水没から始まる前線生活 (塊ロック)
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プロローグ

 

「…………」

 

黒い雨が降り続いている。

第三次世界大戦の後遺症で、世界はまともに機能する余力を削り取られ、天候も何もかもがめちゃくちゃだった。

 

ここもそんな場所の一つ。

 

あちこちにクレーターが空いており、そこに紫に発光する不気味な液体が貯まっている。

 

 

そんな場所に、三人の人影があった。

 

 

「ゲホッ、ゴホッ、ずまねぇ…」

「…………」

 

影の一つは男。

拳銃を片手に佇んでいた。

 

もう一つは女。

…ただし、下半身は醜く変異している。

最早形容を憚れる様な有様で、昆虫の様に無数の脚が生えていた。

 

…既に息はない。

顔だった場所には無数の弾痕がある。

 

そして、最後の一つは息絶え絶え、腕が吹き飛び胸にも大穴が開いた男。

 

「すまねぇ…すまねぇ…」

「もう、終わった。喋るな…」

「…良いんだ…ゲホッ…俺は、もう…長くない…」

 

二人共、黒いレインコートを着ているが、その下には戦闘用の装備を身に着けている。

…この世界に残った唯一の国の軍。

 

三人はその軍隊の隊員だった。

 

何時も通り三人でチームを組み、何時も通りの偵察任務で終わると思っていた。

 

…女が行方不明になるまで。

 

「すまねぇ…パトリック、すまねぇ…アリサ…」

 

死に体の男はうわ言の様に謝罪を続ける。

その言葉を、ずっと聞く…パトリックと呼ばれた男は、倒れ伏す音に銃口を向けた。

 

「…すまねぇ、相棒…最期まで、迷惑掛ける」

「…全くだ。何で俺がお前らカップルの面倒を最期まで見なきゃならねぇんだ」

 

ようやく、立っていた男が口を開く。

その声は、震えていた。

 

「最期に、1つ…聞かせてくれ…パトリ、ック」

「…何だ」

「お前…アリサのこと…好きだったろ?」

「………………ああ。多分…初恋だった」

「そっか……ありがとな、相棒…」

「楽しかったよ、マイク」

 

乾いた銃声が二発。

そして、雨の音だけがずっと鳴り響く。

 

「…最後になんて事聞きやがるんだよお前は」

 

拳銃をしまい、男の死体を女の死体のそばまで運ぶ。

…近くにあった木片でなんとか穴を掘る。

 

「こんなとこで悪いな相棒…せめて、一緒に埋葬する」

 

2つの死体を埋める。

この行為になんの意味があるか分らない。

 

今にでも女をあんな風にした奴らが迫って来ているというのに。

 

しかし、やらずにはいられなかった。

 

遺体を持ち帰る事はできない。

 

男は生き延びねばならなかった。

2つも命を託されたのだ。

 

生き延びねば。

 

「くそう、ちくしょう、大好きだったよアリサ…マイクより先に、ずっと前から…!」

 

雨では無い水が滴る。

近くに落ちていたアサルトライフルを手にする。

 

「必ず、必ず戻ってくる。ちゃんと、二人を埋葬する為に…だから、許してくれ…俺は、生き延びる」

 

男は走り出す。

 

背後から迫る何者かから逃げる為に。

 

「くそったれ!最悪な気分だ!だから、だから女は嫌いなんだよ!!」

 

 

 




はい、どうも借金指揮官の作者です。

このシリーズは借金指揮官が完結した後書く予定でしたが、向こうが馬鹿みたいに延長してしまったので忘れない内に書いておきたかったと供述しております。

それでは、次はまたいつか更新します。


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パトリック・エールシュタイアー

本名:パトリック・エールシュタイアー

 

年齢:おそらく20

 

身長:180cm

 

体重:義肢を含めると100kgをオーバーする

 

メインウェポン:

試作燃焼推進機構搭載実体剣『トムボーイ』

試作炸薬加速機構搭載抜刀剣『ジェットストリーム』

 

サブウェポン:

ショットガン『ライオット』

ハンドガン『パニッシャー』

ショットガン『ピースキーパー』

 

主人公。

孤児院出身で、ファミリーネームはそこの孤児院から。

 

黒混じりの赤毛。

髪型は面倒くさがって適当に短く切っている。

瞳の色は碧。

顔立ちとか分かりやすく例えるとDMCシリーズの3ダンテ。

それにしては暗いが。

 

背も高く、目つきもあまり良くない為初対面の人間には結構怖がられるのを気にしている。

 

性格は暗め。

話しかけるとちゃんと返してくれるし、人付き合いもそこそこ良い。

 

マイク、アリサとは孤児院から一緒だった。

しかし、物心付いた時にとある宗教団体に拉致され肉体改造をされてしまう。

二人は脳にチップを入られるのが限界だったが、パトリックは四肢を機械に置き換えられてしまう。

 

その後、団体は何者かの手によって壊滅し、三人は孤児院に拾われるのだった。

パトリックの義肢は孤児院に努めていた院長のお手製。

 

18になった日、三人で正規軍に志願する。

 

 

マイクとアリサは優秀な成績を納めていき、実績も挙げていったが…パトリックは義肢と言うハンデが災いし落ちこぼれていく。

 

そんな中、軍の機械化歩兵の計画に抜擢。

四肢を戦闘用の義手義足へ換装することとなった。

 

義肢による戦闘能力は凄まじく、高いフットワークと腕力を備えたは良いが…相変わらず射撃の腕前はお世辞にも良いとは言えず二度目の壁に突き当たる。

 

 

そんな中、部隊の倉庫に死蔵されていた一本の片刃剣と出会う。

 

対感染者用に作られたそれは、中に貯められた推進剤を燃焼させ斬撃の威力と速度を増す質量兵器であった。

…そんなもの振る人形も人間も居なかったが。

 

なんの因果かそんな物を手にしてしまい、まさかの戦果をあげてしまったのが運の尽き。

損耗率の高い自律人形部隊に近接打撃戦力として組み込まれてしまう。

 

当時優秀な人形として良くも悪くも有名だった『AK-12』の部下として配属される。

なお、反乱防止のために義肢をハッキング出来る彼女の下に追いやられた、と言うのが後に発覚する。

 

パトリックの義肢は電子戦対策が皆無な為、よくAK-12にハッキングされて玩具にされている。

よくさせられるのは同僚の『AN-94』へのセクハラ。

 

AK-12に煽られて、パトリックがキレ掛かると止めに入るが…大抵そこで遊ばれる。

 

割と女嫌い。

嫌いだが性欲はある割と面倒なスタンス。

正規軍にロクな性格した女性が居ない上に身近に居るのは自身で遊んでくるAK-12なのだから割と仕方ない。

AN-94については申し訳なさ6割。

あとの4割はラッキースケベ楽しんでいる。

 

騒がしくも悪くないと思える日々ではあったが、ある日…アリサが行方不明になったとマイクから聞かされる。

 

 

マイクと共に捜索に向かうが…。




とりあえず設定だけでも固めようと思い、投稿しました。
こちらも逐次増えていく予定です。


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第1話『手足の無い男』

別に何か新しい事が始まる訳じゃない。
あのときはそう思っていた。


…目を開くと、目の前には見知った天井が広がっている。

 

ここは…軍の駐屯地の、俺の部屋だ。

 

 

そこまで認識した瞬間、俺はベッドから跳ね起きようとして…。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…目が覚めたか」

 

ベッドの横に、誰かが座っていた。

長い金の髪を惜しげもなく降ろし、人間離れした美貌を持つ女だ。

 

「…AN-94。勝手に部屋入るなって言わなかったか」

「承諾が取れない状況だった。許してくれ」

「そうかよ。じゃあ悪いけど()()()()()()()

 

AN-94の後ろにある一組の手足を顎で指してそう言った。

 

…俺には手足が無い。

物心付いた時にキ○ガイの集団に拉致られて切り落とされた。

 

それ以来ずっと義手義足のお世話って訳だ。

 

「…駄目だ」

「何でだ」

「お前を自由にしたら、すぐに出て行ってしまう」

「当たり前だ!早く迎えに行ってやらねぇと…」

 

窓の外は曇天。

雨は止んでいる。

 

行くならば今しかない。

幸い地盤は緩くはなっていなかったはず…。

 

そもそも、今はあれから何日経った?

 

「駄目だ。お前は療養が必要だ」

「うるせぇ!さっさと寄越せ!」

 

ベッドから床に落下した。

手足が無いから何も出来ないのがみっともなくて泣きたくなる。

 

「………」

「AN-94!」

 

…迷い、俺のパーツに手をかけようとして、

 

横から伸ばされた手に阻まれた。

 

「…AK-12」

「だめよ、AN-94」

 

白銀の長い髪を翻し、目を閉じた柔和な雰囲気の女性はいつの間にかそこに居た。

 

「…隊長」

「おはよう、パトリック。まずは体を休めなさい。処分はそれからよ」

「隊長!行かせてくれ!」

「黙りなさい」

 

AK-12の瞳が見開かれた。

…そこには、強化された義眼が煌めいていた。

 

…間違いない、彼女は()()()()()

誰に?

 

そんなの決まっている。

俺にだ。

 

「独断で出撃した上に救助対象を処分して、瀕死の人間を殺したのはあなたよ」

「そんなのは、分かってる…!」

「それに、あのエリアにはまだ感染者たちがたむろしてる…そんな中に負傷した部下一人送り出す隊長が居ると思って?」

 

正論だ。

けれど、俺は人間だから、正論では納得出来ないし…止まれない。

 

「AK-12!頼む…処分も処罰も、必ず受ける…!」

「………」

 

理解出来ない物を見る様な目で、俺を静かに見下ろしている。

永遠に続くかと思われた静寂。

 

…それを破ったのは、出撃命令を知らせるアラームだった。

 

「…パトリック。準備しなさい」

「AK-12…」

「帰ってきたら、たっぷりお仕置きしてあげるわ。…行くわよ」

「恩に着る!!」

 

 

…AN-94に装着を手伝ってもらってしまった。

最後に格好つかないな。

 

 

 




借金前線終わらせたら書くと言ったな?

アレは嘘だ。

…というのは冗談で、ちょっと思うところがありまして。
しばらくはこちらを書くかも。


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第2話『対E.L.I.D殲滅人形部隊』

久しぶりに戦闘描写書いた気がする。




一面の曇天。

ジメッとした湿度は雨上がり特有のものであり、気持ち悪い事この上なかった。

 

ヘッドセットの被せてある耳が特に痒くなる。

 

『パトリック。今回の任務はこの付近の感染者達の掃討よ』

「いつもの掃除か…クソッタレな仕事だが、今回ばかりはナイスタイミングだ」

 

またこうしてこのエリアに戻ってこられたのだから。

あとはクズ共を三枚おろしにして二人の遺体を回収すれば…。

 

『…パトリック、その…大丈夫か?』

 

気遣うような声が無線から流れる。

AN-94の声だ。

 

「こちらV(ヴァンガード)1。いつも通りだ」

『…了解。その、無理しないで』

「…アウト」

 

無線を切る。

生憎と人形さんに心配されるほどヤワな心臓はしてないつもりだ。

 

片手にぶら下げていたショットガン…ライオットガンを握り直す。

 

「来るぞ、隊長」

『了解。各員戦闘配置。V1が交戦開始と共に撃て』

 

AK-12の無機質な声が届く。

そう、俺は盾にされる人形部隊の、もう一つの盾。

 

「来やがったな、クズ共」

 

この世界には、コーラップスと呼ばれる汚染が蔓延している。

高濃度なソレに被爆すれば速やかに死亡する。

だがしかし、濃度が低いコーラップスに被爆した場合はその限りではなく体の様々な箇所が変異を起こす。

 

彼らは、E.L.I.D(広域性低放射感染症) と呼ばれていた。

 

両腕がやけに長く、頭部のない個体が飛び掛かってきた。

ソイツにライオットガンを発砲する。

 

近距離でショットガンの直撃。

E.L.I.Dはそのまま転がっていく。

 

 

…後方から様々な火砲が飛んで来る。

 

味方の掃討射撃。

俺のことは勿論考慮に入っていない。

 

俺の役目は、ここにE.L.I.D達を足止めして殲滅の補助をする事。

 

「こなくそっ!!」

 

発砲する。

…盲撃ちでは流石に当たらない。

 

『V1、射撃スコアがまた下がってるわね。訓練をサボったのかしら』

「あぁ!?チンタラ撃つなんざ性に合わねーんだっての!」

『その為のショットガンでしょう。仕方ないわね…抜剣を許可します』

「流石隊長だ、愛してる!」

『いつもその調子なら良いのだけれど』

 

背中に背負われていた一振りの剣を抜き放つ。

バイクのハンドルがそのまま取り付けられたかのようなグリップに、幅広だが片側にしか刃が無く、その反対側には小型のブースターらしき物が付いている。

 

俺がこんな前衛紛いの事をしている理由。

 

名前をトムボーイ(じゃじゃ馬)と言う。

 

「Let's ROCK!!」

 

ハンドルを捻り、トムボーイが唸り声をあげる。

内部で燃料が燃やされ、それが推力となる。

 

「オルァ!!」

 

飛び掛かってきたE.L.I.Dを、そのまま頭部から股下まで一閃。

真っ二つに叩き斬った。

 

「ハッ、掛かってきやがれゾンビ共!」

 

さっさと終わらせて、約束を果たすんだ。

 

 

 




はい、という訳でパトリックくん戦闘開始。

今回の主人公は割と無双寄り。
なので合わないかもしれないなと思いつつ若かりし頃の○ンテとか想像して下さい。


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第3話『これがいつもの風景』

E.L.I.Dも泣き出す男。


「ずぉりゃっ!!」

 

迫り来るE.L.I.Dを片っ端から斬り伏せる。

地に伏せてまだ動く奴は更に叩きつける。

 

その間に背後からよってくる奴は空いた片手でショットガンを見舞わせてやる。

 

くるっと1回転させ薬莢を排出。

 

足元に這ってる瀕死のE.L.I.Dの頭を蹴飛ばした。

 

「ハァ、ハァ、あ”ぁ”こなくそ!隊長!まだ終わんねぇのか!?」

『少し離れた所に居る個体が最後よ』

「了解!」

 

駆け出す。

走りながら周りを確認する。

 

…確か、この辺りだ。

 

『パトリック!前!』

「あ…オゴォッ!?」

 

腹部に強烈な殴打が入った。

堪らず吹っ飛ぶ。

 

…起き上がろうとし、ふと、日の光が遮られた。

 

「…オイオイ、デカ過ぎじゃねぇの?」

 

見上げると、大木の様な腕の太さをした、俺の五倍くらい大きなE.L.I.Dが立っていた。

 

『V1、援護します。隙を見て殲滅を』

「アイアイサー、っと!!」

 

右腕が乱暴に振られる。

それを懐に潜り込み、左脚にトムボーイを横殴りで叩きつける。

 

「硬っ…!」

 

ハンドルを捻り、推進を得て弾かれた勢いを殺してそのまま前転。

先程まで居た場所に足が振り下ろされる。

 

よく見ると頭が胴体にまで埋まっている…どうやってこちらを認識しているのだろうか。

 

…アサルトライフルの音がする。

味方達が射撃を開始したらしい。

 

確か今回はロケットランチャー持ちが居たはず。

 

腕の一本でもふっ飛ばしてくれれば楽なんだが。

 

「隊長?景気よく腕ふっ飛ばしてくれませんかね?」

『貴方の腕も飛ぶわよ?』

「こわっ…まぁ腕なんて無いけどな俺」

『前の作戦からくすねた分しか無いから、あまり無駄撃ち出来ないのよ』

「マジっすか。えー、これ解体するの骨が折れるな…」

『あら、骨で済むなら安いじゃない』

「ハイハイ、やりますよ…っと」

 

一度大きく距離を離す。

トムボーイを背に起き、姿勢を低くする。

ショットガンを腰にマウントし、両腕でトムボーイを握り直す。

 

ハンドルを捻る。

推進機構『イクシード』は三段階の加速がある。

通常は1段階目、硬いやつには2段階目と使い分けている。

 

そして、3段階目は誰に使うのか。

 

「テメェみたいな、デカくて硬いやつにだッ!!」

 

ギアを解放。

爆音と共に殺人的な加速を得る。

 

相手が動こうとするが、こちらの方が、光速(はや)い!!

 

「チェストォォォォォォ!!」

 

右から左下への袈裟斬り。

俺の背丈の位置にある右足が見事に両断され、巨体は倒れる。

 

「あっ、クソ。足だけかよ」

『早くとどめ刺しなさい』

 

立ち上がろうとした体を蹴り飛ばして背中から倒す。

 

「何処が弱点か知らないけど」

 

両腕でトムボーイを頭の上に掲げる。

 

「斬ってりゃ動かなくなるだろ」

 

イクシードを解放してそのまま叩き付ける。

 

もう一度。

 

もう一度。

 

もう一度。

 

もう一度。

 

繰り返す。

 

繰り返し。

 

「…ふぅ、動かなくなったか」

 

トムボーイを背中にマウントし、動かなくなったE.L.I.Dから降りる。

 

周囲を見渡すと、死体の山だけがそこにある。

 

「疲れた…」

「お疲れ様、V1」

 

いつの間にか自律人形を連れたAK-12とAN-94がこちらに歩いて来ていた。

 

「めっちゃ疲れましたわ。何か食い物持ってません?」

「お前は…いつも無茶ばかりして」

「AN-94、小言は良いから食い物寄越せよ」

「ーーーッ!パトリック!私はだな!」

「あーはいはいはいうるせぇよ。お前人形のくせに心配ばっかしやがって」

 

AK-12がため息を吐き、後ろの人形達が肩をすくめる。

 

俺とAN-94の言い争いは日常茶飯事なものだ。

 

「当たり前でしょ!仲間なんだから!」

「あーもう、だからお前失敗作とか言われんだろうが!」

 

あまりにもうるさいのでつい、キツイ一言を言ってしまった。

…失敗作。

それは彼女が一番気にしていた一言だ。

 

AN-94が黙り、俯く。

慌てて言い訳を重ねてしまう。

 

「あっ、その、わ、悪い…言い過ぎた…」

「…このっ、大馬鹿ッ!!」

「ぐえっ!」

 

激昂したAN-94に殴られた。

流石に頭にきてしまい俺も拳を握る。

 

「やりやがったな!」

 

拳を振り上げようとして…体の動きが止まった。

正確に言うと、手足が動かない。

 

「…あっ」

「な、何よ…」

 

そんな様子にAN-94が訝しむ。

…その後ろで、AK-12が目を見開いてこちらを見ていた。

 

手が俺の意志と関係なく動く。

振り上げようとしていた腕はそのまま前に突き出され、

 

AN-94の胸を、しっかりと鷲掴みした。

 

「…えっ」

「…ハァ」

 

決して大きいとは言えない…が、掌の感触は本物であり、女性を感じさせる…有り体に言うと、柔らかい。

 

…感触はあるのだが俺の意思で動いていない手がむにむにと揉みしだいている。

 

AN-94は事態が飲み込めなくて顔を真っ赤にするだけだ。

 

…5秒後、俺はまた殴られた。

 

「さ、最低ッ!!変態ッ!!」

「うるせぇ!てめえのその貧相なむ、胸ェ!?揉んだって…ありがとうございました!!」

「どっちなのよ!?あと鼻血拭きなさい!」

 

うるせぇよ!おっぱいに貴賤は無いっ!!

 

「あら、AN-94じゃ不満?私の、揉む?」

「AK-12!!」

 

再び瞳を閉じたAK-12が微笑みながらこちらに来る。

…ちなみにAN-94は俺がハッキングされているのを知らない。

 

そう、AK-12には他の機械をハッキングする能力が備わっている。

そして俺の義手にはそれに対して何の対策もされていない…要するに、彼女が俺の首輪なのだ。

 

「ま、まままマジっすか。割とガッツリ揉みますよ」

「ええ、何なら10秒抵抗しないわ」

「う、うぇへへ…」

 

ぶっちゃけAK-12の事は嫌いだ。

…だが、それを差し引いても美人だし、何より胸がデカい(大事)。

いつも高圧的な彼女に一泡吹かせ…。

 

「じゃ、遠慮なく…ッ!?」

「いーち」

 

腕が、動かねぇ…!?

あっ、AK-12が目を開けてやがる…って事は!?

 

「にーぃ、さーんっ、しーぃ」

「おまっ…ハッキングしやがったな…!?」

「ごーぉ、ろーく、しーち」

「あっ、くそ、動け!俺の腕!何故動かない!?」

「はーち、くー、じゅーう。ハイ終わり」

 

そう告げられた瞬間俺は前につんのめってAK-12の方に倒れ…る前に蹴り飛ばされた。

 

「ギャッ!?」

「あーあ、せっかくのチャンスだったのに」

「ひ、卑怯だぞ…!」

「ふふ、私はそんな安い女じゃなくってよ」

「…二人共。やる事、あるんでしょう?」

 

AN-94に言われて、俺は意識を切り替える。

 

「パトリック。私達は手伝わないわ」

「分かってる」

 

自律人形からスコップを受け取り、走り出した。

 

 

 




パトリックのキャラは大体こんな感じかなと。

優しさに対してついキツく当たる悪ガキ。
んでもって女は嫌いと言いつつそういう事には興味津々。

でも悪い奴じゃない。
そんな感じで、これからもパトリックくんをよろしくお願いします。


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第4話『昔話』

昔話をしてあげる。

もう既に、世界が終わりに向かっていた頃の話。


唐突だがちょっとした昔話をしよう。

 

俺とアリサとマイクは同じ孤児院で育った言わば幼馴染だ。

…まぁ、察しの良いヤツはここで何となく理解するかもしれないが。

 

同じタイミングで孤児院に拾われてるってことは、二人も俺と同じように改造を受けている。

 

俺と違うのは二人は頭をいじられているってトコな。

 

 

頭に補助演算装置を埋められていて、そのせいで昔から頭がキレるコンビだったよ。

 

で、俺がどう関係してるかって言うと前衛として俺がいて、その制御役として二人が充てられるって話だった。

 

 

まぁ、潰れたんだけどなそこ。

 

で、本題に戻ると二人の脳のチップの反応を俺の義手は探す事ができる。

 

だからあの時あの場に埋めるって選択肢が取れた。

 

のだが。

 

「何で、無いっ!!」

 

あれから一時間。

掘れども掘れども二人の遺体は出てこない。

反応はこの辺の筈なのに。

 

「何で、何で何で何で何で!!ここに、埋めた、筈なのに!!」

 

掘る。

砂を捨てる。

掘り返す。

岩を砕く。

 

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして!!

 

「…あ」

 

視界がブレる。

脱水症状だ…水分を採らずに一心不乱に掘っていたせいで。

 

だが、倒れる前に誰かに受け止められた。

 

「…馬鹿」

「AN…94…?」

「これ、経口補水液。休んで」

 

水筒をわたされてむりやり座らされた。

一息に煽って、少しはっきりした意識でなんとか言葉をひねり出した。

 

「手伝わないんじゃ、無かったのか」

「それを言ったのはAK-12よ…私は言って無い」

「怒られるぞ」

「なら、一緒に叱られて」

「………………………あ、あり…ありが、とう」

「久しぶりね、貴方にお礼を言われるのも。…たまには、悪くないわ」

「なんだよそれ」

 

AN-94がスコップを手に取る。

だいぶ落ち着いたので、俺も立ち上がる。

 

「どの辺りかしら」

「この辺なんだが…え?」

 

ふと、何かが光を反射しているのが見えた。

そこに駆け寄り…拾い上げ。

 

「…おい、待てよ…何で、埋まってる筈のチップだけ、おちてるんだよ…」

「…なんですって」

 

AN-94が慌てて駆け寄ってきて、確認する。

…彼女は、両手で顔を覆った。

 

「適合しなかったのね」

「AK-12…」

「崩壊液の被爆で適応した者は異形になる…なら、適応しなかった者は?」

 

いつの間にか来ていたAK-12が続けた。

 

「…速やかに肉体が崩壊するわ」

 

そう言って、足元に落ちていたもう一つのチップを拾い上げた。

 

「あ、あぁ…嘘だろ…アリサ…マイク…」

 

両膝を着く。

そのまま地に両手を付いてしまう。

 

俺は、約束を果たせなかった…。

 

「パトリック。遺品として持って行きなさい…それくらいは、許してあげる」

 

AK-12が、もう一つのチップを手渡してくれた。

 

「…ありがーーー」

 

…また、何か光るものを見つけた。

なんの気なしに拾い上げ…。

 

それは、指輪だった。

2つの、ペアリング。

 

マイクが、俺と一緒に買いに行ってアリサに渡したものだ。

 

「くそう、ちくしょう…ごめん、ごめんな…」

 

ボロボロと涙が溢れる。

そのまま、耐え切れなくて、声を上げて泣いた。

 

AN-94とAK-12は、何も言わずに近くに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから五分ほどして。

 

「…隊長。休みもらえません?一週間くらい」

「良いけど…どうして?」

「静かな場所に、二人を埋めてきたくて」

 

こんな小さく、冷たくなってしまったけれど。

紛れもなくここに二人はいた。

 

「軍の共同墓地では駄目なの?」

「あそこは…少し派手過ぎる」

「…許可します」

「すんません」

 

頭を振って立ち上がる。

 

「酷い顔よ」

「人間だからな」

 

人間だから、悲しい。

俺の体は半分機械に置き換えられていようと、まだ心は人間なんだ。

 

忘れてはいけない。

 

「それじゃ、帰りましょう」

「了か…」

 

ずるり、と足が滑る。

 

「えーーーー」

「パトリック!!」

 

AN-94が手を伸ばす。

それに俺も手を伸ばし………虚しく、空を切った。

 

「パトリックーーーーーー!!」

「う、うおあああああ!?」

 

俺はそのまま斜面を転がり落ち、昨日の大雨によって増水した川に転落してしまった。

…濁流の中で流木に頭を打ったのか…俺の意識は、そこで消えた。

 

 

 




パトリック君、水没オチ。
ここから何処へ流されていくのやら…。


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第5話『水没から始まる出会い』

激流に流され、辿り着いた先は。


『ーーーー』

 

誰かが俺に声をかけている。

……うるさい。

 

甲高くてひどく耳障りだ。

このまま寝かせておいて欲しい。

 

『ーてーーおきー』

 

嫌だ。

寝かせろ。

 

「起きて下さいっ!!」

「うるせぇ!耳元で叫ぶんじゃねぇ!!」

「あ!良かった、意識が戻られたんですね!?」

 

しまった。

あまりにもうるさかったのでつい反応してしまった。

 

……そいつはちょっと変わった格好をしていた。

白いロングコートに黒のリボンを沢山つけている。

目を引いたのは陽に煌めく白銀の長い髪。

 

AK-12も白かったけど、こちらの方が艶がいいのかもしれない。

 

顔立ちもかなり整っている。

女嫌いを今すぐ返上して口説いても良いかもしれないと思いそうになるほど。

 

……そして、その傍らに置かれたバカみたいにデカいライフルが、俺を現実に引き戻した。

 

「戦術人形……」

「はい!IWS(シュタイアー)2000と申します」

 

シュタイアー。

くそったれ、同じ名前か…。

 

辺りを見渡すと、川の流れもだいぶ穏やかになっている。

……特に怪我もせず流されたのは幸運だったのかもしれない。

 

立ち上がろうとして、バランスを崩して倒れた。

 

「だ、大丈夫ですかっ!?」

「イチイチ騒ぐな、鬱陶しい……気にすんな。いつもの事だよ」

 

右腕が無くなっていた。

恐らく、何処かで外れて流されたのだろうか。

 

参ったな……片腕が無いのは相当不便だぞ。

 

慌てて所持品を確認する。

……ヘッドセットは生きてる。

ドッグタグもある。

…リングと、チップはある。

ライオットガンもちゃんと付いてる。

太腿にあるハンドガン…パニッシャーもしっかり着いていた。

 

だが、トムボーイが無い。

 

「チッ……色々探さなきゃな」

「あ、あの……お手伝いしましょうか?」

「いや、いい。慣れてる」

 

バランスを取って立ち上がる。

さて、どうやって探そうかな。

 

「……やっぱり、片腕の人に無理させるなんて出来ません。私を、貴方の力にさせてくれませんか?」

 

IWS2000と名乗った人形がなおも食い下がる。

 

「余計なお世話だ。片腕だからって同情も憐れみも要らねぇ。失せろ」

「でも、」

「てめぇ」

 

いい加減に頭にきた。

左腕でパニッシャーを抜いて人形に向けた。

 

「同情されんのも憐れまれんのも大嫌いだね!わかったらさっさと……」

「IWS!」

「チッ、新手かよ……」

 

切羽詰まった様な声が新しく聞こえる。

そちらに視線をやれば、銀髪を一房に纏めまるで兎のようにリボンを結んだ女。

 

手にはハンドガン……あれは、パニッシャー?を持っていた。

その銃口は、こちらを捉えていた。

 

「Five-seveNさん!?」

「そこの片腕のアンタ……銃を下ろして」

「……ツイてねぇな、ホントに」

 

パニッシャーを下ろす。

俺の射撃の腕前は半人前以下……この距離なら向こうは当てられる。

 

ここは、従うしか……。

 

「あ、それ……」

 

IWSが何かを見つけた様に指さした。

 

「え?あー、腕よ。ちょっとした資材になりそうじゃない?」

 

……ウサ耳女が、俺の義手を持っていたのだ。

 

「そっ、それ!この人の腕です!」

「え、ちょっとシュタイアー?貴女銃向けられてたのよ?何でソイツ助けるのよ」

「この人は…上流から流されてきてさっき目が覚めたんです!それで混乱してて……」

「お、おい……」

 

IWSがこちらに指を立ててウィンクしてきた。

……世話になるのは癪だが、腕が戻ってくるならこの際プライドは抜きだ。

 

「……申し訳ない。出来ればそれを渡してもらえないだろうか」

「なんか、調子狂うわね……ま、良いわ」

 

ウサ耳女が俺に右腕を手渡してきた。

 

「……パーツ、抜いてないだろうな」

「しないわよ!!」

 

右肩の端子に接続する。

いくら防水とはいえ汚水に晒されている…何処かでメンテナンスしないとガタが出るな。

 

「あら、よく見たらなかなかイケメン……アタシはFive-seveNって言うの。貴方同じ銃を持ってたわよね?そのよしみで、仲良くしましょ?」

 

ウサ耳……Five-seveNが猫なで声でそんな事言ってきた。

その言葉を無視して、俺は切り出す。

 

「なあ、剣を見なかったか?」

 

トムボーイ…あれが無いと俺の戦闘力はガタ落ちしてしまう。

 

「剣、ですか?それはどんな……」

「片刃の……その銃くらいデカイやつ」

 

IWSが手に取ったライフルを指差して言う。

 

「ちょっと待ってね、仲間に聞いてみるわ」

 

Five-seveNがそう言って耳に手を当てる。

……まだ仲間居るのかよ。

 

「FAL?アタシ。剣を見なかった?……冗談なら最低ねそれ。え?あった?」

 

思わず身を乗り出してFive-seveNの近くで聞き耳を立てる。

IWSがあわあわしながらそれを見ている。

 

「はーい、それじゃあね……うわ近っ!びっくりした!」

「あったんだな?」

「え、ええ……」

「案内してくれ」

「な、なんで仕切ってるのよ、もう……良いけど」

「あ、あの!」

 

IWSが声を上げて静止した。

 

「お名前……伺っても?」

「名前……」

「ああ、確かに。いつまでも『貴方』じゃ呼びにくいもんね」

 

名乗る、のか……なんと言うか、反応が見て取れるから気が進まない。

しかし、物を見つけてもらっている手前、それもそれで筋が通らない。

 

結局、名乗る事にした。

 

「パトリック。パトリック・エールシュタイアーだ」

 

思ったとおり、二人はお互いに顔を見合わせる。

……そこのライフル人形と同じ名前だ、と言われるに決まってる。

 

「……アタシ達の指揮官と、同じファミリーネームね」

「なんだって?」

 

ちょっと待て、思ってたのと違う答えなんだけど。

 

 

 




世話焼きな人形を出して行きたい。
ただし、AR小隊、404小隊、スプリングフィールドは除外とする。
借金前線に出てきた子達は基本的にこちらに出さない方針です。

と、言う訳でグリフィン側と合流。
オリキャラの指揮官が一人出てきます。

それと同時にタグを追加予定。


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第6話『エールシュタイアー』

同じファミリーネームを持つ。
それはつまり、同じ孤児院で育った『家族』だったという事。


「初めまして。貴方が剣の持ち主ね。部隊長のFALよ」

 

服を適度に着崩し、尊大な態度が似合いそうだと第一印象で感じた。

何故か肩にフェレットが乗っている。

 

「あー、うん、ハジメマシテ」

「今どき実体剣を使ってるなんていいセンスしてるわね」

「そりゃどーも」

 

FALからトムボーイを受け取る。

地面に刺して軽くハンドルを捻る。

 

……いつもの様に軽快な音を立てた。

無事みたいだが、腰を落ち着けたらこいつも一度点検しないといけないな。

 

「何この剣。肩すっぽ抜けるんじゃないの?」

「さぁな。生憎と抜けたことは無いから」

「腕は取れてたけどね」

 

Five-seveNを睨む。

そっぽを向いて口笛を吹き始めた。

 

「それで……その、エールシュタイアーさんは」

「……言いにくいならパトリックで良い」

 

自分の名前だし言いにくいのだろう。

ならいっそファーストネームで良い。

 

「では……パトリックさん。これからどうなさるんですか?」

「部隊に戻る」

 

とりあえずそれに尽きる。

 

「部隊…どこかのPMC所属なの?」

「PMCと一緒にすんな。正規軍だよ」

「「えぇーっ!?」」

 

IWSとFive-seveNが揃って声をあげた。

それはそれでちょっと傷付く。

 

「全然そんな風には見えなかった……」

「失礼な……」

「怪我とかしてるかもしれませんので、一度基地まで来てもらえませんか…?」

「断る。アンタらの世話にはならん」

 

背を向けて歩き出そうとする。

……腹のむしが空気を読まずに鳴った。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

誰も、喋らない。

 

「……ご飯、ありますよ?」

「う、うごごご……行きます」

 

絞り出せたのは、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー1時間後。

 

俺はPMC……グリフィン&クルーガーの基地の前に立っていた。

 

ここの指揮官…エールシュタイアー氏は若い女性ながら卓越した手腕で暴走した鉄血の人形達を蹴散らしているらしい。

また、人形達からも同性と言うことで接し方に好評を得ているとか。

ただ…ちっとも笑わない、かなり真面目な堅物だとか。

クールビューティー、と言ったところらしい。

 

「ようこそ、パトリック。歓迎するわ」

「か、勘違いするなよ……飯、飯ご馳走になるってだけだからな」

「はいはい、分かってる分かってる」

「Five-seveN押すな!触んな!やめろ!!」

「あはは……」

 

結局、IWSが何かと食い下がってきてそのまま連れて来られてしまった。

まぁ、グリフィンならIOPとコネクションがあるし義手の調子をみてもらえないかなと打算がないわけでも無かった。

 

ついでに様々な情報を仕入れるにも悪くなかったのかもしれない。

 

「指揮官、入るわよ」

 

FALが扉をノックする。

あれよあれよとその指揮官に会うことになってしまっていた。

 

(まぁ、分かってるやつに聞くのがイチバン早い。それに、同じ孤児院出身だし何か融通利かしてもらえるかも知れない)

「入って」

「失礼するわ。件の男を連れてきたわ」

「ありがとう。下がってもらって構わないかしら」

「ハイハイ。あんまりオイタしないようにね」

「誰がするか」

 

FALが出ていく。

……俺と指揮官、二人だけになる。

今更だけどどこの馬の骨ともわからん男と二人きりにするのはどうかと思うが、それだけこの指揮官がデキる、と言うことなのだろうか。

 

「名前、聞いても?」

「え、ああ……パトリック、エールシュタイアー」

「……パトリック?」

 

背を向けていたシルエットが振り返る。

すらっと背の高い、長い黒髪を無造作にゴムで括っている、化粧っ気の無い女性だ。

顔立ちもかなり整っている。

赤い瞳が印象的だった。

 

仏頂面が見えて、噂通りだなと思い……。

 

彼女の表情が、花が咲くような満面の笑みになった。

 

「はっ……!?」

()()()()!?本当に、りっくんなの!?」

「えっ、りっくん?!」

 

先程までの冷たい感じの声ではない。

嬉しさを微塵も隠さない、年相応の女性の声。

 

「私、私よ?リリス、リリス・エールシュタイアー!!」

「えっ……リリス!?」

 

名前を聞いてようやく思い出した。

いつも俺の事を気遣ってしきりに世話を焼きたがっていた奴が、一人いた。

 

そいつは前髪を伸ばして、いつも俯いていたからよくイジメられていた。

それにムカついてそいつら全員ボコボコにしたことがあったんだが……それ以来、付きまとわれていた。

 

俺より歳が2〜3上だったらしく、俺達が孤児院を出る二年前に出て行った。

 

「あぁ、良かった。心配してたのよ?」

「……要らねーよそんなん」

「ふふ、ぶっきらぼうなのは変わってないのね」

 

まさかこんな美人になっていたとは驚きだ。

すぐ近くに寄ってきて手を取られる。

 

「ボロボロね……すぐに修理させるわ。安心して?部屋も用意するし、修理中もお世話してあげる」

「必要ねーよそこまで。右腕さえ観てくれれば…」

「駄目よ!ただでさえ大変なんだから。大丈夫、私に任せて?」

 

世話すると言い出したときもこんな感じだった気がする。

俺もズルズルとなぁなぁで同意しちまうんだよなコレ……。

 

「憐れみも同情もしないわ……大丈夫よ、りっくん……」

「はぁ〜……分かったよ。ただ、軍と連絡取らせてくれ。隊長に報告しねぇと」

「え……正規軍?」

「ああ、俺は正規軍の兵士だよ」

「そう、だったんだ……ごめんね、グリフィンから向こうに連絡するのは禁じられているの」

「んなぁっ!?マジかよ……せめて、どっかの駐屯地まで……」

「それもちょっと無理かな……ここから歩いたら2日かかるわ」

「なんてこった……」

 

俺は相当辺鄙なトコに流されちまったらしい。

何処かで傭兵業でもしてろ銀を稼ぐしかないか…。

 

「だ、か、ら、りっくんのお世話は、してあげるよ」

「いや、そこまでしてもらう訳には……」

「じゃあ、私に何かあったら助けてよ……『家族』でしょう?」

 

家族、家族か……。

それを言われると、弱い。

 

「……分かったよ。少し、世話になる」

「良かった。そんなボロボロのりっくん追い出したなんて言われたら私の評価もガタ落ちしちゃうからね」

「それもそうか……アンタも大変な地位にいるんだな」

「そんなこと無いよ……でも、また会えて……嬉しい」

 

うっとりとした表情で俺の義手を撫でている。

……こういう所が、ちょっと苦手なんだよな。

 

押しが強いというか何というか。

 

「それじゃあ、案内するね」

「指揮か……!!?!!」

 

ノックもせずにいきなりFive-seveNが入ってくる。

……リリス指揮官を見た瞬間、固まる。

 

「Five-seveN?」

「し、ししし、指揮官が、笑ってる……!?」

「驚くのか……」

 

この後仕事をサボっていたと勘違いされてしっかり怒られていた。

 

 

 

しかし、グリフィンの世話になるのか……。

 

俺、無事に帰れるんかね……。

 

 

 




はい、という訳で某お空のナ○メアさんみたいは指揮官でした。
このタイミングでヤンデレタグを追加。

軍の二人には悪いですが、暫くそちらとは合流出来ません。


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第7話『ピンクライフル』

結局、義手を見てもらい…、飯までご馳走になり、細かい怪我を手当てしてもらい…今、風呂まで頂いてしまった。


義手義足全部外されて風呂に入れられかけたが全力で辞退した。

 

来ていたコンバットシャツもズボンもそう言えば修繕される予定なので換えの衣服が無い……と思っていた。

 

 

……籠の中に、男物の衣服がしっかり入れられていた。

 

「……サイズピッタリだ。整備班の誰かのだろうか」

 

深く、考えない事にした。

 

風呂から出て、片腕だけ無い状態で何か出来るかと言われると……まぁ、無い。

 

 

自然と基地内を歩き回る事になる。

……何というか、やはり、女性職員、戦術人形ばかりだった。

 

何人もの視線が俺と、隻腕に注がれる。

好意的、同情的問わずに。

 

(……早く出て行きたいもんだ)

 

腕が直るまでの我慢だ……。

考え事をしながら歩いていたら、一人の女性とぶつかりそうになった。

 

「あ……悪い」

「あら、ふふ。気にしてないわ」

 

女性はふわりと笑う。

長い髪をアップでまとめた、何となく上品な感じの女性だった。

……胸部が布をはちきれんばかりに押し上げているのをあまり見ないように意識するのが大変だ。

 

「貴方ね、第一部隊の『拾いもの』は」

「人形に物扱いされるのも落ちるとこまで落ちた感じがするな……」

「そうかしら?それとも……そう言うのをお望みかしら?」

 

彼女の右手がそっと俺の頬に添えられる。

何となく嫌な予感がして後ずさる。

 

「初めまして、ライフルDSR-50よ」

「……どうも」

「あら、名乗ったのだからそちらも名乗るのが筋ではなくて?」

「……パトリック。パトリック・エールシュタイアー。よろしくしなくていい」

「よろしくどうぞ♪久しぶりに人間の男の子を見たから……ちょっと嬉しいわ」

 

一歩、また一歩と遠慮なく近付いてくる。

俺は一歩ニ歩と後ずさる。

 

「可愛いわね貴方……」

「グリフィンの人形は、無礼なのがウリなのか?」

「え……あ、あら?私ったらまた……」

 

急に顔を真赤にして両頬を抑え始めた。

 

「ご、ごめんなさいね。私のタイプは、その男性に対して……『煽る』様な設計をされてて……」

「あー……」

 

こいつ、無意識に迫ってたってことか。

これはちょっと注意しないといけないかもしれない。

 

「そんなつもりはなかったの。ごめんなさい」

「そ、そこまで謝らなくても……」

 

見ていてこっちが申し訳なくなるくらい謝られた。

まぁ、俺としては割と経験に無かった事だったので驚きこそすれど不快は無い。

 

「まぁ、何だ……短い付き合いになるだろうけど」

 

よろしく、と言外に聞こえたか知らないけど、DSR-50の表情が明るくなった。

 

……あまりに綺麗すぎてくらっとする。

だから人形って苦手なんだ。

 

「……所で、工廠ってどこ?」

「案内するわね。着いてきて」

 

 

 




歩く18禁、DSR-50。
本人はお淑やかに過ごしたいと思いつつもメンタルモデルに刻まれた『DSR-50』としての誘うような言動に悩まされている。

なお、指揮官にアプローチをかけているとか何とか。


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第8話『鉄血、襲来』

落ち着ける場所なんて無い。


DSR-50に工廠へと案内している最中。

 

……一体のドローンとぶつかった。

 

「あら」

「イテッ」

「あっ、ご、ごめん!大丈夫!?」

 

その後ろから誰かが走ってきた。

淡いグリーンの髪の人形。

片目が前髪で隠れていたが……一瞬だけ、漆黒の瞳が……。

 

(いや、目が黒いのか)

 

生体パーツではなく義眼の類か。

 

「もう!楓月ってば……直してもらったのにどうして変な事するの……」

 

その人形がドローンに対して怒っている。

……なるほど?このドローンとリンクされてるのか、コイツ。

 

「TAC-50、まだ調子が悪いのかしら」

「あー、DSR-50さん……そうみたいですね。君もごめんね?怪我してない?」

「え?ああ、別に」

 

ヤケに気遣ってくるな。

片腕が無いのを見られたから?

