雷切のライバルは幼馴染です。 (かなりかならま)
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才能主義

評価というのは決まって”される”ものだ。まだまだ自分は出来ると思い込んでいても関係は無い。特に戦士に対してのそれは情や贔屓などは一切存在せず、単純明快なランクや序列で評価される。魔導騎士の彼等にとっても例外では無い。でも、一つ言えることはランクや序列は決して絶対的ではなく多数的なものの域を出ないということだろう。

 

 

「アオ君。そろそろ起きないと一時限目に間に合わないよ!」

 

「いや……まだ大丈夫だって……」

 

朝、俺は目を半開きにしながら俺を起こす為に肩を揺らし、焦りを含んだその声の主から顔を背けた。しかし、俺はゾクリとライオンに睨まれたかのような悪寒を感じる事となる。

 

「いい加減にせんかいッ!何時まで寝とっと!?」

 

「うわっ!?」

 

そんな俺を見て遂に堪忍袋の緒が切れたのか、急に怒鳴り声を上げられビックリして反射的に飛び起きてしまった。耳を押さえるがまだジンジンとしている。びっくりしたな、たまったもんじゃない。

 

「きゃっ!?」

 

それと同時の出来事だ。ドサッ……と少し鈍い音がしたと同時に俺が横を振り向くと怒鳴り声を上げた本人が何といないではないか。いや、これはもしかして

 

「大丈夫か?」

 

あぁ、やっぱりか……と、俺が二段ベッドから顔を出して下を覗き込むと底には仰向けになりながら頭を抑え、目には涙を浮かべながら悶絶している一人の少女が。全く、相変わらずのドジッ子っぷりだよ。きっと二段ベッドの階段から足を滑らせたのだろう。可愛らしく涙目になりながら腰を手でさすっている。

 

「イタタ……もう!アオ君ったら急に起き上がらんといて!ビックリするばい……」

 

「ご、ごめん。大丈夫か刀華……?」

 

「早く……こっち来て朝ご飯食べて」

 

「えっ……作ってくれたのか?」

 

「うん、冷めないうちに食べてよ?」

 

そう言ってこっちへ来いと手で招く刀華。全く、お母さんかよ……正直に言って朝ご飯まで作ってくれるなんて驚いた。物凄くありがたい。今までの寮生活はたまに朝は牛乳だけとか普通にやっていたからな……しかし、俺は再びベッドへと寝転んだ。

 

「どうしてまた寝ようとしとると!?」

 

だって、下着が丸見えなんだから仕方がないだろう。俺が弄っても殴られそうだし。そもそもだ、これをツッコむのは泡沫の仕事だしな……

 

 

 

 

「お、美味しい……」

 

「そうでしょそうでしょ!」

 

味噌汁をすする俺を見てニコニコと笑っている。黄色い髪に丸メガネが特徴のこの俺たちが通う破軍学園生徒会長東堂刀華は何故か昨日から急に同じ部屋で寮生活を送ることとなったのだ。高校生が男女で同じ部屋?と俺は首を傾げたんだが、これが今年から新しく赴任した理事長先生の方針なんだと。どんな方針かは詳しく知らないけど。

 

「それにしても……刀華がルームメイトで良かった」

 

「え」

 

俺はふと思ったそう言って、茶碗を置いて一息をついた。だってそうだろう。もしこれが知らない女子とルームメイトになってしまって、ココからこっち私の陣地ね。とか言われるの面倒くさいし傷つくし。

 

では、刀華とは知り合いなの?と聞かれればその通りで小さい頃からの仲である。少し踏み込めば俺、風間 葵と刀華は同じ孤児院出身であるのだ。所謂幼馴染というやつなのかもしれない。だから少しはいい意味で気を使わないで寮生活を送れるだろう。

 

「わ…わわ私も……」

 

「ん……?」

 

そんな回想を俺がしていたら、刀華は俯き、何やらモジモジとしながら小さい声でなにかボソボソとつぶやいている。反射で俺は聞き返してしまった。

 

「私もそう思う……」

 

「そ、そうかありがとう」

 

いやいや……恥ずかしっ……!俺はそんな臭い台詞見たいな感じで言ったわけじゃないのだが、何でこんな変な雰囲気になってるんだろうか?俺は刀華も笑って”えー、アオ君とは面倒くさいよ”くらいの冗談で返してくれるとばかり思っていたからとてもビックリする。俺はなんか少し気恥ずかしくなってそっぽを向いた。

 

「は…話は変わるけど、起こしてくれたのはありがたいんだけど、時間はまだ結構余裕あるよね?」

 

そう、怒鳴ってまで俺を起こしたのに時計の針は授業開始まであと180度程余裕があるのだ。別にもうちょっと寝かしてくれてもいいのに。

 

「だって、朝ご飯もしっかり食べなきゃいけないし授業開始10分前には着かないと支度とかも含めて間に合わないでしょ?」

 

ペラペラペラペラと人差し指を立てながら喋る刀華からは優等生のオーラがひしひしと伝わってくる。やっぱり流石は生徒会長だ。そして流石は……

 

