ありふれた能力世界最強 (コロンKY)
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第1章
異世界召喚とステータス


こんにちはコロンDCです。
なんとなく思いつきで載せました。
楽しんでもらえると嬉しいです。


機械に囲まれた部屋。

そこにいるのは機械の羽を生やした機械『ハルトマンカンパニー』が開発した『星の夢』。

星の夢はある生物を待っていた

 

星の夢ご待っていた生物は来た。

その姿はまんまるピンクの球体生物。

 

『ツイニキタカ、ホシノカービィ』

そいつは機械的な声で話す

そして星のカービィと呼ばれた

 

「星の夢、君はボクが止める!」

そうカービィは言うが、

『シカシ、スデニアラタナプログラムハカンセイシタ。』

既に遅かった。

星の夢は時空を繋ぐ『異空間ロード』から『銀河最強の戦士』ギャラクティックナイトを召喚し、この星、『プププランド』を滅ぼそうとしている。

そして今まさに、異空間ロードが開こうとしたその時だった。

 

カービィの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れた。

 

「え?何これ?星の夢が?」

 

『ワタシハヤッテマセン。タダジクウノユガミヲカンジマス』

 

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に部屋全体を満たすほどの大きさに拡大した。

思わずカービィは目をつぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まるのを感じカービィは目を開ける。

 

見たことない場所だった。辺りを見渡す。

巨大な建物の中ということはわかった。

アドレーヌより大きめの人間たちが大勢いた。

どうやら人間たちも召喚されたらしい。

まだ人間たちは動揺してボクに気づかない。

 

そんな中、豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子えぼしのような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、微笑を見せた。

 

挨拶ぐらいはしておこう。

「ボクはカービィ!よろしくねイシュタル!」

 

一斉にボクへ視線が集まる

 

 

イシュタルはボクへ視線を向け

「カービィ様でしたか?あなたも召喚されたのですか?」

「うん。ボクはカービィ。星の夢と戦っていたら魔方陣で召喚されたんだ。」

ボクは少し警戒した。視線が怪しいから。

 

「(なるほどコイツも勇者の素質があるということか利用しない手はない)」

 

「どうしたの?」

「なんでもありませんよ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

カービィたちは現在場所は移動して十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

全員が席に着くとこの世界について説明された。

人類滅亡の危機から助けてくれという内容だった

 

人間たちは半信半疑だった。

 

 

しかし、人間たちは意見がまとまって戦うことにしたよう。

ボクも困っているこの世界の人たちを助けようと決意した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

王宮に着くと、ボクたちは真っ直ぐに玉座の間に案内された。

 

料理が美味しかった。

 

次の日、早速訓練と座学が始まった。

 

 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

ボクにも配られた。

さっそくステータスプレートに一滴血を垂らす。

すると……

 

==============================

カービィ(ポポポ) 年齢不明 性別不明 レベル:1

天職:星の戦士

筋力:80

体力:500

耐性:10

敏捷:240

魔力:500

魔耐:10

技能:言語理解・吸い込み・頑張り吸い込み・ビックバン吸い込み・コピー能力[+ビーム][+カッター][+レーザー][+ファイア][+バーニング][+アイス][+フリーズ][+スパーク][+ニードル][+ストーン][+ホイール][+トルネード][+ボール][+バックドロップ][+スロウ][+ソード][+パラソル][+ハンマー][+ユーフォー][+マイク][+ライト][+スリープ][+クラッシュ][+ボム][+ニンジャ][+ウィング][+ヨーヨー][+プラズマ][+ミラー][+ファイター][+スープレックス][+ジェット][+コピー][+コック][+ペイント][+エンジェル][+ミサイル][+スマブラ][+マジック][+ミニマム][+バルーン][+アニマル][+バブル][+メタル][+ゴースト][+リーフ][+ウィップ][+ウォーター][+スピア][+ビートル][+ベル][+サーカス][+スナイパー][+ポイズン][+ドクター][+エスパー]・コピー能力ミックス[+バーニングバーニング][+バーニングアイス][+バーニングスパーク][+バーニングストーン][+バーニングニードル][+バーニングカッター][+バーニングボム]][+アイスアイス][+アイススパーク][+アイスストーン][+アイスニードル][+アイスカッター][+アイスボム][+スパークスパーク][+スパークストーン][+スパークニードル][+スパークカッター][+スパークボム][+ストーンストーン][+ストーンニードル][+ストーンカッター][+ストーンボム][+ニードルニードル][+ニードルカッター][+ニードルボム][+カッターカッター][+カッターボム][+ボムボム]・属性ミックス[+ファイアソード][+アイスソード][+サンダーソード][+アイスボム][+サンダーボム]・スーパー能力[+ウルトラソード][+ドラゴストーム][+ミラクルビーム][+スノーボウル][+ギガトンハンマー]

==============================

 

…全部表示されてた。




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最弱といじめ

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 メルド団長からステータスの説明がされた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

ところどころボクのステータスが100を超えているのは人間じゃないからだろう。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

ボクは星の戦士だった。

いつもどおりだね。

コピー能力は魔力を消費すれば任意の能力が使えた。

たぶん天職の効果だと思う。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 

ボクは今まで戦ってきたからレベル1でもステータスが高かったんだと思う。

 

光輝がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

===========================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

=============================

 

 

強いのかな?一人目だからよくわからないけど。

 

何人も後に続き報告する

 

そこでハジメと言う男の子が報告した時に雰囲気が変わる

 

==============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

==============================

 

1人の人間がからかい始めた。

檜山大介というらしい。

そして周りの生徒達も――特に男子はニヤニヤと嗤わらっている。

 

 

 

 

 

 

 

最後にボク

少し騒めきが聞こえる。

 

乾いた笑みを浮かべるハジメだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二週間ほど経った。

ボクのステータスは

==============================

カービィ(ポポポ) 年齢不明 性別不明 レベル:10

天職:星の戦士

筋力:160

体力:1000

耐性:20

敏捷:480

魔力:1000

魔耐:20

技能:言語理解・吸い込み・頑張り吸い込み・ビックバン吸い込み・コピー能力[+ビーム][+カッター][+レーザー][+ファイア][+バーニング][+アイス][+フリーズ][+スパーク][+ニードル][+ストーン][+ホイール][+トルネード][+ボール][+バックドロップ][+スロウ][+ソード][+パラソル][+ハンマー][+ユーフォー][+マイク][+ライト][+スリープ][+クラッシュ][+ボム][+ニンジャ][+ウィング][+ヨーヨー][+プラズマ][+ミラー][+ファイター][+スープレックス][+ジェット][+コピー][+コック][+ペイント][+エンジェル][+ミサイル][+スマブラ][+マジック][+ミニマム][+バルーン][+アニマル][+バブル][+メタル][+ゴースト][+リーフ][+ウィップ][+ウォーター][+スピア][+ビートル][+ベル][+サーカス][+スナイパー][+ポイズン][+ドクター][+エスパー]・コピー能力ミックス[+バーニングバーニング][+バーニングアイス][+バーニングスパーク][+バーニングストーン][+バーニングニードル][+バーニングカッター][+バーニングボム]][+アイスアイス][+アイススパーク][+アイスストーン][+アイスニードル][+アイスカッター][+アイスボム][+スパークスパーク][+スパークストーン][+スパークニードル][+スパークカッター][+スパークボム][+ストーンストーン][+ストーンニードル][+ストーンカッター][+ストーンボム][+ニードルニードル][+ニードルカッター][+ニードルボム][+カッターカッター][+カッターボム][+ボムボム]・属性ミックス[+ファイアソード][+アイスソード][+サンダーソード][+アイスボム][+サンダーボム]・スーパー能力[+ウルトラソード][+ドラゴストーム][+ミラクルビーム][+スノーボウル][+ギガントハンマー]

==============================

2倍程になっていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。どうやら案外早く着いたようだ

ハジメは、自主練でもして待つかと、支給された西洋風の細身の剣を取り出した。

 

 と、その時、唐突に後ろから衝撃を受けてハジメはたたらを踏んだ。なんとか転倒は免れたものの抜き身の剣を目の前にして冷や汗が噴き出る。顔をしかめながら背後を振り返ったハジメは予想通りの面子に心底うんざりした表情をした。

そこにいたのは、檜山大介率いる4人である。訓練が始まってからというもの、ことあるごとにハジメにちょっかいをかけてくる人間だ。

 

「よぉ、南雲。なにしてんの? お前が剣持っても意味ないだろが。マジ無能なんだしよ~」

「ちょっ、檜山言い過ぎ! いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ? 俺なら恥ずかしくて無理だわ! ヒヒヒ」

「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」

そこまで言う必要はないとボクは思う。だから、

 

「やめなよ!」

 

「おいおい、いくらステータスが高いからって小さいおまえが人間サマに勝てる訳ないだろ〜」

 

「………どうかな?コピー能力ファイター!ギガ波動ショット!

 

「チッ!」

辛うじて避ける

 

突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

 

「何やってるの!?」

 

 その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は『香織』と言うらしい。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎と言う男女がいた。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

 

 檜山の弁明を無視して、香織は、ハジメに駆け寄る。

ハジメはカービィに守られていたので無傷で済んだ。

 

「よかった。」

そう思う。

 

言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。カービィ、白崎さん。助かったよ」

 苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

 何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「でも……」

 

 それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるんだけど、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

オルクス大迷宮かぁ、大迷宮といえば、鏡の中の大迷宮を思い出すなぁ。

 




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怪物と奈落

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現在、カービィ達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

「これがオルクス大迷宮かぁ〜美味しい魔物はいるかなぁ〜」

とカービィはコピー能力コックで敵を料理することを考えてワクワクしていた。

 

まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着た人間さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

迷宮内はわりと明るくボクのコピー能力ライトも必要がないぐらいだった。

 

その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝やカービィ達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。ボクはデデデ大王も結構ムキムキなイメージがあるけどね。

 

ボクも攻撃しなくちゃね

「コピー能力ミックス!ストーンボム」

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

人間達の炎がダイナマイトに当たり着火した。

 

ほぼ同時に大爆発が起こった。

 

 気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の(主にカービィの)戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 

勇者の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

そうだね。バーニングボム(ダイナマイト)はやりすぎたかも。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

 

 そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 

 現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしい。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長のかけ声がよく響く。

 

 

ハジメは特に何もしていない。一応、騎士団員が相手をして弱った魔物を相手に訓練したり、地面を錬成して落とし穴にはめて串刺しにしたりして、一匹だけ犬のような魔物を倒したが、それだけ。ボクはハジメは強いと思うけどなぁ〜。

 

 

 

一行は二十階層を探索する。

 

先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

 直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

カービィはしっかりとカードしていた為なんとかなったが、ほかのメンバーが体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

 まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 

ボクは流石に料理できなさそうだからコピー能力で対応する。

「属性ミックス!サンダーソード!はああぁソードビーム!

 

カービィはソードビームに魔力を乗せ放った。

その斬撃は僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。

 

もう大丈夫だよ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「ぽよぉ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

「ご、ごめんなさい。」

 

その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 

 

「素敵……」

 

 香織が、頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

 しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 

 檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

 

 

部屋の中に光が満ち、カービィ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 カービィ達は光が収まったことを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子。

 

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

 

橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

 

 小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っておりまだ増え続けているよう。

 

メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「ボクもやるよ!」

「俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝とカービィ。

 

 どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

 

 そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

さらにハジメは錬成でヘビモスを足止めする。

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

「ボクだってスーパー能力!ウルトラソード!

カービィは通常のコピー能力より比べられないほど強力なコピー能力、スーパー能力を使う。

しかしスーパー能力は魔力負担が大きい。魔力を乗せてないウルトラソードでも一振りで魔力を100消費する。

「はあ!」

 

それによってヘビモスは倒される。

ハジメは 思わず、頬が緩む。

 

 しかし、その直後、ハジメの表情は凍りついた。

 

 無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。

 

 ……ハジメの方に向かって。

 

 明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。

 

 

(ああ、ダメだ……)

 

 そう思いながら対岸のクラスメイト達の方へ視線を向けると、香織が飛び出そうとして雫や光輝に羽交い締めにされているのが見えた。他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりしている。メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情でハジメを見ていた。

 

 そして、ハジメの足場も完全に崩壊し、ハジメは仰向けになりながら奈落へと落ちていった。徐々に小さくなる光に手を伸ばしながら……

 

 

 

その手をカービィは掴む。

カービィまで落ちてしまったがなんとかホバリングで飛ぶが、

予想外の重さにカービィごと落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ザァーと水の流れる音がする。

 

 冷たい微風が頬を撫で、冷え切った体が身震いした。頬に当たる硬い感触と下半身の刺すような冷たい感触に「うっ」と呻き声を上げてハジメは目を覚ました。

 

ザァーと水の流れる音がする。

 

 冷たい微風が頬を撫で、冷え切った体が身震いした。頬に当たる硬い感触と下半身の刺すような冷たい感触に「うっ」と呻き声を上げてハジメは目を覚ました。

 

 ボーとする頭、ズキズキと痛む全身に眉根を寄せながら両腕に力を入れて上体を起こす。

 

「痛っ~、ここは……僕は確か……」

 

 ふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回すすると、声がかかる。

「大丈夫?」

カービィだ。




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奈落の底

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ハジメはボーとする頭、ズキズキと痛む全身に眉根を寄せながら両腕に力を入れて上体を起こす。

 

「痛っ~、ここは……僕は確か……」

 

 ふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回すすると、声がかかる。

「大丈夫?」

カービィだ。

それにあの高さから落ちたのにもかかわらず体が痛むだけだった。

「どうして?」

「助けたかったから。」

「それに、」

「それに?」

「ボク達もう友達でしょ?」

何か裏があるとハジメは思ったが、カービィの純粋無垢な笑顔が無いと語っていた。

ハジメはカービィを信じることがにした。

 

「ここどこなんだろうね?」

カービィがふと話掛けてきた。

 

「ここどこなんだろう。……だいぶ落ちたんだと思うけど……帰れるかな……」

「うん。きっとね。それにしてもワープスターがあればなぁ〜」

「ワープスター?それにしてもカービィってどこからきたの?」

「ボクは旅人だったんだ。だからどこから来たかわからない。」

「そうなんだ……」

「でもね」とカービィは言って。

「27年前」

「27年!?」

ハジメはカービィを子供ぐらいの年齢で初めから力を持っているチートな奴だと思っていた。

「旅をしていたら、ポップスターという星のプププランドでデデデ大王って言う王様がみんなの食べ物を独り占めしたんだ。」

ハジメは聞いたことのない星や国だったのでどんな場所かどんな姿の人物がいるか、想像できなかった。

カービィは話し続ける。

「その時ボクはコピー能力は使えなかったんだ。使えたのはそれまでのどれほどかわからない程の旅で見につけた技、『吸い込み』『ホバリング』だけだった。」

ハジメは驚いた。カービィがどれ程の長い時を過ごしたのか。さらに元々はなんの特技もない者だったということを。それを努力で身につけたということを。もしかしたら自分も努力さえすれどれ程のば時間がかかったとしても強くなれるのではないかと。

「じゃあプププランドはどうなったの?」

「ボクはデデデ大王を倒してみんなの食べ物を取り戻した。プププランドは平和になった。当時デデデ大王の部下だった剣士のメタナイトとデデデ大王はボクと友達になった。ボクはプププランドに住むことになった。それからプププランドはいくつもの銀河や世界を掛けた戦いがあった。でもボク達はその度に救った。だからプププランドは『呆れ返るほど平和な国』って呼ばれているんだ。」

「そうだったんだ。」

 

それからもしばらくカービィと話していると、視界の端で何かが動いた気がして慌てて岩陰に身を潜める。

 

そっと顔だけ出して様子を窺うと、ハジメのいる通路から直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。

 

 ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。物凄く不気味である。

 

「ボクが戦うよ!」

カービィはそいつに向かう。

「コピー能力カッター!ファイナルカッター

カービィはそいつにをめった斬りにしてカッターから衝撃はを放った。

カービィはそいつを倒したが、

 

 

 

ハジメの方にも魔物がいた。

その魔物は巨体だった。二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

 

 爪熊が、その巨体に似合わない素早さで蹴りハジメに迫り、その長い腕を使って鋭い爪を振るった。

ハジメは理解できない事態に混乱しながら、何故かスッと軽くなった左腕を見た。正確には左腕のあった場所を……

 

「あ、あれ?」

 

 ハジメは顔を引き攣らせながら、なんで腕がないの? どうして血が吹き出してるの? と首を傾げる。脳が、心が、理解することを拒んでいるのだろう。

 

 しかし、そんな現実逃避いつまでも続くわけがない。ハジメの脳が夢から覚めろというように痛みをもって現実を教える。

 

「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」

 

 ハジメの絶叫が迷宮内に木霊する。ハジメの左腕は肘から先がスッパリと切断されていた。

 

「バジメ!」

カービィは叫ぶ。

 

しかしカービィの方には同じ魔物、数10体の爪熊が現れた!

どうやら群れで行動していたらしい。

カービィはハジメの無事を祈って目の前の敵と戦った。

「スーパー能力!ギガントハンマー!

ギガントハンマーは三段階の威力に分けられる。

最高段階は魔力を乗せなくても一振りで魔力を300消費する

「はぁ!」

最大威力のギガントハンマー一振りで十数体の爪熊を倒し、さらにそこから衝撃波が発せられ十数体倒した。

まだまだ爪熊はいるしかしあと2回しかギガントハンマーは振れない。

そこで能力を変える。

0.1秒毎に魔力を1消費する能力。

あと魔力は700だから70秒持つ。

それだけあれば十分だ。

ありとあらゆるものを吸い込む能力。

ビックバン吸い込み!

それが発動するとカービィは虹色に輝いた。

一瞬で爪熊は吸い込まれる。

抵抗するが、吸い込まれる。

魔力がどんどん消費される。

40秒が経過した頃には全てを吸い込んだ。

魔力は残り300。

 

 

 

 

 

 

 

 




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ハジメの豹変

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少し時は戻ってハジメ視点

 

 

 爪熊が、その巨体に似合わない素早さで蹴りハジメに迫り、その長い腕を使って鋭い爪を振るった。

ハジメは理解できない事態に混乱しながら、何故かスッと軽くなった左腕を見た。正確には左腕のあった場所を……

 

「あ、あれ?」

 

 

「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」

 

 ハジメの絶叫が迷宮内に木霊する。ハジメの左腕は肘から先がスッパリと切断されていた。

 

 

「ハジメ!」

カービィは叫ぶ。

眼前に迫り爪熊がゆっくりハジメに前足を伸ばす。その爪で切り裂かないということは生きたまま食うつもりなのかもしれない。カービィに助けてもらおうとしたがカービィは爪熊を数十体相手にしていた。

 

 

「あ、あ、ぐぅうう、れ、〝錬成ぇ〟!」

 

 あまりの痛みに涙と鼻水、涎で顔をベトベトに汚しながら、ハジメは右手を背後の壁に押し当て錬成を行った。ほとんど無意識の行動だった。

 

 

 死の淵でハジメは無意識に頼り、活路が開けた。

 

 背後の壁に縦五十センチ横百二十センチ奥行二メートルの穴が空く。ハジメは爪熊の前足が届くという間一髪のところでゴロゴロ転がりながら穴の中へ体を潜り込ませた。

 

 目の前で獲物を逃したことに怒りをあらわにする爪熊。

 

「グゥルアアア!!」

 

 咆哮を上げながら固有魔法を発動し、ハジメが潜り込んだ穴目掛けて爪を振るう。凄まじい破壊音を響かせながら壁がガリガリと削られていく。

 

「うぁあああーー! 〝錬成〟! 〝錬成〟! 〝錬成ぇ〟!」

 

 爪熊の咆哮と壁が削られる破壊音に半ばパニックになりながら少しでもあの化け物から離れようと連続して錬成を行い、どんどん奥へ進んでいく。

 

 後ろは振り返らない。がむしゃらに錬成を繰り返す。地面をほふく前進の要領で進んでいく。既に左腕の痛みのことは頭から飛んでいた。生存本能の命ずるままに唯一の力を振るい続ける。

 

 どれくらいそうやって進んだのか。

 

 ハジメにはわからなかったが、恐ろしい音はもう聞こえなかった。

カービィが倒してくれたのかもしれない。

 一度の錬成の効果範囲は二メートル位であるし(これでも初期に比べ倍近く増えている)、何より左腕の出血が酷い。そう長く動けるものではないだろう。

 

 実際、ハジメの意識は出血多量により既に落ちかけていた。それでも、もがくように前へ進もうとする。

 

 しかし……

 

「〝錬成〟 ……〝錬成〟 ……〝錬成〟 ……〝れんせぇ〟 ……」

 

 何度錬成しても眼前の壁に変化はない。意識よりも先に魔力が尽きたようだ。ズルリと壁に当てていた手が力尽きたように落ちる。

 

 ハジメは、朦朧として今にも落ちそうな意識を辛うじて繋ぎ留めながらゴロリと仰向けに転がった。ボーとしながら真っ暗な天井を見つめる。この辺は緑光石が無いようで明かりもない。

 

 いつしかハジメは昔のことを思い出していた。走馬灯というやつかもしれない。保育園時代から小学生、中学生、そして高校時代。様々な思い出が駆け巡る。

 

 その美しい光景を最後にハジメの意識は闇に呑まれていった。意識が完全に落ちる寸前、ぴたっぴたっと頬に水滴を感じた。

 

 それはまるで、誰かの流した涙のようだった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

水滴が頬ほおに当たり口の中に流れ込む感触に、ハジメは意識が徐々に覚醒していくのを感じた。そのことを不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

(……生きてる? ……助かったの?)

 

 

自分の作った穴は縦幅が五十センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは、錬成して縦幅を広げるために天井に手を伸ばそうとした。

 

 しかし、視界に入る腕が一本しかないことに気がつき動揺をあらわにする。

 

「な、なんで? ……それに血もたくさん……」

 

 暗くて見えないが明かりがあればハジメの周囲が血の海になっていることがわかっただろう。普通に考えれば絶対に助からない出血量だった。

 

 ハジメが右手で周りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。やはり、大量出血したことは夢ではなかったようだし、血が乾いていないことから、気を失って未だそれほど時間は経っていないようである。

 

 にもかかわらず傷が塞がっていることに、ハジメが疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。それが口に入った瞬間、ハジメは、また少し体に活力が戻った気がした。

 

「……まさか……これが?」

 

 ハジメは幻肢痛と貧血による気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。

 

 そうやってふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。

 

 不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。ハジメは休まず熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

 

 やがて、流れる謎の液体がポタポタからチョロチョロと明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところで、ハジメは遂に水源にたどり着いた。

 

「こ……れは……」

 

 そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

 

 その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

 

 ハジメは一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。

 

 そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けた。

 

 すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。

 

 やはり、ハジメが生き残れたのはこの石から流れる液体が原因らしい。治癒作用がある液体のようだ。幻肢痛は治まらないが、他の怪我や出血の弊害は、瞬く間に回復していく。

 

 ハジメは知らないが、実はその石は〝神結晶〟と呼ばれる歴史上でも最大級の秘宝で、既に遺失物と認識されている伝説の鉱物だったりする。

 

 

 

 その液体を〝神水〟と呼び、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。神代の物語に神水を使って人々を癒すエヒト神の姿が語られているという。

 

 ようやく死の淵から生還したことを実感したのか、ハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

 

 そして、死の恐怖に震える体を抱え体育座りしながら膝に顔を埋めた。既に脱出しようという気力はない。ハジメは心を折られてしまったのだ。

 

 敵意や悪意になら立ち向かえたかもしれない。助かったと喜んで、再び立ち上がれたかもしれない。

 

 しかし、爪熊のあの目はダメだった。ハジメを餌としてしか見ていない捕食者の目。弱肉強食の頂点に立つ人間がまず向けられることのない目だ。その目に、そして実際に自分の腕を喰われたことに、ハジメの心は砕けてしまった。

 

(誰か……助けて……)

 

 ここは奈落の底、ハジメの言葉は誰にも届かない……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カービィは

 

全ての爪熊を倒しハジメを探していた。

魔力を節約したい為、消費が少ないコピー能力ソードで戦っていた。

しかし全く見つからない。

カービィは思い切って掘ってみることにした。

「ミックスコピー能力ストーンニードル!」

もう一度爪熊がいた場所に戻って掘った後などがないか探した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カービィと別れてから8日目辺りからハジメの精神に異常が現れ始めていた。

 ただひたすら、死と生を交互に願いながら、地獄のような苦痛が過ぎ去るのを待っているだけだったハジメの心に、ふつふつと何か暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。

 

 それはヘドロのように、恐怖と苦痛でひび割れた心の隙間にこびりつき、少しずつ、少しずつ、ハジメの奥深くを侵食していった。

 

(なぜ僕が苦しまなきゃならない……僕が何をした……)

(なぜこんな目にあってる……なにが原因だ……)

(神は理不尽に誘拐した……)

(クラスメイトは僕を裏切った……)

(ウサギは僕を見下した……)

(アイツは僕を喰った……)

(どうして誰も助けてくれない……)

(誰も助けてくれないならどうすればいい?)

(この苦痛を消すにはどうすればいい?)

 激しい苦痛からの解放を望む心が、湧き上がっていた怒りや憎しみといった感情すら不要なものと切り捨て始める。

 

 憤怒と憎悪に心を染めている時ではない。どれだけ心を黒く染めても苦痛は少しもやわらがない。この理不尽に過ぎる状況を打開するには、生き残るためには、余計なものは削ぎ落とさなくてはならない。

 

(俺は・・何を望んでる?)

(俺は〝生〟を望んでる。)

(それを邪魔するのは誰だ?)

(邪魔するのは敵だ)

(敵とはなんだ?)

(俺の邪魔をするもの、理不尽を強いる全て)

(では俺は何をすべきだ?)

(俺は、俺は……)

ハジメの心から憤怒も憎悪もなくなった。

 

 神の強いた理不尽も、クラスメイトの裏切りも、魔物の敵意も……

 

 自分を守ると言った誰かの笑顔も……

全てはどうでもいいこと。

 ハジメの意思は、ただ一つに固められる。鍛錬を経た刀のように。鋭く強く、万物の尽くを斬り裂くが如く。

 

 すなわち……

 

( 殺す )

 

 悪意も敵意も憎しみもない。

 

 ただ生きる為に必要だから、滅殺するという純粋なまでの殺意。

 

 自分の生存を脅かす者は全て敵。

 

 そして敵は、

 

(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す)

 

 この飢餓感から逃れるには、

 

( 殺して喰らってやる )

そしてハジメは目をギラギラと光らせ、濡れた口元を乱暴に拭い、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。歪んだ口元からは犬歯がギラリと覗く。まさに豹変という表現がぴったり当てはまるほどの変わりようだ。

 

 ハジメは起き上がり、錬成を始めながら宣言するようにもう一度呟いた。

 

「殺してやる」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「うおおおぉ!スーパー能力ウルトラソード!はあ!」

カービィはハジメの血を見つけ跡を追ってウルトラソードで道を作っていた。

「なかなか見つからない。でも諦めない!」

 

 

更に数日が経ちカービィはハジメの錬成した跡を発見した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そしてカービィとハジメと別れてから?日目。

 

「ちくしょう、なんで無いんだ……」

 

 爪熊を殺してから三日、ハジメは上階へと続く道を探し続けていた。

 

 既にこの階層の八割は探索を終えている。爪熊を喰らってからというものステータスがまた跳ね上がり、今や、この階層でハジメにとって脅威となる存在はおらず、広大ではあるものの探索は急ピッチで進められていた。にもかかわらず、いくら探しても何も見つからない。

 

 否、何も見つからないというのは語弊がある。正確には〝上階〟への道であり、〝階下〟への道なら二日前に発見している。ここが迷宮で階層状になっているのなら上階への道も必ずあるはずなのだが、どうしても見つからないのだ。

 

 なお、錬成で直接上階への道を作ればいいじゃないというダンジョンのなんたるかを軽く無視する方法は既に試した後だ。

 

 結果、上だろうと下だろうと、一定の範囲を進むと何故か壁が錬成に反応しなくなるということが分かった。その階層内ならいくらでも錬成できるのだが、上下に関してはなんらかのプロテクトでも掛かっているのかもしれない。この【オルクス大迷宮】は、神代に作られた謎の多い迷宮なのだ。何があっても不思議ではない。

 

 そういうわけで、地道に上階への道を探しているのだが、見つからなければ決断する必要がありそうだ。この大迷宮の更に深部へ潜ることを。

 

「……行き止まりか。これで分岐点は全て調べたぞ。一体どうなってんだか」

 

そこへ突然近くの壁からような音が聞こえた。

『はああああぁ!この壁なかなか硬い。でも諦めないぞ!』

 

ハジメはまさかと思った。

こんなところにまで来てくれるようなお人好しがいるはずないと。

そのまさかだった。

 

『スーパー能力!』

 

その言葉を聞いた瞬間にその考えは消えた。

 

「ウルトラソード!」

 

すると近くの壁は音を立てて崩れた。

 

そこにいたのはまんまるピンクの生き物。

 

「カービィ!」

 

 

「やっと見つけたよハジメ!」

 

 




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奈落の底の出会い

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近くの壁は音を立てて崩れた。

 

そこにいたのはまんまるピンクの生き物。

 

「カービィ!」

 

 

「やっと見つけたよハジメ!」

 

カービィはハジメに笑顔を見せる。しかしカービィの体は土やらなんやらで相当汚れていた。

必死になって探していたらしい。前に誰も助けてくれないと思っていたがその間もカービィは探していたのだろう。

 

だから素直に俺は

「ありがとうカービィ。」

と心からいう。なんかキャラじゃないな。

 

とにかくお互い色々あったようだからステータス確認やカービィか食料を持っていないか聞いた。

食料に関してはカービィから驚きの声が帰ってきた。

「食べ物?それだったらそこら辺のボス以外のキャラを食べ物に変えればいいんだよ!ボクのコピー能力で」

コピー能力万能説

 

 

 

ハジメとカービィのステータス

 

============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:24

天職:錬成師

筋力:450

体力:550

耐性:400

敏捷:550

魔力:500

魔耐:500

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・気配遮断・石化耐性・言語理解

============================

 

============================

カービィ(ポポポ) 年齢不明 性別不明 レベル:50

天職:星の戦士

筋力:800

体力:5000

耐性:100

敏捷:1200

魔力:5000

魔耐:100

技能:言語理解・ホバリング・吸い込み・頑張り吸い込み・ビックバン吸い込み・コピー能力[+ビーム][+カッター][+レーザー][+ファイア][+バーニング][+アイス][+フリーズ][+スパーク][+ニードル][+ストーン][+ホイール][+トルネード][+ボール][+バックドロップ][+スロウ][+ソード][+パラソル][+ハンマー][+ユーフォー][+マイク][+ライト][+スリープ][+クラッシュ][+ボム][+ニンジャ][+ウィング][+ヨーヨー][+プラズマ][+ミラー][+ファイター][+スープレックス][+ジェット][+コピー][+コック][+ペイント][+エンジェル][+ミサイル][+スマブラ][+マジック][+ミニマム][+バルーン][+アニマル][+バブル][+メタル][+ゴースト][+リーフ][+ウィップ][+ウォーター][+スピア][+ビートル][+ベル][+サーカス][+スナイパー][+ポイズン][+ドクター][+エスパー]・コピー能力ミックス[+バーニングバーニング][+バーニングアイス][+バーニングスパーク][+バーニングストーン][+バーニングニードル][+バーニングカッター][+バーニングボム]][+アイスアイス][+アイススパーク][+アイスストーン][+アイスニードル][+アイスカッター][+アイスボム][+スパークスパーク][+スパークストーン][+スパークニードル][+スパークカッター][+スパークボム][+ストーンストーン][+ストーンニードル][+ストーンカッター][+ストーンボム][+ニードルニードル][+ニードルカッター][+ニードルボム][+カッターカッター][+カッターボム][+ボムボム]・属性ミックス[+ファイアソード][+アイスソード][+サンダーソード][+アイスボム][+サンダーボム]・スーパー能力[+ウルトラソード][+ドラゴストーム][+ミラクルビーム][+スノーボウル][+ギガントハンマー]特殊能力[+スターロッド][+虹の剣][+スターシップ][+ワープスター][+ラブラブステッキ][+マスター][+トリプルスター][+バトントワリング][+アイアン][+トップ][+カブキ][+ヒーローソード][+マジックビーム][+ヘビィハンマー][+ヒールドクター]・ロボボアーマー召喚・能力スキャン[+ビームモード][+ファイアモード][+ソードモード][+カッターモード][+ストーン][+パラソルモード][+スパークモード][+アイスモード][+ボムモード][+エスパーモード][+ホイールモード][+マイクモード]

============================

 

ハジメはカービィのステータスを見て目を疑った。

それにあの爪熊を数十体(だいたい100体ぐらい)でそこまでレベルは上がるのかと。

しかしカービィは自分のステータスを見て少し能力が増えたなぁぐらいにしか思ってなかった。

 

 

ハジメとカービィの迷宮攻略は続く。

 

 更に五十階層は進んだ。

 

ハジメは、この五十層で作った拠点にて銃技や蹴り技、錬成の鍛錬を積みながら少し足踏みをしていた。というのも、階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

 

 それは、なんとも不気味な空間だった。

 

 脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

扉の部屋にやってきたハジメ達は油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

 

「仕方ない、いつも通り錬成で行くか」

 

 一応、扉に手をかけて押したり引いたりしたがビクともしない。なので、いつもの如く錬成で強制的に道を作る。ハジメは右手を扉に触れさせ錬成を開始した。

 

 しかし、その途端、

 

バチィイ!

 

「うわっ!?」

 

 扉から赤い放電が走りハジメの手を弾き飛ばした。ハジメの手からは煙が吹き上がっている。悪態を吐きながら神水を飲み回復するハジメ。直後に異変が起きた。

 

――オォォオオオオオオ!!

 

 突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

 ハジメはバックステップで扉から距離をとり、腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせいつでも抜き撃ち出来るようにスタンバイする。

 

 雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

 

 

 

 一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようとハジメとカービィの方に視線を向けた。

 

 その瞬間、

 

ドパンッ!

 

 凄まじい発砲音と共に電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま脳をグチャグチャにかき混ぜた挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

 

 

 おそらく、この扉を守るガーディアンとして封印か何かされていたのだろう。こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無と言っていいはずだ。

 

 

 

 サイクロプス(左)が戦慄の表情を浮かべハジメに視線を転じる。その目は「コイツなんてことしやがる!」と言っているような気がしないこともない。

 

 ハジメは、動かずサイクロプス(左)を睥睨する。ハジメの武器、次の瞬間巨大な剣で真っ二つになっていた。

その剣をたどればカービィがいた。

 

「ほいっと」

 

そう言ってサクッと切っていた。

ピンクの悪魔だ。とハジメは思った。

 

「まぁ、いいか。肉は後で取るとして……」

 

 ハジメは、チラリと扉を見て少し思案する。

 

 そして、〝風爪〟でサイクロプスを切り裂き体内から魔石を取り出した。血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

 ピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸ほとばしり魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

 ハジメは少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

 

 扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。ハジメの〝夜目〟と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

「コピー能力ライト!」

カービィが部屋を真昼ぐらい明るくする。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

 その立方体を注視していたハジメとカービィは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

 近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。

 

 しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

「……だれかいるの?」

 

 かすれた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとしてハジメは慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の〝何か〟がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人……なのか?」

 

 〝何か〟は人だった。

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

カービィは思った。「この世界でもアドレーヌぐらいの大きさの人もいるのか」と。

 

 

流石に予想外だったハジメは硬直し、紅の瞳の女の子もハジメをジッと見つめていた。やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

カービィも後に続く。

 

そう言ってそっと扉を閉めようとするハジメ。それを金髪紅眼の女の子が慌てたように引き止める。もっとも、その声はもう何年も出していなかったように掠かすれて呟つぶやきのようだったが……

 

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

 

「うん、わかったよ。」

とカービィ。

「嫌です」

とハジメ。

カービィとハジメは顔を合わせた。

 

「「……………」」

 

そう言って、やはり扉を閉めようとするハジメ。鬼である。

「ウルトラソード!」

その扉を破壊するカービィ。

 

ハジメは扉を諦めて鬱陶うっとうしそうに言い返した。

 

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう? 絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……脱出には役立ちそうもない。という訳で……」

 

「待って待って、話を聞こうよ!」

とカービィは言う。

ハジメは思った。「こいつただのお人好しではないのか」と。

 

だがしかし、普通、囚われた女の子の助けを求める声をここまで躊躇ためらいなく切り捨てられる人間はそうはいないだろう。元の優しかったハジメは確かにピチュンしてしまったようだ。

 

すげなく断られた女の子だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……裏切られただけ!」

 

ハジメとしては、何を言われようが助けるつもりなどなかった。こんな場所に封印されている以上相応の理由があるに決まっているのだ。それが危険な理由でない証拠がどこにあるというのか。邪悪な存在が騙そうとしているだけという可能性の方がむしろ高い。見捨てて然るべきだ。

 

(なにやってんだかな、俺は)

 

 内心溜息を吐くハジメ。

 

 〝裏切られた〟――その言葉に心揺さぶられてしまうとは。

 

ハジメは頭をカリカリと掻きながら、女の子に歩み寄る。もちろん油断はしない。

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

 ハジメが戻って来たことに半ば呆然としている女の子。

 

 

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

 

 

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

「……(コクコク)」

「殺せないってなんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

 ハジメは「なるほどな~」と一人納得した。

 

 ハジメも魔物を喰ってから、魔力操作が使えるようになった。身体強化に関しては詠唱も魔法陣も必要ない。他の錬成などに関しても詠唱は不要だ。

 

 ただ、ハジメの場合、魔法適性がゼロなので魔力を直接操れても巨大な魔法陣は当然必要となり、碌に魔法が使えないことに変わりはない。

 

 だが、この女の子のように魔法適性があれば反則的な力を発揮できるのだろう。何せ、周りがチンタラと詠唱やら魔法陣やら準備している間にバカスカ魔法を撃てるのだから、正直、勝負にならない。しかも、不死身。おそらく絶対的なものではないとだろうが、それでも勇者すら凌駕りょうがしそうなチートである。

 

「……たすけて……」

 

しかしそれはカービィだけで充分ではないのかと思ってしまう。

 

 

ハジメはジッと女の子を見た。女の子もジッとハジメを見つめる。どれくらい見つめ合っていたのか……

 

 やがてハジメはガリガリと頭を掻き溜息を吐きながら、女の子を捕える立方体に手を置いた。

 

「あっ」

 

 女の子がその意味に気がついたのか大きく目を見開く。ハジメはそれを無視して錬成を始めた。

 

 ハジメの魔物を喰ってから変質した赤黒い、いや濃い紅色の魔力が放電するように迸る。

 

 しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、まるでハジメの魔力に抵抗するように錬成を弾いた。迷宮の上下の岩盤のようだ。だが、全く通じないわけではないらしい。少しずつ少しずつ侵食するようにハジメの魔力が立方体に迫っていく。

 

「ぐっ、抵抗が強い! ……だが、今の俺なら!」

「待って待って」

そこでカービィの声がする。

「なんだ?」

「ボクに任せてよ!」

「え?じ、じゃあ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ボクはだぶんこれならと思い、一か八かでやる。

「コピー能力!マジック!」

ボクは大きなどこからか大きな布を用意する。

そして女の子に被せ。

カウントダウン。

「カービィ、遊んでいる暇は…」

とハジメは言うが無視して、

「1、2、3、はいっ!」

 

「すると、なんと言うことでしょう。女の子が解放されてるではありませんか!」

とボクはチャンネルDDDで聞いた改築番組の真似をする。

「ビフォ○フターかよ!」

 

 

 ハジメが横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

 そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

 

 その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメには分からなかった。ただ、全て切り捨てたはずの心の裡に微かな、しかし、きっと消えることのない光が宿った気がした。

 

 

 




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新たな仲間は吸血鬼

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 ハジメが横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐにハジメとカービィを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

 そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

 

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメには分からなかった。ただ、全て切り捨てたはずの心の裡に微かな、しかし、きっと消えることのない光が宿った気がした。

 

 

「ボクは困っている人はほっとけないからね。」とカービィ。

 

 

 話している間も彼女の表情は動かなかった。それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れるほど長い間、たった一人、この暗闇で孤独な時間を過ごしたということだ。

 

 しかも、話しぶりからして信頼していた相手に裏切られて。よく発狂しなかったものである。もしかすると先ほど言っていた自動再生的な力のせいかもしれない。だとすれば、それは逆に拷問だっただろう。狂うことすら許されなかったということなのだから。

 

 「神水を飲めるのはもう少し後だな」と苦笑いしながら、気怠い腕に力を入れて握り返す。女の子はそれにピクンと反応すると、再びギュギュと握り返してきた。

 

「……名前、なに?」

 

 女の子が囁くような声でハジメに尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いを深めながらハジメは答え、女の子にも聞き返した。

「ボクはカービィだよ。」

「ハジメだ。南雲ハジメ。お前は?」

 

 女の子は「ハジメ、カービィ、ハジメ、カービィ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメとカービィにお願いをした。

 

「……名前、付けて」

「名前ないの?」

とカービィ。

「付けるってなんだ。忘れたとか?」

とハジメは言う。

 

「もう、前の名前はいらない。……ハジメとカービィが付けた名前がいい」

「そうは言ってもなぁ」

ハジメは考える。

 

「う〜んそうだなぁ〜髪の毛の色が月の色みたいだね」とカービィ。

それだとハジメは思い。

 

 

「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

「なぁカービィ?」

「何?服出せないか?ユエの?いつまでも素っ裸じゃあなぁ」

「ハジメのエッチ」とユエ

「……」

「どんな服?ボクあんまり服見たことないから。まぁ勇者召喚された時にメイドさんって言う人のとかハジメ達の服見たけど。」

 

ハジメは一瞬メイド服はありか?と思ったがブンブンと首を振って学校の制服にした。

 

カービィは大きな布を用意してユエに被せた。

「はーい。コピー能力マジック!1、2、3、」

「はい!」

 

なんと女子制服をサイズぴったりで着ていた。

 

「おぉ、便利だな。」

 

ハジメは、その間に神水を飲んで回復する。活力が戻り、脳が回転を始める。そして〝気配感知〟を使い……凍りついた。とんでもない魔物の気配が直ぐ傍に存在することに気がついたのだ。

 

 場所はちょうど……真上!

 

 ハジメがその存在に気がついたのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。

 

 咄嗟とっさに、ハジメはユエに飛びつき片腕で抱き上げると全力で〝縮地〟をする。一瞬で、移動したハジメが振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

 その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

 一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。自然とハジメの額に汗が流れた。

 

 部屋に入った直後は全開だった〝気配感知〟ではなんの反応も捉えられなかった。だが、今は〝気配感知〟でしっかり捉えている。

 

 ということは、少なくともこのサソリモドキは、ユエの封印を解いた後に出てきたということだ。つまり、ユエを逃がさないための最後の仕掛けなのだろう。それは取りも直さず、ユエを置いていけばハジメだけなら逃げられる可能性があるということだ。

カービィは足が短いからわからないけど。

 

 腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリモドキになど目もくれず一心にハジメを見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命をハジメに委ねたのだ。

 

 その瞳を見た瞬間、ハジメの口角が釣り上がり、いつもの不敵な笑みが浮かぶ。

 

 他人などどうでもいいはずのハジメだが、ユエにはシンパシーを感じてしまった。崩壊して多くを失ったはずの心に光を宿されてしまった。そして、ひどい裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託すというのだ。これに答えられなければ男が廃る。

 

「上等だ。……殺れるもんならやってみろ」

 

 ハジメはユエを肩に担ぎ一瞬でポーチから神水を取り出すと抱き直したユエの口に突っ込んだ。

 

「うむっ!?」

 

 試験管型の容器から神水がユエの体内に流れ込む。ユエは異物を口に突っ込まれて涙目になっているが、衰え切った体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。

 

 ハジメはそのまま片腕でくるりとユエを回し背中に背負う。衰弱しきった今の彼女は足でまといだが、置いていけば先に始末されかねない。流石に守りながらサソリモドキと戦うのは勘弁だ。

 

「しっかり掴まってろ! ユエ!」

 

 全開には程遠いが、手足に力が戻ってきたユエはギュっとハジメの背中にしがみついた。

 

 ギチギチと音を立てながらにじり寄ってくるサソリモドキ。ハジメは背中にユエを感じつつ、不敵な笑みを浮かべながら宣言した。

 

「邪魔するってんなら……殺して喰ってやる」

 

 

サソリモドキの初手は尻尾の針から噴射された紫色の液体だった。かなりの速度で飛来したそれを、ハジメはすかさず飛び退いてかわす。着弾した紫の液体はジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。溶解液のようだ。

 

 ハジメはそれを横目に確認しつつ、ドンナーを抜き様に発砲する。

 

ドパンッ!

 

 最大威力だ。秒速三・九キロメートルの弾丸がサソリモドキの頭部に炸裂する。

 

 ハジメの背中越しにユエの驚愕が伝わって来た。見たこともない武器で、閃光のような攻撃を放ったのだ。それも魔法の気配もなく。若干、右手に電撃を帯びたようだが、それも魔法陣や詠唱を使用していない。つまり、ハジメが自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているということに、ユエは気がついたのである。

 

 自分と〝同じ〟、そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないとわかっていながらサソリモドキよりもハジメを意識せずにはいられなかった。

 

 一方、ハジメは足を止めることなく〝空力〟を使い跳躍を繰り返した。その表情は今までになく険しい。ハジメには、〝気配感知〟と〝魔力感知〟でサソリモドキが微動だにしていないことがわかっていたからだ。

 

 それを証明するようにサソリモドキのもう一本の尻尾の針がハジメに照準を合わせた。そして、尻尾の先端が一瞬肥大化したかと思うと凄まじい速度で針が撃ち出された。避けようとするハジメだが、針が途中で破裂し散弾のように広範囲を襲う。

 

「ぐっ!」

 

 ハジメは苦しげに唸りながら、ドンナーで撃ち落とし、〝豪脚〟で払い、〝風爪〟で叩き切る。どうにか凌ぎ、お返しとばかりにドンナーを発砲。直後、空中にドンナーを投げ、その間にポーチから取り出した手榴弾を投げつける。

 

 サソリモドキはドンナーの一撃を再び耐えきり、更に散弾針と溶解液を放とうとした。しかし、その前にコロコロと転がってきた直径八センチ程の手榴弾がカッと爆ぜる。その手榴弾は爆発と同時に中から燃える黒い泥を撒き散らしサソリモドキへと付着した。

 

 いわゆる〝焼夷手榴弾〟というやつだ。摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。

 

 流石に、これは効いているようでサソリモドキが攻撃を中断して、付着した炎を引き剥がそうと大暴れした。その隙に、ハジメは地面に着地し、既にキャッチしていたドンナーを素早くリロードする。

 

 それが終わる頃には、 〝焼夷手榴弾〟はタールが燃え尽きたのかほとんど鎮火してしまっていた。しかし、あちこちから煙を吹き上げているサソリモドキにもダメージはあったようで強烈な怒りが伝わってくる。

 

「キシャァァァァア!!!」

 

そこにもうスピードでタイヤがやって来てサソリもどきにぶつかった。

 

するとタイヤは帽子を被ったカービィになった。

そしてカービィは何処からかタイヤの絵の描かれた星を捨てた。

「コピー能力!ポイズン!」

するとカービィは頭に毒々しいものを被っていた。

それをカービィは放つとサソリもどきは溶け始めた。

ハジメもサソリもどきに撃つ。

 

「……どうして?」

「あ?」

「どうして逃げないの?」

 

 自分を置いて逃げれば助かるかもしれない、その可能性を理解しているはずだと言外に訴えるユエ。それに対して、ハジメは呆れたような視線を向ける。

 

「何を今更。ちっとばっかし強い敵が現れたぐらいで見放すほど落ちてねぇよ」

 

 ユエは、ハジメに言葉以上の何かを見たのか納得したように頷き、いきなり抱きついた。

 

「お、おう? どうした?」

 

 状況が状況だけに、いきなり何してんの? と若干動揺するハジメ。そろそろサソリモドキが戻って来るころだ。ハジメの傷はもう治っている。早く戦闘態勢に入らなければならない。

 

 だが、そんなことは知らないとユエはハジメの首に手を回した。

 

「ハジメ……信じて」

 

 そう言ってユエは、ハジメの首筋にキスをした。

 

「ッ!?」

 

 否、キスではない。噛み付いたのだ。

 

 

 

 〝信じて〟――――その言葉は、きっと吸血鬼に血を吸われるという行為に恐怖、嫌悪しても逃げないで欲しいということだろう。

「……ごちそうさま」

 

 そう言うと、ユエは、おもむろに立ち上がりサソリモドキに向けて片手を掲げた。同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。

 

 そして、神秘に彩られたユエは、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。

 

「〝蒼天〟」

 

 その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。

 

 直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。

 

 だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

 

「ユエ、無事か?」

「ん……最上級……疲れる」

「はは、やるじゃないか。助かったよ。後は俺がやるから休んでいてくれ」

「ボクも忘れないでね!」

「ん、頑張って……」

 

サソリもどきは既にカービィに倒されていた。

 

 

 サソリモドキを倒したハジメ達は、サソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。

 

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「……マナー違反」

「じゃあカービィは何歳だ?」

「……わからない。」

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」

 

 

 

「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「ボクが開通しようか?」

できそう。

「……わからない。でも……」

 

 ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

 

 

ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 

 その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「……ハジメ、ファイト……」

とユエ

「頑張れハジメ」

とカービィ

「お前らは気楽だな!」

 

 そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、ハジメ達が逃走している理由は、

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

 二百体近い魔物に追われているからである。

 

 ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調よく降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

 

そろそろ体力的にきつい。

頼みの綱は

「カービィ、なんとかできるか?」

 

「う〜ん、ちょっと多いけど頑張ってみるよ!スーパー能力スノーボウル!」

 

カービィはまた新たな能力を使う。

「一体いくらあるんだ」とハジメは思う。

 

カービィは冷気をまとい雪の大玉となった。

そしてその大玉はゴロゴロと転がり次々と敵をくっつけてさらなる大きさへ。

 

 

 

そして全ての敵がくっついた。

 

 

「はぁ!」

とカービィが叫ぶと。

くっついていた奴らはまとめて倒された。

 

 

ユエは悔しそうに、

「……私、役に立つ。……パートナーだから」

 

 

確か、少し前に一蓮托生のパートナーなのだから頼りにしているみたいな事を言ったような、と、ハジメは首を傾げる。

 

 

「はは、いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺の役目だ」

「……ハジメ……ん」

 

カービィは思った。

「またボク忘れられてる」と。

 

 

二人がイチャついていると、ハジメの〝気配感知〟に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。

 

 

なんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」

「……ん、お花畑」

 

 ハジメ達の言う通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。それも色とりどりの花を。

 

 思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ラプトル達が一斉にハジメ達の方を見た。そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せる。

 

 

 

 結局十秒もかからず殲滅に成功した。しかし、ハジメの表情は冴えない。ユエがそれに気がつき首を傾げながら尋ねた。

 

「……ハジメ?」

「……ユエ、おかしくないか?」

「?」

「ちょっと弱すぎる」

 

 ハジメの言葉にハッとなるユエ。

 

 確かに、ラプトルも先のティラノも、動きは単純そのもので特殊な攻撃もなく簡単に殲滅できてしまった。それどころか殺気はあれどもどこか機械的で不自然な動きだった。花が取れたラプトルが怒りをあらわにして花を踏みつけていた光景を見た後なので尚更、花をつけたラプトル達に違和感を覚えてしまう。

 

 慎重に進もう、ハジメがユエにそう言おうとしたその時、〝気配感知〟が再び魔物の接近を捉えた。全方位からおびただしい数の魔物が集まってくる。ハジメの感知範囲は半径二十メートルといったところだが、その範囲内において既に捉えきれない程の魔物が一直線に向かってきていた。

 

「ユエ、ヤバイぞ。三十いや、四十以上の魔物が急速接近中だ。まるで、誰かが指示してるみたいに全方位から囲むように集まってきやがる」

「……逃げる?」

「……いや、この密度だと既に逃げ道がない。一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターだろ」

「ん……特大のいく」

「おう、かましてやれ!」

といい終わる前にカービィが何体にも増えて倒していた。

なんとカービィは「リフレクトフォース」と言うと攻撃を跳ね返し、

「ミラー分身」と言うと次々とカービィが増えた。

 

ハジメは固まっていた。

「ハジメ?」

ユエの声でふと我に帰る

 

見渡すと魔物も居ない。カービィも1人だった。

「夢か、」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

迷宮攻略に勤しんでいた。

 

 そして遂に、次の階層でハジメが最初にいた階層から百階目になるところまで来た。

 

 

 

ユエと出会ってからどれくらい日数が経ったのか時間感覚がないためわからないが、最近、ユエはよくこういうまったり顔というか安らぎ顔を見せる。露骨に甘えてくるようにもなった。

 

主にハジメに。

 

 

 

「ハジメ……いつもより慎重……」

「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のためだ」

「ボクを忘れないでよ!!」

 

「「あっ!」」

ユエとハジメの声が重なった。

 

 

ちなみに今のハジメ達のステータスはこうだ。

 

=============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

天職:錬成師

筋力:1980

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

============================

 

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カービィ(ポポポ) 年齢不明 性別不明 レベル:120

天職:星の戦士

筋力:2400

体力:18000

耐性:600

敏捷:3600

魔力:18000

魔耐:600

技能:言語理解・ホバリング・吸い込み・頑張り吸い込み・ビックバン吸い込み・コピー能力[+ビーム][+カッター][+レーザー][+ファイア][+バーニング][+アイス][+フリーズ][+スパーク][+ニードル][+ストーン][+ホイール][+トルネード][+ボール][+バックドロップ][+スロウ][+ソード][+パラソル][+ハンマー][+ユーフォー][+マイク][+ライト][+スリープ][+クラッシュ][+ボム][+ニンジャ][+ウィング][+ヨーヨー][+プラズマ][+ミラー][+ファイター][+スープレックス][+ジェット][+コピー][+コック][+ペイント][+エンジェル][+ミサイル][+スマブラ][+マジック][+ミニマム][+バルーン][+アニマル][+バブル][+メタル][+ゴースト][+リーフ][+ウィップ][+ウォーター][+スピア][+ビートル][+ベル][+サーカス][+スナイパー][+ポイズン][+ドクター][+エスパー]・コピー能力ミックス[+バーニングバーニング][+バーニングアイス][+バーニングスパーク][+バーニングストーン][+バーニングニードル][+バーニングカッター][+バーニングボム]][+アイスアイス][+アイススパーク][+アイスストーン][+アイスニードル][+アイスカッター][+アイスボム][+スパークスパーク][+スパークストーン][+スパークニードル][+スパークカッター][+スパークボム][+ストーンストーン][+ストーンニードル][+ストーンカッター][+ストーンボム][+ニードルニードル][+ニードルカッター][+ニードルボム][+カッターカッター][+カッターボム][+ボムボム]・属性ミックス[+ファイアソード][+アイスソード][+サンダーソード][+アイスボム][+サンダーボム]・スーパー能力[+ウルトラソード][+ドラゴストーム][+ミラクルビーム][+スノーボウル][+ギガントハンマー]特殊能力[+スターロッド][+虹の剣][+スターシップ][+ワープスター][+ラブラブステッキ][+マスター][+トリプルスター][+バトントワリング][+アイアン][+トップ][+カブキ][+ヒーローソード][+マジックビーム][+ヘビィハンマー][+ヒールドクター]・ロボボアーマー召喚・能力スキャン[+ビームモード][+ファイアモード][+ソードモード][+カッターモード][+ストーン][+パラソルモード][+スパークモード][+アイスモード][+ボムモード][+エスパーモード][+ホイールモード][+マイクモード]

============================

 

ハジメもカービィも魔物の肉を食べステータス上昇した。

といっても魔物の肉をカービィがコックで調理するとさらに上昇した。

 

普通に美味しかった。

というかカービィは魔物を直接鍋に入れただけだから実質的に生。

 

 

のはずなのに美味しかった。

 

 

しばらくして、全ての準備を終えたハジメとカービィとユエは、階下へと続く階段へと向かった。

 

 

 




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ヒュドラ

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全ての準備を終えたハジメとカービィとユエは、階下へと続く階段へと向かった。

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。

 

二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

「……反逆者の住処?」とユエ

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

「……んっ!」

 

「やったね2人とも!」

 

と上からハジメ、ユエ、カービィ。

 

 

 

 そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 

その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 ハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。

カービィも見覚えのあるのだが緊張感がなかった。

 

だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

「……大丈夫……私達、負けない……」

「ボクも戦うからね!」

 

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとカービィとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開いた。

カービィは危険を察知してコピー能力を急いで使う。

 

「コピー能力マジックビーム!」

カービィは急いで杖に魔力を思い切りかけ力を溜める。

「タイムビーム!」

 

タイムビームが命中し、ヒュドラは動きを止める。

 

ハジメは驚いたように

「どうなったんだ?」

と呟く。

「時間があるから急いで!!」

とカービィは呼びかける。

 

「わかった。」

「んっ!」

 

 

ドパンッ!

 

「〝緋槍〟!」

 

「サイクルビーム!」

 

「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

ドパァン!ドパァァァン!!

 

「サイクルビーム!はどうビーム!!マシンガンビーム!!レボリューションビーム!!」

 

次々と攻撃がヒットする。

 

「みんな来るよ!!」

 

ハジメ、ユエ、カービィは下がる。

 

時は再び動き出した。

 

すると急にダメージを与えられたことで違うモーションに映り一瞬で七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。

 

ハジメは銀頭が視線をユエに逸した瞬間、全身を悪寒に襲われ同時に飛び出していた。

 

 青頭の時の再現か、極光がユエを丸ごと消し飛ばす前に、再び立ち塞がることに成功したハジメ。だが、その結果は全く違ったものだった。極光がハジメを飲み込む。後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。

 

 極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。

「ハジメ!?」

 ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。

 

「ハ、ハジメ?」

「……」

「そんな……」

カービィは不注意のあまりタイムビームのことを伝えなかったことを悔やむ。

 ハジメは答えない。そして、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。

 

「「ハジメ!」」

 

仰向けにしたハジメは容態は酷いものだった。指、肩、脇腹が焼き爛ただれ一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目から血を流していた。角度的に足への影響が少なかったのは不幸中の幸いだろう。

 

 ユエは急いで神水を飲ませようとするが、そんな時間をヒュドラが待つはずもない。今度は直径十センチ程の光弾を無数に撃ちだしてきた。まるでガトリングの掃射のような激しさだ。

 

カービィは飛び出す。

 

「させない!コピー能力ミラー!リフレクトフォース!!」

 

カービィはハジメとユエをかばいリフレクトフォースで攻撃を跳ね返すが長くは続かない。

 

カービィに纏われていた鏡は破壊され直撃した。

瞬時にコピー能力ヒーローソードに切り替えてヒーローガードでハジメ達を守る。

 

むせるハジメを押さえつけて無理やり飲ませた。

 

 ユエはハジメに神水を飲ませた。しかし、神水は止血の効果はあったものの、中々傷を修復してくれない。いつもなら直ぐに修復が始まるのに、何かに阻害されているかの様に遅々としている。

 

「どうして!?」

 

 ユエは半ばパニックになりながら、手持ちの神水をありったけ取り出した。

 

 実は、ヒュドラのあの極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれていたのだ。

 

 

「……今度は私が助ける……」

 

 そう決意の言葉を残し、ユエは柱を飛び出していった。魔力は僅か、神水は既に使い切り、頼れるのは身体強化を施した吸血鬼の肉体と、心もとない〝自動再生〟の固有魔法、そしてハジメのドンナー、それとカービィだ。カービィは今もなおハジメをかばい続けている。

 

 

 

 ユエは少しでも状況を打開しようと、苦し紛れではあるがドンナーの引き金を引いた。〝纏雷〟は使えないが雷系の魔法は使えるため何とか電磁加速させることができた。そして、ビギナーズラックというべきか、弾丸は弾幕の隙間を縫うように銀頭のこめかみ辺りに着弾した。

 

 しかし、

 

「えっ」

 

 思わずユエが声を漏らす。確かに電磁加速させた不十分とは言えそれなりの威力を持った一撃だったはずなのに、銀頭は浅く傷ついただけで大したダメージを受けた様子がなかったのだ。ユエの表情に絶望の影が差す。しかし、自分の敗北はすなわちハジメの死を意味するのだ。ユエは歯を食いしばって再び回避に徹する。

 

 だが、そんなワンパターンがいつまでも続くはずがなかった。銀頭の眼がギラリと光ると二度目の極光が空間を軋ませながら撃ち放たれた。光弾の影響で回避ルートが限られていたユエは、自ら光弾に飛び込み吹き飛ばされることで、どうにか極光のもたらす破滅から身を守る。

 

 しかし、その代償に腹部に光弾をまともに喰らって地面に叩きつけられた。

 

「うぅ……うぅ……」

 

 体が動かない。直ぐさま動かなければ光弾に蹂躙じゅうりんされる。わかっていて必死にもがくユエだが、体は言うことを聞いてくれない。〝自動再生〟が遅いのだ。ユエはいつしか涙を流していた。悔しくて悔しくて仕方ないのだ。自分ではハジメを守れないのかと。

 

 銀頭が、倒れ伏すユエに勝利を確信したように一度「クルゥアアン!」と叫ぶと光弾を撃ち放った。

 

 光弾がユエに迫る。ユエは眼を閉じなかった。せめて心は負けるものかとキッと銀頭を睨見つけた。光弾が迫り視界が閃光に満たされる。直撃する。死ぬ。守れなかったこと、先に逝く事を、ユエはハジメに対し心の中で謝罪しようとした。

 

 刹那……一陣の風が吹いた。

 

「えっ?」

 

 気がつけば、ユエは、自分が抱き上げられ光弾が脇を通り過ぎていくのを見ていた。そして、自分を支える人物を信じられない思いで見上げる。それは、紛れもなくハジメだった。満身創痍のまま荒い息を吐き、片目をきつく閉じてユエを抱きしめている。その隣には頭に飛行機のようなものを付けているカービィーージェットカービィがいた。

「もう大丈夫だよ。」

「泣くんじゃねぇよ、ユエ。お前の勝ちだ。」

「カービィ!ハジメ!」

 

ユエは感極まったようにハジメに抱きつく。怪我はほとんど治っていない。実際、ハジメは気力だけで立っているようなものだった。

 

ハジメは銀頭を見やる。周囲に光弾を浮かべながら余裕の表情で睥睨へいげいし、今更死にぞこないが何だと問答無用で光弾を放った。

 

「遅ぇな」

 

 ハジメはギリギリまで動かず、光弾が直撃する寸前でふらりと倒れるように動き回避する。

 

 銀頭の眼が細められ、無数の光弾が一気に襲ってきた。

 

「ハジメ、逃げて!」

 

 ユエが必死の表情でハジメに言うが、ハジメはどこ吹く風だ。ユエを抱いたままダンスでも踊るようにくるりくるりと回り、あるいはフラフラと倒れるように動いて光弾をやり過ごしてしまう。まるで光弾の方がハジメを避けていると勘違いしそうだ。カービィももうスピードで攻撃をかわして更に攻撃を仕掛ける。

 

 ユエが目を丸くする。

 

「ユエ、血を吸え」

 

 静かな目、静かな声でユエに促す。ユエはただでさえ血を失っているのにと躊躇ためらう。ひらりひらりと光弾を交わしながら、ハジメはユエをきつく抱きしめ首元に持ち上げる。

 

「最後はお前の魔法が頼みの綱だ。……やるぞ、ユエ、カービィ。俺達が勝つ!」

「……んっ!」

「うん!」

ハジメの強烈な意志の宿った言葉に、ユエもカービィもまた力強く頷いた。

 

 ハジメは見ていた。揺らぐ意識を必死に繋ぎ留めながらユエが一人戦っている光景を。ハジメの銃を片手に必死に戦い、嬲なぶられるように追い詰められていく姿を。そして、極光が放たれ地面に倒れ伏し止めを刺されそうな瞬間を。

 

 ハジメの胸中に激烈な怒りが満ちた。自分は何をしている? いつまで寝ていれば気が済む? こんな所でパートナーを奪われる理不尽を許容するのか? あんな化物如きに屈するのか?

 

 否! 断じて否だ! 自分の、自分達の生存を脅かすものは敵だ! 敵は、

 

「殺す!」

 

 その瞬間、頭のなかにスパークが走ったような気がし、ハジメは一つの技能に目覚めた。〝天歩〟の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、合わせて〝天歩〟の各技能を格段に上昇させる。ハジメはまた一つ、〝壁を超えた〟のだ。

 

 この技能でハジメは一瞬でユエの元にたどり着き、緩やかに飛んでくる光弾をギリギリでかわしているのである。

 

 やがて、ユエが吸血を終え完全に力を取り戻した。

 

「ユエ、合図をしたら〝蒼天〟をカービィはウルトラソードを頼む。それまで、回避に徹しろ」

「ん……ハジメは?」

「俺は、下準備」

 

「ん!」

「わかった!」

 

ハジメはドンナーを撃ち尽くすと〝空力〟で宙へ跳躍する。今までの比でないくらい細やかなステップが可能になっており、天井付近の空中を泳ぐように跳躍し光弾をかわす。

 

 いい加減苛立ったのか銀頭が闇雲に極光を放った。スッとかわしたハジメはニヤリと笑う。ハジメは看破していた。銀頭が極光を放っている間は硬直していることを。そして、リロードしたドンナーを再び六箇所に向かって狙い撃った。

 

 

 ハジメは天井にドンナーで穴を開け、空中で光弾をかわしながら手榴弾を仕込みつつ、錬成で天井の各部位を脆くしておいたのである。そして、六箇所をほぼ同時に撃ち抜き爆破した。

 

ただの質量で倒せたら苦労しないのだ。〝縮地〟で押しつぶされ身動きが取れない銀頭に接近し、錬成で崩落した岩盤の上を駆け回りそのまま拘束具に変える。同時に、銀頭の周囲を囲み即席の溶鉱炉を作り出した。その場を離脱しながら焼夷手榴弾などが入ったポーチごと溶鉱炉の中に放り込み、叫ぶ。

 

「カービィ!ユエ!」

「んっ! 〝蒼天〟!」

「わかった。スーパー能力!ウルトラソード!!」

 

 

「グゥルアアアア!!!」

 

 銀頭が断末魔の絶叫を上げる。何とか逃げ出そうと暴れ、光弾を乱れ撃ちにする。壁が撃ち崩されるが、ハジメが錬成で片っ端から修復していくので逃げ出せない。極光も撃ったばかりなので直ぐには撃てず銀頭は為す術なく巨大な剣と高熱に挟み撃ちにされた。

 

 感知系技能からヒュドラの反応が消える。今度こそヒュドラの死を確信したハジメは、そのまま後ろにぶっ倒れた。

 

「「ハジメ!!」」

 

ユエが慌ててハジメのもとへ行こうと力の入らない体に鞭打って這いずる。

 

「流石に……もうムリ……」

 

 何とかハジメのもとへたどり着いたユエが抱きついてくる感触を感じながら、ハジメはゆっくり意識を手放した。

 

カービィはなんとか持参していたマキシムトマト(全回復アイテム)

と、言うより、決戦前、調理した魔物から入手した、『マキシムトマト』で体力を回復して、その先にあった建物の中に2人をロボボアーマー(エスパーモード)で運んだ。

 

 




好評だったり、続けて欲しいと、いう声があれば確実に続きます!
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ダンスを踊ろう

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「よいしょっと」

ボクはバジメとユエを『反逆者の住処』という場所に運んでいる。

中にちょうどベッドがあったからだ。

 

さて、ひと段落ついたからアレをやろう!

 

すると何処からかボスを倒した時に聞こえる音楽が聞こえてくる。

そしてノーマルの状態で3人に増えて、踊り始める。

『テテテテテテテッテテ〜テテテテテテテッテ〜テテテテテテテッテテ〜テテッテテッテテ!』

「「「ハァィ!」」」

そしてボクは1人に戻る。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ハジメとユエが起きたからボクたちは三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。

 

 

それよりも注目してしまうのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影。人影は骸だった。ローブを羽織っている。

 

 

おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているよう。

 

「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。ユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」

「ん……気を付けて」

「ボクは行くよ!」

ボクはハジメについて行く。

 

ハジメはそう言うと、魔法陣へ向けて踏み出した。そして、ハジメが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

やがて光が収まり、目を開けたハジメの目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

 

 中央に立つハジメとカービィの眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

「おすかーおるくす?よろしくねボクカービィ!」

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君たちに神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、ハジメの脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいためと理解できたので大人しく耐えた。カービィは自身に新たな能力を可能性を感じた。

 

 

ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

 

「うん? 別にどうもしないぞ? 元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ。……ユエは気になるのか?」

 

 

「私の居場所はここ……他は知らない」

 

 

「……そうかい」

 

 若干、照れくさそうなハジメ。それを誤魔化すためか咳払いを一つして、ハジメが衝撃の事実をさらりと告げる。

 

「あ~、あと何か新しい魔法……神代魔法っての覚えたみたいだ」

「……ホント?」

「ボクは新しいコピー能力を手に入れたよ!」

「マジか……」とハジメ、

「……見てみたい。」とユエ。

 

「わかったよ!コピー能力クリエイト!」

するとカービィは色の白い輪を被っていた。

白い輪には四つ宝石が付いていた。

「どんな技が使えるんだ?」

「……んっ、気になる。」

 

「そうだね、じゃあこれなんかどう?『ウルトラソード』/『ウルトラソード』/『ジェット』/『』」

とカービィが言うと、白い輪の宝石が三つ模様が付いていた。その模様はウルトラソード、ウルトラソード、ジェット、だった。

カービィの姿は両手にウルトラソードを持ち、背中にジェットが付いている。

 

「新しいコピー能力は能力を重ねがけできるみたい。つまり能力を最大四つ合わせて新しい能力を作れるってこと!」

「「………」」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ハジメ達があさり…じゃなくて設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の七人との何気ない日常について書いたもののようである。

 

 その内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「……つまり、あれか? 他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」

「……かも」

「ボクも新しいコピー能力が手に入るってことだね〜」

 手記によれば、オスカーと同様に六人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったが……

 

「……帰る方法見つかるかも」

 

 ユエの言う通り、その可能性は十分にあるだろう。実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。

 

「だな。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」

「んっ」

「おおっ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

現在、ユエはハジメのマッサージ中である。エロいことは今はしていない。何故、マッサージしているかというと、それはハジメの左腕・・が原因だ。ハジメの左腕に付けられた義手と体が馴染むように定期的にマッサージしているのである。

 

 この義手はアーティファクトであり、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことができる。擬似的な神経機構が備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わる様に出来ている。また、銀色の光沢を放ち黒い線が幾本も走っており、所々に魔法陣や何らかの文様が刻まれている。

 

 実際、多数のギミックが仕込まれており、工房の宝物庫にあったオスカー作の義手にハジメのオリジナル要素を加えて作り出したものだ。生成魔法により創り出した特殊な鉱石を山ほど使っており、世に出れば間違いなく国宝級のアーティファクトとして厳重に保管されるだろう逸品である。もっとも、魔力の直接操作ができないと全く動かせないので常人には使い道がないだろうが……

 

 この二ヶ月で二人の実力や装備は以前とは比べ物にならないほど充実している。例えばハジメ達のステータスは現在こうなっている。

 

 

 

====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:10950

体力:13190

耐性:10670

敏捷:13450

魔力:14780

魔耐:14780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

====================================

 

カービィはというと今回覚えた能力が少ない分ステータスの伸びが高かった。

============================

カービィ(ポポポ) 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆

天職:星の戦士・ピンクの悪魔

筋力:25000

体力:200000

耐性:10000

敏捷:100000

魔力:200000

魔耐:10000

技能:言語理解・ホバリング・吸い込み・頑張り吸い込み・ビックバン吸い込み・コピー能力[+ビーム][+カッター][+レーザー][+ファイア][+バーニング][+アイス][+フリーズ][+スパーク][+ニードル][+ストーン][+ホイール][+トルネード][+ボール][+バックドロップ][+スロウ][+ソード][+パラソル][+ハンマー][+ユーフォー][+マイク][+ライト][+スリープ][+クラッシュ][+ボム][+ニンジャ][+ウィング][+ヨーヨー][+プラズマ][+ミラー][+ファイター][+スープレックス][+ジェット][+コピー][+コック][+ペイント][+エンジェル][+ミサイル][+スマブラ][+マジック][+ミニマム][+バルーン][+アニマル][+バブル][+メタル][+ゴースト][+リーフ][+ウィップ][+ウォーター][+スピア][+ビートル][+ベル][+サーカス][+スナイパー][+ポイズン][+ドクター][+エスパー][+クリエイト]・コピー能力ミックス[+バーニングバーニング][+バーニングアイス][+バーニングスパーク][+バーニングストーン][+バーニングニードル][+バーニングカッター][+バーニングボム]][+アイスアイス][+アイススパーク][+アイスストーン][+アイスニードル][+アイスカッター][+アイスボム][+スパークスパーク][+スパークストーン][+スパークニードル][+スパークカッター][+スパークボム][+ストーンストーン][+ストーンニードル][+ストーンカッター][+ストーンボム][+ニードルニードル][+ニードルカッター][+ニードルボム][+カッターカッター][+カッターボム][+ボムボム]・属性ミックス[+ファイアソード][+アイスソード][+サンダーソード][+アイスボム][+サンダーボム]・スーパー能力[+ウルトラソード][+ドラゴストーム][+ミラクルビーム][+スノーボウル][+ギガントハンマー]特殊能力[+スターロッド][+虹の剣][+スターシップ][+ワープスター][+ラブラブステッキ][+マスター][+トリプルスター][+バトントワリング][+アイアン][+トップ][+カブキ][+ヒーローソード][+マジックビーム][+ヘビィハンマー][+ヒールドクター]・ロボボアーマー召喚・能力スキャン[+ビームモード][+ファイアモード][+ソードモード][+カッターモード][+ストーン][+パラソルモード][+スパークモード][+アイスモード][+ボムモード][+エスパーモード][+ホイールモード][+マイクモード]

============================

 

 

ちなみにハジメとカービィのステータスを見た三人の反応は、

ハジメ、ユエ、カービィ「「「…………………………」」

 




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第2章
ピンクの悪魔が歌うとき……………


感想が前話で四件も来ました!
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本日は前話で感想が多かったので2本投稿しますよ!


カービィ達は脱出の魔法陣に名乗り光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩む。

 

 やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……

 

 洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

 

ハジメにユエは自分の推測を話す。慰めるように。

 

「……秘密の通路……隠すのが普通」

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

 途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。二人は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光だ。ハジメはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

 

 ハジメとユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。

 

 近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。ハジメは、〝空気が旨い〟という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

 そして、ハジメとユエは同時に光に飛び込み……待望の地上へ出た。

 

 地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 【ライセン大峡谷】と。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ボク達は今、ついに外に出たんだ♪

ひさびさに外に出たから歌いたい気分♪

 

「せっかく外に出たんから歌っていい?」

とボクはハジメに聞く。

 

「歌?いいぞ」

「んっ!聞きたい!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

俺はハジメ。

ついに地上に出ることに成功した俺たちはカービィの歌を聴く事になった。

カービィが歌うんだからきっとコピー能力を使って凄い歌が聴けるんだろうなぁ〜

 

 

………と、この後何が起きるか知らない俺とユエはそう思っていた。

 

 

 

「じゃあ歌うよ!コピー能力マイク!」

 

カービィは手にマイクを持って歌い始めたのだった。

 

「いつでもぐーすーかーーびぃーほしーーのかーーびぃーー…………」

 

 

 

めっちゃ音痴だった。

やばい、耳が痛いとか言う次元じゃない!

さっきまでいた洞窟は崩れ辺りの魔物は死んで逝く。

 

隣を見ると……ユエが倒れた。

 

くそっ!なんとかあの兵器を止めなければ!

ジャイ○ンかよ!

 

「へーいーわーーなーーらくえんーーだれかがながしたなーみだーーこーわーいゆーめなんてーー……」

 

 

たぶん効かないと思うが、カービィに向かってドンナーを使う。

 

ドパァン

 

「まんまるぴんくーだーよー!ほーしーーのぉかーびぃーー」

 

 

だがカービィの歌から音符(物理)が現れ弾丸を弾いた。

マジか。

 

 

「つよい!ほしの!せんしーー」

 

その音符(物理)は次々と現れこれには物理ダメージもあるようだ。

 

と、分析してると目の前に音符(物理)が!

だが、

「たのんだよーかーびぃーー」

ちょうど歌が終わり音符も消えた。

 

「よかった」

生きてて。

 

「よかった?ありがとう!じゃあもう一曲!」

「コピー能力

 

「よ〜し!頑張るぞ!コピー能力クリエイト『マイク』/『マイク』/『マイク』/『マイク』さぁ!いってみよう!」

 

そこで俺の意識は途切れた。

 

その歌で樹海が崩壊したのは後で知った。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

意識が戻った俺たちはカービィのロボボアーマーホイールモードで高速移動している。

 

カービィの歌で道には魔物一匹もいなかった。

 

しばらくするとウサミミ少女がいた。

地面に身を守るように丸まっているウサミミ少女を見やる。

 

「……何だあれ?」

「……兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「……聞いたことない」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「……悪ウサギ?」

 

カービィとハジメとユエをウサミミ少女の方が発見したらしい。

 

「だずげでぐだざ~い! 音で死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

 

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。

どうやらカービィの歌の被害者のようだ。

カービィは悪気がないようだが。

 

ハジメに助ける気がないことを悟ったのか、少女の目から、ぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

 

「いや、もう音は聞こえないだろ。」

ロボボアーマーホイールモードで逃げる俺たち。

ああいうのは関わると面倒だからな。

 

「!?いやです!」

そう言ってウサミミ少女はロボボアーマーホイールモードに追いつくスピードで追いかけてくる。

「おい、こら。存在がギャグみたいなウサミミ! 何で追いかけてくるんだ!」

 

 遂に追いついてハジメのコートの裾をギュッと掴み、絶対に離しません! としがみつくウサミミ少女を心底ウザったそうに睨むハジメ。後ろの席に座るユエが、離せというように足先で小突いている。

 

「い、いやです! 今、離したら見捨てるつもりですよね!」

「当たり前だろう? なぜ、見ず知らずウザウサギを助けなきゃならないんだ」

「そ、即答!? 何が当たり前ですか! あなたにも善意の心はありますでしょう! いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないんですか!」

「そんなもん奈落の底に置いてきたわ。つぅか自分で美少女言うなよ」

「な、なら助けてくれたら……そ、その貴方のお願いを、な、何でも一つ聞きますよ?」

 

 頬を染めて上目遣いで迫るウサミミ少女。あざとい、実にあざとい仕草だ。涙とか鼻水とかで汚れてなければ、さぞ魅力的だっただろう。実際に、近くで見れば汚れてはいるものの自分で美少女と言うだけあって、かなり整った容姿をしているようだ。白髪碧眼の美少女である。並みの男なら、例え汚れていても堕ちたかもしれない。

 

 

 

いい加減本気で鬱陶しくなったハジメは脇の下の脳天に肘鉄を打ち下ろした。

 

「へぶぅ!!」

 

 呻き声を上げ、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るウサミミ少女。それを冷たく一瞥した後、ハジメは何事もなかったようにロボボアーマーホイールモードになり直して先へ進もうとする。

 

 その気配を察したのか、今までゴロゴロ地面を転がっていたくせに物凄い勢いで跳ね起きて、「逃がすかぁ~!」と再びハジメの腰にしがみつくウサミミ少女。やはり、なかなかの打たれ強さだ。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

 そして、なかなかに図太かった。

だが助ける気なんて……。

と、思ったがハジメはロボボアーマーを誰が操縦しているか思い出す。

 

カービィだ。

「困ってるの?ボク達に任せてよ!!」

 

「助けてくれるんですか?ありがとうございますぅ!」

 

 ハジメは、しがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。

 

 





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さらに本日はもう1本投稿します!


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残念ウサギ

予告通り本日2本目ですよ!!



「助けてくれるんですか?ありがとうございますぅ!」

 

 ハジメは、しがみついて離れないウサミミ少女を横目に見る。そして、奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった。

 

客観的に見ればシアも負けず劣らずの美少女ということだ。

 

シアは少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。

 

しかしシアは残念なウサギだった。

 

矜持を傷つけられたシアは言ってしまった。言ってはならない言葉を……

 

「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっち女の子はペッタンコじゃないですか!」

 

〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟〝ペッタンコじゃないですか〟

 

 峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊こだまする。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。

 

 ハジメは「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。ウサミミよ、安らかに眠れ……。

 

 ちなみに、ユエは着痩せするが、それなりにある。断じてライセン大峡谷の如く絶壁ではない。

 

 震えるシアのウサミミに、囁ささやくようなユエの声がやけに明瞭に響いた。

 

―――― ……お祈りは済ませた? 

―――― ……謝ったら許してくれたり

―――― ………… 

―――― 死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

 

「〝嵐帝〟」

 

―――― アッーーーー!! 

 

 突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共にハジメ達の眼前に墜落した。

 

カービィはシアを回復させる。

 

「大丈夫?コピー能力ヒールドクター」

 

シアの体力が全回復した。

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」

 

 涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明なことを言いながらハジメ達の下へ這い寄って来た。既にホラーだった。

 

「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ……何者なんだ?」

 

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

 

 

カービィは余りに話が長く、難しい(?)為よくわからなかったが困ってることだけはわかった。

 

ハジメは樹海の案内と引き換えにシアを雇った。

 

 

 

「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

 ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

 

「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それでお二人のことは何と呼べば……」

「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

「……ユエ」

「ボクはカービィ!よろしくね!」

「カービィさんとハジメさんとユエちゃんですね」

 

 3人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。

 

「……さんを付けろ。残念ウサギ」

「ふぇ!?」

 

「ほれ、取り敢えず残念ウサギも後ろに乗れ」

 

シアをロボボアーマーホイールモードに乗せた。

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのでしょう? それに、魔法も使いましたよね?ここでは使えないはずなのに……」

「あ~、それはカービィに聞いてくれ。」

「カービィさんこれ何ですか?」

「えーっとね、これはロボボアーマーって言って『ハルトマンワークスカンパニー』って言う会社が作ったマシンだよ!」

 

 

 ハジメは、道中、ユエが魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。あとカービィはまた違う能力だと。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

 

「え、それじゃあ、3人も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

「ああ、そうなるな」

「……ん」

 

 しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様にハジメの肩に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。

 

「……いきなり何だ? 騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり……情緒不安定なヤツだな」

「……手遅れ?」

「手遅れって何ですか! 手遅れって! 私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

「「「……」」」

 

なんだかんだでユエとハジメがイチャイチャし始めた。

 

「あの~、私のこと忘れてませんか? ここは『大変だったね。もう一人じゃないよ。傍にいてあげるから』とか言って慰めるところでは? 私、コロっと堕ちゃいますよ? チョロインですよ? なのに、せっかくのチャンスをスルーして、何でいきなり二人の世界を作っているんですか! 寂しいです! 私も仲間に入れて下さい! 大体、お二人は……」

「「黙れ残念ウサギ」」

「……はい……ぐすっ……」

「ボクのこと忘れないでよ!」

ハジメとユエはあの歌を思い出したように身震いして、

「「ワスレテナイデスヨヤダナー」」

実はあの後(一曲目終了後)更に11曲歌っていた。

途中でハジメとユエは意識を取り戻すも、また気絶するの繰り返しだった。

それでこの渓谷にいた魔物が全滅したのは言うまでもない。

そんなシーンが今ハジメとユエの中では再生されていた。

 

「私と対応違くないですか!?」

「「黙れ残念ウサギ!!」」

 

いろいろあってシアの案内により、ハウリア族を見つけた。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

 その聞きなれた声音に、これは現実だと理解したのか兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

 

その後ハウリア族を連れてハジメ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。

 

 登りきった崖の上、そこには……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

 だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

 

「カービィ、」

「何?」

「歌を一曲。」

 

ハジメはハウリア族に専用の完全防音耳栓を渡し。

ハジメとユエも人用の完全防音耳栓をつける。

 

「いっくよ!〜きほんはまるーーまるーかいてーまるーーまるーかいてーまるーー!」

 

ー10分後ー

 

その後三十人の帝国兵を見たものは居ない。

 

 

 

改まってシアは聞いてきた。

「あの、あの! ハジメさんとユエさんのこと、教えてくれませんか?」

「? 俺達のことは話したろ?」

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身のことが知りたいです。」

「……聞いてどうするの?」

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。お二人に出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとお3人のことを知りたいといいますか……何といいますか……」

 

 結果……

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。カービィさんは色々ありすぎですぅ〜そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

 

「なんかボクだけかわいそうじゃない見たいなんだけど」

そう、カービィは自分の歌を天才ではないのかレベルと思っている。

 

実際は天才ではなく天災だが。

 

とこの場にいるカービィ以外の誰もが思ったのだった。

 

 




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プププランドと銀河最強の紅の剣士

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ボクはカービィ。

さっきまでボク達が此処までのことを説明したらシアが感動していた。

ボクらの話を聞いたシアは決意したように。

 

「カービィさん!ハジメさん!ユエさん! 私、決めました! お二人の旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが3人を助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった4人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

 勝手に盛り上がっているシアに、ハジメとユエが実に冷めた視線を送る。

 

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんだ? 完全に足でまといだろうが」

「……さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている……厚皮ウサギ」

 

「もうなかまだよ〜」

 

「「「………」」」

 

あれ?ボクなにかまずいこと言ったかな?

 

「な、何で暖かい目で見るんですか……心にヒビが入りそう……というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」

 

 意気込みに反して、冷めた反応を返され若干動揺するシア。そんな彼女に追い討ちがかかる。

 

「……お前、単純に旅の仲間が欲しいだけだろう?」

「!?」

 

「一族の安全が一先ず確保できたら、お前、アイツ等から離れる気なんだろ? そこにうまい具合に〝同類〟の俺らが現れたから、これ幸いに一緒に行くってか? そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅出来るとは思えないしな」

「……あの、それは、それだけでは……私は本当に3人を……」

 

 

 

「別に、責めているわけじゃない。だがな、変な期待はするな。俺達の目的は七大迷宮の攻略なんだ。おそらく、奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。お前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない」

「……」

 

「ボクが守るよ!」

ボクならできるよ!

けど

「だが、その後はどうする?」

 

「えっーっと、鍛える!」

 

「よし、後で鍛えよう」

 

ということになった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ーその頃プププランドではー

 

 

ハルトマンワークスカンパニーより少し離れた場所、そこには『戦艦ハルバード』があった。

 

 

〜ハルバード内〜

 

そこで1人の球体剣士が目を覚ました。

 

「ここは……?ハルバードか。」

 

その剣士が起きた事にその部下たちは気づいた。

 

「「「メタナイト様!」」」

 

駆けつけたのはメタナイトの部下、ブレイドナイト、ソードナイト、バル艦長、ワドルディ数人だ。(部下全員)

メタナイトは起き上がった。

「メタナイト様!」

「心配かけたな。もう大丈夫だ。」

そう言って球体剣士、メタナイトはハルバードをでた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

メタナイトが向かったのはハルトマンワークスカンパニーだ。

 

と、言っても星の夢がある部屋まではカービィにより完全攻略されていた。

 

メタナイトは星の夢がある部屋までついた。

 

星の夢は今まさにギャラクティックナイトを呼び出そうとしていた。

 

「一足遅かったか。」

 

ギャラクティックナイトは復活したのだった。

 

ギャラクティックナイトは星の夢を破壊してメタナイトに襲いかかった!

 

ギャラクティックナイトは地面から炎の柱をいくつも出す。

 

メタナイトはギャラクティックナイトと戦うのは3回目だったので以前のその攻撃を思い出して避けた。

 

「だったら、マッハトルネード!」

 

ギャラクティックナイトはマッハトルネードを回避して無数の剣を飛ばす。

 

「………」

 

再びマッハトルネードをメタナイトは出す。

ギャラクティックナイトは連続で来るとは予想外だった為大ダメージをくらい体制を崩した。

メタナイトはここぞとばかりに必殺技を放った。

『受けてみるがいい、ギャラクシアダークネス!」

 

 

ギャラクティックナイトは必殺技を直撃したが、

 

ギャラクティックナイトは自身の武器、ランスを掲げると、ランスに紅のハートマークが現れた。

 

すると、何処からか無数の紅の蝶がやってきてギャラクティックナイトを包んだ。

 

 

 

 

しばらく経って蝶が飛んでいくとそこにいたのはギャラクティックナイトが強化された姿、『バルフレイドナイト』がいたのだった。

 

 

 




今回は短めですみません。

それと!

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銀河最強決戦

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ここはプププランド。

 

今銀河を掛けた戦いが起こっていた。

 

 

メタナイトは銀河最強の戦士ギャラクティックナイトと戦っていた。

メタナイトが必殺技を決めたが何処からか無数の紅の蝶がやってきてギャラクティックナイトを包んだ。  

するとしばらく経って蝶が飛んでいくとそこにいたのはギャラクティックナイトが強化された姿、『バルフレイドナイト』がいたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

バルフレイドナイトはメタナイトにランスではなく二本の、メタナイトが使用している武器『宝剣ギャラクシア』とほぼ似ているがそれよりも紅い剣を二本持っていた。

 

そして始めてバルフレイドナイトは口を開いた。

「ここからが本番だ。」と。

 

「わかっている。竜巻斬り」

 

メタナイトは巨大な竜巻を放つ。だがメタナイトの背後に移動することで回避できる事をしバルフレイドナイトは知っていた。

「瞬間移動」

バルフレイドナイトはメタナイトの背後に瞬間移動し、燃える蝶のようなエフェクトを出して攻撃した。

 

メタナイトはこの事をあまり考えていなかったが、予想はしていた。

メタナイトの身体が一瞬輝き、

「ギャラクティックカウンター」

カウンターが決まった。

しかしバルフレイドナイトはとっさにガードをし、ダメージを軽減した。

そしてカウンターを放って一瞬の隙が出来たメタナイトに向かって技を放つ。

「ハイパーラッシュ」

バルフレイドナイトは剣を連続で振り、最後にムーンショット(三日月型の赤い衝撃波)を飛ばした。

隙を突かれ直撃したメタナイトは大きく吹き飛んだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

突然だけど説明!*メタナイトが使用している武器『宝剣ギャラクシア』には『メタポイント』というエネルギーをためることができ(最大50ポイント)、敵を剣で倒す、もしくは斬る(大体30〜40回ぐらいということにとする)ことにより(注意*ゲームではザコ敵も中ボスも、大ボスも倒さないとメタポイントは手に入りません)、エネルギーが増え、一定のエネルギーを溜めると特殊な技を使えるようになる。特殊な技を使うとエネルギーを決められた数だけ消費する。消費するエネルギーは技によって違う。ザコ敵(カービィの世界で言う中ボス以外でHPバーが無い敵と思ってください)を倒すとゲームでは1 〜 3ポイント(ここでは間を取って2ポイントとさせていただきます。)、倒すまで吸い込めない中ボスや複数体一組の大ボスの1体(グランドドラゴン除く)を倒す、もしくは斬ると5ポイント、1体のみの大ボスやグランドドラゴンを倒す、もしくは斬ると10ポイント溜まる。

 

更にメタポイントで(この小説の時間軸で)使用可能な技を説明!*『メタクイック』(8ptで使用可能。15秒間メタナイトのスピードが上がる。)『ヒーリング』(10ptで使用可能。メタナイトの体力が全回復する。)マッハトルネイド(30ptで使用可能。自身が勢いよく回転して竜巻を起こし、全体に大ダメージをあたえる。)

ギャラクシアダークネス(18ptで使用可能。左右にしかダメージが入らないが大ダメージをあたえる。)

 

それを踏まえてメタナイトのメタポイントは満タンでギャラクティックナイトに挑んで、バルフレイドナイトになった時に一度メタポイントが全回復したとしてください。

 

 

長い説明大変失礼しました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

大きく吹き飛んだメタナイトはすぐに立て直す。

「ヒーリング、ムーンカッター、ナイトビーム、波動斬り、ドリルスラッシュ、メタ回てんぎり、たてぎり→メタ3れんぎり→メタ百れつぎり!」

 

ヒーリングでメタナイトは体力を全回復し、続けてムーンカッター(三日月の形をした刃を飛ばす。)、ナイトビーム(HPが満タンのときのみ使用可能な技。剣先からビームを放つ。)、波動斬り(剣からエネルギー波を放つ。横一列を攻撃する。)で遠距離からバルフレイドナイトに攻撃する。バルフレイドナイトはここで瞬間移動してもメタナイトに好都合なだけなので回避を続けるが波動斬りに直撃してしまう。そこへメタナイトはドリルスラッシュ(剣を突出しながら突進して攻撃する。)で間合いを詰めて、メタ回てんぎり(横方向に回転しながら連続攻撃する。)をして更に、たてぎり→メタ3れんぎり→メタ百れつぎり(コンボ技)で攻撃した。

 

大ダメージを負ったバルフレイドナイトは更に姿を変えた。「災来する黒き極蝶」という二つ名を持つバルフレイドナイトEXとなってしまった。

 

バルフレイドナイトEXは少し溜の姿勢に入った。

メタナイトは警戒して距離を取って溜の姿勢になる。

 

そして2人の声が重なるように言った。

 

「「竜巻」」

 

2人は同じ技を放った。

 

しかし、決定的に違う点はメタナイトが放った竜巻は三連竜巻だがバルフレイドナイトEXの放った竜巻は五連竜巻だった。

 

メタナイトの竜巻は押し負け更にバルフレイドナイトEXは追撃するように

 

「空中ムーンショット、空中ムーンショット。」

空中から三日月状の衝撃波を三発飛ばす。

 

メタナイトは空中ムーンショットにより怯んだ。

 

そのタイミングを狙っていたかのようにバルフレイドナイトEXは連続技を放った。

「アッパーキャリバー(剣できりあげ、空中連続攻撃に移る。体力を4割ぐらい奪う。)、極楽冥王斬閃(剣二本を同時に巨大化させ、振り払う。喰らい無敵を無視する。)、ハイパーラッシュ(剣を連続で振り、最後にムーンショットを飛ばす。)」

 

全て攻撃を直撃したメタナイトだがすぐに「ヒーリング」で体力を全回復した。(あと40pt)

そのとき、メタナイトは覚悟を決めた。『本当の全力でなければ勝てない』と。

メタナイトが本当の全力をださなかった理由は正々堂々とした勝負をしたかったからだ。

しかし、今メタナイトが負ければカービィがいない今、プププランドどころか銀河が滅んでしまう。それ程までに今のバルフレイドナイトEXは危険な強さだった。

 

メタナイトは決意を固めて宣言する。

「分身!」

 

するとメタナイトは4人に増えた。更にこのメタナイトは単純に数が増えたので力量は四倍だった。

 

「「「「メタクイック!!!!」」」」

 

4人のメタナイトはバルフレイドナイトEXのスピードを遥かに上回るスピードで動く。

 

バルフレイドナイトEXはメタナイトを目で追えなくなった。

 

「三連竜巻」「マッハトルネイド 」「ディメンションソード」「アッパーキャリバー」

「「「「フォースフォース(分身の数だけ岩を落として壁を作る。その後、壁を破壊しながらしたづき。)」」」」

「「「「マッハトルネイド」」」」

何もできないバルフレイドナイトEXにメタナイト4人は必殺技を決めた。

「「「「思い知れ、ダークネスイリュージョン!!!!(アッパーキャリバーのような連続攻撃を繰り出すが威力はアッパーキャリバーより上[ということにしておく]。この際メタナイトの翼が4枚になる。使用中はメタナイトの目が赤くなっている。」」」」

 

メタナイトの『最後の切り札』を同時に4人分直撃したバルフレイドナイトEX。

 

すると何処からかバルフレイドナイトEXに光が差し昇天するように消え、後にはハートと蝶のエフェクトを残したのだった。

 

「………やった、か。」

 

メタナイト4人は1人のメタナイトに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、メタナイトが安心した直後メタナイトの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れた。

「何!?」

とっさに離れようとしたが離れることがなぜかできなかった。何か強力な力に引っ張られるように。

メタナイトは察した。これによってカービィも連れていかれたのだと。

 

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に部屋全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

メタナイトは光が収まった事を確認した。

メタナイトが召喚されたのは謁見の間だった。

 

 

そこには光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

突然現れたメタナイトに警戒をした。

 

「何者だ!」

だが光輝は思い当たる節がある、そうメタナイトは球体なのでカービィに関連しているのではないかと思った。

「待ってください陛下。この者は俺の知り合いです。」

「何?」とメタナイトは言う。

「どう言う事だ?」とイシュタル。

「我々勇者の中に以前カービィと言う者がいましてその者の友人ではないかと思われます。」

 

 

「やはりカービィもこちらにいるのか……。そう言えばまだ名乗っていなかったな。私はメタナイト。カービィと同じ星の戦士だ。」

 




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メタナイトのトータス入りとハウリアと

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(忙しい時は遅れます。個人的事情で、です。)

遅れてすいませんでしたあああぁ!


「我々勇者の中に以前カービィと言う者がいましてその者の友人ではないかと思われます。」

と光輝は思い当たる言い当てる。 

 

「やはりカービィもこちらにいるのか……。そう言えばまだ名乗っていなかったな。私はメタナイト。カービィと同じ星の戦士だ。」

 

「ほぉ…」

 

その後イシュタル率いる司祭数人はメタナイトをどうするか話し合って、まずメタナイトの強さを測ろうとのことだった。

 

メタナイト卿ステータスは……

 

============================

メタナイト 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:星の戦士・銀河騎士団・星の戦士団・銀河最強の戦士・孤高の騎士・異界の霜刃・時巡る戦士・黄泉返る極蝶・災来する黒き極蝶

筋力:500000

体力:500000

耐性:0

敏捷:500000

魔力:500000

魔耐:0

技能:言語理解・剣技[+星の戦士流剣技][+銀河騎士団流剣技][+孤高流剣技][+鏡流剣技][+銀河最強流剣技][+極蝶流剣技]

============================

 

 

「なるほど、」

メタナイトは自身のステータスプレートを見て数値で表されているということは自身の強さを数値上で知ることができるということに嬉しく思う。残る問題はこの数値が高いか、ということ。

 

ステータスプレートを見て感心しているメタナイト。

 

イシュタル達にステータスプレートを見せたメタナイト。

見た人達は気絶してしまった。

 

メタナイトは気絶したイシュタル達を建物に運び、書き置きを残して旅だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

現在ハジメ達はハウリア族に樹海の案内をされていた。

すると、

 

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 

 

 虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

 

 

 樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。

 

 その有り得ない光景に、目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達を裏切り者を見るような眼差しを向けた。その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

 

「あ、あの私達は……」

 

 カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

ドパンッ!!

 

虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ハジメの腕が跳ね上がり、銃声と共に一条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺のキルゾーンだ」

「な、なっ……詠唱がっ……」

ハジメは更に脅……じゃなくて説明する。

「この樹海、ところどころ木が破壊されてたり、なぎ倒れたり、荒野になっていたりしてたよな?」

そう、この間のカービィの歌(全12曲)で樹海の魔物すらほとんど居なくなり、さらには樹海が荒野になったりなどなど(ちなみにライセン渓谷はカービィの歌によって渓谷が崩れて、渓谷の上からもどんどん崩れて、結果的にほぼ平地と化してしまったのだった。

「あ、ああ!それがどうした!ま、まさかお前がやったのか?」

 

ハジメは少し時間を開けて続ける。

 

「いや、俺じゃない。俺の隣にいるこのまんまるピンクのこいつがやった。こいつのは俺より強い。………どう言う事か、わかるな?」

 

「はっ!はい!」

(冗談だろ! こんな、こんなのまるっきり化物じゃないか!)

「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」

 

「……その前に、一つ聞きたい」

 

 虎の亜人は掠れそうになる声に必死で力を込めてハジメに尋ねた。ハジメは視線で話を促した。

 

「……何が目的だ?」

代わりにカービィが答えた。

「樹海の深部、大樹の下へ行って七大迷宮の攻略をする為だよ!」

ハジメはカービィに続いて、

「俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ」

「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「いや、それはおかしい」

「なんだと?」

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」

「弱い?」

「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」

「なんだ?」

「大迷宮というのは、〝解放者〟達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

「……」

ハジメの話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せなかった。解放者とやらも、迷宮の試練とやらも……聞き覚えのないことばかりだ。普段なら、〝戯言〟と切って捨てていただろう。だがしかし、今、この場において、ハジメが適当なことを言う意味はないのだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その後ハジメ達は結局迷宮は行けず、ハウリア達を鍛える事にしたのだが、

 

 

「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する! お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 最高の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない〝ピッー〟な熊共にそれを教えてやれ! 奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん! 唯の〝ピッー〟野郎どもだ! 奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ! 生誕の証だ! ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

「お前達の特技は何だ!」

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

「敵はどうする!」

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」

「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」

「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」

 

結果がこれだ。

ハウリア達はハジメをボスと呼ぶようになって、とても殺人的な種族になってしまった。

 

ハジメ「やり過ぎたな。すまん。」

 

ハウリア達「「「「ボ、ボスが謝った!?重傷者一名!直ちに……………」」」」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

その後いろいろあってやっと樹海の迷宮にたどり着いたのだが、最低四つは迷宮を攻略しないと迷宮内部に行けないのだった。

 

「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」

「ん……」

「頑張ろう!」

ここまで来て後回しにしなければならないことに歯噛みするハジメ。

 

ハジメはハウリア族に集合をかけた。

 

「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」

「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボスの部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」

「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」

「ボクもこの変わり様はすごいと思うよ。」

 

「却下」

「なぜです!?」

「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」

「しかしっ!」

「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」

「具体的!?」

「じゃあ、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

「ないない」

「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

「お、お前等、タチ悪いな……」

「そりゃ、ボスの部下を自負してますから」

「じゃあその時はボクがマイクでハウリア族を手伝うよ!」

この時、ハジメはカービィの歌を聴きたくないので忘れないと誓った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ハジメ達は次の場所に旅立つ。

「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

「あ? 言ってなかったか?」

「聞いてませんよ!」

「……私は知っている」

 

 得意気なユエに、むっと唸り抗議の声を上げるシア。

 

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」

「悪かったって。次の目的地はライセン大峡谷だ」

「ライセン大峡谷?」

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」

 

 

「いやぁ~、カービィさんとハジメさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして……ユエさんはハジメさんの血があれば問題ありませんし……どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ハジメさんもまともな料理食べるんですね!」

「当たり前だろ! 誰が好き好んで魔物なんか喰うか! ……お前、俺を何だと思ってるんだ……」

「プレデターという名の新種の魔物?」

「OK、お前、町に着くまで車体に括りつけて引きずってやる」

「ちょ、やめぇ、どっから出したんですかっ、その首輪! ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~、カービィさん、ユエさん見てないで助けてぇ!」

「……自業自得」

「頑張ってね、シア!」

「カービィさあぁぁぁん!」

 

 

ロボボアーマーホイールモードで数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。ハジメの頬が綻ぶ、奈落から出て空を見上げた時のような、〝戻ってきた〟という気持ちが湧き出したからだ。懐のユエもどこかワクワクした様子。きっと、ハジメと同じ気持ちなのだろう。僅かに振り返ったユエと目が合い、お互いに微笑みを浮かべた。

カービィは街に新たなグルメを期待していた。

「あのぉ~、いい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか? 何故か、自分では外せないのですが……あの、聞いてます? ハジメさん? ユエさん? ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ! それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」

 




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ブルックの町

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遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。それなりに、充実した買い物が出来そうだとハジメは頬を緩めた。カービィも新しい食べ物に期待してご機嫌だった。

 

「……機嫌がいいのなら、いい加減、この首輪取ってくれませんか?」

 

 

「「「………」」」

 

町の方からもハジメ達を視認できそうなので、カービィ達はロボボアーマーを降りた。するとロボボアーマーはジェットモードになって遥か上空に飛んでいって待機した。

 

因みに道中、シアがブチブチと文句を垂れていたが、やはりスルーして遂に町の門までたどり着いた。

 

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメは、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

 

 

 

格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がハジメ達を呼び止めた。

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

「んっ!」

「お腹すいたもんね〜」

 

「カービィはさっきまで道中で(魔物を)食ってただろ?」

「それとこれとは違うの〜!」

 

「ピ、ピンクボールが喋ったあああ!」

喋るピンクボール(カービィ)に驚く門番。

 

「まぁ落ち着け。こいつはそういうもんだと思ってくれ。」

 

「わ、わかった。じゃあステータスプレートを見せてくれ」

 

 

「はーい」

「わかった」

門番の男がハジメとカービィのステータスプレートをチェックする。

 

ハジメは「あっ、ヤベ、隠蔽すんの忘れてた」と内心冷や汗を流した。

あまりステータスの基準を知らないカービィは「ハジメに大丈夫?」と純粋無垢な瞳でハジメを慰めるのであったとさ。

 

====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:11000

体力:13240

耐性:10720

敏捷:13500

魔力:14830

魔耐:14830

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解

====================================

 

 

注意*カービィはコピー能力マイクで樹海とライセン渓谷の魔物を全滅させました。(12曲)

 

 

============================

カービィ(ポポポ) 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆

天職:星の戦士・ピンクの悪魔

筋力:30000

体力:250000

耐性:20000

敏捷:100000

魔力:250000

魔耐:20000

技能:言語理解・ホバリング・吸い込み・頑張り吸い込み・ビックバン吸い込み・コピー能力[+ビーム][+カッター][+レーザー][+ファイア][+バーニング][+アイス][+フリーズ][+スパーク][+ニードル][+ストーン][+ホイール][+トルネード][+ボール][+バックドロップ][+スロウ][+ソード][+パラソル][+ハンマー][+ユーフォー][+マイク][+ライト][+スリープ][+クラッシュ][+ボム][+ニンジャ][+ウィング][+ヨーヨー][+プラズマ][+ミラー][+ファイター][+スープレックス][+ジェット][+コピー][+コック][+ペイント][+エンジェル][+ミサイル][+スマブラ][+マジック][+ミニマム][+バルーン][+アニマル][+バブル][+メタル][+ゴースト][+リーフ][+ウィップ][+ウォーター][+スピア][+ビートル][+ベル][+サーカス][+スナイパー][+ポイズン][+ドクター][+エスパー][+クリエイト]・コピー能力ミックス[+バーニングバーニング][+バーニングアイス][+バーニングスパーク][+バーニングストーン][+バーニングニードル][+バーニングカッター][+バーニングボム]][+アイスアイス][+アイススパーク][+アイスストーン][+アイスニードル][+アイスカッター][+アイスボム][+スパークスパーク][+スパークストーン][+スパークニードル][+スパークカッター][+スパークボム][+ストーンストーン][+ストーンニードル][+ストーンカッター][+ストーンボム][+ニードルニードル][+ニードルカッター][+ニードルボム][+カッターカッター][+カッターボム][+ボムボム]・属性ミックス[+ファイアソード][+アイスソード][+サンダーソード][+アイスボム][+サンダーボム]・スーパー能力[+ウルトラソード][+ドラゴストーム][+ミラクルビーム][+スノーボウル][+ギガントハンマー]特殊能力[+スターロッド][+虹の剣][+スターシップ][+ワープスター][+ラブラブステッキ][+マスター][+トリプルスター][+バトントワリング][+アイアン][+トップ][+カブキ][+ヒーローソード][+マジックビーム][+ヘビィハンマー][+ヒールドクター]・ロボボアーマー召喚・能力スキャン[+ビームモード][+ファイアモード][+ソードモード][+カッターモード][+ストーン][+パラソルモード][+スパークモード][+アイスモード][+ボムモード][+エスパーモード][+ホイールモード][+マイクモード]

============================

 

 

 

冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。ハジメは、咄嗟に誤魔化すため、嘘八百を並べ立てた。

 

「ちょっと前に、魔物に襲われてな、その時に壊れたみたいなんだよ」

「こ、壊れた? いや、しかし……」

 

無理もないだろう。何せ、ハジメのステータスプレートにはレベル表示がなく、ステータスの数値も技能欄の表示もめちゃくちゃだからだ。

更にカービィはもっと酷い。

コピー能力なんて未知の能力があるからだ。

 

 

ステータスプレートの紛失は時々聞くが、壊れた(表示がバグるという意味で)という話は聞いたことがない。なので普通なら一笑に付すところだが、現実的にありえない表示がされているのだから、どう判断すべきかわからないのだ。

 

ハジメは、いかにも困った困ったという風に肩を竦めて追い討ちをかける。

 

「壊れてなきゃ、そんな表示おかしいだろ? まるで俺が化物みたいじゃないか。門番さん、俺がそんな指先一つで町を滅ぼせるような化物に見えるか?」

 

ステータスプレートの表示が正しければ、文字通り魔王や勇者すら軽く凌駕する化物ということになるのだ。例え聞いたことがなくてもプレートが壊れたと考える方がまともである。

 

「い、いやでも、そこのピンクの生物はありえるかもしれないのだが。」

 

ハジメはカービィを持ち上げて門番に見せた。

「こいつの瞳を見てくれ。こんな純粋無垢な瞳見たことあるか?」

 

 

「はは、いや、見たことないよ。それに表示がバグるなんて聞いたことがないが、まぁ、何事も初めてというのはあるしな……ちなみにそっちの二人は……」

 

 

 

「さっき言った魔物の襲撃のせいでな、こっちの子のは失くしちまったんだ。こっちの兎人族は……わかるだろ?」

 

 

 その言葉だけで門番は納得したのか、なるほどと頷いてステータスプレートをハジメに返す。

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外に金持ち?」

 

 

 

「まぁいい。通っていいぞ」

「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」

 

 門番から情報を得て、ハジメ達は門をくぐり町へと入っていく。門のところで確認したがこの町の名前はブルックというらしい。

 

 

 

「どうしたんだ? せっかくの町なのに、そんな上から超重量の岩盤を落とされて必死に支えるゴリラ型の魔物みたいな顔して」

「誰がゴリラですかっ! ていうかどんな倒し方しているんですか! ハジメさんなら一撃でしょうに! 何か想像するだけで可哀想じゃないですか!」

「……脇とかツンツンしてやったら涙目になってた」

「まさかの追い討ち!? 酷すぎる! ってそうじゃないですぅ!」

 

 怒って、ツッコミを入れてと大忙しのシア。手をばたつかせて体全体で「私、不満ですぅ!」と訴えている。ちなみに、ゴリラ型の魔物のエピソードは圧縮錬成の実験台にした時の話だ。決して、虐めて楽しんでいたわけではない。ユエはやたらとツンツンしていたが。ちなみに、この魔物が〝豪腕〟の固有魔法持ちである。

 

「これです! この首輪! これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか! ハジメさん、わかっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」

 

「あのなぁ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩けるわけないだろう? まして、お前は白髪の兎人族で物珍しい上、容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞ。後は、絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒……ってなにクネクネしてるんだ?」

 

「も、もう、ハジメさん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

 

カービィがコピー能力リーフでハリセンを作って無言でシアを叩く。

「……」

「んっ!調子に乗っちゃだめ」

「……ずびばぜん、カービィざん、ユエざん」

 

そんな様子に呆れた視線を向けながら、ハジメは話を続ける。

 

「あ~、つまりだ。人間族のテリトリーでは、むしろ奴隷という身分がお前を守っているんだよ。それ無しじゃあ、トラブルホイホイだからな、お前は」

「それは……わかりますけど……」

 

「……有象無象の評価なんてどうでもいい」

「ユエさん?」

「……大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。……違う?」

「………………そう、そうですね。そうですよね」

「……ん、不本意だけど……シアは私が認めた相手……小さい事気にしちゃダメ」

「……ユエさん……えへへ。ありがとうございますぅ」

「まぁ、奴隷じゃないとばれて襲われても見捨てたりはしないさ」

「街中の人が敵になってもですか?」

「あのなぁ、既に帝国兵とだって殺りあっただろう?」

「じゃあ、国が相手でもですね! ふふ」

「何言ってんだ。世界だろうと神だろうと変わらねぇよ。敵対するなら何とだって戦うさ」

「くふふ、聞きました? ユエさん。ハジメさんったらこんなこと言ってますよ? よっぽど私達が大事なんですねぇ~」

「……ハジメが大事なのは私だけ」

「ちょっ、空気読んで下さいよ! そこは、何時も通り『…ん』て素直に返事するところですよ!」

 

 

「………ボクは?」

 

 

 

「「「あっ。」」」

 

3人の台詞が重なった。

 

「コピー能力プラズマ」

 

カービィはプラズマを纏ってハジメ達をビリビリの刑にした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

 

 ハジメは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 

カウンターには大変魅力的な……笑顔を浮かべたオバチャンがいた。

 

 

そんなハジメ達の内心を知ってか知らずか、オバチャンはニコニコと人好きのする笑みでハジメ達を迎えてくれた。

 

「両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

「いや、そんなこと考えてないから」

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

「……肝に銘じておこう」

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

「ああ、素材の買取をお願いしたい」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

「ん? 買取にステータスプレートの提示が必要なのか?」

 

 ハジメの疑問に「おや?」という表情をするオバチャン。

 

「あんた冒険者じゃなかったのかい? 確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

「そうだったのか」

 

「そういえばボクが倒した魔物は(+カービィの歌の被害者の魔物)お腹の中(異空間)にしまってあるよ。」

 

「どうなったんだそのお腹」

 

「「「「……………」」」」

 

オバチャンの言う通り、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものがほとんどだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。危険に見合った特典がついてくるのは当然だった。

 

「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 

 ルタとは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。

青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。驚いたことに貨幣価値は日本と同じだ。

 

「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくかな。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」

「可愛い子二人と使い魔(カービィ)もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

「ボクは使い魔じゃなくてカービィだよ!!」

 

 今度はきちんと(カービィも)隠蔽したので、名前と年齢、性別、天職欄しか開示されていないはずだ。オバチャンは、ユエとシアの分も登録するかと聞いたが、それは断った。二人は、そもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。しかし、そうなるとステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態でオバチャンの目に付くことになる。

 

 ハジメとしては、二人のステータスを見てみたい気もしたが、おそらく技能欄にはばっちりと固有魔法なども記載されているだろうし、それを見られてしまうこと考えると、まだ三人の存在が公になっていない段階では知られない方が面倒が少なくて済むと今は諦めることにした。

 

 戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 

青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。……お気づきだろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ」と、言うことだ。

 

この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。

 

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪ところ見せないようにね」

「ああ、そうするよ。」

「ボクも頑張るよ〜」

「それで、買取はここでいいのか?」

 

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

「カービィ、頼む。」

「はーい。」

すると、カービィの口(異空間)から真新しい素材たちが。

どうやらカービィの口の中は劣化しないらしい。

 

 オバチャンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀なオバチャンだ。ハジメは、あらかじめ〝宝物庫〟から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。

 

「こ、これは!」

 

 恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げたオバチャンは、溜息を吐きハジメに視線を転じた。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海のと、ライセン渓谷の魔物だね?」

「ああ、そうだ」

 

 ここでもテンプレを外すハジメ。奈落の魔物の素材など、こんな場所で出すわけがないのである。

 

「どの素材も良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ」

 

「やっぱり珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね。それにライセン渓谷は魔法を使えないんだ、死にに行くようなもんさ。よく生きて帰って来たね。」

 

「でもあそこのまもごもご……」

でもあそこの魔物は弱かった。と、カービィは言おうとしたがハジメに口をふさがれた。

 

買取額は五百万ルタ。結構な額だ。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

「いや、この額で構わない」

 

 

「ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。

 

「おいおい、いいのか? こんな立派な地図を無料で。十分金が取れるレベルだと思うんだが……」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 

カービィ も地図を見てアドレーヌぐらい上手だと思った。

 

オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたくなるレベルである。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。

 

「そうか。まぁ、助かるよ」

「いいってことさ。それより、大金があるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。ハジメは苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシアの二人を目で追っていた。

 

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

 

 後には、そんなオバチャンの楽しげな呟きが残された。

 

 

 




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ブルックの町、マサカの宿

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ハジメ達が、もはや地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは〝マサカの宿〟という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。

 

 宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

「あ、ああ、済まない。一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 

 女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして二時間は確保したい。その旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たるハジメとしては譲れないところだ。

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

 

「カービィも居るし、2人ずつにしようか。」と、ハジメ。

「じゃあ、組み合わせはじゃんけんで決めようよ!」

と、カービィが提案した。

 

その時ハジメ、ユエ、シアは思った。

「「「(カービィってグーしか出せないよな?)」」」

と、

 

「「「「せーのー、じゃんけん……」」」」

 

「コピー能力ミックス!ニードルニードル」

「「「パー」」」

 

「はぁ!?」

「……んっ!?」

「えっ!?」

「ボクの勝ちだね。」

 

 

「「「………」」」

ハジメ、ユエ、シアは黙り込んで「「「あれ?カービィ(さん)ってもしかしてグーチョキパー全て出せる!?」」」と、口を揃えていう。

 

 

「うん、見ててね?グーは、」

 

「コピー能力ストーン」

 

「チョキは、」

 

「コピー能力ミックスニードルカッター」

 

「パーは、」

 

「コピー能力リーフ」

 

「って言うように、ボクはコピー能力が使えるからちゃんと(?)じゃんけんできるよ!」

 

「って事でボクが勝ったことになるよ。」

 

ということでボクが選ぶことになったけど、結果的にボクはシアと寝ることになった。

シアがボクを抱き枕にしたからコピー能力スリープで寝た。

 

数時間ほど眠ったみたいで、夕食の時間と聞いて跳ね上がった。ユエに起こされたハジメは、ユエと階下の食堂に向かったみたいだからボクもそれに続く。

 

 

次はお風呂だけど……

 

ハジメがボクに聞いてきた。

「なぁカービィ?」

「何?」

「カービィの性別ってどっちなんだ?」

「ないよ。」

「だろうな、ステータスプレート見た時性別不明だったからな。」

「えーっ!カービィさん入れないじゃないですか!」とシア

「ボクはどっちでも………」

「「「よくない」」」」

 

こうしてカービィ争奪戦が幕を……。

 

「「「じゃんけんポン!」」」

開けなかった。

「んっ!私の勝ち。」

ユエが勝った。

「やりましたねユエさん!」

 

「というか、2対1だからな」

と、ハジメは呟くのだった。

 




すみません、今回は時間の都合で短くなってしまいました。


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服飾店の店長とミラードリュッケン

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結局、風呂は風呂で、男女で時間を分けたのに結局ユエもシアも乱入してきたり、風呂場でまた修羅場になった挙句、ハジメのゲンコツ制裁で仲良く涙目になったり、その様子をこっそり風呂場の陰から宿の女の子が覗いていたり、のぞきがばれて女将さんに尻叩きされていたり……。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次の日

 

シアとユエはオネエに会ったり ユエに、〝股間スマッシャー〟という二つ名が付いたりした。

 

ハジメはカービィと力を合わせてアーティファクトを作っていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ユエとシアが宿に戻ると、ハジメとカービィもちょうど作業を終えたところのようだった。

 

「お疲れさん、何か、町中が騒がしそうだったが、何かあったか?」

「おつかれ〜」

 どうやら、先の騒動を感知していたようである。

 

「……問題ない」

「あ~、うん、そうですね。問題ないですよ」

 

服飾店の店長が化け物じみていたり、一人の男が天に召されたりしたが、概ね何もなかったと流す二人。そんな二人に、ハジメは、少し訝しそうな表情をするも、まぁいいかと肩を竦めた。

 

「必要なものは全部揃ったか?」

「……ん、大丈夫」

「ですね。食料も沢山揃えましたから大丈夫です。にしても宝物庫ってホント便利ですよね~」

 

 ハジメは、買い物にあたって〝宝物庫〟を預けていた。その指輪を羨ましそうに見やるシアに、ハジメは苦笑いする。今のハジメの技量では、未だ〝宝物庫〟は作成出来なかった。便利であることは確かなので、作れるようになったらユエとシアにも作ってやるつもりだ。

 

「さて、シア。こいつはお前にだ」

 

 そう言ってハジメはシアに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡した。銀色をした円柱には側面に取っ手のようなものが取り付けられている。

 

「な、なんですか、これ? 物凄く重いんですけど……」

「そりゃあな、お前用の新しい大槌だからな。重いほうがいいだろう」

「へっ、これが……ですか?」

 

「しかも!」とカービィが続けて、

「ボクのコピー能力ミラーの『リフレクトフォース(一回きり、完全反射)』をつけておいたんだよ!」

 

「ああ、その状態は待機状態だ。取り敢えず魔力流してみろ」

「えっと、こうですか? ッ!?」

 

 言われた通り、槌モドキに魔力を流すと、カシュン! カシュン! という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。

 

この大槌型アーティファクト:ミラードリュッケン(ハジメ命名)は、幾つかのギミックを搭載したシア用の武器だ。魔力を特定の場所に流すことで変形したり内蔵の武器が作動したりする。

 

 

「今の俺たちにはこれくらいが限界だが、腕が上がれば随時改良していくつもりだ。これから何があるか分からないからな。ユエのシゴキを受けたとは言え、たったの十日。まだまだ、危なっかしい。その武器はお前の力を最大限生かせるように考えて作ったんだ。使いこなしてくれよ? 仲間になった以上勝手に死んだらぶっ殺すからな?」

「ハジメさん……ふふ、言ってることめちゃくちゃですよぉ~。大丈夫です。まだまだ、強くなって、どこまでも付いて行きますからね!」

 

 

 外に出ると太陽は天頂近くに登り燦々と暖かな光を降らせている。それに手をかざしながらハジメは大きく息を吸った。振り返ると、

 

 ハジメはスっと前に歩みを進めた。カービィ、ユエ、シアも追従する。

 

 旅の再開だ。

 




すみません、今回も時間の都合で短くなってしまいました。
最近忙しくて……って、それは個人的事情でしたね。
感想がある限り頑張ります!

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ライセン迷宮

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 【ライセン大峡谷】では、相変わらず懲りもしない魔物達がこぞって襲ってくる。

………わけでもなく、前回のカービィの歌で全滅しているのでサクサク進む。

 

「はぁ~、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」

 

 洞窟などがあれば調べようと、注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。ついつい愚痴をこぼしてしまうハジメ。

「カービィ?何か探せる能力はないのか?」

「あったらもう使ってるよ!」

「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

「まぁ、そうなんだけどな……」

 

「あっそうだ!思いついたよ!ロボボアーマー!」

するとロボボアーマージェットモードが飛んできた。

「これに乗って空から探せは見つかるかも!」

「「「おぉ!!」」

 

「あっ!見つけた!」

「「早っ!」」

 

ということでそこにあったのは

 

〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟

 

「……なんじゃこりゃ」

「……なにこれ」

 

「入り口じゃない?」

「ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」

 

 

「……ユエ。マジだと思うか?」

「…………………………ん」

「長ぇ間だな。根拠は?」

「……ミレディ」

「やっぱそこだよな……」

 

 〝ミレディ〟その名は、オスカーの手記に出て来たライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名ではあるがファーストネームの方は知られていない。故に、その名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かった。

 

 

「何でこんなチャラいんだよ……」

「そういう人なのかもよ」

と、ハジメにカービィが突っ込む。

 

 

ハジメとしては、オルクス大迷宮の内での数々の死闘を思い返し、きっと他の迷宮も一筋縄では行かないだろうと想像していただけに、この軽さは否応なくハジメを脱力させるものだった。

 

 

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

シアは、入口はどこでしょう? と辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしている。

 

「おい、シア。あんまり……」

 

ガコンッ!

 

「ふきゃ!?」

 

 〝あんまり不用意に動き回るな〟そう言おうとしたハジメの眼前で、シアの触っていた窪みの奥の壁が突如グルンッと回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。

 

 

「「「……」」」

 

 奇しくも大迷宮への入口も発見したことで看板の信憑性が増した。やはり、ライセンの大迷宮はここにあるようだ。

 

無言でシアが消えた回転扉を見つめていたカービィとハジメとユエは、一度、顔を見合わせて溜息を吐くと、シアと同じように回転扉に手をかけた。

 

 

 

 扉の仕掛けが作用して、ハジメとユエを同時に扉の向こう側へと送る。中は真っ暗だった。扉がグルリと回転し元の位置にピタリと止まる。と、その瞬間、

 

ヒュヒュヒュ!

 

 無数の風切り音が響いいたかと思うとそれは矢だ。全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除せんと無数に飛んできているのだ。

 

「ボクに任せて!ミックスコピー能力スパークカッター!」

 

「おぉ!ライトセ○バー」とハジメ

 

ブォンブォンとカービィはライ○セイバーのような武器を振り回して矢を消滅させた。

 

最後の矢が消滅する音を最後に再び静寂が戻った。

 

 と、同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。ハジメ達のいる場所は、十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟

 

「「「……」」」

 

 ハジメもユエも、額に青筋を浮かべてイラッとした表情をしている。そして、ふと、ユエが思い出したように呟いた。

 

「……シアは?」

「「あ」」

 

 

 

シアは……いた。回転扉に縫い付けられた姿で。

 

「うぅ、ぐすっ、ハジメざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」

 

 

なぜなら……足元が盛大に濡れていたからである。

 

 

「うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」

 

 

「……動かないで」

 

 流石に同じ女として思うところがあったのか、ユエが無表情の中に同情を含ませてシアを磔から解放する。

 

「……あれくらい何とかする。未熟者」

「面目ないですぅ~。ぐすっ」

「……ハジメ、着替え出して」

「あいよ」

 

 〝宝物庫〟からシアの着替えを出してやり、シアは顔を真っ赤にしながら手早く着替えた。

 

「どんまいしあ。」

 

 

そして、シアの準備も整い、いざ迷宮攻略へ! と意気込み奥へ進もうとして、シアが石版に気がついた。

 

顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠す。しばらく無言だったシアは、おもむろにドリュッケンを取り出すと一瞬で展開し、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。ゴギャ! という破壊音を響かせて粉砕される石板。

 

 よほど腹に据えかねたのか、親の仇と言わんばかりの勢いでミラードリュッケンを何度も何度も振り下ろした。

 

 すると、砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには……

 

〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!〟

 

「ムキィーー!!」

 

発狂するシアを尻目にハジメはポツリと呟いた。

 

「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」

「……激しく同意」

「ボクに任せて!!」

「何をする気だ?」

「こうする気!ミックスコピー能力ストーンニードル!」

 

カービィの片手がドリルに変わり、カービィはドリルを次々と飛ばして迷宮を破壊する。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

迷宮を破壊し尽くしたあと、ハジメ達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。

 

 そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

 

「こりゃまた、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」

「……ん、迷いそう」

「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」

「……気持ちは分かるから、そろそろ落ち着けよ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ハジメ達は、トラップに注意しながら更に奥へと進む。

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

 階段の中程まで進んだ頃、突然、シアがそんなことを言い出した。言葉通り、シアのウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

 

「お前、変なフラグ立てるなよ。そういうこと言うと、大抵、直後に何か『ガコン』…ほら見ろっ!」

「わ、私のせいじゃないすぅッ!?」

「!? ……フラグウサギッ!」

 

 

カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

 

 そんな音を立てながらおびただしい数のサソリが蠢いていたのだ。体長はどれも十センチくらいだろう。かつてのサソリモドキのような脅威は感じないのだが、生理的嫌悪感はこちらの方が圧倒的に上だ。アンカーで落下を防がなければ、サソリの海に飛び込んでいたかと思うと、全身に鳥肌が立つ思いである。

 

「「「「……」」」」

 

 思わず黙り込む四人。下を見たくなくて、天井に視線を転じる。すると、何やら発光する文字があることに気がついた。既に察しはついているが、つい読んでしまうハジメ達。

 

〝彼等に致死性の毒はありません〟

〝でも麻痺はします〟

〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!〟

 

「「「「…………………………」」」」

 

「……ハジメ、あそこ」

「ん?」

 

 すると、ユエが何かに気がついたように下方のとある場所を指差した。そこにはぽっかりと横穴が空いている。

 

「横穴か……どうする? このまま落ちてきたところを登るか、あそこに行ってみるか」

「わ、私は、ハジメさんの決定に従います。ご迷惑をお掛けしたばかりですし……」

「いや、そのお仕置きは迷宮出たらするから気にするな」

「逆に気になりますよぉ! そこは『気にするな』だけでいいじゃないですかぁ」

「……図々しい。お仕置き二倍」

「んなっ、ユエさんも加わると!? うぅ、迷宮を攻略しても未来は暗いです」

「どんまいしあ。」

 ハジメとユエの容赦のなさに嘆くシア。

 

「はぁ、お前の〝選択未来〟が何度も使えればいいんだがなぁ~」

「うっ、それはまだちょっと。練習してはいるのですが……」

 

 そして再び、というか何時ものウザイ文を発見した。

 

〝ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い〟

 

どうやらこのウザイ文は、全てのトラップの場所に設置されているらしい。ミレディ・ライセン……嫌がらせに努力を惜しまないヤツである。

 

「あ、焦ってませんよ! 断じて焦ってなどいません! ださくないですぅ!」

 

「いいから、行くぞ。いちいち気にするな」

「……思うツボ」

「そうだね。」

「うぅ、はいですぅ」

 

『ガコンッ!』

 

 

「またか」

 

今度はどんなトラップだ? と周囲を警戒するハジメ達の耳にそれは聞こえてきた。

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 明らかに何か重たいものが転がってくる音である。

 

「「「……」」」

「……ん、ハジメ、カービィ?」

「ハジメさん、カービィさん!? 早くしないと潰されますよ!」

 

「いつもいつも、やられっぱなしじゃあなぁ! 性に合わねぇんだよぉ!」

 

 義手から発せられる「キィイイイイ!!」という機械音が、ハジメの言葉と共に一層激しさを増す。

 

 そして……

 

ゴガァアアン!!!

 

 凄まじい破壊音を響かせながら大玉とハジメの義手による一撃が激突した。ハジメは、大玉の圧力によって足が地面を滑り少し後退させられたがスパイクを錬成して踏ん張る、そして、ハジメの一撃は衝突点を中心に大玉を破砕していき、全体に亀裂を生じさせた。大玉の勢いが目に見えて減衰する。

 

「ラァアアア!!」

 

 

 その顔は実に清々しいものだった。「やってやったぜ!」という気持ちが如実に表情に表れている。ハジメ自身も相当、感知できない上に作動させなくても作動するトラップとその後のウザイ文にストレスが溜まっていたようだ。

 

 ハジメが、今回使ったのは、かつて、フェアベルゲンの長老の一人ジンを一撃のもとに粉砕した弾丸による爆発力と〝豪腕〟、それに加えて、魔力を振動させることで義手自体を振動させ対象を破砕する、いわゆる振動破砕というやつである。

 

 

「ハジメさ~ん! 流石ですぅ! カッコイイですぅ! すっごくスッキリしましたぁ!」

「……ん、すっきり」

「ははは、そうだろう、そうだろう。これでゆっくりこの道……」

 

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 

「あ、あのハジメさん。気のせいでなければ、あれ、何か変な液体撒き散らしながら転がってくるような……」

「……溶けてる」

 

 そう、こともあろうに金属製の大玉は表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体が付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶けているようなのである。

 

「こうなったら次はボクがやるよ!コピー能力クリエイト『ウルトラソード/ウルトラソード/アイス/プラズマ』」

 

カービィはコピー能力クリエイトを発動し、片手のウルトラソードにアイスを纏い凍らせてプラズマで威力がましたウルトラソードで切断した。

 

 

今度こそ部屋の地面に着地した。

 

 その部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。壁の両サイドには無数の窪みがあり騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートルほどの像が並び立っている。部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇のような場所と奥の壁に荘厳な扉があった。祭壇の上には菱形の黄色い水晶のようなものが設置されている。

 

 ハジメは周囲を見渡しながら微妙に顔をしかめた。

 

 

「いかにもな扉だな。ミレディの住処に到着か? それなら万々歳なんだが……この周りの騎士甲冑に嫌な予感がするのは俺だけか?」

「……大丈夫、お約束は守られる」

「それって襲われるってことですよね? 全然大丈夫じゃないですよ?」

 

 

ガコン!

 

騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッと光り輝いた。そして、ガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら窪みから騎士達が抜け出てきた。その数、総勢五十体。

「ははっ、ホントにお約束だな。動く前に壊しておけばよかったか。まぁ、今更の話か……カービィ、ユエ、シア、やるぞ?」

「んっ」

「か、数多くないですか? いや、やりますけども……」

「ここはボクに任せて!」

 

「わかった。」

「んっ!」

「頼みましたよ!」

 

カービィはコピー能力クリエイトのままどんどん敵を殲滅していくが敵もどんどん湧いてくる。

 

 

ハジメたちは祭壇を飛び越えて扉の前に到着した。

 

 

 

「ユエさん! 扉は!?」

「ん……やっぱり封印されてる」

「あぅ、やっぱりですかっ!」

 

 見るからに怪しい祭壇と扉なのだ。封印は想定内。

 

「封印の解除はユエに任せる。錬成で突破するのは時間がかかりそうだ」

 

 

「ん……任せて」

 

 ユエは、背後の扉を振り返る。其処には三つの窪みがあった。ユエは、少し考える素振りを見せると、正双四角錐を分解し始めた。分解し、各ブロックを組み立て直すことで、扉の窪みにハマる新たな立方体を作ろうと考えたのだ。

 

 分解しながら、ユエは、扉の窪みを観察する。そして、よく観察しなければ見つからないくらい薄く文字が彫ってあることに気がついた。それは……

 

〝とっけるかなぁ~、とっけるかなぁ~〟

〝早くしないと死んじゃうよぉ~〟

〝まぁ、解けなくても仕方ないよぉ! 私と違って君は凡人なんだから!〟

〝大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ! ざんねぇ~ん! プギャアー!〟

 

 何時ものウザイ文だった。めちゃくちゃイラっとするユエ。いつも以上に無表情となり、扉を殴りつけたい衝動を堪えながらパズルの解読に集中する。

 

 

「……開いた」

「早かったな、流石ユエ。シア、下がれ!」

「はいっ!」

 

 

「これは、あれか? これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」

「……ありえる」

「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

 

 三人が、一番あり得る可能性にガックリしていると、突如、もううんざりする程聞いているあの音が響き渡った。

 

ガコン!

 

「「「!?」」」

 

 仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、ハジメ達の体に横向きのGがかかる。

 

「っ!? 何だ!? この部屋自体が移動してるのか!?」

「……そうみたッ!?」

「うきゃ!?」

 

 

 扉の先は、ミレディの住処か、ゴーレム操者か、あるいは別の罠か……ハジメは「何でも来い」と不敵な笑みを浮かべて扉を開いた。

 

 そこには……

 

「……何か見覚えないか? この部屋。」

「……物凄くある。特にあの石板」

 

 扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が立っており左側に通路がある。見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は、

 

「最初の部屋……みたいですね?」

 

 シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。だが、確かに、シアの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

〝ねぇ、今、どんな気持ち?〟

〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?〟

〝ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟

 

「「「……」」」

 

 

〝あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します〟

〝いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです〟

〝嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!〟

〝ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です〟

〝ひょっとして作ちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー〟

 

「は、ははは」

「フフフフ」

「フヒ、フヒヒヒ」

 

『ドカーン』

 

すると壁が切断されてカービィが見えた。

どうやら繋がっていたようだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

そのあとゴーレム騎士たちに追われたりしながらついに…………………………

 

「ここに、ゴーレムを操っているヤツがいるってことかな?」

 

「おいおい、マジかよ」

「……すごく……大きい」

「お、親玉って感じですね」

 

 三者三様の感想を呟くハジメ達。若干、ユエの発言が危ない気がするが、ギリギリ許容範囲……のはずだ。

 

 ハジメ達の目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。

 

 すっかり包囲されハジメ達の間にも緊張感が高まる。辺りに静寂が満ち、まさに一触即発の状況。動いた瞬間、命をベットして殺し合いが始まる。そんな予感をさせるほど張り詰めた空気を破ったのは……

 

 ……巨体ゴーレムのふざけた挨拶だった。

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

「「「「……は?」」」」

凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。何を言っているか分からないだろうが、ハジメにもわからない。頭がどうにかなる前に現実逃避しそうだった。ユエとシアも、包囲されているということも忘れてポカンと口を開けている。

 

 そんな硬直する三人に、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

 

「むっ。こんにちは!ボクはカービィだよー」

 

「えらいえらーい。よくてきまちたね☆」

 

 

「「「「…………」」」」

 

「そいつは、悪かったな。だが、ミレディ・ライセンは人間で故人のはずだろ? まして、自我を持つゴーレム何て聞いたことないんでな……目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か説明しろ。簡潔にな」

「あれぇ~、こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ」

 

「ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」

「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきてたぞ? というか阿呆な問答をする気はない。簡潔にと言っただろう。どうせ立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先に進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」

「お、おおう。久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」

「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか質問しているのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ? 別にどうしても知りたい事ってわけじゃない。俺達の目的は神代魔法だけだからな」

 

 

「……神代魔法ねぇ、それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」

「ボクは一応そのつもり。」

 

 

「質問しているのはこちらだと言ったはずだ。答えて欲しけりゃ、先にこちらの質問に答えろ」

「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~、えっと何だっけ……ああ、私の正体だったね。うぅ~ん」

「簡潔にな。オスカーみたいにダラダラした説明はいらないぞ」

「あはは、確かに、オーちゃんは話が長かったねぇ~、理屈屋だったしねぇ~」

 

「うん、要望通りに簡潔に言うとね。

 私は、確かにミレディ・ライセンだよ

 ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決!

 もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」

「結局、説明になってねぇ……」

「ははは、そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?」

 

 今度は巨大なゴーレムの指でメッ! をするミレディ・ゴーレム。中身がミレディ・ライセンというのは頂けないが、それを除けば愛嬌があるように思えてきた。ユエが、「……中身だけが問題」とボソリと呟いていることからハジメと同じ感想のようだ。

 

 

しかしカービィはまだクリエイトのままである。

「やるぞ! カービィ、ユエ、シア。ミレディを破壊する!」

「んっ!」

「了解ですぅ!」

「はーい」

 

カービィはミレディ・ゴーレムを一瞬凍らせその瞬間に二本のウルトラソードで切断した。

 

 

「ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!」

 

 

「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ! あれを破壊するぞ!」

「んなっ! 何で、わかったのぉ!」

 

「わかった!コピー能力クリエイト!『エンジェル/スナイパー』

 

カービィは狙いを定めて撃ち抜いた。

 

ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。

 

 

七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略された瞬間だった。

 

 

 

すると何処からかカービィがボスを倒した時に流れる音楽が!

 

そしてカービィがノーマルの状態で3人に増えた。

 

「「「え?」」」

ハジメ、ユエ、シアは何が起こっているか分からずカービィを見ていたが身体が勝手に動き出して、ハジメ達も踊り出した。

『テテテテテテテッテテ〜テテテテテテテッテ〜テテテテテテテッテテ〜テテッテテッテテ!』

「「「「「「ハァィ!」」」」」」

 

「…って何させるんだ!」

「んっ!?」

「何ですかこれ!」

 

「ボクのパーティがボスを倒したら踊らないといけないやつ。」

 

「「「………」」」

 

「で、でも体力は踊るだけで全回復するんだよ!」

 

「「「………」」」

 

「あのぉ~、へんな踊りを踊っているところ悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

 

 

物凄く聞き覚えのある声。ハジメ達がハッとしてミレディ・ゴーレムを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていることに気がついた。咄嗟に、飛び退り距離を置くハジメ達。確かに核は砕いたはずなのにと警戒心もあらわに身構える。

 

「ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。試練はクリア! あんたたちの勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

 

その言葉を証明するように、ミレディ・ゴーレムはピクリとも動かず、眼に宿った光は儚げに明滅を繰り返している。今にも消えてしまいそうだ。どうやら、数分しかもたないというのは本当らしい。

 

「で? 何の話だ? 死にぞこない。死してなお空気も読めんとは……残念さでは随一の解放者ってことで後世に伝えてやろうか」

「ちょっ、やめてよぉ~、何その地味な嫌がらせ。ジワジワきそうなところが凄く嫌らしい」

「で? 〝クソ野郎共〟を殺してくれっていう話なら聞く気ないぞ?」

 

「言わないよ。言う必要もないからね。話したい……というより忠告だね。訪れた迷宮で目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……君の望みのために必要だから……」

 

 

「全部ね……なら他の迷宮の場所を教えろ。失伝していて、ほとんどわかってねぇんだよ」

「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」

 

 

「以上だよ……頑張ってね」

「……随分としおらしいじゃねぇの。あのウザったい口調やらセリフはどうした?」

 

「あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……」

「おい、こら。狂った神のことなんざ興味ないって言っただろうが。なに、勝手に戦うこと前提で話してんだよ」

 

 ハジメの不機嫌そうな声に、ミレディは意外なほど真剣さと確信を宿した言葉で返した。

 

「……戦うよ。君が君である限り……必ず……君は、神殺しを為す」

「……意味がわかんねぇよ。そりゃあ、俺の道を阻むなら殺るかもしれないが……」

 

 若干、困惑するハジメ。ミレディは、その様子に楽しげな笑い声を漏らす。

 

「ふふ……それでいい……君は君の思った通りに生きればいい…………君の選択が……きっと…………この世界にとっての……最良だから……」

 

 いつしか、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。

 

 

「……さて、時間の……ようだね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」

 

 オスカーと同じ言葉をハジメ達に贈り、〝解放者〟の一人、ミレディは淡い光となって天へと消えていった。

 

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「……ん」

 

「はぁ、もういいだろ? さっさと先に行くぞ。それと、断言するがアイツの根性の悪さも素だと思うぞ? あの意地の悪さは、演技ってレベルじゃねぇよ」

「でももしかしたらさっきのも演技だったりして……ないよね?」

「ちょっと、ハジメさん。そんな死人にムチ打つようなことヒドイですよ。まったく空気読めないのはハジメさんの方ですよ」

「……ハジメ、KY?」

「ユエ、お前まで……はぁ、まぁ、いいけどよ。念の為言っておくが、俺は空気が読めないんじゃないぞ。読まないだけだ」

 

 

「……」

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

「……サービス?」

くぐり抜けた壁の向こうには……

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

 

「「……」」

「ほれ、みろ。こんなこったろうと思ったよ」

 

 

「「「「………」」」」

 

「あれぇ? あれぇ? テンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 

 

 

ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。そんなミニ・ミレディは、語尾にキラッ! と星が瞬かせながら、ハジメ達の眼前までやってくる。未だ、ユエとシアの表情は俯き、垂れ下がった髪に隠れてわからない。もっとも、先の展開は読めるので、ハジメは一歩距離をとった。

 

 ユエがシアがぼそりと呟くように質問する。

 

「……さっきのは?」

「ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!」

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

「ふふふ、中々よかったでしょう? あの〝演出〟! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子!」

 

「え、え~と……」

 

 ゆらゆら揺れながら迫ってくるユエとシアに、ミニ・ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

 

「テヘ、ペロ☆」

「……死ね」

「死んで下さい」

「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

 

 

 しばらくの間、ドタバタ、ドカンバキッ、いやぁーなど悲鳴やら破壊音が聞こえていたが、カービィとハジメは一切を無視して、部屋の観察に努めた。部屋自体は全てが白く、中央の床に刻まれた魔法陣以外には何もなかった。唯一、壁の一部に扉らしきものがあり、おそらくそこがミニ・ミレディの住処になっているのだろうとハジメは推測する。

 

 

ニコちゃんマークが微妙に歪み悲痛な表情になっているが気にしない。そのまま力を入れていきミニ・ミレディの頭部からメキメキという音が響きだした。

 

「このまま愉快なデザインになりたくなきゃ、さっさとお前の神代魔法をよこせ」

「あのぉ~、言動が完全に悪役だと気づいてッ『メキメキメキ』了解であります! 直ぐに渡すであります! だからストープ! これ以上は、ホントに壊れちゃう!」

 

魔法陣の中に入るハジメ達。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。ハジメとユエは経験済みなので無反応だったが、シアは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。

 

「これは……やっぱり重力操作の魔法か」

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

「やかましいわ。それくらい想定済みだ」

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ。まんまるピンクの球体ちゃんは新しい力でも覚えたんじゃない?」

 

「そうだね。コピー能力グラビィティ。」

 

カービィの頭にはビームの蒼いバージョンのやつを被っていた。

 

 




コピー能力グラビティの性能は次回のお楽しみです。

好評だったり、続けて欲しいと、いう声があれば確実に続きます!
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今回は頑張って長文にしてみました。

どれぐらいの字数がちょうどいいか教えていただけると嬉しいです!


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第3章
コピー能力グラビティとメタナイト


遅れてすみません!コピー能力グラビティとメタナイトをそろそろどうにかしようと考えているうちに遅くなってしまいました。

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迷宮をクリアし、神代魔法を手にするハジメ達だった。。

 

「これは……やっぱり重力操作の魔法か」

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

「やかましいわ。それくらい想定済みだ」

ハジメとシアの適正はなかった。 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ。まんまるピンクの球体ちゃんは新しい力でも覚えたんじゃない?」

 

「そうだね。コピー能力グラビィティ。」

 

カービィの頭にはビームの蒼いバージョンのやつを被っていた。

 

「さっそく試してみるね!」

「おう!」

 

まずカービィは自身に能力をかけた。

 

カービィはジャンプしてみる。

 

すると何段もジャンプができるではないか!

(星のカービィWiiのバンダナワドルディの連続ジャンプのアレを思い浮かべていただけるとわかりやすいと思う)

 

さらに調整するとジャンプ力が上昇してどこまでもジャンプできる、コピー能力ハイジャンプも驚くほどのジャンプ力だった。

 

敵にも同じようなことができた。

 

さらにカービィは思いついた!

 

「コピー能力クリエイト!グラビティ/バーニングカッター」

 

グラビティで相手の重力を操ることで相手を地面に固定し、動けなくなったところでバーニングカッターの剣を投げる。また、バーニングカッターの剣は無限に生成できる。

 

他にも試してグラビティは相手を足止め(超強力)として使えることがわかった。

 

 

 

そのあと迷宮を破壊し過ぎてハジメたちはミレディにトイレのように流されてしまった。

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

「ごぽっ……てめぇ、俺たちゃ汚物か! いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

「ケホッ……許さない」

「殺ってやるですぅ! ふがっ」

 

ちなみにカービィがコピー能力ウォーターでみんなを助けました。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

「みんなだいじょーぶ?」

とカービィはコピー能力ウォーターで無事だったが水の量が多かったため少し間に合わなかったのだった。

 

「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった。あいつ何時か絶対に破壊してやる。ユエ、シア。無事か?」

「ケホッケホッ……ん、大丈夫」

 

 何とか水面に上がり、悪態を付きながらユエとシアの安否を確認するハジメ。しかし、返ってきたのはユエの返答だけだった。

 

「シア? おい、シア! どこだ!」

「シア……どこ?」

「いたよ!」

 

 カービィはシアを引きずりながら岸に上がる。仰向けにして寝かせたシアは、顔面蒼白で白目をむき呼吸と心臓が停止していた。よほど嫌なものでも見たのか、意識を失いながらも微妙に表情が引き攣っている。

 

「ユエ、人工呼吸を!」

「……じん…何?」

「あ~、だから、気道を確保して…」

「???」

「だったらボクに任せてよ!」

「頼んだぞカービィ」

「うん!コピー能力ドクター」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「もう大丈夫だよ!もうすぐ意識は戻るよ!」

 

 

するとシアが意識を取り戻した!

「ケホッケホッ……ハジメさん?」

「おう、ハジメさんだ。ったくこんなことで死にかけてんじゃッん!?」

 

 むせながら横たわるシアに至近から呆れた表情を見せつつも、どこかホッとした様子を見せるハジメ。そんなハジメを、ボーと見つめていたシアは、突如、ガバチョ! と抱きつきそのままキスをした。まさかの反応と、距離の近さに避け損なうハジメ。

 

「んっ!? んー!!」

「あむっ、んちゅ」

 

 

「わっわっ、何!? 何ですか、この状況!? す、すごい……濡れ濡れで、あんなに絡みついて……は、激しい……お外なのに! ア、アブノーマルだわっ!」

そこへやって来たのは妄想過多な宿の看板娘ソーナちゃん。

 

 

「ゆ、油断も隙もねぇ。蘇生直後に襲いかかるとか……流石に読めんわ」

 

「うぅ~酷いですよぉ~ハジメさんの方からしてくれたんじゃないですかぁ~」

「はぁ? あれは歴とした救命措置で……って、お前、意識あったのか?」

「う~ん、なかったと思うんですけど……何となく分かりました。ハジメさんにキスされているって、うへへ」

「その笑い方やめろ……いいか、あれはあくまで救命措置であって、深い意味はないからな? 変な期待するなよ?」

「そうですか? でも、キスはキスですよ。このままデレ期に突入ですよ!」

「ねぇよ。っていうかユエ。お前も止めてくれよ」

「……今だけ……でも、シアは頑張っているし……いや、でも……」

「ユエ~? ユエさんや~い」

 

すると「あっ!」とシアは思いついたように爆弾発言をした。

 

「そう言えばカービィさんはキスしたことあるんですか?」

 

「あるよ」

 

 

「「「……………えーーー!」」」

ハジメ、ユエ、シアは一瞬、石になったように動かなくなって、ハッと揃えて驚いた。

「うん。リップルスターを救ったときにね。」

(星のカービィ64より)

 

 

「意外だ。」

「んっ!意外。」

「意外ですぅ!」

 

ハジメの視線が冒険者達の上を滑り、ソーナで一瞬止まり、クリスタベルを見て直ぐにソーナに戻される。見なかったことにしたいらしい。

 

 ハジメの視線に晒されたソーナはビクンッと体を震わせると、一瞬で顔を真っ赤にした。

 

「お、お邪魔しましたぁ! ど、どうぞ、私達のことは気にせずごゆっくり続きを!」

 

 

あまりにもカービィが意外だったのでしばらくハジメたちは固まっていたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

その頃メタナイトは……。

 

現在メタナイトはあれから遠くに行きこの大陸を調べようと旅をしていた。

 

そこでメタナイトはライセン迷宮とライセン渓谷をを華麗にスルーし、ブルックの町へたどり着いた。

 

 

メタナイトはこの町の近くもに魔物が居ないのでおかしいと思い。

一旦休憩も兼ねてブルックの町に入った。

 

そこへ門番がメタナイトを止めた。

 

「身分証明できるものは持っているか?」

 

「あぁ。これでいいか?」

 

メタナイトはステータスプレートを見せる。

 

 

門番は異常なステータスプレートに驚いたが以前カービィのステータスプレートを見た為この人(?)も壊れてしまったのだろうと。通すことにした。

 

 

メタナイトは寝場所を確保する為に宿を探しマサカの宿に到着した。

 

すると中が騒がしかったので少し引いてしまったメタナイト。

 

 

「ちょっ! ハジメさん! 潰れます! 私の手が潰れちゃいますぅ!」

 

メキャッ!

 

「ひぃーー! すみません、すみませんでしたぁ! ちょっと調子に乗りましたぁ! だから離してぇ! 壊れちゃう! それ以上は壊れちゃいますからぁ!」

「何さりげなくいい雰囲気作ろうとしてんだ? そもそも、お前の部屋隣だろうが。何でいるんだよ?」

 

と上から聴こえてきた。

 

「カービィさんも助けてくださいよぉ〜」

 

「……ドンマイしあ。」

 

「カービィだと!?」

 

そこへソーナがやって来る。

「ようこそマサカの宿へ。すいませんが今少々うるさいですが。」

 

「なら私がなんとかしよう。案内してくれるか?」

 

「えっ!?あ、はいこちらです。」

 

メタナイトは案内され様子を見る。

 

「そ、それは、なし崩し的にベッドイン☆出来ないかなぁ~と。ていうか、一度は口付けした仲なんですからぁ。ちょっとくらいいいじゃないですかぁ」

「いいわけあるか。あれは救命措置だと言っただろうが」

「いいえ、私の勘では、ハジメさんはデレ始めてます! 最初の頃に比べれば大分優しいですもの! このまま既成事実でも作ってやれば…グヘヘ『メキョバキッ』らめぇーー! 壊れるぅーー!」

 

メタナイトは『コンコン』とドアをノックする。

 

するとハジメが出てきた。

 

「すまない。私はメタナイトと言うものだ。用があって此処に来た。こう言う者は知らないか?」

 

と、メタナイトはカービィの似顔絵を描いて見せる。

 

腕前はまぁまぁだ。

 

ハジメはハイリヒ王国の使いかと警戒する。

 

「まぁ警戒するのも無理はない初対面だからな。私はこういう者だ。」

とステータスプレートをハジメに渡す。

 

============================

メタナイト 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:星の戦士・銀河騎士団・星の戦士団・銀河最強の戦士・孤高の騎士・異界の霜刃・時巡る戦士・黄泉返る極蝶・災来する黒き極蝶

筋力:500000

体力:500000

耐性:0

敏捷:500000

魔力:500000

魔耐:0

技能:言語理解・剣技[+星の戦士流剣技][+銀河騎士団流剣技][+孤高流剣技][+鏡流剣技][+銀河最強流剣技][+極蝶流剣技]

============================

 

「なっ!?」

ハジメは自分たちが充分強くなったと思っていたがメタナイトのステータスは圧倒的だったのだ。

 

だがハジメが真っ先に視界に入ったのは天職星の戦士だ。

 

 




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ピンクと青の球体

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メタナイトはカービィの似顔絵を描いて見せる。

 

腕前はまぁまぁだ。

 

ハジメはハイリヒ王国の使いかと警戒する。

 

「まぁ警戒するのも無理はない初対面だからな。私はこういう者だ。」

とステータスプレートをハジメに渡す。

 

「なっ!?」

ハジメは自分たちが充分強くなったと思っていたがメタナイトのステータスは圧倒的だったのだ。

 

だがハジメが真っ先に視界に入ったのは天職星の戦士だ。

 

そこへ

 

「どーしたのーはじめー?」

とカービィがやってきた。

 

「久しぶりだなカービィ」

 

「あっメタナイト!もう大丈夫なの?」

そうメタナイトはハルトマンワークスカンパニーによって一度機械化されたのだがカービィが救い出したのだった。

 

「あぁ。もう大丈夫だ。あの後私も多分カービィと同じく召喚されたのだが、カービィと再会した方がいいと思ってな。」

 

「あっ!でも星の夢はどうなったの?」

 

「星の夢はギャラクティックナイトを召喚して破壊され、ギャラクティックナイトを私が倒した。」

 

「よかったーぁー」

 

ハジメは思った。

これはメタナイトが仲間になる展開だと。

さらにはカービィの国はみんなカービィ見たいに純粋な奴らだと思っていたがメタナイトを見ると、鋭さ満点の奴ではないか!強くて頼りになりそうで鋭い。デメリットを思いつかなかったハジメはメタナイトを仲間に迎い入れた。

 

「よろしく頼む」(メタナイト)

「よろしくな」(ハジメ)

 

ガシッと握手した。

 

 

そしてハジメ達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】である。その為、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。なお、【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後一人分あるよ……どうだい? 受けるかい?」

 

 キャサリンにより差し出された依頼書を受け取り内容を確認するハジメ。

 

十七人程の護衛を求めているらしい。ユエとシアは冒険者登録をしていないので、ハジメとカービィ、メタナイトの分でちょうどらしい。

 

「連れを同伴するのはOKなのか?」

「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃん、シアちゃんも結構な実力者だ。一人分の料金でもう二人優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」

「そうか、ん~、どうすっかな?」

 

カービィのロボボアーマーがあるので実際そちらの方が早い。

 

 

「……急ぐ旅じゃない」

「そうですねぇ~、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

「いいんじゃない?」

「私も賛成だ」

「……そうだな、急いても仕方ないしたまにはいいか……」

 

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「了解した」

 

 

ハジメに、キャサリンが一通の手紙を差し出す。疑問顔で、それを受け取るハジメ。

 

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

手紙一つでお偉いさんに影響を及ぼせるアンタは一体何者だ? という疑問がありありと表情に浮かんでいる。

 

「おや、詮索はなしだよ? いい女に秘密はつきものさね」

「……はぁ、わーたよ。これは有り難く貰っとく」

「素直でよろしい! 色々あるだろうけど、死なないようにね」

 

 

 

そして翌日早朝。

 

 そんな愉快? なブルックの町民達を思い出にしながら、正面門にやって来たハジメ達を迎えたのは商隊のまとめ役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。どうやらハジメ達が最後のようで、まとめ役らしき人物と十四人の冒険者が、やって来たハジメ達を見て一斉にざわついた。

 

「お、おい、まさか残りの五人って〝スマ・ラヴ〟〝まんまる球体〟なのか!?」

「マジかよ! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

「君達が最後の護衛かね?」

「ああ、これが依頼書だ」

 

 ハジメは、懐から取り出した依頼書を見せる。それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷き、自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「……もっとユンケル? ……商隊のリーダーって大変なんだな……」

 

「まぁ、期待は裏切らないと思うぞ。俺はハジメだ。こっちはユエとシア」

「ボクはカービィだよー」

「私はメタナイトという者だ」

「それは頼もしいな……ところで、この兎人族……売るつもりはないかね? それなりの値段を付けさせてもらうが」

「例え、どこぞの神が欲しても手放す気はないな……理解してもらえたか?」

「…………えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

「すげぇ……女一人のために、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、決闘スマッシャーと言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

「いや、お前、男だろ? 誰が、そんなことッあ、すまん、謝るからっやめっアッーー!!」

「……いいか? 特別な意味はないからな? 勘違いするなよ?」

「うふふふ、わかってますよぉ~、うふふふ~」

「イチャつくのは後回しにして護衛してくれ」とメタナイトは突っ込む。

 

「? 何だユエ?」

「ん……カッコよかったから大丈夫」

「……慰めありがとよ」

 

この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。ハジメ達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら。

 

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

「な、なら、俺はユエちゃんだ! ユエちゃん、俺と食事に!」

「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

「カービィちゃんを抱き枕として欲しい!」

「カービィちゃんの抱き枕……ゴクリ」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ男冒険者達に、ハジメは無言で〝威圧〟を発動。熱々のシチューモドキで体の芯まで温まったはずなのに、一瞬で芯まで冷えた冒険者達は、青ざめた表情でガクブルし始める。カービィは女性に枕にしたいと人気だったので仕方なくコピー能力ニードルを使った。ハジメは、口の中の肉をゴクリと飲み込むと、シチューモドキに向けていた視線をゆっくり上げ囁くように、されどやたら響く声でポツリとこぼした。

 

「で? 腹の中のもん、ぶちまけたいヤツは誰だ?」

「「「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー」」」」」」」

 

 見事なハモリとシンクロした土下座で即座に謝罪する冒険者達。

 

「もう、ハジメさん。せっかくの食事の時間なんですから、少し騒ぐくらいいいじゃないですか。そ、それに、誰がなんと言おうと、わ、私はハジメさんのものですよ?」

「そんなことはどうでもいい」

「はぅ!?」

 

 はにかみながら、さりげなくハジメにアピールするシアだったが、ハジメの一言でばっさり切られる。

 

「……ハジメ」

「ん? ……何だよユエ」

 

ハジメとしては、未だシアに対して恋情を抱いていないので、身内への配慮程度でいいだろうと思っていたのだが……ユエ的にアウトらしい。

 

「ハジメさん! そんな態度取るなら、〝上手に焼けた〟串焼き肉あげませんよぉ!」

 

「……だから何故そのネタを知って……いや、何でもない。わかったから、さっさとその肉を寄越せ」

「ふふ、食べたいですか? で、では、あ~ん」

「……」

 

 

それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

 

 最初にそれに気がついたのはシアだ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

「敵襲です! 数は百以上! 森の中から来ます!」

 

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 

「大丈夫!ボク達に任せて!」

 

そう言って、

カービィ、メタナイト、ハジメ、ユエ、シアが並んだ。




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護衛

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「敵襲です! 数は百以上! 森の中から来ます!」

 

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 

「大丈夫!ボク達に任せて!」

 

そう言って、

カービィ、メタナイト、ハジメ、ユエ、シアが並んだ。

 

 

「コピー能力クリエイト、ファイター/スロウ/スープレックス/バックドロップ!」

 

カービィは同時に投げる系コピー能力を使用して次々と敵を全滅する。

 

 

「アッパーキャリバー。トルネイドアタック。」

 

メタナイトはアッパーキャリバーで空中連続攻撃を仕掛け多数の敵を倒す。

 

 

ドパァン!ドパァン!

 

ハジメは敵を撃ち倒している。

 

ユエはオリジナル魔法で敵をまとめて倒す。

 

シアはミラードリュッケンで次々に倒していく。

 

それを見た人たちは

 

「な、なんだあれ……」

 

 それは誰が呟いた言葉だったのか。目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、誰もが暗示でも掛けられたように見とれている。

 

カービィたちは商隊の人々の畏怖と尊敬の混じった視線をチラチラと受けながら、一行は歩みを再開した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

 

 フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。ハジメ達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまでしばらくかかりそうである。

 

こうしてハジメたちは 中立商業都市フューレン にたどり着いたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一方プププランドでは

 

デデデ城

 

「おかしい。」

 

そう呟いたのは自称プププランドの偉大なる支配者『デデデ大王』だ。

 

カービィはほぼ毎日デデデ城の食糧庫を襲撃しに来ていた。

来ていない日は何か事件があったからだ。

何かカービィにあったに違いない。

カービィの事が心配になったわけではないが、何か大きな事件な気がしたのだ。

 

 

現在デデデ城は復興作業をしている。

 

ハルトマンワークスカンパニーによるデデデ城破壊。

 

それがあったからだ。

だが機械化が戻ったということは星の夢がカービィに負けたということだろう。

そこへ通信が来た。

 

見てみると戦艦ハルバードからだ。

 

ブレイドナイトはこう言った。

「メタナイト様が行方不明になった。」

「何?だがメタナイトはよくあることだろう?」

「しかし、ハルトマンワークスカンパニーを調査したところ星の夢は破壊され部屋は閉じている密室状態でした。これは何者かにワープされたのではと。」

「これは調べる必要があるな。ワドルディ!」

 

「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」

 

そこへワドルディのリーダー『バンダナワドルディ』がやってきた。

 

「大王様!大変です!マホロアがやってきました!」

 

「何!?こんな時に!?マホロア、今度は何を企んでいる。」

 

「バンダナワドルディ、今すぐ向かうぞ!」

「はい大王様」

 

「では頼む」

そう言ってブレイドナイトは通信を切った。




次回!マホロアがでます!

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プププランドに集まる者たち

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行方不明になったカービィとメタナイト。

そこにやってきたのは……

 

「大王様!大変です!マホロアがやってきました!」

 

「何!?こんな時に!?マホロア、今度は何を企んでいる。」

 

「バンダナワドルディ、今すぐ向かうぞ!」

「はい大王様」

 

「では頼む」

そう言ってブレイドナイトは通信を切った。

 

 

 

 

 

 

初めてマホロアと出会った場所に時空すら越えることができる天翔ける船ローアでマホロアは来ていた。

 

 

マホロアは急い船を飛び降りた。

「緊急事態ダヨォ!」

「今度はどんな企みをしに来たんだ?」

「僕は今回は企んでなんかないヨォ!」

「それより大変なんだ今はカービィがいなくてな。」

「そのことダヨォ!カービィの反応を調べてもこの世界にはどの時間軸にも存在してなかったんダヨォ!」

「なんだと!それは本当か!?」

「ウン。しかも戦艦ハルバードを尋ねてもメタナイトも見つからないシ」

「だから今回だけは特別でもいいから手伝って欲しいヨォ!僕はカービィに二度も助けられた……だから都合のいいかもしれないけど手伝ってヨォ!」

 

「「………」」

 

マホロアの眼はこれまでにないぐらい本気の眼だった。

 

「……わかった。手伝ってやる。」

 

「アリガトウデデデ大王!じゃあバンダナ君もロアーに乗ってくれヨォ!皆んな待っているカラネ。」

 

「皆んな?」

バンダナワドルディとデデデ大王の疑問はすぐ解けた。

 

ロアーの中に居たメンバーはなんと!

 

アドレーヌ、リボン、マルク、ドロッチェ、タランザ、そしてプププランドを機械化した本人……スージーが居た。

 

「なんでスージーまでいるんだ?」

 

「それはロアーを別の世界まで飛ぶ為に技術が必要だからダヨォ!」

 

「よろしくネ」

 

他にも強い者が居るがプププランドにもしもが起こると困る。

だからマホロアは連れて行かないメンバーもいる。

 

 

だが集まったメンバーは心強い。リボンとアドレーヌはカービィを助けたくて自ら立候補したのだった。

 

「ぼくはおもしろそうだからついていくのサ」

「私もカービィに助けられたからなのね」

「俺もカービィに助けられたから借りを返さないとな」

と上からマルク、タランザ、ドロッチェ

 

「じゃあ出発するヨォ!」

 

「「「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」」」

 

こうしてカービィを探していくつもの世界を探す

 

 

 

 

 

「フゥ、流石に疲れてきたヨォ。」

 

マホロアは何か発見した

 

 

それはカービィとメタナイトの反応だった!

 

「見つけたヨォ!惑星名はトータスというらしいヨォ。」

 

「まっててネカービィ」

 

 

 

 

 

 




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ブタ男と新コピー能力

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 【シュネー雪原】

 

マホロアたちがローアを降りた場所だった。

 

【ライセン大峡谷】によって真っ二つに分けられる大陸南側、その東にある一大雪原だ。年中曇天に覆われており、雪が降らない日が極まれにあるくらいで晴れることはなく、ずっと雪と氷で覆われた大地が続いている。

 

もっともカービィによってライセン渓谷は破壊されている。(歌で)

 

「アレ?もしかしてあっちの方にカービィが行ったんじゃないかヨォ?」

 

「たしかに、あっちの方が何かあったぽいな。」

とドロッチェが頷く。

 

「というよりワタクシはローアで飛んで探し出した方が早いと思いますワ」

 

「じゃあ皆んな飛べるから大丈夫ダネ!」

(アドレーヌはリボンと一緒に飛びます)

 

といことでマホロアはロアーをミニサイズにしてしまった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

一方ハジメたちは絡まれていた。

 

ブタ男は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシア、カービィをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。そこのピンクボールはクッションにしてやる。い、一緒に来い」

 

 

ブタ男はユエに触れようとする。彼の中では既にユエは自分のものになっているようだ。その瞬間、その場に凄絶な殺意と威圧が降り注いだ。

メタナイトはそれにビクともしなかったが、周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死にハジメから距離をとり始めた。

 

 

 

「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

 

 

「ユエ、シア、カービィ行くぞ。場所を変えよう」

 

席を立つハジメ達に、リシー(店員)が「えっ? えっ?」と混乱気味に目を瞬かせた。リシーがハジメの殺気の効果範囲にいても平気そうなのは、単純にリシーだけ〝威圧〟の対象外にしたからだ。

 

リシーからすれば、ブタ男が勝手なことを言い出したと思ったら、いきなり尻餅をついて股間を漏らし始めたのだから混乱するのは当然だろう。

 

 

だが、〝威圧〟を解きギルドを出ようとした直後、大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

 その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。

 

「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女とピンクボールは、傷つけるな! 私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

 どうやら、レガニドと呼ばれた巨漢は、ブタ男の雇われ護衛らしい。

 

「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

「お、おい、レガニドって〝黒〟のレガニドか?」

「〝暴風〟のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて……」

「金払じゃないか?〝金好き〟のレガニドだろ?」

 

ドパァン!

 

とハジメは撃ったが、

 

「カービィ?」

 

カービィは銃弾を吸い込んだ。

 

カービィは大きくジャンプして能力を得た。

 

すかさずメタナイトが

「あれぞ『ガンカービィ』」

と(アニメ版のように)言う。

カービィは両手に銃を持って黄色い帽子(イエローハ○トみたいなの)を被っている。

 

「なんでもありかよ!」

とハジメ

「カービィの可能性は無限大だからな」

とカービィに感心するメタナイト。

 

カービィは撃った。

 

すると銃弾一つが100に分裂して蜂の穴状態になってしまった。

 

 

(坊ちゃん、こりゃ、割に合わなさすぎだ……)

 

 

容赦のなさにギルド内が静寂に包まれる。誰も彼もが身動き一つせず、ハジメ達を凝視していた。よく見れば、ギルド職員らしき者達が、争いを止めようとしたのか、カフェに来る途中でハジメ達の方へ手を伸ばしたまま硬直している。様々な冒険者達を見てきた彼等にとっても衝撃の光景だったようだ。

 

 誰もが硬直していると、おもむろに静寂が破られた。ハジメが、ツカツカと歩き出したのだ。ギルド内にいる全員の視線がハジメに集まる。ハジメの行き先は……ブタ男のもとだった。

 

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「……地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」

 

 

 ハジメは、ブタ男の名前に地球の代表的なゆるキャラを思い浮かべ、盛大に顔をしかめると、尻餅を付いたままのブタ男の顔面を勢いよく踏みつけた。

 

「プギャ!?」

 

「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はない」

 

「ブッブヒィーー!」

 

 

 ハジメとカービィは、どこか清々しい表情でユエ達の方へ歩み寄る。ユエとシアも、微笑みでハジメとカービィを迎えた。そして、ハジメは、すぐ傍で呆然としている案内人リシーにも笑いかけた。

 

「じゃあ、案内人さん。場所移して続きを頼むよ」

「はひっ! い、いえ、その、私、何といいますか……」

 

 

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

 

「やりすぎちゃったかな?」

「いや、あれで良かったんだ。」

とカービィとハジメはどこかを向いて誤魔化そうとしたのだった。




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キャサリンの手紙

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「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

 

「やりすぎちゃったかな?」

「いや、あれで良かったんだ。」

とカービィとハジメはどこかを向いて誤魔化そうとしたのだった。

 

「そうは言ってもな、あのブタが俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだ。それ以上、説明する事がない。そこの案内人とか、その辺の男連中も証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

 

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

「当事者双方……ね」

 

 

「あれが目を覚ますまで、ずっと待機してろって? 被害者の俺達が? ……いっそ都市外に拉致って殺っちまうか?」

 

「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

 

 

「ああ、構わない。そっちのブタがまだ文句を言うようなら、むしろ連絡して欲しいくらいだしな。今度はもっと丁寧な説得を心掛けるよ」

 

 

 

「ふむ、いいでしょう……〝青〟ですか。向こうで伸びている彼は〝黒〟なんですがね……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」

 

カービィとシア、ユエ、メタナイトをみる。

 

「いや、ユエもシアも……こっちの彼女達もステータスプレートは紛失してな、再発行はまだしていない。ほら、高いだろ?」

 

「私は持っている」

「ボクもー」

 

さらりと嘘をつくハジメ。二人の異常とも言える強さを見せた後では意味がないかもしれないが、それでもはっきりと詳細を把握されるのは出来れば避けたい。

 

「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」

 

 

そこでメタナイトはハジメにあの手紙を思い出させる

「ハジメ、貰った手紙を。」

「? ああ。あの手紙か……」

 

ハジメはブルックの町を出るときに、ブルック支部のキャサリンから手紙を貰ったことを思い出す。ギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙だ。

 

 ダメで元々、場合によってはさっさと都市から出ていこうと考え、ハジメは懐から手紙を取り出しドットに手渡した。キャサリンの言葉は話半分で聞いていたので、内容は知らない。ハジメは、こんなことなら内容を見ておけばよかったと若干後悔する

 

 

「身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドのお偉いさんに渡せと言われてたものがある」

「? 知り合いのギルド職員ですか? ……拝見します」

 

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」

 

 ドットの予想以上の反応に、「マジでキャサリンって何者なんだ」と引き気味のハジメ達。

 

「まぁ、それくらいなら構わないな。わかった。待たせてもらうよ」

「職員に案内させます。では、後ほど」

 

 

 ハジメ達が応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。ハジメの返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、ユエ君、シア君、カービィ君、メタナイト君……でいいかな?」

 

「ああ、構わない。名前は、手紙に?」

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

「トラブル体質……ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ? それで問題ないのか?」

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

 

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

「……キャサリンすごい」

「只者じゃないとは思っていたが……思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに……今は……いや、止めておこう」

「「………」」

 

と上からシア、ユエ、ハジメ、カービィとメタナイトだった。




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依頼と交渉

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キャサリンの手紙を渡したらキャサリンが凄い人だとわかった。

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

「だが断る」

 

 

「ふむ、取り敢えず話を聞いて貰えないかな? 聞いてくれるなら、今回の件は不問とするのだが……」

「……」

 

 それは言外に、話を聞かなければ今回の件について色々面倒な手続きをするぞ? ということだ。

 

 

「聞いてくれるようだね。ありがとう」

「……流石、大都市のギルド支部長。いい性格してるよ」

「君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

イルワの話を要約すると、つまりこういうことだ。

 

 最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。

 

 この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

「前提として、俺達にその相応以上の実力ってやつがないとダメだろう? 生憎俺たちは〝青〟ランクだぞ?」

 

「ご冗談を。さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう? それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

「! 何故知って……手紙か? だが、彼女にそんな話は……」

 ハジメ、カービィ、メタナイトが、シアに胡乱な眼差しを向ける。

 

「何だ、シア?」

「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」

「……後でお仕置きな」

「!? ユ、ユエさんもいました!」

「……シア、裏切り者」

「二人共お仕置きな」

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

 

「うん!ボクもトモダチが困っていたら助けるからボクは手伝うよ〜」

「仕方ないか、」

 

「報酬は弾ませてもらうよ? 依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝黒〟にしてもいい」

「いや、金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいから……」

「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」

「大盤振る舞いだな。友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃないか?」

 

 ハジメの言葉に、イルワが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。

 

「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 

 

「そこまで言うなら考えなくもないが……二つ条件がある」

「条件?」

「ああ、そんなに難しいことじゃない。ユエとシアにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」

「それはあまりに……」

「出来ないなら、この話はなしだ。もう行かせてもらう」

 

 

「何を要求する気かな?」

「そんなに気負わないでくれ。無茶な要求はしないぞ? ただ俺達は少々特異な存在なんで、教会あたりに目をつけられると……いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思うが、その時、伝手があった方が便利だなっとそう思っただけだ。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい。ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか……」

「指名手配されるのが確実なのかい? ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな……その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……」

 

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……ハジメ君、カービィ君、メタナイト君、ユエ君、シア君……宜しく頼む」

 

こうしてカービィたちは依頼を引き受けた




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湖畔の町での再会

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カービィたちはイルワの依頼を引き受けたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

現在ロボボアーマーホイールモードで爆走中である。

微笑ましそうな眼差しを向けていたユエは、そう言えば町の名前を聞いてなかったとハジメに尋ねる。ハッと我に返ったハジメは、ユエの眼差しに気がついて少し恥ずかしそうにすると、誤魔化すように若干大きめの声で答えた。

 

「湖畔の町ウルだ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君、一体どこに行ってしまったんですか……」

 

 悄然と肩を落とし、ウルの町の表通りをトボトボと歩くのは召喚組の一人にして教師、畑山愛子だ。

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君の部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 元気のない愛子に、そう声をかけたのは愛子専属護衛隊隊長のデビッドと生徒の園部優花だ。

 

クラスメイトの一人、清水幸利が失踪してから既に二週間と少し。愛子達は、八方手を尽くして清水を探したが、その行方はようとして知れなかった。町中に目撃情報はなく、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

 

次々とかけられる気遣いの言葉に、愛子は内心で自分を殴りつけた。事件に巻き込まれようが、自発的な失踪であろうが心配であることに変わりはない。しかし、生徒たちに気遣わせてどうするのだと。それでも、自分はこの子達の教師なのか! と。愛子は、一度深呼吸して、気持ちを立て直した。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

カランッカランッ

 

 

そんな音を立てて、愛子達は、自分達が宿泊している宿の扉を開いた。ウルの町で一番の高級宿だ。名を〝水妖精の宿〟という。

 

 

 〝水妖精の宿〟は、一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。

 

全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

 カレーが大好物の園部優花がショックを受けたように問い返した。

 

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど前、謎の歌で魔物が消え去るということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

「あの……不穏っていうのは具体的には?」

「何でも悪魔の歌声を見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れが逃げていたのを見たのだとか」

「それは、心配ですね……」

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

「どういうことですか?」

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

愛子はそれがハジメたちだとは知らない。

 

愛子達が、デビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男の声と少女二人の声だ。何やら少女の一人が男に文句を言っているらしい。それに反応したのはフォスだ。

 

「おや、噂をすれば。あの5人?組ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。〝金〟に、こんな若い者がいたか?」

 

 

そうこうしている内に、5人?組は話ながら近づいてくる。

 

「もうっ、何度言えばわかるんですか。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? 〝ハジメ〟さん」

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」

「んまっ! 聞きました? ユエさん。カービィさん。〝ハジメ〟さんが冷たいこと言いますぅ」

「……〝ハジメ〟……メッ!」

「ハイハイ」

「それより美味しいものを食べたいなぁ〜」「もう少しだから我慢するんだカービィ」

 

 尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。騎士達が、一体何事だと顔を見合わせていると、愛子がポツリとその名を零した。

 

「……南雲君?」

 

無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。愛子は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引きちぎる勢いで開け放った。

 

シャァァァ!!

 

 存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ギョッとして思わず立ち止まる三人の少年少女と2つの球体。

 

 

「南雲君!」

「あぁ? ……………………………………………先生?」

 

 

「南雲君……やっぱり南雲君なんですね? それにカービィさんもいたんですね。生きて……本当に生きて…」

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 

死んだと思っていた教え子と奇跡のような再会。感動して、涙腺が緩んだのか、涙目になる愛子。今まで何処にいたのか、一体何があったのか、本当に無事でよかった、と言いたいことは山ほどあるのに言葉にならない。それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子に返ってきたのは、全くもって予想外の言葉だった。

 

 

「ちょっと待って下さい! 南雲君ですよね? 先生のこと先生と呼びましたよね? なぜ、人違いだなんて」

「いや、聞き間違いだ。あれは……そう、方言で〝チッコイ〟て意味だ。うん」

「それはそれで、物凄く失礼ですよ! ていうかそんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか?それにカービィさんも一緒にいるではないですか! それにその格好……何があったんですか? こんなところで何をしているんですか? 何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 南雲君! 答えなさい! 先生は誤魔化されませんよ!」

 

ハジメがカービィにこそこそと話す。

 

カービィがコピー能力を使う

 

「コピー能力カブキ」

 

カービィが人型になった。

 

「な?別人だろ」

「い、いや、先生は誤魔化せんからね!」

 

 愛子の怒声がレストランに響き渡る。幾人かいた客達も噂の〝豊穣の女神〟が男に掴みかかって怒鳴っている姿に、「すわっ、女神に男が!?」と愉快な勘違いと共に好奇心に目を輝かせている。生徒や護衛騎士達もぞろぞろと奥からやって来た。

 

生徒達はハジメとカービィの姿を見て、信じられないと驚愕の表情を浮かべている。それは、生きていたこと自体が半分、外見と雰囲気の変貌が半分といったところだろう。だが、どうすればいいのか分からず、ただ呆然と愛子とハジメたちを見つめるに止どまっていた。

 

「……離れて、ハジメが困ってる」

「な、何ですか、あなたは? 今、先生は南雲君と大事な話を……」

「……なら、少しは落ち着いて」

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君とカービィさんですよね?」

 

「そーだよー」

 

「ああ。久しぶりだな、先生」

「やっぱり、やっぱり南雲君なんですね……生きていたんですね……」

 

「まぁな。色々あったが、何とか生き残ってるよ」

「よかった。本当によかったです」

 

「ええと、ハジメさん。いいんですか? お知り合いですよね? 多分ですけど……元の世界の……」

「別に関係ないだろ。流石にいきなり現れた時は驚いたが、まぁ、それだけだ。元々晩飯食いに来たんだし、さっさと注文しよう。マジで楽しみだったんだよ。知ってるか? ここカレー……じゃわからないか。ニルシッシルっていうスパイシーな飯があるんだってよ。想像した通りの味なら嬉しいんだが……」

「……なら、私もそれにする。ハジメの好きな味知りたい」

「あっ、そういうところでさり気ないアピールを……流石ユエさん。というわけで私もそれにします。店員さぁ~ん、注文お願いしまぁ~す」

「ボクも早く食べたいからね」

「たしかに私も別世界の料理は興味がある」

 

だが、当然、そこで待ったがかかる。ハジメがあまりにも自然にテーブルにつき何事もなかったように注文を始めたので再び呆然としていた愛子が息を吹き返し、ツカツカとハジメのテーブルに近寄ると「先生、怒ってます!」と実にわかりやすい表情でテーブルをペシッと叩いた。

 

「南雲君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、カービィさんはわかりますがそれ以外の方ははどちら様ですか?」

 

「話は聞いてないのか?」

とメタナイトは愛子に質問する。

 

「何がですか?」

 

「私はメタナイトという者だ。あなた方が召喚された後私も召喚されたのだ。光輝という者がすぐに私をカービィと同じ世界の住人だと気付いたからてっきり私は召喚された全員に情報がいっていると思っていたのだが。」

 

「そうだったんですか!?では女性2人は?」

 

「あの女性たちは私たちと一緒に行動している。2人ともハジメに助けられ好きになったということらしい。」

 

「そうだったんですか…」

 

「喋りすぎじゃないのか?」とハジメ。

 

「だが情報は最低限だ。アレ(ステータス)の事は一切触れてない。」

 

「ならいいか。」

 

「アレとは何ですか!私にもわかるようにーーーーー

 

愛子の声はどどかない。

 

 




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愛子は悩む

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散々、愛子が吠えた後、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内されたハジメ達。そこで、愛子や園部優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられつつも、ハジメは、目の前の今日限りというニルシッシル(異世界版カレー)。に夢中で端折りに端折った答えをおざなりに返していく。

カービィは恐るべきスピードで食べている(吸い込んでいる)。

Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

ハジメA、超頑張った

カービィA、ハジメをさがしたよー

Q、なぜ白髪なのか

ハジメA、超頑張った結果

カービィA、奈落でのハジメの食生活の結果だよ〜。

Q、その目はどうしたのか

ハジメA、超超頑張った結果

カービィA、奈落でのハジメの食生活の結果だよ〜。

Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

ハジメA、戻る理由がない

カービィA、美味しい食べ物(コピー能力コックで料理した魔物)に釣られて…。

 

そこまで聞いて愛子が、「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る。全く、迫力がないのが物悲しい。案の定、ハジメには柳に風といった様子。カービィは割と真面目に答えていたのだがそれは伝わらなかった。

 

その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。

 

「おい、お前ら! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

 

ハジメは、チラリとデビッドを見ると、はぁと溜息を吐いた。

 

「食事中だぞ? 行儀よくしろよ」

 

「そーだよ。そんなことより食べようよ!」

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう。それとその球体どもは何だ?そいつらは人間らしくできないな。」

 

「「「「「………」」」」」

 

「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

「……小さい男」

 

「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかけるデビッド。突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛子やチェイス達は止めようとする。だが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。

 

 その瞬間、

 

ドパンッ!!

とハジメが発砲し、カービィに指示を出す。

「やれカービィ。」

 

「………わかったよ……コピー能力ガン。」

 

ガンカービィの持っている銃から数弾が放たれる。

 

するとその銃弾一つ一つが100の銃弾に分裂してデビッドに襲いかかる。

 

デビッドは、そのまま背後の壁に凄まじい音を立てながら後頭部を強打し、白目を向いてズルズルと崩れ落ちる。さらに残った銃弾に追撃され、手から放り出されたデビッドの剣がカシャン! と派手な音を立てて床に転がった。

 

誰もが、今起こった出来事を正しく認識できず硬直する。視線は、白目を向いて倒れるデビッドに向けられたままだ。と、そこへ、大きな破裂音に何事かと、フォスがカーテンを開けて飛び込んできた。そして、目の前の惨状に目を丸くして硬直する。

 

 

 直接、殺気を浴びているわけではないが、ハジメから放たれる桁違いの威圧感に、愛子達も顔を青ざめさせてガクガクと震えている。

 

 ハジメは、ドンナーをゴトッとわざとらしく音を立てながらテーブルの上に置いた。威嚇のためだ。そして、自分の立ち位置と愛子達に求める立ち位置を明確に宣言する。

 

「俺は、あんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりもない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。そこでお別れだ。あとは互いに不干渉でいこう。あんたらが、どこで何をしようと勝手だが、俺の邪魔だけはしないでくれ。今みたいに、敵意をもたれちゃ……つい殺っちまいそうになる。」

 

「おい、シア。これが〝外〟での普通なんだ。気にしていたらキリがないぞ?」

「はぃ、そうですよね……わかってはいるのですけど……やっぱり、人間の方には、この耳は気持ち悪いのでしょうね」

「……シアのウサミミは可愛い」

「ユエさん……そうでしょうか」

「しあ、」

「何ですかカービィさん?」

「見てて、コピー能力アニマル!」

「カービィさん…ありがとうございます。」

それでも自信なさげなシアに、今度はハジメが若干呆れた様子でフォローを入れる。ユエに「メッ!」されることが多くなってから、シアに対する態度が少しずつ柔らかくなっているハジメの、精一杯の慰めだ。

 

「あのな、こいつらは教会やら国の上層に洗脳じみた教育されてるから、忌避感が半端ないだけだ。兎人族は愛玩奴隷の需要では一番なんだろう? それはつまり、一般的には気持ち悪いとまでは思われちゃいないってことだ」

「そう……でしょうか……あ、あの、ちなみにハジメさんは……その……どう思いますか……私のウサミミ」

 

「……別にどうも……」

 

「……ハジメのお気に入り。シアと寝てる時にモフモフしてる」

「ユエッ!? それは言わない約束だろ!?」

「ハ、ハジメさん……私のウサミミお好きだったんですね……えへへ」

 

シアが赤く染まった頬を両手で押さえイヤンイヤンし、頭上のウサミミは「わーい!」と喜びを表現する様にわっさわっさと動く。

 

 ついさっきまで下手をすれば皆殺しにされるのではと錯覚しそうな緊迫感が漂っていたのに、今は何故か桃色空間が広がっている不思議に、愛子達も騎士達も目を白黒させた。しばらく、ハジメ達のラブコメちっくなやり取りを見ていると、男子生徒の一人相川昇がポツリとこぼす。

 

「あれ? 不思議だな。さっきまで南雲のことマジで怖かったんだけど、今は殺意しか湧いてこないや……」

「お前もか。つーか、あの二人、ヤバイくらい可愛いんですけど……どストライクなんですけど……なのに、目の前にいちゃつかれるとか拷問なんですけど……」

「……南雲の言う通り、何をしていたか何てどうでもいい。だが、異世界の女の子と仲良くなる術だけは……聞き出したい! ……昇! 明人!」

「「へっ、地獄に行く時は一緒だぜ、淳!」」

 

「南雲君でいいでしょうか? 先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」

 

「そのアーティファクト……でしょうか。あのピンクの生物と貴方が持っている武器は。寡聞にして存じないのですが、相当強力な物とお見受けします。弓より早く強力にもかかわらず、魔法のように詠唱も陣も必要ない。一体、何処で手に入れたのでしょう?」

 

 ハジメが、チラリとチェイスを見る。そして、何かを言おうとして、興奮した声に遮られた。クラス男子の玉井淳史だ。

 

「そ、そうだよ、南雲。それ銃だろ!? 何で、そんなもん持ってんだよ!」

 

 玉井の叫びにチェイスが反応する。

 

「銃? 玉井は、あれが何か知っているのですか?」

「え? ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな」

 

 玉井の言葉にチェイスの眼が光る。そして、ハジメをゆっくりと見据えた。

 

「ほぅ、つまり、この世界に元々あったアーティファクトではないと……とすると、異世界人によって作成されたもの……作成者は当然……」

「俺だな」

 

「ではピンクの球体生物の方も?」

「違うよー。ボクの能力だよー」

 

ハジメは、あっさりと自分が創り出したと答えた。チェイスは、ハジメに秘密主義者という印象を抱いていたため、あっさり認めたことに意外感を表にする。

 

「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか? それは……」

「この世界の戦争事情を一変させる……だろ? 量産できればな。大方、言いたいことはやはり戻ってこいとか、せめて作成方法を教えろとか、そんな感じだろ? 当然、全部却下だ。諦めろ」

 

「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がることでしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ? ならば……」

「なんと言われようと、協力するつもりはない。奪おうというなら敵とみなす。その時は……戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」

 

 

「チェイスさん。南雲君には南雲君の考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、あまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に……南雲君は、本当に戻ってこないつもり何ですか?」

「ああ、戻るつもりはない。明朝、仕事に出て依頼を果たしたら、そのままここを出る」

「どうして……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

夜中。深夜を周り、一日の活動とその後の予想外の展開に精神的にも肉体的にも疲れ果て、誰もが眠りついた頃、しかし、愛子は未だ寝付けずにいた。

 

 と、そこへ、突如誰もいないはずの部屋の中から声が掛けられた。

 

「なに百面相してるんだ、先生?」

「ッ!?」

そこにいたのはジェットカービィとハジメだった。

 

ギョッとして声がした方へ振り向く愛子。

 

どうやら窓から飛んで来たようだ。

 

「な、南雲君?カービィさん? な、なんでここに?」

 

「こんな時間に、しかも女性の部屋にノックもなくいきなり侵入とは感心しませんよ。しかもわざわざ窓から……一体、どうしたんですか?」

 

「まぁ、そこは悪かったよ。他の連中に見られたくなかったんだ、この訪問を。先生には話しておきたい事があったんだが、さっきは、教会やら王国の奴等がいたから話せなかったんだよ。内容的に、アイツ等発狂でもして暴れそうだし」

「話ですか? 南雲君は、先生達のことはどうでもよかったんじゃ……」

 

「いや、戻るつもりはないからな? だから、そんな期待した目で見るのは止めてくれ……今から話す話は、先生が一番冷静に受け止められるだろうと思ったから話す。聞いた後、どうするかは先生の判断に任せるよ」

 

そう言ってハジメは、オスカーから聞いた〝解放者〟と狂った神の遊戯の物語を話し始めた。

 

「まぁ、そういうわけだ。俺が奈落の底で知った事はな。これを知ってどうするかは先生に任せるよ。戯言と切って捨てるもよし、真実として行動を起こすもよし。好きにしてくれ」

「な、南雲君は、もしかして、その〝狂った神〟、私たちを召喚したというエヒト神をどうにかしようと……旅を?」

「ハッ、まさか。この世界がどうなろうが心底どうでもいい。俺は俺なりに帰還の方法を探るだけだ。旅はそのためのものだよ。教えたのは、その方が俺にとって都合が良さそうだから、それだけだ」

「ボクは困っていたらほっとけないから世界を救うって決めたよ。」

 

「アテはあるんですか?」

「まぁな。大迷宮が鍵だ。興味があるなら探索したらいい。オルクスの百階を超えれば、めでたく本当の大迷宮だ。もっとも、今日の様子を見る限り、行っても直ぐに死ぬと思うけどな。あの程度の〝威圧〟に耐えられないようじゃ論外だよ」

 

 

「白崎さんは諦めていませんでしたよ」

「……」

 

 愛子から掛けられた予想外の言葉にハジメの歩みが止まる。愛子は、背中を向けたままのハジメにそっと語りかけた。

 

「皆が君は死んだと言っても、彼女だけは諦めていませんでした。自分の目で確認するまで、君の生存を信じると。今も、オルクス大迷宮で戦っています。天之河君達は純粋に実戦訓練として潜っているようですが、彼女だけは君を探すことが目的のようです」

「…………白崎は無事か?」

 

「は、はい。オルクス大迷宮は危険な場所ではありますが、順調に実力を伸ばして、攻略を進めているようです。時々届く手紙にはそうありますよ。やっぱり気になりますか? 南雲君と白崎さんは仲がよかったですもんね」

 

 にこやかに語る愛子に、しかしハジメは否定も肯定もせず無表情で肩越しに振り返った。

 

「そう言う意味じゃないんだが……手紙のやり取りがあるなら伝えとくといい。あいつが本当に注意すべきは迷宮の魔物じゃない。仲間の方だと」

「え? それはどういう……」

「先生、今日の玉井達の態度から大体の事情は察した。俺が奈落に落ちた原因はベヒモスとの戦闘、または事故・・って事にでもなっているんじゃないか?」

「そ、それは……はい。一部の魔法が制御を離れて誤爆したと……南雲君はやはり皆を恨んで……」

「そんなことはどうでもいい。肝心なのはそこだ。誤爆? 違うぞ。あれは明確に俺を狙って誘導された魔弾だった」

「え? 誘導? 狙って?」

「俺は、クラスメイトの誰かに殺されかけたって事だ」

「ッ!?」

「ボクだってあの時コピー能力ジェットを使うべきだったかもしれない……、でもボク達はちゃんと生きてるんだからいいんじゃないの?」

 

顔面を蒼白して硬直する愛子に、「原因は白崎との関係くらいしか思いつかないからな、嫉妬で人一人殺すようなヤツだ。まだ無事なら白崎に後ろから襲われないよう忠告しとくといい」と言い残し、ハジメとカービィは部屋を出ていった。

 

愛子はハジメとカービィの言葉にシンとする部屋に冷気が吹き込んだように錯覚し、愛子は両腕で自らの体を抱きしめた。

 

 

愛子の悩みは深くなり、普段に増して眠れぬ夜を過ごした。

 




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出発とマホロアたちの迷宮攻略

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 月が輝きを薄れさせ、東の空がしらみ始めた頃、ハジメ、ユエ、シア、カービィ、メタナイトの5人(?)はすっかり旅支度を終えて、〝水妖精の宿〟の直ぐ外にいた。

 

幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。と、ハジメはその北門の傍に複数の人の気配を感じ目を細める。特に動くわけでもなくたむろしているようだ。

 

 朝靄をかきわけ見えたその姿は……愛子と生徒六人の姿だった。

 

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんの?」

 

 

ハジメ達が半眼になって愛子に視線を向ける。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

「な、なぜですか?」

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

 

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ? 南雲が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」

 

カービィはロボボアーマーホイールモードを呼んだ。

 

 

突然、虚空から謎の物体(ロボボアーマー)出現し、ギョッとなる愛子達。

 

「理解したか? お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」

「いや、カービィの物だ。それじゃあ俺等は行くから、そこどいてくれ」

 

「南雲君、先生は先生として、どうしても南雲君からもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。南雲君にとって、それは面倒なことではないですか? 移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか? そうすれば、南雲君の言う通り、この町でお別れできますよ……一先ずは」

 

「わかったよ。同行を許そう。」

「いいの?」とカービィ

「あぁといっても話せることなんて殆どないけどな……」

「私も途中でカービィたちと合流したから、あまり詳しくない」

「構いません。ちゃんと南雲君の口から聞いておきたいだけですから」

「はぁ、全く、先生はブレないな。何処でも何があっても先生か」

「当然です!」

 

 ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、むんっ! と胸を張る愛子。どうやら交渉が上手くいったようだと、生徒達もホッとした様子だ。

 

「……ハジメ、連れて行くの?」

「ああ、この人は、どこまでも〝教師〟なんでな。生徒の事に関しては妥協しねぇだろ。放置しておく方が、後で絶対面倒になる」

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方マホロアたちは……

 

「ジャジャーン、ダョォ!」

とマホロアはレーダーのような物を掲げた。

「なんだそれは?」とドロッチェ

「コレはハルトマンワークスカンパニーのスージーの技術とボクの技術とドロッチェ団のドクが力を合わせて作ったアイテム。どんな者でも跡を追跡できるアイテム、『追跡レーダー』ダョォ!」

「そんな便利なものがあるならこの星を探す時に使えばよかったのね」とタランザ

チッチッチッとマホロアは指を振って

「このレーダーで追跡できる範囲はその星のみなのダョォ!」

 

 

ということで、カービィの跡を追跡すること1時間オルクス大迷宮に着いた。

 

「どうやらカービィはここを通った見たいダョォ。ここは、えーっとオルクス大迷宮というらしいヨォ。」

「どうやらここはダンジョンのような物らしいヨォ!」

マホロアたちはオルクス大迷宮に入った。

 

そして数階進みそこにいたのは

 

光輝、雫、香織の3人がいた。

 

何故3人しかいないかというとハジメとカービィの死(ということになっている。)によって皆怖気付いてしまったからだ。

 

 




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マホロアたちの迷宮攻略ーオルクス大迷宮

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マホロアたちはオルクス大迷宮に入った。

 

そして数階進みそこにいたのは

 

光輝、雫、香織の3人がいた。

 

光輝たちはマホロアたちに気づいたがマホロアたちは一般の人に見える道具を使っているので普通の攻略者だと思っている。

 

マホロアはレーダーを見てハジメとカービィが落ちた場所に着いた。

 

「きっとこの場所を降りたんダョォ!みんな降りるヨォ!」

 

しかし降りれるような深さじゃなかった。

 

降りようとしているのに気づいた光輝は

「危ないぞ!これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない!」

「何があったんだヨォ。」

「ここに落ちた南雲ハジメとカービィは行方不明に、いや、死んだんだ。」

「南雲君は死んでない」と香織は言うが光輝にはどどかない。

 

「やっぱりカービィはここを通ったんダネ」

「でもカービィさん…死んじゃったって」

 

「だからこれ以上犠牲者を増やすわけにはいかないんだ」

 

「そんなことはないヨォ!だってこのレーダーが更新を続けているからネェ」

 

「じゃあ南雲君は生きているんだね!」香織の表情が明るくなる。

 

「いや、俺たちはカービィを探しにこの星にやってきたからな。南雲とやらは知らない」とドロッチェ。

 

マホロアは変装を解いた。

これから飛ぶからだ。

人間が浮いたらそれこそびっくりするであろう。

 

「ちょっと待っ……」と香織は言おうとしたがもう入っていた。

 

 

 

その後マホロアたちは順調に辿って行き、最後の階にたどり着いた。

 

そして何故かハジメ達が倒したヒュドラが復活している。

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がマホロアたちを射貫く。

………………はずだった。

マホロアは感じていた。

元々魔力があるマホロアだがこの星に来てからさらに高まったのだった。

それはマホロア以外もだ。

ドロッチェはダークゼロの力を使わずダークドロッチェスペックを出せるようになった。

マルクは各技が強力になったり、簡単にソウル化できるようになったり。

タランザも各技が強力になったり新しい技(スターアライズの技)を使えるようになった。

スージーは簡単にアナザー化したり、リレインバーが強力になっていたり。

アドレーヌは描く速さが一瞬に、体力もちょっと増えた。

リボンはクリスタルの力をクリスタルを使わず使えるようになった。

 

マホロアはブラックホールを出してヒュドラの攻撃を次元の彼方に送った。

 

「それはボクの技なのサ!」

 

と、マホロアとマルクは喧嘩を始め、

 

 

身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、最大の攻撃をした、

しかし

 

「邪魔しないでくれるカナァ?」

「邪魔しないでほしいのサ!」

 

2人(?)はソウル化して

 

マホロアは二本のウルトラソードで攻撃してブラックホールを出しす。

マルクはアローアロー、シード攻撃、ブラックホールを出しす。

 

その攻撃を直撃したヒュドラはいとも簡単に倒されてしまったのだった。

 




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マホロアたちの迷宮攻略ーライセン迷宮

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ヒュドラを倒したマホロアたち。

 

 

『私はオスカー(ry)』

 

マホロアとマホロア、スージーは神代魔法を手に入れた。

 

その後マホロアはカービィたちの跡を追って樹海に来た。

 

が、

 

そこにいたのは……

 

 

ウサギ……ではなく

 

ハジメと別れた後厨二を発症した兎人族だった。

 

マホロアたちは少し引き気味に通り過ぎることにした。

 

 

次に訪れたのはライセン迷宮だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

マホロアたちは始めはまともに攻略していたのだが、

 

〝ざんね~ん♪ このめは一定時間経つと自動的に構造が変わるよぉ~プークスクス!!〟

 

このようにカービィたちの跡は追えない。

 

遂にマホロアたちは迷宮を破壊し始めた。

 

皆が迷宮を破壊し始めたのでもはやゴーレムなど敵ではない。

 

遂にミレディが居る部屋に着いたのだが、

 

そこにいたのはミレディ、ではなくハジメとカービィがついでに超強化しておいたゴーレムである。

 

その上にちょこんとミレディが居る。

そして、

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

「「「「は?(怒)」」」」

大量の殺気をかけられるミレディ。

 

「待って待って!敵は私じゃなくてこのゴーレムだから!」

 

とミレディはゴーレムから降りた。

 

その瞬間

マホロア「ウルトラソード!」

マルク「マルク砲!」

デデデ大王「爆裂デデデハンマー投げ!」

リボン「クリスタル攻撃」

ドロッチェ「アイスレーザー!」

スージー「リレインバー!」

アドレーヌ「……(アイスドラゴンを描いている)」

バンダナワドルディ「ワド百烈突き!」

 

一瞬で倒される。

 

ミレディは思う。コイツら敵にしちゃダメだ、と。

 

結局マホロアたちは神代魔法を手に入れた。

 

手に入れられたのは

 

マホロア、マルク、ドロッチェ、バンダナワドルディだ。

 

「何でワドルディが手に入れて俺が手に入れられないんだ!」

とデデデ大王は言っていたが先に進むことにした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その頃ハジメたちは……

 

北の山脈地帯

 

 おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着したハジメ達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

「……ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」

 

予想以上に愛子達の体力がなく、休む必要があったからである。もちろん、本来、愛子達のステータスは、この世界の一般人の数倍を誇るので、六合目までの登山ごときでここまで疲弊することはない。

 

 

「……これは」

「ん……何か見つけた?」

 

 ハジメがどこか遠くを見るように茫洋とした目をして呟くのを聞き、ユエが確認する。その様子に、愛子達も何事かと目を瞬かせた。

 

「川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。ユエ、シア、カービィ行くぞ」

「ん……」

「はいです!」

「はーい」

 

先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。それらを発見する度に、特に愛子達の表情が強ばっていく。しばらく、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

「ハジメさん、これ、ペンダントでしょうか?」

「ん? ああ……遺留品かもな。確かめよう」

 

 シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやらペンダントではなくロケットのようだと気がつく。中を見ると、女性の写真が入っていた。おそらく、大した手がかりではないが、古びた様子はないので最近のもの……冒険者一行の誰かのものかもしれない。なので、一応回収しておく。

 

「ここで本格的な戦闘があったようだな……この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいたな。だが、この抉れた地面は……」

 

 

「おいおい、マジかよ。気配感知に掛かった。感じから言って人間だと思う。場所は……あの滝壺の奥だ」

 

「カービィ頼む」

「うん!スーパー能力ウルトラソード!

 

そこには少年がいた




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黒竜

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「カービィ頼む」

「わかったよ、スーパー能力ウルトラソード!」

滝を切断すると青年がいた。

 

 

ハジメは手っ取り早く青年の正体を確認したいのでギリギリと力を込めた義手デコピンを眠る青年の額にぶち当てた。

 

バチコンッ!!

 

「ぐわっ!!」

 

 悲鳴を上げて目を覚まし、額を両手で抑えながらのたうつ青年。愛子達が、あまりに強力なデコピンと容赦のなさに戦慄の表情を浮かべた。ハジメは、そんな愛子達をスルーして、涙目になっている青年に近づくと端的に名前を確認する。

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」

 

「俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。(俺の都合上)生きていてよかった」

「ボクはカービィだよ〜」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたたちも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

 

何があったのかをウィルから聞いた。

 

 要約するとこうだ。

 

 ウィル達は五日前、

 

突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、撤退に移ったのだが、どんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、大きな川に出たところで、現れたのは、漆黒の竜だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

がつまり苦しそうなウィルに、意外なほど透き通った声で語りかけた。

 

「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

「だ、だが……私は……」

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

「……生き続ける」

 

だが、事はそう簡単には進まない。再度、カービィのウルトラソードで滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。

 

「グゥルルルル」

 

低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった。

 

 

 その黒竜は、ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。

 

キュゥワァアアア!!

 

 不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。ハジメの脳裏に、川の一部と冒険者を消し飛ばしたというブレスが過ぎった。

 

「ッ! 退避しろ!」

 

「ボクに任せて!コピー能力ミラー!!リフレクトフォース!」

 

ミラーカービィがブレスを止めようとする。

しかしリフレクトフォースに徐々にヒビが入っていく。

「だったら、コピー能力クリエイト!ミラー/ミラー/ミラー/ミラー、ミラー分身、」

 

カービィはコピー能力クリエイトによって強化されたミラーにより

ミラー分身をすることで、分身を維持することができるのだった。

「「「「「「「「「「「倍増リフレクトフォース」」」」」」」」」」」

そして総員(全員ミラーカービィ)でブレスを跳ね返した。

 

そしてトドメと言わんばかりに一瞬で黒竜の懐に潜り込むと、〝豪脚〟を以て蹴り上げ、再び仰向けに転がした。そして、動きが緩慢な黒竜の腹の上で〝宝物庫〟からパイルバンカーを取り出す。

 

思わずたたらを踏むハジメ。パイルバンカーの重さに引かれて、発射寸前だったパイルバンカーは、その矛先を天に向けて起動し、十全に加速させた杭を上空へと発射した。天へと昇る一条の光を尻目に、パイルバンカーを〝宝物庫〟にしまったハジメは、黒竜が最後の足掻きとウィルに爆進するのを確認した。

 

「ちっ、メタナイト!」

「任せろ!マッハトルネード!」

 

 

そしてハジメは、地面に深々と突き刺さる杭を〝豪腕〟も利用して引き抜くと肩に担いで黒竜の尻尾の付け根の前に陣取った。そして、まるでやり投げの選手のような構えを取る。手には当然、パイルバンカーの杭だ。

 

 全員が、ハジメのしようとしていることを察し、頬を引き攣らせた。鱗を割るのが面倒だからといって、そこ・・から突き刺すのはダメだろうと。ハジメの容赦のなさにユエとシア以外の者達が戦慄の表情を浮かべているが、ハジメはどこ吹く風だ。

 

 そして遂に、ハジメのパイルバンカーが黒竜の〝ピッー〟にズブリと音を立てて勢いよく突き刺さった。と、その瞬間、

 

〝アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!〟

 

 

〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~〟

 

 黒竜の悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声音に全員が「一体何事!?」と度肝を抜かれ、黒竜を凝視したまま硬直する。

 

 どうやら、ただの竜退治とはいかないようだった。

 

しかし、これで解決と言わんばかりに何処からかあの音楽が流れ始める。

そうカービィがボスを倒した時に流れる音楽が!

 

そしてカービィがノーマルの状態で3人に増えた。

 

ハジメ、ユエ、シアはまたあれをやらなくてはならないのかと、もしかしたら逃げたらなんとかなるかもと思い逃げ始める。

 

「何処行くんですか!?」と愛子先生は言うが逃げる

 

が、しかし、

 

謎の力によりハジメたちは元の位置に戻される。

 

「「「!?」」」

 

そこにいる皆は何が起こる分からず、急に増えたカービィを見たが、(ただし、ハジメ、ユエ、シア、メタナイトは除く)

そして皆んな身体が勝手に動き出して、例のダンスを踊り出した。

『テテテテテテテッテテ〜テテテテテテテッテ〜テテテテテテテッテテ〜テテッテテッテテ!』

「「「「「「「「「「「「「「「「ハァィ!」」」」」」」」」」」」」」」」

 

このダンスに口々に言うが、カービィはそれに対して、

「ボクのパーティがボスを倒したら踊らないといけないやつ。」

 

「「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」」

 

「で、でも体力は踊るだけで全回復するんだよ!」

 

「「「「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」」」」

 

そうして、カービィの二つ名に強制ダンスの悪魔が追加されたのだった。

 




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1UP

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〝ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~〟

 

 北の山脈地帯の中腹、薙ぎ倒された木々と荒れ果てた川原に、すっかり忘れていた黒竜の何とも情けない声が響いていた。

 

「お前……まさか、竜人族なのか?」

 

 〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が〟

 

「じゃあ、」

と、カービィはコピー能力を使う

「コピー能力バブル!」

カービィはコピー能力バブルでパイルバンカーをストックした。

「そういえばなんでこんな所にいるの?」とカービィ

ハジメも、

「滅んだはずの竜人族が何故こんなところで、一介の冒険者なんぞ襲っていたのか……俺も気になるな。本来なら、このまま尻からぶち抜いてやるところを、話を聞く間くらいは猶予してやるんだ。さぁ、きりきり吐け」と言う。

 

しかしなかなか話さないのでハジメはまた刺して

さらにぐりぐりした。

〝あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから!〟

 

その行為はさすがのカービィも引いた。

 ハジメの所業に、周囲の者達が完全にドン引きしていたがハジメは気にしない。

 

 

〝妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟

 

 黒竜の話を要約するとこうだ。

 

この黒竜は、ある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。その目的とは、異世界からの来訪者について調べるというものだ。

目の前の黒竜は、その調査の目的で集落から出てきたらしい。

その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。当然、周囲には魔物もいるので竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜状態になって。

と、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

 

とのこと。

 

そこでカービィはタランザを思い出した。

タランザはプププランドのはるか上空にある、フロラルドに住んでいる。

操るのが得意だ。

操つられたデデデ大王と戦ったこともある。

 

 

〝恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……〟

 

 一生の不覚! と言った感じで悲痛そうな声を上げる黒竜。しかし、ハジメは冷めた目でツッコミを入れる。

 

「それはつまり、調査に来ておいて丸一日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないのか?」

 

 

「……ふざけるな」

 

 事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

「待って!!」

 

その前に立ち塞がるカービィ。

 

「たしかに操られていたからといって悪くないわけじゃない。」

「それに、大方、その話も死にたくなくて適当にでっち上げたに決まっている!」

「ボクは、騙されて痛い目にあったことがある」

カービィはマホロアを思い出した。

マホロアはカービィと友達になる為に無限の力を秘めている王冠、マスタークラウンを持つランディアに挑み、ランディアにバラバラにされた船をカービィの力を貸りて戻した。

カービィたちはランディアを倒し、マホロアはマスタークラウンを手に入れた。

マホロアはカービィと冒険をしたと思い力を願った。

そしてその力は暴走して結局カービィたちに倒された。

その後マホロアは反省して友達になったのだ。

「だったら!」

「だからこそボクはこの竜が本当のことを言っているのはわかるんだよ。」

 カービィが一生懸命説明してなお、言い募ろうとするしつこいウィル。それに口を挟んだのはユエだ。

「……きっと、嘘じゃない」

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

 食ってかかるウィルを一瞥すると、ユエは黒竜を見つめながらぽつぽつと語る。

「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」

〝ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?〟

 

 竜人族という存在のあり方を未だ語り継ぐものでもいるのかと、若干嬉しそうな声音の黒竜。

 

「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

〝何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……〟

 

 どうやら、この黒竜はユエと同等以上に生きているらしい。しかも、口振りからして世界情勢にも全く疎いというわけではないようだ。今回の様に、時々正体を隠して世情の調査をしているのかもしれない。その黒竜にして吸血姫の生存は驚いたようだ。周囲の、ウィルや愛子達も驚愕の目でユエを見ている。

 

「ユエ……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

 だが、それでも親切にしてくれた先輩冒険者達の無念を思い言葉を零してしまう。

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

「しょうがないけど、しかたないかなぁー」

そう言ってカービィは惜しむようにあるものを取り出す。

それはカービィそっくりなもので『1UP』と書かれている

ちなみにこのカービィは残機をカンストしています。

と、言うよりこれまでの冒険でいつのまにか残機がカンストしていました。

 

それを死んだ人たちに与えた。

 

すると生き返ったのだ!

 

「なっ!?これでいいでしょ?」

 

ついでに途中にあったものもウィルのものだったので返した。

ウィルたちは帰っていった。

 

 そんな中、黒竜が懺悔するように、声音に罪悪感を含ませながら己の言葉を紡ぐ。

 

〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟

 

 

そのハジメの答えは、

 

「いや、お前の都合なんざ知ったことじゃないし。散々面倒かけてくれたんだ。詫びとして死ね」

 

 そう言って義手の拳を振りかぶった。

 

〝待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!〟

 

カービィ「殺しちゃうの?」

ハジメ「え? いや、そりゃあ殺し合いしたわけだし……」

ユエ「……でも、敵じゃない。殺意も悪意も、一度も向けなかった。意志を奪われてた」

 

結局ユエとカービィにより救われた。

 

ハジメは、そう考えて空いている方の手で黒竜の尻に刺さっている杭に手をかけた。そして、力を込めて引き抜いていく。

 

〝はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~〟

 

 

〝あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……〟

 

 

この瞬間黒竜は変態に目覚めてしまったのだが、それを知るのはこの後のこと。

 




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ティオ・クラルス

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ハジメは、黒竜の尻に刺さっている杭に手をかけた。そして、力を込めて引き抜いていく。

〝はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~〟

 

〝あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……〟

 

 そんな訳のわからないことを呟く黒竜は、直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。

 

 黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。

見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。

 

 

 

 

「ゴホン、面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

ティオ・クラルスと名乗った黒竜は、次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。

 

何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にし、随分と勇者に対して妬みがあるようだったという。

 

黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでヒントが出れば、流石に脳裏にとある人物が浮かび上がる。愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。限りなく黒に近いが、信じたくないと言ったところだろう。

 

 と、そこでハジメが突如、遠くを見る目をして「おお、これはまた……」などと呟きを漏らした。

聞けば、ティオの話を聞いてから、無人探査機を回して魔物の群れや黒ローブの男を探していたらしい。

 

 そして、遂に無人探査機の一機がとある場所に集合する魔物の大群を発見した。その数は……

 

「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」

 

「あの、ハジメ殿なら何とか出来るのでは……」

 その言葉で、全員が一斉にハジメの方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。ハジメは、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せると、投げやり気味に返答する。

 

「そんな目で見るなよ。俺の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」

「だいじょーぶ、ボク達もいるよ!」

 

 ハジメのやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた。

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

 

「さっきも言ったが、俺の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。真っ平御免被るよ。それに、仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ? 万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ? ちなみに、ロボボアーマーはカービィじゃないと動かせない構造だから、俺たちに戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」

 

 

「まぁ、ご主じ……コホンッ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

ティオが仲間になった。

 

結局一行は、背後に大群という暗雲を背負い、急ぎウルの町に戻る。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ウルの町に着くと、悠然と歩くハジメ達とは異なり愛子達は足をもつれさせる勢いで町長のいる場所へ駆けていった。ハジメとしては、愛子達とここで別れて、さっさとウィルを連れてフューレンに行ってしまおうと考えていたのだが、むしろ愛子達より先にウィルが飛び出していってしまったため仕方なく後を追いかけた。

 

「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。報告が済んだなら、さっさとフューレンに向かうぞ」

あの後結局依頼があるので強制的にウィルを連れ戻した。

 

「な、何を言っているのですか? ハジメ殿。今は、危急の時なのですよ? まさか、この町を見捨てて行くつもりでは……」

カービィ「じゃあボクが残るよ。」

「ならば私も残ろう」とメタナイト

 

「南雲君。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」と愛子先生

「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか? なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと? その意志もないのに? まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」

 

「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが……」

 

 愛子が一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

「南雲君、あんなに穏やかだった君が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

 

ハジメは愛子に再度向き合う。

 

「……先生は、この先何があっても、俺の先生か?」

 

 それは、言外に味方であり続けるのかと問うハジメ。

 

「当然です」

 

 それに、一瞬の躊躇いもなく答える愛子。

 

「……俺がどんな決断をしても? それが、先生の望まない結果でも?」

「言ったはずです。先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

 

 ハジメはしばらく、その言葉に偽りがないか確かめるように愛子と見つめ合う。わざわざ言質をとったのは、ハジメ自身、できれば愛子と敵対はしたくなかったからだ。ハジメは、愛子の瞳に偽りも誤魔化しもないことを確かめると、おもむろに踵を返し出入口へと向かった。ユエとシア、カービィとメタナイトも、すぐ後に続く。

 

「な、南雲君?」

 

「流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいからな。話し合いはそっちでやってくれ」

「南雲君!」

 

 ハジメの返答に顔をパァーと輝かせる愛子。そんな愛子にハジメは苦笑いする。

 

「俺の知る限り一番の〝先生〟からの忠告だ。まして、それがこいつ等の幸せにつながるかもってんなら……少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにする」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その日の夕方

 

ハジメたちは準備の最中だった。

 

真っ先に気づいたのはメタナイトだ。

 

「あれは!」

「どうしたメタナイト?」

「どーしたの?」

「ローアがやって来た」

カービィ「ええぇぇぇーー」

 

「そんなに驚くことなのか?」とハジメ

 

「私が説明しよう。あれは『天翔ける船ローア』時空すら越えることの出来る船だ。」

 

「「「「ええぇぇぇーー」」」」

 

メタナイト「マホロアがまた何か企んでいるのだろう。」

 

「でも、マホロアはこの前ちゃんと反省してたよ。それにマホロアは友達だよ!」

 

「とにかく行ってみるか。」とハジメたちはローアに向かったのだった。




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再会と破神エンデニルの完全復活

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ハジメたちはウルの町を守ることにした。

その日の夕方準備中、『天翔ける船ローア』がやって来た。

カービィたちはローアに向かうのだった。

 

ローアの目の前まで来たカービィたち。

 

しかしローアからは誰も出てこない。

 

カービィたちはローアの中に入った。

 

そこでは

 

マホロア「きっとカービィはこの辺りに居るはずダヨォ!」

デデデ大王「ついにレーダー反応も近くなって来たな。」

スージー「いっそのことワタクシがレーダーを強化を」

タランザ「じゃあワタシは上空から探すのね。」

バンダナワドルディ「ボクはじゃあこのあたりを探します!」

アドレーヌ「じゃあ私は絵で紙ワドルディを量産してカーくんを探すよ。」

バンダナワドルディ「それじゃボクいらないじゃないですか!」

デデデ大王「ならおまえは俺について来い。」

「わかりました大王様!」

リボン「わ、私はじゃあ……」

 

 

と、カービィを探す会議的なことになっている。

 

ドロッチェ「というか、」

「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」

一斉にドロッチェの方を見る。

「そこにカービィいるぞ。」

「「「「「「「「「「えっ!?…………………」」」」」」」」」」

 

「それでどうしてここに来たんだ?特にマホロア、マルク。」

と、この空気を断ち切るようにメタナイトは言う。

 

「僕は今回は企んでなんかないヨォ!カービィを助ける為に来たんダヨォ!」

 

「マホロアありがとう!」

「ウンウン。ボクたちトモダチだから当たり前ダヨォ!」

 

「またそうやってカービィを利用するつもりか?」

疑い深いメタナイトだ。

マホロアはともかく、マルクは銀河を支配する為にカービィを利用して大彗星ノヴァに願いを叶えてもらったのだ。

 

そこにマルクが、

「ボクはコイツ(マホロア)が演技でも無く焦っているのを見て面白いことがありそうだから来ただけなのサ。」

自分が悪意が無いこととついでにマホロアが本気で焦っていたことをアピールするマルク。

 

メタナイト「わかった。今回だけは信じよう。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そこはとある宇宙の彼方『人工衛星エンデ』

 

そこではとある怪しげな儀式が行われていた。

 

だだ本来と違うのは……『破神エンデニル』を封印する『フレンズハート』が、純粋な心を持つものが、この世界にカービィが居ないせいで、消滅してしまったのである!

 

そのせいで、ハイネスは………儀式を成功させてしまったのである。

 

そして『破神エンデニル』は本来はハイネスを生贄にして復活したが今回は完全なる復活を遂げたのだ。

 

そして直ぐにエンデニルはわかった。

 

この星、この宇宙、この世界に、自分を止められる純粋な心を持つ者はいないと。

 

だが何故か感じた。

いた痕跡があると。

 

完全復活した破神エンデニルは世界を越える力を身につけてしまっていたのだ!

 

エンデニルは純粋な心を持つ者………カービィの後を追って

 

 

トータスに行ってしまった

 

 

だがそこにも神はいる

 

 

エヒト神が

 

 

 

今破神エンデニルとエヒト神の戦いの幕が開けようとしている。

 




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現れる脅威と女神降臨?

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そこは【神域】。

 

そこにいるエヒトはイレギュラーなハジメたちを天から見て焦っていた。

あれはヤバイ、【神言】や【天在】など一切通用しない可能性すらあると。

それに今、器がない。

つまり実体がないのだ。

特にカービィならこの状態のエヒトを吸い込んで終わりである。

 

だがそれで終わりたく無いエヒトである。

どうにかして方法を探す。

 

そんな時、空間がねじ曲がった。

 

そこに現れたのは『破神エンデニル完全体』だ。

 

急に現れた破神エンデニル完全体に見つからないように隠れながら、あれは何か探った。

するとあれは異世界の神だとわかった。

そこでエヒトは考え、ニヤリと笑う。

 

エヒトは実際には異世界の(元)人間。

異世界を知っているのである。

 

そこでエヒトは『パラレルワールド』の自分を探す。

エヒトはついに見つけたのである。

そこで見つけたのは

『カービィたちがこの世界に来なかった』この世界。

(つまり本来の世界)

そこでエヒトが見たのはハジメと戦っているユエの身体を乗っ取って大人の体にしたエヒトだ。

 

エヒトはその力をそのまま奪った。

それは本来の世界のエヒトとハジメが決着が付く瞬間にである。

パラレルワールドとはいえ所詮自分。

力を奪うのは簡単だった。

 

エヒトの姿がユエ(大人ver)になった。

 

 

と、準備が整ったエヒトは破神エンデニルの力も奪おうと挑みにいく。

 

が、まぁまぁ第1形態は倒すことができたのだが(全力で)まさか第2形態があるなんて思っていなかった。

 

頑張ってエヒトは一時的に封印した。

 

 

そしてさらに強くなる為にこの世界のユエの力を奪おうと考えた。

 

だがエンデニルの解析をしたい為、そちらに専念することにしたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ウルの町。北に山脈地帯、西にウルディア湖を持つ資源豊富なこの町は、現在、つい昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

 

 この〝外壁〟はハジメが即行で作ったものだ。ロボボアーマーホイールモードで整地ではなく〝外壁〟を錬成しながら町の外周を走行して作成したのである。

 

 もっとも、壁の高さは、ハジメの錬成範囲が半径四メートル位で限界なので。大型の魔物なら、よじ登ることは容易だろう。一応、万一に備えてないよりはマシだろう程度の気持ちで作成したので問題はない。そもそも、壁に取り付かせるつもりなどハジメにはないのだから。

 

町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。

住人たちはパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。

 

だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。愛子だ。ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる〝豊穣の女神〟。恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。畑山愛子、ある意味、勇者より勇者をしている。

 

「南雲君、準備はどうですか? 何か、必要なものはありますか?」

「いや、問題ねぇよ、先生」

 

 

「おい、貴様。愛子が…自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ? 少しは……」

「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」

「うっ……承知した……」

 

「ふむ、よいかな。妾もご主……ゴホンッ! お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

「? …………………………………………………………ティオか」

「お、お主、まさか妾の存在を忘れておったんじゃ……はぁはぁ、こういうのもあるのじゃな……」

 

「んっ、んっ! えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「ああ、そうだ」

「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほし…」

「断る」

「……ハァハァ。よ、予想通りの即答。流石、ご主……コホンッ! もちろん、タダでとは言わん! これよりお主を〝ご主人様〟と呼び、妾の全てを捧げよう! 身も心も全てじゃ! どうzy」

「帰れ。むしろ土に還れ」

「そんな……酷いのじゃ……妾をこんな体にしたのはご主人様じゃろうに……責任とって欲しいのじゃ!」

全員の視線が「えっ!?」というようにハジメを見る。流石に、とんでもない濡れ衣を着せられそうなのに放置する訳にもいかず、きっちり向き直ると青筋を浮かべながらティオを睨むハジメ。どういうことかと視線で問う。

 

「あぅ、またそんな汚物を見るような目で……ハァハァ……ごくりっ……その、ほら、妾強いじゃろ?」

 

ハジメ、ユエ、シア、カービィ一行は

「「「「「「「「「「いや、全然」」」」」」」」」」

 

特にカービィ一行が強すぎるのだ。

 

「里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ」

 

 近くにティオが竜人族と知らない護衛騎士達がいるので、その辺りを省略してポツポツと語るティオ。

 

「それがじゃ、ご主人様と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ。そう、あの体の芯まで響く拳! 嫌らしいところばかり責める衝撃! 体中が痛みで満たされて……ハァハァ」

「……つまり、ハジメが新しい扉を開いちゃった?」

「その通りじゃ! 妾の体はもう、ご主人様なしではダメなのじゃ!」

「……きめぇ!」

「それにのう……」

「……妾の(尻の)初めても奪われてしもうたし」

 

 その言葉に、全員の顔がバッと音を立ててハジメに向けられた。ハジメは頬を引き攣らせながら「そんな事していない」と首を振る。

 

「妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……敗北して、組み伏せられて……初めてじゃったのに……いきなりお尻でなんて……しかもあんなに激しく……もうお嫁に行けないのじゃ……じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ」

騎士達が、「こいつやっぱり唯の犯罪者だ!」という目を向けられている。

「お、お前、色々やる事あるだろ? その為に、里を出てきたって言ってたじゃねぇか」

ユエ達にまで視線を逸らされてしまい、苦し紛れに〝竜人族の調査〟とやらはどうしたと返すハジメ。

「大丈夫だ、問題ない。ご主人様の傍にいる方が絶対効率いいからの。まさに、一石二鳥じゃ……ほら、旅中では色々あるじゃろ? イラっとしたときは妾で発散していいんじゃよ? ちょっと強めでもいいんじゃよ? ご主人様にとっていい事づくしじゃろ?」

「変態が傍にいる時点でデメリットしかねぇよ」

 

 ティオが縋り、ハジメがばっさり切り捨てる。それに護衛隊の騎士達が憤り、女子生徒達が蛆虫を見る目をハジメに向け、男子生徒は複雑ながら異世界の女性と縁のあるハジメに嫉妬し、愛子が不純異性交遊について滔滔と説教を始め、何故かウィルが尊敬の眼差しをハジメに向ける。そんなカオスな状況が、大群が迫っているにもかかわらず繰り広げられ、ハジメがウンザリし始めたとき、遂にそれは来た。

 

「! ……来たか」

 

 ハジメが突然、北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていないが、ハジメの〝魔眼石〟には無人偵察機からの映像がはっきりと見えていた。

 

 それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだ。ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートルはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。その数は、山で確認した時よりも更に増えているようだ。五万あるいは六万に届こうかという大群である。

 

 更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。何十体というプテラノドンモドキの中に一際大きな個体がいる、その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた。おそらく、黒ローブの男。愛子は信じたくないという風だったが、十中八九、清水幸利だ。

 

 

 ハジメの雰囲気の変化から来るべき時が来たと悟るユエとシアが、ハジメに呼びかける。ハジメは視線を二人に戻すと一つ頷き、そして後ろで緊張に顔を強ばらせている愛子達に視線を向けた。

 

「来たぞ。予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところだ。数は五万強。複数の魔物の混成だ」

 

 魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛子達。不安そうに顔を見合わせる彼女達に、ハジメは壁の上に飛び上がりながら肩越しに不敵な笑みを見せた。

 

「そんな顔するなよ、先生。たかだか数万増えたくらい何の問題もない。予定通り、万一に備えて戦える者は〝壁際〟で待機させてくれ。まぁ、出番はないと思うけどな」

 

 何の気負いもなく、任せてくれというハジメに、愛子は少し眩しいものを見るように目を細めた。

 

「わかりました……君をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」

 

愛子はそう言うと、護衛騎士達が「ハジメに任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。生徒達も、一度ハジメを複雑そうな目で見ると愛子を追いかけて走っていく。残ったのは、ハジメ、ユエ、シア、カービィ、メタナイト、デデデ大王、バンダナワドルディ、マホロア、アドレーヌ、リボン、マルク、ドロッチェ、タランザ、スージーウィルとティオ

 

遂に、肉眼でも魔物の大群を捉えることができるようになった。〝壁際〟に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。

 

ハジメは前に出る。錬成で、地面を盛り上げながら即席の演説台を作成する。人々の不安を和らげようと思ったわけではなく、単純にパニックになってフレンドリーファイアなんてされたら堪ったものではないからだ。

 

 突然、壁の外で土台の上に登り、迫り来る魔物に背を向けて自分達を睥睨する白髪眼帯の少年に困惑したような視線が集まる。

ハジメたちは、全員の視線が自分に集またことを確認すると、すぅと息を吸い天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ! 私達の勝利は既に確定している!」

 

 いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。ハジメは、彼等の混乱を尻目に言葉を続ける。

 

「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」

 

 その言葉に、皆が口々に愛子様? 豊穣の女神様? とざわつき始めた。護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛子がギョッとしたようにハジメたちを見た。

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない! 愛子様こそ! 我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である! 私たちは、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た『女神の騎士団』である!見よ! これが、愛子様により教え導かれた私の力である!」

 

 

ハジメはそう言うと、虚空にシュラーゲンを取り出し、銃身からアンカーを地面に打ち込んで固定した。そして膝立ちになって構えると、町の人々が注目する中、些か先行しているプテラノドンモドキの魔物に照準を合わせ……引き金を引いた。

カービィたちも次々と攻撃する。

 

 空の魔物を駆逐し終わったハジメたちは、悠然と振り返った。そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿があった。

 

「愛子様、万歳!」

 

 ハジメが、最後の締めに愛子を讃える言葉を張り上げた。すると、次の瞬間……

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」

 

 ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くで、愛子が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐにハジメに向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。

 

 

 ハジメは、視線を大群に戻すと笑みを浮かべながら、何の気負いもなく言った。

 

 

「じゃあ、やるか」

「「「「「「「「「「おぉ!!」」」」」」」」」

 

 

「コピー能力クリエイト『ウルトラソード、ウルトラソード、ドラゴストーム、グラビティ』」

 

カービィはコピー能力クリエイトをフル活用して、グラビティで敵を固定してドラゴストームで前、ウルトラソードで左右の敵を蹴散らしていた。

 

マホロアはEXになってスーパー能力ミラクルビームのビームを自身に纏いながらスーパー能力スノーボウルの力をを纏ったスーパー能力ギガントハンマーのハンマーで敵を凍らせながら感電させ、敵をハンマーで砕いている。砕かれた敵はマホロアが出しているEX verのブラックホールで吸い込んでいる。

 

マルクもEXになって、ドロッチェもアイスレーザーを取り出して、デデデ大王はマスクを被り、ニューデデデハンマーを持ち、メタナイトは4人に分身して、バンダナワドルディは槍を持って、アドレーヌは次々と歴代の中ボスを描いて、リボンはクリスタルの力で遠くから攻撃を、している。

 

 

その場をカービィたちに任せ、ハジメ、ユエ、シア、ティオは進んだ。




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清水君

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魔物たちは本格的にウルの町を攻め始めた。

その場をカービィたちに任せ、ハジメ、ユエ、シア、ティオは進んだ。

 

カービィたちのおかげでハジメたちはほとんど魔力を使わずに済んでいたのだ。

 

清水幸利「(何だよ、これは……何なんだよ、これは!!)」

ウルの町を襲う数万規模の魔物の大群の遥か後方で、即席の塹壕を堀り、出来る限りの結界を張って必死に身を縮めている少年、清水幸利は、目の前の惨状に体を震わせながら言葉を失った様に口をパクパクさせていた。ありえない光景、信じたくない現実に、内心で言葉にもなっていない悪態を繰り返す。

 

そう、魔物の大群をけし掛けたのは紛れもなく、行方不明になっていたハジメのクラスメイト清水幸利だった。とある男との偶然の末に交わした契約により、ウルの町を愛子達ごと壊滅させようと企んだのだ。しかし、容易に捻り潰せると思っていた町や人は、全く予想しなかった凄絶な迎撃

特にカービィ一行)により未だ無傷であり、それどころか現在進行形で清水にとっての地獄絵図が生み出されていた。

カービィのことは『暴食のピンクボール』や、『ピンクの悪魔』、などと実力は聞いていたが、召喚された時はそんな力を持っているなんて思っていなかったのだ。さらにマホロアたちのことは一切情報無しときた。

予想外にも程があったのだった。

 

進み続けるハジメたち

 

現在ティオが炎を吐いて敵を蹴散らしている。

 

 

 

 

「むぅ、妾はここまでのようじゃ……もう、火球一つ出せん……すまぬ」

 

 うつ伏せに倒れながら、顔だけをハジメの方に向けて申し訳なさそうに謝罪するティオの顔色は、青を通り越して白くなっていた。文字通り、死力を尽くす意気込みで魔力を消費したのだろう。

 

「……十分だ。変態にしてはやるじゃねぇの。後は、任せてそのまま寝てろ」

「……ご主人様が優しい……罵ってくれるかと思ったのじゃが……いや、でもアメの後にはムチが……期待しても?」

「そのまま死ね」

 

だが残りの敵もあと1000あるかないがぐらいである。

特にカービィたちのおかげで。

 

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

「〝雷龍〟」

 

 

もう敵はハジメのほうはほとんど全滅した。

 

ハジメは、ガン=カタでドンナー・シュラークを縦横無尽に操りながら、クロスビットを併用して、隙のない嵐のような攻撃を繰り広げる。既に、リーダー格の魔物を四十体近く屠り、全開の〝威圧〟により逃亡する魔物も出始めている。

 

 と、ハジメの視界の端に遠くの方で逃げ出す魔物に向かって何やら喚いている人影が見えた。地面から頭だけを出している。その頭は黒いローブで覆われていた。

 

黒いローブの男、清水は、逃げ出す魔物に癇癪を起こす子供のように喚くと、王宮より譲り受けたアーティファクトの杖をかざして何かを唱え始めた。もちろん、そのまま詠唱の完了を待ってやる義理などないので、ハジメは片手間でドンナーを発砲し、その杖を半ばから吹き飛ばす。余波で、地面の穴の中に揉んどり打って倒れこむ清水。

 

 ハジメは、いつまでもロボボアーマーに頼ってはいけないと思い作っておいた魔力駆動二輪を取り出すと一気に加速し瞬く間に清水に追いつく。後ろからキィイイイ! という耳慣れぬ音に振り返った清水が、異世界に存在しないはずのバイクを見てギョッとした表情をしつつ必死に手足を動かして逃げる。

 

「何だよ! 何なんだよ! ありえないだろ! 本当なら、俺が勇者グペッ!?」

 

悪態を付きながら必死に走る清水の後頭部を、二輪の勢いそのままに義手で殴りつけるハジメ。清水は、顔面から地面にダイブし、シャチホコのような姿勢で数メートルほど地を滑って停止した。

 

「さて、先生はどうする気だろうな? こいつの事も……場合によっては俺の事も……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

現在清水は見るも無残な姿に成り果てて、愛子達の前に跪かされるというものだった。ちなみに、敗残兵の様な姿になっている理由は、ハジメに魔物の血肉や土埃の舞う大地を魔力駆動二輪で引き摺られて来たからである。白目を向いて意識を喪失している清水が、なお、頭をゴンゴンと地面に打ちつけながら眼前に連れて来られたのを見て、愛子達の表情が引き攣っていたのは仕様がないことだろう。

 

 

ちなみに、場所は町外れに移しており、この場にいるのは、愛子と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルとハジメ達とカービィ一行だけである。

 

愛子先生「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

清水「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

玉井「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」園部「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

生徒達「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」

 

 愛子のもっともな質問に、清水は少し顔を上げると薄汚れて垂れ下がった前髪の隙間から陰鬱で暗く澱んだ瞳を愛子に向け、薄らと笑みを浮かべた。

 

「……示せるさ……魔人族になら」

「なっ!?」

 

「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、わかってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」

「契約……ですか? それは、どのような?」

 

 そんな愛子に、一体何がおかしいのかニヤニヤしながら清水が衝撃の言葉を口にする。

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」 

「……え?」

 

「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ! 何で異世界にあんな兵器があるんだよっ! お前は、お前は一体何なんだよっ!」

 

「清水君。落ち着いて下さい」

「な、なんだよっ! 離せよっ!」

 

「清水君……君の気持ちはよく分かりました。〝特別〟でありたい。そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと〝特別〟になれます。だって、方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから……でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人に、先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません……清水君。もう一度やり直しましょう? みんなには戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そして、いつか、みんなで日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?」

 

 が、そんなに簡単に行くほど甘くはなかった。肩を震わせ項垂れる清水の頭を優しい表情で撫でようと身を乗り出した愛子に対して、清水は突然、握られていた手を逆に握り返しグッと引き寄せ、愛子の首に腕を回してキツく締め上げたのだ。思わず呻き声を上げる愛子を後ろから羽交い絞めにし、何処に隠していたのか十センチ程の針を取り出すと、それを愛子の首筋に突きつけた。

 

「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」

 

 裏返ったヒステリックな声でそう叫ぶ清水。その表情は、ピクピクと痙攣しているように引き攣り、眼はハジメに向けていた時と同じ狂気を宿している。先程まで肩を震わせていたのは、どうやら嗤っていただけらしい。

 

「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」

 

 清水の狂気を宿した言葉に、周囲の者達が顔を青ざめさせる。完全に動きを止めた生徒達や護衛隊の騎士達にニヤニヤと笑う清水は、その視線をハジメに向ける。

 

「おい、お前、厨二野郎ら、お前らだ! 後ろじゃねぇよ!お前らだっつってんだろっ! 馬鹿にしやがって、クソが! これ以上ふざけた態度とる気なら、マジで殺すからなっ! わかったら、銃を寄越せ! それと他の兵器もだ!」

 

 ハジメは、それを聞いて非常に冷めた眼で清水を見返した。

 

「いや、お前、殺されたくなかったらって……そもそも、先生殺さないと魔人族側行けないんだから、どっちにしろ殺すんだろ? じゃあ、渡し損じゃねぇか」

「うるさい、うるさい、うるさい! いいから黙って全部渡しやがれ! お前らみたいな馬鹿どもは俺の言うこと聞いてればいいんだよぉ! そ、そうだ、へへ、おい、お前のその奴隷も貰ってやるよ。そいつに持ってこさせろ!」

 

「お前が、うるさい三連発しても、ただひたすらキモイだけだろうに……ていうか、シア、気持ち悪いからって俺の後ろに隠れるなよ。アイツ凄い形相になってるだろうが」

シア「だって、ホントに気持ち悪くて……生理的に受け付けないというか……見て下さい、この鳥肌。有り得ない気持ち悪さですよぉ」

ハジメ「まぁ、勇者願望あるのに、セリフが、最初期に出てきて主人公にあっさり殺られるゲスイ踏み台盗賊と同じだしなぁ」

カービィ「ゆーしゃってなんだっけね。」

メタナイト「勇者というのは誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称として用いられる。武勇に優れた戦士や、勝敗にかかわらず勇敢に戦った者に対しても用いられる」

 

「……し、清水君……どうか、話しを……大丈夫……ですから……」

 

 狂態を晒す清水に愛子は苦しそうにしながらも、なお言葉を投げかけるが、その声を聞いた瞬間、清水はピタリと笑いを止めて更に愛子を締め上げた。

 

「……うっさいよ。いい人ぶりやがって!この偽善者が…お前は黙って、ここから脱出するための道具になっていればいいんだよ!」

 

 

ハジメの抜き撃ちの速度なら清水が認識する前にヒットさせることも出来るのだが、愛子も少し痛い目を見た方がいいだろうという意図だ。

 

 が、ハジメの手が下がり始めたその瞬間、事態は急変する。

 

「ッ!? ダメです! 避けて!」

 

 そう叫びながら、シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並みの高速移動をし、愛子に飛びかかった。

カービィもとっさのことで吸い込みでなんとかしようとしたが間に合わなかった。

 突然の事態に、清水が咄嗟に針を愛子に突き刺そうとする。シアが無理やり愛子を引き剥がし何かから庇うように身を捻ったのと、蒼色の水流が、清水の胸を貫通して、ついさっきまで愛子の頭があった場所をレーザーの如く通過したのはほぼ同時だった。

 

 射線上にいたハジメが、ドンナーで水のレーザー、おそらく水系攻撃魔法〝破断〟を打ち払う。そして、シアの方は、愛子を抱きしめ突進の勢いそのままに肩から地面にダイブし地を滑った。もうもうと砂埃を上げながら、ようやく停止したシアは、「うぐっ」と苦しそうな呻き声を上げて横たわったままだ。

 

「シア!」

 

 突然の事態に誰もが硬直する中、ユエがシアの名を呼びながら全力で駆け寄る。そして、追撃に備えてシアと彼女が抱きしめる愛子を守るように陣取った。

 

ハジメは、何も言わずとも望んだ通りの行動をしてくれたユエに内心で感謝と称賛を送りながら、ドンナーを両手で構え〝遠見〟で〝破断〟の射線を辿る。すると、遠くで黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男が、大型の鳥のような魔物に乗り込む姿が見えた。

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

 

おそらく、あれが清水の言っていた魔人族なのだろうとハジメは推測した。

 

「ハ、ハジメさん……うくっ……私は……大丈夫……です……は、早く、先生さんを……毒針が掠っていて……」

 

「だったらボクに任せて。コピー能力クリエイト『ドクター、ヒールドクター』」

 

カービィは急いでドクターの力で診察して、ヒールドクターの力で回復させる。

 

 ハジメは、ユエに支えられた愛子を受け取り、その口に試験管を咥えさせ、少しずつ神水を流し込んだ。愛子が、シアを優先しなかったことに咎めるような眼差しをハジメにぶつけるが、ハジメは無視する。今は、愛子の意思より、自分の意志より、シアの意志を優先してやりたかった。なので、問答無用で神水を流し込んでいく。しかし、愛子の体は全体が痙攣を始めており思った通りに体が動かないようで、自分では上手く飲み込めないようだ。しまいには、気管に入ったようで激しくむせて吐き出してしまう。

 

 ハジメは、愛子が自力で神水を飲み込むことは無理だと判断し、残りの神水を自分の口に含むと、何の躊躇いもなく愛子に口付けして直接流し込んだ。

 

「ッ!?」

 

 愛子が大きく目を見開く。次いでに、ハジメの周囲で男女の悲鳴と怒声が上がった。しかし、ハジメは、その一切を無視して、愛子の口内に舌を侵入させるとその舌を絡めとり、無理やり神水を流し込んでいく。ハジメの表情には、羞恥や罪悪感の類は一切なく、ただすべきことをするという真剣さだけが浮かんでいた。

 

 やがて、愛子の喉がコクコクと動き、神水が体内に流れ込む。すると、体を襲っていた痛みや、生命が流れ出していくような倦怠感と寒気が吹き飛び、まるで体の中心に火を灯したような熱が全身を駆け巡った。愛子は、寒い冬場に冷え切った体で熱々の温泉にでも浸かった時のような快感を覚え、体を震わせる。流石、神水。魔物の血肉を摂取することによる肉体崩壊すら防ぐ奇跡の水だ。効果は抜群である。

 

「先生」

「……」

「先生?」

「……」

「おい! 先生!」

「ふぇ!?」

 

 ハジメは愛子に容態を聞くため呼びかけるが、ハジメを見つめたままボーとして動かない愛子。業を煮やしたハジメが、軽く頬を叩きながら強めに呼び掛けると何とも可愛らしい声を上げて正気を取り戻した。

 

「体に異変は? 違和感はないか?」

「へ? あ、えっと、その、あの、だだ、だ、大丈夫ですよ。違和感はありません、むしろ気持ちいいくらいで……って、い、今のは違います! 決して、その、あ、ああれが気持ち良かったということではなく、薬の効果がry」

「そうか。ならいい」

 

シアはとっくにカービィにより回復していたが

 

「ハ、ハジメさん……」

「シア、どうし……」

「私も……口移しぃ……ぐっ……がいいですぅ……」

「お、お前って奴は……」

 

 痛みで脂汗を流しながら、欲望をダダ漏れにするシア。転んでもタダでは起きないぜ! と言わんばかりの要求に、流石のハジメも呆れを通り越して感心する。流石に、必要もないのに公衆の面前でわざわざ口移しする気にもなれず、最近シアに甘いユエからの無言の訴えも無視して容器をシアの口に無理やり突っ込んだ。

 

「むぐっ!? ……コクコク……ぷはっ……うぅ~、ハジメさんのいけず……先生さんが羨ましいですぅ……」

「ハジメ……メッ」

「ふぇ!? シ、シアさん、私は、違いますよ! あれは救命活動です! シアさんが求めるものとは意味が違いますからね! 私、先生ですからっ!」

 

ハジメ「清水はまだ生きているか?」

 

「清水君! ああ、こんな……ひどい」

 

 清水の胸にはシアと同じサイズの穴がポッカリと空いていた。出血が激しく、大きな血溜まりが出来ている……おそらく、もって数分だろう。

 

「し、死にだくない……だ、だずけ……こんなはずじゃ……ウソだ……ありえない……」

 

「南雲君! カービィさんさっきの薬を! 今ならまだ! お願いします!」

カービィ「わ、わかったけどいいの?」

カービィは清水にマキシマムドリンクを飲ませて、まぁまぁ回復させた。

カービィは今日のおやつにマキシムトマトを食べたので回復アイテムはこれしかなかった。

「助けたいのか、先生? 自分を殺そうとした相手だぞ? いくら何でも〝先生〟の域を超えていると思うけどな」

 

「確かに、そうかもしれません。いえ、きっとそうなのでしょう。でも、私がそういう先生でありたいのです。何があっても生徒の味方、そう誓って先生になったのです。だから、南雲君……」

 

「清水。聞こえているな? 俺にはお前を救う手立てがある」

「!」

「だが、その前に聞いておきたい」

「……」

 

「……お前は……敵か?」

 

 清水は、その質問に一瞬の躊躇いもなく首を振った。そして、卑屈な笑みを浮かべて、命乞いを始めた。

 

「て、敵じゃない……お、俺、どうかしてた……もう、しない……何でもする……助けてくれたら、あ、あんたの為に軍隊だって……作って……女だって洗脳して……ち、誓うよ……あんたに忠誠を誓う……何でもするから……助けて……」

 

 

ハジメは確信した。愛子の言葉は、もう決して清水の心には届かないということを。そして、清水は必ず自分達の敵になると。故に決断した。一瞬、愛子に視線を合わせる。カービィも愛子もハジメを見ていたようで目が合う。そして、その一瞬で、カービィも愛子もハジメが何をするつもりなのか察したようだ。血相を変えてハジメを止めようと飛び出した。

 

愛子「ダメェ!」

カービィ「ハジメ!?」

 が、ハジメの方が圧倒的に早かった。

 

ドパンッ! ドパンッ!

 

「ッ!?」

 

「……どうして?」

 

 それは愛子だった。呆然と、死出の旅に出た清水の亡骸を見つめながら、そんな疑問の声を出す。ハジメは、清水から視線を逸らして愛子を見た。同時に、愛子もまたハジメに視線を向ける。その瞳には、怒りや悲しみ、疑惑に逃避、あらゆる感情が浮かんでは消え、また浮かんでは消えていく。

 

「敵だからな」

 

 そんな愛子の疑問に対するハジメの答えは実に簡潔だった。

 

「そんな! 清水君は……」

「改心したって? 悪いけど、それを信じられるほど俺はお人好しではないし、何より自分の眼が曇っているとも思わない」

 

 

「だからって殺す事なんて! 王宮で預かってもらって、一緒に日本に帰れば、もしかしたら……可能性はいくらだって!」

「……どんな理由を並べても、先生が納得しないことは分かっている。俺は、先生の大事な生徒を殺したんだ。俺を、どうしたいのかは先生が決めればいい」

「……そんなこと」

「〝寂しい生き方〟。先生の言葉には色々考えさせられたよ。でも、人の命が酷く軽いこの世界で、敵対した者には容赦しないという考えは……変えられそうもない。変えたいとも思わない。俺に、そんな余裕はないんだ」

「南雲君……」

「これからも俺は、同じことをする。必要だと思ったその時は……いくらでも、何度でも引き金を引くよ。それが間違っていると思うなら……先生も自分の思った通りにすればいい……ただ、覚えておいてくれ。例え先生でも、クラスメイトでも……敵対するなら、俺は引き金を引けるんだってことを……」

 

 

「南雲君! ……先生は……先生は……」

 

 言葉は続かなくとも、〝先生〟の矜持がハジメの名を呼ぶ。ハジメは、少し立ち止まると肩越しに愛子に告げる。

 

「……先生の理想は既に幻想だ。ただ、世界が変わっても俺達の先生であろうとしてくれている事は嬉しく思う……出来れば、折れないでくれ」

 

 

カービィたちはそれを黙って見ていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「シア。少し気になったんだが……どうしてあの時、迷わず飛び込んだんだ? 先生とは、大して話してないだろ? 身を挺するほど仲良くなっていたとは思えないんだが……」

「それは……だって、ハジメさんが気にかける人ですから」

「……それだけか」

「? ……はい、それだけですけど?」

「……そうか」

 

 

「シア。何かして欲しい事はあるか?」

「へ? して欲しい事……ですか?」

「ああ。礼というか、ご褒美と言うか……まぁ、そんな感じだ。もちろん出来る範囲でな?」

 

「では、私の初めてをもらっ『却下だ』……なぜです? どう考えても、遂にデレ期キター!! の瞬間ですよね? そうですよね? 空気読んで下さいよ!」

「〝出来る範囲で〟と、そう言っただろうが」

「十分出来る範囲でしょう! さり気なく私を遠ざけてユエさんとはしてるくせに! 知っているのですからね! お二人の情事を知るたびに胸に去来する虚しさときたら! うぅ、フューレンに着いたら、また私だけお使いにでも行かせて、その隙に愛し合うんでしょ? ぐすっ、また、私だけ……一人ぼっちで時間を潰すんですね……ツヤツヤしているユエさんを見て見ぬふりしなきゃなんですね……ちくしょうですぅ……」

「いや、おまっ、何も泣かなくても……俺が惚れているのはユエなんだから、お前の事は、まぁ、大事な仲間だとは思うが恋情はなぁ……そんな相手を抱くっつうのは……」

「……ぐすっ……ハジメさんのヘタレ!」

「……おい」

「根性なし! 内面乙女のカマ野郎! 甲斐性なし! ムッツリスケベ!」

 

「ぷふっ……数万規模の魔物を殲滅した男が……ヘタレ……ぷふっ」

「意外とご主人様は純情なのじゃなぁ、まだ関係をもっておらんかったとは……お尻の初めてを奪われた妾の方が一歩リードじゃな……」

 

「……俺が、心から欲しいと思うのは、ユエ、お前だけなんだ。シアの事は嫌いじゃないし、仲間としては大事にしたいとは思うが……ユエと同列に扱うつもりはない。俺はな、ユエに対して独占欲を持ってる。どんな理由があろうと、他の男が傍にいるなんて許容出来そうにない。心が狭いと思うかもしれないし、勝手だとも思うかもしれないが……ユエも同じように思ってくれたらと、そう思う。だから、例え相手がシアでも、他の女との関係を勧めるというのは勘弁してくれないか?」

「……ハジメ」

 

メタナイト「いちゃつくのは(どうでも)いいがそろそろ着くぞ。」

カービィ「そーだね」

 

「……完全に忘れてますよね……私のこと……私へのご褒美のお話だったはずなのに……」

 

 

 

「……ハジメ、ごめんなさい。でも、シアも大切……報いて欲しいと思う。だから、町で一日付き合うくらいは……ダメ?」

「ユエさぁ~ん」

 

 なお、ハジメにシアの事を頼むユエ。シアは、頭を撫でながら心を砕いてくれるユエに甘えるようにグリグリと顔を押し付ける。ハジメは、その様子を見て苦笑いしながら答えた。

 

「別に、それくらい頼まれなくても構わないさ。というか、ユエに頼まれたからってんじゃシアも微妙だろ? シアが頼むなら、それくらいは付き合うよ」

「ハジメさん……いえ、なりふり構っていられないので、既成事実が作れれば何だっていいんですけどね!」

「……ホントお前って奴は……」

「まぁ、まだそれは無理そうなので、取り敢えず好感度稼ぎにデートで我慢します。フューレンに着いたら、観光区に連れて行って下さいね?」

「ああ、わかったよ」

 

マホロアたちは先にローアで帰っている。

 

 

 新たな仲間、変態の竜人族ティオとマホロア一行が加わり、一行は中立商業都市フューレンへと向かう。

 

 

 

 




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マホロアたちのステータス

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前回の話を昨日一部修正しました。
(清水君に対するカービィの対応を修正しました。)
まだ見てない方は是非見て来ていただけると嬉しいです。




ハジメ、ユエ、シア、ティオ、カービィ、メタナイト、デデデ大王、バンダナワドルディ、マホロア、アドレーヌ、リボン、マルク、ドロッチェ、タランザ、スージーは中立商業都市フューレンに着いた。

 

中立商業都市フューレンの活気は相変わらずだった。

 

高く巨大な壁の向こうから、まだ相当距離があるというのに町中の喧騒が外野まで伝わってくる。これまた門前に出来た相変わらずの長蛇の列、唯の観光客から商人など仕事関係で訪れた者達まであらゆる人々が気怠そうに、あるいは苛ついたように順番が来るのを待っていた。

 

「ハジメさん。四輪で乗り付けて良かったんですか? できる限り隠すつもりだったのでは……」

「ん? もう、今更だろ? まぁロボボアーマーはなんとかなってるし、あんだけ派手に暴れたんだ。一週間もすれば、よほど辺境でもない限り伝播しているさ。いつかこういう日は来るだろうとは思っていたし……予想よりちょっと早まっただけのことだ」

「……ん、ホントの意味で自重なし」

 

 

「う~ん、そうですか。まぁ、教会とかお国からは確実にアクションがありそうですし、確かに今更ですね。愛子さんとか、イルワさんとかが上手く味方してくれればいいですけど……」

「まぁ、あくまで保険だ。上手く効果を発揮すればいいなぁという程度のな。最初から、何とだって戦う覚悟はあるんだ。何かあれば薙ぎ払って進むさ。そういうわけで、シア。お前も、もう奴隷のフリとかしなくていいぞ? その首輪を外したらどうだ?」

 

 

「いえ、これはこのままで。一応、ハジメさんから初めて頂いたものですし……それにハジメさんのものという証でもありますし……最近は結構気に入っていて……だから、このままで」

 

 

直接ハジメ達に向かってくる者は未だいないようだ。商人達は、話したそうにしているが他の者と牽制し合っていてタイミングを見計らっているらしい。そんな中、例のチャラ男が自分の侍らしている女二人とユエ達を見比べて悔しそうな表情をすると明からさまな舌打ちをした。そして、無謀にもハジメ達の方へ歩み寄って行った。

 

「よぉ、レディ達。よかったら、俺と『何、勝手に触ろうとしてんだ? あぁ?』ヒィ!!」

 

「はぅあ、ハジメさんが私のために怒ってくれました~、これは独占欲の表れ? 既成事実まであと一歩ですね!」

「……シア、ファイト」

「ユエさぁ~ん。はいです。私、頑張りますよぉ~!」

「ふぅむ、何だかんだで大切なんじゃのぉ~。ご主人様よ。妾の事も大切にしてくれていいんじゃよ? あの男みたいに投げ飛ばしてくれてもいいんじゃよ?」

 

 

 

「おい、お前! この騒ぎは何だ! それにその黒い箱? も何なのか説明しろ!」

 

 と、その時、門番の一人がハジメ達を見て首をかしげると、「あっ」と思い出したように隣の門番に小声で確認する。何かを言われた門番が同じように「そう言えば」と言いながらハジメ達をマジマジと見つめた。

 

「……君達、君達はもしかしてハジメ、ユエ、シア、カービィ、メタナイト、という名前だったりするか?あとはわからないが、」

「ん? ああ、確かにそうだが……」

「そうか。それじゃあ、ギルド支部長殿の依頼からの帰りということか?」

「ああ、そうだが……もしかして支部長から通達でも来てるのか?」

 

 

 ハジメの予想通りだったようで門番の男が頷く。門番は、直ぐに通せと言われているようで順番待ちを飛ばして入場させてくれるようだ。四輪を走らせ門番の後を着いて行く。列に並ぶ人々の何事かという好奇の視線を尻目に悠々と進み、ハジメ達は再びフューレンの町へと足を踏み入れた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 現在、ハジメ達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。

 

 出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪りながら待つこと五分。部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだ。

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

 以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィルを収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 

「ハジメ君たち、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

「ふふ、そうかな? 確かに、それもあるだろうが……何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう? 女神の騎士団様?」

 

 

「……随分情報が早いな」

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい? 一体、何があったのか」

「ああ、構わねぇよ。だが、その前にユエとシアのステータスプレートを頼むよ……ティオは『うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということだ」

マホロア「じゃボクたちも貰うヨォ!」

マルク「マホロアにしてはボクたちとは気がきくのサ」

「ふむ、確かに、というか何故こんなに増えたかわからないがプレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

 そう言って、イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを10枚持ってこさせる。

ステータスプレートは貴重なので、もはや赤字である。

 

結果、ステータスは以下の通りだった。

 

====================================

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

====================================

 

====================================

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

====================================

 

====================================

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

====================================

 

============================

デデデ大王 年齢不明 男 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:プププランドの偉大なる支配者・大王・宿敵の暴君・異界の暗君

筋力:700000  [+マスクドデデデ500000]

体力:100000  [+マスクドデデデ500000]

耐性:700000  [+マスクドデデデ500000]

敏捷:300000  [+マスクドデデデ500000]

魔力:0   [+マスクドデデデ500000]

魔耐:700000  [+マスクドデデデ500000]

技能:言語理解・吸い込み・ホバリング・マスク・ハンマー技[+デデデ技][+クローン技][+異界の暗君技]

============================

============================

バンダナワドルディ 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:ワドルディ・槍使い・傘使い・サポーター

筋力:5000

体力:5000

耐性:5000

敏捷:5000

魔力:5000

魔耐:5000

技能:言語理解・槍術・傘術・サポート

============================

============================

マホロア 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:遥か彼方からの旅人・虚言の魔術師・黒幕

筋力:50000   [+ソウル化500000]

体力:50000   [+ソウル化500000]

耐性:50000   [+ソウル化500000]

敏捷:1000000  [+ソウル化500000]

魔力:1000000  [+ソウル化500000]

魔耐:50000   [+ソウル化500000]

技能:言語理解・ソウル化・演技

============================

 

============================

アドレーヌ 年齢不明 性別女 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:絵師

筋力:5000

体力:5000

耐性:5000

敏捷:5000

魔力:5000

魔耐:5000

技能:言語理解・高速絵描き・絵実体化

============================

 

============================

リボン 年齢不明 性別女 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:妖精

筋力:5000   

体力:5000

耐性:5000

敏捷:1000000

魔力:1000000

魔耐:5000

技能:言語理解・クリスタル攻撃

============================

 

 

============================

マルク 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:ピエロ・銀河の支配者・黒幕

筋力:1000000  [+ソウル化1000000]

体力:1000000  [+ソウル化1000000]

耐性:1000000  [+ソウル化1000000]

敏捷:1000000  [+ソウル化1000000]

魔力:1000000  [+ソウル化1000000]

魔耐:1000000  [+ソウル化1000000]

技能:言語理解・ソウル化・演技

============================

 

============================

ドロッチェ 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:怪盗

筋力:100000

体力:100000

耐性:100000 

敏捷:100000

魔力:1000000

魔耐:100000

技能:言語理解・アイスレーザー

============================

 

============================

タランザ 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:操術師・従者

筋力:1000

体力:10000

耐性:1000

敏捷:100000

魔力:1000000

魔耐:100000

技能:言語理解・操術

============================

 

============================

スージー 年齢不明 性別女 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:機械職人

筋力:1000

体力:1000

耐性:1000

敏捷:1000

魔力:1000

魔耐:1000

技能:言語理解・演技・専用リレインバー召喚・キカイ化光線銃攻撃

============================

 

 

イルワ「………」

ばたり

 

イルワさんが倒れました。




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カービィと清水

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イルワさんが倒れ一日中起きなかった。

カービィは清水のことを残念に思う。

しかし、もう1UPはない。

アドレーヌならなんとかなるかもしれないけど何に使うかきかれハジメにまた殺されたらきりがないとカービィは思う。

 

そこでカービィは閃いた。

「コピー能力クリエイト『コピー、忍者!』」

やったことは無いけどアドレーヌの能力をコピーできるかもしれない。

忍者でバレないようにしながらアドレーヌの能力をコピーした。

 

 

アドレーヌ「?」

リボン「どうかしたんですか?」

「いや、カー君の気配がした気がしてね。」

 

 

その日の夜

 

 

こっそりとカービィはさっそく能力を使う

「コピー能力アーティスト!成功した見たいだね。」

カービィは1UPを描いた。

 

カービィは口の中(無限収納)にしまっておいた清水君に1UPを与えた。

 

清水「ここは!?っ!?おまえは!?」

カービィ「しーっ!ボクは助けるだけだよ(以降小声)」

清水「ほ、本当か!?」

カービィ「うん。あとはこれをするだけでいいよ。コピー能力バブル。」

カービィは清水にバブルの泡を当て清水の能力をストックして能力を奪った。

清水「これでいいのか?」

カービィ「でも今回見たいなことは起こさないでね。」

清水「や、約束するよ。」

カービィ「じゃあ、コピー能力クリエイト『アーティスト、マジック』。」

カービィはアーティストでお守りを作り、お守りにマジックの力を込めた。

清水「これは?」

カービィ「お守りだよ。一回切りだけどきっと君を守ってくれるはず。ハジメに会ったらまた、なっちゃうかもしれないから遠くに送るね。」

清水「わ、わかった。」

 

カービィ「コピー能力ジェット」

 

 

 

 

 

 

カービィが送った場所はシュネー雪原

カービィ「ここならしばらくは来ないと思うよ。頑張ってね。」

清水「あ、ありがとう。」

 

 

 

 

 

カービィは猛スピードで街まで帰った。

 

もうすぐ夜明けだ。

 

もうハジメは起きていた。

 

「ん?何だ?」

 

窓から空を見上げるとカービィが猛スピードで街まで飛んで来ていたのだ。

 

視線が合った。

カービィ「あっ!コピー能力忍者!」

 

 

カービィは一瞬で消えた。

 

ハジメ「何だったんだ………。」

 

カービィはもう朝だったからねむれなかった。

 

暇になったカービィはローアに行ってコピー能力の元の部屋に行って人形を攻撃してトレーニングをする。

 

「コピー能力クリエイトスマブラ !ギガ波動ショット!ファイナルカッター!」

 

ドゴォーーン!ザシュザシュザシュギィーーン!

 

「コピー能力クリエイト『トルネイド、ソード』竜巻回転切り!」

 

ザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ………(以下略)

 

この日カービィはみんなが起きるまではコピー能力のコントロールを練習していた。

 

 




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ハジメとシアのデート

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現在カービィたちは再びイルワさんに会いに行っている。

 

「いや、ステータスの件で……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君が異世界人の一人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

「……それで、支部長さんよ。あんたはどうするんだ? 危険分子だと教会にでも突き出すか?」

 

 イルワは、ハジメの質問に非難するような眼差しを向けると居住まいを正した。

 

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

ハジメ「……そうか。そいつは良かった」

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

その後

 

「あのぉ~、ハジメさん。約束……」

「……そうだったな。観光区に連れて行くんだったか……」

 

「……買い物は私とその他がしておく。シアを連れて行ってあげて?」

「……いいのか?」

「ん……その代わり……」

「代わりに?」

 

「……今夜は沢山愛して」

 

 そんなことを言った。ハジメは、片手で顔を覆うと一言「…ん」とユエのような返事をする。それで精一杯だった。迷宮最奥のガーディアンにだって勝てる自信があるが、きっと、たぶん、一生、ユエには勝てそうにないと、そんな事を思うハジメだった。

 

「……気がつけば、ごく自然に二人の世界が始まる……ユエさんパッないです」

「ふむ、それでもめげないシアも相当だと思うがのぉ。まぁ、妾はご主人様に苛めてもらえれば満足じゃから問題ないが……シアは苦労するのぉ~」

 

「ボクは美味しい物を食べられればいいよ!」

マルク「ボクはこの世界は退屈しないからイイサ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

メタナイト「それにしても、本当に良かったのか?」

ティオ「たしかにそうじゃな」

ユエ「? ……シアのこと?」

「うむ。もしかすると今頃、色々進展しているかもしれんよ? ユエが思う以上にの?」

 

「……それなら嬉しい」

「嬉しいじゃと? 惚れた男が他の女と親密になるというのに?」

「……他の女じゃない。シアだから」

 

 首を傾げるにティオにユエは、店を見て回りながら話を続ける。

 

「……最初は、ハジメにベタベタするし……色々下心も透けて見えたから煩わしかった……でも、あの子を見ていてわかった」

「わかった?」

「……ん、あの子はいつも全力。一生懸命。大切なもののために、好きなもののために。良くも悪くも真っ直ぐ」

「ふむ。それは見ていてわかる気がするの……だから絆されたと?」

 

デデデ大王「俺は友情とかくだらないものはあまり気に入らないがな。」

カービィ「デデデ大王もともだちだよ!」

「お、俺はおまけのともだちになったつもりはない!いつも非常時だから手を貸しているだけだからな!」

 

この時カービィとメタナイトと、デデデ大王以外はこう思った。

 

「「「「「「「「「「(デデデ大王ってツンデレ?)」」」」」」」」」」

 

と、

 

「……半分は」

「半分? もう半分は何じゃ?」

 

 ティオの疑問顔に、ユエは初めて口元に笑みを浮かべて答えた。

 

「……シアは、私の事も好き。ハジメと同じくらい。意味は違っても大きさは同じ……可愛いでしょ?」

「……なるほどの……あの子にはご主人様もユエもどちらも必要ということなんじゃな……混じりけのない好意を邪険に出来る者は少ない。あの子の人徳というものかの。ふむ、ユエのシアへの思いはわかったが……じゃが、ご主人様の方はどうじゃ? 心奪われるとは思わんのか? あの子の魅力は重々承知じゃろ?」

 

「……ハジメには〝大切〟を増やして欲しいと思う。でも……〝特別〟は私だけ……奪えると思うなら、やってみればいい。何時でも何処でも誰でも……受けて立つ」

 

「まぁ……喧嘩を売る気はない。妾は、ご主人様に罵ってもらえれば十分じゃしの」

「……変態」

 

 呆れた表情でティオを見るユエに、本人はカラカラと快活に笑うだけだった。そして、わざわざこのような話を始めたのも自分達との関係を良好なものにするためだろうと察していたユエは、あこがれの竜人族のブレない変態ぶりに深い溜息を吐きつつも、上手くやっていけそうだと苦笑いするのだった。

 

 と、そんな風に、少しユエとティオの距離が縮まり二人がブティックを出た直後、

 

ドガシャン!!

 

「ぐへっ!!」

「ぷぎゃあ!!」

 

 すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく。

 

 野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように距離を取る中、ユエとティオは聞きなれた声と気配に、その場に留まり呆れた表情を粉塵の中へと向けた。

 

「ああ、やっぱり二人の気配だったか……」

「あれ? ユエさんとティオさん? どうしてこんな所に?」

「……それはこっちのセリフ……デートにしては過激すぎ」

「全くじゃのぉ~、で? ご主人様よ。今度は、どんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」

 

「あはは、私もこんなデートは想定していなかったんですが……成り行きで……ちょっと人身売買している組織の関連施設を潰し回っていまして……」

「……成り行きで裏の組織と喧嘩?」

 

「まぁ、ちょうど人手が足りなかったところだ。説明すっから手伝ってくれないか?」

 

 ドンナーをホルスターに仕舞いながら、地面に転がる男達を通行の邪魔だとでも言うように瓦礫の上に放り投げていくハジメ。積み重なっていく男達を尻目に、ハジメは、何があったのか事情を説明し始めた。




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ミュウと誘拐

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ドンナーをホルスターに仕舞いながら、地面に転がる男達を通行の邪魔だとでも言うように瓦礫の上に放り投げていくハジメ。積み重なっていく男達を尻目に、ハジメは、何があったのか事情を説明し始めた。

 

メアシュタット水族館を出て昼食も食べた後、ハジメとシアの二人は、迷路花壇や大道芸通りを散策していた。シアの腕には、露店で買った食べ物が入った包みが幾つも抱えられている。今は、バニラっぽいアイスクリームを攻略中だ。

 

「よく食べるな……そんなに美味いか?」

「あむっ……はい! とっても美味しいですよ。流石、フューレンです。唯の露店でもレベルが高いです」

「……食いすぎて太るなよ」

「……ハジメさん、それは女の子に言ってはいけないセリフです」

 

 ハジメの言葉に一瞬、食べる手が止まるものの、「後で運動するし……明日から少し制限するし……」などブツブツと言い訳しながら再度、露店の甘味を堪能するシア。そんなシアに苦笑いしながら横を歩くハジメは、突如、その表情を訝しげなものに変え足元を見下ろした。

 

 それに気がついたシアが、「ん?」と首を傾げてハジメに尋ねる。

 

「どうかしましたか、ハジメさん?」

「んー? いやな、気配感知で人の気配を感知したんだが……」

「気配感知なんて使っていたんですか?」

「基本は常時展開してる」

「う~ん? でも、何が気になるんです? 人の気配って言っても……」

 

「いや、そうじゃなくてな……俺が感知したのは下だ」

「下? ……って下水道ですか? えっと、なら管理施設の職員とか?」

「だったら、気にしないんだがな。何か、気配がやたらと小さい上に弱い……多分、これ子供だぞ? しかも、弱っているな」

「ッ!? た、大変じゃないですか! もしかしたら、何処かの穴にでも落ちて流されているのかもしれませんよ! ハジメさん! 追いかけましょう! どっちですか!」

 

「ハジメさん、私にも気配が掴めました。私が飛び込んで引っ張り上げますね!」

「いや、大丈夫だから」

 

 

 

 服が汚れるなど気にした風もなく下水に飛び込もうとするシアの首根っこを掴んで止めたハジメは、再びに地面に手を付いて錬成を行った。紅いスパークと共に水路から格子がせり上がってくる。格子は斜めに設置されているので、流されてきた子供は格子に受け止められるとそのままハジメ達の方へと移動して来た。ハジメは、左腕のギミックを作動させ、その腕を伸長させると子供を掴み、そのまま通路へと引き上げた。

 

「この子は……」

「まぁ、息はあるし……取り敢えずここから離れよう。臭いが酷い」

 

 引き上げられたその子供を見て、シアが驚きに目を見開く。ハジメも、その容姿を見て知識だけはあったので、内心では結構驚いていた。しかし、場所が場所だけに、肉体的にも精神的にも衛生上良くないと場所を移動する事にする。

 

 何となく、子供の素性的に唯の事故で流されたとは思えないので、そのまま開けた穴からストリートに出ることが躊躇われたハジメは、〝宝物庫〟から毛布を取り出すと小さな子供をくるみ、抱きかかえて移動を開始した。

 

その子供は、見た目三、四歳といったところだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。女の子だろう。だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。

 

「この子、海人族の子ですね……どうして、こんな所に……」

「まぁ、まともな理由じゃないのは確かだな」

 

 

と、その時、海人族の幼女の鼻がピクピクと動いたかと思うと、パチクリと目を開いた。そして、その大きく真ん丸な瞳でジーとハジメを見つめ始める。ハジメも何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。意味不明な緊迫感が漂う中、シアが何をしているんだと呆れた表情で近づくと、海人族の幼女のお腹がクゥーと可愛らしい音を立てる。再び鼻をピクピクと動かし、ハジメから視線を逸らすと、その目が未だに持っていたシアの露店の包みをロックオンした。

 

 シアが、これ? と首を傾げながら、串焼きの入った包み右に左にと動かすと、まるで磁石のように幼女の視線も左右に揺れる。どうやら、相当空腹のようだ。シアが、包から串焼きを取り出そうとするのを制止して、ハジメは幼女に話しかけながら錬成を始めた。

 

「で? お前の名前は?」

 

 

「……ミュウ」

「そうか。俺はハジメで、そっちはシアだ。それでミュウ。あの串焼きが食べたいなら、まず、体の汚れを落とせ」

 

 

「あっ、ハジメさん。お帰りなさい。素人判断ですけど、ミュウちゃんは問題ないみたいですよ」

 

 

ハジメは、シアの言葉に頷くと、買ってきた服を取り出した。シアの今着ている服に良く似た乳白色のフェミニンなワンピースだ。それに、グラディエーターサンダルっぽい履物、それと下着だ。子供用とは言え、店で買う時は店員の目が非常に気になった。

 

 ハジメは、ミュウの下へ歩み寄ると、毛布を剥ぎ取りポスッと上からワンピースを着せた。次いでに下着もさっさと履かせる。そして、ミュウの前に跪いて片方ずつ靴を履かせていった。更に、温風を出すアーティファクト、つまりドライヤーを〝宝物庫〟から取り出し、湿り気のあるミュウの髪を乾かしていく。ミュウはされるがままで、未だにジーとハジメを見ているが、温風の気持ちよさに次第に目を細めていった。

 

「……何気に、ハジメさんって面倒見いいですよね」

「何だ、藪から棒に……」

 

 

「で、今後の事だが……」

「ミュウちゃんをどうするかですね……」

 

「客が値段をつける……ね。オークションか。それも人間族の子や海人族の子を出すってんなら裏のオークションなんだろうな」

「……ハジメさん、どうしますか?」

 

 だが、ハジメは首を振った。

 

「保安署に預けるのがベターだろ」

「そんなっ……この子や他の子達を見捨てるんですか……」

 

 ハジメの言葉にシアが噛み付く。ミュウをギュッと抱きしめてショックを受けたような目でハジメを見た。

 

「あのな、シア。迷子を見つけたら保安署に送り届けるのは当然のことだ。まして、ミュウは海人族の子だ。必ず手厚く保護してくれるさ。それどころか、海人族をオークションに掛けようなんて大問題だ。正式に捜査が始まるだろうし、そうすれば他の子達も保護されるだろう。いいか? おそらくだが、これは大都市にはつきものの闇なんだ。ミュウが捕まっていたところだけでなく、公的機関の手が及ばない場所では普通にある事なんだろ。つまり、これはフューレンの問題だ。どっちにしろ、通報は必要だろう? ……お前の境遇を考えると、自分の手で何とかしたいという気持ちはわからんでもないがな……」

「そ、それは……そうですが……でも、せめてこの子だけでも私達が連れて行きませんか? どうせ、西の海には行くんですし……」

「はぁ~、あのな。その前に大火山に行かにゃならんだろうが。まさか、迷宮攻略に連れて行く気か? それとも、砂漠地帯に一人で留守番させるか? 大体、誘拐された海人族の子を勝手に連れて行ったら、俺等も誘拐犯の仲間入りだろうが。あんまり、無茶なこと言うな」

「……うぅ、はいです……」

「いいか、ミュウ。これから、お前を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうが、いつか西の海にも帰れるだろう」

「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」

 

 ミュウが、ハジメの言葉に不安そうな声音で二人はどうするのかと尋ねる。

 

「悪いが、そこでお別れだ」

「やっ!」

「いや、やっ! じゃなくてな……」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいいの! 二人といるの!」

 

事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出た。ハジメの予想通り、やはり大きな問題らしく、直ぐに本部からも応援が来るそうで、自分達はお役目御免だろうと引き下がろうとした。が……

 

「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」

見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引にハジメ達と引き離し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、当然、そのままデートという気分ではなくなり、シアは心配そうに眉を八の字にして、何度も保安署を振り返っていた。

 

ドォガァアアアン!!!!

