悪食グルメハンター (輝く羊モドキ)
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何でも食べる彼は何でも料理する。

ストレスが溜まったんや。


 おっす。俺はしがないグルメハンター(プロ)。日々旨いものを求めて研究の日々さ。

 

 ハンター足るもの何かを狩れ、とは言うけども俺自身何かを狩りに行くほど行動的でもなければ、実力も持っている訳ではない。故に俺は何処にでもある普通の食材を、如何に極上に仕上げるかにこだわりにこだわったグルメハンター(プロ)なのだ。

 自己紹介はこの辺にしておこう。基本的なグルメハンターってのは、旨い食材を求めて世界中あちこちを飛び回り、フリーランスに稼いで美食を狩る訳だが、俺は世界中を飛び回るほど行動的でもなければ、危険地帯に踏み入れて無事で帰ってくるほど強い訳じゃない。まあ一般人に毛が生えた程度だ。そんな俺はフリーランスではなく雇われとして日銭を稼ぎ、俺の美食を求めて料理を研究しているのだ。

 

 そんな俺は今、山ひとつが敷地という大豪邸の料理長(プロ)として働いている。

 本来美食ハンター(プロ)を雇うには莫大な給金、数多もの希少食材を入手出来るコネ、この二つが揃って、漸く一週間程度雇う事が出来るものだ。何故なら彼らは大抵の場合、自力で希少食材を調達出来る。美食を求めるのに、一ヶ所にとどまり続けるなんて愚かだからだ。故に金持ちの美食家は美食ハンター(プロ)を雇うのではなく美食ハンター(アマ)を雇うか、美食ハンター(プロ)が発見した超希少食材を大枚叩いて買うか食べに行くかのどれかになる。

 ただ俺は違う。俺の求めるグルメとは特別な食材は使わない、何処にでもある食材、調味料を使い旨い料理を作る。だからこそ適度な給金と料理研究の為の休日さえ確保できればどこでも良かった。まあ何の因果か、大豪邸の料理長なんて職に就いてるが。

 

 さて、何処にでもあるような食材を使って極上の料理に仕上げる事を目標に掲げてる俺だが、実は既に俺の求める美食はほぼ完成している。グルメ研究の道に終わりは無いが、俺が求めた『死ぬほど美味いメシ』のレシピは既に書き上がっているのだ。その功績が認められ、俺の実力こそ低いが一ツ星(シングル)ハンターなのだ。

 協会からは『早く弟子取れ』とせっつかれてるが、俺みたいなロクデナシが弟子を取った所で意味がないと思う。

 まあそれはともかく。

 今日は長期休暇が取れたので故郷に戻る事にした。久々の故郷の地はまるで姿形が変わっているが、その本質は一切変わっていないようで安心した。

 鼻歌混じりに実家に帰ると、思ってもみなかった旧友が出迎えてくれた。

 

「久しぶりだな、グリード」

 

「おぉ、クロロ!相変わらずイケメンだな!」

 

 奴の名前はクロロ=ルシルフル。悪名高き幻影旅団の団長であり、嘗てのお隣さんだ。そして俺の料理人としての初の客である。

 そう、ここは流星街。あらゆる物が廃棄され、あらゆる物が集う街。俺の原点(オリジン)もココに有り、俺の終着点もきっとココになる。

 

 改めて自己紹介をしようか。

 俺の名前はグリード=ダイモーン。流星街一の食餌屋『デビルキッチン』の元店長にしてゾルディック家の現総料理長。一ツ星(シングル)ハンターであり『悪食グルメ(シングルマナー)のグリード』と他人は呼ぶ。

 得意料理は『死ぬほど美味い猛毒キノコソテー』。気になるなら食いに来な。美味すぎて昇天するぜ?

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 久々に実家に帰ってきたら、家に顔見知りが居た件。

 

「お前が此処に帰ってくるみたいだからな。久々にお前の作る料理が食べたくなった」

 

「ひゅー!そんなにも求められちゃ料理人冥利に尽きるってもんよ!よし、じゃあ早速腕を振るってやりますかね!勿論金は取るが」

 

 基本的に俺は自分が美味いメシを食えればそれで良いのだが、偶には誰かに料理の腕を振るいたくもなる。そう言う訳だからプロハンターになっても雇われの料理人として活動したりするし、今もこうして知人に個人的に料理を振る舞ったりする。

 さて、そうは言っても流石に実家に置いてある調理道具だけじゃあ物足りない。ってなわけで俺達は古巣であるデビルキッチンに行くことにした。

 

「ところでなんで俺が帰ってくるって分かったんだ?勘か?」

 

「……ああ」

 

「そうか!お前の勘はとんでもないなぁ!」

 

 クロロは大抵いつも本を読んでいる、好きなのだろう。俺の読みでは本を食っているに違いない。

 

「グリード、お前そういえばハンター(ライセンス)はどうした?」

 

「売った!」

 

「……そうか」

 

 一ツ星のライセンスがあんな値段で売れるとは思わなかったぜ!一生遊ぶどころか三生豪遊できる金が手に入ったけどな!使いきれねえわ!まあ売った所為かハンター仲間からプロ失格と陰口叩かれてるけどね(泣)

 ってな感じで働く必要も無いが、それでも根っからの料理人。時々誰かに料理を振るいたくなるから今の仕事は続ける事にしている。職場の人達も中々付き合いやすいしね!

 

「((ライセンス)を使った記録が見つからなかったのはそういう事か……)お前は変わってないようだな」

 

「そういうお前は……あー……背ぇ伸びた?」

 

「……変わってないようだな」

 

 無表情だがものっそい呆れられてる感。ムカツクが俺の料理を食って破顔するまでの辛抱だ。

 そんなこんなでデビルキッチンに到着。店に入ると見知った顔ぶれが。

 

「お、ようやく来やがったか!」

 

「待てたね」

 

「遅かったね団長、グリード。まあグリードがのんびりと来た所為なんだろうけど」

 

 幻影旅団のムサい奴等が3人。ゴリラとオチビと爽やか君。横のクロロも合わせてタイプの違うイケメンが5人揃った事になる。

 

「……5人?」

 

「そこで疑問を挟むんじゃないよ」

 

「あたかも自分がイケメンだと思てるね」

 

「おい泣くぞほら泣くぞ」

 

「いいからさっさと美味いメシ作れよ!こちとら腹空かして待ってんだよ!」

 

「うるせえソコの沢庵(の様なナニカ)でも齧ってろゴリラ!」

 

 まあそこまで期待してもらって悪い気はしないけどね!

 

「「(チョロイ)ね)」」

 

 厨房に入りデカい鍋を引っ張り出す。厨房の奥に現デビルキッチンの店主が居たが叩き出す。創業者舐めんなパンチ。今日は旅団一行貸し切りだボケ、今決めた。

 厨房の冷蔵庫に入ってる食材……は、なんか微妙なモノしか入ってなかったので俺の『ポケット』の食材を使う事にした。

 クロロが俺の能力を物欲しそうに見るがこれはやらん。

 

 俺の能力の一つ『食材ポケット(どこでもキッチン)』は食材、調味料を異空間に保存、取り出す能力だ。調理道具は無理。

 この能力で、調理器具さえあればそれこそいつでも、どこでも料理を作ることが出来る。

 

 とりあえず何の変哲もない鶏のモモ肉とキノコ、葉物野菜を幾つか引っ張り出し、調味料をその場でブレンド。鍋に火を入れ、そこに食材をぶち込む。ジュワアア!と音をたて食材共が焼ける香ばしく食欲をそそる匂いが立ち込める。

 その匂いと見た目からフェイタン(オチビ)が喉を鳴らし、ウボォーギン(ゴリラ)は涎を拭っている。まあもうちょっと待て待て。

 鶏モモの色が変わってきた所でキッチンの冷蔵庫に入っていた謎酒を投入、フランベって奴だな。派手に火が上がり香り高く焼ける。シャルナーク(爽やか君)はここいらで目の色を僅かに変える。クロロは相変わらず無表情だ。

 食材に香りが付いたところで今作った特製ソースを大量に投入。焼き料理かと思ったか?残念!鍋料理だっ!

 グツグツと煮え滾る鍋にそっと蓋をし、次の料理に取り掛かる。と言ってもすぐに出来るモノだが。

 

「ほい、味が染み込むまでの待ち時間に食ってな」

 

 肉厚のキノコを薄くスライスし、特性のドレッシングをかけて出す。

 俺特製『毒キノコの刺身』。

 

「シレッと食べたら死ぬ様な毒キノコ出さないでくれない?」

 

 シャルナークの言う通りこの毒キノコ、名前を『ムシコロリタケ』と言い、食べたら虫どころか象もコロリと死ぬキノコである。だが味は絶品であり、この流星街の外れの方に群生しているが毎年の様にこのキノコを食って死ぬ人が出るくらいに人気である。

 勿論悪食家とはいえ死んだら元も子もない。まあ多少の毒なら問題ないんですがね!ともかく毒キノコをそのまま食えば流石に天下の幻影旅団とはいえ死ぬのでそこは一工夫。かけてあるドレッシングが毒をある程度中和してくれるので一般人でもお腹を下す程度で済む。

 

「いや、なんで完全に無毒化しないんだよ!」

 

「その毒がキノコの旨味そのものだからに決まってるだろうが」

 

 完全に毒を中和しちゃったらただの肉厚ジューシーなキノコ(無味)である。まあ死ななきゃ安いと思って食え。

 

「お!滅茶苦茶うめえじゃねえか!」

 

「だっしょー!?話分かるゴリラだなおめー。生で食うのも美味いが、軽く炙ると食感も変わって酒のツマミにぴったりだぜ?」

 

「何!?ならそれくれ!あと酒も!」

 

「オーケー!炙った奴にはダシ醤油をかけると相性抜群よぉ!」

 

 そう言ってササッと薄切りにしたキノコを火に潜らせ、醤油をかけて香ばしくする。何も言わないクロロも欲しがってそうなのでもう一セット。酒は厨房の冷蔵庫に入っていたビール缶を出す。

 

「クーッ!滅茶苦茶効く!おかわりだ!」

 

「はいよぉ!」

 

 食べっぷりからおかわりが必要だと察せたのですぐに追加を出す。横に視線をずらせばモニュモニュと生キノコを齧るフェイタン。生の食感が気に入ったようだ。

 苦笑いするシャルナーク、良いから食え。っと、そんなこんなで鍋が煮えた。蓋を開けると葉野菜の良い香りと香ばしさがふわりと広がる。ドロっとした鍋の汁に生卵を人数分割り落とす。火を弱めて各々によそう。

 ゴリラとオチビはがっつく様に、クロロはゆっくりと食べ始めるが、爽やか君は食べない。おい。

 

「……これも毒が入ってるってオチじゃないよな?」

 

「入ってたら問題あるのか?」

 

「あるに決まってるだろう!?」

 

 どうもシャルナークは毒が入ってるのが気になるらしい。宗教上の理由かな?

 

「普通毒入りの食事なんて食べたくないだろ!?」

 

「生きるために食う。そこに毒がどうとかは関係ないだろ?」

 

 俺の言葉に感動して何も言わなくなるシャルナーク。

 

「呆れて物も言えないとはこの事だよ!」

 

「シャル、黙って食うね」

 

「これもまたうめえな!シャル!お前も食えよ!」

 

「オレか!?オレが悪いのか!?」

 

 さっきから食わずに騒いでばかり。もしかしたらシャルナークは胃腸が弱いのかもしれない。

 

「悪かったな、俺の察しが悪くて。今大根おろし入れてやるから」

 

「なんでそうなるんだよ!?大根おろしは貰うけど!」

 

 大根おろしを入れると少し味が落ちるが、ほぼ無毒化するから一般大衆向けのレシピには卵の代わりにおろしを入れている。

 

「美味しい……けど納得いかない……!」

 

 シャルナークもモリモリ食べるようになって良かった、良かった。

 

 そうして何度も鍋の中身をよそい分けると当然具は無くなる。ので具がほぼ無くなった鍋の中に自作のカレースパイスをドボッと投入し、火力を強める。ぷつぷつと沸騰し始めたくらいに極太の麺を入れる、シメのカレー鍋焼きうどんだ。

 

「お?なんだこの太い麺は?」

 

「ウドンっつってジャポン発祥の麺だ。シンプルな味わいだがこうして色々と変化球の味付けと合わせて飽きない美味さだぞ~?」

 

「へぇ、中々いい香りね」

 

「さあ俺特製のカレーうどんだ!舌が焼ける旨さを堪能あれ!」

 

 四人に同じようによそい分ける。今度は全員一気にズルズルッと口に入れる。初めて食べるにしては中々堂に入った食べ方だなお前等!

 

「っぐがァ!?舌が痛ぇ!!だがうめえ!!!」

 

 とウボォーギン。

 

「ッッッ!!!」

 

 無言で悶絶しながら食べ進めるフェイタン。

 

「ふっ……!!ぐっ……!!」

 

 啜る事を諦め、ちょっとずつ食べるシャルナーク。

 

「……」

 

 黙々と、だが額に汗を浮かべながら食べるクロロ。

 ズルズルと、或いはモクモクと四人は食べ進め、そうして鍋は完全に空っぽになった。

 

「っぶはー!滅茶苦茶美味かったぜ!」

 

「良かたね」

 

「毒が気になるけど……まあ、美味しかったよ」

 

「美味かったぞ」

 

「おう!お粗末様!」

 

 普段無表情のクロロも僅かだが笑顔で感想を言い、やはり誰かに食べさせるのは止められねえなと思った今日この頃だった。

 

 

「じゃあ一人当たり二千万ジェニーな!」

 

「メシ代にしては馬鹿高いな!?」

 

「技術料だ馬鹿。さあ払え!」

 

「じゃあシャルメシ代頼んだ!」ガタッ

 

「頼んだね」ガタッ

 

「じゃあな」ガタッ

 

「は!?ちょ、ウボォー!?フェイタン!?団長!!?ちょっと!??」

 

「よしシャルナーク。八千万ジェニー出しな?」

 

「酷くない!?くっ、なら俺も逃げ」ガタッ

 

スパッ

 

「ふむ、蜘蛛料理は初めてだが何事も経験かな」

 

「分かった!払う!払うからその包丁降ろして!!」

 

 『悪食万歳(デビルキッチン)』色々なモノを『食材』として加工する能力。通常の人間には食べられない木や岩、土、布等を『食材』に加工する。当然のように人間も『食材』に加工できる。

 

「クッソ!これで強さは一般人に毛が生えた程度とか何の冗談だ!」

 

「……いや、強くはないだろ。俺よりウボォーギンやノブナガ、クロロの方が強いし、今働いてる職場の雇い主なんかまじで敵う気がしないし」

 

「比較対象おかしいだろうが!?」

 

 俺の周りの人物と言えばまずゾルディック家の執事やゾルディック一家、それとあとは幻影旅団の各々にあとプロハンター達……うん。

 

「やっぱ俺って一般人に毛が生えた程度の強さしかないな?」

 

「お前の言う一般人って誰だよ!!?」

 

 シャルナーク?

 

「オレ一般人扱いなの!?」

 

「まあ旅団の中じゃ扱い悪いわな!」

 

「ちくしょううるせー!」

 

 




何処にでもある(言葉通り)食材(???)。

某TS転生虫娘小説と某暗殺者プロハンター小説と某極振りフリーダム爆破小説に触発された。俺は悪くない。


つ づ く !!!


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毒を食らわば皿まで……食べられても困るな、ちゃんと食べられるように加工しないと。

細かい時系列なんて考えてないわ


 おっす。俺はしがないグルメハンター(プロ)。長期休暇中で、今は実家から職場に戻るところだ。

 久々に会った知人に料理を振る舞ったりしたが、私は元気ですってな。ついでに臨時収入も得てホクホク顔で職場に戻る……最中に寄った鍛冶屋で新しいおろし金を買う。今まで使ってた奴も悪くはなかったが、骨のように硬いモノをすりおろすのに丁度良い塩梅の粗さと鋭さの揃ったおろし金が欲しいと思っていた所だったのだ。まあ、鋭さは今あるおろし金に『周』を使えば良いんだが、粗さはそう上手くはいかない。ゾルディック家で発注しようにも、この手の道具は僅かな違いが直接味や食感に関わる。それなら最初っから俺が見て、気に入った物を買えば良い。故に普通の休日なら職場の近くの腕の良い鍛冶屋で探すんだが、せっかく遠出してるわけだし普段見つからないような品を探すのもまた一興。

 

 お、刀身に毒鉱石を使うことでカスっても毒で相手を仕留める剣か。洗っても毒が落ちない点は有用かな?だとしても普通に剣に毒を塗った方が良いだろうが。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 今の職場、ゾルディック家のある場所はパドキア共和国のククルーマウンテン。実家からそこまで真っ直ぐ向かっても丸1日は掛かる。しかも入国手続きもあって面倒……だったんだが、一ツ星になってからは顔パスで移動出来るようになった。ライセンスを持ってなくても一部の特権は有効らしい。流石に立ち入り制限の掛かってる地域に入るのは厳しいが。

 まあ、別にそんな制限がある場所になんか行く必要なんてないから困らない。同僚は「それでもプロハンターか?」とか言うが、ハンターだからって危険地帯に行かなければならないみたいな規則無いから。

 パドキア共和国の特別空港に降り立つ。人生遊んで暮らせる程度の資産を持つ俺はその資金にモノを言わせ、自分専用の飛行船と発着場を持っている。とはいってもここにあるのは俺だけでなく、コネのない成金が専用飛行船を纏めて置いておく共用の空港だ。ただ高い金出してるだけあって一般の空港より遥かに自由で待ち時間なんてモノもない。

 ……ちなみにゾルディック家の使用人、特に俺みたいな偉い(伊達に料理()ではないのである)使用人はゾルディック家の敷地内に飛行船を置くことが許可される事を発着場を買ってから教えられた。性格悪いよゴトーの野郎……。

 特別空港から出て少し歩いたところで、見知った顔を見つける。

 

「よう、変ジン!」

 

「お前に変人言われたかねえわ!」

 

 ターバンを巻いたクソ野郎ことジン=フリークス。通称『変ジン』(俺しか言わないが)

 凄い奴なのだが何故か同じハンター仲間からはバリクソ嫌われてる。でも一部のハンター達は変ジンを手離しに誉める。俺?好ましくは思うが嫌いな訳でも無ければ手離しに誉めるほど心酔もしちゃいない。凄い奴ではあるが。

 ちなみに出会いの初めはとあるオンラインゲームだ。その中で、違うプレイスタイルでレイドボスをソロ撃破する俺と変ジンは互いに興味を持ちあってオフ会で実際にあったのが最初。

 そしてなんやかんやあって時間が合えばオンラインゲームで一狩り行ったり冒険いったりとする程度に仲良くなった。まあ友達と言っても良い間柄だな。

 そして全く異なる話だが、俺の名前を冠するゲームの製作者(の一人)だ。記念と言う事で一度テストプレイをさせてもらったが、その一度で出禁扱いされた。ヒドス。

 

「おめーがゲーム内のあらゆる物を食っちまうからだろーが」

 

「全部『念』で出来てるとか食えと言ってるモノでは?」

 

「おめーの能力知ってたら最初っからテストプレイに呼ばねえよ!」

 

 それもそうか。

 俺の『悪食万歳(デビルキッチン)』は何でも『食材』として加工する能力だが、思わぬ副次効果としてあらゆる『念能力』も加工する事が可能だった。勿論食う事も出来る。そして何より問題なのが、強力な『念能力』は美味であるのだ。つまり何が言いたいかというと……

 

「次G・I(グリードアイランド)に行けたら完食する自信あるわ」

 

「だから食うなって言ってんだろ!完食ってなんだよ!?島全部食う気かおめー!」

 

「島全部は流石に無理だ。全部食いきるまでに何週間かかることやら」

 

「時間があれば食い切るみたいな言い方すんな!」

 

 とまあ、ゲームにとって存在がバグみたいな俺にテストプレイさせる事が間違ってたということで。

 

「……まあ、グリードがテストプレイに参加したお陰で致命的なバグの発生は抑えられたから助かりはしたがな」

 

「ほー、素直じゃないんだからーもー」

 

「うっせえ!」

 

 さて、変ジンをおちょくるのもこの辺にして。……ふむ、時間はまだ余裕があるな。よーし、メシ食いに行こうぜ。

 そうして移動した先はパドキア共和国の台所、セントラル市場。その片隅にある寂れた食堂に入る。昼時だと言うのに客一人と居ない。まあ今はそれで丁度いい。堂々と厨房に入り込み、一瞬で厨房服に着替え、全身消毒、完全に清潔になる。

 『身支度(インスタントアピアランス)』コック服に着替え、自身の身だしなみを整え、清潔、衛生的に問題ない状態に変化する能力。

 流星街出身(衛生観0)曰く『メモリの無駄』の能力だが、流石に流星街の外で血だらけ泥だらけのまま料理なんぞしようものなら料理人としての信頼は地に落ちるので控えている。流石にね。

 勝手に厨房を借りる訳だが、ここの店主とは知った顔。その上閑古鳥も鳴いてる状況故に二つ返事でOKを貰う(事後承諾)。

 

 さあ、まずは前菜。取り出したるは丸太。

 包丁を『周』で強化し薄く(0.1mm)スライス、樹皮は素手で剥いで微塵に潰す。特製のダシ醤油を沸騰させ投入。すぐに火を止め、軽く冷ましておく。

 冷ましてる間に針状に尖っている葉っぱを擂り潰し、酢、味噌、みりんを入れて練る様に混ぜる。

 隠し包丁を無数にいれ乾燥させた木の根を皿に敷き、その上に先程冷ましておいた丸太のスライス、練った葉っぱを乗せ、微塵に潰した樹皮を振りかけ、最後に特製の秘伝ドレッシングを全体にかけて完成。

 『スギノキサラダ』だ、召し上がれ。

 

「……相変わらず狂ってるな。食うけどよ」

 

「人間その気になりゃ何でも食えるもんだ。野菜も木も同じ植物だろ?」

 

「そこじゃねえよ。(沸騰させるためにオーラを『熱』に変化させたり、オーラに『味』を付けて調味料にしたり……『念』の使い方間違ってるだろ絶対)うん、うめえ」

 

「ドレッシングが決め手さ」

 

 変ジンがサラダを食べている間に生きている豚を1頭取り出す。指を豚の頭部に突き立て、仮死状態にした後、『周』をした包丁で一気に解体する。溢れ出た血は全て『ポケット』に仕舞い、肉、骨、内臓と分けた。

 内臓はまた今度別の料理に使うので『ポケット』に仕舞い、肉をフライパンに乗せ火を入れる。骨は薄くスライスしたり、細かく砕いたり、細く刻んだりして様々なバリエーションに富む食材へと変化させる。

 

「ほいほい、『豚骨チップフライ』『豚骨スティックフライ』のフライドボーン盛り合わせに『豚刺』『豚ユッケ』『ポークステーキ』!」

 

「骨はともかく、豚肉を生で食うのか?」

 

「毒料理ならともかく、それ以外の料理で食中毒は出さねーよ!良いから食ってみろ!」

 

「そーか。……ほぉー、フライドボーンっつーのはなかなか……豚刺もこのタレが絶妙だ。焼いてるヤツの方も良い、舌触りが違うな」

 

 ガツガツ、カリカリと豚の肉と骨を余すことなく食べる変ジン。骨は硬いが、適切な加工をすれば表面はザックリ、中はカリホロの食感がヤミツキになる美味さ。それにもう夢中になっている。肉も言わずもがなだ。

 うめえうめえと口に出しながらメシを食っているのを横目に、最後の一品を作る。

 シメのデザートはアイスクリーム。意外と簡単に作れるからみんなも作ろう!

 作り方は簡単。牛乳に卵黄と生クリームと砂糖をぶち込んで冷やしながら混ぜるだけ。分量は各々でめくれ。

 俺は面倒だから牛乳風に加工した薪に卵黄風に加工した石炭、生クリーム風に加工した樹液に砂糖風の味付けの野草を混ぜてオーラで冷やして作る。あっという間にキンキンに冷えたアイスクリーム(風)の完成。

 俺はさらにこだわるぜ。盛り付ける器はチョコレートで作り、アイスの上に振りかけるトッピングは贅沢にサファイアの原石を粉々に砕いて散りばめる。最後に特製のカラメルソースをかければ出来上がり。

 『大地アイスクリーム~暴食ソースを添えて~』おあがりよ!

 

「普通の人間が消化も出来ない物に更に消化できない物を乗せるんじゃねえよ!石炭ってお前、サファイアってお前……!」

 

「食ってみろ。話はそれからだ」

 

 もの凄い顔をしながら変ジンは大地アイスクリームを口に入れる。

 

「……意外とイケるな」

 

「だっしょ?」

 

 確かに普通の人間は鉱石類を消化することは出来ない。だが世の中には金を食う犬やボーキサイトを食う空母なんて物が居るんだ。絶対に消化出来ないってことは無い。そして俺は見つけた、何でも食ってエネルギーに変えちまう『暴食バクテリア』の存在を。

 人ってのは不思議なモノで、真の意味で『食えない物』の味を認識する事は出来ない。だが、『食えない物』が『食えるようになる』とその味を認識する事が出来るのだ。つまり、この『暴食バクテリア』を使ったソースをかけた鉱石アイスをジンは食い、『暴食バクテリア』ごと鉱石アイスを消化することでジンはサファイアの味を認識するに至ったのだ。

 正直この『暴食バクテリア』があれば、人はあらゆる物を普通に食べる事が出来る。俺が態々『加工』しなくても。だから俺はあまりこのバクテリアを使わない。

 

 ただしこのバクテリアを使った方が美味くなるならその限りでは無い!

 

 ちなみに某ストーンハンターの前でとある宝石を食ったら本気で殺されかけた。

 美味しかったです(^p^)

 

「……っふー。ごっそさん」

 

「うい、おそまつさん」

 

 変ジンは変人だが、食生活は至って普通だ。ゲテモノ食いでもないのに俺の料理を食ってくれる数少ない存在だからこれからも仲良くしていきたいと思っている。

 

 

 

 

 

「じゃあ飲食代5千万ジェニーな!」

 

「悪いな!今手持ちねーんだわ!」

 

「嘘つけお前絶対口座に兆単位で金有るゾ!」

 

 ただしソレ(友情)コレ()は別だがな!!

 

「金が払えんと言うのなら新しい包丁の試し切りに付き合って貰おうか!!」

 

「うおお!?おまっ!?急に刃物を振り回すな!」

 

「ふぅははは!どうだ腹が重かろう!あれだけ重量のある食材をパクつけばそれだけ体重も増えようぞ!」

 

「っぶね!?ってオーラを切り取る包丁って何だ!!お前そんな能力持ってなかっただろうが!!」

 

「これは毒切包丁!『切る』と『味付け』を同時にこなせる優れものだ!ついでにオーラも切れる!少し前に買った!」

 

「それ絶対オーラ切る方がメイン性能だろうが!」

 

 ギャアギャアと騒ぎながら店を出る。

 どうやら変ジンは今『かくれんぼ』の最中らしく、居場所がばれるような携帯端末は持っていないらしい。後で必ず支払う事を約束させて別れた。

 

 さて、俺の休暇もあと半日。さっさと職場に戻るとするかね。

 

 




つ づ く !


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無味無臭の毒をそのまま料理にぶちこんだ奴、出てきなさい。もしくは出て行きなさい。

無味無臭の毒……水かな?
水にこだわる料理人が居るならそういうところにもこだわらないとマズ飯になるよほんと。


 俺が初めてゾルディック家の料理を作る前、当時の料理長から直々にゾルディック家の料理作法を教わった。日常的に料理に毒を入れるらしい。……まあ、それは人の好みだ。俺の料理に使う毒は『美味しい毒』を使うが、まあ『不味い毒』や『悪臭のある毒』を使うのは好みの差だろう。

 ……で、だ。問題はここから。ゾルディック一家が食べる料理に入れる毒は『無味無臭の毒』なんだと。

 

 いや、無味無臭の毒ってなんだよ……。

 

 俺は腐ってもグルメ。その俺から言わせてもらえば、どんな物にも味と匂いは存在する。たとえ水でも、水道水なら水道に使われる鉄分やカルキ臭、天然水でも土の匂いや近くの生物の匂い、酸素と水素を試験管の中で合成したような純水にだって匂いも味もあるというのに、『無味無臭の毒』なんてものが存在する訳がない。

 有ったとしても、それを料理にぶちこむ意味がわからない。

 んで、実際にその無味無臭の毒を使った料理ってのはどんなものか、実際に食べさせてもらったわけだが、まあ……うん。

 

 俺はこの料理を普段から食べているゾルディック一家はバカ舌か鈍感かのどっちかではないのかと疑問に思った。いや、純粋にね?

 

 料理自体は十分な二級品(一級品は美食ハンターが作る料理だとして)だと思うが、『無味無臭の毒』の使い方が酷すぎる。完成した料理にかけるとか……お前何?店で出てきたパスタに水でもトッピングするタイプ?

 もっとさぁ……もっとこう……あるじゃん!(ぶちギレ)

 俺は頭を抱えたね。ゾルディック家に嫁いだ同郷のキキョウ……様、の紹介でゾルディック家で働く事になった訳だが、正直帰りたい。人に料理を振る舞うのが好きだとは言え、流石に俺も客を選ぶ権利はあると思う。ましてや『グルメハンター(プロ)』を名乗っているのだから。

 

 俺は少し悩んだが、とりあえず一食だけゾルディック家に、あとこのふざけた料理を作った料理長に本物の料理というものを振る舞い、知らしめなければならないと決意した。料理というのは、食材を切って焼いて並べただけのモノではないのだ、と。

 もし、それでもわからない様だったら俺の腕を振るう場所はここではないということだ。例え殺されようと、ソコだけは変わらない、それは俺の、グルメハンターとしての変えちゃいけない線だから。

 

 

 

 

 

 なんか俺の前に(元)料理長の首が落ちてるんだが。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 そいつの顔を見たとき、殺せる、と思った。

 

 体つきはただの一般人と変わらず、顔も特徴的な何かがあるわけではない。身に纏うオーラだって、ごく普通で凡庸な念能力者だった。

 念の勝負に絶対はない、と親父は口を酸っぱくして言うが、オレは目の前のそいつを絶対に殺せるだろう。そう、思った。

 

「俺の名はグリード。グルメハンター(プロ)だ、よろしくね」

 

 このふざけた自己紹介もそうだ。なぜわざわざグルメハンターと言った後にかっこプロと言ったのか。

 何故、オレらの前にこのプロハンターが現れたのか。話は少し遡る。

 事の始まりは、母さんの癇癪だった。

 

「ああもう!こんなクソ不味い毒料理はうんざりよ!子供たちの舌がおかしくなるわ!!」

 

 料理長を呼べ!と母さんは騒ぐ。料理自体は普通の、オレ達にとっては、だが。普通の毒入り料理だ。オレは別にコレを美味いとも不味いとも思ったことはないが、母さんにとっては我慢ならないことらしい。

 父さんも、ゼノ爺さんもこの料理には別に不満なんて無いようだ。騒ぐ母さんを宥める。

 母さんが騒ぐ事は今に始まったことではない。キルが産まれて、その才能が発覚してからというもの特によく騒ぐようになった。それは主にキルの教育についてだが、今日の癇癪はどうにも少し違う気がする。

 曰く、『名家であるなら食にもプライドを』だとか、『子供たちが喜んで食べる料理にこそ教育が』だとか、そんな感じの事を言っていた。

 食事なんて、オレにとっては只の栄養補給だ。必要な分摂取出来ればそれでいい。

 

「キキョウ、落ち着け。不味いと言うが、料理を作ってるのは執事達の中でも最も優れた料理人だぞ?」

 

「それが何だと言うのです!こんなモノを作って満足するような者を料理人とは言わないわ!ああ、『デビルキッチン』の『死ぬほど美味い猛毒キノコソテー』が懐かしいわ……そうよ!それなら『本物の料理人』を連れてくればいいのよ!ゴトー!ゴトーは居るかしら!?」

 

「お呼びですか?」

 

「今すぐに『グリード=ダイモーン』を呼びなさい!」

 

「おい、キキョウ」

 

「止めないで!アナタも義父様も彼の料理を知れば同じ事を言うはずよ!」

 

「……やれやれ、そこまで言うのなら『本物の料理人』とやらの力を見てみようか」

 

 そうして呼ばれて来たのが目の前の冴えないプロハンターだ。給仕は執事に任せ、自身は俺達を前にふんぞり返る様に立っている。

 

「生憎だが俺にフルコースを求められても困る、料理の説明もな。俺は評論家じゃねえからあーだこーだウダウダ言うのはシュミじゃねえ。俺はただあんた等に『美味い』と言わせたいがために腕を振るった。『不味い』『口に合わない』大いに結構。そん時は俺の首でも食わせてやるよ」

 

 そう言ってドカッと椅子に座る。

 その姿を見て不愉快そうに眉を顰める執事達と料理長。

 ゴトーは小さい声で『使用人が主人にふざけた口利くんじゃねえよ』とあいつに耳打ちしたがそれすらも意に介さない。さあ食えと言わんばかりの態度で返す。

 

「さあ食え」

 

 訂正、さあ食えと言った態度で返した。

 控えてる執事達は運んできた料理のドームカバーを外し、作りたての料理が姿を見せ……っ!?

 

「『殺意マシマシ、死ぬほど美味いポイズンカレーライス』だ。召し上がれ」

 

 そこに在るのは間違いなくカレーライスだ。カレーライスと言うのを見たことが有るし、食べた事もある。だが、だがこれは……

 

 

 これは本当にオレの知るカレーライスなのか?

 

 

 このカレーライスを見た他の家族もまた同様に動揺していた。いや、母さんだけは嬉しそうにスプーンを持って食べ始める。

 

 一口、食べたら幸せそうに頬を押さえてため息を吐いた。

 

「ああ、この味……心臓を握られるような殺意のある毒味が懐かしいわ……グリード、貴方前より更に腕を上げたわね」

 

「伊達に料理人を名乗ってねえやい」

 

 ゼノ爺さんも、父さんも、ミルも、キルも、カルトも、全員が目の前の皿から発せられる香りに慄いている。そんな中ただ一人母さんだけがスプーンを動かしているのは酷く異常に感じられた。

 

「っ!」

 

 キルがスプーンを持ってカレーを頬張る。

 

「っっっうぅぅぅぅぅ……」

 

「キルっ……!」

 

 父さんが震えるキルの所に素早く移動し、背中を擦る。だが、キルはそんな事をお構いなしに顔を上げ、叫び出す。

 

「うめええええええ!!!」

 

 そうして叫んでからというものの、今までの遅れを取り返すかの様に素早くスプーンを動かし、カレーを食べ進めた。

 

「うめぇ!うめええ!!なんだこれ!めっちゃうめええ!!!」

 

 今まで見た事がない程にガツガツと食事にのめり込む姿は、まるで砂漠を丸一日歩き続け、水もなくなりもう死ぬかどうかの瀬戸際に追い詰められていた旅人がオアシスを見つけ、浴びる様に水を飲む姿を幻視した。

 そしてその姿に触発されたのか、ミルとカルトもスプーンを持ちカレーを食べ進め……

 

「ガッ……!」

 

「うっ……!」

 

 同時に口を押さえたかと思えば、

 

「辛っっっ!!!?」

 

「辛い……!!」

 

 異口同音に辛さに悶える。

 その姿を見てようやく再起動したかのように父さんとゼノ爺さんは動き始め、普段の姿からは想像もつかない様な速度でゆるゆるとスプーンを口に運び……普段の姿からは想像もつかない様な速度でパクパクとカレーを食べだした。

 これでカレーに手を付けていないのはオレだけになった。

 

 なんだ、コレは。

 

 なんなんだ、コレは。

 

 食事なんて、オレにとっては只の栄養補給だ。その筈だったんだ。

 

 

 

「よお坊っちゃん、まだ食わないのか?」

 

 

 気が付いたら、奴は俺の隣に立っていて、俺の耳元で囁いた。

 ありえない。例え何かに集中しながらだって、オレに近づく存在を見逃すわけが……!

 

 まさか、オレに近づく存在を見逃すほどに集中していたと言うのか?オレが……!?

 

 

「ほれ、美味そうだろぉ?ガマンは身体に毒だぜ?」

 

 

 そう言ってオレの代わりにスプーンを持ち、カレーを掬ってオレの口に近づける。

 

 

「カレーとご飯の黄金比は決まっている。一口食えばカレーの辛味が口内を暴れ回り、何度も何度も深く噛みしめていけばご飯の甘みが際立つ。一度食っちまえばそれまで。坊っちゃんは死ぬまでカレーの虜だ」

 

 オレの顔に触れるほどに近づいているというのに、一切振り払えない。魔性、とはこの事を言うのだろうか。

 コイツに何か言い返さないと、と口を開いた瞬間、ドロリと口腔内から何かが垂れる。

 

 

「ほうら、ヨダレを垂らすまでに求めてるんだ。素直になっちまいな」

 

 

 ありえない、ありえない。ありえない!オレが、オレが()()()()()()()()()()()()()()()!!

 オレの滑稽な姿を見て、ニタニタと嗤い始める(アクマ)が手を伸ばす。

 その魔性の指は俺の唇に触れ、優しく、緩やかに口を抉じ開ける。

 ドロリドロリと零れ出る液体が、奴の手に持つソレを本能で求めている何よりの証拠で。

 スプーンをゆっくりと、押し込むように口腔内に沈めていく。

 口を閉じ、スプーンを引き抜きながら顎を擽るような指の調べで強制的に口腔内のモノを細かく砕いてゆく。

 (アクマ)の言葉通り、口内を焼く様な辛味の暴力がオレを蹂躙し、その中にある僅かなご飯の甘みがゆっくりと、ゆっくりと広がっていく。ソレを、ソレをオレは……

 

 美味しいと、心の底から思えたんだ。

 

 再び(アクマ)はカレーを掬い、オレの口に近づける。そこで俺は気が付いた。カレーに含まれているこの香り。この香りはいつも嗅いでいる香りだ。

 香りに誘われるように口を開き、咀嚼し、飲み込む。いつも嗅いでいるこの香りは、最近料理によく使われている毒の香りだ。主張らしい主張をしない、だかそこに確かに存在しているこの匂いはまるで(アクマ)の様だ。

 スプーンが近づき、口を開いて咥えこむ。何の特筆する所の無い水の様な匂いは、何の特筆する所の無い(アクマ)の見た目の様だ。

 カレーが近づき、カレーを食べる。このカレーにはふんだんにその毒が入っている。だがカレーの香辛料はその毒の匂いや味を誤魔化さず、最上に高めていった。

 

 そうして、オレはこの(アクマ)に抱えられるようにされながらカレー全てを完食した。

 

 

 

 

 

 

 いや、なにされてんのオレ。

 

 

 

 

 

 冷静になった今、今までオレは何をしていた?

 

 ()()()()()()()!?

 

 まるでまともに食器も持てない赤ん坊の様に抱えられながら

 

 まるでまともに食事も出来ない幼児の様に抱えられながら!

 

 まるで無意識に乳飲み子が母乳を求める様に餌付けされながら!!

 

 

 ……幸いと言うか、他の家族は自身の前にあったカレーに全ての集中を持ってかれて、使用人共はいつの間にか配られていたカレーを食っては毒に悶絶している。だからオレの痴態は誰にも見られて……

 

「美味かったか坊っちゃん?ん?」

 

 コイツを殺さなければ(使命感)手に持った針を投げる。だがこの男はあろうことか針を歯で受け止め、そのまま噛み砕いた。

 

「ふぅん、中々良い金属使ってるじゃないか」

 

 バギ、バギ、と噛み砕き飲み込む姿に、今まで抱いたことの無い感情が胸を占めた。この感情は、オレがゼノ爺さんや父さんに抱く感情とも違う、母さんに抱く感情とも違う、ミルやキル、カルトに抱く感情とも違えば、『ナニカ』に抱く感情でも無い。複雑で、難解な感情だが、ただ一つ分かる事があった。

 

 

 オレは、この(アクマ)を殺せない、と。

 

 

「……成程。確かにキキョウの言う通りだった。コレが料理だと言うのなら、俺等が今まで食ってきたモノは料理では無い。『料理』と呼ぶのも烏滸がましい。素晴らしかったぞグリード」

 

「お褒めに与りまして恐悦至極にございます……と言えとでも?悪いが俺は伊達にグルメハンター名乗っちゃいねえ。一般人(パンピー)が作るメシと一括りにしないだけ良かったと思ってるぜ俺は」

 

「それは悪かったな、非礼を詫びよう。そして……お前はこの料理に『首』を賭けてたな」

 

「今作ったカレーだけじゃねえ。今まで作ってきた料理全てに、これから作る料理全てに、俺は常に『首』を賭けてる。必要なら俺の両手も、心臓だって賭けよう。『料理』こそ俺の生きる(ことわり)だから」

 

「……素晴らしい!見事な心意気だ。料理に『首』を賭けたのなら、こちらも『首』を出さなければならないな」

 

 そう言い、一条の風が吹く。そうして奴の目の前には料理長の首が落ちていた。

 

「今、料理長の席が空いた。そこに就いて、これからも我々に料理を振る舞ってもらいたい。当然、報酬は弾む」

 

「いいよ」

 

「助かる」

 

 そうしてあっさりと奴はゾルディック家の料理長の椅子に座った。

 それが奴、グリード=ダイモーンと俺達ゾルディック家のファーストコンタクトとなった。

 

 

 

 

 その後、ゼノ爺さんはトイレから出てこず、親父は自室で伏せ、ミルとカルトは悶絶しながらウロウロと徘徊し、母さんとキルはピンピンしていた。

 

「ま、あれだけ毒食えばそらそうよ。と言うか本気で一人くらい殺せるかと思ったが流石ゾルディック。伝説の殺し屋と呼ばれるだけあるな」

 

「お前はウチに何しに来たんだ」

 

(ハント)だ。俺は俺が求めるグルメの為に命を懸ける。とはいえ流石に致死量の毒を扱うのは怖いんでね、そんな折にキキョウ……様、から丁度いい依頼を受けたもんだから渡りに船とな。まあ美味いメシ食って死ぬんなら本望だろ?」

 

「勝手にオレ等の命も賭けないでくれない?まあ暗殺一家が言っても説得力は無いか」

 

「ん~?解毒薬をあーんで食わされてるキミが説得力を語るか~いお坊ちゃま~?」

 

「黙れ、身体が動けばお前如き幾らでも殺してやる」

 

「ひょっひょ、お生憎ですが俺が死ぬときは『旨いモノを食って死ぬ』と決めてるんで、誰かに殺される訳にゃいかんですねーお坊ちゃま?」

 

「そのお坊ちゃまって言うの止めろ」

 

「かしこまりましたお坊っちゃん」

 

「……やはり殺す」

 

 ゲラゲラと笑う声がククルーマウンテンに響いた。

 

 




イルミ兄やんにあーんってしたい人生だったお……


嘘だお……



オマケ


ハンター協会の一室


「ほぉ~、見事にウマそうじゃのぉ」
「だしょ~?一目見た時から絶対美味いって思ったもんコレ。とはいえ如何調理したもんかねー」

「ちょっとジジイ!人呼んどいて当人居ないってどういう事だわさ!」

「げ、ビスケ!スマン、ちょっと珍しい人物と出会っての」
「あん?珍しい人物って……ゲ、悪食」
「ゲ、とはなんだオメーこの見た目詐欺お姉さんが」
「うへへそういうとこだわさ気持ち悪いわねーもー」
「喜ぶんだかキモがるんだかどっちかにしてくれない?」

「で、アタシを差し置いて何してるんだわさ?」
「うーん……まあ、いいか。いや、ここにある宝石があるやん?」
「宝石!?見せなさい!」

「ふ、ふぁぁ……綺麗な青い輝き……こんな宝石見たことないわ……ちょ、ちょっと!コレ何処で見つけたの!?」
「どこって……あー、悪いな。ジンに内緒にしろって言われてるんだ」
「ジン!?なんでそこでジンが出るわさ!?」
「さぁて、なんでだろーねー?どしてだろうねー?」
「ぶん殴るわよ?」
「殴っても答えんよ。まあ、んなこたどうでもええんや。とにかく、コレをどうすれば最高に旨く料理出来るかを考えててな、折角だしストーンハンターのビスケお姉ちゃんの意見でも聞こうかと」
「……ん?ん?ゴメン、今なんて言った?」
「ビスケお姉ちゃんの意見でも聞こうかと」
「ん”っ、其処じゃないわさ!もっと前!前よ!ちょっと信じらんない言葉が飛び出たと思ったんだけど!?」
「殴っても答えんよ……?」
「其処じゃないわさ!もっと後!」
「折角だしストーンハンターの「アンタもうワザと言ってるでしょ!?『コレを美味く料理出来る方法を考えててな』って言ったアンタ!?」
「……そう言ったっけ?『コレをどうすれば最高に旨く料理出来るかを考えててな』って言った気がするんだが」
「細かい所はどうでも良いわさ!えっ!?食うの!?アンタ宝石食うの!?」
「オレに調理出来ないモノは無い!(断言)」
「馬鹿じゃないのアンタ!!なんで他に食べられる物があって態々宝石を食うのよ!?食費に幾らかける気!?」
「別に好き好んで食わねえよ。でもよく考えろ、仮に坑道に生き埋めにされ、食料が何もなくなった時。もし、そこらに落ちてるクズ宝石が食べられる方法があったのなら……きっと世界はもっと平和になるんだぁ」
「正気かアンタ!!?普通の人間は石なんて消化できないわさ!!」
「ここに普通の人間でも石を消化できる超すごいバクテリアがあります」
「わあすごい」

「じゃないでしょおおお!!?なんで!よりによって!宝石を!食べるのかって!聞いてんのよアタシは!!」
「食ったら美味いかもしれないじゃないか」
「食っても美味くないかもしれないでしょうが!!」
「美味いか美味くないか、その未知を探求するために俺はハンターになった」
「何良い事言ってる風にしてんのよ!美味いはずが無いでしょ!?」
「あそー、言ったな?言ったなビスケ?じゃあ賭けよう。この宝石が美味いか美味くないか」
「美味くない一択よそんなの!!」
「ほー。一択か、なら俺は美味いに賭けるぜ。掛け金は……全財産(オールイン)だ」
「……は?」
「聞こえなかったか?掛け金は全財産(オールイン)だ」
「……正気?」
「勿論。俺はあらゆる物を美味しく捌く事に命張ってるんだ。宝石も例外じゃない。絶対美味く仕上げてやる」
「……ふーん、いいわ、上等じゃない!乗ってあげるわよその賭け!」
「おーん?いいのかぁ~?もし負けて足りない分があったらぁ~カラダで支払ってもらうけど~?」
「ぐっ、…………いいわ!乗ってやろうじゃないのその挑発に!!」
「はいきた」


 ◇


「まあ公平にこのブループラネットを三分の一に分けて、全員で美味いか美味くないかの投票と行こう。置物と化している会長も審判よろしー」
「あ、ワシ存在を忘れられたかと思ったぞい」
「忘れる訳無いじゃん」
「ジジイあんた私が何しに来たと思ってんだわさ!」
「そうじゃよな?ワシ忘れられてないよな?」

「「(すっかり忘れてたわ)」」

「で?『ブループラネット』って言うのねこの宝石。中々洒落てる名前じゃないの」
「あ、やべ。名前言っちゃったよ。まあいっか、さて……話は最初に戻ってどう調理するべきかなぁ」
「そうじゃのー、とりあえず焼いてみるかの?」
「……本当に調理するつもりなのね」
「勿論、生でも美味いかもだけど」
「そのままの事『生』って言わないでほしいわさ」
「じゃあ刺身でも美味いかもだけど、揚げてみるのも一興かな。よし、とりあえず先に分割してみるか」

「……ちょっと待ちなさい、分割ってまさか……割る気!?その綺麗な真円の様な宝石を!?」
「今更すぎではないかの?」
「あーうっさいうっさい。とりあえずチャチャッと調理するけんねー」
「あーちょっと待ちなさい!待って!その宝石私が買い取るから!お願い待って待って待ってああああああああ!!!」


「マモレナカッタ……」
「とりあえず焼いてみた。暴食ソースをかけて召し上がれ」
「ふむ、石である事を除けば、見た目は悪くないのぅ」
「うーむ、見栄えは要改善……味はどうかな?あ、暴食ソースをかけても石は石だから噛むとき気を付けなはれよ」
「ふむ、とりあえず『凝』でええかの?ではいただきます」
「俺も、頂きます」
「うぅ……こうなりゃヤケよ……」


「ゥンまああ〜いっ!!」
「おほぉー、石故硬いが、噛めばまるでジューシーな完熟トマトの様な弾ける旨さ、火が通っていてまるで熱々のスープの様な味わい深さがあるぞ」
「……」
「うーむ、宝石がこんなに旨いとはのう。ワシ、石食主義者になりそう」
「うんうん、焼きは正解だったな。同じ火を通す調理でも煮込みだと水分が余計な気もする。揚げるのが最適解かな?見た目も石っぽさが無くなる」
「……なんで」
「では投票と行こうかの。『ブループラネット』が美味いか美味くないか。ワシは、まあ見ての通りじゃ」
「オレも当然美味い、だ」
「……なんで」
「……ビスケ?」


「何でこんなのが美味しいわさーっっ!!!」


「ほい三票」
「悪食アンタッ!どうしてくれんのよ!新しい宝石見るたびに『あ、美味しそう』とか思っちゃったら!!責任とれんの!?」
「うーん……じゃあ俺に宝石持って来てくれるんなら調理を……」
「そういう事言ってるんじゃないわさ!!!」
「えー?」


「あ、じゃあ責任とってビスケを娶る……ゴメン、やっぱ無しで」
「ふざけクサレこの野郎ッ!!!」
「どっひょぅ!?K・G・Y(きゅうな・ゴリラモードは・やめたまえよ)!!」
「うるさい!死ね!」
「死ねと言われて死ぬアホがどこニベアッ!?」

「ワシ、しーらねっと」


 賭けはうやむやになった。


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俺の知ってる『料理長』の職務を超えてる……

一応原作開始前と言う事でイル兄の実力に下方修正入ってます。一応ね。
細かい時系列決めてないけど!


