魂が見える少女がいてもおかしくはない。
「さあ……魂を交わしましょう」
「えーっと……ネットバトルってことで、いいのかな?」
PETを構えているあたり、そういうことなんだろう。しかしなんと言えばいいのか……僕を見ているようで、まったく見ていないのが悲しいところだ。『人とは視点が違う』──それはそうなんだろうけど、だからといって意思の疎通を諦めるのはまだ早い。
そもそもネットバトルを通じてコミュニケーションを取ろうとしていること自体、人との繋がりを望んでいる証拠だ。ちょっとばかし個性的だから、我慢強くない人は呆れて会話をやめちゃうんだろう。だから言葉がいらないネットバトルで親交を得ようとしている……とかだったら可愛くない?
まあ出会ったばかりでそんな深くまで理解できたら世話ないけどさ。とはいえ、誰にでもこういう接し方だというならば──当たらずとも遠からずな気はする。なんにしても、いきなりネットバトルってのもどうかと思うし、まずは仲良くお喋りタイムといこう。聞き込み捜査の基本とは、対象と仲良くすることである。
「みゆきさんって可愛いね。彼氏とかいるの?」
「…早く魂を交わしましょう…?」
「そのドクロマークもイカしてるし、どこで買ったんだい?」
「…」
「お買い物はいつもこの辺?」
「…」
「あ、もしかしてナビがスカルマンだからドクロ? ナビとお揃いっていいよね。ナビを大切にする人って僕、好きだよ」
「そう……私も…」
「お、気が合うね。んー……そういえば昨日のデンシレンジャー見た? ブラックが渋々助けにきたところ、めっちゃかっこよかったよね」
「…私はレッドの方が……好き…」
「ひゅー、わかってるね! みゆきちゃん。ところで僕の名前は覚えてくれてる?」
「…光くん」
「宙って呼んでよ。そっちの方が嬉しいな」
「…わかった」
「これからよろしくね、綾波」
「誰それ」
お、この娘からツッコミを引き出せたのはかなり頑張ったほうじゃなかろうか。テンポが独特だけど、慣れればちゃんとコミュニケーションも取れるね。みゆきちゃんの店舗は自宅と兼ねている造りで、畳敷きの居間がレジと同化している。くいくいと袖を引っ張られてお呼ばれしたので、上がり込ませてもらった。
お茶を淹れていただき、ホッと一息ついたはいいものの──客がきたら丸見えの居間って、ちょっと落ち着かないな。まあ一日に十人も来なさそうな店だし、そこまで気にしないってことなのかも。十六歳の日常の香りが感じられて、客からすれば嬉しいのか?
「…魂を交わしましょう」
「あ、それはそれでヤるんだ。うーん……じゃあさ、負けた方が一つお願いを聞く──なんてどう?」
コクリと頷いたみゆきちゃんを見て、僕もPETを取り出す。彼女の操るナビは『スカルマン』……自分の体の一部を飛ばして攻撃する、かなりトリッキーなスタイルのナビだ。ナビチップは攻撃力が高く、命中率も高い使えるチップだった筈。できればV3が欲しいから……先に断っとこう。
「あー……みゆきちゃん」
「…?」
「悪いけど、十秒以内に終わらせるから。自信を失いたくないなら、やめてもいいぜ」
「…!」
──おお、初めて強い感情をぶつけられた。ネットエージェントだけあって、やはりバトルの腕には誇りを持っているのだろう。しかしながら、僕は戦闘を長引かせないように戦うタイプ……瞬殺するか、もしくはされるかみたいなバトルスタイルだ。相手からしても、傍から見ても、実力以上の強者に見えるのが長所でもあり、短所でもある。『反撃を許さない』とは、つまりフルボッコ以外の勝ち方が難しいってのと一緒だ。
手加減=反撃の可能性=攻撃に当たる可能性=とても痛い。これが僕の図式である。痛いのは嫌なので、僕はいつだって本気でしか戦わない。他人のナビを操作する時は別だけどね。
「…やるんだね? なら──バトルオペレーション・セット」
『イーン』
「いって、スカルマン…」
──『パーフェクトフルシンクロ』が可能にする超高速戦闘。視点が重なるからこその高等技連発……当事者同士にのみわかる、決定的な技量の差。四つの意識が限りなく圧縮され、一つの世界を作る──というと非常にカッコいいんだけど、はた目からは僕とみゆきちゃんが端末でカチャカチャやってるだけである。ちなみに悪の組織とオフィシャルの戦いも似たようなものだ。僕が熱斗くんに手助けして欲しい気持ちもわかるだろ? 死の危険とかなさそう感がすごい。
「負けた…」
「八秒ちょっとかぁ……うん、まずまずかな」
「…」
「スカルマンもマインもお疲れ様。ありがとね」
「…!」
『アイサー』
『お気になさらず。みゆきさんのナビ使いが荒いのはいつものことですので』
「…むっ……そんなことない…」
おお、なんという礼儀正しいナビだ。見た目からはまったく想像できんな……まあみゆきちゃんも中身と外見がチグハグだけどさ。ロックンロール! とか叫び出してもおかしくない格好だが、実際はこんなんだし。
「さってと……じゃあみゆきちゃん、約束通りおっぱい触らせてもらえる?」
「わかった──えっ!? そんなの聞いてないけど」
「普通に喋れるんかい」
「あっ……こほんっ。…そんなこと……聞いてない…」
「もう遅いんですけど」
おっと、ついツッコミ役をしてしまった。まったく、熱斗くんじゃあるまいし……常に冷静沈着が僕の座右の銘だ。しかしみゆきちゃんめ、電波系を演じていたとは。まあよく考えたら、コミュ障にネットエージェントが務まるわけないか。
「まあその辺は置いといて、と。何かこの辺り……もしくはデンサンエリアで不穏な動きとか、噂とか聞いてない? WWWも困窮してるみたいで、金策を優先すると思うんだよね──ワイリーお爺ちゃんの性格を考慮すると、たぶん『一気にガッツリ』いくんじゃないかな……初手をしくじると結構な被害が出そうだし、初動を察知しときたいんだ」
「…今の所は、なにも」
「そっか。じゃあ何かあればすぐ連絡くれるかな? みゆきちゃんの実力は信頼してるけど、一人でできることなんてたかが知れてるからね」
「ん…」
「んじゃ、他にも聞き込みがあるから……またね、みゆきちゃん」
「…これ、持っていって」
お、Pコード貰っちゃったぜ。割と信用してもらえたのかな? まあオフィシャルという時点で一定の信用はあるだろうけど、個人的な感情は別だ。まりこ先生に負けず劣らずのおっぱいを持つ彼女と仲良くなれたのなら、それは素晴らしい成果と言えるだろう。
「じゃ、これ僕のPコード」
「ありがと…」
「じゃね、また今度」
「…胸は……触っていかないの?」
「あはは、じゃあそれもまた今度だね」
ふふふ、軽口がきける関係っていいよね。これを真に受けて『じゃあ一揉み…』とか言い出す奴はただの変態だ。軽くいなして、次のおっぱいに繋げるのがよく訓練された変態だ。そして僕はさらなる高みを目指す、変態という名の紳士である。
さて、一発目は不発だったし……炎山くんの方はどんなもんかな? 尋問と称してゆりこさんに変なことをしていないだろうか。僕の中のエロ漫画担当大臣は『オネショタにおいて、ショタが仲間を連れてくることを禁ずる』と定めているが──僕が二人目になるのはオーケーだ。何事も柔軟に考えるのが、エロの秘訣ってやつだろう。
──ん? あっちの横断歩道を歩いてる女性……もしかして──
「僕、照合頼むよ」
『オッケー。照合システム起動……類似率九十八%。WWW幹部──“色綾まどい”と確認』
「あ、やっぱり? 犯罪者でも堂々と表を歩くのがすごいよね……ま、僥倖ってやつか。後をつけよう──炎山くんと本部に連絡、僕の位置情報は常に発信しといてくれる?」
『了解。気をつけてね、僕』
「あいさー」
ううむ……悪の組織の女幹部とは、露出の激しい服をきてナンボの筈なのに。なんだあの野暮ったいシャツとジーパンは。しかもお前、赤の運動靴って。だというのに化粧は派手で、高価そうな耳のピアスが露骨に浮いている。色んな意味で目につく存在だ。僕の目についたのも、むしろ当然といえるだろう。
おっぱいは普通だが──しかし後ろから目に入るケツは、中々のものだ。ダボッとしたジーパンのせいでわかりにくいが、ツンと上向いた尻の魅力を隠しきれていない。後ろからガン突きしたいタイプのヒップだ。
『デンサンタウン』『色綾まどい』でようやく思い出したんだけど、そういえば彼女は金策担当で何かやらかそうとしてた記憶がある。確か信号機の電脳を弄って、そこら中で交通事故を発生させて──その対策プログラムを超高額で売りつける、とかそんな感じだった筈。無茶苦茶ってレベルじゃねえ。そして買う人も単純ってレベルを超越してるぜ。
おっ、路地に入っていった。流石に尾行するのは厳しいかな…? でもこんなチャンスはまたとないだろうし、オフィシャルに入った以上、多少の危険はつきものだ。お給料分は働かないとね。
…ん? あれ、どこいった?
「──どうしたんだい、坊や? こんなところに一人で入ってきたら……危ないよ~?」
「…っ!」
いやちょっと待て、どのタイミングで僕の後ろに回り込んだんだ。もしかしてグルっと一周してきたのか? 水面下では水かきを必死でバタつかせている白鳥のように……僕を驚かせるためだけに、ダッシュで往来を走り抜けたのか? よく見たらちょっと息が上がっている。うーん、カッコつけるのは正義も悪も大変らしい。
しかしどう言い訳したものか……いや、他のオフィシャルよりは難易度が低い筈なんだ、頑張ろう。なんせ見た目は小学生のガキなんだから、誤魔化しやすいことこの上ない。炎山くんは有名すぎて無理だろうが、入ったばかりの僕なら問題ない。
「え、えっと…」
「さっきからあたしのこと着けてたよね~? 正体知ってて近付いてきたんなら──」
「ご、ごめんなさい! あんまりにもお姉さんが綺麗だったから、つい…!」
「──へっ?」
アドリブ力だ、アドリブ力を高めるんだ…! 綺麗なお姉さんに、ついフラフラと誘われてしまった……そんなクソガキを演じよう。コナン君になりきるんだ。その上で、話を長引かせなければならない。『もう、ダメでしょ!』『ごめんなさーい』で終わると、次の尾行はもう無理だ。
「ふ、ふーん……そう。あたしが綺麗だったから?」
「うん! 服はダサいけど、お姉さんの魅力は隠しきれてない──あだっ!」
「一言余計だよ!」
「ご、ごめんなさい」
おや、満更でもなさそうな表情。まあ子供の純粋な意見だけに、本音か世辞かもわからない言葉より突き刺さるものがあるのだろう。実際に嘘じゃないしね……こんな魅力的なケツを往来でフリフリされたら、そりゃあ引き寄せられるってもんだ。
「ま、ガキの内はイタズラで済むけどさ。そのままいったらストーカーよ?」
「う、うん…」
「わかったんなら、ほら、帰りな……車には気をつけなよ」
「え、えっと…」
こういう、ガチの悪人ってわけじゃないところがまたアレだな。しかしこのままでは会話が終わってしまうし……あ、そういやこの娘ってお金を稼ぎにデンサンタウンにきたんだったな。交通事故なんかより手っ取り早い道を示せば、誘導できるんじゃないか? 市民の被害も減るし、一石二鳥だろう。
「あっ…」
「なにやってんだい。ほら、気をつけ──……っ!? なっ…」
PETを落とした振りをして、まどいちゃんに拾ってもらう。ちなみに画面は予想通り、電子マネーの残高が表示されていた。こういう時、意思の疎通なしで理解しあえるのが僕の強みだ。目論見通り、まどいちゃんの表情が固まる。
残高は三千五百万ゼニー。元々貯めていた一千万ゼニーと、ガッツリ溜まっていたチップをオフィシャルのツテで売り捌いたお金……そしてオフィシャルのお給料を足した全財産だ。一所に纏めるのは危ないようにも思えるが、
「な、なんで子供がこんな大金…」
「えっと、お小遣いだけど…」
「…! ふぅん、なるほどねぇ……へえぇ……ウフフ」
すげえ悪い顔してる。まあ三千五百万ゼニーをお小遣いと言い張る小学生だ。そのまま奪ってもいいし、なんなら誘拐して身代金まで分捕ってやろうという魂胆かな。しかも自分に惹かれてやってきた子供の誘拐なんて、イージーモードどころの話じゃないだろう。
「ねぇボクぅ…? お姉さんと一緒に楽しいところに行かない? そうしたかったんだよね?」
「行かない!」
「なっ……なんで?」
「知らない人に着いてっちゃいけないって言われてるし…」
「さっき自分から着いてこなかったっけ!?」
「うーん……あ、じゃあ知らない仲じゃなくなったら大丈夫かな?」
「…! そうそう、そうよねぇ。ボクとあたしはもう友達……そうでしょ?」
「名前も知らない友達とかいる?」
「ぐっ……こ、このクソガ──ゴホンっ! あたしは色綾まどいっていうの。坊やは?」
「僕は光 宙だよ。まどいちゃんって呼んでいい?」
「ええ。それじゃ、あたしも宙って呼ばせてもらうから……これで友達だよね?」
「おいおい、もう少し弁えろよ庶民風情が」
「こっ…!? がっ──フゥゥ……我慢……我慢…!」
「あはは、冗談だってまどいちゃん。でも友達より恋人の方がいいかなー」
「あら……ふふ、じゃあそうしよっか。恋人になったあたしのお願い──聞いてくれるよね?」
「うん、いいよ。そのかわり僕のお願いも聞いてくれる?」
んー……あと十分は引き伸ばしたい。先にお願いを聞いてもらうとして……後はどうするか。十分以上かかり、なおかつ恋人として適当なお願いとくれば──よし、セックスだ。
「じゃあまどいちゃん、ちょっと屈んでくれる?」
「うん? いいけど──んむっ!? ん、ぐ……ぷはっ! い、いきなりナニすんだい!」
「え? だって……僕たち恋人なんだよね?」
「う…! そ、そうね……いきなりだから驚いちゃった、はは…」
「それもそっか。ごめんねまどいちゃん……じゃあセックスしよっか」
「ふぁっ!?」
「恋人なんだからセックスだってするでしょ?」
「え、いや、なっ……こ、このエロガ──」
「…もしかして全部嘘だったの?」
「──っ! そ、そんなことないわよ」
「じゃあ、しよっか」
「う、ぐ、く……このマセガキ…!」
壁に手をついたまどいちゃんのジーパンに手を突っ込み、後ろからオマンコを弄くる。小学生だから、ちっさいチンポをちょっと抜き差しして終わり──そんな風に考えてるんだろう。ここは本気を出して、彼女をイかせてやらねば。
「…っ、ぅっ…っ、ぁ──ふっ…! んぅっ…!? く、あ…っ!」
「どう? まどいちゃん」
「う、ぐっ…! ふ、ぁっ…! んんっ、ひぁっ、な、なんで、こんな…!」
「お、こっちが弱いのかな?」
「ん゛っ──うぁっ!? イ、イっ…!」
おお、達したようだ。なんかこの世界の人って、妙にイキやすいよな……まあそこまで人数こなした訳じゃないし、偶然の可能性も否めないけど。ペタンと座り込んだまどいちゃんの顎をクイと持ち上げ、口内を舌で嬲りつくす。体も穴もヒクつきっぱなしで、されるがままだ。
シャツをめくり、乳首の先を弄りながら舌を絡ませていると──ピクリとあちらの舌も動いた。その動きに合わせるようにグチュグチュと刺激していると……次第にあちらも動きを合わせてきて、唇と唇での性交が始まった。
熱く、ぬるぬるとした肉の塊を、唾液を交換しあいながら絡ませ合う──それはもう、セックスと大して変わらない。脳に近いぶん、刺激の伝達も速い。キスと手での刺激だけで、まどいちゃんが三回ほど絶頂した頃、床には黒い染みがいくつも描かれていた。
瞳がぐらついているまどいちゃんに了解を取り、愛液がとめどなく溢れている膣口にチンポをあてがう。熱の籠もった、あるいは期待に満ちた顔でそれを見ていた彼女。望み通り一気に突きいれてやると、ただそれだけでもういちど達した。
「──あ、ぐっ、んぅ…! ひぁっ! い、いまイッた、かひゃっ…!」
両手を僕の胸に押し付け、精一杯の抵抗を試みているが──構わず腰を振り続ける。一突きごとに腕の力が弱まり、最後には僕にしがみつきながら、自ら腰を振っている有様だ。体勢を変え、少し乱暴に後ろから腰を振る。
彼女のオマンコは少し下付きのようで、後ろからの方がピストンしやすい。小ぶりながらも、白人系人種のように形の良いケツだ。半脱ぎ状態のジーパンが揺れるお尻を際立たせ、腰の動きをはやらせる。イキやすい体質なのか、挿入してからも三度は達しているだろう──恥も外聞もなくヨダレを垂らし喘いでいる。
そんな痴態を満足しながら眺め、ようやくやってきた射精感に身を任せる。やいとちゃんの素股はとても気持ちいいんだけど──穴の中で出すのと、外で出すのはまるで別物だ。膣内射精は、まるで精子を膣に飲み干されるようなバキューム感を味わえる。彼女がもう少し成長するまでは、たまの浮気も容認してほしいところだ──そんなことを思いながら、最後に腰を強く打ち付け、彼女の雌穴に精子を流し込んだ。
「ふー……気持ちよかったよ、まどいちゃん」
「う……ん……こ、こえで、ついてきて、くれうのよね…?」
「んー。あはは、ゴメンネ?」
「ひぇっ…?」
脱力しきったまどいちゃんの両手に、ガチャリと手錠をかけた。キョトンとしている彼女にオフィシャルの証を提示する。みるみる青褪めてる彼女の表情に、少しばかり罪悪感が湧き上がるが──まあ所詮は数ヶ月くらいの勾留だ。この世界の善とは、悪とのイタチごっこなのである。
「くっ…!」
慌てて立ち上がり、逃げ出すまどいちゃん。衣服は正しておいたが、そんなに走ると精液が溢れだしちゃうと思うけど……ま、一瞬だけの話か。僕も重い腰を上げて立ち上がると、同僚たちに止められているまどいちゃんを挟み撃ちにした。
「く、く…! 騙しやがって…!」
「騙される方が悪い──とは言わないけど、場合によっては嘘も必要だからね。君を放って置くと、被害が増える」
「くっそ──ヤリ損かよ! このエロガむぐぐっ!?」
「あ、車までは僕が運ぶんで、先輩方はどうぞお先に。ちょっと話したいこともあるので」
「そうか? まあお前なら大丈夫だろうが……逃げられんようにな」
路地を出たところに停められた、オフィシャルカー。そこまでの道のりで、彼女と少しばかりお喋りをしよう。睨まれるのも納得の状況だが、怯んではいられない。背中にそっと手を置きながら、優しく話しかけてみる。
「なんでまどいちゃんってWWWに協力してるの?」
「はん……金以外になにがあるってのよ。あたしらみたいな半グレはね、稼ぐ手段なんか限られてんのよ。犯罪者でも受け入れて、たっかい給料払ってくれる組織なんて他にある?」
「資金難で君に金策させてる時点で破綻してない? それ」
「うっ……だって、抜けたところで行くとこもないし…」
「そんなことないよ。君の元同僚の日暮さんだって、いま店を開く準備してるし。案外やろうと思えばなんでもできるもんだぜ」
「…」
「だいたい、WWWってどう考えても割に合ってないよ。ワイリーお爺ちゃんは短気だし、そうでなくても日常的にオフィシャルを警戒しなくちゃならないし」
「まあ、そうだけどさ…」
「なんかやりたいこととかないの? 開業資金くらいなら出してあげるよ」
「…っ、な、なんでよ。そこまでする義理ないでしょ?」
「やだな、義理ックスしたばっかじゃないか」
「義理ックス!?」
なぜ僕が彼女に優しくするのか。もちろんセックスしたからというのもあるけど、彼女の持っている情報がWWW壊滅の鍵になるってのがでかい。そのためなら、あぶく銭に近い僕の財産など無くなっても構わない。
なにせワイリーお爺ちゃんが目指す世界が実現すれば、今のインターネットは不要になる。ということは、
そのためにはまどいちゃんを懐柔しなければ。男と女って、一回寝るとなんだかんだで親密になるからね。もちろん合意ありに限るし、さっきのはセーフ寄りのアウトみたいなセックスではあったけど。でもあんだけヨガってたんだし、半分くらい快楽堕ち的な感じになってるんじゃなかろうか。
「…はぁ……ねぇ、出資してくれるってほんと?」
「お、乗り気になった? なにがしたいんだい?」
「…笑わない?」
「人の夢を笑うやつは、好きになれないね」
よしよし、人は希望があれば悪いことをしなくなる。彼女だって生まれたときから犯罪者ってわけでもないんだから、いつか見た夢くらいあるだろう。ちょっとレイプ気味だったお詫びも込めて、全財産までなら出資してもいい。
「…ブティックをね、やってみた──」
「ごめん無理」
「なんで!?」
「そのクソダサいコーディネートで成功するわけないだろ?」
「なんですってぇ! このセンスがわからないの!?」
「センズリする気も起きないぜ」
「こ、こんのエロガキが…!」
掴みかかってきたので、こちらも胸を揉みしだいてやった。とりあえず留置所で頭を冷やし、服飾関連の夢を諦めるよう諭してみる。ま──実際、出所後に犯罪を起こす気がなければ、釈放はすぐだ。WWWの情報をさくっと吐くなら、尚更に。
──出所したら花束でも持って迎えてやろう、そうしよう。
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4話(エグゼ1終)
さてさて、まどいちゃんを捕まえたことで事件も解決──といきたいところだけど、そうは問屋がおろしちゃくれない。WWWの新しい本拠地は先ほど彼女が教えてくれた……となれば、『まどいちゃんが拘束された事実』をあちらが掴む前に、制圧作戦を実行する必要がある。また逃げられちゃたまんないからね。
まどいちゃん自身は協力する姿勢を見せているが、どこにスパイが入り込んでいるかわからない現状、早急に手を打つ必要がある。そのために色々と準備はしていたんだけど、予想以上に急転直下で少しばかり準備不足だ。とはいえ、人生において万全で挑める機会など意外と少ないものである。手持ちのカードで勝負するしかないだろう。
班長に連絡し、精鋭部隊を緊急召集……数時間後には作戦を開始する流れかな。前回の失敗の原因は、ワイリーお爺ちゃんもろともWWWを壊滅させようと欲張ったせいだ。しかし現状であれば、おそらく末端は散りかけている上──幹部も日暮さん、まどいちゃん、ヒノケンさんが消えて半壊状態だ。同じ轍を踏む愚を犯すよりは、多少の取りこぼしは覚悟で電撃戦を決行するだろう。
まったく、やいとちゃんの誕生日前だってのに
──お、オフィシャル本部からメール……作戦決行は三時間後か。現地集合? 無茶苦茶言いやがる。うーむ……まあオフィシャルって、その性質上ほとんど個人プレイだからなぁ。軍隊や警官と違ってチームプレイのチの字もないし、そもそもそんな訓練もない。むしろ着いた順に突撃していった方がいいまであるな。
しかしここまできたら、熱斗くんへの協力要請も厳しいか。いきなり『WWWぶっ潰しに行くから一緒に行こうぜ!』とか言い出す友人とか、友達やめるわ。正直、彼がいると
「待てコラー!」
「…」
…ん? あ、やっと炎山くんがきた──と思ったら熱斗くんがその後ろを追っかけるようにくっついてきた。なんだなんだ、いつのまに知り合ったんだ君達。やはり運命は彼らを結びつけているのだろうか? …とか言ったらホモホモしくてちょっとアレだけども。
「お疲れ様っす、炎山先輩。ところで熱斗……いつから男のケツを追いかける趣味を?」
「ちげーよ! …っていうか宙、コイツと知り合いなのか?」
「そりゃあオフィシャルの先輩だし……そもそも炎山先輩とブルースって割と有名だぜ。知らない? 『エースネットバトラー炎山』って」
「あ、なんか聞いたことあるかも──ってお前、そんなに有名ならなんであんなことしたんだよ!」
「ふん……俺は職務を全うしたまでだ。あまりしつこいと、お前も逮捕するぞ」
「あんなことって……まさか炎山先輩、やっぱりゆりこさんにエッチな尋問を? ──痛いっ!」
「お前も名誉毀損で逮捕してやろうか?」
「ごふっ……つ、ついに手を出すまでに気安くなってくれたっすね…」
「そらー!?」
いった……なんで小学生の腹パンがこんなに強いんだ。二階から落ちたときの三倍くらい痛い。その場でうずくまってしまうレベルだ。心配してくれる熱斗くんの優しさが身に沁みるぜ、まったく。
「ところで熱斗、『あんなこと』ってなに?」
「あ……そうだ! コイツ、まりこ先生のお姉さんにひどいことして…!」
「少し強めに問いただしただけだ。そもそも犯罪者に情けなど不要……今まで苦しめてきた被害者に謝罪もせず、のうのうと塾講師などしている時点で反省しているとは思えんな。もし俺の尋問で苦しんだというなら、それが罰だろう」
「こ、こんにゃろ…!」
「まあまあ、どっちも落ち着いて。炎山先輩……正論ってのは振りかざすものじゃなく、
「…」
「熱斗も。改心したとしても、やってきた事実は変えられない。もし君のパパが拷問を受けて廃人になったとして、次の日に犯人が『後悔している、反省するからどうか許してくれ』なんて言ってきたらどう思う? 加害者側と被害者側には、大きくて深い溝があるんだ。ゆりこさんの件は、炎山先輩もやりすぎたかもしれないけど、いわれのない理不尽とまでは言えないって……理解してほしい」
「誰だお前」
「その言い方はひどくない?」
「だって宙が真面目に話してるから…」
できればゆりこさんのところへ慰めックスでもしに行きたいところだが、あんまり時間もないし仕方ない。炎山くんもメールは見ただろうし、さっさと本拠地へ急ごう……ん? なにやら少し考え込んでいる。ちょっと言い過ぎただろうか? 班長とかが言うならともかく、後輩である僕には過ぎた言葉だったかもしれん。
「あー……すいません、ちょっと生意気だったっす。でも炎山先輩は、相手が誰であれ──
「…ふん。いつもそのくらい真面目に話せばいいものを……さっさと行くぞ」
「あいさー」
「ちょ、ちょっと待てよ! どこ行くんだ?」
「WWWを潰しにだけど」
「そ、そっか……ん? いやいやいや!」
「熱斗……流石にその歳でイヤイヤ期に突入するのはヤバイぜ」
「ちがうって! そうじゃなくて、おま、そんなちょっとコンビニ行ってくるみたいに…」
「光。一般人を相手にしている暇などないぞ……急げ」
「ムカッ! さっきからなんだよお前! ちょっと有名だからって偉そうに…!」
「事実を口にしただけだ。関係のないお前には──」
「まーまーまー。さっきからいちゃつき過ぎですってお二人さん。あと炎山先輩、彼がさっき言ってた『協力を仰ぎたい人』なんで……あながち無関係ってわけでもないっす」
「なに?」
「…? 協力ってなんだ?」
どうしようかな? 今の熱斗くんは、ゲームと違ってWWWとの関わり合いが薄い。精々がヒノケンさんと日暮さんの件だけだし──ん? いや、割と関わってるなおい。むしろ件数で言えば僕と同じくらいに関わってる。それに、根本は常に光一族の因縁が絡むのだから……うん、今の状況をちゃちゃっと説明し、選択を委ねよう。
「…君も来るかい? 熱斗」
「く、くるかいって言われても…」
「ネットバトルの腕を別にしても、今回の件は君と因縁がある」
「…因縁?」
「敵の親玉は君の一族を……君のお爺ちゃんを憎んでる。逆恨みも
「ど、どういうことだよ!」
「君が生まれるよりずっと昔──二人の科学者がいた」
『光 正』と『ワイリー』。お互いに認め合う研究者だったけれど、政府が日本の行く末を託したのは──光博士の推し進める研究だった。予算と人材の関係上、ITとロボット工学、どちらか一つに絞らざるを得なかったのだ。そしてその決断は正しく、クリームランドなどに次いでインターネット技術を発展させていった日本は、先進国の中でも頭一つ抜けた影響力を持つことになった。
もちろんワイリーさんにも相応のポストを用意したそうだけど、彼はそれを蹴ったらしい。まあ事実上ライバルの下につく形になるんだから、プライドが高そうなワイリーお爺ちゃんには耐えられなかったのだろう。
その恨みは鎮まることなく、沸々と滾る憎しみを糧に、『光博士が形作った世界』を破壊するために力を蓄えていたのだ。そしていま、明確な災害となって世界を襲いかけている。
「お爺ちゃんとWWWにそんな関係が…」
「どうする? 一緒に来るなら、オフィシャルパス渡しとくけど」
真面目な顔でうつむく熱斗くん。炎山くんが何も言わないのがちょっと意外だけど……もしかして彼ら、ネットバトルしたんだろうか。僕のところにくるのが遅かったのは、戦闘中で発信を確認できなかったからなのかも。となれば、戦闘に関しては足手まといにならないと確信しているのだろう。
「…頼む!」
「了解。光博士……君のパパには僕からメールしとくから、今は集中しときなよ」
よしよし、これで戦力アップだ。アクアデータもエレキデータも厳重に管理してあるとはいえ、何があるかわからないからね。掛け金がかからないなら、保険というのはあるだけかけとくもんだ。まあ正しくいうなら熱斗くんの危険がチップみたいなものだけど……さっき言った通り無関係じゃないし、蚊帳の外におくのもアレだしね。どっちにしろ決断したのは熱斗くんだ。僕がそれに口を出すのは、おこがましいことこの上ない。問題があるとすれば──お子ちゃま三人で並んで行くのがWWWってところくらいだろう。
「子供三人揃ってなにしよう──WWWの本拠地に行きますの、っと。ちょっと笑えるっすねー」
「ふっ…」
「あれ、いま炎山先輩……笑いました? 笑ったっすよね」
「…気のせいだ」
「いや、笑ってたぜ。意地っ張りなやつだなー、炎山って」
「…お前に名前で呼ばれる筋合いはない」
「あ、先輩先輩。どっちも『光』なんで……下の名前で呼ばないと現場で混乱しますよ。お願いしますね?」
「…っ」
「俺は熱斗な!」
「僕は宙で」
「…」
黙り込んじゃった。ふふふ、いったいいつになったら名前を呼んでくれるのかと思っていたが、意外と早くなりそうだ。そう考えると、気の重い任務にも張り合いが出てくるぜ──さ、頑張るとしましょうか。
■
炎山くんの自家用ヘリは、中々に居心地がいい。技術が発展しているだけあって、揺れがほとんどないのだ。まあ空飛ぶリニアが実用化してるような世界だし、当たり前といえば当たり前か。しかし個人でヘリ所有とは、さすが世界有数の財閥のお坊ちゃまである。やいとちゃんとこも負けてはいないんだろうけど、やはりPET関連の技術が高いと強いね。
さて、時間も空いたことだし、今日の朝に貰った『ナビカスタマイザー』でも弄ってみるか。ほんとは今日の夜あたりにでも試すつもりだったんだけど、WWWの幹部やらドリームウイルスやらを相手にする可能性があるんなら、今やっておく価値はある……凶と出る可能性も否めないけど。
「宙、それなんだ?」
「これ? これは『ナビカスタマイザー』って言ってね……ナビの性能を自分用にカスタマイズしやすくなるソフトウェアだよ」
「へぇー……オフィシャルってそんなのも使うんだな」
「や、これは僕しか使ってないよ。それに製品化前のプロトタイプってだけの話だから──数ヶ月以内には市販されるだろうし。熱斗のパパが開発したものだから、熱斗はもう少し早く貰えるかもね」
「ふーん…? なんで宙だけ使ってるんだ?」
「僕とマインのことでちょっとね……熱斗のパパに色々相談に乗ってもらっててさ。あの人が一番そういうのに詳しいだろうと思って、ちょこちょこ会いに行ってたんだよ。このナビカスも、それの一環」
「相談?」
