星廻る杖と魔法科高校の劣等生 (カイナベル)
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入学編
第一話



 どうも知っている人はお久しぶりです。以前別の魔法科高校の劣等生の小説を投稿してたものです。

 リハビリとしてこの作品を書き始めました。飽きるまでは何とか書いていきたいと考えていますので、よろしくお願いします。




 国立魔法大学付属第一高校。毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。

 

 今日はその魔法科高校の入学式である。新生活に胸を高鳴らせる新入生がまばらに敷地内に現れ始めたころ、新入生である司波達也はベンチに座って情報端末で小説を読んでいた。読書に夢中になっていると。右からコツコツという音が響き始める。その音に集中をそがれた達也は右側に振り向く。そこには杖で地面をつつきながらゆっくりと進んでいる少年がいた。少年は進行方向にベンチがあることを確認すると、手探りでベンチに座っていないことを確認し、達也の隣に座る。

 

 達也はその少年のことを注意深く見回す。来ているブレザーには八枚の花弁、一科生の証がついている。が、それ以上に目を引いたのは眼を覆い隠すように巻かれた布であった。

 

「……その目の布はどうしたんだ?」

 

 疑問に思った達也が話しかけると、少年はビクリと肩を震わせると、跳ねるように立ちあがる。そして達也の方を向くと、軽く頭を下げる。

 

「いや、申し訳ありません。先客がいるとは思わなかったもので」

 

「いや、構わないよ。座ってもらって結構だ」

 

 少年はその場から立ち去ろうとするが、達也はそれを引き留め、隣に座るように促す。

 

「では、失礼して」

   

 少年は達也の隣に座ると自身の隣に杖を置く。一拍置いて、少年の方から自己紹介を始める。

 

「申し遅れました。私、風間、風間進といいます」

 

 達也は進の名字を聞いて、体を小さく震わせる。しかし、目の見えない進に気付いた様子はない。達也はうろたえた様子を隠しながら、自己紹介を返す。

 

「俺は司波達也だ。達也と呼んでくれ。ところで話を戻すが、その布は……」

 

 達也が再び目の布について問いかけると、進は一度目の部分を指さすと、話し始める。

 

「私、数年前の事故で盲目でして。それでつけているんです。あまり見せられたものでありませんから」

 

「そうだったのか。すまない、いいづらいことを聞いてしまったな」 

 

「お気になさらずに。もう慣れてしまいましたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人である程度の時間話していると、入学式まで三十分の時間になる。そろそろ行こうかとなったところで二人の頭上に声がかけられる。

 

「新入生ですね?会場の時間ですよ」

 

 二人の前に立っていたのは腕にCADを巻いた背の低い女性だった。達也は女性に興味を持たれてしまう。しかし、目の見えていない進は自分が声をかけられているとはつゆとも思わず、そのまま達也に構うことなく講堂へ向かってしまう。

 

 講堂についた進は空いている席を探すために通路を歩き始める。通路をしばらく歩き、人の気配が少ない場所を発見し、席に座ると入学式が始まるのを待ち始める。

 

 しかし、彼は通路の半分から前と後ろで、一科生と二科生で別れることを知らない。そのため、進は半分より後ろ、二科生の方に座ってしまった。彼の周りは妙なざわつきを見せているが、講堂全体がざわついているため、進がそれを感じ取ることはことはできない。

 

 進が座っていると、横から声をかけられる。

 

「どうしてここに座っているんだ?進」

 

「私がここに座ることは失礼なのでしょうか?達也さん」

 

 達也の問いかけに首をかしげながら答える進は、問いかけの意味が理解できなかった。かといって別に後ろ側に座ることが悪いというわけではない。前後で別れるのは暗黙の了解であるだけで、ルールとして定められているわけではない。そもそもそうなることがおかしな話で、進の行動は間違っていないのだ。そういうわけで強く否定することが出来ない達也は苦笑いを浮かべながら流すことにする。

 

「いや、何でもない。隣いいか?」

 

 達也の問いかけに進は無言で手で差し出すことで促し、達也は席に着く。

 

「さっきの事なんだが、何で逃げたんだ?」

 

「はて、何のことでしょうか?」

 

 思い当たる節の無い進は首をかしげる。その行動を見た達也は再び苦笑いを浮かべながら、説明を始める。

 

「ベンチで声をかけられた時だ。生徒会長はお前のことを気にしていたぞ」 

 

「あの方は生徒会長だったんですか。私にはわからないもので」

 

 達也と進が話していると達也が声をかけられ、達也の横に二人の少女が座る。が、一つ空いた席に座る進のことはやはり気になるのか、進に声をかける。 

 

「あのー、それどうしたんですか?」

 

 進に向かって声がかけられるが、それだけでは気づかない。その声が自分に向けられたものだということを達也に肩を叩かれることで進はやっと気づく。

 

「私の目の布ですか?私、盲目なものでして。私風間進と申します」

 

「そうだったんですか。すみません、言いづらいことを聞いてしまって。私、柴田美月といいます」

 

 進に声をかけた少女である美月が声を自己紹介をする。美月の隣に座る少女も続く。

 

「あたしは千葉エリカ。よろしくね。それにしても……、君、一科生なんだよね。なんでここに座ってるの?」

 

「はて、先ほど達也さんにも同じことを言われたんですが……。私ここに座っていない方がいいんでしょうか?」

 

 進が首をかしげたところで達也がエリカに耳打ちをする。達也の耳打ちを聞いたエリカはばつが悪そうな顔をしながら、はぐらかす。もちろんその顔が進に見えることはないのだが。そんなことをしているうちに入学式が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式は特にトラブルが起こることなく、つつがなく終わり、進はIDカードを受け取りに向かっていた。が、IDカードの端末近くにはほかの新入生も集まり、目の見えない進にとっては非常に進みづらくなっていた。不意に背中に衝撃を受けてしまった進は転倒してしまう。転倒の衝撃で杖を手放してしまった進は、焦りながらも手放した杖を探し始める。が、最初に手放したときに進の横に飛んでしまった上に杖の存在に気付かなかった他の新入生に蹴られ、進にはどうしようもないほどに移動してしまう。

 

 杖を見つけることが出来ず、進が途方に暮れていると肩を叩かれながら背後から声がかけられる。どこかで聞いた声に戸惑いながら進は応対する。

 

「はい?何でしょうか?」

 

「この杖、あなたのですよね。お困りのようでしたので」

 

 進は杖を受け取り形を確認する。まぎれもなく自分の杖であることを確認した進は感謝を伝えるために頭を下げる。

 

「ありがとうございます。これがないと行動できないものでして」

 

 杖を渡した少女は進の謝辞に微笑みながら対応する。

 

「いえいえ、困っていらしたので。紹介が遅れました。私、この学校の生徒会長をしています。七草真由美といいます。七草と書いてさえぐさと読みます。よろしくお願いします」

 

「風間進です。こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 お互いに自己紹介を終えたところで真由美の方が進に気付く。

 

「風間進……。そう……、あなたが……。入学試験時の実力試験で一位だったことで噂になっていますよ」

 

 真由美は含み笑いを浮かべながら、進に話しかけ続ける。

 

「そういえば、入学式前に司波君と一緒にいたわよね。なんであの時先に行っちゃったのかしら?」

 

 真由美はからかうようにして雑談を始める。進の身長は百七十五センチ。二人の身長差も相まって真由美が覗き込むようにして話しかけている。普通の男子であればときめく展開である。実際真由美の後ろに立っている男子は歯ぎしりしている。が、目の見えない進は状況が分からず、普通の応対をしている。

 

「逃げたように見えたのであれば申し訳ありません。自分が呼ばれたのだとは思わなかったもので」

 

 和やかに会話をしていた二人だったが、そう長くは続かない。真由美は時間を突き付けられてしまい、会話を切らざるを得なくなる。自分の前から真由美が立ち去ったことを確認した進は、再び自分のIDカードを受け取るために歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IDカードを受け取った進はまっすぐに帰宅した。帰宅し、日課の素振りを終えた進の端末に着信が入る。応答のボタンを押し、電話に出てみると、自分の父親からだった。

 

「これはこれは親父殿。どうされましたか?」

 

「いや、単なる入学祝いだ。後、久しぶりに声を聴いておこうと思ってな。どうだ体調は?」

 

「非常に良好ですよ。そちらはどうですか」

 

「こちらも心配ない。曲者ぞろいだが、なんとかまとめられている。今度暇なときに真田君が顔を見せてくれと言っていた。伝えたぞ」

 

「ええ、いずれ時間のある時に伺わせていただきます。それでは失礼いたします」

 

「ああ、それではな」

 

 通話が切れたのを確認すると、進は端末を置き、ソファに座り込む。そしてそのまま、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式の翌日、進はA組の教室に向かっていた。歩くのが普通の人より遅いため、早めに家を出ていた進だが、トラブルもなく、想定以上に早く着いてしまう。A組の教室に着いた進は自分の席に座ると、自身の端末に懐から取り出した携帯端末をケーブルでつなぐ。そして携帯端末から伸びたイヤホンを耳につけると、端末を操作し始める。が、家の端末とは勝手が違うため、少々てこずってしまう。悪戦苦闘しながら受講登録を打ち込んでいると、イヤホン越しに教室のざわめきが進の耳に届く。

 

 が、進に構っている暇はない。進には状況が全くつかめていない上に、受講登録の半分も進んでいない。集中して受講登録を進めていると、いきなり肩を叩かれる。それに驚き、進の身体が跳ねる。

 

 イヤホンを外し、叩かれた方の右を向く。と、入学式の時に聞いた声が進の耳に届く。

 

「初めまして。私、司波深雪といいます。よろしくお願いします」

 

「風間進といいます。ご丁寧にどうもありがとうございます」

 

 深雪の丁寧なあいさつにいつも通りで答える進。二人の世間話は続いていく。 

 

「生徒会長からお話は聞いています。実技試験で一位だったとか」

 

 進の実技試験の結果が深雪以上の一位であることを知ったA組はざわつき始める。その声を耳に入れるだけ入れて進は会話を続ける。

 

「総代を務めた方に知られているとは光栄の極みです」

 

 進は薄く笑みを浮かべながら深雪を褒めると、自分の端末に向き直り、履修登録の続きを打ち始める。それを見た深雪は進の顔を心配そうにのぞき込みながら、声をかける。

 

「あの……、もしよろしければお手伝いしましょうか?」

 

「ありがとうございます。ですが、自分でするようにしているんです。申し訳ありません」

 

 そう言って再び向き直った進はキーボードを打ち込み始める。が、すぐにミスタッチによるエラー音が鳴り響く。それを見た深雪はクスリと笑いながら、進の肩に手をかける。

 

「お手伝いいたしましょうか?」

 

「申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます」

 

 進は自分の行動に苦笑いをするしかない。苦笑いを浮かべながら深雪の提案を受けた進。自分の学校生活が少し不安になってしまった。 

 

 オリエンテーションが終わり、これから専門課程の授業見学に入る。進も席を立ち、教室から出ようとする。杖で地面をつつきながら歩き始めるが、杖で触れることのできなかった小さな段差に躓いてしまい、つんのめる。転ぶことはなかったが、机に手を付くことになり、杖を手放してしまう。二度目のことに微妙に慣れを感じながら、杖を手探りで探し始める。

 

 すると、すぐに新の手に杖が当たる。いや、あてられる。進の目の前には杖を持った男子が立っており、進に杖を差し出している。

 

「大丈夫か?君のだろ。俺は森崎駿だ。名前だけでも覚えておいてほしい」

 

 簡単に自己紹介をした森崎は、進に杖を渡すと、グループの面々と教室を後にしてしまう。それを見送った進も教室を後にしようとする。が、背後から声をかけられ、脚を止めることとなる。

 

「目が見えないというのは大変なんですね。よろしければ私たちとご一緒しませんか?」

 

「では、先ほどのこともありますし、お言葉に甘えさせていただきます。よろしければ司波さんのご同行者のかたのお名前も教えていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 深雪は自分の言葉から同行者がいることを察した進の洞察力に少々驚く。

 

「そうでしたね。ほのか、雫」

 

「光井ほのかです。よろしくお願いします」

 

「北山雫。雫でいい」

 

 二人が頭を下げたのを感じ取った進も頭を下げる。自己紹介が終わったところで四人グループになった進は校内を回り始める。が、やはり視覚が切れている進にとって見学は非常につまらない。見学し始めて一時間も立たないところで進は三人から離脱する。

 

 手持無沙汰になった進は放課後まで趣味の散歩をすることにし、校内を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、帰宅の途についた進は校門近くで騒ぎが起こっていることを耳で捉える。聞いたことのある声が言い争うのを聞き取った進は仲裁に入るために、声を頼りに一科生を先導している森崎に駆け寄っていく。

 

「……どれだけ優れているのか知りたいなら教えてやるぞ!」

 

 口論がヒートアップしてきたところで、森崎がそう口にする。それに二科生の男子がさらに油を注ぐような答えを返す。

 

「だったら教えてやる!」

 

 怒りが抑えきれなくなった森崎は自身の特化型CADを二科生に向ける。それに応じて二科生の男子も駆け出していく。が、一番先に森崎のもとにたどり着いたのは進だった。進は二科生に向けられたCADを杖で押し下げながら、たしなめるように声をかける。

 

「少し落ち着いてください、森崎さん」

 

「何のつもりだ、風間。二科生の肩を持つのか?」

 

「そんなつもりはありませんが、ここで魔法を打ったところで何も解決しないでしょう。最もここで魔法を発動させたらどうなるか、ご聡明な森崎さんならお判りでしょうが」

 

 進の言葉で冷静さを取り戻したのか森崎はCADを下げる。それを見たエリカたちも剣を収める。そのタイミングで生徒会の面々が到着するが、達也が言いくるめてしまい、騒ぎは完全に鎮静化する。主犯ともいえる森崎は謝罪もすることなく噛ませ犬のようなことを言い残してその場から立ち去っていく。その稚拙さに進は溜息を吐きながら、その場を立ち去ろうとするが、そうはいかんとばかりに達也たちに引き留められる。

 

「よろしければ進君もご一緒しませんか?お一人で帰られるのは大変でしょう」

 

 深雪の提案がとどめとなり、進は同行することにする。もともと断るつもりがなかったというのもあるが、一人で帰るというのは視覚が無くなったことに慣れた今でもつらいものがある。できれば少しでも楽に帰りたいという気持ちが強かった。

 

 

 

 

 帰り道、先ほどの騒動が尾を引いているのか、微妙な雰囲気であったが、CADの話で盛り上がるとぎくしゃくとした雰囲気もなくなり、和やかになっていく。話題はCADから進のことに移る。口火を切ったのは達也だった。

 

「それにしても、良く森崎のところまで走ってこられたな。動きが見えていたが迷いなく一直線に走ってきていたぞ?」

 

 達也の疑問に二科生組と深雪が首を縦に振る。雫とほのかは首をかしげている。

 

「あれだけ大声で騒いでいれば、場所の特定はすぐにできますよ」

 

「いや、どれだけ騒いでいても普通あんな正確に行動できないと思うぞ……」

 

 唯一聞き覚えの無い声に進の表情が曇る。それを見た張本人は肩を叩いてから自己紹介を始める。

 

「わりい、紹介が遅れたな。西城レオンハルトってんだ。得意な魔法は収束系の硬化魔法。気軽にレオって呼んでくれ」

 

「風間進です。こちらも気軽に進と呼んでください。レオさん」

 

「さんはつけなくていいんだけどな。それより今更なんだが、その目のやつはどうしたんだ」

 

「中学の頃にちょっとした事故で視力を失ってしまいまして。ですがあまり気になさらないでください。もはや気になりません」

 

「お、おお、そうか。なんかわりいな」

 

 進の言葉に動揺したレオは詰まりながら言葉を返す。微妙な雰囲気になってしまったのを感じ取った達也が話題を変える。

 

「そういえばその杖変わった形をしているな。障碍者用の杖っていうともう少し持ちやすい形をしているものじゃないか?」

 

 達也は進の持っている杖に話題を振る。確かに進の持っている杖の持ち手は特殊な形をしている。色が黒というのもあるが、もち手にあたる部分が丸くなっており、そこから六つの突起が見えている。滑り止めのような効果を果たしているのだろうかと達也は考えたが、そもそも持ち手の形状でプラスマイナスゼロといったところだろう。

 

「確かにそうかもしれませんね。でも私はこれが気に入っているんです。見た目以上に頑丈なので剣の代わりとして振れますから」

 

「へえ、進君剣やるんだ?」

 

 進の発言にエリカが反応する。興味深そうに進の顔を覗き込みながら問いかける。

 

「ええ、エリカさんほどではありませんが、少し剣をたしなんでおりまして。今でも素振りする程度には剣を握っています」

 

「だからそんなに手に握りだこがあるんだ」

 

 話を変えながら道を進んでいると、近くのケーキ屋の話に移る。そして駅に着いたところで面々は解散となった。

 

 

 

 





 第一話終了です。少しばかりここで解説をさせていただきます。

・主人公の名前…設定を考えていた際、独立魔法大隊の隊長の名字が『風間』だったので 名前を考えるのもめんどくさいということもあってこのような名前になりました。 

・星の杖……申し訳ありませんがまだまだ活躍しません。活躍するのは横浜事変のあたりになります。そこまで作者の意欲が切れないことを願っていてください。

 ではこの辺で失礼します。次の投稿がいつになるか分かりませんが気長に待っていてください。バイチャ。




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第二話


 特になし。


 次の日、進はいつも通りに学校に登校していた。キャビネットを第一高校前の駅で降りると、いつものように学校までの道のりを歩き始める。いつもと違うのは同行者がいることだろうか。

 

「大丈夫ですか?進さん」

 

 二科生組の美月が進の手を引きながら進んでいる。その周りを取り囲むようにして達也たちが歩いている。おかげで進が誰かにぶつかることも、段差に躓いて転ぶこともなく安全に進めている。進はあって間もない彼らのやさしさに感動する。

 

 和やかに会話をしながら、学校に向かって歩いていたところで爆弾が介入する。声を上げながら軽やかに駆けて来る小柄な人物。それを見た達也は嫌な予感がしてすぐにでも駆け出したくなる。が、そういうわけにはいかない。進も声で何が起ころうとしているかの察しはついていた。進む足を止め、真由美の言葉に耳を傾ける。

 

 真由美は達也たちのもとにたどり着くと、朝の挨拶をする。しばらく達也、深雪と真由美が話し込んでいる間、他の皆は蚊帳の外になってしまう。

 

 ようやく話が終わったところでエリカたちも学校に向かおうとするが、今度は進に矛先が向く。

 

「進君も昼休みに生徒会室に来てもらってもいいかしら?少しお話しておきたいことがあるんです」

 

「分かりました。向かわせていただきます」

 

 進が声の方向に頭を下げると、真由美は満足そうな表情をしながら軽やかな足取りでその場を後にする。その後ろ姿を見送った達也たちの足取りは重い。足取りが変わらないのは進のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進は深雪と達也に連れられて生徒会室にやってくる。扉の前に立った三人を代表して深雪がドアホンを押す。スピーカーから歓迎の言葉が返されると、達也が戸を引き三人は部屋に入る。部屋に入り、深雪が周りが感嘆の声を上げるほどの洗練されたお辞儀を披露したあと、三人は指示された席に着く。

 

「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

 真由美の問いかけに達也と深雪が精進を選び、進は何も選ばない。が、真由美は進の格好を見て不思議に思う。弁当を持っているようには見えないし、食べてきたようにも見えない。

 

「あの、本当に要らないんですか」

 

「ええ、自分でカロリーバーを持ってきていますので」

 

 進は懐から二本のカロリーバーを取り出す。が、それを見た風紀委員長は心配そうな声を上げる。

 

「おいおい、そんな量で足りるのか?一応食べ盛りだろう?」

 

「足りるか足りないかといえば足りませんが、定食形式の食事は食べづらいので外で食事をとるときにはこれにするようにしているんです」

 

 進の発言で風紀委員長がはっとした表情になり、雰囲気が少々重くなる。しかし、真由美が生徒会の面々の紹介をすることで少しはましになる。雰囲気がましになったところでダイニングサーバーから出てきた料理を書記の中条が並べ、会食が始まる。

 

 当たり障りのない会話が続く中、真由美が本題を切り出す。それは深雪に生徒会に入ってほしいというものだった。しかし、深雪はそれに思うところがあり、達也を生徒会に加入させようとする。が、生徒会の役員は第一科から選ばれるという不文律に阻まれてしまう。

 

「それに、もし深雪さんが辞退しても、次席の方にお願いするだけです」

 

 鈴音の説明に納得した深雪は素直に謝罪し、書記として生徒会の役員に加入することが決定する。深雪の加入が決定したところで次の話題に移る。

 

「次は進君です。進君には風紀委員に前年度卒業生の枠として加入してもらいたいと考えています」

 

「一応、どのようなお仕事か聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 真由美は一番下座に座るあずさに視線を送る。彼女は唐突なふりでうろたえる。が、慌てながらも説明を始める。

 

「風紀委員の主な仕事は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した騒乱行為の取り締まりです」

 

「昨日の騒ぎを止めたのは君だろう?二科生のトラブルに首を突っ込んでいけるようなお人よしは少ない。ぜひ入ってもらいたいんだが……」

 

 進は下を向いて内容を精査していく。十数秒ほど口を開く。

 

「誠に光栄なことではありますが、お断りさせていただきたいと考えています」

 

「……理由を聞かせてもらってもいいかしら」

 

 真由美が神妙な面持ちで進に問いかける。進の前に座る摩利も同様の表情をしている。少々重苦しい雰囲気の中、進は自分の考えを話し始める。

 

「私、攻撃系の魔法がほとんど使えないのです。狙いが定められませんから。攻撃魔法が使えなければ、取り締まりは出来ませんでしょう?」

 

「目が見えていれば快く引き受けさせていただいたんですが……。非常に残念です。力比べだったら負けませんが……」

 

 真由美が理由を聞いて、理解したが納得できないように唸り声を上げ始める。その淑女とは言えない声に、摩利は冷たい視線を送るが、摩利も進を無理に引き留めることはできない。が、解決策として進は一つの案を提案する。

 

「ですが、私は別の人物もいいと思いますよ?」

 

 進は視線を右に傾ける。その人物を見て真由美と摩利の二人は表情を明るくさせる。

 

「そうか……。生徒会は第一科のみだが、風紀委員にはそんな決まりはない。達也君を選んでも全く問題ない訳だ」

 

 摩利はにやりと口角を上げ、達也を見る。いやな予感を感じ取った達也は反論していくが、深雪の押しもあり、だんだんと流されていき、風紀委員になる方向で話が進んでいく。

 

「じゃあ達也君。放課後、またここに来てもらっていいかしら?進君もね」

 

 生徒会室を出ようとしていた進は思い切り襟を引かれる。風紀委員にならない自分まで何故また来なければならないのかと思いながらも、早くいかなければ遅れてしまうと思い、反論することなく生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、再び生徒会室にやって来た進はいきなり修羅場に出くわす。

 

「実力の劣る二科生では風紀委員の役目に耐えられません!」

 

 そのセリフを聞いた摩利は眉を少し吊り上げてから、反論する。

 

「さっき実力にもいろいろあるといっただろう?達也君は展開中の起動式を読み取り発動される魔法を予測する目と頭脳がある」

 

 摩利の発言に服部は仰天する。さらにそれが未遂犯に対する抑止力になることも聞かされ、服部はひどく動揺する。

 

 それでも服部は食い下がる。が、それを許さない人物が一人立ちあがる。深雪だ。服部に反発する深雪は、達也が実践では負けないと主張する。二人の間にある秘密を知らなければ身贔屓にしか聞こえないだろう。実際そのように聞こえた服部は深雪をたしなめる。火に油を注ぐような発言にさらに深雪がヒートアップしようとしたところで達也が制止し、服部に提案をする。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進たちは移動して第三演習場へ来ていた。目的は服部と達也の模擬戦。二人は向かい合うようにして立っている。服部の腕にはブレスレット型の汎用型CADが、達也の手には銀色に輝く拳銃形態特化型CADが握られている。

 

 進の隣に立つ真由美は進に向かって問いかける。

 

「達也君は服部君に勝てるかしら?」

 

 進は真由美の問いかけに小さく息を吐くと口を開く。

 

「私にこの戦いを見届けることはできませんが、勝敗を予想することは出来ます。恐らくでしょうが……」

 

「始め!」

 

 摩利の合図で模擬戦が始まる。その直後、進は結論を示す。

 

「達也さんが勝つでしょう」

 

 直後、倒れこむ音が演習場に響き渡り、摩利が勝敗を告げる。

 

「……勝者、司波達也」

 

 生徒会の面々は達也が勝つとは思っておらず、唖然としている。達也は軽く一礼すると、CADのケースに向かう。

 

「待て」

 

 達也は摩利の問いかけにしっかりと応対する。続けて問いかけてきた生徒会の面々の質問にも丁寧に解答する。確たる勝利をつかみ取った達也の顔にはうれしさといったものは一切なかった。ただ淡々と仕事をこなしただけと言わんばかりの表情。意識を取り戻した服部は自分の無礼を深雪に謝罪すると、演習室を後にする。

 

 演習が終わったことを理解した進はその場から立ち去ろうとするが、達也がそれを許さなかった。

 

「話は少し変わるんですが、俺から提案があります」

 

 達也らしからぬ発言に進を除いた全員が興味深そうに耳を傾ける。その間も進は演習場から出ようとしている。

 

「今回は勝ちを拾えたとはいえ、やはり俺の魔法力は低いと言えます。そこで俺の補佐として進を風紀委員として加入させるのは」

 

 達也の提案に全員が雷に打たれたような衝撃を受ける。確かにこれならば達也の実践力と進の魔法力が備わった最強チームが出来上がり、風紀委員の力は飛躍的に高まる。達也の提案を受けた摩利は今にも演習場を出ようとしていた進を引き留める。

 

「よし、風間。次はお前の番だ」

 

「……まあ、いいでしょう。お付き合いしましょう。ではCADを取ってきます」

 

「じゃあ、俺がとってこよう」

 

 達也は演習場から出て事務室へ向かっていく。進は踵を返し、ゆっくりとしていた歩調が嘘のような速さで演習場の開始線へ向かっていく。それをみた面々は驚き、動揺するが、そういうものだということで納得する。達也を待つ間、進は言っておくべきことを伝えておくことにする。

 

「お先にお伝えしておきますが、ここに立ってはいますが、まだ入るとは言っていませんので。悪しからず」

 

 それを聞いた摩利は悪い笑みを浮かべながら、進に提案をする。

 

「じゃあ、私が勝ったら風紀委員に入ってもらうぞ。それくらいしなくては面白くない。さあ、君が言った力比べでは負けないというセリフに間違いがないことを見せてくれ」

 

 摩利の発言の直後、達也が進のブレスレット型CADを持って演習場に戻ってくる。進はそれを受け取り、装着する。審判は真由美が務めるようで、先ほどの摩利のようにルール説明を行う。

 

「それじゃあ行くわよ。……始め!」

 

 直後、二人はCADを操作し、魔法を発動する。摩利が発動したのは移動系、先ほど服部が発動しようとして不発だったものだ。普通であれば進の身体は宙を舞い、壁に激突するはずだった。しかし、進が吹き飛ぶ様子はない。起動式を読み込み、魔法を発動することは成功している。ではなぜ進が吹き飛ばないのか。

 

「領域干渉!?」

 

 進が恐るべき速さで領域干渉を発動させたことに驚きの声を上げる。しかし、本当に驚いているのはその強度にだった。三巨頭の名は伊達ではないほどに、摩利の干渉力は非常に高い。その摩利が進の干渉力の前に手も足も出ていないのだ。摩利もなんとか対抗しようとしているが、進の領域干渉はびくともしておらず、いたずらに魔法力を消耗するだけになっている。

 

 しかし、冷静に観察眼を働かせた摩利は領域干渉が進の半径五メートルまでしか張られていないことに気付く。魔法を変更し領域干渉の外に魔法を設置する。設置したのはエア・ブリット。打ち出された空気弾は進に向かって一直線に向かっていく。が進から三メートルにまで近づいたところで壁に当たったような音を立て、空気弾が霧散する。

 

「今度は対物障壁……。どんな演算能力してるのよ……」

 

 真由美の口から小さくつぶやかれた声は空気弾がぶつかる音でかき消される。進を覆い隠すように張られた対物障壁は何発も打ち出される空気弾をただの空気に変えていく。それでも障壁はびくともしない。逆に打っている摩利の方が消耗の方が大きい。

 

「余り長々と続けるつもりはありません。終わらせていただきます」

 

 進は同心円状に領域干渉を広げていく。摩利は下がりながら、魔法を発動して進に攻撃を続けるが、進の対物障壁を貫けず、徐々に追い詰められていく。そしてついに演習場の壁まで追いつめられた摩利は魔法を発動することが出来なくなる。

 

 自身の敗北を悟った摩利は両手を上げて降参を宣言する。それを聞き取った進は領域干渉を解除し、そのまま演習場を後にする。残された摩利たちは集まって話し始める。

 

「彼を何としても風紀委員に入れよう。彼は本物だ。達也君もそう思うだろう?」

 

「ええ、防御魔法だけで相手を制圧、本気を出しているようにも見えませんでした。さらに上があるんじゃないでしょうか」

 

「恐ろしいわね……。私たちもうかうかしていられないわね」

 

 摩利は悪い笑みを浮かべ、達也は淡々と、真由美は嬉しそうに笑みをこぼした。

 



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第三話

 どーも皆さん、私ですよーん。
 先自分の中で何かが変わったのか、書けるスピードが速くなりました。オリジナル作品の書き溜めをしていて、その間は交互に登校するつもりなんですが、この分だと、結構投稿できそうですね。

 それはともかくとして、第三話どうぞ。


 摩利に模擬戦で勝利を収めた翌日。進は再び生徒会室に呼び出されていた。理由は何となく察せており、気は乗らなかったが、断るわけにもいかなかった。

 

 生徒会室前にたどり着きインターホンを探していると、中から扉が開き、摩利が顔を出す。いきなり扉が開いたことに驚き、進は体を震わせる。

 

「ああ、すまない!驚かせてしまったようだな。中からカメラで見ていて君がインターホンを探しているのが見えてな。まあ、ともかく入ってくれ。真由美もいるし、達也君と深雪さんも来ている」

 

 摩利に手を引かれ、進は生徒会室に入り、席につかされる。

 

「それでご用件は何でしょうか」

 

 あまり長居をする気のない進は単刀直入に尋ねる。それを予想していた摩利も率直に用件を告げる。

 

「君にぜひ風紀委員会に入ってほしいんだ」

 

「その件は先日お断りさせていただいたはずです。そもそも昨日の前提では達也さんがいなければ成り立たないはず。それでは達也さんに仕事を強制することになってしまいます。また、魔法の特性が違えばほかの人とは組めないということになります」

 

 正論を突き付けられ、摩利はうなり声をあげる。まだまだ進の舌攻は続く。

 

「それにヘルプとして急に入ることも少なからずあるでしょう。それに加わることができないのであれば、風紀委員会の方々にご迷惑をかけることになってしまいます」

 

 さらなる口撃に摩利は縮んでいく。助け舟を出すことのできない真由美は歯がゆそうに摩利を見ている。 

 

「帰らせていただいてもよろしいですか?」 

 

 進は返事を聞くことなく席を立ちあがり、扉のほうへ向かっていく。正論のため、摩利も引き留めることが出来ない。

 

「わ、私はあきらめないぞ!絶対に引き入れて見せるからな」

 

「是非お待ちしていますよ」

 

 摩利は立ち上がりながら進に宣戦布告するが、進に軽く受け流されてしまう。そのまま進は生徒会室を後にする。見送った摩利は席にドカッと座る。すると隣から摩利に声がかけられる。

 

「それにしても不思議ね、摩利。どうして進君をそこまで風紀委員に入れようとするのかしら?魔法力の高さは確かに目を見張るものがあるけど……」

 

「魔法力だけじゃない。身体運びが……、その、何かしらの武道をやっていた動きだ。目が見えないが故の動きで隠れているし、本人も言わなかったが」

 

「そうなの?」

 

 真由美は達也の方に視線を送る。忍術使い、九重八雲から指導を受ける達也に確認を取るためだ。すると真由美の問いに達也は首を縦に振ることで答える。

 

「あれほどの領域干渉と体術があれば、一人でも制圧は容易いだろうからな。それに今日からのことを考えたら入れておいた方がいい。そう思ったんだ」

 

 摩利は「振られてしまったがな」と付け加える。今日からは新入生勧誘活動期間である。勧誘活動での獲得競争は、各部の勢力図に直接影響をもたらす重要課題であり、獲得競争は熾烈を極める。進は今年の実技一位である。各クラブからは喉から手が出るほど欲しい存在である。このままかこまれてしまえばどうなるものかわかったものではない。それを未然に防ぐために風紀委員に入れようとしたのだ。

 

「そうね……。達也君、ちょっとでいいから気を回していてもらえるかしら?」 

 

「分かりました。もし巻き込まれていたら対処します」

 

 達也が答えたタイミングで昼休み終了の鐘が鳴り、四人は解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部活動の勧誘が始まり、校内は戦場と化した。目当ての生徒がいれば、引くな押すなの奪い合いになり、延長で殴り合いが始まれば、風紀委員が力づくで止める。巻き込まれた生徒は散々な目に遭い、巻き込んだ生徒は懲りずに次の生徒に眼をつける。

 

 進も巻き込まれた生徒側だった。進はクラブ活動に入るつもりはない。そのため、目が見えない進は人通りの少ないところを散歩し続けていたが、運悪く曲がり角で勧誘の生徒に引っかかってしまう。そこからはとんとん拍子に事が進む。引っかかった一人をすりぬけようとするが、強引に肩を掴まれることで体をはねさせ、怯んでしまう。その隙をつくように人がどんどんと増えていく。人が増えすぎたせいで気配で察知することもできず、服ごと引っ張られているせいで身動きを取ることもできない。

 

 人に囲まれているせいで、半パニックになっている進は周りからの声に対応することもできず、逃げ出すこともできない。混乱する頭でどうしようか考えるが、全くまとまらない。引き合いで制服が逝ってしまいそうになるが、そこで助け船が入る。

 

「風紀委員会です!その生徒から離れてください!」

 

 エリカを引き連れた達也が進と生徒の間に割って入る。手が離れた瞬間、進は達也の声を頼りに人垣をすり抜けていく。達也は進が自分のところへやってきたのを確認すると、そのまま走り出し、進を囲んでいた生徒たちを置き去りにした。

 

 完全に振り切ったところで、三人は立ち止まり、息を整える。しかし、三人ともそれなりに体力があるため、整えるのに時間は必要ない。整え終わったところで進が口を開き、礼を告げる。

 

「ありがとうございました、達也さん。おかげであの人垣から逃げ出すことが出来ました」

 

「気にするな。風紀委員会の仕事としてやっただけだ」

 

 深々と頭を下げる進の肩に手を置いて、頭を上げるように促す。進が頭を上げたところで、エリカが口を挟む。

 

「それにしても人気者はつらいね。あんなに囲まれちゃうなんて」

 

 「エリカもたいがいだと思うが」と達也は思ったが、口に出さないが吉だと判断し、黙り込む。進はエリカの言葉に恥ずかしそうに答える。

 

「ええ、私もここまで人に囲まれることになるとは思いもしませんでした」

 

「ねえ、もしよかったら私たちと一緒に回らない?このまま一人で回ってたらさっきみたいになるでしょ?」

 

 進はこのまま散歩を続けたいところであったが、エリカの言うことはもっともである。背に腹は代えられない。

 

「よろしくお願いします。もうあんな思いはこりごりですから」

 

「決まり!じゃあ達也君お願いね!」

 

「結局俺任せなのか……」

 

 エリカの言葉に達也は溜息を吐きながら歩き出す。エリカは進の手を取りゆっくりと引きながら達也に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進たちは第二小体育館、「闘技場」にやってきていた。そこでは剣道部の演武が行われていた。レギュラーによる模範演技はなかなかのもので、観衆のほどんとがその流麗な演武に目を奪われていた。が、目を奪われていないものもいる。演武が終わると同時にエリカは不満げに鼻を鳴らす。達也はそれが不満げであると取り、問いかけ、エリカはそれに答える。が達也が指摘するとエリカは不満そうに顔を逸らす。すると視線の先に進がいた。進は演武をじっと見据え、演武の動きをまねるかのように指を動かしている。 

 

「進君?もしかして動きが分かってるの?」

 

 エリカの言葉を聞き取った進はエリカの方を向くと、質問に答える。

 

「一応は。動きの気配と音で大体は察知できます。そこからさらに予測することで精度上げる特訓をしているんです」

 

 進の発言に二人は感嘆の息を零す。

 

「へえ、てことは進君、剣をやったことがあるの?」

 

「ええ、かじった程度ですが」

 

「剣術を分かっていても動きを理解することは容易じゃないだろう。耳が相当いいのか、それとも……」

 

 達也の言葉からこの後が予測できた進は割り込むように告げる。

 

「私に特殊な知覚系魔法はありませんよ。目が見えないので他の感覚が敏感になっているんです」

 

「それでもすごいわよ……」

 

 エリカは進の発言に感嘆の息を漏らす。剣術の達人であるエリカもそこまでのことはできない。進はかじった程度といっているが確実にその程度ではないことがエリカには分かった。

 

 演武が終わったため、その場を後にしようとすると、妙なざわめきによって達也は脚を止めることとなる。その方を見ると、剣道部と剣術部が言い争っている。人垣を掻き分け、騒動の真っ最中に近づいていくと、そこでは一組の男女が言い争っていた。その言い争いを見ていると、エリカが好奇心むき出しでつぶやく。それに気づいた達也がエリカに問いかけると、エリカから答えが返ってくる。 

 

「女子の方は壬生紗耶香。一昨年の中等部剣道大会女子部の全国二位よ。当時は美少女剣士とか剣道小町とか騒がれてたわ」

 

 達也は女子の方を見ていろいろ納得したように頷く。

 

「男の方は桐原武明。こっちは一昨年の関東剣術大会中等部の準優勝よ」

 

「ちなみに一位は誰だったんだ?」

 

「そのことなんだけど……。ねえ、進君?あなたやっていたのは剣術?剣道?」 

 

「剣術ですよ。魔法力も活かせますので」

 

「大会に出てた?」

 

「出ていましたよ」

 

「私、確か一昨年の剣術大会中等部のチャンピオンの名前を風間進だと記憶してるんだけど。これってあなたよね?」

 

「ええ、私ですよ。隠す気はなかったんですが」

 

「だったらかじってるってレベルじゃないじゃないの!」

 

 あっけらかんとした進の返答にエリカは大声で答える。呆れたと言わんばかりの声は体育館中に響き渡る。観衆の視線を一手に引き受け、会場は妙な静けさを纏うそれに気が付いたエリカは口を押えながら縮こまるようにして存在感を消していく。

 

 二人の耳には届いていなかったのか、二人は人通り言い争った後、竹刀を構え向かい合う。そして一泊置いたあと、二人は竹刀を撃ち合い始めた。が、程なくして決着がつく。壬生の勝利である。が、壬生の言葉に反応した桐原が虚ろな笑い声を発し始める。と同時に、達也と壬生の危機感が急上昇する。

 

「真剣なら?俺の身体は切れてないぜ?壬生、お前真剣勝負が望みか?だったら……、お望み通り、真剣で勝負をしてやるよ」

 

 達也はもしものための準備を始め、エリカは面白くなりそうだと確信し、進の方を掴もうとする。が、その腕は虚空を切った。

 

「おやめなさい」

 

 いまにも左手首のCADを操作しようとしていた桐原の胸に杖の丸くなった部分を当て、行動を止める進。驚きの表情を見せる桐原。がそれ以上に驚いていたのはエリカと達也だった。桐原が言葉を発していた時には進は確実に二人の隣にいた。はっきりと横目で捉えていたため、間違いない。そのため、進はそれからのわずかな間に桐原の胸元まで移動したことになる。そのあまりの素早さにエリカは絶句していた。

 

 いきなり進に懐に入られた桐原は動揺しながら、怒ったような声を上げる。

 

「な、なんだお前は!部外者は……、ってお前は確か……」

 

「そこから先は小競り合いで済む領域ではなくなります。ちょうど風紀委員も見ていますからここが引き時だと私は考えます」

 

 進は杖で達也たちの方向を指す。風紀委員である達也の存在に気付いていなかった桐原は達也を見て気が抜けたのか、竹刀を下ろす。突然の出来事にあっけに取られていた壬生も、それを見て剣を収める。二人が剣を収めたのを確認した進は背を向け、達也と交代する。そしてそのまま体育館を後にした。

 

「風紀委員です。小競り合いの件ですが……」

 

 達也はエリカに視線を送り、進を追いかけるようにアイコンタクトをする。それを理解したエリカは駆け出し、進を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、進君!」

 

 エリカの声に反応した進は立ち止まり振り返る。

 

「何で止めたの?自分でやらなくてもあのままだったら達也くんが止めてたでしょ?」

 

 エリカの問いに進は微笑みながら答える。

 

「あのまま魔法が発動されていれば、誰かしら怪我をしていたでしょう。であればその前に止めた方がいいでしょう」

 

「ふーん、優しいんだ。……ねえ、お願いがあるんだけど」

 

「はい?」

 

「今度暇な時でいいからさ、私と模擬戦をしてくれない?」 

 

「ええ。エリカさんがよろしければぜひ」

 

 エリカの頼みに進は二つ返事で快く了承する。返事を聞いたエリカは表情を緩ませ、進に笑いかける。

 

「そっ。ありがと。じゃあ達也君が来るまで他の部を見回ってようか」

 

 エリカは進の手を取って歩き始める。するとすぐに見知った顔に出くわす。

 

「あれ雫、ほのか。何やってるの?」

 

 エリカは目の前の建物から出てきたほのかと雫を見て、疑問の声を上げる。が、この状況で考えられる選択肢は限られる。部活に入ったか、見学くらいのものだ。一方進の手を引くエリカを不思議に思った二人が疑問で返す。

 

「二人こそ何やってるの?」

 

「部活動の見学よ。そっちは?」

 

 ほのかが発した言葉には二重の意味があったのだが、珍しく気付かなかったエリカは特に疑問を抱くことなく答える。次は彼女たちが答える番だ。エリカの問いに次は雫が答える。

 

「私たち、クラブに入ったから。バイアスロン部」

 

 エリカは雫のふーんと淡白に答える。ここでエリカは二人の茶化すような視線に気づく。自身の右手は進の手をしっかり掴んでいる。これが原因であることに気付いたエリカはすぐさまつないだ手を放す。いきなり手を離された進は驚いて体をびくりとはねさせる。それを見た雫はエリカに問いかける。

 

「つないでなくていいの?」

 

 雫は自分の左手と右手をつないで見せる。特に意味を込めたわけではないが、エリカにはそれなりに効いたようで頬を紅潮させる。それを見てほのかはにやけ顔になる。一方状況を飲み込めない進は首をかしげる。

 

 その時、二人は先輩に呼ばれたようでその場を後にする。いなくなったことを理解した進はエリカに呼びかける。

 

「エリカさん?どうかされましたか?」

 

 そういうとエリカは正気に戻り、進の問いかけに応える。

 

「ううん、何でもない。いこっか」

 

 エリカは進の手を取り、再び歩き始めた。

 

 





 エリカがヒロインみたいになってもうた……。

 まあそもそもヒロインを誰にするか、そもそもヒロインを作るかも悩んでいるんで、伏線程度になればいいや程度で書いていました。ヒロインを入れることになれば、枠の一人で確定です。

 次は何時になるかな?わっかりませーん。お楽しみに。 


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第四話

 どうも皆様、好きなワートリキャラは影浦雅人。私です。

 特にいうことはなし。以上!