「すみません坊ちゃま。今なんておっしゃいました?」

 

「聞こえなかったの?オレの依頼に同行しろって言ったんだけど」

 

「すみません坊ちゃま。ワタクシ休日に外出すると発作の喘息が」

 

「返事はハイかイエス以外聞かないけど」

 

「くっそこのナチュラルブラックめ。兄弟が全然仕事しないから結果的に殆どの仕事を請け負ってる面倒見の良いお兄ちゃんが」

 

「同行しないって言うのなら全力で殺してやるけど」

 

「やめていただけませんかねぇ!?」

 

 おーっす未来のプロハンター。俺はしがない雇われハンター(プロ)だ。プロのハンター世界、気を抜くと30連勤なんて当たり前。酷い時は365連勤とかありえる。だから自分の休日は自分で管理するんだぞ!お兄さん(年齢不詳)との約束だ!

 そして今、俺の貴重な休日(毎週二日休み)を潰そうとしているのが俺が仕えるゾルディック家の長男坊、表情筋の死んだイルミ坊っちゃんだ。俺の知ってる中で一番執事を殺してるヤベー奴。俺もいつか殺されるゾ♡

 

 ただでは絶対死なんがな。

 

 とにかく今は俺の貴重な休日(月に8回以上、有休完備)を削られる訳にはイカンのだぁ!!

 

「イルミ坊っちゃん、料理長の俺が不在の間ゾルディック家の食事はどうするんですか!」

 

 

 

「え?料理長?まあ、居なくても献立は変わらないし……」

 

「レシピ通り作れば問題ないですし……」

 

「と言うか一年後までの献立とレシピ揃ってるんで料理長居なくてもいいというか」

 

「加工済みの食材も揃えて保存されてますし」

 

「我々もレシピ通り完璧に作れるように鍛えられてるんで」

 

「正直料理長居なくても問題無いですね」

 

 

「オメェ等ァ!!」

 

「まあ楽して一年後まで何もしないってのも問題だと思うんで。イルミ様、どうぞ遠慮なく連れ出してくださいませ」

 

「だそうだけど?」

 

「チクショオオオオオオ!!真面目に献立作った先週の俺馬鹿野郎!!!」

 

「面倒だからって一年分の献立を纏めて作った料理長の失態では?」

 

「グリード、キミ給金貰っておきながら仕事放棄する気なの?」

 

「イルミ坊っちゃん、それはちゃいますねん。ちゃんと俺は給金分の一年の仕事を先駆けて終わらせる、言うなれば夏休みの宿題を初日で終わらせる真面目ちゃんですねん」

 

「ふーん。じゃあ親父に報告しても問題無いね?」

 

「殺されるんでやめてくださいませ」

 

 そうして俺はイルミ坊ちゃまのオシゴトに付いて行く事になった……。ドウシテコンナコトニ……。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 気球に揺られてエーニャコラ。目の前を横切った怪鳥をさっくり捌いて今日のランチにする。

 オーラで米を焚きながら『周』で強化した包丁を使って骨ごと真っ二つに断つ。同時にオーラで凍らして辺りが血で汚れるのを防ぎ、その後内臓を瞬時に取り分け鉄串を打つ。凍った血は味付きのオーラを混ぜ込んでクリーミーシェイクに。イルミ坊っちゃんにシェイクをお出ししつつ肉を特製のタレで煮込む。骨は隠し包丁で食べやすくなるようにバラバラ刻む。

 そうこうしているうちにオーラで熱していた調理用溶岩プレートが赤熱してきた。真っ赤に燃え上がる溶岩に鉄串を打った内臓(モツ)を乗せる。この際内臓(モツ)を『周』で覆っておかないと一瞬で焦げ肉が出来るので注意。超高温でじっくり火を通し、その間に165℃の低温油で衣を付けた骨を揚げる。約30秒後、油の温度を一気に190℃まで上昇させ、衣をカリッと仕上げる。カリカリザクザクの骨天ぷらが出来る、揚げたては揚げたてで美味しいが、ちょっと置いておくと更に美味しくなるのでちょっとだけ置いておく。

 ご飯が炊けたので丼によそい、その上に灼熱で焼いた内臓(モツ)串をそのまま乗せる。そして内臓(モツ)串の上に骨天ぷらを乗せ、最後に煮込んだ肉を煮汁ごと丼全体にかければ……

 

「俺謹製、『怪鳥クックの全身仕込み丼』!灼熱マグマ、熱々のまま召し上がれ!」

 

「いただきます」

 

「イルミ坊っちゃん?俺がまたあーんしてやろうか?」

 

「死ね」

 

 針がハヤブサの如き速度で飛んでくるが何事もなく俺の胃の中に入っていった。昔はもっと可愛げがあったんだけどなー!

 いや、言う程可愛げなんて無かったわ。

 イルミ坊っちゃんは無言で怪鳥丼を食べ進める。美味いであろう?そうであろう?……さて、俺も昼飯にしますかね。真っ二つにした怪鳥は、半分はイルミ坊っちゃんの分だが残り半分は当然俺の分だ。俺も丼にご飯をよそい、内臓、骨、肉をぶっかけて食べる。

 

「うむぅあい!一口食べるだけでガツンと殴りこんでくる肉の暴力的な味わい!肉を噛めば中からジューシーな旨味汁が!骨天を噛めば楽しい食感が!内臓を噛めばコク深い味わいが!そして煮汁のかかった白米は幾らでも食べられるっ!俺は今、空を飛び続ける怪鳥のスタミナを余す事無く食っている!」

 

 さすが俺。自画自賛。

 だって俺が褒めねば誰も褒めてくれねんだもん……。イルミ坊っちゃんは食べる時は無口だし……。

 美味すぎてあっと言う間に完食。手早く作れて(超技術)腹にたまって(怪鳥のサイズはゴリラ並み)熱々で言う事無し!まあ、この丼の唯一の欠点は灼熱の熱さを冷ます間も無く食いきってしまうから口の中がとんでもない事になる点だな。溶岩を食った時並みに口のなか火傷しそう。

 ほら、イルミ坊っちゃんも無言で口の中を火傷して

 

 

 火傷してない……だと……!?

 

 

 

 そうこうして約半日ほどかけて目的地に到着する。イルミ坊っちゃんのオシゴト……すなわち、暗殺。誰かが殺したい人間を、えげつない金銭と引き換えに代わりに殺す仕事。広い世界、一家で暗殺家業をしているところなんてそれこそゾルディックだけ……だと思いきや、ぼちぼち他にもあるらしい。まあ一番有名で、実績もあるのはゾルディック家だろうが。

 

「今日はとあるマフィアの頭と次期頭を殺す仕事だよ」

 

「はー、さいですか。……それで、なんで俺がイルミ坊っちゃんのオシゴトに付いていく必要があるんでぃすかね」

 

「今から潜入する場合で開催されるパーティにそいつらが参加するんだ。そのタイミングを逃すと雲隠れして面倒になる。だからパーティのスタッフとして紛れ込んで殺そうって魂胆だ」

 

「それで実際に調理スタッフとして料理の腕がある俺をカムフラージュに、そのマフィア共に近づいて殺すってことかいな、はぁーメンド。パーティー参加者全員爆殺したら良いんじゃないかな」

 

「不必要に被害を拡大させないのがオレ達ゾルディックの流儀だよ。それに標的の護衛に腕のたつハンターがいるらしい。確実にこの機会を逃さないように尽力してもらうよ」

 

「へーへー、了解しましたー」

 

「じゃあ変装するからコレ、刺して」

 

「……この針を、誰に?」

 

「グリード自身に」

 

「……何処に?」

 

「顔に」

 

「……冗談だろ?」

 

「ああ、冗談だ」

 

「わお、クールな顔してなかなか洒落の効いたギャグぶっこんできやがったなこのやろー」

 

「それは『針人間』用の針、変装用はこっち」

 

「冗談キツいぜまったく!」

 

 針人間ってあれだろ……?人を操り人形に変えるアレだろ?そんなん顔に刺させるなっつねーん!

 うーらー!刺せばええんやろ刺せば!!

 

 刺して、鏡を見ればあらいやだ。なんと可憐な美少女が。

 

 

「えっ、イルミ坊っちゃんこういうTS趣味……?」

 

「似合ってないね」

 

「うるせーやい」

 

 いや、やりたいことは分かる。こう見えて俺の顔はかなり広いからな。伊達に一ツ星ハンターではないから、素顔のままこういった潜入は難しい。だからまさかこんな美少女の正体がグルメハンター(プロ)だと思いもしないやろーなー。ハハハハ。

 

「変わってるのは顔だけだから体に変化はないよ。だから下手に動いてバレないように」

 

「了解でーおまんがな」

 

 まあ別に元の顔にこだわりなんて無いから女顔になっても気にしないんだけど。や、声が変わってるのはちょっと気になるな。

 イルミ坊っちゃんと別れ、パーティ会場とやらに堂々侵入。調理場に入ると料理の仕込み中だったスタッフ数十名がこっちを見る。

 

「あんた誰だ?ウチのスタッフじゃねえな。ここは関係者以外立ち入り禁止だぜお嬢さん」

 

「俺は急きょ追加で雇われた料理人だ。責任者は誰だ?」

 

「ああ?俺が調理責任者だが、んな話聞いてねえぞ」

 

「アンタが聞いてないっつーのは知らん。だが俺が帰ると困るのはアンタじゃねえのか?」

 

「っち、口の悪いオンナだ。今ボスに確認してくる」

 

「そんな暇があんのか?もう料理を作り始めないと間に合わねえんだろ?」

 

「……けっ。おいお前、余計なマネしたら即座にブッ殺して皿に盛ってやる」

 

「あぁ?お前こそ生ごみ作りやがったら俺が捌いてやるよ」

 

「ハッ!威勢は結構じゃねえか。今からオレ等が何作るのか知って言ってんのか?」

 

「馬鹿にしてんのか?そんなモンいまソコの奴等が下ごしらえしてるモンみりゃ予想はつく。『カニバルパーティ』ってか?俺の故郷じゃ人食いなんて珍しくもねえや」

 

「フン、分かってその態度なら及第点だ。いいか?このパーティに参加する奴一人でも『不味い』なんて口にしようもんならその瞬間ボスのメンツは丸つぶれだ。そうなったらオレ等料理人は全員銃殺だ。勿論臨時で雇われたテメェも例外じゃねえ、気合い入れて料理しろ」

 

「あぁ?お前気合い入れなきゃ料理一つ出来ねえのか?」

 

「……んだと?」

 

「客に『不味い』と思われたなら、それは俺等『料理人の死』だ。そん時は持ってる包丁で自分の首を掻っ捌く。気合いなんて態々入れなくてもソレが平常。んなら()()()()()料理するだけだ。違うか?」

 

「……く、くくく。コイツは中々イカレた奴が来たもんだ!気に入った!お前名前は?」

 

「グr……『ダイモ』だ。よろしくね」

 

「ダイモか!この仕事が終わったら正式にウチに来い!」

 

「悪いな、ムサい男しか居ない職場なんて真っ平ゴメンだ」

 

「ハッキリ言う奴だ!胸さえありゃ文句無しの美女なんだがな!」

 

「余計なお世話だ」

 

 (一応)男だからな、胸なんて要らねえよボケ。

 ともかく調理スタッフとして潜入は出来た。後は『美味すぎて死ぬパーティ料理』を作って俺の仕事は完了、イルミ坊っちゃんの出番は無くなるかもだが結果的に対象が死ねばいいだろ。

 

 

 ◇

 

 

 ほんのつい先ほどまで非常に騒がしかったパーティ会場は静かになっていた。それもこれもまず間違いなくグリードの所為であろう。

 給仕スタッフとして潜入したオレはその一部始終を全て目撃していた。最初は中小規模のマフィアの小競り合いから始まっり、大規模マフィアの頭は表面上同じ規模同士の組の頭と仲良さげに歓談していた。そうしてこのパーティの主催が簡単な挨拶をし、スタッフに合図を送ることで一斉に料理が並べられる。このパーティは普通のビュッフェ形式だ。ビュッフェ形式の場合、誰もが料理に手を伸ばせる事から、誰でも簡単に毒を盛る事が出来る。故にこういったパーティでは誰かに恨まれている自覚のある者は料理を取るだけ取って口にしない事が多い。常識だ。

 ……だが、それは『普通』であった場合。そんな常識をブッ壊す存在をオレは知っている。

 大きなドームカバーが外された瞬間、騒がしかったパーティ会場は一瞬静まり返った。

 その『香り』は余りにも強力で、奥ゆかしい。強烈な存在感をアピールし、自身を喰らう事を望んでいる『料理』がそこに存在した。

 ソレを料理と呼ぶには余りにも異形であった。芸術品の様だ、と口を漏らす男が居た。

 

 

 しみ一つない、一糸纏わぬ純白の少女。瞳は閉じられ、永遠に開くことは無い。その両手は天井に向けてのばされ、まるで誰かを迎える様に開いていた。

 

 

 テーブルの上に横たわる少女は間違いなく死んでいる。だが『生きていた』。今にも動き出しそうな血色であるが、胸部から生えている飴細工の薔薇と、薔薇の花に加工された心臓が少女が死んでいる事を証明している。だが『死は眠りである』と言わんばかりのその血色は、寝息が聞こえるのではないかと錯覚した。

 仕事柄『死』と『生』によく触れる自身ですら『生きている』と一瞬錯覚した程である。参加者が『本当に生きて、眠っている』と勘違いするのも理解できる。

 

 そして再度騒がしくなる会場。唯一違う点は、口に出す内容が全て目の前の料理の事のみな点。

 一人の男がその『料理』にフラリフラリと近づいていく。その男は今回の仕事のターゲットの一人だった。

 男に釣られるように、より正確に言うのなら『料理』の放つ魔香に釣られるようにふらふらと複数人が『料理』に近づく。そしてターゲットの男が『料理』に手を伸ばし……

 

 そのまま噛みついた。

 

 少女が目を見開き、悲鳴をあげる……幻覚が見えた。だが実際には少女は既に死んでいるから悲鳴をあげようも無い。男が噛みついた所から強烈な血の匂いが立ち込め、その瞬間他の参加者は我先にと()()()()()()()の如く『料理』に噛みつき、その咬合力で少女を解体していく。

 わずかばかりの後、テーブルの上には骨すら残されず、少女がそこに居た痕跡はテーブルクロスに残された血痕のみだった。

 『料理』を食べた参加者の内、半分は『生きた人間を食べてしまった』事により発狂し、残りの参加者のほとんどは『料理』の余韻に恍惚と浸り、僅か数名は心臓が止まっていた。

 

「うああああああああ!!!」

 

 発狂した参加者の中には念能力者も混ざっており、自身の念能力が暴走している者、無意味に『練』をする者、他者を念で攻撃する者が数人いる中で、それ以外の念能力者は『自身の能力に食われた』。

 ターゲットの内の一人は発狂し、自身の手首や首を執拗に掻き毟っている。だがもう一人はその狂乱の外にいた。この混乱に乗じて始末しようと残りのターゲットに近づく、と。

 

「止まれ。それ以上近づいたら『撃つ』」

 

 右手に短刀、左手に小さな丸盾を装備した女が割って入ってきた。やっぱり警戒されてるか。

 

「お前がこの騒ぎの犯人か、もしくは関係者か」

 

「そうだと言ったら?」

 

「……ボスを狂わせた代償を払って貰う」

 

「レイラ、気を付けろ。ソイツはずっとこのホールに居た。『アレ』を作ったヤツが別に居る」

 

「了解です若」

 

 面倒な事になったな、オーラをみる限りこの女が腕の立つ護衛らしい。ただターゲットの一人が発狂しながらも生きているから、若と呼ばれたもう一人のターゲットは逃げる気配がない。逃走用の念がない限り逃げられる事はなさそうだ。

 針を女とターゲットの頭に投げる。しかし女が右手に持ってる短刀を振るい、投げた針全てが叩き落とされた。成程、本当に腕は立つようだ。ならこれならどうかな。

 

「っ、若。気を付けてください」

 

「なんだ……!?あれは針……?」

 

 自身の能力に食われていない念能力者に針を撃ち込み操作する。『近くにいる女の念能力者を殺せ。』

 

「動いたっ!?操作系能力者か!」

 

「若、下がって」

 

 強化系能力者が自身を砲弾に変え突進する。女はそれを短刀ではじき反らす。

 放出系能力者が念弾で女を撃つ。女は盾を突き出し、正確に念弾を叩き返し殺した。

 具現化系能力者が槍を作り出し、投擲する。女は短刀で撃ち落とした。

 女の念能力がなんとなく分かってきた。針を恍惚として動かなくなっていた男の頭部に刺し、女を銃撃させる。女は短刀を使って正確に銃弾を叩き落とす。

 次は特別製の針を近くの男の頭部に刺す。『近くの女を殴り殺せ。』

 針人間は素早い動きで女に肉薄し、拳を振り下ろす。そのタイミングで強化系念能力者が再度自身を砲弾に変え突進する。

 女は短刀で針人間をいなし、盾で能力者を撃ち殺した。

 

 大方、短刀は防御専門、盾は攻撃専門って所か。

 

「(肢曲)」

 

 攪乱しつつ針を直接ターゲットに向けて放つ。

 

「若っ!?」

 

 女は短刀で針を叩き落とすが、直後投槍が女に刺さる。具現化系能力者が二本目の槍を作り出して投げていた。槍の勢いそのままに女が壁に突き刺さる。

 

「レイラ!!」

 

 ターゲットが護衛に目を向けた瞬間、その頭部に針を撃ち込む。任務完了。

 

 

「おー、イルミ坊っちゃんオシゴト終わりました?」

 

「グリードの所為で余計に時間掛かった気がするよ」

 

「ひでえな。じゃあ次から俺を暗殺家業に巻き込まんでくだせぇな……ん?」

 

 壁に突き刺さっていた女から膨大なオーラが顕現する。これは……ターゲットの方の念か?

 

「ありゃぁ……坊っちゃんあれヘマしたな。死者の念だぞアレ」

 

「げ」

 

 次の瞬間、女は刺さっていた槍を握りつぶし、真っすぐオレに向かって動き出した。

 盾を突き出しオレに体当たりをする。両腕でガードし、咄嗟に後ろに跳んだが勢いを殺し切れず、更に両腕の骨、あばらがもってかれた。

 

「大丈夫か坊っちゃん!」

 

「両腕が使えなくなっちゃった」

 

「余裕そう!」

 

 実際は余裕でもないが。具現化系能力者の三本目の投槍が放たれる。今度は盾ではじき返し、倍以上の速度をもって具現化系能力者の頭部に突き刺さり爆散した。

 盾の反射攻撃やシールドチャージの威力が倍増している。短刀の防御も相応に高くなっていると考えた方がよさそうだ。

 しかしターゲット……雇い主が死んだ今、何故まだ戦闘を継続するんだ?

 

「感情的な理由か、死者の念に操作されてるか、まあどっちゃでもえーですがイルミ坊っちゃんが殺されると俺もオマケで殺されそう。逃げても当主様に殺されるだろうしよぉ……」

 

「そもそもあの速さから逃げられるの?オレでも咄嗟に対応出来ない位速くなってるけど」

 

「伊達にハンター(プロ)名乗っちゃねえや。生き残る事にかけても優れてるんで俺。……とはいえ流石にこれはちょっちキツイなー」

 

「何とかならないの?」

 

「なる」

 

「なるのかよ」

 

「流石に死者の念を食らうのは初めてだなぁ、どう調理すれば美味くなるかなぁ」

 

「そればっかだなグリード」

 

 と言うか念を食うって言ったか?

 女が再度盾を構えてオレに向かって突進してくる。

 だが、同時にグリードも女とオレの直線状に割入ってきた。そして次の瞬間グリードがトラックに撥ねられた犬の様に吹き飛んで行った。

 ちょっと?

 勢いそのまま、女が突進を続けるから跳躍して攻撃を回避する。来ると分かってる攻撃を避ける事自体は簡単だ。

 通り過ぎていった女が振り返り、また突進の姿勢になった。その時、

 

 女の持っていた短刀と丸盾が消滅した。

 

 女が目を見開く、その隙に折れた腕を無理矢理振って女の頭に針を刺した。

 

「……グリード、何をした?」

 

「攻撃を()()()()んでさぁ……」

 

 視線の先には、モグモグと口を動かすグリードが居た。派手に撥ねられていたが怪我らしい怪我は無いようだ。

 

 『霞喰仙人(オーライーター)』『食材』として加工したオーラ及び『念能力』による攻撃を受けた際に発動する。そのオーラ及び『念能力』を口腔内に瞬間移動させる。

 

 やはりグリードはオレの理解を超える正体不明(ナニカ)のようだ。なんにせよこれで仕事は終わった。目撃者も会場内のほとんどは死亡ないし発狂しているし後は帰るだけだ。

 

「あ、ちょい待ちイルミ坊っちゃん。『食材』の確保してくるんで」

 

「……言っておくけどウチは好き好んで人肉食べないよ」

 

「俺個人用というか、トレード用というか……まあゾルディック家の食卓には並ばないんでお気になさらず」

 

「あっそ」

 

 そう言ってグリードの()()()を眺めている。速さに関してなら間違いなく親父以上だな。

 

 

 

 そうして両腕が折れたオレとホクホク顔の(元の冴えない顔に戻った)グリードは共にククルーマウンテンに戻った。

 オレの両腕が折れた事でグリードは母さんから叱られていた。

 

「俺よりイルミ坊っちゃんの方が強いんだからムチャ言わんでください」

 

「お黙りなさい!盾でも壁でもどうにでも出来たハズでしょう!!」

 

「命並に大事な両腕が折れちゃうんで嫌ですキキョウっち」

 

「今の貴方は使用人である事を忘れないで!!」

 

 

 ……キキョウっち?

 




蟻編入ったらシレッと王の給仕してそうな主人公であった。
念を食うとか強キャラムーブやなぁ!

 個人的考察ですけど『念』って単純に命賭けるより『狂気染みた想い』を賭けたほうが強くなる感じがします。念って書くくらいですからね。
 ネテロ会長も感謝の正拳突き1万回っていう狂気の沙汰を日課にしたからこそ百式観音のあの強さですし、ゴンさんも言わずもがな。

 つまりウチのグリードが強キャラなのは何一つおかしくないな()。


『グリード=ダイモーン』

特質系能力者

 目の前のあらゆる物を美味しく加工する一ツ星の『グルメハンター』。
 たとえ毒でも、人間に消化出来ない物質でも、実体を持たないオーラでも、彼には等しく『食材』なのである。故に他人からは『悪食グルメ』と呼ばれている。同様に彼の作る料理のファンも多い。
 『死ぬ前に食べたい料理』堂々の一位である『死ぬほど美味い猛毒キノコソテー』は彼の得意料理で、死刑に処される囚人の最後の晩餐に選ばれる人気料理一位でもある。食ったら(大抵の人は)死ぬから。その所為であらゆる国から死刑が廃止されたという説がある。
 活動的ではなく、ハンター証が無いと入れないような地域に積極的に向かうような性格ではない。更にハンター専用の情報サイトも使わなければその他ハンター証の特典に魅力を感じなくなったグリードは一ツ星を得た時そのまま売った。親交の無いプロハンター達(星付き含む)からはプロ失格と蔑まれてる。働かなくても死ぬまで遊んで暮らせる程度に金を持っているが、現在ゾルディック家の料理長として働いている。完全週休二日制、有休有。

 彼の偉業は、特殊な『念能力』を必要としない『グルメレシピ』の開発。無論特殊な調理器具は必要とするが、『一般販売している道具』で本来食べられないモノを使用した料理を誰でも作成できるように書いた『レシピ』は食糧難に陥っている国で爆売れ。
 更に表には出してないが、野に放たれたら厄災クラスの被害が予測される『暴食バクテリア』の無害化に成功している。『暴食バクテリア』は金属やガラス等の物質だけでなくオーラや具現化された物も分解してエネルギーに変換してしまう。当然土や木、水も全てエネルギーにしてしまうので放置されていればいずれ大陸一つと言わず人間界全てがエネルギーに変換されていた……かもしれない。

 偉業である『グルメレシピ』だが、自分で作ったレシピを彼は使わない。何故なら美味しく加工する為に『念』を使うから。
 彼の能力は『何時でも何処でも何でも美味しく食べる』事に特化している。執着しているとも言える。オーラを使って超高速で食材を調理・味付けをすることが出来る。グリード曰く『水見式各系統の応用』だからメモリを使った『念能力』ではない、らしい。食材自体の水分量を増やし、水分子を高速で動かしたり止めたりして火を通したり冷ましたり、増やした水分の味を自在に変化させて甘味や塩味等を調整、水分内に不純物を生成する事で食材の細胞を破壊したり逆に歯ごたえを増したりと自在に瞬時に操る。故にオーラの届く範囲内は彼にとって厨房内に等しい。
 戦闘は苦手と言うが、戦いながら相手を料理して『念』ごと相手を食う異常者。彼にとって『戦闘』と『料理』は完全に別物。『隠』『円』は非常に苦手として、『周』は非常に得意。

 性格は自分第一主義。目の前の見知らぬ他人が死んでも何とも思わないが、遠くの顔も知らぬ他人の事を慮ることが出来る歪な精神構造をしている。ある意味流星街的。
 料理の事には一切の妥協を許さず、常にその場で出せる最高以上の料理を作る事を信条にしている。だがこれは『自分が最高に美味いと思う料理を作りたい』というのが第一。人に料理を振る舞うのは趣味の一環だが『料理人』である事にプライドがあり、食材は選ばないが『客』を選ぶ。


食材ポケット(どこでもキッチン)』 特質系能力
 食材、調味料を異空間に保存、取り出す能力。調理道具は無理。
基本的な味付けは変化系オーラの発で味を変えるのだが、基本の味付けだけで出すのが難しい味や香り(胡椒のスパイシーさ等)の調節の為に数多もの調味料が入っている。
 食材、調味料等『食べられる物』を大量に入れる事が出来、『食べられない物』『食べない物』は入れられない。内部は時間の進みが遅い。


悪食万歳(デビルキッチン)』 特質系能力
 色々なモノを『食材』として加工する能力。通常の人間には食べられない、消化出来ない木や岩、土、布、人間等を『食材』に加工する。
 『食材』として加工された物は人体にとって有益、或いは無害なモノとして判断される。故にその物自体の味を味わうことが出来る。
 人体にとって有害なモノは脳の信号によって半強制的に『不味いモノ』として扱われるため、素材本来の味を楽しむ為に作成された能力。
 鍛えに鍛えた為、加工の工程を瞬時に終えられる。ただし流石にネテロ会長の百式観音を捕らえるのはムリポげ。
 副次的効果としてオーラ及び『念能力』『念獣』『具現化された物質』も食べられるようになった。


身支度(インスタントアピアランス)』 特質・具現化系能力
 コック服に着替え、自身の身だしなみを整え、清潔、衛生的に問題ない状態に変化する能力。
 直前まで肥溜めに浸かってようが衛生的に一切の問題無い姿に変化する。コック服はきちんと洗う事。
 これも副次効果があり、自身が出血を伴う大怪我をしていたり、『念能力』による攻撃を受けて自身に異常が発生してる時に使用すると怪我や異常が回復する。ただし清潔、衛生的に問題ない状態だった場合には使えないし、出血による体力低下は回復しない。


霞喰仙人(オーライーター)』 放出系能力
 『食材』として加工したオーラ及び『念能力』による攻撃を受けた際に発動する。そのオーラ及び『念能力』を口腔内に瞬間移動させる。
 カウンタータイプの能力。前述の悪食万歳(デビルキッチン)によって加工された『念』で攻撃された場合、その攻撃に使われたオーラや『念能力』『具現化・変化した物質』を好きなタイミングで食べることが出来る。巨大すぎる物は事前に分割しとけよ!



なんか矛盾とかあったら気にしない方向で!教えてくれたらコッショリ修正しておきます。

つ づ く !!!


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試験官ごっこ(本物)も楽じゃないお……

なんか確認したら日間ランキング5位だったってよ。
それと週間ランキングにも乗ってたってよ。
お祝いに毎話感想かいて♡

感想であったようにハンター試験の試験官を(どうにか)やってもらいます。


「えー俺が試験官?人選ミスでは?」

 

一ツ星(シングル)で、かつ時期的に余裕のある人員が今貴方しか残ってなくて……お願いできませんか?』

 

「そー言われてもなぁ。まあ今の仕事を抜け出すこと自体は問題ないんだが……えー試験官?誰かを試す経験なんて全然ねえぞ俺は」

 

『勿論試験内容は相談に乗りますよ。基本的にハンターとしての資質を問う試験なのが前提ですが』

 

「資質と言われても。他人にハンターの資質を問えるほど俺ハンターやってるか?」

 

『貴方も十分ハンターとしての資質はあると会長はお考えです。勿論私もそう思ってます』

 

「うぬ、マーさんにそこまで言われると照れるぜ。ふーむ……分かった、受けるよ試験官」

 

『本当ですか!?ありがとうございます!』

 

「おー。ところで他の試験官は誰が居るんだ?確か試験って四次くらいまでなかったか?」

 

『基本的に受験生の数によって増減するのですが……現在グリードさん含めて3人ですね。美食ハンターのメンチさん。賞金首ハンターのトガリさん。そしてグリードさんですね』

 

「ほーん、聞いた事ねえわ。美食ハンターとグルメハンターで被ってない?大丈夫?」

 

『やってる事は全く違うので大丈夫です。それになるべくテスト内容が被らないように調節はしますから……』

 

「……まあ、ソッチがそれでいいってんなら俺が何か言う必要もねえな。人手不足は何処の世界でも大変だねぇ」

 

『いやぁ、今回はちょっと偶々と言うか……それで、全員の顔合わせついでに全体の流れの調整をしたいのですが、いつなら時間取れそうですか?』

 

「んー、緊急で呼ばれない限りいつでもええよ」

 

『分かりました。ではまた後日連絡入れますのでよろしくお願いします』

 

「あいー、ご苦労さんー」

 

プツッ

 

「っつー訳でゴトーさんや。来年の初めくらいから長期で仕事休む事になった」

 

「ああ?まあ事前に献立とレシピ作っておけば全然問題はねえが……どれくらいの期間休むんだ?」

 

「まだ分からん。一応俺が受けた時は一月程度かかったからそれくらいだろう」

 

「一月ねぇ……分かった、それくらいなら大丈夫だろう。一応細かい予定が分かり次第また連絡しろ」

 

「おうよー」

 

 はあいジョージィ!!俺はしがない雇われハンター(プロ)だ。そして来年の頭くらいからしがない試験官になるハンター(プロ)だ。

 ぶっちゃけ試験とか何すればいいんだ?俺が試験受けた時既に『念』を使えるようになっていたから全然記憶にねえ。記憶に残らない程度には苦戦しなかったが……なんか山を走り回ったりかくれんぼしたり色々したような……?まあいいか、困ったらマーさん頼ろう。

 

「それでゴトーさんや。俺にどういったご用件で?」

 

「ついさっきゾルディック家に乗り込んできた賞金首ハンター共だがな、実力自体は大したことなかったが面倒な『念獣』を置いていかれた。無駄に犠牲が出る前に解除を頼む」

 

「俺は除念師じゃねえぞ……」

 

「イルミ様から聞いたが相手の『念能力』を食えるんだってな?なら変わらねえだろ」

 

「いやまあそうなんだが……はぁ、よし。ならゴトーも食え。それなら受けてやる」

 

「ああ!?何で俺を巻き込むんだ!?」

 

「いや、実力者の『念』は美味いんだが弱い奴の『念』はちょっとなぁ……安っぽい菓子みたいな味するから嫌いなんだよ」

 

「好き嫌いすんなグルメハンター」

 

「グルメだから好き嫌いするんやで?」

 

 

 念獣はクソ不味かったから何とかして美味しくした。

 

「『クソ念獣のコーヒーミックスジュース』をどうぞ」

 

「……ああ、まあ……コーヒーとしては悪くはねえけどよ……」

 

「苦味と酸味を処理するのが難しかったお……」

 

「いやその前に見た目をもっとどうにかしろよ」

 

 美味しく……まあ及第点だな!

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 マーさんから連絡が来て一週間、打ち合わせの為に呼ばれた場所であるハンター協会本部の小会議室に入る。

 するとそこには上半身裸に毛皮コートを着た変態男と下着姿に烏避けの網着てるような変態女が居た。

 俺は一旦部屋の外に出て部屋のプレートを確認する。うん、小会議室1だ。マーさんが言ってた集合場所も小会議室1だ。部屋の中を見る。変態男と変態女、そしてよく見たらマーさんもいる。

 

「……」

「……」

「こんにちはグリードさん。では今季ハンター試験の打ち合わせを始めましょうか」

 

 俺は黙って扉を閉めた。

 帰ろう。なんかちょっと眠いし怠いし腹減ったし今日は万全じゃない。ゆっくり休んで明日から頑張るんだ

 

「ちょっと何処行くんですか!!?」

 

 バンッとマーさんが扉を開けて俺に呼びかける。

 

「勘弁してくれ。俺をあの変態達と一緒にする気か」

 

「恰好はともかく性格は貴方も十分変態ですから大丈夫ですよ!」

 

「すげえ事言うぜマーさんなにいきなり罵倒してる訳?」

 

「ちょっと!話進まないじゃない早くしてくれる!?」

 

「オレ達だって暇じゃねえんだ」

 

 仕方がないので会議室の中に入る。本当に仕方ないが。

 

「なんでお前等そんな……なんだ、そんな害獣避けみたいな服装してんの?」

 

「が、害獣避け!?ファッションよ文句あるの!?」

 

「胸まるだし腹まるだしのファッションって何だよここは海じゃねえぞ」

 

「はぁ!?何処見てんのよ変態!」

 

「すげえ今の一瞬で矛盾を感じる」

 

「……あの、打ち合わせ始めていいですか?」

 

「いいよ」

 

 そんなこんなで自己紹介から始める事に。

 

「俺はトガリ、賞金首ハンターだ。エモノは曲刀を使ってる」

 

「アタシはメンチ、美食ハンターよ!」

 

「俺はグリード、グルメハンター(プロ)だ。よろしくね」

 

「……グリード……グルメハンター?アンタまさか……一ツ星(シングル)ハンターのグリード=ダイモーン?」

 

「いぐざくとりー」

 

「何っ!?シングルだと!!?」

 

「ちょっと!?なんでこんなふざけた奴がハンター試験の試験官に選ばれるのよ!!?」

 

 すげえ言われ方、俺もそう思ったけどさぁ。

 

「こんな……こんなプロ失格の奴が試験官!?笑わせないで!」

 

()()()ですが彼はれっきとした一ツ星(シングル)ハンターです!」

 

「自分のハンター証も守れないで一ツ星(シングル)!?ふざけてるわ!」

 

 今日のメシ何にしようかなぁ。うーん、カレー……ステーキ……カツ丼……。

 

「大体こんなちゃらんぽらんな奴がどうやって試験するってんのよ!」

 

「確かに見た目は()()ですが彼はやる時はやる人で」

 

「マーさんさっきから俺になんの恨みがあるん?」

 

 あれか?このまえ会長の暇つぶしに付き合わなかったから恨まれてるんか?

 

「……とにかく!彼は試験官として十分にハンターの資質を備えてます!」

 

「オイ、アンタ『プロ失格』って何したんだ?」

 

 裸毛皮コート(トガリ)がひっそり俺に話しかける。

 

一ツ星(シングル)のハンター証を売っただけだ」

 

「ハァ!?」

 

 うるせえ、いーだろ別に使わないんだから。

 

「とにかくアタシはこんなのと一緒に試験とか嫌よ!」

 

「ですが彼以外には……」

 

「だからアレとは……」

 

 喧々諤々。

 

「帰っていいか?」

 

「顔合わせはともかく打ち合わせはまだ始まってすらいねえよ」

 

「とはいえちょっと腹減ったなぁ」

 

 御茶請けの煎餅をガリガリと齧る。うん……微妙。

 すると、何処からかグゥ……と腹の音が。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 発生源に目を向けると何とも言えない顔をしている女が。

 

「あー、はいはいなるほどね。要するにあれだ、お前腹が減って気が立ってた訳だなさては」

 

「はあ!?減ってないし!今のアタシじゃないし!」

 

「分かった分かった。まあここに折角美食ハンターとグルメハンターが揃い踏みしてるんだ。ここは一つ飯にしようぜ、うんうん」

 

「何分かった気になってんの!?違うから!!」

 

「じゃあこうしよう。俺とお前で料理勝負と行こう。俺が勝ったら俺が試験官する事に文句を言わない。お前が勝ったら俺は試験官を降りる。これでいいだろ?」

 

「ちょ、グリードさん!勝手にそんな事決めないでください!万が一グリードさんが負けたらどうするつもりですか!?」

 

「そん時はそん時だ。おーし協会の厨房借りに行くぞー」

 

「ちょっと!何勝手に話進めてんのよ!」

 

「あ~?なんだオメー料理勝負で負けるのが怖いのか?美食ハンターの名が聞いてあきれるぜ」

 

「は”あ”あ”?一ツ星(シングル)だからって調子乗らないで!アンタの『グルメレシピ』見たけど、あんなモンより美味しい物なんて幾らでも作れるわよ舐めんじゃないわ!!」

 

「いや、美食ハンターならアレより美味いモン作ってくれないと困るんだが……」

 

「あの、打ち合わせ……はぁ、もういいデス……」

 

「まあ折角だし美味いメシ食ってから改めて打ち合わせしようぜ」

 

「うう、一番酷い見た目のトガリさんが一番マトモだとは……」

 

「おい」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……うん、まあ……なんだ。一つ言わせてもらうとアレだ。多くね?」

 

 ハンター協会本部のA厨房。厨房とは言うが、実際はキッチンとダイニングルームが合体したような部屋だ。狭くはないが、決して広くもないそこに今、男女合わせて7人押し掛けている。

 

「ほっほ、美味いメシを期待しとるよ」

 

 一人はハンター協会の会長。暇なんかお前。

 

「毒料理には期待してるわよ」

 

 一人はハンター協会『十二支ん』の巳。一応知り合い。

 

「……」

 

 一人は……誰だ?顔に仮面を付けた変人。

 それとマーさん、変態男(トガリ)変態女(メンチ)、俺で7人。俺とメンチは調理服に着替え厨房に立っている。

 

「なんで増えてるんだぁ?」

 

「知らないわよ。何でもいいわ、アンタが恥かく所を見る人が増えるだけなんだから」

 

「げ、厨房内に食材全然ねえじゃん。んだよメンドクセー」

 

「会話をしなさいよ!!」

 

 グゥグゥと腹の音が聞こえてきたので早い所料理勝負と行こうかね。

 

「だから鳴ってないし!!」

 

「じゃあ食材は自前で用意する事。調味料とかその辺は厨房に有ったからそれは自由。審査員は、あー……そこの会長筆頭にマーさん、トガリ、仮面の人、ゲル姉さんの5人。多数決でどっちが美味い料理を作れたか決めよう。制限時間は面倒だから特になしで。作る料理に制限もなし。ルールはこんなモンでいいか?」

 

「上等よ!アンタをギャフンと言わせてやるわ!」

 

 そう言ってメンチは携帯を取り出し、何処かに電話をかける。

 

「ブハラ!協会本部のA厨房に食材ありったけを持ってきなさい!今すぐ!!」

 

 ピッ、と電話をすぐ切る。

 

「フン、五分後には私が探した美食食材が届くわ!美味しさのあまり七転八倒しても知らないわよ?」

 

「……え、五分も掛かるん?待ってられねえわ先調理開始するぞ?」

 

「……は?」

 

「ゲル姉さん2番と3番の毒1:1で調合して俺にくだせぇな」

 

「良いわよ」

 

 厨房にあった大きな寸胴鍋に水道の水を入れ、強化系『発』で爆発的に水を増やし操作系『発』で水分子を高速で震わせ、瞬時に沸騰させる。中にウドンを入れて茹で始める。

 もう一つ寸胴鍋を用意し、『ポケット』から取り出した牛脂と牛肉を叩き込む。牛脂を重点的に加熱して溶かしてから牛肉を加熱する。色が変わってきたところで『ポケット』から人参や玉ねぎ、キノコを取り出し寸胴鍋に直接入れる。野菜に含まれる水分を強化系『発』で適量に増やし沸騰させる。ジャガイモを取り出し、煮崩れしないように瞬間冷凍して鍋に入れる。加熱を弱め、クツクツと弱沸騰した所にゲル姉さんが調合した毒を投入。瞬時に毒色が鍋に広がる。すかさず粉末状に加工したジャガイモをぶち込み、深いコクを出す特製調味料をまぶす。

 蓋を閉め、操作系『発』を使ってゆっくり、具が崩れないように混ぜながら具材に火を通す。ここまで2分弱。

 

「な、な、な……早過ぎる……!と言うか『念』の使い方がおかしいでしょ……」

 

「どうした美食ハンター。お前さんはいつ調理を始めるんだ?腹ペコの客はこっちの事情なんて待っちゃくれねえぞ?」

 

「っ~~~!!!」

 

 ウドンの様子を確認、良い感じに茹でられてるな。寸胴鍋に追加で水を投入。厨房に置いてあった塩を適量振り、更に沸騰させる。

 もう一つの寸胴鍋の蓋を開け、具材が良い感じに煮えている事を確認。俺特製カレースパイスをドボッと入れ、隠し味に市販のコーヒー豆、香草各種を刻み入れ、生クリーム、ククルーマウンテンで採取し加工した溶岩石を入れ再度蓋をする。溶岩石を重点的に加熱し、再度じっくり操作系『発』で混ぜ続ける。

 厨房に有ったボウルを使い、『ポケット』に入っていたジャガイモを適度に潰す。同時に豚肉と牛肉も取り出し合い挽き肉に加工、潰したジャガイモに混ぜて、塩、砂糖、胡椒、ダイアモンドを砂状になるまで挽潰し混合した『特製味塩』を適量振りかける。丸めて固めて形を整え、小麦粉、溶き卵、パン粉を付けて、出来たコロッケのタネを瞬間冷凍。凍らせることで揚げる際に爆発しにくくなるから、これ豆な?