「そそ。ほら、僕とマインって見た目も性格もそっくりだろ? 悪いことじゃあないけど、良いことばかりでもないのさ。このナビカスがあれば『明確な違い』が出るんじゃないか──って熱斗のパパがね。DNA構造……あー……根本的な部分は変化しないから、意味がない可能性もあるけどさ。それに成功したらしたで戦力ダウンするから、ちょっと微妙な感じ」
「…? よくわかんないけど、市販されるってことはロックマンにも使えるのか?」
「もちろん。むしろどんなPETにも必須と言えるレベルの技術革新だよ、これ。数年内にはほぼ全ての個人に普及するだろうね。さすが光博士って感じ」
「へえぇ…! やっぱりパパってスゲー!」
ピクリと炎山くんの眉が動く。親子仲が良好な光家と違い、彼の家庭環境はちょっとばかし複雑だからだろう。とはいっても、炎山くんは父親を尊敬しているし、炎山パパも彼を愛しているのは確かである。要はどっちも感情を表に出さないタイプだから、和気あいあいの家庭にはならないってだけの話だ。
「炎山はまだ貰ってないのか?」
「…俺には必要ない」
「ほんと素直じゃねーの! さっき宙も必須って言ってたじゃん!」
「あ、炎山先輩に必要ないのは事実だよ」
「へっ?」
「『ナビカスタマイザー』ってのは、つまり“簡易プログラミングソフト”だからさ。熱斗ごときでも理解できるように言うなら──」
「言い方!」
「つまり馬鹿でも理解できるように言うなら──」
「ひどくなってんじゃねーか!」
「まあ熱斗の好きなゲームで例えるなら……ナビカスってのは『RPGツクール』なわけ。実際にゲームは作れるけど、それは決まりきった枠組みの中での話だろ? 一から十まで自分の理想を詰め込めるわけじゃないんだよ。あくまで、専門的な技術を素人が簡略化して扱えるようにしただけ」
「…? なんでそれが炎山に必要ないって話になるんだ?」
「炎山先輩はブルースを一から自分で組むような天才だしね。本職顔負け……というより、玄人はだしってレベルかな。プログラムを自分でしっかり組める人だと、むしろナビカスは足かせになるんだよ」
「へー……炎山ってスゲーやつなんだな…」
「僕の先輩だからね」
「一気にスゴくなくなった気がする…」
「さっきからひどくない?」
最近、ちょっと僕の扱いがぞんざいだよね熱斗くん。ツッコミも前ほど激しくなくなってきたし、美人は三日で飽きる現象だろうか。いいさいいさ、なくなって初めて気がつけばいいのさ、僕の大切さに。いやまあ死ぬ気はないけども。
「…うん。バグもないし、これでいっか。どう? マイン」
『システムオールグリーンだぜー』
「オーケーオーケー、では見せてもらおうか……ユーモアセンスの力とやらを」
『うむ、任せ給え』
「なにいってんだ? お前ら」
「いやさ、ナビカスプログラムに『ユーモアセンス』っていう面白いのがあってね。組み込めばナビが面白い話をし始めるってやつなんだけど……ただでさえセンスMAXなマインに使えば、世界を笑いの渦に巻き込むだろうと思ってさ」
「いやな予感しかしねぇ…」
なにを言うんだ熱斗くん。僕たちなら、たとえ『今から面白いジョークを言うよ』なんていうハードル爆上げな前振りすら、凌駕して見せるとも。行こうぜ僕、どんな冷めた空気も破裂させるような──炎山くんでも爆笑してしまうようなユーモアを見せつけてやろう。
『…っ! 宙! インビジブルを使って! 速く!』
「オッケー! スロットイン──送ったぜマイン。でも急にどうしたって言うんだい?」
『僕にインビジブルを使ったことによって……新しいチップが手に入ったんだ!』
「わお、そりゃ凄い! いったいどんなチップ?」
『“ステルスマイン”……なんちゃって!』
「ひゅー!」
『いぇーい!』
「…」
「…」
『あいうえお作文行きまーす! お題はやいとちゃん!』
「オッケー。じゃあやいとちゃんの“や”!」
『やっぱり可愛い!』
「やいとちゃんの“い”!」
『イケてるあの娘は!』
「やいとちゃんの“と”!」
『トロピカル!』
「オチは?」
『なし!』
「ひゅー!」
『いぇーい!』
「…」
「…」
『喉が
「その心は?」
『い たいよぉぉぉぉー!!』
「やっふぅ!」
『ふー!』
「…」
「…」
『ものまねいきまーす!』
「よっしゃこ──」
「…宙」
「──はい、炎山先輩……あれ、いま宙って…」
「少し黙れ」
「…スイマセン」
『…ゴメンナサイ』
うん……ちょっと大人しくしとこう。とりあえずパーフェクトフルシンクロには影響がなかったようなので、ただの強化パーツとしての意味合いしかなかったな。まあ熱斗くんのパパは優秀な科学者だし、いつか僕とマインの諸々を解決してくれると信じよう。一人で抱え込むなんて柄じゃないし、困ったことがあれば誰かに泣きつくのが僕流なのだ。
■
放棄されたWWWの本拠地は、設備もセキュリティも大した造りだったけど──移転先の方はというと、もはや哀愁を誘う程に寂れていた。おそらくドリームウイルスを完成させるために必要な機器のみを運び込んだのだろう。廃墟と言うに相応しい白い館が、山の中腹に鎮座していた。
「なあ、なんか発射台みたいなのが見えるけど……アレなんだ?」
「発射台で間違いないよ。内部の機械にドリームウイルスを仕込んで、シャーロが保有する人工衛星へ物理的にハッキングするつもりだろうね」
「えっと……つまり?」
インターネットは全て繋がっている──それは事実だが、だからといって一つのエリアからドリームウイルスを侵食させていく方法では、征服も支配もできやしない。“ドリームウイルス”とは最強クラスのウイルスではあるが、別に倒せないってことはないんだよね。僕でも炎山くんでも熱斗くんでも、普通にデリートはできる。実際ゲームでも倒されてたわけだし。
ならなにが問題かって、その名の通り“ウイルス”という点だ。つまり──増殖するんだよ、あれ。そのへんのメットールと同じような頻度でドリームウイルスが出てくるようになれば、電脳世界はおしまいだ。
とはいえそれを一つのエリアから増殖させていくなら、おそらくオフィシャルのデリート速度の方が上回る……結果として完全に消滅させることができるだろう。しかし人工衛星内部でウイルスを増殖させ、世界中へ同時に送り込まれたら、もはや事態の収拾はつかない。
ドリームウイルスの容量は非常に膨大だ。普通ならデータを他所へ送り込むことすら困難である。しかしシャーロの人工衛星、あるいは宇宙局……そしてアメロッパ“ANSA”のアンテナであれば、その常識外の通信量を利用して世界中にドリームウイルスを送り込める。
その中でもっとも物理的なセキュリティが薄い人工衛星を狙ったのだろう。あのミサイル発射装置は、衛星を経由してドリームウイルスを世界中に撒き散らすためのものなのだ。
──というようなことを熱斗くんにわかりやすく説明してさしあげた。
「ええと……つまり、俺達はアレを発射させないようにすればいいんだよな?」
「ううん。そもそもドリームウイルスはまだ完成してないから、今回は犯人たちの確保が目的だよ。もちろん僕たちは体格的に不利だから、電子制御されてるセキュリティやら、それを管理防衛してるヒールナビやらを制圧してくって訳」
「そ、そっか…」
「というかドリームウイルスが完成してたら、流石にもっと緊迫してるよ。一刻の猶予もないだろうし」
「理解できたなら、さっさと配置につけ。そろそろ勘付かれていてもおかしくはない」
「お、おう!」
熱斗くん……炎山くんの居丈高な命令にも突っかかる様子はない。緊張してるのかな? たぶんWWWへ突撃すること自体にじゃなくて、物々しい周りの雰囲気に気圧されているのだろう。集団の足並みを乱すことへの恐怖とは、人間としての本能に近いらしいし。
僕? 僕は逆だ。他人に合わせるのは得意だが、単純に突入作戦そのものへの忌避感が強い。『オラーッ!』てPET持って突っ込んだら、銃を構えられてたとか洒落になんないし。絵面だけ見たらちょっとしたギャグだが、実際にそうなったら恐ろしすぎる。まあ今の時代の重火器って全て電子制御だから──先に電脳戦で勝っとけば使用不能にできるらしいけどさ。だからこそリアルの腕っぷしよりネットバトルの強さが重宝されているのだろう。
「──総員、突入」
班長が発した抑揚のない声を合図に、廃墟の入り口へと向かう。ボロっちい見た目だけど、よくよく見れば電子制御された堅固な扉だ。炎山くんが管理システムへと侵入し、鮮やかなハッキング手口で鍵を解除する。
──いやほんと、この世界って強くさえあれば他人のプライバシー覗き放題だよな……空き巣もし放題だぜ。とはいっても、そんな技術をもった人間なら、空き巣なんてするまでもなく稼げるだろうけど。
「五班に分かれて散開──っ!?」
『フハハハハ!! よく来たな、オフィシャルの犬ども!!』
おっ……館外部に取り付けられたモニターにワイリーさんが写り込んでいる。まさに悪の科学者といった感じで、行動そのものも悪の様式美が感じられる。モニター越しの宣戦布告とかって、かっこいいよね実際。
「──隊長。ここのモニターだけではなく、全国で同時放送されています」
「なに? この期に及んで……何が目的だ」
『我々WWWは、本日を持って電脳世界の終焉を宣言する!! シャーロの人工衛星をハッキングしたのち──終末戦争が始まるのじゃ! デリィィィィト!! …ゲホッ、ゴホッ!』
「あらら、血圧高そうなのに興奮するから…」
『やかましい!!』
ぼそっと呟いただけなのに、よく聞こえたなワイリーお爺ちゃん。集音器の性能どうなってんだろ。もしかしてラブホの屋上に取り付ければ、全室の状況を把握できるんじゃなかろうか。しかしゲームでもそうだったけど、全世界に向けて宣戦布告とか、むしろ総力をあげて潰されるとか思わないんだろうか。
『フハハハハ! 全世界の人間に! オフィシャルの無能を見せつけてやろうではないか!』
「ふん……ドリームウイルスも完成していないのにか? 負け犬の遠吠えにしてはよく通るが──無様を晒したくなければ、さっさと投降しろ。随分と人の気配が薄いが……どうせ部下にも見限られたんだろう?」
「見限られたじゃと? 逆じゃ! ──無能な部下などWWWにはいらん! 始めから──ククッ、始めから有能な人間を雇えばよかったのじゃ! …データさえ手に入れば、資金が底をつこうが問題はないからのう!」
「なに?」
…なんか時間稼ぎされてる気がするんだけど、やはり話を聞くのもお約束ってやつなのだろうか? アクアデータはまあ、囮用にセキュリティも薄くしてあるからワンチャンあるかもだけど──エレキデータに関してはまず無理だろう。ワイリーお爺ちゃん、精一杯虚勢を張ってるだけ説。
『のう──“ダーク・雅”』
『契約は果たした……これ以上は私の関知するところではない。上手く逃げ延びるんだなワイリー』
『カッ……逃げる必要などないわ!』
「…! ダーク・雅だと!?」
「だ、誰だよ…?」
「凄腕の暗殺者だよ。なるほど……依頼料は高くつくけど、腕は確かだ」
「い、言ってる場合か!? これでデータ揃っちゃったんじゃ…!」
「いや、奪われたのはアクアデータだけのようだ……問題はない。エレキデータは──宙」
「問題ナッシングっす。ウラインターネット最深部に、ウイルスしこたま仕込んでセキュリティ強化しといたんで。仮に奪われるにしても、ワイリーお爺ちゃん確保するほうが絶対速いっす」
さっさと踏み込んで終わらせよう。ワイリーお爺ちゃんの言葉が本当なら、もう配下もほとんど居ないってことになる。少なくとも金目的の人間は消えて、ワイリーお爺ちゃんに心酔してるやつだけが残ってるのみだろう。
動画配信データを辿っても、大元は間違いなくここ……ダミーの拠点というわけではないようだ。ドリームウイルスを作製する機器が容易に動かせない以上、たとえワイリーさんを逃したとしてもWWWは終わりだ。新たに何かするにしても、年単位の時間が必要だろう。
班をわけて館へ侵入し、ワイリーお爺ちゃんの確保を目指す。誘った手前、目を離したくはないので、僕は熱斗くんと一緒だ。WWW謹製の防衛プログラムをバンバン突破していく様は、やはり天才を感じさせる。
「ふむ……流石は祐一郎殿の息子だ。素晴らしいバスティング技術…!」
「パパを知ってるの?」
「オフィシャルは祐一郎さんと話す機会が多いからね」
『俺は俺だ! 父親は関係ない!』 …などというキャラとは真逆で、熱斗くんは至極嬉しそうだ。ファザコンの気があるな……ま、ゲームでも重度のファザコンだったし、今更か。父親が偉大だと、息子は素直に尊敬しやすくなるもんだ。
──しかしもうちょっと緊張感を持ったほうがいいのではないだろうか? 僕以外のメンバーと親しくなるのは喜ばしいことだが、ここは敵地だというのに。
…いや、正直に言おうじゃないか。ちょっと嫉妬。ちょっとだけ嫉妬。別々の友達同士が仲良くなりだしたら、妙な気分になるあの感じだ。おいおい、熱斗くん? ほら、もう少し、こう、なんてーの? 僕を頼ってくれてもいいんだぜ。知らない大人たちの中で、唯一頼れる友人が僕だろう? くっ……ちくしょう、もう知らんぞ。後ろで拗ねとこう、そうしよう。気付いてくれるまで拗ねとこう、そうしよう。
「…ん? なあ宙、どうし──っ!?」
「なっ、しま──っ!?」
ボッ……ボッシュート! いきなり床に穴が空いて、皆が落ちていく──ぬぐぅぅぅ!! 古典的すぎるだろちくしょう。後ろに控えていて良かったのか悪かったのか。落ちていく同僚五人は無理だったが、ギリギリ熱斗くんの手は掴めた……けど、キツイ…! 小学生の片腕で小学生を支えるのは無理がある。
「くっ…!」
「ダメだ宙! このままじゃお前まで落ちる!」
「わかった! さよなら熱斗、君のことは忘れない!」
「も、もうちょっと頑張ってくれよ!」
「そうは言っても…!」
「む、無理そうか?」
「う、ぐぐ……さっき僕をほって楽しそうにしてた…」
「いま言う!?」
「ぬ、ぐ…! でぇぇい!」
ふぅ……火事場の馬鹿力ってのは本当にあるんだな。あと物理法則が違っていてよかったよかった。掴むところがないのに、ほぼ同じ体重の僕が熱斗くんを引っ張りあげるって、元の世界の物理に喧嘩売ってるぜ。
──お、通信が入ってる。
『すまん! そちらは無事か?』
「はい、班長。そちらはなんで無事なんですか?」
『その聞き方はひどいな! ──まあ三階程度の高さから落ちたくらいだ。皆、特に問題はない』
「問題がないのが問題な気が……いえ、では先に進みますね。何かあれば通信お願いします」
『ああ、できるだけ早く合流したい』
やっぱ銃弾とかも平気な気がしてきたぜ。しかし一気に戦力減かぁ……電脳戦はともかく、フィジカルが必要な事態になったら不安だな。しかし合流できる保証もない以上、前に進むしかないだろう。
まったく、なんでエグゼの世界はボッシュートが好きなんだ? シリーズ伝統とすら言えるな。そういやジゴク島やらオラン島やらでも、やいとちゃんがボッシュートされてたっけ。その未来がくるかは知らんが、その時は颯爽と駆けつけて助けたいものだ。
「…この先、ちょっと怪しい感じだよな」
「だね。ワイリーお爺ちゃんの性格から考えても、
「よ……よし!」
「ちょっと待った」
「な、なんだ?」
「ここから先は電波が強くてセーブできないけど、大丈夫?」
「なに言ってんの!?」
いやほら、エグゼの伝統だから……一応言っておいた方がいいかなって。ま、現実にセーブ機能なんてつけば、つまんなくなることこの上ないか。失敗のない人生なんて、ぞっとしないぜ。
そんなことを思いながら、重厚な鉄の扉を開き外へ出る。遠目からも見えていた発射場がそこにあり、ドリームウイルスを完成させるためと思しき機械も繋がれている。焦った顔のワイリーお爺ちゃんもいるし、やはり先程の会話は虚勢だったことがうかがえる。
オフィシャルの失態を全世界に放映とか言ってたが、自分が追い詰められる動画を配信してる自覚はあるのだろうか? いまだにカメラは回っているようだし、ここはキリッとした顔をしておこう。上手くやれば『キャー! 抱いてー!』とかいう女子が寄ってくるかもしれん。
「ワ──」
「ワイリー!」
「ぬぅっ…! やってきおったか…!」
「もう逃──」
「もう逃げ場はないぞ! ネットワーク支配計画なんて諦めるんだ!」
「ぬぅぅぅ!!」
「オ──」
「オフィシャルも集まってきてる。観念しろい!」
「──熱斗!」
「うわっ!? な、なんだよ宙」
「僕にも喋らせてくれ」
「えぇ…?」
この主人公体質め。しかしこの世界においては、『お約束』というのが案外とバカにできない。例えばワイリーお爺ちゃんだけど、彼は発射装置の近く──二階の大上段から僕たちを見下ろしている。馬鹿と煙とラスボスは高いところが好き……というお約束を忠実に再現しているのだろう。
「くるなぁぁーー!! 一歩でも動けばこの自爆装置のスイッチを押すぞ!」
「げっ…! 嘘だろ!?」
そういえばゲームでも爆発オチだったっけ。まあでも爆心地にいたワイリーさんがピンピンしてたんだから、きっと大丈夫だろう。たぶんワンピースの世界の爆弾なみに低威力と推察される──されるが、だからといって自分の体で試したいかと言えば、圧倒的に否である。
「熱斗、刺激しちゃダメだ」
「あ、ああ……でもどうするんだ? これじゃ一歩も動けないぜ」
「大丈夫。オフィシャルでは犯罪者に対する交渉術も教えられるから」
「不安すぎる…!」
「くるなぁぁぁーー!!」
「まずは落ち着かせよう。ワイリーお爺ちゃんだって、できれば自爆なんてしたくない筈だ。まずはこっちの話に耳を傾けさせるんだ」
更年期障害か痴呆老人かといった具合のワイリーお爺ちゃん。もはやこちらの言葉など耳に入っていないだろう。そんな状態の人間を落ち着かせるにはどうするか? …オフィシャルで学んだネゴシェイト技術がいま光る。
「ワイリーお爺ちゃん! 僕です! ──あなたの嫡子であるリーガルの隠し子……宙です!」
「なっ──なんじゃと!? 本当か!?」
「嘘です!」
「クソガキがぁぁ!!」
「ブチ切れさせてんじゃねーか!」
「まあ一応、こっちの話に興味を示したということで…」
全方位バーサク状態から、一点集中バーサクへと移行したのだ。ワーストからバッドくらいになったと考えるべきだろう。まずは話を聞いてもらわねばどうしようもないのだから、僕へ関心を抱いた時点で交渉としては充分。
「──こんなことをしてなんになるんですか? あなたの求めた世界は、こんなやり方で目指すものではなかったでしょう」
「知った口を利きおって…! 貴様にワシの何がわかると言うんじゃ!」
「人々の幸せを願ってロボット工学を学んだんでしょう? あなたが唯一認めた人間……光博士としのぎを削りあい、お互いを高めあった。その時のことを思いだしてください」
「…っ! 貴様、なぜそれを…!」
「確かにあなたは研究者として負けたのかもしれない。けれど、今のあなたはそれ以上に惨めだ。敗北者として身を退くでもなく、諦めずに立ち上がるでもなく──ただただ勝者への復讐に身を染めて! あげく、死んだ男が遺したものにまで唾を吐く…! これが滑稽じゃなかったらなんなんだ!」
「き、貴様…!」
「宙…」
「熱斗……ちょっとカメラ写り確認してきてもらっていい? いますごくキマッた気がする」
「ちょっと感動した俺が馬鹿だった…!」
ちょっとじゃなくて存分に感動すればいいものを。まあでも、これで僕がある程度『事情を知っている』ことは、ワイリーお爺ちゃんに理解してもらえただろう。後は実際にネゴシェイトだ……冗談ではなく、法律がガバガバなこの世界だからこそ──司法取引のラインがゆるゆるなこの世界だからこそ、説得は割としやすいのだ。
「故人である光正博士に“勝った”と言いたいなら、あなたが目指したロボット工学を発展させることこそが、
「ふん…! この国がそれを阻んだんじゃ!」
「それは何十年も前の話……日本の行く末が不安定だった時の、苦渋の選択によるものでしょう? 今の日本は、押しも押されぬ富裕国です。ドクターワイリー、あなたほどの科学者であれば国から予算を分捕って、一大分野を築くことだってできる筈だ」
「ぬっ…!」
「民間にもあなたを迎えたい人は絶対にいるでしょう。たとえばジョーモン電気の代表のお孫さん──彼は独学でロボット工学を推し進めようとしています。趣味の範疇なせいか、孫馬鹿な代表もそれほど援助はしていませんが……第一人者であるあなたが協力するとなれば、積極的な支援も約束してくれるでしょう。オフィシャルのように半官半民の経営であれば、技術も浸透しやすくなる……あなたが望んだ『ロボットと人間が共存する世界』も、いつの日か形になるかもしれない」
死刑だの無期懲役だのがないのなら、目指すべきは『更生』である。いまは復讐に身を染めたワイリーお爺ちゃんだけれど、かつては人々の幸せを心から願ったような人物だ。実際に自分の理想が形になる可能性があるなら、戻ってきてくれると信じたい。
「破壊や支配を目指す限り、あなたが光博士の上に立つことなどありえません。偉大な研究を冒涜した者、
「…」
「…復讐はオナニーと同じです。スッキリするけど、何も生まない。終わった後には虚脱感だけが残る」
「おぉい!?」
「条件は提示しました。WWWは構成員も高度な技術を持った人間が多い……まるごと法人として転換するなら、オフィシャルはそれを支援し、恩赦を出すと約束します。ドクターワイリー──これが光博士へ一矢報いる、最後のチャンスです。ご決断を」
「…!」
うーん……理のある説得より、感情を剥き出しにした説得の方が、あるいは有効なのかもしれないけれど──ピンク色に汚れきった僕の心じゃ、これが限界だ。それに、半生近くを復讐の準備に費やしたワイリーお爺ちゃんだ。この説得を受け入れるということは、何十年もの時間を無意味にしたと認めることになる。
たとえ正しい道でも、効率がいいとわかっていても、受け入れられないことはある。理不尽や不条理を飲み込んででも、感情を優先させる……それが人間ってやつだ。超絶かわいい子といざセックスしようとしたら、まさかの男の娘だった──その先にある葛藤こそが、人間を人間たらしめているのだ。答えに正解はなく、しかし選択したという事実が重要なのである。
「…振りかぶった拳の落とし所は、歳を重ねるほど難しい……僕はそう思います」
「ぬぅ…」
「だから──彼をここに連れてきたんです」
「へっ? 俺?」
「彼は『光 熱斗』! 光正博士の孫です! 親の報いを子に受けさせる法はありませんが──彼にはそれを受け止める気高い“覚悟”がある!」
(ちょっと待てぇぇーー!! もしかしてそのために誘ったの!?)
(大丈夫だって、熱斗。いい大人がこの状況で子供を殴るもんか。パフォーマンス、パフォーマンス)
(ク、クズゥ…)
(ク、クズはちょっとヘコむんだけど……わかったよ、僕も覚悟きめるよ)
「僕は『光 宙』です。認知はされていませんが、光一族の血は継いでいます。もちろん、熱斗兄さんで気が済まなければ──僕でもいい!」
(さり気なく俺の後にしてるー!?)
(痛いのはイヤなんだ)
(俺だってヤだよ! っていうか光一族の血を継いでるって大嘘じゃんか!)
(あのね、人類って極論で言えば全員血が繋がってるから。嘘は言ってないよ)
(ヒデぇ…)
友人にディスられまくって悲しい限りだ。僕は結果を考えた上で合理的に行動してるというのに……まあいいか。ワイリーお爺ちゃんは──俯いたまま考え込んでいる。薄っぺらい僕の言葉でも、多少は響いてくれたのなら助かるんだけど。
そもそも彼が本気で世界をどうにかしようと言うなら、こんな回りくどいことをせずに『ココロネットワーク』を利用した世界征服の方が手っ取り早いのだ。それをしないってことは、研究者としての矜持が残っている証だろう。
ココロネットワークが何かって? 要はあれだ、人類補完計画とか思考エレベーターとかそっち系のやつだ。人はみんな繋がっている──を物理的にやっちゃうやつだね。棒と穴で繋がるんなら僕も応援するんだけどさ。
「…ふん。気に食わんな、小僧」
「よく言われます」
「よく言われるんだ…」
「…今回は引いてやろう。じゃが貴様の思う通りになるほど、世の中は甘くないぞ。ワシはワシのやり方で世界を変える」
「法を犯さない限りでしたら、どうぞ存分に」
「カッ…! 最後まで憎たらしいガキじゃ!」
ん? なんか見逃す流れになってない? 僕の言い分が通らないなら、普通に逮捕案件なんだけど……え? ここで手錠出したら空気読めない感じなのかな。どうしよう。それともやっぱり科学者らしく、緊急脱出装置とかあるんだろうか。
『──ふん……老いぼれめ。所詮は貴様もそんなものか』
「…! 遅いお出ましじゃの」
『底意地の悪いセキュリティだったからな。製作者の性根が透けて見える』
「ご苦労……じゃが、ワシは降りる。後は好きにせい」
『言われなくとも、俺は誰の力も借りるつもりはない』
わー、フォルテさんだー。その手に持つものはもしや
かー。
…ヤバイヤバイヤバイ。これホントにヤバいやつなんですけど。嘘だろ? 『もし奪われても』だのなんだのとは言ってたけど、正直絶対大丈夫だと思ってたんですけど。『アレ』はほんとにまずい。洒落になってない。
──んっ? フォルテに気を取られていたら、ワイリーお爺ちゃんが消えた……全国放送状態でとんだ大失態じゃないか。オフィシャルの無能を晒すってアレ、成功させられてるんですけど。いや、とにかく今はフォルテだ。
たぶんワイリーお爺ちゃんは、ドリームウイルスを餌に彼を釣ったんだろう。フォルテが持つ『ゲットアビリティプログラム』は、ありとあらゆる能力を奪うことができる。ドリームウイルスが持つ“ドリームオーラ”を使えるようになれば、まさに鬼に金棒だ。
「──宙!」
「炎山先輩! …一人だけっすか?」
「落とし穴のせいで散り散りになった──状況は?」
「とりあえずあのナビを倒さないと、かなりまずいことになるっす。いやもう、ぶっちゃけフォルテさん倒したらミッションクリアっす……第一目標には逃げられたっすけど」
「…最大の目的は終末戦争の回避だ。問題はない」
「大問題が残ってますけどねー……めちゃんこ強いっすよ、あのナビ」
「何度も言わせるな。問題はない──この三人ならな」
「おお、ついに炎山先輩がデレたっす。なら期待に答えなきゃっすね……熱斗、準備は?」
「いつでもいけるぜ!」
「二度と戦いたくなかったんだけどなぁ……マイン.EXE トランスミッション──」
「オフィシャルが弱音を吐くな。ブルース.EXE トランスミッション──」
「画面越しでもスゲー威圧感だな…! ロックマン.EXE トランスミッション──」
『あいさー』
『…デリートする』
『行くよ! 熱斗くん!』
■
…くそ、予想以上の強さだ。三人がかりでもこれって、ほんとに強いな。攻撃を受けないようにしているとはいえ、割と攻撃は当ててると思うんだけど……やはり最強の名に相応しい。僕とは相性が悪い相手だ。僕が短期決戦を望むのは、極度の集中状態を長時間持続させることが難しいからだ。
別に弱点うんぬんではなく、人間として当たり前の話である。自分のペースでやれるならば、集中力を数時間以上保つことも不可能ではないが──瞬間的な判断を何度も繰り返す状態というのは、そうそう長続きするものではない。
現に熱斗くんや炎山くんのオペレーションも徐々に精度が落ちてきている。逆にフォルテはというと、彼は自律型ナビ故にそんなものは関係ない。というか、オペレーター側も多少不利になる程度でしかないのだ──普通は。
僕の場合、集中が切れて攻撃をくらうと、たぶん痛みで立ち止まったりうずくまったりするから──そのまま畳み込まれてゲームオーバーになりかねない。ああ恐ろしや。しかし、ここは多少の無理は承知でいくところだ。
だって──ぜんぶ僕の責任だから。
「宙、さっきからちょっと無茶しすぎだ!」
「…うん。そうだね」
「…? 宙、その腕の痣──いつ…?」
「さっき転んだ時にね。それより熱斗、今はバトルに集中してほしい」
「う、うん…」
『マイン……君はやっぱり、僕たちと同じ──』
『ロック! 前! ──喋ってる暇はないぜ!』
『…っ!』
データ、データ、データ。フォルテが持っているデータはなんとしても奪い返さなければならない。それが僕の贖罪だ。まさか奪われると思っていなかった……そんな軽率な考えで
「…な、なあ! 頭から血が──どうしたんだよ宙!」
「さっき転んだから、さ」
「嘘つけよ!」
「熱斗。集中」
「──後でちゃんと話してもらうからな!」
…速度は僕の方が速いんだ。倒せなくとも、隙を見て取り返すことくらいならできる。即席のコンビネーションは段々とリズムがあってきて、フォルテの呼吸もなんとなく感じられる。ブルースの剣が空を切り──空いた空間にロックがバスターを打つ。フォルテが片手を掲げ──ここだ!
『──ふん。見え見えだ』
『え…』
『マイン! う、うあ…っ!?』
『くっ…!』
──っ!? くそ、データに意識が行き過ぎてたか…!? まずい、追撃が──あれ、こない? なんで……ってヤバイ! エレキデータをセットしに──!? どうにか止めなきゃ…! いよいよ本格的にまずい。片手間で波状攻撃ってどういうバスターだよちくしょう。
「宙! 今は耐えろって──完成しただけならまだどうにかなるんだろ!?」
「…ダメだよ。セットされたら終わりなんだ」
「なんでだよ!?」
「うあっ!」
「宙! ──なんでそこまで無茶すんだよ!」
「あ──ごめん……熱斗……ほんとにごめん」
「謝ることじゃねーよ! それにまだ諦めちゃ──」
「
「そ、そら…?」
「もう……無理、か。本当に──熱斗……どうか許してほしい」
フォルテがエレキデータをセットした──そして
いや、奪われたとしても、本来であればそこまで被害は出ない筈だったんだ。ちょっとしたお茶目で仕込んだだけだった。まさかだろ? まさかこんな絶賛全国生中継でそれが開かれるなんて、夢にも思わなかったんだ。だから死に物狂いで奪い返そうとして──結局力不足だった。
──本当にごめん、熱斗。
『…っ!? なんだこれは…! 動画データ…?』
「ごめん……熱斗。まさかこんなことになるなんて…」
「さ、さっきからなんで俺に謝るんだよ……って、え──!?」
フォルテが開いた動画が全国のテレビに映り込む。そしてそこには──
『俺は桜井メイルを愛しています』
「ホギャァァーーーー!?」
『俺は桜井メイルを愛しています』
『俺は桜井メイルを愛しています』
「やめろぉぉーー!!」
『俺は桜井メイルを愛しています』
悪魔的リピート…っ! 百二十分耐久…! 告白動画…っ! 誰も手にすることはないとたかをくくっていたからこそ──ちょっとしたイタズラ心でやってしまった、僕の罪。全国……いや、下手をすると全世界のお茶の間に、熱斗くんによる愛の告白が写り込んでしまった。マジメンゴ。
あっ、フォルテさんが呆れて帰ってしまった。よかったよかった、これで世界の平和は守られた。ちょっとした犠牲はあったが、終末戦争は回避されたんだ。僕も割と怪我しちゃったけど、必要以上に痛がることで許していただくという作戦も上手くいったようだ……いったよね?