 勧誘週間が終わり、校内は落ち着きを取り戻していた。もっともそうはいかない人物が何人か入るが……。

 

「進君、やっぱり風紀委員会に入らないか?達也君が過去との顛末は聞いている。他人のいさかいに割って入れるほどのお人好しであったら、活躍できると思うんだが」

 

 摩利はまたまた達也経由で進を呼び出し、何とかして風紀委員に入れようと説得していた。が進は摩利の言葉にため息をつく。

 

「申し訳ありません。何度も申し上げていますが、風紀委員に入る気はないのです」

 

 進の言葉に摩利はがっくりと肩を下げる。傍らでやり取りを見ていた達也も進のスパッとした切れ味の言葉に肩を落とした摩利に少し同情してしまう。

 

「それに皆様私を勘違いしていらっしゃる」

 

「ほう?」

 

「私はお人好しなのではなく、自分が戦うことのできない争いごとが嫌いなだけです。ただそれだけです」

 

「ふむ?それならば風紀委員に入ったほうがいいだろう。有事の際は合法的に暴れられるぞ?」

 

 新たな切り口を見つけたと判断した摩利は口元を吊り上げながら進に問いかける。が、進はその程度では言葉に詰まることはない。

 

「風紀委員に入ればあちら側の方々はあまり反撃してこないでしょう。賢明であれば、反撃すれば罪が重くなることぐらいはわかるでしょうから。私は反撃が返ってくるような戦いがしたいんです」

 

「つまり、喧嘩ではなく、模擬戦のようなものがいいということか?」 

 

「楽しむことができるような戦いであれば何でも」

 

 達也は一連の問答で進の本質を見た気がした。戦闘狂(バトルジャンキー)。進は口調こそ柔らかいが、奥底では戦いが好きなやつなのだということに気付いた達也は誰にも気づかれないほどの小さく口角をひきつらせた。

 

「では、そろそろ失礼しますね」

 

 進は杖を突きながら、風紀委員会本部を後にしようとする。その姿を引き留めることができない摩利は見送ることしかできない。が、達也は伝えておくべきことを思い出し、進を引き留めた。

 

「そうだ進。桐原先輩から伝言だ。『止めてくれてありがとう。ぜひ今度空いている時間でいいから話がしたい』とのことだ」

 

「わかりました。失礼します」

 

 進は本部から出て、廊下を歩き始める。すると、進の耳に新しい声が響いた。

 

「おう、やっと会えたな。チャンピオン」

 

「その声は……、確か桐原さんでしたか?」

 

「おう、桐原武明だ。……悪いが放課後少し時間をとってもらえないか。少しばかり話したいことがあるんだ」

 

「ええ、かまいませんよ。どちらに向かえばよろしいでしょうか?」

 

「そうだな。じゃあカフェテリアで頼む」

 

 桐原がそう告げると、昼休み終了のチャイムが鳴り、話を区切らざるを得なくなる。

 

「それじゃ、また放課後にな」

 

 桐原は進に背を向け、教室へと駆け出していく。その背中を見送った進も教室に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、カフェテリアについた進は桐原と向かい合いながらお茶を飲み、端から見たら何とも言い難い状態になっていた。

 

「しかし、顔を合わせるのは二年ぶりくらいか。あの時は派手にコテンパンにされたよ」

 

 桐原の謙遜か、本心かわからないあいまいな言葉に進は何も突っ込まない。

 

 二年前の剣術大会決勝戦では進がきれいな一本を取り、審判の完全一致で優勝を収めた。コテンパンという言葉も間違いではない。だが、それ以上に進が謙遜も何もしなかったのは、その時の勝利に何の疑念も抱いていなかったからだろう。

 

 進の目の前の紅茶が半分ほど減ったあたりで桐原がさっそく切り出す。

 

「まずはあの時の礼をさせてくれ。本当に感謝している。あのまま手を出していたら、壬生にけがをさせてしまっていたかもしれなかった」

 

 桐原は座ったまま、頭を下げる。

 

「あげてください。あれは自分の意思に従って動いただけですので」

 

 進は頭を上げるように言う。その言葉に従って桐原は頭を上げる。ちなみにだが、自分の意思はやさしさなんかではなく、先に述べたそれである。

 

「回りくどいのはあまり得意じゃないからな。早速本題に入らせてもらう。進、お前剣術部に入らないか?」

 

 進は桐原の言葉に既視感を覚える。

 

「そうですね。申し訳ありませんが、私はクラブ活動に入るつもりはないんです」

 

 進の解答に桐原は残念そうに肩をすくませる。

 

「そうか。でもぜひ剣術部に遊びに来てくれよ」

 

 桐原と進はそのまま和やかな会話を続ける。

 

「しかし、二年前いきなり大会に出場して優勝した伝説の男がまさか視力失ってるとは思わなかったぜ。いったいどうしたんだ?」

 

「ちょっとした事故ですよ」

 

「残念だ。もういちどやりたかったんだが」

 

 しかし、和やかだった雰囲気がピリッとする出来事が訪れる。

 

「進?」「桐原君?」

 

 進はその声で自分の背後に達也が立っていることに気付き、桐原は珍しい組み合わせにぎょっとした。

 

「達也さんですか……。デートですか?」

 

 進の発言に達也は少し慌てたような表情を見せ、壬生は顔を赤く染める。このまま誤解を解かずに進を返すことになれば、いつか氷漬けにされるかもしれないと判断した達也は弁明を始める。

 

「違うぞ進。これは壬生先輩の誘いだ」

 

「つまり告白ですか」

 

「違う。ただの話だ」

 

「冗談ですよ」

 

 進は焦って更なる弁明をしようとした達也の雰囲気を察して話を切り上げる。話がいったん区切られたところで壬生が前に出る。

 

「風間進君よね?私は壬生紗耶香。この前はありがとう。おかげでだれも傷つかないですんだわ」

 

 そういうと壬生は軽く進に頭を下げる。が、顔を上げるとき、達也は桐原のことを一瞬睨みつけたのを見逃さなかった。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

 壬生は達也と一緒にその場を離れ、自分たちの席を確保する。

 

「では、我々もお暇しましょう。お話も終わったことですし」

 

「お、おう」

 

 進は席を離れ、帰宅のために駅へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、進はカウンセリング室にむかっていた。目的としては単純に盲目である進が学校生活で不自由していないかを確かめておきたいのだろう。

 

 カウンセリング室にたどり着いた進は確認を取ってから中に入り、席に着く。

 

「呼び出しに応じてくれてありがとうね。風間進君、学校生活には慣れたかしら?」

 

 進には聞き覚えのない声がカウンセリング室にこだまする。声のトーンからして女性の質問に進は答える。

 

「ええ、教材等で不便なことはしばしばありますが、慣れたらたいしたことはありません」

 

「大変そうね。音声教材等の充実を学校に進言したほうがいいかもしれないわね。っと、この話はいったん置いておいて。これからお呼び出しをした理由を説明させてもらうわね」

 

「カウンセリングの協力でしょうか?」

 

「話が早くて助かるわ。あなたにはカウンセリング部の業務協力をしてもらいます」

 

 カウンセラーの小野遥から業務の詳しい内容の説明がされる。業務内容に納得した進は首を縦に振る。

 

「それでは、いくつか質問させてもらうわね」

 

 遥は進に用意していた質問を呈示した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご協力ありがとうございました。それにしてもほかの生徒以上に大変そうね。この学校があまりそういう方面に発達していないからかしら?」

 

「どんなことであっても慣れです。慣れてしまえさえすれば、特に難しいことはありません」

 

「達観してるわねえ」

 

「単純な心の持ちようだと私は思いますよ。それでは」

 

 遥の言葉に答えた進はそのまま部屋を後にする。

 

「困ったことがあったらいつでも相談しに来てね」

 

 遥の言葉を背中で聞き、進は教室へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 授業が終わり、帰宅していた。買い物をしながら、自宅に向かっていたところで進の耳は妙な音をとらえる。バイクのアクセルが噴かされる音。それもそれが大通りではない路地に入り込んでいる。

 

 それを不審に思った進はその方向に近づいていく。近づいていくにつれてバイクのアイドリング音にかき消されていた言い争いの声が聞こえてくる。

 

 が、言い争いがはっきりと聞こえるほど大きくなったところで甲高い音が耳を貫く。脳を震わせるような音が進に不快感を与える。 

 

 その音の影響で顔をゆがめているほのか達三人は暴漢達の凶刃にさらされようとしていた。

 

 ナイフが振り下ろされ、ほのかにその刃が突き立てられようとした瞬間、暴漢達はいきなり白目をむいて倒れていく。突然のことにほのかたちが戸惑っていると、路地に進が入ってくる。

 

「し、進君!?」

 

「ご無事ですか?何やらトラブルに巻き込まれていたようなので制圧させていただきましたが」

 

 進は左手のCADを撫でながらほのかに問い掛ける。突然のことに戸惑いながらもほのかたちは答える。

 

「う、うん。ありがとうございました」

 

 ほのかたちはいまだにアンティナイトの影響が残っているらしくふらふらと立ち上がる。

 

「でも、なんでこんなところに?」

 

「たまたまですよ。買い物の途中だっただけです」

 

 進は左手の紙袋を見せる。納得したように三人が首を縦に振っていると背後から深雪が顔をのぞかせる。

 

「進さん!?みんな、大丈夫!?」

 

 深雪の心配する声はほのかたちを安心させる。その傍ら、安全を確認した進は男たちの処分をどうするかを考える。このまま放置するのは論外。そのことを相談しようとすると、先に深雪が口を開く。

 

「この男たちの処遇は私に任せておいていただけませんか?」

 

「深雪さんがそうおっしゃるのであれば、どうすることもできない私はお任せいたします。ほのかさんたちは?」

 

「わ、私たちも深雪にお任せする。どうしようもないし」

 

「同じく」

 

「私も」

 

 三人の同意をとった進はそのまま深雪に任せ、自分はその場を立ち去る。が、倒れていた男に気付かなかった進はその男に躓き、転んでしまう。

 

 進は立ち上がろうとする。ほのかたちはそれに手を貸し、路地から出るまで手を引いて誘導する。路地から出たところで進に、

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。私はアメリア=英美=明智=ゴールディ。長いからエイミィって呼んで」

 

「わかりました、エイミィさん。私は風間進。進とお呼びください

 

「もう。エイミィでいいって」

 

「進君はずっとさん付けだからあまり気にする必要ないよ」

 

 ほのかと雫はエイミィの肩に手を置き、諭すように声をかける。

 

「ではこれで失礼いたします」

 

「待って。駅まで送っていく。助けてもらったからこれくらいはさせて」

 

「では、お願いします」

 

 雫に手を引かれ、四人は駅に向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅した進の端末に着信が入る。この端末の連絡先を知っているものは少ない。連絡をしてきた者のあたりをつけ、進は端末の応答のボタンを押す。

 

「進、調子はどうだ」

 

「問題ありませんよ。そもそもそこまでやわに鍛えられていません」

 

「そうか。それより少し伝えておきたいことがある。モニターのほうに切り替えてくれ」

 

「わかりました」

 

 進は端末の通話を切り、モニターにかかってきた着信に応答する。

 

「久しぶりに息子の顔を見たな。いつもは真田君たちのところに行ってしまうからな」

 

「それ以上に親父殿が忙しいからでしょう。そんなことよりも」

 

「ああ、本題に入ろう。現在、反魔法活動を行っている政治結社を知っているか?」

 

「ええ、確か……、ブランシュでしたか?」

 

「そうだ、その下部組織にエガリテという組織があるのだが、現在その構成員が第一高校に潜入している。近々、ブランシュが第一高校で行動を起こそうとしているとのことだ。一応耳に入れておく。もし何かしらが起こったら、また連絡する。力を貸してもらうぞ」

 

「わかりました。力をふるうだけであればいくらでもやらせていただきましょう」

 

「それではな」

 

 そういうと、通話は切れ、モニターが黒く染まる。音の消えた室内で進は考え込み始めた。

 

 

 




 今回はこれで終わり。次回は討論会でのテロリストとの闘いと、ブランシュ本部へのカチコミで行きたいと考えています。

 では次回までバイビー。

 ※どうでもいい小話
 ワールドトリガーの最新話見ました。まさかとは思いますが、草壁隊全員誰かしらの信者だったりしないよね?今出てる二人どっちも信者だからありえない話じゃないかもね。体調が沢村さんの信者で、恋を応援してるとかだったら面白いのにな……。





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第五話

 公開討論会当日。とはいっても進のやることはさほど変わらない。いつものように授業を受け、適当に散歩をして帰るつもりだったのだが、そうもいかない事態が起きた。摩利に三度呼び出され、勧誘を受けてしまったのだ。いつものようにいなして立ち去ったものの、これではいつまでも勧誘を受け続けることになる。そう考えた進はさすがに鬱陶しく感じていた。その前に対応策を考えておく必要がある。

 

「というわけで何かいい案はありませんか?先生がどうにかしていただいてもよろしいのですが」

 

「図々しいわね。言い方が」

 

「困ったことがあったら相談しに来なさいとおっしゃったのは先生ですので。私はそれを聞いただけです」

 

 放課後、進は遥のもとにやってきていた。今の進にこれを相談できるような教師は遥以外にいない。進にはこの問題を一人で解決できるほどの手腕はない。そのため、いいように使える遥のもとにやってきたのだ。

 

「まあ、生徒の相談に乗るのがカウンセラーの相談ですから。渡辺風紀委員長にやんわり伝えておきます。それでもだめだったら自分で頑張ってね?」

 

 生徒にいいように使われているのが気にくわないのか、皮肉たっぷりの口調で遥は答える。遥の答えに進は口角を上げる。

 

「小野先生の言葉でぜひ止まっていただけるとありがたいんですが、あの方の場合、そうもいかないのが辛いところですね」

 

 進は鼻から重く息を吐き出す。その様子を見た遥は少々気味よさそうににやける。それでも遥に面倒事がのしかかった事実は変わらない。その現実から逃げるために遥は話題を変える。

 

「そういえば進君は討論会見に行かないの?」

 

「ええ、興味がありません」

 

「一科生、だからかしら?」

 

 遥からの問いかけでカウンセリング室内の雰囲気が引き締まる。少なくとも遥にはそう感じた。

 

「そうではありません。一科生が図に乗る、もとい立場が高くなるのは当然の事でしょう。ここは魔法科高校、魔法を学習する場所です。魔法力が高い生徒が優遇されるのは当然の事でしょう。問題なのは強くなるための努力をしようともしない者たちです。恐らく今回の有志達のほとんどがそうでしょう。文句があるならば魔法抜きでも魔法師を圧倒できるほどに強くなればいい。そこに到達するための努力すらしないくせに文句だけは一丁前とは反吐が出る」

 

「なんか……、進君性格変わってないかしら?」

 

「気のせいでしょう」

 

 遥は進の持論に体を震わせた。魔法力が高いというのも今の言葉の自信になっているのだろう。しかし、問題は後の理論である。魔法なしで魔法師を圧倒できるようになればいいなど、普通は考えない。それほどまでに魔法というものは強力なのである。それを進は淀むことなく言い切った。これほどの考え方を持っているものがいったいこの世に何人いるのだろうか。この若さでそういう領域にいる進に恐れすら抱いた。

 

 遥は体を抱いて身を再度震わせる。その瞬間、校舎が大きな揺れで震えた。突然の爆音と振動に進は驚き、椅子から滑り落ちる。先ほどとは打って変わってひょうきんにも見えるその動きに遥は驚きながら、進が立ちあがるのに手を貸す。

 

「何が起こったんでしょうか?」

 

「来たのね……。とりあえず外に出ましょう」

 

 遥と進は廊下を駆けながら、状況を確認しあう。

 

「とりあえず、何が起こっているか教えてもらってもいいでしょうか?先ほどの口ぶりだとこれが何か知っているかのようでしたが?」

 

 進の問いかけに遥は数秒唸ってから、進に話し始める。

 

「反魔法活動ブランシュは知ってるかしら?」

 

「一応は」

 

 進の返答に遥は眼を見開く。普通であればこんな情報走ることが出来ないものである。いったい彼はどこからその情報を得たのだろうかと、遥は再び唸った。

 

「それが攻めてきたということでいいのですか?」

 

「……ええ、目的はおそらく図書館でしょうけど……」

 

「関係ありません。戦えれば何でも構いません」

 

 その圧倒的な戦闘狂(バトルジャンキー)ぶりを見て、遥は先ほどの言葉がどこから出たのかの見当がついた。

 

 外に出ると、すでにテロリストたちがトラックから降り、戦闘体制を取っていた。その光景を見たら、普通であれば身がすくむだろう。しかし遥の隣に立つ男は身がすくむどころか、いつもの薄い笑みではなく、どう猛に小さく口角を上げ、今にも走り出しそうに、体を倒している。

 

「では、私はここで。小野先生は自分のなすべきことを」

 

 そういうと進は遥の制止を聞くことなく、テロリストの集団に駆け出していく。もう自分では止められない。そう考えた遥は、自分のやるべきことを達成するために達也のもとへと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこれは……」

 

 講堂内に入り込んだテロリストを制圧し、外に出た摩利たちが見たのは衝撃的な光景だった。

 

「殺せ!囲んでたたき続けろ!」

 

「目の見えないガキ程度、さっさと囲んでつぶしてしまえ!」

 

 大立ち回りを見せる進の姿だった。黒い覆面をかぶった男たちに囲まれながら、進は一撃も食らうことなく、まるで蝶のように華麗に立ち回っている。繰り出される攻撃は足さばきで攻撃の軸線上から外れ、よけきれない攻撃は杖を巧みに使って受け流している。

 

 しかし、防戦一方というわけではない。ある男の攻撃を回避すると同時に、腹部に杖をたたきこみ、意識を刈り取る。また、ある男は杖で攻撃を受けられ、その勢いを利用した下段の一撃が股間に直撃する。その痛みで悶絶する暇さえなく、男は気絶する。何十人に囲まれているにもかかわらず、間隙を縫って、進は着実に数を減らしつつあった。

 

「あいつは本当に魔法を使っていないのか!?どう考えても魔法を利用した動きにしか思えないぞ!」

 

 摩利の疑問はもっともである。そもそも進は目が見えない。その状況で何十人の位置関係を把握するのは人間業ではない。それ以上に身体能力が異常の一言に尽きた。五メートル近く離れている敵の懐に一瞬で飛び込み、意識を刈り取ったかと思えば、返す刀で三人を同時に薙ぎ払う。

 

「え、ええ。彼は役員じゃないから校内での常時CAD装着は認められていないわ。それに彼の左腕にはCADはついていない。生身である証拠よ」

 

「生身であの動きはおかしいだろう!シュウでもあんなことできないぞ!」

 

 シュウがだれかはこの際放っておいても、それほどに進の動きは異常だった。いや、もはや魅了の域に達していた。ここまでの動きをされては剣術においては素人の真由美や服部であってもその動きに息をのまざるを得ない。

 

 が、摩利たちは黙って進の動きを見物するために、わざわざ外に出てきたわけではない。自身のCADを操作し、進の援護に回る。

 

 その時、進の体が跳ねるように宙へ飛び、空中から上段の振り下ろしを男の肩に叩き込み、鎖骨を砕き昏倒させる。そして、着地すると摩利たちのほうに弾丸のようなスピードで駆け出した。そのスピードについてこれたのは剣術を学んだ摩利一人。摩利はとっさに普段から持ち歩いている得物で進の攻撃を受け止め、大きく呼びかける。

 

「進君、私だ!摩利だ!」

 

 呼びかけで誰かを魔法を打ってきたのが誰かを確認した進は、杖を下ろし、一歩距離を取る。

 

「すみません。魔法の気配がしたので敵の魔法師かと思いまして。ありがとうございました。おかげで傷つけずに済みました」

 

「そんなことはいい。それより、君が全部やったのか?」

 

 あたりに転がる人間の肉体。かろうじて生きているのがせめてものの救いだろう。遅れてやってきたほかの生徒たちもその光景を見て、唖然としている。

 

「ええ、私が一番乗りだったようなので、いただいてしまいました。久々に本気でできる相手だったのでつい張り切ってしまいまして」

 

 あっけらかんとして告げる進に、真由美たちは唖然とする。が、そうしていられないようになった。進の背後からまだ動ける男たちが急襲してきたのである。真由美たちは魔法を発動して迎撃しようとする。距離は十メートル。この距離ならば、真由美であれば、難なく迎撃出来るだろう。

 

 が、CADをはじくボタンが最後まで押されることはなかった。進は男たちに背を向けたまま突進し、そのまま一人の腹を杖の石突で突く。男が呼吸困難で倒れこむのと同時に、進は独楽のように回転し、残りの二人をその勢いを利用して、吹き飛ばした。

 

 その妙技にその場の全員が見惚れ、すべての行動を止めた。まるで演武を見てるかのような、華麗な動きでありながら、最速で相手をしとめる、実践の動きであった。

 

 止まってしまった全員の時間を再び動かしたのはどこからともなく鳴り響いた着信音だった。特徴的なクラシックの着信音が鳴り響く端末を進は自分の胸元からだし、応答する。

 

「もしもし、……はい。……はい、わかりました」

 

 短く応答を繰り返すと、進は着信を切り、杖を今までの順手から逆手に持ち替える。そして、何の前触れもなくいきなり校門のほうへと走り始めた。摩利たちは事情を聴くため、引き留めようとするが、その速さにあっけにとられ、初動が遅れたため、捕らえることができず、そのまま取り逃がしてしまう。

 

 なぜ進がいきなり走り始めたのかを考えこみたい気分であったが、そうもいかない。まだ校内に制圧するべきテロリストがいる。テロリストたちを制圧するために、真由美たちは奔走することとなり、進のことを思い出すのは紗耶香に事情を聴くときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブランシュのアジトを突き止めた。進、お前のその杖のデータ取りにちょうどいいだろう。思いっきりやれ。データ取りのために真田君を行かせてあるから彼と合流してそのアジトに向かってくれ」

 

 進に送られてきた着信の内容がこれである。これに応えるために進はいきなり駆け出した。

 

 駅近くまで走ったところで、進の隣に一台の自動車が止まる。

 

「やあ、久しぶり、……というわけでもないか。まずは乗ってくれ」

 

 進は疑うことなく助手席に乗り込む。

 

「真田さん。早く向かいましょう。でなければ一校の生徒たちが乗り込むかもしれません」

 

「せっかちだね。ゆっくり世間話でもしないかい?」

 

「そうしたいのはやまやまですが、早くいかなければ、逃げられてしまうかもしれません。もし、打てなかったら、真田さん。あなたに打ち込ませてもらいますよ?」

 

「僕にそれに抗う力はないからさっさと向かわせてもらおうかな」

 

 父親の部下である真田は進の冗談に身を震わせながら、車を発進させる。向かうは町はずれの廃工場。そこに死神の鎌が振り下ろされることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃工場に到着した真田の車から進は降り、真田はそのまま車で待機する。

 

「それじゃあ、僕はここで見てるから、派手にやってくれ。そのほうがデータとしての価値が高くなるからね」

 

 真田の言葉に進は軽く頷き、廃工場の中に入っていく。数分もしないうちに進は人気の多いところに到着する。

 

「初めまして!確か……、風間進君、だったかな?話は聞いているよ。二科生である壬生紗耶香君との間に起こりそうになったいさかいを止めたらしいね。それはやさしさなのかな?」

 

「まあそんなことはどうでもいい。正直な話、君はお呼びじゃないんだ。かといって僕の魔法が通用する相手ではない。だから君には消えてもらう」

 

 進にすべての銃口が向き、ためらうことなく一斉に火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進から数時間ほど遅れて廃工場に突入した達也たちはそのおぞましい光景に戦慄していた。

 

「廃工場がみじん切り?になってる……。いったいどんな魔法を使ったらこうなるんだ?」

 

 目の前のおぞましい光景をみてレオは体が震えるのが感じた。廃工場だったものはがれきの山へと変貌を遂げ、その下にはヒトだったものががれきの隙間から顔をのぞかせている。そのあまりのおぞましさに慣れているはずのエリカも手で口を抑える。

 

「どうやら、俺たちの前に先客がいたみたいだな。その人物がこの惨状を作り出したみたいだ。……司波、こんなことができる魔法を知っているか?少なくとも俺は知らない」

 

 その状況でも十文字克人は冷静に状況分析する。さすがは十師族の次期当主である。その克人の問いかけに達也は臆せず応える。

 

「俺も知らないですね。ただつぶしたというレベルじゃありません。この断面を見てください。この断面は割れた、というより切れたと言った方がいい断面でしょう。それにかなりきれいに切れています。ここまできれいに、なおかつ大規模に切り裂く魔法なんて俺の記憶の中では存在していません。何かしら未知の魔法の可能性があります」

 

 達也と克人が話していると、廃工場のがれきの上を歩き回っていたレオが声を上げる。

 

「おい!生きてるやつがいるぞ!」

 

 その声に呼応し、全員が駆け寄る。そこで腕を切り飛ばされながらも気絶していたのはブランシュのリーダーである司一だった。それを告げられた桐原は壬生の仇を打つため、刃を振り下ろそうとするが、戦意のないものに刀を振ることは恥であると自分で抑え込んだ。

 

「とりあえず、この場は俺が何とかしておく。お前たちはもう帰宅しろ。ご苦労だった」

 

 達也たちは消化不良のまま、事件が解決したことを納得するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな、進。おかげでいいデータが取れた。礼を言う」

 

「家族のあいだに畏まった礼など不用でしょう。それに私も久しぶりに刃を振るえて楽しかったです」

 

「ならいい。今日はもうゆっくり休め。体をしっかりいたわれよ」

 

「ええ、では失礼します」

 

 息子との通話を終え、一息つくために、傍らに置かれたコーヒーカップを手に取り、口に運ぶ。カップを口から話したところで真田が扉を開け、室内に入ってくる。

 

「ご子息と通話ですか?」

 

「ああ、息子に何かないかを確認するのが親の義務だからな」

 

「親バカですねえ」

 

 真田はデータを提出しながら、からかうように口を紡ぐ。が、すぐに真剣な表情になる。

 

「やはり心配ですか?」

 

「当たり前だ。息子に死神の鎌を持たせておいて嬉々としているほうがおかしいだろう」

 

「彼以外の魔法師であの杖を抜こうとした者は全員亡くなりましたからね。軍としてもデータ収集のために持たせておくのが一番と考えているのでしょう。上層部に逆らえないのは悲しいですね」

 

「軍は進を引き入れようとするだろうな」

 

「間違いなくそうでしょう。彼を守るのであれば、一番簡単な手段は先手必勝、これに尽きますね」

 

 ううむとうなりながら、背もたれに寄り掛かる。息子をできれば軍にかかわらせたくはない。だが、もはや逃げられない存在になっている。そうなったときに息子を守るには……。

 

「ううむ」

 

 再びうなり、男は目をつぶり考え込み始めた。

 

 




 
 とうとうオルガノンが火を噴いた!腕を切り飛ばされた司一の運命やいかに!

 次回「司一死す!」デュエルスタンバイ!


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九校戦編
第六話


 最近のマイブームはヨーグレット。私です。

 今回から九校戦編突入です。(とはいってもその前に一つありますが)
 進は一体どんな活躍を見せるのか。
 
 それではお楽しみください。

*誤字脱字報告ありがとうございます。速さ重視で投稿前に読み返しはしていないので、修正は皆さんにお任せします。もちろんミスしないようには心がけますが。


 一高襲撃事件が解決して平和が訪れた一校の時の流れは速く、いつの間にか七月に突入しようとしていた。そんな中、体育館で相対する進とエリカの二人はそれぞれ自分の得物を持ち、その間には達也が立っている。ギャラリーとして二人を囲むのは剣道部と剣術部の面々。その中には壬生と桐原の姿もあり、変わり種では摩利や真由美の姿もある。

 

「ではルールを確認する。魔法あり、直接攻撃ありで一本取るまでの勝負、ということだな。審判は俺が務める」

 

 二人は模擬戦をするために体育館で向かい合っていた。二人は模擬戦の約束をしていたが、約束したのは四月。現在は七月に入ろうとしている。ここまで遅くなったのは、単純に互いに事情で予定を作ることができなかったためである。

 

 ギャラリーは二人の戦いの行方をざわつきながらもじっと見守っている。あちこちでどちらが勝つかの予想もされていた。壬生と桐原、それに近づいた摩利と真由美も例にもれず、予想を立てている。摩利と紗耶香はすでに和解しており、積極的に話すような関係ではないものの、会えば話をするような関係になっていた。

 

「三人は、どちらが勝つと思っているのかしら?」

 

 四人の中で唯一剣の経験がない真由美が三人に問いかける。直後ノータイムで答えが返ってくる。三人ともすでに自分の考えがあるようだ

 

「私は正直、どちらが勝つかわからない。何分、どっちの剣技も知ってしまっているが故に判別つけがたいというのが本音だ。強いて言うなら……、エリカのほうかな。視覚っていうのは重要だからな」

 

「私もエリカですね。友達として勝ってほしいっていうのもありますし。何より、本当に強いですから。戦った私が保証します」

 

「逆に俺は進ですね。純粋な剣技であれば、おそらく全国でも十本の指に入ると思います。それに彼の身体捌きはハンデ差を打ち消すレベルで高いですから」

 

 真由美は三人の意見を聞き、うんうんと唸る。エリカの剣の実力は非常に高い。それは千葉家の名に恥じないレベルにある。が、進の実力もまた高い。剣術で都大会優勝の名も決して伊達ではない。そのせいでオッズは半々程度になっていた。

 

 二人の間から離れ、所定の位置に着いた達也は腕を上げ、合図を出す。最初は二人とも動かない。得物を持ったまま、固まっている。ギャラリーはその様子を緊張感を持って見守っていた。すると、進が口を開く。

 

「先手は譲りましょう。どうぞお先に攻めて来なさい」

 

 その言葉を聞き、エリカは体をかがめ、突進の体勢を取る。

 

「それじゃ、お言葉に……、甘えてっ!」

 

 エリカが弾丸のように飛び出し、手の警棒型の法機を進の腹部に打ち込む。が、進は予想していたかのように杖で受け止める。一連の行動に周りから「おお」と感嘆の声が上がる。

 

 すぐさまエリカは自己加速術式を発動し、進の背後に回り、頭部に一撃を打ち込む。が進はエリカに背を向けたまま、上段の一撃を難なく受け止める。間髪入れず、側面、前方、背後に回り、連撃を打ち込んでいくが、進はすべての攻撃を受け止め、流し、捌いていく。エリカの苛烈な攻撃と進の防御技術にギャラリーは興奮し、歓声を上げる。摩利はエリカの攻撃で自分がしごかれた記憶を思い出し、身体をブルリと震わせる。それと同時にその攻撃をさばききれる進の技量にも驚愕していた。

 

 進がテロリスト相手にあそこまでの大立ち回りができたのは、彼らが毛が生えたような素人だからと思っていた。しかし、進はエリカの質の違う波状攻撃に難なく対応している。しかも息一つ切らさずにである。進の技術の高さに改めて舌を巻いた。

 

 エリカは一度引き、体勢を整えるとともに思っていたことを進に問いかける。

 

「ねえ、なめてるの?魔法もそうだけど、一歩もそこから動かないなんて」

 

 エリカの問いかけに進は杖の石突を地面に突き立てる。そして問いかけに対して答えた。

 

「だと思うのでしたら、動かせるように努力していただけますか?」

 

 進の皮肉交じりの言葉にエリカの内心腹を立てる。試合の最中であるにもかかわらず得物を下ろしたことにも同様だ。エリカは表情を不機嫌そうに変え、再び進に突撃する。先ほど以上の苛烈な攻めを仕掛け、法機を打ち込んでいくが、それでも進を動かすことができない。

 

 あまりの防御の硬さにエリカは無意識のうちにむきになり、意地になって防御を崩そうと攻撃し続ける。それは攻撃が単調になり、徒に体力を消耗させた。それに気づいたエリカはいったん息を整えるため、進から距離を取ろうと試みる。が、その隙を進は見逃さなかった。

 

 エリカの重心が後ろに傾いたところで、進はエリカの足の間に自分の足を差し入れ、一気に自分のほうに引き寄せる。いわゆる足払いに足を取られたエリカは派手にしりもちをつき、転倒する。普段は転ぶことはないのだが、進の行動で頭に血が上っていたのに加え、体力が消耗していた。それが痛恨的だったのだ。

 

 転倒したエリカの首元に杖が突き付けられ、杖で顎を上げられる。エリカは自身が敗北したことを察してしまう。そもそも二人の得物にはリーチの差がある。長い杖を首に突き付けられている状況で警棒を振ったところで、当たるものではない。立ち上がるにしろ、そんな隙を進を見逃すはずがない。今のエリカにはどうすることもできない。積みだ。

 

「……降参よ。あたしの負け」

 

 エリカは法機から手を離し、両手を天井に掲げる。それを確認した達也が勝者を言い放つ。その瞬間、体育館が大きくざわめいた。

 

 進は座り込んでいるエリカに手を差し伸べる。それをエリカは荒っぽく掴み立ち上がる。

 

「ほんとに手も足も出ないとも思わなかったわ。千葉家の名が泣くわ……」

 

「そんなことはないと思いますよ。あえて煽るように言って動きをコントロールしていただけですから。正直、うまくいきすぎな気もしていましたが」

 

「あたしが単純だとでも言いたいの?それに剣のことに触れない時点で剣の腕に自信があるのは明白よ」

 

 エリカの言葉に進は「どうでしょうね?」とはぐらかす。それが癇に障ったのか、エリカは進のすねに軽く蹴りを入れ、体育館を後にする。

 

 それを見ていた摩利は驚きで言葉が出ないような様子で口を開く。

 

「いや、圧倒的な試合内容だったな……。私が勝てないエリカをこうも圧倒するとは……」

 

「目が見えなくなって衰えるどころか、逆に冴えてるんじゃないか……。……よし、やっぱり加入させにいくか」

 

「あっ、ずるい!彼には剣道部に入ってもらうんだから!」

 

 桐原と壬生は勝利した進のもとに近づいていく。それを見送った二人は言葉を交わす。

 

「こりゃ、九校戦のメンバー入りは確定だな。これだけの実力と魔法力があれば、文句を言うやつはいないだろう」

 

「私もそのつもりで入るんだけど……」

 

 真由美は言葉に詰まる。

 

「けど?」

 

「どの競技に参加させればいいのかしらね……。目が見えないんじゃ、選択肢はおのずと絞られるわよね」

 

「そうか……。九校戦の競技は目が必要な競技ばかりか……。ちょっと考えるべきか」

 

「そうと決まれば、さっそくリンちゃんたちと話し合いましょう!」

 

 二人も体育館を後にし、生徒会室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七月中旬になり、一校では期末考査が終了した。いつもの面々の中で特に悪い点数を取った者はおらず、進級に響きそうなものはいなかった。進は今回も実技で一位を取り、一位から四位までA組が独占するという結果に終わった。筆記さえよければ、というのが共通の友人たちの感想だった。(この男、筆記では二十位以内どころか五十位以内にすら入っていない。総合で二十位以内に入っているのが奇跡である)

 

 クラスではテストの結果を一喜一憂しており、進もその中の一人だった。自身のテストの結果にどう反応してよいか、困っていると、森崎が近づいてくる。

 

「風間、お前もう少しどうにかならなかったのか?」

 

 言わずもがな、筆記のことである。もう少し筆記が高ければ、深雪たち上位陣に食い込む、あるいはといったことだってできたのである。

 

「残念ながら、これが私の精一杯なのです。これ以上は勉強をいくらしても恐らく取れません」

 

 森崎は少し残念そうな表情で進を見るが、すぐに自身の席へ戻っていく。

 

 どこか憐みの視線で見られているように感じ、進は小さくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、深雪や雫やほのか、森崎たちとともに、進は生徒会室に向かっていた。

 

「なんの呼び出しでしょうね?」

 

 そういったほのかの表情は緩んでいる。なんとなく何を言われるかの察しがついているのだろう。同様に雫と森崎の表情も緩んでいる。

 

 生徒会室にたどり着き、真由美の待つ生徒会室に入る。世間話もほどほどに、本題を告げられる。

 

「皆さんには九校戦に第一高校代表として出ていただきたいと考えています」

 

 真由美の言葉に三人は大きく喜びを表現する。もちろん二つ返事で了承し、九校戦メンバーに内定する。がいまいち浮かない表情をしているものがいた。うれしくないというわけではない。それ以上に不可解なことがあったからだ。

 

「あの、私は何の競技に出るのでしょうか?私の目では遠距離系の競技には出られないと思うのですが……」

 

 小さく手を上げた進が真由美に問いかける。その問いに真由美は優しく微笑みながら答える。

 

「進君にはクラウド・ボールとモノリス・コードに出場してもらいます。モノリス・コードは防御担当として出場していただきます」

 

 進の特性を考えて、話し合った結果がこれである。進が得意としているのは、障壁魔法や領域干渉といった防御系の魔法。それをあの干渉力で発動すれば、破れるもののほうが少なくなる。

 

 同じモノリス・コードに内定した森崎が進の肩をつかみ、興奮した口調で話しかける。

 

「おい風間!絶対に出場しろよ!選ばれるだけでも名誉なことなんだからな!」

 

 森崎の言葉に進は少し考えこむ。実際、夏休みに予定はないため、出場すれば、暇つぶしにはなるだろう。が、九校戦では直接的な戦闘行為を禁じている。ここがあまり気が乗らない原因であった。が、断る理由がないうえに、魔法を使用すれば、熱い戦いを繰り広げることができる。

 

「では、よろしくお願いいたします」

 

 進の返答に真由美は表情を明るくさせる。真由美の中で一番心配だった進だったからだ。が、一度仲間に引き入れてしまえば、これほど頼もしい存在も他にはいないだろう。

 

「それじゃあ、皆さんよろしくお願いします。後日選定会議がありますので、追って連絡させていただきます」

 

 その場は解散となり、それぞれ帰宅の途に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日選定会議が終わり、選手として確定した進は発足式でバッチを受け取り、さっそく練習に移った。

 

 練習に移って一時間ほど。進の近くには同じくクラウド・ボールに選ばれた桐原が倒れこんでいる。息を荒くしている桐原を進は見下ろしている。

 

「一体、どんな、魔法力だよ。なんで、俺とお前のコートを遮るように、障壁を張り続けても、びくともしないんだ」

 

 進が最初に取った戦法は単純明快、桐原のコートと、進のコートの境目に隙間なく障壁を張っただけ。あとは自軍にボールが入ったときに、少し障壁に穴をあけて、そこにボールを打ち込み、閉じる。これを繰り返して、桐原のコートにすべてのボールを入れた。桐原はこの障壁を破ることができず、自分のコートでバウンドするボールを必死で追いかけ続けることとなった。

 

「一度その戦法はやめろ。お前の練習にならなすぎる」

 

「桐原先輩はずいぶんと練習になったみたいですね」

 

 桐原は疲れ切り、進の皮肉に返すこともできない。一部始終を見ていた真由美も絶句している。

 

「進君。それもいいけど負担が大きいから別パターンも用意してね?」

 

「ええ。ではお付き合いお願いします」

 

 真由美は同じく新人戦クラウド・ボールの選手たちのほうを見るが、彼らは拒否するように高速で首を横に振る。出場経験のある先輩を圧倒したやつとは戦いたくないというのが本音だった。

 

「わかったわ。練習相手になります」

 

 それを聞いた進はコートに入り、杖を構え、CADを操作する。読み込んだ術式は自己加速術式。今度は単純な体術勝負に出るつもりである。

真由美は拳銃式のCADを構え、いつでも魔法を発動できるように準備した。

 

 ブザーが鳴り響き、一つ目の低反発ボールがコートに放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八月一日。九校戦に出発する当日。バスはハイウェイを進み会場へと向かっていた。バスの中は程よい緊張感に包まれており、あまり私語もない。進も誰かと私語を交わすことなく、一番後ろのせいで静かにしていた。が、その静寂も長くは続かなかった。

 

「危ない!」 

 

 誰かが叫んだ叫び声で、進の意識が覚醒し、耳に何かが引きずられるような音が飛び込む。それが、高速を滑る何かの音だと理解したとき、進は杖を持ち、立ち上がる。進が杖に両手をかけると、光が杖からあふれ出す。

 

 しかし、ほかにもこれに対処しようとしている人物がたくさんいることを理解した進はあふれ出た光を引っ込め、おとなしく席に着いた。この車内には優秀な魔法師がたくさんいる。それこそ場慣れしている人物だっている。

 

 それに無秩序に魔法式を重ね掛けすれば、魔法式が相克を起こし、キャスト・ジャミングと同様の状態に陥ることになる。この場は動かぬが吉。そう判断した進は最初からCADを触ることなく、黙って状況を見守った。

 

 結果その判断は正しく、克人と深雪たちが冷静に対処した。

 

 

 

 

 




 
 九校戦の理由付けは適当っちゃ適当です。それなりに説明できてると思いますが。(え、クラウド・ボールについて話してないって?高速で動く人間を感覚で捕らえる人間がボール程度捕らえられないわけがないでしょう。言わせないでくださいよ)

 ともあれ、次回から本格的に九校戦突入です。前作を読んでいただいた方ならわかると思いますが、もちろん彼女たちも出ます。私の好みです。

 それではさいなら、また次回。


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第七話

 どうも私です。

 特に言うこと無いので、誤字報告してくださっているみなさまにお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございます。


 九校戦に先立って行われるパーティーはホテルの最上階で執り行われるその中で進は一人端のほうのでたたずんでいた。理由としては目が見えないということに尽きるだろう。

 

 単純に目が見えないと飲み物一つとることも難しい。それに目に黒い布を巻いた気味の悪い人物には誰も近づこうとはしないというのが現実だ。

 

 ただじっと壁に体を預けていた進のもとに一人のウエイトレスが軽い足取りで近づいていく。

 

「お飲み物はいかがですか?」

 

「いただきます。エリカさん、ご給仕のお仕事ですか?」

 

「そ。このホテルに泊まるためのアルバイトよ」

 

 メイド服に身を包んだエリカは手に持ったトレイからグラスを手に取ると進に手渡す。それを受け取った進はその中身を流し込む。一気に中身のなくなったそれをエリカは驚きながら、グラスを受け取り給仕としての仕事を全うする。

 

「喉乾いてたんだね。おなかはすいてる?」

 

「空いてないと言ったらうそになりますね。正直に言うと空いています」

 

「じゃあ、ついでに取ってきてあげるからちょっと待ってて」

  

 エリカは雑踏の中を片手に持ったトレイが嘘のような速度ですり抜けていく。それを見送った進はエリカが戻ってくるまでの間手持ち無沙汰になると思っていた。がそうならなかった。

 

「大変そうだな。目が見えないというのは。戦闘時の切れっぷりが嘘みたいだな」

 

 いつの間にか隣に立っていた達也の言葉に進は答える。

 

「いや、気を張れば食べ物の一つもとれるのでしょうが、ここで気張るというのは……」

 

 進は頬をかく。進も気張れば誰ともぶつからず食べ物を取ることはできるだろう。しかし、気張るというのは少なからず戦闘モードに切り替わるということ。むやみやたらに火種をまき散らすというのはよろしくない。ましてやここは未来のライバルになりえる存在達のひしめく場所だ。それに今だけでもリラックスしておくのは大切なことだろう。

 

「お待たせー、……って達也君。飲み物いる?」

 

 トレイの上に料理の乗った皿を乗せ、軽やかな足取りで戻ってきたエリカは達也の存在に気付き、トレイを差し出し、飲み物をドリンクを取らせる。

 

 エリカから皿を受け取った進はどんどんと料理を口に運んでいく。進が食べている間に深雪やほのか、しずくたちが集まってくる。彼らの会話を聞きながら、料理を食べ続けていた進は決して少なくない量が盛られていた皿をすぐに空にする。

 

 しばらくして雑談をしていた深雪たちが一校生徒たちのもとに向かっていく。進もそれを見送ろうとするが、そうはいかないようだ。 

 

「進さん、あなたも一緒に行きませんか?」

 

 深雪の言葉に進は内心動揺するが、顔には出さずに応答する。

 

「私が行ってもしょうがないと思いますよ。せいぜい不気味がられるのがオチです」

 

「そんなことはありませんよ。進さんは私以上の実技成績一位。きっと皆さんもっとあなたのことを知りたいと思っているはずです」

 

 深雪の言葉に雫とほのかの二人は同調する。進の存在は不気味であると同時に興味の対象でもあるのだ。絶世の美女といっても差し支えない深雪以上の魔法力は魔法科高校の生徒にとって非常に興味深かった。

 

「いってきたらどうだ?」

 

 達也の援護射撃でたやすく折れた。進はほのかたちに手を取られ、一校生徒の群衆にはいりこんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このパーティはプレ開会式としての側面のほかにも学生たちの出会いと再会の場としての側面もある。二、三年生はライバルとの再会。一年生は未来のライバルとの出会い。

 

 各校の幹部勢が引っ張るようにして、静かに生徒たちの出会いの場が広がっていく。

 

 この出会いの場。やはりひときわ異彩を放っていたのは深雪の存在である。がそれと同等に人目を引いていたのは進の存在であった。

 

 目に布を巻いている以上に、深雪以上の魔法力の高さは各校で噂になっていた。

 

 しかし、進の奇妙さは隠せない。よって、お近づきになろうとしている人物が多いのは深雪のほう。少なくとも生徒たちはその美貌に惹かれ、深雪に話しかけようとそのチャンスをうかがっていた。