 

 背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は、

 

「ハ、ハジメさん。あそこって……」

「チッ、保安署か!」

 

 そう、黒煙の上がっている場所は、さっきまでハジメ達がいた保安署があった場所だった。二人は、互いに頷くと保安署へと駆け戻る。タイミング的に最悪の事態が脳裏をよぎった。すなわち、ミュウを誘拐していた組織が、情報漏えいを防ぐためにミュウごと保安署を爆破した等だ。

 

「ハジメさん! ミュウちゃんがいません! それにこんなものが!」

 

〝海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族を連れて○○に来い〟

 

「ハジメさん、これって……」

「どうやら、あちらさんは欲をかいたらしいな……」

 

「ハジメさん! 私!」

「みなまでいうな。わーてるよ。こいつ等はもう俺の敵だ……御託を並べるのは終わりだ。全部ぶちのめして、ミュウを奪い返すぞ」

「はいです!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「で、だ。指定された場所に行ってみれば、そこには武装したチンピラがうじゃうじゃいて、ミュウ自身はいなかったんだよ。たぶん、最初から俺を殺してシアだけ頂く気だったんだろうな。取り敢えず数人残して、皆殺しにした後、ミュウがどこか聞いてみたんだが……知らないらしくてな。拷問して他のアジトを聞き出して……それを繰り返しているところだ」

「どうも、私だけじゃなくて、ユエさんとティオさんにも誘拐計画があったみたいですよ。それで、いっそのこと見せしめに今回関わった組織とその関連組織の全てを潰してしまおうということになりまして……」

 

 

 

 移動しながらハジメとシアの説明を聞いたカービィ一行とユエ、ティオは、唯のデートに行って何故大都市の裏組織と事を構えることになるのかと、そのトラブル体質に呆れた表情を向けた。

 

「……それで、ミュウっていう子を探せばいいの?」

「ああ。聞き出したところによると、結構大きな組織みたいでな……関連施設の数も半端ないんだ。手伝ってくれるか?」

「ん……任せて」

「ふむ。ご主人様の頼みとあらば是非もないの」

「ボクたちに任せてよ!」

ドロッチェ「俺も手を貸そう。俺ならどんな警備も軽々と突破できる。」

ハジメ「大丈夫なのか?」

カービィ「ドロッチェ団は悪い奴らじゃないよ!誰かを傷つけるようなことは絶対にしないんだ。」

「疑ってすまなかったな。」

「いい。疑うのも大切だからな。」

シア「は、ハジメさんが謝りましたよ!」

ティオ「重症じゃ!」

「おまえら俺をなんだと……」

 

現在判明している裏組織のアジトの場所を伝え、ハジメとユエとティオ、カービィとドロッチェとシアの二手に分かれてミュウ捜索兼組織潰しに動き出した。ちなみに、ハジメとシアで別れたのは、ミュウを発見した場合に顔見知りがいた方がいいと考えたからである。

 

 




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ハジメ、パパになる

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現在判明している裏組織のアジトの場所を伝え、ハジメとユエとティオ、カービィとドロッチェとシアの二手に分かれてミュウ捜索兼組織潰しに動き出した。ちなみに、ハジメとシアで別れたのは、ミュウを発見した場合に顔見知りがいた方がいいと考えたからである。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

商業区の中でも外壁に近く、観光区からも職人区からも離れた場所。公的機関の目が届かない完全な裏世界。大都市の闇。昼間だというのに何故か薄暗く、道行く人々もどこか陰気な雰囲気を放っている。

そんな場所の一角にある七階建ての大きな建物、表向きは人材派遣を商いとしているが、裏では人身売買の総元締をしている裏組織〝フリートホーフ〟の本拠地である。いつもは、静かで不気味な雰囲気を放っているフリートホーフの本拠地だが、今は、騒然とした雰囲気で激しく人が出入りしていた。おそらく伝令などに使われている下っ端であろうチンピラ風の男達の表情は、訳のわからない事態に困惑と焦燥、そして恐怖に歪んでいた。

 

そんな雰囲気に御構い無しなカービィ。

 

「コピー能力マジック!れでぃーすあんどじぇんとるめん!ボクのマジックをお見せするよ!」

 

「ふざんけてんじゃねぇぞ! アァ!? てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」

 

カービィはその男にカードを投げた。

カービィはカードをてきとうに投げたのだが、そのカードは無敵の効果付きだったのでその男はスパッと切れた。

 

「……てめぇら、例の襲撃者の一味か……その容姿……チッ、リストに上がっていた奴らじゃねぇか。シアにティオだったか? あと、ユエとかいうちびっこいのもいたな……なるほど見た目は極上だ。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ? まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思ってッ!? 『ズドンッ!』グギャアアア!!!」

 

 

「た、たのむ。助けてくれぇ! 金なら好きに持っていっていい! もう、お前らに関わったりもしない! だからッゲフ!?」

「勝手に話さないで下さい。あなたは私の質問に答えればいいのです。わかりましたか? 分からなければ、その都度、重さが増していきますので……内臓が出ないうちに答える事をオススメします」

 

ドロッチェ「俺たち必要か?」

カービィ「でもここまで罠全てつ難なくクリアできたのはドロッチェのおかげだよ。」

 

 

 シアは、首のチョーカに手を触れて念話石を起動すると、ハジメに連絡をとった。

 

〝ハジメさん、ハジメさん。聞こえますか? シアです〟

〝…………シア。ああ、聞こえる。どうした?〟

〝ミュウちゃんの居場所が分かりました。ハジメさんは今、観光区ですよね? そちらの方が近いので先に向かって下さい〟

〝了解した〟

 

「た、助け……医者を……」

「子供の人生を食い物にしておいて、それは都合が良すぎるというものですよ……それにあなたのような人間を逃したりしたら、ハジメさんとユエさんに怒られてしまいます。というわけで、さよならです」

「や、やめ!」

 

グシャ!

 

 

「カービィさん、ドロッチェさん、ここは手っ取り早く潰して、早くハジメさん達と合流しましょう!」

 

「おまえもなかなか容赦ないな」

 

「? ……何か言いました?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

 シア、カービィ、ドロッチェが立ち去った後には、無数の屍と瓦礫の山だけが残った。〝フリートホーフ〟フューレンにおいて、裏世界では三本の指に入る巨大な組織は、この日、実にあっさりと壊滅したのだった。

 

その後ハジメたちは、オークションに出されていたミュウを組織を破壊して助けたらしい。

合流したカービィ一行は流石だなと苦笑いし、ミュウが泣き止むのを待って冒険者ギルドの支部長のもとへ向かうのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員九十八名、再起不能四十四名、重傷二十八名、行方不明者百十九名……で? 何か言い訳はあるかい?」

「カッとなったので計画的にやった。反省も後悔もない」

「はぁ~~~~~~~~~」

 

 冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目でハジメを睨むイルワだったが、出された茶菓子を膝に載せた海人族の幼女と分け合いながらモリモリ食べている姿と反省の欠片もない言葉に激しく脱力する。

 

「まさかと思うけど……メアシュタットの水槽やら壁やらを破壊してリーマンが空を飛んで逃げたという話……関係ないよね?」

「……ミュウ、これも美味いぞ? 食ってみろ」

「あ~ん」

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね……はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった……ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね……はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」

「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ。今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだし……」

「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい? ホント、洒落にならないね」

「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺達に手を出さないように、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長も、俺らの名前使ってくれていいんだぞ? 何なら、支部長お抱えの〝金〟だってことにすれば……相当抑止力になるんじゃないか?」

「おや、いいのかい? それは凄く助かるのだけど……そういう利用されるようなのは嫌うタイプだろう?」

 ハジメの言葉に、意外そうな表情を見せるイルワ。だが、その瞳は「えっ? マジで? 是非!」と雄弁に物語っている。ハジメは苦笑いしながら、肩を竦めた。

 

「まぁ、持ちつ持たれつってな。世話になるんだし、それくらいは構わねぇよ。支部長なら、そのへんの匙加減もわかるだろうし。俺らのせいで、フューレンで裏組織の戦争が起きました、一般人が巻き込まれましたってのは気分悪いしな」

「……ふむ。ハジメ君、少し変わったかい? 初めて会ったときの君は、仲間の事以外どうでもいいと考えているように見えたのだけど……ウルでいい事でもあったのかな?」

「……まぁ、俺的には悪いことばかりじゃなかったよ」

 

ちなみに、その後、フリートホーフの崩壊に乗じて勢力を伸ばそうと画策した他二つの組織だったが、イルワの「なまはげが来るぞ~」と言わんばかりの効果的なハジメ達の名の使い方のおかげで大きな混乱が起こることはなかった。この件で、ハジメは〝フューレン支部長の懐刀〟とか〝白髪眼帯の爆炎使い〟とか〝幼女キラー〟とか色々二つ名が付くことになったが……ハジメの知ったことではない。ないったらないのだ。

 

「それで、そのミュウ君についてだけど……」

 

「ハジメさん……私、絶対、この子を守ってみせます。だから、一緒に……お願いします」

 

 シアが、ハジメに頭を下げる。どうしても、ミュウが家に帰るまで一緒にいたいようだ。ユエとティオは、ハジメの判断に任せるようで沈黙したままハジメを見つめている。

 

「お兄ちゃん……一緒……め?」

 

 自分の膝の上から上目遣いで「め?」とか反則である。というより、ミュウを取り返すと決めた時点で、本人が望むなら連れて行ってもいいかと考えていたので、結論は既に出ている。

 

「まぁ、最初からそうするつもりで助けたからな……ここまで情を抱かせておいて、はいさよならなんて真似は流石にしねぇよ」

「ハジメさん!」

「お兄ちゃん!」

「ただな、ミュウ。そのお兄ちゃんってのは止めてくれないか? 普通にハジメでいい。何というかむず痒いんだよ、その呼び方」

 ハジメの要求に、ミュウはしばらく首をかしげると、やがて何かに納得したように頷き……ハジメどころかその場の全員の予想を斜め上に行く答えを出した。

 

「……パパ」

「………………な、何だって? 悪い、ミュウ。よく聞こえなかったんだ。もう一度頼む」

「パパ」

「……そ、それはあれか? 海人族の言葉で〝お兄ちゃん〟とか〝ハジメ〟という意味か?」

「ううん。パパはパパなの」

「うん、ちょっと待とうか」

 

 ハジメが、目元を手で押さえ揉みほぐしている内に、シアがおずおずとミュウに何故〝パパ〟なのか聞いてみる。すると……

 

「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……だからお兄ちゃんがパパなの」

「何となくわかったが、何が〝だから〟何だとツッコミたい。ミュウ。頼むからパパは勘弁してくれ。俺は、まだ十七なんだぞ?」

ドロッチェ「よかったなハジメ」

カービィ「おめでとー」

「わかった。もうお兄ちゃんでいい! 贅沢はいわないからパパは止めてくれ!」

「やっーー!! パパはミュウのパパなのー!」

 

 

その後、あの手この手でミュウの〝パパ〟を撤回させようと試みるが、ミュウ的にお兄ちゃんよりしっくり来たようで意外なほどの強情さを見せて、結局、撤回には至らなかった。こうなったら、もう、エリセンに送り届けた時に母親に説得してもらうしかないと、奈落を出てから一番ダメージを受けたような表情で引き下がったハジメ。

 

 イルワとの話し合いを終え宿に戻ってからは、誰がミュウに〝ママ〟と呼ばせるかで紛争が勃発し、取り敢えず、ハジメはミュウに悪影響が出そうなティオだけは縛り付けて床に転がしておいた。当然、興奮していたが……

 

 結局、〝ママ〟は本物のママしかダメらしく、ユエもシアも(一応)ティオも〝お姉ちゃん〟で落ち着いた。

 

この日、ハジメは十七歳でパパになった……これより子連れの旅が始まる!

 

 




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懐かしきホルアド

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「ヒャッハー! ですぅ!」

 

 左側のライセン大峡谷と右側の雄大な草原に挟まれながら、魔力駆動二輪とロボボアーマーホイールモードが太陽を背に西へと疾走する。街道の砂埃を巻き上げながら、それでも道に沿って進む四輪と異なり、二輪の方は、峡谷側の荒地や草原を行ったり来たりしながらご機嫌な様子で爆走していた。

 

「……シアのやつご機嫌だな。世紀末な野郎みたいな雄叫び上げやがって」

ユエ「……むぅ。ちょっとやってみたいかも」

ハジメが、呆れたような表情で呟いた。ハジメの言葉通り、今、シアはロボボアーマーホイールモードの方には乗っていない。一人で二輪を運転しているのである。

 

魔力駆動二輪は、魔力の直接操作さえ出来れば割と簡単に動かすことができる。場合によっては、ハンドル操作を自らの手で行わずとも、それすら魔力操作で行えるのだ。なので、シアにとっては大して難しいものでもなく、あっという間に乗りこなしてしまった。そして、その魅力に取り憑かれたのである。

 

たまに、乗り物に乗ると性格が豹変する人がいるが、シアもその類なのかもしれない。ハジメの傍らで同じようにシアの様子を見ていたユエが、ちょっと自分もやりたそうにしている。ユエが、「ヒャッハー!」とか言いだしたら、ひどく悲しい気分になりそうなので絶対阻止しようと心に決めるハジメ。

 

そんな、ハジメに、ユエの更に隣で窓から顔を出して気持ちよさそうにしていた三、四歳くらいの幼女ミュウが、いそいそとユエの膝の上によじ登ると、そのまま大きな瞳をキラキラさせる。そして、ハンドルを握りしめ逆立ちを始めたシアを指差し、ハジメにおねだりを始めた。

 

「パパ! パパ! ミュウもあれやりたいの!」

「ダメに決まってるだろ」

 

 

「ミュウ。後で俺が乗せてやるから、それで我慢しろ」

「ふぇ? いいの?」

「ああ。シアと乗るのは断じて許さんが……俺となら構わねぇよ」

「シアお姉ちゃんはダメなの?」

「ああ、絶対ダメだ。見ろよ、あいつ。今度は、ハンドルの上で妙なポーズとりだしたぞ。何故か心に来るものがあるが……あんな危険運転するやつの乗り物に乗るなんて絶対ダメだ」

 

 二輪のハンドルの上に立ち、右手の五指を広げた状態で顔を隠しながら左手を下げ僅かに肩を上げるという奇妙なポーズでアメリカンな笑い声を上げるシア。そんなジョ○ョ的な香ばしいポーズをとる彼女にジト目を向けながら、ハジメはミュウに釘を刺す。見てないところでシアに乗せてもらったりするなよ? と。

 

「そもそも、二輪は危ないんだから出来れば乗せたくないんだがなぁ……二輪用のチャイルドシートとか作ってみるか? 材料は……ブツブツ」

「ユエお姉ちゃん。パパがブツブツ言ってるの。変なの」

「……ハジメパパは、ミュウが心配……意外に過保護」

「フフ、ご主人様は意外に子煩悩なのかの? ふむ、このギャップはなかなか……ハァハァ」

「ユエお姉ちゃん。ティオお姉ちゃんがハァハァしてるの」

「……不治の病だから気にしちゃダメ」

 

 

 「パパ」の呼び名を許容(という名の諦め)してからというもの、何だかんだでミュウを気にかけるハジメ。今では、むしろ過保護と言っていいくらいだった。シアは残念ウサギだし、ティオは変態だし、カービィ一行はメタナイトとドロッチェ以外まともな奴がいない!母親の元に返すまでミュウは俺が守らねば! とか思っているようだ。世話を焼きすぎる時は、むしろユエがストッパーになってミュウに常識を教えるという構図が現在のハジメ達だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ハジメ達は、現在、宿場町ホルアドにいた。

 

 本来なら素通りしてもよかったのだが、フューレンのギルド支部長イルワから頼まれごとをされたので、それを果たすために寄り道したのだ。といっても、もともと【グリューエン大砂漠】へ行く途中で通ることになるので大した手間ではない。

 

「パパ? どうしたの?」

「ん? あ~、いや、前に来たことがあってな……まだ四ヶ月程度しか経ってないのに、もう何年も前のような気がして……」

「……ハジメ、大丈夫?」

 

 複雑な表情をするハジメの腕にそっと自らの手を添えて心配そうな眼差しを向けるユエ。ハジメは、肩を竦めると、次の瞬間にはいつも通りの雰囲気に戻っていた。

 

「ああ、問題ない。ちょっとな、えらく濃密な時間を過ごしたもんだと思って感慨に耽っちまった。思えば、ここから始まったんだよなって……緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って……そして落ちた」

「……」

 

「ふむ。ご主人様は、やり直したいとは思わんのか? 元々の仲間がおったのじゃろ? ご主人様の境遇はある程度聞いてはいるが……皆が皆、ご主人様を傷つけたわけではあるまい? 仲の良かったものもいるのではないか?」

 

「そうだな、カービィと香織以外は助けようともしなかったな。」

 

 

「確かに、そういう奴等もいたな……でも、もし仮にあの日に戻ったとしても、俺は何度でも同じ道を辿るさ」

「ほぅ、なぜじゃ?」

 

 

 

「もちろん……ユエに会いたいからだ」

「……ハジメ」

 

「ティオさん、聞きました? そこは、〝お前達に〟っていうところだと思いません? ユエさんオンリーですよ。また、二人の世界作ってますよ。もう、場所も状況もお構いなしですよ。それを傍から見てる私達にどうしろと? いい加減、あの空気を私との間にも作ってくれていいと思うんです。私は、いつでも受け入れ態勢が整っているというのに、いつまで経っても、残念キャラみたいな扱いで……いや、わかっていますよ? ユエさんが特別だということは。私も、元々はお二人の関係に憧れていたからこそ、一緒にいたいと思ったわけですし。だから、ユエさんが特別であることは当然で、それはそうあっていいと思うんですけどね。むしろ、ユエさんを蔑ろにするハジメさんなんてハジメさんじゃないですし。そんな事してユエさんを悲しませたら、むしろ私がハジメさんをぶっ殺す所存ですが。でも、でもですよ? 最近、ちょっとデレてきたなぁ~、そろそろ大人の階段上っちゃうかなぁ~って期待しているのに一向にそんなことにならないわけで、いくらユエさんが特別でも、もうちょっと目を向けてくれてもいいと思いません? 据え膳食わぬは男の恥ですよ。こんなにわかりやすくウェルカムしてるのに、グダグダ言って澄まし顔でスルーして、このヘタレ野郎が! と思ってもバチは当たらないと思うのですよ。私だってイチャイチャしたいのですよ! ベッドの上であんなことやこんなことをして欲しいのですよ! ユエさんがされてたみたいなハードなプレイを私にも! って思うのですよ! そこんとこ変態代表のティオさんはどう思います!?」

「シ、シアよ。お主が鬱憤を溜め込んでおるのはわかったから、少し落ち着くのじゃ。むしろ、公道でとんでもないこと叫んでおるお主の方が注目されとる。というか、最後さりげなく妾を罵りおったな……こんな公の場所で変態扱いされてしもうた、ハァハァ、心なし周囲の妾を見る目が冷たい気がする……ハァハァ、んっんっ」

 

 

「パパ~、シアお姉ちゃんとティオお姉ちゃんが……」

「ミュウ。見ちゃダメだ。他人の振りをするんだ」

「……シア……今度、ハジメを縛ってシアと一緒に……」

 

メタナイト「落ち着けシア、ハジメが引いている。」

 

シア「はっ!私は何を!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ハジメ達は、周囲の人々の視線を無視しながら、ようやく冒険者ギルドのホルアド支部に到着した。

 

 

 

 壁や床は、ところどころ壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥や何かのシミがあちこちに付いていて不衛生な印象を持つ。内部の作り自体は他の支部と同じで入って正面がカウンター、左手側に食事処がある。しかし、他の支部と異なり、普通に酒も出しているようで、昼間から飲んだくれたおっさん達がたむろしていた。二階部分にも座席があるようで、手すり越しに階下を見下ろしている冒険者らしき者達もいる。二階にいる者は総じて強者の雰囲気を出しており、そういう制度なのか暗黙の了解かはわからないが、高ランク冒険者は基本的に二階に行くのかもしれない。

 

 が、最近めっきり過保護なパパになりつつあるハジメが、仮とは言え娘を怯えさせられて黙っているわけがなかった。既に、ハジメの額には青筋が深く深~く浮き上がっており、ミュウをなだめる手つきの優しさとは裏腹にその眼は凶悪に釣り上がっていた。

 

 そして……

 

ドンッ!!

 

 そんな音が聞こえてきそうなほど濃密にして巨大かつ凶悪なプレッシャーが、ハジメ達を睨みつけていた冒険者達に情け容赦一切なく叩きつけられた。

 

 

ハジメのプレッシャー〝威圧〟と〝魔力放射〟を受けながら意識を辛うじて失っていない者も、大半がガクガクと震えながら必死に意識と体を支え、滝のような汗を流して顔を青ざめさせている。

 

 

「おい、今、こっちを睨んだやつ」

「「「「「「「!」」」」」」」

 

 

ハジメは彼等に向かって要求……もとい命令をする。

 

「笑え」

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

 いきなり、状況を無視した命令に戸惑う冒険者達。ハジメが、更に言葉を続ける。

 

「聞こえなかったか? 笑えと言ったんだ。にっこりとな。怖くないアピールだ。ついでに手も振れ。お前らのせいで家の子が怯えちまったんだ。トラウマになったらどうする気だ? ア゛ァ゛? 責任とれや」

 

 

「ひっ!」

そう言って逃げていった。

 

 ちなみに、受付嬢は可愛かった。ハジメと同じ年くらいの明るそうな娘だ。テンプレはここにあったらしい。もっとも、普段は魅力的であろう受付嬢の表情は緊張でめちゃくちゃ強張っていたが。

 

「支部長はいるか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんだが……本人に直接渡せと言われているんだ」

 

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

 普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。しかし、全員から渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「ぜ、全員〝金〟ランク!?」

 

 

冒険者において〝金〟のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、〝金〟のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然、この受付嬢も全ての〝金〟ランク冒険者を把握しており、ハジメのこと等知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。

 

 

 

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれるか?」

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

 

 やがて、と言っても五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ! と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、ハジメ達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

 ハジメは、その人物に見覚えがあり、こんなところで再会するとは思わなかったので思わず目を丸くして呟いた。

 

「……遠藤?」

 

「……遠藤?」

 

 ハジメの呟きに〝!〟と某ダンボール好きな傭兵のゲームに出てくる敵兵のような反応をする黒装束の少年、遠藤浩介は、辺りをキョロキョロと見渡し、それでも目当ての人物が見つからないことに苛立ったように大声を出し始めた。

 

「南雲ぉ! いるのか! お前なのか! 何処なんだ! 南雲ぉ! 生きてんなら出てきやがれぇ! 南雲ハジメェー!」

 

「あ~、遠藤? ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのは止めてくれ」

「!? 南雲! どこだ!」

 

 ハジメの声に反応してグリンッと顔をハジメの方に向ける遠藤。余りに必死な形相に、ハジメは思わずドン引きする。

 

 一瞬、ハジメと視線があった遠藤だが、直ぐにハジメから目を逸らすと再び辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 

「くそっ! 声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ! 幽霊か? やっぱり化けて出てきたのか!? 俺には姿が見えないってのか!?」

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

「三回中二回は開かないのか……お前流石だな」

 

 

 

 

そこまで言葉を交わしてようやく、目の前の白髪眼帯の男が会話している本人だと気がついたようで、遠藤は、ハジメの顔をマジマジと見つめ始める。男に見つめられて喜ぶ趣味はないので嫌そうな表情で顔を背けるハジメに、遠藤は、まさかという面持ちで声をかけた。

 

「お、お前……お前が南雲……なのか?」

「はぁ……ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘南雲ハジメだ、ちなみにカービィもいるぞ。」

カービィ「やっほー、久しぶりー。」

 

 

上から下までマジマジと観察し、それでも記憶にあるハジメとの余りの違いに半信半疑の遠藤だったが、顔の造形や自分の影の薄さを知っていた事からようやく信じることにしたようだ。

 

「お前……生きていたのか」

「今、目の前にいるんだから当たり前だろ」

「何か、えらく変わってるんだけど……見た目とか雰囲気とか口調とか……」

「奈落の底から自力で這い上がってきたんだぞ? そりゃ多少変わるだろ」

「そ、そういうものかな? いや、でも、そうか……ホントに生きて……」

 

 あっけらかんとしたハジメの態度に困惑する遠藤だったが、それでも死んだと思っていたクラスメイトが本当に生きていたと理解し、安堵したように目元を和らげた。いくら香織に構われていることに他の男と同じように嫉妬の念を抱いていたとしても、また檜山達のイジメを見て見ぬふりをしていたとしても、死んでもいいなんて恐ろしいことを思えるはずもない。ハジメの死は大きな衝撃であった。だからこそ、遠藤は、純粋にクラスメイトの生存が嬉しかったのだ。

 

「っていうかお前……冒険者してたのか? しかも〝金〟て……」

「ん~、まぁな」

 

 ハジメの返答に遠藤の表情がガラリと変わる。クラスメイトが生きていた事にホッとしたような表情から切羽詰ったような表情に。改めて、よく見てみると遠藤がボロボロであることに気がつくハジメ。一体、何があったんだと内心首を捻る。

 

「……つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな? 信じられねぇけど……」

「まぁ、そうだな、というかカービィたちの方が強いけどな。」

 

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 一人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲!南雲一行!」

「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!? 状況が全くわからないんだが? 死んじまうって何だよ。天之河がいれば大抵何とかなるだろ? メルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし……」

 

 

……んだよ」

「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

「……そうか」

 

 癇癪を起こした子供のように、「死んだ」と繰り返す遠藤に、ハジメはただ一言、そう返した。




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「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

「……そうか」

 

 癇癪を起こした子供のように、「死んだ」と繰り返す遠藤に、ハジメはただ一言、そう返した。

 

 

「で? 何があったんだ?」

「それは……」

 

 

「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……魔人族……ね」

 

 冒険者ギルドホルアド支部の応接室にハジメの呟きが響く。対面のソファーにホルアド支部の支部長ロア・バワビスと遠藤浩介が座っており、遠藤の正面にハジメが、その両サイドにユエとシアがシアの隣にティオが座っている。ミュウは、ハジメの膝の上だ、カービィ一行はそこらへんにいる。

 

 

「つぅか! 何なんだよ! その子! 何で、菓子食わしてんの!? 状況理解してんの!? みんな、死ぬかもしれないんだぞ!」

「ひぅ!? パパぁ!」

 

 

当然、ハジメから吹き出す人外レベルの殺気。パパは娘の敵を許さない。

 

「てめぇ……何、ミュウに八つ当たりしてんだ、ア゛ァ゛? 殺すぞ?」

「ひぅ!?」

 

ミュウと同じような悲鳴を上げて浮かしていた腰を落とす遠藤。両隣から「……もう、すっかりパパ」とか「さっき、さり気なく〝家の子〟とか口走ってましたしね~」とか「果てさて、ご主人様はエリセンで子離れ出来るのかのぉ~」とか聞こえてくるが、ハジメは無視する。そんな事より、怯えてしまったミュウを宥める方が重要だ。

 

 

「さて、ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

「まぁ、全部成り行きだけどな」

 

 

手紙には、お前たちの〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人?で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前らが実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

 

 ロアの言葉に、遠藤が大きく目を見開いて驚愕をあらわにする。自力で【オルクス大迷宮】の深層から脱出したハジメの事を、それなりに強くなったのだろうとは思っていたが、それでも自分よりは弱いと考えていたのだ。

 

 

 

 

「バカ言わないでくれ……俺たちを魔王だなんて、そこまで弱くないつもりだぞ?」

「ふっ、魔王を雑魚扱いか? 随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

「……勇者達の救出だな?」

 

 

「そ、そうだ! 南雲! 一緒に助けに行こう! お前がそんなに強いなら、きっとみんな助けられる!」

「……」

 

「ボクはいくよ!」

「カービィはお人好しじゃな」

「じゃあ私もいくですぅ」

 

「そ、そうだ! 南雲! 一緒に助けに行こう! お前らがそんなに強いなら、きっとみんな助けられる!」

「……」

 

 

 

「どうしたんだよ! 今、こうしている間にもアイツ等は死にかけているかもしれないんだぞ! 何を迷ってんだよ! 仲間だろ!」

「……仲間?」

 

 

「あ、ああ。仲間だろ! なら、助けに行くのはとうぜ……」

「勝手に、お前等の仲間にするな。はっきり言うが、俺がお前等にもっている認識は唯の〝同郷〟の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない。他人と何ら変わらない」

「なっ!? そんな……何を言って……」

 

 

 

 

それに、ハジメは、あの月下の語らいを思い出していた。異世界に来て〝無能〟で〝最弱〟だったハジメに「私が、南雲君を守るよ」と、そう言った女の子。結局、彼女の感じた不安の通りに、ハジメは無茶をして奈落へと消えてしまった。彼女の不安を取り除くために〝守ってもらう〟と約束したのに、結局、その約束は果たされなかった。あの最後の瞬間、奈落へ落ち行くハジメに、壊れそうなほど悲痛な表情で手を伸ばす彼女の事を、何故か、この町に戻ってきてから頻繁に思い出すハジメ。

 

「白崎は……彼女はまだ、無事だったか?」

 

「あ、ああ。白崎さんは無事だ。っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし……白崎さん、マジですげぇんだ。回復魔法がとんでもないっていうか……あの日、お前が落ちたあの日から、何ていうか鬼気迫るっていうのかな? こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいて……雰囲気も少し変わったかな? ちょっと大人っぽくなったっていうか、いつも何か考えてるみたいで、ぽわぽわした雰囲気がなくなったっていうか……」

「……そうか」

 

 

「……ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」

「……ユエ」

 

「わ、私も! どこまでも付いて行きますよ! ハジメさん!」

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」

 

 

対面で、愕然とした表情をしながら「え? 何このハーレム……」と呟いている遠藤を尻目に、ハジメは仲間に己の意志を伝えた。

 

「ありがとな、お前等。神に選ばれた勇者になんて、わざわざ自分から関わりたくはないし、お前達を関わらせるのも嫌なんだが……ちょっと義理を果たしたい相手がいるんだ。だから、ちょっくら助けに行こうかと思う。まぁ、あいつらの事だから、案外、自分達で何とかしそうな気もするがな」

 

「え、えっと、結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが……」

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

「そうだ。それともう一つ。帰ってくるまでミュウのために部屋貸しといてくれ」

「ああ、それくらい構わねぇよ」

 

「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

「うわっ、ケツを蹴るなよ! っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」

「やかましい。さくっと行って、一日……いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。一緒にいるのが変態というのも心配だし」

「……お前、本当に父親やってんのな……美少女ハーレムまで作ってるし……一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ……」

 

今回一緒に来てくれるカービィ一行はマルク、マホロア、タランザだ。

 

 

 迷宮深層に向かって疾走しながら、ハジメの態度や環境についてブツブツと納得いかなさそうに呟く遠藤。強力な助っ人がいるという状況に、少し心の余裕を取り戻したようだ。しゃべる暇があるならもっと速く走れとつつかれ、敏捷値の高さに関して持っていた自信を粉微塵に砕かれつつ、遠藤は親友達の無事を祈った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

一方香織たちは追い詰められていた。

 

 

 

 今、まさに放たれようとしている死の鉄槌を目の前にして、香織の脳裏に様々な光景が過ぎっていく。「ああ、これが走馬灯なのかな?」と妙に落ち着いた気持ちで、思い出に浸っていた香織だが、最後に浮かんだ光景に心がざわついた。

 

 それは、月下のお茶会。二人っきりの語らいの思い出。自ら誓いを立てた夜のこと。困ったような笑みを浮かべる今はいない彼。いなくなって初めて〝好き〟だったのだと自覚した。生存を信じて追いかけた。

 

だが、それもここで終わる。「結局、また、誓いを破ってしまった」そんな思いが、気がつけば香織の頬に涙となって現れた。

 

 再会したら、まずは名前で呼び合いたいと思っていた。その想いのままに、せめて、最後に彼の名を……自然と紡ぐ。

 

「……ハジメくん」

 

 その瞬間だった。

 

ドォゴオオン!!

 

 そして、肩越しに振り返り背後で寄り添い合う香織と雫を見やった。

 

 振り返るその人物と目が合った瞬間、香織の体に電撃が走る。悲しみと共に冷え切っていた心が、いや、もしかしたら大切な人が消えたあの日から凍てついていた心が、突如、火を入れられたように熱を放ち、ドクンッドクンッと激しく脈打ち始めた。

 

「……相変わらず仲がいいな、お前等」

 

 苦笑いしながら、そんな事をいう彼に、考えるよりも早く香織の心が歓喜で満たされていく。

 

 髪の色が違う、纏う雰囲気が違う、口調が違う、目つきが違う。だが、わかる。彼だ。生存を信じて探し続けた彼だ。

 

 そう、

 

「ハジメくん!」

 

「へ? ハジメくん? って南雲くん? えっ? なに? どういうこと?」

 

 

「えっ? えっ? ホントに? ホントに南雲くんなの? えっ? なに? ホントどういうこと?」

「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

 

 

「な、南雲ぉ! おまっ! 余波でぶっ飛ばされただろ! ていうか今の何だよ! いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」

 

 文句を言いながら周囲を見渡した遠藤は、そこに親友達と魔物の群れがいて、硬直しながら自分達を見ていることに気がつき「ぬおっ!」などと奇怪な悲鳴を上げた。そんな遠藤に、再会の喜びとなぜ戻ってきたのかという憤りを半分ずつ含めた声がかかる。

 

「「浩介!」」

「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」

 

 

 

「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」

「ん……任せて」

「了解ですぅ!」

 

 

「ハ、ハジメくん……」

 

 

 

 

 

 突然、虚空に現れた十字架型の浮遊する物体に、目を白黒させる香織と雫。そんな二人に背を向けると、ハジメは元凶たる魔人族の女に向かって傲慢とも言える提案をした。それは、魔人族の女が、まだハジメの敵ではないが故の慈悲であった。

 

「そこの赤毛の女。今すぐ去るなら追いはしない。死にたくなければ、さっさと消えろ」

「……何だって?」

 

「戦場での判断は迅速にな。死にたくなければ消えろと言ったんだ。わかったか?」

 

 改めて、聞き間違いではないとわかり、魔人族の女はスっと表情を消すと「殺れ」とハジメを指差し魔物に命令を下した。

 

 この時、あまりに突然の事態――――特に虎の子のアハトドが正体不明の攻撃により一撃死したことで流石に冷静さを欠いていた魔人族の女は、致命的な間違いを犯してしまった。

「なるほど。……〝敵〟って事でいいんだな?」

 

 

「いくぞ、カービィ、タランザ、マホロア、マルク」

「うん!」

タランザ「ワタシに命令していいのはセクトニア様だけなのね!でも協力してやるのね!」

マルク「仕方ないから協力するノサ」

マホロア「わかったヨォ!」

 

 

タランザは糸で動きを止めた。

「今なのね!」

 

ドパンッ! ドパンッ!

カービィ、マホロア「「ウルトラソード!!」」

マルク「ブラックホール」

あまりにあっさり殺られた魔物を見て唖然とする魔人族の女や、この世界にあるはずのない兵器に度肝を抜かれて立ち尽くしているクラスメイト達。そんな硬直する者達をおいて、魔物達は、魔人族の女の命令を忠実に実行するべく次々にハジメへと襲いかかった……が、しかし一瞬で消え去った。

 

 

「チッ……」

 

 ハジメの舌打ちに反応する余裕もなく、冷や汗を流しながらホッと安堵の息を吐く魔人族の女だったが、次の瞬間には凍りついた。

 

ドパァンッ!

 

 炸裂音が轟くと同時に右頬を衝撃と熱波が通り過ぎ、パッと白い何かが飛び散ったからだ。

 

 その何かは、先程まで魔人族の女の肩に止まっていた白鴉の魔物の残骸だった。思惑通りにいかなかったハジメが、腹いせにドンナーをアブソドに、シュラークを白鴉に向けて発砲したのである。

 

 アブソドは、音すら軽く置き去りにする超速の弾丸を避けることも耐えることも、それどころか認識することもできずに、開けっ放しだった口内から蹂躙され、意識を永遠の闇に落とした。

 

 

「何なんだ……彼らは一体、何者なんだ!?」

 

 光輝が動かない体を横たわらせながら、そんな事を呟く。今、周りにいる全員が思っていることだった。その答えをもたらしたのは、先に逃がし、けれど自らの意志で戻ってきた仲間、遠藤だった。

 

「はは、信じられないだろうけど……あいつは南雲だよ、あと後ろにいるのはカービィとその仲間?だ。」

「「「「「「は?」」」」」」

 

 遠藤の言葉に、光輝達が一斉に間の抜けた声を出す。遠藤を見て「頭大丈夫か、こいつ?」と思っているのが手に取るようにわかる。遠藤は、無理もないなぁ~と思いながらも、事実なんだから仕方ないと肩を竦めた。

 

 

「だから、南雲、南雲ハジメだよ。あの日、橋から落ちた南雲だ。迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ! って俺も思うけど……事実だよ」

「南雲って、え? 南雲が生きていたのか!?」

 

 

 光輝が驚愕の声を漏らす。そして、他の皆も一斉に、現在進行形で殲滅戦を行っている化け物じみた強さの少年を見つめ直し……やはり一斉に否定した。「どこをどう見たら南雲なんだ?」と。そんな心情もやはり、手に取るようにわかる遠藤は、「いや、本当なんだって。めっちゃ変わってるけど、ステータスプレートも見たし」と乾いた笑みを浮かべながら、彼が南雲ハジメであることを再度伝える。

 

 皆が、信じられない思いで、ハジメの無双ぶりを茫然と眺めていると、ひどく狼狽した声で遠藤に喰ってかかる人物が現れた。

 

「う、うそだ。南雲は死んだんだ。そうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてるわけない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

「うわっ、なんだよ! ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

「うそだ! 何か細工でもしたんだろ! それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

「いや、何言ってんだよ? そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

 香織と雫が、混乱しつつも、とにかく迫り来る魔物に注意を戻すと、そこには頭部を爆砕させた魔物達の姿が……唖然としつつ、先程の金属音の元に視線を転じてその正体を確かめる。

 

「これって……薬莢?」

「薬莢って……銃の?」

 

 香織と雫が、馴染みのない知識を引っ張り出し顔を見合わせる。そして、ハジメが両手に銃をもって大暴れしている姿を見やって確信する。自分達を守るように浮遊する十字架は、どこぞのオールレンジ兵器なのだと。

 

「す、すごい……ハジメくんってファ○ネル使いだったんだ」

「彼、いつの間にニュー○イプになったのよ……」

 

 

「ホントに……なんなのさ」

 

 力なく、そんなことを呟いたのは魔人族の女だ。何をしようとも全てを力でねじ伏せられ粉砕される。そんな理不尽に、諦観の念が胸中を侵食していく。もはや、魔物の数もほとんど残っておらず、誰の目から見ても勝敗は明らかだ。

 

 魔人族の女は、最後の望み! と逃走のために温存しておいた魔法をハジメに向かって放ち、全力で四つある出口の一つに向かって走った。ハジメのいる場所に放たれたのは〝落牢〟だ。それが、ハジメの直ぐ傍で破裂し、石化の煙がハジメを包み込んだ。光輝達が息を飲み、香織と雫が悲鳴じみた声でハジメの名を呼ぶ。

 

 動揺する光輝達を尻目に、魔人族の女は、遂に出口の一つにたどり着いた。

 

 しかし……

 

「はは……既に詰みだったわけだ」

「その通り」

 

 魔人族の女の目の前、通路の奥に十字架が浮遊しておりその暗い銃口を標的へと向けていた。

 

 

 

「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんた、本当に人間?」

「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

 

 

 

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは? と聞くんだろうが……生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」

「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」

 

 嘲笑するように鼻を鳴らした魔人族の女に、ハジメは冷めた眼差しを返した。そして、何の躊躇いもなくドンナーを発砲し魔人族の女の両足を撃ち抜いた。

 

「あがぁあ!!」

 

 

「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」

「……」

 

 痛みに歯を食いしばりながらも、ハジメを睨みつける魔人族の女。その瞳を見て、話すことはないだろうと悟ったハジメは、勝手に推測を話し始めた。

 

 「ま、大体の予想はつく。ここに来たのは、〝本当の大迷宮〟を攻略するためだろ?」

 

 魔人族の女が、ハジメの言葉に眉をピクリと動かした。その様子をつぶさに観察しながらハジメが言葉を続ける。

 

「あの魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」

「どうして……まさか……」

 

 

 

ハジメもまた大迷宮の攻略者であると推測した事に気がつき、視線で「正解」と伝えてやった。

 

「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」

「あの方……ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか……」

 

 

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

 

 その言葉に、ハジメは口元を歪めて不敵な笑みを浮かべる。

 

「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かない」

 

 

「待て! 待つんだ、南雲! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

「……」

 

 ハジメは、ドンナーの引き金に指をかけたまま、「何言ってんだ、アイツ?」と訝しそうな表情をして肩越しに振り返った。光輝は、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた。

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

 余りにツッコミどころ満載の言い分に、ハジメは聞く価値すらないと即行で切って捨てた。そして、無言のまま……引き金を引いたのだった。

 

 

 




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香織と光輝

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「待て! 待つんだ、南雲! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

「……」

 

 ハジメは、ドンナーの引き金に指をかけたまま、「何言ってんだ、アイツ?」と訝しそうな表情をして肩越しに振り返った。光輝は、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた。

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

 余りにツッコミどころ満載の言い分に、ハジメは聞く価値すらないと即行で切って捨てた。そして、無言のまま……引き金を引いたのだった。

 

香織がショックを受けたのは、ハジメに、人殺しに対する忌避感や嫌悪感、躊躇いというものが一切なかったからである。息をするように自然に人を殺した。香織の知るハジメは、弱く抵抗する手段がなくとも、他人の為に渦中へ飛び込めるような優しく強い人だった。

 

その〝強さ〟とは、決して暴力的な強さをいうのではない。どんな時でも、どんな状況でも〝他人を思いやれる〟という強さだ。だから、無抵抗で戦意を喪失している相手を何の躊躇いも感慨もなく殺せることが、自分の知るハジメと余りに異なり衝撃だったのだ。

 

 

雫は、涼しい顔をしているハジメを見て、確かに変わりすぎだと思ったが、何も知らない自分がそんな文句を言うのはお門違いもいいところだということもわかっていた。なので、結局、何をすることも出来ず、ただ香織に寄り添うだけに止めた。

 

 だが、当然、正義感の塊たる勇者の方は黙っているはずがなく、静寂の満ちる空間に押し殺したような光輝の声が響いた。

 

「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」

 

 ハジメは、シアの方へ歩みを進めながら、自分を鋭い眼光で睨みつける光輝を視界の端に捉え、一瞬、どう答えようかと迷ったが、次の瞬間には、そもそも答える必要ないな! と考え、さらりと無視することにした。

 

 もっとも、そんなハジメの態度を相手が許容するかは別問題である……

 

 

 必死に感情を押し殺した光輝の声が響く中、その言葉を向けられている当人はというと、まるでその言葉が聞こえていないかのように、スタスタと倒れ伏すメルドの傍に寄り添うシアのもとへ歩みを進めた。

 

 

「カービィ、メルドの容態はどうだ?」

「マキシムトマトをあげたから大丈夫だよ〜」

シア「良かったのですか?」

「ああ、この人には、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は、色んな意味で大きすぎる。特に、勇者パーティーの教育係に変なのがついても困るしな。まぁ、あの様子を見る限り、メルドもきちんと教育しきれていないようだが……人格者であることに違いはない。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」

 

「おい、南雲。なぜ、彼女を……」

「ハジメくん……いろいろ聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」

 

 

「ああ、それな……ちょっと特別な薬を使ったんだよ、カービィのな。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」

「そ、そんな薬、聞いたことないよ?」

「そりゃ、この世界にはないものだしな……普通は手に入らない。だから、八重樫は、治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」

「え、ええ……ありがとう」

 

 

「おい、南雲、メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの……」

「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」

 

 そして、再び、香織によって遮られた。光輝が、物凄く微妙な表情になっている。しかし、香織は、そんな光輝のことは全く気にせず真っ直ぐにハジメだけを見ていた。ハジメの変わりように激しいショックを受けはしたが、それでも、どうしても伝えたい事があったのだ。メルドの事と、自分達を救ってくれたことのお礼を言いつつハジメの目の前まで歩み寄る。

 

 そして、グッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返した。

 

「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

 

 

光輝と龍太郎は香織が誰を想っていたのか分かっていないのでキョトンとした表情をしている。鈍感主人公を地で行く光輝と脳筋の龍太郎、雫の苦労が目に浮かぶ。

 

 シアは「むっ、もしや新たなライバル?」と難しい表情をし、ユエはいつにも増して無表情でジッと香織を見つめている。

 

 

 

 

 

 ハジメは、困ったような迷うような表情をした後、苦笑いしながら香織に言葉を返した。

 

「……何つーか、心配かけたようだな。直ぐに連絡しなくて悪かったよ。まぁ、この通り、しっかり生きてっから……謝る必要はないし……その、何だ、泣かないでくれ」

 

 

 

光輝「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい」

 

 クラスメイトの一部から「お前、空気読めよ!」という非難の眼差しが光輝に飛んだ。この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに気がつかないらしい。何処かハジメを責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を引き離そうとしている。単に、香織と触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない。

 

「ちょっと、光輝! 南雲君は、私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」

 

 そんな彼等に、今度は比喩的な意味で冷水を浴びせる声が一つ。

 

「……くだらない連中。ハジメ、もう行こう?」

「あー、うん、そうだな」

 

 

 

 そんなハジメ達に、やっぱり光輝が待ったをかけた。

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」

「……」

 

 光輝が、またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなる有様だ。ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。

 

 

 

 このままでは埓があかないどころかユエを不快にさてしまうと感じたハジメは、面倒そうな表情で溜息を吐きながらも代わりに少しだけ答えることにした。

 

「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」

「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」

 

「誤魔化すなよ」

「いきなり何を……」

「お前は、俺があの女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の・・・・相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」

「ち、違う! 勝手なこと言うな! お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

「敵を殺す、それの何が悪い?」

「なっ!? 何がって、人殺しだぞ! 悪いに決まってるだろ!」

「はぁ、お前と議論するつもりはないから、もうこれで終いな?――――俺は、敵対した者には一切容赦するつもりはない。敵対した時点で、明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪だの抵抗の有無だのは関係ない。甘さを見せた瞬間、死ぬということは嫌ってくらい理解したからな。これは、俺が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。が、それを気に食わないと言って俺の前に立ちはだかるなら……」

 

 ハジメが一瞬で距離を詰めて光輝の額に銃口を押し付ける。同時に、ハジメの〝威圧〟が発動し周囲に濃密な殺気が大瀑布のごとく降りかかった。息を呑む光輝達。仲間内でもっとも速い雫の動きだって目で追える光輝だったが、今のハジメの動きはまるで察知出来ず、戦慄の表情をする。

 

「例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」

「お、おまえ……」

「勘違いするなよ? 俺は、戻って来たわけじゃないし、まして、お前等の仲間でもない。白崎に義理を果たしに来ただけ。ここを出たらお別れだ。俺たちには俺たちの道がある」

 

 

「……戦ったのはハジメ。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」

「なっ、俺は逃げてなんて……」

 

 

 光輝が、ユエに反論しようとすると、そこへ、深みのある声が割って入った。

 

「よせ、光輝」

「メルドさん!」

 

 

 

「メ、メルドさん? どうして、メルドさんが謝るんだ?」

「当然だろ。俺はお前等の教育係なんだ……なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期がくれば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた……魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな……だが、お前達と多くの時間を過ごし、多くの話しをしていく内に、本当にお前達にそんな経験をさせていいのか……迷うようになった。騎士団団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな……もう少し、あと少し、これをクリアしたら、そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ……私が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前達を死なせるところだった……申し訳ない」

 

 

 一方、香織の方も押し黙っていた。それは、メルドの話を聞いていたからではない。ずっと、ハジメの言葉について考えていたからだ。

 

 奈落の底で培った価値観、敵なら躊躇いなく殺す、例えクラスメイトであっても……以前のハジメからは考えられない発言だ。だが、それは先程の殺気が本気だと証明していた。他人のために体を張って行動できる優しいハジメが、自分達にすら躊躇うことなく殺意を向ける。自分の知るハジメと目の前にいるハジメの差に香織の心が戸惑い揺れる。先程、香織を気遣った時に感じた以前のハジメは自分の錯覚だったのかと、不安になる。

 

 と、香織がそんな事を考え込んでいると不意に視線を感じた。香織がその先を見やると、そこには金髪紅眼の美貌の少女。香織でも思わず見蕩れてしまうくらい美しいその少女が、感情を感じさせない瞳で香織をジッと観察していた。

 

 そう言えば、ハジメと随分親密そうだったと思い出し、香織も興味を惹かれてユエを見返した。しばらく、見つめ合う二人。

 

「……フ」

「っ……」

 

 しかし、その見つめ合いはユエの方から逸らされた。嘲笑付きで。

 

 

 思わず息を呑む香織。嘲笑に込められた意味に気がついたからだ。すなわち「この程度で揺れる思いなら、そのままハジメの事は忘れてしまえ」ということに。

 

 

 だが、実際、香織を見てみると、以前のハジメと今のハジメを比べて、以前と異なることに戸惑いと不安を覚え一歩引いてしまっている。その反応は人として当然と言えば当然ではあるのだが……ユエからすると取るに足りない相手に見えたようだ。

 

 お前なんて相手にならない。ハジメはこれからも私のハジメだ。ハジメの〝特別〟は私だ!!

 

 

言外にそう宣言され、香織は顔を真っ赤に染めた。それは、怒りか羞恥か。それでも、反論できなかったのは、香織が、ハジメという人間を見失いかけていたからだ。ユエと香織の初邂逅は、ユエに軍配が上がったようである。

 

 

 香織は、未だ、俯いて思い悩んでいる。雫は、そんな香織を心配そうに寄り添いながら見つめていた。だが、そんな香織の悩みなど吹き飛ぶ衝撃の事態が発生する。ハジメに心を寄せていた一人の女としては、絶対に看過できない事態。

 

それは、【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た瞬間にやって来た。

 

「あっ! パパぁー!!」

「むっ! ミュウか」

 

 ハジメをパパと呼ぶ幼女の登場である。

 

 

 

 

 




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修羅場と目田内藤さん

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ハジメたちが【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た瞬間にやって来た。

 

「あっ! パパぁー!!」

「むっ! ミュウか」

 

 ハジメをパパと呼ぶ幼女の登場である。

 

「ミュウ、迎えに来たのか? メタナイトとティオはどうした?」

「うん。目田内藤さんとティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの目田内藤さんとティオお姉ちゃんは……」

「妾は、ここじゃよ」

「ここにいるぞ、あと目田内藤じゃなくてメタナイトだ。」

 

 

「おいおい、ティオ、メタナイト。こんな場所でミュウから離れるなよ」

「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」

「なるほど。それならしゃあないか……で? その自殺志願者は何処だ?」

「いや、ご主人様よ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」

「……チッ、まぁいいだろう」

「……ホントに子離れ出来るのかの?」

 

唖然とする光輝達の中からゆらりと一人進みでる。顔には笑みが浮かんでいるのに目が全く笑っていない……香織だ。香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった。

 

「ハジメくん! どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!? ユエさん!? シアさん!? それとも、そっちの黒髪の人!? まさか、他にもいるの!? 一体、何人孕ませたの!? 答えて! ハジメくん!」

 

 

「何だあれ? 修羅場?」

「何でも、女がいるのに別の女との間に子供作ってたらしいぜ?」

「一人や二人じゃないってよ」

「五人同時に孕ませたらしいぞ?」

「いや、俺は、ハーレム作って何十人も孕ませたって聞いたけど?」

「でも、妻には隠し通していたんだってよ」

「なるほど……それが今日バレたってことか」

「ハーレムとか……羨ましい」

「漢だな……死ねばいいのに」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 香織が、顔を真っ赤にして雫の胸に顔を埋めている姿は、まさに穴があったら入りたいというものだった。冷静さを取り戻して、自分がありえない事を本気で叫んでいた事に気がつき、羞恥心がマッハだった。「大丈夫だからね~、よしよし」と慰める雫の姿は、完全にお母さん……いや、止めておこう。

 

 

一方でカービィは暇なのでアドレーヌの力を濫用してコピー能力アーティストでおやつ食べ放題てを楽しんでいる。

 

 

そのあとハジメ達が出て行ってしまうというその時、何やら不穏な空気が流れた。それに気がついて顔を上げた香織の目に、十人ほどの男が進路を塞ぐように立ちはだかっているのが見えた。

 

「おいおい、どこ行こうってんだ? 俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか? ア゛ァ゛!?」

 

 

その視線がユエやシアにも向く。舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪そうにハジメの影に体を隠すユエとシアに、やはり怯えていると勘違いして、ユエ達に囲まれているハジメを恫喝し始めた。

 

「ガキィ! わかってんだろ? 死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ! なぁ~に、きっちりわび入れてもらったら返してやるよ!あとそこのピンクボールもよこせ!最近寝心地がわるいんだよ!」

「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな~」

 

 

 何が面白いのか、ギャハハーと笑い出す男達。そのうちの一人がミュウまで性欲の対象と見て怯えさせ、また他の一人が兎人族を人間の性欲処理道具扱いした時点で、彼等の運命は決まった。

 

 

 今更になって、自分達が絶対に手を出してはいけない相手に喧嘩を売ってしまったことに気がつき慌てて謝罪しようとするが、プレッシャーのせいで四つん這い状態にされ、口を開くこともできないので、それも叶わない。

 

 

 ハジメは、少しプレッシャーを緩めて全員を膝立ちさせ一列に整列させると、端から順番に男の象徴を撃ち抜いていくという悪魔的な所業を躊躇いなく実行した。さらに、悲鳴を上げながら、股間を押さえてのたうち回る男達を一人ずつ蹴り飛ばし、絶妙な加減で骨盤も粉砕して広場の隅っこに積み重ねていった。これで、彼等は子供を作れなくなり、おそらく歩くことも出来なくなっただろう。今後も頑張って生きていくかは本人次第である。

 

 

「また、容赦なくやったのぉ~。流石、ご主人様じゃ。女の敵とはいえ、少々同情の念が湧いたぞ?」

「いつになく怒ってましたね~。やっぱり、ミュウちゃんが原因ですか? 過保護に磨きがかかっているような」

「……ん、それもあるけど……シアのことでも怒ってた」

「えっ!? 私のために怒ってくれたんですか? えへへ、ハジメさんったら……有難うございますぅ~」

「……ユエには直ぐに見透かされるな」

「んっ……当然。ハジメのこといつも見てるから」

「ユエ……」

「ハジメ……」

 

香織は気がつく。ハジメが暴力に躊躇いを見せないのは、そして、敵に容赦しないのは、そうすることで大切な誰かを確実に守るため。もちろん、其処には自分の命も含まれているのだろうが、誰かを想う気持ちがあるのは確かだ。それは、ハジメを囲む彼女達の笑顔が証明している。

 

 

 香織は想像した。ハジメは、髪の色を失っている。右目と左腕もない。きっと、想像を絶するような過酷な環境を生き抜いたに違いないと。何度も、心身共に壊れそうになったに違いないと。いや、もしかしたら……一度は壊れてしまったからこそ、変心したのかもしれない。それでも、ハジメは、ああやって笑顔に囲まれる道を歩んでいる。

 

 

 その事実が、香織の心にかかっていた霧を吹き飛ばした。欠けたパズルのピースがはまりカチリと音がなった気がした。自分は何を迷っていたのか。目の前に〝ハジメ〟がいる。心寄せる男の子がいる。〝無能〟と呼ばれながら、奈落の底から這い上がり、多くの力を得て救いに来てくれた人がいる。

 

 

 変わった部分もあれば変わらない部分もある。だがそれは当然のことだ。人は、時間や経験、出会いにより変化していくものなのだから。ならば、何を恐れる必要があるのか。自信を失う必要があるのか。引く必要があるというのか。

 

 知らない部分があるなら、傍にいて知っていけばいいのだ。今まで、あの教室でそうしてきたように。想いの強さで負けるわけがない! ハジメを囲むあの輪に加わって何が悪い! もう、自分の想いを哂わせてなるものか!

 

 香織の瞳に決意と覚悟が宿る。傍らの雫が、親友の変化に頬を緩める。そして、そっと背を押した。香織は、今まで以上に瞳に〝強さ〟を宿し、雫に感謝を込めて頷くと、もう一つの戦場へと足を踏み出した。そう、女の戦いだ!

 

 

自分達のところへ歩み寄ってくる香織に気がつくハジメ達。ハジメは、見送りかと思ったが、隣のユエは、「むっ?」と警戒心をあらわにして眉をピクリと動かした。シアも「あらら?」と興味深げに香織を見やり、ティオも「ほほぅ、修羅場じゃのぉ~」とほざいている。どうやら、ただの見送りではないらしいと、ハジメは、嫌な予感に眉をしかめながら香織を迎えた。

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

「………………は?」

 

「……お前にそんな資格はない」

「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと? だったら、誰にも負けないよ?」

 

 ユエの言葉に、そう平然と返した香織。ユエが、さらに「むむっ」と口をへの字に曲げる。

 

 

 

 

「貴方が好きです」

「……白崎」

 

「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

 

「……うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」

「ああ、だから……」

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

「なに?」

「だって、シアさんも、少し微妙だけどティオさんもハジメくんのこと好きだよね? 特に、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」

「……それは……」

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」

 

香織の強い意志が見える。それは、紛れもない宣戦布告。たった一つの、〝特別の座〟を奪って見せるという決意表明だ。

 

 香織の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。

 

「……なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」

「お前じゃなくて、香織だよ」

「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」

「……ふ、ふふふふふ」

「あは、あははははは」

 

ハジメは遠い目をする。笑い合うユエと香織を見て、シアとミュウが傍らで抱き合いながらガクブルしていた。

 

「ハ、ハジメさん! 私の目、おかしくなったのでしょうか? ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」

「……正常だろ? 俺も、白崎の背後には刀構えた般若が見えるしな」

「パパぁ~! 目田内藤さん〜!お姉ちゃん達こわいのぉ」

「ハァハァ、二人共、中々……あの目を向けられたら……んっ、たまらん」

 

 

 だが、そんな香織の意志に異議を唱える者が……もちろん、〝勇者〟天之河光輝だ。

 

「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が南雲を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 南雲! お前、いったい香織に何をしたんだ!」

「……何でやねん」

どうやら、光輝は、香織がハジメに惚れているという現実を認めないらしい。いきなりではなく、単に光輝が気がついていなかっただけなのだが、光輝の目には、突然、香織が奇行に走り、その原因はハジメにあるという風に見えたようだ。本当に、どこまでご都合主義な頭をしているのだと思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。

 

完全に、ハジメが香織に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってくる光輝に、雫が頭痛を堪えるような仕草をしながら光輝を諌めにかかった。

 

「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

 

 

 光輝と雫の会話を聞きながら、事実だが面と向かって言われると意外に腹が立つと頬をピクピクさせるハジメ。

 

 そこへ、光輝達の騒動に気がついた香織が自らケジメを付けるべく光輝とその後ろのクラスメイト達に語りかけた。

 

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

 そう言って深々と頭を下げる香織に、鈴や恵里、綾子や真央など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った。

 

 しかし、当然、光輝は香織の言葉に納得出来ない。

 

「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」

「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」

「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

 

 

「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

もはや光輝にカービィすら口を出しづらくなっている。

 

 

光輝の余りに突飛な物言いに、香織達が唖然とする。しかし、ヒートアップしている光輝はもう止まらない。説得のために向けられていた香織への視線は、何を思ったのかハジメの傍らのユエ達に転じられる。

 

「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 

 そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝。雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、香織は開いた口が塞がらない。

 

 そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと……

 

 「「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」

 

カービィが代表して歩み出た。

 

 

光輝「カービィ!わかってくれたか?」

 

「いや、そうじゃないんだ。」

 

光輝「?」

 

「ボクたちは脅されたから仲間になっているんじゃない。自分のいしで仲間になってるんだよ!それにハジメが悪い人だったらとっくにボクたちがハジメを倒してるよ。」

 

 もう、言葉もなかった。光輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。よく見れば、ユエ達の素肌に鳥肌が立っていた。ある意味、結構なダメージだったらしい。ティオでさえ、「これはちょっと違うのじゃ……」と、眉を八の字にして寒そうにしている。

 

 そんなユエ達の様子に、手を差し出したまま笑顔が引き攣る光輝。視線を合わせてもらえないどころか、気持ち悪そうにハジメの影にそそくさと退避する姿に、若干のショックを受ける。

 

 

そして、そのショックは怒りへと転化され行動で示された。無謀にもハジメを睨みながら聖剣を引き抜いたのだ。光輝は、もう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てるとハジメに向けてビシッと指を差し宣言した。

 

「南雲ハジメ! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

「……イタタタ、やべぇよ。勇者が予想以上にイタイ。何かもう見てられないんだけど」

何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」

 

 

ハジメの返事も聞かず、猛然と駆け出す光輝。ハジメは、溜息を吐きながら二歩、三歩と後退りした。それを見て、武器を使わない戦いに怖気づいたと考えた光輝は、より一層、力強く踏み込んだ。あと数歩で拳が届くという段階でも、ハジメは両手をだらんと下げたまま特に反応もしない。光輝は、ハジメが反応しきれていないのだと思い、勝利を確信した。

 

 その瞬間、

 

ズボッ!

 

「ッ!?」

 

 光輝の姿が消えた。

 

 正確には、拳に力を乗せるため最後の一歩に最大限の力を込めて踏み込んだ瞬間、落ちたのだ。落とし穴に。ハジメは、最初に二、三歩下がった時に、靴に仕込まれた魔法陣を使って錬成を行い地面の下に深さ四メートル程の穴を作って置いたのだ。

 

 

「あ~、八重樫。一応、生きてるから後で掘り出してやってくれ」

「……言いたいことは山ほどあるのだけど……了解したわ」

 

 光輝に関する面倒事は八重樫雫に! という日本にいた時からの暗黙の了解のまま、雫に面倒事を押し付けるハジメに、手で目元を覆いながら溜息をつく雫。ようやく、邪魔者はいなくなった。

 

 雫達が、檜山達を諌めようと再び争論になりそうな段階で、ハジメは、せっかくなので、あの日の真実の確認と現状の解決のために檜山に話しかけてみることにした。口元に皮肉気な笑みを浮かべながら。

 

「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」

「……え?」

 

 突然、投げかけられた質問に檜山がポカンとする。しかし、質問の意図に気がついたのか徐々に顔色を青ざめさせていった。

 

「な、なに言ってんだ。俺は前衛だし……一番適性あるのは風属性だ」

「へぇ、てっきり火属性だと思っていたよ」

「か、勘違いだろ? いきなり、何言い出して……」

「じゃあ、好きなんだな。特に火球とか。思わず使っちゃうくらいになぁ?」

「……」

 

 今や、檜山の顔色は青を通り越して白へと変化していた。その反応を見て、ハジメは確信する。そして、出ていこうとする香織への焦った態度から見て、その動機も察する。よく、今まで襲われなかったものだと、ハジメは香織をチラリと見やった。

 

 

 ハジメは、黙り込んだ檜山から離れると近藤達も含めて容赦なく告げた。

 

 「お前等の謝罪なんざいらないし、過去の事を気にしてもいない。俺にとって、お前らは等しく価値がない。だから、何を言われようと俺の知ったことじゃない。わかったらさっさと散れ! 鬱陶しい!」

 

 

 

「何というか……いろいろごめんなさい。それと、改めて礼をいうわ。ありがとう。助けてくれたことも、生きて香織に会いに来てくれたことも……」

 

 迷惑をかけた事への謝罪と救出や香織の事でお礼を言う雫に、ハジメは、思わず失笑した。突然、吹き出したハジメに訝しそうな表情をする雫。視線で「一体なに?」と問いかけている。

 

「いや、すまん。何つーか、相変わらずの苦労人なんだと思ったら、ついな。日本にいた時も、こっそり謝罪と礼を言いに来たもんな。異世界でも相変わらずか……ほどほどにしないと眉間の皺が取れなくなるぞ?」

「……大きなお世話よ。そっちは随分と変わったわね。あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで……日本にいた頃のあなたからは想像出来ないわ……」

「惚れているのは一人だけなんだがなぁ……」

「……私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど……出来るだけ香織のことも見てあげて。お願いよ」

「……」

 

 

 

「……ちゃんと見てくれないと……大変な事になるわよ」

「? 大変なこと? なんだそ……」

「〝白髪眼帯の処刑人〟なんてどうかしら?」

「……なに?」

「それとも、〝破壊巡回〟と書いて〝アウトブレイク〟と読む、なんてどう?」

「ちょっと待て、お前、一体何を……」

「他にも〝漆黒の暴虐〟とか〝紅き雷の錬成師〟なんてのもあるわよ?」

「お、おま、お前、まさか……」

 

 突然、わけのわからない名称を列挙し始めた雫に、最初は訝しそうな表情をしていたハジメだったが、雫がハジメの頭から足先まで面白そうに眺めていることに気がつくと、その意図を悟りサッと顔を青ざめさせた。

 

「ふふふ、今の私は〝神の使徒〟で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら……随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」

「まて、ちょっと、まて! なぜ、お前がそんなダメージの与え方を知っている!?」

「香織の勉強に付き合っていたからよ。あの子、南雲君と話したくて、話題にでた漫画とかアニメ見てオタク文化の勉強をしていたのよ。私も、それに度々付き合ってたから……知識だけなら相応に身につけてしまったわ。確か、今の南雲君みたいな人を〝ちゅうに……〟」

「やめろぉー! やめてくれぇ!」

「あ、あら、想像以上に効果てきめん……自覚があるのね」

「こ、この悪魔めぇ……」

 

既に、生まれたての小鹿のようにガクブルしながら膝を突いているハジメ。蘇るのはリアル中学生時代の黒歴史。記憶の奥深くに封印したそれが、「呼んだ?」と顔をひょっこり覗かせる。

 

「ふふ、じゃあ、香織のことお願いね?」

「……」

「ふぅ、破滅挽歌(ショットガンカオス)、復活災厄(リバースカラミティ)……」

「わかった! わかったから、そんなイタすぎる二つ名を付けないでくれ」

「香織のことお願いね?」

「……少なくとも、邪険にはしないと約束する」

「ええ、それでも十分よ。これ以上、追い詰めると発狂しそうだし……約束破ったら、この世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出すから覚悟してね?」

「おまえ、ホントはラスボスだろ? そうなんだろ?」

 

 

羞恥心に大打撃をくらい発狂寸前となって頭を抱えるハジメ。そんなハジメを少し離れたところから見ていたユエ達や他のクラスメイト達は、圧倒的強者であるハジメを言葉だけで跪かせた雫に戦慄の表情を浮かべた。

 

 

 雫の事が気になって詳細を聞きに来たユエと香織が情報を交換する。ユエは、どうにも気心知れたやり取りをした挙句、言葉責めでハジメを下した雫に「むぅ~」と唸り、香織は、そう言えば、二人でこっそり話している事がよくあったような……とハジメと雫の二人を交互に見やる。そして二人は結論を出した。もしかして、女の戦いでもラスボス? と。

 

 

 

 雫と香織が、お互いに手を取り合いしばしのお別れを惜しんでいると、ハジメが、〝宝物庫〟から黒塗りの鞘に入った剣を取り出し雫に手渡した。

 

「これは?」

「八重樫、得物失ってたろ? やるよ。唯でさえ苦労人なのに、白崎が抜けたら〝癒し(精神的な)〟もなくなるしな。まぁ、日本にいたとき色々世話になった礼だ」

 

 雫が、ハジメに手渡された剣を受け取り鞘からゆっくり抜刀すると、まるで光を吸収するような漆黒の刀身が現れた。刃紋はなく、僅かな反りが入っており、先端から少しの間は両刃になっている。いわゆる小烏丸造りと呼ばれる刀に酷似していた。ハジメは日本刀自体には詳しくないが、ハウリアに渡した小太刀と同様に錬成の鍛錬の過程で造り出したものだ。

 

「世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは折り紙付きだし、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは……八重樫にいうことじゃないだろうが、気を付けてくれ」

「……こんなすごいもの……流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」

「……ラスボス?」

「……雫ちゃん」

「えっ? なに? 二人共、どうしてそんな目で見るのよ?」

 

 ユエの警戒心たっぷりの眼差しと、香織の困ったような眼差しに、意味が分からず狼狽する雫。最後に何とも言えない空気を残して、雫達が見送る中、ハジメ達はホルアドの町を後にした。

 

 天気は快晴。目指すは【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】。新たな仲間を加え賑やかさを増しながら、ハジメの旅は続く。

 

 




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第4章
グリューエン大砂漠


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赤銅色の世界。

 

 【グリューエン大砂漠】は、まさにそう表現する以外にない場所だった。砂の色が赤銅色なのはもちろんだが、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度、見渡す限り一色となっているのだ。

 

 また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が〝生きている〟と表現したくなる程だ。照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、四十度は軽く超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。

 

 もっとも、それは〝普通の〟旅人の場合である。

 

 

「……外、すごいですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが……流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

 

いまカービィはロボボアーマーを運転しているのだが、スージーに強化してもらった。

モードはアイスホイールモードだ。

 

 

「前に来たときとぜんぜん違うの! とっても涼しいし、目も痛くないの! カービィはすごいの!」

 

 

「なぁ、しらさ……香織。ハジメパパって言うのは止めてくれよ。何か、物凄くむず痒いんだ」

「? でも、ミュウちゃんには普通に呼ばれてるよね?」

「いや、ミュウはもういいんだ。ただ、同級生からパパと呼ばれるのは流石に抵抗が……」

 

 ちなみに、ハジメが香織を名前呼びしているのは、香織に懇願された結果だ。曰く、皆名前なのに、私だけ苗字とかズルイ! と。

 

「そう? なら呼ばないけど……でも、私もいつか子供が出来たら……その時は……」

 

 ハジメをチラチラと見ながら頬を真っ赤に染めてそんな事を言う香織。車内に、ミュウを除いて妙な雰囲気が漂う。ハジメが聞こえないふりをする中、香織に答えたのはユエだった。

 

「……残念。先約は私。約束済み」

「!? ……ハジメくん、どういうこと?」

「……別におかしな話でもないだろう。まだまだ遠い将来の話だし」

「……ふふ、ご両親への紹介も約束済み」

「!?」

「……明るい家族計画は万全」

「!?」

「……ハジメと故郷デートも」

「!?」

 

 ユエの猛攻が止まらない! 香織の胸に、次々と言葉の杭が打たれていく。だが、香織とて、ここのままやられっぱなしの女ではない。絶望的な状況でもハジメの生存を信じぬき、明らかに特別な絆をもつユエに向かって正面から挑んだ胆力を持っているのだ。ユエの言葉が途切れた一瞬の隙をついて反撃に転じる!

 

「わ、私は、ユエの知らないハジメくんを沢山知ってるよ! 例えば、ハジメくんの将来の夢とか趣味とか、その中でも特に好きなジャンルとか! ユエは、ハジメくんが好きなアニメとか漫画とか知ってる?」

「むっ……それは……でも、今は、関係ない。ここには、そういうのはない。日本に行ってから教えてもらえば……」

「甘いよ。今のハジメくんを見て。どう見てもアニメキャラでしょ?」

「グフッ!?」

 

 香織とユエの戦いのはずが、何故かハジメにダメージが入る。

 

「白髪に眼帯、しかも魔眼……確か、ハジメくんが好きなキャラにもいたはず……武器だって、あのクロスビット? はファ○ネルがモデルだろうし……あっ、でもハジメくんはダブ○オーも好きだったから、GNビッ○かな? どっちしろ、今のハジメくんも十分にオタクなんだよ」

「ガハッ!? か、香織……」

「む、むぅ……ハジメの武器がそこから来ていたなんて」

「好きな人の好きなものを知らないで勝ち誇れる?」

「……香織……いい度胸……なら私も教えて上げる。ハジメの好きなこと……ベッドの上での」

「!? ……な、な、なっ、ベッドの上って、うぅ~、やっぱりもう……」

「ふふふ……私との差を痛感するがいい」

 

道中、ことあるごとに火花を散らすユエと香織に、他のメンバーは既にスルー気味だ。

もちろんカービィが運転手なのでカービィは当然の如くスルーする。

 

 

「……う~、ユエお姉ちゃんも香織お姉ちゃんもケンカばっかり! なかよしじゃないお姉ちゃん達なんてきらい!」

 

 そう言って、ミュウは香織の膝から移動すると、後部座席に座るシアの膝に座り込んでプイッと顔を背けてしまった。途端に、オロオロしだすユエと香織。流石に、四歳の幼女から面と向かって嫌いと言われるのは堪えるらしい。

 

「もうっ、お二人共、ミュウちゃんの前でみっともないですよ。というか、教育に悪いです。ハジメさんの事で熱が入るのは私も分かりますけど、もう少し自重して下さい」

「! ……不覚。シアに注意されるなんて……」

「ご、ごめんなさい。ミュウちゃん、シア」

 

 シアから注意されるというまさかの事態に、肩を落とす二人。

 

 

「ん? なんじゃ、あれは? ご主人様よ。三時方向で何やら騒ぎじゃ」

 

 

「まるで、食うべきか食わざるべきか迷っているようじゃのう?」

「まぁ、そう見えるな。そんな事あんのか?」

「妾の知識にはないのじゃ。奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが……」

 

「っ!? つかまって!モードチェンジ!ジェットモード!」

 

 

ロボボアーマーはなんと空を飛び回避した。

 

カービィたちが飛んでいると

「ハジメくん! あれ!」

「……白い人?」

 

 

「お願い、ハジメくん。あの場所に……私は〝治癒師〟だから」

 

 

「! ……これって……」

 

 フードを取りあらわになった男の顔は、まだ若い二十歳半ばくらいの青年だった。だが、香織が驚いたのは、そこではなく、その青年の状態だった。苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早い。服越しでもわかるほど全身から高熱を発している。しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかのように血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もしている。明らかに尋常な様子ではない。ただの日射病や風邪というわけではなさそうだ。

 

 ハジメは、まるでウイルス感染者のような青年の傍にいる事に危機感を覚えたが、治癒の専門家が診察しているので大人しく様子を見ることにした。香織は〝浸透看破〟を行使する。これは、魔力を相手に浸透させることで対象の状態を診察し、その結果を自らのステータスプレートに表示する技能である。

 

 香織は、片手を青年の胸に置き、もう片手に自分のステータスプレートを持って診察用の魔法を行使した。その結果……

 

「……魔力暴走? 摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」

「香織? 何がわかったんだ?」

「う、うん。これなんだけど……」

 

 そう言って香織が見せたステータスプレートにはこう表示されていた

 

====================================

状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

原因:体内の水分に異常あり 

====================================

 

 

「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい……しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。天恵よ ここに回帰を求める 〝万天〟」

 

 香織はそう結論を下し、回復魔法を唱えた。使ったのは〝万天〟。中級回復魔法の一つで、効果は状態異常の解除だ。鈴達にかけられた石化を解いた術である。

 

 しかし……

 

「……ほとんど効果がない……どうして? 浄化しきれないなんて……それほど溶け込んでいるということ?」

 

カービィ「だったらこれ!コピー能力アーティスト!」

カービィはマキシムトマトを描いて青年にあげた。

 

 

 

 徐々に、青年の呼吸が安定してきた。体の赤みも薄まり、出血も収まってきたようだ。香織は、〝廻聖〟の行使をやめると初級回復魔法〝天恵〟を発動し、青年の傷ついた血管を癒していった。

 

「取り敢えず……今すぐ、どうこうなることはないと思うけど、根本的な解決は何も出来てない。魔力を抜きすぎると、今度は衰弱死してしまうかもしれないから、圧迫を減らす程度にしか抜き取っていないの。このままだと、また魔力暴走の影響で内から圧迫されるか、肉体的疲労でもそのまま衰弱死する……可能性が高いと思う。勉強した中では、こんな症状に覚えはないの……ユエとティオは何か知らないかな?」

 

「香織、念のため俺達も診察しておいてくれ。未知の病だというなら空気感染の可能性もあるだろ。まぁ、魔力暴走ならミュウの心配は無用だが」

「うん、そうだね」

 

 

 ハジメの言葉に頷いて、香織が全員を調べたが特に異常は見当たらなかった。その為、おそらく呼吸するだけで周囲の者にも感染するということはないようだと、ハジメ達は胸を撫で下ろした。

 

 そうこうしていると、青年が呻き声を上げ、そのまぶたがふるふると震えだした。お目覚めのようだ。ゆっくりと目を開けて周囲を見わたす青年は、心配そうに自分を間近で見つめる香織を見て「女神? そうか、ここはあの世か……」などとほざきだした。

 

 そして、今度は違う理由で体を熱くし始めたので、いい加減、暑さと砂のウザさにうんざりしていたハジメは、イラッとした表情を隠しもせずに、香織に手を伸ばそうとしている青年の腹を踏みつけた。

 

「おふっ!?」

「ハ、ハジメくん!?」

 

 

体をくの字に曲げて呻き声を上げる青年と驚いたように声を上げる香織を尻目に、ハジメは、青年に何があったのか事情を聞く。

 

 青年の着ているガラベーヤ風の衣服や外套は、【グリューエン大砂漠】最大のオアシスである【アンカジ公国】の特徴的な服装だったとハジメは記憶している。〝無能〟と呼ばれていたとき、現実逃避気味に調べたのだ。青年が、アンカジで何かに感染でもしたのだというなら、これから向かうはずだった場所が危険地帯に変わってしまう。是非とも、その辺のことを聞いておきたかった。

 

 ハジメの踏み付けで正気を取り戻した青年は、自分を取り囲むハジメ達と背後の見たこともない黒い物体に目を白黒させて混乱していたが、香織から大雑把な事情を聞くと、ハジメ達が命の恩人であると理解し、頭を下げて礼を言うと共に事情を話し始めた。

 

 その話を聞きながら、ハジメは、どこに行ってもトラブルが付き纏うことに、よもや神のいたずらじゃあないだろうな? と若干疑わしそうに赤銅色の空を仰ぎ見るのだった。

 

 

 

 

 




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Mと書いてある怪しいトマト

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 青年は、ロボボアーマーアイスホイールモードを馬車のようなものだと無理やり納得したものの、車内の快適さに違う意味で目眩を覚えていた。しかし、自分が使命を果たせず道半ばで倒れたことを思い出し、こんなところでのんびりしている場合ではないと気を取り直す。そして、自分を助けてくれたハジメ達と互いに自己紹介をした。

 

 

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

 驚いたことに、ビィズと名乗った青年はとんだ大物だったらしい。単なる名目だけの貴族ではなく、ハイリヒ王国の中でも信頼の厚い屈指の大貴族である。

ハジメは、少し威圧しながら、事情説明を促すと、ビィズは冷や汗を流しながら咳払いしつつ語りだした。

ビィズ曰く、こういうことらしい。

 

四日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。

症状を訴える人が二万人に上ったという。

直ぐに医療院は飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが、香織と同じく進行を遅らせることは何とか出来ても完治させる事は出来なかった。

進行を遅らせるための魔法の使い手も圧倒的に数が足りず、なんの手立ても打てずに混乱する中で、遂に、処置を受けられなかった人々の中から死者が出始めた。

発症してから僅か二日で死亡するという事実に絶望が立ち込める。

そんな中、一人の薬師が、ひょんなことから飲み水に〝液体鑑定〟をかけた。その結果、その水には魔力の暴走を促す毒素が含まれていることがわかったのだ。直ちに調査チームが組まれ、最悪の事態を想定しながらアンカジのオアシスが調べられたのだが、案の定、オアシスそのものが汚染されていた。

当然、アンカジのような砂漠のど真ん中にある国において、オアシスは生命線であるから、その警備、維持、管理は厳重に厳重を重ねてある。

アンカジの警備を抜いて、オアシスに毒素を流し込むなど不可能に近いと言っても過言ではないほどに、あらゆる対策が施されているのだ。

ただ、全く方法がないというわけではない。

一つ、患者達を救える方法が存在している。

それは、〝静因石〟と呼ばれる鉱石を必要とする方法だ。

この〝静因石〟は、魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石で、砂漠のずっと北方にある岩石地帯か【グリューエン大火山】で少量採取できる貴重な鉱石だ。

魔法の研究に従事する者が、魔力調整や暴走の予防に求めることが多い。

この〝静因石〟を粉末状にしたものを服用すれば体内の魔力を鎮めることが出来るだろうというわけだ。

しかし、北方の岩石地帯は遠すぎて往復に少なくとも一ヶ月以上はかかってしまう。また、アンカジの冒険者、特に【グリューエン大火山】の迷宮に入って〝静因石〟を採取し戻ってこられる程の者は既に病に倒れてしまっている。

生半可な冒険者では、【グリューエン大火山】を包み込む砂嵐すら突破できないのだ。それに、仮にそれだけの実力者がいても、どちらにしろ安全な水のストックが圧倒的に足りない以上、王国への救援要請は必要だった。

なので、強権を発動出来るゼンゲン公か、その代理たるビィズが直接救援要請をする必要があった。

 

「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

 

力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつけるビィズ。アンカジ公国の次期領主は、責任感の強い民思いな人物らしい。護衛をしていた者達も、サンドワームに襲われ全滅したというから、そのことも相まって悔しくてならないのだろう。

 

 

「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

カービィ「うん!わかった力を貸すよ!」

ハジメ「おいカービィ、なに勝手に……」

「パパー。たすけてあげないの?」

 

 そんなことを物凄く純真な眼差しで言ってくる。

ハジメなら、何だって出来ると無条件に信じているようだ。

ミュウにとって、ハジメは、紛れもなくヒーローなのだろう。そんなミュウとどこか期待するような香織の眼差しに、ハジメは「しょうがねぇな」と苦笑い気味に肩を竦めた。

 

 シアとティオは、そんなハジメに「ふふ」と笑みをこぼしている。ハジメが、ふと傍らのユエを見ると、彼女は……いつも通りだ。メタナイトはカービィの行動に「違う世界に来ても変わらないな」と思っていた。

ハジメが、どんな選択をしても己の全てで力になる。言葉にしなくてもユエの気持ちはっきり伝わった。ハジメは、そっとユエの頬をひと撫ですると、ビィズに向かって了承の意を伝えた。

 

もともと、【グリューエン大火山】には行く予定であったし、その際、ミュウはアンカジに預けていこうと考えていた。いくら何でも、四歳の幼子を大迷宮に連れて行くのは妥当ではない。なので、大迷宮攻略ついでに〝静因石〟を確保することは全くもって問題なかったし、ミュウは亜人族の子であるから魔力暴走という今回の病因は関わりがないので危険もない。どちらにしろ、ハジメの道程の中で処理できる問題だった。

 

 

 

「ハジメ殿が〝金〟クラスなら、このまま大火山から〝静因石〟を採取してきてもらいたいのだが、水の確保のために王都へ行く必要もある。この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

「まぁ、香織とミュウ以外は扱えるが……わざわざ王都まで行く必要はない。水の確保はどうにか出来るだろうから、一先ずアンカジに向かいたいんだが?」

「どうにか出来る? それはどういうことだ?」

 

 

 砂漠地帯を滑るように高速で走り出す四輪とロボボアーマーに再び驚きながら、さらには上空を飛んでいるローアに気付き口が開いたままだ。さらにはビィズは、なぜ〝神の使徒〟たる香織が単独で冒険者達と一緒にいるのか、なぜ海人族の幼子が人間族のハジメをパパと呼ぶのか、兎人族と和気あいあいとしているのか、なぜ黒髪の妙齢の女性は罵られて気持ち悪い笑みを浮かべているのかなど疑問に思いつつも、見えてきた希望に胸の内を熱くするのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「父上!」

「ビィズ! お前、どうしっ……いや、待て、それは何だ!?」

 

 ビィズの顔パスで宮殿内に入ったハジメ達は、そのまま領主ランズィの執務室へと通された。衰弱が激しいと聞いていたのだが、どうやら治癒魔法と回復薬を多用して根性で執務に乗り出していたらしい。

 

 

 そんなランズィは、一日前に救援要請を出しに王都へ向かったはずの息子が帰ってきたことに驚きをあらわにしつつ、その息子の有様を見て、ここに来るまでの間に宮殿内で働く者達が見せたのと全く同じ様に目を剥いた。

 

 無理もない。なにせ、現在ビィズは、宙に浮いているのだから。

 

 

正確には、宙に浮くクロスビットの上にうつ伏せに倒れる感じで乗っかりつつ運ばれているのである。ビィズも衰弱が激しく、香織の魔法で何とか持ち直し意識ははっきりしているものの、自力で歩行するには少々心許ない有様だった。見かねた香織が肩を貸そうとしたところ、ビィズが顔を赤くして「ああ、使徒様自ら私を…」等といって潤んだ瞳で香織を見つめ始めたので、ハジメが、クロスビットを突貫させて無理やり乗せると、そのまま運んで来たのである。

 

 

ちなみに、別にハジメが嫉妬したとかそういう事情はない。そうなのかと香織が頬を赤くしてハジメをチラチラ見ていたりしたが、単純に第二、第三の光輝や檜山を作りたくなかっただけである。

 

 

クロスビットにしがみつきながらという微妙に情けない姿でありながらも、事情説明を手早く済ませるビィズ。話はトントン拍子に進み、執事らしき人が持ってきた静因石の粉末を服用して完治させたビィズに香織が回復魔法を掛けると、全快とまでは行かずとも行動を起こすに支障がない程度には治ったようだ。

 

ちなみにカービィがマキシムトマトをあげようとしたが、Mと書いてある怪しいトマトなので計画して食べなかった。

 

 なお、完治といっても、体内の水分に溶け込んだ毒素がなくなったわけではなく、単に、静因石により効果を発揮できなくなったというだけである。体内の水分に溶け込んでいる以上、時間と共に排出される可能性はあるので、今のところ様子見をするしかない。

 

 

「じゃあ、動くか。香織とカービィはシアを連れて医療院と患者が収容されている施設へ。魔晶石も持っていけ。残りの俺たちは、水の確保だ。領主、最低でも二百メートル四方の開けた場所はあるか?」

「む? うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが……」

「なら、香織とカービィとシア以外は、そっちだな。シアは、魔晶石がたまったらユエに持って来てやってくれ」

 

 

ハジメがメンバーに指示を出す。ハジメ達のやることは簡単だ。香織が、ビィズにやったのと同じように、〝廻聖〟を使って、患者たちから魔力を少しずつ抜きつつ、〝万天〟で病の進行を遅らせて応急処置をする。取り出した魔力は魔晶石にストックし、貯まったらそれをユエに渡して水を作る魔力の足しにする。

 

 

ハジメは、貯水池を作るユエに協力したあと、そのままオアシスに向かい、一応、原因の調査をする。分かれば解決してもいいし、分からなければローアでメンバー補充をしてからそのまま【グリューエン大火山】に向かう。そういうプランだ。

 

 ハジメの号令に、全員が元気よく頷いた。

 

 

 

 

 




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オアシスに潜むもの

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現在、領主のランズィと護衛や付き人多数、そしてハジメたちはアンカジ北部にある農業地帯の一角に来ていた。二百メートル四方どころかその三倍はありそうな平地が広がっている。普段は、とある作物を育てている場所らしいのだが、時期的なものから今は休耕地になっているそうだ。

 

 

未だ、半信半疑のランズィは、この非常時に謀ったと分かれば即座に死刑にしてやると言わんばかりの眼光でハジメ達を睨んでいた。藁をも掴む思いで水という生命線の確保を任せたが、常識的に考えて不可能な話なので、ランズィの眼差しも仕方のないものだ。

 

 もっとも、その疑いを孕んだ眼差しは、ユエが魔法を行使した瞬間驚愕一色に染まった。

 

「〝壊劫〟」

 

 

前方の農地に頭上に向けて真っ直ぐにつき出された右手の先に、黒く渦巻く球体が出現する。その球体は、農地の上で形を変え、薄く四角く引き伸ばされていき、遂に二百メートル四方の薄い膜となった。そして、一瞬の停滞のあと、音も立てずに地面へと落下し、そのまま何事もなかったかのように大地を押しつぶした。

 

 

 ハジメがチラリとランズィ達を見ると、お付の人々も含めて全員が、顎が外れないか心配になるほどカクンと口を開けて、目も飛び出さんばかりに見開いていた。衝撃が強すぎて声が出ていないようだが、全員が内心で「なにぃーー!?」と叫んでいるのは明白だ。

 

 

神代魔法を半分程の出力で放ったユエは、「ふぅ」と息を吐く。魔力枯渇というほどではないが、一気に大量に消費したことに変わりはなく僅かだが倦怠感を感じたのだ。ウルでの戦争時のように魔晶石からストックしてある魔力を取り出してもいいのだが、この後、【グリューエン大火山】に挑むことを考えれば、出来るだけ魔晶石の魔力は温存しておきたい。一応カービィからマキシムトマトを貰っておいた。以前カービィにこっそり夜に頼んでマキシムトマトを貰ったが体力だけでなく魔力まで全回復することがわかった。また、戦争時と違い時間はあるので、ハジメはもう一つの魔力補給方法を実行する。

 

 

フラリと背後に体を倒れさせるユエだったが、体を支えようともがく仕草は見せない。自分からしたことであるし、そんな事をしなくても倒れないことはわかりきっているからだ。案の定、ポスンと音を立てて、ユエの体はハジメの腕の中に収まった。

 

 ハジメは、ユエを背後から少しだけギュッと抱きしめると、そのまま抱き上げて、今度は正面から抱きしめた。ユエも、嬉しそうに頬を緩め、ハジメの首に腕を回すと抱きしめ返す。

 

 そして、

 

「……いただきます」

 

 そのままハジメの首筋に噛み付いた。

 

カプッ! チュ~、

 

 ハジメの体から血が流れ出していく。ユエは、うっとりと瞳を潤ませながら、何度も何度もハジメの首筋に舌を這わせた。普段から、その見た目に反してどこか色気を漂わせているユエであったが、ハジメから吸血するとそれが顕著になる。体全体からフェロモンでも放出しているのではないかと思うほど、妖艶な雰囲気になるのだ。

 

 ハジメから血をもらい〝血力変換〟により魔力に変換したユエは、そっと、ハジメの首筋から体を離すと、一度舌舐りし、今度はハジメの唇にキスをした。熱を孕んだ瞳で見つめ合うハジメとユエに、ゴホンッ! と咳払いが届く。領主ランズィと前屈みのお供達だ。ハジメとユエは、しまったという苦笑いをすると……向きを変えて再度キスをしだした。

 

「いやいやいや、やるなら見えないようにやれということではなくてだな……今のは何だとか、血を吸うってどういう事だとか色々あるが、取り敢えず今やるべきことをやって欲しいという意味でだな……というか分かるだろ!?」

 

 

 領主のツッコミに仕方ないと肩を竦めたハジメとユエは、その仕草にイラっときているランズィ達を尻目に仕事に取り掛かった。

 

 ハジメは、貯水池に降りると、四輪を〝宝物庫〟から取り出し走り出す。四輪についている整地機能で土中の鉱物を〝鉱物分離〟で取り出し、水が吸収されないように貯水池の表面を金属コーティングしているのだ。そして、コーティングを終えて戻ってくると、今度はユエが腕を突き出し、即席の貯水池に水系魔法を行使した。

 

「〝虚波〟」

 

 水系上級魔法の一つで、大波を作り出して相手にぶつける魔法だ。普通の術師では、大波と言っても、せいぜい十から二十メートル四方の津波が発生する程度だが、ユエが行使すると桁が変わる。横幅百五十メートル高さ百メートルの津波が虚空に発生し、一気に貯水池へと流れ込んだ。この貯水池に貯められる水の総量は約二十万トン。途中、何度かハジメから吸血をし、魔力を補給して半分ほど溜め込んだ。だが、ハジメの血量にも限界はある。

 

流石にこれ以上、血を吸われては貧血になるという辺りで、現場にシアが飛び込んで来た。手には、香織から預かった魔晶石がある。少量ずつとは言え、数千人規模の患者からドレインした魔力だ。それとマキシムトマトも渡された。魔晶石には相当な量が蓄えられている。香織やカービィが、医療院や施設に趣いてからまだ、二時間も経っていない。その短時間で、それだけの人間に処置を施したという点では、確かに、香織も十分にチートである。

 

シアが、再び、香織とカービィの手伝いに戻ったと同時に、ユエは〝虚波〟の連発を再開する。ほどなくして、二百メートル四方の貯水池は、汚染されていない新鮮な水でなみなみと満たされた。

 

「……こんなことが……」

 

 ランズィは、あり得べからざる事態に呆然としながら眼前で太陽の光を反射してオアシスと同じように光り輝く池を見つめた。言葉もないようだ。

 

「取り敢えず、これで当分は保つだろう。あとは、オアシスを調べてみて……何も分からなければ、稼いだ時間で水については救援要請すればいい」

「あ、ああ。いや、聞きたい事は色々あるが……ありがとう。心から感謝する。これで、我が国民を干上がらせずに済む。オアシスの方も私が案内しよう」

 

 ランズィはまだ衝撃から立ち直りきれずにいるようだが、それでもすべきことは弁えている様で、ハジメ達への態度をガラリと変えると誠意を込めて礼をした。

 

 ハジメ達は、そのままオアシスへと移動する。

 

 ハジメが、眉をしかめてオアシスの一点を凝視する。様子の変化に気がついたユエがハジメに首を傾げて疑問顔を見せた。

 

「いや、何か、今、魔眼石に反応があったような……領主。調査チームってのはどの程度調べたんだ?」

「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」

「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるのか?」

「? いや。オアシスの警備と管理に、とあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある……結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」

 

 

「……へぇ。じゃあ、あれは何なんだろうな」

 

 アンカジ公国自慢のオアシスを汚され、悔しそうに拳を握り締める姿は、なるほど、ビィズの父親というだけあってそっくりである。そんなランズィを尻目に、ハジメは、口元を歪めて笑った。ハジメの魔眼石には、魔力を発する〝何か〟がオアシスの中央付近の底に確かに見えていたのだ。

 

 あるはずのないものがあると言われランズィ達が動揺する。ハジメは、オアシスのすぐ近くまで来ると〝宝物庫〟から五百ミリリットルのペットボトルのような形の金属塊を取り出し直接魔力を注ぎ込んだ。そして、それを無造作にオアシスへと投げ込んだ。

 

 凄まじい爆発音と共にオアシスの中央で巨大な水柱が噴き上がった。再び顎がカクンと落ちて目を剥くランズィ達。

 

「ちっ、意外にすばしっこい……いや、防御力が高いのか?」

 

 ハジメはそんなことを言いながら、今度は十個くらい同じものを取り出しポイポイとオアシスに投げ込んでいく。そして、やっぱり数秒ほどすると、オアシスのあちこちで大爆発と巨大な水柱が噴き上がった。

 

 ハジメが投げ込んだのは、いわゆる魚雷である。この先、エリセン経由で向かう事になる七大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】は海の底にあるらしいので(ミレディ情報)、海用の兵器と言えば魚雷だろうと試作品をいくつか作っておいたのである。せっかくだし試してみようと実験がてら放り込んでみたのだ。結果として、威力はそれなりだが、追尾性と速度がいまいち足りないとわかった。要改良である。

 

 ちなみに、この魚雷、〝特定感知〟や〝追跡〟を生成魔法により付加された鉱石を組み込んで作成されており、一度、敵をロックオンすると後は自泳して追いかけ、接触により爆発する。つまり、水中の何かは、現在、絶賛未知の兵器に追い掛け回されているということだ。

 

「おいおいおい! ハジメ殿! 一体何をやったんだ! あぁ! 桟橋が吹き飛んだぞ! 魚達の肉片がぁ! オアシスが赤く染まっていくぅ!」

「ちっ、まだ捕まらねぇか。よし、あと五十個追加で……」

 

 

 オアシスの景観が徐々に悲惨な感じで変わっていく様にランズィが悲鳴を上げるが、ハジメはお構いなしに不穏なことを呟いて、進み出ようとする。ランズィは部下と共にハジメにしがみついて、必死に阻止しようとした。

 

 ハジメの魔眼に映る〝何か〟を知らないランズィから見れば、いきなりハジメが、正体不明の物体を投げ込んだ挙句、オアシスにある桟橋などの設備や生息する淡水魚などが次々と爆破されていくという状況なのだ。結界の反応から、ハジメが悪意なく破壊活動を行っているという訳のわからない状況で、流石のランズィも困惑が隠せない。とにかく、オアシスを守ろうと必死である。

 

 ハジメは、しがみつくランズィ達を鬱陶しげに振り払って進もうとした。が、その直後、

 

シュバ!

 

 風を切り裂く勢いで無数の水が触手となってハジメ達に襲いかかった。咄嗟に、ハジメはドンナー・シュラークで迎撃し水の触手を弾き飛ばし、ドロッチェがアイスレーザーで凍らせ、メタナイトが切断する。

 

何事かと、オアシスの方を見たランズィ達の目に、今日何度目かわからない驚愕の光景が飛び込んできた。ハジメの度重なる爆撃に怒りをあらわにするように水面が突如盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になったのである。

 

「なんだ……これは……」

 

 ランズィの呆然としたつぶやきが、やけに明瞭に響き渡った。

 

オアシスより現れたそれは、体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っていた。スライム……そう表現するのが一番わかりやすいだろう。

 

 だが、サイズがおかしい。通常、スライム型の魔物はせいぜい体長一メートルくらいなのだ。また、周囲の水を操るような力もなかったはずだ。少なくとも触手のように操ることは、自身の肉体以外では出来なかったはずである。

 

「なんだ……この魔物は一体何なんだ? バチェラム……なのか?」

 

 呆然とランズィがそんな事を呟く。バチェラムとは、この世界のスライム型の魔物のことだ。

 

「まぁ、何でもいいさ。こいつがオアシスが汚染された原因だろ? 大方、毒素を出す固有魔法でも持っているんだろう」

「……確かに、そう考えるのが妥当か。だが倒せるのか?」

「あぁ、そんなこともあろうかとメンバー補充しておいた。

 

そこにはカービィを除くマホロア一行がいた。

 

 

ハジメとランズィが会話している間も、まるで怒り心頭といった感じで触手攻撃をしてくるオアシスバチュラム。ユエは氷結系の魔法で、ティオは火系の魔法で対処している。ハジメも、会話しながらドンナー・シュラークで迎撃しつつ、核と思しき赤い魔石を狙い撃つが、魔石はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。そこでマルクがアローアローで数こ攻撃をする。そして狙いが定まってきたらタランザが動きを制限しさらにドロッチェがアイスレーザーで凍らす。

 

 

 ハジメの眼はまるで鷹のように鋭く細められ、魔石の動きを完全に捉えているようだ。そして……

 

ドパンッ!!

 

 乾いた破裂音と共に空を切り裂き駆け抜けた一条の閃光は、カクっと慣性を無視して進路を変えた魔石を、まるで磁石が引き合うように、あるいは魔石そのものが自ら当たりにいったかのように寸分違わず撃ち抜いたのだった。

 

 

 

 




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ドパンッ!!

 

 乾いた破裂音と共に空を切り裂き駆け抜けた一条の閃光は、カクっと慣性を無視して進路を変えた魔石を、まるで磁石が引き合うように、あるいは魔石そのものが自ら当たりにいったかのように寸分違わず撃ち抜いた。

 

レールガンの衝撃と熱量によって魔石は一瞬で消滅し、同時にオアシスバチュラムを構成していた水も力を失ってただの水へと戻った。ドザァー! と大量の水が降り注ぐ音を響かせながら、激しく波立つオアシスを見つめるランズィ達。

 

「……終わったのかね?」

「ああ、もう、オアシスに魔力反応はねぇよ。原因を排除した事がイコール浄化と言えるのかは分からないが」

 

 ハジメの言葉に、自分達アンカジを存亡の危機に陥れた元凶が、あっさり撃退されたことに、まるで狐につままれたような気分になるランズィ達。それでも、元凶が目の前で消滅したことは確かなので、慌ててランズィの部下の一人が水質の鑑定を行った。

 

「……どうだ?」

「……いえ、汚染されたままです」

 

 

 

「まぁ、そう気を落とすでない。元凶がいなくなった以上、これ以上汚染が進むことはない。新鮮な水は地下水脈からいくらでも湧き出るのじゃから、上手く汚染水を排出してやれば、そう遠くないうちに元のオアシスを取り戻せよう」

 

メタナイト「ちなみにウォーターカービィなら無限に水を作り出すことができるぞ。」

 

「言うのが遅い。」

1発メタナイトに発砲する。メタナイトはそれを華麗に回避する。

 

「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

 

 気を取り直したランズィが首を傾げてオアシスを眺める。それに答えたのはハジメだった。

 

「おそらくだが……魔人族の仕業じゃないか?」

「!? 魔人族だと? ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

 

ハジメの言葉に驚いた表情を見せたランズィは、しかし、すぐさま冷静さを取り戻し、ハジメに続きを促した。水の確保と元凶の排除を成し遂げたハジメに、ランズィは敬意と信頼を寄せているようで、最初の、胡乱な眼差しはもはや微塵もない。

 

 

 ハジメは、オアシスバチュラムが、魔人族の神代魔法による新たな魔物だと推測していた。それはオアシスバチュラムの特異性もそうだが、ウルの町で愛子を狙い、オルクスで勇者一行を狙ったという事実があるからだ。

 

おそらく、魔人族の魔物の軍備は整いつつあるのだろう。そして、いざ戦争となる前に、危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行っているのだ。愛子という食料供給を一変させかねない存在と、聖教教会が魔人族の魔物に対抗するため異世界から喚んだ勇者を狙ったのがいい証拠だ。

 

 

 

 そして、アンカジは、エリセンから海産系食料供給の中継点であり、果物やその他食料の供給も多大であることから食料関係において間違いなく要所であると言える。しかも、襲撃した場合、大砂漠のど真ん中という地理から、救援も呼びにくい。魔人族が狙うのもおかしな話ではないのだ。

 

 その辺りのことを、ランズィに話すと、彼は低く唸り声を上げ苦い表情を見せた。

 

「魔物のことは聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか」

「まぁ、仕方ないんじゃないか? 王都でも、おそらく新種の魔物なんて情報は掴んでいないだろうし。なにせ、勇者一行が襲われたのも、つい最近だ。今頃、あちこちで大騒ぎだろうよ」

「いよいよ、本格的に動き出したということか……ハジメ殿……貴殿は冒険者と名乗っていたが……そのアーティファクトといい、強さといい、やはり香織殿と同じ……」

 

 

「……ハジメ殿一行、アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼をいう。この国は貴殿等に救われた」

 

そう言うと、ランズィを含め彼等の部下達も深々と頭を下げた。

そんな彼等に、ハジメはニッコリと満面の笑みを見せる。そして、

 

「ああ、たっぷり感謝してくれ。そして、決してこの巨大な恩を忘れないようにな」

 

 思いっきり恩に着せた。それはもう、清々しいまでに。ランズィは、てっきり「いや、気にしないでくれ。人として当然のことをしたまでだ」等と謙遜しつつ、さり気なく下心でも出してくるかと思っていたので、思わずキョトンとした表情をしてしまう。

 

それでも構わなかったのだが、まさか、ここまでど直球に来るとは予想外だった。

 

 ハジメとしては、香織の頼みでもあったし、ミュウを預けなければならない以上、アンカジの安全確保は必要なことだったので、それほど感謝される程の事でもなかった。

 

 

 だが、せっかく感謝してくれているし、いざという時味方をしてくれる人は多いに越したことはないだろうと、しっかり恩を売っておくことにしたのだ。ランズィなら、その辺の対応は誠実だろうとは思ったが、彼も政治家である以上、言質は取っておこうというわけである

 

「あ、ああ。もちろんだ。末代まで覚えているとも……だが、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……それも、頼めるかね?」

 

 政治家として、あるいは貴族として、腹の探り合いが日常とかしているランズィは、ド直球なハジメの言葉に少し戸惑った様子だったが、やがて何かに納得したのか苦笑いをして頷いた。そして、感染者たちを救うため〝静因石〟の採取を改めて依頼した。

 

「もともと、【グリューエン大火山】に用があって来たんだ。そっちも問題ない。ただ、どれくらい採取する必要があるんだ?」

 

 

現在医療院では、効率が悪いと思ったカービィはコピー能力クリエイト『ヒールドクター、アーティスト』でマキシムトマトを書きまくって物凄いスピードで回復している。そして患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径十メートル以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させるよう回復魔法も行使する。

 

シアは、動けない患者達を、その剛力をもって一気に運んでいた。馬車を走らせるのではなく、馬車に詰めた患者達を馬車ごと持ち上げて、建物の上をピョンピョン飛び跳ねながら他の施設を行ったり来たりしている。緊急性の高い患者は、香織が各施設を移動するより、集めて一気に処置した方が効率的だからだ。

 

 もっとも、この方法、非力なはずのウサミミ少女の有り得ない光景に、それを見た者は自分も病気にかかって幻覚を見始めたのだと絶望して医療院に駆け込むという姿が多々見られたので、余計に医療院が混乱するという弊害もあったのだが。

 

 医療院の職員達は、上級魔法を連発したり、複数の回復魔法を当たり前のように同時行使する香織の姿に、驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いたようで、今や、全員が香織の指示のもと患者達の治療に当たっていた。

 

 そんなカービィと香織を中心とした彼等の元に、ハジメ達がやって来る。そして、共にいたランズィより水の確保と元凶の排除がなされた事が大声で伝えられると、一斉に歓声が上がった。多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始める。

 

「香織、これから【グリューエン大火山】に挑む。どれくらい持ちそうだ?」

「ハジメくん……」

 

 

 歓声に包まれる医療院において、なお、治療の手を休めない香織にハジメが歩み寄り尋ねた。

 

 香織は、ハジメの姿を見て嬉しそうに頬を綻ばせるが、直ぐに真剣な表情となって虚空を見つめた。そして、計算を終えたのか、ハジメを見つめ返して〝二日〟と答えた。それが、魔力的にも患者の体力的にも、持たせられる限界だと判断したのだろう。

 

 

「ハジメくん。私は、ここに残って患者さん達の治療をするね。静因石をお願い。貴重な鉱物らしいけど……大量に必要だからハジメくんじゃなきゃだめなの。ごめんね……ハジメくんがこの世界の事に関心がないのは分かっているけど……」

 

カービィ「それなら大丈夫だよっ!」

 

ハジメ、香織「「へっ!?」」

 

「コピー能力アーティスト!」

 

カービィは金色で中央に星印があるトマトを描いた。

このトマトは以前バンダナワドルディが見つけたトマトでカービィと半分こにして食べたのだが、回復量がマキシムトマトを超えている気がしたのだ。

マキシムトマトでは状態異常は治せなかったけど、このトマトなら直せるかもしれないと思ったのだ。

 

カービィが金色で中央に星印があるトマト、『ふっかつトマト』を描き終えて1人に食べさせる。

するとみるみる状態が良くなり完治した。

 

それをカービィはコピー能力クリエイト『アーティスト、アーティスト、アーティスト、アーティスト』で能力をフル活用して大量のふっかつトマトを描いた。その量は1秒に10個のふっかつトマトを生産している。

 

そしてだいたい5分後。

 

「ふぅ。これでだいじょーぶだね!」

 

あまりの衝撃にハジメたちは固まっていたのだった。

 

 




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グリューエン大火山

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 【グリューエン大火山】

 

それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。見た目は、直径約五キロメートル、標高三千メートル程の巨石だ。普通の成層火山のような円錐状の山ではなく、いわゆる溶岩円頂丘のように平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現するほうが相応しい。ただ、その標高と規模が並外れているだけで。

 

 この【グリューエン大火山】は、七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】のように、冒険者が頻繁に訪れるということはない。それは、内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物のように魔石回収のうまみが少ないから……というのもあるが、一番の理由は、まず入口にたどり着ける者が少ないからである。

 

 その原因が、

 

「……まるでラピュ○だな」

「……ラ○ュタ?」

思わず、日本を代表する名作アニメのワンシーンを思い出し呟いたハジメに、ユエ達の疑問顔が向けられる。それに肩を竦めるハジメは、魔力駆動四輪とロボボアーマーの車内から前方の巨大な渦巻く砂嵐を見つめた。

 

 そう、【グリューエン大火山】は、かの天空の城を包み込む巨大積乱雲のように、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。その規模は、【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠すほどで、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行ったほうがしっくりくる。

 

 しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。並みの実力では、【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。

 

「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」

「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」

「そういえばカービィの頭に付いている冷たそうな冠はなんだ?」

「これはコピー能力アイスだよ。」

「そんなものがあるのか……。」

 

 

 ハジメと同じく窓から巨大砂嵐を眺めるシアとティオも、四輪に感謝感謝と拝んでいる。ハジメは、苦笑いしながら、それじゃあ行くかと四輪を一気に加速させた。今回は、悠長な攻略をしていられない。表層部分では、静因石はそれ程とれないため、手付かずの深部まで行き大量に手に入れなければならない。深部まで行ってしまえば、おそらく今までと同じように外へのショートカットがあるはずだ。それで一気に脱出してアンカジに戻るのだ。カービィ一行はロボボアーマーに乗っている。

 

 ハジメとしては、アンカジの住民の安否にそれほど関心があるわけではないのだが、助けられるならその方がいい。そうすれば、少なくとも仲間である香織達は悲しまないし、ミュウに衝撃の強い光景を見せずに済む。

 

 ハジメは、そんな事を考えながら気合を入れ直し、巨大砂嵐に突撃した。

 

 砂嵐の内部は、まさしく赤銅一色に塗りつぶされた閉じた世界だった。【ハルツィナ樹海】の霧のように、ほとんど先が見えない。物理的影響力がある分、霧より厄介かもしれない。ここを魔法なり、体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破するのは、確かに至難の業だろう。

 

 太陽の光もほとんど届かない薄暗い中を、緑光石のヘッドライトが切り裂いていく。時速は三十キロメートルくらいだ。事前の情報からすれば五分もあれば突破できるはずである。

 

と、その時、シアのウサミミがピンッ! と立ち、一拍遅れてハジメも反応した。ハジメは、「掴まれ!」と声を張り上げながら、ハンドルを勢いよく切る。

 

 直後、三体のサンドワームが直下より大口を開けて飛び出してきたのだ。

しかしロボボアーマーアイスホイールモードによって一瞬で凍りつく。

 

やがて傾斜角的に四輪やロボボアーマーでは厳しくなってきたところで、ハジメ達は四輪を降りて徒歩で山頂を目指すことになった。

 

「うわぅ……あ、あついですぅ」

「ん~……」

「確かにな。……砂漠の日照りによる暑さとはまた違う暑さだ。……さっさと攻略しちまうに限るな」

「ふむ、妾は、むしろ適温なのじゃが……熱さに身悶えることが出来んとは……もったいないのじゃ」

「……あとでマグマにでも落としてやるよ」

 

「やるぞ!」

「んっ!」

「はいです!」

「うむっ!」

「おぉ!」

 

今回は全員で来ている。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上に、とんでもない場所だった。

 

 難易度の話ではなく、内部の構造が、だ。

 

「うきゃ!」

カービィ「こちこちと息!大丈夫?」

「有難うございます、カービィさん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……察知できませんでした」

 と、シアが言うように、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。まさに天然のブービートラップだった。カービィがいることと、ハジメが〝熱源感知〟を持っていたのは幸いだ。それが無ければ、警戒のため慎重に進まざるを得ず攻略スピードが相当落ちているところだった。カービィのおかげで暑さに耐えることができている。

 

七階層ほど下に降りる。記録に残っている冒険者達が降りた最高階層だ。そこから先に進んだ者で生きて戻った者はいない。気を引き締めつつ、八階層へ続く階段を降りきった。

 

 その瞬間、

 

ゴォオオオオ!!!

 

 強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如、ハジメ達の眼前に巨大な火炎が襲いかかった。オレンジ色の壁が螺旋を描きながら突き進んでくる。

 

「〝絶禍〟」

 

 そんな火炎に対し、発動されたのはユエの魔法。ハジメ達の眼前に黒く渦巻く球体が出現する。重力魔法だ。ただし、それは対象を地面に押しつぶす為のものではなかった。

 

 人など簡単に消し炭に出来そうな死の炎は、直径六十センチほどの黒く渦巻く球体に引き寄せられて余すことなく消えていく。余波すら呑み込むそれは、正確には消滅しているのではない。黒く渦巻く球体――重力魔法〝絶禍〟は、それ自体が重力を発生させるもので、あらゆるものを引き寄せ、内部に呑み込む盾なのだ。

 

 

火炎の砲撃が全てユエの超重力の渦に呑み込まれると、その射線上に襲撃者の正体が見えた。

 

 それは、雄牛だ。全身にマグマを纏わせ、立っている場所もマグマの中。鋭い二本の曲線を描く角を生やしており、口から呼吸の度に炎を吐き出している。耐熱性があるにも程があると、思わずツッコミを入れたくなる魔物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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氷の力があれば

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火炎の砲撃が全てユエの超重力の渦に呑み込まれると、その射線上に襲撃者の正体が見えた。

 

 それは、雄牛だ。全身にマグマを纏わせ、立っている場所もマグマの中。鋭い二本の曲線を描く角を生やしており、口から呼吸の度に炎を吐き出している。耐熱性があるにも程があると、思わずツッコミを入れたくなる魔物だった。

 

 

 マグマ牛は、自身の固有魔法であろう火炎砲撃をあっさり無効化されたことに腹を立てたのか、足元のマグマをドバッ! ドバッ! と足踏みで飛び散らせながら、突進の構えを取っている。

 

そんなマグマ牛をマジックカービィは赤いマントを取り出して誘導してその先にいるマルクにコテンパンにされた。

 

その後、階層を下げる毎に魔物のバリエーションは増えていった。しかしカービィたちの敵ではなかった。

 

 

 そして、なにより厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。

 

カービィ「そろそろアイスだけじゃきついね。コピー能力クリエイト『アイス、アイス、アイス、アイス』!」

 

カービィはアイスの力を4倍にする。

 

 

「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」

「……ふみゅ~」

 

 女の子座りで崩れ落ちたユエとシアが、目を細めてふにゃりとする。タレユエとタレシアの誕生だ。

 

 ハジメは、内心そんな二人に萌えながら〝宝物庫〟からタオルを取り出すと全員に配った。

 

「ユエ、シア、だれるのはいいけど、汗くらいは拭いておけよ。冷えすぎると動きが鈍るからな」

「……ん~」

「了解ですぅ~」

 

 

 間延びした声で、のろのろとタオルを広げるユエとシアを横目に、ティオがハジメに話かける。

 

「ご主人様やカービィたちはは、まだ余裕そうじゃの?」

メタナイト「我々は様々な気候に慣れているからな。」

ハジメ「ティオほどじゃない。流石に、この暑さはヤバイ。カービィがいなければもっといい冷房系のアーティファクトを揃えておく必要があった……」

「ふむ、ご主人様でも参る程ということは……おそらく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」

「コンセプト?」

「うむ。ご主人様から色々話を聞いて思ったのじゃが、大迷宮は試練なんじゃろ? 神に挑むための……なら、それぞれに何らかのコンセプトでもあるのかと思ったのじゃよ。例えば、ご主人様が話してくれた【オルクス大迷宮】は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積むこと。【ライセン大迷宮】は、魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨くこと。この【グリューエン大火山】は、暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところではないかのぉ?」

「……なるほどな……攻略することに変わりはないから特に考えたことなかったが……試練そのものが解放者達の〝教え〟になっているってことか」

 

 

 

現在、【グリューエン大火山】たぶん、きっと五十層くらい。

 

 

 

 具体的には、ハジメ達は宙を流れる大河の如きマグマの上をカービィが凍らせて溶けないうちに急いで渡っている。

 

「あっ、ハジメさん。またトンネルですよ」

「そろそろ、標高的には麓辺りじゃ。何かあるかもしれんぞ?」

 

 シアが指差した方向を見れば、確かに、ハジメ達が流されているマグマが壁に空いた大穴の中に続いていた。マグマ自体に照らされて下方へと続いていることが分かる。今までも、洞窟に入る度に階層を下げてきたので、普通に階段を使って降りるよりショートカットになっているはずだ。

 

 

 

「ちっ、やっぱり出たか」

 

 ハジメは舌打ちすると同時にドンナーを抜き、躊躇いなく引き金を引いた。周囲に轟く炸裂音。それが三度響くと共に三条の閃光が空を切り裂いて目標を違わず撃破する。ハジメ達に、襲いかかってきたのは翼からマグマを撒き散らすコウモリだった。

 

ドパァン!

 

ハジメはフリーズカービィの力を借りて作った『フリーズドンナー』で敵を凍らせて撃ち抜く。

 

 

このマグマコウモリは、一体一体の脅威度はそれほど高くない。かなりの速度で飛べることとマグマ混じりの炎弾を飛ばすくらいしか出来ない。ハジメ達にとっては、雑魚同然の敵である。

 

 だが、マグマコウモリの厄介なところは、群れで襲って来るところだ。一匹見つけたら三十匹はいると思え、という黒いGのような魔物で、岩壁の隙間などからわらわらと現れるのである。

 

そこでカービィはまとめて攻撃をする。

「コピー能力ミックス!アイスボム!」

 

カービィはまるでイナズマ○レブンエターナル○リザードのようにボムを撃った。

 

するとガラスのように砕けていった。

ハジメ「エターナルブリザー○かよ!」

 

 一塊となってハジメ達に迫ってきたマグマコウモリは、途中で二手に分かれると、前方と後方から挟撃を仕掛けてきた。いくら一体一体が弱くとも、一つの巨大な生き物を形取れる程の数では、普通は物量で押し切られるだろう。

 

 だが、ここにいるのはチート集団。単純な物量で押し切れるほど甘い相手でないことはウルの町で大地の肥やしとなった魔物達が証明済みだ。

 

ハジメは、〝宝物庫〟からフリーズメツェライを取り出すと、腰だめに構えて、その怪物のトリガーを引いた。

 

ドゥルルルルルル!!

 

 

マホロア「アイスギガントハンマー!」

マルク「マルク砲、アローアロー」

タランザ「操りの術」

ドロッチェ「アイスレーザー!」

デデデ大王「鬼ごろしデデデハンマー!爆裂デデデハンマー投げ(ブーメラン)!」

バンダナワドルディ「ワド百烈突き!ワド百烈突き!ワドコプター!」

アドレーヌ「クラッコ!アイスドラゴン!」

リボン「クリスタルアタック!」

スージー「リレインバーアタック!」

 

みんなが好き勝手に暴れているので敵は全滅だ。

 

 

そして

 

 

 

明らかに今までと雰囲気の異なる場所に、警戒を最大にするハジメ達。

 

「……あそこが住処?」

 

 

ユエが、チラリとマグマドームのある中央の島に視線をやりながら呟く。

 

「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だろうな……だが、そうなると……」

「最後のガーディアンがいるはず……じゃな? ご主人様よ」

「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」

 

 

 ユエ達の援護をもらって、一直線に中央の島へと迫ったハジメは、〝空力〟による最後の跳躍を行い飛び移ろうとした。

 

 だが、その瞬間、

 

「ゴォアアアアア!!!」

「ッ!?」

 

 そんな腹の底まで響くような重厚な咆哮が響いたかと思うと、宙を飛ぶハジメの直下から大口を開けた巨大な蛇が襲いかかってきた。

 

 

 

全身にマグマを纏わせているせいか、周囲をマグマで満たされたこの場所では熱源感知にも気配感知にも引っかからない。また、マグマの海全体に魔力が満ちているようなので魔力感知にも引っかからなかったことから、完全な不意打ちとなった巨大なマグマ蛇の攻撃。

 

 しかし、ハジメは超人的な反応速度で体を捻ると、辛うじてその顎門による攻撃を回避した。

 

 一瞬前までハジメがいた場所を、マグマ蛇がバクンッ! と口を閉じながら通り過ぎる。ハジメは、空中で猫のように体を反転させながら、銃口を通り過ぎるマグマ蛇の頭に照準し発砲した。必殺の破壊力を秘めた閃光が狙い違わずマグマ蛇の頭を捉え、弾き飛ばす。

 

「なにっ!?」

 

 しかし、上がった声はマグマ蛇の断末魔ではなく、ハジメの驚愕の声だった。

 

 

当然、その原因は、マグマ蛇にある。なんと、マグマ蛇の頭部は確かに弾け飛んだのだが、それはマグマの飛沫が飛び散っただけであり、中身が全くなかったのだ。今までの【グリューエン大火山】の魔物達は、基本的にマグマを身に纏ってはいたが、それはあくまで纏っているのであって肉体がきちんとあった。断じて、マグマだけで構成されていたわけではない。

 

 ハジメは直ぐに立ち直ると、物は試しにと頭部以外の部分を滅多撃ちにした。幾条もの閃光が情け容赦なくマグマ蛇の体を貫いていくが、やはり、どこにも肉体はなかった。どうやら、このマグマ蛇は、完全にマグマだけで構成されているらしい。

 

カービィ「だったらボクに任せて!コピー能力クリエイト『ミラクルビーム、スノーボール』!」

 

カービィはマグマ蛇を凍らせて砕く。

 

しかしどんどん数は増えていく。

 

 

 

 

「おいおい、魔石が吹き飛んだ瞬間は確認したぞ? 倒すことがクリア条件じゃないのか?」

 

 ハジメが、訝しげに表情を歪める。ハジメは、ティオのブレスがマグマ蛇に到達した瞬間から〝瞬光〟を発動し、跳ね上がった動体視力で確かにマグマ蛇の中に魔石がありブレスによって消滅した瞬間を確認したのである。

 

 ハジメが迷宮攻略の方法に疑問を抱いていると、シアが中央の島の方を指差し声を張り上げた。

 

「ハジメさん! 見て下さい! 岩壁が光ってますぅ!」

「なに?」

 

 言われた通り中央の島に視線をやると、確かに、岩壁の一部が拳大の光を放っていた。オレンジ色の光は、先程までは気がつかなかったが、岩壁に埋め込まれている何らかの鉱石から放たれているようだ。

 

 ハジメが〝遠見〟で確認すると、保護色になっていてわかりづらいが、どうやら、かなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれているようだとわかった。中央の島は円柱形なので、鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると、ざっと百個の鉱石が埋め込まれている事になる。そして、現在、光を放っている鉱石は70個……先程、カービィが消滅させたマグマ蛇と同数だ。

 

「なるほど……このマグマ蛇を百体倒すってのがクリア条件ってところか」

「……この暑さで、あれを百体相手にする……迷宮のコンセプトにも合ってる」

 

そんな訳で残りの数を知ったカービィやマルク、マホロアなどなど氷のちからを使える者たちはどんどん倒していく。

 

 

ハジメ「これで、終わりだ」

 

 それを視界の端に捉えながら、ハジメは【グリューエン大火山】攻略のための最後の一発を放った。

 

――その瞬間

 

ズドォオオオオオオオオ!!!!

 

 頭上より、極光が降り注いだ。

 

 まるで天より放たれた神罰の如きそれは、ハジメがかつて瀕死の重傷を負った光。いや、それより遥かに強力かも知れない。大気すら悲鳴を上げるその一撃は、攻撃の瞬間という戦闘においてもっとも無防備な一瞬を狙って放たれ――ハジメを、最後のマグマ蛇もろとも呑み込んだ。

 

 

 




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神の使徒

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 何の前触れもなく、突如、天より放たれた白き極光。

 

 その光は、今まさに最後のマグマ蛇に止めを刺そうとしていたハジメに絶妙なタイミングで襲い掛かり、凄絶な熱量と衝撃を以てハジメを破壊の嵐の中へと呑み込んだ。

 

カービィ「ハジメっ!四倍コチコチと息!」

 

あまりにも量が多くカービィでも防ぐ事は出来なかった。

 

「ハ、ハジメぇ!!!」

 

 ユエの絶叫が響き渡る。ハジメが極光に飲み込まれる光景を、少し離れた場所から呆然と見ていることしか出来なかったシアとティオだったが、出会ってこの方一度も聞いたことのないユエの悲痛な叫び声に、ハッと我を取り戻した。

 

 必死にハジメのもとへ飛んでいくユエの目に、消えた光の中から、ボロボロになりながらも、なお空中に留まっているハジメの姿が飛び込んできた。しかし、胸と顔を守るように両腕をクロスする形で構えていたハジメは、直ぐにバランスを崩すと、そのまま極光の衝撃で荒れるマグマの海に落下し始める。

 

「ッ! 〝来翔〟!」

 

 ユエは、意識を失っているのか、ぐったりしたまま背中から倒れこむように落下するハジメを飛翔の魔法で待ち上げ、その隙に一気に接近し、両腕でハジメを抱き抱えると近くの足場に着地した。

 

「ッ! ハジメ! ハジメ!」

 

「だったらこれ食べて!」

 

カービィはハジメにマキシムトマトを食べさせる

 

ハジメは一瞬で回復するが意識はまだ戻らない。

マキシムトマトで直せるのはどんな傷と魔力なののエネルギーなどである。

 

 と、その時、

 

「馬鹿者! 上じゃ!!」

 

 ティオの警告と同時に無数の閃光が豪雨の如く降り注いだ。それは、縮小版の極光だ。先程の一撃に比べれば十分の一程度の威力と規模、されど一発一発が確実にその身を滅ぼす死の光だ。

 

「だったらコピー能力クリエイト『ミラー、忍者』!」

 

カービィは忍者の力で分身して次々と跳ね返す。

 

「まさか、私の白竜が、ブレスを直撃させても殺しきれんとは……おまけに報告にあった強力にして未知の武器……女共もだ。まさか総数五十体の灰竜の掃射を耐えきるなど有り得んことだ。貴様等、一体何者だ? いくつの神代魔法を修得している?」

 

カービィ「ボクは神代魔法を修得してないよ!」

 

カービィはコピー能力が増えているだけなので神代魔法は一つも修得していない。

「質問する前に、まず名乗ったらどうだ? 魔人族は礼儀ってもんを知らないのか?」

そんな魔人族の男に答えたのは、さっきまで倒れていたハジメだった。魔人族の男が眉をひそめる。だが、彼が口を開く前に、ユエ達の声が響き渡った。

ユエ「ハジメ!」

カービィ「はじめ!」

「ハジメさん!」

「無事か! ご主人様よ!」

 

「……これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」

「全く同感だな。テンプレだから聞いてみただけだ。俺も興味ないし気にするな。ところで、お友達の腕の調子はどうだ?」

魔人族の男は、それに眉を一瞬ピクリと動かし、先程より幾分低くなった声音で答えた。

 

「気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

「神の使徒……ね。大仰だな。神代魔法を手に入れて、そう名乗ることが許されたってところか? 魔物を使役する魔法じゃねぇよな? ……極光を放てるような魔物が、うじゃうじゃいて堪るかってんだ。おそらく、魔物を作る類の魔法じゃないか? 強力無比な軍隊を作れるなら、そりゃあ神の使徒くらい名乗れるだろうよ」

「その通りだ。神代の力を手に入れた私に、〝アルヴ様〟は直接語りかけて下さった。〝我が使徒〟と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、私は全力で否定する」

 

 

どこか聖教教会教皇イシュタルを彷彿とさせるフリード・バグアーと名乗った魔人族は、真っ向からハジメ達の存在そのものを否定した。その苛烈な物言いに、しかし、ハジメは不敵に笑うのみ。回復は遅いが、〝魔力変換〟の派生〝治癒力〟で魔力を治癒力に変えているので、止血だけは出来ている。左腕は使えないが、右手は骨が見えていても折れてはいないから使えないこともない。「俺は、まだ戦える!」ハジメは、そう気合を入れ直す。

 

「それは、俺のセリフだ。俺の前に立ちはだかったお前は敵だ。敵は……皆殺す!行くぞ!」

 

タランザ「あいつの動きを制限したのね!」

 

ドゥルルルルルル!!

 

カービィ「コピー能力クリエイト!『スマブラ 、ミラー』リフレクトフォース!鬼ごろし火炎ハンマー!雷投げ!ストーン!」

マホロア「ウルトラソード(×2)ブラックホール!ソウル化!スノーギガントハンマー!」

メタナイト「分身「「「トルネイド!メタ百烈切り!シャトルループ!マッハトルネイド!」」」」

マルク「マルク砲、ブラックホール、アローアロー、ソウル化」

ドロッチェ「アイスレーザー乱れ撃ち」

スージー「リレインバー」

アドレーヌ「クラッコ!アイスドラゴン!」

デデデ大王「鬼ごろしデデデハンマー!爆裂デデデハンマー投げ!」

リボン「クリスタルシュート!」

 

ドゴォオォーーーーーーン!!!!!