「ごめん熱斗……僕も命をかけて頑張ったんだけど──ぐふぅっ!?」
「そらぁぁぁーー!!」
「ちょ、ま、ほら、怪我人だぜ? 腕折れてるかも──あでででっ!? ごめんって! ほんとごめん!」
「ちくしょーー!! どんな顔で帰ればいいんだよ!」
「炎山先輩! 黙って見てないで助けてほしいっす!」
「自業自得だ」
いででっ! 僕より先に映像を止めた方がいいんじゃない? え? もうお前なんか友達じゃない? ご、ごめんって……なんでもするからそれだけは…! あーもう、踏んだり蹴ったりだぜ。ついでに踏んだり蹴られたりだよ。一件は落着したけど、万事は解決しなかったなぁ……熱斗くん、ほんとにごめんね?
■
帰りのヘリの中で何度も平謝りして、ようやく許してもらえた。まあ小学生の男子にとっては相当なダメージだったか。でもこれを機会に付き合っちゃえばよくない? メイルちゃんはどう見ても熱斗くんにホの字だし、熱斗くんだって満更でもなさそうだし。
「はぁ……メイルにどう説明するかな…」
『熱斗くん! メールがきてるよ!』
「ん? ああ……ってなんでマインが俺に言うんだよ?」
『ユーゲットメイル! なんちゃって!』
「ひゅー!」
『やっはー!』
「なあ炎山……殴ったら傷害になるのか? これ」
「…情状酌量の余地はある」
なんだかちょっと仲良くなったお二人さん。これも僕の人徳がなせる業だろう。うんうんと頷いていると、窓の下の景色に見覚えのある建物がチラホラと写りだす。なんだかもう懐かしいような気さえする、我が愛しの秋原町だ。なにげに命の危険があったりなかったりで、やいとちゃんを抱きしめたい気分だ。
「あれ? 熱斗の家の前……何人か集まってるね」
「え? ──げっ、メイルもいる…! そ、そら! 説明たのむ!」
「まかせてよ!」
「──や、やっぱり自分で説明する…」
「そう? ならいいけど……じゃ、凱旋といこうか」
「穴があったら入りたい…」
ヘリが公園に着地した──絶対に無許可だがいいのだろうか? 熱斗くんの家とは目と鼻の先だから、すぐに人が寄ってきた。やいとちゃん、デカオくん、メイルちゃん……それにクラスメイトが何人か。なんとなくメイルちゃんの瞳が熱っぽいのは、気のせいじゃないだろう。寄ってきたやいとちゃんを抱っこして抱きしめつつ、事の成り行きを見守る。
「あ、あのね……熱斗……その」
「ち、違うんだって! あれはちょっとした間違いで…!」
「ま、間違い?」
「そうそう! だいたいありえねーだろ? あんなの……ひぇっ!?」
「ううぅ…! 間違いで……ありえない…?」
「ちょ、ちょっ…!?」
「──熱斗のバカァァーー!!」
「だあぁぁぁっ!?」
おーおー、可愛い痴話喧嘩だ。ローラースケートに追いつきかねないメイルちゃんの健脚ぶりを褒めるべきか、それとも女心の欠片も理解していない熱斗くんを笑うべきか。好きな人には好きって言えばいいのにね。
「あーあ。私もあんな愛の告白受けてみたいわねー」
「僕は常日頃から言ってるだろ? 愛してるぜ、やいとちゃん」
「なんか安っぽいのよね…」
「えぇー……あの動画みたいな方がいいってこと?」
「そうそう。あんな熱烈な告白、女の子ならみんな憧れるわよ」
「ふーん……ほうほう、あれが熱烈な告白だと」
「…?」
「よし、後で面白い動画を見せてあげよう」
「嫌な予感しかしないわね…」
熱斗くんの家の方へと向かった二人を追いかける。まあここは僕が謝って真相を話すべきだろう。メイルちゃんにこっそり『脈アリだぜ』とでも言っておけば、そこまで怒りはしない筈。家の周りをグルグル追いかけっこしている二人に声をかけ──ようとしたら、家から誰か出てきた。
…っ!? 修羅の雰囲気をまとう熱斗ママに……ひっかき傷だらけの熱斗パパ。なんだ? 家庭円満の見本みたいな光家で、なにが起きたというんだろう。
「…そ、宙くん!」
「あ、ど、どうも祐一郎さん。どうされたんですか?」
「君が宙くんね?」
「は、はい…」
「ごめんなさいね、祐一郎さんが無責任なせいで認知もされてないなんて……親御さんもいないって聞いたわ。あなたがよければ、家で暮らしましょう? 熱斗も兄弟が増えて嬉しいでしょうし…」
「へ? …あっ」
…そういえばワイリーお爺ちゃんの説得の時、絶賛生中継だったな。『熱斗兄さん』の方は訂正した覚えがない。なるほどぉ……やっべ。いま訂正したら僕も引っかかれそうじゃない? 打ち身、切り傷、打撲で割と重傷だぜ? 僕。うーむ…
「た、助けて、そら…!」
「熱斗ーー!!」
「祐一郎さん? いったいいつ仕込んだのか、そろそろ吐いていただけるかしら?」
「ち、違うんだ…! 宙くん、君からも──」
「そらー!!」
「あー、えー、うー……あっ! 犬小屋の電脳からウイルス反応が!」
てんやわんやだな、まったく。とりあえず怪我が治るまでは誤魔化すとしよう。まあ……家族がいないってのは寂しいし、少しくらい居候してみたい気分ではあるけどね。逃げ回っている熱斗くんの手を取り、二人してPETを掲げる。
「オフィシャルとしてウイルスは見逃せないぜ!」
「──お、俺も! まだオフィシャルパス持ってるから!」
「じゃあいこっか、“熱斗兄さん“」
「火に油!!」
「ふふっ……プラグイン! マイン.EXE──」
「…あーもうヤケだ! プラグイン! ロックマン.EXE──」
──トランスミッション!
一応完結です。続くかどうかはアンケートの結果で決めようかと思います。
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エグゼ2
5話
WWW幹部『色綾まどい』の経過報告。当初より協力的な姿勢を見せ、その情報からWWW摘発へと至り、オフィシャルへの貢献が見られる。勾留中の態度にも反省が見られ、審問にも問題はない。三級以上のオフィシャル、観察官、ネットポリス資格を持つものにより、三ヶ月以下の保護観察が適当と思われる──か。
A級政治犯を相手にして、実刑無しってどうなの? いやまあ、反省してるなら問題ないとみなすこの世界は良いもんだと思うけどさ。保護観察という名の社会復帰支援にしても、そこまで厳格な規定がないのもすごい。
──とまあ、そんなわけで大したお咎めもなく釈放されたまどいちゃん。ゲームとは違い、水道局や交通事故誘発などの大きな事件を起こしていなかったのも影響はあったのだろう。経過報告には逐一目を通していたため、保護観察官として名乗り出ることに成功した。
前の世界よりも『支援』の意味合いが濃いせいか、観察官としての資格はかなり広義に渡る。オフィシャルに勤めている僕にはもちろん資格はあるし、逮捕に関わった人間だったからか、特になにか言われることもなかった。
良い人が多いせいなのかは知らんが、刑事やネットポリス、オフィシャルなどの『直接逮捕に関わった』人間が、犯人の面倒を見るのはままあることらしい。実際にゲームでも『彼らが罪を償ったら私が面倒を見ようと思う』──なんて言ってた人がいたようないなかったような。
という訳で、前に言った通り花束を持ってまどいちゃんを出迎えたんだが──重大な問題が解決していなかったことに、僕は戦慄を覚えた。きっと頭を冷やせばわかってくれると思っていたのに、とんだ大誤算だぜ。
「だからさぁ、大人の感性はお子ちゃまのあんたにゃ理解できないって言ってんのよ。わかる?」
「あのね、まどいちゃん。僕は君への投資を『無くなってもいいお金』だとは思ってるけど──ドブに捨てたいわけじゃないんだよ」
「そこまで言う!?」
「逆に聞くけど、まどいちゃんって今まで『お洒落~!』とか言われたことある? あ、店員は除いてね」
「…」
「お世辞と打算が飛び交うガールズトークですら、そう言われたことないってなると……もうお察しだよね」
「くっ…」
「まだカラードマンの方がセンス良いんじゃない?」
「はぁ!? そんなわけないじゃん!」
『えへっ! 宙はわかってる~。いくら僕が言っても、まどいったら聞かないんだもん』
「あんたは黙ってなさい!」
「まあ本気でやりたいってんなら、約束も約束だし止めはしないけど……多少の世論調査はしてから頼むよ? 自分のコーディネートがどれだけ受け入れられるか──インターネットで聞くなりなんなりしてさ。ちゃんと慰めてあげるから」
「なんで受け入れられない前提なのよ!」
だってほんとにダサいんだもん……他の人たちに対しては特になにも思わないんだから、僕の感性がおかしい訳でもないだろうし。だいたい、いい年してツインテールってどうなのさ。髪の色がピンクだからギリギリ似合ってなくもないが、基本的には地雷だと認識した方がいいぞ。
「さて、と……じゃあこの先どうする? 一応、行政支援として無利子で五十万ゼニーまでは貸与できるけど──僕の家に転がり込むんなら、その必要もないだろうし。来るんなら歓迎するぜ」
「あんたの家ねぇ……そりゃありがたいけど──」
「うん?」
「一回ヤったからって、調子に乗って彼氏ヅラすんじゃないよ?」
「アハハ。僕、彼女いるからそれはないよ」
「…あ、あんたねぇ……ったく。その年から女泣かせてちゃ、ロクな男になんないよ」
苦笑いをしつつ、まどいちゃんを家に迎える。純愛を貫き通せればとは思うんだけど、そうするには、世の中に誘惑というものが多すぎる。今だってそうだ。玄関で靴を脱ごうとしている彼女のお尻が動くたびに、エロいことを考えてしまう。いったい神様ってやつは、どうして男の性欲をこうも強くしてしまったのだろうか。
「──ぐべっ!?」
「なに当然みたいに触ってんのさ!」
「いや、神様について考えてたらつい…」
「神様とあたしのお尻になんの関係があんのよ」
「ヒップとゴッドって似てない?」
「『ッ』しか合ってないじゃん」
僕の家は──まあ家というかマンションだけど──秋原町の中心からは少し離れた場所にある。やはり駅チカだと相場も高くなるし、広い間取りに意義も感じない。重要なのはセキュリティと防音設備、後は虫が出ないかどうかくらいだろう。これだけ科学が発展した世界だというのに、相変わらずあの黒い虫は人類圏にはびこっているようだ。
大した量もないまどいちゃんの荷物を運び込み、茶の間で一息つく。畳とちゃぶ台が僕のベストプレイスだ。その点で、デカオくんとは非常に趣味が合う。やっぱり日本人なんだから、和のテイストがベストだよね。和のテイストがベストって言葉はぜんぜん和じゃないけども。
「ま、しばらくはゆっくりしてなよ。人生にはゴロゴロもダラダラも必要だしね」
「ホゴカンが言うことじゃないわね…」
「人それぞれじゃない? なにかしてないと不安ならなにかすればいいし、なにもしたくないならしたくないでいいし」
「至れり尽くせりねぇ……なに企んでるんだか」
「別になにもないって。あわよくばセックスさせてもらえないかくらい?」
「それを企んでるっていうんだけど?」
「子供の純粋な気持ちってやつさ」
「汚れた子供もいたもんね…」
呆れたようにため息をつくまどいちゃん。しかし茶柱の立った湯呑を見て、ふいに笑う姿は中々に可愛らしい。釈放後すぐということもあり化粧っ気の欠片もないけれど、どう考えてもすっぴんの方が美しい。いや、たぶん普通の化粧を施せばそれが一番可愛いんだろうけど──彼女のダサさは化粧にも表れているのだ。なぜわざわざあんなケバい顔にするのか理解不能である。
「はー……ほんとどうしようかな…」
「ブティック云々は置いといて、まどいちゃんもWWW幹部だったんだから……ネットバトルの腕はそこそこあるでしょ? そっち生かしてもいいんじゃない?」
「…」
…ん? なにか変なことを言っただろうか。ちょっとばかし怒っているような雰囲気を感じる。畳の上でだらけていた上体を起こし、アウトローな空気を醸し出しながら、ちゃぶ台に肘をついてこちらを睨んできた。
「オフィシャル入りたての甘ちゃんに『そこそこ』扱いされるなんてねぇ……舐めるんじゃないよ。逮捕されはしたけど、ネットバトルで負けたわけじゃないんだからね」
「ああ、そりゃ失礼。まあでも、そんなに言うなら──ヤるかい?」
「…ハッ! 上等じゃん!」
「んじゃ、負けた方はなんでも言うこと聞くってことで」
「ふん、好きにしな。エースネットバトラーならいざ知らず、アンタみたいなガキに負けるあたしじゃないよ!」
──十二秒後。
「…え? なに? 何が起きたの?」
「フラグを立てた君に、フラグ回収が起きたの」
「カ、カラードマン…」
『まどい~……もう無理ー…』
『いい戦いだったね、カラードマン』
『どこが~!?』
『僕相手に十秒以上持つのは強者の証さ』
「無理しなくちゃいけない状況ならともかく、ヨーイドンで始まる模擬戦なら世界最強の自信があるぜ、僕は」
「う、うぅ…!」
「約束は覚えてるよね?」
「ぐっ……あーあ──……ハイハイ、好きに命令しなよ。ナニするかなんてわかりきってるけどさ」
ぐでっと畳の上に寝転がり、ジーパンのベルトを緩めるまどいちゃん。それはとてもなげやりで、実につまらなさそうだ。そんな女性を相手にチンポが反応するかといえば──まあするんだけども、しかしお人形さん相手に腰を振るのは悲しいものだ。
心底くだらないと言った様子のまどいちゃんに近付き、両手を取る。小学生の僕と変わらない大きさの掌をしっかりと握り、真っ直ぐに彼女の瞳を貫いた。
「じゃ、宙って呼んでくれる?」
「──は、はぁ?」
「僕を騙そうとした時からこっち、『あんた』か『ガキ』としか呼んでくれてないだろ? だから……宙って呼んでよ」
「な……に、言ってんだか。それよりさっさとズボン下ろせば──」
「なんでも聞くって約束だよね?」
「…! ぅ……そ、宙。これでいいんだろ?」
「もっかい」
「さっき言ったじゃん!」
「命令が一回とは言ってないし」
「ぐっ…! ふん……宙、宙、そら!」
「もっと優しく」
「…宙」
「もっかい」
「そ・ら!」
「あと一回」
「そら」
「ドレミファ?」
「ソラ……おらぁっ!」
「──痛いっ! なにも殴らなくても…」
「大人をからかうとそうなるんだよ!」
えー、でも殴るほどのことだったかなぁ。頬がじんじん痛い……うん、絶対やりすぎだと思う。ここはジトッと恨めしそうにまどいちゃんを見続けるとしよう。赤くなった頬をさすりながら、悲しそうに切なそうに彼女を見続ける。さながらDVに耐える薄幸の乙女といった心持ちだ。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…や、やりすぎたよ。ゴメン」
「ちょっとからかったくらいで手を出すのはどうなの?」
「うぐ……だからゴメンって」
「傷付いたなぁ……痛いなぁ…」
「ど、どうしろってのよ」
「セックス!」
「死ね!!」
「ぐふぅっ!」
炎山くんといい熱斗くんといいまどいちゃんといい……僕のお腹はそんなに殴りやすいのだろうか? 子供に戻ったことで、確かにすべすべつやつやではあるけどさ。まったく、普通の保護観察官ならムショへ逆戻りさせるとこだぜ……まあ普通の保護観察官はケツを触ったりしないけど。
「ふぅ……ま、とりあえず一人立ちできるまでは面倒見てあげるからさ、ゆっくりしていきなよ。週に一回の社会奉仕活動はキッチリしてもらうけどね」
「はぁ……めんどいわねぇ」
「代わりに僕へのご奉仕活動でもいいけど?」
「ハイハイ」
む……もう軽くあしらわれるようになってしまったか。やはり僕の相方は、どこまでもツッコミ続けてくれる熱斗くんしかいないようだ。ま、何はともあれ共同生活はスタートしたんだし……セックスできるできないは別にして、彩りのある生活にはなるだろう。手を伸ばせば、すぐそこにおっぱいとケツがある生活とは素晴らしいものだ。
「じゃ、これからよろしくね。まどいちゃん」
「ふん……ま、家賃代わりにちょっとぐらいのスケベは我慢してやるよ」
お、やったぜ。やはりネットバトルの腕を見せたのは正解だったようだ。動物ほど単純ではないにしろ、人間も本能には忠実だ。『どちらが強いか』は意外と重要である。言質もとれたことだし、先程から勃ちっぱなしの息子をズボンから引っ張り出してみる。
「あ、あんたねぇ…」
呆れたように肩をすくめるまどいちゃんの、その口元にチンポを近付ける。彼女は一つため息をつくと、唇を舌でチロリと舐め、肉棒を口内へ迎え入れた。ちゃぶ台へと腰をおろし、まどいちゃんがフェラしやすいように位置を調整する。
「ん──は、ぁ……じゅるっ、じゅぶっ──ん、ぐっ…! はぷ、ん、く…」
やいとちゃんにも仕込み中ではあるが、やはり幼女と比べてまどいちゃんには一日の長がある。どこで学んだかは知らないけれど、亀頭、カリ首、裏スジと、なまめかしく動く舌が非常に心地いい。前と比べて少しばかり小さくなってしまった僕の肉棒だが、根本まで咥え込まれる快感を味わえるとなると、悪いことばかりではなかったようだ。
腰に両腕を回し、喉でしごいてくれるなんて、何気に愛情を感じるぜ。柔らかい桃色の髪を優しく撫でると、なんとなく舌の動きにも力が入ったような気がする。
──そのまま十数分、静かな部屋に淫らな水音だけが響き続けた。ぴちゃぴちゃと肉棒に舌を這わし続けるまどいちゃんの表情は、完全に雌の顔へと変貌している。少しだけ乱暴に頭を掴み、無理やり前後させてみる。
まるでオナホール代わりだというのに、彼女はされるがままだ。唾液がちゃぶ台に小さな水たまりを作っているけれど、気にせず彼女の口に腰を打ち付ける。
「んぶっ、んっ、ん゛っ──けほっ、んっ──!? んぐっ、じゅぶっ……んぅっ…!」
ピストンの動きに合わせるように、唇が、舌が、負けじと絡みつく。口の端が唾液とカウパーで泡立ち、そのまま喉へつたい──彼女のシャツへ染みをつくる。これはいけないと、肉棒を咥えさせたまま、まどいちゃんを床へ横倒しにする。
あぐらをかいた僕の股ぐらに、彼女の顔を埋めさせる。とてつもない征服感を覚えつつも、距離的に届くようになったまどいちゃんの胸をはだけさせ、柔らかな感触を左手で味わった。固くなった先端を指先で転がし続けていると、舌の動きが徐々に緩慢になり──その代わりとでも言うように、彼女がもどかしそうに内股を擦り始めた。
緩めていたジーパンは既にずれ落ち、白い下着には濃い染みができていた。随分と薄い材質なのか、濡れて透けた先にはハッキリと筋が浮かんでいる。桃色の薄い陰毛と、その下にある淫靡な穴が肉棒を誘っていた。
そんな艶めかしい光景が興奮を加速させたのか、搾り取るような彼女の唇の動きに合わせて、喉奥へと精液を吐き出す。射精感を焦らしていたせいか、驚くほどの量が彼女の口内を満たし──喉の蠕動が肉棒を刺激する。
ビクリ、ビクリと何度か震えた肉棒は、ようやく吐精を止め……物欲しそうな唇と舌が、最後の一滴まで吸い尽くしたところで固さを失った。
唾液に塗れたチンポをずるりと引き抜き、頬を紅潮させて息を荒げるまどいちゃんを優しく抱きしめた。まるで褒められた犬のように嬉しそうな彼女の頬に、いやらしく舌を這わせ、へたりこんでいる彼女の下半身に、無遠慮に手を突っ込んだ。
「ひっ、んっ──んぅっ!」
まるで熟れた果実のように柔らかなそこは、指二本をすんなりと飲み込んだ。けれど、引き抜く際にはこれでもかと指を締め付けてくる。前回は時間制限もあったせいか、じっくりと味わう暇がなかったが──やはりとんでもない名器だ。
「まどいちゃん」
「は、ん…」
従順になった彼女を床に組み伏せ、下品に足を広げさせた後に、再度固くなった肉棒を膣口にあてがう。カリを数回ほど擦りつけ、切なそうにするまどいちゃんを少しだけ焦らした後──思い切り奥まで貫いた。
「い゛っ──んきゅぅぅっ!」
「あー……ほんっと名器だよ、まどいちゃん。それに感度も抜群だし……挿れただけでイクなんて、漫画の世界だけだと思ってたぜ」
「あ゛、ひっ、いぎっ──んぅっ…! あ、ま、まって、イッてるっ、か、ぁっ──」
小刻みにひくつく膣で、何度も何度もチンポをしごく。そのたびに体を反らせ、跳ねるまどいちゃん。ここまで感じてもらえると、男冥利に尽きるってもんだ。女の子の喘ぎなんてものは、基本的に演技だと思っていたけど──この世界ではどうも違うらしい。
最後に思い切り腰を打ち付け、膣奥へと精液を流し込む。もっと欲しいとでも言うように、両脚で僕の腰にしがみつくまどいちゃん。応えるようにぐいぐいと腰を押し付け、深く繋がる。数分ほどその体勢を維持し続けていると、ようやく脚の力も緩んできた。
頃合いを見計らってチンポを抜き、脱力した彼女を布団へ運ぶ。左腕を彼女の枕にして、僕も横に寝転んだ。右手で胸を揉みながら寝られる、素晴らしいポジショニングである。
「気持ちよかった? まどいちゃん」
「う……ん…」
「これからもセックスしたいよね?」
「う、ん…」
「僕がしたい時はいつでもケツを出せよ」
「う……──オラァ!!」
「痛いっ!」
くっ、ピロートークの時ならイけると思ったが──やはり一筋縄にはいかないようだ。ん? いや、ちょ、待ってまどいちゃん、そこには黄金の玉が入ってるから──い゛っ…!?
■
WWWの野望を挫いて迎えた、学期の終了……ありとあらゆる小学生が待望していた、夏休みの始まりである。ちなみに僕はと言えば、もちろん仕事に夏休みなどない。まあ個人的な裁量が大部分を占めるから、フレックスタイム制に近い感じだけどさ。
仕事の特性上、就業時とプライベートがかなりごっちゃになっているのだ。ホワイトとも言えるし、ブラックとも言えるだろう。炎山くんみたいな自分に厳しいタイプだと、超絶的なブラック具合である。
さて、大して覚えていない『ゲーム』のシナリオであるが──大筋はなんとなく覚えている。WWWに代わって『ゴスペル』だかなんだかが台頭し、世界を混乱に陥れる……みたいな感じだった筈だけど、いまだにその名は響いていない。
響いていないっていうか、聞いたこともない。WWWに変わる悪の組織を標榜していたような気がするけど、結局ウラで手を引いていたのはワイリーお爺ちゃんだった筈。となると、ゴスペルなる組織が生まれていないのは、彼が改心したってことだろう。
──と言いたいところではあるけど、そんな簡単にいくわけないよね。大した時間も経っていないというのに、WWWは既に復活し、世界を股にかけて暗躍しているのだ。推測ではあるが、ゲームにおいては『傷を癒やすため』に裏でこそこそしていたのではないかと思われる。
本来であれば爆発オチで退場していた筈のワイリーお爺ちゃん。流石に体力的にしんどかったため、裏で人を操っていたのだろう。もちろん今回はピンピンしているから、普通にWWWを名乗っている──といったところだろうか。
ただ、目的は変わっていないものと思われる。最近各地で『バグの欠片交換屋』なるものが出現しているあたり、最終的に目指すものは『人造フォルテ』……あるいは『人造電脳獣』とかじゃなかろうか。バグの欠片を大量に集め、それらを造る……とは言うけど、そもそも人の手で造られたものなんだから、最初から製作者に聞けばいいと思うんだけどな。コサックさんとか普通に連絡とれるだろ。
まあそのへんの込み入った事情は知らないから、なんとも言えないけどね。最初に作られたフォルテさんではなく、殺意の波動に目覚めたフォルテさんが欲しいのかもしれないし。なんにしても、やはりWWWのネームバリューはでかい。犯罪者のステータスみたいなところもあるから、きっと新しい構成員もガシガシ増えていくことだろう。非常に面倒だ。
「ふん、ふん、ふん…」
「鼻歌をやめろ。今は任務中だ」
「いやいや、任務中だからこそっすよ。キャンプ客を装って、怪しまれずに調査するんでしょう? そんな仏頂面してたら逆に怪しまれるっす」
「む…」
「お、あっちにお弁当売ってますよ。キャンプ場で食べましょう」
さて、夏休み真っ盛りの今、炎山くんと奥デン谷へ来ているのは──もちろん遊びではない。つい先日、日課の掲示板巡りをしていたところ、このキャンプ場にあるダムを破壊するという犯行予告が書き込まれたのだ。
前の世界だと一発逮捕だが、なぜかそのへんは緩いのがこの世界だ。どうやらWWWとは特に関係ないみたいだけど、どっちにしてもここのダムが決壊すると、下流にある街が結構な被害を受ける。それを僕たちが止めに来たって訳だ。ちなみに炎山くんは爆発物処理もできるらしい。ほんとに小学生? もしや僕みたいに人生やり直してるんじゃなかろうか。
まあそれはともかく、あからさまに『オフィシャルでござい』って感じだと犯人も警戒するかもしれないから、小学生二人でキャンプを楽しみにきたって設定だ。秋原町はそこまで都会じゃないけど、それでも自然は少ない。こんな自然いっぱいのキャンプ場は、見ているだけで心が洗われちゃうぜ。
心が洗われるついでに、お弁当を売ってる娘が可愛いので声をかけてみよう。自然食が売りのお弁当らしいが……自然じゃない食品ってなんなんだろう。まあ深く突っ込むのも野暮だし、彩り豊かで美味しそうなお弁当を前にすれば些末なことだ。すいませーん、二つくださいなっと。
「ありがとうございます。お二つですね」
「おねえさん可愛いね。どこで修行したの?」
「それはどうも──って、しゅ、修行?」
「いや、額当てつけてるから。甲賀忍者とかそっちの方ですか?」
「ち、違います!」
「え? じゃあなぜそんなものを…」
「…こ、これはその……私のナビであるウッドマンをモチーフにした……その…」
独特なファッションという自覚はあるのか、うつむいて頬を染める緑髪の売り子ちゃん。というか可愛い緑髪って貴重だよね。某コードギアスのヒロインさんくらいのものだろう。しかしウッドマンのオペレーターということは……えーっと……ニャロメさん、だったかな。ゲームにも出ていたような気はするが、あんまり覚えていない。むしろオフィシャルの資料に乗っていた印象の方が強いな。
「ところでニャロメちゃん」
「サロマです!」
「そう、僕もそれが言いたかったんだよ。たしか君って、割と規模の大きい『自然保護団体』の代表さんだったよね? もしかしてメンバーさんも他に来てたりする?」
「いえ、今日は私一人ですが…」
「んー……そっか。お弁当は何時くらいから販売を?」
「昼前からです。現地調達しようと、何も持ってきていない方もいらっしゃるので、そういった人向けに……あの、それがどうかしたんですか?」
「ああ、自己紹介が遅れました。オフィシャルネットバトラーの光宙と──」
「伊集院炎山だ」
「実は少し物騒な犯行予告があってさ……ずっとこの入り口付近で販売してたんなら、怪しい人とか見かけなかった?」
「あ、この前テレビに出てた……うーん……特に怪しい人はいなかったように思いますけど」
「そっかぁ。じゃあ彼氏はいるの?」
「いえ、いませんが……えっ?」
「よかったら連絡先交か──ぐふぅっ!」
「さっさと行くぞ」
「う、うっす…」
最近、炎山くんの遠慮がなくなってきたように思う。いい傾向だけど、腹筋が鍛えられるペースより細胞が死滅するペースの方が速いんじゃないかと戦々恐々である。泣く泣くサロマちゃんと離れて任務に当たる──といったところで、なにやら引き止められた。
「あの、少し物騒なことって…?」
「あー……内密にしてほしいんだけど、なんか『ダムを破壊する』なんて犯行予告があってさ。みすみす成功させるつもりはないけど、不安なら避難しといた方がいいぜ」
「…! なんてことを…! …でしたら、私にもお手伝いさせてもらえませんか? 自然を破壊しようとする行為は見過ごせません」
「え? んー……炎山先輩?」
「自然保護団体の代表『サロマ』……確かネットエージェントの一人だったか。いいだろう、同行を許可する」
「ありがとうございます!」
「めっちゃ偉そう…」
というかお弁当ほっぽって大丈夫? え? 自動引き落とし状態で置いておく? うーん……田舎によくある無人販売所みたいなもんか。優しい世界ならではの無茶っぷりだが、少なくともこの辺じゃ問題ないらしい……外国へ行くと多少は犯罪率も上がるみたいだけどね。
「サロマちゃん、先に言っとくけど──あんまり怪しい行動は取らないようにね。あくまで僕らは三人でピクニックにきた子供たち……って体で頼むよ」
「ええ、わかりました」
「一応、設定も詰めとこっか。君は木の葉の里の抜け忍『サロマ』。忍びとしての生き方に疑問を持った君は里を抜け、この奥デン谷へと足を踏み入れ──」
「忍者から離れてもらえませんか!?」
「だって服装も忍者っぽいし…」
「こ、これは天然素材だけで作られた──全て土へと還る自然に優しい服なんです」
またもや頬を染めてうつむくサロマちゃん。可愛い。なんで炎山くんはまったく興味なさげなのだろうか。ホモなの? 健全な男子であれば、すぐさまルパンダイブで飛び込むレベルの可愛さなのに。
さて──無人販売所の準備も終え、いよいよキャンプ場へと足を踏み入れようとしたその時、すぐ近くにバスが停車した。あれに犯人が乗っていないとも限らないし、一応下車する人間を確認しよう。ファミリー、カップル、ファミリー、ぼっち、熱斗くん、デカオくん、やいとちゃん、メイルちゃん……ん? ちょっと待て。なぜ彼らがここにいるんだ。え? 僕誘われてないよ? ハブられたの?