 

 赤色の制服に身を包み、肩の紋章は八芒星。今年の一校の最大のライバルと称される三校の生徒たちがそこにはいた。

 

「見ろよ、あの子超カワイクねえ?」

 

 発言した三校生徒の視線の先には深雪の姿がある。その声に振り向いた一条将輝は少女に見惚れながらも隣に立つ参謀である吉祥寺新九郎に彼女の情報を乞う。

 

「ああ、名前は司波深雪。出場種目はアイス・ピラーズ・ブレイクとミラージ・バット、一校一年女子のエースだよ」

 

 将輝は深雪のことをただならぬ視線で見つめ続ける。すると、その視界に得てせずにして、男子のエースが飛び込んでくる。

 

「ゲッ!?なんだよあいつ!?あんなに仲良さげに話しやがって。うらやましいー!」

 

 大げさに反応する同級生をしり目に将輝は同じように吉祥寺に問う。すると、間髪入れずに答えが返ってくる。

 

「名前は風間進。出場種目はクラウド・ボールとモノリス・コード。司波深雪以上の魔法力で一校一年男子のエースを張るモノリス・コードでの僕たちの対戦相手だ」

 

 吉祥寺は薄く笑みを浮かべながら、将輝に進の情報を伝える。が、将輝は表情を変えることなく、しかし、不可解そうな視線で進を見つめていた。

 

「ああ、彼は数年前に事故にあって、視力を失ったらしいよ。目に巻いている布はそれを隠すためじゃないかな?」

 

 将輝の視線の意味を感じ取った吉祥寺は将輝の疑問に正解を出す。すると将輝は納得したように少し口角を上げ、再び視線を深雪に戻した。

 

 しかし、それが面白くない者もいた。一条将輝を取り囲む親衛隊である。ずっと自分たちから逸れ続けている視線を何とか戻そうと呼びかけ続けているが、将輝の耳には届かない。

 

 それを軽蔑するような目で見ている者たちがいた。名を一色愛梨。そして、四十九院沓子と十七夜栞。いずれも数字付きであり、三校一年女子のエース格である。

 

 その三人のお眼鏡に深雪は止まる。その暴力的なほどの美しさからどこぞの名家と勘違いをした愛梨は深雪のもとへあいさつに向かう。

 

 が、深雪が一般の出であることを知った愛梨は一転して小馬鹿にしたような口調で簡単に挨拶を済ませ、その場を立ち去る。

 

 得てせずして、その場に立ち会わせてしまった進は近くにいた深雪に捕まる。

 

「一体何がしたかったのでしょうか?」

 

「単純に宣戦布告でしょう。あれだけいえるということはそれだけ自信があるということでしょう」

 

 こうして話を続けていると来賓のあいさつが始まり、ほどなくして九島烈、世界最強の魔法師の一人と目されていた老人の挨拶が始まった。

 

 が、進の勘が小さく警鐘を鳴らす。進は杖にゆっくりと両手をかけ、有事に備える。杖から光があふれ、いざというときに備わっていく。が次に発せられた言葉で杖にかけられた手は離れることになる。

 

「まずは、悪ふざけに付き合わせたことを謝罪する」

 

 烈の言葉で進の中で鳴っていた警鐘が鳴りやみ、進はそっと手を下ろす。そのあとは烈の演説が大いに振るわれた。魔法とは手段であって、目的ではない、という烈の一言が生徒たちをたきつけた。

 

 烈の演説が終わり、会場全体が拍手に包まれる。漏れなく進もその中の一人であり、烈の演説に感銘を受けていた一人であった。進は気づいていなかった。烈が壇上から怪しく視線を向けていたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティが終了し、進はいつものようにホテルの庭を散歩していた。視力を失ってから趣味になった散歩であるが、なかなかどうして気づくことが多いと進は散歩を楽しんでいる。

 

 が、楽しんでもいられなくなる。進は会場に不穏な空気を感じ取り、彼の第六感も鳴り響く。会場内にいてはいけない存在だと察知した進はその方向へ走り始める。

 

 その速度でぐんぐんと距離を縮めた進はついに賊の背中を捕らえ、杖を振りかざし、とびかかる。二メートル近い生け垣を魔法なしで飛び越え、順手に持ち替えた杖を振り下ろす。

 

 が、それより早く雷が賊を捕らえ、その意識を刈り取った。着地と同時にその魔法を放った幹比古が姿を現す。

 

「誰です?」

 

「君は確か……」

 

 が、この二人は初対面である。幹比古は顔は知っている程度の認識であるが、進は幹比古を少しも知らない。賊だと勘違いしても不思議ではないだろう。杖に手をかけ、居合のような体勢を取る。それに驚いた幹比古はとっさに呪符を手にし、備える。

 

 一触即発の空気が流れる中、陰から達也が現れ、二人の間に立つ。 

 

「進、幹比古は俺のクラスメイトだ。剣を収めろ」

 

 進は達也の呼びかけで杖を下ろし、謝罪する。ともに謝罪を終えたところで、達也は幹比古の問題を指摘し始める。一連のやり取りを終えたところで、幹比古はホテルの警備員を呼びにその場を立ち去る。

 

 それを見計らっていたかのように二人のもとに共通の知人が現れる。

 

「ずいぶん容赦のないアドバイスだったな。特尉」

 

 聴きなじみのある声に進は驚きを隠せない。だが、ここにいても不思議ではない。ここは軍の関係施設であるからだ。

 

「それに、さらに切れが増したんじゃないか?息子よ」

 

 風間の言葉に達也は内心仰天する。

 

「やっぱりそうでしたか……」

 

「なんだ特尉。調べはついていたのか?」

 

「名字でなんとなく怪しいと思っていたんですが、まさか本当にそうだとは」

 

「それより親父殿。先ほどから達也さんのことを特尉と呼んでいらっしゃいますが?」

 

「彼はうちの隊の秘密兵器だ。登録名は大黒竜也」

 

 もちろん他言無用だ、と念押しをする風間。お互いに秘密を知り合ったところで風間は本題に入る。

 

「さて、この賊は犯罪シンジゲート、無頭竜のものと考えられる。この九校戦で何かしてくるかもしれない。二人には気を回しておいてもらいたい」

 

 風間の頼みに達也は敬礼で応答し、進はうなずくことで応答する。

 

 二人に用件を伝えた風間はそのまま闇に溶けるようにその場から離れていく。それを見送った進も散歩の続きをはじめ、達也もその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦初日。開会式もそこそこに協議が開始される。初日のプログラムは真由美の出場するスピード・シューティングと摩利の出場するバトル・ボードである。

 

 が、ぶっちゃけ見えない進には関係ない。いつものように会場をふらふらと歩き回っていた。一校のスターが出場する二つを見ないというのはやはり珍しく、人目に付く。ましてや、一校エースの進が歩いている。目を引かないわけがない。

 

 ふらふらと歩き回ってた進だが、すぐに興味を持たれてしまい、引き留められてしまう。 

 

「あら……、確か風間進、さんでしたか?」

 

 進を引き留めた愛梨は進を足元から視線を上げていく。やはり目を引いたのは、目付近であった。が、事故にあったということには触れない。触れてはいけないものなのだろうと思ったからだ。

 

「そちらは一色愛梨さんでしたか?お噂はかねがね」

 

 進は愛梨の声が昨日の懇親会で聞き覚えのあるものだと感じ、すぐに思い出す。

 

「ふーん。それで風間さん。あなた、何かしらの優勝経験はおありでしょうか?」

 

 愛梨はいつも通りのようなそっけない対応で進に問いかける。これが彼女のやり方なのだとすでに察していた進は気にすることなく答える。

 

「こうなる前は、剣術大会で頂点を取りました。そのあとは表舞台には一切出ませんでしたが」

 

「ふーん。司波深雪さんよりは実績はあるみたいね。それよりこんなところにいてもいいのかしら?先輩方の応援はいいの?」

 

「見えない私があそこにいても仕方ないでしょう。それに一校の先輩方は私の応援なしでも勝ちますから」

 

「あなたって口調とは違って自信家なのね」

 

「事実でしょう。七草先輩の敵は高校にはおらず、渡辺先輩の敵はせいぜい七校程度。負ける理由がありません」

 

 この発言に愛梨は内心ムッとする。先輩を馬鹿にされたように聞こえるからだ。

 

「まあいいわ。それでも今年は三校が優勝します。覚悟しておくことです」

 

 それだけ言い残した愛梨は進に背を向け、自身の天幕へ向かっていく。

 

「そんなに実績が必要でしょうか……」

 

 ふと思ったことを虚空に打ち明け、進はまたふらふらと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなりの時間歩き続けていた進はいったん休憩するために、近くのベンチに座り込む。耳を澄ませると、会場から盛り上がった歓声が聞こえてくる。その盛り上がりに九校戦を見てみたいとも思ったが、ないものは仕方がない。一度大きく息を吐くと、ベンチから立ち上がり、再び歩き始める。

 

 すると、歩き始めてすぐ、進の耳に聞き覚えのある声が届く。

 

「進君、久しぶり。顔を合わせるのは久しぶりね」

 

「その声は……、藤林さんでしょうか。お久しぶりです」

 

 アダルトな雰囲気を醸し出しながら、響子は進に話しかける。しかし、彼女も進がここにいることに疑問を持つ。

 

「試合会場に居なくていいの?お友達も見に行っているんでしょ?」

 

「私見えないのでいる意味があまりないんですよね」

 

「でも、会場にいて雰囲気をつかむっていうのも大事よ?会場でしかわからないこともあるし、それ以上に会場の雰囲気を感じておくことで緊張しにくくなるわ。OBが言うから間違いないわ」

 

「私が緊張するタイプではないことはわかっていると思ったんですが……」

 

 進の言葉に響子はクスリと笑う。響子の指摘はもっともであるのだが、進は緊張しいではない。確かに緊張は大事であるが、進の場合は緊張しない方がベストなパフォーマンスが発揮できる。

 

「確かにそうかもしれないわね。でもチームメンバーの応援は大切よ。でもその気がないんだったらちょっとお茶でもどうかしら?今なら隊のみんなもいるし、つもる話もあるんじゃないかしら?」

 

「お誘いいただきありがたいのですが、またの機会にお願いいたします。言われてしまいましたから、せっかくですから観戦に行ってみたいと思います」

 

「そう。じゃあまた今度ね」

 

 響子はその場から離れ、それを見送った進はゆっくりとした足取りで真由美たちの試合会場へ向かった。

 

 

 

 





 次くらいで進の競技かな……。


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第八話

 ちょっと久しぶりに書いたから微妙にクオリティが落ちてるかも……(元のクオリティが低いのはお察し)。

 あと第五話で致命的なミスを見つけたので、修正しておきました。


 

 顔見知りと別れ、達也たちと観戦するためにスタジアムに入った進はその熱気に圧倒されながら、捜し歩いていた。しかし、なかなか見つからない。大歓声で耳も聞かず、無用なトラブルを生まないためにに魔法を発動するわけにはいかない。

 

 今日のところは諦めて宿舎に戻ろうかと考えたところで、聞き覚えのある声がかかる。

 

「あら、また会いましたね。風間さん?」

 

「お久しぶり、というほどでもありませんか。一色さん?」

 

 先ほど言葉を交わし別れた二人が再会する。しかし、愛梨のほうには新たな取り巻きがおり、愛梨が自ら声をかけるという行為に驚き、目を丸くしている。

 

「うろうろされてどうしたんですか?」

 

「人を探しているんですが、なかなか見つけることができず。適当に立ち見でもしようかと考えていたところです」

 

 進は適当にごまかしながら応じる。進の目元を見て納得したように息を吐いた愛梨。その後ろから取り巻きの一人である沓子が進の前に立つ。

 

「風間、というと今年の一年男子のエースかの?どんな風貌かと思っておったが、まさか盲目だったとは驚いたの」

 

 沓子は進を頭のてっぺんから視線を下ろしていく。視線が腰元まで下りたところで沓子は杖を見て、眉をひそめた。

 

「お主……、よくそんなものをもって平気でいられるのう……」

 

「その杖がどうかしたのかしら?」

 

 沓子のつぶやきを聞いた愛梨が問い掛けると、沓子は考え込むように顎に手を当てる。

 

「う、む……、勘でしかないんじゃが……。こ奴が持っているのは呪われた代物、のような気がする。それも相当強力な、人を殺すようなものじゃ」

 

 沓子の発言に愛梨と栞は驚きを隠せない。沓子の家は古式の大家で、少なくとも現代魔法師よりはそういったことに長けている。その彼女が呪いの品といった。そんなものを携帯している進の神経が知れなかった。

 

 が当の本人はあっけらかんとしている。命が脅かされているかもしれないというのに。

 

「ええ、これはきっと呪いの品ですよ。ですから私の手ではつながりを切れないのです。教会へ行かなければとれないのです」

 

 進のジョークの意味を理解できなかった三人はぽかんとして進を見つめている。おおすべりしたのがはっきりと分かった進は事態の収束と自分の失態をごまかすために口を開いた。

 

「ともかく、私は今ここに立っている。だから別に気にするつもりもないのです。無用な気遣いはしないでください」

 

 進の言葉で一応は納得した沓子は、困惑しながら再び杖を見つめる。

 

「それよりもお聞きしたいことがあるんですが」

 

「えっ?何かしら?」

 

 先ほどのショックからまだ復活していなかった。愛梨が突然の問いかけに驚きながらも対応する。

 

「一校生の集団はどのあたりでしょうか?おそらくその辺に友人がいると思うのですが」

 

「ああ、それならちょうどあなたから見て右方向に進んだところにあるわ」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

 進は三人のもとから立ち去り、教えてもらった通りに進み、見事達也たちと合流することに成功した。そして真由美の優勝を見届けて一日目が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦二日目。進は今日もいつもの面々と観戦していた。本日の目玉は真由美のクラウド・ボールである。

 

 真由美の試合は圧倒的であり、相手をしている選手が気の毒に思えるほどの試合内容となった。

 

「そういやよ。進もクラウド・ボールだったよな。どんな魔法を使うんだ?」

 

 進の後ろに座るレオから疑問が飛ぶ。が、レオの行為は魔法師としてマナー違反である。それを咎めようとするが、それより早く進が口を開いた。

 

「単純な障壁魔法ですよ。とりあえずは主力がこれです」

 

「いいんですか?使う魔法を言っちゃって」

 

 ためらいなく魔法を口走った進にほのかからさらなる疑問が飛ぶ。が、進は特に何を思うことなく当然のように答えた。

 

「別に構いません。知ってて防げるものでもありませんから」

 

 進の発言に皆、おぉと声を上げる。進の発言は自信たっぷりであり、暗に負けないと告げているようなものだった。

 

「自信たっぷりだねえ」

 

 エリカの発言で期待が高まる。

 

「まあ、見ていてください」

 

 進がそう告げたところで真由美の試合終了のブザーが鳴り響き、優勝を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦三日目。今日の目玉の、摩利と七校選手のバトル・ボードの試合を見るために会場は観客であふれかえっていた。

 

 そんななか、しっかりと席を確保していた進たちは達也たちが到着するのと試合開始を待っていた。

 

「すまん、遅くなった」

 

 達也の到着を待っていたかのように、席に着いたところでブザーが鳴り響き、試合がスタートする。

 

 先行したのは摩利だが、七校の選手もぴったりと張り付いている。カーブに差し掛かったタイミングで異変が起きる。

 

 摩利が減速した。そこまではいい。七校の選手が減速することなく、カーブに突っ込んだのだ。おまけに様子もおかしい。それに気づいた摩利も彼女をかばうような動きをし、受け止める体勢を取る。が、突如として水面が沈み、摩利の体勢が崩れる。七校の選手が摩利に派手に突っ込み、このままではフェンスに激突する。誰も助けることができない。

 

 これから起きる悲惨な事態が予測できたものは目を覆う。が、それが起きることはなかった。フェンスに激突しそうになっていた二人の身体が、物理的にあり得ない方向に軌道を変え、フェンスを乗り越え、地面に転がさせた。

 

「とりあえず、行ってくる」

 

 しかし、事故が起こったということには違いない。達也は席を立ち、摩利のもとに向かっていく。視界の端に移る手を伸ばした進のことを見ながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進は無理やり真由美に同行させられ、摩利が搬送された病院に来ていた。

 

「それにしてもよくわかったわね、事故が起こるって。まさかわかってたの?」

 

「私にそんな知覚系の能力はありませんよ」

 

 瞬時にCADを操作し、摩利を助けた進の判断能力はそれこそ、わかっていたというしかないほど、早いものだった。そう思ったから進に問いかけた真由美だったが、見当違いの答えが返ってきて、拍子抜けする。

 

「じゃあどうして?」

 

「勘です」

 

 進の口から出た非科学的な答えに、真由美は唖然とする。その時摩利がうめき声をあげ、目を覚ます。一通り摩利の意識を確認した真由美は、摩利に事故の一連の結果を告げる。その過程で進が助けたということを伝えると、摩利はベットに寝転がったまま、礼をする。

 

 しかし、摩利は七校選手を助ける際に、足でボートを受けてしまっており、痛めていた。日常生活には支障はないが、競技となれば、首を横に振らざるを得ない。摩利の欠場が決まった。

 

「では、私はこの辺で失礼します。明日は早いですから」  

 

「ええ、ここまでついてきてくれてありがとうね」

 

 真由美の見送りを受け、進は摩利の病室から出る。進のクラウド・ボールは明後日であるが、早く戻ってCADの設定を終わらせておかなければいけない。進は速足でバスの会場いきのバスの停留場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦四日目。今日からは一年生が主体の新人戦である。進のクラウド・ボールは明日だが、その前にCADの調整を終わらせなければならない。

 

 担当であるあずさとともにCADの調整を調節していた。

 

「ど、どうでしょうか?」

 

 キーボードをたたき終えたあずさからCADを受け取り、電源を入れ、指を滑らせる。文句のない出来栄えに進はうなずく。

 

「大丈夫です。完璧な仕上がりです」

 

 進の言葉にあずさはほっと息を吐く。

 

「でも、大丈夫なんですか?あんな戦法じゃあまり長くはもたないと思うんですけど……」

 

 進はあずさの指摘に耳を貸す。

 

「確かに恐らく最後の試合まではもたないでしょう。ですが、サブプランも用意してありますから。おそらく大丈夫です」

 

 進の自信たっぷりの言葉を聞き、なぜだか自分まで自信に満ち溢れ始めるあずさ。今日の担当であるほのかのもとに向かうために走り始めた。

 

 新人戦のスピード・シューティングは一校選手が表彰台を独占するという快進撃を見せた。バトル・ボードもほのかは勝ち、優勝にコマを進めていた。

 

 これによって、達也の評価が上がっていき、深雪の機嫌も上がっていったのは公然の秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦五日目。新人戦二日目である。進の試合を見たことのないいつもの面々は興味津々で進が現れるのを待っていた。

 

「そういえば、進君どんな戦法取るのかしらね」

 

「簡単な障壁魔法っていってたが。複雑な魔法を使わなくても普通に勝っちまいそうなのが不思議だな」

 

 レオの発言にその場の全員が首を縦に振る。全員の首を動きが止まってところで進がフィールドに姿を現す。

 

 まず、進の恰好は観客たちの目を引いた。普通であれば、動きやすいジャージなどではあるはず。が、進は制服のまま、フィールドに現れたのである。手には杖と腕輪型のCAD。普段から見慣れた格好に面々は驚きを隠せない。

 

 会場が妙なざわつきに包まれる。一校だけでなく、三校などにも動揺は広がっていく。それは達也たちだって例外ではなかった。

 

「あれは……、どういうことでしょうか?」

 

「単純に動く気がないのか、それともあれでも十分に動けるという意思の表れなのか、正直わからないな」

 

 達也が感想を述べたところで、用意(レディ)を意味するブザーが鳴り響き、一拍おいて試合が開始される。

 

 ボールが相手フィールドに入ると同時に進はCADを操作する。それを見た相手選手が魔法を使用しながらボールを進のフィールドに打ち込んだ。

 

 が、その一撃は見えない壁に阻まれ、相手フィールドにはなったはずのボールは自陣に帰還する。

 

 相手選手はそれが障壁魔法の類であることをすぐに見抜き、隙間を見つけてそこに打ち込もうとする。が、隙間が見つからない。障壁は完璧に自陣と敵陣を遮っている。ならば、と力押しで押し切るために魔法併用で障壁にボールを打ち込み続ける。

 

 長くはもたない、そう思うほどの猛攻に観客たちは進の次の手に期待する。が、次の手が出ることはなかった。破れない。どれほど打ち込んでも破れるどころか、ヒビを入れることすらかなわない。それどころか、次第に自分のフィールドにボールが落ちはじめ、攻撃の回転数が落ち始める。

 

 疲労を感じ始めた相手選手は焦りを覚え、攻撃を続けるが、綻びは見られない。

 

 第1セットが終了するころには、相手選手の消耗でそのまま試合も終了する。相手選手が進のフィールドに打ち込めた玉数は0。フィールド侵入距離0センチでパーフェクトという驚異の結果をたたき出し、会場中にさらなるざわめきを与えた。

 

 試合を見ていた達也たちもざわめいている。

 

「圧倒的なほどの力押しだったわね……」

 

「いや、実はそうでも無いぞ」

 

 達也の発言にその場の全員が首を傾げる。それを見た達也は説明を始める。

 

「大きく広げた障壁に関してはいうことは無いが、ボールがヒットする瞬間だけ、そこにもう一枚強度の高い障壁を張って二枚で攻撃を防いでいる。ヒットする瞬間の短い時間だけ張っているから消費も少ない。前にエリカが言っていた兜割りの理論と同じだな」

 

 達也の説明に驚きを隠せない。達也は付け加えるように言葉を発する。

 

「それにしても単純な術式であるにも関わらずあそこまでの強度と消費の少なさ。さすがの魔法力だな」

 

「それでも最後まで持つとは考えにくいのですが……」

 

「さすがにその辺は考えているだろう。最後の方には別の戦法に変わっているかもしれないな」

 

 皆の興味が上昇し、決勝まで見逃さないようにしようと心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進が控室の天幕に戻ると、まず真由美が笑顔で出迎える。

 

「お疲れ様。ものすごい結果だったじゃない。生徒会長として鼻が高いわ」

 

「相手選手がたいしたことなかったせいでしょう。遮二無二攻めてくるので、非常に読みやすかったです」

 

「しかし、油断は禁物だぞ。上に行くにつれて実力が上がっていく。思わぬところで足をすくわれんようにな」

 

 真由美の後ろからひょっこり顔をのぞかせた摩利の忠告を進は胸に止める。

 

「しかし、あんな攻略法では長くはもたないだろう?試合が長引けば長引くほど不利になる。何か作戦はあるのか?」

 

「それなら大丈夫よ。ダメになったときの別案もあるから。その強さは私お墨付きよ」

 

 あずさを撫でていた真由美が横槍を入れる。

 

「会長の言う通り、一応いくつか別案がありますので決勝までは負けることはありません。もちろん油断するつもりはありませんが」

 

 では、と言い、進は踵を返し、天幕を後にする。

 

「でも実際、どうなんだ?真由美は練習でやりあったことがあるんだろ?」

 

「ええ、メインの迎撃手段は二パターンだけど、どっちも恐ろしく強いわ。シンプルゆえに崩しにくい。そんな感じかしらね。ひいき目で見なくてもほぼ優勝間違いなしよ」

 

「そこまで言うのか……。男女の差云々だと言ってたが、彼の場合、その心配はあまりなさそうだな」

 

 二人そろって、誇らしそうな笑みを浮かべながら、あずさを撫で続けたのだった。

 

 

 

 

 

 




 そろそろ夏休みですね。私もこの期間にたくさん書きたいと思います。

夏休み編くらいまでかければいいなあ……

それじゃ、次回までお待ちを。チャオ。





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第九話

 最後の投稿が二週間前。その間にかけた小説がたった一話……?何が起こったんだ。

 すみませんでした。これ以上空くのはまずいと思い、頑張って書き上げました。なのでぶっちゃけ質は低いです。

 これからはもうちょっと質上げていきたいな……。




 一回戦を勝ち上がった進は、その勢いをとどめることなくどんどんと予選を勝ち上がり、いともたやすく本線へと駒を進めた。

 

 進の使う常識外れの戦法とそれを維持し続ける魔法力に注目が集まり、彼の試合は次第に観客が増え、決勝近くになると会場は満席になり、立ち見客すら出るほどになっていた。

 

「しかし、すごい観客ですね。今までのそれを考えれば観客が多くなることは考えていましたが……」

 

「あんな大胆な戦法で勝ち上がったら、当然注目を浴びるわよ」

 

「彼に限って言えば、来年、再来年まで安心だろうな」

 

 三年女子三人組が席に座りながら、話している。少し離れたところには一年の面々も座っており、進の試合を心待ちにしている。

 

「楽しみですね。進さんの試合」

 

「ええ。けど、今までどの試合も圧倒的だったから正直、今までと同じような試合になるんじゃないかと、ちょっと不安ね」

 

「多分そこは大丈夫だろう。相手の三校選手もそれなりの点差をつけて勝ち上がってきている。今までとは違う面白い試合展開になるだろう。それより心配なのは、進のスタミナだな。進のサイオン量がどれだけ多かろうと、さすがに限界に近いだろう。オプションとしての戦いぶりも見ものだろうな」

 

 達也の説明で皆の期待値が上がっていく。試合開始を心待ちにしていると、進がコートに姿を現す。その瞬間、会場が沸き、歓声が巻き起こる。

 

 服装などは今までと同じである。進がコートの傍らに置かれたベンチに座ったところで三校選手も現れる。ラケットタイプで動きやすさ重視の格好をしている。

 

 三校選手はベンチに座る進に歩み寄り、手を差し出し、挨拶をする。差し出された手に気づいた進はその手を握る。

 

 挨拶を終えたところで試合を始めるために二人がコートに入る。会場の緊張感が高まり、会場全体が静かになっていく。

 

 フィールドに立つポールに赤いライトが点灯し、すぐにライトが黄色に変わる。さらに青に変わり、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

 最初にボールが入ったのは進のコート。CADで起動式を展開しながら、進はボールを軽く打ち込み、前回のようにコートとコートを隔てる障壁を展開する。

 

 それに対して三校選手は動じることなく打ち返す。障壁はびくともせず、そのままコートに跳ね返るが、それも予想していたのか、動揺することなく、再び打ち返す。跳ね返ることが分かっているのか、左右に振ることなく、同じところに何度も打ち込み続ける。

 

(あれにスピードや左右に振ることはほぼ無意味だ。だからスピードを捨てて、重さを取ろう。重い一撃を何度も何度も打ち込んで魔法力をどんどん使わせて後半で一気にセットをとる)

 

 三校選手の脳裏に同級生から言われた作戦がよぎる。第一セットは捨てるつもりでどんどんボールを打ち込み、進の障壁を揺らす。

 

 第一セットが三分の二ほど経過したとき、進の表情が小さくゆがむ。それに気づいた三校選手はにやりと笑い、さらにスパートをかけ、ボールを打ちこんでいく。

 

 0対0のドローの状態で第一セットが終了し、三分間のインターバルに入る。ベンチに座っている調整担当のあずさがタオルを持ちながら、

進に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか……。苦しそうな表情になっていましたが……」

 

「さすがにきつくなってきましたね。第二セットは持つでしょうが、第三セットまでは確実に持ちませんね。ここらが潮時でしょう」

 

「では作戦変更ですか?」

 

「ええ」

 

 会話が終わったところで、インターバルが終了し、第二セットが始まる。三校選手のコート内にボールが撃ち込まれ、そのまま進のコートに入り込んだ。

 

 それを見た三校選手は進が限界だと考え、にやりと笑みを浮かべ、勝利を確信した。もともと、障壁破壊に努めていたのは進の目が見えないため、障壁を広げ、ピンポイントで狙うことをなくしているからと考えていた。

 

 障壁が壊れた時点で進がピンポイントでボールを跳ね返すことはできない。そう考えていた(最も小さくピンポイントで障壁を張る二重防壁であるため、全くそんなことはない)。

 

 が、三校選手の思惑は大きく外れた。打ち込んだはずのボールが横をすり抜け、この試合初めての得点が進に入る。

 

 三校選手がボールの軌跡を追うと、進は今まで地面につくだけだった杖を剣のように持ち、素振りをしている。

 

「私の戦法は一つではありませんよ?さあ、試合を続けましょう」

 

 進の挑発に乗り、三校選手は乗り、自身のコートに打ち込まれたボールと新たに入れられたボールを打ち込む。今度は二つのボールを左右に振る。 

 

 が、進は素早い動きで左右のボールを打ち返す。同じように左右に打ち込まれたボールを三校選手も打ち返そうとするが、その重さに驚きを隠せない。魔法を使いながらでも厳しく感じるほどのボールを何とかして打ち返す。が、チャンスボールになってしまい、一つを打ち込むので精一杯で、もう一つは打ち込むことできず、コートに落ちる。

 

「……ねえ達也君。あれって魔法使ってるわよね」

 

「ああ、自己加速術式を使っている。すごく単純な術式だがな」

 

「知覚系の魔法は?」

 

「使っていない」

 

「やっぱり?」

 

 達也の言葉にその場の全員が驚愕するが、特に何も言うつもりはなかった。細い杖でボールを打ち返していることや耳だけでボールの位置を把握していることなどが、今までのことを考えると当然のように思えたからだ。

 

 進は増えていくボールを持ち前の身体能力と、人外じみた聴力で打ち返していく。三校選手も反応し、打ち返していくが、目が見えないはずの目の前の男が正確に重い球を打ち返すことで、内心動揺し、プレーに精彩を欠いていた。 

 

(くそっ、だったら奥の手だ)

 

 しかし、三校選手もこれを想定していないわけではなかった。彼らの中ではものすごい低い確率であったが。それでも油断することはなかった。

 

 三校選手がCADを操作し、新たに魔法を発動する。その直後、コート内のすべての音が消える。

 

「音を消す魔法か……。コート全体に広げることで完全にプレーの音を消しているのか。そのせいで進の動きが鈍ってるな」

 

 放ったのは遮音魔法。コート全体に広げ、完全に音を消し去ることで進の聴覚による知覚を消し去るというものだ。単純なものであるが、進には効果絶大で、戸惑いを隠せず、動きが鈍っている。が、効果範囲の広い魔法であるがゆえに魔法力を大きく消耗する。短期決戦で決めなければならない諸刃の剣である。

 

 しかし、三校選手は限りなく手ごたえを感じていた。進の動きが大きく鈍り、現に二つのボールが進のコートに落ちている。このまま攻め立て、取り返せないほど大きく点差をつける。これでしか彼が勝利する方法はない。

 

 が、そんな彼の思惑は大きく崩れ去ることとなった。一瞬足を止めた進は何事もなかったかように打ち込まれるボールを打ち返し始め、コートに落ちているボールを打ち込んだ。そのあまりにも淀みない動きに三校の選手は驚きを隠せない。驚きから精神的に弱り、ミスを連発していく。

 

 次第にそれが克明となり、一つのミスから連鎖するようにミスを連発する。それを何とか立て直そうとするが、さらにえぐるように的確に進がそのミスをつつき、さらに傷を大きくする。 

 

 魔法を解除することも忘れ、対処に追われた三校選手は第二、三セットを健闘したが、とうとう、肉体的、精神的、魔法力的な限界が訪れ、リタイアすることを決断させられた。

 

 会場中から割れんばかりの歓声と困惑と驚きのざわつきが起こる。いい勝負になると予想されていたこの試合であったが、ふたを開けてみると圧倒的な差で進が勝利したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進が天幕に戻るとまず優勝をたたえる言葉が多くの生徒からかけられる。が、その中には困惑したものも交じっており。声高に語る者はいないが、ちらほらと出現している。

 

 その奥のほうから真由美と摩利が姿を現す。

 

「まずは進君優勝おめでとう。生徒会長として鼻が高いわ」

 

「ありがとうございます」

 

 真由美の言葉に進は柔らかな笑みで答える。その笑みを見た二人は本当にコート内で苛烈に攻めていた人物なのかと困惑する。二人は顔を見合わせ、摩利が口火を切る。

 

「そんなことより聞きたいことがあるんだが。君、音が消えてからどうやってボールの場所を把握していたんだ?」

 

 その場の全員の疑問を問い掛けた摩利に全員の内心から拍手と賛美の言葉が送られる。摩利の問いかけに進はとくに戸惑うことなく、はっきりを告げる。

 

「空気の動きと勘ですよ。魔法は一切使っていません。恥ずかしながらあまり得意でないもので」

 

 進はバツが悪そうな笑みを浮かべながら答える。が、それを聞いていた全員はドンびいており、表情をひきつらせている。主にその明らかに人間離れした方法と、それをあっけらかんと話した進に対してである。

 

 これを聞かせた相手選手は泣くだろう。何せ、圧倒的な勝利を見せつけた男は複雑な魔法をほとんど使わず、勝利したのだから。その場の全員がこのことを胸に秘めることを決めた。

 

 明らかに変わった空気に居心地の悪くなった進は、その場から離れることを決め、足早に天幕から出て、散歩を始める。幸いにも次の進の出番は二日後である。今いなくても大して問題ないだろう。そんな風にあたりをつけた進はゆっくりと歩き始めた。

 

 進の告白に固まっていた真由美は正気に戻ると思いを口に出した。

 

「いや、おかしいでしょ!」

 

 真由美の叫びに首を縦に振ったものは少なくない。

 

「自分のスキルが本当にすごいものか自信なくなってきたわ……」

 

「落ち着け、自信を無くすな。あれがおかしいだけでお前は十分すごいからな?」

 

 真由美のテンションが落ち込んだのを見て摩利がしっかりとフォローする。

 

「あれを見てるとモノリス・コードも優勝するんじゃないかって思うわ……」

 

「モノリスは一条の息子も出るが……、本当に叩きのめして勝ちそうだな……。後輩が恐ろしくて仕方ないな……」

 

 優秀な後輩に畏敬と恐怖を覚えながら、新人戦男子クラウド・ボールは幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、進はホテルの一室に呼び出されていた。ホテルの高層階ということでなんとなく察しのついている進は扉の前に立ち、入室を仰ぐ。すぐに出た入室許可に進は扉を開け、中に入る。

 

「来たな。まあとりあえず座れ」

 

 耳で捉えたのは聞きなれた父親の声。それに気配から何人かが室内に同席している。まずは席に着く。

 

「まずはクラウド・ボール優勝おめでとう。素晴らしい動きだった」

 

「ありがとうございます」

 

 適当にやり取りを終えたところで横から言葉が飛んでくる。

 

「話を切るようで悪いが、明後日のモノリス・コードではそれは使うつもりかい?」

 

 真田がさしているのが杖であることを理解した進はその問いに答える。

 

「危なくなったら使う、としか言えませんね。最も決勝で戦うであろう相手が一条なのでほぼ確実に使わざるを得なくなるでしょうが」

 

「大丈夫?魔法大全で殺傷性ランクがついていないとはいえ、確実に殺傷性はSランクの魔法でしょ?」

 

 もう一方から響子からの問いが届く。

 

「一応、スピードを抑えて、なおかつ切らないように操作もできますから、おそらく大丈夫でしょう。機密事項ではありますが、これの本質を見分けることができる人はほとんどいないでしょう」

 

「確かにそうかもしれないけど……」

 

「お前の腕を信用していないわけではないが、リスクを考えるとあまり好ましくはないな。よほどのことがなければ使わないように努めるように」

 

「わかっています。そもそもポジションはディフェンスですから、そこまで危険になることもないでしょう」

 

「まあ、わかっているなら問題ない」

 

「では、忠告が終わったところで我々は退散しますか」

 

 真田と響子はそのまま部屋を後にし、室内は進と玄信の二人になる。久しぶりに二人きりになった二人は親子らしく会話を楽しんだ。

 

 

 




 次はいつになるかな……。できる限り早くできるように心がけます。

 では次会う時まで。しぃーゆー。

p.s 何話か後に皆様にアンケートを取りたいと思います。この話にかかわることです。アンケート機能なるものがあるらしいのでそれを調べて使ってみたいと思います。


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第十話

 ワールドトリガーはいいぞ。

 どうも皆さん。お久しぶりですね。まさか自分でもこんなことになるとは思いませんでしたよ。最近PSO2に復帰したら楽しくなっちゃいましてね……。

 もちっと投稿スピード頑張ります。




 一日飛ばして九校戦六日目。新人戦モノリス・コードが執り行われる日である。

 

 出場する、進や森崎は準備万端であり、試合の時間を今か今かと待っていた。中でも森崎は気が高ぶっており、入れ込みすぎではないかとも思えるほどだった。

 

 そのモチベーションとなっているのが、達也への怒り。二科生であるにもかかわらず、一科生を差し置いての大活躍を見せていた達也への怒りだった。

 

 その反面、進はほとんど緊張することなく、椅子に座り、じっと精神を統一していた。

 

 その様子を見て森崎は小さく眉を顰める。

 

「進、お前は緊張しないのか?」

 

 進は森崎のほうを向くと緊張を見せないような面持ちで口を開く。

 

「なぜそんなことを聞くのです?逆に森崎さんは緊張しているようですが」

 

「当たり前だろ。ここで一科生の力を見せつけておかないとあの男を納得させることができない」

 

「達也さんですか?力を見せつけることがそこまで重要ですか?」

 

「何?」

 

「一科と二科の違いなんて入学時の試験の違いでしょう?そんなもの実践になれば話は大きく変わってきます。モノリスは実践に近いですから、魔法以外の部分も大きくかかわってくるでしょう。そうなればテストの結果なんて意味をなさなくなる」

 

 森崎はその言葉に眉をひそめながら、うなり声をあげる。正論であることは仕事の手伝いをしている森崎であれば容易にわかる。わかってはいるが納得はできない。森崎の心境としてはそんな感じであった。

 

「それに……」

 

「それに……?」 

 

 進がさらに続けようとするのに耳を傾け、森崎は次の言葉を待つ。

 

「強いかどうかは、勝敗決してからこそわかることでしょう?」

 

 会話をしているとスタンバイの時間になり、三人は試合会場へ向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一校モノリスチームは一試合目を楽々と勝利した。進の言葉で気合が入ったのか、森崎が大活躍を見せ、一校モノリスに選ばれるほどの実力であると見せつけた。スピード・シューティングではあまり良いところがなく準優勝どまりであったがゆえに、一試合目の勝利は自信になったようだ。

 

 少しの休憩のために天幕に戻ると、一校生徒たちからの歓迎に会い、森崎たちのさらなるモチベーションの向上になったようだ。

 

「次は……、確か市街地フィールドでしたか?」

 

「ああ、立体的で複雑なレイアウトが特徴だな。大丈夫か?」

 

「問題ありません」

 

 二回戦に突入し、一校チームは廃ビルの中でスタートを待っていた。ポジションは変わらない。作戦も変わらない。相手は現在最下位の四校。この試合も楽勝であるはずだった。

 

 今にもブザーが鳴りだしそうなとき、進は妙な感覚を覚える。その違和感は次の瞬間大きく膨れ上がり、ブザーが鳴り響くと同時に危険信号へと変わった。

 

 試合開始と同時に進たちがいる部屋の天井が崩れ落ちる。二人は何が起こっているのかわからず、天井に視線を向け、呆けた顔をしていた。

 

 違和感をつかみ取っていた進だけが行動を起こすことができた。

 

 このままでは押しつぶされる。迫りくる天井を感じながら進は杖に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一校の天幕は動揺し、パニック手前の状態になる。それは真由美たちも例外ではなく絶句しながらモニターを見ている。

 

 しかし、生徒会長である真由美はいつまでもそうしてられない。すぐに復活し、冷静に生徒に指示を出す。 

 

「みんな、とりあえず落ち着いて。まずは大会運営に状況を確認して」

 

 天幕の中があわただしくなる。少し経つと、モニター内の様子が変わる。がれきがかすかに動いており、その動きが徐々に大きくなる。

 

 やがて一枚のがれきがめくれ、その奥から進が二人を抱えて姿を見せる。埃で汚れているものの外傷は見られない。その様子に真由美は少々安心し、胸をなでおろした。

 

 が、安心してもいられない。二人が裾野基地の病院に運ばれることを聞いた真由美は服部にその場を任せて、天幕を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森崎たちの手術が終わったのはそれから二時間後のことである。命に別状はないことを担当医師から聞かされた真由美は正式に胸をなでおろす。森崎の安否確認を進に任せて天幕に戻った。

 

 進と同じように付き添いで来ていた雫から状況を聞かされる。

 

「破城槌?私の記憶違いでなければ、あれは確か屋内では使用不可の魔法では?」

 

「うん。屋内で人がいる状態で使えば、殺傷性ランクAの危険な魔法だよ。それをスタート直後にフライングで放つなんて、明らかなルール違反だよ」

 

「うむう。勝ちを焦ったのでしょうか」

 

 二人が事件について話していると苦しそうな声とともに森崎が目を覚ます。顔半分を包帯で巻かれるという痛々しい姿で体を起こそうとするが、身体に激痛が走り、断念する。

 

「ここは……?」

 

 代わりに進がリクライニングを操作し、わずかにベットを起こす。

 

「会場近くの病院ですよ。森崎さん。何があったかは覚えていますか?」

 

「いきなり天井が落ちてきて、それの下敷きになったとしか……」

 

 意識の混濁等がないことを確認した進は、森崎に頭を下げる。

 

「あの時は自分のことで精いっぱいで皆さんに向ける余裕がありませんでした。そのせいでこのようなことになってしまい申し訳ありませんでした」

 

「気にしないでくれ。あの状況で俺たちのほうに意識を向けるなんて無謀なことを要求するつもりはないよ。それより進は大丈夫だったのか」

 

「ええ、私はぴんぴんしておりますよ」

 

 まだまだ聞かなければならないことは真由美から聞かされていたが森崎の体調を鑑みて、今日は二人は病院から戻ることにした。

 

 天幕に戻りしばらくすると、達也が現れ、事故について深雪や雫たちと話し始める。そんな中で椅子に座る進の姿を見つけると、驚いたような声を上げる。

 

「それにしても進、よく無事だったな。知っていたのか」

 

「奇襲が来ることは知りませんでしたよ。でもスタート直前に嫌な感じを捕らえたのでルール違反覚悟で魔法を」

 

 達也は驚きを隠せない。直感で今回の事件を察知した野生もそうだが、そこから魔法を発動したという反射神経もまたすごい。もし本当だとしたら、その反射神経は人間の限界に近いところまで行っている。

 

「ところで、もしこのまま続行になったら、お前も出場するのか?」

 

「当然です。このまま終わってしまってはつまらないですから」

 

 口角を上げていったその一言に変わらない何かを感じ取り、天幕の人間は安心感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局モノリス・コードは中止にならず、一校は選手を交代しての出場が特例的に認められた。そのことで呼び出しを受ける。

 

 会議室に呼び出された進が中に入ると、克人や真由美たち生徒会の面々が勢ぞろいしていた。

 

「服部達には話したが一校は新人戦モノリス・コードを棄権しない。選手を交代して出場する。そこで聞きたいのは交代選手の希望を聞きたい。希望する選手はいるか?」

 

「とくには。オフェンスをしてくれる選手であればだれでも構いません」

 

「で、あればこちらで勝手に決めさせてもらうが、一人の選手の説得を頼みたい」

 

「どなたでしょうか?」

 

「司波だ」

 

 その後、進は達也の説得をやり遂げ、三人目も達也の推薦で決定し、一校のモノリス選手が再び決定した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、モノリスの選手に任命された進、達也、幹比古の三人は天幕で作戦を確認していた。 

 

「俺がオフェンス、幹比古が遊撃、進がディフェンスだ」

 

「了解」「わかりました」

 

 二人は返事をして三人は天幕を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合が始まる。ディフェンスの進はモノリスの上で座っており、無防備そうに黙って虚空を見つめている。それを見ていた八校のオフェンスがチャンスとみて、モノリスに近づき、魔法式を打ち込む。

 

 阻まれることなく進んだそれはモノリスに吸い込まれる。本来であれば、ここでモノリスが解放され、ディフェンスはその中のコードを読み取られないように必死に守るはずである。

 

 しかし、モノリスは開かない。正確には、開こうとしているが開くことができないのほうが正しいであろう。

 

 仕掛けはシンプル。進が硬化魔法でモノリスを固定しているからである。この硬化魔法を解かない限り、モノリスに刻まれたコードを読み取ることはできない。

 

 オフェンスは進に空気弾を放ち、攻撃を仕掛ける。が、進はそれをモノリスから後ろ向きに落ちることで回避する。落下した進はそのまま一回転して着地する。

 