「流石、七星剣舞祭ベスト4」

 

俺が軽くこの言葉を発した瞬間、部屋の温度が上昇した様な感覚に陥った。

 

「そんな事ないよ」

 

「いやいや、凄いって!」

 

「私は、ただ孤児院の皆んなに希望を与えたくて。そんな想いが力になったのかな」

 

「そうか……あぁ!俺も、出てみたいな!」

 

「……!その時は私は負けないよ!絶対に勝つ!」

 

「まあ、それは無理なんだけどな」

 

「いやいや!私が勝つ!」

 

「……そういう事じゃない」

 

「えっ……」

 

興奮気味に話していた刀華も眉をしかめてピタリと静止する。

 

「俺は……七星剣舞祭に出れないし」

 

時が止まった様な気がした。俺はこの一瞬、ヒヤリとした。なんか、コレだけは言ってはいけない気がしたのだ。たった今、会話の弾みで出たたった一言で、自分の大切な何かを全て捨ててしまった様なそんな気がしてならなかったのだ。

 

「なんか、変わったねアオ君……」

 

ーー俺はいつから変わってしまったのだろうか。

 

刀華は何か悲しそうな顔をしながらこちらを見つめていた。しかし、俺は真っ直ぐ彼女の目を見れなかった。

 

「そうかな?昔と変わらないよ」

 

「昔はもっと、何というか……こう……

 

「ん?」

 

「熱かった……!!!」

 

「……」

 

重たい空気が流れていた。刀華はぐいっと俺に顔を近づけそう言った。しかし、俺は何も言うことが出来なかったのだ。

 

だってーー、図星だったから。

 

そのあと刀華は口を押さえてただ一言ごめんと俺に言った。別に刀華が悪い訳じゃない、彼女は生粋に騎士でプライドあり気高い。ただそれだけの事だった。

 

俺が言った通り、刀華は絶対に七星剣舞祭で俺に勝つ事は出来ない。しかし、俺が発したその言葉は刀華への挑発でも挑戦状でもない。俺はEランクの平凡騎士だからだ。そもそも俺みたいなステータスの奴は、この才能主義の世の中で七星剣舞祭の代表枠に入れない。しかし、ついこのことを声に出して刀華に気を使わせてしまったのは失敗だった。

 

「いやいや!こんな雰囲気にするつもりじゃ無かったんだ!そもそも、俺たちを構築しているのは真面目に勉強やトレーニングをしている普段の日常だ。結果よりもそういう過程が大事なんだよ」

 

「……」

 

「それに……強さや結果に囚われて自分を追い詰める生き方は勿体無いだろ。皆んな何のために戦うのかは”自由”さ」

 

「……そう、なのかな?」

 

「俺の話だよ。言っただろ人それぞれ”自由”なんだ」

 

そこには時計の針が進む音が静かに響いていた。

 

 

 

 

「フッ……!フッ……!」

 

その日の夜も何時も様に俺は剣を振る。でもその時、何時もよりか力が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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激白の夜

ーー才能

 

それは、この破軍学園に入学してすぐに序列として評価された。俺の幼馴染である刀華はなんと主席入学だった。入学式に代表の言葉を述べる彼女を俺は静かに見つめていた。

 

『すげ』

 

成績優秀、容姿端麗。刀華は注目の的だった。でも、それこそ昔は俺も刀華に負けまいと必死になって剣を振ったし、俺の中の熱い何かがそれをやめさせなかった。ガキの頃は何だかんだなんでも出来る気がしていたんだ。でも高校に入ってから段々とではあるが俺と刀華には距離が生まれていた事は確かであり、俺はそれをしっかりと感じていた。

 

さらに衝撃なのは、刀華はあの南郷寅次郎に剣を教えてもらっていたと知った時である。正直に言うと悔しかった。頭を下げて稽古を見学させてもらった事もあった。段々と力をつけていく刀華を見て彼女との距離が開いていく様な気がした。

 

『フ……ッ!』

 

でも、俺の熱は冷めなかった。悔しさが俺に刀を振らせたのだ。刀華が稽古をしてる倍、剣を握りしめた。焦っていた。滾っていた。そして、熱かった。この衝動に従っていれば俺は何処にでも行ける気がしていた。正直に言うと自主トレーニングをしている時間は苦痛ではあまりなかった。反復、反省、調整はなんとなく心地よかったのだ。

 

『刀華、七星剣舞祭ベスト4おめでとう』

 

2年に上がり、刀華は遂に結果を残した。率直なことを言わしてもらうと嬉しかった。刀華が努力しているのは知っていたし、俺が練習相手にもなったし、応援もした。ついには彼女の試合を見て鳥肌が立った。

 

そして同時に俺は練習では超えられない高い壁があると知った。

 

俺は七星剣舞祭の代表にする選ばれることはなかった。強さに直結する総魔力量は並以下で、魔力操作は得意であったが操作する魔力が無い。総合Eランクのそこら辺にいる量産型学生騎士だ。俺の見ていた夢が覚めた気がした。そして……同時に、熱も冷めた。

 