いや、この性格上恐らくなにか一言あるだろうが……。

 

「楓月、駄目でしょう、腕の無い人にぶつかっちゃ……」

「アンタ、そのドローンと視界共有してるのか?」

「え、あ、はい。私はこの子とリンクされてるんです」

 

やっぱりそうか。

AK-12がしょっちゅうやってて感覚麻痺してたけど、民生ではまだ途上技術なんだ、これは。

 

「それで私の片目は義眼何ですよ」

 

前髪をかきあげて、目を晒す。

本来白目のある場所は黒く、オレンジ色の瞳が異彩を放つ。

 

「へぇ……」

「それで、何でDSR-50さんが?連れ込むんですか?」

「……TAC-50。私が好きでこんなメンタルモデルをしてる訳じゃないって説明しなかったかしら」

「冗談ですって」

 

気を悪くしたのか、DSR-50が俺の腕を引く。

 

「お、おい」

「行きましょう。失礼しちゃうわもう」

「……何だ、苦労してるんだな」

 

その一言に、彼女は答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー工廠。

 

この基地で数少ない男性職員の居るスペースだ。

DSR-50と別れて、中に入った。

 

「お、来たな」

 

主任っぽい老齢の男性がこっちに手招きをする。

 

「整備終わってんぞ。序にあの変な剣もな」

「急に無理言って申し訳ない……ありがとう」

「気にするこたぁねぇよボウズ。こっちも正規軍サマの義肢技術盗めるんだ。こっちが金払いたいレベルさ」

「なら、次もタダで整備して貰おうかな」

「ハハッ、任せな」

 

右腕を接続する。

神経通すときって結構痛いんだよな。

 

「ぐぎっ……ふぅ」

 

軽く動かす。

問題なく動作する。

 

「いい仕事してる。ウチの整備員ともタメ張れるな」

「正規軍サマに言われるとは光栄だね」

「その正規軍サマってのは気に入らねぇな。俺にはパトリックって名前があんだよ」

「悪いなボウズ」

 

からかってるなこのオッサン。

……その時、警報が鳴り始めた。

 

「あん?」

「……鉄血か!野郎共!ボサっとすんな!!」

 

……鉄血?

 

 




そんな訳でどこでもSECOM事TAC-50登場。

鉄血とやらの襲撃が来たらしい。


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第9話『通すべき義理』

鉄血工蔵と聞けば流石に納得する。
あそこの人形は頑丈でコスパ良いからうちも採用しようかと検討してたな。



トムボーイを受け取り、司令室へ。

様々なひとと人形が入れ替わりでバタバタしていた。

 

「はい、はい。貴方はそちらへお願いします……もし?ええ、こちらで配備させるのは決めておりますので。失礼しますね」

「失礼するぜ」

「あ、りっくん!!おかえりなさい!どう?腕は。大丈夫?不具合とかない?」

「お、おう……大丈夫だ」

 

俺が声を掛けた瞬間、一瞬でリリスが俺の手をとって矢継ぎ早に質問してきた。

書類を持っているFive-seveNが唖然としている。

 

「そう、良かった。りっくん、よく聞いて」

「鉄血?の襲撃だろ?」

「……本当はもう少しいて欲しかったんだけど、部外者のりっくんを巻き込む訳にはいかないの」

「……そうか」

 

正規軍兵士が民間の戦闘の支援をするなんてもってのほか。

冷たいかもしれないが、これが世の中なのだ。

 

「リリス、世話になった」

「ありがとね、りっくん。会えて嬉しかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて、終わらせるわけねぇだろぉぉぉぉがよぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

俺は、走っていた。

あれからあれよあれよと基地を追い出されてしばらく歩いたが、来た道を引き返し全力疾走している。

 

「一宿一飯の、恩義を、返さなくて、何がッ、男だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

義足の出力によってそこいらの原付きを凌駕するスピードで走る。

 

しばらく交流が無かったとはいえ、彼女は……同じ孤児院で育った家族なのだ。

 

二人を喪っている俺は、ただひたすら走る。

 

「家族亡くすのはッ、ごめん何だよッ!!!」

 

基地が見えてきた。

防衛線がかなり近いのか、外壁から煙が上がっている箇所もある。

 

目の前で戦闘する集団が見えた。

 

トムボーイを握り、ハンドルを捻る。

内部燃料が燃焼する。

 

「邪、魔、だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

トムボーイが爆発。

飛び込む様に黒の集団に跳躍し、目の前の人形に叩き付けた。

 

周囲の人形がギョッとする。

ライフルを持った人形を叩き潰し、刃を反す。

 

「うぉりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

そのまま横一閃。

三体の人形がそのまま吹っ飛んだ。

 

「何だか知らないけど……!好機を逃すな!!」

 

勇ましい掛け声と共に背後から銃弾が飛来する。

慌てて伏せる。

 

「俺ごと撃つ気か!!」

「だったらそこに居るんじゃないわよ!!」

「そっちに行く!」

 

銃撃が途切れたタイミングで、グリフィン側の防壁の方へ飛び込んだ。

 

「っはぁ!!死ぬかと思った!」

「あっ、貴方今朝の!」

「ようねぇちゃん。相棒が世話になったな」

 

軽くトムボーイを振って見せる。

目の前に居たのは、服のセンスは微妙だが胸も尻もデカい人形……確か、

 

「Five-seveNだっけ?」

「FALよ!何でアレと間違えるのよ!」

 

殴られた。

解せぬ。

 

 




口悪いし愛想も無い。
女嫌いだけどスケベ。

だけど、受けた恩と家族の危機には何もかも投げ捨ててでも報いる男・パトリック。

軍も体裁も関係ない。
家族を助ける、ただそれだけだ。



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第10話『遭遇、錬金術師』

どんなに小さくても、恩は恩。

返さなくては男が廃ると言うもの。


「で!?アイツは!?」

「アイツって誰よ!Five-seveN!?」

「ちげーよ!リリスだよ!!」

「指揮官!?指揮官なら司令室よ!Five-seveNと一緒よ!」

「司令室だな……!」

 

トムボーイを背に担ぎ直して走り出そうとする。

そこで襟をFALに引っ張られた。

 

「ちょっとどこに行く気!?」

「ぐえっ!お前!何しやがる!」

「まだこっちに鉄血が居るのよ!手伝いなさい!」

「バカヤロウ!拠点攻撃なら狙いは頭…指揮官だろ!!」

 

FALがはっとした表情になる。

通信をつなげようとして……。

 

「クソッ!ジャミングか!」

「……俺が行く!」

「……部外者の貴方に指揮官を任せなきゃいけないのね」

「俺とあいつは家族だ!悪いようにはしない!」

 

ここで言い争っていても時間の無駄だ。

行くしかない。

 

「……信じるわよ!指揮官に怪我させたら男で産まれたこと後悔させてやるわ!!」

「ハッ!任せな!一宿一飯の恩義は果たす!」

 

弾幕が止む。

その瞬間走り出す。

とにかく、この基地の司令室に向かわなくては。

 

基地内のあちこちに火の手が上がっている。

迫撃砲を撃ち込まれたらしく、損壊もそこそこ受けている。

 

「司令室、どっちだ…!?」

 

案内されていた筈なのに、道に迷う。

何故……!?

 

「くっそ、道に迷っただと……誰かに聞くか」

 

ちょうど曲がり角の先に誰かがいるっぽい。

 

「おーい!そこのあんた!」

「……?」

 

振り返る。

……長い白髪に、白い肌。

オマケに眼帯までしている。

戦術人形も個性的な見た目している奴がいるんだな。

 

……しかし、コイツもアレだな……デカい。

 

「……あからさまだな」

「うへぇあ!?べ、べべべべ別に見てねーし!」

「……それで?要件は?一応聞いてやろうじゃないか」

「あ、あー……司令室の場所が分からなくてな。案内して欲しいんだわ」

「私にか……?」

「え?ああ……生憎とアンタにしか会えなくてな。頼めないだろうか」

「フッ……ハハハ!面白い奴!私もちょうど司令室に用があったんだ!良かったら一緒に来い」

「本当か!?助かる!」

 

ラッキー、これであいつの所に行ける。

急ごうと思い走り出そうとして……。

 

「おいおい、案内しろと言ったのに私を置いていくのか?」

「イヤなんで歩いてんだよ!急いでるんじゃないのか!?」

「大丈夫よ……まだ襲われてないから。少し話そうじゃないか」

「え、えぇ……」

 

頼む相手を間違えたのだろうか。

 

「お前、人間だな?」

「あ、ああ……一応な。義手だけど」

「ほう……ふむ、良い手だ。記念に片方貰っても良いか?」

「何のだよ!てか駄目だ!これは換えが無い」

「それは残念」

 

なんだこの掴み所の無さは。

何となく居心地画悪い……いや、まぁこんなとびきりの美人を前にして何だって感じだけどさ。

 

女嫌いだが別に性欲まで無いわけじゃない。

と言うかこうして見るなら普通に好きだし。

 

だが……コイツからは何だか底の知れないものを感じる。

 

「お、着いたぞ」

「マジか、サンキューな!アンタ名前は?」

「名前?そうだな……」

 

白い女がドアを開く。

中では……ぎょっとしたリリスと、Five-seveNが銃を向けて立っていた。

 

「お、二人共無事……って、物騒だな」

「り、りっくん!退いて!そいつ殺せない!」

「は……?」

「パトリック!そいつは……鉄血の錬金術師(アルケミスト)……!親玉よ!!」

「……はぁ!?」

 

振り返った瞬間、眼前に刃が閃いていた。

 

「うぉ……!?」

 

……鈍い金属音が響いた。

 

 

 




鉄血ハイエンド、アルケミスト参戦。

はい、こっちも相当久しぶりの更新です。
借金の方もカタがついてきましたのでね。

ぼちぼち更新していきます。


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第11話『死闘』

かなり間が空いてしまいました。
モチベーションがリスポーンしてくれたので更新していきます。


「……頑丈だな」

 

左腕でアルケミストの持つ小さな……カタール、か?を左腕で受け止める。

 

「危ねえ……何なんだアンタ」

「私を知らないのか?珍しい人間も居たものだ」

 

武器に込める力を一切緩めずに、世間話をするノリで目の前の女は続ける。

 

「鉄血工蔵製ハイエンドモデル、アルケミストだ。以後お見知りおきを」

「なる程な……いい加減、手を離せっ!!」

「おっと」

 

左腕を振り払い、背中に担ぐトムボーイを振り抜く。

 

……奴は一瞬で姿を消した。

 

「は……!?」

「パトリック!アレはテレポートを使うわ!奇襲に気を付けて!」

「先に言え!!」

 

俺はリリスとFive-seveNに向かって走り出す。

奇襲を仕掛けるなら、確実に狙いは大将首!

 

「さ、せ、る、かッ!!」

 

リリスとFive-seveNの死角からアルケミストが出現する。

トムボーイのイクシードを全開にしてその推進力を以てして飛び込む。

 

「……!その剣、肩が吹っ飛ぶぞ?」

「その為の、腕だ!!」

 

アルケミストの両手の小剣によるラッシュを捌く。

こちらの長物より、相手の方が手数は上。

近接戦での有利は向こうにある。

 

しかし、だからといってはいそうですかと引き下がるのは阿呆のする事だ。

 

イクシードを燃焼させて振りを加速させる。

剣戟が奔る。

金属音が鳴る回数がどんどん増えていく。

 

「ハッ……ハハハ!!着いてくるか!」

「まだまだァァァァッ!!」

 

本来、俺の仕事は化物退治……基本的にE.L.I.Dだ。

こんな至近距離で何度も得物をぶつけ合うなんてあり得ない。

 

しかし、目の前の相手は限りなく人に近い形をしていて、両手の剣で殴り合いを演じている。

 

段々と、俺の中で乾いていた何かが満たされていくのを感じる。

 

(何だこれ……俺は、楽しんでる?)

 

たまらなく、楽しい。

目の前の人形と、命の奪い合いをしているというのに。

 

銃声。

アルケミストが弾丸を斬り払う。

 

「邪魔すんなFAL!!」

「あんな奴と間違えんな!私はFive-seveNよッ!!」

「余所見している暇があるのか?」

「うおっ……!?」

 

FAL……じゃなかった、Five-seveNに怒鳴った瞬間テレポートされ、真後ろから剣戟が飛んでくる。

慌てて前に飛び込んで回避する。

 

やばい、一度離されたせいで奴が小刻みにテレポートを始めた。

目で追えない。

 

Five-seveNが出現する度に弾を当てていく。

練度に舌を巻くが、ハンドガンの火力では決定打にならない。

 

(どうする、どうする……!?ジリ貧だ)

 

焦りが募る。

いつリリスが狙われるか分からない、外の部隊がどれだけ保つか分からない。

そして、俺の手足がどれだけ保つか。

 

左から刃の光。

ほぼ無意識に空いた左腕を振り上げて剣とぶつかる。

 

既に羽織っていたコートの左腕部分はズタボロだ。

 

「こなくそ……っ!!」

 

トムボーイを空振る。

段々と動きを読まれてきた。

 

(何か、状況を変える一手を……!!)

 

考え事をしていた一瞬。

その隙を、見逃すほど相手は甘くなかった。

 

「獲った……!」

「……ッ!」

 

……窓を突き破って、弾丸が一発。

 

俺に向けられていた小剣が砕けた。

 

「なっ……!?」

「うおらァァァァァッ!!」

 

イクシードを最大出力で解放する。

床を削り、思いっ切り上方に向かってアッパーカットの様に振り抜いた。

 

「ぐぁっ……!!」

 

突き出された腕が、宙に舞う。

 

もう一撃。

あと一撃。

たった一回剣を振れ。

 

今しか無い、この瞬間こそトドメを刺す最大のチャンス。

 

殺れる……ッ!!

 

世界がスローになる。

後ずさるアルケミストも遅い。

俺の一歩一歩も遅い。

 

だが、頭の中は脳内麻薬で滾っていた。

 

初めて感じる、闘いの歓び。

 

物言わぬ化物を狩るだけでは満たされない。

自分と同じように喋り、考え、意思疎通する相手と命を賭した全力の殺し合い。

 

楽しい、どうしても、楽しい……ッ!!

 

「……え」

 

足が動かない。

 

トムボーイが何故かすっぽ抜けて遠く執務室の壁に刺さっている。

 

 

 

顔や胸に衝撃。

気が付くと、俺は床に転がった。

 

両の手足の感覚が無い。

 

いや、()()()()()()()()()()()()()()

 

「りっくんーーーーーー!!!」

 

あ、死んだ。

 

俺の義手義足は、熱が貯まりすぎると接続された生体部分への伝導を防ぐため……強制的にパージされるリミッターが掛けられている。

 

要するに、オーバーヒート。

 

「ふ、ハッ……!天に見放されたな……!!」

 

……いつだってそうだ。

神様は俺達を救っちゃくれない。

 

あぁ、俺も死ぬんだな。

アリサ、マイク……お前らのトコに、俺も行けるかな。

 

目を閉じる。

 

悲鳴と、Five-seveNの銃声が聞こえる。

 

 

 

 

……それを全て覆う程の轟音。

 

堪らず目を開くと、アルケミストが胸に風穴を開けて吹っ飛んでいった。

 

「……は?」

 

一発。

たった一発で仕留めたのか!?

 

『指揮官!?ご無事ですか!?』

 

リリスの持っていた無線機から、聞き覚えのある声が聞こえる。

 

窓の外……敷地内のかなり端に、白いコートをはためかせる人形が立っていた。

 

『遅くなりました』

「ありがとう、IWS2000」

 

こうして、鉄血の襲撃は幕を閉じた。

 




借金前線も終わり、蒼き雷霆もアズレンの方も目処が立ってきたのでこちらも続けて行こうかと思います。

感想お待ちしております。


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第12話『開きかける扉』

鉄血の襲撃もひとまず落ち着く。
パトリックの今後の処遇について。


「おはようございます、パトリックさん」

「………………えぇ?」

 

知らないベッドの上で目覚め、最初に見えたのは……IWS2000の、後頭部。

そして、俺が起きた事に気が付くと満面の笑みで挨拶するのだった。

 

「えっと、DSR-50だっけ」

「IWS2000です!!全然違うじゃないですか!!」

「分かりにくいんだよお前らの名前……」

「じゃあステアーって読んでください」

「そんなに宜しくするほど長居するつもりは無……オイ、俺の手足は」

 

起きたは起きたには、手足が付いていなかった。

これでは身動きが取れない。

ついでに言うと見に覚えのない包帯が身体中にしてあった。

それ以外は新品のボクサーパンツだけ。

 

「挨拶をちゃんと返さない人には教えません」

「はぁ?」

「おはようございます」

「………………」

「おはようございます」

「………………」

「お、は、よ、う、ご、ざ、い、ま、す!!」

 

耳元で叫ばれた。

 

「あーもわかったよ!!………………お、おはよう」

「はい、良くできました」

「………………」

 

駄目だ、ペースに巻き込まれるな俺。

気を強く持て。

 

「……で、俺の手足は」

「3日前にメンテナンスを始めて、両足は終わった所ですよ」

「って事は腕はまだか……換えがないから壊れると困るんだよな……ん?3日前?」

 

おい、まさか俺は3日間寝てたってことか?!

 

「あ、はい……パトリックさんは鉄血のアルケミストと戦闘して……そのまま昏睡してしまって」

 

……ふと、思い出す。

あと少しコイツの援護が遅かったら俺は殺されていた事に。

 

「……?どうかなさいました?」

「……いや、別に」

 

……さて、足をどうやって着けるか。

 

………………じっ、とこっちを見つめる白いの。

 

「……何だよ」

「お手伝いしましょうか?」

「要らん」

「……えっ、どうやって着けるんですかそれ」

「あん?口で咥えれば」

「駄目ですよこんな重いもの。顎が外れてしまいます」

 

俺の足を手に取りニコニコと寄ってくる。

身をよじるが悲しいかな、動けない。

 

「さ、着けてあげます」

「やめろって」

「遠慮しないで下さい」

「良いから!」

「……むぅ。どうしてですか」

 

今にも泣きそうな顔になる。

……何となく、アリサの顔が脳裏をよぎる。

その顔には、弱い。

 

「ちょっ……泣くなよ……分かった、分かったから。()()()()()()()

「……っ!!?!(ゾクゾクゾクッ)」

「……えっ」

 

頼む、と言った瞬間……白いの、ステアが一瞬身悶えした。

と言うか瞳も蕩けてた気がする。

 

「ふ、ふふ、うふふふ。お任せくださいね」

(……やっべ。地雷踏んだかこれか)

 

……まぁ、普通に着けてもらえたのだが。

義足がコネクタに接続される。

相変わらず、激痛が奔る。

 

「……ッ……!」

「あ……い、痛かったですか!?」

「あ?……あー、いや、これ着けるときは痛むんだ。気にしないでくれ」

「そ、そうですか……」

 

もう片方も着けてもらう。

なんというか、情けないな本当に。

 

接続された義足を動かす。

問題無く可動する。

 

特に違和感も無し。

 

立ち上がる。

しっかりと踏みしめる感覚。

 

「……よし」

「パトリックさん、指揮官が呼んでますので案内しますね」

「ああ……あ、いやその前に服着ないと」

「え……………………あっ」

 

今更ながら、ステアが俺の足先から上半身を見る。

ぼふん、と頭から湯気が出る。

 

「おっ、お手伝いしまひゅか!?」

「あ、いや、流石にそこまでは」

「だ、大丈夫ですっ!任せてください!!」

「ちょっ、やめっ、うおおお!?」

「ちょっとステアー?うるさいわよ……何やってるのよ貴方達」

 

様子を見に来たFALに呆れられた。

どうしてこうなった……。

 

 




世話焼きな人形達に囲まれる干渉が嫌いな男。
何でこいつ頼らざるを得ない癖にここまで頑ななのか。

皆様の感想が応援の励みになります。
よかったらお願いします(乞食


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第13話『猫の手も借りたい』

パトリック(両腕パージ)とステアーは指揮官のもとへ。


腕が無い、と言う状態は慣れたものだと個人的には思っているのだが……やはりと言うか、周りが慣れていない。

 

しきりにステアが俺の方を心配そうに見ている。

それを無視して俺は歩く。

 

途中で出会う職員も人形も俺を見るとギョッとして去っていく。

もう、見慣れた光景だ。

 

だが、それでも寄ってくるやつは居るらしい。

 

「おはよう、パトリック」

 

視界に飛び込んでくる豊満な胸部装甲(おっぱい)

視線を無意識に下げていたらしいので上げる。

 

「あぁ……えっと、TAC-50」

「50は合ってるけど……DSR-50よ」

 

また名前を間違えたらしい。

DSRの方も苦笑している。

 

「元気そうね」

「先程起きられたばかりですけど」

「あら、そうなのステア?」

「はい」

「そう……何にせよ、指揮官の為に命を懸けてくれてありがとう」

「………………れ、礼なんて、要らない」

 

真摯に見つめられて、面と向かって礼を言われ……俺は、目を逸らした。

ダメなんだ、そう言うの。

 

「あ、照れてますね」

「違う」

「DSRさんみたいな美人に言われたらそれは照れますもんね」

「もう、ステアったら。……今夜、部屋の鍵は外しておくわね?」

「あ、遠慮しておきます」

 

ステアとDSRのやり取りに苦笑する。

この女、メンタル基本設計を嫌がってる割にノリノリでそういう事を言うのもどうなんだろうか。

 

「あ、そうそう。あの時の武器を砕いたの、私よ?」

「え、そうなのか?」

 

てっきりステアがやったのかと思っていたが。

 

「私は能力的にお硬い相手の方が燃える質なの」

「言い方」

「作ってあげたチャンスをしっかり活かしてくれて嬉しかったわ」

「……無様に転がっちまったけどな」

 

あと一太刀浴びせれば、と言うところでオーバーヒート。

本当に、ステアが間に合っていなかったらと思うと。

 

「……ね、パトリック。何か言う事、あるでしょう?」

「……言う事?」

「ええ。私とステアに言、う、こ、と」

 

やめろ耳元で囁くなこの乳魔人。

揉むぞ……あ、腕が無い。

 

クソッ!お前はいつだってそうだ!肝心な時に着いてない!

誰もお前を愛さない。

 

「……パトリックさん?大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」

 

さて、言う事。

 

「……何か、あったか?」

「「えっ」」

 

二人して可哀相な物を見る目をされた。

解せない。

 

「私達、命の恩人だけど」

「……ああ……」

 

そうか、それも確かに。

 

「……ありがとう

 

自分でもびっくりするくらい小さな声が出た。

コミュ障かよ。

 

ただ、二人には聞こえていたらしく、ステアはぱぁっと表情が明るく輝いた。

DSRの方は怪しく微笑み、

 

「声が小さいわね。……それとも、言わされる方がお好みかしら」

「ちげーよ!アッ、こら寄ってくるんじゃねぇ!揉むぞその乳!!」

「構わないわよ?……一緒に寝るまでがセットだけれど。ただ、その腕で出来るかしら」

「チィッ!!」

 

本気で舌打ちした。

 

「なんてね。あんまり遅くなると指揮官が待ちくたびれるわよ」

「!そ、そうでした!行きましょうパトリックさん!」

「わっ、やめっ、服引っ張るな!」

「行ってらっしゃい」

 

にこやかに手を振るDSRに見送られながら、俺達は走り出した。

 

 




純情DSRはネタ被りしてしまった為、本当は嫌だけど気に入った相手が見つかったので受け入れてDSRムーブさせる事にしました。

つまり、パトリックは彼女の射程圏内に居ます。

皆様の応援が励みになりますので、感想よろしくお願いします。


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第14話『残留決定』

「りっくん!?起きたのね!?よかった!どこか悪いところはない!?」

 

執務室に入った瞬間光の速さでリリスが寄ってきた。

ステアとDSRがぎょっとする。

 

「腕はすぐに直させるから!待ってて!」

「お、おう……」

「それで、今後の話なんだけれど……」

 

今後。

そう、今後だ。

 

何とかして部隊と連絡を取らなくてはならない。

 

「何とか部隊に戻ろうと考えてる」

 

そう伝えると、リリスの表情は暗くなる。

 

「そう、だよね……」

「ああ」

「その、りっくんさえ良ければ……ウチに、残ってほしいな……なんて」

「……何だって?」

「えっとね、ウチはライフルによる狙撃活動がメインなの。……今回みたいに、懐に潜り込まれると中々厳しくて」

 

確かに、ゼロレンジの殴り合いを主とした戦闘を行うアルケミストに遅れを取っている。

 

「だから、ゼロ距離で戦える貴方がほしいの」

「どうせお金、持ってないでしょ?」

「うっ……!」

 

……財布なんて持っていない。

無一文で何も持たずここから詰め所に丸2日以上掛けて歩くなんて、それこそ馬鹿の所業だ。

 

「傭兵として雇われるだけで良いから。それに、隣のS-12地区から戦闘支援してもらえるし」

「………………」

「お願い……!」

 

両手を合わせて、懇願する様に見上げられた。

……これだ。

 

嫌いになっても、こうまで頼まれると、断れない。

 

「……この地区の脅威が排除されるまで」

「え?」

「……俺の手が要らなくなるまで……その、居てやるよ」

 

これが、最大限の譲歩。

賃金を出すというのならその頃には充分なろ銀が貯められる。

 

「よ、良かった……ありがとう、りっくん」

「……家族、だからな……見捨てはしない」

「ううん……それでも、嬉しい」

 

リリスが胸元に飛び込んできて、両腕でしっかりホールドしてくる。

 

「お、おい……」

「大丈夫、生活の方は任せて。不自由はさせないから……本当は私がお世話したいのだけれど……指揮官業務が忙しくて」

 

リリスが離れる。

じっ、と俺を見つめる相貌。

 

「人形達を付けるね。皆、りっくんのこと気に入ったみたいだしね」

「気に入った……?女は苦手なんだ、介護は男に頼みたい」

「ごめんね?この基地の男性は皆別の業務で引っ張りだこなの」

「マジかよ……」

 

ふと、窓の外に目を向ける。

……見覚えのあるドローンが、ずっとこちらを伺っていた。

 

確か、楓月……。

 

「ステアがりっくんのこと、とても心配してたし……取り敢えずステアを付けるね」

「えつ、オイあいつかよ!?」

「じゃぁ、私業務があるから」

「オイ、待てって……!マジかよ……」

 

 

こうして、ここ……S-13地区の生活が決まった。

 

 

 




S-13地区での職と生活が決まりました。

果たして、彼は正規軍へ帰れるのだろうか。


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第15話『新しい生活』

パトリック君には定期的に手足吹っ飛ばして貰おうかと思ってます。


「今日から正式にお世話させて頂くことになりました!よろしくお願いしますね?パトリックさん!」

 

執務室から出ると、満面の笑みで輝くステアが立っていた。

 

「……ハァ……別にそんな世話される事なんてない。手さえ帰ってくれば自力で生活出来るし」

「でも、まだメンテナンス中なんですよね?少なくとも今は手が必要だと思うんです」

 

ぐっ、と拳を握って力説する。

顔が可愛いからイマイチ締まらない。

 

「決まったもんは仕方ないし……その、なんだ……()()()()()()()

「………(ぞくっ)」

 

あっ、まさかコイツ……頼むってワードに反応して恍惚としてないか?

早速先行きが不安になってきた。

 

「さぁパトリックさん、まずはお風呂に入りましょう」

「まだ昼前だし……義手の調子を見たいから工廠に行かせて欲しいんだけど」

 

大丈夫かなぁこの子。

心配になってきた。

 

……廊下の外、何かが飛んでいった。

 

「……今のは?」

「え……ああ、TAC-50さんの楓月ですね。たまにああやって飛行練習させてるみたいです」

「飛行練習、ね……」

 

やけに見かける気がするが、気のせいだろうか。

 

「それじゃあ、工廠に向かいましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

「来たな、坊主。腕は終わったぞ」

「ありがたい」

 

やっぱり腕が無いって不便なんだよなぁ……歩きにくいし。

 

人形用のメンテナンスベットに寝転ぶ。

両サイドに人が立ち、それぞれが俺の義手を持っている。

 

「同時に行くぞ」

「優しく頼むわ」

「せー、のっ!」

「……っ!!!っけ、はっ……!!」

 

神経接続をする度に襲ってくる激痛。

慣れはするが、やっぱり痛いもんは痛い。

 

「大丈夫ですか!?」

「はっ……は……っ……っく、はぁっ……平気だ、慣れてる」

「動くか?坊主」

「ちょっと待ってくれ……」

 

両手を持ち上げて、手を開閉させる。

ラグもなくしっかり動く。

 

「問題なさそうだな」

「助かってる」

「良いってことよ。その義肢のお陰で人形達にもフィードバック出来る技術盗めたしな。次もタダでメンテしてやる」

「そいつは、ありがたい」

 

立ち上がり、片手で逆立ちする。

 

「よっ……」

 

両手を床に着けて、腕の反動で飛び上がり一回転して着地する。

 

「良いね、動作も軽い」

「しかし……その義肢、()()()()()()()()()()()()()()()()()?それじゃあハッキングされ放題だぞ?」

 

整備士のオッサンに指摘される。

まぁ確かにこの通りである。

この仕様のせいで、ハッキングに精通した人形やハイエンドモデルは俺の天敵になる。

 

「ある意味首輪みたいなもんかな。俺の上司、ハッキングが得意な奴だったから」

「……なるほど?腕っぷし強い奴への抑止力か……難儀だな」

「慣れたよ」

 

これで、タンクトップ以外の上着も着れるな。

 

「それに、オーバーヒートしたら強制パージか……まだまだ発展途上ってとこか」

「熱対策はどうしても難しいんだと。俺としちゃ排熱して顔に蒸気かかるのが嫌なんだが」

 

あの蒸気クソ熱いんだよなぁ……。

前が見えなくなるし。

 

「いっそ残りも義肢化した方がマシかもな」

 

オッサンが笑ってそういう。

……琴線に触れ、激怒しそうになるのを抑える。

 

「こんなんでも、俺は人間だ……まだ、人間でなくちゃいけないんだ」

「……失言した」

 

何となく、気不味く別れてしまった。

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

「こちらが、パトリックさんの部屋になります」

 

夕方。

俺が寝かされていた部屋に案内される。

 

「夕食は食堂で食べられますよ。時間は1730からです」

「あいよ」

 

部屋を見回す。

簡素な机と椅子、ベッド……そして、空の水槽だけがある。

 

「何故、水槽が?」

「指揮官が観葉目的で各部屋に設置したんです」

「……昔から生き物の世話するの好きだったからな、アイツ」

 

その生き物の世話に俺も含まれてるんじゃないかってちょっと考えた事もあった。

……向こうは100%善意で接してくれているのにね何を失礼な事を。

 

「出先で保護したら申請を通せば飼えるそうですよ」

「ふーん……考えとくわ」

「はい。それでは何かあればこれでお呼び下さい」

 

ステアから携帯端末を渡される。

登録されている連絡先はリリスとステアだけ。

 

「それでは、明日から一緒に頑張りましょうね!」

「………………あ、ああ……………その、なんだ」

 

こういう時素直に言葉が出ない。

ステアが何を言うのか待っている。

 

「よ、よろしく……頼む……」

 

やっと絞り出した言葉は、なんの変哲も無い一言。

 

「……!はい!」

 

それでも、彼女は笑顔で応えるのだった。

 

 




プロローグがこれで終わった感じですかね。
何か登場する人形の希望などありましたらお気兼ねなくどうぞ。

感想お待ちしております。


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第16話『騒がしい日々』

アンケートのご協力ありがとうございました。
あくまで優先順位の参考の為、全部やります。

それでは、新しいパトリックの生活が始まります。


あれから1ヶ月が経った。

散発的に発生する鉄血との小競り合いに何度か参加し、基地での雑用を手伝い暮らしていた。

 

部屋に備え付けの洗面台で顔を洗う。

 

鏡に映るのは、目付きの悪いいつもの自分の顔。

 

「………………」

 

肌着のタンクトップから伸びる、両肩に繋がっている機械の両腕。

毎朝これを見るのも参るが、俺の腕はこうなってしまっているのだ。

 

……部屋のドアがノックされる。

顔を拭いて、上着に手を通す。

 

私室のドアを開いた。

 

「おはようございます、パトリックさん!」

「……よくもまぁ、毎朝飽きずに来るな」

 

立っていたのは、この基地の主力ライフル……IWS2000だ。

 

「はい。貴方のお世話は、私の任務の一つですから!」

「そうかい。もう1ヶ月経つし良いんじゃないか」

「……でも、パトリックさん迷ってましたよね」

「………………」

 

まぁ、別にコイツだけなら良いんだ。

慣れたから。

 

ただ……。

 

「パトリック。いつまでそうしているつもりですか。時間は有限なのですよ」

 

ステアと同じ白い服……だが、長い黒髪を一つにまとめ、青いメッシュの走る人形がやってきた。

 

「ジェリコ……」

「露骨に嫌そうな顔をして……朝食の時間が終わる」

「わかってる」

「背筋を伸ばせ!胸を張れ!男がそんな姿勢でどうする!」

「うるせぇ!!」

 

耳元で叫ぶな!

 

()()貴方の指導を任されています。私の下にいるという事はそれなり以上の振る舞いをしてもらないと」

「……何だってあいつはお前なんて付けたんだ」

 

先週から俺の指導員として加わった。

最初は仏頂面の固そうな女だなと思って(しかし乳でけーなこいつ)いたが、蓋を開ければ世話好きの教え好きときた物だ。

 

そして思ってた通りの硬いやつ。

 

決まった時間に起きないと部屋に押しかけてくる。

休日も、だ。

 

「指揮官は貴方を信頼しています。が、私は活躍を見ていませんしあのハイエンドを仕留めるのに一歩届かなかったと聞いています。それに、私にできることは貴方にここでの戦い方を教えることです」

「………………」

 

あの時、アルケミストにとどめを刺せなかったことは……後悔になっている。

 

あの時の戦いは少なからず俺を高揚させた。

だから、俺の手で終わらせたかった。

 

つまるところ、消化不良。

 

「……聞いているのですか、パトリック」

「いや。ほら、ステア行こうぜ。食堂がしまっちまう」

「えっ、あっ、はい」

「待ちなさいパトリック!」

「走るぞステア!」

「パトリックさん!?」

「パトリック!廊下を走るな!!」

 

騒がしくも、何となく居心地の良い日々が続いていた。

 

 

 




パトリックの新しい日々が始まる。


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第17話『射撃訓練』

少しずつ、人形達と接しつつ過ごしてもらいます。


「……どうしてここまで射撃の精度がお粗末なんです、貴方は」

 

射撃訓練場。

様々な人形達がここで各々の調整をする……らしい。

 

その一角で、俺はジェリコに射撃の訓練をさせられていた。

 

「俺だってわかんねぇよ。俺の腕が銃を使うのに向いていないってだけた」

「ふむ……なるほど?頑強さと馬力をこの見た目に収めるために全て詰め込み……他は全て犠牲にしているのね」

「戦闘も、一応日常も使えてるし。それで良いと思ってる」

「参ったわ……」

「あれ、ジェリコにリックじゃん。はろはろ〜」

 

ジェリコが仏頂面で考え込んでしまったあと、射撃訓練場へうさ耳女……Five-seveNがやってきた。

 

どうにも俺はこいつが苦手である……距離の詰め方が良くわからない。

 

「Five-seveN……」

「どうしたの?ジェリコ」

「パトリックの射撃をみていました」

 

……実は、この二人Five-seveNの方が先にこの基地に配属されている。

そして、Five-seveNの方が実力が抜きん出ている。

その為、ジェリコはFive-seveNにあまり強く言えない……まぁ本人は性格以外尊敬してるフシもあるけど。

 

「ふーん、リック。撃ってみてよ」

「えぇ」

「いーじゃんいじゃん。減るもんじゃないのよ?」

「……」

 

渋々とパニッシャーを構える。

最近知ったのだが、AK-12にパニッシャーと言われて渡されたこの銃は本当はFive-seveNという名前らしい。

 

何となくこいつの前で使うの嫌なんだよな……。

 

トリガーを引く。

乾いた音が数発。

マズルフラッシュと共に吐き出された弾丸は……的の両サイドの砂山を少し吹き飛ばしただけだった。

 

「なるほどね……ねぇ、リック」

「あ?……ちょっ、なんだよ!」

「騒がないの。……はい、これで撃ってみて」

 

Five-seveNが俺の腕やら手に取り後ろから密着してくる。

背中にめっちゃ柔らかい物が押し当てられて気が気じゃない。

 

言われた通りにトリガーを引く。

 

……弾丸は、急所じゃないにしろ、的に命中した。

 

「え……」「なっ……」

 

俺とジェリコが驚く。

Five-seveNが俺から離れる。

 

「やっぱりね。リックは反動を腕で押さえ込み過ぎなのよ。パワーがあるから変なふうに飛んじゃうのね」

「流石……Five-seveNですね」

「ふふっ、褒められちゃった。でも、その銃もアタシみたいなものなのよリック」

 

Five-seveNが、俺のパニッシャーを指さして笑う。

 

「出来たら、大事に使ってあげてね?」

「……判ってる。武器は命を預ける相手なんだ……雑には扱わない」

「ふふっ、よろしい♪じゃあリック、今週末暇?」

「えっ、何だよ急に」

 

Five-seveNが腕を組んでくる。

俺は抜け出し……あっ、また腕で組んできた。

 

「リック、初任給でしょ?あの殺風景な部屋に色々置こうよ。服とかも選んであげる」

「え、何でお前と」

「当たるようにしてあげたのよ?お礼とかなーい?」

「お前勝手にやったろ」

「えー?アタシの胸、楽しんでたでしょ?」

「ばっ……!!た、たたたた楽しんでねーし!!」

「へー?ふーん?そういう事言っちゃうんだ?」

 

Five-seveNが目を細める。

口の端に小さく舌がチロリと覗く。

 

「……もっとサービスが欲しいって事なのかな」

「なっ、なんでそうなる!?」

 

Five-seveNが段々詰め寄ってくるので後退る。

……すぐ壁際に追い詰められた。

 

「どうする?」

「どうって……?!!?!」

 

Five-seveNの手が俺の腹を沿って胸まで撫でてくる。

くすぐったい。

 

「アタシね、指揮官の為に命張ってアルケミストと殴り合ってる姿見て……あなたの事気に入っちゃった」

「えっ、えぇ……!?」

「ねっ……リックさえ良けれぶぁっ!?!?」

 

Five-seveNの頭にジェリコの杖が落ちた。

痛そう。

 

「いったっ!!何すんのジェリコ!!」

「Five-seveN。ここは公共の場所ですよ。淫行は謹んでください」

「違うわよ!コミュニケーションよ!!」

「昼間からどうかと思います」

「関係ないわ!」

「貴方もですパトリック。男ならしっかり断りなさい」

「とばっちりだ!」

 

結局俺とFive-seveNが正座させられてジェリコにしこたま説教されるのだった。

 

 




Five-seveNとジェリコと言う謎の組み合わせ。
今後もちょくちょく人形達を増やすかも。


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第18話『初任給』

Five-seveNにも言われたが、俺がG&K……というよりリリス指揮官の子飼いの傭兵となってから1ヶ月が経過した。

何だかんだ、散発的に発生する鉄血との戦闘にも慣れてきたところ。

 

……というか俺はショットガンの人形達と並んで戦ってるのどうなんだろう。

交戦距離近くない?