 間髪入れずにもう一発撃ちだされるが、それも紙一重のところで回避する。まどろっこしく感じ始めたオフェンス選手は三発同時に空気弾を打ち出すが、これもすべて紙一重で回避される。連続して打ち続けるが、水草のようにゆらゆらと揺れる進には一発も当たらない。

 

 達也がコードを打ち込むまで八校選手は攻撃し続けたが、進には当てることはできず、試合が終わるころには息を切らしていた。

 

 それを真剣そのものの表情で見ていた将輝と吉祥寺は進の講評をする。

 

「昨日とは戦法が随分と違っているな」

 

「うん、昨日は半径十五メートルの円状に領域干渉のフィールドを作る大胆なものだったけど今日のはモノリスを硬化魔法で固める戦法。おそらく低燃費の戦法なんだろうね。さらにクラウド・ボールのことを考えるとあれだけだとは考えづらいね。それにあの魔法力は驚異的だ」

 

 二人は自分たちの試合になったときのことを考えて対策を考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準決勝までの試合内容は割愛する。圧勝だったため特に話すことがないからだ。

 

 決勝のカードは下馬評通り、一校対三校となった。舞台は草原ステージ。モニターでそれを伝えられた達也は進と幹比古を見据える。二人には吉祥寺のインビシブル・ブリット対策のローブとマントを渡している。今回の作戦では進の動きが大きく変わる。そのためには進が今までと同じであると誤認させる必要がある。

 

「進、本当に大丈夫か?」

 

「ええ、こんな布切れ一枚で私の動きは変わりませんよ」

 

 変わらない自信に達也まで安心させられる。

 

「それじゃいったん解散だ」

 

 達也の解散の号令で三人は一度解散し、進は外に出てぶらぶらと散歩を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノリス・コード新人戦決勝戦。会場は妙なざわめきに包まれていた。理由は幹比古と進の着ているローブとマントであった。プロテクターの上からローブを着ている幹比古は恥ずかしさからフードで顔を隠している。

 

 では、進はどうだろうか。こちらもざわめいているがその意味が違う。動揺より感嘆。理由はわかりやすい。その姿があまりにも似合っていたためである。まるでそうあるべき立ち振る舞いはマントをつけているということで動揺させることなく自然であった。

 

 それは達也たちも同様のようで、口には出さないが、その似合いぶりに驚いていた。

 

 それはともかく、達也から作戦の最終確認がされる。

 

「進が動き始めるのは俺が一条を十分に引き付けてからだ。そこから先は好きに動いてくれて構わない」

 

「わかりました。では自由にやらせていただきます」

 

 作戦確認が終わり、三人は試合開始まで待機になった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイレンが鳴り響き、決勝戦の開始を告げる。同時に将輝がCADのスイッチを操作し、魔法式を展開し達也がそれを術式解体で破壊する。達也も反撃するが、将輝の干渉装甲には歯が立たない。両者、じわじわと距離を詰めながら魔法を放っては防ぐを繰り返す。

 

 観客はその二人のやり取りに大いに盛り上がり、歓声を上げる。ここまでは吉祥寺の想定内。オフェンスの達也が攻めに出てくることは容易に想像できていた。

 

 が、ここで想定外の事態が起こる。今までモノリスの前からまともに動くことのなかった進がいきなり、三校モノリスに向かって走り始めたのだ。想定外の事態に吉祥寺は戸惑う。

 

 が、将輝はすぐにそれを察知し、一瞬達也から意識を外し、進に向かって魔法を放つ、それによって打ち出された空気弾は進に牙をむくが、進はそれを緩急のつけた蛇行した走りで回避し、猛然とモノリスに向かって突き進んでいく。

 

 観客はそれを見て、さらなる歓声を上げる。マントを感じさせない動きに一条の魔法を軽々とかわすその体術にわかるものは驚愕を示す。

 

 将輝はさらに進を阻止しようとするが、進は自己加速術式を使用し、目にもとまらぬ速さに加速するわ、達也の攻撃が意識を逸らせるものではなくなるわで、将輝は達也から意識を逸らすことができなくなる。

 

 それを見た吉祥寺は迎撃の体勢に入る。自分の代名詞ともいえるインビジブル・ブリットを放つ。当たればさしもの進であってもダメージは免れない。

 

 が、進は左右に蛇行しながら走ること視線を振る。自己加速術式も相まって吉祥寺の視界は落ち着かず、正確に進の姿をとらえることができない。しかし、蛇行しながら走っているため、直線的に走るよりスピードが落ちる。

 

 そこを見逃さず、インビジブル・ブリットを乱射していく。じわじわとかわすのに注力するようになり、進はとうとう避けきれずに杖で受けてしまう。そのせいで足が止まってしまう。

 

 そこを狙って吉祥寺は重力操作で進を縫い付けようとするが、そのカウンターとして、進は領域干渉を放ち、吉祥寺の魔法を上から打ち消す。

 

 再び走り始めた進を見て、将輝は加勢しようとするがなかなか意識を向けることができない。いったん将輝は二人に意識を割くのをやめ、達也をつぶすことにし、達也への攻撃をさらに激化させる。モノリスへの防御はほかの二人に任せる。達也への空気弾を増やし、さらに攻撃を激化したところでもう少しで達也に攻撃が届くところまで追いつめる。

 

 一方の吉祥寺は、一校のモノリスへ走り始めた。もはやこうなっては防御に回ると後手後手になる。そう考えた吉祥寺はならば攻撃に出てどちらが先にコードを読み取ることに注視したほうがいい。今まで進は防御魔法しか放っていないため、三校ディフェンスを倒すことはできないし、そもそもコードを読み取ることができない。進が突っ込んできたのは圧力をかけるためだろうと予測した吉祥寺は最速で一校のモノリスへ駆ける。

 

 が、その行く手を幹比古が遮る。ここからはモノリスを狙う二人への妨害合戦となる。立ちふさがる幹比古に向けてインビジブル・ブリットを放とうとするが、直後幹比古の姿が一人、二人と増えていく。それが幻術であることは吉祥寺の頭の中ではわかっていたが、インビジブル・ブリットは目標を視認しなければならない。これでは幹比古を退けることができない。距離をとるためにバックステップを踏むが、幹比古の発動した乱れ髪で絡みついた草が足を縫い付ける。追撃と言わんばかりにCADを操作する幹比古を見て吉祥寺もCADへ指を滑らせるが、間に合わない。だがその時、幹比古が空気の爆発で吹き飛ばされる。

 

「助かった!」

 

 吉祥寺は魔法を放ったであろう人物に顔を向け、感謝を伝える。将輝は再び達也に視線を向ける。将輝のほうを向いていた吉祥寺は再びモノリスに向かって走り出そうとする。視線を戻している途中で将輝の後ろから猛スピードで駆け寄っている進の姿をとらえた。

 

「将輝!後ろだ!」

 

 吉祥寺からの声に将輝が振り返ると、すぐそこまで迫ってきている進が映る。モノリスを狙っていたはずの進にここまで接近されるとは思っておらず、将輝は動揺して、進に向けてCADを構え魔法を放つ。あまりにとっさのことであったため、加減を忘れ、無数の魔法式が進の周りに発生する。一条の跡取りであるために威力も桁外れ。当たってしまえば、無傷で済まされない。

 

 進は目が見えないため攻撃系の魔法を苦手としているが、それでも攻撃の手段がないわけではない。例えば前方への無差別攻撃など。威力による問題はあるかもしれないが、今回進がためていた魔法は極限まで威力を落とした振動系統、当たれば意識を刈り取る程度まで抑え込んだものだった。気づかれないように接近していた進には反撃は少し予想外で魔法のキャンセルは間に合わなかった。

 

 その中で進はスピードを緩め、足を止めた。理解不能な行動に将輝だけでなく、観客たちも困惑する。足を止めると腰に差していた杖を抜き両手をかける。次の瞬間、空気弾が打ち出された。

 

 砂埃が舞う前に進に視線を向けていたものが見たものは、輝く杖の周りで回る光の環だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砂埃に包まれた進。それを見て将輝は自分の行いを深く後悔する。一人の魔法師人生を奪ってしまったかと思うと悔やんでも悔やみきれない。後悔のまま、うつむきそうになるが、将輝にそんな暇は訪れなかった。

 

 突如として、身体に不快感が襲い、将輝はその衝撃で天を仰ぎ、膝をつく。力を込めることのできない体は、重力に沿って、地面に倒れこんだ。

 

 突然戦闘不能になった一条の御曹司に会場は大きくざわめき、混乱する。いったい何が起こったのかがわからない観客たち。が、その中で何が起こったかを冷静に分析していたものがいた。

 

(あれだけの威力と数の攻撃をかいくぐって攻撃したのか……。発動直前の魔法をキャンセルすることなく)

 

 砂埃が徐々に晴れていき、進の姿が明らかになっていく。そこに血だらけで倒れ伏す進の姿はなく、杖を突き片手を将輝に向けたまま仁王立ちする姿があった。

 

 将輝の魔法からどうやって身を守ったのかの謎も明らかになる。進を取り囲む何枚もの障壁。無骨な四角形ではなく、芸術品のような形と文様の入った障壁といえるかわからない()()が進の身を守ったのだ。

 

 二人の戦いといえないほどの短い時間は幕を閉じ、今度は吉祥寺に牙をむく。敵陣に突っ込んでいたことが災いし、吉祥寺は進、モノリス近くまで戻っていた達也に挟まれる形となり、二人の連携の前にあっさりと崩れ落ちた。

 

 最後の一人も回復した幹比古も含めた三人の猛攻に押され、地に伏せた。

 

 これで三校の全員がノックアウト。試合終了のブザーが鳴り響き、観客から割れんばかりの歓声が浴びせられる。

 

 選手である三人はむずがゆさを覚えながら堂々と戻っていく。その最中、達也は進に気になっていたことを振った。

 

「そういえば進。あの時張っていた魔法は障壁魔法か?」

 

「そうですよ。壁を張って防御したんです」

 

「そうか」

 

 達也は進の言葉の中に嘘があると見抜く。が、それが一体どのようなものであるかはわからず、もやもやとした気持ちのまま、一校の天幕へ戻り、妹筆頭の祝福を受けることになった。

 

 こうして、モノリス・コード新人戦は下馬評を大きく覆し、一校の圧勝という形で幕を下ろすこととなった。

 

 





 さて、今回は無駄話はなしで本題に入りましょう。

 この小説の投稿を途中で切ろうと思っています。飽きたというのも少しはあるのですが、オルガノンと魔法科高校の劣等生との組み合わせが非常に悪いんですよね……。
 派手に何もかも無差別にぶっ壊すオルガノンと、戦闘の大半が街中で、派手にぶっ壊すのはあまりよくない劣等生の世界観だと、私の考えでは横浜以降オルガノンをまともに出せなくなります。
 この作品でオルガノンを出せなくなるのは、麺のないラーメンみたいになるので横浜事変編が終わったところでこの話を未完ということで終わりたいと思います。目の見えない主人公とオルガノンの組み合わせは抜群に良かったんですけどね……。世界観が悪かったとしか言えません。

 そこでこの作品が終わってからの二次創作のアンケートを次回から取りたいと思います。これに関しましては魔法科高校の劣等生以外で書きたいと考えています。

 改めまして途中で終わることにしてしまい、まことに申し訳ございません。こればかりは深く考えなかった私の責任です。どうかお許しください。

 では次回の投稿でお会いしましょう。



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第十一話

ゼロワンはいいぞ。

 早いでしょ?あんなこと言った後だからできるだけはよ終わらせたいんや。というわけで九校戦編最終話はどうぞ。


p,s 返信音もかっこいいし、ヒロインの女の子もかわいいからみんなも仮面ライダーゼロワン見よう!今なら第一話がYOUTUBEで無料で見れちゃう!
見るよね?
見るよね(威圧)?


 モノリス・コードで優勝したことによって、一校が新人戦優勝を手にし、総合優勝もほぼ確実と言っていいほどに手中に収めていた。これから行われるミラージ・バットとモノリス・コード本戦には深雪と克人が出場する。深雪の魔法力が卓越しているし、克人に至っては言わずもがなである。もはや一校優勝は目前であった。

 

 しかし、ここでそこで胡坐をかき、わざわざ自分から足元をすくわれようとするものは一校内にはおらず、自分たちの競技を精一杯こなしていた。

 

 しかし、その一方で自分たちの行く末を案じ、夜も眠れない者たちがいた。九校戦の勝負内容をネタに賭博を行っていた者たちは一校が優勝することが非常に都合が悪かった。彼らは世間一般的に言う悪人たちである。追いつめられた時の彼らの行動はネズミも驚きのそれである。追いつめられた彼らの魔の手が再び迫ろうとしていた。

 

 進が天幕に、散歩から戻りしばらくすると天幕の中がざわつき始める。また事故が起こったのかと思ったが、そうではないようだ。その原因を真由美に問いかける。

 

「七草先輩。どうされたのですか?」

 

 いきなり珍しい人物から問いかけられた真由美は一瞬戸惑ったような表情を見せた後、すぐにいつものような表情に戻り、説明を始める。

 

「ええ、達也君が大会本部でいきなり暴れたみたいで。理由は、いつものことみたいなんだけど……」

 

「…………ああ、深雪さんのことですか。深雪さんのCADに細工でもされたのでしょうか」

 

 一瞬考えこんだ進はすぐに思い当たる節を見つけ、納得する。あの兄弟愛の強い男であれば、怒り狂うのもおかしくない話である。

 

「彼は意外と感情的な人物なんでしょうか?」

 

「極度のシスコンなんでしょう」

 

 進の素朴な疑問に真由美はくすくすと笑いながら、自身の見解を述べる。

 

 真由美と話していると渦中の人物か天幕内に現れたようで、ざわめきが一層強くなる。

 

 甘い雰囲気を醸し出す達也と深雪の二人はその甘美さを天幕内に広げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノリス・コードが終わってしまった影響で進は暇を持て余していた。散歩もこの一週間でほとんど回りつくしてしまい、やることのなくなっていた進は珍しく自分からミラージ・バットの会場に足を運んでいた。

 

 とはいっても見えるわけでもないので、面白いかは別である。しかし、雰囲気だけでも暇つぶしにはなるといえた。そこで意表を突いた人物と出会う。

 

「あら、お隣よろしいですか?」

 

「ただ立っているだけです。どうぞお好きに」

 

 制服姿の愛梨は進の隣に立ち、フィールド脇をじっと見つめる。

 

「まずはクラウド・ボール、モノリス・コード新人戦優勝おめでとうございます。クラウド・ボールはともかく、まさかモノリス・コードも優勝するとは思っていませんでした」

 

「それはそうでしょう。相手は一条の跡取りでしたから。私たちが勝つと思っていた方々のほうが珍しいでしょう」

 

「それにしてはずいぶん余裕そうに勝利しましたが?」

 

「余裕ではありませんでしたよ。紙一重でした。さすがあの攻撃にはひやりとさせられましたよ。それより偵察でしたら集中したほうがいいのではないですか?」

 

 まさにその瞬間ブザーが鳴り響き、試合が開始される。それを聞いた愛梨は慌てたようにフィールドのほうを向き、真剣そのものの表情で深雪の動きを観察し始める。それは深雪が決勝の相手であることを確信しているかのようだった。その後、深雪が飛行魔法を使うなどで観客の度肝を抜くなどあったが、達也の一暴れによって、平和的に第二試合が終了した。

 

 試合終了後、隣に立っていた愛梨は不思議そうに進を見つめた。そして、満を持してといった表情で進に問いかけた。

 

「あなたといい、司波深雪といい……。どうなっているのかしら?数字付きでもないものがあそこまでの力を見せるなんて」

 

 愛梨の言葉に進は自分の考えを答える。

 

「数字は確かにこの世の中では大切でしょう。数字付きでは魔法力を高めるための様々な取り組みがされているでしょう。でもたまたま出てきた数字のない人間が目立っているだけでしょう。表に出ないだけで数字がなくても強い人物はごろごろいるでしょう。それが今年だったというだけの話でしょう」

 

 進の言葉は愛梨の脳髄に響いた。上には上がいる。それを知ってしまった愛梨は今まで自分のことをエリートだと思い、自分で見ていた世界を狭めていたことを恥じた。

 

「まあ……」

 

「数字がついていないかはわかりませんがね」

 

 進のつぶやきを愛梨は捉えていたが、それがどのような意味を持つのかをその場で考えることはなかった。

 

 観客席の興奮が落ち着いてきたところで進はその場を立ち去ろうとする。

 

「では私はこれで」

 

「あ、もう少しいいかしら。クラウド・ボールのことでもう少し聞きたいことがあるのよ」

 

 了承を取ることなく、愛梨は歩きだした進の横につく。興味があるといったのは紛れもなく本当である。視覚に頼らずに的確に行動し、なおかつ人間離れした反射神経。見える前に行動できる愛梨の稲妻が、見えなくても行動できる領域にまで踏み込めるかもしれない。それを交流できる間に掴んでおきたいというのが愛梨の気持であった。

 

 最も、踏み込まないほうが怖い思いをしなくて済んだかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

 愛梨が異常事態に気付いて声を発した時には猛獣の爪は首元に迫っていた。あと一瞬あれば一色の首は刈り取られ、頭が宙に舞っただろう。気づけただけでも一線を画している。いくら稲妻の異名を持つとはいえ、帯電していない状態ではそれは使えない。このままではなすすべなくやられてしまうだろう。近くに騎士様がいなければ。

 

 巨体で愛梨を殺そうとした大男は愛梨の首を跳ね飛ばすより早く宙に浮きあがり、そのまま競技場の外まで吹き飛んでいく。

 

 しかしその男は慣性中和の魔法を使って怪我一つ無く着地する。吹き飛ばされたことを知覚し、その人物を確認しようと視線を上を向けた瞬間、彼の限りなく薄まった本能が爆音で警鐘を鳴らした。

 

 何が来るかもわからない状況であったが、迫りくるそれが断頭台になることはわかっていた。その男はとっさに横に回避した。次の瞬間、男の腕が吹き飛ばされた。

 

 傷口からあふれ出る血を無視し、目の前に降り立った男に襲い掛かろうとするが、失われたはずの恐怖が行動を拒否する。命を奪い取る死神を殺すことなどできない。そう考えた彼は、できないはずの命令にそむくという行為を行い、その場から逃げようとする。

 

 が、その前に彼の身体に針が刺さり、痺れたように体をけいれんさせながら、意識を飛ばした。

 

「もう、少し派手じゃないかしら?」

 

「だが、競技場から出す際には静かに行っていた。ここは人目につかないし、それなりにはいいんじゃないか?」

 

「それに一瞬だけだけど、実戦でのそれの動きも見れた。それでいいんじゃないかな?」

 

「後処理をするのは真田大尉ではないんですから。勝手に納得しないでください」

 

 姿を見せた柳、真田、藤林の三人はそれぞれの反応を見せながら、痙攣している男の後処理をしていく。

 

 そんな中、遅れて降りてきた愛梨は顔が引きつっている。

 

「あ、あなた。さっきのは……」

 

 愛梨も一瞬ではあるが見てしまった、断頭台となるそれを。最近見たことのあるそれが男の腕を吹き飛ばしたところを。それを見た瞬間、総毛立ち、冷や汗が体中から噴き出た。今なら沓子が言ったことも理解できる。これはかかわってはいけないタイプのものである。

 

 顔をひきつらせた愛梨の言葉を聞いた進は、いつもの温和な雰囲気とは違う、殺気すら感じられるほどの凶悪な雰囲気で愛梨に注意を向ける。

 

「一色さん」

 

 進の言葉に愛梨は全神経を集中する。愛梨には聞き逃してはいけないような感じがしていた。

 

「忘れなさい。忘れたほうがいい。もし、それでも知りたいのであれば覚悟を決めたほうがいい。覚えておきなさい」

 

 その言葉を言った直後、鋭い雰囲気は虚空に消え、いつものような柔らかい雰囲気に戻る。進は三人とともにその場から離れた。それから少しあと、愛梨は崩れるように地面に座り込んだ。荒い呼吸で今起こったことを整理し始めた。そして、整理が終わったところでゆっくりと立ち上がり、三校の天幕ではなく、自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、進の父親である玄信は十師族の長である九島烈と相対していた。二人の間で司波達也の話題が上がり、その話題は魔法戦力という達也とは切っても切り離せない部分に入っていた。その中で一つの知的好奇心として烈は一つ問い掛けた。

 

「では君の息子はどうかね?風間進、素晴らしい腕だった」

 

「愚息が閣下の目に留まるとは光栄です。ですが、愚息は魔法力は高いですが、攻撃魔法があまり使えませんので、戦力には……」

 

「そうではない。本人ももちろんそうだが、私が興味があるのは杖のほうだ」

 

 烈の言葉に玄信はびくりと体を震わせ、無意識のうちに剣呑な空気を発してしまう。

 

「安心せい。取って食ったりはしないよ。君を敵に回してしまえば、どの家だってただでは済まないだろう」

 

 烈の言葉に若干ではあるが、剣呑な空気がほぐれる。しかし、ましになった程度で、決して元に戻ったというわけではない。

 

「死神と鎌。我が息子でありながら、そう例えるしかない、息子とあれの組み合わせは」

 

「死神と?司波達也を差し置いてか?」

 

 玄信は目をつぶったまま、応える。

 

「達也が戦術核に匹敵する人材であるとは先ほどおっしゃいましたが、愚息もそれに到達しうる人材であると私は認識しております。魔法力も高い、そしてなによりあの杖が恐ろしい。達也以上に身びいきに聞こえるかもしれませんが、わが息子はそれだけで私の隊と同等レベルの戦力を持っています。破壊力こそ劣りますが、単騎性能であれば達也すら凌ぐ戦闘力です」

 

「絶賛だ。実の息子がそこまでの力を持って独立魔法大隊のトップとしてさぞうれしかろう?」

 

 烈の皮肉じみたを無視し、玄信は言葉を続ける。

 

「だからこそ私は心配なのです。強大ゆえにその力を狙われる。十師族ならば確実に狙ってくるでしょう。もし奪われてしまえば、兵器となることは確実でしょう」

 

 珍しく弱音を吐いた玄信に何も言うことができず黙り込む烈。自分にも孫がいるため、気持ちがわからないわけではないためである。この場で言えなかった玄信の一番の心配事は本人が好戦的であることだったが、それを言えば餌を与えることと同義であるため、口に出すことはなかった。

 

「親としては心配でたまらないのです」

 

 玄信のため息にも似た言葉は二人以外の耳に届くことなく空気に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦最終日。圧倒的な力を見せつけた一校がモノリス・コード本線で優勝し、総合優勝も勝ち取った。その後のパーティでは各校和やかに交流していた。

 

 その中で進は他校の生徒や、大会関係者、基地の高官などに囲まれていた。

 

 大会初期では目が見えないということなどから不気味と思われていた進であるが、目覚ましい活躍により不気味という印象はミステリアスという印象に変わっていた(言い方を変えるだけで印象もだいぶ変わるのであるから不思議である)。

 

 それに加えて、印象と違うさわやかフェイスはギャップという女子の大好物となり、温和な性格も相まって進の人気を確固たるものへと変えていた。

 

 一人ひとり対応していた進だが、さすがに辟易し、できる限り早く終わってほしいと願い始める。それから少し経ち、お偉方が退場し、いよいよダンスの時間になる。

 

 来賓との会話でさすがに疲労を感じていた進は人垣をすり抜け、外に出て夜風を浴びながら歩き始める。

 

 しばらくすると、進は前方に人の気配を感じ取る。最近は珍しくなくなったそれに驚くこともなく、前方の人物に声をかける。

 

「どなたでしょうか?女性だと思いますが」

 

「一色です。少し座りませんか」

 

 一色は進をベンチのほうに案内する。断る理由のない進は誘導に従い、案内されるがままベンチに腰掛ける。

 

 差し出されたグラスを受け取った進は適当な質問を問い掛ける。

 

「なぜここだと?」

 

「司波深雪さんのお兄さんに教えていただいたんです」

 

「外に出てきてもよろしいのですか?一色のご令嬢が」

 

「それを言うならば大活躍を見せたあなたも同じようなものでしょう?それに私は程度の低い男と踊る気はないんです」

 

 変わらない一色節に進は心の内でクスリと笑い、グラスの中の飲み物でのどを潤す。隣に座る愛梨はうつむいたまま、隣で黙り込んでいる。しばらく黙り込んだまま、思考して、そしてグラスの飲み物を一口飲んだ後、意を決して口を開いた。

 

「あの……、昨日のことなんですが……」

 

「やめたほうがいい」

 

「いいえ、一応私も当事者になってしまった以上、知る権利がある、それ以上に私が知りたいのです。どうか、教えていただけませんか」

 

 ぴしゃりと言い放った進にひるむことなく続けた愛梨に進はどうしようか考えこむ。進が話さないのが自由であるのと同様に、愛梨が知りたいのも自由である。知りたいと思ってしまえばその思いを止めることはできないのだから。だからこそ覚悟を決めたこの少女に行っていいのかもわからなかった。

 

 進は一気に飲み干し、大きく息を吐いた。

 

「この杖は確かに呪われていますけどね。そこまで恐ろしいものではありませんよ」

 

 進は結局話すことに決めた。そもそもそこまで恐ろしいものでもないからだ。本人にとっては。

 

「何かを支払って、この杖を使えるというだけの話ですから。私が支払ったのが視力というだけの話ですから」

 

 進は軽く話したが、やはり愛梨は恐ろしかった。

 

「風間。こんなところにいたのか?……邪魔だったか?」

 

 二人の空間に割って入ってきた克人。本人には悪気はない。

 

「いいえ、大丈夫ですよ。何か御用ですか」

 

「少し話がある。一色殿、進を借りていきます」

 

 いきなり現れた克人にあっけにとられた愛梨が答える前に克人は歩き始め、進もその重厚な足音についていく。少し歩いたところで克人は止まり、進のほうに振りかえる。

 

「早速本題に入ろう。師族会議において十文字家代表補佐を務める魔法師として助言する。風間、お前は十師族になるべきだ」

 

「そういうお話であれば、父を通してもらいますか?ご存じでしょう?」

 

「陸軍の風間少佐のことか。あの方が十師族を好いていないことは重々承知だ。だが、十師族の次期当主に真正面から勝つというのはお前が考えているよりずっと重い。それを忘れないようにな」

 

 克人が去ったあと、立ち直った愛梨が進のもとに駆け寄ってくる。背後で流れている音楽は曲が変わっている。時間的にそろそろ終盤であるというのは容易に想像がついた。一色はそれを聞いて思いついたように進に問いかけた。

 

「パーティも終わるというのに誰とも踊っていないのは殿方としてあまりよろしくありません。よろしければ私と踊っていただけませんか?」

 

「私はそういったことには疎いのですが……」

 

「思いつくままにステップを踏んでいただければ、あとは私が合わせます。女性から手を差し出すのは男性として失格ですよ」

 

「でしたら、喜んで踊らせていただきましょう」

 

 進は愛梨に手を差し出して、愛梨はそれを手に取った。二人は小さく聞こえる音楽に合わせ、夜の帳のなか、静かにダンスを踊った。初めての経験に戸惑いながらも進はそれを噛みしめながら楽しんだ。

 

 

 

 ちなみに進のダンスは初めてとは覚えないほどうまかった。

 

 





 愛梨がヒロインみたいになってしまった……。まあ、かわいいし、同じ剣士だからオッケーってことにしておいてください。

 ほんとはもっとオルガノンとか進の身体にについてほのめかすつもりだったんですが、それをやると風呂敷をたためなくなるのでやめたのは内緒の話。さすがにとっ散らかるのは嫌。

 次から問題の横浜ですよ。やっと私の書きたいところがかける……。



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横浜事変編
第十二話


 頭文字Dはいいぞ。

 今回から横浜編です。最終章となってしまいますが、テンポよく、かつできる限り面白く進めていきたいと思います。オルガノンの見せ場ですので、しっかりと魅せられるように頑張りたいと思います。


 

 九校戦と夏休みが終わり、魔法科高校の生徒はいつもの日常に戻っていた。その中で体育館ではエリカと進が火花を散らしていた。初めての対決以来、日課になりつつある二人の模擬戦はエリカに強く影響を与えていた。中でも進独特の先読みはエリカに強く影響を与え、それに近いことができるようになっていた。

 

 おかげで実力も伸びており、進にひやりとさせる一撃を放つことができるようになったほどである。初戦で簡単にあしらわれたあの時のエリカはもういなかった。

 

 しかし、影響を受けているのはエリカだけではない。進にとっても毎日の模擬戦は無駄をそぎ落とすためのいい機会となっていた。いまだに一度として勝つことのできていないエリカは毎度のように歯ぎしりするのであった。

 

「ああー!また負けた!」

 

 エリカは大声で自身の負けを吐き散らすとそのまま体育館の床に寝転んでしまう。その様子を端のほうで見ていた桐原と壬生は引きつった笑みを浮かべるしかない。

 

 しかし、この二人が引きつった笑みを浮かべたのはエリカの行動ではない。着々と上がっているエリカの実力とそれをたやすくはねのける進の実力である。一連の戦いを見ていた二人には、二人の戦いが異次元のものにしか見えなかった。自分が二人の間に割って入れるかと考えると頭が痛くなってくる。剣をたしなむものとしての自信が崩れそうだった。

 

 そんなことを考えているとは知らず、エリカは頭の中で自身の動きの反省点を上げていく。最もエリカの動き自体は完成に近いものであるため、すぐに反省点と呼べるものは尽きる。

 

 考えるのに飽きたエリカが首を少し上げると、少しも息を切らさず、杖を突き立っている進の姿が映る。あれから毎日のように繰り返しているが、いまだにエリカは進が息を切らすところを見たことがなかった。

 

 その悠然とたたずむ姿を見てエリカは若干イラっとする。が、それを口に出すことはできない。自分の実力を棚に上げることはできない。

 

「起こして」

 

 エリカの言葉を聞いた進は差し出された手を取り引き上げる。起き上がったエリカは服に着いたほこりを払いながら、進のことを恨めしそうに見る。

 

「進君、心臓が原子力で動いてたりする?今までに息切らしてるところ見たことないんだけど?」

 

「今までに一度もそんな改造はされたことありませんよ。肉体改造もしたことはありませんね。息を切らさずに動けているのはそういう動き方をしているからです」

 

「今度教えてくれる?」

 

「構いませんが、少し面倒ですよ?」

 

「大丈夫よ。それよりそろそろ論文コンペの時期だけど、進君護衛とかしないの?桐原先輩はするみたいだけど」

 

「私は呼ばれていませんよ。護衛となると五感が必要でしょう?すでに一つつぶれてる人間は選べないでしょう」

 

 それでも下手な人間よりも優れている、とはもう言わなかった。

 

「それじゃ続きやるわよ。絶対に一本取る」

 

 エリカのその元気さに進は振り回され、二人はまた剣を交えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 論文コンペティションの準備が学校ぐるみで始まり、自主実習という名目で学校のあちこちでカンカンガタガタという作業音が鳴り響いていた。

 

 そんな中、進はふらふらと散歩にいそしんでいた。いや、いそしまざるを得ないといったほうが正しいだろうか。彼も会場警備隊に抜擢され、そのための訓練をしていたのだが、少し力を籠めすぎたのだ。

 

 進にメッタメタにされたほかの生徒はさらに克人にもぼっこぼこにされた。それを三回ほど繰り返せば、さすがに滅入ってしまうだろう。そのため、克人の指示で進は訓練を外された。

 

 解せぬ、と思いながら校内を歩いていると、端末がささやかに着信音を鳴らす。音を鳴らすこと自体、珍しい端末にかけてくるのはだれかと思いながら、応答する。

 

「もしもし、進君?ちょっと時間ある?」

 

 端末に進の鼓膜を揺らしたのは聞き覚えのあるエリカの声。

 

「大丈夫ですよ。どうかなさいましたか?」

 

「ちょっと相談したいことがあるんだけど、学校終わった後、少し時間ある?」

 

「大丈夫ですよ。何なら今からでも大丈夫ですが」

 

「今って警備隊の訓練の時間じゃなかったけ?」

 

「追い出されましたよ、ええ」

 

 予想だにしない解答にエリカは内心呆れかえる。

 

「……じゃあ、今からお願いできる?来てほしい住所、今から端末に送るから」

 

 そういった直後に端末が位置情報を受信する。

 

「わかりました。今から向かわせていただきます」

 

 進の返答を聞いたエリカは少し話して通話を切った。端末をポケットにしまった進は、そのまま校門に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、ですか」

 

 進はたどり着いた住所に有ったものに内心驚きを隠せない、自身の家の倍以上の立派な日本家屋である。足を踏み入れるのすら、ためらわれるほどの立派な邸宅から進が到着したことを聞いて、エリカが現れる。

 

「いらっしゃい。遠慮しないで上がって」

 

 いわれたとおりに進は家の中に足を踏み入れる。少し、床のきしむ音を聞きながら、進は今回呼ばれた理由を問い掛ける。

 

「今、レオをしごいてるんだけど、ちょっと行き詰ってるらしくてね。何かしらアドバイスをもらいたいのよ。魔法はともかく、剣術に関してはレオより数段上だし」

 

「それならば、端末越しでよかったのでは?」

 

「できれば、見てアドバイスをしてほしいのよ。今レオに教えてるのは千葉家の秘伝だからね」

 

 だったら自分に見せるのはまずいのでは?と思う進ではあったが、一定以上の信頼を勝ち取っている証だろうと考え、ぐっと飲みこむ。

 

 エリカが乱暴に開けた扉の先では道着姿のレオが一生懸命に鉢巻を振っていた。エリカが戻ってきたとレオが振り返ると、余計な不随物がくっついており、驚きを隠せない。

 

「……何で進がいるんだ?」

 

「私が呼んだのよ。文句あるかしら?論文コンペとはほぼ無関係、魔法に関しては私たち以上よ?」

 

 レオはまだまだ反論したいことはあったが、あきらめる。行き詰っていたレオとしてもここで進が来たのはありがたかったからだ。

 

「では、私は端のほうで観察いただきますので」

 

「そりゃいいが、なんだか緊張するな……」

 

 進は道場の端のほうで座り込み、レオ達の動きを集中して観察し始める。一挙手一投足を戦闘時のような視線で観察している。それをしり目に特訓を続ける二人だが、それでもうまくいかないのか、何度やってもうまくいかない。

 

 一時間ほどして、煮詰まり始めた二人は進に助け舟を出す。

 

「どこが変なのかしら……。進君はどこが悪いと思うかしら?」

 

 エリカの問いに今までの集中を解き、答える。

 

「ふむ……、まずレオさんにはイメージがまるで足りてない。鉢巻でものを切れると思い切れていない」

 

「あん?イメージはしてるつもりだが」

 

「きっとまだまだ足りないんでしょう。せいぜい、鉢巻が一枚の板になる程度のところまでしか考えていないんじゃないんですか?」

 

 進の指摘にレオはぎくりとした。進の言う通り、ものが切れる、というところまではイメージできていなかったからだ。

 

「イメージさえできてしまえば、魔法にかかればどんなことでもできます。そういうものですから。そのためのイメージを固めることが大切です」

 

「はあー。目からうろこだわ。さすが感覚派ね」

 

 エリカが進の言葉を聞いて感嘆の息を漏らす。ちなみに感覚派というのは魔法理論がそこまで高いわけではないのに、難しい魔法を平気で使いこなすことからつけられた名称である(蔑称では断じてない)。

 

 さらに進は付け加える。

 

「あと殺気が足りません」

 

「殺気か?そんなもの練習に必要ないんじゃ」

 

「練習でできない人間が実戦でできますか?そういうことです。ずっと気張っていろとは言わないですけども、殺気を出す練習くらいは必要ですよ。例えば……」

 

 言い終わった進は立ち上がり、杖を持つ。

 

「この杖は形状的には絶対に物は切れません。せいぜいひしゃげさせるのが関の山でしょう。ですが、イメージと殺気が合わされば……」

 

 進はエリカに近づいていき、手に持っている竹刀に狙いをつけた。エリカですらとらえられないほどの速さで杖を振り下ろされると、竹刀がきれいに二つに切られていた。断面は無理やり断ち切られておらず、その表面にはささくれ一つ存在しない。

 

「……こんなものでしょう」

 

 二人は進が見せた妙技に驚き、唖然とする。進はいつものように穏やかに笑みを浮かべ、レオのほうに向く。

 

「イメージさえ仕上がれば、魔法なしでもこれくらいのことはできます。レオさんだってこれをやるのは夢ではありませんよ?レオさんは筋がいいみたいですから」

 

「そうか……、イメージか……。サンキュ進。どうすればいいかなんとなくわかった気がするぜ」

 

 レオは付き物が取れたような笑みを浮かべ、進もその笑みに笑みで返す。レオは再び特訓を再開し、進は帰宅するために玄関のほうに向かっていた。

 

 付き添っているエリカは再び進の技に注目しそれについて話し始める。

 

「でも、やっぱりさっきのは正直すごすぎたわ……。本当にイメージして切れそうにもない杖で切るなんて……」

 

「ああ、あれは単なるハッタリですよ」

 

 進の突然の告白にエリカは気の抜けた声を発し、開いた口がふさがらなくなる。

 

「この杖は仕込み杖でして、しっかりと刃物が仕込まれていますよ。まあ、息抜きと煮詰まった考えをほぐすには十分でしたでしょう?」

 

 進は杖のエリカに見やすいように持ち上げると、そのまま杖の持ち手を刃物に変化させた。いろいろと度肝を抜かれたエリカはもはや何を言っていいのかわからない。

 

「それでは失礼します。さっきのことはレオさんには内緒にしておいてくださいね」

 

 エリカは放心状態のまま、進を見送った。エリカは改めて自身が相手してもらっている人物の規格外さを知ることとなった。

 

 

 




 おそらく次で論文コンペ開催まで飛びます。横浜事変編で一番大事なのはオルガノンで大亜連合をぐちゃぐちゃにすることだと考えているので、それ以外の必要ないところはテンポの関係上全カットです。

 アンケートのほうですが、書く小説に息抜き程度なのでそもそも続けたりをしっかり考えるつもりはありませんので、そこらへんご了承を。

 なぜ書きたいかに関しては適当に活動報告にでも書き連ねておくので、興味があるという変人さんはどうぞ読みに来てください。

 では今日のところはこの辺で。チャオ

 追記、アンケートは木曜日のどこかで締め切りたいと思います。











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第十三話

 ユーロビートはいいぞ

 今回から論文コンペ突入です。またオルガノンも繊細な使い方ではありますが、出番がありますよ。

 それではお楽しみください。

p.s 私はback on the rocks とかが好きです。


 時間は飛んで、論文コンペ当日。会場警備の仕事を割り与えられている進は朝早くから会場入りしていた。他校の中から不安の声が上がるかとも思われたが、その実力は九校戦でことごとく知れ渡っている。不安の声など上げられなかった。

 

 担当であるホール内の警備を行っていると、耳につけたインカムから通信が届く。

 

「一校の十文字だ。共同警備隊員に通達する。午後からは全員防弾チョッキを着用すること。繰り返す。必ず防弾チョッキを着用して警備にあたること」 

 

 克人の毅然とした声に進は思う。これは何かあると。そう思った進は防弾チョッキを着用するために、その場を離れようとした。その時、知った人物から声がかかる。

 

「はあい、進君。頑張ってる?」

 

 エリカとレオが手を振りながら進に歩み寄る。

 

「ええ、午前中は何も起こりませんでしたよ。午後も何も起こらなければいいのですが……」

 

 進は悲痛な面持ちでうつむく。

 

「何か起こると?」

 

「ええ。十文字会頭から防弾チョッキの着用を促されましたしね。ではこれで」

 

 進は防弾チョッキの着用のために、会話もそこそこにその場を離れようとする。歩み始めたその時、エリカが進を再び呼び止める。

 

「も一個いい?ほんとにそう思ってる?」

 

 進は振り向いて小さく微笑み、その場を離れた。後ろで話を聞くだけだったレオは、エリカの発言に無神経さを感じていた。

 

「おい、さっきの質問はちょっと無神経じゃねえか?何もないのは誰にだっていいことだろ」

 

「いーや、なんとなくわかるけど、彼、半分くらいしか『何も起こらなければいいのに』なんて思ってないわよ」

 

 第六感もそうであるが、エリカは見逃していなかったのだ。うつむいたとき、進の口元が小さく吊り上がっていたのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防弾チョッキを着用した進は持ち場に戻り、警備を続けていた。しばらくすると一校の発表が始まった。そういった方面にはあまり詳しくない進であったが、一校の説明が高度で非常に有用なものであるということは理解できた。これをしっかりと理解できている達也がうらやましいとも思った。

 

 しばらくして一校の発表が終了し、会場から割れんばかりの拍手が巻き上がる。進もそれに従って拍手をしていた。拍手もまばらになり始めた時、進の第六感が警鐘を鳴らした。それが指し示す方向に走りだそうとしたその瞬間、会場が大きく揺れた。

 

 その振動と鼓膜を揺らす爆音に会場の人間が戸惑っていると靴音とともに会場内にライフルを持った集団がなだれ込む。脅しをかけるその集団に対抗しようとしたものもいたが、魔法発動前にライフルによる圧でその意思を打ち消されてしまった。

 

 いまだにCADを携行したままの司波兄妹に集団のうちの一人がライフルの銃口を向けたまま、近づいていく。しかし、達也は無表情のまま、相手のことを観察し、霧散霧消は使いたくないなどと、のんきなことを考えていた。

 

 その様子にいら立ち、少しの恐怖を覚えていた男は、トリガーにかかった指に力を入れた。あと少し力を籠めれば、銃弾が発射され、達也の命を奪ったかもしれない。

 

 が、トリガーが完全に引かれてもその弾丸が打ち出されることはなかった。

 

 ハイパワーライフルの銃身が会場内にいる侵入者六人全員、きれいに切り落とされたからだ。もはやこうなってしまっては使い物にならないのは目に見えていた。その場の全員が目の前で起こった光景に困惑している。特に侵入者の混乱は計り知れないだろう。

 

 そんな中、会場内に靴音が響き渡った。その方向を達也が見ると、耳から手を離しながら扉の方向に歩みを進めている進の姿が映った。

 

 侵入者はその姿を見て、使いものにならなくなったライフルを投げ捨て、ナイフで制圧しようとした。だが、相手は剣術の天才である。数秒とかからずに侵入者を逆に制圧する。それを見た他の警備の面々は自分たちにとっての不都合な武器がなくなったことに気付き、侵入者たちを制圧しようと、襲い掛かった。

 

 それを見届ける前に会場から出ようとした進であったが、達也に引き留められる。

 

「進、一人で行くのは危険だ。少し待ってくれ」

 

 その言葉を聞いた進は、外に向けていた歩みをステージのほうに向ける。次第にエリカたちが集まっていき、侵入者の撃退に打って出た。

 

 戦闘が行われている入り口に付近に向かう一同であったが、その道中で達也が妙なことを言い始める。

 

「進、さっきのをやったのはお前だな?」

 

「だとしたら何です?」

 

「あれは魔法ではないな?」

 

「いいえ、あれは魔法ですよ?なぜそう思うのです」

 

「そもそも発動の兆候さえ見えなかったし、もしあったとして、発動までのラグがなさすぎる」

 

「あれはれっきとした魔法ですよ。親父殿に聞きませんでしたか?」

 

「お前は他人に詮索をされたいのか?」

 

「達也さんはそういったことがお好きだと勝手に思っていました」

 

「まあ、エリカには聞いたぞ。お前はハッタリも得意だってことを」

 

 無駄話をしていると、進たちの目の前を銃弾が走る。入り口付近では魔法師とハイパワーライフルによる戦闘が行われており、達也はそのまま飛び出そうとしたレオの襟首を乱暴につかんで止め、進は杖で皆の進行方向を妨げる。

 

「さて、どうするか……」

 

 達也の小さなつぶやきに進はすぐさま反応する。

 

「簡単ですよ。さっさと銃を黙らせればいい」

 

 そういうと、皆が止める暇さえなく、銃弾飛び交う戦場に歩いて突入する。その奇想天外な行動に唖然としていると、進に向かって銃弾が打ち出される。魔法師用の高速弾、障壁の展開は進の魔法発動速度でも間に合わないだろう。

 

 だが、進に銃弾が届くことはなかった。進の三十センチ手前で銃弾は特殊な形状の障壁にはじかれ、逆に侵入者たちのハイパワーライフルがたたき切られていた。そのあまりにも突然のことに達也以外の全員が混乱していると、達也は物陰から飛び出し、進は皆のほうを向き、一言つぶやく。

 

「よろしいのですか?このままでは達也さんにすべて取られてしまいますよ」

 

 その一言に反応し、エリカとレオは飛び出し、幹比古は札を懐から取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 侵入者を制圧した進たちは次にどうするか、検討していた。

 

「情報が欲しい」

 

 達也の言葉に反応した雫がVIP会議室の使用を提案する。暗唱キーもアクセスコードも知っているという頼もしい雫の発言に達也たちの意思はそこに向かうことで確定する。

 

 その中で一人、話にほとんど入っていなかったものがいた。エリカは会話に集中することなく、ゲリラの隠れていた柱を見ていた。正確には柱につけられた傷をじっくりと観察していた。

 

(この傷、相当威力のある斬撃じゃなきゃここまで深くは付けられない。それに位置関係からゲリラたちの後ろ、あるいは真横から切らないとこうはならない。達也君が言うには進君がやったみたいだけど、あの一瞬でどうやって……)

 

 剣術家であるがゆえにそういったものは気になってしまう。達也の言葉を信じるならば、進がやったということになるが、こうなるような魔法は彼女の記憶の中にはないし、かまいたちのようなものを発生させたとしてもこうはならない。 

 

 どうやったのかを考えこみたいところではあったが、肩に置かれた手によって中断せざるを得なくなる。

 

「エリカ、考えたい気持ちはわかるが、今は会議室に向かおう。ゲリラを殲滅したからといっても安全が確保できたわけじゃないんだ。それに……」

 

 エリカが頷く前に達也は視線をちらりと張本人のほうに向ける。

 

「後で本人に聞けばわかることだ」

 

「……そうね。ごめんなさいね、わざわざ呼びに来させちゃって」

 

 気を取り直したエリカも含めて全員がVIP会議室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デモ機のデータを破壊し。上級生たちと合流した達也たちは控室でこれからどうするか、を考えていた。上級生の意見は、陸路を使ってシェルターへ向かうというものだった。

 

 話を聞いている最中、進の第六感は危険信号を察知する。達也の肩をたたきその方向を指し示すと、達也も異変に気が付いた。この場で自身の魔法を使うのは気が引けたが、今はそんなことを言っている暇はなかった。

 

 胸元から素早く自前のCADを抜き、その方向に向けた。その行為に驚く面々であったが、達也に気にしている暇はなかった。魔法を発動し、迫りくる装甲板追加のトラックを塵と化した。

 

 その場で一人だけ見ることのできた真由美が驚いていると、外からかけられた声に状況を理解できる真由美と達也は困惑する。いきなり入ってきた響子、それに玄信は少し進にとっても予想外であった。

 

「特尉、情報統制は一時的に解除されています」

 

 藤林の言葉は達也を一つの答えに導き、速やかに敬礼に導いた。その姿を深雪と進以外の、克人を含めた全員が困惑した表情で見つめる。

 

 簡単に自己紹介と状況を説明した風間たちは達也に出動を命じる。そのことについて問いたかった真由美であるが、玄信の視線によってさえぎられてしまう。

 

 達也が真田とともに室内から出ようとしたところで、玄信はさらに口を開く。

 

「進、お前も一緒に来い。お前にも力を貸してほしい」

 

「わかりました」

 

 短く答えた進は真田について、室内から出ようとするがその前に上がった声で引き留められる。

 

「お待ちください。確認しますが、風間進殿も特尉であるということでよろしいでしょうか?」

 

「いいえ、彼は少佐の実子で今回は義勇軍としてご参加してもらいます」

 

「危険すぎると思われます」

 

「ご安心ください。彼の身は我々のほうでしっかりと守らせていただきます。それに彼は今この場で一番殲滅力がありますので是非彼の力をお借りしたいのです」

 

 藤林の言葉にその場の全員が驚いた。この場には十師族の次期当主である克人もいる。そのことを藤林たちが知らないはずがないのにも関わらず、彼らは進のほうが殲滅力が高いと言い放ったのだ。

 

 そういわれてしまえば、克人に止めることはできなかった。

 

「問題ないですよ。あの程度では私を殺すことはできませんですから」

 

 楽観的に言い放った進は誰の返答も聞くことなく、室内から出て行ってしまった。

 

 直後、部屋の中から嵐が起こった。それを見送った進は隣を歩く玄信に問いかける。

 

「親父殿。今回はどれほどやってしまってもいいのですか?」

 

「全力で構わん。すでに敵によって市街地は破壊されている。今更我々が破壊したところでほぼ変わらない。護衛はつけるが、お前は一人で敵を殲滅し続けろ。好きだろう?」

 

「わかりました。久しぶりに腕が鳴りますね」

 

 楽しそうに言う進に少し呆れながら、玄信は呆れたように笑う。

 

「では、私は市街地方面へ向かわせてもらいます」

 

「わかった。あとで護衛を向かわせるからそれまでは控えめにな」

 

 進はそのまま徒歩で市街地方面に歩き始めた。

 

 




 次回、オルガノンの見せ場とその威力が発揮されます。明後日くらいには投稿できるかもしれません。頑張ります。

 それで前回のアンケートの結果ですが、ぶっちぎりでワールドトリガーになりました。終わり次第、書き始まる予定ですが、私が書きたいので最初の投稿は設定集で行かせてもらいます。
 
 あと、内容の方針ですが、本編に入ることはせずに日常回を描いていきたいと思います。ワールドトリガーのすごいところは本編でなくとも、面白い話を組み立てられることろなんですよね。ほんと猫はすごいと思います。本編はそれなりに投稿してから入っていきたいと考えていきます。私なんかが厨二のような名作を書けるとは思いませんが、適当に読んでいただけると幸いです。

 あと一つ。やっぱりあべこべ小説書きたいです。なのでワールドトリガーの比重多めで並行して書かせてもらおうと思います。
こいつら書くのはそもそも息抜きだから、まあ多少はね?
 