 

「ぐはぁっ!だが今の衝撃を利用してマグマ溜まりを鎮めている巨大な要石を破壊させてもらった。間も無く、この大迷宮は破壊される。神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様等をここで仕留められるなら惜しくない対価だ。大迷宮もろとも果てるがいい」

と言って消滅した。

 

 

 ユエが、〝絶禍〟を発動して小極光を呑み込みながら攻撃を凌いでいる間に、ハジメは、〝宝物庫〟を手に握ると、頭上の灰竜達にブレスを放とうとしているティオの堅い竜鱗に覆われた頬に手を這わせ自分の方に顔を向けさせた。

 

「ティオ、よく聞け。これを持って、お前は一人であの天井から地上へ脱出しろ」

 

 一瞬、何を言われているのか分からないという表情で目を瞬かせるティオだったが、次の瞬間には傷ついたような表情をして悲しみと怒りの混じった声を響かせた。ハジメの言葉が、まるでティオだけ生き残らせて、自分達を切り捨てろと言っているように聞こえたのだ。

 

〝ご主人様よ、妾は、妾だけは最後を共に過ごすに値しないというのか? 妾に切り捨てろと、そういうのか? 妾は……〟

 

「ティオ、そうじゃない。時間がないから一度しか言わないぞ。俺は、何も諦めていない。神代魔法は手に入れるし、だが、一人じゃ無理なんだ。だからお前の力を貸して欲しい。お前でなければ、全てを突破して期限内にアンカジに戻ることは不可能なんだ……頼む、ティオ」

 

〝任せよ!〟

 

 ハジメは、ティオのウロコの内側へ〝宝物庫〟を入れる。こうすることで、竜の肉体を通して人状態のティオの手に渡るのだ。

 

 ティオは、身の内に〝宝物庫〟が入った事を確認すると、そっと、ハジメに頭をこすりつけた。今できる、精一杯の愛情表現だ。ハジメも、最後に優しく一撫でするとティオから離れた。ティオは、ユエとシアにも視線を向ける。二人共、諦めなど微塵も感じさせずに力強く頷いた。

 

「ティオ、香織とミュウに伝言を。〝あとで会おう〟だ。頼んだぞ」

 

〝ふふ、委細承知じゃよ〟

 

数十分後、【グリューエン大火山】を中心に激震が走った。轟音というのも生温い、大気すら軋ませる大爆発が発生し、一時的に砂嵐さえ吹き飛した。あらわになった【グリューエン大火山】はもうもう黒煙を噴き上げ、赤熱化した岩石を弾き飛ばし、火山雷のスパークを撒き散らしていた。

 

 現存する歴史書の中で、ただの一度も記録されていない【グリューエン大火山】の大噴火。ある意味、貴重な歴史的瞬間は、どういう原理か数分後には復活した巨大な砂嵐のベールに包まれ、その偉容を隠してしまった。

 

 それでも、まるで世界が上げた悲鳴の如き轟音も、噴き上がる黒煙も、アンカジの人々は確かに観測したのだ。不安が募る。それは、大切な人の帰りを待つ少女と幼子も同じだった。

 

 

「……自爆はロマンだ」

「? ……ハジメ?」

「ハジメさん?」

「はじめ?」

小極光の豪雨に晒されながら、突然、ニヤリと笑って呟いたハジメに、ユエとシアが訝しそうな表情を向ける。ハジメは、何でもないと頭を振って、二人に支えられながら何とか跳躍し、中央の島の端に足をかけた。

 

 ティオが飛び立ってから、周囲のマグマは益々荒々しさを増し、既に中央の島以外の足場はマグマの海に沈んでしまった。五分もしない内に中央の島も呑み込まれるだろう。

 

 降り注ぐ小極光をユエの〝絶禍〟が呑み込み、焦れた灰竜が直接攻撃を仕掛けてきてはシアのドリュッケンによりマグマの中に叩き落とされるということを繰り返す。灰竜の数も十体を切っている。

 

 中央の島には、最初に見たマグマのドームはなくなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。その傍らには、地面から数センチほど浮遊している円盤がある。真上がさっきまで開いていた天井のショートカット用出口だったので、本来は、これに乗って地上に出るのだろう。

 

 ハジメ達は、灰竜達がハジメ達への攻撃よりも噴出するマグマ柱の回避に必死になり始めたのを尻目に、漆黒の建造物へと近づいた。

 

 一見、扉などない唯の長方体に見えるが、壁の一部に毎度お馴染みの七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。ハジメ達が、その前に立つと、スっと音もなく壁がスライドし、中に入ることが出来た。ハジメ達が中に入るのと、遂にマグマが中央の島をも呑み込もうと流れ込んできたのは同時だった。再び、スっと音もなく閉まる扉が、流れ込んできたマグマを間一髪でせき止める。

 

 しばらく、扉を見つめていたハジメ達だったが、扉が溶かされてマグマが流れ込むということもないようなので、ホッと安堵の吐息を漏らした。こんな場所にある住処なのだから、万一に備えて、十中八九、マグマに耐えるだろうと予想はしていたが、いざ、その結果が示されるとやはり安堵してしまうものだ。

 

「一先ず、安心だな……それにしても、この部屋は振動も遮断するのか……」

「ん……ハジメ、あれ」

「魔法陣ですね」

 

 【オルクス大迷宮】の時と同じように、記憶が勝手に溢れ出し迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。そして、マグマ蛇を全て討伐したところで攻略を認められたようで、脳内に直接、神代魔法が刻み込まれていった。

 

「……これは、空間操作の魔法か」

「……瞬間移動のタネ」

「ああ、あのいきなり背後に現れたやつですね」

カービィ「ボクは新しいコピー能力が増えたよ!」

どうやら、【グリューエン大火山】における神代魔法は〝空間魔法〟らしい。また、とんでもないものに干渉できる魔法だ。相変わらず神代の魔法はぶっ飛んでいる。

 

 ユエが、フリードの奇襲について言及する。最初の奇襲も、おそらく、空間魔法を使ってあの場に現れ攻撃したのだろう。空間転移か空間を歪めて隠れていたのかは分からないが、厄介なことに変わりはない、二度目の奇襲も、咄嗟に、シアが〝未来視〟の派生〝仮定未来〟を行使しなければ、ハジメは直撃を受けていたかもしれない。ファインプレーだ。

 

 ハジメ達が、空間魔法を修得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

〝人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う〟

                          〝ナイズ・グリューエン〟

 

「……シンプルだな」

 そのメッセージを見て、ハジメが抱いた素直な感想だ。周囲を見渡せば、【グリューエン大火山】の創設者の住処にしては、かなり殺風景な部屋だと気が付く。オルクスの住処のような生活感がまるでないのだ。本当に、ただ魔法陣があるだけの場所だ。

 

「……身辺整理でもしたみたい」

「ナイズさんは、魔法以外、何も残さなかったみたいですね」

「そういえば、オスカーの手記に、ナイズってやつも出てたな。すごく寡黙なやつだったみたいだ」

 

 ハジメを支える役をシア一人に任せて、ユエは、拳サイズの開いた壁のところに行き、中に入っていたペンダントを取り出した。今まで手に入れた証と少々趣が異なる意匠を凝らしたサークル状のペンダントだ。それを、そっとハジメの首にかける。

ちなみに神代魔法を新たに修得したカービィ一行のメンバーは

マルク、マホロア、デデデ大王、タランザだった。

 

ハジメ「それでカービィはどんな能力を手に入れたんだ?」

 

カービィ「それはね………

 




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コピー能力スペース

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ハジメ「それでカービィはどんな能力を手に入れたんだ?」

 

カービィ「それはね、コピー能力スペース!」

 

カービィの頭にロケットを模した冠が現れる。

背中には黒いマントをつけている。

 

「まずは無重力!これはグラビティでもできるね。次に隕石攻撃!(流星群)あとは、えーとみんな離れてね!」

 

カービィが次々に物凄い攻撃をするなか急いでみんな離れる。

カービィもさらに距離を取る。

 

「コピー能力スペースの一回切りの技だよ。」

そう言ってカービィ力をはためはじめる。

 

そして技名を言う。

 

「ビックバン!!」

 

するとコピー能力クラッシュを遥かに凌駕するまるで宇宙の大爆発が起こる。

 

 

「……爆発はロマンだ」

「? ……ハジメ?」

「ハジメさん?」

 

そのまま【グリューエン大火山】は爆発でなくなった。

マグマなどはカービィのビックバンで消滅してしまったのだから。

ハジメたちはなんとか全員が頑張って生き延びた。

あとは脱出など簡単である。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

現在赤銅色の砂が吹きすさぶ【グリューエン大砂漠】の上空をフラフラと飛ぶ影があった。

 

 言わずもがな、〝竜化〟状態のティオである。

 

〝むぅ……これはちとマズイのじゃ……全く、厄介なブレスを吐きおって……致し方ない。ご主人様、カービィよ、許してたもれ〟

 

 強行突破のせいで、少なくない極光を浴びていたティオは、極光の毒素に蝕まれて傷を悪化させていた。このままでは、アンカジに到着する前に倒れてしまうと判断したティオは、勝手に秘薬を使う事をハジメとカービィに謝罪して、〝宝物庫〟からマキシムトマトを取り出し噛み砕いて服用した。

 

 

それから飛ぶこと数時間、ようやく前方にアンカジの姿が見えてきた。これ以上、飛行を続ければ、アンカジの監視塔からもティオの姿が見えるだろう。ティオは、一瞬、竜化を解いて行くべきかと考えた。

しかし今後、ハジメの旅について行くなら竜化が必要な場面はいくらでもあるだろうと考えて、すっぱり割り切ることにした。

 

 

と、次の瞬間

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

!!!!!!!!!!!!

 

「な、なんじゃ!?」

 

 

【グリューエン大火山】が破壊されたのだった。

 

ティオは拍子抜けするほどあっさり再会するとは夢にも思わなかったのだ。

 

 

 

見渡す限りの青。

 

 空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光は燦々と降り注ぐ。しかし、決して暑すぎるということはなく、気候は穏やかで過ごしやすい。時折、優しく吹くそよ風は何とも心地いい。ただ、周囲をどれだけ見渡しても、何一つ〝物〟がないのは少々寂しいところだ。

 

 もっとも、それも仕方のないことだろう。なにせ、ここは大海原のど真ん中なのだから。

 船というより新種の魔物と言われた方が、きっとこの世界の人々は納得するだろう。このシャチ型の船の正体は潜水艇だ。言わずもがな、【グリューエン大火山】が爆破して搭乗者に九死に一生を得させたハジメのアーティファクトである。代償に、ほとんど大破といってもいいレベルで壊れていた。

 

 

 

 昨夜に見た星の位置からすれば、ハジメ達のいる場所は、エリセンの北である。なので、あとは陸地を左手側に南下すれば、少なくともエリセンと【グリューエン大砂漠】をつなぐ港が見えてくるはずだ。

 

 陸地が見えたことにホッとしつつ、南へ二日進む。

 

 直後、潜水艇を囲むようにして、先が三股になっている槍を突き出した複数の人が、ザバッ! と音を立てて海の中から一斉に現れた。数は、二十人ほど。その誰もが、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けていた。どう見ても、海人族の集団だ。彼らの目はいずれも、警戒心に溢れ剣呑に細められている。

 

 そのうちの一人、ハジメの正面に位置する海人族の男が槍を突き出しながら、ハジメに問い掛けた。

 

「お前達は何者だ? なぜ、ここにいる? その乗っているものは何だ?」

 

 

「あ、あの、落ち着いて下さい。私達はですね……」

「黙れ! 兎人族如きが勝手に口を開くな!」

 

 やはり兎人族の地位は、樹海の外の亜人族の中でも低いようだ。妙に殺気立っていることもあり、舐めた態度をとるハジメ(海人族にはそう見える)に答えさせたいという意地のようなものもあるのだろう。槍の矛先がシアの方を向き、勢いよく突き出された。

 

 

 身体強化したシアに、海人族の攻撃が通るわけがないのだが、突き出された槍はシアが躱さなければ、浅く頬に当たっている位置だ。おそらく、少し傷を付けてハジメに警告しようとしたのだろう。やはり、少々やりすぎ感がある。海人族はこれほど苛烈な種族ではなかったはずだ。

 

 だが、例えどんな事情があろうと、それは完全に悪手だった。ハジメが、例え警告でもシアを傷つけようとした相手に穏便であるはずがないのだ。

 

 一瞬にして、巨大な殺気と大瀑布の如きプレッシャーが降り注ぎ、海面が波紋を広げたように波立つ。

 

 目を見開いて、豹変したハジメを凝視する海人族の男は、次の瞬間、

 

ズバァアアアン!!

 

そんな衝撃音と共に海中から吹き飛び、空中を錐揉みしながら飛翔して何度か海面をバウンドした挙句、海中へと沈んでいった。

 

 唖然とした表情で、吹き飛んでいった男からハジメに視線を戻した残りの海人族達の目には、なぜか、こんがり焼けた大きな魚の尾を掴んで、ゴルフのフルスイングをした後のようなポーズを決めるハジメの姿が飛び込んできた。

 

 跳ね飛んだ海水が太陽の光に反射してキラキラと光る。死んだ魚の白目も、心なし光っているように見える。

 

「なっ、なっ」

 

 狼狽する海人族達。

 

食いかけの魚を肩に担いだハジメは、ジロリと吹き飛んだ男の隣にいた男を睨みつけた。ただでさえ、今まで感じたことのないプレッシャーに押し潰されそうになっていた海人族の男は、ハジメの眼光に恐慌を来たしたのか雄叫びを上げながら槍を突き出す。

 

「ゼェアア!!」

 

 男の人生の中でも、会心と言っていい程の一撃。死を予感して、本能が繰り出させた必殺の一撃だった。しかし、その一撃は、白目を剥く魚の口にズボッと突き刺さると、いとも簡単に止められてしまった。

 

「え? え? な、なんで……」

 

 ハジメが魚を跳ね上げると、男が有り得ない光景に呆然としていたこともあり、槍はあっさり弾かれてしまった。遠心力により、再び、ズボッと音を立てて、口から吐き出された槍は他の海人族の顔面に直撃した。呻き声を上げて鼻血を撒き散らす海人族を尻目に、跳ね上げられた魚が一気にスイングされる。

 

 槍を投げ捨てられてしまった海人族の男は、何故か紅色に輝きながら、白目を剥いてポカンと口を開く魚が自らの顔面に迫ってきている非常識な光景に頬を引き攣らせた。

 

 直後、

 

ドギャ!!

 

「あぶぇ!?」

 

 先の男と同じように吹き飛んだ。

 

「モグモグ……ゴクンッ……さて、俺としては海人族とは極力争いたくないんだ。だから、ここは落ち着いて話し合いといかないか? 流石に、本気で仲間に手を出されたら黙っている訳にはいかないし……あ、ぶっ飛ばした奴は手加減したから死んでないぞ?」

 

 

 紅色の輝きを失い、くた~となった魚を片手に〝威圧〟を解いて、ハジメは、そう提案した。ハジメとしても、ミュウと同じ海人族とは、あまり争いたくなかった。さっくり殺してしまった相手が、実は近所のおじさんですとか言われたら目も当てられない。

 

 しかし、海人族の方は、提案を呑むつもりがないらしい。死んでいないとはいえ仲間を吹き飛ばされた挙句、海の上という人間にとって圧倒的に不利な状況で〝お前達など相手にならない〟という態度をとる(海人族にはそう見える)ハジメに自尊心を傷つけられたらしい。

 

 また、人間族に対する警戒が異常に高いようで、ハジメの言葉を全く信用していないようだ。油断させようとしてもそうはいかない! と、ハジメ達から距離を取りながら背中に括りつけた短いモリを、投擲するように構えだした。

 

「そうやって、あの子も攫ったのか? また、我らの子を攫いに来たのか!」

「もう魔法を使う隙など与えんぞ! 海は我らの領域。無事に帰れると思うな!」

「手足を切り落としてでも、あの子の居場所を吐かせてやる!」

「安心しろ。王国に引き渡すまで生かしてやる。状態は保障しないがな」

 

 

 何やら尋常でない様子だ。警戒心というより、その目には強烈な恨みが含まれているように見える。〝我らの子を攫う〟という言葉から、彼等が殺気立っている原因を何となく察するハジメ。もしかするとミュウ誘拐の犯人と勘違いされているのかもしれない。見たことのない乗り物に乗り、兎人族の奴隷を連れ、海人族の警戒範囲をうろつく人間……確かに誤解されてもおかしくないかもしれない。

 

そこでメタナイトは

 

「待て、我々は争いに来たのではない。この間【グリューエン大火山】が爆発しただろう?それに我々は巻き込まれたのだ。それと我々は被害者だ。我々の話を聞かずそちら側が先に攻撃をしてきたのだ。我々は正当防衛をしたにならない。」

 

 

「……だ、だが、やれぇ!!」

 

「マッハトルネイド!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 潜水艇を即席で改造し作った荷台に、白目を剥いてアフロになっている海人族達を乗せ海原を進む。

 

 ユエが気をきかせて、一人だけ雷撃を弱くしておいたので直ぐに目を覚まさせ事情を説明し港に案内させた。

 

 ハジメが、当初、ミュウの名と特徴を知っていたことに、やはり貴様が犯人か! と暴れた海人族の男だったが、ハジメが、ついイラっとして大人しくなるまで無表情で往復ビンタを繰り返すと、改心してきちんと話を聞いてくれるようになった。

 

 そして、ミュウが現在、アンカジまで戻ってきていることを話すと、一度エリセンまで行き、そこで同行者を決めて一緒にアンカジまで行って欲しいと頼まれた。海人族としても、真偽の確かめようがないハジメの話を鵜呑みにしてミュウの手掛かりかもしれないハジメ達だけをアンカジに行かせるわけにはいかないのだろう。

 

現在ミュウとティオは一緒にいる。

 

 

 目の前でエリセンに案内している青年の他にも、先程、ハジメに吠えた者達は直接ミュウを知っている者達だったらしい。ミュウ誘拐の折、母親が負傷したこともあって余計感情的になっていたようだ。ミュウと再会した時に、そんな知り合い達をぶっ飛ばした挙句、適当に放置しましたというのも気が引けたので、ハジメは仕方なく青年の頼みを聞くことにした。

 

 そうして海の上を走ること数時間、

 

「あっ、ハジメさん! 見えてきましたよ! 町ですぅ! やっと人のいる場所ですよぉ!」

「ん? おぉ、ほんとに海のド真ん中にあるんだなぁ」

 

そして……シアが瞳を輝かせながら指を指し【エリセン】の存在を伝える。視線を向けたハジメの眼にも、確かに海上に浮かぶ大きな町が見え始めたのだった。

 

 

 




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空から幼女が!ーーただし娘

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 海の上を走ること数時間、

 

「あっ、ハジメさん! 見えてきましたよ! 町ですぅ! やっと人のいる場所ですよぉ!」

「ん? おぉ、ほんとに海のド真ん中にあるんだなぁ」

 

そして……シアが瞳を輝かせながら指を指し【エリセン】の存在を伝える。視線を向けたハジメの眼にも、確かに海上に浮かぶ大きな町が見え始めたのだった。

 

そうこうしているうちに、完全武装した海人族と人間の兵士が詰めかけてきた。青年が、事情を説明するため前に進み出て、何やらお偉いさんらしき人と話し始める。ハジメは、早く、アンカジに戻って香織達と合流したかったので、心の中で「さっさと同行者決めろや!」と多少イラつきながら、その様子を見守っていた。

 

 しかし、穏便にいってくれというハジメの思いは、やはりそう簡単に叶いはしないらしい。何やら慌てている青年を押しのけ、兵士達が押し寄せてきた。狭い桟橋の上なので逃げ場などなく、あっという間に包囲されるハジメ達。

 

「大人しくしろ。事の真偽がはっきりするまで、お前達を拘束させてもらう」

「おいおい、話はちゃんと聞いたのか?」

「もちろんだ。確認には我々の人員を行かせればいい。お前達が行く必要はない」

 

 にべもない態度と言葉。ハジメはイラっとしつつも、ミュウの故郷だと自分に言い聞かせて自制する。

 

「あのな。俺達だって仲間が待っているんだ。直ぐにでもアンカジに向かいたいところを、わざわざ勘違いで襲って来た奴らを送り届けに来てやったんだぞ?」

「果たして勘違いかどうか……攫われた子がアンカジにいなければ、エリセンの管轄内で正体不明の船に乗ってうろついていた不審者ということになる。道中で逃げ出さないとも限らないだろう?」

「どんなタイミングだよ。逃げ出すなら、こいつらを全滅させた時点で逃げ出しているっつうの」

「その件もだ。お前達が無断で管轄内に入ったことに変わりはない。それを発見した自警団の団員を襲ったのだから、そう簡単に自由にさせるわけには行かないな」

「殺気立って話も聞かず、襲ってきたのはコイツ等だろうが。それとも、おとなしく手足を落とされていれば良かったってか?……いい加減にしとけよ」

 

 

 ハジメとしては、ミュウの故郷であるし、大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】の正確な場所を知らないので、しばらく探索に時間がかかる可能性を考えると拠点となるエリセンで問題を起こしたくはなかった。アンカジにミュウがいるのは確実であるし、そうすれば疑惑も解けると頭ではわかっている。しかし、この世界におけるあらゆる理不尽に対して、ハジメは、条件反射ともいえる敵愾心を持っている。なので、そう簡単に言うことは聞く気にはなれなかった。

 

 まさに、一触即発。

 

 緊張感が高まる中、ハジメが、やはりミュウの故郷で暴れまわるわけにはいかないかと、譲歩しようとしたその時、

 

「ん? 今なにか……」

 

 シアが、ウサミミをピコピコと動かしながらキョロキョロと空を見渡し始めた。ハジメは、隊長格の男から目を逸らさずに、「どうした?」と尋ねる。だが、それにシアが答える前に、ハジメにも薄らと声と気配が感じられた。

 

「――ッ」

「あ? なんだ?」

「――パッ!」

「おい、まさか!?」

「――パパぁー!!」

 

 ハジメが慌てて空を見上げると、何と、遥か上空から、小さな人影が落ちてきているところだった!

 

 両手を広げて、自由落下しているというのに満面の笑みを浮かべるその人影は……

 

「ミュウッ!?」

 

 そう、ミュウだ。ミュウがスカイダイビングしている。パラシュートなしで。よく見れば、その背後から、慌てたように落下してくる黒竜姿のティオの姿が見えた。

 

 ハジメは、落ちてくる人影がミュウだと認識するや否や、〝空力〟と〝縮地〟を発動。その場から一気に跳躍した。その衝撃で桟橋が吹き飛び、兵士達が悲鳴を上げながら海に落ちたが知ったことではない。

 

 そして、ミュウを抱きしめたまま、〝空力〟を使ってピョンピョンと跳ねながら地上へと戻る。内心、冷や汗を滝のように流しながら。

 

「パパッ!」

 

 そんなハジメの内心など露ほどにも知らず、満面の笑みでハジメの胸元に顔をスリスリと擦りつけるミュウ。おそらく、上空で真下にハジメがいるとティオ辺りにでも教えられたのだろう。

 

 そして、事故かあるいは故意かは分からないが、ハジメ目掛けて落下した。落下中の笑顔を見れば、ハジメが受け止めてくれるということを微塵も疑っていなかったに違いない。

 

 だからといって、フリーフォールを満面の笑みで行うなど尋常な胆力ではない。そんな四歳児、いて堪るか! と内心ツッコミを入れながら、地上に降りたら盛大に叱ってやらねばなるまいと胸元のミュウを撫でながら、眉根を寄せるハジメであった。

 

 

「ひっぐ、ぐすっ、ひぅ」

 

 ボロボロになった桟橋の近くで、幼い少女のすすり泣く音が響く。野次馬やら兵士達やらで人がごった返しているのだが、喧騒など微塵もなく、妙に静まり返っていた。

 

 それは、攫われたはずの海人族の女の子が天から降ってきた事や、人間であるはずの少年が空を跳びはねキャッチした事、更にその上空から少女を背に乗せた黒竜が降りてきた事も原因ではあるのだが、一番の理由は、その少年が盛大に海人族の少女を叱り付けたことだろう。いや、正確には、叱りつけた少年に対する先程から何度か聞こえる幼女の呼び名が原因かもしれない。

 

「ぐすっ、パパ、ごめんなしゃい……」

「もうあんな危ない事しないって約束できるか?」

「うん、しゅる」

「よし、ならいい。ほら、来な」

「パパぁー!」

 

 片膝立ちで幼子にしっかり言い聞かせるハジメの姿と、叱られて泣きながらも素直に反省し、許されてハジメの胸元に飛び込むミュウの姿は……普通に親子だった。ミュウが連呼する〝パパ〟の呼び名の通りに。

 

 攫われたはずの海人族の幼子が、単なる〝慕う〟を通り越して人間の少年を父親扱いしている事態に、そしてそれを受け入れてミュウを娘扱いしているハジメに、皆、意味が分からず唖然としている。内心は皆一緒だろう。すなわち、「これ、どうなってんの?」と。

 

 大して気にもせず、ティオはハジメの傍に寄ると、その頭を抱き抱え自らの胸の谷間に押し付けた。

 

「ぬおっ!? おい、ティオ」

「信じておったよ? 信じておったが……やはり、こうして再会すると……しばし、時間をおくれ、ご主人様よ」

 

 ハジメが僅かに胸の谷間から顔を覗かせティオの顔を見れば、大切なものが腕の中にあることを噛み締めるような表情をして、目の端に涙を溜めていた。今回は、ティオに頼って無茶もさせたので、仕方ないかと好きにさせるハジメ。

 

 そうこうしているうちに、ミュウが「ミュウもギュ~する~」と言いながらハジメの首筋に抱きつき、いつの間にか傍に来ていたユエが側面から、シアが香織とは反対側の肩口に抱き付き始めた。

 

 衆人環視の中、美幼女・美少女・美女を体が見えなくなるくらい全身に纏わりつかせたハジメ。周囲の視線が、困惑から次第に生暖かなものへと変わっていく。既に、殺気立っていた海人族の自警団達も人間族の兵士達も、毒気を抜かれたように武器を下げていた。

 

「貴様等……一度ならず、二度までも……王国兵士に対する公務妨害で捕縛してやろうか!」

 

 

 

ハジメたちは、ティオから〝宝物庫〟を返してもらうと、中から全員分のステータスプレートとイルワからの依頼書を取り出し、隊長に提示した。

 

「……なになに……全員〝金〟ランクだとっ!? しかも、フューレン支部長の指名依頼!?」

 

 イルワの依頼書の他、事の経緯が書かれた手紙も提出した。これはエリセンの町長と目の前の駐在兵士のトップに宛てられたものだ。それを食い入るように読み進めた隊長は盛大に溜息を吐くと、少し逡巡したようだが、やがて諦めたように肩を落として敬礼をした。

 

「……依頼の完了を承認する。南雲殿」

「疑いが晴れたようで何よりだ。他にも色々聞きたいことはあるんだろうが、こっちはこっちで忙しい。というわけで何も聞かないでくれ……一先ず、この子と母親を会わせたい。いいよな?」

「もちろんだ。しかし、先程の竜の事や貴方の先程の跳躍、それにあの船らしきもの……王国兵士としては看過できない」

 

 先程の高圧的な態度とは一転し、ハジメに対して一定の敬意を払った態度となった隊長は、それでも聞くべきことは見逃せないとハジメに強い眼差しで訴える。

 

「それなら、時間が出来たら話すってことでいいだろ? どっちにしろしばらくエリセンに滞在する予定だしな。もっとも、本国に報告しても無駄だと思うぞ。もう、ほとんど知ってるだろうし……」

「むっ、そうか。とにかく、話す機会があるならいい。その子を母親の元へ……その子は母親の状態を?」

「いや、まだ知らないが、問題ない。こっちには最高の薬もあるし、治癒師もいるからな」

「そうか、わかった。では、落ち着いたらまた、尋ねるとしよう」

 

 隊長の男、最後にサルゼと名乗った彼は、そう言うと野次馬を散らして騒ぎの収拾に入った。中々、職務に忠実な人物である。

 

 ミュウを知る者達が、声を掛けたそうにしていたが、そうすれば何時までたっても母親のところへたどり着けそうになかったので、ハジメは視線で制止した。

 

「パパ、パパ。お家に帰るの。ママが待ってるの! ママに会いたいの」

「そうだな……早く、会いに行こう」

 

ハジメの手を懸命に引っ張り、早く早く! と急かすミュウ。彼女にとっては、約二ヶ月ぶりの我が家と母親なのだ。無理もない。道中も、ハジメ達が構うので普段は笑っていたが、夜、寝る時などに、やはり母親が恋しくなるようで、そういう時は特に甘えん坊になっていた。

 

 ミュウの案内に従って彼女の家に向かう道中、顔を寄せて来た香織が不安そうな小声で尋ねる。

 

「ハジメくん。さっきの兵士さんとの話って……」

「いや、命に関わるようなものじゃないらしい。ただ、怪我が酷いのと、後は、精神的なものだそうだ……精神の方はミュウがいれば問題ない。怪我の方は詳しく見てやってくれ」

「うん。任せて」

 

 そんな会話をしていると、通りの先で騒ぎが聞こえだした。若い女の声と、数人の男女の声だ。

 

「レミア、落ち着くんだ! その足じゃ無理だ!」

「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」

「いやよ! ミュウが帰ってきたのでしょう!? なら、私が行かないと! 迎えに行ってあげないと!」

 

 そのレミアと呼ばれた女性の必死な声が響くと、ミュウが顔をパァア! と輝かせた。そして、玄関口で倒れ込んでいる二十代半ば程の女性に向かって、精一杯大きな声で呼びかけながら駆け出した。

 

「ママーー!!」

「ッ!? ミュウ!? ミュウ!」

 

 ミュウは、ステテテテー! と勢いよく走り、玄関先で両足を揃えて投げ出し崩れ落ちている女性――母親であるレミアの胸元へ満面の笑顔で飛び込んだ。

 

 もう二度と離れないというように固く抱きしめ合う母娘の姿に、周囲の人々が温かな眼差しを向けている。

 

レミアは、何度も何度もミュウに「ごめんなさい」と繰り返していた。それは、目を離してしまったことか、それとも迎えに行ってあげられなかったことか、あるいはその両方か。

 

 娘が無事だった事に対する安堵と守れなかった事に対する不甲斐なさにポロポロと涙をこぼすレミアに、ミュウは心配そうな眼差しを向けながら、その頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫なの。ママ、ミュウはここにいるの。だから、大丈夫なの」

「ミュウ……」

 

 まさか、まだ四歳の娘に慰められるとは思わず、レミアは涙で滲む瞳をまん丸に見開いて、ミュウを見つめた。

 

「ママ! あし! どうしたの! けがしたの!? いたいの!?」

 

 どうやら、肩越しにレミアの足の状態に気がついたらしい。彼女のロングスカートから覗いている両足は、包帯でぐるぐる巻きにされており、痛々しい有様だった。

 

 これが、サルゼが言っていたことであり、エリセンに来る道中でハジメが青年から聞いていたことだ。ミュウを攫ったこともだが、母親であるレミアに歩けなくなる程の重傷を負わせたことも、海人族達があれ程殺気立っていた理由の一つだったのだ。

 

レミアは、はぐれたミュウを探している時に、海岸の近くで怪しげな男達を発見した。取り敢えず娘を知らないか尋ねようと近付いたところ……男は「しまった」という表情をして、いきなり詠唱を始めたらしい。

 

レミアは、ミュウがいなくなったことに彼等が関与していると確信し、何とかミュウを取り返そうと、足跡の続いている方向へ走り出そうとした。

 

 しかし、もう一人の男に殴りつけられ転倒し、そこへ追い打ちを掛けるように炎弾が放たれた。幸い、何とか上半身への直撃は避けたものの足に被弾し、そのまま衝撃で吹き飛ばされ海へと落ちた。レミアは、痛みと衝撃で気を失い、気が付けば帰りの遅いレミア達を捜索しに来た自警団の人達に助けられていたのだ。

 

一命は取り留めたものの、時間が経っていたこともあり、レミアの足は神経をやられていて、もう歩くことも今までのように泳ぐことも出来ない状態になってしまった。当然、娘を探しに行こうとしたレミアだが、そんな足では捜索など出来るはずもなく、結局、自警団と王国に任せるしかなかった。

 

 そんな事情があり、レミアは現在、立っていることもままならない状態なのである。

 

 レミアは、これ以上、娘に心配ばかりかけられないと笑顔を見せて、ミュウと同じように「大丈夫」と伝えようとした。しかし、それより早く、ミュウは、この世でもっとも頼りにしている〝パパ〟に助けを求めた。

 

「パパぁ! ママを助けて! ママの足が痛いの!」

「えっ!? ミ、ミュウ? いま、なんて……」

「パパ! はやくぅ!」

「あら? あらら? やっぱり、パパって言ったの? ミュウ、パパって?」

 混乱し頭上に大量の〝?〟を浮かべるレミア。周囲の人々もザワザワと騒ぎ出した。あちこちから「レミアが……再婚? そんな……バカナ」「レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね! おめでたいわ!」「ウソだろ? 誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……」「パパ…だと!? 俺のことか!?」「きっとクッ○ングパパみたいな芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない」「おい、緊急集会だ! レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ! こりゃあ、荒れるぞ!」など、色々危ない発言が飛び交っている。

 

どうやら、レミアとミュウは、かなり人気のある母娘のようだ。レミアは、まだ、二十代半ばと若く、今は、かなりやつれてしまっているが、ミュウによく似た整った顔立ちをしている。復調すれば、おっとり系の美人として人目を惹くだろうことは容易く想像できるので、人気があるのも頷ける。

 

 刻一刻と大きくなる喧騒に、「行きたくねぇなぁ」と表情を引き攣らせるハジメ。ミュウがハジメをパパと呼ぶようになった経緯を説明すれば、あくまでパパ〝代わり(内心は別としても)〟であって、決してレミアとの再婚を狙っているわけではないと分かってもらえるだろうと簡単に考えていたのだが、どうやら、誤解が物凄い勢いで加速しているようだ。

 

 だが、ある意味僥倖かもしれないとハジメは考えた。ミュウは母親の元に残して、ハジメ達は旅を続けなければならない。【メルジーネ海底遺跡】を攻略すれば、ミュウとはお別れなのだ。故郷から遠く離れた地で、母親から無理やり引き離されたミュウの寄る辺がハジメ達だったわけだが、母親の元に戻れば、最初は悲しむかもしれないが時間がハジメ達への思いを薄れさせるだろうと考えていた。周囲の人々の、レミア達母娘への関心の強さは、きっと、その助けとなるはずだ。

 

「パパぁ! はやくぅ! ママをたすけて!」

 

 ミュウの視線が、がっちりハジメを捉えているので、その視線をたどりレミアも周囲の人々もハジメの存在に気がついたようだ。ハジメは観念して、レミア達母娘へと歩み寄った。

 

「パパ、ママが……」

「大丈夫だ、ミュウ……ちゃんと治る。だから、泣きそうな顔するな」

「はいなの……」

「カービィ、あれをくれ。」

「わかった。コピー能力アーティスト!」

カービィはマキシムトマトを描いてハジメに渡す。

「これを食ってくれ。これはこれの仲間の故郷に伝わる秘薬なんだ。」

「ママ、早く食べるなの!」

「わ、わかったわ。」

そう言ってレミアはマキシムトマトを食べた。次の瞬間傷が全て消えたのだった。

 

「そんなバカな!?」

と海人族がいっていた。

 

「あらあら、まあまあ。もう、歩けないと思っていましたのに……何とお礼を言えばいいか……」

「ふふ、いいんですよ。ミュウちゃんのお母さんなんですから」

「えっと、そういえば、皆さんは、ミュウとはどのような……それに、その……どうして、ミュウは、貴方のことを〝パパ〟と……」

 

 

 メタナイトはハジメ達は、事の経緯を説明することにした。フューレンでのミュウとの出会いと騒動、そしてパパと呼ぶようになった経緯など。全てを聞いたレミアは、その場で深々と頭を下げ、涙ながらに何度も何度もお礼を繰り返した。

 

「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです。このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来ることでしたら、どんなことでも……」

「どうかせめて、これくらいはさせて下さい。幸い、家はゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。エリセンに滞在中は、どうか遠慮なく。それに、その方がミュウも喜びます。ね? ミュウ? ハジメさん達が家にいてくれた方が嬉しいわよね?」

「? パパ、どこかに行くの?」

 

 レミアの言葉に、レミアの膝枕でうとうとしていたミュウは目をぱちくりさせて目を覚まし、次いでキョトンとした。どうやら、ミュウの中でハジメが自分の家に滞在することは物理法則より当たり前のことらしい。なぜ、レミアがそんな事を聞くのかわからないと言った表情だ。

 

「母親の元に送り届けたら、少しずつ距離を取ろうかと思っていたんだが……」

「あらあら、うふふ。パパが、娘から距離を取るなんていけませんよ?」

「いや、それは説明しただろ? 俺達は……」

「いずれ、旅立たれることは承知しています。ですが、だからこそ、お別れの日まで〝パパ〟でいてあげて下さい。距離を取られた挙句、さようならでは……ね?」

「……まぁ、それもそうか……」

「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、ずっと〝パパ〟でもいいのですよ? 先程、〝一生かけて〟と言ってしまいましたし……」

 

 そんな事を言って、少し赤く染まった頬に片手を当てながら「うふふ♡」と笑みをこぼすレミア。おっとりした微笑みは、普通なら和むものなのだろうが……ハジメの周囲にはブリザードが発生している。

 

「そういう冗談はよしてくれ……空気が冷たいだろうが……」

「あらあら、おモテになるのですね。ですが、私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし……ミュウもパパ欲しいわよね?」

「ふぇ? パパはパパだよ?」

「うふふ、だそうですよ、パパ?」

 

ブリザードが激しさを増す。冷たい空気に気が付いているのかいないのか分からないが、おっとりした雰囲気で、冗談とも本気とも付かない事をいうレミア。「いい度胸だ、ゴラァ!」という視線を送るユエ達にも「あらあら、うふふ」と微笑むだけで、柳に風と受け流している。意外に大物なのかもしれない。

 

 結局、レミア宅に世話になることになった。部屋割りで「夫婦なら一緒にしますか?」とのたまうレミアとユエ達が無言の応酬を繰り広げたり、「パパとママと一緒に寝る~」というミュウの言葉に場がカオスと化したりしたが、一応の落ち着きを見せた。

 

 明日からは、大迷宮攻略に向けて、しばらくの間、損壊、喪失した装備品の修繕・作成や、新たな神代魔法に対する試行錯誤を行わなければならない。しかし、残り少ないミュウとの時間も、蔑ろにはできないと考えながら、ベッドに入ったハジメの意識は微睡んでいったのだった。





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それから三日。

 

妙にハジメとの距離が近いレミアに、海人族の男連中が嫉妬で目を血走らせたり、ハジメに突っかかってきたり、ご近所のおばちゃん達がハジメとレミアの仲を盛り上げたり、それにユエ達が不機嫌になってハジメへのアプローチが激しくなったり、夜のユエが殊更可愛くなったりしながらも、準備を万全にしたハジメは、遂に、【メルジーネ海底遺跡】の探索に乗り出した。

今回はミュウをレミアに預けたので全員で行くことができる。

 

ミュウが手を振りながら「パパ、いってらっしゃい!」と気丈に叫ぶ。そして、やはり冗談なのか本気なのか分からない雰囲気で「いってらっしゃい、あ・な・た♡」と手を振るレミア。

 

 

 【海上の町エリセン】から西北西に約三百キロメートル。

 

 そこが、かつてミレディ・ライセンから聞いた七大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】の存在する場所だ。

 

始めはカービィたちも乗っていたのだが人数が多すぎるのでカービィ一行は潜っている。試しにカービィ一行がいつまで潜れるか三日前に試したがずっと上がってこないので今日の朝止めに行ったのだった。

つまりカービィたちは水中でも平気なので泳いでいる。

 

 ハジメ達は、じっくり調べるため、最初に発見した紋章に近付いた。激流にさらされているので、船体の制御に気を遣う。

 

「まぁ、五芒星の紋章に五ヶ所の目印、それと光を残したペンダントとくれば……」

 

 そう呟きながら、ハジメは首から下げたペンダントを取り出し、フロント水晶越しにかざしてみた。すると、案の定ペンダントが反応し、ランタンから光が一直線に伸びる。そして、その光が紋章に当たると、紋章が一気に輝きだした。

 

「これ、魔法でこの場に来る人達は大変だね……直ぐに気が付けないと魔力が持たないよ」

 

 香織の言う通り、このようなRPG風の仕掛けを魔法で何とか生命維持している者達にさせるのは相当酷だろう。【グリューエン大火山】とは別の意味で限界ギリギリを狙っているのかもしれない。

 

 その後、更に三ヶ所の紋章にランタンの光を注ぎ、最後の紋章の場所にやって来た。ランタンに溜まっていた光も、放出するごとに少なくなっていき、ちょうど後一回分くらいの量となっている。

ハジメが、ペンダントをかざし最後の紋章に光を注ぐと、遂に、円環の洞窟から先に進む道が開かれた。ゴゴゴゴッ! と轟音を響かせて、洞窟の壁が縦真っ二つに別れる。

 

 特に何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。潜水艇を進めるハジメ。すると、突然、船体が浮遊感に包まれ一気に落下した。

 

「おぉ?」

「んっ」

「ひゃっ!?」

「ぬおっ」

「はうぅ!」

 

 それぞれ、五者五様の悲鳴を上げる。ハジメは、股間のフワッと感に耐える。直後、ズシンッ! と轟音を響かせながら潜水艇が硬い地面に叩きつけられた。激しい衝撃が船内に伝わり、特に体が丈夫なわけではない香織が呻き声を上げる。

 

「っ……香織、無事か」

「うぅ、だ、大丈夫。それより、ここは?」

 

 香織が顔をしかめながらもフロント水晶から外を見ると、先程までと異なり、外は海中ではなく空洞になっているようだった。取り敢えず、周囲に魔物の気配があるわけでもなかったので、船外に出るハジメ達。

 

 潜水艇の外は大きな半球状の空間だった。頭上を見上げれば大きな穴があり、どういう原理なのか水面がたゆたっている。水滴一つ落ちることなくユラユラと波打っており、ハジメ達はそこから落ちてきたようだ。

 

「どうやら、ここからが本番みたいだな。海底遺跡っていうより洞窟だが」

「……全部水中でなくて良かった」

 

 

カービィ一行も後からついてきた。

 

 

ハジメは、潜水艇を〝宝物庫〟に戻しながら、洞窟の奥に見える通路に進もうとカービィ達を促す……寸前でカービィに呼びかけた。

 

「カービィ」

「コピー能力ミラー、リフレクトフォース!」

 

刹那、頭上からレーザーの如き水流が流星さながらに襲いかかる。圧縮された水のレーザーは、かつてユエが【ライセン大迷宮】で重宝した〝破断〟と同じだ。直撃すれば、容易く人体に穴を穿つだろう。

しかしカービィはそれをそっくりそのままお返ししたのだった。

 

しかし直後もう1発!

「ユエ」

「ん」

 

 それだけで、ユエは即座に障壁を展開した。

 

 

 光輝達といた時は、鈴の守りを補助する形でそれなりに防御魔法は行使してきた。たくさん訓練をして、発動速度だけなら〝結界師〟たる鈴にだって引けを取らないレベルになったのだ。それでも、ユエと比べると、自分の防御魔法など児戯に等しいと思わせられる。

 

 【オルクス大迷宮】でハジメ達に助けられた時から感じていた〝それ〟――分かってはいたが、それでもハジメの傍にいるためにはやるしかないのだと自分に言い聞かせて心の奥底に押し込めてきた――〝劣等感〟。自分は、足でまといにしかならないのではないか? その思いが再び、香織の胸中を過る。

 

「どうした?」

「えっ? あ、ううん。何でもないよ」

「……そうか」

 

 香織は咄嗟に誤魔化し、無理やり笑顔を浮かべる。ハジメは、そんな香織の様子に少し目を細めるが、特に何も言わなかった。

 

「……弱すぎないか?」

 

 ハジメの呟きに香織以外の全員が頷いた。

 

 

「そーだね。ここはソードを一振りするだけで倒せちゃうし。」

ティオ「それはカービィが強すぎるからじゃろう」

 

 大迷宮の敵というのは、基本的に単体で強力、複数で厄介、単体で強力かつ厄介というのがセオリーだ。だが、ヒトデにしても海蛇にしても、海底火山から噴出された時に襲ってきた海の魔物と大して変わらないか、あるいは、弱いくらいである。とても、大迷宮の魔物とは思えなかった。

 

 大迷宮を知らない香織以外は、皆、首を傾げるのだが、その答えは通路の先にある大きな空間で示された。

 

「っ……何だ?」

 

 ハジメ達が、その空間に入った途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ。

 

「私がやります! うりゃあ!!」

 

 咄嗟に、最後尾にいたシアは、その壁を壊そうとドリュッケンを振るった、が、表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、その飛沫がシアの胸元に付着する。

 

「ひゃわ! 何ですか、これ!」

 

 シアが、困惑と驚愕の混じった声を張り上げた。ハジメ達が視線を向ければ、何と、シアの胸元の衣服が溶け出している。衣服と下着に包まれた、シアの豊満な双丘がドンドンさらけ出されていく。

 

「シア、動くでない!」

 

 咄嗟に、ティオが、絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。少し、皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。どうやら、出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるよう

 

「っ! また来るぞ!」

 

 警戒して、ゼリーの壁から離れた直後、今度は頭上から、無数の触手が襲いかかった。先端が槍のように鋭く尖っているが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じである。だとすれば、同じように強力な溶解作用があるかもしれないと、再び、ユエが障壁を張る。更に、ティオが炎を繰り出して、触手を焼き払いにかかった。

 

「正直、ユエの防御とティオの攻撃のコンボって、割と反則臭いよな」

 

「ボクもやるよ!コピー能力クリエイト『ファイア、トルネイド』!」

カービィはトルネイドで飛び回りながらファイアを纏って焼き尽くしている。

 

 

「あのぉ、ハジメさん。火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ」

「……お前、状況わかってんの?」

「いや、カービィさんとユエさんとティオさんが無双してるので大丈夫かと……こういう細かなところでアピールしないと、香織さんの参戦で影が薄くなりそうですし……」

 

 シアが、胸のちょうど谷間あたりに出来た火傷の幾つかをハジメに見せつけながら、そんなことをのたまった。

 

 すると、

 

「聖浄と癒しをここに〝天恵〟」

 

 

いい笑顔の香織がすかさずシアの負傷を治してしまった。「あぁ~、お胸を触ってもらうチャンスがぁ!」と嘆くシアに、全員が冷たい視線を送る。

 

「む? ……ハジメ、このゼリー、魔法も溶かすみたい」

 

 嘆くシアに冷たい視線を送っていると、ユエから声がかかる。見れば、ユエの張った障壁がジワジワと溶かされているのがわかった。

 

「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」

 

「ボクは全然だいじょーぶだよ!」

メタナイト「カービィのコピー能力は魔力を使っているが魔法ではないからな。」

ハジメ「コピー能力ってなんでコピー能力なんだ?」

メタナイト「それはだな、カービィは本来なら敵を吸い込んでその能力をそっくりそのまま手に入れる能力だ。だからコピー能力という。ちなみにカービィのコピー能力は無限の可能性があり、そのコピー能力はプププランドで身につけたと言っても過言ではない。とはいえ吸い込みはその前からできていたらしい。」

シア「じゃあカービィさんは吸い込みとコピー能力が固有の能力ってことですか?」

メタナイト「いや、正確には吸い込みはデデデ大王も使える。」

カービィ「そういえば何気にデデデ大王って吸い込み使えるけど、使えるようになったのはボクにまけてからだよね。」

メタナイト「うむ、私は一時的にデデデ大王に仕えていた時があってなその時にホバリングの練習をしているのを見たのだがそのときから相当カービィをライバル視していたのがわかった。」

デデデ大王「べつに俺はカービィに負けたくないとかそう言うのではなく俺が強くなってプププランドを守る為だからな!俺はプププランドの偉大なる支配者だからな!」

 

この時デデデ大王以外はこう思った

 

「「「「「「「「「「「(やっぱりデデデ大王ってツンデレだ!(確信))」」」」」」」」」」

 

 

なんだかんだでカービィたちは進んでいった。

 

 

その先は……

 

「これは……船の墓場ってやつか?」

「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」

 

 密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが、最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだった。

 




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平和な国プププランド

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「これは……船の墓場ってやつか?」

「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」

 

 密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが、最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだった。

 

ハジメも香織も思わず足を止めてその一種異様な光景に見入ってしまった。しかし、いつまでもそうしているわけにも行かず、ハジメと香織は気を取り直すと、船の墓場へと足を踏み入れた。

 

 岩場の隙間を通り抜け、あるいは乗り越えて、時折、船の上も歩いて先へと進む。どの船も朽ちてはいるが、触っただけで崩壊するほどではなく、一体いつからあるのか判断が難しかった。

 

「それにしても……戦艦ばっかだな」

「うん。でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよね。装飾とか見ても豪華だし……」

 

墓場にある船には、どれも地球の戦艦(帆船)のように横腹に砲門が付いているわけではなかった。しかし、それでもハジメが戦艦と断定したのは、どの船も激しい戦闘跡が残っていたからだ。見た目から言って、魔法による攻撃を受けたものだろう。スッパリ切断されたマストや、焼け焦げた甲板、石化したロープや網など残っていた。

 

 大砲というものがないなら、遠隔の敵を倒すには魔法しかなく、それらの跡から昔の戦闘方法が想像できた。

 

 そして、その推測は、ハジメ達が船の墓場のちょうど中腹に来たあたりで事実であると証明された。

 

――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

「ッ!? なんだ!?」

「ハジメくん! 周りがっ!」

 

 

 

突然、大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。驚いて足を止めたハジメ達が何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり――気が付けば、ハジメ達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。

 

 

 

 

 

 

そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。

 

「な、なんだこりゃ……」

「ハ、ハ、ハジメくん? 私、夢でも見てるのかな? ハジメくん、ちゃんとここにいるよね? ね?」

 

 ハジメも香織も度肝を抜かれてしまい、何とか混乱しそうな精神を落ち着かせながら周囲の様子を見ることしかできない。

 

 そうこうしている内に、大きな火花が上空に上がり、花火のように大きな音と共に弾けると、何百隻という船が一斉に進み出した。ハジメ達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。

 

 そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。

 

ゴォオオオオオオオオ!!

ドォガァアアン!!

ドバァアアアア!!!

メタナイト「私たちにまかせろ。行くぞカービィ!」

「うん任せて!コピー能力エンジェル!」

浮きながらハートの矢をまとめて放つことができる天使の能力、コピー能力エンジェルだ。

カービィは魔法を撃ち落とし、メタナイトが本体を狙った。

しかし、メタナイトの攻撃は当たらなかった。

戦場――文字通り、このおびただしい船団と人々は戦争をしているのだ。放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でていく。

 

 その様子を呆然と見ていたハジメ達の背後から再び炎弾が飛来した。放っておけばハジメ達に直撃コースだ。

 

 ハジメは、なぜいきなり戦場に紛れ込んだのか? などと疑問で頭の中を埋め尽くしながらも、とにかく攻撃を受けた以上皆殺しOKの精神でドンナーを抜き、炎弾を迎撃すべくレールガンを撃ち放った。

 

 炸裂音と共に一条の閃光となって飛翔した弾丸は、しかし、全く予想外なことに炎弾を迎撃するどころか直撃したにも関わらず、そのまますり抜けて空の彼方へと消えていってしまった。

 

「なにぃ!?」

 

 もう何度目かわからない驚愕の声を上げながら、傍の香織を抱いて回避行動に出ようとする。

 

「待って、防ぐから! 〝光絶〟!」

「……そういう事か?」

 

 それを見て、攻撃の有効性についてある程度の推測を立てたハジメは、別の攻撃方法を試してみることにした。飛来する炎弾を防ぐため、香織が、もう一度障壁を張ろうとしたのを制止して、ハジメは、ドンナーに〝風爪〟を発動した。そして、回避と同時に〝風爪〟で炎弾を斬り付けると、今度は、炎弾をすり抜けることもなく真っ二つにすることが出来た。

 

 

「えっと、ハジメくん?」

「どうやら、ただの幻覚ってわけでもないが、現実というわけでもないようだ。実体のある攻撃は効かないが、魔力を伴った攻撃は有効らしい。全く、本当にどうなってんだか」

 

 

 

 咄嗟に、香織は、「大丈夫ですか!」と声を掛けながら近寄り、回復魔法を行使した。彼女の放つ純白の光が青年を包み込む。香織の〝治癒師〟としての腕なら瞬く間に治るはずだ……と思われたが、結果は予想外。青年は、香織の回復魔法をかけられた瞬間、淡い光となって霧散してしまった。

 

「え? えっ? ど、どうして……」

 

 混乱する香織に、ハジメは少し考えたあと、推測を話す。

 

「魔力さえ伴っていれば、魔法の属性や効果は関係ないってことじゃないか?」

「……それじゃあ、わ、私……あの人を殺し……」

「香織、これは現実じゃない。〝直接作用できる幻覚〟くらいに考えておけ。それに、回復魔法をかけられて消えるものを人間とは呼ばない」

「ハジメくん……うん、そうだね。ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったけど、もう大丈夫」

 

 ハジメの淡々としながらも香織を気遣う言葉に、しかし、香織は、いつものように喜ぶでもなく、ただ申し訳なさそうに肩を落とした。そして、直ぐに笑顔を取り繕う。そんな香織に、ハジメは思わず先程から思っていた事をポツリと呟いた。

 

「……謝ってばっかだな」

「えっ? 何か言った?」

「いや、何でもない」

 

 ハジメが、香織から視線を外す。

 

 香織との間に微妙な空気が流れそうだったからではなく、不穏な気配を感じたからだ。周囲を見渡せば、雄叫びを上げながら、かなり近くまで迫ってきた相手の船団に攻撃する兵士達に紛れて、いつの間にか、かなりの数の男達が暗く澱んだ目でハジメと香織の方を見ていた。

 

 香織が、ハジメの視線に気がつき同じように視線を巡らせた直後、彼等はハジメ達に向かって一斉に襲いかかってきた。

 

「全ては神の御為にぃ!」

「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」

「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」

 

 そこにあったのは狂気だ。血走った眼に、唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。まともに見れたものではない。

 

 相対する船団は、明らかに何処かの国同士の戦争なのだろうと察することが出来るが、その理由もわかってしまった。これは宗教戦争なのだ。よく耳を澄ませば、相対する船団の兵士達からも同じような怒号と雄叫びが聞こえてくる。ただ、呼ぶ神の名が異なるだけだ。

 

 その狂気に気圧されて香織は呆然と立ち尽くす。

ハジメは、香織を後ろから抱きしめつつ、その肩越しにドンナーを突き出し発砲した。ただし、飛び出したのは弾丸ではなく、純粋な魔力の塊だ。〝魔力操作〟の派生〝魔力放射〟と〝魔力圧縮〟によって放たれたそれは、通常であれば、対象への物理的作用は余りなく魔力そのものを吹き飛ばすという効果をもつ。魔力が枯渇すれば人も魔物も動けなくなるので、ある意味、無傷での無力化という意味では使える技術なのだが、相対した相手にそんな生温い方法をハジメが選ぶはずもなく、今まで御蔵入りしていた技である。

 

 だが今は、その生温い技が何より役に立つ。ドンナーによって撃ち放たれた紅色の弾丸は、一瞬で空を駆け抜けると、狂気を瞳に宿しカットラスを振り上げる兵士の眉間をぶち抜いた。それだけに留まらず、貫通して更に背後の兵士にも着弾し、その体を一瞬で霧散させる。

 

「香織! 飛ぶぞ! 舌を噛むなよ!」

「えっ? っきゃあああ!!」

ハジメ「メタナイト!魔力を通せば攻撃が効く筈だ!」

 

「わかった、やってみよう。カービィ、コピー能力ファイアで私の剣に火をつけてくれ!」

 

「え?うん、わかった。コピー能力ファイア!」

 

カービィはメタナイトの宝剣ギャラクシアに火をつけた。

 

すると……

 

メタナイトの剣、宝剣ギャラクシアは火を纏ったのだった。

 

 

これを後にフレンズ能力と言うが、まだその段階の威力には及ばない。

 

 

 一瞬前まで、目の前の敵と相対していたというのに、突然、動きを止めるとグリンッ! と首を捻ってハジメ達を凝視し、直後に群がって来る光景は軽くホラーだ。狂気に当てられた香織など、既に真っ青になっている。

 

「さて、どうすれば、この気持ち悪い空間から抜け出せるんだ?」

「……どこかに脱出口がある……とか?」

「海のど真ん中だぞ?」

「船のどれかが脱出口になっていたりしないかな? ……ほら、ど○でもドアみたいに」

 

 香織が例えに持ち出した真っ青な猫ロボの便利道具を思い出しつつ、周囲を見渡すハジメは、船の多さに眉をひそめて嫌そうに反論する。

 

「……見た感じ、ざっと六百隻くらいあるんだが……一つ一つ探すのは無理だろ。戦争が終わる方が早いと思うぞ?」

「う~ん、確かに、沈んじゃう船もあるだろうし……じゃあ、戦争を終わらせる……とかかな?」

「終わらせる……なるほど、取り敢えず皆殺せと? 香織も中々過激な事を言うじゃないか」

「えっ? えっと、そういう意味じゃ……」

「うん、きっとそうだな。それ以外思いつかないし、何より俺好みだし」

 

 ちょうど、マストのロープを使って振り子の要領で迫ってきた兵士数人を見もせず魔力弾で撃ち抜き霧散させたハジメは、こんなことなら魔力砲でも作っておけばよかったと思いつつ、撃ち放った紅色の弾丸を〝魔力操作〟の派生〝遠隔操作〟で誘導し、更に飛来した炎弾を迎撃していく。

 

「香織、お前は攻撃系の魔法は不得意だろうけど、ここでは回復魔法すら強力な攻撃になる。脱出方法はよく分からないが、襲われたのは事実なんだから、取り敢えず、全員ぶちのめすぞ」

「わ、わかったよ!」

 

 ハジメの言葉に、震える体を叱咤して決然とした表情で詠唱を始める香織。狂気が吹き荒れる戦場は、香織の精神を掘削機のように削り取っているのだろうが、隣にいる想い人に無様を見せたくない一心で気丈に振舞う。

 

 そんな彼女を守るようにハジメは周囲を睥睨した。

 

 眼下を見れば、そこかしこで相手の船に乗り込み敵味方混じり合って殺し合いが行われていた。ハジメ達が攻撃した場合と異なり、幻想同士の殺し合いでは、きっちり流血するらしい。

 

 甲板の上には、誰の物とも知れない臓物や欠損した手足、あるいは頭部が撒き散らされ、かなりスプラッタな状態になっていた。どいつもこいつも、〝神のため〟〝異教徒〟〝神罰〟を連呼し、眼に狂気を宿して殺意を撒き散らしている。

 

 兵士達の鮮血が海風に乗って桜吹雪のように舞い散る中、マストの上の物見台にいるハジメ達にも、いや、むしろハジメ達を狙って双方の兵士が執拗に襲いかかった。

 

 その度に、紅色の弾丸が縦横無尽に飛び回り、敵の尽くを撃ち抜いていく。更には、ハジメと香織の周囲を衛星のようにヒュンヒュンと飛び回って、攻性防御の役割を果たす魔力弾もあった。

 

 それでも、狂気の兵士達は怯むどころか気にする様子もなく、特攻を繰り返して来た。飛翔の魔法で何十人という兵士達が頭上から、そして、隣のマストやマストにかかる網を伝って兵士達が迫って来る。見れば、ハジメ達の乗る船にやたらと攻撃が集中しており、ハジメの魔眼石には、ハジメ達に向かって手を掲げる術師達から最上級クラスの魔力の高まりが見えていた。

 

 ハジメが、何とか狙撃してやろうかと考えたその時、香織の詠唱が終わり、彼女の最上級魔法が発動する。

 

「――もの皆、その腕かいなに抱きて、ここに聖母は微笑む 〝聖典〟!」

 

 直後、香織を中心に光の波紋が一気に戦場を駆け抜けた。

 

 波紋は、脈動を打つように何度も何度も広がり、その範囲は半径一キロメートルに及んだ。そして、その波紋に触れた敵の一人一人を光で包み込んでいく。

 

 光系最上級回復魔法〝聖典〟。

 

 それは、超広範囲型の回復魔法で、領域内にいる者を全員まとめて回復させる効果を持つ。範囲は、術者の魔力量や技量にもよるが、最低でも半径五百メートル以内の者に効果がある魔法だ。また、あらかじめ〝目印〟を持たせておけば、領域内で対象を指定して回復させることも出来る。当然、普通は数十人掛りで行使する魔法であるし、長時間の詠唱と馬鹿デカイ魔法陣も必要だ。たった一、二分で、しかも一人で行使できるなど、チート以外の何者でもない。

 

 香織の放った〝聖典〟の光が戦場を包み込むと同時に、領域内の兵士達は敵味方の区別なく全てが体を霧散させて消え去った。魔法の効果が終わり、香織の体が魔力枯渇で傾ぐ。ハジメが、すかさず支えに入った。

 

「おぉ、メアリー・セレスト号の量産だな。やるじゃないか、香織。いや、流石というべきか?」

「あ、う、そ、そんなことないよ。ハジメくん達の方がずっと凄いし……」

 

 

香織は、ハジメの素直な称賛に照れくさそうに頬を染めつつも、ユエなら、もっと早く、もっと強力な魔法が使えるのだろうなと思い、自嘲気味の笑みをこぼした。そして、「〝補充〟」と呟いてハジメから貰った魔晶石のペンダントより失った魔力を充填していく。香織は魔力の直接操作が出来ないので、ハジメが魔法陣を刻んで詠唱で取り出せるように改良したのだ。

 

 

ハジメは、香織の表情を見て眉を少ししかめ何かを言いかけたが、新たな敵が迫ってきたのでそれに対処するため、一旦脇に置き、再び戦闘に入った。

 

 物理攻撃が一切通用せず、どのような攻撃にも怯まない狂戦士の大群と船の上で戦わなければならないという状況は、普通なら相当厳しいものなのだろうが、ここにいるのはチートと化け物。

 

 二国の大艦隊は、その後、一時間ほどでたった二人の人間に殲滅されたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……うっ、げほぉ、かふっ、ごめ゛……」

「いいから、我慢すんな」

 

 最後の兵士達を消滅させた直後、再び、周囲の景色がぐにゃりと歪み、気が付けば、ハジメ達は元の場所に戻っていた。

 

 やはり、殲滅で正解だったかと、安堵の吐息を漏らした直後、香織は近くの岩場に駆け込み、胃の中ものを吐き出し始めた。夕食は消化された後なので吐けるものがなく、一層苦しそうに嘔吐えづいている。

 

 目尻に涙を溜めながら、香織は、片手で「来ないで」とハジメに制止をかけた。

 

 

 しかし、ハジメはお構いなしに近寄り、香織の背をさする。思い人に無様を見られたくない香織だったが、背中に伝わる優しく温かい感触が心地よくて、次第に精神も吐き気も収まっていくのを感じた。

 

 ハジメが〝宝物庫〟から取り出し、差し出したリンゴジュースのような飲み物を、素直にコクコクと飲むと活力も戻ってきたようだ。甘く爽やかな味が、胃液の苦さを洗い流した。

 

「ごめんね……」

 

 面倒を掛けて申し訳ないと眉を八の字にして謝罪する香織に、ハジメは目を細める。

 

「まぁ、無理もないだろ。俺でも気持ち悪かった。人間ってのはあそこまで盲信的で狂気的になれるもんなんだなって思ったよ。……とにかく、少し休憩しよう。俺も相当魔力を使ったからな回復したい」

「……うん。ねぇ、ハジメくん。あれは何だったのかな? ここにある廃船と関係あるよね?」

 

 立ち上がり近くの岩場に腰掛けながら、香織が問いかける。ハジメは、少し考えたあと推測を話した。

 

「おそらくだが、昔あった戦争を幻術か何かで再現したんだろうな。……まぁ、迷宮の挑戦者を襲うという改良は加えられているみたいだが……あるいは、これがこの迷宮のコンセプトなのかもしれない」

「コンセプト?」

「ああ。【グリューエン大火山】でティオが言ってたんだよ。大迷宮にはそれぞれ、〝解放者〟達が用意したコンセプトがあるんじゃないか? ってな。それが本当だとすれば、ここは……」

「……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……かな?」

「ああ、そんな気がするよ」

 

 

ハジメの言葉を引き継ぎ、答えを呟いた香織は、先程までの光景を思い出して再び、寒気に襲われたように体をぶるりと震わせながら顔を青ざめさせた。

 

 香織が吐き気を催すほど精神を苛んだのは、兵士達の狂気だ。〝狂信者〟という言葉がぴったり当てはまる彼等の言動が、思想が、そしてその果ての殺し合いが気持ち悪くて仕方なかったのだ。

 

 狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天にかかげる者、ハジメ達を殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄と、それを誇らしげに笑う弟。戦争は狂気が満ちる場所なのだろうが、それにしても余りに凄惨だった。その全て〝神の御為〟というのだから、尚更……

 口元を抑えて俯く香織を見かねて、ハジメは香織のすぐ隣に腰掛けると香織の手を取って握り締めた。狂気に呑まれそうになっている香織を放っておくことは出来ない。香織は、少し驚いたようにハジメを見ると、次いで、嬉しそうに頬を緩めてギュッと手を握り返した。

 

「ハジメくん、ありがと……」

「気にするな。狂気に呑まれそうになる辛さは……わかる。俺も、奈落の底で堕ちそうになったしな……」

「……そうならなかったのはどうして? ……って聞くまでもないか……ユエ……だよね?」

「ああ、そうだ。奈落の底で、あいつと出会わなければ……どうなっていたことやら」

 

 懐かしそうに、それでいて愛しそうに遠い目をするハジメ。きっと、ユエと出会った時のことを思い出しているのだろう。その表情を見て、香織の胸が締め付けられる。

 

「悔しいなぁ。ハジメくんをつなぎ止めるのも、守るのも……私でありたかったよ。って言っても、私じゃ何が出来たかわからないけどね……約束一つ守れなかったし。あ~、ユエは強敵だなぁ~」

 

 おどけたように笑う香織に、ハジメは、また目を細めた。香織の笑顔が、いつもの温かな陽だまりのような笑みではなく、多分に自虐や自嘲が入ったものだったからだ。

 

「……ここに来てから、やたら謝ったり、そんな笑みばかり浮かべるな」

「え? えっと……」

 

 突然のハジメの言葉に、香織は頭に〝?〟を浮かべる。しかし、次ぐ、ハジメの言葉で笑みが崩れ一気に表情が強ばった

 

「……なぁ、香織。お前、なんで付いて来たんだ?」

「……それは……やっぱり邪魔だってことかな?」

 

 ハジメは、俯いてしまった香織に、溜息を吐くと質問には答えず話し出す。

 

「あの日、月明かりの下でマズイ紅茶を飲みながら話をしたこと、俺は覚えている。だから、正直、『今の俺』に好意を寄せてくれることが不思議でならない」

「ハジメくん、私は……」

「だが、否定するつもりもない。きっと、香織には香織にしか見えないものがあって、それが心を動かしたんだろう。その上で決断したことを、他者が否定するなんて意味ないしな。俺は、俺の答えを示したし、〝それでも〟というんなら好きにすればいいと思う。シアなんか、全然めげないしな。むしろ、最近、寝込みを襲われないか割かしマジで心配なくらいだ」

 

 最近、身体能力がバグってきたウサミミ少女を思って、どこか恐ろしげな表情をするハジメ。そんなハジメを見て、香織は苦笑い気味に同意する。

ちなみにカービィはたまにシアに枕にされてたりするが本人は知らない。

 

「……うん、あのアグレッシブさとポジティブさはすごいと思う」

「最初の頃は、自分で言うのもなんだが相当雑な扱いだったんだ。俺は、ユエしか〝特別〟に思えそうになかったし……さっさと諦めてくれればそれに越したことはないだろうとも思っていたしな」

「……」

「でもあいつは、俺が、どんなに雑な扱いしても、ユエを特別扱いしても、いつも怒ったり笑ったり泣きべそ掻きながら、それでも、どこか楽しげなんだ。例え、適性が全くなくてユエのように魔法を使えなくても、模擬戦でユエにあしらわれても、前を向くことを止めたりはしない。劣等感に苛まれて、卑屈になったりはしない」

「わ、私、卑屈になんて……」

 

 

「気がついているか? ここに来てから、事あるごとに謝ってばかりだってことに。笑い方が、前と全然違うことに」

「え?」

「なぁ、香織。下を向くな。顔を上げて俺の目を見ろ」

 

 そう言われて、香織は、自分がずっと俯いていたことに今更ながらに気が付いた。以前は、話をするときは、きちんと相手の目を見て話していたというのに……香織は、ハッとしてハジメと目を合わせた。

 

「いいか、もう一度いうぞ。俺は、ユエが好きだ。他の誰かを〝大切〟には思えても、〝特別〟がユエであることは変わらない。その事に、辛さしか感じないなら、ユエと自分を比べて卑屈にしかなれないなら……香織、お前は、俺から離れるべきだ」

「ッ……」

 

「あの時、香織の同行を認めたのは、シアと同じで、俺の傍にいるという決断が香織にとって最善だと、香織自身が信じていたからだ。俺の気持ちを理解した上で、〝それでも〟と願い真っ直ぐ前を向いたからだ。それなら、好きなだけ傍にいればいいと、そう思ったんだ……だけど、今は、とてもそうは思えない」

 

 ハジメは、一度言葉を切ると、俯いてしまった香織の手を離し、最後の言葉を紡いだ。

 

「もう一度、よく考えてみてくれ。なぜ、付いて来たのか、これからも傍にいるべきなのか……香織はシアとは違う。シアは、ユエのことも好きだからな。……場合によっては、親友『八重樫』のもとに送り届けるくらいのことはするつもりだ」

「わ、私……」

 

気まずい雰囲気のまま、それでも前に進まねばならないと、ハジメは香織を促し、一番遠くに鎮座する最大級の帆船へと歩みを進めた。

 ハジメと香織が見上げる帆船は、地球でもそうそうお目にかかれない規模の本当に巨大な船だった。

 

 全長三百メートル以上、地上に見える部分だけでも十階建て構造になっている。そこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちて尚、見るものに感動を与えるほどだ。木造の船で、よくもまぁ、これほどの船を仕上げたものだと、同じく物造りを得意とするハジメは、当時の職人達には尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

 

 ハジメは、香織を抱えると〝空力〟を使って飛び上がり、豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立った。すると、案の定、周囲の空間が歪み始める。

 

「またか……香織、気をしっかりもてよ。どうせ碌な光景じゃない」

「……うん。大丈夫だよ」

 

 テンポの遅い香織の返事に、ハジメは、先程の指摘は、迷宮攻略中に言う事ではなかったかと軽く後悔した。明らかに、香織のテンションがダダ下がりである。言わなければならないことだったと確信しているが、もう少し、タイミングというものがあったかもしれない。香織の浮かべる笑みが、ハジメの知っているものと余りに異なり見ていられなくなったのだが……せめて【メルジーネ海底遺跡】を攻略するまで我慢すべきだった、かもしれないとハジメは頬をカリカリと掻きながら思った。

 

 

 

 

 そうこうしている内に周囲の景色は完全に変わり、今度は、海上に浮かぶ豪華客船の上にいた。

 

 時刻は夜で、満月が夜天に輝いている。豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて、多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた。

 

「パーティー……だよね?」

「ああ。随分と煌びやかだが……メルジーネのコンセプトは勘違いだったか?」

 

 予想したような凄惨な光景とは程遠く肩透かしを喰ったような気になりながら、その煌びやかな光景を、ハジメと香織は、おそらく船員用の一際高い場所にあるテラスから、巨大な甲板を見下ろす形で眺めていた。

 

 すると、ハジメ達の背後の扉が開いて船員が数名現れ、少し離れたところで一服しながら談笑を始めた。休憩にでも来たのだろう。

 

 その彼等の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやら、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。船員達も嬉しそうだ。よく見れば、甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。その誰もが、種族の区別なく談笑をしていた。

 

「こんな時代があったんだね」

「終戦のために奔走した人達の、まさに偉業だな。終戦からどれくらい経っているのか分からないが……全てのわだかまりが消えたわけでもないだろうに……あれだけ笑い合えるなんてな……」

「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかな? 皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」

「そうだな……」

それを見てメタナイトは

「そういえばハジメたちは、我々が住んでいる国はプププランドと言うのだが、別名何て言われているか知ってるか?」

 

ハジメ「カービィからプププランドの話は少し聞いたことはあったが結構事件も起こるんだろ?」

シア「そんな危ない場所なんですか?」

 

メタナイト「それがな、プププランドは別名『呆れ返る程平和な国』と呼ばれているんだ。」

 

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

その言葉にカービィ一行以外は驚く。

メタナイトは話を続ける。

 

「プププランドには恐怖が存在しない。」

 

ハジメ「どういうことだ?プププランドでは怖いことが何も起こらないと言うことか?」

 

「いや、そういうわけではないのだが、プププランドの住民はどんな時も楽観的だ。カービィが来るまではそうではなかったのだが………」

 

 

マホロア「そういえばボクたちがプププランドを侵略とかしようとした時はいつもカービィがいたヨォ!」

うんうん、とカービィ一行は頷く。

 

 

香織「じゃあカービィがいたからってこと?」

 

「カービィが来てからはどんな危険が起ころうとカービィが守ってくれるからな……。昔、私もプププランドを変えようと試みたことがあったが、やはりカービィにやられてしまった。プププランドは悪夢も見ない。以前夢の泉に巣くっていた悪夢の根源ナイトメアをカービィが倒して以来プププランドの住民はあくを一度たりとも見ていないのだ。」

 

カービィ「たしかにそうだね。でも悪いことじゃないでしょ?」

 

一旦この話はやめて続きを見るハジメたち。

 

 

 やがて、全ての人々が静まり注目が集まると、初老の男の演説が始まった。

 

「諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」

 

 そう言って始まった演説を誰もが身じろぎ一つせず聞き入る。演説は進み、和平への足がかりとなった事件や、すれ違い、疑心暗鬼、それを覆すためにした無茶の数々、そして、道半ばで散っていった友……演説が進むに連れて、皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を抑えて涙するのを堪えたりしている。

 

 どうやら初老の男は、人間族のとある国の王らしい。人間族の中でも、相当初期から和平のために裏で動いていたようだ。人々が敬意を示すのも頷ける。

 

 演説も遂に終盤のようだ。どこか熱に浮かされたように盛り上がる国王。場の雰囲気も盛り上がる。しかし、ハジメは、そんな国王の表情を何処かで見たことがあるような気がして、途端に嫌な予感に襲われた。

 

「――こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、愚かだったと」

 

 

 国王の言葉に、一瞬、その場にいた人々が頭上に〝?〟を浮かべる。聞き間違いかと、隣にいる者同士で顔を見合わせる。その間も、国王の熱に浮かされた演説は続く。

 

「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」

「い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?」

 

 国王アレイストの豹変に、一人の魔人族が動揺したような声音で前に進み出た。そして、アレイスト王に問い詰めようとして……結果、胸から剣を生やすことになった。

 

 刺された魔人族の男は、肩越しに振り返り、そこにいた人間族を見て驚愕に表情を歪めた。その表情を見れば、彼等が浅はかならぬ関係であることが分かる。本当に、信じられないと言った表情で魔人族の男は崩れ落ちた。

 

 場が騒然とする。「陛下ぁ!」と悲鳴が上がり、倒れた魔人族の男に数人の男女が駆け寄った。

 

「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!」

 

 膝を付き天を仰いで哄笑を上げるアレイスト王。彼が合図すると同時に、パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達が現れた。

 

膝を付き天を仰いで哄笑を上げるアレイスト王。彼が合図すると同時に、パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達が現れた。

 

 甲板は、前後を十階建ての建物と巨大なマストに挟まれる形で船の中央に備え付けられている。なので、テラスやマストの足場に陣取る兵士達から見れば、眼下に標的を見据えることなる。海の上で逃げ場もない以上、地の利は完全に兵士達側にあるのだ。それに気がついたのだろう。各国の重鎮達の表情は絶望一色に染まった。

 

 次の瞬間、遂に甲板目掛けて一斉に魔法が撃ち込まれた。下という不利な位置にいる乗客達は必死に応戦するものの……一方的な暴威に晒され抵抗虚しく次々と倒れていった。

 

 

 何とか、船内に逃げ込んだ者達もいるようだが、ほとんどの者達が息絶え、甲板は一瞬で血の海に様変わりした。ほんの数分前までの煌びやかさが嘘のようだ。海に飛び込んだ者もいるようだが、そこにも小舟に乗った船員が無数に控えており、やはり直ぐに殺されて海が鮮血に染まっていく。

 

「うっ」

「香織」

 

 吐き気を堪えるように、香織が手すりに身を預け片手で口元を抑えた。余りに凄惨な光景だ。無理もないと、ハジメは香織を支える。

 

 アレイスト王は、部下を伴って船内へと戻っていった。幾人かは咄嗟に船内へ逃げ込んだようなので、あるいは、狩りでも行う気なのかもしれない。

 

 彼に追従する男とフードの人物も船内に消える。

 

 と、その時、ふと、フードの人物が甲板を振り返った。その拍子に、フードの裾から月の光を反射してキラキラと光る銀髪が一房、ハジメには見えた気がした。

 

 周囲の景色がぐにゃりと歪む。どうやら、先程の映像を見せたかっただけらしく、ハジメと香織は元の朽ちた豪華客船の上に戻っていた。

 

「香織、少し休め」

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと、キツかったけど……それより、あれで終わりかな? 私達、何もしてないけど……」

「この船の墓場は、ここが終着点だ。結界を超えて海中を探索して行くことは出来るが……普通に考えれば、深部に進みたければ船内に進めという意味なんじゃないか? あの光景は、見せることそのものが目的だったのかもな。神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……中々、嫌らしい趣向だよ。特に、この世界の連中にとってはな」

 

 この世界の人々は、そのほとんどが信仰心を持っているはずであり、その信仰心の行き着く果ての惨たらしさを見せつけられては、相当精神を苛むだろう。そして、この迷宮は精神状態に作用されやすい魔法の力が攻略の要だ。ある意味、【ライセン大迷宮】の逆なのである。異世界人であるハジメ達だからこそ、精神的圧迫もこの程度に済んでいるのだ。

 

ハジメと香織は甲板を見下ろし、そこで起きた凄惨な虐殺を思い出して気の進まない表情になった。ハジメの場合、ただ単にウザそうなだけのようだったが。

 

 二人は意を決して甲板に飛び降り、アレイスト王達が入って言った扉から船内へと足を踏み入れた。

 

 船内は、完全に闇に閉ざされていた。外は明るいので、朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが、何故か、全く光が届いていない。ハジメは、〝宝物庫〟から緑光石を使ったライトを取り出し闇を払う。

 

「さっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていうことかな?」

「そうみたいだな……ただ、ちょっと不自然じゃなかったか? 壇上に登った時は、随分と敬意と親愛の篭った眼差しを向けられていたのに……内心で亜人族や魔人族を嫌悪していたのだとしたら、本当に、あんなに慕われると思うか?」

「……そうだね……あの人の口ぶりからすると、まるで終戦して一年の間に何かがあって豹変した……と考えるのが妥当かも……問題は何があったのかということだけど」

「まぁ、神絡みなのは間違いないな。めっちゃ叫んでたし。危ない感じで」

「うん、イシュタルさんみたいだった……トリップ中の。痛々しいよね」

 

 どうやら聖教教会の教皇は、女子高生からイタイ人と思われていたらしい。ハジメは、少しだけ同情してしまった。二人で、先程の光景を考察しながら進んでいると、前方に向けられたハジメのライトが何かを照らし出した。白くヒラヒラしたものだ。

 

 ハジメと香織は足を止めて、ライトの光を少しずつ上に上げていく。その正体は、女の子だった。白いドレスを着た女の子が、俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。

 

 猛烈に嫌な予感がするハジメと香織。特に、香織の表情は引き攣りまくっている。ハジメは、こんなところに女の子がいるはずないので取り敢えず撃ち殺そうとドンナーの銃口を向けた。

その瞬間、女の子がペシャと廊下に倒れ込んだ。そして、手足の関節を有り得ない角度で曲げると、まるで蜘蛛のように手足を動かし、真っ直ぐハジメ達に突っ込んで来た!

 

ケタケタケタケタケタケタケタッ!

 

 

奇怪な笑い声が廊下に響き渡る。前髪の隙間から炯々と光る眼でハジメ達を射抜きながら迫る姿は、まるで何処ぞの都市伝説のようだ。

 

「いやぁあああああああああああ!!!!」

「うおっ!? 落ち着け香織! 腕を掴むな!」

 

 テンプレだが、それ故に恐ろしい光景に、香織が盛大に悲鳴を上げてハジメにしがみついた。ケタケタ笑って迫る少女? をドンナーで撃とうとしていたハジメは、香織がしがみついたせいで照準をずらしてしまった。

 

「ケギャ!!」

 

 瞬く間に足元まで這い寄った少女? は、奇怪な雄叫びと共にハジメの顔面に向かって飛びかかった。

 

 ハジメは、仕方なく銃撃を諦めて、ケタケタ笑う少女? の腹部に必殺のヤクザキックをぶち当てた。念のため、魔力を纏わせた上で〝豪脚〟も発動させている。

 

 ハジメのヤクザキックが腹にヒットした瞬間、少女は盛大に吹き飛び壁や廊下に数回バウンドしたあと、廊下の奥で手足を更におかしな方向に曲げて停止し、そのまま溶けるように消えていった。

 

 ハジメは、溜息を吐くと、未だにふるふると震えながらハジメにしがみつく香織の頭を拳で軽く叩く。ビクッとしたあと、香織は、恐る恐るという感じでハジメを見上げた。既に目尻には涙が溜まっており、口元はキュッと一文字に結ばれている。マジビビリだった。

 

「香織って、こういうの苦手か?」

「……得意な人なんているの?」

「魔物と思えばいいんじゃないか?」

「……ぐすっ、頑張る」

 

 香織はそう言って、ハジメから離れた。手だけはハジメの服の裾を掴んで離さなかったが。

 

 先程まで、ハジメに言われたことを気にして、どこか遠慮があったというのに、今は、絶対離れないからね! という強靭な意志が濡れた瞳に宿っている。必死だ。告白したときと同じくらいに。

 

 その後も、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うと、その扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たって天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いてハジメ達を見下ろしていたり、ゴリゴリと廊下の先から何かを引きずる音がしたかと思ったら、生首と斧を持った男が現れ迫ってきたり……

 

 そのほとんどは、ハジメが魔力弾で撃ち抜くか、ヤクザキックで瞬殺したのだが……

 

「やだよぉ……もう帰りたいよぉ……雫ちゃんに会いたいよぉ~」

 

 船内を進むごとに激しくなる怪奇現象に、香織が幼児退行を起こし、ハジメの背に張り付いてそこから動かなくなった。

 

 ちなみに、雫の名を呼ぶのは、小さい時から光輝達に付き合わされて入ったお化け屋敷で、香織のナイト役を勤めていたのは雫だったからだそうだ。決して、ゆりゆりしているわけではない。

 

 【メルジーネ海底遺跡】の創設者メイル・メルジーネは、どうやらとことん精神的に追い詰めるのが好きらしい。ハジメは、奈落の底で、闇と化け物に囲まれながら長期間サバイバルしていた経験があるので、特に、どうとも思わないが、普通の感性を持つ者なら精神的にキツイだろう。もっとも、ユエやティオが驚きむせび泣くところなど想像できないが……

 

 先程までの人生の迷子的なシリアスな雰囲気は何処に行った? と、思わずツッコミを入れたくなるくらいハジメに引っ付き半泣きになりながら、それでも何とか回復魔法で怪奇を撃退していく香織とそれを見守るハジメ。途中、何度か香織が意識を飛ばしそうになりつつも、遂に二人は、船倉までたどり着いた。

 

 重苦しい扉を開き中に踏み込む。船倉内にはまばらに積荷が残っており、ハジメ達は、その積荷の間を奥に向かって進む。すると、少し進んだところで、いきなり入ってきた扉がバタンッ! と大きな音を立てて勝手に閉まってしまった。

 

「ぴっ!?」

「……」

 

 香織がその音に驚いて変な声を上げる。何だか、迷宮を攻略したあとも自分のした大切な話を覚えているのか心配になって来たハジメ。ああいう話を何度もするのは勘弁だった。

 

 ハジメが、溜息を吐きながらビクつく香織の肩をポンポンと撫でて宥めていると、また異常事態が発生した。急に濃い霧が視界を閉ざし始めたのだ。

 

「ハハハハハハ、ハジメくん!?」

「何か陽気な外人の笑い声みたいになってるぞ。今まで通り、魔法でぶっ飛ばせばいいだけだ。大丈夫だって」

 

 ハジメがそう答えた瞬間、ヒュ! と風を切る音が鳴り霧を切り裂いて何かが飛来した。咄嗟に、ハジメが左腕を掲げると、ちょうど首の高さで左腕に止められた極細の糸が見えた。更に、連続して風を切る音が鳴り、今度は四方八方から矢が飛来する

 

「ここに来て、物理トラップか? ほんとに嫌らしいな! 解放者ってのはどいつもこいつも!」

「守護の光をここに 〝光絶〟!」

 

 ハジメは、一瞬、意表を突かれたものの、所詮はただの原始的な武器であることから難なく捌き、香織も防御魔法を発動した。直後、前方の霧が渦巻いたかと思うと、凄まじい勢いの暴風がハジメと香織に襲いかかった。

 

 ハジメは、靴のスパイクで体を固定し飛ばされないようにしつつ、咄嗟に、隣の香織を掴もうとしたが、運悪く香織の防御魔法が邪魔になり、一瞬の差で手が届かなかった。

 

「きゃあ!?」

 

 香織は悲鳴を上げて暴風に吹き飛ばされ霧の中へと姿を消す。ハジメは舌打ちをして感知系能力を使い香織の居場所を把握しようとした。しかし、どうやらこの霧は【ハルツィナ樹海】の霧と同じように方向感覚や感知系の能力を阻害する働きがあるようで、あっさり見失ってしまった。

 

「ちっ、香織。そこを動くなよ!」

 

 舌打ちしつつ香織に呼びかけるハジメに、今度は前方の霧を切り裂いて、長剣を振りかぶった騎士風の男が襲いかかってきた。何らかの技なのだろう、凄まじい剣技を繰り出してくる。

 

 ハジメは、それを冷静にドンナーで受け流すと、大きく相手の懐に踏み込み左のシュラークを腹に当てがって魔力弾を撃ち放つ。腹に風穴を開けられた騎士風の男は苦悶の声を上げることもなくそのまま霧散した。

 

 しかし、同じような並みの技量ではない剣士や拳士、他にも様々な武器を持った武闘派の連中が、霧に紛れて次々に襲いかかってきた。

 

「クソ面倒な……」

 

 悪態を吐きつつ、ハジメは、紅色の魔力弾を衛星のように体の周囲に展開し、〝瞬光〟も発動して即行で片付けにかかる。香織の声が聞こえないのが気がかりだったのだ。

 

 一方、その香織はというと、ハジメの姿が見えなくなってしまった事に猛烈な不安と恐怖を感じていた。ホラーは、本気で苦手なのだ。こればっかりは、体が勝手に竦んでしまうので、克服するのは非常に難しい。ただでさえ、劣等感から卑屈になっている点を指摘されてしまい、何とか、そんなことはないと示そうと思っていたのに、肝心なところで縋り付いてしまう自分がほとほと嫌になる。

 

 こんなことではいけないと震える体を叱咤して、香織は何とか立ち上がる。と、その時、香織の肩に手が置かれた。ハジメは、よく肩をポンポンと叩いて励ますことがあるので、自分を見つけてくれたのかと、一瞬、喜びか湧き上がった。

 

「ハジメく……」

 

 直ぐに振り向こうとして、しかし、その前に、香織は、肩に置かれた手の温かみが妙に薄いことに気がついた。いや、もっと正確に言うなら、温かいどころか冷たい気さえする。香織の背筋が粟立った。自分の後ろにいるのは、ハジメではない。直感で悟る。

 

 では、一体だれ?

 

 油を差し忘れた機械のようにギギギと音がなりそうな有様で背後を振り返った香織の眼前には……目、鼻、口――顔の穴という穴の全てが深淵のような闇色に染まった女の顔があった。

 

「あふぅ~」

 

 香織の精神は一瞬で許容量をオーバーし、防衛本能に従ってその意識を手放した。

 

 

 その頃、ハジメは、わずか二分程で五十体近い戦士の亡霊達を撃滅していた。大体、二~三秒で歴戦の戦士を一体屠っている計算だ。と、その時、一瞬、攻勢が止んだかと思うと、霧の中から大剣を大上段に振りかぶった大男が現れ、霧すら切り裂きながら莫大な威力を秘めた剣撃を繰り出した。

 

 ハジメは、半身になってその一撃をかわす。しかし、最初から二ノ剣が想定されていたのか、地面にぶつかった反動も利用して大剣が跳ね上がった。

 

 

「香織! どこだ!」

 

 ハジメは、香織の気配を感知しようと集中する。しかし、そんなことをするまでもなく、香織はあっさり見つかった。

 

「ここだよ。ハジメくん」

「香織、無事だったか……」

 

 微笑みながら歩み寄ってくる香織に、ハジメは安堵の吐息をもらす。そんなハジメの様子に、香織は更に婉然と微笑むと、そっとハジメに寄り添った。

 

「すごく、怖かった……」

「そうか……」

「うん。だからね、慰めて欲しいな」

 

 そう言って、香織はハジメの首に腕を回して抱きついた。そして、鼻と鼻が触れ合いそうなほど間近い場所で、その瞳がハジメの口元を見つめる。やがて、ゆっくりと近づいていき……

 

ゴツッ

 

 と音を立てて、香織のこめかみにドンナーの銃口が突きつけられた。

 

「な、なにを……」

 

 狼狽した様子を見せる香織に、ハジメの眼が殺意を宿して凶悪に細められる。

 

「なにを? もちろん、敵を殺すんだよ。お前がそうしようとしたようにな」

 

 そう言って、ハジメは微塵も躊躇わず引き金を引いた。ドンナーから紅色に輝く弾丸が撃ち放たれ容赦なく香織のこめかみを穿ち、吹き飛ばす。

 

カランカラン

 

 音を立てて転がったのは錆び付いたナイフだ。香織の手から放り出された物であり、抱きつきながら袖口から取り出したものでもある。コツコツと足音を立てながら、倒れた香織に近寄るハジメ。香織は体を起こし、怯えたように震えた声でハジメに話しかける。

 

「ハジメくん、どうしてこんなことッ!?」

 

 しかし、ハジメは取り合わず再び香織に魔力弾を撃ち込んだ。

 

「香織の声で勝手に話すな。香織の体で勝手に動くな。全て見えているぞ? 香織に巣食ったゴミクズの姿がな」

 

 そう、ハジメの魔眼石には、香織と重なるようにしてとり憑いている女の亡霊のようなものが映っていた。正体がバレていると悟ったのか、香織の姿をした亡霊は、先程までの怯えた表情が嘘のように、今度はニヤニヤと笑い出した。

 

「ウフフ、それがわかってもどうする事も出来ない……もう、この女は私のものッ!?」

 

 そう話しながら立ち上がろうとした香織(憑)だったが、ハジメに馬乗りに押し倒され再び倒れこんだ。

 

「まてっ! なにをするの! この女は、あんたの女! 傷つけるつもりッ!?」

「頭の悪い奴だ。話すな、動くなと言っただろう? 別に香織は傷つけないさ。魔力弾で肉体は傷つかない。苦しむのは取り憑いたお前だけだ」

「私が消滅すれば、この女の魂も壊れるのよ! それでもいいの!?」

 

 

 その言葉に、ハジメが少し首を傾げる。ハッタリの可能性も十分にあるが、真偽を確かめるすべがない。普通なら、躊躇し手を出せなくなるだろう。香織(憑)もそう思ったのか、再びニヤつきながら、上からどけとハジメに命令した。それに対するハジメの返答は、

 

スパンッ! スパンッ!

 

 魔力弾を撃ち込むことだった。苦痛を感じているのか香織(憑)の表情が歪む。そして焦った表情で更に魔力弾を撃ち込もうとするハジメに怒声を上げた。

 

「あんた正気なの!? この女がどうなってもいいの!?」

「黙れ、ゴミクズ。お前の言う通り攻撃を止めたところで、香織の体は奪われたままだろうが。それに、逆に言えば、消滅させなければ魂は壊れないんだろう? なら、出て行きたくなるまで死なないようにお前を嬲ればいいだけだ」

 

 あまりに潔い発言に絶句する女の亡霊。そして、ハジメの濃密な殺意が宿った眼光に射抜かれて硬直する。

 

「俺の〝大切〟に手を出したんだ……楽に消滅なんてさせない。あらゆる手段を尽くして、消えないようにしてやる。あらゆる苦痛を与えて、それでも狂うことすら許さない。お前は敵だが……絶対に殺してやらない」

 

 

 ハジメは、激怒しているのだ。かつてないほど。ただ敵を殺すだけでは飽き足らない、〝残虐性〟が発露するほどに。

 

 香織にとり憑いた亡霊は、余りに濃密でおぞましい殺意に、もはや硬直してハジメを凝視する以外何も出来なかった。この時になって、ようやく悟ったのである。自分が決して手を出してはいけない化け物の、決して触れてはいけない禁忌に触れてしまったのだと。

 

 ドンナーの銃口が、香織(憑)の額に押し当てられる。とり憑いた亡霊は、ただひたすら願った。一秒でも早く消えてしまいたいと。これからされるだろう〝何か〟を思うと、少しでも早く消えてしまいたかった。

 

 亡霊の正体は、元々、生に人一倍強く執着する思念が変質したものだったのだが、その思いすら吹き飛ばすほど、今のハジメの放つ雰囲気は恐ろしかったのだ。

 

消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい!

 

 亡霊の叫びが木霊する中、ハジメがまさに引き金を引こうとした瞬間、香織の体が突然、輝き出した。それは、状態異常回復の魔法〝万天〟の輝きだ。香織が万一に備えて〝遅延発動〟用にストックしておいたものである。

 

 突然の事態に呆然とする亡霊に内から声が響いた。

 

――大丈夫、ちゃんと送ってあげるから

 

 その言葉と共に、輝きが更に増す。純白の光は、亡霊を包み込むように纏わりつくと、ゆらりふわふわと天へ向けて立ち上っていった。同時に、亡霊の意識は薄れていき、安堵と安らぎの中、完全にこの世から消滅した。

 

 一拍の後、香織のまぶたがふるふると振るえ、ゆっくり目を開いた。馬乗り状態のハジメが、真上から香織の瞳を覗き込む。香織が輝き出してから、ハジメの魔眼石には、存在が薄れていく亡霊の姿が映っていたので、取り敢えず殺意を薄め、香織の中にいないか確かめているのだ。

 

 間近い場所にハジメの顔があり、押し倒されている状況で、ハジメの視線は真っ直ぐ香織の瞳を射抜いている。びっくりするほど真剣で、同時に、心配と安堵も含まれた眼差し。そんな瞳を見つめ返しながら、香織の体は自然と動いていた。

 

 スっと顔を持ち上げて、ハジメの唇に自分のそれを重ねる。唇と唇を触れ合わせるだけのもの。それでも確かに、香織のファーストキスだ。

 

 ハジメは、〝魂が壊れる〟と言われたために、万一を考えて香織に巣食うものがないか〝見る〟ことに集中しており、ごく自然な動作で迫った香織のキスを避けることが出来なかった。驚いて一瞬硬直するハジメから、香織は、そっと唇を離す。

 

「……なにして……」

「答えかな?」

「答え?」

「うん。どうして付いて来たのか、これからも付いて行くのか……ハジメくんの問い掛けに対する答え」

 

 そう言ってハジメに向けられた香織の微笑みは、いつも見ていた温かな陽だまりのような微笑みだった。ここに来てから見せていた、作り笑いの影は微塵もない。

 

 実のところ、とり憑かれている間、香織には意識があった。まるで、ガラス張りの部屋に閉じ込められてそこから外を見ているような感じだった。それ故に、香織もしっかりと認識していたのだ。未だかつて見たことがないほど怒り狂ったハジメの姿を。香織を〝大切〟だと言って、敵に激情をぶつけた姿を。

 

 

「好きだよ、ハジメくん。大好き。だから、これからも傍にいたい」

「……辛くなるだけじゃないか? シアのように、ユエもいなければ、ってわけじゃないだろう?」

「そうだね。独占したいって思うよ。私だけ見て欲しいって思うよ。ユエに、嫉妬もするし、劣等感も抱くよ……辛いと感じることもあるかも」

「だったら……」

「でも、少なくとも、ここで引いたら後悔することだけは確かだから。確信してるよ。私にとっての最善はハジメくんの傍にいることだって……最初からそう思って付いて来たのに、実際に差を見せつけられて色々見失ってたみたい。でも、もう大丈夫」

 

 ハジメの頬を両手で挟みながら、ふわりと微笑む香織。ハジメは、困ったような呆れたような複雑な表情だ。香織が自分で決めて、その決断が最善だと信じているなら、ハジメに言えることは何もない。幸せの形など人それぞれだ。ハジメに香織の幸せの形を決めることなど出来ないし、するべきでもない。

 

「……そうか。香織がそれでいいなら、俺はこれ以上なにも言わない」

「うん。いっぱい面倒かけるけど、嫌わないでね」

「今更だろう。学校でも、ここに来てからも……お前は割かしトラブルメイカーだ」

「それは酷いよ!」

「そうか? 学校でも空気読まずに普通に話しかけて来たし、無自覚に言葉の爆弾落とすし、その度に、周りの奴らが殺気立つし、香織は気づかないし、深夜に男の部屋へネグリジェ姿でやって来るし……」

「うぅ、あの頃はまだ自覚がなくて、ただ話したくて……部屋に行ったのは、うん、後で気がついて凄く恥ずかしかった……」

 

 

 ある意味、イチャついていると言えなくもない雰囲気で香織を背負ったハジメは、スタスタと進み、躊躇いなく魔法陣へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 淡い光が海面を照らし、それが天井にゆらゆらと波を作る。

 

 その空間には、中央に神殿のような建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられていた。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。

 

 その四つある魔法陣の内の一つが、にわかに輝き出す。そして、一瞬の爆発するような光のあと、そこには人影が立っていた。ハジメと香織だ。

 

「……ここは……あれは魔法陣? まさか、攻略したのか?」

「えっと、何か問題あるの?」

「いや、まさかもうクリアとは思わなくてな……他の迷宮に比べると少し簡単だった気が……最後にあのクリオネモドキくらい出てくると思ったんだが……」

 

ちなみにカービィ一行は何にも怖くなかったのでつまらなそうにしているメンバーが多い。

メタナイトが言った通り恐怖が存在しないのだ。

 

 どうやら、メイル・メルジーネの住処に到着したようだとわかり、ハジメは少し拍子抜けしたような表情になる。それに対して、香織は、ハジメの肩越しに顔を覗かせて、苦笑いしながら答えた。

 

「あのね、ハジメくん。十分大変な場所だったよ。最初の海底洞窟だって、普通は潜水艇なんて持ってないんだから、クリアするまでずっと沢山の魔力を消費し続けるし、下手をすれば、そのまま溺死だよ。クリオネみたいなのは、有り得ないくらい強敵だったし、亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないから、また魔力便りになる。それで、大軍と戦って突破しなきゃならないんだよ? 十分、おかしな難易度だよ」

「むっ、そう言われればそうなんだろうが……」

「まして、この世界の人なら信仰心が強いだろうし……あんな狂気を見せられたら……」

「余計、精神的にキツいか……」

 

 香織の指摘は、要するにハジメが強すぎたという事だ。そこまで言われると、確かに、【グリューエン大火山】も最後のフリードの襲撃さえなければ無傷で攻略出来ていたなぁと納得するハジメ。

 

 そして、そう言えば、ユエ達と合流する前に到着してしまったが彼女達はどうしているだろうかと考えたその時、ハジメの思考を読んだように右側にある通路の先の魔法陣が輝き出した。

 

 爆ぜる光が収まると、そこにはユエ、シア、ティオの三人の姿があった。絶妙なタイミングだった。

 

「いいタイミングだな。そっちは大丈夫だったか?」

「ん……そっちは……大丈夫じゃなかった?」

「あ、香織さん大丈夫ですかっ!」

「む? 怪我でもしておるのか? 回復魔法はどうした?」

 

 ハジメの呼びかけに、それぞれ元気な様子を見せつつ、ハジメに背負われている香織に心配そうな視線を送っている。それに対する香織の返答は……

 

「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫だよ。半分は甘えているだけだから」

 

 

香織は、どうやら立ち直ったようで、むしろ、前より決然としている雰囲気すらある。何があったのか気になるところだった。

 

「……そうだね。ハジメくんにも、いっそそうした方がいいって言われたよ。でも、ユエとの色々な差とか……今更だしね」

「……開き直った?」

「そうとも言うかも。というかね、元々、開き直って付いて来たのに、差を見せつけられて、それを忘れてただけなんだよ。情けないとこ見せちゃった」

「……そのまま諦めれば良かったのに」

「ふふ、怖い? 取られそうで?」

「……調子にのるな。トラブルメイカー」

「……それ、ハジメくんにも言われた。……私、そんなにトラブル体質なのかな……」

 

 辛辣なユエの言葉に、香織の頬が引き攣る。想い人と恋敵に揃ってトラブルメイカー呼ばわりされて若干落ち込みそうなるが、直ぐに気を取り直す。ちなみに、実はユエも、というかハジメ達全員が割かしトラブル体質なので、かなりブーメランな言葉なのだが、ユエにその自覚はなかった。

 

「まぁ、ユエの言う通りかもしれないけど……少なくとも私はハジメくんの〝大切〟だから、頑張って〝特別〟を目指すって決めたの。誰になんと言われようと、ね」

「……そう。なら今まで通り受けて立つ」

「うん! あ、それと、ユエの事は嫌いじゃないからね? 喧嘩友達とか、そういうの、ちょっと憧れてたんだ」

「……友達? 私と香織が?」

「そう、友達。日本にはね、強敵と書いて友と表現する人がいるみたい。なら、恋敵と書いて友と読んでもいいんじゃないかな?」

「……日本……ハジメの故郷……聞けば聞くほど不思議な国。でも……いいセンスだと思う」

「だよね。うふふ、そういうわけで、これからも宜しくね?」

「……ん」

 

 

 

 

「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃねぇか。解放者め」

「……見つけた〝再生の力〟」

「ボクも新しくコピー能力が増えたよ!」

カービィ一行で新しい能力を得たのはカービィだけだった。

 

 ハジメが悪態をつく。それは、手に入れた【メルジーネ海底遺跡】の神代魔法が〝再生魔法〟だったからだ。

 

 思い出すのは、【ハルツィナ樹海】の大樹の下にあった石版の文言。先に進むには確かに〝再生の力〟が必要だと書かれていた。つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったということであり、最初に【ハルツィナ樹海】に訪れた者にとっては途轍もなく面倒である。ハジメ達は、魔力駆動車という高速の移動手段を持っているからまだマシだったが。

 

 ハジメが解放者の嫌らしさに眉をしかめていると、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇のようだ。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。

 

 人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。

 

 彼女は、オスカーと同じく、自己紹介したのち解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。やがて、オスカーの告げたのと同じ語りを終えると、最後に言葉を紡いだ。

 

「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

 そう締め括り、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

「証の数も四つですね、ハジメさん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

 シアが、懐かしそうに故郷と家族に思いを馳せた。しかし、脳裏に浮かんだのは「ヒャッハー!」する父親達だったので、頭を振ってその光景を霧散させる。ハジメは、証のコインを〝宝物庫〟にしまうと、シアと同じように「ヒャッハー!」するハウリア族を思い出し、頭を振ってその光景を追い出した。

 

 と、証をしまった途端、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

「うおっ!? チッ、強制排出ってかっ。全員、掴み合え!」

「……んっ」

「わわっ、乱暴すぎるよ!」

「ライセン大迷宮みたいなのは、もういやですよぉ~」

「水責めとは……やりおるのぉ」

 

 凄まじい勢いで増加する海水に、ハジメ達は潜水艇を出して乗り込む暇もなく、あっという間に水没していく。咄嗟に、また別々に流されては敵わないと、全員がしっかりお互いの服を掴み合い、〝宝物庫〟から酸素ボンベ取り出して口に装着した。

 

 そして、その直後、天井部分が【グリューエン大火山】のショートカットのように開き、猛烈な勢いで海水が流れ込む。ハジメ達も、その竪穴に流れ込んで、下から噴水に押し出されるように、猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばされた。

 

 

 おそらく、【メルジーネ海底遺跡】のショートカットなのだろうが、おっとりしていて優しいお姉さんといった雰囲気のメイル・メルジーネらしくない、滅茶苦茶乱暴なショートカットだった。しかも、強制的だった。意外に、過激な人なのかもしれない。

 

 押し上げられていくハジメ達は、やがて頭上が行き止まりになっていることに気が付く。しかし、ハジメ達がぶつかるといった瞬間、天井部分が再びスライドし、ハジメ達は勢いよく遺跡の外、広大な海中へと放り出された。ハジメは確信する。メイル・メルジーネは絶対、見た目に反して過激で大雑把な性格だと。

 

 海中に放り出されたハジメ達は、急いで潜水艇を〝宝物庫〟から取り出した。そして、ハッチから乗り込もうとするが、その目論見は阻止される。一番、会いたくなかった相手によって。

 

ズバァアアアアアアッ!!!

 

 ハジメ達の眼前を凄まじい勢いで半透明の触手が通り過ぎ、潜水艇が勢いよく弾き飛ばされた。

 

〝ユエ〟

〝凍柩!〟

 

 ハジメが向けた視線の先には、一見妖精のような造形でありながら、全てを溶かし、無限に再生し続ける凶悪で最悪の生物――巨大クリオネがいた。わざわざ攻略が終わった後で現れたことに歯噛みしながら、ハジメはユエに〝念話〟を発動して呼びかける。

 

 巨大クリオネは、再び無数の触手を水の抵抗などないかのように猛烈な勢いで射出した。それに対して、ユエがハジメの呼びかけに応え阿吽の呼吸で周囲の海水を球形状に凍らせて、氷の障壁を張る。

 

 直撃した触手の勢いで海中を勢いよく吹き飛ばされる氷の障壁と中のハジメ達。激しい衝撃に全員が障壁内でシェイクされる。

 

〝どうするんじゃ! ご主人様よ!〟

 

 念話石を使って通信してきたティオに、ハジメが答える。

 

〝全員海上を目指せ。水中じゃあ嬲り殺しだ。時間は俺が稼ぐ!〟

 

 ハジメは、そう言いながら指輪型の感応石を操って潜水艇を遠隔操作した。ハジメ達の背後から、吹き飛ばされ沈んだはずの潜水艇が猛スピードで突き進み、船体を捻りながら襲い来る無数の触手をかわしていく。そして、船底から無数の魚雷を射出した。

 

 一度に射出された魚雷の数は十二。普通に考えれば十分な破壊力。しかし、ハジメは、ここで確実に隙を作らなければジリ貧だと判断し、手を緩めず潜水艇に搭載されている魚雷の全てを連続して射出した。船体を横滑りさせるように航行させ、巨大クリオネを中心に円を描かせる。普通の船なら不可能な動きを実現しながら、次々と放たれた魚雷の数は、総じて四十八発。

 

 泡の線を引きながら殺到したそれらは、狙い違わず巨大クリオネに直撃し凄絶な破壊をもたらした。

 

ドォウ! ドォウ! ドォウ! ドォウ!

 

 そんなくぐもった衝撃音が鳴り響き、海水が膨張したように膨れ上がる。海上から、巨大クリオネの直上を見ているものがいれば、海面が一瞬盛り上がり、次いで、噴き上がる巨大な水柱を観測したことだろう。

 

 ハジメ達は、全魚雷が爆発した直後、水流を操作して浮上を試みた。いくら化け物じみた再生力を持っていても、しばらくは時間を稼げるはずだ。しかし、巨大クリオネのデタラメさはハジメ達の予測を軽く超えていたらしい。

 

〝ユエ、上だ!〟

〝っ…ダメ、間に合わない!〟

 

 潜水艇を遠隔操作で回収しながら浮上するハジメ達の頭上に半透明のゼリーが漂っており、数瞬で集まり固まると三メートルサイズのクリオネモドキになったのだ。そして、頭部をガパッ! と大きく開くとそのまま、氷の障壁を呑み込んでしまった。当然、ハジメ達は、障壁と一緒に、クリオネの腹の中である。

 

〝くそっ、再生が早すぎるぞ!〟

〝ちぎれた触手から再生したみたい!〟

〝マズイですよ、ハジメさん。周りがゼリーだらけですぅ!〟

 

「ボクに任せて!コピー能力フリーズ!」

 

カービィは対象を凍らせた。

 

こうしてあとはカービィ一行のターンである。

 

あっさり倒すことができ、海上の町エリセンに着いたのだった。

 




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「パパー! 朝なのー! 起きるのー!」

 

 海上の町エリセンの一角、とある家の二階で幼子の声が響き渡る。時刻は、そろそろ早朝を過ぎて、日の温かみを感じ始める頃だ。窓から、本日もいい天気になることを予報するように、朝日が燦々と差し込んでいる。

 

ドスンッ!

 

「あぁ~?」

 

 そんななか、ベッドで爆睡しているのはハジメだ。そして、そんなハジメをパパと呼び、元気な声で起こしに来たのはミュウである。

 

 ミュウは、ベッドの直前で重さを感じさせない見事な跳躍を決めると、そのままパパたるハジメの腹の上に十点満点の着地を決めた。もちろん、足からではない。馬乗りになる形でだ。

 

まだ四歳の幼子とはいえ、その体重は既に十五、六キロくらいはある。そんな重量が勢い付けて腹部に飛び乗れば、普通の人は呻き声の一つでも出そうなものだが、当然、ハジメは何の痛痒も感じていない。ただ、強制的に起こされたせいで眠たげな呻き声は出たが。

 

「パパ、起きるの。朝なの。おはようなの」

「……ああ、ミュウか。おはようさん。起きるからペチペチするのは止めてくれ」

 

 ハジメが起きたことが嬉しいのか、ニコニコと笑みをこぼしながら、ミュウは、その小さなモミジのような手でハジメの頬をペチペチと叩く。ハジメは、朝の挨拶をしながら上半身を起こしミュウを抱っこすると、優しくそのエメラルドグリーンの髪を梳いてやった。気持ちよさそうに目を細めるミュウに、ハジメの頬も緩む。何処からどう見ても親子だった。

 

「……ん……あぅ……ハジメ? ミュウ?」

 

 そんなほのぼのした空気の中に、突如、どこか艶めかしさを感じさせる声音が響いた。ハジメが、そちらに目を向けて少しシーツを捲ると、そこには猫のように丸めた手の甲で目元をコシコシと擦る眠たげな美少女の姿。

 

 寝起きなのに寝癖など全くないウェーブのかかった長い金髪を、窓から差し込む朝日でキラキラと輝かせて、レッドスピネルの如き紅の瞳をシパシパとさせている。ハジメと同じく服を着ていないため、シミ一つない真っ白な肌と、前に垂れ下がった髪の隙間から見える双丘が声音と相まって美しさと共に妖艶さを感じさせた。

 

「どうして、パパとユエお姉ちゃんは、いつも裸なの?」

 

 ミュウの無邪気な質問は、あくまで〝朝起きるとき〟という意味だ。決して二人が裸族という意味ではない。

 

 そして、「もしかしてパジャマ持ってないの?」と不思議そうな、あるいは少し可哀想なものを見る目でハジメとユエを交互に見るミュウ。幼く純粋な質問に、「そりゃあ、お前、服は邪魔だろ?」等と、セクハラ紛いの返しなど出来るはずもなく、ハジメは、少し困った表情でユエに助けを求めた。

 

 次第にはっきりしてきた意識で、ハジメの窮状を察したユエは、幼子の無邪気な質問に大人のテンプレで返した。

 

「……ミュウももっと大きくなれば分かるようになる」

「大きくなったら分かるの?」

「……ん、分かる」

 

 首を傾げるミュウに、ゴリ押しで回避するユエ。しかし、「う~ん」とイマイチ納得できなさそうな表情で首を傾げるミュウは、おもむろに振り返ると、とある一点を見つめながら更に無邪気な質問を繰り出して、主にハジメを追い詰めた。

 

「パパも、ここがおっきくなってるから分かるの? でも、ミュウにはこれないの。ミュウには分からないの?」

 

 そう言って、朝特有の生理現象を起こしているとある場所を、ミュウはその手でペシペシと叩き始めた。大した力ではないとはいえ、デリケートな場所への衝撃にビクンッと震えたハジメは、急いでミュウを抱っこし直し、なるべく〝それ〟から引き離す。

 

「ミュウ、あれに触っちゃいけない。いいか。あれは女の子のミュウには無くて当然なんだ。気にしなくていい。あと十年、いや二十年、むしろ一生、何があっても関わっちゃいけないものだ」

 

 至極真面目な顔で阿呆なことを語るハジメ。ミュウは、頭に〝?〟を浮かべつつも大好きなパパの言うことなのでコクリと素直に頷いた。それに満足気な表情をして、再度、ミュウの髪を手櫛で梳くハジメ。ミュウも、先程までの疑問は忘れたように、その優しい感触を堪能することに集中しだした。

 

 そんなハジメに、隣のユエから何処か面白がるような眼差しが向けられる。その瞳には「過保護」とか「朝から元気」とか「朝からいっとく?」とか、そんな感じのあれこれが含まれているようだった。

 

 それにそっぽを向くハジメ。陽の光で少しずつ暖かさを増していく中、そのほのぼのとした光景は、ミュウが中々ハジメ達を起こして来ない事に焦れたレミアや香織達がなだれ込んで来るまで続いた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ハジメ達が、【メルジーネ海底遺跡】を攻略し、潜水艇を失ったため〝竜化〟したティオの背に乗ってエリセンまで帰り、再び、町に話題を提供してから六日が経っていた。帰還した日から、ハジメ達は、ずっとレミアとミュウの家に世話になっている。

 

……と、言ってもカービィたちの食事はアドレーヌが描いて出している。

特にカービィとデデデ大王は『グルメレース』なんてものをやる位食いしん坊なのだから。

 

 エリセンという町は、木で編まれた巨大な人工の浮島だ。広大な海そのものが無限の土地となっているので、町中は、通りにしろ建築物にしろ基本的にゆとりのある作りになっている。レミアとミュウの家も、二人暮らしの家にしては十分以上の大きさがあり、ハジメ達五人が寝泊りしても何の不自由も感じない程度には快適な生活空間だった。

ただしカービィ一行の寝泊まりはローアで。

 

 

ただ、それにしても、六日も滞在しているのは少々骨休めが過ぎると感じるところだ。その理由は、言わずもがな、ミュウである。ミュウを、この先の旅に連れて行くことは出来ない。四歳の何の力もない女の子を、東の果ての大迷宮に連れて行くなどもってのほかだ。

 まして、【ハルツィナ樹海】を除く残り二つの大迷宮は更に厄介な場所にある。一つは魔人族の領土にある【シュネー雪原】の【氷結洞窟】。そしてもう一つは、何とあの【神山】なのである。どちらも、大勢力の懐に入り込まねばならないのだ。そんな場所に、ミュウを連れて行くなど絶対に出来ない。

 なので、この町でお別れをしなければならないのだが、何となくそれを察しているのか、ハジメ達がその話を出そうとすると、ミュウは決まって超甘えん坊モードになり、ハジメ達に「必殺! 幼女、無言の懇願!」を発動するので中々言い出せずにいた。結局、ズルズルと神代魔法の鍛錬やら新装備の充実化やら、言い訳をしつつ六日も滞在してしまっているのである。

 

「それでも、いい加減出発しないとな……はぁ、ミュウに何て言うべきか……泣かれるかな。泣かれるよな……はぁ、憂鬱だ」

 

 ハジメは、桟橋に腰掛けて〝錬成〟により装備やら何やらを作成しながら、憂鬱そうに独り言を呟く。奈落から出たばかりの頃は、この世界の全てをどうでもいいと思っていたのに、今や、幼子とのお別れ一つに頭を悩ませている。そんな現状に、内心、複雑な思いを抱くハジメ。

 

「恨むぞ、先生……」

 

 この世界の一切合切を切り捨てて、ただ目的のためあらゆる犠牲を厭わないという考えが出来なくなったことに、そんな考えを持つに至ったきっかけたる恩師を思い出して悪態をつくハジメ。しかし、視線の先に、ユエとシア、香織、ティオ、そして彼女達と水中鬼ごっこをして戯れるミュウの溢れる笑顔を見て、言葉とは裏腹に顔には笑みが浮かんでいた。

 

 自分には関係ないと、あの時、ミュウを見捨てていれば、あるいはアンカジを放置していれば、そしてレミアを放って置けば、さっさとミュウと別れていれば……きっと、彼女達にあの極上の笑顔はなかっただろう。

 

 例え切り捨てていても、ユエ達は不幸だと感じるわけでも笑顔が無くなるわけでもないだろうが、今浮かべるそれとは比べるべくもないのではないだろうか。それはきっと、ここまでのハジメのあり方が〝寂しい生き方〟ではなかったからに違いない。

 

 海人族の特性を十全に発揮して、チートの権化達から華麗に逃げ回る変則的な鬼ごっこ(ミュウ以外全員鬼役)を全力で楽しんでいるミュウを見ながら、再び、溜息を吐くハジメ。そんなハジメの桟橋から投げ出した両足の間から、突然、人影がザバッと音を立てて現れた。海中から水を滴らせて現れたのは、ミュウの母親であるレミアだ。

 

 レミアは、エメラルドグリーンの長い髪を背中で一本の緩い三つ編みにしており、ライトグリーンの結構際どいビキニを身に付けている。ミュウと再会した当初は、相当やつれていたのだが、現在は、再生魔法という反則級の回復効果により以前の健康体を完全に取り戻しており、一児の母とは思えない、いや、そうであるが故の色気を纏っている。

 

 町の男連中が、こぞって彼女の再婚相手を狙っていたり、母子セットで妙なファンクラブがあるのも頷けるくらいの、おっとり系美人だ。ティオとタメを張るほど見事なスタイルを誇っており、体の表面を流れる水滴が実に艶かしい。

 

 そんなタダでさえ魅力的なレミアが、いきなり自分の股の間に出てきたのだ。ミュウのことで頭を悩ますハジメは、うっかり不意をつかれてしまった。レミアは、ハジメの膝に手を掛けて体を支えると、かなり位置的に危ない場所からハジメを見上げている。

 

 しかし、顔のある位置や肉体の放つ色気とは裏腹に、レミアの表情は優しげで、むしろハジメを気遣うような色を宿していた。

 

「有難うございます。ハジメさん」

「いきなり何だ? 礼を言われるようなことは……」

 

 いきなりお礼を述べたレミアにハジメが訝しそうな表情をする。

 

「うふふ、娘のためにこんなにも悩んで下さるのですもの……母親としてはお礼の一つも言いたくなります」

「それは……バレバレか。一応、隠していたつもりなんだが」

「あらあら、知らない人はいませんよ? ユエさん達もそれぞれ考えて下さっているようですし……ミュウは本当に素敵な人達と出会えましたね」

 

 レミアは肩越しに振り返って、ミュウのいたずらで水着を剥ぎ取られたシアが、手ブラをしながら必死にミュウを追いかけている姿をみつつ、笑みをこぼす。そして、再度、ハジメに視線を転じると、今度は少し真面目な表情で口を開いた。

 

「ハジメさん。もう十分です。皆さんは、十分過ぎるほどして下さいました。ですから、どうか悩まずに、すべき事のためにお進み下さい」

「レミア……」

「皆さんと出会って、あの子は大きく成長しました。甘えてばかりだったのに、自分より他の誰かを気遣えるようになった……あの子も分かっています。ハジメさん達が行かなければならないことを……まだまだ幼いですからついつい甘えてしまいますけれど……それでも、一度も〝行かないで〟とは口にしていないでしょう? あの子も、これ以上、ハジメさん達を引き止めていてはいけないと分かっているのです。だから……」

「……そうか。……幼子に気遣われてちゃあ、世話ないな……わかった。今晩、はっきり告げることにするよ。明日、出発するって」

 

 ミュウの無言の訴えが、行って欲しくないけれど、それを言ってハジメ達を困らせたくないという気遣いの表れだったと気付かされ、片手で目元を覆って天を仰いだハジメは、お別れを告げる決意をする。そんなハジメに、レミアは再び優しげな眼差しを向けた。

 

「では、今晩はご馳走にしましょう。ハジメさん達のお別れ会ですからね」

「そうだな……期待してるよ」

「うふふ、はい、期待していて下さいね、あ・な・た♡」

「いや、その呼び方は……」

 

 どこかイタズラっぽい笑みを浮かべるレミアに、ハジメはツッコミを入れようとしたが、それはブリザードのような冷たさを含んだ声音により、いつものように遮られた。

 

「……レミア……いい度胸」

「レミアさん、いつの間に……油断も隙もないよ」

「ふむ、見る角度によっては、ご主人様にご奉仕しているようにも……露出プレイ……イィ!」

「あの、ミュウちゃん? お姉ちゃんの水着、そろそろ返してくれませんか? さっきから人目が……」

 

 いつの間にかハジメのもとに戻ってきていたユエ達が、半眼でレミアを睨んでいた。まさか本当にハジメを再婚相手として狙っているんじゃあるまいな? と警戒しているようだ。ここ数日、よく見られる光景である。変態はスルーだ。四歳の女の子に水着を取られて半泣きのウサミミもスルーだ。

 

 一方、睨まれている方のレミアはというと、「あらあら、うふふ」と微笑むばかりで特に引いた様子は見られない。そのゆるふわな笑みが、レミアの本心を隠してしまうので、ハジメに対する時折見せるアプローチが本気なのか冗談なのか区別が付きにくい。これが、未亡人の貫禄だとでもいうのか……

 

 当のハジメはというと、桟橋に上がって四つん這い状態でレミアを睨んでいるユエの水着姿に目を奪われていた。連日見ているのだが、もはや無意識レベルで視線が吸い寄せられている。

 

 黒のビキニタイプだ。紐で結ぶタイプなので結構際どい。ユエの肌の白さと相まってコントラストがとても美しい。珍しく髪をツインテールにしており、それが普段より幼さを感じさせるのに、水着は大人っぽさを感じさせるというギャップが、ハジメとしては堪らなかった。

 

 レミアとバチバチ火花を飛ばしていたユエは、ハジメの視線に気が付くと、どうやら自分に心奪われているということを察したようで「……ふふ」と機嫌良さそうに笑みをこぼし、そのまま四つん這いでハジメに迫る。

 

 しかし、何時までも独走を許してなるものかと、反対側から香織がハジメの腕を取った。恥ずかしいのか耳まで赤く染めながらも白のビキニから覗く胸の谷間にハジメの腕をムニュと押し付けた。上目遣いでハジメを見る目が、「私も見て?」と無言で訴えている。

 

 更に、背後からはシアが、その自慢の双丘をハジメの背中に押し付けながらもたれかかった。未だ、ミュウに水着を取られたままなので、体を隠す意図もあるようだ。ただ、ハジメとしては、極上の柔らかさの他に、当たっている二つの特徴的な感触が非常に困るところだ。

 

 ちなみに、ティオも中々魅力的な水着姿を披露していたのだが、自分の妄想でハァハァし始めて大変気持ちが悪かったので、ハジメは、持っていた金属片を指弾して強制的に頭を冷やさせた。なので、現在は、土左衛門になっている。

 

 そんな、美女・美少女に囲まれたハジメのもとへ、ミュウが海中から浮かび上がってきた。レミアとハジメの間に割り込むように現れたミュウは、そのまま正面からハジメに飛びつく。咄嗟に抱きとめたハジメに、ミュウは「戦利品とったどー!」とばかりにシアの水着を掲げ、それをパサッとハジメの頭に乗せた。どうやら、娘からの贈り物らしい。

 

「ミ、ミュウちゃん!? なぜ、こんな事を……はっ!? まさか……ハジメさんに頼まれて? も、もうっ! ハジメさんたら、私の水着が気になるなら、そう言ってくれれば……いくらでも……」

「……ハジメ、私のもあげる」

「わ、私だって! ハジメくんが欲しいなら……あ、でもここで脱ぐのは恥ずかしいから……あとで部屋で、ね?」

「あらあら、じゃあ、私も……上と下どちらがいいですか? それとも両方?」

 

 頭に女物の水着を乗せ、四方から女に水着を献上される男、南雲ハジメ。

 

 ポタポタとシアの水着から滴る水が、頬を引きつらせるハジメの表情と相まって何ともシュールだった。その光景を目撃した男連中は血の涙を滴らせる。そして、その日を境に何処からともなく噂が広まった。曰く「白髪眼帯の少年に気をつけろ。やつの好物は脱ぎたての水着。頭から被る事に至上の喜びを見出す変態だ」と。

 

ついでにと言わんばかりにハジメはカービィに質問した。

「そういえば忘れかけていたがカービィはどんなコピー能力を手に入れたんだ?」

 

「えーっと〜コピー能力リバイブ!」

 

「それでどんな能力なんだ?」

 

「この能力は回復特化みたいだね。攻撃の能力はないみたい。」

 

と、カービィの新たな能力でマキシムトマト要らずになるのは後ほどの話。




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異端者認定

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 赤銅色の世界に再び足を踏み入れて一日半。

 

 ハジメ達は、砂埃を盛大に巻き上げつつ魔力駆動四輪を駆りながら一路【アンカジ公国】を目指していた。本来の目的地は、【ハルツィナ樹海】ではあるのだが、香織が、再生魔法を使えば【アンカジ公国】のオアシスを元に戻せるのかもしれない、是非試してみたいと提案したためだ。

 

 

再生魔法は、文字通り、あらゆるものを〝元に戻す〟という効果がある。なので、回復魔法による浄化の効かない汚染されたオアシスでも、元に戻せるはずと踏んだ。

 

ちなみにカービィのコピー能力リバイブは、文字通り、あらゆるものを〝回復〟〝復活〟〝力付く〟という効果かある。

つまり回復だけでなくパワーアップすることができるのだった。

 

ちょうど通り道であるし、前回は名物のフルーツを食する暇もなかったことから、ハジメ達も特に反対する理由はなく、香織の提案に乗ることにした。

 

 そして、現在、アンカジの入場門が見え始めたところなのだが、何やら前回来た時と違って随分と行列が出来ていた。大きな荷馬車が数多く並んでおり、雰囲気からして、どうも商人の行列のようだ。

 

「随分と大規模な隊商だな……」

「……ん、時間かかりそう」

「多分、物資を運び込んでいるんじゃないかな?」

 

 香織の推測通り、長蛇の列を作っているのは、【アンカジ公国】が【ハイリヒ王国】に救援依頼をし、要請に応えてやって来た救援物資運搬部隊に便乗した商人達である。王国側の救援部隊は、当然の如く先に通されており、今見えている隊商も、よほどアコギな商売でもしない限り、アンカジ側は全て受け入れているようだ。

 

 何せ、水源がやられてしまったので、既に収穫して備蓄していたもの以外、作物類も安全のため廃棄処分にする必要があり、水以外に食料も大量に必要としていたのだ。相手を選んでいる余裕はないのである。

 

 ハジメは、吹き荒ぶ砂と砂漠の暑さに辟易した様子で順番待ちをする隊商を尻目に、四輪を操作して直接入場門まで突入した。順番待ちする気ゼロである。

 

 突然、脇を走り抜けていく黒い物体に隊商の人達がギョッとしたように身を竦めた。「すわっ、魔物か!?」などと内心で叫んでいることだろう。それは、門番も同じようで砂煙を上げながら接近してくる四輪に武器を構えて警戒心と恐怖を織り交ぜた険しい視線を向けている。

 

 

 

 しかし、にわかに騒がしくなった門前を訝しんで奥の詰所から現れた他の兵士が四輪を目にした途端、何かに気がついたようにハッと目を見開き、誰何と警告を発する同僚を諌めて、武器も持たずに出迎えに進み出てきた。更に、他の兵士に指示して伝令に走らせたようである。

 

 ハジメ達は、門前まで来ると周囲の注目を無視して四輪から降車した。周囲の人々は、いつも通り、ユエ達の美貌に目を奪われ、次いで、〝宝物庫〟に収納されて消えたように見える四輪に瞠目している。

 

「ああ、やはり使徒様方でしたか。戻って来られたのですね」

 

 兵士は、香織の姿を見るとホッと胸をなで下ろした。おそらく、ビィズを連れてきた時か、ハジメ達が【グリューエン大火山】に〝静因石〟を取りに行く時に四輪を見たことがあったのだろう。

 

 そして、それが、〝神の使徒〟の一人としてアンカジで知れ渡っている香織の乗り物であると認識していたようだ。概ね間違ってはいないので特に訂正はしないハジメ達。知名度は香織が一番なので、代表して前に出る。

 

「はい。実は、オアシスを浄化できるかもしれない術を手に入れたので試しに来ました。領主様に話を通しておきたいのですが……」

「オアシスを!? それは本当ですかっ!?」

「は、はい。あくまで可能性が高いというだけですが……」

「いえ、流石は使徒様です。と、こんなところで失礼しました。既に、領主様には伝令を送りました。入れ違いになってもいけませんから、待合室にご案内します。使徒様の来訪が伝われば、領主様も直ぐにやって来られるでしょう」

 

 

やはり、国を救ってもらったという認識なのか兵士のハジメ達を見る目には多大な敬意の色が見て取れる。VIPに対する待遇だ。ハジメ達は、好奇の視線を向けてくる商人達を尻目に、門番の案内を受けて再び【アンカジ公国】に足を踏み入れた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 領主であるランズィが息せき切ってやって来たのは、ハジメ達が待合室にやって来て十五分くらいだった。随分と早い到着である。それだけ、ランズィ達にとってハジメ達の存在は重要なのだろう。

 

「久しい……というほどでもないか。無事なようで何よりだ、ハジメ殿。【グリューエン火山】が消し飛んだときは本当に心配したぞ。貴殿たちは、既に我が公国の救世主なのだからな。礼の一つもしておらんのに勝手に死なれては困る」

 

 

「一介の冒険者に何言ってるんだよ。でもまぁ、この通りピンピンしてる。ありがとよ。それより領主、どうやら救援も無事に受けられているようだな」

「ああ。備蓄した食料と、カービィ殿のくれたトマトに、ユエ殿が作ってくれた貯水池のおかげで十分に時間を稼げた。王国から援助の他、商人達のおかげで何とか民を飢えさせずに済んでいる」

 

 

そう言って、少し頬がこけたランズィは穏やかに笑った。アンカジを救うため連日東奔西走していたのだろう。疲労がにじみ出ているが、その分成果は出ているようで、表情を見る限りアンカジは十分に回せていけているようだ。

 

「領主様。オアシスの浄化は……」

「使徒殿……いや、香織殿。オアシスは相変わらずだ。新鮮な地下水のおかげで、少しずつ自然浄化は出来ているようだが……中々進まん。このペースだと完全に浄化されるまで少なくとも半年、土壌に染み込んだ分の浄化も考えると一年は掛かると計算されておる」

 

少し、憂鬱そうにそう語るランズィに、カービィと香織が今すぐ浄化できる可能性があると伝える。それを聞いたランズィの反応は劇的だった。掴みかからんばかりの勢いで「マジで!?」と唾を飛ばして確認するランズィに、香織は完全にドン引きしながらコクコクと頷く。カービィは「そーだよ!」と。ハジメの影に隠れる香織を見て、取り乱したと咳払いしつつ居住まいを正したランズィは、早速、浄化を頼んできた。

 

 元よりそのつもりだと頷き、ハジメ達一行はランズィに先導されオアシスへと向かった。

 

 オアシスには、全くと言っていいほど人気がない。普段は憩いの場所として大勢の人々で賑わっているのだが……そのことを思い出し、ランズィが無表情ながらも何処か寂しそうな雰囲気を漂わせている。

 

 オアシスの畔に立って再生魔法を行使するのは提案者の香織だ。

 

 

 再生魔法を入手したものの、相変わらず最高適正のカービィと次に適性が高かったのは香織で、次がティオ、その次がユエだった。ユエの場合、相変わらず、自前の固有魔法〝自動再生〟があるせいか、任意で行使する回復作用のある魔法は苦手なようだ。反対に、〝治癒師〟である香織は、回復と〝再生〟に通じるものがあるようで一際高い適性を持っており、より広範囲に効率的に行使出来るようだ。もっとも、詠唱も陣も必要な時点で、ユエの方が実戦では使えるのが悲しいところである。以外適性が皆無だった。もっとも、シアの場合、まともに発動できなくてもオートリジェネのような自動回復効果があるらしく、また、意識すれば傷や魔力、体力や精神力の回復も段違いに早くなるらしい。どんどん超人化していくシア。身体強化のレベルや体重操作の熟練度も上がっているようなので、自動回復装置付きの重戦車のようになって来ている。カービィ一行はカービィ以外手に入れてない。

 

 香織が詠唱を始める。長い詠唱だ。エリセン滞在中に修練して最初は七分もかかっていた魔法を今では三分に縮めている。たった一週間でそれなのだから、十二分にチートである。しかし、ユエ達がバグキャラとも言うべき存在なので、霞んでしまうのだ。本人は、既に割り切っているようだが。

 

カービィは一瞬なのだがそれは黙っている。

 

 

 

静謐さと、どこか荘厳さを感じさせる詠唱に、ランズィと彼の部下達が息を呑む。決して邪魔をしてはならない神聖な儀式のように感じたのだ。緊張感が場を支配する中、いよいよ香織の再生魔法が発動する。

 

「――〝絶象〟」

 

 瞑目したままアーティファクトの白杖を突き出し呟かれた魔法名。

 

 次の瞬間、前方に蛍火のような淡い光が発生し、スっと流れるようにオアシスの中央へと落ちた。すると、オアシス全体が輝きだし、淡い光の粒子が湧き上がって天へと登っていく。それは、まるでこの世の悪いものが浄化され天へと召されていくような神秘的で心に迫る光景だった。

 

 誰もがその光景に息をするのも忘れて見蕩れる。術の効果が終わり、オアシスを覆った神秘の輝きが空に溶けるように消えた後も、ランズィ達は、しばらく余韻に浸るように言葉もなく佇んでいた。

 

 少し疲れた様子で肩を揺らす香織を支えつつ、ハジメがランズィを促す。ハッと我を取り戻したランズィは、部下に命じて水質の調査をさせた。部下の男性が慌てて検知の魔法を使いオアシスを調べる。固唾を呑んで見守るランズィ達に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリとこぼすように結果を報告した。

 

「……戻っています」

「……もう一度言ってくれ」

 

 ランズィの再確認に言葉に部下の男は、息を吸って、今度ははっきりと告げた。

 

「オアシスに異常なし! 元のオアシスです! 完全に浄化されています!」

 

 その瞬間、ランズィの部下達が一斉に歓声を上げた。手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びをあらわにしている。ランズィも深く息を吐きながら感じ入ったように目を瞑り天を仰いでいた。

 

「あとは、土壌の再生だな……領主、作物は全て廃棄したのか?」

「……いや、一箇所にまとめてあるだけだ。廃棄処理にまわす人手も時間も惜しかったのでな……まさか……それも?」

「カービィだけでいけるんじゃないか? どうだ?」

「任せて!コピー能力リバイブ!」

 

 ランズィからの礼を受けながら、早速、ハジメ達は農地地帯の方へ移動しようとした。

 

 だが、不意に感じた不穏な気配にその歩を止められる。視線を巡らせば、遠目に何やら殺気立った集団が肩で風を切りながら迫ってくる様子が見えた。アンカジ公国の兵士とは異なる装いの兵士が隊列を組んで一直線に向かってくる。ハジメが〝遠見〟で確認してみれば、どうやらこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団のようだった。

 

 ハジメ達の傍までやって来た彼等は、すぐさま、ハジメ達を半円状に包囲した。そして、神殿騎士達の合間から白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出てきた。

 

 物騒な雰囲気に、ランズィが咄嗟に男とハジメ達の間に割って入る。

 

「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ」

「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険? 二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ? 彼等への無礼は、アンカジの領主として見逃せませんな」

 

 

 

フォルビン司教と呼ばれた初老の男は、馬鹿にするようにランズィの言葉を鼻で笑った。

 

「ふん、英雄? 言葉を慎みたまえ。彼等は、既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞めることになりますぞ」

「異端者認定……だと? 馬鹿な、私は何も聞いていない」

 

 ハジメに対する〝異端者認定〟という言葉に、ランズィが息を呑んだ。ランズィとて、聖教教会の信者だ。その意味の重さは重々承知している。それ故に、何かの間違いでは? と信じられない思いでフォルビン司教に返した。

 

「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやって来るとは……クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね? きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな……これで私も中央に……」

 

 最後のセリフは声が小さく聞こえなかったが、どうやらハジメとカービィとメタナイト(マホロアたちは存在が知られてないから異端者認定はされてない。)が異端者認定を受けたことは本当らしいと理解し、思わず、背後のハジメを振り返るランズィ。

 

 しかし、当のハジメは、特に焦りも驚愕もなく、来るべき時が来たかと予想でもしていたように肩を竦めるのみだった。

カービィは神が何かは知らないものの今まで戦ってきたマルクやマホロアなどなどがよく言っていた支配者か何がだろうと予想した。

メタナイトはいつかされると予想していたので動じていない。

そしてハジメは視線で「どうするんだ?」とランズィに問いかけている。

 

 ハジメの視線を受けて眉間に皺を寄せるランズィに、如何にも調子に乗った様子のフォルビン司教がニヤニヤと嗤いながら口を開いた。

 

「さぁ、私は、これから神敵を討伐せねばならん。相当凶悪な男だという話だが、果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな。……さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」

 

 ランズィは瞑目する。そして、ハジメたちのの力や性格、その他あらゆる情報を考察して何となく異端者認定を受けた理由を察した。自らが管理できない巨大な力を教会は許さなかったのだろうと。

 

 しかし、ハジメ達の力の大きさを思えば、自殺行為に等しいその決定に、魔人族と相対する前に、ハジメ一行と戦争でもする気なのかと中央上層部の者達の正気を疑った。そして、どうにもキナ臭いと思いつつ、一番重要なことに思いを巡らせた。

 

 それは、ハジメ達がアンカジを救ってくれたということ。毒に侵され倒れた民を癒し、生命線というべき水を用意し、オアシスに潜む怪物を討伐し、今再び戻って公国の象徴たるオアシスすら浄化してくれた。

 

 この莫大な恩義に、どう報いるべきか頭を悩ましていたのはついさっきのことだ。ランズィは目を見開くと、ちょうどいい機会ではないかと口元に笑みを浮かべた。そして、黙り込んだランズィにイライラした様子のフォルビン司祭に領主たる威厳をもって、その鋭い眼光を真っ向からぶつけ、アンカジ公国領主の答えを叩きつけた。

 

「断る」

「……今、何といった?」

 

 全く予想外の言葉に、フォルビン司教の表情が面白いほど間抜け顔になる。そんなフォルビン司教の様子に、内心、聖教教会の決定に逆らうなど有り得ないことなのだから当然だろうなと苦笑いしながら、ランズィは、揺るがぬ決意で言葉を繰り返した。

 

「断ると言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なすことは私が許さん」

「なっ、なっ、き、貴様! 正気か! 教会に逆らう事がどういうことかわからんわけではないだろう! 異端者の烙印を押されたいのか!」

 

 ランズィの言葉に、驚愕の余り言葉を詰まらせながら怒声をあげるフォルビン司教。周囲の神殿騎士達も困惑したように顔を見合わせている。

 

「フォルビン司教。中央は、彼等の偉業を知らないのではないか? 彼は、この猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を救ったのだぞ? 報告によれば、勇者一行も、ウルの町も彼に救われているというではないか……そんな相手に異端者認定? その決定の方が正気とは思えんよ。故に、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に異議とアンカジを救ったという新たな事実を加味しての再考を申し立てる」

「だ、黙れ! 決定事項だ! これは神のご意志だ! 逆らうことは許されん! 公よ、これ以上、その異端者を庇うのであれば、貴様も、いやアンカジそのものを異端認定することになるぞ! それでもよいのかっ!」

 

 どこか狂的な光を瞳に宿しながら、フォルビン司教は、とても聖職者とは思えない雰囲気で喚きたてた。それを冷めた目で見つめるランズィに、いつの間にか傍らまでやって来ていたハジメが、意外そうな表情で問いかける。

 

「……おい、いいのか? 王国と教会の両方と事を構えることになるぞ。領主として、その判断はどうなんだ?」

 

 ランズィは、ハジメの言葉には答えず事の成り行きを見守っていた部下達に視線を向けた。ハジメも、誘われるように視線を向けると、二人の視線に気がついた部下達は一瞬瞑目した後、覚悟を決めたように決然とした表情を見せた。瞳はギラリと輝いている。明らかに、「殺るなら殺ったるでぇ!」という表情だ。

 

 その意志をフォルビン司教も読み取ったようで、更に激高し顔を真っ赤にして最後の警告を突きつけた。

 

「いいのだな? 公よ、貴様はここで終わることになるぞ。いや、貴様だけではない。貴様の部下も、それに与する者も全員終わる。神罰を受け尽く滅びるのだ」

「このアンカジに、自らを救ってくれた英雄を売るような恥知らずはいない。神罰? 私が信仰する神は、そんな恥知らずこそ裁くお方だと思っていたのだが? 司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」

 

 ランズィの言葉に、怒りを通り越してしまったのか無表情になったフォルビン司教は、片手を上げて神殿騎士達に攻撃の合図を送ろうとした。

 

 と、その時、ヒュ! と音を立てて何かが飛来し、一人の神殿騎士のヘルメットにカン! と音を立ててぶつかった。足元を見れば、そこにあるのは小石だった。神殿騎士には何のダメージもないが、なぜこんなものが? と首を捻る。しかし、そんな疑問も束の間、石は次々と飛来し、神殿騎士達の甲冑に音を立ててぶつかっていった。

 

 何事かと石が飛来して来る方を見てみれば、いつの間にかアンカジの住民達が大勢集まり、神殿騎士達を包囲していた。

 

 彼等は、オアシスから発生した神秘的な光と、慌ただしく駆けていく神殿騎士達を見て、何事かと野次馬根性で追いかけて来た人々だ。

 

 彼等は、神殿騎士が、自分達を献身的に治療してくれた〝神の使徒〟たる香織や、特効薬である〝静因石〟を大迷宮に挑んでまで採ってきてくれたハジメ達を取り囲み、それを敬愛する領主が庇っている姿を見て、「教会のやつら乱心でもしたのか!」と憤慨し、敵意もあらわに少しでも力になろうと投石を始めたのである。

 

「やめよ! アンカジの民よ! 奴らは異端者認定を受けた神敵である! やつらの討伐は神の意志である!」

 

 フォルビンが、殺気立つ住民達の誤解を解こうと大声で叫ぶ。彼等はまだ、ハジメ達が異端者認定を受けていることを知らないだけで、司教たる自分が教えてやれば直ぐに静まるだろうと、フォルビンは思っていた。

 

 実際、聖教教会司教の言葉に、住民達は困惑をあらわにして顔を見合わせ、投石の手を止めた。

 

 そこへ、今度はランズィの言葉が、威厳と共に放たれる。

 

「我が愛すべき公国民達よ。聞け! 彼等は、たった今、我らのオアシスを浄化してくれた! 我らのオアシスが彼等の尽力で戻ってきたのだ! そして、汚染された土地も! 作物も! 全て浄化してくれるという! 彼等は、我らのアンカジを取り戻してくれたのだ! この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ! 救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。……私は、守ることにした!」

 

 フォルビン司教は、「そんな言葉で、教会の威光に逆らうわけがない」と嘲笑混じりの笑みをランズィに向けようとして、次の瞬間、その表情を凍てつかせた。

 

カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ! カンッ!

