ソードアートオンライン~グランドメモリアル~ (Wandarel)
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ご挨拶と人物紹介

こんにちは、こんばんは、そして初めまして。

小説作成活動初心者作者のWandarel(ワンダレル)です。

今回、自分の好きな小説のひとつ、『ソードアートオンライン』を元に作り上げるつもりの『ソードアートオンライン4G』を見ていただきありがとうございます。

仕事などで少し忙しくて続きが書けないなど、更新日時はかなり不定期ですが、ちまちまと更新をしていけたらなと思っています。

この作品を読むに当たっての注意点なのですが、当然、二次創作作品ですので、本来の話の進み方が違ったり、原作といまいち違ったり、たまに原作に無いことをすると思いますが、(主にキャラ崩壊など)どうかよろしくお願いします。

この登場人物紹介は、原作の登場人物の紹介はどうせみんな知ってるだろうし省き、オリキャラのみの紹介とさせていただきます。

この登場人物紹介は新キャラが登場次第、随時追加していく予定です。原作自体は読んでいますが、かなり忘れっぽいので時折変な描写が入っているかもしれないのでその辺りは……特にツッこまないでいただけるとありがたいです。

(原作の勉強をせねば………。)

CVイメージもあくまで、自分のイメージです。

長くなりましたがよろしくお願いします。

それと、これが一番大事なことですが、

原作を軽くぶっ壊してる部分多いです。(大事なことなので二回言いました)


登場人物紹介


《アインクラッド攻略し隊》

プレイヤーネーム 脚竜

本名 脚蛇 龍希(あしだ りゅうき) 性別 男

イメージCV 杉田智和

現役中学生で、FPSやアクションゲームが大好きな至って普通のゲーム好き。

バイト代を貯めて買ったナーヴギアで、SAOの世界に入った。

性格はかなりお調子者で単純(バカ)

しかし、その弱点を補い余る神がかった運の持ち主でもある。

小学校の間でいじめられており、特に女子からのいじめが酷かったことから軽度の女性不信である。

自分の身長が低いことをとてもコンプレックスに思っており、少しでも子供扱いをしたり、身長が低いことを言ったりすると猛烈に怒るので注意。

しかし、背が低い為、どれだけ怒って騒いでもチワワがキャンキャン吠えているだけにしか見えない………。


プレイヤーネーム ぼっち

本名 脚蛇 将悟 (あしだしょうご)性別 男

イメージCV 子安武人

現役中学生にして脚竜の兄。基本的に隙がなく、これといった弱点が少ない自称&通称『天才』。中でも、交渉力や戦闘能力については彼の右に出るものはいない。

人を騙すのが大好きだが、決して嘘をついたり約束を破ったりはしないという結構迷惑な性格。

さらに、元々持ち合わせているカリスマ力は様々な人間に、影響を与えているらしい。

幼少期にある事件に巻き込まれ、たまにその事が夢に出るときがあるらしい。

無駄な事が嫌いで、自分が嫌だと思ったことは徹底してやらないというある意味はっきりとしている考えを持っている。

脚竜とは対照的に運が非常に悪く、かなりの不幸体質。

基本的に読書狂で、暇さえあれば本を読んでおり、彼いわく、

『本は人が歩んできた人生の教科書だ。だからこそ面白い。』

と述べている。


プレイヤーネーム オクト

本名 小倉 友渡 (おぐら ゆうと) 性別 男

イメージCV 山口勝平

脚竜と同級生で、クラスメート。

このゲームをすること自体が初めてで、右も左もわからない状況でデスゲームへと入った。

よって慌ててモンスターをなぎ倒していった結果、かなり強くなっていた。

基本的に強気だが、虫を見た瞬間戦闘中でもまるで女子のように騒ぎ逃げるほどのビビり。

勉強はよくする方で、モンスターの行動パターンをノートなどに記入したりしている。


プレイヤーネーム Yun

本名 黒野 優 (くろの ゆう) 性別 女

イメージCV 大坪由佳

脚竜、オクトの同級生でオクトの幼なじみ。

MMO系のゲームに精通しており、あのぼっちにデュエルで(ぼっちが慢心していたとはいえ)勝利するほどのかなりのプレイヤースキルを持っている。元々はリアルで繋がりのあった情報屋のアルゴと共に行動していたが、一層攻略に平行して独立し、攻略し隊へと入った。

最終的な目的は現状不明だが、かなり強力な助っ人であることは間違いない。

なお、かわいいものには目がないお茶目な部分もある


プレイヤーネーム ミホ

本名 島田 美穂 (しまだ みほ) 性別:女

イメージCV 佐倉綾音

Yunの親友にして、脚竜とオクトと同級生。

ゲーム知識は一部のゲームを除いては一般人クラス。しかし、Yunやシグレとのコンビネーションは凄まじく、ある意味敵にはしたくない人間の一人。

アインクラッドではレイピアの使い手で、主に回復などの後方支援を担当している。

Yun達との成り行きで『攻略し隊』に入ったが若干後悔気味。


プレイヤーネーム シグレ

本名 時田 雨音 (ときだ あまね) 性別:女

イメージCV 藤田咲

ミホと同じくYunの親友で脚竜とオクトの二人とは同級生。ゲーム知識はYun以上にあり、そこそこの腕の立つゲーマーでもある彼女だが、それとは打って変わって全体的なイメージの先読みと的確な判断力など、リーダーに必要な物をすべて兼ね備えており、三人で活動していたときはシグレを筆頭に行動していた。

だが、彼女もぼっちに劣らないほどの不幸体質で、何かしら不幸な事が多いせいか、『不幸だわ』が口癖になっている。


《ルイーダの酒場》

プレイヤーネーム ルイ

本名 藍田 瑠衣 (あいだ るい) 性別 女

イメージCV 甲斐田裕子

ぼっちより年上で、ぼっち、脚竜の脚蛇ブラザーズの姉の友人にして、脚蛇ブラザーズの幼少期のことをよく知っている。アインクラッドに囚われる前は、大学生で、営業関係の勉強をしていたが、興味本位でナーヴギアを起動してしまい、アインクラッドに囚われた。

生まれつき青髪で、そのせいでそこそこ面倒事に巻き込まれることも多かったが、この世界でそれが役に立つ事が来ることは想定外だった模様。

一層でたまたま手に入った酒場の土地を使い、酒場を経営しており、プレイヤーネームはルイだが、酒場の常連たちから《ルイーダ》の愛称で呼ばれている。

過去にガンダムエクストリームバーサスをやってたが、その時にユニコーンガンダムにボコボコされて以来、ガンダムは敵だと思っている。

非戦闘系のように見えるが腕はそこそこは立つのでナンパするときは死ぬ覚悟もしておくように。


《現実世界》


プレイヤーネーム ナツ

本名 脚蛇 夏輝 (あしだ なつき) 性別 女

イメージCV M・A・O

脚蛇一家の長女で、瑠衣の親友。元々過去の事が原因で精神面が少し歪んでいたが親友や家族がアインクラッドに囚われて以来何事にも無関心になり、笑うことすらなかった。

後にアリアと出会って様々な苦難を乗り越え、今は年相応の笑顔を見せるようになった。

仮面ライダーカブトの継承者。


プレイヤーネーム アリア

本名 小倉 柚子 (おぐら ゆず) 性別 女

イメージCV 稲村優奈

小倉一家の長女。お節介焼きな性格で、悪い意味では誰彼構わず首を突っ込むトラブルメーカーだが、いい意味では全員に対等に接する優しい少女。

夏輝とは同じ大学で、接していくうちに夏輝とはかけがえのない親友になった。

仮面ライダー響鬼の継承者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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スキル説明

第1回のアンケートの結果、スキル説明のほうを手掛けさせていただきます!
(とはいえ合計四票ですけども…。)
スキル説明は新しく使われ次第、随時追加していく予定です。
ダメージ倍率は攻撃力×倍率くらいですが、SAOゲームからの抜粋なので特に深い意味はありません。
なお、消費SPについてはあくまでこれくらいかなという感覚であるのと、大体が他作品から抜粋した技なので、元ネタなども書いております。


1:オーバーラッシュ

属性:無 物理属性:打撃

ダメージ倍率:120% 消費SP 8

攻撃回数:SPがある限り

~説明~

ぼっちが格闘スキル習得の際になぜか編み出してしまった全く新しいスキル。ラッシュ中はSPが続く限り怯みが無効になり、強力なノックバック攻撃以外ならスキルを中断されることなく殴り込める。(ダメージは受けてるので回復はしっかりとする必要あり)

なお、このスキルは熟練度が上がると消費SPが低下していき、最終的には消費SPが1になるため、牽制用としてもこのスキルは使い勝手が良く、ぼっちの高いSTRのおかげでさらにダメージも跳ね上がっている為、ボス以外のMob相手に使うことが多い。なお、このスキルの伝授も可能で、他人にも教えることはできるが難易度が高く、並みの人間はすぐにやめてしまう。さらに、発動者によってはラッシュ中のかけ声が変わるらしい。

(元ネタ:ジョジョの奇妙な冒険第三部より)


2:ダークネスフィンガー

属性:闇 物理属性:突&打撃

ダメージ倍率:1980% 消費SP:45

攻撃回数:10回(掴みからの継続ダメージが9回、とどめの爆発で1回。)

~説明~

ぼっちが格闘スキルの師匠から譲り受けたスキルの一つにして必殺技。かなり高威力な上、掴み技なのでボス以外は掴んだ状態のままでダメージを与え、対象を貫通した後、止めの爆発を発生させるため、基本的に当たれば逃げられないスキル。

対人戦においては文字通り必殺技であり、DEFが脆い相手ならこのスキル一つで葬れるため、ぼっちはデュエルでは使わないように気をつけている。(オクトor脚竜に対するお仕置きの時は上手いこと死なないように使っている。)

なお、止めに『爆発ッ!!』と言いながらそれっぽいポージングをとる必要はないが何故かぼっちはその部分に強いこだわりを見せている。

(元ネタ:機動武闘伝Gガンダムの東方不敗マスターアジアより)


3:超級覇王電影弾

属性:無 物理属性:打、突

ダメージ倍率1670% 消費SP:38

説明

ぼっちが特殊な格闘スキルを習得できる格闘スキルの師匠から教わった秘技の一つ。はっきり言って物理法則を完全に無視している。回転しているはずなのに顔だけがそのまま固定された状態で一つの弾丸となって飛んでくるそれはまさに恐怖でしかない。しかし、強いのはたしかで、逃げの技にも攻めの技としても使える優秀なスキル。ちなみにただ体当たりするだけでなく、爆発という掛け声と共にあるポーズを取ると追加で広範囲大ダメージの爆発がおきる。

(元ネタ:機動武道伝Gガンダム、東方不敗より)





新しいスキルが出る度に更新していく予定です。


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1stフェイズ~アインクラッド~
第一話~デスゲームへの切符~


2022年

現在ソードアートオンライン通称〔SAO〕の最終ベータテストが終了し、今は本格的な運用が行われている。リアルの方でもかなり有名なゲームであり、ベータテストの時もかなりのベータテスターがいたらしい。

そして、その第一層のフィールドで二人のプレイヤーがこのSAOでの基本動作の練習をしていた。

 

???

「…………はぁ、右だ右。そういう時は右に動くんだよ。」

 

???

「だーかーらー!俺は剣じゃなくて銃が使いたいんだよ!はぁ……、銃が使えるって兄貴が言ったからやり始めたのに……。」

 

ふてくされて剣を投げそうにしている男性アバターのプレイヤーの名前は脚竜。VRゲームは始めるまではFPSゲームのプレイヤーだった為、剣の扱いは少々苦手である。

 

ぼっち

「………はぁ、言い訳をする間があるなら動きのひとつでも覚えたらどうだ愚弟。」

 

そういって厳しい言動で脚竜の指導にあたる女性アバターのプレイヤーの名前はぼっち。

様々なゲームで目立った活躍はしてないが、基本的なプレイングスキルはずば抜けて高く、今回は弟の指導のために上層部に上がって様々な武器を与えている。

 

ぼっち

「そもそも、俺はいつか銃が出るかもなって言ったんだけど?」

 

脚竜

「普通に嘘ついてんじゃん……。」

 

ぼっち

「違うな、俺は嘘はつかない。人を騙すのが好きなだけだ。騙されたお前が悪い。」

 

脚竜

「むう………。」

 

この広大な世界では色々なモンスターとの戦いが面白い。

まるで現実の似ている動物と戦闘をしているような感覚がなおのこと面白いと評判のゲームだ。

 

脚竜

「はぁ……せめて何か遠距離武器があればな………。」

 

ぼっち

「そういえば弓があるとは聞いたことがあるぞ。」

 

脚竜

「………まぁ、妥協点かな………。」

 

がっくりしながらも脚竜が基本技の練習をしていると、

 

???

「おーい、ぼっちー!調子の方はどうだ~?」

 

そういって顔立ちの整った黒髪の男と男らしい顔立ちの赤髪の男が来た。

 

ぼっち

「あー、この愚弟はどうしても銃が使いたいって駄々こねてばっかで何にも成長しないのよ。」

 

ぼっちは、人前では女性だと言ってる。まぁ、俗にいうネカマってやつだな。

 

クライン

「あーあ、頑張れよ、脚竜ー。お前には俺も期待してるんだからな!」

 

脚竜

「剣は苦手なんだよクラインさん………。」

 

キリト

「はは、けど、やっぱりぼっちの弟なんだから剣筋はよくなると思うぞ?何てったって上層部攻略のメインの一角だからな。」

 

ぼっち

「ムリムリ、キリト。こいつじゃ私を越えるなんて夢のまた夢よ。」

 

黒髪の男のプレイヤーネームはキリト。ぼっちとはこのアインクラッドの攻略のために一緒に前線にいた仲間である………って聞いてる。

となりの赤髪の男はクライン。ベータテスターの一人で今はキリトと共に行動をしているらしい。

 

脚竜

「うぐぐ、覚えてろよホントに………。」

 

脚竜は悔しそうに文句を言う。

 

キリト

「んじゃ、またな脚竜、ぼっち!」

 

クライン

「また会おうぜお前ら!」

 

ぼっち

「はいはーい。」

 

脚竜

「じゃあねー、クラインさん、キリトさん!」

 

クラインとキリトが去ったあと、ぼっちはどっと疲れたようにため息をつく。

 

ぼっち

「はぁぁぁ~、なんで兄弟なのにこんなことも出来ないんだよ………。」

 

脚竜

「ぐぬぬぬ、反論できぬ………。」

 

ぼっち

「さてと、そろそろログアウトしないと。父さんになに言われるか分からないからな。」

 

脚竜

「OKー。さっさとログアウトしよー!今日の晩ごはんは婆ちゃんの特製焼きそばだって言ってたよ。」

 

ぼっち

「マジかよ。すぐに行かなきゃ!」

と二人同時にメニューを開き、久しぶりに食べれる祖母の作った焼きそばの味を想像しながらログアウトをしようとした。………が。

 

脚竜

「………あれ?何でだ?」

 

ぼっち

「………ログアウトボタンがないだと?」

 

脚竜

「……はぁ、こんなときに限ってバグかよ……。」

 

ぼっち

「まぁ、まだ稼働初日だしな……。つくづく運がないな………。」

 

脚竜

「それは兄貴だけだよ。」

 

サービス開始初日にこんなことなんて……と嘆いていると、突然転移エフェクトに包まれた。

 

脚蛇ブラザーズ

「「うぉぉっ!?」」

 

そして、気がつけば始まりの街の転移門広場に飛ばされていた。

 

脚竜

「な、何だ?人がいっぱい集まってるぞ?!」

 

ぼっち

「……多分、そろそろ運営側が動き出したんだろ。どうせバグの修正が終わったとか言うのがオチだ。」

 

ぼっちと脚竜は割と冷静に会話をしていた。

すると、空が赤く染まり始める、真っ赤な雲かと思っていたが、よくみるとシステム関係のアラートと書かれていたペンタゴンだった。そして、空中に突如黒いローブが浮かび上がった。

 

脚竜

「うぉっ!?びっくりしたぁ……。」

 

茅場

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

(何か様子がおかしいな……)

そんなことを思っていたら、茅場晶彦はさらに言葉を続けた。

 

茅場

「プレイヤー諸君は、もうすでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合などではない。繰り返す。これは不具合などではなく、ソードアートオンライン本来の仕様である。」

 

冗談だと思いたい事を目の前の管理人である茅場晶彦は淡々と言う。その間、周りの人々がざわざわとしているのが聞こえる。

そして、俺達は衝撃的なことを聞いてしまった。

 

茅場

「また、外部の人間によるナーヴギアの取り外し、あるいは破壊や停止が行われた場合、諸君らの脳はナーヴギアが発する高出力マイクロウェーブによって破壊される。

 

 正確には10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナーヴギア本体のロック解除、または分解、破壊のいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。

 

 現時点で、警告を無視して現実世界の人間がナ―ヴギアの強制除装を試みた結果、すでに、213名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している」

 

さすがの俺達もかなり焦った。

 

脚竜

(もうそんな人数が…………。)

 

茅場

「だが安心して欲しい。この事に関しては各種メディアおよび政府に通達済みだ。以降、これによる退場はないと言っていいだろう。」

ぼっち

(やけに根回しが用意周到だな……。)

 

茅場晶彦

「また、ソードアートオンラインはただのゲームではない。もうひとつの現実だ。

 

 そのため、ゲームクリアされるまで、ありとあらゆる蘇生手段は用いられない。HPがゼロになった瞬間、アバターは永久に消滅し、諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される」

 

出来ればその言葉に限っては聞きたくなかった。

ここが現実と同意義であることに………。

 

「ここがもう一つの現実であることをここに証明しよう。今、君たちにプレゼントを贈った。アイテムストレージを確認してくれたまえ」

 

そう言われて手鏡のようなアイテムがプレゼントボックスに入っており、それを見ていると光輝き、思わず目を瞑った。

そして、再び目を開けるといつの間にかその手鏡には自分の顔が写っていた。

 

脚竜

「なぁ兄貴。俺の顔が写ってんだけど。」

 

ぼっち

「奇遇だな、俺もだ。」

 

と言ってお互いの顔を見ると、現実の顔立ち、身長と同じになっていた。

 

脚竜

「…………ネカマなのバレたね兄貴。」

 

ぼっち

「言うに事欠いてそれかお前は……。もっと他にリアクションがあるだろ。あとお前は少しいや、かなり小さくなったな。」

 

脚竜

「シバくぞ。」

 

驚きすぎて周りの人間も混乱している。それは脚蛇兄弟も一緒だった。

 

茅場晶彦

「おそらく諸君は、なぜ私はこんなことをしたのか、と考えているのだろう。何故ナーヴギアの開発者たる茅場晶彦は、このようなことをしたのかと。その目的はすでに達成されている。

 

 この状況を作り出し、鑑賞する。そのためだけに、私はSAOというものを作った。そして、その目的はすでに達成せしめられた。

 

 ――――以上でソードアートオンライン、正式サービスチュートリアルを終了する。健闘してくれたまえ」

 

その言葉と共に茅場晶彦は消えた。未だに茅場に対する怒りやリアルに帰れない事を嘆く人間がいるなか、この二人は少し異常だった。

 

脚竜

「……………マジかよ兄貴。」

 

ぼっち

「……………マジだよ愚弟。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「…………………………。」」

 

そういうと二人は早いうちに準備を始めた。

 

脚竜

「んで、方針はどうする兄貴?」

 

ぼっち

「まずはその辺りの狩り慣れた雑魚で10レベ位まで上げる。その後に得意武器のスキルを極める。俺は片手直剣、お前は弓か短剣だな。」

 

脚竜

「りょーかい。」

 

武装を開始して、早い段階で街から出られる準備を始めた。

 

脚竜

「よっしゃ!もしかしたらアイツらに会えるかもしれないから探索し………」

 

ぼっち

「あー、残念ながらその心配はない。もう目の前に居る。」

 

脚竜

「え?!」

 

そこにはキリトとクラインがいた。

だが、見違えるように見た目が変わっており、脚竜の頭に無数の?が浮かぶ。

 

脚竜

「…………え?誰?」

 

クライン

「俺はクラインだ。んでこっちが……。」

 

脚竜

「ま、まさかキリトさん!?」

 

キリト

「………まぁ、そうなるな。」

 

脚竜

(そ、そんなバカな、めちゃくちゃ女っぽい顔じゃん!)

 

クライン

「……ということはお前さんら……まさか……。」

 

とクラインが恐る恐る聞く。

 

ぼっち

「あぁ、俺がぼっちでこっちのチビが脚竜だ。」

 

脚竜

「チビ?今チビって言ったなこの読書狂!」

 

クライン

「ま、マジかよぼっち………女として、お前は完璧なレディだったのに………。」

 

キリト

「……脚竜、結構小さいんだな。」

 

クラインが嘆き、キリトが少し同情的な目で言う。

 

脚竜

「小さい言うな!怒るぞ!」

脚竜は身長の事を言うキリトにキャンキャン吠えている。

 

ぼっち

「まぁ、俺は興味本意だ。せっかくのゲームなんだから異性のアバターを作りたくならない?」

 

脚竜

「それはお前だけだよバカ兄貴。」

 

変な暴論を作る気だったので事前に爆破処理をしておく。

 

ぼっち

「………しかし、驚いた。お前結構細いな。」

 

キリト

「……あぁ、あまり運動をしてなかったからな。」

 

とキリトは苦笑いをする。

 

クライン

「そうだ、お前らはどうするんだ?」

 

ぼっち

「ん?俺たちはこれから街から出てアインクラッド攻略のためにレベリングだ。そういうお前らは?」

 

キリト

「ん?あぁ、俺もそんなところだ。」

 

キリトもこの街に留まり続ける気はないらしい。

 

クライン

「俺はゲーム仲間のやつと合流してからだな。あいつらには迷惑をかけちまったしな……。」

 

クラインはしばらくの間ここに留まるらしい。

 

脚竜

「ふーん、そんじゃ結局皆とはここでお別れって訳か。」

 

脚竜が少し名残惜しそうに言うとキリトが脚竜の頭にぽんと手を置いた。

 

キリト

「大丈夫だ。いつか必ず会えるさ。」

 

そういって手を離した。

 

脚竜

「………そうだな、キリトさん。俺は生きなくちゃいけない。何故なら………」

 

脚竜はうつ向いた。そして真顔になって

 

脚竜

「テメェ今俺の事をガキ扱いして頭撫でただろ。それだけは許さねぇし忘れねぇからな?」

 

キリト

「わ、悪かったよ……そ、そんなに怒らないでくれ………。それじゃ、頑張ってくれよ。」

 

ぼっち

「そういうお前らもな。」

 

クライン

「ま、しばらくすればまた会えるだろ!それまでお互いに生き残ろうぜ!」

 

脚竜

「おう!!」

 

キリトとクラインも別々の道へ歩み始めた。

そして、ここに来て自分がどれ程の事に巻き込まれているのかを改めて再認識した。

これはゲームであって遊びではない。

その言葉は、俺達に重く重く響いていた。

 

ぼっち

「おーい、レベリング行くぞー!」

 

脚竜

「あ、はーい!………そういえば治療ポーションは?」

 

ぼっち

「あ、買い忘れた。」

 

脚竜

「…………バカ兄貴。」

 

一歩踏み出せばそこは死と隣り合わせの世界。怯える人もいれば、突き進む覚悟を持つ人もいる。中には協力してこのゲームをクリアしようという人だっている。

その一方で生産職に就いてサポートに徹する人間もいる。

しかし、この兄弟はそんな世界でも異常だった。

この状況をむしろ楽しんでいる様にも見える。

本来の人間としてはあり得ない感情、それは期待と躍動。

 

脚竜

(たとえどんなことがあっても諦めねぇ!この楽しいゲームをクリアしたい!………あ。)

 

ぼっち

(……帰ったら本でも読もう。………あ。)

 

ここに来て二人は大事なことを思い出す。

 

脚蛇ブラザーズ

((このままじゃコツとアビー(脚蛇家のペット)に会えないじゃん!))

そんなことを思いながらも二人は歩みを進めていく。

ゲームは始まった、ただそれだけだ。

 




作者の(言い訳)あとがきコーナー
初投稿のソードアートオンライン4G第一話、いかがだったでしょうか?
一応原作の方は一周してきたのですが、たまーにセリフや何があったのかを忘れてる部分とか抜け落ちてる部分があったりで思い出すのに相当苦労しています。(^ω^;)
まぁこんな感じにゆるーくギャグを入れつつ、シリアスな感じを醸し出せていければと思います。
次の投稿は少し時間がかかりそうなので気長にお待ち下さい。
それでは、次回をお楽しみに!
バイダレル!(´ω`)ノシ


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第二話~臆病な盾~

ようやく第2話作成完了です。
なお、今回は新キャラの登場が入っているのとオリジナル要素がとても強くなっております。
さらに、他作品ネタもちょっと仕込んでいるので探して見てください。


SAO正式サービス開始から約3日後。

始まりの街で大喧嘩している二人の男がいた。

 

脚竜

「だからさっきから言ってんじゃん!時間の無駄だって!」

 

大声でギャーギャー騒いでいるちっこいのが脚竜。

現状弓を使ったスナイプをメインに戦っている弓使いである。 

 

ぼっち

「いーや、これは必要な時間の消費だね!」

 

そう言って脚竜に猛反論しているのがぼっち。

片手直剣をつかった一撃必殺戦法を取っている斬り込み屋である。

 

脚竜

「このバカ兄貴!」

 

ぼっち

「愚弟が!」

 

第一層にて格闘スキルが報酬の隠しクエストを見つけたあとずっとこの調子である。

 

脚竜

「というかなんで今更なんだよ!あとでも良いじゃねぇか!そんなスキル!」

 

ぼっち

「いーや!格闘スキルは俺が真っ先に取らないと気が済まねぇんだよ!」

 

脚竜

「…………あー、もういいよ。わかった。んで、兄貴は何のためにこのクエスト受けんだよ?」

 

自分の兄が一度言い始めたら妥協しない性格だというのを知っているため、しぶしぶ弟は折れた。

 

ぼっち

「そりゃ、俺の我流の護身技をこの世界で使えるようにするためだよ。」

 

一瞬聞かなきゃよかったと思ってしまったが確かに兄の言い分も間違ってはいない。

 

そりゃあ誰だってこういう隠しとついているものは一番に取りたいものだろう。

 

脚竜

「でもよー、兄貴そんなに格闘好きだったけ?もっとこう嫌らしい戦法とかすると思ってたんだけど………。」

 

ぼっち

「ん、何を言っている?俺の戦法は敵にデバフをかけて一方的に痛めつけることには変わり無いぞ。それの一環で格闘スキルを手にいれるんだからな。」

 

脚竜

(最低だこいつ………。)

 

やっぱり考えていることは腐りきってた……。

 

脚竜

「そういえば流派名とかは決めてんの?」

 

ぼっち

「いや、特に決めてないが……。うーん、強いて言うならば………。」

 

少し考え込んだあと、ぼっちはこう言った。

 

ぼっち

流派東方不敗?」

 

脚竜

「やめて、お願いだからその名前はやめて。」

 

ぼっち

「まぁ、とりあえず行こうぜ。格闘スキルを取りにな!」

 

脚竜

「はいはい………。」

 

なんか変なところで兄貴はムキになるんだよな……。

そんな事もあったなぁ……。

まぁ、今俺は………。

 

脚竜

「ギャアアアアア!なんで俺の方に来るんだよォォォッ!!」

 

今俺は兄貴が引き連れてきたモンスターから逃げながら迎撃している。

 

脚竜

「兄貴の方が隙まみれだろうがァァッ!!」

 

そんな事を言っても無駄である。

兄はずっと格闘スキルの習得に時間をかけているからだ。

守らなくては兄の命が危ない。けど、

 

脚竜

「それ以上に俺の命が危ないィィィッ!!」

 

あらゆる弓のソードスキルを乱発してガンガン迎撃しているが、かなり厳しい状況には変わりない。

 

脚竜

「ねぇ!まだ!?」

 

ぼっち

「うるせぇ黙れ。」

 

脚竜

(このやろう………。)(#^ω^)ピキピキ

 

こんな会話をしながら、約二時間ほど俺は戦い続けた。

 

脚竜

「ダラッシャァァァァァァ!!」

 

「グウゥ………。」

 

最後の一匹がポリゴンになって砕け散ったのを確認して、俺はどっと疲れた。

 

脚竜

「はぁ、はぁ………。今度こそ終わった?」

 

ぼっち

「…………おう、んで何かしら敵はいるか?ちと試してみたい。」

 

脚竜

「………あ、あそこに一匹撃ち漏らした奴が!」

 

ぼっち

「…………………よし。」

 

ぼっちはほんの少しゆらっと動いて………。そして、それっぽい構えをした。

 

ぼっち

「…………さて、やるか。」

 

逃げている魔物に素早く近づき、そして

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッ!!」

 

一撃がどれ程のスピードかは分からないが、少なくとも半端じゃない勢いで敵を殴り倒した。

 

ポリゴンの砕けた音がまるで時間が止まったかのようにあとから聞こえた。

 

ぼっち

「ふぅ、完璧(パーフェクト)だ。理想的なのは一撃必殺だが、ラッシュも悪くはないな。」

 

脚竜

「………マジかよ。」

 

慣れないものだからすぐに飽きたとか言ってやめると思ってたらやべー領域までいってた!

 

ぼっち

「おーし、すべて俺の理想通りだ。」

 

そういってぼっちは満足そうに己の手のひらを開閉している。

 

ぼっち

「んじゃ、そろそろ真面目にダンジョン行くか!」

 

脚竜

「俺たち兄弟は『真面目に不真面目』だろーが。」 

 

ぼっち

「まぁなー。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「はははははははっ!!」」

 

高笑いしながらダンジョンへと歩いていたんだ。

うん、ここまではなにも間違ってなかった。

これが約五時間前の話。

でも、今は…………。 

 

???

「うわぁぁぁぁぁッ!!虫はダメなんだってェェェッ!!」

 

そんな事を言いながら逃げ回っている一人のプレイヤーを見ていた。 

 

脚竜

「…………あれどうする?」

 

ぼっち

「んなもん決まってんだろ。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「放置で。」」

 

ぼっち

「よし、完璧だな弟よ!」

 

脚竜

「おう、さすが俺達兄弟だな!」 

 

脚蛇ブラザーズ

「「はーはっはっはっはっはっは!」」 

 

俺達は何も見てないし何も知らない。

目の前でプレイヤーが死ぬかもしれなくても俺達は真面目に不真面目。

面倒事は徹底して華麗に避ける!

よし、問題無いな!

 

???

「見てないで助けろよォォォッ!!」

 

そういって逃げていた男がこっちへ大量の昆虫型モンスターを引き連れてやって来た。

 

脚竜

「はぁ………、やる、兄貴?」

 

ぼっち

「……おう。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「派手に行くぜッ!!」」

 

脚竜

「まずは俺からだ!」

 

脚竜は弓を構えて連射を始めた。 

 

脚竜

「オラオラオラァッ!!FPSプレイヤーのエイムを舐めんなァッ!!」

 

ある程度の数を弓のソードスキルで仕留め、その後にぼっちがあの構えをして、

 

ぼっち

「ウォーミングアップはここまでだ………。行くぞ!

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッ!!」


スキルネーム:『オーバーラッシュ』レベル1


スキル説明

基本ダメージ:一発につき125%

攻撃回数:SPが続く限り

消費SP:一発につき5

クールタイム:0


スキル詳細

レベルアップするごとに消費SPが少なくなり、基本ダメージが上昇する。

消費SPについては最終的には1になる。

構えの後、ラッシュを始める形になっているが、ラッシュをしている間は無防備になるため、HP確認は必須である。

なお、ラッシュ中は怯まないが、プレイヤーを吹き飛ばす攻撃を食らうと、ラッシュが中断される。


覚えたての格闘スキル『オーバーラッシュ』を残りの大群に叩き込み、仕留める。

無数のポリゴンの砕ける音が辺りに響いた。

 

ぼっち

「ふぃー、いっちょ上がりだな愚弟。」

 

脚竜

「そーだな兄チキン。」

 

こんなやり取りをしながらも俺達は的確に敵を迎え撃ち、撃破した。

 

ぼっち

「んで、兄チキンとは何ぞや?」

 

脚竜

「リアルにあるコンビニのとあるチキンから抜粋。」

 

『この愚弟が……』と愚痴をこぼしつつもやるべきことはやるみたいだ。

 

ぼっち

「さてと……。」

 

脚竜

「こいつどーする?」

 

俺達はそこで頭を抱えて震えている男を見た。

 

???

「………あ、あれ?た、助かった……のかな?」

 

と顔をあげたので早速事情徴収をしようと思う。

まぁ、色々と聞きたいこともある……わけでもないんだけどね。

 

脚竜

「おい、アンタなんで昆虫型モンスター相手に逃げてたんだ?」

 

???

「む、虫はダメなんだよ……。その、子供の頃にトラウマが………。」

 

ぼっち

「…………お前男か?」

 

???

「そうですけど………な、なんだよその顔は!

虫相手に逃げたのがカッコ悪いって言うのか?」

 

脚蛇ブラザーズ

「「うん。クッソダサイ。」」

 

???

「ぐ………じゃあアンタらは何か怖いものとか嫌いなものは無いのか!」

 

脚竜

「俺はキノコかな。なんかやだ。」

 

???

「ほら、何かしら嫌いなものあるじゃん!……ってキノコ?なんで?」

 

ぼっち

「俺はないな。………あ、一つ忘れてた。」

 

脚竜

「あー、あれか。」

 

男の頭に無数の?が浮かぶ。

 

???

あれってなんだよ?」

 

脚蛇ブラザーズ

「「親父。」」

 

???

「…………はい?」

 

正直びっくりした。

あろうことかこの二人は父親が怖いのである。

 

脚竜

「いやー、あれはやばかったよね。俺が嘘ついたときにフルボッコにされたからねー。」

 

ぼっち

「俺なんて軽いジョークを言った時にモデルガンのピストルで5、6発撃たれたからな。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「あー、恐ろしい。」」((((;゜Д゜)))

 

何を思い出したのか、二人は小刻みに震えだした。

 

???

「………何があったのかは知らないけど心中お察しします。………しかし、似てるなぁ。」

 

脚竜

「ん?どしたの俺の顔をまじまじと見て?」

 

???

「いやー、そのエピソードとか俺の友達そっくりでなんか見た目も身長似ているから思わず……。」

 

脚竜

「ふーん。」

(……ん?何気にこいつ俺の事バカにしたか?……それに虫嫌いってアイツだけだよな?)

 

???

「あ、それではお世話になりました。あとは俺一人でも大丈夫です。」

 

ぼっち

「おう、次はちゃんと昆虫型もやれるようになっとけよ。ここじゃ倒す相手は選べないんだからな。」

 

???

「ぜ、善処します。それじゃ……。」

 

脚竜

「ちょっち待って欲しいなーお兄さん。」

 

???

「な、なんですか?」

 

俺は男を引き留め、こっそりと『黒野優は?』と耳打ちをした。

すると、男は少し驚いたような顔をして

『少しS』と俺の知っている回答が帰って来た。

 

脚竜

「おー!お前か!」

 

???

「やったぁ!この世界で知り合いに会えてよかったぁ!!」

 

と俺達は舞い上がった。なんとこいつはリアルでの同級生にして、中学校以来の腐れ縁の親友だった。

 

脚竜

「お前、友弥(ともや)だろ!

あ!テメェやっぱりプレイヤーネームを『オクト』にしてるんだな!」

 

オクト

「ハハハッ!そういうおまえだっていつも通り『脚竜』にしてるんじゃねぇか!」

 

と二人でワイワイ騒いでるところに少し咳払いをして兄貴が会話に入ってきた。

 

ぼっち

「あー、あのよ感動の再会は別にいいんだが、疑問を一ついいか?えーと………」

 

オクト

「オクトです。」 

 

ぼっち

「あー、オクトね。了解了解。じゃ、単刀直入に聞くわ。今気づいたんだがお前………、なんで俺達よりレベル高いんだ?」

 

脚竜

「………へ?」

 

言われて初めて俺もリアルでの親友オクトのステータスを見ると、俺や兄貴よりも一つ上のレベルだった。

 

オクト

「……じ、実は………。」

 

なんだ?なんかすごい顔が険しくなったぞ。

これはもしかして後ろめたい話か?

 

オクト

「………始まりの町から何をしたらいいかわからなくてずっと……こ、昆虫型以外のモンスターを狩りまくってました。エヘヘ………。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「はい?」」

 

今度はこっちが驚く番だった。

だが、ぼっちはその理由をすぐに把握した。

 

ぼっち

「………なるほどなぁ。んで、クエストは?」

 

オクト

「しばらく前に、格闘スキル習得のクエストが終わったあとです。」

 

脚竜

「……兄貴と同時期に習得したって訳か……。」

 

オクト

「………ん?この人が噂のお前のお兄さんか?」

 

ぼっち

「あ、申し遅れた。俺はこの『バカ』の兄である『ぼっち』です。よろしくな。」

 

脚竜

「おいコラクソ兄貴。」

 

ぼっち

「よ、よろしくお願いしますぼっちさん!」

 

ぼっち

「おう、よろしくなオクト。あとあまり堅っ苦しいのはいらないから。」

 

オクト

「は、はい!」

 

脚竜

「あ、そうだオクトお前ステータスポイントはちゃんと割り振ってるか?あれしないと何も始まらないからな!」

 

オクト

「……え?ステータスポイント?なにそれ?」

 

脚蛇ブラザーズ

「「……………は?」」

 

こうして俺達の所に仲間が一人増えた。

ただし………。

 

脚竜

「………お前、まさかこのタイプのゲームの素人か?」

 

恐る恐る俺が聞くと、オクトは

 

オクト

「Exactly。(その通りでございます)」

 

と答えた。

 

拝啓、リアルへと置き去りにしてしまった父さん、姉ちゃん、じいちゃん、ばあちゃんそんでペットのコツ達へ。

この先ものすごく………不安です。




作者の言い訳コーナー
どうも皆さん、お久しぶりです。
作者のWandarelでございます。
最近、リアルの方でも忙しく、中々手をつけられないですが、なんとかやっていってます。
今回、オリジナルスキル紹介を本文内に入れていたのですが、このスキル紹介及び説明はあるスマホアプリの説明文を参考にしており、今後はこの方法をメインにスキル紹介などをしていこうと思っております。
そして今回もこの
『ソードアートオンライン4G』を読んでいただき、ありがとうございます。
次回も少し遅れそうですが、早いうちに投稿できたらと思っております。
それでは、また次のお話で会いましょう。
バイダレル( ´ω`)ノ


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第三話~ストッパーガールズ~

アインクラッド第一層フィールドにて

俺達脚蛇ブラザーズがオクトと合流してからもう一週間は経った。

色々と面倒な事もあったり、問題を引き起こしたりと大変だったが、なんとかレベル10程には到達した。

これからもう少ししたら攻略に入ろうと思っていた。

………はい、思っていましたよ。

これを想定してなかっただけだから。

 

脚竜

「…………嘘やん。」

ぼっち

「…………呆れて物も言えんな。」

 

オクトが目の前で必死になってモンスターを攻撃してるが、動きがまるで素人である。

 

オクト

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

脚蛇ブラザーズ

(掛け声は立派なんだけどなぁ………。)

 

敵のフラクトメントが砕ける音がした。

 

オクト

「ふぅ、やった!」

 

脚竜

「ねぇ知ってるオクト君、それまだ一匹目だぜ。」

 

ぼっち

「一匹くらいささっと倒せるだろ。お前レベルだけは俺らより少し高いんだから。」

 

オクト

「そんな事言われてもこのゲームやってるときもう必死で何してたか覚えてないですもん。」

 

脚蛇ブラザーズ

((ダメだコイツ、早くなんとかしないと。))

 

ぼっち

「とりあえず今日は一回街へ帰るぞ。」

 

脚竜

「はーい。」

 

オクト

「了解です。」

 

なんだかんだ問題はあるが生きなければ話にならないので早いうちに町に帰るようにしている。

生きなくちゃさらに先には進めないからだ。

 

~始まりの街~

 

ぼっち

「…………お前そういえばステータスを割り振ってないんだったか?」

 

オクト

「………はい。恥ずかしながら最近まで知らなかったんです。」

 

脚竜

「………普通見たら気づくぜオクト。」

 

オクト

「……そういう脚竜だって見たらわかるようなテスト解けてなかったじゃん。」

 

脚竜

「うげ……そ、それは今は関係ないだろ!」

 

ぼっち

「いーや、大有りだ。おい、脚竜。どういうことかこの心優しいお兄様に説明しなさい。」

 

脚竜

「……………。」ガタガタガタガタガタ

 

ぼっち

「………あとでお仕置きだな。」

 

脚竜

「嘘やんここに来てお仕置きかよ…………。」

 

オクト

「…………ふ。」

 

脚竜

「おい!何で笑ってんだよ!」

 

オクト

「いや、噂通り仲が良いんだなって。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「うるせぇ黙れ!」」

 

オクト

「なんでや。」

 

ぼっち

「まぁいい。とりあえずお前のステータスを割り振るぞ。」

 

脚竜

「あ、それだったら初心者向けのいい割り振……………ムガッ!!」

 

脚竜は何かを言おうとしたがそれを遮るようにぼっちが口を塞いだ。

 

脚竜

「むぐもがらっふぁ!!」

 

脚竜自体は何かを言おうとしてるのだろうが何をいってるのかが分からない。

 

ぼっち

「お前にいいスキルの割り振りを教えよう。とりあえず、DEFとHP、そして攻撃力の順番ですべて割り振れ。」

 

オクト

「あれ?AGIは?」

 

ぼっち

「今は必要ない。AGIに関してはあっても無くてもそこまで支障はないしな。それにHPやDEF依存で威力が上がるソードスキルがあるんだ。むしろ将来のために投資しておくのも悪くないんじゃないか?」

 

オクト

「………言われてみれば確かに。わかりました!それで割り振ります!」

 

オクトはステータスの割り振りをするためにウィンドウを広げた。そして、『……こんな感じかな?』とぼっちの言うとおりに割り振ってしまった。

その瞬間、ぼっちがいやらしい笑みを浮かべた…:気がした。

 

ぼっち

「よーし、いい感じだ。」

 

オクト

「よし!これで俺も強くなったぞ!」

 

脚竜

「………なーんかおかしい気がするけど………。まぁいっか。」

 

俺達はステータスの割り振りを終えて宿へ帰ろうと思ったが、ふと気になる事があった。

 

脚竜

「あれ?今更だけどなんでお前メガネついてんの?」

 

ぼっち

「なんだ?アクセサリーか?」

 

オクト

「あ、これデフォルトです。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「はい?」」

 

脚竜

「いやいや、何で?何をしたんだお前!?」

 

ぼっち

「………まさかお前、メガネつけたままナーヴギアをセットしただろ。」

 

オクト

「………はい、その通りです。」

 

脚竜

「お前なぁ………。」

 

さすがの脚竜もこれにはあきれた。

まさかこんなタイプの初心者に出くわすとは思いもしなかった。

 

???

「………もしかしてオクト?」

 

突然、話しかけてきた女性プレイヤーがいた。そして、オクトと脚竜はそのプレイヤーの顔を知っていた。

 

オクト

「………!ゆ、Yunさん!!」

 

ぼっち

「……知り合いか?」

 

オクト

「もちろん!なぁ、脚竜もわかるだろ?」

 

脚竜

「………………誰だっけ?」

 

オクト

「お前覚えてないのか!?中学校の部活仲間で俺達のキャプテンだったろ!」

 

脚竜

「知らんなぁ、俺の知ってるキャプテンは体格がこんな貧相じゃないからねぇ。」

 

Yun

「よし、お前ちょっとこっち来い。」

 

脚竜

「うぇ…、この反応は本人だな!」

 

Yun

「最初からそう言ってるでしょうが!!」ベシッ

 

脚竜

「いったぁ!」

 

Yun

「あとそういうことを私の前で言うな!」ベシッ

 

脚竜(CV 古谷徹)

「二度もぶった!親父にもぶたれたことないのに!」

 

Yun(CV 鈴置 洋孝)

「ぶって何が悪い!」

 

ぼっち

「いや、お前親父にはぶたれまくってるだろ。」

 

この様な漫才を披露してくれてるが、ぼっちにとっては正直分からないことだらけである。

 

ぼっち

「あー、まぁ、そっちのYunって奴がお前ら二人と何かしらの面識があるのはわかった。んで、その後ろのお二人さんは?」

 

オクト

「………あ!時雨さんにミホさん!」

 

ミホ

「お?オクトじゃん?」

 

時雨

「あ、脚竜もいる。」

 

脚竜

「まるで俺がおまけみたいな言い方だな時雨さん。」

 

ぼっち

「…………まぁ、あれか?オクトのリアルでの友人か?」

 

オクト

「まあそんなところですよ。」

 

このときほどぼっちはこのオクトとかいう奴を八つ裂きにしたいと思ったことはなかった。

 

Yun

「あ、オクト。アンタどうせステータスの割り振り忘れてるでしょ?」

 

オクト

「いや?さっきぼっちさんに割り振り方を教えてくれてからその通りに。」

 

時雨

「………ぼっちさんって誰?」

 

オクト

「この人。」

 

オクトが指差す先にはぼっちがいる。

 

ぼっち

「どーも、ぼっちさんです。」

 

Yun

「あ、どうも。」

 

オクト

「あ、そうそう、この人が脚竜のお兄さんね。」

 

時雨・ミホ

「「…………マジで?」」

 

脚竜

「マジです。」

 

何故かちまちまとぼっちの話題で盛り上がっているようだが、それを遮るようにYunが言う。

 

Yun

「ちょっとオクト、ステータス見せて。」

 

オクト

「了解Yunさん。」

 

そう言ってオクトはステータスをYunに見せる。

すると、Yunの顔が少しずつ険しくなっていった。

 

Yun

「…………オクト。アンタ騙されたわね。」

 

オクト

「え?」

 

ぶっちぎりの衝撃発言だった。

 

Yun

「まず、初期にDEFに割り振るのは少しよくないやり方ね。いくら防御力が高くても、攻撃を当てれなければ意味がない。だから先に上げるべきだったのはAGIよ。それに、この割り振りだとアンタもう一生タンク役ね。」

 

オクト

「え!?なんで!?」

 

Yun

「…………HP高い、守備力高い、攻撃力高い、んで、動きが遅い。人から見ても敵から見ても格好の的じゃない。」

 

オクト

「で、でも、ATKとかDEF依存で威力が上がるソードスキルがあるってぼっちさんが………」

 

Yun

「それでも中途半端にしか上がらないわよ。

……まさかアンタそれを真に受けたの?」

 

オクト

「…………はい。」

 

Yun

「…………はぁ、本当にお前は………。」

 

オクト

「ぼ、ぼっちさん!嘘ついたんですか!?」

 

ぼっち

「何を言うか。俺は嘘はつかない。人を騙すのが好きなだけだ。実際にソードスキルにはステータス依存で威力が上がるやつもあるぞ?だから俺は悪くない。騙されたお前が悪いわけだ。」

 

Yun

「………悪いんだけどオクト、私もさすがにこれは擁護できないわ。

圧倒的に説明をよく見なかったアンタが悪い。」

 

オクト

「えェェェェェ!!このまま俺ずっとタンク役なのォォォォォォォ!?」

 

ぼっち

「始めからそのつもりだったんだが。」

 

脚竜

「あ、やっぱり騙してたんだ兄貴。」

 

どうやら、オクトはぼっちの策略(?)によってはめられたらしい。

 

オクト

「嘘やん、ワイはこのままタンクで過ごさなあかんのか………。」

 

ミホ

「急に方言っぽいの使うのやめなさいよ。」

 

オクト

「………あ、でもよかった!ミホさんや時雨さん、それにYunさんがいれば頼りになる!だからだから俺達とパーティーを………。」

 

Yun

「あ、ごめんそれは無理。」

 

オクトはすかさずYun達をパーティーに誘おうとしたが、即座に断られた。

 

オクト

「な、なんで………。」

 

時雨

「いや、私たちもちょっと三人で動きたいから今は無理。」

 

オクト

「そ、そんなぁ…………。」

 

脚竜

「………となると、俺のステータスがDEFが脆くてAGIが高め。兄貴がATKとAGI特化でDEFは皆無。………ということは。」

 

オクト

「俺が盾にならなくちゃいけないじゃん………。」

 

ぼっち

「そういうことだ。よろしく頼むぞ。」

 

時雨

「……ドンマイオクト。」

オクトは今の状況に嘆き、もはや女性陣すらも哀れんでいる。

 

ぼっち

「さーてと、方針は決まった。お前たちにはまたどこかで会えるといいな。」

 

Yun

「………えぇ、そうね。生きていたらまた会いましょう。」

 

そういって、Yun、ミホ、時雨は街へと入っていった。

 

脚竜

「………行ってしまったな。」

 

ぼっち

「………そうだな。」

 

オクト

「……………………………。」コソコソ

 

ぼっち

「………おい待て、どこに行くつもりだ?」

 

オクト

「ヒッ………い、いやー、少し買い物を………。」

 

ぼっち

「まぁまぁ、落ち着け。このぼっちさんが直々にお前を鍛え上げてやる。覚悟するんだな。さぁ、行くぞ。」

 

オクト

「い、嫌だァァァァァァァァァァァッ!!」

 

オクトの悲痛な叫びが響いた。

 

脚竜

「……………あーあ、オクトかわいそうだな。(棒読み)」

 

俺はリアルに置いてきた親友や家族の事を思い、兄に引きずられてる涙目のオクトを見ながら街へと入った。

 


 

???

「奨悟、今日遊びにいかない?」

 

ぼっち

「賛成!光里も行くだろ?」

 

光里

「今日も和之もいるからまた三人で遊ぼうよ!」

 

ぼっち

「うん!この天才に任せとけ!」

 

光里

「今日はなにする~?」

 

ぼっち

「山の秘密基地に行こうよ!」

 

???

「あ、奨悟!光里!お待たせ!」

 

ぼっち

「遅刻だぞ、和奈!今日は和之がジュースおごりね!」

 

和奈

「えぇ!?お金無いよ!」

 

ぼっち

「………ふふ、冗談冗談。ほら、いこ!」

 

和之・光里

「「うん!」」

 


 

ニュースキャスター

「速報です。先ほど東京都八王子市の山岳で、小学生二人を殺害したと見られるーーーーを確保したとの情報を得ました。先ほど逮捕されたーーーー容疑者は『子供が楽そうで羨ましかった』などと供述しており、容疑を認めている模様です。被害者の『小野和奈(おのかずな)11歳と七瀬光里(ななせひかり)11歳、そして現在行方不明の

脚蛇 奨悟11歳の捜索を行っています。

………速報です!行方不明の脚蛇奨悟君が見つかった模様です!」

 


 

ぼっち

「………僕が………山に行こうなんて言わなかったら……。」

 

脚竜

「にーちゃん、どうして泣いてるの?」

 

ぼっち

「………ゴメン、光里、和之……。

本当にゴメン………。」

 


 

七瀬の母

「謝って済む問題だと思っているの!?」

 

ぼっち

「ごめんなさい………ごめんなさい………。」

 

七瀬の母

「なんでコイツじゃなくてうちの娘が殺されなくちゃいけないのよ!」

 

七瀬の父

「やめろ!この子が生きていることだけでも運が良かったんだ!あんな殺人鬼相手に無事でいることの方が……!」

 

七瀬の母

「うるさい!この疫病神さえいなければ光里は!」

 

七瀬の父

「いい加減にしろ!………すまない、奨悟君。君が悪い訳じゃないんだ………。」

 

ぼっち

「ごめんなさい………ごめんなさい………ごめんなさい………。」

 


 

ヒソヒソヒソヒソ…………

 

「アイツは死神だって。だって関わったやつみんな酷い目にあってるじゃん………。」

 

「おい、こっち来るぞ!」

 

「に、逃げろ。俺は死にたくない!」

 

「わ、私も………。」

 

 

ぼっち

(僕が、僕が、生きているのが………いけない事なのかな)

 


 

???

「ちょっと、奨悟君!なんでこの子をしっかり見てなかったの!」

 

ぼっち

「ご、ごめんなさい。」

 

???

「あなたが一番の年長者なんだからしっかりと小さい子を見ておきなさい!」

 

ぼっち

「………でも、その子僕のことが嫌いだって言って自分から離れてたんだよ?」

 

???

「言い訳を言うな!全く、親の教育がなってないわね!」

 


 

???

「お前調子乗ってんじゃねぇぞ。どうせ死神とか言うのも嘘なんだろ?」

 

ぼっち

「さぁね、俺には関係ないことだ。」

 

???

「まぁいいや、ついででお前の弟もボコしたからな。」

 

ぼっち

「………何だと?」

 

???

「お前の弟本当に弱くて泣き虫でさ、殴られる度に

『兄ちゃん助けて………』って言ってたよ。すんごく面白かったね!!ハハハハハハッ!!」

 


 

???

「奨悟君、どうしてあんなことをしたんだ?」

 

ぼっち

「アイツが弟に手を出したからですよ。」

 

???

「お前のせいで家の子の推薦が消えたのよ!どうしてくれるのよ!」

 

ぼっち

「ふっ、無様ですね。」

 

???

「何ですって!?」

 

ぼっち

「知ってますか?アンタの子供はうちの弟を酷くいじめていたみたいなんです。アンタの子供が言ってましたよ。『お前の弟は弱いからいじめ甲斐がある』って。

だから俺はそれをしただけです。

頭もまるで出来ていないサル以下をいたぶるのはとても楽しかったですよ?

それに、人をいじめる事を公認している親のあなたもあなたで、頭が悪いですねぇー。」

 

???

「この!疫病神が!!」

 

ぼっち

「ふん。やはり頭が悪いやつほどよく怒鳴るみたいだな。」

???

「奨悟君、いい加減にしなさい!」

 

ぼっち

「この際ですからはっきりと言いますよ。

一つ目、俺はアンタらの言うことは基本聞かない。聞いたって無駄だし、俺の方が賢いから。

二つ目、喧嘩ならいくらでも買うが、死ぬ覚悟があるやつだけ来るように。俺の敵になる以上、前のあのガキと同じ末路を辿ると思っておいてくれ。

最後に言うが…………。

俺に勝てるのは俺だけだ。』 」

 


 

???

「………アイツ本当にひとりぼっちになっちゃたね。」

 

???

「おい、聞こえてたらどうするんだ!」

 

???

「ど、どうしよう!」

 

ぼっち

(どこにいても俺は孤独だ………。でも、人と関わって後悔するなら…………強いのを理由に責任を押し付けられるくらいなら……………。)

 

一生孤独のままでいい。

 

 

 

 

 

 


 

ぼっち

「!?……ハァ……ハァ……ハァ……………。」

 

ぼっち

「……チッ、見たくもない夢だな………。」

 

ぼっち

(俺に勝てるのは俺だけ………か。)

 

誰しもが一度は望む最強の称号。

しかし、それは本人にとって苦痛でしか無いこともある。

それを心に抱えながらぼっちはまたこのゲームを生きていく。




どうも皆さん、最近、小説製作時間があまりなかった者です。
今回もこの小説を読んでいただき本当にありがとうございます。
これからももっと製作には励んでいこうかと思っています。
話は変わりますが、今回はかなり控えていましたが、ここから先はネタの方もさらに加速させていく所存です。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。
バイダレル!。 ゚( `>ω< )

追記
感想や評価など、ガンガンしていってくださいね!


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第四話~盾の矜持~

どうもこんにちは。
作者のWandarelです。
今回もこの作品を読んで頂き、本当にありがとうございます。
今回から多少の変更点があるため、それの報告も兼ねて前書きを書かせていただきます。
変更点その1
人物紹介の追加記入の基準としてはメンバーに入ったオリジナルキャラクターのみを追加していきます。

変更点その2
今回からあとがきの仕様を次回予告風にします。

以上の二つが変更点です。
話は戻りますが、最近仕事が忙しく、なかなか小説づくりに手をつけられないですが、長い目で待っていただきたいです。
ぜひ、感想やコメントの方をガンガン書いていってください。


それともう1つ。
しばらく前に投稿したあの『第5話』は私がパイツァダストを使ってきれいさっぱりに消えたはずなので忘れてください。(懇願)


拝啓、リアルに置いてきた俺の家族たちへ。

今俺はゲームに囚われているけど、皆は元気でしょうか。

まぁ、俺の方も……………。

 

脚竜

「オクト!ヘイト集めてくれ!今俺が狙われてる!」

 

オクト

「はーい。」ゴシャ

 

ぼっち

「おい盾!さっさと回復アイテムを使え!」

 

オクト

「はいはい、ただいまー。」

 

脚竜

「助けてぇ!オクトォォォォォォォォォッ!!」

 

オクト

「はいはい。」

 

ぼっち

「オラァ!盾!働けェェェ!」

 

オクト

「りょーかーい。(棒読み)」

 

世に言うブラック企業というのがどんなものかを体験しています。

 

ぼっち

「………ふぅ、戦闘終了。」

 

脚竜

「助かったぜオクト。」

 

オクト

「そーだな(棒読み)」

 

脚竜はこういう風にちゃんとエールをかけてくれるけど、ぼっちさんは………。

 

ぼっち

「………………よし、オクト。少しはマシになったな。その調子で頼むぞ。」

 

オクト

「はい。」

 

かなり辛辣である。

なんでこんなことをしてるかって?

遡ること20分前


 

オクト

『そういえばなんで俺が盾なんですか?ぼっちさんや脚竜でも出来ると思うんですけど……。』

 

脚竜

『………いやー、それがなオクト、俺は遠距離特化で脆いのよ。んで、兄貴はというとな。』

 

ぼっち

『先手必勝一撃必殺主義だから防御は捨てた。』

 

オクト

『えぇ…………』

 


ということがあったのである。

しかし、こんなことを繰り返しているから、ある程度は流れを覚えれたし、戦いにもそこそこは慣れてきた……………と思いたい。

 

オクト

(ブラック企業ってこんな感じなのかな………。)

 

オクトがふとそんなことを考えてしまうほど、今の環境が酷すぎるのだ。

オクトを盾にぼっち、脚竜が猛攻撃を仕掛け、モンスターを撃破する。

Yunさんたちと別れてからだいたい三日くらいは経っている。

俺達は攻略組に入るつもりだったのでYunさんたちに一緒に攻略組になるかを聞いたら、

 

Yun

『甘えかもしれないけど、ごめん。今は怖くて無理………。けど、必ずどこかで追いつくから。』

 

そう言われて、俺達は改めてここがデスゲームの世界だというのを思い出した。

珍しくぼっちさんも突っかからずに

『生きるためにレベリングくらいはしておけ』と言っただけだった。

ゆくゆくはレベリングをして、少しでも攻略する人たちの手助けになれるようになるために今日も頑張って生きている。

 

ぼっち

「さてと、ドロップ品の確認だ。

それぞれ提出するように。」

 

脚竜&オクト

「「はーい。」」

 

俺達は1日の内の戦闘を多少の休憩を入れながら連続で行っている。

その為、街に帰る直前にこうして必要な素材をまとめたり、要らない素材を売るためにまとめたりしている。

けど最近になってわかったこともある。

 

オクト

「えーと、ノーマルがいっぱい……あ、レア素材だ。うーんと、レア素材が十個ほど………。うん、いつも通りだな。」

 

脚竜

「おっしゃー、今日も激レア素材が大量大量ー!

……ん?こ、これって超絶レアな素材じゃん!!やったぁー!

……チェッ、ノーマルが二、三個かよ……。」

 

ぼっち

「……………クソッ、なんでだ!何で俺だけノーマルばっかりなんだッ!!」

 

このように脚竜が超絶レア素材を少々、激レア素材を大量、レア、ノーマルが少なめに手に入り、オクトが基本的にノーマルだけどレア素材は多めに獲得している。

ぼっちは何故かは分からないがノーマルばっかりというオチである。普段の行いの差かな。

 

ぼっち

「一体なんの違いが………。普段の戦闘スタイルがダメなのか?」

 

脚竜

「いや、兄貴の普段の行いじゃね?」

 

ぼっち

「何を言うか。俺の行いはすべて清く正しいぞ。」

 

オクト

「それはそれで困りますよぼっちさん。」

 

ぼっち

「ちっ………街へ帰るぞお前達。」

 

オクト&脚竜

「「あらほらさっさー。」

 

こうしてぼっちが拗ねるのも定番である。

これでも、お互いの連携をとったり、素材によってはメンバーの誰かの強化に必要になることもあるから必ずしもノーマルばかりが悪いというわけではないのだが、ぼっちのノーマルしか取れないというのは中々に致命的だとは思っている。

そんなことを考えていた矢先、脚竜がふと恐ろしいことを言い始めた。

 

脚竜

「そういえばやっぱりこの世界でもそれなりの犯罪は起きてるんだってさ。」

 

オクト

「ひぇぇぇぇ、俺は対処できないよ脚竜。」

 

ぼっち

「ふん、窃盗なんかしたら俺は地獄の果てまで追い回して捕まえたら少しずつ痛めつけて生きるのが嫌になるようなことしてやる。」

 

脚竜&オクト

((怖ッ!?))

 

そんな事を言いながらいつも通りに何事もなく宿に帰る。

 

 

 

……………事はできなかった。

「~~~ッ!!」

「―――――!!」

 

男性三人に対して女性一人が内容は聞こえないが大声で口喧嘩をしていた。

女性の方は茶髪で少し………いや、もう既に男勝りな感じの雰囲気だった。

だが、明らかに男達の方がけしかけてるようだった。

 

ぼっち

「………オクト、まさかとは思うが助けに行くとか言わないよな?」

 

ぼっちさんに突然そんな事を言われて驚いた。図星だからである。

 

オクト

「な、何でわかったんですか……。」

 

ぼっち

「…………はぁ、俺は人間観察が得意でな、だいたい目とかその辺りを見れば家族の状況だとか、何を考えているかはだいたいわかる。んで、お前はあの女を助けたいと?」

 

オクト

「そ、そりゃそうでしょ!

どう見たってあの女の人がピンチじゃないですか!助けないと!」

 

脚竜

「くっだらねぇな。」

 

ここに来てあまり喋らなかった脚竜が突然口を開いた。そして、オクトにとって一番驚いた事を口にした。

 

脚竜

「お前、そんなしょうもないことであれを助けるのか?

よくできるねぇ。俺にゃ無理だ。だって助けたところで何もないじゃん。」

 

ぼっち

「その通りだ。という訳で却下だ。行くぞ。」

 

そう言って歩いていこうとする二人をオクトは止めた。

 

オクト

「待てよ!それでいいのか!それでも男じゃないのかよ!」

 

脚竜

「………………俺は男だけど、それとこれとは話は別だよね?」

 

ぼっち

「…………あのなオクト、いいことを教えてやる。

俺達はチームだ。チームということは俺達の誰かがミスをしたり、厄介事を抱えてくれば、その残りがそれの尻拭いをしなくちゃいけないんだ。

はっきりと言わせてもらおう、そんな無駄な事をしても迷惑なだけだ。

そして俺達のスタイルはな、『真面目に不真面目』だ。つまり、助ける必要はないわけだ。」

 

オクト

「ぼっちさん、それでも助けなきゃ………。」

 

ぼっち

「………じゃあ何か?アイツを助けて俺達に何かメリットはあるか?無いよな?そんな助ける価値もない奴を助ける必要はない。」

 

オクト

「価値が無くても助けるくらいなら…………」

 

その瞬間、オクトはぼっちにスタン攻撃で殴られ、気絶(スタン)した。薄れゆく意識の中、オクトは何もできない自分をとても悔やんだ。

 

ぼっち

「…………ふん、行くぞ脚竜。」

 

脚竜

「………おう。」

 

メリットの無いことに意味がないと思っている二人はそう言って一人の男を引きずりながら街へ消えた……………………、と思っていた。

 

 

ぼっちと脚竜はその場でムーンウォーク顔負けのバック移動をして、

 

脚竜

「兄貴、やっぱあれ助けよう!」

 

ぼっち

「…………少し気は乗らんが、助けるか。おい、起きろ盾!」

 

オクト

「痛っ!?え?あれ?」

 

脚竜

「ほれ、助けに行くぞオクト。」

 

ぼっち

「………さっさとしろ、このやり取りが無駄な時間だ。」

 

オクト

「…………はい!」

 

三人が団結し、走り出したが、オクトは疑問に思うことがあったので聞くことにした。

 

オクト

「あの、どうして二人ともあんなに嫌がってたのに行くことにしたんですか?」

 

そう聞くとぼっちと脚竜はしばらく顔を見合わせこう言った。

 

脚蛇ブラザーズ

お前ごときにあんなことを言われたのが気に入らなかったから。」

 

オクト

(わぁ……聞くんじゃなかったぁ。)

 

???

「だ・か・ら!あんた達が突っかかってきたんでしょ!」

 

???

「あぁ?!俺達が悪いって言うのか!」

 

???

「それ以外に何があるってのよ!」

 

???

「やるのかこのアマ!」

 

???

「女だからって舐めんな!」

 

今にもお互いに殴りかかりそうな雰囲気に、回りのプレイヤーも冷や汗をかいていた。

もしこのまま続けば必ずどちらかがおっ始めるほど殺伐としている空気だ。

 

だが、その間に小さな少年が割り込んできた。

 

脚竜

「はいはい、ストップストップー。これ以上はやめよーぜ。危ないし、何より危ないし。」

 

オクト

「大丈夫?」

 

???

「え?……まぁ、大丈夫だけど………。」

 

突然のことに男たちや女性プレイヤーも困惑していた。

 

???