 アンケートの内容ですが、東方と艦これ、どっちにするかを決めていただきたいのです。身勝手な作者でほんとに申し訳ありませんが、書きたいと思ったもんはどうしようもないのです。ご協力をお願いします(デレマスが選択肢からなくなったのは作者がどっちもやったことないからです。やらずに書くのはやっぱりあれだと思ったので外させていただきました)。土曜日のどこかで締め切りたいと思います。改めてご協力お願いいたします。

 それでは今回はこのあたりで。チャオ
  


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第十四話

 ゴブリンスレイヤーはいいぞ

 どうも皆様。連続投稿ですよ、喜べ。
 それではどうぞ。


 

 一人での行動を始めた進はこれからどこに向かうかを思案し始めた。

 

(ふむ……)

 

 面倒を考えないのであれば、今すぐに暴れ始めて敵を駆逐していくといい。だが、それでは町の被害まで無駄に拡大する。まだ、避難が完了していない以上、それは避けなければならない。

 

 次に避難者の避難方法を考え始める。シェルターに向かうか、今からヘリを呼んで空路で逃げるか、その二択だろう。船はキャパシティが足りていないし、バスでの避難はほぼ的になるようなものである。

 

 であれば、どちらにせよ、シェルターのある駅前を防衛しなければならない。敵もそれをわかっているからこそ、そこを制圧しようと考えるだろう。

 

「では、軽く駅前の敵を殲滅しに行きますか」

 

 進はCADを操作し、自己加速術式を発動し駅前に向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、シェルターに向かった真由美たち一行はその惨状を目の当たりにしていた。シェルターに入ることができなくなった一行は、進の推測通り、空路での避難をしようとしていた。そのための発着場となる駅前を死守するために、一校生徒が二つの部隊に分かれ、駅前の防衛に励んでいた。

 

 彼女たちはまだ学生とはいえ、実力はピカイチのものが多い。敵の殲滅に苦戦することはなかった。最初の間は。

 

「なんか、敵の数が増えてきてないか?」

 

「同感だ。幹比古が言う数よりも多い気がするぜ。俺たちのほうはちょっと手が回らなくなってきた」

 

 エリカとレオは敵の直立戦車を切り倒しながら、つぶやく。彼らは近接主体で、刀やそれに準ずる武器で相手を切り倒している。動かず敵を氷漬けにする深雪と違い、激しく動き回る彼らはスタミナの消耗も激しい。少しずつ息が上がり始めていた。

 

「おかしい。僕が見る限りでは伝えたとおりの数しか来ていないはずなのに……」

 

「何。責めてるわけじゃないんだ。索敵してくれてるだけありがたいぜ」

 

 幹比古が焦ったようなつぶやきにレオは励ましの言葉をつぶやく。

 

 が、休む暇すら与えず、敵は襲い来る。迫りくる直立戦車をエリカが山津波で、レオが薄羽蜻蛉で切り飛ばしたとき、彼らの耳に聞きなれた、地面を杖で突く音が響いた。

 

「大変そうですね」

 

「進!」

 

 他人事のようにつぶやいた進に真っ先に反応したのはレオだった。杖を突きながら輪の中に近づいていく。

 

「無駄話は後にしましょう。率直に言いますと、囲まれています。直立戦車が二十、歩兵の数も相当です。先ほどまでのは囮で、こちらが本命でしょう。数の力で押し切ろうという腹なのでしょう」

 

 そのあまりの数にエリカたちだけでなく、深雪も驚愕する。そのあまりにも多い数は、良くも悪くもエリカたちが厄介であると認識された証であろう。

 

「さすがにこの数に一斉に攻撃されては深雪さんでも防ぎきれません。わかりやすい戦法です。数の暴力で押し切る」

 

「じゃ、こっちから攻めましょう。ビルの陰に隠れてるやつらを切るのよ」

 

「やめておいたほうがいいでしょう。四方から囲まれている現状で、レオさんとエリカさんが同時に飛び出して行っても、残りから攻撃が飛んできます。そこそこ距離のあるこの状況ですから深雪さんの攻撃も効果半減でしょう。ここは……、私が切りましょう」

 

「で、でもどうやって……」

 

 レオのつぶやきでエリカの頭の中に一つの答えに近いものがはじき出される。会場で行った遠隔斬撃。あれをやるつもりなのだと。

 

「皆さん、私のそばから絶対に離れないでください。みじん切りにされたいのであれば止めませんが」

 

 レオ達の返答も聞くことなく、進はその場の全員に助言をする。最後に付け加えられた脅迫じみた一言によって四人はくっつかんばかりに進に近づく。

 

 それを確認した進は杖の石突を地面につき、宣言した。

 

「他国の有志達。戦士として、私の全力を持ってお相手いたしましょう」

 

 高らかに宣言したそれを聞いた敵兵士は変な奴がいる程度にしか、進の言葉を捉えなかった。しかし、次の瞬間、そんなことを思っていられなくなった。

 

 次の瞬間、放たれた言葉は全員に等しく災厄となって降りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の杖(オルガノン)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進の杖から放たれた幾つもの光の環は、一秒とかからずに広がっていく。次の瞬間、ビルや道路、直立戦車の残骸に切れ目が入り、重力に耐えられなくなった残骸は、重力に従って地面へと滑り落ちていく。その裏に隠れていた敵兵も例外なく、切れ目が入るとともに、血が噴き出し、その体を地面にたたきつけていく。

 

 進の周囲、半径五十メートルに残ったのは、見るも無残な姿になった横浜の一角と、物言わなくなった敵兵たちの遺体だけであった。

 

 一連の流れを見ていた面々は、その衝撃に驚きを隠せない。進は、大量の敵兵を同時に、一瞬で、建物ごと切り飛ばしたのである。そんな芸当は「剣の魔法師」といわれた千葉家の当主ですらできない。

 

 ここまでの大惨事を生み出した本人は涼しい顔で石突を突いたままの体勢で思案している。いままでエリカは毎日のように相手をしてもらい、負け続けている。それでも日々手ごたえを感じていた。

 

 そんな彼が強さの本性を隠していたと知り、今まで進との戦いで積み上げてきた自信が一気に失われていくような気がしていた。

 

「では、私は適当にまた敵兵の首を刈り取りに行かせていただきます」

 

 四人にその場を任せて、その場を離れようとした進。その手をエリカは掴んだ。今ここで行かせてしまっては帰ってこないような気がしていたからだ。しかし、このままでは進は肩の手を外して、敵兵のところへ行ってしまうだろう。口八丁で引き留める必要があった。

 

「て、敵兵を倒しに行くんだったら、ここにいても変わらないんじゃないかしら?敵はここ制圧の目的みたいだし。いちいち動き回るよりかは、ここで待ち伏せてたほうが体力の消耗もないから」

 

「ですが……、私の場合、走り回っていたほうが数をこなせるのですが……」

 

「そ、それに私ちょっと疲れちゃったのよ。前衛の手が足りないから少し手伝ってもらえるかしら?」

 

 エリカの発言にレオは驚愕する。彼女の体力はしごかれたことのある彼ならばよく知っている。彼女は少し動いた程度で息が切れるはずがない。そんな彼女を疲れさせてしまうとは、同じく前衛である自分の力不足を恨んだ。

 

 最も達也がこれを聞いていたら、「違う、そうじゃない」と思っていっていただろうが。

 

「……まあ、そういうことならばご協力いたしますが、私一人で終わらせられると思いますよ?」

 

「それならそれでみんなの回復に当てれるからいいわ」

 

「では……、手を離していただけますか?」

 

 進の要求でエリカは素早く握っていた手を離した。その様子をほほえましく見ていた深雪はエリカの背後から近づくと、両手を肩に置き、微笑みかける。

 

「エリカがその気なのだったら、私は応援するわよ?」

 

 エリカが慌てて振り返ると、深雪はいつもエリカが幹比古と美月をいじり倒すときの目をしていた。まさか自分がその立場になるとは思わず、エリカは激しく狼狽する。男子連中が気づいていないのが幸いだ。

 

「よ、余計なお世話よ!」

 

 エリカは両肩にかけられた手を取り外すと、深雪から距離を置いた。それでも深雪は暖かいめでエリカを見つめていた。

 

 進はそのまま、深雪たちの班に合流し、駅前の防衛に入ることになった。その威力はすさまじく、直観によって放たれる刃は確実に直立戦車や歩兵の命を刈り取っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと!送り込んだ部隊の大半が一瞬で消されただと!?」

 

「は、はい。直立戦車は二十台以上一度に反応消失、歩兵に至っては五部隊以上が連絡がつかない状態になっています……。送り込んだ兵の半分は残っておりますが、謎の部隊や、義勇軍と交戦中です」

 

 男の報告に司令官は歯ぎしりする。すると、さらに報告が入る。

 

「直立戦車三台、通信途絶しました」

 

 それを聞いて男はさらに噛みしめる強さを強める。

 

「さらに兵を送り込め。なるべく今暴れている者に遭遇しないように指示を出してな!」

 

 指示を出した男の脳裏には一つの単語が浮かび上がる。魔醯首羅。三年前の戦いで悪魔のような活躍を見せた魔法師。それがこの戦いに参加しているとなると、ただの悪夢である。恐怖で体を小さく震わせたことに気付いたものは一人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……。もう少し数を増やしましょうか」

 

 進は杖からさらに円を広げ、刃の軌道を増やす。さらにその上を待機場といわんばかりにゆっくりと刃が走っている。

 

(これが、さっきつぶやいてたオルガノンってやつの性能……)

 

 それを近くで見守る深雪たちは黙ったまま、オルガノンを見ている。 

 

 敵がやってくると、刃が急加速し、敵を一瞬で切り裂く。周りの敵がいなくなったところで刃のスピードが落ち、再び待機状態に戻る。

 

(あの破壊力、あのスピード、通常の魔法師の障壁では防御は不可能。十文字会頭のファランクスでもどうかというレベルですね……)

 

 深雪はオルガノンの性能をしっかりと見極める。オルガノンの速度は動体視力を鍛えているはずの深雪でさえ刃をとらえることができない。

 

 破壊力は障壁魔法のかかった自立戦車やビルをヒット&ストップなしで切り刻んでいることから言うまでもない。エリカの山津波レベルの威力がある。

 

(それに円の軌道上を走るのであれば、軌道を変えることで攻撃のパターンを簡単に変えることができる……。)

 

 縦横斜めの円を自分を中心に置いたものを八割、トラップとして自分を中心にせずに置いているものが二割で軌道を描いている。

 

 広範囲を一人でカバーしながら、確実に一撃で相手を刈り取っていく。進が深雪たちの班に入ってからレオ達はまるで動けていない。

 

 進が一人で駅前の道を防衛していると、遠くのほうでヘリのモーター音が響き始める。姿こそ見えないが近づいてくるそれを聴き取った進は上空に張っていた軌道と縦向きに張っていた軌道を消した。

 

 進たちの上空からロープが降りてくる。通話ユニットを耳に当手ていた深雪がロープをつかみ、ステップに足をかけ、ひっぱりあげられていく。それに見習ってエリカたちもロープをつかむ。

 

 が進はロープをつかまず、逆の方向を向いている。

 

「ちょっと進君?まさか乗らないわけじゃないわよね?」

 

 不安そうに進を見つめるエリカのほうを向くと、微笑みながら答える。

 

「すみません。私はまだまだやらなければならないんです」

 

 進は顔を進行方向に向けると、彼らには目もくれずに走り始めた。それを止めることができなかったエリカはそのことを後悔しながら、抵抗することなく、ヘリの中に引き上げられていった。

 

 

 




 もうちょっと派手にぶっ壊せばよかったかも。次は横浜の街が半壊するくらいぶっこわそ。

 それではチャオ。


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第十五話

 薬屋のひとりごとはいいぞ。どうも私です。

 今週の私の三つの出来事! 
 一つ、ゲイツマジェスティ、アナザーディエンド案の定チノマナコ!
 二つ、仮面ライダーグリス、パーフェクトキングダムかっこよスギィ!
 三つ、魔法科高校の劣等生、来訪者編アニメ化!(やったぜ)

 えー、皆さんお久しぶりですね。言い訳すると、学校始まって忙しかったり、ラノベ読んでたり、オリジナルの書き溜め書いてたりでちょっと気分が乗らなかったんです。お願い許して何でもするから!

 そんな茶番さておき。今回で最終回です。前回のご感想で建物の崩壊が地味だとのご意見をいただいたので、今回は派手に行きました(当社比)。数は少ないですが、質はバッチリです!

 それではお楽しみください。これが最後の、祭りだぁぁぁ!




 

「やれやれ。全く以て切り甲斐がない。もう少し楽しませてはくれませんかね」

 

 そういいながら進は刃を目の前の直立戦車や側面から射撃を行っている者たちへ振り下ろしていく。大抵の人間にとって不可視の斬撃を防ぐすべなど彼らにはなく、容易く切り捨てられ、人間だった肉を地面にたたきつける。

 

「やはり……、あそこに行ったほうがいいですか」

 

 エリカたちと別れた進は、敵を切り捨てながら横浜の街を歩き回っていた。まず出会い頭に死なずにいられるものがおらず、刃を防ぐなどもってのほか。端的に言うと不完全燃焼であった。しかし、進の第六感が魔法協会横浜支部へ向かえと言っていた。そこに行けば少しは歯ごたえのある相手と戦えるからと。であれば、進としても願ってもないことだ。今の進の仕事は敵を切り伏せること。強い敵を相手に戦って自分も楽しめるのであれば、一石二鳥である。

 

 魔法協会に走り出そうとした瞬間、進の携帯端末が鳴り響き、走り出そうとした足を止める。

 

「はいもしもし?」

 

「柳だ。今君の近くを通るから、少しそのあたりを片付けてもらえるか?」

 

「わかりました。それにしてもどうしたんです。わざわざ連絡をしてくるなんて」

 

「もし連絡をしなかったら、我々を敵と間違えて斬りかねんだろう」

 

 一息のため息とともに告げられたのは彼らにとっての最悪の可能性であった。いかに独立魔装大隊といえ、進の一撃を防御も回避もできないのだ。もし、間違えて刃を向けられようものならば、瞬きする暇もなく細切れにされてしまう。

 

「そこまで意地悪ではないつもりですよ?」

 

 電話越しにくっくっと意地の悪い笑みを浮かべていると、風を切る音が上空から響き始める。それに合わせて杖を持ち上げた進であったが、すぐに杞憂であると杖を下ろす。

 

「ほら、電話をしてよかっただろう?」

 

 着地をした柳は通話を切り、面と向かって話し始める。

 

「それにしても派手だなご子息」

 

「これが一番効率のいいやり方ですからね」

 

 薄く笑みを浮かべて柳と話していると、聞き覚えのある声が鼓膜を叩く。

 

「進」

 

「なんでしょうか?達也さん」

 

「一つ納得いかないことがある。お前が強いというのはわかる。魔法力も卓越している。しかし、何の代償もなしにこれほどの威力を出すというのは現代魔法では不可能だ。いったいその杖は何なんだ?」

 

「……この杖を拾ってしまったがゆえに私は悪魔に見初められてしまったのでしょうね。爆発的な破壊力を得る代償に私はいろいろと持っていかれましたから。オーパーツに近いものなのでしょうね。一つ目は視力。この杖を抜いた瞬間、眼球そのものが私の身体から存在しなくなってしまった」

 

 進は目元を覆う布をめくり、左目の瞼だけを上げて見せる。そこには眼球は存在せず、黒い闇が広がっているだけだった。先の見えない闇は飲み込まれそうなほどに黒い。

 

「では。あまり長話をしている暇もないでしょう」

 

 進は達也たちに背を向け、横浜支部へ走り始める。その背を見送った達也は隣に立っている柳に問いかける。

 

「進は、視力以外にも何かを失っているのでしょうか?」

 

「興味があるんであればそれは本人に聞いたほうがいい。おそらくだが、彼が一番よく知っているだろうからね。それより彼の言う通りだ。我々も敵の掃討に戻るぞ」 

 

 そういった柳は飛行魔法で上空に飛び上がり、他の隊員も続々と続く。達也も飛び上がりながら、進が走っていった方向を見つめ、柳達についていった。

 

 進が失ってしまったもの。それは人間性、かもしれない。本人もわかってはいるが、どうにも自分だけではそうだとは言いづらかった。かといって自分では聞きづらいし、周りの人間も言ってこない。

 

 彼には目の前の惨劇が映ることはない。ためらうことなく凶刃にさらすことができる。だが、そうだとしても何のためらいもなく人を切ることができるだろうか?いや、出来ない。しかし、進は何を思うことなく、人を斬ることができる。

 

 それに、彼には斬る上での大義がない。同じようにためらいなく人を殺すことができる達也ではあるが、一応は妹を守るという大義がある。しかし、進にはそれがない。一応定義するとすれば、斬りたいから切る程度の思考。大量殺人鬼と同じであった。

 

 しかし、もう彼に杖を手放すという選択肢はない。杖に魅入られている以上に進が杖を気に入ってしまっている。それに対外的にも進が杖を手放すことを許さないだろう。もはや二人は一心同体。視力などを犠牲に手に入れてしまった悪魔の杖はあまりにも魅力的なものであったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリで離脱を試みている真由美たちは、横浜支部の上空を通過しようとしていた。その瞬間、美月は野獣のような気配をとらえる。世界有数の実力者を止めるために摩利たち迎撃部隊は地に降り立った。が、その高い実力に押され、摩利やレオ、エリカは戦闘不能にされ、真由美の切り札も通用しない。このままでは守り切れないと思いながら、エリカたちは立ち上がろうとする。それを見た呂剛虎は一番最初に立ち上がったエリカにとどめを刺そうと、腕を振り上げながら懐に踏み込もうと地面を踏み出した。

 

 が、次の瞬間呂の感が大きく警鐘を鳴らし、飛び込んだ体を無理やり逆方向に跳ね飛ばす。その瞬間、エリカの前に見覚えのある刃が、盾のように出現する。

 

「足ががくがく震えている人間の相手をしても面白くないでしょう?私と遊んではくれませんか?」

 

 広場の端から進が歩きながら戦闘の中に入っていく。進は男の強さを感じており、呂は進以上に感じていた。ピリピリと肌を震えさせるほどの気配は先ほどまで戦っていた学生たちとは明らかに一線を画するものだった。

 

「……ふん。相手をしてやろう」

 

「そんなことより早くその場から離れることをお勧めしますよ」

 

 進に向かって構えをとった呂は、進の言葉が一瞬理解できなかったが、すぐにその言葉の意味を理解する。すぐにバックステップを踏むと先ほどまで呂の居た場所に刃が振り下ろされる。その刃は地面に深くめり込み、どんどんアスファルトを切り裂きながら再び顔を出す。

 

「やはり躱せますか。では命の取り合いに洒落こみましょうか?」

 

 円が杖から溢れ出て、呂の周囲を囲んでいく。そして、一拍空いて円の軌道上を刃が走り始め、周りの建物を切り裂きながら呂に襲い掛かった。刃を紙一重でかわしていく呂と建物を破壊しながらブレイドを操っている進をレオたちは黙ってみているしかなかった。二人の間に割って入るどころか、目で追うだけでも苦しい。目の前の現状に打ちひしがれ、動くことができなかった。

 

「ほう……」 

 

 しかし、刃をかいくぐる大男は一味違った。今までは飛び交う刃を余裕なくアドリブで躱していたが、徐々に配置されている円の軌道や刃のスピードを見抜き始めたのか、余裕をもって紙一重で無駄な動きなくかわし始めている。正直進もここまで躱されるとは思っておらず、久しぶりに会った強者に口角を軽く吊り上げる。

 

 円の軌道を見抜いた呂は進に近づくタイミングをうかがい始める。円の軌道を見抜くことができた今は、円の軌道を変えられる前に行動したほうがいい。防戦一方の今の状況を続けるのも愚策といえる。

 

(刃の速度、軌道、パターンから考えて……、狙うべきタイミングは……、ここだっ!)

 

 呂は身体強化魔法を発動し、横倒しになった自動車を足場にして一気に加速、進に突っ込んだ。円の軌道と刃を突っ切る高速移動は、一度もその凶刃にさらされることなく進に近づいていく。

 

 そして、ついに進のもとにたどり着く。捕った。そう思った呂は腕を振り上げ、進の首に振り下ろそうとする。その一撃はエリカたちでさえ捉えられないほどの速度で打ち込まれる。エリカたちの目には進の首が吹き飛ぶ光景が映った気がした。

 

 まあ、備えていればどうということはないのだが。

 

「ガッ!?」

 

 呂は突然の腹部への衝撃で大きく吹き飛ばされ、教会のビルの壁面にめり込んだ状態で静止した。

 

「よく刃をかいくぐって、私のもとにたどり着きました。がそれだけでは足りません」

 

 進は自分の身体の周りに円を一本、刃を走らせないまま待機させておき呂が襲い掛かった瞬間、刃を走らせ迎撃したのだ。

 

 壁面にめり込んだ呂は何が起こったんかがわからないまま、赤いものを口から吐き出す。衝撃でろっ骨が折れてしまい、まともに動くことができない。

 

「では終わりにしましょうか」

 

 呂の周りに大量の円が配置され、呂の身体で収束する。次の瞬間、呂に対して大量の刃が襲い掛かり、ビルごと叩き切った。その衝撃で呂がいた場所の壁面から土ぼこりが上がる。

 

 刃に載せられて運ばれてくる呂の身体を自分の前まで持ってくる。そして、彼の様子を観察した。

 

「まだ生きていますか……。稀に見るほどの実力者……、ですか」

 

 呂は進の全攻撃を食らってまだ生きていた。とっさに攻撃が来る瞬間、鋼気功で自分を最大限まで硬化させ、刃の攻撃を受け切ったのだ。その結果、非常に大きなダメージを受けたものの、五体満足のまま生存することができた。あの瞬間、身体強化魔法で躱そうとしていれば、四肢のうち二つはもがれていた。野生の勘か、導き出した方法は最適解であった。

 

 進は治癒魔法を発動させ、簡単な治療を施す。決して得意ではないがないよりはましである。それ以上に実力ある者を殺すわけにはいかないというのが本音であった。ここで殺してしまっては自分の遊び相手がいなくなってしまう。遠慮なく戦える人物を奪いたくないというのが真実であった。

 

 治療を終えた進は、もう一度星の杖を発動させる。しばらくすると、教会の中から刃の上に乗った深雪と大男が姿を見せる。いきなり外に連れ出された深雪は困惑した様子を見せている。深雪を刃の上から降ろすと、進のもとに駆け寄ってくる。

 

「進さん、先ほどのはあなたの魔法ですよね?いきなりどうしたのですか?」

 

「このまま魔法協会の中にいれば、危険なことになると思われますので、連れ出したのです。早くここから避難したほうがいいかと」

 

 進がそういった瞬間、ビルから大気を揺らすような音が響き始める。深雪たちがその方向を見ると魔法協会のビルがパラパラとコンクリート片をこぼしながら、崩壊し始めていた。零れ落ちるコンクリート片は最初は米粒サイズのかけらだったのが、次第に残骸ともいえるほどの大きさになっていき、ビル自体が揺れていく。

 

 それを見て深雪は口を押え、さらにビルに近い場所にいるエリカたちは顔を青ざめる。

 

「全員退避だ!急げぇ!」

 

 摩利が大声を張り上げ、その場の全員の退避を促す。怪我で動けない者には手を貸す、進がビルに近い人物から星の杖を使って無理やり避難させるなどして、ビルから遠ざけていく。そして全員がビルから離れた瞬間、魔法協会のビルが轟音を立てながら崩壊した。その衝撃と砂埃が一気に押し寄せるが、ここにいるのは魔法師たち。各々の対処方法で対処していく。

 

 土ぼこりが晴れると、そこには魔法協会のビルはなく、ただのコンクリートの残骸が残っていた。同時に元凶も姿を現す。星の杖の刃で自身を囲んだ彼は砂埃が晴れた瞬間、それを解除し、足元に転がる二人の大男をエリカたちに投げ渡す。 

 

「では、その二人をお願いいたします」

 

 後始末を押し付けると、返答を聞くことなく残りの兵を片付けるために走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横浜の街を駆け、進は残った兵を駆逐していく。すでに残っている者たちは進にとっては烏合の衆。相手にもならず、すべてオルガノンで切り捨てた。徐々に切り捨てるべき敵兵がいなくなり進は一度足を止める。それを見計らったように端末が着信音を響かせる。

 

「もしもし」

 

「私だ。大多数の敵兵は掃討された。敵兵の討伐を終了して、お前はもう帰れ」

 

「わかりました」

 

「それにしてもずいぶん派手にやったな」

 

「やめておいたほうがよかったでしょうか?」

 

「いや、派手にやっていいといったのは私だ。責任は私がとる」

 

「わかりました。それでは失礼します」

 

「ご苦労だったな」

 

 ねぎらいの言葉が進の耳に届いた瞬間、通話が切れる。端末をしまい帰宅するために歩き始めると、ヘリのローター音が近づいてくるのを聴き取る。そのローター音は進の頭上で静止し、再び端末が鳴り響く。

 

「進君、ロープ下ろすからそれ掴んでくれる?軽く引っ張ってくれれば引き上げるから」

 

 端末の向こうから真由美の声が響き、目の前にロープが垂れ下がる。このまま徒歩で帰宅するよりヘリに乗ったほうが圧倒的に楽である。進はお言葉に甘えて、ロープを掴んだ。

 

 「灼熱のハロウィン」

 

 軍事史の転換点であり、歴史の転換点ともみなされたこの日。この日から魔法師という種族の、栄光と苦難の歴史が真に始まった。その裏で一人の剣士が軍に負けないほど、敵兵を殲滅していたことはごく少数にのみ知られることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 横浜事変、灼熱のハロウィンが、日本軍の勝利で幕を下ろしてから数日ほど経った。進が帰宅すると、自宅にいるはずのない父の姿があった。

 

「……今は最も忙しい時期では?」

 

「お前に話が合って少しだけ時間を取った。まあ座れ」

 

 父親の言に従い、進は対面のソファーに座る。親子が向かい合って十数秒。玄信が口を開く。

 

「まずは今回の一件、協力を感謝する。お前のおかげで非常にスムーズに敵兵を殲滅することができた。それに敵の士官も拘束できた」

 

「私は敵兵を斬ることができたので満足です」

 

 いつも通りの進に玄信は苦笑する。

 

「ではここからが本題だ。今回の一件、十師族、ひいでは数字付きに今回の一件が広まってしまった。お前の力を欲しがるために接触してくるだろう。親としてはそれは避けさせたいと思っている。そこでだ。進、高校を退学して、このまま独立魔装大隊に入らないか。もちろん、即入隊というわけではく十八歳まで特尉という形で任務につき、十八歳になったら本格的に配属となる。独立魔装大隊に入れば、数字付きの接触から遠ざけることができる。私としてはそうしてもらいたいんだが……」

 

「申し訳ありませんが、お断りさせてもらいます」

 

「……理由を聞かせてもらおう」

 

「もちろん軍での生活も魅力的ですが、それ以上に私は今の学校生活が楽しいのです。友人と話をしたり、放課後に剣の模擬戦をしたり。それを捨てたいとは思っていないのです。それに自分のことくらい、自衛できますので、ね」

 

 進の主張を聞いた玄信は目をつぶりじっくりと考え始める。そして本人の意思を主張を尊重することにした。

 

「わかった。ただ何かあったら遠慮なく私を頼ってくれ。私の部下たちも快く協力してくれるだろう」

 

「ええ、それでは。親父殿」

 

 玄信は進に見送られながら家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「進くーん」

 

 進が通学路を歩いていると、エリカの声が近づいてくる。振り返った瞬間、エリカは進の隣に着く。

 

「おはよっ」

 

「おはようございます。珍しいですね。レオさんたちはどうしたんですか?」

 

 朝の挨拶をした進がレオ達の有無と尋ねると、エリカは不満そうに頬を膨らませる。

 

「みんなさ……、私とレオを同一視しないでもらえる?別にコンビってわけじゃないから」

 

「失礼しました」

 

「それより、進君時間ある?もしあったらこのあと少しでいいから模擬戦に付き合ってほしいんだけど……」

 

「構いませんよ」

 

「やった!それじゃ早く行きましょ!」

 

 笑顔を浮かべたエリカは進の手を引き、進のことなどお構いなしに走り始めた。よろよろと走る進はこんな楽しい日常が長く続くことを思い、頬を綻ばせるのだった。

 





 いかがでしたでしょうか。だいぶ駆け足になってしまいましたが、これにてこの小説はいったん完結です。

 次に書くといったワールドトリガーの小説ですが、いつから書き始めるかは未定です。設定自体はありますが、ちょっとストーリーができていませんのでね……。書いてほしいエピソードとかあったら、教えてください。
 
 それでは次の二次創作で会いましょう。チャーオ


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来訪者編
第十六話


 みんな久しぶり。来訪者編のアニメが始まったら続きかくかも、って言ってたね!約束通り戻ってきたよ!え、言ってないって?うるせえオルガノンぶつけるぞ。

 これから一週間ごと、来訪者編のアニメが終わる日曜の深夜一時、このタイミングでこの作品を投稿し始めていきます。開始を早めたのは十二、三話くらいで収まりそうにないからです。

 さて少し話は逸れますが、魔法科高校の高校生編と優等生が9月10で完結したみたいですね。優等生のほうは全部集めているんですが、小説のほうは20巻までしか集めていないので終了記念にまた集めようかしら。最近書くために読み直して思ったんですけど、やっぱりこの作品面白いですね。今まで集めていなかったのは、資料として20巻まであれば普通に十分だからです。二次創作書くうえで二年生辺まで行くことは少ないですからね。私もそうですが。

 まあ、そんなことはさておき、一年ほっぽり出して一時創作をしていたので文章力は上がっていると思います。そんな私の作品をどうぞお楽しみください。



 世界中に大きな爪痕を残した灼熱のハロウィンを含めた横浜事変。その大きすぎる衝撃で魔法科高校の生徒たちは心に大きな傷を負ったが、その傷からも次第に回復しつつあった。

 

 それからおよそ二か月が経過し、西暦二千九十五年も一週間となった。喫茶店アイネ・ブリーゼにはいつもの面々九人がそろってクリスマスパーティー兼留学でアメリカに向かう雫の送別会を行おうとしていた。

 

「メリー・クリスマス!」

 

 達也の乾杯の音頭に合わせて他の面々がはっちゃけたような声で応えると、手に持ったグラスを高く掲げた。

 

 この一年で起こったことや、雫の留学に関しての話は大いに盛り上がりを見せる。その雰囲気は非常に和やかである。友人である雫が留学すると言ってもその期間は三か月。春になれば再開できるということもあり、彼らの中に悲壮感はなく、むしろ非日常的な留学という事象に対して興味津々だった。

 

 とはいえ心配事がないわけではない。彼女の留学するアメリカでは現在、魔法師を排斥しようとする「人間主義者」の活動が活発になってきており、危険が全くないというわけではない。そのことを心配するような会話が喫茶店内で行われる。

 

 しかし、その話も長くは続かない。そんな彼らが次に話題にあげたのは雫の代わりに一校にやってくる留学生のことだった。だが、雫ですら同い年の女子ということしか知らず、他の面々がそれ以上の情報を知っているはずもなく。留学生の話は強制的に打ち切られることになった。

 

 とはいえ、全体的に和やかに進んだ送別会は時間経過でお開きとなり解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろとあった冬休みも終わり、今日から三学期。話を聞く限り、新年の初詣でひと悶着あったらしいが、親の都合でいくことのできなかった進にとっては想像しかできない事だった。

 

 さて新学期ということは彼の所属するA組に雫の代わりの留学生がやってくる日である。海外からの留学生ということもあり教室内、果てには学校全体がそわそわと浮ついており、進たちの友人であるほのかにとってもそれは例外ではないらしく、そわそわとした雰囲気を放っていた。

 

 しかし、例外というのは要るもので。深雪はやることはいつもと変わらないと端末を操作し新年の通知を確認しており、進は静かに席に座っていた。少しも動かず座るその姿はまさに泰然自若。二人の周りだけ森の中のように雰囲気が落ち着いていた。

 

 そうこうしている間に始業の時間となり、歩き回っていたクラスメイト達も席に着く。それに続くようにして担任教諭が教室に入ってくると、新年のあいさつもそこそこに留学生の紹介を始める。閉じられていた教室の扉が開き続いて少女が入ってくる。光を反射する金髪を揺らしながら教壇の前に立つその少女は、深雪と並ぶほどといって差し支えないほどの美少女であった。その可憐さに男子生徒だけでなく女子生徒までが感嘆の息を漏らしていた。

 

「アンジェリーナ=クドウ=シールズです。短い期間ですが、よろしくお願いします」

 

 教壇の前に立った少女は流ちょうな日本語で自己紹介をすると、数瞬遅れて教室内に拍手が巻き起こる。外国人とは思えないほどの流ちょうな日本語に驚いた彼らによって遅れたものの包み込むような拍手にリーナは緊張が解け少し頬をほころばせる。

 

「それではシールズさん。進君の後ろに座ってください」

 

「分かりました」

 

 担任に促されて机の間を歩き始めたリーナは進の隣を過ぎる際に一瞬ギョッとした表情を浮かべ周囲を見回した。何せ自分から目を布で隠しており、それを当然のようにしてA組は受け入れている。わざわざ視覚を潰している人間が魔法科高校にいるのが異質なことだったのだろう。進の存在が当たり前の日常となっているA組の面々もそのことに気づき小声でリーナに事情を説明する。それで納得したリーナは納得したように小さく頷くと改めて席に着くと、進の肩を叩き小さな声で挨拶をする。もちろん進がそれに応えないわけもなく彼女のあいさつに対して短く挨拶を返した。全員が席についていることを確認した担任は授業を始める。三学期が始まった。

 

 

 

                     〇〇深進〇                     

                     〇〇〇雫〇

※ちなみに筆者が想像するA組の席      〇光〇〇〇     こんな感じ。

                     〇森〇〇〇

                     〇〇〇〇〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前のカリキュラムを終え今は昼時。進は食事をとらずに散歩でもしようかと教室を後にしたが、野次馬に来たエリカに捕まってしまい、食堂へ連行される。

 

 その直後、深雪たちが食堂にやってくる。一校の美少女の女王の地位を築いていた深雪と双璧を成す可憐さを持つリーナが並んで歩いてきたことで食堂が少しざわつく。二人の周りはどこか煌めており、その中に一人取り残されているほのかがどこか居心地悪そうにしている。

 

 とはいえ女王の片割れは兄大好き少女。目的の存在を見つけると年相応の笑顔を浮かべながらそちらに向かって歩き始める。その途中進の隣に立つエリカは二人を見ながら感嘆の声を上げる。

 

「いやー。あの二人が並ぶと雰囲気あるわねー」

 

「そうなんですか」

 

「一校の奇麗どころ二人だからな。当然じゃないか?」

 

 進が疑問の声を上げるが、エリカたち面々はあえてそれには触れずに話を進める。そこに触れながら話を続けては前に進まない。それが分かっているゆえに進もそこに触れることはない。

 

 達也たちの下へやってきた三人。深雪とほのかは当然としても、リーナは彼らとは初対面であるため、一応声をかける。彼女の問いに達也たちが了承すると、三人が食べるものを取りに席を離れていく。取り残された進たちは少女のことを話しているとふと進のほうを向いたエリカが口を開く。

 

「あれ、進君お昼は?」

 

「私、外ではあまり食べないんですよ。色々と手間がかかるので」

 

「なん……、ああなるほどね。ごめんね今更こんなこと聞いちゃって」

 

「お気になさらず。いつも通りですから」

 

 進の返答でどういうことかを理解したエリカは謝罪すると同時にきゅっと口を結ぶ。二人のやり取りが終わったところで三人が戻ってきて昼食の時間が始まる。しかし、食事もとらずにただ座っているというのは居心地が悪く席を立ちたくなってしまう。とはいえ慣れているいつもの面々と、早くも進に慣れ始めているリーナは彼を邪険にすることなく食事を続ける。お互いの自己紹介を終えた面々が和やかな雰囲気で食事を続けていると、話が進のほうに向く。

 

「そういえばシンは目を布で隠してるけど目が見えないの?」 

 

「ええ、以前事故で視力を失ってしまいまして。あまり見せられるものではないので布を巻いて」

 

「大変そうね……。何かあったら遠慮なく言ってちょうだいね!」

 

「お心遣い、感謝いたします」

 

 二人の間で会話がなされる。二人の厳かながら気楽な会話で他の面々は思わずため息を漏らす。進の魔法力は非常に高く、魔法力が高ければ高いほど容姿は整っていると言われている。例にもれず、進の容姿も非常に整ったバランスで整っており、本来であれば深雪たちにも見劣りしないほどだ(目に巻いている布のせいで気づかれにくいのだが)。深雪にも見劣りしないリーナと会話をすればそうなるのも必然といえば必然である。

 

 しかし、当の本人はそのことにはまったく気づいておらず、二人の間で話を続ける。

 

「ねえ進? この後、魔法の実習じゃない? 一緒にやってもらってもいいかしら?」

 

「構いませんよ。USNAのトップクラスの魔法師の実力を見せてもらいましょうか」

 

 進の挑発的な発言を受けてリーナはどこかたじろいだような動きを見せる。今まで物腰の柔らかかった進がいきなり豹変したように好戦的な発言を見せてきたのだ。たじろいでも不思議ではない。彼に変わりぶりに驚いたリーナは隣に座っていた深雪に問いかける。

 

「ねえ深雪。シンっていつもこんな感じなの?」

 

「そうね。彼、見かけや言動によらず意外と好戦的よ」

 

「そーそー。私も何回竹刀でぶたれたかわからないわー」

 

 エリカは不満げな口調で自らの受けた所業を悪く聞こえるような言い方で語って見せる。それをそのまま受け取ってしまったリーナは進のことを軽蔑するような目で見始める。

 

「え……」

 

「その言い方ですと私が理由もなしに暴力を振るったように聞こえるので勘弁していただきたい」

 

「ジョーダンよ、ジョーダン」 

 

 もちろんエリカも本気で言っているわけではない。からかっているだけであり、相手をしてもらっていることはむしろ感謝しているくらいであった。一人状況を理解できていないリーナを除いて全員が笑い声をあげる。一瞬理解できずに面々を見回すリーナであったが、次第に状況を理解していく。

 

 からかわれたと理解したリーナは不満げに頬を膨らませる。とはいえこの出来事でより一層打ち解けた面々は和やかな雰囲気のまま、昼食を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンジェリーナ=シールズはセンセーショナルなデビューを果たし、留学初日にもかかわらず全校生徒の知るところとなった。現在、A組は魔法実習を行っており、進たちも実習に努めていた。しかし、その他の生徒は全く実習に集中することができておらず、視線は深雪とリーナの二人に釘付けになっていた。それは中に階に設置されている回廊状見学室にいる三年生も同様のようで、そこでは既に自由登校になっている真由美や摩利も見学していた。

 

「司波に匹敵する魔法力、本当だと思うか?」

 