 

 住民達の意思が投石という形をもって示されたからだ。

 

「なっ、なっ……」

 

 再び言葉を詰まらせたフォルビン司教に住民達の言葉が叩きつけられた。

 

「ふざけるな! 俺達の恩人を殺らせるかよ!」

「教会は何もしてくれなかったじゃない! なのに、助けてくれた使徒様を害そうなんて正気じゃないわ!」

「何が異端者だ! お前らの方がよほど異端者だろうが!」

「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」

「香織様を守れ!」

「領主様に続け!」

「香織様、貴女にこの身を捧げますぅ!」

「おい、誰かビィズ会長を呼べ! 〝香織様にご奉仕し隊〟を出してもらうんだ!」

 

 どうやら、住民達はランズィと香織に深い敬愛の念を持っているらしい。信仰心を押しのけて、目の前のランズィと香織一行を守ろうと気勢をあげた。いや、きっと信仰心自体は変わらないのだろう。ただ、自分達の信仰する神が、自分達を救ってくれた〝神の使徒〟である香織を害すはずがないと信じているようだ。要するに、信仰心がフォルビン司教への信頼を上回ったということだろう。元々、信頼があったのかはわからないが……

 

 事態を知った住民達が、続々と集まってくる。彼等一人一人の力は当然のごとく神殿騎士には全く及ばないが、際限なく湧き上がる怒りと敵意にフォルビン司教や助祭、神殿騎士達はたじろいだ様に後退った。

 

「司教殿、これがアンカジの意思だ。先程の申し立て……聞いてはもらえませんかな?」

「ぬっ、ぐぅ……ただで済むとは思わないことだっ」

 

 歯軋りしながら最後にハジメ達を煮え滾った眼で睨みつけると、フォルビン司教は踵を返した。その後を、神殿騎士達が慌てて付いていく。フォルビン司教は激情を少しでも発散しようとしているかのように、大きな足音を立てながら教会の方へと消えていった。

 

「……本当によかったのか? 今更だが、俺達のことは放っておいても良かったんだぞ?」

 

 当事者なのに、最後まで蚊帳の外に置かれていたハジメがランズィに困ったような表情でそう告げる。香織達も、自分達のせいでアンカジが、今度は王国や教会からの危機にさらされるのでは心配顔だ。

 

 だが、そんなハジメ達に、ランズィは何でもないように涼しい表情で答えた。

 

「なに、これは〝アンカジの意思〟だ。この公国に住む者で貴殿等に感謝していない者などおらん。そんな相手を、一方的な理由で殺させたとあっては……それこそ、私の方が〝アンカジの意思〟に殺されてしまうだろう。愛すべき国でクーデターなど考えたくもないぞ」

「別に、あの程度の連中に殺されたりはしないが……」

 

 ランズィの言葉に、頬を掻きながらハジメがそう言うと、ランズィは我が意を得たりと笑った。

 

「そうだろうな。つまり君達は、教会よりも怖い存在ということだ。救国の英雄だからというのもあるがね、半分は、君達を敵に回さないためだ。信じられないような魔法をいくつも使い、未知の化け物をいとも簡単に屠り、大迷宮すらたった数日で攻略して戻ってくる。教会の威光をそよ風のように受け流し、百人の神殿騎士を歯牙にもかけない。万群を正面から叩き潰し、勇者すら追い詰めた魔物を瞬殺したという報告も入っている……いや、実に恐ろしい。父から領主を継いで結構な年月が経つが、その中でも一、二を争う英断だったと自負しているよ」

 

 ハジメとしては、ランズィが自分達を教会に引き渡したとしても敵対認定するつもりはなかったのだが、ランズィは万一の可能性も考えて、教会とハジメ達を天秤にかけ後者をとったのだろう。確かに、国のためとは言え、教会の威光に逆らう行為なのだ。英断と言っても過言ではないだろう。

 

ハジメは、覚悟していた教会の異端認定とその結果の衝突が、いきなり自分達以外の人々によって回避されたことに何とも言えない曖昧な笑みを浮かべた。そして、わらわらと自分達の安否を気遣って集まってくるアンカジの人々と、それにオロオロしつつも嬉しそうに笑う香織達を見て、これも愛子先生が言っていた〝寂しい生き方〟をしなかった結果なのかと、そんなことを思うのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 教会との騒動から三日。

 

 農作地帯と作物の汚染を浄化したハジメ達は、輝きを取り戻したオアシスを少し高台にある場所から眺めていた。

 

 視線の先、キラキラと輝く湖面の周りには、笑顔と活気を取り戻した多くの人々が集っている。湖畔の草地に寝そべり、水際ではしゃぐ子供を見守る夫婦、桟橋から釣り糸を垂らす少年達、湖面に浮かべたボートで愛を語らい合う恋人達。訪れている人達は様々だが、皆一様に、笑顔で満ち満ちていた。

 

 ハジメ達は、今日、アンカジを発つ。当初は、汚染場所の再生さえすれば、特産のフルーツでも買ってさっさと出発するつもりだったのだが、領主一家や領主館の人々、そしてアンカジの住民達に何かと引き止められて、結局、余分に二日も過ごしてしまった。

 

 アンカジにおけるハジメ達への歓迎ぶりは凄まじく、放っておけば出発時に見送りパレードまでしそうな勢いだったので、ランズィに頼んで何とか抑えてもらったほどだ。見送りは領主館で終わらせてもらい、ハジメ達は、自分達だけで門近くまで来て、最後にオアシスを眺めているのである。

 

「なぁ、そろそろ目立つから、着替えるか、せめて上から何か羽織ってくれよ」

 

 ハジメは、そろそろ門に向かおうと踵を返しつつ、傍にいるユエ達にそんなことを言った。

 

「……ん? 飽きた?」

「え? そうなの? ハジメくん」

「いや、ユエ、香織よ。ご主人様の目はそう言っておらん。単に目立たぬようにという事じゃろう」

「まぁ、門を通るのにこの格好はないですからね~」

 

 シアがその場でくるりと華麗にターンを決めながら〝この格好〟と言ったのは、いわゆるベリーダンスで着るような衣装だった。チョリ・トップスを着てへそ出し、下はハーレムパンツやヤードスカートだ。非常に扇情的で、ちっちゃなおへそが眩しい。この衣装を着て踊られたりしたら目が釘付けになること請け合いだ。

 

 

 アンカジにおけるドレス衣装らしい。領主の奥方からプレゼントされたユエ達がこれを着てハジメに披露したとき、ハジメの目が一瞬、野獣になった。どうやら、ハジメはこういう衣装に非常に弱かったらしい。何せ、ユエだけでなくシアやティオ、香織にまで思わず目が釘付けになったのだから。

 

 今まで、ユエ以外には碌な反応をしてこなかったハジメである。味をしめたシア達は、基本的に一日中その格好でハジメに侍るようになった。当然、そうなればユエも脱ぐわけにいかず、常に、ハジメの理性を崩壊させるような衣装で魅惑的に迫った。

 

 結局、出発間際の今になっても、全員、エロティックな衣装のままなのである。ハジメの意外な性癖が明らかになって、その点をガンガンと積極的に突かれながら、どこか嬉しくも疲れた表情をするハジメは、どうやって、普通の服を着させようか悩みながら門に向かうのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 そして、アンカジを出発して二日。

 

 そろそろホルアドに通じる街道に差し掛かる頃、四輪を走らせるハジメ達は、賊らしき連中に襲われている隊商と遭遇した。

 

 そこで、ハジメと香織は、意外すぎる人物と再会することになったのだった。

 

 




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攫われる愛子

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最初に、その騒動に気がついたのはカービィとシアだった。

 

「ハジメ、あれ!」

「あれ? ハジメさん、あれって……何か襲われてません?」

 

 例のごとく、ハジメが車内でユエとイチャつき、それに香織が割って入り、パワーアップして氷雪を纏うようになった般若と雷を纏う龍が威嚇し合い、結果、ほとんど前を見ていないという危険運転をしていたハジメは、カービィとシアの言葉でようやく前方に注意を向けた。

 

 

2人の言う通り、どうやら何処かの隊商が襲われているようで、相対する二組の集団が激しい攻防を繰り返していた。近づくにつれ、シアのウサミミには人々の怒号と悲鳴が聞こえ、ハジメの〝遠見〟にもはっきりと事態の詳細が見て取れた。

 

 

「相手は賊みたいだな。……小汚ない格好した男が約四十人……対して隊商の護衛は十五人ってところか。あの戦力差で拮抗しているのがすげぇな、カービィ行くぞ。」

 

「ってカービィは?」

 

シア「もうカービィさんなら助けに行ってますよ!」

 

 

 

 

 

カービィ「コピー能力クリエイト『スマブラ 、ミラー、リバイブ』」

 

カービィはリバイブでスマブラの攻撃力を上げ、分身して賊に向かう。

 

 

「「「「「「「「「「「鬼ごろし火炎ハンマー!」」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「「ファイナルカッター!」」」」」」」」」」」

 

 

ドゴォ! バキッ! グシャ!

 

 戦慄、絶望、困惑――そんな表情を浮かべた賊達が、生々しい音を響かせながら冗談のように倒されていく。

 

 

カービィはそこまで鬼ではないのでクリエイトにコピー能力ウィップを追加して縄で縛った。

 

しかしハジメはというと………、

そんな彼等を尻目に、ハジメは香織に視線を向けながら確認するように口を開いた。

 

「やるからには容赦しない。奴らは皆殺しにする。慈悲なんてものはない。分かっているよな?」

「……うん。わかってるよ」

カービィ「でも可愛そうじゃない?」

 それは、いくら香織やカービィが優しくても、敵対した者を癒したり庇ったりする事は許さないということだ。それをしたいなら、カービィはともかく香織はハジメの仲間ではいられなくなる。行くべきところは勇者パーティーだ。香織は、一呼吸置くと、決然とした眼差しでハジメに頷いた。

 

「なら、行け。邪魔はさせない」

「うん!」

カービィ「……」

 

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

 周囲に炸裂音が連続して轟くたびに、殺意の風が吹き荒れる。一人また一人と、賊の頭部が粉砕され血飛沫が舞っていく光景に、救われているはずの護衛者達の背筋が粟立った。余りに圧倒的、余りに無慈悲。四十人以上いた賊達は、たった数秒でカービィが生かしていた者の数を半数まで減らしてしまった。

 

そんな彼等を見て歯噛みする香織に、突如、人影が猛然と駆け寄った。小柄で目深にフードを被っており、一見すると物凄く怪しい。だが、実は先程の結界を張って必死に隊商を守っていたのがその人物であると、魔力の流れと色で既に確認していたので、ハジメは特に止める事もなく素通りさせた。

 

「香織!」

 

 フードの人物は、そのままの勢いで香織に飛び付き、可憐な声で香織の名を呼びながらギュッと抱きついた。香織は、まさかの推測が当たっていたと知り驚愕を隠せない様子で、その人物の名を呟く。

 

「リリィ! やっぱり、リリィなのね? あの結界、見覚えが有ると思ったの。まさか、こんなところにいるとは思わなかったから、半信半疑だったのだけど……」

 

 香織がリリィと呼んだフードの相手、それは、

 

――――ハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒ

 

 その人だった。

 

 

 リリアーナは、心底ホッとした様子で、ずれたフードの奥から煌く金髪碧眼とその美貌を覗かせた。そして、感じ入るように細めた目で香織を見つめながら呟く。

 

「私も、こんなところで香織に会えるとは思いませんでした。……僥倖です。私の運もまだまだ尽きてはいないようですね」

「リリィ? それはどういう……」

 

 香織がリリアーナの言葉の意味を計りかねていると、リリアーナは、今更ながらにハッと何かに気がついた様子でフードを目深に被り直した。そして、香織の口元に人差し指を当てて、自分の名前を呼ばせないようにした。

 

 どうやら、本当にお供も付けず、隊商に紛れ込んでここまでやって来たようだ。一国の王女がそうしなければならない何かがあったのだと察した香織の表情も険しくなった。

 

「香織、治療は終わったか?」

 

 香織とリリアーナが真剣な表情で見つめ合っていると、いつの間にか傍までやって来ていたハジメが、そう声をかけた。全く気配がなかったので、「ひゃ!」と可愛らしい声を上げて驚くリリアーナ。そして、フードの中からハジメを見上げて、しばらく考える素振りを見せると、ピコン! と頭に電球が灯ったような表情をしてハジメに挨拶を始めた。

 

「……南雲さん……ですね? お久しぶりです。雫達から貴方の生存は聞いていました。貴方の生き抜く強さに心から敬意を。本当によかった。……貴方がいない間の香織は見ていられませんでしたよ?」

「もうっ、リリィ! 今は、そんな事いいでしょ!」

「ふふ、香織の一大告白の話も雫から聞いていますよ? あとで詳しく聞かせて下さいね?」

 

 どこかからかうような口調で香織と戯れるリリアーナは、照れて真っ赤になる香織を横目にフードの奥からハジメに笑いかけた。

 

 国民から絶大な人気を誇る王女の笑顔。一度それを向けられたなら、老若男女の区別なく陶然とすること間違いないと思わせる可憐なものだ。しかし、それを見たハジメは、特に何かを感じた様子もなく、むしろ胡乱な眼差しをリリアーナに向けて空気を読まない言葉を放った。

 

「……っていうか、誰だお前?」

「へっ?」

 

 ハジメがまだ王国にいた頃からリリアーナと香織達は積極的にコミュニケーションをとっていたし、他の生徒に対してもリリアーナは必ず数回は自ら話に行っている。確かに、ハジメは立場的に微妙だったので、リリアーナと直接話した回数はそれほど多くはないが、それでも、香織も交えて談笑したことはあるのだ。

 

 そして、リリアーナは、王女である事と、その気さくで人当たりのいい性格もあって、一度交流を持った相手から忘れられるという経験は皆無。なので、全く知らない人間を見るような目で見られた事にショックを受けて、思わず王女にあるまじき間抜けな声が出てしまった。

 

 呆然としているリリアーナに代わって、慌てたように香織がフォローを入れる。周囲にリリアーナが王女であるとばれるのは厄介なので、耳に口元を寄せて小声で話す。

 

「ハ、ハジメ君! 王女! 王女様だよ! ハイリヒ王国の王女リリアーナだよ! 話したことあるでしょ!」

「……………………………………………………………………………………ああ」

「ぐすっ、忘れられるって結構心に来るものなのですね、ぐすっ」

「リリィー! 泣かないで! ハジメくんはちょっと〝アレ〟なの! ハジメくんが〝特殊〟なだけで、リリィを忘れる人なんて〝普通〟はいないから! だから、ね? 泣かないで?」

「おい、何か俺、さりげなく罵倒されてないか?」

 

 涙目になってしまったリリアーナに必死のフォローを入れる香織が地味に酷いことを言うので、ハジメは思わずツッコミを入れる。しかし、香織から「ハジメくんはちょっと黙ってて!」と一蹴されてしまった。しかもリリアーナが「いいえ、いいのです、香織。私が少し自惚れていたのです」等と健気な事を言うので、尚更、文句は言えなかった。全面的に、リリアーナの存在を完全に忘れていたハジメが悪いのだ。

 

 そんな微妙な雰囲気のハジメ達のもとへ、ユエ達と、見覚えのある人物が寄ってくる。

 

「お久しぶりですな、息災……どころか随分とご活躍のようで」

「栄養ドリンクの人……」

「は? 何です? 栄養ドリンク? 確かに、我が商会でも扱っていますが……代名詞になるほど有名では……」

「あ~、いや、何でもない。確か、モットーで良かったよな?」

「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方とは何かと縁がある」

 

 握手を求めながらにこやかに笑う男は、かつて、ブルックの町からフューレンまでの護衛を務めた隊商のリーダー、ユンケル商会のモットー・ユンケルだった。

 

 彼の商魂が暴走した事件は、ハジメもよく覚えている。この世界の商人の性というものを、ハジメはモットーで学んだようなものだ。実際、彼の商魂はいささかの衰えもないようで、握手しながらさりげなく、ハジメの指にはまった〝宝物庫〟の指輪を触っている。その全く笑っていない眼が、「そろそろ売りませんか?」と言っていると感じるのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 背後で、シアがモットーとの関係を説明し、「たった一回会っただけの人は覚えているのに……私は……王女なのに……」とリリアーナが更に落ち込んでいたりする。そんな彼女を香織が必死に慰めているのを尻目に、ハジメはモットーの話を聞いた。

 

 

それによると、彼等は、ホルアド経由でアンカジ公国に向かうつもりだったようだ。アンカジの窮状は既に商人間にも知れ渡っており、今が稼ぎ時だと、こぞって商人が集まっているらしい。モットーも既に一度商売を終えており、王都で仕入れをして今回が二度目らしい。ホクホク顔を見れば、かなりの儲けを出せたようだ。

 

 ハジメ達は、ホルアドを経由してフューレンに行き、ミュウ送還の報告をイルワにしてから、【ハルツィナ樹海】に向かう予定だったので、その事をモットーに話すと、彼はホルアドまでの護衛を頼み込んできた。

 

 しかし、それに待ったを掛けた者がいた。リリアーナだ。

 

「申し訳ありません。商人様。彼等の時間は、私が頂きたいのです。ホルアドまでの同乗を許して頂いたにもかかわらず身勝手とは分かっているのですが……」

「おや、もうホルアドまで行かなくても宜しいので?」

「はい、ここまでで結構です。もちろん、ホルアドまでの料金を支払わせて頂きます」

 

 どうやらリリアーナは、モットーの隊商に便乗してホルアドまで行く予定だったらしい。しかし、途中でハジメ達に会えたことでその必要がなくなったようだ。その時点で、リリアーナの目的にキナ臭ささを感じたハジメだったが、文句を言おうにも香織が「これ以上、リリィをいじめないで!」と無言の訴えをしているので、取り敢えず黙っていることにした。

 

「そうですか……いえ、お役に立てたなら何より。お金は結構ですよ」

「えっ? いえ、そういうわけには……」

 

 お金を受け取ることを固辞するモットーに、リリアーナは困惑する。隊商では、寝床や料理まで全面的に世話になっていたのだ。後払いでいくら請求されるのだろうと、少し不安に思っていたくらいなので、モットーの言葉は完全に予想外だった。

 

 そんなリリアーナに対し、モットーは困ったような笑みを向けた。

 

「二度と、こういう事をなさるとは思いませんが……一応、忠告を。普通、乗合馬車にしろ、同乗にしろ料金は先払いです。それを出発前に請求されないというのは、相手は何か良からぬ事を企んでいるか、または、お金を受け取れない相手という事です。今回は、後者ですな」

「それは、まさか……」

「どのような事情かは存じませんが、貴女様ともあろうお方が、お一人で忍ばなければならない程の重大事なのでしょう。そんな危急の時に、役の一つにも立てないなら、今後は商人どころか、胸を張ってこの国の人間を名乗れますまい」

 

 モットーの口振りから、リリアーナは、彼が最初から自分の正体に気がついていたと悟る。そして、気が付いていながら、敢えて知らないふりをしてリリアーナの力になろうとしてくれていたのだ。

 

「ならば尚更、感謝の印にお受け取り下さい。貴方方のおかげで、私は、王都を出ることが出来たのです」

「ふむ。……突然ですが、商人にとって、もっとも仕入れ難く、同時に喉から手が出るほど欲しいものが何かご存知ですか?」

「え? ……いいえ、わかりません」

「それはですな、〝信頼〟です」

「信頼?」

「ええ、商売は信頼が無くては始まりませんし、続きません。そして、儲かりません。逆にそれさえあれば、大抵の状況は何とかなるものです。さてさて、果たして貴女様にとって、我がユンケル商会は信頼に値するものでしたかな? もしそうだというのなら、既に、これ以上ない報酬を受け取っていることになりますが……」

 

 リリアーナは上手い言い方だと内心で苦笑いした。これでは無理に金銭を渡せば、貴方を信頼していないというのと同義だ。お礼をしたい気持ちと反してしまう。リリアーナは、諦めたように、その場でフードを取ると、真っ直ぐモットーに向き合った。

 

「貴方方は真に信頼に値する商会です。ハイリヒ王国王女リリアーナは、貴方方の厚意と献身を決して忘れません。ありがとう……」

「勿体無いお言葉です」

 

 リリアーナに王女としての言葉を賜ったモットーは、部下共々、その場に傅き深々と頭を垂れた。

 

 その後、リリアーナとハジメ達をその場に残し、モットー達は予定通りホルアドへと続く街道を進んでいった。去り際に、ハジメが異端者認定を受けている事を知っている口振りで、何やら王都の雰囲気が悪いと忠告までしてくれたモットーに、ハジメもアンカジ公国が完全に回復したという情報を提供しておいた。それだけで、ハジメが異端者認定を受けた理由やら何やらを色々推測したようで、その上で「今後も縁があれば是非ご贔屓に」と言ってのけるモットーは本当に生粋の商人である。

 

 モットー達が去ったあと、ハジメ達は魔力駆動四輪の中でリリアーナの話を聞くことになった。焦燥感と緊張感が入り混じったリリアーナの表情が、ハジメの感じている嫌な予感に拍車をかける。そして、遂に語りだしたリリアーナの第一声は……

 

「愛子さんが……攫われました」

 

 ハジメの予感を上回る最低のものだった。

 

 リリアーナの話を要約するとこうだ。

 

 最近、王宮内の空気が何処かおかしく、リリアーナはずっと違和感を覚えていたらしい。

 

 

 

 

父親であるエリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように〝エヒト様〟を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった。

 

 それだけなら、各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、リリアーナは、半ば自分に言い聞かせていたのだが……

 

 違和感はそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。

 

 そのことを、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、光輝達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう。結局、リリアーナは一度もメルドを捕まえることが出来なかった。

 

 そうこうしている内に、愛子が王都に帰還し、ウルの町での詳細が報告された。その席にはリリアーナも同席したらしい。そして、普段からは考えられない強行採決がなされた。それが、ハジメの異端者認定だ。ウルの町や勇者一行を救った功績も、〝豊穣の女神〟として大変な知名度と人気を誇る愛子の異議・意見も、全てを無視して決定されてしまった。

 

 有り得ない決議に、当然、リリアーナは父であるエリヒドに猛抗議をしたが、何を言ってもハジメを神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった。むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。

 

 恐ろしくなったリリアーナは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出した。そして、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。すると愛子から、ハジメが奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。

 

 愛子の部屋を辞したリリアーナは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かい、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、愛子が銀髪の教会修道服を着た女に気絶させられ担がれているところだった。

 

 リリアーナは、その銀髪の女に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。

 

 銀髪の女が探しに来たが、結局、隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたこともあり気がつかなかったようで、リリアーナを見つけることなく去っていった。リリアーナは、銀髪の女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった。

 

 ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当であるし、頼りのメルドは行方知れずだ。悩んだ末、リリアーナは、今、唯一王都にいない頼りになる友人を思い出した。そう、香織だ。そして、香織の傍には話に聞いていた、あの南雲ハジメがいる。もはや、頼るべきは二人しかいないと、リリアーナは隠し通路から王都に出て、一路、アンカジ公国を目指したのである。

 

 アンカジであれば、王都の異変が届かないゼンゲン公の助力を得られるかもしれないし、タイミング的に、ハジメ達と会うことが出来る可能性が高いと踏んだからだ。

 

「あとは知っての通り、ユンケル商会の隊商にお願いして便乗させてもらいました。まさか、最初から気づかれているとは思いもしませんでしたし、その途中で賊の襲撃に遭い、それを香織達に助けられるとは夢にも思いませんでしたが……少し前までなら〝神のご加護だ〟と思うところです。……しかし……私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの銀髪の修道女は……お父様達は……」

 

 自分の体を抱きしめて恐怖に震えるリリアーナは、才媛と言われる王女というより、ただの女の子にしか見えなかった。だが、無理もないことだ。自分の親しい人達が、知らぬうちに変貌し、奪われていくのだから。

 

 香織は、リリアーナの心に巣食った恐怖を少しでも和らげようと彼女をギュッと抱きしめた。

 

 その様子を見ながら、ハジメは内心で舌打ちする。リリアーナの語った状況は、まるで【メルジーネ海底遺跡】で散々見せられた〝末期状態〟によく似ていたからだ。神に魅入られた者の続出。非常に危うい状況だと言える。

 

 それでも本来なら、知った事ではないと切り捨てるべきだろう。いや、むしろ神代魔法の取得を急ぎ、早急にこの世界から離脱する方法を探すべきだ。

 

 しかし、愛子が攫われた理由に察しがついてしまったハジメは、その決断を下すことが出来ない。なぜなら、十中八九、愛子が神の真実とハジメの旅の目的を話そうとした事が原因であると言えるからだ。おそらく、駒としての光輝達に、不審の楔を打ち込まれる事を不都合だと判断したのだろう、というハジメの推測は的を射ている。

 

 ならば、愛子が攫われたのは、彼女を利用したハジメの責任だ。攫ったという事は殺す気はないのだろうが、裏で人々をマリオネットのごとく操り享楽に耽る者達の手中にある時点で、何をされるかわかったものではない。

 

 ハジメの生き方が、より良くなるようにと助言をくれて、そして実際、悪くないと思える〝今〟をくれた恩師のことを、ハジメはどうにも放っておくことが出来そうになかった。

 

 だからこそ……

 

「取り敢えず、先生を助けに行かねぇとな」

 

 

 ハジメは、それを選ぶ。切り捨てず、見捨てず、救う事を選ぶ。

 

 ハジメの言葉に、リリアーナがパッと顔を上げる。その表情には、共に王都へ来てくれるという事への安堵と、意外だという気持ちがあらわれていた。それは、雫達から、ハジメは、この世界の事にも雫達クラスメイトの事にも無関心だと聞いていたからだ。説得は難儀しそうだと考えていたのに、あっさり手を貸してくれるとは予想外だった。

 

「宜しいのですか?」

 

 リリアーナの確認に、ハジメは肩を竦めた。

 

「勘違いしないでくれ。王国のためじゃない。先生のためだ。あの人が攫われたのは俺が原因でもあるし、放って置くわけにはいかない」

「愛子さんの……」

 

 リリアーナは、ハジメが純粋に王国のために力を貸してくれるわけではないと分かり、少し落胆するものの、ハジメが一緒に来てくれる事に変わりはないと気を取り直す。しかし、次ぐハジメの言葉には、思わず笑みがこぼれてしまった。

 

「まぁ、先生を助ける過程で、その異変の原因が立ちはだかればぶっ飛ばすけどな……」

「……ふふ、では、私は、そうであることを期待しましょう。宜しくお願いしますね。南雲さん……」

 

 愛子を攫ったのは教会の修道服を着た女だ。そして、異常な程教会に傾倒する国王達のことを聞けば、十中八九、今回の異変には教会が絡んでいると分かる。つまり、愛子を助けるということは、同時に異変と相対しなければならないという事でもあるのだ。その事は、ハジメも分かっているはずであり、それは取りも直さず、実質的にリリアーナに助力すると言っているに等しい。

 

 香織と笑みを交わし合うリリアーナを横目に、ハジメは口元を僅かに歪める。

 

 ハジメには、愛子救出以外にも、もう一つ目的があった。それは【神山】にある神代魔法だ。ミレディからの教えでは、【神山】も七大迷宮の一つなのである。しかし、聖教教会の総本山でもある【神山】の何処に大迷宮の入口があるのか、さっぱり見当もつかない。探索するにしても、教会関係者の存在が酷く邪魔で厄介だった。

 

 なので、先に攻略しやすそうな【ハルツィナ樹海】へ向かうことにしたのだが……今回の事で、【神山】に向かう理由が出来てしまった。そして、愛子を救出する過程で、教会と争う事になる可能性は非常に高い。ならば……総本山をハジメの方から襲撃して、そのまま神代魔法を頂いてしまうべきだろう、とハジメは考えた。

 

 リリアーナの言った銀髪の女……ハジメの脳裏に、【メルジーネ海底遺跡】の豪華客船でチラリと見えたアルフレッド王の傍に控えていたフードの人物が浮かび上がった。船内に消える際、僅かに見えたその人物の髪は、確か〝銀〟だったと。同一人物かは分からない。時代が違いすぎる。しかし、ハジメには予感があった。その銀髪の女と殺り合う事になる、と。

 

 ハジメは闘志を燃やす。己の道を阻むなら、例え相手が何であろうと、必ず殺してやる! と。瞳を野生の狼のようにギラつかせ、獰猛な笑みを口元に浮かべるハジメ。

 

「……ハジメ、素敵」

「はぅ、ハジメさんが、またあの顔をしてますぅ~、何だかキュンキュンしますぅ」

「むぅ、ご主人様よ。そんな凶悪な表情を見せられたら……濡れてしまうじゃろ?」

「ボクたちもちからを貸すよ!」

 

 しかし、頬を赤らめて、ハァハァする女性陣のせいで雰囲気は何とも微妙だった。

 

 

 




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神山

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 薄暗く明かり一つ無い部屋の中に、格子の嵌った小さな窓から月明かりだけが差し込んで黒と白のコントラストを作り出していた。

 

 部屋の中は酷く簡素な作りになっている。鋼鉄造りの六畳一間、木製のベッドにイス、小さな机、そしてむき出しのトイレ。地球の刑務所の方がまだましな空間を提供してくれそうだ。

 

 そんなどう見ても牢獄にしか思えない部屋のベッドの上で壁際に寄りながら三角座りをし、自らの膝に顔を埋めているのは畑山愛子その人だ。

 

 愛子が、この部屋に連れて来られて三日が経とうとしている。

 

 愛子の手首にはブレスレット型のアーティファクトが付けられており、その効果として愛子は現在、全く魔法が使えない状況に陥っていた。それでも、当初は、何とか脱出しようと試みたのだが、物理的な力では鋼鉄の扉を開けることなど出来るはずもなく、また唯一の窓にも格子が嵌っていて、せいぜい腕を出すくらいが限界であった。

 

 もっとも、仮に格子がなくとも部屋のある場所が高い塔の天辺な上に、ここが【神山】である以上、聖教教会関係者達の目を掻い潜って地上に降りるなど不可能に近いのだが。

 

 そんなわけで、生徒達の身を案じつつも、何も出来ることがない愛子は悄然と項垂れ、ベッドの上で唯でさえ小さい体を更に小さくしているのである。

 

「……私の生徒がしようとしていること……一体何が……」

 

 僅かに顔を上げた愛子が呟いたのは、攫われる前に銀髪の修道女が口にしたことだ。愛子が、ハジメから聞いた話を光輝達に話すことで与えてしまう影響は不都合だと、彼女の言う〝主〟とやらは思っているらしい。そして、生徒の誰かがしようとしていることの方が面白そうだとも。

 

 愛子の胸中に言い知れぬ不安が渦巻く。思い出すのは、ウルの町で暴走し、その命を散らした生徒の一人、清水幸利のことだ。もしかしたら、また、生徒の誰かが、取り返しのつかない事をしようとしているのではないかと愛子は気が気でなかった。

 

 こうして何もない部屋で監禁されて、出来る事と言えば考えることだけ。そうして落ち着いて振り返ってみれば、帰還後の王宮は余りに不自然で違和感だらけの場所だったと感じる。愛子の脳裏に、強硬な姿勢を崩さない、どこか危うげな雰囲気のエリヒド国王や重鎮達のことが思い出される。

 

 きっと、あの銀髪の修道女が何かをしたのだと愛子は推測した。彼女が言っていた、〝魅了〟という言葉がそのままの意味なら、きっと、洗脳かそれに類する何かをされているのだ。

 

 しかし、同時に、会議の後で話した雫やリリアーナについては、そのような違和感を覚えなかった。その事に安堵すると共に、自分が監禁されている間に何かされるのではないかと強烈な不安が込み上げる。

 

 どうか無事でいて欲しいと祈りながら、思い出すもう一つの懸念。それは、〝イレギュラーの排除〟という言葉。意識を失う寸前に聞いたその言葉で、愛子は何故か一人の生徒を思い出した。

 

 命の恩人にして、清水幸利を見殺しにした生徒。圧倒的な強さと強い意志を秘めながら、愛子の言葉に耳を傾け真剣に考えてくれた男の子。そして……色々とあって、色々と思うところがあったり、なかったり、やっぱりあったりするのだけど、ないと思うべきで、でも思ってしまう人。

 

 封印しようと努力しているのに中々できないとある記憶を、再び脳内で再生してしまい、そんな場合ではないと分かっていながら頬が熱くなってしまう。頭をぶんぶんと振って記憶を追い出した愛子だったが、ハジメの安否を憂慮する気持ちと何故か無性に逢いたい気持ちに押されて、ポロリと零すように彼の名を呟いた。

 

「…………南雲君」

「おぅ? 何だ、先生?」

「ふぇ!?」

 

 半ば無意識に呟いた相手から、あるはずのない返事が返ってきて思わず素っ頓狂な声が上がる。部屋の中をキョロキョロと見回すが自分以外の人などいるはずもなく、愛子は「幻聴だったのかしらん?」と首を捻った。しかし、そんな愛子へ幻聴でないことを証明するように、再度、声がかけられた。

 

「こっちだ、先生」

「えっ?」

 

 愛子は、体をビクッと震わせながら、やっぱり幻聴じゃない! と声のした方、格子の嵌った小さな窓に視線を向ける。するとそこには、窓から顔を覗かせているハジメと忍者カービィの姿があった。

 

「えっ? えっ? 南雲君ですか? えっ? ここ最上階で…本山で…えっ?」

「あ~、うん。取り敢えず、落ち着け先生。もうちょっとでトラップがないか確認し終わるから……」

 

 混乱する愛子を尻目に、ハジメは魔眼石で部屋にトラップの類がないか確かめると、紅いスパークを迸らせながら〝錬成〟を行い、人一人通れるだけの穴を壁に開けて中に侵入を果たした。

 

 愛子のいる部屋は地面から百メートル近くある。にもかかわらず、普通に地面を歩いて入口から入ってきました! とでも言うように、外壁に穴を開けて登場したハジメに、愛子は目を白黒させた。

 

 そんな愛子にハジメは小さく笑みを浮かべながら歩み寄る。

 

「なに、そんなに驚いているんだよ。俺が来ていることに気がついてたんだろ? 気配は完全に遮断してたはずなんだが……ちょっと、自信無くすぞ」

「へっ? 気づいて? えっ?」

「いや、だって、俺の名前呼んだじゃないか。俺が窓の外にいるのを察知したんだろ?」

 

 もちろん、愛子が、〝気配遮断〟を行使したハジメに気が付けるはずもなく、ただハジメを想って自然と呟いてしまっただけなのだが……愛子は、まさか、貴方の事を考えていて半ば無意識に呟いてました等と言える訳もなく、焦った表情で話題の転換を図った。

 

「そ、それよりも、なぜここに……」

「もちろん、助けに」

「わ、私のために? 南雲君が? わざわざ助けに来てくれたんですか?」

 

まさか既に洗脳でもされたのか? と眉をしかめるハジメ。瞳に真剣さを宿して、愛子に魔法が掛けられている痕跡がないか魔眼石により精査する。

 

 ベッドに腰掛ける愛子の元に歩み寄り、間近で愛子を観察し始めたハジメに、愛子は益々赤面し動悸を早めていった。なにせ、直前まで脳裏に浮かんでいた男の子が、自分の窮地に助けに来てくれた挙句、深夜にベッドの傍で、自分を真剣な表情で見つめてくるのだ。これがただの生徒と教師なら、特に何の問題もなくどうしたのか? と尋ねるところだが……そう言い切れない愛子は、ただ硬直して間近にあるハジメの瞳を見つめ返すしかなかった。

 

 ハジメは、魔眼石で見ても愛子に魔法が掛けられている痕跡を発見できなかったことから一先ず大丈夫だろうと考え、愛子の手を取った。魔力封じのアーティファクトを取り除くためだ。

 

 しかし、いきなり手を取られた愛子は「ひゃう!」とおかしな声を上げて身を竦め「ダメ! ダメです! 南雲君! そんないきないりぃ! 私は先生ぇ!」と喚きだした。

 

「いや、魔力封じられてたら不便だろ? それとも、取ったら何かあるのか? トラップの類があるようには見えないんだが……」

「え? あっ、そういうことですか……」

「……一体、何だと思ったんだ」

「あは、あははは……すいません。何でもありません……」

 

 不審を通り越して、だんだん残念なものを見るような目を向け始めたハジメに、愛子は愛想笑いで誤魔化す。そして、なぜ自分がここに囚われていることを知っていたのかと誤魔化しがてらに尋ねた。

 

「姫さんに聞いたんだよ」

「姫さん? リリアーナ姫ですか?」

「ああ。あんたが攫われるところを目撃してたんだよ。それで、王宮内は監視されているだろうから掻い潜って天之河達に知らせることは出来ないと踏んで、一人王都を抜け出したんだ。俺達に助けを求めるためにな」

「リリィさんが……南雲君はそれに応えてくれたんですね」

「まぁな。この状況は俺にも責任がありそうだし……先生は会いたくなかっただろうが……まぁ、皆と合流するまで我慢してくれ」

 

 ハジメは、苦笑いをこぼしつつ愛子の魔力を封じるアーティファクトを解除して立ち上がった。愛子は、最後のセリフが清水を撃った事だと察して思わずハジメの手を握り締めた。そして、訝しむハジメに愛子は真っ直ぐな眼差しを向けると、嘘偽りない本心を語った。

 

「君に会いたくなかったなんてこと絶対にありません。助けに来てくれて、本当に嬉しいです。……確かに、清水君のことは、未だに完全には割り切れていませんし、この先割り切れることはないかもしれませんが……それでも、君がどういうつもりで引き金を引いたのか……理解しているつもりです。君を恨んだり、嫌ったりなんてしていません」

「……先生」

 

 目を丸くするハジメに、愛子は、憂いと優しさを含ませた微笑みを向ける。

 

「あの時は、きちんと言えませんでしたから……今、言わせて下さい。……助けてくれてありがとう。引き金を引かせてしまってごめんなさい」

「……」

 

 ハジメは、愛子なら気が付くと予想していたユエの言う通りだったなぁと内心苦笑いしながら、それでも、愛子にとって一番辛い事をなしたのは事実なので、それを表に出すことはなかった。

 

「俺は、俺のやりたいようにやっただけだ。礼は受け取るけど、謝罪はいらない。それより、そろそろ行こう。天之河達のところには姫さん達が行ってるはずだ。合流してから、これからどうするか話し合えばいい」

「わかりました。……南雲君、気を付けて下さい。教会は、頑なに君を異端者認定しました。それに、私を攫った相手は、もしかしたら君を……」

「わかってる。どっちにしろ、先生を送り届けたら、俺たちは俺たちの用事を済ませる必要があるし、多分、その時、教会連中とやり合う事になる。……もとより覚悟の上だ」

 

 何事かと緊張に身を強ばらせた愛子がハジメに視線を向けると、ハジメは遠くを見る目をして何かに集中していた。現在、ハジメは地上にいるユエ達から念話で情報を貰っているのである。

 

「ちっ、なんてタイミングだよ。……まぁ、ある意味好都合かもしれないが……」

 

 しばらくすると、ハジメは舌打ちしながら視線を愛子に戻す。愛子は、ハジメが念話を使えることを知らないが、非常識なアーティファクト類を沢山見てきたので、それらにより何か情報を掴んだのだろうと察し、視線で説明を求めた。

 

「先生、魔人族の襲撃だ。さっきのは王都を覆う大結界が破られた音らしい」

「魔人族の襲撃!? それって……」

「ああ、今、ハイリヒ王国は侵略を受けている。仲間から〝念話〟で知らせが来た。魔人族と魔物の大軍だそうだ。完全な不意打ちだな」

 

 ハジメの状況説明に愛子は顔面を蒼白にして「有り得ないです」と呟き、ふるふると頭を振った。

 

 それはそうだろう。王都を侵略できるほどの戦力を気づかれずに侵攻させるなどまず不可能であるし、王都を覆う大結界とて並大抵の攻撃ではこゆるぎもしないほど頑強なのだ。その二つの至難をあっさりクリアしたなどそう簡単に信じられるものではない。

 

「先生、取り敢えず天之河達と合流しな。話はそれからだ」

「は、はい」

 

 緊張と焦燥に顔を強ばらせた愛子を、ハジメは片腕に座らせるような形で抱っこする。「うひゃ!」と再び奇怪な声を上げながらも、愛子は咄嗟に、ハジメの首元に掴まった。

 

 と、その瞬間……

 

カッ!!

 

 外から強烈な光が降り注いだ。

 

「ッ!?」

 

カービィ「危ない!コピー能力クリエイト『パラソル、パラソル、パラソル、パラソル』

 

 

 

カービィはコピー能力クリエイトでパラソルを使うと巨大で頑丈な傘が出来上がり、ハジメと愛子を守る。

 

 

 部屋に差し込んでいた月の光をそのまま強くしたような銀色の光に、本能がけたたましく警鐘を鳴らす。

 

 ハジメは脇目も振らず外壁の穴から飛び出した。急激な動きに愛子が耳元で悲鳴を上げギュッと抱きついてくるが、今は気にしている場合ではない。

 

 ハジメが、隔離塔の天辺から飛び出したのと銀光がついさっきまで愛子を捕えていた部屋を丸ごと吹き飛ばすのは同時だった。

 

ボバッ!!

 

 物が粉砕される轟音などなく、莫大な熱量により消失したわけでもなく、ただ砕けて粒子を撒き散らす破壊。人を捕えるための鋼鉄の塔の天辺は、砂より細かい粒子となり、夜風に吹かれて空へと舞い上がりながら消えていった。

 

 余りに特異な現象に、ハジメは〝空力〟で空中に留まりながら、目を見開き思わずといった感じで呟く。

 

「……分解……でもしたのか?」

「ご名答です、イレギュラー」

しかしカービィのパラソルは特別製、分解されることはなかった。

 

 返答を期待したわけではない独り言に、鈴の鳴るような、しかし、冷たく感情を感じさせない声音が返ってくる。

 

 ハジメが声のした方へ鋭い視線を向けると、そこには、隣の尖塔の屋根からハジメ達を睥睨する銀髪碧眼の女がいた。ハジメは、愛子を攫った女だろうと察する。

 

 もっとも、リリアーナが言っていたのと異なり修道服は着ておらず、代わりに白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っていた。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。どう見ても戦闘服だ。まるでワルキューレのようである。

 

 銀髪の女は、その場で重さを感じさせずに跳び上がった。そして、天頂に輝く月を背後にくるりと一回転すると、その背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げた。

 

 バサァと音を立てて広がったそれは、銀光だけで出来た魔法の翼のようだ。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていた。

 

 だが、惜しむらくはその瞳だ。彼女の纏う全てが美しく輝いているにも関わらず、その瞳だけが氷の如き冷たさを放っていた。その冷たさは相手を嫌悪するが故のものではない。ただただ、ひたすらに無感情で機械的。人形のような瞳だった。

 

 銀色の女は、愛子を抱きしめ鋭い眼光を飛ばすハジメを見返しながら、おもむろに両手を左右へ水平に伸ばした。

 

 すると、ガントレットが一瞬輝き、次の瞬間には、その両手に白い鍔なしの大剣が握られていた。銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を、重さを感じさずに振り払った銀色の女は、やはり感情を感じさせない声音でハジメに告げる。

 

「ノイントと申します。〝神の使徒〟として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

 それは宣戦布告だ。ノイントと名乗った女は、神が送り出した本当の意味での〝神の使徒〟なのだろう。いよいよ、ハジメが邪魔になったらしい。直接、〝神の遊戯〟から排除する気のようだ。

 

 ノイントから噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーがハジメと愛子に襲いかかった。

 

 愛子は、必死に歯を食いしばって耐えようとするものの、表情は青を通り越して白くなり、体の震えは大きくなる。「もうダメだ」と意識を喪失する寸前、愛子を紅い魔力が包み込んだ。愛子を守るように輝きを増していく紅い魔力は、ノイントの放つ銀のプレッシャーの一切を寄せ付けなかった。

 

 愛子は目を見開いて、原因であろう間近い場所にあるハジメの顔に視線を向ける。するとそこには、途方もないプレッシャーを受けておきながら微塵も揺らぐことなく、その瞳をギラつかせて獰猛に歯を剥くハジメの姿があった。

 

 見蕩れるように、あるいは惹きつけられるように視線を逸らせなくなった愛子を尻目に、ハジメは、ノイントに向けて挑発的に嗤いながら同じく宣戦布告した。

 

「殺れるものなら殺ってみろ。神の木偶が」

 

 その言葉を合図に、標高八千メートルの【神山】上空で、〝神の使徒〟と奈落から這い上がって来た〝化け物〟と〝星の戦士〟が衝突した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ハジメがノイントの襲撃を受ける少し前、カービィ、ユエ、シア、香織、リリアーナの五人は夜陰に紛れて王宮の隠し通路を進んでいた。リリアーナを光輝達のもとへ送り届けるためだ。

 

 

本来なら、ユエ達の目的は愛子の救出と【神山】の何処かにある大迷宮もとい神代魔法であり、王国の異変解決やらリリアーナと光輝達の合流の手助けなどどうでもいい事である。

 

 ただ、取り敢えず愛子の安全を確保するためには、救出後の預け先である光輝達が洗脳の類を受けていないか、彼等が安全と言えるかの確認が必要だった。それに、【神山】は文字通り聖教教会の総本山であり、愛子の救出までは出来るだけ騒動を起こさないことが望ましいところ、彼等に気付かれず愛子の監禁場所の捜索と救出を行うためにもハジメ一人の方が都合がよかった。

 

 そのため、王都に残ることになったユエ達は、香織がリリアーナに付きそうと言って聞かないこともあり、大した手間でもないことから一緒に行動しているのである。

 

 なお、ティオは万一に備えて王都の何処かで待機している。全体の状況を俯瞰できる者が一人くらいいた方がいいという判断だ。

 

 そんなユエ達が、隠し通路を通って出た場所は、何処かの客室だった。振り返ればアンティークの物置が静かに元の位置に戻り何事もなかったかのように鎮座し直す。

 

「この時間なら、皆さん自室で就寝中でしょう。……取り敢えず、雫の部屋に向かおうと思います」

 

 闇の中でリリアーナが声を潜める。向かう先は、雫の部屋のようだ。勇者なのに光輝に頼らない辺りが、彼女の評価を如実に示している。

 

 リリアーナの言葉に頷き、索敵能力が一番高いシアを先頭に一行は部屋を出た。雫達、異世界組が寝泊まりしている場所は、現在いる場所とは別棟にあるので、月明かりが差し込む廊下を小走りで進んでいく。

 

 そうして、しばらく進んだ時、それは起こった。

 

ズドォオオン!!

 

パキャァアアン!!

 

 砲撃でも受けたかのような轟音が響き渡り、直後、ガラスが砕け散るような破砕音が王都を駆け抜けたのだ。衝撃で大気が震え、ユエ達のいる廊下の窓をガタガタと揺らした。

 

「わわっ、何ですか一体!?」

「これはっ……まさか!?」

 

 索敵のためにウサミミを最大限に澄ましていたシアが、思わずペタンと伏せさせたウサミミを両手で押さえて声を漏らす。すぐ後ろに追従していたリリアーナは、思い当たることがあったのか顔面を蒼白にして窓に駆け寄った。ユエ達も様子を見ようと窓に近寄る。

 

 そうして彼女達の眼に映った光景は……

 

「そんな……大結界が……砕かれた?」

 

 信じられないといった表情で口元に手を当て震える声で呟くリリアーナ。彼女の言う通り、王都の夜空には、大結界の残滓たる魔力の粒子がキラキラと輝き舞い散りながら霧散していく光景が広がっていた。

 

 リリアーナが呆然とその光景を眺めていると、一瞬の閃光が奔り、再び轟音が鳴り響く。そして、王都を覆う光の膜のようなものが明滅を繰り返しながら軋みを上げて姿を現した。

 

「第二結界も……どうして……こんなに脆くなっているのです? これでは、直ぐに……」

 

 リリアーナの言う大結界とは、外敵から王都を守る三枚の巨大な魔法障壁のことだ。三つのポイントに障壁を生成するアーティファクトがあり、定期的に宮廷魔法師が魔力を注ぐことで間断なく展開維持している王都の守りの要だ。その強固さは折り紙つきで、数百年に渡り魔人族の侵攻から王都を守ってきた。戦争が拮抗状態にある理由の一つでもある。

 

 その絶対守護の障壁が、一瞬の内に破られたのだ。そして、今まさに、二枚目の障壁も破られようとしている。内側に行けば行くほど展開規模は小さくなる分強度も増していくのだが、数度の攻撃で既に悲鳴を上げている二枚の障壁を見れば、全て破られるのも時間の問題だろう。結界が破られたことに気が付き、王宮内も騒がしくなり始めた。あちこちで明かりが灯され始めている。

 

「まさか、内通者が? ……でも、僅かな手勢ではむしろ……なら敵軍が? 一体どうやって……」

 

 呆然としながら思考に没頭しているリリアーナに答えをもたらしたのはユエ達だった。

 

〝聞こえるかの? 妾じゃ、状況説明は必要かの?〟

 

 ユエ達の持つそれぞれの念話石が輝き、そこから声が響いている。王都に残してきたティオの声だ。口振りから、何が起きているのか大体のところを把握しているらしい。

 

〝ん……お願いティオ〟

〝心得た。王都の南方一キロメートル程の位置に魔人族と魔物の大軍じゃ。あの時の白竜もおるぞ。結界を破壊したのはアヤツのブレスじゃ。しかし、主の魔人族は姿が見えんの〟

「まさか本当に敵軍が? そんな、一体どうやってこんなところまで……」

 

 ティオの報告に、リリアーナが表情を険しくしながらも疑問に眉をしかめる。

 

 その疑問に対して、ユエ達には想像がついていた。なぜか殺した筈の白竜使いの魔人族、フリード・バグアーは【グリューエン大火山】で空間魔法を手に入れている。軍そのものを移動させる程の〝ゲート〟を開くなどユエでも至難の業ではあるが、何らかの補助を受ければ可能かも知れない。

 

 現に、大陸の南北を飛び越えて、一切人目につかずに王都の目と鼻の先にいるのだ。それ以外に考えられない。白竜が攻撃していながら、その背で指揮を取っていないなら、無茶をした代償に動けない状態なのかもしれない。

 

 そうこうしているうちに、再びガラスが砕けるような音が響き渡った。第二障壁も破られたのだ。焦燥感を滲ませた表情でリリアーナが光輝達との合流を促す。しかし、それに対してユエが首を振った。

 

「……ここで別れる。貴女は先に行って」

「なっ、ここで? 一体何を……」

 

 一刻も早く光輝達と合流し態勢を整える必要があるのに何を言い出すのかとリリアーナは訝しそうに眉をしかめた。ユエは、窓を開けると瞳を剣呑に細めて一段低い声で端的に理由を述べる。

 

「……白竜使いの魔人族はハジメを傷つけた。……泣くまでボコる」

 

 

「お、怒ってますね、ユエさん……」

「……シアは? もう忘れた?」

「まさか。泣いて謝ってもボコり続けます」

 

 ユエの発する怒気に思わずツッコミを入れるシアだったが、続くユエの言葉に無表情になると、ユエより過激な事を言い出した。普段から明るく笑顔の絶えないシアだけに、無表情での暴行宣言は非常に迫力があった。シアも、あの件は相当腹に据え兼ねていたらしい。

 

「そういうわけで、香織さん、リリィさん。私とユエさんは、ちょっと調子に乗っているトカゲとその飼い主を躾してくるので、ここで失礼します」

「……ん、あと邪魔するならその他大勢も」

 

 そう言うや否や、ユエとシアの二人は、香織達の制止の声も聞かずに窓から王都へ向かって飛び出して行ってしまった。フリードの命は風前の灯である。逃げてぇ、フリード! 超逃げてぇ! と、ここにフリードの仲間がいればそう叫んでいたに違いない。

 

 開けっぱなし窓から夜風と喧騒が入り込んでくる。しばらく、互いに無言のまま佇む香織とリリィだったが、やがて何事もなかったように二人して進み始めた。

 

「……南雲さん……愛されていますね……」

「うん……狂的……じゃなかった。強敵なんだ」

「香織……死なない程度に頑張って下さいね。応援しています」

「うん。ありがとう、リリィ……」

 

 あっさり後回しにされたリリィが「私の扱いがどんどん雑に……」と何処か悲しげな声音で呟きつつも、健気に香織へエールを送る。「実は、私も行きたかったと言ったらリリィ泣いちゃうかな?」と頭の隅で考えながら、香織はリリィと連れ立って光輝達のもとへ急いだのだった。

 

 




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シア無双

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ありがとうございます!
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突然の結界の消失と早くも伝わった魔人族の襲撃に、王都は大混乱に陥っていた。

 

 

 人々は家から飛び出しては砕け散った大結界の残滓を呆然と眺め、そんな彼等に警邏隊の者達が「家から出るな!」と怒声を上げながら駆け回っている。決断の早い人間は、既に最小限の荷物だけ持って王都からの脱出を試みており、また王宮内に避難しようとかなりの数の住人達が門前に集まって中に入れろ! と叫んでいた。

 

 夜も遅い時間であることから、まだこの程度の騒ぎで済んでいるが、もうしばらくすれば暴徒と化す人々が出てもおかしくないだろう。王宮側もしばらくは都内の混乱には対処できないはずなので尚更だ。なにせ、今、一番混乱しているのは王宮なのだ。全くもって青天の霹靂とはこの事で、目が覚めたら喉元に剣を突きつけられたような状態だ。無理もないだろう。

 

 彼等も急いで軍備を整えているようだが……

 

パキャァアアン!!

 

 間に合わなかったようだ。

 

 遂に最後の結界が破られ、大地を鳴動させながら魔人族の戦士達と神代魔法により生み出された魔物達が大挙して押し寄せた。残る守りは、王都を囲む石の外壁だけ。それだけでも相当な強度を誇る防壁ではあるが……長く持つと考えるのは楽観が過ぎるだろう。

 

 外壁を粉砕すべく、魔人族が複数人で上級魔法を組み上げる。魔物も固有魔法で炎や雷、氷や土の礫を放ち、体長四メートルはありそうなサイクロプスモドキがメイスを振りかぶって外壁を削りにかかる。

 

 別の場所でも、体長五メートルはありそうなイノシシ型の魔物が、風を纏いながら猛烈な勢いで外壁に突進し、その度に地震かと思うような衝撃を撒き散らして外壁を崩していく。更に、上空には灰竜や黒鷲のような飛行型の魔物が飛び交い、外壁を無視して王都内へと侵入を果たした。

 

 外壁上部や中程に詰めていた王国の兵士達が必死に応戦しているが、全く想定していなかった大軍相手では、その迎撃も酷く頼りない。突進してくる鋼鉄列車にエアガンで反撃しているようなものだ。

 

 そんな様子を、城下町にある大きな時計塔の天辺からどうしたものかと眺めていたティオの傍に、王宮から飛び出してきたユエとシア、メタナイトが降り立った。

 

 

「……ティオ、アイツ、見つけた?」

「ティオさん、あのふざけた事してくれた人は何処ですか?」

「……お主等……いや、まぁ、気持ちはわかるがの? 『皆さんが一緒に来てくれて心強いです!』と言っとったリリアーナ姫が少々不憫じゃ……あっさり放り出して来おって」

「……細かいこと」

「小さいことです」

 

 ティオが呆れたような表情をしてユエとシアを見るが、二人は全く気にしていないようだった。これもハジメの影響なのか。興味のない相手には実にドライだ。

 

 ユエとシアが目を皿のようにしてフリード・バグアーを探していると、念話石が反応する。ハジメからの通信だ。

 

〝おい! メタナイト!今すぐこっちに来てくれ!〟

〝どうしたんだ?〟

 

 

念話石から思いのほか強い声音が響き、状況を理解するメタナイト。

 

〝ヤバイのが出てきた。先生を預かって欲しい。抱えたままじゃ全力が出せねぇ〟

〝わかった、今から飛んで行く。〟

 

 

「と、言うことだから頼んだ、ティオ、シア、ユエ!」

 

「んっ!」

「了解ですぅ!」

「うむ!」

 

 

メタナイトは飛んで行った。

 

「ユエさん、どうします?」

「……ハジメなら大丈夫。カービィがいる。それより、魔物使いを殺る。また、神代魔法の魔法陣を壊されたら堪らない」

 

 

そう、ユエが戦場に出てきたのは、ハジメにされた事に対するお礼参りというのもあるが、同じ神代魔法の使い手であるフリードを野放しにしたくなかったからという理由もあったのだ。

 

 フリードが【神山】の大迷宮の詳しい場所を知っていた場合、先を越されると【グリューエン大火山】の時のように、また魔法陣を破壊されかねない。大迷宮は気が付けば魔物も構造も元通りになっている場合が多いので【グリューエン大火山】も時間経過で元に戻る可能性はあるが、どれくらい掛かるかは分からない。その為、それだけは何としても避けたいユエは、こっちからフリードを襲撃してやろうと考えたのだ。

 

 もっとも、ユエの中の比率は報復が九割だったが……

 

 と、その時、時計塔の天辺にいるユエとシアに気がついたのか、体長三、四メートル程の黒い鷲のような魔物が二体、左右から挟撃するようにユエとシアを狙って急降下してきた。

 

クェエエエエエ!!

 

 そんな雄叫びを上げて迫ってきた黒鷲に、シアは見もせず射撃モードのドリュッケンを〝宝物庫〟から取り出し、躊躇いなく炸裂スラッグ弾を撃ち放った。ユエもまた、見もせず右手をフィンガースナップするだけで無数の風刃を上方から豪雨のごとく降らせる。

 

 今まさに二人の少女を喰らおうとしていた二体の黒鷲は、頭部を衝撃波によって爆砕され、また、ギロチン処刑でもされたかのように体の各所を切り落とされてバラバラになり、無残な姿となって民家の屋根に落ちていった。今頃、家の中のいる人達は屋根に何かが落ちてきた音にビクッとなって戦々恐々としていることだろう。

 

 黒鷲が無残に絶命させられたことでユエとシアの存在に気がついた飛行型の魔物達が二人の周囲を旋回し始めた。よく見れば、その三分の一には魔人族が乗っているようだ。彼等は、黒鷲を落とされたことで警戒して上空を旋回しながら様子を見ていたようだが、その相手が兎人族と小柄な少女であるとわかると、馬鹿にするように鼻を鳴らしユエ達向かって、魔法の詠唱を始めた。

 

 ユエ達としては、王都を守るために身命を賭して大軍とやり合うつもりなど毛頭なく、ただフリード・バグアーだけが目的だったので、行きたければ勝手に行けという気持ちだったのだが、襲われたとあっては反撃しないわけにはいかない。

 

 一応、シアが「私達は敵じゃないですよぉ~、さっきのは襲われて仕方なくですよぉ~」と呼びかけているが、彼等はますます馬鹿にしたように笑うだけで攻撃を止める気配はなかった

 

 取るに足らない相手だと侮って幾人かの仲間だけを残し先行した魔人族達は、次の瞬間、背後から響いた断末魔の悲鳴と轟音、そしてその原因を見て驚愕に目を見開くことになった。

 

ゴォガァアアアア!!

 

 全身から雷を迸らせながら雷鳴の咆哮を上げる龍が、彼等の仲間と魔物達を次々と喰い散らかしていたのだ。

 

 その光景に、あり得べからざる事態に呆然とする魔人族達。何とか命からがら雷龍から逃げ出し、先行していた仲間のもとへ必死に飛んできた魔人族の一人が、助けを求めるように手を伸ばす……が、次の瞬間には背後から殺意の風に乗って飛来した炸裂スラッグ弾に撃ち抜かれ、騎乗していた灰竜ごと木っ端微塵となった。

 

 魔人族のものか灰竜のものか分からない血肉が先行していた魔人族達にビチャビチャと降りかかる。

 

 硬直していた魔人族達が、ハッと我に返り、追撃に備えて最大限の警戒をする。そして、仲間を一瞬で粉砕した原因たる少女達を探した。全く予想外のところから振るわれた死神の鎌に己の死を幻視しながら、緊張に流れる汗を拭うことも忘れて視線を巡らせる。そして、向けた視線の先にユエ達はいた。

 

 しかし、その姿は彼等にとって、全くの予想外。なぜなら、自分達への追撃態勢に入っているどころか、ユエ達は彼等を見てすらいなかったのだ。最初と同じく、ただ外壁の外を何かを探すように眺めているだけ。その背中は、何よりも雄弁に物語っていた。

 

 すなわち、眼中にない、と。

 

 それを察した瞬間、緊張に強ばっていた魔人族達の表情が憤怒に歪んだ。戦友を粉微塵にしておいて、路傍の石を蹴り飛ばした程度の認識しかしていないユエ達に、戦士として、または一人の魔人族としての矜持を踏みにじられたと感じたのだ。彼等の全身を血液が沸騰したかのような灼熱が駆け巡る。

 

「貴様等ぁーーーー!!」

「うぉおおおお!!」

「死ねぇーー!!」

 

 怒りに駆られながらも、戦士としての有能さが自然と陣形を整えさせ、絶妙な連携を取らせる。四方と上方から逃げ場をなくすように包囲し、一斉に魔法を放った。魔法に長けた魔人族達の魔法だ。普通なら、絶望に表情を歪める場面である。

 

 しかし、当のユエが浮かべるのは呆れた表情。ついで、細くしなやかな指をタクトのように振るわれる。

 

「……彼我の実力差くらい、本能で悟れ」

 

 そんな言葉と同時に、全ての魔法は雷龍がとぐろを巻いてユエ達を繭のように包むことで完全に防がれてしまった。そして、雷龍が一度その大食らいの顎門を開けば、彼等はまるで特攻しか知らぬと言わんばかりに自らその身を投げ出していく。

 

 ならば反対側からと複数人で貫通性に優れた上級魔法を唱えようとすると、雷龍の一部が開いて、そこからウサミミをなびかせたシアが砲弾もかくやという速度で飛び出した。

 

 咄嗟に、近くにいた魔人族が、詠唱の邪魔をさせてなるものかと、ほとんど無詠唱かと思う速度で完成させた初級魔法の炎弾を無数に放った。

 

 しかし、シアは、まるで気にした様子もなく、ドリュッケンの激発の反動で軌道を変えると全弾あっさり躱し、ギョッとしている詠唱中の魔人族三人に向けてドリュッケンを横殴りにフルスイングした。

 

「りゃぁあああ!」

 

 気合一発。振るわれたドリュッケンは、重力魔法の力でインパクトの瞬間だけ四トンの重量を得る。それを、最近更に上昇した身体強化で振るった。結果は言わずもがな。魔人族の三人は為すすべもなくまとめて上半身を爆砕され、騎乗していた魔物も衝撃で背骨を砕かれて断末魔の悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。

 

 空中にあるシアは、その場で自身の重さをドリュッケンも含めて五キロ以下まで落とし、再度、激発を利用して羽のように軽やかに宙を舞う。そして、ドリュッケンを変形させて射撃モードに切り替え、先程炎弾を放ってきた魔人族に向けて炸裂スラッグ弾を轟音と共に解き放った。狙い通り、王都の夜空にまた一つ、真っ赤な花が咲いた。

 

 シアは、〝宝物庫〟から取り出した二枚の鈍色の円盤を宙に放ち、重力を無視して空中に浮くそれを足場にした。そして、その場に留まりドリュッケンで肩をトントンしながら周囲を見渡す。

 

 ちょうど、少し離れたところで、ユエ達に襲いかかってきた魔人族の最後の一人が死に物狂いでユエに特攻しているところだった。

 

「小娘がぁああ!! 殺してやるぅ!!」

 

 

血走った目が、刺し違えてでも! という決死の意志を感じさせる。しかし、そんな彼に対するユエの態度は実に冷めていた。

 

「……三百年早い、坊や」

 

 

雷龍が、彼の仲間を襲っている隙を突いたつもりだったのだろう。ユエが雷龍を戻すより先に仕留められると口元を歪めた魔人族は、直後、真下から飛んできた風刃に首をすっぱりと切り落とされて、錐揉みしながら眼下の路地へと落ちていった。

 

 ユエは、無意味な時間を取ったと直ぐにフリード探しを再開する。隣に、ドリュッケンを担いだままのシアが降り立った。

 

「完全に、王国側の戦力と思われたんじゃないですか?」

「……関係ない。思いたければ勝手に思っていればいい」

「ドライですねぇ。……まぁ、確かにそうなんですけど……」

 

 軽口を叩き合いながらも、フリード・バグアーを探す二人だったが、中々見つからないので、よもや、既に大迷宮の場所を把握していて空間転移したんじゃ……と内心不安になり始めた、その時、

 

「ッ!? ユエさん!」

「んっ」

 

 シアが警告を発すると同時に、ユエは躊躇うことなく時計塔から飛び退いた。直後、何もない空間に楕円形の膜が出来たかと思うと、そこから特大の極光が迸った。極光は、一瞬でユエ達が直前までいた時計塔の上部を消し飛ばし、それだけにとどまらず射線上にあった建物を根こそぎ吹き飛ばしていく。

 

「やはり、予知の類か。忌々しい……」

 

 男の声が響くと同時に、楕円形の膜から白竜に乗った赤髪の魔人族フリード・バグアーが現れた。その表情には、渾身の不意打ちが簡単に回避されたことに対する苛立ちが見て取れる。

 

 白竜が完全に〝ゲート〟から現れると、タイミングを合わせたように黒鷲や灰竜に乗った魔人族が数百単位で集まり、ユエとシアを包囲した。

 

 同時に……凄まじい轟音を響かせて遂に外壁の一部が崩され、そこから次々と魔物やそれに乗った魔人族が王都への侵入を果たし、いくつかの部隊が、ユエとシアの方へ猛然と駆け寄ってくるのが見えた。どうやら、ここでユエとシアを完全に仕留めるつもりらしい。

 

「まさか、あの状況から生還するとはな。……やはり、あの男に垣間見たおぞましい程の生への執念は……危険過ぎる。まずは、確実に奴の仲間である貴様等から仕留めさせてもらおう」

 

 フリードの憎しみすら宿っていそうな言葉を向けられて、しかし、ユエとシアは二人して不敵に口元を歪めた。そして、同時に同じ言葉を返す。それは奇しくも、八千メートル上空で彼女達の愛する少年が敵に放った言葉と同じだった。

 

「「殺れるものなら殺ってみて(下さい)」」

 

 その言葉が合図になったかのように、周囲の魔物と魔人族が一斉に魔法を放った。

 

 大気すら焦がしかねない熱量の炎槍が乱れ飛び、水のレーザーが空間を縦横無尽に切り裂き、殺意の風が刃となって襲い掛かり、氷雪の砲撃が咆哮を上げ、石化の礫が永久牢獄という名の死を撒き散らし、蛇の如き雷の鞭が奇怪な動きで夜天を奔る。そして、駄目押しとばかりに極光が空を切り裂いた。

 

 魔人族四十人以上、魔物の数は百体以上。四方上下全てが敵。視界は攻撃の嵐で埋め尽くされている。

 

 しかし、ユエもシアも、逃げ場のない死に囲まれながら焦りは一切なく、まして回避する素振りも見せずに佇んでいた。何人かの魔人族が「諦めたか……」と若干拍子抜けするような表情になったが、フリードだけは猛烈に湧き上がった嫌な予感に警戒心を一気に引き上げた。

 

「〝界穿〟」

 

 ユエが神代魔法のトリガーを引く。

 

 直後、二つの光り輝くゲートが飛来する極光の前に重なるようにして出現した。フリードは訝しそうに眉を潜める。あんな座標にゲートをつなげては、極光を空間転移させても、直ぐにもう一つのゲートから出てきて直撃するだけだろうと。

 

 しかし、その予想は、ゲートを一対しか展開していないという事を前提とした考えだ。フリードが自身の限界を基準にした考えでもある。

 

 だから、ユエとシアが眼前のゲートに飛び込んだ意味が咄嗟に理解出来なかったし、いつの間にか自分達の背後にゲートが開いている事にも直ぐに気がつくことが出来なかった。

 

「しまっ、回避せよっ!!」

 

 ユエ達がゲートの向こう側に消え、極光がゲートを通る瞬間、自分の思い違いに気が付いたフリードが部下達に警告を発するが、時すでに遅し、だった。

 

 フリード自身は回避が間に合ったものの、部下の多くは背後から・・・・極光の直撃を受けて死を意識する間もない消滅を余儀なくされた。

 

「おのれ、私に部下を殺させたな。……まさか同時発動出来るとは……まだ見くびっていたということか……」

 

 瞳に憤怒を浮かべ、同時に自分には出来ないゲートの二対同時発動という至難の業を実戦で成功させたユエに畏怖にも似た念を抱くフリード。詠唱した形跡も魔法陣を用いた様子もなく、その正体が気なるところだったが、今は、消えた二人を探さなければならない。

 

「フリード様! あそこにっ!」

 

 フリードの部下の一人が外壁の外を指差す。そこには、確かにユエとシアがいた。

 

 真下に民家があっては戦いづらかった。フリード自身がユエ達との対決を望むなら、そのまま王都侵攻に踵を返すとも思えなかったので、外壁の外へ空間転移したのである。もちろん、万一、フリード達がユエ達を無視して王都侵攻を続行すれば、その背中に向けて死神の鎌を振り下ろすだけだ。

 

 フリード達もそれがわかっているので、ユエ達に背を向けることはない。そして、遠目にユエが右手をフリード達に伸ばし手の甲を向けると指をクイクイと曲げる仕草をした時点で、魔人族達の怒りは軽く沸点を超えた。

 

 明らかな挑発だが、見た目幼さの残る少女と、蔑む対象である兎人族の少女にしてやられて多くの戦友を失い、その上で「相手をしてあげる」という上から目線……自分達を少数ながら優れた種族と誇ってはばからない魔人族の戦士達にとっては看過できない挑発だった。

 

「小娘ごときがぁ!」

「薄汚い獣風情が粋がるなぁ!」

 

 そんな罵詈雑言を叫びながら、魔人族達が一斉に襲いかかった。タイムラグのない致死性の魔法を連発するユエを警戒して魔物を先行させる。地上からも、大軍の一部がユエ達を標的に定め猛然と襲いかかってきた。

 

 シアは、〝宝物庫〟のおかげで、実質無制限と言ってもいいくらい大量に保管している炸裂スラッグ弾を惜しむことなく連発する。空で、あるいは地上で、シアの魔力が青白いムーンストーン色の波紋となって広がり、次の瞬間には衝撃波に変換されて破壊を撒き散らした。後に残るのは、轢死あるいは圧死でもしたかのようなひしゃげ、砕けた遺体のみ。

 

 と、そこへ、白竜と灰竜から一斉に吐かれたブレスが殺到する。直撃すれば身体強化中のシアといえどもただでは済まない破壊の嵐。しかし、シアが慌てることはない。

 

「〝絶禍〟」

 

 シアの眼下にユエの放った黒く渦巻く球体が出現する。超重力を内包する漆黒の球体は、さながらブラックホールのようにシアに迫っていた極光群の軌道を下方に捻じ曲げてその内へと呑み込んでいった。

 

「くっ、あの時も使っていたな。……私の知らぬ神代魔法か。総員聞け! 私は金髪の術師を殺る! お前達は全員で兎人族を殺るのだ! 引き離して、連携を取らせるな!」

「「「「「了解!」」」」」」

 

 どうやら、縦横無尽に飛び回りユエの前衛を務めるシアと、後衛のユエを引き離して各個撃破するつもりらしい。そうはさせじと、シアがユエの近くに退避しようとしたとき、特別大きな黒鷲に乗った魔人族が、巨大な竜巻を騎乗する黒鷲に纏わせて、砲弾の如く突撃してきた。

 

 空中にいたシアは、咄嗟にドリュッケンを振るって弾き飛ばそうとしたが、絶妙なタイミングで数人の魔人族が決死の覚悟による特攻を図ったため、そちらの対応に追われることになった。ドリュッケンの激発の反動を使用してその場で一回転し、襲い来た全ての魔人族を放射状に吹き飛ばす。

 

 急いで、正面から突撃してきた竜巻を纏う黒鷲と魔人族と相対し直すものの、流石にカウンターを放つ暇はなく、また回避も間に合いそうになかったので、ドリュッケンを盾代わりにかざして防御体勢をとった。ドリュッケンのギミックが作動し、カシュンカシュンと音を立てて打撃面からラウンドシールドが展開される。

 

「貴様等だけはぁ! 必ず殺すっ!」

 

 そんな雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が、ただ仲間を殺された怒りだけとは思えない壮絶な憎悪を宿した眼でシアを射貫きながら、彼女の構えたドリュッケンに衝突した。

 

 押されるままにユエから引き離されそうになったシアは、体重を一気に増加させて離脱を試みるが、それを実行する前に、背後で空間転移のゲートが展開されてしまった。チラリと視線を向けてみれば、ユエの方も、フリードが空間魔法を発動する時間を稼ぐために無謀とも言える特攻を受けているところだった。

 

〝ユエさん! すみません! 離されます!〟

〝ん……問題ない。こいつは私が殺っておく〟

 

 ゲートに押し込まれる寸前、ユエが「グッドラック!」とでも言うようにサムズアップしている姿を見て、シアは小さく笑みを浮かべた。その笑みを見て眼前の大黒鷲に乗った魔人族が再び憤怒に顔を歪めるが、シアは特に気にすることもなく、そのまま魔人族の男と共にゲートに呑み込まれてユエから引き離された。

 

「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎって、貴様の男の前に引きずって行ってやろう」

 

 ゲートを抜けた先で、相対する魔人族の第一声がそれだった。どうも他の魔人族と違って、個人的な恨みあるようだと察したシアは、訝しそうに眉をしかめて尋ねてみる。

 

「……どこかで会いました? そんな眼を向けられる覚えがないんですが?」

「赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?」

 

 シアは、なぜそこで女の話が出てくるのか分からず首を捻る。しかし、魔人族の男は、それを覚えていないという意味でとったのか、ギリッと歯を食いしばり、怨嗟の篭った声音で追加の情報を告げた。

 

「貴様等が、【オルクス大迷宮】で殺した女だぁ!」

「……………………ああ! あの人!」

「きざまぁ~」

 

 明らかに今の今まで忘れてましたという様子のシアに、既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっている男は、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。それを、何でもないようにひょいひょいと避けるシア。

 

「ちょっと、その人が何なんです? さっきから訳わからないです」

「カトレアは、お前らが殺した女は……俺の婚約者だ!」

「! ああ、なるほど……それで」

 

 シアは得心したように頷いた。

 

 どうやら、目の前の男は、【オルクス大迷宮】でハジメに殺された魔人族の女が最後に愛を囁いた相手――ミハイルらしい。誰に聞いたのかは知らないが、ハジメが自分の婚約者を殺した事を知り、復讐に燃えているようだ。自分がされたのと同じように、シアやユエを殺してハジメの前に突き出したいのだろう。

 

「よくも、カトレアを……優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを……」

 

 血走った目で、恨みを吐くミハイルに、シアは普段の明るさが嘘のような冷たい表情となって、実にあっさりした言葉で返した。

 

「知りませんよ、そんな事」

「な、なんだと!」

「いや、死にたくないなら戦わなければいいでしょう? そもそも挑んで来たのはあの人の方ですし。ハジメさんは、警告してましたよ。逃げるなら追わないって。愛しい人を殺されれば、恨みを抱くのは当たり前ですけど……殺した相手がどんな人だったか教えられても……興味ないですし……あなたなら聞きますか? 今まで自分が殺してきた相手の人生とか……ないでしょう?」

「う、うるさい、うるさい、うるさい! カトレアの仇だ! 苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」

 

 ミハイルは、癇癪を起こしたように喚きたてると、大黒鷲を高速で飛行させながら再び竜巻を発生させてシアに突っ込んで来た。どうやら、竜巻はミハイルの魔法で大黒鷲の固有能力ではないらしい。騎乗のミハイルが更に詠唱すると、竜巻から風刃が無数に飛び出して、シアの退路を塞ごうとした。

 

 シアは、ドリュッケンを振るって風の刃を蹴散らすと、そのまま体重を軽くして円盤を足場に大跳躍し、竜巻を纏う大黒鷲を避けた。

 

 しかし、避けた先には、ミハイルとシアが話している間に集まってきた魔人族と黒鷲の部隊がいた。ミハイルの騎乗しているのが大黒鷲であることから、彼の部下なのかもしれない。

 

 シアより上空にいた黒鷲部隊は、石の針を一斉に射出した。それはまさに篠突く雨のよう。シアは、炸裂スラッグ弾を撃ち放ち衝撃波で針の雨を蹴散らす。

 

 そして、空いた弾幕の隙間に飛び込んで上空の黒鷲の一体に肉薄した。ギョッとする魔人族を尻目に、ドリュッケンを遠慮容赦一切なく振り抜く。直撃を受けた魔人族は、骨もろとも内臓を粉砕させながら吹き飛び夜闇の中へと消えていった。

 

 シアは更に、勢いそのままに柄を伸長させて、離れた場所にいた黒鷲と魔人族も粉砕する。

 

「くっ、接近戦をするな! 空は我々の領域だ! 遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」

 

 まるでピンボールのように吹き飛んでいく仲間に、接近戦は無理だと判断したミハイルは、遠方からの攻撃を指示する。再び、四方八方から飛んできた魔法と石の針を激発による反動と円盤を足場にした連続跳躍で華麗に避け続けるシア。

 

 しかし、中距離以下には決して近づかず、シアが接近しようものなら全力で距離をとる戦い方に、シアは次第に苛つき始める。そして、炸裂スラッグ弾だけでは手が足りないと判断し、新ギミックを〝宝物庫〟から取り出した。

 

 それは赤い金属球だ。大きさは直径二メートルほど。金属球の一部から鎖が伸びており、シアはその鎖の先をドリュッケンの天辺についた金具に取り付けた。そして、重力に引かれて落ちかけた金属球を足で蹴り上げると、大きく水平に振りかぶったドリュッケンをその金属球に叩きつけた。

 

ガギンッ!!

 

ついでに言うとこのドリュッケンはあのミラードリュッケンをさらに改良して威力が増えたのだが名前はもうめんどくさいということでドリュッケンと呼んでいる。

 

 

金属同士がぶつかる轟音と共に、信じられない速度で金属球が打ち出される。

 

 標的にされた魔人族は慌てて回避しようとするが、突然、金属球の側面が激発し軌道が捻じ曲がった。その動きに対応できなかった魔人族と黒鷲は、総重量十トンまで加重された金属球に衝突され、全身の骨を砕かれながら一瞬でその命を夜空に散らすことになった。

 

 敵を屠った金属球は、シアがドリュッケンを振るう事で鎖が引かれ一気に手元に戻ってくる。シアは、その間にも炸裂スラッグ弾を連発し、敵を牽制、あるいは撃ち滅ぼしていく。そして、戻ってきた金属球を再びぶっ叩き、別の標的に向けて弾き飛ばした。

 

 そう、ドリュッケンの新ギミックとは、重量変化と軌道変更用ショットシェルが内蔵された〝剣玉〟なのである。

 

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」

 

 シアが、そんな雄叫びをあげながら王都の夜空に赤い剣玉を奔らせ続ける。ぶっ飛ばしては引き戻し、またぶっ飛ばしては引き戻す。赤い流星となって夜天を不規則に駆け巡る〝剣玉〟は、自身の赤だけでなく敵の血肉で赤く染まり始めた。

 

「おのれっ、奇怪な技を! 上だ! 範囲外の天頂から攻撃しろ!」

 

 ミハイルが次々と殺られていく部下達の姿に唇を噛み締めながら指示を出し、自身は足止めのために旋回しながら牽制の魔法を連発する。シアは、それらの攻撃を重さを感じさせない跳躍で宙を舞うように軽く避けていく。

 

 そうして、最後の一撃を避けた直後、頭上より範囲攻撃魔法が壁のごとく降り注いだ。

 

 シアは、ドリュッケンを頭上に掲げると柄の中央を握ってグルグルと回し始める。すると、回転の遠心力によって鎖で繋がった金属球も一緒に大回転を始めた。猛烈な勢いで超高速回転するドリュッケンと剣玉は、赤い色で縁取った即席のラウンドシールドとなり、頭上から降り注いだ強力無比な複合魔法を吹き散らしていった。

 

「もらったぞ!」

 

 頭上からの攻撃を防ぐことに手一杯と判断したミハイルが、シアに突撃する。大黒鷲の桁外れな量の石針を風系攻撃魔法〝砲皇〟に乗せて接近しながら放った。局所的な嵐が唸りを上げてシアに急迫する。

 

 シアは、自由落下に任せて一気に高度を落とし、風の砲撃を避けた。ミハイルは予想通りだと口元を歪め、回避直後の落下してきた瞬間を狙って再度、風の刃を放とうとした。

 

 しかし、標的を見据えるミハイルの目には、絶望に歪むシアの表情ではなく、虚空から現れた拳大の鉄球がシアの足元に落ちる光景が映っていた。

 

 シアは、〝宝物庫〟から取り出した鉄球を最大強化した脚力を以て蹴り飛ばす。豪速で弾き出された鉄球は、狙い違わずミハイルの乗る大黒鷲に直撃しベギョ! と生々しい音を立ててめり込んだ。

 

クゥェエエエエエ!!!

 

 激痛と衝撃に大黒鷲が悲鳴を上げ錐揉みしながら落下する。ミハイルもまた、悪態を吐きなが苦し紛れに石針を内包させた風の砲弾を放ち、大黒鷲と一緒に落ちていった。

 

 ようやく頭上からの魔法攻撃を凌ぎ切ったシアは、迫る風の砲弾をギリギリ、ドリュッケンで弾き飛ばす。しかし、内包された石の針までは完全には防げず、いくつかの針が肩や腕に突き刺ってしまった。

 

「やったぞ! コートリスの石針が刺さっている!」

「これで終わりだ!」

 

 石の針自体はそれほど大きなダメージではないのに、シアが石針を喰らった事で魔人族達が一様に喜色を浮かべている。

 

 その事に怪訝そうな表情をするシア。

 

 その疑問の答えは直ぐに出た。針の刺さった部分から徐々に石化が始まったのだ。どうやら、黒鷲はコートリスという名の魔物らしく、その固有魔法は石化の石針を無数に飛ばすことらしい。中々に嫌らしく厄介な能力だ。

 

 普通は、状態異常を解くために特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない。今、この戦場にはシア一人なので、これで終わりだと魔人族達は思ったのだろう。仮に薬の類を持っていても服用させる隙など与えず攻撃し続ければ、そうかからずに石化出来るからだ。

 

 しかし、彼等の勝利を確信した表情は次の瞬間、唖然としたものに変わり、そして最終的に絶望へと変わった。

 

 なぜなら……

 

「むむっ、不覚です。しかし、これくらいなら!」

 

 そう言って、シアは刺さった針を抜き捨てると、少し集中するように目を細めた。すると、一拍おいて、じわじわと広がっていた石化がピタリと止まり、次いで、潮が引くように石化した部分が元の肌色を取り戻していった。そして、最終的には、針が刺さった傷口も塞がり、何事もなかったかのような無傷の状態に戻ってしまった。

 

「な、なんで!」

「どうなってるんだ!」

 

 回復魔法が使われた気配も、薬を使った素振りも見せず、ただ少しの集中により体の傷どころか石化すら治癒してしまったシアに、魔人族達は、その表情に恐怖を浮かべ始めた。それは理解できない未知への恐怖だ。声も狼狽して震えている。

 

 シアの傷が治ったのは、どうということもない。ただ再生魔法を使っただけである。相変わらず、適性は悲しい程になく、自分の体の傷や状態異常を癒すくらいしか出来ない。

 

 ユエの〝自動再生〟のように欠損した部分が再生したり、瞬時に重症でも治せたり、自動で発動したりもしない。外部の何かを再生することも出来ない。だが、多少の傷や単純な骨折、進行の遅い状態異常なら少し集中するだけで数秒あれば癒すことが出来る。時間をかければある程度の重症でも大丈夫だ。

ミラーの力を使うまでもない。

 

 

魔人族達が絶望するのも仕方ないことだろう。圧倒的な破壊力に回復機能まであるのだから、攻略方法が思いつかない。シアを見る目が、かつてハジメと相対した者達が彼を見る目と同じになっている。すなわち、この化け物めっ! と。

 

「さぁ、行きますよ?」

 

 狼狽えて硬直する魔人族達の眼前にシアがドリュッケンを振りかぶった状態で飛び上がってくる。そして、一撃必殺! と振るわれた一撃で、また一人、魔人族が絶命した。その瞬間、残りの魔人族が恐慌を来たしたように意味不明な叫び声を上げて、連携も何もなくがむしゃらに特攻を仕掛けていった。

 

 シアは、冷静に、剣玉を振り回しながら、あるいは炸裂スラッグ弾を撃ちながら確実に仕留めて数を減らしていく。

 

 いよいよミハイル部隊の最後の一人がドリュッケンの餌食となったその時、急に月明かりが遮られ影が一帯を覆った。

 

 シアが上を仰ぎ見れば、暗雲を背後に、上空からミハイルが降って来るところだった。大黒鷲も限界のようで、上空からの急降下しかまともな攻撃が出来なかったのだろう。

 

「天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」

 

 ミハイルの叫びと同時に、無数の雷が轟音を響かせながら無秩序に降り注いだ。それはさながら篠突く雷。本来は風系の上級攻撃魔法〝雷槌〟という暗雲から極大の雷を降らせる魔法なのだが、敢えてそれを細分化し、広範囲魔法に仕立て上げたのだろう。それだけでミハイルの卓越した魔法技能が見て取れる。

 

 急降下してくるミハイルを追い抜いて雷光がシア目掛けて降り注ぐ。

 

 おそらく、確実に仕留めるために、雷に打たれた瞬間に刺し違える覚悟で特攻する気なのだろう。いくら細分化して威力が弱まっている上に、シアが超人的とは言え、落雷に打たれれば少なくとも硬直は免れない。

 

 そして雷の落ちる速度は秒速百五十キロメートル。認識して避けるなど不可能だ。ミハイルの眼にも、部下が殺られていく中ひたすら耐えて詠唱し放った渾身の魔法故に、今度こそ仕留める! という強靭な意志が見て取れる。

 

 しかし、直後、ミハイルは信じられない光景を見ることになった。なんと、シアが降り注ぐ落雷を避けているのだ。いや、正確には最初から当たらない場所がわかっているかのように、落雷が落ちる前に移動しているのである。

 

 ミハイルの誤算。それは、シアには認識できなくても避ける術があったこと。

 

 シアの固有魔法〝未来視〟その新たな派生〝天啓視〟。最大二秒先の未来を任意で見ることが出来る。〝仮定未来〟の劣化版のような能力だが、それより魔力を消費しないので、何度か連発できる使い勝手のいい能力だ。日々、鍛錬を続けてきたシアの努力の賜物である。

 

「何なんだ、何なんだ貴様は!」

「……ただのウサミミ少女です」

 

 自分でも余り信じていない返しをしながら、全ての落雷を避けたシアは、当然、突撃してきたミハイルもあっさりかわし、すれ違い様に剣玉を振るった。

 

 そして、大きく円を描いてミハイルの周囲を旋回した剣玉は、その鎖をミハイルに巻き付かせて一瞬で拘束してしまった。

 

「ぬぐぉお! 離せぇ!」

「放しますよぉ、お望み通りぃ!」

 

 シアは、鎖に囚われたミハイルをドリュッケンを振るうことで更に振り回し、遠心力がたっぷり乗ったところで地面に向かって解放した。重量級の鉄塊が振り回されることで生み出された遠心力は凄まじく、ミハイルは、隕石の落下もかくやという勢いで地面に叩きつけられた。

 

 咄嗟に、風の障壁を張って即死だけは免れたようだが、全身の骨が砕けているのか微動だにせず仰向けに横たわり、口からはゴボッゴボッと血を吐いている。

 

 シアは、その傍らに降り立った。

 

 ドリュッケンを肩に担いで、ツカツカとミハイルに歩み寄る。ミハイルは、朦朧とする意識を何とかつなぎ止めながら、虚ろな瞳をシアに向けた。その口元には、仇を討てなかった自分の不甲斐なさにか、あるいは、百人近い部下と共に全滅させられたという有り得ない事態にか、ミハイル自身にも分からない自嘲気味の笑みが浮かんでいた。ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば、もう、笑うしかないという心境なのかもしれない。

 

 自分を見下ろすシアに、ミハイルは己の最後を悟る。内心で、愛しい婚約者に仇を討てなかった詫びを入れつつ、掠れる声で最後に悪態をついた。

 

「……ごほっ、このっ…げほっ……化け物めっ!」

「ふふ、有難うございます!」

 

 ミハイル最後の口撃は、むしろシアを喜ばせただけらしい。

 

 最後に、己の頭に振り下ろされた大槌の打撃面を見ながら、ミハイルは、死後の世界があるならカトレアを探しに行かないとなぁと、そんな事をぼんやり考えながら衝撃と共に意識を闇に落とした。

 

 止めを刺したドリュッケンを担ぎ上げながら、シアは、ミハイルの最後の言葉に頬を緩める。

 

「どうやら、ようやく私も、化け物と呼ばれる程度には強くなれたようですね……ふふ、ハジメさん達に少しは近づけたみたいです。さて、ユエさんの方は……」

 

 シアは、かなり離されたユエのいる方を仰ぎ見る。そして、今ならまだフリードを一発くらい殴れるかもしれないと期待して、ユエと合流すべく一気に駆け出した。




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ユエ無双

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天頂に輝く月が見えなくなるほどの灰竜の群れ。

 

 優に百体は超えているだろう。そして、その中心には胸元に傷を付けた白竜と、背に騎乗するフリード・バグアーの姿。

 

「悪く思うな。敵戦力の分断は戦いの定石だ」

 

 空間魔法〝界穿〟が作り出した転移ゲートの奥へと消えていったティオとシアとミハイル。そして3人を追って飛んでいった黒鷲部隊を横目にフリードは宙に佇むユエに語りかける。

 

 フリードは、魔人族であることに誇りを持っており、例に漏れず、他種族を下に見ている。魔人族が崇める神に対する敬虔な信者でもあり、価値観の多様性を認めないタイプの男だ。

 

 故に、他種族の女に興味を示すことなど有り得ない事だった。だが、そのフリードをして、本物の月が自らの配下である灰竜達により隠されてなお、地上を照らす月の如き輝きを放つ美貌の少女には、〝殺すのは惜しい〟と思わせるだけの魅力を感じていた。

 

 その思いは、ハジメを殺すためにも必要だと分かっていながら、そして同胞を殺された事に対する憎しみを抱いていながら、それでも、つい戯言を口にさせてしまう。

 

「惜しいな。……女、術師であるお前では、いくら無詠唱という驚愕すべき技を持っていたとしても、この状況を切り抜けるのは無謀というものだろう。どうだ? 私と共に来ないか? お前ほどの女なら悪いようにはしない」

 

「……ふっ、生まれ直してこい。ブ男」

 

 ちなみに、フリードは十人中十人が美男子と評価すると言っても過言でないほど整った容姿をしている。その力の大きさと相まって、魔人族の間では女性に熱狂的な人気がある。断じてブ男ではない。

 

 しかし、ユエは、フリードが【グリューエン大火山】で神を語った時の恍惚とした表情を見ており、それが酷く気持ち悪かったという記憶があるのだ。そんな男が、澄まし顔で誘ってくる。もう、気持ち悪い上に滑稽な男にしか見えなかった,

 

「殉教の道を選ぶか? それとも、この国への忠誠のためか? くだらぬ教え、それを盲信するくだらぬ国、そんなもののために命を捧げるのか? 愚かの極みだ。一度、我らの神、〝アルヴ様〟の教えを知るといい。ならば、その素晴らしさに、その閉じきった眼もッ!?」

 

 全くの見当違いをペラペラと話しだしたフリードに、ユエは神速の風刃を放つことで答えとした。ただ単に、聞くに耐えなかっただけというのもあるが。

 

 夜風に乗って血飛沫が舞う。ユエの放った風刃はフリードが身を逸らしたために肩を浅く切り裂くに留まった。咄嗟に、フリードが風刃に反応できたのは、腐っても大迷宮攻略者ということだろう。でなければ、今頃は腕一本失っているところである。

 

「……御託はいらない。ハジメが傷ついた分、苦しんで死ね」

 

 その言葉を合図に、ユエを中心にして極寒の氷雪が吹き荒れた。

 

 一瞬で巨大な竜巻へと発展したそれは、ユエを覆い隠しながら天頂へと登る。地と天を繋ぐ白き嵐は、周囲の温度を一気に絶対零度まで引き下げ、月を覆い隠して上空を旋回していた灰竜達の尽くを凍てつかせた。

 

 竜巻を発生させる風系中級攻撃魔法〝嵐帝〟と広範囲を絶対零度に落とす氷系最上級攻撃魔法〝凍獄〟の複合魔法である。

 

「聞く耳を持たないか。……仕方あるまい。掃射せよ!」

 

 一気に二十体近くの灰竜を落とされたフリードは、ギリッと歯を食いしばりながら一斉攻撃の命令を下す。それにより、旋回していた灰竜達が一斉に散開し、四方八方上下、あらゆる方向から極光の乱れ撃ちを行った。

 

 夜天に奔る幾百の極光は、さながら流星雨のよう。夜の闇を切り裂き迫る閃光は、中の術者を射殺さんと、吹き荒れる絶対零度のブリザードを剣山の如く貫いた。

 

 無数の極光による衝撃で、氷雪の竜巻は宙に溶けるように霧散していく。散らされた氷雪が螺旋を描き、その中央から現れたのは、極光に貫かれ傷ついたユエの姿……ではなく、前後左右に黒く渦巻く星を従えた無傷のユエだった。

 

 間髪いれず、目視した小さな敵に再び幾百の閃光が奔る。

 

 しかし、本来なら全てを消滅させる強力無比な死の光は、ユエを守るように周囲に漂う黒い星に次々と呑み込まれ、あるいは明後日の方向に軌道を捻じ曲げられて、ただの一つも届かなかった。

 

 ユエは、重力魔法を操作して更に高度を上げる。無数の極光に晒されながら、その表情に動揺の色は皆無だ。ユエの周囲を周回する重力球〝禍天〟と全てを呑み込む〝絶禍〟は、さながら月を守る守護衛星のようだ。

 

「ブレスが効かぬなら、直接叩くまで! 行け!」

 

 フリードの作戦変更命令に、灰竜達はタイムラグなど一切なく忠実に従う。竜の咆哮を上げながら、その鋭い爪牙で華奢な少女の肉体を引き裂かんと眼に殺意を宿して襲いかかった。

 

 波状攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。ユエの周囲は直ぐに灰竜の群れによって灰色に埋め尽くされた。

 

 対するユエは、迫り来る竜達の殺意など微塵も気にせず、静かに瞑目していた。深く集中しているようだ。動かぬならばむしろ好都合と言わんばかりに迫った灰竜達が、その鋭い爪を伸ばし、強靭な顎門を大きく開ける。

 

 もはや逃れようのない死が到達するかと思われたまさにその時、ユエの眼がカッ! と見開らかれた。そして、その薄く可憐な唇が言葉を紡ぐ。

 

「〝斬羅〟」

 

その瞬間、世界が一斉にずれた。

 

 

 まるで割れた鏡のように、何もない空間に無数の一線が引かれ、その線を起点に隣り合う空間が僅かにずれているのだ。そして、その空間の亀裂に重なっていた灰竜達は、一瞬の硬直の後、ズルっという生々しい音と共に空間ごと体を切断されて血飛沫を撒き散らしながら地へと落ちていった。

 

 空間魔法〝斬羅〟。空間に亀裂を入れてずらす事で、対象を問答無用に切断する魔法だ。

 

 ユエによる防御不能の切断魔法で、周囲に集まっていた灰竜三十体以上が断末魔の悲鳴を上げる事すら出来ずに絶命した。

 

「なんという技量だ。……もしや、貴様も神に選ばれし者なのか! それなら、私の誘いに乗れぬのも頷ける」

 

 額に汗を流しながら得心がいったというように頷くフリードに、ユエは、「この勘違い野郎、すごく気持ち悪いんですけど……」と誰が見てもわかる嫌そうな表情を浮かべた。

 

「……冗談。私が戦うのは何時でもハジメのため。お前如きと一緒にしないで」

 

「よかろう。もはや、何も言うまい。貴様を殺して、あの男の前に死体を叩きつけてやろう。さすれば、多少の動揺は誘えよう。その時が、あの男の最後だ」

「……よく回る口。黙って行動で示せないの? ブ男」

 

 怒りを押し殺して告げた言葉に、嘲笑を以て返されたフリードの額に青筋が浮かぶ。直後の返答はユエの言う通り、行動で示された。

 

 【グリューエン大火山】でも見た、肩に止まる小鳥型の魔物に指示を出すフリード。すると、王都の外壁を破り都に侵攻していた魔物の群れの一部が地上からユエ達の方へと押し寄せて来た。どうやら、地上からも攻撃をするつもりらしい。

 

 ユエは、灰竜達の極光を重力球の守護衛星で防ぎながら、〝雷龍〟を召喚する。天に立ち込めた暗雲から落雷の咆哮と共に黄金の龍が姿を現した。〝絶禍〟に溜め込んだ極光を迫り来るフリードと灰竜達に解き放ち牽制しながら、地上部隊を殲滅せんと雷龍を強襲させる。

 

 いつも通り、問答無用に顎門に吸い込み全てを灼き尽くす雷龍……のはずが、体長五メートルを超える六足の亀型の魔物アブソドによってその進撃を止められてしまった。大口を開けた巨大アブソドによって、正面から逆に喰われ始めているのだ。

 

 アブソドは、以前、【オルクス大迷宮】でカトレアという魔人族の女が連れていた、魔法を体内に取り込む固有魔法を持つ魔物だ。しかし、地上で雷龍を吸い込んでいるアブソドは、迷宮にいたアブソドとは大きさが違う。おそらく、改良が加えられ更に強化されたのだろう。

 

 それでも、流石の雷龍というべきか。アブソドに呑み込まれながらも、その巨体を浮かせていき、少しずつではあるがその身を灼いていく。どうやら、同時に複数属性の魔法を呑み込むことが出来ないという制限は変わっていないらしい。雷は呑み込めても重力魔法の方は呑み込めないようだ。

 

 徐々に浮かされていく体に焦ったように六足をばたつかせるアブソドだったが、その巨体が雷龍に攫われる前に、もう一体のアブソドが重力魔法を呑み込み始めた。流石に、二体の強化されたアブソドによるフルパワーでの固有魔法〝魔力貯蔵〟の行使には雷龍も耐えられず、その雷の体を取り込まれてしまった。

 

 その直後、圧縮されたそれぞれの魔法が、ユエに向けて発射される。

 

「……鬱陶しい」

 

 地上より発射された対空砲火二条は、正確な狙いでユエを襲う。灰竜と白竜の極光を防ぐために重力球の守護衛星を全力で使っていたユエは、咄嗟に上空へ〝落ちる〟ことにより、それを回避した。

 

「ふっ、貴様がその奇怪な雷系魔法を使うことは承知している。アブソドがいる限り、お前の魔法は封じたも同然だ」

 

 ニヤリと口元を歪めながら嗤うフリード。しかし、ユエは特に焦ることもなく、ジッとアブソドを観察すると、ほんの僅かな時間、何かを考えるように視線を宙にさまよわせ再び集中状態に入った。

 

「また、空間を裂く気か? そんな暇は与えんぞ!」

 

 白竜と灰竜がより一層苛烈に極光を放ち、地上からは空を蹴って黒豹型の魔物が迫った。

 

地上から黒豹がその姿を霞ませるほどの速度で迫り、無数の触手を射出し始め、更に、極光を防ぐため動き回る重力球を掻い潜って鋭い爪を振るった。

 

 僅かな攻防の間に、ユエの体に無数の傷がつき、夜空に赤い鮮血が飛び散る。しかし、どれも浅い傷ばかりなので全く問題ない。そもそもユエの本当の防御力とは、障壁でも重力球でもない。その反則的な〝再生力〟なのだ。

 

 仲間がいれば障壁を張るし、服が破れるのは好ましくないので回避もするが、本来は相手の攻撃を無視して己の再生力に任せ、一方的に攻撃するというのがユエのスタイルなのである。

 

 血飛沫を上げたユエに、半ば勝利を確信して笑みを浮かべたフリードの表情は、目に見えて修復されていくユエの傷を見て驚愕に目を見開いた。

 

「それも、神代の魔法か? 一体、いくつ修得しているというのだ!」

 

ユエの方が早く魔法を発動させる。ユエの強い意志の宿った瞳が見開かれ、閃光と咆哮の轟く空間に、その可憐な声が響いた。

 

「〝五天龍〟」

 

 直後、暗雲が立ち込め雷鳴が轟き、渦巻く風が竜巻となって吹き荒れ、集う水流が冷気を帯びて凍りつき、灰色の砂煙が大蛇雲の如く棚引いて形を成し、蒼き殲滅の炎が大気すら焦がしながら圧縮される。

 

 その結果、王都の夜天に出現したのは五体の魔龍。それぞれ、別の属性を持ち、重力魔法と複合された龍である。

 

ゴォアァアアアア!!!

 

 凄まじい咆哮が五体の龍から発せられ、大気をビリビリと震わせる。

 

 巨体を誇り神々しくすらある魔龍の群れに、灰竜達は、本能が己の上位者であるとでも悟ったのか、怯えたように小さく情けない鳴き声を上げた。その瞳には、既にユエに対する殺意の色はほとんどなく、主たるフリードに助けを求めるような視線を寄せていた。

 

 フリードもまた、非常識極まりない魔法の行使に白竜の上でポカンと口を開くという醜態を晒していた。その隙を逃さず、ユエは五天龍を地上へと強襲させる。

 

 雷龍が、最初に己を呑み込んだアブソドに突撃し、アブソドも再び喰らい尽くしてやろうと大口を開ける。僅かばかり取り込まれる雷龍だったが、先程とは異なり、雷龍の後ろから飛び出した蒼龍が、その業火を以て相対するアブソドを融解させていった。

 

「クァアアアアアアアアン!!」

 

 生きたまま甲羅から溶かされていく苦痛に、堪らず苦痛の声を上げて固有魔法を解いてしまったアブソドを放置して、雷龍は、次の標的を狙う。それは、嵐龍を呑み込もうとしている別のアブソドだ。神鳴る音を響かせながら雷龍の顎門がアブソドに喰らいつき、その灼熱によって身の端から灰に変えていった。

 

 また、少し離れたところでは、氷龍がアブソドを凍てつかせ、石龍が周囲一帯を根こそぎ巻き込んで石化させていく。雷龍により解放された嵐龍は、身の内に蓄えた風の刃でアブソド以外の黒豹などの魔物共も一緒くたに切り刻んでいった。

 

 流石に、五天龍の行使はキツかったのか、額に大量の汗を浮かべて肩で息をするユエ。早々にアブソドを片付けると、今度は上空の灰竜達に矛先を変えた。

 

 強力無比な竜の群れを従えるフリードに、同じく龍をもって挑むユエ。なすすべなく五天龍の餌食となっていく灰竜達の姿が、そのままフリードとユエの格の違いをあらわしているようだった。

 

 フリードは、ここに来てようやく悟る。自分がとんでもない化け物を相手にしてしまったことを。あの【グリューエン大火山】で自分に痛手を負わせた少年だけでなく、眼前の少女もまた、決死の覚悟で戦わねばならない相手だったのだと。戦う前に言った、自分の下に付けてやろうなどという傲慢な言葉を今更ながらに恥じた。

 

 故に、これより放つ魔法は、文字通りフリードの全力だ。

 

「――――揺れる揺れる世界の理 巨人の鉄槌 竜王の咆哮 万軍の足踏 いずれも世界を満たさない 鳴動を喚び 悲鳴を齎すは ただ神の溜息! それは神の嘆き! 汝 絶望と共に砕かれよ! 〝震天〟!」

 

 周囲一帯の空間が激しく鳴動する。低く腹の底に響く音は、まるで世界が上げる悲鳴のようだ。

 

 ユエ自身、知識にあるその魔法に「むっ!」と警戒心を強め、すぐさま防御態勢を整えた。放たれる魔法は範囲が広すぎて回避は既に不可能なのだ。そして、並みの防御では、この魔法には一瞬も耐えられない。

 

 ユエは、五天龍と重力球の守護衛星を解除すると、即行で空間魔法を構築する。他の魔法にリソースを割いている余裕がないからだ。ユエが、驚異的な速度で空間魔法を発動したのと、一瞬収縮した空間が大爆発を起こしたのは同時だった。

 

 空間そのものが破裂する。そうとしか言いようのない凄絶な衝撃が、生き残りの灰竜や地上の魔物すら一瞬で粉微塵に砕いて、大地を抉り飛ばし、天空のまだら雲すら吹き飛ばした。

 

 空間魔法〝震天〟。空間を無理やり圧縮して、それを解放することで凄まじい衝撃を発生させる魔法である。

 

「……んっ、流石……神代魔法」

 

 しかし、その衝撃の中心にいながらユエはしっかり生き残っていた。服が所々破けていたり、内臓を少しやられたのか口の端から血を流していたりしているが、空間そのものが砕け散ったかのような衝撃の中にいたにしては軽すぎるダメージだ。その軽傷も、一拍後には完全に再生されてしまった。

 

 本来なら、文字通り跡形もなく消し飛ぶほどの威力があったのだが……

 

 その理由は、ユエが、〝震天〟が効果を発揮する直前に空間魔法〝縛羅〟を発動したことにある。これは、空間を固定する魔法だ。使い方によって、防御にも捕縛にも使える便利な魔法である。もっとも、例に漏れず消費コストは白目を剥きたくなるレベルだが。

 

 即行での展開だったので完全には空間を固定しきれず、ダメージを負ってしまったユエだが、〝自動再生〟による肉体の修復の他、再生魔法により衣服も修復したので、見た目、中身共に無傷である。

 

 周囲の全てが破壊された中、その中心で何事もなかったように佇み月光を浴びる姿は、その呆れるほどの強さと相まって神々しくすらあった。

 

 だが、そんなユエの強さを疑わない者が一人。ユエの死角から強襲する。

 

「耐え切るとわかっていたぞ! 少女の姿をした化け物よ!」

 

 ユエの背後に開いたゲートを通り、極光を放ちながら白竜に騎乗したフリードが出現する。

 

 咄嗟に右側に〝落ちる〟ことで極光を回避するユエだったが、交差する一瞬で襲いかかった白竜の顎門までは回避しきれず、肩まで一気に喰らいつかれてしまった。

 

 ブシュ! という音と共に傷口から血が噴き出す。白竜は、ユエの片腕を噛み切らず、その鋭い牙を柔肌に喰い込ませたまま、ゼロ距離から極光を放とうとしているようだ。

 

 大魔法の連発で疲弊しきった様子のフリードが、今度こそ殺とったと勝利を確信し歓喜で満ちた眼差しをユエに向ける。しかし、ユエの表情を見た瞬間、フリードの背筋を言い知れぬ怖気が駆け巡り、その眼差しに宿す色は歓喜から恐怖に変わった。

 

 なぜなら、ユエの口元が、まるで三日月のようにパックリと裂けて笑みを浮かべていたからだ。薄い桃色の唇がやけに目に付く。その笑みには、先ほどの神々しさなど皆無。ユエを照らす月明かりは、その荘厳さを示すものではなく魔性を表すものへと変わった。

 

 夜風に吹かれ攫われた美しい金の髪の隙間から煌々と光る紅の瞳が物語る。

 

 すなわち

 

――私に触れたな?

 

 と。

 

 ユエの口から静かに神代魔法の詠唱が紡がれた。

 

「〝壊刻〟」

 

 直後、魔性の月光が降り注ぐ夜空に、一人と一匹の絶叫が響き渡った。

 

「ぐぅああああっ!!」

 

クゥルァアアアン!!

 

 白竜が身悶えした衝撃で、今度こそ腕を噛みちぎられたユエは、しかし、特に気にした様子もなく重力を操って天空へ上がった。そして、一拍おいて何事もなかったかのように再生された腕の様子を確かめると、全身から血を噴き出して悶えているフリードと白竜を睥睨した。

 

「……どう? ハジメから受けた傷は。痛い?」

「ぐぅうう! 貴様ぁ、これは……」

 

 

 

無表情を崩し艶然として月を背負うユエに対し、フリードは壮絶な痛みに歯を食いしばって耐えながら、鋭い眼光を返した。

 

 フリードと白竜の状態は酷いものだった。白竜は、胸元に大きく抉れ焼き爛れたような傷を抱え、更に全身から血を流しており、今にも墜落しそうな有様である。フリードに至っては、胸にある一文字の切創からダラダラと血を流し、砕けた左腕をダランと下げ、内臓が傷ついているのか激しく吐血している。その他にも全身に大小様々な傷が付いており、まさに満身創痍といった有様だった。

 

 それらの全ては、かつて【グリューエン大火山】で相対した時に、ハジメ達によって付けられた傷である。再生魔法〝壊刻〟――対象が過去に負った傷や損壊を再生する魔法だ。直接・間接を問わないが、半径三メートル以内でどこかに触れていなければならず、再生できる傷は、魔力に比例するという制限がある。

 

 ユエは、出来ることなら、この魔法でフリード達を追い詰めたいと思っていた。この戦いは、あくまでユエの個人的な仕返しなのだ。【グリューエン大火山】では、愛おしい恋人を傷つけられ怒り心頭であったのに、仕返しの一つも出来ず逃げられてしまった。あの時から「……次にあったら絶対ボコる」と誓っていたのだ。

 

 そして、再生魔法を【メルジーネ海底遺跡】で手に入れた時に、殺るなら絶対、【グリューエン大火山】での一戦を思い出せるように、この〝壊刻〟を使ってやろうと思っていたのである。ユエの中の〝ヤン〟な部分が囁いたのだから仕方ない。

 

 しかし、ユエは接近戦が苦手だ。高速で飛べる白竜に乗ったフリードに追いついて、触れて、魔法を発動できるかは微妙だった。なので、適当にダメージを与えて墜としてから使ってやろうと思っていたのだが……わざわざフリード達の方から自分に触れてくれたのだ。思わず、笑みが浮かんでしまったのも仕方ない事だろう。ハジメの敵に、心が〝ヤンヤン〟してしまうのは止められないのだ。

 

「……今の私では……勝利を得られないということか。……かくなる上はっ」

「……させない」

 

 王手をかけられたと察したフリードが歯噛みし、ユエが止めを刺そうと片手を向けたその時、ユエに向けて地上から怒涛の攻撃魔法が放たれた。

 

「フリード様! 一度お引き下さい!」

「我らが時間を稼ぎます!」

 

 それは、王都侵攻に出ていた地上部隊の魔人族達だった。フリードの窮地を察して救援に来たらしい。

 

「お前たち! ……くっ、すまん!」

 

 救援に来た魔人族達は、満身創痍のフリードと白竜を見て瞳に憤怒を宿し、防御など考えない特攻を敢行した。当然、ただの意気込みだけでユエを殺れるわけがない。しかし、フリードがゲートを開く時間だけはギリギリ稼げたようだ。

 

 ユエの放った炎槍がフリードと白竜に突き刺さる寸前、フリード達はゲートに飛び込み姿を消してしまった。

 

「……邪魔」

 

 まんまとフリードに逃げられてしまったユエは、未だ、「よくもフリード様を!」等と喚きながら攻撃を繰り返す魔人族達を冷たく見下ろすと、先程フリードが放った空間魔法〝震天〟を発動し周囲一帯を纏めて爆砕した。八つ当たり気味に一瞬で殲滅を完了したユエだったが、その表情には、少しの苛立ちが見て取れる。鬱憤は晴れなかったらしい。

 

 ユエが、何とか気持ちを落ち着けようと深呼吸をしていると、戦場には似つかわしくない明るい声が響き渡った。

 

「ユエさ~ん! まだ、あの野郎、生きてますかぁ? 生きてたら一発殴らせ……うわぁ~何ですか、ここ? 天変地異でもあったんですか?」

 

 

ウサミミをなびかせて、ティオに乗ってきたたシアが、呆れたような声音で周囲を見渡しながら尋ねた。

 

「……逃げられた」

 

 そして、失った魔力を補充しながらしばらく情報交換していると、王宮の一角で爆発が起き、次いで、遥か天空より降り注いだ巨大な光の柱が、外壁の外で待機していた数万からなる魔物の大軍を根こそぎ消滅させるという有り得ない光景を見て、お互い顔を見合わせた。

 

「「……ハジメ(さん)」」

 

 3人の答えはばっちり同じらしい。

 

「……取り敢えず王宮に行きますか」

「……ん」

「そうじゃな」

 

 




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ノイントVSカービィ

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 月下に銀翼がはためいた。

 

 だが、それは飛翔のためではない。その銀翼から殺意をたっぷり乗せた銀羽の魔弾を射出するためだ。恐るべき連射性と威力を秘めた銀の魔弾は、標高八千メートルの夜闇を切り裂き、数多の閃光となって標的に殺到する。

 

 それに対するは、ピンクボールと紅色のスパークを迸らせる鋼鉄の兵器。あらゆる敵を粉砕してきた怪物が咆哮を上げる度に、飛来する銀羽は無残に飛び散り四散する。計算され尽くした弾道が、たった一発で幾枚も羽を蹴散らし、壁と見紛うほどの弾幕に穴を開ける。必要なのは踏み込む勇気。それこそが、完璧な回避を実現する。

 

「ひゃああ!」

 

 

お互いの命をベットした死合に似つかわしくない可愛らしい悲鳴が響いた。場違いな声を我慢しきれず出してしまったのは畑山愛子先生だ。ハジメのメツェライもかくやという銀羽の弾幕を撃ち放つ〝神の使徒〟ノイントの攻撃を、紙一重で回避し続けるハジメの片腕に抱かれながら、人生初のドッグファイト(生身バージョン)を経験中なのである。

 

もちろんそこにカービィもいる。

 

 

「先生! 口は閉じてろ! 噛みまくって血だらけになるぞ!」

「そんなこと言ってみょッ!? か、かんじゃった……」

 

 ハジメの忠告も虚しく早速涙目になっている愛子。いや、空中戦が始まった時点で涙目だったので、噛んだことだけが原因ではないが。

 

 ハジメとしても、愛子は特別身体能力が優れているわけでもないので、激しい機動は避けて〝瞬光〟を使い、襲い来る弾幕を最小限の動きでかわしているのだが、それでもジェットコースターなど遥かに超える機動に、愛子は既にグロッキー状態だ。

 

 かといって、そのへんに放り出しておくわけにもいかない。愛子を抱えるハジメに対してノイントの攻撃に容赦がない以上、放り出した途端、愛子の方を狙われかねない。愛子を背にしながら戦うより、抱いて一緒に動く方がずっとマシだった。

 

 それに、この状態がいつまでも続くわけではない。頼もしい仲間が、救援に来てくれているはずなのだ。ハジメは、再び全方位から包み込むように強襲してきた銀羽をシュラークで撃ち抜き回避しながら、ギュッと目を瞑ってハジメにしがみついている愛子に話しかける。

 

「先生、もう少し頑張れ。今、俺の仲間がこっちに向かってる。そいつが来れば地上に降りられるぞ」

「は、はい! で、でも南雲君は!?」

「もちろん、あの能面女をぶっ殺す」

「うぅ、足手纏いですみません……」

「だったら一回僕に任せて愛子せんせーを守ってて!」

「いいのか?」

「もちろん!」

自分がお荷物になっていることを自覚して歯噛みする愛子。ハジメは、そんな愛子をギュッと抱きしめて宙返りをする。反転した世界で、ハジメの頭上を銀色の砲撃が通り過ぎた。最初に、愛子が幽閉されていた隔離塔の上部を消し飛ばした閃光だ。

 

 再び、シェイクされるような衝撃に声を詰まらせつつも、押し付けられたハジメの胸元から、全く乱れていない規則正しい心音が伝わり、そんな場合でないとわかっていながら妙な安心感を得てしまう愛子。ほんとに、こんな状況で何を考えているんだと自分を叱りつけながらも、より一層強く抱きついてハジメに身を委ねる。

 

「気にすんな。元より、多少の無茶をするのは想定内だ」

「! わ、私のために……そこまで……」

 

 もちろん、ハジメが言ったのは、神代魔法を修得するために教会側と衝突するのは想定内という意味であって、愛子を助けるためだけという意味ではないのだが……ちょっと、シチュエーションに酔ってしまった愛子は見事に勘違いする。そして、現在進行形で抱きしめられ守られているという状況が、勘違いを加速させていく。一刻も早く目を覚ます必要があるだろう。

 

「……雑談とは余裕ですね、イレギュラー」

「相手は僕だよ!」

銀色の砲撃と銀羽の弾幕をかわした直後、ハジメのすぐ傍で機械的で冷たい声音が響く。咄嗟に、義手の肘から散弾を背後に向かって放ちつつ、その激発の反動を利用して反転する。その目に飛び込んできたのは、双大剣の片方を盾にして散弾を防ぎつつ、もう一方の大剣を横殴りに振るうノイントの姿だった。

そこにカービィは飛び出す。

 

銀光を纏う長さ二メートル幅三十センチの大剣は、そこにあるだけで凄まじい威圧感を放っている。そして、その宿した能力も凶悪だ。なにせ、ノイントが操る銀の魔力は全て固有魔法〝分解〟が付与されているのだから。触れるだけで攻撃になるなど反則もいいところだ。

 

「だったらコピー能力クリエイト!『ドラゴストーム、ウルトラソード、ウルトラソード、ミラクルビーム』」

 

カービィはスーパー能力を使いドラゴストームで攻撃しながらミラクルビームを飛ばして

その間に二本のウルトラソードで切りつけた。

 

「あなたは強すぎる。主の駒としては相応しくない」

 

 

 

ノイントが再び銀翼をはためかせ、銀羽を宙にばら撒く。だが、今度はカービィに向かって射出されることはなかった。代わりに、ノイントの前方に一瞬で集まると、何枚もの銀羽が重なって陣を形成する。そう、魔法陣だ。銀色に輝く巨大な魔法陣がノイントの眼前からカービィを睥睨する。

 

そして……

 

「〝劫火浪〟」

 

 発動された魔法は、天空を焦がす津波の如き大火。

 

 どうやら、魔弾だけでなく属性魔法も使えたようだ。今まで使ってこなかったのは、単純に銀の魔弾だけで十分だと判断していたためだろう。つまり、本気になったということだ。

 

「コピー能力クリエイト『ミラー、ミラー、ドラゴストーム、ドラゴストーム』

 

カービィは攻撃をミラーで跳ね返しながらドラゴストームでノイントを焼き尽くす。

 

 

 

「……これも凌ぐのですか」

 

 

と、その時、突如、【神山】全体に響くような歌が聞こえ始めた。

 

 ハジメが、銀羽の弾丸をかわしながら何事かと歌声のする方へ視線を向ければ、そこには、イシュタル率いる聖教教会の司祭達が集まり、手を組んで祈りのポーズを取りながら歌を歌っている光景が目に入った。どこか荘厳さを感じさせる司祭百人からなる合唱は、地球でも見たことのある聖歌というやつだろう。

 

 一体、何をしているんだとハジメが訝しんだ直後、

 

「……ッ!? なんだ? 体がっ…」

「南雲君!? あうっ、な、何ですか、これ……」

 

 ハジメと愛子の体に異変が訪れた。

カービィは無事なようだ。

 体から力が抜け、魔力が霧散していくのだ。まるで、体の中からあらゆるエネルギーが抜き出されているような感覚。しかも、光の粒子のようなものがまとわりつき、やたらと動きを阻害する。

 

「くっ、状態異常の魔法かっ……流石総本山。外敵対策はバッチリってか?」

 

 ハジメの推測は当たっている。

 

 イシュタル達は、〝本当の神の使徒〟たるノイントが戦っている事に気が付き、援護すべく〝覇堕の聖歌〟という魔法を行使しているのだ。これは、相対する敵を拘束しつつ衰弱させていくという凶悪な魔法で、司祭複数人による合唱という形で歌い続ける間だけ発動するという変則的な魔法だ。

 

「イシュタルですか。……あれは自分の役割というものをよく理解している。よい駒です」

 

 恍惚とした表情で、地上からノイントを見つめているイシュタルに、感情を感じさせない眼差しを返しながらノイントがそんな感想を述べる。イシュタルの表情を見れば、ノイントの戦いに協力しているという事実自体が、人生の絶頂といった様子だ。さぞかし、神の思惑通り動く便利な存在なのだろう。

 

 そんなイシュタル達司祭の中身はともかく、現在、展開している魔法は正直なところ厄介なこと極まりないものだった。

 

 

 ハジメは、〝宝物庫〟からオルカンを取り出すと、イシュタル達の方を見もせずに十二発全弾を無造作に撃ち込んだ。今度は、違う種類の悲鳴が聞こえてきたが無視だ。なぜなら、そんな雑音などかき消すような聞きたかった声が響き渡ったからだ。

 

〝無事かハジメ?〟

 

 その声に、ノイントを警戒しながらもハジメの頬が緩む。待ち人ならぬ待ち人?の到着だ。

 

「メタナイト、助かった。ちょっとヤバかったんだ」

 

 

「メタナイトさん。今から私を地上に降ろして、また戻って来るとすればかなりの時間がかかるのではありませんか? ここは標高八千メートルです。往復するのも大変なはず……」

 

「私、こう見えて魔力だけなら勇者である天之河君並なんです。戦闘経験はないけれど……援護くらいはしてみせます! 人と戦うのは……正直怖いですが、やるしかないんです。これから先、皆で生き残って日本に帰るためには、誰よりも私が逃げちゃダメなんです!」

 

愛子の緊張と恐怖、そしてそれらを必死に制しようとする決意が表れた返事を合図に、メタナイトは聖教教会を象徴する大神殿に向かって一気に飛翔した。相手取るのは、数百人規模の司祭達と神殿騎士団。

 

 今、メタナイトと愛子という異色のタッグチームがこの世界最大の宗教総本山に挑むのだった。

 




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初撃はシュラーゲンによる一撃だった。

 

 紅いスパークが迸り、見るからに凶悪なフォルムの怪物兵器から凄絶な破壊力を宿らせた超速の弾丸が一直線に目標へと迫る。ティオのブレスすら正面から貫いた貫通特化の砲撃に、流石の銀翼でも分解する前に貫かれると判断したのかノイントは回避を選んだ。

 

しかしコピー能力クリエイト『ガン、ガン』で待機していたカービィ。

すかさず発砲する。

 

カービィは撃った。

 銃弾一つが100に分裂して数千の弾丸が襲いかかる!

 

隙を突かれほとんど当たって大ダメージをノイントは負った。

 

そんな彼女の懐に、意識の間隙を突くようにいつの間にか踏み込んできたのはハジメだ。〝空力〟を使った空中での震脚によって、踏み込みの力を余すことなく左腕に集束し、ギミックの〝振動破砕〟と〝炸裂ショットガン〟、そして〝豪腕〟と膨大な魔力を注ぎ込んだ〝衝撃変換〟による絶大な威力の拳撃を放った。

 

 ノイントは、咄嗟に、弐之大剣を盾にした。体と着弾寸前の拳との間に大剣を割り込ませる。その試みはギリギリのところで間に合い、ハジメの鋼鉄の拳をせき止めた。

 

 しかし、その威力までは止められず、ガァアアン! という金属同士が衝突する凄まじい音を轟かせながら、ノイントは猛烈な勢いで吹き飛ばされた。

 

ドパァアアンッ! ドパァアアンッ!

 

 ハジメは追撃の手を緩めない。即座にドンナー・シュラークを抜くと最大威力で連射する。轟く炸裂音は二発分。夜闇を切り裂く紅い閃光も二条。されど、吹き飛びながらも双大剣をクロスさせて防御姿勢をとるノイントを襲ったのは十二回分の衝撃だった。

 

「くぅうううっ!!」

カービィも負けずに連射する。

銃弾一つが100に分裂する。

ドンナー・シュラークそれぞれにつき、一発分しか聞こえない程の早撃ちと、全く同じ軌道を通り着弾地点も同じという超精密射撃。ノイントの呻き声と同時に、彼女の持つ大剣が衝撃に震え、僅かにピキッと嫌な音を立て破壊した。

 

 

 

 

 壮絶な空中戦の合間に訪れた僅かな静寂。空中でノイントとハジメが対峙する。

 

「なぁ、ちょっと聞きたいんだが俺に構っていていいのか?」

「……何のことです?」

 

 教会関係者が地上で起きている魔人族による王都侵攻を知らないわけがない。問答無用に襲われていたので聞く暇もなかったのだが、一時の間が出来た上に、ノイントが会話に乗ってきたので、ハジメは、ちょうどいいと話を続ける。

 

「下で起きていることだ。このままじゃ王国は滅びるぞ? 次は当然、この【神山】だ。俺なんかに構ってないで、魔人族達と戦った方がいいんじゃないのか?」

 

 言い直されたハジメのもっともな質問に、しかし、ノイントはくだらない事を聞かれたとでも言うような素振りで鼻を鳴らす。

 

「そうなったのなら、それがこの時代の結末という事になるのでしょう」

「結末ねぇ。……やっぱり、エヒト様とやらにとって〝人〟は所詮〝人〟でしかなく、暇つぶしの駒でしかないということか。……この時代は、たまたま人間族側についてみただけってわけだ? この分じゃ、魔人族側の神とやらもエヒト本人か、あるいは配下ってところか」

「……だったら何だというのです?」

「いや、〝解放者〟達から聞かされた話の信憑性を、一応、確かめてみようかと思ってな?ほら、俺にとっちゃあ、どっちも唯の不審者だし」

 

 主を不審者呼ばわりされたせいか眉がピクリと反応するノイント。しかし、ハジメは気にした風もなくにこやかに告げる。

 

「なぁ、俺が邪魔なら元の世界に帰してくれてもいいんじゃないか? あと、勇者達も、王国が滅びたら大して機能しなかった残念な駒として終わるわけだし、ついでにさ?」

「却下です、イレギュラー」

「理由を聞いても?」

「主がそれをお望みだからです。イレギュラー、主はあなたの死をお望みです。あらゆる困難を撥ね退け、巨大な力と心強い仲間を手に入れて……そして、目標半ばで潰える。主は、あなたのそういう死をお望みなのです。ですから、なるべく苦しんで、嘆いて、後悔と絶望を味わいながら果てて下さい。あなたが主に対して出来る最大の楽しませ方はそれだけです。ああ、それと勇者達は……中々面白い趣向を凝らしているとのことで、主は大変興味を持たれております。故に、まだまだ主を楽しませる駒として踊って頂きます」

 

 ハジメは、概ね予想通りの回答だったので特に気にした風もなく肩を竦めると、かつて聞いたミレディ・ライセンの言葉に、内心で深く同意した。すなわち、「確かに、クソ野郎共だ」と。

 

 しかし、自分の事はともかく、最後の言葉はハジメとしても気になるところだ。

 

「……面白い趣向?」

「これから死ぬあなたにとって知る必要のないことです」

 

話は終わりだと、ノイントは、無数の魔法と銀羽を放ち戦闘再開を行動で示す。

 

 もっとも、先程までとは威力も桁も別次元だった。銀羽の一枚一枚がレールガンに迫ろうかという威力を持ち、放たれる魔法は全て限りなく最上級に近いレベルである。よく見れば、ノイントの体全体が銀色の魔力で覆われており、感じる威圧感が跳ね上がっていた。まるで、ハジメや光輝が使う〝限界突破〟のような姿だ。

 

 

カービィはすかさずコピー能力クリエイト『ガン、ガン、ミラー、ミラー』にして跳ね返した。

 

ハジメは、〝宝物庫〟から全長二メートル半のアームが付いた大筒を取り出す。パイルバンカーだ。キィイイイイ!! という独特の音を響かせてスパークを迸らせながら紅い雷をチャージする。そして、一気にノイントへと踏み込んだ。

 

「くっ」

 

 苦さを含んだ声を漏らしたノイントは、銀翼を大きく広げ自らを繭のように包み込む。分解能力を秘めた銀色の魔力が燦然と輝き、まるでもう一つの月のようだ。

 

 ハジメは、そんな美しさすら感じる障壁に凄まじい衝撃と共にパイルバンカーを叩きつけた。直後、四本のアームに新たに付加された空間固定機能が、分解能力に抗いながらパイルバンカーを固定する。紅色のスパークは既に臨界状態を示すように激しく荒れ狂っている。

 

「耐えられるものなら耐えてみな」

 

 ハジメの口元が不敵に吊り上り、瞳が殺意にギラつく。〝限界突破〟の紅き魔力は益々輝き、銀月を紅月に染め上げていく。

 

 直後、パイルバンカーの射出口から不可視の衝撃が迸った。それは、射出口に内蔵された空間振動を起こす機能だ。空間魔法〝震天〟の簡易版であるそれは、対象に激烈な振動を与え、その結合を――耐久力を著しく弱らせる。

 

そしてカービィがコピー能力をスーパー能力ウルトラソードに変え、ノイントを滅多斬りにしようとしたときだった。

 

 

ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

 

 【神山】全体を激震させるような爆発音が轟いた。今度は何事かと振り返ったハジメの目に映った光景は……巨大なキノコ雲と轟音を立てながら崩壊していく大聖堂を含む聖教教会そのものだった。

 

「……うそん」

 

 思わず漏れたハジメの呟きが、やけに明瞭に木霊した。

 

 

 思わず、ポカンと口を開けて夜天を焦がす巨大なキノコ雲を見つめるハジメ。昔、テレビの戦争系ドキュメンタリーでこんな光景見たなぁと思いながら呆然としていると、突然、念話が届いた。

 

〝ハジメ……そっちはどうだ?〟

〝お? おぉ、メタナイトか。いや、こっちはちょうど終わったところなんだが……〟

〝流石だな。ちょうど、こちらも終わったところだ。合流できるか?〟

〝いや、それが何かすごいことに……〟

〝……その原因はわかっている。……取り敢えず、合流出来るか?〟

〝はぁ、わかった〟

 

どうやら聖教教会総本山が根こそぎ崩壊した原因を知っているようなので、一体、何があったと頬を引き攣らせながら、ハジメはメタナイトとの合流を急ぐ事にした。上空に上がると、直ぐに、メタナイトがキノコ雲から距離を置いた場所で滞空しているのを発見する。

 

 そして、ハジメの目には、その背に乗って「あわわわ」といった感じで狼狽えまくっている愛子の姿も映った。なぜ、ここに愛子が? という疑問は湧いたものの、愛子の性格ならきっと、逃げずにメタナイトに協力でもしたのだろうと当たりを付けるハジメ。それよりも、明らかに、愛子の「やってしまった」といった様子の方が気になった。

 

「……先生、メタナイト。二人共無事みたいだな」

「な、南雲君! よかった、無事だったんですね。……本当によかった」

 

「流石はハジメの先生殿だな。まさか、マッハトルネイドを聖教教会そのものを崩壊させる程に昇華させるとは。予想外だった。」

 

ハジメが目を瞬かせる。そして、愛子に〝まさか〟という引き攣った表情を向けた。

 

「……先生、一体何やったんだ」

「あわわわわわ、ち、ちなうんです! こんなつもりでは。ちょっと教会の結界が強くて……マッハトルネイドの威力を高められればと……結界を破るだけのつもりが……」

 

 ハジメの登場に、安堵の吐息を漏らす愛子だったが、続くハジメの質問で再びあたふたし始めた。狼狽える愛子に事情を聞くと、どうやらこういう事らしい。

 

 愛子は、メタナイトに乗りながら、イシュタル達がハジメに状態異常の魔法をかけられないように戦うことを決意した。しかし、魔法に関して高い適性は持っていても、碌な魔法陣を持っていない愛子に強力な攻撃魔法を行使することは出来なかった。また、大聖堂そのものが強力な結界を発動させるアーティファクトだったらしく、その結界に守られたイシュタル達には、マッハトルネイドやギャラクシアダークネスさえも届かなかった。

 

このままでは、イシュタル達は安全地帯から悠々と魔法を行使できてしまう。何とか結界を突破できるだけの火力を得ることは出来ないだろうかと、神殿騎士達からの攻撃を凌ぎながら考えて、愛子が思いついたのは……自分の特技を生かす事だった。ちなみに、愛子の特技とは以下にある通り、

 

====================================

畑山愛子 25歳 女 レベル:56

天職:作農師

筋力:190

体力:380

耐性:190

敏捷:310

魔力:820

魔耐:280

技能:土壌管理・土壌回復[+自動回復]・範囲耕作[+範囲拡大][+異物転換]・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作[+急速発酵][+範囲発酵][+遠隔発酵]・範囲温度調整[+最適化][+結界付与]・農場結界・豊穣天雨・言語理解

====================================

 

 この内、使ったのは発酵操作らしい。【神山】と言えど、人が暮らす場所であるから発酵できるものは大量にある。それから、地球で言うところのメタン発酵というものを行ったようだ。勿論、正確には別の異世界物質だが、可燃性ガスであることに変わりはない。

 

そしてメタナイトはギャラクティックナイトのフレイムスパインをマッハトルネイドと合わせて使ったら………

 

「……こうなったと」

 

「ちなうんです! そうじゃないんです! こんなに爆発するなんて思ってなくて! ただ、半端はいけないと思って! ホントなんです! はっ!? 教会の皆さんはっ!? どうなりました!?」

 

 愛子が、涙目でオロオロしながら弁解し、廃墟と化した教会に視線を彷徨わせる。ハジメ達も一緒に瓦礫の山々に視線を向けるが……

 

「……まぁ、まとめて吹き飛んだんだろうなぁ」

 

〝教会の結界を過信している感じじゃったしのぉ。完全な不意打ちでもあったのじゃし、無防備なところにあの爆発では、助からんじゃろ〟

 

「あ、ああ……そんな……いえ、覚悟はしていたのですが……」

 

 自分の幇助が、教会関係者達をまとめて爆殺してしまった原因である事に顔を青ざめさせる愛子。覚悟を決めて戦いに挑んだつもりだが、いざ、その結果を突きつけられると平常心ではいられない。

 

 思わず、その場で嘔吐してしまう。涙を流しながら吐く愛子に、ハジメは頭をカリカリと掻くと、そっと愛子に寄り添った。そして、吐瀉物で汚れているのも気にせず愛子の手を握る。今の愛子には、とにかく暖かさが必要だと思ったのだ。

 

 愛子は、凍えて砕けてしまいそうな心が握られた手から伝わる暖かさに繋ぎ止められるのを感じた。そして、今だけは生徒と教師という事も忘れて、ハジメの胸に飛び込みギュッと抱きついて嗚咽を漏らした。

 

「落ち着いたか? 先生」

「は、はい。も、もう大丈夫です。南雲君……」

 

 ハジメの呼びかけにハッと我に返った愛子は、羞恥やら何やらで顔を真っ赤に染め上げた。心なし、ハジメの名を呼ぶ声に熱が篭っている。上目遣いにチラチラとハジメを窺う瞳も熱っぽくうるうると潤んでいた。どう見ても、ただの羞恥心だけから来るものではなく、特別な感情が窺える表情だ。

 

 愛子は教師であるという認識が先に来て〝女〟として見ていなかったハジメだったが、流石に、そんな表情を見せられては「あれ? なんかこれ違くない? もしかして、そういうこと?」と愛子の感情を察して、頬を引き攣らせた。

 

何だか色々ヤバイ気がすると、咄嗟に目を逸らしたハジメに、メタナイトから警戒心の含まれた声が届く。

 

 

「ハジメ、人がいる。普通ではなさそうだが。」

 

「何だって?」

 

 

 禿頭の男は、ハジメ達が自分を認識したことに察したのか、そのまま無言で踵を返すと、歩いている素振りも重力を感じている様子もなくスーと滑るように動いて瓦礫の山の向こう側へと移動した。そして、姿が見えなくなる直前で振り返り、ハジメ達に視線を向ける。

 

「……ついて来いってことか?」

 

「どうする?」

 

「……そうだな、さっさとユエ達と合流はしたいところだが……元々、ここには神代魔法目当てで来たんだ。もしかしたら、何か関係があるのかもしれない。手がかりを逃すわけにはいかないな」

 

 

「先生、悪いが付いてきてくれ。何が起こるか分からないが……あのハゲが何者か、確かめないわけにもいかないんだ」

「は、はい。わかりました。……南雲君に付いていきます……」

 

 最後の付いて行くという言葉に妙な力と熱が篭っていたような気がするハジメだったが、敢えて気がつかない振りをして、禿頭の男が消えていった場所に歩を進めた。

 

 禿頭の男は、その後も、時折姿を見せてはハジメ達を誘導するように瓦礫の合間を進んでいく。そして、五分ほど歩いた先で、遂に目的地についたようで、真っ直ぐハジメ達を見つめながら静かに佇んでいた。

 

「あんた、何者なんだ? 俺達をどうしたい?」

「……」

 

 禿頭の男は、ハジメの質問には答えず、ただ黙って指を差す。その場所は何の変哲も無い唯の瓦礫の山だったが、男の眼差しは進めと言っているようだ。問答をしても埓があかないと判断したハジメは、メタナイト達と頷き合うとその瓦礫の場所へ踏み込んだ。すると、その瞬間、瓦礫がふわりと浮き上がり、その下の地面が淡く輝きだした。見れば、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。

 

「……あんたは……解放者か?」

 

 ハジメが質問したのと、地面が発する淡い輝きがハジメ達を包み込んだのは同時だった。

 

 そして、次の瞬間には、ハジメ達は全く見知らぬ空間に立っていた。それほど大きくはない。光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている。どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。

 

 ハジメ達は、魔法陣の傍に歩み寄った。ハジメは、何が何やらと頭上に大量の〝?〟を浮かべている愛子の手を引いてカービィと頷き合うと精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。

 

 と、いつも通り記憶を精査されるのかと思ったら、もっと深い部分に何かが入り込んでくる感覚がして、思わず三人とも呻き声を上げる。あまりに不快な感覚に、一瞬、罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。そして、攻略者と認められたのか、頭の中に直接、魔法の知識が刻み込まれる。

 

「……魂魄魔法?か、なるほどな。ミレディの奴が、ゴーレムに魂を定着させて生きながらえていた原因はこれか……」

 

「ボクも新しいコピー能力を手に入れたよ。コピー能力スピリットって言う見たいだよ。」

 

 

 

 いきなり頭に知識を刻み込まれるという経験に、頭を抱えて蹲る愛子を尻目に、ハジメは納得顔で頷くと、脇の台座に歩み寄り、安置された本を手にとった。

 

 どうやら、中身は大迷宮【神山】の創設者であるラウス・バーンという人物が書いた手記のようだ。オスカー・オルクスが持っていたものと同じで、解放者達との交流や、この【神山】で果てるまでのことが色々書かれていた。

 

 しかし、ハジメには興味のないことなので、さくっと読み飛ばす。ラウス・バーンの人生などどうでもいいのである。彼が、なぜ映像体としてだけ自分を残し、魂魄魔法でミレディのように生きながらえなかったのかも、懺悔混じりの言葉で理由が説明されていたが、スルーである。

 

 そして、最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、それによれば、先程の禿頭の男ラウス・バーンの映像体が案内に現れた時点で、ほぼ攻略は認められていたらしい。

 

 というのも、あの映像体は、最低、二つ以上の大迷宮攻略の証を所持している事と、神に対して信仰心を持っていない事、あるいは神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事、という条件を満たす者の前にしか現れないからだ。つまり、【神山】のコンセプトは、神に靡かない確固たる意志を有すること、のようだ。

 

 おそらくだが、本来、正規のルートで攻略に挑んだのなら、その意志を確かめるようなあれこれがあったのではないだろうか。愛子も攻略を認められたのは、長く教会関係者から教えを受けておきながら、そんな信仰心より生徒を想う気持ちを揺るがせなかったから、あるいは教会の打倒に十分手を貸したと判断されたからだろう。

 

 この世界の人々には実に厳しい条件だが、ハジメ達には軽い条件だった。

 

 ようやく、神代魔法を手に入れた衝撃から立ち直った愛子を促して、台座に本と共に置かれていた証の指輪を取ると、ハジメ達は、さっさとその場を後にした。再び、ラウス・バーンの紋章が輝いて元の場所に戻る。

 

「先生、大丈夫か?」

「うぅ、はい。何とか……それにしても、すごい魔法ですね……確かに、こんなすごい魔法があるなら、日本に帰ることの出来る魔法だってあるかもしれませんね」

 

 愛子が、こめかみをグリグリしながら納得したように頷く。その表情は、ここ数日の展開の激しさに疲弊しきったように疲れたものだったが、帰還の可能性を実感できたのか少し緩んでいる。

 

「それじゃ、魔法陣の場所もわかったことだし、早くユエ達と合流しよう」

「あっ、そうです! 王都が襲われているんですよね? みんな、無事でいてくれれば……」

 

そして、合流した先で見たものは……

 

 胸から剣を突き出し、既に息絶えた香織の姿だった。

 

 

 




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ヤンデレ

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時間は少し戻る。ちょうど、リリアーナ達が王宮内に到着した頃。

 

パキャァアアアアン!!

