ガールズ&パンツァー ドイツ極秘戦闘隊と親善試合です! (ロングキャスター)
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キャラクター解説

途中で入れていたキャラクター解説を初めの方に移動しました。



ブラッド・ハウンド隊キャラクター説明

 

 

 

ブラッド・ハウンド隊長

 

ウィットナー・シュトラーデン

 

階級 大尉 年齢26歳

 

 

 

ドイツ東部にあるドレスデン郊外生まれ。外交官の父と元教師の母の間に生まれた。1941年6月22日のバルバロッサ作戦を初陣とし、Ⅲ号戦車H型の砲手として活躍した。とある日、偵察行動中にソ連軍のT-34/76の5輌編隊と遭遇し、車長に撤退を指示されるものの、ウィットナーはこれを拒否し単機迎撃を提案した。ウィットナーの巧みな手腕に乗せられた車長はこれを了承し、奇襲戦術とウィットナーの技量により圧倒的格差のあるT-34を全滅させる。その功績により大隊長より武装親衛隊への入隊を薦められるが、これを拒否し同隊に残った。

 

その後、モスクワ攻防戦において遊軍の退路を確保する作戦に参加し、自車を失いつつも任務を全う。この功績より騎手鉄十字賞を授与、半ば強制的に武装親衛隊に入隊させられ、第1SS装甲師団の第1戦車連隊に所属。2歳歳上のファインツ指揮するティーガーⅠ(初期生産型)の砲手として搭乗し、ツィタレデ作戦に参加した。

 

その後、反ナチだったウィットナーに親衛隊大佐が目をつけ、反ナチ武装隊への参加を持ちかけられる。

 

ウィットナーはこれを快諾し、反ナチ武装隊『ブラッド・ハウンド隊』の隊長に就任し、以後裏切り部隊として各戦線で戦果を上げた。

 

アメリカ、イギリス、カナダ軍によるノルマンディ上陸作戦が決行されると、主戦場を西部戦線に変え、ケイラー率いるエンジェルスとの共同作戦を実施していく。

 

 

 

家族構成は祖父母、両親、妹であるが、ヒトラー政権に反対したことにより、国家反逆罪として両親は処刑、妹は祖父母のもとに疎開したものの、激化する連合軍の爆撃により、祖父母も他界。現在残る肉親は妹のみとなっている。

 

 

 

容姿は茶髪に、グリーンの瞳の173cmの長身。

 

 

 

 

 

搭乗戦車はティーガーⅠ(後期生産型)といているが、もとは1943年7月頃生産された中期生産型の初期モデルで、新型キューポラを装備した新型砲塔に、初期生産型の後期型車体を載せたものをベースとし、ティーガーⅠ(後期生産型)の足回りを移植したものとなっている。

 

そのため、足回りは後期、車体は初期、砲塔は中期という、これもうわかんねぇなという仕様になっている。

 

 

 

エンドラー・マークス

 

 

階級 少尉 年齢 26歳

 

 

ブラッド・ハウンドの副隊長で、ウィットナーに忠実に支える副官。彼もドレスデン生まれで、ウィットナーとは幼なじみ。休暇時などでは幼なじみらしい態度になるが、制服に身をまとった瞬間から上官、部下の立場に切り替える。

 

ドレスデン郊外生まれで、作中でも述べた通りカフェを営む両親のもとに生まれた。

 

彼もヒトラーの政権に反対したいた事もあり、ブラッド・ハウンド隊に入隊する事になる。

 

 

 

容姿は黒髪に茶色の瞳の175cmの長身

 

 

 

搭乗戦車はティーガーⅡ(ヘンシェル砲塔)で、砲塔側面、後面に予備履帯を増設し装甲を強化している。なお、キューポラには暗視装置を装着

 

 

 

 

ツェフィカ・シュライガー

 

 

階級 曹長 年齢 19歳

 

 

ブラッド・ハウンド隊の中で三番目に若い。若いものの、士官学校では成績優秀で、ブラッド・ハウンドの中戦車隊の指揮を任されている。状況を確認し、冷静に判断できるものの、若気の至りか深く考えず行動してしまうことがある。

 

 

 

彼女の初陣はツィタレデ作戦であるが、若くして成績優秀で女性であることが配属された部隊内で反感をくらい、肩身の狭い生活を余儀なくされた。上記の作戦において偵察車の情報伝達ミスと、パンター戦車を見間違えたことにより、友軍を誤射してしまった。この時、偵察車もパンターを見間違えて報告したのだが、一方的にツェフィカの責任と擦り付けられ、独房入りとなったしまった。この時彼女を拾ったのがウィットナーと上記の親衛隊大佐であった。

 

自分の人生を変えてくれたウィットナーに対し、感謝以上の感情を持っており乙女の一面も持ち合わせているようだ。

 

 

 

ちなみに軍人としての才能はあるが、料理の斉能は皆無の模様。

 

 

 

金髪に赤みがかった瞳 身長は164cmと少し小柄

 

 

 

彼女が乗るパンタD型はパンター戦車最初の量産型であるが、彼女のはそれをベースに中隊、大隊指揮に特化させた改修を施したパンター指揮戦車に搭乗している。

 

 

 

ファインツ

 

階級 大尉 年齢 28歳

 

 

上記の通りウィットナーの元上官。ブラッド・ハウンド隊とは全く関係もなく、ドイツ敗戦後の緊急召集により集められた要員の一人。ドイツ敗戦までは武装親衛隊として徹底抗戦した。ツィタレデ作戦から連合軍のノルマンディ上陸作戦間での間はSS第1装甲師団の第101重戦車大隊に所属し、東部戦線で活躍したいたが、ノルマンディ上陸作戦を受け、所属師団が西部戦線に移動になったのに合わせて彼も西部戦線に移動した。

 

1944年7月より、同隊がティーガーⅡへの置き換えのために引き抜かれると、彼は所属を変え、東部戦線へと再度送られることになる。この時彼は親衛隊でありながら急遽、国防軍の501重戦車大隊に編入された。

 

 

 

上官でもあるミハイル・ヴィットマンは彼の事を気に入っており、彼もヴィットマンを頼れる上官として慕ったいた。

 

 

 

容姿は、黒髪の頃の瞳で身長は174cm

 

 

 

彼の搭乗戦車はごく一般的なティーガーⅠ(初期生産型)

 

 

 

 

 

ミハイル・イェーガー

 

階級 伍長 年齢 23歳

 

 

 

ブラッド・ハウンド隊が保有するヤークトティーガーの砲手。部隊内で一番の技量を持つ。

 

初めは砲兵科に所属し、Ⅲ号突撃砲の砲手だったが、その技量から機甲科に引き抜かれた。その時にヤークトパンターに搭乗する事になったがその後、ブラッド・ハウンド隊に配属となりそこでヤークトティーガーの砲手となった。

 

 

 

茶髪に黒の瞳で170cm

 

 

 

エンジェルス隊長

 

 

ケイラー・ワイナーズ

 

 

階級 特務曹長 年齢20歳

 

 

 

アメリカ陸軍特殊戦闘隊、エンジェルスの隊長。

 

軍人一家に生まれ、父は陸軍大将である。戦争を嫌う性格ではあるものの、一家のしきたりとして陸軍に入隊する。妹もいるのだが、こちらも陸軍歩兵として入隊している。

 

反戦家であり、戦争を無くすための戦争として実戦に赴くものの、そこでの経験やウィットナー等の言葉で戦争を無くすことは不可能だとさとる。その後はただ、生きて戦争を生き延びるという決意のみで戦っている。

 

冷静に物事を判断でき、仲間とコミュニケーションを大切にしており、部下からの信頼も厚い。しかし、チャレンジ精神も大勢で、自ら危険な状況に飛び込みやすい性格もあり、西部戦線においては幾度も危機的状況に陥っていた。それをウィットナーに指摘されてからは戦闘においては意識してそういう感情を押さえ込んでいるが、日常では押さえていない様子。

 

少し抜けてるしっかりものといった様子でツッコミ役になることもしばしば。

 

 

 

父からはかなり溺愛されている様子で何かにつけてお願いすれば相当な事がない限り答えてくれるようで、実際にT29、M26、T26E4の配備は父に頼んでいる。

 

 

ちなみに、ウィットナーとは恋仲にある。

 

 

金髪に青い瞳の165cmという小柄な体格

 

搭乗戦車はM26 パーシングで、本編に記した通り、撃破されたシャーマンの51mmの装甲板を剥ぎ取り、車体正面に張り付け、車体正面とその装甲板の間には30mmのボイラー鋼板を挟んで装甲を強化している。キューポラ前にはM1919A4を増設している。パーシングの前は無印M4だった。

 

 

 

ファイアット・フレディ

 

 

階級 伍長 年齢 23歳

 

 

エンジェルスのT26E4の砲手。エンジェルス内において、トップの技量を持つ砲手でエンジェルス内での撃破数もトップ。

 

T26E4の前はM4(無印)の砲手であった。比較的物静かで常にハイテンションのケイラーとは違い、冷静で感情をあまり表に出さない。だが、しっかりと仲間同士の付き合いもこなし、典型的な一匹狼的な性格ではない。

 

 

同じ役割?(役職?)のイェーガーとは特に仲がいい。

 

 

黒髪にグリーンの瞳の171cm

 

 

装甲を強化したT26E4 スーパーパーシングに搭乗し、ケイラー同様にキューポラ前にM1919A4を増設している。

 

 

ジャック

 

 

階級 三等曹長 年齢 32歳

 

 

エンジェルスにおいて、豊富な経験をもつベテランの一人。

 

 

 

ファントムナイツ

 

隊長

 

エマ・パターソン

 

階級 少佐 年齢 19歳

 

 

イギリス陸軍特殊部隊、ファントムナイツの隊長。4軍のなかで2番目に階級が上。起業家で富豪の一家に生まれた長女。二人の兄と一人の弟がおり、二人の兄は共に空軍。弟は父の後取り。

 

幼い頃は気弱で虫も殺せないような少女だったにも関わらず、どこで道を外れたのか、本編のような性格になった。

 

戦争凶で、異なる価値観の者は拒絶し、誰に対しても容赦なく、残忍で敵への暴虐を好む性格

 

 

 

...とよく言われるが現実はそうではなく、彼女をよく知らない人物が彼女の言動から勝手に想像したものに過ぎず、本来の彼女は根は優しく、敵味方関係なく助けを求める者には心優しく接する。

 

しかし、過激な発言が多いのは事実で、度々周囲を困らせる。だが、本気になった場合は別で、彼女の恐ろしい一面を見ることになる。

 

情に厚く、仲間を思いやるよき隊長で、彼女がブラックプリンスに乗る理由も危機的状況の場合に、仲間の退路を確保し、時間稼ぎが出来るようにするためとしている。(大本の理由は下記に)

 

 

幼い頃から虫を嫌い、今現在でも虫には過剰に反応する。(一度野営中にGが現れた時はブラックプリンスの17ポンド砲で消し飛ばせと怒号を飛ばしたとかしてないとか...)

 

また、銃の扱いにも長けており『エンフィールド NO2 Mk,Ⅰ』と『ウェブリーMk,Ⅳ』の二挺を常に携行する。しかし、某山猫の大将のように「今度は12発だ!」という感じではなく、気分で使い分けている。...のだが、戦車兵なので使う出番はほとんどない。

 

マッキントッシュ社製のコートを常に愛用し、ボタンは開けたままで、ラフな着こなしをしている。

 

ブラックプリンス歩兵戦車に搭乗している。

 

このブラックプリンスは本来は『A41センチュリオン』の開発で、お役ごめんとなる予定だったが、強力な火力を持つドイツ戦車にはチャーチル譲りの重装甲を誇るブラックプリンスも必要だということから、試験配備の名目で彼女のもとに来た。ちなみに、彼女のブラックプリンスには少し魔法をかけている

ブラックプリンス歩兵戦車に搭乗している。

 

金髪に紫の瞳で164cm

 

 

 

シャラシャーシカ隊

 

隊長

 

アイーダ・シャラシャーシカ

 

階級 少尉 年齢 22歳

 

ソ連赤軍の戦略騎兵師団所属の特殊部隊隊長。指揮官としては優秀だが、猪突猛進をモットーにしているためかなり部隊全体が突出しやすくなっている。

 

しかし、しっかりと状況を加味した上での指示を出すので、以前の知波単のような突撃バカという感じではなく、待ち伏せ、陽動、奇襲など柔軟にこなせる。

 

4軍の女性陣の中では一番の長身(171.2cm)でスタイルはいい。しかし、戦車に乗るには少々窮屈さを感じたり、回り(女性陣)に比べると突出しているのでコンプレックスを感じてもいる。

 

敵には容赦することなく、徹底的に追い込み、当初はブラッドハウンド隊に対しても敵意を露にすることもあった。

 

現在はそのような事はなくなって頼れる同士という感覚のようだ。

 

貧しい家庭に生まれ、細々と暮らしていたが、独ソ戦の開戦とほぼ同時に入隊し誰の手助けも得ずにこの地位まで登り詰めたかなりの努力家でもある。

 

金髪に黒の瞳

 

彼女の搭乗戦車はT-34/85である。

 

 

松平隊

 

隊長

 

松平 風間

 

階級 中佐 年齢 26歳

 

大日本帝国陸軍の戦車第3師団に属する特務対戦特化群団の指揮官。

 

元々は大本営に属するエリートだったが、日本軍の戦車開発の注力に際し、戦車開発部門の管理者に就任後、本格的対戦車戦闘部隊である本群団の群団長を任されることとなった。

 

彼がこの役職に回されたのは、古くからの友人であったウィットナーと手紙でやり取りしていたことから、戦車強国であるドイツの戦術を取り入れ、強力なアメリカに対抗することが出来ると見込まれたからだ。

 

 

 

現に、彼は大日本帝国陸軍の異端児と呼ばれる程で、それまでの戦車の運用を根本から見直すよう異を唱えていた。

 

彼自身は、ウィットナーから教授を得た戦術に独自の戦術を加えたものを用いた戦術でアメリカ軍を圧倒してもいた。

 

ウィットナーとは幼い頃に知り合っており、彼が外交官の父に連れられて来た日本で知り合い、帰国後も度々連絡を取り合う仲となっていた。

 

頭脳明晰で成績もよく、英語、ドイツ語を得意とし剣術にも長けている。

 

かなりの甘党で、甘い物を摂っておくと、常に頭を回せるとして羊羹などを携行する。ケイラー達米軍と行動を共にする容認なってからはチョコバーなどもしば携行している。

 

若くして中佐の地位まで登り詰めているが、威張り散らす事もなく謙虚で控え目な性格。

 

 

黒髪の黒瞳の160cn

 

 

搭乗戦車は三式中戦車 チヌ

 

枯草色に濃緑色の迷彩をほどこしてある。



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プロローグ

 

 

 

Feuer(フォイア)!」

 

ダークイエローにダークグリーンの迷彩塗装を施した、『Ⅵ号戦車、ディーガーⅠ(後期生産型)』が8.8cm戦車砲『アハトアハト』を発射、目の前の『M4A1(75mm)』が火柱をあげながら、砲塔を宙に舞い上がらせた。

 

「隊長!2時方向敵歩兵隊、支援求む!」

 

「了解した。...弾種、榴弾装填」

 

「弾種榴弾装填...

装填よし!」

 

「照準急げ」

 

隊長の指示のもと、ディーガーⅠの砲塔がゆっくりと2時方向に向く。向き終えると今度は上下の微調整だ。

 

「照準よし」

 

Feuer(フォイア)

 

独特なアハトアハトの発射音のあと、塹壕に榴弾が命中、ヘルメットのようなものが空中高く舞い上がる。

 

「よし、このまま前進を開始する。全車続け!」

 

ディーガーⅠがその重く、勇ましい姿を轟音と地響きをたてながら前進する。そして、部下の戦車隊がそれに追従する。

敵歩兵隊は塹壕から機関銃による射撃で威嚇、応戦するが、戦車にそんなものが通用するはずもない。

 

「通信手、砲手機銃掃射」

 

号令のもと、車体前方、主砲同軸の『MG34』が塹壕の敵兵目掛けて火を吹く。頭を出していた兵士はそこを撃ち抜かれ、恐れで身を隠したものはかろうじて無事だが、7.92mm弾が雨のように降り注ぐ。

そして、戦車に援護された歩兵隊が塹壕に隠れた敵兵を上からなぎ倒し、成す統べなく朽ちていく敵兵たち...

 

その日のうちにそこら一帯は制圧された...

 

 

 

 

ブラッド・ハウンド隊...

ドイツ極秘戦闘隊として編成されたその部隊は、大きく戦車隊と歩兵隊に別れる。俺はその部隊の隊長をしてるウィットナー・シュトラーデンだ。階級は大尉。

俺たちに課せられた任務はドイツ軍でありながら、ドイツ軍の防衛線の戦力弱体化だ。なんでそんな任務かって?それは、俺たちが『裏切り部隊』だからさ。

といっても、正規のだがね。もうドイツは長くない。負けも分かりきってる。なのにあのチョビヒゲはやめようとしない。まあ、負けられない戦いなのだろうが、もうこれ以上愛する祖国がボロボロになっていく姿を見たくはない...

 

だから、ドイツ解放のために俺たちは裏で工作し、連合軍の進路を確保する。出来るだけ安全に行動出来るように。

 

やがてドイツは無条件降伏を承諾し、戦争は終わった。あとはこの朽ちた祖国を建て直す。そう思ったんだが、まさか太平洋戦線に投入とは...

太平洋で何が起きてるかよくはわからんが、無関係なはずの俺達まで向かわされるということは、相当なんだろう。

 

俺も、そして仲間も兵士として生きることを決意した身だ。戦いを要求されるのであればやるだけだ。それに、守りたいものが向かうのなら、俺もそれに付いていく。そしてそいつを守る、ただそれだけだ。何事もないただの戦争を続けると思っていたのに...

 

 

なぜ!異世界に!?ふと目を覚ましたらみんな訳のわからん世界にいる。なんだ?ここは?何もかもが分からない。

 

なんだ携帯電話って?なんだインターネットって?

そして、なんなんだ??『戦車道』って??

 

戦車に乗るのが乙女のたしなみ?確かにうちにも女性塔乗員はいるが、女性オンリーなんて聞いたこと無いし、学生が戦車に乗るのか...

だいたい、特殊なカーボンで守られてるから砲弾受けても死なないとか、ロマン過ぎるだろ!そんなものが俺たちにもあれば、一体何人の仲間が死なずにすんだのだろう...

 

少々取り乱したが、気を取り直そう。

しかし、『戦車道』とは面白そうだ。いくら弾を受けようとも死なないし、何より戦車に乗るのが好きな俺らからしたら夢のようなものじゃないか。

下らない戦争なんて忘れて、この戦争道という、()()を楽しもうじゃないか。

 

どうやら、これには全国大会があるらしいな...

夏の大会で勝ったのは大洗女子学園という所らしいな。

しかも、冬の無限軌道杯でも優勝とは、なかなかだな...

いや、チームの実力は他の強豪校には及ばない...ならそいつらを指揮する指揮官が大したものなのか。

なるほど、戦車道の名家で、最古、最大の流派「西住流」の次女か...それは強いわけだ。その西住流に俺たちがどれだけ食い下がれるか、試してみたい。

 

彼女たちに、俺ら流の戦いを、戦争の狂気を教えてやろう...

 

俺たちは、少数精鋭部隊。ドイツの俺らに、アメリカ軍、イギリス、ソ連、日本の複合部隊だ。国籍も違えば、敵味方入り交じってもいる。が、皆の絆は世界一だ。でなければこんな特殊戦闘部隊なんて創られない。

さあ、戦いの狼煙が上がる。

俺らブラッド・ハウンド連合チームのと大洗連合チームの時空を越えた、正規の戦車対決が始まる...

 

さて、こう日記を書いていたら部隊の出撃準備が整ったようだな。

よし、全員愛車に乗り込め!出撃だ!やつらに恐怖の味を思い知らせてやろう...

 

 

それではブラッド・ハウンド連合、PANZER・VOR!




なんか盛大な感じで始まりましたね戦車道。

ちなみに、説明にもありますが無限軌道杯で大洗が優勝するというのは架空の内容です。原作改変なので、私は大洗優勝ということにしています。(まぁ原作改変もなにも、そこのシナリオがどうなっているのかまだわからないんですが...)

とりあえず、こういった感じで戦車戦を描いていこうと思っていますので、今後ともよろしくお願いします


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親善試合始まります!

ずいぶんと長い間更新無しでしたがこれからちょこちょこと再開します!
手始めにこれまでの内容を一部改変していくつもりです。ぶっちゃけ何処の誰が出てくるのかもう忘れまして…
この話も一部手直しを入れましたので良かったらご覧下さい。



 

 

 

 

 

 

だだっ広い草原に時折吹くそよ風が心地いい。

 

しかし、そのそよ風は鉄と油の匂いをまとっている。

 

その風が吹く方には無数の戦車が並び、出撃の時を今か今かと待っている。その中の1輌に目をやる。

 

レッドブラウンに塗られた『Ⅳ号戦車D型改(H仕様)』がある。苦楽を共にし、皆を引き合わせてくれた存在...

 

この場には、およそ半年前の夏の大学選抜チームに戦の時のような各校の戦車や隊長が集まっている。あの日の感動は忘れることは出来ない、今でも覚えている。

 

しかし、今回集まったのは夏の試合とは違う、親善試合のためだ。

 

「おっ来たな」

 

大洗女子、元生徒会会長 角谷 杏がこちらに向かってくる一台のトラックのようなものを見つけ言った。

 

「M3ハーフトラックです!」

 

秋山 優花里が興奮ぎみに言う。そのハーフトラックはこちらの近くまで来ると、停車し中から黒い軍服をビシッと決めた長身の男と、その他男女がぞろぞろ出てきた。

 

「西住みほさんは?」

 

「あ、わたしです」

 

「これはどうも。戦車道の名門、西住流に会えて光栄です」

 

「いえ、私はそんな...」

 

その男は丁寧な口調でみほと挨拶を交わす

 

「申し遅れました、私はブラッド・ハウンド隊隊長、ウィットナー・シュトラーデンです。階級は大尉...まあこの世界に階級なんて必要ないでしょうけど」

 

「えっと、私は西住みほ、こちらが元生徒会長の 角谷 杏先輩。そして秋山優花里さんに、各校の隊長が...」

 

みほは側にいた二人と、今回の親善試合に参加する各校の隊長達を紹介した。

 

「なるほど、では私も。こいつがアメリカ軍、ケイラー・ワイナーズ、イギリス軍 エマ・パターソン、ソビエト軍 アイーダ・シャラシャーシカ、そして大日本帝国軍 松平 風間だ。」

 

ウィットナーも自らのチームのメンバーを軽く紹介する。

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそ。では、敵情視察と思われないよう、ここらでお暇させて貰いますよ。今日は最高の試合にしましょう」

 

「はい!」

 

みほが一段と元気な声で答える

ウィットナー達はそのままハーフトラックに乗り込むと自陣へと帰って行った

 

その姿を見つめる各校の隊長達。

 

「それにしてもダージリン、渡航を延期しても大丈夫だったのですか?」

 

「ええ、こんな面白そうなことを無視して留学なんて出来ませんからね」

 

アッサムの問いにダージリンが答える。

 

「面白そうなことってあなたねぇ...

そっちも大丈夫なの?進学なんでしょ?」

 

エリカが、ケイに問う

 

「うちは大学付属だから全然平気よ」

 

 

皆楽しみと言った様子で興奮を押さえられないようだ。

 

 

 

 

 

 

ブラッド・ハウンド隊のもとに戻ったウィットナーは同じく下車した仲間に告げた

 

「各自、各隊に出撃の最終準備を整えさせてくれ。...エンドラー、状況は?」

 

「全車、トラブルも無く大丈夫のようです。」

 

ウィットナーの問いにブラッド・ハウンド隊の副官、エンドラー・マークスは答える。

 

「よし、分かった。さぁ行こう」

 

ウィットナーは自車の元へと急いだ。

 

ウィットナーのティーガーはまるで工場出荷時のような美しさをしていた。だが、よくよく見れば傷が目立つ。引っ掻き傷や被弾痕があるそのボロボロになり満身創痍のような見た目の上から新たに塗装し直しただけの修繕だ。

 

ウィットナーは愛でるようにそっと手を触れた。このティーガーは2輌目に当たり、1943年のクルスクの戦いのあった年の冬に受領した後、1945年の終戦まで共に戦った。その間に様々なことがあり、幾度も死にかけることもあったが、その都度こいつが守ってくれた。

このティーガーには感謝しかない

 

(今日も1日よろしくな)

 

ウィットナーは心中で囁いた。

するとティーガーはそれに答えるように勢いよくエンジンを唸らせた。とはいっても、タイミングよく操縦手がエンジン始動させただけなのだが。

 

ウィットナーはそっと手を戻すと深く息を吸い込み、

 

「ケイラー、開始の挨拶だ!」

 

と副隊長に任命したケイラーを呼び出した。

 

 

 

 

一般観客席の眼前には超巨大なモニターが3台設置してある。そのモニターには挨拶をするために集まった両チームの隊長、副隊長が横一列に整列していた。

 

『これより、大洗連合対ブラッド・ハウンド連合との試合を始めます。礼!』

 

『よろしくお願いします!』

 

モニター越しに陸自の蝶野 亜美の挨拶が響き、それに合わせて両チームの代表が頭を下げる。

 

 

しばらくして開始の号砲がなる。

 

 

《みほ》

「それではみなさん、パンツァー、フォー!」

 

《ウィットナー》

「ブラッド・ハウンド連合全車、PANZER・VOR!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「どうします?みほさん」

 

ダージリンが作戦について問う。

 

「今回は夏の大学選抜戦と同様の流れで行こうと思います。左手の森林地帯、中央の丘、そして右手の運河、森林地域の3方向を攻めます。今回は夏の試合よりも戦力が多いので、1方向に2中隊で編成します。それぞれ、ひまわりをエリカさん、あじさいをメグミさん指揮のもと、中央の丘に進行、あさがおを系さん、コスモスをアズミさんが指揮して森林地帯、たんぽぽを私、すいせんをルミさんで、運河、森林地帯を攻めます。」

 

今回はかなり戦力が多い。まさかの60輌の殲滅戦だ。かなり大規模の戦車戦になるだろう。

 

ちなみに今回参加する学校は

 

大洗女子

聖グロリアーナ

サンダース大付属

アンツィオ高校

プラウダ高校

継続高校

知波単学園

黒森峰

BC自由学園

マジノ女学院

ベルウォール学園

 

そして、大学選抜チームのメグミ、アズミ、ルミの3名が加わる。三人に関しては、勉強と言うことで島田師範に加入させられたようだ。

「丘上は取る形でいいの?」

 

ベルウォールの中須賀 エミが聞く。

 

「もしそうなると、相手と激しくぶつかることになるな」

 

アンチョビが言う。

 

「はい。なので、丘上を取るように見せつつ、相手の出方を伺いながら、奪取可能ねら奪取しましょう。」

 

「「わかりました」」

 

一同が返答する

 

「しかし、相手がドイツ戦車なのが厄介

ね」

 

エリカが言う。もちろん自らもドイツ戦車に乗るものとして、友軍としてでは心強いが、敵となれば話は別。自らがドイツ戦車に乗るが故に、その手強さを一番理解出来ている。

 

「それに関しては、エリカさんの黒森峰チームと、ベルウォールのエミちゃんのチームで対処をお願いします。引き付けてる間に、機動力の高い戦力で側面を強襲しましょう。」

 

「そうしましょう」

 

ダージリンが言う。

大洗連合の最重要警戒目標はブラッド・ハウンド隊となった。

 

 

 

一方ブラッド・ハウンド隊でも作戦会議が進んでいた。

 

「ウィットナー、どう攻める?」

 

「まず、3方向にわける。中央をエンドラーのドライ中隊、シャラシャーシカのベータ中隊が押す。森林地帯をケイラー、ファインツのアルファ、ツヴァイ中隊、運河地域を俺、エマのアインス、チャーリー中隊か押す」

 

「「了解」」

 

「また、中央の丘は相手も取るだろう」

 

「てことは、取られないように強固な防衛線を張る?」

 

「いや、下手にドンパチやって戦力を削りたくないからな。いくら60輌とはいえな。もし、丘を取れるチャンスがあるならそのタイミングで奪取だ。」

 

シャラシャーシカの問いにウィットナーは答える

 

「結構慎重なのね」

 

これはエマだ。

 

「ああ、いくら俺たちが実戦に慣れてるとはいえ戦車道は初めてだし、向かうは戦車道に精通してるからな。その経験の差は大きいはずだ。こっちが慣れない間に明暗が決まるのは避けたい。」

 

「なら、警戒すべきは黒森峰ってところかな」

 

ケイラーが手元の資料を見る。そのその資料は各校の戦車道の情報が記されていた。今までの功績や歴代で使用してきた戦車などだ。

 

「確かに西住流の教えを叩き込まれた黒森峰は強力だ。だが、正面からの撃ち合いでなければ恐れることもない。それに持久戦に持ち込めば必然的に戦力も落ちるはずだ」

 

「持久戦は向こうが有利だろ」

 

松平が言う

 

「ま、普通はな。でもこっちも嫌というほど経験してきただろ?」

 

「なるほど」

 

「ま、ただ単に戦局が膠着してただけなんだよね」

 

「あとは、夜になればこちらが有利になりやすいんだが...よし、それじゃ各員元に戻ってくれ」

 

ウィットナーがそう告げると、ウィットナーのティーガーから散って行った。

ウィットナーは、ティーガーのトランスミッション上、車体前方に広げた地図を畳み戦車に乗り込んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ケイラーは事前の打ち合わせ通り、ファインツ率いるツヴァイ中隊と共に森林地帯を目指していた。

 

「曹長、少しいいか?」

 

ファインツがケイラーに呼び掛けた。

 

「ん?」

 

「地図を見てくれ。...小道があるだろ?」

 

ケイラーはそう言われ地図を見返す。確かに道を表す線が記されている。

 

「ここをやつらは通ると思うんだが、そこに俺が威力偵察に行くっていうのはどうだ?」

 

「なんでそこを通ると思うの?」

 

「単純だ。得体の知れない森林地帯の道なき道を行くほどバカじゃないと思うからさ。木々が生い茂ってるようなところを巨体が通れば、つっかえたりするだろ?」

 

「確かにそれもそうだねぇ...でも、1輌で大丈夫?」

 

「なぁに、俺は一匹狼のファインツ様だぜ?」

 

ファインツは独ソ戦後半、ドイツに流れ込もうとするソ連軍の歩兵、戦車大隊を4日間足止めした。しかも、1輌のみだったのでこんな異名が付いた。ただ、当時のドイツ軍戦力が不足していただけなのだが。

 

「OK、じゃあ任せるね」

 

「ああ、任せろ。こちらツヴァイ隊長車、これより単騎で威力偵察を行う。後続の隊は指示で動けるよう、距離を取って追従しろ」

 

ファインツはそう言うと隊列を離れ、の道へと向かった

 

 

 

「以外と広いっすね」

 

ファインツの戦車の操縦手が言う。

 

「ああ、中戦車なら2輌は入るな」

 

ファインツが通っているこの道は以外にも広く、自由度が高そうだ。

ファインツは木漏れ日の差す綺麗な景色の中を走っていた。元の世界でこんな景色があってもそれを気にしていられなかった故に新鮮さを覚えた。

 

「あーあー、ファインツ大尉聞こえます?」

 

まるでマイクのテストをするかのような口調でファインツに呼び掛ける。

 

「感度良好だが?」

 

「え~っと、小さなトラブル発生かな」

 

「どんな?」

 

「地図にない小道発見。私の戦車がギリ通れるくらいだから、下手したらこっちからも来るかも」

 

「了解」

 

ファインツはケイラーから座標を聞き、それを元に小道のあらかた場所を地図に書き込んだ。

 

「曹長、そっちから射線通るか?」

 

「通せないことは無いって感じかな。でも、木が邪魔だから精密射撃は厳しいかな」

 

「通せるだけで十分だ」

 

ファインツはそう言うと再び周囲の警戒に戻った。

 

やがてファインツは小さな村のような所に出た。村と言っていいのか疑問になるレベルのもので、道を挟んで何軒かの日本家屋が立ち並ぶようなものだ。言うなれば、集落のようなものか

 

ファインツはその集落の入り口で停止を指示した。その入り口は右カーブになっており、家屋のせいでその先がわからない。ファインツは自分以外のエンジン音がしないか耳を澄ました。

 

 

 

同じく森林地帯に進行したあさがお中隊はアリサを先頭に地図に記された道を警戒しながら進んでいた。

 

「アリサ、そっちの状況を教えて」

 

「こちらアリサ、特に異常はありません」

 

「了解。引き続き警戒を怠りないで」

 

「イエスマム」

 

ケイの言葉にアリサは答える。

アリサのの後ろにはうさぎチームも続いているのだが

 

「ねぇアリサさん、たかしとはどうなったの?」

 

宇津木 優季が聞く

 

「今はそんな話をする時じゃないでしょ?」

 

「やっぱりフラれたんだ!」

 

「だ、だから告白もしてないのにフラれるわけないでしょ!」

 

桂里奈の言葉にアリサはムキになったように言う。

 

「アリサ、さっき言ったこと覚えてる?」

 

「す、すいません...」

 

アリサはケイに注意されてしまった。しかし、話題をふった当の二人は笑っている。全く腹立たしい。

アリサは気を取り直して周辺の警戒に入った。

 

いつ敵が現れるのかという緊張感がアリサを包む。この感覚は試合の度に感じるが、心なしかこの感覚が好きだった。

アリサ幾度も双眼鏡を覗いては外しを繰り返した。

やがて、小さな集落に出たここに待ち伏せているのではないかと内心ビクついていたが、特には見当たらない。

この集落はちょうどこの森林地帯の中央に位置する。同じタイミングで侵入すれば恐らくはもう接敵しているはずだが...