「ある意味、アメリカを代表して日本に来ているのだから、ありえないことじゃないと思うけど。でも、にわかには信じがたいわね。同じ年代で深雪さんと拮抗する魔法技能なんて」

 

 実習の内容は同時にCADを操作し、中間に置かれた金属球を先に支配するといったもの。シンプルが故に素の実力が明らかになる。深雪は先月から始まったこの実習で一人を除いて同級生を全く寄せ付けず、その噂を聞きつけた新旧生徒会役員プラス風紀委員を相手取り無敗という伝説も残している。そんな深雪を相手に留学生が互角に張り合っているのだから見学に来るのもおかしいことではない。

 

「だがまあ、今の一年には奴がいるからな。あれがいるおかげというかなんというか、ショックは少ないし、少なくともなんとなくは信じられる」

 

「そうねぇ。深雪さんも進君には微妙に押され気味らしいし」

 

 そう二人が話し合う中、二人は今まさに勝負を始めようとしていた。お互いにタイミングを取ると、リーナがカウントを刻み始める。

 

「スリー、ツー、ワン」

 

 ワンのカウントと同時に二人が据え置き型パネル・インターフェイスに手をかざす。

 

「GO!」

 

 深雪の指がパネルに触れ、リーナの掌がパネルにたたきつけられる。その直後、まばゆいサイオンの光輝が二人を包み込み、金属球の座標に重なり合って爆ぜた。光輝は一瞬で消え、その後目に映ったのはリーナの方にコロコロと転がる金属球だった。

 

「あーっ、また負けた!」

 

「フフッ、これで二つ勝ち越しよ、リーナ」

 

 盛大に悔しがるリーナと、ほっとした感じの笑みを浮かべる深雪。その二人を見て二階席の真由美と摩利は感想を述べる。

 

「……全くの互角だったわね」

 

「術式の発動はむしろ、留学生の方がわずかに上回っていたんじゃないか」

 

 さすがに優秀な魔法師である二人は先ほどの攻防をしっかりととらえていた。確かに術式の発動はリーナの方が速かった。しかし深雪が魔法が完成する前に制御を奪い取ったのだ。二人は一瞬の間に剣豪の死合いのような高度な攻防を繰り広げていたのだ。

 

「もー、悔しがってられないわ! シン! 次はあなたよ! 絶対に一勝は上げるんだから!」

 

「お待ちしてましたよ。さあ始めましょう」

 

 余裕綽々といった様子で立ち上がった進をキッと鋭い視線で見つめながらリーナはCADの前で準備する。向かい合った二人は程よい緊張感を放っている。

 

 リーナは対面に立つ進のことを鋭い視線で見つめていた。しかし、その視線には負の感情はこもっておらず、むしろ好奇の感情が読み取れる。今回のリーナの任務である大爆発(グレート・ボム)の術者の捜索の候補者には進も含まれている。高い魔法力に加えて彼の父親は軍の魔法大隊の隊長である。容疑に引っかかるには十分すぎる環境を持っていた。加えてもう一つの理由として純粋に進の実力が気になっていたのだ。

 

「もー負けないわ! カウント行くわよ!」

 

 大きく声を上げ気合を入れたリーナはカウントをスタートする。先ほどのようにワンまで行ったところで二人ともコンソールに手を添える。 

 

「GO!」

  

 リーナの高らかな宣言と同時に二人は端末にサイオンを流し込み、魔法を発動させた。深雪との対決のように光輝が煌めき、一瞬のうちに消えていく。光の中から現れたのはリーナ側に転がる鋼球だった。

 

「アー! また負けたわ!」 

 

 ステイツらしくオーバーと思えるほどのリアクションを見せるリーナの対面で小さく笑みを浮かべている進。彼の笑みはどこか満足気だった。

 

 頭を抱えながら唸っているリーナを他所に深雪はスススと進に歩み寄る。

 

「進さん。次は私とお願いいたします」

 

「喜んで」

 

「待ちなさい! もう一回よ! 今日は勝つまでやるんだから!」

 

「深雪さんが構わなければ」

 

 進はちらりと深雪に視線を送った。もはや意地になりかけているリーナを見て深雪は小さく息を吐く。

 

「ではお先にどうぞ。でも一度はお願いしますね」

 

 柔らかなほほえみを浮かべた深雪は進のそばから離れていく。

 

 その日の実習の三人の最下位はリーナであった。

 

 



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第十七話

 やあやあ皆さんごきげんよう。
 アニメ第一話よかったですね。リーナかわいかったです。映画の時より顔が幼くなったって話をチラチラ聞いてましたが、ぶっちゃけどっちでもかわいかったので大して気にはならなかったですね。

 


 ここは一校の体育館。剣道部や剣術部が見守る中、相対するエリカと進。大勢の観衆が見守るのは、二人の日課となりつつある一対一の試合だった。しかし、実力差があるため、実質的に進による手ほどきになっている。とはいえお互いに実力を磨けるのであればお互い何の問題もない。この二人がほぼ毎日、体育館で体育館を間借りし、試合をしているため、二人のことは校内でもそれなりに話題になっており、時間になれば近接に興味のある者たちが集まってきて観戦し始める。マジック・マーシャル・アーツ部の沢木や十三束も観戦の人ごみに紛れている。

 

 特に上記の二つの部は一度部活を止めてまで全員で観戦するほどであり、二人の動きの中から何とか技術を盗もうと真剣な面持ちで見ている。二人の試合は非公式ではあるのものの、監督者をつけなければならないのだが、毎日のようにやっているため形式的なものとなっている。

 

 エリカは防具なしで普段から使用しているCADを、進は身一つに杖を持っている。両者防具はつけていない。いつものようにほどほどの距離を取った二人は合図無しで試合を開始する。まず先手を打つのはいつもエリカ。自らの武器である速さを使い、進の懐に飛び込もうと一気に加速する。桐原や壬生、摩利などの実力者であろうと、対応が難しいほどの恐ろしい速度を足運びや体さばきで実現する。それでも進は怯まない。

 

 横薙ぎに振るわれた胴への一撃を軽く杖で弾き体勢を崩した進は、お返しといわんばかりに杖を振り上げ彼女の脳天めがけて杖を振り下ろす。エリカは素早く体勢を整えると即座に自己加速術式を発動し杖の一撃を回避する。そのままの勢いで側面から攻撃を試みるエリカであったが、進の鋭い気配に横っ飛びし、背後に回ったうえで攻撃に入る。

 

 だが、進はいとも容易くエリカの速度に対応する。エリカから距離を取るようにステップを踏みながら反転した進は杖を逆袈裟に振るい、向かってくるエリカの意思を削ぐ。目の前で振るわれた杖の影響で一時的に足を止めたエリカ。以前の彼女であったら、もう一度踏み込むのに一瞬のためらいを持っていただろうが、今では躊躇なく再び踏み出せる。

 

 脱力し力強く踏み出したエリカは鋭い踏み込みで進との距離を三メートルのところまで詰める。これ以上踏み込まれると彼女の間合いになってしまうと判断した進は杖を横薙ぎに振るい下がらせようとすると同時に、自分も後に跳ね距離を取ろうとする。しかし、杖が当たる直前、エリカは素早くかつ細かくステップを踏み側面に回り込むと横薙ぎの一撃を躱す。

 

 普通の剣士であれば、取ったと判断し一直線に走り出すだろう。しかし、もう何か月も進と戦っているエリカはこんなものでは不意すらつけないことを理解している。だからこそ、エリカは最後の最後まで油断せず踏み込んでいく。

 

 懐に飛び込もうと限界まで踏み込むエリカ。それに合わせて身を翻しながら降りぬいた杖を腕力で引き戻すと袈裟と逆袈裟で平行になるように二連撃を繰り出す。しかし、振るわれた杖がエリカに当たることはない。踏み込んだエリカはそれと同時に肉食獣のように身を低く屈めるとスレスレのところで杖を回避する。一瞬の激しい攻防に群衆からは小さく歓声が上がる。しかしそれは当の本人には届いていない。それにエリカにとっては第一段階を越えたに過ぎない。

 

 進の一閃を身を屈めて躱したエリカ。しかしそれでも進の攻撃は続く。斜めに振るわれたはずの杖は既に進の制御下に戻ってきており、躱したはずの一撃が今度は頭上から降り注ぐ。それを低い体勢のまま、横に体をズラすことで回避するエリカ。自分の身体の脇を紙一重で通り抜けていく杖。

 

 「取った」ここで初めてエリカはいけるかもしれないと希望的観測を持つ。進の鋭い迎撃を死に物狂いでかいくぐり懐に飛び込んだエリカは、手に持ったCADを進の腹部に向かって突きだす。周囲の人間にも当たったと確信させる完璧な一撃。打ち込んだ本人ですら決まったと思わせるほどの一撃。

 

 しかし、次の瞬間鳴り響いたのは肉を叩く鈍い音ではなく、何かが弾けたような金属音だった。数秒後、体育館の床にエリカのCADが甲高い音を立てて落ちる。

 

「ハ?」

 

 群衆のうちの一人が何が起こったのかが理解できずに間抜けな声を上げる。他のほとんどの群衆も何が起こっていたのかは理解できておらず、早々に気づいた者も進の体勢を見てやっと気づいたといった感じであった。

 

 半身で杖を振り上げている進。彼は突きが撃ち込まれた瞬間、エリカすら上回る人間離れした速度で体を引くと振り下ろした杖を本気の速度で振り上げエリカのCADを弾いたのだ。洗練されたその一撃を視認したことが出来たのはほんのごく一部だった。

 

 しかし、進はその一撃の代償を払うこととなる。その一撃はエリカの予想以上の動きに()()()()()()()では対処が追い付かなくなり、咄嗟に全力で打ち込んでしまったものだった。彼が何かを全力で握った時の握力は生の青竹を握り潰せるほど、速度は常人には軌跡を辛うじて追えるレベルである。つまり彼の一撃はレオレベルの肉体強度でないと致命傷になりかねないほどの威力を持っている。

 

「痛つつ……」

 

 その一撃をCAD越しとはいえ受けたエリカは手首を抑えてうずくまる。額から彼女らしくなく脂汗をかいており目じりには涙が浮かんでいる。相当の痛みが走っていることが群衆にも分かった。

 

「すみません! つい全力で振るってしまって……」

 

 やってしまったと顔を青ざめさせた進は杖を手離すとエリカの下へ駆け寄っていく。今のエリカがまずい状況だと理解した剣術部たちが集まってくる。

 

「へ、平気よ。この程度だったら普段の鍛錬でもよくあることだから……」

 

 もちろんそんなわけがない。彼女がここまで強く打ち込まれることはなく、また普段は防具がついているため、負担はそれなりに軽減されている。現に彼女の手首にはその衝撃でヒビが入っていた。それが理解できている進は即座に反論する。

 

「そんなはずがありません! 杖で叩いた時かなりの手ごたえがありました。恐らくヒビが入っているはずです!」

 

「……うん。本当は結構痛くて……」

 

 柄にもなく声を荒げ指摘する進に、エリカは押されつい本音を漏らしてしまう。彼女の腕を持ち患部の状態を確かめていた進は袖をまくりそこにつけられていたCADを露わにする。

 

「今から患部に治癒魔法をかけますがよろしいですか」

 

「……ええ、構わないわよ」

 

 エリカの返答を聞いた進はCADを操作し、治癒魔法を起動式を読み込むと、魔法式をエリカの手首に投射する。直後、ヒビなど最初からなかったかのように手首から痛みが消え去る。

 

「一応治癒魔法はかけましたが物理的な補強も行っておいたほうがいいと思います」

 

「だったら使ってくれ。治療に必要なものは一通り入ってると思うぜ」

 

 進の背後から桐原が救急箱を差し出す。善意で差し出されたそれをありがたく受け取った進は体育館の端のほうに移りエリカの手首にテーピングを巻き始める。既に剣術部や剣道部は活動を再開している。これは彼らの行動を無駄に意識させないための気遣いであった。

 

 慣れた手つきでテーピングを巻く進はおとなしくて首を握られているエリカに泣き出しそうな声で謝罪する。 

 

「すみません、力加減が出来ずに……」

 

 そんな彼を見てエリカはいつものように明るく振舞って見せた。このままでは進が責任を感じすぎてしまうと判断したからだった。

 

「いいのいいの! 一瞬でも全力を引き出せたんだから! それと手首のヒビの交換だったらおつりがくるわ!」

 

「しかし……」

 

 しかし、それでも進の罪悪感を晴れることはない。

 

「はい、この話終わり。もう治癒魔法もかけてもらってテーピングも巻いてもらったんだからもうそれで大丈夫よ。私だって剣の道を進むもの、こういうことだって覚悟してるわ。だからあんまり責任感感じないでね」

 

「……ありがとうございます」 

 

 エリカの必死の説得で進の心理状態は怪我を負わせる前の状態に戻る。

 

「それにしてもうまいわね。テーピングはすごくきれいだし、治癒魔法は本来すごい難しい術式なのに」

 

「昔は馬鹿なことばかりやって、自分で治療していましたから」

 

「へぇ~。ちなみにどんな事やってたの?」

 

「直径五十センチの鉄柱を魔法なしで斬ろうとしたり、宙を舞う鳥の羽を一息で三枚切ろうとしたり……」

 

 進の口から飛び出す剣豪でも逃げ出しかねない荒行にエリカはつい頬をひきつらせる。

 

「相当無茶してたのね……。結局できたの?」

 

「さすがにそのままでは無茶でしたね。鉄柱のほうは木刀で殴って折りました。鳥のほうは一枚しか……」

 

「それでもとんでもないから! うちの親父でもできるか怪しいわよ!」

 

「鉄柱の時は木刀を何本もダメにして手首も何度も痛めましたね」

 

 会話をしながらテーピングを巻き終わった進はエリカから手を離すとテーピングを救急箱にしまい、剣術部に返却しようと立ち上がる。一方でテーピングの仕上がりを確かめるエリカは、それと同時に先ほどの進のバカげた行動を思い出す。たとえそれが無茶であっても、何とか押し通そうと積み重ねてきた努力が彼の強さを作り上げたのだと理解する。彼の強さを改めて認識すると同時に自らの未熟さを理解し悔しさで拳を握り締める。

 

 そんな彼女のもとに一人歩み寄ってくるものがいた。

 

「ハイ、エリカ。ずいぶん派手な立ち回りだったわね」

 

「リーナ、見てたのね」

 

 金髪を揺らしながらエリカのもとにしゃがみ込んだリーナ。彼女も野次馬として二人の試合を見ていた一人であり、その実力の高さに戦慄していた一人であった。彼女の故郷であるUSNA、中でもスターズにもここまでの近接戦を行えるものはいない。副隊長であるカノープスであっても刀を使うが、剣術のみに絞れば彼であっても二人には勝てないとリーナにははっきりと理解できた。

 

「ずいぶんすごい戦いだったわね」

 

「なーんか複雑な気分ね。七月くらいから毎日のようにやってるんだけどまだ一度も打ち込めてないのよ」

 

 エリカの口から告げられた事実にリーナはさらに戦慄する。スターズの総隊長であるリーナであっても、模擬戦ですべて勝利することは不可能である。今までに何度も敗北を喫しており、副隊長であるカノープスには何度も辛酸をなめさせられている。それが分かっているからこそ進の功績が異常であると深く理解できた。

 

「進って魔法だけじゃなく剣までそこまですごいのね」

 

「そ、今までの相手が弱く感じちゃうくらい。おかげでだいぶ強くなれた気がするわ」

 

 リーナの隣で体育座りをし、顎を膝に乗せるエリカ。その隣で密かに進とそれに食らいついていくエリカに戦慄するリーナ。そんな彼女らのところに進が戻ってくる。 

 

「戻りました。っとエリカさんの隣にいるのはどなたですか?」

 

「リーナよ。私たちの試合を見てたんだって」

 

「こんにちはシン。あなた魔法だけじゃなくて剣まですごいのね」

 

 自分のほうに進が視線を向けてきたことを確認したリーナはひらひらと手を振りながら簡単に挨拶をし、話に入る。

 

「本来は剣のほうが得意なんですよ。魔法もそれなりにできるというだけで」

 

「生意気!」

 

 二科生であるエリカの前で無神経な発言をした進は、エリカに強く脛を前蹴りされる。さすがに痛みに耐えきれずに進は脛を抑え跳ねる。そのいつものふるまいとは違う間抜けな振る舞いに吹き出すエリカとリーナ。

 

 その後、正式に風紀委員の達也がやってきて注意を受けた二人。しかし、達也も進が悪意があって怪我をさせたわけでなく今まで怪我を負わせたということもなかったため、大事にすることなく注意と報告書のみで済ませた。 

 

 とはいえエリカの手首にヒビが入っている以上、これ以上は続けられない。剣道部と剣術部に挨拶をした二人はそのまま帰宅の途に着いた。その道中、杖を突く音をカツカツと立てながら歩く進の横を歩くエリカが突然口を開く。 

 

「ねえ、進君ってさ。本気で剣を振るえる相手いるの?」

 

「そりゃ相手を殺すときには全力で剣を振るいますよ。躊躇は自分を傷つけますから」

 

「ま、それはそうよね。じゃあ私とやるときは今まで手加減してたってこと?」

 

 そのエリカの指摘にビクリと肩を揺らす進。ジトリとした視線で見つめられていることを理解した進は重い口を開く。

 

「まあ、それなりに手加減はしていました。本気でやったら確実に怪我をさせてしまいますので」

 

「フーン……」

 

 納得したように息を吐くエリカ。彼女の返答を待つ進。彼はまさに処刑台の前に立っているような気分であった。久しくなかった冷や汗を浮かべながらエリカの返答を待つ進。重苦しい空気の中、やっとエリカが口を開く。

 

「もっと頑張るから」

 

「ん?」 

 

 エリカの予想外の答えに進は思考が一瞬停止し声を漏らす。その意味を問おうと呼び止めようとしたが、その前にエリカはさっさと先に行ってしまい、キャビネットに乗り込み行ってしまった。もやもやとして残った彼女の言葉に進は柄にもなく後頭部を掻く。聞かないほうがいいのかと彼はこの後、この言葉の真意を聞くことはなかった。

 

 




今回の話は来訪者編とは大して関係ありませんでしたが、次回からは戻りますのでご安心をば。それでは来週また会いましょう。


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第十八話

 土曜の学校が終わり、手首を痛めたエリカと試合ができない代わりに、剣術部をメタメタにした進は深夜一人で散歩に出ていた。進の趣味は剣を振るうことの他に散歩をすることである。その中でも夜に散歩するのが好みだった。静かで涼しく人が日中より少ない。これほどに散歩をするのに適した環境はない。

 

 あてもなく目的地もなくフラフラと夜の街を歩き続ける進。父は軍の関係で多忙であり家に寄り付いていることは少なく、母親は既に身近にいない。一軒家に一人で暮らしている彼の行動を見張る者はおらず、深夜徘徊を止める者もいない。既に一人で三時間以上歩き続けている進は何も考えずフラフラと進み、いつの間にか渋谷まで来ていた。そこそこ郊外に住んでいるはずなのだが、ここまで歩くことができるのは彼の健脚がもたらせる結果なのだろうか。

 

 何も考えないままひたすらに歩き続けていた進。しかし自分がどこまで来ているかは認識していた。二十三時、深夜の渋谷、若者が集う繁華街。まともな魔法科高校の生徒が寄り付くような場所ではないこの場所で妙な出会いをすることになる。

 

 彼の脳内に響く虫の羽音のようなノイズ。意識にまとわりつくようなそのざわめきに何かを感じ取った進はその音が大きくなる方へ向かって歩き始める。その歩みは次第に速さを増していき、形を変える。それに比例するように着実にノイズは大きくなっていく。彼の胸中にあった意思はただ一つ。「斬れるなら行かなきゃ。強ければいいなぁ」

 

 ノイズとともに大きくなっていく闘争の気配。つられるように上がる口角。ノイズがある一定の大きさまで大きくなったところで彼の耳にかが戦っている音が入ってきた。その音を聞きつけた進はさらに速度を上げ、距離を詰めていく。進と戦闘を行っている二人の距離が二十メートルのところまで近づく。そこで進が行動に移る。強く踏み込みながら距離を詰めた進は低空気味に跳びあがると、気配の強い方に向かって斬りかかった。 

 

 突然の闖入者に動揺するそぶりを見せながら唐竹割を受け止める怪人。鈍い音とともに受け止められる進の唐竹割。受け止めたと同時に怪人は進の腕を掴む。しかし、それを力で振り払った進は、止められた状態から落ちる体を捻り速度をつけると、空中で逆袈裟の一撃を怪人の横っ腹に打ち込んだ。カーボンアーマーをつけているにもかかわらず伝わる衝撃に怪人はよろめき、二、三歩後ずさる。

 

 その一方で打ち込んだ進は不満そうな表情で片足で音もなく着地する。今の攻防は一撃目、さらに譲歩すれば横薙ぎの二撃目で決められたと考えていたのだ。さらに受け止められ腕を掴まれたことにも不満げである。先ほどの一撃は並の男性では受け止めることできず、レオのような近接タイプであっても衝撃で沈みこまざるを得ないほどの一撃であった。それを動揺しながらも軽々と受け止められたことが不満で仕方なかった。

 

 不満そうに鼻息を吐いた進は怪人に相対すると両腕をだらりと下げ、それでいて一切の油断なく無行の位を実行する。それに戦闘体勢であることに気づいた怪人は腹部の痛みに耐えながら戦闘態勢をとる。先に動いたのは進。風のごとき速度で一気に距離を詰める。それに合わせ力強く踏み込むと崩拳を撃ち込む怪人。二人の攻撃は渋谷のにいる一山いくらのチンピラでは対処することが不可能な洗練された動きであった。

 

 リーチの関係で先に攻撃が届く進は、顔面に迫りくる拳を当たる寸前で躱すと怪人の胸に向かって突きを繰り出す。あまりにもあたる寸前で拳を躱された怪人は突きに対して回避行動をすることができない。そのまま胸部に突きを受けた怪人は衝撃で吹き飛び、もんどりうって転倒する。

 

 倒れこんだ怪人にさらなる追撃を加えるため、走り出す進。しかしの彼の体が前に出ることはなく、杖でも防御を強いられた。杖でごく小音の銃弾を弾いた進はその方向を向き、攻撃の対象を探る。攻撃主を発見した進は杖を握りなおし、迎撃のためそちらに走り出そうとするが、逃げ出す怪人に意識がとられてしまい、攻撃主から意識がとられる。そして怪人に意識をとられた瞬間、攻撃主にも逃げられる。

 

 らしくないミスをした進は己のミスを悔やむと同時に身を翻し追いかけようとする。が、彼の足元から響く呻き声がそれを躊躇させる。どことなく覚えのある声に足を止めた進は追跡は困難だと判断し、倒れる人物の介抱に移った。倒れこむ人物の体を抱き上げた進はここで声の正体に気づく。

 

「レオさん!? レオさん大丈夫ですか!?」

 

 想像だにしない人物が倒れていることに驚いた進は声を上ずらせる。その直後、彼らのもとに寿和と稲垣が現れる。

 

「……すいません。このあたりで怪しい人物はいませんでしたか? っと君は確か……」

 

「話はあとでたっぷりと。それより早く救急車を」

 

「あ、ああ」

 

 進のぴしゃりとした指示に寿和は稲垣に指示を出し救急車を手配する。

 

「ところで話は戻るんだが」

 

「どうやらレオさんと交戦していたみたいですね。そのあと私とも少し戦いました。逃げられてしまいましたが」

 

「本当か! その人物はどっちに!」

 

 寿和の追及に進は怪人の逃げていった方向を指さす。程なくして彼らのもとに救急車のサイレンがやってくる。レオと怪人に襲われたもう一人が救急車に乗せられる。刑事である寿和もおり、これ以上自分のやることはないと判断した進はその場を離れようとするが、寿和に肩を掴まれることで逃げられなくなる。

 

「さあ、君もだ。戦闘を行ったんだろう?」

 

「……一撃も食らっていないのですが」

 

「戦闘の最中、未知の攻撃を食らった可能性だってある。念のため検査をしてもらった方がいい」

 

 寿和に無理やり救急車に乗せられ搬送されていく。搬送される中進は戦闘に割って入ってきた人物のことをぼんやりと考えていた。いったい何者だったのだろうか、彼は無意識のうちに覚えを抱いていたのだが、それに気づくのは少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院に搬送され、検査を受けた進とレオ。進の方は身体に何の影響もなかったが、レオは立ち上がることもできないほどに消耗している。ただ、医者曰く命に別状はなく時間が経てば回復するとのこと。しかし、原因不明で倒れこんだレオのこともあり進も一応安静を言い渡されているのだが、身体的に何の変化もないと思っている進がそんなことを聞くはずもない。

 

 検査が終わってすぐに病室を脱走した進は病院内の散歩を始める。あまり病院に来ることのない彼は(小さい頃は父親の関係上、軍の医者、特に山中に診てもらうことが多かった)非常な新鮮な気持ちで歩き回る。少々の騒ぎになっていることにを知ってか知らずか二時間ほど歩き回った進が病室付近に戻ってくるとレオの病室前の廊下に置かれた椅子に見知った人物がいることに気づく。 

 

「おや、エリカさん。レオさんのお見舞い……、という感じではなさそうですね」

 

「進君!? なんで病院服!?」

 

 病院では忌避されるほど大きな驚きの声を上げながら、立ち上がったエリカは進のもとに駆け足で寄ってくる。

 

「私も怪人と戦ったからですよ」

 

 彼女の問いかけによどみなく答える進。彼の返答を聞いたエリカは妖しいオーラを放ち始める。

 

「そう。ちょっと行ってくるわね」

 

「え、ええ、お構いなく」

 

 そういうとエリカは駆け足の進の前から姿を消す。彼女の後を追わず廊下にとどまった進は、何か嫌な予感を感じながら廊下に置かれた椅子に座り彼女の帰還を待つ。しばらくして戻ってきたエリカはその手に缶コーヒーを二本持っており、一本を進の手の上に置く。

 

「ありがとうね。兄貴の代わりにレオを助けてくれて」

 

「いえ、偶然通りかかってこっちが勝手に首を突っ込んだだけですし。おそらく刑事さんたちも間に合っていたでしょうから」

 

 エリカに手渡された缶コーヒーをありがたく受け取った進は口を開けると恐る恐る口をつける。進の返答を聞いたエリカはいつも通りの彼の振る舞いにクスリと小さく笑う。

 

「相変わらずね。きっと偶然通りかかったっていうのも嘘じゃないんでしょうね。それでも感謝するわ。過程はともあれもう少し遅ければレオは死んでいたかもしれないから」

 

「これ以上感謝の気持ちを貰ったら溢れてしまいます。この缶コーヒーとそれで勘弁していただけませんか」

 

「じゃあやめておくわ」

 

 一通りのやり取りを終えた二人はそのまま世間話に突入する。

 

「そういえば手首の調子はいかがでしょうか?」

 

「ん。病院にも行ったし治癒魔法がうまかったのかほとんど治ってるわ。あと三日も安静にしてれば完治するって」

 

「それはよかったです」

 

「それにしても進君なんで渋谷にいたの? レオならともかく進君行くような感じには見えないけど」

 

「フラフラと何も考えずに歩き回っていたら渋谷についてしまったみたいです。そのあと、いやな気配を感じてそこに行ってみたら怪人がいたので突っかけたというわけです」

 

「まあ、あなたの性格考えたらそうなるわよねぇ」

 

 二人が世間話をしていると、二人の前に意外な人物が現れる。十文字克人と七草真由美。一項の先輩、十師族の直系の二人である。現在自由登校である二人に時間に関しての制限はないが、レオと進、二人に対して深い関係のない二人が見舞いに来るというのは少々不自然である。

 

 三年二人が世間話をしている二人に気づくと、一瞬、「あれ? なんでこいつここにいるんだ?」という顔をし、その直後、真由美が口を開く。

 

「進くんも怪人に襲われたそうね。そのことで少し話を聞かせてもらってもいいかな?」

 

「わかりました。あまり参考にはならないでしょうが」

 

 真由美の誘いを受けた進は真由美に誘われるまま、レオの病室に足を踏み入れる。そこにはうっすら意識を取り戻しながらもベットに伏しているレオがおり、虚ろな目で三人を見ている。

 

「お、おぉ? 生徒会長が何でここに?」

 

 蚊の鳴くような声を発したレオは無礼がないようにと体を起こそうとするが、二人はそれを制止する。二人の気持ちを受け取り、ベットに再び寝転がったレオと壁によりかかる進。真由美と克人によって二人の聴取が始まる。

 

「ではこれから話を聞かせてもらうんだけど、その内容は内密にお願いします」

 

 前置きを話した真由美は二人から昨晩の話を聞き始める。とはいえ進が怪人と接触したのは奇襲を仕掛けたあと、三分ほどの短い時間である。レオのように受動的に遭遇し騒動に巻き込まれたわけでなく、自分で首を突っ込んだ彼の話は大して役に立たないだろう。レオも未だ体調不良のため、長時間聴取をすることはできない。進が自発的に首を突っ込んでいったことという戦闘狂(バトルジャンキー)っぷりに二人が引いたこと以外は特に何も起こることなく聴取が終わり二人は病室を後にした。

 

 聴取が終わるとレオは再び体力回復のために眠り始め進は病室を離れ廊下に出る。しかし、そこにはエリカはいない。彼女の居場所に心当たりのあった進は病院の事務室の一つに向かう。そこには寿和たちが待機しており彼関連でエリカがいる可能性が高い。

 

 その推測はあたり、事務室に入るとそこにはエリカと寿和、稲垣の三人がいた。寿和の頬は大きく腫れているが、進の気づくところではない。

 

「進君、終わったの? で、どんな感じだった?」

 

 寿和たちを差し置いてエリカは二人の聴取の内容を聞き出そうとする。先を越されたことで口を開くタイミングを失った寿和は酸素の足りない金魚のように口をパクパクと動かしている。

 

「申し訳ございません。あのお二人に守秘義務をつけられてしまいまして内容自体は」

 

 進が何も話せないことにエリカは舌打ちを打つ。しかし、進はですがと付け加える。むろん彼女のためではなく話を円滑に進めるための措置である。

 

「わざわざ警察に投げるのでなく、自分たちで調べるということは何か魔法関連の裏があるんでしょうねぇ。それも十師族が関わらざるを得ないほど面倒な事件。いやですねぇ物騒で」

 

「……守秘義務があるんじゃないの?」

 

 推測をわざとらしくこぼした進の口元が小さく上がったことに気づいたエリカは、じっとりした視線を向けながら進の言葉を指摘する。

 

「話しているのは聴取の内容ではなく私の推測ですので問題はないでしょう。それでは私はまた暇つぶしに行ってきますね」

 

 そういうと進は再び散歩に行くため、事務室を出て行ってしまう。残された三人は寿和を皮切りに話を始める。

 

「……なあ、あの子、いっつもあんな感じなのか?」

 

 もちろん寿和と稲垣も進の口角が上がっていることには気づいていた。普通、問題に関わりたくないというのが人間の心理である。それとは正反対に問題に首を突っ込もうとするその精神。寿和の引き気味の問いかけにエリカは何事もないかのように答える。

 

「ええ、いつもどこかで斬りかかれる相手を探してるわ。その嗅覚も抜群。腕も尋常じゃない。もはや現代の人斬りよ」

 

「ええ……」

 

 エリカの返答を聞きやっぱりドン引きする寿和。横浜で見た時にもどこか変な子だとは思っていたが、ここまで変な子だと思っていなかった寿和。兄としてエリカに関わらせて大丈夫なものかと思うのだが、それを口に出そうものならまた裏拳を食らいかねないため、そっと飲み込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、フラフラと歩き回っていた進であったが、その自由奔放な行動に痺れを切らした病院は病院の秩序を守るため、完全に復活したという理由で強制退院の措置を出した。願ったり叶ったりである進は先に退院するための準備をする。

 

 準備を終えた進がほとんどない荷物をもって病室を出ると、彼の前にエリカに引き連れられた達也たちが現れる。進が怪人と接触(突っかけた)したことは彼らも知っている。彼が平気そうに歩き回っていることに口火を切ったのは以外にも幹比古だった。

 

「進、もう歩き回って平気なのかい!?」

 

「ミキ、進の性格まだ理解してないみたいのね。自分から首突っ込んでいくような人よ。朝には既に今みたいな感じだったわ」

 

「じゃあ、進さんそこまでひどくないんですね」

 

 幹比古が自分の呼び方に突っ込みを入れる前に美月が口を開く。気弱な彼女のことだからか、進が平気そうにしていることにホッとしたように顔を緩ませる。

 

「もう帰るのか?」

 

 私服に着替えて病室を出てきたことに疑問形で問いかける達也。

 

「ええ、散歩していたら追い出されました」

 

「ああ……」

 

 進が何の気なしに答えると、いつもの面々は呆れ気味に小さく声を上げる。まあ、それはそれとしてレオの見舞いに来たという彼らに便乗する形で進はレオに退院の報告をすることにした。

 

 レオの病室に入り、彼の姉とのやり取りを終えた面々はレオとやり取りを始める。みっともねえ所見せたなと照れ臭そうに笑うレオに見舞いの言葉をかける面々。続いて始まる怪人の会話。その中で幹比古がその最中にその正体を推測する。

 

「多分レオが遭遇したのはパラサイトだ」 

 

 幹比古の言葉に病室内の彼以外の面々が首をかしげる。幹比古の口から語られるパラサイトの解説。それが人に寄生して人を別の存在に作り替える存在の名称であるという説明を聞いた面々は納得し、一部は怯えた様子を見せた。

 

 パラサイト談義で盛り上がる面々を遮るようにして幹比古はレオに幽体を見せてほしいと提案する。その言葉の意味を理解できていない面々に再び解説をする幹比古。生命力というわかりやすい説明で納得したレオは彼の提案を気持ちよく了承する。

 

 その後、由緒正しい儀式的な方法でレオの幽体を調べた幹比古はレオの強度に驚きを隠せなくなる。その中でレオにしかわからない不躾な発言があったものの、レオの明るい振る舞いで和やかに話が進む。

 

「さあ、進。次は君を測らせてもらうよ」

 

「私ですか?」

 

「君も吸血鬼と戦ったんだ。一応調べておいて損はないと思う」

 

「まあ、私は構いませんが」

 

 幹比古の提案を了承した進。それを聞いた幹比古はレオと同じような手順で進の幽体を調べ始める。しばらくして幹比古はレオの時以上の驚きを見せる。

 

「嘘だろ……。何でこの量でこんなに変わらない様子で動けるんだ……」

 

「どんなものなんだ、幹比古」

 

「あっ、うん。進の幽体も相当減ってる。大体半分より少し少ないくらいかな。これだったらレオみたいに昏倒するってことはないけど、それでも立ってるだけでもつらいはずなんだ。散歩なんてしてる場合じゃない」

 

 幹比古の発言で面々がざわつく。そんな中でも進は全くたじろぐことなく顎に手を当てうんうんとうなずいている。

 

「なるほど、道理で逃げられるわけだ。無意識のうちに集中力が切れていたのですね」

 

「進、本当に何ともないのか?」

 

「ええ、少し体が重いくらいです。それ以外は特になんとも」

 

「いつも見てわかってたつもりだけど改めて人間離れしてるね……」

 

「照れますね」

 

「褒めてないと思いますけど……」

 

 進の的外れな発言に突っ込みを入れる深雪。やっぱりおかしい人だというのは全会一致の意見であった。

 

 



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第十九話

 来訪者編第四話です。ごめんね、遅れちゃってて今回でエリカvsリーナ回です。



 翌日何事もなかったかのように高校に登校した進。普通にカリキュラムを受け放課後まで過ごした進は、エリカに呼び出しを受けていた。

 

「何の御用でしょうか? エリカさん?」

 

「ちょっと協力してほしいことがあるの」

 

「吸血鬼がらみですか? ご協力しましょう」

 

「そ、ありがと。それじゃ、今日の夜、私の家の前まで来てくれる?」

 

「わかりました。以前、送ってもらった位置情報があるのでそれに従っていかせてもらいます」 

 

「いつもありがとね」

 

「好きで首を突っ込んでいますから」

 

 これで会話を終えた二人はお互い示し合わせたように体育館に向かって歩き始める。いつも通りの試合である。一方、エリカのそばにいて置いてけぼりを食らった幹比古は二人のツーカーのやり取りにぽかんとして立ちすくみ、再起動までそれなりの時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束通り合流し、夜の街を歩き回った三人。目的は吸血鬼を発見しての排除であった。しかし、一日目は何の収穫も得ることができず、徒労に終わる。

 

 しかし、それでもエリカたちはレオの報復のためにやめることはない。三人は二日目も夜の街を歩き回る。その最中、幹比古は心配そうにエリカに声をかける。しかし、エリカはどこ吹く風。何も言っても聞こうとはしない。進にも協力をしてもらっていると付け加えたエリカは歩みを早める。

 

 そんなエリカの意固地ともとれる言葉を聞いた幹比古は、緊張感無くまるで散歩のように歩く進にチラリと視線を向ける。確かに幹比古の中でも進は優れた戦士であることはわかっている。千葉家の中でも指折りの実力であるエリカを子供のようにあしらう剣の実力。深雪すら超える魔法の才能。目が見えないにも関わらず見えているかのように行動する感覚、どれをとっても高いレベルでまとまっている。しかし、進は自由すぎる。戦うことしか頭になく嬉々としてトラブルに首を突っ込んでいく問題児っぷり。それにいくら進が強かろうが、彼は一人でしかない。数の力を使って吸血鬼を探している残りの二勢力に比べると心もとないというのが本音であった。

 

 そんなことを幹比古が考えていると、それをエリカが意図せずに遮る。

 

「ミキ、どっち」

 

 今回幹比古がエリカに同行しているのはいわゆる「道占い」役としてである。杖を立て一定の動作をすることで占った道を再び進み始める面々。その道を十分ほど歩き続けた時、進がピクリと反応する。それを見たエリカが鋭い視線で進を見つめる。

 

「どうしたの」

 

「いますね。少し距離が離れてますけど」

 

 そういった進はいきなり走り始め、エリカもそれに追走する。置いていかれた幹比古は一瞬戸惑いを見せるがすぐに復帰し今まで我慢してきた不満をぶちまける。

 

「ああもう! 僕は近接タイプじゃないし足も速くなくてついていけないんだから置いていかないでくれよ!」

 

 しかし悲しいかな、その叫びは既に見えなくなっている二人には届かない。不満をぶちまけ多少冷静になった幹比古は胸元から端末を取り出すとシグナル通知先のグループリストを呼び出す。そしてアドレス帳から一人の人物を追加すると、急いで二人を追いかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自己加速術式を使わずに生身のまま走るエリカと進の二人。五分ほど走ったところで二人は同時に闘争の気配を察知する。示し合わせたようにその方向に走る二人はそこから一分もしないうちに吸血鬼とそれを追いかける仮面の人物を発見する。

 

 そこで進はサイオンの波の違いや足音などで吸血鬼が先日遭遇したそれと同じ人物であると理解し、それと同時に仮面の人物も三日前の戦闘中に割って入ってきた人物であったと理解する。どちらも進が戦いたい人物。どちらを選んでも、どちらも相手をしてもおいしい相手であるが、どちらと戦おうか迷っているうちにエリカが自分の得物を抜き放ち、戦う方を選択する。

 

「あたしは仮面の方を! 進君は吸血鬼をお願い!」

 

 仮面の人物をとられたことで吸血鬼を選択することを強制させられる進。しかし、それでも問題ない。

 

 進が吸血鬼に顔を向けると、向こうも進に気づいたのか怯えたように小さく身を震わせ後ずさる。三日前の攻撃がよほど体に堪え、トラウマとして染みついてしまっているのだろう。視覚がつぶれているにも関わらず、自分を追い詰める化け物じみた戦闘力、精力を吸いとったはずなのに何事もないかのように戦う精神力。吸血鬼になって久しく感じることのなかった恐怖をまじまじと体と心で感じていた。

 

 しかし、今背中を向けて逃げるわけにはいかない。何の抵抗も見せずに背を向ければいとも容易く刈り取られるのは本能で感じ取っていた。どうにかして隙を作って逃げなければならない。抵抗するために拳を構え、進に敵意を向ける吸血鬼。しかし、進がその程度で怯むはずもなく飄々と杖を握りなおしている。 

 

 一方で仮面の人物と相対しているエリカは、自分の得物である武装デバイスを握ると刀身強化の刻印魔法を使い、仮面の人物に斬りかかる。達人級のエリカの一撃はナイフで対抗しようとしている仮面の人物を確実に切り払うはずだった。

 

 しかし、エリカの斬撃は空を切る。仮面の人物はサイオンを瞬かせ自己加速術式を使用すると三メートル後方に下がりエリカの斬撃を回避した。しかし、エリカはそれで止まらず、追撃の一撃を打ち込むためにもう一歩踏み込んだ。当たると思っていた攻撃が当たらなかった? そんなことは既に慣れっこである。行けると思った攻撃を躱され、当たったと思った攻撃を躱されいつの間にか背後を取られ、踏み込む前に出足をとらえられる。毎日のようにそのような経験をしていれば胆力も経験を分厚くなるというもの。たかだか一回回避されただけではもうエリカの心には波一つ起こらない。

 

 追撃のため強く踏み込んだエリカは振り下ろした刀を鋭く逆袈裟で振り上げる。一撃を躱した直後、再び刀が迫ってきたことに驚いた仮面の人物は一瞬対処が遅れ、その深紅の髪に刀が掠める。距離を取ろうと咄嗟に振るわれたナイフを躱し、一度距離を取り直したエリカは刀を握り直すと自分に活を入れるために声を張り上げた。

 

「参る!」 

  

 エリカは身体補助の魔法を使うことなく前に踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仮面の人物とエリカが刃を交えている一方、吸血鬼と進は戦っていた。いや、もう戦いともいえないほど進が圧倒していた。蹂躙といっても差し支えない。進の猛攻の隙間を縫って吸血鬼の放つ拳は弾き落され、防ぎきれなかった杖の殴打は確実に肉体を破壊していく。上部から振るわれたはずの一撃がなぜか側面から襲ってきたり、拳を受け流され懐に潜られたかと思うと、進が前に進む速度と吸血鬼が受け流され前によろめく力を利用しての柄での殴打を腹部に受けたりと、吸血鬼が一方的に攻められ続けていた。動きを鈍らせるため精力を吸おうと掴みかかっても、その手もすべて弾き落され、捨て身の覚悟で羽交い絞めにしようとしてもすり抜ける様に躱され投げられる。隙どころか自由すら作れずに一方的になぶられている吸血鬼は、もう敵にすらすがりたくなるほど追い詰められていた。そこまで追いつめている張本人は既にエリカが戦っている仮面の人物に興味が向き始めていた。もはや吸血鬼は相手になっておらず、次のことを考えている始末。 

 

 その傍らで正眼に刀を構え仮面の人物と相対するエリカと、束ねていた紐が断ち切られ、その深紅の髪を振り乱しながらエリカを睨みつけている仮面の人物。魔法なしで仮面の人物とギリギリの戦いを見せるエリカ。このまま攻め続けるつもりで、さらなる一歩を踏み込もうとしたその時、二組の戦いの中に二つの影が侵入する。

 

Q(クレア) 、R(レイチェル) 、あなたたちはそっちを!」

 

 仮面の人物の部下、スターズのハンターのクレアとレイチェルは仮面の人物の指示に従い、吸血鬼と進の戦闘に介入する。コンバットナイフと拳銃を手にし、手慣れた連携で進もろとも吸血鬼を始末しようとかける二人。

 

 突然の闖入者に動揺したエリカは小さく動揺し、何も考えることなく咄嗟に仮面の人物に迫り上段から刀を振り下ろす。焦りが生んだ決して丁寧とは言えない一撃は仮面の人物の差し出した左手によって受け止められる。籠手の装着された左手の逆、右手には銃が握られていた。お世辞にも防御能力が高いとは言えないエリカが銃弾を食らうとどうなるかは言うまでもない。

 

 籠手とつばぜり合いをする刀を引き戻したエリカは銃を持つ右手が上がるよりも速く左に回り込もうとする。銃が上がり切る直前、その速度で回り込んだエリカは銃を叩き落とす。同時にくぐもった銃声が鳴り響き、仮面の人物の左手がエリカの顔に伸びた。輪にされた指の間できらめく雷球。それにどんな意味があるのかを理解したエリカは自己加速術式を展開し回避に専念する。高速で後退し雷球を回避したエリカは後退した反動を利用し前方に力強く跳ねると剣を振り上げた。

 