「熱斗…」
「あれ、宙? なんでここに──」
「そっか……友達だと思ってたのは僕だけだったんだ。みんなでキャンプに行くってのに、まさか誘われもしないなんて──こんなに酷い裏切りはないよ」
「予定聞いたら断ったのお前だろ!?」
「あれ? そうだっけ」
「『悪いけど炎山先輩とピクニック行くから。羨ましい? 羨ましい?』とか言ってただろーが!」
「ああ、そういえば……だから対抗してキャンプを? なんて大人げないんだ熱斗…」
「お前が言う!?」
みんなでワチャワチャしていると、炎山くんがスタスタと先を歩き始めた。うーん、まったく無愛想なお人だぜ。仕方なしに、サロマちゃんを引っ張ってついていく。何やら熱斗くんと面識があったようで、ちょっと楽しそうにしていたが──メイルちゃんの
「ちょ、一緒に行かないのか?」
「あはは、ピクニックってのは冗談だしね。ほんとは仕事さ」
「こんなとこに…?」
「うん。もしかしたらダムが破壊されるかもしれないから、気をつけてね」
「どうやって!?」
「大丈夫、死ぬ時はみんな一緒さ」
「こえーよ! ちょ、ちょちょ……俺も手伝うって!」
「いやいや、そりゃ悪いって。気にせず楽しんでおいでよ」
「この状況で楽しめるやついる!?」
うむ……ロシアンルーレット並にスリリングなキャンプになるだろう。なんせバーベキュー設備は川べりにあるし、いつ川が氾濫するかドキドキの野外料理である。これでまだ楽しめるというなら、もはや強メンタルを通り越してサイコパスだ。
「そういう事情なら仕方ねえ! このデカオ様が力を貸してやるよ!」
「ね、熱斗が手伝うんなら……私も!」
「せっかく遊びにきたってのに、迷惑な爆弾魔もいたもんねぇ……このやいとちゃんが懲らしめてあげるわ!」
「──ということになりましたんで。炎山先輩」
「…」
「足手まといとか言っちゃダメっすよ? 明らかにメリットの方が大きいですし」
子どもたちがダム施設で隠れんぼをしている──なんて、カモフラージュには最適だろう。そもそも人手が圧倒的に足りていないのだから、猫の手だろうが小学生の手だろうが借りたい状況だ。クソ広いダムとキャンプ場に派遣されたのが、僕たち二人だけってのがまずおかしいし。
加えて、彼らは熱斗くんを抜きにしても、ちょっと小学生としておかしい集団だしね。末はウラランカーなガキ大将に、『ロールは戦闘タイプのナビじゃない』とか言いながら全日本準優勝しちゃう系女の子や、ガチで飛び級とかやっちゃう天才幼女とか。そのへんの大人より、よほど頼りになること請け合いである。
「三組くらいにわけた方がいいかな? 僕と炎山先輩と熱斗はわけるとして……じゃあ、やいとちゃんとサロマちゃんとメイルちゃんは僕と一緒に──」
「おぉい!?」
「──おっと。熱斗はメイルちゃんと一緒に行きたいよねー。こりゃ失礼」
「ぐっ…! わ、わざと誘導したな…!」
「僕はやいとちゃんと一緒に行くから、デカオとサロマちゃんは炎山先輩の方へお願いできる?」
「おう!」
「ええ、わかりました」
「最優先は爆発物の発見、次に犯人の確保。爆弾は見つけ次第、炎山先輩に連絡をお願いします。犯人を特定できたとしても、炎山先輩チームは引き続き爆弾の捜索を。連絡はこまめに頼むぜ」
「了解! …なんか宙の方が先輩みたいだな」
「炎山先輩は無駄口が嫌いで、僕はお喋りが好きなのさ。適材適所ってやつだよ……じゃ、作戦開始といこうか」
どこに爆弾を設置すれば効率よくダムを破壊できるか──ある程度の見当はついている。炎山くんチームにはその辺りを重点的に捜索してもらい、僕や熱斗はそれ以外の可能性を考慮して他を当たる。犯人に関しては……もしここに来ているとするならば、ダム施設かそれより上にいる可能性が高いと思われる。まさか自分まで水に沈みたいわけでもあるまいし、妥当な推測だろう。まあ現地にきてない可能性の方が高そうだけど。
──ま、気楽にいくとしよう。図らずもやいとちゃんとデートという形になったことだし、嬉しい限りだ。ラブロマンスには、大爆発を伴う一大スペクタクルが付き物である。劇場版ばりの壮大なドラマを期待しよう。もうドキドキで心臓が飛び出ちゃうくらいのやつをね。
「じゃ、僕らも出発しよっか」
「ええ。ところでちょっと聞きたいことがあるんだケド」
「なんだい?」
「最近あなたの家に女が転がり込んで来たそうね」
…うん。心臓がドキドキして、飛び出しそうだ。
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6話
やいとちゃんのどこが魅力的なのか、全てを語り尽くすには結構な時間が必要である。それでも言葉を少なくして表すなら、やはりオデコとジト目と性格だろうか。前の世界、今の世界を問わず、そこそこの数の女性と性交渉を重ねてきた僕だが──実のところ、本格的なお付き合いというのは初めてなのだ。つまりやいとちゃんは、そのくらい魅力的な女性と言えるだろう。
探るような目つきがそのジト目を更にキュートにしているが……心臓に悪いのも確かである。心臓に毛が生えてるだの、アイアンハートだのとはよく言われるが、今ばかりはそれが過大評価だと思わざるを得ない。
「あー……ごめんねやいとちゃん。いい気しないだろうと思って、言ってなかったんだ」
「ええ、いい気はしないわね。それで? その女は、どこのどちら様なのかしら」
「元WWWの幹部の娘でさ。逮捕する時に『多少の便宜は図る』って約束してたから……彼女の保護観察官として、生活の面倒をね」
「ふーん…」
「…」
「…」
「…」
「手は出してないのね?」
「出しました──がふぅっ!」
「節操のない下半身には、お仕置きが必要よね…?」
「ま、待ってくれ、やいとちゃん」
「言い訳かしら? 私は優しいから最後まで聞いてあげるわよ」
「そう、言い訳だ。僕がなぜ、やいとちゃんという恋人がいながら他の女性にも手を出すのか──それは君のためなんだ痛いっ! 最後まで聞くって言ったじゃないか!」
「聞く価値が無さそうだもの」
まどいちゃんに金玉を潰されかけたダメージが残っているというのに、これ以上はまずい。しかし嘘をつくのは悪手である……大事な部分を嘘で塗り固めてしまえば、生きるのが非常に面倒になる。嘘をついて幸せになれるのならば存分につくが、どうにも“嘘”というものは、不幸なツケが廻ってきやすい性質がある。誠実に生きる気はないが、真摯に生きねば幸せというものは手に入らないのだ。
「僕が他の女性に手を出すことが、なぜやいとちゃんのためになるのか……それを説明するには、まず僕の一日を知ってもらう必要がある」
「…続けなさいな」
節操なしの自覚はあるが、いくらなんでも“ここまで”ではなかった──それは僕自身も思うところだ。ゲームの世界にきたからとはいえ、目の前がドットや萌え絵になるわけでもなし。人々の性質や頑丈さは多少なりと変化があるものの、人間関係の構築にあたって、僕のやり方に変化はない。
ならばなぜこんなに性欲旺盛なのか。それは先程の説明と矛盾するが……ここがゲームの世界だからだろう。正しく言うならば『創作の世界』に準拠した世界だから──と表すべきか。
創作の世界とはリアルの世界を基準にして作られるが、全てをそのままにしてしまえばつまらないことこの上ないだろう。小さな段差にすら躓いて死んでしまうスペランカー先生を例にしてみればわかりやすいが、リアルで段差に躓いて死ぬ人は、意外といるものだ。しかしそんなものを忠実に再現すれば、爽快感など得られる筈もない。
創作とはリアルを過大に表現することから始まるのだ。そしてこの世界は、創作の世界のように奇妙な法則が多い。もうわかるだろう? この世界は──種付けおじさんや絶輪おじさんが成り立つ世界なのだ。
性欲の無限っぷりもさることながら、精液の生成量や生成速度も尋常ではない。いや、もしかすると逆かもしれないな。男の性欲とは、金玉に溜まる精液の量と無関係ではないのだ。精液が尽きてこそ賢者タイムが始まるというのに、すぐさま遊び人に戻ってしまうこの苦しさよ。性欲の高まった男と書いて、馬鹿と読む。それくらいに制御の難しいものなのだ。
権威ある職に就いている人間が、一時の性欲で人生を棒に振ってしまう──それが性欲を制御できなかった者の末路だ。わかっちゃいるけどやめられない、かっぱえびせんよりも遥かに中毒性のある……ともすればハッピーターンの粉くらいに病みつきになるのが、スケベ魂というものだ。
つまり元々性欲の強かった僕は、この世界の法則と合わさって性欲モンスターになってしまったのだ。定期的に抜いとかないと、なにかやらかしそうで怖いというのもある。自分の理性とは、意外と信用できないというのが僕の持論だ。
「まず朝、六時半頃に起床します」
「健康的ね」
「朝勃ちを鎮めるために、一発抜きます」
「えぇ…」
「その後に熱いシャワーを浴びて、朝食をとります」
「あら、ちゃんと朝は食べてるのね。いいことよ」
「お腹が膨れたら、ムラムラ気分を抑えるために一発抜きます」
「えぇ…」
「次は登校だね。まずはやいとちゃんを迎えに行って、ついでにお口で抜いてもらいます」
「そうね。三回目だとは夢にも思ってなかったけど」
「そのまま仲良く登校して……始業前に、まりこ先生にお口で抜いてもらいます──ゲフゥっ!」
「続けて」
「ひ、昼休みも偶にやいとちゃんに抜いてもらいます」
「そうね。五回目だとは想像もしてなかったケド」
「放課後はみんなと遊んだりなんやかんやで──最後にやいとちゃんの家でおセックスを致します」
「そこで五回は出すわよね? 腎虚になっても知らないわよ」
「帰路について、家の玄関をくぐると……一発抜きます」
「えぇ…」
「後は食前、食後、シャワー前とそれぞれ抜きます──これでわかっただろ?」
「あなたが猿の生まれ変わりってことが?」
「『やいとちゃんのため』っていう言葉の意味が、だよ。この溢れ出る性欲を全部やいとちゃんに任せちゃうと、君が保たないだろ?」
そう、これはまったくもって事実である。一日に十何発も受け止めてくれる女性がいるものだろうかという話だ。ましてや、やいとちゃんは幼女であり、そしてその年代の平均よりも小さい体を持つ女の子だ。ヤりすぎて嫌われるよりは、適度に浮気してガス抜きしといた方がいいだろうという判断だったのだが──彼女の情報力を舐めていたようだ。
そういった事情を隠すことなく告げると、やいとちゃんからお叱りを頂いた。いわく、このやいとちゃんを舐めないでよね、とのことだ。僕の性欲を受け止めることくらい、お茶の子さいさいと仰っておられる。ホントだろうか? それなら僕の方も、他の女の子に手を出す理由は薄くなる。有り難い限りではあるが──それならと、今夜あたりに証明してもらうという結論に至った。
とにかく、三くだり半を突きつけられるのは回避できたようで何よりだ。ご機嫌取りにスキンシップを密にして歩いていると、炎山くんから連絡が入った。なにやらダム施設に爆弾らしきものを取り付けている男に出くわし、炎山くんはその解除にあたっているらしい。
デカオくんとサロマちゃんが犯人を追っているとのことで、僕たちと熱斗くんたちで先回りをしろとのお達しだ。予想ルートがマッピングされて送られてきたが、今から出発するとなると……これ、ちょうどキャンプ場の川辺付近になるね。炎山くんが解除に失敗すれば、鉄砲水直撃コースである。なんてひどいお人なんだ、炎山くん。
「熱斗!」
「宙! あっちだ!」
向こう岸の方から、子供二人に追われる情けない男性が走ってきている。帽子にメガネ、リュックサックという、ステレオタイプのオタクちっくな格好だ。フィジカル的には、明らかにデカオくんより弱そうである。というかデカオくんって、自分の半分近くある岩とか放り投げる系男子だからな。その気になれば体当たりで人を殺せそうな気がする。
「熱斗、君は前へ! 僕は後ろから援護する!」
「オフィシャルとしてどうなの!?」
「やいとちゃんとメイルちゃんは投石の準備を! できるだけ尖ってるやつ拾っといてくれ!」
「作戦がエグい!」
「人間が生存競争を勝ち抜けたのは、物を投げられたからって聞いたことない? ちょうど飛び石で川を渡ってきてるし……狙いうちもアリかも」
「ナシだって!」
ちっ、そうこうしている間に川を渡り終えそうだ。しかしここはキャンプ場である──周囲には大人がチラホラといるし、なぜか『デンサンニュースネットワーク』……通称DNNの、リポーターやカメラマンがきている。ぜひとも利用させてもらおう。空気を胸いっぱいに吸い込んでー…
「あぁーー! そこにいる男の子は! 巷で話題の! “告白王子”だぁーー!!」
「ちょっ、おまっ…!」
「え、なになに? スクープ!?」
「ケロさん、あの子…! WWWを追い詰めた三人の子供の一人ですよ!」
「あ! 『桜井メイルを愛してる男の子』!」
WWWとの対決が生で放送されたのだから、話題にならない筈もない。そして誰が最も目立ったかなど、言うまでもないだろう。熱斗くんは今や時の人扱い……愛の伝道師やら告白王子やら、好き勝手ネタにされている。本人は否定しているが、既に世界公認のカップルのようなものだ。外堀から先に埋まってて、ちょっと笑える。
僕の叫びと、人気リポーターである『緑川ケロ』さんの興味が衆目を集め、川べりには人垣という名の囲いが出来上がった。熱斗くんの尊厳以外は、完璧な作戦といえるだろう。
「失礼、オフィシャルです。緑川ケロさん、少しご協力をお願いできますか?」
「あ! 君も確か──」
「あっちから来ているのは、ダム爆破を企んでいるテロリストです。人垣を維持して、逃さないようにしてほしい」
「へっ? ダ、ダム爆破って…」
「熱斗が彼を食い止めるとどうなるかな? 『またもやお手柄! 噂の小学生が今度はダム爆破を阻止!』なんて……これだけキャッチーな場面を独占したら、社長賞もありえるぜ」
「──まっかせて! サブちゃん、カメラ回してー……本番入りまーす!」
「くっ──どけぇ!」
ケロさん目怖っ。俗に言うレイプ目というやつだが、この状態が基本のようだ。仮にセックス中がマグロだとすれば、完全にレイプシーンになること間違いなしだろう。
…まあそれはともかく、僕の華麗な作戦によって犯人の足止めに成功した。サロマちゃんたちも追いついてきて、完璧に挟撃が成った形だ。
「やい! どうしてこんなことするんだ!」
「…くっ、お前は──告白王子か…!」
「…! 死にてえ…」
「気持ちはわかるけど、強く生きるんだ熱斗!」
「誰のせいだと思ってんの!?」
「僕のせいだって言うのか!」
「その通りだよ!」
「まあまあ、今はそんなこと蒸し返してる場合じゃないって」
「くっ…!」
犯人を無視して熱斗くんと話していると、今度はサロマちゃんが口を開いた。彼女は自然も人も愛する優しい少女だ。そのどちらもが大きな被害を受けるであろう、ダムの爆破など認めるわけがない。それでも糾弾ではなく、理由を優しく尋ねるあたりが人間性を表している。
「あなたは、なぜこんなことをするんですか? 奥デンダムが決壊すれば、山も人もたくさんの被害が出ます──それをわかってやっているんですか!」
「ああ、もちろんだとも! …ここも昔は、穏やかな自然が流れる素晴らしい山だった……それが今じゃどうだ! キャンプ場のために木は切り倒されて、道は舗装され──動物は追いやられた。人が押し寄せれば、そこら中ゴミだらけさ! 僕が拾っても拾っても、無くなりゃしない」
「それは…」
「だから僕が思い知らせてやるんだ! 自然を蔑ろにした報いを!」
…割と重い感じで困っちゃうぜ。こういう人への説得は、僕にはあまり向いていない。チャランポランを具現化したような僕では、他人の悲しみを本気で共感しにくいのだ。可哀そうだとは思うけど、同時に『そこまで思い詰めなくとも』とか思っちゃうタイプだし。というわけで熱斗くんに任せよう。
「…それなら他にもっとやりようがあるんじゃないの?」
「僕は充分にやったさ! ゴミは持って帰るように呼びかけもした、看板も立てた……でも大した効果は出なかった。みんな自分が楽しければそれでいいのさ」
「だからって、ぜんぶ壊そうとするなんて間違ってる! みんながみんな自然を踏みにじってなんかないだろ!」
「そうそう、熱斗の言うとおりさ。仮に君の計画が成功したら……きっとこの場で誰よりも自然を大切にしてる、そこの女の子も死んじゃうよね。彼女はキャンプ場の入り口でお弁当を売りながら、お客さんに伝えてたよ。君が主張してたようなことを」
「…っ!」
「地道な活動もしつつ、正式な手順も踏んで団体活動もしてる。彼女の『自然を守ろう』って気持ちが本物だから、こんなに小さな女の子に千五百人もの人が従ってるんじゃないかな」
「あ、あの、従ってるというわけでは…」
「リーダーなのは確かだろ? ──君のおかげで守られた自然は少なくない。それに対してあなたはどうなんですか? ダムが決壊すれば、木々も野生動物も流される。それで自然が大切なんて、ヘソで茶が沸くぜ」
「ぐっ…!」
「だいたい服装からしてもう差がついてるじゃないか。サロマちゃんの服は全て自然素材! あんなファッションしか選べなくても我慢してる!」
「あんな!?」
「…あなたの服の素材は? ──はっきりと! 口に出してみろよ!」
「…! ナ、ナイロンだ……くそっ、僕が間違っていたのか…」
ガクリと項垂れる犯人さん。決め手はサロマちゃんのファッションだったが、意外と僕の説得も有効打を与えたんじゃなかろうか。もう手錠は必要なさそうだし、事件解決ってことでいいだろう。炎山くんも爆弾を解除し終わったようで、これで全員集合大団円だ。
「…罪を償い終わったら、私たちと一緒に活動しませんか? 方向が間違っていただけで、自然を愛する気持ちは一緒だと思うんです」
「…ありがとう。その時は僕も……我慢して君と同じ服を着るよ…!」
「やっぱり一人で頑張ってください」
「えっ!?」
…うん、まあ大団円だろう。未遂で終わったし、彼も反省しているようだし、たぶんすぐに出てこれる筈だ。戦いにならないのなら、それが一番である。犯人──速見ダイスケさんというらしい──を連れていくためにインタビューは断り、後は熱斗くんに任せておいた。きっと明日の朝刊も賑わうことだろう。
──まあ明日の朝より、今日の夜のほうが断然楽しみだけどね。取り調べはさっさと終わらせて、やいとちゃんのお家へ向かうとしよう。
■
──小さい体がビクリと痙攣する。少し前に処女を喪失してからこっち、随分と熟れてきた幼い膣だけど……まだまだキツキツだ。今まであまり無茶はしてこなかったけれど、今回ばかりはやいとちゃんからオッケーを貰っているため、好き勝手させてもらっている。
「ふー……抜かずの五発でも固いままだよ。愛のなせるわざかな?」
「ひぎっ…! あ、っ、ぅぐ──ん゛んっ…!」
色んな体勢で繋がったまま、もう何回抜き挿しを繰り返しただろうか。接合部の回りは肌が赤くなっていて、白い肌との対比で実に淫靡だ。愛液と精液でぐちょぐちょになったオマンコを、それでも出し足りないとばかりに突き上げる。
ほとんど膨らんでいない胸も、そのポッチだけはしっかり固くなっている。時折、歯で甘噛みをすると良い声で鳴いてくれるやいとちゃん。そんな彼女の嬌声を聞くだけで、締め付けられているチンポが固さを増していく。
膣の感覚が鋭敏になっているのか、その些細な違いを感じ取って、彼女もまた体を震わせるのだ。きゅんきゅんと小刻みに締め付ける感触に耐えきれず、もう何度目かも忘れた射精を、彼女の中にぶちまける。
初潮もまだ来ていない幼膣だというのに、貪欲に精液を飲み干す彼女の子宮。意識が飛びかけているのか、だらしなく垂れる舌を僕の口内に迎え入れる。どこもかしこも繋がっていて、まるで一つの生物にでもなったかのようだ。
緩いストロークでチンポを刺激し続けていると、次第に固さが戻ってくる。一度チンポを抜くと、幼い穴から精液が噴き出してきた。ガクガクと腰を震わすやいとちゃんをベッドに組み伏せ、今度は後ろの穴にチンポをあてがった。
オマンコより先にこちらの処女をいただいたため、チンポの扱い方はアナルの方が先輩だ。膣とは違った感触が、落ち着いてきた性欲を再び加速させる。一突きする度に前の穴から精液が溢れる様は、実に卑猥だ。
「…っ…! ぅ、っ──っ、い゛っ…」
ほとんど声を出さなくなったやいとちゃんを持ち上げ、立ちバックで射精をキメる。手も足も床にはついておらず、脱力した四肢が空中でぶらりと垂れ下がったままだ。まるで壊れた人形を相手にしているようだが、これはこれで興奮するね。
都合三度アナルへ吐精した後、ようやく一息ついた。我慢しなくていいと言われれば、これほど性欲が滾るとは──やいとちゃんの魅力は天元突破しっぱなしだ。てらてらと輝いている柔らかくなったチンポを、彼女のオデコに擦り続けていると……すぐにまた勃起してきた。自分でもちょっと恐怖するレベルである。
「んぶっ、じゅるっ、んむ──ん、ふぅ…!」
僕の股ぐらに顔を突っ込みながら、丁寧にご奉仕してくれるやいとちゃん。この体の小ささだと、フェラされながらでも彼女の穴に手が届く。右手で優しく頭を撫でながら、手持ち無沙汰になった左手でアナルをかきまわしてみた。
「んぐっ!? ふ、ん……っ……あ、ぅ…」
トロトロのアナルを指で堪能していると、口の刺激だけでは我慢できなくなってきた。名残惜しいが、小さな唇からチンポを引き抜く。唾液まみれのチンポをまたもや膣にあてがい、そのまま奥まで貫いた。
さっきは抜かずの六連発だったから、今度は更に上を目指してみようかな? やいとちゃんは完全に白目を剥いてしまったが、トコトン付き合ってくれるとの確約はいただいているのだ。意識のない幼女を犯すというのも、それはそれでオツなものである。
射精して、また犯す。射精して、また犯す。最後は意地になっていた気もするが──やいとちゃんへの抜かず十連発、達成だ。ぽっこりと膨らんだお腹がそれを証明しており、まるで幼い妊婦のようだ。
「っ……あ──お、終わっひゃ…?」
「うん、ありがとやいとちゃん。付き合わせちゃってごめんね」
「うう、ん…」
息も絶え絶えといった風に答えるやいとちゃん。それでも僕に寄りかかってくる姿は、とても可愛らしい。抱きしめながらキスをして、優しく頭を撫でる。彼女の全身で、僕が触れていない場所はもうないだろう。
「出前でもとろっか?」
「ん……いいんじゃない……かしら…」
「よっし、じゃあ食べ終わったら二回戦だね。一回お風呂入っちゃう?」
「え…?」
今日は一晩中セックスしていいって言われてるしね。次はアナル十連発でも目指してみようかな? ほんとに、僕には勿体ないくらいに献身的な恋人だ──
「さ…」
「ん?」
「三人までなら……許してあげる…」
「やいとちゃん? …あ、気絶しちゃった」
──愛人を認める宣言をして、パタリと倒れたやいとちゃん。うーむ、やはり幼い体には厳しかったか。まあお許しも得たことだし、足りない分はまどいちゃんにでも抜いてもらうか。小さなお尻を撫でながら、ピザ屋に電話する──そんな一晩のことであった。
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7話
夏休みとは青春そのものである。人によって体験する数に違いはあるだろうけど、小学生の夏休みはほぼ全ての日本人に訪れるものだ。そしてその大半が、この大型の連休を喜ばしいものだと考えるだろう。
しかし僕はと言うと──いま、激しい後悔と共にテレビを見ていた。画面にはクリームランドの政治式典が映っているのだが、そんな大人数の中でもひときわ目を引く美しい女性……『プリンセス・プライド』がにこやかに手を振っている。
そう、プライド王女だ。エグゼにおいても人気が高く、モノホンのお姫様かつロイヤルな穴を持つ美女である。敵になったり仲間になったりと忙しない彼女だが、その容姿の美しさは留まるところを知らない。やいとちゃんが『可愛い』とするならば、彼女は『美しい』といった感じだ。
普通ならお近付きになることすら難しいだろうが、とある事件に際して接点を作ることができる──それどころか、やりようによってはエロいことも出来なくはないと踏んでいた。しかし……しかしだ。
この世界では『ゴスペル』が存在しない。WWWも活動はしているが、現状で彼等が重点を置いているのは『勢力の拡大』のようだ。平行してバグの欠片やらなんやらを集めてはいるが、民間への被害はほとんど出ていない。そもそも、バグの欠片の収集は別に違法行為ではないのだ。むしろなんの役にもたたないジャンクデータを、貴重なアイテムと交換してくれる素晴らしいシステムである。
ま、現状じゃ中々手に入らないんだけどね。後々には溢れかえるほどバグの欠片が出現するのは、おそらく『ナビカスタマイザー』の出現によるものだろう。簡易型とはいえ、個人単位でプログラムを弄れるアプリケーションだ。バグが出現する頻度も、それまでとは桁違いとなるだろう。
話がそれたが、重要なことはそう──プライド王女が犯罪に加担していないという現状である。本来であればゴスペルに与した王女が色々とやらかす筈だったのに、これではなんの接点もできやしない。
ついでに言うと、アジーナエリアの襲撃も行われていなければ、日本のマザーコンピューターも問題ナッシングだ。それが何を意味するかと言うならば、世界各地の優秀なオフィシャルが集まる『ゴスペル対策会議』が開催されないという事実である。
タダで海外旅行に行けるプランも、『あのことを知られたくないなら……わかるよね? プライド王女』プランも、海外のダイナミックなおセックスを満喫するプランも、全てがご破算になった。許すまじワイリーお爺ちゃん。もっと暗躍してよね。
しかもやいとちゃんは家族で世界一周旅行に行っちゃったから、気軽にセックスもできない。まどいちゃんはというと、本格的にブティックを立ち上げる用意をし始めた。手伝いたいのは山々なのだが、彼女の近くにいるとどうしてもお触りやらその続きをしたくなるため、涙をのんで応援だけに留めている。
夢に向かって準備をしている人相手に、くだらない茶々をいれるのは迷惑だ。ぶっちゃけると金銭的には邪魔をしたいのだが、約束は約束である。手痛い失敗をして人間は成長していくのだ……そのために僕の数千万ゼニーが消えるのは悲しいけどさ。
──とまあ、そういう訳でまどいちゃんとのセックスもそう気軽には行えない。まりこ先生は、妹のゆりこさんのお手伝い……WWW団員として害を与えた人たちへの、
つまり、僕の性欲に付き合ってくれる人がいないのだ。もう、なんというか……ムラムラっぷりが酷い。下手をすれば男のケツにすら欲情しかねない危うさが、今の僕にはある。熱斗くんのお誘いも今はお断り状態だ。
熱斗くんと遊ぶとすれば、高確率でメイルちゃんもセットだろう。寝取るつもりは毛頭ないし、寝取れる気もまずしないが、しかし手が勝手にセクハラをしかねないこのセク禁状態。二人を性の目覚めに誘導して──三人プレイなんかしちゃいそうな危険がある。
一度変わってしまった関係は、もう元には戻らないのだ。僕自身の自制がまったく信用できない以上、危うきには近寄らずがベストである。まあ危ないのは僕なんだけど。
「うーん……良いオカズも見つからないし、どうしたもんか…」
『外で新しい出会いでも探したら?』
「そうは言うけどさ、外でついお触りなんかしちゃったらまずいことになるぜ。僕もそこそこ有名になってきちゃったし」
『ヤバイ時は僕がアラームでも鳴らすさ。宙と違って物理的には溜まらないしね』
「マインがそう言うなら……そうだね、気分転換に出てみよっか」
最近、僕とマインの差異も多少は出てくるようになった。自然と呼び方も『僕』と『僕』ではなく、『宙』と『マイン』になり、それぞれの自己が確立されてきたのだ。パーフェクトフルシンクロは相変わらずだが、まあ良い傾向だとは思う。いきなり弱くなるのも、それはそれで困るしね。
