天然でも人工でもない隻眼は (並美)
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プロローグ

初投稿です!
はじめまして、並美というものです。「なみ」って読みます。
皆さんに楽しんでいただけるような物語が書けるようにがんばりますので、ひとまず温かい目で見てくださるととても嬉しいです。


  ―車の中―

 暖かな日差し、すみきった青い空、どこまでも続くきれいな自然のなか、僕は両手を伸ばして大きくあくびをする、、、、、嘘。

 

 ここは車内、窓から見える空は青く、とても暖かそうなのに対して、車内はガンガンに効くクーラーのせいでむしろ寒い。そしてさっき『僕』って言ったけど一人称は『俺』。…あれ、なんでこんな細かいウソついたんだ。ついでに、前から2列目の真ん中の席に座っている俺の右にはうるさい姉、左にはものしずかな弟が座っており、せまい。

 

 てゆうか助手席あいてるじゃねえか、誰かそっちに座れ。

 

 ちなみに運転は父さんがしている。つまりこの場にいない家族は母さんだけで、その母さんはと言うと、数週間前、たまごを電子レンジにかけ爆発し、今は入院中だ。

 

 

「姉さん、まだ?」

 

 

 しばらく黙っていた弟が姉に話しかける。

 

 

「ん~?ちょっと待って~」

 

 

 姉は、さっきコンビニで買った七個入のからあげを一つ、二口にわけて食べていた。今、姉の持っているパックの中にはからあげが五つ入っているので、おそらく今ので二つ目だろう。

 

 

「ほい」

 

 

 二つ目のからあげを食べ終えて、弟にパックを差し出す。

 

 

「ねえ、あとどのくらいでつくの?」

 

 

 弟が受け取ったのを確認し、姉は運転席の父にきく。

 

 

「んー、あと30分くらいだな。」

 

 

「えー、さっきは20分くらいって言ってたじゃん。なんでのびてんの~。」

 

 

 今俺たちは家族4人で最近人気のキャンプ場に向かっており、なんでも、仕事や勉強につかれた人たちが会社や学校の事をすっかり忘れて楽しめるらしい。

 だが俺たちはべつに勉強の息抜きにそこへ行くのではなく、ただ春休み家族でどこかあそびに行きたいね、という話があり、最近人気のキャンプ場で一泊二日をすることになったのだ。ちなみに仕事でこれなかった母さんは二日目から合流する予定だ。

 そういえばいつか、母さんがレンチンして爆発した卵でけがをして入院中だなんてことを言ったような言ってないような...。・・・冗談でもそういう事は言わない方が良いよな。母さんごめんなさい。いやでもゆで卵を電子レンジであっためて爆発したっていうのをテレビで紹介してるの見てやってみようとするんだもんあの人。頭おかしいんじゃないの。良い子のみんなは絶対にマネしないでね。

おっと、すぐに話が脱線してしまう。

 

 ⋯まあそんで、どこに行くかを決める際、いつも自分の主張をはっきりとしない弟が珍しくキャンプがしたいと一番に言いだしたのは珍しいと思った。その次に姉が最近できたばかりの大型ショッピングモールに行きたいと言い、じゃんけんでキャンプに決まったのだ。俺もキャンプに賛成派だったからあいつが勝った時にハイタッチをしたんだが、そんときの心傘(こがさ)(弟の名前)の笑顔はとにかくもう、めっちゃかわいかった。昨日のことのように思い出せる。おとといの事だけど。普段からあんまり感情を顔に出さないタイプのやつだからな、喜ぶとしても口角をちょっとあげて噛みしめる、みたいな。だからキャンプに行けるのがよっぽど嬉しかったんだろうな。笑顔がめっちゃかわいかった。もう妹として扱いたいくらいに。めっちゃかわいかった。

 

 だが周りを見てわかる通り、少し混んでおり、軽い渋滞状態だ。少し遅れていることくらいわかるんだから姉さんははしを振り回すのをやめてください怖いんです。。。。こわい。

 

 信号が青になり、止まっていた車が動き出す。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 突然父さんが大きな声をあげたので、俺も前を見る。

 

 

「あ...」

 

 

 そこには、こちらを真顔で見つめる一人の「人」が立っていた。

 父さんはとっさにブレーキをふみ、その衝撃で全員の重心が前にかたむく。

 『グジュリ』

 え?