 直後、彼女の足元が大きく爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカが衝撃で吹き飛ばされる少し前。クレアとレイチェルの二人は吸血鬼と進の戦闘に介入しようとしていた。キャスト・ジャマーを発動し進のCADの操作を妨害する。普通であれば間違いなく最善手である。しかし、この二人には大きな問題がある。それは進が今まで魔法を使わず己の体一つで戦っていることを知らないこと。素の状態で杖で銃弾を弾くことができる人物だと知らない彼女らは無防備に近づいてくる。

 

 サプレッサーで消音されている拳銃で二人に向かって銃撃が飛ぶ。銃弾に対して有効な防御手段を持たない吸血鬼は肩口で銃弾を受ける。吸血鬼に銃弾を当てることができ、手ごたえを感じたクレアは間髪入れずに進に銃を向け間髪入れずに弾丸を放つ。しかし、放たれた弾丸は進に軽々と弾かれる。

 

 魔法なしで弾丸を弾いたという事実を受け止められないクレアとレイチェルは、まず、キャスト・ジャマーの不具合を疑うが、確実に進はキャスト・ジャマーの範囲内に存在している、以前今日討伐した吸血鬼の発していた「キャスト・ジャマーは正常に動作している」という言葉を信じるならば進はCADを使用できるはずもない。ならばなぜ、と二人が悩んでいるうちに進は行動を起こす。二人の狩人は既に狩られる側へと立場を変えていた。

 

 魔法なしの目にもとまらぬ神速の技術で二人との距離を詰める進。それに気づいた二人は動揺しながらも対処に当たる。レイチェルはコンバットナイフで近接戦闘に移行し、クレアはその対面に回りこみ、銃を構える。お手本のような連携を見せる二人。しかし、進はその上をいく。レイチェルの懐に飛び込んだ進は逆手に持ち直した杖でコンバットナイフを持つ手首を叩きナイフを握る力を弱めると刃を叩き弾き飛ばす。同時にナイフの握られていない腕を掴むと肘を極めつつ肩に担ぐようにして投げ飛ばした。投げ飛ばした先にいるのはクレア。レイチェルという人間砲弾を体で受け止めたクレアはもんどりうって倒れる。直後、素早く体を起こし進の位置を確認しようとしたクレアの肩口に飛来したコンバットナイフが突き刺さる。その痛みで悲鳴を上げるクレア。彼女の上で肘を抑え呻き声をあげるレイチェル。

 

 この一連の行動の中でも進は吸血鬼から意識を逸らしていない。進はナイフを手に取ると同時にオルガノンを一輪展開しその重く鋭く速い刃を、空中に跳びあがり逃亡を図っている吸血鬼に向けた。魔法の兆候もなく、何もない空間からいきなり現れた巨大な刃に動揺を隠せない吸血鬼。それでも生存本能が肉体をそうさせるのか。空中でもがき全力で捻ることで、胴体を中央から真っ二つにするはずの一撃を腹を割く程度に収めた。腹を割かれた吸血鬼は血を吹き出しながら公園の茂みに転落する。さらに追撃でオルガノンの刃を振り下ろす。

 

 その一方で吹き飛ばされたエリカは意識が飛びそうになるのを必死でこらえながらすぐさま体を起こした。吹き飛ばされる直前、エリカに肩を打たれた仮面の人物は肩を抑えながら立っている。しかし、エリカは先の魔法で満身創痍。もう刀を握ることはできない。

 

 それがわかっている仮面の人物は進に視線を向けていた。傷一つ追うことなく二人の兵士を排除し、さらに謎の魔法で吸血鬼を叩き落した剣士。恐ろしく強い。それが仮面の人物が見る進の評価。だが、仮面の人物は進だけでなくその奥にいる人物のことも見据えていた。バイクにまたがり銀色のCADを向ける達也。仮面の人物が視認した少し後、進とエリカも彼の介入を認めた。

 

 指で印を組むように動かした次の瞬間本当に魔法を発動する仮面の人物。しかし、その魔法が本当に発動することはなく、それは続けて三度発動しようとしても同じだった。二対一の状況に陥った仮面の人物。圧倒的不利を理解し、逃亡を図る。ダラリと下がる右腕に握られた銃が銃弾を吐き出すと、それが火花を放ち閃光へと変化する。打ち出された銃弾はおよそ()()。術者だけでなく公園全体を包み込んだ閃光は魔法師たちを覆い隠し、物理的に目を晦ます。閃光が晴れるころには三人の敵対者たちは消えており、公園には三人だけが取り残されることになった。

 

「ハァハァ、……やっと追いついた」 

 

 ちょうどそのときだった、息を切らした幹比古が三人のもとに合流したのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、吸血鬼に逃げられました。オルガノンで腹部を切り裂いたのですが。それに追い詰められていたのに発散魔法で血痕を残していかない徹底ぶりです」

 

「腹部を大きく切り裂いたのであれば、おそらくしばらくは活動はないだろう。それだけでも十分な成果だ。それより怪我はないか」

 

「私は問題ありません。エリカさんは……」

 

「何よ。あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんだけど……」

 

 見るも無残な形になったエリカの服装を見てか、幹比古は顔を赤くする。その一方でエリカの服装がどうなっているか見ることのできない進は、一瞬考え理解すると、自分の羽織っているアウターを彼女の肩にかけた。

 

「ん。ありがと」

 

 かけられたアウターで身を覆い隠したエリカ。しかし、彼女の体に怪我があるようには見えなかった。しっかりと薄手の防具を身に着けていた彼女は服装がパンクになっていても肉体に損傷があったわけではないようだった。服を無残にした仮面の人物に不満たらたらなエリカ。その中でずっと抱いていた疑問を口に出す。

 

「ところで達也君、どうしてここに?」

 

「どうしてって、幹比古に連絡を貰ったからだが」

 

 達也の密告で幹比古に動揺が走り、達也に非難の視線が向けられる。その一方で幹比古を見つめるエリカ。いつ、なぜ連絡をしたのかなど問い詰めたいことは山ほどあったのだが、彼女が問いただす前に幹比古は勝手に自白する。

 

「ぼ、僕一人じゃ二人に追いつけないし手綱も握れない。だ、だから二人が言った後に達也に連絡を……」

 

「フーン? 私たちは大型犬とかその類なんだ?」

 

 その言葉とともに幹比古を睨みつけるエリカ。自重する気のない進は口を挟むと話が進まなくなると判断しあえて介入しない。そんな幹比古に助け船を出したのは達也。しかし、それは善意ではなく緊急に駆られてのことだった。

 

「三人とも。移動しなくていいのか? 人が集まってきているぞ?」

 

 達也の指摘通り、四人のいる場所には既にまばらに人が集まりつつあり、幹比古の端末のトレーサーシグナルも同様の結果を示している。今回、エリカたちは独断で動いているため、追及はできるだけ避けたかった。七草に対しては「進が突っ込んでいったので援護のために戦闘しました」でどうにか押し通せる。それよりも警察に捕まって時間を取られることの方が厄介だった。

 

「エリカ、乗っていくか?」

 

 素早く離れるために達也が助け舟を出すと、エリカは笑顔でその提案を受け入れる。タンデムシートにまたがり腰に手を回すと、バイクは発進しその場を走り去っていく。負け惜しみを言う暇もなく置き去りにされた幹比古は呆然とするが、彼も早く離れなければ面倒なことになる。

 

「では、我々も」

 

 そう一言残した進は、小走りでその場を離れる。全力疾走ではなく小走りなのは自分よりも足の遅い幹比古に気遣ってのことなのか。そんなことを気にするくらいなら最初から気にしてほしいと内心愚痴りながらその場を離脱する幹比古。最後の最後まで振り回されっぱなしだった幹比古であった。

 

 

 





 いかがでしたでしょうか?この戦闘描写は書いてて非常に楽しかったです。言ってなかったと思うので今のうちに言っておきます。この作品のヒロインはエリカで彼女には大きく強化が入っています。まあ、バキ世界の格闘家みたいな戦闘能力してる主人公と張り合ってたらそりゃそうなるよね。
 魔法に関してもこのあと多少の強化が入ります。具体的に言うと作中の魔法をフライングで習得します。まあ、二人の特性考えると何覚えるかは大体わかると思いますが。
 しかし、二次創作はいろいろ楽ですね。キャラとか考える必要がなくて作中の流れに主人公ぶち込むだけで話が進んでいきます。この話も確か四時間弱くらいで書いたと思います。褒めろ。
 さて、私の話はこの辺で終わりたいと思います。次でリーナvs達也の話に進が乱入です。ご期待ください。それではさようなら、評価感想お願いします。


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第二十話

「そういえば息子さん、例の吸血鬼騒動に首を突っ込んでいるらしいですね」

 

「当然突っ込むだろうな。未知の力を振るい、事実上斬っても問題のない存在だ。首を突っ込まないほうがおかしいだろう」

 

「昔から好戦的なほうだと思っていましたけど、ここ最近余計に好戦的になっていませんか」

 

「親として耳の痛い話だな。もう少し盲目らしく落ち着いて生活してほしいんだが」

 

「彼の周りには特尉がいますからね。彼の存在に引っ張られて好戦的になっているのでは?」

 

「ともあれもう少し落ち着くように今度行っておくか……」

 

「それを行って聞くような子でしたっけ、進君?」

 

「…………そういえば君に頼んでいた息子用のCADの件はどうなっている」

 

「あ、話逸らした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、進は再び夜の町を歩き回っていた。本日はエリカたちは別行動。というよりわざと進がはぐれたというほうが正しいかもしれない。昨日、達也が介入したということは今日から本格的に参戦してくる可能性も高い。となれば彼と獲物の取り合いになる可能性がある。

 

 そう考えた進は通信端末のトレーサーシグナルを切断し、エリカたちからの通信を拒否したうえでシレっと彼女たちの下から姿を消し、夜の町を駆けまわっていた。

 

 しかし、彼らから離れたことが災いしたのか、うまい事吸血鬼の気配を捕らえることが出来ずに二時間をどぶに捨てることになってしまった。なんとなくいやな気配を感じ取ることが出来ているのだが、三勢力の魔法師が同時に跋扈している影響で、ただでさえ薄い気配が余計に薄まりうまく察知できていなかった。こういう時に便利な探知系の魔法を鍛えていなかったことを悔やみながら進は夜の町を駆け巡る。

 

 さらに三十分ほど走ったところで進は微かに闘争の気配を感じ取る。あるかないか、始まっているのかいないのかも不明確なそれであったがそれでもはっきりと闘争が起こると感じ取った進はその方向に向かって走り始めた。

 

 最初の位置から移動し続けている闘争の気配であったが、進の嗅覚はそれを捉えて離そうとしない。嗅ぎ取って十五分ほど走り続けた進は、ついにはっきりと吸血鬼の気配を捕らえることに成功した。無意識のうちに口角を吊り上げた、進はさらに加速し、接触を試みる。

 

 そんな彼の進行を妨げるものが現れる。路地を進み、曲がり角を曲がろうとした進の顔面に向かって躊躇なくコンバットナイフが振るわれる。吸血鬼の気配を追うことに集中しきっていた進は回避のみに集中せざるを得ない。上体を逸らし膝をつきながらスライディングすることで回避した進は進路を切り返すと襲い掛かってきた人物の気配を探る。

 

「貴様、また我々の邪魔を!」

 

 彼に敵意と殺気を向けていたのは昨日、肘を極められ投げ飛ばされたレイチェルであった。彼女は走る進を見つけると自己加速術式で彼の進行ルートに回り込んだのだ。歯をギリギリと鳴らし怒りを表現する彼女は右手にコンバットナイフを左手にサプレッサー付きの拳銃を構えそれらを進に向けている。

 

 躊躇なく拳銃から発射された弾丸を進は素早く立ち上がると、躱せるものは躱し躱せないものを杖で弾く。打ち出された十発の弾丸は、一発たりとも進に当たることなく小気味いい音を立てながら地面に落ちる。

 

「バケモノめ……」

 

 十発の弾丸を傷一つなく魔法未使用で回避した進を、埒外の生物を見るかの目で見たレイチェルは拳銃に残された弾丸をすべて打ち尽くそうと、再び銃を進に向けるが既に彼女の前に進はいない。いつの間にかいなくなっていた進に動揺したレイチェルは、反射的に彼が吸血鬼のもとに向かっていると判断し走るために重心を前に出す。その直後、彼女の胸部に衝撃が走り前に出た重心が強制的に後ろに戻される。

 

 レイチェルの懐で彼女の胸部に肘鉄を打ち込んだような体勢を取っている進は、杖を振りぬき彼女の脇の下を殴りつけた。脇の下は人体急所。肺の中に入っていた空気がすべて強制的に吐き出され、その機能が一時的に低下する。突然の衝撃と肺機能の停止により、呼吸がおぼつかなくなったレイチェルはそのまま地面に倒れこみ患部を抑え込んでいる。二、三十分はまともに立ち上がれなくなった彼女を見下ろした進は、再び吸血鬼のもとに走り始めた。

 

 それから三分。ついでにもう一人、あやしい気配を発している人物の前に顔を出し、襲い掛かってきたその人物を打倒した進は、ついに吸血鬼のもとに辿り着いた進は跳び上がるため、アスファルトが砕けそうなほど強く踏み込む。そして地面と平行に飛び跳ねると吸血鬼と仮面の魔法師の戦闘に介入した。

 

 二人の間に割って入る形で戦闘に介入する進。その姿を同時に視認する仮面の魔法師と吸血鬼。今まで相対していた仮面の魔法師から逃げ出す機会を探っていた吸血鬼は彼の姿を視認した瞬間それどころでなくなり、一目散に逃亡することを選択した。しかし、そんなことを仮面の魔法師、そして進が許すはずもない。

 

 逃げ出そうと背を向ける吸血鬼の足に杖の先を掛けると、それを振り上げ体勢を崩し転倒させる。走り出そうとした勢いでもんどりうって倒れこむ吸血鬼。それに跳びかかろうと重心を低くする進。もう逃げられないと怯えた雰囲気を発しながら進を見る吸血鬼。しかし、進が吸血鬼に跳びかかることはできなかった。

 

 彼の背後で鳴り響く銃声とそれに反応して振り返りながら弾丸を弾く進。続けざまに放たれる三発の弾丸とそれを弾く進。仮面の魔法師は突然乱入してきた進に対し金色の瞳に苛烈な眼光を宿し睨みつけながら、「シット」と小さく呟いている。仮面の魔法師と進、二人の魔法師が相対し、睨み合っている(一方に目はないが)と、彼らに向けられて発砲音が発せられる。ピスリという音とともに発せられた弾丸は進と仮面の魔法師にではなく、逃げ出そうと立ち上がっていた吸血鬼に当たる。その衝撃でぐらりと体勢を崩す吸血鬼であるが、足運びで踏みとどまるとそのまま一目散に駆け出す。

 

 逃がさんという意思のまま、行動を起こす達也と進。CADを抜き放ち分解魔法で打ち抜こうとする達也、オルガノンを起動し、今度こそ撃ち落とすため刃を振り落とそうとする進。だが、残された最後の一人がそれを許さない。

 

 進に向けてダガーを投げつけ、達也に向けて拳銃を向ける仮面の魔法師。その対処に当たらざるを得なくなった二人は発動しようとしていた攻撃でそれを対処する。吸血鬼に向けて振り下ろそうとしたオルガノンの刃を障壁のように自分の前に持ってきてダガーを受け止める。向けられた銃に対象を変更し分解魔法を発動しようとする達也。その途中で銃の構造などの影響で情報体(エイドス)分解の魔法から実体分解の魔法に変化させるといった一悶着があったが、それは一瞬の出来事であった。

 

 分解魔法で打ち出された弾丸を分解した達也は続けざまに、仮面の魔法師を取り巻く情報体(エイドス)の偽装を分解する。その直後、拳銃を構える仮面の魔法師の姿が幻のように溶け、その奥から一校の留学生であるリーナが姿を現す。彼女が自分の姿を視認されたと同時に彼女は五発の弾丸を打ち出すがそれが達也に届くことはなく、すべて塵に分解される。

 

 続けて彼女の持つ銃を分解され、さすがに動揺を隠しきれなくなったリーナ。そんな彼女に対して達也は声を上げる。

 

「よせリーナ! 俺は君と敵対するつもりはないっ」

 

 そんな達也の言葉に進は小さく動揺を見せた。まさか今まで遭遇してきた仮面の魔法師がリーナであるとは思わなかったのだ。もしやとは思ってはいたのだが、彼女の学校での雰囲気と、戦場で見せた雰囲気があまりに違っていたため確信を得ることができていなかった。加えて進の斬る相手の正体なんぞ、別にどうでもいいという意識が確信を得る気がないという方向に進めていた。

 

「え?」

 

 それをはっきりと声に出した進。しかし彼の言葉は二人には届いていない。達也の言葉に青い瞳にキツイ光を宿すことで応えたリーナはスローイングダガーを握り達也に向かって突進する。それを迎撃するため彼女に指弾を打ち出す達也であったが、それはリーナに当たることなくすり抜ける。指弾をすり抜けたリーナはそのままナイフを振りかぶると、スローイングダガーを投げつけた。達也の認識から一メートルずれた場所に飛翔するスローイングダガー。九島家の秘術「仮装行列(パレード)」に毒づく達也。

 

 その一連のやり取りを目の前でやられた進は一瞬考え込む。果たして彼女に対して攻撃を仕掛けていいものか。一応彼女はクラスメイトであり、USNAからの留学生である。加えてスターズの大隊長。そんな彼女を襲って国際問題にならないかと一瞬考えるが、すぐに答えを出す。

 

 「ま、いっか」という無責任かつ適当な答えで結論付けた進は二人に向かって走り始める。それに気づいた二人は同時に彼に視線を向ける。走りながら杖を振り上げ、二人との距離が五メートルのところまで詰めたところで、進は虚空に向かってそれを振り下ろす。達也から()()()何もない場所に杖を振り下ろしただけ。しかし、達也はその意図をすぐに理解した。進が杖を振り下ろした場所にリーナがいる。

 

 完全に自分の位置を理解しているかのように的確に振り下ろされる杖を動揺しながら回避するリーナ。杖を振り下ろした進はそこからさらに踏み込むと手首を返し勢いそのままに切り上げる。佐々木小次郎の燕返しそのままに二連撃を振るった進。リーナは斬り上げを一撃躱しきれずに前髪に二、三本落とす。後ろに重心が移動し、倒れこみそうになる。それと同時に空っぽの立体映像が体勢を崩す。

 

 達也はそこを見逃さなかった。進の攻撃している位置と、立体映像の体勢をすり合わせた達也はリーナの額辺りに本日二回目の指弾を打ち放った。目論見通りにリーナの額を捕らえる指弾。それをうけたリーナは不意に受けたことで「キャン」と雰囲気にそぐわない声を上げながら尻もちをつく。 

 

 その直後で進はCADを操作し、公園全体に領域干渉を発動する。進の領域干渉に塗りつぶされパレードを解除させるリーナは達也に物理的に姿が見える形で彼らの前に姿を現す。

 

「どうして……、どうしてパレードを見抜けるの……」

 

 二人に見下ろされる形で地面に座り込んでいるリーナは進を睨みつけながら胸に抱いた疑問を投げかけた。悠々と彼女の前に立つ進は、隠す理由もないため、彼女の問いに答える。

 

「刺すような気配が漏れ出ていたので。あとは直感で」

 

 進の人外じみた答えに目を見開くリーナ。そんな彼を見て溜息を吐く達也。

 

「進を自分たちと同じと思わないほうがいいぞ、リーナ」

 

「それよりこれ以上斬らないほうがいいですよね」

 

「当たり前だ」

 

 そういった達也はリーナの仮面に手を伸ばす。慌てて立ち上がり距離を取ろうとするリーナであるが、いつの間にか彼女の側面に回りこんでいる進に足を払われ、再び転倒する。左手の指を動かそうとするが進の放った加重魔法で地面に手を縫い付けられる。手が目の前まで伸びいよいよマスクに手がかかったその瞬間、リーナは叫び声をあげる。

 

「アクティベイト、『ダンシング・ブレイズ』!」

 

 彼女の叫びとともに吸血鬼、進に投擲済みのダガーが動き出し、達也に殺到する。二本が右腕、残りの三本が彼の右肩、脚、左腕に向かって飛翔する。急所を外したダガー。当たれば死ぬことはなくても確実に戦闘不能になるだろう。

 

「危ないもの持っていますね、リーナさん」

 

「助かる」

 

 しかし、それは当たればの話である。素早い動きでナイフの飛翔経路に割って入った進はそれを指の間で挟み取っていく。片手で五本のダガーを掴み取った進は、その五本のナイフを空中に投げるとオルガノンを起動、すべて鉄片へ変化させた。そんな彼に一言感謝を告げた達也は再びリーナのマスクを引き剥がしにかかる。高速で飛翔するダガーをすべて掴み取り破壊した進の動きに不覚にも見惚れてしまったリーナは思考が鈍り判断が遅れてしまう。

 

 達也にマスクを引き剥がされついにその美貌を露わにするリーナ。その直後、彼女はその口から絹を裂くような悲鳴を上げる。それに慌てて二人はびくりと肩を揺らした(揺らしただけで別に動揺はしてない)。

 

 本来であればその声を合図として彼女の仲間が現れるはずだったのだろうが、彼らが姿を見せることはない。何が起こっているのかわからないまま、リーナは悲鳴を上げ続けるが仲間が姿を現すことはない。それを横目に見ながら進は落ち着いて遮音障壁を展開し、外界に彼女の悲鳴が届かないようにする。

 

「申し訳ございません。近くにいた怪しい人物でしたら二名ほど倒してしまいました」

 

「手が早いのか。それとも偶然か?」

 

「偶然ですよ。ナイフで突き殺されそうになったので行動不能にしてきただけです。何人いるかは知りませんが、今頃その二人の確認でもしているのでは?」

 

「おそらくそれらしい格好をしているだろうが、進には見えなかったのか」

 

「警官の格好でもしていたんですかねぇ」

 

 進に仲間を倒されたことを知りへたりこむリーナを横目に二人は呑気に会話を繰り広げる。その後遅れてやってきた深雪たちを加えた四人に囲まれ行動をとれなくなったリーナ。四人はそのままこれから彼女をどうするかの相談を始めた。

 

 

 




いやーアニメの進み速いですね。もう来訪者編の二巻の半分ですよ。
……これうっかりダブルセブン編いかねえよな? まあ、書く気ないからいいんだけどさ。


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第二十一話

 リーナが逃げないように取り囲みながら彼女の処遇を話す四人。その最中、深雪がリーナから目を離すといったトラブルがあったが、進、達也、そして達也の体術の師匠で忍術使いである九重八雲に睨みを効かされることで彼女を制止させる。 

 

 その後も訊問でリーナから情報を引き出そうとする達也。それに対して反骨心を見せるリーナ。話が平行線をたどろうとしたところで達也が一つ提案するのだった。

 

「リーナ、フェアに取引と行こう。一対四がずるいというなら、一対一で勝負と行こうじゃないか。君が勝ったら今日のところは見逃すことにする。その代わり、俺がかったら訊かれたことに正直に答える。これでどうだ?」

 

 しかし、達也の提案はリーナに対して何のメリットもない。自分の正体は知られたままであり、敗北すればすべてを正直に話さなければならない。彼女を取り囲んでいるのは一対一でも勝利できるかどうか怪しい人物だけである。全く釣り合っていないものであった。しかし、彼女に断ることはできない。これを断れば少なくとも絶大な戦闘力を持つ兄妹二人と、最悪の場合囲まれている四人を同時に相手取らなければならない。このほうが最悪である。

 

「……わかったわ」

 

「あ、じゃあ私が……」

 

「待ってください! お兄様、リーナとの勝負は私にお任せくださいませんか?」

 

 リーナが提案を飲むと同時に進が対戦相手を立候補しようとするが、それを遮る形で深雪が口を開いた。彼女の口から飛び出したのは兄に対する深い愛情と自らの完全勝利を告げる不遜な言葉だった。それに対して敵愾心むき出しで応答するリーナ。そんな二人に意識を向けながら唇を尖らせている進をなだめるように達也は肩を叩く。

 

「悪いが今回は深雪に譲ってもらうぞ。相手は今度してもらえ」

 

「こういう時じゃないと本気でやってもらえないじゃないですか」

 

()()を本気で使うつもりか?」

 

「意外と繊細な使い方もできるんですよ。一つだけでもかなりの威力はありますしね」

 

 バチバチと火花を散らせている二人を他所に緊張感のない雑談を繰り広げる達也と進。その二人に気配をスススと近づいていく八雲。彼が二人の背後一メートルのとこまで近づいたところで二人は示し合わせたようにぐるりと体を回転させる。

 

「どうかしましたか師匠」

 

「おおう。二人ともぴったり振り向かないでくれよ。びっくりするじゃないか」

 

「背後に回られたらそっちに意識が向くのは当然でしょう」

 

「いやはやどちらもすごいね。ある程度手を抜いていたとはいえバレるような気配の消し方をしているわけじゃなかったんだけどね。いやいや、風間君の息子はまだ一度もお目にかかったことがなかったからね。一度お目にかかってみたかったのさ」

 

「ああ、あなたが父の師匠である九重八雲様ですか。初めまして、風間進といいます」

 

「んー、丁寧なあいさつどうもありがとう。それにしても君の持つその杖、やっぱり特異な気配を発しているね。オーパーツに近いのかな?」

 

「研究者の方々が言うにはそうらしいですね。現代技術じゃ再現不能なものらしいです」

 

「まあそれはそうだよねぇ」

 

 その後、二人の戦いのために場所を移す五人。進は八雲とともにリーナを挟み込むような形でモーターセダンに腰かけている。しんと黙り込み車が止まるのを待ち続ける進。その最中、リーナから緊張の高まりが感じられ少しだけ緊張感を高め、杖に手を掛ける。

 

「大丈夫だよ進君。彼女が僕の行動を勘違いしただけだよ。だから杖に手を掛けないでくれ」

 

「だったらいいんですが。勘違いされるほうが悪いのでは」

 

「まあ、そうかもしれないけどね。僕にはそんなつもりはないんだよ」

 

 気楽な口調で会話を繰り広げる二人の間で縮こまっているリーナ。黙り込んでいるだけの状態が辛くなった彼女はこんな状況であるにもかかわらず情報を引き出そうと口を開く。

 

「ねえ、シンの持ってるその杖、話に聞く感じだと普通の杖じゃないみたいだけどそれは一体何なの」

 

「んー、話してもいいんですかね。まあ困ることでもないので大丈夫でしょう」

 

「いいのかい。結構すごいものだと思うけど」

 

「まあ、話したところで特にせんのない事でしょう。父にも口止めしろとは言われていませんし」

 

 八雲の忠告に対してゆるゆると返答した進は、一瞬口をつぐむと杖について話始める。

 

「そうですね。この杖はオーパーツのようなものらしいのですが、魔法じゃない方法で刃を出して斬りつける攻撃が出来るんです。杖の方も仕込み杖になっていまして」

 

 あっけらかんとした口調で杖の詳細を話した進。それに対してリーナが愕然とする。オーパーツとなれば世界中の軍事機関が喉から手が欲しいほどに貴重なものであり、秘匿すべき情報である。それをあっさりと話すなど本来であればあり得ない事なのだ。

 

「やっぱり話さないほうがよかったんじゃないかい。リーナ君があっけに取られているよ」

 

 八雲の言葉でリーナは現実世界に帰還する。が八雲の言葉を聞きながら、進は続く言葉とともにあっさりと流してしまうのだった。

 

「大丈夫でしょう。使おうとすれば死ぬかもしれない杖なんて使いたくないでしょう?私も目を失いましたし」

 

 進の言葉で車内が静まり返る。その直後、三人を乗せたセダンが停車する。セダンの止まった場所は都内の河川敷でライトがなければ何も見えないほどに真っ暗な場所であった。

 

 河川敷に五人に集結するとリーナと深雪の二人が再び火花を散らせ始める。

 

 八雲を審判として二人の試合が始まった。先制し深雪に攻撃を仕掛けようとするリーナであったが彼女の攻撃は深雪が速度を優先させた攻撃によって出鼻をくじかれる。それに歯を噛み締めたリーナは気持ちを切り替え自己加速術式で深雪の側面に回ろうとする。

 

 しかし、深雪はわかっているかのようにリーナを意識上で捕らえると彼女の得意とする減速魔法を発動し、リーナを自分の領域に引き込もうとするが、リーナは何とか踏みとどまり次に備えて思考を整える。

 

 彼女を引き込めなかったことをすぐに理解した深雪は減速魔法を解除することで押しとどめられていた空気を放出させる。爆風と同義の威力で放たれた空気を魔法の多重発動で堪えたリーナは武装デバイスを取り出し、それを振るいそれを引きつけると、直後に進たちに対しても使ったダガーで奇襲をかける。それを深雪の全周防御用の魔法で受け止めるとダガーにかけられている運動をかき消してしまった。

 

 そんな二人の高度な攻防を見届けた進と八雲は声を上げる。

 

「すごいですねぇ、あの二人。私にはあんなに高度な戦い出来ません」

 

「そうなのかい。魔法力だけなら君もできそうだけどねぇ」

 

「目が見えなくて攻撃魔法がうまくできないんですよねぇ。最近はなんとなくましになってきているんですが」

 

「二人とも呑気に話をしていないでください。来ますよ」

 

 達也のふたりをたしなめるような言葉と同時にリーナと深雪の大魔法が発動される。晶光煌く氷雪の世界と、雷光瞬く炎雷の世界で世界が塗り替えられ、地獄が発生する。深雪の放った「ニブルヘイム」とリーナの放った「ムスペルスヘイム」はお互いにぶつかり合いながら世界を塗りつぶしあう。

 

 しかし、時間が経つにつれてどちらが優勢であるかが明白となっていく。冷気の世界がじわじわと勢力を拡大していき、プラズマの世界は徐々に勢力を弱めていく。深雪は広範囲を制圧することに長けた魔法師であり、リーナは単体に対して魔法を作用させることで絶大な効果を発揮させる魔法師。ならばこの戦いでどちらが有利であるかはもはや明確であるだろう。

 

 それを理解しているリーナも悔しそうに声を漏らす。そして彼女は背中に収められた武装デバイスに手を伸ばした。この状況で他の武装デバイスを使うことは自殺行為。実質的にこの世界の塗りつぶしあいに敗北したといったようなものだった。彼女の実質的な敗北宣言と同時にこの戦いが成立しなくなったと判断した達也は手に握るCADの引き金を引き二人の発動している魔法式を消し飛ばした。

 

 彼が引き金を引くと同時に制御されていた冷気と炎雷が瞬く間に弾け、矛盾した二つの空気が達也に襲い掛かろうと迫りくる。それは隣で観戦していた進にとっても同じ。このままでは自分もまきこまれると判断した進は、オルガノンを発動させ、ブレードで自分と達也、八雲たちと空気を隔てるように壁を作った。それと同時に達也の前に不可視の障壁が張られ、進のブレードともに手厚く防御される。

 

「お兄様、何て無茶をなさるのですか!」

 

 彼の前に障壁を張った深雪が悲痛な叫びをあげながら駆け寄ってくる。その後ろでは進のブレードの後ろで腕を組みながら眉間に皺を寄せていた。

 

「いやはや達也君、これどうするんだい?」

 

「師匠……、どうする、とは?」

 

 八雲の苦言は深雪とリーナの勝負をぶち壊してしまったことに対してのものだった。この勝負には一対一であることが条件であり、達也が介入することでその原則が崩れてしまったのだ。勝負が成立しなくなってしまい、リーナとの条件も成り立たなくなってしまう。自分のやったこととはいえ、どうやってこの事態を収束させるか悩む達也であったが、救いの手は意外な場所から向けられる。 

 

「ワタシの負けでいいわ」

 

 リーナが自らの敗北を認めたような言葉を発する。あのまま続けていればリーナが負けていたのは明白であったからだ。そのことを客観的に理解していたリーナは無駄な悪あがきをすることなく、そのことをはっきりと認めた。 

 

 しかし、敗北を認めることと条件をそのまま飲み込むことはなかった。

 

「ただし、答えは『イエス』か、『ノー』よ。それで答えられない質問には答えないから」

 

 達也が介入したことを餌に条件の変更を突きつける。達也としても介入したことに負い目があるため、ノーとは言えない。敗者と思えないほどのいい笑顔を浮かべるリーナに対して達也は頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十二話

 リーナと深雪の対決を見届けた次の日、進は日曜であるにもかかわらず学校に呼び出しを受けていた。呼び出し主は司波達也。呼び出しの理由はパラサイトの捜索に関しての情報を共有するため。レオが遭遇した一件から幾度となくパラサイトに遭遇した進は現状で最も情報を持っていることになる。そんな彼から情報を聞き出さないわけにはいかない。

 

 呼び出しを受けた進が約束の生徒会室に入るとそこには既にエリカ、幹比古、克人、真由美、達也、深雪が勢ぞろいしている。どうやら進が一番最後の様だった。全員がそろったことを確認した達也は全員に着席を促し、情報共有の話し合いを始める。

 

「昨晩、三時間おきに特定パターンの電波を発信する合成分子機械の発信機を吸血鬼に打ち込みました」

 

 早速達也の口から飛び出した爆弾発言に進を除いた四人から少なからず驚きの感情が漏れ出す。どこでそんな高度なものを入手したのかという疑問などが主であるがそれはさておき。達也としては念のための手段であったのだがとんだ計算違いで使わざるを得なくなったのだから。まさか、進が乱入してきて戦闘をかき乱していくとは思わなかったのだ(とはいえ、進のおかげでリーナとの戦闘が楽になったのは本人も否定できない事実である)。

 

 驚きからか悔しさからか真由美やエリカから声が漏れる中、達也は言葉を続ける。

 

「我々が追いかけている吸血鬼の正体ですが、USNA軍から脱走した魔法師のようです」

 

 達也の一言で四人が議論を深めていく中、進は一言も話さずに黙り込んでいた。わかっていないのではなくあえて何も話さないでいたのだ。これはこの後さんざんじゃべられることに対しての予感だったのかは本人にも分からなかった。

 

 自分の持っている情報をすべて出した達也は後のことを五人に任せて深雪とともに退室しようとする。それを見送った五人は別の話題に移る。

 

「それでは風間。お前がパラサイトと遭遇した時の話を聞かせてもらおうか」

 

 話を切り出したのは克人。色々とかみ合っていない場の面々を慮っての措置だったかは知らないが、それでも話を始めやすくなる。克人の一声できっかけのできた進は、パラサイドと遭遇した時の状況を話始める。

 

「では最初に遭遇した時、はもうお知りになられていると思うのでその次に遭遇した時の話を」

 

 進はパラサイトと交戦した際の話を始める。その話に介入する形でエリカたちの補足が入り、非常に滑らかに話が進む。しかし、生徒会室の雰囲気が良くなることはなく相変わらず重い雰囲気であった。

 

 そんなことを気にも留めずに進は昨日の交戦状況を話始める。

 

「次に昨日の交戦状況を」

 

「待って。昨日パラサイトを見つけていたの!?」

 

 進の言葉を遮る形でエリカから横やりが入る。それも当然と言えば当然である。昨日いきなりいなくなったかと思えば、パラサイトと交戦したとなれば突っ込みを入れざるを得ない。

 

「ええ、パラサイトと赤髪の魔法師の戦闘に介入する形で交戦しました」

 

「それって確か達也君も交戦していたパラサイトだったわよね」

 

「そばでは達也さんも機会をうかがっていたみたいですね」

 

 達也並みの爆弾発言を明け透けとした態度で伝える進。エリカはいらだったような視線で進を睨み、真由美はその奔放さに溜息をつく。幹比古はさらに悪化した雰囲気に胃を痛め、克人は特に動じない。

 

「それで交戦したのですが……、あれはもうダメですね。さんざん叩いたせいで私を見ると一目散に逃げだすようになってしまいました」

 

「未確認の存在を相手にそこまでやったの……」

 

 さらなる追撃に真由美は呆れたような、ドン引きしたような声を上げる。未だに進を睨みつけていたエリカは不満げに頬を膨らませている。そんな二人を他所に進は話を続ける。

 

「十文字さん。私も捜索に加わったほうがいいでしょうか?」

 

「いや、これは本来十師族と警察の問題だ。これ以上一般人が関わる必要は無い」

 

「わかりました。では私は独自に動いて」

 

「いや、じっとしておいてくれ。お前が動くとこちらの計画に誤差が生じかねない」

 

「うーん、いまいち納得いきませんがわかりました。()()()家でおとなしくしておくことにします」

 

 克人と怖いもの知らずのやり取りを終えた進は、立ち上がると自分の持っている情報をすべて伝えたことを伝え、生徒会室を後にした。その時、幹比古が助けを求める視線と、エリカが何かを訴えるような視線を向けていたがそれに進は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わざわざ日曜日に出てきてただで帰るのを嫌った進は、剣術部に顔を出す。剣術部の面々のバチバチとした気配を感じ取りながら進は手始めに桐原達剣術部十人をメタメタにした。十人がかりでも傷一つ追わせることが出来ないふがいなさを感じながら、十人がかりであれば何とか相手をできることに自身の成長を感じる桐原達。以前の彼は二十人でかかっていって傷一つ追わせることが出来ずにボッコボコにされた過去がある。それを踏まえれば二分の一の人数である程度戦えるようになったのは成長だろう。もう彼らに大人数でかかっていって恥ずかしいなどという気持ちはなく、ただひたすら進の技術を盗みたいという気持ちでいっぱいだった。 

 

 のされた桐原達を移動させた進は、次は残った剣術部の面々に顔を向けた。次は俺たちかと溜息を吐きながらもどこか嬉しそうにしている彼ら。しかし、彼らが進の相手として戦うことはなく、体育館に音を立てて入ってきた人物によって妨げられる。

 

 バタンと快音を立てながら体育館に乱入してくるエリカ。その表情は非常に不満げであり、余計なことをいえば斬ると言わんばかりの殺気を放っていた。これには体育館にいる一部を除いた面々は笑うこともできずに縮こまる。今のエリカは怒り心頭。いつの間にかいなくなっていたかと思えばパラサイトと交戦していたという進に振るえるほどの怒りを覚えていた。

 

 礼もなしに体育館に足を踏み入れたエリカはどたどたとわざとらしく足音を立てながら進に歩み寄っていく。足音の正体がエリカであることに気づいた進は黙って立ち尽くしている。二人の距離が手を伸ばせば届くところまで近づいたその瞬間、エリカはスカートであることを気にせずに足を大きく振り上げる。そして、その足を進の脛めがけて振り下ろした。色男であればこの一撃を反省の一撃として享受するのであろうが、進には反省など一切ない。振り下ろされた足の前に自身の足を差し出すと、彼女の蹴撃を受け止めた。彼女の足を傷つけないようにクッションのようにして使うことを忘れていない。

 

 しかし、エリカの怒りは収まらない。降ろした右手を斜め下から顎めがけてアッパーのようにして振り上げる。同時に左手を進の腹部に向かって突きだす。しかし、この二つの同時攻撃も進は余裕のある様子で受け止め防御する。

 

 両腕を抑えられ、思うように行動をとれなくなったエリカは進の手を振り払おうとするがここで離せばまた攻撃が飛んでくることが分かっている進は離そうとせず、逆に握る力を強くする。逃げられないと悟ったエリカは肉体攻撃をやめ、言葉での口撃に移行する。

 

「ねえ、アタシたちって足手まとい? あたしたちだってそこまで弱くないわよ」

 

 エリカの怒気のこもった言葉に受け流した進は彼女の納得できるような言葉を選びながら問いかけに応える。

 

「いいえ、エリカさんは十分強いですよ。昨日のは単なる私のわがままです。決して足手まといなんてことは」

 

「でもトレーサーシグナル切ってたってことはやっぱり邪魔だったんじゃないの」

 

「まあ、確かにそうかもしれませんね」

 

 この言葉が発せられた瞬間、「頭数減りますし」という進の補足を断ち切るように、エリカの「バカ!」という罵倒のオマケつきの頭突きが進の胸部に直撃する。両腕でエリカの両腕を抑えていた進は咄嗟の防御を取ることが出来ずに彼女の頭突きを受けてしまう。幸い大した威力でなかったが痛みに悶えるということはない。逆に頭突きをした張本人が少々痛がっている始末である。患部をさすりたくてもさすれないエリカは先ほどの勢いが嘘のように落ち着き、怒気の薄れた声で進に要求を告げる。

 

「もう何もしないから離してくれる?」 

 

 進は彼女の言葉を信用して手を離した。直後、進の脛に衝撃が奔るが非常に弱い一撃であり、約束を破ったと追及するのもあほらしいほどの一撃であった。

 

「……そうよね。進君を制御しようとする私たちがバカだったのよね。自由にやらせておけば自然と結果出すんだから勝手にやらせておけばよかった。……なんかさんざんやりたいことやったらだいぶすっきりしたわ」

 

「ならよかったです。後にしこりが残るのは厄介ですから」

 

「あんたのせいよ!」

 

 進の煽るような口調を聞き、エリカは再び怒りを覚え進の足に踏みつけを放つ。それを足を引くことで回避する進。「一度くらい黙って食らったっていいじゃない」と思うエリカであるがそんなことを行っても彼が聞かないことを彼女は知っている。もう何も言うことはない。

 

「それに初めて進君に一撃加えられたからね。今回はそれで許してあげる」

 

「そういえばエリカさんから攻撃を受けるのは初めてでしたね」

 

「それじゃ今日もやりましょうか」

 

「そうですね。まあその前にこの空気をどうにかしたほうがいいかもしれませんが」

 

 進に言われてエリカは周囲を見回した。周りにいる面々はどこか妙な、具体的には甘ったるい雰囲気を放っていた。突然乱入してきて進に攻撃を加えるエリカ。二人のやり取りは傍から見て痴情のもつれに見えても不思議はないのだ。桐原と壬生という前例がある以上、この二人がそういう関係になってもおかしくない。そう考えたうえで彼らはそういう空気を発しているのだ。

 

 しかし、エリカはこの空気を訂正しようとはしなかった。人の噂も七十五日というしどうせいつか消えるものだと考えている。この空気などどこ吹く風でエリカは進との試合を始めようと許可を取るために駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、登校した進はリーナと顔を合わせるが特に気にした様子もなく授業を受ける。最もリーナの方は進のことをどことなく警戒しているそぶりを見せていたが、進がそれを気にするそぶりはない。そんな感じでつつがなく日常が進み、昼休みになる。特にエリカや達也たちから呼び出しを受けていない進は、いつものように校内を散歩し始める。

 

 しばらく歩き続け、そろそろ腰でも下ろそうかと思ったその時、彼の直感が校内に侵入する妖しい気配を察知する。幾度となく捉えたその気配、三度も逃げられたパラサイトのものであると直感した進はまだ薄いその気配を辿りパラサイトのもとへ走り始めた。

 

 

 



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第二十三話

 搬入口付近で様子を伺いあうUSNA陣営、パラサイト捜索部隊の克人、エリカ、幹比古と付き添いの美月、司波兄妹。その三勢力の睨み合いは幹比古の知覚阻害の結界が張られた瞬間に崩れ去る。一番最初に動いたのはエリカ。達也に嘆息されるほどの持ち前の速さを活かしてリーナたちに跳びかかると白刃を薙ぐ。その一撃を彼女の友人であるミアを吹き飛ばしながら回避するリーナ。躱された後、エリカはリーナには目もくれずにミアに武装デバイスの切っ先を向けた。

 

 そんな彼女を吹き飛ばそうとするリーナであったが彼女の魔法は克人の発動した障壁で妨げられた。ほんの短い時間に行われた一瞬の攻防。これを乗り越えたエリカの小太刀がミアに届こうとしたその瞬間、リーナたちの目を疑うことが起こる。ミアがエリカの小太刀を素手で受け止めたのだ、CADを使わずに防壁の魔法を使って。

 

 その直後、リーナの耳内の空気が揺れ情報が伝えられた。

 

「例の白覆面、正体がわかりました! ミアだったんです! 白覆面の正体はミカエラ・ホンゴウです!」

 

 それを聞きリーナはショックを受ける。ルームメイトであり、今まで気さくにおしゃべりをしていたはずの人物が今まで何度も戦闘を繰り広げた白覆面のパラサイトだったとは思いもしなかったのだ。

 

「――ミア、あなたが白覆面だったのですか」

 