「あーあ……『出会って五秒で即合体』シリーズが現実にもあればいいのにな…」
『それただのレイプじゃない?』
「確かに」
『ま、僕は実際にできるけどね』
「くっ…! なんて羨ましいんだ電脳世界…!」
『でも所詮プログラムなんだよね…』
「あー……女の子型のナビって少ないし、難易度も高いし難しいところだよ」
『そこでセレナード様ですよ。電車一本よかよか村、旅館は温泉シークレットエリア、褐色ロリータゲットだぜ!』
「一番キツいお人だよ…」
『きっと締まりもキツいさ』
「というかセレナード様って女の子なの?」
『性別無しとかいう謎の存在だったような…』
「行く意味ある?」
『性別がないのなら、むしろ捗る可能性。『僕が女にしてやるよ…!』的な意味で』
「アリだね」
『うん、アリだ』
「まあ下の穴がなかったとしても、お口でしてもらえばいいわけだし」
『神聖な存在のフェラとかすごい興奮するよね』
今すぐには無理だけど、準備はしておこう。セレナード様という存在の強さもさることながら、そもそも彼女と出会うまでの障害の多さが半端じゃない。しかし性生活という点においては僕の方が充実している関係上、マインの頼みはできる限り聞いてあげなきゃ申し訳ない。
「んー……電気街でも行ってみるかな」
『結構チップも増えてきたもんね』
「仕様がコロコロ変わるのやめてほしいよね、まったく」
『ま、今が新ネットワークシステムの
「それもそっか」
ちゃちゃっと電車に乗り、電気街へと向かう。電気街と言えばメイドさんを思い浮かべるが、残念ながらここでは、駅前でビラ配りをするミニスカメイドはいない。まあ案内された先が残念スポットだったという詐欺もないわけだから、痛し痒しといったところだろう。
「さてさて、とりあえず腹ごしらえでもするかな」
『近場で評判の良いお店は……と。ほい、マッピングしといたぜ』
「サンキュ。可愛い店員がいる店は?」
『もちろんピックアップ済みさ』
「ひゅー!」
『うぇーい!』
「ふむふむ……ツインテールの可愛い店員とな……よし、あそこのパスタ屋にしよう」
『ついでに下半身のミートをペペロンチーノしてもらおうって魂胆かい?』
「プログラムくーん。マインの座布団、全部もっていっちゃってー」
『そんな殺生な!』
「アホなこと言ってないでさっさと入ろうぜ。電脳世界と違って、こっちはクソ暑いんだからさ」
『気候制御してる癖に、なんで気温は昔に準拠させてるんだろうね』
「侘び寂びってやつじゃないかな──どぁっ!?」
『宙!?』
自動ドアが開いた途端、店内から水が溢れ出してきた。なんだなんだ、足湯サービスでもやってるのか畜生。ズボンの裾から下がガッツリ濡れてしまった。靴の中がグジュグジュして気持ち悪い……いったい何事かと店内の様子を見てみると、およそ水が流れている全ての機器から、噴水のように水が吹き出していた。
「あわわ…! どうしよう、どうしよう…! せっかく決まった新しいバイトなのに、クビになっちゃう…! ああ、やっぱりわたしは不幸の星の元に生まれたのね…」
「項垂れるのは勝手だけどね、さっさとどうにかしてくれ! クビは当然だけど、損害賠償もしてもらわないと困るよ!」
「はぁぅっ! そ、そんな…」
「あー……大丈夫ですか? 手伝えることがあるなら、手伝いますけど」
「ん? …ああ、気持ちだけ受け取っておくよ。流石に子供に任せられるような──あれ? 君、どこかで見たような…」
「オフィシャルの光です。何があったんですか?」
「ああ、この前テレビに出てた子か! それなら是非お願いできるかい? この娘のナビが暴走しちゃって、店の中もホームページも水浸しになったんだよ。『ウイルスバスティングなら任せてください!』なんて言うからやってもらったら、これだもんな……営業再開はいつになるか……はぁ…」
「うぅぅ…!」
──あ、誰かと思えば『しゅーねーちゃん』か。本名は……『城戸舟子』だったかな? ニャロメちゃんもみゆきちゃんもそうだったけど、ゲームのキャラって意味ではあんまり記憶にないんだよね。
でもこの娘のことは割と覚えてる。なんせロックマンDASHの方にもチョイ役で出てたし。というかあっちが先だっけ? 三作目はいったいいつになったら出るのだろう……まあもう考えても仕方ないことだけどさ。とにかく今は、事態を収めることに注力しよう。
…しかし前々から思ってたんだけど、インターネットが火の海になったり水没したりするのはいいとして、なぜ現実までそれに
「──プラグイン! マイン.EXEトランスミッション!」
『よっしゃ行くぜー! ──ガボゴボゴボッ!?』
「おお……見事に水没しておられる」
『おっ、溺れっ──ん? あ、平気だコレ』
「その辺のナビならともかく、マインはロックマンにだって負けない高性能ナビなんだからさ。わかりきってた結果だろ?」
『でもさ、いきなり深海に放り込まれたようなもんだぜ? びっくりしたぁ…』
──ナビにはそれぞれコンセプトがある。何かに対して優位を保とうとするなら、別の何かには著しく弱くなる……故に、全てにおいて長じるナビは存在しない。たとえばこの水没状況で電脳世界に居続けられるナビは、アクアマンやダイブマンといった、水に有利なナビのみである。ヒートマンなどがこの場にいれば、呼吸が続かないどころか継続的な大ダメージを受けることだろう。そして一般のナビでも、そう長くはいられない。
先程の『コンセプト』で言うなら、ロックマンやマインは『オールマイティ』なのだ。そして戦闘スタイルはかなりチップに依存している。ブルースやカーネルといった高性能ナビたちが大してチップを使用しないのは、通常戦闘で強力な能力を発現させている反動のようなものだ。
これはナビのプログラムに加え、PETカスタマイズの比重も大きい。熱斗くんが別のナビを操作する時、能力を十全に発揮できないのはそのせいだ。『チップを主体とする戦闘』に重点を置くなら、ナビそのものの戦闘力は下がる。逆もまた然り、一長一短なのだ。
「長時間はいられなさそうだね……アクアマンは見えるかい?」
『うん、そう広くもないホームページだし──あ、いた』
『怖いっぴゅ~! 痛いっぴゅ~!』
『ウイルスに攻撃されて錯乱してるみたいだね……当のウイルスは水死しちゃってるけど』
「なんという暴走キャラ…!」
『しゅーねーちゃん助けてぴゅい~!』
『アクアマン!』
『…っ! だ、誰っぴゅ!』
『しゅーねーちゃんの命が惜しければ、今すぐ大人しくするんだ! このままだと彼女の命はないぞ!』
『ぴゅいっ!?』
『さぁ! 早くしろ!』
『わ、わかったぴゅ! しゅーねーちゃんに手は出さないでほしいっぴゅ!』
『よーし……そのままこっちへ来るんだ。うん──終わったぜ、宙』
「オッケー、完璧な対応だったぜ。さすが僕」
『落ち着いて!』とか言っても絶対に落ち着かなさそうなタイプへの対処としては、実に適当である。そのままアクアマンをしゅーねーちゃんのPETへ誘導し、とりあえず店の噴水状態は終了した。とはいえ水に弱い機器はショートしてるし、もう使い物にならなさそうなソファやらなんやらもある。営業できない間の機会損失も考えると、結構エグい損害額になりそうだ。
「いやぁ、助かったよ。流石オフィシャルだね! 大したお礼はできないけど、よかったらこれを…」
「いえ、これも仕事の一環ですから。お気持ちだけ有り難く」
HPメモリを差し出してきた店長さん。しかし体力は既に限界まで上げてしまっているので、マインには無用の長物だ。それなりの値段で売れはするが、頂いたものを売るのは少し抵抗がある。というかそんな余裕があるなら、今回の一件での補填に使った方がいいんじゃなかろうか。
そう言うと、店長さんは思い出したようにしゅーねーちゃんへと向き直った。険しさも含みつつ、しかし複雑な表情だ。
「…君の境遇は可哀想だと思うけど、だからといってこちらも余裕があるわけじゃなくてね。君に任せた責任はこちらにもあるから、全て請求はしないけど…」
「あぅぅ…」
持ちナビに損害額の概算を出させ、その一部をしゅーねーちゃんに請求する店長さん。業務上の過失による損害は、基本的にアルバイトに請求することはできない──が、それも場合によりけりだ。今回のような状況であれば、正当な事例として認められる。むしろ彼の請求額はかなり譲歩している方だろう。
──そういえば彼女って『ビンボーネットバトラー』とかなんとか言われてた娘だっけ。うーんと……ああ、なんとなく思い出してきた。確か早くに親を亡くしたせいで、アルバイトを掛け持ちして生計を立てていた……んだっけ? しかしそれなら、国に援助を求めてもいいだろうに。孤児院暮らしが嫌だったとかだろうか。
「あの……ご、五百回払いでお願いできますか…?」
「店が続いてるかも怪しいよ! せめて五年以内には返してくれ!」
「五年……ああ、どうしよう…! やっぱりわたしは幸せになれないオンナ…!」
いちいち悲観的な挙動をするせいで、いまいち同情できないな……できないが、しかしこれはチャンスだ。この世界はともかくとして、僕が元いた世界では──金で股を開く女など、掃いて捨てるほど存在した。
彼女がそういった人間だと一口には言えないが、こう──なんだろう。恩着せがましく押せ押せでいけば、なんとなく受け入れてしまいそうなタイプに見える。有り体に言うなら、飲み会のあと強引な先輩にお持ち帰りされそうな娘だ。
「──よかったら、僕が肩代わりしようか?」
僕の言葉を聞いて勢いよく振り返った彼女の瞳には、救世主を見たような輝きが灯っていた。まあ救世するっていうか、吸精してもらうんだけど。
■
爪に火をともすような生活……という言葉が相応しいような、ボロい家。ツギハギだらけの服なんて初めて見たよ。冷蔵庫などといった家電以外は、寝る前にコンセントを抜いて節電しているらしい。そのあたりも含めて僕が見たところ、彼女は典型的な『節約下手』である。
節約するところを履き違えて、無駄に苦労するタイプだ。一晩で数円変わるか変わらないかの部分を気にしておいて、自販機で飲み物を買うようなしゅーねーちゃん。貧しい貧しいと言いながら、カップラーメンの安売りに手をのばすしゅーねーちゃん。
コストパフォーマンスという言葉をご存知ないのだろうか。カップラーメンは手軽なだけで、けして安い買い物ではないぞ。自販機のジュースを五日我慢すれば、安物の服くらいは購入できるだろうに。『ツギハギだらけの服を着ている』という一種の悪印象は、節約以上に色々なものを損していると思う。
──そんなことを頭の片隅で考えながら、腰を振り続ける。
「あっ、ぐ、ふ、ぅっ──ん゛っ……イっ、あぅっ…!」
「またイったの? さっきまで処女だったってのに……大した淫乱だね、しゅーねーちゃん」
「ちっ、ちが──あぐぅっ!」
「あんまり喘ぐと、隣の弟くんたちに聞こえるよ? …それとも聞かせたいのかな」
「あぅ、んっ──ひぎゅっ…」
彼女が子供ながらに一家の大黒柱として頑張っていたのは、どうやら双子の弟たちのためだったらしい。孤児院の状況いかんによっては離れ離れになってしまうことを危惧し、家族一緒に暮らすため、国からの保護を蹴ったそうだ。
自分は中学を中退したというのに、弟たちを私立の中学に通わせるため高い学費を稼いでいる……なんとも健気な少女だ。ちなみにこの世界の義務教育は小学校までである。カリキュラムが効率的なせいか、教育の水準は上がりながらも、義務教育の期間は短いという素晴らしい教育体制だ。
「ふー……二日禁欲しただけでこれはヤバイな…」
「ん゛っ……あ……ぅ…」
早漏の
彼女を家まで送り、そのまま上がり込んで──努めて紳士的に振る舞い、彼女の苦労話に深く共感し、今までの頑張りを褒め称え、これからの援助さえ申し出た僕。感動しながら『わたしにできるお礼ならなんでも』と言われたので、それならばと美味しく頂いた所存である。
「んっ…! は、ぁぅ…」
いつの世もどこの世界でも、初物をいただけるのは素敵な体験だ。ぴっちりと閉じた桜色の割れ目を弄りながら、感慨深げにため息をつく。にちゅにちゅと人差し指を締め付けてくるこの蜜壺も、ついさっきまでは肉棒の感触を知らない、なんの汚れも知らない聖域だったのだ。
そこへ強引に押し入り、白濁とした欲望を何度も注ぎ込む──男冥利に尽きるってもんだろう。小さな割れ目に何度も指を抜き差しされ、息を荒げながら身を捩らせているしゅーねーちゃん……そんな彼女の陰核を親指で擦ると、ビクリと体が跳ねる。
──もう五人目ともなると、流石に否定はできなくなってきた。『この世界の女性はとても感じやすい』……その事実に間違いはなさそうだ。処女喪失で感じる女性など、現実ではまず有り得ない。オナニーが好き、スポーツや激しい運動で膜がなくなっている、そしてスケベ。この三拍子が揃っているのなら、なくはないだろうけど……やいとちゃんたちがみんなそうだった訳もなく。
ならば考えられるのはやはり感度の違いであり、つまり男にとって都合のいい素晴らしい世界であるという事実だ。
「あぎっ…! ひっ、あっあっ──あ゛ぅっ! ──んむっ……ん、ちゅ…」
中学生だというのに、膣の狭さはやいとちゃん並だ。腰を掴みながら対面座位で突き上げていると、奥の奥まで到達した感触を味わえる。恥も外聞もなく口の端からよだれを垂らし、未知の感覚を楽しんでいるしゅーねーちゃん……その唇からだらしなく覗いた舌を、僕の口内に招き入れ、二つの舌を複雑に絡ませる。
蛇のようにうねる舌は、膣壁の動きに呼応しているようで、唾液が交わる度に淫らになっていく。彼女の重みで腰の動きが緩慢になってしまうのがもどかしい。もっと早く、もっと情熱的に肉と肉を擦り合わせたい──その思考が一致したのか、彼女がベッドに背中を預けるのと、僕が彼女を押し倒したのは同時だった。
一人分の体重から解放された腰の動きは、先程の鬱憤を晴らすかのように激しくなった。欲望をそのまま叩きつけるかのように、淫らな水音を響かせながらピストンを繰り返す。
込み上げてきた射精感のせいか、肉棒がひときわ大きく膨らむ。それを雌の本能で敏感に感じ取ったのか、腕と脚、全てで僕にしがみついて子種を催促するしゅーねーちゃん。その期待に応え、膣の最奥で欲望を解き放つ。子宮が満たされた合図──粘性を含んだ、トプンという水音。聞こえる筈のないそんな幻聴を子守唄に、僕らは繋がったまま眠りについた。
■
──寝坊した。時刻は朝の六時十五分……しゅーねーちゃんの家から秋原町の公園までは、急いで十五分。ラジオ体操の開始時刻は六時半であるからして、いまこの瞬間にダッシュを始めれば間に合わなくもない。
間に合わなくもないが、朝っぱらから生臭い香りを漂わせて体操にいそしむオフィシャルなんて、最悪だ。仕方ない、今日のハンコは諦めるとしよう。皆勤じゃなくてもそれなりの回数までいけば、最後の最後にお菓子を貰えるのだ。
ラジオ体操には間に合わないこの時間も、一般的に見れば早起きの部類だ。いつの間にかしゅーねーちゃんから抜けていた肉棒が、雄々しく朝勃ちを迎えている。ぐっすり眠っているところを起こすのも申し訳ないので、胸や尻にゆるゆると擦りつけるだけの射精で我慢した。
そっとベッドを抜け出し、熱いシャワーを浴びながら今日の予定を考える。仕事の斡旋を約束したはいいものの、しゅーねーちゃんのドジっぷりを考えれば、ミスが許されない類の職は紹介しにくい。
コネ入社というものは、両極端な結果になりがちだ。すなわち『役立たず』か『有能』かのどちらかである。そしてしゅーねーちゃんが有能か無能かで言うと……いや、言わないでおこう。とにかく、彼女に合った職場を探すことが肝要だ。
くたびれたタオルで体を拭いて、昨日と同じ服を被る。あまり衛生的ではないが、新しい服もないから我慢しよう。それにそろそろ頼んでいた荷物が──っと、きたかな? 呼び鈴を聞いて玄関へ向かうと、扉の外にはいくつかのダンボールが置かれていた。
昨晩に頼んで明朝に届くとは、さすが近未来的な世界である。PETでぱぱっと支払いを済ませ、何回かにわけて荷物を運び込む。子供になると、こういった単純な作業がいちいち重労働になってしまって辛い。
とりあえず要冷蔵の食品を冷蔵庫に詰めていこう。成長期の子供がカップ麺だのもやしだので過ごすのは、健康的によろしくない。というか何度も言うけど、お金をかけるところを間違ってるよね。まともな食事ができていないのに、なぜ缶ジュースやお菓子の袋があるんだ。
新しい目覚まし時計を買う余裕があるなら、新しい服を買うべきだ。中々雇ってもらえないと愚痴っていたが、面接にツギハギだらけの服を着ていって、採用してくれって言う方が無茶だろう。
冷蔵庫の整理を終え、軽く部屋の掃除をした後に朝食の準備に入る。サラダとベーコンエッグ、トーストにコーンスープというなんの捻りもない、ありふれた朝食である。しかしこと食事に関して言えば、『ありふれた』という表現は褒め言葉となる。
万人に受け入れられたからこそ、『ありふれた』という称号を得ることが出来たのだ。それは実に素晴らしいことではないだろうか。
「おはよー、宙……うわ、すごいごちそう」
「ほんとだー。宙が作ってくれたの?」
「おはよう、二人共。お弁当も作っといたから持っていってね」
弟たちは姉の献身をしっかり感じているようで、勉学も部活も頑張っているようだ。とはいえ、やっぱりしゅーねーちゃんの血筋と言うべきか、大雑把な部分は変わらない。彼等の昼食は学食か購買であり、一般より安いとは言え外食は外食なのだ。こちらも家計費を大きく圧迫しているに違いない。弁当のありがたみを教え込まねば。
「しゅーねーちゃんは?」
「まだ寝てるよ。昨日色々あったし、疲れたんだろうね」
「うん……ネットニュースにもなってたもんな」
「まだ落ち込んでるのかな…」
「大丈夫、大丈夫。アツホとタイチが寝た後、すっごい悦んでたからさ」
「へ? 喜んでたの?」
「ああ、宙が仕事紹介してくれるって言ってたからか?」
「その他、諸々も込みでね。まま、しゅーねーちゃんのことは僕に任せなって」
「お、子供の癖に生意気言いやがってー。しゅーねーちゃんは俺たちのしゅーねーちゃんだからなー」
「でもその年でオフィシャルってすごいよなー」
ううむ、間延びした喋り方がどことなくアホっぽい……が、しかし彼等は進学校の中でも成績上位の二人だ。それすなわち、僕よりも頭が良いということに──くっ、深くは考えないでおこう。だいたい僕が高卒認定に落ちたのだって、想像の二倍くらい難易度が高かったからだ。
小卒の時点で元の世界の中卒以上の学力ってことは、高卒の難易度も推して知るべしだった。そう、だから僕の頭が悪いんじゃないんだ。よし、証明終了。
しかし子供に子供扱いされるのは、なんとも言えない感覚だな。まあ中学生からすれば、小学生が子供に見えるのは仕方ないか。でもこういうこと言ってる子に、姉との情事を見せつけるシチュエーションって凄い興奮しそうだよね。絶対やらないけど。
「弁当、ありがとなー」
「サンキュー」
「はーい。部活、頑張ってね」
部活かぁ……なんとなく羨ましい、もう戻れない青春の日々──あ、戻ってたわ。バリバリ現役だったわ。二人を優先したせいで、すっかり冷めてしまった朝食を口に詰め込む。そのまま洗い物を済ませた後、いまだに寝ているしゅーねーちゃんから布団を引っ剥がす。
生なましい匂いが漂い、体中に付着していた精液がカピカピに乾いている。眩しそうに身じろぎしている彼女の太腿には、赤黒い液体の跡が掠れていた。シーツにも染み込んでしまっているが、荷物の中に新しい布団も入っているから大丈夫だろう……というかタイチたちが布団引っ剥がしてたら、色々ヤバかったな。
「むにゅ……あ、オハヨ……っ!? あ、えと……お、おはよう…」
なぜ二回言ったし。僕の顔をマジマジと見た後、横にあった掛け布団で、自分の顔の下半分を隠すしゅーねーちゃん。それでも真っ赤になった肌は隠しきれておらず、どうしようもないほど可愛い状態となっていた。ちらりと覗く瞳が上目使いのようになっていて、まるでもう一度してほしいとねだっているように見えてしまう。
「ごはん出来てるよ……先にお風呂入る?」
「う、うん……その…」
「…?」
「い、一緒に入ろ?」
──うーん……仕事の紹介は明日になりそうだ。
下記の作品も同時更新しております。
『混譚 ~まぜたん~』※オリジナル
『鬼滅の刃 “裏の柱”』※短編
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8話
光陰矢の如しとは言うが、それにつけても夏休みというものは、気を抜くと一瞬で過ぎ去っていく。熱斗くんの『市民ネットバトラー』ライセンス試験に付き合ったり、メイルちゃんの恋愛相談に乗ったり、デカオくんの武者修行に同行したりと、中々に密度の濃い休暇だった。
ちなみに熱斗くんのライセンス試験の結果はというと、当然のごとく『SSSライセンス』を取得していた。このレベルまでくると、オフィシャル国家試験における一次、二次、三次、実技を全て免除される。残りは一般常識とSPIのみだが、もちろんこちらも当然のごとく落ちていた。ドヤ顔で『これで宙に並んだな!』などと言い始めたところでオチは読めていたが、そのフラグの回収っぷりは実に見事であった。
そんなこんなで久しぶりの夏休みは終わりを告げ、新しい学期が始まった。昔は憂鬱な足取りで初日を迎えたものだが、今はそうでもない。大人になるとわかる、学生生活の有難みってやつだろう。まりこ先生にも頻繁に会えるようになるし、むしろ良いこと尽くめと言ってもいい。
「はーい、みんな久しぶりね。ちゃんと勉強はしてた?」
「最初にそこ聞いちゃうんだ…」
「元気なのは顔を見ればわかるでしょ? ──じゃあ最初に答えてくれた熱斗くんから、宿題提出してもらおうかしら」
「えーっ!?」
「どっちにしても提出するんだから、そんな驚かなくても……まさか熱斗、やってないの?」
「い、いや……ちょっとだけな。ちょっとだけ、あともう少し、半分くらい残ってるだけだから…」
『だから早くやっておこうって言ったのに…』とロックマンの声がPETから響き、教室に笑い声が響く……まりこ先生以外の、という注釈はつくけど。夏休み明け早々に居残りが決定した熱斗くんの、その悲鳴をよそに授業が始まった。
エグゼ伝統と言うべきか、最初はやはり『ウイルスバスティング』の基礎の基礎のそのまた基礎編である。算数で言えば『1+1』から初めているような違和感を覚えるが、しかし文句は出ない。謎である。
ちなみに熱斗くんのチップフォルダを確認したところ、初期フォルダに戻っているようなことはなかった。世界を救った人間のフォルダが『キャノン』だの『コピーダメージ』だのじゃ、意味不明だもんな……いやまあ、コピダメは初心者から上級者まで使える優秀なチップだけどさ。
「さ、じゃあ授業を始めましょうか──宙くん、お願いね」
「…ん?」
「先生が教えるより、その道のプロが教えた方が良いでしょ?」
「いやいやいや。『スポーツが上手い』と、『スポーツを教えるのが上手い』は違うんですけど」
「え~……でもぉ、宙くんにウイルスバスティングの授業なんて……お猿さんに木登りを教えるようなものよぉ~」
「うわぁ、その年でぶりっ子は流石に──」
「何か言った?」
「──喜んでやらせていただきます」
「うふふ、ありがと」
ぶりっ子というか、ちょっと甘える感じのお願いだったが……あんまり露骨だと、
まあこの世界なら大丈夫な気がしないでもないが、あんまりゆるゆるなのもアレだしね。それにまりこ先生の言葉も間違いではない。誰が好き好んで、イチローに野球の講釈を垂れたいかって話だ。気乗りはしないが、電子黒板の前に立ち、皆を正面に見据える。うーん…
「えー……では、ゴホン、あー…」
「ぷっ…! 宙のやつ、ガラにもなく緊張してやんの」
「笑っちゃダメだよ熱斗……ふふっ」
「あら、意外とカワイイとこあるじゃない?」
「おい宙! このデカオ様がいつでも代わってやるからな!」
好き勝手言ってくれちゃってぇ。だいたい『授業』なんてものは、事前にある程度まで計画しておくものなのだ。いきなりお願いされて出来るなら、誰も苦労はしない。まりこ先生だってそれくらいはわかるだろうに、一昨日の変態プレイが余程お気に召さなかったのだろうか。これは意趣返しなのか?
「あー、えっと……そうだね……何から始めようか…」
「ぷっ、くくっ…」
「ではまず、みにゃ、皆さんには──」
「噛んでるぞー」
「──皆さんには……これから殺し合いをしてもらいまぁす♡」
「なんで!?」
「っと、失礼。緊張のあまり訳のわからないことを…」
「限度あるだろ!」
おっと、つい『教壇に立ったら言ってみたいセリフ』第三位が出てしまった。この世界、エロは割と豊富だけどグロはほとんど存在しないんだよね。だからデスゲームものの作品もほとんどない。需要もなければ、書こうと思う人もいないんだろう。
「えー、ではまず各々に武器を支給しますので…」
「続いてんじゃねーか!」
「おっとと……でも、僕だって複数に指導なんてしたことないからさ。できれば熱斗も手伝ってくれるかい? 『SSSライセンス』は伊達じゃないんだから」
僕の言葉に、デカオくんたち以外のクラスメイトがザワリと声を上げた。この夏休み、割と大々的に告知された『市民ネットバトラー』制度だ。誰でも受けられる試験だけに、学校の生徒たちも受けた子は多いだろう。
B級を超えれば一人前といったこの制度において、SSSライセンスとは狭き門どころの話じゃない。持っているだけで称賛の対象になるのは確実だろう。とは言っても、権力的には単なる市民ネットバトラーの域を出ないけどね。いわば実力の証明書的なライセンスだ。
「スゲーな熱斗! 僕も挑戦したんだけど初っ端でダメだったんだぜ!」
「わあ、やっぱり光くんって凄いんだ…!」
「いや……へへ、まあそれほどでも」
「いよっ! 大統領!」
「ハハ、やめろって……まあ確かに、オレ以外で突破できるやつなんて早々いないだろうけどさ!」
「すごいぜ天狗野郎!」
「へへっ、照れるじゃんか──って、けなしてんじゃねーか!」
「はぁ……『実るほど頭を垂れる稲穂かな』って言うだろ? 自信を持つのはいいことだけど、増長するのはよくないよ」
「な、なんだよ! 宙だって『流石!』って言ってただろ!」
「…君のために言ってるんだよ。おだてられて調子に乗った人間の末路なんて、ロクなもんじゃないからね。具体的に言うなら──そう。ヒノケンにおだてられて調子に乗って協力して、騙されたあげく科学省を火の海にして、お父さんにも大怪我負わせて、大泣きで後悔したくないんなら増長するのはやめるんだ」
「具体的すぎない!?」
よし、これで熱斗くんもヒノケンに騙されたりすることはないだろう。折を見てさり気なく忠告しておこうと思っていたが、バッチリ自然に言えた。失敗は人を成長させるというが、あんなレベルの失敗はトラウマものである。物的人的被害もバカにならないし、そもそもオフィシャルとして未然に防ぐのが当然だ。
これで『熱斗くんが原作通りに成長できない』などと言うアホがいるのなら、そいつはどこまで行っても人をキャラとしてしか見れない可哀想な人間だと思う。たとえ僕の主観でこの世界がゲームだったとしても、いま目の前にいる人たちは現実でしかありえない。
予測される状況を利用することはあっても、接する人たちがお人形だなどと、どうして思えるだろうか。『運命はこうあるべきだ』とか『この人はこうあるべきだ』とか、傲慢この上ない。
僕の行動が誰かの運命に影響するとしても、それは元の世界、今の世界にかかわらず同じことだ。つまり何が言いたいかって、僕が誰とセックスしようが問題ないよねって話である。ないよね?