 

 

 

「ハァ……ハァ…ッ!クソ……!」

 

俺はその日の夜、遂に自主トレーニングを終えた直後仰向けに倒れた。

 

「空が……遠い……」

 

夜空に手をかざしながら思わずそんな言葉がもれる。夜空が今日は綺麗でこのまま寝てしまいそうだ。熱が冷めてからも俺は惰性でこのトレーニングは続けている。まあ、もともと好きなのだ、反復と調整は。やればやるだけ後から付いてくる。……とは限らないが。なんだか……うん、気が紛れる。

 

「……」

 

「今日はもう終わり?」

 

「うわっ!?」

 

急な出来事だった。星空の下で肩で呼吸をしていたら、なんと俺の視界にいきなり刀華の顔がヌッと出てきたのだ。

 

「刀華……?」

 

心臓が口から出そうだった。先程までは周りには誰もいないはずだったが….…

 

「疲れたでしょ。お風呂沸いてるよ」

 

「……」

 

そうだった。そう言えば昨日から刀華と俺は同じ寮部屋……

 

俺は起き上がり、刀華はテクテクと寮へと足を踏み出した。えっ。いやいや、俺の秘密の……って程では無いが自主トレーニングを初めて見らたんだぞ?その反応って薄くないか。

 

「……もしかして、俺がここにいるって知ってたのか?」

 

瞬間、刀華はピタリとその足を止める。そしてこちらを振り返った。

 

「知ってたよ」

 

その時の刀華の顔を俺はまだ見た事がなかった。何時となく真剣な表情をしていて、その視線から来る圧に俺は押さえつけられた。

 

「もう、そんな稽古はやめた方が良いよ。自分に嘘をつき続けるなら」

 

「……は?」

 

突拍子も無くそんな声がでた。しかし、心臓を貫かれた。その証拠に俺は汗が噴き出し、身体は固まって刀華から目をそらすことさえできなかった。

 

「アオ君、今言わなきゃ多分ずっと言えないから言うね」

 

「……」

 

瞬間、先程までは程よく吹いていた風が急に止んだ。

 

「目をそらさないで……!アオ君のやりたいことは何……?」

 

「っ……閃理眼(リバースサイト)か?」

 

「そんな事をしなくても分かるよ。昔からの仲なんだから」

 

「俺は……」

 

「正直に答えて……熱が冷めてとか惰性でとかで人はこんなに頑張って毎日毎日剣は振れないよ……!」

 

俺は捨て子だった。正直、親の顔も覚えてないし怒りも悲しみも余りなくて気がついたら孤児院で集団生活を送っていた。

 

平凡だった。周りからとくに期待もされなかった。争いもないし不自由だってなかった。でも、強烈に力に憧れたんだ。親もおらず愛情を誰からもそそがれずに育っていった俺は承認欲求に飢えていたのだ。

 

『俺、なんのために生きてんのかなぁ」

 

そんな時、俺の目の前に刀華が現れた。彼女は心身ともに強くて、高校に上がってからも気高くて強くて、おれはそんな皆から慕われ認められるようなーー

 

「刀華みたくなりたかった……!」

 

「っ……」

 

「いつからか気づいたんだ。強ければ皆んなこちらを振り向く。頑張っていれば誰かが振り向いてくれるそう思っていたけど違ったんだ……結果が出なければ、何も変わらないっ……!」

 

「それは違うよ……!!!」

 

「……え?」

 

いやいや、俺は今まで才能主義の中で結果を出すチャンスを与えられずに足踏みしていた自分を正当化しようと自らの熱を殺していたのを刀華は見破って、俺に自分に嘘をつくなと言いながら、それは違うって言うのは一体どう言うことだ?

 

「いや……結果はとても大事だよ。私は綺麗ごとを言うつもりはない。稽古だって目標を持ってこそ。でも、私はその事を”違う”と言ったわけじゃない。魔力量と言う運命に抗って、コツコツと剣を振る健気な君に私は惹かれていったんだよと言う話なの……」

 

「は……いや、それはつまり……」

 

「君に振り向いた人間が一人此処にいるよ」

 

沈黙が、暫く流れた。刀華は一体俺に何を伝えたかったんだろうか。……いや、互いに大体は伝わったと分かっていた。証拠に、刀華の耳は少し赤かった。

 

「……いろいろとありがとう刀華」

 

「いや……わ、私も今言うつもりじゃあなかと……」

 

「でも、ごめん今は答えられない」

 

「……今は?」

 

俺は静かに刀華を睨んだ

 

「刀華……俺がお前を超えた時まだその気があるんだったら今度は俺から伝えに行く」

 

体の底から熱が湧いてきた。いつぶりだろうか、この滾りは。

 

「おかえり、アオ君」

 

刀華も、鋭い目つきをしながらもどこかと嬉しそうな顔をしていた。

 

思えばこの日が俺の色の無い日常が激動の異常へと変わる第一歩だった。




はい。刀華は昔の熱き彼の魂を呼び起こすことに成功しました。段々とこの呼び覚まされた熱が彼を狂わせていきます


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