プロメア後日譚 (丸焼きどらごん)
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プロメア後日譚

注)
がっつりネタバレ含むのでプロメア見た方だけどうぞ。プロメアまだ見たこと無い方はすぐに劇場に走ってください今すぐに!全人類プロメアを見てください……見て……
見たあと書かずにいられなかった後日譚、色々とがばくてツッコミどころもあると思います。もしそれでよろしければどうぞ!

そして繰り返します。プロメア見てない人は今すぐ劇場に。是非劇場で!!二度三度楽しめますから、是非!! 劇場で!!


「む……」

 

 リオ・フォーティアは開いたがま口財布の残金を確認し、目の前の値札と比べる。そして数分ほど唸りながら迷った末、苦渋の表情でその前を通過した。

 

「だ、ダメだ。特別な日でもないのに、こんな贅沢……」

「どうした、リオ坊」

「!?」

 

 ふいに眼前に立ちふさがった大きな影に驚いて見上げれば、そこには立派な髭をたくわえサングラスを光らせたナイスミドル……といってもまだ三十代なのだが。ともかくそんなファイヤーレスキュー隊長、イグニス・エクスが立っていた。

 そしてリオが何か答える前に、イグニスはチラとリオが数分もの間見つめていた代物を見た。それは牛と豚の合いびき肉であり、さらに視線を移せばリオが持つ買い物籠には野菜が数種類と……鶏のひき肉が入っていた。

 

「なんだ、夕飯の買い物か? ……すまねぇな、保護観察の身だというのに、逆にあいつの面倒をみさせて」

「い、いや……。別に、構わない。世話になっている身なんだ。これくらいなんともない。そもそも僕が申し出たことだ」

「そうか」

 

 言うと、イグニスはリオの髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回す。

 

「わぷ!? な、何をするんだ!」

「これは俺がおごってやる」

「え……」

 

 抗議しながら下から睨みつければ、イグニスの手にはいつの間にかリオが見つめていた合いびき肉。

 

「鶏肉も悪くはないが、若いんだ。赤い肉も食っておけ。なんなら今度うちに来い。分厚いステーキでもご馳走してやる」

「す、ステーキ……!?」

 

 リオ達バーニッシュはその身に宿す炎……プロメアを失う前まで、世間からつまはじきにされて生きてきた。正体が知られたらそこに人権は無く、迫害されるのがほとんど。そんな彼らにとっては普通の生活すらままならず、もちろん食事も贅沢は出来なかった。ステーキなどまさに夢の夢である。

 意図せず口の端からよだれがこぼれそうになったリオだったが、はっと気づくと急いで袖でぬぐった。そして赤くなった顔を誤魔化すように咳ばらいをして居住まいを正すと、居心地悪そうにしながらも礼を言う。

 

「……ありがとう。楽しみにしておく」

 

 

 

 突然変異の人間、炎を噴き出すバーニッシュの出現から三十年。

 

 ある日を境にバーニッシュ……正確に言うと、彼らと共振し炎の源となっていた別宇宙の生命体プロメアは地球から姿を消した。「もっと燃えたい」という本能と願望を地球の奥底で不完全燃焼させていた彼らだったが、ある事件を境に炎上テロリストとして名を馳せていたマッドバーニッシュのボス、リオ・フォーティアと、高機動救命消防隊(バーニングレスキュー)所属、ガロ・ティモスの尽力によって惑星を燃やさずして燃やし完全燃焼を果たした彼らは……満足して自分たちの宇宙へ帰っていったのである。

 それによってプロメアの影響で消滅寸前だった地球は救われ、プロメアが居なくなったことでバーニッシュも普通の人間に戻ったのだが……。直面した危機が去ったとはいえ、各地で起きた噴火などで地球や地球上に住む生物たちは深刻な被害を負った。

 しかし生き物とは逞しいもので、現在は少しずつだが着実に復興へと向かっている。

 その陣頭指揮を執るのは自ら侵してきた罪を認め、受け入れながらもその能力を買われたクレイ・フォーサイト。

 対バーニッシュについての研究成果は彼の師から盗んだものであったが、人類の存続を真剣に考え着手し完成させていた研究は確かに彼が作り出したものだ。全て彼自身が直接作ったものではなかったかもしれないが、少なくともそれを作り出す環境を整えた。その研究成果の数々は改良され、現在地球復興に大いに役立っている。この自治共和国プロメポリスこそが世界の中心となって、機材や人材の中継地点となり世界各国に救援を送っているのだ。

 選別された一万人以外の人間全てを見捨てようとし、バーニッシュに対する非人道的な実験を行ったクレイを糾弾する声はもちろん多かった。声高に死刑にするべきだとも騒がれた。