 

アリサは異常なしとケイに報告しようと無線機を口元に運ぼうとしたまさにそのときだった。出口の左カーブから1輌の戦車が現れる

 

「はぁっっ!タ、タイガー!!」

 

アリサは息をのみ咄嗟に叫んだ。

正面から出た来たのはファインツの『ティーガーⅠ(初期生産型)』だった。

そしてそのティーガーは接敵するや否やこちらに発砲、運よく横にそれるがその砲弾がかすめる独特な音が恐怖感を煽った

 

「う、撃ちなさい!!」

 

アリサは砲撃の指令を出した。

アリサの『M4A1 76mm』の76.2mm砲弾がティーガーの車体正面をとらえる。が、虚しく弾かれてしまう。

 

「やつの火力じゃ、こいつは貫通できない。正面を向けて、微速前進」

 

ファインツは徐々に距離を詰めるように指示する

 

「次!急いで!それと後退!」

 

アリサの叫びのような声が響く。

そして再びティーガーに砲撃。今度は外れた。

 

「どこ狙ってるのよ!装填!」

 

アリサの慌てっぷりはファインツからも分かった

 

「相当動揺してるな」

 

「ならいっちょビビらせますか」

 

砲手がそういい、照準を砲塔側面に合わせる。

放たれた砲弾はシャーマンの砲塔側面をなぞるように跳弾する。シャーマンの車内はとてつもない衝撃に見舞われる。

後続のM3リー、M4(75mm)が砲撃するがやはりティーガーには太刀打ちできない...

 

「ちょっとうさぎ!あんたらなんとかしなさい!」

 

「そんな事言われても、火力が...」

 

「だったら盾になりなさいよ!」

 

「アリサ落ち着いて。押田、支援に行って。それとナオミ、コスモス中隊の方に行って」

 

「了解」

 

ケイはアリサをなだめると、BCの押田とナオミを増援に向かわせた。

 

「アリサ、すぐ増援がいくから待ってて」

 

「イ、イエスマム...」

 

アリサはこちらに微速前進で向かってくるティーガーを見た。普通の試合ならそこまで恐れないのに、あのティーガーからはとてつもないオーラを感じた。まるで直撃を貰うと死んでしまうような...

 

 

「曹長、そっちは?」

 

「こっちはもう少しで射線通せるよ~」

 

「了解した。こちらもまだ耐えれる」

 

ファインツは回り込もうとするケイラーとやり取りした。

 

「ちなみに、正面に長砲身シャーマン、M3、んで短砲身シャーマンだな」

 

「OK、火力は不足気味ね?」

 

「ああ、そうだな...ん?」

 

後方から爆走する戦車をがいる。あれはいったい...

 

「バカな!」

 

「ARL-44!」

 

ファインツは叫んだ。

ここに来て強力な重戦車が現れたからだ。

 

「前言撤回!ARL-44接近、操縦手後退!」

 

ARL-44の主砲は長砲身の90mm砲で、ティーガーの正面なら余裕で貫ける。こんなところでやられるわけにはいかない

ARL-44は停車するとこちらに砲撃するが、数m正面に落下した。

 

「車体を振れ!」

 

ファインツは車体を左右に小刻みに振るように指示する。そこへ2発目が着弾。かろうじて弾いたが衝撃は凄まじい。

 

「フォイア!」

 

アハトアハトがARL-44に射撃するが、弾かれた。

 

「クソ...かえる野郎め...」

 

「おっ待たせ~、射撃準備完了よぉ」

 

「さっさと撃ってくれ!」

 

「はいはーい。全車、open fire!」

 

ケイラーのアルファ中隊が一斉に砲撃を開始、ケイのあさがお中隊に無数の砲弾を降り注がせる。

 

「What?!」

 

ケイは砲撃してきた方向を双眼鏡で確認する。そこには当然だが敵部隊が展開していた。距離にしておよそ3~400mといったところだろうか。

 

「みほ、こちらケイ。敵中隊と接敵、交戦を開始するわ」

 

「わかりました。無理をしないようにしてください。」

 

「OK、ファイア!」

 

ケイのあさがお中隊がアルファ中隊との交戦に入った。双方が砲弾の雨を降らせる。

 

「こちらファインツ。ツヴァイ中隊全車前進!ARLと接敵、合流して守備を固める」

 

「了解」

 

かろうじてARL-44からの砲撃に耐え、家屋の裏に隠れたファインツは後方から追従するツヴァイ中隊に増援を要求した。

 

 

一方、アズミ率いるコスモス中隊はアルファ中隊の正面に展開しようとしていた。

 

「こちらアズミ、敵中隊はおよそ500m。こちらも攻撃を開始するわ」

 

「了解。お願い」

 

アズミはケイに告げた。

 

「それじゃナオミもよろしく」

 

ナオミはアズミからの言葉を軽く流しつつ、前方のアルファ中隊のM4シャーマンに狙いをつける。

ただ黙ってしっかりと照準を合わせ足元の発射ボタンに足をかける

 

ファイアフライの17ポンド砲がけたたましい音と共に徹甲弾を放ち、シャーマンに命中する。そのシャーマンは白旗をあげた

 

「だぁぁクソ!もう退場かよ!」

 

「怪我は!?」

 

「ああ大丈夫だ。だがもうリタイアだぜ」

 

ケイラーは安否を心配したが、大丈夫のようだった。

 

ナオミは次の獲物を狙うべく、砲塔を旋回。ケイラーが乗る『M26 パーシング』に狙いを定める。

そして再び発射、砲弾は車体正面をとらえた。

 

......が、白旗があがらない。確かに正面には穴が開いているがなぜかあがらない。それもそのはず、ケイラーのパーシングは少々改造してある。もちろん違法なものではないが、車体正面に増加装甲を張り付けてあった。

 

別のシャーマンの装甲を剥ぎ取り、ボイラー鋼板と共に二重で貼り付けていた。高火力のドイツ戦車対策としてやっていた事が功を奏した。

 

「いったぁ~...でも残念。こっちには増加装甲あるからね。お返しのfire!」

 

ケイラーは正面に展開するアズミ中隊に向けて発射する。ナオミはそこから一本下がった位置に居たのでまだ見つかった様子はないが...

 

(もう一度撃つだけ)

 

ナオミは気を取り直して再び照準を合わせる。が、直後真横を眩い閃光が走ったと思うと隣の木が弾けとんだ。

ナオミはその方に砲塔を向ける。そこにはまたパーシングだ。しかし、このパーシングも何かおかしい。車体正面にも増加装甲があるようにも見えるが、それ以前にやけに砲身が長い...

彼女を狙っているのは『T26E4 スーパーパーシング』だ。T26パーシングに強力な長砲身90mm砲を搭載させ、ティーガーⅡをも撃ち抜ける。

その不恰好なまでに伸びた砲身はがナオミのファイアフライを狙っていた。

 

ナオミはとりあえず退くことを決断した。

 

「よーし、松平さん。そっちの状況を教えて?」

 

「こちら間もなく中隊長車と合流します」

 

「OK。大尉、持ちこたえてる?」

 

ツヴァイ中隊の臨時隊長を勤める松平とファインツに状況を尋ねる。

ファインツは辛うじて物陰に隠れつつ応戦しているようだが、押田のARLも物陰から撃っている為に有効打が与えられないようだった。

 

「私としてはアルファと大尉を囮にして敵の左方から回り込んで攻撃したいんだけど、その為には松平さんトコの戦車が適任だと思うのよねぇ」

 

ケイラーはファインツに提案した。ファインツは少し考えて

 

「よしそれで行こう。松平中佐、そちらの判断で隊を分けてくれ」

 

「承知しました。田口、安田の両名は大尉の援護。それ以外の者は俺に続いてアルファの右方へ展開する」

 

「了解しました」

 

松平の指示の元、ツヴァイ中隊は二手に分かれる。

ファインツと合流する別動隊が全速力で向かう。彼はARL、シャーマン、M3リーの3両と3対1で応戦していた。急がなければあさがお中隊に有利な場を作ってしまう。それだけはなんとか阻止しなければ。

 

「遅くなり申し訳ない。援護します」

 

「おう、頼んだ」

 

「こちら松平。間もなく予定地点に到着します」

 

増援の到着と松平の報告が順次無線に流れる。

 

「よし、松平さんの合図でこっちも動くよ!」

 

ケイラーが言う。

 

「こちら押田。敵ティーガーに増援あり」

 

「まだ持ちこたえれる?」

 

「はい、なんとか」

 

押田の報告にケイは尋ねた。

 

「このままじゃ膠着する。動くよ」

 

「でもどうやって…」

 

アズミの言葉にアリサが尋ねたその時だった

 

「てぇ!」

 

松平の号令で松平のツヴァイ中隊がアズミのコスモス中隊への射撃を開始した。

 

「こっちにも回ってきたのね...。だとするとあさがおの正面は囮かしら...。安藤、玉田隊とエクレールと一緒にあの中隊を包囲するわよ」

 

「了解」

 

アズミは側面に回ったツヴァイ中隊を包囲することにした。ツヴァイ中隊はコスモス中隊の左方、小高くせり上がった地形の裏で射線を通した。この地形のお陰で彼らはハルダウンで砲撃ができる。

 

「かしこまりました。玉田、安藤さん、エクレールさんに続け!」

 

西からの指示を聞いた玉田は部下と共に勢いよく『九七式中戦車改(新砲塔チハ)』を走らせ安藤、エクレールの『ソミュア S35』と合流した。

 

 

 

(回り込んで包囲ですか...なるほど)

 

エクレールは心中で囁いた。

今回の親善試合の誘いは即答で快諾した。それもそのはず、エクレールは今のマジノ女学院の戦車道を変えたいからだ。マジノはBCとの分校になるが、その戦術は真逆で、マジノは防衛戦を得意とする。が、今までその戦術でいい結果を出せていない。だから、前隊長に刃向かってでも変えたかった。その為に全国大会前にはサンダースや大洗と練習試合をした。

 

「このまま全速力で一直線で向かうぞ。好き勝手させるな!」

 

「コンプリ!」

 

エクレールは答える。

マジノを変える為に彼女はこの試合にかけていた。強豪を相手に強豪と共に戦う。こんなチャンスを逃したらもう二度と変われないだろう。だから、この試合で相手と仲間の戦い方を学んで奪ってやる。そう彼女は意気込んでいた。

 

(知波単が変われたのだから(わたくし)達だって...!)

 

エクレールは心中で叫んだ

 

そうこう考えていると、こちらの動きに対して相手も対処して来た。ツヴァイ中隊の『九七式中戦車改(新砲塔チハ)』と『一式中戦車 チヘ』の47mm砲弾が安藤、エクレールのソミュアに当たる。しかし、貫通することもなくいたって問題はなかった。

 

「相手が日本戦車なら余裕を感じれますわね」

 

正直、エクレールは日本戦車に恐怖を感じなかった。日本は紙装甲、低火力と知っているからこのドイツ戦車を苦しめた歴史ももつソミュアならばと余裕を感じた。結局その後も何発かの砲撃に耐え、彼らの陣取る丘に登れる所まで来たのだが向こうもさせまいと反撃してくる。

 

「よし、このままソミュアで相手を押さえる。玉田隊は脇からやれ!」

 

「コンプリ!」

 

「かしこまりました!」

 

エクレールと安藤は一気に距離を積めて行く

...しかし、エクレールに向けて放たれた砲弾がそれを阻止してしまった。弾は外れたが、エクレールはその砲撃の主を探し、見つける。それはチハの車体に戦闘室を設け、七糎半対戦車砲を搭載した駆逐戦車のようなものだった。

 

「なっ...三式砲戦車ホニ!」

 

それは『三式砲戦車 ホニ(正しくはホニⅢ)』で、上記の通りチハに七糎半対戦車砲を搭載した日本版駆逐戦車だ。この主砲なら1000m先のシャーマンの正面を撃ち抜く火力があるため、ソミュア程度なら余裕で貫ける。しかも厄介なことに、隣には同型の砲を搭載した中戦車までいる

 

「くそ!チヌもいるのか」

 

安藤は言った。

敵にはアリクイさんチームと同じ『三式中戦車 チヌ』までいる。いや、それだけならまだよしとしよう。エクレールの目には日本戦車とは思えない主砲の戦車がいる。しかし、車体の構造は日本戦車のそれなので間違いは無いはずだ。しかし、日本戦車らしからぬ長砲身が不安を煽る。

 

その戦車の正体は『四式中戦車 チト』だ。日本の戦車の中で最もバランスよくまとまった戦車で想定された日本本国防衛戦の切り札として開発していた戦車だ。量産数も6輌と少なく、幻の戦車と言われるほどのものだが、それが今ゆっくりとこちらに砲塔を指向している。

しかも、待たせたなと言わんばかりの勢いで『Ⅲ号戦車N型』まで増援にくる。

 

「アズミ中隊長!こちら、予想外の反撃により危険です。すぐに増援を!」

 

「仕方ありませんね。私が行きます」

 

ガレットの声がする。彼女はかもチームと同じ『ルノー B1 bis』に搭乗する。この場で重戦車が来るのはありがたい。

 

「それまで皆さん耐えますわよ!」

 

エクレールは一層気合いの入った声を上げた

 

...だが、そう言ってられる状況では無くなってくる。

 

「よぉし、そろそろ頃合いかなぁ。ウィットナー?」

 

「ああ、好きなタイミングでいいぞ」

 

ケイラーはウィットナーに問うが、あっさりと許可が出てしまった。

 

「それじゃ、ジャックよろしく」

 

「yes sir」

 

ケイラーはジャックと呼ばれる男に何かを頼んだ

 

 

ついにブラッド・ハウンド連合が本格的に動く!

 

 

 

次回「さっそく激戦です!」




第一話がようやく終了しました。
いやぁもう少し早く投稿できたはずだったんですが、まさかの最後の最後でデータ全消えしまして...
やる気を失いつつもなんとか仕上げましたw


ではここで、ブラッド・ハウンド隊、アルファ、ツヴァイ中隊の戦力をどうぞ

ツヴァイ中隊
九七式中戦車改×3
一式中戦車×1
三式中戦車×1
三式砲戦車×1
四式中戦車×1
五式中戦車×1
Ⅲ号戦車N型×1
ティーガーⅠ×1
計10

アルファ中隊
M26×1
T26E4×1
M4×3
M4A1 76(w)×1
M4A3E2×1
M18×1
M4A3×2
    計10

それでは次回もよろしくお願いします


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さっそく激戦です!

語彙力皆無な私には小説はやっぱり難しい...

もちろん完結まで頑張りますけど...

追記、前回に引き続きこの話も大幅に修正しました。
その為この次に別の話を追加することになりましたのでご報告します。現在の4話は間が空いた話となってしまうので新4話の完成まで少々お待ち下さい。


ジャックは草木生い茂る森林を爆走させていた。

 

「よし、道に出るぞ!」

 

道なき道を走破し草の影から突如、戦車をあさがお中隊の後方から出現させる。

 

「Fire!」

 

ジャックは指示した。すると、76.2mm砲が火を吹き、サンダースの無印M4を撃破する。

 

「ケイ隊長、後方からやられました!」

 

「回り込まれた!?後方警戒厳重に!」

 

「クソっ逃げられた!」

 

撃破されたM4の前方にいたBCのARL-44が敵を取り逃がしたようだった。

 

「アズミ中隊長、そっちに敵戦車が」

 

「了解。確認したわ」

 

ケイからの無線にアズミは答える。

 

「私の位置では難しい...西さんそっちで対処お願い。」

 

「かしこまりました!...全車、撃ち方始め!」

 

知波単の戦車群が走るジャックの車両に砲撃を開始した。だが、ジャックの戦車は想像以上に速く、当てるのは至難の業だった。

 

「榴弾装填!目標ファイアフライ!」

 

「Roger!」

 

ジャックは装填手に榴弾の装填を促し...

 

「Fire!」

 

放たれた榴弾はファイアフライの右履帯に命中、破損させた。

そして、さらにその奥の安藤隊のもとへと走り始める。

 

「安藤!そっちにヘルキャットが行ったわよ!」

 

アズミは安藤に警告する。

ジャックが乗るのはアメリカの『M18 GMC ヘルキャット』で、走・攻に特化した戦車駆逐車だ。本来であれば、オープントップである本車は規定違反となるが、夏の試合にオープントップである『カール自走臼砲』を文科省が認めているため、そのままこちらも許可が下りてしまった。

 

ジャックはヘルキャット自慢の機動力で相手を翻弄する。そして、それを待ってましたと言わんばかりにケイラーが動く。

 

『よし全車、側面の敵戦車隊に照準。弾種、白リン弾装填!』

 

ケイラーは自隊に白リン弾の装填を指示する。

白リン弾は煙幕・焼夷弾の一種で、最近では煙幕としての使用がほとんどだ。ケイラー達も向こうの世界では同じ用途で使ってきた。任意の目標に煙幕を発生させ、目標の指示等にも使用した。とはいえ白リン弾と呼んでいるが戦車道用のものは別成分のただの煙幕弾だ。

 

「Fire!」

 

ケイラーの指示のもと、全車があさがお中隊目掛けて煙幕弾を放つ。あさがお中隊はその煙幕にまかれて辺りの状況が全く見えなくなってしまった。

 

「Shit!」

 

ケイは毒づいた。しかし、この状況では何も出来ない。もし待避しようとすれば、煙幕から出た所を狙われかねない。

 

「ナオミ!アズミ中隊長!」

 

ケイはそちらに頼もうとした。

ナオミは履帯を切られたものの、反対側は無事なので必死に車体を動かし、狙おうとするが、それを阻止するようにスーパーパーシングが邪魔をする。まるで弄ぶかのように命中させることなくただ跳弾するような射撃をしてくる

 

「クソ!」

 

そんな状況で毒づいかないはずもなく、ナオミは苛立ちが募っていった。

さらには追い討ちをかけるようにファインツ、ケイラーが動き出す。

 

「よ~し、このままアルファ中隊前進〜。フレディよろしく」

 

「yes sir」

 

「田口、安田、俺に続け。前進だ」

 

アルファ中隊とファインツ達が前進を開始。

 

フレディはようやく照準器ほぼ中心をファイアフライの正面に持ってきた。

フレディはケイラー率いるアメリカ軍特殊部隊『エンジェルス』の名砲手で、実力はナオミに匹敵すると思われる。でなければ、スーパーパーシングなんて代物を任されない。

 

ナオミはこちらへの砲撃が一瞬止んだのを見逃さなかった。すぐさまさっきまでこちらを弄んでいたスーパーパーシングに狙いを定める。が、スーパーパーシングはさっきまでとは違い、こちらに殺気のこもった砲身を向けている。

 

(撃たれる...!)

 

そう覚悟した刹那、90mm砲が火を吹き、車体正面に直撃をもらった。

 

誰もが白旗があがると思ったが上がったのただの白煙だった。フレディは煙幕弾を放ち、ナオミの視界を絶ったのだ。

 

「そんな...」

 

アズミは辺りを見回す。煙幕やヘルキャットの奇襲で中隊は滅茶苦茶だ。

ヘルキャットは安藤、エクレール隊にちょっかいを出したのか、玉田隊のチハが1輌白旗をあげている。当のヘルキャットはアルファ中隊に合流している。

 

動き出したアルファ、ツヴァイ中隊はシャーマンとティーガーを先頭に突撃してくる。恐らくはこのまま強行突破し、丘を狙うひまわりの背後に回り込むつもりだろう。

 

「全員落ち着いて!前方12時方向、敵部隊突撃中!先頭車輌に集中攻撃!」

 

アズミは皆をなだめ、攻撃目標を指示する。

中隊のメンバーは強豪校で構成されているが故、その一言で我に返ったように指示通りの行動に移る。

 

「ここを強行突破とは、元気がいいですわね。...はむっ」

 

マリーは相変わらずケーキを食べる。

コスモス中隊のすべての車輌が正面のシャーマンを狙う。 

 

「押田!微速後退しつつタイガーに砲撃!動きを鈍らせて!」

 

「了解!」

 

押田はケイの指示を受けティーガーに照準を合わせる。

 

「奴が撃って来るぞ!タイミングを合わせて回避!田口、安田!回避後全速力で突っ切るぞ!」

 

「全車砲撃!」

 

「撃てぇ」

 

アズミと押田は砲撃の号令を出す。

 

「今だ!」

 

ファインツのティーガーは発射と同時に合図を出し回避行動を取った。弾を避けたティーガー達は速力を上げ一気に距離を詰めた。

 

「おらおら!邪魔だぁ!」 

 

「あわわわ!こっち来る!」

 

「させないわ!」

 

慌てる大野あやと応戦するアリサ。

アリサが通させまいと進路を妨害するが、ティーガーの全力タックルで簡単に吹き飛ばされてしまった。

 

「安田!」

 

「御意!」

 

さらにファインツの指示で煙幕を展開。ケイ達は視界を奪われ、逃げる3両に砲撃するが虚しく空を切り裂くか地面の土を舞い上がらせるだけだった。

 

一方、アズミ率いるコスモス中隊が放ったパーシングの90mm砲、チハの57mm、47mm砲、FT-17の37mm砲、ソミュアの47mm砲が前方のシャーマン目掛けて飛んでいく。

シャーマンは当時としては並みの装甲を持つ。チハ、FT、ソミュア程度の砲弾なら弾けるが、パーシングの90mmには非力だ。

だが、辺りに響くのはそれらの砲弾が虚しく弾かれる音だった。

 

「ジャンボを甘く見んなよ?」

 

先頭に立つシャーマンは「M4A3E2 シャーマンジャンボ」。

M4A3をベースに増加装甲と重装甲の新型砲塔を搭載した戦車で、ざっくり言うとドイツの重装甲中戦車『Ⅴ号戦車 パンター』よりも分厚く、さらにはかのティーガーをも凌ぎつつ、防盾に至ってはティーガーⅡ並みにあるという、まさに鉄壁の名がふさわしい戦車なのだ。

 

ジャンボはすべての弾を弾き返し、猪突猛進でコスモス中隊を突破する。

アズミは行かせまいと車体、砲塔を旋回し、迎撃に入ろうとするが残った少数のツヴァイ中隊車に邪魔される。

 

「よし!我々も退避するぞ!」

 

残った松平の隊が撤収に動いた。

 

「ケイラー曹長、ファインツ大尉!こちらは別ルートで退避後そちらと合流します。…長門、五十嵐、俵3名は後退!残りは時間を稼ぎつつ撤退!」

 

「了解!」

 

「さぁ正念場だ!大和魂を見せてやれ!」

 

殿を務める事となった残りの内、四式中戦車の車長『砥用(ともち)』が周りを鼓舞する。

長門、五十嵐の乗る新砲塔チハと俵の三式砲戦車が向きを変えて先程来た道とは別のルートへ動き出す。

 

「松平中佐!中佐殿も撤退を!」

 

殿部隊、一式中戦車の米田が言う。

 

「現状では火力のあるチヌを残した方がいい。米田、お前から撤退しろ」

 

「しかし…!」

 

「米田…言っているだろ?聞き分け良くな?」

 

「はっ…承知しました!米田車撤退します!ご武運を!」

 

「お前もな!」

 

松平は撤退するチヘを見送った。

 

「格好良く決めた所申し訳ないですが、お次は中佐殿ですよ」

 

「ああ、そうだな!」

 

砥用の言葉に松平は返す。だがそう簡単に撤退させてはくれないようだ。

 

「奴ら撤退している!押し込め!」

 

安藤隊が前に出てくる。

 

「クソっ来るぞ!中佐殿急いで!」

 

「頼んだぞ!」

 

松平は後退し向きを変える。

しかしその時だった…

 

「なっ!砲手!」

 

「はっ!」

 

松平は自車の砲手に合図した。

アルファ中隊が退却したため、アズミのコスモス中隊が後方へ回り込んだのだ。松平車のチヌ砲手は登ってくる西のチハに砲撃。砲塔に跳弾したチハは後退した。

 

「砥用!後方敵戦車!回り込まれたぞ!」

 

「クソっこっちもだ!大尉が足止めしてた部隊がこっちに来た!」

 

Ⅲ号N型の車長、シュヴァルツが言う。

 

「中佐!急げ!砥用は後方を抑えろ!」

 

シュヴァルツが叫ぶ

 

「松平車、撤退する!」

 

松平が全速力がその場を撤退する。あとはシュヴァルツと砥用の2両だけだ。

 

「中佐撤退後20秒後に撤退する!」

 

「20秒?!出来るのか?!」

 

「出来る出来ないじゃない!やるんだよ!」

 

シュヴァルツは砥用の問に答える

 

「相手は残り2両!」

 

「アズミ、前に出るわ」

 

「了解。押田車も前へ」

 

アズミのパーシング、押田のARLが前衛に出て来た。

 

「ヤバイ!微速後退!」

 

徐々に追い詰められる2両。そして…

 

「20秒経過!」

 

Ⅲ号N型の通信手が叫ぶ。

 

「撤退!撤退!」

 

シュヴァルツが叫ぶ。

 

「待て!このまま撤退しても奴らに追われる事になる!」

 

「じゃあどうするんだ?ここで敵を殲滅するか?ヴィットマンみたいに?」 

 

「いや…何か足止め出来る良い方法は…っ!そうだ!木だ!」

 

「はあ?」

 

「道の両側にあるあの木を倒して道を塞ごう」

 

「そうかその手があるか…よし、砥用先に行け」

 

シュヴァルツは彼の案に賛同し、彼を先に撤退させすぐにその後を追うことにした。しかし、攻撃が止んだ一瞬を彼女達が見逃すはずもなく一気に迫ってくる。

 

「準備完了!」

 

「よし!同時に攻撃するぞ!」

 

砥用、シュヴァルツの両名の戦車がその場を離れる直前に両脇の木に狙いをつける。

 

「てぇ!」

 

「フォイア!」

 

2両から放たれた砲弾が木に直撃。バキバキと鈍い音を立てながらゆっくりと倒れる。しかし、同時に敵も登ってきた。

 

「木が倒れるぞ!」

 

「急げ!」

 

安藤、押田が急いで彼らを追撃する。

 

「っ!停止!」

 

アズミは無理と判断して戦車を停止させる。しかしBCの二人はギリギリまで追いかけようとした。しかしアズミの判断が正しかった。

伐採された木はそのまま地面に落ちず、ARLの長い砲身にのしかかった。重い木がのしかかった為にARLはつんのめるように前方にバランスを崩し車体後部が浮き上がる。そこに止まりきれなかった安藤のソミュアがぶつかる。

 

「おい!早くそこをどけ!」

 

「そっちが無理矢理前に出るからこうなったんだろ!」

 

「なんだとぉ?!」

 

「もういい加減になさい」

 

押田、安藤の口論にマリーが割って入った。

 

「全車追撃中止。ARLの救出に取り掛かるわよ」

 

アズミは淡々と指示をしていく。

 

「西住隊長、敵中隊はコスモス、あさがお中隊を突破。こちらは損傷した車両もあるためしばらく動けそうにないわ。気をつけて」

 

「了解しました。ひまわり、あじさい中隊は敵が回り込んでくる可能性もあるので注意してください。」

 

「了解よ」

 

みほの警告にエリカが答える。

 

 

一方のエリカ達は丘の麓に到着し、偵察を出していた。

 

「ペパロニそっちはどうだ?」

 

アンチョビが聞く

 

「ドイツとロシア戦車が来てるっすね。丘を取るんじゃないんすか?」

 

「だそうだエリカ。どうする?」

 

「...」

 

「あと、向こうは麓まで来てないんで、登り始めたらこっちが先っすよ」

 

「取ることにこしたことは無いんじゃない?アズミを突破した敵中隊が来るかもしれないし、有利な地点を占領しておく方がいいと思うけど」

 

メグミが助言する。

 

「...それもそうね。みほ、こっちは丘を占領するわ」

 

「了解しました。気をつけて」

 

「全車、パンツァー・フォー」

 

ひまわり、あじさい中隊が丘の奪取に動く。

その動きは偵察隊によってドライ、ベータ中隊にも筒抜けだった。

 

「敵中隊、丘への進行を開始。丘の奪取に動いた模様」

 

「了解した。さてどうするか...」

 

エンドラーは自問した。

 

「相手が丘を取るってことは、向こうに有利な状況を作るってことでしょ?」

 

シャラシャーシカが言う。

彼女の言わんとしていることは分かる。つまりは応戦しろということなのだが...