 

 どうなってんだ?

 

 なんだ?右目が

 

 あつい。

 

 あ...い、いてえェェェ!!

 

                        

「きゃああああっ!...さ、ささった.....はしが、ささった...」

 

 

「おい!大丈夫か?!」

 

 

「ねえ!さッキの人ハ?」

 

 

「ど、ド―すれバ―い?わ、―りばしぬ―た――ガい――かな?」

 

 

「フ――――ガナイ―?」

 

 

「――シ――――――――」

 

 

「―――!」

 

 

 だんだん言葉が聞こえなくなり、やがて意識もとうのいていった、、、、、、。

 

 

 



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キャラクター設定

お気に入り1ついてるー!!!うわーやったよっしゃぁぁぁあああ!!!←うるさいですねごめんなさい

はい、キャラ設定です。
長いし、オリキャラたちのそれぞれの設定をまとめるための言ってみれば自分用なところもあるので、名前の読み方と容姿だけ確認して飛ばしてもらっても大丈夫です。


  雨宮暖傘(あまみや たか)

 

主人公。長男。姉と同じ高校に入学した。私服は常にパーカー。

性格:心の中では冗談をたくさん言うが、本当はしずか。だけど行動力はある。優し 

   い。家族だけの場合は軽い嘘つき。漫画好き。左利き。

誕生日:2月15日

年齢:15歳 高校一年生

容姿:黒く、短めの髪。身長高め(180~185cmくらい)。顔は整ってる(ブサイ

   クじゃない程度)けど地味。

一人称:俺

家族からのイメージ・呼び名:姉→まじめな嘘つき。タカ

              弟→冗談好きな軽い漫画オタク。兄さん

              父→優しい息子。漫画好き。暖傘

              母→おもしろい。暖傘

 

 

 

  雨宮優傘(あまみや ゆか)

 

長女。暖傘の姉。暖傘と同じ高校に通っている。私服は常にパーカー。

性格:おっとり系。だけどうるさい。

誕生日:7月6日

年齢:17歳 高校三年生

容姿:茶髪で長めの髪。ポニーテール。身長高め(165~170cmくらい)。顔整っ

   てて(クラスの女子で2番目程度)可愛い系。

一人称:私

家族からのイメージ・呼び名:暖傘(上の弟)→うるさい。姉ちゃん。

              下の弟→友達が多い。常にテンションが高い。姉さん。

              父→明るい。優傘。

              母→明るい。優しい。優傘。

 

 

 

  雨宮心傘(あまみや こがさ)

 

次男。暖傘の弟。顔と名前でいじられることがあるが、自分の名前は好き。私服は常にパーカー。実は暖傘よりも漫画好き。

性格:静か。冷静。行動力がなく、すごい作戦を考えても三人以上じゃないと不安にな

   る。

誕生日:4月3日 中学三年生

年齢:14歳

容姿:黒く、長めの髪。身長低め(150~155cmくらい)。中性的な顔だが、だい

   ぶ整っている(4クラスに一人程度)。

一人称:僕

家族からのイメージ・呼び名:暖傘(兄)→静かで、頭が良い。けど隠れ漫画オタク。

                    かわいい。心傘。

              優傘(姉)→おとなしい。かわいい。コガサ・

                    こがたん。

              父→おとなしい。頭が良い。心傘。

              母→頭が良い。行動力がない。心傘。

 

 

 

  雨宮強傘(あまみや つかさ)

 

二人兄弟の兄。暖傘、優傘、心傘の父親。子供三人の名前に『傘』がついているのはお父さんからとったから。

性格:明るい。優しく、怒ること、感情的になることはめったにない。

誕生日:12月27日

年齢:45歳

容姿:短髪。身長普通(165~170cmくらい)。地味と普通の中間くらいの顔。

一人称:父さん・私・俺

家族からのイメージ・呼び名:暖傘(上の息子)→しっかりもの。優しい。父さん。

              優傘(娘)→優しい。明るい。父さん。

              心傘(下の息子)→優しい。ノリが良い。父さん。

              母(妻)→優しい。周りが見えている。父さん。

 

 

 

  雨宮優季(あまみや ゆき)

 