「おい!俺達はそいつに用があるんだ!どけ!」

 

我に帰った一人の男が抗議する。が、その目の前に一人の男が現れる。

 

ぼっち

「………どいてもいいぜ。」

 

ぼっち

「ただ、どいてほしけりゃ俺と戦ってからにしようぜ。ちなみに言うとな、お前らごときなら殺すのに十秒もかからねぇぞ?…………って隣のこいつが言ってた。」

 

オクト

「そうだ!一人の女性をよってたかって……男として恥ずかしくないのか!………ん?」

 

脚竜

「そーだそーだ!!てめぇなんざ怖かねぇ!野郎ぶっ殺してやらぁぁ!!………って隣のこいつが言ってた。」

 

オクト

「そうだそうだー!………あれ?!脚竜!!?」

 

脚蛇ブラザーズ

「そう、すなわち俺達はこの男(オクト)とはなんの関係もない一般ピーポーです!!」

 

オクト

「えェェェェェェェェェェェッ!!?」

 

突然身内に売られ、オクトは涙目になる。

 

オクト

「いや、そのなんというかえーっとその…………」

 

もはや混乱しすぎて何を言ってるのか分からなくなっている。

 

ぼっち

「ただ、そういうことはよそでやってほしいものだな。」

 

脚竜

「そーそー、恥ずかしくないのか?そんなみっともないことをしてて。」

 

???

「………ちっ!」

 

そう言って男達は逃げるように街へと戻った。

よほど脚竜のような子供(?)に正論を言われたのが気に障ったのだろう。

 

オクト

「大丈夫?」

 

???

「さっきから言ってるけど私は平気なんだけど………。」

 

脚竜

「おー、無事そうで何よりぢゃ。」

 

???

「…………え?小学生?こんなちっさい子までSAOに囚われてるの!?」

 

オクト&ぼっち

「「あ。」」

 

脚竜(?)

「今………なんつった?」

 

???

「え?だからこんな小学生もこのゲームに囚われているのって…………。」

 

東方脚竜(ひがしかたきゃたつ)(CV小野友樹)

「俺の見た目が幼稚園児並だとコラァッ!!」

 

???

「うおっ?!い、いきなり大声出さないでよ!ていうかそこまでいってない!」

 

脚竜

「てめぇの目は節穴かぁぁぁっ!!これでもれっきとした中学生じゃボケェェェェェェェェェ!!!」

 

???

「え、中学生!!?こんなにちっさいのに?」

 

脚竜

「小さい言うなぶっ飛ばすぞ!!

第一にテメェについては本当に女かどうか怪しいわ!

絶対に中身ゴリラだろおまえ!!」

 

???

「なんですってぇー!!これでもれっきとした乙女よ!」

 

ぼっち

「ドードードー。」

 

オクト

「あの、ごめんなさい。こいつ、身長の事を言われると人格が豹変するんです………。」

 

何故かは分からないが脚竜は身長の事を言われるとかなりキレる。

前身長についてからかったらおもいっきり急所を蹴られた事もある。

俺自身はそこまで気にしないんだけどな……。

 

ぼっち

「………まぁ、話を変えるぞ女。

助けてやったんだ、なにか見返りはあるだろうな?」

 

???

「う…………。い、今手持ちが無いのよね………。」

 

オクト

(こんな時でもこの人はそれしか考えないのか………。)

 

俺はぼっちさんのそういう部分が苦手である。

この人はどうして価値がないの一言で人を切り捨てられるんだろう………。

 

ぼっち

「はぁ………だから時間の無駄だってのに……。」

 

オクト

「ぼっちさん!時間の無駄じゃ………」

 

ぼっち

Shut Up(黙ってろ)。まぁ、俺のやること見てろって。」

 

ぼっちはそう言って女性に近寄り、

 

ぼっち

「んじゃ、とりあえずお前、名前を言え。」

 

リズベット

「え?……えと、リズベットだけど………。」

 

ぼっち

「そうか、リズベットか。…………ふむふむ、なるほど。」

 

ぼっちはリズベットさんを上から下まであらゆるところを見ながら何かぶつぶつと呟いている。

 

リズベット

「な、何よジロジロと………。

それにさっきから何ぶつぶつ言ってんのよ………。」

 

ぼっちは少し考えた後、リズベットという女性を見てこういった。

 

ぼっち

「………うん、お前のサブ職業が鍛治屋志望、戦闘の時のジョブは基本がタンク、お前のメイン武器は片手棍だ。

さらに鍛冶屋になるために武器の目利きなどの練習をしている。

どうだ?図星だろう?」

 

リズベット

「な、何でアンタがそれを………。」

 

ぼっち

「見た目、そんで目付きだ。だいたいそれで分かる。

というわけだ、俺の名前はぼっち。

…………ほら、お前らも名乗れ。」

 

脚竜

「おっす、オラきゃた………いって!」

 

ぼっち

「真面目にやれ愚弟。」

 

脚竜

「へいへい……。ったくめんどくさいなぁ……。」

 

ぼっち

「あ?」

 

脚竜

「ごめん、ごめん。ったくよぉ……オッホン、俺の名前は脚竜。

よろしくな!」

 

リズベット

「よ、よろしく。」

 

オクト

「えーと、俺の名前はオクト。よ、よろしくお願いしますリズベットさん。」

 

リズベット

「う、うん。」

 

ぼっち

「よし、というわけだリズベット。

君にはいずれ俺達に武器もしくは防具をつくってもらいたい。

助けた礼としては妥当なところだろう?」

 

リズベット

「え!?まだ私鍛冶スキル鍛えてないのに!?」

 

ぼっち

「おっと焦るな、あくまでこの先お互いに生きていればの話だ。

リズベット、お前はいずれ鍛冶スキルの練度が上がり、様々な武器が作れるようになるはずだ。

だからこそ、俺はそういう風に言っている。

そして専属とまではいかないが、俺達があんたの常連客になろう。

無論金や素材も必要ならば出そう。

そして今のうちに一定の顧客を確保するのも悪くはないはずだ。

どうだ?お互いにWin-Winだろう?」

 

リズベット

「確かに…………今顧客を確保しておいても悪くはないかも……。その話乗ったわ。」

 

ぼっち

「ふ、ありがとう。では、契約書を………といきたいところだが、あいにくこの世界には紙がない。どうしたらいいのやら………。」

 

オクト

「あ、メールとかならどうですかぼっちさん。」

 

ぼっち

「いい考えだ。そうさせてもらおう。」

 

その瞬間、オクトは見てしまった。

ぼっちがあの時と同じような邪悪な笑みを浮かべていることに。

 

オクト

「ちょ、ちょっと待ってリズベットさん!」

 

リズベット

「え、なによ?」

 

オクト

『あ、あの、あまり大声では言えないんですけど……、あのぼっちさんの笑顔に騙されちゃいけないですよ!』ヒソヒソ

 

リズベット

『え?どういうことよそれ?』ヒソヒソ

 

ぼっち

「どうした、契約内容に不満でもあるのか?」

 

リズベット

「あー、特には問題ないわ。…………アンタの言ってることは本当なの、オクト?」

 

オクト

『大マジです、俺はあの笑顔に騙されましたから………。』ヒソヒソ

 

ぼっち

「ふむ、では改めて契約内容を読み上げるか。

『我々アインクラッド攻略し隊のメンバーは鍛冶屋リズベットの第一顧客になることをここに誓う。』………これでいいか?なんなら脚竜にも読ませよう。」

 

脚竜

「んじゃ………えー、『鍛冶師リズベットは攻略し隊の所有物として武具の制作に励んでもらうことを誓わせます』っと。こんな感じ?アデッ!」ビシッ

 

ぼっち

「バカ者、そんな事を書くわけがないだろう?」

(まぁそっちが本音だがな。)ボソッ

 

オクト

『ね?見たでしょ?』ヒソヒソ

 

リズベット

『………危な。』

 

脚竜

「あ、そうそう。リズベットさん。ちょっと耳貸してくれるか?」

 

リズベット

「いいけど?どうしたの?」

 

脚竜

「実は、俺ガチギレした時の記憶がなくてさ、何かひどい事言ってないかなって。」

 

リズベット

「それならしーっかりと聞いたわよ。」

 

脚竜

「やっぱりかぁ……。」

 

ぼっち

「あぁ、それこそ『お前の胸なんてしょせん飾りなんだろうがボケェェェェェェェェェェェッ!』とか言ってたぞ。」

 

オクト

「あらぬことを吹き込むんじゃねぇ詐欺師!」ゴンッ

 

ぼっち

「いった………、ただのジョークなのに………。」

 

脚竜

「まぁでも最初の方は本気でメスゴリラかと思ったから………いってぇ!!」ゴンッ

 

オクト

「お前は女の人になんて事言ってんだ!」

 

リズベット

「……アンタら見てて面白いわねぇ。よし!アタシだってアンタらに助けられたんだし、やるなら最高級の武具を作ってやろうじゃないの!」

 

脚竜

「おー!オクトより頼もしいぜリズベット!」

 

ぼっち

「ふ、どこぞの虫ごときにビビる使い勝手の悪い盾よりかは頼りになるな。」

 

オクト

「おめーら誰がヘイト管理とHP管理してると思ってんだ。」

 

ぼっち

「まぁ、そういうことだ。俺達はこの辺りで失礼しよう。またいつかな、リズベット。」

 

脚竜

「おー!じゃあなー鍛治屋娘ー!」

 

リズベット

「鍛治屋娘じゃなくてリズベットよ!!……ったく。」

 

オクト

「………あ、それじゃ俺もこの辺で。」

 

リズベット

「あ、ちょい待ち。」

 

オクト

「………え?」

 

リズベット

「さっきはありがと、一応お礼くらいは言っておこうと思ってね。」

 

オクト

「い、いや、俺は何も………。」

 

リズベット

「さっきの小さい子供(?)……いや、脚竜だったかしら?まぁ、その子が言ってたのよ。あんたが私を助けることを提案したって。」

 

オクト

「いや、でも実際に追い払ったのは………。」

 

リズベット

「重要なのはそこじゃなくて動こうと思ったことよ。

それじゃ、生きてたらまた会お!それまでに私も強くなってやるからね!」

 

オクト

「…………はい!リズベットさん!」

 

リズベット

「呼び捨てでいいわよ呼び捨てで……。」

 

オクト

「いや……これはなんというか性分で………。」

 

リズベット

「あー、それならそれでいいんじゃない?なんかあんたはそれっぽいし。」

 

オクト

「あ、あはは……。」

 

ぼっち

「おい盾!置いていくぞ!」

 

オクト

「あ、本当に行かなきゃ……。それじゃ!」

 

リズベット

「ん、またねー!」

 

 

少しだけ、俺はなにか良いことをした気がする。俺は守れるものは守りたい。

おこがましいかもしれないけど、俺はリズベットさんの笑顔を守ってあげたいと思った。

 

脚竜

「おーおー、お熱い事でwww」

 

そんな事を考えていたら脚竜がものすごく腹立つニヤニヤ顔でそんな事を言ってきた。

 

オクト

「バッ……そんなんじゃないよ!」

 

ぼっち

「顔がニヤついてんぞ気持ち悪い。」

 

オクト

「ぼっちさんまで!」

 

俺達はこうして、また攻略の為に前進をしていくんだろうな………。

リズベットさんが作る武器も使ってみたいし………。

その為にも今は強くならなきゃ!

 

オクト

「よし!今日も頑張る!」

 

「おー、気合い入れるのはいいんだけどよ。

明日にしようぜ。」

 

脚竜が窓を解放すると、そこには無数の星が空に浮かび綺麗で真っ黒な空が広がっていた。

 

脚竜

「………今、夜だし。」

 

オクト

「……………寝よう。」

 

脚蛇ブラザーズ

「「大賛成。」」

 

まぁ、この気合が空回りにならないようにしなくちゃな。




次回予告(?)攻略し隊の会議!

脚竜
「いやー、リズベットすごかったねぇ。」

ぼっち
「あぁ、あれは将来いい鍛冶屋になる。
そして、オクトが気持ち悪い笑みを浮かべるんだろうな。」

脚竜
「激しく同意見!」

オクト
「お前ら大概にしねぇとマジで盾やめるからな。」

脚竜
「おうふ、それは困るぜ。」

ぼっち
「………ちっ。」

オクト
「まぁ、それはともかくこの始まりの街に情報屋がいるらしいですよ。
もうそろそろこの一層を攻略しにいく人もいるだろうしこの際に情報収集するのはどうでしょうか?」

ぼっち
「ふむ、確かにそうだな。んじゃ、野郎共行くぞ。」

オクト&脚竜
「「あらほらさっさー。」」

次回、『第五話~情報収集~』

脚竜
「次回もサービスサービs………」

ぼっち
「言わせねぇよ!」ゴンッ


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第五話~情報収集~

どうも皆さん、Wandarelです。
仕事と夏の暑さにやられながらも第五話投稿です。
今回も色々とネタを放り込んでおりますので、
『混ぜすぎカオス』に注意してください。


第一層フィールド

 

オクト

「てやぁぁ!!」

 

オクトの攻撃で猪型モンスターのヘイトが向かい、モンスターがこちらに振り返る。

 

オクト

「よし!こっちに来い!」

 

そういってオクトは背を向けて逃げる。

当然オクトの方に注意が向いてるのでモンスターはオクトを追いかけ始めた。

そしてオクトはというと、AGIに全く振り分けをしていないので遅いはずだが、

 

オクト

「うぉぉぉ!!死ぬ気で走らなきゃ死ぬぅぅぅッ!!」

 

命懸けで走ることでそのスピードをカバーしている………つもりである。

だがしかし、それでも遅いものは遅いので、捕まりかける。

 

オクト

「……………脚竜、出番だぜ。」

 

瞬間、猪型のモンスターの目に一本の矢が突き刺さる。

「ブゥァァァァァァァ!!」

猪型のモンスターがその激痛に悶える。

 

脚竜

「どうよ!俺の狙撃技術は!」

 

そういって脚竜は弓スキルを乱射する。

怒濤の連撃にモンスターが怯む。

しかし、このままではヘイトが脚竜に向いてしまうのでオクトがちょくちょく攻撃して、ヘイトをかけ直す。

だが、そんな俺達でも、中型の猪型モンスターのHPは中々削れない。

だが、それを可能にする男はいる。

 

???

「………………のろいな。」

 

ふらっとハイドを解除して男が現れる。

片手持ちの剣を構え、素早く切り裂き、ダメージを大幅に蓄積させる。

か、モンスターも一応生物。

ガギャァン!

ぼっちの持つ武器を角で凪ぎ払い、ぼっちは丸腰になってしまった。

そして、おもいっきり猪が突撃してくる。本来なら回避行動を取るべきだが、この男の場合は違う。

 

ぼっち

「……………これで終わりだな。」

 

そう言って突っ込んでくる猪に身構え、

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァッ!!」

 

最近会得した格闘スキル『オーバーラッシュ』を叩き込んだ。

しかしそれでも自分よりも4レベル高い相手には怯みはしたももの一撃で始末できるほどのパワーではなかった。

「ブォォォォォ!!」

雄叫びをあげ、猪が突っ込んでくる。

だが、ぼっちはそれでも余裕の表情をしている。

 

ぼっち

「ふん、だからNPCはアホなんだよ。」

 

足を踏ん張り、腰を入れ掌を広げた。

その掌には闇属性のオーラが纏われている。

 

ぼっち

ダァァァクネスッ!フィンガァァァァァッ!!

 

ぼっちは新しく習得した格闘スキル『ダークネスフィンガー』を猪の顔面に叩き込んだ。

高火力の攻撃をもろに受けたモンスターはうなり声をあげ、ポリゴンになって砕け散った。

 

ぼっち

「……………よし、大体の流れは完成したな。」

 

オクト

「はい。たぶんこれで問題ないと思いますよぼっちさん。

というかさっきの格闘スキル威力半端なかったですね。」

 

ぼっち

「まぁ、単体にしか撃てんが掴み技だから頭掴めば砕けるな。」

 

脚竜

「ほい、お疲れオクト。回復ポーションじゃ。」

 

脚竜はそう言うとオクトに回復ポーションを放り投げた。

 

オクト

「サンキュー脚竜。」

 

もはやこの流れが当然のようになっているが、結局オクトがブラック企業の社畜モードであることには変わりない。

とはいえ、レベリングの効率はかなりよく、この一週間で全員がレベル16前後までいっている。

 

脚竜

「あ、そーだ兄貴に、オクト。実は始まりの街で情報屋がいるらしいよ。」

 

オクト

「情報屋?NPCのことか?」

 

脚竜

「いや、どうもプレイヤーらしいよ。なにせ噂じゃ俺と兄貴と一緒でベータテスターだったらしいからね。」

 

ぼっち

「………なるほど、確かにこの絶望的な状況において情報ほど必要なものはないだろう。」

 

オクト

「それじゃ早速行きま……グェッ!!」

 

ぼっちはオクトの首根っこを掴み引き寄せる。

 

オクト

「ゲホッゲホッ……ちょっとぼっちさん何を!」

 

ぼっち

「( ̄b ̄)シー」

 

オクト

(ど、どうしたんですかぼっちさん!)

 

脚竜

(見たら分かるだろ?敵だ敵。)

 

ぼっち

(少なくとも今の俺らでは勝てん。うまいこと逃げるぞ。)

 

オクト

(は、はいぃ…。)

((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 

このように勝てない戦いになりそうなときは絶対に戦わない。

ぼっちさんは

『強いやつを倒してこそ初めて戦闘と呼べるんじゃないのか』

と言っていたが脚竜が

『いや、ここではゲームオーバー=死だからやめといた方がいいよ。兄貴の言い分はわかるけどそれは死ぬことがないから出きるのであって、今は命懸けの戦いだからそんなことしたらすぐに死んじまうよ。』

といって説得してくれたため、パーティーメンバーの中でもっともレベルの高いぼっちさんを基準にレベル差が5以上ある場合は撤退を徹底している。

おかげでギリギリな戦いになることが少なくなって助かっている。

俺たちはそそくさと気づかれないように街へと逃げていった。

 

 

脚竜

「ふぃー、今日の成果も俺の圧勝だな。」

 

オクト

「お前の運が異常なだけだ。」

 

ぼっち

「………なんで俺だけノーマルばっかり……。」

 

この流れも相変わらずで戦果で脚竜に勝てたことは基本無い。

 

ぼっち

「……んでその噂の情報屋は?」

 

脚竜

「………んーと、忘れた!」

 

オクト

「おいィィィィ!!大事な情報だろーがそれはぁ!!」

 

脚竜

「んじゃその情報にアンタらはいくら賭けるよ?」

 

ぼっち

「普通に教えろ、殺されたいのか?」

 

脚竜

「へいへい。」

 

そういって脚竜のあとをついていき、たどり着いたのは始まりの街の大通りだった。

そして脚竜は一人のフードを被っているプレイヤーを指差し、あの人だと答えた。

 

ぼっち

「そろそろ俺たちも攻略に向けて情報を集めておいてもいいかもしれん。」

 

オクト

「わ、悪い人じゃなきゃいいけど………。」

 

脚竜

「まぁ兄貴の交渉技術がありゃ大丈夫だって。」

 

俺達も一刻も早くこのデスゲームから脱出しなくてはならない。

そのためにはゲームクリアまでに至るまでに情報を売ってくれる人物が必ず必要になる。

早い内に情報は手にいれなければいけない。

ぼっちがフードを被っているプレイヤーに声をかけた。

 

ぼっち

「こんにちは、あなたが噂の情報屋ですか?」

 

???

「ん?アァ、そうだけド。」

 

ぼっち

「なるほど……あ、申し遅れました。私はぼっちと申します。

こちらの二人は私のパーティーメンバーです。」

 

オクト

「オクトです。よろしくお願いします。」

 

脚竜

「脚竜です!よろしくな!」

 

???

「自己紹介されたならこっちも名乗らないとナ。」

 

フードを被っているプレイヤーはゆっくりと立ち上がり、

 

アルゴ

「オイラはアルゴダ。よろしくナ。」

 

そういってぼっちに対して手を伸ばした。

 

ぼっち

「こちらこそよろしく頼む。」ニコッ

 

普段見せないような綺麗な笑顔。

これはやる気だ。あの騙しのテクニックを………。

 

オクト

(だ、ダメですよぼっちさん!ここで信頼を失くしたら俺達に情報提供してくれないかもしれないんですよ!)ヒソヒソ

 

ぼっち

(安心しろ、俺の考えは完璧だ。それにな……)ヒソヒソ

 

ぼっちはアルゴの目を見たあと

 

ぼっち

(あの目、間違いねぇ。俺の騙しモードで行かなきゃたぶん大量に金をぶんどられる。

あの目は商人の目だ。)ヒソヒソ

 

ぼっちはそういったあと、ストレージを漁り始めた。

 

ぼっち

(あとオクト、余計な手出しはするなよ。)ヒソヒソ

 

オクト

(な、なんでですか!?何かあったら止めますよ!?)ヒソヒソ

 

ぼっち

(わからねぇか?………こいつは俺の望んでいたタイプ、ようやく対等に言葉の殴りあいの相手が見つかったんだ。

だからコイツの相手は俺に任せな。)ヒソヒソ

 

アルゴ

「……さっきからヒソヒソと何してんダ?」

 

ぼっち

「いやこれは失敬、少し身内で揉め事がありましてね。

……さてと、お話は変わりますがその情報とやらを私は喉から手が出るほど欲しているものがあります。」

 

アルゴ

「いったい何かナ?」

 

ぼっち

「……この層のボスの事です。」

 

アルゴ

「………それなら信用ならないオイラの口から聞くよりオイラの作った攻略本を読めばいいと思うゾ。」

 

ぼっち

「なるほど……。」

 

普段のぼっちの言動からは想像もつかないほどの綺麗な声と顔だ。

元々ぼっちさんの顔自体はある程度整っている方で少し大人びているようにも見える。

これがあの騙すことを正義としている悪魔とは到底思えないほどだ。

 

ぼっち

「それでその攻略本とやらはいくらだろうか?

情報屋であるならばこちらもそれ相応の物を渡さねば不当だと思うので……。」

 

アルゴ

「………700コルでどうダ?」

 

ぼっち

「少々高いですね。400コル。」

 

アルゴ

「そいじゃ600コル。」

 

ぼっち

「まだ高いですね。430コル。」

 

アルゴ

「なら545コル。」

 

ぼっち

「うーん、475コル。」

 

ぼっち

「ふむ……では。」

 

アルゴ

「そうなると………。」

 

アルゴ・ぼっち

「「500コル」」

 

アルゴ

「商談成立だな。」

 

そういうとアルゴさんはストレージをいじり、本のような物をぼっちに差し出した。

 

アルゴ

「ほら、これ。大丈夫、アルゴの攻略本だよ。」

 

ぼっち

「ありがとうございます。」

 

アルゴ

「そっちの坊や達もいるカ?」

 

脚竜

「誰が坊やだゴラァァァ!!」

 

ぼっち

stay、mybrother。(落ち着け、我が弟よ)

 

オクト

「うーん、俺はいらないです。」

 

アルゴ

「そうカ。ならアンタにだけ特別な情報があるけどどうダ?」

 

オクト

「え、いいんですか?」

 

アルゴ

「アァ、300コルだ。」

 

オクト

「買います!」

 

アルゴ

「実はな…………というわけだ。」

 

オクト

「な、なるほど……。」

 

内容ははっきりとは聞こえなかったが、オクトの表情から察するに何か衝撃的な情報でも得たのだろう。

 

オクト

「貴重な情報ありがとうございます!えっと……。」

 

アルゴ

「アルゴでいいヨ。オネーサンは細かいことは気にしないからナ。」

 

オクト

「ありがとうございますアルゴさん!」

 

アルゴ

「そいで、そこの坊やもどうダ?」

 

脚竜

「だから坊やじゃねぇって言ってんだろ!」

 

脚竜が吠えるとアルゴは笑いながら軽く謝った。

しかし、ここで終わりではなかった。

 

アルゴ

「それと、ぼっちって言ったかナ?……その口調はやめた方がいいと思うゾ。」

 

すると、ぼっちは驚いたような顔をしたあと、ニヤリと笑い、

 

ぼっち

「………ほぉ、俺のポーカーフェイスに気がつけるなんてなかなかやるじゃねぇか。」

 

ぼっちもさっきまでの丁寧な口調をやめ、いつものように漆黒の意思を持った喋り方になった。

 

アルゴ

「ま、オイラを甘く見るなっていう意味だナ。」

 

ぼっち

「………ふむ。確かに考えが少し不味かったかもな。

代わりに訂正しとくよ、『鼠』の名前を騙るつもりの情報屋のアルゴさん。」

 

アルゴ

「……へぇ、やるじゃン。」

 

正直、俺たちではこの二人が目を合わせただけでどういう風に腹の探りあいをしていたのかは分からなかった。

少なくとも、アニメとかで見るようなやり取りじゃないのは確かだ。

まるでお互いがにらみ合う獣のような………そんな風に見えた。

……まぁ、実際は何を考えているのかが分からなかったんだけど。

 

 

ぼっち

「ふむ、いい機会だ。

アンタとは仲良くしておきたいね。」

 

アルゴ

「………オイラもここまで言葉での殴り合いが楽しい相手は久しぶりだナ。

いいヨ、アンタとオクト、そしてそこの坊やともご贔屓にして貰いたいしナ。」

 

脚竜

「だからさっきから坊やじゃねぇって言ってんだろ!シバくぞ!」

 

オクト

「エセ関西弁を話すな東京出身の東京育ち。」

 

そして、ぼっちは何かを思い付いたようにアルゴと話し始めた。

 

ぼっち

「アルゴ、友人のよしみだ。面白い情報を教えてやるよ。」

 

アルゴ

「……いくらかナァ、その情報ってやつハ?」

 

ぼっち

「500コルだ。それも先に情報を与えた上でな。要するに後払いだ。」

 

アルゴは少し考えた後に

 

アルゴ

「いいヨ、その商談乗った。」

 

どうやらぼっちの商談に乗り気なようだ。

 

ぼっち

「ふむ、では話していこうか。」

 

ぼっちは少し咳払いをしたあと、話を始めた。

 

ぼっち

「どうやらこの世界にはエクストラスキル、ユニークスキルなどという特殊なジョブもしくはスキルがあるらしい。

そして、その中で最も特殊なユニークスキルがある。

スキルネームは『銃撃者(ガンスリンガー)』。

簡単に言えば銃を取り扱うことができるかなり特殊なスキルの事だ。

そしてそれに対をなすように存在するスキルもある。

スキルネームは『銃鍛冶(ガンスミス)』。

この世界において鍛冶スキルが存在するように銃を作る鍛冶スキルがあるわけだ。

もちろん、名前通り銃を扱うこともできる。

どうだ?かなり貴重な情報だと思……………」

 

アルゴ

「信用はできないナ。」

 

アルゴはきっぱりとそう言った。

 

アルゴ

「第一にここは剣の世界ダゾ?

そんな剣しかないのに銃が扱えるわけがないダロ。」

 

呆れたようにアルゴがそういうとぼっちは何かをボソッと呟いた。

 

ぼっち

「ほう……ではお前のそのクローのスキルなども存在しないわけか…………そりゃ確かに剣の世界に爪やクローなんて存在しないもんなぁ……クックック………。」

 

アルゴ

「……どうやってそれを知っタ?」

 

ぼっち

「人の目を見ると簡単にわかってしまうんだ。

それに人間観察が大好きでな。

俺の悪い癖だよ。」

 

悪びれる様子もなくぼっちはそういった。

 

アルゴ

「………ま、信用はできないかナ。

まぁ、もし本当にそんなスキルが出たら2000倍にでもして返してやるヨ。

ま、ありえないけどナ。」

 

ぼっち

「さぁな。この世で『あり得ない』という言葉ほどあり得ない物はないがな?」

 

ぼっちとアルゴは未だに言葉の殴り合いを繰り広げていた。

 

ぼっち

「まぁいいさ。さっきの言葉はしーっかり覚えておくからな。」

 

アルゴ

「ニャハハハ、ま、オイラも少しはリサーチしておくよ。」

 

俺達はアルゴさんをフレンドに登録して、その場を去った。

どことなく怪しくて変な人だが、悪い人じゃないのは確かだと思う。

多分、ぼっちさんと一緒で、自分の利益にならないことには一切触れないけど、それでも皆の事を考えて動いている。

俺はぼっちさんのように目を見ただけで分かる訳ではないけど、少なくともアルゴさんはそういう優しさを持ってるんじゃないかな……って思う。

 

ぼっち

「………おい、何俺の顔を見てニヤついてだ気持ち悪い。」

 

オクト

「……いや、ぼっちさんとアルゴさんって似てるなぁって。」

 

脚竜

「いやいや、天と地ほどの差はあるぞ。

だって兄貴はいろんな意味で鬼だもん。」

 

ぼっち

「何を言うか、この俺は鬼じゃねぇ。

俺は悪魔だ。」

 

オクト

「大正解じゃねぇか。」

 

なんか一瞬声が変わった気がするけど気にしたら負けなのかな。

そんなことを考えていると、ぼっちがボソッとあっと言った。

 

脚竜

「ん?どしたの兄貴?」

 

ぼっち

「そうだお前ら。どうせだしギルド作らないか?」

 

脚竜

「ギルドォ?なんでそんなものを作らなくちゃいけないんだよ兄貴。」

 

オクト

「え?ギルド作るんですか?」

 

ぼっち

「いや、どうせなら有名になりたいじゃん。

んでついででお前らも活躍したら名声を得られてそれなりに楽ができる。

どうだ?悪くはないだろ?」

 

オクトはなるほどと思った。

確かに多少なりとも有名になり名前が上がればもしかしたらこの先何かいいことがあるかもしれない。

作るに当たってはなんの損もない。

オクトが深く考察をしていると、ギルドネーム決めが始まりそうだった。

 

脚竜

「んじゃ、名前を決めるか!はい!『アインクラッドリタイアし隊』!」

 

ぼっち

「今すぐリタイアさせてやろうか?」

 

オクト

「それじゃあ、『アインクラッド破壊し隊』とかはどうですか?」

 

ぼっち

「どこの犯罪者ギルドだよ。ったく、やっぱりこういうのは俺がやらなくちゃいけないのか………。『魔城殲滅隊』。どうだ?カッコいいだろ?」

 

脚竜

「いや、普通にダセェよ兄貴。」

 

ぼっち

「なんだとぉ!!俺のパーフェクトなギルドネームに文句つける気かおい!」

 

脚竜

「ダセーもんはダセーもーん!」

 

オクト

「………あの、『アインクラッド攻略し隊』はどうでしょうか………。」

 

脚蛇ブラザーズ

「………………。」

 

オクト

「ほ、ほら!俺たちは攻略をしようとしてるんですし、気合い、入れて、いきます!みたいな感じを出そうと思って…………」

 

脚蛇ブラザーズ

「………………。」

 

オクト

(…………あれ?地雷踏んだ?)

 

脚竜

「シンプルでいいじゃねぇか!採用ー!」

 

ぼっち

「………ふむ、まぁ、センスはあれだが、まぁいいんじゃないか?」

 

オクト

(あれ?なんか丸く収まった?)

 

奇跡的に丸く収まり、次はギルドリーダーを決める部分だったが………。

 

脚竜

「よし、ギルドリーダーは兄貴な!」

 

ぼっち

「………は?」

 

オクト

「あ、俺もそれに賛成です。」

 

ぼっち

「え、やだよ。俺やりたくないよ。

オクト、お前が名前を決めたんだからお前がリーダーでいいだろ?どうして俺なんだよ。」

 

脚竜&オクト

「「いや、単純にスペックの高さ。」」

 

ぼっち

「…………それ言われたらなにも言い返せないよ。」

こうして、改めて『アインクラッド攻略し隊』が爆誕した。

 

ぼっち

「………んじゃ、とりあえずギルドメンバーの間でのギルドの呼び方は『攻略し隊』と言うことにしてだ。

攻略し隊の方針をある程度決めておこう。」

 

ここからは攻略し隊がどのような活動をするのかの会議になった。

 

ぼっち

「第一に『攻略し隊』と名前がついてる以上、前線に立つことは当然だ。

他になにか活動について意見があるやつは?」

 

オクト

「はい、ギルドの信用を得るために慈善事業とは言いませんけど、他のプレイヤーの手伝いとかはどうですか?」

 

脚竜

「お?いわゆる何でも屋か?

いいねぇ、俺昔からそういうのしてみたかったんだよ!」

 

ぼっち

「はぁ……お人好しどもが……まぁいいや、とりあえず採用っと。

他には?」

 

ぼっちはそう聞くが特にこれといった意見はでなかった。

 

ぼっち

「よーし、ギルドの方針は決まったな。」

 

脚竜

「勝利の方程式も決まった!」

 

オクト

「何をいってるんだお前は。」

 

ぼっち

「それでは、我々『攻略し隊』の爆誕記念だ。

飯屋に行くぞ。」

 

オクト&脚竜

「「おー!」」

 

ぼっち

「よし、とりあえずはオクトのおごりだな。」

 

脚竜

「おー!賛成!」

 

オクト

「ふざけんな自分の分くらい出せ!」

 

アインクラッド攻略し隊が誕生し、新しい一歩を踏み出す勇気が出た。

必ず、このゲームをクリアして帰るんだ…………。




次回予告のような茶番

ぼっち
「さてと、改めてギルドを作ったが、まずギルドハウスを手にいれんとな。」

脚竜
「あてはあるの?」

ぼっち
「あぁ、あるぞ。その辺りは安心してくれ。」

オクト
「不安だ…………。」

脚竜
「同意見。」

ぼっち
「お前ら………。」(#^ω^)ピキピキ

次回、第六話『ギルド結成』

ぼっち
「次回もデュエルスタン………。」

オクト
「やめい。」


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第六話~ギルド結成?~

最初に申し上げます。
タイトルのギルド結成の文字ですが、ほとんどろくな描写がされておりません!
大変申し訳ございませんでした!
今回もいろいろ忙しく、なかなか編集する機会がなくて、時間が掛かってしまいました。
しかし、それなりには頑張って作ったので今回もよろしくお願い致します。

追記
一部誤字があったため修正しました。


第一層 始まりの街の酒場にて

 

ぼっち

「よし、せーので出すぞ。せーのっ!!」

 

現在『攻略し隊』のメンバーはギルド結成式のついででいつものようにドロップアイテムの確認を行っているが……。

 

脚竜

「いぇーい!またいちばーん!」

 

オクト

「至って普通だな。」

 

ぼっち

「なんでや……一番戦闘で戦ってんの俺だよ?なんでノーマルばっかなの………。」

 

オクト

「普段の行いが(以下略)」

 

ぼっち

「だとしてもおかしいだろ!!

何回も何回も!何百何千と戦ってきたのになんで全部ノーマルなんだよ!」

 

脚竜

「いや、兄貴も一回はレアが出たんじゃ……。」

 

ぼっち

「それはたった一回だろうが!!」

 

ぼっちさんがキレるのもなんとなーくうなずける。

確かにどれだけ戦っても何回やってもぼっちさんは絶対(?)ノーマル素材しかドロップしないのだ。

一方で俺はレア素材を多少はもらえたりしているし、脚竜に至っては神がかった運で激レア素材をバンバンとってくるというのももう見飽きた光景だ。

 

ぼっち

「あー、腹立つぅー!!

なんで俺ばっか…………。」

 

確かにぼっちさんが活躍していることは多いです。

けど、その前に一言言わせてください。

 

オクト

「……一番働いてるの俺ですよ?」

 

ぼっち

「……理由を述べよ。」

 

オクト

「………チームメンバーのHP管理、ポーションの在庫管理、チームの盾。

ほら、俺のほうが忙しいですから。」

 

脚竜

「………いや、それってゲームじゃわりかし当たり前のことじゃね?」

 

ぼっち

「全くだ。これだから素人は……。」

 

オクト

(うわぁ、今すぐバックレたい。)

 

攻略し隊を結成したはいいもののなかなかやることがない。

故にこんな醜い言い争い(?)も起きている。

もうすぐでここに囚われてから三週間くらいになると思うが、いまだに攻略の目処はついてないし、数は分からないがかなりの犠牲者も出ているはずだ。

本当はこんなことをしている間にも誰かが犠牲になってるのかもしれない。

 

ぼっち

「………オクト、脚竜、今から本格的に俺たちがこれから使っていくメイン武器を決めようと思う。」

 

俺のさっきの考えを読み取ったのかどうかは分からないが、ぼっちさんが突然そんなことを言ってきた。

 

脚竜

「メイン武器?もしかしてサブとかも用意するの?」

 

ぼっち

「その通りだ。この先一つの武器だけにこだわっていてもかなり厳しいと思う。

だからこそ、この段階で方針を決めておきたくてな。」

 

オクト

「あのー、俺はどうすれば?」

 

ぼっち

「お前は素人だから逆に一つの武器に特化した方が強い。

お前のその性格的にも特化したタイプの方がお前としても動きやすいはずだ。」

 

オクト

「………また騙そうとしてますよね?

もう騙されませんよ。」

 

これ以上俺が騙されると必ずこの人は面白がって調子に乗ると思う。

そうならない為にも、俺は心を鬼にしてきっぱりと言った。

 

ぼっち

「安心しろ。今回は普通に考えたから。」

 

オクト

(………なんか本気で心配されてるのかな?)

 

ぼっちさんには意外なところで優しい一面もあるから普通に心配してるのならなんか悪いこと言ったような気がする………。

 

ぼっち

(とか思ってんだろぉなぁ。

あいにくだが俺は己の欲望には忠実でな、お前の役割に沿った最高の武器を提供してやるよ……。)

 

そんな邪な考えをしているぼっちを尻目にオクト、脚竜は武器選びをしていた。

 

~片手直剣~

 

ぼっち

「いいか、片手直剣の基本は武器でのガード、そしてパリィングにある。」

 

オクト

「先生、パリィングってなんですか?」

 

ぼっち

「一回死ぬかお前。」

 

オクト

「なんでや。」

 

脚竜

「パリィングっていうのはな、剣でガードとか出来るだろ?

それをタイミングよくやって相手を怯ませる事かな。

まぁ極端な話でいくと、剣でガードして相手を押し退けるって感じ。」

 

オクト

「なるほどなるほど。」カリカリ

 

ぼっち

「ほう、メモを取るなんて割とマメなんだな。」

 

オクト

「いつも通り一言余計ですけどこれは俺の性分なんで。」

 

ぼっち

「あ、そうそう。ちなみに俺は全部の武器の動きをマスターしてるから俺は曲刀の練習をする。

邪魔すんなよ。」

 

脚竜&オクト

「はーい。」

 

そして俺と脚竜一時間ほどは直剣の練習をしていたが、どうにも脚竜は近距離武器の扱いが苦手らしい。

 

脚竜

「ぬん!ぬん!へぃやぁぁぁぁ!!」

 

今もこんな風に変な掛け声を出しながら剣をめちゃくちゃに振り回している。

 

オクト

「………近距離武器に関してだけど絶望的じゃないかお前。」

 

脚竜

「うるせぇ!んなことは俺が一番よくわかってるっつーの!」

 

しばらくして実戦での武器使用をしているが、相変わらず脚竜が変な奇声をあげながら攻撃している。

けど、やはりベータテスターらしくボアを次々と倒していってた。

さすがに俺も負けられない!

 

オクト

「なんだか……よくわかんないけど……俺も……!

だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺は声を上げ、勢いよくボアに突っ込んでいった。

 

オクト

「たぁぁぁぁぁぁ!!」

 

あと少し、ボアはこちらに気づいたがもう遅い。

ここはもう俺の射程圏内だ!

 

オクト

「やぁっ!!」バキンッ

「わぁ!折れたァ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

剣が折れ、俺はボアに転がされ始めた。

 

ぼっち

「………ふん!」

 

「ぐるぉぉ……。」バリンッ

 

ぼっちさんが転がされてる俺を見て助けてくれた。

 

オクト

「いっててて~……。」

 

ぼっち

「邪魔をするな!」

 

脚竜

「なんかお前仮面ライダーみたいだな。」

 

オクト

「ど、どの部分が………?」

 

脚竜

「いや、さっきの『折れたァ!』の部分。

あれ俺が好きな仮面ライダーのセリフだって。

状況も剣折れてるの含めて一緒だしな。」

 

オクト

「えーっと、俺どっちかというとプリキュアの方見てたから仮面ライダー分かんないんだけど……なんて名前?」

 

脚竜

「その名も仮面ライダー龍騎!」

 

オクト&ぼっち

「お前じゃねぇか。」

 

脚竜

「言うと思った!

そしてそのネタで学校でもさんざんいじられてるし!」

 

俺は今、リアルの脚竜が学校で仮面ライダーだとか変身してみろとか言われてる理由がようやくわかった。

 

ぼっち

「よし脚竜、変身してみろ。」

 

脚竜

「無理に決まってんだろ。」

 

オクト

「まぁそれはともかく……折れちゃったな……。」

 

俺は今までの相棒を手に持った。

それは綺麗に半分に折れていて、修復も厳しそうだった。

長い間世話になった武器を眺め、今までの想い出を俺は思い出した。

 

オクト

(よく考えれば、この武器にはそこそこ愛着があったな……。俺はこいつのおかげで今まで生き延びてきた。

何かをやり遂げたような達成感だってある。

俺は、お前の事を忘れない。

ありがとう、ジャイロ………ってジャイロってなんだ?そもそも俺、武器に名前付けてたっけ……?)

 

そんな事を考えてると、ぼっちさんが何かに気づいたように俺に声をかけた。

 

ぼっち

「……お前、まさか修理してなかったのか?」

 

オクト

「え?この手のゲームって武器に耐久値なんてないんじゃ………。」

 

そういうとぼっちさんと脚竜は顔を見合わせたあと、少し微笑んで拳を握り……。

 

ゴンッ!!

 

二人から拳骨をくらった。

 

 

~曲刀~

 

オクト

「はぁッ!ふんッ!てぇやぁッ!」ブオンブオン

 

脚竜

「危ない危ない危ない危ない危ない!!

お前やたらめったらに振り回してんじゃねぇ!」

 

オクト

「でも!こうしてたら!敵も!近づけない!だろ!」

ブオンブオン

 

脚竜

「俺達も近寄れないだろうがバカ!」

 

ぼっち

「………不採用。」

 

~弓~

 

脚竜

「いいか?こうやって引き絞って心頭滅却をイメージ……まぁ、無心になって相手の眉間を狙う……ほいっ!」

バシュッ!!

 

脚竜は遠くにいるボアを一撃で射ぬいた。

 

オクト

「なるほどな。」

 

脚竜の射撃センスに関してはさすがはFPSプレイヤーだと言ったところだ。

今は俺の練習だからといってやっていないが、素人目で見ても、脚竜の偏差射撃技術はかなりハイレベルな段階だと思う。

 

脚竜

「ほれ、オクトもやってみ。」

 

オクト

「あぁ。」

 

俺はしっかりと集中し、無心になる。

 

オクト

(………眉間を狙うように…………。)

バシュッ!!

ドスッ!

 

俺が射った矢は何故か分からないが俺の背後にいるはずのぼっちさんの頭に直撃していた。

 

ぼっち

「………喧嘩売ってんの?買うよ?安く買ってやるよ?」

 

オクト

「す、すみません。わざとじゃないんです。」

 

脚竜

「いやなんで逆向きに飛ぶのかについて疑問を持とうよ。」

 

俺は改めて集中し、弓を構え、引き絞る。

そして、俺が放った矢は、やはりぼっちさんの頭に直撃していた。

 

ぼっち

「……おい?」

 

オクト

「ご、ごめんなさい!」

 

そんなこともあり、至近距離で射つことになった。

弓を引き絞って、そして、射った。

すると当然のようにぼっちさんの頭に直撃した。

 

ぼっち

「…………わかった。

お前には今から俺様の特別訓練プログラムを仕込んでやる。

まずはその俺に対する舐め腐った根性から叩き直してやろう。

存分に感謝するがいい。」

 

オクト

(い、嫌な予感しかしない………。)(^ω^;)

 

ぼっち

「あ、そうそう先に言っておくとだな……。」

 

ぼっちさんはそこで言葉を区切り、次にこう言い放った。

 

ぼっち

「俺の特別訓練は(精神的な)死人が出るからな。覚悟しておけ。」

 

オクト

(ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!)

 

脚竜

「弓も不採用っと。」

 

~両手斧~

 

オクト

「よいしょ、よいしょ………よし。」

 

脚竜

「お前斧の扱いは上手いな。」

 

オクト

「農業のくわのように扱えば行けそう。」

 

ぼっち

「振り回してる間に刃が飛びそうだなwww」

 

オクト

「そんなわけないでしょう。」ブオン!バキン!

 

飛んでいった斧の刃が脚竜の横を掠めた。

 

脚竜&ぼっち

「………不採用で。」

 

オクト

「なんでですか!?」

 

~片手細剣~

 

オクト&ぼっち

「……………。」

 

脚竜

「ほいほいほーい。」ヒュンヒュンヒュン

 

脚竜がレイピアを左右に揺らしてメトロノームのような使い方をしている。

俺達はそれを黙ってみていた。

そして、約三十分くらいはこの調子である。

 

オクト

「………あれ、正しい使い方ですか?」

 

ぼっち

「どうあがいても違うな。

そういうお前はちゃんと使えんのか?」

 

オクト

「もちろんです、プロですから。」ヒュンヒュンヒュン

 

ぼっち

「お前らの知能が同レベルなのはよくわかった。

というわけで二人とも片手細剣は不採用だ。」

 

オクト&脚竜

「えー。」

 

ぼっち

「黙ってねぇとレイピアで牙突すんぞ。

やろうと思えば出来るんだからな。」

 

オクト&脚竜

「はーい……って牙突出来んの?!」

 

~短剣~

 

ぼっち

「いいか、短剣の基本戦術はヒット&アウェイだ。」

 

オクト

「先生ー、どうしてヒット&アウェイが基軸なんですか?」

 

ぼっち

「いい質問だ。あとで俺の特別訓練を施してやろう。」

 

オクト

「なんでや………。」

 

ぼっち

「まず、あくまで俺の考えだから必ずしも正しいというわけではないことを覚えておけ。」

 

オクト

「珍しいですね、いつもなら『俺こそが正義だ』みたいなこと言ってるのに。」

 

脚竜

「理論が失敗したときの言い訳だろ。」

 

ぼっち

「よーし、今から座学やめて実戦に移りまーす。

死にたいやつから前に出てこーい。」

 

オクト&脚竜

「大変申し訳ございませんでした。」

m(;。_。)m

 

ぼっち

「よろしい、特別に座学を続けてやろう。

まず短剣というのは基本的な火力は少なめだ。

そして文字通り刃の部分が短いからリーチも狭い。

故に連擊を叩き込むにはかなり近づく必要がある。

だが、そんなことをボス戦でやっていたら確実に死ぬため、ステップ回避を利用したりして一撃叩いて逃げて近づいて叩いて逃げてを繰り返す必要がある。」

 

オクト

「先生ー、他に短剣のメリットとかお願いしまーす。」

 

ぼっち

「よろしい、後で君は処刑だオクト君。」

 

オクト

「だからなんでや。」

 

そんな理不尽な返答をしながらもぼっちさんは淡々と解説を続けた。

 

ぼっち

「脚竜、お前モンハンはやったことあるよな?」

 

どこかで聞いたことあるようなフレーズが聞こえた気がする。

 

脚竜

「当たり前だろ!最新作のVRハンティングアクションゲームだよな!」

 

オクト

「え、あんまり知らない……。」

 

俺がそう口にした瞬間、ぼっちさんと脚竜の顔が固まり、三秒間くらいそのままだった。

 

脚竜

「え?まさか知らないのお前……?」

 

オクト

「いや、友達と遊びでならちまっと……。」

 

ぼっち

「………片手剣を知ってるかお前?」

 

オクト

「いいえ、双剣しか使ってなかったから双剣以外はわからないですね。」

 

脚竜

「えぇ………。」(;´Д`)

 

ぼっち

「…………………嘘だろおい。」

 

ぼっちさんと脚竜は何故か頭を抱えたり、すごく残念そうな顔をしたりしている。

特にそんな顔になったりするようなこと言ったっけ……?

 

ぼっち

「はぁー、お前無いわー。マジで無いわー。」

 

脚竜

「モンハン知らないって単語通じんの小学生までだぞー。」

 

オクト

「んなこと言われたって知らないものは知らないし……。」

 

ぼっち&脚竜

「はぁ……。」(´・ω・`)ガッカリ…

 

なんか無性に腹が立ってきた。

なんでこんなことを言われなきゃいけないんだろう……。

 

ぼっち

「………まぁ、それはともかく続けるぞ。

片手剣は基本的な攻撃力は低い。

だがしかし、それを補う属性攻撃力や状態異常(デバフ)

の属性値が非常に高い。

故に俺はこの手の火力の低い武器は属性攻撃などに特化しているものと見ている。」

 

オクトは言われてみればと思い返すと、短剣のスキルはデバフ効果の高いスキルが多かった気がする。

もしぼっちさんの言うとおりなら短剣はサポーター向けだと思う。

 

ぼっち

「つまりはオクト、お前には短剣は向いていない。」

 

オクト

「いや、始める前からそんなこと言わないでくださいよ。」

 

ぼっち

「じゃ、お前短剣振ってみろ。」

 

俺は言われるままに短剣を振るった。

 

オクト

「はっ!てやぁ!そりゃぁっ!」

 

ぼっち

「…脚竜、オクトは使いこなせると思うか?」

 

脚竜

「無理ぢゃね。」

 

オクト

「え?なんでですか?」

 

俺は使いこなせないと言われて疑問に思った。

普通に使えているはずだからだ。

 

ぼっち

「……お前、振るの遅すぎ。」

 

オクト

「………はい?」

 

俺は言われたことがよくわからなかった。

え?振るのが遅すぎってどういうこと?

 

ぼっち

「………わかってないみたいだな。

脚竜、お前のサブウェポンなんだ、手本見せてやれ。」

 

脚竜

「あいあいさー。」

 

脚竜がそういうと武器を変え始めた。

……というか脚竜のサブウェポンが短剣なのもさっき初めて知った。

そんな事を考えているうちに脚竜は既に構えていた。

 

ぼっち

「見とけよ、これが短剣のあり方だ。」

 

脚竜

「……………………シッ!!」ヒュババババババ

 

………早っ!?

え?早っ!!あんなスピード出せるの!?

そんでなんかすごい手首の切り返しで軌道もきれいだったし………。

 

脚竜

「………うし、こんなもんかなぁー。」

 

ぼっち

「……まだまだ未熟だな愚弟。」

 

脚竜

「あ、やっぱり~?」(ダミ声)

 

ぼっち

「にゃん○ゅうの真似事してんじゃねぇ、それは俺の持ちネタだ。」

 

オクト

「あ、あれでも未熟なのか!?」

 

俺は思わず声に出していた。

あんな動きが出来るのにまだまだなんて到底思えないからだ。

 

脚竜

「おう、もっとすごいやつはさらに速いし、動きもすごいぞ~。」

 

ぼっち

「まぁ、俺達はその点は手を抜かないからな。」

 

確かに今までの事を考えてみると脚竜もぼっちさんも普段はだらけきってるけど一部の事に関しては絶対に手を抜かない事の方が多かった。

 

オクト

「………そうなんですか。」

 

ぼっち

「ちなみにお前の振るスピードはこんな感じだ。」

 

そう言われて見ていると、さっきの見比べたらまるでチーターとナマケモノが競争しているのを見ているような気分になった。

 

ぼっち

「……これでもやりたいと思うか?」

 

オクト

「思いませんけど一つだけ。Agiをほとんど上げさせないでタンクにしたのぼっちさんですよね?」

 

そう言うとぼっちさんはそっぽを向いてこっちを向かなかった。

 

オクト

「………こっち見ろオラァッ!!」ヽ(`Д´#)ノ

 

~両手棍~

 

ぼっち

「さてと、残るは片手棍だな。」

 

オクト

「いや待て待て待て待て待て。やってないのあるだろ。」

 

脚竜

「え?無いよな兄貴?」

 

ぼっち

「あぁ、お前に残されているのは片手棍だけだろ。」

 

オクト

「いや両手棍はどこ行ったんだよ!」

 

脚竜&ぼっち

「そんなのあるわけないじゃん。(すっとぼけ)」

 

オクト

「嘘つけぇぇッ!!お前ら俺をタンクにしたいだけだろ!」

 

俺は猛烈に抗議した。

やっぱりこの人は俺を盾にしようとしてたんだ!

俺は普通に前線に立ちたいのに!

 

オクト

(こいつら本当に人の苦労を知らないで………。)

 

???

「アンタ達なにしてんの?」

 

その声に振り向くと、俺はやっと何かに救われた気がした。

そう、ぶっちゃけてしまえば今すごく信頼できるこの人物、Yunさんだ。

 

オクト

「Yunさぁぁぁん!助けてくれ!

このブラック企業の上司と社畜チワワに武器を勝手に決められるー!!」

 

脚竜

「誰がチワワだこのやろぉぉぉ!!」

 

Yun

「あーもう、二人とも寄るな騒ぐな近寄るな!!

とりあえず落ち着いて話せ!

落ち着けないなら無理矢理落ち着かせっぞ!」

 

Yunさんのその発言で『攻略し隊』のメンツはクールダウンをし、深呼吸をした。

そして大分落ち着いたので事の経緯をぼっちが説明した。

 

Yun

「……それで、攻略の目処はたってないけどいつかのために武器を選んでいたわけね。」

 

オクト

「そうなんだよ!なのにこの二人は俺のメイン武器を完全にタンク仕様の片手棍にしようとしてるんだ!」

 

ぼっち

「はっ、それはお前が選んだ道だろ。」

 

脚竜

「いや、兄貴が騙して選ばせたんだろ。」

 

Yun

「はぁ……いい、オクト。

装備っていうのはね、この世界じゃ命に関わるものなのよ。

一つ一つの選択があるけど、少しでも間違えたら途端に危なくなる世界だからな。

確かにアンタにも選ぶ権利はあるわ。

けど、ぼっちや脚竜の言い分を聞いていた限りだと、アンタがまともに武器を使えていないからじゃない?

私がぼっちと同じ立場ならアンタにはアンタが扱いやすい武器を持たせるわね。」

 

オクト

「う………。」

 

やっぱりYunさんの言葉は一言一言が重いなぁ。

……どこかの悪魔とは違って。

 

Yun

「ま、こっから先は社畜チワワとブラック上司の不正が無いように私もアンタの武器の扱い方を見るわ。

でも、その分厳しく診断するけどね。」

 

オクト

「あ、ありがとうございますぅぅぅぅ!」

(´;ω;`)ブワッ!

 

Yun

(泣くほど嬉しくなるってどんだけひどい扱いしたのよコイツら………。

いや、脚竜は何も知らずに便乗してるだけだな。)

 

しばらくの間、どういう使い方をするのかを大悪魔ぼっちと大天使Yunに懇切丁寧に教えてもらった。

 

Yun

「そんじゃ、両手棍のテスト開始~。」

 

その掛け声とともにテストは始まるが、オクトはYunに言われたことを思い出していた。

 


 

Yun

『いいオクト?まぁ、こんなのとっても悪い言い方にはなるんだけどさ、せっかくこんな世界に来たんだから楽しめよ?

武器だってこれがいいっていうのは出てくるから。

まぁ、この武器楽しいっ!

……ていうのをぼっちにアピール出来ればぼっちも認めてくれるんじゃない?』

 


 

オクト

(……よし、こうなったら意地でもやってやる!)

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」

一心不乱に突っ込むボアに、俺も負けじと突っ込む。

そして、

 

オクト

「あァァァァァァァァぁ………」ゴロゴロゴロ

 

俺はボアに転がされ始めた。

しかし、俺は諦めない!

すぐに起き上がって、俺はこういう!

 

オクト

「両手棍楽しい!」

 

途中、ボアに突っ込まれ、また転がされる。

そして、その度に起き上がっては

『両手棍楽しい』の単語を言い続けた。

 

脚竜

「もういいもういい。

なんか、お前のその意地でも片手棍したくないのはわかった。

もうすげーよお前。」

 

ぼっち

「いい態度だ、感動的だな。だが不採用だ。」

 

Yun

「……ほんっとバカ。」

 

こうして、俺の両手棍大好きです作戦は大失敗に終わった。

 

~片手棍~

 

オクト

「………あのぼっちさん、ぶっちゃけこうなるのは想定内ですか?」

 

ぼっち

「想定外なことがあるとしたらお前が両手棍の時に無様な姿を見せたことくらいだな。」

 

オクト

(………やっぱりか。)

 

はなからおかしいと思ったんだ。

どうして初心者である俺に対してプレイヤースキルの高い二人がここまでしてくれるんだろうって。

たぶん、ぼっちさん自体が俺が盾にしたいのもあったけどそれを見越した上で色んな武器を使わせてたんだな。

 

オクト

「………また、騙された。」

 

ぼっち

「果たして本当にそうかな?片手棍がダメなら俺はお前には両手斧を使わせる気だ。

唯一まともに使えてた武器だからな。」

 

オクト

「………わかりました。それじゃ片手棍をつか………。」

 

ぼっち

「待てオクト。」

 

そこまで言った時にぼっちさんが乱入してきた。

そして、ホラよといって俺に渡したのは盾だった。

 

ぼっち

「片手棍のいいところを教えてやる。

片手棍は直剣もしくは短剣と同じく盾を装備出来ることだ。

そして、片手棍がタンク向け及び初心者向けであるのは理由がある。」

 

オクト

「ふむふむ………え?」メモ取り中

 

俺は驚いた。片手棍が初心者向けだと言ったことに。

 

ぼっち

「脚竜、モンハンは知ってるよな?」

 

脚竜

「その質問二回目だぞ兄貴。」

 

Yun

「よくやってたから知ってる。」

 

ぼっち

「おい見たか脚竜、あのオクトとかいう男は女であるYunよりもモンハンの事を知らないんだぜ。」

 

脚竜

「うわ恥ずかしい~。俺ならもう外出れないくらい恥ずかしい~。」

 

オクト

(こ、こいつらまだその事を言うか………。)

 

Yun

「……それで、話を続けてくれる?」

 

ぼっち

「あぁ、続けよう。

第一にモンハンのハンマーの動き方はどんなのだYun?」

 

Yun

「頭狙って殴って、怯んだり隙があれば溜めて重い一撃を頭にぶちこんで、スタンさせる。」

 

ぼっち

「正解だ。

これにより、ノートをとってるオクトにはもうわかったろう?」

 

オクト

「……全部単調な動きだ……。」

 

ぼっち

「そう、今回の片手棍もそれが言えるわけだ。

初心者で曲刀や弓、細剣を使うバカはそういない。

ま、脚竜の場合は例外だがな。」

 

確かによく考えてみれば、弓とかは扱いがそこそこ難しくて、慣れるまではあまり使わない方がいいって説明もあったな……。

 

ぼっち

「要するにだ、単調な動きであればいくらバカだろうと初心者だろうとそこそこの動きが出来るわけだ。

そして、俺はお前をタンクにしたいのには理由がある。」

 

オクト

「え、理由なんてあったんですか!?」

 

ぼっち

「バカヤロー、理由もなく俺がそんな事をすると思ってたのか?

俺はそこまで無計画じゃねぇ。愚弟じゃあるまいし。」

 

脚竜

「あんだとクソ兄貴!!」

 

ここに来て俺は初めてぼっちさんに対して凄いなと思った。

この人は事細かい事まで計算した上で武器を、そして役職を決めていたんだと。

 

ぼっち

「初心者であり、多少の脳筋プレイをするのは目に見えていた。ま、お前が双剣を使ってたって言った時点で確信に変わったがな。」

 

オクト

(だ、大分痛いところ突かれるな)

 

ぼっち

「そしてタンクというのはチームいや、今はギルドの要の一角だ。

それに対する責任感については自己責任だが、お前は『自分が死ぬと他の皆が死ぬ』と考えていただろ?」

 

オクト

「な、なんでそれを………。」

 

ぼっち

目を見たら分かるんだよ。

この際だから言っておくが、俺に下手な嘘は通じないし隠し事も通じねぇからな。まぁそれはどうでもいい。

んで、結果的にだ。

お前は生きることを考えるだろ?お前は愚弟に似ていて変なところで優しいからな。

だから、お前の生存率が大幅に上がる。

そして、俺達の盾でもあることから俺達の生存率も上がる。

そうなれば俺も脚竜も全力をもって暴れられる。

そうすればお前も戦う余裕が出てくるからギルドメンバー全員でボスモンスターをぶん殴れる。

俺はここまでのビジョンを見た上でお前にタンクを勤めて欲しいんだ。

………ま、大方は面倒事を押し付けるのが本当の目的だがな。」

 

俺は本当にこの人がすごいと思った。

前に脚竜から死ぬほど聞かされたが、『自称・天才』って言われているのも今なら分かる。

最後の一言さえなければ……。

 

オクト

「………今度こそ騙されたわけだ。」

 

ぼっち

「あぁ、はなからお前には片手棍以外を持たせる気はない。

俺達が生き残るためにな。」

 

Yun

「………なーんだ、私いらないじゃん。」

 

オクト

「あ、Yunさんも俺達のギルド入ってくr」

Yun

「ごめん、先約いるからパスで。」

 

オクト

「えぇー!!」

 

ぼっち

「………というわけだ、よろしくなギルドの守護者?」

 

オクト

「はぁ………。はいはい、片手棍を使ってやってやりますとも。」

 

俺は苦笑いを浮かべながらいつも通りの返事をした。

改めて俺は思った。

俺も、前線に立ってしっかりと戦ってるんだと……。

 

オクト

「………まぁ、これで俺の仕事も少しは楽に………。」

 

ぼっち

「何言ってんだ?お前の仕事は変わらん。継続するように。」

 

オクト

「どうしてこうなるんじゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

拝啓、リアルに置いてきた家族達へ。

ここから先もまだまだ苦労しそうです。

 

 


始まりの街

Yunは一人街の中を歩いていた。

彼女はある人物に頼まれている依頼の報告に向かっているのである。

 

Yun

(はぁ………心配だわ。地味にケンカ強い妹と生まれて間もない弟がいるのに……大丈夫なのかな……。いや、父さんと母さんがいるから大丈夫か。)

 

彼女がそんな事を考えている間に目的の場所に着いた。

その人物は彼女の親友の一人で、Yunをこの世界へと誘った張本人。

 

Yun

「よっす、お待たせー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゴ

「ずいぶんと遅かったナ、Yun。」

情報屋のアルゴである。

 




次回予告

アルゴ
「そういえばYun、今までどこに行ってたんダ?」

Yun
「んー?まぁ、暇潰しー。」

アルゴ
「まぁいいヤ。とにかくお仕事の報告のほう頼めるカ?」

Yun
「おーけー。」

次回、第七話~情報整理~


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第七話~情報整理~

どうも皆さん、お久しぶりです。
リアルが忙しすぎてハゲそうなWandarelです。
今回は少々短めでお送りさせていただいております。
何かとこの物語に関わってくる人間も登場しておりますので、どうぞお楽しみに。
そして、評価や感想、お待ちしております!

~追記~
第六話、並びに第七話の一部を修正しました。


始まりの街

 

アルゴ

「そんじゃ、報告頼むヨ。」

 

Yun

「はいはい。……えーっと、まずアルゴに言われた通りに黒鉄宮の生命の石碑を見てきたんだけどもうしばらくしたらこのゲームで死んだひとは1000人を越えそうよ。

まぁ、見た限りでは私が知ってるそこそこ有名だったゲーマーも死んでるからたぶんアルゴの言う通り、ベータテストの時とは色々と仕様とかが変わってるみたいね。

ま、私はベータテスターじゃないからそこまで詳しくはないけど。」

 

アルゴ

「やっぱりカ。妙な違和感自体は感じてたんだけどここまでだったとはナ………。」

 

私はアルゴとはリアルでの面識があり、こうして気軽に会話をしている。

まぁ、気軽に話してはいるけど内容はかなり重いけどね。

 

アルゴ

「そういえばYunが調査してる間に面白い奴らに会ったゾ。」

 

Yun

「へぇ、アンタに面白いと思わせる人間がいるなんて驚きね。」

 

アルゴ

「まぁ、そいつが凄くアホらしいことを言ったんダ。

この剣しかない世界に銃を使う奴が出るって言ったんだヨ。

まぁ大方オイラを騙して情報料をプラマイゼロにしようって魂胆だったろうけどナ。」

 

Yun

「ふーん、そんでそいつに何て言ったのよ?」

 

アルゴは少しにやつくと

 

アルゴ

「もし本当だったら500コルを2000倍にでもして返してやるって言ったヨ。」

 

Yun

「あーあ、本当に現れても知らないよ私ー。」

 

アルゴ

「大丈夫大丈夫、あり得るわけないからナ。」

 

Yun

「まぁ念のために多少貯金くらいはしておきなさいよ。」

 

アルゴ

「わかってるっテ。そこらへん、オネーサンは抜かりはないからナ。」

 

でも、こうしてアルゴと話している間だけはある意味リアルでやってたことと変わらない。

………そのはずなんだけどな……。

虚しさが心に響く………。

本当にここが死と隣り合わせの世界だということを理解したくもないのに理解してしまう……。

 

アルゴ

「……Yun、気持ちはわかるけどナ、オイラ達はもう後戻りは出来ないんダ。

『やれることはやり通す。』

Yunがリアルでよく言ってた言葉ダヨ。

それでいいじゃないカ?やれること、まだまだ一杯あるゾ。」

 

………全く、いい友達を持ったわね私も。

 

Yun

「あーい。」

 

Yunは大切な仲間がいることを改めて理解した。

そして、やるべきことはあるはずだと心の奥底で思った。

 

Yun

「んで、早速なんだけどやることはあるかしら?」

 

アルゴ

「うーん、何かあったカナ………、お、そうダ!」

 

アルゴは自分のストレージを漁り始め、そして何か紙のようなアイテムを取り出し、Yunに差し出した。

 

Yun

「………なにこれ?」

 

アルゴ

「アァ、これカ?これはオイラが可能な限りリサーチしてきたベータテスターのリストだナ。」

 

いつの間にそんなもんを作ってたんだコイツという考えは後ろの方にしまっておくとして、こんな人数をよくもリサーチ出来たなとは思った。

 

Yun

「んで、これがなんなのかは分かったんだけどこれの目的は何よ?」

 

アルゴ

「まぁあれダ。もうすぐオイラの作った攻略本を無料配布しようと思ってナ。」

 

Yun

「なるほど、その様子から察するにもうすぐな訳ね、

フロアボスの攻略。」

 

アルゴ

「その通り!んで、これの目的は………」

 

Yun

「あー言わなくていい。大体察したから。」

 

大体こういうことは察せるから最後まで言われる必要はない。

やることはもうわかった。

 

アルゴ

「ニャハハハ、やっぱりYunにはお見通しって訳カ。」

 

Yun

「そんじゃ、そっちに向けての準備もしなきゃね。」

 

アルゴ

「うん、頼んだヨ。」

 

Yun

「そういえばアンタ、攻略本一冊足りないけどどうしたの?」

 

アルゴ

「ん?アァ、それはな…………。」

 

 


 

ぼっち

「へくちッ!」

 

オクト

「……ぼっちさん中身はゲロ以下なのにくしゃみは可愛いんですね。」

 

ぼっち

「何を言うか、俺はいつでもどこでもプリティなイケメンだぞ?」

 

脚竜

「自信過剰ってこういうことなのかな?」

 

オクト

「そういえば今さらですけどいつの間にハイドスキルを手に入れたんですか?」

 

ぼっち

「ん?そりゃ一目見ただけで最高のスキルだって分かったんだからすぐさま手にいれるだろ。

例えばだが自分の欲しいゲームやフィギュア、カードなんか見たら欲しくなるしその為に努力をするだろう?