「さて、じゃあ熱斗の自惚れも収まったところで──」
「言い方!」
「付け上がったガキを諌めたところで──」
「ひどくなってんじゃねーか!」
「──教える人数を、半分に分けようか。僕は女子の方を教えるから、熱斗は男子を担当してくれるかい?」
「おかしくない!?」
「そう? じゃあ熱斗が女子の方、頼むよ」
「へっ…?」
「僕はどっちでもいいからね。はーい、みんなー……熱斗は女子の方がいいらしいから、そっちに集まってくれる?」
「やだー、光くんのエッチ!」
「熱斗って結構スケベなんだなー」
「いっ…!? お、おまっ──まさかこれを狙って…!」
「熱斗の上がった株を下げるのも、また友人の務めなり」
「ただの嫉妬!」
「女子の黄色い声を浴びるのは、僕だけでいいのさ」
「本音出た!」
いや、ちゃんと熱斗くんのことも想って言ってるけどね。WWWの活動も活発化してきたし、ワイリーお爺ちゃんとの因縁も考えれば、熱斗くんが騒動に巻き込まれることは充分に考えられる。騒動があれば自分から突っ込んでいくタイプだから、そもそも危険から遠ざけようとしても無駄だろう。僕にできることと言えば、さっきのように心構えを説いておくくらいのものだ。
さて、そんなこんなで授業はつつがなく終了し、ついでに今日の授業も全て終了した。夏休み明け初日ということで、本日は三時限目で終わりなのだ。小学校特有の謎時間『帰りの会』的なものも、ささっと終わりそうだ。
「──それで、こんど科学省のウイルス研究室を見学させてもらえることになりました! 貴重な機会なんだから、しっかり学びましょうね」
「まりこせんせー!」
「はい、どうしました? 熱斗くん」
「校外学習って『よかよか村』じゃなかったの? オレ、ウイルスより温泉の方がいいなー」
「ふふっ、心配しなくても両方やるわよ。科学省の方は、新設された研究室ってことでわざわざ校長先生が予定を組んでくれたの」
「ほっ……よかったー」
「そういうわけだから、しばらく校外学習が多くなります。みんな秋原小学校の生徒であるという自覚をもって、行動するように!」
「はーい!」
よかよか村の校外学習……そういえばそんなシナリオがあったような、なかったような。温泉って確か、ウラインターネットのサーバーがある温泉旅館に泊まるんだっけ? うーん……ふむ……はっ! もしや、みんな浴衣姿になるのでは? 古き良き日本の衣装…! 胸元ガバガバ、生足ポロリの最高コスチューム…! なんて素晴らしい校外学習なんだ。
「まりこせんせー!」
「はい、どうしました? 宙くん」
「温泉は混浴ということでよろしいでしょうか」
「よろしくありません!」
「──って、熱斗が聞いてほしそうにしてました」
「してねーよ!」
「まりこせんせー!」
「………はい、宙くん」
「寝るところは男女一緒ということでよろしいでしょうか」
「まったくもってよろしくありません」
「──ってメイルちゃんが聞きたそうにしてます」
「しっ、してないよ!」
照れるな照れるな。しかし動物園に温泉旅館とは、実に楽しみだ。そういえばメタルマンのオペレーターもあの辺にいたような気がする。確か名前は……たま……たま……タマ姉? いや、ゲームが違うな。ナビの名前は覚えていても、オペレーターの名前は覚えてないって人は結構いるだろう。僕もその口だ。
──なにはともあれ、やいとちゃんとしっぽり温泉旅館……もちろん先生も引率で着いてくるわけだ。今から楽しみでしょうがないぜ。
■
ゼニー、ゼニー、ゼニー……金がないのは首がないのと同じなの──っと。まどいちゃんへの投資然り、しゅーねーちゃんを養うための生活費然り、何かと物入りで困りものである。流石にオフィシャルの給金だけでは賄いきれないし、まとまったお金がある内に増やしておいた方がいいだろう。
元の世界だろうが今の世界だろうが、『お金』というものは──持っていれば持っているほど増やしやすい。金持ちが金を持ち、貧乏人が貧しいのはそういうわけだ。無一文から百万円稼ぐのは難しいが、一億円持っている状態で百万円を稼ぐのはそう難しい話ではない。
というわけで、財テクを図って色々とお金を動かしているわけだが……そのへんの相談も込みで、やいとちゃんとお電話している昼下がり。敏腕女社長になるべく色々と学んでいる彼女の助言なら、きっと有用だろう。
『…でさぁ、最近株価下がってるけど大丈夫なのかい?』
『別に私が経営に参加してるワケじゃないんだから、言われたって困るわよ』
『うーん……そりゃそっか』
『ま、原因はわかってるんだけどね。ただ、わかってるからってすぐに手を打てるかって言うと…』
『ふぅん…? ちなみにその原因ってのは?』
『“ガウスコンツェルン”。最近PET事業にまで参入してきて、鬱陶しいったらないわよ……ってお母様が言ってたわ』
『へぇ……なんか聞いたことあるような…』
『新進気鋭の財閥だもの。ま、所詮は一代で成り上がった野蛮人……っていうのが、今までのガウスコンツェルンの評価。
『けど?』
『“エレキテル家”って知ってる?』
『エレキ……あー……なんかそっちも聞いたことあるような……なんだっけ』
『世界有数の名家よ。現当主は、今じゃ数少ない“伯爵”の地位を
『ふむふむ……そのエレキテル家がどうしたって?』
『──マグネッツ家が財閥の中でどうしても下に見られるのはね、格式のせいなのよ。一代で全てを築き上げた手腕はすごいけど……今の財閥の多くは、戦後から続く旧家がほとんど。“ニホンを支え続けてきた”っていう自尊心が強いの。とかく家柄にこだわるのよね』
『ふーん…? …ああ、なるほど。その足りない家柄を補うために──マグネッツ家がエレキテル家を取り込んだのかな?』
『ええそうよ。最近、行方をくらましてたエレキ伯爵が帰ってきたらしくてね……そのあとすぐ、エレキテル家のご子息と、マグネッツ家の一人娘“テスラ・マグネッツ”が婚約したの。それで名実ともに一大財閥ってわけ』
『その勢いのままに事業拡大してるってわけか……むむ……頑張ってよね、やいとちゃん。僕、“綾小路PET研究開発”と“伊集院PETカンパニー”に貯金ぶっこんでるんだから』
『あ、あなたねぇ…』
『ま、もうすぐナビカスタマイザー発売だし、一気に株価も上がるだろうけどね。ガウスコンツェルンがPET事業に食い込んできたの、最近だろ? ナビカスの利権関係には一手遅いもんな。裕一郎さんが
『…インサイダーでしょっぴかれても知らないわよ?』
『別に内部情報を得てるわけじゃないし。ナビカスが爆発的に普及するっていう、確信の元での行動さ』
エレキ伯爵にガウス・マグネッツ……あれ? どっちも敵だったような。いやまあ、WWW関連もゴスペル関連も変わってきてるし、彼らが犯罪者ではなくなっているというのなら喜ぶべきことだけども。しかし、だからといってその二人が交わるのは謎である。実は裏設定で繋がりとかあったんだろうか。
『そういやさ、N1グランプリの話は聞いてる?』
『ええ、DNNが主催するネットバトル大会でしょ? うちもスポンサーとして参入しようって話はあったんだけど…』
『伊集院PETカンパニーが先に入っちゃったもんね。流石にライバル企業同士が一緒にスポンサーってわけにはいかないか』
『それで、そのN1グランプリがどうかした?』
『うん、やいとちゃんはどうするのかなって思ってさ』
『あら、もちろん出場するに決まってるでしょ? このやいとちゃんの実力を世界に見せつけてあげるんだから!』
『そっかぁ……うーん、僕はどうしよっかな…』
『…出ないの? むしろ待ちきれなくてウズウズしてるのかと思ってたケド』
『賞金が出るならねー、全力でいくんだけどさ。得られるのが栄誉だけって、ちょっとどうなの? 炎山先輩せこくない?』
『ハイハイ……でも、そうね──そういうことなら…』
『ん?』
『あなたが優勝したら……~~……してあげるわよ』
『さ、マイン。ロックマンとブルースの対策を始めようか』
よーし、俄然やる気が出てきたぜ。グランプリの優勝ごときで、ちょいちょい断られてる『プレイ』をさせていただけるというのなら、これはもう本気でヤるしかないだろう。いやまあ、熱斗くんと炎山先輩を前にして『ごとき』とはとても言えたものじゃないけど、それでも頑張らざるを得ない。
──温泉旅館にグランプリ、その他諸々……楽しいイベントが目白押しで、楽しみに事欠かないぜ、まったく。
■
やってきました『よかよか村』。駅を出たところから既に、動物園の独特な匂いが漂っている。完全には舗装されていない、土がむき出しの道……その端には、屋台などが所狭しと並んでいる。ゲームでは簡略化されていたが、実際にきてみると『ザ・観光地』って感じの賑わいだ。
冷めると異様に不味いベビーカステラや、見た目と実際の味が
秋原小は一クラスたった十人だし、引率もそこまで苦労はしないかもだけど、これが三十人とかだと面倒なんてもんじゃないだろう。せめて僕だけは迷惑をかけないようにしようと、そっとお尻を撫でてあげた。そしてゲンコツを落とされた。
そういえば動物園でも一騒動あったような気がするんだけど、今のところは何もない。別にあってほしいわけじゃないんだけど、ないならないで気になるよね。WWWがいったい何を企んでいるのか、さっぱり見当もつかないぜ。
一通り見終わって、いよいよ向かうは温泉旅館『うらかわ』。褐色ロリことセレナード様の住み家にして、親族経営かつ精鋭揃いの不思議旅館である。ネットの紹介ページには、女将さんとその妹であるたま子さんのバトル動画がアップされていたが──かなりの腕前だった。
なぜ旅館の紹介にネットバトルなのか意味不明だが、N1グランプリといいトーナメントといい、バトルとは関係ないのに宣伝しにくる人も多いため、そういうものだと納得しておこう。というか広告費ゼロで宣伝しようとする人、多すぎだよね。
大部屋に案内され、荷物を置くと──晴れて自由行動である。とはいえ、動物園でハシャいでいたせいか、みんなお疲れのようだ。畳の上でぐでっとしている。まあ食事の時間になればまた騒がしくなるだろう。
「宙、どこ行くんだ?」
「ちょっとお土産屋さん見てくる」
「帰りでよくない?」
「僕はお土産を旅館で食べるのが好きなんだ」
「それもう土産じゃないだろ…」
人気の少ない、少し冷えた廊下を歩く……旅館特有のこの雰囲気、良いよね。いの一番に浴衣に着替えたが、やはりこれを着ると妙に落ち着くものだ。日本人の遺伝子にでも刻まれているのだろうか。
入り口を出てみると、もう日が暮れかけていた。横にある土産屋も店仕舞のようで、店の前に並べている商品を片付け始めている。店員さんはスレンダーな美女で、
勝ち気な美女……というよりは、肝っ玉姉ちゃんって感じだろうか。オネショタ漫画なんかだと、最初は彼女優位で進んで、しかし最後には『嘘っ、こんな子供にイかされ──』とか言ってそうなタイプだ。
「儲かりまっかー」
「…ん? ああ、宿泊学習の子か。なにか欲しいもんでもあるのかい?」
「んー、お姉さんが欲しいかな」
「ぷっ、あっははは! なんだい、最近の子供はませてるねえ」
「もう店仕舞?」
「ああ……って言っても、きっちり決めてるわけじゃないからね。客がいるんなら営業時間さ! 何か買ってくれるのかい?」
「うん。一番美味しそうなのは……っと……んー…」
「親御さんへのお土産なら、この辺がおすすめだよ」
「ううん。今日のデザートに、僕が食べる用」
「そ、そう……変わってるね」
『お土産』には美味しそうなのを選ぶものだが、自分の口に入るかと言えばそうでもない。せっかく観光地の特色あふれるご当地グルメなんだから、自分でも食べてみたいじゃないか。幸い、今日は一人じゃなくてクラスのみんなもいるのだ。
十何個入りで一セットのお菓子を買っても、消費しきれる。僕の株も上がり、かつ色んな味を楽しめる良い機会だ。四箱ほど選んで購入するとしよう……ん? なにやらたま子さんがPETを懐から取り出し始めた。
「…あんた、腕に覚えはあるかい?」
「…? まあ、そこそこには」
「よーし! ならネットバトルだ! あんたが勝てば代金はタダ! ただしアタイが勝ったら、倍の八箱買ってもらうよ!」
「むちゃくちゃ言いよる…」
「おや、怖気づいたのかい?」
こんな人だったのかこの人。というか成人過ぎてアタイはないだろう、アタイは。どこぞの氷妖精の印象が強いせいで、なんとなくアホっぽく見えてしまう。しかし自分の強さに自信があるのなら、割とアコギな商売ではなかろうか。
「んー……バトルするのはいいけど、条件は変えてほしいな」
「もうちょっと緩いほうがいいかい?」
「ううん。僕が負けたら三十箱買うことにするよ」
「へぇ…! よっぽど自信があるみたいだねえ。なら、アタイが負けたらどうしてほしいんだい?」
「おっぱい揉みたい!」
うおっ、目の前でずっこけられた。吉本新喜劇のファンなのだろうか? 呆れた表情で汗を垂らすたま子さん……口元の泣きぼくろが物凄く色っぽい上に、ポニテというのもポイントが高い。チョーカーを付けたうなじが艶めかしく、つい喉を鳴らしてしまった。
「あ、あんたねえ…」
「おっと、怖気づいちゃったかな?」
「…はっ、上等! 男が一度口にしたんだ! 約束は守ってもらうよ!」
「もちろんさ──行くぜマイン!」
『あいさー』
「やっちまいな! メタルマン!」
『ああ!』
メタルマン……その名の通り、鋼の攻撃力と防御力を持つ優秀なナビだ。その鉄拳にはブレイク性能があり──当たるとめっちゃ痛そう。半端なく痛そう。一撃で戦局を覆されかねない怖さがあるし、さっさとケリをつけるとしよう。
『ぬぅ…!』
「メタルマン!」
『さらばだメタルマン……お前もまた
『待て、死んではいないぞ』
「けど決着はついたね」
「くっ…! …はぁ……すごいねアンタ! アタイとメタルマンがこんなにあっさりヤラれるなんて初めてだよ! ──そういえば名前はなんて言うんだい?」
「僕は『光 宙』。こっちは『マイン』」
「アタイは白泉たま子。この旅館の女将の妹さ」
「うん」
「いやぁ、しかし強いね……ほんとに強い…」
「うん」
「…あ、買うのは四箱でいいんだよね?」
「うん」
「袋は一つでいい?」
「うん」
「…」
「…」
「…ほんとに揉むのかい?」
「うん」
「くぅっ…!」
「一度口にした約束はー?」
「わ、わかってるさ! この白泉たま子! 約束を破った試しはないよ!」
やったぜ。今回に限っては、下心があってきたわけじゃないんだけど──自分から飛び込んできたんなら、それはもう自己責任だ。途中だった片付けを手伝い、シャッターを下ろせば……店内には僕と彼女の二人きり。
店の中でのエロという珍しいシチュエーションも加わって、期待もテンションもアゲアゲだ。店内と住居はそのまま繋がっているようで、そこの出入り口は腰を下ろすのに丁度いい高さだ。座り込んだたま子さんの隣に寄り添い、腰に手を添える。
「うぅ……近頃の子供って……子供って…!」
「近頃もなにもないさ。いつの時代も、男はガキの頃からおっぱいおっぱい言ってるでしょ?」
「そう言われるとそうかも…」
「これに懲りたら、不用意な約束なんてするもんじゃないぜ」
「はぁ……肝に銘じとくよ」
ほんのり赤く染まった肌が、これまた綺麗だ。白いタンクトップを首元まで捲り上げると、張りのある双丘がぷるんと揺れた。かなり控えめな胸だが、細身の体と相まって芸術品のように美しい。触るまでもなくツンと上向いた乳首は、緊張のせいだろうか。サイズこそ、子供の手のひらに収まるくらいの慎ましさだが──しっとりと指に吸い付いてくる肌がなんとも心地よい。
「わー、やわらかーい」
「ふっ、んんっ…」
あまりこういうことには慣れていないようで、くすぐったそうに身を捩るたま子さん。しかし乳首を人差し指で軽く弄ると、艶のある声が漏れる。ここまでは、あくまでも『小学生の悪ふざけ』っぽい雰囲気を全面に押し出してきたわけだが──シンとした密室で荒い吐息だけが響くこの状況は、濡れ場以外のなにものでもないだろう。
揉んでいる内にたま子さんがしなだれかかってきて、今は男女逆の膝枕状態だが……流石にそんな体勢でこられると、勃起した剛直は隠しきれない。
少し呆けながら揉まれ続けているたま子さんだが、その顔の横には、浴衣からはみ出した白いテントが張っている。ちなみに僕はボクサーパンツ派である。
程なくしてその存在に気付いた彼女は、一瞬ぎょっとした後、恥ずかしそうにこちらを見てきた。そんな顔をされると、余計に興奮が滾るというものだ。更に一回り大きくなった肉棒を見て、たま子さんはゴクリと喉を鳴らした。震えた唇から零れる溜息は、まるで何かを期待しているかのようだ。
ますます桜色に染まる肌は、彼女の興奮を表しているのか──既に隠さなくなった喘ぎ声は、僕の我慢を容易に打ち砕いた。苦しげに圧迫されていた肉棒を、外気に晒す。熱を持った剛直がぶるりと頬に叩きつけられ、たま子さんは発情したかのようにちろりと舌を出した。
そのまま僕の股座に顔を埋め、亀頭を口に含むと──そのまま一気に喉奥へ導き、肉棒の全てが彼女の口内に収まった。先端を喉でキュンキュンと締め付けられ、竿の部分は舌で絡め取られる。前後の動きがなくとも、これほど気持ちよくなれるのかと驚かされたところで、一度目の射精を迎えた。
こくりこくりと喉が動き、肉棒を口に含んだまま飲精するたま子さん。しかし我が息子は大きさも硬さも一向に衰えず──彼女は困惑したようにこちらへ目を向ける。その口の端は精液とよだれで泡立ち、泣きぼくろがどうしようもなく色気を醸し出している。
名残惜しくも、そのイヤらしい穴から肉棒を引き抜く。口の周りを舌で舐め取り、上気した顔でこちらを見つめるたま子さん。緑色のスキニーには黒い染みが広がっており、彼女が何を期待しているのかなど一目で理解できた。
膝立ちになり軽く体を押すと、彼女はなんの抵抗もなく床へ背中を預けた。ぴっちりとしたスキニーに手を潜り込ませ、熱くなった割れ目に指を挿し込もうとしたその時──
「たま子ー? 集計終わはった?」
「──っ!」
女将さんらしき声が扉の向こうから響き、二人揃ってギクリと硬直した。ドアノブの回る音が妙に大きく聞こえる。乱れた着衣を慌てて正し、頷きあいながらPETを持って向かい合う。扉から直接見える場所だったら危なかっただろう。通路から顔を覗かせた女将さんは、僕たちがネットバトルに熱中していたのだと解したようで、呆れた表情で肩をすくめた。
「…仕事もそっちのけで何してはるの? ──あんさんも、もうすぐご飯の時間どすえ。はよう部屋にお帰りやす」
「う、うん、ごめん…」
「はーい、ごめんなさーい」
おっと、ついつい時間を忘れてしまっていた。京都弁の女将さんに促され、腰を引きながら情けなく退散する。傍らを通り過ぎる際、少し目を細められた……バレてるかな? 服はともかく、匂いは充満してただろうし。
中途半端な情事でモヤモヤしながら部屋へと向かう──その途中。交換したばかりの連絡先から、メールが届いた。たった二文字『夜に』とだけ書かれていたが、その意味は小学生でも理解できるだろう。
──夜の宿泊学習も、これまた楽しそうで何よりである。
勃起もんやろなぁ…
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9話
誰も彼も夢見に沈む、静寂の夜。冷えた空気が満ちた廊下を、そろそろと歩く。ぼんやりと光る非常灯、そして自販機から聞こえる無機質な低音が、ホラーチックな雰囲気を緩やかにしてくれていた。廊下の先には、この旅館の名物でもある天然温泉がある。
そして──隠された“ウラインターネットサーバー”も、そこにある。
「むむむ……ゲームじゃさらっと開いてたのに……結構厳重だぜ」
『面倒くさいセキュリティだね……よっ、と、ほっ──よし、抜けた』
「ちょっとワクワクするよね、こういうの」
『うん……というか、先に温泉入ったほうがいいんじゃない?』
「ん? …それもそっか。んじゃちょっと失礼して…」
たま子さんとの事後だけに、乾いてはいるものの色々と付着している。仮にも裏の王の領域へと侵入しようというのだから、確かにこれはいただけない。シャワーで体を軽く流し、温泉に浸かりながら体をほぐす。たま子さんは割と受け身型だったから、こっちが体を動かす体位が多かったのだ。
暗闇の中、PETの光だけを頼りに温泉に浸かるのは、なんとも奇妙な感覚だ。子供の頃、電気をつけずにお風呂に入ったことがあるが──なんかテンション上がるよね。
あまりゆっくりしていると睡眠時間がゴリゴリと削られていくので、体の芯まであたたまる前に温泉から上がる。備え付けのバスタオルで体を拭き、自販機のフルーツ牛乳を一気飲みし、先程の岩戸へと向かう。岩の隙間にするりと体を通し、エレベーターへ足を踏み入れ、そのまま地下へ進むと──そこには巨大なサーバーが鎮座していた。
ここから直接アクセスできるエリアこそ、ウラインターネットの更に深部『シークレットエリア』である。もちろんインターネットからも入れないことはないが、非常に面倒なのだ。プラグアウトもできなくなる関係上、直接プラグインした方がなにかと楽だ。そしてこのシークレットエリアの最奥に控えるナビこそが、かつてフォルテさんをも下した、最強と名高い自律ナビ──セレナード様。通称『S』である。聖母のような存在の癖に『S』なのだ。
「さて、と……今回は『条件』の確認にきただけだから、無茶はしないようにね」
『あいさー』
そのセレナード様に会いに行くための条件なのだが、これがまた色々とメタいのである。いわゆるゲームのトロフィー的なものをいくつも達成していなければならないのだが、まさか現実になってまでそれが反映されているとも思えない。故に、今日はその確認に訪れたというわけだ。
どこまで準拠しているのか──そしてセレナード様への道程に立ち塞がる『二体のナビ』は、存在するのか。おそるおそる進んで行くものの、やはりウイルスの危険度は、他のエリアと比べ物にならないほど高い。ちょいちょいとウイルスをあしらいながら歩いていると、なにやら空間が軋み……暗闇と共に黒紫のナビが現れた。カッコいい。
『コシュー……コシュー……九千五百八十二体目…』
『──っ! 宙!』
「うん。出たね……ダース・ベイダー卿だ」
『なんでやねん。ダークマンだよ、ダークマン』
『コシュー……俺の名を知ってなおここに来るとは……死ににきたか…?』
『まさか。ところで“九千五百八十二体目”ってのは?』
『ここを通ろうとした愚か者の数だ……そしてその数は、ここでデリートされていった数と同様…』
『どういうこと?』
『コシュー……わからんか? 俺が“ここ”で番をしているということだ』
『つまり、どういうこと?』
『どれだけ察しが悪いんだお前は! ここを通ろうとした者は全て俺がデリートしたということだ!』
『ふっ……戦いはもう始まってるってのに、敵の言葉で心を乱すとはね。そんなんだからセレナード様に返り討ちされるんだよ』
『…っ! 貴様…!』
九千五百八十二体とか笑うわ。秘匿された場所じゃないの? その辺の弱小ブログのアクセスカウンターより多いじゃないか。まあ裏の王を目指す者たちが辿り着く場所と考えれば、そんなもんなのかな。ダークマンさんも大変だぜ……というか、セレナード様に『再戦を望むなら一万体デリートするまで防衛よろしく』って言われて、律儀にこなすダークマンさん可愛い。
「油断しないようにね、マイン」
『わかってるって……流石にここまで来ると、
「バトルオペレーションセット!」
『イン!』
『愚か者どもめ…!』
さて……むぅ……うおっと! どこからでも唐突に現れるダークホールが、ことのほか厄介だ。どこのスキマ妖怪だお前は。そのせいで、常に三百六十度警戒してなけりゃならない。しかし周囲ばかりを警戒していると、ダークマンから発射される謎ビームにやられかねない。
一度当たれば継続してダメージを食らう恐ろしいビーム……僕の天敵と言っても過言ではない。できれば強いチップでさっさと勝負を決めたいところだ。マインが速度で翻弄してる間にアドを繰り返し、プログラムアドバンスを狙う。いま使用しているチップフォルダは、『シークレットエリア』に出現するウイルスの特性に合わせ、一撃に特化したチップやPAを多く入れているのだ。
「きたぜマイン」
『オッケー!』
“ロックマン”“ロールV3”“ナビスカウト”──現実となったこの世界では、チップの種類も大幅に増えている。特にナビチップは、専用にカスタマイズされたナビの分だけチップの種類があるのだ。もちろんロックマンのナビチップだって存在するし、マインも例外ではない。
『“ロックンロール”!』
『ぬっ──ぐぅおぉぉ!』
駄洒落のようなプログラムアドバンスではあるが、その攻撃力は冗談の
『コシュー……馬鹿な…!』
「コーホー……当然の結果だぜ」
『ホアー……君は一人、僕らは二人。戦いは数だぜ、ダークマン』
『俺を馬鹿にしているのか! 貴様らぁ!』
「はい」
『うん』
『こっ、ここっ、かっ…!』
「まあまあ、落ち着いて」
『短気は損気だぜ』
「君が何故セレナード様にも、そして僕らにも負けるのか……教えてあげようか?」
『なに…!』
「ずばり、君が悪者だからだよ」
『コシュー……なんだと…?』
『正義と悪。最終的に後者が勝ったままなんてことは、そうそうないのさ。世の中、正義の反対はまた違う正義だのなんだのとグダグダ言ってるけど、
『…正義……』
『正義ってのは──そう、僕が決めるものだ! ダークマン! お前は悪だ!』
『ふざけるなクソがぁ!』
「まあそこは冗談だけど、正義と悪と強さのくだりは真剣だぜ。本当の強さが知りたいなら──ダークマン。一万回くらい、誰かを助けてあげなよ。そうすれば、きっと僕の言ってる意味もわかるさ」
『…』
『わかるぜー』
『…本当だな?』
「もちろん。あ、その間に悪事を働いたら意味ないぜ?」
『…コシュー……ならば一万人を助けた後……再戦だ…』
「オーケー。楽しみに待ってるよ」
『頑張ってねー』
空間の歪みと共に消えていったダークマン……いや、その技術どうなってんの? 今度戦う時があれば、教えてもらうとしよう。しかし上手く言いくるめられてよかったぜ。
『しっかしさ、名前の割に素直だよねダークマン』
「まあセレナード様の条件も受け入れてたわけだし、勝者の言葉には従うべきって感じなんじゃないの?」
『かな? でも一万人救うとか、面倒すぎて僕なら絶対断るぜ』
「適当に言っただけだけど、意外と有効かもよ。善行とか人からの感謝って、意外と気持ちいいもんだしね」
『セックスにも繋がるし?』
「イエス」
ウイルスを蹴散らしながら先へ進むと、今度は新たなセキュリティシステムが立ちはだかった。かなり複雑なプログラムで構成されているようで、上の岩戸のように力技では如何ともし難い。時間をかければなんとかならないこともないが──
「マイン!」
『うん──っとと、ウイルスの対処しながらじゃ厳しいね…』
「うーん……“裏ランキング十位の証を示せ”か。この分じゃたぶん…」
『九位から二位までのセキュリティもありそうだね。どうする?』
「いったん退こうか。無理して通るより、ランキングに挑戦する方が安全だろうし」
『オッケー』
予想通りと言うべきか、メタなセキュリティは無かった──が、やはりセレナード様へ拝謁するには正攻法でいくしかないようだ。ウラインターネットかぁ……懐かしいと言うほど懐かしくはないけど、なんとなく古巣へ戻るような感慨深さを感じるな。うん、ついでにお金稼ぎでもするとしよう。
■
さて、ウラインターネットへ接続するにはどこからが手っ取り早いか──それはなんと言っても『科学省』。ともすれば敵対勢力とすら言えそうな両者は、実は出どころが同じである。インターネット
その特性上、悪人が多く集まるようになったのは予想外だったようだが……それが予想外だったのが予想外すぎるぜ。要はIPアドレスの開示やらなんやらも受け付けない場所であり、ダークウェブを閲覧するにあたって玉ねぎを使っているようなものだ。
まあそんなわけで、科学省に用意されているオフィシャル専用のアクセスポイントへ向かっているのだ。ウラインターネットへの接続に際し、いちいち申請しなければならないという手間はあるが、やはりセキュリティが段違いというメリットが大きい。
インターネットからPETへのハッキングというのも、この世界だとなくはないし、気を付けるに越したことはないだろう……特権というものは、使ってなんぼである。
メトロに乗ってサクッと移動し、駅を出た──ところで、DNNの撮影現場に出くわした。ちょうど終了したところのようで、機材の撤去が始まっている。
さすが近未来と言うべきか、機材の進歩が
そしてもう一つ重要なのが──そう、ネットバトルの腕前である。顔出しの多い芸能系など、要は人気商売の類の職業は、ネットバトルの腕が立つと人気が出やすい。
リポーター兼ニュースキャスターとして、飛ぶ鳥を落とす勢いの『緑川ケロ』さん。彼女の致命的欠点──『喋りが下手』という、なぜキャスターをやっているのか解らないレベルの欠点さえも、ネットバトルの腕が高ければ容認されてしまうのだ。
とはいえ、やっぱり容姿も大いに関係しているのだろう。カエルを意識した
「じゃ、今日は直帰させてもらいまーす」
「はーい! お疲れ様ですケロさん」
撤去作業も終わり、車が走り去り……普段着になったケロさんが一人残される。帽子のあとが残っていて、少し髪がペタンとしている。普段ならファンが殺到しそうなものだが、撤去作業中にほとんど人波が引いていたこともあり、通りは閑散としていた。加えて、特徴的な帽子を脱いだせいで気付く人間も少ないのだろう。
さかなクンさんが帽子を脱いだら、たぶんほとんどの人は気付かない……人間の認識なんてそんなもんである。普段が奇抜であればあるほど、認識の
「…あっ! アナタ、もしかしてオフィシャルネットバトラーの…」
「いえ、人違いです」
「あれっ、そ、そう? ごめんなさい……って絶対に合ってるでしょ!」
「ちっ」
「舌打ちされた!」
「いえいえ、そんなまさか。それでは失礼します」
「まだ何も話してないんだけど!?」
「すいません。マスゴ、マスコミの関係者の方とはあまり不用意に話すなと言われてまして…」
「マスゴミっ!?」
「ああ、そんなに自分を貶さないでください。誰もマスゴミなんて思ってませんよ」
「さっきのは!?」
うーん、可愛い女性ではあるのだが……彼女に近付くのはリスクが高い。身の回りを詮索された結果、『最年少オフィシャルネットバトラー! 夜のお相手は複数?』なんてすっぱ抜かれたらたまったもんじゃないし。ちょっとイタズラしようものなら『オフィシャルの実態! ~権力の暴走~』などと書かれるかもしれないし。
文化が発達すればするほど、ペンは剣よりも強くなるのだ。その上、彼女は数多いキャスターの中でもトップクラスに行動派である。静止を振り切ってでもスクープを優先するような気性も合わせ持っている。そして僕はと言うと、出自から女性関係までネタだらけの人間だ。ダムの一件のような緊急事態であればともかく、平時であればお近付きにはなりたくない。
「この前のダムの騒動……少年のおかげで社長賞とれちゃったのよー! アリガトね!」
「ああ、それはよかった。では失礼します」
「なんでこんなに嫌われてるの!?」
「いえいえ、それどころか大ファンですよ。では失礼します」
「ええぇー…」
君子危うきに近寄らずだ。正直な気持ちで言えば、彼女に『本番入りまーす(意味深)』とか言いたいところだが、ここはぐっと我慢である。背中にビシビシと視線を感じながら歩きだすと、前方から同僚がやってきた。あちらも僕に気付いたようで、片手を上げながらフランクな笑顔で話しかけてくる。
「おう、お疲れさん。さっきの申請、通しといたからもうプラグインしても問題ないぞ……しかしウラインターネットなんかに何しに行くんだ?」
「ありがとうございます。まあちょっとした帰省みたいなものというか、なんというか…」
「帰省ってお前な……ま、オフィシャルに入る前から入り浸っていたんだ。いまさら心配はいらんだろうが、気を付けるようにな」
情報部局長の彼は、フォルテさんとの戦いを見て僕をスカウトしたあの人である。戸籍の取得や住居の用意、その他諸々の面倒を見てくれた恩人でもあり、僕にとっては足を向けて寝られないお人なのだ。僕の頭をポンポンと撫で、去っていく局長。パパみを感じるぜ。
「──ウラインターネット!」
「うわっ!? まだいたんだ…」
「ほらほら、そんな嫌そうな顔しないで。ねね、いまからウラインターネットに行くんでしょ?」
「ええ、まあ。仕事の一環ですけどね」
「お願い! 同行させて!」
「では失礼します」
「遂に無視!」
「…同行させてトードマンがデリートなんてことになったら、責任問題ですから」
「責任は自分でとるわ」
「『客観的に見て』誰の責任かって話ですよ。ケロさんの熱狂的なファンが『ケロさんを悲しませたな!』とか難癖つけてくる可能性だってあるでしょう? 有名税があるべきとは言いませんが、影響力の高い人は自身の行動を
「そんなこといわずに~」
軽っ! 僕もたいがい軽い人間だとは自認してはいるが、それにつけても彼女の軽さはパない。僕が珍しく真面目な顔で諭しているというのに、いいじゃんいいじゃんって感じでお願いしてくる。これがマスゴミってやつか。
「だからダメなもんはダメですって」
「迷惑はかけないから!」
「もうこの時点で迷惑なんですけど」
「一生のおねがい!」
「小学生か! ──むっ…!」
僕の両手を握りしめ、
「ね? おねがい~」
「いやぁ……でもなぁ…」
けしからん、実にけしからん。なんともけしからんおっぱいだ。カップはCあるかどうかといったところだが、柔らかさがケロいぜ。まさかとは思うが、スポブラなのか? 考えるより先に行動する彼女なら、動きやすさを優先してそっちを着けるのもあり得るな。
ああ気持ちいい──っとと、だからといって彼女をウラインターネットへ同行させるのは、危険が危ない。名残惜しいが丁重にお断りしよう……と思ったんだけど、そう言えばゲームでも似たような状況になっていなかっただろうか?