 中華鍋を取り出し、中に市販のサラダ油、ごま油、バター、鉱油、暴食バクテリアを混ぜ合わせた『特製混合油』を適量入れて約170℃に熱する。

 熱した油に冷凍したコロッケのタネを投入し、パチパチと音を立てて揚げる。

 

 香ばしい油の匂いと香り立つカレーの匂いに、この場に居る俺含めた全員が腹を鳴らす。コレ絶対美味いヤツや。

 

 と、匂いに釣られたのかA厨房の扉を開けて巨漢が入ってくる。

 

「メンチ~、食材取ってきたよって、うわぁ凄いおいしそうな匂い!!」

 

「ブハラおっそい!!」

 

「無茶言うなよ~。これでも最高速だぜ?」

 

 そうしてブハラと呼ばれた巨漢は背中から見たことの無い食材を下ろす。

 

「クモワシの卵、キビス米、ガルトマト、兎牛乳、コガネ鳥、大鬼オニオン。最高級品をそろえてきたぜ?」

 

「ナイスよブハラ!だけど次からはもっと早く準備しなさい!」

 

「だからこれでも最高速で準備したってば!」

 

 玉ねぎを引っ掴み瞬時にみじん切りにして、鶏肉は一口大にカットしていくメンチ。ブハラと呼ばれた巨漢は米の下ごしらえをしている。

 まあまあ手早く準備できてるんじゃね?用意した具材から見て、まず間違いなく『オムライス』を作るつもりなんだろう。二つの寸胴鍋の様子を見て、もうちょっと時間がかかる事を確認。折角だし手伝ってやるか。

 

「ブハラさんとやら、手ェ貸すぜ」

 

「えっ?ありがとう」

 

「……ハァ!?」

 

 メンチと同じ美食ハンターなのか、米の研ぎ方が非常に丁寧で上手い。そこに俺が口出す必要は無さそうだ。研いだ米を水に浸している。ふっくらとした米を炊き上げるには浸水は欠かせない……が、普通にやったら時間が非常に掛かる。

 俺は自分の常備調理器具から一本のニードルを取り出し、浸水中の米一粒一粒を突く。突いた勢いで米が水の中で跳ね上がり、浮いた米を更に突く。20秒程で全ての米を突き終え、浸水終了。

 このニードルで米を突く事によって、米の芯までしっかり水を通し美味しく炊き上げる事が出来る。

 圧力鍋に水を適量入れ、瞬時に沸騰させる。そして先ほどの突いた米を全て入れ、蓋をして加圧する。これで後3分後には米が炊ける。

 

「すげぇ~」

 

「だしょ~?一ツ星(シングル)なめんじゃねえべ?」

 

「いやいやいやいや、おかしいおかしい!何よ今の技術!?気持ち悪!!?」

 

「ほっほっほ、流石料理にかけてはワシ以上の異常者よ」

 

「パリストンの代わりに十二支んに入ればいいのに」

 

「それはそれで気苦労が絶えないので勘弁してください……」

 

「……」

 

「ひょっとして懸賞金ハンターの俺より強いんじゃねえかアイツ……」

 

 ギャラリーがうるせえ。

 ……と、そんなこんなでウドンも良い感じに茹でられている。沸騰してる寸胴鍋の水分子を停止させ、一気に熱を奪う。茹でたウドンは一度冷水で締めると歯ごたえが出て良い食感になるらしい。ウドンを一度ザルにあげて寸胴鍋の水を一度捨てる。再度水を入れて増やして沸騰させる。今度はウドンを温める程度に湯に潜らせ、あげて水を切った後丼に盛る。

 溶岩岩が溶け、完成したカレーを丼に入ったウドンの上にかけ、揚がったコロッケを乗せ、最後に特製解毒ソースをコロッケとカレーにかけて料理完成!

 

「俺謹製の『活火山鉱毒カレーうどん』だ!解毒ソースは好みで追加しな!軽く混ぜて召し上がれ!」

 

 会長、マーさん、ゲル姉さん、トガリ、仮面の人に提供する。そしてついでに物欲しそうに見ていた巨漢のブハラにも渡す。

 毒が入っている事を知っていても、香りの暴力に耐えられず箸を使ってウドンを食い始める一同。

 

「ふ、ふおおおおおおおお!!!みなぎるエナジィィィィィ!!!!」

 

「熱く、辛く、でも食べるのを止められない!」

 

「サクサクのコロッケがまたいい味だすわね。辛さで焼けた舌に仄かな甘さが感じられてニクいじゃない」

 

「美味くて、堪んねえ食いごたえじゃねえか!オレぁ初めてだぜこんな食い物!!」

 

「……身体を蝕む猛毒の甘美な味わいがカレーの灼熱の辛さを抑え、それでいてコク深さを演出している。かといって甘いだけじゃない、辛さを際立たせる解毒ソースは強烈なスパイス。コロッケの甘さは解毒ソースの刺激も引き立たせている。この丼に乗る全てが、究極の美味に至る為のパズルのピースとして複雑に絡み合い、そして高め合っていく」

 

「うん、こんな美味い物を食ったのは初めてだぜ」

 

 うんうん、やっぱこれだよこれ。賛美の声を聞いてこそ俺のプライドは満たされる。瞬時に完食していくのを後目にカレーうどんを啜りながらそう考えた。

 

「だぁぁもぉぉ!舐めんじゃないわよ!私の美食ハンターとしての集大成!『メンチのスペシャルオムライス』!!食べて七転八倒しなさい!!」

 

 バァ~ンと出てきたのはオムライスという名の黄金色に輝く何かだった。え、何アレ……美味そう。

 香りのインパクトは圧倒的に俺の勝ちではあるが、見た目のインパクトはメンチの勝ちだ。美味そう。

 料理とは、如何に五感を刺激するかが『美味さ』の決め手になる。見た目、香り、音、食感、そして味。全てを突き詰めなければ真の『グルメ』ではないのだ。成程、そういう意味ではメンチは俺の敵足りえる存在なんだろう。星も持っていない癖に中々やるじゃないか。

 そうしてメンチはオムライスを俺以外の全員に提供した後、俺に突き出す。

 

「真の美食。食ってみなさい!」

 

「面白い。死ぬほど美味いグルメの極致。食ってみろ!」

 

 俺はカレーうどんをメンチに渡し、黄金色に輝くオムライスを受け取った。

 

 俺とメンチは、互いの作った傑作を同時に口に入れた。

 

「んっ!?」

 

「うっ!?」

 

「おほおおおおおお!!!弾けるパトスゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

「食べる手が止められないっ!旨味の暴力!」

 

「口に広がる濃厚な卵の旨味、そして後から強烈なトマトの酸味が効いたパンチが非常に良いバランスね」

 

「オムライスなんてシャレたメシかと思ったが、この()()は肉厚ステーキに負けねえパワフルさだ!」

 

「……クモワシの卵、キビス米、ガルトマト、兎牛乳、コガネ鳥、大鬼オニオン。どれもそれ単体で強烈な味わいの強い、言うなれば個性の強い食材。なのにそれ全てを纏め上げ、逸品に仕上げる技術は正に職人技。さっきのカレーが味の即死コンボなら、このオムライスは味の一撃必殺」

 

「強烈な個性を一口に纏める立役者はキビス米だね~。最高~」

 

 俺とは違い、『最高の素材を最上に仕立て上げる』料理は見事の一言に尽きる。世界中を飛び回り、未知の美味、珍味を求めて危険を冒しているだけはある。俺の目にはメンチは立派な『料理ジャンキー』に映った。

 だが、なんだろう。何か……このオムライスには何かが足りない気がする。そう、まるでほとんど完成したパズルの、たった一ピースが無い状態の様な足りなさだ。

 メンチも俺のカレーうどんを食って同じように思ったのだろうか、何かを探るような表情で俺を見る。

 

 瞬間、俺とメンチは同時に動き出す。メンチはクモワシの卵を沸騰した鍋に入れて火を止め、茹で始める。俺は中華鍋に溶岩石を乗せ、高温で溶かしながら市販のドミグラスソースに粉末ダイア、ルビーのスライス、玉ねぎを適当にカットして入れ、中華鍋に『周』をして超高温に加熱する。ドロッとした所で『周』をしたザルとボウルにあけ、溶け残った余計な物を漉し取る。とろ火で火にかけながら味を馴染ませ、暴食バクテリアを適量入れる。

 味が馴染んだ頃合いにメンチは鍋の中にある卵を取り出し、冷水で冷やす。

 メンチはクモワシ温泉卵を、俺は今作った特製鉱石ハヤシソースを、それぞれの料理にかける。で、一口。

 

 

 美味い。

 

 

 欠けたパズルの一ピースがぴったりと嵌まったかのようだ。まさに天上の美味。俺の記憶の中で最も美味い物が更新された瞬間だった。

 あっと言う間に残りの全てを食いきった。ふぅ、と一息つけば、視線の先には同じようにカレーうどんを食いきったメンチがいた。

 気が付けばお互い握手を交わしていた。

 

「悪かったな。美食ハンター舐めてたわ」

 

「こっちこそごめんなさい。貴方は素晴らしいグルメハンターよ」

 

 互いにニヤリニコリと笑う。

 

 

 

「だが勝負は俺の勝ちだな」

 

「はあ?何言ってんのよアタシの料理の方が美味しかったでしょう?」

 

「マジで言ってんの?俺のカレーうどんの方が美味かっただろ?」

 

「貴方舌がおかしいんじゃない?」

 

「お前は頭がおかしいんじゃね?」

 

 ニヤリニコリとしたまま握手する手に力を籠める。ビキッ、ビキッ、と血管が浮き出る音が聞こえる。

 

 遂に互いのオーラが溢れ出る。オーラを舐めた感じ放出系っぽい。

 

「どうやら毒で頭がおかしくなったらしいな。俺の料理を食っておいてそんな事ほざけるとは」

 

「そう言うアンタは食えない物食べすぎて舌が狂ってるようね。アタシの料理を食べておいてそんな事言えるなんて」

 

 ギチッ!ギチッ!と握手している部分から聞こえる。既に互いの手は『凝』で強化されていて、完全に掌をブッ壊さんと本気で握りあっている。

 

「いやいや、立派なもんだったよお前の作った料理は。俺の弟子にしても良いかなと思うくらいには」

 

「あらお生憎ね。アンタの料理も大したもんだと思うけど、アタシの方が良い料理作れるのにアンタを師匠と仰ぐ訳には行かないわ」

 

 『凝』は『硬』になり、互いの手からギィィィィィィィッ!と甲高く耳障りな音が鳴り響いている。

 

「グヌヌ」

 

「ウググ」

 

 

「……あの二人は何をしてるんですかね」

 

「ほっほっほ、若いってのは良いのー」

 

「結局俺等はただ昼飯食いに来ただけじゃねえか」

 

「審査は何処に行ったのかしらね」

 

「……」

 

「メンチに友達が出来た様でなによりかな~」

 

 

 結局俺はハンター試験の試験官をする事になった。

 

 

 

「あ、今日の飲食代3千万ゼニーな!」

 

「お金取るんですか!?」

 

「当たり前だろうが!タダで一ツ星(シングル)のメシ食えるとでも思ったか!?」

 

「おっと、ワシパリストンに呼ばれとるんじゃった」

 

「パリストンに請求すればいいんだなジジイ」

 

「よさんか!?」

 

「あ、ゲル姉さんは毒代でチャラで良いっすよ」

 

「あらありがとう」

 

「懸賞金ハンターなら金持ってるよな?」

 

「わ、わりいな俺いま手持ちが……」

 

「そうか。ところでトガリ、俺の二つ名って知ってるか?」

 

「し、知らねえ……」

 

「『悪食グルメ(シングルマナー)のグリード』だ。毒だろうが岩だろうが、人間だろうが食っちまう悪食家さ。さて、もう一度聞くが……懸賞金ハンターなら金持ってるよな?」

 

「払う!払うから包丁下ろせ!!」

 

「さて、仮面のお前は……」

 

「……即金」

 

「良し良し。ブハラ君は」

 

「はいよ~。それよりグリードさん、アンタの料理はいつもなら何処で食えるんだ?」

 

「スマンな、今の俺は店を持ってねえからよ。まあ食いたくなったら俺のホームコードに連絡いれな。気が向いたら作りに行ってやる」

 

「わぁお、いいの?ありがとう」

 

「さぁて、メンチ。テメエにも3千万払って貰うところだが……さっきのオムライスはまあまあいい線いってたからな、3百万ゼニーに負けてやるよ」

 

「それでもまあまあ法外な値段じゃない!」

 

「ああ~?(実績)の無い料理に2千7百万ゼニー出してやるってんだから良心的だと思わねえのかぁ?文句があるなら聞くぜ、テメエが星獲得したらな!」

 

「ぐっギギ……!その言葉、後悔しないでよね!!!!」

 

 高笑いと怨嗟の声が響いた1997年1月のハンター協会だった。




と言う訳で着々と原作に近づいてきましたなぁ!

Q.メンチ一ツ星じゃなかった?
A.この時期ではまだ取得してません。

Q.トガリって誰よ?
A.無限四刀流の人。

と言う事は……あっ(察し



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ハンター試験が始ま……らない!

原作主人公はまだ出ないぞ!


 チェッキー!俺、グルメハンター(プロ)!なんか知らないけどハンター試験の試験官に選ばれちゃった!マジなえぽよー!

 しかも同じ試験官に選ばれた女がマジ最悪!星も持ってない癖に俺に噛みついてくるとかありえないんですけどー!しかも年下とかー!マジありえ萎えんてぃーなんですけどー!マジウケるー!っていうか年功序列的なサムシング的なー?

 他にも裸毛皮コートの変態と一緒とかー!信じらんなーい!マジ意味不ー!センス意味不ー!マジなえぽよのさげぽよー!

 でー、なんやかんやで俺の担当が二次試験と三次試験的なー?そこで大体60人~30人程度に絞って欲しい的な事言われたんですけどー!まじマジぽよー!ぽよぽよぽーなんですけどー!なにすればそれくらいに調節できるっていうわけー?流星街でもマラソンしろってのー?ウケるー!マジウケるー!

 

 助けてマーえもん。

 

「やっぱり貴方は変人ですよ……」

 

「なんか言ったかマーえもん!」

 

「マーメンです。そうですね……やはり、貴方が今まで経験を積んだなかで、『ハンターとして必要な要素』を試すような試験が良いかと」

 

「ハンターとして必要な要素……『念』か!」

 

「いえ……それ以外でお願いします……」

 

 『念』は必要じゃろんげ。

 えっ、じゃぁ……バトルロワイヤる?(動詞)

 

「あー、一次試験でトガリさんがやるので、被るのはちょっと……」

 

 被ってくんなや!さげぽよー!

 どうすんだよ、他に何を試験しろっての?無理ぽよよ無理ぽよ。

 

「ならグリードさんがプロハンターになったときの試験をやってみるのはどうでしょう?」

 

「全然覚えてないぽよぽ!」

 

 記憶力ぅ……ですかね。(悪い意味で)

 

「ペーパーテスト……とか……」

 

「マーさん俺がペーパーテスト出題出来るほど頭が良いとお思いで?」

 

「ですよね……」

 

 ですよねってなんだよ傷つくぽよー!マジ傷心なんですけどー!ギザギザハートの子守唄ぽよぽー!

 

「うーん、例えば何処か危険地帯を走り抜けるとかどうでしょう?」

 

「危険地帯を走り抜ける……ねえ。例えば?」

 

「例えば……ザバン市の近くならヌメーレ湿原とか?」

 

「マーさん冴えてるな。一番の問題は俺にヌメーレ湿原に入る資格が無いところだが」

 

「あっ」

 

 そう!何を隠そう一ツ星ハンターでありながらライセンスを所持してない唯一のハンターとは俺の事だから!危険地帯=一般人進入禁止なのは確定的に明らか。ライセンス所持者がいて、何が起きても自己責任という誓約書を記入しなければ基本入れない。たとえ一ツ星ハンターだろうともそこは守らなければならないぽよ。

 あと今思ったけどヌメーレ湿原って言うほど近くないぽよ。

 

「いっそのこと『ククルーマウンテンツアー』と称してゾルディック家観光案内でもするぽよ?」

 

「受験者を意図的に皆殺しにする気ですか」

 

「生き残ったら合格ぽよ」

 

「『念能力者』でも生きて帰ってこなさそうなので却下です」

 

 考えるのが面倒になったぽよ。

 あとぽよぽよ言うのも飽きたぽよ。

 

「じゃあもうサバイバル能力でも試す試験とかで良いっすかね……」

 

「よっぽどでない限りなら大丈夫そうですね。どういったものをお考えですか?」

 

「俺でも出来る程度な奴を……」

 

「すみません。貴方基準のサバイバル能力ですと暗黒大陸並みに特異環境でもないと試せないのですが」

 

「それほどでもないぽよ」

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 さて、なんだかんだ色々あったが、試験の準備は滞りなく終了。後は受験者を待つだけとなった。

 しかしすげえな。ハンター試験の開始場所がまさか美術館のど真ん中だとは。俺の記憶が確かならあの美術館、かなり昔からあるって評判の建物じゃなかったか?そんな場所を僅か半年足らずであんな魔改造を施すなんてな……ハンター試験に金かけ過ぎ問題。

 あ、そうか。そういった明らかに不自然な物流や人入りを調査してハンター試験の会場を割り出すって方法もあるのか。俺みたいに嗅覚で怪しい建物を割り出すのは流石に稀か。普通情報屋とか雇うよなぁ……。

 

 今日は1月6日、明日がいよいよハンター試験である。今、俺はザバン市のホテルが見える公園のベンチに座っている。深い意味は無いが、まあ先んじて受験者の顔位なら見れるかもだし?それに暇だし。

 

 

 平日の昼間っから公園のベンチに座る男。完全にリストラ組です本当にありがとうございました。

 

 

 ちげーし!?ちょっと休職してるだけだし!?

 

「隣、イイかな♦」

 

「あ、ハイどうぞ」

 

 

 

 

 なんか隣にどえらい禍々しいオーラ携えた方が座ったんですが。

 

 え?思わず二度見。頭えらい逆立っとるなお前。顔、なんか道化メイク。マジかよこいつ変態だなさては。(大正解)

 

「ハンター試験を受けに来たんだけど、予定通りなら明日着くはずだったんだ♠」

 

「あー、遠くから態々ご苦労さんなこった。まあ風の流れ次第じゃ早く着くこともあるわな。遅く着くより断然良い」

 

「ああ確かに♦早く着いたおかげで思わぬ収穫を得た♣」

 

「まー早起きは三文の徳って言うし、早い事は良い事だようん。早さは力さね。相手よりも先んずればそれだけ優位に立てる。ファストフードがそこそこ人気な理由も『今!』って時に対応してくれる早さだようん。まじぽよ」

 

「そうだねぇ♦あんまり食事に興味はないんだけど、手軽に食べられるファストフードは悪くないねぇ♠」

 

「おっとぉ?お手軽グルメなら俺の右に出る者無しだぜ。チェーンのファストフードなんかより遥かにぶっ飛んだ美味をお届けしてやろう。ただし有料で」

 

「ふーん♥ちょっと興味あるなあ♦」

 

「いいだろう。なら()()()()()()()だけですぐに美味い物を作ってやるよ。一ツ星グルメハンターの腕前を見な!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「くっくっく♦面白いねぇ……奇術師(ボク)より奇術師に向いてるんじゃないかい?自信無くしちゃうなぁ♣」

 

「奇術言うんじゃねえよ。ちゃんとした技術だ」

 

「それなら、奇術もちゃんとした技術さ♥」

 

 今俺等は『公園の石タイルバーガー』を齧っている。暴食ソースを使わない、100%天然物オンリーの身体に優しい()ファストフードだ。

 

「しかし驚いたなぁ♠この『パン』を一瞬であれだけ切り刻んだっていうのに、見た目一つ変わってないなんて♣」

 

「『隠し包丁』な。切り刻んでねえよ」

 

 コイツマジで料理に関心が無いらしい。美味い物は美味い、だが次食う飯は別にどうでもいいって考え方だ。初めて俺の料理を食って、素で対応されるのはそれこそ初めてだ。凹む。

 

「そしてオーラの使い方も面白い♥それがキミの『発』かい?」

 

「『発』にゃ違いねえが……『水見式』の応用だ。今度自分でコーヒー買って試してみるといい。お前変化系だろ?しょっぱいコーヒーとか出来るかもな」

 

「ふーん?ボクが変化系だって、どうしてそう思ったんだい♠」

 

「味と匂いだ」

 

「味と匂い……?」

 

 俺はあらゆる物を食ってきた、それこそ様々な人間のオーラもな。そういった、幾多もの経験がオーラの匂いと味でそのオーラの持ち主の得意系統がなんとなく分かる様になった。

 

「変化系は大体その『発』によって味が変わる。お前は……まるでよく練られた水あめの様な舌触りがする。そして匂い、煮詰めた小豆の様な甘さは純然たる変化系の特徴だ。面白いだろ?」

 

「へぇ、匂い……かぁ♠そんな事、意識したことなかったなぁ♥」

 

 そして俺はハンター試験を受験する際、鼻に『凝』をすることで『念』の痕跡を探った。目に『凝』をする対策はハンター協会も取っていたようだが、鼻に『凝』をして念を嗅ぎ分けるなんて予想外だったようだ。まあまさかいきなりネテロ会長んトコに行きあたるとは俺も思って無かったが。

 ついでにネテロ会長は研ぎ澄まされた刃の様な匂いがし、深海の凍て水の様な味がした。

 

 そして何より問題になる点が一つある。

 オーラの匂いじゃない、コイツの精神の匂い。かつて嗅いだ、()()()()()()と同じ匂いがする。即ち……

 

「お前、戦闘狂(バトルジャンキー)だろ」

 

「ご明察♥」

 

 ヤメロォ俺はジャンキーじゃない!そのキモい視線を向けるな馬鹿!

 

「くくく……♥良いねぇ……実に良い……♥我慢出来なくなっちゃうよ……♠」

 

「馬鹿止めろ!お前明日ハンター試験だぞ!俺も明日試験なんだよ止めたまえ!!」

 

「ふーん?そう言えば一ツ星(シングル)って言ってたねぇ♦丁度いい♥一ツ星(シングル)ハンターの実力、確かめさせてもらうよ♠」

 

「うわあ逆効果だったああああ!!!」

 

 馬鹿止めろください!俺の実力は一般人に毛が生えた程度しかないんだお前みたいなジャンキー相手に無事でいられるわけないだろいい加減にしろ!!

 

「脱☆兎!!」

 

「おぅ♦」

 

 秘技、オーラブースト!!これは足の裏から全力でオーラを噴出しつつ駆け出す事で車よりも速く、番犬ミケよりも更に速く逃げる事が出来るぽよぽー!!

 靴が犠牲になるがいたって仕方がないコラテラルダメージ!靴より俺の命の方が何億倍も大事じゃボケェ!!ここが公園なのが幸いした。一気にトップスピードまで加速した次の瞬間、俺は、飛ぶッ!!

 

「妙技、コメットフライト!!」

 

 加速した勢いそのままに、両足だけでなく両手からもオーラを放出してミサイルさながらに空をぶっ飛ぶ。これも『発』だが『必殺技』ではない。ただ勢いよく放出したオーラの反動で吹っ飛んでるだけだ。かっこよくな。

 とにかく全力で逃走したいときとかにオススメ。例えばクロロの無茶振りから逃げる時とかな!(勝率5割)

 

 勢いよく空高く飛ぶ俺。昔テストプレイしたあのゲームの移動魔法を思い出すな。元のアイデアはアレだけど。

 変態の戦闘狂(バトルジャンキー)は強い。これ豆な。(ゴリラも上半身裸だし)

 

「いやあ、驚いたねぇ♦まさかいきなり逃げ出すなんて……連れないなあ♣」

 

「逃げるに決まってんだろ俺は戦うのが苦手なんじゃい!」

 

「そう言うなよ♠ボクの知ってる中で、君は間違いなく上位に入るヤリ手だから♥」

 

「笑える冗談だなぁオイ!」

 

 

 

「……」

 

「やぁ♥」

 

 なんか付いてきてらっしゃるううううううう!!!?

 まって、いや待ってなんでお前俺の全力逃飛行に付いてきてん!?

 あれ、なんか俺の腰辺りに変なオーラが伸びてる。

 

「『伸縮自在の愛(バンジーガム)』ボクの能力さ♥まあ、ボクごと飛べるなんてやっぱりタダモノじゃないみたいだねぇ♦」

 

「お前これ、お前ええええ!!人が逃げてるんだから素直に逃がせよダラズ!!」

 

「駄~目♥」

 

 ふざけやがってお前俺に変態の相手をしろってか!?もう試験官のあの二人で十分なんだよいい加減にしろ!!

 毒切包丁で腰にひっついて伸びているヒモの様なオーラを断ち切る。そして全身のオーラを再度足に集めて……地面に向かって飛ぶッ!!

 

「絶技!メテオニックストンプ!」

 

「わお♠中々に器用だ♥」

 

 戦闘狂(バトルジャンキー)の変態は勢いそのまますっ飛んで行き、俺は地面に向けて急速ダイブをする。

 『空気』を調理しつつ減速。ヒーロー着地で地面に衝突、膝が死ぬ。着地した部分のアスファルトは軽くヒビが入っているが、俺の骨にはヒビどころではない程にバッギバギなので勘弁してほしい。

 また『やあ♠』とか言って変態が現れないうちにホテルに逃走。自室に駆け込みベッドに潜り込む。ふて寝。

 ……アイツハンター試験受けに来たって言ってたな。もし一次試験突破してきたらどうしよう。

 

 ま、まあ流石に試験官に攻撃してきたりしないよな!

 

 

 してきたりしないよな!!?

 




ヤッハーン!
眠いからここまで。
グリードは無事にヒソカと戦うことが出来るのか!?出来ないのか!?
多分ヒソカの戦闘スタイル的にグリードと相性悪いぞ!!
あ、なんかお気に入り1000件超えてた。人気作と言っても過言ではないですね!(慢心)

なんにせよトガリニキの死亡フラグは折れそうになさそうだ!!

つ づ く ぽよ~ !!!


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ハンターって……なんだ!?(哲学)

最近料理してなくなくな~い!?


 グッドモーニングエブリワン!俺はしがない試験官(プロ)だ。今日は俺の晴れ舞台「遅っそいわよこの寝坊助が!!!」げぶちっ!!?

 

「な、な、なにすんねんメンチテメェこいつ!?」

 

「この馬鹿!もうハンター試験始まってるわよ!だってのにアンタはグーグーすやすやと……馬鹿じゃないの!?」

 

「俺の出番二次試験!昨日変態に絡まれてお疲れモードなんだよ休ませろ!」

 

「知ったこっちゃないわよ!いいからさっさと起きろってんのよ!」

 

「うるせえ!俺先輩やぞ指図すんな!」

 

「残念だったわね、このハンター仕事(業界)先輩後輩で序列が決まる程優しくないのよ!悔しかったら二ツ星(ダブル)になってみなさいよ。ま、ライセンス売ったアンタが星なんて獲得しようもないでしょうけどね!」

 

 ギャッハッハッハ!とクッソ下品な笑い声をあげ、クッソ下品に舌を出して嗤うメンチ。お前ほんとに女か……?

 と、まあなんと一年足らずで星を獲得したこの女(仮)、生意気にも星を取得した途端(どうやって知ったか分からないが)ククル―マウンテンに突撃してきて俺を引っ張り出した挙句『一ツ星(シングル)美食ハンターの最高傑作よ食いなさい!』と投げつける勢いで料理を出してきた。いやもうあれは投げてたね。間違いない。

 ま、味はともかく調理速度がまだまだだから駄目出ししてやったら『へーん!ソコ(調理速度)しか勝ってないからって偉ぶらないでくれる!?』とクソ生意気にも調子乗っていたので俺の得意料理『死ぬほど美味い毒キノコソテー』を食わせて病院送りにしてやった。

 それ以降こうして隙あらば俺に突撃してくるさまはマジで放出系だなと思いました。

 

 喧しいので布団から這い出る、ああ今日も忌々しい一日の始まりだお……

 

「バッ!?ハっ!?あ、ちょ!?あ、アンタなによその恰好!!?」

 

「んぁ?」

 

 恰好?と言われても……

 自分の姿を見る。うん、いつも通りの寝間着姿だ。

 

「なんでアンタ全裸なのよ!?」

 

「パンツは履いてるだろ!人を変態みたいにいうな!」

 

「パン一姿を女に見せつけておいて変態じゃないって言うつもり!?」

 

「寝るときどんな姿してようが勝手だろうが!お前が寝室に侵入してきたことを棚にあげるな!」

 

「うるさい!いいからさっさと服着ろ馬鹿!」

 

「くそ、コレだから理論の通じない短気は……」

 

 仕方がないので普段着に着替える。

 ちなみに俺の普段着は基本的に白シャツにジーパン。たまに『料理人(りょりんちゅ)』と書かれた赤地に白文字のシャツを着ている。某金遣いの荒いハンターは『それが一ツ星の格好か!?』と突っ込むし、某口の悪いハンターは『主張の激しいモブキャラかな?』と突っ込む。余計なお世話だ。

 今日は白シャツ。

 

「ホラ!さっさと顔洗って歯磨いて朝食食べて試験会場に向かいなさい!試験官のアンタが居ないと二次試験始められないでしょうが!」

 

「うるせえな……お前は俺の嫁か」

 

「よめっ、ほっ!!!??」

 

「間違えた。お前は俺のオカンか」

 

「ぼぁっ、だ、誰がオカンよッ!!!私アンタより年下何だけど!?」

 

「自分より年下の母親がいる。自由ってのはそういう事だ」

 

「何意味わかんない事言ってんの!さっさと準備しなさい!!」

 

「朝から叫び続けて元気だねぇほんと」

 

「誰のせいだと思ってんのよ!!!」

 

 自分の性格を人のせいにしないでくれませんかね。

 あくびをかみ殺しながら顔洗って歯磨いて朝食(俺はルームサービス等に頼るグルメハンターではない)を食って試験会場に向かった。時間を見れば大体一次試験が終わる予定時間だった。やっべ遅れかけてるやん!

 

 

 ◇

 

 

 トガリ(裸毛皮コートの姿)の担当する一次試験の内容は、予定通りならば受験生にランダムに一つ配られたA・B・Cのパズルピースの奪い合いだった筈。

 ABC全てのピースを揃えると、それが次の二次試験へと向かう飛行船のチケットになる。故に一次試験は正確に言うと飛行船に乗るまでが試験なのだが、まあそこは重要ではない。

 単純に考えれば突破率三割三分の試験なのだが、そこは意地の悪いハンター試験。ABCのパズルピースは実際に揃えて合わせなければ分からない程度の違いしか無く、当然運が悪かったり下手を打てばダブリを抱える事になる。上手く交渉しようにも、三種類揃えなければ違いが分からない以上交渉は難航するだろう。三種類揃ってれば交渉する意味ないし。更にABCのパズルピースは本当に『ランダム』に渡される。それぞれのパズルピースの数が違うのだ。会場に到着した受験生の数次第だが、まあ大抵の場合偏りが生まれる。当然、合格できる最大人数は『最も少ないパズルピースの数』となる。まあ二割でも残れば良い方かな?

 

 受験生って大変そう(他人事)

 

 まあ腕っぷしの強いヤツなら適当に三種類揃うまで奪い続ければいいだけだし、揃えたら今度は飛行船チケットを守り続けるだけだ。簡単だねえ。

 

 

 

「的な事を考えながら試験会場に来たらトガリが現在進行形で半殺しにされかけてる件」

 

 どういうことだってばよ!?

 しかもよく見たら(よく見ないでも)トガリが戦っている相手が昨日の変態だった。

 いや、もはや戦いじゃない。うわぁこれは酷い……試験官の癖に受験生に一方的にやられてるってどういう気持ち?

 そうか、もしかしてあの変態はトガリ(試験官)なら100%二次試験行きの飛行船チケットを持っていると判断して試験官から奪うという発想を得たのかもしれない。

 その判断は正解だが普通実行する奴おりゅ?やっぱジャンキーの思考って分からないわ。(ブーメラン)

 正直トガリが死のうがどうってことは無いが、まだ一次試験の最中だってのに一次試験官が死んだらどうなるか。まあ二次試験官が臨時で一次試験の試験官になりますわな。

 嫌じゃめんどくさい!!!

 

「ってな訳でソイツが死ぬと俺が迷惑だ」

 

 顔が既にズタズタに引き裂かれているトガリを引っ張り、致命傷を避ける。(若干手遅れな感じがするけど)

 するとその瞬間ようやく俺に気が付いたのか表情が詰まらなさそうな顔から一転、ニチャリィ……と変わったうわきっも。

 

「あぁ……♥ビックリしたよ♠見事な『絶』だ♣」

 

「そうか?」

 

 別に『絶』が得意な訳ではないのだが……まあ、生まれつき『空気』に馴染むのは得意ではあったが。べっべつにボッチとかそういう意味じゃないんだからねっ!『食う気』満々なだけだったんだからねっ!

 

 

 はいっココ笑う所ですよー(投げやり)

 

 

 というか『念』を取得してない受験生も居るんだからむやみに『絶』とか言うな。

 

「キミが出てきたって事は……ボクと()り合う気になったって事かい?」

 

「お前みたいな戦闘狂(バトルジャンキー)に誰がマトモに付き合うか。昨日は逃げるだけだったが、今日は対抗手段を用意してあるぞ」

 

「へぇ……♥それは楽しみだなぁ♠」

 

 とか言いながらトランプを投げないでくれませんかねぇ!懐に常に忍ばせてある小さな包丁で『加工』し『食らう』。うーん味は甘ったるい。食感は水あめ、匂いは小豆。全体的に甘いね!

 

「くくく……♣やはり面白い技術だ……♦」

 

「ふざけた口を利けるのもそこまでだ。くらえ俺の対抗手段!『これ以上試験官に攻撃を加える事を禁ずる!破った場合即座に失格とする!』」

 

「……☠」

 

 必殺『試験官特権』!お前もハンター証を取りに来たんだろう?ならこの言葉は効く!効くはず!お願い効いて!

 

「……ふぅん♥仕方ないなぁ♣」

 

 よし効いた!これにて終了一件落着!

 

 

 よく考えたらトガリの奴重症だから、結局試験官交代は免れられなかったわ。かなすぃ。

 そんなわけで俺が代理で試験を続行することになったんだが、これ制限時間あとどれくらいよ……。

 

 

 ◇

 

 

 マーさんによると試験開始時には約九百人ほど受験者がいたが、現在飛行船に乗船してる受験者は百人程度だそうだ。9分の1……まあ普通だな!そしてよく見たら懐かしの新人殺しのオッサンが居た。お前まだ受験してたのかよぉ!?

 

「さて、俺はグルメハンターのグリードだ。二次試験の試験官でもある、よろしくね。二次試験会場まではだいたい3日程度掛かる。その間この飛行船内で適度に寛げば良い。個室じゃないが寝る場所はある、自由に使いな。飯は自分で済ましても良いが、食堂に来ればグルメハンターの料理を無料で振る舞ってやる。但し食堂が開いてる時間は限られてるから余裕をもって利用するようにな。あとは……あー、飛行船の中で暴れるような奴はまあ居ないとは思うが、要らん揉め事面倒事を起こした奴は俺が飛行船から叩き落としてやるから精々良い子に過ごすんだな」

 

 じゃ解散。とその場を後にする。やれやれ、百人近い受験者を篩にかけるのは面倒臭いなぁ……。

 さて、では余興の準備に取り掛かるか。

 二次試験に多大なる影響を与えかねない余興をなぁ!!

 

 

 といっても俺が今日やることなんて厨房の様子を確認するだけなんだが。

 

「グリードさんお疲れ様っす!!」

 

「「「お疲れ様です!!」」」

 

「うっすお疲れ。首尾は?」

 

「上々っす!」

 

 コイツらはハンター協会所属の事務員。まあ、事務員という名の雑用係みたいなモンだ。ハンター証を持つようなプロではないが、一般人には負けない程度の身体能力を持っている。なんでも心源流道場の一員らしいが、まあ心源流に属さないプロハンターにとっては便利屋程度の認識だ。

 んだもんで、こうして協会から数人程度借りて俺のレシピを叩き込んだ。半年ほど訓練させた甲斐あってか、覚えた料理なら準一級程度に振る舞う事が出来るようになった。

 ま、『誰でも出来るようになる簡単料理レシピ』を考案した俺のおかげだがな。

 

 ともかく、今のコイツらなら例え受験者全員がブハラ並に注文して食ったとしても何とでもなる位には手早くかつ美味に調理に取りかかれるだろう。

 ちなみに俺なら今季の試験応募者全員がブハラ並だったとしても余裕だがな!(ドヤドヤッ)

 

「食材」

 

「オッケーっす!」

 

「備品」

 

「問題なしっす!」

 

「体調」

 

「万全っす!」

 

「厨房機器」

 

「万端っす!」

 

「お前らの勝負の始まりは今から約二時間後。それまで『点』を怠るな。普段は料理を食べる専門でも、今のお前らは『料理人』だ。用意した食材全てを受験者共の腹の中にぶちこめ。お残しは許しまへんで」

 

「「「「合点承知!!」」」」

 

「俺からは以上。じゃ、イカよろしく~」

 

 後はイカ厨房長に任せ、適当にブラつく。

 さて、本格的に暇になった。

 

「じゃあボクと()ろう♥️」

 

「貴様何処から湧いて出た」

 

 まーた変態に絡まれたゾ。さっき失格になりかけてすぐコレだよ!

 

「早く()ろうよ♠ボクもうガマン出来なくなっちゃった♥」

 

「ヒェッ」

 

 コイツマジか、マジかコイツ、ズボンの一部分が張りつめておりまする。ボッしてる。

 

 

 うん。逃げなきゃ。

 

 

 即座に逃走を開始。だがオーラを放出して移動する方法は、安定しているとは言え飛んでいる飛行船の中でやる移動方法ではない。だから違う方法で加速する。

 足の裏のオーラを回転させるように移動させながら踏み込む。ローラースケートの如く両足が勝手に前進する。その動きに合わせて駆け出し、一歩踏む間にもシームレスに移動し続けることで若干速く逃走することが出来る。まあディティールの荒いゲームみたいに見えるがな。見た目なんてどうでもよろしい。

 

「また追いかけっこかい♣️」

 

 変態が紐状のオーラを飛ばし俺を捕獲しようとする、が俺は毒切包丁でそのオーラを断つ。

 

「あぁ♦️やっぱりソレ、厄介だねぇ♠️」

 

 今度は俺の進行方向に向けてオーラを複数飛ばしてくる。ガムとゴムの性質を持つ……だったか?触れると面倒そうだ。

 足裏のオーラの回転数を上げる。オーラを『隠』で隠されているかもしれないが、『凝』で見破るのも面倒だ。アイツは変化系、放出系は苦手だろう。そして昨日、気づかず紐を付けられながら飛んだ際の俺とアイツの物理的な距離から、大体2、30メートル程度は伸びていた。それが限界だとは思わないが、流石にアイツから離れたオーラまでそれほど伸びるとは思えない。

 更に回転数とトルクを上げる。この移動方法は最高速度に達するまでに時間がかかるがオーラの消費は少な目で済むのと……今回はこの特性に助けられたな。踏み出した足にガムオーラが付着し、俺の足を物理的に止める。

 更に回転数とトルクを上げる。ブヂリとガムオーラを瞬時に引きちぎり逃走再開。さらに加速して変態を置いてけぼりに……

 

「くっくっく♠キミは見ていて飽きないなぁ♥だけど追いかけっこには飽きてきたよ♣」

 

 マジかよ車以上の移動速度に追い縋るとかガチ変態やんけ!!?(ブーメラン)

 つーか狭い飛行船内でこれ以上の速度を出すのは無理!仕方ない……仕方ない!!使ってない貨物室に逃げ込む。使ってないからだだっ広い(とはいえ飛行船内だから限度はあるが)空間で変態と対峙する。

 

「追いかけっこはもう終了かい?♦」

 

「ああ終了だよこの変態ヤロー。受験番号49番、テメェは事前に警告したにもかかわらず、試験官に対して攻撃を仕掛けた。よってテメェは現時点をもって不合格とする」

 

「あぁ、それで?ボクを失格にして……ボクから逃げきれたつもりかい?♦」

 

「ほざきやがれ、それで解決するんだったらそもそも逃げてねえよ。此処で始末してやる」

 

「……くく、くくく♥ようやく()る気になってくれたのかい♠」

 

「あぁ、とはいえだ。受験者を直接殺すのはちと外聞が悪い。俺は試験官だからなぁ?だから……テメェのオーラ食い尽くして船から叩き落としてやる程度で済ましてやるよ!」

 

「さあ、ボクと殺し合い(ダンス)しよう(踊ろう)♥」

 

 

 ◇

 

 

 戦闘は苦手だ。苦手というより、出来ないと言った方がいいかもしれん。戦闘において俺が出来る事は『逃げる事』と『防ぐ事』だけだ。殴る蹴る等の『攻撃』は()()()()。俺の両手は何時だって美味い料理を作る為に有る。俺の両足は何時だって生き残る為に有る。生き残る為には、立ち向かう事より逃走する事の方が確実だからだ。故に俺には『攻撃』が出来ない。攻撃用の『発』も無い。

 

 だが、俺は『料理』する事が出来る。何時だって俺は俺のグルメの為に生きている。

 

 戦うことは知らない。だが料理なら知っている。そして、料理とは……世界の(ことわり)を己の(ことわり)(おしはか)る事である。

 俺は、俺の届く範囲なら自在に(おしはか)る。

 

 『円』ッ!!

 

 『円』は苦手だ。俺の『円』は円って書く癖に丸く広がらないのだから。

 俺を始点に前方5メートル程度に枝分かれしながら伸びる『円』。そこまでが俺の手の届く所。そこまでが俺の台所(キルゾーン)

 料理用の『発』の一。『円滑調理(デビルキッチン)』。俺の『円』が届く範囲の物を、オーラを使って『食材』へと加工する。『悪食万歳(デビルキッチン)』を、俺の手が直接届かない距離の物に届かせるために開発した。手元じゃなく、遠くの物体に『水見式』を施すだけだ。ただそれだけの事だが、遠くの物体の水分を増やし、不純物を作り、それを操作する。最後に味を調えて『食材』に加工するのは難しい。難しくて……不可能じゃなかった。

 俺の『円』に触れたトランプを切断する。既にあの変態に『円滑調理(デビルキッチン)』の性質は見抜かれている。だからどうした。近づく事はすなわち、即座に『食材』に加工されるということだ。そしてヤツは変化系……遠く離れた相手に攻撃する手段なんて限られている上に放出系と相性が悪い。生半可な念弾なら俺に届かない、届いても俺に効かない。

 

 足の裏にオーラを込め、それを回転させることで踏み込みながら不規則な移動を可能としている。俺はこの技術を『回』と名付けた。飛んでくるトランプを刻みながら、オーラを加工しながら、受験番号49番を追い詰める。強化系の『硬』だろうが、具現化系の鎧だろうが、それがオーラ製ならこの毒切包丁は斬ることが出来る。

 

 空気を裂きながら、俺の真後ろからトランプが飛んで来た。テメェいつの間に。

 流石に真後ろまで俺の手は届かない。振り向きながらトランプを加工する。受験番号49番から僅かに目を離した瞬間、今度は四方八方からトランプが飛んでくる。速い!

 カードの嵐、そのど真ん中に放り込まれた俺は届いた範囲全てのトランプを即座に加工し続ける。単純な物量だけなら俺の調理速度は負けてない。

 

 20枚、30枚と加工し続け、カードの嵐を無傷で生き残り続ける。

 

 50枚、60枚と切りながら、嵐を回避し続ける。

 

 100枚、200枚と焼きながら、舞うように包丁を振るう。

 

 そうして枝分かれさせまくった『円』を掻い潜られ、気が付いた時にはヤツの間合いに居た。

 ヤバイと思ったが、俺の両手は飛んで来たトランプを斬る動作に入っていた。それを止め、ヤツを迎撃すれば飛んでくるトランプにやられる。かといってヤツを無視すれば、変化系のヤツが比較的得意な強化系の『周』を施されたトランプに斬られる。俺は特質系。普通の奴等とは違う事情を抱えているとはいえ、強化系の真っ向勝負は分が悪い。どうする。今、俺の意識だけは光速を迎えている。

 

 

 ええい、南無三!!