それと同じ理論だ。」

 

脚竜

「兄貴ー、質問の答えになってないよ。」

 

ぼっち

「仕方ないなー。まぁあれだ、オクトと会う前だ。」

 

脚竜&オクト

「結構早かった!!」

 

ぼっち

「まぁ寝る時間を惜しんで必死になって修行したからな。」

 

脚竜

「兄貴は努力の方向さえしっかりしてれば完璧なのにな………。」

 

オクト

「………全くだ。」

 

ぼっち

「………よし、最高に機嫌がいいから今日も修行逝くゾー。」

 

オクト

(………なぁ、脚竜、これぼっちさん怒ってる?)

 

脚竜

(………うん、キレてる。)

 

オクト&脚竜

/(^o^)\ナンテコッタイ

 


 

Yun

「売ったんだ……。その騙そうとしてきた相手に。」

 

アルゴ

「おう、やってやったゼ。」

 

…………これ、後々怒られてもなんとも言えないわね。

まぁ、無料配布する前に売ったアルゴもヤバイけども。

とはいえ、身近の人間じゃなくて良かったな。

あのぼっちさん(だったけ?)とかが騙されてるなんて考えられないし………。

 

Yun

「……まぁいっか。」

 

ぶっちゃけどうでもいいしめんどいし。

 

アルゴ

「Yun、そういえば今まで何してたんダ?」

 

Yun

「え?何が?」

 

私は思わずそう聞き返してしまった。

唐突に質問されたのにはちょっとビックリした。

 

アルゴ

「こっちに来るまで戦ったりしてたんだロ?

誰と組んでたんダ?」

 

アルゴはニヤニヤしながらそんなことを聞いてくる。

だけどあいにく………。

 

Yun

「アンタの期待には答えられないよ、ただのリアルの男友達二人とそのお兄さんだからね。」

 

アルゴ

「ちぇー、面白くないナー。

……んでそのプレイヤーの名前分かるカ?」

 

やけに食い付いてくるな……。と思いながらも私は思い出してみる。

割りとどーでもいいことは忘れちゃうから。

 

Yun

「えーっと、確か脚竜とオクトとぼっちってネームね。」

 

最後のぼっちさんの名前を言った瞬間、アルゴの表情が固まった。

 

Yun

「…?どしたのアルゴ?」

 

アルゴ

「え……あ、いやなんでもナイ!」

 

怪しい………ん?待てよ?ぼっちさんの名前を言った時に表情固まったよね………。

 

Yun

「…………まさかアンタ。」

 

アルゴ

「………………。」メソラシ

 

Yun

(マジか……よりによってあの人か………。)

 

私はあの人ならそんな簡単に騙されないと思っていたし、ましてや騙されてる人が身内だったことに衝撃を受けた。

……まぁどうでもいいけども。

 

Yun

「まぁ、武器を選んで役割分担もしていたからそろそろ本格的に攻略に行くみたいよ、あの三人は。」

 

アルゴ

「ん?あの三人攻略に行くのカ?」

 

Yun

「え、まぁそうだけどどうしたの?」

 

アルゴ

「………こりゃ一波乱起きそうだナ。」

 

Yun

「………いまいち言ってる意味がわかんないけど、ととりあえず報酬の支払いよろしく。」

 

アルゴ

「ナーンダ、やっぱり気づいてたカ。」

 

Yun

「なんとなくアンタがやりそうな気がしたのよ。」

 

アルゴ

「はいよ、まぁまたおつかいを頼むんだけどナ。

ニャハハハ。」

 

Yun

「はいはい。」

 

この猫のようなネズミの扱いにはもう慣れたわ。

さてと、私も行くか。

もうしばらくしたら来るからね。

 

 

 

攻略会議がね………。

 

 

 


 

~始まりの街・酒場付近の宿屋にて~

 

???

「……ほい、情報の整理はこれで終了だね。」

 

???

「あぁ、ご苦労様。」

 

???

「んー、にしても見つからないなぁターゲット。」

 

???

「そんな簡単に見つかるわけがないだろう。

仮にも一万人も人が入ってるんだ、そんなポンと出るもんじゃねぇよ。」

 

???

「それで、一層のフロアボス攻略には行かないの?」

 

???

「あぁ、残念ながら行きたくても行けないしな。」

 

???

「ふーん、そう言ってる割には今すぐにでも人を殺したくてうずうずしてるんじゃない、お・に・い・ち・ゃ・ん?」

 

???

「はぁ………、妹といっても俺達は双子だろう。

それにそういうお前こそ疼いているんじゃないか?」

 

???

「そりゃそうでしょ。だって僕のたった一人の婚約者(フィアンセ)なんだよ?

彼は僕に愛を与えてくれたんだから僕がそれに答えなくちゃ………あぁ、彼のことを思うだけでゾクゾクしちゃう………。」

 

???

「ふっ、ずいぶんと狂った愛だな。」

 

???

「アンタの狂った価値観と一緒にしないでくれない?

なんで人を殺すのに自分の手を下す必要があるのよ?」

 

???

「怯えている相手の首をかっ切ることほど楽しいことは無いと思うが………、逆に聞くがなぜお前は人を殺すのにそんな小賢しい手を使うんだ?

俺には全く理解できんな。」

 

???

「わかってないなぁ……、バカが自ら死にに行く様を見て遊ぶのが面白いんだって。」

 

???

「とはいえ、俺達はボス……いや、父さんからの依頼をこなさないといけないからな。

俺も自制はするが、遊ぶのは二の次だ。」

 

???

「あぁ、将悟……。

今は会えないけど待っててね、必ず迎えに行くから………フフフ………。」

 

???

「はぁ、分かってなさそうだな。」

(……まぁ、気持ちは分からんでもない。

さてと、このゲームで何人死ぬのか楽しみだな………ククク………。)

 

闇は知らぬ間に動き始めるもの。

この二つの闇を見抜けるものはまだいない……。

 




次回予告(?)

ぼっち
「さてと、これから俺達はあれに向かうぞ。」

脚竜
「あれって何?」

ぼっち
「ん?それは言えないんだよ。」

オクト
「え?それって皆おまちかねの攻略k………(殴ry

ぼっち
「とにかくだ、俺たちも向かうぞ。」

オクト&脚竜
「おー!!」

次回、第八話~攻略会議~


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第八話~会議の時に限って何故か眠くなる~

どうも皆さん、明けましておめでとうございます。
作者のwandarelです。
投稿が遅くなった理由は仕事の量がえげつないことになり、執筆する時間がほとんど確保出来なかったからです。
待っていた皆さん、本当に申し訳ございません!
こんな感じでかなり仕事のペースが不定期なので、突然パッと投稿するときもあれば、何ヵ月経っても投稿してないときがあると思いますがよろしくお願いします。
もちろん、感想や評価もガンガンお願いします!
では、皆様、今日も明日もワンダフルな1日を!


~第一層フィールド~

例によって攻略し隊のメンツはレベリングと連携訓練を行っていた。

 

ぼっち

「すまん、愚弟。そっちに敵行ったわ。」

 

脚竜

「いやいやいやいや!そんな軽く済ませんな!

俺が防御脆いの知ってんだろ!!」

 

脚竜はそう叫びながら逃げ始める。

肝心のオクトはというと。

 

オクト

「あ、ポーション切れてる……。

買いにいってきますね。」

 

と三十分前に行ってきてそれ以降帰ってきてないのである。

 

脚竜

「第一に兄貴はバカなんじゃねぇのか!!

今の俺達はタンク無いとやばいんだって!」

 

ぼっち

「知らん。あいつが逃げたんならそれでいいんじゃねぇの?

あとで血祭りにあげるだけだから。」

 

脚竜

「某有名バトル漫画のブロッコリーみたいな声出してんじゃねぇ!」

 

ツッコミながらも脚竜は必死になって敵を迎撃した。

 

脚竜

「はぁ………はぁ………、精神的に疲れた……。」

 

ぼっち

「お疲れー。」

 

脚竜

「呑気でいいなオメーはよ!」

 

まさかオクトがいないだけでここまでしんどいとは思わなかった。

改めてオクトというの存在にありがたみを………。

 

オクト

「誰が盾だコノヤロー。」ゴッ

 

突然現れたオクトに後頭部をぶん殴られダメージはほとんどないが衝撃が頭に響く。

 

脚竜

「イテテ……なんだよ帰ってきてたのかよ。」

 

オクト

「んじゃもう少し買い物してk……」

 

脚竜

「待って待って悪かった!言い方が悪かったから!」

 

貴重なタンク役をここで手放すわけにはいかない!

もしかしたら俺達は既にオクトに依存してるのではと俺は思い始めた。

 

オクト

「あ、そうだ脚竜。はいこれ。」

 

オクトがアイテムトレードでインベントリに移してきた。

 

脚竜

「……ん?なにこれ?」

 

見てみると本(?)のようなアイテムだった。

でもこれどこかで見たような………。

 

オクト

「あぁ、それアルゴさんの攻略本だよ。

無料配布されてたからもらってきた。」

 

この言葉にある男がピクッと反応した。

 

ぼっち

「おい待て。それ無料配布されてんのか?」

 

オクト

「え?まぁそうですけど。」

 

ぼっち

「……………クソが。」

 

珍しく兄貴が頭を抱えている。

よっぽどの事がないとこんなことにはならないはずなんだけど………。

 

オクト

「まぁ、俺はアルゴさんから無料配布されること聞いてたから貰いませんでしたけど。」

 

ぼっち

「……は?いや、なんでそういうことは早めに報告しないの?」

 

その質問を兄貴がした瞬間、待っていましたと言わんばかりにオクトがニッコリ笑って

 

オクト

聞かれませんでしたから。

 

と言い放った。

 

ぼっち

「クァァァァッ!!」

 

兄貴がオクトごときに負けた瞬間である。

貴重だから写真撮っときたいなぁ………。

そんなことを考えていたが、俺はあることを思い出した。

 

脚竜

「そーいえばオクトに兄貴よ、俺達もうそろそろこのゲームに囚われてから1ヶ月くらい経つからさ、1ヶ月生存記念パーティーしようぜ。」

 

オクト

「脚竜、そんなブラックジョークはやめてくれ。」

 

ぼっち

「回りくどいな、何が言いたい愚弟?」

 

脚竜

「もうそろそろさ、俺達もこのゲームに囚われて1ヶ月。

それでもなんの進展も無いんだぜ?」

 

ぼっち

「だからどうした?」

 

脚竜

「いやなんというかな……本当に俺達はこのゲームをクリア出来るのかなって思ってな。」

 

オクトはとても驚いた。

普段から明るく、文句は言うが泣き言を言わない脚竜がそんな事を言ったからである。

もちろん、オクトもその事を考えていたからこそ、心底驚いていた。

対称的にぼっちはひどく冷静に見えた。

 

ぼっち

「………言いたいことはそれだけか愚弟?」

 

脚竜

「……あと、生き残れるかどうかもかな?」

 

こんなに弱気な脚竜を見るのは初めてだった。

普段はどんな無茶でも脚竜の溢れんばかりのポジティブシンキングで無理矢理突破するような、それこそ太陽と言っても過言ではないほど明るい人格をしている脚竜をここまで追い込んでいるこの状況を再確認することになった。

 

ぼっち

「……んなこと考えてるのかお前は。

だからお前はアホなんだっつの。」

 

ぼっちから出た言葉も衝撃的だった。

 

ぼっち

「第一な、その考え方はやめろ。

俺達は生き残れるかどうかとかクリア出来るのかどうかとかじゃねぇよ。

俺達プレイヤーは生き残るし、クリアする。

それ以上もそれ以下もない。

確かに何人かは死ぬかもしれんし、もうかなりの人数が死んでるかもしれんがな、初っぱなからネガティブになってんじゃねぇよ愚弟。

全員無事脱出が理想だが、世の中……いや、このゲームは甘くはねぇ。

例え犠牲が出ようと俺達プレイヤーはクリアしなくちゃいけないんだよ。

待っている家族の為にもな。」

 

いつも通り言葉は暴力的だったが、ぼっちの眼には絶対に生きて帰る意思と覚悟があった。

 

脚竜

「……そっか、ごめん兄貴。」

 

ぼっち

「分かればいいんだよバカが。」

 

そんな感動的なシーンは見れたが、脚竜の言ってることも間違っていない。

攻略本が配布されたのなら近いうちに第一層の攻略に向かうと思う。

 

ぼっち

「さてと、お前ら行くぞ。

『攻略会議』にな。」

 

脚竜&オクト

「おー!!」

 

俺達はまたゲームクリアに向かって歩く。

少しでもいい、一歩ずつゆっくりと歩いていく。

兄貴の言うとおり、最後に勝つのは俺達ゲームプレイヤーなんだからな!

そんな事を思いながら攻略し隊は攻略会議へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………はずだった。

 

ぼっち

「……なぁお前ら。」

 

脚竜&オクト

「??」

 

しばらく歩いてたら兄貴が振り向いてこう聞いてきた。

 

ぼっち

「………攻略会議ってどこでやってんの?」

 

脚竜&オクト

「……………………。」(゜Д゜)

 

脚竜&オクト

「ハァァァァァァァァァァ!?」

 

オクト

「いやアンタまさか場所知らないのに行くつもりだったの!?」

 

ぼっち

「おいさりげなく敬語が無くなってんぞ殺すぞ?」

 

脚竜

「バカだろ!お前絶対にバカだろ!俺でもしないわそんなしょうもないリサーチミスなんて!」

 

ぼっち

「お前、弟の分際でなに俺にバカなんて言ってんだ殺すぞ?」

 

脚竜&オクト

「うるせぇ!」

 

ぼっち

「よーしわかったじゃあ攻略会議に行く前にこの俺様が直々に特殊訓練を実施しよう。

お前ら死ぬ準備は出来てるな?」

 

脚竜&オクト

「先程の無礼、大変申し訳ございませんでした!」

 

ぼっち

「わかればよろしい。

んじゃ行くぞ。」

 

脚竜

「情報無いのにどうやって行くんだよ。」

 

ぼっち

「安心しろ、俺の野性の勘はよく当たるからな。」

 

オクト

「ほんとかなぁ………。」

 

………やっぱりこの先不安です。

 

 

 

 

 

 

 

~トールバーナ~

現在一層の中間地点と言っても過言ではないこの場所で攻略会議が行われようとしていた。

このゲームに囚われて早くも1ヶ月。

しかし、未だにボスの攻略に向かえておらず、現状一切の進展がない。

故にこうして様々な実力のあるプレイヤーが集まり、この一層のボスの攻略を模索し、そしてクリアへの一歩を踏み出す。

 

Yun

(………っていった感じかな。)

 

今、彼女が待ちに待っていた攻略会議はそこそこ順調そうだった。

予定時刻より5分は過ぎているがそれでもそこそこの賑わいがある。

時間にもそこそこルーズなようだ。

 

Yun

(人数は大体四十人位か………)

 

見ただけでも大体はわかるが、やはりこの一層においてはかなり高レベルの人間が多い。

そして武器もまぁ一層ではかなり強い方の武器も多く持っている。

とはいえ、ベータテスターがこの中にいるのは紛れもない事実だ。

しばらく前にアルゴから聞いた話では、『テスター狩り』などということをしているプレイヤーもいるらしく、例えVRの世界でも現実世界でも、差別や下らないことでの争いは避けれないのだろうかとつくづく思う。

 

Yun

(まぁ、大抵はベータテスターが自分の利益だけで動いて狩場を真っ先に取りにいって他の何も知らない初心者プレイヤーを見捨てたっていう勝手な見解からそう言われてるんだろうなぁ………。)

 

Yun

(たぶん、この会議の最中にそういうことを言うやつもいるだろうなぁ。)

 

そんな事を考えたいたらいつの間にか現れた青髪の青年が広場の中央にいた。

たぶん、攻略会議が始まるのだろう。

ここからはアルゴに頼まれた仕事を始めることにしよう。

 

Yun

「さてと………この会議、どうなるかな………。」

 

 

???

「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!

みんな、もうちょっと前に……そこ、あと三歩こっち来ようか!」

 

かなり堂々としている喋りの主は長身の各所に金属防具を煌めかせた片手剣使い(ソードマン)だった。

ある程度の事は友人のアルゴから聞いてはいたが、助走なしで広場中央にある噴水の縁に飛び乗るほどの高ステータスの持ち主であることはわかった。

さらに髪の色も変えているということは、かなりの実力があるとYunは密かに思った。

 

ディアベル

「今日はオレの呼び掛けに応じてくれてありがとう!

知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!

オレは『ディアベル』、職業は気持ち的に『ナイト』やってます!」

 

すると、噴水近くの一団かどっと沸き、口笛などに混じって

『ほんとは〔勇者〕って言いてーんだろ!』

という言葉が聞こえた。

これだけでも、このディアベルという人間がどれ程の信用を得ているのかがよくわかる。

 

Yun

(ふむ、学校でいう学級委員タイプね。

常に率先して誰かを引っ張り、人のために動けるやつ。)

 

そう考えながら、Yunはメモ代わりに使っている紙に記録をし始めた。

 

ディアベル

「さて、こうして最前線で活動してる、いわばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど………」

 

ディアベルがここまで言ったところで少しバタバタと慌てて走ってくる音が聞こえ、集まりの端っこにどことなく見覚えのある三人の男がぜぇぜぇと息切れしていた。

 

オクト

すみません!お………ぐぇっ?!」

 

見覚えのある男その1のオクトが何かを言おうと大声で叫ぼうとして、となりの見覚えのある友人に騙された男が首を絞め、言葉を無理矢理止めさせた。

そして、その男は申し訳なさそうに

 

ぼっち

「すみません、こいつバカなんで、あはは……。」

 

と苦笑いした。

気になるので少しだけフラりとその三人、『攻略し隊』の三人にYunは気づかれないくらいの距離まで近づいていった。

 

オクト

「ちょっと何するんですかぼっちさん!」

 

ぼっち

「うるせぇ、大声で叫んで恥ずかしく思わないのか!!」

 

オクト

「でも遅れたならその事の報告を…………」

 

脚竜

「オクト、ここは学校じゃねぇんだからべつにいいだろ。」

 

オクト

「でも………。」

 

ぼっち

「でももくそもあるか、今回に限ってはお前が反論する事は許さん。」

 

オクト

「遅れたのぼっちさんのせいなのに。」ボソッ

 

ぼっち

「ほほう、いい度胸だなオクト、俺は今あそこにいる『鼠』相手にイライラしててなぁ、機嫌悪いんだわ。

死にたくなければ黙ってろ。」

 

オクト

「……ひどいよ……こんなの、あんまりだよ………。」

 

ぼっち&脚竜

「「うるせぇ黙れ。」」

 

オクト

「」(´・ω・`)ショボン

 

毎度毎度思うが、オクトがあまりにも不憫なことが多い気がする。

 

ディアベル

「……よし、それじゃ話を続けようか!」

 

攻略し隊の奇襲(笑)で途切れてしまったディアベルの話がようやく始まるようだ。

 

ディアベル

「今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。

つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。

第一層の………ボス部屋に!」

 

その言葉を引き金に、プレイヤーがざわめく。

さすがにアルゴから情報をある程度はもらってたけど、第一層迷宮区は二十階建てで、もうすでにそんなところまでマッピングされているとはビックリした。

 

ディアベル

「一ヶ月、ここまで一ヶ月もかかったけど……それでもオレたちは、示さなきゃならない。

ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。

それが今この場所にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

再びの喝采、まぁ、言っていることは本当に誰かを導く姿は、かの指導者リンカーンほどではないにしよ、あの状況をここまで改善できるほどに非の打ち所がない発言だった。

無論、攻略し隊の連中も(一人過剰なリアクションをしてるやつがいるが)拍手を送っていた。

 

???

「ちょお待ってんか、ナイトはん。」

 

そんな声が低く流れ、歓声がピタリと止んだ。

そして、まるでサボテンのような頭をした男はディアベルの美声とは正反対の濁声で唸った。

 

???

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな。」

 

ディアベル

「こいつっていうのは何かな?

まぁ何にせよ、意見は大歓迎さ。

でも発言するなら一応名乗ってもらいたいな。」

 

フン、とサボテン頭が鼻を鳴らし、一歩、二歩と進み出て、噴水の前まで達したところでこちらに振り向いた。

 

キバオウ

「わいは『キバオウ』ってもんや。」

 

キバオウという男がそう言った時、近くにいた攻略し隊の連中がなにやらヒソヒソと話していた。

 

脚竜

(なぁ兄貴、あの髪型ってどう見てもモンハンのスパイクハンマーだよね?)ヒソヒソ

 

ぼっち

(いや、違うな。あれはドラクエのとげぼうず…いや、ばくだんベビーだな。)ヒソヒソ

 

オクト

(ちょっと!聞こえますよ!)ヒソヒソ

 

脚竜

(うーん、ドラクエならモーニングスターじゃないあれ?)ヒソヒソ

 

ぼっち

(愚弟にしてはいいセンスだな。)ヒソヒソ

 

オクト

(だから聞こえるからやめましょうよ!あとでなに言われても俺は知りませんよ!)ヒソヒソ

 

ぼっち&脚竜

(あぁ、そんときは全部お前のせいにするから安心しろ。)ヒソヒソ

 

オクト

(オイコラ。)ヒソヒソ

 

そのやりとりに思わず笑いそうになったが、今の私にはちょっとした仕事があるため、そこら辺で攻略し隊とは距離を置いた。

 

その後、キバオウは鋭く光る両目で広場の全プレイヤーを睥睨し、さらにドスの利いた声で言った。

 

キバオウ

「こん中に、五人か十人、ワビィ入れなあかん奴らがおるはずや。」

 

ディアベル

「詫び?誰にだい?」

 

ディアベルはそう聞き直したが、キバオウはそちらを見ることもなく、憎々しげに吐き捨てた。

 

キバオウ

「はっ、決まっとるやろ。今まで死んでいった二千人に、や。

奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人も死んでしもたんや!せやろが!!」

 

ここに来てまた攻略し隊の連中がヒソヒソし始めたので再び私は近づいてみた。

 

脚竜

(なーんか感じ悪いなあのスパイクハンマー。)ヒソヒソ

 

ぼっち

(まぁ、あのとげぼうずの言いたいことは分からんでもないな。)ヒソヒソ

 

オクト

(……でも、もう少し言い方があるんじゃないんでしょうか………。

あんなきっぱり拒絶した言い方しなくてもいいのにモーニn……キバオウさんも。)ヒソヒソ

 

正直、私もオクトの言ったことには賛同したいし、そうだとも思う。(あと地味に名前間違えそうになってたなアイツ。)

しかし、『テスターが悪』だという認識が少しでも存在する以上、それ以前の問題である。

現状の私たちではどうしようも無いことは事実。

その証拠にその手の事に正論を叩きつけるタイプのぼっちさんが(脚竜談)ほとんど何も言っていない。

あの人も状況を判断した上で黙っているのだろう。

 

ディアベル

「キバオウさん。君の言う『奴ら』とはつまり……元ベータテスターの人たちのこと、かな?」

 

さすがのディアベルも厳しい表情で確認した。

 

キバオウ

「決まっとるやろ」

 

キバオウは背後の騎士を一瞥してから続けた。

 

キバオウ

「ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。

右も左も判らん九千何百人のビギナーを見捨てて、な。

奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや。

………こん中にもちょっとはおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが。

そいつらに土下座さして、貯め込んだ金やアイテムをこん作戦のために軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし預かれんと、わいはそう言うとるんや!」

 

ここまで言われるとさすがの攻略し隊ですらも黙りこんだ。

無論、ベータテスターではない私もそれは同じ事だった。

しかし、キバオウの考えは半分正解で半分が不正解である。

彼はいかにもベータテスターが全く死んでないと勘違いしてるようだが、これについては私も統計を取ってる。

(まあ、これもアルゴに頼まれた事だし、誰にこの情報を売ったのかもしらないけど。)

そして、私の計算が間違いでなければ、現在までの死者二千人のうち、新規参加プレイヤーは約千七百人、そして、それを割合に直すと、新規プレイヤー死亡率がだいたい十八パーセント。そして、元テスターの死亡率は四十パーセント近くになる。

理由は単純明快、ベータテストの時と同じだと考え、その差異がピンポイントに突き刺さる、すなわち慢心。

たぶん、同じMMOゲームだと思って、引くべきポイントを間違えたんだろう。

もしかしたら、私自身もそうなってたかもしれないし。

Yunがそこまで考えた時、手が上がるのが見えた。

 

ディアベル

「ん?君も発言かい?」

 

???

「あぁ、発言の許可を貰えるか?」

 

ディアベル

「いいよ、君の名前は?」

 

ぼっち

「俺の名前は『ぼっち』だ。まぁ見ての通り三流プレイヤーだな。」

 

ぼっちが発言することを聞いた途端、回りからヒソヒソと声が聞こえてきはじめた。

 

ぼっち

「そして、俺はキバオウさんの言っていることは正しいと思っている。

そりゃ、ベテランの人間がビギナーを見捨てていくなんて非道極まりないだろうからな。」

 

そう言った時、遠くにいたキリト(?)とかいうプレイヤーの顔が少しだけ曇ったのが見えた気がする。

 

ぼっち

「実際に苦労してるのはいつも俺達ビギナーだ。もちろん、死人が多いのもな。

そうだろ、キバオウさん?」

 

キバオウ

「せや!あいつらがビギナーを見捨てずにちゃんとしとったら死ぬはずのなかった人間もおるは…………」

 

ぼっちがまぁまぁまぁ、とキバオウの話を手で遮って言った言葉は衝撃的だった。

 

ぼっち

「しかし、それはそれ、これはこれだ。

俺が言いたいのはな、努力もしない奴らも悪いということだ。」

 

キバオウ

「な、なんやと!」

 

キバオウや他のプレイヤーもどよめいた。

しかし、ぼっちはそれでも己の話を続けた。

 

ぼっち

「確かにベータテスターの連中は一部の奴らはクソだ。アンタの言うとおり、非道極まりないね。

だがな、その事を踏まえたとしても俺はやはりベータテスターを嫌う連中が努力する気もなく、ベータテスターから装備、金を巻き上げて攻略の足を引っ張るただのバカな猿にしか………いや、いかん、それでは猿に失礼だな、猿以下にしか見えんな。

考えればわかる事だろう?強くなるためにはその分学び、努力する必要がある。

それを怠ったくせにやれテスター上がりが悪だのそんな事を抜かして迷惑かけるだけなら今すぐここで踵を返してさっさと一層の街で引きこもってろっていう話だよ。

わかったか、スパイクハンマーさん?」

 

その瞬間、隣にいた脚竜が吹き出した。

さらに隣のオクトも笑いをこらえるのに必死だった。

 

キバオウ

「そうそう、モンハンでも最初の内は切れ味が良くてビギナーにも使い勝手のええ武器………って、誰がスパイクハンマーや!ワイの名前はキバオウやっ!!」

 

なんとキバオウは清々しいほどに綺麗なノリツッコミを披露してくれた。

というかこの人もモンハン知ってるんだ。結構意外ね。

 

ぼっち

「あーすまん、間違えたわ、とげぼうずさん。」

 

ここで私も含めて会場の皆が少しずつ笑いが増えてきた。

まさかのドラクエ5における初期モンスターの一角だ。

知っている人も多いだろう。

 

キバオウ

「何がとげぼうずや!さっきも言うたがワイの名前はキバオウやっていいよるやろうが!」

 

ぼっち

「あ、ごめんなさい、モーニングスター。」

 

ここまで来るとさすがに私やアルゴも含めて会場が爆笑の嵐だった。

先ほどまであったさん付けも無くなり、もはや敬意というものが一切感じられなかった。

ぼっちはあえて自分が悪人として、人の名前をわざと間違うことで話をある程度反らしつつ、会場の流れを変えていった。

その辺りを含めると脚竜の言うとおり、あのぼっちという男が天才だということを改めて理解出来た。

 

キバオウ

「も、モーニングスター………、ほやから!さっきから!ワイの名前は!キバオウやって言うとるやろうが!!」

 

さすがにキバオウですらもキレた。

しかし………。

 

Yun

(スパイクハンマーに引き続き、モーニングスター………プフッ………。)

 

私も既に笑いを堪えるのに必死だった。

そんな笑いの空気を遮るように会場で一人の男の手が上がった。そして、遠巻きに見えたが、アルゴが抜け出しているのが見えた。

 

???

「発言、いいか?」

 

人垣の端からぬうっと進み出るシルエットがあった。

とても身長が高く、百九十くらいはあるだろう。

肌はチョコレート色であることから、たぶん日本人とはまた違う人種の人なのかもしれない。

ぼっちはいつの間にか元の位置に戻り、座っていた。

キバオウと同じく噴水の前まで進み出た筋骨隆々たる巨漢は、四十数人のプレイヤーに軽く頭を下げると、猛烈な身長差のあるスパイク………キバオウに向き直った。

 

エギル

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪、賠償しろ、ということだな?」

 

キバオウ

「そ、そうや。」

 

一瞬気圧されたように足を引きかけたキバオウだが、すぐに前傾姿勢に戻し、爛々と光る小さな眼てエギルと名乗る斧使いを睨み付け、叫んだ。

 

キバオウ

「さっきの男にも言うたかもやけどあいつらが見捨てへんかったら、死なずに済んだ二千人や!しかもただの二千ちゃうで、ほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ!アホテスター連中が、ちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃ここにはこの十倍の人数が……ちゃう、今頃は二層やら三層まで突破できとったに違いないんや!!」

 

Yun

(まあ、残念だけどその二千人のうちの三百人はあなたの言うアホテスターなんだけどね、キバオウさん。)

 

私はそんな事を考えていたが、もちろんこの事を知っているからである。

ま、吊し上げが怖くて名乗れないベータテスターがいると思うし、反論してもこの状況のプラスにはならないだろうしね。

 

エギル

「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ。」

 

エギルが見事なバリトンで応じた。

彼のはち切れんばかりの筋肉を覆うレザーアーマーの腰につけた大型ポーチから、羊皮紙を綴じた簡易な本アイテムを取り出す。

もちろん、私は見たことのある代物だ。

 

エギル

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。

ホルンカやメダイの道具屋で無料配布してるんだからな。」

 

そう、あれはアルゴが作ったガイドブック。

しばらく前に無料配布を開始してた………ん?

なんか、向こうからすごい殺気がするわね。

 

ぼっち

(あのクソネズミ……………。)ニブニブニブニブニブ

 

脚竜

(あ、兄貴落ち着いて………。)

 

オクト

(ぼっちさん怖い。)

 

キバオウ

「貰たで。それが何や。」

 

エギル

「このガイドは、俺が新しい街や村に着くと、必ず道具屋に置いてあった。あんたもそうだったろ。情報が早すぎる、とは思わなかったのかい?」

 

キバオウ

「せやから早かったら何やっちゅうんや!」

 

エギル

「こいつに載ってるモンスターやマップのデータを情報屋に提供したのは、元ベータテスター達以外にはあり得ないって事だ。」

 

Yun

(……まぁ、情報の回収は私が勤めたんだけどね。)

 

プレイヤー達がざわめき、キバオウがぐっと口を閉じた。

そして、その背後で騎士(ナイト)ディアベルがなるほどとばかりに頷いた。

 

エギル

「いいか、情報はあったんだ。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その理由は、彼らがベテランのMMOプレイヤーだったからだと俺は考えている。

このSAOを他のタイトルと同じ物差しで計り、引くべきポイントを見誤った。

だが今は、その責任を追及してる場合じゃないだろ。

俺達自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されると、俺は思っているだがな。」

 

エギルの見事な演説っぷりに私も思わず拍手をしそうになった。

この人も私と同じ考えに至ったわけだ。

そして、ディアベルが夕日を受け、紫色に染まりつつある長髪を揺らして、もう一度頷いた。

 

ディアベル

「キバオウさん、君の言う事も理解は出来るよ。

俺だって右も左も解らないフィールドを何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだからさ。

でも、そこのエギルさんの言うとおり、今は前を見るべき時だろ?元ベータテスターだって……いや、元テスターだからこそ、その戦力はボス攻略の為に必要なものなんだ。彼らを排除して、結果攻略が失敗したら、何の意味もないじゃないか。」

 

さすがはナイトを自称するだけはある。

聴衆も深く頷いているのが何人かはいた。むろん、そのなかに攻略し隊も入っている。

(相変わらずオーバーリアクションの奴が一人いるけど。)

 

ディアベル

「みんなそれぞれ思うところはあるだろうけど、今だけはこの第一層を突破する為に力を合わせて欲しい。

どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ。

ボス戦では、チームワークが何より大事だからさ。」

 

キバオウ

「……ふん、ええわ、ここはあんさんに従うといたる。でもな、ボス戦が終わったら、キッチリ白黒つけさせてもらうで。」

 

そう言うとキバオウさんはスケイルメイルをじゃらじゃら鳴らしながら集団の前列に引っ込んだ。

エギルさんも同じく、元居た場所まで下がった。

結局のところ、会議らしい会議はなく、騎士ディアベルのこの上なく前向きなかけ声と、それに応じる参加者の盛大な雄叫びで締めくくられた。

そして、ディアベルの「解散」の声が響き、仮の攻略会議は終わった。

そして、私はその事を記入し終わり、帰ろうかと腰を上げたときに、聞き覚えのある声が何故か走ってきた。

 

オクト

「はぁ……はぁ……よかった、Yunさんも居たんだ。」

 

Yun

「うん、まあね。んで、どうしたのよそんなに急いで?」

 

オクト

「じ、実は、少しだけパラメーターが余ってるんだけど何か良い割り振りないかなって?」

 

どうやら私に余りのパラメーターの割り振りを聞きに来たみたいだ。

………正直面倒だから、

 

Yun

「AGIでも上げといたらいいんじゃない?」

 

そう言った途端、オクトは素早くメニューをだし、パラメーターを割り振った。

 

オクト

「ありがと、Yunさん!」

 

ぼっち

「おーい盾ー!置いてくぞー!」

 

オクト

「はいはい、今行きますよー!」

 

そう言ってオクトは走っていった。

いつも思うけど、アイツは本当に行動力がすごいわ。

 

Yun

「………さーてと、私も帰ろっかな。」

 

この会議で動いたのはやはりキバオウなどのベータテスターアンチ、そしてベータテスター。

あの会場にいたベータテスターは私とアルゴで集めた情報が正しければ6人。

Yunが開いたノートの端には独自で調べたベータテスターの名前が載ってある。

そのうち三人は名前がわからないけど、残り三人は知っている。

一人はディアベル、そして残り二人は…………。

 

 

Yun

「まさかベータテスターだったなんてね。正直私ですらも驚いたし、上手く隠してたわ。」

 

そのページには、

 

 

 

 

 

ぼっちと脚竜の文字が書かれていた。




次回予告(?)
オクト
「とうとう俺達『攻略し隊』の出番だ。
これから本当にボスを攻略しに行くと思うとすごくドキドキする。
今までの経験を生かせば絶対に勝てるはずだ!!
え?チーム作らないといけないの?
あぁ、オワタ/(^o^)\
次回、ソードアートオンラインジェノサイドメモリアル第九話~攻略会議後編~。
本当に大丈夫かなこれ。」

ぼっち
「……なぁオクト、いつも思うんだがいいか?」

オクト
「なんですか?」

ぼっち
「……なんで誰もいない方向に向かって喋ってるんだ?
正直気味悪い。」

オクト
「メメタァ。」

~To Be Continued~


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第⑨話~攻略会議後編~

どうも皆さんお久しぶりでございます、作者のwandarelです。今回もいろんな意味でカオスを込めております。
それと友人に『読み辛ぇ!』と言われたのでショックを受けつつも書き方を変更しました。
まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします。
~追記~
第十話を書いてたつもりでしたが、なんと書いてたのは第九話のため、タイトルを変更しました。
不注意本当に申し訳ないです。


~第一層トールバーナーにて~

攻略し隊はというといつものように………とはいってなかった。

 

ぼっち

「突然だがこの宿を出ることにした。」

 

オクト(慣れてない)

「ゑゑゑッ!?」

 

脚竜(もう慣れた)

「ホントに唐突だな兄貴。」

 

ぼっち

「いやはや、滞在期間がもうすぐ尽きるからなぁ……。」

 

オクト

「え?滞在期間?」

 

脚竜

「あー、分かりやすく言えばホテルとかのような感じ。ほら、ホテルだって永住は出来ないだろ?」

 

脚竜の説明はここぞとばかりにシンプルで分かりやすい所がある。故に慣れてないニュービーでもなんとなくは理解できた。

 

オクト

「……まぁ、それはいいとしてもここから宿泊はどうするんですか?当てはあるんですよね?」

 

だいたいの場合はこの手の問題がある。ゲーム中に宿泊出来る場所があるかないかで、安全性だって変わる。

前の会議にもいたベータテスターを炙り出そうとしてた人にベータテスターと勘違いされた挙げ句、命を落とすかもしれない危険も無いとは言えないからだ。

 

ぼっち

「当たり前だ、このオレに隙はないし抜かりもない。」

 

その言葉の後にぼっちがボソッと『ここの居心地の悪さにもうんざりしてたしな』と言った………気がする。

 

オクト

「あのー、前の攻略会議に遅れた理由ぼっちさんが原因なのお忘れですかー?」

 

ぼっち

「よしオクト、お前あとでダクフィ(ダークネスフィンガーの略称)の刑な。」

 

オクト

「なんでや、都合が悪いといつもそれか。」

 

理不尽な物言いも健在ではあるが、次の拠点がなければおちおち寝られやしないし、今はなんとかしなくては。

本来のゲームならそこまで気にしないことだが、ゲームオーバーが死と同等の意味を持つこの世界においては、そのひとつの判断ミスが俺達『攻略し隊』が全滅する可能性だってある。今までアクシデントが起きてもぼっちがすぐに対応してたからなんとかなったものの、本当に危険が多いこの世界で唯一安心できる宿屋の確保は絶対こなさなくてはいけない課題だ。

 

ぼっち

「そうそう、そのあてにしてる場所なんだがな、なんと風呂がある。」

 

脚竜&オクト

「「風呂ッ!!?」」

 

今の脚竜達にとって風呂とは最高にハイになれるものだ。誰だってお風呂には入りたくなる。しかも、このリアルにもっとも近いVRゲームのお風呂がどのようなのかも知らない二人にとっては期待値が大幅に増幅した。

というより風呂に興味が湧いてた。

 

ぼっち

「ちなみに宿泊料もここより安いからな。しかもその気になればこのゲームのシステム上、街中ではコル……まぁ金さえ払えば泊まれる部屋なんぞごまんとあるからな。」

 

脚竜&オクト

「「マジですかッ!!?」」

 

衝撃的な言葉に人目を気にせず脚竜達は大声を上げた。

 

ぼっち

「しかもミルクも飲み放題だしベッドもでかい、そのうえゲームとは思えないくらいに眺めがいい。一晩80コルだから俺達ギルド………いや、ギルドまだ作れないんだったな………まぁいい、とりあえず『攻略し隊』全員でしめて240コル。普段レアドロップがアホみたいに出る愚弟がいる以上金に困ることは基本的にないため、ずっといられる。」

 

脚竜がそれってもしかしてと聞き、ぼっちは当然だと言わんばかりに

 

ぼっち

「宿泊施設を含めて俺達は勝ち確なわけだな。」

 

脚竜とオクトは舞い上がった。ここまで嬉しいことはないだろう。

最悪野宿までしてた彼らにとって風呂とは、布団とは、まともな食事とはどれほど大切なのかを身をもって体験した彼らにとって、この条件、そして何より安いのがとてもありがたく思えた。

脚竜に至ってはもはや神を崇拝するかのように土下座し、感謝の念仏を唱えているほどだ。

 

ぼっち

「まぁ、お前らがどれほど野宿が苦しかったのかはわかったからとりあえず落ち着け。」

 

と言い、脚竜達にダークネスフィンガーでアイアンクローを決めてようやく脚竜達は落ち着いた。

 

オクト

「でもぼっちさんすごいですね。なんでそんな細かいことまで知ってるんですか?」

 

ぼっち

「…………そりゃ自分のやるゲームなんだから徹底して調べるだろ。違うか?」

 

脚竜

「いーや、オレ大体は成り行き。」

 

オクト

「とりあえずやってみる派です。」

 

ぼっち

「少しでもお前らに期待した俺が間違いだったわクソッタレ共。」

 

移動しながらだらだら進んでいるうちにある農家の前に攻略し隊はたどり着いた。見るからに古くさそうではあるが、SAOらしい見映えではある。

しかも、ぼっちの言うとおり外の景色は絶景とまではいかないものとても感動的だ。

 

ぼっち

「だが無意味だ。( ^ U ^ )」

 

脚竜

「兄貴、急にどうしたの?頭でも打った?」

 

謎のやり取りを繰り広げてる間にも時間は過ぎるので、さっさと部屋を借りることにした。

 

オクト

「うぉぉぉぉ!!布団だぁ!」

 

脚竜

「うひょぉぉ!!牛乳だぁ!」

 

脚竜&オクト

「最高にハイってやつだァッ!!」

 

テンション暴上がりして面白いことになってる二人をよそに、ぼっちだけは険しい顔をしていた。

 

脚竜

「ん?兄貴どーした?」

 

ぼっち

「…………………。」

 

オクト

「珍しいな、ぼっちさんが黙り込むなんて………。」

 

ぼっち

「…………すまん、どうやら先客がいたみたいだ。」

 

しばらくの沈黙。そして歓喜の表情は消え去り、残ったのは絶望気味に表情がひくついている脚竜とオクトのみとなった。

 

脚竜

「え?あ、兄貴。まさか今日野宿?あれだけ上げといて?」

 

ぼっち

「Exactly(その通りでございます)」

 

脚竜

「ウソダドンドコドーン!!」

 

オクト

「うぅ……あんまりだぁ…………。」

 

脚竜

「オンドゥルルラギッタンディスカー!!」

 

オクト

「Heeeeeeeeyy!あんまりだああああああああァァァッ!」

 

脚竜

「ナズェダ!ナズェナンダァ!!」

 

オクト

「あひあひあひ………ううぅ………おぉれぇのふぅろぉがあぁあぁぁあぁ!!」

 

ぼっち

「あーうるせぇうるせぇ喚くな!オレだって毎日風呂入りたいところを我慢してんだよ!」

 

今までの過酷すぎるサバイバル生活のせいでぼっちを除く『攻略し隊』は宿に泊まれないのと牛乳を飲めないこと、そして風呂に入れないことに絶望した脚竜とオクトは喚き始め、それをなだめながらも宿主に交渉を続けていた。

オクトと脚竜はガッカリしながらもようやく人語を解せるほどには落ち着いてきた。

そしてぼっちが宿主との交渉を終えて戻ってきた。

 

オクト

「…………また野宿か。」

 

脚竜

「…………はぁ。」

 

ぼっち

「………なんか、風呂と牛乳飲むくらいならいいってよ。」

 

オクト&脚竜

「神よ感謝いたします!」

 

どうにかぼっちの交渉により、俺達はさっそくその部屋に向かうことにした。

どうやらこの部屋には一人のプレイヤーがその部屋を宿として利用しており、そのプレイヤーが一部屋丸々借りて寝泊まりしているらしいため、少し不思議には思ったが、今はそんなことよりも風呂に入れることがとにかく嬉しい。

最近はレベルアップに忙しく、風呂にも入れず、徹夜もしたくらいなのでとにかく疲れていた『攻略し隊』はこの機会にリフレッシュしておこうという考えのもとにここに来た。

 

オクト

「いやー、久しぶりのお風呂だー!あ、オレあんまり長風呂しないから最後に入りますよ。ちょっと疲れてるんで眠いですし。」

 

ぼっち

「あぁ、いっこうに構わん。だがちゃんと起きろよ?さもないと置いていくからな。」

 

脚竜

「でも出るの明日なんだしいいんじゃね?」

 

ぼっち

「それもそうだな。」

 

待ちに待った宿泊。今、その楽園への扉が開かれた。

そして、そこにいたプレイヤーに、大層驚かれた。

 

キリト

「え?」

 

攻略し隊メンバー

「え?」

 

アルゴ

「お?オクやんにキャタ坊にぼっちゃんカ。こんな偶然もあり得るんだナ。」

 

脚竜

「え?キリちゃんにアルゴ氏?」

 

オクト

「どういうことだってばよ。」

 

ぼっち

「…………クソネズミ」ボソッ

 

なんと偶然にも彼らの知っているプレイヤーがこの宿の先客だったのだ。攻略会議以来、会ってなかったが変わらずの見た目でぼっち達も安心した。

 

ぼっち

「いやぁ、すまんなキリト。」

 

キリト

「気にするなよぼっち。むしろオレはお前らで助かった位だからな。」

 

ぼっち

「……その様子だとアレ対策か?」

 

キリト

「あぁ、そうなる………。」

 

オクト

「ふぁぁぁ………、すみません、キリトさん。オレもう寝てもいいですか?ぶっちゃけオレだけ三徹して眠いんですけど……」

 

キリト

「あぁ、いいぞ。」

 

キリトはそれを聞いた後に三徹のことについて聞こうとオクトの方を向くと。

 

オクト

「すぅ…………すぅ…………」

 

もう既に爆睡モードに入っていた。

 

キリト

「…………なぁぼっち。三徹ってどういう……」

 

ぼっち

「知れば二度と元の世界には戻れないと思っておけよ。」ニッコリ

 

キリト

「あ、あははは…………」

 

この話は聞かない方がよさそうだ。

 

脚竜

「そういやアルゴ氏はなしてキリちゃんとこにいるんだ?」

 

アルゴ

「ん?アァ、仕事ダ。それ以上でもそれ以下でもないヨ。」

 

そもそも、この部屋にアルゴがいること自体が疑問だが、うまくはぐらかされてしまい真実を掴むまでにはいかなかった。

 

脚竜

「あ、そんじゃキリちゃん。オレ風呂入ってくるわ。」

 

キリト

「あぁ。」

 

脚竜はスキップをしながらバスルームに入っていった。

そして、ここにはある程度の事情を知っている人間三人しかいなかった。

 

ぼっち

「………そんで、大方キリトに対する商談だろ。タイミング悪くてすまんな。」

 

アルゴ

「いいよ別ニ。オネーサンとしては仕事をしているときに邪魔が入るのはもう慣れっこダ。」

 

キリト

「そりゃあぼっち達が来たのはビックリしたぞ本当に。」

 

ぼっち

「フッ、どんなときでもフラりと現れるから気をつけろよ。」

 

こんな風に会話したりする機会も最近ではあまりないし、今までのこと、これからのことを話そうとしたその瞬間だった。

 

???

「きゃあァァァッ!!」

 

脚竜

「うおぉぁぁァッ?!!」

 

バスルームの方から謎の女性の声と脚竜の声が聞こえ、何事かとぼっちがバスルームに向かう途中で、バスルームから出てきた全裸の女性とぼっちは対面することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オクト

「……んん………ふぁぁ………よく寝たなぁ。」

 

オクトは起き上がり、回りを見る。そして、三つの違和感に気づいた。

一つ目は部屋にもう一人女性プレイヤーがいること。

二つ目はアルゴが笑いを必死に堪えていること。

三つ目はぼっち、脚竜、キリトの三人の頬に真っ赤な紅葉がついていること。

 

オクト

「…………なにがあったの?」

 

脚竜

「………聞くな、オクト。」

 

ぼっち

「………なんでオレまで。」

 

キリト

「………ホントにごめんな。二人とも。」

 

色々あったのだろうがオクトには全くわからないため、オクトはさっさと風呂に入ることにした。

さっそく脱衣場と思われる場所で服を脱ぎ(正確には服を外す方法をアルゴさんに30コルで教えてもらった。)、湯船に入った。

 

オクト

「おぉぉ………。」

 

日頃の疲れ(ぼっちから課せられる謎のノルマによるもの)が消えていくのがはっきりと分かる。今まで必死に生きてきて脚竜やYunに会えたこと程ではないが言い様のない心地よさに思わず変な声が出るほどだった。

 

オクト

(あぁ、生き返る……人生でこれほどお風呂がありがたいと思ったのは初めてだ……。神様、ほんとに感謝してます!)

 

オクトはそんな事を考えて、ふと攻略会議前に脚竜が言ってた弱音を思い出した。

 

オクト

(……オレも強くなって生き残らないとな。父さん、母さん、姉ちゃんにばあちゃん。帰りを待ってくれてる人がいるんだ。そのためにも、もっとオレ強くならなくちゃいけないんだ………。)

 

風呂から上がったあとはそれはものすごく盛り上がりましたよ。

 

ぼっち

「で、キリト。お前はどっちを選ぶんだ?」

 

キリト

「え?何がだ?」

 

脚竜

「下手なウソはつくなよ?キリちゃん、おんなじ部屋で寝るんだろ?」

 

脚竜が言った言葉でキリトはおもいっきり吹き出し、アルゴが笑い転げ始めた。

 

キリト

「そ、そんな関係じゃないからな!さっき言った通りただ手を組んでるだけだから!」

 

アスナ

「そうよ。何を好き好んでこんな人と付き合わなきゃいけないのよ。」

 

アルゴ

「ぶっ………ニャハハハハだいぶ辛辣だナあーちゃん。」

 

そんなこんなで結局は野宿になったが、風呂に入れただけでも十分な休息になったし、こうした何気ない会話も今となってはいいリフレッシュの要因だと思う。

こんな毎日を過ごす為にも、明日の本格的な攻略会議に行って、第一層を攻略するんだ!

 

 

~翌日~

まさに完璧だったアルゴの攻略本という情報を元に会議は進行していた。いつもながら、この圧倒的な情報量にはさすがのぼっちでも舌を巻くほどだ。

だが、今までの物と変更があるとすれば、

【情報はSAOベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります】

と書かれていた事だ。

実際にあり得る話だからこそ、この書き込みをするという判断は間違ってないと思う。

と、考えている間に、ディアベルが張りのある声で叫んだ。

 

ディアベル

「みんな、今はこの情報に感謝しよう!」

 

聴衆がさわさわと揺れる。やはりこのディアベルという男は人の上に立つにあたって大切なものを持っているのだろう。

 

ディアベル

「出所はともかく、このガイドのおかげでニ、三日はかかるはずだった偵察戦を省略出来るんだ。正直、すっげー有り難いってオレは思ってる。だって一番死人が出る可能性があるのが偵察戦だったからさ。」

 

広場でも色んなところでうんうんと頷く。

オクトはやけにオーバーリアクション気味なのはいつものことではあるが……。

 

ディアベル

「……こいつが正しければ、ボスの数値的なステータスはそこまでヤバい感じじゃない。もしSAOが普通のMMOなら、みんなの平均レベルな三……いや、五低くても充分倒せたと思う。だからきっちり戦術(タク)を練って、回復薬(ポット)いっぱい持って挑めば、死人なしで倒すのも不可能じゃない。や、悪い、違うな。絶対に死人をゼロにする。それはオレの騎士の誇りに賭けて約束する!」

 

よっ、ナイト様!というような掛け声もあがり、盛大な拍手が続いた。ギルドは三層以降でないと作れないが、ディアベルならば今よりももっと大きく、もっと強大なギルドを作れるだろう。

しかし、どんなことにもアクシデントはつきものである。

いや、アクシデントはもう起きたみたいだ

 

ディアベル

「それじゃ早速だけどこれから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担も出来ないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人とパーティーを組んでみてくれ!」

 

脚竜

(………マジで?)

 

ぼっち

(………最悪だ。)

 

オクト

(えーっと近くのひと近くのひと………。)

 

オクトはともかく、脚竜は軽めの、ぼっちは重度のコミュ症であるため、人に声をかけるなど絶対に出来なかった。

しかも一緒にやろうぜとも言われなかった為、結果は当然、「攻略し隊」は【なぜかオクトも】アブレた。

 

オクト

「…………なんでや。」

 

脚竜

「……まぁ、これも何かの縁だろ。」

 

ぼっち

「…………はぁ。」

 

しかし、神は攻略し隊を見放していなかった。

なんとアブレている二人組を見つけたのだ。

しかもその二人組は昨日の宿で一悶着あったあの二人である!

すぐさま脚竜はダッシュで向かい、パーティーを組まないかを聞いた。

 

脚竜

「ねぇねぇねぇキリちゃんにプレイヤーさん!俺達とも組まない?ちょうどあと二人ほど欲しかったんだ!」

 

キリト

「オレは別に構わないけどな…………。」

 

キリトはそういうと隣の女性プレイヤーに目線を向ける。

 

アスナ

「……………。」

 

脚竜

「どうか手伝ってください、お願いします!」

 

アスナ

「………別に構わないけど。」

 

脚竜はぱぁっと顔を輝かせ、ぼっち達の方へと向かった。こうして攻略し隊は(アブレ)仲間を手に入れた。

そして、ディアベルは指揮能力の高さはかなりのもので、出来上がった七つのパーティーを最小限の人数を入れ替えただけで目的別の部隊が編成された。

シンプルだが破綻する危険性がかなり低いとてもいい作戦だと思う。

そんな事を考えていたらディアベルは残りのパーティーの俺達の方に向かって言った。

 

ディアベル

「君たちは取り巻きコボルドの潰し残しが出ないようにE隊のサポートをお願いしてもいいかな?」

 

要するにボス戦での支援に回ってくれと言われてるようなものだ。脚竜にとっては少し不本意ではあったが、正論であるため否定できず、オクトはそれを大事な役割だと勘違いしている。

 

オクト

「はい!ぜひともやらせていただ……」

 

オクトのその言葉を遮るようにある男が言った。

 

ぼっち

「まぁ待てよナイト。確かにアンタの言い分は間違ってない……だがしかし、俺達は人数的にも十分足りるし、これならスイッチでポットローテも間に合う。いや、俺の指揮で何とかしてやる。もし、これで失敗して死人が出たら責任を持って俺が真っ先に死んでやるよ。」

 

どこか自分に無頓着な言い方でディアベルに食って掛かった。

 

ディアベル

「……うーん、本当に大丈夫かい?」

 

ぼっち

「安心しろ、俺がこのチームのリーダーを勤める以上誰一人として死なさん。ディアベル、これは昨日アンタが言ってた言葉だぜ?」

 

ぼっちは昨日ディアベルが言った言葉を出し、ディアベルに自分のやり方を【半ば強制的に】認めさせた。

 

脚竜

「兄貴、なんでディアベルさんの言うことを突っぱねたんだよ。」

 

オクト

「そうですよ!あれだけの大事な役割を俺達にくれたんですよ!」

 

ぼっち

「はぁ……お前ら何一つわかっちゃいねぇな。ディアベルが言ってた事覚えてるか?『ドロップアイテムは手に入れた人のもの』だ。すなわち、オレらが雑魚コボルド相手にしてるあいだにドロップアイテム全部持ってかれたら俺達には損失しか出ない。『攻略し隊』国際条約第一条【どんなことであれ被害は出しても損失を出すな】だ。それが例えドロップアイテムだろうがプレイヤーだろうがだ。被害ならまだリカバリーは聞くが、損失……まぁこのゲームで言えばゲームオーバーになれば死ぬ事は絶対に許さないしさせん。」

 

脚竜&オクト

「「うわぁー、強欲ー。」」

 

ぼっち

「何を言うか、人間なんざ強欲で貪欲で醜いものだ。この世において美しい人間など存在しない。ならば、汚くとも己の筋を通そうっていうのがオレのやり方だ。」

 

キリト

「……その辺りはさすがだなぼっち。」

 

ぼっち

「あとオレは常に反逆心MAXだからな。人の言うことなんか聞けるか。」

 

オクト&脚竜

「「うわぁークソヤロー。」」

 

脚竜

「で、さっきの国際条約って?」

 

ぼっち

「あぁ、さっき適当に作った。安心しろ、条約は随時追加予定だ。」

 

オクト&脚竜

「「やめてほしいんだけど」」

 

そんな様子を見ていた赤いフードをつけたアスナは微妙にだが笑った気がした。

そしてぼっちのちょっとした反逆があったこと以外にはそこまで大それたことはなく攻略会議は無事終わった。

スパイクハンマーも暴れなかったしね。【プレイヤーネーム忘れたけど】

 

ぼっち

「そんじゃまたなキリト、アスナ。明日また会おう。」

 

脚竜

「じゃあなー!!」

 

オクト

「また明日!」

 

キリト

「おう、お前らもしっかり準備しておけよ!」

 

アスナ

「…………。」

 

そんなこともあり、攻略し隊は帰路に着いた。

明日は待ちに待った第一層ボス攻略。成功すれば確実に前へと突き進むことが出来る。そうすればこのゲームのクリアにもまた一歩近づくことが出来る。

そんな帰り道にぼっちは急に語りだした。

 

ぼっち

「……攻略し隊国際条約最終条『どんな時でも生きることと生かすことを諦めるな。攻略し隊はいついかなる時でも進化を続け、このゲームをクリアする』だな。」

 

脚竜

「………なーにわかりきったこと言ってんだよ兄貴!」

 

オクト

「そうですよ!オレ達が誰かのために命を張ったってバチなんて当たりませんし、何より必ず帰れるってぼっちさんや脚竜を信頼してますから!」

 

ぼっち

「………ふん、よく分かってるじゃねぇか。」

 

脚竜

「何年兄貴と兄弟してるとおもってんだよ!」

 

オクト

「オレも三週間かそれくらいですけどここまで来たらさすがにわかりますよ。」

 

攻略し隊に限界はない。数値的な限界はあれど心と魂はどこまでも進化を続ける。生きる未来のために、かつての過去に決着をつけるために。

そんなことを考えていたら、ぼっちが振り向きこう言った。

 

ぼっち

「あ、そうだ。この国際条約なんだけど破ったら死ぬと思っておけよ。」

 

オクト&脚竜

「「うわぁー、重たぁー。」」

 

明日まで生きていられるかはわからないけどそれでも進む必要がある。この世界で生き抜くために。

でも、どれだけ信用している友達でも隠し事は必ずある。その事を知らない方がいいのかもしれない。




次回予告らしきなにか

オクト
「おっすおっす!オラきゃた………謝るからそのダクフィはしまってくださいお願いしますなんでもしますから。」

オクト
「……ふぅ、明日はとうとうボス攻略当日!どんなボスかはオレにはわかんないけどなんか強そうなのはわかる!油断せず攻略してもっと上に行こう!
次回、ソードアートオンライン・ジェノサイドメモリアル第十話~戦闘開始~」

ぼっち
「……今度は間違いなく十話だよな?」


今回登場した攻略し隊国際条約の方もアンケートとります!結果次第ではなんか起きるかもです!
なお、アンケートの締め切りは第十話投稿までに決めました。


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第十話~戦闘開始~

どうも皆さんお久しぶりです。
スパロボとかGジェネとかの時代とか関係なくごっちゃごちゃのクロスオーバーしてるゲームが大好きなwandarelです。
ようやく小説に手をつけられるほどには仕事が楽になったので、ペースは少し早くなるかもしれません。
上に書いてある通りごっちゃごちゃのカオスが大好きであるが故に今回はとあるキャラが最終的には意外なポジションで登場します!(もちろんカオス要素も忘れていません。)
そして当初の予定通り、アンケートをこれで締め切らせてもらいます。
また、感想や意見、質問なども受け付けてますのでガンガン書いてください!モチベーションの上昇にもつながるのでよろしくお願いします!

追記
今から約一、二ヶ月くらい前に友人のすすめでデジモンの映画を観に行きましたが、当時『デジモンなんか知らねぇよ、仮面ライダーやガンダムの方が強いわバーカ』みたいにノリでデジモンも全く知らないまま観に行ったんですが、ものすごく感動してしまい、今ではデジモンも好きになってしまいました。
(けどなんだかんだ言ってオメガモンよりもシャウトモンクロスセブンのほうが好き。)
あぁ、ガンダムももっと流行ってくれれば………。(主にGガン。)という下らない話はその辺のゴミ箱にでも捨てておき、そのデジモン大好きな友人に「なんかお前の小説、台本形式なのに『台本形式』のタグないぞ』と指摘されたのでタグを追加しておきました。


~始まりの街周辺のフィールド~

こののどかなフィールドで遠くから断末魔が聞こえる。

男性プレイヤー三人と一人の女性プレイヤーは必死の形相でとある人物から逃げている。

 

???

「ほれほれー、早く逃げないと大変なことになるぞー。」

 

脚竜

「無理無理無理無理無理ィッ!!死ぬッ!間違いなく逃げれねぇー!!」

 

オクト

「だから嫌だったんだ!このチームになるの!!」

 

アスナ

「ねぇッ!あれにッ!当たったたらッ!どうなるのッ!」

 

キリト

「今のオレでもはっきり分かる、紛れもなく死ぬッ!」

 

追いかけている人物は(まぁ予想通りだと思うけど)ぼっちである。しかし、ただ普通に追いかけているわけではない。

 

ぼっち

「そらそらそらぁ!この『超級覇王電影弾』から逃げきれるほど強くならないとボス戦大変だぞー。」

 

脚竜&オクト

「ボスがそんな技使うかボケェェッ!!」

 

~遡ること五分くらい前~

ぼっちからの伝達でここ、始まりの街周辺に集まることになったG隊(ぼっち達のチーム)はやけに遅いリーダーぼっちが来るのを待っていた。

すると、どこからともなくなぞのBGMがかかりだし、何事かと三人がキョロキョロしてると、脚竜が突然マナーモードになってしまった。

 

オクト

「ん?どうした脚竜?」

 

脚竜

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」

 

キリト

「………何かあったのか?」

 

脚竜

「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」

 

アスナ

「……放っておきましょ。ここまで聞いても返事がないんだもの。」

 

アスナがそう言った瞬間、脚竜が小声で何かを言った。

無論聞こえなかった俺達は脚竜に聞いてみた。

 

オクト

「何て言ったんだ?」

 

脚竜

「…………来る。」

 

オクト&キリト&アスナ

「「「来る?」」」

 

脚竜

「逃げるんだぁ……。」

 

オクト

「いや、どこぞの野菜王子みたいなこと言わなくていいから。なんで逃げなきゃいけないんだ?」

 

???