 

「はいこれ。今月のお賃金。無駄遣いしないようにね」

 

リリスに話があると言われ、執務室にやってくるなり手渡された茶封筒。

今時まさかの現金手渡しである。

 

「……すまん」

「謝らないの。りっくんのお陰でウチの損耗も抑えられるようになったんだよ?そのお金は、それで浮いた費用から捻出したものだから」

 

封筒を受け取る。

中身は後で部屋に戻った時に確認しよう。

 

「そう言えば、何を買うか決めてるの?」

「え?……ああ。花束を買おうと、思ってる」

「花束……?」

 

リリスが目を丸くする。

そりゃそうだ、キャラじゃなさ過ぎる。

 

「だ、誰に渡すの!?ステア!?それともFive-seveN!?」

「何でそいつらに渡さなきゃならんのだ。……マイクと、アリサにだよ」

「あ……ごめんなさい」

「気にしなくて良い。前に教えてくれた丘の上に……簡素だけど埋葬した。そこに手向ける花だよ」

 

マイクロチップと、ペアリングしか残らなかった二人に手向ける花。

 

「……ねぇ、供えに行く時は……私も、付いて行って良いかな」

「勿論。家族だからな……」

 

何だかんだ、俺とマイクとアリサでよくつるんでたし、リリスは俺達にお菓子とか振る舞ってくれていた。

二人もリリスの事を慕っていたし、構わないだろう。

 

「初めての外出だし、同伴の人形を着けるけど……構わないよね?」「いや構うわ」

 

待て待て、俺ももう20だぞ。

この辺の地理が判ってないとは言え同伴ってお前。

 

「誰が良い?」

「一人で良い」

「だめ」

「何で!」

「心配なの!」

「良い年こいて同伴こそ嫌だわ!!」

 

結局、10分くらい言い争った。

 

「……大丈夫?」

「大丈夫だ」

「ほんとに?」

「本当に!」

「……信じるから」

 

渋々、と言った体でリリスが俺の端末に地図情報をインストールしてくれている。

 

「サンキュー、リリス。それじゃ」

 

……執務室を後にする。

 

「……さて、行くか」

 

s-13地区の管理市街地区。

ここに花屋はあるのだろうか……。

 

「……アレは、楓月」

 

またドローンが空を飛んでいる。

熱心だね……。

 

「銃の手入れでもしようか」

 

ライオットとパニッシャーも最近使い込んでいたし、そろそろメンテをしなくては。

 

……楓月がじっと俺の事を見ていることに、全く気付いていなかった。

 

 




パトリック君、町へ買い物に行く。

……勿論、1人で行けるわけ無いよね。


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第19話『WA2000と言う女』

グリフィン&クルーガーS-13地区管理市街地。

 

国という体系が失われた今、力のあるPMCやら自治体が区画を管理している。

そんな、ある日。

 

「人、多いなぁ……」

 

活気がある、その一言に尽きる。

リリスの尽力があって治安が良いのだ。

 

だからあれだけ忙しいのか。

 

「さて、花屋花屋……」

 

目当ては二人の墓に備える花。

何が良いだろうか……。

 

「……うん?」

 

路地裏で、言い争いをしている集団を見掛けた。

目に入ってしまったので見逃すのも後味が悪い。

 

……ワインレッドの長い髪をした美女。

恐らく人形だろう。

 

それを男二人が囲んで何やら言い争っている。

 

「だから、興味無いって」

「そう言わずにさ」

「君ならすぐにトップ取れるって」

 

ああ、人形風俗の勧誘か何かだろう。

見てくれが良いからやっぱりそう言うビジネスは一定の需要があるだろう。

 

……そこで、ふとその人形が左手の薬指を抑えていることに気が付いた。

グローブの上から、握り締めていた。

 

「おい」

 

気が付いたら、俺は声を出していた。

 

「な、何だよ」

 

ナンパ野郎が怯む。

人相が悪いのも、そう捨てたものじゃないとこの時は思った。

 

「人形にだって意思はあるんだ。嫌がってんだろ」

「部外者は黙っててくれるか?」

「あン?部外者だァ?関係ないね」

「てんめぇ……」

 

もう一人の男がナイフを抜いた。

判りやすい切り替えで本当に助かる。

 

男がナイフを突き出すので、俺も掌を突き出す。

 

パキッ、と小気味良い音が鳴り……刃が根本から折れた。

 

「エッ……!?」

「手を出したのは、そっちが先だからな」

「ゲファッ!?!!?」

 

軽く拳を突き出してやる。

顔面にめり込み吹っ飛んで行った。

 

「失せな。グリフィンに見つかったらタダじゃ済まないだろ」

「く、くそっ……!!」

 

みっともなく一目散に逃げ出した。

 

「はぁ……怪我は?」

「……呆れた。お人よしにも程があるわね」

 

それが、第一声だった。

……何となく、人間くさいと感じてしまった。

 

プログラムされた言動ではなく、誰かとずっと一緒に居て染み付いたもの、そんな感じの。

 

「うるせぇ。だったらそんな指輪大事に抑えて無くても良いだろうが」

「……目敏いのね」

「昔、知り合いのカップルが似たような事してたから見覚えがあっただけだ」

「ふーん……」

「で?人形さんが裏路地で何やってんだ?見てのとおり治安は悪い……巡察か?」

 

グリフィンでまだ会った事の無い人形が居ただろうか。

 

「いえ、私は隣……S-12の所属よ」

「お隣さん?どうして」

「……それは」

 

言い辛そうに口ごもる。

……妙な動きをしたら速攻で撃てるように、腰のパニッシャーに手を伸ばす。

 

「……旦n、じょ……相棒への、プレゼント選び」

「………………えぇ?」

 

一気に警戒が霧散した。

というか、やっぱり結婚指輪だったのか。

 

「世の中何があるかわかんねーけど、人形とも結婚する物好きな奴が居るんだな……」

「……!もういっぺん言って見なさい。アンタの頭、風穴開けるわよ」

「え……」

 

目の前の女の目の色が変わる。

気が付けば額にマグナムが突きつけられていた。

 

恐ろしく早いクイックドロウ。

そして、その銃は軍のカタログで見たことがある……ウィングマンだ。

 

「わ、悪い……言い過ぎた」

「………………分かれば、良いのよ」

 

そういうと女はウィングマンをしまった。

ほっと息を吐く。

 

「ここまで想われてるなんて、お相手が羨ましいね」

「そう?あんたも、黙ってれば険の強い美丈夫って感じよ」

「そりゃどうも。だが生憎女嫌いなんでね」

「……それなのに私を助けたのね。ますます呆れるわ……」

 

いい加減女、と表すのも面倒になってきた。

 

「俺はパトリック。パトリック・エールシュタイアー。ここのグリフィンで雇われてるんだ。もしかしたら前線でまた会うかもな」

「私の名前は、WA2000よ。そのときはよろしく、パトリック」

 

軽く手を振って、彼女は歩いていった。

 

「……いい女だな」

 

さて、目的が脱線しちまった。

 

 




お隣さんのWA2000……向こうの指揮官は一体どんな借k……どんな指揮官なのだろうか。


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第20話『戦う理由』

パトリックの戦う理由。


目的の花屋で白の百合とカーネーションを購入した。

やっぱりと言うか、良い値段するなぁ。

 

花束に包んでもらい、帰路につく。

 

……と、したところで一番会いたくない奴等に出会ってしまった。

 

「あら、リック」

「こんな所で何してるのかしら、パトリック」

「ゲッ」

 

ウサギ女(Five-seveN)と、ノーセンス女(FAL)……!!

なんでこんな所に……!

 

 

「それ、ユリとカーネーションかしら。似合わないわね」

「ほっとけ」

「しかも白。赤とかにしないの?」

「うわ、出たわね100年前のセンス」

「あら、言うわね」

「悔しくて何も言えないのかしら?」

「言ったところで無意味だから言わないだけよ」

「へぇ……?」

 

なんか口論始めたぞ……逃げるか。

 

「「待ちなさい」」

 

ノールックで二人から同時に襟首掴まれた。

あんだけ口論してた癖に何でそんな息合ってるんだ。

さてはお前らデキてるな?

 

「は、離せ!」

「逃さないわよー。その花、誰に渡すつもり?」

「誰だって良いだろ!?お前にゃ関係ねーよ!」

「ふふっ、慌てちゃって可愛い……気になるのよ」

「そこまでよFive-seveN。白のユリとカーネーションは……献花よ」

 

FALがそう口にした。

意外だった……こいつに、そういう事言う気概というか、ともかくそんな気を使うような喋り方。

 

「あ……リック、その……ごめん」

「良い。気にしてない」

「……あの丘の上に建てた十字架でしょ」

「……ああ」

「大事な人だったのね」

「ああ……」

 

FALとFive-seveNが黙った。

俺もそれに甘んじて押し黙る。

 

……往来のど真ん中で立ち止まって黙ってるもんだからまぁそりゃ目立つわな。

 

「……パトリック、移動しましょう」

「……」

 

俺は、二人の後を無言で着いていった。

 

 

 

 

 

―――――喫茶店。

 

角のボックスシートが丁度空いていたので、そこに二人の対面に座った。

 

「……リック、そういう事なら……アタシの誘い乗ってくれても良かったんじゃない?」

「別に……一人で良い」

「貴女の誘い方が拙かったんじゃない?」

「何ですって?」

「大方、相手の出方を見ないでひっついて誘ったんでしょう」

 

ビンゴである。

 

「んなぁ……!」

「はぁ……そこいらの男なら引っ掛かるでしょうけど、彼みたいなボウヤには逆効果よ」

「おうコラ誰がボウヤだ」

 

ちょっと腹が立ったので言い返し……。

……FALの携帯が鳴る。

 

「はい、もしもし……指揮官?どうし……なんですって」

 

FALの顔色が変わる。

 

「分かったわ、すぐ戻る」

「……どうした?」

「Five-seveN、パトリック……出撃よ。近辺に鉄血のはぐれ部隊……規模は中隊規模……ちょっと大きいわね。撤退中なのかしら。ここからちょっと近いから急いで戻るわよ」

 

付近……確か、貰った地図を端末から呼び出し確認する。

ここから少し先にある廃墟地帯。

そこを通過するらしい。

 

生活圏に近いとは言えろくな装備も無しに瓦礫の山を探索するにはリスクが高いため、未だに警戒網が敷けないでいる、とジェリコから聞いていた。

 

監視の目を潜り抜けるには最適な地帯と言う訳だ。

 

戻っている時間は……ぎりぎりかもしれない。

 

「………………」

 

今日、歩いた街並みを思い出す。

リリスが守ってきた人々。

 

俺は……。

 

端末からリリス直通の回線を開く。

……ワンコールで出た。

早いよ。

 

だが、それが今は助かる。

 

「……仕事の話だ」

『りっ……()()()()()()()()()()()()

 

リリスが切替えてくれる。

 

「緊急に付き報酬は歩合、そちらが決めてくれ。内容は敵勢力進行の遅滞、及び漸減」

『……認可できません』

 

躊躇い。

まぁそうだろうな。

死にに行くようなもんだ。

 

「聞いてくれ、リリス。今日……お前が守ってきた街、見てきたよ」

『………………』

「正直、位置が位置だ……出撃が間に合わないかもしれない。俺にも守らせてくれ」

『……既にS-12からも出ていると通達が来ています。貴方が出る必要はありません』

「リリス」

『……それでも、五分。護身火器しか持たない貴方を派遣させられません』

「……頼む」

『……馬鹿っ!!死んだら一生恨むんだから!!交戦を許可します!!絶対無茶しないで!!』

 

回線を一方的に切られた。

まぁ仕方ないわな。

 

立ちあがり、花束をFALに渡した。

 

「……何のつもり?」

「お前なら信用できる。戻るなら持って行ってくれ」

「私、運び屋じゃないのだけれど」

「時間を稼ぐ。こっち来る時に俺の装備も頼むわ」

「パトリック」

「信じてるぞ」

「ちょっと、リック!」

「Five-seveNも!頼んだぞ!!」

「……殺し文句、ね。死ぬんじゃないわよ」

 

俺は喫茶店を飛び出し、義足のリミッターを解除した。

……普段は出力を抑えて、日常生活に支障をきたさない程度の力に調整している。

 

最初は普通に物ぶっ壊してたけどな。

 

全速力で、俺は現場に駆け出した。

 

 




中隊規模の取り零し部隊。
最前線の基地が取り逃した部隊がS-13に迫っています。

主力部隊の到着まで遅滞戦闘に徹してください。


……S-12指揮官へ。
S-13地区内でのタイタンフォールを認可します。
現地戦闘員の事を、よろしくお願いします。



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第21話『丸腰で始まる前線戦闘』

廃墟での戦闘。
敵は一個中隊。

対するこちらはハンドガン、パニッシャーのみの武装。

目標は遅滞。
大丈夫だ、やれる。



単騎でE.L.I.Dの大群と殺り合うなんて、割としょっちゅうやっていた。

 

と言っても装備が十全だったから出来ていたのだから。

 

「よっ……」

 

廃墟群に到着、少し義足の出力を下げて冷やす。

こまめにやっておかないといざって時にオーバーヒートして、はい終わり。

 

今回は……あの時のラッキーは無い。

 

覚悟は完了。

戦う気概は充分。

 

義手のパワーなら人形の頭かち割るくらい出来る。

 

……そっと身を乗り出して辺りを警戒。

 

 

……居た。

 

目の前に居たのは、ナイフを下げている人形、ブルート。

ジェリコに教わった知識を総動員する。

 

確かヤツは装甲を抜く事に長け、急所を的確に狙うが……本体が脆い。

 

決めた。

まずはアイツから()()()()()

 

こちらの姿を極力晒さず、かつ迅速に敵を処理する。

姿は晒さないが、ある程度の存在感を出し敵の進軍を遅らせなくてはならない。

 

さぁ、プレデター戦と行こうじゃないか。

 

 

素早く、ブルートの集団の背後に着く。

……ブルート部隊の後方には幸い部隊が居ない。

 

数は5。

集団が孤立する瞬間を狙う。

 

……相手も移動するので、こちらも絶えずポイントを変える。

 

物陰から様子を伺い……今ッ!!

 

「シッ……!!」

 

最後尾のブルートの背後から首を掴んで物陰に連れ込む。

抵抗される前に手早く首を折った。

 

「まず1つ」

 

ナイフを抜き取る。

残り4体が動揺した様に辺りを警戒し始める。

 

……1体が、耳に手を当てようとする。

 

ソイツの額に、ナイフを投擲した。

 

「「「!!!」」」

 

 

通信阻止、そして残り3体。

最も近い位置にいたブルートに飛び込み、押し倒してそのまま顔にナイフを突き刺す。

 

背後に迫る刃。

それに対して背面蹴りを繰り出す。

 

ブルートの腹に突き刺さる。

 

迫ってきたもう一体にナイフを投擲。

流石に払って落とした。

 

が、その一瞬で充分。

 

突き出した脚を地面に付け、踏み切る。

 

目の前に迫るブルートへ飛ぶ。

 

渾身の右ストレートが、顔面のバイザーを突き破りそのまま頭を潰す。

 

……背後に転がったブルートが離脱しようとした所の後頭部に、足元のコンクリート片を投げ付ける。

 

クリーンヒットしうつ伏せで倒れた。

……近寄って、そのまま頭部を踏み潰した。

 

「ハァッ……ハァッ……クリア……り、離脱……」

 

ナイフをちょろまかしてまた隠れる。

残骸は隠さない。

存在感を残すために放置する。

 

こうして警戒して進軍が遅れるなら御の字……なのだが。

 

(げっ、後ろの部隊ガードじゃねーか)

 

大きな盾と銃剣付きハンドガンで武装した人形群。

こいつらが居るってことは後方にはマシンガンかライフル部隊が控えている。

 

(きっついなー、もう……)

 

そう言えば昼飯がまだだった……腹が減る。

 

(……帰ったら肉だ肉)

 

合成品とは言えやはり肉を食べたい。

 

さて、思考を切り替えろ。

何とかしてガードを抑えて……いや、抑えなくても良いか?

足が遅いから後方が奇襲された際に戻るのが遅れる可能性がある。

 

少し後方を見に……。

 

ガシャン。

 

「あん……?ゲッ」

 

背後から音がする。

振り返ると……四角形に四本足と言うギャグみたいなシルエットの兵器が……ずらり。

 

全員俺に背負った機銃を向けている。

 

「なんで隊列崩して此処に―――――!?!!」

 

機銃が掃射された。

 

 




ダイナゲートって実際にあんなのの大群居たらモノスゴイ怖いですよね。


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第22話『タイタンフォール、ジョージ』

崩れる計画。
もう後は逃げるしかない。


「ちっくしょぉぉぉぉぉ!」

 

走って逃げる。

後ろからダイナゲートが追いかけて来る。

 

結局、こいつらに捕捉され中隊から追い回されている状況に陥った。

さっきからライフル狙撃も受けている。

 

となるとイェーガーが居る。

 

狙撃される地点から位置を割り出せるかと思うが背後からの追跡が激しい。

 

どうする、どうする……!

 

主力の為にダイナゲートは削っておきたい。

ライフルがメインのS-13基地の戦力だと少々手こずるからだ。

 

射線を切る為にビルの中へ転がり込む。

 

「くっそ、何か、何か手は……」

 

飛行ドローンのスカウトが飛び回る音がしている。

ここが見つかるのも時間の問題か。

 

「撤退戦力なんだから多少は削ってる筈だろ……多くね?」

 

ボヤいても仕方ないと分かっていても愚痴は出る。

 

このまま通り過ぎてくれないかなーと淡い期待をしながら外を見ると、奴ら、出待ちしている。

 

「八方塞がり……ここで救援を待つか」

 

既に充分な時間は稼いだ。

装備さえ来てくれれば正面切って戦えるのだが……。

 

 

瞬間、壁が吹っ飛んだ。

瓦礫が飛んでくるので顔を庇う。

 

「うぇ……」

 

今のは迫撃砲か?

となるとジャガーまで居るのかよ。

 

ほんと何でもありだな。

 

大穴が空いた壁からぞろぞろと鉄血が雪崩込んでくる。

 

離脱だ、離脱する!

……脇腹に一発貰ってしまった。

 

「ぐっ……?!」

 

地面に転がる。

しかも運悪くビルを出た瞬間……つまり、囲まれている。

 

あ、死んだわ。

 

無数の銃口が俺を向いている。

時間がゆっくりと流れるように錯覚する。

 

俺は……目を、閉じ、

 

「用意、撃て」

 

そんな声が聞こえたかと思えば、目の前に居た鉄血兵が吹っ飛んだ。

 

「うおっ……!?榴弾か!?!」

「見つけたにゃ!!動けるかにゃ?」

「えっ」

 

榴弾による混乱に乗じて、金髪の語尾が変な人形が目の前に滑り込んできた。

何とか立ち上がる。

 

「うわっ、脇腹から血が」

「大丈夫だ、浅い……」

「こっちにゃ!」

 

人形が走り出したので着いていく。

そいつは身軽な動きでスイスイと瓦礫の間を縫っていく。

 

「着いたにゃ」

「っ、くぉ……!」

 

バランスを崩して転がる。

やはり、脇腹が痛む。

 

「い、つつ……」

「大丈夫?」

「ああ、何とか……え、アンタさっきの」

「えぇ、さっきぶりね」

 

ワインレッドの髪の美女が、俺を見下ろしていた。

 

「WA2000……」

「全く、無茶するわね……」

「動かないで下さいね」

「え、あぁ……」

 

白い髪に赤いベレー帽の人形が手当してくれていた。

……オイオイオイこいつ下がシースルーで丸見えじゃねーか。

 

「GrG3、蹴散らせたわね」

「はい、準備出来てます」

「IDW、引き続き時間稼ぎ」

「合点にゃ!!」

「さて」

 

WA2000がひと呼吸置いて、通信を始めた。

 

「ジョージ、こっちはOKよ。ええ。()()()()()()()()()()()()()

 

ヘリのローター音。

上空から、何かが来る。

 

『タイタンフォォォォォォォォル!!!!』

 

そんな叫びと共に、

 

「ぬわぁぁぁ!?!!?」

 

天井を突き破って、何か降ってきた。

 

それは、人の形をしていた。

 

『指揮官、救出対象を視認。負傷しています』

「そうか……おい、坊主。立てるか?」

「坊主って……馬鹿にすんなオッサン」

「元気そうだな。あのお嬢さん、心配してたぞ」

「………………」

 

自覚があるので言葉が出ない。

妙な外骨格を纏った男はつづける。

 

「ま、人々を想っての行動か……よくやった。後は任せろ」

 

軽く頭を叩かれて、男は通り過ぎた。

不意に、立ち止まる。

 

「そうそう」

「……あ?」

「嫁が世話になったな」

「じゃあ、アンタ……」

「ああ、俺は」

 

 

ヘルメットのバイザーを上げる。

 

青色の瞳が俺を貫く。

 

 

「S-12地区指揮官、ジョージ・ベルロックだ」

 

 

 




タイタンフォール。
形勢は逆転だ。


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第23話『反撃開始』

さぁ、反撃開始だ。


白髪の人形に手当てしてもらったため、血はとにかく止められた。

 

「リック!」

「パトリック!」

「ん……?」

 

声がしたので首だけそっちに向ける。

FALと57がこちらに向かって走って来ている。

……俺のライオットガンとトムボーイを担いで。

 

これで、戦える。

 

「おお、俺の武kグヴァッ!?!!?」

 

ぶん投げられて二人から殴られた。

何故。

 

「何しやがる!!」

「「うっさい馬鹿!!」」

 

二人してハモる。

うるさい。

 

「喧しいわ!」

「何よ!カッコつけて怪我してるじゃない!」

「ホントセンス無いわね!!」

「何だと……!」

「ヘイ、お嬢さん達!ちょっと良いかな」

 

ジョージと名乗ったおっさんがこっちに戻ってくる。

 

「君達がリリス指揮官の言ってた増援か?」

「……そうよ」

「なるほど、それは心強い」

 

おっさんがFALの手を取ろうとして横から来たWA2000にはたかれた。

 

「ははは、冗談だ……さて、状況を整理しようその為に後退だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

少しして、リリスの寄越した部隊と合流した。

 

「パトリックさん!?怪我を……」

「大丈夫だ、すぐ止まる」

「でも……」

「良いって、触るなステア」

 

やってきた部隊……案の定ステアが居た。

彼女に見られたらそりゃまあうるさい。

 

「感情に突き動かされて独断専行、挙げ句に負傷とは兵士失格ですね、パトリック」

「……」

「何とか言ったらどうです」

「うるせぇよ説教魔」

「パトリック!!」

「まぁまぁ、落ち着け」

 

キレるジェリコ。

それをおっさんが仲裁してくるのが余計に腹が立つ。

 

「リリス指揮官、聞こえてるな?」

『……はい』

 

戦術データリンクにより、俺にもアイツの声は聞こえる。

 

「戦力の集結が完了した。これから残存部隊の撃滅を行う」

『了解しました。こちらからも随時指示を行います。パトリック、貴方はジョージ指揮官の指揮下へ』

「……イエスマム」

「よろしく頼むぜ坊主。リリス指揮官からは聞いてる」

「そうかい……」

 

何を聞いてるのか知らないが、アホな事はしないだろう。

何だかんだやる事はやってそうな奴だし。

 

「それじゃあ聞いてくれ。数度の遭遇戦で奴らの残存数は頭とその周辺の量産型のみ」

 

周辺の量産型の防御が厚く、通常の打撃では打ち破るのは難しい。

リリスからそんな補足が飛んできた。

 

「そのとおり、()()()打撃では難しい」

「……策があるんですね?」

 

ジェリコから期待の籠もった目線が飛ぶ。

おっさんは自信満々に頷いて、続けた。

 

「俺と坊主が敵中枢の頭上から急襲、撹乱し人形部隊が漸減。そのスキに頭を叩く」

 

……嘘だろオイ。

 

 

 

 




人間二人で敵中枢に急襲って頭おかしいんじゃねーのこいつ。


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第24話『ピースキーパー』

俺は今、壁を走っている。

 

「う、おおおおお!!!」

 

先陣を切って()()()()()()()()を追いかけている。

 

「坊主!着いてきてるか!?」

「舐めるなァ!!」

 

オッサンの身に着けている外骨格。

アレが人間離れした起動を実現している。

 

腕から出すグラップルワイヤー、腰に装着されたジャンプキットを駆使して三次元的な挙動を取る。

 

確かに、これならたかだかAI程度なら翻弄できる。

 

それを指揮官がやることではないがな!!

 

「見えた……!中枢だ!上がるぞ!」

 

オッサンが上に向けてワイヤーを射出する。

俺も近くの窓に足を掛けて思いっ切り跳躍した。

 

低めの階層のビルの屋上にたどり着いた。

 

「着いてこれるか。正規軍も随分と優秀な兵士育てたんだな」

「はぁ……はぁ……褒めたって何も出ねーぞ」

「そいつは困る。やる気出してもらわないといけないからな」

 

オッサンが身を乗り出して下を覗き込む。

俺も見ておくか。

 

……眼下には、迫撃砲系のメカと数体の鉄血人形、

 

中心に居るちょっと豪華な奴がターゲットか。

 

「降りなくても、こっから狙撃すりゃ良いんじゃね?」

「俺の持ってる武器じゃ射程に難があるからな」

 

オッサンが俺に見せたのは、アサルトライフル・フラットラインとショットガン・ピースキーパー。

 

「そのフラットライン、アンビルレシーバーは?」

「付いてねぇよ。それ、最新のポップアップだろ?買えねーよそんなもん」

「んだよそれ」

「で、坊主の銃は?」

 

俺は無言でパニッシャーとライオットを見せた。

 

「似たようなもんじゃねぇか」

「うっせぇ。俺は接近戦仕様なんだ」

「じゃあ、大将首は譲ってやるよ」

「あぁ?」

「お前の武器……その剣なら威力も充分だろ。高度からの落下と剣戟を合わせて一撃で仕留められる」

 

なるほど。

……こっから飛び降りるのかー。

 

「何だ?ビビったか?」

「抜かせ。やってやろうじゃねぇか」

「しくじるなよ」

「言ってろ。これよりやべぇ状況は経験済みだ」

「行くぞ」

 

二人同時に、跳んだ。

 

……凡そ25mの自由落下。

言うほど自由じゃないけどな。

 

奴らが上を向くが、遅いッ!!

 

「オラァァァァァッ!!!」

 

トムボーイが爆炎を吹かし加速する。

勢いを殺さず……振り下ろす。

 

剣先が地面に当たり、衝撃波で吹き飛ぶ。

 

「うおっ……!?」

 

衝撃波で一瞬体が浮き……地面を転がった。

何とか体勢を立て直し起き上がる。

 

「親玉は……?!」

 

衝撃波でバラバラになりながら吹っ飛んだ人形が見えた。

……その後ろで、こちらに銃を向けている個体が居るが。

 

「やっべっ!!」

 

トムボーイが吹っ飛んだので急いでライオットを構えて撃つ。

 

……一人が少し大勢を崩した程度。

 

そいつ等の真横を、吐き出されたヘビーアモの嵐が通過した。

 

「お前さん、射撃はそれ程得意じゃないみたいだな」

「……」

「ショットガン使うのは確かに理に適ってる……が、相性自体良くなさそうだな」

 

オッサンが俺にピースキーパーを差し出す。

 

「……は?」

「こいつはウィンチェスターみたいなもんでな。片手でコッキングが出来る。どうだ?使ってみないか」

「い、要らねぇよ」

「そう言うな。その代わり、そっちのベネリは……そうだな、嬢ちゃんに言ってIOPに渡すと良い」

 

……ピースキーパーを押し付けられた。

割と手に馴染む。

悔しいが言ってる事は正しい。

 

「さて、残党処理といこうか」

 

 




パトリックは、ピースキーパーを手に入れた。


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第25話『なんとか収束』

リリスの部隊も到着し、残党処理に当たっているらしい。

……と、本日の副官であるらしいDSRから聞いた。

 

「……なぁ、何でリリスが直接指示くれないんだ」

『自分で考えたらどうかしら。あと、私も怒ってるわよ……帰ってきたら覚悟しなさい』

 

割とドスの効いた声音でそんな事言われた。

怖っ……。

 

「リサ、そっちは?OK、そのまま頼む」

 

オッサンも指示を飛ばしている。

部下に全幅の信頼を置いているのか、全体的に雑な気がする。

後方に構えて逐次状況を確認しながら細かい指揮をするリリスとは対象的だった。

 

まさに臨機応変タイプ。

 

「さて、坊主。ほぼ掃討は終わりだ。よく頑張ったな」

「……ガキ扱いすんな。成人済だぞ俺は」

「無鉄砲は若さの特権さ。……ま、あとでちゃんと謝りなよ」

「何で俺が……」

「そういうところが、まだまだ子供なのさ。女の子は大事にしな」

「あ、オッサンお前っ……」

「俺の名前はジョージだ。またな、()()()()()。風邪引くなよ」

 

オッサンは合流した自分の部隊と一緒に帰っていった。

……途中露出の凄まじい人形に飛び付かれたりしていたが。

 

「……調子狂うな畜生」

 

ふと、WA2000がこちらに振り返り……。

控え目に手を振ってきた。

 

「……」

 

何となく負けた気になりそっぽを向いた。

その場に座り込む。

 

「なんか、疲れた……腹減ったし」

「リック!」

 

呼ばれたので振り返る。

57と、FAL、ジェリコに……見慣れない人形が二人。

手持ちの武器はそれぞれARとSMGだろうか。

 

「大丈夫ですか?」

 

グレーの髪のベレーを被った方のSMGが手を差し伸べてくれる。

俺はそれを軽く払ってそのまま立つ。

 

「ちょっと休憩してただけだ」

「そう、ですか……」

「失礼いたします」

「う、お、!?」

 

ARの方……待て待て何でメイド服なんて着てんだコイツ……に腕を引っ張られる。

その拍子に脇腹が痛んだ。

アドレナリンが切れてきたのか、だんだん痛覚が戻ってくる。

 

「被弾されていますね……応急処置はされてますが」

「い、いてぇ!離せ!」

「ご主人様から、貴方を回収する様にとご命令されておりますので。大人しく着いてきて頂けますか」

「分かったから離せ!」

 

と言うか誰だお前ら。

 

「申し遅れました。私はご主人様のメイド、GrG36と申します」

「初めまして、G36式コンパクトです」

「……コンパクト?」

 

G36cと名乗った人形の明らかにコンパクトじゃない所を思わず凝視する。

でけぇ。

 

……背中を蹴られた。

 

「何しやがる!」

「サイテー」

「男として恥ずかしくないの?」

「帰ったらお説教です」

 

それぞれ57、FAL、ジェリコだ。

 

「男なら正常な反応だろこれは」

「パトリック様」

「あ……ヒェゥ」

「妹に手を出されるのでしたら……タダではおきませんよ」

 

メイドさんにめちゃくちゃ怖い目で睨まれた。

 

「お姉さん……」

「……ハッ!?さ、さぁ皆様、帰投しますよ!」

 

正直、帰りたくない。

 

 




これにて一件落着……?
G36姉妹が加入しました。


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第26話『命令違反』

基地に帰還して……待っていたのはビンタだった。

 

「………………」

 

残当だ、と言った風な表情をする戦闘部隊の面々を尻目に……意外と威力のあった一撃を大人しく受ける。

正直、撃たれた脇腹より痛かった。

 

「命令違反に、武力介入。今回の一件は重いですよ」

「……承知の上だ」

「一応、弁解を聞きます」

「……放って置けなかった」

「そうですか。……皆、ごめんなさい。DSRも……少し、席を外して」

 

全員、その一言で執務室から出て行った。

この部屋には、俺とリリスだけが残された。

 

「……馬鹿」

 

ぽつり、とリリスが漏らす。

 

「本ッ当に、馬鹿!死んじゃうかと思ったのに!!どうしてあんな事するの!?マイク君もアリサちゃんも死んじゃったんだよ!?これ以上私に、家族を喪わせないでッ……!!!」

 

もう一度、ガチビンタ。

今度は、とても痛かった。

 

「……じっとしてられなかった」

「知ってる……マイク君も同じ事言ってた」

「ごめん」

「許さない」

「……そうか」

 

自分の事を心配してくれる人が居る。

それが分かってしまったから、自分の行いを悔いる。

 

「……りっ君がした事は、軍人としては褒められないよ。でも……人として、その正義感は大切にして欲しいと思ってる」

 

リリスが、俺を抱きしめる。

 

「やめてくれ……正義感なんて、無い」

 

ただの衝動。

そこに正義なんてないし……何より。

 

そして……あの時、鉄血のアルケミストとやり合った時の事を思い出す。

あの高揚……化け物を狩るだけでは満たされなかった、あの気持ち。

 

もう一度、味わいたかった。

 

「ううん。多くの人の命を、結果的にとは言え救ってるの……それは、誇っても良いわ」

「けど」

「りっ君」

 

そっと、両頬をリリスが包み込む。

彼女はふっと笑った。

 

「いいんだよ」

「……くそっ、調子狂うな」

「ふふっ、それじゃあ謹慎一週間ね」

「エッ」

「当たり前でしょ?ルール破ったんだから」

「そうだけど……」

「あ、当然武装解除だからね。義肢は没収」

「は?!嘘だろ!?」

 

身動き出来ずに一週間とか何考えてる?!

 

「大丈夫よ……その間のお世話は、私がしてあげるから」

「そ、そういう問題じゃ……せめて義肢は許してくれ……」

「だーめ」

「お、横暴だ!」

「私がこの基地の最高責任者よ!」

「勘弁してくれ!!」

 

結局、この遣り取りはジェリコが騒いでるのにブチ切れて俺達を正座させて説教を始めるまで続くのだった。

 

「聞いているのですかパトリック!」

「……あー、その、何だ……心配かけて、すまん」

「なっ……誰も心配なんて……わ、分かればよろしいのです」

「……りっ君、こういう子好きなの?」

「ばっ、ちげーし!?誰がこんな説教魔人なんて!」

「パトリック!聞き捨てなりませんね!」

「ゲッ!何でだよ!!」

 

 

 




ライオットガンをリリスに預けたのだった。
はて、どうなる事やら……。

……ところでさ、そろそろ正座戻していい?ダメ?そんなぁ。


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第27話『違反から始まる謹慎生活』

パトリック謹慎1日目。

……傭兵なのに謹慎って何なんだろうか。
まぁ、今はグリフィンの保護下で働かせてもらってるという事でひとつ。


朝起きたら、とても鮮やかな、真紅の瞳が目の前にあった。

 

「おはよう、りっくん」

「う、わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!??!!!?!」

 

朝から、盛大に悲鳴を上げたのだった。

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

「はい、りっくん。挨拶は?」

「お、オハヨウゴザイマス……」

「よろしい。それじゃ、朝ごはん行こうか」

「お、おぉう……」

 

改めて現状を整理しよう。

朝起きたら同じベッドにリリスが寝ていた。

 

俺の格好はいつものパンツにタンクトップ……義肢は、着いていた。

 

リリスの格好は、どこから出したのかワイシャツ一枚だけ。

というかそのサイズ確実に俺のである。

一度も袖を通してないけど。

 

「あのー、リリス、さん?何で俺の部屋に?」

「……?」

 

可愛らしく小首を傾げてらっしゃる。

いや君俺より年上だよね。

 

「一応その、義手とか取り上げなかったのは助かる……生活すら、出来ないから」

「私がお世話するって言ったのに最後までゴネたよね」

「そりゃ……みっともないから」

「……かわいいね、りっくん」

「はぁ!?」

 

何でそんな言葉が出てくるんだ。

面倒なので普段着に袖を通す。

……ぶっちゃけ謹慎なので監視無しで外には出られないし仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。

 

……リリスが俺の腕に絡みついてきた。

肉付きが薄く、胸も悲しいほど真っ平らな彼女だが……女性特有の甘い香りと柔らかさは欠片も損なわれていない。

 

「ちょっ……」

「かわいいね、本当に……無理しちゃって」

「それは……」

「大変だったよね、だから、ここに居る間は……私に甘えても良いんだよ」

「………………」

 

俺は、黙って……なるべく、優しくリリスを押した。

 

「……帰らないといけない」

「どうして?」

「どうしてって……俺は正規軍で、リリスはグリフィンの指揮官だ」

「どうして帰らないとって思っちゃったの?……ねぇ、りっくんは、私の家族でしょう?」

「そう、だけどさ」

 

押した腕を、リリスが両手で抱きしめる。

 

「家族なら、良いんだよ」

「……俺は」

「おはようございます!パトリックさん!朝食のお時間です……よ……?」

 

ノックもそこそこに、部屋の扉が開かれた。

思わず二人で固まった。

 

「す、ステア……」

「あ、あっ、あの、指揮官さんと、パトリックさ、ん?えっ、これは、えーっと、あのあのあのあの」

 

傍から見たらまぁそう言うことをおっ始めようとしてる様にも見えなくもない。

 

「ステア、今日は行かなくても良いと伝えた筈ですが」

 

リリスからゾットするほど冷たい声が聞こえた。

えぇ……そんな状態見られて仮面被るのか君は。

 

「え、えと、あの……パトリックさんは、手足が無くなって不便かなと思いまして……うぅ……」

「リリス、そこまでにしといてやれって……」

 

流石に可愛そうなので止めた。

 

「あー、ステア?別にこう……お前が思ってるような事なんて無いから」

「思ってるような事って?」

 

リリス?そろそろマジでやめてあげて?