 

 

 トランプを斬る手を止め、ヤツを迎撃する。両手に持つ包丁に40:40でオーラを割り振り、残り20のオーラで飛んでくるトランプを防ぐ。

 右手に持つ包丁はヤツが直接持つトランプを叩き、左手に持つ毒切包丁に強化系のオーラを施し、近づいてきた奴のオーラをふんだんに切り取った。

 そうして俺の首に飛んで来たトランプは、首に深く刺さる直前に首に回したオーラで『回』をすることでギリギリ致命傷を避け、弾いた。

 

 ヤツは自身のオーラがごっそり持ってかれた事に気付き、僅かに離れる。俺は焼き鳥調理用の鉄串を投げつけながら同じように離れ、一旦仕切り直しとする。

 思った以上に消耗させられた。しんどい。

 ヤツは肉体的な疲労はそうでもなさそうだが、オーラをごっそり奪われ、僅かだが顔色が良くない……ようにも見えるが、薄ら笑いを浮かべている……ようにも見える。わからん。

 

「驚いたな……♥その包丁、『念』を斬るだけじゃなくオーラそのものを刈り取る事も出来るのか♠」

 

「お気に入りの業物だぜ」

 

「ああ……やはり『念』は奥が深い……♥」

 

 投げつけた焼き鳥用の鉄串を掴みながら、事も無げにそう言った。切り取ったオーラを食いながら、裂けた首を軽く抑える。やっぱ強いなアイツ……変態ジャンキーなだけあるわ。

 遠距離戦より接近戦が得意そうなヤツと、接近したヤツ食べちゃうマンな俺とで相性は良い筈なのに、未だにヤツに傷一つ負わせられない。それどころか俺が傷を負わされる始末。

 

 状況は悪い。ヤツのオーラを食って回復こそしても俺が強化される訳じゃない。そして既にこの場はヤツが仕掛けた罠でいっぱいになっていた。

 軽く目を凝らしたら、俺程度の『凝』で見破れる『隠』で辺りに撒かれているオーラが見えた……が、それは本命では無い。鼻に『凝』をすれば、見えた数以上のオーラの『匂い』を感じられた。つまり先程見えた『隠』はミスディレクション。本命は強力に隠された『隠』の方……と見せかけて、実はそれも罠。狙いはただ、俺の意識を分割させる事だろう。一つ一つの注意が薄まれば、必然俺に攻撃を当てるチャンスは増える。

 今の所判明しているヤツの『念』は二つ。一つは見せ札である『伸び縮みするオーラ』。バンジーガムとか言ってたか?攻撃の際に相手に付けたり、オーラを飛ばして付けたりと応用力は高そう。そしてもう一つは『床、壁、天井に張り付けられているオーラ』。感じた『匂い』から、『伸び縮みするオーラ』とは別の『念能力』っぽい。触れたら発動するタイプのトラップなのか、設置型の砲台として使うのか、まだ判別はつかないがとにかく意識を割かれる。

 全く……良く出来た能力じゃないか。とにかく色んなヤツと戦いたいっていう意志が見て取れるぜまったく!

 

 右手の包丁に操作系と放出系のオーラを込め、見えていた方の『隠』のオーラに向かって飛ばす。スパッとオーラを斬ると、ヒラヒラと布状の何かが飛んで行った。

 

「おや、バレちゃった♣」

 

 まるで気にもしてなさそうな表情のままそう抜かす変態。布状の何かは、等しく布であった。だがその表面はこの貨物室の床そのもの。大方、布の見た目を別の何かそっくりに変化させるって所か?それだけなら大した能力でもないが、もし布の下に武器のトランプを隠していたら、突然床から飛び出てくる殺人トランプの出来上がり。そうでなくても、布の下に滑りやすい下敷きでも入れてたら、気が付かず踏んだら滑って転び、大きな隙を晒してしまう。ましてや俺の『回』での移動はそれこそ絶妙なバランス感覚の基で成り立ってんだ。滑ったらヤバイ。よく見てるぜまったく!

 と言うかコイツトランプやら布やら幾つ持ってるんだ!

 

「というか、だ。お前みたいなヤツがなんでハンター証なんて欲しがるんだよ」

 

「色々便利だからね♠️人を殺しても免責になることも多いし……♥️」

 

「とか言ってお前、明らかに何人も殺してきてるだろ」

 

「くくく……♣️ボクは殺しても大丈夫な場所でしか殺してないよ♦️天空闘技場とかね♥️そういうキミこそ、何人も殺してきてるだろ?♠️グルメハンター……色々ヤッてるようじゃないか♥️」

 

「俺は自分で食う分しか仕留めてないから良いんだよ」

 

「自分で食べる……ねぇ?♥️じゃあボクもキミに食べられるのかな?♦️」

 

「『受験者は食うな』って会長から直々に言われてンだよ。お前は不合格者でも受験者に違いない。だからお前は殺さないし食わない。ま、オーラは別だがな」

 

 ヤツのオーラは不味い。だが……すでに下ごしらえは終わっている。不味いモノ、食べられないモノを美味く仕上げるのは俺の領分だ。

 まずは小麦粉……の代わりに粉末ルビーをオーラに乗せ、ヤツに向けて撒く。粉末ルビーはヤツの粘着質なオーラにくっつき、キラキラと光出す。

 

「コレは……♦️」

 

 粉を付けたらお次は卵液……がわりに暴食バクテリア液に浸ける。それには一瞬……ヤツの足を止めるため接近する。

 食って回復したオーラを使い、軽く跳躍してから放出。反動で接近し、包丁が届く位置に向かう。

 

「(近づいてきた?♠️)何のつもりか分からないけど、させると思う?♣️」

 

「させざるを得なくなるんだよなぁ!」

 

 地面にへばりついてたゴム状のオーラを包丁で剥がし、ヤツに向けて飛ばして返す。

 オーラ操作は操作系の十八番。他人のオーラでもそこは変わらない。飛ばしたオーラは元々の主人の元に戻り、俺の包丁と()()()()

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)強制発動』

 

 グン!とオーラが縮む勢いを使い、更に加速する。刹那の間に包丁が届く距離に入る。だがその距離は相手の攻撃が届く距離でもあった。

 固められた拳が俺の腹に向かって振るわれる。その攻撃を……あえて受ける!

 

「ッ”!!」

 

 鳩尾に向かって振るわれた拳は、俺の両腕の防御の隙間を縫うようにして正確に鳩尾に叩き込まれた。70:30程度に集中していたガードの上からでも容赦なく内臓を滅茶苦茶にする威力は近接戦闘においてやはり特質系のオーラは厳しい。

 だが、その代償にヤツのオーラに暴食バクテリア液を浸ける事に成功した。防御の際に液の入った容器を破壊し、攻撃を受けつつカウンターとして液をヤツのオーラにかけた。さあ、次だ。

 ジャリジャリと粗めに砕いたヒノキのチップをまぶす。平行して『ポケット』から大量の植物油を取り出し高温にしていく。

 準備は、完了。仕上げ時間は1分。

 

「精々死ぬなよ」

 

「これは……♦」

 

 200℃近くまで上昇した高温油を操作し、ヤツごとオーラを一気に揚げる。ジュワアアアアア!と弾ける音が非常に心地よい。

 ヤツは激しく暴れる。これが生きたままの調理を難しくするポイントだが既に慣れた物。火傷による窒息死を避けるために高温で一気に、躊躇いなく。

 1分。高温の油を『ポケット』に収納し、完成した『衣』をヤツから全て剥ぎ取る。高熱に晒された受験番号49番の火傷の重症化を防ぐため、先程開けた貨物室の扉から叩き出す。

 

 

 貨物室と、飛行船の外を隔てていた扉から……な。

 

 

「受験番号49番!お前は今年度の試験は不合格だがテメェは十分ハンターの素質有りだ!また来年受けに来な!生きてたらの話だがな!!」

 

 ヤツの顕在オーラ全て残らずカラッと揚げたから……まあ五体満足に着地出来るとは思わんがな!下が海だしまあ許せ!

 それより揚げた『変化系オーラコロッケ』だ。元々クッソ甘ったるかったオーラだが、粉末ルビーと暴食バクテリア液、そして揚げ油によって高温で仕立てた事により熱々ジューシーなステーキの様に食べごたえのある一品に仕上がった。一口齧れば、熱々サクサクの衣に包まれた甘いオーラが口いっぱいに広がる。ゆっくりと噛み続けると、粉末ルビーと暴食バクテリアの程よい塩気が甘いだけじゃない、飽きの来させない作りだ。美味い美味い。

 一食のおかずとして食べるというより、デザート……或いはおやつとして十分なポテンシャルを持っている。屋台や出店の一品料理としてなら非常に人気の出そうな物だ。

 

「はー。疲れた身体に甘い物が染み渡りますわぁ~っとぉ」

 

 食べ終えた頃には、首の傷や強かに打たれた内臓の痛みは無くなっていた。

 

 

 

 

 

「アレが……一ツ星(シングル)ハンター……♥」

 

 空を落ちながらヒソカは呟く。

 

「あぁ……もったいなかったなぁ……♦もっと早く本気を出せば良かった……♠」

 

 感じるのは後悔と……興奮。

 

「次は全力で、命をかけて対決(デート)をしよう♥『グリード=ダイモーン』♣」

 

 そして新しい玩具(オモチャ)が増えた事に悦楽を感じていた。

 

 笑いながらヒソカは海に落ちていった。

 

 

 ヒソカ(受験番号49番)二次試験失格(リタイア)

 

 




戦闘描写が……書けませんんんんんん!!
仕方ないね(諦念)


 実はグリード、『グルメレシピ』だけでなく『最も美味しく自分を食べる方法』という名の本を書き、世界に知られています。食方面だけでなく物書きでもあります。アホだけど。
『最も美味しく自分を食べる方法』というタイトルですが中身は啓蒙書の類いで、ハンター目線から見た死生観、自分の死の迎え方が書いてあります。
自身の終活に悩む年寄りや、日々を無為に過ごす若者、自身の『今』に悩む中年等にウケ、世界中で出版されています。
ただ、内容がかなり過激であり発売禁止となっている国も存在するほど。
ハンター十ヶ条に添っていえば、仮にグリードが上官職に就き後進育成をし、そいつが星一つ与えられた場合即座に三ツ星ハンターに成れる資格を有してます。
暴食バクテリアの無害化(厄災クラスの鎮静)や食料問題の解決、問題作とはいえ有名な啓蒙書の執筆等で様々な功績を残していますのでね!
メンチは今のうちにふんぞり返っているといいゾ♥️
(弟子が出来るとは言っていない)


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はい!仕事終わり!……えっ、まだ……?

またせたな。
また引っ越ししたわ。
またまたご冗談を。


 コロッケ食べて本日の業務終了!解散!えっ、まだだめ……?そう……。

 いや待て。そもそも今日は何もやる事が無いじゃないか。よし寝よう。スヤァ……。

 

 起きた。そう、俺は睡眠周期がしっかり整っている人間なのだ。故に昼寝をしても夜寝る時間は変わらないタイプ!つまり……

 

 つまり何が言いたいんだってばよ!?

 

 おっす俺試験官(プロ)!今は一時試験が終わって、二次試験会場に向かってる最中!つまり暇なう!ならばやる事は一つ!

 更なるグルメを求めてレシピ開発だわっほーい。厨房は邪魔になるので別の場所。特別にこさえた、俺専用のこじんまりとした厨房に入る。

 今日も今日とて色々な組み合わせで料理するぞーおー。

 

 

 次の日

 

 

 とりあえず()()()の出来具合の確認するため厨房に向かう。移動途中に受験者共の様子を軽く確認してみたが、まあ異常なしって所でいいか。

 厨房に到着。中に入ると、モーニングの最終準備に取り掛かっていた。イカ厨房長を呼び、首尾はどうか聞く。

 

「首尾は上々っす!昨日は、最初の内は全然来なかったっすけど、受験者同士の口コミで後半は大盛況っす!用意した食材は全部捌けたっす!」

 

「そうか。その様子なら二次試験参加者全員ここの料理を食ったみたいだな」

 

「はいっす!……あ、受験番号49番は食堂で見かけて無かったっす」

 

「あー……あいつは失格したから別にいい。まあそれくらいなら大丈夫そうだな。後……30分で食堂が開くが、機器類に問題はないな?」

 

「おっす!メンテナンスもばっちりっす!」

 

「おーし、予定通りならもうじき怪鳥のナワバリに突入する。多少船が揺れるだろうが最善を尽くせよ」

 

「「「「合点承知!!」」」」

 

「じゃ、イカよろしく~」

 

 とりあえず()()()は上々の様だ。食材の方も予定通り捌いている。順調順調。

 ()()()の確認が終わったら、再度使われてない貨物室にIN。命綱を腰に括り付け、留め金と留め具の確認をしっかり……OK。

 貨物室の扉から飛行船の外に飛び出る。当然重力に引っ張られ空から落ちる……が、命綱が張り、空中に吊り下げられる。

 上空は寒く、風もそこそこ強い。東の空から朝日が昇る。そして日の光と共に現れる複数の黒い影。さあ……来た、狼怪鳥の群れ!!

 

 狼怪鳥。その生態には未だ謎が多く、限られた範囲の空を飛びまわっている事、非常に好戦的で同族以外の空を飛ぶモノをとにかく攻撃する、ぐらいしか判明していない。

 その群れも、5匹程度の少ないものから100匹を超える大群まで様々だ。どうやって繁殖してるかも判明していないが、こいつ等が現れた場所は飛行船の空路として使えなくなってしまう為ハンター協会に引っ切り無しに討伐依頼が来る。しかし戦う場所が空に限られてしまう為、実力のあるハンターでも中々手出しがし辛い。

 じゃあ何故そんな狼怪鳥のナワバリを突っ切るような航路にしたのか?それは当然……俺が食いたいが為!強い強いとは聞いているが、美味い不味いは一切聞いた事が無かった。その上こいつ等が出没する区域の殆どはハンター証必須の危険区域内。これから移動する先は一般区域であり、今いる地点も海の上、一般区域。つまり普通に入れる場所。となったらもう……行くしかないじゃん!

 

 ま、一応会長に許可は得てるし問題ないね。

 

 さてさて、奴等がどんどん近づいてきたが……ひのふのみ……まあざっくりと50匹程度の群れか。そこそこだな()

 奴等は怪『鳥』と言うが、実際には『竜』に近く、身体の表面には金属並みに硬い鱗で覆われている。中々調理が難しそうだ。

 奴等が飛行船に向かって行ってるが……お前等の相手は俺だ。

 

「グァァァァ!!!」

「ギャァ!ギャァァ!!」

「グァァ!」

 

 (恐らく)リーダー格の狼怪鳥が俺に向かって吠える。それに応える様に取り巻きの二匹が俺に向かって突撃してきた。

 

「ギャァァ!!ギャァァ!!」

「グァァァ!!」

 

「ぎゃーぎゃーうるせえんだよ。耳障りだ」

 

 鋭い牙を向けて噛みついてきた怪鳥二匹は、あっさりとバラバラに解体されて落ちていった。

 おっと、勿体ねえ勿体ねえ。落ちていった食材を『ポケット』にしまう。

 ソレを見て、まさか仲間の死体すら残らないとは思っていなかったのか、混乱した狼怪鳥が複数匹俺に突撃してくる。

 

 ホイ、ホイ、ホイさっと。

 

 硬い鱗を避け、関節から分けるように解体する。

 頭のてっぺんから真っ二つにする様に解体する。

 あえて硬い鱗ごと粉砕するように解体する。

 色々な方法で解体しながら『ポケット』に入れていく。

 

「グゥゥ……ギャァァァ!!!」

 

 (多分)リーダー格の一鳴きにより、混乱していた群れは再び隊列を組み直して俺の周りを旋回する。中々賢いんじゃねーの?

 ま、残念な事にソコは俺の手が届く範囲なんだがな。

 隊列を組んでいた狼怪鳥10匹程度纏めて解体して『ポケット』に突っ込む。

 

「グギャァ!!?」

 

 まさか包丁が飛んでくるとは思わなかったか?残念だが、飛ぶのは包丁だけじゃない。ミートハンマーやピーラーに強化系と操作系のオーラを込めて投げる。

 ミートハンマーが狼怪鳥の翼を撃ち、グチャグチャにする。

 ピーラーが狼怪鳥の鱗を剥ぎ、丸裸にする。

 そして包丁で骨と肉と皮に分け、『ポケット』に収納する。

 高速で調理器具が飛び回り、狼怪鳥の群れを片っ端から加工していく。

 

 そうして、あっという間に狼怪鳥の群れはリーダー格の一匹だけになった。

 

「ギャァァァ!?ギャァァァ!!」

 

 命からがらに逃げようとしているが、逃がさない。腰の命綱を外し、オーラ放出で飛ぶ。

 

「ギャァ!?」

 

 一瞬で追いつき、包丁を振るう。スパパパッと骨、血、肉、内臓、鱗、羽毛と分けて、血と肉は瞬時に加熱、『ポケット』からスパイス各種を取り出し振りかける。焼けた肉に鉄串を刺す。血はボウルで受け、岩塩、にんにく、油、醤油、玉ねぎを入れ、粉砕しながら混ぜ、更に加熱。余計な水分が飛んだところで完成したタレに先程焼いた肉を鉄串ごと入れる。粗熱を取りながらボウルを落とさないように抱え、残りの骨、内臓、鱗、羽毛全てを『ポケット』に収納しながら飛行船に飛んで戻る。

 貨物室に戻り、扉を閉めながら何もぶら下がってない命綱を回収し、ボウルの中に浸け込んでいる焼肉を出し、『周』で強化しながら燃え盛る灼熱溶岩で二度焼き。表面がこんがり、中はジューシーに焼けた所で熱々のまま齧る。

 

「美味っ!」

 

 醤油ベースのニンニクタレも美味いが、何より肉自体の旨味がヤバイ。一口齧れば、噛み応え十分の肉厚さ。筋繊維がギッチリと詰まっているからかうまく噛み切れないが、噛めば噛むほど肉がほぐれて内側から際限なく旨味の塊である肉汁が溢れだす。なんとも食べごたえMAX。

 朝から食うものでは無いな。美味いけど。

 

 あっという間に一匹分の肉を丸々食い終えた。美味いが、一般人には噛み切ることは不可能な程弾力のある歯ごたえだった。口に『凝』をしてようやくレベル。普通に焼くだけじゃ十全に味わえねえなこりゃ。どうやったらもっと美味く調理できるか考えよ。

 

 そうこうしているうちに食堂が開く時間。

 ちらっと様子を見たら、食堂には人だかりが。うんうん、これならこの後の余興も問題無く進行できるな。

 

 

 ◇

 

 

 モーニングの時間が終了し、一息ついている所に放送が入る。

 

『あーテステス、問題無しだな。さて……諸君、おはよう。昨日ぶりだな。二次試験の担当のグリードだ。試験会場に到着するまで後24時間以上ある。だが、この飛行船内には娯楽施設なんて用意しちゃいない。ボーっと待ってるのも退屈だろう?そこで一つ、ちょっとした余興を用意した。なぁに、難しい事はない。ただのかくれんぼさ。『目的地に到着するまでに俺を捕まえろ。』ルールは三つ。一つ、俺は、操縦室や厨房内といった関係者以外立ち入り禁止の場所にはいない。二つ、到着までに俺を捕まえられなかった場合、二次試験は非常に不利となる。三つ、俺を捕まえる場合、俺に接触して『試験官捕まえた。』と言う事。以上だ。ハンターになるんなら、これくらいの探し物なら1日以内で見つけられないと話にならねぇぞ?つー訳でかくれんぼスタートだ。あーそうそう、俺が昨日言ったこと忘れんなよ?』

 

 ざわざわと騒ぎ、辺りをキョロキョロしだす組。弾かれたように何処かに向かって駆け出す組。ただ座って、じっと考えている組。おおよそ3組に別れた。

 騒いでキョロキョロしてる奴は何がしたいんだろうねぇ。キビキビ動かない……いや、キビキビ動けないのか。判断力の無い奴にハンターは無理だ。その点何処かに駆け出した奴等はマシって所か。まあ……飛行船の放送室に向かってるんじゃまだまだだがな。さっき放送した俺の声は録音。当然放送室に行っても俺は居ない。そして最後の落ち着いて考えてる組、何考えてるかは流石に分からんが、24時間という時間いっぱい使って俺を探し出すつもりだろう。ゆっくり考える事は悪い事じゃない。だが、考えただけじゃ俺の居場所は見つけられない。いつか動き出さなきゃいけない時が来る。それまでにいい答えが見つけられるかな?

 

 この飛行船のあちこちに、俺の居場所に繋がりそうなヒントはいくつか隠されている。如何にそれを探し出すか。見つけたヒントを分析する能力、そして隠れた俺を見つける勘の良さを……見れればいいなぁ!

 ま、最悪俺を見つけられなくても所詮余興。二次試験が不利になるが所詮それくらいだ。不利のままでも合格出来る奴だっている……だろ、多分。

 そうこうしてると、最初に駆け出した奴等がまた戻ってきた。

 

「おい、居たか?」

 

「駄目だ、放送室には居ねえよ兄ちゃん」

 

「ちっ、グリード=ダイモーン……か。なんでも、一ツ星(シングル)とはいえ実力は大したことはねえらしい。こんな狭い飛行船の中なんだ。手分けして探しゃ一日で見つけられる筈だ!」

 

「……ウモリ、イモリ。見つけたら連絡寄越せ、手分けして探すぞ!」

 

 そう言ってバラバラに分かれ探し始める3人組。なんかダメそうな雰囲気漂ってますわぁ。まあ、来年頑張ってね!(無責任)

 

 そうして、かくれんぼスタートから一時間ほど。いまだに俺を発見出来た受験者はゼロ人だ。俺が退屈になってきた。

 そもそも、俺も本気で隠れていないのだからいい加減一人くらいは俺に気がつくべき。今年の受験者は受験番号49番以外は『念』を使えない……のか?まあ、『念』を使えなくてもヒントさえ見つけられればいくらでもやりようはある。

 いま飛行船に乗っている事務員もヒントの一つ。奴らには『受験者から聞かれたことに対して、嘘を言ってはならない』と言ってある。ま、聞き込みは捜査の基本ってね。聞かれたことに対して嘘を言ってはならない、だから正しい情報かそうでないかの取捨選択は受験者がしなければならない。まあそもそも正しい情報を貰えるかどうかは受験者の人柄やコミュニケーション能力、対価次第だろう。情報に対価は付き物、どうやって対価を払うか。

 

 そして……

 

「おいテメェ!痛い目を見たくなければ試験官が何処に隠れているか吐け!!」

 

「だから知らないって言ってるっす!」

 

「へえ、なら腕の骨を折っても同じこと言えるのか?」

 

 まあ、こんなのも現れるわな。まったく、面倒事を起こすなってんのに……。

 まあいいわ、実力の伴わない脅迫の代償はいつだって同じ。事務員も一般人には負けない程度の実力はある。『脅されたら返り討ちにしても構わない』とも伝えてある、適当に倒して、貨物室に叩き込んでおけば後で俺が飛行船から突き落として終了。『騒ぎを起こすと飛行船から叩き落としてやる』っていっただろうが。哀れ名も知らぬ受験者、ここで失格。

 

 それから更に一時間後、休憩ついでに貨物室に叩き込まれていた受験者数人に『騒ぐなっていっただろ?来年頑張ってね(意訳)』と伝え、飛行船から突き落とした。

 すると、後ろから近づいてくる気配が。あえて気がつかない振りをして、接触してくる瞬間振り向き、蹴りを入れる。

 

「っ!ちょっと!攻撃してくるなんて聞いてないわ!」

 

「わざわざ攻撃しますよと言って攻撃するバカが何処にいるんだ」

 

「かくれんぼの最中じゃないの!?」

 

「かくれんぼで攻撃したっていいじゃない。ハンターだもの」

 

「何をいってるのよ」

 

 振り向いた先には、特徴的な帽子を被った受験者がいた。珍しい事に女だ。

 

「まあ、今のおざなりな蹴りを直撃ってたらまた隠れてたがな。受験番号246番、どうしてここにいる?」

 

「あら、親切なコックさんに教えてもらったわ。『試験官が今いる場所は知らないけど、必ず訪れる場所がある。』ってね」

 

「ほー。よくまぁ丁寧に教えてもらったなぁ。よし、まあokとしよう。さあ、後は俺に接触して『試験官捕まえた。』と言うだけだ」

 

「じゃ遠慮なく」

 

 そう言って、俺の腕を捕まえようとする受験番号246番。俺は腕を引いてかわす。腕を伸ばして捕まえようとする受験番号246番。足を引いてかわす。

 

「ちょっと逃げないでよ!合格なんじゃないの!?」

 

「誰が合格って言ったよ。俺はもう攻撃しないし、この部屋から出ない。そんなハンデを背負ってやろう。さあ捕まえてみな」

 

「あーもープロハンターってひねくれた人ばかりね!怪我しても知らないわよ!?『行け!』」

 

 そう言って受験番号246番は帽子を弾く。すると帽子から蜂がウゾウゾ現れた。うわキモッ。

 

「この子たちに刺されたくなかったらおとなしく捕まりなさい!」

 

「お前さてはそれ使って事務員脅したな!?」

 

「脅したなんて人聞きの悪い。ちょっと取り囲んでお話しただけよ!」

 

「それを脅したって言うんだよ常識的に!」

 

 蜂に刺されるのは嫌だ。アナフィラキシーショックで死ぬようなヤワな鍛え方してないが、気分的になんか嫌だ。

 ブンブンシャカシャカと飛び回り、俺に向かってくる蜂共。包丁一本で何とでもなる脅威だが、ただの余興でこれ以上受験者のネタを割るのは気が引ける。はあ~。(クソデカため息)

 刺されるのは嫌だが、かといってただの受験者ごときに後れを取る感じがするのも嫌だ。どうしたもんかね。

 

 偉い人は言った。『逆に考えるんだ』と。

 

 そこで俺は『絶』をして、ブンシャカ蜂の間を通るように直線で受験番号246番に接近。そのまま通り過ぎた後受験番号246番の襟を引っ掴んでブンシャカ蜂の檻を抜け出す。この間約1秒(大本営発表)

 

「……えっ!?な、いつの間に!?」

 

 やっぱ一般人相手に『絶』は強いわ。相手の無意識に潜り込んでやりたい放題だし。*1

 ま、こんな所にしておいてやるか。いい加減にしとかないと延々と蜂を差し向けられるかもしれん。

 

「くっ……『試験官捕まえた』っ!」

 

「ハイ捕まった。試験官を捕まえられたご褒美だ。ほらよ」

 

「……何よコレ」

 

「解毒剤」

 

「……は?」

 

「お前、食堂でメシ食っただろ?昨日、今朝に振る舞われた食事は遅効性の毒(美味)をたっぷりと使って作ったモンだ。二次試験が始まる直前か、遅くても始まった直後くらいに強烈な腹痛、眩暈、吐き気が襲う……まあ、死にはしない。毒に耐性があるんならある程度は我慢できるだろう、ある程度は、な。そこで、俺を捕まえられた受験者にはこうして解毒剤を渡す訳だ。片や最悪のコンディション、片や万全のコンディション。中々考えられてるだろ?」

 

「……は、はぁ」

 

「この解毒剤は一錠飲めば即効、ただし一錠しか渡さない。落としたり、盗まれたりしても知らん。今すぐ飲んでも良いが、今日の昼、夕飯、そして明日の朝飯も毒入りだからな、食わないで二次試験に挑むも良し、しっかり食って挑むも良し、好きにしな」

 

「つまり、今飲んでも明日の食事の毒は解毒されない……って事ね」

 

「ちなみにだが、その解毒剤を使わないで二次試験を合格出来たら……まあ、良い事があるかもなぁ?」

 

「何よ良い事って」

 

「それは秘密です。ま、腹痛も眩暈も吐き気も、最悪我慢出来なくはないかもしれない程度には抑えてある。挑戦してみるだけしてみな。結果二次試験を突破出来なくても知らんが」

 

「何よそれ!」

 

「まあお楽しみにとっときな!それと俺の居場所は他の受験者に教えんなよ?じゃあな!」

 

「あっちょっと待ちなさい!」

 

 聞かん。再度『絶』をして隠れる……飛行船の外に。

 『絶』をしながら飛行船の外に居るのはちょっとしんどいが、まあ耐えられない事も無い。飛行船内に仕掛けられた小型カメラや小型マイクの様子を確認する、うん、異常なし。

 こんなモン(カメラやマイク)無くても飛行船の中の様子ぐらい確認できるが、あればより詳細に確認できるのは確かだし、そもそも飛行船内にヒントを残しておかないと、外に居るなんて発想が出る訳が無いし。

 カメラやマイクがあちこちに設置されている。つまり(実際には必要ないが)カメラやマイクを設置しなければならない理由がある、隠れながら移動している訳ではない、等の推測が出来る。後はとにかく情報収集、それと勘を頼りに俺を見つけることが出来るかという話だ。

 他にもあえて置いてある携帯食や、命綱、鉤爪ロープ等の装備類をほんのり隠しておいてあり、勘の良い奴、発想が柔軟な奴は俺が外に隠れ、定期的に船内に戻って休憩しているといった行動パターンである事を知ることが出来る。

 まぁ、俺を捕まえる難度は『H』以下だな、うん。正に試験に相応しい。いや、試験じゃないけど。

 

 

 次の日

 

 

 色々あったが、あれから約20人程が俺を捕まえることに成功し、3人程解毒剤を紛失するポカをやらかした。ウケる。

 飛行船から突き落とした数?一々数えてられるかよめんどくさい。

 

 時間は正午。飛行船は予定通り『ビトイ山』の山頂に到着する。

 

『あーテステス、本日も晴天なり。さて受験者諸君、この飛行船はようやく二次試験会場に到着した。ただいまをもって余興は終了とする。今から30分以内に飛行船から下船し、待機しろ。30分以内に下船出来なかった受験者はそのまま失格。飛行船と共に再び空の旅に行ってもらおう。さあ降りろ、降りろー』

 

 録音していた音声が飛行船内のスピーカーから発せられ、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10秒経過。と機械的にカウントが開始する。

 カウントが始まると受験者達は一斉に下船口に移動を開始する。あ、一斉じゃないわ。頭痛や眩暈でマトモに動けない奴等。トイレに籠って出られない奴等。辛い顔をしながらフッラフラで移動する奴等。何事もなくすまし顔で移動する奴等と分かれていた。

 

 そして30分後、飛行船が再度空に飛び、あとに残ったのは約70名程度の受験者と俺だけになった。

 

「さて、お前ら。ここはアマダレ地方のビトイ山だ。見ての通り雲より標高が高い。麓の方が見えないだろうが、深~い樹海が広がっている。さて、そこで二次試験内容。『48時間以内にここからまっすぐ南東にある島に到着すること。』これが試験内容だ。ビトイ山もアマダレ樹海も、危険な魔獣やUMAが出る訳じゃない。むしろ一般人の出入りが規制されてないほどに安全な場所だ。まあ、本気でハンター目指している奴が死ぬような場所じゃないって事だ。はい、スタート」

 

「ま、待て!何か目印か何か無いのか!?」

 

「目印無しに樹海の中をまっすぐ進むなんて不可能だ!」

 

「甘ったれるな馬鹿。無理なら登山道が南東に続いている事を祈って進めば?」

 

 じゃ、俺は寄り道してから向かうから。と言って西の崖を飛び降りる。

 視界の端で歯噛みしていた受験者がいたが、まあおおよそ俺の後を付いていく算段だったんだろう。そんなことより、急いだ方がいいぞ?ちんたら歩いてたら、2日どころか1週間たっても樹海を抜けられやしないんだから。

 

 さて、寄り道である。崖から落ちながら、突き出た岩を蹴るように加速。広がる雲海に入る際に『堅』をして、ダイナミック着地。ここら辺の地質は非常に柔らかい、というのが事前の(協会事務員による)調べで分かっていたからこんな方法を取ったが、普通の岩肌にダイナミック着地するなんて発想はない。さすがにね!

 アマダレ地方は一年を通して分厚い雲に覆われ、晴れる日は『神が地上に降りる日』のみ、だそうだ。つまり百年単位で晴れない。

 そんな場所故に、この地に生息する動植物も特異な進化を遂げている。ただ、生息地域が広く、生息数もかなり多いから『保護地区』ではあるが一般人の出入りは規制されていない。なんだったらこの地区の動物の毛皮が土産屋で販売されているレベル。保護ってなんだよ。

 とまあ、特異な場所ではあるが一般解放もされているので、俺みたいにハンター証を持っていないハンター(プロ)でも簡単に試験場所として使える。

 

 まあ、出不精な俺はこういった機会でもないとこんな遠くまで来ないし。むしろ俺の本命は寄り道である。

 アマダレ地方の特異な動植物。狩猟するのに許可は必要だが、プロハンター故に簡単に許可が降りた。ならやることは一つ。

 

 新たなグルメを求め邁進するのみ!

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 何故、アマダレ地方は常に分厚い雲に覆われているのか。偉そうな学者がアレコレと理由をつけているが、そんなことはどうでもいい。俺にとって、美味いか美味くないかが最も重要な事。

 前、メンチに『雲いる?』と聞いたら、『雲なんて食うモノ(くーもの)じゃないでしょ』とかほざきやがったので『硬』でシバいてから加工した雲を食わせてやった。

 『雲は食うモノだろドヤドヤ』って言ってやったら顔真っ赤にして逃走した。まさか無意識で親父ギャグ言ってたなんて……メンチのオヤジ化が進んでますねぇ。元からか。

 

 さて、雲である。ククルーマウンテンで採集した雲は、加工するとふわモチッとした食感で中々に楽しかった。だが味自体は非常に薄味だったのが良くなかったな。アマダレ地方の万年雲はどんな味か、いざ実食。

 先ずは普通に刺身。ササッと切って口に入れる……っ!

 

「もっちり食感でこの味の濃さ!」

 

 舌触りはメレンゲのようにふわりと軽く、歯ごたえはそれこそつきたての餅のように柔らかい。そんな軽さで、味はまるで醤油をそのまま飲んだかのような強さである。しょっぱい。

 生でこれなら、火を通したらどうなるのか。早速試そう。

 

 

 

 

 色々試してみて思ったことは、『食材というよりは調味料に近い』だ。加工した雲を焼くと、どろどろと溶け、風味は香ばしくなる。煮たり揚げたりは雲の性質上向いていない。以外にも、蒸すと加工した雲が膨らみ、味も優しく変化した。だが歯ごたえがほぼ無くなっていた。

 中々に面白い食材だった。料理の味付け用に多目に採集しとこ。

 

 さて、雲だけで1日がつぶれそうなので急いで移動を再開する。分厚い雲を突き抜け山を下ると、目に入るのは真っ赤に染まった樹海。アマダレ樹海だ。別名『クリムゾンフォレスト』。なんでも、分厚い雲の下、僅かに漏れ出た太陽光で効率的に光合成をするために赤いだとか、神が降りた日に血の雨が降るから赤いだとか。詳しくはしらーん。

 赤い、木である。紅葉したとかじゃなく、元々赤い木だ。つまり、普通の木とは違う味かもしれないということ!ならやることは一つ!食う!

 

 むしゃり。

 

「ウゲッ、苦!」

 

 真っ赤に染まった葉っぱを齧ってみれば、煎ったコーヒー豆よりも苦い。そして、噛めば噛むほど現れる苦味とエグみとのハイブリッド。つらたん。しかも一口分、葉っぱ一枚でこれだ。

 ならば木の枝ならどうだろうと齧ってみれば、今度は強烈な臭み。そして、苦みとエグみとのハーモニー。まじつらたん。

 では木の幹はどうかと木を切り倒し、木の皮ごと齧ってみれば今度は強烈な酸味。そして、苦味エグミ臭みも揃って奏でるオーケストラ。舌が死ぬ。

 まるで、ゲロを濃縮して爆発させたかのような味覚の殺意に気が遠くなるが、気を確かに持ち直し、熱を通したら木が変わるか試す。

 

 

 ただ一つ判明したことがある。煮ても焼いても食えない事はないが、積極的に食いたいものではない物もあるということが。

 萌え出たばかりの芽も、成長しきっていない若木も、枯れる寸前の老木も、味の濃淡は有れど総じて味覚を殺しにきている。

 なんか悔しいので、バラバラに加工したクリムゾンフォレストを『ポケット』に入れ、サンプルとして若木を生きたまま持っていく事にした。『なんでも美味しく料理する』という看板を下ろす気はまだないぞこのやろー。

 

 日没の時間だが俺の『(ハント)』は終わらない。まあ、日没といってもこの地域に太陽は昇らないし没しもしないんだが。

 星明かりを遮る分厚い雲から雨が滴り落ち、辺りを暗黒と静寂に包む。自分の掌すら見えない黒の世界でも、俺のやることは変わらない。不得意ながら『円』で周囲を探り進む。

 木の次は草、そして虫や動物を発見次第片っ端から狩って食う事を繰り返した。そのどれもが特徴的な味を持っており、美味く料理しがいのあるクセの強さだった。

 

 そうして、夢中になって狩を続けて……気がつけば辺りは明るくなっていた。(とはいえ厚い雲がかかったままではあるが)

 やー、今日も良い仕事をしたなあ!帰って寝るか!

 

 

 

 

 

 

 ハンター試験の最中だった事を思い出したのはそれから12時間後。そして三次試験会場に到着したのは更に12時間後であった。

 おかしいなあ、当初の予定なら余裕を持って現地に到着するはずだったのに……何が悪かったんだ!?

 

*1
そんな事が出来る奴は非常に限られている。




強いて言えば頭が悪かったんだ。


「僕は毎話数千文字は書いているだろう?」

「なら、読者も感想を数千文字書かないと割に合わないじゃないか!」

「いや、そのりくつはおかしい。」

はい。と言うことで感想をくれ。毎話くれ。さもないと原作者リスペクトするぞ。(悪質なクレクレ厨)
うそうさぎ。

「自分は感想書かないのに読者に感想を求めるなんて、浅ましいぞ!」

「やかましい!」


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試験……あぁ、試験ね、試験かぁ……。もうなんか生き残れれば合格で良くない?

今日も蛸壺みたいな部屋で執筆する仕事が始まるお……。


 おっすオラグリード!飛行船から降りて気がついたらもう50時間位経っててワァ↑クワクすっぞ!(試験官のクセに遅刻するクズ)

 

 とりあえず無事『クリムゾンフォレスト』を突破出来た奴は合計11人。よくもまあコンパスも無しに正確な方角が分かるなぁ。

 ちなみに、この辺りには無人島が幾つか有り、ビトイ山山頂から正確に南東にある島はここだけ。それ以外の島には予め協会事務員が待機していて、今頃偽の三次試験を行っている最中だろう。当然偽の試験だから、その試験に参加した時点で不合格。御愁傷様。

 

「さて、漸く三次試験を始められるな」

 

「ちょっと。堂々と遅刻しておいてよくもまあ何事もなく始められるわね」

 

「受験番号246番、それ以上無駄なおしゃべりをすると失格させるぞ」

 

「器が小さいっ!?」

 

「さて三次試験の内容だが、これまた至って単純。『この島の内で1週間生き残る事。』この島の海岸を境界線として、島から約500メートル以上離れたら失格とする。その場合協会事務員が失格者を捕獲し、失格者用の船に乗せられるから覚悟しろ」

 

「おい、冗談じゃねえぞ!こんな……こんな木一本生えてねえ火山島で1週間だぁ!?」

 

「水の確保すらままならねえぞ!」

 

「そんな事出来るわけねえだろうが!」

 

 飲まず食わずで1ヶ月位は余裕だろJK……と思ったが、そんな事出来るのは念能力者+スラム街出身位なモンか。俺は出来るが、何でも食えるのに態々何も食わないなんてする意味無いしな。

 まあ、一般人ならそんな文句が出るのは予想済み。どうすればいいか、なんて悩む必要はない。

 

「俺もお前ら受験者と同じ条件だとしたら?」

 

「あぁ?」

 

「三次試験の間、俺はお前らと共にこの島の内側に居る。もし俺が死んだり、失格条件を満たしたらその時点で生存者は合格にしてやるよ。俺自身はお前ら受験者に攻撃はしない。ただし俺に襲撃仕掛けた場合はその限りじゃねえ。襲撃者に対して容赦はしない」

 

「んなモンテメェが水や食料を隠し持ってたり、この島のどこかに隠していたら不公平だろうが!」

 

「ああ、不公平だな。それがどうした?」

 

「はあ!?」

 

「ハンターやってりゃ不公平や不平等なんて当たり前。それで?『ふざけんな!』って不満撒き散らしてなんの意味がある?喚けば財宝が手に入るのか?賞金首が捕まえられるのか?馬鹿馬鹿しい。不平不満全て飲み込んで、不条理を踏み越えるのが『プロハンター』ってもんだ。嫌ならやめて来年頑張れば?嫌な事から逃げて、運良く試験合格出来るまで粘ればいいだろ。ここで試されるのは『自分の限界に挑む勇気』。追い詰められ、追い詰められ追い詰められ、限界の更に先へ()けるのか、そこで死ぬか。もちろん、今は無理だと引くのも勇気だ。生きていれば次があるが死ねば終わりだ。引き際を見極め、見誤った奴は死ぬ。実にシンプルだろ?」

 

「い、イかれてやがる……!」

 

「お前は、お前らはどんなハンターになりたい?まあどんなハンターになるとしても、息を潜めて獲物を待つ時ってのは訪れる。利用出来るものは全て利用して『仕事(ハント)』する。空も、海も、大地も、環境全てを利用しろ。何を置いても生き残れ。『ハンター』ってのはそういうモンだ。さあ、時間が押してる。1週間、この灼熱の溶岩滲み出る火山島で生き残れ。試験を辞めたきゃ、体力のあるうちに海に出な。溺れ死んでも助けは来ない。さあ始めよう」

 

 三次試験、スタート。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 アマダレ地方ボルケ火山島グマ砂浜、気温44℃。辺りは島の中心部から絶えず流れ出てくる溶岩流と海水がぶつかり合って発生する大量の蒸気に包まれ、非常にジメジメとしている。そこに立っているだけで体力を奪われ、ボトボトと滝のように汗が流れる。しかし常に濃密な湿気に囲まれ、汗の本来の機能を果たす事は不可能だ。

 そんな砂浜に座り込んで何かを作る男が一人、受験番号451番。彼は所謂『サバイバルのプロ』と呼ばれている、とある国の芸能人だ。

 

「(サバイバルの基本は飲料水の確保!水もマトモに飲めないで一週間生き残ることなんて人間には不可能だ!ましてやこんな酷暑地帯、汗も止めどなく流れ落ちる!水!水水水!クソッ!何が『初のプロハンター芸能人』だ!死んだら元も子もねえだろうが!蒸留部分はそこの海水汲むだけ、水蒸気は勝手に集まる、あとは凝結した水を溜めておく部分を作るだけだ!)」

 

 もうもうと立ち上る蒸気の中、彼は飲料水を集め続ける。自分の()()に則って。

 

 場所変わってボルケ火山島北海200メートル。海に潜って魚を探しているのは小柄の男。受験番号29番。

 

「(くそっ……魚どころか生物の気配すらない。鳥も近寄らねえし、火山島だから動物なんて居る筈もねえ。食うもん無しにどうやって生き残れってんだよ!)」

 

 彼は腕のいい狩人だった。山に上れば鳥やクマを猟銃一丁で狩り、海に潜れば魚やサメを銛一本で狩る万能の狩人だった。だがそんな彼でも、そもそも獲物となる動物がいなければ狩りが成功するはずもない。

 

「(なにか……なにか居る筈だ!じゃなきゃ試験官だって生き残れはしないだろうが!)」

 

 水温40℃以上はある海水の中、必死に獲物を探す。だが、この辺りに生息している生物は居ない以上、いくら探しても見つかりはしなかった。

 

 そして更に場所は変わり、ボルケ火山島中心。そこからは絶えずサラサラとした溶岩が湧き立ち、常に気を張っていないと湧き出る溶岩に落ちかねない危険地帯だ。

 そんな場所に複数人の男女が居た。その内の一人は、こんな場所を試験会場に決めた馬鹿野郎ことご存知グリード=ダイモーンだ。

 

「こんな動物どころか植物も存在しない島でどうやって生き残るのか、そんな疑問がお前らの頭にあるだろう。しかし答えは単純だ。『食える物食ってれば生き残れる』」

 

「その『食える物』ってのがこの島に存在してないでしょって言ってるのよ!」

 

「有るさ、いくらでもな。例えばそうだな……ここから見える浜辺にはわずかにだが苔が生えている。そこにあるだけでも人一人だけなら1週間はなんとか生き残れるだろう」

 

「苔……だと!?苔を食えってのか!?」

 

「苔以外にも、必要に応じて砂も食えるな。場所によるが、砂は生物の死骸が石状に固まり、粉々に砕かれたものが混じってることがある。肉や軟骨位ならいつも食うだろ?それらと一緒だ。味は保障しないけど。塩分補給には浜辺の砂は良いな。まだある。今ここに立っている人間。まともな下処理が出来なければ味は酷いモンだがな。栄養分も優れてるとは言えない。だが、食えないなんて事はない。1週間程度生き延びるなら栄養バランスなんて気にする意味は薄いな」

 

「待ってくれ。私は『ハンター』になりたいのであって『人殺し』に成り下がりたくはない」

 

「ついでに言うが、『狂人』にも成りたくはねえなぁ」

 

「『ハンター』になるなら、遅かれ早かれ『狂人』になるよ。まあ、言いたい事は理解できる。人肉なんて好き好んで食うモンじゃない、不味いし。それに試験官が積極的に受験者を狩ると協会からどやされちまう。さて、そんな所でお前らには3つの選択肢がある。1つ、体力のある内に海に出て失格する。2つ、自力でこの島の中で食える物を探して生き延びる。3つ、この危険地帯に留まる俺と同じ物を食って生き延びる。さあ、選べ」

 

 グリードのその言葉に、一瞬悩む受験者達。しかし、出した答えは皆同じだった。

 

「面白い。誰も海に行くどころか、危険地帯のここに留まるってか?まあ良い、危険な目にあっても助けはしないぞ」

 

 にやり、と笑うグリード。

 長く喋って喉が渇いたな……とおもむろに地面から拳大の溶岩石(熱い)を拾い、ぐっと力を入れて石を()()()カップ状に変え、湧き出る新鮮(?)な溶岩を掬い取ってゴクッと飲んだ。

 それを見た受験者は颯爽と海に泳ぎに行った。

 

 




短め。


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試験官とは、合格者が多いと『手抜き』と言われ、合格者が少ないと『加減考えろ』と言われる大変やりがいのあるお仕事です (白目)

「私の出番はま~だかかりそうですかね~?」


 三次試験開始から四日目。今日で折り返し地点な訳だが、意外にもこの時点での生存者は4名だけである。減ったなぁ……。

 大体は初日か二日目で限界になったのか海に逃げ、残りは気を抜いたのか幻覚でも見たのか、溶岩流に飲まれ消えた。

 まあ、無理もないか。何故ならここは火山島。メートルどころかセンチメートル単位の近さで溶岩が流れている。専用の防護服かしっかりとした()()がなければまともな活動は出来まい。

 

 生き残った受験者はなんとしてでもこの試験を突破しようと色々と足掻いている。

 (自称)サバイバルのプロ芸人とか名乗った男は、(自称)猟師の男と手を組んで水と食料をかき集めている。自作の飲料水収集キットは、時折流れを変える溶岩流に巻き込まれないように常に移動させる事を余儀なくされるがそれでも僅かではあるが水を確保することが出来ているようだ。ご苦労さま。

 (自称)漁師はこの島からさらに離れて約400メートル付近に稀に泳いでくる『はぐれ』の魚を捕まえてはまた島に戻っていく。ご苦労さま。

 そんな明らかに非効率的な行動でも、成人男性が一週間辛うじて生き残れる程度には食い繋げるだろう。まあ、一週間経つ前に仲間割れしなければの話だがな。

 

 生き残った3人目の受験者、500番。体格的に女だとは思うが、常に仮面を被っているのとコケシ体型の上から鎧の様に厚着してるからよくわからん。つーか暑くない?