 リーナはショックのあまり声を漏らす。彼女に対して視線を向けたミアの瞳は周囲を警戒する、冷淡で非人間的なものだった。が、そのすぐ後に彼女の瞳に人間味が戻る。その色は恐怖と怯え、彼女の斜め後方からやってくる自分以上の怪物に怯えていた。それを確認するために反射的にその方向を向いてしまい、周りの全員の視線がそちらに向く。視線の先、そこには人間とは思えないほどの速度で駆け寄ってくる進の姿があった。ミアの正体が白覆面であるならば、彼女は相当進に痛めつけられていることになる。トラウマになるレベルでやられた彼女はもう彼を見ただけで逃げ出したくなるほどの恐怖を植え付けられていた。

 

 知覚阻害の魔法などないと言わんばかりに走り寄ってくる進。その姿を見たミアは周囲のことなどお構いなしに逃げ出そうとする。しかし、それに進の接近に感づきそれに合わせてミアの身体が一瞬硬直したことに気づいたエリカが許さない。一瞬のうちに間合いを詰めるとミアの太腿を斬りつけ動作を遅らせると同時に体勢を崩させた。

 

 その間に集団の中に駆け付けた進は即座にミアに攻撃を始める。しかし、進の威力であれば頑丈なレオですら二、三発でノックダウンさせられる。女の身体であるミアなど一発で叩きのめせる。進は肩口に杖を全力で振り下ろすと、彼女の鎖骨が見るも無残に砕け散りその衝撃でミアの身体がその場でバウンドする。痛みで完全に行動を停止し、倒れ伏したミア。それを傍らで見守っているリーナは一瞬のうちに行われた二人の連携に何が起きたのかがわからないと言わんばかりの表情をしている。

 

 倒れ伏したミア、もといパラサイトに止めを刺そうと杖を振り上げる進。それを視認したリーナは彼を吹き飛ばそうと反射的に魔法を発動した。しかし、彼女の魔法が進に当たることはなく、逆に進がミアに止めを刺すこともなかった。進は振り上げた杖をそのままに後方に大きく跳び退り、止めを刺すのを止めたのだ。

 

「どうしたの! 早く止めを!」

 

 珍しく躊躇いを見せた進にエリカが急かすような声を上げる。しかし、進が止めを刺すことはなく、逆に代わりに止めを刺そうとしたエリカを制止する。

 

「ダメです。勘ですがあれには止めを刺してはなりません。殺すことなく動きを止めるような方法でなければ……」

 

「そんな悠長なことやってる場合じゃないでしょ! 早く終わらせないと」

 

 二人が言い合っている間にもパラサイトは立ち上がり折れた鎖骨を修復していく。確かに悠長なことをしている暇はなくどうにかしてこの場を納めなければならない。しかし、進の勘は彼女を殺してはいけないと言っていた。

 

 二つの思考の中で板挟みになっている進。どうやってこの場を収めようか迷っていると突然ミアに冷気が襲い掛かり彼女の身体を凍結させた。氷の彫像と化したミア、彼女の行動が停止したことで進が思考する必要がなくなり、構えていた杖をゆっくりと降ろす。

 

「助かりました、深雪さん」

 

「いえ、この程度であれば」

 

 USNA勢力とパラサイト捜索隊勢力の間に司波勢力が乱入してくる。進はミアを凍結させた深雪に小さく頭を下げると深雪もそれに応じるように小さくしかし丁寧に頭を下げた。

 

 さて、司波勢力とパラサイト捜索隊勢力が言い合っている間、進はミアの彫像とリーナに意識を向けていた。しかし、彼はわざわざ彼女らを見張っているわけでなく、話についていけなかったから手持無沙汰になり彼女たちに意識を向けているだけだった。氷の彫像の前に立ちそれを見つめていると、氷の彫像が妙な動きを始める。体の奥底から小さく光を放ち、その光が徐々に大きくなっていく。進にはそれを視認することはできないが、彼女の身体に異変が起こったことがすぐに理解できた。

 

 そのことには他の面々も気づく。それが放出系の電撃であることを理解した面々はそれぞれ防御態勢を取る。他の面々が防御態勢を取る中、進は後方に大きく跳ね退るとオルガノンを起動させ、全員の前に刃を重ね盾として機能させる。しかし、ミアの身体が彼らに被害をもたらすことはなく、ただ炎として崩れて消えた。

 

 しかし、その直後何もないところから魔法の電撃が放たれた。それが達也たちに命中することはなくすべて防がれるが電撃は散発的に絶え間なく全員に降り注いでいく。進にも例外なく電撃は襲い掛かるが、彼は近くにいたエリカの手を引くとオルガノンの刃のドームの中に閉じこもった。わざわざエリカの手を引いて彼女もドーム内に入れたのは偶然ではない。幾度となく手合わせを行ってきた進は彼女がこういった攻撃、また対象に対しての防御、攻撃手段が非常に少ないことを知っていたからだ。このまま彼女を晒し続ければ一方的に危険にさらされ続けることになる。だからこそ進はエリカをドーム内に閉じ込めた。

 

「ありがとう、助かったわ。でもこのままじゃ……」

 

 急に腕を引かれたことに一瞬戸惑ったエリカであったが、それが自分の身を案じての物だと理解し礼を言う。しかし、同時に小さく舌打ちを打った。今のエリカにこれを止める手段はなく、ドームの外で抗っている達也たちもどうにもできていなかった。このままではじり貧になりかねない。どうにかしてこの状況を動かさなければならない。しかし、エリカにはこの状況をどうこうするだけの力はない。

 

「進くん、この状況をどうにか……、って進くん?」

 

 エリカは隣で刃のドームに閉じこもっている進に視線を送りながら問いかける。しかし、進から返答がかえってことはなく、彼はこの状況で静かに息を整えながら杖を片手に直立の体勢を取っていた。

 

 エリカは続けて問いかけ肩を揺らすが、それでも反応すら見せない。既に進の意識の中にエリカはなく、達也たちの存在も攻撃も何もかもが消え去っていた。自分の身体から発せられる心臓音や呼吸音しか感じられなくなるほど集中が高まっていき、やがて心臓音すら聞こえなくなる。そして、彼の中が闇一色になり音も匂いも肌の感覚も何もかにも感じなくなったその瞬間、彼の闇の中に一筋の光が現れる。それが何かは細かく言う必要は無いだろう。

 

 極限の集中の中でパラサイトの本体を見つけた進は身を屈めると抜刀術のように杖を体の横につけた。そしてスタートの合図だと言わんばかりに刃の隙間から息を吐くと、ドームの一部を開き、外に飛び出した。

 

 当然電撃は進に襲い掛かる。彼を囲い込むようにして前後左右三百六十度に配置される電撃の球、それが同時に襲い掛かる。しかし、それらが進の行動を止めることはない。オルガノンの刃に乗り上方に弾け飛んだ進はパラサイトの宿主の方向に向き直り、空中でアクションを開始した。

 

 オルガノンの刃を足場としてパラサイトに向かって跳躍すると両手を杖にかける。そして隠された剣を抜刀するとその剣を頭上に掲げた。そしてそれは一瞬の間を置くことすらなく、空気を切り裂く音すら立てずに、時が止まったかのような滑らかさで振り下ろされた。

 

 彼の者の杖は刀身はすべてを切り裂く魔性の刃。実体のみを切り裂く刃とは違い、それは魔法式であろうがこの世ならざる者であろうがすべてを切り裂き、もしも生身の人間を向ければ修復不能の傷を与える。このあまりの世の理から外れた威力から進はこの刃を露わにすることを忌避してきたが、目の前にいるのはこの世ならざる者。それも敵対して攻撃を加えてきている。これならば抜いても問題ないと判断し進は刀身の封印を解放した。

 

 杖の刀身がパラサイトを通り抜けた次の瞬間、パラサイトは悲鳴を上げるように電撃をこれまで以上に密度で放出する。しかし、それは不規則で攻撃としては全く無意味なもの。今まで電撃をしのいできた達也たちにとってはしのぐことなど訳のない攻撃であった。

 

 しかし、電撃が収まりつつあったその瞬間進の身に危機が訪れる。確実に切り裂いたはずのパラサイトが最後の抵抗といわんばかりに進に対して触手を伸ばしたのだ。のが、確実に仕留めたと思っていた進もこれにはさすがに動揺を見せる。本当に仕留められたと考えていた進は、油断でも怠慢でもなく本当に来ると思わず動くことが出来なかった。

 

 それでもパラサイトの触手に体が反応する。杖に想子を纏わせると術式解体の斬撃版、術式斬壊で自身の身体に迫りくる触手の一本一本を吹き飛ばしていく。しかし、迫りくる触手の数は百本以上、それでいて多角的に襲い掛かってくる。さすがの進でも三百六十度を認識は出来ても対応はできない。

 

 空中でパラサイトの触手を捌き続けていた進。しかし、彼の頑張りも空しく、地面に着地する直前、とうとうパラサイトの触手の一本が進の身体に触れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 進に起こった異変に一番最初に気づいたのは、精霊の目で進とパラサイトとのぶつかり合いを視ていた達也であった。パラサイトの触手が進に触れると同時に本体が進に滑り込んでいったのを認識した達也は進に向かって自身の右手を向ける。このまま進がパラサイトになってしまえば、彼の身体能力、魔法力合わせて、手の付けられない怪物が生まれてしまう。もし彼がそうなってしまうのであれば、現実問題としてその前に彼を消しておかなければならない。 

 

 しかし、そんな彼の思惑を知らない者が進を殺すことを許すはずもない。達也の発動した魔法を妨げるようにして進の前に想子ウォールが張られる。展開したのは十文字克人。想子ウォールを張った彼は進に手を向けたまま、達也に向かって声を上げる。

 

「司波、何をやっている!」

 

 彼の異常な行動には克人だけでなく、深雪など他の面々も明らかに戸惑っており、エリカに至っては殺気を放っている。しかし、彼にとってこれはとても躊躇できない事態である。端的に今ある事実だけを告げると、再び魔法を放とうと右手を向ける。

 

「先ほど、パラサイトの触手が進に触れ本体が彼の中に入り込みました。彼がパラサイトに寄生されてしまえば取り返しのつかない怪物が出来てしまいます」

 

 彼の言葉で他の面々は驚きを露わにする。そして進の今の状況が非常にまずいことを理解する。ここにいる面々は進の強さを知っている。それが寄生されれば自分たちでどうこうすることが出来ない、とんでもない怪物が出来る。それがそこにいる面々の共通の認識であった。

 

 想子ウォールを分解した達也は三度、進に向かって雲散霧消を放つ。が、彼の魔法は俯き直立したままの進の術式斬壊によって破壊される。破壊されたことを認識した達也はさらに続けて三回同じ魔法を放つが、すべて斬り捨てられ進の肉体には届かない。進のうつむいたままの姿勢は全く変わらず、ひたすらに地面を見つめ続けている。

 

 魔法がすべて斬り捨てられたことを認識した達也。それを確認した深雪は彼に対して凍結魔法で進の行動を妨げようとする。しかし、それより先に進に取り憑いたパラサイトの領域干渉が発動する。進の魔法演算領域を使っているせいか、その規模は非常に大きく、彼より干渉力の低い幹比古たちは魔法を上書きされ、その領域内で魔法が使えなくなる。

 

 しかし、十文字達のような魔法力の高いものはかろうじてそれから逃れることが出来た。それよりも先に自分の立っている周りに魔法を発動することで自分の領域を確保する深雪たち。彼女らはとうとう進がパラサイトに飲み込まれてしまったと判断し、排除のための行動に移る。

 

 深雪の近くに移動し再度右手を向ける達也。そんな彼の上半身が上下に分かれるようにして真っ二つに切り裂かれる。隣で兄が斬られる様子を見せつけられた深雪は声にならない悲鳴を上げ、口に手を当て目元に涙を浮かべる。しかし、自己修復術式の使える達也は即座に自分の肉体を修復し、他の面々には斬られていないように見せる。

 

 斬られたショックで一瞬進から視線を逸らしてしまった達也は再び進に視線を向けた。彼の周りには大量のオルガノンの円が設置されており、動き出すのを今か今かと待ちわびているかのように静止している。あれが動き出してはここにいる面々が全員微塵切りにされる。そう直感的に判断した達也は再び右手を向け、何としてでも進の息の根を止めようと魔法を発動する。が、それはすべて進の杖に切り刻まれてしまう。それと同時に進の杖が天に向かって掲げられ、円の上で待機していたブレードがゆっくりと動き出し、円自体もゆっくりと広がり始める。

 

 後は進が杖を振り下ろせばオルガノンは真の力、圧倒的な殲滅力を発揮することになる。もう止められない。そう考えた達也は大きく声を上げる。

 

「全員伏せろ!!!」

 

 それと同時に達也は深雪を守るように彼女に盾のように覆いかぶさる。他の面々も達也の言葉に従い、地面に伏せた。

 

 しかし、杖が振り下ろされることはなく、ブレイドが襲い掛かってくることはない。達也が進のほうに視線を向けると、彼の肉体は抵抗しているかのように震えている。それを見て達也は進はまだ完全に飲み込まれているわけではないと考え、再び右手を向けた。しかし、今回の待機している魔法は少しものが違っていた。雲散霧消などといった分解魔法であることには変わりないが、その中には術式解体(グラム・デモリッション)といったものもある。

 

 達也が右腕を突き出し魔法を放とうしている中、進の肉体は達也のほうに視線を向けると、順手で天に向けていた杖を逆手に持ち直す。そしてその切っ先を自身の胸、心臓に向かって突き刺した。さらにそこから杖を捻り体内をズタズタに傷つける。

 

 が、それに見合った効果は発揮される。進の身体からパラサイトの本体と思しき霧状の何かが出てくる。魔性を斬り殺す刃の切っ先が心臓に突き刺さったことにパラサイトは忌避感を示し、彼の身体から逃げ出したのだ。

 

 パラサイトが進の身体から逃れたその直後、達也の右腕から想子の砲弾、術式解体(グラム・デモリッション)が放たれる。その衝撃でパラサイトは押し流され触手と本体は霧のように霧散し吹き飛ばされた。同時に達也は左手を突き出し進に再成の魔法をかけ、ズタズタになった心臓と肉体を修復した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「進くん、大丈夫!?」

 

 杖を片手に地面にうつぶせで倒れ伏した進に駆け寄っていくエリカや幹比古たち。その後ろで克人や達也たちが警戒した面持ちで見守っており、リーナは何が起こっているのかがわかっていないような表情をしている。

 

 進のもとに駆けよったエリカは彼の体を揺さぶろうとする。が、まだ彼の体にパラサイトが残っている可能性がある。もしそうなれば進の体を媒介としてパラサイトが寄生する可能性もある。

 

「触るなエリカ、まだパラサイトが残っている可能性がある!」

 

 達也の制止する声で伸ばした手を止めるエリカ。もどかしい気持ちを覚えながらエリカたちはうつぶせで倒れ伏す進を見守っていた。しかし、進はその体勢のまま、ピクリとも動かずにじっとした体勢のまま倒れている。一分以上たっても彼が起きることはなく、もしや先ほどの一撃で死んでしまったのではないだろうか、という不安がよぎり始める。

 

 その場の面々がそのようなことを考え始めた直後、彼らの周りで妙な音が響き始める。ギリギリという何かがこすりあわされているような不快な音。エリカたちが耳を澄ませ、その音の発生源を探るとその音は倒れ伏している進のところから響いていた。

 

 エリカたちが音源を察知したその直後、倒れていた進が腕を使わずに重力が存在していないかのような人間らしからぬ動きで立ち上がった。しかし、その表情は陰っておりとてもうかがえたものではない。

 

「あ……」

 

 エリカは立ち上がった進に向かって手を伸ばすがその手を途中で引き留める。理由は彼が放っている尋常ならざる気配であった。今まで揺れ動かず、全く読み取ることが出来なかった進の気配というものが今は全く違っている。彼らを濃密に押しつぶすようにして覆っているのは純然な殺気。その手の類に慣れているはずの達也でさえ、身震いするレベルで放っていた。

 

 立ち上がった進は刃を鞘に納め制服を払うと、後方で進の動向を見守っていた達也の前へ移動する。そこそこの距離を取っていたはずであるにもかかわらず、一瞬で目の前に立たれたことで達也は一瞬ギョッとするが、平静を装い対応する。

 

「達也さん。先ほどはありがとうございました。おかげで捨てた命を拾うことが出来ました」

 

 進は短く感謝の気持ちをまとめそれを伝えると、達也に背を向け校門に向かって歩き始めた。当然、それを見過ごすわけにはいかない克人や達也は彼を引き留めようとするが、彼の濃密な殺気が彼に対して声をかけるどころか手を伸ばすことすらできないほど彼らを包み込んでいた。

 

 そのまま彼の背を見送った達也たち。その後は結果としてリーナの処遇どころではなくなってしまい、彼女のことはうやむやになったまま、終わってしまうこととなった。

 

 

 

 

 




 今回は進くんドジっ子回でしたね。殺しきれなくてパラサイトに憑依されちゃうなんてね。いやぁドジっ子だなぁ進くんは。
 
 まあ、まじめな話十日くらい前にはこんな話ではなく単に進が杖ブンブンするだけの話でした。だけどある程度進にも危機みたいなのを与えたほうがおもしろいと思ったのでこうしました。まあ、逆に強化掛かっちゃってこの後殆ど苦戦しなくなりそうですが。

 次回は復帰、バレンタイン会です。つっても私にそんな甘々な話が掛けるはずもなくバレンタイン編はオマケみたいなものですが生暖かく見守ってください。
 
 それでは今日はここまで。評価感想お願いいたします。


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第二十四話

 進の身体がパラサイトに乗っ取られかけてからおよそ二週間が経過する。彼はその間一切学校に顔を出さず、どこかへ行ってしまっていた。パラサイトに取り憑かれかけ、心臓を貫いた光景を目の当たりにしていた、友人代表のエリカや幹比古が心配して彼の自宅を訪れたが、どこかへ行ってしまっているのか全く応答がない。携帯端末にメッセージを送っても帰ってくることはなく、まさに音信不通の状態になっていた。まさか、という悪い知らせを頭の一辺で思ってしまった彼らは何もできないまま、二週間という長い時間を過ごしていた。

 

 そんな中であった。進が何もなかったかのように学校にやってきたのだ。最後に一校の面々が姿を見たときの殺気に満ち満ちて、顔を見ることすらできなかったあの時と違い、以前のような薄ら笑みを浮かべており、感情が読み取ることが出来ない。同じクラスであの事件に関わっていた深雪がその姿を見たとき、うすら寒い感情を覚えたとのことである。

 

 さて、彼が学校にやってきたと聞いて黙っていない者たちがいる。昼休みになってすぐ教室を出た進の前に立ち塞がる人物たち。

 

「進。ちょっと付き合ってくれ」

 

 達也とそれに付き従う深雪が散歩に出ようと教室を出た進を呼び止める。顔を合わせづらい進としてはあまり気が乗らなかったが、説明の義務があるというのも納得していたため素直に従い、案内された小教室に入る。

 

「では改めて感謝と謝罪を。達也さんのおかげで捨てるはずだった命を拾うことが出来ました。そして申し訳ありません。私の意思でないとはいえ、杖の攻撃を達也さんたちに向けてしまいました」

 

「謝意は無用だ。進なりにパラサイトを排除しようとした結果でしかない。恐らくお前も仕留めきったと思ったんだろう」

 

「そういってもらえるといろいろとありがたいです」

 

 あえて先に言葉を発した進に続いて言葉をつづける達也。二人のやり取りは本題に入る。

 

「まず、身体の調子はどうだ?」

 

「いいか悪いかで答えるならば、相当快調ですね。これもパラサイトに寄生されかかった副作用というやつなのでしょうか」

 

 進の言葉に反応した達也は精霊の眼で進のことを確認する。そこに移る情報には進の身体にパラサイトの一辺が取り残されているというのものだった。

 

「進、お前の身体にはパラサイトの欠片が残されている。体の調子が以前と違っているのはその影響だろう」

 

「そうですか。恐らく心臓を貫いた際に肉体の一辺を切り落としてしまったのでしょう。その影響で残ってしまったのでしょうか。……ということは最近妙なものが認識できるのも副作用でしょうか」

 

「何、どういうことだ?」

 

「パラサイトに寄生されかかった直後くらいからでしょうか、世界が想子の輪郭で認識できるようになったんです。精度はさほど高くありませんが人も輪郭で捉えることが出来るようになりました」

 

 そのことを聞き、達也は思考を始める。パラサイトに寄生されかかったことで進の肉体に変化が訪れ始めており、それと同時にそれは彼が半分パラサイトのような存在になっていることを示している。このまま放置するのは危険度が高いが今の彼にはどうこうできる力はない。

 

「……パラサイトに寄生されかかって、結局されなかった人間というのは前例がない。体に妙なことが起こればすぐに知らせてくれ」

 

「ええ、パラサイトになった時には形も残らないほど消し飛ばしてください」

 

「まあ、最終手段としてそうすることにする。それよりこの二週間何をしていたんだ? エリカたちが心配していたぞ」

 

「力不足を感じたので時代遅れですが、知り合いの山で山籠もりを。肉体に変化もあったので好都合でしたね」

 

「あとでエリカたちにもあっておくといい。何を言われるかはわからないがな」

 

「一言二言お小言をもらうくらいは覚悟しておきます」

 

 ハハハと自嘲するような笑いを発する進。

 

「時間を取らせてすまなかったな。これで失礼する」

 

 小教室から出ていく達也を見送った進も小教室を後にし、さあ、散歩をしようと歩き始める。が、その直後首根っこを掴まれ小教室に引き戻される。

 

 小教室に引き込まれた進は、そのまま教室の奥まで引きずられると引き倒される。引き倒された進の前にはいわゆる怒髪天の様相であるエリカが立っていた。腕を組み怒りを表現している。

 

「えっと、エリカさんであっていますか?」

 

「そう。エリカさんであってるわ」

 

 エリカは口調だけ聞けば穏やかに捉えられるかもしれないが、その実、声のトーンは非常に低く込められた怒気は周りの空気を重くしていく。

 

「あの時いきなりいなくなったかと思えば、二週間音沙汰なしなんてずいぶんなことよ。ねえ、進くん?」

 

 エリカは思いの丈を怒りの声とともに吐き出すと進に詰め寄っていく。しかし、詰め寄られる方はいたって冷静、彼女の怒りを受け止めると冷静に応対する。

 

「いやぁ、あんな無様をさらして顔を合わせづらかったもので」

 

 軽薄に見える笑みを浮かべながら応対する進に、さらにボルテージを上げそうになるエリカであったがここで声を荒げたところでどうにもならないことはそれなりの付き合いでわかっている。心で煮えたぎる怒気を抑え込むと冷静を装って口を開いた。

 

「そう。どうせ言ってもどうにもならないだろうしもういいわ。それより体のほうはどうなの?」

 

「問題ありませんよ。今日からまたやりますか」

 

「もちろん。二週間取り返す勢いでやるわよ」

 

「それは難しいのでは……」

 

 進とのやり取りで満足気な笑みに変わったエリカは小教室を後にする。それに続くように進も小教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ~。歩きたくない」

 

「見るからに辛そうですね。やっぱりオーバーワークですよ」

 

 エリカはまるで屍のような足取りで通学路を進とともに歩いていた。あの後、進に対抗魔法を教わったエリカは自分のサイオン量と相談することなく、無鉄砲に特訓を続けたため、身体的に疲れ果ててしまっていた。ふらふらとおぼつかない足取りで歩いており、いつ倒れるか、進は気が気ではなかった。

 

「送っていきましょうか?」

 

「んー……。進くん、新しい魔法開発しちゃうなんてね。そんなに成績よくないのに」

 

 進の問いかけにエリカははぐらかし、肝心なところは何も答えない。寝ぼけているかのようなふわふわとした言葉の中に見える一本の針で突かれるような感覚を覚えた進であったが何も言わない。

 

 エリカがここまで疲弊しているのには訳がある。一つは単純なオーバーワーク。二人は二時間近くほとんど休憩も入れずに戦い続けていた。魔法も織り交ぜての戦闘であるため、その疲労度は普通の運動とはけた違いである。むしろ平気そうな顔で歩いている進がおかしいのである。

 

 もう一つが進の新しい魔法にあった。術式斬壊、想子で作り上げた剣で自分に迫る魔法式を切り裂き破壊するというものだ。進と同じ剣士であるエリカがこれに目を付けないはずもなく。彼女は進から話を聞くとすぐに練習を始め同時に特訓に導入したのだ。

 

 しかし、これが大問題であった。進は術式斬壊をほぼ感覚でやっているに近い。起動式自体はあるが想子を圧縮するとか感覚でできるでしょという他の魔法師に聞かれたら助走をつけて殴られるような精神でやっている。それをいきなり練習とはいえ実践に組み込むなど無茶である。案の定、できない魔法に集中力を奪われそれでもその魔法に力を入れるエリカは自分の体力以上のオーバーワークに走り歩くのもやっとのところまで消耗していた。

 

 その直後であった。エリカは何かに躓いたように足元をもつれさせると、そのまま前のめりに倒れこむ。疲れで動きが鈍っているのか、動作が緩慢で前に出そうとする手も非常に遅い。このままでは地面に顔面から落ちることになると判断した進は彼女の腰に手を回し倒れこむ彼女を支える。

 

「……今日は送っていきますね。一人で帰すのはあまりにも危険ですので」

 

「ん~? じゃ、お願い」

 

 そういうと彼女はゆっくりと体を起こし再び緩慢な動作で歩き始めた。進の手を借りずに歩き続けるのは彼女の武人としての意地なのだろうか。

 

 キャビネットに乗り込み、千葉家の最寄り駅に向かった二人はキャビネットを降りる。そこに着くまでの時間で多少回復したのか、エリカの動きに精彩さが戻ってくる。そこから先はさすがにトラブルの起こる余地のない近さ。ここまでで十分だと判断したエリカは一人で千葉家に向かって歩き始めた。

 

 その背中を見送ろうとする進。しかし、エリカは歩き出してすぐに立ち止まると思い出したようにくるりと振り返ると進の元へ戻ってくる。そして珍しく小脇に抱えたカバンから綺麗に包装された何かを取り出した。

 

「ハイ。義理だけど一応ね」

 

 エリカから突然手渡されたものに進は困惑する。年に一回の行事などこの男が覚えているはずがない。故に今日が何の日かも全く把握していない。彼の様子を見てそれを察したエリカは少しばかり声を荒げ、今日が何の日かを伝えた。

 

「バレンタインよ、バレンタイン。いつも稽古つけてもらっているし感謝の気持ちをね」 

 

 エリカは進に感謝の念を抱いている。さんざん試合を行いそこで手に入れた技術は確実に彼女のものとなっている。これは紛れもない事実であり、自他ともに認めるものであった。今日のことも含めて感謝してもしきれない彼女は彼にだけチョコを手渡した。まあ、別の念がないのかは彼女のみぞ知ることではあるのだが。

 

「ああ、そんな行事ありましたね。すっかり忘れてました」

 

 エリカの言葉でようやく今日が何の日かを理解した進はエリカに差し出されたそれを手に取り静かに受け取った。それを手に持った進は頬をほころばせながら言葉を紡いだ。

 

「それにしてもバレンタインに何かをもらうのは初めてですね」

 

「そうなの? 結構もらってたと思ってたわ」

 

「私こんななので女子が引いて近寄ってこなかったんですよね。昔は下駄箱なんて文化もあったらしいですが、そんな文化は廃れてますし」

 

「ふーん、ま、いいわ。渡せたし私はこれで」

 

 チョコを手渡したエリカは即座に踵を返しその場を後にしようとする。進はそれを引き留めることなく彼女の背に言葉を投げた。

 

「ありがとうございます。大事に食べさせてもらいますね」

 

 その直後、エリカは躓いたように体をよろけさせる。やはり、と思った進であったがエリカに拒否されてしまう。ふらついた足取りで歩いていくエリカの背を見送る進は、一抹の不安を覚えながらもそのままキャビネットに乗り込み、自宅近くの最寄り駅に向かった。

 

 翌日、エリカに馬鹿正直にチョコの味の感想を告げた進によって、珍しくエリカがいじられる側に回るという状況が出来上がることになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 




 次回はいきなり最終決戦に跳びます。理由は書くことがないから。
 青山霊園のところはかけるような気がすると思いますが、進を入れたら彼一人で全部が解決しかねないので書きません。ここでパラサイトを渡さないで確保してしまうと後々面倒なことになりかねないので。
 では次回で来訪者編は最後になります。来週までお待ちください。


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第二十六話

 苦いような甘いような微妙な味わいを見せたバレンタインから五日の日曜日の夜七時。進含めたいつもの面々は第一高校野外演習場の前に立っていた。理由は達也に寄せられた一つの情報であった。―――今日この時間に残ったパラサイトすべてをこの演習場に誘導する――― というもの。

 

 どこの誰ともわからない人物から送られてきた情報であるため信憑性は低いが、情報がない以上これに頼るしかなかった。それにまだそれなりに時間は残されている。ガセネタ一つに踊らされたところでさほど痛くはない、というのが達也の見解であった。

 

 さて、この件に進が呼ばれたのは戦力として十分であるから、というものだった。単体でパラサイトを圧倒できるだけの高い実力があり、周りのフォローもそれなりにできる。そして何より大体の時間で暇を持て余し、戦える相手を探しているジャンキーである。これだけ揃えば呼ばない理由はなかった。

 

 何はともあれ演習場の前に立つ面々はここへの不法侵入を試みようとしていた。彼らと演習場を仕切るフェンスを飛び越えれば演習場に入ることが出来る。そしてこの場にそれが出来ないものはいない。

 

「跳べるか?」

 

 フェンスを乗り越えられるかの確認のために達也が声を上げると面々がその声に肯定で答えていく。その場で唯一答えなかったのは進。彼だけは言葉で答える前に行動で示して見せた。彼はフェンスに走り出すとその勢いを活かし大きく跳び上がる。跳躍の勢いを殺さないようフェンスに着地すると、そのままフェンスを蹴り上げ二度目の跳躍を行う。二度の跳躍で三メートル近く地面から離れた進は、そのままフェンスの縁に手を掛け体を引き上げ、縁の上に上った。

 

「……忍者みたいね」

 

「進、俺は素の状態で跳べるかと聞いたわけじゃないぞ」

 

 彼の行動を見ていた面々は呆れたように声を上げる。重力を感じさせない華麗な動きに見惚れてしまう者。呆れたように溜息を吐く者。洗練された身体操作に素直に感嘆する者。それぞれであるが共通してすぐに復帰しそれぞれの手段でフェンスを乗り越え始めた。

 

 演習場に不法侵入した彼らは三グループに分かれ索敵を開始する。索敵に美月・ほのかの特殊技能組に幹比古の護衛がついている。実働部隊として四人と一体が一塊で行動している。進一人が仲間はずれで当然のように一人で行動している。また一人にされた進であるが、これにもしっかりとした理由がある。まず第一に彼のその圧倒的な戦闘能力である。近距離において適うものなく、遠距離でも後れを取ることはない。そして何より彼には()()()()()()()()手段がある。勝手に放逐しておくだけで勝手にパラサイトを見つけ、処理してくれる彼の存在は達也にとって何よりありがたい存在であった。第二にその機動力がある。その機動力の高さを持ってどんな場所からも即座にフォローに回ることが出来る。これを実現させる上では一人のほうが都合がいいのだ。

 

 演習場の中を一人で歩き回る進はすぐにパラサイトの気配を掴み取り、その方向に向かって走り始めた。彼の進行方向には男女一組のパラサイトが存在している。彼らも即座に向かってくる進の存在に気づき、戦闘態勢を取る。

 

 お互いの存在を認識した双方は即座に行動に移った。男の方のパラサイトは自身の持つ能力、移動術式で進の身体に直接干渉し後方へ吹き飛ばし距離を開けようとする。女のほうは既に偏倚解放を発動しており距離を開けるはずの未来の進に狙いを定めていた。しかし、進は新魔法「術式斬壊」で自身の身体に直接干渉してきた移動術式を斬り飛ばす。おかげで進が後方に吹き飛ぶことはなく、狙いを定めた偏倚解放は失敗に終わり術式を中断する。

 

 自己加速術式で自身をさらに加速しつつ、術式斬壊で自身に降りかかる魔法を切り捨てていく進は事も無げにパラサイトの懐に潜り込んだ。目にもとまらぬ速さで近づいてきた進から距離を取ろうとするパラサイトであったがそんな彼らより進のほうがよっぽど速い。

 

 男のパラサイトの懐に飛び込んだ進は杖に手を掛けると、今回は出し惜しみすることなくその煌めく刃を白日の下に晒した。輝く刃を杖から引き抜いた進は光が軌跡を描く速度で剣を振るうとパラサイトの身体を一刀両断する。胴体を二つに泣き別れさせられたパラサイトは悲鳴を上げようとするが、進はさらに三回神速の剣で体を切り刻む。稲妻の軌跡で切り裂かれたパラサイトは悲鳴を上げる暇すら与えられず切り裂かれる。肉体が機能を停止したパラサイトは体を離れようとする。が、進は第六感、本能といえる感覚でパラサイトの本体を探し出すとその本体に向かって六度もの回数、その刃を振りかざし切り刻んだ。妖魔を殺せる未知の力を持つ刃。その六撃に晒されたパラサイトは、呆気なく命と呼べる概念を失い活動を停止した。

 

「しくじらずに殺せた、か。さすがにここまでやれば殺せるか」

 

 杖を片手に切り刻まれた男性の死体を見下ろす進。その姿を見て女性のパラサイトは恐怖に震えていた。本来であれば殺すことはできず、認識することすら難しい自分たちをその得物で切り刻み、何の抵抗もできないまま同胞があっけなく死んでしまったというその事実に彼女は震えていたのだ。足が震えているのを認識できないまま、恐怖で後ずさる女性型パラサイト。そんな彼女の様子を進は見過ごさなかった。自己加速術式で半分思考停止しているパラサイトの懐に飛び込むと、容赦も躊躇いもなくその胴体に刃を横にして突き刺すとその状態から刃を捻り上に向かって切り裂いた。当然、杖の刺さった場所から上は真っ二つに切り裂かれその機能を停止する。

 

 何の抵抗もできないままに男性パラサイトと同じ運命をたどった女性パラサイト。彼女もまた彼と同じように七度の斬撃に晒され容易く活動を停止した。

 

 瞬く間にパラサイトを封印ではなく殺害した進。彼は次の目標に向かって走り始めた。一番近くに存在するパラサイトに向かって走る進。しかし、彼は突然進路を変更した。その方向にはパラサイト以上に彼の興味を引く存在が存在していた。そこに向かって走る進。その存在が自分の射程内に入ったと認識した瞬間、進は跳び上がると杖をその対象に向かって振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で国防陸軍第一師団所属の遊撃歩兵小隊、通称抜刀隊と睨みあっているエリカとレオ。そこに一人の乱入者が現れる。名を千葉修次、「幻影刀(イリュージョン・ブレード)」、「千葉の麒麟児」として世界的に名を上げ活躍し、千葉一門の師範代、抜刀隊の師匠に当たる人物であった。

 

 抜刀隊にチラリと睨みを利かせた修次はエリカに視線を向ける。睨みつけるような視線で自分に向かい合った修次に対して一瞬怯んだようなそぶりを見せたエリカであったが、すぐに復帰し強気な眼差しで見返した。気持ちの上で見えない得物を突き付けあう二人。

 

 その均衡はすぐに崩れる。修次はエリカに向かって剣気を放つ。常人であればその圧力に押しつぶされ、少しも動くことができなくなるほどの濃密さ。現に抜刀隊の面々は余波であるにもかかわらず怯んだ様子を見せている。しかし、エリカは正面から当てられているにもかかわらず怯むことなく、剣気に対して真正面から剣気で返した。

 

 彼女の行動に無意識のうちに笑みが浮かぶ修次。一歩と動かずエリカの様子を窺っていた修次は行動を起こした。得物を振り上げたと認識すると同時に振り下ろす修次。予備動作のほとんどない彼の()()動きは熟練の剣士であっても捉えることが難しい洗練された動きであった。そんな彼の動きをエリカは持ち前の速さで受け止めた。

 

 そのエリカの動きを見て修次の浮かべていた笑みは獰猛な獣の物へと変化する。片手で握る刃を押し込む修次とそれを受け止めながら押し返すエリカ。二人の力が拮抗し合ったところで修次が意図的に圧力を消し、その瞬間エリカは体を引く。一定の距離を置いて対峙し合うエリカと修次。次の瞬間、修次はエリカにくるりと背を向ける。次の瞬間、エリカは兄の向いたほうを見てはっとしたような表情に変化した。

 

 修次が振り返った瞬間、彼の視界に自分に向かって飛び込んでくる何かが映った。棒状の何かを握りこみ、今にもそれを振り下ろそうとしている。明確な敵対行為であると反射的に判断した修次は振り下ろされる得物を自分の刀で受け止める。が、勢いの乗った得物の威力は非常に重く、修次は受け止めると同時に体を沈み込ませる。

 

 だが、修次はそれで怯むような近接魔法師ではない。得物を受け止めた体勢のまま、身を翻し空中に留まる襲撃者を蹴り上げる。が、襲撃者は空中で身を翻すと飛んでくる蹴りを回避する。宙で刎ねるような動きを師、地面に着地した襲撃者は地面を蹴ると再び修次に襲い掛かろうとし、修次はそれに備え剣を握りなおした。

 

「待って進くん! それは敵じゃない!」

 

 二人の激突を前もって防いだのはエリカの一声。進が修次狙いでこの場に乱入してきたことははっきりを認識できていた。しかし、修次は今倒すべき相手ではない。だからこそ一声かけて止めなければならない。

 

 エリカの一声で進は突進を停止する。エリカの声で襲い掛かった人物が敵対者でないことを認識した進は、足を止め別の気配を探り始める。その一方で千葉修二は未だに警戒を解かずに進を見つめていた。何せいきなり気配の一つも何もなく襲い掛かってきた人物だ。警戒心を抱いて仕方ないし、警戒を解かないのも当然である。

 

 だが、そんな彼を他所に進は悪意のある気配を探り動き出しのタイミングを計っていた。既に進の意識の中の修次は意識を割いておく程度の存在になっており、悪意に意識を大半を割いていた。

 

 意識を割いて探し始めた直後、彼の意識のレーダーに二つの悪意がかかる。一つは修次の方向、跳び上がったように上空から、もう一つはどうやったかは分からないが地中から、二方向から同時に襲い掛かってきていた。二方向からの襲撃に対して進は動く。

 

 地中から襲撃してくるパラサイトに向かって走り始めた進は同時に杖から光輪を出す。それに伴って上空から襲い掛かってくるパラサイトの落下直線状に刃の通り道が出来る。即座にパラサイト二体を迎撃する態勢を取った進は杖を振り上げパラサイトが出てくるであろう場所に振り下ろした。進が行動を起こした一瞬後、進の動きで何が起こるかをある程度予測したエリカやレオ、修次は遅れて迎撃のための行動に入った。

 

 しかし、彼らを置き去りにして進の攻撃はパラサイトを襲う。振り下ろした杖は地面から飛び出してきたパラサイトの頭部をものの見事に叩き、その衝撃でパラサイトは空中で意識を失う。次に上空から襲い掛かってきたパラサイトは星の杖(オルガノン)の回転する刃にかかり、ふくらはぎあたりで足を切断される。足を切り飛ばされたパラサイトは突然の事態に空中でもがくように動くと、べしゃりと地面に落下する。襲撃者を同時に迎撃した進の力量に修次は一瞬見惚れてしまった

 

 地面から出てきたパラサイトを叩いて引きずり出した進は杖から刃を煌めかせるとその刃をパラサイトの体に突き付け交差させるようにしてその体を斬り裂いた。その体に宿っていたパラサイトは瞬く間に活動を停止する。残るは膝から下を切り落とされたパラサイト。足を切り落とされたことでまともに動くことができない。

 

 だが、パラサイトには自爆という最後の手段が備わっている。これは一校襲撃事件の際に一度見ており、それを知っているからこそ早くパラサイトを殺さなければならなかった。パラサイトを殺したことを確認した進は反転すると即座に走り出し、残されたパラサイトに向かう。距離は二十メートルと離れておらず進の足であれば二秒と掛からずに到着できる近さであった。

 

 しかし、進がその手に握る刃をパラサイトに突き付けるよりパラサイトがその身を捨てる方が早い。進があと一歩で剣を振り下ろせるところまで近づいたとき、パラサイトの肉体が突如として破裂し、肉体の形を失う。同時に周囲に血が飛び散り、進はそれをもろに浴びてしまう。露出した本体を切り捨てようと剣をパラサイトの本体に叩きつけようとする進であったが、パラサイトの荷重系魔法の対処に追われ剣を防御に回さざるを得なくなる。その一瞬の間にパラサイトは進の剣の射程から飛び去ってしまい、他のパラサイトと合流してしまった。 

 

 本体を追いかけようと進はCADを操作し、自己加速術式を発動し走り出そうとする。しかし、そんな彼の気配のレーダーに妙なものが引っかかる。その方向に顔を向けその正体を探る。殺気も敵意も善意もなく、まるでこちらにまるで興味がない、それでいて力量は高い存在がこの演習場内にいる。そのことを認識した進はパラサイトの本体の方からその妙な気配に体の向きを変え走り始めた。

 

 エリカたちは声を上げ後を追おうとするが、その直後達也からの動くなという指示が出て行動を中断する。闇夜の中に消えていく進の背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇夜の中を駆ける進はほんの短い時間でとある場所にたどり着く。そこは別行動をしていた達也たちが一番最初に封印したパラサイトが眠る場所であった。そこには既に二つのグループがパラサイトを挟んで立っている。

 

 そんなことを知ってか知らずか、というより知ってて乱入する進。風を切りながら走っていた進は彼らの前に姿を現すと服の裾をたなびかせながら急停止する。来るはずのない場所に来るはずのない人物が現れたことでその場は一瞬の混乱状態に陥る。そこにいた人物が一斉に敵意を向け、それに合わせて進も戦闘態勢をとる。

 

 が、リーダー格と思しき人物が彼らを一斉に制して見せた。おかげで進に向けられる敵意がなくなってしまい、気の抜けた進は杖を下ろす。

 

「魔法で人払いもしていたのだがな……。恐ろしい直感だ」

 

 魔法で人払いをしていたにも拘らず、まるで関係ないかのように乱入してきた進に感嘆の声を上げる九島烈。もう一人のリーダー格である黒羽亜夜子は一度はこの場を収めたが、警戒心は未だ解かずに進を睨みつけていた。彼女もこの場に誰も来ないように魔法による人払いをしていたのだが、この男は平気な顔で入ってきた。そこに対して警戒心を持たないわけにはいかなかった。ここで動揺したようなそぶりを見せたのは年季の差、年の功というやつであろう。

 

 逆に進も亜夜子の敵意には気づいている。敵意を浴びても彼女に対しては警戒心を未だに解いていない。二人はまさに一触即発。何かの拍子に戦闘が始まりかねない雰囲気であった。

 

「安心したまえ」

 

 しかし、二人の間を収めるような烈の声が響き渡り、二人はぴりつくような気配を収める。続けて烈は進を収めるような言葉を紡ぐ。

 

「我々はこのパラサイトを拝借しに来ただけだ。君含めたお友達には一切手を出す気はない。手短に済ませたいため、戦うこともできないのだ」

 

 その烈の言葉を聞くと、進は警戒心を解き、すぐさまその場から離れ始めてしまった。彼が求めているのは自分と戦えるだけの強い存在であり、それ以外の存在には大して興味がない。彼らが戦ってくれないのであれば彼らに用はない。この場にまだ存在するかもしれない強者を探すために進は走り始める。烈も進の性格を知っていて最後の一言を付け加えていたのだ。

 

 闇夜に消える進の背中を見送った二グループはその背中に一体何を思ったのか。一方は若くして力をつけたものへの感嘆、もう一方は若くして力をつけたものへの警戒。その後、二グループはお互いに一つずつパラサイトを持って去り、その場を去った。

 

 その後、六体のパラサイトが合体し強大と化した怪物は達也と深雪によって打倒された。そこに加わることができず力を振るい足りない進は、それをどこにも振るうことができずに、物足りない感覚を覚えるのだった。

 

 

 




 さて、とりあえず少し早いですが来訪者編はこれで終わりになります。振り返ってみるとリーナ殆ど出てねえな。まあ主役は進だし多少はね?
 そんなことはさておき、現在来訪者編とスティープルチェース編の間の話を書いていますが、それを来週公開するか、スティープルチェイス編の前に登校するかで悩んでいます。多分、話的に八割の確率でスティープルチェイス編の前かな。まあ、アニメ化したら続きは書きますので気長にお待ちください。
 それでは魔法科高校の劣等生スティープルチェイス編アニメ化が決定したらまたお会いしましょう。


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