 

「そのまま取らせよう」

 

「え?何で...」

 

「丘をあえて譲り相手の出方を見つつ、油断させる。だが、手の内を知られないようこのまま前進する」

 

「「了解!」」

 

「よし、パンツァーフォー」

 

エンドラー達も丘への進軍を開始した。

 

しばらくしてエリカ達ひまわり、あじさい中隊は丘の奪取に成功した。

 

「周辺異常なし。丘の奪取に成功したわ」

 

エリカはみほに告げる

 

「了解しました。前方の敵中隊に警戒しつつ、各中隊の支援に入ってください」

 

「了解…エマ、小梅、皆んなもよく聞いて…」

 

エリカは改めて同じ黒森峰の仲間たちに指示を伝える。

 

「了解です中隊長。」

 

赤星 小梅からの返事がヘッドフォン越しに聞こえる。

 

「頼むわよ…それでは砲撃開始!」

 

「選抜チーム戦のようにはいかないわよ、撃てぇ!」

 

カチューシャが発射の号令を出す。前方を警戒するひまわり中隊が一斉に砲撃を開始する。

 

「元気いっぱいにやってくれるわねぇ... 反げ...」

 

「全車撃つな!」

 

「ちょっ...何でよ」

 

「この距離ならそう当たらない。ケーニヒスやパンサーならともかく、ソ連戦車の精度ではな」

 

エンドラーはシャラシャーシカの問いに答える。

 

「ちょっとそれ、うちの戦車バカにしてない?」

 

「そうは言ってない。火力は馬鹿に出来ないしな。それに、ドイツ戦車並みの精度があるのか?」

 

「そ、それは...そうだけど...」

 

「中隊長、大丈夫だ。バイアスの加護がある」

 

「バイアスって...お前らな...」

 

そんなたわいもない話をしている間も、ひまわり中隊からの砲撃は続く。中隊長であるエンドラーの『ティーガーⅡ(ヘンシェル砲塔)』への砲撃は酷く相手の必死さが解る。だが『王虎』の名前は伊達ではなく、生半可な弾をことごとく弾き返す。

 

「こちらが丘を登り始めたら反撃開始だ。また、同じタイミングで左右に分散」

 

「「了解!」」

 

ドライ、ベータ中隊は敵の攻撃に怯むことなく、ただひたすら前進する。

 

 

 

「ノンナ、あのティーガーⅡを撃ちなさい」

 

カチューシャがノンナに指示する。ノンナはただ「да」とだけ返すとティーガーⅡに狙いを定めた。

ノンナの技量であればこの距離で当てることは容易い。しかし相手はあのティーガーⅡだ、弾き返される可能性すらあるこの状況で狙うのは一ヵ所のみ...

 

相手とこちらの高度差からティーガーⅡの砲塔ならびに車体の天板が狙える。そのどちらとも確実に貫通させられる。ノンナはしっかりと砲塔天板に照準を合わせる。

しかし、その動きはエンドラーにもわかっていた。というより分からない訳もない。どれ程東部戦線で鍛えられたことか...

 

「JS-2が此方を狙ってるぞ」

 

「クソ」

 

砲手が毒づく。

 

「操縦手、指示で停車しろ」

 

「ヤヴォール」

 

エンドラーは相手の照準方法を考えた。

こちらが走行しているということは、相手は偏差射撃をするだろう。ならば射撃の瞬間に停車出来れば回避できるかましれない。

 

そしてIS-2からのマズルフラッシュが確認できた。つまりは射撃したということだ。

 

「停車!」

 

エンドラーの言葉にすぐさま反応した操縦手によってティーガーⅡは急停止。砲弾はほんの十数センチ手前に落下した。

 

「よしJS-2の装填は遅い今のうちだ!ツィフィカ、そっちの隊で全速力で囲め!全車、榴弾装填!頂上付近に砲撃!土煙で目眩ましをする。」

 

「ヤヴォール。豹小隊、パンターフォー!」

 

エンドラーのドライ中隊所属のツィフィカ・シュライガー曹長率いるパンターで構成された小隊がツィフィカのあどけなさが残る女性の声による号令ののち、残りの戦車が指示通りに榴弾を発射。土煙を発生させて視界を奪いその隙にツェフィカの隊が動き始める

 

「じゃうちも続くよ!」

 

シャラシャーシカの『T-34/85』と同中隊のT-34/85、2輌が後を追う。

 

 

「来たわね…さぁ行くわよ!」

 

エリカはひまわり各車に通達しエリカのⅢ号、飛騨エマのⅣ号、赤星率いるパンター3両とプラウダのT-34/762両が丘上から動き出した。

 

こうして、ひまわり、あじさい中隊とドライ、ベータ中隊との戦いが幕を開けた。

 

 

次回、「丘上の攻防戦です!」

 

 

 




作品イメージの為にプラモを作ってるんですが、小説とプラモの両立は難しいですねw

ついついプラモに注力してしまう...


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丘上の攻防戦です!


こちらは前回言っていた新4話となります。


 

丘の周りを全速力で掛けるパンターとT-34の部隊。

しかしツェフィカへ一報が入る。

 

「ツェフィカ曹長!一時の方向!上です!」

 

その声はツェフィカのパンター小隊の一員、パンターG型車長からだった。ツェフィカは報告された方角を見た。そこには丘を全力で降る黒森峰の戦車群がいた。

 

「敵が降りてきた?!いいわ迎え撃ってあげる!全車、一時方向!転進!」

 

一転して丘を駆け上がるツェフィカ隊。一方エリカの黒森峰隊も速度を落とすことなく一騎打ちの体制に入る。すると敵のパンター隊を追い越す形で敵のT-34/85が前に割って入る。

 

「T-34、撃たれるよ」

 

「ああ、あんたが早々に退場しないよう弾受けしてやるよ!」

 

T-34は盾になるつもりのようだ。

 

「撃ち方用意!」

 

エリカの指示を受け小梅のパンターG型とパンターG型2号車がT-34を照準器に捉える。

 

「いいわ…この全身が熱くなる感じ…最高じゃない!」

 

ツェフィカはかなり興奮している様子だった。

お互いの距離がぐんぐん近づき、そして…

 

「撃て!」

 

エリカの令でパンター2両が砲撃。砲弾は正面のT-34を撃ち抜いた。直撃を受けたT-34はそのまま白旗を揚げ、ツェフィカ達はその行動不能になった戦車を回避しさらに前進する。しかし今度はツェフィカのパンターD型の左右前方にそれぞれパンターG後期型、A型が配置。

 

「ほい!」

 

ツェフィカの合図で2両のパンターがドリフトの要領で砲身は正面のまま車体をそれぞれ左右に振る。

そしてもう一度ツェフィカは合図を出す。二度目の合図でD、A、G型が寸分の狂いもない同時射撃を開始。砲弾は黒森峰のパンター2号車に直撃。強力な75mm砲弾を3発同時に受けたパンターは車体をバウンドさせ急減速。そのまま白旗が揚がった。エリカ達は白旗を揚げた戦車を避け再び隊列を整える。

ツェフィカ等の車体を振った2両はすぐに体勢を戻し、

 

「今!」

 

ツェフィカの合図でパンター3両が左右に展開。彼女らの後方に居た残りのT-34/85、2両とパンターG型1両が現れ、

 

「撃て!」

 

シャラシャーシカの指示で残った3両が砲撃。エリカや小梅等は回避出来たが彼女の後ろに居たプラウダのT-34/76が1両、2発の攻撃を受けて白旗退場となる。

お互い速度をそのままに交差した。エリカのⅢ号とシャラシャーシカのT-34が激しく火花を散らしながらすれ違う。

 

「ほいっ!全力ターン!」

 

ツェフィカ以下3両のパンターが向きを変えて交差したエリカ、小梅らの3両と対峙する。一方残った3両は頂上目掛けて一直線だ。このままではひまわり、あじさい中隊の側面を取られる事になる。

 

しかし、エリカは伊達に黒森峰の隊長をしてる訳では無い。これを想定した上で飛騨エマのⅣ号G型とT-34/76を待機させていた。

 

「あのやろうを通すな!撃て!」

 

エマの号令でⅣ号、T-34が攻撃。しかしそれらはパンターに防がれてしまう。

 

「んなもん効くかよぉ!」

 

パンター車長は声を張り上げる。数的にも火力的にも完全に不利なエマ達が彼ら完全に食い止めるのはまず困難だ。このまま容易に突発されると誰も思っくだろう…しかし

 

「頼むわ!」

 

「了解」

 

エリカは誰かを呼んだ。

そしてパンターがゆっくりと照準を付けられ、一発の砲声が場の空気を変えた。パンターに強い衝撃が走り車体前方から黒煙が上がる。彼を狙ったの黒森峰のティーガーⅠ(212号車)。それは西住まほの搭乗車だった。しかし彼女はドイツ留学中だ。その為今はドイツからの留学生「ツェスカ」が搭乗していた。

 

攻撃を受けよろめくパンター…

 

「なんとぉ!」

 

パンター車長が叫ぶ。辛うじて直撃は避けられたようでヨロヨロしながらも前進をやめない。しかしあの攻撃で隊列が乱れたのは事実で、その一瞬の隙をエマは見逃さなかった。再び放たれるⅣ号とT-34の砲弾はシャラシャーシカのT-34を襲う。

 

「隊長!」

 

咄嗟に追従するもう1両のT-34が体当たりで回避させたが結果として彼が白旗を揚げることになってしまった。

 

「くっ…!ここは一旦体勢を整えたほうが良さそうね」

 

シャラシャーシカの言葉でパンターとT-34が転進。一旦距離を置く事にした。

 

「ふふふ…それでこそ黒森峰!最高よ!この試合の為に戦車道の戦い方を入念に叩き込んで来たんだから!」

 

「みんな、押し込むわよ。裏取り部隊が来る前に!」

 

エリカは風向きがこちらに向いている今のうちに再び攻勢に出た。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

頂上でドライ、ベータ中隊を砲撃中のあじさい中隊長、メグミは周辺を警戒しつつ一つの疑問を感じた。

 

「おかしい…コスモス、あさがお中隊を突破した部隊がもう現れてもおかしくないはず…」

 

彼女は一向に現れないアルファ、ツヴァイ中隊を不審に思った。

 

(まさか丘は攻撃目標じゃない?まさかアズミ達を待ち伏せしてるのかしら?いや、単純に丘を私達が取ったから出るに出られないとか?)

 

メグミはあらゆる可能性を模索した。

 

「こちらメグミ。アズミ聞こえる?」

 

「こちらアズミ。どうしたの?」

 

「そっちを突破した中隊が見当たらないの」

 

「え?もう現れてる頃よね?」

 

「ええ、だからあんたを待ち伏せてる可能性もあるから警戒し

て」

 

「了解」

 

メグミ、アズミの両名は簡素に情報を共有し通信を終える。そしてその時だった

 

「敵中隊、およそ8分で頂上へ来ます」

 

小島エミの一報でメグミは前方に視線を向ける。確かに敵中隊が距離を縮めている。

 

「いい!登らせちゃ駄目よ!ニーナ、あのヤークトティーガーを木っ端微塵にしちゃいなさい!」

 

カチューシャは言う

 

「全く人使い荒い人だべ」

 

KV-2がドライ中隊のヤークトティーガーに砲撃。しかしKV-2の152mm砲であってもヤークトティーガーの分厚い戦闘室は撃ち抜けない。

 

「やぁっぱアイツはバケモンだべ!」

 

「全車、攻撃を止めるな!敵の反撃を最大限阻止しろ」

 

エンドラーは前進する全車に通達し作戦を練る。

 

(さて、丘を奪取するにはどうするか…鍵だったツェフィカが黒森峰の迎撃でほぼ使えなくなってしまった。正味今現状は向こうに有利な風が吹いている。地形の不利を補うには…隊の到着まで地盤を固めとかないといかん。その為にはなんとかツェフィカに息を吹き返してもらわないとな)

 

エンドラーは無線に手をやる

 

「ケイラー曹長、ドゥーェン、頼みがある…」

 

「…ok、分かったわ」

 

「ヤヴォール。でもいいんですか?」

 

「ああ、今は戦力がほしい」

 

エンドラーの指示に二人は承諾しすぐ行動を開始し、彼も無線を終えキューポラから頭を出し今一度状況を確認する。そして激しい衝撃と共にけたたましい跳弾音が車内に轟く。

 

「ちっ…JS-2か…こちら中隊長車。そちらのJS-2でプラウダのスナイパーの動きを鈍らせてられるか?」

 

「了解。やってみます」

 

エンドラーはシャラシャーシカ隊のIS-2、2両にノンナに精密射撃させないよう頼んだ。

2両のIS-2が射撃しノンナ車を激しく揺らす。

 

「中隊長。頂上到着までおよそ6分」

 

エンドラーはヤークトパンター車長からの報告を受け腕時計を確認した。

 

「全車!微速前進!少しタイミングを合わせよう」

 

ドライ、ベータ中隊の動きが鈍る。ひまわり、あじさい中隊はチャンスとばかりに攻撃を一層強めた。

 

「エリカがパンター隊を抑えたせいで、計算が狂ったようね。とすると、敵は打開するために増援を呼んだと考えた方が良さそうね」

 

さすが大学選抜チームの中隊長に任命される人物だ。メグミは鋭い洞察力でエンドラーの手を読む。しかし全てを読み取った訳では無いようだ。

 

「攻撃が激しくなってきたな」

 

エンドラー車の装填手がそっと呟く

 

「そうだろう。恐らく向こうさんは俺らが動きを遅らせたのを見て、『別動隊が抑えられて計画が狂った』と考えてるんだろう」

 

エンドラーはすかさず敵の動きを汲み取る。

 

「だとしたら、完全に手の内はバレてるじゃないですか」

 

これは別のヤークトティーガー車長だ。

 

「いや、完全には汲み取れてないはずだ。…所詮、俺達がただの囮だってことはな」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「そういえば、なぜ丘を取らないんです?その方が有利でしょう」

 

ブラッドハウンド連合、シャーマンファイアフライの車長がウィットナーに問う。

 

「確かに高所有利は戦闘の常識だ。だがその為に大損害は出したくない。」

 

ウィットナーは淡々と答える

 

「今俺達がやってるのは戦車道だ。実戦のように規模も部隊も自由に選べる訳じゃない…通常なら砲兵や航空機を使うが決められた数、レギュレーションに則って戦う必要がある。第一、選抜戦でカールなんぞ出してくる奴らだぞ?たまったもんじゃない」

 

「だったらこっちも出せば良い」

 

ファイアフライ車長が言う

 

「そう、だから()()を持ってきたんだ。本当は数が許すならシュツルムティーガーを持ってきたんだがな」

 

「ええ、でしたら我々もビショップを持ってきましたのに…」

 

英軍『ファントムナイツ』の隊長、エマ・パターソンが少し落胆して言った。

 

「ビショップ?プリーストじゃなくて?」

 

ウィットナーが聞く。

 

「プリースト?あんな物は下品よ!ビショップこそ可憐で美しいわ!」

 

「…なんでコイツはプリースト嫌いなんだ…?」

 

 

ウィットナーは呆れたように呟く。

 

「アメリカ製だからですよ。この人、純英国製しか認めないんですよ。…俺等のファイアフライやアキリーズも仕方なく使ってるらしいし」

 

皆苦笑するしかなかった…

 

「純英国製なんて言いように言うな。この人変なのばっかり好きだろ」

 

「やっぱうちの隊長は変わってんなぁ…駄目かもしんね」

 

「なんてことだ…もう助からないぞ」

 

チャレンジャーの装填手、車長、操縦手がそれぞれぼやいた。

 

「試合が終わったらよ〜く覚えて置きなさいよ」

 

ニッコリと笑うエマだがその目は笑っていない。

そうこう話している内に通信が入った。

 

「敵中隊接敵。およそ10時30分の方向、およそ450ヤード」

 

ウィットナーは双眼鏡を覗いた。

あんこうチーム率いるたんぽぽ、すいせん中隊だ。ウィットナーは無線に手をやる。

 

「全車、10時30分方向へ回頭。縦隊を組んでゆっくりと網をかけるように敵のしょうめに回れ」

 

「了解。砲撃します?」

 

エマが問う

 

「いや、300ヤードを切るまで待機」

 

ウィットナー達アイン、チャーリー中隊は横隊から縦隊へ隊列変えゆっくりとたんぽぽ、すいせん中隊の正面に回り込む。

 

「こちらダージリン。敵発見、1時の方向距離450ヤード。」

 

みほはダージリンの言う方向を確認する。敵の部隊がゆっくりと縦隊になって正面に回って来ようとしていた。

 

「敵はティーガーに、Ⅲ号、Ⅳ号、コメット、ファイアフライ、チャレンジャー、アキリーズ、ブラックプリンスって感じですね」

 

双眼鏡で見ていた秋山が相手の戦力を読み上げていく。

 

「17ポンド持ちが大勢いますわね...わたくし達もブラックプリンスを持ってくれば良かったわ」

 

「...持ってませんけど...」

 

「敵は恐らく、火力、防御力を武器に正面突破を狙ってると思います。このまま11時方向に転進。」

 

みほの指示の元、たんぽぽ、すいせん中隊は進路を変えた。

 

「なるほど。そっちと丘上で俺達を挟もうって事か」

 

ウィットナーはみほ達の動きを読み取る。

 

「エンドラー、そっちの状況は?」

 

「こちらは依然敵と交戦中。微速にて前進中です」

 

「ケイラーは?」

 

「あと3分待って」

 

「よし…全車、縦隊から横隊へ変更。敵正面に突っ込む」

 

ウィットナーの中隊が横隊になり速度を上げて向かってくる。

 

「敵、来ます!」

 

ルクリリがいう

 

「データによるとこちらは36%戦力が劣っています」

 

毎度の如く、アッサムはパソコンとにらめっこしている。

 

「撃って来ない…」

 

「確実な距離まで引き付けてるのでしょうか」

 

みほが呟き、華が語り掛ける。

 

「でも丘は取ってるわけだし、こっちが有利でしょう?」

 

「大学選抜戦を忘れたのか?」

 

沙織の言葉に麻子が被せる。

 

「あじさい中隊、支援可能ですか?」

 

「こちらメグミ、準備は出来てるわ」

 

「分かりました…それではみなさん砲撃開始!」

 

号令により大洗連合の砲撃が始まる。敵への命中弾はないがしっかりと砲弾は届いた。

 

「撃って来たか…少々早いがこっちも撃ち返すか。全車、砲撃!」

 

すかさずウィットナー達も反撃。彼女達よりも強烈な反撃が襲う。

 

「ぐぅ…さすがに狙いは正確ね」

 

ベルウォールのエミが言う。さすがに実戦で十二分の練度を上げてきた彼等の砲撃は命中こそなくとも脅威と言えた

 

「あじさい中隊、支援お願いします。」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「あじさい中隊!砲撃開始!」

 

みほの要請を受けメグミ率いるあじさい中隊は砲撃を開始。放たれた砲弾がウィットナー達の戦車を大き揺らすが、依然進軍スピードが衰えることがない。

 

「そのまま撃ち続けろ!」

 

あじさい中隊は手を緩める事はない。

しかし一本の無線が戦局を変えた。

 

「西住さん!後ろ!」

 

そど子からの無線がこちらにも流れてきた。メグミはたんぽぽ、すいせん中隊の後方を見た。そこにはアメリカ戦車が数輌回り込んでいた。

 

「回り込まれた!?」

 

みほは咄嗟に言う

 

「すいせん中隊転身。目標7時方向。...アズミ、そっちを突破したのはどんな部隊?」

 

ルミは情報を求めた。

 

「パーシングとシャーマンの部隊よ」

 

「てことはあれが突破した中隊か」

 

「中央じゃなく、たんぽぽ、すいせん中隊を狙うとは...あじさい中隊目標変更!目標2時方向。たんぽぽ、すいせん中隊の支援を開始よ!」

 

メグミはすかさず攻撃目標をケイラー達アルファ中隊に切り替え攻撃支援を開始。しかし再び別の無線が入る。

 

「姐さん!後ろっす!」

 

ペパロニがアンチョビを呼ぶ無線だった。その声の直後あじさい中隊の後方に砲弾が着弾する。

ファインツのドライ中隊が丘に進行していた。

 

「こっちも!敵の主力は森林を突破した方か!こっちと向こうの敵はただの囮か!」

 

メグミはファインツの隊へ攻撃を開始。

 

「お待たせ〜。バレないように遠回りしたから大変だったよ」

 

「そのせいで俺達は長い間待たされたし」

 

ケイラー、ファインツが言う。エンドラーはそれを軽く流し

 

「よし、全車前進!」

 

エンドラーの隊が速度を上げて前進を開始した。

 

「うわっ…こちらヤークトティーガー2号車。履帯損傷、行動不能です!…やろう!こっちの足回りはレア物なんだぞ!」

 

「ヤークトティーガーを置いて残りは全速!丘を一気に奪取する!」

 

「まずい…!エリカ隊長!敵中隊が速度を上げて前進!」

 

ティーガーⅡの入間アンナがエリカに報告する。

 

「くっ!間に合わなかった!」

 

「さぁどうする?黒森峰の隊長さん。悠長に構えてる時間はないわよ」

 

ツェフィカは言った。

エリカが指示を考えていたその時、衝撃と共に着弾音が響いた。エリカが後方に視線を向けると、ファインツの隊からツェフィカへの援軍が全速力で向かっていた。

 

「Ⅱ号L型!」

 

「ルクス!」

 

エリカと小梅は増援の到着に声を上げた。

アルファ中隊からのM18とドライ中隊の偵察車、Ⅱ号戦車L型 ルクスの2両だ。

 

「全員撤退!丘を放棄してたんぽぽ、すいせん中隊と合流!」

 

エリカはそう伝えるとすぐに丘を登り頂上の中隊への合流を急いだ。

 

「させない!」

 

シャラシャーシカのT-34がエリカのⅢ号を狙うが、間一髪で割って入った小梅のパンターに防がれてしまう。

 

「にゃろう!覚えてろ!」

 

エマのⅣ号も転進。プラウダのT-34が後を追うがM18の餌食となった。

 

「おっと、お前は行かせん」

 

M18は全速力でT-34と並んだと思ったら、戦車の周りをドリフトするように旋回し、車体を滑らせながらT-34の車体正面を撃ち抜いた。M18そのまま撃破した戦車を一周回り、エマのⅣ号を追いかける。機動力の差で追い詰められるエマだったが辛うじてツェスカのティーガーの攻撃で動きを遅らせる事ができた。

 

エリカ達は頂上まで登り、撤収中のひまわり、あじさい中隊と合流。そのままたんぽぽ、すいせん中隊と合流の為に丘を降りた。

 

「たんぽぽ、すいせん各車へ。エリカさん達の合流まで堪えて下さい!合流後は左舷の森林へ入って敵を撒きましょう。その後農村地帯に入ります!」

 

「こちらアズミ。コスモス、あさがお中隊は迂回してそちらと合流します」

 

大洗連合は一つ一つ冷静に対処を始める。

 

「こちらエンドラー、丘の奪取に成功しました。敵は丘を放棄して撤退。追撃を開始します。」

 

エンドラー達は撤退する敵中隊を追いかける。

 

「ツェスカ、しっかり付いてきなさいね」

 

エリカは優しく声をかける

 

「はいっ!煙幕を張って時間を稼ぎます!」

 

「頼んだわ」

 

ツェスカはティーガーの発煙装置からスモークを展開。敵の視界を断つ。

 

「クソっ煙幕か!迂回しろ!」

 

ファインツは部隊に指示する。

 

「Это чувствует дежаб(これはデジャブを感じますね)」

 

「Да, полностью(ええ、まったく)」

 

「二人とも、日本語で話なさいって!」

 

ロシア語で喋るノンナとクラーラに毎度の如く怒鳴るカチューシャ。

 

撃ち下ろしが出来るポイントに車体を停めたSU-85とM36。

SU-85が放った85mmのAP弾がKV-2の砲塔側面にかするように命中し跳弾した

 

「こんのぉ...ナメんなよぉ!」

 

ニーナが言い、KV-2は152mm弾を放つ。そしてなんと、奇跡的にそのSU-85に命中しSU-85は仰け反るようにひっくり返ると底面から白旗を揚げた。

 

「わっ!あたってべぇ!?」

 

「クソッタレ!」

 

M36の砲手は毒づき、お返しとして90mmのAP弾を撃った。砲弾はきれいにKV-2を捉え白旗を揚げた。が、その直後に正面からノンナのIS-2からの砲撃をくらいM36も転倒した。

 

「だあぁぁぁっ!クソ連が!」

 

「やはりバイアスは最強...」

 

「現実世界でもバイアスは存在した?!」

 

「お前らな...」

 

SU-85とM36の車長の言葉にファインツは呆れる

 

「良し!俺達も追い込むぞ!」

 

ルクスが稜線を駆け上がり撤退するカチューシャ達の後方に出ようとした。

しかし、突然甲高い金属音が断続して鳴り響く。

 

「なんだ?」

 

車長が周りを見る。するとそこにはこちらに8mm機銃を掃射するカルロベローチェがいたのだ。

 

「豆タンクか。気にするな!」

 

車長はそのまま無視することにした。しかしカルロベローチェに乗るペパロニは執拗に機銃を浴びせ、前方に回り込んで再び掃射した。

 

「クソっ!カンカンうるさい奴だ!コイツからやれ!」

 

砲手はペパロニに向けて20mm機関砲を発射。8mmとは違う重厚な発砲音だ。しかしペパロニは翫ぶように機銃を浴びせたり、肉薄して機関砲の死角に入ったりして挑発し続ける。

 

「こんのぉ!小賢しい奴!」

 

「鬼さんこちら手のなる方へ〜」

 

ペパロニを追うルクス。

起伏を飛び越え追い詰めようとしたが、そこには継続のKV-1Eが待ち伏せていた。

 

「アバババ!かーべーは聞いてない!」

 

ルクスは慌てて進路を変えてその場を後にする。間一髪の所で砲撃を回避しそのまま逃げる。

 

「全車、追撃中止!あとはお預けだ」

 

ファインツの令を受けて追撃が中止された。

 

 

ひまわり、あじさい中隊が難を逃れた後、たんぽぽ、すいせん中隊は膠着状態のまま、ウィットナー等と交戦を続けていた。

 

「こちらエリカ、まもなくそっちと合流出来るわ」

 

「了解しました。合流後は速やかに森林を抜けます!」

 

「全車輌、撤退準備!」

 

みほの言葉を引き継ぐようにルミが言う。

散発的に、相手に攻めこまれないように砲撃を続けると左手から戦車隊が現れた。

 

「合流を確認しました。全車輌、右の森林に転身!」

 

みほは撤退の指示を出した。

 

「敵中隊の合流を確認。攻めますよ」

 

「待て!攻撃は続行しつつ撤退させろ」

 

エマの指示をウィットナーは止めた。

 

「こちらの損傷車両を放置するわけにはいかん。深追いせず部隊を再編し警戒して乗り込むんだ」

 

「…了解です」

 

エマは不服そうに答える。まあ、先ほどあんなことを言ってたのだし、そういう反応が妥当だろう。

アインス、チャーリー中隊は見せかけの撤退阻止攻撃を行い大洗連合を見送る。

 

程なくして大洗連合は森林の奥深くまで撤退し、辺りには交戦前の静けさが戻った...

 

 

 

 

 

 

次回、「アンブッシュ」



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アンブッシュです!


こちらも編集を加えました。

それではどうぞ


 

 

「敵はどうくるかな?」

 

ケイラーはウィットナーに尋ねた。

ブラッド・ハウンド連合は一度全部隊を集合させ、次の作戦を練ることにした。

 

「恐らくは森林を抜け、奥の農村地帯にいるだろう」

 

「そこで防衛ラインを引いてるか」

 

ファインツが言う

 

「恐らくはな。だが、それよりもこの森林地帯が厄介だ。ここでアンブッシュを仕掛けてくるだろう」

 

「どうします?」

 

エマが聞く

 

「部隊を二つに分ける。ケイラー、松平、エマの隊で森林を。俺とファインツ、エンドラー、シャラシャーシカで森林地帯を避け、迂回して農村に入る。」

 

「OK」

 

「わかった」

 

ケイラー、松平が答え、エマは頷く。

 

「特にアンブッシュには気を付けろよ」

 

「大丈夫。分かってるよ」

 

「...それにしても、この農村が厄介だな...」

 

「生垣が広がってる...」

 

ファインツの言葉に松平が続けて言う。

農村地帯はボカージュと呼ばれる生垣がある。射線を通しにくいどころか、視界不良も誘発する。

 

「そのためのお前らだ。頼むぞ」

 

ウィットナーはケイラーの顔を見据えた。その言葉にケイラーは黙って頷く。

 

「それと、()()の準備も頼む」

 

「オッケー」

 

「直掩隊を編成する。直掩隊はB53地点に展開しろ…全車、パンツァー・フォー」

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

ケイラー達は予定通り森林地帯を走っていた。そこまで広い訳ではないが、中腹には川が流れている。

 

視界の悪い森林を敵の待ち伏せを警戒しながら走る。この一帯は先ほどあさがお、コスモス中隊と戦った地帯よりも木々と草などの植物が生い茂っている。

ケイラー達はそれぞれ三方向に別れて進軍する。

 

「ったく、全部焼き払ってやりてぇな」

 

ケイラー車の操縦手が毒づいた。

 

「確かにねぇ...航空支援もないのも辛いね」

 

ケイラー達は先ほど以上の緊張感でいっぱいだった。どこに待ち伏せているのかが分からないこの状況なら無理は無いが...

 

「こちらケイラー。そっちの状況はどう?」

 

「こちら偵察部隊。今のところ動きはありません」

 

「りょーかい。気をつけて」

 

ケイラーは通信を終え双眼鏡で周囲をくまなく見渡した

 

一方、大洗連合は彼等の読み通り待ち伏せをしていた...

 

「西隊長、敵部隊来ました! 」

 

「3個中隊が縦隊で進行中!如何なさいますか」

 

玉田、細見が言う。

 

「先頭の中隊攻撃。攻撃の後、残りの部隊の注意をそらせ!」

 

「かしこまりました!」

 

「いいか、引き付けるんだ。まだだ、まだだぞ...」

 

西が待ち伏せする各車に指示する。

緊張が全車輌を包んだ...