 

「ッ!? 一体なにっ!?」

 

 ガラスが砕かれるような不快な騒音に、自室で就寝中だった八重樫雫は、シーツを跳ね除けて枕元の黒刀を手に取ると一瞬で臨戦態勢を取った。明らかに、普段から気を休めず警戒し続けている者の動きだ。

 

「……」

 

 しばらくの間、抜刀態勢で険しい表情をしながら息を潜めていた雫だったが、室内に異常がないと分かると僅かに安堵の吐息を漏らした。

 

 雫が、ここまで警戒心を強めているのは、ここ数日、顔を合わせることの出来ないリリアーナと愛子の事が引っかかっているからだ。

 

 少し前から、王宮内に漂う違和感には気がついていた。あの日、愛子が帰還した日に、夕食時に重要な話があるといって別れたきり姿が見えない事で、愛子の身に何か良くない事が起きているのではとも疑っていた。

 

 当然、二人の行方を探し、イシュタルから愛子達は総本山で異端審問について協議しているというもっともらしい話を聞き出したのだが、直接会わせてもらうことは出来なかった。なお食い下がった雫だったが数日後には戻ってくると言われ、またリリアーナの父で国王でもあるエリヒドにも心配するなと言われれば、渋々ではあるが一先ず引き下がるしかなかった。

 

 

 雫は、音もなくベッドから降りると、数秒で装備を整えて慎重に部屋の外へ出た。香織がハジメと共に旅に出てから雫は一人部屋だ。廊下に異常がないことを確かめると、直ぐに向かいの光輝達の部屋をノックした。

 

 扉はすぐに開き、光輝が姿を見せた。部屋の奥には龍太郎もいて既に起きているようだ。どうやら、先程の大音響で雫と同じく目が覚めたらしい。

 

「光輝、あなた、もうちょっと警戒しないさいよ。いきなり扉開けるとか……誰何するくらい手間じゃないでしょ?」

 

 ここ数日、雫が王宮内の違和感や愛子達のことで、「何かがおかしい、警戒するべきだ」と忠告をし続けているのだが、光輝も龍太郎も考えすぎだろうと余り真剣に受け取っていなかった。

 

「そんな事より、雫。さっきのは何だ? 何か割れたような音だったけど……」

「……わからないわ。とにかく、皆を起こして情報を貰いに行きましょう。何だか、嫌な予感がするのよ……」

 

 雫はそれだけ言うと、踵を返して他のクラスメイト達の部屋を片っ端から叩いていった。ほとんどの生徒が、先程の破砕音で起きていたらしく集合は速やかに行われた。不安そうに、あるいは突然の睡眠妨害に迷惑そうにしながら廊下に出てきた全生徒に光輝が声を張り上げてまとめる。

 

 と、その時、雫と懇意にしている侍女の一人が駆け込んで来た。彼女は、家が騎士の家系で剣術を嗜んでおり、その繋がりで雫と親しくなったのだ。

 

「雫様……」

「ニア!」

 

 ニアと呼ばれた侍女は、どこか覇気に欠ける表情で雫の傍に歩み寄る。いつもの凛とした雰囲気に影が差しているような、そんな違和感を覚えて眉を寄せる雫だったが、ニアからもたらされた情報に度肝を抜かれ、その違和感も吹き飛んでしまった。

 

「大結界が一つ破られました」

「……なんですって?」

 

 思わず聞き返した雫に、ニアは淡々と事実を告げる。

 

「魔人族の侵攻です。大軍が王都近郊に展開されており、彼等の攻撃により大結界が破られました」

「……そんな、一体どうやって……」

 

 もたらされた情報が余りに現実離れしており、流石の雫も冷静さを僅かばかり失って呆然としてしまう。。

 

「……大結界は第一障壁だけかい?」

 

 そんな中、険しい表情をした光輝がニアに尋ねる。王都を守護する大結界は三枚で構成されており、外から第一、第二、第三障壁と呼び、内側の第三障壁が展開規模も小さい分もっとも堅牢な障壁となっている。

 

「はい。今のところは……ですが、第一障壁は一撃で破られました。全て突破されるのも時間の問題かと……」

 

 ニアの回答に、光輝は頷くと自分達の方から討って出ようと提案した。

 

「俺達で少しでも時間を稼ぐんだ。その間に王都の人達を避難させて、兵団や騎士団が態勢を整えてくれれば……」

 

 光輝の言葉に決然とした表情を見せたのはほんの僅か。雫や龍太郎、鈴、永山のパーティーなど前線組だけだった。

 

 ならば俺達だけでもと、より一層心を滾らせる光輝に、意外な人物、中村恵里が待ったをかけた。

 

「待って、光輝くん。勝手に戦うより、早くメルドさん達と合流するべきだと思う」

「恵里……だけど」

「ニアさん、大軍って……どれくらいかわかりますか?」

「……ざっとですが十万ほどかと」

 

 その数に、生徒達は息を呑む。

 

「光輝くん。とても私達だけじゃ抑えきれないよ。……数には数で対抗しないと。私達は普通の人より強いから、一番必要な時に必要な場所にいるべきだと思う。それには、メルドさん達ときちんと連携をとって動くべきじゃないかな……」

 

 大人しい眼鏡っ子の恵里らしく控えめな言い方ではあるが、瞳に宿る光の強さは光輝達にも決して引けを取らない。そして、その意見ももっともなものだった。

 

「うん、鈴もエリリンに賛成かな。さっすが鈴のエリリンだよ! 眼鏡は伊達じゃないね!」

「眼鏡は関係ないよぉ……鈴ぅ」

「ふふ、私も恵里に賛成するわ。少し、冷静さを欠いていたみたい。光輝は?」

 

 女子三人の意見に、光輝は逡巡する。しかし、普段は大人しく一歩引いて物事を見ている恵里の判断を、光輝は結構信頼している事もあり、結局、恵里の言う通りメルド達騎士団や兵団と合流することにした。

 

 光輝達は、出動時における兵や騎士達の集合場所に向けて走り出した。すぐ傍の三日月のように裂けた笑みには気づかずに……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 光輝達が、緊急時に指定されている屋外の集合場所に訪れたとき、既にそこには多くの兵士と騎士が整然と並び、前の壇上にはハイリヒ王国騎士団副団長のホセ・ランカイドが声高に状況説明を行っているところだった。月光を浴びながら、兵士達は、みな青ざめた表情で呆然と立ち尽くし、覇気のない様子でホセを見つめていた。

 

 と、広場に入ってきた光輝達に気がついたホセが言葉を止めて光輝達を手招きする。

 

「……よく来てくれた。状況は理解しているか?」

「はい、ニアから聞きました。えっと、メルドさんは?」

 

「団長は、少し、やる事がある。それより、さぁ、我らの中心へ。勇者が我らのリーダーなのだから……」

 

 ホセは、そう言って光輝達を整列する兵士達の中央へ案内した。居残り組のクラスメイトが、「えっ? 俺達も?」といった風に戸惑った様子を見せたが、無言の兵達がひしめく場所で何か言い出せるはずもなく流されるままに光輝達について行った。

 

 そして、光輝達が、ちょうど周囲の全てを兵士と騎士に囲まれたとき、ホセが演説を再開した。

 

「みな、状況は切迫している。しかし、恐れることは何もない。我々に敵はない。我々に敗北はない。死が我々を襲うことなど有りはしないのだ。さぁ、みな、我らが勇者を歓迎しよう。今日、この日のために我々は存在するのだ。さぁ、剣をとれ」

 

 兵士が、騎士が、一斉に剣を抜刀し掲げる。

 

「始まりの狼煙だ。注視せよ」

 

 ホセが 懐から取り出した何かを頭上に掲げた。彼の言葉に従い、兵士達だけでなく光輝達も思わず注目する。

 

 そして……

 

カッ!!

 

 光が爆ぜた。

 

 そして、次の瞬間……

 

ズブリッ

 

 そんな生々しい音が無数に鳴り、

 

「あぐっ?」

「がぁ!」

「ぐふっ!?」

 

 次いで、あちこちからくぐもった悲鳴が上がった。

 

 先程の、光に驚いたような悲鳴ではない。苦痛を感じて、意図せず漏れ出た苦悶の声だ。そして、その直後に、ドサドサと人が倒れる音が無数に聞こえ始める。

 

 そして、閃光が収まり、回復しだした視力で周囲を見渡した雫が見たのは、クラスメイト達が全員、背後から兵士や騎士達の剣に貫かれた挙句、地面に組み伏せられている姿だった。

 

「な、こんな……」

 

「あらら、流石というべきかな? ……ねぇ、雫?」

「え? えっ……何をっ!?」

 

 そう、瀕死状態のクラスメイト達が倒れ伏す中、たった一人だけ平然と立っている生徒がいたのだ。その生徒は、普段とはまるで異なる、どこか粘着質な声音で雫に話しかける。余りに雰囲気が変わっているため、雫は言葉を詰まらせつつ反射的に疑問を投げ掛けようとした。

 

 その瞬間、再び、雫の背後から一人の騎士が剣を突き出してきた。

 

「くっ!?」

 

 よく知る相手の豹変に動揺しつつも、やはり辛うじてかわす雫に、その生徒は呆れたような視線を向ける。

 

「これも避けるとか……ホント、雫って面倒だよね?」

「何を言ってッ!」

 

 更に激しく、そして他の兵士や騎士も加わり突き出される剣の嵐。雫は、それらも全て凌ぐが、突然、自分の名が叫ばれてそちらに視線を向ける。

 

「雫様! 助けて……」

「ニア!」

 

「ニア、無事?」

「雫様……」

 

 倒れ込んでいるニアを支え起こしながら、周囲に警戒の眼差しを向ける雫。

 

 そんな雫の名を、ニアはポツリと呟き両手を回して縋りつく。

 

 そして、

 

……雫の背中に懐剣を突き立てた。

 

「あぐっ!? ニ、ニア? ど、どうして……」

「……」

 

「アハハハ、流石の雫でも、まさかその子に刺されるとは思わなかった? うんうん、そうだろうね? だから、わざわざ用意したんだし?」

 

 背中に感じる灼熱の痛みと、頬に感じる地面の冷たさに歯を食いしばりながら、雫は、ニアも他の正気でない兵士達と同じく何かをされたのだと悟る。そして、認めたくはないが、この惨状を作り出したであろう、今も、ニヤニヤと普段では考えられない嫌らしい笑みを浮かべる親友の名を呼んだ。

 

「どういうこと…なの……恵里」

 

 そう、その人物は、控えめで大人しく、気配り上手で心優しい、雫達と苦楽を共にしてきた親友の一人、中村恵里その人だった。

 

 恵里は、雫の途切れがちな質問には答えずに、何がおかしいのかニヤニヤと笑いながら光輝の方へ歩み寄った。そして、眼鏡を外し、光輝の首に嵌められた魔力封じの一つである首輪をグイっと引っ張ると艶然と微笑む。

 

「え、恵里…っ…一体…ぐっ…どうしたんだ……」

 

 雫達幼馴染ほどではないが、極々親しい友人で仲間の一人である恵里の余りの雰囲気の違いに、体を貫く剣の痛みに堪えながら必死に疑問をぶつける光輝。だが、恵里はどこか熱に浮かされたような表情で光輝の質問を無視する。

 

 そして、

 

「アハ、光輝くん、つ~かま~えた~」

 

 そんな事を言いながら、光輝の唇に自分のそれを重ねた。妙な静寂が辺りを包む中、ぴちゃぴちゃと生々しい音がやけに明瞭に響く。恵里は、まるで長年溜め込んでいたものを全て吐き出すかのように夢中で光輝を貪った。

 

 光輝は、わけがわからず必死に振りほどこうとするが、数人がかりで押さえつけられている上に、魔力封じの枷を首輪以外にも、他の生徒達同様に手足にも付けられており、また体を貫く剣のせいで力が入らずなすがままだった。

 

 やがて満足したのか、恵里が銀色の糸を弾きながら唇を離す。そして、目を細め恍惚とした表情で舌舐りすると、おもむろに立ち上がり、倒れ伏して血を流す生徒達を睥睨した。苦悶の表情や呆然とした表情が並んでいる。そんな光景に満足気に頷くと、最後に雫に視線を定めて笑みを浮かべた。

 

「とまぁ、こういう事だよ。雫」

「っ…どういう事よ…こふっ…」

 

「うーん、わからないかなぁ? 僕はね、ずっと光輝くんが欲しかったんだ。だから、そのために必要な事をした。それだけの事だよ?」

「……光輝が好きなら…告白でもすれば…こんな事…」

 

「ダメだよ、ダメ、ダ~メ。告白なんてダメ。光輝くんは優しいから特別を作れないんだ。周りに何の価値もないゴミしかいなくても、優しすぎて放っておけないんだ。だから、僕だけの光輝くんにするためには、僕が頑張ってゴミ掃除をしないといけないんだよ」

 

 そんな事もわからないの? と小馬鹿にするようにやれやれと肩を竦める恵里。ゴミ呼ばわりされても、余りの豹変ぶりに驚きすぎて怒りも湧いてこない。一人称まで変わっており、正直、雫には目の前にいる少女が初対面にしか見えなかった。

 

「ふふ、異世界に来れてよかったよ。日本じゃ、ゴミ掃除するのは本当に大変だし、住みにくいったらなかったよ。もちろん、このまま戦争に勝って日本に帰るなんて認めない。光輝くんは、ここで僕と二人、ず~とずぅ~~と暮らすんだから」

 

 クスクスと笑いながらそう語る恵里に、雫は、まさかと思いながら、ふと頭をよぎった推測を口からこぼす。

 

「…まさか…っ…大結界が簡単に…破られたのは……」

「アハハ、気がついた? そう、僕だよ。彼等を使って大結界のアーティファクトを壊してもらったんだ」

 

「君達を殺しちゃったら、もう王国にいられないし……だからね、魔人族とコンタクトをとって、王都への手引きと異世界人の殺害、お人形にした騎士団の献上を材料に魔人領に入れてもらって、僕と光輝くんだけ放っておいてもらうことにしたんだぁ」

「馬鹿な…魔人族と連絡なんて…」

 

 光輝がキスの衝撃からどうにか持ち直し、信じられないと言った表情で呟く。恵里は自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取るなんて不可能だと、恵里を信じたい気持ちから拙い反論をする。

 

 しかし、恵里はそんな希望をあっさり打ち砕く。

 

「【オルクス大迷宮】で襲ってきた魔人族の女の人。帰り際にちょちょいと、降霊術でね? 予想通り、魔人族が回収に来て、そこで使わせてもらったんだ。あの事件は、流石に肝が冷えたね。何とか殺されないように迎合しようとしたら却下されちゃうし……思わず、降霊術も使っちゃったし……怪しまれたくないから降霊術は使えないっていう印象を持たせておきたかったんだけどねぇ……まぁ、結果オーライって感じだったけど……」

 

 恵里の言葉通り、彼女は、魔人族の女に降霊術を施して、帰還しない事で彼女を探しに来るであろう魔人族にメッセージを残したのである。ミハイルがカトレアの死の真相を知っていたのはそういうわけだ。なお、魔人族からの連絡は、適当な〝人間〟の死体を利用している。

 

 恵里の話を聞き、彼女の降霊術を思い出して雫が唯でさえ血の気を失って青白い顔を更に青ざめさせた。

 

 降霊術は、死亡対象・・・・の残留思念に作用する魔法である。それを十全に使えることを秘匿したかったということは、実際は完璧に使えるということ。であるならば、雫達を包囲する幽鬼のような兵士や騎士、そして、自分を抑えるニアの様子から考えれば最悪の答えが出る。

 

「彼等の…様子が…おかしいのは……」

「もっちろん降霊術だよ~。既に、みんな死んでま~す。アハハハハハハ!」

 

 雫は、もたらされた非情な解答にギリッと歯を食いしばり、必死の反論をした。

 

「…嘘よ…降霊術じゃあ…受け答えなんて……できるはず…ない!」

「そこはホラ、僕の実力? 降霊術に、生前の記憶と思考パターンを付加してある程度だけど受け答えが出来るようにしたんだよ。僕流オリジナル降霊術〝縛魂〟ってところかな? ああ、それでも違和感はありありだよね~。一日でやりきれる事じゃなかったし、そこは僕もどうしたものかと悩んでいたんだけどぉ……ある日、協力を申し出てくれた人がいてね。銀髪の綺麗な人。計画がバレているのは驚いたし、一瞬、色々覚悟も決めたんだけど……その時点で告発してないのは確かだったし、信用はできないけど取り敢えず利用はできるかなぁ~って」

 

「実際、国王まで側近の異変をスルーしてくれたんだから凄いよね? 代わりに危ない薬でもキメてる人みたいになってたけど。まぁ、そのおかげで一気に計画を早める事ができたんだ。くふふ、大丈夫! 皆の死は無駄にしないから。ちゃ~んと、再利用して魔人族の人達に使ってもらえるようにするからね!」

 

 これは、言ってみれば魂への干渉だ。すなわち、恵里は、末端も末端ではあるが自力で神代魔法の領域に手をかけたのである。まさにチート、降霊術が苦手などとよく言ったもので、その研鑽と天才級の才能は驚愕に値するものだ。あるいは、凄まじいまでの妄執が原動力なのかもしれない。

 

 ちなみに、恵里が即座にクラスメイト達を殺さないのは、この〝縛魂〟が、死亡直後に一人ずつにしか使用できないからである。

 

「ぐぅ…止めるんだ…恵里! そんな事をすれば……俺は……」

「僕を許さない? アハハ、そう言うと思ったよ。光輝くんは優しいからね。それに、ゴミは掃除してもいくらでも出てくるし……だから、光輝くんもちゃんと〝縛魂〟して、僕だけの光輝くんにしてあげるからね? 他の誰も見ない、僕だけを見つめて、僕の望んだ通りの言葉をくれる! 僕だけの光輝くん! あぁ、あぁ! 想像するだけでイってしまいそうだよ!」

 

 恍惚とした表情で自分を抱きしめながら身悶える恵里。そこに、穏やかで気配り上手な図書委員の女の子の面影は皆無だった。クラスメイト達は思う。彼女は狂っていると。〝縛魂〟は、降霊術よりも死者の使い勝手を良くしただけで術者の傀儡、人形であることに変わりはない。それが分かっていて、なお、そんな光輝を望むなど正気とは思えなかった。

 

「嘘だ……嘘だよ! ぅ…エリリンが、恵里が…っ…こんなことするわけない! ……きっと…何か…そう…操られているだけなんだよ! っ…目を覚まして恵里!」

 

 近藤は、嫌な予感でも感じたのか「ひっ」と悲鳴をあげて少しでも近づいてくる恵里から離れようとした。当然、完璧に組み伏せられ、魔力も枷で封じられているので身じろぎする程度のことしか出来ない。

 

 近藤の傍に歩み寄った恵里は、何をされるのか察して恐怖に震える近藤に向かって再び、ニッコリと笑みを向けた。光輝達が、「よせぇ!」「やめろぉ!」と制止の声を上げる。

 

「や、やめっ!? がぁ、あ、あぐぁ…」

 

 近藤のくぐもった悲鳴が上がる。近藤の背中には心臓の位置に再び剣が突き立てられていた。ほんの少しの間、強靭なステータス故のしぶとさを見せてもがいていた近藤だが、やがてその動きを弱々しいものに変えていき、そして……動かなくなった。

 

 恵里は、その近藤に手をかざすと今まで誰も聞いたことのない詠唱を呟くように唱える。詠唱が完了し〝縛魂〟の魔法名を唱え終わったとき、半透明の近藤が現れ自身の遺体に重なるように溶け込んでいった。

 

 直後、今まで近藤を拘束していた騎士が立ち上がり一歩下がる。光輝達が固唾を呑む中、心臓を破壊され死亡したはずの近藤は、ゆっくりのその身を起こし、周囲の兵士や騎士達同様に幽鬼のような表情で立ち上がった。

 

「は~い。お人形一体出来上がり~」

 

 無言無表情で立ち尽くす近藤を呆然と見つめるクラスメイト達の間に、恵里の明るい声が響く。たった今、人一人を殺した挙句、その死すら弄んだ者とは思えない声音だ。

 

「え、恵里……なんで……」

 

 ショックを受けたように愕然とした表情で疑問をこぼす鈴に、恵里は追い打ちとも言える最悪の語りを聞かせる。

 

「ねぇ、鈴? ありがとね? 日本でもこっちでも、光輝くんの傍にいるのに君はとっても便利だったよ?」

「……え?」

「参るよね? 光輝くんの傍にいるのは雫と香織って空気が蔓延しちゃってさ。不用意に近づくと、他の女共に目付けられちゃうし……向こうじゃ何の力もなかったから、嵌めたり自滅させたりするのは時間かかるんだよ。その点、鈴の存在はありがたかったよ。馬鹿丸出しで何しても微笑ましく思ってもらえるもんね? 光輝くん達の輪に入っても誰も咎めないもの。だから、〝谷村鈴の親友〟っていうポジションは、ホントに便利だったよ。おかげで、向こうでも自然と光輝くんの傍に居られたし、異世界に来ても同じパーティーにも入れたし……うん、ほ~んと鈴って便利だった! だから、ありがと!」

「……あ、う、あ……」

 

 衝撃的な恵里の告白に、鈴の中で何かがガラガラと崩れる音が響いた。親友と築いてきたあらゆるものが、ずっと信じて来たものが、幻想だったと思い知らされた鈴。その瞳から現実逃避でもするように光が消える。

 

「恵里っ! あなたはっ!」

 

 余りの仕打ち、雫が怒声を上げる。傀儡と化したニアが必死にもがく雫の髪を掴んで地面に叩きつける。しかし、それがどうしたと言わんばかりに、雫の瞳は怒りで燃え上がっていた。

 

「ふふ。怒ってるね? 雫のその表情、すごくいいよ。僕ね、君のこと大っ嫌いだったんだ。光輝くんの傍にいるのが当然みたいな顔も、自分が苦労してやっているっていう上から目線も、全部気に食わなかった。だからね、君には特別に、とっても素敵な役目をあげる」

「っ…役目……ですって?」

「くふっ、ねぇ? 久しぶりに再会した親友に、殺されるってどんな気持ちになるのかな?」

 

 その一言で、恵里が何をしようとしているのか察した雫の瞳が大きく見開かれる。

 

「…まさか、香織をっ!?」

 

 よく出来ました! とでも言うように、恵里はパチパチと手を鳴らし、口元にニヤついた笑みを貼り付けた。恵里は傀儡にした雫を使って、香織を殺害しようとしているのだ。

 

「南雲が持っていくなら放置でも良かったんだけど……あの子をお人形にして好きにしたい! って人がいてね~。色々手伝ってもらったし、報酬にあげようかなって。僕、約束は守る性質だからね! いい女でしょ?」

「ふ、ふざけっ! ごふっ…あぐぅあ!?」

 

 怒りのままに、自ら傷口を広げてでも動こうとする雫に、ニアが更に剣を突き刺した。

 

「アハ、苦しい? 痛い? 僕は優しいからね。今すぐ、楽にして上げる……」

 

 今度は雫の番だというように、ニヤニヤと笑みを浮かべながら歩み寄る恵里。雫が近藤と同じように殺されて傀儡にされる光景を幻視したのか光輝達が必死の抵抗を試みる。

 

 特に、光輝の抵抗は激しく、必死に制止の声を張り上げながら、合計五つも付けられた魔力封じの枷に亀裂を入れ始めた。〝限界突破〟の〝覇潰〟でも使おうというのか、凄まじい圧力がその体から溢れ出している。

 

 しかし、脳のリミッターが外れ生前とは比べものにならないほどの膂力を発揮する騎士達と関節を利用した完璧な拘束により、どうあっても直ぐには振りほどけない。光輝の表情に絶望がよぎった。

 

 雫は、出血のため朦朧としてきた意識を必死に繋ぎ留め、せめて最後まで眼だけは逸らしてやるものかと恵里を激烈な怒りを宿した眼で睨み続けた。

 

 それを、やはりニヤついた笑みで見下ろす恵里は、最後は自分で引導を渡したかったのか、近くの騎士から剣を受け取りそれを振りかぶった。

 

「じゃあね? 雫。君との友達ごっこは反吐が出そうだったよ?」

 

 雫は、恵里を睨みながらも、その心の内は親友へと向けていた。届くはずがないと知りながら、それでも、これから起こるかもしれない悲劇を思って、世界のどこかを旅しているはずの親友に祈りを捧げる。

 

(ごめんなさい、香織。次に会った時はどうか私を信用しないで……生き残って……幸せになって……)

 

 逆手に持たれた騎士剣が月の光を反射しキラリと光った。そして、吸血鬼に白木の杭を打ち込むが如く、鋭い切っ先が雫の心臓を目指して一気に振り下ろされた。

 

 迫る凶刃を見つめながら、雫は、なお祈る。どうか親友が生き残れますように、どうか幸せになりますように。私は先に逝くけれど、死んだ私は貴女を傷つけてしまうだろうけど、貴女の傍には彼がいるからきっと大丈夫。強く生きて、愛しい人と幸せに……どうか……

 

 色褪せ、全てが遅くなった世界で雫の脳裏に今までの全てが一瞬で過ぎっていく。ああ、これが走馬灯なのね……最後に、そんなことを思う雫に突き下ろされた凶刃は、彼女の命を

 

…………奪わなかった。

 

「え?」

「え?」

 

 雫と恵里の声が重なる。

 

 恵里が突き下ろした騎士剣は、掌くらいの大きさの輝く障壁に止められていた。何が起きたのかと呆然とする二人に、ここにいるはずのない者の声が響く。ひどく切羽詰まった、焦燥に満ちた声だ。雫が、その幸せを願った相手、親友の声だ。

 

「雫ちゃん!」

 

 その声と共に、いつの間にか展開されていた十枚の輝く障壁が雫を守るように取り囲んだ。そして、その内の数枚がニアと恵里の眼前に移動しカッ! と光を爆ぜた。バリアバーストモドキとでもいうべきか、障壁に内包された魔力を敢えて暴発させて光と障壁の残骸を撒き散らす技だ。

 

「っ!?」

 

 咄嗟に両腕で顔を庇った恵里だが、その閃光に怯んでバランスを崩した瞬間に砕け散った障壁の残骸に打ち付けられて後方へと吹き飛ばされた。

 

 雫を抑えていたニアも同様に後方へとひっくり返る。すぐさま起き上がって雫を拘束しようとするものの、直後、光の縄が地面から伸び一瞬で縛り付けられてしまった。

 

 雫が、突然の事態に唖然としつつも、自分の名を呼ぶ声の方へ顔を向ける。

 

 そして、周囲を包囲する騎士達の隙間から、ここにいるはずのない親友の姿を捉えた。夢幻ではない。確かに、香織が泣きそうな表情で雫を見つめていた。きっと、雫達の惨状と、ギリギリで間に合ったことへの安堵で涙腺が緩んでしまったのだろう。

 

「か、香織……」

「雫ちゃん! 待ってて! 直ぐに助けるから!」

 

 香織は、広場の入口から兵士達に囲まれる雫達へ必死に声を張り上げた。そして、急いで全体回復魔法を詠唱し始める。光系最上級回復魔法〝聖典〟だ。クラスメイト達の状態と周囲を状況から一気に全員を癒す必要があると判断したのだ。

 

「っ!? なんで、君がここにいるのかなぁ! 君達はほんとに僕の邪魔ばかりするね!」

 

「みなさん! 一体、どうしたのですか! 正気に戻って! 恵里! これは一体どういうことです!?」

 

 最上級回復魔法を唱える香織を守ったのは、香織のすぐ後ろにいたリリアーナだった。自分と香織を包むように球状の障壁が二人を守る。

 

「チッ、仕方ない、かな?」

 

 その焦り故か、恵里はクラスメイト達の傀儡化を諦めて、癒される前に殺してしまおうと決断した。

 

 と、その時、突如、リリアーナの目の前で障壁に騎士剣を振るっていた騎士の一人が首を落とされて崩れ落ちた。

 

 その倒れた騎士の後ろから姿を見せたのは……檜山大介だった。

 

「白崎! リリアーナ姫! 無事か!」

「檜山さん? あなたこそ、そんな酷い怪我で!?」

 

ぐらりとよろめき、障壁に手をついた檜山に、リリアーナは慌てて障壁の一部を解いて檜山を中に入れた。ドサリッと倒れこむ檜山。しかし、その瞬間、雫の焦燥に満ちた叫びが響き渡る。

 

「ダメよ! 彼から離れてぇ!」

 

 血を吐きながらの必死の警告。雫は気がついたのだ。なぜ、光輝すら抜け出せない拘束を檜山だけ抜け出せたのか、恵里が言っていた香織を欲する人間が誰なのか……リリアーナの障壁が香織の詠唱完了まで保つことは明らかだ。にもかかわらず、敢えて助けに行ったふりをした理由は……

 

「きゃぁあ!?」

「あぐぅ!?」

 

 雫の警告は間に合わなかった。

 

 リリアーナの障壁が解け、そこに広がった光景は、殴り飛ばされて地面に横たわるリリアーナの姿と背後から抱き締められるようにして胸から刃を突き出す香織の姿だった。

 

「香織ぃいいいいーー!!」

 

 雫の絶叫が響き渡る。

 

 檜山は、瞳に狂気を宿しながら、香織を背後から抱き締めて首筋に顔を埋めている。片手は当然、背中から香織の心臓を貫く剣を握っていた。

 

 檜山は、最初から怪我などしていなかったのだ。勇者である光輝の土壇場での爆発力や不測の事態に備えてやられたふりをして待機していたのである。そして、香織達の登場に驚きつつも、このままでは光輝達を回復されてしまうと判断し、一芝居打ったのだ。

 

「ひひっ、やっと、やっと手に入った。……やっぱり、南雲より俺の方がいいよな? そうだよな? なぁ、しらさ…いや、香織? なぁ? ぎひっ、おい、中村ァ、さっさとしろよぉ。契約だろうがぁ」

 

 恵里が、檜山の言葉に肩を竦める。そして、香織に〝縛魂〟するため歩き出した。

 

 直後、絶叫が響き渡る。

 

「がぁああああ! お前らァーー!!」

 

 光輝だ。怒髪天を衝くといった様子で、体をギシギシと軋ませて必死に拘束を解こうとする。香織が殺されたと思ったようで、半ば、我を失っているようだ。五つも付けた魔力封じの枷がますます亀裂を大きくしていく。途轍もない膂力だ。しかし、それでも枷と騎士達の拘束を解くにはまだ足りない。

 

 と、その様子を冷めた目で見ていた檜山の耳にボソボソと呟く声が聞こえてきた。見れば、何と香織が致命傷を負いながら何かを呟いているのだ。檜山は、それが気になって口元に耳を近づける。そして、聞こえてきたのは……

 

「――――ここ…に…せいぼ…は……ほほえ…む…〝せい…てん〟」

 

「あぁああああ!!」

 

 光輝の絶叫が迸る。

 

 癒された体が十全の力を発揮し、ただでさえ亀裂が入って脆くなっていた枷をまとめて破壊した。同時に、その体から彼の激しい怒りをあらわすように純白の光が一気に噴き上がる。激しい光の奔流は、光輝を中心に纏まり彼の能力を五倍に引き上げた。〝限界突破〟の最終派生〝覇潰〟である。

 

「お前ら……絶対に許さない!」

 

 光輝を取り押さえようとした騎士達だったが、光輝は、自分を突き刺していた騎士剣を奪い取るとそれを無造作に振るい、それだけで傀儡兵達を簡単に両断していった。そして、手を突き出し聖剣を呼ぶと、拘束された際に奪われていた聖剣がくるくると空中を回転しながら飛び光輝の手の中に収まった。

 

 

その時、遂に、光輝を囲む傀儡兵達がやられ包囲網に穴ができた。光輝は、怒りの形相で、恵里と檜山を睨みつけ光の奔流を纏いながら一気に襲いかかった。

 

 だが、そこで、恵里は光輝の弱点につけ込んだ切り札を登場させる。それにより、恵里の予測通り、光輝の剣は止まってしまった。

 

 光輝が震える声で、その切り札の名を呼ぶ。

 

「そ、そんな……メルドさん…まで……」

 

 そう、光輝の剣を正面から受けて止めていたのは騎士団団長のメルド・ロギンスその人だったのだ。

 

「……光輝…なぜ、俺に剣を向ける…俺は、こんなこと、教えてはいないぞ…」

「なっ…メルドさん……俺は」

「光輝! 聞いてはダメよ! メルドさんももうっ!」

 

 動揺する光輝に雫の叱咤が飛ぶ。ハッと正気を取り戻した時には、メルドの鋭い剣撃が唐竹に迫っていた。咄嗟に、聖剣でその一撃を受ける。凄まじい衝撃と共に、光輝の足元に亀裂が走った。どうやら王国最強の騎士も脳のリミッターが外れているらしい。

 

「……メルドさん……すみません!」

 

 光輝は表情を悲痛に歪めながらも、聖剣を一気に振り抜きメルドに怒涛の斬撃を繰り出した。死して尚、メルドの剣技は冴え渡っており、〝覇潰〟状態の光輝の攻撃を辛うじて凌いでいる。それは、メルドの登場で、光輝の沸騰した頭が少し冷えた為に、人殺しへの忌避感が僅かに顔を出し剣筋が鈍ったというのもある。しかし、それでも今の光輝に勝てるはずもなく、遂に、メルドの騎士剣は弾き飛ばされてしまった。

 

 光輝は、一気に踏み込み、ただ我武者羅にメルドの首目掛けて聖剣を横薙ぎに振るった。

 

 だが、聖剣がメルドの首に吸い込まれる寸前、

 

「……助けてくれ……光輝」

「っ!?」

 

 メルドの言葉に、思わず光輝の剣が止まってしまう。有り得ないと思っていても、もしや、メルド団長は操られているだけで死んでいないのではないか? まだ助けられるのではないか? そんな思いが捨てきれない。

 

 これが光輝の弱点。ようは半端なのだ。助けるなら助ける。殺すなら殺す。どちらを選んでもいいが、そこには明確な決意と覚悟が必要だ。光輝にはそれがない。与えられた情報を元に、その場その場で都合のいい解釈をする。だから、普段は自分の正しさを疑わないのに、一番大事なときに迷ってしまう。

 

 メルドが、傍に落ちていた騎士剣を足で跳ね上げる。一瞬で、その手に取り戻した凶器で、再び光輝と切り結んだ。しかし、光輝に先程までの圧倒的な勢いはなく、むしろメルドに押されてしまっている。

 

「ッ!? ガハッ!」

 

 メルドの技をどうにか凌いだ直後、突然、光輝の体から力が抜けて両膝が折れた。〝覇潰〟のタイムリミットではない。まだ、そこまで時間は経っていない。異変はそれだけに留まらず、遂には盛大に吐血までしてしまった。ビチャビチャと地面に染み込む血が、光輝の混乱に拍車をかける。

 

「ふぅ~、やっと効いてきたんだねぇ。結構、強力な毒なんだけど……流石、光輝くん。団長さんを用意しておかなかったら僕の負けだったかも」

 

 

「くふふ、王子様がお姫様をキスで起こすなら、お姫様は王子様をキスで眠りに(誘い殺して)自分のものに……何て展開もありだよね? まぁ、万一に備えてっていうのもあるけどねぇ~」

 

 

その言葉で光輝も気がついた。最初に恵里がしたキス。あの時、一緒に毒薬を飲まされたのだろうと。恵里自身は、先に解毒薬でも飲んでいたのだろう。まさか、口移しで毒を飲まされたとは思わなかった。まして、好意を示しながらなど誰が想像できようか。光輝は、改めて自分達が知っている恵里は最初からどこにもいなかったのだと理解した。

 

 毒が回り、完全に動けなくなった光輝を見て、恵里は満足そうに笑うと、くるりと踵を返して香織のもとへ向かった。そろそろ〝縛魂〟可能なタイムリミットが過ぎてしまうからだ。檜山が鬼のような形相で恵里を催促している。

 

 香織が死してなお汚される。そのことに光輝も雫も焦燥と憤怒、そして悔しさを顔に浮かべて必死に止めようとする。

 

 しかし、無常にも恵里の手は香織にかざされてしまった。恵里の詠唱が始まる。数十秒後には、檜山の言うことを何でも従順に聞く香織人形の出来上がりだ。雫達が激怒を表情に浮かべ、檜山が哄笑し、恵里がニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

 そして……その声は絶望渦巻く裏切りの戦場にやけに明瞭に響いた。

「えー!?」

「……一体、どうなってやがる?」

 

 それは、白髪眼帯の少年、南雲ハジメと、カービィ声だった。

 

ハジメの登場に、まるで時間が停止したように全員が動きを止めた。それは、ハジメが凄絶なプレッシャーを放っていたからだ。

 

 本来なら、傀儡兵達に感情はないためハジメのプレッシャーで動きを止めることなどないのだが、術者である恵里が、生物特有の強者の傍では身を潜めてやり過ごすという本能的な行動を思わずとったため、傀儡兵達もつられてしまったのである。

 

 

ハジメは、自分を注視する何百人という人間の視線をまるで意に介さず、周囲の状況を睥睨する。クラスメイト達を襲う大量の兵士と騎士達、一塊になって円陣を組んでいるクラスメイト達、メルドの前で血を吐きながら倒れ伏す光輝、黒刀を片手に膝をついている雫、硬直する恵里と檜山、そして……檜山に抱き締められながら剣を突き刺され、命の鼓動を止めている香織……

 

その姿を見た瞬間、この世のものとは思えないおぞましい気配が広場を一瞬で侵食した。体中を虫が這い回るような、体の中を直接かき混ぜられ心臓を鷲掴みにされているような、怖気を震う気配。圧倒的な死の気配だ。血が凍りつくとはまさにこのこと。一瞬で体は温度を失い、濃密な殺意があらゆる死を幻視させる。

 

「カービィ、」

「わかった……コピー能力クリエイト『ウルトラソード、ウルトラソード、ジェット、リバイブ』」

 

 刹那、ハジメとカービィの姿が消えた。

 

そして、誰もが認識できない速度で移動したハジメは、轟音と共に香織の傍に姿を見せる。轟音は、檜山が吹き飛び広場の奥の壁を崩壊させながら叩きつけられた音だった。ハジメは、一瞬で檜山の懐に踏み込むと香織に影響が出ないように手加減しながら殴り飛ばしたのである。

 

 

本来なら、檜山如きは一撃で体が弾け飛ぶのだが、その手加減のおかげで今回は全身数十箇所の骨を砕けさせ内臓をいくつか損傷しただけで済んだ。今頃、壁の中で気を失い、その直後痛みで覚醒するという地獄を繰り返しているだろう。

 

 ハジメは、片腕で香織を抱き止めると、そっと顔にかかった髪を払った。そして、大声で仲間を呼ぶ。

 

「ティオ 頼む!」

「任せろ!」

「し、白崎さんっ!」

 

ハジメの呼びかけに応えて、一緒にやって来たティオが我を取り戻したように急いで駆けつけた。傍らの愛子も血相を変えて香織の傍にやって来る。ハジメから香織を受け取ったティオは急いで詠唱を始めた。

 

「アハハ、無駄だよ。もう既に死んじゃってるしぃ。まさか、君達がここに来てるなんて……いや、香織が来た時点で気付くべきだったね。……うん、檜山はもうダメみたいだし、南雲にあげるよ? 僕と敵対しないなら、魔法で香織を生き返らせてあげる。擬似的だけど、ずっと綺麗なままだよ? 腐るよりいいよね? ね?」

 

カービィは傀儡を瞬間ごとにありえないほどの数を倒していく。

 

 

「で?」

「っ……」

 

 ハジメは、恵里が何をしたのか詳しい事は知らない。ただ、敵だと理解しただけだ。これが唯の敵なら、無慈悲に直ちに殺して終わりだった。しかし、恵里は決して手を出してはいけない相手に手を出したのだ。もはや、ただ殺すだけでは足りない。死ぬ前に〝絶望〟を……

 

 だから、ハジメは問うたのだ。お前如きに何ができる? 何もできないだろう? と。

 

 それを正確に読み取った恵里は、ギリッと歯を食いしばった。唇の端が切れて血が滴り落ちる。今の今まで自分こそがこの場の指揮者で、圧倒的有利な立場にいたはずなのに、一瞬で覆された理不尽とその権化たるハジメに憎悪と僅かな畏怖が湧き上がる。

 

 恵里が、激情のまま思わず呪う言葉を吐こうとした瞬間、ゴリッと額に銃口が押し当てられた。

 

 認識すら出来なかった早抜きに、呪いの言葉を呑み込む恵里。

 

「……てめぇの気持ちだの動機だの、そんな下らないこと聞く気はないんだよ。もう何もないなら……死ね」

 

 ハジメの指が引き金に掛かる。恵理は、ハジメの目に、クラスメイトである自分を殺害すること、香織を傀儡に出来ないことへの躊躇いが微塵もない事を悟った。

 

――死ぬ

 

 恵里の頭を、その言葉だけが埋め尽くす。しかし、恵里の悪運はまだ尽きていなかったらしい。

 

 恵里の脳天がぶち抜かれようとした瞬間、ハジメ目掛けて火炎弾が飛来したからだ。かなりの威力が込められているらしく白熱化している。しかし、ハジメにはやはり通用しない。ドンナーの銃口を火炎弾に向けるとピンポイントで魔法の核を撃ち抜き、あっさり霧散させてしまった。

 

「なぁぐぅもぉおおおー!!」

 

 その霧散した火炎弾の奥から、既に人語かどうか怪しい口調でハジメの名を叫びながら飛び出してきたのは満身創痍の檜山だった。手に剣を持ち、口から大量の血を吐きながら、砕けて垂れ下がった右肩をブラブラとさせて飛びかかってくる。もはや、鬼の形相というのもおこがましい、醜い異形の生き物にしか見えなかった。

 

「…うるせぇよ」

 

 ハジメは、煩わしそうに飛びかかって来た檜山にヤクザキックをかます。ドゴンッ! という爆音じみた衝撃音が響き、檜山の体が宙に浮いた。吹き飛ばなかったのは衝撃を余すことなく体に伝えたからだ。

 

 そして、ハジメは、宙に浮いた檜山に対して、真っ直ぐ天に向けて片足を上げると、そのまま猛烈な勢いで振り下ろした。まるで薪を割る斧の一撃の如き踵落としは、檜山の頭部を捉えて容赦なく地面に叩きつけた。地面が衝撃でひび割れ、割れた檜山の額から鮮血が飛び散る。勢いよくバウンドした檜山は既に白目を向いて意識を失っていた。

 

 

「おま゛えぇ! おま゛えぇざえいなきゃ、がおりはぁ、おでのぉ!」

 

 溢れ出る怨嗟と殺意。人間とは、ここまで堕ちる事ができるのかと戦慄を感じずにはいられない余りの醜悪さ。常人なら見るに堪えないと視線を逸らすか、吐き気を催して逃げ去るだろう。

 

 しかし、ハジメは、檜山のそんな呪言もまるで意に介さない。それどころか、むしろ、ハジメの瞳には哀れみの色すら浮かんでいた。

 

「俺がいようがいまいが、結果は同じだ。少なくとも、お前が何かを手に入れられる事なんて天地がひっくり返ってもねぇよ」

「きざまぁのせいでぇ」

「人のせいにするな。お前が堕ちたのはお前のせいだ。日本でも、こっちでも、お前は常に敗者だった。〝誰かに〟じゃない。〝自分に〟だ。他者への不満と非難ばかりで、自分で何かを背負うことがない。……お前は、生粋の負け犬だ」

「ころじてやるぅ! ぜっだいに、おま゛えだけはぁ!」

 

「生き残れるか試してみな。まぁ、お前には無理だろうがな」

 

 ハジメは、更にダメ押しとばかりに空気すら破裂するような回し蹴りを叩き込んだ。檜山は、その衝撃でボギュ! と嫌な音を立てながら大きく広場の外へと吹き飛ばされていった。

 

 ハジメが、さっさと檜山を撃ち殺さず、急所を外して滅多打ちにしたのは無意識的なものだ。自分を奈落に落としたことへの復讐ではない、香織を傷つけられたことへの復讐だ。

 

 本人にどこまで自覚があるかはわからないが、楽に殺してやるものかというハジメの思いが現れたのである。それは、檜山を辛うじて生かしたまま、魔物の群れの中に蹴り飛ばした事にもあらわれていた。

 

 しかし、この檜山への対応が、恵里を殺すための時間を削いでしまった。恵里が逃げ出したのではない。ハジメ目掛けて極光が襲いかかったのだ。

 

「チッ……」

 

 ハジメは、舌打ちしつつその場から飛び退き、極光の射線に沿ってドンナーを撃ち放った。三度轟く炸裂音と同時に、極光という滝を登る龍の如く、三条の閃光が空を切り裂く。

 

 直後、極光の軌道が捻じ曲がり、危うく光輝を灼きそうになったが、寸前で恵里が飛び出し何とか回避したようだ。恵里としても、誤爆で光輝が跡形もなく消し飛ばされるなど冗談でも勘弁して欲しいところだろう。

 

 やがて、極光が収まり空から白竜に騎乗したフリードが降りてきた。

 

「……そこまでだ。白髪の少年。大切な同胞達と王都の民達を、これ以上失いたくなければ大人しくすることだ」

 

 どうやらフリードは、ハジメを光輝達や王国のために戦っているのだと誤解しているようである。周囲の気配を探れば、いつの間にか魔物が取り囲んでおり、龍太郎達や雫、そしてティオや愛子達を狙っていた。

 

 ハジメ達が本気で戦えば、甚大な被害が出ることを理解しているため人質作戦に出たのだろう。ハジメは知らないことだが、ユエに手酷くやられ、ハジメ達には敵わないと悟ったフリードの苦肉の策だ。なお、ユエに負わされた傷は、完治にはほど遠いものの、白鴉の魔物の固有魔法により癒されつつある。

 

 と、その時、香織に何かをしていたティオがハジメに向かって声を張り上げた。

 

「ご主人様よ! どうにか固定は出来たのじゃ! しかし、これ以上は……時間がかかる……出来ればユエかカービィの協力が欲しいところじゃ。固定も半端な状態ではいつまでも保たんぞ!」

 

「リバイブでも魂がちょっと離れすぎてるから難しいよ。」

 

 

「ほぉ、新たな神代魔法か……もしや【神山】の? ならば場所を教えるがいい。逆らえばきさっ!?」

 

 フリードが、ハジメ達を脅して【神山】大迷宮の場所を聞き出そうとした瞬間、ハジメのドンナーが火を噴いた。咄嗟に、亀型の魔物が障壁を張って半ば砕かれながらも何とか耐える。フリードは、視線を険しくして、周囲の魔物達の包囲網を狭めた。

 

「どういうつもりだ? 同胞の命が惜しくないのか? お前達が抵抗すればするほど、王都の民も傷ついていくのだぞ? それとも、それが理解できないほど愚かなのか? 外壁の外には十万の魔物、そしてゲートの向こう側には更に百万の魔物が控えている。お前達がいくら強くとも、全てを守りながら戦い続けることが……」

 

 その言葉を受けたハジメは、フリードに向けていた冷ややかな視線を王都の外――王都内に侵入しようとしている十万の大軍がいる方へ向けた。そして、無言で〝宝物庫〟から拳大の感応石を取り出した。訝しむフリードを尻目に感応石は発動し、クロスビットを操る指輪型のそれとは比べ物にならない光を放つ。

 

 猛烈に嫌な予感がしたフリードは、咄嗟に、ハジメに向けて極光を放とうとする。しかし、ハジメのドンナーによる牽制で射線を取れず、結果、それの発動を許してしまった。

 

――天より降り注ぐ断罪の光。

 

 そう表現する他ない天と地を繋ぐ光の柱。触れたものを、種族も性別も貴賎も区別せず、一切合切消し去る無慈悲なる破壊。大気を灼き焦がし、闇を切り裂いて、まるで昼間のように太陽の光で目標を薙ぎ払う。

 

キュワァアアアアア!!

 

 独特な調べを咆哮の如く世界に響き渡らせ大地に突き立った光の柱は、直径五十メートルくらいだろうか。光の真下にいた生物は魔物も魔人族も関係なく一瞬で蒸発し、凄絶な衝撃と熱波が周囲に破壊と焼滅を撒き散らす。

 

 ハジメが手元の感応石に魔力を注ぎ込むと、光の柱は滑るように移動し地上で逃げ惑う魔物や魔人の尽くを焼き滅ぼしていった。

 

 防御不能。回避不能。それこそ、フリードのように空間転移でもしない限り、生物の足ではとても逃げ切れない。外壁の崩れた部分から王都内に侵入しようとしていた魔物と魔人族が後方から近づいて来る光の柱を見て恐慌に駆られた様に死に物狂いで前に進み出す。

 

 光の柱は、ジグザグに移動しながら大軍を蹂躙し尽くし、外壁の手前まで来るとフッと霧散するように虚空へ消えた。

 

 後には、焼き爛れて白煙を上げる大地と、強大なクレーター。そして大地に刻まれた深い傷跡だけだった。ギリギリ、王都へ逃げ込む・・・・ことが出来た魔人族は安堵するよりも、唯々、一瞬にして消えてしまった自軍と仲間に呆然として座り込むことしか出来なかった。

 

 そして、思考が停止し、呆然と佇むことしか出来ないのは、ハジメの目の前にいるフリードや恵里、雫達も同じだった。

 

「愚かなのはお前だ、ド阿呆。俺がいつ、王国やらこいつらの味方だなんて言った? てめぇの物差しで勝手なカテゴライズしてんじゃねぇよ。戦争したきゃ、勝手にやってろ。ただし、俺の邪魔をするなら、今みたいに全て消し飛ばす。まぁ、百万もいちいち相手してるほど暇じゃないんでな、今回は見逃してやるから、さっさと残り引き連れて失せろ。お前の地位なら軍に命令できるだろ?」

 

 

「……この借りは必ず返すっ……貴様だけは、我が神の名にかけて、必ず滅ぼす!」

 

 フリードは踵を返すと、恵里を視線で促し白竜に乗せた。恵里は、毒を受けながらも、その強靭なステータスで未だ生きながらえている光輝を見て、妄執と狂気の宿った笑みを向けた。それは言葉に出さなくても分かる、必ず、光輝を手に入れるという意志の篭った眼差しだった。

 

 白竜に乗ったフリードと恵里がゲートの奥に消えると同時に、上空に光の魔弾が三発上がって派手に爆ぜた。おそらく、撤退命令だろう。同時に、ユエとシアが上空から物凄い勢いで飛び降りてきた。

 

「……ん、ハジメ。あのブ男は?」

「ハジメさん! あの野郎は?」

 

 どうやら二人共、フリードをボコりに追ってきたらしい。光の柱について聞かないのは、ハジメの仕業とわかっているからだろう。

 

 しかし、今は、そんな些事に構っている暇はないのだ。ハジメは、ユエとシアに香織の死を伝える。二人は、驚愕に目を見開いた。しかし、ハジメの目を見てすぐさま精神を立て直す。

 

 そして、ハジメは、その眼差しに思いを込めてユエに願った。ユエは、少ない言葉でも正確に自分の役割を理解すると力強く「……ん、任せて」と頷く。

 

 踵を返してティオのもとへ駆けつけた。そして、ハジメが香織をお姫様だっこで抱え上げ、そのまま広場を出ていこうとする。そこへ、雫がよろめきながら追いかけ必死な表情でハジメに呼びかけた。

 

「南雲君! 香織が、香織を……私……どうすれば……」

 

 雫は、今まで見たことがないほど憔悴しきった様子で、放っておけばそのまま精神を病むのではないかと思えるほど悲愴な表情をしていた。戦闘中は、まだ張り詰めた心が雫を支えていたが、驚異が去った途端、親友の死という耐え難い痛みに苛まれているのだろう。

 

 ハジメは、シアに香織を預けるとティオに先に行くように伝える。雫の様子を見て察したユエ達は、ティオの案内に従って広場を足早に出て行った。

 

 クラスメイト達が怒涛の展開に未だ動けずにいる中、ハジメは、女の子座りで項垂れる雫の眼前に膝を付く。そして、両手で雫の頬を挟み強制的に顔を上げさせ、真正面から視線を合わせた。

 

「八重樫、折れるな。俺達を信じて待っていてくれ。必ず、もう一度会わせてやる」

「南雲君……」

 

 光を失い虚ろになっていた雫の瞳に、僅かだが力が戻る。ハジメは、そこでフッと笑うと冗談めかした言葉をかけた。

 

「八重樫がこんなんじゃ、今後、誰が面倒事を背負ってくれるっていうんだ? 壊れた八重樫なんか見せたら香織までどうなるか……勘弁だぞ? 俺は八重樫みたいな苦労大好き人間じゃないんだ」

「……誰が苦労大好き人間よ、馬鹿。……信じて……いいのよね?」

 

 ハジメは、笑みを収めて真剣な表情でしっかりと頷く。

 

 間近で、ハジメの輝く瞳と見つめ合い、雫はハジメが本気だと理解する。本気で、既に死んだはずの香織をどうにかしようとしているのだ。その強靭な意志の宿った瞳に、雫は凍てついた心が僅かに溶かされたのを感じた。

 

 雫の瞳に、更に光が戻る。そして、ハジメに向かって同じ様に力強く頷き返した。それは、ハジメ達を信じるという決意のあらわれだ。

 

 ハジメは、雫が精神的に壊れてしまう危険性が格段に減った事を確認すると、〝宝物庫〟からマキシムトマトを取り出し、雫の手に握らせた。

 

「これって……」

「もう一人の幼馴染に飲ませてやれ。あまり良くない状態だ」

 

少し潤んだ瞳でハジメを見つめ「…ありがとう、南雲君」とお礼の言葉を述べた。ハジメは、お礼の言葉を受け取ると直ぐに立ち上がり踵を返す。そして、ユエ達を追って風の様に去っていった。

 

 

 




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第5章
後日の王都で…


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ハジメが広場を去っていった後、カービィによってマキシムトマトを飲まされた光輝はあっという間に全快した。

 

恵里に傀儡兵化されていた兵士は五百人規模に上り、広場にいてハジメにミンチにされた約三百人を除けば姿を消したようだ。おそらく、フリードの対軍用ゲートで一緒に魔人族の領土に行ったのだろう。

 

 後の調査でわかったことだが、王都の近郊に幾つかの巨大な魔石を起点とした魔法陣が地中の浅いところに作られていたようで、それがフリードの対軍用空間転移の秘密だったようだ。

 

また、国王を含む重鎮達は、恵里の傀儡兵により殺害されており、現在は、ハイリヒ王国国王の座は空席になっている。

 

 一番、混乱に拍車を掛けているのは聖教教会からの音沙汰がないことだ。

 

 

 王都が大変なことになっているというのに、戦時中も戦後も一切姿を見せない聖教教会に不安や不信感が広がっているようである。実は、教会関係者は全員、総本山ごと跡形もなく爆殺されました! などと聞いたら王都の人々はどう思うのだろうと、どこかの白髪少年は少々不謹慎な興味を抱いていた。

 

 また、魔人族の大軍を壊滅させた光の柱は、〝エヒト様〟が王都を救うため放った断罪の光である! という噂が広まっており、信仰心が強化されてしまったのは何とも痛い話である。ハジメは、噂でも流して、また〝豊穣の女神〟の仕業にでもしてやろうかと、愛子が聞けば頭を抱えそうなことを考えていた。

 

 

 【神山】から教会関係が降りて来ないことを不審に思って、当然、確かめに行こうとする者は多かった。しかし、王都の復興やその他もろもろのやらねばならない事が多すぎて、とても標高八千メートルを登山できる者などいなかった。ちなみに、直通のリフトはハジメ達が停止させているので、地道な登山しか総本山に辿り着く方法がない。

 

 

 そうして、色々なことが判明しつつ、魔人族の襲撃と手痛い仲間の裏切りや死から五日が経った。

 

 恵里と仲が良かった鈴は言わずもがな、その妄執と狂気がクラスメイトにもたらした傷は深かった。檜山と近藤の死に、いつも一緒だった中野や斎藤は引きこもりがちになっている。

 

 そんな心身共に深い傷を負った光輝達は、リリアーナ達の王都復興に力を貸しながらも、立ち直るために療養しつつ、あの日から姿を見せないハジメ達の事をチラチラと考えていた。

 

 前線組や愛ちゃん護衛隊のメンバーはハジメの実力を知っていたつもりだが、それでも光の柱で大軍を殲滅したような圧倒的な力までは知らず、改めて、隔絶した力の差を感じて思うところが多々あった。

 

 光輝達ですらそうなのだから、居残り組にとっては衝撃的な出来事だった。帰還したメンバーからハジメの生存や実力のことは聞いていたが、実際のハジメの凄まじさは、自分達の理解が万分の一にも達していなかったことを思い知ったのだ。誰も彼も、ハジメの事や、連れて行かれた香織、ハジメの仲間の事が気になって仕方ないのである。

 

 そして、それが顕著なのが雫だ。やるべき事はしっかりやっているのだが、ふとした時に遠い目をして心ここにあらずといった様子になるのだ。香織の事を想っているのだろうということは誰の目にも明らかで、香織が死んだところを目撃していたクラスメイト達はどう接すればいいのか分からずにいた

 

 ハジメと雫の会話から、何やら香織が戻ってくるようなことを言っていたが、死者蘇生など本当に出来るのか半信半疑どころか無理だとしか思えなかったので、安易な慰めも出来なかったのだ。

 

よもや、恵里のように生きた人形にでもするのではないかと邪推し、その場合、雫を更に傷つけることになるのは容易に想像が付くため、特に光輝などは露骨にハジメ達を警戒していた。

 

 光輝自身も、二度に渡って何も出来ずハジメに救われたという事実に相当落ち込んでおり、自分とハジメの差や香織を連れて行かれたこと(光輝の中ではそういう認識)も相まって、ハジメに対してはいい感情も持てていなかった。

 

 それが、いわゆる〝嫉妬〟であるとは、光輝自身自覚がない。仮に、気が付いたとしても認めることは容易ではないだろう。認めて、その上で前に進めるか、やはりご都合解釈で目を逸らすか……光輝次第である。

 

 

 ちなみに、愛子は当然、総本山がどうなったのか詳しく、それはもう誰よりも詳しく知っているが頑なに口を閉ざしている。

 

 それは、ハジメ達の邪魔をしないためであり、同時に、自分のしたことを思い出して口が重くなるからだ。予想外の結果だったとはいえ、覚悟を決めていたのは本当だ。なので、ハジメ達が帰ってきたらリリアーナ達に告白するつもりである……おまわりさん、私です、と。

 

 愛子は、明るく振舞っているが、内心、戦々恐々としていた。自分が、ティオの幇助とはいえ勢い余って総本山を崩壊させ、イシュタル達や神殿騎士達をまとめて爆殺してしまったと生徒達が知ったら、果たして彼等は自分をどう思うだろうかと。

 

なお、デビッド達、愛子護衛隊の神殿騎士達は健在だったりする。というのも、愛子が姿を消してから、何度も上層部に〝会わせろ!〟と抗議を行い、それが叶わないと知るや独自に捜索まで始める始末で、辟易した上層部が彼等を地上に降ろし本山への出入りを禁止したのである。そういうわけで、当時、本山にいなかったため命拾いしたのだ。彼等も、今のところ愛子の言に従い、復興のあれこれに精を出している。

 

 そんな風に、愛子も生徒達もそれぞれ心に重りをこびり付けたまま、今日も今日とて王都復興のためにリリアーナの手伝いをする。

 

 本日は、王国騎士団の再編成を行うため練兵場にて各隊の隊長職選抜を行っていた。ちなみに、新たな騎士団長の名はクゼリー・レイル。女性の騎士でリリアーナの付きの元近衛騎士である。副団長の名はニート・コモルド。元騎士団三番隊の隊長である。

 

「お疲れ様でした。光輝さん」

 

 選抜試験における模擬戦で、騎士達の相手を務めていた光輝が練兵場の端で汗を拭っていると、そんな労いの言葉が響いた。光輝がそちらに視線を向けると、リリアーナが微笑みながらやって来るところだった。

 

「いや、これくらいどうってことないよ。……リリィの方こそ、ここ最近ほとんど寝てないんじゃないか? ほんとにお疲れ様だよ」

 

 

「今は、寝ている暇なんてありませんからね。……死傷者、遺族への対応、倒壊した建物の処理、行方不明者の確認、外壁と大結界の補修、各方面への連絡と対応、周辺の調査と兵の配備、再編成……大変ですが、やらねばならないことばかりです。泣き言を言っても仕方ありません。お母様も分担して下さってますし、まだまだ大丈夫ですよ。……本当に辛いのは大切な人や財産を失った民なのですから……」

「それを言ったら、リリィだって……」

 

 光輝は、リリアーナの言葉に、彼女もまた父親であるエリヒド国王を失っていることを指摘しようとしたが、言っても仕方のないことだと口をつぐんだ。リリィは、光輝の気持ちを察してもう一度「大丈夫ですよ」と儚げに微笑むと、話題を転換した。

 

「雫の様子はどうですか?」

「……変わらないな。普段はいつも通りの雫だけど、気が付けばずっと上を見上げてるよ」

 

「彼等を……待っているのですね」

「そうだね。……正直、南雲のことは余り…信用できない…雫には会って欲しくないと思ってるんだけどね……」

 

 

 

「こ、光輝さん! あれっ! 何か落ちて来ていませんかぁ!」

「へ? いきなり何を……っ、皆ぁ! 気をつけろ! 上から何か来るぞぉ!」

 

 リリアーナの剣幕に驚いた光輝だったが、促されて向けた視線の先に確かに空から何かが落ちて来ているのを確認して「すわっ、敵襲かっ!」と焦燥を表情に浮かべて大声で警告を発した。

 

 雫達が、慌てて練兵場の中央から光輝達の傍に退避したのと、それらが練兵場に降り立ったのは同時だった。

 

ズドォオン!!

 

 そんな地響きを立てながら墜落じみた着地を決めて、もうもうと舞う砂埃の中から姿を現したのは……ハジメ、カービィ、ユエ、シア、メタナイト、ティオの6人だった。

 

 

ちなみにメタナイトは華麗に着地していた。

 

「南雲君!」

 

 真っ先に雫が飛び出す。ハジメの言葉通り、信じて待っていたのだ。勢い余るのも仕方ないだろう。しかし、ハジメ達の中に香織の姿がないことから徐々にその表情に不安の影が差し始める。

 

「よぉ、八重樫。ちゃんと生きてるな」

「南雲君……香織は? なぜ、香織がいないの?」

 

 ハジメの軽口に、雫は幾分気が楽になるものの、それでも目の前に香織がいないという事実に、やはり香織の死を覆すことなど出来なかったのではないかと、既に不安を隠しもせずに震える声で問いかけた。

 

 ハジメは、それに対して、何とも曖昧な表情をする。

 

「あ~、直ぐに来るぞ? ただなぁ……ちょ~とだけ見た目が変わってるかもしれないが……そこはほら、俺のせいにされても困るっていうか、うん、俺のせいじゃないから怒るなよ?」

「え? ちょっと、待って。なに? 何なの? 物凄く不安なのだけど? どういうことなのよ? あなた、香織に何をしたの? 場合によっては、あなたがくれた黒刀で……」

 

 

「きゃぁああああ!! ハジメく~ん! 受け止めてぇ~!!」

 

 雫達が何事かと上を見ると、何やら銀色の人影が猛スピードで落下して来るところだった。

 

 雫の優れた動体視力は、歴史的に名を残すような芸術家が作り出した美術品かと思うほど完成された美しさを持つ銀髪碧眼の女が、そのクールな見た目に反して、情けない表情で目に涙を浮かべながら手足を無様にワタワタ動かしているという奇怪な姿を捉えていた。

 

 落ちて来た銀髪碧眼の女は真っ直ぐハジメに突っ込む。その目には受け止めてくれるはずという信頼が見て取れた。

 

 が、それを裏切るのがハジメクオリティー。衝突寸前でひょいっとその場を飛び退くと、「え?」と目を点にしながら地面に吸い込まれるように激突した彼女から視線を逸らした。

 

 誰もが、「彼女、死んだよね?」と受け止める素振りすら見せなかったハジメに戦慄の表情を浮かべる。しかし、再び舞い上がった砂煙が晴れたとき、そこに現れた銀髪碧眼の美女を見て、愛子とリリアーナが悲鳴じみた警告の声を張り上げた。

 

「なっ、なぜ、あなたがっ……」

「みなさん! 離れて! 彼女は、愛子さんを誘拐し、恵里に手を貸していた危険人物です!」

 

「ま、待って! 雫ちゃん! 私だよ、私!」

「?」

 

 自分の名を呼びながら必死に自分をアピールする初対面の女に雫が訝しげな表情をする。

 

 傍らにいるハジメが「どこかの詐欺師みたいだな……」と呟いていたが、女がキッ! と睨むとそっぽを向いた。愛子達のいう敵とは思えないほど親しげだ。そして、姿も声も違うが、自分を呼ぶときの何気ない仕草や雰囲気が、見知らぬ女に親友の影を幻視させた。

 

 雫は、居合の構えを緩やかに解くと、呆然とした様子で親友の名をポツリと呟く。

 

「……かお、り? 香織…なの?」

 

 雫が自分に気が付いてくれたことが余程嬉しかったのか、銀髪碧眼の女は怜悧な顔をパァ! と輝かせて弾む声と共に返事をする。

 

「うん! 香織だよ。雫ちゃんの親友の白崎香織。見た目は変わっちゃったけど……ちゃんと生きてるよ!」

「……香織…香織ぃ!」

 

 雫は、しばらく呆然とする。一体、何をどうすればこんな事態になるのかさっぱりわからなかったが、それでも、親友が生きて目の前にいるという事実を真綿に水が染み込むように実感すると、ポロポロと涙を零しながら銀髪碧眼の女改め新たな体を手に入れた香織に思いっきり抱きついた。

 

 香織は、自分に抱きついて赤子のように泣きじゃくる雫をギュッと抱きしめ返すと、そっと優しく囁いた。

 

「心配かけてゴメンね? 大丈夫だよ、大丈夫」

「ひっぐ、ぐすっ、よかったぁ、よがったよぉ~」

 

 お互いの首元に顔を埋め、しっかりお互いの存在を確かめ合う雫と香織。

 

 誰もが唖然呆然としているなか、しばらくの間、晴れ渡った練兵場に温かさ優しさに満ちた泣き声が響き渡っていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それで、一体、どういうことなの?」

 

 

「そうだな……簡潔にいうと。魔法で香織の魂魄を保護して、ノイントの遺体? 残骸? まぁ、その修復した体に定着させたってことだ」

「なるほど……全然わからないわ」

 

「えっとね、雫ちゃん。今、私達が使ってる魔法が神代と呼ばれる時代の魔法の劣化版だってことは知ってるよね?」

「……ええ。この世界の歴史なら少し勉強したもの。この世界の創世神話に出てくる魔法でしょ? 今の属性魔法と異なってもっと根本的な理に作用でき……待って。もしかして、そういうこと? 南雲君達は神代魔法を持っていて、それは魂魄……人の魂というものに干渉できる力ってこと? それで、死んだ香織の魂魄を保護して、別の体に定着させたのね?」

「そう! 流石、雫ちゃんだね」

 

「でも、どうしてその体なの? 香織の体はもうダメだったのかしら? 心臓を貫かれた部分の傷を塞ぐくらいなら回復魔法で何とか出来ると思うのだけど……」

「ああ、実際、香織の体は完璧に治ったし、魂魄を戻すことも出来た」

 

 魂魄魔法は、魂魄の固定と定着を行うことで擬似的に不老不死を実現できるというぶっ飛んだ神代魔法だ。

 

〝固定〟とは、死ぬことで霧散してしまう魂魄に干渉して霧散・劣化しないよう保存する魔法で、カービィがコピー能力スピリットで香織に施したのはこれである。死亡から60分以内しか意味はない、しかしコピー能力クリエイト『スピリット、リバイブ』で魂を固定して生き返らせれば完成である。

 

〝定着〟とは、文字通り、固定した魂魄を有機物・無機物を問わず定着させることだ。老衰した体や、欠損して生存に適さない体に定着させてもまた死ぬだけだが、健康体なら蘇生が出来るし、あのミレディ・ライセンのようにゴーレムに定着させることで肉体の衰えという楔を離れて不老不死となる事も出来る。

 

 もちろん、ぶっつけ本番で出来るような簡単なことではない。無限の可能性を持つ天性の才を持つカービィだからこそ成功したようなものだ。それでも、定着に丸五日もかかったわけだが。

 

「じゃあ、どうして……香織の元の体はどうなったの? やっぱり何か問題でも」

「雫ちゃん、落ち着いて。ちゃんと説明するから」

 

 身を乗り出す雫を落ち着かせながら香織が続きを話す。

 

 最初、ハジメは、香織の傷ついた体を再生魔法で修復し香織の魂魄を戻すことで蘇生させようとした。

 

 しかし、そこで待ったを掛けたのが香織だ。魂魄状態で固定されていても、〝心導〟という魂魄魔法で意思疎通を図ることは出来る。その魂魄状態の香織が、話に聞いていたミレディ・ライセンのようにゴーレムに定着させて欲しいと願い出たのだ。ハジメなら、強力なゴーレムを作れるはずだと。

 

 【メルジーネ海底遺跡】で、自分の弱さについては割り切った香織だったが、そのままでいいなどとは微塵も思っていなかった。ハジメの隣に立つことを諦めるつもりなど毛頭なかった。その矢先、自分はあっさり殺されてしまった。不甲斐なくて、情けなくて、悔しくて……ならば、〝例え人の身を捨てても〟と、そう思ったのだ。

 

 一度、こうと決意したらとんでもなく頑固になる香織だ。ハジメ達も一応説得したのだが、聞く耳を持たなかった。その決意は、ハジメをして両手を上げさせるほど強いものだったのだ。

 

 仕方なく、最強のゴーレムでも作ってやろうかと思ったところで、ハジメの頭に豆電球がピカッ! と光った。「あれ、使えるんじゃね?」と。そう、ハジメが心臓部分をぶち抜いたノイントである。

 

 ハジメは直ぐにノイントの残骸を回収すると、カービィにコピー能力リバイブを行使してもらい傷を修復してもらった。そして、人の身ならざる本当の〝神の使徒〟の強靭な肉体を香織の新たな肉体として、その魂魄を〝定着〟させてみたところ、見事成功したのである。

 

 生憎、魔石に似た器官は、再生できても魔力の供給はピタリと停止していたので無限の魔力を扱えるわけではなかったが、ノイントの固有魔法〝分解〟や双大剣術、銀翼や銀羽も扱えるようだった。

 

 どうやら、ノイントの体がそれらの扱い方やこれまでの戦闘経験を覚えているようで、慣れない体故に未だ飛ぶこともままならないが、慣れれば〝神の使徒〟としての能力を十全に発揮できるだろう。魔力の直接操作も出来るので、能力的には十分ハジメ達と肩を並べられる。

 

 魂魄の定着が成功した後の香織の喜びようは中々に凄かった。なにせ、クールビューティーな外見で、キャッキャッと満面の笑みで騒ぐのだから。ついさっきまで殺し合っていた相手の顔が嬉しそうに笑い、しかも自分に抱きついて来るという事態に、流石のハジメもどうしたものかと眉を八の字にしたものだ。

 

 ちなみに、香織の本当の体は、ユエの魔法により凍結処理を受けて〝宝物庫〟に保管されている。巨大な氷の中に眠る美少女といった感じで非常に神秘的だ。解凍時に再生魔法で壊れた細胞も修復してしまえるので、戻ろうと思えば戻れる可能性は極めて高い。

 

「……なるほどね。はぁ~、香織、貴女って昔から突飛もないこと仕出かすことがあったけれど、今回は群を抜いているわ」

 

 ハジメの説明を聞いて、頭痛を堪えるように片手を額に添える雫。ハジメの好きなゲームを知りたいと言って訪れたゲーム屋で、何を勘違いしたのかアダルトゲームコーナーに突撃したとき以上の頭痛を感じる。

 

「えへへ、心配かけてごめんね、雫ちゃん」

「……いいわよ。生きていてくれたなら、それだけで……」

 

 雫は、そう言って申し訳なさそうな表情をする香織に微笑むと、スッと表情を真剣なものに変えてハジメ達の方を向き姿勢を正し、深々と頭を下げた。

 

「南雲君、カービィさん、ユエさん、シアさん、メタナイトさん、ティオさん。私の親友を救ってくれて有難うございました。借りは増える一方だし、返せるアテもないのだけど……この恩は一生忘れない。私に出来ることなら何でも言ってちょうだい。全力で応えてみせるから」

「……相変わらず律儀な奴だな。まぁ、あんまり気にすんな。俺達は俺達の仲間を助けただけだ」

カービィ「そーだよ!」

 ハジメの非常に軽い対応に、雫は苦笑いを見せる。香織だけでなく自分達も救われているのだ。それも命を二度も。自分達の窮地を救ったことさえ、きっとハジメにとって自分の都合とかち合った結果のどうということもない出来事だったのだろうと思うと、その余りの差にもはや笑うしかない心境だった。

 

 そして、何となく平然とした態度が憎らしくもあったので雫は唇を尖らせて指摘する。

 

「……その割には、私のことも気遣ってくれたし、光輝のために秘薬もくれたわね?」

「八重樫に壊れられたら、香織が面倒なことになるだろうが……」

「め、面倒って……酷いよ、ハジメくん」

 

 雫の嫌味にも平然と返し、香織の突っ込みもスルーして「それに……」と続けるハジメ。

 

「どこかの先生曰く、〝寂しい生き方〟はするべきじゃないらしいしな。何もかもってわけにはいかないが、あれくらいのことはな……」

「! 南雲君……」

 

 黙って雫とハジメ達の話を聞いていた愛子が、ハジメのその言葉に感無量といった様子で潤んだ瞳をハジメに向けた。

 

 他の生徒達は、やたら不遜になったハジメにも愛ちゃんの教えは届いたのかと妙に感心して、愛子もそれに感動しているのだと思ったようだが、ユエ達と雫は、愛子の瞳に含まれた種類の違う熱を敏感に感じ取っていた。

 

 香織が、まさか! といった様子で、ユエ達や雫に視線で確認を取ると、ユエ達は鋭い視線で頷き、雫は視線を逸らして天を仰いだ。

 

 微妙な空気が漂い始めたのを敏感に察した雫が、雰囲気を戻す意味も込めて話を続ける。聞きたいことは山ほどあるのだ。

 

「あの日、先生が攫われた日に、先生が話そうとしていたことを聞いてもいいかしら? それはきっと、南雲君達が神代の魔法なんてものを取得している事と関係があるのよね?」

 

 ハジメは、雫の言葉を受けて愛子に視線を向ける。説明しろと無言の圧力が愛子にかかった。愛子は、コホンッと咳払いを一つするとハジメから聞いた狂神の話とハジメ達の旅の目的を話し、そして、自分が攫われた事や王都侵攻時の総本山での出来事を話し出した。

 

 全てを聞き終わり、真っ先に声を張り上げたのは光輝だった。

 

「なんだよ、それ。じゃあ、俺達は、神様の掌の上で踊っていただけだっていうのか? なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ! オルクスで再会したときに伝えることは出来ただろう!」

 

 非難するような眼差しと声音に、しかし、ハジメは面倒そうにチラリと光輝を見ただけで何も答えない。無視だった。その態度に、光輝がガタッ! と音を立てて席を立ち、ハジメに敵意を漲らせる。

 

「何とか言ったらどうなんだ! お前が、もっと早く教えてくれていれば!」

「ちょっと、光輝!」

 

 諌める雫の言葉も聞かず、いきり立つ光輝にハジメは五月蝿そうに眉をしかめると、盛大に溜息をついて面倒くさそうな視線を光輝に向けた。

 

「俺がそれを言って、お前、信じたのかよ?」

「なんだと?」

「どうせ、思い込みとご都合解釈大好きなお前のことだ。大多数の人間が信じている神を〝狂っている〟と言われた挙句、お前のしていることは無意味だって俺から言われれば、信じないどころか、むしろ、俺を非難したんじゃないか? その光景が目に浮かぶよ」

「だ、だけど、何度もきちんと説明してくれれば……」

「アホか。なんで俺が、わざわざお前等のために骨を折らなけりゃならないんだよ? まさか、俺がクラスメイトだから、自分達に力を貸すのは当然とか思ってないよな? ……あんまふざけたことばっか言ってっと……檜山の二の舞だぞ?」

 

 永久凍土の如き冷めた眼差しで睥睨するハジメに、クラスメイト達はさっと目を逸らした。

 

 だが、光輝だけは納得できないようで未だ厳しい眼差しをハジメに向けている。ハジメの隣でユエが、二度も救われておいて何だその態度はと言いたげな目を向けているが光輝は気が付いていない。

 

「でも、これから一緒に神と戦うなら……」

「待て待て、勇者(笑)。俺がいつ神と戦うといったよ? 勝手に決め付けるな。向こうからやって来れば当然殺すが、自分からわざわざ探し出すつもりはないぞ? 大迷宮を攻略して、さっさと日本に帰りたいからな」

「ボクは戦うよ!」

 

 その言葉に、光輝は目を大きく見開く。

 

「カービィはわかってくれると思ってたが、南雲、まさか、この世界の人達がどうなってもいいっていうのか!? 神をどうにかしないと、これからも人々が弄ばれるんだぞ! 放っておけるのか!」

「顔も知らない誰かのために振える力は持ち合わせちゃいないな……」

「なんで……なんでだよっ! お前たちは、俺より強いじゃないか! それだけの力があれば何だって出来るだろ! 力があるなら、正しいことのために使うべきじゃないか!」

 

 光輝が吠える。いつもながら、実に正義感溢れる言葉だ。しかし、そんな〝言葉〟は、意志なき者なら兎も角、ハジメには届かない。ハジメは、まるで路傍の石を見るような眼差を光輝に向ける。

 

「……〝力があるなら〟か。そんなだから、いつもお前は肝心なところで地面に這いつくばることになるんだよ。……俺はな、力はいつだって明確な意志のもと振るわれるべきだと考えてる。力があるから何かを為すんじゃない。何かを為したいから力を求め使うんだ。〝力がある〟から意志に関係なくやらなきゃならないって言うんなら、それはもうきっと、唯の〝呪い〟だろう。お前は、その意志ってのが薄弱すぎるんだよ。……っていうか、お前と俺の行く道について議論する気はないんだ。これ以上食って掛かるなら面倒いからマジでぶっ飛ばすぞ」

 

 ハジメはそれだけ言うと、光輝達に興味がないということを示すように視線を戻してしまった。

 

 その態度からハジメが本気で自分達や世界に対して、嫌悪も恨みもなく唯ひたすら興味がないということを理解させられた光輝。また、自分の敗北原因について言及され激しく動揺してしまい口をつぐむ。自分には強い意志がある! と反論したかったが、何故か言葉が出なかったのだ。

 

 他のクラスメイト達も、何となく、ハジメが戻ってきて自分達とまた一緒に行動するのだと思っていたことが幻想だったと思い知り、そして、下手な事をすれば本気で檜山のようにされるかもしれないと震え上がった。

 

 なにせ、傀儡にされていたとは言え、メルドも含めて顔見知りもいた騎士達を何の躊躇いもなく肉塊に変えてしまった相手なのだ。居残り組に関しては、ハジメが奈落に落ちる前のこともあり視線すら向けられないでいた。

 

「……やはり、残ってはもらえないのでしょうか? せめて、王都の防衛体制が整うまで滞在して欲しいのですが……」

 

 そう願い出たのはリリアーナだ。

 

 未だ、混乱の中にある王都において、大規模転移用魔法陣は撤去したものの、いつ魔人族の軍が攻めてくるかわからない状況ではハジメ達の存在はどうしても手放したくなかったのだ。相手の総大将らしきフリードは、ハジメがいるから撤退した。ハジメ達は、そこにいるだけで既に抑止力になっているのである。

 

「神の使徒と本格的に事を構えた以上、先を急ぎたいんだ。香織の蘇生に五日もかかったしな。明日には出発する予定だ」

 

 リリアーナは肩を落とすが、ハジメ達が出て行ったあと、フリード達が取って返さない保証はないので王女として食い下がる。

 

「そこを何とか……せめて、あの光の柱……あれも南雲さんのアーティファクトですよね? あれを目に見える形で王都の守護に回せませんか? ……お礼はできる限りのことをしますので」

「……ああ〝ヒュベリオン〟な。無理だ。あれ、最初の一撃でぶっ壊れたし……試作品だったからなぁ。改良しねぇと」

 

 ハジメが、魔人族の大軍を消し飛ばした対大軍用殲滅兵器〝ヒュベリオン〟は、簡単に言えば兵器である。【神山】を降りる前に上空へ飛ばしておいたものだ。

 

 〝ヒュベリオン〟は、巨大な機体の中で太陽光をレンズで収束し、その熱量を設置された〝宝物庫〟にチャージすることが出来る。そして、臨界状態の〝宝物庫〟から溢れ出た莫大な熱量を重力魔法が付加された発射口を通して再び収束し地上に向けて発射するのだ。

 

 そして、この〝ヒュベリオン〟最大の特徴は、夜でも太陽光を収束できる点にある。その秘密は、オスカー・オルクスの部屋を照らしていたあの擬似太陽だ。あれは、太陽光を空間魔法と再生魔法、それにハジメの把握しきれていない神代魔法の力が加わって作り出された〝解放者〟達の合作だったのだ。

 

 今のハジメでは、擬似的とはいえ太陽の創造など到底できない。そして〝ヒュベリオン〟は試作段階だったせいもあり、その自身の熱量に耐えられずに壊れてしまったので、もうあの一撃は撃てないのである。もっとも、ハジメが作り出した大軍用殲滅兵器は〝ヒュベリオン〟だけではないのだが……

 

「そう……ですか……」

 

 ハジメの言葉に、再びガクリと肩を落とすリリアーナ。そこで、香織、雫、愛子の視線がハジメに突き刺さる。三人ともハジメのスタンスを理解している。ハジメが、いくら多少周囲を慮るようになったとはいえ、基本的に、この世界のことに無関心であることに変わりはない。周囲にも手を伸ばすのは、そうすることでユエ達が間接的にでも悲しまないようにするためだ。だから、5人とも言葉にはしない。しないが、その眼差しは雄弁に物語っている。

 

 ハジメは、用意された茶を飲みながら無視していたが、余りにしつこいのでボソリと呟くように告げた。

 

「……出発前に、大結界くらいは直してやる」

「南雲さん! 有難うございます!」

 

 パァ! と表情を輝かせたリリアーナを無視して、これでいいだろ? と香織達に視線をやるハジメ。三人ともリリアーナと同じく嬉しそうな笑顔をハジメに返した。

 

 何だか、ほんとに甘くなったなぁと思いつつも、隣にいるユエやシアまでハジメに微笑み掛けてくるので、「まぁ、悪くないか」と肩を竦めて、ハジメは苦笑いを零した。

 

「それで、南雲君達はどこへ向かうの? 神代魔法を求めているなら大迷宮を目指すのよね? 西から帰って来たなら……樹海かしら?」

「ああ、そのつもりだ。フューレン経由で向かうつもりだったが、一端南下するのも面倒いからこのまま東に向かおうと思ってる」

 

 ハジメの予定を聞いて、リリアーナが何か思いついたような表情をする。

 

「では、帝国領を通るのですか?」

「そうなるな……」

「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」

「ん? なんでだ?」

「今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使の方が帝国に向かわれましたが、会談は早ければ早いほうがいい。南雲さんの移動用アーティファクトがあれば帝国まですぐでしょう? それなら、直接私が乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして」

 

 何とも大胆というかフットワークの軽いリリアーナの提案にハジメは驚くものの、よく考えれば助けを求めるために単身王城から飛び出し隊商に紛れて王都を脱出するようなお姫様なのだ。当然の発想と言えば当然かと、妙に納得する。

 

 そして、通り道に降ろしていくだけなら手間にもならないので、それくらいいいかと了承の意を伝えた。ただし、釘を刺すのは忘れない。

 

「送るのはいいが、帝都には入らないぞ? 皇帝との会談なんて絶対付き添わないからな?」

「ふふ、そこまで図々しいこと言いませんよ。送って下さるだけで十分です」

 

 用心深い発言に、思わず苦笑いを浮かべるリリアーナだったが、そこへハジメに黙らされた光輝が再び発言する。

 

「だったら、俺達もついて行くぞ。この世界の事をどうでもいいなんていう奴にリリィは任せられない。道中の護衛は俺達がする。それに、南雲が何もしないなら、俺がこの世界を救う! そのためには力が必要だ! 神代魔法の力が! お前に付いていけば神代魔法が手に入るんだろ!」

「いや、場所くらい教えてやるから勝手に行けよ。ついて来るとか迷惑極まりないっつうの」

 

「でも、南雲君、今の私達では大迷宮に挑んでも返り討ちだって言ってませんでした?」

「……いや、それは、あれだよ。ほら、〝無能〟の俺でも何とかなったんだから、大丈夫だって。いける、いける。ようは気合だよ」

「無理なんですね?」

 

 自分の発言をきっちり覚えていた愛子に、ハジメは目を逸らしながら無責任な事を言う。

 

 ハジメとしては、自分達が世界を越える手段を手に入れた暁には、クラスメイト達が便乗するのを許すくらいのつもりはあった。だが、彼等が一から神代魔法を手に入れる手伝いをするなどまっぴらごめんだった。時間のロス以外の何ものでもないからだ。

 

「南雲君、お願いできないかしら。一度でいいの。一つでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮の攻略に決定的な差ができるわ。一度だけついて行かせてくれない?」

「寄生したところで、魔法は手に入らないぞ? 迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ」

「もちろんよ。神のことはこの際置いておくとして、帰りたいと思う気持ちは私達も一緒よ。死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから、お願いします。何度も救われておいて、恩を返すといったばかりの口で何を言うのかと思うだろうけど、今は、貴方に頼るしかないの。もう一度だけ力を貸して」

「鈴からもお願い、南雲君。もっと強くなって、もう一度恵里と話をしたい。だからお願い! このお礼は必ずするから鈴達も連れて行って!」

 

 今のままでは無理という愛子の言葉を聞いて、雫が一つだけ神代魔法を手に入れる助力をして欲しいと懇願する。その顔は、恩も返せないうちにまた頼らなければならない事を心苦しく思っているのか酷く強ばっている。

 

 雫に感化されて、ずっと黙っていた鈴まで頭を下げだした。どうやら、恵里の事で色々考えているようだ。その声音や表情には必死しさが窺えた。光輝は、その光景を見て眉をピクリと反応させたが、結局何も言わなかった。

 

 ハジメは、逡巡する。本来なら、【ハルツィナ樹海】の攻略に光輝達を連れて行くような面倒ごとを引き受けるなど有り得ない。さっさと断って、【オルクス大迷宮】でも【ライセン大迷宮】でも好きなところに逝ってこいと言い捨てるところだ。

 

 しかし、この時、ハジメの脳裏にノイントとの戦闘が過ぎったがため少し判断に迷った。

 

 というのも、ノイントは【メルジーネ海底遺跡】でも垣間見たように時代の節目に現れて裏から権力者達を操ったり邪魔者を排除したりと、文字通り神の手足となって暗躍してきた神の意思をそのまま体現する人形だ。

 

 ならば、明らかに作られた存在である〝神の使徒ノイント〟は、果たして、あれ一体だけと言えるのだろうか。そう言い切るのは楽観的に過ぎるというものだろう。

 

 ノイントは言った。ハジメは、イレギュラーであり、苦しんで死ぬのが神の望みだと。ならば、ノイントのような存在を多数送り込んで来ることは十分に考えられることだ。だとすると、その時のために、光輝達に力を持たせておいてぶつけるというのもいいのではないか? とハジメは考えた。

 

 自分を狙う敵に他人をぶつけるなど鬼畜の所業だが、「まぁ、勇者とか神と戦う気満々だし問題ないよね?」と軽く考えて、最終的に【ハルツィナ樹海】に限って同行を了承することにした。一応、ユエ達にも視線で確認を取るが、特に反対意見はないようだ。

 

 雫達の間に安堵の吐息と笑顔が漏れる中、ハジメは、残り二つとなった大迷宮とこれからの展開に思いを巡らせる。

 

 何があるにせよ、この旅も終わりが見えてきたのだ。どんな存在が立ちはだかろうと、どんな状況に陥ろうと、必ず全てを薙ぎ倒して故郷に帰る。この世界で手に入れた〝大切〟と共に。

 

 その誓いを、新たに重ねてきた絆と想いで包み込み、更に強靭なものとする。ハジメは、心の中で更に大きくなった決意の炎を感じながら、そっと口元に笑みを浮かべたのだった。

 

 

 




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再会するハウリア

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眼下の八雲が流れるように後方へと消えていく。重なる雲の更に下には草原や雑木林、時折小さな村が見えるが、やはりあっと言う間に遥か後方へと置き去りにされてしまう。相当なスピードのはずなのに、何らかの結界が張ってあるのか風は驚く程心地良いそよ風だ。

 

 

そんな気持ちの良い微風にトレードマークのポニーテールを泳がせながら、眼下の景色を眺めていた雫は、視線を転じて頭上に燦々と輝く太陽を仰ぎ見た。

 

 雲上から見る恵みの光は、手を伸ばせば届くのでは? と錯覚させるほど近くに感じる。雫は、手で日差しを遮りながら手すりに背中を預け、どこか達観したような、あるいは考えるのに疲れたような微妙な表情でポツリと呟いた。

 

「……まさか、飛空艇なんてものまで建造しているなんてね。……もう、何でもありなのね」

 

そう、雫が現在いる場所は、ハジメが作り出した飛空艇〝フェルニル〟の後部甲板の上なのである。

 

 このフェルニルは、重力石と感応石を主材料に、その他諸々の機能を搭載して建造された新たな移動手段だ。今まで使わなかったのは、ひとえにハジメの未熟故である。

 

ちなみにカービィ一行はローアで別移動だ。

 

「旅の終盤で飛行系の移動手段を手に入れるのは常識だろう?」

 

 と、自信満々に語ったものだ。

「でもカービィさんたちは既に持ってましたよ。」

 

「「「………」」」

 

このフェルニルは、全長百二十メートルのマンタのような形をしており、中には前面高所にあるブリッジと中央にあるリビングのような広間の他、更にキッチン・バス・トイレ付きの居住区まである。と言っても、帝国まで馬車で二ヶ月の道のりを僅か一日半で走破してしまうので、どこまで活用されるかはわからない。空に浮かせているだけでも、結構な魔力を消費するのだ。ハジメでなければ長時間の使用など不可能である。

 

「雫……ここにいたのか」

「光輝……」

 

 ハジメのセリフを思い出して、一体どこの常識だと内心でツッコミを入れていた雫に声がかけられた。

 

 雫がそちらに視線を向ければ、ちょうどハッチを開いて光輝が顔をのぞかせているところだった。光輝は、そのまま雫の隣に来て、手すりに両腕を乗せると遠くの雲を眺め始める。

 

 そして、ポツリと呟いた。

 

「これ……すごいな」

「そうね。……もう、いちいち驚くのも疲れたわ」

 

 当然、光輝が言っているのは飛空艇フェルニルのことである。しかし、その表情に感心の色はなく、どこか悄然としており、同時に悔しそうでもあった。

 

「みんなは?」

「龍太郎と近衛の人達はシアさんが作った料理食べてる。鈴はリリィと話してる。……南雲は……イチャついてるよ。ブリッジでふんぞり返りながら……」

 

 

 ハジメに付いて来たのは、帝国に送ってもらう約束をしたリリアーナ姫とその護衛の近衛騎士達数名、それに光輝達勇者パーティーだけだ。愛子は戦えない生徒達を放置することは出来ないと残り、永山達前線組も、光輝達がいない間王都の守護を担うと居残りを決意した。

 

 もっとも、王都にはフリードが残した超長距離転移の仕掛けをヒントに、いつでも直ぐに戻れるアーティファクトを置いてきてあるので、光輝達もハジメに頼めば一瞬で戻ることが出来る。

 

 雫は、どこか棘のある光輝の物言いにチラリと視線を向けた。その横顔で、何となく心情を察した雫は、どうしたものかと苦笑いを零しながら頬をカリカリと困ったように掻いた。

 

「なによ、随分と不満そうね? 南雲君がモテているのが気に入らないの?」

「……そんなわけないだろ」

 

 少し茶化すように声をかけた雫に、光輝がより不機嫌そうな表情になって素っ気なく返した。

 

「……こんな凄いもん作れて……滅茶苦茶強いくせに……なんであんな風に平然としていられるんだ。……なんで簡単に見捨てられるんだよ……」

「……」

 

 どうやら光輝は、未だハジメが神と戦わずこの世界を見捨てる判断をしている事に納得がいっていないらしい。これだけの力があるのなら、自分なら絶対世界を救うために神を倒すのに……と考えている事が、雫には手に取るようにわかった。

 

「……選んでいるのでしょうね」

「選ぶ?」

 

 雫の呟くような返答に光輝が視線を雫に戻して問い返す。雫は、視線を遠くにやりながら、言葉を選ぶようにゆっくり語った。

 

「彼は……きっと見た目ほど余裕があるわけじゃないんじゃないかしら? たぶん、平然としているように見えても、いつも〝必死〟なのだと思うわ。〝必死〟に大切な人達と生き抜こうとしている」

「……」

「彼も言っていたでしょ? 力があるから何かを為すんじゃなくて何かを為したいから力を得て振るうみたいなこと。光輝が今、感じている〝差〟は、彼が最初から持っていたものじゃないわ。〝無能〟、〝役立たず〟、そんな風に言われながら、どん底から這い上がって得たものよ。……文字通り、決意と覚悟の果てに手に入れたもの。神を倒すためでも、世界を救うためでもない。もっと具体的で、身近なもののため……私達のように〝出来るからしている〟のとは訳が違う。だから、今更、〝出来るんだからやれ〟と言われても、簡単には頷かないわよ。だって、そんな事のために得た力ではないのだし、余所見してホントに大事なものを失ったら元も子もないのだし……」

「……よくわからない」

「う~ん。ちょっと違うかもしれないけど、ほら、ボクシングで世界王者になりたくて頑張ったのに、強いんだから街の不良を退治しろ! って言われるようなものって言えばしっくりこない?」

「む……そう言われると……でも、かかっているのはこの世界の人達の人生なんだぞ?」

 

「まぁ、困っている人がいたら放っておけないのは光輝のいいところではあるのでしょうけど……それはあくまで光輝の価値観なのだから南雲君に押し付けちゃダメよ」

「……なんだよ、雫はあいつの肩を持つのか?」

「なに子供っぽいこと言っているのよ。ただ、人それぞれってだけの話でしょ? それに、忘れているわけじゃないでしょうけど、何だかんだで南雲君は私達も含めていろんな人を救っているわ。ウルの町もそうだし、香織曰く、アンカジ公国も救っている。フューレンでは人身売買をしていた裏組織を壊滅させたらしいし、ミュウっていう海人族の女の子も救い出してお母さんと再会させたそうよ。……私達より、よっぽどこの世界の人達を救っていると思わない?」

「それは……」

「きっと自分のため……ユエ達、大切な人のためにやっただけなのでしょうけど……ふふ、そう考えると結局、〝物のついで〟で神様もぶっ飛ばしてしまうかもね?」

「なんだよ、その哀れな神様は……」

その哀れな神をも恐れるエンデニルがいることはまだ知らない。

 

「……何かあったのか?」

「取り敢えず、中に戻りましょうか」

 

 二人は、一拍おいて頷き合うと急いで艦内へと戻っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

雫と光輝がブリッジに入った時には、既に全員が集まって中央に置かれている水晶のようなものを囲んでいた。

 

「何があったの?」

「あっ、雫ちゃん。うん、どうも帝国兵に追われている人がいるみたいなの」

「不味いじゃないか! 直ぐに助けに行かないと!」

 

 光輝が、案の定、喚き立てた。ここは空の上だというのに今にも飛び出していきそうだ。

 

 しかし、ハジメは急かす光輝には答えず、その眉を寄せて訝しげに水晶ディスプレイを眺めている。

 

「おい、南雲! それにカービィも!まさか、彼女達を見捨てるつもりじゃないだろうな!? お前が助けないなら俺が行く! 早く降ろしてくれ!」

「シア、カービィこいつらって……」

「へ? ……あれっ? この二人って……」

「うん。そうだよね。」

 いきり立つ光輝を無視してシアに声をかけるハジメ。シアも、よりズームされた映像を見て気がついたようだ。

 

「二人共、何をそんなにのんびりしているんだ! シアさんは同じ種族だろ! 何とも思わないのか!」

「すいません、ちょっとうるさいんで黙っててもらえますか? ……ハジメさん、間違いないです。ラナさんとミナさんです」

「うん。」

「やっぱりか。……豹変具合が凄かったから俺も覚えちまったんだよな。……こいつらの動き、表情……ふむ」

 

「まぁ、待て。天之河。大丈夫だ」

「なっ、何を言っているんだ! か弱い女性が今にも襲われそうなんだぞ!」

 

 キッ! と苛立たしげにハジメを睨む光輝に、しかし、ハジメはニヤリと笑うと、水晶ディスプレイを見ながらどこか面白げな様子で呟いた。

 

「か弱い? まさか。あいつらは……〝ハウリア〟だぞ?」

 

 何を言っているんだ? と光輝が訝しげな表情をした直後、「あっ!」と誰かが驚愕の声を上げた。光輝が、何事かと水晶ディスプレイに視線を向けると、そこには……首を落とされ、あるいは頭部を矢で正確に射貫かれて絶命する帝国兵の死体の山が映っていた。

 

「……え?」

 

 光輝だけでなく、ハウリア族を知らないその場の全員が目を点にする。その間にも、輸送馬車から離れて兎人族を追っていた部隊が戻ってこない事を訝しんだ後続が、数人を斥候に出した。

 

 そして、その斥候部隊が味方の死体の山を見つけ、その中央で肩を寄せ合って震えている兎人族の女二人に、半ば恫喝するように何かを喚きながら詰め寄った。

 

 彼等も、普段ならもっと慎重な行動を心がけたのかもしれないが、いきなり味方の惨殺死体の山を目撃した挙句、目の前にいるのは戦闘力皆無の愛玩奴隷。動揺する精神そのままに無警戒に詰め寄った。詰め寄ってしまった。

 

 斥候の一人が兎人族の女のウサミミを掴もうとした瞬間、どこからか飛来した矢がその男の背後にいた別の斥候の頭部に突き刺さった。一瞬の痙攣のあと横倒しになった男の倒れる音に気がついて振り返る斥候。

 

 その前で、恐怖に震えていたはずの兎人族の女が音もなく飛び上がり、いつの間にか手に持っていた小太刀を振るって、眼前の斥候の首をあっさり落としてしまった。

 

 そして、もう一人の兎人族の女も、地を這うような低姿勢で一気に首を飛ばされ倒れる男の脇を駆け抜け、突然の事態に呆然としている最後の斥候の首を、これまたあっさり刈り取ってしまった。

 

 まるで玩具のようにポンポンと飛ぶ首に、光輝達が「うっ」と顔を青褪めさせて口元を押さえる。リリアーナ姫や近衛騎士達は、兎人族が帝国兵を瞬殺するという有り得ない光景に、思わずシアを凝視する。特殊なのはお前だけじゃなかったのか!? と、その目は驚愕に見開かれていた。

 

「いや、紛れもなく特殊なのは私だけですからね? 私みたいなのがそう何人もいるわけないじゃないですか。彼等のあれは訓練の賜物ですよ。……ハジメさんが施した地獄というのも生温い、魔改造ともいうべき訓練によって、あんな感じになったんです」

「「「「「……」」」」」

 

全員の視線が一斉にハジメに向けられる。その目は何より雄弁に物語っていた。すなわち「また、お前かっ!?」と。ハジメは、スッと視線を逸らした。

「こ、これが兎人族だというのか……」

「マジかよ……」

「うさぎコワイ……」

 

 フェルニルのブリッジでそんな戦慄を感じさせる呟きが響く。

 

「ふん、練度が上がっているじゃねぇの。サボってはいなかったようだな。……だが、ちと詰めが甘いな」

 

 唖然呆然とする光輝達を放ってハジメはシュラーゲンを取り出すと開閉可能な風防の一部を開けて銃口を外に出し立射の姿勢をとった。現場まではまだ五キロメートル程ある。ユエ達以外が目を丸くする中、ハジメは微動だにせずにスッと目を細めた。そして、静かに引き金を引く。

 

ドバァン!!

 

 炸裂音と共に紅いスパークを纏うシュラーゲンから一条の閃光が空を一瞬で駆け抜けた。

 

 そして、ちょうど馬車から飛び出てハウリア達を狙い魔法を発動しようとした帝国兵の頭蓋を寸分違わず消滅させた。帝国兵は馬車の中にもいたのだ。魔眼石と〝遠見〟で魔力のうねりを感知したハジメは、伏兵が潜んでいることに気がつき、フェルニルの上から狙撃したのである。

 

 

 ハジメ達が谷間に降りると、そこにはハウリア族以外の亜人族も数多くいた。百人近くいそうだ。どうやら、輸送馬車の中身は亜人達だったらしい。兎人族以外にも狐人族や犬人族、猫人族、森人族の女子供が大勢いる。みな一様にハジメ達に対して警戒の目を向けると共に、見たことも聞いたこともない空飛ぶ乗り物に驚愕を隠せないようだ。まさに未知との遭遇である。

 

 と、そんな驚愕八割、警戒二割で絶賛混乱中の亜人族達の中からクロスボウを担いだ少年が颯爽と駆け寄り、ハジメの手前でビシッ! と背筋を伸ばすと見事な敬礼をしてみせた。

 

「お久しぶりです、ボス! カービィ殿!再びお会いできる日を心待ちにしておりました! まさか、このようなものに乗って登場するとは改めて感服致しましたっ! それと先程のご助力、感謝致しますっ!」

「よぉ、久しぶりだな。まぁ、さっきのは気にするな。お前等なら、多少のダメージを食らう程度でどうにでもできただろうしな。……中々、腕を上げたじゃないか」

 

 

 ハジメがニヤリと口元に笑みを浮かべてそう言うと、唖然とする亜人族達の合間からウサミミ少年と同じく駆け寄ってきたウサミミ女性二人と男三人が敬礼を決めつつ、感無量といった感じで瞳をうるうると滲ませ始めた。そして、一斉に踵を鳴らして足を揃え直すと見事にハモりながら声を張り上げた。

 

「「「「「「恐縮でありますっ、Sir!!」」」」」」

 

 谷間に木霊する感動で打ち震えたハウリア達の声。敬愛するボスに、成長を褒められて涙ぐんでいるが、決して涙は流さない。全員、空を仰ぎ見ながら目にクワッ! と力を込めて流れ落ちそうになる涙を堪えている。若干、力を入れすぎて目が血走り始めているのが非常に怖い。ハジメ、ユエ、シアの三人は平然としているが、背後のティオや香織、光輝達とリリアーナ達はドン引きである。

 

「えっと、みんな、久しぶりです! 元気そうでなによりですぅ。ところで、父様達はどこですか? パル君達だけですか? あと、なんでこんなところで、帝国兵なんて相手に……」

「落ち着いてくだせぇ、シアの姉御。一度に聞かれても答えられませんぜ? 取り敢えず、今、ここにいるのは俺達六人だけでさぁ。色々、事情があるんで、詳しい話は落ち着ける場所に行ってからにしやしょう。……それと、パル君ではなく〝必滅のバルトフェルド〟です。お間違いのないようお願いしやすぜ?」

「……え? いま、そこをツッコミます? っていうかまだそんな名前を……ラナさん達も注意して下さいよぉ」

 

 相変わらずのパル君にシアが頭痛を堪えるようにこめかみをぐりぐりしながらツッコミを入れる。しかし、場所を移すべきだという意見はもっともなので、取り敢えずそれ以上の追及はせず、シアは、ラナと呼んだハウリアの女性と他のメンバーにパルの厨二全開の名を改めさせるよう注意を促した。

 

 だが、現実というのは常に予想の斜め上をいくものなのだ。

 

「……シア。ラナじゃないわ……〝疾影のラナインフェリナ〟よ」

「!? ラナさん!? 何を言って……」

 

 ハウリアでも、しっかりもののお姉さんといった感じだったラナからの、まさかの返しにシアが頬を引き攣らせる。しかし、ハウリアの猛攻は止まらない。連携による怒涛の攻撃こそが彼等の強みなのだ。

 

「私は、〝空裂のミナステリア〟!」

「!?」

「俺は、〝幻武のヤオゼリアス〟!」

「!?」

「僕は、〝這斬のヨルガンダル〟!」

「!?」

「ふっ、〝霧雨のリキッドブレイク〟だ」

「!?」

「僕は〝星の戦士カービィ〟だよっ!」

「カービィさんまで!?」

 

全員が凄まじいドヤ顔でそれぞれジョ○的な香ばしいポーズを取りながら、二つ名を名乗った。シアの表情が絶望に染まる。どうやら、ハウリアの中では二つ名(厨二)ブームが来ているらしい。この分だと、一族全員が二つ名を持っている可能性が高い。ちなみに、彼等の正式名は、頭の二文字だけだ。

 

 久しぶりに再会した家族が、ドヤ顔でポーズを決めながら二つ名を名乗ってきましたという状況に、口からエクトプラズムを吐き出しているシアの姿は実に哀れだった。なので、ハジメは、呆れ顔をしつつ数年後には恥ずかしさの余り地面をのたうち回ることになると忠告しようとした。

 

 しかし、そこでパルの方から流れ弾が飛んで来た。

 

「ちなみに、ボスは〝紅き閃光の輪舞曲ロンド〟と〝白き爪牙の狂飆きょうひょう〟ならどちらがいいですか?」

「……なに?」

「ボスの二つ名です。カービィさんはもう決まってますから。一族会議で丸十日の激論の末、どうにかこの二つまで絞り込みました。しかし、結局、どちらがいいか決着がつかず、一族の間で戦争を行っても引き分ける始末でして……こうなったらボスに再会したときに判断を委ねようということに。ちなみに俺は〝紅き閃光の輪舞曲〟派です」

「まて、なぜ最初から二つ名を持つことが前提になってる?」

「ボス、私は断然〝白き爪牙の狂飆〟です」

「いや、話を聞けよ。俺は……」

「何を言っているの疾影のラナインフェリナ。ボスにはどう考えても〝紅き閃光の輪舞曲〟が似合っているじゃない!」

「おい、こら、いい加減に……」

「そうだ! 紅い魔力とスパークを迸らせて、宙を自在に跳び回りながら様々な武器を使いこなす様は、まさに〝紅き閃光の輪舞曲〟! これ一択だろJK」

「よせっ、それ以上小っ恥ずかしい解説はっ――」

「おいおい、這斬のヨルガンダル。それを言ったら、あのトレードマークの白髪をなびかせて、獣王の爪牙とも言うべき強力な武器を両手に暴風の如き怒涛の攻撃を繰り出す様は、〝白き爪牙の狂飆〟以外に表現のしようがないって、どうしてわからない? いつから、そんなに耄碌しちまったんだ?」

「……」

「シ、シズシズ、笑っちゃダメだって、ぶふっ!」

「す、鈴だって、笑って……くふっ…厨二って感染する……のかしら、ふ、ふふっ」

 

 ハジメがハッと我を取り戻して背後を見ると、雫と鈴が肩を震わせて必死に笑いを堪えているところだった。全く堪えられていなかったが。

 

 ハジメは、取り敢えず激論を交わし始めたパル達をゴム弾でぶっ飛ばし、未だ小刻みに震えている雫と鈴に向かって恨めしげな眼差しを向けた。

 

「八重樫、クールなお前には後で強制ツインテールリボン付きをプレゼントしてやる。もちろん映像記録も残してやる」

「!?」

「谷口、お前の身長をあと五センチ縮めてやる」

「!?」

 

 雫と鈴の笑いがピタリと止まり、表情には戦慄が浮かぶ。それがたとえ、理不尽極まりない八つ当たりだったとしても、ハジメが本気になったら二人に抗う術はないのだ。そして、ハジメの目は完全に本気だった。

 

「あの……宜しいでしょうか?」

 

 地面でのたうつハウリア達をそそと避けながら、ハジメに理不尽だと猛抗議している雫達を尻目に、そう声をかけてきたのは足元まである長く美しい金髪を波打たせたスレンダーな碧眼の美少女だった。耳がスッと長く尖っているので森人族ということが分かる。どこか、フェアベルゲンの長老の一人であるアルフレリックの面影があるな、とハジメは感じていた。

 

「あなたがたはは、南雲ハジメ殿とカービィ殿で間違いありませんか?」

「ん? 確かに、そうだが……」

「そうだよ。」

 

 ハジメが頷くと、金髪碧眼の森人族の美少女はホッとした様子で胸を撫で下ろした。もっとも、細い両手に金属の手枷がはめられており、非常に痛々しい様子だった。足首にも鎖付きの枷がはめられており、歩く度に擦れて白く滑らかな肌が赤くなってしまっている。

 

「では、わたくし達を捕らえて奴隷にするということはないと思って宜しいですか? 祖父から、あなたの種族に対する価値観は良くも悪くも平等だと聞いています。亜人族を弄ぶような方ではないと……」

「祖父? もしかして、アルフレリックか?」

「その通りです。申し遅れましたが、わたくしは、フェアベルゲン長老衆の一人アルフレリックの孫娘アルテナ・ハイピストと申します」

「長老の孫娘が捕まるって……どうやら本当に色々あったみたいだな」

 

「おい、お前等。亜人達をまとめて付いてこさせろ。ついでだ。樹海まで送ってやる」

「Yes,Sir! あっ、申し訳ないんですが、ボス。帝都近郊に潜んでいる仲間に連絡がしたいんで、途中で離脱させて頂いてもよろしいですか?」

「ああ、それならちょうど、こっちも帝都に送る予定だった奴等がいるから、帝都から少し離れた場所で一緒に降ろしてやるよ」

「有難うございますっ!」

 

 現在、ハジメ達がいるのは帝都のかなり手前の位置だ。そんな場所で亜人族達の輸送馬車がいたということは、この輸送は樹海から帝都へ行くものではなく、帝都から他の場所へ向かう途中だったということだ。つまり、パル達は帝都に何らかの情報収集をしに行って、輸送の話を知り、追いかけてきたということだろう。

 ハジメによって全ての枷を外された亜人達が、飛空艇フェルニルに度肝を抜かれながらも物珍しげにあちこちを探検しているころ、ハジメ達はブリッジにてパル達ハウリアの話を聞いていた。

 

「なるほどな……やっぱ魔人族は帝国と樹海にも手を出していたか」

「肯定です。帝国の詳細は分かりませんが、樹海の方は強力な魔物の群れにやられました。あらかじめ作っておいたトラップ地帯に誘導できなければ、俺達もヤバかったです」

 

 パル達曰く、樹海にも魔人族が魔物を引き連れてやって来たらしい。【ハルツィナ樹海】は大迷宮の一つとして名が通っているからフリード達が神代魔法の獲得を狙っている以上当たり前と言えば当たり前だ。

 

 当然、樹海に侵入した魔人族達を、フェアベルゲンの戦士達が許すはずもなく、最大戦力をもって駆逐しに向かった。

 

 しかし、亜人族と樹海の魔物以外は感覚を狂わされ、視界を閉ざされる濃霧の中でなら楽に勝てると思われた当初の予想は、あっさり裏切られることになる。魔人族はともかく、引き連れた魔物達は、樹海の中でも十全の戦闘力を発揮したのだ。ほとんどの魔物が昆虫型の見たこともない魔物だったらしく、その固有魔法も多彩かつ厄介でフェアベルゲンの戦士達は次々と返り討ちにあってその命を散らしていった。

 

 その魔人族は、瀕死状態の亜人族に、かつてのハジメと同じく「大迷宮の入口はどこだ?」と聞いて回ったらしい。しかし、彼等が敵に情報を教えるわけもなく、また、そもそも知らないこともあり、魔人族は、ならば長老衆に聞けばいいとフェアベルゲンに向かって進撃を始めたのだそうだ。

 

 曰く、この世界は魔人族によって繁栄していくべきであり、神から見放された半端者の獣風情が国を築いているという時点で耐え難い屈辱だということらしい。その表情は自らの神を信望する狂信者のそれだったという。

 

 そして、その魔人族は、その思いのままフェアベルゲンに牙を剥いた。大迷宮に行く前に亜人共を狩り尽くしてやる、と。

 

 フェアベルゲンの戦士達は必死に戦った。しかし、樹海の影響を受けない上に強力な固有魔法を使う未知の魔物の群れが相手では、彼等に勝目は薄かった。

 

 このままで、いずれ全てが蹂躙されてしまうと、そう考えたとある熊人族の戦士が、隙を見て密かにフェアベルゲンを抜け出した。逃げるためではない。助けを乞うためだ。

 

 彼の名はレギン・バントン。かつて、長老の一人ジン・バントンを再起不能にされた恨みからハジメ達を襲撃し、逆にハウリア族によって返り討ちにあった男だ。

 

 そう、レギンは、自分達フェアベルゲンが追放したハウリア族に恥も外聞もなく頭を下げに行ったのである。満身創痍の体で必死に樹海を駆け抜け、辿り着いたハウリア族の新たな集落で、レギンは何度も額を地面にこすりつけた。そして、ただひたすら懇願した。

 

――助けて欲しい、力を貸して欲しい

 

 その願いにハウリア族の族長カム・ハウリアは応えた。

 

 それはフェアベルゲンのためではない。もちろん、フェアベルゲンにも同族である兎人族はいるので、助けたいという思いが皆無というわけではないが、何より、カム達が看過できなかったのは、攻めてきた魔人族の目的が大迷宮であるということだ。

 

 万一、魔人族が大樹をどうにかしてしまったら……

 

 自分達のボスであるハジメはいずれ戻って来るのだ。その時、その魔人族が何かしたせいで大迷宮に入れなくなっていたら目も当てられない。

 

 ハジメの部下たらんとする自分達がいながら、みすみすボスの望みが潰えるのを見逃したとあっては、もう胸を張って再会を喜ぶことなど出来はしないし、ハジメをボスと呼ぶ資格もない! と、いうわけである。

 

 ハジメは、そんなこと全く気にしないのだが……ハウリアの矜持というやつだ。

 

 その結果、ハウリア族はレギンの要請に応えるというよりも、「われぇ、なにボスのもんに手ぇ出しとんねん、ア゛ァ゛!? いてまうぞ、ゴラァ!?」という心境で参戦を決意したのである。

 

 レギンは後に語る。

 

「あの時のハウリアはホントに怖かった。以前のように狂乱するわけでもないのに、ゆらゆら揺れながら口元が、こうスッと裂けて……笑うのだ。うぅ、あの日からよく眠れない。……夢に口の裂けたウサギが出て来て、首を……はぁはぁ……ダメだ。動悸息切れが止まらない。……薬はどこだ……」

 

 

 参戦したハウリア達は、まずフェアベルゲンの外側から各個撃破で魔物達を仕留めていったらしい。魔物達の動きと固有魔法を実地で確かめて戦略に組み込むためだ。ハウリア族が強くなったといっても、それは自らの種族の特性を上手く扱えるようになったというのと、精神が戦闘を忌避しなくなったというだけで、劇的にスペックが上がったわけではない。なので、未知の敵と正面から戦うような愚は決して犯さなかったのだ。

 

 

 そして、ハウリアに若干の被害を出しつつも、遂に、魔人族の首を落として、魔物の殲滅に成功したのだという。

 

 しかし、事態はそれだけでは終わらなかった。ハウリアにより窮地を救われたフェアベルゲンだったが、その被害は甚大。とても樹海の警備に人を回せるような余裕はなく、復興と死者の弔い、負傷者の看病で手一杯だった。

 

 そして、その隙を突くように、今度は帝国兵が樹海へと侵入してきたのである。

 

 目的は人攫いだったらしい。

 

カム達は、ハウリア族以外の兎人族の集落に急いで駆けつけたが、その時には既に遅く、女子供のほとんどを攫われてしまった。非力な兎人族を攫う理由が労働力のためでないことは明らかだ。襲撃を受けて高ぶっている帝国人を慰めるという目的以外には考えられない。

 

 流石に、同族の悲惨な末路を見過ごせなかったハウリア族は、仲間の過半数を樹海の警備のためにおいて、カム率いる残り少数で帝都へ向かう輸送馬車を追ったのである。

 

 しかし、そろそろ帝都に着いたはずというあたりで、カム達からの連絡が途絶えてしまった。伝令役との待ち合わせ場所に、時間になっても姿を見せなかったのだ。

 

 何かあったのではと考えて、じっとしていられなくなった樹海に残った者達は、何人か選抜して帝国へ斥候に出した。

 

 結果、どうやらカム達は帝都に侵入したまま、出て来ないようだとわかったのだ。

 

 その後、帝都に侵入してカム達の現状を知るべく、パル達が警備体制などの情報収集をしていたところ、大量の亜人族を乗せた輸送馬車が他の町に向けて出発したという情報を掴み、パル達の班が情報収集も兼ねて奪還を試みたというわけである。

 

「しかし、ボス。〝も〟ということは、もしや魔人族は他の場所でも?」

「ああ、あちこちで暗躍してやがるぞ? まぁ、運悪く俺がいたせいで尽く潰えているけどな」

 

 今思えば、魔人族にとってハジメは疫病神以外の何者でもないだろう。明確に種族全体に対して敵対意識を持っているわけでもないのに、彼等が事を起こした場所にタイミングよく居合わせて、邪魔だからという軽すぎる理由で蹴散らされているのだから。

 

「まぁ、大体の事情はわかった。取り敢えず、お前等は引き続き帝都でカム達の情報を集めるんだな?」

「肯定です。あと、ボスには申し訳ないんですが……」

「わかってる。どうせ道中だ。捕まってた奴等は、樹海までは送り届けてやるよ」

「有難うございます!」

 

 パル達が一斉に頭を下げる。シアは何か言いたそうにモゴモゴしていたが、結局、何も言わなかった。

 

 ハジメはそれに気がついていたし、シアが何を言いたいのかも察していたが、取り敢えず、シアが自分で言い出すのを待つことにして、やはり何も言わなかった。

 

 最後に、パル達から樹海に残っている仲間への伝言を預かって、ハジメは、帝都から少し離れた場所でリリアーナ達とパル達を降ろした。そして、一行は【ハルツィナ樹海】に向かって高速飛行に入るのだった。

 

 

 

 




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帝都


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ハジメ達が再び足を踏み入れた【ハルツィナ樹海】は、以前となんら変わらず一寸先を閉ざすような濃霧をもって歓迎を示した。

 

 やはり、亜人族がいなければ、人外レベルのハジメでも感覚を狂わされるようだ。ハジメ達がそれぞれ見失って離れ離れにならないよう、以前と同じく亜人達が周囲を囲むようにして先導してくれる。

 

「ハジメさん、武装した集団が正面から来ますよ」

 

 シアの言葉に周囲の亜人族が驚いたようにシアの方を向いた。その中には攫われていた兎人族も含まれており、どうやら自分達ではまるで察知できない気配をしっかり捉えているシアに驚いているようだ。

 

 そのシアの言葉の正しさを証明するように、霧をかき分けていつか見たような武装した虎耳の集団が現れた。全員、険しい視線で武器に手をかけているが、彼等も亜人族が多数いる気配を掴んでいたようで、いきなり襲いかかるということはなさそうだ。

 

 彼等のうち、リーダーらしき虎人族の視線がハジメ達に止まった。直後、驚愕に目を見開いた。

 

「お前達は、あの時の……」

 

 その虎の亜人の様子にハジメも彼を思い出した。彼の名はギルといい、かつて樹海に踏み込んだハジメ達と相対した警備隊の隊長をしている男だ。どうやら、襲撃を生き延びて、再び警備をしていたらしい。

 

「一体、今度は何の……って、アルテナ様!? ご無事だったのですか!?」

「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました」

 

 ギルは、ハジメに目的を尋ねようとして、その傍らにいたアルテナに気がつき素っ頓狂な声を上げた。そして、アルテナの助けてもらったという言葉に、安堵と呆れを含んだ深い溜息をついた。

 

「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい。……少年。お前は、ここに来るときは亜人を助けてからというポリシーでもあるのか? 傲岸不遜なお前には全く似合わんが……まぁ、礼は言わせてもらう」

「そんなポリシーあるわけ無いだろ。偶然だ、偶然」

 

 何やら知り合いらしい雰囲気に、雫達が疑問顔になる。シアが、こっそり何があったのかを簡潔に説明すると、シアがハジメに惚れている理由も分かるというもので、皆、納得顔を見せた。

 

「それより、フェアベルゲンにハウリア族の連中はいるか? あるいは、今の集落がある場所を知ってる奴は?」

「む? ハウリア族の者なら数名、フェアベルゲンにいるぞ。聞いているかもしれないが、襲撃があってから、数名常駐するようになったんだ」

「そりゃよかった。じゃあ、さっさとフェアベルゲンに向かうぞ」

 

 

 傍に人間族がいることに気がついて、一瞬、表情を強ばらせるもののアルテナ達が口々助けられた事を伝えると、警戒心を残しつつも抱き合って喜びをあらわにした。連れ去られていた亜人達の中には、ハジメ達に礼をいうと家に向かって一目散に駆けていく者もいる。

 

 次第にハジメ達を囲む輪は大きくなり、気が付けば周囲はフェアベルゲンの人々で完全に埋め尽くされていた。しばらくその状態が続いたあと、不意に人垣が割れ始める。その先には、フェアベルゲン長老衆の一人アルフレリック・ハイピストがいた。

 

「お祖父様!」

「おぉ、おお、アルテナ! よくぞ、無事で……」

 

 アルテナは、目の端に涙を溜めながら一目散に駆け出し祖父であるアルフレリックの胸に勢いよく飛び込んだ。もう二度と会えることはないと思っていた家族の再会に、周囲の人々も涙ぐんで抱きしめ合う二人を眺めている。

 

 しばらく抱き合っていた二人だが、そのうちアルフレリックは、孫娘を離し優しげに頭を撫でると、ハジメに視線を向けた。その表情には苦笑いが浮かんでいる。

 

「……とんだ再会になったな、南雲ハジメ。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。……ありがとう、心から感謝する」

「俺は送り届けただけだ。感謝するならハウリア族にしてくれ。俺は、ここにハウリア族がいると聞いて来ただけだしな……」

「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さんだろうに。巡り巡って、お前さんのなした事が孫娘のみならず我等をも救った。それが事実だ。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」

 

 ハジメはアルフレリックの言葉に、若干、困ったように頬を掻きつつも仕方なさそうに肩を竦めた。

 

 そんなハジメを、ユエやシア、ティオ、香織が微笑ましげに見つめている。そして、人間を救うために迷宮に潜って訓練を積んできた自分よりも、世界を巡り意図せず人々を救ってきたハジメに、光輝は一層、複雑そうな表情を見せていた。

 

 その後、ハジメ達は、ハウリア族はタイミング悪くフェアベルゲンの外に出てしまっているが直ぐに戻るはずだと聞き、アルフレリックの家で待たせてもらうことにした。

 

 アルフレリックの言う通り、差し出されたお茶(頬を染めたアルテナが手ずから入れたお茶)を一杯飲み終わる頃、ハウリア族の男女が複数人、慌てたようにバタバタと駆け込んできた。

 

「ボスゥ!! お久しぶりですっ!!」

「お待ちしておりましたっ! ボスゥ!!」

「お、お会いできて光栄ですっ! Sir!!」

「うぉい! 新入りぃ! ボスのご帰還だぁ! 他の野郎共に伝えてこい! 三十秒でな!」

「りょ、了解でありますっ!!」

 

 余りの剣幕に、パル達でハウリアの反応を予想していたはずの光輝達がブフゥー! とお茶を噴き出した。ボタボタと垂れるお茶を拭いながら全員がそちらを見ると、複数の兎人族がビシッ! と踵を揃えて直立不動し、見事な敬礼を決めている姿があった。

 

 ハジメにも見覚えのない者が何人かおり、先程の言動も踏まえると、どうやらハウリアは他の兎人族の一族を取り込んで自ら訓練を施し勢力を拡大しているようだ。

 

「あ~、うん、久しぶりだな。取り敢えず、他の連中がドン引いているから敬礼は止めような」

「「「「「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」」」」」

 

 樹海全体に響けと言わんばかりに張り上げたボスへの久しぶりの掛け声に、とても満足そうなハウリア族と、初めて経験した本物の掛け声に「俺達もついに……」と感動しているハウリアでない兎人族達。

 

 きっと、ハジメが樹海を出て行った後も、樹海にはハートマ○軍曹式の怒声が響いていたのだろう。

 

「ここに来るまでにパル達と会って大体の事情は聞いている。中々、活躍したそうだな? 連中を退けるなんて大したもんだ」

「「「「「「きょ、恐縮でありまずっ!!」」」」」」」

「なるほど。……〝必滅のバルドフェルド〟達からの伝言は確かに受け取りました。わざわざ有難うございます、ボス」

「………………なぁ、お前も……二つ名があったりするのか?」

「は? 俺ですか? ……ふっ、もちろんです。落ちる雷の如く、予測不能かつ迅雷の斬撃を繰り出す! 〝雷刃のイオルニクス〟! です!」

「……そうか」

 

「ハウリア族以外の奴等も訓練させていたみたいだが、今、どれくらいいるんだ?」

「……確か……ハウリア族と懇意にしていた一族と、バントン族を倒した噂が広まったことで訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので……実戦可能なのは総勢百二十二名になります」

 

 随分と増加したものだとハジメのみならずシアやユエも驚きをあらわにする。ハジメは、質問の意図がわからず疑問顔を浮かべる〝雷刃のイオルニクス〟を尻目に一つ頷く。

 

「それくらいなら全員一度に運べるな。……イオ、ルニクス。帝都に行く奴等をさっさと集めろ。俺が全員まとめて送り届けてやる」

「は? はっ! 了解であります! 直ちに!」

「ハ、ハジメさん……大迷宮に行くんじゃ……」

「カム達のこと気になってんだろ?」

「っ……それは……その……でも……」

 

 ハジメに図星を突かれて口籠るシア。

 

 ハジメの目的が大迷宮であり、カム達の事情は関係ない以上、シアとしてはわざわざ面倒事が待っていそうな帝都に入ってまでカム達の行方を探して欲しい等とは言えなかった。まして、カム達は連れ去られたというわけではなく、自分達から向かったのだ。何かあっても自己責任である。

 ハジメは、余計な手間を取らせていると恐縮して口籠るシアの傍に寄り、そっとその頬を両手で挟み込んだ。

 

「ふぇ?」

 

 突然のハジメの行動に、シアがポカンと口を開けて間抜け顔を晒す。そんなシアに、ハジメは可笑しそうに笑みを浮かべながら、真っ直ぐ目を合わせて言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

「シア、お前に憂い顔は似合わねぇよ。カム達が心配なら心配だって言えばいいだろう?」

「で、でも……」

「でもじゃない。何を今更、遠慮なんてしてるんだ? いつもみたいに、思ったことを思った通りに言えばいいんだよ。初めて会った時の図々しさはどこにいったんだ? 第一、お前が笑ってないと、俺の……俺達の調子が狂うだろうが」

「ハジメさん……」

 

 ぶっきらぼうではあるが、それは紛れもなくシアを気遣う言葉。シアを想っての言葉だ。それを理解して、シアは自分の頬に添えられたハジメの手に自分のそれを重ねる。瞳は、嬉しさと愛しさで潤み始めていた。

 

「あまり実感がないかもしれないが……これでも、その、なんだ。結構、お前の事は大切に想ってるんだ。だから、お前の憂いが晴れるなら……俺は、俺の全力を使うことを躊躇わない」

「ハジメさん、私……」

「ほら、言いたいこと言ってみろ。ちゃんと聞いてやるから」

 

 頬に伝わる優しくも熱い感触と、真っ直ぐ見つめてくるハジメの眼差しに、シアは言葉を詰まらせつつも、湧き上がる気持ちのままに思いを言葉にした。

 

「……私、父様達が心配ですぅ。……一目でいいから、無事な姿を見たいですぅ……」

「全く、最初からそう言えばいいんだ。今更、遠慮なんてするから何事かと思ったぞ?」

「わ、私、そこまで無遠慮じゃないですよぉ! もうっ、ハジメさんったら、ほんとにもうっですよぉ!」

 

 拗ねたように頬を膨らませているが、その瞳はキラキラと星が瞬き、頬はバラ色に染まっていて、恋する乙女を通り越して完全に愛しい男を見る女の顔だった。贈られた言葉に、幸せで堪らないという気持ちが全身から溢れ出ている。

 

 シア自身、そこまでハジメに遠慮しているという自覚はなかったのだが、ハジメを想う女ライバルが増えてきたため、無意識のうちにいい所を見せようと気張ってしまっていたようだ。

 

 それが、ハジメの〝大切に想っている〟という言葉で一気に吹き飛んでしまった。

 

 そんなシアを見て、女性陣がそれぞれ反応を示す。

 

「……ん。シア、可愛い」

 

 と、ユエは微笑ましげにシアを見守る。完全にお姉さん思考だ。

 

「ふむ、たまには罵り以外もいいかもしれんのぉ~」

 

 と、ティオは変態とは思えないまともな感想を抱く。重病を治すチャンスかもしれない。

 

「うぅ~、羨ましいよぉ~」

「まぁ、惚れた男にあんな風に言われれば嬉しいでしょうね……」

「な、南雲君……ストレートだよ。そっち方面でも変わってしまったんだね。鈴はびっくりだよ」

「シアさん……妬ましい、私もハジメ様に……」

 

 上から順に香織、雫、鈴、そして何故かアルテナである。

 

 そこで、ようやく周囲に大勢いることを認識したシアが、真っ赤になって両手で顔を隠してしまった。しかし、羞恥以上に嬉しさが抑えきれないのか、ウサミミがわっさわっさ、ウサシッポがふ~りふ~りと動きまくり気持ちをこれでもかと代弁している。

 

 その時、ちょうどいいタイミングでイオがやって来た。どうやらハウリア族の準備が整ったようだ。滅茶苦茶迅速な対応である。

 

 ハジメ達は、アルフレリックとアルテナ達の見送りを受けながら樹海を抜け、帝都に向けて再びフェルニルを飛ばした。

 

 

 

「おい、おまえ『ドガッ!!』ぐぺっ!?」

 

 そんな帝都に入ったハジメ達だが、当然、美女美少女を引き連れたハジメが目立たないわけがなく、しきりにちょっかいを掛けられては問答無用に沈めるという事を既に何度も繰り返していた。今も、ニヤつきながら寄って来た武装した男を強制的にトリプルアクセルさせた上、地面に濃厚なキスをさせたところである。

 

 しかし、周囲はそんな暴力沙汰を特にどうとも思っていないようで、ごく普通にスルーしている。この程度の〝ケンカ〟は日常茶飯事なのだろう。

 

シア「うぅ、話には聞いていましたが……帝国はやっぱり嫌なところですぅ」

香織「うん、私もあんまり肌に合わないかな。……ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ」

ティオ「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」

 

 

「シア、余り見るな。……見ても仕方ないだろう?」

「……はい、そうですね」

 

 シアの目に入ってしまうそれは亜人族の奴隷達だ。使えるものは何でも使う主義の帝国は奴隷売買が非常に盛んだ。今も、シアが視線を向けている先には値札付きの檻に入れられた亜人族の子供達がおり、シアの表情を曇らせている。

 

 傍らのユエが心配そうにシアの手を握る。ハジメも、シアのほっぺをムニムニと摘んで不器用な気遣いをする。二人の暖かさが手と頬に伝わり、シアのウサミミが嬉しそうにパタパタと動いた。

 

「……許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて、カービィはなんとも思わないのか!?」

 

 ハジメ達の後ろを歩いていた光輝が、ギリっと歯噛みする。放って置けば、そのまま突撃でもしそうだ。

「たしかに許せないとは思う。けど先っぽじゃなくて根っこからじゃないときりがないから……。」

 

「そう言えば、雫ちゃんって皇帝陛下に求婚されたよね?」

「……そう言えば、そんな事もあったわね」

 

 思い出したくなかった事を思い出して顔をしかめる雫。

 

 ユエ達女性陣が、「ほぉ~」と、どこかニヤついた表情で雫を見る。雫は、その視線に更に顔をしかめた。隣で光輝が渋い表情になる。どうやら国だけでなく皇帝陛下自身も嫌われてしまっているようだ。

 

「そんな事より、南雲君。具体的に何処に向かっているの?」

 

 雫が、今にも詳細を聞いてきそうな女性陣をかわすためにハジメに話を振る。シアの父親達の安否を確認するという話は聞いているが、そのための具体的な方針を聞いていなかったのだ。

 

「ん~? 取り敢えず冒険者ギルドだな。〝金〟を利用すれば大抵の情報は聞き出せる」

「……南雲君は彼等が捕まっていると考えているの?」

「それはわからない。捕まって奴隷に堕とされている可能性もあるし、何処かに潜伏している可能性もある。帝都の警備は厳戒態勢とまではいかないが異常なレベルだろ? 入ったのはいいが出られなくなったってこともあるだろうしな……」

 

 ハジメの言う通り、帝都の警備は過剰と言っても過言ではないレベルだった。入場門では一人一人身体検査までされた上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐して常に目を光らせていた。

 

 都内でも、最低スリーマンセルの帝国兵が厳しい視線であちこちを巡回しており、大通りだけでなく裏路地までしっかり目を通しているようだった。おそらく、魔物の襲撃があったことが原因で、未だ厳戒態勢とまではいかないまでも高レベルの警戒態勢を敷いているのだろう。

 

 そんな帝都であるから、パル達も侵入には苦労していて未だ隙を窺っている状態だ。奴隷でもない兎人族が帝都に入れるわけもなく、ハジメ達の奴隷のフリをするのも限度がある。そのため、ハジメが運んできた増援部隊も、今は目立たないように帝都から離れた岩石地帯に潜伏中だ。むしろカム達がどうやって侵入したのか不思議なほどである。

 

 ただ、ハジメは口では〝わからない〟と言ったが、十中八九、カム達は捕まっているのだろうと考えていた。ハウリア達兎人族は気配操作に関しては亜人族随一な上に、カム達はそれを磨き続けてきたのだ。人の出入りは厳しくとも、何らかの方法で外に伝言を送るくらいは出来るだろう。にもかかわず、それすら出来なかったという事は、捕まっていて身動きがとれないと考えるのが自然だ。

 

 もちろん、冒険者ギルドにカム達の情報がそのままあるとは思っていない。だが、それに関わるような事件や噂があるのではないかと考えたのである。

 

 傍らで、不安そうな表情をするシアにそっと手を伸ばし、再び、ほっぺをムニムニしてやるハジメ。シアは、ウサミミを触られるのも好きだが、ほっぺムニムニもお気に入りなのだ。ハジメは、嬉しそうにしながらも若干、不安さを残すシアに冗談めかしていう。

 

「捕まっているなら取り返せばいいだけだ。安心しろよ、シア。いざとなれば、俺達が帝都を灰燼にしてでも取り戻してやる」

「ん……任せて、シア」

「ハジメさん、ユエさん……」

「いやいやいや、灰燼にしちゃダメでしょう? 目が笑っていないのだけど、冗談よね? そうなのよね?」

「雫ちゃん、帝都はもう……」

「諦めてる!? 既に諦めてるの、香織!?」

 

 冗談に聞こえないハジメの冗談? に雫達が頬を引き攣らせながらツッコミを入れるが、香織が沈痛そうな表情でゆっくり頭を振り真実味が増したため慌てだした。

 

 実際、ハジメ達なら一国を滅ぼすくらいわけなさそうなので、冗談にしては性質が悪すぎである。

 

 そんな冗談ともつかない冗談を言いながら、ハジメ達が冒険者ギルドに向かってメインストリートを歩いていると、前方の街の様子が様変わりし始めた。あちこちの建物が崩壊していたり、その瓦礫が散乱していたりしているのだ。

 

 道中、耳に入ってきた話によれば、コロシアムで決闘用に管理されていた魔物が、突然変異し見たこともない強力かつ巨大な魔物となって暴れだしたらしい。都市の中心部に突如出現した巨大な魔物(体長三十メートルはあったようだ)に対して後手に回った帝国は、いい様に蹂躙されたようだ。

 

 挙句、魔人族がその機に乗じて一気に皇帝陛下に迫ったらしい。その皇帝陛下自らの出陣で何とか魔物も魔人族も退けたらしいが……街の様子を見る限り代償は大きかったようである。

 

 そんなコロシアムを起点にして放射状に崩壊し、悲惨な状態になっている場所で、瓦礫などの撤去に裸足の亜人奴隷達が大勢駆り出されていた。

 

 冒険者ギルドは、その崩壊が激しい場所の更に向こう側にあるので否応なく通らなければならず、自然、彼等の姿を視界に入れることなる。武装した帝国兵の厳しい監視と罵倒の中、暗く沈みきった表情で瓦礫を運ぶ様は悲惨の一言だった。

と、その時、ハジメ達から少し離れたところで犬耳犬尻尾の十歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に乗せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。足を打ったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、こん棒を片手に近寄り始めた。何をする気なのかは明白だ。

 

 そして、それを見て黙っているわけのない正義の味方がここに一人。

 

「おい! やめっ……」

 

 光輝が、帝国兵を止めようと大声を上げながら駆け出そうとする。しかし、その言動は次の瞬間に起きた出来事によって止められることになった。

 

パシュ!