「その答えはこのオレが直々に教えてやろう。」

 

どこからともなくぼっちの声が聞こえ、そちらのほうへ向くと、ぼっちが謎のポーズをしながらこちらを向いていた。

 

ぼっち

「まず戦いにおいてスキルが全てであるこの世界でも多少のスタミナなどの影響はあるはずだ。故に今からお前ら四人にはオレの特別訓練を用意した。」

 

オクト

「……あ、この流れって。」

 

ぼっち

「キリト、お前は結構プレイヤースキルが高いよな?」

 

キリト

「……お、おう。」

 

ぼっち

「アスナ、お前は昨日見させてもらったがなかなかの瞬発力を持ってるな?」

 

アスナ

「……それがどうしたのよ。」

 

ぼっち

「愚弟、お前一応AGIに限っては俺より上にしてるよな?」

 

脚竜

「…………はい。」

 

ぼっち

「オクト、お前はスタミナはある方だよな?」

 

オクト

「…………あります。」

 

あらかたぼっちが確認を終えた後に、一言よしと言い、ぼっちは言いはなった。

 

ぼっち

「オレの新しいスキルを試すいい機会だしお前らを鍛えるにしてもいい特訓が出来たんだ実に合理的だろう。」

 

そう言ったあとになにかよくわからないけどオクトと脚竜はよく知っている『あのポーズ』をぼっちがとった。

 

キリト

「………質問いいか?」

 

ぼっち

「許可する。」

 

キリト

「その新しいスキルってヤバいのか?」

 

キリトのその質問にぼっちは顔をそらして

 

ぼっち

「…………さぁな。」

 

と言った。間違いない、これはダメなやつだ。

 

そして、修行の果てが今に至る。

逃げて逃げて逃げ続け、辺りにいたmobはぼっちの技で蹴散らされ、蹂躙されていた。

そしてなんとかノルマを達成することが出来た。

肝心のノルマというのは始まりの街からトールバーナーをぼっちの超級覇王電影弾から往復で逃げきることだ。

 

脚竜

「ぜぇ……ぜぇ……死ぬ………。」

 

アスナ

「ノルマ………クリアね………。」

 

オクト

「(いろんな意味で)フルボッコだどん。」

 

キリト

「……なぁ、ぼっち。これ何か意味あったのか?ただ普通に運動しているだけな気がするんだが………。」

 

ぼっち

「んあ?意味なんざねぇよ?」

 

全員の怒りが沸き上がり始めたの察して、ぼっちは言葉を続けた。

 

ぼっち

「まぁ正確にはあるにはあった。まぁあくまでオレ個人での事だからな。」

 

そこからのぼっちの説明はなんとなくは納得はできるものではあった。

ほとんどあり得ないと思うが、万が一にディアベル、もしくはぼっちなどの指揮系統の人間が死んだ場合に即座に逃げれる判断力を作っていたそうだ。ぼっちいわく、統率のないレイドなどお遊戯会に過ぎず、そんな状況になったとき、だれ一人逃げれず全滅は出来れば避けたい。だから最悪オクト達だけでも逃げれるように鍛えていたという。

 

オクト

「でも、皆が戦っているなかで逃げるのって……。」

 

ぼっち

「……お前の言いたいことはわからんでもない。だがしつこく言うようだが、ここはゲームであって遊びじゃねーんだ。一瞬の判断が常に俺たちの命を握ってる。しかも、ここで攻略に関わる情報は少しでも持ち帰るべきだ。ただでさえ死ぬことに怯えてフィールドに出れん人間がいるのに俺たち攻略組が全滅なんて事になったら、もう二度と攻略は進まないだろ。そんな事になって、誰がディアベルやオレみたいなリーダー格の代わりに先陣をきる?」

 

脚竜が恐る恐るだが、口を開いた。

 

脚竜

「……攻略組の生き残り?」

 

ぼっち

「その通りだ。攻略し隊国際条約第二条『逃げてもいいが最後は勝て。』だ。どんな物事にも勝てないこともあるが、万物において努力を続ければ必ず勝てる。それはオレ自身が証明済みだ。逃げてもいいが勝て。勝てない戦いなんざ無いんだよ。」

 

刺が鋭く、いつも以上の鋭さを発揮しているぼっちの言葉だが、その言葉には始まりの街で出会ったときと変わらず、生きるという執念と意志のある重い言葉であった。四人もその言葉に納得し、やるべき事を再び再確認した。

 

そして、俺達はこのゲームに一歩でも先に進むために、ボス攻略チームはトールバーナの噴水広場に集まっていた。当の『攻略し隊(仮)』は端っこの方でいつも通り兄弟喧嘩してオクトがそれを止めている。

だが、以前との違いがあるなら、今の彼らにはアスナとキリトと行動を共にしていることだ。

いちおうなんだかあの時のぼっちの特殊訓練によって、それなりのコミュニケーションは出来ている……はず。

そんな事をふと考えているとぼっちが口を開いた。

 

ぼっち

「おー、お前ら。どうやらディアベルの演説が始まるみたいだぜ。」

 

一見皮肉のように思える言葉だが、実のところぼっちはこのディアベルの演説を楽しみにしている。

 

ディアベル

「みんな、いきなりだけどありがとう!たった今、全パーティー四十七人が、一人も欠けずに集まった!!」

 

途端に、うおおっという歓声が広場を揺らし、それに続くかのように滝のような拍手が起きる。攻略し隊も同じように手を叩いた。そんな一同を笑顔で見回してから、騎士はぐっと右拳を突き出し、さらに叫んだ。

 

ディアベル

「今だから言うけど、オレ、実は一人でも欠けたら今日は作戦を中止にしようって思ってた!でも……そんな心配、みんなへの侮辱だったな!オレ、すげー嬉しいよ……こんな、最高のレイドが組めて……。まぁ、人数は上限に少し足りないけどさ!」

 

笑う者、口笛を鳴らすもの、様々な表現でディアベルのその言葉に答える人間がいた。皆がひとしきり喚いたところで、ディアベルは両手を掲げて歓声を抑えた。

 

ディアベル

「みんな……もうオレから言うことはたった一つだ!」

 

右手を左腰に走らせ、銀色の長剣を音高く抜き放ち。

 

ディアベル

「………勝とうぜ!」

 

沸き起こる巨大な鬨の声が噴水広場に響き渡った。

 

トールバーナの町から迷宮区タワーへの大人数による行程はまるで修学旅行のようにのどかだった。

尽きせぬお喋り、頻繁におきる爆笑。これからボスの攻略に行くとは思えないほどに平和だった。

前の方でキリトとアスナがとても仲良さそうに会話を繰り広げてるなか、後ろはある種の修羅場が繰り広げられていた。

 

脚竜

「リア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべし………。」

 

オクト

「あのぼっちさん、脚竜が壊れたんですけど………。」

 

ぼっち

「はぁ……まぁ愚弟はこういうやつだからな。」

 

オクト

「ぼっちさんもなんとか言ってくださいよ。」

 

ぼっち

「ん?知らんのか?『攻略し隊』国際条約第三条『とりあえずリア充は爆殺しとけ』があるんだぞ?」

 

オクト

「いやなんつー理不尽な条約作ってんですかアンタは。普通に微笑ましいでしょあれは。」

 

ぼっち

「いやだってさ、なんか目の前でイチャイチャされるとなんかイラッとくるというか……殺したくなるというか……そう感じない?。」

 

オクト

「感じないしどうあがいてもそうはならないでしょ……。」

 

ぼっち

「ちなみに貴様は既に第三条を破ってるからな?」

 

オクト

「………はい?」

 

さすがのオクトも身に覚えが無いことで怒られるのは嫌なので抗議する。

 

オクト

「一体いつどこで破ったんですかオレが!」

 

ぼっち

「第一層はじまりの街・将来鍛冶屋の女プレイヤー、身に覚えは?」

 

オクト

「そんな事あるわけ……………。」

 

ここまで言った時にオクトははっと思い出した。

第一層でのあの出会いと出来事を………。

 

オクト

「……………ありました。」

 

ぼっち

「だろ?」

 

脚竜

「オクトもリア充か…………この裏切り者ォッ!!

 

チワワがまたしてもキャンキャン吠え始めた。

 

脚竜

「お前だけは……お前だけはオレの仲間だと思ってたのに………うぉぉぉぉぉ!!」

 

脚竜が何故か号泣し始めたのでとりあえずなだめておく。しかしそのあとの会話も中々悲惨なものだった。

 

ぼっち

「………なんかこうしてるとモンハン思い出すな。」

 

脚竜

「あー、わかるわかる。」

 

モンハンについてはオクトはやったことは無いだけで知らないわけではない。オクトが気に入っているゲーム実況者がよく実況しているゲームの一角ではある。

ゲーム会社は「SONS OF LIBERTY(サンズオブリバティ)」と呼ばれている会社で、かの有名な潜入ステルスゲーム『メタルギア』を作った会社でもある。

そうとう有名になった理由はもちろん、引退したものの、専属のテストプレイヤーにして「SONS OF LIBERTY」を支えてきた架空のバーチャルイメージキャラクター「伝説の傭兵・スネーク」が大きいだろう。

スネークはあらゆるFPSゲームで出没しており、脚竜もマッチングで相手をしたが、見事に返り討ちにされていたと聞いている。(突然引退したのは驚いたけどもしかしたらこのゲームにもスネークはいるかもしれない。)

そんな会社が作ったゲームが駄作なはずがなく、見てるだけでもオクトは欲しくなったが、バイトに行けるほど時間の余裕がなく、お金もあまりなかった為、オクト自身でプレイすることは諦めていた。

 

オクト

「確かになんかフィールドを移動しているハンターみたいですねオレたち。」

 

ぼっち

「ん?お前やったことないのによく知ってるな。」

 

脚竜

「あー兄貴、オクトもモンハンの実況動画よく見てるからね。」

 

オクト

「まぁそういうことです。」

 

ぼっち

「そのくせ双剣しか知らなかったけどな。」

 

ぼっちからの毒をオクトは華麗にスルーして続けた。

 

オクト

「いつかYunさん、オレ、ぼっちさんに脚竜の四人でモンハンしたいな……。」

 

脚竜

「………そうだな。」

 

ぼっち

「いやなにスルーしてんの?殺すよ?ダクフィの刑だよ?」

 

オクト

「それは嫌ですね。」

 

脚竜

「というか今さっきのオクトのセリフって死亡フラグみたいだったな。」

 

ぼっち&オクト

「確かに…………。」

 

ぼっち&脚竜

「……お前のことは忘れないよオクト。」

 

オクト

「いや死ぬのを前提にすんじゃねぇよ!」

 

脚竜、ぼっちのボケにオクトの鋭いツッコミの応酬という『攻略し隊』名物のチーム漫才が繰り広げられている間に目的地に到着したようだ。

そこからはもう簡単だった。元々攻略チームが腕っぷしの立つプレイヤーばっかりなので、アルゴの攻略本によって死者を出すことなく迷宮区最上階まで突破した。

ヒヤッとする場面もいくつかあったものの、ディアベルの的確な指示により、突破できた。

そして、ついに姿を現した巨大な二枚扉を見ていた。(脚竜は背が低いためぴょんぴょん跳ねているみたいだが)この扉の先に自分達の運命が決するボスが待っている。

ディアベルが銀の長剣を高々と掲げ、大きく頷いた。四十七人のレイドメンバーも同じようにそれぞれの武器をかざし、頷き返した。

 

ぼっち

「さーてと、ガンガン暴れるぞお前ら。」

 

脚竜

「いよっしゃー!気合い入れてくぜ!」

 

オクト

「みんな生きて一層を突破しましょう!」

 

攻略し隊こと『H隊』のそのようなやり取りを聞いてたキリトも少しだけ笑い、それをみたアスナが微笑んだ(気がする)。

青いロングヘアをなびかせて振り向き、騎士は左手を大扉の中央に当てて。

 

ディアベル

「行くぞ!」

 

短く一言だけ叫び、思い切り推し開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始まりの街

 

????

「…………。」

 

始まりの街の人気の無い通路でそこそこに目立つ男がいた。

見た目は三十代後半、頭にはバンダナをつけており、顔が少しいかついおじさんのような風貌だった。しかし、こんな見た目なのに回りのプレイヤーには気づかれてもいない。その男性プレイヤーは耳の少し下の部分に指を当てた。

 

????

「待たせたな。」

 

????

「ふぅ、ようやく繋がった。」

 

????

「あぁ、中々人目の避けれそうな場所がなくてな。一応全員の声が聞けるか試したい。変わってくれるかメイ・リン。」

 

メイ・リン

「うん、わかったわスネーク。」

 

しばしのノイズ音の後、どこにでもいそうな男の声が聞こえてきた。

 

????

「やぁスネーク、四週間ぶりだね。」

 

スネーク

「オタコンか、機器の調子はどうだ?」

 

オタコン

「あぁ、バッチリさ!しかし、この意識そのものが隔離されてる状況なのによく通信が出来るね。」

 

スネーク

「それほどうちのメカニックが優秀ってことだ。」

 

????

「もしかして呼んだ、スネーク?」

 

スネーク

「………『夕張』、通信の途中に割り込むな。」

 

夕張

「ごめんごめん。それで、その様子ならしっかりと報告とかも出来そうね。どう、マイクロ粒子を使った通信は?」

 

スネーク

「あぁ、安全圏内なら通信は可能みたいだな。先ほどダンジョンや迷宮区でも試してみたが通信が出来なかった。」

 

夕張

「うーん、その辺りはさすがに私でも無理ね。」

 

オタコン

「あ、そうそうスネーク、大佐から君に作戦の話があるみたいだよ。」

 

スネーク

「了解した。そっちに繋げる。」

 

夕張

「あ、他にもこの通信システムの感想よろしくね!」

 

夕張とオタコンの声が途切れ、またノイズ音が鳴り始めた。どうやら、トランシーバーと似たような事が起きている。そして、通信がようやく繋がったようだ。

 

大佐

「スネーク、無事で何よりだ。」

 

スネーク

「当たり前だ大佐。こんなVRゲームなんてあの時の戦場と比べたら遥かに楽さ。」

 

大佐

「だが油断するなよスネーク。こちらでSAOにダイブしている『君と君の家族』の肉体の安全は確保できたが、何があっても死んではならんからな。」

 

スネーク

「わかっている。それで任務はなんだ大佐。」

 

大佐

「本来なら言うべき事ではないが……我々『フィランソロピー』はこのゲームをクリアするのに二、三年はかかると予測している。故にゲームクリアまでの期間中に奴等を見つける必要がある。」

 

スネーク

「………奴の子供達か。」

 

大佐

「その為にも君とは任務で知り合った『モウス』と『ブラックジャック』にできる限り早いうちに合流してもらいたい。」

 

スネーク

「あの二人もこのゲームに入っているのか!?」

 

大佐

「どうやら二人とも、我々と違い想定外の事だったらしい。現在どこにいるのかも不明だが、あの二人に協力してもらえれば我々も目的達成に近づくはずだ。」

 

スネーク

「なるほどな、了解した。これよりミッションを開始する。」

 

オタコン

「何か困ったことがあれば僕達に連絡をしてくれ。力になれるかはわからないけど僕達も積極的に君をサポートするからね。」

 

スネーク

「わかった。では通信を切るぞ。」

 

大佐

「スネーク、健闘を祈る。」

 

スネーク

「任せておけ。」

 

スネークは現実とこのポリゴンの世界の垣根を越えた通信を終え、小さくため息をついた。

蛇は神出鬼没、『藪から蛇』という言葉があるように、どこから出て来るのかはわからない。

何一つ変わらない空に顔をあげ、スネークはぽつりと呟いた。

 

スネーク

「久々のバーチャスミッションだ。気を引き締めないとな。」

 

そう言うとスネークはふらりと人混みの中に消えていった。

 




次回予告

脚竜
「いよいよボス攻略だ!」

オクト
「オレだって負けられるか!」

キリト
「あんまり突出するなよぼっち!」

ぼっち
「おう、そりゃどーも。まぁアスナはそこまで心配は無さそうだな。」

アスナ
「よし、行ける!」

どんな時でも絶望する瞬間はある。けど、絶望にはその予兆がある。その予兆の時に対処すれば、その絶望は。

ぼっち
(気づけ……気づいてくれ、愚弟!)

脚竜
「オクト!○○の前でガード使え!」

オクト
「え?」

次回、第十一話~違和感~

オクト
「間に合え……間に合えェェェェェッ!!」


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第十一話~違和感~

どうも皆さん、SAOのアプリでそこそこの爆死をしているwandarelです。
さて、今回でよーやく終わりますよ!
(ネタバレになるから何がとは言えないけど)
今回はそこそこいい感じにまとめれたはずです。
もちろん感想などもよろしくお願いします!
※なお、次の話はかなり短めになっておりますのでご注意を


 

ボス部屋に入り、H隊が思ったことはひとつ。

 

オクト

「………広っ。」

 

普段は鋭いツッコミを放つオクトが語彙力を無くすほどにとにかく広かった。端から端までどのくらいあるのかがわからなくなるくらいに広く、少し暗いその部屋を見ていると、ボス部屋の左右の壁の松明が燃え上がり、奥に向かって数を増やしていった。

そして内部の明度も光源がジェネレートされる度に上昇していき、部屋の最奥部に粗雑だが巨大な玉座が設けられ、そこに坐する何者かのシルエット。

ディアベルか高く掲げたままの長剣をさっと前に振り下ろした。

それを合図に総勢四十七名からなるボスモンスター攻略部隊は、盛大な鬨の声をあげ、一気に大部屋へと雪崩れ込んだ。

まず最前列で突進したのは、鉄板じみたヒーターシールドを掲げるハンマー使いと、彼に率いられるA隊だ。その左斜め後方を、斧戦士エギル率いるB隊が追う。右にはディアベルと彼の仲間五人によるC隊と、長身の両手剣使いがリーダーのD隊。さらにその後ろをキバオウ率いる遊撃用E隊と長柄武器(ポールアーム)装備のF隊、G隊が三パーティーで並走している。

そして、ぼっち率いるH隊はその後ろを走っていた。

すると、やはり脚竜が不満そうに呟いた。

 

脚竜

「なーんで俺達後ろにいるんだよ………。」

 

オクト

「たぶんぼっちさんに考えがあるからじゃないか?」

 

キリト

「あぁ、アイツなら何かしら悪巧みしてるだろうからな。」

 

アスナ

「………悪巧みねぇ。」

 

ぼっち

「うっせぇなぁ悪巧みして何が悪いんだよ!」

 

そんなことを言っている間に、A隊リーダーが、玉座との距離が二十メートルをきったその瞬間、それまで微動だにしなかった巨大なシルエットが猛然と跳んだ。

空中でぐるりと一回転し、地響きとともに着地し、オオカミを思わせるあぎとをいっぱいに開き、吼える。

「グルルラアアアッ!!」

『イルファング・ザ・コボルドロード』

ぼっちから聞いてた通り、大きく二メートルは軽く越える体躯。恐ろしいほどに輝く隻眼。右手に骨製の斧、左手に革を貼り合わせたバックラー、腰の後ろには差し渡し一メートル半はあると思われる湾刀(タルワール)を差している。

何故この事をぼっちが知ってるのかと聞くと、ぼっちは

 

ぼっち

「お前らの知らない人間だが、元ベータテスターの友人がいて、そいつから情報をもらった。」

 

攻略の前日にそう言われ、全員納得し今に至るが、今も戦いながらオクトだけは妙に引っ掛かっていた。

 

オクト

(……ホントにぼっちさんにテスターの友人がいたのだろうか?しかもキリトさんとアスナさんはともかく、オレと脚竜はぼっちさんからそれよりも前にその情報を教えられていたんだけど、どうあっても的確すぎるし、アリバイが完璧すぎる。逆に完璧すぎておかしいくらいだ。………もしかして、何か隠し事をしてるんじゃ……。)

 

そこまで考えていたときにリアルでの親友『脚竜』から叫ばれる。

 

脚竜

「オクトー!アスナさんと交代だってよ!」

 

オクト

「OK、すぐいく!」

 

今回の作戦を立てたのはぼっちさんだ。

オレでもわかるくらい単純に説明もしてくれた。

まず、アスナ、キリト、ぼっちの三人でボス及び周りの雑魚コボルド撃破のために突っ込む前衛、オクトが支援及び盾役の中衛、脚竜が遠距離からの支援射撃の後衛。

前衛のHP管理もオクトに任せ、前衛の誰か一人でもHPが半減したら脚竜と共に交代して、前衛一人と後衛、中衛の二人を入れ換える。前衛一人のHPが回復したら元に戻す。

かなりシンプルだが、ぼっちさんの算段通りかなりうまくいっている。

HPがギリギリになることもなく、しかも取り巻きのコボルドもアスナさんの凄まじく動きに全くの無駄がない奮戦で蹴散らしていたのもあり、かなり順調だった。

そう思っていると脚竜が並走しながら言った。

 

脚竜

「やっぱ兄貴すげぇな。ホントに俺達五人でもボス殴れたりするんだからな。」

 

オクト

「確かになぁ………あとはオレへの待遇が変わってくれればいいんだけど。」

 

脚竜

「兄貴の事だからそれはないな。」

 

オクト

「あ、やっぱり?」

 

オクトは苦笑いしながらも敵に突っ込み叫んだ。

 

オクト

「こっち向きやがれこのヘタレコボルド!」

 

脚竜

「おっしゃ!狙い撃つぜ!」

 

その頃、ぼっちはコボルド王とその衛兵対プレイヤー四十七人の戦いはぼっちにとってほとんどが想定内の動きで動いていたことに内心にやついていた。

 

ぼっち

(ここまで予想通りだと少し残念だが、いい意味で想定内だな。まずはアスナ。正直キリトから初心者だと聞いてオクトと同じパターンだと思って思わず絶句したくらいだったが、キリトのティーチングがよかったのかはたまたアスナ自身がダイヤの原石だったのかはわからんが、かなり強いプレイヤーだ。正直オレが想定外の要因があるとすれば彼女のセンスと伸びしろだろうな。次にキリト。………こいつも改めて再確認することになったがやはり元々が強い。この手のゲームを熟知してなければできん動きを平然とやってのけるんだからな。偉そうなこと言うとすれば少なくともキリトに限ってはオレを越えれるかもしれん。次にオクト。ここ数日でオレが言ってたこととやってたことをきっちりと覚え、鍛練している。それゆえにこいつもここまで来れたし、俺達もここまで来れた。ある意味こいつの存在はチームの要だな。最後に愚弟。まぁいつも通りバカだな。だがバカなりに多少の努力はしてるのは事実か。)

 

この考えをコンマ五秒で構築し、すぐに戦闘へと戻る。

繰り返しそれを行い、敵を討伐していく。正直に言えばぼっちには更なる野望があった。

最初にぼっちがディアベルの意見に反対した理由でもあるが、雑魚コボルドと言えどフロアボス部屋の雑魚だ。故に経験値もドロップアイテムもLAボーナスと比べれば見劣りするが、それでも高性能なものが多い。

しかしぼっちはその上でボスのLAを奪う気でいた。

この先で必ず勝ち上がるためにも必須なものが多く、ぼっちとしては自分だけでなくH隊の誰かが取れればそれでいいとも思っていた。ディアベルはそれを見越してそう言ってきたのかは知らないが、ぼっちは誰が見ても納得してしまうほど強欲で欲望に忠実な人間だった。

 

ぼっち

(悪いがLAはオレの率いるH隊のもんだ。)

 

前線で歓声が弾けた。

ぼっちはボスの方へ向くとボスの長大な四段HPゲージが最後の一本に突入していた。

ぼっちはそれを見て、H隊にボスへ向かうことを告げよう考えていたその時だった。

ぼっちは言い様のない違和感に襲われた。

 

ぼっち

(なんだこの違和感は………。だが、この感覚は昔味わったこともある……。あの時と同じだ。)

 

ぼっちはコボルド王が骨斧と革の盾を投げ捨て、右手を腰の後ろに持っていくのを見ていた。そして、湾刀が引き抜かれた。情報通りの攻撃パターンの変更である。

そして、ディアベルの指揮の下、C隊の六人がボスの周囲をぐるりと取り巻いた。

 

ぼっち

(…………………!!)

 

ぼっちは違和感の正体に気づいた。あれは湾刀ではない。モンスター専用カテゴリーの…………。

その瞬間、キリトが叫んでいたが、イルファングが発動したソードスキルのサウンドエフェクトにかき消された。

カタナ専用ソードスキル、重範囲攻撃《旋車》。

視界左端のC隊のHP平均値ゲージが一気にイエローに染まった。

そしてぼっちとしては恐れていた状態異常のひとつ、一時的行動不能状態(スタン)をC隊の全てのプレイヤーが受けていた。

ぼっちは賭けに出た。ありったけの目力を己の弟に向けたのだ。

一見なんの意味もなく無意味としか思えないことだが、ぼっちは弟の脚竜の事の大半の事は把握できている。故に、成功すれば犠牲はゼロになるはずだ。

今まさに、コボルド王はディアベルに向かって、ソードスキル《浮舟》を撃とうとしていた。

 

ぼっち

(気づけ、気づけ愚弟!)

 

脚竜とオクトは想像を絶する物を見ていた。攻略チームのリーダー率いるC隊がたった一撃で追い込まれている。そのリーダーであるディアベルが打ち倒されている。

脚竜は何かに気づき、後ろを振り返った。その目線の先には自分の兄、ぼっちがいる。何か言いたげだが、今ここで叫んだとしても多分距離的に聞こえないし、ぼっちが何を考えているのかはわからないはずだった。だが、脚竜はこの土壇場に限っての運と勘はかなり冴えていた。だからこそ出来た兄弟の芸当。

 

脚竜

「オクト!!」

 

脚竜は近くにいる親友オクトに大声をあげた。驚いたオクトがこっちを向く。そして、脚竜は叫んだ。

 

脚竜

「今すぐ走ってディアベルの前でガードを使え!」

 

オクト

「……え?」

 

脚竜

「早く行け!!」

 

オクトはそう言われ走り出した。

そして、オクトにもそれを言われた理由がわかった。今、見たことのないスキルの影響でボスの前で跪いている攻略チームのリーダー、ディアベルにまた見たことのないエフェクトのソードスキルに襲われる寸前だった。

オクトはさらに、加速した。

目の前の騎士を守るために。

 

オクト

「間に合え………間に合えェェェェェェ!!」

 

そして、ソードスキル《浮舟》が放たれた瞬間だった。

ガギィィィィィィン

大きな金属音が鳴り響いた。

 

ディアベル

「………君は。」

 

オクト

「………間に………合った!」

 

が、その《浮舟》自体はスキルコンボの開始技にすぎないため、コボルド王はさらならソードスキル《緋扇》の構えを行っていた。そして、緋扇をオクトに撃ち込んだ。激しい金属音が三連続で鳴った。

だが、今までの経験とオクトが使用した盾専用スキルの《ガード》の影響でダメージはかなり低かった。

だが、やはり最後の突きは衝撃がでかかった。

 

オクト

「うおぉぉあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫び声とともにオクトは攻略チームのかなり後方に吹き飛ばされた。

攻略チームが唖然としているなか、ぼっちが叫んだ。

 

ぼっち

「タンク部隊はいちはやくC隊のカバーをしろ!誰一人死なせるなよ!残りの部隊はC隊ロスの分を補うように戦え!刀の範囲攻撃は回りを囲むと発生する!チャンスが来るまでは絶対に回り込むなよ!それとしばらくはH隊が前線を引き受ける!」

 

回りは変わらず唖然としていたが、ぼっちはそれを見てさらに大声をあげた。

 

ぼっち

「死にたいなら話は別だが、生き残りたいならオレの言うことを聞け!安心しろ、オレが命令を出している限り誰も死なせねぇ!」

 

それを聞いたA隊はすぐにC隊の回復などに当たった。

 

ぼっち

「………キリト、カタナスキルのモーションとかを把握してるんだったな?」

 

キリト

「あぁ、そういうお前もだろ?」

 

ぼっち

「まぁな。愚弟、ありったけの弓スキル叩き込め!オクト、アスナ、キリト、お前らはオレについてこい!命令はオレが出す。指示に従っている限り死なせないから今回はお前らは黙ってオレについてこい!」

 

アスナ

「了解。」

 

キリト

「あぁ!頼むぞぼっち!」

 

脚竜

「お?来たねぇ兄貴のパーフェクトタクティクス!」

 

オクト

「わかりました、ここまで来たら従いますよ!」

 

キバオウ

「お、お前ら、何をする気や?」

 

ぼっち

「決まってんだろうが。LA取りに行くんだよ。」

 

ぼっちは強欲で貪欲、そして傲慢な人間だ。故に今回LAほしさにディアベルの意見をはねのけた。だが、そんなぼっちでも己の欲より優先するものもある。

 

ぼっち

(あんだけ頑張ってくれたのに俺だけが欲張ってたら申し訳ないしな。ようやく確信したよ。あんたは変わらないな、あの時と同じく。)

 

目先の利益ではなく遠い未来の利益を選んだディアベルに敬意を払っていた。ぼっちはそんな人間を救うことが己のもう一つの欲である。

 

ぼっち

「手順はセンチネルと同じだ。気を抜くなよ野郎共!」

 

掛け声から始まり、H隊はイルファングに各々突撃した。もちろん、先程の範囲攻撃を撃ち込まれないためにもある程度はまとまって行動していた。

アスナが美しく鋭さもある『リニアー』を、脚竜が弾丸雨中のごとく矢を降らせる『サジッタレイン』を、ぼっちが少し特殊な構えの『ホリゾンダル』を、オクトが多少のノックバック効果のある『フューリースマッシュ』を、キリトが『バーチカル』を撃ち込み、イルファングのスキルをいなしていった。

だが、どこまで行ってもそう順調には行かない。

イルファングの別モーションの攻撃に対応するためにポージングを変えたが故にキリトのスキル発生が無効化され、危険な状態に陥った。

 

ぼっち

「オクト!」

 

オクト

「はい!」

 

すかさずオクトがタンクの役割を果たすが、大きくノックバックした時の怯みで隙が生まれたのをイルファングは見逃さず、オクトへ攻撃した。

 

オクト

(このままじゃ!!)

 

オクトの緋扇の直撃は確実だった。このままではオクトが………。

 

???

「ぬ……おおおおッ!!」

 

太い雄叫びとともに両手斧ソードスキル《ワールウィンド》が撃ち込まれた。

イルファングの野太刀と両手斧が激突し、ボス部屋全体が震えるほどのインパクトが発生し、イルファングは後方に大きくノックバックし、攻撃者は一メートルほど下がっただけで留まる。

割って入り、オクトを救ったのはB隊リーダー、エギルだった。

 

オクト

「あ、ありがとうございます!」

 

オクトが礼を言うと、エギルは肩越しのオクトを見てニヤリと笑った。

 

エギル

「あんた達だけにいつまでもタンクをやられちゃ立場ないからな。」

 

脚竜

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!こっち向きやがれぇぇぇ!!」

 

脚竜が隙ありと、言わんばかりに《シャドウスティッチ》を放ち、連撃を繋げている。

そして、エギルの率いるB隊などが傷が浅かったプレイヤー達が回復を終えて前線へと復帰してきたのを確認したぼっちが叫んだ。

 

ぼっち

「さっきも言ったがボスを後ろまで囲むと全方位攻撃を撃ってくるぞ!技の軌道はオレに任せて正面のやつが受けてくれ!ソードスキルで相殺せずとも盾や武器でしっかり守れば大ダメージは食らわん!」

 

おうと野太く響いた声に苛立ちの混じるコボルド王の雄叫びが重なった。

ここでぼっちは再び脳内で戦略図を広げた。

 

ぼっち

(……武器が変わっているからと思って確認してみりゃやっぱり《センチネル》は増えてやがるな。一応C隊もディアベル含め無事ではあるが低級ポーションの時間継続回復じゃ戦線の復帰は難しい。だが、だからといってエギルや後ろのセンチネルを倒してるE隊とG隊に頼りきりになれば、時間の問題だが確実にセンチネルへの対処が出来なくなるだろう。ならば、キバオウ達ならセンチネルを対処できると仮定しておき、問題はエギルを含む攻略チームのタンク部隊のHPをいかに持たせるかが問題だ。ならば、オレが戦いながらも予備動作から読み取り、イルファングの技を見切る必要がある………か。)

 

この間、わずか二秒。ぼっちは全ての構図を作り上げ、最適な手段を選んだ。

 

ぼっち

「次、右水平斬り!」

 

ぼっちは戦いながらも大声で叫び続けた。

その指示に合わせてタンク部隊は盾や武器を使ったガードに徹した。

これにより多少はマシにはなったがダメージを受けているのは確かだ。

そんな彼らの間を舞うフェンサー《アスナ》とアーチャー《脚竜》、そしてソードマン《キリト》がいた。

彼らは決してボスの正面と後背には回らず、イルファングが少しでも硬直すると、その隙を逃さずに各々が渾身の一撃を叩き込む。もちろん、それを繰り返しているとだれかはボスのヘイトが上がってしまうが、壁の七人、特にオクトが威嚇(ハウル)などのヘイトスキルを適宜使用しターゲットを取り続ける。

ぼっちの考えた盤面は理想的かつ迅速に作られていっていた。

どれか一つの要素が破綻すればその瞬間に崩壊する危うい戦闘が五分近くも続いた。

やがてボスのHPが残り三割を下回り、最後のゲージが赤く染まった。

その瞬間、少し気が緩んだのか、脚竜が脚をもつれさせた。よろめき、立ち止まったのはイルファングの真後ろだった。

 

脚竜

「やっべ!!」

 

ぼっち

「さっさと動け愚弟!」

 

反射的にぼっちは叫んだが、間に合わなかった。ボスが《取り囲まれ状態》を感知し、ひときわ獰猛に吼えた。

全方位攻撃《旋車》が来る。

 

キリト

「う………おおああッ!!」

 

キリトは短く吼え、剣を右肩に担ぐように構え、左足で思い切り床を蹴り付ける。本来の敏捷力ではあり得ない加速度が背中を叩き、キリトの体は斜め上空へと砲弾のように飛び出す。片手剣突進技《ソニックリープ》を放った。

 

キリト

「届……けェェェェェェェッ!!」

 

叫びつつ、キリトは限界まで右腕を伸ばしながら剣を振った。

キリトの愛剣、『アニールブレード+6』の切っ先が《ツムジグルマ》発動寸前のイルファングの左腰を……………。

 

 

捉えれなかった。

 

キリト

「届……かなかった…………。」

 

キリトの決死の一撃は、届くことなく、空を切った。

あとはツムジグルマが決まってしまうのを…………。

 

???

「いいや、よくやったぜキリト。」

 

そんな声が聞こえた。

キリトはその声のした方を見ると、不敵で邪悪、だけど今はとても心強い笑みを浮かべるぼっちがいた。

 

ぼっち

「すまん愚弟緊急事態だ許せ。」

 

脚竜

「なっ!?オレを踏み台にしたッ!!?」

 

ぼっちは走り、脚竜を踏み台にした。そして、

 

ぼっち

「キリト、少し足場になってくれ。」

 

キリト

「一体なにを………」

 

キリトは最後まで聞くことなくぼっちの踏み台にされ空中から落ちた。

その後、ぼっちはある言葉を言い始めた。

それを聞いたオクトと脚竜が小さく「マジか」と呟いた。

 

ぼっち

「オレのこの手が漆黒に染まる!勝利を奪えと蠢き(うごめ)唸る!ダァァァァァァクネス!フィンガァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

ぼっちの一撃がイルファングの脇腹に入り、何連撃かわからないほどのエフェクトが出たが、全てがクリティカルだった。

そしてぼっちはイルファングを貫く形で背後へと行き着いた。しかし、イルファングは怯んでおらず、スキルを決めるために落下している最中だ。

ぼっちは空中でとあるポーズをしながら一言放った。

 

ぼっち

「爆発ッ!!」

 

その瞬間、イルファングの身体を中心に小規模だがかなり威力のある爆発が発生した。そして、イルファングの巨体は空中でぐらりと傾き、必殺の竜巻を生まぬまま床へと叩きつけられた。

 

ぼっち

(………まぁ、この技クールタイムが半日だからなぁ。)

 

「ぐるうっ!」

喚き、立ち上がろうと手足をばたつかせる。人型モンスター特有のバッドステータス《転倒(タンブル)》状態。

 

ぼっち

「キリトッ!!」

 

ぼっちは叫び、それに呼応するようにキリトが叫んだ。

 

キリト

「全員!全力攻撃(フルアタック)!!囲んでいい!!」

 

お………オオオオオオ!!とエギルら七人がこれまでガードに専念させられていた鬱憤を爆発させるかのごとく叫んだ。倒れたコボルド王をぐるりと囲み、ソードスキルを同時に発動させる。

先程のぼっちの《ダークネスフィンガー》でゲージ一本のうちの2割を削っていたのあり、ガリガリと削れていく。

コボルド王が立つまでにHPを削りきれれば勝利、その前に奴が転倒から脱すればその瞬間に《ツムジグルマ》が炸裂し、今度こそ全員を斬り倒す。しかし、コボルド王はもがくのをやめ、立ち上がるべく上体を起こした。

 

キリト

「………間に合わないか!」

 

キリトは押し殺した声でそう叫び、いつの間にか近くにいたH隊に向けて声を張り上げた。

 

キリト

「脚竜!ありったけのスキルと通常攻撃を頼む!」

 

脚竜

「OK!任せろ!」

 

キリト

「オクト!できる限りの大技をぶちこめ!」

 

オクト

「よっしゃあぁ!!やってやるぜぇぇぇ!!」

 

キリト

「ぼっち、アスナ。オレと一緒に頼む!」

 

アスナ

「了解!!」

 

ぼっち

「いいだろう!」

 

残りHPは三パーセント。イルファングは滑らかに垂直ジャンプのモーションに入る。

 

キリト

「行っ………けえッ!!」

 

キリトが絶叫し、三人は同時に地を蹴った。

まず、アスナがエギルたちの隙間を抜け、《リニアー》をボスの左脇腹に撃ち込んだ。

続いてぼっちが居合でもするかのような構えで《ホリゾンダル》を撃ち込んだ。

わずかに遅れ、青い光芒を纏ったキリトの剣がコボルド王の右肩から腹までを切り裂いた。

HPゲージ……残り1ドット。

 

キリト

「お……おおおおおッ!!」

 

全身全霊の気勢とともに剣を跳ね上げる。

先程の斬撃と合わせ、V字に軌跡を描く。

片手剣二連撃技《バーチカルアーク》。

コボルド王の巨躯が不意に力を失い、後方へとよろめいた。

狼に似た顔を天井へ向け、細く高く吼える。その体に、びしっと音を立てて無数のヒビが入る。

両手が緩み、野太刀が床に転がった。直後、アインクラッド第一層フロアボス、《イルファング・ザ・コボルドロード》はその体を幾千幾万のガラス片へと変えて盛大に四散させた。

第一層フロアボス攻略完了。死亡者ゼロ。

誰一人犠牲になることなく、長く、そしてこれからも続く戦いは一時的に終わった。




オクト
「アンタ!今すぐその言葉を取り消せ!」

アスナ
「……え?」

???
「さぁさ皆さんよーく聞いてね。これから話すことは結構重要だよー。」

???
「ずいぶんと滑稽な戦いをしてくれて……まるで道化だな。そうは思わないか?」

???
「………今、なんつった?」

次回 第十二話~竜の逆鱗~


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第十二話~竜の逆鱗~

どうも皆さん、なんか少しだけ投稿が早くなった(かもしれない)wandarelです。
ようやく第一層終わりますよぉ。ここまで長かった。
そして、大事なことですが、ここから先はちょっとしたダイジェスト風になるので、少しだけ飛ばし飛ばしになります。(時折ボス戦とかなかったりとかり。)
感想や評価のほうもどんどんお願いします!


ボスの消滅と同時に後方に残っていたセンチネルも儚く四散した。

全員が全員、必死であったがゆえに今、この状況を飲み込めずにいた。

オクトは盾を前に構え、脚竜は弓を構えてクリアリングのように周囲を見渡し、ぼっちも剣を抜いたまま硬直していた。たとえベータとのちょっとした違いでなにかが来ても対処できるかのように。

同じ理由でキリトも斬り上げた姿勢のまま動くことができなかった。

その時。小さな白い手がそっとキリトの右腕に触れ、ゆっくり剣を下ろさせた。立っていたのはレイピア使いのアスナだった。栗色のロングヘアをどこからともなく流れてきた涼しい風に揺らしながら、じっとキリトを見ていた。

そして、アスナが小さく囁いた。

 

アスナ

「お疲れ様。」

 

その言葉に、キリト達H隊はようやく確信した。そして、

 

脚竜&オクト

「いよっしゃァァァァァ!!」

 

脚竜とオクトが盛大に歓声をあげ、顎と拳を付き出していた。

 

ぼっち

「おいおいお前らまるで城之内じゃねぇかよ。」

 

ぼっちも安堵したのか、苦笑いしながらも脚竜達の相手を始めた。

そして、それをきっかけにわっ!!と歓声が弾けた。

 

フォリア

「いやったぁぁぁ!女性プレイヤーなめんじゃねぇ!」

 

アルムス

「やったなチワワ公!」

 

脚竜

「おう!って誰がチワワかこのやろー!!」

 

イオリ

「お疲れ様ぁ!みんな!大勝利だぁー!!」

 

オクト

「お疲れ様です!イオリさん、ナイスガードでしたよ!」

 

イオリ

「うんうん!オクトもよくやったぁー!」

 

カシム

「ナイス!」

 

ぼっち

「……ふっ。」

 

両手を突き上げ叫ぶ者、仲間と抱き合うもの、滅茶苦茶な躍り披露する者。そして何故か有名なあの躍りを踊り始める脚竜。

それぞれが勝利の余韻に浸り、騒ぎ続けていた。その時だった。

 

???

「なんでだよ!」

 

突然の叫び声に広間の歓声が静まりかえった。

確か名前はリンドだったはずだ。

 

リンド

「なんでディアベルさんや俺達を囮にしたんだよ!」

 

キリト

「……囮?」

 

リンド

「そうだろ!!だって……だってアンタは、ボスの使う技を知ってたじゃないか!アンタが最初からあの情報を伝えてれば、俺達が死にかけることもなかったはずだ!」

 

この発言に後ろにいるディアベルは黙ったままだった。

そしてその発言が火種となり、残りのレイドメンバーがざわめく。

そしてその疑問に答えたのはキバオウではなかった。

キバオウ率いるE隊の一人、(確か名前がイカロスだった)が走りだし、キリトの近くまでやってくると、右手の人差し指を突き付け、叫ぶ。

 

ジョー

「オレ……オレ知ってる!こいつは元ベータテスターだ!!だからボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか全部知ってるんだ!知ってて隠してるんだ!」

 

ジョーのその発言を遮ったのはエギルやオクトと共に最後までタンクを務めたメイス使いイオリだった。

 

イオリ

「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だって書いてあったろ?彼がホントに元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本とおなじじゃないのか?」

 

ジョー

「そ、それは……。」

 

押し黙ったイカロスの代わりにシミター使いのリンドが憎悪溢れる一言を口にした。

 

リンド

「あの攻略本がウソだったんだ。アルゴって情報屋がウソを売り付けたんだ。アイツだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけなかったんだ。」

 

この身勝手な発言に脚竜、オクト、エギルとアスナが同時に口を開いた。

 

エギル

「おい、お前………。」

 

アスナ

「あなたね………。」

 

脚竜

「おいおいおい……」

 

オクト

「いい加減にしろよおい……。」

 

そしてキリトが何かを言おうとした瞬間だった。

どこからか笑い声が、聞こえてくる。

まるで今までの努力を踏みにじるかのような不快な笑い方だった。

その場にいた全員がそちらの方に向いた。

 

???

「クックックックックッ……フフフフフ…フフハハハハハハハハ!!」

 

その正体はぼっちだった。

ぼっちは笑い続けながら話し始めた。

 

ぼっち

「いやはや、お前達ずいぶんと滑稽な戦いをしてくれて……ホントに面白い……そうは思わないかキリト?」

 

キリトは驚きぼっちの眼を見たが、まるで話に合わせろと言わんばかりに睨んできたため、話に合わせることにした。

 

キリト

「……まぁ、そうだな。」

 

ぼっち

「元ベータテスターだと?貴様ら、俺達をあの程度の雑魚と一緒にするんじゃねぇよ。」

 

リンド

「な、なんだと…?」

 

ぼっち

「まだわからんか?だから雑魚なんだよテメェらはよ。ベータテストに受かった連中はわずか千人。はたしてそのなかで本物のゲーマーは何人いたと思う?ほとんどはレベリングも知らん素人ばっかりだったぜ。まだテメェら雑魚の方がマシなぐらいにな。」

 

ぼっちの侮蔑極まる言葉に四十五人のプレイヤーが一斉に黙りこむ。

 

ぼっち

「……だが、俺達は違う。俺達はベータテスト中に、他の誰もが到達出来なかった層まで行ったよ。ボスのカタナスキルのことを知ってたのもカタナを使うmobを散々戦ってきたからだ。他にも色々知ってるぞ?アルゴなんかどうでもよくなるくらいにはな。」

 

 

「……なんだよ、それ……」

 

誰かが掠れた声で言った。

 

「そんなの……ベータテスターどころじゃねぇじゃんか……もうチートだ、チーターだそんなの!」

 

周囲からもそうだ、チーターだ、ベータのチーターだ、という声が幾つも沸き上がる。それらは混じり合い、《ビーター》という奇妙な単語になった。

 

キリト

「……《ビーター》、いい呼び方だなそれ。」

 

キリトはにやりと笑い、その場の全員をぐるりと見回しながら、はっきりした声で告げた。

 

キリト

「そうだ、俺達は《ビーター》だ。これからは、元テスターごときと一緒にしないでくれ。」

 

キリトが素早くメニューウィンドウを開き、装備を変えた。ボスドロップのユニーク品、《コート・オブ・ミッドナイト》である。

ぼっちがキリトについていく形で並んで歩いているときにぼっちは高らかに告げた。

 

ぼっち

「二層の転移門は俺達がアクティベートしといてやるよ。この上の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから死にたいならついてこいよ。」

 

そう言ったあと、黒い二人は全く同じ歩調で歩きだした。

ぼっち達が立ち去った後のボスフロアは一定の憎悪に満ちていた。

 

ジョー

「ビーターさえいなければ俺達だって………。」

 

イオリ

「……もういいだろ、過ぎたことなんだからさ。」

 

リンド

「それで許されるはずがないだろ!そうだろ、ディアベル!」

 

ディアベル

「……………。」

 

ディアベルは終始うつむいて黙っていた。

だが、ここからさらに飛躍した話になる。

 

リンド

「そういえば、H隊の連中にもビーターがいるんじゃないのか?」

 

そう言われた脚竜はゾッとした。

 

オクト

「いや、俺達はニュービーだ!このゲームだって初めてだぞ!な、脚竜!」

 

脚竜

「……………………。」

 

オクト

「脚竜?」

 

急に自分の親友が黙り、うつむいた。

そして一言、ポツリと呟いた。

 

脚竜

「………俺も元テスターです。隠しててすみませんでした。」

 

脚竜の突然のカミングアウトにオクト達は驚きを隠せなかった。

 

アルムス

「じゃあ、あれも………あのときの言葉とかもウソだったのか?」

 

脚竜

「それは………。」

 

脚竜の言葉を遮るようにイカロスが叫んだ。

 

ジョー

「こいつ、確か片方のビーターの事を兄貴って呼んでた!だからこいつも、ビーターだ!」

 

脚竜

「それはちが………。」

 

ジョー

「言い訳なんていいんだよ!」

 

イカロスは脚竜に弁明の余地すら与えなかった。もはやビーターかどうかだけで罪に問われるらしい。

 

オクト

「アンタいい加減にしろよ!さっきからなんでそんなこと言えんだよ!」

 

ジョー

「そりゃそうだろ!こいつらビーターさえいなけりゃ皆もっと安全に戦えただろ!」

 

そしてジョーがさらに叫んだ。

 

ジョー

「もし現実でも兄弟なら騙してた弟も腐ってるけど、兄の方はもっと腐ってるだろうな!」

 

瞬間、オクトの脳裏に一つの記憶が蘇った。

かつて自分が泣き虫だった頃にさらに泣かされたときのこと。それの原因は不明。だけどそれをしたのは……。

 

脚竜

「………今、なんつった?」

 

オクトは覚えている、この言葉と表情を。

 

オクト

「アンタ、今すぐその言葉を取り消せ!」

 

ジョー

「いいや、取り消さないね!こいつらみたいな人間のクズがいるから攻略も進まないんだ!」

 

そう言いきった直後だった。脚竜がイカロスに向かって掴みかかった。イカロスが驚いた表情をしてると、脚竜が吼えた。

 

脚竜

「今なんつったゴラァ!!誰の兄貴がクズだとボケェ!!」

 

今までの元気で快活な少年のイメージだった男の子が今、この瞬間だけは逆鱗に触れた竜の如く怒っていた。

オクトは知っている。脚竜は家族や友人をバカにされるのをひどく嫌っている。だから怒る。

 

脚竜

「テメェらみてぇななにも知らねぇ、知る気もねぇクソがなにを抜かしてんだゴラァ!!オレは自分がいくらバカにされようが我慢出来るがよぉ、オレの家族や友達をなにも知らねぇでバカにすることだけは我慢ならねぇ!」

 

オクト

「やめろ脚竜!」

 

脚竜

「うるせぇどけ!こいつだけは絶対許さねぇ!」

 

オクトが制止に入るも、脚竜の怒りはそんなものでは押さえられないほどだった。

そこからは一方的にジョーにキレていた。

 

オクト

(まずい……このままじゃ。)

 

そして、オクトが恐れていた事が起きた。

脚竜が武器を取り出し、至近距離で大技を撃とうとしていたのだ。

 

ジョー

「お、おい。PKは犯罪だぞ、わかってるのか?!」

 

ジョーは動揺しながらもそう言うが

 

脚竜

「あぁ?ビーターらしく汚い手を使って今ここでテメェを殺してやるってだけだろうが!」

 

あの目はあの時と同じ殺気を一切隠していない眼だった。

このままではジョーが死に、脚竜は罪人になる。

どうにかして止めなくては。

その時、ふわっと脚竜は誰かの腕に包み込まれた。

いつの間にか脚竜の後ろにいたYunだった。

 

Yun

「ほいほい、落ち着け落ち着け。」

 

脚竜

「………Yun………さん?」

 

獰猛で怒り狂った竜となっていた脚竜を一瞬で鎮めたのがすごかったが、どこからともなく現れたのには全員が驚いた。

 

Yun

「気持ちはわかるけどやりすぎ。ここは殺し合いの場所じゃないでしょ?さすがのアンタでもわかるよね?」

 

Yunは脚竜の頭を撫でながらそう言った。

 

脚竜

「…………うん、すまねぇ。オレどうかしてたよ。」

 

脚竜も冷静な考えが出来てなかったのか、自分のやろうとしてたことがとても危険なことを知り、冷静になった。

 

Yun

「よろしい。……んで、ジョーだっけ?アンタも私怨で不満をぶつけんのはやめなさい。これ以上は無駄よ。」

 

ジョー

「う………」

 

Yun

「せっかく勝ったんだから今くらいそんなの忘れたっていいじゃない。ね?」

 

ジョーは言いくるめられ、再び押し黙った。

脚竜は落ち着いて、ゆっくりと歩き始めた。

 

オクト

「ちょ、どこに行くんだよ!」

 

脚竜

「兄貴達のところだ。オレはなにがあっても兄貴についていくよ。」

 

そう言いきった脚竜は数歩歩いた瞬間に振り返り、一発の矢を撃った。

その矢は、ジョーの顔面ギリギリを捉えていた。

 

脚竜

「オレはさっき兄貴をバカにしたことを絶対に許さないからな。次、兄貴をバカにしたら命はないと思っておけよ。」

 

そう言って脚竜は後を追うように走っていった。

 

ジョー

「……なんだよ、少し小バカにされただけで。」

 

ジョーのその言葉に今度はオクトが静かにキレた。

 

オクト

「……ジョーさん、それは違いますよ。あなたに大切な人はいますか?」

 

ジョー

「それがどうしたんだよ?」

 

オクト

「脚竜に……アイツにとって大切なのは自分の家族なんですよ!アンタは自分の大切な人をバカにされて平然といられるんですか?!」

 

ジョー

「それは………。」

 

オクト

「第一に脚竜とぼっちさんは………。」

 

オクトがここまで言った時にYunに制止をかけられた。

 

Yun

「オクト、一応ここはゲームなんだから個人情報を教えちゃダメでしょ?アンタの言いたいこともわかってるから落ち着きなさい。」

 

オクト

「…………はい。」

 

キバオウ

「……そういや嬢ちゃんはなにをしに来たんや?喧嘩の仲裁だけっちゅーわけやないやろ?」

 

Yun

「あ、そうだそうだ、忘れてたよ。私の仕事これからだからねぇー。よっこいしょと。」

 

Yunは攻略チームのできる限り中心に寄って、周りを見渡し、二度ほどうなずいたあとに少し妖艶な笑みを浮かべ、言った。

 

Yun

「さぁさ皆さんご注目ー。今から重大なこと言うから耳の穴かっぽじってよーく聞きなさい。」

 

そして、Yunは衝撃的なことを言い放った。

 

Yun

「ここに来ていまだベータテスターであることを隠してるやつがいるからそれの暴露に来ましたー。」

 

リンド

「………なんだって?!」

 

オクトやアスナも驚きを隠せなかった。

 

エギル

「……お嬢ちゃん、状況がわかってんのか?今ここでそんな事を言うのは………。」

 

Yun

「まぁまぁ最後まで聞いていきなさい。」

 

エギルが反論しようとしたが、Yunに抑え込まれた。

 

Yun

「まず、あの三人以外にあと二人はベータテスターいるわ。………まずはカシムさん。」

 

カシム

「……………。」

 

アルムス

「……カシム。」

 

カシム

「………バレたところでどうしようもないだろ。死ねと言うなら死ぬさ。」

 

そして、Yunは続けた。

 

Yun

「それじゃもう一人発表するわ。ここにいる最後のベータテスターはね…………ディアベル、アンタよ。」

 

このカミングアウトに一同は戸惑い、ざわつき始めた。

え?ディアベルさんが?ありえないだろ?などという話し声がしてきた。

 

キバオウ

「……どういうことや、なんでやディアベルはん!なんで言わんかったんや!」

 

その問いにもディアベルはうつむきなにも言わない……いや、言えないままだった。

代わりにYunが答えを言った。

 

Yun

「アンタ達ニュービーを引っ張っていくためよ。この人はさっきのビーター達のように目先の利益じゃなくて、遠い未来の利益を選んだのよ。言わなくてもわかると思うけど、遠い未来の利益っていうのは、『全員が生きて帰ること』そのためにこの人は自分の素性を隠して、アンタ達の為に動いた。率先して人の前へと出たのよ。さして今回、死にかけたのもぶっちゃけディアベルのせいね。たぶん、アンタ達を率いるリーダーとして、そのユニーク品をゲットしたかったのよ。ビーターに奪われるのを防ぎながらね。だけど、その焦りが今回の攻略で危険な状態にもなった。……とりあえず私が思うにはそんなことだと思うけど何かちがうことはあるかしらディアベル?」

 

Yunにそう聞かれたディアベルはゆっくりと立ち上がった。

 

ディアベル

「はは……全部見抜かれてたんだね。……カッコ悪いなぁオレって。」

 

ディアベルは立って前を向くと、かつてトールバーナーの噴水広場で激励をしていたときよりも大声で言った。

 

ディアベル

「オレは元ベータテスターだ!あの二人と同じように君たちが知らないことを知っている。けど、今回のカタナスキルについては全く知らなかったし、イルファングが使うとも思ってなかった!信じてほしいなんてもう言えない。けど、これだけは言わせてくれ。

オレは最後までビーターとか元テスターとか関係なく全員でこの世界を生き残りたい!リソースもできる限り均等に配布したい!プレイヤー同士が争うような状況にしたくない!オレのその強欲で無謀な考えが今この状況を生み出していることに謝罪したい。本当にすまない、皆!騙して本当にすまない!

 

しばしの沈黙のあと、拍手がなった。拍手をしているのはYunだった。

続いてオクトが、アスナがと続き、最後にはここにいるディアベル以外のプレイヤーが拍手をしていた。

 

オクト

「……ディアベルさん、あなたはやっぱりすげぇよ。俺だったら最後まで嘘をついて逃げてた。けど、あなたはそれを覚悟して逃げずに、打ち明けた。それだけでも十分ですよ。」

 

リンド

「……ディアベル。どうして本当のことを言わなかったんだ?」

 

ディアベル

「それは……オレも怖かったんだ。ベータ狩りに襲われることが……それがきっかけで攻略チームが崩壊したら元も子もないからな。」

 

リンド

「………なら、俺達に少しでも相談しろよ。俺達だってアンタの味方なんだからな。」

 

ディアベル

「リンド………。」

 

キバオウ

「………ディアベルはん。」

 

ディアベル

「………キバオウさん。」

 

キバオウ

「ウソはあかんなぁ。それだけは絶対に見過ごせへんし許せんことやで。」

 

ディアベル

「……すまない。」

 

キバオウ

「ここは白黒はっきりつけるために罰を受けてもらおか。」

 

ディアベル

「………どんな責任も罰も負うつもりだよ。」

 

ディアベルの覚悟のある眼にキバオウは少し考えてから言った。

 

キバオウ

「………ほな、またディアベルはんがリーダーになって攻略チームを率いてくれや。」

 

ディアベルはキバオウのその言葉に目を見開きとても驚いていた。

 

キバオウ

「それがアンタの罪に対する罰や。アンタがこの攻略の為のチームを作ったんや。それならそれを最後まで責任持って貫くのが男やろ。」

 

ディアベルが驚きを隠せずにキバオウを見ているとキバオウは続けた。

 

キバオウ

「ほやけど、ワイはディアベルはんとは行動できん。ベータテスターである以上はな。やけん、ワイはワイなりのやり方でこのアインクラッドを攻略する。あの汚いビーター二人にもディアベルはん、アンタにも負けんようなギルドやチームを作ったるわ。」

 

ディアベル

「………ありがとう、キバオウ。願わくばその君の作るギルドと共闘したいな。」

 

キバオウ

「……はん、今から気を剃らそうったって無駄やで。ここからはワイにとってディアベルはんはライバルの一人なんやけんな。」

 

あの緊迫とした雰囲気は消え、今はベータテスターとニュービーが共闘する意思を見せている。

 

Yun

「はいはーい、皆が共闘することが決まったから言うけどこれ以上はビーターやニュービーとか関係なく攻略に励むこと。そうすることでゲームクリアまでの道はその分短くなるわ。これ以上は無駄な争いはしないようにね。」

 

Yunはそういうと攻略チームに背を向け一層に歩みを進めようとしていた。

 

Yun

「……一件落着ね。」

 

Yunが去ろうとしたとき、オクトに声をかけられた。

 

オクト

「Yunさん、ありがとう!Yunさんがいなきゃ今頃大変なことになってたよ!」

 

Yun

「……違うわ。感謝は私の方がするべきよ。必死の覚悟でボスを倒してくれてありがと。いつか私もアンタ達みたいにボスを殴りにいってやるから覚悟しとけよ。」

 

オクト

「うん、脚竜にも言っておくよ。」

 

それじゃと一言言ってYunは歩いた。歩いている最中にYunは物思いにふけった。

 

Yun

(………ホントにありがとう、攻略チームの皆。お疲れ様。)

 

オクトもそんなYunの様子を見て、先に進むことにした。

 

ディアベル

「………オクト君だったね。」

 

オクト

「へ?」

 

ディアベル

「あの時はありがとう、君がいなかったら今頃オレは………。」

 

オクト

「違いますよ、ディアベルさん。あれは俺じゃなくて脚竜がやってくれたんです。脚竜に言われて俺も動けたんですから。」

 

そして、オクトは誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

 

オクト

「……もう、足手まといにはなりたくないですから。」

 

オクトはそうディアベルに告げ、歩きだした。さっきから脚竜から早く来いのメールがうるさいのである。

しかし、またここで足止めを食らった。

目の前にキバオウがいる。

 

オクト

「………。」

 

キバオウ

「……オクト、ジブンに聞きたいことがあるんや。」

 

オクト

「なんでしょうか?」

 

キバオウ

「さっきジブンが言おうとしてたことはなんやったんや?ワイなりにけじめつけるためにも知れることは知っておきたいんや。」

 

オクトは少し暗い顔をしたが、話すことにした。

 

オクト

「脚竜とぼっちさんはリアルで母親というのがいなかったんです。もっと正確に言えば家族もろとも捨てられたんですよ。だから脚竜は家族を大切にしてるんです。ぼっちさんもどこか辛いところがあったんだと思いますよ。オレはあの時必死だったけど、それでもこれを言うべきだと思ってたんです。」

 

キバオウ

「ほうか……ならあのビーターにも脚竜とかいうガキンチョにも言うといてくれ。今回は助けられたけどワイはワイなりのやり方でこのアインクラッドをクリアするってな。」

 

オクト

「……案外いい人ですね、キバオウさん。」

 

キバオウ

「……なわけないやろ。」

 

キバオウに礼を言ってオクトは今度こそ、三人のもとへ、第二層へと走っていった。

 


キリトとぼっちは既に第二層の岩肌から伸びているテラスの端に腰を下ろしていた。

 

キリト

「……なんであんなこと言ったんだ?」

 

キリトはあの時は聞けなかったことをようやくぼっちに聞き出せた。

 

ぼっち

「……俺が言わなきゃお前自分一人で抱え込む気だったろ?んなことさせねぇっての。」

 

ぼっちはそう答えた。そして、小声で言った。

 

ぼっち

「悪役になるのも悪役にされんのももう慣れたからな。」

 

キリトは聞こえなかったため、聞き直したが、教えてくれなかった。

 

ぼっち

「よし、晴れてビーター仲間なんだ。愛称を決めたぞ。」

 

キリト

「なんだよ藪から棒に。」

 

ぼっち

「キリトだからキリ坊で行くか!」

 

キリト

「………そ、それでいいなら。」

 

そんな話をしてると後ろからバタバタと走ってくる音がしてきた。

 

脚竜

「おーいたいた!」

 

ぼっち

「おせぇ、殺すぞ。」

 

脚竜

「うわぁ理不尽」

 

キリトはいつものようにじゃれ合いを始めた二人を見て思わずにやついていた。

 

キリト

「ほんとに仲良しだなお前ら。」

 

脚竜&ぼっち

「なわけねぇだろ!」

 

そして、さらに走ってくる音がした。

 

オクト

「お待たせです!」

 

ぼっち

「遅い、死ね!」

 

オクト

「会ってそうそうなんつう事を言ってんだアンタは。」

 

オクトも合流し、再び攻略し隊(仮)が集まった。

キリトはここからは別行動になるため、また三人でやりくりしていくことになるだろう。

キリトとの別れを告げ、ぼっち達はふらふらと歩きだした。

 

ぼっち

「さてと、こっから気合入れてくぞくそったれ共。」

 

脚竜

「アイアイサー!」

 

オクト

「はぁ、頑張ります。」

 

攻略し隊(仮)は進み続ける。クリアを目指して……そしてその先にある家族のもとへ。




脚竜
「そろそろ仲間欲しいなぁ。」

オクト
「……マジですか!!?」

ぼっち
「あぁ、安心しろ、お前の仕事はあんまり変わらん。」

???
「あのー、ここで働きたいとおもってるのですが。」

次回 第十三話~仮組ほど不安定な物は無い~


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第十三話~仮組ほど不安定な物はない~

どうも皆さん、wandarelです。
ようやく第13話ですよ。アニメなら第2クールに突入といったところですかね。(特に知識はないので深くはわかりませんが。)
これからもだらだらと続けていこうかなと思っておりますので、今回も評価や感想どんどんください。
(なお、今回はカオス成分は低めです。)


二層到達から約二日。

 

オクト

(拝啓、リアルに置いてきた姉貴、父ちゃん、母ちゃん、ばあちゃん。オレは元気です。元気に今………。)

 

脚竜

「オクトーはやくー!!」

 

ぼっち

「さっさと来いバカ者。」

 

オクト

(ブラック企業の買い物の荷物持ち《しかも強制》やっています。この先、生きていける自信がありません。友達の脚竜はオレの身を案じてくれますが、ぼっちさんという上司がそれを許してくれません。いつか社畜が解放される日が来るのを願っています。)

 

オクトは涙を流しながら返事をする。

 

オクト

「はい、ただいま。」

 

ぼっちはそんなオクトを見て、ため息をつきながら言った。

 

ぼっち

「なるほどなぁ、泣くほど仕事が好きなんだなお前。安心しろ、どんどん仕事出すからよ。」

 

オクト

(殴りてぇ……。(#^ω^)ピキピキ)

 

脚竜

「んなわけねぇだろバカ兄貴。」

 

脚竜の冷ややかなツッコミでぼっちの課す強制労働はなんとか解決した。

 

ぼっち

「………ちょっと酒場でも行ってくるわ。」

 

脚竜

「酒場?」

 

オクト

「何をしに?」

 

一応酒場はあるが、年齢とシステムの都合飲めるかどうかは分からないが、特に行く意味は無いところだ。

 

ぼっち

「仲間を探しに。」

 

脚竜&オクト

「「ドラク○かっ!!」」

 

ぼっち

「安心しろ、青髪のきれいなお姉さんがバーテンダーだ。」

 

脚竜&オクト

「「ルイ○ダかっ!!」」

 

さすがに二人はツッこんだ。

こんなご時世だし、酒場で仲間を手にいれるなんて不可能だと思う。しかもぼっちは今ではこのアインクラッド内での必要悪たる存在となっている《ビーター》の称号を手にしている以上仲間になろうとする人間なんてよっぽどの物好きだ。

 

オクト

「ぼっちさん、やめといたほうがいいんじゃないですか?」

 

そう言ってぼっちの方を見たが、ぼっちは既にいなくなっていた。

 

オクト

「………ウソだろおい。」

 

脚竜

「まぁ、そうなるな。」

 


~その頃始まりの街の一角にて~

 

Yunはある人物の合流地点にいた。

いつものようにだらけているとようやくその人物が来た。

 

Yun

「おっそーい。」

 

アルゴ

「これでもオイラは忙しいからナ。」

 

Yun

「まあいいや。とりあえず報酬プリーズ。」

 

アルゴ

「あいよ。」

 

Yunはアルゴから報酬をもらっていた。Yunの仕事というのは情報屋のアルゴのアシストである。一層でのあの演説も依頼されてやっていた。

 

Yun

「しっかしまぁ、ベータテスターもニュービーも両方の仲を取り持つのは厳しいねぇ。」

 

アルゴ

「そりゃそうだろうナ。でもおかげでオイラは助かったヨ。ま、ちょっとカッコつけすぎだけどナ、ニャハハハ。」

 

Yun

「………で、話って?」

 

Yunは今までの談笑モードをOFFにして真剣な顔になった。

アルゴはそれを見て話し出した。

 

アルゴ

「そろそろオイラ達もある程度単独で行動すべきだと思ってナ。で、ここからはオイラ一人でもやっていけるからそろそろYunもあの二人と一緒になったほうがいいだロ?」

 

Yun

「………それもそうね。」

 

アルゴ

「……ありがとナ、Yun。」

 

Yun

「……ごめん。なんか感動的な雰囲気出してるところ申し訳ないんだけど、フレンド登録してるしアンタがどこに出没するかなんて手に取るようにわかるから今生の別れじゃないんだけど。」

 

アルゴ

「ニャッハハハハハ、バレたカー!」

 

アルゴとそんな下らないやり取りを終えて、私はアルゴに背を向け始まりの街の中央部に歩いていった。

しばらくすると、そこで待ち合わせていた二人と合流した。

 

???

「おっそーい、いつまでかかってんのー!」

 

???