 

「よし、撃て!」

 

西の合図で砲撃。砲弾が先頭を走るケイラー中隊目掛けて飛来するが弾かれるか外れるだけだった。

 

「なんだ!」

 

「3時方向から敵襲あり!」

 

攻撃を受けたケイラー中隊のM4シャーマン車長が全体に報告。

全車が砲塔を知波単のいる方へ指向する。しかし彼女等はそれを待っていた。

 

「撃てぇ!」

 

河嶋が号令を出し、『38(t)駆逐戦車 ヘッツァー』、『Ⅲ号突撃砲F型』、『シャーマンファイアフライ』が足止めされたケイラー中隊に砲撃、2両のシャーマンが撃破された。

 

「くそ!囮か!」

 

「全車輌警戒!17ポンドの音よ!」

 

松平、エマが言う。

 

攻撃を受けなかった後続の松平隊の先頭のT-34/85が砲塔を旋回し、攻撃のあった方を向こうとした直後、かばさんチームのⅢ突に撃ち抜かれた。

 

「くそ!アンブッシュか!」

 

「知波単は見えるが残りはどこだ?!」

 

「発砲音はドイツ砲と17ポンド!全車!曳光弾!」

 

ケイラーは全車に強い口調で言った。指示を受け全車が周囲に機銃を掃射する。

 

だが、その間にも次々に撃破されていく。

クロムウェル、一式チヘが白旗を揚げる。

 

「くっ!どうすれば…」

 

ケイラーは考える。しかし彼女の一瞬の沈黙をエマは見逃さなかった。

 

「少々強引ですが、ブラックプリンス、パーシングを先頭に2列横隊に変更!砲声から察するに敵はそう離れてはいないはず…重装甲を盾に時間を稼ぎますよ!」

 

エマの指示で中隊が2列横隊に変更し前進を開始。

一方松平は周辺の地図を睨みつけていた。

 

(アンブッシュならこちらも得意だ。ならば逆の立場になって考えろ!我々なら何処に伏兵を潜ませる?!)

 

彼は必死に地図と実際の地形を照らし合わせながら居場所を逆算していく。

そして彼は閃く。

 

「上田、10時10分の方角に曳光弾」

 

松平は自車機銃手に機銃を発砲させ、曳光弾の軌道上に目を凝らす。

 

「後方、ファイアフライへ。10時10分の方角に曳光弾をお願いします」

 

さらに後続のファイアフライにも頼んだ。照らされる2本の射線上に目を凝らす松平。そして一瞬だけ亀の紋章が照らされるのが見えた!

 

「見つけた!10時15分の方向!ヘッツァーだ!」

 

「了解!全車砲撃!」

 

松平の報告を受けケイラーが砲撃の指示を出す。複数の砲弾がかめさんチームを襲う。

 

「うわぁ!やられたぁ〜!」

 

「ももちゃん、やられてないって…」

 

「うっへぇ、見つかっちゃったぁ。こちらかめチーム、離脱するよ〜」

 

杏が言うとかめチームがその場を撤退する。

 

「逃がすな!撃て撃て!」

 

追い打ちをかけるように更に撃ちまくるブラッドハウンド連合。

その時、Ⅲ突の攻撃が松平車後方のファイアフライに命中。運良く跳弾し撃ち貫く事はなかった。

 

「おい!まだいるぞ!」

 

「松平さん!他がどこか予想できる?」

 

ケイラーが松平に問う。

 

「待って下さい。今…」

 

残りの隠れていそうなポイントを確認していた松平はもう一つ予想を立てた。

 

「ケイラー曹長!そちらから見て9時40分の方向、距離およそ250ヤードはどうでしょう!」

 

「OK、全車その座標にファイ…」

 

ケイラーが言い終える前に彼が指した方向から砲撃があり、ケイラーのパーシングの足元に着弾した。

 

「あそこだ!ファイア!」

 

ケイラーの号令のもと、全車輌が先ほど見えた発火炎に砲撃を始める。

 

かばさんチームのⅢ突は大量の土や吹き飛ばされた草に覆われてしまう。

 

「くっ...こちらも居場所がバレたのか?」

 

「さすがぜよ...」

 

左衛門佐の言葉に続いておりょうが言う。

 

「我々も撤退する」

 

エルヴィンが言う。かばチームの撤退を支援するために残ったナオミが攻撃を続ける。エマのブラックプリンスに狙いを合わせるが、強固な防御力に防がれ貫通することはなかった。

 

「あのマズルフラッシュ…そして衝撃…17ポンドのAPDSね。本車より11時方向。距離300ヤード...攻撃」

 

エマは発火炎を視認し反撃を始めた。余談であるが17ポンド砲は貫通力を確保するために大量の火薬を充填した砲弾を使用していた。その為発砲時のマズルフラッシュが強烈で目立ちやすい弱点がある。隊のほとんどを17ポンド砲で固めていたエマにとっては判別が容易い。

 

「くそ...」

 

ナオミは的確な射撃に毒づいた。

 

「砲撃が弱まった!恐らくスナイパーは3両だけ。速度を上げて追撃」

 

ケイラーは砲撃が弱まった様子を見て先程発見された3両だけと判断した。

 

「敵、増速を確認!」

 

「玉田、細見!やるぞ!撤退の時間を稼ぐ!」

 

福田の言葉に西はすぐさま指示を出す。無限軌道杯で大洗相手に使った機動戦術に出た。

 

「細見は久保田、福田と共に左手に回り隊列の後尾を狙え!私と玉田、名倉は敵の右手から先頭を狙うぞ!」

 

知波単の各車が全速力で敵の左右から突撃。

「てぇ!」

 

知波単の各車が攻撃を開始。西たちの砲撃はブラックプリンスに弾かれたが、細見の攻撃は最後尾の新砲塔チハに命中し白旗が上がった。

 

「あのやろう!お得意のバンザイ突撃か?」

 

ケイラー車の装填手が呟く。

 

「もう一度来る!」

 

四式の砥用が叫ぶ。

ブラッドハウンド連合は横切った知波単各車が再び向きを変えてサイド両サイドから突撃してきた。

 

「させない!ファイア!」

 

ケイラーの号令で左右の知波単組に砲撃。

無数の弾が彼女等の戦車をかすめていく。だが速度を落とすことなく再び攻撃を仕掛ける。弾は命中しなかったが彼等の進行を遅らせることは出来た。

 

「ちょこまかと!」

 

エマは毒づく。

すると今度はナオミの反撃が始まる。撤退しつつも砲塔を後ろに向けてパーシングを狙う。強烈な発火炎の後APDSがパーシングの車体目掛けて飛来する。

 

「クソ!」

 

パーシングの操縦手は咄嗟に舵を左に取って回避する。

 

「フレディ!ファイアフライを狙って!」

 

「yes ma'am!」

 

フレディのスーパーパーシングがケイラーと替わる形で前に出る。現代の主力戦車のように優秀な砲安定装置もなく激しく揺れる照準を上手く手懐け、ナオミに的確に砲弾を飛ばす。さすがに直撃はないがそれでも至近距離に着弾させていた。

 

「くっ!あのパーシング…なかなかやる!」

 

ナオミは彼の技量に驚愕する。この時初めてあのスーパーパーシングに自分に匹敵する砲手が乗っている事を察した。

 

「西さ〜ん。こっちは十分撤退出来たよ〜」

 

西へ杏は言う

 

「了解です!全車撤退!」

 

杏の報告を受け、西達も撤退を開始。

 

「了解。こっちも敵を撒いて合流する」

 

ナオミはそう言うと車体後部のスモークディスチャージャーを作動させ煙幕を張った。

 

「!煙幕?!このまま撒くつもりね!」

 

ケイラーは言った。

 

「誘き出す動きじゃないわね…分が悪くなって撤退するのかしら」

 

エマが言う。誘き出すつもりならわざわざ視界を奪う必要はない。

 

「全車、追撃中止。このまま警戒しつつ森林を抜けてウィットナーと合流」

 

ケイラーは言い、攻撃の手を緩めていった。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

「雲行きが怪しくなってきたな...」

 

ウィットナーは徐々に雲に隠れ行く太陽を見上げた。その雲はまるで大戦初期頃のドイツ戦車に塗られたジャーマングレーのような色をしている。

 

「こりゃ一雨来るな...」

 

ウィットナーの後の言葉を察するようにファインツが言う。

 

「雨が降る前に川を渡れればいいんだが...」

 

 

 

ウィットナーの望みも虚しく、川よりも手前で雨が降り始めた。雨脚は激しさを増していき、まるでゲリラ豪雨のような雨脚になった。

 

「マーズ、見えるか?」

 

ウィットナーは自車輌の操縦手に尋ねた。

 

「なんとかな」

 

マーズはバイザー越しに外を見ている。バイザーにはげしく打ち付ける雨が視界をよけい悪くし、辛うじて見えるレベルの視界だった。

 

ウィットナーはそんな雨のなかキューポラから身を乗り出したままだった。ポンチョを着込み、首に掛けた双眼鏡から手を放すことなく、視界不良のなかしっかりと目を凝らす。

 

このティーガーの車長として、見にくい操縦手の代わりに前方を確認し、周囲に自車輌の脅威がいないか確認し、そして大隊長として常に周りを警戒し、咄嗟の指揮に対応すべく車外に身をさらし続けた。

流石にポンチョを着ているとはいえ、1943年頃から酷使し続けたポンチョは防水性も低くなり、徐々に水が染み込んでくる。軍服が濡れていくのを感じつつ、何か怪しいものが見えたら濡れた双眼鏡を覗きこみ、ただトラブルが起きないことを強く願った。

 

 

しかしそううまくはいかなかった

 

「くそ...ぬかるんでる...」

 

ウィットナーは目の前に広がる泥濘を見て溜め息を漏らした。

 

「全車輌、警戒しながら前進」

 

ファインツのティーガーⅠを先頭に、ウィットナーのティーガーⅠが続く。

なんとかファインツのティーガーⅠは走り終えることができた。ファインツは渡り終えたが、後続のウィットナーは苦戦していた。ぬかるんだ泥を履帯が巻き上げ、履帯の隙間に泥が溜まり、それによりグリップ力を失った状態に追い討ちをかけるように57tという重量によって地面に埋まっていく。

 

「はぁ...操縦手、砲手を残して全員下車。ファインツ、引っ張ってくれ」

 

ウィットナーはそう言うとキューポラから降り、牽引ワイヤーに手を伸ばした。

ファインツの車輌からも人が降りてくると、車体後部に回り込みシャックルを分解してワイヤーを連結する準備に取り掛かった。

 

やがて牽引ワイヤーに繋がれた2輌の虎が掛け声と共に救出作業に入った。

 

「3、2、1!行け!」

 

マーズはアクセルを踏み込んだ。前方のティーガーも同様にアクセルを踏む。エンジンが唸りをあげるが抜け出せる気配はない。

 

「押すぞ!」

 

ウィットナーはそう言うと後ろに張り付き掛け声と共に力一杯3人で押した。

 

「この...動け!」

 

マーズはさらに踏み込んだ。だがびくともしない。

 

「はぁ、はぁ...エンドラー、シャルクス、お前らはここを迂回しろ。ティーガーⅡまでスタックされたらどうしようもない。」

 

「ヤヴォール」

 

ウィットナーはより重いティーガーⅡたちを迂回させらことにし、再びスタックした自車輌の脱出の為に再び押した。

しかし、それでも大きな虎は抜けません。そこでウィットナーはIS-2を呼びました。泥濘地帯が多く点在するソビエト生まれのIS-2は難なく抜けるとファインツのティーガーの前に行きました。そして屈強な男たちが予備燃料タンクにくくり着けた丸太をウィットナーのもとへと運んできました。ウィットナーたちはそれを履帯に巻き付けると再び押しました。

するとティーガーはやっと泥から抜け出す事が出来たのでした。めでたしめでたし...

 

という昔話はさておき、なんとかウィットナーのティーガーは脱出出来たものの、まだ車輌は残っている。パンターはなんとかなったものの、今度はⅣ号がスタックし始める。

結局、ブラッド・ハウンド隊はその場で小一時間ほど足留めを食らってしまった。まだ川を越えるという課題も残っているのに、体力をかなり消耗してしまった。

 

比較的川までの距離は近く、すぐに到着出来たのだか雨で水かさが増し濁流となった川を渡るには川に掛かる橋を通るしか無さそうだ。

 

正直、一方道しかない橋はあまり通りたくはない。相手からしてもこの道を警戒していれば自ずと敵の方からノコノコと現れる。守る方から見れば楽に相手を押されられる状況なのだ。

 

ウィットナーは仕方なく橋を渡り始める。

 

「全車、周辺の警戒を厳に!」

 

パンターG後期型を先頭にファインツ、Ⅳ号、ウィットナーと一列で橋を渡る。

しかし橋の中央まで来た時だった。一発の砲声が響き、先頭のパンターが白旗を揚げた。

 

「アンブッシュだ!ファインツ、通れるか!」

 

「なんとかギリギリかもしれん!」

 

ウィットナーの問にファインツは答えた。辛うじてこういう事態を想定して左側に車両を寄せ、道がつかえる事が無いよう進行していた。

ファインツが走行不能のパンターを避けて前進する。

そして再び砲声が轟く。ファインツのティーガーに直撃するがそう簡単にやられるほどティーガーはヤワではない。

 

「12時30分の方角!Ⅲ突!」

 

ファインツが双眼鏡越しにこちらを狙う戦車を発見した。

 

「報告ではⅢ突はケイラーの方に居たはずだ。見間違いじゃないか?」

 

「いや、開戦初期から見てきてんだ。見間違うわけない」

 

「じゃあ撤退してすぐここまで来たってことか?」

 

ウィットナーは双眼鏡を覗き先程Ⅲ突が居たとされる方向を見た。すでに戦車はいなかったが恐らく射撃ポイントを変えに行ったのだろう。

 

「隊長。まだⅢ突を使ってる学校があります」

 

ヤークトパンターの車長が言う。

 

「ん…?まさか!」

 

「冬の大会で大洗の隊長をやった『白い魔女』ってやつか!」

 

ウィットナーの後を継ぐようにファインツが言った。

 

「それだと厄介だそ…!警戒しろ!」

 

ウィットナーは言う。

 

「11時方向!敵!」

 

前方のⅣ号J型の車長から報告があった。

その後Ⅳ号に着弾。砲塔左側面のシュルツェンが吹き飛んだ。

反撃をするがすでにポイントの変更に動いた為に虚しく地面に着弾するだけだった。

 

「敵が移動した!ファインツ急げ!」

 

「待ってろ…よし抜けた!」

 

「急げ!続け!アーベル、クリストフ、エッボ!Ⅲ突を発見し次第援護しろ!」

 

「サーシャ、ミーチャも援護!」

 

ウィットナーの指示の後、シャラシャーシカも援護要員を指名した。

 

「残りの者は迅速に橋を渡れ!」

 

残りの戦車が急いで橋を渡ろうとするが撃破されたパンターが邪魔をして思うように前進出来ない。

 

「クソ!また来やがった!2時の方向!」

 

再び戦車を確認した援護組がⅢ突に砲撃。

 

「さすが対応力が桁違いだ…」

 

ヨウコは相手の反撃速度に呟く。ここまで早く反撃されては彼女も狙撃が出来ない。

 

「こんな潜れる場所がない広いところだと…不本意…」

 

せめて木や岩などあればマシなのだが、起伏があるだけでそれ以外は何もない。顔を出せば見つかってしまう。だがその時だった。

 

「ヨウコ!待たせた!」

 

無線が入る。

 

「ウィットナー!俺から9時方向!KV-1!」

 

ファインツが新たな戦車を発見した。

 

「クソ!まだいたか!」

 

「KV-1はこっちで対処します!」

 

ヤークトパンター車長、アーベルが言う。

 

「俺も支援する」

 

IS-2のサーシャが続ける。

 

ヤークトパンターの88mm砲弾とIS-2の122mm砲弾がユリのKV-1の近くに着弾する。

 

Ⅲ突、KV-1からの攻撃で彼等は思うように前進出来ない。それでもなんとか反撃しつつしっかり前進する。

だが彼女等もブラッドハウンドからの反撃で思うように攻撃が出来なかった。ゆっくりとそして着実に橋を渡り終えていく。

 

 

「ヨウコ、そろそろ頃合いだろう。先に撤退しろ」

 

「分かった」

 

ユリの言葉を承諾し撤退を始めるヨウコ。

 

「Ⅲ突が後退。また移動するのか?」

 

渡り終えたⅣ号車長がⅢ突が退くのを見て言う。アーベルは未だに残るKV-1に砲撃。砲塔右正面に直撃する。

 

「よし!直撃だ!」

 

アーベルはガッツポーズする。しかし、白旗は揚がらず反撃に出る。

 

「なぜ抜けない!」

 

「やつは増加装甲型だ。生半可な弾は弾かれるぞ」

 

サーシャが言う。 

 

「クソ!こっちは71口径だぞ!」 

 

「後退するぞ」

 

十分ヨウコが下がったところでユリも後を追うように撤退を始めた。

 

「KV-1が下がった。今のうちに残った連中も前進しろ」

 

ブラッドハウンドは残り部隊も移動させケイラーとの合流地点へと急いだ。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

合流地点には既にケイラーたちが待ったいた

 

「大丈夫だった?」

 

ケイラーは遅れてやって来たウィットナーに聞いた。だが、すぐに状況を察した。彼らの戦車はとてつもなく泥でよごれていた。何があったかは容易に想像がつく

 

「攻撃隊の準備は?」

 

「配置完了だよ」

 

「あいつらは?」

 

「そこ。さっき合流した」

 

「そうか...損害は?」

 

「5両無くしちゃった...」

 

「そうか...うちはパンター1両。皆死んだ訳じゃないんだ、そう気を落とすな」

 

ウィットナーは言った。

 

「もうそのままいくの?」

 

シャラシャーシカが尋ねてくる。

 

「最終的な配置に着いたらな。...雨も止みそうにないな...」

 

ウィットナーは空を見上げた。

 

「いえ、もうすぐ止むと思いますよ」

 

ウィットナー車の無線手 ウォーラーが言った。

 

「なんでそう思う?」

 

ウィットナーはそう言いながら車内に入った。

 

「これです」

 

ウォーラーは膝の上から未来の秘密道具をウィットナーに見せた。それには気象データが印されており、それによると10分ほどで止みそうだ。

 

「未来は便利だな...よし、全車輌当初の持ち場に着きしだい雨が止むまで小休止」

 

ウィットナーはそういうとケイラーと打ち合わせを始めた。

 

次はボカージュ...

生垣エリアだ。一歩間違えれば大損害を被るだろう。そうならないためにも話し合いは重要だ。それに、疲労も堪っているうえに大洗は強敵だ。このボカージュでどんな作戦をしてくるのか...慎重に行かなければならない...

 

 

 

 

次回、「ノルマンディ」

 

 

 

 





とりあえず4話まで進みましたが、題名と内容を考えるのが難しい...特に題名は難儀ですね...w

それでは次回をお楽しみに


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まるでノルマンディです!


こちらも編集を加えました。


 

大洗連合は森を越えた先にある農村に陣取っていた。そしてその農村には小高い丘があり、丘の頂上には教会が建っている。

 

みほはその教会を本部とし防衛戦を展開することにした。

 

「優花里さん、状況はどうです?」

 

みほは教会のさらに上、鐘がある鐘塔に登り辺りを偵察していた。

 

「特に変化ありません」

 

「了解しました。引き続き警戒をお願いします」

 

「なかなか現れませんね」

 

「やっぱり防衛線引かれてるのを警戒してるのかな」

 

華と沙織が言う。

 

「多分...でも、来ないからこそ今のうちに完全な防衛線を敷いておかないと」

 

「西住隊長、こちらレオポン。全車輌の修理終わったよ」

 

ナカジマから無線が入る

 

「了解しました。それでは各車持ち場についてくださ...」

 

「西住殿!敵部隊来ました。12時方向、正面です!」

 

優花里からの一報が入った。

 

「皆さん、正面です警戒してください!」

 

みほは改めて注意を促した。

 

だが、この時その場の全員が再び雨が降って来るなど夢にも思わなかった...

 

「敵部隊そのまま来ます!」

 

優花里はそう伝える。左右に別れる気配もなく楔型陣のままこちらに突っ込んでくる。

 

「正面に増援を送ります。サンダース、ベルウォールの皆さんお願いします」

 

みほは指示した。

 

「なぁ、なにか変な音しないか?」

 

麻子が言う

 

「変な音?」

 

「確かに聞こえますね」

 

みほが聞き返すと華も聞こえると言ってくる。

 

「上から?」

 

一同が上を見上げたちょうどその瞬間、辺りの地面が噴火したかのような轟音と爆発を起こした。

 

「キャァァァ!」

 

「な、なに!?」

 

突然の出来事に皆の思考はついていかない。そんな状況の中で、空から飛来する謎の爆発物は一向にやむ気配がない。

 

「こ、怖い!」

 

「助けて!」

 

皆の悲痛な叫びが轟音に混じり聞こえる。

 

「皆さん、外に出ている人はすぐに戦車の中か下に隠れて!」

 

だが、聞こえないのかただそこでうずくまるものや、右往左往して逃げ惑うものばかりで誰もみほの声など聞いていない様子だった。

 

「このままじゃ...」

 

みほは爆発音の中に聞こえる不気味な音に気がついた。みほはその音の主の方に振り向く。それは教会が崩れ落ちる音だった。

先ほどまで綺麗な西洋風のレンガ作りの教会だったのに、今はそのレンガを四方にばらまきながらくずれ落ちている。

みほは息を飲んだ。今目の前で起きてるこの惨劇は戦車道なんかじゃない。

 

やがて砲撃は止み、辺りには静けさが戻った。

 

「大丈夫か!」

 

「みほ、応答しなさい!」

 

無線が混線している。みほは現状の把握と混乱している仲間たちを落ち着かせる為に無線を入れた

 

「皆さん無事ですか?とりあえず落ち着いて。各車長、乗員の安否を確認してください。」

 

しばらく無線は鳴りやんだが、すぐに安否を報告する無線が入ってくる。

とりあえず、全員無事なようだ。

しかし、みほはハッとした。

 

「ゆ、優花里さん!」

 

みほは崩れた教会を見上げた。ボロボロになった教会の鐘塔に優花里の姿を探した。

 

「な、なんとか生きてます...」

 

無線機から優花里の声がした。みほは安堵した

 

「やだもぉ...」

 

「恐怖を感じた...おばあより怖かった...」

 

皆恐怖を覚えたようだったが、ブラッド・ハウンド隊は容赦などしなかった

 

「こちらに安藤、正面から敵部隊!」

 

先ほど前進していたブラッド・ハウンド連合が正面まで来たようだった。

 

ボカージュの入り組んだ道を少し進むと、マジノ、BCが構築した防衛ラインが現れる。そしてそこに、のこのことやって来たのはケイラーのパーシングだった。

パーシングは安藤のソミュアを発見すると発砲するのだが、手前に落ちてしまう。

 

「押田、ARLの支援求む」

 

「了解」

 

押田のARLともう1輌のARLがケイラーに照準を合わせる。

押田車の砲弾は砲塔をかすめ、もう1輌のは命中することなく空を切る。

 

「流石にARL2輌は分が悪いなぁ」

 

ケイラーのパーシングは後退を開始

 

「正面に、ARL2輌、ソミュア3輌、B11輌がいるよ」

 

「了解した」

 

ケイラーはウィットナーに報告を入れ返答があったのを確認すると

 

「キャシー、お願いね」

 

と、後続の車長に言った。キャシーは「yes ma'am」と元気に答えると、後退したケイラーの代わりに前方に入った。

 

「ん?またスーパーパーシングか」

 

パーシングが隠れた生垣からぬうっと出てくる長い砲身を見て言った。

 

しかし、その戦車の全貌が明らかになったとき、それがスーパーパーシングでないことに気付く

 

「何だと!」

 

「な、何ですのあれ...」

 

押田とエクレールが声をあげ、

 

「T、T29...」

 

とフォンデュが言う

 

『T29』とは、アメリカ軍が第二次世界大戦後半頃に開発した重戦車だ。キングタイガー対策のT26E4火力こそ十分な性能は持ち合わせていたが、M26から砲を変更しただけといういわゆるその場しのぎ程度でしかなかった為に火力、防御力共にキングタイガーに対抗出来る事を目指して開発された戦車だ。

 

 

キャシーはARLを狙うように指示した

 

「fire!」

 

T29が放った105mm砲弾がARLの2号車の車体正面を撃ち貫く。

 

「くそ!」

 

押田はT29目掛けて砲撃する。しかし、弾は弾かれてしまう。T29はゆっくりと前進を開始、それに合わせてケイラー達も後に続く。

 

「エリカさん、そちらから射線は通りみすか?」

 

「いけるわ。アンナ支援砲撃を!」

 

みほの質問にエリカは素早く答えティーガーⅡの入間アンナにT29へ攻撃を指示。

 

 

「敵ケーニヒスティーガー、R43地点に存在。ヤークトパンターはR52地点です。なお、敵指揮車輌は丘上から不動の模様」

 

ブラッド・ハウンド隊の偵察車が大洗連合の戦力を偵察いていた。

 

「了解した。駆逐部隊、ヤークトパンター、ティーガーⅡを攻撃。高射部隊は再度丘上を攻撃し、それとタイミングを合わせてシャラシャーシカ隊が右側方をつけ」

 

「「了解!」」

 

ウィットナーの指示に皆が答える。

 

一方、みほは崩れた教会から降りる優花里を気遣っていた。

 

「優花里さんけがは?」

 

「ご心配に及ばず、大丈夫です。」

 

「でも、流石にあれはひどいよ!ゆかりん殺されかけたじゃん!」

 

「私もケーキが台無しですわ」

 

マリーが言う

 

「あんなん卑怯だ!正々堂々真っ正面から来やがれってんだよ!」

 

「まったくその通りね」

 

ベルウォールの山守 音子と土居 千冬が言う

 

「とりあえず、あの攻撃の正体を突き止めないと...」

 

みほは言う。

 

「榴弾砲じゃ無いんすか?」

 

「榴弾砲であの弾幕は無理じゃなくて?」

 

ペパロニの予想にマリーは言う。

 

「確かに、あれだけの弾幕を榴弾砲でするにはとてつもない数がいるよな」

 

アンチョビが言った。

 

「そういえば、飛来して来る前にロケットのような音しましたよね」

 

優花里は攻撃が来る前を思い返していた。

 

「ロケット...」

 

「ロケットなら、カチューシャで決まりね!」

 

みほが該当戦車を思い返していると、威勢良くカチューシャが言った

 

「カチューシャ、あれは戦車にならないので規定違反ですよ」

 

ノンナが冷静に言う。

 

「わ、分かってるわよ!」

 

「じゃあ一体...」

 

そうみほが再び考えようとした直後だった。

 

「また来る!」

 

あの飛来音を聞いたエミが言った。

そして丘上は再び地獄と化した。

 

「ここは危険です。全車撤退します!」

 

みほは教会を放棄することにした。ここに居ても的になるだけだろう。砲撃はしばらく続き教会は完全に元の姿を失い、瓦礫と化してしまった。

 

 

「丘上への攻撃が始まった。シャラシャーシカ隊、侵攻を開始せよ」

 

ウィットナーは言った。

 

正面をケイラー隊が襲い、村の右側面をシャラシャーシカ隊が攻める手筈になっていた。ウィットナーはこちらが不利にならぬよう、丘上を陣取るみほ達を追い返したのだ。

 

「駆逐部隊状況はどうだ?」

 

「ヤークトパンターの注意を引き付けていますが、ティーガーⅡは陣地を変換し、もう1両のヤークトパンターからの砲撃を受けています」

 

「そうか...そのまま攻撃を続行してくれ」

 

「ヤヴォール」

 

黒森峰、ベルウォールの駆逐戦車は遠方より攻撃してくる敵駆逐部隊と交戦していた。

 

「く...流石にこの距離は難しい...」

 

ヤークトパンターの車長、小島エミは言った。

それもそのはずだ。交戦距離は優に1kmは超え、2kmに達するレベルだ。この距離を狙撃するのは容易なことではない。しかし、着実に相手はこちらへの精度をあげている。その証拠に何発かの砲弾がヤークトパンターに命中した。しかし、ヤークトパンタへの当たりが甘くその弾はことごとく弾かれていた。

 

「何で当てられるんだ?!」

 

ヤークトパンターの砲手は言った。

ブラッド・ハウンド隊は死地を潜り抜けて来た。その結果、彼ら的には一般的な技術でも、この世界では驚異的な実力をもっていることになってしまっているのだ。

もちろん、その中のトップに君臨する名砲手がいるのだが。

 

 

「流石のお前でもこの距離の撃破は無理か?」

 

「いや、遮蔽物が邪魔で撃ち抜くのが難しいだけだ」

 

車長の言葉にブラッド・ハウンドのミハエル・イェーガーは言った。

 

イェーガーはヤークトティーガーの砲手だ。

 

 

狙撃は簡単ではない。この事実は誰もが容易に理解できるだろうが、実は想像以上に難しいのだ。

砲手は距離と風速をある程度読む必要がある。これは誰もが分かるだろう。しかし、現実はこれに合わせて温度も読む必要がある。

気温もそうだが、砲弾は大量の火薬によって飛び、その飛距離と威力を増幅させるために砲身に刻まれたライフリングによって加速していく。この時砲身は発砲と摩擦熱で熱くなる。つまりは撃つ度に加熱され弾道も変わっていくのだ。

 

要約すると砲手は距離、風速、気温そして砲身の温度まで計算しなければならないのだ。

 

「エレファントまで来たな」

 

ヤークトティーガーの車長は言った。エレファントにはベルウォールのマークが付いている。

 

「千冬、おせぇんだよ」

 

「あら、知らないの?エレファントは足が遅いのよ」

 

音子の言葉に千冬は言った。

 

「あのヤークトティーガーやってくれ。あいつが一番腕利きだ」

 

「分かったわ」

 

千冬はイェーガーのヤークトティーガーを狙った。

 

 

「シャラシャーシカ隊、そちらから約2時方向、ヤークトティーガーがいる。距離はおよそ300」

 

「了解。サーシャお願い」

 

「да」

 

シャラシャーシカは先頭を走るサーシャのIS-2に依頼した。そして、生垣から側面を向けるベルウォールのヤークトパンターに狙いを定めた。けたたましい砲撃音と共に間にある生垣を2列ほど吹き飛ばしてヤークトパンターが白旗を揚げる。

 

「なに!右から!?回り込まれた!」

 

小島エミは言った。

 

「おい大隊長、右からも侵入されたぞ」

 