 

「あう、あうあうあうあう……きゅう」

 

ステアが、顔を真っ赤にしてぶっ倒れた。

 

「あっ、ステア!?」

「何事ですか!?……パトリック、と、指揮官……何故、それに、その格好は」

「ゲッ、ジェリコ……!?」

「……まさか!」

「待て、誤解だ」

「問答無用ッ!!」

「ギャーっ!!!!」

 

 

 




だんだんジェリコがオチ要因になってきた気がする(


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第28話『最前線のお隣さん』

謹慎四日目。
ジェリコに珍しく頼み事をする。


「……『ピースキーパー』に関する技術読本の要点を纏めて欲しい、ですか」

 

謹慎生活に飽き飽きしていた頃。

食堂でたまたまあったジェリコにふと思い付いた要望を投げかけた。

 

「そうなんだ」

「まず第一に、技術と言うのは要点なんてものはありません」

 

対面に居たジェリコが手にしていたフォークを置いた。

 

「資料をまとめて持ってきてくれるだけでもいいんだ」

 

随伴が居ないと自由に出歩けないので、資料室にも行けない。

と言うか未だに資料室に入れてもらえない……。

 

「第二に、何故私にそれを頼むのです。それこそIWS2000が貴方の世話をしたがっています。彼女に頼めば良いじゃないですか」

「何故って……だって、ジェリコの教え方は分かりやすいんだ」

「……は?」

 

ジェリコの教育はどちらかと言うとスパルタ寄りである。

だが、厳しい故に分からないを放置しない。

しっかりと、疑問を一つずつ潰し、親身になって教えてくれる。

 

……良い教育を受けた覚えが無い身からすると、ジェリコの教育は俺にとってとても貴重だ。

 

実際、その教育のお陰でブルートの小隊を無手で撃破している。

 

「頼むなら、俺はジェリコが良い」

「そ、それは……嬉しい、ですけど……」

「……?」

 

ジェリコが顔を赤らめてゴニョゴニョと呟いている。

……食器のトレーを手に取り勢い良く立ち上がる。

 

「……良いでしょう。私は厳しいですよ?覚悟の準備をしておいて下さいね」

「???俺はいつも覚悟完了だが」

「それでは!」

 

そそくさと歩き去って行った。

何となく上機嫌そうなのは目の錯覚だろうか。

 

「こんにちはリック〜今日もいっぱい食べてるね」

 

そんなジェリコの去った席に、ドカッ!!と特大サイズのハンバーガーの乗った皿が置かれた。

視線を上げると、特盛の胸部装甲にふわふわと笑う顔が乗っていた。

 

「SPAS」

「やっぱり男の子はたくさん食べないとね」

 

SPAS-12。

カテゴリーはショットガンタイプの戦術人形。

部隊の壁となり強敵を食い止める役割をする。

 

……なぜか俺はグリフィンの戦術に則るとそのショットガン人形のポジションに置かれる。

 

まぁ確かに主武装がブレードにショットガンならそうなるけど。

 

そのため、よく最前線で背中を預けるのがこのSPAS-12なのだ。

本人の暴力的なボディラインと裏腹にどことなくマイペースで、食に関しての話でウマが合うので割と気楽に接せる貴重な相手の一人だ。

 

「お前にゃ負けるよ」

「そう?そのパスタ五人前でしょ?」

 

フォークで弄んでいたカルボナーラをいい加減口に入れた。

 

「まぁ、俺も燃費悪いし」

 

義肢を稼働させるのに生体電流だかなんだかを使うから、激動後は腹が異様に減る。

 

「わかるよ、その気持ち。私も戦闘するとお腹ペコペコなの〜」

「ふーん……あ、今度さ、前に行ってたファストフード店教えてくれよ」

「え?いいよ〜じゃあ一緒に行こうね」

「OK」

「パトリック·エールシュタイアー!いつまで食べているのですか!いい加減戻りますよ!」

「ゲェーッ!?G36!まだ半分しか食ってない!」

「喋ってないで早く食べなさい、行儀が悪いですよ」

「はいはい……」

「はいは一回!」

 

G36に急かされて飯を掻き込むのだった。

 

 

 




ちなみにピースキーパーは、ゲーム『タイタンフォール2』の30年後が舞台である『Apex Legends』と言うゲームに登場する架空のショットガンです。

勘違いされがちですがTF2には存在しない武器になります。


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第29話『思い出す味』

今日はそういう日らしいので。


トリガーを引く。

散弾が発射され、反動が来る。

 

2射目を撃とうとして……。

 

「コッキングしなさい、パトリック」

「……おっと」

 

くるっ、とピースキーパーを一回転。

かちっ、と音がする。

 

……杖で後頭部をドつかれた。

 

「いってっ!!」

「スピンコックはするなと言ったはずです!」

「楽なんだよ!こっちのが片手空くから」

 

俺の横に立っていたジェリコがため息を吐く。

 

「……確かに、貴方は技工剣を使いますし片手が空く方が良いかもしれません」

「だろ?」

「で、す、が!基本を押さえなくては応用はできません。あと弾は12発あります。打ち切る前に基本姿勢を覚えなさい!」

「わーったよ……ったく」

 

しぶしぶとピースキーパーを両手で構える。

もう一度、的を狙う。

 

教えられた通り、息を吐いて、トリガーを引く。

 

星型の弾痕が、建てられた的に刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァイ、リック。精が出るわね」

 

射撃場から出てすぐ。

57にタオルを投げられた。

 

……思っていたより緊張していたらしい。

額から汗が流れていた。

 

「……さんきゅ、57」

「57も訓練ですか?」

「違うわ、ジェリコ。様子を見に来ただけよ」

 

ばちっ、とウィンクされた。

 

「ま、元気みたいね」

「それなりに……部屋から出る時に監視されるのは正直うんざりだけど」

「貴方の責任なんですから。甘んじて受け止めなさい」

「へいへい……気がちっとも休まらねぇぜ……」

「あはは……じゃあ差し入れあげる」

 

57がポケットから縦長の箱を取り出した。

 

「ん?ああ、懐かしいポッ〇ーか」

「伏せるなら言わなくていいのに」

「なんか、言っとかないといけない気がして」

 

棒状のクッキーにチョコレートがコーティングしてある菓子。

見るのは孤児院に居た頃以来だ。

 

……正規軍の時にそう言えばマイクとアリサが食ってたな。

 

「……リック?どうしたの?」

「いや、大丈夫だ……」

「なら、良いけど」

「まぁ、ちょっと昔をな……悪いけど、一人にさせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――自室。

 

結局、一人になれるって言ったらここに居るしかいない。

自室のベッドに腰かけて、菓子の封を開いた。

一本引き抜く。

 

「……甘ぇ」

 

ジャンクな感じがする。

 

……部屋のドアに、控えめにノックがされた。

 

「……ん?」

『パトリックさん、今……大丈夫でしょうか』

「ステアか……今は、やめてくれ」

『……何かあったんですか?』

「何でもない……!」

「嘘ですよ」

「勝手に入ってくんなよ!」

 

普通にドア開けて入ってきやがった。

まぁ鍵かけてなかったからな。

 

ステアが俺に詰め寄ってくる。

 

「パトリックさん、思い詰めてるなら……話してください」

「思い詰めてるって言うか……まぁ、これだよ」

「……お菓子、ですか」

「ああ……ちょっと、昔思い出して……って、何でお前にそんな事話してるんだろ。食うか?」

「え、あー……それじゃあ、頂きます」

 

……ステアが来てくれて、良かったのかもしれない。

少しだけ、気が晴れたのかも。

 

 




何だかんだ、人形達に絆されている。


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第30話『桃色スペシャリスト』

パトリック君に新装備フラグです。


謹慎が解けたある日。

 

「体動かせるって最高だな……」

 

さっきまで振り回していたトムボーイとピースキーパーを壁に立てかける。

首に巻かれたタオルで汗を拭った。

 

何となく取り回しの確認を行っていたらいつの間にか夢中になっていたらしい。

 

格好はタンクトップにジャージ。

義肢の調子も良好だ。

 

「……あら、自主トレ?精が出るわね」

 

ふと、背後から声をかけられた。

この声は、確か。 

 

「ネゲヴか」

「こんにちは、リック」

 

桃色の髪をした、白を基調とする服に身を包んだ人形。

何となくジェリコの服に似ている気がする。

 

この基地唯一のマシンガンを担当する戦術人形だ。

 

「どうした、こっちにジェリコは居ないぞ」

「四六時中ジェリコに用があるわけじゃないわよ」

「そうか」

「むっ、何よその態度」

「え」

 

ネゲヴの事を表すなら……気分屋と言う言葉が当てはまる。

さっきまでニコニコしていたと思ったら急に激昂することもある。

 

基本的には良いやつなんだけど。

 

「用があるのはアンタよ、甘ちゃん」

「誰が甘ちゃんだコラ」

「アンタ以外誰が居るっての」

「あんだと?」

「あら、やる気?良いわよ、今日こそその生意気な根性叩き直してやるわ」

「やれるもんならやってみろよ桃色!」

 

まぁ、なんと言うか……売り言葉に買い言葉。

喧嘩なんてしょっちゅうである。

 

本人的にはジェリコが俺に指導しているのが気に入らないらしい。

 

一触即発。

拳がどちらかから出る瞬間。

 

「ネゲヴさん!喧嘩してる場合じゃないですよ!!」

「イテッ!?」

 

ドローンが飛んできて、頭に激突した。

こいつは、楓月……。

 

「TAC-50!」

「こんにちは、パトリックさん。指揮官が呼んでましたよ」

「……リリスが?分かった」

 

ふと、ネゲヴを見るとバツが悪そうな顔をしていた。

 

「……ごめん、パトリック。ちょっと気が立ってたみたい」

「そうか……まぁ、その、何だ。そういう時もあるさ。ほら、やるよポッキー」

「え、ありが……って!これ食べかけじゃない!!」

 

さて、執務室に行くか……。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

執務室にて。

本日の副官はFALらしい。

 

「指揮官。パトリックが来ました」

「りっく……!こほん、パトリック。仕事です」

 

リリスが一瞬だけぱあっと笑顔になった気がしたけどすぐに表情を引き締めた。

隣に立つFALも少し呆れていた。

 

「久しぶりの仕事か……腕が鳴る」

「今回は強奪された物資の奪還になります」

「物資の奪還?って事は追撃戦か」

「ええ。IOPが開発していた装備が奪われたのでその奪還依頼がこちらに回ってきました」

「へぇ……ちなみに何作ったんだ?」

「近接戦装備、とだけ」

「ショットガンかな。オーケイ、メンバーは?」

 

戦術人形メーカーが作る接近戦用装備なんて恐らく外骨格とかショットガンとかになるだろうな。

まさかトムボーイみたいな剣作るわけ無いだろうし。

 

「メンバーは機動力を重視してSMGとARを随伴させます」

「三人……少数精鋭って事か」

 

この基地にSMGは一人しかいない。

G36Cが来ることになるだろう。

 

AR枠は……。

 

「FALか?」

「いいえ、G36です」

「……マジ?」

 

大丈夫かな……俺。

背中から撃たれたりしない?これ。

 

 




MG、ネゲヴ登場。
何となくパトリックとは喧嘩友達みたいな関係です。


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幕間 S-14地区基地

パトリックの居る、隣の基地の話。


 

とある基地。

廊下や室内には未だ乾いたオイルや血がこびり付いている。

 

「……ん?」

 

そんな中、白い髪の女が目を覚ます。

 

「そうか、私は……破壊されたんだな?」

 

女……鉄血の、アルケミストは立ち上がる。

たった今、データのダウンロードが完了しバックアップから再生されたのだ。

 

「不思議な人間だったな」

 

機械の手足を持ち、アルケミストと対等に渡り合った男。

名前は、なんと言っていただろうか。

 

「次は、負けんぞ……」

「アルケミスト、いるか?」

「ん?」

 

ひょこ、と開けっ放しのドアから、黒い頭が出てきた。

……引き締まった美麗な肉体をしているが、右腕だけ無骨で巨大な籠手状のユニットになっている。

 

「エクスキューショナーか」

「おお、居た居た。殺られたって聞いたから様子見に来た」

「代理人からか」

「ついでだけどな。俺もちょっとこいつ試し振りしたくて」

 

エクスキューショナーと呼ばれた人形が手にしていた獲物。

鞘に収められた一振りの細身の剣だ。

 

「意外だな。もう少しデカい武器の方が好みだと思ってた」

「こいつなー。ハンターがくれたんだけどさ、軽いんだ」

 

エクスキューショナーが鞘から剣を抜く。

……片刃の、反りのある剣。

たしか、カタナと言うものだったか。

 

「ほう……表面に特殊なコーティングがされているな。刃の切れ味はそのまま刀身の強度が上げられている」

 

血のように赤い刀身が不気味さを醸し出す。

 

「それをどこで?」

「ハンターが奪った物資の中に入ってたんだってさ」

「何故IOPがそんな物を……」

「さぁな。案外剣で戦う奴がいるのかも」

「まさか………………………いや?」

 

アルケミストがにやりと微笑む。

 

「居たな。S-13地区とやらに」

「……!へぇ?このご時世に?面白そうだな」

「私と対等にやり合った奴だ。満足出来るだろう」

「そいつ、名前は?」

「さぁ」

「さぁってオイオイ……」

「そんな奴、見れば分かるだろう」

「……確かに」

 

そこで納得するのか。

エクスキューショナーが思い出したように口を開く。

 

「そういや人形が二体逃げ出したんだった」

「逃げられたのか」

「面倒な事にな。さっさと壊しときゃ良かったのによ」

「そう言うな。グリフィンの人形どもは反応が面白いからな……特に、あの義足の」

「アイツか?いっつもビクビクしてた」

「それをハンターは追ってるんだな?」

「ああ。俺も加わるつもりだ」

 

エクスキューショナーとハンターが揃えば満身創痍の人形二体程度直ぐにスクラップになるだろう。

 

ただし、

 

「グリフィンには注意しろ。奴らはまだ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「わーってるよ」

「なら良い。行ってこい。私はまだ調整がある」

「あいよ」

 

エクスキューショナーは出て行った。

 

「ふむ……あの男、出てくれば面白いが」

 

 

 




以前、残党と称してほぼ無傷な鉄血が襲ってきた理由。

すでに、ここは陥落していたから。


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第31話『おっかない同行者』

三人という少人数チームで出撃。
気心が知れたメンバーなら良かったのだけれど……。


……出撃から三時間。

飛行場を出て暫くした時。

 

今回の俺の装備はトムボーイ、Five-seveN……パニッシャー、そしてピースキーパー。

 

剣やピースキーパーを背負うため、バックパックの類は邪魔になるので基本的に腰回りに荷物が集中する。

唐突な説明な気がしないでもない。

 

……何でこんな逃避気味な思考になってるかって?

 

目の前でおっかないメイドさんが俺を睨んでるからだよ。

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

無言。

睨むG36、気にしないように振る舞う俺、オロオロするG36c。

 

ぶっちゃけ終始こんな状態である。

 

正直居心地の悪さMAXIMUM。

 

何でこのメイドさん俺にこんな敵意抱いてるの?

と言うか先週あたりのアレが初対面だったよね?

 

えっ、俺なにかした?

 

G36cの方を見ても困り顔で笑うだけだった。

うーんかわいい。

 

いやそうじゃなくて。

 

「なぁ……」

「少し先行します。二人は一時休息を」

 

G36がそれだけ残して去ってしまった。

取り残される俺とG36c。

 

「……えっと、G36c、さん?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「呼び捨てで構いませんわ。……お姉さんの事ですね」

「うぐ、まぁ……わかるか」

 

G36cが困ったように微笑む。

 

「理由は……詳しく分かりません。ただ……」

「ただ?」

「私達は、指揮官が笑っている所を見たことが無いんですよね」

「何だそれ」

 

確かにアイツが人形に向かって笑ってる所は見たことが無いけど。

それはそんなに気にする事なのだろうか。

 

……円滑なコミュニケーション、と言う点ではリリスの性格上得意ではなさそうだが。

 

「……二人で内緒話ですか。いつの間にか仲良くなったみたいですね」

「お姉さん……おかえりなさい」

「この先の森林地帯に何かが通った痕跡が残っていました」

「痕跡……?」

 

野生動物が通った痕だったり、稀に木に刻まれていたりする時がある。

そういった類のものだろうか。

 

「樹木に何か鋭利なもので傷付けたような痕が無数にありました」

「……鋭利なもの」

 

イヤに漠然としている。

 

「それは、剣か?」

「……そうですね。切り傷も荒く、中には歯が立っていない痕跡もありましたが」

「剣を使う敵、か……」

 

……脳裏に、アルケミストの影が映る。

少し、身震いした。

 

また、アイツと戦えるのだろうか。

また、アレと命の削り合いが出来るのだろうか。

 

「……リックさん?少し、怖い顔してますわよ……?」

「……顔が怖いって言われるのは慣れっこだ」

 

G36cに顔を覗き込まれたので、誤魔化す。

 

……その時、木々の間から……甲高い悲鳴が木霊した。

 

「……行くぞ!」

 

 




響く悲鳴。
森林地帯に刻まれた痕跡は、誰のものか。


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第32話『ヒーロー』

響く悲鳴。

悲鳴は嫌いだ。
聞いてしまえばいてもたっても居られなくなる。

助けに行かなくちゃいけないと、思ってしまうから。


「はっ……はっ……た、たすけ、いや……!」

「頑張って下さい!まだ、まだ助かります!この森を抜ければS-13エリアです……!!」

 

そんな声が聞こえる。

声の主と俺達まで少し距離が離れている。

 

「パトリック·エールシュタイアー!私達の任務は物資の奪還です!ここで目立つ行動は慎みなさい!」

「アレはお前らの仲間じゃないのか!?」

「撒き餌の可能性が十二分にあるのが何故わからないのですか!人形(わたしたち)はバックアップのある、換えの効く消耗品なのですよ!」

 

その言い方に、無性に腹がたった。

元々、俺は人形の部隊に組み込まれていた人間だ。

 

アイツらと肩並べて戦って、一緒に笑ったり泣いたりした。

 

俺にとって人形は戦友だ。

 

決して、

 

「G36」

「……何でしょう」

「金輪際、俺の前で人形を消耗品なんて言うんじゃねぇ。首を跳ね飛ばすぞ」

「は……?」

 

訝しむG36を尻目に俺は駆け出した。

 

「G36c!お前らはお前らだけで行ってろ!俺は救援に向かう!」

「リックさん!?」

「見捨てるなんて、俺には出来ねぇ!!」

「パトリック·エールシュタイアー!!………………理解不能です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここから逃げ出そう、そう思ったのはつい最近だ。

基地が鉄血の襲撃に遭い、私は破壊された。

 

バックアップから復帰してすぐ目に入ったのが……。

 

「む、バックアップか……こんな所に隠していたとはな」

 

仲間の残骸を捨てていたアルケミストだった。

 

それからの日々、私はひたすら実験と称し心身共に追い詰められた。

……今着いている脚だって、本当は私の脚じゃない。

 

アイツに破壊された、仲間の脚。

 

いっそ破壊してくれたら楽なのに、アレはそうせず私を殺さないよう最新の注意を払いながら拷問していた。

 

先に、メンタルの方が壊れてしまう……。

そう思っていた矢先の出来事だった。

 

「貴女は、この基地の生き残りですね!?逃げますよ!!」

 

黒髪の小柄な戦術人形が、私の目の前に現れた。

 

それから何とか基地から脱出し……今、隣の地区の基地へ救援を求めて走っていたのだが……。

 

「どうしたどうしたァ!ネズミ共!!もっと走らねぇと真っ二つだぞ!!」

 

鉄血のハイエンド、エクスキューショナーとハンターが、追手として来ていた。

 

「っ!危ない!!」

 

黒髪の人形が私を倒し、その前に立ちはだかり、

 

「喰らえッ!!」

「……桜逆像!!」

 

花びらが散るようなエネルギーの奔流。

 

私達を、シールドが包み込んだ。

 

「うおっ……しゃらくせぇ!!」

 

フォースフィールドと呼ばれるシールドを張ることの出来る人形の事は知っていた。

しかし、このシールドはそうでも無いのか……エクスキューショナーの一太刀ごとに亀裂が生まれていた。

 

「どうしたどうしたァ!壊れちまうぞ!」

「ぐ、うぅ……っ!すみません、スコーチさん……!!」

「くたばれ!ガラクタ共!」

 

無惨にも、シールドは砕け散った。

エクスキューショナーの剣が、黒髪の人形に……。

 

「やめ、てっ……!!」

 

私は叫ぶ事しかできない。

私を助けてくれてこの子を、誰か、助けて……………!!

 

 

 

 

 

 

その時、バイクの排気音の様な轟音が鳴り響いた。

 

「新手か……!?」

「うおおおおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

轟音を放つ剣を振り被り、紅蓮の炎を撒き散らしながら……青年が、飛び込んできた。

 

一撃が、エクスキューショナーをふっ飛ばす。

 

黒髪の人形が、その場にへたり込んだ。

私は、その子を庇うように抱き締めて……赤髪の青年に言葉を投げた。

 

「だ、誰っ……!?」

「……助けに来た!」

 

青年は剣を構え直して、エクスキューショナーを見据えた。

 

「俺が、テメェの相手だ」

 

 

 

 

 




名前は出してませんがこの二人が誰かは……わかる、よ、ね?
わかりにくければ修正します。

次回、激突、剣と剣。


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第33話『対決、処刑人』

人形の部隊に放り込まれて戦ってきた。

部隊は家族。
部隊の人形達は家族として接してくれた。

……なら、部隊以外の人形たちは?


追われていた人形と、赤い剣を持つ人形の間に割り込む。

 

「だ、誰……!?」

 

追われていた方からそんな声が投げられた。

そりゃそうか。

 

でも、俺の投げる言葉は本心だ。

 

「助けに来た!」

「いってぇー……いい一撃じゃねぇか」

 

ふっ飛ばした剣持ちが立ち上がって戻ってくる。

手応えが硬かったから、沈められたとは思っていなかったが……。

 

ほぼ無傷。

 

「硬いなネェちゃん……あん?なんだその剣、サムライソードか?初めて見たぞ」

「お前の剣も大概だっての!……ん?剣士の男?そうか!お前がアルケミスト殺ったやつか!」

 

お互いに得物を油断なく向けて相対する。

 

「アルケミスト?仲間かお前」

「……ホントに知らねぇのかの。俺は鉄血のエクスキューショナーだ」

「処刑人とは大層な名前しやがって。背中のデカい剣は飾りかよ」

「今日はこいつの試し切りさ。しっかしこいつ軽いのは良いんだがよ……全然キレねぇな」

 

サムライソードと言えば切れ味は良いってイメージだが……そうでもないのだろうか。

俺のトムボーイみたいなブースターが付いている訳でもない。

 

「まぁ、イイぜ。お前強いんだろ?グリフィンのクズ共はどいつもこいつも撃ってくるばっかで飽きてきたんだ」

 

右腕だけが明らかに強化されている。

おそらく背の大剣を扱う為に施された様だが……明らかにあのサムライソードに合っているとは言えない。

 

巨大な腕と細い剣のちぐはぐさ……恐らく、勝機はそこだ。

幸いにも奴はグリフィンを舐めている。

油断しているうちに仕留めたい。

 

なら、する事はひとつ。

 

グリップを捻る。

トムボーイのイクシード機構が作動する。

 

「二人共、隠れてろ」

「救援を要請しました……無茶しないで下さい」

 

黒髪のちっこいのがそう告げると、もう一人の手を引き姿を消す。

 

「アイツら殺せって話でシケた戦闘かと思ってたがよ……楽しませてくれよ?ヒーロー気取り」

「ヒーローだ?止せよネェちゃん。反吐が出る」

「あぁ?何トチ狂って人形なんて助けるんだっての」

「さぁな。気付いたら体動いてたんだわ」

「ンだそれ」

「こっちが知りたいね」

 

エクスキューショナーがサムライソードを構えた。

 

……来る!

 

「そうか、よッ!!」

 

対人形戦における基本として、相手は人間と同じ動きをし、その全てを上回るパワーを持っている。

 

生身の人間が人形と格闘戦を行うのは自殺行為。

 

()()()()()()()

 

幸いにも、俺は生身じゃないので……。

 

「ハァッ!!」

「おっと……二度は同じ手は食わないぜ!」

 

袈裟斬りを仕掛けるエクスキューショナーの剣が届く前に横薙ぎでふっ飛ばそうとするが、ワンパターン過ぎたのか直前で止まられ空振る。

 

イクシードを解放し、その体勢のまま前進。

肩からエクスキューショナーにぶつかる。

 

「ごっ……!?」

「せぇりゃっ!!!」

 

すかさず追撃の為にトムボーイを振る。

エクスキューショナーの腹に剣がめり込む……が、歯が立たない。

 

堅い。

 

「ごぁ!?」

 

エクスキューショナーが吹っ飛ぶ。

背後の樹木をへし折って止まる。

 

そこへ追撃の為に走ろうとして……。

 

()()()()()()()()

 

「うおおおぉぉぉ!?」

 

慌ててスライディングしてその下をくぐり抜ける。

 

「躱したか!」

「何飛ばしてんだてめぇ!!」

「飛ばせねぇのが悪いッ!」

 

エクスキューショナーが飛び掛かってくる。

軽い剣だし義手で弾いてカウンターを狙えば……。

 

……そう思案し腕を構えて、

 

「ッ!駄目です!!」

「!?」

 

さっきの黒髪の人形が叫んで、慌てて腕を……。

 

「ッシャア!!」

「ぐっ……!?えっ……!?」

 

既のところで引っ込める。

が、袖を持っていかれ……。

 

「ウッソだろオイ……」

 

斬られた袖と同じ向きに、義手に亀裂が走っていた。

 

軽くだが、装甲を斬り裂かれている。

 

「……こりゃ、骨が折れそうだ」

 

 




堅い義手を容易く斬り裂く刃。
一筋縄で行かない様だ。


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第34話『乱入者』

左腕に軽微……しかし、無視のできないダメージ。

この戦闘が終わるまで保てば良いが。


剣戟の音がひたすら響き渡る。

 

「このっ……!」

「せぇりゃっ!!」

 

段々と、エクスキューショナーを追い詰める。

あの一撃はまぐれだった様で、そこからはてんでなってない一撃ばかり。

 

必然的に慣れているこちらに形勢が傾きつつあった。

 

元よりあんな細い剣でトムボーイの馬力を防げる訳でもなく。

 

「あぁックソッ!性に合わねぇ!!」

「オラァッ!!」

 

しかし、あれだけ細いのに俺の攻撃で曲がりもしないし折れもしない。

無茶苦茶頑丈だ。

 

良いなアレ……俺もサムライソード憧れてたんだよね。

 

「喰らえッ!」

「うおぉう!?」

 

まただ。

エクスキューショナーが鎌鼬の様な何かを飛ばしてくる。

 

扱いに慣れてないくせにそんなもん出せるのどうかと思うぞ。

 

「チッ、まだ精度が悪いな!」

「上げられて堪るか!!」

 

今は、押せ。

まだ慣れてない内に圧倒せよ。

 

イクシードを吹かしエクスキューショナーにひとつ、ふたつと傷を増やしていく。

 

堅い、が確実に削れている自信、実感。

 

斬りつける度に感じる、高揚。

 

一手間違えれば俺が刈り取られるスリル。

 

これだ。

俺が望んでいたもの。

 

「ヒッ、はっ……!」

 

口が無意識に歪む。

喉からおかしな音が漏れる。

 

「テメェ何笑ってやがる!!」

「楽しいのさ!今、この瞬間がな!!」

 

楽しい。

楽しい、楽しい楽しい楽しい!!

 

全力で命の削り合いをする、一分一秒が!

 

「なら、もっと楽しませてやらァ!!」

 

エクスキューショナーがサムライソードを投げ付けてきた。

それを避ける。

 

すると、背中の大剣を抜き放つ。

 

「オラァ!」

「おっ、シャァ!!」

 

振られる剣をトムボーイで弾く。

弾かれた剣が戻ってくる。

 

それを払う。

また振りかぶられる。

 

もう一度ぶつける。

 

繰り返し。

繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返す。

 

「は、ははっ」

「へ、へはっ……!ひはははは!!!」

 

お互いに、笑っている。

 

「ネェちゃんも笑ってんじゃねぇか!!」

「しゃーねぇだろうが!楽しいのさ!俺も!!」

「気が合うな!」

「全くだ!だから」

 

一瞬だけお互いの距離が離れる。

 

その溝を、お互いが最大の攻撃で埋める。

 

「「死ねェ!!!!」」

 

イクシードが最大効率で燃焼する。

狙うは上段、これで首を撥ねる。

 

また、スローモーションの様に体感する時間が遅くなる。

 

俺の剣が、先に、ヤツの体に、

 

「が、ぁぁぁぁぁぁ!?!!?」

 

 

 

――――――――獲った!!

 

 

 

エクスキューショナーの右肩から先を斬り飛ばす。

奴が後ろに向けて飛ぶ。

 

仕留めるなら、今しかない。

 

右手で剣を振り抜いた。

 

左手にピースキーパーを持つ。

 

「チェックメイト……!!」

 

トリガーを、引く。

 

 

 

 

 

 

 

その前に、俺の左の二の腕から先が、宙に舞った。

 

 

 

 

 

「遊び過ぎだぞ、エクスキューショナー」

 

チン、と金属音が鳴り、サムライソードを鞘に戻す女。

 

全ての時間が元に戻る。

 

「ぐがぁっ……!?」

 

義肢のダメージが擬似痛覚を通して脳に響く。

 

「ほう、その腕神経が通してあるのか。また無駄な機能を」

 

白髪を短く切りそろえたモデル顔負けのスタイルの女。

 

「ハンターか!助かった!」

 

エクスキューショナーがそいつをハンターと呼ぶ。

まさか、ここに来て増援!?

 

ハンターが興味なさそうに剣を捨てた。

 

「フン、やはり前時代の遺物か……こんな物常用する気にはならん」

 

最悪だ。

俺とエクスキューショナーは両方片手を無くしたイーブン。

俺の方は利き手は無事。

 

しかしここでハイエンドが一体増えるなら話は別。

 

そしてヤツの得物は腰にマウントされたハンドガンらしきもの。

レンジの差で圧される。

 

万事休すか……!

 

「今です!スコーチさん!!」

 

そこで、すっかり存在を忘れていたちっこいのが叫んだ。

 

……あん?スコーチ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を呼んだかッ!一○○式ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

空から、サムライソードを振り被ったガスマスクのオッサンが降ってきた。

 

 

 

 

 

はぁ!?

 

 

 




形勢逆て……え、コイツ味方!?


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第35話『悪を断つ剣』

突如現れたガスマスクのサムライ。
味方らしいけど怪しさ満点である。


「何だ貴様は。私の狩りを邪魔するか」

 

ハンターが油断なくハンドガンを構える。

スコーチと呼ばれたサムライは手にした剣を構える。

 

こいつ、よく見たら背中にテルミットランチャー背負ってるじゃねぇか。

こんな場所でぶっ放したら木々に燃え移ってここら一帯が火の海になるぞ。

 

「我が名はスコーチ!悪を断つ刃也ッ!」

「何言ってんだテメェ!」

「ほざけ」

 

ハンターがハンドガンのトリガーを引く。

 

「危ねえ……えぇ?」

 

鉄血の基本装備は光学兵器だ。

実弾ではない為なかなか被弾が怖い……のだが、

 

このオッサン弾を全部斬り捨てたぞ。

 

「めちゃくちゃだ……」

「何なんだこいつは……」

「チェェェェェストォォォォォォォ!!!」

 

出鱈目に剣を振っている訳ではない。

一閃一閃が、確実に相手を刈り取る太刀筋。

 

「リックさん!!」

「G36c!?」

 

唐突に、G36cが茂みから飛び出してきた。

その後ろにG36も居る。

 

「今の内に離脱します、付いてきてください」

「その前に腕を回収したい」

「……!リックさん、左腕が」

「ふん……相応の報いです」

 

相変わらず辛辣だ。

 

「まだ仲間が居たのか!」

 

エクスキューショナーが吠える。

6対2、形勢は完全にこちらに傾いた。

 

残った右手でトムボーイを握り直す。

 

スコーチと名乗った男の隣に立つ。

 

「加勢するぜ、サムライ」

「若き剣士よ。剣を取るのなら覚悟はあるのだな?」

「覚悟?んなモン最初から完了だ」

「ふっ、隻腕でもなお威勢は衰えぬか。良いだろう!」

 

背後でG36とG36cが構える。

さぁ、どう動く。

 

「……エクスキューショナー、退くぞ」

「……判ってる」

「逃げるのか?」

「命拾いしたな、義手ヤロー!」

 

ハンターが、何か落とした。

 

「フラッシュ――――――!?」

 

G36が叫ぶ。

その瞬間、閃光が視界いっぱいに広がった。

 

「ぬわっ―――」

 

慌てて顔を手で覆……あっ、左手が無い。

まぶしっ……!?

 

目が慣れた所に……もう影も形も無かった。

 

「逃げたか……深追いは禁物だな」

 

スコーチがサムライソードを鞘にしまい、放置されていた剣を拾った。

 

「ふむ……若き剣士よ、貴様が持っていけ」

「は?」

 

スコーチが、俺に剣を投げて寄越した。

左手が無いから拾えなかった。

 

「何で」

「貴様に剣士としての可能性を見出した、と言っておこう」

「……別に、こんなん我流だ」

「一○○式を定期的に寄越そう」

「えっ!?スコーチさん!?」

 

唐突に話題振られたちっこいのが叫んでた。

 

「リックさん」

「ん?」

「……あの子、どうしますか?」

 

G36cが、ちっこいのの後ろで震えるウサミミ人形を指さした。

 

「あー……どうしよ」

 

 




何とかハイエンド戦を乗り切った……が、左腕が取れてしまった。


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第36話『88式』

怯える人形。
その体には痛々しい傷跡が残る。


スコーチと100式コンビと別れて。

 

俺たちは、目の前で怯える小動物の様な人形と向き合っていた。

 

服もだいぶズタボロで、こんな時に申し訳ないがたわわな装甲が零れ落ちそうで直視し辛かった。

 

「………………」

「貴女の所属を教えて頂けますか」

「………………」

 

人形は喋らない。

酷く怯えているようだ。

 

「なぁ、アンタ……」

 

俺が声を掛けるとびくっ、と肩が震えてボロボロと涙を流した。

……よく見ると、両足とも明らかに人工皮膚の無いロボット然とした義足がくっつけられていた。

 

「駄目ですよ、お姉さん、リックさん。お二人は顔が怖いのですからそんなキツく言っちゃ恐がってしまいますわ」

「「うっ……」」

 

顔が怖いってちょっと気にしてんのに。

G36も心当たりがあるのかちょっと凹んでいる。

 

「こんにちは。私はS-13地区所属のG36cと申しますわ。貴女の所属とお名前、聞かせてくれませんか?」

 

G36cが武器を置き、彼女の目の前に屈んで目線を合わせる。

去り際に100式がなにか言っていたとはいえ……やはり怯えたまま。

 

「わ、たし、は……88式で、す。所属は……S-14」

「S-14……この先じゃないか」

 

思わず呟く。

この前前線からこっちの市街地近くまで鉄血の集団を素通りさせた元凶。

 

「どうして、S-14管理地区の近くで鉄血に?」

「それ、は……」

 

88式が、俯く。

全員が彼女の言葉を待っていた。

 

「S-14は壊滅……鉄血に、占拠されました」

 

俺達は、顔を見合わせた。

これは……思っていたよりも、重い事態だ。

 

「一度、戻りましょう。ご主人様に報告を」

「そうですね……歩けますか、88式さん」

「すみません……脚の系統をやられたみたいで」

 

参ったな、歩けないのか。

G36cが、俺を見てにっこり微笑む。

 

「じゃあリックさんが担いでくださるかしら」

「俺左腕無いんだけど!?」

「背負えば大丈夫ですわ」

「……もしかして、怒ってる?」

 

恐る恐る尋ねてみる。

……G36cは笑ったまま答えた。

 

「ええ、とても」

 

笑顔って怖いなぁ、そう思った瞬間だった。

 

「指揮官さんの言いつけも聞かずに単騎で突出、挙げ句戦闘に介入、そして左手まで無くして……本当に正規軍の兵士だったんですの?」

「それは……その、居ても立ってもいられなかったと言うか」

「言い訳しない」

「はい……」

「私も、お姉さんも心配したんですよ」

「G36c。私は心配などしていません」

「まぁまぁ。兎に角、そういう事ですので!」

 

88式の方を見る。

見られたと判って、ちょっと肩が跳ねる。

 

……めちゃ怖がってるけど。

 

気は進まないなぁ。

 

俺は、切り傷だらけのズボンを千切った。

 

「……えっ?」

 

88式が思わず声を漏らした。

 

「……どうして」

「小さい頃に……何だ、手足失くしてな。それから、こんなんだ」

「そう、なんですか……貴方は、人間なのに、こんな」

「慣れたよ、もう」

 

88式が俺の黒い義足に触れる。

……同情買ったみたいで反吐が出る。

けど、落ち着いてもらうにはこれしか無かった。

 

つくづく不器用な自分が嫌になる。

 

「背負うぞ」

「は、はい……よろしくお願いします」

 

無い左腕を無理やり膝裏に通して固定した。

…………………背中、背中がぁっ!!

なんか、すごい!やわいのが当たってる!!

 

「さぁ、帰りましょう」

 

G36cがそう切り出す。

……G36が俺のピースキーパーとトムボーイを担いでいる。

ちょっと申し訳ない。

 

さっきのサムライソードは俺の腰にマウントされている。

やっぱりカタナって言ったら腰だよなぁ。

 

「あの……」

 

そんな事考えてたら、耳元で囁かれた。

くすぐったい。

 

「な、何だよ」

「まだ、お礼言えてなくて……すみません。男の人はちょっと苦手で」

「……悪いな、野郎で」

「そ、そんな事……その、ありがとう、ございました……カッコよかったです」

「かっ……!?よ、止せやい……結局負けたし」

「それでも、です」

 

 

 

……基地に帰るまで、俺の顔は髪の色に負けないくらい赤かったらしい。

 

 

 




S-14地区は既に鉄血の手中にあった。

88式を保護。
これから、どう動いていくのか。


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第37話『唐突に増える妹』

待っていたのは、拳と小言と説教と罰と妹。

……妹?


S-13へと帰還した俺に待っていたのは、ジェリコの拳とリリスの説教と、減給。

 

これ以上懐事情が寒くなるのは本当に拙い。

帰るに帰れなくなってしまう。

 

そして、何より問題なのが……。

 

「駄目だボウズ。直らん」

「えっ……嘘だろ!?」

 

義手が、直せない。

左の二の腕から先がハンターにより切断されてしまった。

 

この腕をくっつける事が、ここでは出来ない。

 

「いくらその腕の中身を把握した所で再現は難しいって事だ。IOPなら或いは……ってレベルだよ」

「マジかよ班長……あんたでも無理なのか」

「くっつけるだけならな……以前のままのパフォーマンスは正直厳しい」

「そうかぁー……」

 

IOPか……こっからだと長旅になる……と言うかリリスが許してくれるだろうか。

 

「あー……それとさ」

「拾ってきた人形の事だろ?」

「うぐ……」

 

バレてた。

正直腕のことと彼女のことは半々の比率で今日整備班を訪ねたのだが。

 

「今はメンテナンスモードだ。ただ……メンタルが相当弱っててな……再起動しても以前と同じ様に戦えるかどうか」

「そう、か……」

「ボディもチェックしたが、脚がもうあのまま調整した方が良いほどめちゃくちゃにイジられてる。……いっそ記憶を消した方が良いかもしれんな」

 

……一旦初期化し、新たに戦術人形としての人生をやり直す。

それが救いの様な気もする。

自分を苛む状況をすべて忘れられるのだから。

 

だが、彼女はそうしなかった。

彼女は、自分の記憶を残すようにリリス指揮官へ嘆願していた。

 

理由は……忘れたくない、と。

基地で過ごした仲間たちの事を忘れたくない。

そう彼女は語り、笑った。

 

「アイツが選んだ道だ。きっと、銃を取るだろ」

「そう思うか、お前は」

「ああ……」

 

左腕を基部だけ残して外す。

正直動きもしない重りだけぶら下げてても仕方が無い。

 

「一応、指揮官には報告しとく」

「頼む……俺から言っても聞いてくれなさそうだ」

「あの指揮官があそこまで怒るのを、俺ぁ初めて見たよ……」

 

取り乱して泣き喚きながら怒られたよ、ホントに。

 

「そういや今日新しい人形が配属されるな」

「そうなのか?」

「ああ。タイプはショットガン。今頃は指揮官との顔合わせも済んでる頃だろ」

 

ショットガンか。

俺がしばらく使い物にならないから戦力……というより前衛の補充だろうか。

SPASみたいに付き合いやすい奴なら良いんだけど。

 

何だかんだ前衛を並んでやるからには気が合う方が良いに決まってる。

背中を預ける奴だからな。

 

「ボウズが持ち帰ってきたカタナだけどな、アレ……どうにもIOPの試作品らしい」

「何で!?」

 

戦術人形メーカーが何で近接武器なんか作ってんだよ!?