「まぁまぁ、あ、でもあんまり遅くなると心配するから気を付けてね。」

 

Yun

「ごめんねミホ、シグレ。とりまお待たせってところー。」

 

ミホ、シグレの二人はオクトの友人、脚竜の知り合いにして、Yunの親友である。

彼女ら三人はニュービーだが、Yunは友人のアルゴの知恵をもとにベータテスターと同じくらいの知識量はある。

 

ミホ

「そういえばさ、私たち行く当てないけどどうする?」

 

シグレ

「いやいや、前のゲームみたいに三人でやろーよ。」

 

Yun

「まぁそれもいいんだけど少し行ってみたい場所があるのよ。」

 

ミホ

「それって?」

 

シグレ

「どこなの?」

 

Yun

「それはね……………とっても面白い所。」

 


~第一層トールバーナーの酒場にて~

ここに限ってはいつも通りに賑やかだった。ここならばデスゲームであることを忘れられるからこそ、大切な場所になっている。

オーナーは青髪のきれいなお姉さんこと、ルイーダ。

……ではなく、本当のプレイヤーネームは『ルイ』。

最初の手鏡さえなければ男のまま、つまりネナベで活動していくつもりだったが失敗。頭ごなしにクエストをこなしていってたら何故かここの酒場の所有権をいただき、こうして酒場を経営している。

ルイとしてはもう少し静かに暮らしたかったが、なにぶん酒場の経営の方が安全で儲かりやすいのだ。

そして、生まれつき青髪だったことと、『ルイ』という名前の為か、最初は違う名前だったが、今は『ルイーダの酒場』として経営している。しかも、リアルでの仕事も任されている以上、手を抜くことは出来ない。

 

ルイ

(……はぁ、しかしまさかこんなことになるなんて。ゲームにはいったらデスゲームになってた挙げ句クリアまで出られないなんて………。)

 

きっかけは上司からの調査依頼だったが、いつの間にかこんなことになっていた。だいたい、ルイはよく周りに振り回されがちでだいたい損な役割をしている。

そんなルイも救われるものがあるとすれば……。

 

???

「どーも。」

 

ルイ

「あら、いらっしゃい。……あまりこういうところには出ないと思ってたんだけどね。ぼっち君。」

 

ぼっち

「ビーターにも休みは必要だってことですよルイさ……いや、ルイーダさんの方が今は定着してるんでしたっけ?」

 

ルイ

「まぁね。」

 

ルイはぼっちと脚竜のリアルを知っている人間の一人である。ルイの同級生がぼっちと脚竜の姉で、昔馴染みでもあったため、ぼっちと脚竜が小さいときのことも知っており、学科は違うものの彼らの姉と同じ大学に通って

いた。彼ら兄弟に会うことはルイにとってはある種の生きる希望となっている。

 

ルイ

「……それで、ルイーダの酒場よろしく仲間でも探しに来たのかしら?」

 

ぼっち

「まぁそんなところです。」

 

ルイは言われなくてもいつもぼっちが頼んでいるものを出すと、既に代金が置かれていた。

 

ルイ

「相変わらず早いわね。」

 

ぼっち

「ハハッ…ちょっと鈍りましたがね。」

 

ぼっちはいつものミルクティーを飲み干すと、ふらふらと酒場を歩いていった。

 

ルイ

(……大きくなったわね、将悟君も。)

 

ルイは今この状況でも強く、そして、立派に生きているぼっちの事を尊敬していた。じぶんではそんな生き方を出来ないからである。ふと、そんな事を考えていると、目の前に三人のお客様がいることに気づいた。

 

ルイ

「いらっしゃい、ルイーダの酒場へようこそ。」

 

???

「うわぁ……ホントにルイーダそっくりだ。」

 

???

「ね?言ったでしょ?面白いところだって。」

 

???

「うーんでも私達お酒飲めないからなぁ。」

 

ルイは三人組の内の一人は知っていた。

 

ルイ

「あら、Yunちゃん。いつもの相方はいないの?」

 

Yun

「いやぁー、今日から私達三人で活動してこうかなってね。」

 

ルイ

「コンビ解散かしら?」

 

Yun

「芸人じゃないんですから。」

 

Yun、ルイが同時にぷっと吹き出した。

 

ルイ

「そんじゃ、私も商売をはじめよっかな。お客さん、なににします?」

 

シグレ

「それじゃ私はコーヒー。砂糖少なめ、ミルクなしで。」

 

ミホ

「そんじゃ私はカフェオレで。」

 

Yun

「いつものミルクも砂糖も増し増しのカフェオレで。」

 

ルイ

「はーい。」

 

こんな風に常連の人との話はなかなか面白くて飽きない。接客業がこんなにも面白いとは最初は思わなかっただろうし思えなかっただろう。

カフェオレを飲み終わったYunがそうだと一言言ってルイに声をかけた。

 

Yun

「ねぇ、ルイさん。今ここで仲間募集してる人いない?」

 

ルイ

「うーん、今はいないと思うわ…………ん?仲間募集中なの?」

 

Yun

「まぁねー。」

 

ルイ

「んー………ん?仲間を募集してる…………。」

 

ふと先程の会話を思い出した時、ちょうどその本人がいた。

 

ルイ

「あ、いたわ。」

 

ぼっち

「ん?」

 

Yun

「あ。」

 

たまたまいたぼっちに紹介をすることにした。

 

ルイ

「………というわけでどう?」

 

ぼっち

「ふーむ、悪くないな。何事も道づ………んんッ、仲間が多いことに越したことはない。何よりオクトの知り合いならばなおのことだ。」

 

シグレ

(………ねぇ、ミホ。聞き間違いじゃなければさっき道連れって言わなかった?)

 

ミホ

(いや、言ってないような………言ったような………?)

 

Yun

「お誘いはありがたいんだけど道連れはやだなぁ。」

 

ぼっち

「いえいえ、道連れについてはちょっとしたジョークですよ。俺としても味方が多い方がいい。出来れば来ていただきたいのだが……」

 

シグレ&ミホ

「「………だが?」」

 

ぼっち

「テストを行いたい。ビーターの仲間になるなら中途半端な戦力は迷惑でしかないのでね。」

 

Yun

「……OK、乗ったわ。」

 

ぼっち

「助かります。」

 

Yunの肯定にぼっちはニッコリと笑い、ミホは困惑した。

 

ミホ

「え?いいの?」

 

ミホの言い分を封じるようにYunは続けた。

 

Yun

「でも一つだけ言うことがあるとすれば………その営業口調はやめた方がいいわね。」

 

その瞬間、今までニコニコしていた顔が少しずつ歪んでいき、そして、同一人物とは思えないくらいに邪悪な笑みを浮かべていた。

 

ぼっち

「ほほぉ、あのネズミ以外にも俺の本心を見抜ける強者がいたとはなぁ。」

 

Yun

「なにぶん、アンタの事はだいたい知ってるからね。」

 

ぼっち

「いいだろう、翌日の13時までに噴水広場まで来い。そこで面接を行う。一秒でも遅れたらその時点で失格とするつもりだからそのつもりで。」

 

Yunはぼっちの言葉に不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

Yun

「上等よ。」

 

ぼっちはそれじゃと言って、立ち去っていった。

時雨はぼっちの初めて見せた気迫にビビり、ミホは立ち竦んでいた。

Yunはそんな中でも冷静でいられたのはぼっちを知っていたが故である。

 

ルイ

「Yunちゃん。大変ねぇ。」

 

Yun

「……いつものことだけどねー。」

 

ミホ

「……あ、お代出さなきゃ。」

 

ルイ

「あー、いらないわ。」

 

ミホ、時雨がえ?とルイの手元を見ると、既に代金は支払われていた。

 

ルイ

「お釣りはいらねぇ……ですって。」

 

Yun

(……案外優しいところもいつも通りか。)

 

Yun達は酒場を後にして始まりの街の中をうろつき始めた。しばらくして、ミホが不意に喋りだした。

 

ミホ

「ねぇねぇ、皆。さっきのぼっちさんって結構かっこよくなかった?」

 

シグレ

「あー、わかるわかる。典型的なイケメンって感じよね。Yunは?」

 

Yun

「うーん、私としては範囲外かなー。そういうミホ達は?」

 

ミホ

「残念だけどハズレー。」

 

シグレ

「同じくー。」

 

Yun

「じゃなんで聞いたし。」

 

下らないが今の状況ではこんな会話が出来ることに安心感がYunにはある。これ以上誰も死なせたくないという気持ちはぼっちにも劣らない。

だらだらとかつて同じ中学校の時の下校みたいに歩いていると、ふとYunの目に回りをキョロキョロと見回している女性プレイヤーがいた。

Yunの今までの経験上、このパターンはだいたいわかる。

 

Yun

「仲間とはぐれたの?」

 

Yunの突然の質問に女性プレイヤーは驚き振り返った。

 

???

「そう……ですけど。あなた達は?」

 

Yun

「私はYun、こっちがミホでこっちが時雨ね。」

 

ミホ

「どもー。」

 

シグレ

「よっす。」

 

Yun

「そういうアンタは?」

 

サチ

「サチです……。」

 

サチからの話を聞く限りだと、同じ高校の仲間と高めの装備品を購入するために節約をしながら二層でコル稼ぎをしていたが、大型の牛モンスターに驚き、バラバラになって逃げ、サチは一層まで戻ってきていたらしい。

 

サチ

「皆、無事だといいけど………。」

 

Yunは一つの疑問が浮かび、サチに聞いた。

 

Yun

「一応聞くけど、パーティー組んでるのよね?」

 

サチは頷いた。しかし、ならばこれは最低限知っていることのはずだ。

 

Yun

「チャットのメッセージとか見た?」

 

サチ

「…………あ。」

 

サチは慌ててチャットを開いて、ほっとため息をついた。どうやら、サチのパーティーメンバーはトールバーナーで合流しており、サチだけが見つからず、メッセージを送ったり、色んな所を探し回っていたようだった。

 

ミホ

「おー、よかったよかった!見つからなかったら大変だったよね。」

 

シグレ

「へぇ……チャットとかってやっぱり便利ね。」

 

事情を聴く限りでは、サチはこの手のゲームをプレイしたのは初めてらしく、知らないことがとにかく多いみたいだ。サチのようなニュービーの為にも、今の攻略チームが欠けるようなことはあってはならないと思っている。

 

サチ

「………もうすぐこっちに着くみたい。」

 

シグレ

「気を付けてね、これからはどんな敵がいるか分からないからね。」

 

サチ

「うん、本当にありがとう。」

 

サチは三人にお礼を言うと、始まりの街の門前にいる四人組のプレイヤーを見つけ、そっちに向かって走り出した。

 

ミホ

「いやー青春よのう。」

 

Yun

「私達もでしょーが。」

 

シグレ

「こんな風に助け合えたらいいのになぁ。」

 

シグレの言うとおり、未だにベータテスターを毛嫌いする人もいるし、争いが絶えないのも事実ではある。

 

Yun

「ま、それすらもあの『攻略し隊』っていうパーティーならやってくれそうじゃない?」

 

Yunは、その先にあるのは絶望か、未来かはわからないが、Yunにははっきりとビジョンを写し出した。

 

Yun

(私達三人とあの三人でならんで、ゲームクリアしたいなぁ。)

 


~ルイーダの酒場にて~

 

ルイ

「いらっしゃい。一人かしら?」

 

???

「そうだ。」

 

一見ぶっきらぼうに見える男が店に入ってきた。今は夜間なので、酒場のように酔っ払い達が騒いでいる。

 

ルイ

「……何にする?」

 

???

「ミルクでももらおうか。」

 

男がそういったとたん、周りの野次馬が騒ぎだした。

 

酔っ払い

「おいおい、にいちゃん、ここは酒場だ。酒を飲むところだぜぇ。」

 

そんなことをスルーしながらも、ルイはある紙をミルクの入ったグラスに添えて言った。

 

ルイ

「左端のテーブルで待ち合わせですって。」

 

???

「わかった。」

 

男は一言そういうと左端のテーブルに向かった。

そして、ルイはいつも通りに酒の準備をしていると、またしても昼時に来た三人組と同じ年ごろのような二人組のプレイヤーが現れた。一人は両手槍を、もう一人は片手細剣を持っているプレイヤー。見ただけでもわかるが、この手のゲームをやりこんでいるプレイヤーだろう。

 

ルイ

「いらっしゃい。何にする?」

 

???

「あの、ここって情報を売ってるんですよね?」

 

ルイ

「情報屋ほど正確じゃないけどね。一応知ってることなら……というか私は情報屋じゃないからタダでいいわよ。」

 

そういうと二人は少しだけ顔が明るくなったあとに、細剣使いの方が喋りだした。

 

???

「おしえて欲しいことがあるんです。」

 

ルイ

「何かな?」

 

二人組は顔を見合わせてお互いにうなずくと話した。

 

???

「ショウゴっていう名前のプレイヤー。」

 

 




Yun
「面接ってなにすんだろ?」

ミホ
「圧迫面接はやだなぁ。」

シグレ
「しかし、チームに入るのに面接なんているのだろうか?」

脚竜
「おぉ、俺の円周率カウンターの使いどころぢゃぁ!」

オクト
「採用!採用!絶対採用!!」

ぼっち
「んじゃこれから面接始めるわ。よろしく。」

第十四話~面接ほど人生で怖いものはない~


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第十四話~面接ほど人生で怖いものはない~

どーも皆さんお久しぶりです。
作者のwandarelでございます。
第十四話、ここまで長かった!ようやく完成いたしました。
いろんな事があって作品制作に甚大な被害が出たので、今回も遅くなってしまい申し訳ありません。
なお、今回はカオスもあるのでご注意ください。
評価や感想などもガンガン書いていってくださいね!


ぼっち

「つーわけで面接することにしたから準備よろしくな。」

 

脚竜&オクト

「「アンタはいっつも突然だなオイッ!!」」

 

ぼっちが帰って来たと思ったらこんなことを言われ、ツッこまない人間がいるはずがない。何をするにもだいたい急に言ってくるのだ。

 

ぼっち

「まぁ安心しろ、準備つってもそんなにやることは多くねぇから。」

 

この言葉にはオクトは一安心した。普段の場合めちゃくちゃな量の仕事を突きつけられるからである。しかも仕事量の割合がぼっち:1、脚竜:2、オクト:7というイカれた比率になっている。

オクトにとってはチャンスだった。もしかしたらこの苦境を楽に出来るかもしれないからである。

 

オクト

(……と思ってた時期が僕にはありました。)

 

確かにやることは多くない。だが、

 

オクト

(一つ一つの準備の素材量がおかしいだろ!!)

 

なお、これをぼっちに言った時には。

 

ぼっち

『あ?やることは多くないが、素材量が少ないとは一言も言ってないだろ?んじゃ頼むわー。』

 

と、返された。オクトは怒りを抑えながらもノルマを達成したため、現在、『攻略し隊』が住み着いている家まで持って帰って来た。

 

オクト

「た、ただいま。」

 

脚竜

「おー、お帰りオクト!お疲れ様!飯の準備出来てるぞ!」

 

オクトは時折、脚竜の見せる子供のような笑顔に救われる時はある。いわゆる、達成感が湧いてくるのだ。

 

オクト

(家事もそこそこ《まぁ基本的に俺が強制でやってるんだけど》出来るし、帰ってくる度にちゃんとおかえりって言ってくれる………。こいつ将来はいい嫁さんになれそうだな……いやこいつ男だ。無理だな。どっちかというと主夫か。)

 

脚竜

「……ん?どしたオクト?」

 

オクト

「いや、なんでも。今日のご飯は?」

 

脚竜

「調理スキルないから簡単な奴だな。何かは分からねぇ!」

 

オクト

「得体の知れないものを食わす気かオイッ!!」

 

こんなやり取りが出来るのもまた楽しい。

まだやり甲斐があるというものだ。

 

ぼっち

「遅かったな。さっさと昼飯食って準備しておけよ。約束の時間には来るからな。」

 

オクト

「ギリギリまで素材調達させてたのアンタだろうが。」

 

二人ともどんな人が来るのかとても楽しみにしていた。脚竜は優しい人が、オクトはこの雑用を一緒にやってくれる心優しい人間が来てほしいと願っていた。そして、約束の時間より十分前に来てくれた。

そして、脚竜とオクトは盛大に喜んだ。

 

オクト

「採用!採用!絶対採用!!」

 

オクトは必死にそう言った。

 

ぼっち

「やかましい貴様に意見する権利はない。」

 

オクト

「なんでや!」

 

一撃で意見を粉砕された。

 

脚竜

「いやいや兄貴、これ逃すわけにはいかないって!採用しようぜ!」

 

ぼっち

「うるせぇ、お前に決定権はねぇんだよ愚弟。」

 

脚竜

「なんでや!」

 

脚竜もものの見事に粉砕された。そんな様子をYun達は見ていた。

 

ミホ

(ど、独裁政治だ………。)

 

シグレ

(………不幸だわ。)

 

Yun

(……やっぱりこうなるのか。)

 

ぼっちは二人のメンバーに様々な暴言を吐いた後、こちらに振り返り、面接を始める旨を言った。

 

ぼっち

「ほんじゃ面接を開始する。」

 

ごくりと三人が息を飲むと、とあるウィンドウが表示された。もちろん、Yunですらも驚いた。

 

ミホ

「………え?」

 

シグレ

「デュエル申請……?」

 

Yun

「………は?」

 

ぼっち

「まぁそう固くなるな。簡単だ。」

 

驚きの連発である。面接だと思っていた彼女らは、まさかデュエルを挑まれるとは思わなかったからだ。しかし、それを上書きするかのようにある事をぼっちが言った。

 

ぼっち

「まぁオレは仮にもビーターの名を持ってるからなぁ……。ハンデだ。お前ら全員でかかってこい。まさか三対一で負けるほど弱くはないだろ?そんなに弱かったら始まりの街から出ることすら叶わんだろうからなぁ。」

 

三人もここまで言われたらやらざるを得ない。

 

ミホ

「完全に頭にきたんだけど!なによその態度!」

 

シグレ

「よっしゃ、やってやろうじゃない。」

 

Yun

(あからさまな挑発だけど乗ってみるか。)

 

ぼっち

「衝撃決着デュエルだ。微量でもダメージを与えれれば勝利という簡単なルール。まぁ余裕だろ?」

 

相変わらず偉そうな態度をとるぼっちに対して、ミホとシグレは殺意を燃やしていた。

そして、デュエル開始の音がした瞬間に三人は同時に武器を引き抜き動いた。

 

脚竜

「は、速い。俺じゃなきゃ見逃し……」

 

オクト

「安心しろ俺でも見えてる。」

 

脚竜

「あーあーあー、聞こえなーい、なにも聞こえなーい。」

 

超高速の連携プレイ。彼女達が他のMMOゲームで培ってきた技術だった。お互いを最大限信用してるからこそ出来るある種の究極の奥義のようなものだ。

シグレがレイピアを、ミホが槍を、そしてYunが短剣をそれぞれ、バラバラに動きながら誰か一人は必ず当てれる攻撃をした。しかもこの一連の流れを一瞬のアイコンタクトのみで繰り広げれるこの連携攻撃なら確実にヒットする。

しかしそれは相手がそこらのプレイヤーであればの話だが。

 

ぼっち

「いい連携だ。感動的だな。だが無意味だ。」

 

三人が気づいたときにはミホ、シグレは敗北したいた。しかも三人の背後に既にぼっちは立っていた。

 

ミホ

「……は?えぇ!?なんで?!」

 

シグレ

「……なんにも見えなかった。」

 

残るYunは冷静に考察をしていた。

 

Yun

(……動きがまるで見えなかっただけじゃない。たぶん何方向かはわからないけど波状攻撃があったはず………そして、それは………。)

 

Yunは目の前のぼっちを凝視し、動きを悟った。

ぼっちが次の攻撃を放った瞬間にぼっちへと近づき、短剣の得意距離にして、大半の武器が苦手とする超至近距離での戦闘へ向かった。短剣のリーチの都合上、この距離であれば確実に…………。

この時点で、Yunは敗北していた。なぜなら、ぼっちは既に攻撃を終了していたのだ。

 

ぼっち

「……爆発。」

 

ぼっちが呟いた次の瞬間、Yunに衝撃が与えられ、Yunもあっけなく敗北した。この間、わずか7秒である。

 

Yun

「…………は?」

 

デュエル終了とともにYunは思わず口に出してしまった。ぼっちの周りにぼっちを二回りほど小さくしたぼっち(?)達八匹ほどが遊んでいたのだ。

 

ミニぼっち1号

「あっちで本を読むぞ!」

 

ミニぼっち2号

「いやだ!俺は寝る!」

 

ミニぼっち3号

「帰りたい。」

 

ミニぼっち4号

「…………………。」

 

ミニぼっち5号

「我が腕の中で生き絶えるがよい。」

 

ミニぼっち6号

「なんかイライラしてきたんだけど。」

 

ミニぼっち7号

「お腹すいたー。」

 

ミニぼっち8号

「お前らしっかりしろ!俺達がしっかりしなくて誰がしっかりするんだ!」

 

ミニぼっち一同

「確かに!」

 

ぼっち

「いいから帰ってこいクソッタレ共。帰山笑紅塵!!」

 

謎にコミカルな音を出しながら、小さいぼっち達は戻っていった。

 

オクト

「………何なの今の。」

 

ぼっち

「仕方ないから教えてやるよ。あのダークネスフィンガーを習得できる格闘スキル『流派東方不敗』には続きがあってな、さっきミホとシグレを負かせたちっこいのを出す技は『十二王方牌大車併』。んで、Yunに対してやったのは超高速打撃技『酔舞・再現江湖デッドリーウェイブ』……といっても気を纏って突っ込む必要もあるし最後までやらなきゃダメージは出ないがな。」

 

ぼっちが習得していた格闘スキルは既に常識外れの物となっていた。たぶん、最初から仕組まれていたのだろう。

 

ぼっち

「つーわけだテメーら三人は見事合格だ。攻略し隊へようこそ。」

 

ミホ・シグレ・脚竜

「「え?」」

 

ぼっち

「ん?どうした?」

 

皆が驚いているなか、オクトはなるほどと言って説明を始めた。

 

オクト

「そういえばぼっちさん『負けたら不合格』なんて言ってなかったですね。」

 

それを聞いて初めて四人は納得できた。

 

ぼっち

「ま、そういうことだ。ちなみにこのデュエル自体はする必要は無かったんだがあえてそれをした理由は簡単だ。」

 

さらっと衝撃的なことを言って脚竜がツッコミを入れようとしたがぼっちに手で制された。

 

ぼっち

「仮にも俺はビーターだ。故に情報を含め様々な点でお前たち三人よりは強いと思っている。だから俺が負けるようならお前たち三人でも十分にやっていけるという考えの元、お前らは俺に負けたわけだ。すなわち、後々俺みたいに狡猾なモンスターが現れたときに必ず対処が遅れて命の危険にさらされる。そうなる前に保護しとくって魂胆だ。」

 

理由には納得がいったが、ミホとシグレは言っている言葉に否定できず、小さくうなり声をあげた。

しかし、ぼっちは更に言葉を続けた。

 

ぼっち

「だが俺は今一度デュエルを申し込みたいと思う。」

 

一同がなぜと思っていると、Yunの画面にデュエル申請が来ていた。

 

ぼっち

「悪いんだがよ、他の会社とかでもそうだと思うがやる気の無いやつは不要なんだわ。だから改めて言わせてもらう。隠さずに本気出したらどうだ?

 

その言葉に今まで一緒にいたミホやシグレもそうだが、脚竜、オクトも驚いた。一方のYunはめんどくさと呟き、短剣を構えた。

 

ぼっち

「安心しろ、さっきみたいに戦う前に小細工を仕掛けるなんて事は一対一では出来んからな。」

 

さらにぼっちが驚くべきことを言い放った。先ほどのデュエルは仕組まれていたのである。

 

Yun

「……そりゃどーも。」

 

デュエル開始と同時にお互いが一気に近づき、弾き合いが始まった。お互い相手のモーションに合わせて反撃を繰り出そうとするも、うまくいかずかなり膠着していた。

しかし、それでもぼっちは勝利を確実にする術を得ていた。

 

ぼっち

(……この作戦が失敗するとすれば、Yunが俺より素早いか、はたまた俺の慢心によるミスかのどちらかだ。はっきり言えば確実に仕留めれる。……よっぽどの予定外の事が無ければの話だがな!)

 

ぼっちはパリィングを使い、Yunを大きくのけぞらした瞬間に十二王方牌大車併を打った。

先程のミニぼっち達がYunに向かって四方八方から突っ込み、ぼっちもその隙と逃げ場を無くすかのように斬りかかった。誰しもが負けると思っていたその時だった。

ぼっちとオクトには見えたが、Yunがニヤリと笑ったのだ。

そして、次の瞬間、ぼっちは衝撃を受けて一メートル程後方に吹き飛んだ。

もちろん、衝撃決着デュエルの為、ぼっちの敗北である。

ぼっちが負けたこともそうだが、何よりも驚いたのはYunの所持している武器である。

脚竜もベータ時代に噂では聞いていた代物、『クロー』だ。

相当なレア物で入手事態も困難な物を何故Yunが持っているのかも不思議に思っているとぼっちが笑いながら拍手していた。

 

ぼっち

「なるほどなぁ、そりゃ予備動作分かるわけ無いわ。なんせクローはベータ時代にゃ使ってたやつなんていなかったんだからな!よーしYun、お前も晴れて合格だ。よく全力を出してくれた。」

 

Yun

「そりゃどーも。」

 

いつも通りどこか素っ気ないが、Yunはちょっと嬉しそうにニコリと笑っていた。

 

脚竜

「す、すげぇ。クローの使い手がいるなんて!」

 

ぼっち

「安心しろ愚弟、これの使い手はもう一人いる。俺達のお得意様だ。」

 

オクト

「ん?お得意様って………まさかアルゴさん!?」

 

ミホ

「え?マジで?」

 

シグレ

「………知らなかった。」

 

今まで情報を売ってくれてたあのネズミさんがクローを所持しているのには全員が驚いた。

というかさっきから驚きがラッシュをかましている。

 

ぼっち

「まぁ、何はともあれお前たち三人を歓迎しよう。さぁ野郎共、歓迎パーティーだ!ルイーダの酒場に行くぞ!」

 

脚竜・シグレ・ミホ

「おー!」

 

Yun

「あ、そうだ。これ契約書ね。」

 

Yunは何かを思い出したかのようにぼっちに一通のメールを送った。

 

ぼっち

「………やましいことは書いてないだろうな?」

 

Yun

「当たり前でしょ。」

 

ぼっちはそれを聞いて最後まで文面を確認して、承認した。

 

Yun

「はい、ありがと。そんじゃ皆聞いてー。」

 

ぼっち以外の一同がYunの方に向いた。

 

Yun

「今日から一週間ぼっちさんがおごってくれるってさー!」

 

ぼっち

「………は?」

 

脚竜&オクト

「え?マジで?」

 

ミホ・シグレ

「いぇーい!」

 

ぼっち

「……おいYun、どういうことだ?」

 

Yunはぼっちに問いただされるとポツリと言った。

 

Yun

「契約書二ページ目」

 

ぼっちはさっきの契約書メールを確認すると確かに二ページ目がある。そこには

『この度アインクラッド攻略し隊のリーダーぼっちは部下を労い、一週間は飯を奢ることをここに誓う。』

と書いてあった。

 

Yun

「………嘘はついてないわよ?ただ、約束は守ってよね?」

 

ぼっち

「ウソダドンドコドーン!」

 

 

 

 

 

Yun

「というわけなんですよルイさん。」

 

ルイ

「道理でぼっちがへこんでる訳ね。」

 

ぼっち

「ちくしょー、俺が騙されるなんて……。」

 

脚竜

「む?おぉ!」

 

オクト

「どうした脚竜?」

 

脚竜

「わかる、わかるぞ!ルイさん!」

 

ルイ

「え?何?」

 

脚竜

「ルイさんアンタはA+だ!」

 

ルイが言ってることがよくわからなくてぼっちに解答を要求したが、ぼっちにもわからないらしい。

 

ぼっち

「愚弟、その評価は一体なんだ?」

 

脚竜

「ん?円周率カウンター!」

 

ぼっち

「ほう、それでその評価の最低値と最高値は?」

 

脚竜

「えーと、最低値がEで、最高値がS!」

 

ぼっち

「んじゃその円周率カウンターは何を測っているんだ?」

 

脚竜

「おう!胸の大きさだ!ちなみに+があるのは成長性ありという意味だ!」

 

ぼっちは呆れて絶句していると、脚竜はカウンターを使い始めた。

 

脚竜

「うむ、ミホさんC+!まだまだ頑張れる!」

 

ミホ

「ちょ、お前!」

 

脚竜

「ふむ、シグレさんB+。いわゆる隠れ巨乳ってやつだな!」

 

シグレ

「おい!」

 

オクト

「んじゃYunさんは?」

 

脚竜

「ん?んー………うむ、E。成長性なし。まぁ、そういときもあ………。」

 

脚竜の言葉は最後まで続かなかった。

 

Yun

「大きさは気にしてないけどセクハラはよくないんじゃない?」

 

ぼっち

「………愚弟が。」

 

ルイ

「……このチーム楽しくなりそうね、ぼっち。」

 

ぼっち

「……そりゃそうですよルイさん。なんせ俺が見つけたんですから。」

 

ルイがぼっちにミルクティーを出して、ぼっちはそれを飲み干すと、『新生攻略し隊』のメンバーにちょっかいをかけにいった。




脚竜
「いってー!どこ見て歩いてんだよ!」

???
「悪い悪い、いつも通り小さすぎて見えなかったんだわ。」

脚竜
「な、なんでお前が………。」

Yun
「怒らせたら面倒になるわね。」

脚竜
「クッソ………やられた!」

オクト
「……お前、正真正銘のクズだな。」

ぼっち
「どうしたそんなにキレてよー?」

第十五話~トラウマとの再会~

脚竜
「キレてんのは俺だ………。」


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第十五話~トラウマとの再会~

???
「前回、攻略し隊はYun、ミホ、シグレの三人を仲間にし、大幅な戦力強化を行いました。あのぼっちですらも打ち負かすYunの底知れぬ強さとミホの支援、シグレの器用さを生かしきれているのもさすがはリーダーを名乗るだけはある。今回の話は小さな龍が大空へと舞い上がるでしょう。」

男は本を閉じ、去ろうとしたがおっとと言ってこちらへ向き直った。

???
「私としたことが申し遅れました。」

パンドラ
「私はパンドラ。どこにでもいるただの奇術師です。以後、お見知りおきを。」

というわけで突然ながら前書きの前回あらすじは『パンドラ』さんにやってもらうことにしました。
待っていた読者さん、お待たせしました!
待ってなかった読者さん、お待たせしました!
初見の方は、初めまして!
wandarelと申します。
さて、これもまた突然ですが、この作品の略称を勝手ながらつけさせていただき、今回からその略称を使っていこうと思います。
略称・『SAOGM』にさせていただきます。
なお、今回はとある冒険の処刑用BGMを脳内再生することを推奨いたします。
もちろん、今回も感想や評価もよろしくお願いします。
(SAOAC楽しすぎる)


先日、Yun、ミホ、シグレが『アインクラッド攻略し隊』に入ったおかげで大幅な戦力強化ができた。これを機に攻略にも前向きになれると思っていたYun達新入り三人だが…………。

 

脚竜

「…………。」

 

Yun

「…………。」

 

ミホ

「…………。」

 

シグレ

「…………。」

 

オクト

「…………。」

 

ぼっち

「…………。」

 

脚竜のせーのの声に合わせ、全員が手の内を見せる。

 

脚竜

「よっしゃ!ロイヤルストレートフラッシュ来たァッ!!」

 

Yun

「うっそー、ツーペアだ。」

 

ミホ

「うーん、フルハウス。」

 

オクト

「くっそー!ストレートだ!」

 

脚竜

「兄貴とシグレさんは?」

 

脚竜がシグレとぼっちに確認をとったが、二人はニッコリ笑って同時に言った。

 

シグレ&ぼっち

「「ブタに決まってんだろ。」」

 

シグレ

「あーもーやだぁー!だからギャンブル系で仕事の配分決めんの嫌だったのにー!」

 

オクト

「仕方ないでしょ、しばらくの間は俺達『従業員』が決めたルールで仕事の配分決めるって言い出したのはぼっちさんだから。」

 

ぼっち

「だとしてもなんで愚弟が圧倒的に有利なやつにしてんだよ!!」

 

Yun

「いやいや、なんとか勝てるでしょ。」

 

ぼっち

「………Yun、お前アイツの今までの最低な手札はなんだった?」

 

ぼっちのその問いかけにYunは目をそらしながら言った。

 

Yun

「………ストレートフラッシュ。」

 

シグレ

「うぅ、ずっと仕事ばっかり……不幸だわ………。」

 

こんな風に攻略そっちのけで遊んでいるのが攻略し隊の現状である。

 

脚竜

「そんじゃ俺出掛けてくるわー。」

 

いつも圧勝している脚竜は外に出掛けて行った。

 

オクト

「そんじゃ俺は寝ます。」

 

Yun

「あんた仕事の時は全然寝れてないからこの際だしがっつり寝ちゃいなさい。」

 

Yunがオクトに向かってそう言ったが、オクトは既に夢の世界へと旅立っていた。

 

Yun

(………いやいくらなんでも早くない!?どんだけ寝てなかったのよコイツ!!)

 

ぼっち

「ちっ………分担してやるぞシグレ。」

 

シグレ

「あいあいさー。」

 

ぼっち、シグレは素材収集へと向かっていった。

 

ミホ

「………私やることないなぁ。」

 

Yun

「あ、じゃあちょっと付き合ってくれる?」

 

ミホ

「…………え?マジで?」

 

Yun

「あーそっちの意味じゃなくて、ちょっとやりたいことがあるのよ。」

 

ミホ

「ほほーうそれは一体なんなのでしょーかね?」

 

Yun、ミホは奥の部屋へと入っていった。

無論、ロビーに残っているのは爆睡しているオクトのみである。

 

オクト

「Zzz………………」

 

~アインクラッド第二層主街区ウルバス~

 

脚竜

「いやっほーい!」

 

脚竜はいつも通りハイテンションでウルバスを走り回っていた。普段は抑えているが、開放的な感覚を味わっているのである。もちろん人に当たらないように気を付けているが、それでもぶつかる時はある。

ゴッという音と共に脚竜は三人組の一人にぶつかり、後ろにノックバックした。

 

脚竜

「いってて、すみません。」

 

などと言っているが内心、『どこに目をつけて歩いてんだボケナス』と思っていた。

 

???

「おー、ごめんな。相変わらず小さくて俺達も見えなかったんだよ。」

 

???

「まぁ仕方ねぇよ。こいつなんて眼中にないも同然だし。」

 

???

「何よりこのゲームでコイツの価値があるかどうかも怪しいぜ。」

 

聞いた事のある口調、そして、何故か自分のことを知っている。

脚竜はある可能性をふと考え、顔をあげれなくなった。

決してアイツらではないと思いたかった。

 

脚竜

(いやいやいや、たまたま声が似ているだけかもしれないし………そんなはず………ないよな?)

 

恐る恐る顔を上げると、悪い意味で見知った顔ぶれが三人そこにいた。

 

脚竜

「お、お前らなんでここに………。」

 

???

「バイトで稼いで買ったまでよ。そういうお前こそ家がだいぶ貧乏な癖によく買えたな。」

 

脚竜

「ッ!!」

 

一瞬、家族をバカにされ、怒りに任せて殴ろうとしたが、こいつらに勝てた覚えが無く、どうしても怯んでしまった。

 

ハイウェイスター

「まぁ、ここじゃプレイヤーネームで呼び合おうぜ。ちなみに俺のプレイヤーネームは『ハイウェイスター』だ。」

 

チョコラータ

「俺は『チョコラータ』だ。まぁせいぜいよろしくな。」

 

ラバーズ

「『ラバーズ』だ。ま、お前を頼りにする奴がいるかどうかはわからんがよろしくな。」

 

脚竜

「……おう。」

 

脚竜は三人の握手に応じる他なかった。どれだけのことをしてもリアルで勝てなかった相手にはどうしても頭が上がらなかった。

 

ハイウェイスター

「そんじゃ俺達は行くぜ。またな親友。」

 

いつものようにチャラチャラとした態度で帰っていったハイウェイスター達を見届け、脚竜はおおきくため息をついた。

 

脚竜

(せっかくアイツらから離れられると思ってたのに………クソッ。)

 

脚竜はこの世界においても絶望することになった。

 

 

~第一層ルイーダの酒場にて~

 

ぼっちとルイがにらみあっていた。Yun達はそれを横目に飲み物を飲んで乾杯していた。

そして、ルイがバーの机を叩き吠えた。

 

ルイ

「だから言ってるでしょ、私は酒場のマスターではあるけどアイテムの買い取りなんてしませんって!」

 

それに対してぼっちにしては珍しく土下座までして頼み込んでいた。

 

ぼっち

「ルイさんどぉーかお願いします!原価での売却では少しだけ足りんのです!」

 

ルイ

「ダメなものはダメだから!全くそう言ってぼったくる気だったんでしょ?」

 

ぼっちはルイのその言葉に大きく動揺した。

 

ルイ

「やっぱりね。油断も隙もありゃしないわ。抜け目がないのはいいことなんだけどね。」

 

ぼっちは悔しそうにはしていたが、さすがに諦めた。

 

ぼっち

「チッ……となると後はあの作戦だけか。」

 

ルイ

「何をする気なのよ?一応聞かせてちょうだい。」

 

ぼっちは嫌そうにしながらもルイに最終作戦を伝えた。

すると、ぼっちの予想通り、ルイは爆笑した。

 

ルイ

「……ふふっ、嘘でしょぼっち?よりによって君からそんな事聞くなんて思わなかったわ………ふふふっ。」

 

ぼっち

「あー、だから嫌だったんだよ、らしくないから。」

 

ルイ

「まぁでもそれなら私も手伝うわ。」

 

ぼっち

「ありがとう、ルイさん。」

 

ぼっちはルイに感謝を伝え、Yun達に言った。

 

ぼっち

「野郎共、引き上げだ。帰るぞ。」

 

攻略し隊一同

「ラジャー。」

 

しばらくして攻略し隊仮拠点となる宿泊施設についた瞬間にぼっちは攻略し隊の全員に言った。

 

ぼっち

「非常ーに不愉快だが、今日から本格的な活動始めるぞー。」

 

一同

「いや遅いわ。」

 

全員がまさかの同じツッコミ(ぼっち含む)を放つという奇跡のあとにぼっちが説明を始めた。

 

ぼっち

「まず俺達がやるべきことはビーターたる俺はともかく、お前らがどのようにして中立のポジションを獲得するかにある。第一、お前らはそこまで悪者ではないからこそ出来ることだが。」

 

そこまで言ってぼっちはため息をついた。

 

ぼっち

「お前らにはいわゆる便利屋をやってもらおうと思う。」

 

脚竜

「………何いってんの?」

 

あの脚竜が棒読みでそんなことを言うのも初めて見たかもしれない。それほど驚くべきことを言ったんだろう。

 

ぼっち

「要するに信用の確保のためだ。信用が確保されればたとえビーターの俺が行くとしても攻略に行くときも後ろめたい気持ちなく行けるだろ?」

 

Yun

「なるほど、それで何でも屋というかよろず屋みたいなのをするわけね。」

 

ぼっち

「そういうことだ。察しがよくて助かる。だがそう簡単にいくとは思っていない。だからお前らに頼むんだ。俺はビーターである以上表立った動きはしづらいからな。」

 

脚竜

「で、もうそういうのは受け付けてんの?」

 

ぼっち

「あぁ、癪だがアルゴに頼んでおいた。もちろん代金支払ってな。」

 

シグレ

「情報屋も使ってやってるんだ。」

 

ミホ

「ていうかそんなことしてたらコルすぐに無くなるんじゃない?」

 

ぼっち

「安心しろ、もし上手く軌道に乗ればすぐに追い付けるし、なにより………」

 

ぼっちは脚竜に視線を向けると、脚竜以外の全員が何かを悟った。

 

脚竜

「………なんだよ皆して俺を見て。て、照れるじゃねぇか。」

 

ぼっち

「つーわけで早速仕事だ。まず俺達はこれからルイーダの酒場での手伝いだ。といっても素材集めだから俺達にとっちゃ楽勝問題だろ。」

 

オクト

「………仕事量をちゃんと均等にしてくださいよ。」

 

ぼっち

「わかってるっての。」

 

そんなこともあり、今日は攻略し隊の方針の会議で夜遅くだったため、寝て、当然のごとくぼっちが約束の時間より寝過ごしてきた。

 

ルイ

「時間にルーズな子は嫌われやすいわよぼっち。」

 

ぼっち

「はい。すみませんでした。」

 

正直に言えばぼっちが誰かに謝罪するのはものすごく珍しい事だと思う。

 

ルイ

「終わったらごほうびに夜は酒場を貸しきりにしてあげるわ。」

 

この言葉に攻略し隊全員のやる気が大幅に上昇したのは言うまでもない。

 

ぼっち

「よし脚竜。お前だけで行ってこい。」

 

脚竜

「はい!?」

 

ぼっち

「今回のはレア素材が多くてな、俺やシグレが行けば間違いなく獲れんし、他のやつが行っても効率が悪いからな。安心しろ脚竜。お前なら出来る。しかもこれができれば身長も伸びるしな!期待してるぞ!」

 

脚竜

「おう任せろ!」

 

ぼっち

(ふっ、チョロいな。)

 

Yun

(うわぁ、こういう風にして仕事させんのかぁ。)

 

オクト

(脚竜、オマエ、騙サレテル。)

 

脚竜は足早に駆け抜けていった。目標を持った龍ほどヤバいやつはいない。

 

ぼっち

「さて野郎共、俺達も別の仕事があるんだ、振り分け通りに行くぞ。」

 

Yun

「はいよー。」

 

脚竜を除く一同はそれぞれに別れて行動を始めた。

 

~ウルバス周辺のダンジョン~

 

脚竜

「ふいー、大量大量!」

 

脚竜はぼっちの予想通り、かなり早い段階でノルマのレア素材をかき集めていっていた。

弓使いである以上仲間は多い方がいいが、この辺りのモンスターは麻痺などの行動阻害系のデバフを受けなければ問題なく倒せる。しかも、その手の行動阻害系のデバフを持つモンスターもいない。

もはや脚竜の独壇場である。

 

脚竜

「へへ、これで身長伸びたらいいなぁ。」

 

脚竜が期待に胸を膨らませていると遠くで叫び声が聞こえてきた。脚竜は素材集めを中止してすぐにそちらに向かった。

 

脚竜

「ハイウェイスター!!?」

 

見ると今にもモンスターに殺されそうになっているハイウェイスターがいた。

 

ハイウェイスター

「た、助けてくれ、脚竜!」

 

脚竜

「あーもう!」

 

脚竜は少々嫌だったが、目の前で助けてくれと言われて助けないほどの鬼畜ではない。ある程度の距離を保ちながらハイウェイスターに攻撃が入らないように弓で仕留めていった。そして、脚竜は周りのモンスターをすべて倒し終えると、ハイウェイスターに声をかけた。

 

脚竜

「お前、何やってんだよ。」

 

ハイウェイスター

「ちょうど素材を切らしててな、素材集めでここに来てたんだかが思った以上に敵が集まってきててな………。」

 

どうやら敵を倒していたときにヘイトを稼ぎすぎて対処しきれなくなっていたようだった。

 

脚竜

「……まぁいいや。俺もそろそろ街に戻ろうと思ってたし一緒に帰るか?」

 

ハイウェイスター

「あぁ、頼む。あ、それと助けてくれたお礼だ。」

 

脚竜はハイウェイスターからポーションをもらった。

特になんの変哲もない回復ポーションだ。

 

ハイウェイスター

「ホントに助かったぜ。」

 

脚竜

「……いつもの取り巻きはどうしたんだよ?」

 

ハイウェイスター

「今回は俺一人で集めようとしててな……ハハッ、カッコ悪いだろ?」

 

脚竜

「………いや、かっこいいと思うよ俺は。」

 

ハイウェイスターは脚竜のその意外な言葉に驚いた。とはいえ、脚竜としてはあまりハイウェイスター達とは長話をしたくなかった。

かつて過去にされていたことを思い出すからである。

 

脚竜

「………んじゃ、さっさと行こうぜ。」

 

ハイウェイスター

「おう。」

 

~第二層主街区ウルバス~

現在、ぼっちとYunとで行動し、防具や調味料などの調達をしていた。

 

ぼっち

「………Yun、見つかったか?」

 

Yun

「………全然。」

 

何故か普段ならあるはずの調味料がどこに行っても売り切れになっており、困っていた。

 

Yun

(………これってめちゃくちゃ不幸なぼっちがいるからなのかしら?)

 

Yunがそんなことを思っていたら、緑髪の男がその大事な調味料、『塩』を大量に買っていたのを見た。

なお、昨日もこの辺りで塩を買っていたのをYunは覚えていた。

 

Yun

(……なるほど、アイツが買い占めてるせいね。)

 

Yunはすかさず声をかけた。

 

Yun

「ねぇ、最近塩が無くて困ってるんだけど何か知らない?」

 

???

「ん?あぁ、そりゃ俺が必要だから買ってるだけさ。」

 

Yun

「ふーん。んじゃ私たちも塩が必要でさ、どこかで売ってないかしら?」

 

???

「さぁ、ここらで塩売ってるところなんてわからねぇよ。売り切れてんじゃねぇのか?」

 

その言葉を聞き、Yunは言葉で攻めた。

 

Yun

「ダウト。私知ってるのよ?昨日からこの辺りで塩を買い漁ってるのをね。いい加減迷惑だからやめて欲しいんだけど。」

 

???

「はっ、女が俺に指図すんのか?」

 

明らかに舐めた態度をとってきてYunはイラッときたが、ここで安い挑発に乗るわけにはいかない。

 

???

「ならデュエルで俺に勝てばいいじゃないか。」

 

Yun

「………ふーん、物わかり良くて助かるわ。」

 

???

「半損決着で文句ないな?アンタも殺しなんてしたくないだろ?」

 

Yun

「上等よ。で、アンタ名前は?」

 

チョコラータ

「チョコラータだ。まぁ否応なしに覚えるだろうけどな。」

 

周りがざわついた。もちろん、きっかけは些細でもデュエルが始まること自体が珍しいからだ。

 

チョコラータ

「俺が負けたら塩を全部明け渡した上で迷惑行為もしないさ。ただしお前が負けたら俺の女になれ。」

 

Yun

「……OK、絶対ぶっ倒す。」

 

カウントが始まり、Yunは短剣を、チョコラータは細剣を構えてにらみ合い、ゼロになると同時に駆けた……はずだった。

Yunは敗北した。いや、せざるを得なかった。なんとチョコラータは近くにいた見た目も幼そうなプレイヤーを盾にしたあげく、己の細剣をそのプレイヤーに突きつけていたのだ。

 

チョコラータ

「まさかこいつを見殺しにするとか言わないよな?」

 

Yun

「……くっ。」

 

チョコラータ

「さて、約束だ。負ければ俺の女になるってなぁ。」

 

そう言ってYunの手を掴もうとした時だった。どこからともなく拍手が聞こえてきた。その正体は誰にでもわかった。それほどビーターのうわさはすぐに広まったからというのもあるだろう。

 

ぼっち

「うーん、悪くない。戦術としては中々にセンスがあると思うぞ。人の盾を作りゃ簡単に降参するからなぁ。」

 

ぼっちは称賛を称えながらYunに近づいていった。

 

ぼっち

「チョコラータつったか?残念ながらそいつは俺の女なんだよ。だから俺に勝ってからにしてくれないだろうか?」

 

Yunは何か言いたげだったが、ぼっちはそれを手で制した。なにか作戦があるとでもいわんばかりに。

 

チョコラータ

「………はっ、誰かと思えばアイツの兄貴じゃねぇかよ。あのポンコツの兄貴なんだ、余裕だろ。」

 

ぼっち

「…………あ?」

 

Yunは背筋が凍った。たぶん、目の前のチョコラータも他のプレイヤー達もぼっちについて知らないことがある。そして、Yunは明確に覚えている。

かつて第一層のフロアボス攻略の時、脚竜が兄を侮辱されキレたことを。しかし今、この状況においては間違いなくヤバい。かつてYunが小学生だったころにぼっちのことは悪い意味で知っていたからだ。

 

Yun

(ヤバい……あの目はマジでヤバい。)

 

ぼっちも脚竜と同じく家族や兄弟を大切にしている。ここだけの話だが、リアルでぼっちがかつて自分の弟を虐めていた人間に対する仕打ちを見たことがあるが、まさしく今と同じような眼をした悪魔の所業であった。

 

ぼっち

「……なるほどなぁ。あの愚弟、俺に隠し事してた訳か。あとで説教だな。」

 

チョコラータ

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと始めようぜ。」

 

ぼっち

「あぁ、そうしよう。」

 

ぼっちは一度区切り、こう言った。

 

ぼっち

「……二度と表に出れねぇ位に壊してやるよ。」


第二層~ウルバス別区画にて~

オクトとミホの二人はダンジョンで素材収集を終え、ウルバスにて合流するというぼっちからの言い付けを守るべく待っていた。

 

オクト

「………暇だぁ。」

 

ミホ

「わかるわぁ。」

 

思ったより早く素材が集まって作業が終わってしまったのである。道中道草を食いに食いまくっても暇だった。

 

???

「お、お前さん達、攻略し隊かな?」

 

ミホ

「え、まぁそうですけど。」

 

突然、声をかけられミホもオクトも驚いた。

 

???

「……なるほどな。」

 

男はそういうとウィンドウを操作し始めた。そして、オクトの元にデュエル申請が送られてきた。

 

???

「見た感じ暇をしてるんだろ?デュエルしようぜ。」

 

オクト

「あー、まぁいいですけど。」

 

オクトはデュエル申請を承諾した瞬間に、男は笑い始めた。

 

ミホ

「………え?もしかして戦闘凶?」

 

オクトはその顔を見て思い出した。

 

オクト

「お前ら、あの時脚竜を………。」

 

ラバーズ

「そうだ、お前に邪魔されなかったらアイツは俺達の友達だったはずなんだよな。」

 

オクト

「うるせぇ!お前らがやってたことは友達に対してすることじゃねぇだろ!」

 

ミホは何も知らないが、オクトの表情を見て全てを悟った。

 

ラバーズ

「まぁでも手遅れかもしれねぇな!」

 

オクト

「………何がだ!」


チョコラータ

「ちょいと脚竜には鬱陶しくなってな。」

 

ぼっち

「…………。」


~第二層ダンジョンにて~

脚竜はハイウェイスターと共に脱出していたが、やけにモンスターと出くわすし、ヘイトが高まっていた。

 

脚竜

「クッソ、ハイウェイスター!ここは引き付けるから先に脱出してろ!」

 

ハイウェイスター

「あぁ!そのポーション使ってくれ!攻撃力が上がるぞ!」

 

そう言ってハイウェイスターが走っていったのを見て脚竜はグイッとポーションを飲んだ。

その瞬間だった。

身体の動きが鈍くなり、うつ伏せになる形でダウンした。

 

脚竜

「がっ……クソッ、なんで………!!」

 

脚竜はステータスを見ると、状態異常麻痺を受けていた。モンスターの麻痺効果の時間としては長すぎる、考えられるのはたった一つ。

 

脚竜

「さっきのポーションか!」

 

武器もタンブルで落としており、武器も習得した格闘スキルのみだが、それすらも出来ない。

モンスターからの攻撃が始まる。一発一発のダメージは低い。だが、麻痺で反撃も回避も出来ない以上、ダメージを受け続けることになる。

 

脚竜

(やべぇ、もしこのままの状態が続いたら間違いなく死ぬ!)


ラバーズ

「アイツみたいな奴が生きる価値もないからな。」

 

ミホ

「酷い………どうしてそんなことすんのよ!誰もが必死に生きているのに!」

 

オクト

「お前が脚竜の価値を決めんな!」

 

ラバーズ

「まぁどちらにせよ手遅れだ。」


チョコラータ

「つまりだ、お前の弟はどちらにせよ死ぬんだよ。どうあっても終わりだ!ギャハハハハッ!!」

 

ぼっち

「………。」

 

Yun

「ぼっちさん?」

 

ぼっちは肩を震わせていた。それは怒りか悲しみか、そのどちらかはわからない。けど、その答えはすぐに出た。

 

ぼっち

「…………くく。」

 

ウルバスにいた人々にも聞こえた。そして少しずつそれは大きくなっていった。

 

ぼっち

「くくく……ふふふ、ふはははは、はーっはっはっはっはっ!!」

 

大声で笑い始めた。悲しみでも怒りでもなく笑いを堪えて肩を震わせていただけだった。

 

チョコラータ

「ハッ、アイツは兄貴にも捨てられてたんだな!」

 

ぼっち

「なにを勘違いしてやがる?俺が笑ってたのはテメェら程度のカスみたいな作戦に対してだぜ?まぁ、愚弟がその程度の愚策で死ぬわけねぇだろ。」


 

オクト

「………そうか。ならもうお前に手加減する必要無いよな?」

 

ラバーズ

「はっ、俺に勝てると思………うぶぇ!?」

 

オクトはラバーズに対して容赦なく棍を振り下ろしていた。そこから棍で殴り続けた。一撃一撃に殺意を込めて。

ミホはその様子を哀れんでいた。

 

ミホ

(あーあ、オクトを怒らせるからそうなるのよ。)

 

ミホ、及びシグレと脚竜はオクトを怒らせるとどれほど危険なのかはよく知っている。オクトは一度キレると基本的に手がつけられなくなり、だいたい止まらないし、止められない。

昔にも脚竜を守るためにぶちギレ、収拾がつかなくなったこともある。

 

ラバーズ

「おまっ!待てっ!ガフッ………このま……グエッ……死ぬ………!」

 

オクトはそれを聞いて胸ぐらを掴んだ。

 

オクト

「だったら脚竜が死んでいいのかよ?テメェらのそんな下らないことで、死んでいいのかよ!!」

 

ラバーズ

「お前……こりゃゲームなんだぜ?ホントに死ぬわけねぇだろ……。」

 

その言葉を聞き、オクトはため息をついてもう一発殴った。

 

オクト

「………何人死んだと思う?」

 

ラバーズ

「………は?」

 

オクト

「……黒鉄宮でこのゲームをやってるプレイヤーのリストがある石碑があるのは知ってるな?」

 

ラバーズ

「そ、それがどうかしたのかよ?」

 

オクトは肩を震わせ、今にもラバーズを殺しそうな目で睨みながら言い放った。

 

オクト

「あそこでプレイヤーネームの所に赤線が入ってるのは……ゲームオーバー………いや、死んだんだよ。このゲームはホントに人が死ぬんだぞ?それをわかってて、脚竜を殺す気なら………俺がお前らを殺すッ!!」

 

ラバーズ

「ま、待て!さすがに殺しはしないだろ?なっ?」

 

オクト

「悪いが俺は嘘はつきたくないからな。やるときゃやるぞ?」

 

ラバーズ

「わ、わかった!わかった!コルならいくらでも譲るしなんならアイテムも全部やる!チョコラータとハイウェイスターの事も全部話す!だから助けてくれ!」

 

その目を見て、命の危険を悟ったラバーズは保身の為に仲間をも売った。

 

ミホ

(あーあ、墓穴掘ったなアイツ。)

 

その行動はオクトの怒りをさらにヒートアップさせただけだった。

 

オクト

「やれやれてめー正真正銘の史上最低な男だぜ……。」

 

ラバーズ

「バァカめ!隙ありだァァァァァッ!!」

 

ラバーズはオクトが目を閉じた瞬間を狙って直剣を振った。しかし、その前に

 

オクト

「オラァッ!!」

 

オクトの蹴りがラバーズに直撃した。

 

オクト

「ラバーズ、悪いな。俺達攻略し隊のルールでな、入隊後には『オーバーラッシュ』の習得が必須科目なんだよ。てめーらが脚竜にしてきたツケは………」

「金じゃあ払えないぜ!」

 

オクト

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオッ!!オラオラオラオラオラァッ!!」

 

ラバーズ

「ぐばっ……ぐおあぉぉっ………!!」

 

ラバーズを派手に街の方までぶっ飛ばしたオクトはメニューを開き、ラバーズに対してチャットに何かを送っていた。

 

ミホ

「何してんの?」

 

オクト

「え?そりゃあ………今までのツケの領収書だよ。」

 

オクトはメニューを閉じ、街の方に歩き始めた。ミホはそれについていく形でオクトを追っていった。

 


ぼっち

「衝撃決着決闘だ。わざわざ半損まで戦うのも面倒だし文句ないだろ?」

 

チョコラータ

「いいぜ、乗った。」

 

そこまで言った時にガシャンという音が聞こえた。なんとぼっちは自分の装備していた剣をドロップしていたのだ。

 

ぼっち

「ハンデだ。こんくらいしとかなきゃビーターたる俺が圧勝しちまうのは目に見えているからな。」

 

チョコラータ

「……いいぜ。格闘スキルでも持ってんだろ?」

 

ぼっち

「まぁな。だが戦闘中はスキルも使わねぇよ。」

 

そして自分の剣をYunのもとへ持っていき、Yunに渡した。

 

ぼっち

「しばらくの間、俺の剣を預かっててくれ。」

 

Yun

「えぇ……。」

 

ぼっち

「安心しろ、あの程度の奴に負けやしないっての。」

 

ぼっちはそう言って前に出ていった。そしてデュエルのカウントダウンが始まる。

 

チョコラータ

(………バカが、細剣相手に素手なんてマヌケにもほどがあるぞ。これで至近距離まで近づいて一撃与えて終わりだ!)

 

ぼっち

「……………。」

 

 

カウントがゼロになったその瞬間だった。

 

ぼっち

「あ、UFO。」

 

ぼっちは奥を指差して一言言った。

 

チョコラータ

「そんな子供だましに引っ掛かるかぁ!!」

 

と突っ込んできたが、ぼっちは後ろを振り返った。

そして、衝撃的な一言を言った。

 

ぼっち

「勝ったぞ。」

 

まだなにもしてないはずのぼっちが勝利宣言をしたのだ。

 

チョコラータ

「寝言をぬかして………。」

 

しかし、その証拠はすぐに見つかった。

ぼっちの頭上にWINNERの文字が出ていた。デュエルに勝利した確固たる証拠である。

 

チョコラータ

「な、ば、バカな。スキルも使ってないくせに………。」

 

すると、ウルバスでその決闘を見ていた野次馬の一人が驚いたような声を出した。

チョコラータはその男が指をさす方向を見ると、小さい十分の一ほどの大きさのぼっちがいた。

 

チョコラータ

「な、なんだこいつ!?」

 

ぼっち

「おぉ、そいつは俺の特殊格闘スキルの十二王方牌大車弊のミニぼっち一号だな。」

 

それを聞いて周りの野次馬がスキルを使っていた不正についてざわつき、無論チョコラータも反論した。

 

チョコラータ

「おい待て!どうい………」

 

しかし、ミニぼっち一号がチョコラータの顔面を蹴った為に言葉は最後まで言えなかった。

 

ぼっち

「どうした?何か不満かな?」

 

チョコラータ

「デュ……決闘の前に……スキルを使わないって……い、言ったくせに………。」

 

ぼっち

「あー、聞こえてなかったか?俺は確かにスキルを使わないと言った。だが、戦闘中には使わないと言ったはずだ。俺があのミニぼっち一号を用意したのは戦闘前だ。よって不正ではない。……まぁ一言言うとすれば……自分を知れ。そんな虫のいい話があると思うか?お前程度のクズに。」

 

チョコラータ

「な、なんて酷いや………」

 

チョコラータはここで飛びかかった時点で詰みだった。ぼっちの拳は見事にそれを捉えてアッパーをかまし、チョコラータを浮かせた。

ここからは、ぼっちの長い長い、積年の怒りが放たれただけだった。

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」

 

オーバーラッシュによる拳の連撃を何度も。

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」

 

何度も。

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」

 

何度も何度も。

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」

 

何度も何度も何度も。

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」

 

何度も何度も何度も何度も。

 

ぼっち

「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

的確に同じ部分を殴りつけ。

 

ぼっち

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」

 

チョコラータ

「ヤッダーバァアァァァァアアアアア」

 

チョコラータの断末魔に似た声と共に

 

ぼっち

無駄ァッ!!

 

最後の拳を放った。

 

ぼっち

「さてとYun。攻略し隊入隊後の初仕事だ。」

 

そして、ぼっちはYunにそういった。

Yunは周りの状況を見て察し、偶然近くにあったゴミ箱の蓋を取った。

そしてぼっちは高らかに宣言し始めた。

 

ぼっち

「いいかプレイヤー共。俺は攻略し隊のリーダー『ぼっち』。知らないやつはいないと思うが胸糞悪いビーターのクズだ。だが、攻略し隊のメンバーに手を出すようなら容赦なく…………。」

 

ぼっちの言葉の最後が出る前にチョコラータはゴシャッという音と共に『燃えるゴミは月・水・金』と書かれていたゴミ箱にホールインワンした。

 

ぼっち

「燃えるゴミとしてゴミ箱に叩き込むぜ?」

 

その様子を見て、批判どころか、拍手が沸き起こった。よほどチョコラータ達の悪評があったのだろう。

ぼっちはちょっと当てが外れて驚いていた所をYunが話しかけた。

 

Yun

「たまには人助けもいいんじゃない?」

 

ぼっち

「………ちっ。そういうキャラじゃないんだけどな。」

 


 

一方、ハイウェイスターは迎撃しながらもかなりの負傷を負いながら街の手前まで逃げてきた。

 

ハイウェイスター

(ちっ………予想以上にモンスターが多かったな。おかげで逃げるのにも一苦労だったぜ。)

 

チョコラータとラバーズとはここで合流する予定だ。

 

ハイウェイスター

(……さてと、俺の嗅覚スキルを使うか。)

 

ハイウェイスターは嗅覚スキルをマスターしており、感情を含むあらゆる情報を獲られる。

ハイウェイスターは仲間の匂いを感じ、そちらへ向かった。

 

ハイウェイスター

「おーいお前ら、作戦はうまくい………」

 

ここでハイウェイスターは違和感に気づいた。何故か二人とも恐怖で怯えている匂いがしていたからだ。

 

ハイウェイスター

「おいおいどうしたんだよ?」

 

チョコラータ

「は、ハイウェイスター……俺達はアイツの仲間に手を出すべきじゃ……な、なかったんだ。」

 

ハイウェイスター

「はぁ?なにいってんだよお前。」

 

ラバーズ

「こ、殺される………金なんかもういらねぇよ……。」

 

ハイウェイスター

「おいおいまさか返り討ちにあったのかよ………。」

 

ここまでの間で、少し匂いが変わった。その匂いを知っているハイウェイスターはニヤリと笑った。

 

ハイウェイスター

「おいおいおかしいぜェ~~ッ。誰か怒ってるハズだよ――っ。おもいっきり怒ってる臭いがスゲープンプンしてんだからよーウソ言うなよ~~ッ。誰だ!?怒ってんのはよォ~~!?」

 

怒りの匂い……この二人のどちらかがキレているのは間違いなかった。

 

???

「俺だ。」

 

その声を聞いて、ハイウェイスターは慌てて後ろを振り向いた。

 

脚竜

「今めちゃくちゃにぶちギレてんのは俺だ。」

 

そこにはあの状況では確実に死んだはずの脚竜がいた。

 

ハイウェイスター

「バカな!?あの時お前は麻痺してモンスターに袋叩きに………なっ!!?お前らは!!?」

 

ハイウェイスターは脚竜の後ろからシグレとキリトの二人が現れ、さらに驚愕した。

 

キリト

「たまたま素材の収集をしてたらシグレと会ってな。」

 

シグレ

「私もノルマ終わってたし暇だったからキリトと一緒に素材集めしてたら麻痺しててピンチだった脚竜に出くわした訳よ。」

 

脚竜

「あぁ、あの時はマジで死ぬかと思ったぜ。さーてと、どんな風に落とし前つけてもらおうかな?」

 

ハイウェイスター

「ハッ、バカめ。この距離は既に俺の射程範囲だぜっ!」

 

ハイウェイスターは攻撃をしかけた。

 

脚竜

「ん。」

 

しかし、それよりも先に脚竜が速射した矢が鼻に直撃した。

 

ハイウェイスター

「うわぁぁ!!?」

 

チョコラータ・ラバーズ

「は、ハイウェイスター!!」

 

脚竜

「すまねぇな、俺の弓とか銃とかの間接武器には手慣れてんだ。この程度の速射なんてまだ手加減してやってる方だぜ?もっとも、俺が本気出せばもっと早いのを撃ち込んでやるけどな。わかったらさっさとお前らが買い占めた塩を全部無償で返してこいよ。」

 

ハイウェイスター

「わ、わかったよ……塩もちゃんと返すし、お前にやってきた仕打ちの分も謝るからよ……だからな………」

 

ハイウェイスターはそこまで言ったが、脚竜が無言で自分の後ろを見ているのに気づき、言葉が詰まった。

 

ぼっち

「ほらなYun、こいつらここにいた。」

 

Yun

「うわ、ホントにいたよ。」

 

オクト

「あれ?皆ここに来てたんだ。」

 

ミホ

「あ、こいつさっきの。」

 

ラバーズ、チョコラータも状況が最悪なことに今気がついた。自分たちをぶちのめした二人とその取り巻きがここに集まっているからだ。

 

ぼっち

「なーるほどな。そういうことか。言ったろチョコラータ。脚竜はリアルラックがイカれてるから下らない作戦なんぞじゃ死なねぇってな。」

 

ぼっちもちらほらと自分の剣をちらつかせ始め、オクトも指をならし始めた。

 

ハイウェイスター

「お、おいまさかこんな瀕死のプレイヤーをぶちのめすなんてそんなことしないよな?それは男のやることじゃねぇよな?」

 

脚竜

「なるほどな、確かに瀕死の奴を三人でよってたかってぶちのめして殺したら相当後味の悪いことだ。男らしくもない事だし、心の痛む事だ。」

 

ハイウェイスター

「そうだろー?こんなボロボロの俺をぶちのめしたって嫌ーな気持ちがずっと残るぜぇ?」

 

脚竜

「そう言うと思ってよ、テメェら三人とも安全圏に放り込んでおいたぜ。」

 

ハイウェイスター

「え?」

 

ハイウェイスター、チョコラータ、ラバーズの三人は知らぬ間に安全圏である街の範囲内に入っていた。

 

脚竜

「HP回復しただろ?ここではダメージは一切発生しないぜ。」

 

ハイウェイスター

「ホントだ………回復してる……。」

 

ぼっち

「ま、衝撃は受けるけどな。んで、これでお前らが死ぬことはなくなったわけだ………。お前ら、新しく攻略し隊国際条約を作った。攻略し隊国際条約第二条『敵対した奴には容赦なく攻略し隊の恐ろしさを刻み込め。』だ。……愚弟、意味はわかるな?」

 

それを聞いた脚竜は少し笑ったあとにハイウェイスターに向き直り、言い放った。

 

脚竜

「一旦お前らを安全圏に入れたらよォ……これで全然、卑怯じゃねぇわけだな?」

 

ここで、三人はある事実に気づく。確かに、ここでは衝撃だけで死ぬことはない。つまり、脚竜は一切卑怯な手を使っている訳じゃなくなる。

 

ハイウェイスター

「………ハッ……あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

脚竜

ドララララララララララララララララララララララララララララララドラァッ!!