「了解しました。サンダース、聖グロリアーナ、レオポンさんは正面、プラウダ、ベルウォール、アリクイさん、かめさんチームが右手をお願いします。残りは待機」

 

「了解しましたわ。でも、相手が対地装備を持っている以上、集合するのはよろしく無いのではなくて?」

 

「...」

 

ダージリンの言葉にみほは黙った。

確かにこの現状で戦力を集中させるのはかえって危険だ。

 

「とりあえず、相手が何なのかを突き止める必要がありますね」

 

カルパッチョは言った。

 

「でも、戦車道に出れるロケット戦車なんているの?」

 

カチューシャは聞いた。皆が黙るなか、優花里は該当戦車を思い付き、口を開こうとしたちょうどその時だった。

 

「あるわ一つ」

 

優花里が言うよりも先にケイが口を開いた。

 

「なんだ?それ」

 

アンチョビが聞く。

 

「...カリオペよ」

 

 

カリオペはアメリカ軍が開発したロケット発射装置だ。この『T34 カリオペ』はM4 シャーマン戦車の砲塔頂部に取り付けられ、ロケット弾を60門束ねたもので射程は4kmにも達する。

カリオペはこの発射機の事を指しているが、シャーマンに取り付けられている姿の為、このシャーマンも合わせた姿でカリオペと呼ばれることが多い。

 

「なによそれ」

 

「シャーマンに60門のロケット弾をくっ付けたものよ」

 

「相手が使うなら、私達も持ってくれば良かったですね」

 

アリサが言った。

 

「ちょっとなによそれ、持ってるの?!」

 

「もちろんよ。シャーマンだし、何よりクールじゃない?」

 

「あんなの受けてクールとか良く言えるわね...」

 

ケイの言葉にカチューシャはあきれた。

 

「カリオペだとしたら厄介ですね」

 

優花里は言った。

大学選抜チームのカール自走臼砲よりも厄介だろう。カールは巨体に600mm砲というロマンだけを追い求めたような車輌であるのに対し、カリオペはシャーマン戦車の車体に60門のロケット砲を積んだ戦車だ。カールの装甲が極薄であるのに対しカリオペはシャーマンの車体なのでそこそこの装甲を持ち、機動性も良好でりながらたちの悪いことに、その60門のロケット砲は弾が切れたら再装填(発射機を取り替える)事ができる。

 

「自衛用の主砲まで持ってますからね」

 

「でも、主砲と連動させるために穴を開けてるってあるけど?」

 

優花里の言葉に沙織が戦車でーたを見ながら言った。

 

「確かに、そういう風になっていたけど現地改修で防盾の張り出しに板を付けてそこに取り付けるようにしているのもいるから、恐らく相手もそういう改修をしてるはずよ」

 

ケイは言った。

 

「言われてみれば、うちが森林で戦闘してた時にアタッチメントのようなものを付けたシャーマンを見た気がするわ」

 

アズミが言う。

 

「恐らく、発射機だけ外して戦列に加わっていたのではないでしょうか…このまま野放しには出来ませんよね?」

 

優花里がみほに問う。

 

「どんぐり小隊で行く?」

 

杏が何やら楽しげに言っている。

 

「会...じゃなくて、角谷先輩お願いします」

 

「ほ~い。じゃあどんぐり小隊再度出撃!チョビもついてきてねぇ~」

 

「私もか...というか、チョビって呼ぶな!」

 

「西住殿」

 

「何?優花里さん」

 

「もう一度、丘上で偵察します」

 

「何いってるの?ゆかりん!」

 

「恐らく、偵察車輌で丘上を監視してたんだと思いますが、人が一人だけいるだけだと、遠方からは確認しづらいでしょうし、なにより一帯を把握しないと...」

 

「でも...」

 

「危険だぞ」

 

皆が優花里の行動を止めようとする。だが、優花里の言っていることも一理あるのが、みほの判断を余計鈍らせる

 

「西住殿、私を信じてください」

 

優花里はただみほの目をしっかりと見据えた

 

「...わかりました...でも、危ないと思ったら直ぐに帰って来てください!」

 

「はい!」

 

優花里はそう言うと車外に飛び出した。みほはキューポラの上から心配そうに優花里を見つめる。

 

 

 

 

 

一方、ウィットナーは後方から双眼鏡を片手に戦局を見守っていた。

そんなウィットナーのもとにティーガーによじ登ってくる一人の男がいた。

 

「隊長、どうぞ」

 

エンドラーだった。

 

「ん、ダンケ」

 

ウィットナーな差し出されたコーヒーを手に取り、一口飲んだ。

 

「こっちのコーヒーは質がいいみたいだな」

 

「ええ、安くても上質な物もありますね」

 

「それに加えて、お前の淹れ方もいいしな」

 

ウィットナーは笑った。

エンドラーはもとの世界において、カフェを営む両親のもとに生まれた。なので、幼い頃からコーヒーや紅茶の淹れ方は叩き込まれていたのだ。

彼の生まれ育ったカフェは地元民の憩いの場になっていた。しかし、その憩いの場も今はない。激化するアメリカ軍の爆撃によって瓦礫にされてしまった。そして恐らくは両親も...

 

「副隊長が淹れるコーヒーは美味しいですからねぇ。うらやましい」

 

大隊長防衛の為にその場にいたツェフィカが言った。

 

「お前のは絶望的に薄かったからな」

 

「あれはお湯の量間違えただけです!」

 

ウィットナーの言葉にツェフィカは赤面した。

 

「俺が叩き込んでやろうか?」

 

「いや、結構です」

 

ウィットナーはエンドラーとツェフィカの言い合いを聞き流しながら、コーヒーを見つめた。

 

「こうやって、何も恐れることなくコーヒーや会話が出来るのはうらやましいな...」

 

「...確かにそうですね」

 

ツェフィカは言った。

 

「…了解。隊長、カリオペ隊によると再装填完了までおよそ30分だそうです。」

 

エンドラーはカリオペ隊からの報告をコーヒーを見つめるウィットナーに伝えた。

 

「分かった。カリオペ隊は再装填後その場で待機」

 

「それにしても、こんな手段…よろしいのです?」

 

ウィットナーが指示を出すと間髪入れずにエンドラーは彼に問う。

 

「ああ、少々手荒だが勝つにはそれしかないさ」

 

「勝つにはって...」

 

「実際そうだ。俺たちの錬度は遥かに上だろう。だが、俺たちは戦闘機や爆撃機による航空支援、砲兵による対地支援、そして、歩兵による近接支援を前提に訓練されているしそれが当たり前だった。一部を除いてな。...そんな俺たちが戦車オンリーの戦車道なんかをやったところで、戦車道に精通している彼女らが有利なことに違いはない。この序盤で想定異常の損害も出してる。」

 

ウィットナーはコーヒーを再び口に運んだ。

 

「俺もロンメル将軍のように優秀で頭もキレたなら、こんなに被害は出さなかったろう。…彼女達は試合をしてるつもりだろうが、俺にとってこれは試合ではなく戦いだ。そういう考えも悪くは無かろう?」

 

そしてまたコーヒーを飲む。だがその時だった。

 

「敵中隊規模、こちらに接近中!」

 

と無線が入った。三人はその方向に双眼鏡を向ける。

ヘッツァー、八九式中戦車、BT-42、CV-33カルロベローチェ、T-44、P40、T-34/85がいた。

 

「どんぐり小隊改め、中隊前進!」

 

杏は言った。

 

「このっ!隊長を狙いに来た!...全車、フォイア フライ!」

 

ツェフィカは護衛隊全車に号令を出し、その号令に合わせて突撃してくるどんぐり中隊に砲撃を開始した。

着弾と共に発生した土煙に消えたどんぐり中隊だったが、その土煙が晴れた後もその姿を消した

 

「うそ...消えた?!」

 

「ツェフィカ、双眼鏡を外せ...」

 

「ん?...あ、いた」

 

ツェフィカはウィットナーに言われた通りに双眼鏡を外す。しっかりとそこにはどんぐり中隊がいたのだった

 

「追跡開...」

 

「待てツェフィカ。行っても無駄だ」

 

「でも...」

 

「アイツ等は陽動しようと… いや、恐らくは本命はカリオペ隊か」

 

「なぜそう思うんです?」

 

エンドラーが聞いた

 

「お前等も選抜チーム戦を研究しただろう?相手にとって、カリオペの火力は強大だろうからな、潰したいだろうからな」

 

「だったら直ぐに追っかけたほうが...」

 

「この護衛隊の中で、追い付けるのはお前のパンターくらいだ。いくらパンターだとしても、7輌に袋叩きに合うだけだ」

 

「そっか...」

 

「とはいえ、このまま見過ごす訳もないがな...

カリオペ隊、そっちに敵中隊規模が向かった。注意しろ」

 

ウィットナーは後方のカリオペ隊にそう知らせた。無線からは「了解」という言葉が返ってきた

 

「ツェフィカのパンターDと、IS-2、Ⅲ号Mで後を追え」

 

ウィットナーは言った。

 

「でも、追うなって...」

 

「追撃はするなって意味だ。あの数では、カリオペ隊でも対処は無理だろう。お前らは後をこっそり追えばいい」

 

「なるほど!」

 

「だが、すぐすぐ行った所で向こうが場所を把握してるとは思えないからな...しばらくは待機するといい」

 

「ヤヴォール!」

 

ウィットナーはその返答を聞くと、コーヒーを思い出したかのように飲み始めた。

 

「さっき、勝つためにはっていったよな?」

 

「ええ。確かに」

 

エンドラーが答えた

 

「正直、勝ち負けはどっちでもいいとは思ってるんだけどな」

 

「へ?なんで?」

 

ツェフィカが聞いた

 

「どうせなら勝つのがいいだろう。だが、別にこれは戦争じゃない。勝とうが負けようが人は死なないし、それ以外の何かを失う訳でもない。...だったら、何も失わない敗北の味も味わってみるのもいいとは思わないか?」

 

「まぁ、それは一理ありますか...」

 

「いや、私は勝ちたいですよ!」

 

ツェフィカが強い口調で言った

 

「負けてもいいやって思うなんて出来ないです!勝つ気持ちでいって、私達の腕を見せつけたいし、そういう気持ちで負けた方がさっぱりするじゃないですか...」

 

何故自信を失ったのか、ツェフィカの口調は徐々に弱くなっていった

 

「ふっ...ハハハ!たしかにそうだな。お前、以外とスポーツマンなんだな」

 

ウィットナーは笑った

 

「じゃあ、ブラッド・ハウンドの勝利のために、作戦の大詰めといこう。ノルマンディ上陸作戦のような戦いになるだろうな。...よしケイラー、オーヴァーロード作戦を結構しよう。俺たちの戦車道を...いや、戦争道を見せてやろう」

 

 

 

次回、「オーヴァーロード作戦」

 

 

 

 




さあ、試合も中盤に差し掛かりました!
今回になって色々と新戦車まで出てきましたね。まだまだ、新戦車はでますからこうご期待!

さて、話は変わってサンダースのケイちゃんの話なのですが...
私、この前(と言っても、半年以上前)に気付いた事がありまして。
ケイはTVアニメで、「ザッツ戦車道。道を外れたら戦車が泣くでしょ?」と、言ってとてもフェアプレーを重んじる隊長だとされてますよね?

でも、劇場版の台詞でとても疑問に思ったのです
大学選抜チーム戦の時のミーティングにおいて、「優勢火力ドクトリンじゃない?1輌に対して10輌で攻撃ね」と...


ザッツ戦車道はどこにいったんだろう...


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オーヴァーロード作戦開始します!

 

 

「ウィットナーからの指示が来たよ。全部隊、オーヴァーロード作戦を決行!」

 

「「了解!」」

 

ウィットナーの指示のもと、オーヴァーロード作戦が決行された。

生垣で守られた大洗連合を本気のブラッド・ハウンドが襲う!

 

 

 

 

「2時方向、敵戦車!指向急げ!」

 

黒森峰のパンターG型、3号車車長が言う。指示のもと、砲手は2時方向に砲塔を旋回、敵を照準した後に砲撃する。

 

「くそ、生垣が邪魔だ...」

 

防衛のための生垣だったが、そこに入り込まれたために敵戦車を狙い撃つのが難しくなってしまった。そのため、敵はどんどん奥地に入り込んでくる。

いつ後方から回り込んで来た敵が現れるかわからないこの状況で3号車の車長はしっかりと辺りを警戒していた。そんな彼女の視界に何が動くのが見えた。

 

「ん?今のは...」

 

何か細長いものが高速で移動しているように見えたのだが...

車長は後方に視線を移した。

丁度その時、生垣からひょっこり戦車が現れた。

 

「はっ...!後方に敵!前進!」

 

とっさにパンター3号車は前進し間一髪攻撃を回避。

すぐに車体と砲塔をゆっくりと旋回させ後方の敵戦車に反撃する。

 

「こちらパンター3号車、S35地点敵戦車発見!Ⅳ突です!」

 

3号車の車長は全車両に報告。

彼女達を襲うその戦車は『Ⅳ号突撃砲』

 

Ⅲ号突撃砲があるならもちろんⅣ号突撃砲もある...

と言いたい所だが、実際には大戦後半にⅢ号戦車の工場が爆撃により損壊。

これによりⅢ号突撃砲の車体が製造できなくなったので代替案としてⅣ号戦車の車体にⅢ号突撃砲の戦闘室を無理やり載せて完成したのがⅣ号突撃砲。いわゆるその場しのぎの突貫工事戦車だ。

 

「了解しました。アリクイさんS35地点、パンターの増援に向かってください。」

 

「了解。任せろにやぁ!」

 

ベルウォールの増援に向かっていたアリクイは進路を変えパンターの増援に向かって行った。

 

 

パンターはⅣ突を狙うが生垣の陰に出たり引っ込んだりを繰り返すⅣ突に有効弾を与えられないままだった。

 

「くそ!ちょこまかと!」

 

その時、比較的近くだった指示を受けたアリクイのチヌが駆けつけパンターの後方から出現。

車体を停止させて直ちに砲撃した。

 

防弾はⅣ突の右側面を擦るように跳弾。さすがに部が悪くなったⅣ突は生垣の陰に退いていった。

 

「逃がすか!」

 

パンターが生垣ごと砲撃した。

しかしそこにはⅣ突の姿はなく、ただ生垣を吹き飛ばしただけ...

 

に思われたその矢先、吹き飛ばされたその隙間に車体を横滑りさせながらホニⅢ(三式砲戦車)が出てきた。

 

 

「っ!まずい!」

 

言った時にはすでに遅く、ゆっくりと方向転換中で無防備となっていた側面にホニⅢの75mm砲弾が突き刺さり白旗があがった

 

「仇は撃つぴよ!」

 

ぴよたんは反撃した。

しかし、すでに後退を開始していた為に命中することはなかった。

 

だが今度はⅣ突が同様に現れ砲撃。

運良く砲塔側面に跳弾して撃破は免れた。

 

「さすがに部が悪いか...」

 

ももがーはチヌを後退させた。

 

他の部隊も近距離で敵戦車との戦闘が発生していた。

 

「こちらフォンデュ、K06地点に敵戦車。チハ改です!」

 

「こちらニルギリ、Ⅲ号戦車接近!」

 

無線が混線する。そんな状況の中エリカの所にも現れたのだった。

 

「くっ!ラングよ!」

 

Ⅳ号駆逐戦車ラング

 

Ⅳ号の車体にパンターの主砲を搭載させた駆逐戦車だ。

この主砲は2000m以下ではあのティーガーⅠの8.8cm砲を上回る貫通力を持つ。

さすがにⅢ号J型でまともに喰らえばひとたまりもない。

 

「後退!」

 

エリカの指示と共に発射された弾頭は命中するこそしなかったもののラングを後退させる事は出来た。

 

「みほ、深く入り込まれてる。囲まれるわよ」

 

エリカはみほに言った。

 

「大柄の戦車が気を引き、その間に低姿勢の戦車がより細かく回り込んでいます!」

 

秋山はみほに状況説明をする。

 

「うっ...こちらニルギリ、撃破されました...」

 

また1両撃破された。

 

「さすがにこれ以上は危険です!全車、一旦防衛線を下げましょう!」

 

みほは言った。

...だが

 

「っ!ルクリリ、右よ!」

 

ダージリンが隣にいるルクリリのマチルダ2の右側面から現れる敵戦車を見つけ、ルクリリに警告する。

ルクリリ車は咄嗟に後退し、攻撃を回避するが...

 

「こちらもダージリン、右から回り込まれたわ!」

 

「こちら押田!左も来ている!」

 

「マズイです...BC、マジノ、聖グロ押さえる前衛部隊が包囲されつつあります!」

 

廃墟と化した教会の上から辺りを確認する優花里からの通信も入った。

 

ケイラー率いるエンジェルスは『ヘッジローカッター』を備えたシャーマン、ファイアフライなどが生垣を薙ぎ倒しながら前進する。

 

『ヘッジローカッター』は第二次世界大戦中にアメリカ、イギリス、カナダ戦車に取り付けた装備である。

ノルマンディー上陸作戦こと『オーヴァーロード作戦』はフランス農村地帯に広がる生垣により多大な被害を被った。

そこでアメリカ軍の指揮官が考案したのがこの装備となる。これは鉄製の巨大なフォークのようなものを戦車の前面下部に取り付け、生垣を根こそぎなぎ倒し安全に渡れるようにしたというものだ。実際、これにより被害は抑えることに成功したようだ。

 

 

無限起動杯の第1回戦では砲撃で生垣を吹き飛ばしていたが、この方法であれば無駄弾を使うことなく、砲撃をしないお陰で静に回り込むことも出来る。

 

「それじゃ松ちゃんよろしく~」

 

「松ちゃんって...了解。」

 

ケイラーの指示で松平は部隊を動かす。

 

「よし松平隊、全車突撃、中枢に殴り込みをかけるぞ!」

 

「おおおお!」

 

松平の日本部隊が一気に前進を開始。マリー達前衛部隊に殴り込みをかけてきた。

 

「日本部隊が来た!」

 

「結局突撃か」

 

ガレットと操縦手は言った。

 

「狙うはフランス重戦車...砲手、右の履帯を狙え!」

 

「了解」

 

「長門、こっちが足を止める。そっちは側面に叩き込んでやれ」

 

「承知」

 

突撃する新砲塔チハ2輌が連携のため通信する。

 

「...貴殿方は誰に喧嘩を売ろうとしているか分かってますの?こちらは天下のシャールよ!」

 

ガレットのルノーB1 bisが75mm砲と47mm砲を放つ。しかし、2輌のチハ改はそれを回避し、

 

「よし今だ!てぇ!」

 

長門車のチハ改がガレットのB1目掛けて発射する。

その砲弾は履帯に命中し大破させた。

 

「なっ...履帯が!」

 

ガレットは思わず声を出した。そして動けなくなったB1目掛けてもう1輌のチハ改が走る。

 

「車体と砲塔の繋ぎ目...徹甲弾用意!」

 

チハ改とB1の距離がみるみる縮まる。

両者がすれ違う直前、チハ改は急停止する。

制止しながらも進むチハ改が止まったのはB1の真隣だった。チハ改の砲身とB1とは十数センチほどだろうか、その距離でチハ改は徹甲弾を放つ

 

「てぇぇぇ!」

 

いくら重戦車とはいえ、この距離でターレットリングを狙われればひと溜まりもない。ガレットのB1は白旗をあげた。

 

「次だ!次はあのM4戦車!」

 

チハ改2輌は恐らくガレットの援護に来たのだろうアリサのシャーマンに狙いを定める。

 

「たかがチハごとき、蹂躙してやりなさい!」

 

アリサは砲手の肩を叩いた。が、その直後衝撃と共に腹の奥に響く金属音のようなものが聞こえた。

アリサはバイザー越しにそれを見ると、真横に車体をぶつける形で止まるチヌがいた。

ぶつけられた衝撃で照準を狂わされたシャーマンはチハの接近を許してしまう。

チヌは素早くその場を退き、代わりにチハがこちらに砲塔を指向しながら側面を狙いに来る。

 

「ナオミ!」

 

ケイが呼ぶのとナオミが17ポンド砲を放つのはほぼ同時だった。

ティーガーの正面をも撃ち抜く17ポンド砲をもろに食らったチハが後方宙返りをするかのようにひっくり返り、砲塔を地面に擦り付けながら進み続ける。

 

ようやく止まったチハは剥き出しになった車体底面から白旗をあげる。

 

「くっ...奴か...一旦退避! 」

 

ひっくり返った長門のチハの横を高速ですり抜ける残りのチハ。その車輌は先ほどのチヌに合流した。

 

「松平分隊長殿、いかがしましょう!」

 

先ほどのチハの車長、五十嵐が聞く

 

「一旦射線を切るぞ。あのファイアフライは厄介だな...やれるものならやってしまいたいが...」

 

2輌のチハとチヌはそのまま走り去り、生垣の裏へと隠れようとしたが...

 

「左だ!」

 

という無線が入った。松平はその言葉通り左を向くと、そこには知波単の車輌がこちらに向かってきていた。

 

「全車停止!...撃てぇ!」

 

西の号令により、西、細見、玉田、名倉と福田のチハとハ号が砲撃する。

その砲弾は先ほど左側に着いたチハに飛来し、数発を側面に食らいヨロヨロと蛇行しながら白旗をあげた。

 

「申し訳ありません...!不注意で...」

 

「気にするな!」

 

松平のチヌはすぐさま左の履帯をロックし、ドリフトのように車体を知波単の方へ向けると、西のチハに砲撃する。

しかし、これは命中することなく西の目の前に落ちる。

 

「うお!」

 

西はその衝撃に思わずそうもらした。

松平はすぐに後退するが、先ほど注意を促してくれたM4A1シャーマン(75mm)が生垣をなぎ倒し、眼前に割って入る。そのシャーマン は名倉のチハに砲撃、撃破する。

 

「撃破させてしまいました...面目次第もございません!」

 

なんとか知波単への対抗が出来ると思った矢先、ファイアフライが側面から現れ、M4A1の左側面を撃ち抜く。

もちろんシャーマンは白旗をあげてしまう。

 

「後退全速!」

 

松平のチヌは全速力でバックを開始する。なんとかシャーマンとチハの残骸のお陰で射線は切ることはできていたが、知波輌、ナオミのファイアフライ、アリサのM4A1シャーマンに囲まれているこの状況では不利でしかない。

さらに最悪なことに、後方からケイのシャーマンが現れる。

 

チヌはなんとか撃たれる前にT字路に差し掛かり、お互いの射線が切れる所に逃げることが出来た。現実は最悪で、撤退しようと指示を出そうとしたその時だった。

 

「おっ待たせ〜」

 

という無線が入る。後方を見るとキャシーのT29がいた。

 

「そこのT字路を左に曲がって。私は右に行くわ」

 

T29の後にはエマのブラックプリンスが続いていた。

 

2輌ならびにその他はT字路で左右に分散、キャシーが左にエマが右にと重装甲を生かして前衛を勤める。

 

「ノンナ!相手のIS-2を撃ちなさい!」

 

カチューシャはベルウォール車輌を狙うIサーシャのS-2を撃破するよう指示。

 

ノンナは短く「да」と応えるとそのIS-2を照準に捕らえる。

 

「マズイ!IS-2に狙われてる!」

 

ノンナに狙われている事に気づいたサーシャだったが既に遅くノンナはターレットに砲撃。

 

しかし運良く射線に出てきた戦車がそれを弾き撃破は免れたのだった。

 

だがノンナはその現れた戦車に目を丸くした...

 

「なっ...!」

 

「アッチョンブリケ!」

 

カチューシャは驚きからか、某ピノコの用な台詞が出てしまっている。

 

「気を付けて!JS-3です!」

 

「JS-3ってどれだっけ...これかな?」

 

赤星小梅からの無線を聴いて武部は『戦車でーた』をペラペラとめくり該当車輌をさがした。

 

「なにこれ?!」

 

武部は見つけ出したその戦車のフォルムに驚愕した。

 

「徹底的な避弾経始...平たく曲線で形成された砲塔に楔型の車体前面装甲...西住殿、我々に正面で対抗できる戦車はいません!」

 

秋山は言った。

 

IS-3は大戦末期にソ連で開発された重戦車だ。

対ドイツ戦車、特にティーガーⅡ対策で開発されたこの戦車は強固な防御力を有する。

また側面もキツイ角度の付いた車体形状をしており側面からでも有効弾を得るのは容易な事ではないだろう。

 

「IS-3といい、T-29といい…なんで相手はあんなもん持ってるんだ?!」

 

「皆さん!防衛戦は中止!撤退します!」

 

ルミとみほがそれぞれ言う。

大洗連合はこのエリアを放棄することに決めた...

 

大洗が撤退を決める少し前。ブラッド・ハウンド連合のイギリス所属の偵察車輌は混乱する農村での戦闘を観察してきた

 

「ずいぶんと派手におっ始めたな」

 

「まぁ、あのぐらいの方が見応えあるじゃん」

 

「でも俺たちの仕事がなぁ...」

 

装填手、車長、操縦手が言う。

 

「のんびり紅茶でも飲もう...ん?」

 

車長がティーカップ手に取ったとき、爆音を轟かせるものに気づいた。3人はその方向を凝視し、左手より猛突進して来る快速戦車を見つけた。

 

「うげ!?マズイ!クルセイダーだ!操縦手、全速前進!!」

 

突如現れたクルセイダーに慌てて退避行動に出た。

 

「オラオラですわぁ~!ちょこまか偵察しやがりやがってですわ!」

 

ローズヒップはいつも通りのテンションでその敵を追いかける。

 

「くっ!操縦手もっと踏み込んでやって!」

 

「ラジャー!」

 

操縦手がさらにアクセルを踏み込むと、一気に加速する。

 

「おろろ...はっやいですわ!?」

 

「へっへぇん。こちとら、天下の快速巡航戦車、クロムウェルよ!そんな故障頻発ポンコツ戦車に追い付かれるわけないでしょ!」

 

「一応、クルセイダーってお兄ちゃん立ち位置なんですがね」

 

「んなこと知らない!」

 

砲手の言葉に車長は言った。

 

「エマ隊長こちらカーディル、聖グロのスピード狂野郎が襲って来ました!迎撃いいですか?」

 

「好きになさい」

 

「かしこまりでございます!...操縦手、転身してあのポンコツ野郎を叩き潰すわよ!」

 

クロムウェルの車長、カーディル・ランド曹長はエマからの許可を貰うや否や、ローズヒップの迎撃に入った。

クロムウェルが180°のターンを決め、クルセイダーとのタイマン勝負にでた。

 

「来ますわ!それじゃぁ、リミッター外しちゃいますわよ!」

 

リミッターが外されたクルセイダーは更なる加速を見せ、両者との距離が縮まる。

 

「クルセイダー、いざ尋常に勝負!」

 

両者の距離が極端に縮まったところで、両者が砲撃、命中することはなかったが、両者はそのまま勢いですれ違う。

少し距離をおいたところでお互い砲塔左に旋回させ、車体も左旋回させる。照準器が相手を捕らえる瞬間に射撃し、再び反転した両者が距離を詰める。

 

「装填手、次は死ぬ気で装填してね!」

 

「マジかよ...」

 

カーディルの言葉に装填手はため息をついた。

 

クロムウェルが射撃し、クルセイダーもお返しにと射撃するが、これも当たることはなく、再びすれ違うのだが今度はクロムウェルがすれ違った直後に左の履帯を停止させターンする。クルセイダーの後方を取り、狙いを定めて撃つものの直後にクルセイダーもターンで回避、そして射撃で応戦する。

放たれた6ポンド砲弾はクロムウェルの砲塔右側面に鋭い角度で命中し跳弾した。

 

カーディルのクロムウェルは再び前進を開始、素早い再装填でクロムウェルを狙っていたクルセイダーだったが、移動されたことで狙っていた砲弾は虚しく地面に落ちる。

600ps(馬力)を誇るクロムウェルの『ミーティアエンジン』が唸りをあげ、スピードに乗ったクロムウェルが動きが若干鈍ったクルセイダーに体当たりをかける。

 

当たる直前、クロムウェルはクルセイダーに射撃するが、砲塔上面で跳弾する。

ぶつけられたクルセイダーが機銃で応戦してくる。

 

「オラオラオラオラですわぁ!」

 

「無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」

 

クルセイダーとクロムウェルがお互い機銃で撃ち合っている。

 

その撃ち合いを止めたのはクロムウェルだった。クロムウェルは一旦後退し、砲撃。だがクルセイダーは回避する。それからはクルセイダーがクロムウェルを中心に円を描くように旋回し始めたので、クロムウェルもそれに習って追いかけるようにぐるぐると回りだす。どこかの誰かさんに『バターになっちゃいますよぉ』と突っ込まれそうだ。

 

しかしその時だった。クロムウェル目掛けて別の車輌から攻撃を受けた。見るとそこにはベルウォールの『Ⅱ号戦車』がいた。恐らく、ローズヒップの支援に来たのだろうが...

 

「ファッ!2対1っすか?!」

 

カーディルは言ったのだが、クルセイダーがそのⅡ号に砲撃をするではないか。

 

「ちょっ!なんで!」

 

「こっちはタイマン張ってるんですのよ!邪魔すんなですわ!」

 

だが、助けに来たのⅡ号だけではなかった。カーディルの方にも増援が駆け付けてきた。

 

「真打ち登場、Ⅲ号L型たん!」

 

ブラッド・ハウンド隊の偵察車輌、『Ⅲ号戦車 L型』が駆け付けてきたのだが、カーディルはそれに砲撃する。

 

「いや、ちょっ...うっそぉ~ん」

 

Ⅲ号はギリギリで回避したが

 

「てめぇ!こちとらタイマン張っとんじゃい!紅茶で溺死させんぞ!」

 

「えっ、なにその嫌な死にかた」

 

「それか、紅茶キメさせんぞ!」

 

「紅茶ってキメるものなのか!?」

 

Ⅲ号の車長が即座にツッコミを入れてくる。

 

「...なぁにやってんだアイツら...」

 

その光景を後方で見ていたブラッド・ハウンド隊のもう1輌の偵察車輌、ルクスの車長が呆れた口調で言った。しかし、その直後に別部隊からの無線が入る

 

「おい、こちらヘルファイア隊。増援を頼む」

 

「ヤヴォール。ちょっと待ってろ」

 

その車長はそう返すと自車輌を向かわせた。

 

 

 

次回「地獄の業火を鎮火せよ!」

 

 

 

 



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地獄の業火を鎮火します!