 

「鉄血のハイエンドに接近された場合の最終手段として、の試作品だそうだ」

「アレに近付かれたら普通の人形だと即お陀仏だろ……」

 

アルケミストもエクスキューショナーもハンターも、グリフィン側の戦術人形達と比べるとやはり抜きん出た性能をしていた。

 

「まぁそう思うわな。お蔭でこいつ一振りだけの生産に終わってS-12……借金指揮官のトコへ送る予定だったらしい」

 

S-12……聞き覚えがあんなぁ。

最近知ったけどIOPの試作品を片っ端からデータ取りさせられてるモルモット部隊があそこに居るらしい。

 

「それが、これか……」

 

作業台の上に置かれた一振りのカタナとその鞘。

鞘に銃のようなトリガーとカートリッジが付けられている。

 

……炸薬の衝撃により加速、驚異的な抜刀速度を重視する。

完全に不意打ち用だ。

 

あの時ハンターに腕切られた時も全く反応出来なかった。

 

名前は確か……。

 

「ジェットストリーム」

「試作炸薬加速機構搭載抜刀剣、と名打たれてるがな」

「……あんだって?」

 

わざわざカンジでそこまで書かなくても。

 

「失礼します」

 

そこで、整備工廠に誰か入ってきた。

今はほとんど出払っていて班長と俺しかいない。

 

入ってきたのは……腰まである長い黒髪の女だ。

よく見ると赤と黄色のオッドアイ。

髪も毛先の方は白くなっている。

 

瑞々しい太ももが眩しい。

 

ここまで整った外見をしている……って事は十中八九人形だ。

 

「お前さんが新しい人形か」

「はい!ご挨拶に参りました!」

 

真面目な奴だ。

もしかしたらソリが合わないかもなぁ……。

 

「私はM1014と申します!呼びにくければベネリかライオットとお呼びください!」

 

……ライオット?

俺の視線に気付いたのか、彼女が俺の方を向く。

 

「……貴方は?」

「え?ああ、俺?パトリック·エールシュタイアー。遊撃兵みたいなもんかな」

「ぱと、りっく……」

 

M1014と名乗った人形が、噛み締めるように俺の名前を呟いた。

 

「……兄、さん」

 

………………はい?

 

 

 




そんな訳で、パトリックが預けたライオットガンが人形になって帰ってきました。

これでS-13地区のメンバーは出揃いました。
これ以上は増えません。

果たして、パトリックの腕は直るのだろうか。


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第38話『お世話対決』

ベネリちゃん真顔でなんてこと言うの。


「……えっ?」

「……はっ!?い、いえ!?何でもないです!!」

 

M1014……言いにくいしベネリで良いか。

ベネリが我に返って物凄い手をブンブンふる。

班長が何となく面白そうな顔をしている。

 

「銃の感覚を引き継いだか……?」

「あん?なんだそれ」

「隣の基地のKar98kモデルで確認できた現象だよ。人形が所謂銃の記憶を引き継ぐって」

 

とすると、このベネリは俺が使ってた事を覚えているのか。

 

「どう、何でしょうか……よく分かりませんが……あなたの事を、懐かしく感じます」

「そう、か……」

 

間違いなく彼女の持つ銃は、俺が長年使っていたライオットガンだ。

手放す時に何も思わなかった、と言えば嘘になる。

 

しかし、扱い辛いとも感じていたため少し微妙な気分だ。

 

「パトリックさん、失礼ですが……その、腕は」

「ん?ああ、これ?義手なんだけど壊れちまってさ」

「そんな……人形でも片腕は大変なんですよ?」

「普通ならな。もう慣れたよ、片腕くらい。じゃ、おっさん頼んだ」

「おう」

 

そう言って整備班を後にして。

 

「ちょっ、ちょっと!まだ話は終わってませんよ!?」

 

ベネリも追いかけてきた。

 

「なんだよ」

「なんだよじゃありません!手が必要じゃないんですか!?」

「別に……」

「えぇ……」

 

困惑された。

まぁ初対面にはそう思われるわな。

 

「パトリックさん!!」

「……うへぇ」

 

名前を呼ばれたのでそちらを見る。

……息を切らせて手を振って走ってくる人形。

 

まぁステアだろう。

 

「おかえりなさい!お怪我は……えっ、腕どうされたのですか!?」

「あーまぁ、壊れた」

「そんな……でも、大丈夫です!私がまたお世話します!」

「世話って……片腕無いだけだぞ?」

「それでも、です!何故ならわたくしが貴方の世話を任されたのですから!」

 

ふんす、と胸を張って答える。

頑として譲らないから正直疲れる……。

 

「聞き捨てなりませんね」

 

ベネリが、そんな事を呟いて俺の前に出た。

 

「……貴方は?」

「初めまして。私はM1014……彼の銃だったライオットガンです」

「えっ……」

 

ステアが驚いて俺の方を見た。

まぁ、驚くよな。

 

「彼の事は私がよく知っています。私に、お任せを」

「いいえ?新人さんにはここで学んでいただく事もまだまだ多いはずです。ですからそういった事はわたくしにお任せを」

 

……何だろうか。

二人共笑ってるのに何だか胃がキリキリするのは何故。

 

俺は、そっとその場から逃げ出した。

 

「「パトリックさん!?どっちか選んで……居ない!?」」

 

なんか背後から叫び声が聞こえたけど気にしない。

 

 




お世話係争奪戦(白目

次回、パトリックIOPへ行く。


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第39話『IOP』

パトリック、IOPへ行く。


「りっくん。貴方をIOPへ送ります」

 

その一言を聞いた瞬間、俺は内心ガッツポーズをした。

 

「……と、言うと?」

「貴方の義手について……16Labから返答が来ました。1週間もあれば直せる見込みとの事です。なので技術提供も含めて向こうへ行ってもらいます」

「1週間向こうで泊りってことか?」

「……その通り」

 

めちゃくちゃ不服そうにリリスは頷いた。

 

「……ま、お荷物は居ない方が良いだろう。そっちもS-14での件もあるだろうし……万全になって戻ってくるわ」

「お荷物だなんて……!!」

 

リリスが立ち上がって声を荒げる。

……俺は、優しく肩を掴んで座らせた。

 

「良いんだよ。治ったら、戻ってくるから」

「……終わったら、今度どこか行きましょう」

「良いよ。SPASに良い店聞いておく」

「……別に、ごはんだけじゃないんだけど……」

「そうか?美味いもん食って元気出そうぜ」

「……馬鹿」

「なにおう!?」

 

さて、これで思惑通りIOPへ行くことが出来る。

義手さえ戻れば元通りの生活に戻れる。

動けるようになれば……あの剣、ジェットストリームを振る事が出来る。

 

あの剣を使ってみたい、使いこなしてみたいと俺は思っている。

戦いにおいて手数が増えることが歓迎すべきだ。

 

俺は、強くならなきゃならない。

 

結局、俺が戦った鉄血のハイエンドモデル達は……俺がトドメを刺していない。

 

俺が倒していないのだ。

 

(あいつらに、勝ちたい!)

 

全て消化不良。

だから、俺は勝ちたい。

 

「……りっくん?」

「え?……ああ、いや」

「そう……初日は私が同行します。説明もあるからね」

「了解。で、いつ出発するんだ?」

「今」

「……えっ?」

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ヘリに揺られる事8時間。

IOPと呼ばれる戦術人形製造メーカーの工廠に、俺たちは来ていた。

 

「……長かった」

 

ため息を吐く。

こんな長い移動は久しぶりだ。

 

「それでは、パトリック。今回貴方の担当をして下さる方に面会します」

 

リリスも完全に余所行きモードだ。

後ろにいる護衛はSPASとベネリが来ていた。

 

俺も含めると前衛3人組である。

……そして、俺は背中にトムボーイとピースキーパー、腰にパニッシャーとジェットストリームを担いでいる。

 

腕が治り、すぐに振り回せるように。

 

しばらく歩いて。

……武装を解除させられるかと思ったが、そうでもなく進む。

 

流石に不用心が過ぎる……かと思ったが、そんな事は無かった。

 

……明らかに実力のある人形達が警備しているからだ。

こんな所で安全装置を外そうものならあっという間に俺は取り押さえられるだろう。

 

(おっかな……)

 

俺も相当強いと自負はしている……が、そう思わずにはいられなかった。

 

まあ流石にこれから世話になる相手に刃を向けるつもりなんてサラサラないけど。

 

「パトリック、付きました。この先に……16Labの、ペルシカリアという方が居ます」

「その人が、俺の義手を……」

 

抱えていた箱……。

俺の切られた左腕の一式。

これをくっつけて貰うのがやはり手っ取り早い。

 

「失礼します」

 

リリスはお構いなく部屋に入ってしまった。

 

俺も後に続き……。

 

唖然とした。

 

「ホァ……」

 

書類が、めちゃくちゃ散らばっていた。

これは、珈琲の匂いだ。

 

お世辞にも整頓されているとは言えない惨状だった。

 

「……ん?」

 

そんな中で、猫の耳の様な物がぴょこんと動いた。

 

「あー、君ね。私はペルシカリア。初めまして……MIAした正規軍兵士さん」

 

めっちゃ隈のある女性だ。

いやでも凄い美人だぞ……あれ?

 

「……MIA!?」

 

エッ、俺死んだことになってる!?

 

 

 

 




パトリック、居なかったことになった。

次回、上司再び。


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幕間ーAN-94ー

ある日の、正規軍。


 

パトリックがMIAになってから、半年が経とうとしていた。

 

捜索も早々に打ち切られてしまったが……私は、未だに空いた時間を使ってた探し続けていた。

 

「パトリック……」

 

あの憎まれ口が聞こえなくなって久しく、どうしても……寂しい。

 

彼は嫌がるフリをしていたけれど……家族として、私達を……部隊を大事に思っていた。

何だかんだ、彼は私達を気にしてくれていた。

 

私が未だに失敗作として謗られていても彼はそれに怒ってくれていた。

 

だから……捜索が打ち切られた時。

彼を上層部が失敗作だと言い放った時。

 

私は、激昂した。

 

その時の私は……形容できないほど暴れてしまった。

謹慎と少しの記憶処置を処罰として受けた。

 

「AN-94。その、あんま……気を落とすなよ。こういう事だってある」

 

部隊の自律人形の一体が、私を気遣う様に声をかけてきた。

 

「ありがとう。大丈夫よ」

「アイツは俺達の事大切に思ってくれていた。惜しい奴を亡くしたよ」

「オイV2!縁起でもないこと言うなよ!」

「あー、すまねぇ……アイツは生きてるよ!ぜってー帰ってくるって!」

 

同僚達が、騒ぐいつもの光景。

 

でも、彼は居ない。

 

「ごめん……ちょっと。一人にさせて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

私はいつも、陰口を叩かれ、それを聞いてしまったとき……決まって屋上に来ていた。

 

ふさぎ込んで自暴自棄になる時もある。

 

『おう、暇そうだなAN-94』

 

『ほら、飲むか?俺珈琲飲めねぇから代わりに飲んでくれね?自販機が壊れてよ?』

 

『あ?ちげーよ殴ってねーよ!ボタン押しても反応しねーから蹴っただけだっての!』

 

「AN-94、AN-94!」

「……AK-12?」

 

感傷に浸っていると、よく聞く声が私を呼んだ。

 

「何をしているの。次の任務よ」

「ねぇ、AK-12……貴女は……パトリックが心配じゃないの……」

「……私は、彼が死んだとは思ってないわよ」

「え……」

 

パトリックは、死んでいない?

なぜそう思えるのだろうか。

 

「少し前から、PMCのとある前線で剣士が活躍しているのが確認されているそうよ」

「剣士……!?それって!」

「鉄血なんてものと抗争してるのはグリフィンくらいよ」

「グリフィンの最前線に、パトリックは居る……」

 

なら迎えに行かないと。

だって、私は……家族なんだから。

 

「何だかんだ義理人情に厚い子だからね。それにグリフィンの人形は見てくれも良いし……スケベな彼には天職かもね」

「AK-12、」

「駄目よ」

「どうして!」

「上が少し、不穏な動きをしている……今は、従っておくべきよ」

 

上が?

どうして……。

 

「AN-94、大丈夫よ。パトリックは、必ず帰ってくる。貴女が信じなくて誰が信じるの」

「そう、ね……ありがとうAK-12……行きましょう」

 

生きてくれている。

なら、今はそれで充分だ。

 

(必ず、迎えに行くから)

 

そう誓って。

 

 




遠く離れた彼を想う。
どれだけ口論しても、家族なのだ。


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第40話『ジェットストリーム』

あれから暫くして。


俺は動くようになった左手を握ったり開いたりを繰り返す。

 

「……よし!」

「無事に動くようになったみたいね」

 

ペルシカさんが珈琲を置いてくれた。

……飲めないんだけど無碍には出来ないので気合で飲んだ。

 

美人が出してくれた物だからな。

 

「さて、これで修理は完璧ね。良いデータも貰えたし」

「ありがとうございました。おかげで何とかなりそうです」

 

側転、バク宙。

体に異常が無いか調べる為に動き回る。

 

調子は悪くない。

 

「問題無いみたいね」

「すごいな、民間も。ちょっとずつ正規軍(ウチ)に追いついてる」

「いつまでも後塵を拝してる訳じゃないのよ、民間(わたしたち)も」

 

ペルシカが部屋から出ていく。

 

「それじゃあ……ついでにそのジェットストリームのテストもしてもらおうかしら」

 

俺の左腕に握られている技工抜刀剣。

以前鉄血達から唯一奪還した資材だ。

 

ペルシカはどうにもこいつのテストを俺にさせたいらしい。

 

報酬も出してくれるそうなので受けない理由はない。

 

そして何より。

 

(いやった……!遂に俺もカタナが触れる……!昔コミックで読んでからずっと使ってみたかったんだよなぁ……)

 

俺の鋼鉄の義手を斬り裂く切れ味を持つ名刀。

やっぱり新しい武器って言うのはテンションアガるなぁ。

 

『聞こえる?パトリック。まずは、ジェットストリームの安全装置を解除して』

 

言われた通り、鞘に付いた安全装置を外す。

鞘を握り、人差し指を()()()()()()()()

 

右手でジェットストリームの柄を握る。

 

「スゥゥゥ……」

 

深呼吸をする。

これから刃物を扱う。

心を落ち着けて、冷静に。

 

浮ついた気持ちで剣を握ってはいけない。

大怪我をしてしまう。

 

腰を落とし、右足を前に出す。

以前見たサムライ、スコーチの見様見真似だ。

 

呼吸を整える。

 

 

 

そして、トリガーを引いた。

 

 

 

 

ズバァン!!!!!

 

 

 

 

自分でも驚くスピードで、カタナは振り抜かれていたり。

 

「早っ……!?」

 

鞘に内蔵された炸薬によって加速を得た神速の抜刀術。

 

……ただ、これ生身で使ったら腕ごと飛んでいくぞ。

 

「……これが、カタナか」

 

右腕で持っている赤い剣を眺める。

惚れ惚れする様な波模様。

 

トムボーイとはまた違う、繊細で、軽い。

細く、薄い刀身。

 

上段に片手で振り上げ、落とす。

 

(……軌跡がブレる!)

 

真っ直ぐ落としたつもりなのに、剣が震える。

真っ直ぐ振り抜くのが難しい。

 

トムボーイの様に振ると剣がガタつく。

 

(これは、難しい!)

 

何もかもがトムボーイと違う。

力任せに振る武器ではない。

 

……しかし、俺はそれから一時間、汗だくになるまで夢中で振っていたのだった。

 

 

 




鬼滅の刃、面白いですね(待て

ちゃんと修行パート書こうかなって気にさせてくれたので暫くはパトリックの習熟のお話になります。

……善逸すき……。
霹靂一閃カッコ良すぎだろ……。


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第41話『強くなりたい』

混乱しなかった訳は、無い。


俺がMIAになって、混乱しなかった訳ではない。

 

でもよくよく考えたら確かにそうだ。

半年近く俺は連絡も何もしていないのだから。

 

(まぁ、そうだよなぁ)

 

替えの利く人形部隊の隊員が1体欠けただけ。

普通の人間ならそう判断するだろう。

 

俺は人間だけど。

 

でも上は俺も人形と同等に扱う。

 

だから、もう考えなかった。

 

俺は、俺を必要としてくれている人……家族の傍で剣を振るだけだ。

 

「パトリック。着きましたよ」

 

ジェリコが俺の肩を揺する。

舟を漕いでいた意識が覚醒してくる。

 

「んあー……着いたか……」

「……お疲れ様です」

「……珍しいな、普通に労ってくれるなんて」

「貴方は、それだけの事をしました。別におかしい事はないでしょう」

「それでも、だ」

 

結局、ジェットストリームはモノに出来なかった。

あの武器は、俺のスタイルに合わない可能性が出てきた。

 

片手で力任せに振る、それではだめなのだ。

 

何が足りないのか。

 

「はぁ……それで、戻ったらどうするつもりですか?」

「うん?そうだな……こいつの習熟かなぁ」

 

ジェットストリームをジェリコに見せる。

 

「日本刀にはあまり明るくはないので……私は指導出来ませんよ」

「そうか……どうしたもんかな」

 

今時、剣術の指南書なんてものが残っている訳もない。

……ジャパンなんてとっくの昔に滅んでる。

 

「独学じゃ無理だしな……ん?」

 

そう言えば、スコーチのおっさんが師事させるって。

 

「なぁ、ジェリコ。100式って戦術人形は知ってるか?」

「ええ、知ってますよ。今S-13に駐屯していますよ」

「……え?居るのか?」

「……?はい、そうですね」

 

何てこった。

じゃああのおっさんは本当にこっちに寄越したのか。

 

いや、でも本当に剣術を教えてもらえるんじゃないか?

 

「……良い事を聞いた」

「はぁ……?」

 

鋼鉄をも切り裂く紅の刃。

これをモノにすれば、俺はきっと奴らに勝てる。

 

(俺は、強くなりたい)

 

もう二度と、目の前で誰かを失わい為に。

もう二度と、家族を目の前で死なせない為に。

 

リリスを、俺が守らないと。

 

「パトリック?」

「ん?」

「着きますよ」

 

ヘリは速度を落とし始めていた。

 

帰ってきたのだ、S-13に。

 

今日から、また訓練の日々を繰り返し、備えなければならない。

 

(力が、欲しい)

 

もっと力を。

純然たる筋力、馬力とかそういう話では無い。

 

(パトリック)という存在そのものの強さ。

 

「ジェリコ」

「何でしょうか」

「俺は、強くなれるだろうか」

「……貴方が自分を信じなければ、誰も貴方を信じません。強くなりたいのなら、なれると信じなさい。人間とは、そういう生き物です」

 

ここに来て根性論。

でも、俺としては理屈よりそっちの方が好ましい。

 

「そっか。じゃ、頑張るか」

 

 

 

 




俺は、まだまだ強くなる。


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第42話『独特なセンス』

実は最近ザリガニを飼い始めた。


「991……992……993……!!」

 

息を切らせながら、ひたすら上段に構えた剣を振る。

一昨日からずっとこれの繰り返し。

 

しかし、変わった事が一つ。

 

両手でカタナを握る。

片手で降っていたのを100式に見せた所、腹に蹴りを頂いた。

 

『いってぇ!!何しやがる!!』

『パトリックさん!良いですか!?刀は片手で力任せに振るものではありません!まずパトリックさんにはその剣に慣れてもらいます!毎日素振りを日課にしてください!1000回くらい!』

『1000回!?』

 

たくさん投げればいいボールが投げられる様になる、そんな昔の何の根拠の無い指導法みたいな事をさせられている。

 

ただ、余計な力が抜けて太刀筋がだんだん真っ直ぐになっている……気がする。

 

「せ、1000……!」

 

手から力が抜けてジェットストリームを落とした。

義手じゃなかったらとっくに手はマメだらけだ。

 

「はー、はー、やべ、しんど……」

「パトリック。お疲れ様」

「さ、さんきゅ……ねげぶ……」

 

隣でカウントしてたネゲヴから水を受け取る。

つめてー……。

 

「なんか、いつもより張り切ってるわね」

「そうか?」

「うん、好きな事やってる……そんな感じ」

「好きな事、か……」

 

確かにそうかもしれない。

 

「剣を振る事がやっぱり好きなのかな、パトリックは」

「かも……な……」

 

呼吸を整える。

100式に教えられたのは、力を抜く事と、呼吸方法。

 

いつもより腹に力を込める。

いつもより意識して吸う。

いつもより意識して吐く。

 

どうしてだろう。

何となく集中力が増すというか。

 

「パトリック、なんか変な息の吸い方するね」

「え?」

「シィィ、って言ってる」

「まじで」

「もう一回やってよ」

「やだ」

「あー、恥ずかしがってる」

「恥ずかしがってねぇし!」

「ならやって見せてよ」

「やらねーよ!」

 

義手を外してちょっと熱を抜く。

やっぱり籠もってしまう。

上着も暑いから脱ぎ捨てた。

 

「わ、ちょっと急に脱がないでよ!」

「あ?しゃーないだろ、暑いんだから」

「も、もう……」

 

ネゲヴが視線を逸らす。

チラチラ見てくるけど。

 

「ふ、ふーん……結構スラッとしてるわね」

「ガン見じゃねーかよ」

「沢山食べてるから正直もっと太ってるかと思ったわ」

「なんだろうな。食っても太らないって言うか」

 

どんだけ食っても今の体型から変化しない。

それ言ったらアリサに蹴られたっけ。

今でも納得してないけど。

 

………………アリサ。

 

「……パトリック?なんか、暗い顔してる」

「え?あ、いや……何でもない」

「そう?なら良いけど」

 

いかんいかん。

アリサの事考えるとちょっとメンタルが弱くなっちまう。

 

そう言えば……AN-94は、元気にしてるだろうか。

 

アイツはすぐ落ち込むからな……ちょっと心配だ。

なんとかアイツにだけでも連絡出来ないかなぁ。

 

「さて、ちょっと遊ぶか」

 

かちん、とジェットストリームを鞘に戻す。

100式に無理言って教えてもらった『型』。

 

「……?」

 

ネゲヴが首を傾げる。

 

「シィィィ……………」

 

息を吐く。

左脚を後方へ下げる。

 

体勢を低くする。

前傾の構え。

 

「………………はぁッ!!!」

 

鞘の撃鉄を引く。

轟音と共に刃が振り抜かれた。

 

「わぁ……全然見えなかった」

「雷光斬り、だっけな。確か。イアイドーだとか何とか。剣術はさっぱりわかんねぇけどこれだけなら何とか真似出来たんだよ」

 

なお、この技はスコーチが使ったのを見た100式が興奮しながら俺に伝えたものの為、しっかりと伝わっていない。

 

「じゃあそれに名前付けちゃえば?」

「名前、名前か……イアイライトニング!」

「えっ」

「雷みたいにドカーンと斬るイアイならこれとかどうだ?」

「え、えー……?」

 

ネゲヴはポカンとしている。

 

え?かっこよくない?イアイライトニング。

 

「……最近飼い始めたザリガニの名前と言い、ちょっとパトリックのセンスは……独特ね」

 

え?可愛いだろ……ザリジローって。

 

「えぇ……」

 

解せぬ。

 

 




ライトニングってお前……霹靂一閃じゃねーかよ……。

イイじゃん……善逸…………。


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幕間ーS-12ー

視点は代わり、今日はお隣さんのお話。


 

「よう、スコーチ。あの坊やに剣を教えてるんだって?」

 

ある日の事。

灰色の髪をスポーツ刈りで整えた青年が、ガスマスクをした男性に話しかけた。

 

「指揮官殿。ええ、誠に勝手ながら」

「いや良いって。やっと探してた恩人見付かったし、お前も好きな様に生きてくれりゃ良いんだって」

 

指揮官、と呼ばれたにしては軽いノリで青年は笑う。

スコーチと呼ばれた男もガスマスクの下で笑っている様だ。

 

「……で?才能は?」

「感じる物は有りました。あれなら型を一つ位修得出来そうです」

「お前の型を?そいつはすげぇな」

「ええ。本人は無自覚ですが呼吸方法を識っています。後は努力次第かと」

「S-13も安泰だな……って訳には行かねぇけど。スコーチ、14の様子はどうだった?」

 

笑っていた男性の目付きが鋭くなる。

スイッチの切り替え。

状況による意識の切替の上手い男だ。

 

「14区画は見事鉄血に占拠されていました」

「……だよなぁ。不自然な物資の消失に、この前の鉄血一個中隊。無関係とは思えねーもんよ」

 

青年の傍に白い小さな人形が駆け寄り、手にしていた資料を手渡した。

 

「ありがとうトカレフ。愛してるよ」

「ひぇっ……ひゃ、ひゃい……ジョージさん……」

「あー、指揮官殿?」

 

手を取って抱き寄せて、彼女の額に口付けを落として真っ赤にさせた後、青年は彼女の背を押した。

 

「報告書は読んだ。ハイエンドモデルが3体か……それぞれアルケミスト、ハンター、エクスキューショナーか。アニーが一番可愛いな」

「問題は彼奴らが纏まってそこにいる事かと」

「ふーむ……手を組まれたとなるなら厄介だな。確実にお嬢さんのとこは近い内に襲撃されるだろ」

「半年前に一度襲われています」

「勝手知ったる他人の家、応援に行った方がよさそうだな」

 

指揮官が手元にあるバインダーから紙を取り出す。

 

「ほい、今回はそっちの部隊も出てもらうぜ。対屋内戦なら十八番だろ?」

「ありがとうございます。必ずや我が剣にて奴らを」

「任せるぜ、スコーチ。坊や達にもよろしく」

「ジョージぃー、そろそろ休憩は終わりよ〜」

「オットもうそんな時間か。じゃ、頼んだ」

「御意」

 

スコーチは影に溶けるように消えた。

 

「……アイツサムライってかニンジャだろ」

「指揮官!あたい達に仕事任せてどこ行ってたのさー」

「悪い悪い40、アニーもありがとな。仕事するか」

「最近お気に入りみたいね、義手義足の彼」

「突然どうしたんだ?アニー」

「別にー?」

「……わかったわかった。今夜はお前の為に時間作るよ」

「あら、嬉しいわね。じゃあせいぜい私を幸せにする事ね」

「はいはいはい!惚気けてないで仕事してね二人共!」

 

 

 




久しぶりに登場な隣の基地の指揮官。
本編中でついに半年が経過しました。


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第43話『弱点特効Five-seveN』

半年が経過してしまった。
現状に何ら改善は無く、止まった日々を過ごしてしまっている。


「リック」

 

そろそろ、あの水没から半年が経過した。

S-14に動きもなく、正規軍とも合流せず、なぁなぁでここS-13へ居付いてしまった。

 

カタナの素振りを止める。

こいつを振り回してから一ヶ月。

そろそろ真っ直ぐ振れるようになってきた。

 

「57、どした?」

「今日、先月保護したMGの子が来るのよ。貴方も出迎えに行ったら?」

 

確か、88式と名乗ってたっけ。

57から視線を外して、ジェットストリームを握り直した。

 

「別に良い。俺は一応部外者だし」

「そんな事言って……知ってるわよ?あの子のおっぱいガン見したの」

「し、してねーし!!」

「わかり易いわねホント」

「あぁ!?大体な、俺は女なんか嫌いなんだよ。一々構ってられるか」

 

上段に持ち上げ、振り下ろす。

義手にも慣れ、手に馴染むようになってきた。

 

「何よそれ。いくらなんでも酷いわ」

「だったら何だって言うんだ」

「来なさいよ!」

「わっ!?馬鹿、今こっち来るな!触んなって!あぶない!!」

 

ジェットストリームを構えた時に57が近寄ってくるもんだから集中力が維持できない。

いやだってこいついい匂いするもん……。

 

「「あっ」」

 

ジェットストリームの切っ先が、57の胸元の前を掠った。

 

「ひっ……」

「わー!!だから言ったのに!!俺だってまだこいつ使いこなしてないんだぞ!?大丈夫か!?怪我は!?痛いとことか無いか!?」

 

慌てて57の体を触って異常を確かめる。

彼女は顔真っ赤にして固まっている。

 

「おい!?どうした!?まさか怪我したとか!?」

「さっ」

「ん?」

「触んなっ!!」

 

思いっきり頬にビンタを貰った。

痛い。

 

「あ、貴方ね!女の子に剣を向けて!しかも無遠慮に触るなんて最低!」

「え?あ、ええ?ごめん……」

 

これ俺が悪いの?

 

「全く……」

「悪かったって……」

「じゃあ、今度こそ買い物付き合ってもらうからね。前は一人で行っちゃってさ」

「う……わ、分かったよ」

 

今回は、我慢だ……機嫌が治るなら万歳……。

 

と、そこで……はらり、と。

 

「え”っ」

「?」

 

57は気が付いていない。

……彼女のワイシャツが胸元一閃、切れている事に。

しかもその下のブラまで切れていて瑞々しい肌が露出している。

 

シンプルだが、黒のブラ。

グリフィンの支給品なのか、派手な装飾は無い。

 

俺がガン見しているのを訝しみ、57が視線を下げた。

 

……彼女の顔が真っ赤になる。

 

「なっ、なな、なぁっ……!」

 

あ、やば……鼻が。

顔が熱い。

これは、拙いぞ。

 

「リック!貴方ね……え?」

 

意識が遠のく。

……我ながら情けない。

 

「え、ちょっと、リック!?大丈夫!?どうして……えっ、鼻血?えぇ……?」

 

やめて見ないで……鼻血大量に吹き出して倒れたなんて死にたくなる……。

 

 

本日の出迎えは二人してキャンセルになった。

 

 

なんだこれ。

 

 




ムッツリ純情サイボーグ坊やパトリック。
スケベな癖に実際目にするとぶっ倒れるくらい初心。


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第44話『再会』

鼻血吹いて倒れるとか情けないなお前。


気が付いたら自室のベットで寝かされていた。

ぎちぎちとザリジローがハサミを鳴らす音が聞こえる。

 

「あー……運ばれたのか」

「……起きましたか?」

 

ベットの横に、誰か座っていた。

栗色の髪に、特徴的なウサギの耳の様な物が立っていた。

 

「88式……?」

「お久しぶりです、パトリックさん」

 

悲しそうな顔……だが、少しだけ嬉しそうだ。

 

「おう……久しぶり」

「はい……お元気そうで何よりです」

「……俺の事覚えてるって事は……記憶、消してないのか」

 

88式にとって辛い記憶だったはずなのに。

 

「……貴方に救われた記憶まで、手放したく無かったんです」

「そんなの、要らないだろ」

「いいえ」

 

俺がそう言うと、彼女は力強く否定した。

 

「貴方が差し伸べてくれた手を忘れるなんて、私には出来ません」

「……そんなつもりじゃ、なかったのに」

 

あの時は、体が、心が動いただけ。

戦いに酔いしれただけ。

 

確かに助けた。

 

「それでも、です」

「……お前がそう思うなら、それでいいよ」

 

根負けした。

昔から女に口で勝てた試しなんて無い。

 

「はい、そうします。……今度は、私が貴方を守ります」

「別に守ってくれなくても良いよ。俺はお前より強いから」

「でも、貴方は人間じゃないですか」

 

そう言われた瞬間、頭を殴られた気がした。

 

初めてだ。

俺の事を真正面から人間だと言ってくれたのは。

 

「……そっか、俺……まだ人間なんだな」

「……?パトリックさんは人間じゃないんですか?」

「あはは……そうだな」

 

手足が機械になっても、俺はまだ人間だ。

ベッドから立ち上がる。

 

「……その足は」

 

丈の長いズボンでどうなってるかは見えない。

 

「……私は、足をあのまま使えるように調整されました」

「そっか……」

 

深くは聞かない。

 

「これから、よろしくお願いします」

「おう、よろしく」

 

差し出された手は、柔らかかった。

俺の手は、硬い。

 

部屋の戸がノックされた。

 

「開いてるぞ」

「リック、元気?」

 

ひょこ、と57が顔を出してきた。

 

「おう……恥ずかしい所見せちゃったな」

「良いわよ別に。なーんだ、リックってば結構初心なのね」

「……やめろよ、ちょっと気にしてんだから」

「そうね、スケベなくせにいざとなったら倒れるなんて。童貞丸出しね」

「ど、どどどどど童貞ちゃうわ!!」

 

……まぁ、こんな機械の手足してる野郎に抱かれる女なんて居ないわな。

そう、俺はそんな理由の為童貞である。

悲しい。

 

「うわ……もしかして本当に?」

「………………」

 

沈黙は肯定である。

 

「ふーん……」

 

57が微妙な表情で笑ってる。

やめろぉ……。

 

「まぁ、その、なんだ……悪かった、服駄目にして」

「別に大丈夫よ。人形の服なんてすぐ元通りよ」

 

そう言えば戦闘が終わるとボロボロになってるけど、しばらくしたら元に戻ってるなぁ。

 

「パトリックさん」

「うん?」

「あの……服を駄目にしたって、お二人はそういった関係で?」

「「ぶはっ!?」」

 

二人して吹き出した。

 

「こいつと!?無い無い、何言ってんだ」

「何よその言い方。アタシじゃ不満なワケ?」

「顔は良いけど胸も態度もデカいくせに」

「あによ!?それFALの事でしょ!?」

「お前ら両方共そうだろうが!?」

「アレと一緒にしないでくれるかしら!?」

「そっくりだっての!」

「あ、あはは……そっか、そうなんですね……」

 

88式が、噛み締めるように呟いた。

 

 




88式が着任しました。
これから人形達と交流するイベントが続きます。


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第45話『世話焼き三連星』

奴らはやって来る。


「兄さん!いつまで寝てるんですか!?朝ですよ!!」

 

カーテンが開かれ、すっかり高くなった日の光が俺の顔に当てられる。

 

「ん……あぁ?誰だ……良いだろ、休みなんだから……」

「休みだからといって普段の生活からリズムを崩すと、体に、良く、ありませんよ……!!!!」

「ちょ、分かった!分かったから布団引っ張るな……!!」

 

誰だか知らんが朝から(現在時AM1000)余計なお世話だ……。

頭を振ってやってきた人形に目線で抗議を送る。

当然の様に無視された。

 

カーテンを開け布団を剥ぎ取った犯人は……長い髪を惜しげも無く振りまく人形、ベネリだった。

結局、俺の事を兄と呼ぶ事に落ち着いたらしく……周りに誰も居なければそう呼んでくる。

 

孤児院の時も結構多く下の子の面倒を見たりしてたので、今更妹が増えても気にしないで可愛がっている。

 

「おはよう、ベネリ……」

「おはようございます。食堂はとっくに閉じてますよ。はいどうぞ」

 

ベネリから差し出されたバスケット。

中にはサンドイッチが詰められていた。

 

「ああ、その、なんだ……わざわざ」

「どうせ寝過ごして食べて無いのは分かってます。ホントはちゃんと起きて行ってほしかったんですけど」

「……そう、か?」

 

……こいつの性格からして朝起こしに来る気がしてたんだが。

何かあったのだろうか……おや?

 

部屋のドアが開いている。

誰かが中を覗いて………………………ひえっ。

 

「「………………………………」」

 

ステアと88式が感情の無い瞳でずっとこちらを見ている。

えっ、何これは何事。

 

「わたくしが……起こしに行きたかったのに……!」

「パトリックさんのお世話は……私が……ブツブツ」

 

俺は何も聞かなかった。

ああ聞いてないとも。

 

「それで、兄さん。今日の予定は?」

「今日?うーん、素振りとか訓練適当にやって昼から街に出ようかなって」

 

前にスパスから聞いたファストフード店が気になっていた。

 

「分かりました。私も同行します」

「何でさ!」

「兄さんは絶対外食をファストフードで済ませる気でしょう!」

 

何故バレたし。

 

「お待ちなさいベネリさん!?そこまでは許してなくってよ!!」

「パトリック、さん、わ、わた、私も行きます……!!」

 

半開きのドアが勢い良く開いて二人が流れ込んできた。

壊すなよ?頼むから。

 

「なっ!?二人共居たんですか!?にいさ……パトリックさんのお世話は!今日は私が勝ったので!」

 

なんか勝負してたの!?

 

「今日一日ではありません!」

「言っていませんでしたよ!?」

「言ってませんので!!」

「ひどい!横暴です!」

「わたくしが先輩です!」

 

ひどいやり取りを見た。

その横を通り抜けて、おずおずと88式がやってきた。

 

「おはようございます、パトリックさん……本当は起こしに行きたかったんですけど」

「ああ、いや。来なくて良かったのに」

「そうしたら、ステアさんとベネリさんと鉢合わせして……じゃんけんに」

「そっかー、そのまま帰ってくれたら良かったのに」

「そうしたら4時間も掛かってしまって」

「人の部屋の前で何してんの!?」

「でも大丈夫です!次からはもっと早く来ますので!」

「来るなよ!!」

 

駄目だこれ。

 

結局昼近くまで部屋で騒いでたらしい。

その前に抜け出して裏で素振りしてたけど。

 

 

 



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第46話『お墓参り』

100式に、定期的にお墓に訪れておくといいよって言われた。

……死んだ奴は戻ってこないのに、何でそんな事をするんだろうな。


雲ひとつ無い快晴だ。

 

「よう、相棒。良い天気だな」

 

俺は空を見上げながら呟いた。

 

「俺、さ……今グリフィンに居るんだわ。しかも、そこの指揮官がリリスだったんだ……覚えてるか?よくお菓子焼いてくれたちっこい人。年上だったんだな」

 

リリスが用意してくれた、シンプルだけどそこそこ質のいい墓標。

二人の名前が掘られている。

 

「E.L.I.Dじゃなくて、暴走した鉄血の人形達と戦っててさ。最近思うんだ……戦ってるのが、楽しいって」

 

どうしようもない高揚感。

最近、戦闘中……特に、ハイエンドモデルとの戦闘時に顕著になる。

 

「何でだろうな……俺さ、リリスの為に戦わなきゃって思ってるのに……戦ってる事自体が楽しくてさ……ちょっと、怖いんだ。正規軍に戻るまで面倒見てくれてるリリスの為に、恩返ししねーといけねーのに」

 

今まで、E.L.I.D狩ってる時には感じなかった。

今まで生きてきた中で、一番楽しかった。

 

「何でこんなこと言ってんだろうな……」

「……それが、今まで抱えてた事なんだ」

「リリス……」

 

背後から声が掛けられた。

他の誰でもない。

リリス·エールシュタイアーだ。

 

「久しぶり……二人共。私の事覚えてるかな」

 

リリスが二人の墓標に花を供える。

 

「りっくん」

「ん?」

「お仕事」

「……内容は?」

「近郊のはぐれ鉄血量産型の排除。S-12のスコーチさんから」

「スコーチから……?」

「うん。装備はジェットストリームだけって」

「………うせやろ?」

 

あのおっさん俺に何させたいんだっての。

 

「りっくんはさ、戦うこと……楽しい?」

 

言葉に詰まった。

 

「どうして、って顔してる。判るよ?りっくんのことなら何でも」

 

俺とリリスは並んでずっと墓石の方を向いている。

だからリリスがどんな顔をしているか分からない。

 

確認する勇気がない。

 

「俺は、」

「強く、なりたいんでしょう?良いよ……私が、君を強くしてあげる。強くするためにどんな敵とも戦わせてあげる」

「………………」

「でも1つだけ約束して」

 

俺の手が握られる。

俺の手は鋼鉄製だ……そんなに強く握ったら、お前の手が壊れちまう。

 

「絶対、絶対に……私に、帰ってきて」

「……わかったよ。這ってでも帰る」

 

手の感触が、少し優しくなる。

 

「ありがとう、りっくん。なら、安心かな……お仕事、どうする?」

「もちろん、受ける」

 

ジェットストリームの試し斬りにはちょうどいい。

 

「じゃあ、そう返事しておくね。帰ろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………俺は、ずっと濁った瞳でアリサの墓標を睨み続けるリリスに、気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ジェットストリーム縛りの難易度ジェットストリームモード。


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第47話『ジェットストリーム·リック』

S-13地区市街地近郊に現れた鉄血のはぐれ部隊を、ジェットストリームのみで殲滅せよ。


 

今回は俺しか出ないので送り迎えは無い。

カロリーバーを齧りながら奴らを待つ。

 

「………………まっず」

 

味が無い。

粘土食ってる気分だ。

正規軍だともうちょいマシな味してた気がする。

 

「通過予定時刻まであと10分……そろそろ見えてくるはずだ」

 

背中にいつもの剣は無い。

ピースキーパーもパニッシャーも持ってきていない。

 

頼みの綱は、腰のカタナ……ジェットストリームだけ。

 

(まだ習熟したとは言えない。使える技だってイアイだけ)

 

これで正面切って戦えるかと聞けば、否である。

トムボーイと同じ感覚で振ったところで威力は明らかに足りない。

 

この武器に求められるのは鋭さ。

 

的確に弱点へ刃を通す技量と速さだ。

 

俺には、まだ足りない。

 

「……来た!」

 

被っていた偽装シートを脱ぎ捨てる。

左手を腰のジェットストリームのトリガーに掛ける。

 

目の前に視えるのは五体の鉄血人形。

奥の一体はドラグーンだ。

随伴のプラウラーを先に潰すか、それとも最奥のドラグーンから倒すか。

 

小回りが効かないドラグーンを最後にして出来る限り最速でプラウラーを片付ける。

 

「シィィィ…………!!!」

 

呼吸を整える。

一歩一歩、跳ぶように駆ける。

 

一体が俺に気付く。

遅い!!