 だが彼にはそれを黙らせるだけの能力と……意外にも支持する声が多かったのだ。それも見捨てられた人間の中から。

 それはクレイが罪人であることは間違いなくとも、彼が世界のために積み上げてきた功績と、その行動に信念があったからなのかは……おそらく本人に会って話すことはもう無いであろうリオには分からない。

 だがリオはそのことについて複雑に思うものの、クレイはクレイなりに人類を救う手段を模索し、どうしようもなく手段がなくなって例の計画を立てたことも理解している。

 それでも決して……一生、許すつもりはないが、それだけは理解していた。理解に努めようと思うことにしていた。

 

 多分それは、クレイも救うとのたまった同居人の影響だろう。

 

 

 

 

「おう、帰ったかリオ!」

「お前……。一応僕は君に監視されている、というていなんだぞ。こんな自由に行動させておいていいのか」

 

 現在リオが住んでいる部屋に戻れば、待っていたのは出かける前に外へ飛び出していった同居人。刈り上げた頭の真ん中に、鶏のトサカのように派手な青髪を揺らすガロ・ティモスだった。

 

「つってもなぁ、もうほとんど形式的なもんだしよ。それに俺は燃える火消しガロ・ティモス! ボヤときいちゃぁ黙ってられねぇぜ!」

「燃える火消し"馬鹿"な。……まあ、規模はどうあれ火災は脅威だ。ご苦労さま、と言っておこう」

「なんで微妙に上から目線なんだよ……」

「妙なところで細かいな、お前。はいはい、お疲れ様」

「おう!」

 

 ぱっと笑顔に変わった表情に毒気を抜かれる。リオは軽くため息を吐き出すと、買ってきた品物が悪くなる前にしまってしまおうと冷蔵庫へ向かった。……ちなみに今日の食卓に並べるのはハンバーグと、もう決めている。

 

 リオが出かける前、休日を過ごしていたガロは近所で起きたボヤ騒ぎに出動要請の呼び出しが出る前に飛び出していった。バーニッシュとしての力を失いガロのように専門的な消化知識を備えていないリオは今回はそれを見送り、少々気になりながらも自分に出来ることをしようと夕飯の買い出しに出かけたのだ。

 現在リオはプロメポリスに大規模火災を引き起こした張本人として、マッドバーニッシュ幹部であるメイスやゲーラと共に保護観察を受けている身だ。といっても地球を救った救世主でもあり、大規模火災だけですまないもろもろの件でうやむやになったからかその罪は重く問われていない。こうして"保護"観察され、それを任されたのがファイヤーレスキューの面々であることが良い証拠だ。他のバーニッシュについても各方面の協力の元、普通の生活になじむよう取り計らわれている。

 ちなみにゲーラはレミー・プグーナ、メイスはバリス・トラスのもとで生活している。隊長であるイグニスについては一番忙しい身であるため、保護観察の役目を担っていない。だからこそ先ほどのように街中でイグニスに出くわすのは、非常に珍しい出来事だったのだ。

 

 

 復興活動が急がれる中、リオや他のバーニッシュもまた地球人類として一丸となって復興に尽力していた。といってもプロメアの力を失った彼らはもはや普通の人間であるため、大きな力を振るうことは出来ないのだが。

 リオはそれについて時々、歯がゆく思う。……バーニッシュであることは彼らの人生を制限し縛っていたが……バーニッシュであること自体を、恥じたことなどない。たとえ別の生命体であるプロメアの本能に突き動かされていたのだとしても、彼らは確かに自分たちの一部だった。バーニッシュであることは、誇りだった。

 だからこそリオはバーニッシュだけで暮らせる街を作ろうと思ったのだ。力を持ちながらも、穏やかに暮らしていけるように。

 

(今ではその必要も無くなったがな……)

 

 もっと燃えたい、燃やさなければ生きていけない。その衝動が無くなったのはきっと喜ばしい事なのだろうが…………時々、どうしようもなく寂しい。きっとこれは自覚無自覚はともかくバーニッシュ全てが抱える共通の感覚だ。

 

(それに……)

 

 バーニッシュの力が残っていれば、自分にももっと、ガロ達の仕事が手伝えたのではないかと。そう思ってしまう。

 炎上テロリストが火消しの手伝いなどと妙で笑えてしまうが、リオは確かに彼らの力になりたいと考えていた。

 

 

『お前たちに降りかかる火の粉は、この俺がはらってやる!』

 

 

 そんな馬鹿なことをのたまった男の力になりたいと。

 