一人っ子。暖傘・優傘・心傘の母親。子供たちのパーカー好きは母から。

性格:テキパキ。怒るときはちゃんと怒る。

誕生日:1月5日

年齢:39歳

容姿:黒く、長い髪。おろしてる。身長高め(170~175cmくらい)。すごい美 

   人。スタイルも良い。

一人称:母さん・私

家族からのイメージ・呼び名:暖傘(上の息子)→ちゃんとしている。母さん。

              優傘(娘)→たよれる。美人。母さん。

              心傘(下の息子)→計画性がある。母さん。

              強傘(夫)→優しい。テキパキしてる。美人。母さん・

                    ユキ。

 

 

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・

    現在の状況

 2019年4月1日、春休みを使い最近人気のキャンプ場に行くために車で移動中の暖傘達。

 だがその車の前に突如あらわれた謎の「人」。慌ててブレーキを踏むも、間に合わず、ぶつかってしまう。しかも急ブレーキの影響で暖傘の眼に隣に座っていた姉・優傘の持っていたはしがささってしまう。

 痛さで遠のいていく意識の中、暖傘はある漫画の主人公のことを考えていた。




最後まで見てくれてありがとうございました!
名前をつけるとき、雨宮っていう苗字はすぐに出たのですが名前がなかなかおもいつかず雨関連でとりあえず傘をつけてみました。とくに意味はないです。
作者のネーミングセンスが中二からかわってない気がする...


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第1話

小説とか投稿するの初めてで、とりあえずそれっぽくしたくてプロローグって書きましたけど、実際そんなプロローグって感じじゃなかったですね。。。
まあ、そんなことは置いておいて、やっと第一話です。遅くなってすみません。
【】は音を表現するための擬音を入れています。それとひらがな・振り仮名多めです。


『――カくん』

 

『―タカくん』

 

 声がきこえる。俺の名前を呼ぶ声。

 

 どこか聞き覚えのある、女の人の声。

 

 とても綺麗(きれい)で、大好きな人の声。

 

 でも、思い出せない。

 

 知っているはずなのに、大好きなのに、わからない。

 

 自分でもキモイと思うけど、どうしても恋焦(こいこ)がれてしまう、かなわないはずのこの気持ち。

 

 もし、この声の主があの人だとするならば、目の前にあの人がいるかもしれない。

 

 案外普通に、あの人の友達になっていたりするのかもしれない。

 

 もし、目を開けてあの人が目の前にいたら。

 

 神さま、俺がひとつの恋物語の主人公になることを、許してくれますか。

 

 

   ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 【パチっ】

 目を開けると、そこは見慣(みな)れない部屋だった。

 

「ん?」

 

ここは、、、病院?

 あー、えっと、、こういうときは、、、、、そうそう、記憶(きおく)の整理をするんだ。

 俺が覚えていることは――、車の前に人がいて、父さんが急ブレーキをふんで、そのあとは、目が熱くて、、そうだ、目にはしがささったんだ。

 そう思い出して、はしがささったはずのはずの右目をさわる。

 

「…眼帯(がんたい)?」

 

 わりばしがささったであろう右目には、眼帯がついていた。

 

 時計を見ると、12時前。俺が今いる部屋には4つのベットがあり、俺は部屋の入り口から見て左奥のベットに寝ていた。部屋には俺以外誰もいない。なんか(さび)しいな。こういう時っておとなりさんとかとしゃべって仲良くなったりできるんじゃないの。それに一人だと夜とか怖いじゃねぇか。病院だぞココ。

 

 とりあえず起き上がろうと右ひじをたてたときに手にチクり、と少しの痛みを感じる。反射的(はんしゃてき)に痛みを感じた右手の(こう)を見ると、針のようなものがついていて、そこからのびるくだは背の高い(ぼう)の一番上に()()けられた袋につながっていた。まぁどうみても点滴だけどそれっぽい解説を入れてみた。よく見ると左手の甲、左手の(ひじ)の内側には注射を打った後に()られる保護シールがついているし、右手にはさらに人差し指に洗濯ばさみみたいなものがついている。そこからコードみたいなのがのびていて、(つな)がっているのは何やらいろいろ表示されている機械。その一番上には一定(いってい)間隔(かんかく)で波打つ緑の線、その線の(となり)に大きく緑で「87」と表示されている。病院に関して全く無知(むち)の俺でもわかる。俺の脈拍(みゃくはく)ってやつだろう。