 

「………………!!」

 

バスン!!

ジェットストリームが銃の発砲音を鳴らすかの如く鳴く。

 

炸薬によって極限にまで加速された斬撃が、プラウラーの首をすっ飛ばした。

 

「切り捨てゴーメン!!」

 

昔コミックで読んだセリフをつぶやく。

一度言ってみたかったんだよね。

 

ん?なんか違う気がする。

 

プラウラーの一体がこちらに銃を向ける。

 

「ヤバっ……うぇ!?」

 

飛んできた5発の光弾。

軽くジェットストリームを振ったら()()()しまった。

 

見様見真似だったけど出来てしまった。

 

流石に驚いたのかプラウラーが一瞬動きを止める。

 

好機!

 

「せぇりゃっ!」

 

両手でジェットストリームを握り、横一閃に振り抜いた。

 

カタナは叩き付けるものではなく、引いて切るもの。

 

100式に教えられた事を思い浮かべながら、引く。

プラウラーは上下に見事両段差れる。

 

「よし……グッ!?」

 

肩に掠った。

肉の焼ける嫌な匂いがする。

痛い。

 

けど、傷口が焼かれたお陰で出血していないのが幸い。

 

痛い、痛いだけ。

耐えられる。

 

再びジェットストリームを鞘に戻す。

 

「シィッ……!」

 

短く呼吸。

一直線にプラウラーへ跳ぶ。

 

しかし、ドラグーンが掃射を始めた。

慌てて軌道を変える。

 

が、その方向にもプラウラーはいる。

撃ち出された弾丸をカタナではたき落として距離を詰める。

 

「この……!」

 

上段から振り下ろす。

勢いが足らず肩に食い込んで止まる。

 

「ゲッ……!」

 

肩からオイルを吹き出して崩れ落ちるプラウラー。

しかし、

 

「やばっ、抜けない……!」

 

ジェットストリームをがっちり咥え込まれてビクともしない。

 

仕方ないのでプラウラーごと振り抜いた。

 

「うおらぁ!!」

 

振り抜いた反動で抜けた。

プラウラーの残骸がもう一体のプラウラーにぶつかる。

 

そのまま、地面を蹴った。

 

飛び上がり、ドラグーンの頭目掛けて振り下ろした。

 

「チェストォォォォォォォォ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「つ、疲れた……!!」

 

計五体分の残骸を山にしたあと、その辺の草原の上に寝転んだ。

 

ジェットストリームを使用するとき、呼吸方法が変わる。

一瞬にすべてを賭ける、そんな息遣い。

 

そのため、連発すると酸欠を起こす。

 

「……これ、難しいなぁ」

「ほう、鍛錬か」

「ああ……………………!?」

 

慌てて飛び起き、ジェットストリームを声の主へ構える。

 

声の主は呑気に話を続けた。

 

「以前と使っている武器が違うな?壊したのか?」

 

白の長い髪をかき上げて、彼女はそう言った。

 

「お前は……アルケミスト……!」

 

眼帯の無い目は、ニヤリと歪んだ。

 

 

 




アルケミスト、再び。


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第48話『誘い』

唐突に現れるハイエンド。
何やら事情がある様だが。


油断なくジェットストリームをいつでも抜ける様に構える。

さっき被弾した肩がじくじくと痛む。

 

「おっと、そう警戒するな。今の私は丸腰だ」

「……信じるとでも?」

「今日はちょっとした話をしに来ただけだ。何なら調べて貰っても構わないぞ」

 

アルケミストが両手を俺に向けて広げる。

なんか、毒気が抜けた。

 

「……話ってなんだよ」

 

呆れぎみにジェットストリームから手を放す。

こいつ、身内がヤられてるってのに落ち着きすぎだろ。

 

……グリフィンみたいに、仲間意識が強くは無いのだろうか。

 

「お前、名前は?」

「……は?」

 

名前?

どうして?

 

「教えろ」

「え、えぇー……パトリックだ。パトリック・エールシュタイアー」

「パトリックか。そうかそうか、パトリック」

「な、なんだよ気持ち悪い……」

 

妙に嬉しそうに連呼される。

何なんだほんとに。

 

「なぁパトリック」

「………………」

「くっくっくっ……拗ねるな拗ねるな。何、久しぶりに心が踊ったんだ。許してくれ」

 

びっくりするくらい綺麗なほほ笑みで、思わず目を逸らす。

落ち着け、こいつは敵だぞ。

 

「私と対等以上にあの距離で渡り合った敵が今まで居なかったのだからな。楽しかった」

「……横槍が入ってなきゃ、俺はお前に殺されてた」

「ほう?存外素直じゃないか。負け惜しみの一つでも言うのかと思っていたが」

「……だったらなんだって言うんだ」

「悪かった悪かった。そう拗ねるな」

「拗ねてなんかいねーっての!!」

 

何だこいつ、ほんとやりにくい。

リリスとは別ベクトルで年上ムーブかましてきやがる。

 

「本題に入ろう。パトリック、共同戦線を張る気は無いか?」

「……あ?」

 

共同戦線?誰が?俺と?鉄血が?

 

「てめっ!ふざけんなよ!?リリスを襲っておいてよくもそんな都合の良いことが言えるな!!」

 

ジェットストリームを握り撃鉄を落とす。

その瞬間に俺は手を抑えられた。

……動かない。

 

「それは百も承知だが、これを聞けばお前も意識を割かざるを得ないだろう」

「なんだと……!」

「私はある同胞を追っている。鉄血(私達)が人を襲うようになる前にネットワークから逃げ出した人形をな」

「あぁ?要するに裏切りモンだろ?そっちで片付けろよ……!」

 

凄まじい力で俺の両腕は抑えつけられている。

ここまで接近された上でこの状態からむりやり引き抜いてもほぼ刃は立たない。

 

「それがそうも行かなくてな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……は?」

 

そいつに作られた?

鉄血人形のハイエンドモデルはほぼ人間が作ったんじゃないのか?

 

腕の力が一瞬抜ける。

お互いバランスを崩してアルケミストに押し倒される格好になった。

 

「うお……!?」

「おっと……まぁ良い。そいつはジャンクからデッドコピーを作り出す能力を持つハイエンドモデルでな。名は……」

 

そこまで言って、アルケミストが暫く口パクをしていた。

 

「……?」

「チッ、奴め中々抜かりない。私達には喋らせない気か……」

「どういう事だよ」

「被創造物の私達では創造者(クソッタレ)の名前を呼ぶ事すら許さないと言う事さ」

「何だそりゃ……まぁ、何だ。事情は大体分かったけどよ……見付けてどうすんだよ」

「壊す」

 

即答だった。

片方だけ視える瞳には、何も映らない。

 

「オリジナルのデッドコピーとして産み落とし私に散々屈辱を味合わせた奴を、この手で破壊する」

「………………」

「それだけだ。……どうした?パトリック」

「い、いや……お前も、そんな顔するんだな」

 

悔しそうな。

心の底から標的をどうにかしたい、そんな顔。

 

「惚れるなよ」

「ねーよ」

「そう言えば報酬の話をしていなかったな」

 

もう協力する前提の話になってる。

 

「生憎と私に渡せる物が無くてな……」

「もう破綻してんじゃねーか」

「ふむ、そうだな……」

 

おもむろにアルケミストが俺の右手を掴んで……そのでっけーおっぱいに押し付けた。

 

「………………はぁ!?」

 

な、なななな!?

や、やわこい!じゃなくて、でっか、違っ、はっ、えっ!?何故!?

 

「ちょっ、ちょっと、なっ、おまっ、なにを!?」

「矢張りか。お前は最初に会ったときも見てたからな」

「や、ちょっと、離せ!」

「良いではないか良いではないか。戦闘用の人形にこんな無益な物をぶら下げさせる魂胆は気に食わなかったが、お前に貪られるのならそれも一興か」

「だ、誰がお前なんか……!!」

「私は構わないぞ。お前を気に入ってるからな」

「だーっ!ちくしょうめ!いい加減退け!!」

「そう騒ぐな。そろそろ時間切れだ」

「あ……?」

 

 

銃声。

アルケミストが後方に飛び退る。

 

「パトリック!また会おう!」

 

そのまま大きく飛び退り……消えた。

 

「何だったんだホントに……」

「大丈夫ですか!?パトリックさん!!」

 

誰かが走ってくる。

ついでに何かが飛ぶ音も聞こえる。

 

「あれ、確か……TAC-50?」

 

なんで彼女がここに……。

楓月が上空を旋回している。

 

……まぁ、何はともあれ無事にやり過ごせたか。

 

 




整備能力を備えるハイエンドモデル。

なんとオリジナル枠です。


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第49話『目』

現れるTAC-50。
そう言えば最近よく視線を感じるが……。


「……で、TAC-50」

「はい」

 

TAC-50が俺の肩に包帯を巻いてくれている。

戦場だった場所から少し離れた廃墟の物陰。

そこに移動して少し休憩をしている。

 

「何でここに?」

 

ここには俺しか来ていないはず。

しかもリリスが人形への通達をしていなかった……。

 

こいつが、知っている訳が無い。

 

「えっと、ちょっと心配で……」

「そんな理由で武装して俺の後付いてきたってのか?誤魔化すならもうちょっとマシな言い訳しろよ」

「う、うぅ……」

 

度々楓月から見られていると感じていたが、まさか……。

 

「なぁ、TAC-50」

「は、はい……」

 

ビクリと彼女の肩が跳ねる。

なんか小動物の様だ。

 

「まさかずっと見てたとか言わないよな」

「………………」

 

沈黙。

ここでの沈黙は即ち肯定を意味すると、多分分かってないんだろうか。

 

「嘘だろ……」

 

じゃあ、まさかアルケミストとの会話も聞かれていたんじゃ。

 

「だ、大丈夫です……誰にも、誰にも言いません」

「……別に、聞かれて困ることじゃない」

 

奴に協力するつもりなんてサラサラ無いのだし。

何もやましいことはしていな……。

 

「パトリックさんがアルケミストの胸をしっかり揉んでいたのも」

「う、おおおおおおおおおおお!!?」

 

慌てて俺はTAC-50の口を押さえた。

 

「むぐ」

「ばっちり見てんじゃねぇか!!このやろう!!」

 

あんなシーン他の連中に見られたら何言われるか。

 

「だ、大丈夫ですよ……私と、パトリックさんとの秘密にしますから」

「……信用して良いんだな?」

 

彼女は微笑む。

イマイチ信用しきれない……。

 

「とりあえず……怪我の治療サンキューな。帰ろうぜ」

「はい」

 

廃屋から出る。

……少し空模様が怪しくなってきた。

 

「なぁ、TAC-50」

「なんですか?」

「鉄血のデッドコピーを生み出すハイエンドモデルについて、何か知らないか?」

 

アルケミストが言ってたあの存在。

せめて名前を聞ければやりようはあるのだが。

 

「すみません、私は何も……」

「そうか……帰ったらジェリコに聞くか」

 

資料室漁れば出てくるだろうか。

でも昔からああいう書類に囲まれるのだけは本当に嫌だったんだよな。

 

AK-12がいっつも呆れながら小言言ってきたっけ。

AN-94は手伝ってくれて……。

 

「パトリックさん」

 

TAC-50が、俺の思考を打ち切った。

 

「指揮官が心配してますよ。帰りましょう」

「そうだな」

 

手足のガタツキもない。

これなら軽くチェックするだけで良さそうだな。

 

「腹減ったな……TAC-50何か持ってないか?」

「メープルシロップならありますよ」

「何にかけるんだ?」

「なんでもですよ」

「……え?ほ、他には何か持ってないのか?」

「メープルクッキーです」

「ほ、ほーん……帰るまで我慢するわ」

「まぁまぁそう言わずに。お一つどうです?」

「じゃあお言葉に……ギャーッ!!何かけてるんだよ!!あっ、やめろメープルが2倍じゃねぇか!!ちょ、近づけ……アーッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 




明けましておめでとう御ございます。
年末と年始にいろいろありましてメンタルクソザコ状態になっていました。

なんとか持ち直しましたので、また執筆を再開したいと思ってます。
今年もパトリックくんをよろしくお願いします。


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第50話『平穏の形』

これがこの基地のパトリックの平穏ですね(


あれから数日後。

義肢の調整も済ませて、S-12のスコーチへ報告した。

 

部屋の整理をしていた時、ふと……ボロボロのポーチが出てきた。

本当に小さな小物しか入らない代物だが……俺はここに薬品を良く入れていた。

 

何度もこの小物入れに入っていた傷薬やアドレナリン注射に助けられてきた。

 

「……AN-94」

 

このポーチをくれた人形の名前をつぶやく。

 

何だかんだ、あれから帰る為の努力をしていない。

帰る気が無いと言うのは嘘になる。

 

ただ、

 

(……負けっぱなしが、性に合わない)

 

俺と戦ったハイエンドモデルとは、ほとんどが引き分け……もしくは、事実上の敗北を喫している。

 

このままでは終われない。

 

「……あいつ、元気にしてるかな」

「あいつって誰よ」

「正規軍の同じチームのヤツ。メンタル弱いのか知らないけどいっつも落ち込んでてさ」

「へー。女の子?」

「女?うーん、人形だけど女」

「へぇ。好きなの?」

「んなワケ………………………あぁん!?」

 

気が付くと隣にFive-seveNが立っていた。

 

「えっ、なっ、おま、なんで勝手に!」

「だって、リック呼んでも出てこないじゃない」

 

そう呟くと、俺から離れて部屋の中を見て回っている。

 

「武器庫じゃなくて部屋に自分の武器置いておくの、ちょっと物騒じゃない?」

「一応俺ここの所属って訳でもないし……それに、剣なんか持ってったってどうすんだよ」

「違いないわ」

 

唐突にFive-seveNが机の引き出しを開ける。

勿論空っぽだ。

 

「何してんだ」

「見られて困る物無いかなって」

「見られて困るなら見られる場所には置かねーよ」

「それもそうね」

 

よいしょ、とFive-seveNがベッドに歩き寄り屈んでベッド下を覗く。

衣類の入っているボックスくらいしか置かれていない。

 

「いや、何しに来……」

 

……Five-seveNの形の良い臀部が、目の前で揺れている。

思わず言葉を失う。

いやいやいやいや待て、落ち着け。

そんなん気にしてどうする。

 

別に、もう少しでスカートの中が見えそうだとか、そう言うのじゃない。

 

「……無いわね。あら、どうしたの?」

 

なんて悶々と考え込んでいたらFive-seveNがもう立ち上がっていた。

 

「いや、何でも」

「ふーん……何、もしかしてアタシと一緒だと緊張するとか?」

「ばっ、そんなワケねぇだろ」

 

やめろ、ニヤニヤして寄ってくるんじゃない。

慌てて部屋から出ようとする。

ドアに触れようとした瞬間……。

 

「Five-seveN、誘うならさっさとしなさい。いつまで掛かってるのよ」

 

……ドアが開き、伸ばした手はそのまま空を切り。

 

「……え?」

 

とてつもなく柔らかい物を手に収めた。

 

「……あ……」

 

感触、そして視覚。

恐る恐る顔を上げる。

体勢がちょっと崩れた為に真正面は胸しか見えない。

 

……FALが、顔を真っ赤にして震えていた。

 

「えっ、あの、ちょっ、えっと、これは」

 

慌てて下がる。

……FALの手が上がった。

 

「この……変態ッ!!」

 

渾身のストレートが俺の顔に突き刺さった。

 

 

 

 

こいつら……何しに来たんだ……。

 

 

 

 

 




たまにはなんの進展もなくいちゃいちゃしてるだけでも良いじゃない。

今後どう進めるかちょっと思案中。
次回の更新は遅くなるかもしれません。


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第51話『緊急召集』

もう人形は追加しないと言ったな。

アレは嘘だ。


「兄さん、起きてください」

「んぁ……?ベネリ……?どうしたんだよ、まだ夜中だぞ……」

 

時計の針は未だ2時を差していた。

ベネリの赤と黃の瞳が闇夜の中で少し輝いていて綺麗だった。

 

「指揮官がお呼びです。完全武装出来次第集合してください」

「……!わかった」

 

完全武装?

穏やかじゃないな……。

 

 

……ところで、何でいっつもコイツら勝手に入って来るの?

俺の部屋鍵かかってるんじゃないのかよ。

 

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

「チッ……来ましたね」

 

リリスの元へ来た瞬間、舌打ちが飛んできた。

酷いもんである。

 

「G36。やめなさい」

「申し訳ありませんでした」

 

恭しく礼をするが頭を上げたときにはもう俺睨んでる。

顔が良いからほんと恐いよ。

 

「ごめんね、りっくん。寝てる所に」

「緊急の案件か?」

「うん。これを見てくれる?」

 

リリスに渡されたファイルを開く。

内容は、IOPのとあるハイエンドモデルが行方不明になったと言う記述。

 

「IOPのハイエンドモデルって……AR小隊か?」

 

ジェリコに聞いた話だが、グリフィンには人形自体に指揮をするためのモジュールを搭載した特別な人形が居るらしい。

 

尤も、そいつはどっかのプレイボーイに引っ掛かって誓約を交わしたとか。

グリフィンとIOPの上層部が頭を抱える案件らしくあまり出回ってないけど。

 

「ううん。別の人形。任務で動いてたんだけど消息を絶っちゃったらしくて」

「なるほど……」

 

と言う事はこの人形の捜索が今回の仕事か。

……しかし、俺が出る理由は?

 

「……S-14地区周辺。鉄血が居るかも」

 

なるほど。

この時間だと完全に夜戦になるが……。

 

「メンバーは、リーダーがDSR-50、Five-seveNとジェリコにG36c、FALとそこにりっくんが入るから」

「了解」

「よろしくね、パトリック」

 

そっと肩に手を置かれたので慌てて振り払った。

 

「あら」

「……ビビるからやめろって」

 

何か最近こいつ距離近いんだよな……。

 

「行きましょうパトリック。皆待ってるわ」

「はいはい……じゃ、行ってくる」

「気を付けてね」

 

二人で部屋から出る。

……DSRが、口を開いた。 

 

「……あんまり、無茶しないでね」

「大丈夫だって。俺にはこの鋼鉄の腕がある」

「割と外れたり壊されたりしてるじゃない」

 

ごもっとも。

何だかんだ壊されている。

頑丈さに極振りしているとはなんだったのか。

 

「……何とかなるって」

「はぁ……心配してる身にもなりなさい」

「無茶しなきゃ、勝てねぇんだから」

「私も気を回すけど……次大怪我したら……食べるわよ」

「それ脅しとしてはどうなんだ」

「なんてね。でも、本当に怒るから」

 

いつになく真剣に案じてくれている。

……からかうほうが野暮ってもんだろうよ。

 

「……善処する」

「それ、絶対信用されない言葉よ」

 

ちくせう。

 

 

 




私の趣味によりあと二体追加します。

収集つかない気がしてきたけどやりたい様にやった方が楽しいので。


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第52話『悪夢との遭遇』

初めてとなる夜戦。
夜目は利く方だが大人しく装備に頼るべきだ。


――現地にて。

 

俺達は降下ポイントに到着した。

輸送ヘリが戻っていく。

 

「作戦開始……怪我しないように」

 

DSRの一言に苦笑を漏らす。

ジェリコの肘が脇腹に刺さる。

 

「おう"っ」

「特に貴方よ、パトリック」

「お、おう……」

 

何か当たり強くない?君ら。

結局ポジションは前衛になるので被弾するなって言うのが無茶な話だが。

 

「まずアタシとジェリコで偵察するわ。何かあったら連絡する」

「でも陣形はそのままでお願いね」

「分かってるってば。リック、あたしから離れないでね」

「いや、俺最前列なんだが」

「大丈夫ですわ。私が居ますよ」

 

G36cのスキルは確かフォースフィールドというもの。

一定時間全ての攻撃を遮断するシールドを張るとか。

 

「頼りにしてるわよ、G36c」

 

DSRが頷く。

 

「それで、行方不明のコはどんな人形なの?」

 

FALが気になっていた事を潰し始めた。

摺り合わせは大事だ。

 

「サブマシンガンタイプ、目印は黄色のメガホンよ」

「指揮タイプだからって分かりやすい指標だな……」

 

人形の名前はハッキリ言って覚えにくい。

見た目が個性的なやつ揃いだから認識に難くない。

 

「行きましょう」

 

――作戦開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アレは」

 

しばらく進んだ後。

夜は不気味に静まりかえっている。

 

鉄血の人形はダイナゲートすら見かけない。

 

だが、前方に光が見える。

明らかに人工の灯り。

 

「……止まって」

 

DSRの号令。

小隊が静止、姿勢を低く、近くにあった木々に身を寄せる。

 

「リック、何が見えたの」

「灯りだ。サーチライト系の」

「確認するわ」

 

DSRがこめかみに指を当てる。

ライフル人形だし、何かしらカメラに仕掛けでもあるのだろう。

 

「正規軍……?」

 

DSRの呟きに、俺達は肩の力が抜けた。

 

「何でこんな所に……」

「何にせよ、誤射を避けるためにひと声かけてから行きましょう」

「賛成。銃口向けられるのは気分が良くないもの……特に、アレはね」

 

人形達が喋っているのを尻目に……俺は、違和感が拭えなかった。

 

(おかしくないか?……ここはグリフィンが持ってる鉄血との最前線だぞ?それに、正規軍はE.L.I.D相手にするので手一杯で()()()()()()()()()()()()()()()程度に構ってる場合じゃない……)

 

考えられる理由は、

 

(……まさか、E.L.I.Dがこの辺りに居るってことか?)

 

「DSR、ちょっと……」

「!皆さん、そこに誰かが……!」

 

俺が声を掛けようとした瞬間、G36cがなにかを見つけた。

 

「どうしたの?」

「誰か、倒れています」

「警戒。私とパトリックで見ます……来て」

 

俺とDSRが恐る恐る近づく。

……二房にまとめた黒髪が地面に乱れている。

傍らには黄色のメガホンと、彼女の物と見られる銃。

 

「……この子ね。貴女、大丈夫?」

 

DSRが肩をそっと揺らす。

 

「DSR、こいつ……頭抜かれてやがる」

「……なんて事」

 

うつ伏せに倒れていたのを仰向けにしてやる。

……こめかみに小さな穴。

そこから少し液体が漏れ出している。

 

ヘッドショット。

これは、助からな………………()()

 

(待て、落ち着け。同僚が頭やられていた時、俺はどうした?)

 

潰された奴は流石に無理だが、このくらいの穴なら……。

 

「パトリック……?」

「動かせるかもしれない。予備のバッテリーは?」

「あるけど……」

「寄越してくれ。ちょっと応急処置する」

「大丈夫なの?それは」

「正規軍でやってた事だ。それで何人か同僚助けてる。信じてくれ」

「……わかったわ」

 

DSRから予備のバッテリーパックを受け取る。

 

(間に合ってくれよ……)

 

朧気な記憶と、無我夢中で処置していた為……気が付けば終わっていた。

 

「……頼む、起きてくれ」

 

しかし、相手は民生人形。

軍用ほど頑丈ではないのだ。

 

「う、うぅ……」

 

声を出して喜ぶのを抑える。

DSRが俺に抱きついて来た。

今は流石に甘んじておく。

 

「良かった!気が付いたんだな」

「こ、ここは……」

「私達はグリフィンS-13地区の部隊よ。貴女を保護しに来たわ」

「グリフィン……うっ」

 

人形が頭を抑える。

まだハッキリと覚醒仕切ってないのだろうか。

配線を無理矢理繋いだりした弊害が出てしまったか?

 

「歩けるかしら?まずは帰還しましょう……それからゆっくり、ね?」

「はい……」

 

DSRが人形に肩を貸して立ち上がる。

 

「皆、保護対象よ。帰還しましょう」

 

その瞬間、爆発音がした。

 

「何!?」

「DSR!さっきの正規軍の居た辺りよ!」

「向こうの照明が消えたわ!」

「……照らして!」

 

ジェリコが最低限に絞った灯りを出す。

……照らされたのは、先程の正規軍の人形達ではない。

 

肥大し規則性の消えた四肢、黒光りする肌。

覚束ない足取り……そして、巨大な単眼が、こちらを見ていた。

 

「な、に……コイツ……」

 

全員が、固まる。

 

……知っている。

 

俺は知っている。

 

このクソッタレな成れの果てを。

 

「走れ!!E.L.I.Dだ!!!」

 

トムボーイを最大出力で躊躇い無しに振り抜いた。

 

 




E.L.I.D、出現。


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第53話『討伐、そして再会と……』

E.L.I.D。
その存在はPMC程度では対処することは難しい。

しかし……好都合な事に、俺は専門職だ。


トムボーイがE.L.I.Dの脇腹に食い込む。

刃が通らない……ならば。

 

素早くハンドルを捻り推進機関を爆熱させる。

 

「うぉるぁ!!!」

 

E.L.I.Dの巨体が浮く。

相手ごと振り抜いてふっとばした。

 

「何してる!さっさと行け!」

 

背後で銃を構えたDSR達に叫んだ。

 

「置いていける訳無いでしょう!総員構えー!」

「馬鹿野郎!そんな弾丸じゃ表皮も抜けねぇっての!!」

「DSR!引くわよ!」

 

ジェリコがDSRの首根っこを引く。

……あいつの判断なら信用出来る。

 

その間に俺はE.L.I.Dの振る腕を躱しトムボーイでぶっ叩く。

 

「でも……!」

「こっちは怪我人一体よ。庇いながら戦うなんて無理」

「ジェリコの言う通りよ。……納得なんてしてないけど」

「くっ……」

 

少なくとも正規軍の人形連中をノしてきたヤツだ。

本気で相手にしないと俺も危うい。

 

「行け!俺なら大丈夫だ!絶対追い付く!!」

 

だから、叫んだ。

 

「DSR!!」

「…………………帰って来なかったら、許さないわよ!!」

 

DSR達が撤退して行く。

これで良い。

グリフィンの人形の仮想敵に元々E.L.I.Dは含まれていない。

彼女達の火器で太刀打ちなんてどだい不可能だ。

 

「来やがれ!化け物!」

 

こいつの武器は肥大化した両手なのか、その腕を振り回してくる。

腕の攻撃をトムボーイでいなしていく。

 

「馬力は、負けてねーんだよ!」

 

攻撃を躱し、腕に一撃。

 

………………斬れない!

 

「クソッタレ!硬い!」

 

その時、俺とE.L.I.Dがライトに照らされた。

眩しい……暗視装置を脱ぎ捨てた。

 

「パトリック!援護するぞ!」

 

聞き覚えのある声とともに、光弾がE.L.I.Dに降り注ぐ。

これは、正規軍の光学兵器!

 

「お前ら!」

「何処ほっつき歩いてたんだ馬鹿野郎め!」

 

その場から飛び退り、正規軍の人形達のもとへ滑り込んだ。

 

「心配かけやがって!」「無事で良かった!」「信じてたぜ相棒!」

 

口々に再会の言葉を投げつつ俺の背を叩いてくる。

 

「隊長は!何でここに!?」

「別任務だ!俺達ゃ雑用だよ!」

 

E.L.I.Dが手らしき物をこちらに向けてきた。

 

「伏せろ!」

 

その瞬間、弾丸の様な物を飛ばしてきた。

トムボーイを地面に突き刺し、腰のジェットストリームに手を掛ける。

 

「オリャァーッ!!」

 

一閃。

飛んできた弾丸を全て切り捨てた。

 

「すっげぇ!いつの間に!」

「まだ終わってねぇぞ!」

「撃て撃てぇ!居住地近いんだからここで仕留めるぞ!」

 

俺もピースキーパーを撃つ。

さて、コイツどうやって片付けようか……。

 

「パトリック。隙は作るからアイツの腕一本くらい落とせないか?」

 

参謀タイプの人形に言われる。

参謀って言うけどこいつの案は大概力任せのゴリ押しである。

 

「お前、また無理難題を」

「そのサムライソードなら行ける」

「……信じていいんだな」

「ああ、信じろ!」

 

サムズアップを返されたので、そいつの頭ぶっ叩いた。

 

「後で奢れよ!」

「総員!パトリックの援護を!ランチャー用意!」

 

俺が走り出すと同時にロケットランチャーが発射される。

とりあえず目らしき機関に命中。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

走る。

 

走る、走る。

 

ジェットストリームの安全装置はとっくに外れている。

後は、抜くだけ。

 

E.L.I.Dの体勢が崩れ、手を地面に着き―――。

 

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

脚部のバネを最大限使う。

弾丸の様に跳ぶ。

 

撃鉄。

ジェットストリームの炸薬が爆ぜる。

 

刃鳴る。

火花を散らす。

 

赤い刀身が触れ……。

 

 

なんの抵抗も無く、斬り裂いた。

 

 

「ヒューッ!!」

「今だ!撃てェ!!」

 

集中砲火が始まる。

俺も慌てて離脱した。

現状、E.L.I.Dに対しては動かなくなるまで光学兵器を叩き込み焼き尽くすのがセオリーとされている。

 

これで、こいつも終わりだろう。

 

「ふぅ……」

 

ジェットストリームを鞘にしまう。

何とかなった。

 

「パトリック!」

 

振り返る。

……ブロンドの髪の、顔立ちの整った女性……AN-94が、走り寄ってきた。

 

「よぅ、AN-94……ぶへぇあ!?」

 

顔面に思いっきり拳が突き刺さった。

勢いよく吹っ飛ぶ。

 

「な、何しやがる!」

「馬鹿!大馬鹿!スケベ!単細胞!」

「何だとテメェ!」

「生きてたなら連絡くらいしてよ!!」

 

ボロボロとAN-94が泣き始めた。

流石に閉口する。

 

周りの同僚達は苦笑しながら後片付けを始める。

 

「……ごめん」

「う、うわぁぁぁぁ……パトリック……良かった……本当に」

 

抱き着かれて、胸元で泣かれた。

心配掛けちまったなぁ……。

 

「それで、何でこんなトコにE.L.I.Dが?」

 

気まずいので話題を変えようとしてしまった。

 

「グスッ……分からない。通報があったから急行しただけ」

「通報?」

 

E.L.I.Dを見て?誰が?

 

「匿名だったのよ。それで人形の部隊が派遣されたの」

 

まぁ確かに人間を送るわけにも行かないしな。

 

「パトリック。勿論帰ってくるわよね」

 

……言葉が出なかった。

俺には、このまま正規軍に戻る選択肢がある。

 

DSR達を、リリスを置いて。

 

「それ、は……」

「……貴方はMIA扱いだから問題になってないけど、本来ならいちPMCに正規軍が介入するのは褒められた事では無いわ」

「分かってる、そんな事」

 

俺は……。

 

「うわぁ!?こいつまだ生きてる!!」

 

二人して振り返る。

……半分以上身体が無くなっている、死に体の肉塊がこちらに向かって走ってきていた。

 

「パトリッ」

「危ない!!」

 

俺は、AN-94を突き飛ばした。

 

「なん」

「ガッ……!?」

 

肉塊のタックルをモロに喰らう。

 

そして、そのまま背後にあった……谷に、落ちる。

 

「う、そだろ!?」

 

何故こうも都合良く悪い事が連続する!?

 

「パトリックーーーー!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!!」

 

長い、浮遊感の後……俺は水面に叩き付けられ、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 




再びの、水没。
今度はどこへ流されるのか。


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第54話『立ち止まるな、歩き続けろ』

どれだけ辛くても。
どんなに苦しくても。

この命を繋いでくれた人達に恥じない様に。

俺は、人間として生き続けなくちゃいけないんだ。


目が覚める。

一面、真っ白な……壁も、床も、境界線の無いようなあやふやな景色。

 

「何だ、ここ……俺は一体」

 

確か、E.L.I.Dの最後の悪あがきで吹っ飛ばされてそのまま谷に落ちた……。

 

ずきり、と右肩が痛む。

 

「いづっ……久しぶりに、痛むか」

 

鎮痛剤を打とうとして……手元に無い。

おかしい。

一応最低量はいつもストックしていたはずなのに。

 

「引くまで耐えるしかないか……」

 

……あれ、おかしいな。

なんか接合部が痛い。

 

なんかこう、()()()()()()()()()()()()()()

 

ずるり。

ぼとっ。

 

「………………え」

 

おかしい。

右腕が急に軽くなった。

というより……腕の感覚はあるのに、右の義手が目の前に落ちている。

 

「あ、あれ……なんだこれ」

 

今、右腕にくっついているのは……俺の肌と同じ色をした、人の腕。

 

どうして?

痛みは、止まらない。

ますます酷くなる。

 

とうとう耐えきれずに膝を着いた。

 

「あ、ぎ、ぃ、ぃ、あ」

 

痛い、痛い痛い痛い。

 

何で、どうして。

 

 

 

 

 

ずるり。

 

 

 

 

 

腕が、伸びた。

 

 

 

 

「…………へ」

 

その瞬間、ぼこぼこと腕が泡立ったと思えば一気に肥大化した。

 

「なんだこれ、なんだこれ!?」

 

どんどん腕が醜く変容する。

これじゃ、これじゃあまるで……E.L.I.D……。

 

「う、うわ……嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「……大丈夫?」

「ハッ……ハッ……ハッ……う、腕……腕、は……」

 

 

肩を揺すられ、声を掛けられていたらしい。

琥珀色の瞳が俺を心配そうに見ていた。

 

「腕?……これは、なんて答えるべきかしら」

「……え?」

「義手ですよ。両方共」

「はぁぁぁぁ……………………」

 

深いため息と共に、安堵した。

 

俺の、慣れ親しんだ暖かさの欠片もない無骨な腕。

 

「そこ、安心するとこ?」

「……少なくとも、俺はこの腕の方が慣れ親しんでる」

「人間なのに、大変ね」

「人間だから、大変なんだ」

 

起き上がる。

……上半身は裸だった。

 

俺の上着は近くに貼られたロープに干されていた。

ずぶ濡れの衣服を纏ったままだと、あっという間に体温を奪われお陀仏なので、正しい処置だと思う。

 

「これは、アンタが?」

 

改めて、助けてくれたらしい女性を見る。

……着ている衣服は風化しているのかボロボロだ。

 

褐色の肌にワインレッド髪。

何となく、以前会った人形と似ていた気がした。

 

「……WA2000?」

「全然違うけど……まぁあの子可愛いし好きよ。ワタシはショットガン、イズマッシュ・サイガ12よ。長いからサイガで良いわ」

 

まぁ戦術人形だわな。

 

「俺はパトリック。パトリック・エールシュタイアー。ひとまず助けてくれた礼を言わせてくれ」

「構わないわ……まぁ、ここから出られるとは思わないけど」

「えっ?」

 

どういう事だ?

今更ながら、今居る場所を認識した。

 

光は降り注ぐが、それは谷のてっぺんから日が注いでいるだけ。

断崖絶壁の真下、川の中のたまたま丘になっている場所。

 

出口は、崖の上だけだ。

 

「ワタシのバッテリーはここで尽きる。そして……誰にも知られないまま、朽ちるのよ」

 

もう諦めてしまった様に、呟いた。

 

「……バックアップは?」

「ワタシの居た基地は壊滅したわ……ワタシ、本当に消えてなくなるのよ」

 

……なんてこった。

ん?壊滅した基地?

 

「ワタシはどうにか逃げられたけど、こんな事になっちゃったし……あの子、無事だと良いけど」

「あの子って?」

「……マシンガン、88式よ」

 

……S-14地区の人形の生き残りか。

 

「彼女は、S-13で保護されたぞ」

「えっ…………………そう、そう……良かった……」

 

安心した様に呟いた。

 

「………………」

 

俺は、崖に手を掛ける。

……しっかりと壁を掴める。

思った以上に頑丈だ。

 

足をかける。

俺の体重は相当重いが……崩れなかった。

 

行ける。

 

「この崖、登れそうだ。高さも30m程度……助かるぞ」

「そう。ワタシは……良いわ」

 

サイガが、座ったまま目を閉じた。

 

「どうして!」

「だって、ワタシ……片脚が動かないもの」

「えっ………………」

「だから、」

「だからなんだってんだ!88式を一人にして置いてくつもりか!!」

「……何を言っているの?ワタシ達、人形よ?いくらでも替えが効く」

「バックアップは無いんだろ。俺と話してるお前はここで消えちまう」

「そんな物よ、世の中」

「納得出来るか!」

「なっ……」

 

俺は叫ぶ。

命の恩人を置いて自分だけのうのうと生き延びるなんて。

 

そんな事は絶対に出来ない。

俺の手足はまだ動くし、心は折れていない。

 

なら出来る。

 

俺はまだ立って歩けるんだから。

 

「俺はお前を見捨てない。担いででも連れてってやる!」

「何処によ……馬鹿な人」

「馬鹿で結構!人間(俺達)は利口じゃないんでね!」

「……貴方見てると、亡くなった指揮官を思い出すわ。新人のくせに、情熱だけはいっちょ前で」

 

サイガが、瞳を伏せ……意を決した様に顔を上げる。

 

「……だから、仇くらいとってあげなきゃ」

「よし……行くぞ」

 

立ち止まるな。

俺に意思がある限り、歩き続けろ―――!!