 とはいえバーニッシュの力が無くとも出来ることはある。リオは目下、バーニングレスキューに入るための勉強中だ。もとから頭脳明晰な切れ者であるため吸収が早く、勉強を見てやるつもりのガロが逆に唸らされることがほとんどである。

 

 

 そんなリオがいつかバーニングレスキュー入りするのを見越してか、こっそりとルチアがガロと揃いのマトイデッカーを開発していたりするが……それはルチアとネズミのビニー。そして多分知って見ぬふりをしているイグニスだけの秘密である。

 

 

 

 

 

 

「さて、先に玉ねぎを炒めておくか……」

 

 色々と思いを馳せながらも、夕食の下ごしらえにかかるリオ。自らの炎を使わないことにもそこそこ慣れてきた彼が電磁調理器のスイッチを入れようとした……その時だ。

 

『フフッ』

「!?」

 

 炎など出るはずもないIHから、淡い桃色、黄色、青、紫が入り混じった炎が噴き出した!

 見覚えがあるどころか生まれてこの方ずっと寄り添ってきたその色に、リオは逃げることもせずそのまま炎にのまれた。これに焦ったのはガロである。

 

「おい、リオ!? くそっ、どうなってんだ!」

 

 ガロは炎に焼かれることも気にせず手を伸ばしリオを炎から引き出すが……不思議とガロもリオも火傷一つおっていない。

 困惑する二人の前で、揺れる炎の中になにやら顔らしきものがあらわれた。リオとガロは更にあっけにとられる。

 

 

『リオ! リオ! リオ! ボクタチのリオ!』

「な、え、…………は!?」

「おい、これ……プロメア、だよな……?」

『ウン! そうだヨ! ボクたちはプロメア! キミタチガ名ヅケテクレタ! リオはリオデ、キミはバカ!』

「ガロだ!!」

『ソウナノ? ウチュウイチノヒケシ・バカじゃないノ?』

「だああ! 合ってるけどちげぇ!」

「ま、待ってくれ。なぜプロメアがここにいる? 並行世界とのひずみは確かに閉じた。それにプロメアが喋るなんて……」

 

 困惑するリオの側に、小さく手のひらサイズになったプロメア(仮)が飛んできた。思わず両手を差し出せば、遠慮せずにプロメアはそこに収まる。相変わらず熱さは感じない。

 ……それどころか、とても懐かしい温かみに思わず胸にこみあげるものがあった。

 

『ボクタチ、リオとツナガッテ言葉覚えタ! ソレデネ、ボクタチヲたくさん、イッパイ燃ヤシテクレタ、リオに会いタクなったノ! デモみんなデ来チャウとメイワクかけちゃうカラ……ボクが、代表! デモボクタチみんなツナガッテル! だから今モ、ボクタチみんながリオとイッショ!』

 

 子供のように甲高く、声というには不思議な響き。どちらかというと"音"に近いそれは慣れるまで聞き取りにくかったが、どうも要約するとリオと精神的につながったことがきっかけで、プロメア達もリオから学習したようなのだ。リオが彼らと繋がり、彼らの本当の気持ちを理解したように。

 そして無邪気な感情のままに、会いたいから会いに来た……と。

 

「おいおい、これはまた俺の出番か? 今度こそ地殻にもぐって地球の消化活動か?」

「……いや、多分その必要はない。そうだな?」

『ウン! メイワクカケナイヨウにって言ったデショ! ダイジョーブ!』

 

 心なしか胸を張って見える感情豊かな炎に、ガロはどうしたもんかなと頬をかく。対してリオはプロメアに向き合うと、静かに語り掛けた。

 

「……で? 僕に会いたかったんなら、もう会っただろう。そろそろお帰り」

『ヤ!』

「嫌って……。どうも、困ったな」

 

 きっぱりと帰還を拒否するプロメアに今度はリオも困り顔だ。すると今度はガロが、リオの肩口から顔を乗り出してプロメアに問う。

 

「じゃあ、お前は何がしたいんだ? また燃えてーってんなら、俺としても見過ごせな……」

『リオの、お手伝いシタイノ!』

「……い?」

「んん?」

 

 

 ついそろって首をかしげる二人に、プロメアはなおも言う。

 

 

『ボク達、イッパイ燃やしてクレタ、リオに恩返しシタイノー!』

 

 

 

 

 

 

 

 その後プロメポリスでは時々、バーニングレスキューと共に現れる謎の黒い甲冑が目撃されるようになる。

 

 黒い甲冑は極彩色の、まるで炎のようなマトイを操り復興活動に尽力したとかしなかったとか。

 

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 

 



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