 

 そんな空気の抜けたような音が微かに響くと同時に、帝国兵が勢いよくつんのめり顔面から瓦礫にダイブしたのである。

 

 ゴシャ! と何とも痛々しい音が響き、犬耳少年に迫っていた帝国兵はピクリとも動かなくなった。どうやら気絶してしまったようである。同僚の帝国兵が慌てて駆けつけて、容態を見たあと、呆れた表情で頭を振るとどこかへ運び去っていった。犬耳少年のことは放置である。

 

 犬耳少年は、何が起きたのかわからないといった様子でしばらく呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると自分が散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事もなかったように手押し車で運搬を再開した。

 

 呆然としているのは駆け出そうとして出鼻をくじかれた光輝も同じだった。そこへ、ハジメから声が掛かる。

 

「面倒事に首を突っ込むのは構わないが、俺達に迷惑が掛からないようにしろよ?」

「っ……今のは南雲が?」

 

 光輝の確認に肩を竦めるハジメ。実際、義手から針を飛ばして帝国兵を躓かせて転倒させたのだ。自分より先に助けたことはともかく、光輝は、ハジメの〝迷惑〟という言葉に眉をしかめた。どうやら正義スイッチがONになったようだ。

 

「迷惑って何だよ。……助けるのが悪いっていうのか? お前だって助けたじゃないか」

「どちらかというと、お前が起こす面倒事を止めたという方が正しいけどな。こんなところで帝国兵に突っかかっていったら、わらわらとお仲間が現れて騒動になるだろうが。こっちは、人探しに来てるんだ。余計な騒ぎを起こすなよ。どうしてもやるならバレないようにやるか、俺達から離れた場所で迷惑にならないようにやってくれ」

 

 手をヒラヒラさせながら、気のない返答をするハジメに光輝は本来の目的であるシアの家族を探すという事も頭の隅に追いやってヒートアップし、倫理やら正義の価値観を訴え出す。

 

「お前は、あの亜人族の人達を見て、何とも思わないのか! 見ろ、今、こうしている時だって、彼等は苦しんでいるんだぞ!」

「はぁ~、おい八重樫、この目的を見失っている阿呆を早く何とかしろよ。お前の担当だろうが」

 

 ハジメとて、かつてミュウを助けたのだ。子供が目の前で苦しんでいれば何も感じないわけではない。大人は……自分で何とかしろや、とか思っているが。

 

「雫は関係ないだろ! 俺は、今、お前と話しているんだ! シアさんのことは大切にするのに、あんなに苦しんでいる亜人達は見捨てるのか!」

 

 光輝の声が大きくなるにつれ、周囲も何事かと注目しだした。離れたところで監視役を担っている帝国兵の幾人かもチラチラとハジメ達の方を見始めている。

 

 ハジメ達の探し人であるカム達が帝国兵と敵対し、かつ不法入国者でもある以上、ハジメとしては、わざわざ自ら騒動を起こして官憲と揉めたくはない。なので、自分にやけに突っかかってくる光輝に向かってスッと目を細めた。

 

「……天之河。物覚えが悪いお前のためにもう一度だけ言っておく。いいか? 俺は、お前の御託を聞く気はないし、倫理観やら正義感について議論する気もない。仲間になった覚えもなければ、連れ合っているつもりもない。お前等が〝付いて来る〟のを〝許可〟しただけだ。だから、いちいち突っかかってくるな、鬱陶しいんだよ。あんまり騒ぐようなら……四肢を砕いて王国に送り還すぞ?」

「っ……」

「さっきも言ったが、俺もお前等に干渉するつもりはないんだ。だから、俺達に迷惑にならない範囲でなら好きにしろ。俺は、ここにカム達を探しに来たんだ。安否もわからない状態で他にかまけている暇はない。……それと、シアが他の亜人と同列なわけないだろう」

 

 ハジメは、歯噛みする光輝を尻目に、興味はないというように踵を返した。

 

 奴隷制度は、この世界では当たり前のこと。確かに酷い扱いではあるが、ここで奴隷にされている亜人族を助ける方が一般的に〝悪い〟ことなのだ。他人の〝所有物〟を盗むのと変わらないのだから。

 

 〝それでも〟と思うなら、相応の覚悟が必要だ。それこそ、帝国そのものを敵に回して戦う覚悟と、二度と亜人族を奴隷にさせない方法を確立させる程度のことは。でなければ、今、奴隷達を力尽くで助けても、後に帝国からの報復や亜人族捕獲活動が激化するという恐れがあり、そうなれば待っているのは更なる地獄だろう。

 

 その辺りのことがわかっているのか、いないのか……光輝はハジメの背中を睨みつけながらその場を動かない。それでも雫達に促され、ようやく渋々といった感じで後を追い出した。

 

 光輝は、ハジメがノイントのような神の使徒が多数現れた時に自分達をぶつけようという考えで同行を許可したとは知らなかったが、ハジメが本気になれば、付いて行くことすら出来ないことは明白で、そうなれば力を手に入れることが難しくなるということはわかっていた。

 

 神代魔法をより確実に手に入れるには、やはりハジメに付いて行くのがベストなのだ。なので、胸の内のモヤモヤをグッと押さえ込み、黙って後を付いて行くのだった。

 

 光輝達だけ微妙な雰囲気のなか、辿り着いた帝都の冒険者ギルドは、まんま酒場という様子だった。

 

 広いスペースに雑多な感じでテーブルが置かれており、カウンターは二つある。一つは手続きに関するカウンターで受付は女性だが粗野な感じが滲みでており、もう一方のカウンターは、完全にバーカウンターだった。昼間にも関わらず飲んだくれているおっさんがあちこちにおり、暇なら復興を手伝えよとツッコミを入れたくなる有様だった。

 

 ハジメ達が中に足を踏み入れると、もう何度目になるか分からない毎度お馴染みの反応が返ってくる。すなわち、ユエ達に対する不躾で下卑た視線だ。なので、ハジメも面倒くさげに〝威圧〟を初っ端から発動しつつカウンターへ向かう。

 

 流石、飲んだくれていても軍事国家の冒険者というべきか気絶するような奴はいなかったが、一斉に酔いが覚めたように警戒心をあらわにしだした。

 

 カウンターの受付嬢に、他の町で見たにこやかさはない。気怠そうな、やる気無さそうな表情でハジメを見返すだけだ。用があるならさっさと言えといった感じである。

 

「情報をもらいたい。ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がいたりしなかったか?」

「……」

 

「……そういう情報はあっちで聞いて」

 

 ハジメがそちらを見れば、ロマンスグレーの初老の男がグラスを磨いている姿があり、どうやら情報収集は酒場でというテンプレが守られているようだ。受付嬢は、それだけ言うと自分の仕事はやり遂げたというように視線を明後日の方向に向けてしまった。

 

 ハジメ達は肩を竦めると、バーカウンターの方へ向かう。

ハジメがバーカウンターの前に陣取り、マスターらしきロマンスグレーの男に先ほど受付嬢にしたのと同じ質問をする。しかし、相手は無視するようにグラスを磨き続けているだけだった。ハジメの目がスッと細められる。

 

 すると、

 

「ここは酒場だ。ガキが遠足に来る場所じゃない。酒も飲まない奴を相手にする気もない。さっさと出て行け」

 

 という、何ともテンプレな返答を頂いた。何というテンプレマスターだ! とハジメのテンションが少し上がる。既にピカピカのグラスしかないのに磨くのを止めないというのも高評価だ。ここまで来れば、酒をがっぽり飲めば気を良くしてくれるに違いない。

 

 ハジメは、ファンタジー系主人公の気分を味わえて内心ニヤニヤしながらも、それを表に出さずに納得顔でカウンターにお金を置いた。心の片隅にある暗がりから、厨二Tシャツを来たミニハジメが「呼んだ?」と顔を覗かせていることにハジメは気がついていない。

 

「もっともだな。マスター、この店で一番キツくて質の悪い酒をボトルで頼む」

「……吐いたら、叩き出すぞ」

マスターは、ハジメの注文に一瞬、眉をピクリと動かしたものの特に断るでもなく背後の棚から一升瓶を取り出しカウンターにゴトリと音をさせながら置いた。

 

 ガキと言いながらも素直に出したのは、ハジメの放つ威圧感と周囲の冒険者達の警戒した雰囲気から只者ではないと分かったからだろう。

 

 ハジメは、ボトルを手に取ると指先でスッと撫でるように先端を切断する。その行為自体と切断面の滑らかさに周囲が息を呑むのがわかった。マスターですら少し目を見開いている。

 

 封の空いたボトルからは強烈なアルコール臭が漂い、傍にいたシアや香織が思わず鼻を覆ってむせてしまった。光輝達も「うっ」と呻きながら後退りする。

 

「な、南雲君? そ、それを飲む気なの? 絶対、やめた方がいいと思うわよ?」

「そ、そうだよ。絶対、吐いちゃうって。鈴なんか既に吐きそうだよ」

「っていうかハジメくん、どうせ飲むならもっといいお酒にしようよ」

「香織さんの言う通りですよ、ハジメさん。どうしてわざわざ質の悪いのを……」

 

 雫達が口々に制止の声を掛けてくる。傍らのユエも酒の匂いに眉をしかめつつハジメの服の裾をクイクイと引っ張る。

 

「いや、味わう気もないのに、いい酒をがぶ飲みなんて……酒に対する冒涜だろう?」

 

 心配する彼女達を余所に、ハジメはそんな事をいう。

 

 その軽口にマスターの口元が僅かに楽しげな笑みを浮かべた。ハジメの思う通りのタイミングでマスターの微笑みを頂いたのだ! 酒の味に敬意を向ける冒険者などそうそういないのかもしれない。

 

 ハジメは、「え~」と批判的な声を出す香織達を無視して、ほとんど異臭と言っても過言ではない匂いを発する酒を、飲むというより流し込むようにあおり始めた。平然としているように見えるハジメの心はマスター一色だ。「見てるかテンプレマスター。テンプレな反応を期待しているぞっ」と。心の中のミニハジメは左腕が疼き始めている。

 

 シーンとする店内にゴキュゴキュと喉を鳴らす音だけが響き渡る。そして、一度も止まることなくものの数秒でボトル一本を飲み干してしまった。

 

 ハジメは、手に持ったボトルをガンッ! とカウンターに叩きつけるようにして置くと、口元に笑みを浮かべながらマスターを見やる。その目が「文句あるか?」と物語っていた。

 

「……わかった、わかった。お前は客だ」

 

マスターとしても、それを一瞬で飲み干された挙句、顔色一つ変えない以上、〝ガキ〟扱いするわけにもいかなかった。

 

 ちなみに、ハジメはいくら飲んでも酔わない体質だ。その原因は〝毒耐性〟である。元々、日本にいた時も父親に酒の美味しい飲み方というものを教え込まれていたので、それなりに好きな方ではあるのだが、〝毒耐性〟のせいで全く酔えなくなってしまい、ハジメとしてはちょっと残念に思っていたりする。

 

「……で? さっきの質問に対する情報はあるのか? もちろん、相応の対価は払うぞ」

「いや、対価ならさっきの酒代で構わん。……お前が聞きたいのは兎人族のことか?」

「! ……情報があるようだな。詳しく頼む」

 

 どうやら、マスターは相応の情報を掴んでいるらしかった。

 

 曰く、数日前に大捕物があったそうで、その時、兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたのだとか。しかし、流石に十数人で百人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切ることはやはり出来ず、全員捕まり城に連行されたそうだ。

 

 それでも、兎人族の常識を覆す実力に結構な話題になっていたので、町中で適当に聞いても情報は集められたようである。

 

「へぇ、城にね……」

「マスター、言い値を払うといったら、帝城の情報、どこまで出せる?」

「! ……冗談でしていい質問じゃないが……その様子を見る限り冗談というわけじゃなさそうだな……」

 

 ハジメが笑みを浮かべつつも、その全く笑っていない眼で真っ直ぐマスターを射抜く。

 

 得体の知れない圧力に、流石のマスターも少し表情が強ばった。質問の内容も、下手をすれば国家反逆の意思を疑われかねないものだ。

 

 もっとも、ここは冒険者ギルドであり独立した機関であるから、帝国に対する〝反逆〟という観念自体がない。ハジメも、その辺りを踏まえて、ワンクッション挟んだ上で尋ねたのだ。

 

 ただ、いくらマスターが冒険者ギルドの人間であっても、自国の、それも本拠地内部の情報を売り渡したと知られれば、帝国の人間がただで済ますわけがないので安易に情報を渡すわけにはいかない。かといって、目の前の刻一刻と纏わり付くような威圧を増していくハジメ相手に返答を渋っても碌な未来は見えそうにないのが悩ましいところだ。

 

 なので、マスターは苦渋の選択として、代わりにハジメの知りたい情報を知っている人間を教えることにした。

 

「……警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」

「ネディルね。わかった、訪ねてみよう。世話になったな、マスター」

「あの、ハジメさん。さっき元牢番の人を紹介してもらったのは、もしかして……」

「ああ。詳しい場所を聞いて、今晩にでも侵入するつもりだ。今から、俺とカービィで情報を仕入れてくるから、お前等は適当な場所で飯でも食っててくれ。二、三時間で戻るからよ」

 

「? どうして二人だけなんですか?」

「お前等いい加減にしとけ……カービィと二人なのは、ネディルとやらが素直でない場合、より丁寧な〝お話〟が必要になるだろうから、カービィがいいってことだよ。再生魔法?のコピー能力も使えるし……」

「再生魔法なら私だって……」

「香織、今回はカービィに任せた方がいいわ」

「雫ちゃん……」

 

 

 

 その数時間後、とある宿屋の一階にある食事処で待機していたシア達の元へ、カービィとハジメが戻って来たのだった。




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仮面集団

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ハジメ「欲しい情報は得られた。今晩、カム達がいる可能性の高い場所に潜入する。警備は厳重そうだが、カム達を見つけさえすれば、あとは空間転移で逃げればいいから、特に難しくもないな。潜入するのは俺とカービィ、ユエとシアだけだ。万一に備えて、気配遮断や転移が使える方がいいし。香織達は帝都の外にいるパル達のところにいてくれ。直接転移するから」

「……それはわかったけど……そもそも、その情報は正しいの? ネディルって人が嘘を言っている可能性は……」

「そりゃないだろう。自分の股間が目の前ですり潰された挙句、痛みで気を失う前に再生させられて、また潰されて……というのを何度も繰り返したからな。男に耐えられるもんじゃない……洗いざらい吐かされた後、股間を押さえながらホロホロと涙を流すネディル君を見て、流石の俺も同情しちまったよ」

 

「なぁ、南雲……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか? 今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」

 

 光輝が、本当に今更なことを言う。

 

 確かに、光輝の言う通り、勇者である光輝の言葉であればそうそう無下にはできないし、頼めばリリアーナも口添えをしてくれるだろう。ハジメ自身が力を示して強引な交渉をすることも可能だ。

 

 だが、

 

「対価に何を払う気だ?」

「え?」

「カム達は不法入国者な上に、帝国兵を殺したんだぞ? しかも、兎人族でありながら包囲されて尚、帝国側にダメージを与えられるという異質な存在だ。それを、まさか頼んだからって無償で引き渡してくれると思うのか?」

「それは……」

「対価を要求するに決まってるさ。それも思いっきり足元を見た、ドでかい対価をな。帝国にだって面子はある。唯で済ますことは出来ないだろう。あるいは、姫さんの交渉にも影響が出るかも知れないぞ? それでもいいのか?」

 

 その可能性は確かにあると、口をつぐむ光輝。おそらく、せっかく付いてきたのだから自分も何かしたいのだろう。先程の亜人奴隷の事もあり、じっとしていられないようで何かを考え込み始めている。

 

 ひじょ~に嫌な予感がしてきたハジメは、チラリと雫を見た。そして雫が「あ、これ、ヤバイわ」という表情で光輝を見つめている姿を捉える。どうやら光輝に暴走の兆候が出ているらしい。

 

 ハジメは、まさかと思うが、自分達が帝城に侵入する際、光輝が何らかの〝巨大なお世話〟的な行動を起こすのではと考え、仕方なく先手を打つことにした。

 

「なぁ、天之河。一つお前に頼みがあるんだが……」

「っ!!!? なん……だって? 南雲が俺に頼み? ……有り得ない……」

 

 ハジメからの突然の頼みという言葉に光輝は愕然とした表情で硬直する。それは隣の龍太郎や鈴も同じだった。まるでUMAと街中でばったり遭遇してしまったかのようだ。それくらいハジメからの〝頼み〟というものは、今までの言動からしてあり得なかったのだろう。

 

 しかし、ハジメもそれくらいの反応は予想済みなので、ちょっとイラっとしたが、それを表には出さなかった。

 

「あ~、いや、やっぱりいい。こんな危険な事、お前には頼めない。済まないな、忘れてくれ」

「ま、待てっ、待ってくれ! まずは何をして欲しいのか教えてくれ……」

 

 さも悪いことを言ったという雰囲気であっさり撤回したハジメに、むしろ光輝の方が食いついた。

 

「いやな、帝城に侵入するといっても警備は厳重すぎるくらい厳重だ。だから、少しでも成功率を上げるために陽動役をやって欲しかったんだよ。……例えば、さっきの犬耳少年のような亜人を助けるという建前でひと暴れして帝国兵を引き付ける……とかな。ああ、だが、危険すぎるよな。忘れてくれ」

 

 もちろん、警備は厳重だろうがハジメ達に侵入できない訳が無い。陽動も、あれば全く役に立たないわけではないだろうが、特に必要というわけでもない。単に、もっともらしい理由がこれ以外に思いつかなかっただけである。すべきことがなくて暴走するというなら、すべきことを与えてみようと思っただけだ。せめて、俺達も手伝うぞ! とか言って帝城に潜入してこないように……

 

「陽動……あの子達……やる。やるぞ! 南雲! 陽動は任せてくれ!」

「お、おう、そうか、引き受けてくれるかぁ、流石、勇者だな……うん。そんな素敵な勇者達には、これを贈呈してやろう」

 

 そう言ってハジメは〝宝物庫〟から鉱石をいくつか取り出すとパパッと錬成して四つの仮面を作り出した。

 

 その仮面はそれぞれ赤、青、黄、ピンクに分かれており、某戦隊もののヒーローを思わせるフルフェイスタイプだった。細かな意匠が施され、視界や呼吸を遮らないように工夫もなされている。並の錬成師ではとても真似できない技術力だ。まさに無駄に洗練された無駄のない無駄な技である。

 

「……南雲……これは?」

「見ての通り仮面だ」

「………………なぜ?」

「なぜってお前、勇者が帝都で脈絡なく暴れるとか不味いだろ? 正体は隠さないと。そして、正体を隠すと言えば仮面だ。古今東西、ヒーローとは仮面を被るもの。ヒーローとは仮面に始まり仮面に終わるんだ。ちゃんと区別がつくように色分けもしてあるだろ?」

「え? いや、いきなり、そんな力説されても……まぁ、確かに正体は隠しておいた方がいいというのはわかる。リリィの迷惑にもなるだろうし……でも、これは……」

 

「……心配するな勇者(笑)。お前には、ちゃんとリーダーの色、〝赤〟をくれてやる」

「……なぁ、今、勇者の後に何かつけなかったか?」

「坂上、お前は青だ。冷静沈着を示す青。黒とどっちにするか迷ったが、お前(脳筋)のためにも青がいいと判断した。我ながら英断だったと思う」

「お、おう? なんかよくわからんが、くれるってんなら貰っとくぜ」

「そして谷口、お前は……」

「ピ、ピンクかな? かな? ちょっと恥ずかし……」

 

「黄色だ。あれ? いたの? の黄色だ。お調子者の黄色だ。いろんな意味で微妙の代名詞、黄色だ」

「……ねぇ、南雲君って、もしかして鈴のこと嫌いなの? そうなの?」

「そして最後……八重樫は……」

「待ちなさい、南雲君。もう一つしか残っていないのだけど……まさかよね?」

「八重樫、もちろん、残っているピンク、それがお前のカラーだ」

「嫌よっ! っていうか、仮面以外にも正体を隠す方法なんていくらでもあるでしょう? 布を巻くくらいでいいじゃない! 南雲くん、あなた、確実に遊んでいるでしょ!」

 

 雫の抗議に、ハジメはやれやれと肩を竦める。まるで聞き分けのない子供に対するような態度に雫の頬がピクピクと引き攣る。

 

「いいか? 正体を隠すなら確実に! だ。その仮面はちゃんと留め金が付いていて、ちょっとやそっとでは外れない上に、衝撃緩和もしてくれる。更に、重さを感じさせないほど軽く、並の剣撃じゃあ傷一つ付かない耐久力も併せ持っているんだ」

「あ、あの一瞬でそこまでのものを……なんて無駄に高い技術力……」

「そして八重樫、お前のように普段キリッとしたクールビューティータイプは、実は可愛らしいものが好きというのが定番だ。故に、わざわざ気遣ってピンクにしてやったんだ。感謝しろ」

「な、なんという決めつけ……わ、私、別に可愛いものなんて……」

「あっ、当たってるよ、ハジメくん! 雫ちゃんの部屋ぬいぐるみで一杯だもん」

 

 ハジメの決めつけを咄嗟に否定する雫だったが、そこでまさかの裏切り。香織が雫の趣味を暴露する。雫の頭の上に〝!?〟のマークが飛び出した。

 

「……そういえば、昔から動物も好きだったよな。特に、ウサギとかネコとか……」

「!」

「ああ、シズシズの携帯の待ち受けもウサちゃんだったよね~」

「!」

「ゲーセンとか寄ったりすると、必ずUFOキャッチャーやるよな。しかも、やたらうめぇし」

「!」

「なるほど、それで雫さん、私のウサミミをいつもチラ見していたんですね?」

「!!!」

「……八重樫。さぁ、受け取れ。ピンクは……お前のものだ」

 

 いつになく優しげな眼差しでピンクの仮面をそっと差し出すハジメ。何故か、ハジメ以外の全員も、妙に優しげな眼差しで贈呈式を見守っている。いつの間にか、仮面を受け取らないという選択肢がなくなっていることには誰も気がつかない。

 

「……なんなのよ、この空気……言っておくけど、私、ホントにピンクが好きなわけじゃないんだからね? 仕方なく受け取っておくけど、喜んでなんかいないから勘違いしないでよ? あと、小動物が嫌いな人なんてそうはいないでしょ? だから、私が特別、そういうのが好きなわけじゃないから……だから、その優しげな眼差しを向けるのは止めてちょうだい!」

 

 耳まで赤くなりながら、雫は律儀に仮面を受け取った。

 

 恥ずかしいからなのか必死に否定するものの、シアがこっそり「雫さんなら少しくらいウサミミ触ってもいいですよ?」というとデレっと相好を崩したので虚しい努力だった。

 

 ちなみに、ここまでハジメが四人戦隊を押したのは、単なる八つ当たりだったりする。

 

 帝都に仮面戦隊が現れてひと暴れすれば、ハウリアが付けようとした痛い二つ名を越える何らかの二つ名が雫達に付けられるのではないかという目論見だ。

 

 実は、パル達とのやり取りの時、雫達に笑われたのを根に持っていたらしい。もっとも、正体が隠されているので直接呼びかけられるわけではなく、人知れず耳にして悶えるくらいが関の山だが……

 

 光輝の暴走をコントロールするついでに、せこい仕返しを目論んでいるハジメの意図を察して、ユエが若干呆れたような眼差しを向けていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おい、今日は何本逝った?」

「指全部と、アバラが二本だな……お前は?」

「へへっ、俺の勝ちだな。指全部とアバラ三本だぜ?」

「はっ、その程度か? 俺はアバラ七本と頬骨……それにウサミミを片方だ」

「マジかよっ? お前一体何言ったんだ? あいつ等俺達が使えるかもってんでウサミミには手を出さなかったのに……」

「な~に、いつものように、背後にいる者は誰だ? なんて、見当違いの質問を延々と繰り返しやがるからさ。……言ってやったんだよ。〝お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ?〟ってな」

「うわぁ~、そりゃあキレるわ……」

「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、たぶん命令受けてるだろ? それに背いたってことは……」

「ああ、確実に処分が下るな。ケケケ、ざまぁ~ねぇぜ!」

 

 聞こえてくるのは、誰が一番ひどい怪我を負ったかという自慢話。最低限の回復魔法を掛けられているので死にはしないが、こんな余裕そうな会話をしていても、声の主達はまさに満身創痍という有様だ。

 

 それでもやせ我慢しつつ、軽口を叩く彼等の正体は、帝国に捕まったハウリア達である。

 

 彼等が、重傷度で競い合っているのは、別に狂ったわけではない。既に覚悟を決めているのだ。

 

 帝城の地下牢に囚われている以上、自分達はもう助からない。処刑されるか奴隷に落とされるか……後者の場合は、それこそ全力全開で自害する所存なので、やはり命はない。奴隷の首輪で強制的に同族と戦わされるなど悪夢なので、事前にそう決めていたのだ。

 

 そして、助からない以上は、最後に一矢報いてやるつもりで生き長らえている。

 

 帝国側は、ハウリアの実力が余りに常識からかけ離れていることから、彼等の背後に何か陰謀でもあるのではないかと疑っている。

 

 また、そうでなくても、報告を受けた皇帝陛下がハウリア族を気に入り、帝国軍の手駒として使えないか画策しているようだった。戦闘方法、持っていた武器、その精神性、温厚なハウリアを変えた育成方法、その他にも強者を好む皇帝陛下にとってハウリア族は宝箱のようなものだったのだ。

 

 そんな帝国側の思惑を察しているハウリア達は、命尽きるその瞬間まで、帝国側を馬鹿にするように楯突いているのである。覚悟も決まっているから、重傷度で競い合うという阿呆な暇潰しも出来るのだ。

 

 ちなみに、この地下牢に満身創痍で入れられて、それでも尋問という名の拷問のために牢から出された時、にこやかな笑みを浮かべるハウリア族は、既に関わる帝国兵のほとんどに恐怖を宿した目で見られている。

 

「今頃は、族長も盛大に煽ってんだろうな……」

「そうだな。……なぁ、せっかくだし族長の怪我の具合で勝負しねぇか?」

「お? いいねぇ。じゃあ、俺はウサミミ全損で」

「いや、お前、大穴すぎるだろ?」

「いや、最近の族長、ますます言動がボスに似てきたからなぁ。……特に新兵の訓練している時とか……」

「ああ、まるでボスが乗り移ったみたいだよな。あんな罵詈雑言を浴びせられたら……有り得るな……」

「まぁ、ボスならそもそも捕まらねぇし、捕まっても今度は内部から何もかも破壊して普通に出てきそうだけどな!」

「むしろ、帝都涙目って感じだろ? きっと、地図から消えるぜ」

「ボスは、容赦ないからな!」

「むしろ鬼だからな!」

「いや、悪魔だろ?」

「なら、魔王の方が似合う」

「おいおい、それじゃあ魔人族の魔王と同列みたいじゃないか。ボスに比べたら、あちらさんの魔王なんて虫だよ。虫」

「なら……悪魔的で神懸かってるってことで魔神とか?」

「「「「「「「「「それだ!」」」」」」」」」

「……随分と元気だな? この〝ピー〟共……久しぶりだってのに中々言うじゃないか? えぇ?」

「「「「「「「「「……」」」」」」」」」

 

 暗闇の中で盛り上がっていた満身創痍のハウリア達に怒気を孕んだ声が響く。

 

 随分と聞き覚えのある声に、ハウリア達が凍りついたように黙り込んだ。暗闇の中、まるで肉食獣をやり過ごそうとしている小動物のように息を潜める。

 

「おい、こら。なに黙り込んでやがる。誰が鬼で悪魔で魔王すら霞む魔神だって? うん?」

「ハハハ、わりぃ、みんな。俺、どうやらここまでのようだ。……遂に幻聴が聞こえ始めやがった……」

「安心しろよ、逝くのはお前一人じゃない。……俺もダメみたいだ」

「そうか……お前らもか……でも最後に聞く声がボスの怒り声とか……」

「せめて最後くらい可愛い女の子の声が良かったよな……」

 

 

 そんな彼等に、声の主であるハジメは、現実を突きつける。傍らのユエがパッと光球を出し、地下牢の闇を払拭した。そして、帝城の地下牢にハジメの姿がはっきりと浮かび上がった。

 

「「「「「「「「「げぇ、ボスぅーーーー!!?」」」」」」」」」

「静かにしろ、ド阿呆共」

「……意外に元気?」

「だいじょーぶみたいだね。」

「見た目、かなり酷いんですが……心配する気が失せてきました」

 

 ハウリア族の面々は、見るも無残な酷い怪我を負いながら、薄汚い牢屋の奥で横たわり、起き上がる様子もないにもかかわらず、どこぞの武神にでも会ってしまったかのような素っ頓狂な声を上げた。

 

 ハジメ、カービィ、ユエ、シアは、そんなハウリア達に呆れ顔だ。

「な、なぜ、こんなところにボスが……」

「詳しい話は後だ。取り敢えず、助けに来てやったんだよ。……ったく、ボロボロなくせにはしゃぎやがって。どんだけタフになってんだよ」

「は、はは、そりゃ、ボスに鍛えられましたから」

「ボスの訓練に比べれば、帝国兵の拷問なんてお遊戯ですよ」

「殺気がまるで足りないよな? 温すぎて、介護でもされてるのかと思ったぜ」

「まぁ、ボスの殺気は、数百通りの死の瞬間を幻視できるレベルだから仕方ないけどな」

 

 ゲフッゲフゥと血を吐きながら、なお軽口を叩くハウリア達とその言葉に、両隣のユエとシアから何とも言えない眼差しがハジメに向けられる。

 

 ハジメは誤魔化すようにゴホンッと咳払いを一つすると、魔眼石で地下牢内のトラップを確認し、それをユエとシアにも伝えた。そして、さっさとトラップの解除を始めた。

 

 魔法陣によるトラップは、通常、正しい詠唱カギによってしか解除できない。それは魔法陣に込められた魔力を詠唱によって操作し散らすというプロセスを経て無力化するからだ。

 

 陣を壊すという方法もあるが、大抵、壊れた瞬間に発動するか、少なくとも壊れたことを他者に知らせる機能が付いていることから、実際には詠唱による解除が唯一なのである。

 

 しかし、それは詠唱による魔力の操作しか出来ない場合の話だ。逆に言えば、魔力の直接操作が出来る者なら、カギがなくても魔法陣に作用させることなく解除することが出来る。

 

 あっさりと帝国が誇る絶対監獄である帝城地下牢を無力化したハジメ達は、ハジメの錬成で次々と格子を開けていき、ユエの再生魔法でハウリア達全員を即座に完全回復させた。

 

「はぁ、相変わらずとんでもないですね。取り敢えず、ボス……」

「「「「「「「「「助けて頂き有難うございましたぁ!」」」」」」」」」

「おう。まぁ、シアのためだ。気にすんな。それより、カムの姿が見えないな。……どこにいるかわかるか?」

「それなら……」

ハウリアの一人が言うには、どうやら今の時間はカムが尋問されているようで、詳しい尋問部屋の位置も教えてくれた。

 

 彼等は、是非、自分達も族長救出に! と訴えてきたが、手伝ってもらう程のことでもなく、ここまで普通に侵入して来たハジメ達に任せるのが一番だと彼等も分かっていたのでハジメの言葉で大人しく引き下がった。

 

 もっとも、ハジメの〝命令〟に何故かゾクゾクと身を震わせているのが激しく気持ち悪かったが……

 

 ハジメは、〝宝物庫〟から掌サイズの金属プレートを取り出した。それは、光沢のある灰色をしており、手元部分に魔法陣が刻まれていて先端がギザキザしている、簡単に言えば鍵のような形をしていた。

 

 何だ何だと目を丸くするハウリア達の前で、ハジメは鍵型プレートに魔力を注ぎ、おもむろに目の前の空間へと突き出した。

 

 すると、鍵型プレートの先端部分がズブリと空間に突き刺さり、波打つように空間へ波紋を広げていった。その波紋が次第に大きくなって大人の人間サイズになったところで、ハジメは鍵型プレートを文字通り鍵のようにグリッと捻った。

 

 その直後、鍵型プレートを中心に〝穴〟が広がっていき、目を丸くするハウリア達の眼前で人間大の大きさに広がると、その向こう側にどこかの岩石地帯が広がった。

 

「よし、お前等ここを通れ。向こう側は帝都から少し離れた場所にある岩石地帯だ。パル達が待機してる」

「Yes,Sir! ボス、族長を頼みます」

 

 目の前で起きた非常識に唖然とするハウリア達だったが、ハジメの言葉にハッ! と正気を取り戻すと、まぁボスだからな! と直ぐに納得し、惚れ惚れするような敬礼をした。そして、躊躇いなくアーティファクトで作り出したゲートをくぐっていった。よく訓練されたウサミミ達だ。

 

 ハジメが取り出したのは、超長距離空間転移用のゲートを作り出すアーティファクトだ。

 

 鍵型アーティファクト〝ゲートキー〟と鍵穴型アーティファクト〝ゲートホール〟の対になっており、ゲートキーを空間に突き刺して〝開錠〟することで、あらかじめ設置しておいたゲートホールの場所に空間を繋げるゲートを開き転移することが出来るというものだ。もちろん、空間魔法と生成魔法のコンボで作り出したものである。

 

 ハウリア達が転移すると、再びゲートを〝施錠〟して空間の穴を閉じ、ハジメ達はカムの居場所に向かった。

 

 厳しい警備を持ち前のスキルと魔法で突破して易々と目的の場所に辿り着く。

 

 外の見張りをさくっと音もなく倒して扉の前に着くと、中から何やら怒声が聞こえてきた。

 

 シアの表情が強張る。中にいるであろうカムが酷い目に遭わされているのではないかと、軽口を叩きながらもボロボロだった先程の家族を思い出して心配する気持ちが湧き上がったのだ。

 

 それを見て、さっそく踏み込もうとドアノブに手をかけたハジメの動きが、扉の向こうから微かに漏れてくる聞き覚えのある怒声により思わず止まる。

 

「何だ、その腑抜けた拳は! それでも貴様、帝国兵かっ! もっと腰を入れろ、この〝ピー〟するしか能のない〝ピー〟野郎め! まるで〝ピー〟している〝ピー〟のようだぞ! 生まれたての子猫の方がまだマシな拳を放てる! どうしたっ! 悔しければ、せめて骨の一本でも砕いて見せろ! 出来なければ、所詮貴様は〝ピー〟ということだ!」

「う、うるせぇ! 何でてめぇにそんな事言われなきゃいけねぇんだ!」

「口を動かす暇があったら手を動かせ! 貴様のその手は〝ピー〟しか出来ない恋人か何かか? ああ、実際の恋人も所詮〝ピー〟なのだろう? 〝ピー〟なお前にはお似合いの〝ピー〟だ!」

「て、てめぇ! ナターシャはそんな女じゃねぇ!」

「よ、よせヨハン! それはダメだ! こいつ死んじまうぞ!」

「ふん、そっちのお前もやはり〝ピー〟か。帝国兵はどいつこいつも〝ピー〟ばっかりだな! いっそのこと〝ピー〟と改名でもしたらどうだ! この〝ピー〟共め! 御託並べてないで、殺意の一つでも見せてみろ!」

「なんだよぉ! こいつ、ホントに何なんだよぉ! こんなの兎人族じゃねぇだろぉ! 誰か尋問代われよぉ!」

「もう嫌だぁ! こいつ等と話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!」

 

 そんな叫びが部屋から漏れ聞こえてくる。

 

 ハジメ達は全員無言だった。ドアノブに手を掛けたまま、捕まって尋問されているはずのカムより尋問している帝国兵の方が追い詰められているという非常識に思わず顔を見合わせる。

 

「なぁ、これ助ける必要あるのか?」

「……帰る?」

「……いえ、すみませんが一応、助けてあげて下さい。自力では出てこられないと思うので……」

 

 シアが在りし日の優しい父親を思い、遠い目をしながらハジメに頼む。実際、威勢はよくてもカムが自力で脱出できる可能性はないので助ける必要はあるのだろうが……

 

「ふん、口ほどにもないっ。この深淵蠢動の闇狩鬼、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアの相手をするには、まだ早かったようだな!」

 

 扉の向こうから、何か悪い意味で凄いのが飛んできた。

 

「……シア。お前の親父、何か凄いことになってるぞ」

「……考え過ぎて収拾がつかなくなった感じ」

「うぅ……父様は私に何か恨みでもあるんでしょうか? 娘を羞恥心で殺そうとしてますぅ」

 

 シアが顔を両手で覆ったまましゃがみ込んでしまった。ダメージは深刻らしい。

 

 そして、ダメージの深刻具合は、尋問官達も同じだったようだ。

 

「だから、わけわかんねぇよ! くそっ、もう嫌だ! こんな狂人がいる場所にこれ以上いられるかっ! 俺は家に帰るぞ!」

「待て、ヨハン! 仕事だぞ! っていうか、何かそのセリフ、不吉だから止めろよ!」

 

 ドタドタと扉に近づいてくる音が聞こえる。

 

 ハジメは「やっぱ、色々やりすぎたかなぁ~」と思いながら、扉の前で拳を振りかぶった。

 

 そして、バンッと音を立てて扉が開いた瞬間、拳を突き出す。

 

 ヨハンと呼ばれていた尋問官の一人が、一瞬「え?」という驚愕と困惑に満ちた表情をしたが、次の瞬間には顔面に鋼鉄の拳を埋め込まれて部屋の奥へと吹き飛ばされた。

 

 ハジメは、そのまま部屋に踏み込み、一瞬でもう一人の尋問官に接近すると硬直しているのを幸いと同じく殴りつけて気絶させた。

 

 そして、気絶した男二人をちょっとマズイ体勢で重ねて放置する。発見した人が色々誤解しそうな格好だ。

 

「まさか……ボス…ですか?」

「ああ、何というか、よくそんなボロボロであれだけの罵詈雑言を放てたな。……色んな意味で逞しくなっちまって……」

 

 取り敢えず、先程の色んな意味でぶっ飛んだ二つ名とか名前についてはスルーだ。

 

「は、ははは。どうやら夢ではないみたいですね……おぉ、カービィ殿にユエ殿にシアまで」

 

「いや、せっかくの再会に無様を晒しました。しかも帝国のクソ野郎共を罵るのに忙しくて、気配にも気づかないとは……いや、お恥ずかしい」

「……父様、既にそういう問題じゃないと思います。直ぐにでも治療院に行くべきです。もちろん、頭の治療の為に……ていうか、その怪我で何でピンピンしているんですか」

「気合だが?」

「……ハジメの魔改造……おそろしい」

 

「他の連中は一足先に逃がした。さっさと行くぞ」

「Yes,Sir! あ、ボス、装備を取られたままなのですが……」

「あぁ? ほっとけほっとけ。錬成の鍛錬で作ったもっと性能のいいもんが大量にあるから、それやるよ」

「新装備を頂けるので? そいつぁ、テンションが上がりますな、ククク」

 

 怪しげな笑い声を上げるカムと、どこか達観した様子のシアをゲートに押し込んで、ハジメとユエもゲートを潜った。

 

 この後、帝城内から忽然と消えたハウリア族や帝都で暴れていた正体不明の仮面集団により、ヘルシャー帝国の夜は朝方まで大騒ぎになった事は言うまでもない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ついでに

 

警鐘が鳴り響く帝都の夜に、突如、光が迸り、瓦礫撤去作業に従事していた亜人奴隷達が寝泊りしている掘っ立て小屋地区、そこにある帝国兵の詰所が吹き飛んだ。最小限まで手加減していたらしく、建物が吹き飛んだだけで、中の帝国兵は無事なようだ。ただし、大半が気絶しているが。

 

 それをなしたのは月を背負って悠然と佇む四人の人影。

 

「何者だ、貴様等! 帝国に盾突いてただで済むと思っているのか!」

 

 その人影に向かって帝国兵の小隊長らしき人物が怒声を上げる。

 

「しかも、しかも……そんなふざけた仮面なんか付けやがって! 馬鹿にしてんのかっ!」

「え? いや、馬鹿にしてるわけじゃ……」

「どう見ても馬鹿にしているだろうが! 特に、そこのピンク色!」

「!?」

「可愛いさアピールでもしてる気か!? 仮面を着けてる時点で激しくキモイんだよっ! この変質者めっ!!」

「!? …………可愛いさなんてアピールしてないわ。……特にそういうのが好きなわけでもないし……無理やりだもの……私のせいじゃないもの……」

「ちょっと、不細工面なおっさんの癖にシズ…ピンクを馬鹿にしないで! すず……イエローは本気で怒っちゃうよ!」

「そうだ! シズ…ピンクが可愛いもの好きでもいいだろうが! それ以上、ピンクを傷つけたら俺……仮面レッドが許さないぞ!」

「あ~、取り敢えず、仮面ブルーも許さねぇぞ~」

 

 どこか疲れきったような様子で悄然と肩を落とす仮面ピンクを庇うように他の仮面達が帝国兵に言い返す。

 

 仮面達の目的は、帝都で騒ぎを起こし、ハジメ達の帝城侵入を手助けすることなのだが……ハジメの意図を正確に読み取っていた雫は、光輝の暴走を抑えるために仕方ないとは言えあんまりな扱いに、帰ったら絶対、ハジメに復讐しようと心に誓いを立てた。

 

 仮面ピンクが項垂れている間に、ヒートアップした帝国兵達が遂に「ふざけた仮面野郎共をとっ捕まえろ!」と襲いかかり始めた。しかし、いくらハジメ達には全く及ばないとは言え、それでも異世界召喚チート達だ。並の兵士如きが敵うはずもなく、次々と蹴散らされていく。

 

「ちくしょう! 仮面のくせに強すぎる!」

「おのれぇ、ピンクめぇ~」

「つか、レッドが持っている剣、どっかで見たことあるような……」

 

 帝国兵が地面に這いつくばりながら悪態と共に呻き声を上げる。すでに三個小隊ほどが戦闘不能に追い込まれていた。堪りかねた指揮官が思わず叫ぶ。

 

「くそっ、お前等、一体何が目的なんだ!」

 

 その質問に、仮面レッドはピタリと止まり声高に宣言した。

 

「亜人奴隷達の待遇改善を要求する!」

「……はぁ?」

「お前達の亜人族に対する言動は目に余る! むやみに傷つけるのは止めるんだ!」

 

 帝国兵はまさかの要求に、「あいつ何言ってんだ?」という表情で顔を見合わせた。それもそうだろう。仮面レッド達が昼間見た亜人奴隷への対応は、あれで常識なのだ。それを目に余ると言われても何が言いたいのかピンと来ないのである。

 

「くっ、何だ、その態度は……あんな仕打ちをしておいて……」

「こう……レッド。非常識なのは、残念だけど私達の方よ。私達の目的は陽動であることを忘れないで」

「わかってる! でも、せめて子供の亜人だけでも……」

「何人いると思っているのよ。子供達の目の前で助ける子とそうでない子を選別するの? それに、そろそろ時間よ。……私だって悔しくは思うけれど、今は、きっちり目的を果たしましょう?」

「……そうだな」

 

 仮面レッドは、仮面越しでも分かるほど渋々といった感じで引き下がった。

 

「帝国兵、聞きなさい。私達の行動は独断によるものよ。だから、亜人奴隷に今回の件で八つ当たりするのは止めておきなさい。もし、そんなことをしたら……」

「な、なんだっていうんだ……」

「夜、シャワーを浴びている時その背後に、寝苦しさに目を覚ました時お腹の上に、誰もいないはずの廊下の奥に、デスクの下に、カーテンの隙間に、鏡の端に、夢の中に……仮面を見ることになるわよ」

 

 帝国兵は仮面ピンクの抑揚のない淡々とした語りに、一斉に生唾を飲み込み、そして思った「こえぇ……」と。確かにホラーである。

 

 仮面達は、それで目的を果たしたとでもいうように「とぅ!」という感じで建物から裏路地に飛び降りた。そして、慌てて帝国兵達が駆けつけた時には、まるで夢幻のように忽然と姿を消していたのだった。

 

 後に、帝国兵の間で「仮面ピンクの恐怖~奴はいつも君を見ている」という都市伝説が広まるのだが、それはまた別の話。

 

 なぜ、自分だけと……と、仮面ピンクの中の人が崩れ落ちたのも別の話である。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「以上で報告を終わります!」

「ご苦労、下がれ」

「はっ」

 

 ツカツカと規則正しい足音を響かせて部下が出て行った扉をしばらく見つめた後、ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーは、先程まで話をしていた少女に視線を転じた。

 

 澄まし顔の少女ハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒは、ガハルドの視線に気が付くと「大変そうですね?」と心配するような、困ったような微笑みを向けた。隣国の王女として、先程報告された内容を憂いているような、されど口出しは余計だと弁えているような、そんな表情だ。

 

「全く、困ったものだ。ふざけた強さの魔物の次はふざけた仮面を着けた、ふざけた強さの四人組の襲撃か……この件、どう思う? リリアーナ姫」

「……私には、わかりかねます。やはり、魔人族の暗躍では? 有り得ない魔物を使役するのですから、有り得ない人材もいるのでは?」

「そうだな。……その可能性はあるだろう。例え、そのうちの一人が光属性の魔法を自在に操り、眩い光を纏う剣を振るっていたとしても、な?」

「……そうですわね。恐ろしいことです」

「ああ、全くだ。何が目的かと尋ねたら亜人奴隷達の待遇改善だと抜かすのだから、意味不明すぎてとても恐ろしいと、俺も思う」

「そう、ですわね」

 

「ところで、リリアーナ姫」

「はい?」

「勇者君は今、どちらに?」

「……勇者様は、現在、旅に出ていますわ。見聞と力を高めるために」

「おや、てっきり帝都に来ているのかと思ったぞ? そして、どこかで奴隷解放でも詠っているのかと思った」

「あら、ガハルド陛下ともあろう御方が、推測と事実を混同なさっているのですか? そのようなことありませんわよね?」

「はっはっは、もちろんだ! 根拠もない推測を事実のように語ったりはしない」

「ふふふ、そうでしょうね」

 

 しばらくの間、「ははは」「ふふふ」と皇帝陛下と王女の笑い声が応接室に響き渡っていた。

 

 一見、余裕そうに見えるリリアーナだったが、内心では、

 

(何をやっているのですかっ! 光輝さん達はーーー!! ていうか、なぜ仮面!? 正体を隠すならもっとやりようもあったでしょうに! そもそも聖剣を使っている時点で正体隠す気ないでしょう! 悪ふざけだわ! 絶対、誰かの悪ふざけが入っているわ! そして、こんな事をするのはきっと南雲さんです! なぜ彼の悪ふざけのせいで、皇帝陛下とこんな息苦しいやり取りをしないといけないのぉ! 彼の私に対するさりげない仕打ちは、意外にダメージ来るのですよぉ。私、王女なのにぃ)

 

 と、絶叫を上げていた。

 

 どうやら、ハジメの仮面も虚しく、二国のトップには正体がバレバレだったようである。

 

 

 




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ガンホー再び


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カムを救出し、ゲートを通ってハウリアやティオ達が待機している岩石地帯に空間転移して来たハジメ達は、ハウリア達の熱狂的な歓迎に出迎えられた。

 

 ハウリア達は、お互いに肩を叩き合い、鳩尾を殴り合い、クロスカウンターを決め合って、罵り合いながら無事を喜び合っている。

 

 と、その時、歓声を上げるウサミミ達の様子を眺めていたハジメの耳に風切り音が響いた。

 

 ごく自然な動作で掲げられたハジメの手。そこには黒い鞘に収められた見覚えのある刀が片手白羽取りの要領で掴み取られていた。

 

「……何のつもりだ、八重樫?」

 

 鞘に収めた状態の黒刀でハジメに殴りかかった襲撃者の正体は八重樫雫、その人だった。雫は、片手の指先で掴んでいるだけにもかかわらず、いくら力を込めてもビクともしないハジメに舌打ちしながらも、尚、ギリギリと力を込める。

 

「……ストレス発散のために南雲君に甘えてみただけよ。大丈夫、私は、南雲君を信じているわ。そのマリアナ海溝より深い度量で受け止めてくれるって……だから大人しく! 私に! タコ殴りに! されなさい!」

「……あ~、うん、ピンクはそんなに嫌だったのか? ……良かれと思って用意したのに」

「嘘おっしゃい! あなたの意図はわかっているのよ! 絶対、悪ふざけでしょ! 何となく雰囲気に流されたけど! ある意味、自業自得ではあるけれど! 一発、殴らずにはいられない、この気持ち! 男なら受け止めなさい!」

「んな、理不尽な……」

 

 どうやら仮面ピンクのダメージが思ったより深かったらしい。

 

確かに、拒めばよかっただけなので、場の雰囲気や仮面自体の優秀な機能に流された雫の自業自得ではある。しかし、そうとは分かっていても、明らかに悪ふざけが入っていたハジメの言動と帝国兵の罵りが地味に効いて、雫は八つ当たりせずにはいられなかったのだ。

 

 もっとも、ハジメと雫の実力差は明らかであり、実際、黒刀の鞘がギチギチと音を立てるだけで押し切れる気配は全くない。なので仕方なく、雫は黒刀の能力を一つ解放することにした。文字通り、ハジメなら多少痛みは感じても受け止めるだろうと、ある意味、信頼を寄せて。

 

「こんのぉ! 〝奔れ、雷華〟!」

「お? おぉ~」

 

 しかし、バチバチと放電する黒刀を掴みながら、痛がるどころか、むしろ感心した様子を見せるハジメ。雫は思わずツッコミを入れる。

 

「ちょっと、南雲君。電撃を流しているのに、なんで平気なのよ?」

「いや、何でも何も、お前、俺がレールガン放っているところ何度も見てるだろうに。雷を生身で扱うのに、この程度の電撃が効くわけ無いだろ? それより、よくその機能を発動できたな」

「くっ、仕方ないわね……今回は引くわ。でも、いつかその澄まし顔を殴ってやる。それと、能力は王国錬成師達の努力の賜物よ」

 

 もっともな返答に、雫は、渋々といった様子で引き下がった。背後には目を丸くしている光輝達がいる。どうやら、ちょうど戻って来たところらしい。思いがけない雫の行動に驚いているようだ。

 

 香織とユエはどこかジト目で雫を見つめている。小声で「……雫ちゃんが八つ当たりするなんて……」「……甘えとも言う」と話し合っており、どうやら、二人のやり取りはじゃれ合っているようにしか見えなかったようだ。

 

「ボス、宜しいですか?」

 

 ようやく、ド突き合いを終えたらしいカム達が、ハジメの方へ歩み寄ってきた。真剣な表情であることから、ハジメも、唯の再会の挨拶というわけではなさそうだと察する。

 

 ハジメは錬成で手っ取り早く椅子を車座に用意すると、その内の一つに腰掛けて視線で了承の意を伝えた。

 

「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、我々は少々やり過ぎたようです……」

 

 そう言って、始まったカムの話を要約すると、こういう事だ。

 

 亜人奴隷補充の為に、疲弊した樹海にやって来た帝国兵を、カム達ハウリア族は相当な数、撃破している。それが、帝国兵をかなり警戒させたらしい。というのも、単なる戦闘の果ての撃破ではなく味方の姿が次々と消えていき、見つけた時には首を落とされているという暗殺に近い形だったからだ。

 

 正体不明の暗殺特化集団という驚異を前に、帝国はその正体を確かめずにはいられなかった。そこで一計を案じたらしい。それが帝都での包囲網だ。要は誘い込まれたということである。

 

 カム達も、あっさり罠にはまるという失態を犯したわけだが、それは、帝国が直接樹海に踏み込んで来るというまさかの事態に対する少なくない動揺があった、としか言いようがない。

 

 または、看過できない程大勢の亜人を捕獲されてしまい頭に血が上ったということや、焦りが隙を生んだということもあるだろう。帝国の襲撃が、樹海を端から焼き払ったり、亜人奴隷に拷問まがいの強制をして霧を突破したりという、非道な方法だったというのも原因の一つかもしれない。

 

 普段のフェアベルゲンなら、それでも組織的に動いて戦うことは出来ただろうが、おそらく、魔物の襲撃によって疲弊している情報も掴まれていたのだろう。タイミングも絶妙だった。

 

 まさに泣きっ面にハチ状態では、カム達も完全には冷静になりきれなかったのだ。

 

 そして、帝国兵側も相当驚いたことだろう。何せ、網にかかった正体不明の暗殺集団が温厚で争い事とは無縁の愛玩奴隷である兎人族だったのだから。しかも、樹海の中でもないのに、包囲する帝国兵に対して連携を駆使して対等以上に渡り合ったのだ。当然、その非常識は帝国上層の興味を引く。

 

 その結果、

 

「我等は生け捕りにされ、連日、取り調べを受けていたわけです。あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と所持していた装備の出所、そして、フェアベルゲンの意図ってところです。どうやら、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようで……実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ」

 

 

「で? 捕虜になった言い訳がしたいわけじゃねぇんだろ? さっさと本題を言え」

「失礼しました、ボス。では、本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は……帝国に戦争を仕掛けます」

 

 カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、その場の時が止まる。

その静寂を破ったのはシアだった。

 

「何を、何を言っているんですか、父様? 私の聞き間違いでしょうか? 今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが……」

「シア、聞き間違いではない。我等ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った」

「ばっ、ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ! 何を考えているのですかっ! 確かに、父様達は強くなりましたけど、たった百人とちょっとなんですよ? それで帝国と戦争? 血迷いましたか! 同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」

「シア、そうではない。我等は正気だ。話を……」

「聞くウサミミを持ちません! 復讐でないなら、調子に乗ってるんですね? だったら、今すぐ武器を手に取って下さい! 帝国の前に私が相手になります。その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます!」

 

 興奮状態で〝宝物庫〟からミラードリュッケンを取り出し、豪風と共に一回転させてビシッ! とカムの眼前に突きつけるシア。その表情は、無謀を通り越して、唯の自殺としか思えない決断を下したカム達への純粋な怒りで満ちていた。

 

全身から淡青色の魔力を噴き出し物理的圧力をもって威圧するシアの迫力は、それこそ勇者を筆頭に異世界チート達すら軽く越えるものだ。

 

 睨み合う、あるいは見つめ合う二人を誰もが固唾を呑んで見守る中、やはり動くのはこの男、ハジメである。いつの間にかシアのすぐ後ろに迫っていたハジメは、シアの毛玉のように丸くてふわっふわのウサシッポを鷲掴みにし、絶妙な手加減でモフモフした。

 

「ひゃぁん!? だめぇ、しょこはだめですぅ~! ハジメしゃん、やめれぇ~」

 

 実は、シアはウサミミを触られる気持ちよさとは別の意味で、ウサシッポをハジメに触られると〝気持ちよく〟なってしまうのだ。

「どうだ、少しは落ち着いたか? カムの話はまだ終わっていないんだ。ぶっ飛ばすのは全部聞いてからでも遅くはないだろ?」

「うっ……そうですね……すいません。ちょっと頭に血が上りました。もう大丈夫です。父様もごめんなさい」

「家族を心配することの何が悪い? 謝る必要などない。こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったな。……最近どうも、そういう気遣いを忘れがちでなぁ。……それにしても、くっくっくっ」

「な、なんですか、父様、その笑いは……」

「いや、お前が幸せそうで何よりだと思っただけだ。……ボスには随分と可愛がられているようだな? うん? 孫の顔はいつ見られるんだ?」

「なっ、みゃ、みゃごって……何を言ってるんですか、父様! そ、そんなまだ、私は……」

「カム、まさかと思うがその話をしたのは、俺に参戦を促す為じゃないだろうな?」

「ははっ、それこそまさかですよ。ただ、こんな決断が出来たのも、全てはボスに鍛えられたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ」

 

「理由は?」

「意外ですな、聞いてくれるのですか? 興味ないかと思いましたが……」

「俺に鍛えられたおかげで決断が出来たって事は、お前等が無謀をやらかそうって原因は俺にもあるってことだろう? それだけなら、知ったことじゃないが……」

 

 そう言って、ハジメはチラリとシアを見る。それで察したカムは、どこか嬉しげに目元を緩めると「なるほど」と頷き、理由を話しだした。

 

「先程も言った通り、我等兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました。それも極めて強い興味を。帝国は実力至上主義を掲げる強欲な者達が集う国で、皇帝も例には漏れません。そして、弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観が性根に染み付いている」

「つまり、皇帝が兎人族狩りでも始めるって言いたいのか? 殺すんじゃなくて、自分のものにするために?」

「肯定です。尋問を受けているとき、皇帝自らやって来て、〝飼ってやる〟と言われました。もちろん、その場でツバを吐きかけてやりましたが……」

 

 皇帝の顔にツバを吐いたというカムの言葉に、ハウリア達は「流石、族長だぜ!」と盛り上がり、光輝達は「あの皇帝に!?」と驚愕をあらわにした。

 

 無理もないだろう。歴史上、皇帝陛下の顔にツバを吐いた者など亜人以外の種族も含めてカムが史上初なのではないだろうか。流石のハジメも、思わず「ほぉ」と感心の声を上げたほどだ。

 

「しかし、逆に気に入られてしまいまして。全ての兎人族を捕らえて調教してみるのも面白そうだなどと、それは強欲そうな顔で笑っていました。断言しますが、あの顔は本気です。再び樹海に進撃して、今度はより多くの兎人族を襲うでしょう。また、未だ立て直しきれていないフェアベルゲンでは、次の襲撃には耐え切れない。そこで、もし帝国から見逃す代わりに兎人族の引渡しでも要求されれば……」

「なるほどな。受身に回れば手が回らず、文字通り同族の全てを奪われる……か」

「肯定です。ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。しかし、我等のせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは……耐え難い」

 

 どうやら、思っていた以上に、カム達は状況的に追い詰められていたようだ。

 

 カムの言う通り、ハウリア達だけが生き残ることは、樹海を利用しての逃亡とゲリラ戦に徹すればそれほど難しくはないだろうが、その代わりに他の兎人族が地獄を見ることになる。彼等が 〝強い兎人族〟という皇帝の望みに応えられなければ、女、子供は愛玩奴隷にそれ以外は殺処分になるのがオチだからだ。

 

「だが、まさか本気で百人ちょいなんて数で帝国軍と殺り合えるとは思っていないだろう?」

「もちろんです。平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突など有り得ません。我等は兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません」

 

 そう言って、ニヤリと笑うカム。それでハジメもカムの意図を察する。

 

「つまり、暗殺か?」

「肯定です。我等に牙を剥けば、気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……それを実践し奴らに恐怖と危機感を植え付けます。いつ、どこから襲われるかわからない、兎人族はそれが出来る種族なのだと力を示します。弱者でも格下でもなく、敵に回すには死を覚悟する必要がある脅威だと認識させさます」

「皇帝の一族が、暗殺者に対する対策をしていないと思うか?」

「もちろんしているでしょうな。しかし、我等が狙うのは皇帝一族ではなく、彼等の周囲の人間です。流石に、周囲の人間全てにまで厳重な守りなどないでしょう。昨日、今日、親しくしていた人間が、一人、また一人と消えていく。我等に出来るのは、今のところこれくらいですが、十分効果的かと思います。最終的に、我等に対する不干渉の方針を取らせることが出来れば十全ですな」

 

 何ともえげつない策だ。だが、皇帝一族を暗殺するなどと言うよりは、よほど現実味がある。

 

 ただ、それだと、帝国側に脅威を感じさせるには必然的に時間が掛かってしまうので、大規模な報復行為に出られる可能性が高く、帝国側が兎人族の殲滅に出るか、それとも脅威を感じて交渉のテーブルに付くか、どちらが早いかという紛れもない賭けだ。それも極めて分の悪い賭け。

 

 それでもやらなければ、どちらにしろ兎人族の未来は暗いのだろう。既に全員、覚悟を決めた表情だ。

 

「……父様……みんな……」

 

 

「シア、そんな顔をするな。以前のようにただ怯えて逃げて蔑まれて、結局蹂躙されて、それを仕方ないと甘受することの何と無様なことか……今、こうして戦える、その意志を持てることが、我等はこの上なく嬉しいのだ」

「でも!」

「シア、我等は生存の権利を勝ち取るために戦う。ただ、生きるためではない。ハウリアとしての矜持をもって生きるためだ。どんなに力を持とうとも、ここで引けば、結局、我等は以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容できない」

「父様……」

「前を見るのだ、シア。これ以上、我等を振り返るな。お前は決意したはずだ。ボスと共に外へ出て前へ進むのだと。その決意のまま、真っ直ぐ進め」

 

 カムが、族長としてでも戦闘集団のリーダーとしてでもなく、一人の父親として娘の背中を押す。自分達のことでこれ以上立ち止まるなと、共に居たいと望んだ相手と前へ進めと。

 

 泣きそうな表情で顔を俯けてしまうシアに優しげな眼差しを向けたあと、カムはハジメに視線を転じて目礼する。娘を頼みますとでも言うように。

 

 無言無表情のハジメの代わりに光輝が、いかにも「俺が何とかする!」とでも言いそうな雰囲気で腰を上げるが、雫の黒刀に後頭部をぶん殴られて撃沈した。ストレスが溜まっているようで、止め方が普段になく大分過激だ。

 

 ハジメが反応を示さないでいると、シアがハジメに振り返る。だが、シアが口を開く前に、何を言う気か察したカムが叱責するようにシアの名前を強い口調で呼び止めた。

 

「シア!」

「しあ!」

 

 それにビクッ! と体を震わせるシア。

 

「ハジメさん、カービィさん……」

 

 シアの瞳に、僅かばかり期待の色が宿る。

 

「今回の件で俺たちが戦うことはない」

「っ……そう、ですよね」

 

「おい、こら、早とちりするな。戦わないが、手伝わないとは言ってないだろう?」

「ふぇ?」

 

「今回の件は、ハウリア族が強さを示さなきゃならない。容易ならざる相手はハウリア族なのだと思わせなきゃならない。この世界において亜人差別が常識である以上、俺が戦って守ったんじゃあ、俺がいなくなった後に同じことが起きるだけだからな。何より、カム達の意志がある。だから、俺は一切、戦うつもりはない」

 

 ハジメはそこで、シアの頬を撫でるとカムに視線を向ける。

 

「だが、うちの元気印がこんな顔してんだ、黙って引き下がると思ったら大間違いだぞ?」

「し、しかし、ボス……なら、一体……」

 

 ハジメは、周囲を睥睨しながら、スッーと息を吸うと雷でも落ちたのかと錯覚するような怒声を上げた。

 

「返事はどうしたぁ! この〝ピー〟共がぁ!」

「「「「「「「「「ッ!? サッ、Sir,Yes,Sir!!」」」」」」」」」

「聞こえねぇぞ! 貴様等それでよく戦争なんぞとほざけたなぁ! 所詮は〝ピー〟の集まりかぁ!?」

「「「「「「「「「「Sir,No,Sir!!!」」」」」」」」」」

「違うと言うなら、証明しろ! 雑魚ではなく、キングをやれ!!」

「「「「「「「「「「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」」」」」」」」」

「貴様等の研ぎ澄ました復讐と意地の刃で、邪魔する者の尽くを斬り伏せろ!」

「「「「「「「「「「ビヘッド! ビヘッド! ビヘッド!」」」」」」」」」」

「膳立てはするが、主役は貴様等だ! 半端は許さん! わかってるな!」

「「「「「「「「「「Aye,aye,Sir!!!」」」」」」」」」」

「宜しい! 気合を入れろ! 新生ハウリア族、百二十二名で……」

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

「帝城を落とすぞ!」

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」」」」」」」」」

 

 膳立てをするとは何をする気なのか、帝城を落とすなどそれこそ不可能ではないのか、そんな疑問は熱狂するハウリア達の頭からはすっかり吹き飛んでいた。

 

「……うぅ~、シズシズ、あの人達こわいよぉ~」

「大丈夫よ、鈴。私も怖いから……ていうか南雲君の発想とノリも十分怖いけど」

「南雲の奴……へへ、まさかハー○マン先生を取り入れていたとはな、やるじゃねぇか」

「龍太郎!? なんで、ちょっと親近感持ってるんだ!? どう見ても異常な雰囲気だろ!?」

 

 雫達が、それぞれ唖然とした表情で異様な熱気に包まれるハウリア達の様子を眺めていた。一名、ハジメが参考にした対象をリスペクトしていたようで、いい笑顔を浮かべていたが。

 

ティオ「う~む、すごいのぉ~。兎人族がここまで変わるとは。流石、ご主人様じゃ。あっさり帝国潰しを目的にしよるし。堪らんのぉ~。あんな気勢で罵られてみたいものじゃ」

カービィ「ボクはへーきだよ。」

ユエ「変態ドラゴンは黙れ。」

ティオ「っ!? ハァハァ」

メタナイト「落ち着けティオ。」

「うん、ティオさんはちょっと自重しようね? それより、シアの表情見てよ、ユエ。蕩けてるよ」

「……ん、可愛い。シアが泣かないためだから……嬉しくて当たり前」

「だよね~。いいなぁ、私も、あんな風に言われてみたいなぁ~」

 

 その後、帝城落としの詳細を詰めたハジメ達は、その時に備えて各々休むことになった。

 

 シアは、しばらくの間、ハジメの傍を離れたがらなかった。いつもの元気の良さは鳴りを潜め、しかし、決して暗く沈んでいるわけではなく、頬を薔薇色に染めてしずしずとハジメの服の裾を掴んだまま寄り添うのだ。

 

 ウサミミが時折、ちょこちょことハジメに触れては離れてを繰り返す。その様は、ただただ、傍でハジメを感じていたいという気持ちをあらわしているようだった。

 

 




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帝城潜入

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ヘルシャー帝国を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅二十メートル近くある深い水路と、魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁で囲まれている。水路の中には水生の魔物すら放たれていて城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

 

 帝城に入れる者も限られており、原則として魔法を併用した入城許可証を提示しなけばならない。跳ね橋の前にはフランスの凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入城検査をクリアしないと、そもそも跳ね橋を渡ることすら出来ないのだ。不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物がはびこる水路にその場で投げ入れられるとか……

 

 詰所での検査も全く容赦がない。たとえ、正規の手続きを経て入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品一つ一つに至るまできっちり検査される。なので、荷物に紛れ込んでの侵入なども、もちろん不可能だ。

 

 つまり、何が言いたいのかというと、帝城に不法侵入することは至難中の至難であるということだ。

 

 

 そんな今更な事実を、凱旋門の前で入城検査の順番待ちをしながら考えていた光輝は、チラリと肩越しに背後を振り返った。そこにいるのは、いつものパーティーメンバーにして幼馴染である雫と龍太郎、そして鈴、それに加えてカービィ、メタナイト、ハジメ達である。

 

 光輝達は、堂々と正面から帝城に入るために再び帝都にやって来たのだ。

 

 光輝は思う。自分達が陽動をしていたとは言え、よく何の騒ぎも出さずにカム達を脱獄させることなど出来たな、と。もちろん、ハジメ達には空間転移の魔法があるので侵入、脱出はそれほど難しくはないだろうが、入るだけでこれだけ厳重な警備がなされているなら、帝城内の警備は言わずもがなだ。

 

 あらかじめ地下牢の位置を聞き出していたとは言え、正確な位置がわからなければピンポイントでの空間転移は使えない。なので、侵入後は徒歩で捜索したはずである。それでも全く見つからずに事を成し遂げたのだから脱帽する他ない。自分との〝差〟を再び感じて光輝は思わず「はぁ」と溜息をついた。

 

「次ぃ~……見慣れない顔だな。……許可証を出してくれ」

 

 門番の兵士が光輝達を見て訝しげな表情になる。

 

 帝城内に入ることの出来る者が限られている以上、門番からすれば大抵は知っている顔だ。そして、たとえ初めての相手であっても帝城に招かれるような人物は大抵身なりが極めて整っているのが普通である。なので、光輝達のように、どこぞの冒険者のような装いの者は珍しいのだ。それこそ胡乱な目を向けてしまうくらいに。

 

「いや、許可証はないんですけど、代わりにこれを……」

「は? ステータスプレート? 一体……」

 

 当然、ハジメ達は誰一人として帝城に入るための許可証など持ってはいない。だが、ここで光輝の立場が役に立つ。何せ、彼は〝勇者〟。世間一般では対魔人族戦において神が遣わした人間族の切り札であり〝神の使徒〟なのだ。たとえ、実態が伴っていなくとも。

 

 許可証を持っていない時点で剣呑な目付きになった門番だったが、渡されたステータスプレートに表示された〝勇者〟の文字に目を瞬かせ、何度も光輝の顔とステータスプレートを交互に見る。その門番の様子に、周囲の同僚達が何事かと注目し始めた。

 

「えっと……勇者……様、ですか? 王国に召喚された神の使徒の?」

「あ、はい、そうです。その勇者です。こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのですが……ちょっと事情があって」

「は、はぁ……」

 

 門番の呟きに、同僚達が光輝の正体を知ってにわかにざわつき始めた。その表情は、当然のことながら、「なぜ、リリアーナ姫と別に来たのか?」「なぜ、事前連絡がないのか?」など疑問に溢れていた。

 

 しかし、相手は自分達が信仰する神の使徒であり、きっと秘密の使命でも帯びていたに違いないと勝手に納得して、取り敢えず、上に取り次いでくれるようだ。

 

 流石に、勇者と言えど、入城者の予定表にない者を下っ端門番の一存で通すような勇気はないので、待たせる失礼に戦々恐々としながら数人の門番が猛ダッシュで帝城の方へ消えていった。

 

 ハジメ達は詰所にある待合室のような場所に通される。

 

 待つこと十五分。

 

 もはや誰もツッコミを入れないくらい自然の光景と化している〝ハジメと膝の上のユエ〟を尻目に、誰が反対側の膝に座るかでシア、香織、ティオがそれぞれ片手ずつ別の相手と手四つ状態でギリギリと組み合っていると、跳ね橋からドタドタと足音が聞こえ始めた。

 

「こちらに勇者殿一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

「あ、はい、そうです。俺達です」

 

 そう言って姿を見せたのは、一際大柄な帝国兵で、周囲の兵士の態度からそれなりの地位にいることが窺える。彼は、応対する光輝を無遠慮にジロジロと見ると、光輝のステータスプレートを確認しながら、他のメンバーにも探るような視線を向け始めた。

 

 その過程で、死角の位置にいたシアに気がつくと驚いたように大きく目を見開く。そして、何が面白いのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。いきなり向けられた嫌な視線に、シアが僅かに身じろぐ。

 

「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。既に、勇者御一行が来られたことはリリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。部下に案内させましょう。……ところで、勇者殿、その兎人族は? それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

「え? いや、彼女は……」

 

 ステータスプレートを返しながらグリッド・ハーフと名乗った男はシアについて尋ねた。

 

 しかし、光輝としても返答に困るところ。奴隷でない事は、シアが身に付けているチョーカーが既にどう見ても奴隷の首輪に見えないことから一目瞭然であるし、ハジメの恋人と断言していいものかも迷う。「そんなこと俺に聞かれても……」というのが正直なところだ。

 

 口籠る光輝から答えは期待できないと判断したのか、視線を転じたグリッドはシアを見る。そして、彼がなぜシアに注目するのか、その理由を察せられる質問をした。

 

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ。……俺の部下はどうしたんだ?」

「部下? ……っ…あなたは……」

 

 グリッドから発せられた唐突な質問。

 

 一瞬、何を聞かれているのか分からなかったシアだが、直ぐに察したようで驚愕に目を見開いた。

 

 シアにとって直接関わりのあった帝国兵など限られている。それは、当然、樹海から出たばかりの頃の自分達ハウリア族を散々追い詰めた連中だ。大勢の家族を殺し、拉致し、奴隷に落とし、そして、シア達を【ライセン大峡谷】へと追いやった敵。

 

「おかしいよな? 俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ? あぁ?」

「ぅあ……」

 

「あなたの部下の事なんて知ったことじゃないですよ。頭悪そうな方達でしたし、何処かの魔物に喰われでもしたんじゃないですか? あと、私のことであなたに答える事なんて何一つありません」

「……随分と調子に乗ったこと言うじゃねぇか。あぁ? 勇者殿一行と一緒にいるから大丈夫だとでも思ってんのか? 奴隷ですらないなら、どうせその体で媚でも売ってんだろ? 売女如きが、舐めた口を利いてんじゃねぇぞ」

 

 グリッドが、剣呑に目を細めながらそんな事を言うが、シアは既にグリッドから視線を外して見てすらおらず、その態度から眼中にないということが明らかだった。むしろ、シアを売女呼ばわりしたことに、他の女性陣が怒りを宿した眼差しをグリッドに向けている。

 

 シアの態度に青筋を浮かべて怒りに表情を歪めつつも、その眼差しに気がついたようでグリッドは誤魔化し笑いをしながら光輝に向けて提案する。

 

「申し訳ありませんがね、勇者殿。この兎人族は二ヶ月ほど前に行方不明になった部下達について何か知っているようでして、引渡し願えませんかね? 兎人族の女が必要なら、他を用意させますんで、ここは一つ――」

「おい、下っ端」

「なに……」

「口を開くな、下っ端。お前の役目はもう終わったんだろうが。いつまでもくだらない事で足止めしてんじゃねぇよ。ガタガタ言ってないで、さっさと案内させろ」

「てめ……」

「黙れという言葉の意味すら理解できないのか? 俺達に、お前のために使ってやる時間は微塵もねぇんだ。身の程を弁えろ」

 

ただ、シアを売女呼ばわりしたのは頂けないので言って分からないなら〝股間スマッシュ〟をするつもりだったのだが……グリッドは、自分の自制心に感謝するべきだろう。

 

 ハジメ達は背中に突き刺さる凶悪な視線を特に気にするでもなく、青ざめた表情の案内役に従って巨大な吊り橋を渡っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それで?」

 

 帝城の一室に案内されたハジメ達を待ち構えていたリリアーナからの第一声がそれだった。満面の笑みを浮かべているものの、目は笑っておらず声音は冷たい。言外に「事情を説明しろや、ゴラァ!」と言っているのが分かる。

 

 おそらく、帝国側との協議で死ぬほど多忙なのだろう。そんな中、どう考えても厄介事を運んできたとしか思えないハジメ達に、つい、きつく当たってしまうのは仕方ないと言えば仕方ない。ある意味、それだけ親しみがある……と言えなくもない。

 

「帝都での茶番といい、一体全体どうして皆さんがここにいるのですか? 納得の出来る説明を求めます。ええ、それはもう強く強く求めます。誤魔化しは許しませんからね! 特に、南雲さん! 絶対、裏で糸を引いているのは貴方でしょう! 他人事みたいにシアさんのウサミミをモフらないで下さい! ユエさんも何でシアさんのほっぺをムニムニしているんですか!」

 

「声がでかいって、姫さん。しょうがないだろ? 今のシアは、ちょっと不安定なんだ」

「不安定……ですか? どこか具合でも……」

 

 途端に心配そうな表情になる辺り、リリアーナも人がいい。

 

 視線を受けたシアは、何かを堪えるようにグッと唇を噛み締めていたが、先程からされていたモフモフとムニムニに表情を緩め始め、俯かせていた顔を上げると「大丈夫」というように笑顔を見せた。

 

 シアの情緒が少し不安定になったのは、言うまでもなくグリッドが原因だ。

 

 だが、別に彼に対する恐怖などで不安定になっていたわけではない。逆だ。溢れ出す殺意を抑えていたのである。何と言っても、グリッドはシアの家族を大勢奪った憎き相手だ。トラウマさえ乗り越えてしまえば、あとに来るのは強烈な殺意だけ。

 

 しかし、ここに来た目的を考えると、早々に殺してしまうわけにはいかなかった。だから、必死に我慢していたのだ。そして、それを察したハジメとユエが、シアを甘やかすことで宥めていたのである。

 

 

「それで、なぜこちらに来たのですか? 樹海での用事は? それと、昨夜の仮面騒動は何なのです? もうそろそろ、ガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。口裏を合わせる為にも無理を言って先に会う時間を作ってもらったのですから、最低限のことは教えてもらいたいのですが」

「まぁ、そう慌てるなよ、姫さん。夜になれば全部わかる。俺達のことは……用事が早く片付いたから、遠出する前に立ち寄った……くらいに言っておけばいいさ」

「そ、そんな適当な……夜になればわかるって、まさか、また仮面でも着けて暴れる気ですか? わかっているのですよ! 雫達に恥ずかしい格好をさせたのは南雲さんだって!」

「そうカリカリするなよ。ハゲるぞ、姫さん」

「ハゲませんよ! 女性に向かって何てこと言うのですかっ!」

「……ストレスハゲ」

「ユエさん!?」

 

 どうやらハジメ達は話す気がないのだと悟り、またぞんざいな扱いを受けたリリアーナが「王女なのに……」と落ち込む。その隣では、雫は「恥ずかしい格好……」と呟きながら自らの黒歴史にどんよりするのだった。

 




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帝国の皇帝

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どうやらハジメ達は話す気がないのだと悟り、またぞんざいな扱いを受けたリリアーナが「王女なのに……」と落ち込む。その隣では、雫は「恥ずかしい格好……」と呟きながら自らの黒歴史にどんよりする。

 

 その後、落ち込むリリアーナから聞き出したところでは、どうやら既にガハルド陛下には、聖教教会の末路や狂った神の話が伝えられたようだ。

 

 しかし、流石は実力至上主義、実利主義の国のトップだ。それなりの衝撃はあったようだが、どちらにしろ今までとやることは変わらないと不敵に笑ったそうだ。すなわち、敵あらば斬る、欲しいものは力で奪う、弱者は強者に従え! というわけだ。

 

 それよりもガハルドとしては、リリアーナがどうやって帝国に来たのか、その方が気になっていたらしい。

 

 つまり、王国襲撃の顛末はわかったが、それからリリアーナが帝国にやって来るまでの期間が早すぎるというわけだ。帝国としても王国との連携については直接的な協議の必要性を感じていたので助かりはしたのだが、いくら何でも襲撃の一週間後に帝国に到着するのは有り得ない。

 

 同時に、王国がどうやって魔人族の軍勢を追い返したのか、その方法にもかなり興味を持たれているようだ。

 

 魔人軍に壊滅的打撃を与えた〝光の柱〟については、ガハルドに神の話をする以上、〝天の裁き〟という言い訳が通用しない。となると、当然、誰かが一撃で軍を滅ぼせる攻撃手段を持っていると判断するのが自然な流れだ。その事実は、ヘルシャー帝国皇帝としても、一個人としても看過できることではない。

 

 調べれば直ぐに分かることなので、事前にハジメから許可を貰っていたリリアーナは、特に困ることもなくハジメの事を話した。

 

 しかし、それはハジメが帝国におらず遠く離れた場所を旅していると思っていたからであり、本人が帝国の懐に入ってしまっては、強欲で豪気なガハルドがどのようなちょっかいを掛けるか、そして、それに対してハジメがどのような対応をとるのか、リリアーナは気が気でなかった。

 

……主に、帝国が地図から消えやしないかという意味で。

 

 なので、普通なら先にガハルドと謁見するところを、色々手を回して先に面会できるようにしたわけなのだが……ハジメはのらりくらりとして真面目に取り合わず、リリアーナはもう「なるよ~になぁ~れぇ~」と投げやり気味の心境だった。まさか、自分の危惧したことが、当たらずとも遠からずとは夢にも思わないだろう。

 

 リリアーナから、ある程度、帝国側との協議内容について聞いたところで部屋の扉がノックされた。どうやら時間切れらしい。案内役に従って、ハジメ達はガハルドが待つ応接室に向かうことになった。

 

通された部屋は、三十人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。そのテーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる男――ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーがいた。彼の背後には二人、見るからに〝できる〟とわかる研ぎ澄まされた空気を纏った男が控えている。

 

 そして、部屋の中に姿は見えないが、壁の裏に更に二人、天井裏に四人、そして閉まった扉の外に音もなく二人が控えているのをハジメはしっかりと感じ取っていた。ガハルドの背後に控える男二人程ではないが相当の手練である。

 

「お前とそのピンク球体が、南雲ハジメと星のカービィか?」

 

ハジメ達が部屋に入るなり、リリアーナによる紹介も、勇者である光輝への挨拶もすっ飛ばして、ガハルドはハジメとカービィをその鋭い眼光で射抜きながらプレッシャーを叩きつけた。

 

 数十万もの荒くれ者共を力の理で支配する男の威圧。半端なものではない。同じ王族であるリリアーナが息苦しそうに小さな呻き声を上げ、光輝達は思わず後退りをする。

 

 しかし、そんな強烈なプレッシャーの中でも、ハジメ、ユエ、シア、ティオ、香織の五人は平然としていた。一番、経験の少ない香織ですら【メルジーネ海底遺跡】では極まった狂気の嵐と太古より生きる不死身の怪物と相対して生き残ったのだ。

 

 皇帝の威圧とは言え、大迷宮攻略者にとってはそよ風に等しい。

 

 そんなハジメ達を見て、ますます面白げに口元を吊り上げるガハルドに、ハジメが返事をする。

「そーだよ、ボクがカービィだよ。」

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」

「「「「「!?」」」」」

 

胸に手を当てて軽くお辞儀しながら、そんな事を言うハジメに光輝達が驚愕の視線を向けた。

 

 その見開いた瞳は明らかに「お前、誰だよっ!」と物語っていた。特に、リリアーナの動揺が激しい。ガハルドの威圧を受けて小さな呻き声を上げつつも、ほとんど表情を変えなかったというのに、今は隠しもせず愕然とした表情でハジメを凝視している。

 

 ハジメとてTPOを弁える事くらいは出来る。いつもは、敢えて無視しているだけだ。

 

 だが、今回は帝城に用事があるので、皇帝の機嫌を損ねて追い出される訳にはいかない。既に信ずべき神がいない以上、〝神の使徒〟という肩書きもどこまで有効かわからないのだ。勇者一行であるというだけでは押し通れない可能性がある。なので、最低限の礼を示すべきだと判断したのだ。一人称が改まっていない辺りがハジメらしいが。

 

「ククク……思ってもいないことを。そこの球体はともかく、普段の傍若無人な態度はどうしたんだ? ん? 何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?」

 

 しかし、ガハルドは笑い声を漏らしながら揶揄する。

 

ハジメは、チラリとリリアーナを見た。「姫ェ、てめぇ、なに余計なこと喋ってんだ、あぁ?」という視線をハジメから向けられたリリアーナは、ぷいっ! とそっぽを向く。ガハルドからハジメがどういう人間か聞かれた際に、つい自分に対する扱いがなっていないと少しばかり愚痴っぽく語ってしまったのだ。

 

「似合わねぇ喋り方してぇねぇで、普段通り話しな。俺は、素のお前に興味があるんだ」

「……はぁ、そうかい。んじゃ、普段通りで」

「くく、それでいい」

 

 ハジメの態度に驚きつつも、順に席に着く光輝達。

 

「雫、久しいな。俺の妻になる決心は付いたか?」

「お、おい! 雫は、既に断っただろう!」

 

 ガハルドの言葉に雫が何かを言い返すより早く、光輝が反応する。チラリと光輝を見たガハルドは、ハッと鼻で笑うと雫を真っ直ぐに見つめだした。あからさまな〝眼中にない〟という態度をとられて額に青筋を浮かべる光輝。

 

 そんな二人に嘆息しながら、雫は澄まし顔をして答える。

 

「前言を撤回する気は全くありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」

「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ」

「そんな日は永遠に来ませんよ。……というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」

「それがどうした? 側室では不満か? ふむ、正妻にするとなると色々面倒が……」

「そういう意味ではありません! 皇后様がいるのに他の女に手を出すとか……」

「何を言っている? 俺は皇帝だぞ? 側室の十や二十、いて当たり前だろう」

「ぐっ……そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」

「まぁ、神による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間をかけて口説かせてもらうとしようか。クク、覚悟しろよ、雫」

 

 どうやら本当に、ガハルドは雫を気に入っているようだ。強欲な皇帝陛下らしく、断られたくらいでは諦めないらしい。その鋭い眼光が完全に雫をロックオンしていた。雫は、心底嫌そうな表情でそっぽを向いているのだが、全く気にした様子もない。

 

 と、その時、そっぽを向いた先で雫の視線が、偶然、ハジメと合う。その時のハジメの眼差しには、「流石、苦労人(笑)」という明らかに面白がるような色が含まれていた。

 

 イラっときた雫は、つい、用意された紅茶に付いてきた角砂糖を指で弾いてしまった。ハジメには遠く及ばないが、結構な勢いで飛ばされた角砂糖の弾丸は、狙い違わずハジメの憎たらしい顔面に飛来し……

 

 しかし、直撃することはなく、パクッとハジメの口にキャッチされてしまった。ハジメは、これ見よがしにモゴモゴと口を動かし、角砂糖の甘さをしっかりと堪能してから胃に収めた。それを見て悔しそうな雫に対して、ハジメは澄まし顔だ。

 

 そんな様子を見ていたガハルドは、改めてハジメに鋭い視線を向ける。色んな意味で値踏みするような眼差しだ。

 

「ふん、面白くない状況だな。……南雲ハジメと星のカービィ、お前たちには聞きたいことが山ほどあるんだが、まず、これだけ聞かせろ」

「ああ? なんだ……」

「南雲ハジメ、お前は俺の雫はもう抱いたのか?」

「「「「ぶふぅーー!?」」」」

 

ガハルドの背後に控える護衛の男達ですら「陛下……最初に聞くのがそれですか……」と頭の痛そうな表情をしている。彼等も苦労人のようだ。

 

「ちょっ、陛下! いきなり何をっ……」

「雫、お前は黙っていろ。俺は、南雲ハジメに聞いてんだよ」

 

 当然、雫が泡を食ってガハルドにツッコミを入れようとするが、ガハルドはそれを無視してハジメに視線を向けている。それに対してハジメは呆れ顔だ。

 

「何をどうしたらそんな発想に辿り着くんだよ」

「どうやら、雫はお前に心を許しているようだからな……態度から見て、ないとは思うが、念のためだ」

「はぁ、あるわけないだろ」

「……ふむ、嘘はついてないな。では、雫のことはどう思っている?」

 

 その質問に、部屋中の視線がハジメに集まった。ユエ達や光輝達の様々な意味が込められた視線が突き刺さる。

 

 ハジメは、何で皇帝陛下と謁見して最初に聞かれる質問が雫との関係なのかと溜息を吐きながら、何となしに雫に視線を向けた。雫の表情が大変面白いことになっていた。ハジメは、首を傾げて雫を見つめる。

 

 若干、雫の耳が赤くなり始めている気がするが……

 

 取り敢えず告げた答え(本音)は……

 

「……オカンみたいな奴」

「OK、その喧嘩買ったわ。表に出なさい、南雲君」

 

十七歳のうら若き乙女を捕まえて、よりによって〝オカンみたい〟とは何事か、と雫がすわった眼差しでハジメを睨みながらゆらりと席を立とうとする。既に、先程までの微妙な雰囲気は微塵もない。慌てて隣の鈴と光輝が雫を掴み止めて必死に宥めにかかった。

 

「……まさかの回答だが……まぁ、いい。雫、うっかり惚れたりするなよ? お前は俺のものなのだからな」

「だから、陛下のものではありませんし、南雲君に惚れるとかありませんから! いい加減、この話題から離れて下さい!」

「わかった、わかった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」

「ぬっぐぅ……」

 

 ガハルドの物言いに思わず呻き声を上げてドカッと座り直す雫。苦笑いしながら鈴が宥めて、光輝は何故かハジメを睨む。

 

「南雲ハジメ。お前も、雫に手を出すなよ?」

「興味の欠片もねぇから、安心しろ。つか、ホント無駄話しかしないなら、もう退出したいんだが?」

「無駄話とは心外だな。新たな側室……あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ? 帝国の未来に関わるというのに……まぁ、話したかったのは確かに雫のことではない。わかっているだろう? 南雲ハジメと星のカービィ、お前たちの異常性についてだ」

 

「?」

カービィは首をかしげる。

 

 

 

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前たちが、大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると……魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

 

ああ」

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」

「ああ」

「ふん、一個人が、それだけの力を独占か……そんなことが許されると思っているのか?」

「誰の許しがいるんだ? 許さなかったとして、何が出来るんだ?」

 

 ハジメの簡潔な返しにガハルドが目を細める。

 

 帝王の覇気が更に増し、リリアーナなどは歯を食いしばっており相当苦しそうだ。ガハルドの背後にいる護衛達がガハルドに合わせて殺気を放ち始める。対して、部屋の周囲に隠れている者達の気配が更に薄まっていった。まさに一触即発の状態だ。

 

 緊迫する空気に光輝達が顔を強ばらせ臨戦態勢をとる。

 

 しかし、当のハジメ達は、重く粘り着くような殺意を柳に風と受け流し、平然と紅茶に手を伸ばしていた。その際、チラリと極度に気配が薄くなった周囲に隠れている者達の場所に視線を向けた。「丸見えだぞ?」とでも言うように。

 

 それが伝わったのか、微かに動揺するような気配が伝わった。

 

「はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつは正真正銘の化け物だ。今やり合えば皆殺しにされちまうな!」

 

「言っとくがカービィの方が強いぞ?」

 

 ガハルドが豪快に笑いながら、覇気を収めた。それに合わせて周囲の者達も剣呑な空気を収めていく。

 

「なんで、そんな楽しそうなんだよ?」

「おいおい、俺は〝帝国〟の頭だぞ? 強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」

 

 光輝達が、訳が分からずとも取り敢えず空気が戻ったことにホッと息を吐く中で、楽しげなガハルドに呆れたようにツッコミを入れるハジメ。それに対するガハルドの返事は、実に実力至上主義の国の人間らしいものだった。

 

「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……一人ぐらい寄越せよ、南雲ハジメ」

「馬鹿言うな。ド頭カチ割るぞ…………いや、ティオならいいか」

「っ!? な、なんじゃと……ご、ご主人様め、さり気なく妾を他の男に売りおったな! はぁはぁ、何という仕打ち……たまらん! はぁはぁ」

「ちょっと問題あるが、いい女だろ、外見は」

「すまんが、皇帝にも限界はある。そのヨダレ垂らしている変態は流石に無理だ」

「こ、こやつら、本人を目の前にして好き勝手言いおって! くぅうう、んっ、んっ、きっと、このあと陛下に無理矢理連れて行かれて、ご主人様の目の前で嫌がる妾を無理やりぃ……ハァハァ、んっーー……下着替えねば」

 

 妙にスッキリした表情のティオにガハルド達ですらドン引きしている。そして、そんな変態を侍らしているハジメに戦慄の眼差しを向けた。ガハルドは、咳払いをして気を取り直す。

 

「俺としては、そちらの兎人族の方が気になるがね? そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうよ?」

 

 ガハルドの〝玩具〟発言に、シアの目元が一瞬ピクリと反応する。隣のユエが、テーブルの下でそっとシアの手を握った。

 

「玩具なんて言われてもな……」

「心当たりがないってか? 何なら、後で見るか? 実は、何匹かまだ・・いてな、女と子供なんだが、これが中々――」

「興味ないな」

 

ガハルドの言葉ははったりだ。カムを通じて、捕まった者全員を連れ出したことは確認済みである。カマをかけているのだろう。それに対するハジメの返事は一言だった。

 

 しかし、ガハルドの口撃は終わらない。

 

「ほぉ。そいつらは、超一流レベルの特殊なショートソードや装備も持っていたんだが、それでも興味ないか、錬成師?」

 

「ないな」

「……そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊・・な魔法は知らないか?」

「知らないな」

「ボクなら出来るよ。」

「……はぁ……聞きたい事はこれで最後だ……神についてどう思う?」

「興味ないな」

「あ~、もう、わかったわかった。ったく、愛想のねぇガキめ」

「まぁ、最低限、聞きたいことは聞けた……というより分かったからよしとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。真実は異なっていても、それを知らないのなら、〝勇者〟や〝神の使徒〟の祝福は外聞がいい。頼んだぞ? 形だけの勇者君?」

 

 ガハルドは、突然落とされた爆弾発言に唖然とする光輝達を尻目に、不敵な笑みを浮かべながら挑発的にハジメを睨むと、そのまま颯爽と部屋から出て行った。

 

 バタンと扉の締まる音が響き、それによってハッと正気を取り戻した光輝達がリリアーナを詰問する。

 

「リリィ、婚約ってどういうことだ! 一体、何があったんだ!」

「それは……たとえ、狂った神の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざるを得ません。我が国の王が亡くなり、その後継が未だ十歳と若く、国の舵取りが十全でない以上、同盟国との関係強化は必要なことです」

「それが、リリィと皇子の結婚ということなのね?」

「はい。お相手は皇太子様ですね。ずっと以前から皇太子様との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、というわけです」

「王国には? 協議が必要ではないの?」

「事後承諾ではありますが、反対はないでしょう。元々、そういう話だったわけですし。それに、今の王国の実質的なトップは私です。ランデルは未だ形だけですし、お母様も前には出ない人ですから。なので、問題ありません。今は何事も迅速さが必要な時なのです」

 

 決然とした表情でそう話すリリアーナ。光輝は、苦虫を噛み潰したような表情をしながら口を開いた。

 

「……リリィは、その人の事が好きなのか?」

「好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりのための結婚ですから。ただ、皇太子様には既に幾人もの愛人がいらっしゃるので、その方達の機嫌を損ねることにならないか胃の痛いところです。私の立場上、他の皇子との結婚というのは釣り合いが取れませんから、仕方がないのですが……」

「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんて、おかしいだろ!」

「光輝さん達から見れば、そうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通のことです」

「普通って……リリィだって、女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」

 

 納得できず喚く光輝に、リリアーナはただ困ったような笑みを浮かべるだけだった。

 

 リリアーナとて、確かに女の子だ。特に、親友となった異世界の女の子達、香織や雫達とガールズトークをすれば、ロマンチックな恋愛に憧れたりも当然する。

 

 曖昧に微笑むリリアーナに、なお言い募ろうとする光輝を雫が止める。微妙な空気が流れる中、おもむろにハジメが席を立った。そして、何事もなかったように部屋を出ていこうとする。それに、光輝が行き場のない感情を吐き出すように突っかかった。

 

「おい! 南雲! カービィ!お前たちは、何とも思わないのか!」

「はぁ? 何で俺が姫さんの婚約をどうこう思うんだよ? まして、これは婚姻という形をとっただけの政治の話だろ? むしろ、ド素人が口を挟むことじゃねぇよ」

「うーん、よくないと思うけど下手に手を出すとダメだからね。」

「ぐっ、で、でも……」

「それより、今の俺達にはやる事がある。下手な事して、邪魔したらぶちのめすからな?」

 

ハジメはそれだけ言うと、ユエ達を引き連れてさっさと出て行ってしまった。憤る光輝を宥めながら、これから起こることの結果次第では、どっちにしろ婚約話はなくなる可能性もあるなぁと、雫はどこか疲れ気味に天を仰ぐのだった。

 




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金属の蜘蛛の拍子舞


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ハジメ達が出ていき、雫達と二、三話をしたあと、リリアーナは今夜のパーティーの準備もあったので部屋に戻ってお付の侍女達と打ち合わせをしていた。やっていることは、主にドレスの選別だが。

 

「まぁ、素敵ですわ、リリアーナ様!」

「本当に……まるで花の妖精のようです」

「きっと、殿下もお喜びになりますわ!」

 

 既に何十着と試着を済ませた果てに選ばれたドレス候補の一つを試着して、姿見の前でくるりと回るリリアーナに、周囲の侍女達がうっとりと頬を染めてお世辞抜きの賛辞を送る。十四歳という少女と女の狭間にある絶妙な魅力が、淡い桃色のドレスと相まって最大限に引き立てられていた。侍女の一人が言ったように、まさに花の精と表現すべき可憐さだった。

 

「そう、ね。これにしましょうか。後は、アクセサリーだけど……」

 

 リリアーナ自身も納得したようで、一つ頷く。

 

 いくらこれが政略結婚であり、皇太子であるバイアス・D・ヘルシャーが父親に似た極度の女好きで、過去何度か会った時も、まだ十にも届かない年齢のリリアーナを舐めるような嫌らしい視線で見やり、そのくせ実力は半端なく、王国に来た時も下級騎士を〝稽古〟と称して徒いたずらに嬲るという強さをひけらかす嫌な人間であったとしても、夫になる相手であることに変わりはない。

 

 なので、パートナーとして恥をかかせるわけにはいかないし、自分の婚約パーティーでもある以上、リリアーナも最大限に着飾ろうと思っていた。光輝に言われた〝好きな人と〟という言葉がやけに頭にチラつくのを振り切るように。

 

 リリアーナとて女の子だ。ハイリヒ王国の才女と言われ多くの人々から親しまれようと、女の子らしい憧れくらいある。ピンチの時に、颯爽と現れる王子様を夢見たこともあるし、偶然の出会いに惹かれあって、多くの障害を乗り越えながら結ばれるというラブストーリーを妄想したことだってある。

 

 だが、それは有り得ない未来だ。リリアーナは聡明であったが故に、幼い頃から自分に課せられた使命とも言うべき在り方を受け入れていた。だから、心の底では嫌悪感を抱く相手であっても、立派な妻になろうという気持ちは本当であり、今夜のパーティーも立派に皇太子妃として務め上げようと決意していた。

 

 と、その時、突然、部屋の外が騒がしくなった。そして何事かと身構えるリリアーナ達の前でノックもなしに扉が開け放たれ、大柄な男が何の躊躇いも遠慮もなくズカズカと部屋の中に入ってきた。リリアーナに付いてきた近衛騎士達が焦った表情で制止するが、その男は意に介していないようだ。

 

「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな」

「……バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ」

「あぁ? 俺は、お前の夫だぞ? 何、口答えしてんだ?」

「……」

 

 注意をしたリリアーナに、鬱陶しそうな表情で返したのはリリアーナの婚約相手であるバイアス・D・ヘルシャーその人である。数年前と変わらない、粗野で横暴な雰囲気を纏い、上から下までリリアーナを舐めるように見る。リリアーナの背筋に悪寒が走った。

 

「おい、お前ら全員出ていけ」

 

 バイアスは、突然、ニヤーと口元を歪めると侍女や近衛騎士達にそう命令する。戸惑う彼女達に恫喝するように再度命令すれば、侍女達は慌てて部屋を出ていった。しかし、近衛騎士達は、当然渋る。それを見てバイアスの目が剣呑に細められたことに気がついたリリアーナは、何をするかわからないと慌てて近衛騎士達を下がらせた。

 

「ふん、飼い犬の躾くらい、しっかりやっておけ」

「……飼い犬ではありません。大切な臣下ですわ」

「……相変わらず反抗的だな? クク、まだ十にも届かないガキの分際で、いっちょ前に俺を睨んだだけのことはある。あの時からな、いつか俺のものにしてやろうと思っていたんだ」

 

 そういうと、バイアスは、顔を強ばらせつつも真っ直ぐに自分を見るリリアーナに心底楽しげで嫌らしい笑みを浮かべると、いきなり彼女の胸を鷲掴みにした。

 

「っ!? いやぁ! 痛っ!」

「それなりに育ってんな。まだまだ足りねぇが、それなりに美味そうだ」

「や、やめっ」

 

 乱暴にされてリリアーナの表情が苦痛に歪む。その表情を見て、ますます興奮したように嗤うバイアスは、そのままリリアーナを床に押し倒した。リリアーナが悲鳴を上げるが、外の近衛騎士達は気が付いていないようだ。

 

「いくらでも泣き叫んでいいぞ? この部屋は特殊な仕掛けがしてあるから、外には一切、音が漏れない。まぁ、仮に飼い犬共が入ってきても、皇太子である俺に何が出来るわけでもないからな。何なら、処女を散らすところ、奴等に見てもらうか? くっ、はははっ」

「どうして……こんな……」

 

 リリアーナが、これからされる事に顔を青ざめさせながらも、気丈にバイアスを睨む。

 

「その眼だ。反抗的なその眼を、苦痛に、絶望に、快楽に染め上げてやりたいのさ。俺はな、自分に盾突く奴を嬲って屈服させるのが何より好きなんだ。必死に足掻いていた奴等が、結局何もできなかったと頭を垂れて跪く姿を見ること以上に気持ちのいいことなどない。この快感を一度でも味わえば、もう病みつきだ。リリアーナ。初めて会ったとき、品定めする俺を気丈に睨み返してきた時から、いつか滅茶苦茶にしてやりたいと思っていたんだ」

「あなたという人はっ……」

「なぁ、リリアーナ。結婚どころか、婚約パーティーの前に純潔を散らしたお前は、どんな顔でパーティーに出るんだ? 股の痛みに耐えながら、どんな表情で奴等の前に立つんだ? あぁ、楽しみで仕方がねぇよ」

 

 たとえ、嫌悪感さえ抱く相手だとしても、妻として支え諌めていけば、いつかきっと立派な皇帝になってくれる、いや、自分がそうしてみせると決意したリリアーナの心に早くも亀裂が入る。

 

 リリアーナは悟ったのだ。目の前の、今にもこぼれ落ちそうな涙を必死に堪えるリリアーナを見てニヤニヤしている男は、ある意味、正しく〝帝国皇太子〟なのだと。

 

 バイアスに恥をかかすまいと選んだドレスが、彼の手により引きちぎられる。シミ一つない玉の肌が晒され、リリアーナは羞恥で顔を真っ赤にした。両手を頭の上で押さえつけられ、足の間にも膝を入れられて隠すことも出来ない。

 

 バイアスは、ニヤついたまま、キスをするつもりなのか、ゆっくりと顔をリリアーナに近づけていった。まるで、リリアーナの恐怖心でも煽るかのように目は見開かれたままだ。片手で顎を掴まれているので顔を逸らすことも出来ないリリアーナは、恐怖と羞恥で遂にホロリと流れた自身の涙にすら気づかずに、ふと思った。

 

 望んだ通りの結婚なんて有り得ないと覚悟はしていたけれど、こんなのはあんまりだと。本当は、好きな人に身も心も捧げて幸せになりたかったと。それは、王女という鎧で覆った心から僅かに漏れ出た唯の女の子としての気持ち。

 

 そして、香織や雫に聞いた話を思い出す。ピンチの時に颯爽と現れて、襲い来る理不尽を更なる理不尽で押し潰し、危難の沼から救い上げてもらったという、まるで御伽噺のような物語。

 

 もし願ったなら、自分にも救いは訪れるのだろうか。リリアーナは、何を馬鹿なと王女としての自分が嗤う声を聞きながら、それでも止められず心の中で呟いた。

 

 すなわち、

 

――助けて

 

 と。

 

 その瞬間、仰向けに組み伏せられたリリアーナは自分に迫るバイアスの肩の上に、天井から落ちてきた小さな蜘蛛らしきものがピトッ! と着地するのを目撃した。「えっ?」と驚きながら目を見開いたリリアーナの眼前で、蜘蛛は足の一本を振りかぶると、そのままそれをバイアスの首にプスッ! 突き刺した。

 

「いつっ! なんだ? 今、くびにぃ……」

 

 首に感じた痛みに、もう僅かでリリアーナの唇に接触するというところで身を引いたバイアスは首を押さえる。その時には、既に天井に吊るした糸を辿ってスルスルと退避している蜘蛛。

 

 リリアーナが、呆然とその光景を見ていると、バイアスは、突然、目を瞬かせながら呂律が回らない様子になり、直後、そのままガクッと意識を失い、リリアーナの上に倒れ込んだ。

 

「えっ? えっ?」

 

 混乱するリリアーナの前に、再度、蜘蛛が糸を伝ってバイアスの上に降りてくる。バイアスは現在、リリアーナの上に覆いかぶさっている状況なので、彼の肩口に乗る蜘蛛がちょうどリリアーナの眼前に来ている。そこまで間近で凝視して、リリアーナは初めてその蜘蛛の異様さに気がついた。

 

「……金属の…蜘蛛?」

 

 そう、バイアスの肩に乗っている蜘蛛は金属で出来ていたのだ。目を丸くするリリアーナの前で、金属の蜘蛛は「止めだぁ!」とでもいうように、再度、プスッ! とバイアスの首に先程とは違う足を突き刺した。意識を失っているにもかかわらずビクンッ! と震えるバイアス。呼吸はしているので、本当の意味で止めを刺したわけではないようだ。

 

 リリアーナは、ハッと我を取り戻すとズリズリと体を動かしてバイアスの下から這い出る。そして、女の子座りをしたままジッと眼前の蜘蛛を見つめた。金属の蜘蛛は、少しだけリリアーナに水晶のような光沢のある目を向けると、そのまま糸を巻き上げてスルスルと天井へと上がっていく。

 

「あ、待って、待って下さい! もしかして、貴方は……」

 

 リリアーナが慌てて制止の声をかけるが、金属の蜘蛛はお構いなしに上がっていき、八本の足で天井にしがみつくと、そのままカサカサと外壁の方へ移動する。そして、僅かに紅い光を放つと、いつの間にか空いていた外に通じる壁の穴を塞ぎながら部屋から出ていってしまった。

 

 破れたドレスの前を寄せて肌を隠しながら座り込むリリアーナは、ようやく事態を把握して、微笑みを零しながらポツリと呟く。

 

「ありがとう……南雲さん」

 

 リリアーナがバイアスの婚約者である以上、今、助けられたところで、それはその場凌ぎでしかないと分かっている。だが、それでも、今この時、救いを求める呟きに応えてくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。

 

 胸元で破れた服を抑えてギュッと握られたリリアーナの両手は、あるいは、他の何かを握り締めているかのようだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 応接室を出てお付のメイドに部屋へ案内されたハジメ達。メイドを追い返したあと、ずっと、何かに集中するように目を瞑っていたハジメがスッと目を開く。それに気がついたユエとカービィが、普段よりずっと口数の少ないハジメに声をかけた。

 

「……どう? ハジメ」

「どうなったの?」

「……ん~、上々だな。……途中、ちょっと面倒事があったが……予定の六割は完了した」

 

 ユエに答える声も、他の何かに集中しているかのように鈍い。

 

「早いね。やっぱりトラップは多いのかな?」

「……そうだな。だが、全てを解除する必要はない」

「ふむ、今夜がパーティーというのは幸いじゃの。人が固まれば、色々動きやすいのじゃ」

「最終的にはパーティー会場に集まることになりそうですね。……上手くいくでしょうか?」

 シアが、少し不安そうな表情になる。

 何せ、これから自分の家族の未来が決まる一世一代の大勝負が始まるのだ。緊張しない方がおかしいだろう。そんなシアのウサミミをハジメがモフり、ユエが頬をムニり、ティオが髪をナデナデして、香織が手をギュッと握る。

 

 微笑む仲間に、シアは込み上げるものを感じる。

 

 しかし、涙は流さない。たとえ、それが嬉し涙でも、まだまだ流すのは早いからだ。代わりに、いつものようにニッコリと輝く笑みを浮かべた。自分は一人ではない。家族もいる。恵まれすぎなくらいだと、その思いを隠さずあらわにした笑顔。ハジメ達が好むシアの魅力だ。

 

 シアの笑顔を確認したハジメは、いたずらを前にした子供のようにニヤリと笑みを浮かべると仲間に力強く告げる。

 

「さて、主役達のために舞台を整えようか」

 

 その言葉に、カービィ、メタナイト、シア、ユエ、ティオ、香織も同じような笑みを浮かべて力強く頷いた。

 




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ハウリア族とカービィのダイナマイト大作戦

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 日がすっかり落ち、辺りが暗闇で覆われた帝城の一角。地下牢がある建物の外周を二人の帝国兵が警備のため決められたルートを巡回していた。その手には魔法的な火が燃え盛る松明のようなものが持たれており、不埒な侵入者の味方をする夜闇を懸命に払っている。

 

「はぁ、今頃、お偉方はパーティーか……美味いもん食ってんだろうなぁ……」

「おい、無駄口叩くなよ。バレたら連帯責任なんだぞ」

 

 一人の兵士が遠くに見える明かりを眺めながら溜息混じりに愚痴をこぼした。相方の兵士が顔をしかめながら注意するが、その表情の原因は言葉通りのものではないようだ。どちらかといえば、〝暑い時に暑いと言うと余計に暑い気がするから言うな〟と言ううんざり気味の雰囲気が漂っている。内心では、同じく愚痴を吐いていたらしい。

 

「だけどさ、お前も早く出世して、ああいうのに出たいと思うだろ?」

「……そりゃあな。あそこに出られるくらいなら、金も女もまず困らねぇしな……」

「だよなぁ~。パーティーで散々飲み食いした後は、お嬢様方と朝までしっぽりだろ? 天国じゃん。あ~、こんなとこで意味のねぇ巡回なんかしてないで女抱きてぇ~。兎人族の女がいいなぁ~」

「お前、兎人族の女、好きだなぁ。亜人族の女は皆いい体してっけど、お前、娼館行っても兎人族ばっかだもんな」

「そりゃあ、あいつらが一番いたぶりがいあるからな。いい声で泣くんだよ」

「趣味わりぃな……」

「何言ってんだよ。兎人族って、ほら、イジメてくださいオーラが出てるだろ? 俺はそれを叶えてやってんの。お前だって、何人も使い潰してんだろ」

「しょうがねぇだろ? いい声で泣くんだから」

 

 二人の巡回兵は、顔を見合わせると何が面白いのか下品な笑い声を上げた。

 

 帝国において、亜人は所詮道具と変わらない。ストレスや性欲を発散するための、いくらでも替えの利く道具なのだ。故に、この二人が特別、嗜虐的な性格なのではなく、亜人を辱め弄ぶのは帝国兵全体に蔓延している常識と言ってよかった。

 

 と、その時、片割れの兵士が建物の影に何かを見たのか警戒したような表情になって声を上げた。

 

「ん? ……おい、今、何か……」

「あ? どうした?」

 

 歩み寄りながら松明を前に突き出し、建物の影を照らしだそうとする兵士。疑問の声を上げながらもう一人も追随する。

 

 先行していた兵士は「誰かいるのか?」と誰何しながら、ちょうど人一人がギリギリ通れる程度の建物と建物の隙間にバッ! と松明の火を向けた。

 

 しかし、その先に人影はなく「見間違いだったか……」と呟きながら安堵の吐息を漏らす。そうして、苦笑いしながら相棒を振り返った兵士だったが……

 

「悪い、見間違い……? おい、マウル? どこだ? マウル?」

 

 そこに相棒の姿はなく、足元に彼が持っていたはずの松明だけが残されていた。どこに行ったんだと、キョロキョロと辺りを見渡す兵士だったが、周囲に人影はない。彼の背筋に冷たいものが流れる。

 

 湧き上がる恐怖心を押し殺して、兵士は、咄嗟に落ちている松明を拾いながら、相棒に少し緊張感の宿った呼び声をかけようとして……

 

「おい、マウル。悪ふざけならッんぐっ!?」

 

 その瞬間、誰もいなかったはずの建物の隙間からスッと二本の腕が音もなく伸びた。

 

 闇の中から直接生えてきたかのような腕の一本には光を吸収する艶消しの黒色ナイフが握られており、片手が兵士の口もと塞ぐと同時に、一瞬で延髄に深く突き立てられる。

 

 一瞬、ビクンと痙攣したあとグッタリと力を抜いた兵士は、そのまま二本の腕に引きずられて闇の中へと消えていった。

 

 そして、いつの間にか、彼が拾おうとしていた松明も消え去り、後には何も残らず、ただ生温い夜風だけがゆるゆると吹き抜けるのだった。

 

 

 

 

 闇の中、風に紛れそうなほど小さな囁き声がする。

 

「HQ、こちらアルファ。Cポイント制圧完了」

『アルファ、こちらHQ。了解。E2ポイントへ向かえ。歩哨四人。東より回りこめ』

「HQ、こちらアルファ。了解」

 

 そんな囁きのあと、全身黒ずくめの衣装に身を包んだ複数の人影が足音一つ立てず移動を開始する。

 

 顔面まで黒い布できっちり隠しているが、目の部分だけは視界確保のために空いており、そこから鋭い眼光が覗いていて、さらに背中には小太刀が二本括りつけられている。日本人がその姿を見たのなら間違いなく「あっ、忍者!」と言いそうな格好だ。

 

 だが、個人の特定は出来なくとも、残念なことにその正体までは全く忍べていなかった。なぜなら、覆面の頭上からはニョッキリとウサミミが生えていたからだ。どこからどう見ても兎人族であり、ハウリア族であった。

 

 彼等は、闇に紛れて建物の影に身を潜める。そこからそっと顔を覗かせれば、報告通り四人の歩哨が二組に分かれて互いに目視できる位置に佇んでいた。先程通信していたハウリア族の一人が背後に控える三人にハンドシグナルを送る。

 

 それに頷いた三人はスッと後ろに下がると、まるで溶け込むように夜の闇へと姿を消した。

 

 待つこと数秒。指示した場所から、歩哨の視線が逸れた隙にチカッ! と光が瞬く。同じく、歩哨の視界に入らないように考慮して、ハウリアの一人がライターサイズの容器の蓋を一瞬だけ開けた。これは、中に緑光石が仕込まれた簡易の懐中電灯のようなものだ。

 

 合図を送ったハウリアは背後の二人を振り返るとハンドシグナルで指示を出しながら動き出した。

 

 二組の歩哨が互いの姿を視界の外に置いた瞬間、気配を極限まで薄くして一気に接近し、一人が兵士の口と鼻を片手で覆いながら延髄を一突き、もう一人も同じく片手で拘束しながら別の兵士の腎臓を突き刺し組み倒す。

 

 最後の一人は、歩哨が手放した松明を落ちる前にキャッチして火を消し、その他の痕跡が残っていないか確認する。そして、一気に建物の影に引きずっていった。

 

 しかし、流石に無音とはいかずもう一組の歩哨が「ん?」と視線を向けた。

 

 その視線の先に先程までいた仲間の姿はない。松明の光もなく暗闇が存在するだけだ。「あいつらどこに行ったんだ?」と、訝しみながら目を凝らす歩哨は、闇の中で微かに動く人影を捉えた。何か大きなものを引き摺る姿だ。

 

 「何かヤバイ!」と、歩哨は、咄嗟に首元に下げた警笛を吹き鳴らそうと手を伸ばすが……

 

 次の瞬間、その歩哨の首にナイフが突き立てられ、悲鳴を上げることも苦痛を感じる暇もなく、その意識を永遠の闇に沈めることになった。

 

 警笛を握った歩哨の隣では、やはり相方の歩哨も同じようにナイフを突き立てられて絶命している。同時に、松明の火が消されて建物の影に引き摺られていった。

 

 現在、帝城の至るところで同じような殺戮が行われていた。

 

 既に、複数の詰所に控えていた多くの兵士達が胴体と永遠のお別れを済ました後であり、兵舎で就寝中の兵士達は樹海製の眠り薬によって普段とは比べ物にならないほど深い眠りにつかされていた。警報が鳴ったとしても、朝までぐっすり眠り、普段の疲れを存分に癒すことだろう。

 

 今宵の空に浮かぶのは繊月。

 

 別名〝二日月〟と呼ばれる新月の翌日に昇る見えるか見えないかくらいの極細の月だ。

 

 それはまるで、悪魔が浮かべた笑みのよう。

 

 実力至上主義を掲げた者達が最弱と罵った相手に蹂躙されるという、この月下の喜劇を嘲笑っているかのようだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

――HQ、こちらアルファ。H4ポイント制圧完了

――HQ、こちらブラボー。全Jポイント制圧完了

――HQ、こちらチャーリー。全兵舎への睡眠薬散布完了

――HQ、こちらエコー。皇子、皇太孫並びに皇女二名確保

――ハジメ、コピー能力クリエイト『ミラー、忍者』で残り全ポイント制圧完了だよ。

 煌びやかなパーティー会場で、ハジメは、普段では有り得ない満面の笑みを浮かべながら、話しかけてくる帝国貴族と会話をしつつ、次々と入ってくるハウリア達の報告を聞いていた。

 

 会場は広く、そこかしこに豪華絢爛な装飾が施されている。立食形式のパーティーで、純白のテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には何百種類もの趣向を凝らした料理やスイーツが並べられており、礼儀作法を弁えた熟練の給仕達が颯爽とグラスを配り歩いていた。

 

 参加している者は全員、帝国のお偉方だ。ただ、煌びやかな衣装に身を包んでいても文官と武官ではその雰囲気からして丸分かりであり、実力至上主義という国柄からか偉ぶった武官と、どこか遠慮がちな文官達という構図が浮き彫りになっていて武官の方が立場は上のようだと実感できた。

 

 そんな武官達から積極的に声を掛けられているのがハジメ達だ。

 

 何せ、〝神の使徒〟にして〝勇者一行〟だ。世間一般では【オルクス大迷宮】の攻略階層を破竹の勢いで更新した強者と思われており、〝強さ〟が基準の彼等からすれば何とも興味をそそる存在なのだろう。もちろん、あわよくば個人的な繋がりを持ちたいという下心もたっぷりある。

 

 もっとも、現在、ハジメに話しかけている者達はそうした下心と興味以外に、パーティーが始まってから片時もハジメの傍を離れない美貌の女性陣にも強い興味があるようだった。ハジメに話しかけながらもチラチラとハジメの背後に控えるユエ達に視線が向いているのでバレバレである。

 

 だが、それも無理のないことだろう。リリアーナの歓迎と婚約祝いを兼ねたパーティーにおいて、ユエ達の存在は、花を添えるどころの騒ぎではなく、むしろ自分達こそこの会場の主役だと言わんばかりの存在感を放っていた。

 

 シアは、ムーンライト色のミニスカートドレスを纏っており、そのスラリと長く引き締まった美脚を惜しげもなく晒している。

 

 しかし、決して下品さはなく、ふんわりと広がったスカートと、珍しく楚々としたシアの雰囲気が彼女の可愛らしさをこれでもかと引き立てていた。普段は真っ直ぐ下ろしている美しい髪を根元で纏めて前に垂らしている姿も、彼女に上品さと可愛らしさを与えている要因だろう。

 

 その横で、上品にワインを傾けるティオは、普段の黒い和装モドキと同じような黒いロングドレス姿だ。しかし、体のラインが出るようなタイプのドレスなので、凹凸の激しいボディラインが丸分かりであり、更に、背中と胸元が大きく開けているので、彼女の見事としか言いようのない美しい双丘が今にもこぼれ落ちそうなほどあらわになっている。会場の男性陣の視線が、動く度にいちいちプルンッ! と震える凶器に吸い寄せられ、パートナーの女性に嫌味を言われる姿が続出していた。

 

 香織は、肩口が完全に露出したタイプのスレンダーラインのドレスを着ている。ティオほどの激しいボディラインではないが、そのバランスはまさに神の造形。チャイナドレスのように深いスリットが入った裾からふとした拍子にチラリと覗く美脚や、アップに纏められた銀髪の輝き、色気を感じさせる項は思わず視線を攫われてしまう。

 

 そして、ハジメの本命、最愛の吸血姫はというと――純白のウエディングドレス(モドキ)を纏っていた。

 

 光沢のある生地で、肩口が露出しており、裾はフリルが何段も重ねられ大きく広がっている。髪はポニーテールにしていて上品な白い花を模した髪飾りで纏められていた。露出は一番少ないが、白く艶かしい首筋や、やけに目を引く赤いルージュの引かれた唇、そして僅かに潤んで熱を孕んだ瞳がどうしようもなく男の劣情を誘った。いつもの、外見の幼さと纏う妖艶な雰囲気のギャップからくるユエの魅力が何十倍にも引き立てられている。

 

 部屋で、ユエ達の着替えが終わるまで待っていたハジメ達男性陣だったが、彼女達が入ってきた瞬間、その溢れ出る魅力にやられて完全に硬直したのも仕方のないことだ。

 

 特に、ハジメの目はユエに釘付けになっていて、誰の目から見ても心奪われているのが丸分かりだった。ユエの方も、それを察したのだろう。嬉しそうに微笑むと真っ直ぐにハジメを見つめた。

 

 ハジメの視線が一点から離れないことにムッとした女性陣がハジメに文句を言おうとしたが、それより先に動いたハジメが有無を言わさずユエを抱きしめて、そのまま濃厚なキスをし始めたので、今度は違う意味で男女関係なく硬直し、その後、いつまでも続けているハジメとユエを無理やり引き剥がしにかかるという〝ハジメ理性ぶっ飛び事件〟もあったが……

 

 とにかく、「これ誰の婚約パーティーか理解してる? ねぇ? してる?」とツッコミを入れられそうなくらいユエ達は魅力的だった。

 

 ちなみに、雫と鈴も十分に着飾っていて、帝国の令嬢方に負けないくらいに華やかだったのだが……流石に、ユエ達の原動力がハジメの心を奪いたいというものである以上、そういう強い動機がない二人では数歩及ばず、どうしてもユエ達と比べると大人しい印象だったので、余り目立ってはいなかった。

 

「それにしても、南雲殿のお連れは美しい方ばかりですな」

「全くだ。このあとのダンスでは是非一曲お相手願いたいものだ」

 

――ハジメ、コピー能力ストーンボムで全ポイントダイナマイトを設置したよ。

――HQ、こちらデルタ。全ポイント爆破準備完了

 

 そんな帝国貴族達の半ば本気の言葉を、耳から入る念話の報告を聞きつつハジメが笑顔でかわしていると、会場の入口がにわかに騒がしくなった。どうやら、主役であるリリアーナ姫とバイアス殿下のご登場らしい。文官風の男が大声で風情たっぷりに二人の登場を伝えた。

 

ザワッ……

 

 大仰に開けられた扉から現れたリリアーナのドレス姿に、会場の人々が困惑と驚きの混じった声を上げる。

 

 それは、リリアーナが全ての光を吸い込んでしまいそうな漆黒のドレスを着ていたからだ。本来なら、リリアーナの容姿や婚約パーティーという趣旨を考えれば、もっと明るい色のドレスが相応しい。その如何にも「義務としてここにいます」と言わんばかりの澄まし顔と合わせて、漆黒のドレスはリリアーナが張った防壁のように見えた。

 

 パートナーのバイアス殿下の方も、どこか苦虫を噛み潰したような表情であり、どう見てもこれから夫婦になる二人には見えず、会場は取り敢えず拍手で迎え入れたものの、何とも微妙な雰囲気だ。

 

 そのまま、二人は壇上に上がる。

 

 司会の男は、困惑を残したままパーティーを進行させた。リリアーナとバイアスの様子を見て、今にも笑い出しそうなガハルドの挨拶が終わると、会場に音楽が流れ始めた。リリアーナ達の挨拶回りとダンスタイムだ。微妙な雰囲気を払拭しようと流麗な音楽が会場に響き渡る。

 

 会場の中央では、それぞれ会場の花を連れ出した男達が思い思いに踊り始めた。リリアーナとバイアスも踊るが何とも機械的だ。主に、リリアーナの表情や纏う雰囲気が原因だが。

 

 バイアスが強引に抱き寄せても、旋律に合わせて気が付けば微妙な距離が空いている。そうこうしている内に一曲終わってしまい、リリアーナはさっさと挨拶回りに進んでしまった。

 

 イラついた表情で、しかし、挨拶回りは必要なので追随するバイアス。微妙に股を気にしている様子だ。実は、ついさっき目覚めたばかりの挙句、何があったのかリリアーナを問い詰める間もなくパーティーに駆り出されたとは誰も知らない。何故か感覚のない息子の復活(復活させられるだろう人物の紹介)を盾にされて、リリアーナに従うしかない状況に焦燥と苛立ちを感じていることも、誰も知らないのだ。

 

「何て言うか、リリィらしくないね。いつもなら、内心を悟らせるような態度は取らないのに……」

 

 香織が、特に笑顔もなく淡々と挨拶を交わすリリアーナを見てポツリと呟く。

 

「……まぁ、あんなことがありゃあなぁ。姫さんも色々思うところがあったんだろ」

「……あんなこと?」

 

 ハジメの言葉にユエ達が首を傾げてハジメを見る。

 

「南雲君、リリィに何かしたの?」

「おい、八重樫。それはどういう意味だ、こら」

 

 ワインレッドのロングドレスを着た雫が胡乱な眼差しをハジメに向けている。

 

「だって、リリィが公の場であんな態度を取るなんて……何か非常識な事が起これば、大体南雲君のせいじゃない? 今までの経験則からいって。実際、何か知っているみたいだし」

「チッ、言い返しづらいことを……だが、今回は本当に何もしていないぞ。ただ、皇太子にレイプされそうになってた姫さんを通りすがりに助けただけだし」

「そう、リリィがレイ……ナンデスッテ?」

「ちょっと、ハジメくん!? 今、なんて!?」

 

 雫や香織を筆頭に、驚愕の眼差しをハジメに向ける一同。

 

 ダンスが始まってから散々ユエ達を誘おうと男連中がやって来たのだが、ユエ達にハジメ以外の男と踊るつもりは皆無だったので、現在は、ハジメの〝威圧〟により追い払われており、周囲にはユエ達と雫しかいない。

 

 光輝は、半ば強引に淑女達に連れ出されて慣れないダンスを必死に踊り、龍太郎はひたすら食っている。鈴は、どこぞのダンディーなおっさんと「ほぇ~」と流されるままに踊っている。

 

 なので、リリアーナがバイアスにレイプされかけたという発言はユエ達以外には伝わっていない。いないが、香織と雫が掴みかからんばかりの勢いでハジメに説明を求めるので、何事かと注目が集まり出している。

 

「あ~、うん、だから………………ユエ、一曲踊らないか?」

「んっ……喜んで」

「あ、ちょっと、南雲君! 面倒になったからって逃げないで! きちんと説明してちょうだい!」

「そ、そうだよ! 重大事だよ! ちゃんと説明して!」

 

 雫の言葉通り、説明が面倒になったハジメはユエの手を取ってダンスホールへと逃亡を図った。ある意味、主役のリリアーナより目立っている芸術品の如き美貌の少女とそのパートナーたる白髪眼帯の少年(タキシードVer.)に注目が集まる。

 

 元々、王族としてダンスの嗜みがあるユエのリードに合わせて、〝瞬光〟すら利用して踊るハジメ。踊りを観察していたこともあり、それなりに様になっている。楽しげで、幸せそうなユエの表情と、それに目元を和らげるハジメの姿は、互いの衣装と相まって傍から見れば完全に二人の婚約パーティーである。

 

 どこかギスギスしていた空気に楽士達も場を盛り上げることだけに必死になっていたのだが、ハジメとユエの雰囲気に気分が乗ってきたようで楽しげに演奏し始める。今や、会場の主役はハジメとユエであり、誰もが幸せそうにくるくると踊る二人に注目していた。

 

 そんな二人の様子を、リリアーナは微笑みながら見つめている。そこには、僅かばかり羨望の色が含まれていた。

 

 一方、ハジメを慕う女性陣は、これから起こることも、リリアーナの事件も一時的に頭の隅に押し込めて、「次は誰だ!」と、二番手争いに躍起になっていた。

 

 やがて演奏が終わり、微笑み合いながら軽くキスを交わす二人に帝国貴族達から盛大な拍手が贈られる。彼等の瞳には、ただ純粋に称賛の気持ちがあらわれていた。帝国貴族の令嬢達も「ほぅ」と熱い溜息をついてうっとりとしている。

 

 贈られる拍手に優雅に礼を返したハジメとユエが、仲睦まじく手を繋ぎながら仲間の元へ戻って来た。そこへどうやら競り勝ったらしいティオが進み出て、期待に満ちた眼差しをハジメに向ける。

 

 しかし、ティオの期待はあっさり裏切られた。

 

「南雲ハジメ様、一曲踊って頂けませんか?」

 

 そう、ハジメに声を掛けてきた者がいたからだ。

 

 その相手はリリアーナだった。

 

「姫さん……主役がパートナーと離れて、いきなりどうした?」

「あら、その主役の座を奪っておいて、その言い方は酷くありませんか?」

「あんな仕事顔してるからだろ? っていうか皇太子は放っておいていいのか?」

「挨拶回りなら大体終わりましたし、今は、パーティーを楽しむ時間ですよ。もともと、何曲かは他の人と踊るものです。ほら、皇太子様も愛人の一人と踊っていらっしゃいますし」

「愛人って……あっけらかんとしてんなぁ」

「ふふ。それより、そろそろ手を取って頂きたいのですが……踊っては頂けないのですか?」

 

 ハジメは、単に踊りたいだけでなく何か言いたげな様子のリリアーナを見て、大体その内容を察していたので、どうしたものかと頬をカリカリと掻いた。正直、ユエとのダンスの余韻に浸っていたかったのだが……

 

 と、渋るハジメに、隣のユエが「メッ!」とした。どうやら、公の場でリリアーナに恥をかかさないで、と言いたいらしい。ユエの「メッ!」に勝てるわけもないハジメの結論は決まっている。

 

「あ~、わかったよ。……喜んでお相手致します。姫」

「……はぃ」

 

 注目を集めていることもあってか、ハジメが普段からは考えられないほど恭しくリリアーナの手を取り、ダンスホールの中央に導いた。先程の、ユエとのダンスが脳裏に過ぎっているのだろう。リリアーナの恥じらうような態度のこともあって注目度は高い。

 

 ちなみに、リリアーナとのやり取りの間、ずっと手を差し出したまま固まっていたティオには誰も目をくれなかった。「こ、このタイミングで、そう来るとはっ! どこまで弁えておるご主人様じゃ! はぁはぁ……んっ」などとほざきながら頬を赤らめていたが、誰もツッコミは入れなかった。

 

 ゆったりした曲調の旋律が流れ始める。ゆらりゆらゆらと優雅に体を揺らしながら密着するリリアーナとハジメ。ハジメの肩口に顔を寄せながらリリアーナがそっと囁くように話しかけた。

 

「……先程は有難うございました」

「やっぱり、それか……よくわかったな」

「あんな非常識なもの、貴方以外にはいないでしょう? それに、貴方の〝紅〟はとても綺麗ですから……見間違いません」

「そうか。まぁ、帝国の皇子筆頭があれじゃ、その場凌ぎだがな。遅かれ早かれだろ」

「はっきり言いますね。……でも、たとえそうでも嬉しかったですよ。香織から貴方に助けられたときの事を聞いて、少し憧れていたのです」

 

 そう言って、リリアーナはハジメの肩口から少し顔を離すと言葉通り嬉しそうな微笑みを浮かべた。その笑顔は、先程までバイアスの傍らにいたときとは比べるべくもないリリアーナ本来の魅力に満ちたもので、注目していた周囲の帝国貴族達が僅かに騒めいた。

 

「それで、色々吹っ切れてあの態度とそのドレスか?」

「似合いませんか?」

「似合ってるさ。だが、やはりあの桃色のドレスの方が合ってる。真逆にしたのは当てつけか?」

「ええ、妻を暴行するような夫にはこの程度で十分ですから……それより……やっぱりあの蜘蛛を通して見えていたのですね。……私のあられもない姿も……あぁ、もうお嫁にいけません」

 

 よよよっ! と、わざとらしく泣き崩れる振りをしながら再びハジメの肩口に顔を埋めるリリアーナに「何言ってんだか……」と呆れた表情をするハジメ。

 

「小声とは言え、こんな場所で滅多なこと言うんじゃねぇよ。というか、さっきから密着しすぎだろ? 皇太子が何やらすごい形相になってんぞ?」

「いいじゃないですか。今夜が終われば私は皇太子妃です。今くらい、女の子で居させて下さい。それとも、近いうちに暴行されて、愛人達に苛められる哀れな姫の些細なわがままも聞いてくれないのですか?」

「暴行されて、苛められるのは確定なのか……」

「確定ですよ……」

 

 そこでリリアーナは、一度ギュッとハジメに抱きつくと表情を隠しながらポツリと、つい零れ落ちたかのような声音で呟いた。

 

「……もし……もし、〝助けて〟と言ったらどうしますか?」

 

 リリアーナ自身、こんなことを聞くつもりはなかった。帝国の皇子との婚姻関係の締結は今後の為にやらねばならないこと。両国が魔物と魔人族の襲撃によりダメージを負い、聖教教会総本山が消滅して不安定になっている北大陸の人々を安心させるために見て分かる形で人間族の結束の強さを示さなければならないのだ。王族の一員として、果たさねばならない役目なのだ。たとえ、尊厳すら奪われかねない辛い結婚生活が待っているとしても。

 

 それでもハジメにこんなことを聞いてしまったのは、声も届かず誰の助けも期待できない状況で心底恐怖に震える自分を助けてくれたこと、ハジメに包み込まれて幸せそうな表情をするユエを見たこと、そしてきっとハジメなら〝断ってくれる〟と思ったからだろう。それで、本当に覚悟を決めることが出来ると。それは、一つの甘えといってもいいかもしれない。

 

 だが、ハジメの返答はリリアーナの予想斜め上のものだった。

 

「まぁ、俺がどうこうする前に、結果的に助かるんじゃね? 場合によっちゃあ、今夜で今の・・帝国は終わるかも知れないし……少なくとも、皇太子はダメだろうなぁ」

「……はい?」

 

 目を点にして思わず顔を上げるリリアーナに、ハジメはニヤリと口元を吊り上げる。

 

 その表情を見て、リリアーナの胸中に凄まじく嫌な予感が押し寄せた。さっきまでのしんみりした雰囲気はなく、リリアーナは自分の頬が引き攣るのを感じた。そんなリリアーナの耳元にハジメがそっと口を寄せる。

 

「それとな、甘えるならもう少し分かりやすくしろ。俺は、察しが悪いからさ、うっかり何かしちまうかもしれない」

「っ……」

 

 リリアーナの体がビクッと震える。それは耳元にかかる息と声音のせいもあったが、ハジメが言外に何を言っているのか察したからだ。

 

 すなわち、〝助けてやる〟と。リリアーナの心が激しく動揺する。それはダメだと王女のリリアーナが叫ぶ。結婚は果たさねばならない責務だ。だからこそ、夢想を抱く女の子の自分をバッサリ切り捨てて欲しかったのに、と。

 

 「なぜ?」と、ある意味残酷な仕打ちにか、それとも嬉しさのせいか潤む瞳をハジメに向けるリリアーナに、ハジメは何でもないように、ある意味全く空気を読まない最低の答えを返す。

 

「姫さんが不幸だと、悲しむ奴等がいるからな」

 

 そう言ってチラリと香織達を見るハジメ。要するに、リリアーナ本人のためではなく、リリアーナが不幸だと、ハジメの〝大切〟が傷つくからと言いたいらしい。それを察したリリアーナが、ジト目をハジメに向ける。

 

「そこは、嘘でもお前の為だと言うべきじゃありませんか? 私、きっと落ちていましたよ?」

「落としてどうする。まぁ、取り敢えず、姫さんにとっての最悪だけは起こらないと思ってればいいさ。あいつらの大切な友人である限り、な」

「……ぶれないですね、南雲さんは……本当、ユエさんが羨ましい……」

 

 リリアーナは少し憎らしそうな表情でハジメを見つめる。そんな目を向けられてもハジメはどこ吹く風だ。曲はいよいよ終盤。ハジメが動じないことに、やがて諦めたリリアーナは「ふぅ~」と息を吐くと、体をハジメに預けて、ただ今この瞬間のダンスを楽しむことにした。

 

 そして、余韻をたっぷり残して曲が終わり、どこか名残惜しげに体を離したリリアーナは、繋いだ手を離さずに少しの間、ジッとハジメを見つめて……「ありがとう」と呟いた。咲き誇る満開の花の如き可憐な微笑みと共に。

 

 それは唯の十四歳の女の子の微笑み。余りに純粋で濁りのない笑みは、それを見た者全ての心を軽く撃ち抜いた。そこかしから熱の篭った溜息が漏れ聞こえる。そして、僅かな間のあと、先程のユエとのダンスに負けないくらい盛大な拍手が贈られた。

 

 リリアーナは、他のお偉いさんと踊る必要があるようだったので、途中で分かれて一人戻ってきたハジメを、女性陣のジト目が迎えた。

 

「ハジメくんの女ったらし……」

「……ハジメさん、一体いつの間に……油断も隙もないですぅ」

「のぉ、ご主人様よ。放置プレイで少し濡れてしまったのじゃが、下着を替えてきてもよいかの?」

「さっきの暴行発言と関係あるわね。……リリィが危ないところを助けたって言っていたし、今のダンスで止めを刺したってところかしら? ねぇ、一体、何を囁いていたの? 一応、リリィは人妻なのよ? 分かってる? ねぇ、分かっているの? 南雲君?」

「はわわ、南雲君、遂にNETORI属性まで……大人過ぎるよ。鈴のキャパを超えてるよぉ」

 

 若干、変態発言が混じっていたが、一様に、リリアーナに手を出したみたいな言い方をする女性陣にハジメが「何言ってんだ」と呆れた表情を向けた。

 

 ハジメのした事といえば、通りすがりでちょいと助けに入り、求めに応じてダンスをしただけである。後は、香織達が気にするだろうから、必要最低限の助けくらいはすると伝えただけだ。

 

 口説く意図など微塵もない。それで万が一、億が一、リリアーナがハジメに好意を持ったとしても、ハジメとしては「知ったことか」である。

 

 一応、念の為、誤解がないようにユエに視線を向けるが、ユエは分かっているとでも言うように頷きながらハジメの手をニギニギしてきたので、やっぱりユエは違うなと、唯でさえ天元突破しているユエへの愛情が止まるところを知らず上昇していく。ニギニギがいつもより強めだと感じるのは気のせいに違いない。

 

――ハジメ、準備おっけーだよ。

――全隊へ通達。こちらHQ、全ての配置が完了した。カウントダウンを開始します。

 

 通信を聞いているシアの表情が僅かに強ばった。香織も僅かに緊張したような表情だ。念話石(改良Ver)を渡されていない雫達が、二人を見て訝しそうな表情になる。またハジメかと追及の視線が向いたところでタイミングよく壇上にガハルドが上がった。どうやらスピーチと再び乾杯でもするようだ。

 

「さて、まずは、リリアーナ姫の我が国訪問と息子との正式な婚約を祝うパーティーに集まってもらったことを感謝させてもらおう。色々とサプライズがあって実に面白い催しとなった」

 

 そこでガハルドは意味ありげな視線をハジメに向ける。ハジメは知らんふりだ。それに益々面白げな表情になるガハルド。

 

 同時に、ハジメの念話石から決然とした声が響いた。

 

――全隊へ。こちらアルファワン。これより我等は、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。恐怖の代名詞となる名だ。この場所は運命の交差点。地獄へ落ちるか未来へ進むか、全てはこの一戦にかかっている。遠慮容赦は一切無用。さぁ、最弱の爪牙がどれほどのものか見せてやろう

――十、九、八……

――ボス。この戦場へ導いて下さったこと、感謝します

 

 ハジメ達と、蔓延るウサギ達にだけ響く運命のカウントダウン。

 

 何も知らない帝国の貴族達。

 

 二種族の長が重なるように演説する。

 

「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

 ガハルドは、会場の全員が杯を掲げるのを確認すると、自らもワインがなみなみと注がれた杯を掲げて一呼吸を置く。そして、息をスゥーと吸うと覇気に満ちた声で音頭を取った。

 

 念話の向こうも、また、同じく。

 

――気合を入れろ! ゆくぞ!!!