 

 そして生き残った最後の受験者、246番。飛行船の余興の時に、一番最初に俺を捕まえる事の出来た女だ。あの時は帽子の中に飼っていた蜂を使ったが、さて今回はどう使うのかと見ていたがどうにも蜂はこの火山島の熱さにやられたらしい。まあ、確か普通のスズメバチなんかは50℃程度で死ぬ……ような気がするし、火山島で生存できないのも理解できる。

 早速自身の切り札が使えなくなった246番はどうするのかと思って観察していたら、しばらくすると死んだ蜂や弱っている蜂をおもむろに食いだした。うへぇ、今までずっと共に生活してきたであろう蜂を食うなんて……()()()。当人は苦虫を纏めて噛み潰したような表情してるけど。

 昆虫料理……それも蜂料理ならこの場でも作れる美味しいレシピがあるけど黙っておく。人は時に極彩色の鳥や昆虫、そして自身のパートナーとして暮らしてきた犬猫を食う事を強いられる時があるだろう。それが食った物を()()に変えると言う事。それが生きるという事だから。

 感情の話では無く、理的な話をしよう。今死んだ蜂、或いは今から死ぬ蜂を食う事はかなり理に適っている。何故なら奴等はこの島に足を踏み入れたその瞬間から貴重な水分や栄養素が失われていっているからだ。ベストなタイミングは、それこそこの試験の内容を聞いた瞬間から蜂共を全部食う事だった。だが流石にそれは未来予知でも出来なきゃ無理っつーもんだ。あの帽子にどれだけの蜂が入っていたかなんて分からないが、まあ仮にあの帽子ギッチリに蜂が詰まっていた場合、生きたまま全部食いきってそれからこの島の海岸300メートル付近で一週間浮き続けるのが最も消費を少なくして生き残ることが出来る手だったな。まあ過去の事はどうでも良い。問題は今である。

 今、246番はチームを組んでいる受験者共とは反対方向の海岸に居る。自身の消費を抑えつつ、俺が飲んだように溶岩が飲めないか試そうとしてずっと躊躇している所だ。半裸で。

 

 半 裸 で !

 

 眼福ですなぁ……ま、見てるだけじゃ腹は膨れんが。

 こんな高熱地帯、服を着込んでいるなんて馬鹿々々しいしな。分かる分かる。

 流石に他の受験者が何かのタイミングで近づいてくる時はサッと服を着ているようだ。なら何故俺がこうして観察している時に服を着ないのか、それは簡単な話である。

 

 今現在俺は『絶』をし続けているから。

 

 こんな危険地帯で『纏』すらしないとか自殺志願者ですか?ってマーさんは言っていたが、まあ単純に試験官()と受験者との溝をなるべく埋める為に行っているハンディキャップなだけだ。

 この火山島で生き残るのに必要なのは、それこそ単純な『技術』と『慣れ』のみ。『念能力』なんて無くても生き残れないでどうする?

 まあ、マーさんの言いたい事は分かる。『念能力者』は『纏』だけで一般人を凌駕する防御力を得る。それこそこんな火山島で昼寝も出来るくらいにな。だが、それじゃあ試験としてはツマラナイ。

 心頭滅却すれば火もまた涼し。単純に鍛錬不足な奴等は置いといて、心が成ってないヤツはハンターとして大成出来る筈が無い。無論、プロになってから心を鍛えれば良い、なんて言うヤツも居るだろう。だが、心の在り方なんてモンはそれこそ生まれ育った環境でしか形成されないと思っている。プロハンターになって、そこから更に成長できるヤツなら良いだろう。だがそんなヤツってのは、実は極少数なんだ。つまり……

 

 何が言いたいのか忘れたわ(平常運転)。

 

 そう、つまり俺はこんな場所で『絶』をし続けているから246番に気が付かれてないって話。なんか覗きっぽくなったのは結果論だから。ノットギルティ。というか、試験官である俺は受験者に気を配る責務があるのでは?うん、なら試験中に脱ぎだすヤツが悪いな。自己弁護。

 

 しかし『常識』ってのは怖いモンだ。辺りの地面から絶えず流れ出る溶岩。実はこの溶岩、普通に食用可能なのだ。

 勿論、誰も溶岩なんてモンは口に入れたくないし、そもそも食おうともしないだろう。だが実際にこの島の溶岩は食えるのだ。ただこの島にある()()()()を使わないと熱でマトモに口に入れる事は出来ないが。それとこの溶岩は海水に触れると化学反応を起こし高熱になる。故に常にこの島近辺の海水は異常に温度が高い。

 なんでそうなるか、なんてそれこそ学者が必死に調べ上げるモンだ。俺は知らん。ただ()()()()を使うとこの溶岩の温度が70℃程度に下がる。美味しい味噌汁程度の温度だ、慣れてれば誰でも飲める。それに大地に含まれる様々な旨味成分が濃縮されているから普通に美味い。ダシに最適。

 ただし更に冷えて固まると当然、岩のように硬くなるから歯を『凝』なりで強化しないと食えないがな。

 美味いし、栄養満点、腹にも溜まると。こんなモノが常に涌き出てくるんだ、どう餓死しろっていうんだ。しかも()()()も目の前で見せて説明したというのに誰も真似しやしない。要するに、あれだけ色々言いはしたが、結局ただの『度胸試し』に過ぎないんだよなこの三次試験は。溶岩流だって、突然爆発的に流れ出るようなモノでも無い。ちゃんと辺りの様子を確認し、予兆を察知することが出来れば回避は非常に簡単だ。足を踏み外して溶岩流に落ちるとか、そんな不注意知った事かよ。この三次試験、ぶっちゃけ最も簡単なハンター試験説あるで。

 

 ペットボトル程度の硬さと粘土の様な粘り気を持つ溶岩石(熱い)をグネグネと曲げながら246番を観察する。この石だって探し出すのは困難な事ではない。注意深く石一つ一つを観察出来れば、見つけるのは容易い。四葉のクローバーを探すんじゃねえんだ。ま、()()()()()()()()に意識を向けられなければハンターは務まらんって事よ。さぁ、246番は見つけることが出来るかなぁ?

 

「あ”ぁ”ー!あ”っつ”い”!」

 

 わお、意外と大胆なのね。ついに全r……げふんげふん。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 三次試験開始から六日目。生存者は4名のまま。残った4人はなかなか根性はあるみたいだ。ま、それも時間の問題か?

 野郎二人組は水と食料の取り分で喧嘩する程度にはまだ余裕があるようだ。

 仮面受験者は見つけた安全地帯で、じっと座り込んで動かない。干物にでもなったか?と思って近づいて仮面を取って確認してみれば、『ギョッ』と言って飛び上がった。なんやコイツおもろいわぁ。

 蜂受験者は浜辺で脱いだ衣服を敷いて、その上でぐったりしてる。まるで真夏日の駄目親父の如き姿(非情)。女死力高いですね(白目)。近づいて顔を覗き込んでやると、『あぁ、ついにお迎えが来たのね……まだ死にたくない……ってか、せめてもっとマシな顔つきのお迎えよこしなさいよ……』等とすごい失礼な事をほざきやがったので靴のまま顔を踏みつけてやった。次の瞬間烈火の如く怒り出したので海に放り出してやった。

 

「ガボボボッ!熱っあ゛っつ゛い゛っ!」

 

 コイツも元気そうだ、いいねー若いって。

 約80℃程度の熱湯海に投げ込まれてもバッチャバッチャと跳ねるように陸に戻ってきた裸族。いつまで裸でバカンス気分味わってんだこの野郎と声を掛けると、ようやく正気に戻ったのか全身を真っ赤に染めて(火傷)服をいそいそと着だした。

 

「この……変態っ」

 

「お、ブーメランかぬ?」

 

 誰も来ないような場所とはいえ、青空(曇り空)の下でストリップを楽しんでた奴の言葉とは思えないわぁ。

 楽しいから弄くり続けたい所だが、話が進まないので246番を引っ張り出す。

 

「ちょっ!まだ服着てる途中でしょうが!」

 

「時間がねえから裸族の言葉は聞かん」

 

「裸族じゃないわよ!まっ、待ってってば!ちょっ、まだパンツが……!」

 

 なんか色々あったが、蜂受験者を引きずり回し仮面受験者を再発見。捕獲後再度引きずり回し、喧嘩していた芸人受験者と猟師受験者を張っ倒して生存者全員を集めた。

 

「……で、何が始まるんだよ」

 

「知るか。イカれ試験官のやることなんて推測するだけ無駄だ」

 

「……」

 

「(冷静に思い返してみると死にたい)」

 

「はい注目。こうしてお前らを集めたのは、ぶっちゃけ予定してた選考人数を大きく下回ってるからだ。大まかな予定なら三次試験開始時にはまだ2~30人位残っている予定ではあったんだが……」

 

「あんな密林の中、しかも方角も時間もまともに分かりゃしねえ上にぶっ続けで走らなけりゃ間に合わないような試験出す方に問題があると思うがな」

 

「お前らはそんな試験突破してるじゃねえか……まあともかく、この調子なら4人しか残らなさそうだからそのまま最終試験してくれってお達しが昨日ネテロ会長から届いてな。三次試験は現時点をもって繰り上げ終了となる。三次試験合格おめでとう」

 

「……ああ?」

 

「えっ、と言うことはもうこの火山島とはおさらば?」

 

「残念!もちょっとだけこの島での試験は続くんじゃ。そういう訳で最終試験……の前に、お前らの消費しきった体を回復させる時間を取ろう」

 

「何っ!?ついに溶岩から離れることが出来るのか!?」

 

「だから出来ねえっつってんだろ。お前ら、腹が減ってるだろう?喉が渇いてるだろう?特別にこの俺が最高の料理を振る舞ってやろう。この、俺が直々に!一ツ星グルメハンターの手料理を!」

 

「……興味深い」

 

「おい仮面野郎!勝手なマネしてんじゃねえよ!」

 

「……五月蝿い。前々から『グリード=ダイモーン』の料理に興味を持っていた。先日の飛行船で出た料理、確かに美味しかったけど期待はずれだった。『死ぬほど美味い料理』を期待している」

 

 ふぅん?俺のファンか……まあ、俺のやることは変わらない。今回は『ポケット』を使わずに、()()()にある物だけを使って調理に当たる。

 まずは足元に落ちている溶岩石(熱い)を複数個加工し、調理道具に変えながら受験者共に最終試験恒例(らしい)質問を聞くことにする。

 

「お前ら、プロハンターを志望した理由はなんだ?順番に答えろ」

 

「何よいきなり……それが最終試験?」

 

「直接は関係ないが、まあ試験の一部と答えよう。番号が小さい順に、ほれ、答えろ」

 

 そうして顔を向ける先は受験番号29番の男。

 

「小さい順……ならオレからか。オレはただ昔っからハンターってのに憧れててな。陸も海も、オレが行った所に居た動物はどれも狩猟したことがある。だからオレが行ったことのない場所に行きたい。そこにいる動物を狩猟してみたい。そのためにはハンター証が必要だったからな」

 

「ふーん、目指すは『動物ハンター』ってところか。下手に乱獲すると自分が狩られる立場になりかねないから気を付けな。はい次」

 

 料理道具を拵えながら、目線を受験番号246番の女に向ける。

 

「私ね。私は……ある理由で『不死鳥』って呼ばれる鳥を探してるの。捕獲例は無く、発見例すら片手で数えられる程度にしか確認されてないわ」

 

「不死鳥……フェニックスって奴か。確か羽根一つで何百億もの価格で取引されてた記憶があるな。どんな怪我も治す……なんて眉唾な伝説があったな。お前が目指すのは差し詰め『幻獣ハンター』ってとこか。はい次451番」

 

「……オレはそんな立派な理由なんてねえよ」

 

「死ぬかもしれないっつーのに退かないんだ。そんな理由で十分だろうが」

 

「……事務所の命令だ。『初のプロハンター芸能人』っつー箔がありゃ色々な番組に引っ張りだこなんだとよ。馬鹿々々しい」

 

「ふーん、じゃ次。受験番号500番」

 

「……私の姉は怪物ハンターだった。だけどある日突然グルメハンターに転向した。その理由を知る為」

 

「……ちょい待ち。お前の姉さんってのはもしかしなくてもずっと仮面被ってる変人か?」

 

「それは私の事を変人と言っている事と同義」

 

「否定できない位に変人だろうが。マジかー……俺の知り合いに更に変人が増えたかー……」(変人の極みの戯言)

 

「とにかく、頑固一徹の姉が変化した理由を知るためにハンターになる……つもりだった」

 

 そこでじっ……と俺を見つめる500番。プロになる直前で目的が見つかったらそらそうなるわな。草。

 

「まあお前らがどんな目的であれ、プロハンターになる以上何かを狩らなきゃいけない。その上ハンター証を手に入れたら『ライセンス狩り』を何とかしなきゃならん。目的達成の為には、あらゆる意味での『強さ』が必要になる。一次試験では単純な武力、二次試験では感覚、三次試験では生き()()精神力を、本来やる予定だった四次試験では観察眼を試すつもりだったらしいが……まあそれは良いや。そう……そして最終試験では明確に表せられない()()。数値に出来ない()()を試させてもらう。試験内容は……」

 

「……試験内容は?」

 

 

 

 

 

「試験内容を話す前にメシにしよう。くっちゃべってて腹減ったわ」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 本日のメニューは『ボルケ溶岩スープ』に『ジルコニアエビのグマ砂灼熱焼き』。

 流れ出る新鮮な溶岩を掬い、鍋にぶち込む。そこに採集した海塩と苔を入れ、加熱する。ボルケ溶岩はこの島で採れる『粘岩』に触れると約2000℃から一気に約70℃程度に下がる。だがそれでも溶岩は粘度の高い液体のままの姿を維持する。まるでカレーの様にドロドロとした溶岩はそれ単体でも濃厚なコンソメスープの様で十分美味いが、砂浜に生えてた苔を混ぜ込む事でほんのりとした甘味と香りを追加。更に海塩をふんだんに入れてキリッと味を締める。ボルケ溶岩自体が持つ旨味と強烈なパンチの強さが絡み合い、味の相乗効果で破滅的な美味さを引き出す。如何に人間が理性で考える生き物だといえどもこのグルメを前にして理性なんて紙の盾程にも役に立たない。

 スプーンなんてモノはこの島に置いてないので、溶岩スープを飲みやすいようにジョッキ状に整えた粘岩に入れる。さあ、おあがりよ!

 

「……本当に食えるのかよこれ。溶岩だぜ?」

 

「だがコレ思ったより熱くねえな……どうなってんだ?」

 

「これの元がどうとか、それこそどうでも良い。この美味しそうな香りの前に常識は消えた。いただきます」

 

「あ、おい!」

 

 ゴクッ。

 と仮面受験者が熱々スープ(70℃前後)を飲み……あおる様に一気に飲み干した。

 

「おかわり」

 

「な……マジかよ!?」

 

「溶岩食いやがった!?」

 

「非常に美味。今まで食べたことの無い美味しさ。濃厚な旨味が口の中で暴れ回っているよう。更にマイルドな塩味と鼻から抜け出るような香りが刺激的。おかわり」

 

「おう、しっかり食えよ。最終試験もまた長丁場なんだから」

 

 仮面受験者のその姿を見て、他の受験者も恐る恐る一口含み……同じようにあおる様に飲み干した。

 

「美味すぎるっ!!?なんだこの濃厚な味わいは!!?」

 

「この旨味……魚や肉とはまさに次元が違う……!」

 

「舌が焼けるほど熱いのに、飲む手を止められないっ!」

 

 一般的に知られている旨味成分と言えば、トマトやチーズに含まれるグルタミン酸、カツオ節等に含まれるイノシン酸、干しシイタケ等に含まれるグアニル酸等だろう。そして種類の違う旨味成分を組み合わせれば、旨味の相乗効果で更に味が深まる事は経験的に知られている。

 このボルケ溶岩には、まだ知られていない旨味成分を入れて凡そ100種類程含まれていると思われる。しかしそれら全てを十全に味わうことが出来るかというと、それこそ味覚を鍛えてる人間にしか出来ないだろう。故に海塩をふんだんに入れ、味を絞る必要があった。海塩に含まれるミネラルが、各々の旨味成分を舌で捉える時間に差をつけることで複雑怪奇な味を受け止めることが出来る。

 

 スープを渡しながら次の料理を拵える。

 グマ砂浜の砂を坩堝状に加工した粘岩に入れ、高温で加熱する。するとみるみる融けていき、砂はドロドロと変化した。

 砂が融解したのを確認し、ボルケ火山島近海底(水温約80℃)で採れるジルコニアエビの殻を生きたまま剥ぎ、ニードルで脳神経を破壊。身体は生きたまま、神経反応を断った。殻を剥いたジルコニアエビの身に、上から融解した砂をかける。エビの身がじうじうと灼け、香ばしい匂いが立ち込める。

 融解し赤熱していた砂が冷えて固まってきた所で、更に上からボルケ溶岩(約70℃)をかけ完成。一度融けて再度固まった砂はバリバリとした食感であり、熱々のボルケ溶岩と絡み合って非常に美味な逸品である。

 

「熱うま。幾らでも食べられるとはこの事」

 

「プリプリのエビの身にジューシーな餡とバリバリの衣で最高にイケるっ!」

 

「エビの中は程よく半生で舌触りがねっとりとしていいわね」

 

「これがエビだと……!俺が今まで食ってきたエビは一体……!?」

 

 猟師受験者も経験上何度もエビを食ってきたんだろう。ジルコニアエビは他のエビと比べ殻が非常に重く、その殻を動かす筋肉も豊富に詰まっている。更に、栄養豊富なボルケ溶岩を食して育っているからか滅茶苦茶美味い。

 ジルコニアエビの殻及び体内はボルケ溶岩と海水が接触した際に発生する高熱に耐える為に熱に強い作りをしている。故に火を通すには生半可な熱ではダメだ。そこで融解した砂をかけ、火を通すと共に再度冷えて固まった砂を衣として使う。するとほどよく半生で火の通ったエビの完成だ。

 

 受験者一同はバリバリ、ムシャムシャと一心に食い続けた。

 

 

 

「さあ、しっかり食ったな?では始めようか最後の試験。心を摘む試験を!」

 

 




メンチ「……あれ!?私の出番は!!?」


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最終試験は最終危険?

今回でようやく……ようやく!ハンター試験編終了!


 おっす俺はグリード。しがない試験官(一次代理・二次・三次・最終試験代理)だ。役職ェ。もう俺一人で良いんじゃないかな?

 

 さて、最終試験だが……ぶっちゃけなーんも考えてねえんだけどどうしよう。助けてマーえもん!!

 

(三次試験が始まるときには既に予定人数下回ってたんですから、その時点で試験内容を修正すれば良かったのに……)

 

 てってててーっててー、『自業自得ぅー(例の声)』

 

 なんだ今の電波。

 

 と言うかさっきまでの俺よ、何を意味深な事を喋ってんだ。何が武力、感覚、精神力だよ。こんな試験に深い意味なんてねえよ。

 駄目だ、我が事ながら腹が減ったら意味不明の謎理論を展開する悪癖が……。やべえよ、既に『始めよう、心を摘む試験を!』とか言っちゃったし。

 

「それで……試験内容とは……?」

 

 ほらぁー、試験内容聞かれてんじゃーん。くそっ、この考えなしに適当なこと話す口め。と言うかよく考えていきなり最終試験振るハンター協会が悪い!

 つまり俺は悪くない!ネテロ会長が全責任を被れ!

 

 ……おっし、最終試験っぽい内容さっと考えよ。

 

 

 ◇

 

 

 な、なんなのこの試験官……。いきなり食べられるかどうかわからないモノ(美味しい)を振る舞ったと思ったら、質問を受けて返答せず目を閉じるなんて。

 ……まさか、最終試験の内容を今考えてるとか?(正解)

 

「最終試験の内容を説明しよう」

 

 あ、いきなり話し出した。

 

「最終試験で試されるもの、それは『コイツには何かある!』と思わせる何か、あるいは『コイツなら任せられる』と思わせる何か。印象!」

 

「印象……」

 

「ハンターってのは基本的には個人プレーだ。だが大物を追いかける時、一人ではどうにもならない時が間々ある。そん時に畑違いの優秀なハンターが呼ばれる事もな。『実績は無いが、コイツならあるいは』や『強くはないが、コイツなら背中を任せられる』と思われる事!優れたハンターと呼ばれる条件の一つだ。無論強くなければ話にならんが、強さだけが全てじゃない。『プロハンター』ってのは『信頼』と『実績』を延々と積み重ね続ける仕事だ。実績を得るために必要なのが信頼であり、信頼無くして実績はあり得ない」

 

 ……なるほど、ハンターとして長く活動してるだけあってか、その言葉には()()があった。『信頼』と『実績』を積み重ね続ける仕事……か。

 

「さて、最終試験の内容だ。お前らはこれからハンター協会の支部に移動する。その間、俺から出される簡単なミッションを幾つかこなしてもらう。それだけだ」

 

「……えっ?」

 

「おいおい……今までかなり非常識な試験だったのに、今度はハンター協会の支部に行くだけだと?」

 

「……支部の場所が全力で走って1週間以上の距離とか……?」

 

「お前らハンター試験なんだと思ってんだ……この島に船を来させる。お前らはその船に乗ってハンター協会支部に移動。その間俺から出されるミッションをこなしてもらうだけだ」

 

「わかったわ!そのミッションが『狂暴な魔獣を捕らえてこい』とかでしょう!?」

 

「『簡単な』っていってんだろ!船での移動中に出来る体力テストみたいなもんだって思っとけ!」

 

「嘘だろ……?毒を食わされたり、方角もわからない樹海の中を走らされたり、常に死が隣り合わせにいるようなサバイバルやらされたりしておいて……最後の試験内容がそれだけな訳無いだろ!!」

 

 わかる。

 

「勿論それだけじゃねえよ。お前らがハンター協会支部に到着した時、お前らの中で『ハンターになるべき者』を一人決めろ。それが最終試験内容だ」

 

「……決め()?決め()じゃなくて?」

 

「そうだ。お前ら全員で『ハンターになるべき一人』を決めろ。判断方法、基準、全てお前らに任せる。化かし合い、殺し合い、大いに結構。全員が納得してもしなくても、必ず()()決めるように。これ以上の質問は受け付けない。俺は船を手配する。その間各自待機しろ。以上」

 

 言うだけ言って私達から離れていく試験官。内容を纏めると、私達の内一人しか合格出来ないってこと……?

 

 

 ◇

 

 

 あれから大体一時間ほど。船を待っている間私達は名前と出身地程度の自己紹介を行っていた。

 試験官は船を手配するといっていたが、試験官含めこの場にいる5人が乗るには明らかに大きすぎる船舶が一隻やってきた。

 

「豪華客船か?ありゃ……」

 

「でかすぎだろ!世界一周旅行でもする気か!?」

 

「何か嫌な予感がするわね……」

 

 船舶はゆっくりと島近くに止まり、乗船用のかけ橋を降ろしてきた。

 ……急に落ちたりとかしないだろうか?

 

 私達が乗り込めば、そんな心配などなかったかのように船は緩やかに動きだし、私達をどこかに移動させる。

 船の中もとても広く、最低限の部屋と壁、骨組みを残し、それ以外の内装だけでなく床等も全て取っ払った豪華客船のように無駄に広かった。

 

「コイツは『カスタム量産型客船ボーンストラベル』。内装を必要に応じていくらでもカスタマイズ出来るのがウリだが……まぁどうでもいいか。さて、最初のミッションだ。ここから一番下にある動力室に予備の歯車が幾つかある。その内の一つを持って、今度は一番上の展望室に登ってこい」

 

「一番下って……階段もなにもねえのに降りろってか!?」

 

「質問は受け付けない」

 

 そう言って試験官は空を飛ぶように骨組みを蹴り跳んで……次の瞬間姿を消した。

 昔、姉が言っていた。超一流のハンターはまるで透明になったかのように気配を()つ事が出来ると。その時はそんな大袈裟な、と思ったが成る程目の前で実例を見せられれば本当に透明になったかのように存在感が無くなった。

 しかし試験官は超一流のハンターである事は理解出来たが、この()()()()()とやらのクリア方法がわからない。まあとりあえず下に降りてみるか……と思った次の瞬間、ばっ、と飛び降りる29番の男。

 

「はっはぁー!『一番乗り』は俺が貰う!!」

 

 そこで漸く、私は現状を理解した。試験官は何と言っていた?『ハンターになるべき者』を決めろと言っていた、ハンターとは優秀でなければならない……つまりこういったミッションを幾つかこなし、総合成績の良い者が『ハンターになるべき者』なのではないか?

 やられた。完全に出遅れてしまった。後悔の念が募るが、落ち込む間はない。29番を追いかけるように下に向かって飛び降りる。どうやって上ればいいのかとか、それこそ降りた先で考えれば良い。

 私の後を続くように残りの二人が降りてくる。最終試験、合格者は一人だけならば、合格するのは自分で良い。自分でなければならない。皆の意識は一つになった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 つ……疲れた……。

 豪華客船(外側だけ)に乗船してから丸二日。その間オレらはほぼ休み無く試験官から言い渡される()()()()()に振り回され続けていた。

 

「休みたかったら勝手に休んでいいぞ。その間他の受験者がミッションを終わらせても次のミッション言い渡すだけだし」

 

 とか言われたら休んでられる訳無いだろ!

 ああくそっ。昼間はずっとだだっ広い船内をあちこち走らされたり、夜間は外に出て泳がされたりし続けて体力の限界が……。

 唯一の救いは飯の時間だけは全員が同じ時間だけ休め、栄養分を補給できる所か。しかも滅茶苦茶旨い。時折明らかに食えない物使った料理がでてくるが。

 しかしアレだ、キツすぎる……。肉体的には勿論だが、いつまで走り続ければ良いのかわからないまま全力疾走させられ続けている。いつ終わるのかわからないのが精神的にキツい。陸が見えれば終わりが近いと思えるのに、外の景色が見られるのは日の沈んだ後だけ。暗い夜で、しかも延々と雨が降り続けている地域で夜の海の上で見える景色なんぞたかが知れてる。

 

 今は複雑に入り組んでいる船の中を走り回されている。時に船底を走らされ、時に船の骨組みを足場に飛び回され、と危険なマラソンを続けさせられている。足はふらふらだが、表には出さない。気合いで食いつく。

 船の最上階。下を向けば、見える数多もの鉄パイプとその奥にうっすらと見える船底。落下すれば命は無い。

 休まなければ、いずれ足場を踏み外して落下死するだろう……だが、休めば他の奴らに先を越される。どいつもこいつも汗だくだが、表情は余裕そうに振る舞っている。それが演技なのかそうじゃないのかは判断がつかない。

 蓄積した疲労から、少しずつ、少しずつ先頭から離されていき、気がつけば最後尾にオレはいた。先頭を走るのは仮面を着けた女、受験番号500番。その背中にぴったり着くように追うのは帽子が特徴の女、246番。約1馬身程度離れて、何処かの国の芸能人を名乗った男、451番。その背中に腕二本分ほど離れてオレ。かぁんかぁんと鉄パイプの上を走る音がほとんど何もない船内に鳴り響き……目の前の男が鉄パイプの足場を踏み外した。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 死。

 

 死ぬ?

 

 オレは死ぬのか?

 

 世界がこれ以上ない程にぎゅうっと凝縮されていくのが分かる。

 

 足は完全に宙に浮き、体は重力に逆らえず闇に落ちていく。

 

 なぜ、どうして。くそ、あのとき少しでも休んでいれば!

 

 後悔が頭を占める。

 

 後悔以外の何かが頭をよぎる。

 

 それは、オレの原点。

 

 故郷のスラム街に置いてきた、オレの生きる希望。

 

 スラム街出身でも、顔だけは良いオレが世間に、家族に、オレ自信に誇れる仕事なんて有りはしなかった。

 

 その筈だった。ただ、テレビの向こうの世界にはそんなこと(俺の事情)は関係なかった。

 

 ああ、くそ。まだ、死にたくない。

 

 もがく、必死に、ひたすらに。時間の流れは遅く、思考と意識は加速していく世界で。

 

 落ちていく体を支えるために足場だった鉄パイプに手を伸ばす。手を、伸ばす。

 

 時間の流れは遅く、体が動く速度も遅く、思考と意識は加速していく。

 

 オレは四人家族だった。全員の血は繋がっていないが、長男であったオレは弟妹を守るために何でもやった。

 

 オレは、ただ家族で幸せにすごしたかった。

 

 鉄パイプに手が届く、掴む。

 

 

 ずるり、掴み損ねた。

 

 

 死。

 

 死ぬ?

 

 オレは死ぬのか?

 

 暗黒がオレの体を、足先から染め上げていく。

 

 膝、腰、胸、首、顎、口、鼻、そして、目。闇がオレを飲み込んでいく。

 

 光に手を伸ばせども、世界は不可逆。

 

 

 『ごめんな。お兄ちゃん、ここまでみたいだ。』

 

 

 

 時間の流れは元に戻り、加速した意識は等速に戻る。目に見えない死が這い寄って、足首を掴んで離さない。

 死は終わり。そして、絶望だった。

 

 

 がしっ。と、光に伸ばしていた腕が誰かに掴まれた。

 

 

「諦めるんじゃねえバカ野郎がッ!!」

 

「……は」

 

 闇に埋まっていた体が引き抜かれたように、意識が船内に戻ってきた。オレの腕を掴んでいる誰かは、三次試験で一時的に協力し、最終試験ではプロハンターの座を掛けて競い合っている内の一人。

 29番の男がオレの腕を、その鍛え上げられた腕で掴んでいた。

 

「糞ッ!クソクソクソがッ!!オレって奴は本当によお!!」

 

「な、にやってんだ……」

 

「知るかっ!勝手に体が動いたんだよクソが!この手を放せばライバル一人消えて万々歳!んなこと頭じゃわかってんだよ!ふざけんじゃねえっ!死ねよっ!オレの手の届かない所で死ねよせめてよお!」

 

 言葉とは裏腹に、オレの腕を掴む力は弱まらない。

 

「ふざけんなっ!そんな顔してんじゃねえよ!諦めるなっ!勝手に絶望すんなっ!」

 

 汗で少しずつずり落ちてくる。29番の男はその疲れきった体で、大の男を鉄パイプの上から支えるのには限界があった。

 落ちていったオレの腕を掴む為に身を投げ出した男は、まるで曲芸のように足だけで自身の体とオレを支えていた。

 

「ば、かやろ……お前も落ちるぞ……!」

 

「うるせえ!んな事分かってんだよ!でももうどうすりゃいいんだ!お前を助ける!俺も助かる!そんな都合の良い結末なんて……っ!?」

 

 ふ、と意識が逸れたその瞬間に、オレの身体に黒い糸が巻き付いた。

 そして29番の男の足を掴む246番。何が起きている?

 

「こっちはオーケー。合図は任せる」

 

「任されたわ!いち、にの、さんで行くわよ。いち」

 

「にの」

 

「「さん!」」

 

 ぐいっ、とオレの身体と29番の男が持ちあげられ、あっという間にパイプの上に身体を置く。

 助かった……。

 

 ああ、助かったのか……。

 

「……すまん、助かった……」

 

「礼は不要」

 

「私もいらないわ。29番のアンタが掴んで時間稼いでなきゃ間に合いようも無かったんだから」

 

「あー、オレも要らん。結局オレ一人だけじゃ助けられなかったんだ」

 

「……はっ、じゃあオレは誰に感謝すりゃいいんだ?」

 

「……500番と246番?」

 

「だから不要だと言っている」

 

「29番が時間稼いでなきゃ間に合わなかったって言ってるでしょ?」

 

「だからあんた達が居なきゃ助けられなかったんだって」

 

「やめましょう。無限ループにしかなんないわ」

 

「……礼は受け取ってくれなくても、勝手に礼は言わせてもらう。オレを助けてくれてありがとう……!」

 

 ふん、と鼻を鳴らす音が響く。

 

「もう足を止める意味は無い。先に進ませてもらう」

 

「そうか」

 

「そうか、って……お前はどうすんだ?」

 

「オレは今死にかけたばかりだからな、腰が抜けて動けん。すこし休んでいく事にする」

 

「……おう、なら俺も休んでいくわ」

 

「そう」

 

 500番は一度こちらを振り向いて、そして先に駆けていった。

 

「……貴方達、馬鹿じゃないの?」

 

「んだとぉ?」

 

 246番は呆れたように顔を歪めた。

 

「もうすぐそこがゴールよ?こんな不安定な足場よりそっちの方が休みやすいでしょうに」

 

「……それもそうだな」

 

「呆れた」

 

 そう言って246番も先に駆けていった。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 あれから恙なく試験が進行し、船は無事にハンター協会支部に到着した。変わった事と言えば、受験者達は最初の時みたく一切の休みなくミッションをこなし続けることはせずにミッションの合間合間に休憩を入れていた事か。

 自身の調子を管理できない奴なんてハンターになっても長生きできない。無論不調だから仕事(ハント)が出来ません、なんて奴はプロ失格だがな。

 

 船から降り、ハンター協会支部の一室に入る。中は椅子が四つあるだけだ。

 

「全員椅子に座れ。……座ったな?さて、これで長かったハンター試験も終わりを迎える。ほんとに……まじで……長かった……!」

 

 いやもうマジで。なんで試験官俺だけなん?長すぎクソワロタ。なんか一次試験から三ヵ月くらい経ってる気がする……!

 実際には二週間経ってないけど!

 

「あんたの感想なんかどうでもいいのよ」

 

「失格にするぞ246番。さて……試験内容を覚えてるか?今からお前等に『ハンターになるべき者』を一人決めてもらう。決まるまではこの部屋から出られない。決め方は好きにすればいい。話し合いでも、最後の一人になるまで殺し合うも良しだ。そして、必ず()()に絞ること。つまり全員が同じ者を選ばなければならない。もし一人でも別の者を選んだ場合、全員失格とする」

 

「「「……!」」」

 

「……決まったら、このベルを鳴らせ。それをもって試験終了となる。以上だ」

 

 そう言い、俺は部屋から出た。さて、どれくらいかかりますかねぇ。

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 よし、飯でも食いに行こう!

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 今日のメニューはお手軽メシの筆頭格『牛丼』。

 用意するのは牛バラ肉に玉ねぎ、白メシ、あと調味料色々。お好みで鶏卵を用意しておこうね。俺は卵好きだから用意しておく。

 まず玉ねぎを5ミリ幅にくし切りにします。厚みが均等じゃないと火の通りと味付けにばらつきが出て美味しくないぞ。

 次に予め熱しておいたフライパンに油(普通のサラダ油で良いが今回は綿実を主原料にしたお手製の油を使用)を引き、先程切った玉ねぎを投入。油が馴染むまで炒める。

 その後水、醤油、砂糖、俺特製ダシ調合酒(ない場合はみりんと料理酒、和風だしで代用可)をそれぞれ適量投下しひと煮立ちさせる。

 煮立たせる合間に牛バラ肉を薄くスライスし、更に約5センチ幅に切ってフライパンに投入。あまり大きすぎると食べづらいので注意。

 アクを取りつつ煮込みながらご飯を用意。米の下ごしらえなぞカットじゃ!

 ご飯が炊けたと同時に煮込み終わった具を盛り、お好みで紅ショウガと卵を入れよう!俺は片手間に作った温玉を乗せて完成!

 シンプルイズベスト!ここまでかかった調理時間は約3分(人外感)まさにお手軽、ファストフードの王様やったー(小並間)

 

 牛丼は食う時大抵箸だが、今回はつゆだくねぎだくで作ったので匙が良い。

 早速いただきます。匙に山盛り乗せて一口!

 

ンまぁぁぁい!!!

 

 メインの牛の程よい柔らかさ、玉ねぎのシャキシャキ感とふわふわ感の絶妙なバランス、そしてつゆと零れんばかりに吸った熱々白米が奏でる味の四重奏(クァルティト)!それを指揮するのは高レベルの安定感を叩き出す温玉の黄身と白身!ンDelicious(デリシィァス)

 美味しいなあとゆっくり味わうのではなく、一気に掻っ込んで食らう旨味の喜び!おもわずうまい!うまい!うまい!うまい!と叫びながら爆食不可避のスタミナメシ!一口食らう毎にパワーが漲る!

 

 あっ、しまった!牛丼を食ってから気が付いたがコレ味噌汁欲しい奴だ!だがしかし今の俺は完全お食事モード。お料理モードにスイッチするのはとても難しい!略してとて難!

 と、そこで神の天啓が舞い降りる!

 

貴方が作れないのなら、貴方と同じ力量の者に作らせればよいのです

 

 やるじゃん俺の中の神様!と次の瞬間に俺の新たな『念能力』が生まれた。

 

 

 『悪魔の料理長(デビルオーダー:グルメシェフ)

 

 

 今俺の目の前には()()()()()が料理器具を持って立っていた。俺は悠々と牛丼をかっ食らいながら味噌汁のレシピを想起する。すると目の前の()()()()()は俺が料理を作るように『ポケット』から食材を取り出し、鍋に水を張ってオーラで加熱し沸騰させた直後味噌を投下、攪拌しつつ食材に隠し包丁を刹那で入れ、あっという間も無く俺が作りうる最高の味噌汁を作り上げた。(ここまで(味噌汁欲しい奴だ!と思い始めてから)約5秒)

 

 ズズッ……

 

うまい……

 

 牛丼を食って急上昇したテンションは味噌汁を飲んでゆっくり落ち着ける。しかしそれは決してマイナスなイメージではなく、言うなれば緩急。最後まで飽きずに食事を続けられる大事なアクセント。

 『次の一口』によって再度引き上げられたテンション。二口、三口と貪り、口休めにお手製紅ショウガを齧る。丼の底まで掻っ込んで、最後に味噌汁を飲み干す。

 

 完璧(パーフェクト)……。

 

 まさに完璧な食事だった。俺の求める理想の一つ(グルメ)がここに在った。

 俺以上に料理が上手い奴は存在しなかったからこそ、俺が俺の為に料理を行い、振る舞っていた。だが、これはどうだ。俺の能力とはいえ、俺自身は座って待っているだけ。いや、牛丼作ったのは俺だけど。

 ああ、こんな事ならもっと早くこの『念能力』を作っていれば良かった……。

 

 満足、満足……と『悪魔の料理長(デビルオーダー:グルメシェフ)』を消して……気が付いた。

 料理器具が無くなっとる……。

 

 

 呆然と意識を飛ばしていると、シャリリィンとベルが鳴る音が響いた。ああ、戻らなければ。

 

 ああ。

 

 

 

 はぁぁぁ~……(ガチ凹み)

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「……で、戻ってきた試験官がまるで『楽しみにしていたオヤツを取られた犬』の様な顔をしている件」

 

「お前に判るまい、この俺の喜びと悲しみのアップダウンを……」

 

「んな事はどうでもいいのよ。さっさと試験終わらせるわよ」

 

「ああ……そうだな……はぁぁ……」

 

「ガチ凹みやめろ」

 

 試験試験、ささっと終わらせないとちょっとまじ傷心の俺にしんどい……。

 

「はい、じゃあ『ハンターになるべき者』を指し示せ。はい、せーの」

 

 パッ

 

 

 

「……なるほどね。500番、何故ソイツを指した?」

 

「深い理由ではない」

 

「ほう。次、29番」

 

「……まあ、偶々だ」

 

「成程。246番は?」

 

「運が良かっただけよ」

 

「運……ねぇ。451番」

 

「……オレは別にロマンチストを気取ってる訳じゃねえが、まあなんだ、運命ってやつかな」

 

「ふむ、単に気持ち悪いな」

 

「おま、なんでオレだけ!?」

 

「くっそ気取ってるから」

 

「……」

 

 なるほどなるほど。しかし運ねえ……。

 

「お前等、どうやって決めた?」

 

 

 

「「「「 ジャンケン 」」」」

 

 

 

「ジャンケン、ジャンケンか。く、くくく……そんな運任せでよく『ハンターになるべき者』なんて決めたな」

 

「……むしろ、ジャンケンで決めるって案が出た時これしかないって思ったわよ」

 

「ミッションの達成率とか、順位とかで決めようと思ったんだがな」

 

「よく考えたらあんなミッション程度でハンターの素質なんて見ようがない」

 

「つまり試験官はただオレ達に何かしらの理由で()()()()()()()()()を付けようとしたんじゃねえのかってな」

 

「『コイツには何かある!』だっけ?アンタが言った印象って奴。私は、この場に居る全員に感じたわよ」

 

「私も」

 

「俺もな」

 

「なら、最後は恨みっこ無しの運試しにしようってな」

 

「成程な。成程……くく、面白い奴等だ」

 

 そういう事なら遠慮はいらねえな。きっと会長も、俺の選択を喜ぶだろうよ。

 

 

「受験番号……29番!最終試験合格だ!」

 

 

「……ああ。……あぁ……」

 

「……やったな、リョータ!」

 

「ありがとよ、アキラ」

 

「あーあ、また来年受け直しか~」

 

「こればかりは時の運。でも来年は絶対合格する」

 

「おおっと、まだ話は終わりじゃねえぞ?」

 

「は?」

 

「ん?」

 

「……?」

 

 

「受験番号246番!451番!500番!お前等も合格!」

 

「「「……え!?」」」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「合格者は一人じゃなかったんかい!!!」

 

 なんて叫び声を背にして、長かったハンター試験も終わり。ハンター(ライセンス)の説明は支部にいた事務員に任せる。

 

「お疲れ様ですグリードさん!」

 

「ああ、本当にな……!」

 

 俺の目の前に現れたマーさんの頭を掴んで万力の様に力をゆっくり込める。

 

「いたたたた!!?なにするんですか!!?」

 

「なぁんで俺が一次試験から最終試験までやらなきゃならないんですかねえ!?しかも一人で!一人で!!」

 

「その件に関してはスミマセン!スミマセン!会長がどうしても外せない用事が出来たからと……!!」」

 

「いやね、分かるよ俺も。トガリの野郎が脱落したのも予想外だろうし、二次試験の段階で予定人数を大きく下回ってるのも予想外だろう。だがな?だがな?三次試験を切り上げて最終試験をするって決めたんなら手紙と一緒に最終試験の試験官を連れて来るべきじゃないかな?かな?」

 

「いやもうほんとスミマセン!会長のワガママが炸裂しましてほんと!」

 

「俺の鉄拳がネテロに炸裂しそう」

 

「あ、そ、そうでした!会長より手紙を預かってます!」

 

「あぁ?今時手紙かよ……映像媒体にしやがれせめて誠意を見せるならよー」

 

 ガサガサ

 

誠意が足りなくてスマンの

 

「やっぱあのジジイ妖怪だわ」

 

「あ、あはは……」

 

わし、ネテロ。今回の件は悪かったの。ワザとじゃあないんじゃ、鉄拳は勘弁して。

さて、最終試験はどうじゃったかの?弟子を取る気の無いお主の事じゃから期待の新人(ニュービー)の面倒を見るのはちと退屈だったかもしれん。じゃがきっとお主にとって良い経験となったはずじゃ。

ま、お主の事じゃ。どうせそんな事関係なしに新しい念能力でも開発したんじゃないかの?