 

ハイウェイスター、ラバーズ、チョコラータ。この三人は脚竜の成長性を見誤っていた。脚竜はあの時より遥かに成長していたのだ。

ハイウェイスター、ラバーズ、チョコラータ、攻略し隊の怒りを買い、再起不能(リタイア)

 

脚竜

「スゲーッ爽やかな気分だぜ!新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォッ!」

 

ミホ・シグレ

(どんな気分なんだそれは。)

 

この後、あの三人は買い占めた塩を全部返すと逃げるかのように転移門へと走っていったらしい。


~第一層ルイーダの酒場~

ぼっち

「初依頼達成を記念してー!」

 

攻略し隊一同

乾杯~!

 

攻略し隊は約束通り依頼を達成し、ルイーダの酒場を貸し切りで宴会をしていた。

 

ルイ

「ありがとうぼっち。まさか依頼の本当の目的まで見抜いてるなんてさすがね。」

 

ぼっち

「目を見たら大体の事はわかりますよ。」

 

ルイ

「まぁそれはいいんだけどね………なんか多くないかしら?」

 

ぼっち

「あれ、ルイさん。何も宴会は攻略し隊だけでやるとは言ってませんけど?」

 

ルイ

「……はぁ、本当に抜け目が無いわね。」

 

ルイとぼっちは昔さながらの感覚で談笑していた。

脚竜は酒場のベランダで一人牛乳の入ったコップを眺めていた。

 

~遡ること二時間前~

脚竜が瀕死だったところをシグレとキリトに助けられた後の事だった。

 

脚竜

「あ、ありがと二人とも。」

 

シグレ

「………もしかしてあの三人?」

 

シグレにはすぐに見抜かれた。

 

脚竜

「……まぁね。でも、大丈夫。もう巻き込んだりは………」

 

シグレ

「バカな事言うな!」

 

そこまで言った時にシグレが初めて怒った。

 

シグレ

「……アンタが大丈夫でも私達が嫌なのよ。アンタが泣いてるのを我慢してるのを見るのが!……あいつらが怖いんでしょ?なら私達で一緒にあいつらを倒そう。昔とは違うのよ、今のアンタには仲間がいるじゃん?……だからもう怖くないはずよ。」

 

キリト

「脚竜、気持ちはすごくわかる。けど、ここで立ち向かってもいいんじゃないか?俺達だってついてる。俺はベータテストの時の君を見たことがあるが、俺は君が噂のあの三人よりもずっと強いと思っている。まぁ、ソロプレイヤーの俺が言えることじゃないけど、脚竜はもう十分に強いさ。」

 

脚竜

「………そうだな。」

 

俺はその言葉に救われた。だからこそ立ち向かえた。

俺はようやく過去の自分と決別出来た。

簡単な事だったんだ。

 

脚竜

(………ありがとな。シグレさん、キリト。)

 

脚竜は感謝の言葉を心に入れ、皆の輪の中に突っ込んでいった。

 

脚竜

「よっしゃあ!俺の円周率カウンターで計測するぜェ!」

 

ぼっち

「やめんか愚弟。」

 

Yun

「ホントにこいつは………。」

 

脚竜はようやく心の底から笑えるようになった。

その後、攻略し隊含む九人ほどはルイーダの酒場にて飲み明かした。

新たな希望を胸に、攻略し隊はさらに歩みを進めた。




脚竜
「いやぁー、すっきり爽快だー。」

ぼっち
「ふん、あの程度にビビってたのはがっかりだがな。」

Yun
「いやー、ゴミ箱はすっきりしたなぁ。」

ミホ
「……あれ?オクトは?」

脚竜
「そういや武具屋に行ってたぞ。」

ぼっち
「ならほっといたら帰ってくるな。」

シグレ
「………大丈夫かなアイツ。」

次回、SAO.GM
第十六話「~再会と戦闘と圧勝~」

オクト
「奇抜なプレイヤーネームだなぁ………。」


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第十六話「再会と戦闘と圧勝」

パンドラ
「ごきげんよう皆様、パンドラでございます。ようこそお越しいただきました。此度も私パンドラが前回の出来事と今回の事少しばかりお話いたしましょう。前回、小さな龍は過去の因縁を断ち切り、更なる強さを得て攻略し隊や攻略組の皆様の努力のおかげか、囚われてから早三ヶ月程が経ち、既に第四層までの攻略を完了し、彼らは第五層にて留まっているそうです。そしてどうやら彼にもようやく休息が与えられるようだ。しかし、そう簡単に休息出来るとは保証しかねますがね。」

という訳でSAO・GM第十六話完成いたしました!
知っている方はお久しぶり、知らない方は初めまして。
作者のwandarelでございます。
今回もカオスたっぷりにお送りしようと思いますので是非とも評価や感想のほうもお願いします!


拝啓、リアルに置いてきた父ちゃん、母ちゃん、ばあちゃんに姉貴、そんで二匹の猫達へ。

オクトです。

今、俺達『攻略し隊』を含むSAOで生きている全プレイヤーはゲームクリアに向かって突き進んでいます。俺に与えられる仕事は相変わらず理不尽極まりないブラックです。しかし、そんな俺にも至福の時が来ました。

 

オクト

「休暇だぁー!」

 

そう、現在、SAO攻略組は五層をクリアし、その記念でぼっちさんから休暇を貰えた。しかも三日間も休みを貰えた。一日目は全部寝て過ごしたので、さすがに三日間寝るだけなのももったいないからこうして街をうろついてる訳です。

 

オクト

「……ふぅ、ホントに休めたの久しぶりだなぁ。」

 

前にも説明した通り、オクトだけ課せられるノルマの桁がおかしいため、かなり苦労している。

 

オクト

「………あ、そうだ武器の点検しなきゃ。」

 

己の所持する武器の耐久値はボロボロだった。最近戦闘続きでメンテナンスをする暇すらなかったからである。

 

オクト

「うーん、この辺りに鍛冶屋とかあったっけ?」

 

マッピングに関しては脚竜に任せているのでそこまで覚えておらず、道具屋一つ探すのにもたまに苦戦する。

 

???

「そりゃどういう事だおい!」

 

???

「だーかーら言ってるでしょ!どうあっても素材が足りないのよ!」

 

???

「えぇー!?足りるっていってたから持ってきたのに!」

 

???

「ちくしょー!どうにか安くならないのかよ!」

 

???

「それが出来るなら苦労しないわよ!」

 

街のど真ん中で三人の男プレイヤーと一人の女プレイヤーが口喧嘩を繰り広げていた。だが、この時ある種の奇跡が起きた。ちょうどよく鍛冶屋を探していたのである。

 

オクト

「おーいリズベットさーん!」

 

リズベット

「ん?あれ、アンタあの時の!」

 

女プレイヤーの方は知り合いでしかもぼっちから聞いた情報だと最近彼女の鍛冶師としての腕はかなり上がっていると聞いていた為、ちょうどよかった。

 

オクト

「これメイスのメンテナンスして欲しいんだけど大丈夫?」

 

リズベット

「えぇいいわよ。料金は………」

 

ここまでの流れで三人の男の一人が声をかけた。

 

???

「おいおい待ってくれよまだこっちの商談が終わってないぞ?」

 

???

「そうだそうだ…………ん?あれ、お前……。」

 

オクト

「………?」

 

???

「あー!て、テメェは!あの時の!」

 

オクト

「あー、なるほど。………どちら様でしょうか?」

 

オクトのこの言葉に三人の男はずっこけた。

 

???

「お前はあの一層での事をもう忘れたのかぁー!!」

 

オクト

「………あー、思い出した確かにそんな事もあったなぁ。でどちら様でしょうか?」

 

もう一度三人はずっこけた。

 

???

「……いや待て。そういやあの時俺達名前言ってなかったな。」

 

???

「あ、そりゃ覚えてないわけだ。」

 

オクト

(……え?なにこれ自己紹介始まるパターン?)

 

トンヌラ

「オレのプレイヤーネームは『トンヌラ』!親父に危うくリアルでそんな名前にされかけた!ちなみにオレの異名は『迅速のトンヌラ』だぜ!」

 

オクト

「あのー、トンヌラさん?リアルの事をあまり詮索するきはないんですけど、あなたのお父さんって社長辺りの結構偉い人じゃないですか?」

 

トンヌラ

「え?なんでその事を……。」

 

オクト

(やっぱりか………)

 

チンチロ

「オレのプレイヤーネームは『チンチロ』!人呼んで『剛力のチンチロ』よ!」

 

オクト

「チンチロさん、賭け事大好きですよね?」

 

チンチロ

「な、何故それを………」

 

オクト

(……しかもイカサマ普通にしそうだなこの人。)

 

カンキチ

「オレは『カンキチ』!リアルネームをそのままつけちまった!」

 

オクト

「プラモデル大好きですよね?」

 

カンキチ

「ど、どうしてそれを………」

 

オクト

(だって眉毛繋がりかけてるし。)

 

リズベット

「なるほど、アンタら三人合わせて『トンチンカン』って訳ね。」

 

トンチンカン

「「そういうことだ!」」

 

オクト

(どこからツッコんだらいいんだろこれ。)

 

トンヌラ

「とりあえず、アンタが相手になるんだよなオクト!」

 

オクト

「……まぁ、半損決闘なら。」

 

正直に言えば茶番だが、オクトには逃げられない理由があった。

 

トンヌラ

「じゃあ、まずは俺からだ!行くぞ!」

 

決闘開始の合図と共にトンヌラは駆け出した。

早い。その素早さは伊達に『迅速のトンヌラ』と言われるだけはある。

 

オクト

「まぁ脚竜より遅いけどな。」ゴッ

 

メイスの一撃で半損させ、デュエルに勝利した。

 

トンヌラ

「な、なぜ。俺のスピードには………」

 

~三層での出来事~

 

脚竜

「見ろ!これが俺の超スピードだぜ!」

 

もはや残像すら見える反復横飛びを見て、オクトはこう言った。

 

オクト

「まるで火星ゴキブリだな。」

 

そういった瞬間、脚竜は反復横飛びの残像を維持したまま綺麗なフォームでその場股上げを始めた。その姿はかつてアニメで見た火星ゴキブリのようだった。

 

脚竜

「じょうじ!」

 

脚竜が『じょうじ』としか喋らなくなったときにぼっちがオクトに耳打ちした。

 

ぼっち

「オクト、こういう時どうすればいいか教えてやる。」

 

ぼっちはそう言うと脚竜に向かって歩き、残像の付近に来たとき、残像に足払いをかけた。

すると、脚竜は面白い具合に飛んでいった。

 

ぼっち

「科学的理論でこうすれば止めれるぞ?」

 

オクト

「おぉ……。」

 

そんなこともあり今に至る。

 

オクト

「申し訳ないんだけどアンタより速い奴いるせいか止まって見える。」

 

トンヌラ撃沈

 

チンチロ

「ふっ、奴は所詮このトンチンカン最弱。次は俺が相手だ!」

 

オクト

(普通に負けフラグ言うなぁ。)

 

デュエル開始と共に重い一撃が来た。オクトもこの一撃の重さには驚いた。

 

チンチロ

「どうだぁー!手も足も出まい!所詮世の中はパワー型が最強なんだよ!ははははっ!!」

 

確かにパワーが高ければ相手を圧倒出来るし、ちょっとしたことでも効率はいいだろう。

 

オクト

「でもパワーの使い方がまだまだだな。」

 

オクトはその言葉と共にメイスの一撃を放ってチンチロのHPを半損させた。

 

チンチロ

「な、なぜだ………。」

 

オクト

「悪いな、俺もパワータイプなんだよ。」

 

チンチロ撃破。

目には目を、歯には歯を、パワーにはパワーをだ。と思っていたら武器の耐久値がほんとにやばくなってきた。

 

オクト

(これ以上やったらマジで折れるな……。)

 

カンキチ

「情けねぇなお前ら!そんならこのトンチンカンのリーダー、カンキチが相手してやるぜ!」

 

オクトはため息混じりに構えたが、油断していた。

 

オクト

「ッ!?」

 

カンキチは紛れもなくセンスのある戦い方をしてきたのだ。

 

オクト

(回避は可能だが避けづらい、それだけじゃねぇ。何より隙がほとんどない!)

 

カンキチ

「どうした!そんくらいで根を上げるのか?」

 

オクト

(ヤバい、このプレイヤーは確かに強い!)

 

オクトはオールラウンダーなカンキチのプレイングを受けそれを確信した。そして、

 

オクト

「でもぼっちさんほどではないな。」

 

バックドロップで叩きのめした。

カンキチが、変な声を上げて頭を押さえていた。

 

オクト

「申し訳ないんだけど、アンタよりヤバい奴がいるせいか強いんだけど大したことじゃなかった。」

 

オクト

(………まぁ、ぼっちさんのセンスがチートなだけなんだろうけども。とにかく、守れてよかった。あの時のようになってたら俺は………。)

 

リズベットはオクトのその顔を見て、何故そのような顔が出たのかを疑問に思った。

 

カンキチ

「ち、ちくしょー!」

 

オクト

「あ、そうだリズベットさん。さっき言ってた武器のメンテナンスお願いします。」

 

リズベット

「OK、任せなさいオクト!」

 

チンチロ

「……なぁカンキチ。」

 

カンキチ

「なんだよ。」

 

チンチロ

「さっきあの鍛冶娘がオクトって言ってなかったか?」

 

カンキチ

「え?」

 

トンヌラ

「…………それって攻略し隊のタンクだよな?」

 

トンチンカンの三人は顔を見合わせたあと、震え始めた。

 

チンチロ

「ど、どどどど、どうすんだよ!このままじゃ俺達殺されちまうぞ!」

 

トンヌラ

「いやいやいや!ヤバいって!あの攻略し隊の鬼たる『ぼっち』に目をつけられたら命は無いって噂だぞ!」

 

カンキチ

「バカヤロー!バレる前に逃げりゃいいんだよ!こういう時は逃げるが勝ちだっつーの!」

 

オクト

(あながち間違ってないけどなんか誤解がすごいなぁ。)

 

トンチンカンがそんな話をしているのを聞いてオクトはそんな事を思っていた矢先だった。

 

???

「こんなとこで道草食ってたのか。」

 

オクト

「あ、噂をすればぼっちさん。」

 

当のぼっちがやって来たのである。休暇であるとはいえ、攻略し隊国際条約第五条、『飯はメンバー全員で同じ場所にて食え』のルールがあり、よく見たらもうお昼ご飯の時間を過ぎていた。

 

オクト

「すみません、武器のメンテナンスしてて……。」

 

リズベット

「あ、鬼畜で噂のぼっちだ。」

 

ぼっち

「なんで俺が鬼畜外道なんだよ。俺は人畜無害だぜ?」

 

オクト&リズベット

(さらっと嘘ついた………。)

 

この流れを聞いていたトンチンカンは無論、大慌てだった。

 

トンヌラ

「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいッ!!」

 

チンチロ

「もうダメだ、おしまいだぁ………。」

 

カンキチ

「ぎぇぇぇぇぇぇ!なんでこんな時に来るんだよ!」

 

ぼっち

「メンテナンス以外にも理由があるだろ。怒らないから言ってみろ。」

 

オクト

「あー、一層で俺を身代わりにしたの覚えてますよね?そのときの奴等にリズベットがまた絡まれてたんで助けました。」

 

ぼっち

「………………。」

 

トンチンカンの三人は既に逃げる準備をしていたが、トンヌラがぼっちに視線を向いた瞬間だった。

 

ぼっち

「ほほーう?」

 

本来あり得ない角度に曲がった首とその眼光はたぶん相当なものだと思う。現にトンヌラが震えながら叫んだ。

 

トンヌラ

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!化け物ォォォォォッ!!」

 

その絶叫をきっかけにトンチンカンの三人は走り出した。そして、ぼっちはそれを追いかけ始めた。

 

オクト

「……あーあ、ぼっちさん加減してればいいんだけど。」

 

リズベット

「……ねぇ、アンタ。」

 

オクト

「ん?どうしたの?」

 

リズベット

「一層の時もそうだけどなんで助けてくれたの?」

 

オクトはその質問に少しだけ間を開けて答えた。

 

オクト

「俺、昔色々あってさ。大切な友達を二人くらい助けれなくてさ。手を伸ばせば助けれたかもしれなかったんだよ。だからその時決めたんだ。どんなことがあっても掴める手があるなら掴んでみせるって。

 

オクトは空の方に顔をあげ、さらに続けた。

 

オクト

「俺さ、ちょっとのお金と明日のパンツがあれば生きていけるって信じてるんだ。辛い事苦しい事があっても生きていける。どれだけ過酷でもな。」

 

リズベット

「ふふ……変な考えね。でもそれアタシみたいな女だったらどうすんのよ。」

 

オクトは手痛い所を突かれたようにあっと言って、二人で笑った。

それと同時に今にも死にそうな顔をしたトンチンカンの三人を引き連れてそれはもうとてもとても満足したような綺麗な笑顔と共に口笛を吹きながらぼっちが帰って来た。

 

ぼっち

「ただいま~♪」

 

オクト

「お、おかえりなさい………。」

 

トンチンカン

「…………………。」

 

ぼっち

「よーし、本人も目の前にいることだし、始めるか。」

 

トンチンカンの三人がオクトとリズベットの方に向き助けを求めるかのような視線を送ってきたが、こうなったぼっちを止める術を二人は知らないからどうしようもない。

 

ぼっち

「まずだ。攻略し隊の奴に手を出したというタブーをやらかした時点でアウトなんだが、特別に許してやる。」

 

トンチンカン

「「ほ、本当か!?」」

 

ぼっち

「あぁ、本当さ。ただし、今後は俺達攻略し隊の専属鍛冶屋のリズベットにちょっかいをかけないことを誓えるか?」

 

トンチンカン

「はい!誓います!」

 

リズベット&オクト

「おい待て。」

 

ぼっち

「なんだよ?」

 

オクト

「勝手に専属鍛冶屋にするんじゃねぇですよ。」

 

リズベット

「まだ野良の鍛冶屋なんだけど………。」

 

ぼっちはそう言われ、舌打ちをして小声でバレたかと言い、トンチンカンの方に向き直った。

 

ぼっち

「……んじゃ、これにサインしやがれ。」

 

ぼっちはトンチンカンの三人にあのメールを送っていた。そう、あのメールだ。

 

オクト&リズベット

(あ………。(察し))

 

トンチンカン

「すぐにします!」

 

三人がサインし、それをぼっちに返信した。

 

ぼっち

「よーしお前ら。これで晴れてテメェらトンチンカンはこの『攻略し隊』の舎弟になったわけだ。キリキリ働けよ。」

 

カンキチ

「………ヘ?」

 

トンヌラ

「いやいやいや!聞いてませんよ!」

 

チンチロ

「誓約書にもそんなこと………あ。」

 

カンキチ

「どうしたんだよチンチロ?」

 

ぼっち

「これから先生きていくのによく覚えておけよ。こういう契約の時には何かしら裏があると思っておけ。その授業料に俺達に貢献する。お前らも俺達から危害を加えられない完璧でWin-Winな関係じゃないか。」

 

ぼっちは誓約書メールの下の方に『我々トンチンカンの三人は攻略し隊の舎弟となり、月に一回、我々の資金及び資材の4割を攻略し隊に引き渡す事もここに誓います。』と書いていたのだ。

 

ぼっち

「もう一度言うが、俺がいる間は誰一人として死なせる気は無ぇ。例え舎弟だろうがな。」

 

オクト

(すげぇカッコいいこと言ってるつもりなんだろうけど……。)

 

リズベット

(やってることもれなく詐欺師よね?)

 

ぼっち

「よーし、トンチンカン共、明日からキリキリと俺達の為にも生き残るためにも頑張れよー。」

 

カンキチ

「だぁー!もうこんなことこりごりだぁァァァァ!」

 

カンキチの叫びが第五層の街で響いた。


第五層~攻略し隊拠点(借家)にて~

 

オクト

「……ということがあったりして遅くなりました。」

 

脚竜

「リア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべしリア充死すべし」

 

Yun

「落ち着けお前は。」

 

脚竜はYunからチョップを受けリア充粉砕☆玉砕☆大喝采☆モードを終えた。

 

ミホ

「ホント知らないうちに仲良くなってるんだねー?」

 

オクト

「だ、だからそんなんじゃないって!」

 

シグレ

「ホントかなぁ?」

 

オクト

「ホントだって!」

 

ぼっち

「攻略し隊国際条約第六条、リア充は滅ぼしてもよい。」

 

オクト

「アンタいきなりなんて理不尽極まりない条約作ってんですか!」

 

Yun

「それ言うってことはリア充かな?」

 

Yunがいたずらっぽい笑みを浮かべながらそういうとミホとシグレもヒューヒューと囃し立てた。

 

脚竜

「………滅びろ。」

 

脚竜は代わりに抹殺モードに入ったが。

 

オクト

「そんなんじゃないって言ってるでしょうがァァァァッ!!」

 

オクトの叫びも夜の第五層にて響いたそうだ。




???
(バカ二人が入院した。それだけでも驚いたけど、目を覚まさないバカ二人。でも、もうなにもかもがどうでもよかった私にとっては、驚いただけで特に何も思えなかった。)

???
(たった一人の弟がいなくなって、いつもにぎやかだった家庭が静かになった。それは私にとっては耐え難かった。)

???
「………あ、どうも。」

???
「……え?もしかして隣の病室?」

次回
SAO・GM第十七話「残された人間」

???
「これでも結構やりこんでんのよねこのゲームは!」


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第十七話~残された人間~

???
「前回の三つの出来事!一つ、オクトがようやく休暇を取り、体を休めた!二つ、リズベットとオクトの距離がまたしても近づいた!三つ、攻略し隊はトンチンカンの三人の部下(?)を手に入れた!」

パンドラ
「………大方の前回の出来事を言われましたねぇ。あくまで補足するとすれば、オクト君にも何かしらの過去があるみたいです。それが紐解かれるのかはいつになるかはわかりませんがね。それでは皆様、今回もお楽しみください。」

という訳でどーも皆さんお久しぶりです。
作者のwandarelでございます。
今回も制作に一苦労させられてもうヤバイです。今回からしばらくはアインクラッド内ではなく、リアル目線での話メインになり、ちょこちょこ聞き覚えのある人物とかが出てきますので、今回もカオス注意です!
感想、評価の方もお願いします!


三ヶ月前、私は普通に大学から家に帰って来た。特にやることもなく、やれることは全部やったから帰ってちょっとゲームして寝るの繰り返し。バイトも面倒だからやってない。でも、突然弟二人が病院に送られ、意識が戻らないと聞かされた。

絶望することも悲観的になるわけでもなく、だからどうしたとしか思えなかった。

他人から見れば薄情なのだろうがそれすらもどうでもいい。

変わったことがあるとすればゲームに深入りするようになったくらいだ。

 

???

「夏輝ー、ご飯出来たから降りてきてー。」

 

夏輝

「はいはいわかりましたわかりました。」

 

自宅の二階にある部屋でやっていたゲームを中断した夏輝はだらだらと一階のリビングまで降りていった。

 

夏輝

(あーめんどくさ………。)

 

そんな事を考えてはあくびをし、自分の定位置についた。

 

夏輝

「いただきまーす。」

 

???

「こら、夏輝。しっかりしないか。もう大学生なんだから。」

 

夏輝

「別にいいじゃんどうでもいいし。その前にじいちゃんもそろそろ仕事辞めてもいいんじゃない?定年もう過ぎてんでしょ。」

 

???

「ワシは孫の為にもしっかりと仕事しなきゃいけないからな。そうだ、こずえさん。明日茶漬けだけとかどうだ?」

 

こずえ

「信文さん、茶漬けだけだと栄養偏るでしょ。」

 

夏輝

「ばあちゃんもあんまり無理しないでよ。もう歳なんだから。」

 

こずえ

「わかってるんだけどねぇ……。」

 

???

「ぐぅー。」

 

???

「ワンワン!」

 

夏輝

「おー、コツにアビー。お前らはいつも元気そうだねー。」

 

ご飯の匂いにつられたのか、飼い犬二匹が夏輝の足元に向かってきた。

 

こずえ

「こら、ことこ!胡椒入ってるんだから食べるな!」

 

飼い犬のことこ(まぁだいたいコツって呼ばれてる)は祖母のこずえに怒られ、あからさまに不機嫌そうにブゥ~と唸った。まぁフレンチブルドッグだからか鼻がちょっとつぶれててそう聞こえるだけなのだろうが。

 

夏輝

「ばあちゃん、アビーも。」

 

こずえ

「あ!アビーお前はホントに油断も隙もないな!」

 

飼い犬、ミニチュアダックスフントのアビーも怒られて尻尾を垂らしながらクーンと唸った。

 

こずえ

「二人共そんな声出してもダメなもんはダメです。」

 

きっぱりとそう言いきったのを聞いて、ご飯を食べ終わった私はさっさと病院に行くことにした。

 

夏輝

「そんじゃお見舞い行ってくるわ。」

 

信文

「気をつけてなー。」

 

面倒だから自転車で行こうとそそくさと準備をしていると、バタバタと二匹のワンコが追いかけてきた。

 

コツ

「パウ!」

 

アビー

「ワンワン!」

 

二匹は尻尾を振っている。しばらくそれを見て、ため息をついた後に二匹にリードを着け始めた。

 

夏輝

「はいはい、連れてきゃいいんでしょ連れてきゃ。」

 

この二匹は散歩に連れていって欲しかったらしく、リードをつけ始めると尻尾をさらにぶんぶん振って喜んでいた。

リードをつけ終わり、とっととお見舞いを済ませる為にだらだらと一歩ずつ前に進んでいった。

道中、おしるこがもうでていたの買って飲んだはいいもののクソ不味いタイプの奴だった。

 

夏輝

(………ちっ。)

 

最近、物事がうまくいってない気がする。弟二人は意識不明で帰ってこない。父親も出張から帰ってこない。

最近、学校でも変な噂立てられて他の連中がうざいし、どうしようもないから面倒な事が多い。

だがそんな事すらもどうでもいいと思う自分しかいない。

気がつくともう病院についていた。

 

夏輝

「すぐ戻るからおとなしくしててよ。」

 

コツ

「パウ、パウ!」

 

アビー

「ワン!」

 

夏輝はいつものところにリードを繋げて病院に入り、受付の人と話して、弟二人がいる病室に向かった。

 

夏輝

「…………………。」

 

夏輝は病室のドアを開けて、すぐに閉めた。どうせ目を覚まさないんだし、無駄な時間でしかないからだ。

帰りはいつも心配そうに私を見る看護婦の視線を感じながらも立ち去った。

そんな事の繰り返しだと考えていたら、通路の角で死角になってた部分から女性が出て来て直撃した。

 

夏輝

「………すみません。」

 

???

「いたた……あ、こちらこそごめんなさい!」

 

ぶつかってお互いに謝ってすぐに女性は病室の方に向かっていくのを見送って、外で待っていたワンコ二匹を連れて家に帰っていった。

 

~川越県立大学にて~

やはり学校は嫌いだ。まわりの噂話がうるさい。やれあのアニメ見てるとか、最近のタレントはどうとか………馬鹿馬鹿しい。いや、もしかしたら私を含めたこの学校にいる連中全員がバカなのかもしれない。

席が自由着席制でホントに助かる。まわりの奴の真ん中なんて死んでも嫌だ。そんな感じで私はいつも通り教室の後ろの窓際に座っていた。

 

夏輝

「…………眠い。」

 

くっそ眠くなってきたので、教師が来るまで昼寝でもかまそうと思って横を向くと、隣で慌てて席に座ってなにかを探している昨日ぶつかって来た女がいた。

 

???

「えー!な、なんで!?昨日入れてきたのに!!」

 

夏輝は大方の予想がつき言った。

 

夏輝

「……今日はその授業ないから安心しなよ。昨日担当の先生が急用で授業無くなるって言ってたから。」

 

???

「えっ!マジで!!?」

 

夏輝

「…………。」

 

それ以上のことを答える義理は無いから黙っておくことにした。そこからは普段となにも変わらないクソみたいな日常に戻った。なにも変わらず無駄な時間が流れるだけ。私はそれに対して為す術がない。だから今日も放課後には惰性で同じことを………。

 

???

「今日はホントにありがとー!助かったわぁー!」

 

繰り返すはずだった。

 

夏輝

「あっそ、それじゃ。」

 

???

「あー待って待って!アンタ昨日ぶつかっちゃった人でしょ?」

 

夏輝

「………そーですけど。」

 

柚子

「私は柚子!小倉柚子って言うの、よろしくぅ!」

 

夏輝

「は、はぁ………?まぁ、私は脚蛇夏輝だけど。」

 

どうにもこのテンションについていけない。だからあんまり人に関わりたくないんだけど……。

 

柚子

「ねぇ、今日もしかして暇?」

 

あ、嫌な予感がする。

 

夏輝

「………それがどうしたのよ。」

 

まぁ嘘をつく理由もないし嘘をつきたくないし正直に言ってみることにする。

 

柚子

「じゃあ今日一緒にお見舞い行かない?」

 

夏輝

「………は?」

 

柚子

「たまにはいいんじゃない?誰かと一緒に行くのもさ。」

 

夏輝

(………めんどくせぇ。)

 

夏輝は正直に言えばだるいから断るつもりだったが、このタイプは一度断るとしつこく理由を聞いてくるタイプだ。下手に断るとめんどくさい。というかだから話したくなかったんだけど。

 

夏輝

「分かった分かった。ホントは見ず知らずのアンタに付き合う道理はないけど行ってやるわよ。」

 

柚子

「OK!そんじゃ連絡先交換しよ!」

 

夏輝

「………了解。」

 

連絡先交換の流れまではさすがに予想外だった。

 

柚子

「そんじゃ、連絡よろしくね!」

 

夏輝

「はいはい。」

 

~脚蛇家~

そんな事もあって、家で今ゴロゴロしてる。

 

夏輝

「あーもーだるいぃー。」

 

人と口約束なんかしたくなかったのにしてしまって現在進行形で後悔してる。どうしようもないからスマホゲームで時間を潰して、あと少しでボスを倒せる所で通話が来た。

 

夏輝

「あ。」

 

とりあえず、電話には出ることにした。

 

夏輝

「はーい?」

 

柚子

『おーっす!そろそろ行かない?』

 

夏輝

「はいはい、待ち合わせはどこにする?」

 

柚子

『うーん、もう大学の近くにある『シャルモン』にしない?』

 

夏輝

「はいはい、わかりましたわかりました、それじゃね。」

 

一方的に切ってどうなったか確認したら、案の定やられてた。あの莫大なHPを持つボスをまた最初からである。

 

夏輝

「…………ちっ。」

 

最近何もかもうまくいってない。

 

夏輝

「ばあちゃん、病院行ってくるわ。」

 

こずえ

「ん?夏輝、ご飯はどうする?」

 

夏輝

「もう自分で作って食べたよ。」

 

こずえ

「そっか。気をつけてなー。」

 

夏輝

「はいよー。」

 

夏輝が靴を履いて準備してると、またしてもバタバタと二匹のワンコがやってきた。

 

コツ

「ング~」

 

アビー

「ワンワン!」

 

夏輝

「………はいはい、連れてきゃいいんでしょ連れてきゃ。」

 

この二匹はいつも通りで何故かホッとした。

 

~シャルモン前にて~

夏輝は待ち合わせ場所のシャルモンに着いて、コツとアビーを愛でていた。

 

夏輝

「おーよしよし、お前らは可愛いなぁ。」

 

コツ

「グゥー。」

 

アビー

「ワン!」

 

ちなみにかれこれ三十分くらい待ってるのだが一向に柚子が来る気配がない。

 

夏輝

「………あいつまさか忘れてるとかじゃないでしょうね。」

 

柚子

「ごめーん!遅くなった!」

 

夏輝

「…………わお。」

 

愚痴った瞬間に来やがったよコイツ。

 

夏輝

「んじゃ説明してもらいましょうか。三十分前にもうすぐ着くと聞いたので私はその五分後にここに来ました。あなたは何してたんですか?」

 

柚子

「ごめんごめん!行くならご飯喰ってからにしろってママに言われてさ。」

 

夏輝

「ふーん。」

 

柚子

「………あ、信用してないでしょ!」

 

夏輝

「さぁね~。」

 

夏輝がさっさと行こうと思ったら、あー!と声をあげてコツとアビーに目を輝かせていた。

 

柚子

「か~わ~い~い~♪」

 

コツ

「グ、グゥー?!」

 

アビー

「ハッハッハッ。」

 

柚子がコツを持ち上げたのをきっかけにコツがあからさまに嫌そうな声をあげた。

 

コツ

「グー……グゥー……。」

 

夏輝

「やめたげて柚子。そいつ高いところ苦手なのよ。」

 

柚子

「えっ!?うわごめん!………えーっと夏輝ちゃん、この子達の名前は?」

 

夏輝

「ミニチュアダックスフントの方が『アビー』で、ミニチュアフレンチブルドッグの方が『コトコ』、まぁコトコについては家族がコツって呼んでるけどね。」

 

柚子から降ろされて、コツは安心したようだ。

 

柚子

「コツかぁ……ごめんねコツ。」

 

コツ

「ブゥ~。」

 

コツはまるでいいよと言わんばかりに鼻を鳴らしてた。

しばらく柚子と話ながら(主に授業のこと)歩いていると、気がついたらもう病院についていた。そのため、あんまり雪とかが当たらないいつもの場所にコツとアビーのリードを繋げて病院へ入った。

 

???

「あら、今日はお友達と一緒なのね、柚子ちゃん。」

 

柚子

「おいっすアキ先生!」

 

夏輝

「………ども。」

 

入って早々柚子は仲良さそうに看護婦さんに話しかけていた。

 

アキ

「とりあえず面会でいいのね?」

 

柚子

「はい、お願いします!」

 

アキ

「えーっと、あなたは脚蛇さんの御家族の人よね?」

 

夏輝

「……え?あ、はいそうですけど。」

 

突然そんなことを聞かれたのでめちゃくちゃ驚いた。

 

柚子

「………ん?てことはもしかして病室隣同士なの!?」

 

夏輝

「………マジかよ。」

 

アキ

「………夏輝ちゃんだよね?」

 

夏輝

「どうして私の名前を……。」

 

アキ

「覚えてないか……まぁあのときは小学生だったものね。」

 

夏輝はさっきから何をと思っていたが、ここにきて思い出した。確かに小学生高学年の頃にこの人に会ってる。

 

夏輝

「あぁ、アキさんこの病院の看護婦やってるんだ。」

 

柚子

「え、知り合いなの!?」

 

夏輝

「出張で出掛けてるうちのお父様のお友達です。」

 

アキ

「……夏輝ちゃん、何かあったらちゃんと私たちを頼ってね?」

 

夏輝

「はいよー。んじゃ行こう、柚子。」

 

柚子

「お、おう。」

 

私は足早にその場を去った。気に入らない。大人だからと私の気持ちとかを知りもしないで……。

 

柚子

「……ここがうちの弟が寝てる病室。」

 

柚子にそう言われて病室に入って驚いた。柚子の弟はよく末っ子の弟が遊んでいる奴だったからだ。

 

夏輝

「友渡………。」

 

柚子

「……え?知ってるの?」

 

夏輝

「うちの末っ子のバカとよく遊んでると聞いてたのよ。」

 

柚子

「……そっか。」

 

柚子はしばらく黙りこむと深呼吸をしてから続けた。

 

柚子

「友渡、お前の友達のお姉さんもアンタのお見舞いに来てくれたよ。だから絶対元気に帰ってきてね。」

 

そんなことを言っていた。

 

柚子

「……よし、次は夏輝の家族の方ね!」

 

夏輝

「アンタなんか急に距離感近くなってない?」

 

柚子

「気にしない気にしない!ほらほらゴーゴー!」

 

夏輝

「あーもー押すな押すな。」

 

そして、私達は病室にたどり着いた。

 

柚子

「そっか、龍希君もSAOに……。」

 

柚子が呟いたのを見て私はいつも通りにドアを開けてすぐに閉めた。

 

柚子

「ちょ、ちょっと!」

 

夏輝

「帰るよ。」

 

私は柚子の制止を聞かずに歩きだした。そして病院の外にて私が病院の外に出たタイミングで腕を掴まれ、柚子に止められた。

 

柚子

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

夏輝

「………何?」

 

しつこく言ってきてうるさいから聞いてみた。

 

柚子

「お見舞いあんなのでいいの?!」

 

夏輝

「……別にいいんじゃないあれで。」

 

柚子

「声をかけるくらいしなさいよ!」

 

夏輝

「かけたところで無駄でしょ。それで起きるのなんて夢か漫画の世界だけよ。アニメとかの見すぎじゃない?」

 

柚子

「それでも……」

 

柚子が続けようとしたのを見て私も久しぶりにキレた。

 

夏輝

「うるっさいなぁ、どいつもこいつも。私はもうなんにも期待してないのよ。起きようが起きまいが死のうが生きようが何もかもどうでもいいのよ私にとっては!」

 

柚子

「……何よそれ。それが家族に対する答えなの?!」

 

夏輝

「黙れ。お前の家庭の価値観を私に押し付けんな。」

 

ホントに最近は何もかもうまく行かない。

 

夏輝

「……ほら、帰るよコツ、アビー。」

 

私はリードを引っ張って帰ろうとした……だが、リードが動かない。

 

夏輝

「………?」

 

何事かと振り返ると、コツとアビーが必死に抵抗していた。まるで家に帰さんと言わんばかりに。

 

夏輝

「帰るよ。」

 

リードを強く引っ張っても、アビーとコツは低く唸って動かない。しまいにはコツが末っ子の龍希が言うような『伏せて漬物石みたいに動かない』状態に入った。

 

コツ

「グゥー……グゥー……。」

 

アビー

「ウゥゥゥ………。」

 

夏輝

「………。」

 

柚子

「ほら、何もかもを諦めてるアンタにアビーもコツも怒ってるわよ。」

 

夏輝

「アンタバカ?動物が人間の言葉わかるわけ………」

 

そこまで言ったときだった。突然、コツとアビーが吠えながら私の指に噛みついてきた。しかもめちゃくちゃ痛い。今までの甘噛みではなく、本気の噛みつきだった。だから恐る恐る聞いてみた。

 

夏輝

「……お前ら、言葉分かるの?」

 

そう言うと、二匹はその質問に答えるかのように一声吠えた。

 

柚子

「……よし、決めた!私明日からアンタがどうやったら笑ってくれるかやってみる!」

 

夏輝

「はぁっ!?」

 

柚子

「もちろん逃げ場は無いからね!そんじゃまた明日!」

 

夏輝

「ちょっ……おいっ!!」

 

柚子に走って逃げられ、私はとんでもなく絶望した。

 

夏輝

(うーわぁ、クソだるい奴だこのパターン。もう学校行きたくねぇ………。)

 

帰り道にそんな事をぼやきながら自販機に行ってお金を入れた。すると、急にコツが「パウッ!」と一声鳴いてアビーと一緒におしるこのボタンを飛んで押した。その運動にすげぇと思いながらもおしるこであることに絶望した。

意を決しておしるこを飲んだが………うまい。これまでの奴が泥汁のように思えるくらいにうまかった。

二匹は同時に私の顔を見てきた。

 

夏輝

「……ありがとね。」

 

私はコツとアビーの優しさに触れながらゆっくりと帰った。コツとアビーもまんざらではなさそうに尻尾を振っていた。

 

夏輝

(……そういや、最近全力で誰かと喧嘩したのホントに久しぶりじゃね?……まぁなんかめんどくさそうな奴だけど悪い奴じゃないのかも。)

 

夏輝はそう思いながらも、帰路についた。




柚子
「コラァ!やり直しィ!」

夏輝
「いったァァァァッ!何すんのよ!」

柚子
「……わかった。これで勝負しなさいよ!」

夏輝
「いちいち付き合う道理ないでしょ。」

柚子
「ふーん、逃げるんだ。いいわよ弱虫なっちゃん。」

夏輝
「……やってやろうじゃん。」(#^ω^)ピキピキ

次回、SAO・GM第十八話「決闘・幻想的な演奏と最後のシグマ」

夏輝
「後悔すんなよ?」

柚子
「一応経験の差あるから負けるわけにはいかないのよね。」


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第十八話~幻想的な演奏と最後のシグマ~

パンドラ
「皆様ごきげんよう。お初にお目にかかるお方は初めまして、パンドラでございます。さて、前回はSAOとはあまり密接な繋がりはありませんが、何やら面白いことが起きていますねぇ。しかし、前回、夏輝様は少しだけ笑顔を見せることが多くなったみたいです。彼女を笑顔にした柚子様に対しては好感度は高いみたいですねぇ。それでは皆様、此度の物語をどうぞご堪能ください。
それでは………またいつか。」

という事で皆さん、今回は割と更新早かった作者
wandarelでございます。
今回もまたSAO以外のリアルの話になります。
そして今回、製作にはかなり苦労したのと、裁定とかを間違えていたりとかあると思いますが、指摘があれば編集を加える予定です!
今回もまたカオス成分は高めですがどうぞお楽しみください!
評価や感想もガンガンお願いします!



朝、いつものように起きてご飯を食べる。その時にコツとアビーと戯れる。そんで、じいちゃんばあちゃんから昼飯代もらって学校に向かう。学校についたら特にやることないから講師が来るまで寝る。

ここまではいつも通りだ。さてと、眠いし寝よう……。

 

柚子

「おはよー!」

 

隣にコイツが来なければ完璧なんだけど……。

 

夏輝

「………………。」

 

面倒なので寝たフリを決め込むことにした。

すると、諦めたのかそれ以降声をかけなかった。代わりにカバンを漁る音は聞こえてきたが。

ふー、やっぱ寝たフリに限る。

瞬間、スパァーンという軽快な音がなった。

 

夏輝

「いったァァァァッ?!何すんのよ!」

 

柚子

「いや寝たフリしようとしてたから起こそうと思って。」

 

夏輝

「なんでハリセン!?めちゃくちゃ痛いんだけど!」

 

柚子

「あ、画用紙仕様のハリセンがよかった?」

 

夏輝

「お前バカだろ!紛れもないバカでしょ!」

 

なんでハリセンで起こされなきゃいけないんだ……。

 

柚子

「あ!今の聞き捨てならない!バカじゃないし!」

 

夏輝

「バカじゃなけりゃハリセンで叩き起こす発想にならないでしょうが!」

 

柚子

「あ、その前にほら。」

 

夏輝

「………なによ。」

 

柚子

「挨拶は?」

 

一瞬このバカが何をいってるのか分からなかった。

 

夏輝

「……は?」

 

柚子

「おはようって言ったんだからほら。」

 

夏輝

「はいはいおはようございます~。」

 

スパァーンと再び柚子のハリセンでシバかれた。

 

柚子

「コラァ!やり直しィ!」

 

夏輝

「………おはようございます!これでいいでしょこれで!」

 

柚子

「よろしい!」

 

朝から最悪な気分だ。なんでコイツにシバかれなきゃいけないのよ………。

その日から毎日毎日、柚子から挨拶が来るが適当に挨拶するとだいたいシバかれた。

そんなのが続いて一週間くらい。柚子以外に話しかけてくる奴から言われた言葉は衝撃だった。

「最近脚蛇さん笑ってるね」と。

 

夏輝

(………笑ってないし。)

 

いつもそんな風に考えていて、なにもかもを適当に過ごしてたんだから笑う要素なんて何一つ無いはず。

ただ、確かに、ほんの少しだけは……。

けど、私はもう一度地獄に落ちることになる。

出張のはずだった父親が入院したのだ。もちろん、ナーヴギアをつけたままで。

 

夏輝

(……もう、どうでもいいや。)

 

私は本当になにもかもを諦めることにした。

 

私はそんなのを認めたくなかった。

柚子は夏輝のその顔を見て、強く思った。

 

柚子

(絶対に諦めさせない……、そのためにも。)

 

柚子はかつて幼なじみと弟とよくやっていた物を取り出し、整理し始めた。そして、柚子は幼なじみの一人、遊矢をフルボッコにしたあるものを取り出した。

そして三日後、学校にいくと夏輝はちゃんといつも通りに学校には来ていた。けど、何もかも上の空のような顔で前と同じように窓際でずっと外を眺めていた。そして放課後、ざわざわと教室から出ていくなか、夏輝と私だけの二人きりになった。

 

柚子

「一緒に帰ろ。」

 

夏輝

「………………。」

 

柚子

「返事くらいしてくれたっていいじゃない。」

 

夏輝

「………………。」

 

柚子

「…………わかった。」

 

柚子は突然、夏輝の席の前に行くとカバンを漁り、中からマット(?)を取り出した。そして、夏輝の目の前にあるものを詰めた袋を置いた。さすがの夏輝も困惑して、聞いてきた。

 

夏輝

「………なに?」

 

柚子

「私と勝負しなさい。」

 

夏輝

「………なんの勝負?」

 

柚子は自分のカバンからあるものを二つずつ取り出した。それは『ニューロンソリッドビジョン』と『デュエルディスク』だった。デュエリスト御用達のその装備をなぜ持ってきてるのかは分からなかったが、だいたいはわかった。

 

柚子

「遊戯王デュエルリンクスでね。」

 

夏輝

「いちいち付き合う道理ないじゃん。」

 

そう言うと夏輝は荷物をまとめて帰ろうとした。しかし、柚子の一言が夏輝に強く刺さった。

 

柚子

「ふーん、逃げるんだ、弱虫なっちゃん。」

 

夏輝

「……は?」

 

柚子は聞こえよがしに続けた。

 

柚子

「そうやって何もかも投げ出して前に進もうともしないで人生諦めて逃げてるんでしょ?別に止めやしないけどさ。」

 

夏輝

「………それの何がいけないのよ。私の人生なんだから私の勝手でしょ?」

 

柚子

「でもこの先ずっと逃げ続けるんでしょ?弱虫じゃん。」

 

夏輝

「………。」

 

柚子

「そんなんじゃずっとコツとアビーに怒られるだけじゃん。情けないと思うよ私は。」

 

夏輝

「………やってやろうじゃん。」(#^ω^)ピキピキ

 

夏輝は柚子の挑発に乗った。何故か柚子に言われたのが心底腹が立ったのだ。

 

柚子

「よろしい、んじゃこれの付け方なんだけど……」

 

夏輝

「知ってる、少しだけどこれやってたから。」

 

夏輝も弟の影響でほんの少しはやっていた為、手慣れていた。

 

柚子

「オッケー、じゃ始めましょ、私達のデュエルを。」

 

システム音声

「ニューロンソリッドビジョンシステム起動、デュエリストサーバー、『ARC-Ⅴ』。適用マスタールール確認、適用マスタールール『マスタールール5』。リミットレギュレーション確認……『リミットレギュレーションマスタールールモード』、なお、外部からのデュエル観賞も可能、デュエルフィールド展開します。」

 

そのシステム音声が言い終わると同時にデュエルするためのフィールドが広がっていった。見た目は都市部のようだが夏輝の知らないサーバーフィールドだった。

 

???

(………なにこれ。)

 

???

「最近のアップデートで追加された二つのデュエリストサーバーの一つよ。」

 

???

「これ外部から見られてんの?」

 

???

「まぁARだしね。」

 

柚子は笑いながら言ったが、服装とかが違っていた。

 

???

「……あんたその服……と名前?」

 

アリア

「あー実は私このゲームよくやり込んでるのよ。そのアバター衣装よ。あとアバターネームはアリアね。」

 

???

「ふーん。」

 

アリア

「……そういうアンタは通称コナミ君のまんまだし……名前も単純ね。」

 

ナツ

「まぁ三ヶ月くらいでやめたし。そもそも続ける気無かったから適当に名前つけたし。」

 

アリア

「ふーん。」

 

ナツ

「じゃさっそくやろう。さっさと帰りたいし。」

 

アリア

「よーし!全力尽くすわよー!」

 

アリア&ナツ

決闘ッ!!(デュエル)

 

ナツ

「先攻私か……私のターン!………ターンエンド。」

 

アリア

「………え?わ、私のターン、ドロー!」

 

アリア

「なんか怪しいなぁ……まいっか!私は手札から魔法カード「オスティナート」を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる!自分の手札・デッキから、「幻奏」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスター2体を墓地へ送り、

その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚するわ!私は、デッキから《幻奏の音女アリア》と《幻奏の音女エレジー》の二体で融合召喚するわ!響け歌声、流れよ旋律!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》!」

 

マイスタリンシューベルト

「フフフ……。」

 

アリア

「よし、バトル!マイスタリンシューベルトでダイレクトアタック!」

 

ナツ

「ぐ……相変わらず衝撃すごいなぁ……。」

LP8000→LP5600

 

アリア

「メインフェイズ2にカードを二枚セットして、エンドフェイズに、オスティナートの効果で融合召喚したモンスターを破壊し、その融合素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を特殊召喚できる!蘇りなさい!《幻奏の音女アリア》!《幻奏の音女エレジー》!」

 

音女アリア

「ハァッ!」

 

エレジー

「ふう……。」

 

アリア

「私はこれでターンエンドよ。」

 

ナツ

「私のターン!ドロー!………ターンエンド。」

 

アリア

「えーっと………ナツのエンドフェイズに《リビングデッドの呼び声》発動、墓地のマイスタリンシューベルトを対象にとって特殊召喚するわ。」

 

マイスタリンシューベルト

「うふふ……」

 

アリア

「私のターン……ドロー。装備魔法《団結の力》をマイスタリンシューベルトに装備。そして、装備魔法《魔導師の力》を装備して合計攻撃力がえーっと8000か。とりあえず、バトルフェイズ……マイスタリンシューベルトでダイレクトアタック。」

 

ナツ

「ぐぇー(棒)」

LP5600→LP0

 

デュエルはあっという間に終わってしまった。

 

システム音声

「デュエル終了、勝者アリア。」

 

アリア

「……手抜き?」

 

あまりにも拍子抜けで思わずそんな事を聞いてしまった。

 

ナツ

「いや、本気デッキ。」

 

アリア

「ちょっと見せて。」

 

アリアはナツのデッキレシピを見たが答えは一つ。

 

アリア

「なぁにこれぇ、モンスターカードしかねぇ……しかも効果モンスターの存在意味が無いやつばっかりだぁ。」

 

ナツ

「だってジェム消費のガチャでしかやってなかったし。」

 

アリア

「………リアルでは?」

 

ナツ

「やってるわけ無いじゃん馬鹿馬鹿しい。これで満足?」

 

アリア

「………いかぬ。」

 

ナツ

「え?なんて?」

 

アリア

「納得いかぬゥゥゥゥッ!!」

 

アリアが吼えた。

 

ナツ

「……は?」

 

アリア

「……逃げるの?」

 

ナツ

「いや、逃げるも何もデッキがクソなら勝ち目ないし。」

 

アリア

「逃げんなぁッ!!」

 

ナツはアリアが急にそんな事を大声で叫んでビックリしてた。

 

アリア

「納得いくかぁッ!ちょっとは抵抗しろォッ!リアルカード認証するシステムあるからそれでデッキ組んで来いやぁ!どうせそのデッキリリース初期のカオス系サンプルデッキだろうがァァァァッ!舐めんじゃねぇぞコンチクショォォォッ!!」

 

ナツ

「ちょ……やめろって。」

 

アリア

「うるせぇッ!アンタがまともなデッキ組んで戦えるようになるまで私はアンタから離れないしずっと弱虫なっちゃん呼びしてやるから!」

 

ナツ

「あーもーわかりましたわかりました!弟がカード集めてたからそれで作るって。」

 

ナツはアリアが急に暴走を始めてたじろんでいた。

 

アリア

「約束よ!絶対よ!いい、弱虫なっちゃん?!」

 

ナツ

「うるさいな、さすがに分かったわ。」

 

アリア

「よし!速攻魔法とか罠カードとかの区別はつくのよね?」

 

ナツ

「さすがに区別つくわボケナス!もう帰るから!」

 

アリア

「オッケーわかった!」

 

システム音声

「ソリッドビジョンシステムニューロン、ログアウトします。」

 

ニューロンを外し、お互いに見つめあった。たぶん、夏輝はこのままでは終わらないはずだ。

 

柚子

「期限は何時にする?」

 

夏輝

「……一週間くれ。」

 

柚子

「いいよ、弱虫。」

 

夏輝

「………あともう次から弱虫って言うな。」

 

柚子

「だってそうでもしなきゃアンタ……」

 

柚子はそこまで言って、何も言わなかった。

 

夏輝

「後悔すんなよ?」

 

夏輝のその眼には純粋な戦いの意志があった。絶対に逃げない、そして絶対に勝利をもぎ取るその意志が。

 

柚子

「私の方が経験あるから負けるわけにはいかないのよね。せいぜい頑張りなさい?」

 

夏輝

「上等だっての。」

 

それからはあまり変化は無かった。あったとすれば、私が声をかけるといつも返事をしてくれるようになった。

 

柚子

「おはよ、夏輝。」

 

夏輝

「おっはー。」

 

柚子

「そういえば今日からだっけあの実習。」

 

夏輝

「うん。お前ちゃんと予習とかやってきた?」

 

柚子

「…………。」

 

夏輝

「……新体操か?」

 

柚子

「……はい。」

 

夏輝

「…………しゃーないか。付け焼き刃だけど一緒に予習やる?」

 

柚子

「サンクス、夏輝。」

 

日常が過ぎていった。私も期待しながら新体操に挑んで、好成績をおさめれるようになり、夏輝と会わなければ出来なかったこともたくさんあった。さらに驚くことにどこから聞きつけてきたのか、私と夏輝がデュエルするというのを聞いてたくさんの同じ大学の人がニューロンを買ってきて、挙げ句の果てにはその約束の日に体育館をバレないように幼なじみの遊矢が貸し切りにしてきて、大規模なデュエル大会(?)のような事になっていた。理由は単純で、夏輝ががあまり目立つような事をしてなかったがゆえに夏輝には自覚が無いようだが結構な隠れファンがいたみたいだ。そして、時は流れ、約束の日が来た。

私は予定外ではあるが、夏輝を放課後に体育館に呼び出した。

もちろん、LINEの返信はこれだった。

 

夏輝

『なんで体育館なの?バカなの?』

 

しかし、夏輝は一時間くらい待ってと返信の後、ホントに一時間きっかりに(何故かコツとアビーを連れて)体育館の扉を開けてきた。

 

夏輝

「……暗くない?」

 

夏輝の開口一番のセリフはそれだった。当然だ。今私が立ってる所以外真っ暗なんだしね。

 

柚子

「そんじゃ、ニューロン起動しなさい。私達のデュエルをしましょうか。」

 

夏輝

「一週間前に言ったと思うけど……後悔すんなよ?」

 

柚子

「……そう来なくっちゃ!」

 

システム音声

「デュエルワールドサーバー確認、

デュエルワールド『ARC-Ⅴ』。

デュエルルームネーム、

『伝説の始まり』。

リミットレギュレーションシステム確認、

リミットレギュレーション

『マスタールールモード』。

ルールシステム確認、

『マスタールール5』。

ライフポイント計算システム、

ダイスロールシステム、

コイントスシステム、オールグリーン。

双方、ルールを守って楽しくデュエルを。

それではニューロン、起動します。」

 

柚子&夏輝

「ニューロンシステム、INTO THE VRAINS(イントゥザブレインズ)!!」

 

掛け声と共に二人はデュエルリンクスの世界へと入っていった。

 

ナツ

「……うおっ!?」

 

ナツはデュエルリンクスに入った瞬間に相当驚いた。

なんとデュエルルームでたくさんのデュエリスト達が周りに大勢いたのだ。

 

アリア

「おー、服装もだいぶ変わったねナツ。」

 

ナツ

「おい待てコラ、バカアリア。なんだこの大衆は。」

 

アリア

「あはは……いつの間にかこんな事になってたのよね。……アンタ意外と人気者だからさ。」

 

ナツ

「はぁっ?私適当にあしらってきたから嫌われてると思ってたんだけど……。」

 

アリア

「しっかし一週間前とは大違いね。あのコナミ君からこんな立派なデュエリストになるなんて。」

 

ナツ

「うっせぇ。さっさと始めるぞ。」

 

ここまでの会話を終え、二人はそれぞれの立ち位置に着いた。すると、会場を沸かすためか、司会者(?)が現れた。

 

???

「レディースエンドジェントルメーン!さぁ、今宵のデュエルはまさかの!まさかの!この大学のさっぱり系マドンナの夏輝が!デュエリスト、ナツとしてアリアにリベンジマッチを挑む模様です!」

 

ナツ

「……誰だアイツ。」

 

アリア

「お、遊矢じゃん。」

 

ファントム

「違う違う、リアルネームはNGだろ!今の俺はファントムだよ。」

 

ナツ

「ファントム!?」

 

今度はナツが驚く番だった。無理もない、何故ならファントムこと榊 遊矢は三年前のKCカップの優勝者であるからだ。

 

アリア

「驚いた?アイツ幼なじみなのよ。さらに学科は違うけど同じ大学なのよね。」

 

ナツ

「……マジかよ。」

 

会場(?)は歓声に包まれ始め、デュエルの熱は上がっていく。

 

アリア

「……いやーごめんね。あんまり大事にはしたくなかったんだけど。」

 

ナツ

「………いいんじゃない?アンタをボッコボコにするなら大多数の前じゃないと私の気がすまないし。」

 

ファントム

「それでは皆さん、ご唱和ください!せーの!」

 

ファントム&観客一同

「デュエル開始ィィィッ!」

 

ナツ&アリア

「決闘ッ!!」

 

合図と共に二人はデュエルを始めた。

 

アリア

「おっしゃ!私のターン!あのときと同じだけどやらせてもらうわ!

私は手札から魔法カード「オスティナート」を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる!自分の手札・デッキから、「幻奏」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスター2体を墓地へ送り、

その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚するわ!私は、デッキから《幻奏の音女アリア》と《幻奏の音女エレジー》の二体で融合召喚するわ!響け歌声、流れよ旋律!タクトの導きにより力重ねよ!融合召喚!今こそ舞台へ!《幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト》!」

 

マイスタリンシューベルト

「フフフ……。」

 

アリア

「私はカードを二枚伏せて、エンドフェイズに入る。そしてオスティナートの効果でマイスタリンシューベルトを破壊して融合素材の二体を特殊召喚する!戻ってこーい《幻奏の音女アリア》《幻奏の音女エレジー》!」

 

音女アリア

「フッ!」

 

音女エレジー

「タァッ!」

 

アリア

「私はこれでターンエンドよ。」

 

ナツ

「私のターン、ドロー。メインフェイズ、私は『手札抹殺』を発動!私の手札四枚を墓地に送りその分のカードをデッキからドローする!」

 

アリア

「うげぇ……私は二枚捨てて二枚ドローする。」

 

アリアはナツの手札から送られたモンスターは『斬機』モンスターだったのを確認した。

 

アリア

(……なるほど、確かに斬機なら高火力モンスターでワンショットキル出来るし、強いけど……この布陣を潰せるほどのことは出来ないはずよ。)

 

ナツ

「カードを二枚伏せてターンエンド。」

 

アリア

「私のターン、ドロー!………ターンエンド。」

(なんでこんな時に限って手札事故が………。)

 

ファントム

「アリアこのターン何も出来ずだー!」

 

アリア

「うるせー!シバくぞ!」

 

ファントムのその言葉に会場に笑いを誘ったが、アリアによってファントムは黙ることになった。

 

ナツ

「そんじゃ私はアンタのエンドフェイズにリバースカードオープン!

罠カード『斬機超階乗』!!

私は第二の効果のエクシーズ召喚を行う!」

『(1):自分の墓地の「斬機」モンスターを3体まで対象とし、

以下の効果から1つを選択して発動できる(同名カードは1枚まで)。

●そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚し、

そのモンスターのみを素材として「斬機」Sモンスター1体をS召喚する。

その時のS素材モンスターは墓地へは行かず持ち主のデッキに戻る。

●そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚し、そのモンスターのみを素材として「斬機」Xモンスター1体をX召喚する』

 

ナツ

「私は、墓地の『アディオン』、『サブトラ』、『ディヴィジョン』を特殊召喚し、私はそのモンスター三体でオーバーレイネットワークを構築!

寸分の狂いなき計算式、今ここに問題の証明を行う!

エクシーズ召喚!QED、『塊斬機ラプラシアン』!」

 

ラプラシアン

「トォァッ!」

 

ナツ

「ラプラシアンのエクシーズ召喚成功時に効果発動!私は任意の数だけエクシーズ素材を取り除き、取り除いた数分三つある効果を選択して適用する!」

 

『●相手の手札をランダムに1枚選んで墓地へ送る。

●相手フィールドのモンスター1体を選んで墓地へ送る。

●相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで墓地へ送る。』

 

ナツ

「私はラプラシアンのエクシーズ素材を三つ取り除いて全ての効果を適用!ちなみに対象を取らない墓地送りだからの《幻奏の音女アリア》の効果は無意味!

『除法計斬式』ッ!!」

 

ラプラシアンの効果でアリアのフィールドの《幻奏の音女アリア》と手札の《幻奏の歌姫ソプラノ》、同じくアリアのフィールドの魔法・罠ゾーンの罠カード《魔法の筒》を墓地に送った。

 

アリア

「ぐぬぬ……ターンエンド!」

 

ナツ

「私のターン、ドロー!」

ナツはドローをした瞬間に不敵な笑みを浮かべた。

 

ナツ

「………アリア、申し訳ないんだけどこのターンで全て終わらせるわ。」

 

アリア

「は?」

 

ファントム

「おーっとここにきてまさかのデュエルエンド宣言だー!一体どういう動き方をするのだろうか!!」

 

ナツ

「それじゃ、私のメインフェイズ。

まず私は手札から『バランサーロード』を通常召喚。」

 

バランサーロード

「ハァッ!!」

 

ナツ

「続けて私はバランサーロードの効果発動!

私はLPを1000払って、このターン私は通常召喚に加えて一度だけサイバース族モンスターを召喚することができる!」

LP8000→LP7000

 

ナツ

「そして通常召喚、斬機サブトラ!」

 

サブトラ

「ハァッ!!」

 

ナツ

「そして私はリンク召喚を行う!現れろ、未来を導くサーキット! アローヘッド確認。召喚条件はサイバース族モンスター2体、サーキットコンバイン!

来いッ、《サイバース・ウィキッド》ッ!!」

 

サイバースウィキッド

「んー……。」

 

ナツ

「そして、トラップ発動、《一族の結集》!

私はフィールドのサイバースウィキッドを対象にして発動!

対象のカードと同じ種族のモンスターを手札、墓地から特殊召喚する!

蘇れ、斬機アディオン!」

 

アディオン

「ウォォッ!」

 

ナツ

「この時、サイバースウィキッドの効果発動!

サイバースウィキッドのリンク先にモンスターが特殊召喚されたとき、墓地のサイバース族モンスターを一体除外し、デッキからサイバース族チューナーモンスターを手札に加える!

私はバランサーロードを除外し、デッキから《斬機ナブラ》を手札に加える!

そして続けて除外されたバランサーロードの効果!

手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚する!

現れろ、斬機ナブラッ!!」

 

ナブラ

「オォッ!」

 

ナツ

「さらに私は斬機ナブラの効果を発動!

自分フィールドのサイバースウィキッドをリリースして発動!

デッキから「斬機」モンスター1体を特殊召喚する!

出でよ、《斬機シグマ》!」

 

シグマ

「ヤァッ!」

 

アリア

「……あれ?さっきシグマのボイスが女性ボイスだったような?」

 

ナツ

「ん?こいつ女よ。」

 

アリア

「ええっ!?」

 

ナツ

「そして今、私の勝利の計算式が完成した!

私は、レベル4の斬機シグマと斬機アディオンに斬機ナブラをチューニング!

難解の計算式、公式を当てはめ、このデュエルの勝利という答えは出た!

QED、シンクロ召喚!

現れろ、レベル12!

《炎斬機ファイナルシグマ》!!」

 

ファイナルシグマ

「タァッ!」

 

アリア

「あー!出されちゃった!」

 

ナツ

「とりあえず、エレジーを攻撃表示で出したのが間違いね。

私はファイナルシグマの素材に使った斬機ナブラの効果!