こちらも編集しました。流れを大きく変えてます。

簡単に前回までのおさらいです。

謎の力でガルパンの世界に来てしまったWW2の戦車兵たちは大洗の西住みほ率いる大洗連合との親善試合をすることになり、ノルマンディー地帯(生け垣エリア)での待ち伏せ戦術はロケットランチャー戦車『カリオペ』の猛威により体制を崩され懐まで入り込まれてしまいます。
そこで新たに編成したどんぐり中隊がこの『カリオペ』の撃破に向かうことになったのです。


って感じで本編どうぞ


 

「やっぱ、カリオペだった見たいっすね」

 

謎の砲撃の根元を探しに動いたどんぐり中隊。

そしてペパロニはおおよそ予想していたカリオペを見つけることに成功したのだった。

 

「茂みの裏に隠れてるみたいだが、上の発射機が丸見えだぞ」

 

アンチョビは言った。

茂みの裏で見つからないようにとしているカリオペだが、逆に見つけてくださいと言わんばかりに発射機が丸見えになっていた。

 

「やっぱり読みは当たってたねぇ」

 

杏は4km圏内で、隠れるのに最適な茂みのある場所をあらかじめ選定し、そこをくまなく探していた。そしてその読みは的中し、森の手前で護衛に囲まれるように配置されていた。

 

「護衛は...

イージーエイトにチャレンジャー、Ⅳ号...Hっすかね?」

 

ペパロニはアンチョビに聞いた

 

「さぁ...Gかもな。...あとは、なんだあれ?!」

 

アンチョビは双眼鏡越しに見えた大型の戦車に釘付けになった。

多きな車体に長砲身の主砲を備えたカーキ色の戦車。

 

「あれチリっすよ!」

 

「チリ?チリコンカンか?」

 

「五式中戦車 チリっす!」

 

『五式中戦車 チリ』は太平洋戦争中に大日本帝国陸軍が開発した中戦車で、パンター、ティーガーⅡに匹敵する巨大に『試製七糎半戦車砲(長)Ⅰ型』が装備されており、Ⅰ型は半自動装填装置を設けている。

 

 

「守りは厳重だねぇ」

 

杏は言う。

上記の通り、M4A3E8、チャレンジャー巡航戦車、Ⅳ号戦車J型、五式中戦車、アキリーズと、厳重な守りだ。

 

「ですが、カリオペは丸見えです。これを仕留めれば...」

 

河嶋は言う。

 

「でも桃ちゃん、見つかったら...」

 

小山は心配そうに言う。

 

「桃ちゃんと呼ぶな!」

 

「なら陽動して気を反らさせるかぁ...継続ちゃん?」

 

杏は継続のミカに意見を求めた。

 

「同じ作戦に意味があるとは思えないな」

 

「じゃあどうするんだ!」

 

河嶋が強めの口調で聞く

 

「どうせなら派手にやりたいなぁ」

 

ミッコが言う。

 

「Вы можете стрелять, но это скрыто и не хватает уверенности(狙撃できますが、隠れている以上確実性に欠けますね)」

 

クラーラが言う

 

「ロシア語はサッパリなんすけど...」

 

「狙撃できますが、隠れている以上確実性に欠けますね。と言いました」

 

ペパロニに言われ、クラーラは流暢な日本語で答える。

 

「てことは決まりでいいかな?」

 

杏は改めてミカに確認した。

 

 

 

一方、カリオペの護衛隊は周辺の警戒に神経を尖らせていた。

 

「恐らくは森側から来るだろうな」

 

護衛隊の隊長を任されていたイージーエイトの車長、ドリー・バークは森を監視していた。

 

 

イージーエイトとは、アメリカが開発した『M4 シャーマン』シリーズの最高傑作とも言っていい、『M4A3E8』の愛称である。語尾の『E8』をもじって『イージーエイト』と呼ばれる。

 

シャーマンシリーズの中でも有名な部類であろう本車は、新型サスペンションと新型履帯の採用により、戦中製造されたM4シリーズの中で最も優れた性能を持つと言っても過言ではないシャーマンに仕上がり、『走・攻・守』のバランスにさらに磨きをかけた。

 

 

「ジャック、そっちはどんなだ?」

 

バークはM18 ヘルキャットのジャックに聞いた

 

「敵は見つからんな、というか、こんな広大なとこをヘルキャット1輌で探せって、まず無理なんだよ」

 

「ふん、だろうな」

 

「だろうなってお前な」

 

「ま、しっかり頼むぜ」

 

「ったく...クソッタレ」

 

バークはそんな話をしつつ、ふと後ろを振り向いた。後方にいないか確認するためだったのだが、その一瞬目を話した瞬間だった。大きな砲撃音の後、無線機に撃破されたという報告が入った。それは護衛隊のⅣ号のうちの1輌だった。

 

「クソッ!なんだ!」

 

撃破されたというⅣ号の方に目を向けると、そこには勢いよく走り去る『BT-42』の姿があった。

 

「アイツか...なんだありゃ」

 

「アイツはBT-42。フィンランドのやつだ!」

 

もう1輌のⅣ号の車長が言う。

 

「足が速いぞ、気をつけろ!」

 

その車長がさらに警告する。

 

「全車、カリオペを護衛しつつ迎撃!他の車輌も来るはずだ警戒!Ⅳ号1号車とりあえず追撃!ジャック!敵の俊足が来た!」

 

その矢先だった。

 

車体に衝撃が走る。バークは再び辺りを見渡すとそこには...

 

「敵戦車!11時半の報告!なんだあれは!」

 

「T-44だ!忘れたか?」

 

チャレンジャーの車長が言う。忘れたか?というのも、本試合には不参加だが、テスト用にシャラシャーシカの隊が配備していたからだ。

 

「そういやいたな。ロシアかクソッタレ!」

 

バークは毒づいた。

先程の砲撃は車体正面に命中したが、角度が鋭かったことと、ドイツ戦車に対抗するために苦し紛れに装着していた増加装甲のお陰で弾くことができていた。

 

「ガンナー!11時半方向、ローダー!AP-T(徹甲弾)装填!」

 

「ラジャー!…装填完了!」

 

「Fire!」

 

「on the way!」

 

車長、装填手、車長、砲手の順番で忙しなく、そして荒々しくやり取りがなされE8は徹甲弾を放った。

しかし、砲弾はむなしく砲塔側面にかするように当たり弾かれた。

 

「Shit!」

 

「操縦手、下がれ!」

 

操縦手はシフトレバーを操作し、バックギアに入れ後退を開始する。

その間に敵のT-44はこちらに走り始めた。

 

「次だ!急げ!」

 

「装填完了!」

 

「Fire!」

 

再び放たれた徹甲弾は目標の少し手前に落ちる。

 

「クソッタレ!」

 

「一気にたたみかけるぞぉ」

 

「あいよ~」

 

T-44の後方からヘッツァまで現れた。

T-44の車長、南 陽子の言葉に杏は軽く流すような返答をする。

 

「なにやってる!」

 

E8の後方からチャレンジャーが現れ、T-44に砲撃する。

 

「アイヤ!」

 

チャレンジャーの砲弾はT-44のターレット部に命中、撃破した。

 

 

チャレンジャーはイギリスが開発した巡航戦車で、クロムウェルの後継にあたる。そういえば解説していなかったのでざっくり説明しておくと、クロムウェルの車体を延長し、大型の砲塔に17ポンド砲を搭載した戦車だ。

 

「クソ!ヘッツァが...!」

 

バークは言った。

T-44を撃破している間に、ヘッツァは一気に距離を詰め後方のカリオペに狙いをつけていた。

 

「カリオペいただきぃ!」

 

杏はヘッツァの75mm砲を撃った。

砲弾は茂みの裏に隠れるカリオペに吸われるように飛んでいき命中した。

 

 

...と、思われたが!

 

 

「ハッ!それはダミーだ!」

 

カリオペが隠れていたと思われた茂みから右に20mほど離れた木々の間から、偽装ネットと切り落とした木々の枝や葉っぱを載せ、巧みに偽装していたカリオペが姿を現す。発射済みの発射機をダミーに誤射を誘ったのだ。

勢いよく砲塔上部のロケット発射機からロケットの雨を降らせる。

 

「うわぁ~こっち向いてるぞ~」

 

杏はそう言い、柚子は急いでその場から逃げ出す。

 

「バカ!味方にあたる!」

 

チャレンジャー、E8はヘッツァ同様にその場から立ち去る。

 

「それは私のセリフだぁ!」

 

アンチョビの言葉と共に、P40、T-34/85

が続けざまに現れる。

 

「どんだけいやがんだ!」

 

チャレンジャーの車長は言う

 

「P40はどうとでもなる!85を何とかしろ!」

 

バークは叫んだ。

T-34/85を狙うが高速で移動する戦車を狙うのは並み大抵のことではない。

クラーラが乗るT-34はジリジリとバークのE8に近づく。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

一方先手を打ったBT-42も相手を翻弄するように走り回る

 

「くそ!さすがにⅣ号じゃ追い付けない!」

 

BT-42を追うⅣ号戦車J型の車長は言う。

 

「どうするミカ?」

 

「追い付けない戦車をどうこうする必要は無いよ...でも、数は減らしておくべきだからね」

 

「オッケィっ」

 

ミカの言葉にミッコが答え、車輌を180°ターンさせる。

BT-42とⅣ号が一騎討ちの体制に入った

 

...その時だ

 

「ミッコ右!」

 

ミカが注意を促す

右手の茂みから1輌の戦車が飛び出した。ミッコはとっさに車体を反転させ、その場から離脱する。

 

「快速相手には快速を!」

 

茂みから現れたのはジャックのヘルキャットだった。

 

「こいつの目的は陽動だ!俺が引き受ける。お前はカリオペを!」

 

ジャックはBT-42の追跡を引き受けⅣ号を護衛の方へ回した。

逃げるBT-42をヘルキャットが追う。

 

「うげぇ?!」

 

ミッコは驚倒する。

アクセル全開で疾走するBT-42。すでに十分過ぎる速度が出ているがヘルキャットはジリジリと追い付いてくる。

 

それもそのはず。ヘルキャット...

制式には『M18 戦車駆逐車』なのだが、この戦車の最大の特徴は約18tの軽量車体にシャーマンと同じ高出力エンジンを搭載した事による高速性能だ。

 

「おいかけっこで逃げられるとでも?」

 

ヘルキャットは確実に仕留められる距離まで近づいて来る。

 

「ねぇミカ!どうする?」

 

アキは尋ねた

 

「...彼の後ろにワープしよう」

 

「あいよぉ!」

 

ミカの提案にミッコが動く。

距離が近づいたタイミングで車体を左方向に180°旋回。BT-42の左履帯がヘルキャットの車体前面左側に乗り上げた。

乗り上げた弾みで片輪姿勢になったBT-42はミッコの操縦テクニックでそのまま再度180°回りヘルキャットの後方を捉えた。

 

アキは過酷な車内状況下で照準を合わせる

 

「トゥータ!」

 

BT-42は114mm榴弾砲を撃つ。

しかし、そう簡単にジャックもやられる訳はない。

 

砲撃のタイミングでヘルキャットは右履帯をロック。そのまま時計回りに車体が回り一瞬だけBT-42を照準器に捉えた。砲手はそれを見逃さず捉えた瞬間、発射スイッチを押す。

砲弾はBT-42の砲塔左側面に擦るように跳弾する。

跳弾の衝撃で再びバランスを取り戻したBT-42はまた走り始めヘルキャットとすれ違う。

 

逃げるBT-42と追うヘルキャット...

 

両者一歩も譲らない快速同士の高速バトルだ。

 

再びジリジリと詰め寄るヘルキャット。

それに対してミカは

 

「...ミッコ、減速」

 

BT-42は一気に減速。

後方から追い上げていたヘルキャットはそのまま追い越すと再び後ろを取られることになった。

しかし、ヘルキャットも車体を横にドリフトしながらこちらを狙う。両者共に弾は当たらず、失速した分再度加速する。

 

その場で両者はぐるぐると円を描くように時計回りに回り、そして撃つこのままでは両者共に平行線をたどるだけだろう。

 

「ミッコ、あそこに行こう」

 

ミカは少し離れたところにポツンと建つ一軒家に向かうことを提案した。

牧場なのか、所々に柵があり小屋まである。

ミッコは言われた通りそこまで戦車を動かした。ヘルキャットもそれを追う。

 

そして、BT-42は木造家屋まで行きそこを中心にくるくると回り始める。

わざと速度を落とし相手との距離を摘める。

 

「ミッコ、後退」

 

BT-42は突然後退した。

BT-42はヘルキャットとすれ違うように後ろに下がる。

ヘルキャットはそれを追うように後退と砲塔を旋回するが、あざ笑うかのごとく再び前進したBT-42は通りすがりざまに砲撃。

 

「くそ!...ここでぐるぐるやっても埒が明かん」

 

今度はヘルキャットが攻勢に転じた。

 

「どうやら追いかけっこは嫌いだったみたいだね。」

 

姿を見せなくなったヘルキャットを探し少し家屋の回りを回ったあとアキは言った。

 

「ミッコ、小屋に」

 

BT-42は家屋から離れ、ヘルキャットを探す。

そして近くの小屋に差し掛かった時、

 

「停止」

 

BT-42が止まると同時に目の前を砲弾がかすめた。

ヘルキャットは家屋が大きく一周するには時間が掛かる事を逆手にとり離れの小屋に身を潜めたのだ。

だがミカにはお見通しだったようだ...

 

「クソ!全速後退!壁を突き破れ!」

 

居場所がバレた事でヘルキャットに狙いをつけるアキ。

ヘルキャットはバックで壁を突き破る。

アキが発射するが、ヘルキャットは後退し砲弾は空を切る。外に飛び出し陣地転換のために動き出すが今度はBT-42が追う形となる。

 

「とりあえずこのまま追わせよう。直掩隊が敵を追っ払うまでの辛抱だ。」

 

ジャックはこのまま時間を稼ぐ事にした。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

一方、ミカとジャックがタイマン勝負をしていた頃、どんぐり中隊は何とかカリオペの撃破に奔走していた。

 

「T-34!来るぞ!」

 

クラーラのT-34がバークのE8を狙って突っ込んでくる。

 

「ファイア!」

 

バークのE8が彼女を狙うが回避された。

 

「避けられた!」

 

「前進!」

 

バークは戦車を前進させ、直前にクラーラからの一撃を間一髪のところで回避出来た。

 

「さぁどうする…アキリーズ!射線通せるか!」

 

バークはファントムナイツのアキリーズに問う。

 

アキリーズとは、アメリカ製の『M10 GMC』のレンドリースを受けたイギリスが自前の17ポンド砲に換装した駆逐戦車だ。

 

「待ってくれ、今射撃体勢に入った」

 

駆逐戦車であるアキリーズが少し遠方より狙撃する。

 

「E8を狙っている85を狙え…」

 

車長が砲手の肩をそっと叩く。

砲手は照準器にクラーラのT-34/85を捉えしっかりと的を絞る。

けたたましい砲声と共に迫力ある発火炎が発生し、クラーラ車の車体右側に着弾。白旗が揚がる。

 

「次!ヘッツァー!」

 

アキリーズが次の獲物を狙う。狙いを定め発射するが弾がややそれた事で直撃とは行かなかった。

 

「こりゃぁ狙われてるねぇ」

 

杏が言う。

 

「およそ500メートル、アキリーズです!」

 

磯辺が遠方から狙撃するアキリーズを発見。

 

「カールのときみたいにはいかないですね…」

 

佐々木が言う。

大学選抜戦ではBT-42の陽動にまんまと引っかかったお陰でカールが無防備になり、反撃を受けても長い装填のお陰で撃破出来た。もちろん角谷の機転も大きいが何より相手が巨大で動きも鈍かったからだ。

だが今回は、陽動はほぼ失敗しカリオペ自身がいわゆる巨大な発射機を付けたただのシャーマンなのでしっかりと自衛として反撃してくる。

 

「一筋縄ではいかないな」

 

アンチョビが言う

 

「カリオペは殺らせるなよ!全員、しっかりとアイツの脇を固めろ!グレッグ、お前は何があってもそこを動くなよ。じゃないと()()()()()()が失敗する」

 

チャレンジャーの車長が言う。

 

「上手く敵をまとめられるか?できれば上のロケットで一網打尽にできる」

 

カリオペの車長が提案する。

 

「なかなか厳しい相談だな…やってみよう」

 

チャレンジャー車長は一応は同意した。

一方のどんぐり中隊も作戦を練り直していた。

 

「一体どうする!守りが厳重だぞ!」

 

「一気に畳み掛けた方がいいんじゃないっすか?」

 

「一斉にアイツを狙ったらそれこそ袋叩きに合うぞ」

 

河嶋の問にペパロニが答えたがあっさりアンチョビに却下されてしまう。

 

「向こうが動かないなら逆手に使いましょう」

 

磯辺が言う。

 

「どういうこと?」

 

「機動戦を仕掛けてランダムに敵にアタックして誰がカリオペを狙ってるのか錯乱させるんです」

 

「なるほど」

 

角谷が磯辺の作戦に乗り気になる。

 

「でも、こっちとしては誰が撃つかは決めるんだろ?誰がやる?」

 

「アンチョビさんお願いします」

 

アンチョビはまさかの返答に驚いた。

 

「だが向こうは6両でこっちは4両しかいないんだそ!」

 

河嶋は言う。

 

「こういう事もあろうかと呼んでたんです…こちらどんぐり中隊のアヒルチームです。そちらの状況は?」

 

磯辺は別の誰かへ問た

 

「こちらはもう少しで到着しますわ」

 

磯辺はその返答を聞き、再び全体へ話し始めた。

 

「機動力で掻き乱し、隙をついてアンチョビさんは森からカリオペの裏を取って下さい」

 

「オッケー!それじゃぁ行こう!」

 

角谷の号令でどんぐり中隊が動き出した。

 

「全車警戒!敵が動き出したぞ!カリオペ今だ!」

 

チャレンジャーの裏に隠れていたカリオペがロケットを撃つために前に出ようとした。

 

「待て!まだヘッツァーが動いてない!頭を出すのを待ってる!」

 

チャレンジャー砲手の言葉に車長はハッとしてすぐにカリオペを制止した。

 

「やっぱり駄目だ!ヘッツァーが狙ってる!」

 

カリオペがもう一度チャレンジャーの陰に隠れる。

 

「会長。会長はスナイパーを」

 

「ほいほーい」

 

磯辺の指示で角谷はアキリーズを狙う。砲撃を受けたアキリーズは車体に衝撃が走る

 

「ヘッツァーか!ようやく顔を出しやがった…ヘッツァーを攻撃!」

 

強力な17ポンド砲弾が付近に着弾した。その衝撃は車内でも分かった。

 

「よーし、スナイパーは引き付けてるよ〜」

 

「こちらアキリーズ!ヘッツァーと交戦中!」

 

チャレンジャー車長はその声に再び周囲を確認する。

 

「ヘッツァーじゃないと…!クソ!八九式かP40だ!豆タンクは気にするな!」

 

直掩隊が狙いを変える。

 

「アイツが合流したら仕掛けるぞ」

 

「了解です…バレー部!ファイトォ!」

 

「おお!」

 

アヒルチームが掛け声と共にチャレンジャーへ攻撃。直撃だったが貫通はしなかった。

 

「クッ…!そんななまくら弾が効くかよ!」

 

チャレンジャーが反撃し八九式の体勢を崩した。

 

「根性!」

 

再び磯辺の掛け声で体勢を立て直し更に突き進む。

 

「八九式が!バーク!」

 

バークのE8がアヒルチームに攻撃。車体で跳弾したがバランスを大きく崩す事に成功した。

 

「P40!警戒!」

 

Ⅳ号1号車の車長が言ったその時だった…

 

「待たせたな…ですわ!」

 

水色の俊足が現れる。

 

「なっ!クルセイダーだ!まずいぞ!」

 

チャレンジャー車長が叫ぶ。

 

「今のうちに」

 

宣言通りにバニラの合流でアンチョビは森の方へと急いだ。幸い直掩隊はクルセイダーに釘付けになって気付いてない。

バニラは持ち前の機動力で相手を混乱させた。

 

「まずはチリを!」

 

バニラがチリを攻撃する。

しかし弾が防がれた。

 

「次はⅣ号行きますわよ!」

 

Ⅳ号への攻撃はシュルツェンを吹き飛ばした。あれだけのスピードで走るのだから直撃は難しい。

 

「このっ!…あれ?」

 

Ⅳ号砲手が違和感を覚えた。

 

「どうした?早く撃て」

 

車長が言うが…

 

「いや…砲塔が回らないんだ!」

 

「はぁ?」

 

「フッ…ぐぬぬく!」

 

確かに力一杯砲手がハンドルを回そうとするが回る気配がない

 

「装填手!」

 

車長は装填手側のハンドルも回すよう促すが二人がかりでも回る様子がない。

 

「クソ!こちらⅣ号!砲塔旋回装置破損!旋回不能!」

 

車長はそう伝えるとハッチを開けて被弾箇所を確認する。白旗は揚がっていないので撃破判定で動かない訳では無さそうだ。だとすると当たりどころが悪かったかあるいは…

 

「あ゙!シュルツェンが食い込んでやがる!」

 

恐らく吹き飛んだ時にターレットに挟まったのだろう。しかもその状態で余計に回そうとしている為に更に食い込んでしまったようだ。

 

「こりゃ駄目だ!撤退!」

 

Ⅳ号が故障で戦力外となる。

これで数的な有利が無くなった。

 

「クソ!あのヘッツァーやるな!…こちらアキリーズ。移動して射撃ポイントを変える!」

 

「クルセイダーで一気に流れが変わったな…」

 

チャレンジャー車長がぼやく。すると…

 

「なぁ、そういえばパスタ野郎がいないぞ?」

 

チャレンジャー砲手が言う。

 

「ん?カルロベローチェならそこに…」

 

「違う!重戦車の方!」

 

車長はハッとした。

 

「P40か!」

 

そして周りを見渡す。確かにクルセイダーが来るまで確かに居たP40がいない。車長は後ろを見た。カリオペ目掛けて突進するように突き進むP40が見えた

 

「クソ!森…カリオペ!後ろだ!」

 

カリオペが慌てて後方へ砲塔を向けようとするがP40は彼の真後ろに飛び出した。

 

「フォーコ!」

 

P40の75mm弾がカリオペの砲塔後部に直撃。

白旗が揚がる。

 

不思議と時が止まったような静寂で包まれた。しかし、アヒルチームがその場を現実に引き戻す。

アヒルチームがバークを撃つべく全速力で側面を取りに来た。

 

「なんで俺ばっかり!」

 

バークは八九式を迎え撃とうと砲塔を回す。そしてアンチョビを再装填してバークの正面を狙う。

 

「アターック!」

 

磯辺の声で八九式が側面P40が正面に攻撃。E8が黒煙に包まれる。

 

「やった!」

 

アヒルチームが喜ぶがそれは早すぎた。

黒煙が晴れていくにつれてこちらに旋回する砲塔が見えてきた。

 

「効いてない!」

 

アヒルチームはすぐさまその場から去ろうと走り出す。前にも述べたがバークのシャーマンは増加装甲を施している。それは正面だけではなく側面にもあった。

 

「増加装甲は付けとくもんだな」

 

2発の砲弾を受け止めたE8が八九式に攻撃。弾は運良く逸れて尾ぞりを吹き飛ばした。

 

「よ~し。カリオペやったし撤収するよ〜」

 

角谷の言葉でどんぐり中隊並びにバニラが撤収に移った。

 

…しかし

 

一発の砲弾がかめチームの左側面に命中。行動不能となった。

 

「こちらアキリーズ。ヘッツァーを撃破、残りは…逃げたな」

 

「あっちゃ~…ごめんね西住ちゃん。やられちゃったぁ…でもカリオペはやったよ」

 

「ありがとうございます。残りのみなさんも撤収してください」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「こちらアヒルチーム、目標を撃破したので撤収中てす。ミカさんも撤収してください」

 

磯辺からの無線に短くカンテレを弾いて答えるミカ。

 

「ミッコ撤収するよ」

 

「え〜っここでやっつけたかったのにぃ」

 

「目的は果たしたからね。長居する必要はない…それに、タイミングというのは無理に掴もうとしなくても向こうからやって来るものだよ。今はその時じゃない」

 

ミカが特有の価値観でミッコをなだめる。そして後ろを見つつ

 

「それに2対1で戦うのは得策ではなさそうだよ」

 

「え?」

 

アキも後ろを確認する。そこにはヘルキャットに合流するルクスがいたのだ

 

「Ⅱ号だ!」

 

BT-42でも20mmをまともに食らえばやられてしまう。BT-42は相手に砲撃しつつ撤収を始めた。

 

「あいつら逃げるぞ」

 

ジャックが追撃を掛けようとしたその時、一報が入る

 

「こちら直掩隊。敵は撤収した、カリオペはやられたが…そっちも深追いせず合流しろ」

 

「了解…クソッ、運が良かったな!」

 

ヘルキャットとⅡ号は逃げるミカ達を諦め直掩隊との合流へ進路を変えた。

 

「敵は撒いたから私達も合流する」

 

ミカは転進するジャック達を見てみほに報告する。

 

「分かりました。ここから体制を立て直しましょう。合流して市街地に向かいます。...皆さん、次は私達のターンです!」

 

 

『はい!』

 

 

みほの言葉に全員が大きく答えた。

 

 

しかし、ブラッドハウンド隊も手を抜くなんて事はない。

 

 

「こっちの部隊も撤退したけど、今度はどこで戦うつもりなのかな?」

 

 

生け垣エリアから合流したケイラーはそう呟いた

 

「十中八九市街地だ」

 

そしてウィットナーがそれに答えるように言う

 

「てことは市街地でまた待ち伏せ?」

 

「だろうな」

 

「懲りないねぇ」

 

「フン...ブラッドバウンド連合ではなく、ドイツ軍ブラッドバウンド隊全車に告ぐ。これからはドイツ軍のターンだ。...ドイツの恐ろしさを思い知らせてやれ」

 

『ヤヴォール!』

 

「ブラッドバウンド全車、市街地への最短ルートで市街地に向かえ!エンドラー、中隊指揮を頼むぞ!」

 

ウィットナーは一段の気合いの入った声で告げた

 

果たしてどちらが痛手を追うことになるのだろうか...

 

 

 

 

 

 

 

次回「私達のターンです!」

 

 



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私達のターンです!

 

 

市街地に向けて前進する大洗連合各車。

分散していた車両達が一同に集結し大きなパンツァーカイルを組んでいた。

 

「こちらの損失は、シャーマン、ソミュア、B1bis、KV-2 、T-34/85、ヤークトパンター、T-44、ARL-44 各1輌づつとパンター、T-34/76、チハを2輌失い、14輌の損失です。」

 

優花里は大洗連合の損失車両を読み上げた。

 

「対して向こうは、シャーマン5輌、T-34/85、チハ各3輌、クロムウェル、チヘ、Su-85、M36、Ⅳ号、パンターが各1輌で17輌の損失ね」

 

エミは言う。

 

「なかなかいい線いってるんじゃないか?」

 

アンチョビは言った。

 

「いや、むしろ奇跡と言った方がいいんじゃないか?」

 

これは麻子だ。

 

「そうね。馴れない戦車道に手間取って撃破されていた。と見た方が良さそうね」

 

「ボカージュエリアでは殆ど向こうの独壇場だったわけで...」

 

「馴れてきた今からが向こうの本領発揮って所かしらね」

 

メグミ、ルミ、アズミがお互いの言葉を引き継ぐ様に言っていく。

 

「はい...皆さん、これから市街地戦に突入します。防衛陣地を築き有利に運びつつ相手を分散させて確実に各個撃破をお願いします。こちらも相手も分散することになります。お互いをフォロー出来るよう一丸となって頑張りましょう!」

 

「「はい!」」

 

みほの言葉に一同はより気合いの入った返答を返す。

 

そんな中、西はゆっくりと口を開いた。

 

「西住さん。少々よろしいでしょうか?」

 

「どうしました?西さん」

 

「一つ提案があるのですが...」

 

「なに?突撃はなしよ?」

 

アリサは言った。

 

「いえ、そうではありません。ですがサンダース、プラウダ、黒森峰の皆さんについてなんですが...」

 

みほは首をかしげた。

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

市街地を攻略するにあたり部隊を分散させたブラッドハウンド隊。

 

バークは他の3輌を引き連れて細長い街道をゆらゆらと走っていた。

 

「煙草とガム、どっちがいい?」

 

装填手が車内の他4人に尋ねる

 

「俺はガム」

 

「じゃあ煙草」

 

砲手、操縦手がそれぞれ言っていく

 

「あんたは」

 

装填手はバークに尋ねた

 

「俺はいい」

 

バークはどちらとも受けとることは無かった。

 

「なぁ、試合が終わったら何したい?」

 

今度は操縦手が言い出した。

 

全く試合には関係のない他愛ない話だ。

この世界に来る前でも移動中なんかはよくしていた事だった。

そんなありふれた現状をうっすらと聞き耳を立てる

各々が答えていく中でバークもまた仲間達に混じって答える。

 

...そんなのんびりとした時間も一瞬で終わりを迎えた。

突如先頭の『アキリーズ』がエンジンデッキから炎上。

白旗が挙がる

 

「くそ!なんだ!」

 

「3時方向から攻撃!」

 

突然の轟音に乗員達は身を縮め、ハッチから体を出していた者達はすぐさま車内に戻りハッチを閉じる。

バークは3時方向に双眼鏡を向けた。

 

そこには確かに草むらに隠れた戦車がいた。

 

「タイガーだ」

 

バークは双眼鏡越しに見える戦車を残りの2輌に伝えた。

 

「タイガーだと分が悪い。ここはそのままやり過ごそう」

 

2号車のM4A1の車長は言う

 

「いや、ここで仕留める」

 

「What!?」

 

2号車の車長は無線機が音割れするほどの声を挙げる

 

「このまま無視すればあいつに後ろを取られる」

 

バークが言った直後、再び砲撃を受けた。

今回は命中することは無く8.8cm砲の独特な砲声と風切り音が周囲に響く。

 

「このまま直進すればまた撃たれるぞ!」

 

3号車のファイアフライ車長は言った。

 

「小隊、3時方向に旋回!」

 

バークの指示で小隊3輌は右方向に車体を旋回させ、ティーガーⅠに対して正面を向けた。

 

「後退!敵戦車に向けて煙幕を張れ!」

 

3輌は後退すると同時に煙幕弾をティーガーⅠに向けて砲撃した。

 

「くっ...煙幕か!」

 

バーク等を狙っていた黒森峰のティーガーⅠ

その車長であるツェスカはひとり毒づいた。

 

「晴れるの待ちますか」

 

砲手の発言にツェスカは迷った。

しかしこのまま煙が晴れるのを待っていれば逃げられる

 

「操縦手、前進開始!煙を抜けるわ」

 

ツェスカの指示でティーガーⅠはゆっくりと前進を開始。

 

「本当にやるのか?」

 

「やるしかないだろ。こっちは3輌、向こうは1輌。勝機はある」

 

2号車の問いに3号車が答える。

 

「stop!stop!」

 

バークは後退していた小隊3輌を止めさせた。

程なくして煙を抜けてティーガーⅠが姿を表した。

 

「小隊前進!」

 

深呼吸でしっかり気を落ち着かせ、大きく指示を出したバーク。

それに合わせて3輌のシャーマンが一斉に前進した。

 

「ゴードン、右に回れ!俺たちは左に行く」

 

「ラジャー!」

 

「サミエル、正面だ!」

 

「あぁクソ!やってやる!」

 

バークは左に、3号車のゴードン、2号車のサミエルは右、正面に分散してティーガーⅠを狙う

 

「File!」

 

各車長の号令により各車砲撃開始。

しかし、空へ外れるもしくは地面に突き刺さり直撃させられない。

なんとかサミエルの砲撃がティーガーの正面を捉えたが、短砲身75mmの徹甲弾程度では貫けない。

 

「シャーマンごとき何とで無いわ!弾種徹甲、目標左手11時方向。シャーマンファイアフライ!」

 

相手は強力なファイアフライ。

ツェスカはまず火力の高い目標を排除する

 

狙うはティーガーから見て左手に回り込むゴードンのシャーマンだった。

 

「フォイア!」

 

ティーガーはゴードンに砲撃した。

しかし砲弾は空を切り裂いただけだった

 

「File!」

 

ゴードンが17ポンド砲を発射させる。

弾は車体側面をなぞるように跳弾した。

 

「Shit!」

 

ゴードンの毒づく声が無線機を通して聴こえる

 

「怯むな、撃ち続けろ!」

 

シャーマン等はバークの怒号に関係なく、ティーガーへ砲撃し続ける。

 

「もう一度...フォイア!」

 

「Fuck!」

 

ティーガーの砲弾がファイアフライの砲塔を掠める。

その状況にゴードンも荒々しい言葉を吐いてしまう

 

「ゴードンが狙われてる!」

 

バークもサミエルも砲撃するが、有効弾を得られないまま...