 

 




不屈の意思。
例え手足が仮染めであろうとも。

絶対に負けはしない。


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第55話『託されたんだから』

生きろと、託されたんだから。


俺の上着を干していたロープを使って、俺の身体とサイガを縛着した。

 

「大丈夫か?キツくないか」

「大丈夫よ……ただ、何というか」

 

妙に歯切れ悪そうにサイガが口ごもる。

……サイガを背負って密着してるから、まぁ居心地は悪いだろうな。

 

なお、一応装備はロストしてないのでトムボーイとピースキーパーはサイガの背中に背負わせている。

 

サイガの装備は全て駄目になっているので、破棄。

 

「……男の人とこんな密着するの、初めてで」

「今そういうこと言うなよ……」

 

正直背中がとても気持ち良い。

意識しちゃいけないけど。

 

「バッテリーキツかったらスリープに入っててもらっても構わない」

「ごめんなさい。その時はそうするわ」

 

その時は、か。

こいつもしかして意地でも起きてるつもりか。

 

「分かった……行くぞ」

 

崖を、登り始めた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「……凄いわね、その義手」

 

半ばほどまで登ったところで、サイガがそう漏らした。

 

「ああ、本当に、いつも、助けられてる」

 

言葉が途切れるのは息がそれだけ上がっているから。

やっぱりフル装備戦術人形1人担ぐのはしんどい。

 

「む、無理に返さないでよ」

「気に、するな、ふんっ……!」

 

手が震える。

いくら義手と言っても俺と生体接続してるから疲れも感じる。

幸い指先を怪我しないのが利点といえば利点か。

 

脆い箇所は抜けた。

ぶっちゃけ最初の5mは何度も落ちた。

 

そのたびに砂利に突っ込んでもう顔面は血だらけ。

口の中だってズタズタだし、もしかしたら肋が折れてるかも。

 

サイガを下敷きにしてないのは僥倖か。

 

鎮痛剤をとにかく打ちまくっているから、なんとか耐えられている。

 

「……ねぇ。どうして……ワタシを助けるの?」

 

今度は、明確な質問が飛んできた。

気が紛れるから、割と有り難い。

 

「恩人、だから、だっ、ハッ、ハッ」

 

まだ、残り半分。

 

「それだけで?」

「ああ、受けた恩は、返さなきゃいけない、育てて、くれ、た、爺さんと、シスターの教え、だ」

「……孤児、だったの?」

 

遠慮がちに、サイガが聞いてきた。

別に言いにくい事でもないんだが……律儀なやつ。

 

「ああ、孤児院育ちの、正規軍所属、だ」

「えっ、正規軍なの?」

「やっぱ、驚く、の、な」

「だって……」

「慣れたよ、その、反応は」

 

良いぞ、順調に進めてる。

 

折れるわけには行かない。

だって、託されたんだから。

 

生きろって言われたんだから。

 

「パトリック、頑張って……あと少しよ!」

「ああ……!」

 

行ける。

届く。

 

「生きるぞ、サイガ……!」

 

俺の手は、地上に、届いた。

 

「やった………………!」

 

サイガが、歓喜の声を上げる。

 

「う、ぉるぁぁぁぁ、あぁぁぁぁ!!!」

 

最後の力を振り絞り、俺は、体を引き上げ、地上へ足を付けた。

 

「は、はは、は……ほんとに登っちゃった……」

「どう、だ……人間、やりゃなんだって出来るんだ」

「凄いわね……本当に……ありがとう、パトリック」

「礼を言、うにゃま、だはえーぞ……とにかく、近くの街へ……」

 

サイガの脚をなんとかして、一旦休まないと……。

 

 

 




パトリック、サイガ、共に窮地を脱する。
さぁ、帰ろう。


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第56話『帰還行動』

俺は、俺の帰るべき場所は……どこなんだ。


あれから3日。

疲労困憊状態で着いた廃墟で二人してぶっ倒れ、丸一日お互い眠りこけ……目が覚めた時には既に翌日の昼だった。

 

そこから何とか街まで到達し、サイガをスリープモードで宿に残して日雇いのちょっと危ない仕事をこなした。

 

「ふぅ……」

「あっ」

「えっ……あっ、すまん」

 

宿に戻ると……サイガがタオルで体を拭いていた。

諸事情で相部屋なのでこういう事もある。

慌ててドアを閉めた。

 

「……ワタシは別に見られても良いんだけどね」

「そういう事気安く言うなっての」

 

街に着いてから、サイガは割とぼーっとする事が増えた。

そして、妙に気安い。

 

ここで勘違い出来るほどおめでたい頭してないし手を出す程節操なしじゃない。

 

サイガの脚についてはやっぱり治せないので外骨格を外にくっつけて無理矢理歩けるようにした。

 

ちなみに俺はやっぱり肋が折れていたらしい。

奇跡的に内臓に到達していないが応急手当てしか出来ないでいる。

 

「さて、この地区はどうやらS-12らしい。1地区分流された訳だ」

「ワタシは2地区分流されたのだけれど」

「そう言うのは良いから。で、こっからS-13まで歩いて帰るとなると二日三日は掛かる。当然野宿込みで」

「う……」

 

この人形、無類の風呂好きらしく最近入ってない事に凄まじいフラストレーションを抱えているらしい。

 

なので、野宿を極端に嫌がる。

 

そんなの知るかと言ってやりたいが……まぁ、女性を基にメンタルが形作られているのでそう邪険に出来ず。

 

「そこで、だ……あんまやりたくないんだけど、S-12地区基地を頼ろうかと思ってる」

「なるほど、グリフィンの……お隣さん何でしょ?そこらへん助けてくれるのかしら」

 

正直イーブンである。

このご時世指揮官同士の繋がりはぶっちゃけ言うと薄い、とジェリコが言っていた。

 

最悪食料融通してもらうだけになりそうだ……。

 

「とりあえず行って見るだけ行くか……」

「そう、ね。パトリック……お風呂入ったら?」

「いや、何でそうなる」

「だっていつも貴方シャワーじゃない。身体はしっかり洗わないと」

「別にシャワーだけで良いよ」

「駄目よ!ちゃんと汚れが取れてないかもしれないのよ!」

「いででで骨折れてるんだから引っ張るなよ!!」

 

なんというか、数日の付き合いだけどこいつも結構アクの強い奴なんだなぁ……。

 

「わかったから!今日は風呂入って寝る……明日だ明日」

 

幸い金ならある。

一日宿泊伸ばした所で特に問題は無かった。

 

「洗ってあげましょうか!」

「寝てろ!」

 

 




明日、S-12地区基地へ厄介にならなきゃな……。

S-12の指揮官、どんな奴だったっけ。


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第57話『S-12地区基地』

変人揃いと名高いS-12。
なんだってそんなとこがお隣さんなんだか。


「「わぁ……」」

 

漏れた声は奇跡的にハモった。

 

目の前にあるのは立派なゲート。

そう、S-12地区のグリフィン前線基地へ、ようやく到着したのだ。

 

既にサイガも限界、俺の手足もガタガタだ。

装備も不安でピースキーパーも弾切れ。

 

「なんと言うか、やっと着いた……」

「……お風呂入りたい……」

 

俺の服の裾を指で摘んでいたサイガがそう漏らした。

まあ、ずっとシャワーだったし。

 

「取り敢えずアポ取れないかな……すみませーん」

 

衛門に立つ歩哨(人間!?)に声を掛けた。

 

「こんにちは……ちょっと待て。とまれ。何のようだ」

「えっと、指揮官にアポ取れませんか」

「指揮官に……!?動くな!貴様達を拘束する!」

「えっ」

 

何で……!?

……そう思い、サイガを振り返って。

 

「あ」

 

……サイガがピースキーパーを背負っている。

そして俺は腰にサムライソードを差して背中にバカみたいな剣を背負っている。

 

そら止められるわ。

 

「サイガ!銃捨てろ!」

「えっ、えぇ!?」

 

トムボーイとジェットストリームを外して地面に置いた。

サイガも困惑しながら同じ様に装備を外した。

 

歩哨も困惑している。

 

「な、何だ貴様ら……」

「あー、その、俺S-13の人間なんだけど、自隊に帰れなくて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、久しぶりだな坊や」

「坊やはヤメロっつってんだろ!?」

 

銀髪のムカつくあんにゃろうに思わず噛み付いた。

そいつは愉快そうにケラケラ笑っている。

 

「いやぁボロボロの状態でうちの前に居るもんだから何事かと思ったぜ」

「まぁ……色々あった」

「ま、これでお嬢ちゃんも安心するだろ。連絡はした」

「あー……その、すまん……助かったよ」

 

応接室で俺を待っていたのは、この基地の指揮官本人だったからちょっと驚いた。

久しぶりに再会した、ジョージ·ベルロック指揮官。

後から知った話だが、こいつも元正規軍だったらしい。

最も、こいつが辞めた後に入隊したから面識は無いけど。

 

「Saiga-12の修復は任せてくれ。よくここまで連れてきてくれた」

「……一応、恩人だからな」

「それと、お前の義肢のメンテナンスもやらせよう。うちの整備士の腕は確かだぜ」

「……で?そこまでして何を俺たちにさせる気だ?」

 

ジョージのオッサンの顔からニヤケ面が消えた。

 

「……勘がイイトコはそっくりだ」

「なんの話だ」

「気にするな。まぁ、何もタダで面倒見てやるって訳じゃない……とあるハイエンドの調査を任せたい」

 

そう言って、応接室のドアの方へ声を掛けた。

ドアが開き、長い黒髪と白い肌の女の子が入ってきて……。

 

「え、鉄血……!?」

 

立ち上がる。

……しまった、武器が無い!

 

「落ち着け落ち着け」

「……ジョージ、私が鉄血だったってたまに忘れてないかしら」

 

黒髪の女の子が呆れたように言う。

 

「アニーがチャーミング過ぎるからさ」

「あら、お世辞が上手いのね」

「お世辞と取るのかい?悲しいね」

「うふふ、嘘よ。貴方の言う事はちゃんと届いてるわ」

「本当かい?愛してるよアニー」

「ええ、私もよジョージ」

 

………………………口から砂糖吐くわ。

 

えっ、なんだこれ。

突然鉄血が出てきたとおもったらなんか目の前でイチャつき始めたぞ。

 

と言うか、

 

「おまっ、あのWA2000と誓約してるんじゃねーのかよ!!」

「ああ、リサのことか。勿論そうだ」

「えっ、じゃあ何してんのこれ!?浮気か!?」

「いや、公認」

「懐深っ!?」

「まぁ、そういう事だ」

「意味わかんねー……」

 

呆然と呟いた。

アニーと呼ばれた人形が、俺に資料を手渡してきた。

 

「……イミテーションメーカー?」

 

 

 



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第58話『イミテーションメーカー』

「……これは?」

 

資料に目を通す。

わかっているのは、イミテーションメーカーと言う名前と、鉄血製品のデッドコピーを量産する能力を持つ事。

 

「この近辺に逃走した鉄血ハイエンドモデルの情報だ」

「逃したのか?」

「S-14が壊滅して、お前さんのいるS-13が最前線になった。無茶を言うな」

 

これ以上の詳しいデータは無い。

更に姿形のデータも無い。

 

「名前と能力、実質ノーヒントの人探しかよ」

「ここまで面倒見てやったんだ。それくらい安いだろ?」

 

後払いだし。

期日はそう長くは見ない。

 

「まぁ……サイガの件もあるし」

「自分より先に女か。見所がある」

「ちょっとジョージ?」

「判ってるってアニー」

「イチャつくのやめろっての」

 

さて、取り敢えず戻ったら忙しくなるな。

 

「ま、迎えが来るのも少し後だろう。向こうも少しゴタゴタしてるらしい」

「……S-13で、何か?」

 

もしかして、襲撃?

確かにあの時、IOPのハイエンドを救出した。

それを追われていたとしたら……。

 

「そう構えるな坊や。心配しなくても、向こうの指揮官は良くやるさ」

「けど……」

「坊やが来るまでやってきたんだ。少しは信用してやれって」

 

確かにそうだ。

ちょっと、俺は介入し過ぎたのもしれない。

 

「……そうだな」

「UMP40!坊やを案内してやってくれ!」

「はいはーい!あたいにお任せ!」

 

応接室にグリーンの髪の人形が入ってきた。

 

「あたいは、UMP40。よろしくね、えーっと」

「パトリックだ」

「よろしく、パトリック。こっちだよ」

 

UMP40が手を取って引っ張る。

 

「あっ」

「えっ……わぁぁぁぁぁぁ!!?!!!???!!」

 

40が叫んだ。

そりゃそうだ。

 

手に取ったと思ってた左手がまさか左腕だけ取れるなんて思ってないだろうに。

 

「あー……すまん。先に義肢の修理頼んで良いか?」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「任せな。明日にはしっかり治してやる」

 

モナークと名乗った整備班の女性に、手足を預ける。

車椅子に乗せられ、久しぶりにダルマである。

 

「……パトリックは、本当に手足が無いんだね」

「まぁな。モノ心付いた頃からそうだったから今更何とも思わない」

 

40に車椅子を押されて基地を移動する。

割り当てられた部屋でさっさと寝たかった。

 

「あ、そうだサイガは?」

「外装は元通りだよ。先に部屋で待ってる」

「ちょっと待て。相部屋か!?」

「その辺りは勘弁して欲しいかな〜。うちもそんなに裕福な訳じゃないし」

「まぁ、そりゃな……」

 

借金指揮官。

あの男はそう称されている。

 

「はい。ここだよ……後は」

「ワタシが面倒見るわ」

「……おう。サイガ」

「ええ、パトリック。もう五体満足よ。ワタシがお世話してあげる」

 

格好も何もかも綺麗になったサイガが、立っていた。

 

 



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幕間ージョージー

パトリックと別れた後のお話。


 

「いやにあいつの面倒見るじゃねーか。野郎には興味無いんじゃなかったのか?」

 

執務室で書類とにらめっこしていると、新たな書類を抱えたローニンがやってきた。

最近白髪が増えたと嘆いていた。

 

「そう言うのじゃない。アイツは……まぁ、身内みたいなもんだ」

「……お前、あの若いのどう思う?」

「まぁ、アレなら多分やってくれるだろう。義理とか、そう言う大事にするタイプだろ」

 

本人が否定しても何となくそんな感じはする。

 

「だから、ホントはタダで面倒見てやるつもりだったけどそういうタイプだから対価も要求したと?」

「思考を読むのやめてくれないか?」

 

めっちゃバレてんじゃねーか。

 

「しかし、イミテーションメーカーの件、アイツに投げて大丈夫なのかよ。お前の借金にも関わってくるのに」

 

そう、イミテーションメーカーは元々I.O.Pから投げてこられた依頼だ。

可能なら、捕獲……困難な場合は破壊しろとの通達だ。

 

「そもそも俺も見たことが無い。女の子の顔は忘れないのが特技なんだが」

「言ってろ。それで、駒を増やす目的でパトリックを使うと?」

「そんなとこ。あいつも苦労しそうな顔してるし女のほうからやって来るだろ」

「言葉の重みが段違いだな」

「実例いるしな〜ここに」

 

我ながら笑えない。

 

「……ま、それだけじゃないけどな」

「と言うと?」

「………………あー」

 

そう言えばまだこの件、リサにも話してないんだよな……。

 

「おいジョージ。何かあるならさっさと言えよ」

「まぁ、そうなんだが……まだリサにも話してないんだ、それ」

「?何か問題が?」

「拗ねる」

「……お前もすっかり尻に敷かれてんな」

 

うるせぇ。

全員平等に愛する、とは言ってるものの……やっぱリサは別格だ。

最も俺を理解してくれている存在。

それだけに、ちゃんと話してやりたかった。

 

「ま、後悔は後でするもんだ。大事なのは今だよジョージ」

「さすが、妻帯歴が違う」

「あ?お返しのつもりか?」

「さぁな?」

 

まぁ、関係ない事もない。

話しておくか。

 

「アイツな……俺の弟らしい」

「ほーん……は?」

 

あれ、何か間違った事言ったっけな。

 

「えっ、親父さんの隠し子……!?」

「あ、あー……なんて言ったら良いか……母親の方の」

「嘘だろ!?親父さん命のあの人が!?」

「オーケー、ローニン。まずはその温まったコアを落ち着けようか」

「お、おう……」

 

さて、どこから話そうか。

 

「アイツな……俺の母親のクローン体から産まれたらしいんだわ」

「は………………」

 

なんか生まれて初めて宇宙に行った猫みたいな顔してる。

 

「なんだ、それ」

「詳しい事はわからん。けど、アイツも……俺の身内ってのは確か」

 

びっくりだよね。

 



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第59話『矜持』

ジョージ指揮官がS-13地区へ行く為、その便乗と言う形で俺達も同行させてもらうことになった。


ヘリ内部。

人形を前線に送り込むための輸送ヘリなので、それなりの人数が収容できる。

 

が、椅子に座っているのは俺とサイガ、ジョージ指揮官にWA2000と……。

 

「………………」

 

ずっと指揮官の腕にくっついている白くてちっこいのが一名。

この子もよく見たら指輪をしている。

マジ節操なしかよ。

 

「で、その時ね」

「ハハハ、カラビーナは相変わらずだな」

「ホントよね」

 

そして、2人はずっと談笑していた。

……WA2000が指揮官の隣に座り身体を寄りかからせながら。

 

距離近過ぎる。

 

(……ねぇ、この人ってずっとこうなの?)

(いや、知らねぇし……)

 

サイガが俺に耳打ちしてきた。

元々女にだらしない男だと思ってたけど。

 

(……あの子、可愛くない?)

「お前も節操無しじゃねーか!!」

「お?何だSaiga-12。お前もトカレフに惚れ込んだか?」

 

オッサンが茶々入れしてくる。

 

「べ、別に?ワタシはただ、可愛い子とお近付きになりたいだけですし?」

「隠す気ゼロね。アンタより節操無しよジョージ」

「手厳しいねぇリサ」

「トカレフもそう思うでしょ?」

「ええ、本当に」

 

トカレフ、そう呼ばれた少女が改めて俺の方を見た。

 

「ハンドガン、トカレフと申します」

「え、ああ、俺はパトリックだ」

「ワタシはSaiga-12。よろしくね?」

 

スッとサイガが近付いて手を伸ばしたが、手の甲をはたかれた。

 

「イテッ」

「私を好きに出来るのは、指揮官だけですよ?」

「そういう事だ、Saiga-12。欲しければ俺を殺して奪い取るんだな」

「オイオイオッサン……そんな事言うなって。本気にしたらどうすんだよ」

 

というかこの手の話って人形達にとって割とTABUなんじゃね?

そう思っていると……。

 

「……?」

 

なんか、二人共平然としている。

 

「決まってる。俺は負けないからな」

「お、おう……?」

「俺の女が見てる前で、無様に地べた舐めてるなんて俺のプライドが許さない。だから、負けられないし負けねーのさ」

「……そんなもんか?」

「そうさ。俺はこいつらにとっての理想の男で有り続けなきゃならない。生きてる限りな。いつかは死ぬかもしれん。……だが、それは今じゃない」

 

例え地べた這いずり回って泥水を啜ってでも生き延びる。

俺はそう言う考えだった。

 

見栄張って死んだら、それこそ無意味だ。

 

「無意味なんかじゃない。少なくとも、俺にとってはな」

「そんなもんか?」

「そんなもんさ。お前にも好きな女の1人や2人出来たら解るだろ」

「……好きな女、か」

 

思わず、脳裏に過るのは……あの時、助けられなかった……相棒と、その恋人。

同じ孤児院で育った幼馴染達。

 

「……おっと、地雷踏んだか」

「いや、そんなんじゃない。同僚二人を亡くしてな」

「悪い事を聞いた」

「良いんだ。俺は二人から生かされた分、生きなきゃいけない」

「そうか……」

 

ヘリの揺れが収まる。

そして、奇妙な浮遊感。

 

「……お、着いたらしいな」

 

……やっと、戻って来れたらしい。

 

「……リリスになんて謝ろう」

「悩めよ若人」

 

 



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第60話『それはそれとして、お仕置きです』

出発前。

「パトリック」
「ん、ああ、モナーク。メンテナンスありがとう。調子は上々だ」
「実は、言ってないことがあってな」
「言ってないこと?」
「最適化中に手足に空きスペースがあるのが発覚した」
「えっ、それ強度的に大丈夫なのかよ」
「その点に関しては問題ないさ。流石正規軍様々と言ったところね」
「お、おう。で、そのスペースに何をしたんだ?」
「ちょっとした仕掛けをね。手足で四箇所、全部違うギミック詰めたから、使った感想聞かせてくれよ?」
「また凝った事を……」
「ちなみにそれぞれ、スラッシュディスク、クラッカー、鉄傘、ワイヤーを仕込んだ」
「傘……待って待って、情報が処理出来ない」





現状を説明しよう。

 

今俺は手足を取られて転がされています。

 

……えっ、何で?

いや、ヘリから降りた瞬間DSR渾身のストレートが顔に突き刺さって気を失ったんだ。

そしたら手足抜かれて部屋に打ち込まれたんだよ。

 

以上、説明終わり。

 

今、オッサンとリリスの情報交換が行われてる最中だろう。

 

「……腹減った」

 

サイガがどうしたとか、あの後無事に逃げられたのかとか、ちょっと気になることは多い。

 

でもやっぱり空腹が勝る。

 

「誰か居るのか?」

『……居ますよ』

 

この声は、ジェリコか。

 

「ジェリコ、無事だったか」

『ええ、お陰様で。どこかの馬鹿が囮になってくれたお陰で』

「うぐ……まぁ、良かった」

 

ダン!!とドアを何かが思いっきり打つ音がした。

 

『何が良かった、ですって?』

 

ガチャ、とドアが開かれる。

……顔に暗い陰を落とした、ジェリコが、入ってきた。

 

「お、おう……」

「仲間を見捨てて生き延びて、何が良かったか言ってみなさい」

 

目の前に屈んだと思えば、俺の襟首を掴まれる。

 

「ジェリ、ぐぇ」

「パトリック。何で私がここまで怒っているのか、理由は分かってますね?」

「ケホッ、あ、あぁ……」

「貴方は、本当に……!」

「ジェリコ」

 

今まで聞いたことの無い、ゾッとするくらい感情の篭っていない声。

 

「……指揮官」

「リリ、ス」

「パトリックと話があります。ジェリコは外に」

「は、い……」

 

渋々と、ジェリコは部屋の外に出ていった。

……ドアが、閉じる。

 

「久しぶり、りっくん。二週間ぶりくらいかな」

「お、あぁ……」

 

リリスは柔和に微笑んでいる。

しかし、瞳に……光は無い。

 

「怪我は……いっぱいしたみたいだね。Saiga-12って子、よく連れて来てくれたね。あの子のお陰で、S-14区画の事を調べられそうだよ」

「そ、そうか」

「ねぇ、りっくん。私とした約束、覚えてる?」

 

すっ、と首にリリスの手が添えられる。

 

「えっと……」

「まさか、忘れた……なんて、言わないよね?」

 

添えられた手が、ゆっくりと、

 

「そんな訳な……がひゅ」

 

首を締める。

 

「あ、く、」

 

力が、強い。

そんな細い身体のどこに、ここまでの力があったのか。

 

「どうしたの?ほら、言ってみてよ?ねぇ?ねぇって、りっくん?」

「ぇほ、げ、げふっ、じゃあ、手を、はな、がぇ」

「あぁ、ごめんね?はい……どうぞ」

 

まるで笑顔の仮面が貼り付けられた様に、表情は変わらない。

 

「……『必ず、リリスの元に帰ってくる』」

「正解。良く出来ました」

「ホッ……」

「で、も」

 

再び、今度は両手が首に添えられた。

 

「りっくんは、約束を破ったかもしれなかったね」

「り、りす。待って、これは」

「うん、分かってるよ。E.L.I.Dなんて戦術人形じゃ対処出来ないもんね。りっくんは優しいから、殿したんだよね」

「別に、優しくなんか」

「でもね」

 

がぶり。

 

「痛っ……!」

 

リリスの頭が顔の隣を通過する。

首筋を、噛まれた。

 

恐る恐るリリスを見る。

 

 

「あんまり心配させると……何するか、分かんないよ?」

 

 

仮面は、貼り付けられたままだった。

 

 

 

 

 



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第61話『釈放』

はい、実は隻狼買いました(
何かマイブームが変わる毎に作品に影響しまくってるから彼岸島の作者っぽくなってる気がする。


あれから、何日経った?

 

「………………」

 

手足を抜かれて、転がされて、閉じ込められて寝て起きるだけの生活。

正直、気が狂いそう。

 

「あー………………」

 

まずDSRが部屋に来て、泣かれた。

その次にベネリが、また泣いた。

その後にジェリコが来て、ひたすら怒られた。

ステアも来た。

やっぱり泣いた。

 

57とFALは泣きはしなかったけど、震えた声で責めてきた。

 

88式も……泣かれた。

とにかく、いろんな奴が来ていろんな反応されて終いには泣いた。

 

ずっとその繰り返し。

 

サイガが哀れんでたけど助け舟を出してはくれなかった。

 

軽率な行動だった。

そう思うには充分だった。

 

でも、

 

「俺しか、居なかったんだ」

 

あの場で、全員を生存させるには……俺が残るしかなかった。

正規軍も近くに居たから、生存率は結構高かったと思ってる。

 

「俺は……間違ってない……」

 

誰かを目の前で失くすのは、たくさんだ。

 

例え、人形だろうと。

でも……俺が居なくなったら?

 

俺の事を、惜しむヤツが現れたら。

 

今までそんな事は無かったから。

考えた事も無かった。

 

「パトリック」

 

ドアが、開いた。

開けたのは……ジェリコだ。

 

「ジェ、リ、コ……」

「明日、S-12から貴方の師を名乗る人物が来るわ。謹慎は今日で終わり……シャワー、浴びて来なさい」

「なら……手足くれよ」

「大丈夫よ、世話してくれる人はたくさん居るから」

 

……ドアの外に居る多数の人形は見ない事にする。

 

「いや、勘弁してくれよ……」

「ま、頑張りなさい」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

結局、何とか手足くっつけて貰って部屋に帰ってきた。

 

「はぁー……」

 

まさか、あれから1週間経っていたとは。

下手したら折れてるぞ、俺。

 

シャワーを浴びて、物凄く落ち込んでいたG36cからタオルを受け取る。

 

「いやいやいやいや何でいるのオマエ!?」

「パトリックさん……その、お帰りなさい」

「あ、あぁ……」

「それじゃあ」

 

それだけ言って出ていった。

……最近、人形達の態度が、腫れ物を扱う様な恐る恐ると言った様相になっている。

 

「やりにくい……」

 

とても、やりにくい。

 

(何だかなぁ……)

 

俺が彼女達に悪く思われていなかった。

ただそれだけの話だった、だったのたが……。

 

「パトリック」

「サイガ。ノックくらいしてくれよ」

「良いじゃない。ワタシと貴方の仲よ」

 

どんな仲だっての。

といつもこいつもノック一つすらしねぇ。

 

「明日、誰かと会うんでしょ?そんな顔で会ったら相手もびっくりするわ」

「余計なお世話だ」

「ねぇ、パトリック。この辺案内してくれない?」

「88式に頼めよ」

「あの子、ちょっと今落ち込んでて……そっとしておくべきかなって」

 

アイツが落ち込む道理は無いだろうに……。

 

「お願い」

 

手を合わせて拝まれてしまった。

でも目は片目だけ開けてる。

 

「……仕方ねぇな」

「やった!ありがとうパトリック」

 

 

 

 

 



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第62話『スキル・ラーニング』

「久しぶりだな、パトリック」

「久しぶり、スコーチと一○○式」

「お久しぶりです!パトリックさん」

 

2人が、S-13基地にやってきた。

師を名乗る、確かに剣の手ほどきを受けたからそのとおりだ。

 

「相変わらず眉間にシワの寄る顔をしている」

「気難しいって顔に書いてあるみたいですね」

「ははは、ほっといてくれ」

 

何気に辛辣な事言う一〇〇式だった。

 

「何があったかは知らんが、剣を振れば気が紛れるだろう」

「今日は何を教えてくれるんだ?」

 

実は俺自身、スコーチの師事を楽しみにしていたのは事実。

強くなる実感、手札が増える事への安心感。

 

「パトリックは、あまり徒手格闘を行わないな?」

「え?ああ、そりゃ殴るより斬るほうが殺しやすい」

 

変異体相手に殴りつけた所でいくら頑丈な義手と言えど何かしらガタが出る。

そう言えば一度丸腰で鉄血と渡り合った時があったな。

 

「素手での殺し方を覚えておくのも一興。ではパトリック。お前に徒手格闘の技を教えよう」

 

スコーチが拳を突き出し、構える。

 

「構えろ。まずは身体に叩き込む」

「喰らわずに見て覚えてやるよ」

「行くぞ」

「オ……ぶへぇ!?」

 

こちらが動く前にスコーチの肘が俺の腹に刺さった。

 

「破ァ!!」

「ゴッ……!?」

 

そこをよろけた所に、掌を突き出され吹っ飛ばされた。

地面を転がる。

 

今、何をされた!?

早すぎない!?

 

「これぞ、出鼻を挫く布石の技。『拝み連拳』だ」

「ゲホッ……いって……くそ、『頂戴した』、だっけ?」

「うむ。もう一つの『型』も、一手馳走しよう」

「有り難く……何度も喰らうかっての!!」

 

見た所先の先を取る技。

初手さえ見切ればどうってことは無い。

 

「セイッ、破ァ!!」

「うわらばッ!?」

 

掌まで受けようとした後、背中で体当たりされて再度吹っ飛んだ。

これまさか鉄山靠って奴じゃねぇか!

 

「これぞ、『拝み連拳・破魔の型』。油断したな、パトリック」

「くっそ、途中で変えやがって!」

「先に言ったぞ。もう一つの型をな」

「………………」

「さて、パトリック。私は今日から1週間滞在する予定だ。これから毎日、稽古をしようじゃないか」

「ほ、本当か!?」

 

それは嬉しい話だ。

 

「ふはは、顔が変わりおったな。お前は本当に分かりやすい」

「な、なんだよ」

「いや何。眉間の皺が取れたからな。お前は悩むより行動した方が良い方向に転ぶだろうさ」

「……そうかよ」

「さて、時間は有限だ。まだ教えたい技は残っておるぞ」

「望むところだ!」

 

次は何を教えてもらえるんだろうか。

 

そんな様子を、飛行ドローンやら窓やら執務室から無数の視線が飛んできている事に全く気付いていなかった。

 

(……指揮官殿の血筋、か)

 

スコーチが何故かため息を吐いた。

 

「???」

「気にするな。まだまだやるぞ」

 

 




今回で、パトリックは拝み連拳、破魔の型、一文字、葦名十文字を覚えさせようと思います。
隻狼感凄いですね。


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第63話『誕生日と言うもの』

サイガが遂にうちに来てくれたのでサイガ回です。


2月の、某日。

今日も、俺はスコーチと共に修行に明け暮れていた。

 

「甘いぞ!」

「げ、ヘァッ⁉」

 

顎に木刀を貰う。

思いっきり打たれて一瞬意識が飛ぶ。

 

「ここまで。一旦休憩だ」

「お、オス……」

 

地面に転がって、暫く空を見上げる。

今日は、よく晴れている。

 

額から流れる汗が止まらない。

冬の冷たい風が心地良い。

 

「……何してるの?パトリック」

「んぁ……?…………白」

「ふん」

「ぐえっ」

 

俺を見下ろしていた褐色の人形。

スカートの下が見えたから思わず呟いたら顔を踏まれた。

 

「何しやがる」

「デリカシー無さすぎよ」

「そんな丈の短いスカート履いてるからだろ」

「言い掛かりにも程があるわよ。まぁ、下着じゃないんだけどね」

「えっ」

 

そこまで言ってから、サイガがいたずらっぽく笑う。

 

「気になる?」

「勿論……」

「へぇ?ワタシのこと、そんな興味なさそうだったくせに」

「お、お前こそ野郎に興味無いんじゃないのかよ」

 

S-13に来てからと言うもの、サイガはずっと人形やら指揮官やらに迫りまくっている。

……DSRを除いて。

一回近付いたらリアルで襲われ掛かったらしく部屋まで逃げてきた。

なお、その後俺ごとやられそうになり緊急脱出したが。

 

「貴方は別よ」

「そうかよ」

「パトリック」

「あ?」

「あげる」

 

サイガから渡された物。

男性に贈るには、些かファンシーな包装に包まれた小箱。

 

「これは?」

「今日はなん日でしょう」

「……2月、14日」

「正解」

「はぁー……なるほど」

「あれ、嬉しくない?」

「そうでもない。けど………………誕生日なんだよね、今日」

「へぇ、タンジョウビ。誕生日?………………誕生日!?貴方物心ついた頃から孤児でしょ!?」

「うるせぇよ。声でけーっての」

 

頬をかく。

なんて説明すればいいのか。 

 

「俺が、この名前……『パトリック』になった日なんだ」

「……それが、誕生日?」

「そう。爺さんとシスター達がくれた物」

 

立ち上がって、箱を開けた。

甘い匂い。

中身は、チョコレート。

 

「ちょうど腹減ってたんだ。頂く」

「どうぞ。ちょっと不格好だけど」

「食えば関係ねーよこんなの。……え?手作り?」

 

マジで?

 

「あら。ワタシ、それなりに好意は示してたつもりだけど?」

「え………………まぁ、何で、って言うのも……野暮か」

「そこは察せるんだ」

「でも、駄目だ」

「……理由、聞いても?」

「俺は」

 

幸せの絶頂にあった二人を見殺しにして。

二人の幸せを奪って生き延びた俺が。

 

幸せになるなんて、あってはならない。

 

だから、

 

「……女は、嫌いだ」

 

こう、言うしかない。

 

 




今更バレンタイン。
モチベーションが消えつつあるので許して欲しい。


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第64話『悩む男』

イベントが2つ重なるってどんな気分だろうか。


午前中の鍛錬が終わった。

クタクタだけど、汗だくで気持ち悪いのでシャワーを浴びる。

 

「疲れた……」

「お疲れ様です、兄さん」

 

最近ではもう慣れたけど、既に誰かが部屋にいるのってやっぱ慣れない。

 

「ベネリ……何か久しぶりだな」

「最近まで作戦に出ていましたので」

「そっか。元気?」

「ええ。特に変わりません」

 

差し出されたタオルを受け取る。

……なんか、これも慣れた。

 

「そうか」

「所で、兄さん。今日なんですけど」

「今日?」

「はい。誕生日だと聞きました」

「……サイガか?」

「はい。一人だけ知っているのもアンフェアだと……まぁ、ワタシは知ってましたが」

 

……そう言えば、ベネリは元々俺が使っていた代物だ。

覚えていても確かにおかしくは無い。

 

「それで?」

「それで、とは」

 

ベネリが首をかしげる。

 

「あー、いや。何でも」

「……ワタシは、素直にお祝いしたいですよ」

「………………」

「でも、兄さんはあまりこの日が好きじゃなかったみたいですね」

「その辺も、覚えてるのかよ」

「AK-12さんにからかわれてたのは知ってます」

「あー……」

 

誕生日プレゼントと称してデスソース入りチョコレート食わされた時は死ぬかと思った。

 

「……はい」

 

渡されたのは、油の入った小瓶。

 

「これは?」

「刀剣手入れ用の油です。ワタシからのプレゼントはこれという事で」

「え、あ、まぁ、その……」

「ちゃんと、手入れしてあげて下さいね」

「……分かってる。ベネリ……あ、ありがとう」

「どういたしまして。まぁ、ちゃんと整備してるって言うのはワタシが1番よく知っているので」

「うぐ……」

 

何だかんだちゃんと手入れしていた。

命を預ける武器を蔑ろになんて出来ない。

 

「その、たまには……また手入れして欲しいかなって」

「……お前はもう手足があるだろ」

「笑えませんよ」

 

真顔で怒られた。

うーんちょっと反芻したら確かにブラックジョーク。

 

「そろそろ行きます。兄さん、今日は多分いろんな子が来ますけど……ちゃんとお礼、言ってあげて下さいよ」

「来ないさ」

「わかってて言ってるなら最低です」

「………………」

「兄さんは、まだ2人のこと」

「黙れ」

 

思わず、強く言ってしまった。

慌てて、言葉を捻り出した。

 

「すまん」

「……すみません。失言でした」

「いや……もう、終わった事なんだ。なのに……」

「ゆっくり、向き合ってください。まだ時間はあります」

 

ベネリが、悲しそうに笑う。

俺は……。

 

「なぁ、俺は……戻るべきかな」

「それは兄さんが決める事です。ワタシは、もうグリフィンの人形ですから」

 

ドアが、静かに閉じた。

 

 



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第65話『パトリックの長い一日』

まだまだ続く2月14日。


「……で、なんだよこれ」

 

二人から渡された紙袋。

甘い匂いがする。

 

渡してきた片割れが豊かな胸を揺らして答える。

 

「今日はバレンタインよ」

「知ってる。嫌って程言われた」

「あら、意外ね」

「リック、味わって食べてね。ここのチョコレートは中々手に入らないのよ」

「代用チョコレートじゃないのか」

「本物よ。喜びなさい?」

 

FALと、Five-seveNだ。

何かとこの2人はセットで歩いている気がする。

この間の事は、グーパンで済ませてくれたのか普通に話しかけてくれる。

 

「本物か……いつぶりかな」

「正規軍に居たなら買えたんじゃないの?」

「……配給で配られたやつくらいしか食えなかった」

 

当時俺の住んでたエリアから売店が離れていて、どんだけ走っても入荷に間に合わなかった。

 

「いや……でも昔リリスが作ったチョコレートケーキ……美味しかったな」

「へぇ……意外ね。指揮官がそんな事するなんて」

「?そうなのか」

「ええ。言ったでしょ?アタシはあの指揮官が笑ったとこ見たこと無いって」

 

そう言えばそんな事を言っていた気がする。

 

「今日誕生日なんでしょ?もしかしたら、準備してるのかもね」

「ウッソ!?リック、今日誕生日だったの!?」

 

……Five-seveNには情報が行っていなかったらしい。

FALは知っていた辺り中々イイ性格をしている。

 

「ちょっとリック!なんで言ってくれなかったのよ!」

「聞かれてないから」

「FALもよ!何で黙ってたのよ!」

「情報収集は戦場の基本よ?まだまだリーダーには遠いわね」

「う、ううううううう!覚えてなさい!!」

 

……走って行ってしまった。

FALが舌を見せてウィンク。

遊んでたなコイツ。

 

「まぁ、何だ。ありがとう」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「はい〜お誕生日おめでとう、リック」

「え、悪いな……スパス」

「私からもどうぞ!メープルシロップです!」

「ブレないなお前!?」

「エッ、リック誕生日なの!?」

「おうネゲヴ。そういう事らしい」

「……ジェリコ!ちょっと来て!」

「ネゲヴ……?ちょっ、引っ張らないで!」

「……?」

「パトリックさん!」

「シュタイアー、どうし……聞くだけ野暮か」

「はい、誕生日おめでとうございます。一人で、部屋で、夜に、寝る前に食べてくださいね!」

「お、おう……」

「あらあら、大盛況ね」

「はぁいパトリック。愛しのサイガちゃんよ」

「キャラ変わり過ぎだろ」

「はいパトリック。私からよ」

「さんきゅ」

「……貴方から素直にお礼を言われるのは、悪くないわね」

「……あっ」

「ふふ、パトリック……お返し、期待してるわよ」

(……拙い。なんも考えてなかった)

「はい、パトリック。……ワタシもリックって呼ぼうかしら」

「お好きにどうぞ……」

「はぁ、はぁあ、間に合った、ぱと、り、っく、さん!!」

「うおぉ88式!?」

「どうぞ!」

「あ、ありがとう……」

 

「パトリック!!」

「ネゲヴ?どこ行ってたんだ?」

「ハッピーバースデー!!」

「オゴォ!?」

「ね、ネゲヴ!顔にめり込んでいます!」

「じゃ、じゃあ!渡したからね!」

「いてて……買いに行ってたのか」

「……手作りです」

「馬鹿な……この短時間でこれほどの物を……」

「それで……その、パトリック」

「うん?」

「………………どうぞ」

「え……ありがとう……これ、日記帳か」

「ええ。……甘い物じゃなくてごめんなさいね」

「いや……嬉しいよ」

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

「今日はここまで」

「ありがとう、ございました……!」

 

本日の立ち合いが終わった。

疲れて立てない……。

 

スコーチが木刀を片付ける。

一〇〇式が受け取って先に戻る。

 

「さて、なかなか形になってきたではないか。いくつかの技と奥義が一つ。1週間で会得とは恐れ入った」

「ぜぇ、ぜぇ……そんなもんか?」

「お前には人斬りの才能があるかもしれんな」

「嬉しくないな、そんな事言われても」

「ほれ、食え」

「これは……?」

 

スコーチから何やら甘い匂いのする包みを貰った。

中身は……何だこの黒いの。

豆?