普段から引きこもってるんじゃ。偶に外に出たのなら寄り道回り道色々楽しむもんじゃよ。

 

「余計なお世話だ馬鹿野郎!」

 

 手紙をぐっしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。

 

「ええ!?まだ途中だったじゃないですか!」

 

「知らん!読む気も失せたわ!」

 

 ()()()()()()()()料理道具が自分の能力に食われて激おこなんだよ俺は!

 あーもー!この苛々は次あのジジイに会った時にオーラ食ってやらねば気が済まん。

 

 

「……あ、毒切包丁無くなったんだった」

 

「……毒切包丁?」

 

「ああ……かなり長く使っていたからそろそろ……と思っていたんだがな……」

 

「……もしかしたら何とかなるかもしれません(そろそろ交換しようって事ですかね?)」

 

「何ィ?」

 

「今丁度この支部に『メタルハンター』の鋼裡さんが居るんですよ!彼女に頼めばきっと新しい包丁を打ってくれるはずです!なにせ彼女は珍しい鉱石集めが趣味で、その鉱石を使って刀を打つのが本業なんです!きっとグリードさんが気に入る包丁が見つかるはずですよ!」

 

「えぇ、あー、うん……そーねー……」

 

「(あれ!?思った以上に食いつきが悪い!?)」

 

「まあ、見るだけ見てみるかぁ……」

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

「グリードさん、彼女が『メタルハンター』の鋼裡さんです!鋼裡さん、こちら一ツ星(シングル)『グルメハンター』のグリードさんです!」

 

「おぅっす。俺はしがないグルメハンター(プロ)。よろしくね」

 

「はい、鋼裡です。よろし……」

 

「……んぁ?なんだよ俺の顔じっと見て」

 

 

 

 

 

 

「生まれた時から好きです!結婚を前提とした末永くお付き合いよろしくお願いいたします貴方様!!」

 

「(えぇー何この果てしなく面倒な予感しかしない人物ゥー!?)」

 




つーびーこんちぬ→


悪魔の料理長(デビルオーダー:グルメシェフ)』具現化・特質系能力
 自分自身と全く同じ念能力を持った肉体を具現化し、悪魔を憑依させる異質な念獣タイプ。
 姿は憑依させた悪魔によって変わり、対価もまた悪魔によって変わる。
 姿及び対価が不明だが、それ以外の制約も誓約も無い。


20世紀コソコソ小話

ビスケ「グリード、アンタなんで包丁とかの料理器具を具現化しないんだわさ。包丁だけならともかく、まな板や鍋なんか何処にしまってんのよ。邪魔だわさ」
グリード「そんなもん理由は一つだけだ」
ビスケ「器具がかさばって邪魔っていうデメリットを許容してまで料理道具を持ち運ぶ理由……!」ごくり


グリード「長年使った調理器具は食材の味が染み込んで滅茶苦茶美味いからだ!!!」
ビスケ「(こいつ調理器具まで食うつもりなのかよ……!)」
グリード「仮に具現化して出しっぱなしだったらともかく、一度しまうと味がリセットされちまうんだ。……まあ、味がリセットされないように制約組めばもしかしたらいけるかもしれないが、俺の勘が無理ぽげと叫んでるからやってないだけだ」
ビスケ「あ……そ……」
グリード「だから愛用の包丁を失ってマジショボンヌなんじゃぜ俺」
ビスケ「知ったこっちゃないわよ。訳の分かんない念能力つくってからに」


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ルート確定待った無しですわコレ(白目)

鋼裡(はがねうち)ちゃんは刀を打つのに邪魔なのでおっきいおっぱいをさらしでぎゅうぎゅうに抑えてます。
なんでそんなオリキャラ出したかというとおっきいおっぱいをさらしでぎゅうぎゅうに抑えてるキャラが好きだからです。




「金槌振るって百数十年!貴方様を一目見たその時から恋い焦がれ続けておりました!」

 

「何言ってんだお前」

 

 俺はグリード。海賊王になる男だ!ドン(大嘘)

 

 俺はマーさんに連れられて、ハンター協会支部の上層階の一室に訪れた。

 ハンター協会支部にはわりかし色々揃っていて、宿泊施設や食事処、図書館に医療施設までが一つの建物に詰め込まれている。無論ハンター証があればどれも無料で利用できるわけだ。

 

 お、俺は一ツ星だから顔パスに決まってるだろ(震え声)

 

 ともかくその宿泊施設の一角で、俺の右手を抱き締めるように両手で掴んで離さない女は、名を鋼裡(はがねうち)梅雨(つゆ)と名乗った。

 

「んで鋼裡、お前俺とどっかで「梅雨とお呼び下さい貴方様」

 

「……鋼裡「梅雨とお呼び下さい」顔に似合わず強引だなお前。まあいいがよぉ……で、俺とどっかで会った事あるか?」

 

「今の貴方様には会った事はありません。ですが私達は前世でとても深く愛し合っておりました」

 

「助けてくれマーさんこいつヤベー奴だ!」

 

「あなたの方がまだヤベー奴ですので大丈夫です」

 

 なんとか腕を振り払おうとしても、鍋に焦げ着いたカレーのごとく離れない。終いには鋼裡の体ごと振り回してもビッタリくっついたままだ。

 

「あぁ……こうして触れあえるのも54年と10カ月ぶりです。貴方様の魂の輝きは未だに陰る事もないようですね」

 

「俺まだ生まれてねえよ54年前。俺の両親も出会ってすらいねえよ」

 

「えっ、グリードさん両親がいたんですか?」

 

「マーさん俺が木の股から産まれたとでも思ってたんか……?」

 

「違うんですか?」

 

 俺はこの豆を芽吹くまで埋めよう。そう決心した。

 

「というか俺の目にはお前さんが54年も生きてるようにぁ見えねえんですがねぇ」

 

「はい。私は今年で23になります。子を産むに適した年齢ですね」

 

「色んな意味で何言ってんのお前」

 

 23歳が30代の俺を54年前から知っている……んんんん?????????????????

 

「ふふ、それも全ては『転生の秘術』の賜物。そう、()()の全ては貴方様に仕える為に幾度も死と生を繰り返し技術を磨いてはその全てを貴方様に捧げてきました。貴方様が求めるなら、国を奪う術も。世界を切り取る術も。死者を蘇らせる術も。果てにたどり着く術も。貴方様の為なら、不可能を可能と致しましょう。さあ、どうぞワタクシと()()致しましょう?」

 

「うん、なんか色々まくし立ててるところ悪いが()()に関しては痛い目を見たことがあるのでNGで」

 

 目つきが病的に黒ずんできた鋼裡の目を見据えて頭突き。額を打ち抜いた衝撃(インパクト)に握りしめていた両手を離して崩れ落ちる鋼裡。

 

「ちょ、ちょっとグリードさん!アナタなにしてるんですか!」

 

「うるせえマーさんお前は後で埋めるからな」

 

 埋めることが確定している豆の事を他所に、鋼裡の足を引っ掴んでハンター協会支部を後にする。

 

「グリードさん!何処に行くんですか!?」

 

「帰るんだよククル―マウンテンに」

 

「なんで鋼裡さんを引きずっていくんですか!?」

 

「コイツにゃ聞きたい事が幾つかあるからな。まあ……ついでだ」

 

 階段を下りる時にゴッ、ゴッ、と音がしていたが気にしない。

 え?女の子の扱い方じゃない?知るか死ね。

 

 ハンター協会アマダレ地方支部からククル―マウンテンのあるパドキア共和国までは飛行船で約二日。まあのんびり戻るか……あ、ゴトーさんにハンター試験終わって戻る旨を伝えねば。ホウレンソウを欠かさない社会人の極みねアタクシ(なお遅刻

 

とぅるるるるる

 がちゃ

 

『おう、オレだ』

 

「お久しゴトーさん。今試験終わって帰るわ、ま二日後ってとこかね。じゃ」

 

『あぁ?おいグリーd』ブツッ

 

 さて飛行船の手配は近くにいるハンター協会事務員に任せて、と。

 飛行船が来るまでここいらの食材でも適度に買いあさってみようかね。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 アマダレ地方イーストリバー町。アマダレ地方の広大な土地に比べて比較的人口密度が高めの此処は様々な娯楽が集まっている。一年中分厚い雲に覆われているこの土地は人にとって生き辛い土地であるにもかかわらず、多くの人々がその地に根付いて生活していた。

 

「よぉってらっしゃい見てらっしゃい!霊峰ビトイ山で採れた新鮮な『雨舞茸』!香りも味も一級品だよ!」

「さあさあ『曇牛』が今なら何と一万ジェニー!一万ジェニー!超お買い得だぞ!」

「『雨鶏の卵』はいらんかねー!『雨鶏の卵』はいらんかねー!」

「『曇天魚』今なら一キロ4千ジェニー!買った買ったぁ!」

「おいしー『雷飴雨』いかがですかー」

「チョットソコノオニーサンヨッテケヨーイマナラトクベツサービススルヨー」

 

 空には分厚い雲が覆っているにもかかわらず、まるで地面に太陽が落ちたかのように煌々と光る街並みに、それに負けない程に活気のある商店街。

 『雷飴雨(らいアメう)』を舐めながら色々な食材を買いこんでいく。『雲牛』や『雨鶏の卵』とかは此処でしか買えない様なブランド食材だが、別に各段に美味い訳でも無い。まあ良くも悪くも地方特産品ってところだ。でも買っちゃうびくんびくん。

 買った食材を『ポケット』に放り込んでいると、いつの間にか気絶から戻った鋼裡がきゃあきゃあ騒いでいた。

 

「あ、あ、あの貴方様!?この状況はいったい……!?」

 

「ああ、お前にはいろいろ聞きたい事があったからな」

 

「で、ですがこのような羞恥プレイ……いや、ですがこれも貴方様の愛だというなら……」

 

 さて、ここで俺と鋼裡は一体どういう状態かおさらいしておこう。

 まず俺。至って普通、特筆する所の無い青年と中年の微妙な歳としか言えない服装。その左手には妙齢の女性の足。

 そして鋼裡。服装はジャポン風洋服とでもいうか、なんとなく郷愁的(ノスタルジック)な柄物のワンピース。そして下着は褌。

 そう、ずっと足を持って引きずってきたから必然、鋼裡はずっと褌を見せつけていたのだ。

 

「ああああやはり恥ずかしいです!!」

 

 そう叫んで鋼裡は俺に持たれていた足に『硬』をして蹴り抜く。無論俺はすぐに手を離し跳躍して蹴りを回避した。

 そういうのはせめて閨で……とよくわからない言葉を呟きながら立ち上がる鋼裡。

 

「ま、起きたのなら引き摺る必要も無くなったし良いか。ほれ、とっとといくぞ」

 

「ああ、貴方様のその変わらず強引な所が好き……!」

 

 背中泥だらけで何か呟いてますね(泥だらけにした張本人)

 買い物も終わって協会支部に戻ると、丁度そこに飛行船が降り立っていた所だった。

 

「お帰りなさいませグリード様。もう御行きなされますか?」

 

 一切の感情を感じられない表情と声色のロボ娘が出迎える。コイツはこの支部で働く事務員であり、昔から知った仲である。あと事務員にしてはクッソ強い。まあそんな事はどうでも宜しい。

 

「すぐ行く、と言いたい所だが……マーさんは居るか?」

 

「間もなく玄関に到着します」

 

 そうか丁度いい……と言おうとしたその時、支部の玄関が開きマーさんが現れた。

 

「ああ、グリードさん戻ってきたんですね!ちょっとグリードさんに手伝ってもらいたい事が」

 

 俺は一足でマーさんの下に跳び、マーさんの頭を引っ掴んで空高く跳ねる。そして落下の勢いそのままにマーさんを地中深くに(うず)める。(有言実行)

 なおマーさんに『周』を施していたのでマーさんには怪我一つ無い。(非常に無駄な技術の塊)

 

「~~~!!」

 

「何か聞こえたか?」

 

「私のログには何もないですね」

 

「貴方様のその暴力的な所も好き……」

 

 豆を植えた所で俺がアマダレ地方でやる事は終了。さっさと飛行船に乗り込む事にした。

 さて、これで二日後にはゾルディック家に到着してる。のんびりと過ごすだけなので鋼裡から色々聞いておく事にした。

 

「さて、これでゆっくり話を聞けるな」

 

「はい、それで結納の義は何時になさいますか?」

 

「そんな話一ミリたりともしてねえよなぁ?お前は俺の過去を知ってる様な口ぶりだったが……そもそもお前は『ダイモーン』を知っているのか?」

 

「……はい」

 

「なら話せ」

 

 『ダイモーン』。グリード=ダイモーン()が属する一族であり、俺自身知らないことが多い謎多き存在である。そもそも俺を産んだ両親の事すらよく分かっていないことだらけだ。ただ唯一分かっている事は、俺は1()0()0()%()()()()()()()って事だけ。

 

「『ダイモーン』の一族について話す前に私の『異能』についてお話しましょう。私の『異能』、それは()()()()()()。死しても記憶や技術を受け継ぎ、新たなる生を受けます。私はこの永き魂の牢獄に囚われる代償に愛を受けたのです」

 

「転生ねぇ……まあ、『念能力』ならありえない事じゃねえな。どういう誓約組めば記憶も技術も継げるのか分からんが。……それで?」

 

「私の()()の『異能』……この異能は私が創造した物ではありません。私の()()()()が創造し、私に授けたのです。()()()()即ち、始まりの悪魔。その名は『プライド=ダイモーン(傲慢の悪魔)』。以降、()()悪魔(プライド=ダイモーン)の血を継ぐ者に仕え続けてきたのです」

 

「悪魔……か。随分メルヘンチックな話だ」

 

「信じられませんか?」

 

「……まさか、逆に納得いったわ」

 

 満たされることの無い渇望。埋まることの無い心の闇。餓えに餓えていた唯の餓鬼が亡者蔓延る過酷な流星街で、たった一人だけで生き残れたのはその()()の力のお陰って訳だ。

 

 

 流星街に捨てられたのもその悪魔の力のお陰な訳だがぁ!?(全ギレ)

 

 

「『プライド=ダイモーン』は多くの子を残しました。しかしその中で悪魔の力を引き継いだ者は誰も居ませんでした。そして子が子を遺し、そして孫を遺し、そして、そして、時にして約150年。悪魔は再びこの世に生まれ落ちました。その悪魔の名は『グラトニー=ダイモーン(暴食の悪魔)』。彼はあらゆる物を食らい、散らかし、そして暴虐の限りを尽くしました」

 

「『傲慢』に『暴食』?は、七つの大罪って奴かいな。それでその後は『色欲』に『怠惰』に『嫉妬』に『憤怒』に、『強欲()』ってか?」

 

「いいえ、『グラトニー=ダイモーン』は言葉通り、あらゆる物を喰らい尽くしました。そうして残ったのは小さな湖と食べ残しだけ。それは今で言う『メビウス湖』と『世界地図』に載る島々です」

 

「……ちょっとまて、いきなりスケールでけー話に切り替わって頭が混乱してる。お前の話ってここ数百年の話かそれ」

 

「ふふ、まさかですよ。数百年と言わず、数万年は前の話です」

 

「バァァァッカじゃねえの?なんで俺の源流(ルーツ)の話聞いてんのに万年昔のお伽噺聞かされなきゃなんねえんだよ」

 

 自分の名前の意味を両親に聞いたら『ズッコンバッ婚した時のホテルの名前から取ったんだよ』と言われた子供の気持ちだよ俺は今。ナニイッテンダコイツ。

 そして目の前のこの女は、こいつの話が確かならン万歳と言う訳である。年齢詐欺具合ならビスケ超えたぞ、良かったな。

 

「話を戻しましょう。『グラトニー=ダイモーン』は当時の『私』を食べ、暗黒大陸の何処かへ消えていきました。そうして再び『私』の意識が戻ってきた時には人類はこの巨大湖メビウスの中に閉じ込められていました。まるで何者かが災厄から人類を遠ざけるように……。『グラトニー=ダイモーン』のその後は分かりません。まだ生きているのか、それとも自らをも食らい死んでしまったのか。ただ一つ言えることは、()()()()()()()()()()()()()()と言う事です。貴方もその事を分かっているのでは?」

 

 そう言われて俺は『暴食バクテリア』の存在を思い出す。『暴食バクテリア』は植物、鉱物、生物、無機物、果てや空気やオーラでさえ食らってエネルギーに変える、スペックだけなら厄災を超えるバケモノだった。だが俺はそれを自らの糧としている。つまりは、そういう事なのだろう。

 

「人類と一緒にメビウス湖に閉じ込められた『私』ですが、私の役目は変わりません。『悪魔』の血を引く者に仕え続けるだけです。しかし……」

 

「残った人類の中に『プライド=ダイモーン』の血を受け継ぐ者は居なかった……とか?」

 

「その通りです。『グラトニー=ダイモーン(暴食の悪魔)』は『プライド=ダイモーン(傲慢の悪魔)』の子孫全てを食らってしまいました。『私』が永き生を続けるのも、彼の『悪魔』との契約が為。契約を履行できなくなり『私』は朽ちていく……かに思われましたが、『悪魔の契約』はその程度では破られませんでした。当時の『私』の胎に死んだ『ダイモーンの子孫の念』が集まり、一人の子となりました。なお当時の『私』は処女でしたので……所謂処女懐胎ですね」

 

「マリアが悪魔の子を産むとか各所から石投げられそうな事を」

 

「そうして生まれたのが『ラスト=ダイモーン』。貴方の直系の先祖に当たります」

 

 あー……つまり、だ。

 俺は『マジモンの悪魔の子孫の念、或いは霊で生まれた存在の子孫』と言う事か。

 

 属性多すぎィ!?

 

 そして目の前のコイツは『自分が産んだ人外子孫に求婚する女』と言う事か。

 

 こじらせすぎィ!?

 

「あ、私は別に『ダイモーン一家(悪魔の母)』とは血で繋がっている訳ではありません。私の意識知識が全く他人の子から生まれるだけですので」

 

「ちょぉっともう俺には理解の外かなぁ」

 

 またの名を凄くどうでも良いと言う。

 

「……ん?待てよ……今の話の中で、結局俺に『一目見たその時から恋い焦がれ続けておりました』って言う理由なくない?」

 

「ええ、『私』が『悪魔』に仕える理由はお話しましたが、『悪魔(貴方様)』にお仕えし続ける理由はまた別です。そう、あの事は今でも鮮明に思い出せます……あれは『私』が産まれ落ち、しかし仕える『悪魔()』がまだ見つかっていない百数十年前の事。『悪魔()』を探して世界中を旅していました。その道中『私』は山賊に襲われ、女に餓えた者共に処女を奪われる……その時、一人の剣士が現れたのです」

 

 

 ◇

 

 

「ぐへへ、いい女だなぁ」ニチャァ

 

「あーれー、誰かお助けー」

 

「そこまでだ!」トゥ

 

「何奴!?」

 

「天知る、地が知る、人が知る。例え満月がその行いを見逃そうとも、この我は見逃さぬ」

 

「誰だ貴様!」

 

「我が名は『刀神ブラックソード』!山賊ども、貴様等の悪行はここまでだ!」

 

「ひぃ、あ、アニキィ~!『刀神ブラックソード』と言えばここらで名の知れた賞金首(ブラックリスト)ハンターですぜ!」

 

「ふん!あんな意味の分からん仮面を付けたヒョロ男がハンターな訳がねえだろ!どうせ名前だけ騙った馬鹿だろうが、野郎共!舐めたマネをした男に俺等『山賊ひょっとこ団』の怖さを思い知らせてやれ!」

 

 突如現れた剣士の男を取り囲むようにひょっとこの面を付けた山賊達が取り囲む。そしてそれぞれの手には自動小銃が握られていた。

 

「ブッ殺しちまえ!」

 

 山賊の頭と思われる大男が合図を送ると、山賊達は手に持った銃で剣士の男を撃つ、撃つ、撃つ。

 

「ヒャハハハ!一瞬でハチの巣だ!」

 

「アニキィ~!アイツ銃が効いてねえ!!」

 

「な、なにぃぃぃぃ!!?」

 

「どうした?そんなオモチャなんて捨ててかかって来い!」

 

「く、糞があああああ!!」

 

 そうして持っていた自動小銃を捨て、腰に差していた手斧を持って剣士に襲い掛かる大男。

 

「死ねえええええ!」

 

「遅すぎる。『瞬光:雷神剣』」

 

 そう剣士が呟いた瞬間、持っていた刀がキラリと光り、一瞬にして大男を切り刻んだ。

 

「は?」

 

 そう言い残し、バラバラに崩れ落ちる大男。

 

「あ、アニキィ~!」

 

「ひぃぃぃ、た、助けてくれぇ~!」

 

「馬鹿が。そう言って貴様等が助けてやった者が一人でも居たのか。『迅剣:疾風』」

 

「ぴゃ」

 

 一陣の風が吹いた。その瞬間には全てが終わっていた。

 

「ご婦人、大丈夫か?」

 

「え、ええ」

 

 そうして私に差し伸べてくれた手を掴んだ。その時、私はこの人こそが私の使えるべき『悪魔()』である事に気が付いた。

 

「あ、あの……貴方様の名前は」

 

「……我が名は『刀神ブラックソード』!それ以外に名乗る名など無い!」

 

 そう、それが『私』の初恋であり、『ラース=ダイモーン』との初めての出会いだった……。

 

 

 ◇

 

 

「名乗る名前あるやんけ!!?いや、ってか突っ込むところ多すぎィ!?三文芝居感ハンパねえな!」

 

「何を言っていますか。いくら貴方様でもラース様と私の出会いに文句を言われる筋合いはありません」

 

「『刀神ブラックソード』にオチる女は言う事が違いますなぁ!?何なのオマエそういうアレ!?アレなの!?」

 

「アレとはどういう事か分かりませんが、貴方様を一目みた瞬間にラース様(悪魔)の生まれ変わりだと分かりました。そう、私は再び貴方様に恋に落ちたのです」

 

「怖い怖い怖い!!なんか最初にお前に会った時とはまた別ベクトルの怖さだよおい!一目みて『刀神ブラックソード』と同じって思われたの俺!?嫌すぎるんですけどぉ!!!?」

 

「ああ、そう言えばラース様はいつの間にか『刀神ブラックソード』と名乗るのを止めていましたね。その事を尋ねても何も言わなかったですし」

 

「襲い掛かる黒歴史(ブラックヒストリー)!やっぱ黒歴史(ブラックヒストリー)だったじゃねえか!」

 

「あの『瞬光:雷神剣』や『迅剣:疾風』といった技もいつだったか何も言わずに行うようになりましたし」

 

「それ以上はやめたげてよぉ!」

 

 やばい。俺が前世の記憶を引き継いでなくて良かった。ただ俺の中の()()が死にたがっている感覚がするが。

 

「ええ、とにかく私はラース様と出会い、彼のお役に立つために様々な事をしました。刀鍛冶の真似事もその延長です。とはいえ『私』の永き叡智を持ってすればそこらの刀匠を超える刀なぞ造作もなく作り上げられました。しかしラース様は()()()()では満足していただけませんでした。ラース様の全力に、刀の方が耐えられなかったのです」

 

 やばい。俺の前世の黒歴史がアレだったが実力はとても高かったらしい。……ん?刀の方が耐えられない程の腕前の剣士?

 

「ラース様が死ぬその時まで、私はラース様の全力を受け止められる刀を作ることが出来ませんでした。故に前世の私は、私が死ぬその時まで延々と鉱石を求め、そして金槌を振るっては『最高の刀』を求めました。……いえ、死んで今生に生まれ落ちてなお『メタルハンター』と呼ばれるまでに鉱石を集め、金槌を振るっていたのです」

 

「まさかとは思うが、ラースって『使い捨て剣聖サネミツ』とか名乗ってなかったか?」

 

「おや、良く御存知で」

 

 まじか、まーじーかー。ノブナガの奴が目指している剣豪ってまさかの俺の前世。世間って、狭いね。

 うっそだろお前。あの意味不ちょんまげとかサネミツリスペクトでやってるって言ってたけど、それつまり俺の前世が意味不ちょんまげでそれが一目見て俺にそっくり……?

 

 

 泣きそう

 

 

 マジで意味のわからないタイミングで心に重傷を負った俺は食事を作る気力もなくなり、ぐったりとしたまま空の旅を楽しんだ。

 

 ちなみに鋼裡に新しい調理道具を打ってもらった。ひゃあまな板まで金属製かよぉ。

 




ものすごく意味不明なタイミングでノブナガの強化フラグが立ちました。何でだろうね。


プライド=ダイモーン
傲慢の悪魔

 ガチの悪魔。出来ない事は何もない。


グラトニー=ダイモーン
暴食の悪魔

 ガチの悪魔。メビウス湖が出来るくらいめっちゃ食った。暴食バクテリアはグラトニーの細胞……?


ラスト=ダイモーン


 死者の念?から生まれた。人に近いが人ではない。


ラース=ダイモーン
剣豪 黒歴史マイスター

 上記の悪魔達に比べたら非常に人に近い。化け物染みた強さ。世代的にネテロに会っていてもおかしくないが……?
 あ、コイツ異名(自分命名)がいっぱいあるらしいっすよ。


鋼裡=梅雨
ジャポン人

 プライド=ダイモーンによって『転生の呪い』を受けた者の現在の姿。酸いも甘いも清も濁も何もかもを味わい続け狂って狂ってSAN値ピンチどころかマイナス。そしてこいつもグリード並の超技術持ち。



暗黒大陸に行くためには「許可」「資格」「手段」「契約」の四つが必要らしいですねぇ(意味深微笑)


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真の仕事人とは、当人が居なくても仕事が回る環境を作り上げる事である!つまり窓際族ですね分かります(号泣)

出来る人ってそういう事だぞ。


 テンション下げ下げの二日間空の旅も終わり。ククル―マウンテンは使用人用の飛行船着陸地点に何事もなく到着。

 おっす。俺はしがないグルメハンター(プロ)。ようやく試験官(仮)からおさらばDEASH(誤字)

 

「おう、戻ったか……誰だそいつ」

 

「戻ったでゴトー」

 

「お初にお目にかかります。私はグリード様の嫁、梅雨=ダイモーンです」

 

「しれっと嫁ポジに収まるな、出ろ出ろ。おとーさんまだ結婚なんて許しませんよ」

 

「……敷地内に部外者連れ込んでんじゃねーよボケが!」

 

「あら嫌だわゴトーさんいい年こいて独身男の僻み?あなたもいい人見つけたら?」

 

「それは間接的に私との結婚を認めたということでしょうか貴方様」

 

「ボケが増えてツッコミきれねえよ!」

 

 珍しく(茶飯事)キャラ崩壊しているゴトー。それはともかくとして、鋼裡のやつは出会う者全員にンな事故紹介(誤字)するきかよ。外堀から攻めてくるフレンズなんだね!(混乱)

 まあ、それはともかくとして。実際問題、料理長とはいえども一使用人に過ぎない俺が勝手に部外者を連れてゾルディック家に入るのはまずいか?まずいか。まずいかー。

 

「よしゴトーさん。そういうわけでコイツ雇ってくれ」

 

「あぁ!?」

 

「大丈夫大丈夫、コイツ凡個性執事より強いし色々役に立つし」

 

「だからってハイそうですかと雇えるか!!」

 

 ぎゃあぎゃあと(ゴトーだけが)騒いでいると、音もなくイルミ坊っちゃんとキキョウっち……キキョウ様が後ろから現れる。カルト坊っちゃんじゃなくてイルミ坊っちゃんと現れるなんて、なんか珍しい組み合わせな感じ。

 

「やあグリード、やっと戻ってきたのか」

 

「グリード、ゴトー、何をギャーギャー騒いでいるの」

 

「キキョウ様……いえ、グリード料理長がまた面倒事を」

 

「人をトラブルメーカーみたいに言いやがって」

 

「過不足なくトラブルメーカーだろうがテメエは!」

 

「あっそうだ。キキョウ様イルミ坊っちゃん、コイツ雇ってくれ」

 

 そう言って鋼裡の背中を押してイルミ坊っちゃんの前に出す。

 

「……何?コイツ」

 

「私はグリード様の嫁、梅雨=ダイモーンです」

 

「まあ!まあまあグリード貴方ついに身を固めることにしたのね!」

 

 マアマアムーブをかますキキョウっち様。そんなんだからオバサンレベル上がっていくんだぅわっち!?

 

「何か言ったかしらグリード?(チッ外した)」

 

 俺の鼻先を銃弾が通りすぎる。音も気配もなく、ライフルより速く飛ぶ凶弾に戦慄。こぇーい。

 

「とりあえずコイツは嫁じゃない。勝手にンな事言ってるだけだ」

 

「ふーん、いいんじゃない別に。でもさ、ウチが特殊なのはグリードも分かってるだろ?ウチの執事は生まれたときから全員、特別な訓練を受けている。()()()()()()()()じゃなんの役にもたたないし要らない」

 

 そう言ってイルミ坊っちゃんは肩に刺さっている針を一本抜き取り、鋼裡に針先を向ける。

 

「まーグリードに免じてウチで雇ってもいいと思うけどウチには色々秘密が多いし、本当に働くとしたら二度と敷地の外に出られない位は覚悟してね」

 

 え、俺かなり自由に敷地内出入りしてんですが?ダメだった系?やばたにえん系の?

 

「お断りします。私はグリード様に仕える身。グリード様がココから離れれば私はグリード様と共に行きます」

 

「……ふーん、いいよ。頭に針を打ちこまれても同じ事が言えるんならね」

 

 そう言うと同時にイルミ坊っちゃんは鋼裡の頭部に向かって針を投げた。

 もし鋼裡が常人だったのなら、針は頭部に刺さりイルミ坊っちゃんの言う事を何でも聞く()()()に変わっただろう。だが、鋼裡は俺とはまた違うタイプの狂人だった。

 

「私に金属製品は通用しませんよ?」

 

 『指先サイズの金槌と手のひらサイズの金床(ハンディクラフト)

 金属を掌で加工することが出来る()()の念能力。

 材料と手先の器用さがあれば何でも作ることが出来る。イルミ坊っちゃんが投げた針は、一瞬で細工包丁に変わり、俺に手渡された。

 

「……成程ね。類は友を呼ぶって訳だ。グリードの嫁ってのも頷ける」

 

「だから嫁じゃねえってば」

 

「改めまして、私の名は鋼裡=梅雨。『メタルハンター』です。ゾルディック家の皆様、これからよろしくお願いいたしますね」

 

「『メタルハンター』……ね。ま、いいや。じゃあウチ専属の鍛冶屋にでもなってもらおっか。ぶっちゃけ執事の数は足りてるし」

 

「グリード様の御傍に居られるのなら何だってしますわ」

 

「あらそう。じゃあ早速だけどそのイモ臭い恰好を何とかするわよ」

 

 そう言ってキキョウっち様は鋼裡の襟首をつかんで何処かに消えていく。

 

「え、あの、ちょ……グリード様、グリード様ぁ!」

 

「てらー」

 

 まあ別に嫁にするつもりは無いが、見た目が綺麗に変わるってんならそれに越したことは無いし。

 引きずられていく鋼裡の事を秒で忘れ、改めてイルミ坊っちゃんに向き直る。

 

「それでまた、どうしてイルミ坊っちゃんが使用人専用の飛行船発着場(こんなとこ)に?まさかとは思うが俺の手料理が恋しくなっちゃったとか」

 

「よく分かったね。グリードが乗った飛行船が来てるってミルキ経由で知って、つい急いできちゃったよ」

 

 うわーお、イルミ坊ちゃまってば素直。昔はあんなにもトゲトゲしていたのに変わるもんだなぁ。

 

「厨房にゃパーフェクトなレシピと一流に育て上げた執事コック共が居たはずだけど?」

 

「うん。でもグリード直々の食事に比べるとちょっと物足りないし」

 

「ほぉーん……まあいいか丁度いい。アマダレ地方で買い占めてきた食材を披露する機会だ、存分に振る舞ってやろうじゃねえか」

 

「(相変わらずイルミ様に対して敬語を使いやしねえなコイツ……)」

 

 そうと決まれば善は急げメシも急げ。とっととと本宅に急ぎましょしょしょ。

 

 

 アイ

 

 

「(……ん?)」

 

「どうしたグリード?」

 

「いや、今なんか……いや、うーん……気のせいか?」

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

「なぁグリード。ハンター試験ってどうだった?」

 

「どうもこうも……一次から最終試験まで全部俺が担当して忙死(いそがし)するところだった」

 

忙死(いそがし)ってなんだよ」

 

 料理中の俺に絡んでくるこの子供はキルア坊っちゃん。イルミ坊っちゃんの弟の一人だ。

 『キルア坊っちゃん』と呼ぶと大変御気分がお優れに成りやがります(精一杯の上品)のでご家族の目が届かない時はタメ口張らして戴いてますの。(10敗)

 後クソ面倒なことにキルア坊っちゃんの目の前で『念能力』を使わないようにとも厳命されてますわ。クッソダルいですのー!

 

 これはじいちゃんのドラゴンダイブ!?(幻聴)

 

 あれ、なんだろう。今世界の壁を越えたような。

 

 まあ念なんて使わなくても料理は出来る。時間は掛かるが味は据え置き、と言うか料理に念を使う理由なんて徹底的な時間短縮以外無いし。オーラの味だって本当に調味料程度だし、それなら既製品なり自作品なりで良かね。(方言)

 

「ほれキルア坊っちゃ、味見」

 

「……んあ」

 

 キルア坊っちゃんの猫目が閉じられ、雛鳥のように口をつきだしてエサ(料理)を待つ。はー黙ってりゃカワエエのね、流石兄弟。

 そして良からぬ事を思い付く俺。

 

ゴソゴソ……

 

ボロンッ(迫真)

 

「ぁ~……んぐ。…………ぅぐえっ!?苦ッ!!なっ、なに食わせやがったテメェ!!」

 

「なにって、ウゾウゾのはらわた」

 

 そう言ってキルア坊っちゃんに活きの良いウゾウゾ虫を見せる。俺のウゾウゾ虫を見ろよ、ボロンッ(迫真)

 

「うっ……!」

 

 キルア坊っちゃんは口許を抑えて何処かに駆けていった。おっ、つわりかな?(すっとぼけ)

 さてこのウゾウゾ虫、別名『アマダレユムシ』は見た目はキモいが味はまあまあの所謂地方食材である。牛や豚みたいなメジャーな物ではないが、その地方周辺ではかなり消費される物だ。

 全体的に貝肉のようなコリコリの食感で、中にはアミノ酸を含む幾つかの旨味成分が含まれて美味い。そしてはらわたは適切な処理をすれば酒の肴にぴったりの苦味と仄かな酸味で、渋い大人の味。……適切な処理をしないとどうなるって?キルア坊っちゃんの二の舞やん?(鼻ホジ)

 

「グリードテメェなんつーもん食わせやがった!!」

 

 満面の笑み(節穴)で殺意を滾らせながら厨房内に再登場のキルア坊っちゃん。顔面青筋まみれや。

 

「ケケケ、キルア坊っちゃんにゃぁ大人の味ぁまだ早かったかいのぉ?」

 

「ってめ、殺す!」

 

「料理中にじゃれつくなって教わらなかったのかにゃーん?」

 

 指をビキビキと鳴らして爪をニョニョッと伸ばし指突を繰り返すキルア坊っちゃん。料理を作りながら鼻唄混じりに指突を避ける俺。いーじゃーんちょーっとーふふふーんふふーぼーくーらがー、あ。

 

「キルア坊っちゃんあぶなーい。」

 

「は?熱ッ!!」

 

 先ほどまで火に掛けていたフライパンがなんの因果かキルア坊っちゃんの腕にジュッ。約200℃の熱がキルア坊っちゃんを襲う。かわいそう(他人事)。皆はやけどに……気をつけようね!

 

「あー大変だすぐに冷やさないとこれは大変だー」

 

「棒読みヤメロ!ふざけんなオマエのせいだろうが!」

 

 厨房で遊ぶキルア坊っちゃんが悪いぅ。

 仕方がないので流水で冷やしつつ強化系のオーラで治癒力を促進させる。ま、まあこの念の使い方ならバレへんやろ(震え声)

 跡が残るといけないので湿布を貼って包帯を巻く。あーしまったなーいま包帯みたいなぼろ布しかないわーまあこれしかないからしょうがないよなー。

 

「……おいグリード、なんだよこれは」

 

「キルア坊っちゃん、『邪王炎殺黒龍波』って「言わねえよ!」ちっ」

 

 なお一連の流れに深い意味は無い。

 

 そんなこんなで料理が完成。その名も『アマダレ直送具沢山チャーハン(米抜き)』!!あえて低火力で仕上げるのがポイントさ。

 キルア坊っちゃんの邪王炎殺黒龍波(物理)を避けつつイルミ坊っちゃんに給仕。

 

「今日もあーんで食べさせてやろうかぇ?」ニヤニヤ

 

「死ね」

 

「死なん」

 

 イルミ坊っちゃんの邪王炎殺黒龍波(針)を避けつつキルア坊っちゃんの邪王炎殺黒龍波(爪)を避け、さらにいつの間にか現れていたカルト坊っちゃんの邪王炎殺黒龍波(紙)も避ける。

 えちょ、なんでカルト坊っちゃんまで居るんすかねぇ。

 

「グリードばかりお兄様と遊んでずるい」

 

「やだもーカルト(坊っ)ちゃんたらほんとマジいい加減にしてくださりやがれ!」

 

 殺意!殺意が!あー困ります!困りますあー!あー困ります!困ります殺意あー!

 ていうかお前念能力あー困ります!困ります!キルア坊っちゃん夢中になって困りますあー!気が付いてないからまだ許されるけどあー困ります!困りますあー!あー!あー困ります!困ります!殺意あー!

 

 

 めっちゃ困った。




ツービーコンティニュ→


特に深い意味は無いですけどアンケートにご協力ください。

特に深い意味は無いのですが、選択次第で原作キャラが死んだりします。

特に深い意味は無いのですが、メインヒロインも変わります。

特に深い意味は無いのですが、更新速度も変わったりするかもしれません。

まあ、特に深い意味は無いんですけどね。

今後の展開がアンケートで変わるとは言っていない。


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時には遠くへ行きたい事もある、たとえば地図に乗らない島とか。

アンケートご協力ありがとうございました。
なんか人気だったG・I編と、その後に暗黒大陸RTAやります。


ちなみに
・キルア坊っちゃんと原作沿い
 次のハンター試験にも試験官として参加したグリードは4次試験でゴン一行と出会う。その後なんやかんやありイルミとキルアと共に一度ククルーマウンテンに戻るが、追いかけてきたゴン一行となんやかんやで同行することにした。(鋼裡ちゃんout)
 天空闘技場で一悶着あり、その後のヨークシン編で蜘蛛と再会。蜘蛛側について色々あってクラピー殺害。G・I編すっ飛ばして蟻編最終でゴンとキルア二人と決闘することになる。そしてピトーはかわいい。
 いわゆる主人公ラスボスルート。

・イルミ坊っちゃんと世界食べ歩き。
 イルミの仕事に付いていき(強制)世界中のあちこちで料理を作り、食べ回る。オリキャラオリ展開バッチコーイ!原作なにそれおいしいの?えっ、ヒロイン?イルミ坊っちゃんに決まってんだろ!
 超まったり(よく人が死ぬ)ルート。

・いや、俺は家から出ねえからな?
 ゾルディック家に籠りアルカちゃんカルトちゃんをよしよしする。ランダムエンカのナニカには……気をつけようね!
 困ったときは「アイ」で解決ギャグルート。

という5分で考えたあらすじ。失踪する前にオマケとして投稿しますね。(投稿するとは言ってない)


 まっすぐ自分の言葉は曲げねえ。それが俺の料理道だ!(嘘)

 ハローやーやー皆の衆。グリードだよ。

 ゾルディック家に戻って約一週間。その間執事コック達の腕前を再確認したり、執事コック達を()()()したり、『クリムゾンフォレスト』で採集した木の活用法を研究したりとそこそこに忙しい日々を送っていた。

 

 そしてふ、と気がつく。新しく作った能力の詳細をよく知らないと。

 『悪魔の料理長』に限らず、特質系の念能力は気がついたときには完成していることが多い。経験上な。

 ゆえに能力者本人が能力の詳細を知らない……なんてザラである。クロロみたいに自身の能力を()()()()()特質系が珍しいんだ。

 

 そしてここからが重要……能力者本人が自身の能力を知らなくても、『多分こうだろう』というインスピレーションは大抵正解である。

 無論、何の根拠もなく『これは出来る』ということにはならない。インスピレーションとは自身の経験と知識から成る。子供がヒーローを夢想するのとはワケが違うのだ。自身を知り、自身の限界を知る者にインスピレーションは湧く。

 だからこそ俺は頭に降りてきたインスピレーションにのっとり、行動を起こした。

 

「俺の顕在オーラ全てを対価に現れろ」

 

 『悪魔の先兵(デビルオーダー:コマンドポーン)』発動。言葉通り、俺の顕在オーラ全てを持っていき能力は発動した。

 能力の行程は2つ。俺のオーラを僅かに使って()を具現化、何処かから現れた不明のオーラが()に入り込む。そうして能力は起動完了。

 ()が人間のような姿形を作り、俺に対して頭を垂れる。

 

『オ呼ビデスカ主人(マイマスター)

 

 この念能力を作ったあの時は対価を決めていなかった。だから俺の()()に対して勝手に対価を決められた。では逆に対価を決めていれば、俺の()()は対価内で収まる程度に叶えられるのだろう。

 

「お前が知っている情報を寄越せ」

 

『知識ノ伝授デスネ、カシコマリマシタ』

 

 そうして俺の目の前にいる存在は、自身を悪魔と名乗った。

 

『御存知ノトオリコノ身ハ主人ガ具現化シタ(ソトガワ)ニ我等悪魔ガ憑依スル事ニヨッテ主人ノ念能力(チカラ)ヲ扱ウコトガデキマス。()()()()ハ比例シマス。ソシテ憑依シタ悪魔ニヨッテ出来ル事ハ変ワリマス。主人ノ能力ヲ超エル()()モ可能デスガ()()ハ跳ネ上ガリマス』

 

 簡単に自身の能力について説明した悪魔は唐突に喋らなくなった。

 

「どうした、情報はそれで終わりか?」

 

『主人ノ捧ゲタ()()デハココマデデス。『能力ノ全テ』ヲ知リタケレバソウデスネ……主人ノ右腕、或イハ同価ノ寿命及ビ生命力ヲ捧ゲテ頂ケレバ』

 

「じゃあ結構」

 

『ヒ?』

 

 そう、思えば俺の()()は『悪魔の料理長(デビルオーダー)の発動』のみだった。『情報』は二の次、()()だけで余った対価分が先程までの饒舌な悪魔の言葉だったのだろう。

 と、いうか……だ。そもそもこういった事は俺の性格に合わなかったんだ。ならばそう……初めからこうしとけばよかったんだ。

 

 スパッ

 

 と鋼裡が仕立てた新しい包丁で悪魔の首と胴体を分ける。

 

『ヒ?ヒ?何故?主人ノオーラハ発セラレテイナカッタ筈……?』

 

「『食材』を切り分けるのに一々オーラなんて使うかよ」

 

 時々勘違いされるがオーラを使うのは『食材』を調理するために使う。切ったりすりおろしたりといった加工は自前の手の速さだ。硬い食材を切るのに『周』を使ったりもするがその程度だ。

 そして俺の()()は『奪掠』。契約、取引、対価、馬鹿々々しい。そこにあるなら奪ってしまった方が良い……なんて、やっぱ俺は強欲(グリード)の業から逃れられない。

 

 ボトリと悪魔の首が落ち、身体は黒い靄となって空気中に散って行く。

 悪魔の首を掴み、俺の目線と合わせる。

 

『何故?何故?ドウシテコンナコトニ?』

 

「……思えば、こうして悪魔と会話するのは二回目か。一回目は煮え湯を飲まされたが、まあ忘れてやろう。そう、気になっていたんだよな」

 

『アア、主人……ヤメテ……』

 

「悪魔ってどんな味がするんだろうな?」

 

『ヤメテ……イヤダ……セッカク受肉シタノニ……コンナ終ワリナンテ……』

 

 

 

 

「『悪魔の料理番(デビルオーダー:グルメスクアッド)』発動。愚者の屍を食らい出てこい」

 

『お呼びでしょうか主人(マイマスター)

 

 人の姿をした悪魔を筆頭に、獣の姿や不定形と様々な悪魔が計10体程召喚された。やはりただ()()だけなら激しいオーラ消費にはならない。さっきの悪魔の知識通りだ。

 そして同じく知識通りなら、ただ()()()現れた悪魔共は総じて階級が低い。これでは大した事も出来ないだろう。

 ある意味期待通りで、期待外れな結果に消沈しつつ現れた悪魔共の首を斬り落とし、残さず捌いて喰らい尽くした。

 

「悪魔にもピンキリ、最初に呼んだ『料理長(グルメシェフ)』はかなり階級の高いヤツだったんだなぁ」

 

 多くの悪魔共の犠牲によって、俺の求める理想の一つ(グルメ)を叶えるためにはかなりの代償が必要だと分かった。それと悪魔の味もピンキリある事も分かった。

 しかしまさかここに来て俺のほぼ無意味だった念能力(死にスキル)が役に立つとはな。

 

対価要らず(グリードハンド)

 人間以外から様々な物を奪うことが出来る。悪魔(グリード=ダイモーン)の力の原点。

 

 こんな能力なんて獣や魔獣から容量(メモリ)を奪うくらいにしか使ってなかったが、この歳になって使い道が広がるなんてな。

 

「な、これは一体何事ですか!!?」

 

「んぁ?」

 

 少しばかし放心していたようだ。汎個性執事が近づいてくるまで気が付かなかった。

 

「ぐ、グリードさん、これは一体どういう事ですか!」

 

 俺に詰め寄ってくる女執事。名前は……なんだったか忘れたが、一応俺の部下に当たる料理番の一人だ。そこそこ物覚えも良く、部下の執事の中では一番調理速度が速いヤツだ。名前は忘れたが。

 そして辺りを見回せば、バラバラに解体された悪魔の残骸が。あー……成程、これはあれだ、やっちゃったんだぜ★

 

「これは……魔獣!?ゾルディック家の敷地内に……まさか、グリードさんが手引きを」

 

「おっと面倒くさい事になる」

 

 調理用の目打ちを名を忘れた女執事の首に叩くように当てる。それだけで膝から崩れる様に地面に倒れる。

 

「あぐっ……な、なに……を……」

 

「やー、なんか説明面倒だし、説明するとなると俺の念能力についても説明しないといけないし、まあぶっちゃけゾルディック家の誰かにも知られると更に面倒だから口封じをね?」

 

「私を……殺すのですか……」

 

「いやいやまさか、君ら執事達の一部に死んだら発動する念能力を持ってる奴等が居るって知ってるし。それに勝手に執事を処理したら何言われるか分かんないからね」

 

「なら……」

 

「それに『悪魔は人間に成りたがる』ってのが本当か確認したいし」

 

「……ぇ」

 

「『悪魔の知識欲(デビルオーダー:ライブラリアン)』出てこい都合の良い悪魔」

 

『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!我が主(マイロード)の呼びかけに華麗に参上!ご命令は?(オーダー?)