 87って普通なのかな。

 

 え、つーか父さんたちは!?事故にあって意識ない人を一人にするかね普通?!起きたとき戸惑(とまど)うとか考えない?それに、ぶつかった人はどうなった。無事なんだろうか。いや無事ってことはないか。あの距離じゃブレーキはどう考えても間に合わない。そう思わせるほど本当にすぐ目の前に...いや、そもそも何で気づかなかったんだ?あの人は普通に立ってて、飛び込んできた感じはなかったから、ちゃんと前を見ていれば人がいるのくらいわかるはずだ。そういえば父さんはとびだしてきた猫をひいちゃった日からいやに安全運転で、車で30分もかからない場所に行くのに50分かけたりすることもあったし、猫が急にとびだしてきたんだから父さんのせいじゃないって何回言ってもすごい落ち込んでたし。。。とにかく父さんが前を見ないような、そんな運転をしていたとは考えにく、い...けど、、、父さんが猫ひいちゃったのって、思えばもう5年以上前だし、もしかすると気が抜けて、ついよそ見しちゃったのかもしれない。俺達もまともに前見てなかったし、父さんひとりの責任にするわけには......そもそもあの人の目的は何なんだ?自殺?いやまあそれしかないか。つーか、そんなことに他人を巻き込むなよ。だいたい、何で自殺なんかするんだよ。親に(もら)った大切な命だろうに。もっとだいじに・・・いや、何も知らないのにここまで言うのは良くないか。そんなことっていちゃったけど、ちゃんと事情があるんだろうし、何より本当にするにはそれなりの覚悟がいるはずだし、、、、、、

 

 ・・・・・・・・っ!!

 

「はーーーーーーっっ!ダメだ、めんどくさいっ!」

 

 大量(たいりょう)疑問(ぎもん)に父さんへの(うたが)い、全く知らない人の心配まで。まったく、()()がりにすることじゃねぇよ。つーかまだ上がってすらないのに。

 

 こういうときは一番最初に家族の心配をするもんだろうが。何やってんだ、俺。

 

「ああ、もう、疲れた。・・・寝よう、もう寝る!」

 

 俺しかいない病室の中で、誰に言うでもなくただ口に出し、ガバッと布団(ふとん)をかぶる。

 

「イタッ」

 

 いきおいよくしたせいか針がささってる右手の(こう)が少し痛む。点滴めんどくせー。

 そんなことを思いつつ目をつぶるのだった。

 

 

   ♦

 

 

 そのあと(まった)(ねむ)ることはなく医者と看護師がやって来た。まあ寝始めて3分もしないうちに来たからあたりまえか。

 いはく、車にぶつかった人は重症だが死んでおらず、家族は全員かすり傷ひとつなく無事、俺は、角膜(かくまく)の表面を(おお)っている上皮(じょうひ)などが()がれてしまい、さらに角膜(かくまく)も傷ついたため角膜移植(かくまくいしょく)をし、成功。おそらく目は見えるだろうが、一時的(いちじてき)保護(ほご)のため眼帯をしている状態らしい。

 

 その説明の後、昼飯がきたのだが、なんだか食欲がでず、一口も口につけなかった。

 

 

「あれ?たべてないんですか?」

 

「あ、はい。起きたばかりで食欲がわかなくて…」

 

「食欲がないのはわかりますが、食べないと元気になりませんよ?」

 

「ああ、すいません…。」

 

 少し申し訳なかったが、体調もあまり良くないし、戻してしまうともっと申し訳ないと思い、結局昼飯は食べなかった。

 

 

   ♦♢

 

 

【ガラガラ】

 病室の扉が開き、とても見慣(みな)れている2人が入ってくる。

「あ、兄さん、起きたんだ。」

 

心傘(こがさ)。ああ、少し前にな。」

 

「あ、タカ、大丈夫?」

 

「姉さん。体調だったら、とくに問題ないよ。」

 

【ガラガラ】

 さらに病室の扉が開き、同じく見慣れた2人が入ってくる。

「お、暖傘(たか)、眼帯かっこいいな!」

 

「ああ、父さんもやる?目にはしぶっさしてあげようか?」

 

暖傘(たか)、病院でそんなこと言っちゃだめでしょ。」

 