 

「目標そのまま...フォイア!」

 

ゴードンのシャーマンは車体正面に直撃を受け白旗が挙がる

 

「あぁクソ!」

 

バークは毒づいた。

 

「右に回るぞ!」

 

サミエルは言うとゴードンと交替するように右方向に進路を変更するが...

 

「よし、次は短砲身シャーマン」

 

次なる標的になってしまった。

 

「サミエルが...!急げ急げ!速度上げろ!」

 

バークは自車とサミエルに指示を飛ばす

 

「File!」

 

サミエルは撃ったがこれもまた貫通することはない

ティーガーの主砲は徐々にサミエルを捉えるようゆっくりと旋回していた。

 

「ウィークポイントは車体の付け根...」

 

バーク車の砲手は独りごちる

 

「フォイア!」

 

「File!」

 

ティーガーとバークが撃つのは同時にだった。

ティーガーの砲弾はしっかりとサミエルを捉えたが、バークのシャーマンは車体側に逸れて貫通しなかった。

 

「化け物め!」

 

バークは毒づく

 

3輌いた小隊も既に彼一人となってしまった。

 

「ギアを上げろ!GOGOGO!」

 

バークはシフトアップさせてさらに加速させるよう指示した。

 

「回り込まれる!操縦手左後方に後退!」

 

ツェスカもまた回り込まれぬよう操縦手に後退させる

 

「File!」

 

シャーマンから放たれた砲弾は空中を切り裂く

 

「Shit!」

 

「クソ!捕捉されるぞ!もっと速度上げろ!」

 

砲手、バークの怒号が飛び交う。

 

「後ろに回り込ませるな!フォイア!」

 

ティーガーが放った砲弾が車体上面ターレット付近に着弾した。

 

「Fuck!クソ!どうなった!」

 

「被弾した!」

 

バーク、操縦手補佐がそれぞれ言う。

 

「貫通はしてない...ダメだ旋回装置がやられた!」

 

奇跡的に貫通こそしなかったが、衝撃で砲塔旋回装置が損傷。油圧装置からオイルが噴き出している。

 

「手動に切り換えろ!」

 

砲手はその指示通りに旋回スイッチから足を離しハンドルを回す

 

「しぶとい奴め!」

 

ツェスカは言った。

しかしまだ砲身はシャーマンを捉えている。

しかしながらバークもまた撃たれまいとさらに速度を上げさせる。

 

「ケツにぶち込め!装甲が薄い」

 

徐々にティーガーの旋回が間に合わなくなり装甲が薄い後方が見えて来た。

そこで砲手はそのティーガーのケツに一発ぶち込むのだが...

 

「速すぎて照準がブレる!まともに狙えねぇ!」

 

速度を上げた結果余計に車体が上下に振れて精密射撃が不可能になってしまったのだ。

 

「いいからさっさと撃て!」

 

装填手が怒号をあげる

 

「少し速度を落とせ、そして合図で後退しろ」

 

「ラジャー!」

 

バークは操縦手にそれだけ言うと

 

「砲撃も俺が合図する。いいな!」

「Ok!」

 

シャーマンがじわりじわりとティーガーの真後ろを取っていく。

 

「後ろを取られたわよ!速く撃ちなさい!」

 

ツェスカは焦っていた。

このままでは装甲の薄い後方に撃たれてしまう。だが、シャーマンは撃つこと無くそのままティーガーの左側面に進んで行き、速度を落としたシャーマンにティーガーの主砲が追い付き始めた。

 

ティーガーの砲身が徐々にこちらへ指向し側面を捉える

 

その直前にバークは無線機のスイッチを入れ、

 

「今だ!Back!Back!」

 

砲身に完全に捉えられる前に後退の指示を出した。

突如後退を開始したシャーマンに惑わされたティーガーの砲手は狙いを完全に外してしまい無駄弾を撃ってしまった

 

「まだ...standby...standby」

 

「は、早く!早く狙って!」

 

ツェスカは完全に取り乱していた

 

そして...

 

「File!」

 

「On the way!」

 

砲手が発射ボタンを押す。

砲弾はティーガーの後方、燃料タンクに命中。

しかし、燃料タンクでは判定が甘かったのか、砲塔が回り続けていた

 

「もう一発だ!もう一発ぶち込む!」

 

「エンジンだ!エンジンにぶち込め!」

 

「loading ok!」

 

「On the way!」

 

二度目の攻撃はしっかりとティーガーのエンジンに突き刺さりティーガーが白旗をあげた

 

「ふぅ...やったぞ...」

 

シャーマンの乗員達は安堵していた。

しかしバークは撃破された友軍車両を見つめていた。

 

もしこれが本当の戦争であれば撃破された車両からゆっくりと降車している彼らは確実に火だるまと化していただろう...

バークはゆっくりと無線機を口元に運んだ

 

「こちらバーク。ケイラー隊長聴こえるか?」

 

「どうしたの?バーク」

 

「黒森峰のタイガーと会敵。なんとか撃破した」

 

「そう...じゃあ、エマちゃんの部隊と合流して」

 

「yes sir」

 

ケイラーは被害状況など聞くことなく別の部隊と合流を指示した。

言わずもがな、察したのだろう。

彼女もまたシャーマンでティーガーと会敵したことはあったのだから...

 

──────────────────────

 

「ケイラー曹長から報告よ。イージーエイトの小隊がティーガーと戦闘ですって」

 

ケイラーからの一報を受けたシャラシャーシカが共に移動中の松平に報告していた。

 

「そうですか...」

 

「虎に狙われればいくらシャーマン戦車でも痛手だろうな」

 

松平車の砲手は言った。

 

「私達もどこで張られてるかわからないわね。警戒して行きましょう」

 

「全車、周辺状況に注意し慎重に進め」

 

シャラシャーシカの後、松平が全車に注意を促す。

警戒の為松平が双眼鏡を覗こうとしたその瞬間、目の前を走るチハ改が吹き飛んだ

 

「なにっ!?」

 

「敵襲!」

 

松平は双眼鏡で周辺を確認する。

少しして再び第二波が襲う。

 

「くそ!IS-2が!」

 

シャラシャーシカは毒づいた。

今度はIS-2が白旗を挙げる。

 

「何処だ!」

 

「探せ!」

 

無線が混線していた。

次はチリに攻撃が命中したが眺弾した事で事なきを得た。

 

「っ!発見!方位270度方向」

 

敵発見の一報が入る。

 

「こちらも発見。距離1500」

 

シャラシャーシカが対象を見つけた。

 

「敵車両は?!」

 

「マサイ族じゃないんだから...1500も離れれば豆粒よ!」

 

他の車長の問うがシャラシャーシカは小さすぎて見えないようだ。

まぁそれもそのはずだ

松平は双眼鏡を外して目を凝らす

 

「JS-2!」

 

「え?」

 

「プラウダ高校のJS-2です」

 

「嘘...見えるの?」

 

「自分、視力いいので」

 

松平が超人並み(?)の視力で車種を特定した。

 

「なるほど。視力はいいのね」

 

「"は"は余計です」

 

シャラシャーシカの言葉に松平は軽くあしらう。

発見こそ出来たものの、1500mも離れた戦車を狙うのはそう容易い話ではない。反撃しても届かないか外れるかのどちらかだ。

 

「シャラシャーシカ、松平、先に行け」

 

二人は後方を見た。

 

「この距離なら俺らの仕事だ」

 

後方から随伴してきたヤークトティーガーだ。

シャラシャーシカは一瞬迷ったが、

 

「この距離でJS-2を撃破しうる戦力はJS-3かハンティングタイガーのみ。以後の市街地戦での優位性を考えると...」

 

「わかったわ。頼むわね」

 

松平の助言を受けては後を任せる事にした。しかしその声を聞くより先にヤークトティーガーは臨戦体勢を整えていた。

そしてすぐにシャラシャーシカ達はその場から迅速に撤収を始める

 

「やれるな?」

 

車長がイェーガーの肩に手を乗せる。

イェーガーはただ無言で照準器に豆粒程のIS-2を捉えていく

 

一方シャラシャーシカ達を狙うノンナも撤収する敵部隊に狙いを合わせていた。しかし強烈な揺れと土煙がノンナを襲う。

ヤークトティーガーの弾がIS-2のすぐ脇に着弾。大量の土砂を巻き上げた。

 

「ヤークトティーガー...」

 

ノンナは独りごちった。

 

ノンナはヤークトティーガーを狙う。

そして相手もまたノンナを狙う。

 

両者直撃させる為にしっかりと照準を絞り...

 

122mm、128mmの砲弾が砲口から亜音速で飛び出すのは同時であり、お互いの戦闘室前面と砲塔天板に命中...

 

...貫通しなかった

 

両戦車の中で装填手は忙しなく、重い砲弾をてきぱきと砲尾へと詰め込む。

偶然にもお互い分離装薬式である戦車。装填手が弾頭と装薬を詰めるのも再び撃つのも同時であった。

 

戦車道界における名スナイパーの一人 「ノンナ」

 

ドイツ軍でも指折りだった名スナイパー 「イェーガー」

 

二人の卓越した技量の前では空中で弾がぶつかる事など容易い話なのだろうか

 

「ふっ...」

 

ノンナは口元を緩めた

 

ノンナはヤークトティーガー唯一の弱点、車体正面機銃座に狙いをやる。

しかし、

 

「今回はお預けとしましょう」

 

ノンナの一言でIS-2は後退した。

 

「くそ、イワンが後退する」

 

ヤークトティーガーの車長は言う

イェーガーは照準器から目を離し、大きく息を吐いた

 

「後はお預けだな」

 

イェーガーは独りごちり微笑んだ

 

「戦車はイワンだが、乗ってるのはヤーパンだせ」

 

────────────────────────ー

 

IS-2の待ち伏せという一報を受けてケイラーは増援を向かわせた。

スーパーパーシングとファイアフライの2両がそれだった。

 

「プラウダのIS-2...ノンナって奴らしい」

 

スーパーパーシングの車長が資料片手に言う

 

 

「誰だそりゃ」

 

「戦車道における腕の立つ砲手なんだと」

 

装填手の問いに車長は答える

 

「まぁフレディ程じゃねぇだろうけどな」

 

装填手は気楽に笑うが当のフレディ自身はクールに黙りを決め込む

実際技量ではイェーガー程のレベルを持つが戦いではどんなイレギュラーに見舞われるかわからない。

それこそ10秒後に予想だにしないイレギュラーに見舞われるのだから...

 

突如フレディに悪寒が走る

 

「っ!停めろ!」

 

フレディは叫んだ。皆突然の事に固まる。

 

「いいから停めろ!」

 

言い終わる前に操縦手がフルブレーキ。

車は急に止まれない理論と言おうか、追従するファイアフライ(ⅠC)が追突し、スーパーパーシングの車体正面を舐めるように砲弾が掠める。

 

「敵襲?!」

 

「おいおい、ニュータイプか?」

 

「悪寒がしたんだよ」

 

敵の攻撃を察したフレディは正にニュータイプと呼んでも過言では無いかもしれない。

 

「9時方向、凡そ1900ヤード(約1700m)。ファイアフライ!」

 

フレディは豆粒サイズのファイアフライ(ⅤC)に狙いを合わせる

 

「くそ、サンダースか」

 

車長は言う。

 

そう彼らを狙うはこれまた戦車道界の名手、ナオミだ。

 

「撃った!」

 

車長がナオミ車からマズルファイアを確認したその数秒後、射撃体勢を整えていたⅠCに直撃して白旗が挙げる。

 

「正面を向けろ!」

 

横っ腹を見せている自車。車長は体勢を変えるよう指示した。

 

「いけるか?」

 

車長はフレディに問う

 

「シャーマンの装甲なら紙だよ」

 

フレディは余裕の表情で答える。

照準器に捉えたナオミを勿論ながら何の躊躇も無く撃つ。

しかし、初弾は不発に終わりフレディは舌打ちする。

 

「陣地転換」

 

ナオミ車の車長は別の射撃ポイントまで移動させる。それに合わせてフレディ等も移動を開始。

若干起伏のある地形であった為に稜線で車体を隠しながら最適な射撃位置とタイミングを見計らう。

 

「10時方向、砲塔回塔。距離...1700」

 

車長の指示でフレディはおおよその角度に砲塔を向ける。そしてパーシングは少し小高い丘を登り終える。砲身の先には走行中のⅤC。

フレディは微調整して発射ボタンを押す。

 

「っ!停止!」

 

間一髪で車両は停止。感性で若干車体が横滑りしたが運良く砲身がパーシングへと向いた。

ナオミは反撃するが回避行動に移ったパーシングの砲塔側面を掠めた。

 

ノンナとイェーガー同様にお互いに技量が有るもの同士故に一瞬でも隙を見せれば確実に撃破されるだろう。

そんなプレッシャーが両者を襲う。1km超の交戦距離だが両者隙を見せまいと行進間射撃で牽制するが所詮はFCSが積まれる以前の旧式戦車同士。命中させるなど奇跡が無い限り不可能だろう。

 

「埒が明かんか」

 

車長は一旦対策を練る為に丘に逃げ込むことにした。フレディはその間に地図を確認する。

 

「このK24地点の丘を狙える場所を探してくれ」

 

フレディは指定したポイントに印を付けて車長に渡す

 

「ここだっていう理由は?」

 

当然の疑問だ。

 

「そこに必ず出てくる。そして向こうもこっちの居場所も把握してるはずだ。...俺が逆の立場ならそうする。」

 

「OK。ニュータイプの勘を信じましょ」

 

「これで確実に決める」

 

いわゆる直感というわけだが、車長はその勘を信じた。

パーシングは少々小高い丘を駆け登っていく。おおよその見当を立てて砲塔を回す。

 

「ナオミ、本当に大丈夫?」

 

「ああ。必ずそこに顔を出す。...出したらAPDSで確実に撃ち抜く...!」

 

ⅤCもまた丘を登る...

 

両者が登りきったところでその正面にはお互い予想した通りに照準器越しに確認できるⅤCとスーパーパーシング。

決着を着けると言った両者。さっきまでの隙うんぬんを無しにするようにしっかりと的を絞る。

 

 

 

「「File!」」

 

 

 

 

 

まるでシンクロしているかの如く、砲弾はそれぞれの相対する目標に向けて放たれた...!

 

 

 

 

次回「市街地戦です!」



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市街地戦です!

さて、ずいぶんと長くご無沙汰でしたがようやく次話の投稿です。

改めて今までの話に編集したり新しく追加したりしていますのでまだご覧になってない方はぜひご覧になってください。

では簡単におさらいです。

西の発案で更に戦力差を広げることにした大洗連合。

サンダースの凄腕、ナオミとエンジェルスの凄腕、フレディとの一騎打ちの運命はいかに!




シャーマンファイアフライとスーパーパーシング。

 

その相互の砲弾が両者の車体に直撃する。

 

黒煙を吹く両者…

 

その様子は観客席前の巨大モニターに映し出されていた。

 

    パシュッ

 

という白旗が揚がる音がした。

 

「大洗連合、ファイアフライ…ブラッドハウンド連合、スーパーパーシング…走行不能!」

 

アナウンスが響き渡った。

フレディは大きく息を吐いた。そして笑みを浮かべる。

 

「ショットトラップか…多分向こうの方が一枚上手だぜ」

 

ナオミは1キロを有に超える距離でショットトラップを使いスーパーパーシングを撃破した。もちろん、みなが偶然だと言うだろうが彼には確実に狙われていたと断言出来た。そう彼の直感が囁くからだ。

 

 

フレディが撃破された事はケイラー達にも知れ渡った。

 

 

「ウィットナー!フレディがやられた!どうやらファイアフライと撃ち合ったらしいけど…」

 

 

ケイラーは驚いた様子で伝えたがウィットナーは特段驚くことはなかった。

 

「向こうのファイアフライって事はナオミという娘が砲手らしいな。なら彼がやられても説明はつくし、何より相討ちに持ち込んでくれたおかげでこっちも脅威が一つ減った」

 

ウィットナーは一呼吸置いて再び話し始めた。

 

「だいぶいい感じのムードになってきたな。ケイラー、予定を変更する。大洗を先回りしてC47地点に誘き出せるか?」

 

「ちょっと待って」

 

ケイラーはそう言うと別の部隊に無線を入れた。

 

「こちらケイラー。偵察車、大洗の状況は?」

 

「こちら偵察車。大洗はK55地点を一直線に市街地へ向けて進行中。到着まで凡そ10分ほどです」

 

 

ケイラーは地図を確認し自分たちと市街地までの距離を計算した。

 

「ごめん、無理ね。ここからだと最短距離を突っ切っても10分は掛かりそう。どんなに急いでも同時くらいにしかならなそうね」

 

「分かった。なら最短距離で進行し、大洗が防御体勢に入る前にC47地点に誘導してくれ」

 

「オッケー。それなら行けるわ…全車、北西に進路を変更!最短距離で市街地まで突っ切るよ!」

 

「ケイラー曹長。この進路だと大橋を渡ることになりますが渡るんですか?」

 

チャレンジャー車長が問う。

 

「そうね。向こうも守備体制を整えたいだろうから待ち伏せは考えにくい。そのまま渡っても大丈夫よ」

 

ケイラーは答える。

 

「よし、俺達もC47地点に急ぐぞ。アルブレヒト、アンナ、C47地点に集合」

 

 

ブラッドハウンド全車が再び攻勢に動いた。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

一方、ブラッドハウンド連合が最短距離で市街地を目指しているとはつゆ知らず、大洗連合は市街地でも防衛戦に向けて作戦を練っていた。

 

「さて、西さんの発案で更に戦力差を広げられたけのだけど市街地の守りはどうします?」

 

ダージリンが問う。

 

「このエリアはかなり広大ね。住宅地、都市部、工場エリア…守るところが多い」

 

中須賀エミが言う。

 

「ですが進入してくる所は限られています。」

 

今度は優花里が言う。

 

「はい。進入してくると思われる高速道路、工業地帯を周辺に防衛しましょう。幸い、高速道路は市街地の主要部に直通しているのでここを警戒すれば必ず現れると思います。」

 

みほは一旦一呼吸置いて再び話し出す。

 

「ですが、未だ未確認の戦車がいます。注意してください。」

 

「T29とJS-3なんて持ってるのよ?もう何か新しいのが来ても驚かないわね」

 

エリカが言う。

 

「今までの流れだと、こっちの出方は筒抜けになってる気がするわ。恐らく未確認なのは偵察車だと思うけど」

 

「本当に偵察車だけならいいけどねぇ」

 

メグミの言葉にナカジマが言う。

 

市街地も目と鼻の先となりもう少しで進入できる所まで来たその時だ。そどさっちで周辺を警戒していたそど子が連合の左手より進行してくる車列を発見した。

 

「敵よ!私達から見て7時14分の方向!」

 

各車長が双眼鏡で確認する。

 

「なにっもう来たのか?!」

 

「あいつら、最短距離で待ち伏せを阻止しに来たな!」

 

押田、安藤が言う。

 

「皆さん、戦闘準備!」

 

みほが慌てて指示を出す。

大洗連合は少々距離があるものの時間を稼ぐ為に攻撃を始めた。

 

 

「撃って来た!慌ててるわね…全車攻撃用意!」

 

攻撃を受けたケイラー達も反撃の準備を始める。

 

「全車、もう一度確認する。今回は撃破が目的じゃない、C47地点に誘導することが目的よ!…グレッグ!発射出来る回数は?」

 

「37発可能です!」

 

「オッケー。ここが大詰めになるから全部撃っちゃって!」

 

ケイラーは隠し玉として温存していた残りのカリオペを前線に付かせた。

カリオペを潰すためにどんぐり中隊は戦い、辛うじて撃破出来たと思われたが実はもう1両が森で静かに待機していたのだ。彼等は1両のカリオペを必死に守るような戦いをしていたが、あくまでもう1両の存在を隠すための演技だったのだ。

 

ジリジリと距離を詰めていくケイラー達ブラッドハウンド連合。

そして反撃を始めた。攻撃開始の合図のようにカリオペが残りのロケット弾を斉射。それに続くように全車両が砲撃する。

 

「嘘だろ!まだカリオペいたのか!」

 

「回避!」

 

アンチョビ、みほが続けて叫ぶ。

 

ロケットの直撃を避けるため右側に進路を変える事になった。

 

「よし、向こうに追いやった…そのまま攻撃を維持してもっと追い込むよ!」

 

ケイラー達は更に追い討ちをかける。

 

「偵察隊!守備は?」

 

「こちらはC32地点のハイウェイから進入しました。これより合流します。」

 

「よし!グレッグを先頭に私達はこのまま大洗を追う!エマっちはこのまま市街地に突入して逃げ出さないように道を固めて!」

 

「エマっち了解です」

 

エマはその微妙なネーミングセンスに呆れた表情をしつつ指示に従いケイラー達とは別れた。

 

「クソッ追ってくる!」

 

ルクリリが言う。

 

「皆さん!このまま進路を変えてC50地点から突入します!」

 

大洗連合が逃げるように進路を変えて前進する。想定外の攻撃で彼女達が話していた作戦はほぼ実行不可となった。予定より遅れて市街地に入ることになったが市街地は道が入り組んでいるため比較的逃げやすいだろう。

しかし、それと同時にまとまって動くには制約のある地形でもある。最悪孤立する戦車も出てしまうだろう。戦力差では大洗に部がある現状では、それを生かした1対多数の戦闘に持ち込んだほうが無難だ。

 

「皆さん。敵は分散させて各個撃破を狙ってくるはずです。はぐれないよう、まとまって行きましょう!」

 

『はい!』

 

みほの指示に全員が返答するが行く先々で敵の攻撃を受ける。先回りしたエマ達やクロムウェルⅢ号などの偵察隊からの執拗な攻撃で思うように進めないのだ。

 

「こっちにも敵が回り込んで来てる!」

 

「あたいの方も無理だよ!」

 

ケイ、お銀が言う。

 

全体からの無線を聞きつつ、みほは地図を確認して最適な方法を模索する。 

 

「ダージリン様…」

 

「この動き…妙ね」

 

オレンジペコの代弁をするようにダージリンが言う。彼女達は何か引っかかっている様子だった。

 

「皆さん!このまま大通りを通ってC47地点を突っ切ってC29地点に向かいます!どうやら敵は分散しているようなので集合して追いつくには時間が掛かるはずです!その間にもう一度体制立て直しましょう!」

 

みほの指示で隊が大通り方向へ進路を変えた。

 

「敵連合はバイパス方向へ進路を変更しました」

 

「オッケ〜。…ウィットナー、そっちに上手いこと誘ったよ」

 

C47地点にウィットナー達が待ち受けているとは知らず、彼女達はその手中へと入っていく…

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

ケイラー達からの追撃を逃れC29地点へと向かうためC47地点という住宅地エリアへと駒を進めた大洗連合。住宅地エリアは道が少し狭い事もありまとまって動けない。そこで隊を一旦別けて前進していた。

 

「とりあえず、撒いたようだな」

 

「だがまた現れるかもしれない」

 

「全車両警戒」

 

エルビン、カエサルが言いそれを聞いていたダージリンが付け加える。

 

「来たぞ。チャーチルは狙えるか?」

 

「いや、先頭のソミュアが邪魔で撃てない」

 

「しょうがない。防御の厚いチャーチルをやりたいところだが、ソミュアを狙え」

 

ブラッドハウンドのⅣ号ラングがエクレールのソミュアに狙いを付ける。

 

「フォイア!」

 

号令共に放たれた砲弾がソミュアに命中し白旗が揚がる。

 

「こちらエクレール…撃破されました…」

 

「警戒!どこから!」

 

ダージリンが周囲を見渡す。

 

「敵部隊、後退開始」

 

「退かれちゃあ手出しが出来ん。そっちはどうだ?」

 

「ああ、上手くテリトリーに入ってくれたよ…やれ」

 

ラングの車長とⅣ突の車長のやり取りのあとⅣ突が砲撃。最後尾の細見がやられた。

 

「こちらもやられました!面目次第もございません!」

 

「どこから撃ってるぜよ!」

 

パニックに陥る彼女達。しかしブラッドハウンドはさも当然のように冷静に対処する。

 

「2両撃破、陣地転換!」

 

ラングとⅣ突が静かに場所を変える。一方、他の大洗連合にも待ち伏せの一報が入っていた。

 

「アリサ!待ち伏せされてるから気をつけて!」

 

「イエスマム!」

 

「エミ、アリサの前に出て」

 

ケイは中須賀エミに前衛を代わってもらおうとした。エミもそれを受けて前に出ようとしたその時、アリサのシャーマンが攻撃を受けて白旗を揚げた。

 

「気をつけて!待ち伏せよ!」

 

「どこから…」

 

エミが言い終える前に脇を独特の飛来音を響かせながら砲弾がかすめる。

 

「っ!エイティーエイト!」

 

その砲撃音で察したメグミが叫ぶ。

 

「次は頼むぞ」

 

「ヤヴォール…同族を撃つのは気が引けるな」

 

ファインツのティーガー砲手がじっくりと狙いを付けて引き金を引いた。

 

「えいっ!」

 

咄嗟にエミのティーガー操縦手の鷹見優が回避行動を取り直撃を避けた。

 

「なっ!避けられた!」

 

「もう限界だな。一旦後退する!」

 

ファインツのティーガーもその場を後にする。

 

「撃て!」

 

エミやケイメグミ等がおおよそ撃って来たであろう所を攻撃する。アンツィオやカバチームのマカロニ作戦のようなものかと思われたがハリボテはなくしっかりと建物が壊された。

 

しかし…

 

「おわっ…しまった!見つかった!」

 

壊された建物には瓦礫に埋もれたヤークトパンターの姿があった。

 

「わ~お!」

 

「奴ら建物の中に無理矢理入ってたのか!」

 

ルミが言う。

 

「クソ!全速後退!」

 

ヤークトパンターが瓦礫を被ったまま後退し建物の陰に隠れた。

 

ブラッドハウンドは様々な所に身を潜めていた。建物の中や建物越し等だ。そしてⅣ号も同じように身を潜めていた。

 

「もう少しだ…待てよ」

 

Ⅳ号車長がタイミングを測っていた。

 

「3…2…1…フォイア!」

 

車長の指示で砲手が引き金を引く。攻撃と共に吹き飛ばされたシャッターの先にはノンナのIS-2がいた。側面にもろに受けたIS-2が撃破された。

 

「よっしゃ!JS-2撃破!大戦果だ!」

 

「ビューティフォ-」

 

喜ぶ車長と戦果を称える通信手が某大尉のようなイントネーションで言う。

 

「よ~し、ずらかるぞ!」

 

Ⅳ号が潜んでた車庫の壁を壊して撤収する。

 

「クソ!至る所に敵が!」

 

アズミが毒づく。

 

「俺らドイツ軍は電撃戦だけが取り柄だと思ったか?」

 

「残念ながら、撤退戦も防衛戦も得意分野なのよね」

 

パンターG型の車長とファインツが言う。

第二次大戦開戦初期では全く新しい電撃戦でヨーロッパを広く制圧出来たドイツ軍であったが、末期にもなると押し寄せる連合軍に対抗すべくありとあらゆる場所で待ち伏せを行った。実際に建物や小屋に隠れたり、中には藁の中等に戦車や高射砲、対戦車砲を潜ませたり森に潜んで連合を徹底的に押し返そうとした。連合軍に対して痛手を与える事は出来たが、連合軍の圧倒的な物量の前に次々と突破されていった。

しかし戦車道では違う。数が減ったから増援を呼ばれる実戦とは違いすでに双方共に数が決められている。ならば勝機はあるだろう。

 

そしてその牙がエリカ達を襲う。

 

「押田、こっちにもいるかもしれない。注意して」

 

エリカが言う。

 

「ええ分かっている」

 

押田は前方の建物に目を凝らし、機銃の曳光弾も使って敵を見つけ出そうとした。そしてある建物の中から閃光があがったと思った時には右の履帯が破損し動けなくなった。

 

「くっ!敵襲!前方11時40分の方向!緑の建物!」

 

押田からの報告を受けてエリカ達黒森峰の戦車達がその緑の建物へ集中攻撃する。

 

「ええい!肝心な所で!後退するぞ!」

 

建物の中にはヤークトティーガーが潜んでいた。車長はすぐに後退させようとしたが…

 

「あららら…どうした!」

 

ヤークトティーガーは後退するどころか少し下がっただけで車体後部が持ち上げるように傾いて停止する。しかもその時に底部から何かを引きずる嫌な音までしていた。

 

「しまった!瓦礫に乗り上げた!」

 

「何やってんだ!早く…」

 

車長が言い終える前に露わになった車体上面に押田の攻撃が直撃して白旗が揚がる。

 

「無理に入るからそうなるのよ」

 

エリカが言う

 

「押田。すぐに修理できる?」

 

「問題ありません。よし、修理するぞ」

 

押田が言った直後だった。

 

「はっ!押田さ…!」

 

ARLの操縦手が押田を呼ぼうとしたがその前に車体に攻撃が直撃して撃破された。

 

「まだいるわ!さっきの建物から2個右隣!」

 

エリカが再び指示を出して建物を吹き飛ばす。

 

「対応力が素晴らしいな…では敬意を表して自己紹介といこう。操縦手、前進」

 

煙舞う瓦礫の中から戦車がゆっくりと前進してきた。

 

「ティーガーⅡ接近!」

 

ティーガーⅡのアンナから無線が入る。しかしエリカと小梅はその戦車に違和感を覚えた。

徐々に露わになる敵にエリカは言葉を失った。

 

「ちょっと…嘘でしょ…あれはティーガーⅡじゃない…!」

 

「E75!」

 

エリカに代わるように小梅が叫ぶ。

 

敵のE75が射撃体勢を取りアンナのティーガーⅡに攻撃する。辛うじて跳弾したがけたたましい音がこだまする。

 

「E75ってどれ?データにないよぉ」

 

沙織が戦車でーたをパラパラとめくって該当戦車を探すが一向に見つからない。

 

「データを取り忘れたのでしょうか?」

 

五十鈴が言うが、

 

「E75のデータはあるはずがありません…」

 

優花里が真剣な表情でスマホで画像を検索する。そして出て来た画像を沙織に見せると

 

「E75はペーパープランだけでサスペンションしか完成していないはずです!…西住殿!」

 

「一旦どうなってるの…」

 

みほは絶句した。

 

「くっ!E75だと太刀打ち出来ない!後退する!」

 

エリカが指示を出した直後、付近に砲弾が着弾した。

 

「この火力…12.8cm搭載型と見たほうが良さそうです!」

 

小梅が言う。

 

「T29にJS-3、今度はE75ってどういうことよ!」

 

エリカが毒づく。

 

「第一、枢軸と連合軍が仲良しって時点でおかしいわ」

 

ルミが続けて言う。

 

「え〜っとこちらレオポン。こっちもトラブル発生!」

 

「レオポンさん!?」

 

「うちのレオポンのお兄ちゃんみたいなやつが出てきたよ!」

 

「どっちかって言うと弟だろ」

 

ナカジマの言葉を訂正するようにホシノが言う。

 

「ポルシェティーガーの弟と言うなら…」

 

 

優花里が再びスマホで画像を探す。

 

「もっと詳しく言いなさいよ!」

 

カチューシャが言う

 

「砲塔が後ろに付いてるやつだね。かっちゃん」

 

「砲塔が後ろのポルシェティーガーの弟ならこれです!…VK4502P!B型!」

 

みほは再び言葉を失った。

 

「ペーパープランばっかりね」

 

マリーが言う。

 

「私達が知らないだけで実は実在してたのかな…」

 

みほは呟いた。

 

 

 

「さて、どうする?大洗連合諸姉…西住みほ!うちの切り札は出したぞ?そっちの切り札はいつ出すんだい?」

 

 

ウィットナーが不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

みほは無線に手を回しスイッチを入れた。

 

 

 

 

「愛里寿ちゃん。お願いします!」

 

 

 

 

次回「緊迫する戦況です!」

 

 



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緊迫する戦況です!