ナブラが墓地に送られた場合に発動!

私のEXモンスターゾーンのモンスターにモンスターに対して二回攻撃を付与する!

続いて速攻魔法《ハーフ・シャット》!

このターン、エレジーの攻撃力を半減させ、戦闘破壊されなくなる!

そして仕上げ!装備魔法《斬機刀ナユタ》をファイナルシグマに装備!」

 

そしてナツは高らかに宣言した。

 

ナツ

「バトル!炎斬機ファイナルシグマでエレジーに攻撃!

この時、斬機刀ナユタの効果!

デッキから《斬機マルチプライヤー》を墓地に送り、その分の攻撃力を装備モンスターに加える!

さらに墓地に送られたマルチプライヤーの効果で、EXモンスターゾーンのファイナルシグマの攻撃力をターン終了時まで倍にする!

それにより、ファイナルシグマの攻撃力は7000になる!」

 

アリア

「そしてファイナルシグマは相手モンスターとの戦闘で与えるダメージを倍にする……だよね。」

 

ナツ

「行けッ!ファイナルシグマ!

四則演斬波ッ!!」

 

ファイナルシグマ

「ハァァァァァッ!てやァァァァァッ!!」

 

ファイナルシグマが飛び上がり、斬機刀ナユタでエレジーをぶった斬った。

 

アリア

「斬機ヤベーイ!」

LP8000→LP0

 

システム音声

「デュエル終了、勝者ナツ。」

 

ファントム

「決まったァァァァッ!ファイナルシグマによる一撃でアリアの幻奏が砕け散ったァァァァッ!」

 

周りから大きな歓声とナツコールが流れ始めた。

私は今までこんな経験はしたことなかった。

今まで見向きもしなかったのにここまで来れたのだ。

 

アリア

「……よーやく心の底から笑ったわね夏みかん。」

 

ナツ

「おー、おかげさまで………夏みかん?」

 

アリア

「そ!ナツだから夏みかん!どう?」

 

ナツはにっこり笑った。それにつられてアリアも笑った。そしてナツは小声でこういった。

 

夏みかん

「……脚蛇家秘伝。」

 

アリア

「え?なん……」

 

夏みかん

「笑いのツボッ!!」

 

ドスッという音と共にアリアの首元に親指を突き立てた。すると、アリアが突然ゲラゲラ笑いだしたのだ。

 

夏みかん

「誰が夏みかんじゃバカ柚子。」

 

アリア

「あはははは……あれ?あはははは、笑いが……あはははは、治らない、あはははは!ちょっ、夏みか…あはははは助け、あはははは!」

 

夏みかん

「しばらくそれで反省してろバーカ。」

 

アリア

「ちょ…あはははは、痛いしあはははは、笑いがあはははは止まらないあははははははは!!」

 

しばらくして、笑いがおさまった後に私はアリアに意を決して言った。

 

ナツ

「……楽しかったからまたいつかやらない?」

 

アリア

「いいよぉー!いつでもやろ!」

 

ナツ

「……それと、ありがとう。」

 

アリア

「いいってことよ!」

 

二人で握手したあとにハグをした。そして、周りからの大きな歓声と共に、私、脚蛇夏輝にとって最高の一日を過ごした。

そのあと、先生に体育館使ってるのバレてその場の全員が散り散りに逃げたのは言うまでもない。

私にとってアリア……いや、柚子はもう親友だ。こんなに面白いゲームを教えてくれたんだから。

だから私も、それなりに面白いゲームを教えなくちゃ。

 

夏輝

「ねぇ柚子。」

 

柚子

「何、夏みかん?」

 

夏輝

「面白いゲームあるんだけど一緒にやらない?」

 

柚子

「え!?やるやる!どんなやつ?!」

 

夏輝

「VRゲームなんだけどね確かパッケージ持ってきてたのよ。あ、これこれ。」

 

柚子

「おぉ!面白そう!」

 

私がよくやってるゲーム 『タドルウォーリアーズ』を。




アリア
「おぉ、これがタドルウォーリアーズか……。」

ナツ
「ま、そういうことよ。」

ナツ
「キメワザ行くわよアリア!」

アリア
「オッケー、決めるわ!」

???
「さて、テストを開始するか……。」

次回、SAO・GM
第十⑨話「その二人、無双。」

ナツ
「脚蛇家秘伝、笑いのツボッ!!」

アリア
「アッハハハ……なんでハハハ……私なにもしてないアッハハハハハハ!」


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第十⑨話「その二人、無双」

パンドラ
「皆様ごきげんよう、パンドラでございます。前回、ナツ様はアリア様の無茶振りに付き合わされた結果、彼女に大きな変化があったようです。友情とは素晴らしいものですねぇ。さて、今回あの二人はまた別のゲームで遊ぶようです。さてと、私もそろそろあの計画の準備をせねば……。それでは皆様、またお会いしましょう。」

というわけで皆さん、お久しぶりです。
作者のwandarelでございます。
今回もSAOではなく、リアルの方での話になっておりますのでご了承を。
前回に初めて遊戯王の演出をしてみましたが、中々に難しくて、まだまだ半人前のデュエリストだということを、改めて思い知りました……。
今年の投稿はこの十九話で最後ですが、これから先も、精一杯頑張って投稿し続けていきますのでよろしくお願いします。
もちろん、今回も評価や感想、誤字指摘などしていただけるととても励みになるので、ガンガンいこうぜでお願いします!
そして、最初に言っておく!今回もカオスだ!


柚子はさっそく家に帰ってから奥にあるかつて自分が使っていたVRゲームの本体を取り出してきた。

 

柚子

「おぉ、これまたほこりまみれ……。」

 

長年使っていなかったのでほこりが大変なことになっている。柚子は丁寧にほこりを払いながら周りの掃除をしていた。

あのデュエル以降、ナツこと夏輝は他の人にも心を開くようになり、文字通りクラスの人気者になった。

そして夏輝はちゃんと笑ってくれるようになった。

お見舞いの態度も大きく変わって、柚子としては嬉しい限りだった。

 

柚子

(なんとなく放っておけなかったから声をかけて、そっから夏輝も変わったし……しかも私におすすめのゲームを薦めてくるほどに仲良くなっちゃったし。)

 

ご飯も食べ終わったし、明日から週末二日休み。というわけで夏輝が『タドルウォーリアーズ』について教えてくれる事になった。

柚子は久々に出したその本体を取り付け、ゲームを起動した。

 

仮想世界へと入り、柚子はニューゲームを選択し、データの作成を始めた。

見た目はもちろん、デュエルリンクスのアバターをイメージ。ネームは『アリア』だ。

 

システム音声

Let's Game(レッツゲーム)Mettya Game(メッチャゲーム)Muttya Game(ムッチャゲーム)What's your name(ワッツユアネーム)

This is(ディスイズ)TadoruWarriors(タドルウォーリアーズ)。」

 

アリア

「……うわぁ!」

 

アリアはゲームスタートと同時に広がったその綺麗なVR世界にとても興奮した。弟の囚われているSAOには及ばないにしても、グラフィックはたぶん最高峰であろう。こんなゲームがあるのを初めて知った。

 

アリア

「すっごい………あいてっ!」

 

景色に見とれていると、後ろからチョップを仕掛けられた。

 

ナツ

「おう、よく来た。」

 

アリア

「おぉ、ナツ!このゲームすご……い?」

 

アリアは初めてのゲームをプレイするにあたって、情報ある程度集めているが、ちらほらと最強装備も見ていたことがある。

だが、アリアが調べれる限りでは最も最強だと言われてる有名なプレイヤー十人のスクショの装備のうちの一式をナツは装備していた。

 

アリア

「……え?ナツ、その装備……。」

 

ナツ

「ん?あーこれ?私このゲームでは日本限定だけど全国ランク四位なのよね。さすがに世界には勝てないけどね。」

 

アリア

「す、すげぇ……。これ課金がっつりしたの?」

 

ナツ

「いや、無課金で七年くらいやってたら出来るよこの一式装備は。あとランクは特に気にしなくていいから。」

 

アリア

「そういやランクって?」

 

ナツ

「あー簡単に言えば……アンタ、モンハンやってた?」

 

アリア

「うん、やってる。」

 

ナツ

「あれのハンターランクみたいなの。私いわゆる古参プレイヤーだからランク高いのよ。」

 

アリア

「なるほどね。」

 

しかしそれを踏まえてもこの差は凄すぎる。

 

ナツ

「んじゃまずは基本からね。まずコントローラーのABYXあるでしょ?大体、基本的なボタンはPSとあんまり大差はないから。」

 

アリア

「ほうほう。」

 

ナツ

「まずはYボタン。これは格ゲーで言う弱攻撃みたいなやつ。まぁ無双ゲームでは大体通常攻撃って言われてるのは知ってる?」

 

アリア

「うんうん、弟がゼルダ無双してたからなんとなくは。」

 

ナツ

「そんじゃXボタンは?」

 

アリア

「チャージ攻撃!」

 

ナツはアリアの答えにその通りと答えて続けた。

 

ナツ

「じゃBボタンは?」

 

アリア

「回避行動!」

 

ナツ

「じゃ押してみ。」

 

アリアはナツに促され、Bボタンを押すと、ジャンプした。

 

アリア

「うぉぉ!飛んだァッ!!」

 

ナツ

「答えはジャンプよ。基本的によく使うアクションの一つだから覚えておいてね。」

 

アリアの着地と同時にナツが説明を加えた。

 

アリア

「てことはこのありがちなスティックは移動だよね?」

 

ナツ

「まぁそこは基本的に変わらんでしょ。」

 

アリアは新しい感覚のこのゲームにわくわくしながら、色々さわっていた。すると、何故か謎のポーズをとった部分があり、アリアはかなり驚いた。

 

アリア

「え、何今の構え?どこのボタン?」

 

ナツ

「R1ボタン押してみ。」

 

アリアは言われた通りにボタンを押すと、さっきの謎の構えをした。

 

ナツ

「それでXボタン押してみ。」

 

アリア

「うん!」

 

アリアはそのままXボタンを押すと魔法詠唱を行い、チュートリアルで見た回復エフェクトが出た。しかもアリアがよく知ってる効果音も出た。

 

アリア

「………ん?ちょっと待ってこの技って?!」

 

ナツ

「おう、このタドルウォーリアーズはね、あの幻夢コーポレーションとスクウェア・エニックスとコーエーテクモゲームスの異色超コラボを果たしたある意味最強の無双ゲームよ。」

 

アリア

「マジか!だから今さっきホイミを使ったのか!」

 

ナツ

「そういうことー。まぁスキルは組み替えで変わるんだけどね。」

 

アリア

「てことはこれのYボタンは……」

 

押してみると、キアリーのエフェクトが出た。

 

アリア

「すっごいすっごい!何このマジモンのファンタジーゲーム!」

 

アリアは斬新ながらもめちゃくちゃ面白すぎるこのゲームをとても気に入った。

 

ナツ

「あーあとL1は……。」

 

アリア

「あー大丈夫、大体わかった!」

 

ナツ

「よっしゃ、じゃあ行きますか、レベリングに。」

 

アリア

「うむ!」

 

その後は一通りの操作を教えていたが、ナツもアリアの隠された才能に舌を巻いた。

たった数分で最適な動きをマスターしていたのだ。

 

ナツ

「さすが新体操やってるだけはあるわね。飲み込みが早すぎるわ。」

 

アリア

「まあね!」

 

しかし、ナツはこの時にようやく気づき、草影にアリアを引っ張り隠れた。

 

アリア

「ちょ、なになに?!」

 

ナツ

「……やっべ。」

 

アリア

「ん?何かいるの?」

 

ナツがヤバいと言ったのでさっきまでいた方向を見ると、なんかゴキブリのような装備をしたプレイヤー(?)がいた。

 

アリア

「なにあれ?」

 

ナツ

「……あれ、別モードで条件クリアしたら使える最強の武将よ。エネミーネームは呂布。めちゃくちゃ強いけどこのモードではドロップアイテムは最強クラスよ。まぁ、レイドでも組まないと勝てやしないって言われるくらいに強いし、最大二人パーティーでしか挑めないまさに鬼畜仕様よ。未だに呂布倒した奴いないから今は諦めとけ。」

 

ここまで言った時にナツはアリアを見失っていた。

 

ナツ

「……アリア?」

 

アリア

「呂布ゥッ!!その首(ドロップアイテム)寄越せェッ!!」

 

この後、見事に返り討ちにあいました。

 

ナツ

「お前やっぱバカだろ。」

 

アリア

「……バカって言わないで。」

 

ナツ

「よしっ、そんじゃ本格的にレベルを上げに………」

 

アリア

「待って。」

 

ナツはアリアに言葉を遮られ、アリアが続けた。

 

アリア

「……私に一週間ちょうだい。来週の土曜日には呂布倒せるようにしておくから。」

 

ナツ

「………言っとくけど一週間で強くなれるほどこのゲームぬるくないわよ。しかも話聞いてた?二人じゃ勝てないって。百人レイドでも勝てないんだしさ。」

 

アリア

「いーや、私達なら出来る。」

 

ナツ

「……その自信はどこから?」

 

アリア

「相棒がナツだから!」

 

ナツ

「………はいはい、その眼はどうしてもやりとげたい眼ですねわかります。」

 

アリア

「上等、そうでなくちゃ!」

 

ナツ

「オッケー、んじゃ来週まで私は待つわ。もちろん集合場所はこの広場ね。」

 

アリア

「うん、わかった。」

 

アリアとナツはそこまで言うと、お互いにログアウトした。

 

夏輝

「さてと、あそこまで言ったんだからアイツがどうなるかちょっと楽しみね。」

 

コツ

「パウッ!」

 

夏輝

「……ん?どしたコツ。」

 

コツ

「グゥー。」

 

夏輝

「……はいはい、散歩ですね。」

 

それから一週間経つまではいろんな事があった。私も独自のルートで呂布の攻略法を考えていたり、大学で流行りだしたデュエルリンクスの相手をしたりと……。

だけど、どんなにしても柚子はタドルウォーリアーズの進捗は教えてくれなかった。けど、私も変わった事があるとしたら、そんな柚子に対してとても楽しみにしていることだ。

しばらく前の自分なら誰かを信用したりするなんてあり得なかっただろうし、暗い人生を生きてきたんだろう。けど、今は私の隣にはとんでもないバカがいる。私みたいなひねくれた人間を相手にする物好きなんてそうそういないから。だからこそ、私は柚子という一番面白い人間に出会えてよかったと思えてる。

 

夏輝

「……なんてバカなことがあったのよ、父さん、バカ弟共。そんで、瑠衣。」

 

私は病院で今もデスゲームと戦っている四人にそんな事を話した。今思えば昔の私ならこんなことしてなかったかもしれない。

そして今日この日は一週間前にアリアが約束した日だった。

 

夏輝

「………行くか。」

 

夏輝はタドルウォーリアーズを起動し、ログインした。

フレンドの項目でログイン状況を確認してみたが、どうやら今回は時間通りに来たようだ。

 

ナツ

「…よしこい。」

 

アリア

「お待たせぇー!」

 

ナツ

「……マジかよ。」

 

アリアはとある装備を一式揃えていたが、要求素材のレア度はとんでもなく高い奴だ。どれだけクエストクリアしても手に入らないような装備を一式揃えた上で、かなり力強く感じた。

 

アリア

「すごいでしょ、このビアンカ一式セット!めちゃくちゃ苦労したぜよ。」

 

ナツ

「……お前まさか授業中寝てたのって。」

 

アリア

「メッチャゲーム・ムッチャゲームしてました。」

 

ナツ

「おい。」

 

アリア

「あ、ナツその装備って!」

 

ナツ

「おう、これは呂玲綺一式よ。私のスタイル的にも合うのよね。」

 

アリア

「確かに身長低い割には胸大きいもんね。」

 

ナツ

「脚蛇家秘伝、笑いのツボッ!!」

 

アリア

「うっ……アッハハハ……なんでハハハ……私今回なにもしてないアッハハハハハハ!」

 

ナツ

「殴られたい?」

 

アリア

「アハハ……ごめんなさい。というかVRでも効くのかそれ……。」

 

ナツ

「……なるほどね。」

 

アリア

(あ、ヤバい墓穴掘った。)

 

呂布の元に向かう道中の敵は出来る限りは無視した。呂布を相手するのに余計な消耗をしていると勝てる戦いも勝てなくなるからだ。

 

アリア

「そーいやランクもめちゃくちゃ上がったな。」

 

ナツ

「そりゃアンタ、メタルチケット使ったんならガンガン強くなるでしょ。そんで、アリアはアタッカータイプ何にしたの?」

 

アリア

「うーん、チャージ攻撃タイプかなぁ。」

 

ナツ

「やっぱそうなるよね。」

 

アリア

「だってチャージ攻撃豊富だといろいろとスキル連結組み込みやすいしね。」

 

そして、私達は呂布の元にたどり着いた。

 

アリア

「作戦は確か、最初に馬から落とすのよね。」

 

ナツ

「わかってんじゃないの。だけどかなりダメージ与えないと落ちない。」

 

アリア

「だからこその連携プレイでしょ?」

 

ナツ

「ま、ぶっつけ本番だけどね。」

 

呂布

「……また来たのか雑魚共が。」

 

アリア

「雑魚かどうかはわかんないよ?」

 

呂布

「ほう、いつぞやのうるさい羽虫か……。お前ごときが俺に挑むとはな。」

 

アリア

「誰が羽虫だコノヤロー!!」

 

ナツ

「まぁまぁ落ち着けアリア。アンタは羽虫じゃなくてバカだ。」

 

呂布

「ふん、あの時逃げた腰抜けもいるのか。」

 

ナツ

「んだとコラァ!やってやろうじゃねぇかオイ!」

 

アリア

「落ち着いてナツ!アンタは腰抜けじゃなくて腑抜けよ!」

 

アリア&ナツ

「………あ?やんのか?」

 

呂布

「……つまらん戯れ言は済んだか?ならばすぐにあの世に送ってやる!」

 

アリア

「……来るよ。」

 

ナツ

「はいはい。」

 

呂布が赤兎馬で突っ込んで来たのを確認して二人はすぐさま戦闘モードに入り、お互いに武器を構えた……だが。

 

ガギャアァァァンッ!!

 

一度武器がぶつかっただけでもわかるくらいに強い衝撃が来た。

第一の関門である呂布を赤兎馬から落とすのはかなり厳しいようだ。

 

アリア

「隙ありィ!!」

 

アリアが閃光魔法「ベギラゴン」を放った。

辺り一面が焼き焦げるほどの火力が前方に集中し、火柱を立てる。

 

アリア

「よーし、どうよ!」

 

呂布

「………ぬうぉぉぉぉぉっ!!」

 

しかし、呂布は赤兎馬に乗りながらその爆炎の中を突き抜けてアリアに一撃を加えた。

アリアが十メートル位吹き飛んでいった。

 

アリア

「ぐっふぇっ………。」

 

ナツ

「……マジかよおい。」

 

一撃でアリアの体力が半分以上も減らされた上に、先ほどの魔法ダメージを一切受けてないようだ。

 

アリア

「嘘……あれ最上位魔法だよ!?」

 

ナツ

(くそっ、やっぱりか!)

 

サービス開始から今年で四年経ち、呂布が実装されたのは二年前。その今までの間で呂布を倒したプレイヤーはおらず、挑む人間も少ないため、圧倒的に情報が足りなかった。だが、これで判明したこともある。

 

ナツ

(魔法攻撃は無効、たぶん状態異常系のデバフスキルも一切効かない。しかも属性の弱点はなしで全て軽減。なら………。)

 

ナツ

「アリア!こいつには魔法もデバフも効かない!真っ正面から属性ありでもいいから物理攻撃連発で攻めるよ!」

 

アリア

「はいよ!」

 

二人はかけ声に合わせて、呂布を挟み込むように走り、同時に攻撃を行った。

二人の武器と呂布の方天戟が激しくぶつかり合い、火花が散る。そしてその度にナツとアリアが大きくのけぞりそうになる。

そして、ナツ一人でつばぜり合いに入ったが、ナツがある程度一人で踏ん張っていたが、STRの合計値のため、ナツは怯んだ。

 

呂布

「お前だけで俺の攻撃を止められると思っているのか!」

 

ナツ

「いちいちうるせーな。私は足止めだっつの。」

 

呂布の背後からアリアが突っ込み、あらかじめ組み込んでおいたチャージ攻撃を仕掛けた。

 

アリア

「大地斬ッ!!」

 

一撃。

 

アリア

「海破斬ッ!!」

 

二撃。

 

アリア

「空裂斬ッ!!」

 

綺麗な三連撃が呂布に叩き込まれた。

 

呂布

「ぐっ……。」

 

ある程度呂布にダメージは与えれたようで少し呻き声をあげた。だがしかし、ゲージはそこまで減っておらず、赤兎馬からも落ちていない。

 

呂布

「……ふん、その程度か。」

 

だが、この時をナツは待っていた。ナツは呂布がその隙を見せた瞬間に既に構えていた。

 

ナツ

「つるぎの舞ッ!!」

 

ランダムに四~八回の攻撃力依存の踊り。

運良く、八回攻撃確定演出が見られた。しかも三回ほど会心の一撃のエフェクトも出た。

 

呂布

「ぐぉっ……!」

 

そこまで無茶をしてようやく呂布を赤兎馬から叩き落とした。

 

呂布

「……ふん、少しは歯ごたえがありそうだ。」

 

ナツ

「……死ぬなよアリア。」

 

アリア

「……わかってるっての。」

 

お互いに拳を合わせて、呂布に突っ込んでいった。

BGMが通常の戦闘モードの曲から

「THEME OF LUBU -DW ~ MIX-」

へと変わった。

ここからが本当の呂布戦への到達ライン。

あくまで騎乗戦はおまけだ。

 

呂布

「おぉぉぉぉッ!!」

 

武器が再びぶつかり合う。だが、さっきとは比較にならないくらいに威力が桁違いに上がっていた。

 

ナツ

(クッソッ!!火力上がりすぎでしょ!?)

 

アリア

「たぁぁぁっ!!」

 

再びつばぜり合いに入った。(一応二対一なのだが)もちろん呂布はめちゃくちゃ強い。だけど………。

 

ナツ

(アリアとなら………!)

 

アリア

(ナツとなら…………!)

 

ナツ&アリア

「行けるッ!!」

 

ほんの少しだけ私達の方が勝っていた。

 

ナツ

「キメワザ行くわよアリア!」

キメワザッ!

 

アリア

「オッケー決めるわ!」

キメワザッ!

 

呂布がよろめいたのを見て、同時に必殺技を放つ。

 

ナツ

「ギガスラッシュッ!!」

ギガクリティカルスラッシュッ!!

 

アリア

「アバンストラッシュッ!!」

アバンクリティカルストラッシュッ!!

 

ナツ&アリア

「うぉらぁぁぁっ!!」

 

その二つの斬撃が呂布を切り裂き、呂布が大きく吹き飛んでいった。

気がつくと、周りには大勢のプレイヤーがいた。

あの呂布にたった二人で挑んでいるプレイヤーが居ると聞いてきたのであろう。

 

アリア

「……やっば、私達すごい人気。」

 

ナツ

「バーカ、呂布に二人で挑む奴なんていないから気になってきただけに決まってんでしょ。それよりも………」

 

呂布

「ほう、この俺をここまで追い込むとはな……。」

 

あれだけのチャージ攻撃とキメワザを叩き込んだにも関わらず、呂布の体力は半分から少し減っているぐらいだった。

 

アリア

「あ、あれだけ叩き込んだのに……。」

 

ナツ

「………アリア。」

 

アリア

「何?」

 

ナツ

「ここで諦める?」

 

アリア

「……寝言は寝てから言おうか。」

 

ナツはその言葉を聞いてあのときのデュエルの時のように不敵に笑って言った。

 

ナツ

「そんじゃ、呂布倒すか!」

 

アリア

「もっちろん!」

 

呂布

「そろそろ本気でいかせてもらおう……ぬぉぉぉぉぉっ!!」

 

呂布が雄叫びと共に解除不可能なSTR上昇バフがかかる。

 

ナツ

「あと半分!」

 

アリア

「ぶっちぎる!」

 

呂布、アリア、ナツの三人が雄叫びをあげて走り、武器が再びぶつかり合う。大きな金属音が鳴り響いた。

だが、ナツとアリアの方が大きくのけぞった。

そこに呂布がキメワザ「無双乱舞」を撃ってきた。

攻撃の全てを被弾し、観衆達が多くいる方面に一気に吹き飛ばされた。

周りがざわめき、アリア達の体力がゼロになった……。

が、二人はまるで何事もなかったかのように立ち上がった。

 

ナツ

(……万が一の備えに感謝ね。)

 

正確には特殊アイテム『兵糧丸』のおかげである。体力がゼロになったとき兵糧丸を消費して一度だけ体力を半分にして蘇生できるアイテムだが、このアイテムは特殊で、長年やってようやく二つ目が手に入るようなレア物だ。

 

アリア

「……兵糧丸なくなっちゃったね。」

 

ナツ

「……やるっきゃないっしょ。」

 

アリアとナツが再び呂布に向かって突撃した。

熱く、激しく、武器がぶつかり合った。一撃一撃が重くて、何回も弾かれそうになる。ガードしても貫通でダメージが入ってくる。

周りから応援の声がし始めた。歴代で初めて呂布を倒せるのではないのかと、全てのタドルウォーリアーズのプレイヤーがそう思っていた。

だが、ナツとアリアにはその歓声すら聞こえなかった。目の前にいる呂布の猛攻を捌くのにかなり集中してるのもあるが、アリアとナツは口元が笑っていた。

 

アリア

(楽しすぎる……最ッ高にテンション上がってる!)

 

ナツ

(もう二度とこんなことないだろうなと思ってたけど、今ならはっきり言えるわ。)

 

三者共に大きくのけぞった時にナツはアリアに聞こえるように大声で言った。

 

ナツ

「アリアー!楽しいな!」

 

アリアも笑って大声で返した。

 

アリア

「おーう!最後まで楽しもう!」

 

あらゆる斬撃攻撃を叩き込んだ。もはや、回復魔法を唱える猶予なんて無かった。斬って斬って斬りまくって、斬られて、叩きつけられて、投げられて、気がつくと呂布の体力がもうすぐでゼロになるところまで来ていた。

アリアとナツの体力はレッドライン。次に一撃でも食らえば終わりだ。

追い付かれないように呂布から距離をとった二人は、お互いに顔を見合わせ、頷いた。

 

ナツ&アリア

「バイシオン!ピオリム!」

 

ナツ

(……あとはお互いにキメワザ一発分の無双ゲージか。)

 

ナツ

「行こうぜ相棒!」

 

アリア

「よしきた!」

 

最後のバフをかけて、そこから呂布へと一気に詰め寄り、文字通り最後のつばぜり合いに入った。

 

呂布

「うおォォォォォォォォッ!!」

 

アリア&ナツ

「うあァァァァァァァァッ!!」

 

激しく拮抗し、世界が割れるほどの雄叫びが響いた。武器が悲鳴を上げ始め、割れそうになる。だが、諦められなかった。

 

ナツ

(やりとげてみせる……アリアと一緒に!)

 

アリア

(絶対、絶対に行ける!だから私は闘う!)

 

アリア

「私達の絆が嘘じゃないことを証明するために!」

 

ナツ

「私達のバカな夢の為に!」

 

アリア&ナツ

「その首寄越せ呂布ゥゥゥゥゥッ!!」

 

呂布が大きくのけぞった。チャンスは今しかない。

アリアとナツは同時にキメワザを発動した。もちろん、歴代の無双ゲームの仕様通り、瀕死状態ではSPキメワザになる。

 

キメワザスペシャルッ!

ギカクリティカルブレイクッ!

アルテマクリティカルソードッ!

 

ナツ

「ギガッ!ブレイクゥゥゥゥゥッ!!」

 

アリア

「アルテマッ!ソォォォォォドッ!!」

 

二つの大きな斬撃が呂布に入り、呂布は雄叫びを上げながら倒れた。

タドルウォーリアーズで呂布の到来から二年、ようやく呂布を二人の女傑が倒したのだ。

 

ナツ

「………言うこと覚えてる?」

 

アリア

「………もっちろん。」

 

アリア&ナツ

「呂布ッ!討ち取ったりィ!!」

 

二人が高らかにそう叫び武器を高く掲げると、周りのプレイヤーから拍手と歓声が響いた。もちろん、世界で初めて呂布を倒した二人組だからだ。ナツはその歓声を聞いて、改めてアリアと二人で成し遂げた偉業を確認し、涙が出始めた。

 

ナツ

「あれ……クソッ……涙が止まんない……」

 

アリア

「あー夏みかんが泣いてるー。」

 

夏みかん

「誰が夏みかんよ!……バカ柚子!」

 

アリアも感極まってめちゃくちゃな顔になりながら泣いていた。

 

呂布

「………おい。」

 

ナツ&アリア

「ヒュイッ!?」

 

いきなり呂布に声をかけられ、二人が同じように変な声を出した。

 

呂布

「この俺に敵う奴がいるとはな…。俺の武に怖じる事なく挑んできた貴様らはそこら辺の雑魚とは違うようだ。」

 

そのセリフと共にアリアとナツにお知らせが届いた。

内容は、NPC武将『呂布』が使用可能になったということだった。

 

アリア

「………え?えぇぇっ!?呂布さん仲間になってくれるの!?」

 

呂布

「勘違いするな。たまたま利害が一致しただけにすぎん。」

 

ナツ

「ま、マジかよ。」

 

二人が驚いていると呂布からアリアとナツに二つの装備アイテムを投げられた。

一つはその強さは噂だけでしか聞いたことのない呂布の装備の『無双方天戟』、もう一つは存在は明かされていたが入手方法が一切不明だったはずの『天空のつるぎ』だった。

 

アリア

「………。」

 

ナツ

「………。」

 

呂布

「くれてやる。次の戦いも俺を楽しませてみろ。」

 

ナツ&アリア

「えェェェェェェェェェェェッ!?こいつが持ってたのかよ天空のつるぎ!!」

 

呂布

「お前達ならば奴を倒せるかもしれんな。」

 

ナツ

「……奴?」

 

ナツの疑問に反応するかのようにアリア達にミッション受注の法螺貝の音がなった。

ミッションの内容は古志城へ向かえとだけだった。

 

呂布

「……次の戦いを楽しみにしているぞ、最上の獲物共。」

 

呂布はそういうと赤兎馬に乗り、走り去っていった。

 

アリア

「古志城ってなに?」

 

ナツ

「……最近になって解禁された無双OROCHIレイドイベント限定のステージよ。どうやら、次でようやくこのゲームを制覇したことになるわね。」

 

アリア

「……まぁ、何はともあれ!こうして呂布撃破したんだし、今は喜ぼう!」

 

ナツ

「………ハァ、つくづくアホねアンタ。」

 

アリア

「……そういや呂布と戦ってどれくらいたったの?」

 

ナツ

「えーっと、五時間……。」

 

ナツがそういうと二人同時にぐぅ……とおなかが鳴った。

 

アリア

「……この後予定ある?」

 

ナツ

「ないな。」

 

二人はログアウトして、空かせたお腹を満たしにいくことにした。

 

夏輝

「ふぃー、長かっ……うぶっ!?」

 

コツ

「グゥ……。」

 

アビー

「クゥン…。」

 

夏輝

「え、何?お前ら心配してたの?」

 

コツ

「パウッ!」

 

夏輝

「おーそうかそうかよしよし。」

 

三十分後に、柚子と大学前で合流し、そのままレストラン『AGITΩ』に向かった。

 

柚子

「呂布撃破に乾杯~♪」

 

夏輝

「乾杯するほどの事じゃないっての。」

 

柚子

「んーうまい!」

 

夏輝

「お金あるときの行きつけだからねー。そりゃうまいに決まってるでしょ。」

 

柚子がスマホをいじっていると、あっと声をあげた。

 

柚子

「見てみて夏みかん!私達がっつり写ってるよ!」

 

夏みかん

「え?……うわぁ、おもいっきり写ってる……。」

 

柚子

「これで私達はもう有名人ね!」

 

夏輝

「普通に勘弁してほしいんだけど。」

 

夏輝はそう言って柚子が残していたステーキの最後の一切れを食べた。

 

柚子

「あー!最後の一切れッ!?」

 

夏輝

「夏みかんって言ったお前が悪い。」

 

柚子

「ひっどーい!」

 

呂布撃破のあの時、タドルウォーリアーズでとある称号を二人は獲得していたのだが、それを知っているのは一部のゲーム雑誌のみである。

その称号は、呂布を二人で撃破した時に入手できるものだ。

『その二人、無双』




ナツ
「従来の無双ゲーならではの仕様ね。」

アリア
「……あれ?なんか敵のグラフィック違うくない?」

???
「待っていたぞ、お前達をォッ!」

ナツ
「………全裸の変態?」

???
「ブゥゥゥンッ!」

次回、SAO・GM
第二十話「神との激突」

ナツ
「全裸の変態が着ぐるみの変態になった……。」

アリア
「失礼でしょうが。」


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第二十話~神との激突~

パンドラ
「どうも皆様、パンドラでございます。ずいぶんと投稿がお久しぶりですね~。さすがにこれだけの期間を空けると死んだのではと思われても仕方ありませんな。……おほん、さて、前回のあらすじに参りましょう。
ナツ、アリアの二人はタドルウォーリアーズ最強のNPC、『呂布』に打ち勝ち、見事伝説の武器を手に入れました。そして、次のステージは古志城へと変わり、二人は土足で踏み込んで来たのでした……。
さて、ここから面白くなりそうです。
それでは皆様、ごきげんよう………。」



どーも皆さんとてつもなくお久しぶりです。
wandarelでございます。
今回、諸事情により製作が全然進まずで、仕上がるまでにかなり時間がかかりました。
今後の励みや技術の向上に繋がるので、評価や感想のほうもどんどんお願いします!
ちなみに今回は割と真面目回です。


二週間前に呂布を撃破したアリア達は、その次のステージ、古志城へと向かうことになり、それの準備が終わったところだった。

 

夏輝

「……おっしゃ、行くか。」

 

柚子と合流する約束をして、夏輝はタドルウォーリアーズを起動し、ゲームの世界へと入っていった。

 

ナツ

「………ふぅ、改めて思うけどグラフィック最高じゃね?」

 

アリア

「わかるわかる。」

 

ナツ

「………いつからいたんだお前。」

 

アリア

「二秒前。」

 

ナツ

「納得。」

 

アリアとナツの二人は、古志城の中心へと向かっていったがその間にも敵がわらわらいた。

が、何か様子がおかしい。

 

アリア

「……ねぇ、タドルウォーリアーズのモブ兵士あんな感じだったっけ?」

 

ナツ

「いや、絶対に違う。」

 

何か変な被り物をしたりしている奴もいるが、明らかに人間ではない。このゲームのモブ兵士は普通の人間に似た背格好をしているはずだ。

 

ナツ

(だけど、従来の無双ゲームであるように一人一人は弱い……弱いんだけど……。)

 

アリアはナツが思い詰めたような顔をしているのに気づき、声をかけた。

 

アリア

「どうしたのナツ?」

 

ナツ

「………出せないのよ。」

 

アリア

「何が?」

 

ナツ

「アリア、アンタはニュービーに近いからわからないだろうけど、このゲームは私達プレイヤー一人一人が武将として戦うんだけど、前の呂布を含めて、プレイヤーはNPCを配下として戦わせることができるの。」

 

アリア

「………私使える兵士二百人しかいない。武将も呂布だけだし。」

 

ナツ

「ちなみに私は五千人の兵士が使えるんだけど、そのコマンドが使えなくて出せないのよ。」

 

アリア

「五千人?!すっご……え?出せないの?」

 

ナツ

「どういう理屈かは知らないけどね。」

 

そこだけがおかしいのだ。システム的にも本来出来るはずの事が出来ないことなんてあり得ない。

しかし、その事はあまり気にせず、城の中央部分に向かって敵をなぎ払いながら進み続けた。

おおよそ合計三千人くらい斬り倒し、ようやく城の前の砦に入れた。そして、そこには大量の回復アイテムがあった。

 

アリア

「ずいぶん太っ腹だけどこのパターンって……。」

 

ナツ

「ボス前に決まってるでしょ。」

 

ありったけの回復アイテムを取得して、体力及びキメワザゲージを全回復させ、城へと入った。

そしてナツの予想通り、城の門は閉まり、出れなくなった。

 

アリア

「………行こう。」

 

ナツ

「おう。」

 

しかし、ナツにとっては大きな違和感があった。

ここに来て急に雑魚敵が出なくなったからだ。

古志城の一番奥に二人がたどり着くと、横一列に並んでいるかがり火のようなものに火がつき始め、奥まで見えるようになった……。

 

アリア

「…………!!?」

 

アリアとナツの二人は口をぽかんと開け、色んな意味で思考を停止した。

奥にはなんと全裸で手と足をを広げ、何かを待ちわびているようなポーズの男が背中をを向いていた。

 

ナツ

「………全裸の変態?」

 

???

「待っていたぞ、君たちを。」

 

突然全裸の変態(?)が喋りだし、もはや状況はカオスを極めていた。

 

アリア&ナツ

「…………。」

 

???

「私は………」

 

ナツ

「メラゾーマ。」

 

アリア

「ギガデイン。」

 

巨大な火球と大きな雷が轟き、全裸の変態(?)を焼き尽くした。

 

ナツ

「イェイ。」

 

アリア

「イェーイ!」

 

???

「なるほど、その判断力、確かに強いわけだ。」

 

ナツ&アリア

「!?」

 

あれだけの火力を叩き込んだのにダメージが一切なかった。位置も微動だにしておらず、全く影響を及ぼしてなかった。

 

???

「しかし、品定めもここまでだ。ここからは……このゲームの神たる私がお前達用いて実験を行う!」

 

謎の変態(?)がそう言って、取り出したものは2016年に発生したバグスターウィルスによる事件で取り扱われていたゲーマドライバーだった。

 

???

ブゥゥゥンッ!」ガシャンッ!

 

???

「簡単に死ぬなよ、モルモット共ォッ!!」

マイティアクションX!

 

???

「変身!」

ガシャット!レッツゲーム!

メッチャゲーム!

ムッチャゲーム!

What's your name?

I am Kamen Rider……。

 

ナツ

「全裸の変態が着ぐるみの変態になった。」

 

アリア

「いや失礼でしょうが。」

 

ナツのドストレートな悪口にアリアがツッコミをした。

 

ゲンム

「私はゲンム、この世界を作った……神だァァァァァッ!!」

 

アリア

「なんか頼んでもないのに急に名乗ったんだけど……。」

 

ナツ

「気にしたら負けよ。とりあえず……先手必勝かな。」

 

ナツはいつの間にか詠唱していたイオナズンを放った。ゲンムの目の前で大爆発を起こしたが、その直前にゲンムが大ジャンプをし、華麗に避けられた。

 

アリア

「えぇっ!?」

 

ナツ

「……着ぐるみの変態のくせに機敏だなおい。」

 

アリア

「ん?マイティアクションXってなんか聞いたことあるような………。まぁいいや。行くよナツ!」

 

ナツ

「はいはい。」

 

ナツとアリアは同時につるぎの舞を放った。ほぼほぼ必中のようなものである。

 

ゲンム

「ぶぇはははは!神にそんなものなど通じるかァァッ!!」

 

ナツ&アリア

(えぇ、あれを避けるのかよ。)

 

だが、自称神はその攻撃を全て避けきった。

 

ゲンム

「……さて、ある程度はデータ収集が出来た。ここからは一気に行くぞ!」

ガッチャ!レベルアップ!

マイティジャンプ!

マイティキック!

マイティーアクションX!

 

ナツ

「着ぐるみの変態がノーマルの変態になった。」

 

アリア

「だから失礼だろーが。」

 

ゲンムの形態が変わり、すかさず暴言のナツにツッコむアリア。

 

ゲンム

「神の才能はこんなものではなぁい!」

 

デンジャラスゾンビ!

アガッチャ!デンジャー!デンジャー!

デス・ザ・クライシス!デンジャラスゾンビ!

 

ナツ

「紫の変態が白黒の変態になった。」

 

アリア

「いい加減にしなさいよナツ……って、えぇ!?なんか色々かわってる!」

 

ゲンム

「ぶぇはははは!さぁ、お前達の強さを証明して見せ…………」

 

ギガクリティカルスラッシュ!

 

ゲンムが大声で叫ぶと同時にナツは既にキメワザを撃っていた。きれいに一撃が入り、ゲンムのアバターを真っ二つにした。

 

アリア

「………何も喋ってる最中にしなくてもよかったんじゃ。」

 

ナツ

「先手必勝一撃必殺。これうちの家訓の一つだから。というか呑気に喋ってるアイツが悪い。」

 

ゲンムを討ち、後は帰るだけだったが、門は開かなかった。すなわち、ゲンムは倒していない。

 

ゲンム

「……中々にいい一撃だった。だが、それをもってしてもこの神には通じないのだァッ!!」

 

アリア

「うわ、しつこ。」

 

ナツ

「………さっさとぶった斬って帰りましょ。」

 

一撃一撃の攻撃力自体は呂布と比べれば大したこともなく、長期戦へと持ち込んだ。

 

ナツ

(………ゲンムのライフは残り半分か。)

 

アリア

「食らえェッ!!ゾンビならゾンビ特効!天衣無縫斬!」

 

ゲンム

「ぐっ………」

 

やはりゾンビ系統ではあるため、聖魔斬や天衣無縫斬はよく通じるようだ。

 

アリア

「やあァァァッ!!」

 

そして、アリアの素早い連撃の末にゲンムのライフを削りきった。

 

ナツ

「やるじゃん。」

 

アリア

「ふふーん、私はやれば出来る子なんです!」

 

ナツ

「………。」

 

アリア

「ちょっ、なんで笑いのツボの構えしてるの!?」

 

ナツ

「いや、なんかうざかったから。」

 

そう言いながらも外へ出ようとしたが、門が開かない。

ナツもアリアもここに来て悟った。

 

ゲンム

「くくく………この程度でこの神を倒したと思っていたのかモルモット共ォッ!」

 

アリア

「はぁー?!アンタさっきライフ全部消し飛ばしたじゃん!なんで生きてんのよ!!」

 

ゲンム

「このアバターの特性を教えていなかったな……このゾンビゲーマーレベルXの特性は……不死身だァァッ!!ぶぇははははははははははっ!!」

 

ナツ

「……………マジかよ。」

 

アリア

「不死身なんて関係あるか!」

 

ゲンム

「どれだけ攻撃を重ねても無駄だァッ!!私のライフがゼロになり、ゲームクリアになることは永遠にない!」

 

ナツ

「………行くぞ!」

 

ゲンムとナツ&アリアの殴りあいになっていたが、倒せど倒せど、ゲンムは蘇る。ナツが知りうる限り、あらゆる呪文も斬撃も体技をも叩き込んだのにも関わらずだ。

何度も何度も繰り返し続けた。そして、ついに私達の疲弊の方が先に来た。

 

アリア

「……チートにも、程があるでしょ。」

 

最後のエルフの飲み薬も切れ、キメワザも撃ちづらくなり、その上で倒しても倒しても無限に再生する。

 

ナツ

「来るっ!」

 

大きな金属音が響き、つばぜり合いに入った。

 

ナツ

「押しきられる!?」

 

ゲンム

「言ったはずだ。最初からお前たちに勝機などないのだァッ!!」

 

かなり不快な音が鳴り、二人は己の手元を見た。

手に持っていた無双方天戟と天空のつるぎが真っ二つに折れていた。

 

アリア

「嘘……あの天空のつるぎが………」

 

ナツ

「アリア!!」

 

ゲンム

「ギガデインッ!」

 

アリアの隙をゲンムが逃さず高位呪文を直撃させた。

 

アリア

「がっ………うぅ………。」

 

ゲンム

「さて、こちらの世界で我がキメワザがどの程度のものか試してやろう。」

キメワザッ!クリティカルエンドっ!

 

ゲンム

「ふんッ!!」

 

ナツにゲンムのキックが直撃し、おおきく後ろに吹き飛ばされ、体力はゼロになった。ナツは安堵した。

どんな理由があれ、ゲームオーバーになれば離脱できると。

しかし、ゲームオーバーになっても状況は何一つ変わらなかった。

 

ナツ

「………なんで。」

 

ゲンム

「言ったはずだ……このゲームを創造したのは私だ。そしてェ!お前達はこの世界で永遠に私のモルモットになるのだァァッ!!」

 

絶望的だった。倒せもしない、死んでもゲームから出られない。それこそ、何もかもが無意味だ。

ゲンムからの攻撃を受け、ゲームオーバーになり続け、このまま死ぬまでこのゲンムという男に殺され続ける。

 

アリア

「……ここまでなんて。」

 

アリアは絶望した。弟だけでなく、自分すらもゲームに囚われることになることがショックだった。

……どれだけ時間がたったかわからない。

もう考えることすらやめていた。ひたすらに殺され、生き返り、殺される。その繰り返しだった。

 

ゲンム

「まだまだデータが取れていないか………。」

 

ゲンムがそんなことを言っていたのを聞いた。人生がまさかゲームで終わるなんて思いもしなかった。

だが、諦めずに立ち上がったプレイヤーがいた。

ナツだ。こういう時は真っ先に諦めて次を探すナツが立ち上がったのだ。

 

ナツ

「……アリア、何ぼさっとしてんのよ。やるよ。」

 

アリア

「……でも。」

 

ナツ

「でもも何もあるか!やるんでしょ!それともアンタはこのままただのモルモットとして死ぬの!?」

 

アリア

「………。」

 

ナツ

「私は断固お断りよ!あの白黒の変態の思うままに殺され続けるなんて!私は一矢報いてやるわよ。このままモルモットとして死ぬなんて嫌だし、第一にやられっぱなしは気に入らないのよ!」

 

ナツが大声で叫んだ。今までクールだったナツはそんなことをしなかった。

ナツは一心にアリアが諦めるのが気に入らなかった。

 

ナツ

「……立てるわよね?アンタ私にあれだけの事言っておいていざ自分がその立場になると何も出来ませんなんて言うような奴じゃないでしょ?」

 

アリア

「………あったり前じゃない!」

 

アリアは再び立ち上がった。

このゲームは永遠に終わらない。ならば、やることはただ一つ。

 

ナツ

「アイツにぎゃふんと言わせるわよ!」

 

アリア

「オッケー!」

 

ゲンム

「ふん、何を考えてるかは知らんがお前たちは未来永劫この世界から出られないのだァァッ!!ぶぇははははは!!」

 

ナツ

「アリア、時間を稼いで!」

 

アリア

「アイアイサー!くらえマヌーサ!」

 

アリアはマヌーサを唱えたが、ゲンムには当然効かなかった。

 

ゲンム

「私の前では全てが無駄だと言ったはずだァッ!!」

 

アリア

「………残念、私囮なのよね。」

 

そう、ナツはゲンムの後ろに回り込んでいた。

 

ナツ

「くらえ、脚蛇家秘伝笑いのツボ!」

 

ナツの親指が突き刺さった。だが、ゲンムには大したダメージにはなっていない。

ゲンムは容赦なくナツを蹴り、ナツはぶっ飛んだ。

 

ゲンム

「ふん、何をしたかはわからんが、私には無意味だとわから……くく……ふふふふ……ふふははははは……ぶぇははははは!!」

 

そう、ナツの笑いのツボは何故かVRでも通じるのだ。

 

ゲンム

「き、貴様……ふふははははは……何をしたァァッ!!」

 

ナツ

「秘密ー。……んじゃいっちょやりますかね。」

 

アリア

「おーう!」

 

二人は笑い続けているせいで動けないゲンムの前に立ち、武器が無くても出来る大ダメージを狙えるチャージ攻撃技を構えた。

 

アリア&ナツ

「「正拳突き!!」」

 

その二つの一撃はゲンムの腹部に直撃し、会心の一発が入った。当然ながらゲンムは後ろにぶっ飛び、古志城の壁に穴を開けるほどの破壊力だった。

 

アリア

「ふぃー、やってやったぜ!」

 

ナツ

「いぇーい!」

 

アリアとナツはこの先、永遠に囚われることになるが、それでもゲンムの思い通りにはいかないことを証明出来た。もはやそれだけでも満足だ。

 

ゲンム

「なかなかに面白いことをするじゃないか……、神に刃向かった罰だ。私のキメワザで二度と立てないようにしてくれる!」

 

キメワザ!クリティカルデッド!

 

無数のゲンムが現れ、完全包囲された。だが、ナツとアリアの顔は笑っていた。もう思い残すことは少しはあるが、ほとんどない。

権限を奪われ為す術もないこの状況でゲンムに精神的な一撃を与えれたはずだからだ。

 

ナツ

「そんじゃ、私が寿命で死ぬまで道中よろしくね。」

 

アリア

「こちらこそよろしくー。」

 

二人は目をつむりそっと手を繋いだ。まるで昔からの親友のように。

そして………二人は気がつくと、古志城ではない場所にいた。

 

ナツ

「………え?」

 

アリア

「あ、あれ?ゲンムは?」

 

回りを見渡したが、そこにゲンムはいなかった。しかも、この空間はバーチャル空間ではあるが、どことなく現実っぽい部分があった。

 

???

「まぁいるわけないよね。だってここ異常空間だし。」

 

見知らぬプレイヤーに声をかけられ、二人は振り向いた。

 

ナツ

「………誰?」

 

アリア

「え?なんかすっごい見た目した装備……。」

 

???

「あー、これ?これは装備というよりかは……いやそういえば今は知らないんだっけ。」

 

どこか意味のある言い方をしたが、敵でないことだけは確かなようだ。

 

ナツ

「……アンタ、プレイヤーネームは?」

 

???

「ん?んー、ちょっと考えさせてねー……。よし決めた。」

 

カブトムシっぽい見た目をしたその女プレイヤーは、こう言った。

 

Kゼクタ

「Kゼクタと呼んでおこうか。」

 

アリア

「えーっと、Kゼクタさんはなんで私達を助けたんです?」

 

Kゼクタ

「え、いや助けれてない。殺されてリトライ画面に行ってるときに私がここに連れてきた。」

 

アリア

「……え?話が見えない。」

 

Kゼクタ

「……まぁいいや、二人には会わなきゃいけない人がいるからさっさとそっちまで連れていくわ。まぁ、個別だから一旦一人だけになるけど大丈夫?」

 

アリア

「まぁ私は大丈夫。けどねー……」チラッ

 

ナツ

「私は大丈夫。だけどね…………」チラッ

 

アリア

「……何よ。」

 

ナツ

「……アンタこそ。」

 

Kゼクタ

「あーはいはい喧嘩はやめやめ。とにかく私はアンタら二人をそこに連れてったらいなくなるから続きはそのあとにしなさい。」

 

ナツ&アリア

「はい。」

 

Kゼクタは自らの腰の横にある謎の物体に触れた。

その瞬間、ナツとアリアはふわっとした感覚と共に、消えた。

最後に二人にはシステム音声が聞こえた。

ハイパークロックアップ!




ナツ
「………ここは、どこ?」

アリア
「現実に……戻ってこれたの?」

???
「お、ちょっとやってみるかい?」

???
「……なるほど、お前がアイツの言っていた奴というわけか。」

アリア
「この力……すごい!」

ナツ
「………やってみるか!」

次回SAOGM・「第21話 幻想の音を響かせる鬼と天の道を行く最後のシグマ」

アリア
「行こう、ナツ。」

ナツ
「おーよ。」

アリア&ナツ
「「………変身ッ!」」


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第二十一話~幻想の音を響かせる鬼と天の道を行く最後のシグマ~

Kゼクタ
「おぉ?これがいわゆる過去の出来事を教えるところかな?ちょーどいいや、やっていこう!
さーて、アリアとナツの二人は白黒の変態によってフルボッコにされて超絶ピンチ!しかもゲームから出られないからなおのこと厄介!
だけどナツは心を入れ換えた……というよりかは光が灯ったおかげで、絶望してたアリアにお説教しかけてアリアも晴れて希望を取り戻し、一矢報いたー!
そんでもう一度ゲームオーバーになったときにこの私『Kゼクタ』さんが助けに来たって訳!
ここから先の未来も知ってるけどこれ以上は教えられないかなぁ……。
あ!やっばい旦那と子供のご飯作りにいかなきゃ!」
HYPERCLOCKUP!

パンドラ
「………またしても私の役目を持っていかれましたねぇ。さて、私の仕事も無くなりましたしここから先のお話に期待をしましょう。ま、今のところは私の想定通りなので問題はありませんがね。
それでは皆様、ごきげんよう。」

という訳で皆様お久しぶりです。
一応生きていますよ、wandarelです。
今回からクロスオーバーが本格的(?)になり、なかなか厳しい所もありましたが、なんとか投稿完了です!
今回も励みになるので感想や評価のほうもよろしくお願いします!


目を覚ますと、アリアは見知らぬ真っ暗な空間にいた。

目の前が全く見えないほどの暗闇が続いていた。

 

アリア

(……暗いなぁ。)

 

すると、感覚的にだが、遠くの方で何かの音が聞こえてきた。

 

アリア

(……太鼓の音?)

 

聞こえる音からはそんな風に思えた。この先にその音の元があるのだろう。

ボッという音と共に火が燃え上がり、少しだけ明るくなった。まるでアリアを導くかのように通路の壁際のかがり火が次々と燃えていった。そしてその先に少しだけ光が見えた。

 

アリア

「……行ってみるか。」

 

アリアは導かれるままに前へと進み、その光の元へ出口であることを願いながら進んでいった。

そして、アリアは洞穴のような場所から出てきた。

先程の空間とも古志城とも違う、鳥のさえずりすらも聞こえるほど、やけに現実味を帯びた森だった。

先程の洞穴のほうを振り返ってみると、かがり火もなく、ただの洞穴になっていた。

 

アリア

「……もう何が起きてるのかさっぱりね。」

 

とりあえずこの山を歩いてみることにした。道中に綺麗な川があったりと、どことなく見覚えがあり、思い出した。

 

アリア

(ここって確か、二年前に家族旅行で行った山じゃなかったっけ?確か、その時は友渡(ゆうと)と一緒に桐矢(きりや)さんに太鼓を教えてもらったっけ。……なんか懐かしいなぁ。)

 

アリアは以前、リアルでこの山に来たことがあった。しかし、だとしても何故このタイミングでそんなことを思い出したんだろうか。

耳をすますと、先程の洞穴にいたときに聞こえていた太鼓の音が聞こえてきた。

 

アリア

「……この先に太鼓を叩いてる人がいるのかな?」

 

特に珍しい事でも……いや、珍しいな。

アリアはその音へと近づいていった。少しずつ音が大きくなり、まるで力強く心に響いてくるようだった。

 

そして、少し開けた場所に着くと、ちょうど中央のところで太鼓を叩いている人がいた。アリアは目を閉じてしばらくその音を聞いていた。どことなく懐かしくってずっと聞いていたかった。

途中で音が途切れ、目を開けると太鼓を叩いていた壮年(?)の男性がこちらを見ていた。

 

アリア

「あ………。」

 

思わずそんな声を出してしまった。すると、男の人はアリアの方に向かってバチを差し出した。

 

???

「やってみる?」

 

アリア

「……はい!」

 

アリアは迷うことなくそのバチを手に取った。

 

???

「もっと腰を入れて!」

 

アリア

「はい!」

 

???

「もっと力強く!」

 

アリア

「はい!」

 

懐かしさと共に、アリアは時間を忘れてとても楽しんでいた。かつて教えてもらっていたことではあったが、弟があのSAOに閉じ込められてから、アリア自身もナツのように自暴自棄になっていたことがあった。

それを乗り越えられたのは、あのときの修行(?)があったからでもある。

私は最近あまりあの山にも行ってないし、桐矢さんにも会っていない。

でも、この快感だけは私だけの特権だと思うくらいにこの和太鼓の演奏をするのが大好きだ。

 

???

「……よし、こんなもんかな。」

 

アリア

「あ、ありがとうございます!……えーっと。」

 

夢中になりすぎて名前を聞きそびれていた。

 

仁志

「まぁ、あまり本名とかは名乗らないんだけど日高仁志。それが俺の名前。」

 

アリア

「すっごい楽しかったです仁志さん!」

 

仁志

「うん。見た感じでもすぐにわかったからな。でもなんだろうな……どことなく京介に似てるな。」

 

アリア

「??」

 

仁志

「……あ、そうか!ちょっと待ってて。」

 

ヒビキさんは太鼓の近くにあったリュックのようなものから何かを取り出して、持ってきた。

 

仁志

「これ、もしかして君に渡すためだったのかもな。」

 

アリア

「なにこれ?時計??」

 

仁志は時計のように見える何かをアリアに手渡した。

 

仁志

「しばらく前に王様になるって言ってた少年がいつかそれを渡す人が来るからって言って渡してきたんだ。多分それは君なんだと思う。」

 

アリア

「……ありがとうございます!」

 

仁志

「そういやこういう機械とか苦手なんだけど、確か枠を回して……そんで上のボタン……だったかな?それを押したら起動するって言ってた……はず。」

 

どうやら相当な機械音痴のようだ。

その時計もどきを、受け取った途端、アリアが光に包まれ始めた。

 

アリア

「……え?ちょ、何!?えっ!なにこれ!」

 

仁志

「……なるほどなぁ。お嬢ちゃん、これからもしっかり鍛えるんだぞ。」

 

アリア

「えーっとなんだかよくわかんないけど……はい!頑張ります!仁志さん!」

 

ヒビキ

「……いや、思い出した。俺はよくヒビキさんって呼ばれてたんだ。じゃあな、嬢ちゃん。」

 

そう言うと、ヒビキさんは薬指と小指を若干曲げた状態で、手首をスナップを利かせて一回まわしたあと前に軽く振るようなまるで一つの挨拶のようなことをした。

そして、アリアは完全にヒビキの目の前から消えた。

 

ヒビキ

「さて、頑張っちゃおっかな。」

 

 

 


 

 

 

ナツが目を覚ますと、渋谷にいた。そう、あの渋谷だ。

15年ほど前に一つの小さな隕石が落ちてきた………というわけでもないが、ちょっとしたテロが起きた場所でもある。

 

ナツ

「……えぇ。」

 

自分の見た目がゲームの姿から全く変わっておらず、まるでコスプレ女子みたいに思えてめちゃくちゃ恥ずかしくなった。

が、特に回りから目立つようなこともないみたいでヒソヒソと陰口を言われはしなかった。

その時だった。

後ろから悲鳴が聞こえ、振り返ると男が高そうなバッグを強奪し、ナイフを持ってこちらへ逃げてきていた。

 

ナツ

「……おいおい嘘でしょ!?」

 

ナツは避けようと考えていたが、狭い道路である以上逃げ場はない。

 

???

「どけぇ!死にたいのかぁ!!」

 

ナツ

「避けれねぇんだっつーの!」

 

ナツがそう言って、なんとか避けようとしたとき、強盗が誰かに足払いをかけられ、こけた。

 

???

「なんだぁ!?誰だお前は!」

 

急に現れたその男は人差し指をたてながら、こう言った。

 

総司

「おばあちゃんが言っていた。この世で覚えておかなければならない名前はただ一つ、天の道をゆき、総てを司る男、天道総司、俺の名だ。」

 

???

「ふざけたことぬかしやがってぇ!」

 

強盗はその総司という男に襲いかかったが、そのナイフは全てギリギリで避けられ、一切当たらなかった。

そして、四回目のナイフの振りを避けたあと、カウンター気味に首もとに手刀を決め、強盗を気絶させた。

 

総司

「……俺の通る道は俺が決める。」

 

ナツ

(……すっご。)

 

目の前でとんでもないのを見た気がした。

総司と言った男が歩いていくのを見て、ナツはついていった。

何故かわからないが、ついていかなくてはこの先間違いなく後悔するような気がしたのだ。

 

そして、路地裏へと消えたため、向かったがそこにさっきの男はいなかった。

 

総司

「……おい。」

 

ナツが言葉を発する前に後ろからさっきの男が声をかけてきた。

どうやって後ろに回り込んでいたのかは全くわからなかったが、とてつもなく驚いたのは事実だった。

総司がまじまじとナツを見て何かに気づいたかのように頷いた。

 

総司

「………どうして俺をつけているかはわからなかったが、そうか。お前がアイツの言っていた継承者か。」

 

ナツ

「は?継承者?」

 

もはや疑問符しか出てこねぇ。

 

総司

「おばあちゃんが言っていた。強さにゴールはない。俺はさらに強くなる。いつまでも、どこまでもな。」

 

ナツ

「……え?」

 

総司

「そしてお前もだ。」

 

そう言われ、手元になにかを投げ渡された。

 

ナツ

「……時計?」

 

総司

「必要なときに使ってみろ。」

 

ナツ

「……は?なにこれ?」

 

総司

「お前もまた、選ばれたわけだ。」

 

総司はそういうと、またどこかに歩いていこうとしていた。そして、ナツもまた光に包まれ始めた。

 

ナツ

「待って!選ばれたって何に選ばれたのよ!」

 

ナツはそれだけが聞きたかったが、返事は違うものだった。

 

総司

「誰かが言っていた。同じ道を往くのはただの仲間にすぎない。別々の道を共に立って往けるのは友達だ。」

 

ナツ

「……それもアンタのおばあちゃんの言葉なの?」

 

総司

「……いや、俺の言葉だ。そして、お前自身で未来を掴み取れ。」

 

その言葉を最後に、ナツは光となって消えた。

 

総司

「………行くか。」

 

天の道を往き総てを司る男は、今日もまた己の道を歩き続けた。

 

 


 

 

~古志城~

 

ゲンム

「……あの女、神である私の攻撃を全てを避けた……ただ者ではなかったが、逃がしてしまった以上はもう構うまい。それよりもあの女のせいでモルモットが逃げられたのが気に入らん。どうやらこの付近にはいるみたいだが………。」

 

突然上から落ちてくるかのように先程の二人が現れた。

 

ゲンム

「……ふ、そんなところに隠れていたのかモルモット共。」

 

ナツ

「………アリア、何だかよく分かんないんだけどさ。私今ならはっきり言えるわ。」

 

アリア

「おー、私も同じ事考えてた。」

 

ナツ&アリア

「「今ならアイツに勝てんじゃね?」」

 

ゲンム

「はーはっはっはっ!神に抗うその反骨精神は認めてやろう!だが、どうあがいても貴様らに勝ち目などないのだぁァァッ!!」

 

ナツ

「それはどうかしら?」

 

アリアとナツは一緒に手に持っていた時計もどきを起動した。

『カブト!』『ヒビキ!』

起動すると同時に、アリアの腰にベルトのようなものと手元に音叉が現れ、ナツの腰にベルトがつき、手をかざすとカブトムシのような機械が飛んできた。

 

ゲンム

「何ッ!?」

 

アリアは音叉を弾き、ナツはカブトムシもどきを掴んだ。

キィィィィィン。

キュォーン

ナツ&アリア

「「変身!」」

HENSIN!

 

アリアは紫色の炎に包まれ、白い鬼のような姿になり、

ナツは分厚く、白金に輝く鎧を身に纏った。

二人はゲーム内とはいえ、リアルでは都市伝説扱いされていた仮面ライダーに変身した。

 

ゲンム

「……ほう。これは想定外だった。まさかあの『パンドラボックス』の因子が我がタドルウォーリアーズに存在したとはな……だが、神たるこの私を差し置いてそんな勝手な事は許さん!」

 

ナツ

「………なるほど、なんとなくわかった。私のこれは仮面ライダーカブト。」

 

アリア

「……じゃあ私は仮面ライダー響鬼ってとこね。」

 

それぞれ自分が何に変身してるのかはこの時計もどきを受け取った時にある程度はわかった。

 

アリア

「いっくわよナツ!今度こそアイツをぶっ飛ばしてやるんだから!」

 

ナツ

「あいよー。」

 

二人は同時に走りだし、ゲンムへの攻撃を開始した。

 

ゲンム

「ふん、仮面ライダーになりたての貴様らでは私に勝てるはずがないだろう!」

 

ダメージがガンガンに通る。アバターだったときよりも大きくダメージが入るようになっていた。

 

ナツ

(都市伝説だが、なんだか知らないけど!)

 

アリア

(今の私たちは!)

 

ナツ&アリア

「誰にも負ける気がしない!」

 

ゲンムをおおきく殴り飛ばし、壁に叩きつけた。

ここでナツは気づいた。

 

ナツ

「アリア、あんたちょっとあの変態の相手してきて。ちょっとやれそうなことがある。」

 

アリア

「ええっ!?……まぁわかった!」

 

ゲンム

「貴様一人でこの私を止められると思ってるのか!」

 

アリア

「あーもーうるっさいな本当に!」

 

アリアがゲンムを抑えている間に、ナツは『まだ』手元にあった時計もどきをもう一度押した。

『キャストオフして超加速!ビートルのライダーは・・・カブトだ!』

その音声を聞いた直後に、カブトに関する情報が頭に流れてきた。

 

ゲンム

「ふんっ!」

 

アリア

「うっ!?」

 

ゲンムはアリアを押しのけ、キメワザを起動した。

キメワザ!クリティカルデッド!