 心傘(こがさ)と姉さん、父さんと母さんだ。本当にとくにケガはしていないようで安心する。

 そこで姉さんが口を(ひら)き、

 

「あ、あのさ、タカ、ごめん。。。。」

 

 突然あやまってきた。たぶん、目のことだと思う。

 

「いいよべつに。手術で治ったんだろ?」

 

「まあ、傷はあさいほうだったらしいし。それに、あの程度(ていど)の痛さで気絶する人はほぼいないらしいから、気にすることはないよ。」

 

「え...?」

 

 姉さんを(なぐさ)めるような心傘(こがさ)の言葉に(おどろ)きを(かく)せない俺。

 

「ありがとー()()()()()!ていうか、やったの私だけど、もっと深くえぐれたような気がしたんだけど...」

 

「は?兄さんの傷がどれだけ浅かろうと姉さんが兄さんの目を傷つけて手術までさせたことに変わりはないから。手術費と入院費くらい自分のお小遣(こづか)いから(はら)えよ?」

 

 あれ、心傘(こがさ)こんなに口悪かったっけ。まあ、それほど俺の事心配してくれてるってことだよな!

 

「まあ僕ももっとぐしゃっといった気がしたんだけど、その深さでも気絶する人はだいぶ少ないらしいけどね。」

 

()()()()?何が言いたいんだよ」

 

「はあ?言葉にされなきゃわかんない?痛みに弱すぎるってことだよ。あの程度で気絶とかマジで大げさすぎるんだけど。バカかよ分かれよこのくらい虫でも理解できるだろ」

 

「………」

 

 やばい、なにこれめっちゃ()ずかしい。つまり勝手にはしが()さったと思って勝手にめっちゃ痛がって勝手に気絶しちゃったってこと...?!えぇ!?め、めっちゃはずい。

 ていうか心傘(こがさ)の口が急に悪くなった。そんなに『こがたん』(きら)いかよ。可愛(かわい)いと思うけどなー。

 

 まー、それにしても、ほんとに少し目が傷ついただけなんてなあ。

 

 その(あと)いろいろ普通の会話をして父さんたちは帰っていった。

 

 俺も明日の朝退院らしい。

 

 

   ♦

 

 

  -男子トイレ-

 

【ジャーーーー】

「それにしても、眼帯、か。」

 

 俺は、手を洗いながら目の前の(かがみ)(うつ)る自分と眼帯を見ていた。

 

「たしか、金木は左目だったよな。」

 

 じっと自分をみつめながら、『東京喰種』の主人公である『金木』を思い出す。

 なんだか急に金木みたいだとおもってきた。

 

「いやまあ、金木ほど〈悲劇(ひげき)〉じゃないけど。つーか金木くらいの悲劇の人生をおくったやつってこの世にいるんかねー。・・・まあこの世界に喰種がいないから話は別か。」

 

 そこでいったん思考(しこう)を切り上げて部屋に戻る。

 もしも金木みたいなんがいたら......そりゃあカワイソウだ。同情(どうじょう)することしかできないけど。

 

 

   ♦

 

 

 その後、食事がきたのだがいつのまにか寝てしまっていたようだ。

 

 

   ♦♢♦

 

 

「ん?ふあ~、、、、、。あ。」

 

 目を開けるともう周りは明るく、朝だと言う事がわかる。

 昨日の夜、いつのまにか寝てしまっていたらしい。となるともう二食抜いてしまったことになる。まあべつにたった2食抜いただけで死にゃあせんから大丈夫だろ。ゆーてお腹すいてないし。

 

【ガラガラ】

「あ、雨宮さん。昨日の夜も食べてないんですよね。」

 

「ああ、眠かったもので...」

 

「今日退院なんですよ?大丈夫なんですか?」

 

「まあ、家で食べますよ。」

 

 そうか、今日退院か。なんだか入院した実感(じっかん)があんまないな。

 そう思いつつも退院の準備をする。

 

 

   ♦♢

 

 

「ありがとうございました。」

 

「はい。お大事に。」

 

「暖傘君、ちゃんとご飯たべてくださいね。」

 

「はい」

 

 まあ、食事をとってないのは本当にたまたまだから、大丈夫だとはおもうけど。、、、、、?