うーん……『ケチ!』などと捨て台詞を吐いてふくれっ面で帰ったあと、自分一人でアクセスする姿が目に浮かぶ。ゲームシナリオ進行上、無理やりクソムーブをさせられたような感じだったが、いま面と向かって話していると『やらかしそう』な雰囲気はある。おっぱい気持ちいい。
「うーん…」
「…ダメ?」
「…じゃあ……正式な依頼ということであれば」
「どういうこと?」
「『ウラインターネットの危険度を周知させ、喚起するためのレポート』……そういうていでなら、こちらも上に申請できますし。正式な契約なら、責任の所在も確かになる」
「じゃあそれで行きましょ! しゅっぱーつ!」
「いや、DNNに許可とかいるでしょ…」
「雇用形態は業務委託だから、ポシャっちゃっても自己責任って感じ?」
「あれ、ケロさんって局アナでしょ?」
「売れっ子になってきたからフリーに転身したの!」
「意外と抜け目ない…」
グイグイと手を引っ張られ、科学省へと向かう。現場判断が多く、個人の裁量が大きいオフィシャルならではの申請スピードで、ケロさんの同行が認められた。AI管理が大部分を占めるだけに、昔の『お役所仕事』なんてものは無いに等しいのだ。
「じゃあ依頼料は百万ゼニーってことで…」
「ひゃくっ!?」
「もしくはほっぺにチュー」
「落差がスゴイ…」
これぞ『ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック』……本命の要求を通すために、あえて最初の要求を過大なものにするテクニックである。百万ゼニーに比べて、ほっぺにチューのなんと易しいことか。だがしかし──冷静に考えてみれば、売れっ子キャスターのキスなどいくら積んでも難しいものだ。この世界、枕営業なんてものもなさそうだし……となれば余計に貴重な機会だろう。
「最年少オフィシャルネットバトラーは、結構エッチな男の子……と」
「やっぱ取材は無しの方向で」
「ウソウソ! 冗談よ!」
「じゃあ報酬に添い寝をプラスということで…」
「ええぇ…」
「美人のお姉さんに甘えたい年頃なんです」
「うーん……でもウラインターネットの裏側を見れるなら……子供相手だし、いいかな……ぶつぶつ…」
お悩みケロさん。というかウラインターネットの裏側って、それもう表じゃね? …たっぷり数秒ほど悩んだあと、仕方なさそうに了承してくれた。思い切りのいい女性である。
契約が完了した後、オフィシャル用の接続端末がある個室へと彼女を案内する。しかしこうなるとわかってたんなら、もっと部屋をシャレオッティにしていたものを。
「じゃ、なるべくマインから離れないようにねトードマン」
『了解だケロ!』
「ケロさんもなるべく僕に密着しといてください」
「りょうかい! …ん? おかしくない?」
「──マイン.EXE トランスミッション!」
「ごまかすなー!」
『よろしくねー、トードマン』
『ケロッ!』
■
全体的に薄暗く、怪しい雰囲気が漂う『ウラインターネット』。いつ来ても陰気な場所だが、しかし僕にとっては糊口をしのいだ大切なエリアだった。オフィシャルナビになって色々わかったことがあるんだけど、僕が拾っていたマネーデータなどは、無から生まれたものではなかったらしい。
ウイルスに奪われたり、ナビのデリート時に飛び散ったマネーデータが、流れ流れてミステリーデータになっているのだ。つまり僕が貯めたお金は、誰かしらの犠牲によって成り立っていたらしい。まあ返す手段など存在する筈もないし、そもそも違法行為というわけでもないため、両手を合わせて感謝しておくことにしよう。
「いやぁ、トードマンがいると楽だねぇ」
「サポートはおまかせケロ!」
トードマンを守りながら進むのは面倒だ──などと考えていた、さっきまでの僕を叱りたい気分である。危ない時は自分で作り出した水パネルに隠れてくれるし、要所要所で『ショッキングメロディー』の麻痺攻撃によってウイルスを足止めしてくれる。オペレーターであるケロさんとのコンビネーションもバッチリだし、局アナNo.1ネットバトラーの腕前は伊達じゃないようだ……あ、今はフリーだっけ。
しかしトードマン……どの角度から見てもかわいいナビである。もちろん性的な意味ではなく、マスコット的な意味だけど。無印ロックマンのゲテモノっぽい見た目から、よくぞここまでブラッシュアップできたものだ。
「ケロッ……誰かいるケロ」
「あんまり目を合わせないようにね。触れるものみな傷付けたい年頃ばっかだから、ここ。絡まれるのも鬱陶しい──」
「へへへ、どうしたチビちゃんたちよう……子供型ナビに、お供のヌイグルミナビってか? ここがウラインターネットだってわかってんのかぁ…?」
「こっから先を通りたきゃ、通行料置いてきな!」
「おおっと、引き返すんならオレらが護衛してやるよ。料金は十万ゼニーだ!」
なんてわかりやすい悪役なんだ……とはいえ、ウラインターネットでは珍しくもない。もう少し奥まで行けばガチ勢が多くなるため、意外と治安は悪くないのだが──こんな入口付近だと、チンピラみたいなのがよく出る。『ウラインターネットの住人』というのをステータスかなにかと勘違いし、自らも新参でありながら特別な存在であると勘違いしがちな、いわば半可通とも言える者たちである。どの板でも猛虎弁を使っているような、痛々しい奴らと考えればわかりやすいだろう。
「ケロ…」
「下がってて、トードマン。君らも、悪いことは言わないから──」
「…ん?」
「待てよ、黒髪の子供型ナビ…?」
「こいつ、もしかして──」
「…え、なに?」
「──『M』だぁぁぁ!! 逃げろぉぉぉ!!」
「うわぁぁぁ!!」
「は? ちょっ、まっ…」
『M』? なんだよ『M』って。僕はどっちかと言うとSだし……『マイン』の『M』って言いたいんだろうか。しかしウラインターネットに常駐していた頃は、そもそもマインとすら名乗っていなかった。オフィシャルナビと気付いたから逃げた、というのも違うと思う。ああいうのは大体『オフィシャルがナンボのもんじゃい!』って絡んでくるし。
「うーん…?」
「すごいケロ! 一目散に逃げてったケロ!」
「うん……そう……だね…? なんかよくわかんないけど」
僕またなんかやっちゃいました? いや、ネタじゃなくマジで。うーん……うん。こういう時は、ウラスクエアの掲示板に限る。色々と危険な場所だけに、ヤバい情報は割と共有されてるのがウラインターネットというものだ。もし欲しい情報がなくとも、それと似通った……しかし間違ったネタを喜々として書き込めばいい。その書き込みをバカにしつつ、正しい情報をひけらかしてくれる人物が現れるのが裏クオリティである。
『ゴクッ……ここが裏のスクエアです。いま、わたくし緑川ケロとトードマンが闇に包まれたベールを剥がさんと…』
『カメラ回ってないですよ?』
『あっ、そうだった』
『ほら、危険だから離れないで』
『うん……って危ないのはトードマンたちでしょ!』
「マインのオペレーターは、ちょっと変わってるケロね」
「──いまのは聞き捨てならないぜ、トードマン」
「ケロッ!? で、でも…」
「『ちょっと』じゃない。だいぶ変わってるんだ」
「そこケロッ!?」
ジロジロ見てくる住人共を無視し、トードマンと連れ立って掲示板へと向かう。無数に乱立するスレッドから、警戒度の高い情報を共有する板を覗く。最新情報は……ふむふむ……表の住人に絡む裏の住人が、ここ最近よく狩られているとな。黒と紫が基調で、マントの色がたまに変化する……あ、ダークマンか。なんとも行動の早いナビである。
ふんふん……ははぁ……ほむほむ……闇のチップが出回り始めている、と。オフィシャルとしても早めに動いたほうがよさそうだ……あとは……ん? …これは…?
────────────────────────────────────────────────────
3: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:24:41.83 ID:EQUhjinKi
マネーデータ全部持っていかれた……なんだよあの子供型ナビ…
6: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:26:18.66 ID:OJNjin
最近流れてきたガキだろ? ミステリーデータ見つけたら、目の色変えて飛びつきやがるんだが……それがまた速えのなんのって
12: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:29:55.81 ID:PAlLcuk
噂によると新型のマネーデータ回収ウイルスらしいぜ
18: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:35:40.43 ID:EQUhjinKi
どこの噂だよ
22: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:41:55.83 ID:OhjJha
ガキだからっつって絡んだ奴が片っ端から返り討ちに合ってるらしいな
31: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:51:39.33 ID:HIUHguhkIG
俺もやられた……『悪人から巻き上げるのはセーフ。圧倒的セーフ』とか訳わかんねえこと言いやがって…!
37: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 16:55:49.12 ID:hkhHKnhNLk
まあ実際オレらがオフィシャルに訴えても笑われるだけだしな
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…うむ。悪人に人権はないって、リナ・インバースさんも言ってたからセーフだ。しかし割と最初から噂になってたのは気付かなかったな……他の板にも……ううむ、これは…
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238: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 01:59:49.11 ID:geyKOunkKO
また『M』が出たぜ……今月の被害者、何人目だ?
242: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 02:03:16.12 ID:KodGhHI
『M』ってなんですか?
247: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 02:11:55.11 ID:hghGHggG
わかんねえなら半年ROMっとけひよっこ
252: 裏表名無し 2XXX/XX/XX 02:15:31.33 ID:BHGHBcrt
『亡者』だよ……金の亡者。悪いことは言わねえから、会ったらなりふり構わず逃げな。ケツの毛まで毟られるぜ…
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なんて失礼なんだこいつら……僕はあくまでも、正当防衛の名のもとに返り討ちにしていただけである。ポケットでモンスターなゲームのトレーナーだって、勝負のあとは巻き上げタイムに入るじゃないか。それと一緒だ。あの頃は生活がかかってたのもあって、ちょっとだけ殺伐としていたかもしれないが、亡者とまで言われるのは心外だよね。
「そういえば、マインたちはウラインターネットになにしにきたんだケロ?」
「ん? ああ、そういえば言ってなかったっけ。色々あって『ウラランカー』の称号が必要になってさ、ちょっと取りに来たんだ」
「ウラランカー?」
「うーん……裏の十傑みたいな感じって言えばわかりやすいかな?」
「ケロッ……そんな『ちょっと取りにくる』ようなものじゃないと思うケロ…」
「ま、仰々しいのは名前だけさ。ガチの実力者は一位の『ウラの王』と、二位のナビくらい──」
『へっ、そいつは聞き捨てならねえな!』
「──誰だ!」
後ろから聞こえてきたオペレーターの声に振り向けば──そこには頭の上にチョロチョロと火を灯す、ロウソクのようなナビが腕を組んで立っていた。
ほら、ズボン履けよ。
下記の作品も同時更新しております。
オバロリ ※R18 オーバーロード二次
混譚~まぜたん~ ※全年齢 オリジナル
ほむら「ハーレムつくったら全部上手くいく気がしてきた」※全年齢 まどマギ二次
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10話
よいお年を。
あけましておめでとうございます。
──後ろを振り向いたそこには、頭の炎を勢いよく揺らめかせるファイアマンがいた。エグゼシリーズを通してよく出てくる『ヒノケン』さんのナビであり、ヒートマンになったりファイアマンに戻ったりと忙しい存在だ。オペレーターであるヒノケンさんの方も、敵だったり味方だったりと忙しい御方である。一つ確かなことがあるとすれば、物理的にも精神的にも熱い二人だということくらいだろうか。
「──ファイトマン!」
「ファイアマンだ!」
「おっと、ごめんごめん。それにしても、小学生にやられて豚箱に突っ込まれてた負け犬がどうしてここに?」
『喧嘩売ってんのかテメェ!』
『マイン! いくらなんでも失礼だぜ。すいません、ヒノケンさん……ところで、子供型ナビにやられてデリートされた雑魚がどうしてここに?』
「き、貴様…!」
「そりゃ言い過ぎだよ宙。ごめんねファイアマン、オペレーターに代わって謝るよ」
『うんうん、僕もマインの代わりに謝ったから…』
「これで両成敗だね! じゃあ改めて、どうしたんだいファイぅぉわぁっ!? 危なっ!」
『へっ! 光熱斗と同じで、いけ好かねえガキだぜ…!』
『いきなり攻撃はひどくない? 度が過ぎると牢屋に逆戻りだぜ』
『ケッ、好きにしやがれってんだ。テメェらのせいでこっちは路頭に迷ってんだよ』
「…ん? どうせまたWWWに身を寄せてると思ってたけど……違うのかい?」
「新しいWWWは毛色が違うんだよ…! ワイリー様と袂を分かったヒノケン様が、どれだけ辛酸を嘗めたか……貴様にわかるか?」
「自業自得でしょ。安易に犯罪に走るから身を崩すんだよ。行く宛がないならないで、ミステリーデータ漁るとか悪人から巻き上げるとかすればいいのに」
『へっ! そこまで惨めになれるかよ!』
『えっ』
「えっ」
…もしかして、僕らがやってた行為って結構アレなのだろうか。ルンペンさんとか、そっち系の素行だったんだとしたら……うーん……いや、身寄りのない子供だったからセーフ。セーフ以外のなにものでもない。大人が空き缶拾いをやっていたら世間の目は厳しいだろうが、子供がやっていれば大抵は同情の方が強くなる筈。
「…そっか……惨めだったのか…」
『惨め…』
「…」
『…』
『い、いや……惨めは言いすぎたかもしれねぇな……つーかどんな生活してたんだお前…』
やさお~。こういうところが憎めないんだよね、ヒノケンさんって。しかし『新生WWWは毛色が違う』……か。戦力という点において、ファイアマンは文句なしの破壊力を秘めている。それを受け入れなかったという事実は、何を示しているんだろう。
──そう言えば、新しくWWWに下ったと推測される人材は、研究畑の人間が多かったっけ…? 戦力よりも頭脳を集めているのか……まだ何とも言えないが、上には報告しておくとしよう。戦術レベルならともかく、戦略レベルともなればナビ一体の働きではそうそう覆せない。詰みになってから後悔しても遅いしね。
「…あ、ファイアマンの持ってるそれってもしかして…」
「ふん、やっと気付きやがったか。そうさ──今はオレがウラランク四位だ」
「ありがとうございます!」
「なんの礼だ!」
「五十万ゼニーでどう?」
「お前ほんとにオフィシャルナビか!?」
『どうせさぁ、ウラランカーになればドクターワイリーが見直してくれるかも……なんて、そんな感じでしょ? 無駄無駄、無理無理無理のカタツムリだよ。だったら僕に売ったほうが、まだマシってもんさ』
『んだとぉ…!』
「ファイアマンの強さはオフィシャルも認めるところだぜ。それが必要ないってんなら、欲しがってるのは戦力じゃなくて頭脳ってことでしょ? ならヒノケンさんがすべきは、強さの誇示じゃなくて勉強だよ」
『っ……確かに……そうかもしれねぇがよ…』
『ドクターワイリー程の研究者が求めるレベルだし、最低でも助教くらいの教養は必須だろうけど……ヒノケンさん、最終学歴は?』
『おいおい、なめてんじゃねぇよ。これでも大卒だぜ』
『ランクは?』
『…』
『…』
『…五十万ゼニー』
『…売った』
『えっ?』て表情のファイアマンからウラランクの証をいただき、代わりに五十万ゼニーを渡す。WWWから見捨てられ辛酸を嘗めたと言うからには、碌な生活を送っていないのだろう。ミステリーデータ漁りをしたくないというなら、稼ぐ手段は限られる。前の世界ほど前科者に厳しいという訳ではないが──脛に傷を持ってるだけならともかく、ガラの悪いオッサンを雇いたい人はいないだろう。きっとカネコマ状態だろうな、というのは容易に推測できた。
『職にあぶれてるんなら、丁度いいとこ紹介できるけど……どう?』
『へっ、このヒノケン様に向かってまともな職に就けってか──オレにもプライドってもんがあるんだよ。弱え奴の下につく気はねぇ』
『ああ、そりゃ丁度いいね。上司はまどいちゃんだし……少なくとも、同格の幹部だったんでしょ?』
『なに…?』
驚いているヒノケンさんに、宙がまどいちゃんとのアレコレを話し、ブティックの従業員が足りていないことを伝える。前WWW壊滅はアイツのせいかと憤りつつも、ヒノケンさんはその話に興味を持ったようだ。幹部の中でも、捻くれ具合には定評のあったまどいちゃん。そんな彼女が更生し、あまつさえブティックの経営などに手を伸ばそうというのだ。気になるのも当然だろう。
『ま、オーナーは僕だから──実質的には僕の部下になるのかな。“弱え奴”かどうか……試してみるかい?』
『はっ、ははっ…! ──そいつぁ……熱い誘い文句じゃねえか!』
ヒノケンさんの笑い声が響き、ファイアマンも臨戦態勢に入る。宙の魂胆は、まどいちゃんにやった事の焼き直し……要は実力と言う名の上下関係をはっきりさせておくつもりだろう。どのみち戦うんだったら、五十万ゼニー払う必要なかった気がするけど。まあ成り行きだったし、仕方ないか。
「──いくぜ、ファイアマン」
「おうよ! 燃えるぜぇぇぇ!!」
威勢のいい掛け声と共に、噴出した炎が一直線に向かってきた。速度は大したことない……が、見た目以上に効果範囲が広い。炎に直接当たらずとも、近付くだけでダメージが入りそうだ。なにより、ゲームと違って一方向に垂れ流しなんてことはあり得ない。
こちらが大きく動こうとも、ファイアマンにとっては腕の角度を少し傾ければ追尾できるのだ。厄介なことこの上ないぜ……とはいえ、弱点がないと言うわけでもない。通常のバスターと違い、炎は発射してから到達するまでタイムラグが大きいのだ。
「よっ──っとととっ…!」
「チッ、ちょこまかと…!」
「──よし、とつげきー!」
『あいさー』
「…なっ!?」
苛立ったファイアマンが横薙ぎに炎を払った──その瞬間、僕は彼めがけて突進する。大ダメージ必至の無謀な行動に、驚愕をあらわにするヒノケンさんとファイアマン。しかし炎に巻き込まれる直前、インビジブルが発動して攻撃をすり抜ける。そのままフミコミザンで切り払いながらファイアマンの横を駆け抜け──返す刀でフミコミクロスをぶち当て、バトルは終了した。
僕のバトルに瞬殺が多いのは、こういった『セオリーではありえない行動』が多いからこそである。“パーフェクトフルシンクロ”は、オペレーターにナビの行動を瞬時に把握させ、意志疎通の必要すらなくなるほどの完璧な連携を約束してくれるが──逆もまた然りなのだ。オペレーターが次にどのチップを使えるか、どのタイミングで使うかは僕の方でも把握できる。完全なる同調がもたらすタイムラグのない状況判断は、僕たち以外の人には無謀としか映らないのである。
『僕の勝ち……ってことでいいかな?』
『…ちっ! ──まぁ仕方ねぇ……約束は約束だからな。飽きるまでは付き合ってやるよ』
『いやぁ、助かるよ。じゃあオーナーとしての業務命令……一刻も早く、まどいちゃんの仕事を邪魔してくれ』
『退職願いは人事宛てでいいか?』
『──つい先日、僕は倉庫で恐ろしいものを見たんだ…』
『お、おう…』
『大量に仕入れられた、水玉模様の赤いオーバーオール…! サーカスか、それともクリスマス商戦用にデパートから大量注文でも入ったのかって僕は聞いたんだ』
『あ、ああ…』
『そしたら“次の流行はあたしが作るのさ”なんて言うんだよ。信じられるかい? 赤の! 水玉の! オーバーオール! プライド王女がそれ着て来日しても、絶対に流行らないよ』
『だろうな…』
『半年持つかも怪しいぜ、あの店……ってわけで、君にはまどいちゃんの壊滅的なセンスをどうにかしてほしいんだよね』
『無茶言うなよ』
『ファイアマンもヒートマンもヒノケンさんがデザインしたんでしょ? そのセンスでなんとかしてくださいおねがいします』
『悲壮感こもってんな……つーかなんでヒートマンのこと知ってんだお前』
『オフィシャルなので』
『答えになってねーよ……ま、ガキでもオーナーはオーナーか。頼まれてやるよ』
『よろしくー。あ、給料は応相談で』
ヒノケンさんと宙が話している間、ナビ同士でも交流を深めた。ファイアマンも一応ヒールナビではあるが、性質で言えば陽キャのヤンキー的な位置付けだ。一度仲良くなってしまえば、気のいい兄貴分的な側面が強い。トードマンはもろに可愛い後輩系だし、割と相性は良いんじゃなかろうか。
「そんじゃなんだ、お前……『S』に会いたいってだけでウラランク上げてってんのか?」
「うん。これも愛のなせるわざってやつだね」
「会ったこともない愛ってなにケロ?」
「そりゃぁ……ミーハー根性ってやつだね、うん」
「どのへんが愛なんだオイ」
「アイドルに『好き好き、大好き!』とか言ってる人とかいるでしょ? そんな感じの愛さ」
「熱さの欠片もねぇな…」
「実際の人となりも知らないのに、本気で愛せるとかありえないでしょ。最初は好奇心、次があったらフレンドシップ、行くところまでいきゃ愛情さ」
「意外とドライだケロ…」
「トードマンってさ、美少女カスタマイズとかないの?」
「冗談でもやめてほしいケロ!」
そんな感じでお喋りに興じていると、ようやく雇用条件などの詳細が纏まったようで、オペレーターズからお声がかかった。ヒノケンさんとファイアマンいわく、ウラランキング三位の座についているのは『コピーマン』だそうだが……その居場所はまだ掴めていないらしい。
『奴は必勝を確信するまで姿を現さねえらしくてな。掲示板やらなんやらで、オレ達がアイツを狙ってるってのは知ってるだろうが…』
「──ああ……よーく知ってるぜ。元WWW幹部の『ヒノケン』と、そのナビ『ファイアマン』」
『むっ…!?』
最近は話の腰を折って登場するのが流行っているのだろうか? いくら裏とはいえ、スクエアでの戦闘はご法度だというのに、僕らへ向かって歩いてくるナビたちはやる気満々だ。それすなわち、横暴がまかり通るほどの強さと地位を兼ね備えているということだ。
『あれは……なんか見たことあるな……えーっと…』
「あ、もしかしてダイブマンじゃない?」
「ほう、よく知ってるじゃねえか坊主。その通り、
「ウッス!」
「へへ、久しぶりだなファイアマンよぉ…!」
「テメェのせいでウラランカー落ちしちまった恨み、晴らさせてもらうぜぇ!」
ダイブマン……と思いきや、ダイブマンの性能をコピーしたコピーマンのようだ。その周りにはヒールナビが三人、僕たちを逃がさないように広がっている。セリフからして、元ウラランカーなのだろう。彼らのような存在を見ていつも思うんだけど、量産型ナビでありながらランカーに至るのって地味に凄いよね。僕やロックがνガンダムだとすれば、彼らはジム……いや、ジムは言い過ぎか。そう、ジェガンくらいの性能なのだ。
「あぁん? …ああ、どこかで見たと思ったら四、五、六位の雑魚どもか──おおっと、“元”をつけ忘れちまった」
「おいおい、ファイアマンよ。ずいぶん余裕じゃねえか……逃げられるとでも思ってんのか?」
「逃げるもなにも、オレはもうランカーじゃねえからな。現ウラランカー四位は……コイツさ」
「なにっ!?」
「へへ、こちらが最強のナビと名高いトードマン様よぉ…! 先生! やっちまってくだせぇ!」
「ケロッ!?」
「ほう……まさか人気アナウンサーの持ちナビがウラランカーとはな。ファイアマンには相性で勝ったのかもしれんが──地力でオレに勝てると思うなよ!」
「ケローーーッ!?」
「…ランカーじゃなくなったってんなら丁度いいぜ! コピーマン様に譲る必要もねえ──行くぞオラァァ!!」
「ケッ! 燃えカスが徒党を組んだところで、火種にもなんねえよ!」
「トードマン様! 周りの雑魚は僕たちに任せてください!」
「おかしいケロ! 違うケロ! ──来ないでほしいケローー!」
四対三ではあるが、こちらには雑魚殲滅に定評のあるファイアマンがいる。大火力の火炎放射が火を吹き、前方の敵全てをまとめて薙ぎ払う。そして呆気なくやられるヒールナビたち……お礼参りと言うなら、対策とかしてくればいいのに。まあそれはともかく、炎に紛れて地面に潜り込んだコピーマンがちらりと見えた。いつのまにかフィールドは水にまみれ、水面下には
「がんばれ、トードマンさま…!」
「いい性格してやがんな、お前…」
「見てないで助けてほしいケロー!」
「だってさ、ファイアマン」
「ったく、しょうがねぇな……おいコピーマン! 弱点をついた程度でオレに勝とうなんて──百年速えんだよ! “フレイムサークル”!」
──おぉう。そこかしこから炎の柱が立ち昇り、凄まじい熱気が周囲を覆い尽くす。蛇のようにうねり、水面に突撃していく炎……一見すると無駄な行為のようにも見えるが、その効果はすぐに表れた。爆発的に水蒸気が広がり、水面がぐらぐらと煮立ち始めたのだ。
「熱いケロー!」
「ぐぁっ熱っちゃちゃっ!!」
「──隙あり! “アクレツザン”」
「ぐぁっ…!? ──ぐぅぉおお!!」
熱に耐えきれず飛び出してきたコピーマンを、フミコミザンとパラディンソード、フミコミクロスの連撃PAで滅多斬りに刻みつける。そしてデリート寸前のところで攻撃を止め、そのまま剣を突きつけた。
「トードマン様の恐ろしさが理解できたか? ならばウラランク三位の証を寄越してもらおうか……それと二位のナビの居場所を吐け!」
「いい加減にするケロー!」
「アバババッ!」
『アバババッ!』
シ、シビれたぁ……ショッキングメロディーってこんなに痺れるのか。現実世界の宙も連動してビクンビクン跳ねたようで、ケロさんが慌てふためいている。そしてそのまま彼女の胸元に倒れ込んだ手際は、見事の一言に尽きる。僕も真似したいところだが、悲しいことに女性型ナビが近くにいない。ちくしょう。
「はぁ……はぁ……くそ、このオレとしたことが…」
「後生大事にウラランクなんて守ってるから、こすっからいやり方でしか勝てなくなるのさ。猿真似を完璧にしたって、オリジナルは超えられないぜ」
「くっ…」
悔しげに呻くコピーマンから三位の証を頂戴し、ついでに二位の居場所も聞き出す。ナビの特徴を聞く限り、おそらくは『ミストマン』で間違いないだろう。ウラランクとは基本的に変動が激しいものだが、一位と二位だけはここ十年──というか、ランキングができた当初から不動らしい。気を引き締めてかからないと、デリートされる危険性すらある……あるが、セレナード様に会えるのならそのくらいの危険は仕方ない。可愛い褐色っ娘は貴重なのだ。そしてそれが電脳世界ともなれば、もはや絶滅危惧種である。
『光しょうねーん! 死んじゃダメー!』
『うう……悪いんだけど、
『びょ、病院じゃなくていいの?』
『ちょっと横になれば大丈夫…』
『わかったわ! トードマン、タクシー会社にアクセスして!』
「了解だケロ!」
…ううむ、転んでもただで起きないのは流石だ。年上のお姉さんに看病してもらえるとか最高のシチュエーションじゃんね。あわよくばエッチな展開になれば万々歳といったところだろうが……まぁ僕の性格を考えるに、ケロさん相手だともう少し慎重に進めるかな。存在そのものが拡散する波動のような女性だし、気を付けるに越したことはないだろう。さて、今日はもうウラインターネットに用はないし、プラグアウトするか。
■
僕の家には、基本的に無駄なものがない。装飾品に凝るタチでもないし、必要最低限のものしか置いていない。まどいちゃんも服にはこだわってるけど、部屋の内装とかには割と無頓着である。そんな僕の家だが……一点だけ異彩を放っているものがある。茶の間に掛けられた、高価そうな掛け軸がそれだ。実際に割とお高い一品なのだが、もちろん僕の趣味というわけではない。
デンサンシティのとある骨董品屋で、勧められるままに購入した掛け軸なのだ。いやまあ、とあるも何もみゆきちゃんの骨董品屋なんだけどさ。友達がいない彼女の寂しさを紛らわせるために、ちょくちょくと遊びに行ってたんだけど──あまりにも客がこないから、心配した結果がこれだよ。
店も品物も祖父から受け継いだものらしく、相続税以外は特にかかっていないが……それにしたって、実質的な収入が『占い』の料金だけってのは酷い。古物商許可は流石に取ってるようだけど、そもそも目利きの経験を積んでいるわけでもなく、仕入れのルートや人脈を受け継いだわけでもない。ぶっちゃけると完全に道楽である。
しかし道楽が許されるほどにお金持ちなのかと言えば、それもまた否である。遺産を食いつぶしつつ細々と経営している状態であり、いつの日か破綻してしまうのは間違いないだろう。まあネットバトルの腕もあるし、魂が見えるとかいう異能もあるから食いっぱぐれることはないにしても──友人として心配するのは当然だ。
「だからね、みゆきちゃん。もう少しコミュニケーション能力ってのを鍛えるべきだと思うんだよ。その喋り方がキャラ作りってのは知ってるけど、キャラ作ってない状態でもキャラ作ってんじゃないかってくらいクールだぜ──こう、なんというか……コミュ障っぽいとことか」
「キャラなんて……作ってない……コミュ障でもない…」
「ならもうちょっと人間関係広くしようぜー。骨董品店なんてさ、人脈の必要レベル激高だと思うよ? 常連さんとか作らなきゃいけないタイプの業種だろうし…」
「問題ない…」
「そもそも僕以外に友達いるの?」
「…」
スカルマンにPETの電話履歴とメールボックスを見せてもらうと、予想通りのお察し具合であった。というか業者とのやりとりがまったくないんだが、本当に経営者なのだろうか。いやまあ、どちらかと言うと占いが本業みたいなとこあるけどさ。
占い師として、店にいる間はミステリアスなキャラを貫き通すのが彼女流らしい。とはいえ、元の性格も大して変わらないと最近わかってきた。セリフの間に『…』を入れるか入れないかくらいの違いである。人付き合いは苦手で、少なくとも自分から友人を作るような行動には出ない。
「好きなことだけして生きてくのって、割と難しいよ? 働かなくても生きてけるくらいお金があるならともかくさ。結局先に苦労するか後で苦労するかの違いかもしんないけど……おんなじくらいの苦労でもさ、若い時の方が楽に感じるもんだぜ」
「…小学生のセリフじゃない」
「みゆきちゃんは魂が見えるんだろ? ──
「見える」
「見えるんかい」
おかしい。大人っぽさに定評のある僕が、小学生の魂と変わりないなんて……はっ! もしかしてこの世界に転移した際の変化は、若返りなどではなく──実は魂の形に則した姿を得たとかだったのだろうか。うーん……いや、きっと脳年齢が若いってことだろう。そうに違いない。人は幼児期がもっとも頭が良いらしいし、そのあたりの関係で小学生となったに決まってる。そうだそうだ……そうだといってよバーニィ。
「ま、後になって後悔だけはしないようにね。たまには商売っ気くらい出して、どっかに売り込みなんかするのもいいんじゃない?」
「わかった……こちら、空気清浄機能付き曜変天目茶碗となっております……お値段二百万ゼニー…」
「この前に掛け軸買ったばかりでしょ。というか……空気清浄機能を付けた茶碗に突っ込めばいいのか、曜変天目に突っ込めばいいのか、値段に突っ込めばいいのか…」
「今なら私の胸も触れる…」
「買った」
出会った時のやり取りから、僕とみゆきちゃんの間でよく冗談に使われる『胸を触る』云々。実際に触ったことはまだないが、そろそろ次のステージに移行する時がきたんじゃないだろうか。下品に言うなら、色々お触りできるくらいには気の置けない仲になったんじゃないだろうか。
ちなみに掛け軸を買った時は、膝枕のオプションが付いていた。そしてその日以降、特に理由がなくとも膝枕くらいはしてくれるようになった。ということは、この茶碗を買うことでいつでもおっぱいを触れるようになる可能性が無きにしもあらず。
「…っ」
おそらくは冗談のつもりだったのだろうが、自分のPETに二百万ゼニーという大金が送金されるのを見たみゆきちゃんは、ギクリと身を揺らして固まった。お金で体を売るような彼女ではないので、これは単なるきっかけ作りである。みゆきちゃんはクールビューティーであるものの、懐に入ると脇が甘いところがあるのだ。お着替えシーンとか普通に見せてくれる……まあ小学生の視線なんて気にしないって部分もあるだろうけど。
「支払い完了っと。じゃあ商品の方を…」
「…まいどあり」
「いや、そっちじゃなくておっぱいの方を…」
「………本当に触るの…?」
「──もちろん
わきわきさせていた手を止め、冗談交じりに肩をすくめる。そしてそのままみゆきちゃんの膝を貸してもらい、柔らかな感触を楽しみながらテレビ番組に目を向けた。二百万ゼニーという大金は、よく解らない茶碗に変わるだけの結果となった……なんてことは、勿論ない。
番組の合間合間にちらちらみゆきちゃんをうかがうと、なんだかソワソワしている様子が見て取れる。僕に胸を揉んでもらいたい──ってのとは少し違う。『あんなものに二百万ゼニーを払わせた』という一種の後ろめたさが、彼女を動揺させているのだろう。元から値段が二百万ゼニーだったのは確かだが、こんなもの誰が買うんだという考えは彼女も持っていたに違いない。
冗談だったとはいえ、胸を揉ませるというオプションを言い出したのはみゆきちゃん自身である。善人であればあるほど、多くを貰いすぎることに罪悪感を覚えるのは当然だろう。このムーブメントこそ『
しかし『金を払ったんだから揉ませるべき』と強硬に動けば、下卑た欲望は隠しきれず、僕への不信も形になってしまうだろう。今までエロムーブをかまさなかった訳ではないが、それは『子供のスケベ心』という、一種微笑ましいもの程度に抑えていた。だがここで無理に押すと、それはリアルな性欲を感じる──ともすれば嫌悪感を助長させる結果となってしまう。
しかしこのやり方なら、失敗したところで信用は失わない……お金は失うけど。女の子にエロいことをしたいのならば、北風よりも太陽にならねば成功しないのだ。おっぱい揉みたい。
「…」
「おっ、デンシレンジャーにホワイトが……新キャラだぜ、みゆきちゃん」
大好きなデンシレンジャーの新展開にも大した興味を見せず、なにやら考え込んでいるみゆきちゃん。『おっぱい揉む?』とか言い出してくれるのかな。そこで更に一歩退いてみるか、踏み込んでみるか──雰囲気の読み方が試されるな。
「…眠い」
「…えっ?」
「眠いから……寝る…」
予想外すぎて返答に困るんですけど。もう寝るから帰れということなのだろうか。もしや邪心を隠しきれていなかったのか……ううむ、しまった。それはつまり、今までコツコツ築いてきた親愛も半壊したということになる。エロ抜きにしても、みゆきちゃんは大切な友達だ。仕方ない、エッチな関係は諦めて友達付き合いしていくことにしよう。
「すごく眠いから……絶対に一時間は起きない…」
「…ん?」
「…」
それ以上言葉にすることなく、みゆきちゃんは座布団を枕にして仰向けになった。色気のない灰色のスウェットが少し捲れて、腹部があらわになっている。電灯の光を遮るように、片腕で両目に蓋をしてしまったが──頬も耳も真っ赤になっている様子が見える。
ふむふむ、なるほど……え? 可愛すぎて頭おかしくなりそうなんですけど。おっぱいだけで済ませられる気がしない。しかしやりすぎて嫌われるのも避けたい。生殺しというのはこのことだろう。とりあえず右手をそろそろと動かし、みゆきちゃんのお腹に触れる。
「…っ、ん…」
少しだけビクリと震えたが、気にせずに撫で回す。しっとりと指に吸いつく肌は、若い女性特有のきめ細やかさを感じさせる。お腹を触ったという、たったそれだけのことなのに──どこか熱さを感じさせる吐息を零し、何かに耐えているみゆきちゃん。耳たぶまで真っ赤になっていて、心臓の鼓動がこちらまで聞こえてきそうだ。
外出時以外ノーブラということはリサーチ済みなので──見りゃわかるけど──ホックを外す手間もない。いよいよスウェットの中へ手を潜りこませると、思わずといった風にみゆきちゃんの腕が僕の手を掴む。
「…っ」
しかし先ほど自分で言った言葉を思い出したのか、掴む力はすぐに弱々しくなった。僕はその手を掴み返すと、恋人繋ぎにして掌の感触を味わう。子供の僕と大して変わらない大きさで、指の細さはそれ以下だ。
安心させるように、強弱をつけて握り続ける。しばらくそうしていると、みゆきちゃんの緊張がほぐれていく様子が見て取れた。体もすっかり弛緩しきっちゃって、警戒心のない小動物を前にした心境である。両目は未だに腕で塞がれたままだが、逆にそれがエロい。素人投稿モノによくある、手のひらで目だけ隠してる系のエロさだ。
さて、みゆきちゃんの緊張も緩んだところで続きといこう。スウェットに手をかけ、少しづつ上に捲りあげていく。またぞろ彼女の体が少し固くなったものの、先程とは雲泥の差だ。問題ないと判断し、続行する。
仰向けの状態では、背面が非常に捲りにくいが──僕が四苦八苦していることに気付いたのか、少しだけ体を浮かしたみゆきちゃん。ぐっすり寝ている筈なのに、まったく献身的なことだ。
そうして露出した彼女の胸は、仰向けだというのに崩れておらず、張りのある形を保っている。普通はシリコンでも入れなきゃこんな状態で美乳は保てないだろうが……さすが創作を元にした世界。男の理想を壊さないぜ。
「ひぅ、んっ…」
小ぶりのお椀のようなみゆきちゃんの胸を、手で覆うように触れていく。女性の胸とはそもそも性感帯ではないが、開発して後天的に興奮を得ることはできる。とはいえ今までセックスしてきた娘たちの反応を考えると、この世界の女性の胸は性感帯としか思えない。
それを示すかのように、みゆきちゃんの興奮も徐々に高まっている。固くなった乳首をキュッとつまむと、声にならない声が喉にくぐもった。快感に耐えるように口元が引き結ばれているが、その様子がなんとも可愛らしい。
昂ぶりが最高潮に達したのか、ふにゅふにゅと胸を触るだけで、身を捩らせるまでに感覚が鋭くなっているようだ。内股を太ももで擦る姿が、実に淫靡である。
そんな状態をしばらく続けた後、僕は唐突に乳首を抓り上げた。緩い刺激に慣れきっていたみゆきちゃんの体が、ビクンと跳ねる。それと同時、達した様子もうかがえた。乳首だけでイクなんて、栗田さんだけだと思ってたぜ。
「…っ……ぅ、んっ…」
息を荒げるみゆきちゃん……スウェットと同じ色をしたズボンには、黒い染みができている。雌のフェロモン臭とでも言えばいいのか、男を興奮させる香りが部屋に広がる。さっきから勃起しっぱなしだった肉棒が、更に硬さを増していくのがわかった。
ここまでいけば大丈夫だろうと、みゆきちゃんの上体を抱き起こす。口の端から零れた唾液を舌で掬い取り、そのまま唇を重ねて舌を絡ませる。くちゅくちゅとイヤらしい水音が部屋に響き、僕たちはお互いの口内を
そのまま腕をみゆきちゃんの下半身に伸ばすと──ようやく目を開いた彼女が、その腕をガシリと掴んだ。
「…みゆきちゃん?」
「…一時間、経った」
「えっ」
えっ。
「…今日はおしまい」
「そ、そんな殺生な…」
箪笥からゴソゴソと着替えを引きずり出し、ふすまを開けて部屋を出ていくみゆきちゃん。ギンギンになった僕の息子は、いったいどうすればいいのかと途方に暮れていると──ふすまがほんの少しだけ開き、みゆきちゃんの瞳が覗いた。
「…次は……三百万ゼニーの壺を仕入れておく…」
「お高すぎるんですけど!」
「
「予約します!」
そっとふすまが閉じられる。よくは見えなかったけど、頬と耳はさっきよりもずっと赤かったように感じた。ううん、手玉に取ったようで手玉に取られた感。しかしみゆきちゃんの体を好きにできるのなら、
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11話
その過程で何故かたま子さんとのエロが入りました。
さてさて、性生活も中々に充実してきた今日この頃。学校生活も仕事も特に問題なく送っているわけだが──やはりそうなると、『刺激』というものを求めるのが人間の
そして現状はと言うと、実は丁度いい塩梅の刺激が僕を待ち受けていたり。デンサンニュースネットワーク……通称『DNN』が主催し、伊集院PETカンパニーがスポンサーを務める『N-1グランプリ』。そう、トーナメントでテコ入れを図るのはジャンプの伝統である。いや、最近はそうでもないか…?