 

 

E75とVK4502pの出現で流れを大きく崩された大洗連合は思うように攻める事が出来なくなっていた。

 

「E75がこっちに来た!」

 

「クソ!まだ待ち伏せもいる!」

 

無線が混線する。

 

「こっちにVKが!あひゃっ!」

 

VVKの攻撃で勝矢メグが撃破される。

 

「皆さん!」

 

みほが混乱する隊を統率するために全体へ呼びかけた。

 

「敵の後続部隊がもう到着する頃だと思います。この場は相手の手中ですからこのまま一気に突破して戦力を分散しましょう。」

 

「大丈夫なの?」

 

みほの提案にエリカが聞く。

 

「もう相手との戦力差はありません。分散することで相手の待ち伏せも無効化出来ると思います」

 

「分かりましたわ。それで行きましょう」

 

ダージリンが賛成した。

 

「それではみなさん!C47E地点に集合してください!突破します!」

 

みほの言葉で今まで防戦一方だった大洗連合が一気に動き出した。

 

「敵が動いた!」

 

「ヤケクソか?!突っ込んでくる!」

 

「突破するつもりだ!ファインツ!抑えろ!」

 

ウィットナーは大洗の動きを読み、敵が向かうであろう所にファインツを向かわせた。

 

ファインツ先に着いたファインツは建物を榴弾で壊し瓦礫の裏に隠れるように防衛線を引いた。

 

「全員!気合い入れろ!」

 

「この感じ…ベルリンを思い出す」

 

砲手が呟いた。

 

「ああ…俺達が命をかけて守ったベルリンにな」

 

操縦手も同じように昔の記憶を呼び起こしていた。

 

「結局守れなかったけどな」

 

装填手も会話に入ってきた。

 

「俺達はベルリンを守ったんじゃない。ドイツの未来ある子供達を守ったんだ…」

 

ファインツが言う。

 

「あいつら、元気でやってんのかな?」

 

「よく考えれば、今の俺達ってあいつらより歳下になっちまったんだなぁ?」

 

操縦手、装填手が言う。

 

「世の中不思議な事もあるもんだ」

 

砲手が笑う。ファインツは車内の通信手席に視線を向けた。5人乗りのティーガーにぽっかりと空いた座席。

 

「お前も居てくれたらな…」

 

ファインツが寂しそうに呟いた。乗組員達は誰に対しての言葉なのかわざわざ聞くことはなかった。彼等自身も同じ気持ちだったから。

そんな他愛もない話をしているとエンジン音が段々と近くなっているのに気付いた。

 

「来るぞ!」

 

ファインツが言った直後、大洗連合の車列が現れた。

 

「フォイア!」

 

ティーガーが放った砲弾が先頭のポルシェティーガーに

命中。しかしさすがティーガーの亜種だけあって容易に撃破は出来なかった。

 

「敵のティーガー発見」

 

「どうする?あれ使う?」

 

「ん~使ってもこの大人数じゃねぇ〜」

 

 

ツチヤの提案をナカジマは却下した。

 

「ここは大人しく、彼女を待とう」

 

安藤が言う。

 

「こちらC47C地点。敵のポルシェティーガー以下6両発見。とりあえず押さえてる」

 

「よし、そのまま押さえてくれ。…マーズ、前進!」

 

それまでほとんど不動だったウィットナーのティーガーⅠが遂に動き出した。

 

「1両相手に向かって来ない…何を企んでる?」

 

ファインツは敵の動きを不審に思った。1対多数なのだからポルシェティーガーを先頭に強行突破でくると想定していたが彼女達は車体をいわゆる『お昼ごはんの角度』でじっと留まっていた。

 

「ローズヒップちゃんちょっといい?」

 

 ナカジマがローズヒップに問いかける。

 

「なんでございましょう!」

 

「そろそろ頃合いだから、うちのあれ使って横を突っ切るから付いて来て」

 

「かしこまりましたわ!」

 

「よ~しレオポン前進」

 

遂にレオポンが動き出した。

 

「動いた!」

 

「後ろにクルセイダーがいる!弾を受けてその隙に回り込ませるつもりだろう。させるな!」

 

ファインツが言う。砲手がゆっくり近づくレオポンの車体正面の切り欠きに狙いを付け号令を待った。

 

「フォイア!」

 

「ほい!」

 

「よっと!」

 

ナカジマの合図にツチヤはEPSのボタンを押し、ポルシェティーガーがみなさんご存知のあの加速で一気に距離を詰めていく。

クルセイダーもアクセル全開でスリップストリーム状態で追従する。

 

「なんだありゃ!」

 

「あれが噂のEPSってやつか!」

 

「あんなの戦車のスピードじゃねぇよ!」

 

砲手、ファインツ、操縦手が呆気に取られ彼女達の突破を許してしまった。

 

「クソ!回頭急げ!クルセイダーを先に…!」

 

ゆっくりとクルセイダーへ向けて回頭していた時、ファインツは視界の隅になにやら黒っぽい物が動いた気がした。

 

ファインツがそこに視線を向けるとそこには…

 

「しまった!奴らは囮だ!12時方向回頭!」

 

再びティーガーが反対方向に車体ごと回頭する。一瞬照準器に黒っぽい戦車を捉え引き金を引いたがそこに戦車は居らず虚しく空を切り裂いた。

黒い戦車はそのままファインツの懐に回り込み、ガラ空きの側面に17ポンド砲を撃ち込んだ。

 

「クソ!やられた!アイツが出て来たぞ!」

 

ファインツを撃破したその戦車はそのまま転回して先に突破したレオポン達に合流した。

 

「アイツって誰だ?」

 

ファインツの無線を聞いていた他のブラッドハウンドの隊員が問う。

 

 

「やってやる〜やってやる〜や〜ってやるぜ、イヤなアイツをボコボコに〜」

 

大洗連合の無線に歌声が流れる。

 

「隊長が歌い始めた」

 

「ということは」

 

「これからが本番ね」

 

メグミ、ルミ、アズミが言う。そして…

 

「ケンカは売るもの堂々と〜」

 

みほが続けて歌う。

 

『肩で風きり啖呵きる〜』

 

みほと愛里寿がデュエットを始めた。最終戦に向けて大洗連合が更にシフトチェンジを始めた…!

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「こちらももう突破されます!うわぁやられた!」

 

「やられてないって…」

 

ブラッドハウンドの他の隊も大洗の強行突破を守り切りれず、突破を許してしまう所が出て来た。

 

「大尉がやられた。大洗の切り札も来た。ちょっとヤバくない?」

 

ケイラーが言う。

 

「敵の指揮官はあの大洗女子の西住みほだ。こんなもんだろう」

 

「ちょっと?向こうに寝返る気?」

 

ウィットナーの言葉にケイラーが問う。

 

「いや、大洗連合と戦ってるんだ。こうでなくちゃ面白くない」

 

「で、どうします?隊長?」

 

エンドラーが指示を仰ぐ。

 

「そうだな…お前等の好きにすると良い」

 

ウィットナーのこれまでにない程適度な指示に一同驚愕した。

 

「ちょっと!なにそんな投げ出してんの?」

 

ケイラーが強い口調で言う。

 

「落ち着け。もう戦力は当初の半分を切り向こうも切り札を出したってことは、待ち伏せとかそういうのは考えてないって事だろう。」

 

ウィットナーは一呼吸置いて再び話し始めた。

 

「試合も終盤になり俺が出すべき指示は、思う存分楽しめってとこだ」

 

ブラッドハウンド連合の全員がその言葉に驚いた。

 

「勝っても負けても、やってもやられても、誰も死なないのが戦車道だ。最後ぐらいそれを思う存分、全力を出し切って楽しめ!」

 

「全く…なら最初からそう言えばいいんですよ」

 

エンドラーが一見呆れたような口調で彼に言うが、その顔には薄っすらと笑みがあった。

 

「よし!では大隊長から最後の指示だ!楽しめ!以上だ!」

 

無線から割れんばかりの返答があった。

それまでの統率の取れた隊列はなくなり、各々が各々の判断でチームを組んだり、誰を狙うか話し合い分散していく。

 

「それじゃぁパンター小隊集合!」

 

「グレッグ、ドム、俺について来い」

 

ツェフィカとバークがそれぞれ隊を率いて前進する。

 

「よろしい?敵の百人隊長センチュリオンはこちらで対処します。手出しなさらぬよう」

 

「だが…」

 

「構わないから他の雑魚共をやりなさい」

 

口が悪くなり始めたエマを察し、チャレンジャーの車長が付け加える。

 

「この場合はエマ隊長に従った方がよろしいかと」

 

「まぁそう言うなら…」

 

ケイラーはそんなやり取りを軽く流しつつ無線のスイッチを入れた。

 

「それじゃぁ全車!ファイナルステージへ…Let's Go!」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「まずは黒森峰の重戦車から始末しよう。あれが最後まで残られたら厄介だ」

 

「そうだな。そうしよう」

 

ブラッドハウンドのIS-2、IS-3の車長が言う。

すると程なくしてゆっくりと走るティーガーⅡを発見した。

 

「おっ運がいいな!ティーガーⅡ発見!」

 

「よし!追うぞ!」

 

2両のISがティーガーⅡを追う。

 

「JS-2、3が追ってきた!」

 

「アンナちゃん、そのままこっちに誘導して!」

 

「分かった!」

 

アンナはエミの言うように上手く誘導するためにジグザグに逃げるようにして走った。

交差点をいくつか曲がりった所でエミのヤークトパンターが遮蔽物に車体半分隠すように待ち構えていた。

 

「撃て!」

 

ヤークトパンターの砲弾はIS-3の正面を捉えたがそのキツイ傾斜装甲の前に弾かれた。

 

「なんの!動いてるティーガーⅡより、停まってるヤークトパンターを撃とう」

 

IS-3がヤークトパンターに狙いを付け砲撃。運良く弾は遮蔽物の方へと逸れた。

 

「準備はいい?」

 

エミが聞いた。

 

「いつでもいいわよ?」

 

「発砲オーライ!」

 

「うっ…」

 

「撃て!」

 

再装填が完了したIS-3が砲撃しようとした直前、ベルウォールのエレファントとサメチームのMk.Ⅳが側面から攻撃された。

 

「どんなもんだい!」

 

「さすがに側面の直撃を受ければ…」

 

エレファントの土居千冬が言いかけたその時、

 

「敵!砲塔指向中!」

 

アンナからの無線が入る。IS-3の砲身が煙をかき分けるようにゆっくりと彼女達へと向けられる。

 

「嘘!抜けないなんて…!」

 

「側面は弱点じゃなかったのかよ!」

 

千冬、ムラカミが驚愕していると、エレファントに攻撃を仕掛けた。幸い分厚い装甲部に命中したので撃破はされなかったが、強い衝撃に見舞われた。

 

「危ない危ない。狙いが甘くて助かったぜ」

 

「仕方ない。一時退却!」

 

サメチームと千冬が後退を開始。それをエミとアンナが支援するがIS-3はそれをいなして千冬達を追う。

 

追われるサメチームと千冬達。そしてエミ、アンナはIS-3、2を追いつつ次の作戦を練る

 

「側面が無理なら後方は?」

 

「JS-2がピッタリ付いてるから狙えないわ」

 

エミの提案に千冬が答える。

 

「横も後ろも無理ならどこを撃つんだい?」

 

フリントが問う。

 

「私が体当たりして隙を作ってエミちゃんが肉薄するのは?」

 

「JS-2がいるんだよ?撃たれちゃうよ」

 

アンナとエミが言う。お銀も何か良い方法はないかと模索する。自分の数少ない経験の中で何か応用出来る方法はないかと頭を巡らせる。そして…

 

「あたいに良い考えがあるよ」

 

お銀は全体に作戦を伝えた。

 

「確かに、作戦としてはいいけど…」

 

「相手を撒けるの?」

 

アンナ、エミが問う。

 

「ああ、そこは…」

 

「大丈夫そうね。どうやら狙いは貴方ではないようだし」

 

千冬がお銀に割って入る。敵はエレファントに集中して攻撃している様子だ。型落ちのMk.Ⅳはアウトオブ眼中のようだ。

 

「そういうことなら…やりましょう!」

 

アンナが言う。

 

「それじゃぁヤークトパンターとやら、付いてきな」

 

「小島エミよ!」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「う〜む…参ったな…」

 

一人ゆっくりと市街地を走るコメット。車長は困り果てた様子だ。

 

「まさか迷子になるとはな」

 

砲手が言う。

 

「仲間とはぐれだうえ、無線機も故障とは…全く今日はとんだラッキーデーだ」

 

コメットは大洗の強行突破時の攻撃で無線機を損傷してしまっていた。

 

「どうだ?まだ治らんか?」

 

車長は無線を修理中の装填手に聞いた。

 

「だめっすねぇ。うんともすんとも言わないっす」

 

「こんな時に限って敵が大人数で来たりするんだろうなぁ」

 

車長はため息混じりに言った。

 

「車長それ、今ではフラグって言うらしいですよ」

 

操縦手が言った。

 

「なんだそりゃ」

 

そんな他愛もない話をしていた時だった。

 

「ん?停止!」

 

車長はおもむろに停止を指示。そして少し後退させて右手の方を見た。

 

「すごいな…アヒルの子ってこんなにデカくなるもんなんだな」

 

車長は右手の小さい庭園の湖に浮かぶアヒル達に釘付けになる。

 

「ホントだすごいデカいっすねぇ」

 

装填手も作業の手を止めてハッチからそれを覗く。

 

「すごく愛くるしい顔をしてるじゃないか…って!んなわけあるか!敵だ!撃て!撃てぇ!」

 

コメットは慌てて砲塔を向けてアヒルに攻撃を開始。

 

「わっ!気づかれたぞ!」

 

コメットに感づかれ、西、玉田、福田の3両が慌てて池から飛び出す。

 

「やっぱりか…小賢しい真似を!追え!」

 

逃げ出した知波単各車をコメットが追う。

 

「3対1…他勢に無勢ですが…」

 

「大丈夫だ。3対1でも相手は旧型でしかもこっちが追いかけてるからな!」

 

「ダメだ…フラグにしか聞こえない…」

 

車長の自信ある言葉に操縦手は頭を抱えた。追うコメットは知波単各車に対して攻撃するものの回避行動を取られて思うように当てられない。

 

「敵車両動きあり!」

 

砲手が叫ぶ。逃げていた知波単が向きを変えこちらを向く。その時前方から別車両が合流した。

 

「うわ!マチルダさ〜んだ!」

 

「だから言わんこっちゃない!」

 

「そこの道を左に!」

 

車長は交差点を左に曲がらせた。追う側から追われる側になったコメット。砲塔を後ろに向けて応戦体勢になるが…

 

「カウルが邪魔で俯角が取れない!」

 

英軍戦車のクロムウェル、コメット、チャレンジャーのマフラーには排気方向を変えるための通称『ノルマンディーカウル』という物がエンジンデッキにある。その為砲塔を後ろに向けるとカウルが干渉して俯角が取れなくなるのだ。

 

「機銃で応戦しろ!」

 

車長の指示で機銃を斉射するが、7.92mm弾のベサ機関銃程度ではどうすることも出来ない。

 

「行くよ!Dクイック!そ~れ!」

 

突如建物の陰からアヒルチームが右前方から飛び出しコメットへ攻撃した。弾は防盾で防いだものの車体右前方にピッタリと横付けされた。

コメットは右手に砲塔を向けてアヒルチームへ反撃しようとする。

 

「長谷川!」

 

「よっと!」

 

砲塔が真横を向いた時だった。アヒルチームから遅れて飛び出していた福田のハ号がコメットの右後方、アヒルチームの真後ろに横付けし砲塔を旋回できないようブロックした。

 

「今度はなんだ!」

 

 

砲手が毒づき、車長はペリスコープを使って車外を確認する。

 

「この!…どきやがれ!軽戦車ども!」

 

車長はハッチ開けて身を乗り出し罵声を浴びせた。

 

「うちは軽戦車じゃないし」

 

「中戦車だし」

 

どこかで聞き覚えのある台詞を吐くアヒルチーム。

 

「壁に押し付けてやれ!」

 

コメットが2両を押し出す。2両も押し戻そうとするが2両がかりでもパワー負けしてしまっている。

 

「玉田!用意はいいか!」

 

後方から追う西が先回りした玉田へ呼びかける。

 

「準備万端であります!」

 

「よし…ではルクリリ殿よろしくお願いします!」

 

「しっかりと付いて来なさいよ」

 

西とルクリリはこうやり取りした後、西はチハをマチルダの後方へ隠れるように後ろについた。

 

「好き勝手しやがって…!操縦手!そのまま押し出して合図で左にハンドルを!砲手はそのタイミングで4時方向へ砲塔を旋回!」

 

コメット車長が反撃のため指示を飛ばす。

 

「今!」

 

「玉田!行け!」

 

西よりも早くコメット車長が合図を出し、操縦手、砲手が指示通りに車体を動かした。急にコメットからの押し込みが無くなった事で2両は体勢を崩してしまう。更にコメットが減速した事でハ号が射線上に突出してしまいそのまま撃破されてしまう。

 

「次だ!あの八九式を…」

 

「くっ!向こうが早かったか!」

 

体勢を整え再び前進を始めたコメットの前に玉田のチハが滑り込み全力で戦車に制動をかけて敵の動きを止めようとする。しかし敵の方が先に反撃に出た事もあって当初の作戦は破綻してしまっていた。

 

「なめるなよ!こちとら600馬力だ!」

 

玉田のチハが抑え込もうとするがコメットの600馬力エンジンの前にはチハの200馬力級のエンジンではほとんど太刀打ちできず、意に反して押し返されてしまう。

 

「砲手!1時方向に固定!操縦手!一旦押し出して減速して左旋回!」

 

車長が再び指示を出し乗員はそれ通りに戦車を動かした。

押し出され、減速左旋回された事で玉田もまた射線上に来てしまい後ろから撃ち抜かれた。

 

「よし、そのまま旋回して後方のマチルダを!」

 

コメットはそのまま後方から追っていたマチルダを標的とした。

ルクリリとコメットが距離を詰めていく。

 

「撃て!」

 

コメットがルクリリへ攻撃したその時、ルクリリもそのタイミングを狙い右へ回避行動を取った。すると後方から追従していた西のチハがルクリリとは反対方向に動きコメットを追い越した。

 

「しまった!」

 

車長は声を上げた。装填手が急いで再装填を行うが確実に旋回が間に合わない。

 

「後ろを取られる…!」

 

チハの主砲がこちらへ指向するのがすごく遅く、ゆっくりとまるでスローモーションのように感じた。

主砲が火を吹くのを予感した刹那、チハが大きく吹き飛ばされた。

 

「なっ!」

 

その光景に一同言葉を失った。

 

「な、なんかよくわからんけど助かったぜ!このままマチルダを追え!」

 

間一髪で窮地を脱したコメットが残ったルクリリとアヒルチームを追いかける!

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

「チハ撃破!ふぅ~…間一髪だったなぁ」

 

ヤークトパンターの車長は言った。

 

「マチルダと八九式もやりますか?」

 

「いや、あれはコメットだけで十分だろう。…てかなんでアイツは応答しなかったんだ?」

 

車長は砲手の問いに答えつつ、双眼鏡越しにコメットを見た。

 

「さぁ?それどころじゃなかったんじゃないっすか?」

 

装填手が言う。

 

「それもそうだな。よし、操縦手。陣地転換!一階上がるぞ」

 

ヤークトパンターはその場を動き別の狙撃ポイントに移った。

 

「それにしてもここは良いな。360°見渡せるし高さを自由自在…いいところに立駐があった」

 

ヤークトパンターは各方面へ狙撃できるよう立体駐車場に陣取っていた。

 

「よし、あの優々と走ってるチャーチルをやろう」

 

車長がそう言うと操縦手、砲手がチャーチルを射線上に捉える。

しっかりと的を絞り偏差射撃を行うが距離があったため一撃で仕留めることは出来なかった。

 

「手前に落ちたな…もう2度ほど上に修正」

 

車長が着弾点から推測し砲手に修正させた。そして砲撃の合図を出そうとしたその時だった。車長は何か嫌な気配を感じた。

 

「ん?今かすかにコイツ以外のエンジン音が聞こえた気が…」

 

車長はそっと耳を澄ませる。ご存知の通り立体駐車場は音が響く。何かいるなら例え離れていても聞こえるはずだ。

 

ヤークトパンターのけたたましいエンジン音の隙間からかすかに普段では聞こえない音が漏れていた。

 

「まさか!誰が来てる!」

 

車長は声を上げた。

 

「攻撃中止!誰か来るぞ!迎撃しろ!」

 

車長の指示で操縦手は自らが登ってきたスロープの方に旋回させた。

そっと誰かが登って来るのをじっと待ち伏せするヤークトパンター。そしてかすかに聞こえていた音は着々と大きくなっていった。

 

「もうすぐだ。…あと20秒くらいだ!」

 

車長は音からおおよその時間を推測し秒数を数えた。

20秒を数えた直後照準器に白い戦車がスロープから飛び出した。砲手が引き金を引くが敵は予想以上に速く射撃した時にはもうそこにはいなかった。

 

「しまった!速い!」

 

「回り込まれるぞ!旋回急げ!」

 

ヤークトパンターが慌てて車体を旋回させるが敵の方が動きが素早く、砲身が彼らの後方を狙っている。

 

「トゥータ」

 

ヤークトパンターの後方に攻撃が命中。白旗が揚がった。

 

「くそ!ジャック気をつけろ!立駐にBT42がいる!」

 

車長は下で待機していたジャックことヘルキャットに注意を促した。

 

「いつの間に!」

 

付近を警戒していたが隙をついて中に入ったのだろう。ジャックは駐車場を見上げ息を呑む。

それもそのはず。駐車場の4階相当の高さからBT-42が飛び出して来たのだから。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「攻撃地点まで凡そ30秒」

 

IS-3、2を追うアンナが言う。

 

「そっちはどんな状況だい?」

 

「しっかりと付いてきてますわよ」

 

お銀は囮の千冬に問うとそう返答があった。

 

「それじゃぁあんたの方は?」

 

お銀はエミにも聞いた。

 

「こっちもいいけど…ずいぶんと無理矢理なやり方ね」

 

エミは答える。

サメチームとエミのヤークトパンターは橋の上でIS-3が通り過ぎるのを待っていた。もちろんただ待つのではなく、Mk.Ⅳの上にヤークトパンターが乗り上げて車体を斜めにしている。

 

車体ごと傾けることで俯角を稼ぎ橋の上からIS-3のエンジンデッキを撃とうというのだ。

 

「どうやら、こういうやり方が大洗の戦車道らしいからね」

 

「到着まで残り5、4、3,2…」

 

お銀の言葉を軽く流すようにアンナが秒読みを始めた。

 

「よし!撃て!」

 

敵が真下を通り射線上に出たタイミングでエミの号令が掛かる。

 

ヤークトパンターの砲弾がIS-3のエンジンデッキに突き刺さり行動不能となった。

 

「なに!上から!」

 

後続のIS-2車長が驚きのあまり声を上げた。

 

「どうします!車長!」

 

砲手が判断を仰いだ。

 

「エレファントだ!せめてエレファントだけでも…!」

 

車長からの指示を受け砲手がエレファントを狙うべく砲塔を旋回させる。しかし、ティーガーⅡを牽制するために後ろを向けていた事が仇となり、エレファントを照準器に捉えた時には相手もこちらを捉えていた。

前後からエレファント、ティーガーⅡに挟まれたIS-2。

 

「ここまでか…!」

 

車長が言った直後、2両からの攻撃が直撃した。砲手が道連れにとエレファントへ攻撃していたが重装甲部に命中し虚しく防がれた。

 

「やった!大戦果!」

 

喜ぶエミ。

しかしカトラスが接近する戦車に気付いた。

 

「左から敵!」

 

ケイラーのパーシングがサメチームとエミへ砲撃を始める。

 

「ヤバい!逃げろ!」

 

「とっつぁんから逃げる大泥棒みたいにずらかるよ!まぁあたいらは大泥棒じゃないけどね」

 

「うっほ!」

 

急いで逃げ出すサメチームとエミのヤークトパンター。

 

「ずいぶんと派手にやったわねぇ逃さないよ〜」

 

それを追うケイラーのパーシング。

 

 

 

まだ乱戦は始まったばかりだ。

 

 

 

 

次回「両者譲らない戦いです!」



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一度残りの戦力をおさらいします!


物語も終盤となりましたが、改めて試合に参加している戦車と損傷、残存数をおさらいします。


大洗女子学園    出場数     

 Ⅳ号戦車       1

 Ⅲ号突撃砲      1

 八九式中戦車      1

 M3 リー       1

 ヘッツァー      1     撃破  

 三式中戦車      1

 ポルシェティーガー 1

 B1bis       1

 Mk.Ⅳ       1

サンダース

 M4シャーマン    2    1両撃破

 M4A1 76w     1     撃破

 ファイアフライ    1     撃破

聖グロリアーナ

 チャーチルMk.7    1

 マチルダⅡ      1

 クルセイダー      2

   センチュリオン    1

プラウダ

 T-34/85       2    1両撃破

 T-34/76       2   全車両撃破

 IS-2         1     撃破

 KV-2         1     撃破

アンツィオ

 P40         1

 セモベンテ    1

 CV33         1

黒森峰

 ティーガーⅠ      1     撃破

 ティーガーⅡ   1

 パンター      3    2両撃破

 ヤークトパンター 1

 Ⅲ号戦車       2

 Ⅳ号戦車      1

知波単

 九七式中戦車 旧 3  全車両撃破

 九七式中戦車 新砲塔 2   全車両撃破

 九五式軽戦車      1    撃破

継続

 BT-42        1

 KV-1         1

   Ⅲ号突撃砲      1

B/C

 FT-17       1

 ソミュアS35     1

 ARL-44       2

マジノ

   ソミュアS35    2   全車両撃破

 B1bis       1     撃破

ベルウォール

 ティーガーⅠ      1

 ヤークトパンター 1     撃破

 エレファント     1

 T-44          1     撃破

 Ⅱ号戦車       1

大学選抜

 M26 パーシング    3

 

 

ブラッドハウンド連合

 

 ブラッドハウンド隊

 

   ティーガーⅠ     2   1両撃破

   ティーガーⅡ      1

   パンター       4   1両撃破

   Ⅳ号突撃砲      1   

   Ⅳ号駆逐戦車     1

   ヤークトパンター   1    撃破

   ヤークトティーガー 2   1両撃破

   Ⅳ号戦車       2   1両撃破

   Ⅲ号戦車       2

   Ⅱ号 ルクス     1

   E75         1

   Vk4502P(B)     1

   Nbfz         1

 

エンジェルス

 

   M26         1

   T26E4         1    撃破

   M4         3   全車両撃破

   M4A1        2   全車両撃破

   M4A3        2   1両撃破

   M4A3E8       1

   M4A3E2       1

   M18         1

   T29         1

   M36          1    撃破

 

ファントムナイツ

 

   ブラックプリンス   1

   チャレンジャー    1

   コメット       1

   ファイアフライ    3    2両撃破

   クロムウェル     2    1両撃破

   アキリーズ      1    撃破

 

シャラシャーシカ隊

 

   T-34/85       4   3両撃破

   IS-2         2   1両撃破

   IS-3         1    撃破

   SU-85        1    撃破

 

 

松平隊

 

   三式中戦車     1

   四式中戦車     1

   五色中戦車     1

   九七式中戦車 新砲塔 4   全車両撃破

   一式中戦車     1    1両撃破

   三式砲戦車     1

 

 

大洗連合、60両中残存37

ブラッドハウンド連合、60両中残存32

 

(なお、エンジェルスのM4並びにM4A3の各1両はカリオペ)

 

 





まだ大洗連合が若干優先ですが、ブラッドハウンドはどう巻き返すのでしょうか。
お楽しみに〜


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