 

 んー?‥‥‥あ、そうだ。違和感があると思ったら、昨日は苗字(みょうじ)にさんづけだった看護師さんが名前で呼んだから、か。みんな雨宮だもんな。

 

 

   ♦♢

 

 

【ガチャ】

「ふ~、ただいまー」

 

なんだか物すごく久しぶりな気がして思わず誰もいない家に向かってそんなことを言う。

 

【ガチャ】

「おかえりー!」

 

 と、後ろから来た姉が言う。

 

「・・・」

 

「・・・フッ」

 

「・・・・・(なにコイツ)」

 

【ガチャ】

「はー、おなかすいたねえ。遅いけど、朝ごはんにしよっか。」

 

 俺は退院の準備のせいで朝ごはんを食べていなかったのだが、みんなも食べていなかったとは。ああ、母さんが化粧(けしょう)してたのな。まったく、何でうちには母さん以外ご飯作れるやつがいないんだよ。パンくらいかんたんに焼けるだろ。俺はできないけど。

 そう思いながら朝食ができるのを待つ。

 

 

   ♦

 

 

 白飯はもう()けていたらしく、準備は意外に早くでき、いまは食卓(しょくたく)に並べている最中(さいちゅう)だ。

 朝はたいていパンなのだが、今日は米だ。あまり腹がすいていないのが残念ではあるが、久しぶりの食事で楽しみなのだ。

 

 ひととおり並べ終わり、みんなが食卓をかこむ。

 

「「「「「いただきまーす」」」」」

 

 みんなで合掌(がっしょう)した後に、はしをとる。

 

『たしか、金木は左目だったよな。』

 

『金木みたいだ』

 

 ふと、昨日トイレで思ったことを思い出す。

 

 金木は、手術を受けてから病院食がまずく感じ、そこから変だと思い始めたんだったか。

 

 俺は、手術から一度も食事をとらず、食欲もわいていない。

 

 ぴた。と、白米を口に運ぼうとしていた手が止まる。

 

 もし、これがまずかったら...

 

 いや、待て、冷静に考えよう。まず角膜の移植手術を受けただけの俺の味覚(みかく)がかわるなんてことがあるわけがない。そしていくらあの物語が引き込まれそうなくらいとてもよくできた物語だったとしても、あれはフィクションだ。この世に喰種は存在しない。てゆうか俺が受けたのは目の手術だ。金木みたいな赫包(かくほう)を移植とか絶対できない。だからこれを食べるのには全く問題ない。はずなんだ...

 

 だけど何だ、この得体(えたい)のしれない不安感は。

 

 全てがこの一口で解決することなのに、なぜか脳が目の前のものを口に運ぶことを拒否(きょひ)しているような感覚に(おちい)る。

 

 それがまた俺の不安を()き立てる。

 

 意を決して、米をくちにいれる。これで、全てが分かる。

 

「………」

 

 口に入れてすぐに分かった。おいおい

 

「...嘘だろ。」

 

【ガタッ】

「俺、ちょっとトイレ。」

 

 そういって、立ち上がる。

 

【バタン カチャ】

 トイレに入り、カギをかける。

 

「最悪だ...。いや、なんで...」

 

 たった一口の米。それすら俺には耐えがたいほどに()()()()()

 

「おえぇ」

 

 さっきは涙が出そうなのを必死にこらえていたうえに、もしかしてと身構(みがま)えていたからからか、なんとか気付かれなかったはずだが、もしもふつうに食べていたら不味さのあまりひざまずいて(さけ)んでいたかもしれない。

 これは金木がオーバーリアクションと言われるのも無理はないかもしれない。

 

 そしてそれは、これからの俺の食事が全て[人間]になるかもしれないと言う事を示しており、これから出会うであろう困難のことを考えると、口からはもうためいきしか出なかった。

 気づけば目から涙も出ていた。




最後まで読んでくれてありがとうございました!
振り仮名が多いのは作者が昔から漢字読むの苦手で分からない漢字があるたびにコピペして調べてたからです。すこしでも難しいなと思う漢字があったらガンガンルビ振っていこうと思っています。なのでどこかでミスして変な記号が入っているかもしれませんがその時は「作者はこんな字も難しいと思うほどのやつなのか」と思いつつ誤字報告してくれると嬉しいです。評価や感想、アドバイスなどコメント待ってます!


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