 

 元気よく飛び出てきたのは黒い靄を纏ったままふわふわと浮かぶ闇色の球体だった。

 

「そこの女執事に成り代われ」

 

『ええ!?良いの!?良いの!?それがご命令?(オーダー?)肉体はそのまま貰っちゃっていいの!?』

 

「好きにしろ」

 

「ぁ……ま……いゃ……」

 

『やったー!!ニセモノじゃない本物の肉体(からだ)!』

 

「ぁ……ぁっ……ぁぁぁ……」

 

 闇色の球体は黒い靄を女執事に纏わりつかせると、口腔を抉じ開けた。

 女執事はこれから何をされるのかを悟ってか嫌々と必死で動かない身体で抵抗を示すが、そんな事などお構いなしと闇色の球体は抉じ開けた口腔内に入り込む。その身の色を闇色からあらゆる絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたかのような虹の黒色に変えて、ゴキ、メキ、と顎の関節を破壊しながら口腔から更に奥へと侵入していく。

 

「ご、ぉ”……げぇう”ぇ……」

 

『暴れないでねー!すぐにでも()にしてあげるからねー!』

 

 女執事は『練』で激しく暴れようとするが、黒い靄が全身を締め上げ、更に『練』で発せられたオーラを食っていく。

 辺りに異臭が立ち込める。女執事が失禁した臭いと人が死ぬ寸前に放つ匂いが混ざり眉を顰めるほどの悪臭が漂ってきた。

 バジュリ、と水風船が爆発したかのような音がしたと同時に女執事の身体が大きく跳ねた。そして紐で首を吊ったかのようにぶらりと宙に持ちあげられる。女執事の目から光は失われていた。

 すると、黒い靄が今度は女執事の皮膚から吸収されるように消えていき、全ての靄が無くなったと同時に女執事の目に光が戻った。

 

「あははははは!!!やったー!!肉体!本物の身体だー!!」

 

 キャアキャアと飛び跳ねながら全身で喜びを表現する女執事……否、悪魔。

 飛び跳ねた際にバラバラになった悪魔の残骸を踏みつぶしてもお構いなし。むしろ積極的に踏みつぶしているかのように飛び跳ねていた。

 

「おい、少なくとも俺の記憶じゃソイツはそんな激しく飛び回ったりはしねえぞ」

 

「あはっ!いけないいけない、我が主の願いを忘れる所でしたよ!ところで我が主!()に名を頂けませんか!?」

 

「いいよ」

 

「もちろんタダとはいいま……て良いんですか!!?軽いっ!軽いです我が主!!」

 

 軽いと言われても。悪魔に名を付ける事がどういう事かは既に奪った知識で得ている。少なくとも一生付き纏われるくらいは覚悟するべきだろう。

 だが、俺には関係ないね。必要なものは奪い、与える。

 

「お前の名は……『カルマ』にしよう。俺に従うには良い名前だろう?」

 

 悪魔……いや、カルマはえへ、えへ、と笑いながら静かに泣き出し、俺に跪く。

 

「我が主。この『カルマ』、たとえこの身が朽ちても永遠貴方様に仕えることを誓います」

 

「善きに計らえ」

 

 悪魔にとって受肉とはこの物質世界に顕現する手段であり、望みである。そして名付けとは顕現した姿を世界に定着させる楔であり、願いである。だが名付けは誰にでも出来る事じゃない。ただの人間が悪魔に名前を付けると、その代償に自身の名を失う。名を失うということは誰にも覚えられなくなり、自身もまた誰を覚えることが出来なくなる。そうして存在が希薄になっていく。

 まあ、(超強い悪魔)にはほぼ関係ないんだけど。

 

 さて、便利な手下が増えた所で……っと、そろそろ夕飯の時間か。

 

「カルマ、とっとと女執事の代わり役をやって(成り代わって)くれ」

 

「はい我が主!」

 

 ん”っ、とカルマが咳払いをすると、雰囲気までしっかりと成り代わった。

 

「グリードさん、もう夕食の時間ですので急ぎましょう」

 

「おう」

 

 そうして厨房に向かい、ゾルディック家の夕食を作った。

 そして、深夜。俺が自室のベッドで寝転がっていると影から音も無くカルマが現れる。

 

「我が主。今お時間宜しいですか?」

 

「……なんだ」

 

 いやほんとになんだよ、俺は眠いんだ。

 

「ふふふ、実は面白い物を見つけてしまいましてね。我が主はこの人間界で『ガス生命体アイ』と呼ばれる存在を御存知ですか?」

 

「あー……名前だけなら」

 

「『ガス生命体アイ』対価を払えばそれこそあらゆる願いを叶えることが出来る人類が暗黒大陸から持ってきてしまった最悪(リスク)。まるで悪魔(我々)のようで、根本から違う生き物」

 

「……で、それがどうした」

 

「ふふふ、ふふふふふ……実はですね、ソイツ、このゾルディック家に居るみたいなんですよォ」

 

「へー」

 

「反応が軽い!流石我が主!」

 

「おい、本性漏れ出てきてるぞ」

 

「おっと失礼。まあ、何が言いたいかといいますとぉ……我が主、それ(ガス生命体アイ)が自由に扱えたら面白そうじゃないですか?」

 

「別に」

 

 そんな事より今は睡眠をだな……

 

「えー、反応薄すぎてつまんないです我が主。折角ここに良い感じに調教済みのガス生命体アイの入れ物(アルカ坊っちゃん)を用意しましたのに」

 

「ぁ……イ……?」

 

「いやお前なにしてんのマジで」

 

 なんか色々突っ込み所さんが多いんですけど、誰よその目がイっちゃってる女の子。アルカ坊っちゃんって言った?え?どっから持って来た。ってか調教済みって言った?やばない?

 

「いやあ私知識欲を司ってますし?ちょっとどうなるか見たいなあと」

 

「知識欲というか好奇心だよねそれ」

 

「キ……ルアー……?」

 

 キ、ルア……まさかキルア坊っちゃんの事か?え?やばない????

 

「お前マジでコイツどこから連れてきた」

 

「ゾルディック家が厳重に封印していた扉の奥からですが?」

 

「やーぱなーい」

 

 うける、ちょーやばいんですけどー。

 

「良いですかガス生命体アイの入れ物(アルカ坊っちゃん)。今日から貴方のご主人様はこの方、グリード様ですよー」

 

「ぁ……ぐりー……ど……?」

 

「刷り込みさすな」

 

 よだれを垂らしながらビクンビクン震える様は犯罪的だと思いました(まる)

 

「カルマ、いいから元の場所に帰してきなさい」

 

「えー。ですが我が主、折角ガス生命体アイの入れ物(アルカ坊っちゃん)の心にスキマが開いているのですから、今の内に蹂躙してねぶり尽くしちゃいましょうよー」

 

「心にスキマってお前何した」

 

()()何も。いやー不思議ですねー、まるで何年も愛しの人に会えない小娘(処女)の様に心は愛と不安、記憶と不信感(過去の想い出)に囚われていましたから。そこにちょぉぉっとした未知の快楽(肉欲)を刺激しただけですよぉ?」

 

「マジで何してんのこんな見た目幼女に」

 

 流石悪魔、倫理観とかそんなモン知ったこっちゃねえと言わんばかりに暴走してやがる。

 

「貴方が言いますか我が主」

 

 それな。

 

「とりあえずカルマ、さっさとソイツを元の場所に戻してきなさい」

 

「よろしいのですか?今戻しちゃうときっと猿のように快楽を探索するブタの如きメスにしかならないですけど」

 

「……そいつを元に戻してから元の場所に戻してきなさい」

 

「あ、いっその事この小娘(処女)本物の快楽を教えて(我が主の肉欲をぶつけて)みませんか?」

 

「さも名案を思い付いたかのように振る舞うの止めな」

 

 俺はロリコンでは無い(無言の腹パン)

 腹部がミンチになったカルマはそのまま床に這いつくばった。

 

「お”お”お”……これが……痛みですか……成程……」

 

「また一つ賢くなったなカルマ。今度は手脚を踏みつぶされる痛みを知るか?」

 

「お許しください我が主!ただ私は貴方様のお役にたとうと思っただけで御座います!」

 

「それがなんでこんな」

 

 俺とカルマの会話は、慌てたように部屋に飛びこんできたイルミ坊っちゃんによって中断された。

 

「グリード!部屋から子供が一人消えたんだけど何か……」

 

 イルミ坊っちゃんの目が俺から横のカルマに動き、更に隣に居たアルカ坊っちゃんとやらに移る。

 そしてアルカ坊っちゃんの姿を認めた瞬間、イルミ坊っちゃんの感情が全て抜け落ちた。

 

「グリード、ソイツは何で此処に居る?」

 

「わお超ヤバス。カルマ」

 

「御意」

 

 俺がカルマに声をかけたその瞬間にイルミ坊っちゃんから無数の針が弾丸の速度で飛んでくる。

 その全てを枕で受け止めつつ、次の瞬間閃光が部屋を埋め尽くした。

 

 バリィン!と窓ガラスをブチ破って逃走。俺に追随するようにカルマが来て、数瞬遅れてイルミ坊っちゃんが飛び出してくる。

 

「グリード、グリード。グリード!グリぃィド!!」

 

「うっそだろイルミ坊っちゃんがあそこまで感情むき出しなる普通!?」

 

「いやぁ我が主、まさかガス生命体アイの入れ物(アルカ坊っちゃん)がゾルディック家の逆鱗だとは、このカルマの目をもってしても見抜けませんでした!」

 

「馬鹿じゃねえのお前!」

 

 カルマの方をふと見ると、面白い玩具を後生大事に抱える子供のようにアルカ坊っちゃんを抱え、顔はニヤニヤと厭らしく歪んでいる。

 

「楽しいですねえ我が主!!」

 

「ほんとお前馬鹿じゃねえの!!?早くそいつをポイしてきなさい!」

 

「例え我が主のご命令だとしても聞けませんねぇ!!はあぁぁあぁあぁ!これが本物の快楽!快感!悦楽!!人間を掻きまわすのは愉しいですねぇえええ!!!」

 

「あーもー滅茶苦茶だよこいつ!」

 

 殺気全開のイルミ坊っちゃんを振り切る為に空を跳ぶ。オーラを噴出した勢いそのまま、ククル―マウンテンの空を征く。

 俺の僅か後ろには当然の如く空を飛ぶカルマ、そしてカルマが抱える小娘アルカ坊っちゃん。そしていつの間にかついてきてた鋼裡。

 

「いやお前本当にいつの間についてきてんの!?」

 

「貴方様がゾルディック家(ここ)を出るのなら妻としてついていくのは当然です。妻として、妻として!」

 

「こいつもこいつで馬鹿じゃねえの!?」

 

「なんですかこの降って湧いた様な脳内ピンク女」

 

「お前も大概やぞカルマァ!」

 

「それより貴方様、現在ゾルディック家全てで貴方様を捕獲するように命令が下っています」

 

「捕獲命令ィ!?殺害じゃなくてか!?」

 

「はい、殺害では無く捕獲です。ただ手脚の一本二本は落として来いとも」

 

「ざけんなオラァ!料理人の手を落とそうたぁブッ殺されてぇみてえだな!」

 

 ふ、と嗅ぎなれないオーラの香りがし、チラとそちらを向けば東洋龍(ドラゴン)が俺に向かって直進してくる。

 こっこれはじいちゃんのドラゴンダイブ!?(震え声)

 

「グリード!ちぃとオイタが過ぎんかのう?」

 

「悪い事は言わん。アルカ(ナニカ)を置いていけ」

 

「ゾル家ツートップ!確実に殺しに来てるでしょコレェ!あー困ります!困りますこれぁ!!?」

 

 オーラを更に放出するも、速さなら向こうの方が速かった。空では分が悪いので方向転換、急降下。地面に足を付けた瞬間、足裏のオーラを『回』し、高速で山を下りる。

 

「ほ、やはりアヤツ器用じゃのう」

 

「全く、依頼でも無いのにアイツを仕留めるのは本当に割りに合わない」

 

「仕方ないのう……イルミ」

 

『ああ、執事共総動員だ』

 

 

 

「だああもおおおカルマテメエ覚えてろよゴラァ!!」

 

「あっはっはー!!我が主ごめんねえええ!!」

 

「しかしどうしますか貴方様。ゾルディック家が追いかけてくるのも間違いなくその娘が原因だと思いますが」

 

「そう思うよな普通!だからカルマお前それポイしてきなさい!」

 

「嫌でーす!!せっかく手に入れた玩具(厄災)を手離すなんて勿体ない!」

 

「聞けよ悪魔なら指示をよぉ!!」

 

「悪魔ですから!!」

 

「どうしますか貴方様、斬りますか?」

 

「斬るのは止めてください奥方様!」

 

「あらぁうふふ奥方なんてそんな本当の事をうふふ」

 

「懐柔されんの早過ぎだわ!」

 

 ギュンッ!

 ほんの数瞬前に足があった所を一枚のコインが通り過ぎていく。

 

「グリード、テメェ……何したが知らねえが五体満足で敷地から出られると思うなよ?」

 

「やべえ独身男だ!囲め!」

 

「誰が独身男だァ!?」

 

「事実じゃーん。って、ゴトーさんが出てくるって事はまさか……」

 

 僅かに脚を止めた、その瞬間に辺りをゾル家の執事共に囲まれた。

 

「はぁぁぁーコレだから執事共は!意味分かんねえ念能力ばっか覚えやがってからに」

 

「お前に言われたかねえわ」

 

 無駄に数が多い執事共の中に、複数の人数を短距離瞬間移動させる能力者が居た事は覚えてる。なんに使うんそんな能力、って思ってたらコレだよ。

 囲んで棒で叩く。人類が生み出した最高の戦術である。

 

「ありゃまぁ、完全に囲まれましたねぇ……どうします我が主?」

 

「……チッ、はぁ……あ~……もうめんどくせえなあ本当に。『お前がどうにかしろ』」

 

ご命令(オーダー)お受けいたしましたぁ!」

 

 次の瞬間、月明かりに照らされたカルマの影が蠢き、四方八方に伸びた。

 

「は!?何だこりゃぁ!!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃっ!!?」

 

 伸びた影と自身の影が結ばれた執事達が真っ黒に変わる。

 

「『幻想鏡面666変化(シャドウイリュージョン)』」

 

 変化が終わったのか、影から放出された執事達は俺達に姿を変えていた。

 

「な、姿を変える念能力!?」

 

「残念♪ただ姿を変えたワケじゃぁないのですわぁ。彼等はデコイ。我が主達を認識できなくなる為の身代わりですわぁ。さあ我が主、逃げるなら今です!」

 

 とりあえずカルマのケツを蹴り飛ばす。

 蹴られた勢いで抱えていた小娘(アルカ坊っちゃん)を投げ飛ばすも、鋼裡が回収。

 

「はぁ、貴方様との子供が出来たらこんな感じなのでしょうか」

 

 なんか気持ち悪い事言っている女を無視して逃走を再開。

 

「な、待て!」

 

 ゴトーが手に持ったコインを撃ち出すが、コインは俺では無く俺の姿をした執事の足を撃ち抜いた。

 

「あ”あ”あ”ッッ!!な、何故ッ……!!?」

 

「馬鹿なっ、オレは確かに本物のグリードを狙ったはず……ッ!」

 

 なんかよく分かんなけど俺を狙った攻撃は全て俺の姿をした執事(デコイ)に当たるようだ(超速理解)

 現場の混乱に乗じて姿を隠しつつ下山を続ける。

 道中デカい犬が複数襲ってきたが、俺と鋼裡によって瞬時に解体されていった。

 

「我が主、私が知ってる人間ってあんな動き出来ないと思うんですが」

 

「じゃあ新しい事が知れて良かったな」

 

「……はい!(理解を諦めた顔)」

 

「グリードー。小指頂戴?」

 

「え、何コイツ急に」

 

 今まで目がイってたアルカ坊っちゃんの目が正常に戻ったかと思えば急に指を欲しがるとか意味分からなさ過ぎて草。

 

「我が主!これアレです!アイの『願いの対価』です!」

 

「このタイミングで!?」

 

 逃走の最中じゃん。馬鹿なの?死ぬの?

 

「じゃあ中指頂戴?」

 

「我が主!対価を払わないと死にますよ!?」

 

「俺何も願ってないんですがァ!?」

 

「『アイ』はそういう生き物です!」

 

「意味不明すぎて草ァ!そんなに欲しいならくれてやるよォ!!」

 

 中指を親指でグッと抑え、アルカ坊っちゃん(アイ)の眉間に解放する。所謂デコピンを食らわせる。

 

「痛いっ!」

 

 めっちゃ涙目で睨んでくるが今は逃走が最優先である。デコピンで満足しろこの野郎。

 

「むぅ……じゃあ人差し指頂戴?」

 

「じゃあってなんだしゃぶってなオラァ!」

 

 アルカ坊っちゃん(アイ)の口の中に指を突っ込む。むぐむぐと唸っていたが、やがて黙ってペロペロ指を舐め始めた。なんなんマジでコイツ。

 

「……それOKな判定なんですねぇ」

 

「なんか言ったかカルマ!」

 

「いえ、それよりもそろそろ門ですよ我が主!」

 

 カルマの言う通り、ゾルディック家の敷地と外を区切る門と壁が見えてきた。平時なら押せば開くが、果たして。

 

「うーん……ダメですね貴方様。ロックが掛かっていて幾ら力を込めてもびくともしません」

 

「そらそうだわな。誰だってそうする、俺だってそうする。……よし鋼裡、()()開け」

 

「はい、かしこまりました」

 

 鋼裡は懐から、明らかに自分の身の丈以上の巨大な抜き身の刀を取り出し、そのまま袈裟懸けに振り下ろす。そして返す刀で逆袈裟に振り下ろした。

 俺の指をしゃぶり続けているアルカ坊っちゃん(アイ)を肩に担いで、斬られた門を足で蹴り飛ばす。

 深夜にド派手な音を鳴り響かせ、『試しの門』が内側から破壊される。

 

「……あの、我が主(マイロード)。門の横にある小さな扉を抉じ開けるのでは駄目だったのですか?」

 

「ああ、駄目だった」

 

 だって見えて無かったんだもーん。

 

「我が主、それでこれから何処に向かうのですか?」

 

「当てもなくずっと逃げ続けるのは難しいと思いますが……」

 

「安心しろ、当てはある。まあ、ちょっと遠いけどな」

 

 目指すは流星街、の俺の家。そこまで行けば間違いなくゾルディック家は手出し出来なくなる……はず。

 

「流星街」

 

「ああ、目指すは流星街だ」

 

「……遠すぎではないでしょうか」

 

「だからちょっと遠いって言ってるだろうが」

 

 まあ、全力で走って一週間で着ければいいかな?

 

「あの我が主、人間ってそんな走って大陸間移動ができる物なのですか?」

 

「鍛えれば出来る」

 

「貴方様、多分ですけどゾルディック家が追いつく方が速いかと……」

 

「我が主、あの、近場でもっと開けた平地は無いですかね。そこまで行けたら私が何とかできますので……」

 

「なら最初っからお前が何とかしろよ」

 

 カルマの尻を蹴り飛ばす。

 そして後方から凄いオーラの奔流を感じた。OH……これはあれですね、あのー……なんか乗り者に変身するおばあちゃんですね。

 

「\やべえ/」

 

「ちょ、そこの悪魔!この状況を何とかしなさい!」

 

「はぁ!?我が主以外の命令なんて聞かないんだが!?」

 

「グリードー、親指頂戴?」

 

「しゃぶってろおら」

 

「はっ、そうだ我が主!アイの能力を使えばきっと逃走する事が出来ます!」

 

「ホンマかぁ?」

 

「なんでそこ疑問に思うんですか!いいから早くアイのオネダリをこなしてください!」

 

「お前が指図するんじゃないよ」

 

 カルマの尻を追い蹴りする。そもそもお前がコレを連れてこなければこんな事にならなかったのでは?

 と、もたもたしていたらゾルディック家からバイク?に乗った男女が現れる。

 

「やれやれ、アルカ坊ちゃまをクシナが連れていったと聞いたけど……アンタは誰だい?」

 

「クシナ?」

 

「我が主、私の身体の元の持ち主です」

 

「ああ……なんかそんな名前だったような……」

 

 バイクが喋ったと思ったら、次の瞬間には体格の良い老女に姿を変えていた。

 

「……暗くて見間違いかと思ったが、グリードテメェ子供にナニさせてやがる……!」

 

「変態ですね、見損ないました」

 

 バイクに乗っていた男女はゴトーと……誰だっけ、アマ、アマ……まあいいや。その二人が戦闘態勢をとる。

 

「これが最後通告だグリード、アルカ様を解放しておとなしく投降しろ。そうすれば無駄に怪我しなくて済む」

 

「馬鹿言うんじゃねーや独身男!ガス生命体アイの入れ物(アルカ坊っちゃん)はもう俺の物だ○ァック!って我が主が言ってます!」

 

「カルマお前いい加減にせーよ?」

 

「そうか、残念だ」

 

 ゴトーがコインを撃ち出す。鋼裡が撃ち出されたコインを掴み、小さなナイフに作りかえる。

 

「危ないですね。私の夫になにをするんですか」

 

「チッ、本当に鬱陶しい」

 

 そう言ってゴトーはコインを連射した。その全てのコインを掴み、加工し、作り替えていく鋼裡。

 

「無駄ですよ。私とあなたではレベル(狂気度)が違いますので」

 

「クソが、弾速も回転力もお構いなしかよ……!」

 

「カルマ、『時間を稼げ』」

 

仰せの通りに(イエスマイロード)!!」

 

 カルマが月に向かって手を翳すと、辺りが暗くなってゆく。あっという間に新月の夜の如く闇が辺りを覆うと、この場に居る全員の足が地面に縫い付けられたかのように動けなくなった。

 

「『星明かりの魔術(イービルマジックナンバー9)』我が主今です!アイの力を使ってください!」

 

「おい、本当にこれ大丈夫なんだろうな?」

 

「大丈夫です!私の知識によればアイの願望実現能力に際限はありません!」

 

「ホンマかぁ?」

 

 しゃぶりつくされた親指を引き抜きつつそう答える。うわぁ、指がべとべとやん……。

 

「グリードー、舌頂戴?」

 

「料理人の舌なんだと思ってやがるテメェ」

 

 バチィンと眉間にデコピンを入れる。結構本気目に。

 おぉぉぉぉ……と額を抑えて蹲るアルカ坊っちゃん(アイ)

 

「こらアンタ!子供相手に暴力振るうなんて情けない!」

 

「うるせえぞ婆さん。子供だからこそ躾はきちんとしなけりゃならねえ。そして人は痛みを伴ってしか学ぶことは出来ねえんだよ」

 

「それは違います貴方様。痛みを伴って学ぶこともありましょう、ですが学ぶ方法はそれ以外にもあるはずです」

 

「痛みが人を強くする。痛みを知らない子供は碌な大人にならねえよ」

 

「あーもー滅茶苦茶ですよ!我が主時間が無いんですからさっさとしてください!指がOKだったんですから舌をぶちゅっと捻じ込んでくださいよぶちゅぅっと!」

 

「なんでガキ相手に舌捻じ込まなきゃならんのだ気持ち悪い」

 

「き、気持ち悪……」ガーン

 

「おいいい!厄災の癖に落ち込んでんじゃねえですよ!さっさと次のオネダリしやがれってんだこのすっとこドッコイ!」

 

「ぐ、グリード……胃、頂戴……?」

 

「厄災の癖になんかすっごい遠慮がちにオネダリしてる!?何なんですかコレ!」

 

「カルマお前が何なんだよさっきから。胃……ねぇ」

 

 『ポケット』から牛のモツ、ギアラを取り出し渡す。めっちゃ嫌そうな顔してる。

 

「コレ、違う」

 

「胃だよ胃。牛の第四胃」

 

 なんか生だと嫌そうなので調理してやる。

 鋼裡が前に作った熱包丁(ねつぼうちょう)でギアラを焼きながら一口大に切り、醤油・砂糖・にんにく・生姜・貝柱の粉末・その他諸々の香辛料を混ぜたタレを、縫い針の様に穴の開いたニードルに浸け、焼いているギアラを突く、突く、突く。高速で突くことでギアラの身を解しつつ味をしみ込ませる。

 しうしうとギアラが焼け、仄かに香ばしい匂いが立ち込める。すんすんと匂いを嗅ぐアルカ坊っちゃん(アイ)

 焼き上がる直前、ギアラに『周』をして強化しつつ熱包丁(ねつぼうちょう)の火力を最大限に上げる。轟ッと炎を上げてギアラを焼くが、『周』で強化されたギアラは燃えカスにならずに表面だけをパリッと焼き、中身をジューシーに仕上げた。

 そんなこんなであっという間に出来上がった『突けダレギアラ焼き』をアルカ坊っちゃん(アイ)の口に放り込む。

 

「あっ!あちゅ!あつ!あふっ!」

 

「しっかり噛みしめろよ」

 

 パリッと焼き上がったギアラを噛めばカリッとした歯ごたえの中にじゅわっと広がる肉本来の甘味、更に噛むとじわじわと口内に広がるタレの深い味わいと旨味、肉の焼けた香ばしい匂いと香辛料の爽やかさが肉の臭みを至上に仕上げる。

 肉は美味いなあ!

 

「いやお前が食うのかよ!!」

 

「うるせえぞゴトーさん。どう見てもアルカ坊っちゃん(アイ)一人で食いきれる量じゃねえだろ」

 

 先程はギアラ一つ丸々渡した訳だが、ギアラの重さは大体2~3キログラム。そんなモン焼いた所で子供一人で食いきれる訳無いじゃんじゃーん。

 そんな訳で肉は熱々のまま食べるのが一番なのでムシャリムシャリと食べ進める。俺とアルカと鋼裡で。

 

「ああ、とても美味ですねぇ貴方様」

 

「あふっ、あふっ」

 

「やっぱモツ美味いわー」

 

「ちょ、我が主!?私の分は!?」

 

「ねえよ」

 

「というかそんなのんびりしてていいのかい?すぐに増援が来るよ」

 

「美味美味、まあ大丈夫だろ。なあカルマ」

 

「お肉欲しい……はっ、ええ勿論です我が主。『星明かりの魔術(イービルマジックナンバー9)』の効果範囲はこの山一帯ですから!」

 

「効果範囲が山一帯だと……!?」

 

 バクバクとあっという間にギアラ一つ食いきった。

 

「さて、望み通り(ギアラ)を渡したわけだが……まだオネダリとやらを聞かなきゃならねえのか?」

 

「いえ、知識通りなら願い一つに対し、三つオネダリするようです。目が真っ黒になったら願いをかなえられるようです」

 

「ほう」

 

 どれどれ、とアルカの頬を両手で支え顔を覗き込む。足がまだ動かないから一々こうしないと顔がみれん。

 

「………………」

 

「…………変わってないが」

 

「嘘っ!?指、指、胃でオネダリ3つクリアしてる筈!?やっぱり牛の胃じゃなくて我が主の胃じゃないと駄目だったのでは!?」

 

「いや()()胃って指定してなかっただrrrrろ!?(巻き舌)それに最後の方は自分からギアラ食ってただろお前!」

 

「………………………アイ」

 

「あ、変わった」

 

「え、ええ~……ま、まあ変わったのなら。さあ我が主!今こそ願い事を!」

 

「よし、じゃあ俺を流星街の家「貴方様!!私を置いていくつもりですか!!」……じゃあ俺と鋼裡を流星街の「我が主!私はぁぁぁぁ!!??」うるせえ!!『俺等を流星街に移動させろ』!!」

 

「アイ」

 

 次の瞬間、身体が浮いた感覚がしたと思ったら流星街にある俺の家の中に移動していた。わお超便利。

 

「おお……ここが貴方様のご実家ですか。なんというかこれは……整理し甲斐がありますね」

 

「きったねえ部屋ですねー「おっと足が滑った」ギャアア!!我が主!!もう私の尻のライフポイントはゼロで御座います!!!」

 

「そりゃあ大変だ。どれ見てやろう尻をだせい」

 

「その木製バットは何処からお出しになられたのでぇ!?」

 

「なんかコイツがくれたわ」

 

「アイ」

 

「わっほー流石我が主!もう厄災と仲良くなってらぁ」

 

 

 

 

「え、なんでガス生命体アイの入れ物(アルカ坊っちゃん)がついてきてるので?」

 

「それな」

 

 おかしい、何故ゾルディック家から追いかけられる原因までついてきてしまったのか。根本的な解決にならねーじゃん。

 

「と言う訳でなんでお前までついて来てんだよ。俺はお前(とカルマ)のせいでゾル家から逃げてきたワケなんだが?」

 

 アルカの頬を引き延ばしながら問い詰める。

 

「ア、アイ……」

 

「成程、閉じ込められたままでいるより、この機会に外に出たくなった……と」

 

「アイ!」

 

「そのおかげで俺は暗殺一家から命を狙われ続ける事になってるんですがァどうしてくれるんですかねェ!!?」

 

「いひゃい!いひゃい!!」

 

 ググググ……と頬を伸ばせるだけ伸ばす。はははこやつめははは(怒)

 

「……あの、貴方様。『ア』と『イ』だけで意思疎通できるのですか?」

 

「なんか理解できた」

 

「ええ……」

 

 お前それでええんか……という表情で見てくる鋼裡。しかたねえだろなんか理解できたんだから。

 

「そ、それより我が主!一体どうやってゾルディック家から隠れ続けるので?流星街とはいえ暗殺一家から隠れるには心元無い場所だと思うのですが!」

 

「おっとそうだったそうだった。ちょっと待て、…………何処やったかな、…………お、あったあった」

 

「これは……ゲーム機ですか?」

 

「おう、ジョイステーションな。コイツが俺の逃走経路だ」

 

「……貴方様、ゲームに現実逃避は……その」

 

「現実逃避じゃねえよ!コイツの中身は『グリードアイランド』!聞いた事くらいあるだろ?」

 

「グリードアイランド!ハンター専用ハンティングゲームで世界に100本しか存在しないと言われているあの!?」

 

「おや、貴女悪魔の癖にそんな事よく知ってますね」

 

「はっはっはぁ!伊達に知識欲を司ってないのよアタクシ!電脳ネットワークやハンターサイトに潜り込むなんてお手のものよ!」

 

「おいコイツハッカーハンター敵に回しまくってるぞ」

 

「処します?いずれ足を引っ張るタイプですよ?」

 

「待ってゴメンナサイ!違うんです!」

 

「アイ?」

 

「捻り潰していいぞ」

 

「捻り潰さないでください!(ガチ懇願)」

 

 話が進まない。

 

「とにかく、この『グリードアイランド』はこの世界のどっかにある島を舞台に遊ぶゲームだ。コイツを起動して『練』をすることで舞台の島に瞬間移動する事が出来る。世界に100本しかない上にゲームの舞台っつーことで隠れ潜むにはうってつけ。その上システム的に逃げ回るのも楽々ちんちんな訳よ」

 

「なるほど……世の中には面白い物が溢れてますね」

 

「(特に面白い人生送ってきた貴女が言いますかね)」

 

「何か言いましたか悪魔さん?」

 

「いえ何も」

 

「ま、このジョイステに入ってるソフトは正確に言えば『グリードアイランド』のベータ版だ。色々とシステムが違うみたいだが、まあ普通に遊ぶ分には大丈夫だろ」

 

「我が主、違う()()()とは?」

 

「テストプレイはしたが正式版は諸事情でやった事無いんでな。(そういや製作者から出禁食らってたな……まあへーきへーき)」

 

 そんなこんなでジョイステの配線諸々を接続し、ゲームを起動する。セーブデータはジョイステに刺さったままだった。

 さて、『指輪』は何処にやったかな……と探してると、俺の服を引っ張る存在が。

 

「どうした?」

 

「アイ……」

 

「何?『練』が出来ない?知るか」

 

「アイ!」

 

「あーわかったわかった……めんどくせー、おいカルマ。『アルカに念を教えろ』」

 

承りまし(イエスオーダー)……ってえええ!?そんな無茶振りを!」

 

「念を教えるまでお前ここで待機な」

 

「アイ!」

 

「そんなぁ!?」

 

「じゃあ先行ってるから。ゾルディック家が来るまでに教えられなかったらもう知らん」

 

「アイ!?」

 

「ひぃ、殺生な!!」

 

 指輪を見つけ装着。とりあえず先にグリードアイランドに向かう事にした。

 びーびー騒ぐ奴等を他所に、起動しているジョイステに『練』をした。

 

 

 そして次の瞬間、俺は何処かに飛んで行く感覚を味わった。

 

 





颯爽とグリードアイランドに飛んで行ったグリード(ややこしいな)
 現行版とベータ版は若干システムが違うので色々とややこしい事になります。カード管理とかめんどくさいんだもーん!!
 具体的にはフリーポケット無制限、入手したカードのカード化限度枚数の除外。一部NPCイベントの設定変更、一部スペルカードの無効化等。
 ベータ版の設定がそのまま引き継がれている感じです。俺ルールとか言うな。

 ベータ版とは色々変わっている事に驚きつつ、なんだかんだで楽しくグリードアイランドを楽しむグリード組、其処に忍び寄るプレイヤーキラーの魔の手が!
 グリード組は真っ当にゲームを楽しむのか、それともプレイヤーキラーと化すのか、それともゲームをぶち壊すバグと化すのか!こうご期待!


 なんでグリードがそんなモン(G・Iβ版)持ってんのかって?G・Iテストプレイのお礼で貰ったんちゃうんか?(適当)


「ワタシの能力が知りたい?知りたい??どぉしよっかなぁ???おしえよっかなあああ????」
「いい加減にしないと殺すよって顔」
「ごめんなしゃい!?私は主に姿を変えるような能力と魔術に長けておりますです!」

幻想鏡面666変化(シャドウイリュージョン)
 自身の影を操り、影に触れた者をデコイに変える能力。顔が判別不能になるまで効果が残る。

星明かりの魔術(イービルマジックナンバー9)
 星が見える夜にのみ発動可能。月明かりを隠した影に居る者を地面に縫い止める。

「他にもいろいろな事が出来ますよ!」
「シャドウイリュージョン強いな。対象が死んでも顔が判別つくなら効果ありって事か」
「本体一人を対象にした念能力や追跡等は全てデコイが引き受けます!超強い!」
「イービルマジックナンバー9……少なくともこんなのがあと8個あるのか?」
「その通りでございます!どれもこれも発動には様々な条件がありますが効果は便利でございます!」
「ほーん。で、全部使う日は来るのかね」
「来ないでしょうね!」



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新年おめでとう!危険も冒険も何もない一年が始まるよー!(嘘)

 明けましておめでとうございます。タイトルに深い意味はありません(今更感)
 前回の前書きに関して特に感想が無かったって事は、他の展開にあまり興味が無いと言う事ですかね。じゃあ書かなくていいですよね!

と言う訳で今回からフリースタイルG・I編始まるよー。


 意識が肉体に戻ってきた様な感覚(どんな感覚だ)を味わい、気が付けば目の前360度が大草原に囲まれた大地(フィールド)に立っていた。

 

 より正確に言えば、360度大草原に囲まれた木製の家の様な建物の屋根の上に立っていた。いや、なぁにこれぇ。

 

 俺グリード!グルメハンター(プロ)。テストプレイ当時には無かった謎の建物の上からこんにちは。

 いやぁ、製品版になって色々仕様が変更したみたいっすね。製品版になってるのにβ版引っ張り出した所為でいきなり不具合ががが。

 ま、ええやろ。

 謎の建物から飛び降りようとすると、身体に刺さるようなちくちくとした視線を感じた。ははーんさてはひよっこ追跡者(ハンター)だなオメエ。

 ぐるりと見回せば、2か所からジロジロ見られてる感覚が強い。鬱陶しいと感じました(小並間)

 ブッころころしに行こうかと思ったが、一応すぐ後から来るであろう鋼裡を待った方が良いんじゃねえのと思考の隅で思う。

 刺さる視線を払うように欠伸を一つ。そう言えばカルマが面倒事を起こした時間は深夜だったことを思い出す。うーんこれはひと眠りしましょうかねー。

 

 と、次の瞬間目の前に見覚えのあるような無いようなどちらかと言えばある気もするけどそんな気もしないような雰囲気を醸し出していそうでそうでもない多分女性が現れた。

 

「……お久しぶりですねグリード様、何故そんなところに居るのか聞いても?」

 

「知らん。なんか気が付いたら此処に居た」

 

 β版を起動したらこーなった。これってバグですか?

 

「未だにβ版がある事を想定されてないので……(ジンの気まぐれか)」

 

「あーそうだ、思い出した。あんたエロナさんだな」

 

「そんな何度もゴミ箱に入れられそうなゲームの名前じゃないです。イータです」

 

「ありゃ、違った。んでなんで此処に居んの?」

 

「私がプレイヤーの案内役だからです。その他にもグリードアイランド内の様々な『バグ』の監視役でもあります」

 

「ふーん(無関心)」

 

「(コイツ自分から聞いておいて)……それで、β版プレイヤーの貴方は何故また此処に戻ってきたのですか?本来貴方は出入禁止だった筈ですが」

 

「ちょっと現実世界(むこう)でな。そんな訳でココ(G・I)で匿ってくれ」

 

「……ハァ。まあ、いいでしょう。ただし幾つか条件があります。一つ、この島で飲食して良い物は飲食店で提供された食料及びカード化出来る物に限ります。二つ、ゲームの進行に致命的な被害を与えかねないバグを意図して起こさないように。三つ、β版状態でのゲームクリアを禁止します。条件は以上です、質問はありますか?」

 

「一、『カード化出来る物』ってのは何だ?食う前にカード化出来るか確認取れって事か?二、ゲーム進行に致命的な被害を与えかねないバグの具体的な例は何だ?三、俺がプレイした時にはゲームクリア未実装だったんだが、俺でもクリア自体は出来んのか?」

 

「回答一、そうです。回答二、指定ポケットカードを獲得できる建物の地盤ごと破壊したり削除及び捕食する行為等を指します。回答三、クリア条件の達成は可能です。β版と現行版の仕様の違いにおいて著しい難易度の差がある為の措置と考えてください」

 

「マジかよ、まあクリアが目的じゃないからいいけど……えー、腹減った時にテキトーにその辺の物をすぐに食えないのかよ」

 

「普通の人間でも条件は一緒ですが?」

 

「お前俺を普通の人間じゃないかのようにお前……ところで条件一なんだが、それは俺が持ち込んだ食料はどうなる?」

 

「……まあ、貴方の(意味不明な)念能力で持ち込んだ物ならば良しとしましょう。それでは以上の条件を承諾しますか?」

 

「何だ急にゲームキャラみたいになって……承諾する」

 

「かしこまりました。それでは特別にグリード様のゲームプレイを認可します。『制約と誓約(リミテーション)』ON」

 

 イータが懐からカードを一枚取り出して呪文カードのお決まり文句を言う。すると不思議な光が発せられ俺の身体に当たる。何の光ィ!?

 

「これでグリード様が島内においての各種行動が解禁されました。各条件を破った場合には罰が御座いますのでくれぐれもお気をつけください」

 

「どれどれ」

 

 そう言って俺は懐から包丁を取り出して足元の如何にも重要そうな木造の建物を

 

「やめろって言ってるのが聞こえなかったのでしょうか?」

 

「はっはっはジョーダンジョーダン。いっつじょーく」

 

 いつの間にか具現化した鞭で俺の首を絞めるイータ。コレだから変ジンに集う奴等は……

 

「……さて、ゲームマスターとしてのお話はこれで終了です。これからはキャラクターとしてお話しますが……おお。あなたはもしやグリード様では?」

 

「え……何コイツ……急に意味不明なキャラ付けとかヤバない?」

 

「(殺すぞ)それではグリード様、このゲームの説明をお聞きなさいますか?」

 

「えっこのタイミングで?何言ってんだお前」

 

「(それではゲームをお楽しみください)ぶっ殺すぞ」

 

「怖っ」

 

 最後はもの凄い目でこちらを睨み付けながら建物の中に消えてった。

 さて、そんなこんなで超久々のグリードアイランドである。スタート地点の大草原はテストプレイ時から変わってはいないが、製品版になってどう変わったのかねぇ。

 

「『()()()()』」

 

 俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 うわ―懐かしい、そういえば()()()()()()()()()()()()()

 俺はメニュー画面を操作して、当時を思い出していた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

「……あ、β版と現行版のシステムの違い説明するの忘れてたわ。……まあいいか、それよりβ版用のスポーン地点やシステム変更しないと……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 件の建物の下で色々メニューをイジっていると、階段を下りてくる音が。

 

「あ、貴方様!」

 

「ん、おお鋼裡、やっと来たか。遅かったな」

 

「ええ、あの悪魔にかなりゴネられまして……全く、命令なら自分で遂行しなさい」

 

「おー。で、どれくらいかかりそうだ?」

 

「精孔自体は抉じ開けたので今は四大行を身体に教えている状態です。まあ、もうすぐ来ると思いますよ」

 

「そうか……とか言ってるうちに来たな」

 

 コッ、コッ、と階段を降りる音がすれば、そこにはアルカが能面の様な顔で降りてきていた。

 

「アイ」『いやぁどーですこのファインプレー!!この身体を一時的に乗っ取って直接身体に念を教え込んじゃいますよ!!しかも我が主の命令には執事(クシナ)の身体を置いていく事でカバー!!アタクシってば天才!』

 

「あー……まあ方法は特に指定してなかったしなぁ」

 

「それでいいのですか」

 

 まあ……いいかな。(どうでも)

 そんな事よりレッツゲーム開始といこうや。意気揚々と鬱陶しい視線を感じる方向へ歩き始め……空から光と共に人が降ってきた。

 

「アイ」『うん?何事ですか?』

 

「んっん~三人組……?一応聞いとくが~お前らはバッテラに雇われたハンターか~?」

 

「バッテラ?誰だ」

 

『世界有数の大富豪の様ですね。グリードアイランドのクリアデータに500億の懸賞を掛けていました』

 

「貴方、よくまあ色々調べてますね」

 

「まあ、そう言うことだ。俺らは雇われたハンターじゃねえぞ」

 

「んっん~なるほどなるほど。つまり偶々ゲームに遊びに来た初心者達って訳だ~。……なら」

 

 ぶつくさと独り言を言っていた男は、持っていた本(浮いてるしゲーム内アイテムかな?)を操作している。

 

「……ん?ん?ん~?(透視が弾かれた……?暗幕の効果?いや、ありえない、コイツらは今ゲームに入ってきたばかり。暗幕を手に入れる事は不可能なはず)」

 

「さっきからなんなんだよお前」

 

「ん~?(コイツの念?呪文効果を弾く能力なのか?……どれ、一つ試してみるか)まああれだ~、お前らが雇われたハンターじゃ無いならオレに協力してくれないか~?」

 

「協力?」

 

「ああ~、お前らはオレにカードを渡す~。オレはお前らに色んな情報を渡す~。どうだ~?」

 

「情報……ねえ……良いよ」

 

「よ~し取引成立~。じゃあ早速情報を一つ~。『追跡』ON!グリードを攻撃!」

 

 男から光が放たれ、俺に直撃する。だから何の光ぃ!?