 

「おはぎだ。うまいぞ」

「へぇ……いただきます」

 

ほんのりと温かい。

一口含んだ。

 

「……甘い」

 

チョコレートの様な強い甘さではなく、優しい風味。

 

「私からのちょっとしたご褒美だ」

「ご馳走様……」

「ははは、もう食ったか。せっかちな奴め」

「スコーチ、その……世話になった」

「何、貴様が生きていればまた会うだろうて」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

シャワーを浴びて、少しリリスの様子を見に執務室へやってきた。

 

「リリス」

「あ、りっくん!お疲れ様、どうだった?」

 

いつもと変わらない笑顔。

しかし、少し疲れが見て取れる。

 

「疲れてないか?」

「ううん、大丈夫だよ。書類仕事しかできないもの、これは私の戦いだから」

「……無理、するなよ」

「大丈夫大丈夫。もし何かあっても、りっくんが助けてくれるでしょ?」

「……ああ」

 

杞憂だったかな。

副官として傍らに立っていたG36cが俺に気付いた。

 

「あ、パトリックさん。誕生日、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。なんか祝われっぱなしだ」

「ふふ、人間にとってそういう日なのでしょう?」

 

それも、そうか。

ここの所まともに人間やってなかったからちょっと久しぶり。

 

……がたっ、と。

リリスが勢いよく立ち上がった。

 

「リリス?」

「今日、誕生日だったの……?」

「え?」

 

小声で、俯いて何か呟いていた。

どうしたのだろうか。

 

「ううん、何でもないよ?ごめんねりっくん。お仕事忙しくて何も用意できなかったの」

「ああ……そんな事か。大丈夫大丈夫。リリスには良くしてもらってるし気にしないよ」

「本当?良かった……また今度、皆でお祝いしよ?またケーキ焼いてあげるね」

「マジか。リリスのケーキ、美味しいから好きだ」

「うふふ、本当に食べるのが好きだね。楽しみにしててね」

「ああ」

 

……何でだろう。

忘れていたと言うより……()()()()()()、そう感じる慌て方だった気がする。

 

取り敢えず部屋に帰ろう。

今日はもう、クタクタだ。

 

 




「G36c、ごめんね、ちょっと取ってきてほしい資料があるんだけど」
「わかりました。行ってきますね」

………………。

「あの女から、まだ聞き出してない事……多そうね」

………………。


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第66話『手にした力』

パトリックの流派が決まる。


「パトリック」

「おう、どした?」

 

スコーチ達が出発する日。

見送りに来ていたら、声を掛けられた。

 

「今年でいくつだ?」

「……知らねぇ。けど大体20くらい」

「ならば良し」

「えっ、オイオイ……それ酒かよ」

 

スコーチが懐から出した妙にくびれた筒。

小さなグラスを2つ出したと思えば一つ放り投げてきた。

 

「まだ仕事あるんだけど」

「硬いことを言うな。久しぶりに、師事の真似事が出来て楽しかったぞ」

「今生の別れみたいに言うなよ。生きてりゃ会えるって言ったのアンタじゃん」

「そうだったな。では、祝杯を挙げよう」

 

……知っている酒とはまた違う匂い。

手の中にある小さな器に澄んだ液体が注がれる。

 

「貴公の勇気と、我が剣、そして我らの旅路に」

 

えっ、何それ。

知らないけど。

 

「太陽あれ!」

 

がっ、と盃を交わす。

 

「……うえっ、なんだこれ」

 

喉が焼ける……!

 

「ハッハッハッ!さらばだパトリック!また会おう!」

 

上機嫌で歩き去って行った。

……残った酒を飲む。

 

「……うげぇ」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「りっくん、仕事なんだけど……う」

 

久しぶりに仕事を与えられる。

執務室でリリスと対面した瞬間、顔をしかめられた。

 

「何これ……お酒?」

「え、あー……スコーチから、貰った」

「業務中にお酒飲んだの?」

「……向こうから振る舞われた」

「減給」

「ちょっ」

 

なんてこった。

 

わt

「私、お酒嫌いなの」

「だからってそれは横暴だろ!?」

「ふんだ。勤務時間中にお酒の飲む悪い子はお仕置きです」

「悪かったって……」

 

酔ってないし大丈夫だろ。

 

「なんて、冗談だよ。今日のお仕事。目を通しておいて」

 

ドサッ。

いや待て待てナンダこの書類の束。

 

「あのー、リリス、さん?多く無いですか」

「大丈夫だよ。りっくんなら死ぬ気で頑張れば行けるよ」

 

うわぁ怒ってる。

……リリス、怒ると永いんだよなぁ。

これ、多分やらないと口聞いてくれないな。

 

「……分かったよ」

「よろしくね」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

一時間後。

近隣の撃ち漏らしの掃討とパトロールカーが今回の主な任務だ。

一人二人の少数で片付けられるレベルの仕事である。

 

……まぁ、今日は幸いにも一人じゃないのだが。

 

「よろしく、パトリック」

 

乗ってきたバイクの後ろに座っていたのは、スパス。

俺の巻き添えの憐れな犠牲者……ではなく、相棒である。

 

「よろしく、スパス。お前となら安心だよ」

 

いろんな意味で。

 

「最近パトリックも強くなってるみたいだし、私も安心ですよ〜」

 

朗らかに笑いながらも、可動式シールドを油断無く構える。

ショットガンを得物とする戦術人形は戦闘レンジがどうしても相手に近くなる。

そのため、防御の為にシールドが装備として割り当てられている。

 

「ま、半年近く背中預けてるんだ。任せとけよ相棒」

「よろしくね〜」

 

同じポジションで戦う事が多い為、やっぱスパスは安心して話せる相手だと思う。

今日の俺は久しぶりに完全装備(フルパッケージ)だ。

今日の俺は一味違うぜ。

 

「……お、早速見つけたぞ。ブルートだ」

 

ブルートか……スパスとはちょっと相性悪いな。

 

「警戒を頼む。サクッと片付けてくるわ」

「了解、気を付けてね」

「応よ」

 

走り出す。

流石に向こうも気づいているだろう。

……3体、うち1体は手負い。

 

「おりゃああ!!」

 

義手からワイヤーが伸ばされる。

 

「「!!?」」

 

手負いの一体にグラップルワイヤーが引っかかる。

そいつを()()()()()

 

元々義手込みでの体重がそこらの人形より重い。

なので自分が起点となり引き寄せる。

 

「セイッ!!」

 

空いた手でトムボーイを抜き、縦に真っ二つ。

久しぶりに触るが以前と変わりなく動いてくれている。

 

……ブルートが一体、飛び掛かってくる。

顔に肘を食い込ませた。

そのまま、腹に掌底を入れる。

 

拝み連拳、綺麗に決まった。

 

ブルートが吹っ飛ぶ。

最後の一体に向けて刀に手を掛ける。

 

(行くぞ……!)

 

スコーチから教わった技、実践で使えるかどうか。

 

「……シィィ」

 

呼吸を整え、構える。

……ブルートが、ナイフを振りかぶる。

 

「ハァッ!!」

 

撃発。

刃が滑る。

勢い良くジェットストリームが振られる。

一閃。

そしてその勢いのまま、袈裟斬りが入った。

 

「崩し奥義、晴嵐十文字……なんてね」

 

晴嵐、というのはスコーチがつけてくれた俺の流派……戦闘スタイルの事だ。

崩して伝え、俺に最適化されたものなので既に我流の域なのだ。

 

取り合えず、第一波は乗り越えたかな。

 

「スパスの所へ戻ろう」

 

 




はい、遂にダークソウルも始めてしまった作者です。
フロムの春ですねぇ(白目)


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第67話 『それにしたって多くない?』

鉄血の量産モデルが崩れ落ちる。

 

「テメエで28体目……いや多いなホント」

 

トムボーイを背中に戻し、周囲を警戒する。

クリア、敵影無し。

 

「パトリック、お疲れ様」

 

後ろで鉄血を仕留めていたスパスと合流する。

重厚から湯気が上がっている。

 

「そっちも終わったみたいだな」

「うん。……あ、もうお昼かぁ」

 

スパスがお腹を押さえた。

俺も空腹感を感じる。

 

「休憩しよう……流石に朝からずっと連戦は堪える」

「パトリックぅ〜、何か持ってない?」

「スパスこそ何か持ってないのか?」

「……カロリーバーとポテトチップス」

「いやなんでポテチ」

「美味しいよ」

「いや知ってるが」

「パトリックは?」

「……カロリーバーとポッキー」

「どうしてポッキー」

「美味いじゃん、ポッキー」

「わかるわ」

「だろ?」

 

戦場のど真ん中で呑気なものである。

カロリーバーを齧る。

相変わらず不味い。

 

「ねぇパトリック」

 

咀嚼しながらスパスが口を開いた。

 

「ん?」

「むぐむぐ……指揮官、怒らせた?」

「……どうしてそう思ったんだ?」

「んー、何となく」

「えぇ……」

「嘘よ。いくらなんでもこの量パトリックだけって無茶よ」

「せやろなぁ……」

 

なーんかそれだけじゃない気がするけど。

 

「何したの?」

「酒飲んだ」

「ああ……指揮官、お酒嫌いだから」

「何かあったのか?」

「……うーん、話して良いのかな。パトリックは指揮官の幼馴染だし大丈夫だよね」

 

何というか、割と深刻そうな問題だ。

 

「かなり、内容によるなそれ」

「……だよね。本人に聞くべきかな、これは」

「だな……帰ったら聞いてみるわ」

 

思えば、俺はリリスが三年間何してたのか全くと言っていいほど知らない。

孤児院でも積極的に交流していた訳でもなかったし。

 

「許してくれるかなぁ」

「大丈夫だと思うよ。指揮官、パトリックの事大好きだし。しっかり謝れば許してくれるよ」

「……イマイチ、好意寄せられてる意味がわからん」

「え?」

 

最近ちょっと思っていた事。

俺の事を好きだと言う奴が周りに増えてきて疑問に思うのだ。

 

俺は、そんな大層な事をした覚えなんてない。

 

「それ本気で言ってるの?」

 

スパスの声が、少しキツくなる。

 

「……俺の関わってきた人間なんて、哀れみ嘲笑、そんなやつばっかだった」

 

無意識に、義手に触れる。

物心付いた頃から手足が紛い物。

荒んでた孤児院の子どもたちからは格好の憂さ晴らしに利用される事もあった。

 

「そんな俺に好意的な奴なんて……数える程しかいなかった」

「でも、居たんでしょ?」

「今は、居ない」

「それって……あのお墓の?」

 

S-13基地の近くにひっそりと建てられた墓。

 

「ああ……大事な相棒と、俺が生まれて初めて好きになった人」

「そう、だったんだ……」

「まぁ、その二人が付き合ってたんだけど」

「失恋かぁ」

「……そうだなぁ」

 

改めて、事実が胸に刺さる。

半年が経過していても……未だに折り合いが付かない。

 

「辛かったら辛いって言っていいんだよ?」

「ンな訳……」

「よしよし」

「ちょっ、やめろって」

 

スパスが俺の頭を撫でる。

キャラじゃないってそう言うの。

 

「本当に、大丈夫?」

「だから大丈………………ごめん、やっぱ……辛れぇわ」

 

どうしようもなく泣きそうだ。

 

「言えたじゃん。辛いときは辛いって言っていいんだよ?パトリックは、一人じゃないんだから」

「………………あ、ありがとう」

「どういたしまして。ほら、涙拭いて、ご飯食べて任務に戻りましょう」

「な、泣いてねーし!!」

 

慌てて立ち上がり、カロリーバーを口に押し込んだ。

 

「ふふ、そうだね」

「スパス、悪いけどもうちょっと付き合えよ!」

「うん、頑張ろう。帰って、ちゃんと指揮官と話そうね」

「……ああ!」

 

心は、少しだけ軽くなった気がした。

 



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第68話『ありがとう』

何だかんだ一ヶ月更新遅れてしまった……隻狼クリア出来なくて……。
あとネプテューヌとコードヴェインで忙しかったんです((


「ただいま……」

「疲れたぁ〜……」

 

すっかり日が落ちた頃。

俺とスパスはまさに死に体で帰ってきた。

結局俺達だけで大量の鉄血を狩る羽目になった。

 

「あ……お帰りなさい」

 

その俺達を出迎えたのは、黒髪を二つ結びのお下げにした黄色の上着を羽織る人形だった。

……ん?何処かで見たような。

 

「……あれ、見ない顔だな。新入りか?」

「えっと、私は……RO635という名前みたいです」

「みたいです?」

「はい……どうにも記憶回路に異常があったみたいで、基礎データ以外が出力出来なくて」

「記憶喪失みたいなもんか」

「はい」

 

人形の記憶喪失か。

そんな事例もあるんだな。

 

「外傷とか、残らなくて良かった」

「この基地が潤沢なお陰でした」

「その顔に傷とか残ったら勿体無いし」

「?どうしてでしょうか」

「え?だってキレイだし」

「「えっ」」

「え…………………あっ、違うぞ!?そういう意味じゃなくて、なんだ、その、あーもう!!俺は戻るから!スパスあとよろしく!!」

「ちょっとパトリック!指揮官に謝るんでしょ!逃げないの!」

「ぎゅむ」

 

走り出した瞬間、スパスに襟首を掴まれて阻止された。

くそ、これ絶対あのオッサンのせいだ……。

 

「は、はは……この基地は賑やかなんですね」

「パトリックの周りだけうるさいだけですよ」

「なんだとお前」

「ふふふ」

 

ROが微笑む。

何となく、助かって良かったと思えた。

 

「パトリックさん」

「お、おう……なんだ」

「ずっとお礼が言いたかったんです。助けてくれてありがとうございました」

 

……顔が熱い。

空調聞いてねーのかよここ。

 

「あ。照れてる」

「照れてねーし!!」

「ふふ、赤くなっちゃって。良かったねパトリック。綺麗な人にお礼言ってもらえて」

「ちげーし!!いててててやめろつねるな!!」

 

スパスが笑いながら脇腹つねってくる。

何でだよ。

ROはその光景を見て、ずっと微笑んでいた。

 

「いつからパトリックはそんな口が上手くなったのかな」

「だから違うっての!本当にそう思ってたって!」

「………………へぇ。私には何も言ってくれないのに」

「いっだだだやめて生身のとこ抓らないで痛い痛い痛い!!お前だって可愛いしいつも世話になってるから!」

「えっ……かわっ」

「あっ。ち、違っ」

 

なんだこれは。

口開く度に墓穴掘ってる気がするぞ。

 

「違うの……?」

「違くな……違っ、いや、あのあのあのあの」

 

駄目だ口が回んねぇ。

逃げるしかない。

 

「パトリック!いつまでそこで駄弁っているつもりですか!指揮官が待ってますよ!」

「サンキュージェリコ!!そういう事だから!!」

 

逃げられた!!

しかし、オッサンから良くない影響めっちゃ受けてる気がする。

 

 




RO復活回。
段々パトリックの言動がおかしくなっていきます。


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第69話『ごめんなさい』

勢いでリリスの元まで来たけど、そう言えばちゃんと話をしてくれるのだろうか。


 

「し、失礼しまー……す……」

 

おっかなびっくりで執務室に入ると、FALがニヤニヤしていた。

 

「まるで朝帰りしたのを咎められるかどうか怯えてるみたいね」

「う、うるせぇ」

「おかえり、りっくん」

 

窓の方を向いていたリリスが、こちらに視線を戻す。

……無表情。

こわい、凄い怖い。

 

「……近辺の鉄血量産型は掃討し安全化を計りました。後日、調査及び周辺情報の更新を」

「わかりました。SPAS-12と共に補給と休息を済ませて来てください。お疲れ様でした」

 

ひどく事務的なやり取りが交わされ、これで終わりだとばかりにリリスが視線を切った。

 

「あ、あの、リリス?」

「………………」

「えっと、その、何だ。あー……」

「……ふふっ。指揮官?意地悪もほどほどにしておかないと、嫌われるわよ?」

 

耐えかねたのか、FALが吹き出して助け舟を出してくれた。

 

「そうね。ごめんね、りっくん。ちょっと意地悪しちゃった」

「あ、ああ……」

「私ね、お酒嫌いなんだ。飲むのも飲ませてくるのも。それでちょっとね」

「そ、そうだったのか……すまん、向こうの好意を無下にしたくないし」

「それにりっくん未成年でしょ」

「いや関係ないだろ。つか20……の筈だ」

 

孤児だから正確な年齢わかんねーし。

 

「ぷっ……57のブラ見ただけで鼻血吹いて倒れたくせに?」

「んなっ……!?なんで知ってんだ!」

「ふー………………ん。見たんだ」

「違っ、あれは事故で」

「えっち」

「ぐぁはっ!?!?!!」

 

胸に何か突き刺さった。

 

「ふんだ。そんなりっくん知りません」

「ほんと、マジ許してください……ごめんなさい……」

 

もう平謝りするしかなかった。

FALが腹抱えて笑っている。

 

「何でもするから」

「………………!ふー……ん」

「あっ。いや、その、何でもは言い過ぎた……」

「男に二言は?」

「ありません………………」

 

俺は、臆病者だ……!

 

「今晩部屋にお邪魔するので待っててね」

「ウェッ!?!!!?」

「返事は?」

「はい……………………………」

 

そして俺は弱かった。

先生……俺強くなりたい……。

 

『時には諦めも肝心じゃぞ、パトリック』

 

誰だ今の。

 

「私よ」

「お前だったのかよ」 

 

昔ナンパした女に捕まってそのままズルズルとゴールインしたの孤児院の爺さんの話かと思ったわ。

あの人その話をする度に背後から婆さん出てくるからめちゃめちゃ怖いんだよな……。

 

「そういう事だから。休んで来て」

「了解……正直、クタクタだ」

「お疲れ様」

 

まぁ、何とかなった……のかな。

 

 

 




この基地でもしかして立場が一番弱いのかもしれない。


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第70話『晩酌』

夜、部屋に居るよう厳命された。
怖いんだけど……。


 

水槽に糸で吊るしたスルメを入れる。

ぎぃぎぃと殻が鳴る音がする。

 

「おうザリ次郎元気か」

 

現実逃避気味にザリ次郎と戯れていた。

言ってることは恐らく一ミリも理解してないだろうけど。

 

……コン、コンコンとノックが3回。

背筋が凍る。

なんとか声を振り絞る。

 

「……ど、どうぞ」

「失礼します。こんばんは、りっくん」

「ぶはっ……!?」

 

おま、お前っ。

その恰好で来たのよか……!?

 

「どうしたの?」

「な、ななな、なんだその恰好……」

「寝間着」

「嘘つけ常日頃からそんなんで寝たら風邪ひくわ!!」

 

詳細は割愛するがリリスが着ているのは……所謂ベビードールとか言うやつだ。

露出がすさまじく……待って待て。

ショーツ見えてるし……。

ちなみに黒……いやいやいや考えるな。

 

「そう?いつもこれだけど」

「嘘だろ……てかここまでよくそれで来たな!?」

「別に男の人このエリアに近づかないし」

 

……俺の部屋は、実は人形の宿舎の一角にある。

なんでかって?

部屋が無かったんだ。

この前なんてネゲヴが俺の部屋でベッドに寝転んで漫画読んでた。

 

「はい」

「はいって……ん?ワイン?なんで」

 

リリスが持っていたのは名前のラベルが読めない瓶。

でもコルクで栓がしてあるならきっとワインだろう(ド偏見)

 

「お前、酒嫌いだろ……」

「……いいの」

「いいんかい」

「だってここ最近ずっとスコーチさんと一緒だったんだもん!ずるい!」

「え、えぇ……」

「何よ!スコーチさんのお酒は飲めて私のは飲めないって言うの!?」

 

え、ちょっと待って。

なんで俺怒られてるの。

 

「分かった。分かったから。飲む。お前と」

「そうこなくっちゃ」

 

そういうともうにっこにこに笑って俺にグラスを押し付けてくる。

……顔は別に赤くない。

え、素面なのこれ。

 

「乾杯」

「乾杯……」

 

グラスを合わせて、口元に持っていく。

……独特な匂いで、ちょっと躊躇う。

ちらりとリリスを見たら、まだ笑顔だった。

 

「ふぅ……お酒なんて下種野郎共が乱痴気起こす為に使ってるドラッグだと思ってたけど、やっぱり好きな人と飲むと違うね」

 

マジでこいつ過去に何があった。

意を決して俺も飲む。

……苦い。

 

やっぱりアルコールは慣れない。

 

「美味しくない?」

「……正直言うと」

「そう。りっくんは昔から嘘つけないもんね」

「………………」

 

気恥ずかしくなって顔をそむける。

そうやって、分かってる、みたいな風に話されるのは苦手だ。

 

「だからかな。男の人は嫌いだけど、りっくんは別」

「……関係ないね」

「ううん。そんなことない」

「そうかよ……ッ!?」

 

一瞬意識が落ちそうになった。

 

「……うんうん。りっくんはお酒弱いもんね」

「リリス、まさか、うっ」

 

立ち上がろうとして、ふらふらする。

うまく立てない。

 

「大丈夫だよ、何も怖いことしないから」

 

リリスがにじり寄ってくる。

何か知らんがやばい。

ギリギリ踏みとどまっている脳が警鐘を鈍く鳴らす。

 

俺の頬にリリスが手を伸ばそうとして、

 

「え」

 

そのまま滑って転んだ。

 

「お、おい!リリス!?」

 

義足の膝に顔をぶつけてないか確認する。

……俺の腹を枕にして、寝ている。

 

「は?」

 

俺の意識はそこで途切れた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

翌日。

なかなか起きてこなかった俺たちを探しにジェリコが部屋に来たところ、爆睡する俺たちを発見。

 

たたき起こされて説教を食らったが俺とリリスが仲良く風邪ひいてダウンするのだった。

 

ちなみに間違いは一切無かった。

俺たち二人ともアルコールの耐性が皆無だった事が発覚したのである。

 

「ぶぇいっくしょい!!」

「もう、パトリックさんは馬鹿なんですから……」

 

シュタイアーが俺の額に濡れタオル置きながら苦笑するのだった。

……ちょっと待て、看病の仕方が古典的過ぎないか。

 

あと、リリスはDSRとFAL達によってベッドに縛り付けられている。

 

因果応報……いや、自業自得なのだろうか。

 

「はい、ちゃんと寝てくださいね」

「あーい……」

 

頭いてー……当分酒は懲り懲りだ……。

 

 

 




このSSは青少年の何かに考慮しているので卑猥は一切ありません。


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第71話『四肢もぎ療養』

そんなんで病気治るのかよ。


本格的に風邪をこじらしたのでしばらくベッド生活である。

 

「何もしてないとは言え間抜けね〜リック」

「ごほっ……うるせ。帰れ」

「はいはい。大人しくしてたら可愛いと思ったのに」

 

「おはようございます、兄さん。ちゃんと寝てますか?」

「……お前が来るまでは」

 

「……パトリックさー……ん……ふぅ、ちゃんと寝てますね」

「………………(ドアが開く音で起きた」

 

「こんにちはリック!貴方のsaiga-12よ!」

「帰れ」

 

「パトリック、教材は置いておきますね。……顔色は悪くありませんね。このまま寝ていればすぐに良くなります」

(近い近い近い近い!!!)

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「こんばんはパトリックさん」

「寝かせろ!!!」

 

キレた。

いやほんと何人来るんだよ。

 

「わ……げ、元気じゃないですか」

「……げほっ、すまん……寝かせて、ほんと」

 

結局、数十分毎に別の人形が部屋にやって来るから休めたもんじゃない。

ドアの前で目を白黒させて驚くステア。

ていうかこいつもよくこの部屋に来るなしかし。

 

「2、3時間おきに誰か来たら寝れるもんでもねぇよ」

「だって仕方ないじゃないですか……パトリックさん、今手足無いですし」

 

……そう。

今俺に義肢が付いてないのである。

ちょっと気分が良くなったら素振りしようとして止められた為である。

スパス、サイガ、ベネリの3人がかりは流石に勝てなかった。

そして手足没収。

解せぬ。

 

「どうして俺から自由を奪うんだ」

「治らないからです!もう……ご飯あげませんよ」

「それは困る……でもあんま食欲無くて……」

「え……そんな、パトリックさん!?大丈夫ですか!?私が付いてますよ!!」

「うるせぇ!あと風邪だって言ってげほごほっ、ん、ぐ、うぇっお、う」

「あーあーもう騒ぐから……お水です」

「解せねぇ……」

 

のどが痛い。

 

「パトリックさん自身はそう感じて居ませんけど、たぶん体の方は空腹だと思います。苦しいですけど詰め込んじゃってください」

 

ステアがお粥を俺に差し出した。

温かそうに湯気が揺れる。

 

「はい、あーん」

「やめろ」

「あーん」

「やめて」

「あーん」

「ちょ、やめ」

「あーん」

「頼むからそれだけはやめてくれ」

「(ゾクゾクッ)……どうしましょうか。やっぱり手足無いのは不便ですよ」

「手を返してくれればいいから!お願い!」

「だーめ、ですよ」

「ひぇ……」

 

もうだめだ。

おしまいだ……。

俺は屈するしかないのか……。

 

「そんな大げさな……女の子にこうされて嬉しくないんですか?」

「そういうわけじゃ」

「もしかして、前に誰かに?」

「……うーん、孤児院のばぁさんに……」

 

 

 

『パトリック』

 

『もう、自己管理がなってない』

 

『あんまり心配掛けさせないで』

 

 

 

「あ……」

「?パトリックさん?」

「いや……何でも、無い」

 

……正規軍に居る時、確か1度だけ……手足もなく風邪で寝込んでいた時があった。

あの時、俺を診ていてくれた奴。

 

「……ごめん、ステア。もらえるか」

「え、あ、はい」

 

……あいつ、今頃どうしてるんだろうな。

 

 

 




そろそろコラボ回が入るかもしれません。


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第72話『むかし』

メンタルの不調でちょっとごたごたしてましたが、何とか更新する気力が戻ってきたので再開します。

ホント申し訳ありません。


「パトリック、起きてる?」

 

声を掛けられて目が覚める。

……ザリ次郎が水槽をひっかく音が聞こえない。

 

「……パトリック?」

 

俺の顔を覗き込むブロンド髪の美女。

こいつは……。

 

「AN-94……ごほっ、勝手に入るなって、言った、げほっ……」

 

俺の口が勝手にしゃべった。

 

「じっとしてて……もう。少し頑丈だけど、貴方は人間なんだから……無茶しないの」

「うるせぇ」

 

悪態を吐かれながらも、AN-94は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれている。

……ドアがノックされた。

 

「邪魔するぜー。よう相棒生きてるか?」

「おはようリック。ってもう夕方か」

 

馴れ馴れしい青い髪の青年と、金髪の活発そうな女性。

息が詰まる。

胸が痛い。

 

思い出したくない。

 

「あーあー、喋るなってリック。全く、馬鹿は風邪ひかないとは思ってたんだがな」

「うわ、凄い熱……大丈夫?」

 

ひんやりとした手が額にあてられる。

 

「勝手、に」

「口は、元気だな……」

 

青髪の男が苦笑する。

 

「ありがとアン。見てくれてたんでしょ」

「……別に」

 

金髪の女性に声を掛けられたAN-94は、ぶっきらぼうにそっぽを向いた。

 

そして、いま俺が寝ている場所が……いつもの自室でないことを思い出した。

これは……夢だ。

 

この二人が生きているという事は。

夢、なんだ。

だって、二人とも、もう死んでいるから。

 

「相棒、あんま無茶すんなよ。お前の葬儀なんてやりたくないぞ」

「うっせ……」

「マイク、そういわないの。リック達が頑張ってくれてるから、私達の被害は少ないのよ」

「分かってる、アリサ。でもそれとこれは別だろ?」

「そうだけど、さ。リック!早く元気になりなよ!また今度皆でパーッとやりましょ。アンもどう?」

「私は、良い」

「そっか、残念。またね」

 

嵐のように二人は去った。

AN-94と俺だけが、部屋に残された。

 

「………………」

「………………」

 

静寂。

お互い、あまり口数は多くない。

 

「AK-12に、暫く安静にさせるって、言ってくる」

「おう…」

「……無理、しないで」

「無理じゃねぇ。俺に出来る事だ」

「それでも、私は……」

「っるせーぞ……」

 

こうしてみると、AN-94は俺の事を本当に心配してくれていた。

こんなやつに、俺はずっと悪態ついてたんだ……。

 

「………………」

 

謝りたい。

 

素直に、そう思ってしまった。

帰るべきだろうか……正規軍に。

半年以上もMIAだったのに。

 

せめて、連絡が取れればいいんだが……。

リリスに頼んで、通信設備でも借りられないだろうか……。

 

 

 




このSSのメインヒロインは誰だろうか。


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第73話『ゆめからさめて』

夜中。

目を開けても閉じても暗い。

 

身体を動かそうにも手足が付いてないので動けない。

 

「………………」

 

懐かしい夢を見た。

まだ3人で笑い合ってた頃。

俺がまだ正規軍に居た時の事。

 

「アン、か」

 

AN-94の愛称。

あんまり呼ばなかったなぁそれ。

何か気に入ってなさそうだったし。

 

そう言えばいつの間にか俺もリックって呼ばれてたな。

悪い気はしない。

……あいつはどうだったんだろうか。

 

「こんばんは……あれ、起きられていましたか」

 

そっとドアが開けられた。

廊下の照明も落ちていてよく見えないが……このシルエットはおそらく、

 

「ステアか」

「少し元気そうですね」

「昔から、頑丈なのが取り柄だったからな」

「そうですか」

 

水差しを持ってきてくれたようだ。

……手が無いから飲めないんだけど。

 

そう言えば喉がカラカラだ。

 

「ステア、手をくれ」

「わたくしが飲ませて差し上げても良いのですよ?」

「……ちょっと夜風に当たりたいから足もくれ」

「もう、パトリックさんはまだ熱下がってないんですよ?」

「……わかるのかよ」

 

こいつの目、サーマルスコープでも載せてるのかよ。

 

「見えますからね」

「ほんとに積んでるのかよ」

「……はい、どうぞ」

 

思いのほかあっさり渡してくれた。

 

「……さんきゅ」

「……え?」

「……えってなんだえって」

「いえ……お礼を言われるとは思っていなくて」

「お前の中で俺はどう思われてるかよくわかったわ」

 

自業自得?

うるせえ。

 

接続され、疑似痛覚に痛みが走る。

もう慣れたので顔を顰めるだけで済む。

 

「……痛かったですか?」

「気にしなくていい。いつもの事だ」

「人間の体ですのに、私たちと同じように手足を外したりして……」

「……俺の大事な手足だ」

 

物心ついた頃からこの手足だった。

今更手足について何の感慨もわかない。

 

「ところで……」

 

手足が戻り、とりあえず水を飲む。

 

「アンってどなたですか?」

「ぶっ」

 

思わず吹き出す。

こいついつから聞いてたんだよ。

 

「げほ、げxほっ!!ど、同僚だ……ただの」

「ただの?」

「……ああ、ただの同僚だ」

 

……本当に?

AN-94は俺にとってただの同僚だったのか?

 

「もしかして、初恋の相手って……ッ!?」

 

ステアが息を呑む。

……無意識に、睨んでいたのかもしれない。

 

「……すみません」

「……散歩してくる」

 

居た堪れなくなって外に出ようとする。

 

「あ、あ、パトリックさん!」

「なんだよ」

 

引き止めないで欲しかった……。

 

「その……何か着た方が」

「え……あ」

 

よく見ると俺パンツ以外何も身に着けていなかった。

 

「あー……うん。そうする」

 

締まらねぇ……。



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第74話『人形闘技場』

 

「指揮官がまだ風邪でダウンしているので、私から今回の依頼について説明させて貰います」

 

応接室。

俺はソファにジェリコと向かい合って座っていた。

 

「お、おう。よろしく」

「……指揮官は未だ熱は下がっていないというのに、どうして貴方は一日で快復してるんですかね」

「知らんわそんなの」

「はぁ……今回の依頼は後方……丁度ここと本部の間にあるS-6地区です」

「内地?何でまた」

「暇を持て余した人間というのも、つまらないことをすると言う事です」

 

手渡された資料に目を通す。

違法賭博地下闘技場。

コミックの中の話かよ、とは思った。

 

「で、これどうすりゃ良いんだ?ぶっ壊せばいいのか?」

 

正直適当に入って片っ端からぶっ壊すなら何も考えなくて良いから楽だ。

 

「……いえ。施設の損害は可能な限り……と、言うよりゼロにしてください」

「は……?」

 

何で?

違法だのなんだのと書いてあるじゃん。

 

「……正直、私としても気に入りません。人形を戦わせての違法賭博なんて」

「……分かった。グリフィンの収入に噛んでるな?」

 

そこの地区の指揮官が得た利益をグリフィンに流している。

金を握らされて黙っているな?

 

「……こういう施設は、ベルロック指揮官が片っ端から潰していった筈だったのですが」

「で?俺に何させたい訳」

 

話をぼかし過ぎだ。

いい加減イライラしてきた。

 

「ここで、S-14地区の生き残りの人形が見つかりました」

「何……?」

 

88式たちの仲間がそこに?

 

「潜入して彼女を救出、身柄を確保してきてください」

「……俺に向いてると思うか?それ」

 

潜入。

一番俺に向いていない種類の仕事だ。

騒音しか出ない武器を持っているわけだし。

 

「ですが、自由に動かせる人員は貴方しか居ないのも事実です」

「……まぁ、確かに……ってならねぇよ!?適材適所ってあるだろ!」

「困りましたね……」

「せめて俺にやる気を出させるような事言ってくれ」

 

流石にやれない事をやれと言われても。

 

「……一応、これが対象の写真です」

「一応見るわ」

 

まぁ人形の写真見てもな……。

俺は、息を呑んだ。

 

美しい。

本当に美しい人形だった。

 

「彼女はOTs-14。今はその場所にいます」

「へ、へぇ……」

「………………随分気に入ったみたいですね」

「い、いや!?違うぞ!?」

「全く……一日時間をあげます。明日までに回答をください」

「……ジェリコ。日付変わるまであと4時間なんだけど」

「それでは」

「ちょいちょーい!!」

 

聞いちゃくれねぇ。

さて、どうすっかなこれ……。

 



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第75話『背中に刺さる熱視線』

……綺麗な区画だ。

表立ってスラム化している訳でもなく、整備された道路に町並み。

少なくとも、何も後ろ暗さを感じない。

 

「ここ、か」

 

S-6地区。

ジェリコから説明を受けたグリフィンの管理区。

ここに、グローザと呼ばれる人形が囚われている。

 

「さて……」

 

荷物を担ぎ直す。

今回持ってきた武器は腰にあるFive-seveNだけ。

トムボーイもジェットストリームもピースキーパーもかなり目立つのだ。

 

「どこから探れば良いかな、ホント」

 

まずは宿から探すべきだろう。

ふと、振り返る。

 

「……?」

 

誰かに、見られている気がする。

俺の後ろには、街の関所で欠伸しながら警備しているグリフィンの人形しか居なかった。

彼女は俺の視線に気付くと咳払いし、手でさっさと行くように促した。

俺は苦笑して手を振った。

 

(見られてる?まさか……)

 

監視、いや、尾行か?

少なくともたった今たまたま見つけたから見てる、ってワケじゃ無さそうだ。

 

俺は適当な喫茶店に入る。

栗色の長い髪をした女性に注文を告げて席に着いた。

 

「お待たせ致しました」

 

程なくして、机にコーヒーとサンドイッチが置かれる。

 

「どうも」

「お客さん、この街の人じゃないですよね?」

「……そう見える?」

「ええ。貴方の髪の色はこの辺りではそうそう見ませんので」

 

前髪をいじる。

赤い髪の人間はこの辺にはあまり居ないらしい。

目立つ行動は取りづらくなるな。

 

「それに、ウチでコーヒー頼む人なんて全然いないですからね」

「何でまた……ウッ、げほっごほっ!!」

「美味しくないですから」

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

暫く胸焼けを起こして、とりあえず店を出た。

開幕で酷い目に遭った。

何となくろくな事が起こりそうにない。

 

……立ち止まる。

視線を感じるが、相手が何処にいるか分からない。

 

「………………」

 

じっとしていてもどうにもならない。

兎に角腰を落ち着けられる場所に行かないと。

 

暫く歩き、噴水のある公園に辿り着いた。

ベンチに座り、背を預ける。

 

一時間ほど歩き回ってわかった事。

 

この街は、戦術人形の巡回が兎に角多い。

 

ここに着く前に5、6回ほど呼び止められた。

リリスのとこなんて一日に3回、一部隊が巡回する程度だったのに。

 

何となく、過剰に恐れている。

そう感じる。

これだけ巡回員が多いから、視線を感じるのだろうか。

 

「………………」

 

ただ、何というか……穏やかだ。

公園で子供が遊んでいる。

そんな光景が、今のご時世見られるとは。

 

「……平和だなぁ」

 

そうだ、宿を取らないと……。

……立ち上がろうとした瞬間、背後から何かが、

 

「グッ、ウッ!?」

 

ロープの様な物が首に巻き付いた。

力はそれなりに強い。

だが、力比べで俺に勝とう何て……!

 

「あ、が、え、な?」

 

腕が、動かない。

俺の意思で、全く動かない。

 

何故、そう思う前に俺の意識は落ちた。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

……目が覚めた時、俺は囚えられた事に気付いた。

手が動かない。

縛られている。

背中にはスプリングの感触。

ベッドの上か。

そして、何かに身体が締め付けられている感覚。

なんだ、巻き付いてる。

 

 

そして、俺の視界は布か何かで塞がれている。

 

 

完全に囚われの身だ。

救出しに来たのに、これじゃミイラ取りがミイラだ。

もっともこのご時世、ミイラより先にE.L.I.D化の方が可能性はあるけど。

 

……いい加減、腹とか胸とか苦しくなってきた。

何とか動かないかと思い、腕をガチャガチャと動かした。

鎖か。

フルパワー出せば引き千切れるな。

幸い手足は繋がったままだし、何とか……。

 

もぞり。

俺に巻き付いていた何かが身動ぎした。

 

「………………あ、気がついた」

 

とても、聞き覚えのある声。

 

「え、お前、」

「うん、久しぶり」

 

しゅるり、と目隠しが外された。

 

そこに飛び込んできたのは……エメラルド色の瞳。

 

「AN、94……」

「会いたかったよ……パトリック」

 

アン、AN-94が……俺の体にぴったりとくっついている。

もしかして、俺の体絞めてたのってこいつ……?

 

「いや、待て待て、何でここに?いや、その前にまさか俺を拉致したのって」

「私だよ」

「そっかー……そっかじゃねぇよ何してくれんだ!!」

「?」

 

かわいらしく小首を傾げた。

あれ、こいつこんな表情も出来たのか……。

 

「俺は仕事で来てるんだ」

「仕事なんて関係ないよ」

「関係ないって」

「だって、私たちやっと会えたんだよ」

「ま、まぁそうだな……」

 

様子がおかしい。

いや、おかしいってレベルじゃない。

瞳のライトが鈍い。

整備不良か?

生真面目なこいつにそんな事……。

 

「MIAって聞いて、私ずっと探してた」

「……それは、すまん」

「パトリックはいつも自分勝手で、手のかかるバディ」

「………………」

「でも、大事な、大事な同じ部隊の仲間なの」

「……AN-94」

「もう、何処にも行かせない」

 

ぎゅ、と俺の体に抱き着いて胸元に顔をうずめる。

 

「あの、AN-94」

「大丈夫……私が、絶対守るから」

「AN-94?」

「………………」

 

………………あ、スリープしてる。

緊張の糸が切れでもしたのか。

俺が見つかるまで、ずっと無理していたのか。

 

「……え、俺これどうすりゃいいの?」

 

彼女が起きるまで放置されるのだった。

 

 

 

 



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