あの時と同じように無数のゲンムが現れ、ナツを囲んだ。

 

アリア

「ナツ!」

 

いくら仮面ライダーの力があるとはいえ、そんなものを受ければただではすまない。

しかしナツはゆっくりと、改めて名前を知ったが、カブトゼクターの角を弾き、音声が響き始めた。

そして、

 

ナツ

「キャストオフ!」

『Cast Off!』

 

瞬間、ナツの白銀の鎧が弾け飛び、ゲンムの分身が全て消し飛んだ。

そして、フルフェイスの真ん中の角が上がり、音が響いた。

 

『Change Beetle!』

 

ゲンム

「覚醒したか、カブトォ!」

 

アリア

「か、カブトムシ!?」

 

ナツ

「………クロックアップ!」

『Clock Up!』

 

アリアが気がつくと、ゲンムがぶっ飛び、ゲームオーバーになっていた。復活はするものの、アリアはかなり驚いた。

 

『Clock Over』

 

アリア

「え?な、何が起きたの!?」

 

ナツ

「詳しい話は後!アリア、さっきの時計持ってる!?」

 

アリア

「え?……あ、ある!」

 

ナツ

「私が時間稼ぐからはやく使って!」

 

ゲンム

「ぐ……貴様ァ!」

 

ナツ

「クロックアップの出来ないアンタについてこれるかしら?」

『Clock Up』

 

アリア

(……ナツ、アンタがそういうならきっと何かあるのよね?)

アリアはもう一度時計もどきを起動した。

『鬼の力!音の力!太鼓で戦うライダーは…響鬼だ!』

その音声と共に響鬼という仮面ライダーの歴史がアリアの頭に流れてきた。

アリアは再び炎に包まれ、紫色の鬼のような姿に変わった。

 

アリア

「なーるほどね!音撃棒、烈火!」

 

アリアの腰にあるバチのようなものを取り出した。

 

アリア

「やぁっ!」

 

アリアはその音撃棒の先端に炎を纏わせ、その炎をゲンムに直撃させた。

 

ナツ

「やるぅー♪」

『Clock Over』

 

ゲンム

「くっ……この私が苦戦するほど伝説の仮面ライダーの力は強大ということか……だがしかぁし!どれだけ強くなろうとも権限は私にあるのだぁ!ぶぇはははははは!!」

 

ナツ

「………一応カブトのチュートリアルは終わったけどアンタは?」

 

アリア

「同じくよ。」

 

二人は頷き、同時に仕掛けた。

ナツは、先ほどのカブトの歴史から取り出したクナイガンのクナイモードでゲンムを牽制し、アリアがそこに強烈な一撃を叩き込み続けた。

 

ゲンム

「ぐっ……これが伝説の力か!」

 

アリア

「よし!そろそろ仕上げいくよ!」

 

ナツ

「おうよー。」

 

ナツがクロックアップに入り、連続攻撃を叩き込んだ。

そして怯んでいるゲンムにアリアが近づき、ベルトの中心にある太鼓をゲンムに押し付けた。

『イヨォー!』

ゲンムを固定し、アリアは鬼撃棒を構え叫んだ。

 

アリア

「爆裂強打の型!でぇぇやぁぁぁ!!」

 

ゲンム

「ぐっうおおあぁぁぁっ!!」

 

ゲンムが吹き飛ばされる直前にデンジャラスゾンビが強制解除された。

 

ゲンム

「なにぃ!?私のデンジャラスゾンビゲーマーが!」

 

そしてゲンムが吹き飛ばされると同時に、ゲンムの行き先を塞ぐかのようにナツが背中を向いて立っていた。

 

ナツ

「アリア、アンタと私が手を組んだら、誰にも負けはしない。」

1!2!3!

 

ナツ

「ライダー……キック!」

『RiderKick!』

 

ナツ

「はぁぁぁ!!」

 

ナツがとどめにカウンターキックを放ち、ゲンムは爆散した。

そして、二人の画面にゲームクリアのマークが出てきた。

 

ナツ

「………ふぃー。終わった終わった~。」

 

アリア

「一時はどうなるかと思ったけど、やっぱなんとかなったわね!」

 

ナツ

「まぁ……ね。」

 

アリア

「あ。それとさっき私と手を組んだら誰にも負けないって言ってなかった?いやー嬉しいもんだねー♪」

 

ナツ

「……笑いのツボやられたい?」

 

アリア

「ちょっと!都合悪くなったらそれするのやめて!?」

 

そう言うと、ナツはカブトゼクターが離れ、変身が解除され、アリアも元の見た目に戻った。

 

ナツ

「……ありがとうカブトゼクター。」

 

ナツはそう言って滞空しているカブトゼクターに軽くキスをした。

その後、カブトゼクターは空へ飛んでいった。

 

アリア

「……うわっ!あれからもう八時間も経ってる!」

 

ナツ

「……学校無くてよかったけどこれ間違いなく家族に殺されるな。」

 

アリア

「それうちもー……。」

 

二人は顔を見合わせ、笑った。

 

ゲンム

「はっはっはっはっはっ!」

 

ナツ&アリア

「「ん?」」

 

突然二人の目の前に紫色の土管が現れ、ゲンムの高笑いが聞こえてきた。

 

ゲンム

「はーはっはっはっ!」

テッテレテッテッテー

 

そして土管からゲンムが現れた。一度ゲームオーバーになり、変身は解除されている。

 

アリア

「えぇ!?アンタさっき倒したじゃん!」

 

ゲンム

「私のライフは残り97……。私は権限により、99もの残機を与えられているのだァッ!つまり君達の努力は無意味だというわけだ!さぁ、再び実験を始めるぞ!モルモット共ォ!ぶぇはははははは!!」

 

アリア

「うっそでしょ……まだ終わってないなんて……。」

 

システム音声

「不正プログラムを確認しました。臨時メンテナンスを行います。30秒ほどお待ち下さい。」

 

ゲンム

「ほう、この私が作ったゲームで不正プログラムを使うなど愚の骨頂!」

 

システム警備員が現れ、捜索していたが、アリア達を見て頷き、こちらに近づいてきた。どうやら私達のあの仮面ライダーの力が不正プログラムと判断されたのだろう。

 

アリア

「えぇ……天空のつるぎ手に入れるまで頑張ったのに。」

 

ゲンム

「はーはっはっはっ!はーはっはっはっ!……は?お、おい何をする!」

 

システム警備員は何故かゲンムの腕を掴んでいた。

 

システム警備員

「不正プログラム確保しました。至急アカウント停止を行います。」

 

ゲンム

「待て!やめろ!私はこのゲームの創造者だぞ!」

 

システム警備員

「不正プログラムです。」

 

ゲンム

「離せ!離せ!私は神だぞ!」

 

システム警備員

「なんだそれは!」

 

ゲンムが最後の断末魔をあげながら上空へと連れ去られていった。アリアはその様子をポカンと見ていた。

 

ナツ

「よーし成功成功。」

 

アリア

「……え?」

 

ナツ

「あの変態、アンタの必殺技で絶対的な権限無くなってたでしょ?だから通報してやったのよ。」

 

アリア

「え?一体いつやったの!?」

 

ナツ

「さっきの土管からあの変態が出たときかな?」

 

アリア

「対応早いわね。」

 

そんなこともあり、私達は無事に現実世界に帰ってこれた。私はパパとママにめっちゃ怒られて、夏輝は夏輝でペットのコツに心配されて顔中舐められてたそうだし、新聞を見る限りではあのゲンムって人も衛生省に捕まったんだけど……まさかホントに幻夢コーポレーションの社長だったとは思わなかった。

そんで祝勝会として!

二人でシャルモンでケーキを食べていた。

 

柚子&夏輝

「うーんおいしいぃ~♪」

 

柚子

「……あ、そうだ、なっちゃん。」

 

夏輝

「ん?どしたの柚子?」

 

柚子

「あのね、これ。」

 

あれから相当時間が経って、夏輝と面白いことはたくさんあった。今度は私がやろうとしているゲームを一緒にしてみたい。

 

夏輝

「……なにこれ?」

 

柚子

「これはね、『アルヴヘイムオンライン』、通称『ALO』。予約を取ったんだけどさ、一緒にやらない?」

 

夏輝

「……はいはい、やりますよ。」

 

柚子

「やったぁ!なっちゃん愛してるー!」

 

夏輝

「脚蛇家秘伝・笑いのツボ!」

 

シャルモンに大きな笑い声が響いた。

 


 

その頃、刑務所にて。

 

檀黎斗神

「私は心を入れ換えた。暴走するチーター達を排除し、プレイヤー皆の笑顔を取り戻したい。だから……ここから出してくれないか?」

 

???

「俺に質問するな。」

 

檀黎斗神

「うおぁぁぁ!何故だぁ!何故私が捕まらなくてはならない!」

 

「鶴井刑事、面会の方が来ました。」

 

照井竜

「……照井です。」

 

パラド

「よぉ久しぶりだな神。」

 

檀黎斗神

「パラドか!私の貯金から保釈金を出せ!そうすれば間違いなく出れる!」

 

パラド

「悪いけど口座凍結されてるから無理だな。……そんなこともわからなくなるほど落ち着いてないんだな。」

 

檀黎斗神

「ぐっ……そうだ!ならば永夢だ!永夢ならば!」

 

パラド

「ちょっと待ってて………あぁ、俺。ニュースであっただろ?助けてほしいって。……うん、わかった。」

 

檀黎斗神

「……どうだ?」

 

パラド

「永夢から伝言。ちょうどいいからそこで反省して頭でも冷やしたらいいってさ。」

 

檀黎斗神

「宝生永夢ゥゥゥッ!!」

 

パラド

「ま、大人しく観念するしかないんじゃない。じゃ、またねー。」

 

檀黎斗神

「待て!パラド!どこに行く気だ!私を出せパラド!パラドォォォォッ!」

 


 

その頃とある基地にて

 

???

「大丈夫なのかな……。」

 

???

「大丈夫だって!遊星もジャックもクロウだって頑張ってるし何より頼りになるスネークだっているんだ!きっと大丈夫だよ龍可。」

 

龍可

「そうじゃなくて、幻夢の社長さん私達に支援してくれるって言ってたじゃない。捕まったんだけど大丈夫かなって意味よ龍亞。」

 

龍亞

「あ、そっちか。それなら大丈夫だよ。大佐が言ってたぜ。『あれは立場の都合上なかなか灸を据えれなかったからちょうどいい。しばらくは放っておけ』って言ってたしね。」

 

龍可

「そっか。なら安心かな。………安心していいのかな?」

 

龍亞

「それよりも、俺たちにも出来ることをやろうぜ!チーム5D`sとして!」

 

龍可

「そうね……。」

(遊星、みんな……無事に帰ってきて……。)

 


~アインクラッド第六層深夜~

 

???

「ふむ、いまいち手頃な素材が無い。肉類が来ればいいんだが……」

 

男はそう考えていると、ちょうどよくボアの亜種が現れた。食材ランクはかなり高い部類である。

 

???

「飛んで火に入る猪ってか?まぁいい。最ッ高のタイミングで来てくれたな。」

 

ボアの亜種がこちらに気づいた。




???
「さぁ、調理を始めようか。」

男は手元にアイテムを三つ取り出した。
一つは細長い何かと二つのボトルのようなものだった。
細長いアイテムを腰につけ、ボトル二つを両手にもって振った。
そして、それを差し込んだ。
ソルト!ペッパー!ベストマッチ!
男は細長いアイテムの先っぽにあるレバー状のグリップを回転させた。
Are you ready?

???
「変身!」

辛味のサマーソルト!
ソルトペッパー!!イェーイ!

???
「調理のレシピは決まった!」

次回SAO・GM第二十二話「天才料理人」

Lady Go!!
ボルテックフィニィッシュ!

???
「ふう……さて、そろそろ準備を始めるか。」


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第二十二話~天っ才料理人~

パンドラ
「ごきげんよう皆様、パンドラでございます。前回は、アリアとナツが都市伝説と言われていた仮面ライダーの力を継承致しました。例えゲームの中でだけだとしても、彼女らが継承したという事実があればいいのです。滅びゆく未来を避けるためには必ず必要なことなのです。そしてまた今回も……おっと、これ以上はいけない。さて。私はお暇するとしましょうか。」

どうも皆さん、お久しぶりです。
ワンダレルでございます。
はい。
リアルが忙しく、めちゃくちゃサボってました。
申し訳ありません。
またある程度の部分は進めたので、また仕上げれる部分は仕上げようと思っています。
皆さんの評価や感想は私の励みになるのでお待ちしております!


~アインクラッド~

攻略組がSAO第五層を突破し、第6層へと向かった。

俺達『攻略し隊』は順調に第六層のボスへの準備を始めていた。

エルフのクエストも大手攻略組二部隊とキリトを含んだ一部の攻略組で終わらせ、現在ボスについての会議を攻略し隊のギルドハウス(仮)でしていた。

 

ぼっち

「つーわけだが、俺の予想が正しければあと三週間は先のことになると見ている。」

 

脚竜

「兄貴、その理由は?」

 

ぼっち

「まぁ基本は勘だが、ALSにしてもDKBにしても少し時間が欲しそうだったからだ。」

 

シグレ

「なんでそれわかるの?」

 

ぼっち

「大体の事は目を見たらわかる。未来は見えんが過去を探ることなんざ簡単だぜ。」

 

ぼっちはそう言うと黒板もどきに文字を並べ始めた。

 

ぼっち

「まず今回のボスである『ピアーズ・ザ・ローグ・マンティコア』だが、今回俺達にもボスの情報が分からずじまいだ。故にしばらくは様子見すると予測できたわけよ。」

 

オクト

「……ということは?」

 

ぼっち

「あぁ、しばらくは休暇だ。今回は特別に全員だ。感謝しやがれ特にオクト。」

 

オクト

「感謝……圧倒的感謝!」

 

泣きながら土下座するオクトを残りの四人は複雑な表情で見ていた。

 

ぼっち

「というわけだ、明日の昼に飯を食べに行くぞ。」

 

シグレ・ミホ・脚竜

「どこに?」

 

ぼっち

「知らんのか?俺達攻略組が六層のキークエストを始めてからすぐにできた料理屋がある。噂によればNPCが作る料理にしてはかなり上物だそうだ。………代わりにそれ相応のコルを持っていくらしいがな。」

 

Yun

「あ、それ知ってる。確かお店の名前は『ロ・マーラ』だったよね?」

 

ぼっち

「さすがはYunだな。明日の昼はそこで食うぞ。」

 

ミホ

「あれ?私達のギルドそんなにお金持ってたっけ?」

 

ぼっち

「何のためにオクトを馬車馬のように働かせたと思っている?」

 

ミホ

「あ、はい。」

 

それぞれ、思うところはあったが正確な情報を解析できてない状態でボス攻略へ向かうのはかなり危険だったが故にしばらくは休暇を取った。

もちろん、日頃行っている地獄のような戦闘訓練があるが、それを終えようやく昼になった。

 

ぼっち

「……よし、今日はこんなもんだろ。」

 

脚竜

「」

 

オクト

「脚竜?」

 

脚竜

「」

 

Yun

「返事がない、ただの屍のようだ。」

 

ミホ

「まぁ……こんな無茶苦茶してたら……死ぬよね。」

 

ぼっち

「それじゃ行くぞ野郎共。」

 

攻略し隊

「おー!」

 

死にかけの脚竜を連れて、六層の湿地帯を歩いていく。

例の料理屋はその湿地帯の奥にあるらしい。しかも、その付近のエリアのモンスターはそこそこの強敵で、ソロで油断すれば死ぬ可能性もあるほどだった。

しかし、訓練を重ねた攻略し隊にとってはその程度のモンスターにやられるほど弱くはない。

ロ・マーラまであと百メートルというところで攻略し隊全員がフリーズした。

人気があるとは聞いていた為、多少の事は想定していたが………。

 

攻略し隊一同

「列なっが!?」

 

思っている以上に列が長く、ざわざわしていた。

 

ぼっち

「……愚弟、一番前にいる客が店に入ったら教えろ。みえるだろ?」

 

脚竜

「え、まぁわかった。」

 

ぼっちの意味深な発言と同時にオクト達四人が相談を始めた。

 

Yun

「いくらなんでも列が長すぎない?」

 

ミホ

「まぁ、人気料理屋だし仕方ないと思うけど。」

 

シグレ

「……でもNPCの料理屋っておいしいところは美味しいけどひどい所はとことんひどいよね?」

 

ミホ

「……これ、誰か残って順番確保しないとヤバいんじゃない?」

 

ぼっち

「………確かにな。さっき調べてみたが一人辺り平均十五分ほどだ。人数にもよるがこの計算で行けば、俺達がロ・マーラで飯をするのは今から五時間後だな。」

 

脚竜

「……それって晩飯(?)じゃねぇか!」

 

ぼっち

「というわけだオクト、残れ。」

 

オクト

「絶対いやです。」

 

脚竜

「ここは公平にじゃんけんでいこうぜ。」

 

オクト・ぼっち・シグレ

「お前とやると公平にならねぇよ!」

 

攻略し隊一同

「じゃんけん!」

 

ぼっち

「……なんでだよ。」

 

脚竜

「じゃ兄貴頼むわ!」

 

Yun

「よろしくぅー。」

 

ぼっちが順番確保を勤めることになった。

ぼっちを除いた攻略し隊のメンバーは各自でボスの情報を集めたり、素材を収集したり、サボったりしていた。

 

脚竜

「いやオクト、休暇なのになんで仕事してんの?」

 

オクト

「……身体が勝手に動くんだ。」

 

脚竜

「えぇ……。」

 

Yun

「……アンタホントに大丈夫?」

 

オクト

「大丈夫大丈夫。」

 

ミホ

「疲れたらいつでも代わるよ?」

 

オクト

「ありがとう、気持ちだけは受けとるよ。」

 

シグレ

「ゲームだからって無理しちゃダメだからね。」

 

脚竜

「うんうん。」

 

オクト

「拝啓、父ちゃん母ちゃんに姉ちゃんにばあちゃん、そして小さき猫達よ、俺は攻略し隊のリーダーを除くメンバーの優しさに感動です。」

 

脚竜

「えぇ、泣くほど!!?」

 

ぼっちが言っていた予定の時間に戻ると、ぼっちは最前列にいた。そして、ぼっちの後ろには人がいなかった。

 

シグレ

「……あれ?私達が遊びに行く前にはぼっちさんより後ろの人いなかったっけ?」

 

脚竜

「辛抱強く待てなかったんじゃね?」

 

ミホ

「まぁ、何はともあれリーダーお疲れ様ー。」

 

ミホが声をかけたが、ぼっちは何かをブツブツと呟いていた。

 

脚竜

「ん?兄貴?」

 

ぼっち

「本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい本が読みたい」

 

ミホ・シグレ

「ヒエッ……。」

 

オクト

「ひぃ……。」

 

Yun

「……なにこれ。つーかオクト私の後ろに隠れるな。」

 

脚竜

「あーこれ兄貴の禁断症状だよ。五時間位読書できないとなんかこうなる。んでたぶん兄貴のこの禁断症状見て後ろの人は逃げたんだろうな。」

 

脚竜はそういうとストレージをいじり、一冊の本を出して置いた。すると、ものすごいスピードでぼっちが本に食いついて読み始め、五秒で読破した。

 

ぼっち

「ふぅ、助かったぞ愚弟。」

 

脚竜

「何年兄弟やってると思ってんだよ。」

 

さすがは兄弟と言ったところで、お互いをカバー出来るようにお互いが動いている。

 

ぼっち

「……さてと、席が空いたようだ。行くぞ。」

 

脚竜

「おー!」

 

Yun

「………切り替えが早いわねホント。」

 

店内の装飾は控えめでありながらかなりオシャレな店になっている。必要最低限なインテリアばかりでありながら、それだけでも高級感が滲み出ている。

 

シェフ

「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ。」

 

脚竜

「……なるほどなぁ。」

 

ミホ

「ん?どうしたの脚竜?」

 

脚竜

「……ここさ、カウンター席しかないんだよ。」

 

ミホは脚竜に言われて見回すと、確かにカウンター席しかなく、テーブルは無かった。

 

シグレ

「そ、それでもここまで人気があるのってすごくない?」

 

ぼっち

「………ほう。」

 

とりあえず六人はちょうど空いていた六席に座った。

 

シェフ

「そちらにメニューがございますので、ご注文がお決まり次第お声をかけてください。」

 

Yun

「へぇ、メニューまである……だいぶ作り込まれてるわね………。」

 

見る限り値段は今までの料理屋の中でもダントツに高かった。

 

ぼっち

「……お前らとりあえず決めたか?」

 

攻略し隊一同

「おう。」

 

ぼっち

「すんませーん。」

 

シェフ

「ご注文を。」

 

脚竜

「コロッケ定食!」

 

オクト

「ピザトーストとイタリアンサラダセットで。」

 

ミホ

「ハンバーグ定食で。」

 

シグレ

「チャーハン!」

 

Yun

「パンケーキ、メープルシロップ多めで。」

 

ぼっち

「ボンゴレスパゲッティ。」

 

シェフ

「かしこまりました。少々お待ち下さい。」

 

シェフが奥の厨房へと入った。

 

ぼっち

「お前らジャンルバラバラじゃねぇか。」

 

脚竜

「まぁまぁ、他のお店みたいにすぐ出て来るって。」

 

脚竜がその事を言ったが、中々に料理が出て来ない。

 

ミホ

「……なんか遅くない?」

 

注文からおよそ二分ほどでシェフが厨房から料理を出した。

それぞれが出来立てほやほやのようだ。

 

攻略し隊一同

「……いただきます。」

 

まず、一口。

 

ぼっち

「………!?」

 

全員が思わず口を押さえた。

 

ぼっち

(な、なんだこれはぁァァッ!!うまい!うますぎる!これ程味の再現が可能なのか!?)

 

ミホ

「え……スゴい……私……私……。」

 

ミホは、そのしっかりとした味に思わず涙を流した。

 

シグレ

「うまぁァァいッ!説明不要ッ!」

 

シグレは壊れた。

 

Yun

「……うわ、おいしいこれ。」

 

オクト

「うまい…うまいよ母ちゃん……。」

 

オクトも思わず涙を流した。

 

脚竜

「うおぉぉぉっ!衣はサクッとして素晴らしい食感!そして口のなかで牛肉が!じゃがいもが!一緒になって最高の味を引き出している!例えるなら相手のゴールに同時にシュートを決め込んでる!超エキサイティングな味がするよォォッ!んまぁーーーいッ!」

 

脚竜が見事に空振りをかましている食レポを始めた。

 

ぼっち

「……これほどのモノとはな。」

 

シェフ

「お気に召したようで何よりでございます。」

 

攻略し隊一同

「ごちそうさまでした。」

 

気がつけば既に食べきっていた。満腹と幸福感で満たされる感覚に攻略し隊は全員骨抜きにされた。

 

シェフ

「では、お会計が三万四千コルになります。」

 

脚竜オクト

「えぇっ!?」

 

ぼっち

「想定内だ、驚くことはない。どうぞ。」

 

シェフ

「またのお越しをお待ちしております。」

 

ロ・マーラを去ってギルドハウス(仮)に戻ってきたがほとんどの話題がロ・マーラであった。

だが、この状況に疑問に思う男がいた。

 

脚竜

(……あのシェフどっかで見たことある気がすんだよな。誰だろ?)

 

ぼっち

「今度はキリトとアスナでも連れていくか。法外の値段のアレを奢って今後の関係をよくするためにもな。」

 

Yun

「悪意丸見えなんだけど。」

 


 

???

「なぁ、俺達いいように使われてるだけなんじゃねぇか?」

 

???

「そうだぜ。なんで俺達が……」

 

???

「いやなら帰ってもいいぞ?俺だけでも出来そうだしな。」

 

???

「そういってホントはルイーダさんに誉められたいんだろハイウェイスター。」

 

ハイウェイスター

「ば、バカなこと言ってんじゃねぇよチョコラータ!」

 

???

「そうそう、ルイーダさんの為に身体張って頑張ってるもんなぁ。」

 

ハイウェイスター

「ラバーズお前まで………。」

 

ラバーズ

「……まぁ、アイツらにぶん殴られて俺達がどんだけの事をしたのかもわかっちまったしな。」

 

チョコラータ

「どう転ぶかはわかんねぇが、最善は尽くさねぇとな。」

 

ハイウェイスター

「………俺達も生き残るぞ。リアルでちゃんと面を向かって謝らねぇと俺の気も済まねえしな。」

 

ラバーズ

「なにカッコつけてんだよ、ホントはルイーダさんにリアルで会いたいだけのくせに。」

 

チョコラータ

「そうだそうだ。」

 

ハイウェイスター

「てめぇらまだそれを言うか!」

 

二層での出来事以来、この三人はすっかり丸くなった。第四層を突破し、たまたま始まりの街に戻ってきた脚竜に改めて謝罪したが、脚竜は贖罪にルイーダの酒場を手伝うことを条件に出した。そして、ルイーダの酒場のアルバイトから従業員に昇格し、三人共々売り上げに貢献したり、素材収集に励んでいた。

 

チョコラータ

「……ん?」

 

不意にチョコラータが何かを呟いた。

 

ハイウェイスター

「どうしたんだよチョコラータ?」

 

チョコラータ

「……いや、見間違いだ。人がいたような気がしてな。」

 

ラバーズ

「お、おい。お前ら後ろ……。」

 

ラバーズに言われてハイウェイスターとチョコラータの二人が後ろを振り向くと、半分が赤で半分が青の化け物がいた。

 

チョコラータ・ラバーズ・ハイウェイスター

「「……う、ウワァァァァァァァァァァッ!!」」

 

三人が全力で走って始まりの街に逃げていった。

 


 

ルイーダ

「……これが今回の噂のことよ。」

 

オクト

「……ホントか?」

 

ハイウェイスター

「ホントだって!」

 

Yun

「……ホントに?」

 

ハイウェイスター

「ホントだっていってんだろ!」

 

脚竜

「……まぁ信じるけどさ、偶然とはいえこんな形で依頼が来るなんてな。」

 

シグレ

「正体不明の赤と青の化け物……か。プレイヤーネームは……無理があるよね。見る間もなかったみたいだし。」

 

ミホ

「どちらにせよ今は暇だし受けてもいいんじゃない?どうするのぼっちさん?」

 

ぼっち

「ふむ、化け物退治か……。ルイーダさん、報酬を提示してもらおうか。」

 

ルイーダ

「報酬は四万五千コルと二時間飲み放題でどう?」

 

ぼっち

「オーライ、承った。報酬は後払いで問題ない。」

 

ルイーダ

「いつもありがとね。」

 

脚竜

「よっしゃー、そうと決まればロ・マーラで飯にしようぜ!」

 

オクト

「おいおい、大丈夫なのか!?」

 

ぼっち

「一向に構わん。行くぞ。」

 

とりあえずは腹ごしらえと言わんばかりにロ・マーラで食事を取り、夜にハイウェイスターが見たという一層で張り込みをしたが、その赤と青の化け物は現れなかった。

翌日、攻略し隊は改めて作戦を練り始めた。

 

ぼっち

「……見つからなかったか。」

 

シグレ

「でもホントにいるのかな赤と青の化け物なんてさ。」

 

脚竜

「まぁ探してみる他ないでしょ。」

 

というわけで今日はキリトとアスナも連れてロ・マーラにてランチを食べていた。

 

ぼっち

「どうだキリ坊、アスナ。」

 

アスナ

「お、おいしい……。」

 

キリト

「こんなうまい飯食ったのホントに久しぶりだよ……。」

 

ぼっち

「そいつは良かった。そんでここの料理いくらか知ってるか?」

 

キリト

「うーん……八百コル?」

 

ぼっち

「残念、五千だ。」

 

キリトアスナ

「五千!?」

 

さすがの2人も驚いたようだ。

 

アスナ

「いや、たしかによく考えてみたら高いのも納得いくし………」

 

キリト

「おいぼっち、聞いてないぞ………。」

 

ぼっち

「んんー?俺は飯を食べに行くと言ったはずだ。値段の事を聞かなかったキリ坊が悪い。」

 

脚竜&オクト&ミホ

(悪魔だ)

 

事件解決には時間がかかりそうだが、1歩ずつ前へと進んでいる。

 

シェフ

「おまたせしました、カルボナーラでございます。」

 

キリト

「あぁ、ありがとう。」

 

ここまで言った時、キリトはフォークを落としてしまった。

 

アスナ

「何してるのよ。」

 

キリト

「あはは、悪い悪い……。」

 

キリトは落としたフォークを拾った瞬間に違和感に気づいた。

 

キリト

(………待て。ベータテストの時にこんな料理屋はあったか?いくら改変があるにしてもおかしい。それにあれは………。)




キリト
「ぼっち、気づいたか?」

ぼっち
「ほう?やるじゃないか。」

オクト
「赤と青の化け物の正体がわかったのか!?」

脚竜
「な、なんでお前が………」

次回、SAOGM:第二十三話「隠された事実」

???
「命なんて安いものだ。特に、俺のはな。」


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第二十三話~隠された真実~

パンドラ
「皆様ごきげんよう、パンドラでございます。前回、彼ら攻略し
隊にはめざましい動きはありませんでしたが、人に必要な衣食住のうちの食の頂点のような料理をあじわえる料亭へ導かれ、みな等しく骨抜きにされてしまいました。
しかし、料理には隠し味は付き物。
真実を隠すのもまた料理人故の性なのかも知れませんねぇ。
では、どうぞこのお話を心ゆくまでお楽しみください。」

どうも皆さん、Wandarelです。
長い間期間を空けて大変申し訳ございませんでした!
ガンプラをいじったりSAOアーケードをしたりSAOの映画見たりとばたばたしてたらかなり長い間更新がないという事実に気づきました。
毎度おなじみですが内容がカオスですので、そのあたりはご注意を!
当店の小説は独特な味と味の濃さが売りなので!
私のモチベーションなつながるので、評価や感想の方はどんどんお願いします!


一同

「ごちそうさまでした。」

 

シェフ

「メルシー。料金は四万六千コルになります。」

 

キリト

「よ………。」

 

アスナ

「4万……」

 

キリトは動揺し、アスナは呆然としていた。

想定内の反応にぼっちという悪魔のプレイヤーがニヤニヤしてたのをオクトは見逃さなかった。

 

オクト

(鬼だ………悪魔だ……。)

 

ロマーラを立ち去り各々が解散した後に、ぼっちがキリトに用事があると1人でどこかへと向かった。

 

ぼっち

「俺を名指しで呼び出すなんて珍しいなキリ坊。」

 

キリト

「あぁ、と言ってもお前ならもうわかってると思うけどな。ぼっち、気づいたか?」

 

ぼっち

「………ふむ、俺が気づいていなくてお前が気づいていることがあるわけか。簡潔に説明を頼む。」

 

キリト

「わかった。あの料理人はNPCじゃない……プレイヤーだ。」

 

ぼっち

「ほう?やるじゃないか。その事は俺も知らなかった。」

 

キリト

「まぁ、俺はどうしてあのプレイヤーがNPCのフリをしてるかまでは分からなかったけどな……。」

 

ぼっち

「いや、それならお前のおかげで1つの仮説が完成した。」

 

キリト

「そうなのか?」

 

ぼっち

「それはなキリ坊………」

 


攻略し隊仮拠点で、声が上がる。

 

脚竜

「赤と青の化け物のしっぽを掴んだのか兄貴!」

 

ぼっち

「落ち着け愚弟、あくまで仮説だ。」

 

yun

「でもしっぽを掴めただけでも充分じゃないかしら?そもそも神出鬼没だったのが、その仮説が正しければほぼ確実に捕まえれるんだから。しかもそれがプレイヤーならなおのことよ。」

 

オクト

「ということは張り込みする場所ももう決まってるんですか?」

 

ぼっち

「あぁ、張り込み場所は……ロマーラだ。」

 

攻略し隊はロマーラにおいて張り込みを開始した。

張り込み時間は午後十時からだ。脚竜は眠そうにあくびをしている。

 

脚竜

「ふぁ……眠い……」

 

オクト

「大丈夫か、脚竜?」

 

ミホ

「オクト、アンタ眠くないの?」

 

オクト

「あはは、4時間睡眠なめんなよ。」

 

yun

「アンタそれはヤバいから。」

 

ぼっち

「おい、静かにしろ。」

 

ぼっちのその言葉に反応し、すぐに隠密モードに入るとロマーラから人がでてきた。

 

時雨

「んん?あそこNPCしか居ないんじゃなかったっけ?」

 

ぼっち

「いや、あそこの料理人はプレイヤーだ。キリ坊の洞察力でわかったことだ。どうりでカウンター席のみで厨房の天井が低いわけだ。」

 

ぼっち以外の全員がその事実に息を飲んだ。

 

yun

「散開して追いかける?」

 

ぼっち

「二人一組で散開して行くぞ。俺は愚弟と、yunはミホと、オクトは時雨の三グループだ。」

 

攻略し隊

「了解!」

 

シェフの後ろをぼっちと脚竜が追い始めた。

 

ぼっち

「ん?」

 

シェフがシステムウィンドウをいじり始めた。

すかさず兄弟は隠れる。

そして、シェフはよく分からないベルトのような装備を取りだし、腰に装着しこう言った。

 

シェフ

「さぁ、調理を始めようか。」

 

そう言うとシェフはいつの間にか手に持っていた何かを振り始めた。

シェフは、その持っていた二つの物をベルトにはめ込んだ。

ソルト!ペッパー!ベストマッチ!

奇妙な音声と共にリズムを取りやすい音楽が流れ始めた。

 

脚竜

「なんか、いい感じのリズムだなこれ!」

 

ぼっち

「静かにしてろ。」

 

レバーを掴み回し始め、4回転ほどさせて離した。

Are you ready?

 

シェフ

「変身。」

 

辛みのサマーソルト!

ソルトペッパー!イェーイ!

 

シェフ

「調理のレシピは決まった!」

 

シェフが噂の赤と青の化け物に変わったのを確認したぼっちが有無を言わさず先手を仕掛けた。

 

ぼっち

「秘技!十二王方牌大車併ッ!!」

 

シェフ(?)

「!!?」

 

さすがのシェフもあの技を見れば驚くだろうな。

しかし、シェフは冷静にミニぼっちを一体ずつ倒していった。

 

ぼっち

「ほう、アンタなかなかやるじゃないか。」

 

シェフ(?)

「………。」

 

ぼっち

「黙秘を決め込むのか?ロマーラシェフ……いや、プレイヤーネームでぐりん。」

 

でぐりん

「………参ったな、どこで俺のプレイヤーネームを知ったんだ?」

 

ぼっち

「親友が見つけてくれたもんでなぁ。そしてアンタが噂の赤と青の化け物だったわけだ。」

 

でぐりん

「ふむ……一体何者だあなたは?」

 

ぼっち

「通りすがりの便利屋だ、覚えておけ。あと敵が俺だけだと誰が言った?」

 

プレイヤーでぐりんはその言葉に疑問を持ったが、真横からの気配に気づきギリギリのところで飛来していた矢を回避した。

 

でぐりん

「チッ、2人か。」

 

すかさず脚竜が現れたが、でぐりんは動揺した。

なぜなら脚竜は脚竜自身の武器をしまっていたからだ。

 

ぼっち

「愚弟!何をしてる!みすみす見逃す気か!」

 

脚竜

「待ってくれ兄貴!俺はこのプレイヤーネームに見覚えがある!」

 

でぐりんも、ぼっちも同時に首を傾げた。

 

脚竜

「でぐりん、俺は脚蛇龍希だ!」

 

でぐりんはその言葉に仮面越しだが動揺したように見えたが、すぐに元に戻った。

 

でぐりん

「保証がない以上は確定とは言えまい。俺を捕らえる為の罠だろ?」

 

脚竜

「……なら、これで証明になるか?」

 

脚竜は赤と青の化け物を捕らえる為に用意していたフードを取った。

 

でぐりん

「………質問を三つしよう。1つ目、1層のチュートリアルの手鏡をもう使ったんだな?」

 

脚竜

「おう。」

 

でぐりん

「ならば二つ目だ。俺と出会った時君は何をしていた?」

 

脚竜

「小学校の廊下でかめはめ波の練習をしていた。」

 

ぼっち

「おい待て、放課後あの騒がしかったのはお前だったのか?」

 

でぐりん

「三つ目、芸術とは?」

 

脚竜

「爆発だ。」

 

ぼっち

「いや違うだろ。」

 

でぐりんはため息をついた後に腰のベルトに着いていた何かを抜き取った。

すると、赤と青の化け物は消え、そこにはロマーラのシェフことでぐりんというプレイヤーがいただけだった。

 

でぐりん

「一応本物だということにしておこう。」

 

脚竜

「ありがとな、でぐりん。」

 

ぼっち

「………ん?愚弟ちょっといいか?」

 

脚竜

「どした兄貴?」

 

ぼっち

「噂のでくりんってコイツなのか?」

 

脚竜

「そうだよ。俺の親友にしてリア友。」

 

でぐりん

「なるほど……ある程度状況は掴めた。初めまして脚竜のお兄さん。俺が噂のでぐりんです。」

 

ぼっちは驚愕した。噂だけを加味するともっと不健康そうなタイプだと思っていたからだ。

 

脚竜

「そうだ兄貴、みんなにこっち来るように伝えてよ。一応捕獲完了だって。」

 

ぼっち

「あ、あぁ……。」

 

そして、全員が集結したが口を揃えてこう言った。

 

シグレ

「知ってるよ、だって脚竜がよく一緒にいたもん。」

 

ミホ

「仲の良さは知ってたよ。」

 

オクト

「おぉー、しん……じゃないダメだ。でぐりんも来ていたんだな。」

 

yun

「ぶっちゃけ知らないのぼっちさんくらいなんじゃない?」

 

ぼっち

「え、何?知らないの俺だけ?俺だけ知らないの?」

 

でぐりん

「ふむ、まさか脚竜が言っていた彼等に直接会えるとは驚いた。しかもそれが今日の昼に来ていた客だったとはね。」

 

ぼっちを除け者にワイワイとでぐりんと同期である6人が談笑している。

 

ぼっち

「………マジか。」

 

脚竜

「なぁ、でぐりん!俺たちと一緒に来ないか?」

 

でぐりん

「君達と?」

 

シグレ

「うん!どうせなら攻略し隊においでよ!一緒に行こう!」

 

でぐりん

「悪いがそれは出来ない。」

 

でぐりんは即答で返事をした。

 

脚竜

「ええ!?なんでだよぉ!」

 

でぐりん

「悪いが俺は料理人だ。前線プレイヤーでは無い。そもそも俺は前線に入り攻略する気はない。理由はそれだけだ。」

 

でぐりんはそうだと一言呟いて言った。

 

「正体がバレた以上はNPCのフリは辞めるからプレイヤーであるという情報は流してもらって構わない。ただ、今後勧誘をメインに声をかけるのならば食材の調達の邪魔になるからこれ以上は関わらないでくれ。じゃあな。」

 

でぐりんはそれだけを言うと踵を返して立ち去った。

 

ミホ

「……なーんか感じ悪いわね。」

 

脚竜

「でぐりん……。」

 

オクト

「まぁ、しん……でぐりんは昔からあんな感じだしね。」

 

ぼっち

「……まぁ無理に誘う理由はない。とりあえず結果を報告に行くぞ。」

 

yun

「ほーい。」


ルイーダの酒場にて状況を説明したら、ルイーダはすんなり納得してくれた。

 

ルイーダ

「なるほど、それでNPCのフリをしていたって事ね。」

 

ハイウェイスター

「全く人騒がせなやつだぜホントに……。」

 

yun

「そういうアンタら3人もねー。」

 

ハイウェイスター

「うぐ……。」

 

ルイーダ

「……わかったわ。彼が赤と青の化け物であったことについてはぼっちくんの要望を元に内密にしておきましょ。」

 

脚竜

「えぇ!?」

 

ぼっち

「当然だろう、あの戦闘力がバレればALSとDKBの取り合いになりかねん。そうなるのをでぐりん自身が嫌がってるのも何となく分かったからな。」

 

そして、その翌日からあのロマーラのシェフがプレイヤーであるということは、すぐに広まった。

が、客足が衰えることはなく、むしろ繁盛しているようだった。

そんな中、攻略し隊リーダーぼっちは1層のルイーダの酒場で情報を集めていた。

 

ぼっち

(……少しでも可能性の芽は潰しておきたいな。)

 

ぼっちは1層でのあの出来事以来かなり慎重になっていた。想定外の攻撃。あの時、一瞬の判断が遅れていたら間違いなくディアベルは死んでいたはずだ。そうなればかなり絶望的な状況になっていたはずだ。

結果的にはぼっちとキリトがビーターとしてヘイトを集めたがそれでも……

 

ぼっち

「ALSとDKBが納得いくかだよな……。」

 

ディアベルを筆頭とするDKBならある程度なら問題は無いが、やはりキバオウを筆頭としたALSへの協力は厳しいだろう……。

 

ルイーダ

「考え事なんて珍しいわね、ぼっちくん。」

 

ぼっち

「……まぁ、そうですね。ルイーダさん。」

 

やはり、ルイーダさんは人の目をよく見ている。

 

ルイーダ

「とりあえず、やれることをやりましょ。今はそういうちょっとした息抜きも大切だと私は思うなぁ。」

 

ぼっち

「……ルイーダさんにはかないませんねホントに。」

 

ぼっちはため息混じりにルイーダが出してくれた紅茶を飲み干した。

 

ぼっち

「では、行ってきます。」

 

ぼっちはルイーダの酒場を背に己のギルドハウスへと歩み始めた。

 

ぼっち

(そういえばそうだったな。どんな事があっても歩みを止めたらいけない。俺が常に先導し先へ先へと進まなくちゃいけない。過去の俺のせいで死んだ時のようにはさせん。)

 


 

ぼっちが立ち去った後に鎌を持った女性プレイヤーが椅子に腰をかける。

 

ルイーダ

「いらっしゃい。何にする?」

 

???

「とりあえず、コーヒーで。」

 

ルイーダ

「OK。」

 

 

ルイーダ

「友達の心配かしら、ゲーマーさん?いや、リアルでは噂になってたゲーマーのミトの方が正しいかしら?」

 

ミト

「……。」

 

ルイーダ

「まぁ私、貴方と戦ったこともあるしね。」

 

ミト

「どんなゲームで?」

 

ルイーダ

「ガンダムEXVSかな。」

 

ミト

「へぇ……。」

 

ルイーダ

「まぁ、その時私はマリーダ・クルスの名前を使ってたしね。」

 

ミト

「あの時のクシャトリヤ使い?」

 

ルイーダ

「まぁ、これ以上リアルの話はなしにしましょ。まぁ私から話題を吹っ掛けたんだけどね……。」

 

ミト

「あはは……まぁ、情報を知りたいからここに来たって感じかな。」

 

ルイーダ

「何が聞きたいのかしら?」

 

ミト

「赤と青の化け物の行方について。」

 

ルイーダ

「……一応秘匿にするように言われてるけど、あなたの目的次第ね。」

 

ミト

「……知ってもらうことがあるから。」

 

ルイーダ

「……理由としてはいまいちね。だけどヒントはあげる。第6層にその赤と青の化け物はいるわ。」

 

ミト

「ありがとう。」

 

そう言ってミトが立ち上がろうとした時、後ろにいた2人組にぶつかった。

 

ミト

「あ、ごめんなさい。」

 

???

「すみません、私達も前を見ていなかったので。」

 

???

「……ん?」

 

そのままミトが立ち去ろうとした時、2人組のレイピア使いの片割れに手を掴まれた。

 

ミト

「ちょ、何?!」

 

???

「もしかして、兎沢深澄さん?」

 

ミト

「え……、なんで……。」

 

そこまで口にしてミトは自分のリアルの名前を言う寸前だったことに気づいた。

 

???

「ヴァニラ、どうしたの?」

 

ヴァニラと言われたプレイヤーを見ると、思い出したことがあった。だけどもし、このヴァニラというプレイヤーがミトの知り合いなら、彼女は病院で療養中のはずだ。

 

ミト

「嘘……、なんで、和奈さんが……。」

 

ヴァニラ

「うん、僕もびっくりだよ。まさか同じ学校の人に会えるとは思わなかったし。」

 

???

「え、兎沢さんなの!?」

 

ヴァニラ(和奈)

「そうだよ、プッチ。」

 

ミト

「……光里さんまで。」

 

プッチ(光里)

「うわぁ〜奇跡的だね!えっと……ミトさん?」

 

ミト

「でも、2人とも病院で療養中だって……。」

 

ヴァニラ

「そうなんだけどねぇ。」

 

そう言ってヴァニラはプッチに目配せをする。

 

プッチ

「ヴァニラ?」

 

ヴァニラ

「……単純にこのゲームをやってみたいと思ったからさ。」

 

ミト

「……?」

 

ヴァニラが間を開けたことに少々違和感を覚えたがその疑問を思考する前にプッチが喋りだした。

 

プッチ

「そうだ、ミト……さん?」

 

ミト

「ミトでいいわ。どうしたの?」

 

プッチ

「ショウゴってプレイヤーを探してるんだけどもしかして知らないかな?」

 

ミト

「フレンドの検索とかで調べて名前が出ないなら居ないんじゃないのかな?」

 

ヴァニラ

「うーん、やっぱりそう簡単にはいかないかぁ。」

 

ミト

「………どうしてそんなにそのショウゴってプレイヤーに執着してるの?」

 

ミトは脳裏に過った単純な疑問をヴァニラとプッチの2人にぶつけてみた。

すると、プッチは顔を真っ赤にしてしゃがみぶつぶつと素数を数え始めた。

 

ヴァニラ

「あはは……プッチの一目惚れってやつ?」

 

ミトは呆れたと言わんばかりにため息をついた。

 

ミト

「要はプッチは千載一遇のチャンスを逃したってわけね。」

 

プッチ

「……うみゅ。」

 

ミト

「ねぇ、そのショウゴってプレイヤーの特徴を教えてくれる?私これでも攻略組の前線に立ってるからもし、そのショウゴってプレイヤーが攻略組なら会えるかもしれないから。」

 

瞬間、プッチの目が輝いた。

 

プッチ

「いいの、ミト!!?」

 

ミト

「え、えぇ、いいけど……。」

 

ヴァニラ

「うん、僕からも頼んでいいかい?」

 

ミト

「ええ、大丈夫よ。それで、特徴は?」

 

プッチ

「まずは容姿端麗で頭脳明晰、読書家で嫌なことははっきりと嫌って言ってやりたくないことは絶対にしないような心も体もイケメ………ちょっとヴァニラ何するの!!」

 

ヴァニラ

「はいはい、ヴァニラが言い始めると日が暮れるから僕が説明するね。簡単に言えば目つきは悪くて口も悪いけど、人のことを考えて動ける紳士かな?」

 

ミト

「……わかった、暇があれば探してみるわ。その前に……せっかくだからご飯でも食べに行かない?二人のことも知りたいし。」

 


 

夜、モンスターの動きは活発になり、強力なMOBも出現するようになる。

でぐりんは食材調達のために敵を屠り続けていた。

 

Lady Go!ボルテックフィニッシュ!

 

でぐりん

「……命なんて安いものだ。特に、俺のは……。」

 

でぐりんは引き続き敵を屠り始める。

明日の死にゆくプレイヤー達ために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぼっち
「行くぞ野郎共!」

ミホ
「強い………。」

キバオウ
「な、なんや、そないな攻撃あるなんて聞いてないで!」

脚竜
「あぁ、詰んだな……」

オクト
「脚竜ゥゥゥッ!!」

ミト
「……本当にそれでいいのなら構わないけど、少しは考えた方がいいんじゃない?」

でぐりん
「………俺は。」

ソードアート・オンライン:GM
第二十四話〜でぐりんシェフ〜

でぐりん
「さぁ、調理を始めようか!」


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第二十四話〜でぐりんシェフ〜

パンドラ
「ごきげんよう皆様、パンドラでございます。前回でぐりん様の正体があの力だったとは……。そして、動き始めた歯車は少しずつ噛み合い同調し、大いなる力になるでしょう。
ふむ、予定よりも少し早いですが、先手を打ちましょうかね……。
あぁ、こちらの話です。
それでは皆さん、どうぞお楽しみください。」

どうも皆さん、作者のWandarelです。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
SAOの映画を見たり、仮面ライダーの映画を見たり色々ありましたがようやく投稿出来ました。
感想や評価は私のモチベーションに繋がるのでどうかよろしくお願いします!



第6層フロアボスの攻略会議は順調に進んでいた。

ぼっちとして想定外だったことはALSリーダーのキバオウに攻略し隊のギルドに直接、攻略会議に来るように言いに来たことだった。

ぶっちゃけビーターである以上あまり関わりを持つのは危険と思っていたが。

今はビーターという肩書きがある以上あまり派手には動かないようにして情報だけを聞き取ろうとしていた。

 

ディアベル

「以上が、今回のフロアボスに関する情報だ。なにか意見がある人はいるかい?」

 

ディアベルのその問いかけに、キバオウが手を上げた。

 

ディアベル

「キバオウさん、どうぞ。」

 

キバオウ

「……単刀直入に言わせてもらうわ。今回のボス、想定外のことがあるとしたらどんなパターンがあるんや、ビーター。 」

 

……名指しをされたのなら仕方ない。

どうやらキバオウは俺もしくはキリトのようなベータテストで先行していたゲーマーとして、1層でのあの出来事を起こさせないためにゲーマーとしての知識を信じて聞いてきたんだろう。

ならば、悪役らしいセリフと共に答えるのがビーターだ。

 

ぼっち

「ふ、その程度のことも俺に聞かないと分からないとはな……。奴は獣タイプだ。キメラのように翼を持っているが、空中からの飛び込み攻撃に使うための飾りに過ぎん。想定外のことが万が一あるとすれば形態変化による攻撃パターンの変化だ。あの手のボスは形態変化したりして攻撃パターンがガラリと変わる。このくらい知っておけアホどもが。」

 

嫌悪の視線を感じたがこの程度で怯むほどぼっちは弱くない。

これくらい言って対抗心を燃やさせれば多少は強くなろうとするだろう。

 

ディアベル

「それじゃ、DKB、ALS、ASSの三部隊で今回のボスに挑もうと思う!明日の朝9時にフロアボスダンジョン付近に集合するように!解散!」

 

その言葉と共に散り散りに人が去っていった。

先程のASSとはアインクラッド攻略し隊の略称らしい。

少数精鋭のため、意見が通ることは滅多にないが……。

 

ぼっち

(やれることはやっておくか。)

 


 

店の入口の扉が開く。

 

でぐりん

「いらっしゃいませ。」

 

そこにいたのは少々紫かかったそこそこ有名な女性プレイヤーだった。

 

でぐりん

「ご注文は?」

 

ミト

「そうね……カキフライ定食でも頼もうかしら。」

 

ミトはカウンター席に座り、待っているとでぐりんが手際よく作り上げたカキフライ定食をもってきた。

 

ミト

「いただきます。」

 

ミトもまた1口入れただけでもとろけるほどの美味しさだった。

 

ミト

「おいしい……久しぶりね、こんなに美味しい物食べたのは。」

 

でぐりん

「気に入ってくれて光栄です。」

 

でぐりんはいつものように私情を挟まず淡々と料理人であり続けた。

が、今回は少々特殊な客だったのはでぐりんにとって想定外だった。

 

ミト

「……ASSの「チワワ」があなたの事をずっと心配そうにしてたけどなにかしたの?」

 

でぐりんは皿を洗う手を止めてしまった。

が、再び皿洗いを始めながらこう言い返した。

 

でぐりん

「特に何も。」

 

ミト

「……アンタはそれでいいの?」

 

でぐりん

「あぁ、構わない。俺は料理人であって前線を戦えるプレイヤーじゃない。だからせめて死にゆくであろう前線の連中にうまい料理を振る舞うことしか出来ん。」

 

ミト

「……後で後悔するよ、その考え方。私も理由は違えど同じようなことをしたことあるから。」

 

ミトはごちそうさまといって料金を支払い、店をあとにした。

 

でぐりん

(……俺が、龍希と肩を並べる資格なんてない。)

 

でぐりんは手元のベルトを見た。

でぐりんの脳裏に映ったひとつの未来。

 

脚竜の名で戦う親友。

それがポリゴンとなって砕ける未来。

力があれば助けれたであろう未来。

それを変えうる力は手元にある。

だが……。

 

でぐりん

「俺に……そんな資格はないんだっ!!」

 


フロアボスダンジョンのモンスターを侮ってはいけない。

どれだけレベル差があっても、多数に囲まれたらそうそうには動けない。

だからこそ、最善の注意を払って戦う。

だが、フロアボスのために温存もしておかなくてはならないので、無駄な消費は少なめに。

だが、少数精鋭のASSにとってはそんなことはあまり関係なかった。

 

ぼっち

「今回もフロアダンジョンのモブ共はちょろかったな。」

 

yun

「油断してると足すくわれますよー。」

 

ぼっち

「平気だ、コケてもただではこけん。」

 

オクト

「うん、ぼっちさんらしいですね。」

 

ぼっち

「オクト、後でノルマ増加な。」

 

オクト

「んな理不尽な。」

 

こんなやり取りを戦闘中に繰り広げるくらいだ。

だが、俺はやはりひとつ、心配事があった。

 

脚竜

(でぐりん、大丈夫かな。)

 

脚竜はでぐりんの事がやはり頭から離れなかった。

1人の親友として、優しすぎる龍にとっては放っておけなかった。

そんな状況で脚竜はモブの攻撃をモロに食らった。

 

脚竜

「ぐっ……!!」

 

大きく怯んで壁に叩きつけられ、その隙を逃さぬように襲われそうになった。

が、シグレの斬撃でなんとか事なきを得た。

 

シグレ

「大丈夫、脚竜!?」

 

脚竜

「おう、大丈夫大丈夫!」

 

ぼっち

「………愚弟、でぐりんのことが気になるのはわかるが今は戦場だ。ぼーっとするな。」

 

脚竜

「悪い、兄貴。」

 

脚竜はそういうとすぐに弓を持ち直した。

そうこうしてるうちに、フロアボス部屋の前までたどり着いた。

3ギルドの派閥のリーダーが扉を開くと同時に叫ぶ。

 

ディアベル

「DKB!行くぞ!」

 

ディアベルの掛け声とともにDKBは雄叫びをあげる。

 

キバオウ

「ALS!DKBとASSに遅れんなよ!」

 

キバオウの掛け声に咆哮するALS。

 

ぼっち

「野郎共、出番だ。派手に行くぞ!」

 

攻略し隊一同

「おうっ!!」

 

攻略し隊もまた、少人数ながらも他の攻略組に負けないほどの気迫で同時に入った。

第六層フロアボス

「ピアーズ・ザ・ローグ・マンティコア」は雄々しい雄叫びをあげた。

 

ぼっち

「愚弟、狙撃体勢!」

 

脚竜

「OK!」

 

ぼっち

「盾、ヘイト管理!」

 

オクト

「ラジャー!」

 

ぼっち

「yun、ミホはタイミングを見てアタッカーとオクトの補助の兼任!」

 

yun

「うーい。」

 

ミホ

「はいはーい!」

 

ぼっち

「シグレ、ついてこれるな?」

 

シグレ

「もっちろん!」

 

ぼっち

「各位、散開!どこにもLAを取らせるなよ!」

 

攻略し隊

「了解!」

 

この間、わずか5秒。

攻略し隊の連携練度は大きく上がっていた。

攻略し隊には文字通り隙がない。

一層のコボルトロードのような取り巻きもいないため、集中はしやすい。

武器も推定二十数名はいるであろうALSとDKBほど優れたものでは無いのにたった6人で引けを取らない程の戦力を持つのはやはり、総司令ぼっちのセンスと副司令シグレの状況把握能力によるものだろう。

弓による雨の如き連撃を放つアーチャー。

短剣による華麗な一撃を放つリッパー。

盾と片手棍による全てを守るガードナー。

細剣と回復スキルによる援護にて活躍するフェンサー。

状況を把握しいち早く行動を起こすセイバー。

前線にいながらも全てを見抜くコマンダー。

全ては各々の判断で最大限に動けるようにしているからである。

そして、ALSやDKBもまた、ビーターと呼ばれている男2人に負けまいと必死に戦っている。

最初の時のようなALSとDKB同士で揉め合って統率も何も無い戦い方を変えたのは紛れもなくキリトとぼっちだろう。

そして、ALS、DKB共に優れたリーダーがいるからこそか、着実に攻略へ向かっていけた。

今もこうして既にボスのHPも半分以下になってきた。

順調だ。何もかもが。

アルゴの攻略本も大きく役立ってるのもあるが、アスナ、キリトと同じく、あぶれてはいるものの凄まじい動きで敵を葬り、ボスにも着実にダメージを与えている紫髪のミトとかいう奴のおかげでもある。

 

ぼっち

「……アンタ、キリ坊やアスナと同じくらいに強いな。」

 

ミト

「ありがと。でも今は私を口説いてる場合じゃないでしょ?」

 

ぼっち

「それもそうだ……なっ!!」

 

ぼっちが十二王方牌大車併を放ち、ボスを怯ませた。

ゲージも残り二本に入った。

 

脚竜

「喰らえ!」

 

脚竜が適正距離から弓スキル「サジッタレイン」を放ち大打撃を与えた直後だった。

ピアーズ・ザ・ローグ・マンティコアは咆哮をあげ、形態を少しだけ変えた。

 

ぼっち

(ベータ時代と比べたら形態変化が早いな。)

 

ぼっち

「各位!警戒態勢を………」

 

ここまで言った時、ぼっちは異常を感じた。

ピアーズ・ザ・ローグ・マンティコアは未だに咆哮をあげている。まるで、何かを待ってるかのように……。

ぼっちは記憶の片隅にあった「それ」を思い出した。

慌てて辺りを見渡した。

「それ」の予兆はプレイヤーの足元だ。

だが、見た限り自分も含め誰もいないように見えた……。

近くにいた肉親を除いては。

 

脚竜

「兄貴!なんか変じゃないか!?」

 

ぼっち

「愚弟、今すぐ避け……」

 

直後、脚竜は大きく吹き飛ばされた。

なんの予兆も……いや、正確には予兆はあった。

だが、ぼっちも気づくのが遅れた。

 

キバオウ

「な、なんや!?なんでチワワが吹っ飛ばされたんや!!?」

 

ディアベル

「……ありえない。」

 

ミト

「……なんで、コイツが持ってるの……。フォーカス攻撃を……」

 

キバオウ

「なんやそれ……そないな攻撃あるの聞いとらんで!」

 

アスナ

「フォーカス攻撃ってなんなの?!」

 

キリト

「プレイヤーの足元にターゲットサークルが出てきて、青になったタイミングで回避すれば回避できるフロアボスモンスター限定スキルだ……。制限時間内に特定のアクションをしないと大ダメージを受ける必中攻撃だっ!!」

 

吹っ飛ばされた脚竜に攻撃が集中し、今度は直接攻撃されて吹っ飛ばされた。

脚竜のHPが大きく削れ、レッドラインに入った。

次に一撃を喰らえば間違いなく脚竜は死ぬ。

だが、誰もこの不測の事態に対応出来ず、ぼっちやyun、キリトですらも判断が遅れた。

そして、脚竜もまたスタンがかかり身動きが取れなくなっていた。

 

脚竜

「やべぇ……このままじゃ……。」

 

必死に動こうともがくが、無意味だ。

迫り来るピアーズ・ザ・ローグ・マンティコア。

もうこの距離では誰も届かない。

 

脚竜

「あぁ、詰んだな……」

 

オクト

「脚竜ぅぅぅぅ!!」

 

誰もが悲惨な終わりを迎えると思っていた時だった。

ピアーズ・ザ・ローグ・マンティコアが突然吼えた。

脚竜が目を開けると、ピアーズ・ザ・ローグ・マンティコアの目の部分に1本の両手槍が刺さっていた。

そして、声が聞こえた。

 

???

「ALS、DKB!ぼーっとしてる暇はない。攻撃態勢へ!フォーカス攻撃のモーションも今ので把握出来たはずだ!」

 

 

突然のプレイヤーからの声に戸惑いながらも、ALSとDKBは素早く動いた。

体勢を立て直し、再びピアーズ・ザ・ローグ・マンティコアとの戦闘を始める。

フォーカス攻撃のモーションとターゲットを取られた時の対処法がわかった以上、彼らの敵ではない。

 

脚竜

「……待ってたぜ、でくりん。」

 

でくりん

「待たせたな、脚竜。立てるか?」

 

脚竜

「おうよ。」

 

脚竜はでくりんから差し伸べられた手を取った。

 

でぐりん

「さて、勝つためにもこの力を使わせてもらうか。」

 

でぐりんはそう言うとベルトを装着して、2つのボトル状のアイテムを取り出した。

そして、ボトルのアイテムを振り、差し込んだ。

 

ソルト!ペッパー!ベストマッチ!

 

ほのかに香る塩と胡椒の匂い。

戦いの場には相応しくない匂い。

だが、今この戦いの場を彩ることになるのは、間違いないでぐりんだけだろう。

レバーを回し、待機に入る。

 

Are you ready?

 

でくりん

「変身!」

 

辛みのサマーソルト!

ソルトペッパー!イェーイ!

 

でぐりんの変身を間近で見たALSとDKBは動揺を隠せなかった。

 

キバオウ

「な、なんや……それは!?」

 

でぐりん

「この力は仮面ライダーというものだ。

仮面ライダービルド。

創る、創造するのビルドだ。以後よろしく。」

 

でぐりんは一息ついてこういった。

 

でぐりん

「さぁ、調理を始めようか。」

 

脚竜

「でぐりん、援護するぜ!」

 

でぐりん

「一応信用しておこう!」

 

でぐりんの放つ一撃は凄まじいものだった。

あのフロアボスのHPをかなり削れている。

 

シグレ

「す、すっごい!」

 

ぼっち

「あれが…仮面ライダーか。」

 

だが、それ以上にでぐりんと脚竜の連携が常軌を逸していた。

お互いが全力を尽くして、お互いが自然体でしっかりとカバーしあえている。

そして、フロアボスのHPも残りわずかとなった。

 

脚竜

「でぐりん!決めろよ!」

 

でぐりん

「当然だ。」

 

ビルドがレバーを回す。

Lady Go!!

ボルテックフィニッシュ!

 

奇妙な形をしたグラフのようなものにピアーズ・ザ・ローグ・マンティコアが挟み込まれ、その真ん中を貫くように、グラフに沿ってビルドがキックを入れた。

体感だが、かなり凄まじい威力だったと思う。

でぐりんがかなり綺麗な体勢で着陸し、でぐりんの頭上にMVPのマークが出た。

それと同時にでぐりんは変身を解除した。

 

キバオウ

「なんや、あの圧倒的な強さ……。」

 

ディアベル

「……君、もしかしてロマーラのシェフかい?」

 

でぐりん

「その通り、ロマーラシェフのでぐりん。ただの料理人だ。」

 

脚竜

「んじゃ、でぐりんも攻略に参加すんのか?」

 

ぼっち

「悪いが攻略し隊は空きがないな。」

 

ディアベル

「DKBとしても、戦力は十分にある。」

 

キバオウ

「ほんならウチのギルド来てもええで。なんせ人手不足というよりかは料理人不足や。」

 

でぐりん

「いや、俺ははなからASSに所属するつもりだ。」

 

ぼっち

「さっきも言っただろう。枠はもうないぞ。しかもロマーラのメシが割引になるわけでもあるまい。」

 

ぼっちがそう言うとでぐりんは残念そうにこう言った。

 

でぐりん

「それはそれは……ASSに入ればロマーラの料理を毎日のように食べれるのに。残念残念。仕方ない、ALSに入ろうかな。」

 

キバオウ

「おう、歓迎するで!」

 

ぼっち

「悪いなキバオウ、でぐりんはもうウチの所属だ。手を出さないでもらおうか。」

 

キバオウ

「はぁ!?さっき枠無い言いよったやろ!」

 

ぼっち

「気が変わった。だから手を引けいがぐり。」

 

キバオウ

「なんでや!!ていうか誰がいがぐりや!!」

 

yun

「マジか、あの一人頭四千円弱の飯タダかよ。」

 

でぐりん

「食材さえ提供してくれたらな。」

 

ミホ

「ねぇ!ドーナツ作れる!!?」

 

でぐりん

「無論だ。」

 

ミホ

「わーい!!」

 

脚竜

「……でぐりん、改めてよろしくな!」

 

脚竜が手を差し出す。

でぐりんの答えはひとつだ。

 

でぐりん

「あぁ、死ぬほどうまい料理食わせてやる。」

 

こうして、仮面ライダーの力と共に第6層を突破した。

当然、その仮面ライダーがASSに所属したことも告げられた。

突然だったが、でぐりんがそれを望んだ。

そして、攻略し隊ギルドに香ばしい匂いが……。

 

でぐりん

「勝利の晩餐セットだ。」

 

脚竜

「おっふぉ!コロッケ!コロッケだ!」

 

ぼっち

「ふむ、ビーフシチューか。」

 

yun

「おー、美味そう。」

 

オクト

「ほ、ホントにタダなのか!?」

 

でぐりん

「当然だ。ギルメンから金を取る理由はないだろう?」

 

シグレ

「でもでぐりん、お店の方もたたんじゃうの?」

 

でぐりん

「あぁ、値段改定をして新しく料理屋を始めようと思う。」

 

脚竜

「まぁ客引きは必要ないな!」

 

でぐりん

「何故だ?」

 

脚竜はでぐりんのその反応に弓を構えて答えた。

 

脚竜

「顔がかっこいいから女子集まるでしょ?」

 

でぐりんは困惑した。

 

yun

「はいはい落ち着きなさい。」

 

ぼっち

「いいからさっさと食うぞ。」

 

攻略し隊一同

「いただきます!」

 

攻略し隊に、料理人でぐりんが加わった。

 


 

????

「仮面ライダービルドか……。予定通り成長を続けてるようで何よりだ。この調子で頼むぜ、でぐりん。」

 


 

????

「時は来た……。ここから未来は動き出す。災厄の未来を変える為に、私も待つとしよう。この雪山で……。」

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぼっち
「脚竜、お前ならあるいは。」

オクト
「クソっ!動け!動けよ!」

yun
「あんたに出来ることをやればそれでいいんじゃない?」

脚竜
「また、俺は………」

???
「戦え……戦え……」

脚竜
「うおぉぉぉぉッ!!」

次回
SAOGM第二十五話〜イレギュラー:シューター〜

キリト
「どうして、それが使えるんだ脚竜……。」


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