以前にやいとちゃんと約束したこともあり、出場するのは決めているのだが──プロデューサーの砂山さんがWWWに入っていないせいか、予選内容や時期はかなり変化しているようだ。ゲームの朧げな記憶を頼りにするのもあれだが、流石に校外学習まで終了して予選も始まってないってことはなかった筈。
WWWの目的はいまだ看破できていないが、彼等だけにかまけている訳にもいかない。犯罪組織は他にも沢山あるし、特に現状でもっとも注意すべきは、ワイリーお爺ちゃんよりも『ネビュラ』の方だ。ダークチップなんてものを流通させるクソ中のクソ共……僕の中の正義が、彼らを絶対に許してはいけないと叫んでいる。僕に実害が出ているからとかそういう理由じゃなく、あくまで正義感による憤りだ。あくまで。ほんとに。
だってほら、大した力を持っていないナビが急に強い攻撃をしてきたりするんだぜ? ほんとに危ないの。ダークチップだけあって威力も攻撃範囲もちょっとおかしいし……さっさと根絶しないと、生きた心地がしないぜ。それに、押収したダークチップを僕自身が使ってみたいなー、なんて思っちゃうこともあるし。
『ダークチップヲツカイナサイ…』
くっ……ほら、また幻聴が聞こえてきた。まるでエグゼ4のCMを聞いているような気分だ。脳内に響く誘惑……いや、脳内っていうかすぐ傍から聞こえてくる気がする。具体的に言うならポケットの中のPET辺りから…!
『ツヨクナリタインダロウ…? ダークチップヲツカイナサイ…』
「使っちゃダメェー! …って、やめてくれない? マイン」
『いやー、目の前にあると一回くらいなら……ってさ。ほら、また勝手にフォルダに入ってるし』
「ダメダメ。どれだけキメセクが気持ちよかろうが、薬に頼っちゃ負けなのさ。それと一緒だよ」
『とりあえず、チップフォルダに侵入するプログラムの対策はとっとかなきゃだね……選択ミスで使用とか最悪だし』
「でも、マインがダーク化したら僕にどう影響が出るかは気になるよね」
『うーん……所かまわず女性に手を出す、強欲で金にがめついクソ野郎になるとか…?』
「やだ、怖いわ」
『変わっとらんやないかーい! …ってツッコミは?』
「変わっとらんやないかーい!」
『遅っ』
「でもそろそろさ、どっちがボケ役でどっちがツッコミか決めとかないとマズいと思うんだ」
『なんで?』
「ほら、Nー1グランプリと言えば”アキンドシティ”から彼がくるだろ?」
『あー……なるほど』
キングマンのオペレーターであり、こてこての猛虎弁を使うアキンドシティの猛者……名前はトラキチくんだったかな。関西弁を使用するキャラが非常に少ないロックマン界隈において、カマセとツンデレと友情パワーをも使いこなす濃い御方である。関係ないけど、関西弁の強キャラってカマセ率が凄いよね。
「そういや一次予選ってどうなってるんだっけ?」
『B級以上の市民ネットバトラー、もしくはそれに類する資格を有する者は免除……だね。もちろん僕らは免除。かなり参加人数も多いみたいだし、さっさと絞り込みたいのかな?』
「そりゃあ結構。賞金も出ることになったし、頑張らないとね」
『“優勝する自信がないから賞金無しなんすか?”なんて炎山くんに言うから…』
「流石に副社長ともなると、賞金設定する権限くらいはあるみたいだね」
まったく、持つべきものは金持ちの先輩だぜ。というか、よく考えたら周囲の人間がすごい人ばっかでちょっとアレだな……やいとちゃんは本人も才女な上、家は言うまでもなく大富豪。
熱斗くんはネット社会を牽引する技術者の一族で、本人は凄腕のネットバトラー。デカオくんもなんか市長とかになってたっけ…? うーむ……僕がオフィシャル局長にでもなれば、ニホンを裏から支配することも可能な気がしてきたな。
『まあそんなことより、今はセレナード様に集中したいとこだけど』
「わかってるって。ただ、ガチで命の危険があるかもだし──ちょっと及び腰になるのは仕方ないだろ?」
『褐色ロリのためなら命もかけられる……それが僕らじゃないか』
「でも実際にお近付きになれるのはマインだけだしぃ…」
『あ、ムカ! 今まで宙のために骨を折ってきたのに、いざ僕の段になってソレはどうなの?』
「うっ……いや、やるよ。やるともさ。でもほら、ヤーさんの女に手を出すくらいの危険度じゃん? 覚悟決めてかからなきゃってね」
既にミストマンと戦ってウラランクは二位にまで上がっている状況……マインの言う通りいつでもいけるし、そもそもそのために今『よかよか村』まで来ている訳だし。気分的にはエベレスト登頂に挑戦するくらいの感じである。地味に死亡率も高いやべぇ挑戦だが、しかしマインより僕の方がセックスライフを満喫している以上、この程度の危険は許容しなければ申し訳ない。
──店仕舞いの準備を始めている屋台の並びを進み、うらかわ旅館へと向かう。坂を登ったところで目に入ったのは、こちらも店仕舞いしかけている土産物屋の様子だ。薄手のシャツに法被という、相変わらずな格好でテキパキ片付けているたま子さん。うーん、美しい。
「ちわー」
「うん? おや、宙じゃないか。どうしたんだい? こんな時間に」
「いやぁ、急にたま子さんに会いたくなっちゃって」
「あっははは! 嬉しいこと言ってくれるねえ。もう少しで終わるから待っててくれるかい?」
「まさか、手伝うに決まってるじゃないか。女性を働かせて自分だけ何もしないような男じゃないぜ、僕って奴は」
「女を泣かせるような男には見えるけどねえ」
「見解の相違ってやつかな」
あけっぴろげで気風の良い性格だけに、初体験後に見え隠れした
真面目に片付けを終わらせた後、旅館の方でご相伴にあずかりつつ夜が更けていく。たま子さんは、子供である僕にも友達感覚で接してくれるため、お喋りが中々に楽しい。まあお喋りといっても、基本的にはネットバトルとかネットバトルとかネットバトルだけど。彼女の脳筋っぷりが凄い。
「ふー……そろそろ止めにしない? 集中切れそう」
「そうかい? アタイとメタルマンはまだまだいけるけど…」
「僕とマインは長期戦に向いてないんだよ」
「それなら、なおさら鍛えなきゃじゃないか。アタイが付き合ってやるよ!」
「うへぇ……なんでそんなネットバトル好きなの?」
「互いに熱い思いをぶつけ合って、技を競い合う──こんなに楽しいこと、他にあるかい?」
「うーん……セックスにも通ずるところがあるね」
「宙は全部そこに繋げようとするじゃないか…」
だってそれこそが生きる目的みたいなとこあるし。むしろ生物が戦うのだって、最終的には子孫を残すためのもの……つまりおセックスのためじゃないか? つまり僕は生物としての役割を誰よりも体現しようとしてる訳だ。
「そろそろ温泉の方の営業時間終わりでしょ? ぜひ二人でしっぽり…」
「別にいいけど……なら掃除も手伝ってもらうよ」
やったぜ。たま子さんが頷いた瞬間、待ってましたと立ち上がって彼女を温泉までエスコートする。まあエスコートとは言いつつも、身長差があるせいで格好がついてないけど。お姉ちゃんの腰にしがみつく弟のような絵面である。
そう広くもない温泉だし、掃除と言っても大した時間はかからないだろう。たま子さんの指示通りタイルにブラシをかけ、シャンプー、リンス、コンディショナー、石鹸のチェック、補充、排水口の清掃を終わらせる。
その後に風呂場椅子を一つ一つ磨き上げ、脱衣所のアメニティを整えた。備え付けの備品が無くなっていないかリストを参照し、使用済みのタオルを洗濯室に運び、新しいものを補充して………………重労働っ……紛う方なき重労働っ…!
うーん、子供の身には少しばかり辛いところがあるな。まあ労働の後の麦酒が美味しいのと同様に、ご褒美が待ち受けているとわかっているならば、艱難辛苦もなんのそのだ。
鼻歌を歌いながら、ロッカーの鍵が揃っているのを確認していると……女性側の清掃が終了したのか、トントンと自分の肩を叩きながらたま子さんがやってきた。微妙におっさん臭さを感じる。
「ふー……おっ、意外に進んでるじゃないか」
毎日のように同じ仕事をしているたま子さんには敵わないが、僕も僕で器用なタイプなのだ。初めてのことでもそれなりにこなす自信はある。よしよしと頭を撫でてきた彼女に抱きつき、さわさわとお尻を撫でる。そして拳骨を落とされる……仕事中は真面目なタチらしい。あれ? でも仕事中にバトルしてたような。
「ネットバトルは仕事のうちだよ」
「んなアホな……あ、でも旅館のサイトにバトル動画上げてたっけ…」
「そんなことより、さっさと終わらせちゃうよ!」
拳を握りながら気合を入れるたま子さん。いやぁ……勝気でちょっとアホっぽいお姉さんとか、ちょっと最高すぎませんかねぇ。脱衣所と温泉を隔てる入り口部分を拭くたま子さん──膝をついているせいで、腕を動かす度に、ツンと上向いたケツが揺れている。ああ、ロリ魂が塗りつぶされていく…! そうだ、少女を手籠めにするなんて僕が間違っていた……これからは真っ当に生きよう。
「──はっ!」
「へっ? な、なんだい?」
「危ない危ない、危うくまともな人間になるところだった…!」
「なにが!?」
ヘドバンをして、先程の思考を振り払う。熟女も美女も素晴らしいものではあるが、だからといって幼女に魅力を感じなくなったらお終いだ。僕を堕落させようとする悪い尻め、あとで懲らしめてやろう、そうしよう。
首をかしげるたま子さんに、なんでもないと手を振って仕事を終わらせていく。そしてセックス前のご機嫌とりがてら、さっきのネットバトルで上手かった部分を褒めそやした。
見え見えのおべっかではあるが、なんだかんだで女性は褒められるとは喜ぶのだ。たま子さんはみゆきちゃんと違って、お財布に優しい女性である。
──さて、やっと待ち望んだお風呂タイムだ。セレナード様と会う前に英気を養っておくとしよう。戦いになるとは限らないが、その可能性は充分にある。
最悪の最悪のそのまた最悪の場合、今日が僕の命日になってしまうかもしれないのだ。そしてその可能性が頭によぎるたび、生存本能が刺激されてたま子さんの穴をハメ倒したくなるわけよ。
死の恐怖すら性欲に転化させることができるなんて、僕もいよいよ極まってきたぜ。生まれ変わって良かったのか悪かったのか……不便なことも多いが、性生活としては充実しているので文句は言うまい。
「あ、んっ……こらっ、せな、か……んっ、洗して、くれるんだろ…!」
背中を流すとは言ったが、それ以外をしないとは言っていない! という屁理屈を盾に、両手にたっぷり出したソープを彼女の体に塗りたくっていく。たま子さんも口では怒りつつ、体は特に嫌がる素振りもない。ぬるぬるになった背中にチンポを擦り付けながら、形のいい美乳を揉みしだく。
「んっ、は、ぁぅ……あっ──」
乳首を少し強めに抓り、耳たぶを甘噛みすると軽くイッたようだ。相変わらず感度抜群で、オスに自信を持たせてくれる体である。
一旦シャワーで泡を洗い流し、仕切り直しとばかりに彼女の肉壺へ手を伸ばす。ぐぷりと中指が沈み、ボディソープとはまた違う粘液の感触と、キュっと締め付けてくる肉ヒダが指先を刺激した。
「んー、流しても流してもソープが落ちないなー……奥からどんどん溢れてきてるみたいだぜ、たまちゃん」
「あっ、ひっ、んぅ…!」
ぐぷぐぷと雌穴を弄りまわしていると、強い刺激に耐えられなかったのか、僕の頭をかき抱いて支えにするたま子さん。下から昇り立つ雌のフェロモンと、首筋から漂う雌の香りがダイレクトにこちらの鼻腔を刺激してくる。身長差のせいで頬に美乳が密着したため、そのまま乳首を口に含んで舌で転がす。
上下を同時に責められたせいか、ひときわ強い嬌声を上げて仰け反るたま子さん。反り返った背中を腕で支え、下品に突き出された腰を引き寄せ──ひくひくと震える膣口に、ギンギンになったチンポをあてがう。
「い゛っ、ひっ、あ……ま、待っ──ん゛ぅっ!!」
雌穴に沿って擦りつけられる亀頭の感触に気付き、彼女は反射的に腰を引いたが──そんな僅かな抵抗が、いきり立ったチンポの勢いに敵う筈もない。逃げる腰を腕で引き寄せ、僕自身も腰を強く前に突き出す。刀が鞘に収まるがごとく、あるべき場所にあるべきものが挿入されたとでも言うように……肉棒が割れ目に潜り込んだ。
彼女の穴は、僕のチンポが収まるべき場所だ──そう確信するほどに、膣壁のヒダ一つ一つが肉棒を咥えて離さない。無理やり引き抜くと裏返りそうなくらい、たま子さんの穴は密着度が強い。激しい抜き挿しは出来なさそうだし、彼女を床に押し倒しながら軽く腰を前後させる。
腰と腰を強くぶつけ合う音……肉と肉がぶつかり合う音が、粘性と水気を含んだ音と混じり合い浴場に響く。彼女の高い嬌声が、裏手の動物園にまで届きかねないほど大きくなっていく。
「あ゛っ、は──んうぅぅ…! つよ、ぃっ、ひ、あっ…!」
しかしそんなものを気にしてはいられない。セックスというのは、高ぶれば高ぶるほど獣になっていくのだ……いわんや、こんな極上の雌穴でチンポをしごいているのだから、思考能力など既に
強く強く腰を押し付け、穴の奥で精液を吐き出す以外に考えなど浮かばない。こみ上がってくる射精感を必死に抑えつけ、たま子さんが絶頂に達する瞬間を見計らい──白く濁った液を子宮にぶちまけた。
しかしまだ足りないとばかりに、精液を飲み干そうと膣壁が蠢く。精巣を空にしようと吸い付いて、吸い付いて、ぎゅうぎゅうと肉棒を締め付けてくる。
「あ、はっ、ぁ…」
びくんと体を震わせて、床にへたり込むたま子さん。仰向けだった体がうつ伏せになり、腰だけがガクガクと突きあがっている。入りきらなかった精液がゴプリと穴から流れ出し、赤くなった太ももを白く染めている……そんな痴態を見せつけられたら、僕がどうなるかなんてわかってるだろうに。
「あ゛っ…!? いっ、ひゃ、あ゛ぁぁ、ん゛ぅっ! いまっ、挿れひゃ、だっ、あっ、んぅぅっ…!」
チンポのカリ首は、他の雄の精液を掻き出すためのものだと言うが……僕のこれは自分の精液を掻き出して、新しいものを吐き出すためにあるようなものだ。まるで『挿れてください』と懇願しているように、無様に突きあがった尻。そんなものが目の前にあれば、やることは一つしかないだろう。
乱暴に尻たぶを掴み、萎えを知らない肉棒を咥えさせる。『ダメ』とうわ言のように繰り返す上の口とは違い、下の口はとても正直だ。餌を与えると淫らに悦び、吸い付いて離さない。何度も何度も腰を打ち付け、何度も何度も精液を吐き出していると──遂には彼女から嬌声が漏れることもなくなった。そして声とも言えない声しか出なくなった頃、ようやく僕の性欲も治まった。
──さて、そろそろセレナード様に会いに行くとするか。
■
ふー……シークレットエリアは本当に面倒なウイルスが多いな。要所要所にあるサウンドオンリーなモノリスも地味に怖いし、厄介な場所である。まあその分、色々と美味しい拾い物も多いんだけど、リスクとは見合ってない感。しかし褐色ロリとお近付きになるためとあらば、その危険も押して進む価値がある。
ウラランク十位から二位までの証を使い、順調にセキュリティを突破していく……ゲームの知識通りだとするならば、そろそろヤマトマンが出てきてもいい頃だが──
「あいや待たれい!」
『マイン!』
「あいさー!」
少し広い場所に出たと思えば、どこからか響いてくる時代劇調の声。まず間違いなくヤマトマンだろう……宙から注意を促す声が届いた瞬間、僕は全速力で駆け出した。ちなみに僕の全速に追いつくナビは、たぶん電脳世界に存在しないだろう。クイックマン? ああ、そんな出番の無かったナビがいたようないなかったような…
「待たれ──まっ…!? まっ、待てい! 待たんかぁ!」
「待てと言われて待つ奴はいない!」
「わ、我こそは電脳世界一の槍使い、ヤマトマン……ま、待たれぃぃ…」
堂々と名乗りを上げるのは見ていて気持ちいいが、ああいうナビと戦うのはちょっと怖いんだよね。古今東西、力や速さに勝るのは『技』である。そして彼のコンセプトと言えば、明らかに『達人』的な感じだろう。実際問題、ヤマトマンは『科学省精鋭部隊隊長』の肩書を持っていたナビである。
オフィシャルとはまた違う機関ではあるが、その名の通り精鋭が集う強者の集団であり──その隊長ともなれば、相当なものだ。ついでに少しぶっちゃけるなら、ガチの刃物持ってるナビってちょっと怖いんだよね。
チップでソードを出すとかならともかく、ブルースやヤマトマンみたいに常から武器を携えてるのはさぁ……まあ心理的なものでしかないとはわかってるんだけど。
『マイン、後ろから追ってくるぜ』
「うーん……流石に挟撃とかなったらヤバいか。ちぇっ、
『しゃーないしゃーない、切り替えてこうぜ……バトルオペレーションセット!』
「イン!」
「ぜぇ……ぜぇ……むっ! 観念したか賊どもめ──やあやあ、遠からんものは音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは天下無双の槍使い、ヤマトマンなり!」
「さっき『電脳世界一の槍使い』って言ってなかった?」
「どちらも同じことよ! 戦わずして逃げを打つ軟弱者め……我の目が黒いうちは、何人たりともここを突破することまかりならん!」
「突破してるからこそ、僕が君より奥にいる訳だけど」
「ぬぅ…! いちいち細かいことを…!」
「というか、セレナード様に会いたいだけだから邪魔しないでほしいんだけど…」
「我はセレナード殿を守護せし番人なり! それ程に会いたくば──押し通れ!」
「じゃあ、これを…」
「…む?」
気炎を上げて槍を振りかぶる彼に、オフィシャルナビの証を見せる。ヤマトマンはヒールナビでもなければ、誰彼構わず襲うような乱暴者でもない。インターネット全ての秩序を守るセレナード様に忠誠を誓い、地位を捨ててまで彼女に付き従う忠義の武士である。
同じくインターネットの治安を司るオフィシャルであれば、問答無用に襲ってくる事もないだろう。とはいえ、科学省精鋭部隊とオフィシャルは毛色が違うというか畑が違うというか……なんと言えばいいんだろう。警視庁と警察庁みたいな感じ……いや、それはちょっと違うか。とにかく、そんなに仲良しこよしって訳でもない。だからさっきは逃げた訳だし。
「…なぜオフィシャルナビがこのような場所に?」
「『プロト』についてセレナード様にお伝えすることがあります」
「ぬっ…!?」
「電脳世界の安寧のため、一般ナビに身をやつしてまでも秩序を優先したセレナード様……そして科学省精鋭部隊隊長の座を捨ててまで忠誠を貫くあなたに、僕は尊敬を禁じ得ない」
「そこまで知っているとは……貴殿、ただのオフィシャルナビではないな」
「『プロト』『ギガフリーズ』──電脳世界が崩壊しかねない情報を秘匿するため、あなた方は徹底的に自身の存在を抹消した。しかし科学省との繋がりを完全に断つのは、それはそれで問題がある……だからあなた方の存在を知るのは、省の中でもごく一部の者だけだ」
「…
「ですよね!」
「──と言いたいところだが」
「えっ」
「例え貴殿がオフィシャルナビであろうとも、そう易々と通しては番人の名折れ! 刃を交えてこそ判る正義もあろう! 我が信ずるに値する男かどうか……己が力でもって示せい!」
「結局そうなるのかー…」
まったく、原作知識ってのは本当に役に立たないな。気は進まないが挑戦するとしよう。怖い怖いとは言ったが、所詮はこんなところに閉じこもっているナビが相手だ。
──ネットバトルは日進月歩だぜ! 時代に着いてこれないロートルは引っ込んでなぁ! ハッハハァ! ハハッハハ! …なんかワンパンされそうな気がしてきたな。
■
…ふぅ。どうにかこうにか勝利を掴んだが、やはりヒヤッとする場面はいくつかあった。多少の被弾を気にしないでいいってんなら、もっと攻勢に出てさっさと決着をつけられるんだけどねぇ。
フォルテさんと戦ってわかったのは、やっぱ僕たちは一蓮托生ってことと──ダメージに関しては宙の方がデンジャラスってことだ。僕の傷はリカバリーチップですぐに治るが、現実はそうもいかないし。もちろんそうなるだろうと予測はしていたが、命を落とさずに実体験できたのは不幸中の幸いだった。
…まあそれは置いといて、だ。遂にシークレットエリアの最奥──最強の褐色ロリータ、『S』ことセレナード様の居場所に辿り着いた。どこ? どこにいるの? 焦らさないで出てきてよね。まさかここまできて留守とかないだろうなオイ。
はっ…! 待てよ、そう言えばセレナード様って『うらかわ旅館』の一人息子の持ちナビとかいう噂あったっけ…?
あれ、もしかしてそっちから攻めた方が安全だったのかな? …いや、流石に病弱ショタのPETで十八禁映像を見せつけるのはマズいだろう。こっちのルートで問題はない筈だ。
…というか、そうだ、関連してどんどん思い出してきたが──病弱ショタの子って、熱斗くんが励まさないと手術受けないんだっけ…? 別に運命がどうとか、僕がいるせいでとか、うだうだ考えるつもりはないが……思い出しちゃうとなんか心苦しくなるな。後で宙に言って、うまくやってもらおう。
「──ダークマン、そしてヤマトマンを下しましたか…」
「ん……あ、良かった。いたいた」
「…ヤマトマンとの会話は聞いていました。プロトについて話があるそうですね」
「ちっちっち、そう急かしちゃ『S』の名が泣くぜ。まずは自己紹介でしょ?」
「これは失礼を。もうご存知とは思いますが、ワタシの名はセレナード……ウラの王とも呼ばれています」
「僕はマイン! 知ってるだろうけど、オフィシャルナビさ」
「ええ。『WWW』との──フォルテとの戦いも、テレビで拝見させていただきました」
「おっ、どうだった? かっこよかった?」
「そうですね……少々無茶なところはありましたが、あなたがた三人の実力は素晴らしかった。ともすれば、ワタシに届きうる力を持っているでしょう」
「強かったかどうかじゃなくて、かっこよかったかどうか聞いてるんだけど」
「えっ? え、ええ……かっこよかったのでは……ないでしょうか…? …そういったことには疎いので、正直なところ判断に困りますが…」
褐色にロリにママみに無知属性まで付けてくるとか、萌えのバーゲンセールだぜ。
──しかし目下の悩みは、セレナード様の性別である。近くでガン見して判明したが、あまりにぺたん子…! 貧乳というか無乳…!
ここまで苦労して男だったら泣くぞ。せめて男の娘なら……おっといかん。妥協するにしても、それは開いてはいけない扉だ。
「それで、プロトについてですが…」
「え? ああ、うん……プロトは今までと同じようにきっちり封印されています。心配しなくて大丈夫だよ」
「…」
「…」
「…それだけですか?」
「それだけです」
「そのためにここまで?」
「まま、それは口実でー……君に会いたかったから来たって感じ?」
「は、はぁ……そうですか。なぜワタシに?」
「興味本位です」
『えぇ…?』って感じで困惑しているセレナード様。可愛い。しかし現実に見てみると、割と中性的な雰囲気である。ショタが六割にロリが四割って感じ。
「まあ端的に言えば、友達になりたいなって」
「…友達……ですか?」
予想外の言葉が連続したせいか、目を丸くして驚くセレナード様。おっ、今のは少女感が強かった。アラビアンな感じのズボンが非常に可愛らしい……ダボっとした服って、女の子が着ると可愛いよね。
「ダメ?」
「いえ、そんなことを言われたのは生まれて初めてだったので……少し戸惑ってしまいました」
「じゃあ今日から僕たち友達ってことで!」
「そう──……ですね。ふふ、なにやら不思議な感覚ですが……よろしくお願いします、マイン」
「よろしくー。セレナード……は少し長いし、愛称で呼んでもいい?」
「ご
「じゃあよろしくね、
「バトルをご所望ですか?」
「冗談冗談。よろしくね、セレナード」
「愛称で呼んでくださるのでは?」
「んー……セレナードは『セレナード』って感じが強いからさ。愛称は無しだけど、親愛はたっぷり込めて呼ぼうじゃないか」
冗談めかしてそう言うと、セレナードは『そうですか』と微笑んだ。思わず出た笑みというよりも、こちらを安心させるような笑顔だ。慈愛がパワーの源と言うだけはある。
しかし……そろそろ真実の扉を開く時だろう。性別をはっきりさせないと、エロもクソもない。まさにパンドラの箱を開けるような心境だが──まあ最後には希望が残るのがお約束、いざ踏み込まん!
「そう言えば……セレナードって女の子ってことでいいのかな?」
「いえ、違いますが…」
「ファッ!? じゃ、じゃあ男の子…?」
「それも違いますね。正しく言うなら『無性』──ワタシに性別はありません」
「ほっ……それなら女体化パッチをあてれば問題ないね」
「問題しかありませんよ?」
男性型ナビに女体化パッチをあてたところで本質は変わらないが、元が無性なら圧倒的にセーフティー…! まあ性欲とは対極に位置しそうなセレナードだし、とりあえずは友情を深めていくとしよう。ハードルが高ければ高いほど、情熱は燃え上っていくものだ。
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