 

「ひゃはははは~!馬鹿が~!お前らみてえな弱そうな奴らと取引するかよ~!」

 

「奇遇だな、俺もそう思ってたんだ。カルマ」

 

「アイ」『アイよー!』

 

 アルカ(カルマ)から黒い霧の様なものが噴出し、男に飛んでいく。

 

「んな!?なんだこれは!?(コイツら、ヤベエ!)『再来』ON!マサ「おっと、グリード様に何をなさる御見積りですか?」ドラ……へ……?」

 

 男が咄嗟に呪文カードを取り出し、『再来』を起動しようとしたちょうどその時に鋼裡がそのカードを斬り落とした。

 

「嘘だろ……?」

 

 顎が外れたかのようにぽかっと空いた口の中にカルマの黒い霧が入っていく。

 

『んー……コイツ見た目があんまし好きくないから知識だけ貰うね!』

 

「好きにしろ」

 

「あ、あがっ!?がっぐっ!?!?」

 

 カルマの黒い霧が入るにつれ、体全体をガクガク震わせる男。水風船を潰したかのような音が男の体内から聞こえてくる。

 

『んー、ほうほう、なるほどねー。あーわかったわかった。へーそーなのかー。ふーん……よし、ブック』

 

 カルマ(アルカ)が指を突きだし、呪文を唱える。するとカルマ(アルカ)の目の前に本が現れた。なんやその呪文。

 

『じゃーもう君に用はないから、手持ちのカード全部貰うね!』

 

「あが……がっ……!」

 

『安心しなよ!命までは取らないからさ!』

 

「がっ……ぉえっ……!」

 

 カルマ(アルカ)が男の持っていた本からカードを浚っていくにつれ、男の口からオーラとはまた違った靄がカルマ(アルカ)に入って行く。

 そしてカルマ(アルカ)がカード全てを奪った頃には、男は地に臥せていた。

 

『お待たせー。じゃ、取り敢えずアントキバに向かいますか!』

 

「アントキバ……?」

 

「このゲームの町の一つ……だったか?昔すぎて覚えとらんわ」

 

『別名懸賞の町!面白そうじゃない?じゃない?』

 

「どうせ急ぎじゃねえし、いいんでない?」

 

 そんなわけでアントキバに向かうことになった。

 男の安否?知らんわそんなもん。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 道中、鬱陶しい視線を感じながらも何事もなく懸賞の町、アントキバに到着した。

 

「迷い猫探してます……これが懸賞ですか?」

 

『他にも誰かの持ち物だったり、近くの洞窟にすむ怪物だったり、果ては早食いだったりと色々あるみたい』

 

「あっそー、それよりガチで眠いんだが宿屋的なサムシング無かったか?」

 

『あるみたいだけど、ゲーム内通貨が無いと泊まれないですよ?』

 

「金ならテストプレイ時のが残ってる」

 

『……え?それおかしくないですか?』

 

「何が」

 

『私が得た記憶によりますと、一度ゲームを中断するとフリーポケットに入ってるカード全て破棄される筈です。そして通貨は全てカードとなってますので、フリーポケットに入れなければならない……なのに通貨が残っているのはおかしいです』

 

「えっそうなん?」

 

『えっ』

 

「えっ」

 

 なんか互いの認識に齟齬が生じてますねくぉれは……。

 というか、えっ今ってそんな面倒な金額管理システムなん?

 

『……あの、我が主。我が主の所持金を見せてもらっても?』

 

「ええで、メニュー」

 

 ホワン、という気の抜けた効果音と共にメニューを開き、現在所持金の欄をカルマに見せる。

 

『…………あの、億とか見えるんですけど』

 

「テストプレイ時に色々稼いだからな」

 

『……どのようにして取り出すので?』

 

 俺はカルマに見えるように、現在所持金の欄に手を添えながら「一万J」と呟いた。すると一万Jカードが出てくる。

 

『……えぇ……』

 

「と言うか、お前の言葉からすると金全部フリーポケットに入れなイカンのか?面倒な……」

 

『交換ショップと呼ばれる所で預けることも出来るようですが……まあ、いいです。ゲーム内通貨があるのなら宿の利用もできますね。宿屋はこの通りの突き当たりを右に曲がってすぐにあるそうです』

 

「おう、適当に寝てるわ。じゃ各自自由行動で、解散」

 

『いや雑ぅ!』「アイ」

 

「では私は貴方様に添い寝を……」

 

「要らんわ」

 

「アイ!」『アタシ達を置いていかんといて!』

 

 その後皆で寝た。

 

『(意味深)』

 

「意味深言うな」

 

 




まだ新年明けて10日経ってないからセーフ(なにが)
現在手元にH×H原作が無いので、色々な描写に不具合がありますがゆるしてちょ

・β版仕様
 カード類は入手したら自動で『メニュー』内に保管される。
 『メニュー』から現在のステータス(どんなカード効果を受けているか)等を確認できる。
 所持金は全て『メニュー』欄に収納。取り出しも自在。
 『指定ポケット』『フリーポケット』の区別は無く、島外に出てもカードは破棄されない。
 島外に出てもカード効果は永続する。(但し追跡等の効果は得られない)

こんな感じ。まだ他にも仕様の違いがあるますですよ


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G・Iの地理が分からん!解らん!判らんですよ!(作者感)

原作はさよなライオン。

ちなみに現在のカルマですが、アルカの背後霊のような感じで取り憑いてます。


 アントキバの宿屋のベッドはくそ固い。グルメハンター(プロ)のグリードです。

 なかば強制的に3人部屋を取らされたのであまり休めなかった。受付のオッサンが「昨夜はお楽しみでしたね」と言ってきたので顎を膝で撃ち抜く。カードランクはGだった。

 

「アイ」『それで、今後の予定はどうしますか?やはりこのゲームのクリアを目的としますか?』

 

「いや、諸事情でゲームクリアは出来ない。少なくとも俺はな。っつっても何も目標無くぶらぶらすんのもなぁ……」

 

「そうですね、取り敢えずですがこのゲームから脱出する手段を手に入れておいた方が良いのではないでしょうか?万が一ゾルディック家と遭遇した場合に備えて」

 

「んー、まあ確かに。いくらゲーム内で逃走する手段が多いとはいえ、ゾルディックが追いかけ続けないって訳じゃないしな」

 

『では当面の目標はゲームから脱出する手段の入手ですね!知識によれば呪文カードで脱出するか、とある港町から脱出するかが主流だそうです。呪文カードは運が良くないと、港町から脱出するには実力がないとダメなようです。だから運も実力も無いゴミ虫の様な念能力者が溜まりに溜まってるのがグリードアイランドの現状らしいっすよ沢渡さん!』

 

「誰だよ沢渡さん。まあ、何にせよゾルディックから逃げ回るにも呪文カードは必須だからな。取り敢えず唯一呪文カードを売ってる町を目指すか」

 

『行き先はマサドラですね!あの男は移動呪文をあまり持ってなかったのですぐには移動できないですが、まあ焦ることは無いでしょう!ここからマサドラまでパパッと歩いていきましょう!』

 

「の前にメシ食おうぜ」

 

「アイ!」

 

「ご飯好きになりましたねこの娘……」

 

「すまないそこの三人組。ちょっといいか?」

 

 宿屋のロビーの一角でテーブルに着きながら会話していたら、無精ひげを生やした今にも死にそうなオッサンが現れた。

 

「(ずっと居た上凄い失礼な奴だな)オレはニッケス。グリードアイランドのクリアを目指している。君達……オレと、いや、オレ達と組まないか?」

 

『なんですあなた?まさかこの超美少女カルマちゃんの身体目当てに声をかけて来たんですか!?キャー助けて!ここにロリコンが居まーす!!』

 

「ちょっと黙りなさい悪魔。ゲームのクリアを目指している、ですか。私達はゲームのクリアを目指していないのですが、貴方方と組む利点は何ですか?」

 

「メシ作ってきていいか?」

 

「アイ」『自由か!フリーダム!』

 

「(幽波紋使いかこの子供……?)オレ達に協力してくれれば、君達が望んでいる『脱出手段』を渡そう。それとクリア報酬500億の山分け!勿論ゲームクリアに多く貢献してくれれば、相応に多い取り分を約束しよう!」

 

「メシ出来たぞー」

 

「アイ!」『早っ!』

 

 今日の朝食は『レタスとトマトのグルメサラダパスタ』黒胡椒が効いた塩ドレッシングで食え。

 

「(な、なんだこの料理……この宿でこんな料理なんて存在しなかった筈……何処から出した!?)」

 

『(くくく……混乱しておるわ!我が主の意味不明な調理速度に!)』

 

「ンマー!」

 

「ほらほら、落ち着いて食べなさいアルカちゃん」

 

「あ^~レタスのシャキシャキ感とトマトの旨味と塩だれの塩味と黒胡椒のパンチがハーモニーを奏でて美味いんじゃ^~」

 

『ってあ~!またアチキを置いて食ってる!』

 

「お前その状態で食えんの?」

 

『食べられませんっ!畜生!まさかの罠だよ!いーなーご飯いーなー!!』

 

「朝は白米?朝はパン?何言ってんだ。朝はパスタや!」

 

『明日は?』

 

「石かな」

 

「(な、何なんだこいつ等……)」

 

「で、何だっけニッケル君。ゲームクリアの為に組んでくれ?なんじゃそりゃ。そんなに人かき集めなきゃ入手出来ないカードでもあんの?」

 

「ニッケスだ……。人を集めるのは、このゲームの攻略の為……と言うより、このゲーム内の現状を打開するための作戦だ。詳しくはまだ言えない。君達が協力を約束してくれるのなら、その時説明しよう」

 

「何させられるのかが分からないままで協力を約束しろと?」

 

「……詳しくは説明できない。だが、簡単に説明すると、オレ達の目的は他のプレイヤー達からのカードを奪う事!確実に奪うために必要なのは、一にも二にも人が要るんだ」

 

『……あー、はーいはいはーい!あたし分かっちゃいましたー!なるほどねー、囲んで棒で叩く!弱い人間が考える最強の策だよねー!ズバリ、狙ったプレイヤーを取り囲んで脅して奪うってな寸法ですね!いやー考える事がいじらしいですねー!』

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

『……あれ?なんですこの空気』

 

「カルマ、お前ってホント馬鹿だよなぁ。お前仮にこのオッサンが100人単位でお前を取り囲んで、カード寄越せって言って来たらカード出すのかよ」

 

『出すわけないじゃないですかこんな雑魚に囲まれたくらいで。その辺に落ちてる石ならあげますが』

 

「分かってんなら黙ってろ」

 

「(こいつ等滅茶苦茶失礼な奴等だ……!)それで、協力してくれるか?」

 

「協力はしねえ。そもそも金に困ってないんだから積極的にクリア目指す気も起きねえわ。それにお前等のカードを確実に奪う作戦ってのも予想つくし、脱出手段も、まあ呪文カードがあればいいなぁ程度だからいいや」

 

「……そうか、残念だ。だがもし君達からカードを奪う事になっても後悔しないでくれ」

 

「ほー、じゃあ今お前を殺していいか?」

 

 シパッ、と空気が裂ける音がすると共に、ニッケスの無精ひげが全て落ちた。

 ニッケスが反応した時には、鋼裡が既に手に持った剃刀を右眉毛に当てていた。いやなんで眉毛だよ。

 

「……と、まあ俺等全員がお前程度の使い手が100人集まろうとも毛ほども思わない程度には強い。20メートル近く離れてれば安心……と本気で思ってるんなら、他力本願でゲームクリア目指すんじゃなくて一般人として働いてた方がいいぞ?」

 

「ハッキリ言って、私は貴方の様な清潔感の無い人間は嫌いです。このまま右眉だけ落としてもいいのですよ」

 

「アイ」『おとなしく去れば見逃してやる。と言ってます』

 

「俺黙れって言ったよな、カルマぁ」

 

『あれ、なんかあちきだけ酷い扱いだぁ』

 

「っ……わ、分かった……今は何もしないし、これからも君達の邪魔をしないよう仲間達にも伝えておく。今はそれで許してくれないか?」

 

「いいよ」

 

『いいのかよ!もっとケツの毛まで毟ってボロクズの様に捨てましょボゲァ!!?』

 

「次は無い」

 

『……ふゃい』

 

 カルマ(黒靄)を殴り飛ばして席を立つ。腹ごしらえも済んだし、さっさとマサドラへ行こう。

 

「じゃあな、もう二度と会わねえことを願うぜ」

 

「それでは失礼します」

 

「アイ」『……(必死の沈黙)』

 

 

 

「……おいニッケスどうした?髭なんて剃って」

 

「あ、ああ……ゲンスルー、ちょっとな……久々に生きた心地がしなかった……」

 

「……?髭剃り一つで何言ってんだ?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「~♪」

 

 

 

「……な感じだったぜ」

 

「そうか、そっちも順調みたいだな」

 

「ああ、スペルカードのコンプリートはまだ先だがな」

 

「それは仕方ない、カードを溜めてそうな者達を地道に……!」

 

「どうしたニッケス?」

 

「あ?ニッケス?」

 

「な、君は……!?何故まだアントキバに、マサドラに向かったんじゃないのか!?」

 

「食材買ってんだよ、文句あるんか?」

 

「なんだこのチンピラみたいなの……は……?」

 

「誰がチンピラだ逆三角形メガネこの野郎」

 

「ゲンスルー!さっき言った奴はこいつだ!よせ!」

 

「お前、いや……貴方はもしや……『グリード=ダイモーン』……?」

 

「如何にもグルメハンター(プロ)のグリード=ダイモーンとは俺の事だが?」

 

「お、おぉ……」

 

「ゲンスルー?」

 

『我が主~!買い物に時間掛け過ぎでございますですよ~!』

 

「おっと、まだ買い足りねえんだが……まあ適当にモンスター狩ってけばいいか」

 

「あっ!待っ……!」

 

 

 

「もう行った……か……」

 

「どうしたんだゲンスルー。彼奴と知り合いか?」

 

「いや、オレが一方的に知ってるだけだ。『悪食グルメ(シングルマナー)』って言えば分かるだろ?」

 

「……っな!?まさか、一ツ星(シングル)ハンターのグリード!?どう見ても俺より若く見えるぞ!」

 

「確かにアレで40近くには全然見えねえけど」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

『さて、奪った記憶ではこのまま北の山を越えて、岩石地帯を抜ければマサドラまで行けるようです』

 

「そうか、じゃあ全速前進だ」

 

 俺は足にオーラを込め、駆けた。

 俺に追随するように鋼裡が。そして圧倒的に遅いカルマ(アルカ)が。

 

『ちょ、ええ!?ウッソだろおい!さっきのんびり行くっていったじゃんよー!いきなり置いていきます普通!!?』「アイ!!」『あーもー滅茶苦茶だよ我が主!まだオーラ操作に不慣れな身体だってのにもー!『昼天の魔術(イービルマジックナンバー3)』!!』「アイ!」

 

 突如後ろから突風の如きスピードで俺に追い縋ってくるカルマ(アルカ)。やればできる、いい言葉だ。

 道中現れたモンスターを轢き跳ばしてカード化、自動でメニュー内に収納されながら山を越えた。

 

「道中変な人達がいませんでした?」

 

「知らんな」

 

『人をモンスター扱いとは流石我が主、悪魔より悪魔してますねぇ!』

 

 山を越えた先には、見渡す限り岩、岩、岩の岩石地帯。

 あー、思い出してきた。たしかここら辺は序盤も序盤な弱小モンスターが出てくる場所だったか。β版とあまり変わってない場所もあるもんだな。

 

「あ、そうだ。念の訓練ついでに、現れたモンスターをカルマが倒せ」

 

『えー、面倒……』「アイ!」

 

「アルカはやる気だぞ」

 

『いいですかアルカ。貴方の意識を間借りしてるとはいえ、現在の肉体の主導権はワタクシが握っておりますのよ?そのワタクシが否と言えば貴方も否と言うのが賢い生き方ですわ』

 

「アイ!!」

 

「『何でお前みたいな腰抜けクソメスゴリラが私の主導権を握ってるんだ、生きてて恥ずかしくないのかこの寄生虫がっ!』だってよ」

 

『アルカちゃまはそんなこと言いません!』

 

「ならアルカに聞こう。さっき俺が言った言葉通りの意味かどうか。どうなんだアルカ、俺が言った通りか?」

 

「アイ!」頷き

 

『アルカてめぇ誰がお前に念を教えてやってると思ってんだああん!?』

 

「子供に凄まないでください、悪魔の癖に」

 

「ほら、言ってるそばから出てきたぞ。岩山並みにデカい一つ目巨人が」

 

『あーもーやればいいんでしょ!やれば!』

 

「アイ」(始めっから素直にそう言えばいいんだタコ)

 

『今アテレコしたのは我が主ですよねええ!!』

 

「バレたか。あ、倒すときは『発』禁止な。じゃないと訓練にならんし」

 

『はあ~なるほどね!これが新人いびりか!』

 

 ぎゃーぎゃー騒ぎながらも一つ目巨人を倒しに行くカルマ。あいつ実力有るくせに何でああもごねるんだ?

 

「貴方様と会話するのが嬉しいからだと思います」

 

「そうなのか」

 

「高位の悪魔は人間並みかそれ以上の知能を持っています。それはこの世界に顕在する前の悪魔も例外ではありません。……これは推論になるのですが、あの悪魔、カルマは特に交流欲求が高いように思えます。どう言った形であれ、主と認めた貴方様と触れ合える事が嬉しいのでしょう」

 

「……それは、ケツを蹴られてもか?」

 

「……ケツを蹴られてもです」

 

「そうか……」

 

 あいつ、そんなドMだったのか……しょうがない。なら主として、もっと蹴り抜かなければな。

 

 

 

 ドSのSはサービスのSって言うし!

 

 

 

『ヒエッ、何故かお尻がぞわぞわしてきたゾ……』

 

「アイ!」

 

『分かってますよ!万が一にもアルカちゃまの御体に傷は付けませんよー!……らぁあ!いいですかアルカちゃま!これが『凝』です!体で覚えましょうねー!』

 

「アイ!」

 

『そんでぇ……うらぁあ!これがっ『硬』!一点突破の超パゥワーでカウンター食らったら死にます!相手の足をぶっ飛ばして倒れてきたところを……どぉらっしゃあ!!分かりましたかこのオーラの動き!我が主のオーラ操作技術はこんなもんじゃないですよ!最低でもこれくらい出来なきゃお話になりませんでょ~!』

 

「アイ!」

 

 

 

「楽しそうだなあいつら」モッチャモッチャ

 

「貴方様も大概ですよ」

 

 カルマが身をもってアルカに念を教えてやってる所を眺めながら、こっちを襲ってきた一つ目巨人を解体し……た瞬間にカード化しやがったので即ゲインからの活き絞め、四肢をバラしながら食ってやった。

 

 巨人肉しゃぶしゃぶは旨いなあ!

 

「(ゲームの敵キャラがドン引きしてます……)」

 

 ある程度倒したところでポップしなくなったのか、静寂の中にくつくつと沸騰する鍋の音しかしない。

 

『終わりましたよ我が主!』

 

「おつ。ただあの程度のモンスター相手に時間掛けすぎだ」

 

『酷っ!こっちは縛りプレイ&教育しながらだったというのに!』

 

「やかましい。そういうことだからケツを出せい」

 

『……えっ?』

 

 

 

 

 みぎゃぁぁぁぁっ~!!!

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あれから数時間。マサドラに向かおうとするも、かなりの数のモンスターと遭遇して中々に目的地までにたどり着けなかった。

 と、いうわけで何が悪かったのか会議しまーす。

 

「カルマのモンスター処理速度が遅すぎるのが悪い」

 

 会議終了ー。

 

『会議の体を成してないっ!モンスター処理をほぼ全部私に投げてるじゃないですか!』

 

「お前がアルカに念を教えるんだろうが。経験値は多い方が良いだろ」

 

『それにしたって限度はありますよねぇ!?このままじゃアルカちゃまの体すりつぶれますよマジで!』

 

「……カルマ。人間にはこういう諺がある。『やればできる』」

 

『無茶言わんで下さい!無理です無理です!』

 

「いいか?無理という言葉はな、嘘つきの「貴方様、ここは一つカルマにお手本を見せた方が良いのでは無いでしょうか」一理ある。よし、じゃあカルマが倒すのに5分近く掛けたあいつにしよう」

 

 俺はメニューを開き、『マリモッチ』を取り出す。

 

「カルマ、今はアルカに取り憑いているって言ってもスペック的には俺と同じ程度の動きが出来なきゃおかしい。なのに出来ないってことは、単純に『正しい体の動かし方を知らない』だけの可能性がある。体を動かすには、ただ何となくで動かすんじゃない。骨、筋肉、血管、神経、皮膚、全ての繋がりを意識し、指一本動かすのに全部位で力を合わせる。言うなれば、力は波だ。波長を合わせ、増幅し、作用に変える」

 

 そこまで言って、手に持った『マリモッチ』を空に投げる。

 上昇していく最中にカード化が解除され、黒い毛玉が地面に落ちてくる。

 

「オーラを『流』すのも、力の波に乗せなけりゃ効果は半減だ。攻撃と防御だけにオーラを振るのは非効率。移動にもオーラを振り分ける。相手を見て、聞いて、嗅いで、感じて、全身で相手を観察する」

 

 落ちてきた黒い毛玉が地面に着地し、高速で跳び跳ねた。

 

 

 

 その直後に俺は毛玉の胴体に噛みついていた。

 

 

 

「んああ、おんあはんひへはあはほうおはへあははあんはほはうひふほおは」

 

『ちょっと何言ってるか全然分からないです。二つの意味で』

 

 生で食べるにはあまりにも不味いマリモッチ(故)を吐き捨て、もう一度カルマに振り返る。

 

「要するに、相手を五感で観察すれば初動が分かる。初動が分かれば対処もやり易い。そして対処するのに先ず必要なのは速さだ。速さに限らず、効率的な力を出すためには髪の先から骨の髄まで意識し、動かせ。強化に使うオーラは最小限に抑え、体使いは羽のように軽く、動きは軽快に。血液のようにオーラを巡らせ、移動する瞬間、攻撃する瞬間、防御する瞬間にオーラを集める。そうすれば総オーラ量は少なくても、『堅』でガードしてる相手に勝つのも容易い。分かったか?」

 

『全然』

 

「なら身体で教えてやるよ」

 

 流れるような速さでカルマ(アルカ)の後ろに回り、尻を蹴るために振りかぶる。カルマは防御姿勢を取り、尻にオーラを集めるも、それは囮。尻を蹴ると見せかけ、カルマ(アルカ)の両足を蹴り払う。スパァンと宙に浮いたカルマとアルカを()()分け、浮いたアルカを横抱きにし、カルマの尻を蹴りあげる。落下予測ポイントに尖った石を転がしておいて終了。ここまで約2秒。

 

「と、力の波を増幅させるようにオーラを『流』すと、このように構えもしてないパンピーを転がすことも容易い」

 

『このようにってなんだこのように"っあ"ッー!』

 

 落ちてきたカルマの*に尖った石がブスリ♂と刺さった。

 ……すまん、わざとではないのだ。許せ。

 

「というわけだ。わかったかアルカ」

 

「アイ」

 

『お"お"ッ……裂ける……尻が裂ける……!!』

 

「今の貴方に痛覚が有るとは思えないのですが」

 

『……あっ、ホンマや』

 

 今のカルマはアルカから斬り離されて人型の黒い霧状のなんかだ。倒れた状態から、アルカに再度取り憑いた。

 

「つーことで、これからはカルマのレベルアップも視野に入れつつマサドラでカード集めするぞー」

 

「畏まりました」

 

「アイ」

 

『これでも高位の悪魔なんですが……。うう……今どき修行編とか流行らないですよぅ……』

 

「流行る流行らねえんじゃねえんだよキック」

 

「ア"ッー!」『お尻割れァ"ッー!』

 

「あ、加減ミスったわ。……ま、ええか」

 

「ア"イ"ッ!」(抗議)

 

「え?もう一発?」

 

「( ´゚з゚)~♪」

 

『厄災の癖に弱腰過ぎんだろこんちくしょう』

 

 




アルカ、順調?に念を覚えていくの巻。

皆様お忘れかもしれませんが、グリードは伊達にシングルハンターやってるんじゃ無いのですよ。


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魔法都市マサドラグルメ旅……なに?目的が迷子?

お久しぶりーふ。
尻が破れたので投稿。


 岩石地帯を抜けると、なんか変な建物が乱立した街が見えた。

 

「あれが『魔法都市マサドラ』ですか」

 

『呪文カードはここでしか買えないので、プレイヤーの数がクソ多いのが特徴ですよ』

 

「ま、出会い頭に呪文攻撃受けるとかは多分無いだろうし、受けても特に問題無いだろ。それより食えそうな物探しにいくぞ」

 

「アイ」

 

 岩石地帯で沢山のモンスターカードを手にいれたが、良い感じの食材に使えそうなのはマダラクソでかトカゲと泡吹く馬くらいしかなかった。まあ無論俺の手にかかればどんな物でも食えるようになるが、元が良い食材であるに越したことはないのでマサドラの店を物色する。

 

「……しかし、色々なものがカード状態で売られているのは違和感がありますね」

 

『肉も野菜も果物も全部カードですねぇ。あ、我が主。携帯食糧セットなるカードがありますよ』

 

「ん?ああ……それ俺が作った奴だな」

 

『ファッ!?』

 

 テストプレイの時に手にいれた食糧カードがあまりにもクソ不味かったからクレーム入れたら『じゃあお前が作れ』と言われて作った物だ。元の食糧を誰が作ったかは知らんかったが、味見としてゲームマスター達に食わせてただ一人膝から崩れ落ちた奴が居たから多分そいつが作ったんだろ。知らんけど。

 

『低級、下級、中級、上級、特級、最高級と無駄に種類がありますけども……』

 

「一応どれもしっかりとしたレシピで作ってあるから味は保証する」

 

「低級でも高い方の島の地図より高いのですが」

 

「最初は携帯食糧として作ったは良いが、良く考えたらカード化するんだし携帯食糧の意味ねーじゃんと気がついてな。急遽カード一枚分の量を増やしたわけだ。だから普通の食糧カードだと一食分だが、携帯食糧カードだと一枚で一週間は食事に困らん」

 

「一週間……一日三食として、21食分が一枚のカードで済むのはフリーポケットの節約になりますね」

 

「低級から中級までは一週間分全部同じ食事だが、上級以上からバラエティが出てきて、最高級は栄養バランス最強かつ毎食違う物で死ぬ程旨いうえに量も十分。グリードアイランドの外なら金持ちが財産の殆どをなげうって漸く手が出る位の金額になる……が、流石にそんなもんゲームで売れるわけがないから所持上限金額ギリギリの値段にした。と聞いたな」

 

『ハンティングゲームなのに一人だけなんか違うゲームしてないです?』

 

「ふむ、おかしいですね。貴方様の言葉通りでしたらフリーポケット上限の45万Jで売られている筈ですが、この最高級携帯食糧セットは998万J……プレイヤー換算で23人いなければ買えませんね」

 

『ふむ、ちょっと待ってくださいねー……あぁ、ありました。どうもJのみを入れられるアイテムが在るようです。ちょうど我が主のメニュー機能のような感じみたいですね』

 

「交換ショップで金を預けられるんだろ?なんでそんなアイテム……ああ、嫌がらせか」

 

『というと?』

 

「今のG.Iのシステム的にあまり現金は持ち歩かないもんだ。それに基本的なアイテムの値段もそれなりに安めの設定にしてある。だから財布的なアイテムがあっても使う奴は限られている……が、ここがミソで、所持金が一定以上ないと発生しないイベントが隠されてたりすると、財布的なアイテムを持ってないプレイヤーにはクリアしようがない。一見使えなさそうに見えて実はイベントのキーアイテムだった、なんていうのはまぁ割とある『ゲームのお約束』って奴だ」

 

『流石我が主!ゲームならお手の物で御座いますね!』

 

 人をゲームオタクみたいに言うなキック。

 

『なんでぇ!?』

 

「まあモノによっては持ってる金額じゃなくて特定の高価なものを買うことがフラグになったりもするからな。とりあえず最高級の携帯食料を買ってみるか」

 

「そう言えばお金は億単位で持っていましたね」

 

「別にあってもなくても困る金じゃないし、適当に使ってみるべ」

 

 『最高級携帯食料セット』A-15

 何時でも何処でもすぐにでも食べられる旅用最高級携帯食料セット。プロの美食ハンターすら唸らすグルメ旅のお供に。21食分。

 

 カード一枚持ってレジに向かう。こういう時現金支払いオンリーはめんどくさいなぁ。

 

「998万Jになりまーす!」

 

「ほい」

 

 998枚の『10000J』カードを渡す。凄い馬鹿々々しい感じがするなコレ。

 

「……で、貴方様。購入したわけですがなにも起きませんね」

 

「まあ待て。こういうのは大概……」

 

「「よぉニーチャン!」あんた中々金払い良いなぁ!」「サイフのデケーニーチャンに良い話が有るんだが「聞いてかねえか?」」

 

「ほら来た」

 

『……なぁんですかこの個性の塊みたいな双子はぁ』

 

 買ったカードを持って店の外に出ると、頭がファンキーな色したアフログラサンの二人組が出待ちしてた。

 

「「オレら流離いの珍獣ハンター!」」

 

「珍獣ハンターというか、ハンターが珍獣じゃねえか」

 

「オレらは今、変わった「生態の動物を追っかけてんだ!」」「どこまでも遠くを見通す蛇!」「手のりサイズのUMA!」「なんにでも変身できるネコ!」「「色々な珍獣達を追っかけてんだ!!」」

 

『視覚と聴覚にうるさい奴らですね』

 

 アフロをひょっこひょっこ動かしながら交互に話したり、同時に話したりで会話内容が全然入ってこない。

 話を要約すると、奇妙な動物の痕跡を見つけたから追跡していたが、色々あって挫折して今に至る、と。

 

「「そ・こ・で!!」ニーチャンにはオレらのパトロンになって欲しいわけよ!」「捕獲用の罠や誘き寄せる餌、どれもこれも「金が掛かるんだ!」」

 

「……あの、貴方様。これはつまりどういう事ですか?」

 

「『大金寄越せば貴重なカードをやるよ』って事じゃねえかね。……まあ、このパターンだと大概の場合金を積んでの確率ゲームだろうが」

 

『確率!そういえば確率に関するアイテムの存在があるようですよ!』

 

「リスキーダイスか?それなら入手方法は知ってる」

 

「「超珍しい動物に会いたくないか!?オレらに投資してくれれゃ簡単に会えるぜ!」」

 

「幾ら投資すれば良い?」

 

「そうだな!」「とりあえず」「ざっと」「50万Jあれば」「活動」「出来るぜ!」「一括で」「よろしく頼むぜ!」

 

「……なるほどね。このパターンか」

 

「アイ?」

 

「最初は50万、次100万、更に次は200万……ってな具合で大金が必要になるパターンだな。最終的に所持金最大額を要求される奴だ」

 

「……なんというか、ゲーム内でもお金を稼ぐのは控えめに言って苦行では?」

 

「苦行を楽しむ変態も世の中には居てな……いや、そんなことはどうでも良い。どうせ億とか使い道もそう無いんだ。ゲームに来てんだから適当に遊ぼうか」

 

 そう言って50枚の「10000J」カードを渡す。双子はそれを懐に入れて、またファンキーなアフロを動かしながら会話を始める。

 

「「サンキューブラザー!!」これで活動再開できるぜ!」「良さげなモン捕まえてきたら見せてやるぜ!」「もし欲しければ特価で売っても良いぜ!」「それじゃあいってくるぜ!「シーユーアゲイン!!」」

 

 最後までアフロを揺らしながら何処かに消えていった双子。

 ま、イベント的には次の日あたりにまた出現するんだろう。

 

「さて、じゃあ買い物再開するか」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

『……フリーポケット無制限はやっぱりチートだと思うんすよねぇ』

 

「使えるもんは何でも使うもんだ」

 

 マサドラの市場で売っている食材カードを適当に買い、全てメニューに仕舞った後折角だし呪文カードを適当に買うことにした。

 一人3パック(アルカとカルマ別々)買ってみる。

 

「アイ!」

 

「これが良いの?どれも同じだと思うのですが」

 

『厄災パワーでレアなカードザクザクですよ!』

 

 とか言っていたカルマは、3パック開封して膝をつく。

 

『Gランクしかねえ!!!』

 

「馬鹿かお前は」

 

「アイ(プギャーm9(^д^))」

 

 カルマの戦績。『防壁』2枚、『再来』3枚、『名簿』3枚、『宝籤』1枚。

 

「さて、私は……」

 

 鋼裡の戦績。『離脱』2枚、『反射』2枚、『盗見』1枚、『磁力』1枚、『強奪』1枚、『聖水』1枚、『追跡』1枚。

 

「おー、中々良いカードが揃ってるな。『聖水』は使っとけ」

 

「貴方様がそう言うのなら……『聖水』ON」

 

「アイ!」

 

 アルカの戦績。『宝籤』6枚、『左遷』1枚、『初心』1枚、『看破』1枚。

 

「アイ!」むふー

 

『く"や"し"い"!!!』

 

「完全に遊ぶ用じゃねえか……アルカ、適当に出会ったプレイヤーにこの三枚使ってみな」

 

「アイ!」

 

「んで最後、俺の分は……と」

 

 グリードの戦績。『堅牢』3枚、『神眼』3枚、『聖水』3枚。

 

『極端すぎひん!!!?』

 

「流石高位の悪魔で御座いますね」

 

「悪魔関係ある?」

 

 まあ、あるもんは折角だし使おう。『聖水』を1枚アルカに持たせる。『聖水』ON。

 

「アイ!(聖水ON)」

 

「後のカードは使わないのですか?」

 

「どうせ指定ポケットカード集めないし、集めるにしても急ぐ必要が無いし。まーゾル家から適当に逃げながら遊ぼうか」

 

「アイ!アイ!」

 

「ん?『宝籤』?使えば良いんじゃね?」

 

『『宝籤』はリスキーダイスのコンボで化けますよ!』

 

「アイ(要らんわそんなん)アイ!(宝籤ON!)」

 

 『宝籤』カードから煙が出て、一枚のカードに変わった。

 

『えーと、どれどれ……げ』

 

「どうしました……あらぁ」

 

「アイ!アイ!」

 

「どうしたそんな自慢げに……うへぇ」

 

 ぴょんぴょんと喜び跳ねるアルカの手にはSSランク、カード番号002、『一坪の海岸線』が握られていた。

 




さあ盛り上がって参りました。


良い子の諸君!
我々趣味で小説書いている奴らはマジで気まぐれだ!
好きで書いているのは確かだが、だからと言って書くだけのロボットじゃないぞ!
感想を送って書き手のモチベーションを維持して貰えるととても嬉しい!
感想貰えてモチベーションアップ→投稿速度上昇→楽しく読んで貰える→感想貰えてモチベーションアップのサイクルを回していこう!

ただ気まぐれなのは変わらないがな!


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呪文カードを買い占めるのはご遠慮下さい。

前回のあらすじ!
奇運アレキサンドライトもびっくりの奇運舞い降りる。


 アルカがSSランクのカードを一発ツモし、対抗意識が芽生えたのかカルマが自分の『宝籤』を使った。

 

『『宝籤』ON!!!アタクシもSSランク当てちゃるけんねぇ!!』

 

 そうして変化したカードは……

 

 『呪われた幸運の女神像』D-80

 幸運を司る女神を模した木像。持っているだけで良いことが度々起こると言われている。ただし粗末に扱ってしまったら……

 

「……普通……ですね」

 

「ネタにもならん引きだな」

 

「アイ(プギャーm9(^д^))」

 

『ああああああん!!!』

 

 カードを持って膝から崩れ落ちるカルマ。ああ、なんてかわいそうなんだ。カルマからカードを引ったくる。

 

『あっ、我が主……』

 

「ゲイン」

 

『こいつヤりやがったよチクショウ!』

 

 ボワン、とカード化が解除され、腕くらいの大きさの女神像が現れた。

 

「ほら。これ持ってたら、お前のクソみたいな運も多少はマシになるだろ」

 

『余計なお世話だよコンチクショウ!』

 

 差し出した木像がパシッと弾かれた。

 

 うみみゃぁ!

 

『……我が主、いま何か言いましたか?』

 

「さあな。おいカルマ、ちょっとばかし俺らから離れてろ」

 

『えっ……はあ……』

 

 と、カルマが俺達から少し離れた瞬間、前触れ無くカルマの頭上から極光が落ちた。

 

『……へあぁ?』

 

「うーんこれは間違いなく『呪われた幸運の女神』像ですわ」

 

『何が!?何が今起きたんですか!?』

 

「しらん。とにかくカルマはこの像を大事に持ってろって事だ」

 

 とりあえず今の攻撃……攻撃?は単体攻撃なので俺達には害は無さそうだな。

 

『ワタシはぁぁぁぁ!?』

 

「今の食らって無傷なら大丈夫だろ。頑張れ」

 

「……あの、貴方様。さっきの光は一体……?」

 

「しらん。俺達に直撃したらヤバイかもしれんけど、まあカルマが身代わりになるだろ」

 

「……そうですか」

 

 

 ◆

 

 

 その後、アルカが残りの『宝籤』を全て使って、全てが指定ポケットカードに変化するというウルトラCをかました。

 

『もう何でも有りなんですかねこの子』

 

「んまぁそういう事もある」

 

「アイ!アイ!」

 

 『なんでもアンケート』『発香少女』『長老の精力増強剤』『闇のヒスイ』『挫折の弓』を手に入れた。

 

「……ふむ。『闇のヒスイ』と『挫折の弓』はゲインしておけ。折角だしアルカも武器使えたほうがいいだろ」

 

『そんなオマケ感覚で弓を使わせます普通?』

 

「アルカは特質系っぽいし、操作系と相性いいだろ。適当に撃つだけで邪魔になるし……カルマ、アルカに弓の使い方を教えとけよ」

 

『そうやってまたワタシの仕事増やす!やりますよぅもー!』

 

「……しかし指定ポケットカードのアイテムは面白い物ばかりですね。『なんでもアンケート』『発香少女』、念能力なら再現可能でしょうけど、態々メモリを割いてまで作る程の能力でもないですし」

 

「確かにな。……よし、ゲームクリアするつもりは無かったけど折角だ。指定ポケットカードとかいろんなアイテム集めて使って適度に遊ぼう」

 

「いいですね、とても楽しそうです。……ところで、どうやってカードを集めるつもりですか?」

 

「そりゃ決まってるだろ。適当に奪うんだよ、カードでな」

 

 そう言って、もう一度カードショップに戻る。なあに、金は大量にあるんだ。ガンガン呪文カード買って、適当に使いまくれば集まるだろう。

 

「おぉっと待ちな!」

 

 なんか急に変な奴等に絡まれた。

 

「へっへっへ……ちょいと耳に入ったんだが、そこのお嬢ちゃんが指定ポケットカードを持ってるらしいなぁ……?」

 

 ニヤニヤと笑いながら男女四人組が(バインダー)を開きながら俺達に近づいてくる。

 

「悪い事は言わねえ……おとなしくカードを差し出せば痛い目にはあわせないでやる」

 

『なんです?この三下感溢れまくる変人の集い』

 

「んだテメェ舐めてんのかコラァ!!」

 

「うわぁ……なんて言うか……脳味噌世紀末かよ」

 

「ウチらを馬鹿にしてんのか!!」

 

『あ、アルカちゃま。このカードを(バインダー)のココに入れると、出会った順でこの部分に表示されるみたいですよ』

 

「アイ」

 

「聞いてんのかクソガキ!!」

 

 いい年して子供相手に怒鳴るなんて……

 

「(貴方様も前に怒鳴っていた様な……)」

 

「くっ……くくく、此処までコケにしてくれたのはお前等が初めてだぜ?オレらエイブル組相手に喧嘩を売るなんてよっぽどのバカなんだなぁ?」

 

「エイブル?カルマ、知ってるか?」

 

『ん~……あ、なんか少し前からG.I内で名前が通り始めた攻略組みたいですよ。呪文カードをバンバン使ってくる攻略法で、別名『ハイエナ組』とも呼ばれているそうで』

 

「ほーん。やる事ケチ臭いな」

 

「う、ウッセ!!カードを集めりゃそれで勝ちなんだよボケが!!」

 

「(貴方様、それはつっこみ待ちですか?)」

 

 するとエイブル組全員が(バインダー)からカードを取り出し、俺達に見える様に掲げる。

 

「兎に角、オレ達を舐めた事を後悔させてやる!!『窃盗』ON!アルカを攻撃!!」

 

 (多分)エイブルから放たれた光がアルカに一直線に向かう……が、当たる直前に光が弾かれた。

 

「……何ィ!?」

 

『あ、『聖水』使ってましたねそう言えば』

 

「アイ!」

 

「なんだそのカードは!?そんな効果の呪文があるのか!?」

 

「コイツもしかしなくてもアホでは?……とりあえず俺達に敵対するって事でいいな?後悔させてやる」

 

「な、何をするつもりだ……!」

 

「こうするんだよ。アルカ!」

 

 アルカの弓を指す。するとアルカは理解した様に大きく頷いた。

 

「アイ!(『挫折の弓』効果発動!)」

 

 アルカが弓を引き、放った矢が光と化してエイブルに直撃する。するとエイブルは光となって何処かに消えていった。

 

「……は?」

 

「な、えっ!?リーダーは!?」

 

『説明しよう!アルカちゃまの持っている『挫折の弓』は、残っている矢の本数だけ『離脱』を唱える事が出来るのだ!エイブルは島の外にさよなライオンしたって訳さ!』

 

「は、はああああああ!!!?嘘でしょ!?だってリーダーが一番呪文カード持ってたのに、『離脱』で島の外に出たって事は……」

 

『当然フリーポケット内のカードもさよなライオン!!!』

 

「んなバカな!!?つーか『防壁』持ってた筈だろリーダーは!?」

 

『えー?えーっと…………あー、『離脱』は攻撃呪文じゃないので『防壁』の効果範囲外ですね!』

 

「アイ!(と言う訳でもう一回効果発動!)」

 

「待っ!?」

 

 また一人光となって島の外にさよなライオン。

 

「クソッ!!こんなバカな話があるか!!必死で溜めたスペルカードが、こんな方法で消えるなんて……!」

 

「ゲームは時として理不尽。勉強になったなぁ?アルカ」

 

「アイ!!(今度はこっち!『左遷』ON!)

 

 アルカから放たれた光がまた一人に当たって何処かに消えていった。

 

「な、えっ?何処に!?」

 

「さ~あ~な~?もしかしたら超危険地帯に一人放り出されてたりな?」

 

「ひっ!?あっ……ご、ごめんなさい!ごめんなさい!見逃してください!お願いします!!」

 

 みっともなく這いつくばり、恐怖に歪んだ顔で俺達を見る女。ああなんて可哀想なんでしょうねぇ。

 

『もう残ったのはたった一人ですねぇ!!エイブル組は4人揃えばかなり強かったようですが?一人では何が出来るんですか?ねえ?ねえ???』

 

「ゆるしてください……お願いします……!」

 

『さあ!貴女に残された選択肢は僅かです!一、『(バインダー)のカード全てを私達に捧げて命乞いをする!』二、『身体を使って我が主のご機嫌を窺う!』三、『万が一に賭けて逃走を図る!』さあどれ!』

 

「ひぃ……お、お願いします……私が持っているカード全てあげますから……命だけは……」

 

『NO!NO!NO!NO!NO!』

 

「ヒッ!?ま、まさか私の身体を……?」

 

『NO!NO!NO!NO!NO!』

 

「も、もしかして逃がしてもらえ……?」

 

『NO!NO!NO!NO!NO!!!正解はぁぁぁ……『ワタシの餌食になる』でしたァ!!!!」

 

 そうして女の身体に入り込み、ブヂュルと()()を潰した音を立てて身体を乗っ取った。

 

「んっん~!!!やっぱ人間の肉体って気持ちイイー!!!」

 

「アイ」

 

「んふふ、大丈夫ですよーアルカちゃま!アルカちゃまの身体にワタシの欠片がまだ残ってますのでいつでも戻ることが可能!!さあ我が主!ワタシの新しい身体を使ってイロイロ楽しみましょう!!」

 

「カルマ?今、私の旦那様に色目を使いましたか?」

 

「ん滅相も有りません!!!」

 

 楽しそうだなお前ら。

 

「あっ、我が主!この身体の持ち主……ネムって言うんですけど、中々に良さげな念能力持ちでした!『仲良し四人組(レッドカルテット)』」って言うんですけど、親密度によって()()()()()()()のオーラを増幅するみたいです!」

 

「ふーん」

 

「しかも親密度を上げるために日頃から乱交してたみたいですよグヘヘ!!」

 

「あっそー」

 

 今日の晩飯何にしようかな。

 

「あっコレ本格的に興味ない態度ですね!」

 

「そうだ、変な奴等に絡まれたから抜け落ちてたけど、呪文カードを買うんだった」

 

「我が主!コミュニケーションしましょう!!」

 

「アイ」

 

「アルカちゃまぁ……我が主が徹底的にワタシを無視すりゅのぉ……」

 

「アイ(黙れ駄肉)」

 

「分かってくれますよねぇ!我が主って本当に冷たいんですから!」

 

「アイ(その香水クセー口を閉じろ)」

 

「アルカちゃまも我が主ともっと密接な関係になりたいですよねぇ!」

 

「カルマ……その辺にしておきなさい……」

 

 なんやかんやあったがようやく呪文カードを買った。さあ、明日からはガンガンカードを奪いまくって遊ぶか!

 




皆様お久しぶりです。何やかんやあってまた更新再開していきます!やー匿名投稿は楽しかったなあ!(クズ作者感)
前回一坪の海岸線手に入れておいて全然本編進んでないけど、ま、ええわ。

エイブル組
男二人女二人の四人でグリードアイランドを攻略していた。主に呪文カードを使って強引に奪っていくが、時々他の組と戦いになる事もある。そんな時は持ち前の団結力で相手をボコボコにしてカードを力づくで奪っていく。
強さ的にはゲンスルー組よりやや弱い程度。


次回!攻略組がアップを始めました。お楽しみに!


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