――「「「「「「「「「「おうっ!!!」」」」」」」」」」

――四、三、二、一……

 

 そして、カウントダウンは遂に――

 

「この婚姻により人間族の結束はより強固となった! 恐れるものなど何もない! 我等、人間族に栄光あれ!」

「「「「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」」」」

 

――ゼロ。ご武運を

 

 その瞬間。

 

 全ての光が消え失せ、会場は闇に呑み込まれた。




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帝国の滅び

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「なんだ!? なにが起こった!?」

「いやぁ! なに、なんなのぉ!?」

 

 一瞬で五感の一つを奪われた帝国貴族達が混乱と動揺に声を震わせながら怒声を上げる。

 

「狼狽えるな! 魔法で光をつくっがぁ!?」

「どうしたっギャァ!?」

「何が起こっていっあぐっ!?」

 

 比較的冷静だった者が、指示を出しながら魔法で光球を作り出し灯りを確保しようとする。が、直後には悲鳴と共に倒れ込む音が響いた。同時に、混乱する貴族達が次々と悲鳴を上げていく。

 

 その異様な光景に再び場は混乱に陥った。特に、令嬢方は完全にパニックに陥っており、闇雲に走り出したようで、そこかしこから転倒音や衝突音が聞こえ始める。

 

「落ち着けぇ! 貴様等それでも帝国の軍人かぁ!」

 

 暗闇の中、ガハルドの覇気に満ちた声が響き渡る。闇夜を払拭しそうなほど大音量の喝は暗闇と悲鳴の連鎖で恐慌に陥りかけた帝国貴族達の精神を強制的に立て直させた。

 

 しかし……

 

ヒュ! ヒュ! ヒュ!

 

「っ!? ちっ! こそこそと鬱陶しい!」

 

 そのガハルド目掛けて闇の中から無数の矢が飛来する。

 

 通常では考えられないほど短いくせに驚く程の速度と威力を秘めた矢が四方八方からガハルドを襲ったのだ。その上、絶妙にタイミングをずらし、実に嫌らしい位置を狙って正確無比に間断なく撃ち込まれるので、さしものガハルドも防戦一方に追い込まれてしまった。とても態勢を立て直す為の指示を出す余裕はない。

 

 それでも真っ暗闇の中、風切り音だけで矢の位置を掴み儀礼剣だけで捌いているのは流石というべきだろう。怒声を上げるガハルドを中心にギン! ギン! ギン! ギン! と金属同士が衝突する音が鳴り響く。

 

 次々と上がる悲鳴と物や人が倒れる音が響く中、ガハルドの喝と、そのガハルドが襲撃を受けていることから冷静さを取り戻した者達が灯りとして火球を作り出すことに成功した。

 

 険しい表情で周囲を見渡しつつ衛兵を大声で呼ぶ彼等。

 

 その視界の端に何か黒い影のようなものがヒュッ! と風を切りながら横切る。

 

「ッ!? 何者っげぶっ!?」

 

 咄嗟に、その影に向かって火球を飛ばそうとした帝国貴族の男。

 

 しかし、直後に背後の闇から飛び出したピンクの悪魔と黒装束と(+ウサミミ)が暗闇と同化したような黒塗りの小太刀を一閃すると、まるで冗談のように、一瞬で首を刈り取られてしまった。

 

 ポ~ンと首が飛びクルクルと回って生々しい音と共に地面に落ちる。その頭は、どこかキョトンとしており、自分の首が刈り取られたという事に気がついていないかのようだった。

 

 気が付けば、周囲を照らしていた幾つかの火球は全て消えて、再び闇一色となっている。

 

 光に誘われる蛾のように火球を作り出した者のところへ向かっていた帝国貴族や令嬢達は、火球が消滅する寸前に垣間見えたウサミミを生やした黒装束が、一瞬で人の首を飛ばす光景を目の当たりにした。そして再び、闇に紛れて消えた襲撃者に無様にも腰を抜かしていく。

 

「ひっ、ば、化け物ぉ~!」

「し、死にたくないぃ~、誰かぁ!」

 

 腰を抜かした者の多くは令嬢や文官達だったが、少なからず軍の将校もいる。前線から退いて贅沢の極みを尽くしてきた彼等には死神の鎌に等しい暗闇と襲撃者の存在に精神が耐えられなかったのだ。

 

 そんな彼等は、一人の例外もなく、何も出来ないまま、そしてしないまま、音もなく肉薄した黒装束達に手足の腱を切られて、痛みにのたうちながら倒れ伏すことになった。

 

 そんな情けない者達もいるが、ここが実力至上主義を掲げる軍事国家である以上、いつまでも混乱に甘んじているわけがない。ガハルドのように儀礼剣は持っていないが護身用の懐剣を頼りに何度か襲撃を凌いだ猛者達が、仲間の気配を頼りに集まり陣形を組みだした。

 

 背中合わせになり、中央に術者を据えて詠唱を任せる。見事な連携だ。

 

 ガハルドの比較的近くにいた者達も直ぐに陣形を組んでガハルドの背後を守りだした。注意すべき範囲が一気に半分になったガハルドに、もう矢による攻撃は通じない。余裕が出来たガハルドは何十という数の矢を片手間に叩き落としながら詠唱を始めた。

 

 とんでもない発動速度で瞬く間に作り出された十近い火球。それは、一瞬で会場に広がり、始源の煌きを以て闇を払い始めた。

 

 反撃開始だ! そう息巻いたガハルド等だったが、直後、目の前に金属塊がコロコロと転がってくる。

 

「なんだ? これは……」

 

 訝しみながらも正体を確かめようと接近するガハルドの側近を務める男。それは、彼だけでなく離れた場所で灯りを確保した者達も同じだった。

 

 猛烈に嫌な予感がしたガハルドは、咄嗟に制止の声をかける。

 

「よせ! 近づくなっ!」

「っ!?」

 

 ガハルドの言葉に反射的に従って後ろに飛び退ろうとした側近だったが、その金属塊のもたらす効果からすれば無意味な行動だ。それは、次の瞬間に証明された。

 

カッ!

キィイイイイイン!!

 

 突然、金属塊が爆ぜたかと思うと、強烈な光が迸り、莫大な音の波が周囲を無差別に蹂躙したのである。

 

「ぐぁあ!?」

「ぐぅうう!」

「何がァ!?」

 

 光が爆ぜた瞬間、咄嗟に目を瞑って腕で顔を庇ったガハルド達だったが、余りの不意打ちに完全には防ぎきれず、一時的に視力を失う程にきっちりと目を灼かれ、酷い耳鳴りによって聴覚も失う事になった。

 

 そして、その絶好のチャンスを襲撃者たるハウリアたちが見逃すはずもない。

 

 絶妙なタイミングで急迫した黒装束のハウリア達が極限の気配殺しで標的の懐に踏み込む。そして、漆黒の小太刀を一閃、二閃。

 

 五感の二つをいきなり奪われ、抵抗する余裕など微塵もない将校達の手足の腱は、あっさりと切り裂かれてしまった。

 

 激烈な痛みに悲鳴を上げて倒れ伏す側近達。

 

 直後、口にナイフを突き込まれて舌を裂かれる。詠唱封じの目的だ。離れた場所でも同じように数人が手足の腱を切られて倒れ伏し口から血を流していた。大きな魔術を行使しようとしていた者は容赦なく首を飛ばされている。

 

 そんな中、ギンギンギン! と金属同士の激突音が響いた。何と驚いたことに、ガハルドだけは、目も耳も潰された状態で、極限まで気配を殺したハウリア族二人の斬撃を凌いでいたのである。

 

 これには襲撃しているハウリア族の二人も黒装束から覗く瞳を大きく見開いて驚きをあらわにした。

 

 その一瞬の動揺を感じ取ったのか、隙を突いて気合一発、ガハルドは大きく踏み込み震脚によって衝撃を発生させる。

 

「っ!」

「くっ!」

 

 体勢を崩された二人のハウリアが思わず呻き声を上げた。そして、ガハルドは、目も耳も使えないとは思えないほど正確な踏み込みで二人に横殴りの斬撃を浴びせる。

 

散らせぇ! 〝風壁〟!

 

 辛うじて小太刀で受けつつも強烈な破壊力を秘めた斬撃によって弾き飛ばされた二人のハウリア族と入れ違いに、凄まじい数の矢がガハルドを集中砲火するが、たった二言で発動した風の障壁によって、その全てはあっさりと軌道を逸らされてしまった。

 

撃ち抜けぇ! 〝炎弾〟!

 

 そして再び二言で魔法を発動。〝火球〟より威力のある〝炎弾〟を一度に十も作り出し、〝風壁〟によって感じ取った矢の射線に向かって一気に掃射する。

 

 発動速度も威力も尋常ではないガハルドに戦慄する気配が無数に湧き上がる。気配を殺していたハウリア達が動揺して気配を僅かに漏らしたのだ。

 

 ガハルドの閉じたままの瞼が僅かに開き、見えていないにもかかわらずギラリと野獣じみた危険な光を宿す。そして、グリン! と首を回しその視線が闇の奥のハウリアを正確に捉えた。先程、僅かに漏れた気配を感じ取ったのだ。

 

「「おぉおおお! 爆ぜろぉ、〝炎弾〟!

 

 放った炎弾には背を向けながら、闇の奥のハウリアに向かって一直線に突進するガハルドは再度詠唱した。

 

 直後、パーティー会場の天井付近に向かって飛んでいた背後の炎弾が一瞬の収縮のあと轟音と共に大爆発を起こした。

 

 天井からクロスボウで援護をしていたハウリア達は、炎弾を回避するためにその場から急いで撤退していたのだが、炎弾が爆発したせいで広範囲に衝撃と熱波が撒き散らされたために完全にはかわすことが出来なかった。少なくとも、足場にしていた場所は崩落してしまい、次の狙撃ポイントに移るまで僅かな時間、援護が途絶えてしまった。

 

舞い踊る風よ! 我が意思を疾く運べ、〝風音〟!

 

 その隙にガハルドは次の魔法を行使する。風系統の補助魔法〝風音〟。周囲の空気に干渉して音を増幅したり、小さな音を遠くに運んだり出来る魔法だ。大音量に狂わされた聴覚を、この魔法で補助して僅かにでも取り戻そうというのだろう。

 

 確かに、応用すれば気配感知の技能の魔法バージョンと言えるかもしれない。と言っても、結局は聴覚を通じて感知するので精度は下がるし、感じ取るのに集中力も必要で近接戦闘時に使うには不向きな魔法ではある。基本は斥候や諜報員が使う連絡・諜報用の魔法なのだ。

 

「らぁああ!!」

「ッ――!!」

「くぅう!」

 

 裂帛の気合と共に、斬撃が鞭のようにしなりながら変幻自在に振るわれる。

 

 それを苦悶の声を上げながらも、気配に緩急をつけてガハルドの感覚を誤魔化しつつ、連携で何とか凌いでいくハウリア達。しかし、〝風音〟のせいで気配操作は余り役に立っていないようだ。ハウリア族が動いた時の微妙な風切り音をしっかりと感じ取っているらしい。

 

 視覚を奪われながら、おそらく発動しても〝気配感知〟には程遠い効果しかないだろう連絡・諜報用の魔法に身を委ねて躊躇うことなく踏み込めるガハルドの胆力と凄絶な殺気の奔流。

 

 これが皇帝。これが軍事国家の頭。力こそ全てと豪語する戦闘者たちの王なのだ!

 

 それを、身を持って実感したハウリア達は……

 

 しかし、萎縮するどころか誰もがその口元に凄惨な笑みを浮かべた。覆面の隙間から覗く瞳はギラギラと獰猛に輝き、一人一人から濃密な殺気が噴き出す。気配操作が意味をなさないのなら、連携で仕留めてやんよぉ! と言わんばかりに、ハウリア達はまるで一つの生き物のように動き出した。

 

「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか! なぁ、ハウリアぁ!」

 

 四方八方からヒット&アウェイを基本とした絶技と言っても過言ではないレベルの連携攻撃が殺到する。その斬撃を独特の剣術で弾きながら、ガハルドは楽しげに叫んだ。どうやら、とっくにハウリア族とばれていたようだ。

 

 ハウリア達は、ガハルドの雄叫びを聞いても無言だ。ただ、ひたすら殺意を滾らせていく。

 

「あぁ? ビビって声も出せねぇのか!?」

 

 言葉からして、やはり、魔法のおかげで聴力だけは少し回復しているらしい。そのガハルドの叫びに、一際強烈な殺気を振りまくハウリア――カムが小太刀の二刀を振るいながら、その溢れ出る殺意とは裏腹に無機質な声をポツリと返した。

 

「戦場に言葉は無粋。切り抜けてみろ」

「っ! はっ、上等ぉ!」

 

 暗闇に火花が舞い散り、更に激しさを増す剣戟は嵐の如く。

 

 しかし、双方の体に刃は届かない。数十秒か、数分か……会場で意識はあるものの口も手足も切り裂かれて苦悶に表情を歪める者達は、なぜ外から誰も駆けつけないのかと苛立ちながらも自分達の王の勝利を祈る。

 

 同時に、剣戟の火花により時折浮かび上がる影で襲撃者が兎人族であると察し、有り得ない事態に、その未知に、恐怖に慄く体を必死に押さえ込んでいた。

 

 と、その時、彼等の期待を裏切るように事態が動いた。

 

「っ! なんだっ? 体が……」

 

 ガハルドが突如ふらつき始め、急速にその動きを鈍らせたのである。「待ってましたぁ!」と言わんばかりに、四方八方からハウリア達が飛びかかる。

 

 何とかそれを弾き返すガハルドだったが、最初からガハルドの異変は想定済みだったようで、絶妙なタイミングで放たれた矢がガハルドのふくらはぎを深々と貫いた。

 

「ぐぁ!」

 

 ガクンと膝を折るガハルドにカムが小太刀を振るう。辛うじて剣で受け止めるもののもう片方の小太刀で腕の腱を切られ、ガハルドは遂に剣を取り落とした。

 

 ガハルドは、瞬時に魔法を発動しようとするも、刹那のタイミングで交差するようにすれ違った二人のハウリア族が、戦闘中に確かめていた位置に小太刀を振るい、隠し持っていた魔法陣やアーティファクトを破壊または弾き飛ばす。同時に、残りの腕と足の腱も切断した。

 

「ッ――」

 

 迸る激痛に、しかし、悲鳴は上げないガハルドだったが、その体は意志に反してゆっくりと傾き、ドシャと音を響かせてうつ伏せに倒れてしまった。

 

 静まり返るパーティー会場。誰も言葉を発しない。それは、物理的に口を閉じさせられているからというのもあるが、きっと、たとえ口が利けたとしても、言葉を発する者はいなかっただろう。

 

 ヘルシャー帝国皇帝の敗北。

 

 暗闇に視界を閉ざされていようが、理解できてしまう。その事実は、人から言葉を、あるいは思考自体を奪うには十分過ぎる衝撃だった。

 

 ハウリア族の一人が、倒れ伏すガハルドにスっと近寄る。そして、視力と一応聴力を回復させる薬をガハルドに施した。これからの交渉に必要だからだ。

 

「ふん、魔物用の麻痺毒を散布してここまで保つとはな」

「くそがっ、最初からそれが狙いだったか……」

 

 衣服に仕込まれた魔法陣やアーティファクトも全て取り除かれ死に体となったガハルド。視力と聴力が回復してきたところでカムから体の不調の原因を聞かされて悪態をつく。

 

 そんなガハルドに、突如、頭上から光が降り注いだ。ハウリア達の装備の一つでフラッシュライトのようなものだ。それがまるでスポットライトのようにガハルドを照らしているのである。

 

『どどどどど、どういうことですか!? ここここ、これは!? にゃにゃにゃ、にゃぐもさん! いいい、一体ぃ!!』

『いいから、ちょっと落ち着け姫さん。今、クライマックスなんだから』

 

 手足の腱を切り裂かれ、魔法陣の破壊の為にあちこち衣服を切り裂かれて地に伏せるガハルドが光に照らされて現れたのを見て、ハジメに羽交い締めにされて口元を塞がれているリリアーナが動揺もあらわにハジメを問い詰める。

 

 襲撃の際、皇太子バイアスの傍らにいたリリアーナだったが、ハジメが瞬時に回収して元の位置に戻って来ていたのだ。ハウリア族の作戦遂行中、ハジメ達は皆、邪魔にならないように会場の端っこに集まっていた。

 

 幾人もの帝国貴族達が死んだことを感じ取っているようで光輝が盛大に顔をしかめている。鈴や雫、龍太郎も難しい表情で黙り込んでいた。これが、亜人の境遇を改善する最大のチャンスであり、文字通りハウリア達の運命を左右する一戦であることを理解しているためじっとしているが、やはり目の前で繰り広げられる惨劇をあっさり割り切ることは出来ないのだろう。

 

 もっとも、たとえ割り切れなくとも静観する以外に道はない。もし感情に任せて、「これ以上はやり過ぎだ!」等と言いながらカム達の邪魔をしようものなら、その瞬間、背後からレールガンに襲われることになるだろう。

 

 動揺のまま大声を出しそうなリリアーナを羽交い締めにしながらも、きっちり光輝を視界と意識に収めているハジメ。いざとなれば何をする気か察している雫は、ある意味、ハウリア族の繰り広げた殺戮劇よりも光輝の動向とハジメの視線に冷や汗を流していた。

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

「ふん、要求があるんだろ? 言ってみろ、聞いてやる」

「……減点だ。ガハルド。立場を弁えろ」

 

 姿は見えず、パーティー会場全体に木霊するように響き渡る男の声。正体はカムだ。

 

 這い蹲るガハルドに声をかけたカムだったが、ガハルドの横柄な態度に、僅かな間の後、まるで機械のような声音で忠告を発した。

 

 そして、その忠告は言葉だけではなかった。

 

 突如、ガハルドから少し離れた場所にスポットライトが当たる。そこには、ガハルドと同じく手足の腱を切られ、詠唱封じのために口元も裂かれた男の姿があった。その男にスポットライトの外から腕だけが伸びてきて髪を掴んで膝立ちにさせたかと思うと、次の瞬間には、男の首が嘘のようにあっさりと斬り飛ばされた。

 

「てめぇ!」

「減点」

 

 思わず怒声を上げるガハルド。他の場所からも生き残り達が見ていたのだろう。悲鳴や息を呑む音が聞こえる。しかし、そんなガハルドの態度に返ってきたのは機械じみた淡々とした声。

 

 そして、再び別の場所にスポットライトが辺り、同じように男の首が刈り取られた。

 

「ベスタぁ! このっ、調子にのっ――」

「減点」

 

 側近だったのか、たったいま首を刈り取られた男の名前を叫び、悪態を吐くガハルドだったが、それに対する返しは、やはり淡々とした声音と刈り取られる男の首だった。

 

「……」

 

 ギリギリと歯ぎしりしながらも押し黙り、それだけで人を殺せそうな眼光で前方の闇を睨むガハルド。そんなガハルドに、やはりカムは淡々と話しかける。

 

「そうだ、自分が地を舐めている意味を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。今、この会場で生き残っている者達の命は、お前の言動一つにかかっている」

 

 その言葉と同時に、いつの間にかスポットライトの外から伸びてきた手が素早くガハルドの首にネックレスをかけた。細めの鎖と先端に紅い宝石がついたものだ。

 

「それは〝誓約の首輪〟。ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。誓いを違えても、当然、死ぬ」

 

 言外に、帝室の人間は確保しており、同じアーティファクトが掛けられていると伝えるカム。ガハルドもそれを察したようで苦虫を万匹くらい噛み潰したような表情になる。

 

 カムがガハルドの首にかけた〝誓約の首輪〟と呼ばれるネックレス型のアーティファクトは、魂魄魔法を生成魔法によって付与した宝石と鉱石で作られたもので、カムの言葉通り、口にした誓約を魂魄レベルで遵守させる効果を持つ。

 

 具体的には、発動状態で口にした誓約が直接魂魄に刻まれ、誓約を反故にしたり〝誓約の首輪〟を外したりすれば魂魄自体が消滅することになる。また、連なる魂を持つ者、すなわちガハルドの一族に対しても効果があり、同じく〝誓約の首輪〟を着けなければ死ぬ事になる。要するに、皇帝一族全員に、末代まで誓約を守らせるというアーティファクトなのだ。(姻族に対しては別途アーティファクトが必要)

 

「誓約……だと?」

「誓約の内容は四つだ。一つ、現奴隷の解放、二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、四つ、その法定化と法の遵守。わかったか? わかったのなら、〝ヘルシャーを代表してここに誓う〟と言え。それで発動する」

「呑まなければ?」

「今日を以て帝室は終わり、帝国が体制を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。我等ハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなる。帝国の将校達は、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるだろう」

「帝国を舐めるなよ。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解などするものか。確実に万軍を率いて樹海へ侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。わかっているはずだ。奴隷を使えば樹海の霧を抜けることは難しくない。戦闘は難しいが、それも数で押すか、樹海そのものを端から潰して行けば問題ない。今まで、フェアベルゲンを落とさなかったのは……」

「畑を潰しては収穫が出来なくなるから……か?」

「わかってるじゃねぇか。今なら、まだ間に合う。たとえ、奴の力を借りたのだとしても、この短時間で帝城を落とした手際、そしてさっきの戦闘……やはり貴様等を失うのは惜しい。奴隷が不満なら俺直属の一部隊として優遇してやるぞ?」

「論外。貴様等が今まで亜人にしてきた所業を思えば信じるに値しない。それこそ〝誓約〟してもらわねばな」

「だったら、戦争だな。俺は絶対、誓約など口にしない」

 

 どうだ? と言わんばかりに口元を歪めるガハルドに、カムは、どこまでも機械的に接する。

 

「そうか。……減点だ、ガハルド」

 

 再度、その言葉が発せられ、降り注いだスポットライトに照らし出されたのは……

 

「離せェ! 俺を誰だと思ってやがる! この薄汚い獣風情がァ! 皆殺しだァ! お前ら全員殺してやる! 一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ! 女は全員、ぶっ壊れるまでぇぐぇ――」

 

 皇太子バイアスだった。

 

 皇太子の喚き声に混じって息を呑む音がそこかしこから聞こえる。

「やれ、カービィ。」

「コピー能力ヒーローソード!ソードビーム!!」

 直後、何の躊躇いもなく銀線が翻り、ヘルシャー帝国皇太子の首はあっさり宙を飛んだ。




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冗談のように、カービィにあっさり切り離され宙を飛んだ次期皇帝バイアスの首。

 

「……」

「あれが次期皇帝。お前の後釜か……見るに堪えん、聞くに堪えん、全く酷いものだ」

「……言ったはずだ。皆殺しにされても、誓約などしねぇ。怒り狂った帝国に押し潰されろ」

「息子が死んでもその態度か。まぁ、元より、貴様に子への愛情などないのだろうな。何せ、皇帝の座すら実力で決め、その為なら身内同士の殺し合いを推奨するくらいだ」

 

 カムの言う通り、帝国では皇帝の座をかけた身内での決闘が認められている。その決闘においてならたとえ相手を殺しても罪には問われない。

 

 ガハルドには正妃の他にも側室が大勢おり、バイアスも正妃の息子というわけではなく側室の子ではあるが、決闘により実力を示したために皇太子となったのである。まさに、実力至上主義、強い者に従え! というわけである。

 

 そのせいか、ガハルドの表情に変化はない。元より、強いか弱いかが基準であり、息子娘に対して人並みの愛情は持っていないという噂があったりするのだが……特に感情を押し殺しているようには見えないので、本当なのかもしれない。むしろ、先程の側近の時の方が怒りをあらわにしたくらいだ。

 

 カムの言葉に鼻を鳴らすガハルド。

 

「わかってんなら無駄なことは止めるんだな」

「そう焦るな。どうしても誓約はしないか? これからも亜人を苦しめ続けるか? 我等ハウリア族を追い続けるか?」

「くどい」

「そうか……“デルタワン、こちらアルファワン、やれ”」

 

――アルファワン、こちらデルタワン。了解

 

 突然、ガハルドにとって意味のわからないことを言い出したカム。訝しそうな表情になるガハルドだったが、次の瞬間、腹の底に響くような大爆発の轟音が響き渡り、顔色を変える。

 

「っ。なんだ、今のは!」

「なに、大したことではない。奴隷の監視用兵舎を爆破しただけだ」

「爆破だと? まさか……」

「ふむ、中には何人いたか……取り敢えず数百単位の兵士が死んだ。ガハルド、お前のせいでな」

「貴様のやったことだろうが!」

「いいや、お前が殺ったのだ、ガハルド。お前の決断が兵士の命を奪った。そして……“デルタワン、こちらアルファワン、やれ”」

 

 再び、ガハルドのわからない言葉を呟くカムに、ガハルドは、咄嗟に制止の声をかける。この場にいて、遠隔地を爆破できるなど冗談にしてはタチが悪かった。

 

「おい! ハウリアっ」

 

 しかし、ガハルドの言葉も虚しく、二度目の轟音。帝城内ではない。帝都の何処かで大爆発が起きたのだ。

 

 感情を押し殺した声音でガハルドが尋ねる。

 

「……どこを爆破した?」

「治療院だ」

「なっ、てめぇ!」

「安心しろ。爆破したのは軍の治療院だ。死んだのは兵士と軍医達だけ……もっとも、一般の治療院、宿、娼館、住宅街、先の魔人族襲撃で住宅を失った者達の仮設住宅区にも仕掛けはしてあるが、リクエストはあるか?」

「一般人に手を出してんじゃねぇぞ! 堕ちるところまで堕ちたかハウリア!」

「……貴様等は、亜人というだけで迫害してきただろうに。立場が変わればその言い様か……“デルタ、やれ”」

「まてっ!」

 

 亜人族を帝国全体で迫害しておいて、今更関係のない一般人はないだろう? と若干、呆れ気味の声を出すカム。そして、容赦なく命令を下す。

 

 三度起きた爆音に、ガハルドは今度こそ、帝国の民が建物ごと爆破されたと思い込んで歯ぎしりをした。もっとも実際には、爆破されたのは帝城に続く跳ね橋だったりする。帝都で爆破事件が起きれば帝城に報告が来るのは必定なので、唯一の入城ルートを破壊しておいたのである。

 

 更に言えば、カムの言葉は半ばハッタリで、軍と関係のない場所に爆弾を仕掛けたりはしていない。この爆弾は、遠隔爆破しているわけではなく、帝都に潜入しているハウリア族の部隊が手動で爆破しなければならないので、そんなに多くの場所には元より設置できなかったのだ。

 

「貴様が誓約しないというのなら、仕方あるまい。帝都に仕掛けた全ての爆弾いや、カービィによるとダイナマイトだったかな?を発動させ、貴様等帝室とこの場の重鎮達への手向けとしてやろう。数千人規模の民が死出の旅に付き合うのだ。悪くない最後だろう?」

 

 言っていることが完全にテロリストである。一体誰に仕込まれたのか……会場の隅で一人の少年に視線が集まったが、本人はどこ吹く風である。

 

 容赦ない要求に、即断できず沈黙するガハルド。その頭の中は目まぐるしく状況の打開方法を探っているのだろうが、妙案は一向に出てこない。苦みばしった表情と流れる冷や汗が、追い詰められていることを如実に物語っていた。

 

 そして、そんな状態でもカムは全く容赦しない。返答が遅いと言わんばかりに命令を下す。

 

「“デルタへ、こちらアルファワン……や”」

「まてっ!」

 

 ガハルドが慌てて制止の声をかける。そして、苛立ちと悔しさを発散するように頭を数度地面に打ち付けると、吹っ切ったように顔を上げた

 

「かぁーー、ちくしょうが! わーたよっ! 俺の負けだ! 要求を呑む! だから、これ以上、無差別に爆破すんのは止めろ!」

「それは重畳。では誓約の言葉を」

 

 要求が通ったというのに、やはり淡々と返すカム。ガハルドは、もはや苦笑い気味だ。そして、肩の力を抜くと、会場にいる生き残り達に向かって語りかけた。

 

「はぁ、くそ、お前等、すまんな。今回ばかりはしてやられた。……帝国は強さこそが至上。こいつら兎人族ハウリアは、それを“帝城を落とす”ことで示した。民の命も握られている。故に、“ヘルシャーを代表してここに誓う! 全ての亜人奴隷を解放する! ハルツィナ樹海には一切干渉しない! 今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する! これを破った者には帝国が厳罰に処す! その旨を帝国の新たな法として制定する!”文句がある奴は、俺の所に来い! 俺に勝てば、あとは好きにしろ!」

 

 亜人を今まで通り奴隷扱いしたければ、ヘルシャーの血を絶やせ! 受けて立つ! という宣言だ。本当に、実力至上主義を体現した男である。もちろん、この判断には、要求を呑んでも亜人と関わりがなくなるだけで帝国側に害はないという判断も含まれているのだろうが、やはり、直接の戦闘で負かされたというのが大きいようだ。

 

「ふむ、正しく発動したようだ」

 

 その言葉と共に、皇帝の一族達にスポットライトが降り注いだ。本来なら会場にいないはずのまだ幼い皇太孫もおり、一様に首から紅い石のついた首飾りをさげている。

 

「ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことだ」

「わかっている」

「明日には誓約の内容を公表し、少なくとも帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ」

「明日中だと? 一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って……」

「やれ」

「くそったれ! やりゃあいいんだろう、やりゃあ!」

「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。ガハルド。貴様はフェアベルゲンまで同行しろ。そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱しろ」

「一人でか? 普通に殺されるんじゃねぇのか?」

「我等が無事に送り返す。貴様が死んでは色々と面倒だろう?」

「はぁ~、わかったよ。お前等が脱獄したときから何となく嫌な予感はしてたんだ。それが、ここまでいいようにやられるとはな。…………なぁ、俺に、あるいは帝国に、何か恨みでもあったのかよ、南雲ハジメ」

 

 ガハルドが闇を見通すようにハジメのいる場所を睨む。

 

 しかし、ハジメからの返事はなかった。リリアーナの首根っこを猫のように掴んだまま、壁にもたれて欠伸などしていたりする。今は、ハウリア族が主役を張る舞台の開幕中だ。なので、“自分は唯の観客です”というスタンスを貫いているらしい。

 

 光がないため、その姿はガハルドに見えなかったが、少なくともハジメに答える気がないということは理解したようだ。ガハルドは盛大に舌打ちする。

 

「ガハルド、警告しておこう。確かに我等は、我等を変えてくれた恩人から助力を得た。しかし、その力は既に我等専用として掌握している。やろうと思えば、いつでも帝城内の情報を探れるし侵入もできる。寝首を掻くことなど容易い。法の網を掻い潜ろうものなら、御仁の力なくとも我等の刃が貴様等の首を刈ると思え」

「専用かよ。羨ましいこって。魔力のない亜人にどうやって大層なアーティファクトを使わせてんだか……」

 

 ガハルドが苦虫を噛み潰したような表情をするのも無理はない。なぜなら、亜人と他種族に格差をもたらしているのが戦闘における魔法行使の可能不可能である以上、その前提を崩しかねない亜人によるアーティファクトの使用という事態は由々しきことなのだ。

 

 しかし、だからといって止めさせる事など出来るはずもなく、せいぜい悪態を吐くことしか出来ない。「全く、何てことしてくれたんだ!」と、ガハルドはハジメに怒鳴りたい気分だった。

 

 万軍すら焼き払い、空を飛んで二ヶ月の距離を一日半で踏破するようなアーティファクトを創り出せる者から、専用として譲り受けたアーティファクトで武装しているなら、ハウリア族が何処にでも侵入して暗殺できるというのも凄まじく信憑性がある話だ。

 

 ちなみに、今回使われたのは“蜘蛛型偵察用ゴーレム”と“改良版念話石”“ゲートキー”である。

 

 “蜘蛛型偵察用ゴーレム”は、リリアーナを助けたあの蜘蛛のことだ。全長五センチメートル程で、遠隔操作により“錬成”や“糸”を利用して何処にでも入り込め、“遠透石”によって侵入場所の映像を“水晶ディスプレイ”に送ったり、魔眼石同様に魔法トラップを感知したりすることも出来る。また、その足には麻痺毒や睡眠毒、息子さん再起不能毒等が仕込まれている。

 

 ハジメは、帝城に入った後、この蜘蛛型ゴーレムを無数に撒き散らして各所に設置しまくったのである。帝城に入ってからのハジメの反応がどこか茫洋としたものだったのは、ゴーレムの操作に意識の大半を割いていたからだ。リリアーナを助けたのも設置ポイントに行く途中で見かけたという、偶然だったりする。

 

 そして、無数に設置された蜘蛛型監視カメラの映像は司令部に設置されたいくつもの水晶ディスプレイに映し出されて、ハウリア族のオペレーター達が各部隊に“改良版念話石”で通信し、的確で効率的な制圧を可能にしたのである。

 

 この“改良版念話石”こそ、ガハルドが歯噛みする亜人でも使えるアーティファクト一号だ。

 

 原理はこうだ。生成魔法により“高速魔力回復”が付与された魔力を溜め込む性質の鉱石を仕込んで自動回復機能付き魔力タンクを組み込み、“魔力放射”の付与によって常に貯めた魔力を放出させる。

 

 そして、発動用魔法陣を敢えて一部欠けた状態にし、スライド式のスイッチを動かすことで欠けた魔法陣が完全となって正しく魔法が発動する、というものだ。更に、ステータスプレートの血に反応する機能を盛り込んで、使用者の血にしか反応しないように出来ている。

 

 これにより、ハウリア達は、帝都外に設置した司令部や各部隊と綿密な連携を取ることができるようになったのである。

 

 なお、ゴーレムの操作までは流石に出来ないので、ハジメがいなければ蜘蛛型監視カメラの設置は自分達でやらなければならない。そのため、帝城侵入に際して、蜘蛛型ゴーレムに代わるハウリア族用の新たな隠しカメラも設置済みである。ゴーレムのような複雑さがいらないので、極めて目立たない仕様になっており、発見は困難だろう。

 

 また、同様の原理で鍵型アーティファクト“ゲートキー”も渡されており、鍵穴型アーティファクト“ゲートホール”もハジメが至るところに隠蔽しながら設置しておいたので、ハウリアはいつでもゲートを開いて帝城内に侵入できる。

 

 本当に、帝国側からしたら「何ということをしてくれたんだ!」という状態である。

 

 もっとも、魔法トラップに関しては、魔力の直接操作が出来なければ解除は容易ではないので、実際には、今回ほどスムーズに侵入・制圧は出来ないだろう。

 

 ハジメ達が、わざわざ光輝を利用して帝城に入ったのは、蜘蛛型偵察用ゴーレムの設置の他に、ゴーレムで発見した魔法トラップの解除という目的があったのだ。ハジメやシアは格別、気配を殺しやすくなる“気断石”を利用したユエやティオ、香織の活躍もあって、パーティー前には主だった魔法トラップは気づかれることなく解除済みだった。

 

 一応、魔法トラップを解除するためのアーティファクトも考案してあるのだが、今回は時間がなく、フェアグラス(ゴーグル型で魔法トラップを探査できる)をハウリアに配備した。なので、解除は無理でも、回避なら問題なかった。

 

「案ずるな、ガハルド。ハウリア族以外の亜人族にアーティファクトが渡ることはない。お前が誓約を宣誓したところで、調子に乗って帝国を攻めることなど有り得んよ。もしそうなったら、我等ハウリア族の刃はフェアベルゲンの愚か者に振るわれるだろう」

 

 その言葉に、ガハルドは、ハウリア族がフェアベルゲンとも独立して、ただひたすら亜人族(実際には兎人族だが)の不遇改善と戦争の回避を望んでいると察する。

 

「そうかい。よーくわかったよ。だから、いい加減解放しやがれ。明日中なんて無茶な要求してくれたんだ。直ぐにでも動かなきゃ間に合わねぇだろうが」

「……いいだろう。我等ハウリア族はいつでも貴様等を見ている。そのことをゆめゆめ忘れるな」

 

 その言葉を最後に、スポットライトが消え、会場を静寂が包み込んだ。気配感知がハウリアの撤退を知らせると同時に、ハジメに通信が入る。

 

――ボス。こちらアルファワン。全隊撤退します。数々のご助力、感謝のしようもありません。それとカービィ殿は?

――カービィはこっちに来ているら。これはシアのためだ。気にするな。それに、まだ全て終わったわけじゃない。気を抜くなよ。むしろ、これから先こそが本当の戦いだ。“皇帝一族を排しても”そんな阿呆がいないとも限らないからな

――心得てますよ、ボス。元より、戦い続ける覚悟は出来ています。この道が、新生ハウリア族が歩むと決めた道ですから

 

 覚悟と覇気に満ちたカムの言葉に、ハジメの口元が吊り上がる。そして、混じりけのない純粋な称賛を贈った。

 

――そうか。覚悟があるなら是非もない。全ハウリア族へ。見事だったぞ!

 

 自分達を導いた敬愛するボスの賛辞に、全ハウリア族のウサミミがピンッ! と毛を逆立てながら真っ直ぐ伸びた。噛み締めるような間が一拍。

 

 次の瞬間には、念話石を通して、盛大な雄叫びが上がった。

 

――オォオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 それは勝利の雄叫び。数百年の間、苦汁を舐め続けた敗北者の中の敗北者が、初めて巨大な敵に一矢報いた歓喜の叫びだ。

 

 正直なところ、この先、樹海への不可侵・不干渉や亜人の奴隷化・迫害禁止がどこまで守られるかは微妙である。ハジメの言った通り、皇帝一族を排してでも亜人の奴隷化を望む者達は出てくるだろうし、ただでさえ抽象的な誓約の穴を見つけ出して帝国が亜人族を再び虐げる可能性は大いにある。

 

 だからこそ、ハウリア族の戦いはここからだというのが適切だ。

 

 少なくとも、誓約を課すことが出来たことで、今すぐ、帝国が樹海に攻め入ったり、ハウリア族を追ったりすることはない。この稼いだ時間で、ハウリア族は数と力を蓄えて、より高レベルの戦闘(暗殺)技能やゲリラ戦法を身に付ける必要がある。それこそ、帝国が誓約を克服して万全の態勢になっても、容易に手が出せない程に。

 

 そう、今回の作戦の要は、帝国のトップに首輪を着けて、ハウリア族が帝国に真の意味で対抗できる程に力を蓄える時間を稼ぐことが目的だったのだ。よって、確かに、今回の戦いは亜人族最弱の種族である兎人族ハウリアの紛れもない勝利なのである。

 

「くそっ、アイツ等、放置して行きやがったな。……誰か、光を……あぁ、そうだ誰もいねぇ……って、ゴラァ! 南雲ハジメ! てめぇ、いつまで知らんふりしてやがる! どうせ、無傷なんだろうが! この状況、何とかしやがれ!」

 

 ハジメが通信越しに聞こえてくるハウリア達の歓声に目を細め、同じく作戦の成功に涙ぐみながら飛びついてきたシアを抱き締めてモフモフしていると、暗闇の向こう(ハジメには夜目があるので、転がり回っているガハルドの姿が見えている)から、ガハルドの怒声が聞こえ始めた。

 

 ちなみに、シアが抱きついてきた瞬間に、掴まれていたリリアーナはポイッと脇に捨てられている。突然の襲撃と、婚約者の死亡という事態に呆然としていたリリアーナだったが、ハジメのあんまりな扱いに涙目で「おうじょ! なのにぃ……」と、毎度お馴染みの嘆きを呟きながら、恋人に捨てられた女の如く崩れ落ちた姿勢でめそめそしていた。

 

「へいへいっと……」

 

 ハジメは片手でシアを抱き締めながら、“宝物庫”から発光する鉱石を取り出し天井に飛ばした。光石は、天井付近で浮遊すると一気に夜闇を払い、昼間と変わらない明るさをパーティー会場にもたらした。

 

 全体が明らかになったパーティー会場は、まさに“凄惨”という言葉がぴったりな有様だった。至る所におびただしい量の血が飛び散り、無数の生首が転がっている。胴と頭がお別れしていない者でも無事な者は一人もおらず、全員が手足の腱を切られて痛みに呻きながら床に這いつくばっていた。

 

 貴族の令嬢方は、恐怖と痛みで失禁しているものも少なくない。明るくなって会場の惨状を見た瞬間、ショックで意識を失ったのは、ある意味僥倖だろう。

 

 辛うじて意識を保っていた気丈な一部の令嬢達も、視界の端に映ったシアのウサミミを見た瞬間、声にならない悲鳴を上げて白目を剥きながら気絶した。男でも少なくない者が失禁しながらシアに怯えた目を向けている。

 

 どうやら、ハウリア族の恐怖はしっかりと刻み込まれたようだ。

 

 そんな中、完全に無傷なハジメ達と勇者一行は、明らかに浮いていた。最後まで戦闘を行っていた者達は射殺しそうな程に憎しみの籠った眼で睨んできている。完全にグルだと思われているようだ。

 

「おい、こら、南雲ハジメ。いい加減、いちゃついてないで手を貸せよ。この状況で女、しかも兎人族の女を愛でるって、どんだけ図太い神経してんだよ」

「いや、ほら、シアはか弱いウサギだから、さっきの襲撃で怯えちまってんだよ。可哀想になぁ。ほんと恐ろしい奴等だった。俺も、身を守るので精一杯だったよ」

 

 そんな戯けた事を言いながら、わざとらしくブルブルと震えてみせるハジメ。

 

 ガハルドの額に青筋が浮かぶ。詠唱封じに口を裂かれたため話せない者達も、倒れたまま「視線だけで殺してやる!」と言わんばかりの凶悪な眼差しを向けている。光輝達は、神経が太すぎると戦慄にも似た眼差しを向けていた。

 

「いけしゃあしゃあと……とにかく、無傷であることに変わりねぇだろ。お前等に帝国に対する害意がないってんなら、治療するなり、人を呼ぶなりしてくれてもいいんじゃねぇか?」

「だがなぁ、あんたの部下達が、治療した瞬間に襲いかかってきそうな殺気を放っているんだが……その場合、そのまま殺っちゃっていいのか?」

「いいわけ無いだろ! おい、お前ら! そこの化け物には絶対手を出すなよ! たとえ、クソ生意気で、確実にハウリア族とグルで、いい女ばっか侍らしてるいけすかねぇクソガキでも無駄死には許さねぇぞ!」

 

 生き残ったガハルドの部下達は自分達の主からの生き残れという命令に悔しそうに目元を歪める。ハジメは、イラっとして目元を歪める。

 

「ほれ、お前のことを殺したくても、実際に化け物の顎門に飛び込むような馬鹿は、ここにはいねぇ。俺がさせねぇ。そろそろ出血がヤバイ奴もいるんだ。頼むぜ、南雲ハジメ」

「まぁ、向かってこないなら別にいいけどな。……カービィ、香織、頼む」

「任せて!コピー能力リバイブ!」

「うんっ、任せて……“聖典”!」

 

 詠唱なし。魔法陣なし。魔法名だけで即時発動した回復系最上級魔法の光り輝く波動が、パーティー会場全体に波紋する。そして、傷ついた者達を瞬く間に治癒していった。

 

「回復まで化け物クラスかよ。……やってられねぇな」

 

 ガハルドが香織の回復魔法の尋常でない技量に、どこか疲れた表情でぼやいた。みるみるうちに癒えていく体に、ガハルドの部下達も唖然としている。最上級魔法の即時発動など、一般的な認識では不可能事なのだから当然だろう。

 

 回復しても意識を閉ざしたままの令嬢方や腰を抜かしたままの貴族達を尻目に、戦闘可能な者は即時にガハルドの周囲に固まり、ハジメに向けて警戒心丸出しの険しい表情を向けた。

 

「だから、よせっての。殺気なんか叩きつけて反撃くらったらマジで全滅すんぞ」

「しかし、陛下! アイツ等は明らかに手引きを!」

「そうです! 皇太子殿下まで……放ってはおけません!」

「このままでは帝国の威信は地に落ちますぞ!」

 

 面倒そうに嗜めるガハルドに部下達が次々と言い募る。

 

 香織の規格外の回復魔法でその実力の一端を感じ取っていても、ハジメ自身の力を実際に目で見たわけではない。しかも、彼等の何人かは、以前、王国でガハルドと光輝の模擬戦を見ており、基準対象が微妙なので“あるいは”と考えてしまうのだ。

 

 その上で、ハウリアがもたらした被害は甚大だ。何せ、現皇帝とその一族に“呪い”をかけた上に、素行に問題は大ありだったとは言え、次期皇帝陛下の首を刎ね飛ばしたのだから。彼等も容易には引けない。

 

 息巻く部下達に、ガハルドが嘆息しつつ覇気を叩きつける。思わず呻き声を上げてふらつく彼等に、ガハルドは彼等以外の会場にいる者達にも向けて威厳に満ちた声を発した。

 

「ガタガタ騒ぐな! 言ったはずだぞ、お前等を無駄死にさせるつもりはないと。いいか、あの白髪眼帯の野郎は正真正銘の化け物だ。それとピンクの球体もだ。ただ一人で万軍を歯牙にもかけず滅ぼせる、そういう手合いだ。……強ぇんだよ、その影すら踏めない程な。奴に従えとは言わねぇが、力こそ至上と掲げる帝国人なら実力差に駄々を捏ねるような無様は晒すな!」

 

 ビリビリと震えるような怒声に、部下達も会場の貴族達もその身を強ばらせる。

 

「それはハウリア族に対しても同じだ。最弱のはずの奴等が力をつけて、帝国の本丸に挑みやがったんだ。いいようにしてやられたのは、それだけ俺達が弱く間抜けだったってだけの話だろう? このままで済ますつもりはねぇし、奴等もそうは思っていないだろうが……まずは認めろ。俺達は敗けたんだ。敗者は勝者に従う。それが帝国のルールだ! それでもまだ、文句があるなら俺に言え! 力で俺を屈服させ、従わせてみろ! 奴等がそうしたようにな!」

 

 ガハルドの怒声がパーティー会場に木霊する。腰を抜かしていた者達は視線すら向けられず、ガハルドの周囲の部下達は僅かに逡巡した後、ガハルドの前で頭を垂れた。自分達が早々にやられた中で、最後まで戦い抜いたのはガハルドなのだ。そのガハルドの言葉は、主であるという事以上に、重かった。

 

「うん、これにて一件落着だな」

 

 ハジメの満足気な言葉に、その場の全員が一斉にハジメを睨んだ。その眼差しは、言葉にする以上に雄弁に物語っていた。すなわち「お前が言うなっ! この疫病神!」だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 ハジメ達に対する敵対心を胸に秘めつつも、無駄死に確定の現実を前に手を出せず歯噛みする帝国の生き残り達が、ガハルドによって纏められ落ち着きを取り戻して少し。

 

 破壊された跳ね橋に手古摺ったものの何とか沈黙する帝城に乗り込んできた帝国兵達がパーティー会場に到着して再び色々騒動になりつつも、迅速に事態の収拾が図られた。

 

 生き残りの重鎮達が集められ、夜中にもかかわらず急遽開かれた緊急会議で誓約を果たすための段取りが決められた。途中、会場にいなかった重鎮の一人が誓約内容を聞いて何を馬鹿なと嗤ったのだが……

 

 その瞬間、会議室の明かりが数瞬消えて、再び明かりが戻った時には反対した男の部下の生首がテーブルに乗っているというホラーが発生。男は青褪めたままただ頷くしかなかった。他の重鎮達もパーティーの悪夢を思い出しガクブルと震える。その後の話は実に迅速に纏まったようだ。

 

 各所から被害報告を纏めつつ、亜人に対する法律を急ピッチで作成していく(草案はハウリア族の方で用意しておいた)。この時点で、ガハルドは、実はハウリア族が一般人には手を出していないことを知った。

 

 しかし、誰もいない公共施設が爆破解体されている事実から、いつでも爆破できるという無言のメッセージを受け取って、他にもどれだけの施設に爆発物が仕掛けられているのかと頭を抱えることになった。

 

 そして、夜中の内に、爆発騒ぎで叩き起こされていた兵士達によって、個人所有の亜人奴隷達が、先の魔物騒ぎで更地となった場所に急遽立てられた無数の仮設テントへと案内されることになった。復興に駆り出されていた亜人奴隷達が収容されている建物のすぐ隣だ。

 

 当然、猛反発が起きるに決まっている。夜中に突然叩き起されたかと思ったら、所有している奴隷を強制的に没収されるのだ。特に、奴隷商会においては、商会が潰れるのと同義である。金銭的補償は後からなされる上に、皇帝の勅命であるとはいえ、容易には納得できないことだ。

 

 それでも、国からの命令である以上、最後は折れなければならないわけだが……あの手この手で時間を引き伸ばし、駄々を捏ねる者もそれなりにおり、そういう者は大体、翌朝に生首で見つかることになった。

 

 そして、約束の一日が過ぎた翌昼過ぎ、帝都中の亜人奴隷が一箇所に集まるという異常事態に何事かと集まる帝都民を前にして、帝国側からの発表がなされた。誓約の内容と、更に細かく定めた法の内容である。

 

 淡々と告げられる内容に、唖然とする帝都民達。それも当然だろう。今まで身近にあって当然の如く便利な道具扱いしてきたものが一気になくなるのだ。しかも、今後、手に入れることも禁止される。正直、わけがわからないといった様子だった。

 

 そのうち、当然と言えば当然だが文句を叫ぶ輩が出て、それが一気に伝播し猛反発のうねりとなった。暴動になるのではと、亜人奴隷達を民衆から守る帝国兵達が冷や汗を流し始めた時、絶妙なタイミングでなされた発表によって一気に静かになった。

 

 すなわち、

 

「亜人に対する全ての対応は、“エヒト様”からの“神託”である!」

 

 更に、困惑する帝都民の前に光り輝く翼をはためかせて銀の羽を天より降り注がせる香織と、聖剣を掲げる勇者光輝が姿を見せる。これにより、その発表はこれでもかというほど信憑性を高めた。

 

 余りに神々しい(ハジメのアーティファクトで演出が加わっている)姿に帝都民達は皆、膝をついて祈りを捧げ始めた程だ。

 

 実は、香織が顔を真っ赤にして羞恥に逃げ出したいのを必死に耐えているとか、香織の気持ち一つで、帝都民が「ありがたや~」と拝みながら手にした銀羽が全てを分解する凶悪な兵器に変貌するとか、奴隷解放と法定化について国民にどう説明すべきかと頭を抱えるガハルドに「エヒトを利用すればいいんじゃね?」と提案し、ノリノリで過剰演出を施したハジメが、こいつらマジチョロ民とほくそ笑んでいることとかを帝都民が知ったら……きっと皆仲良く卒倒することだろう。

 

 “神の使徒たる天使様の羽”を手に入れ、上機嫌の一般市民と国からの補償もあることから渋々、本当に渋々引き下がる元所有者達。彼等の目の前で、数千人の亜人奴隷達の枷が兵士達の手により次々と外されていく。

 

 亜人達は、それを呆然とした様子でただただ黙って受け入れた。何が起きているのか正直よくわかっていないといった様子がほとんどだ。理解はしていても信じられないといったところなのだろう。

 

 やがて、それなりの時間をかけて全ての亜人から奴隷の枷が外されると、勇者である光輝が持ち前のカリスマを発揮しながら帝都外へと亜人達を先導した。そこには、当然、ガハルドやハジメ達もいる。

 

 そして、帝都に外に出ても未だ呆然としている亜人達に、身体強化によって声を増幅させたシアが大声で「自由ですよぉー! お家に帰りますよぉー!」と叫ぶと、ようやく“解放”されたことを実感したようで、一斉に大地を揺るがす程の大歓声が上がった。

 

 晴れ晴れとした青空の下、帝都の外壁を背にしつつ、数千人に及ぶ亜人達が家路につく。有り得ないと思っていた現実に、涙を流し、肩を叩きあって喜びをあわらにする亜人達。

 

 彼等の中には、心身共に酷い傷を負っている者も多くいたが、再生魔法と魂魄魔法によって大抵治っている。記憶をピンポイントで消すような細かい事を数千人規模で行うことは流石にユエでも出来ないので、酷い記憶との折り合いなどは周りの家族や友人による長期的なケアが必要だろう。

 

 また、帝都以外の町にもまだまだ奴隷となっている亜人達はおり、彼等に対する治癒までハジメ達は請け負えない。彼等もまた、樹海に帰還した後、周囲の助けを借りて心身を癒していくしかない。

 

 それでも、生きて再び故郷の地を踏める、生き別れた大切な人達と再会できる……それはきっと“奇跡”と呼ぶに相応しい出来事だ。

 

 ハジメは、歓声を上げる亜人達を眺めながら、日本や家族に想いを馳せ「俺もいつか……」と内心で呟きつつ、自分に寄り添うユエの手をそっと握った。可愛く愛しい恋人は、まるで「大丈夫」とでも言うかのように、優しく、されど力強くハジメの手を握り返すのだった。

 




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登場人物紹介

本日4本目!
感想があると投稿ペースが加速します!
『奈落の底』までちょっと文字に色をつけたりしています。
よかったら見てきてください。
よかったら感想、投票お願いします!
感想やコメントは必ず返信させていただきます。
感想176件!
お気に入りが152件!
総合評価が203!!
しおりが90件!
UAが41152!
投票者数が14人になりました!
ありがとうございます!
そして70話を超えました!
これからも感想、評価、応援をぜひお願いします!



・カービィ(ポポポ)

今作の主人公。現在の天職は3つ。無限の力を持つ伝説のヒーロー、強い星の戦士、様々な呼ばれ方をする。優しい心を持つヒーロー。

根は優しいのだが光輝の対応には少し手を焼いている。

 

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カービィ(ポポポ) 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆

天職:星の戦士・ピンクの悪魔・強制ダンスの悪魔

職業:冒険者   ランク:金

筋力:35000

体力:300000

耐性:25000

敏捷:150000

魔力:300000

魔耐:25000

技能:言語理解・ホバリング・吸い込み・頑張り吸い込み・ビックバン吸い込み・コピー能力[+ビーム][+カッター][+レーザー][+ファイア][+バーニング][+アイス][+フリーズ][+スパーク][+ニードル][+ストーン][+ホイール][+トルネード][+ボール][+バックドロップ][+スロウ][+ソード][+パラソル][+ハンマー][+ユーフォー][+マイク][+ライト][+スリープ][+クラッシュ][+ボム][+ニンジャ][+ウィング][+ヨーヨー][+プラズマ][+ミラー][+ファイター][+スープレックス][+ジェット][+コピー][+コック][+ペイント][+エンジェル][+ミサイル][+スマブラ][+マジック][+ミニマム][+バルーン][+アニマル][+バブル][+メタル][+ゴースト][+リーフ][+ウィップ][+ウォーター][+スピア][+ビートル][+ベル][+サーカス][+スナイパー][+ポイズン][+ドクター][+エスパー][+クリエイト][+グラビティ][+ガン][+スペース][+リバイブ][+スピリット][+アーティスト]・コピー能力ミックス[+バーニングバーニング][+バーニングアイス][+バーニングスパーク][+バーニングストーン][+バーニングニードル][+バーニングカッター][+バーニングボム]][+アイスアイス][+アイススパーク][+アイスストーン][+アイスニードル][+アイスカッター][+アイスボム][+スパークスパーク][+スパークストーン][+スパークニードル][+スパークカッター][+スパークボム][+ストーンストーン][+ストーンニードル][+ストーンカッター][+ストーンボム][+ニードルニードル][+ニードルカッター][+ニードルボム][+カッターカッター][+カッターボム][+ボムボム]・属性ミックス[+ファイアソード][+アイスソード][+サンダーソード][+アイスボム][+サンダーボム]・スーパー能力[+ウルトラソード][+ドラゴストーム][+ミラクルビーム][+スノーボウル][+ギガントハンマー]特殊能力[+スターロッド][+虹の剣][+スターシップ][+ワープスター][+ラブラブステッキ][+マスター][+トリプルスター][+バトントワリング][+アイアン][+トップ][+カブキ][+ヒーローソード][+マジックビーム][+ヘビィハンマー][+ヒールドクター]・ロボボアーマー召喚・能力スキャン[+ビームモード][+ファイアモード][+ソードモード][+カッターモード][+ストーン][+パラソルモード][+スパークモード][+アイスモード][+ボムモード][+エスパーモード][+ホイールモード][+マイクモード]

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・メタナイト

切れ者。ギャラクティックナイトの力を手にした銀河最強の剣士。

仮面を常につけていてその素顔を見たものはほとんどない。謎に包まれた剣士。部下思い。

 

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メタナイト 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:星の戦士・銀河騎士団・星の戦士団・銀河最強の戦士・孤高の騎士・異界の霜刃・時巡る戦士・黄泉返る極蝶・災来する黒き極蝶

筋力:500000

体力:500000

耐性:0

敏捷:500000

魔力:500000

魔耐:0

技能:言語理解・剣技[+星の戦士流剣技][+銀河騎士団流剣技][+孤高流剣技][+鏡流剣技][+銀河最強流剣技][+極蝶流剣技]

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・デデデ大王

自称プププランドの偉大なる支配者。カービィをライバル視している。それと、熱い一面もあるツンデレ。

 

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デデデ大王 年齢不明 男 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:プププランドの偉大なる支配者・大王・宿敵の暴君・異界の暗君

筋力:700000  [+マスクドデデデ500000]

体力:100000  [+マスクドデデデ500000]

耐性:700000  [+マスクドデデデ500000]

敏捷:300000  [+マスクドデデデ500000]

魔力:0   [+マスクドデデデ500000]

魔耐:700000  [+マスクドデデデ500000]

技能:言語理解・吸い込み・ホバリング・マスク・ハンマー技[+デデデ技][+クローン技][+異界の暗君技]

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・バンダナワドルディ

唯一の一般人かと思えばステータスが高いバンダナワドルディ。

元から体力的にも多いワドルディ。SDXでは中ボス(吸い込めば一発だけど)として登場して(SDXでは)鬼ごろし火炎ハンマーを数発耐える体力がある。さらに星のカービィWii でカービィと冒険したことによって槍を使えたりパラソルを使えたりする。

 

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バンダナワドルディ 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:ワドルディ・槍使い・傘使い・サポーター

筋力:5000

体力:5000

耐性:5000

敏捷:5000

魔力:5000

魔耐:5000

技能:言語理解・槍術・傘術・サポート

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・マホロア

カービィを二度に渡って騙した虚言の魔術師(星のカービィWii と星のカービィ大迷宮の友達を救えより)。

しかし改心してカービィの助けになりたいと考えている。

 

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マホロア 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:遥か彼方からの旅人・虚言の魔術師・黒幕

筋力:50000   [+ソウル化500000]

体力:50000   [+ソウル化500000]

耐性:50000   [+ソウル化500000]

敏捷:1000000  [+ソウル化500000]

魔力:1000000  [+ソウル化500000]

魔耐:50000   [+ソウル化500000]

技能:言語理解・ソウル化・演技

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・アドレーヌ

プププランド唯一の人間。

描いた絵を実体化させる能力を持つ。

デデデ大王を『デデデの旦那』、カービィを『カーくん』と呼ぶ。

 

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アドレーヌ 年齢不明 性別女 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:絵師

筋力:5000

体力:5000

耐性:5000

敏捷:5000

魔力:5000

魔耐:5000

技能:言語理解・高速絵描き・絵実体化

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・リボン

カービィに思いを寄せているが……。

カービィにキスをしたことがある。

(この小説のカービィは)SDXはヘルパーなしでカービィは冒険していたのでカービィのファーストキスはリボンとなっている。ちなみに(この小説の)カービィが口移しするようになったのはそのあとである。

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リボン 年齢不明 性別女 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:妖精

筋力:5000   

体力:5000

耐性:5000

敏捷:1000000

魔力:1000000

魔耐:5000

技能:言語理解・クリスタル攻撃

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・マルク

みんなのトラウマとも言える(かもしれない。)

マルクが真っ二つになってブラックホールを起こすことは香織や雫のトラウマになってたりしなかったり……。

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マルク 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:ピエロ・銀河の支配者・黒幕

筋力:1000000  [+ソウル化1000000]

体力:1000000  [+ソウル化1000000]

耐性:1000000  [+ソウル化1000000]

敏捷:1000000  [+ソウル化1000000]

魔力:1000000  [+ソウル化1000000]

魔耐:1000000  [+ソウル化1000000]

技能:言語理解・ソウル化・演技

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・ドロッチェ

華麗なる盗賊団団長。汚いことは決してしない。 

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ドロッチェ 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:怪盗

筋力:100000

体力:100000

耐性:100000 

敏捷:100000

魔力:1000000

魔耐:100000

技能:言語理解・アイスレーザー

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・タランザ 

女王セクトニアに忠誠を誓っていた忠実な部下だった。

カービィに力を貸すためトータスに来た。

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タランザ 年齢不明 性別不明 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:操術師・従者

筋力:1000

体力:10000

耐性:1000

敏捷:100000

魔力:1000000

魔耐:100000

技能:言語理解・操術

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・スージー

ハルトマンの娘。

プププランドを機械化しようとしたがその腕はマホロアに買われた。 

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スージー 年齢不明 性別女 レベル:☆☆☆☆☆(MAX)

天職:機械職人

筋力:1000

体力:1000

耐性:1000

敏捷:1000

魔力:1000

魔耐:1000

技能:言語理解・演技・専用リレインバー召喚・キカイ化光線銃攻撃

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・南雲ハジメ

 原作の主人公。天職は錬成師。元は穏やかで大人しいオタク系少年だったが、無能呼ばわり⇒イジメ⇒奈落に落とされる⇒左腕喰われた!⇒ブッチきた!⇒OHANASIはドパンッから、という変心を遂げるはずだったがカービィのおかげで原作より少し丸い部分もある。

原作ではハーレムを築きつつ(本人はユエを特別視)、大迷宮に日本への帰還の手がかりを求めて攻略の旅をする筈だったがローアで帰れるのでカービィが神を倒すのを目的としている。

カービィを心から信頼している。

魔物をカービィがコピー能力コックで調理して、ステータス上昇値が高くしたため原作より高いステータスなっている

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師   職業:冒険者   ランク:金

筋力:33150

体力:55250

耐性:31970

敏捷:44650

魔力:35980

魔耐:35980

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷[+雷耐性][+出力増大]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪[+三爪][+飛爪]・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・限界突破・生成魔法・重力魔法・空間魔法・再生魔法・魂魄魔法・言語理解

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・ユエ

 ハジメのメインヒロイン。奈落の底で幽閉されているところをハジメに助けられポッとなる筈だったがカービィの介入により少しカービィにも好意を持っている。魔法の腕は世界一。ハジメに対するエロさも世界一。一応、クーデレに分類されると思う。クーデレ+妖艶+吸血姫+ロリ属性。

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ユエ 323歳 女 レベル:82

天職:神子   職業:冒険者   ランク:金

筋力:220

体力:450

耐性:100

敏捷:220

魔力:9180

魔耐:9320

技能:自動再生[+痛覚操作][+再生操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収][+身体強化]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法・空間魔法・再生魔法・魂魄魔法

====================================

 

・シア

 ハジメのヒロイン。バニーガール。元気ハツラツのお調子者。でも最近は結構しっかりしてきた。本来魔力のない亜人にもかかわらず魔力を保有し、しかも直接操れる。魔法適性はないが、身体強化に関してはバグキャラ。

カービィを枕にして寝ている時もある。

シア曰くカービィを枕にすると寝心地がいいらしい。

 残念美人+ウサギ+ですぅ+天真爛漫属性。

====================================

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:48

天職:占術師   職業:冒険者   ランク:金

筋力:100

体力:120

耐性:100

敏捷:130

魔力:3800

魔耐:4000

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来][+天啓視]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅲ][+集中強化]・重力魔法・空間魔法・再生魔法・魂魄魔法

====================================

・ティオ

 変態。カービィがいてもさけられなかった変態。ハジメによるお尻へパイルバンカーで新たな扉を開いた。本来は、思慮深く、理知的で成熟した精神を持つ…はず。ハジメのヒロイン。

 のじゃ+和装+スイカ+変態属性。

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ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:93

天職:守護者   職業:冒険者   ランク:金

筋力:880  [+竜化状態8800]

体力:1250  [+竜化状態12500]

耐性:1250  [+竜化状態12500]

敏捷:700  [+竜化状態7000]

魔力:4990

魔耐:4620

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇Ⅱ][+咆哮][+風纏] [+痛覚変換Ⅱ]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇][+雷属性]・複合魔法・再生魔法・魂魄魔法

====================================

 

・白崎香織

 ハジメのヒロイン。ハジメを寝取られた可哀想な正統派ヒロイン……だった。中学二年生の頃からハジメに淡い恋心を抱いていた。ハジメが奈落に落ちた後に自覚。再会後、ユエの存在を知っても略奪する気概で一行に加わった。現在は、神の使徒ノイントの肉体に憑依している。

 正統派+天然+スタンド+不憫属性。

====================================

白崎香織 17歳 女 レベル:10

天職:治癒師

筋力:1200

体力:1200

耐性:1200

敏捷:1200

魔力:1200

魔耐:1200

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・再生魔法・魂魄魔法・言語理解・双大剣術・分解能力・全属性適性・複合魔法

====================================

 

・天之河光輝

 勇者(笑)。(笑)さんはカービィに負けない位の善意と正義感の塊。但し、自分の正しさを疑わないので、不都合な事態に直面するとご都合解釈するという悪癖がある。香織と雫、龍太郎とは幼馴染。

カービィに同情を求めることがある。

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天之河光輝 17歳 男 レベル:83

天職:勇者

筋力:1020

体力:1020

耐性:1020

敏捷:1020

魔力:1020

魔耐:1020

技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術[+無念無想]・剛力・縮地[+爆縮地]・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破[+覇潰]・言語理解

====================================

 

・八重樫雫

ハジメのヒロインかどうかは……。香織の親友。光輝、龍太郎とは幼馴染。実家が剣術道場。ポニテが特徴の凛とした女の子。人の機微や人間関係の把握に優れており、生来の性格からトラブルを放っておけないスーパー苦労人。でも、最近甘える相手を見つけたような……。

====================================

八重樫雫 17歳 女 レベル:83

天職:剣士

筋力:650

体力:760

耐性:520

敏捷:1480

魔力:580

魔耐:580

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+無拍子]・縮地[+爆縮地][+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読[+投影]・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解

====================================

 

・坂上龍太郎

 脳筋。

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坂上龍太郎 17歳 男 レベル:83

天職:拳士

筋力:980

体力:980

耐性:790

敏捷:650

魔力:350

魔耐:350

技能:格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊]・縮地[+爆縮地]・物理耐性[+金剛]・全属性耐性・言語理解

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・谷口鈴

 ちみっこ。クラスのムードメイカー。勇者パーティーの縁の下の力持ち。心の中に小さなエロいおっさんを飼っている。

====================================

谷口鈴 17歳 女 レベル:83

天職:結界師

筋力:350

体力:450

耐性:450

敏捷:380

魔力:820

魔耐:580

技能:結界術適性[+魔力効率上昇][+発動速度上昇][+遠隔操作][+連続発動]・光属性適性[+障壁適性連動]・言語理解

====================================

 

・ミュウ

 海人族の幼女(4歳)。フューレンにて奴隷として裏オークションに出されたところをハジメに救われた。父親が生まれる前に他界しているため憧れがあり、強く優しいハジメを父と慕うようになる。ハジメに新たな誓いをさせる程、その存在は大きい。「~なの」という語尾が口癖。ユエ以外でハジメを骨抜きにする強者。メタナイトを『目田内藤さん』と呼ぶ。

 

・レミア

 ミュウの母親(24歳)。おっとり系の美人。「あらあら、うふふ」と、某ウンディーネさんばりの癒し系未亡人。本気か冗談か分からない言動をもってハジメに絡む。ユエ達の牽制もあしらえる大人の女性。

 

《地球組》

・畑山愛子 天職:作農師

 社会科のちみっこ先生(25歳)。神殿騎士を相手に逆ハー中(本人は生徒のことで頭が一杯で気が付いてない)

・中村恵里 天職:降霊術師

 仲間を裏切って魔人族側へ。オリジナル闇系魔法“縛魂”により、多数の屍傀儡兵を所持。貴重なヤンデレボクっ娘。

・永山重吾 天職:重格闘家

      勇者と並ぶ前線組のパーティーリーダー。おっさん顔。

・野村健太郎 天職:土術師

       永山パーティー。

       永山や遠藤とは親友。辻綾子に恋心がある。

・遠藤浩介 天職:暗殺者

      永山パーティー。

      影の薄さは世界一。迷宮の魔物も自動ドアも気がつかない。

・辻綾子  天職:治癒師

      永山パーティー。

 香織と同じ治癒師。治癒の腕を香織と比べて、少しコンプレックスがある。

・吉野真央 天職:付与術士

      永山パーティーにおける縁の下の力持ち。

・檜山大介 天職:軽戦士

      ハジメ命名小悪党組。

 ハジメを奈落に落とした張本人。恵里に脅され、後に自分の意志で香織をものにすべく、王国の騎士や兵士を多く殺した。ハジメにフルボッコにされた挙句、生きたまま魔物に喰われるという凄惨な末路を辿った。

・中野信治 天職:炎術師

      小悪党組。

・斎藤良樹 天職:風術師

      小悪党組。

・近藤礼一 天職:槍術師

      小悪党組。

      恵里の縛魂の餌食となり、ハジメにピチュンされる。

・相川昇 愛ちゃん護衛隊

・仁村明人 愛ちゃん護衛隊

・玉井淳史 愛ちゃん護衛隊

・菅原妙子 愛ちゃん護衛隊

・宮崎奈々 愛ちゃん護衛隊

・園部優花 愛ちゃん護衛隊

・清水幸利 天職:闇術師 

 異世界で自分の特別さを示す為に魔物のスタンピードを起こす。結果、魔人族の奇襲によって瀕死となり、ハジメの止めで死亡したがカービィが復活させ遠くに逃がした。

 

《ハイリヒ王国》

・エリヒド=S=B=ハイリヒ 

 ハイリヒ王国国王。王都侵攻編で恵里達に殺される。

・ルルアリア=S=B=ハイリヒ 

 同王妃。表舞台には出ず、補佐に務める。影の薄さは、奴とタメを張るかもしれない。

・ランデル=S=B=ハイリヒ 

 同王子。10歳。金髪碧眼の美少年。香織に気があったが、ハジメの存在により玉砕。現在初恋の失恋中。

・リリアーナ=S=B=ハイリヒ 

 同王女。14歳。王国の才女として絶大な人気がある。ハジメに助けられたことで恋心を抱くが、ハジメの扱いがあんまりなので、最近は残念な人になりつつある。

・メルド=ロギンス 

 ハイリヒ王国騎士団団長。恵里達の手に掛かり死亡。一番惜しい人。

・ホセ=ランカイド 同騎士団副団長。同じく恵里達により死亡。

・アラン=ソミス  モブ騎士だが地味に活躍している。奈落にて死亡。

・クゼリー=レイル 新騎士団団長。女性騎士でリリアーナの付きの元近衛騎士。

・ニート=コモルド 新騎士団副団長。元騎士団三番隊の隊長。

 

《冒険者ギルド》

・イルワ=チャング 

フューレン支部支部長。ハジメに金ランクを与え、後ろ盾にもなった。ハジメに沢山のお仕事(苦労)を貰えた人。

・ドット=クローウ イルワの秘書長。雫に負けない苦労人。

・キャサリン ギルドマスターの元秘書長。時の残酷さを体現するおばちゃん。

・ロア=バワビス ホルアド支部支部長。ツンデレ。

・バルス=ラプタ ギルドマスター。滅びの呪文を持っている、かもしれない。

 

《アンカジ公国》

・ランズィ=フォウワード=ゼンゲン

 アンカジ公国の領主。教会相手に啖呵をきるなど、漢気溢れるナイスミドル。

・ビィズ=フォウワード=ゼンゲン

 ランズィの息子。香織に憧れと恋心を持っている。見つめる時の表情がドン引きレベル。

・アイリー=フォウワード=ゼンゲン

 ビィズの妹。亜人差別の価値観を超えてミュウの可愛さが分かる出来る14歳。

 

《ハルツィナ樹海フェアベルゲン》

・アルフレリック=ハイピスト

 フェアベルゲン長老衆の一人。森人族の長。一番長く生きている話の分かる人。

・虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族のグゼ、熊人族のジン

 モブ長老。ジンはハジメに腹パンを喰らって再起不能になった。

・アルテナ=ハイピスト

 アルフレリックの孫娘。

・レギン=バントン

 熊人族のおっさん。かつてジンの敵討ちにハウリアを襲撃し返り討ちに合う。その後、ハウリアにトラウマを植えつけられた。動悸息切れが止まらない。

 

《ハウリア族》

・カム=ハウリア

 シアの父親で兎人族ハウリアの族長。ヒャッハー筆頭。厨二筆頭。今は、深淵蠢動の闇狩鬼カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリア……と名乗っている。

・パル 必滅のバルトフェルド君、11歳。射撃武器が得意。厨二病の感染源。

・ラナ 疾影のラナインフェリナ。きっと疾駆する影とかそんな感じ。

・ミナ 空裂のミナステリア。きっと空気すら斬るとかそんな感じ。

・ヤオ 幻武のヤオゼリアス。きっと幻のように気配を操るとかそんな感じ。

・ヨル 這斬のヨルガンダル。きっと…そんな感じ。

・リキ 霧雨のリキッドブレイク。そんな感じ。

・イオ 雷刃のイオルニクス。そんな感じ。

 

《ヘルシャー帝国》

・ガハルド=D=ヘルシャー 

 ヘルシャー帝国皇帝。

・バイアス=D=ヘルシャー 

 皇太子。リリアーナの婚約者。息子さんが機能不全を起こした挙句、首をはねられて死亡。

・ネディル 

 元牢番の帝国兵。世界で一番、股間スマッシュされた偉大な人物。

・マスター 

 帝都支部のバーテンダー。テンプレの番人。

 

《魔人族》

・フリード=バグアー

 赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男。強力な魔物を量産し、使役する神代の魔法や空間魔法を所有する。相棒の白竜は特に強力で、ハジメを危機に陥れた極光を放てる。

 

《神側》

・神の使徒ノイント

 驚異的なスペックを誇る神の兵。限界突破状態のハジメと互角以上、コピー能力クリエイト使用のカービィに少し劣る程度に戦うことが出来る。時代の節目に現れては、神の意志を実行すべく地上の人々を惑わし、あるいは抹殺している。ハジメは、他にも多くの使徒がいるのでは? と推測している。

・イシュタル・ランゴバルド

 聖教教会の教皇。いっちゃってる老人。既に手遅れ。

・デビッド=マーク

 愛子護衛隊隊長の神殿騎士。紆余曲折を経て、愛子の逆ハーメンバー筆頭となる(愛子にその気は皆無なので実りそうにないが)。

・チェイス=ルーティン

 同、神殿騎士。同じく愛子の逆ハーメンバー。

 

《その他》

・モットー=ユンケル 

 本物の商人。

・ソーナ 

 ブルックの町、マサカの宿の看板娘。ハジメ達の情事を覗く為なら手段を選ばない。その技術は既に町娘の領域を超えている。

・クリスタベル

 服屋の化け物(漢女)。元金ランクの冒険者。理解不能の強さと育成術を持っている。

・マリアベル

 服屋の化け物2号。ユエに股間スマッシュされて第二の人生を送り始めた。

・フォス・セルオ

 湖畔の町ウルにある“水妖精の宿”のオーナー。日本人好みの料理を出してくれる。

・ウィル・クデタ

 クデタ伯爵家の三男。マザコン。

・リーマン

 人面魚の魔物。固有魔法により意思疎通できる。漢気溢れるおっさん。世界を放浪する自由人かと思いきや、実は妻子を放って遊び歩いているだけのダメオヤジだった。

・ウォルペン=スターク

 ハイリヒ王国直属筆頭錬成師。本物の職人。新たな技術習得の為なら限界突破できる。

 

 

《解放者》

・オスカー=オルクス

 オルクス大迷宮(奈落)の主。生成魔法の担い手。骸は畑の一角に植えられてしまった哀れな人。

オルクス迷宮でカービィはコピー能力クリエイトを得た。

・ミレディ=ライセン

 ライセン大迷宮(大峡谷)の主。重力魔法の担い手。ウザさは宇宙一。解放者の中で唯一現存する人。

ライセン大迷宮でカービィはコピー能力グラビティを得た。

・ナイズ=グリューエン

 グリューエン大迷宮(大火山)の主。空間魔法の担い手。

グリューエン火山でカービィはコピー能力スペースを得た。

・メイル=メルジーネ

 メルジーネ大迷宮(海底遺跡)の主。再生魔法の担い手。海人族。見た目に反して雑っぽい。

メルジーネ大迷宮でカービィはコピー能力リバイブを得た。

・ラウス=バーン

 バーン大迷宮(神山)の主。魂魄魔法の担い手。ハゲ。

バーン大迷宮でカービィはコピー能力スピリットを得た。




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第6章
亜人族運搬中


なんと本日5本目!
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『奈落の底』までちょっと文字に色をつけたりしています。
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総合評価が206!!
しおりが91件!
UAが41570!
投票者数が14人になりました!
ありがとうございます!
そして70話を超えました!
これからも感想、評価、応援をぜひお願いします!


 轟々と風が唸り、直下の地面が一瞬で後方へと流れていく。

 

 帝国から解放された亜人族達は、自分達が今体験していることが本当に現実なのか、それを確かめる為に何度も自分の頬をつねってはその痛みに涙目になっていた。そして、夢から覚めないなぁ~と妙に落ち着いた気持ちで、再び、非現実的な光景を眺めるのだった。現実逃避ともいうが。

 

 彼等は、現在、ハジメが飛ばす飛空艇〝フェルニル〟とカービィが操縦するロボボアーマージェットモードとマホロアが操作するローアの下部に取り付けられた超大型の〝籠〟に搭乗し、一時の空の旅を体験しているのである。

 

 フェルニルは、流石に、数千人に及ぶ亜人族達を搭乗させられる程の規模ではないので、急遽、外付けの巨大な籠を取り付けたのである。イメージとしては、飛行船のゴンドラのようなものだ。

それをロボボアーマージェットモードとローアもやっている。

 実は、ゲートホールがハウリア族の隠れ里やフェアベルゲンに設置してあり、ゲートを開けば一瞬で樹海まで行けるのだが、演出のために敢えて空の旅を選んだのである。その方が、解放された亜人族達へ向けられる帝都からの目にもインパクトがあるからだ。

 

 言ってみれば、〝亜人族解放は神の意思である〟という広場での言葉に対するダメ押しというやつである。空を飛ぶ巨大な物体に導かれて故郷に帰るという光景には、帝都の人々もさぞかし度肝を抜かれたに違いない。

 

 もっとも、その代償として、フェルニルを起動させているハジメは結構な負担を強いられていた。紅い魔力を迸らせつつ、ブリッジにあるベンチシートで、どこか気怠そうにふんぞり返っているのは、決して傲慢を体現しているわけではない。

 

 流石に、数千人もの人を乗せた状態で飛行させるのは、その重量故に消費魔力も半端なかったのである。

 

 但し、ガリガリと魔力を削られながらも、せっかくだから魔力運用の訓練にしようと魔力操作に意識を割いていたりするので、気怠そうなのは魔力の消費だけが原因ではなかったが。

 

 傍目には、だらけ切っているようにしか見えないが、どんな時でも鍛錬を欠かさない努力の人なのである。本当に、そうは見えないけれども……

 

 そんなハジメの傍にはユエ、シア、香織の三人が侍っていた。休日に公園のベンチで我が子が遊ぶ姿を眺めながらだらけるお父さんのような姿のハジメだが、その右腕にユエを、左腕にシアを腕枕しつつ、シートの背越しに身を乗り出した香織に髪をいじられていたりする。

 

 本当に真面目に訓練中なのだが……ハーレム野郎にしか見えないと言われれば反論は出来そうにない光景だった。

 

「おいおい、皇帝を前に随分な態度だなぁ、え?」

「……南雲くん、私が言うのもなんだけど……もう少し自重してもいいと思うわよ?」

「うらやま……ではなくて。そうです。ふしだらですよ」

 

 効率的な魔力の運用訓練に集中しつつも、無意識にユエとシアの髪を撫でているハジメに声が掛けられた。

 

 フェアベルゲンにて長老衆に宣誓するために同乗したヘルシャー帝国皇帝ガハルドと、同じ人間族の王族にしてハイリヒ王国の王女としてその宣誓を見届けるために同乗したリリアーナ、そして、お馴染みの雫である。もちろん、この場には、光輝、龍太郎、鈴もいる。

 

 更にもう一人、ついさっきまでガハルドに頼まれて艦内を案内していたティオもいるのだが、彼女は、帰って来るなりユエ達を見て「妾も~」とハジメにル○ンダイブを決行し、その気持ち悪さから反射的に出たハジメの足技で首を絞められ、そのまま落とされているので問題ない。白目を向いて僅かに痙攣しているが問題ないのだ。

 

「あ~、艦内探検は終わったのか?」

「おう、とんでもないな。なぜ、こんな金属の塊が飛ぶのかさっぱりわからん。だが、最高に面白いな! おい、南雲ハジメ。俺用に一機用意してくれ。言い値を払うぞ」

 

 対面のベンチシートにドガッと座り、キラキラと好奇心で輝く瞳をハジメに向けるガハルド。雫達もシートに座る。

 

 ちなみに、雫とリリアーナはハジメ側に座った。ガハルド側が嫌だったようだが、それにも気がつかないほど、ガハルドの瞳は少年のように輝いている。余程、この飛空艇が気に入ったらしい。

 

「金なんかいらねぇての。諦めろ。乗るのは今回限りだろうからな。せいぜい今の内に堪能しとけ」

「そういうなよ。な? 一機だけ、小さいのでいいんだ」

「俺に何のメリットもないだろうが」

「ぬぐぅ、金がダメなら女だ! 娘の一人にちょうどいい年の奴がいる。ちょっと気位は高いが見た目は上玉だぞ。お前のハーレムに加えてやるから、な? いいだろう?」

 

 どうやらガハルドは、ハジメのことを無類の女好きと思っているらしい。状況的に全く否定できないのが悲しいところだ。

 

 しかし、そんな女を押し付けられても困るので鼻で笑って却下しようとしたハジメだったが、それより早く女性陣が反応する。

 

「「「「「ダメ(ですぅ)(じゃ)!!」」」」」

「……そういうことだ」

「チッ、見せつけやがって……ん? リリアーナ姫、今、お前さんも反応してなかったか?」

 

 ガハルドがやさぐれたように舌打ちし、そして不意に気がついたようにリリアーナへ視線を向けた。それに釣られて他のメンバーもリリアーナに目を向ける。

 

「へ? い、いやですわ。聞き間違いではないですか?」

「……クックック。そう言えば、パーティーでもバイアスそっちのけで南雲ハジメと嬉しそうに踊っていたなぁ。おいおい、南雲ハジメ。お前、ちょっと手が早すぎやしないか? 流石の俺も呆れちまうぞ」

「にゃにゃにゃにゃにを言っているのですか! わ、私と南雲さんは断じてそんな関係ではっ! そ、そうですよね? ね? 南雲さん!」

「あ? あ~、天地がひっくり返っても有り得ねぇよ」

「……そこまで言わなくても……」

 

 ハジメのはっきりした物言いに、動揺しまくりのリリアーナのテンションが一気に下降した。どこか不貞腐れたようにそっぽを向く。その態度からして、リリアーナが満更でもないというのは丸分かりだ……

 

 というより、パーティーでのダンスを見ていた者からすればリリアーナの内心など一目瞭然である。それはハジメも同様のはずで、それでも本人を前にしてばっさりぶった切った容赦の無さに、リリアーナへは同情の視線が、ハジメにはジト目が向けられた。

 

「……なんで俺がそんな目を向けられにゃならないんだ。大体、姫さんは人妻みたいなもんだろうが。婚約者は首チョンパされているが、それでも皇族との婚姻ってのが無くなったわけじゃない。なら、結局、他の皇族があてがわれるんだろう?」

「あ~、それなのですが……」

 

 言葉を詰まらせるリリアーナに代わって苦虫を百匹くらい噛み潰したような表情のガハルドが答えた。

 

「正直、一族は今、それどころじゃねぇんだよ。何せ、外せば死ぬ呪いの首飾りを一生付けてなきゃいけないなんて、とんでもない事態への対処で一杯一杯だからな」

 

 そう言うガハルドの首には、確かに紅い宝石のついたネックレスが付けられている

 

「あの誓約の内容から言って、皇族以外の誰かが約定に背いても、皇族が〝法に則って裁く〟限り、命は繋がるんだろうが、言ってみれば、国民に命握られているのと変わらねぇからな。取締体制の抜本的な改革と確実に執行される厳罰の体制、それに帝都以外の町にいる奴隷解放の手続きと法の周知徹底……誰も彼も必死なんだよ」

 

 ガハルドはシートの背もたれに深々と背を預けながら、「参った!」とでも言うようにガシガシと頭を掻いた。

 

「いつ死ぬかわからない夫に王国の姫を嫁がせるわけにはいかないと言われれば、全く反論できねぇ。しかも、亜人族の奴隷解放で帝国の労働力はガタ落ちだ。あちこち大騒ぎだよ。その辺の対応と鎮圧にも人手を割かなきゃならんから、正直、帝国が王国に・・・・・・援助を頼みたいって状況だ」

「なるほどな。つまり姫さんの輿入れは白紙撤回ってことか」

「まぁ、そういうことだ。状況が落ち着いて、皇族の命の安全性が一応でも確認されれば、その時改めて、今度は、こちらからランデル殿下……今は陛下か……に、娘を嫁がせるという形がベターだろう」

 

 ガハルドの説明に、その場の全員が「へぇ~」と納得の表情を見せる。

 

 ちなみに、実は、皇族の一人が、「そんな馬鹿な話があるか! 俺は首飾りを外すぞ!」と喚き、本当に首飾りを外してしまい、その後、突然発狂して暴れまわったあげく、糸が切れたように絶命したという事実があり、これが皇族を必死にさせている原因だったりする。

 

「よかったじゃないか! リリィ!」

「ホントね。自由恋愛……というのは無理かもしれないけど、取り敢えず、時間はできたわ」

「うんうん。リリィ、よかったね」

 

 光輝を筆頭に、メンバーがリリアーナに温かな眼差しを向ける。リリアーナは、目の前に嫁ぎ先の親がいるのに遠慮なく〝結婚が白紙になってよかった〟と喜ぶ友人達に苦笑いだ。珍しく、ガハルドも苦笑いしている。

 

「つーわけで、南雲ハジメ。今なら、リリアーナ姫はフリーだぞ? 欲しけりゃ、皇帝の権力をフル活用して協力してやる」

「なっ!? 陛下! 何を言っているのですか! わ、私はそんな……」

 

 ニヤリと笑ってそんな事を言うガハルド。再び、リリアーナが動揺する。

 

 しかし、ハジメは話の内容はサラリとスルーして、呆れたような表情をガハルドに向けた。リリアーナの態度に対してもスルーである。

 

「で、見返りに飛空艇よこせってか? 何度もいうがメリットが何もないだろうが……むしろデメリットか?」

「どういう意味ですか!? 南雲さん!」

「おいおい、一国の王女様だぞ? 男なら手に入れたいと思うのが普通だろうが」

「ちょっと、お二人共、聞いていますか? 私の話、聞いていますか!」

「あんたと一緒にするなよ。俺には女をコレクションにする趣味はねぇよ。王女なんて肩書き、むしろ面倒なだけだろうが」

「はいはいはい、聞いてないんですよね。私の話なんか誰も聞いてないんですよね。……ぐすっ……王女って何なのかしら……」

「リリィ……大丈夫よ……うぅ、王女なのに何て哀れな」

「リ、リリィ! 俺はちゃんと聞いてるから! 元気出せ!」

 

 リリアーナを完全スルーして話をするハジメとガハルドに、リリアーナは遂に投げやりな態度でシートにのの字を書き始めた。その瞳の端には煌く何かが溜まっている。それを雫や光輝が必死に慰めていた。

 

 そんなリリアーナ達を尻目に、ハジメは、未だ「うぬぬぬ」と唸りながら、ハジメと交渉しようとしているガハルドに溜息を吐いた。

 

「今のところ、俺が欲しいものなんてないから諦めろよ。その内、もしかしたら、あんたにも交渉材料が見つかるかも知れないが……その時まで気長に待つことだな」

「ぬぅうう、本当に欲しいものはないのか? して欲しいことも? 正直に言えよ。人間、いつだって何かを欲しているものだ。何もいらないなんて奴は、人間をやめているか何か企んでいる奴だと相場が決まっている。……あっ、そう言えばお前、化け物だったか」

「喧嘩売ってんのか、あんた? ……まぁ、その言い分は理解できる。だが……」

 

 ハジメはそう言うと、両サイドにいるユエとシアをグッと抱き寄せた。

 

「俺がホントに欲しいものは既に腕の中にある。〝ずっと手放さないためには〟ってことに頭が一杯で、〝もっと〟なんて考える余裕はない。きっと、一生な」

 

 だから、交渉は無駄だと言外に伝えるハジメ。ユエは嬉しそうに体を摺り寄せ、シアは、自分もユエと同じくらい力強く抱き寄せられたことに大きく目を見開きつつも、次の瞬間にはウサミミとウサシッポをわっさわっさと動かしながら思いっきりハジメに抱きついた。

 

 ハジメの胸元で、ユエとシアの目が合い、二人して「くふふ」と幸せそうに微笑み合う。

 

「あ~、あ~、そうかいそうかい。チッ、口の中が甘ったるくて仕方ねぇ。甲板で景色でも堪能してくるか……」

 

 ガハルドは、うざったそうな表情をして立ち上がると、さっさとブリッジを出て行ってしまった。それに苦笑いするハジメ。見れば対面の座席で、光輝や龍太郎がどうしたものかと目を泳がせている。鈴は「ほわ~」と変な声を上げていた。

 

 そして、ハジメの背後と足元からも声が上がる。

 

「うぅ~、ユエとシアだけずるいよ! ね、ねぇ、ハジメくん。〝腕の中〟っていうのは比喩的な表現だよね? ユエとシア限定って意味じゃないよね? ね?」

「ご、ご主人様よ。素晴らしい足技を頂いた直後ではあるが、妾も抱き締めてくれんか?〝腕の中〟がいいのじゃ……」

 

 香織が背後からハジメに抱きつき、必死な感じで自分の存在をアピールする。ティオは体を起こし、顎をハジメの膝に乗せておねだりを始めた。

 

 そんな二人に反応したのはユエ。

 

 少し体を起こすと、チラリと香織とティオを見やり……

 

「……残念でした」

「ど、どういう意味っ!?」

「むぅ、今のは聞き捨てならんぞ、ユエ!」

 

 無表情のユエに「きぃいい!」とハンカチでも噛んでいそうな雰囲気で憤る香織とティオ。ユエは少し首を傾げて何かを考えている素振りを見せると、おもむろに自分とシアを指差した。

 

 そして、

 

「……勝者」

 

 次いで、香織とティオを指差し、

 

「……敗者」

 

 と、やはり無表情で言ってのけた。そして、そのままハジメの胸元に頬を摺り寄せる。その瞬間、ブリッジに〝ブチッ〟と何かが切れる音が響いた。

 

「フ、フフフ……ユエったらおかしいね? わけのわからないことをいきなり……きっと、どこか悪いんだね?」

「そうじゃな。きっと、そうに違いない。ならば妾達が直してやらねばな」

「直すと言えば、簡単な方法があるね」

「うむうむ、壊れたものは……」

「「叩いて直す!(のじゃ!)」」

 

 ゆらりと立ち上がって、微笑みを浮かべながらユエを見下ろす香織とティオ。

 

 凄まじい怒気? 闘気? みたいな何かが溢れ出している。そのプレッシャーに光輝と龍太郎と鈴が対面で身を寄せ合ってガクブルしていた。光輝が小声で「あ、あれが香織なのか?」と呟いている。

 

 二人の圧力をぶつけられたユエは、再び、のそりと顔を上げると無表情を崩して口元に小さな笑みを浮かべた。

 

「……やめて。本気でやったら二人が私に勝てるわけないでしょ?」

 

 お前はどこのコーディ○ーターだとツッコミたくなるようなセリフだ。そして、激しくイラっとさせる素晴らしいセリフだった。

 

「「上等だよ!(じゃ!)」」

 

 案の定、更にヒートアップする香織とティオ。ユエも、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ちょっ、ちょっと、三人とも! いきなり喧嘩なんて……ていうか、南雲くん! 止めなさいよ!」

 

 雫が、アセアセ、オロオロとしながら頑張って仲裁しようとする。そして、早々に自分には無理! と諦めて、ある意味元凶ともいえるハジメに助けを求めた。

 

 そのハジメはというと……

 

「無理。だるい……」

 

 大分、魔力を削られているようで思いっきりだれていた。動く気はないようだ。

 

 元々、小さな喧嘩は日常茶飯事、というよりちょっとした彼女達なりのコミュニケーションみたいなものなので、ハジメは気にしていないようだった。

 

「あ、貴方って人は~」

 

 しかし、まだその辺の機微に疎い雫は、頬をピクピクさせる。

 

 と、その雫に般若さんからお声が掛かった。

 

「雫ちゃん! 前衛お願いね!」

「あれ? いつの間にか巻き込まれてる!?」

 

 ごく自然に、雫の参戦が決まっていた。

 

「さぁ、お姫様よ、共に参ろうぞ! 結界の名手じゃろう? そっちの鈴と一緒に防御は任せたぞ!」

「えっ? 私もですか!? なぜ!?」

「さり気なく、鈴も入ってる!?」

 

 ティオが竜人族の膂力でリリアーナと鈴の首根っこを掴み引きずって行く。「おうじょ……おうじょなの……」というリリアーナの呟きが何とも虚しい。

 

「……シア、前衛は任せる」

「は、はいですぅ! 何人もユエさんの元には行かせませんよぉ!」

 

 気合十分。シアはユエの前衛を務めるようだ。ハジメの元から立ち上がり、腕をグルグルと回す。

 

「……ハジメ、待ってて。ちょっとボコってくる」

「お~う、ほどほどになぁ~」

「……勝ったらギュ~して?」

「いつでもいいぞ~」

「……んっ」

 

 そうして、女性陣は甲板に向けて戦意十分な雰囲気(一部を除く)で出ていった。甲板は十分とは言えないがそれなりの広さがある。きっと、よい戦闘訓練になるだろう。香織がノイントの体を十全に使うにはとにかく動いて慣らすことが必要だ。【ハルツィナ樹海】の大迷宮にどのような試練があるかわからないので、少しでも訓練しておくのはいいことだろう。

 

 ユエ達に、その辺の意識があったのかは不明だが……

 

 しばらくすると、何やら轟音やら爆音が聞こえ始めた。ビクッとする光輝達。本当に放っておいて大丈夫だろうかと心配そうな表情になる。

 

「戯れてんな~」

 

 しかし、ハジメの感想はそれだけらしい。

 

「……なんていうか、南雲って……」

「やっぱり、とんでもねぇな……」

 

 男だけとなったブリッジで、だれているハジメを見ながら、光輝と龍太郎が呆れ半分感心半分の眼差しを向けていた。あれだけの女性陣の騒動にまるで動じず、自然体というのが男として少し感じ入るものがあったらしい。

 

 その後、亜人族達をビクビクさせつつ散々暴れまわったユエ達の戦いが終わる頃、ようやく前方に樹海が見え始めた。なにやら最初の方で皇帝の悲鳴が聞こえたような気がするが……きっと気のせいに違いない。

 

 地味に皇帝陛下の安否が気になりつつ、一行は樹海に降り立つ準備に入るのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 太陽が顔を隠し、夜の帳が降りた。

 

 樹海奥地のフェアベルゲンは人々が作り出した淡い橙色の灯りで照らされている。普通なら、いくら復興に忙しいとはいえ、とっくに食後の一家団欒を楽しんでいる時間であり、静謐な空気が流れているところだ。

 

 しかし、現在のフェアベルゲンは、まるで昼夜が逆転したかのような喧騒に包まれていた。右に左にと忙しそうに人々が走り回っている。フェアベルゲンの外の集落からも人が集まって来ているようで、人の整理・誘導に兵士達も駆り出されているようだ。

 

 そんな喧騒を、夜風と共に開けっ放しの窓から取り入れつつ、フェアベルゲンの長老が一人、森人族のアルフレリック・ハイピストは何とも言えない微妙な表情で手元の書類を処理していた。

 

 内容は、数千人規模の同胞の受け入れ態勢に関する報告書、申請書などの類である。他の長老達も手分けして作業している。

 

「ふぅ……カムよ。本当に同胞達は帰って来るのか?」

「……まだ、そんなことを言っているのか。確認しようのないことをいつまでも言ってないで、さっさと受け入れ態勢を整えろ」

 

 アルフレリックがポツリと話かけると、まるで部屋の中に突然現れたかのように人の気配が発生した。アルフレリックの傍には、気配を殺したカム・ハウリアが控えていたのだ。

 

 カム達ハウリア族は、ハジメ達に先んじて亜人族の解放を伝えるためにゲートで帰って来ていたのである。そして、念話石を利用して、急遽整えなくてはならなくなった受け入れ態勢を効率的に行うために、通信員の役割を買って出ているのである。

 

「わかっている。ただな、やはりにわかには信じ難いのだよ。あの帝国が同胞を解放するなど……」

「それもあと数時間以内に証明される。まぁ、気持ちはわかるがな。……我等とて、ボスがいなければ、まさかここまでの成果を挙げられるなど夢にも思わなかった」

「ボス……資格者――南雲ハジメか。その話が本当なら、我が娘だけでなく、同胞全てを救い出してくれた恩人ということになる。報いる方法が思い浮かばんな……」

「ボスは、そんなもの期待していないだろう。それより、さっさと手を動かせ。また、報告が上がってきたぞ」

 

 念話石に触れながら報告を聞くカムを、アルフレリックはチラリと一瞥する。カムは、念話石で何かを話しているようで視線は虚空に向いているが、その姿には一分の隙もない。それどころか、控えていた時の気配の無さが嘘のように強烈な覇気を纏っていた。

 

 かつては自分達の前で一族処刑の決定に諦観の表情をしていたというのに……とても同一人物だとは思えなかった。元の温厚そうな雰囲気は微塵もなく、触れればそれだけで刻まれそうな鋭利さを感じる。

 

 実際、その鋭利さは既に示されていた。

 

 というのも、戻ってきたカムが長老衆に事の次第と、解放された奴隷の受け入れ態勢を整えるように伝えたところ、アルフレリックを含め誰もその言葉を信じなかったのだが、その際、カムの不遜な言動を不快に感じた長老の一人が、カムに侮蔑の言葉を投げつけ、更に強制的に跪かせようとしたのだ。

 

 たとえ、以前に熊人族を返り討ちにしていようと、魔物や帝国の襲撃からフェアベルゲンを助けたとしても、長年の兎人族に対する価値観は中々覆るものではないのだろう。

 

 しかし、その凝り固まった価値観故の行動は、苛烈な殺意で返された。その長老の部下の一人がカムに触れようとした瞬間、一体どこに潜んでいたのか、一斉にハウリア族が出現し、全ての長老の首に刃を突きつけたのである。

 

 当然、カムに触れようとした男もいつの間にか無数の刃を突きつけられて、指一本動かせない状況だった。充満する殺意が、下手な言動をとれば、本気で牙を剥くことを疑わせず、アルフレリックの執り成しでどうにかその場は収まったのである。

 

 一瞬で、フェアベルゲン最高権力の長老会議を占拠し、かつ、彼等をして冷や汗を流させた激烈な殺意に、ひとまず信じてみようという事になったのである。というか、そうせざるを得なかったのである。首筋の刃とハウリア達の顔がヤバかったので。

 

「お祖父様、炊き出しの用意が整いましたわ。これが消費後の備蓄量です」

 

 回想によって冷や汗を流していたアルフレリックに鈴の鳴るような可憐な声が掛けられた。

 

「む、アルテナか。ご苦労だった。しかし、お前も帰って来てまだ間がないのだ。余り無理をするな」

「わたくしなら平気ですわ。同胞達が帰って来るというのに、ジッとなんてしていられません」

 

 気遣うアルフレリックに、アルテナは毅然とした態度をとる。しかし、報告書をアルフレリックに渡した後、妙にそわそわとし出した。訝しむアルフレリックだったが、孫娘の視線がチラチラとカムに向いていることに気が付き、何となく彼女が何を気にしているのか察する。

 

「彼のことが気になるなら、カムに聞いてみればどうだ?」

「! い、いえ、わたくしは別に南雲様のことなんて……」

「私は、一言も少年のこととは言っていないが?」

「お祖父様! そんな、揚げ足を取るような意地悪をなさらないで下さいませ!」

 

 見るからに動揺している孫娘にアルフレリックは微笑ましいものを見るような眼差しを向けつつ、よもや本気ではあるまいな? と懸念を抱く。

 

 アルテナは、その人柄、容姿、生まれから非常に縁談も多いのだが、今のところ全て突っぱねており、本人としては嫁ぐことより、祖父の後を継いで国のために仕事がしたいらしい。なので、今までそう浮いた話もなかったのだが……

 

 アルフレリックの中で爺バカの面がむくりと起き上がってくる。

 

「ふむ、少年は、確かにお前の恩人ではあるが、お前が特別だったわけではないのだぞ? というか、直接助けたのはハウリア族であろう? あまり意識するのはどうかと思うが……お前の相手としても難儀な相手だぞ」

「だからっ、そういうのではありませんわ! もうっ! 南雲様が同胞を連れて来て下さっていると聞いて、少し気になっただけです。ええ、それだけです!」

 

 ぷいっとそっぽを向いて、部屋を出て行こうとするアルテナに、アルフレリックはこっそり溜息を吐いた。

 

 と、その時、意外にもカムが今まさに出て行こうとしていたアルテナに声を掛けた。

 

「アルテナ嬢」

「え、えっと、はい、カムさん。なんでしょう?」

 

 どこか面白がるような笑みを浮かべるカムに、アルテナが少し警戒したように返事をする。そんな身構えたアルテナに、カムがにこやかに告げる。

 

「ボスは、一見多くの女性を侍らしているように見えるが、その実、かなり一途な方だ。そして、あの方の〝特別〟は既に埋まっており、かつ、不動。その座に近づくことなら可能だろうが、相当、大きな信頼を育まなくてはならないだろう」

「は、はぁ……えっと」

 

 戸惑うアルテナに、カムはニヤリと不敵に笑う。

 

「ちなみに、ボスの特別を除けば、その座に一番近いのは……我が娘シアだ。何せ、帝国に牙向く我等への助力を決意した理由が、〝シアの笑顔を曇らせないため〟だからな」

「! そ、そうなのですか?」

「そうだ。ボスはな、シアの為なら平気で国を相手取れるのだよ。そう、シアの為なら、な。フフフ」

「!」

 

 言外に、「お前では娘に勝てんよ!」と言われていることを、アルテナは敏感に察した。

 

 実は、アルテナの年齢はシアと同じ十六歳だったりする。なので、同い年の女の子と比べられた挙句、勝負にならないと言われては……ムッと来るのも仕方ないだろう。

 

「シアさんというのは……あの淡い青みがかった白髪の方ですわよね。お言葉ですが、わたくし、あの方に劣っているとは思いません。確かに過ごした時間が違うという意味では差はあるのでしょうが……わたくしとて、同じくらい時間があれば……」

「いやいや、うちのシアは特別な存在だからなぁ、やはり、アルテナ嬢の為にも無駄なことは止めるべきだと、忠告させてもらおう。不毛なことをしていると適齢期を逃してしまうぞ?」

「大きなお世話です!」

「はぁ~。カム、私の孫を虐めるのはそれくらいにしてくれんか……」

 

 ぷりぷりと怒るアルテナに、ニヤつくカム。二人を見て、アルフレリックが盛大に溜息を吐く。

 

 カムが、アルテナに挑発まがいのことをしているのは、ちょっとしたお節介だったりする。

 

 もちろん、アルテナに対するものではなく、シアに対しての、だ。樹海から出て行った頃のシアとハジメの関係は、言ってみればシアの押し掛けだった。それが、この間の様子を見る限り、相当、親密な関係になっているようだとカムは感じたのだ。あと一押しで、一気に一線を越えるに違いない! と。

 

 その一押し、言い換えれば起爆剤にアルテナが使えはしないかと企んだのである。シアが聞けば、「巨大なお世話ですぅ!」と怒りそうだ。

 

 アルテナが内心で対抗心を燃え上がらせているのを感じほくそ笑むカム。少女の淡い恋心を躊躇いなく利用するその姿は……何とも悪魔的であった。

 

 と、その時、にわかに外が騒がしくなった。今までの忙しさからくる喧騒ではなく、不測の事態に緊迫するような騒がしさだ。怒号まで聞こえ始めている。

 

「何事だ!」

 

 アルフレリックがガタッと席から立ち上がり、窓に歩み寄った。そして騒ぎの原因を目の当たりにする。

 

「光の……柱……だと?」

 

 その言葉通り、昼間の陽光が木々の間からこぼれ落ちてくるように、いや、それとは比べ物にならないくらい強い光が天より木々を通り抜けてフェアベルゲンの広場を照らしていたのである。

 

 意味不明の事態に、目を見開くアルフレリックに、落ち着いた声音が届いた。

 

「案ずるな、アルフレリック。ボスとカービィ殿のご到着だ」

 

 そう、フェアベルゲンの広場を真昼のように照らす光の正体は、樹海の上空に到着した飛空艇〝フェルニル〟のサーチライトだったのである。

 




いつも読んでいただきありがとうございます。
好評だったり、続けて欲しいと、いう声があれば確実に続きます!
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フェアベルゲンの夜

やっぱり見にくいと思いカラー字は辞めました。
連続投稿をしてたら体調を崩しました。
おまたせしました。
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感想178件!
お気に入りが157件!
総合評価が206!!
しおりが94件!
UAが42419!
投票者数が14人になりました!
ありがとうございます!
そして70話を超えました!
これからも感想、評価、応援をぜひお願いします!


 フェアベルゲンを結界のように覆う樹々の隙間から強烈な光が降り注いでいる。

 

 その光の柱に照らされた広場からは亜人達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、遠巻きに一体何事かと戦々恐々とした表情で見守っていた。

 

 同じく、兵士達が恐怖に表情を引き攣らせながらも広場を囲むように展開した。

 

ベキベキッ、バキッ、ベキッ!!

 

 その直後、頭上からまるで悲鳴のように樹々のへし折れる音が響いた。「すわっ、新手の魔物かっ!」と、フェアベルゲンの住民達が身構える中で、それは現れた。

 

 最初に見えたのは巨大な金属の塊。徐々に高度を下げる事で、ようやくそれがゴンドラだと、フェアベルゲンの住民達は理解した。次いで、現れたのはマンタ型の飛空艇〝フェルニル〟。船底の前後に取り付けられた強烈なサーチライトで地上を照らし、着陸場所の安全を確かめている。

そしてその隣にはさらにゴンドラを付けたローアとロボボアーマージェットモードがある。

 

 周囲の人々が、ただただ目を見開いて驚愕の余り口をあんぐりと開けている中、フェルニル、ローア、ロボボアーマージェットモードはゴンドラをゆっくり着陸させパージすると、本体をそのゴンドラの脇に着陸させた。

 

 ゴンドラとフェルニルだけで広場は一杯となり、周囲の人々が慌てて距離を取る。同時にこれから一体何が起こるのかと不安そうな眼差しを向けた。

 

 と、その時、長方形型のゴンドラの前後が何の前触れもなくパカリと開いた。ビクッとする亜人達。兵士達も武器を握る手に大量の汗を掻き、喉をゴクリと鳴らす。暗闇に包まれるゴンドラの中から何が飛び出すのかと表情を強ばらせる。

 

 住民達が注視する中、おずおずという雰囲気で現れたのは……兎人族の少女だ。それに住民達は、キョトンとした表情になる。そんな理解が追いついていない住民達を置いて、暗がりから次々と解放された亜人達が現れた。

 

 ぞろぞろとゴンドラから出てきた彼等は、一様に、どこか信じられないといった表情で周囲を見渡している。静謐で清涼な空気、たくましく、それでいて包み込むような安心感を与えてくれる樹々、懐かしいフェアベルゲンの灯り、そして、もう二度と会えないと思っていた多くの同胞達。

 

 呆然としていた彼等だが、草木が水を吸い取るように、じわじわと実感しているようだ。〝故郷に帰って来た〟のだということを。

 

 それは、フェアベルゲンの住民達も同じだった。

 

 おもむろに一人の女性がフラフラとした足取りで前に進み出る。中年くらいの垂れた犬耳を付けた女性だ。彼女は、目の端に涙を溜めながら、そっと失ったと諦めていたその名を呼んだ。

 

「……ザック。ザックかい?」

 

 その声に反応したのは、同じく垂れた犬耳の少年。帝都にて光輝が気にかけていたあの少年だ。少年は、女性の姿を視界に捉えると、顔をくしゃくしゃにして涙を流し、ダッと駆け出した。

 

「母さん!」

「ザック!」

 

 跪き両手を広げた女性の胸に犬耳少年が飛びつく。母と呼ばれた犬耳の女性は、腕の中の息子が夢幻でないことを確かめるようにきつく抱き締めた。そして、親子揃って奇跡の再会に歓喜の涙をホロホロと流す。

 

 そんな親子の再会を期に、帰って来た亜人達と住民達は地を揺らさんばかりの歓声を上げて互いに走り寄り、家族、友人、恋人など知人を見つける度に声を枯らす勢いで無事を喜び合った。

 

 フェアベルゲンは、大きな喜びに包まれ、普段の静謐さは何処にいったのかと思う程のかつてないお祭り騒ぎとなった。

 

 そんな笑顔溢れる亜人達の喧騒の中、フェルニルから降り立ったハジメ達にアルフレリックを始めとした長老達が駆け寄ってくる。

 

「少年……全く、とんでもない登場をしてくれたな」

「ん? ああ、アルフレリックか。まぁ、色々面倒だったんで、大目に見てくれ」

 

 アルフレリックが、頭上のバッキバッキに折られた樹々を見て苦笑い気味に言うと、ハジメは、頬をポリポリと掻きながら、若干、バツの悪そうな表情になった。

 

 樹海の上空から、問答無用に樹々を押し潰して下降するという方法を取ったのは、単に樹海の外から歩いてくるのも、ゲートで一人一人転移させるのも面倒だったからであり、また、ガリガリと削られた魔力のせいで判断が大雑把だったからである。

 

 しかし、ハジメもフェアベルゲンの景観の美しさには感動を覚えていたので、流石に、ちょっとやってしまった感があるのだ。

 

「悪い、カービィ。頼めるか?」

「任せて!コピー能力リバイブ!」

 

コピー能力リバイブ、あらゆるものを強化、再生する能力だ。

 

その途端頭上の傷ついた樹々が一瞬で元の姿を取り戻した。その余りに非常識なコピー能力に、長老衆がポカンと間抜け面を晒している。アルフレリックだけは、新たな神代魔法だろうと察しつつ、疲れたように眉間の皺を揉みほぐしたが、神代魔法を元にしたコピー能力というだけで神代魔法ではないという点では外れている。

 

「お祖父様、お気持ちは察しますが、そろそろ……」

「む、そうだな。少年とピンクボール……いや、南雲殿、カービィ殿。大体の事情はカムから聞いている。にわかには信じられない事ではあるが、どうやら本当に同胞達は解放されたようだ。おそらく、今、私達は歴史的な瞬間に立ち会っているのだろう。まずは、フェアベルゲンを代表して礼を言わせてもらう」

「言っておくが、事を成したのはハウリア族だぞ。そこは間違えないでくれよ?」

 

 アルフレリックの言葉に、ハジメが気のない様子でフェルニルとゴンドラを〝宝物庫〟にしまいながら釘を刺す。広場から突然、巨大な物体が姿を消したことに、喜びに湧いていた亜人達が目を瞬かせた。そして、長老衆と向き合うハジメ達に注目する。

 

「ああ、もちろんだ。ハウリア族がいなければ、そもそも先の襲撃だけでフェアベルゲンは壊滅していたかもしれん。それも合わせて考えれば、信じざるを得んだろう。ふふっ、まさか、追放した最弱のはずのハウリア族が帝国を落とすとは……長生きはしてみるものだ」

 

 ハウリア族が帝国に戦いを挑んだあげく勝利を掴み取り同胞を救い出した――その事実がアルフレリックの口から明言されたことで、住民達も大切な人を取り戻してくれたのが誰なのか理解したようだ。

 

 アルフレリックの隣で背筋を伸ばすカムに注目が向けられる。彼等の瞳に宿っているのは、最弱種族に対する蔑みではなく、大きな敬意と若干の畏怖を含んだ英雄を見るような色だった。

 

 その視線に気がついたカムは、何かを思いついたように悪戯っぽい笑みを浮かべると、おもむろに右手を掲げた。そして、「こっちに来い!」とでも言うように指先をクイクイッと曲げる。帝城侵入の際にも使ったハンドシグナルである。

 

 その瞬間、「いやいや、どこにいたんだよ!」と思わずツッコミが入りそうなくらい唐突に、ハウリア達がシュバッ! とカムの周りに現れた。そして、統率のとれた動きで整列すると一斉に〝休め〟の体勢で微動だにしなくなった。

 

 カムは、整列した一族に満足気な笑みを浮かべると、その刃のように鋭い視線と思わず後退りしそうになる程の覇気を纏って、住民達――正確には兎人族に向かって声を張り上げた。

 

「同族達よ。長きに渡り、屈辱と諦観の海で喘いでいた者達よ。聞け。此度は、帝国に打ち勝つことが出来たが、永遠の平和など有り得ない。お前達の未来は、そう遠くない内に再び脅かされるだろう」

 

 その言葉に、広場にいる何百という兎人族がその身を恐怖で震わせる。また、帝国での辛い日々がやって来るのかと、どこか縋るような目で演説するカムを見つめる。

 

「そうなれば、お前達はまた昨日までの日々に逆戻りだ。それだけではない。今度は、奴隷を免れていた仲間も同じ目に遭うかも知れない」

 

 今助かっても、未来は暗いと言う事実を突きつけられて、兎人族だけでなく他の亜人族達も伏し目がちとなる。

 

「お前達はそれでいいのか?」

 

 いいわけがない。尊厳の尽くを踏みにじられるような日々に戻りたいわけがない。まして、そんな辛さを、大切な者に味わせたいわけがない。

 

 だが、だからといってどうすればいいというのか……

 

 カムは、俯く同胞に厳しい視線を向けつつ、答えなど目の前にあるだろうと更に声を張り上げた。

 

「いいわけがないな? なら、どうすればいいか。簡単だ。今、隣にいる大切な者を守りたいと思うなら……戦え。ただ搾取され諦観と共に生きることをよしとしないなら……立ち上がれ。兎人族の境遇を変えたいと願うなら……心を怒りで充たせ! 我等ハウリア族はそうした! 兎人族は決して最弱などではないのだ! 決意さえすれば、どこまでも強くなれる種族なのだ! 我等がそれを証明しただろう!」

 

 誰かが「あ……」と声を漏らした。巨大な敵を打ち破り、自分達を救い出したのは、特別な存在などではなく、同じ兎人族の一部族なのだと気がついたように。俯いていた兎人族達が一人、また一人と顔を上げていく。

 

「帝国で受けた屈辱を思い出せ。不遇な境遇に甘んじるな。大切な者は自らの手で守り抜けっ。諦観に浸る暇があるなら武器を磨け! 戦う術なら我等が教えよう。力を求め、戦う決意をしたのなら、我等のもとに来るといい。ハウリア族は、いつでもお前達を歓迎する!!」

 

 そう言って演説を締めくくったカムは、再びハンドシグナルを出す。すると、ハウリア達は、どこぞの忍者のようにシュバ! と散開して一瞬で姿をくらませた。

 

 それを見て、既に幾人かの兎人族の瞳に火が宿っているのを確認し、カムはほくそ笑んだ。「これでまた戦力が増えそうだ! 一度訓練にさえ参加させれば、逃さず精神を魔改造してやるぜ!」と。

 

「ボス、お話の最中に失礼しました。ちょうど人材確保にタイミングが良かったもので」

「ああ、別にそれはいいけどよ。……お前も言うようになったなぁ~。その内、兎人族はハウリアで統一されるんじゃないか?」

「はっはっはっ、そうなれば恐いものなしですな!」

「……最近、父様の言動が益々ハジメさん風になってきてますぅ。そう遠くない内に、〝温厚な兎人族〟は絶滅する気がしますよ」

「そうだね。」

 シアが、乾いた笑みを浮かべながら遠い目をした。どうやら、兎人族の全員が魔改造されるのも時間の問題のようだ。

カービィもこの豹変は戻らない上にあまり問題無いからと若干諦めかけている。

 

 ちなみに、この場にはガハルドもいる。目の前で自分を負かしたハウリア族が戦力強化を図っているのだが、特に何も言わない。というか言えない状況だった。フェアベルゲンの情報を極力渡さないように、魔力封じの枷を手足に付けられ、光と音を完全に遮断するハジメとカービィの力作お手製の仮面(黄土色)を被らされているからだ。

ちなみにハジメがスイッチを押せば(なんとか命がけで)録音したマイクカービィの歌が脳内で直接再生されるという地獄の設定だ。

ちなみにカービィは自分は歌が上手いぐらいに思っているので何も悪いことをしたと思って無い。ハジメに頼まれて歌っただけなのだから。

 

 

 この後、長老衆の面前で帝国の敗北の証明と誓約の説明をしたあと、ゲートによって即行で叩き返されるという予定である。このためだけに連れて来られた皇帝陛下――威厳も何もあったものではない。

 

「ふむ、これ以上、この場にいても仕方ないな。奥に案内しよう。アルテナ、頼むぞ」

「はい、お祖父様。さぁ、こちらです。カービィ様、南雲様」

 

 カムの演説のせいで、やたらと注目されてしまい挨拶どころではなくなってしまったので、アルフレリックは、アルテナに用意しておいた広間への案内を促した。

 

 それを受けたアルテナは、一つ頷くと、何故かハジメの手を取ってにこやかに案内をしようとする。それに、ユエ達の目がスッと細まった。たまたま手に取ったのがユエのいる右側ではなくシアのいる左側だったので、同じく、にこやかに微笑みながら、シアがハジメの手をさり気なく取り返す。

 

 シアとアルテナの視線が交わる。何故だが、バチバチと放電でもしていそうな幻聴が聞こえた。

 

「私達の・・・案内、お願いしますね。アルテナさん?」

「ええ、もちろんですわ、シアさん。でも、人が多いですから、逸れないように念のため手を引かせていただきますわね?」

 

 そう言って、アルテナはシアからハジメの左手を取り返そうとする。どうやら、カムの挑発が地味に効いているようだ。森人族のお姫様にあるまじき態度である。単に、ハジメに対して云々というより、シアに対する対抗心という面が強そうだが。

 

 「計画通り!」という様子でニヤリと笑うカムの様子から、その辺の事情を察したハジメが、にこやかに殺気を向けた。一瞬にして、カムが滝のような冷や汗を流す。

 

 ハジメは、ガクブルし始めたカムに溜息を吐きながら、しっかりシアの手を握り返した。

 

「あ……」

 

 シアが、思わず声を漏す。そして、次の瞬間には満面の笑みでギュッとハジメの腕ごと抱え込んだ。義手ではあるが、擬似的な神経が通っているので胸の谷間に埋もれた左腕から素晴らしい感触が伝わる。

 

 そんな嬉しそうなシアを見て、思わずハジメに目を向けるアルテナだったが、ハジメの目が「さっさと案内しろや」という冷めたものだったので、ガクッと肩を落とし、悄然と先導し始めた。最初から、共に旅をしてきたシアと大して接点のないアルテナでは天秤に乗ることすらないので、わかりきった結果である。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 案内された広間では、奥に長老衆が座り、その対面にカムを含めた幾人かのハウリア族が、その右側にガハルドを挟んでハジメ達とカービィ一行が座っている。

 

 既に、ヘルシャー帝国皇帝直々の敗北宣言により、ガハルドがした宣誓の内容は本人により確かなものだと長老衆に証言がなされた。これで、全ての長老が、ハウリア族の言葉を真実と認めたようだ。

 

「ふん。しかし、よくも一人でのこのこと来られたものだな。貴様は我等の怨敵だぞ。まさか、生きて帰れるとは思っていないだろうな?」

 

 長老の一人――虎人族のゼルが、敵地に一人でありながら、不遜な態度を崩さないガハルドを憎々しげに睨む。今にも飛び掛かりそうな雰囲気だ。

 

 しかし、そんな眼光を向けられてもガハルドはどこ吹く風である。

 

「はぁ? 思っているに決まっているだろう。まさか、本気で俺を殺せると思ってやしないだろうな。だとしたら、フェアベルゲンの頭はとんだ阿呆ということになるぞ?」

「なんだと、貴様!」

 

 激昂するゼルを、アルフレリックが抑える。

 

「ゼル、よせ。気持ちはわかるがな。ガハルドがここに来たのは、我等にハウリア族の成した事と誓約の効力を証明するためだ。それ以上でも以下でもない。ここで殺してしまっては、ハウリア族が身命を賭した意味がなくなってしまう」

「くっ……」

 

 悔しそうに顔を歪め、床に拳を叩きつけるゼル。

 

 ガハルドは、そんなゼルを見て鼻で笑う。場の雰囲気は最悪だ。ガハルドに、亜人を奴隷にしていたことに対する罪悪感や謝罪の念が皆無なのが原因である。しかし、ガハルドとしては、亜人は弱いから奴隷にされたのであり、ハウリア族は強かったから奴隷を解放できたというだけの話なのだ。

 

 長老や側近達がギラギラと殺意を宿した眼差しでガハルドを睨み、ガハルドが挑発的に笑うという状況が続く。

 

 そんな状況を問答無用にあっさりと打開したのはハジメだった。いい加減鬱陶しくなってきたのである。

 

「おい、ガハルド。あんたもういいぞ。さっさと帰れ」

「あ?」

 

 立ち上がったハジメは、疑問の声を上げるガハルドを無視して、ゲートを起動すると、むんずっとガハルドの首根っこを引っ掴んだ。

 

「お、おい! まさか、本当にこのまま送り帰す気かっ! ちょっと待て、折角、フェアベルゲンまで来たってのにっ、色々知りたいことがっ。それにお前のことも、って離せ! こら、てめぇ! 俺は皇帝だぞ! 引きずるんじゃねぇよ!」

 

 ジタバタと暴れるガハルドだったが、人外の膂力に勝てるはずもなく、容赦なくゲートの向こう側に放り投げられてしまった。

 

 確かに、皇帝自らハウリアのさせた誓約を認めることが連れてきた理由なので、既に用済みと言えばそうなのだが……「覚えてろよぉ! 南雲ハジメぇ~!!」とドップラーさせながらゲートの向こうへ消えていった皇帝陛下は、流石に哀れを誘うものだった。

 

 傍にいたリリアーナが妙に嬉しそうな表情で「皇帝なのに~、皇帝なのに~、その扱い~」とリズミカルに呟いていたりする。どうやら、自分と同じように雑な扱いをされたのが、仲間っぽくて嬉しかったらしい。

 

 最近、残念王女となりつつあるリリアーナに、傍らの雫が何とも残念そうな眼差しを向けていた。

 

 一方、長老、特にゼルなどは露骨にハジメを睨んでいる。「なぜ、皇帝を帰した!」とその眼光が物語っていた。答えるのも馬鹿らしい上に、ガハルドを帰してしまえば、正直、ハジメがここにいる意味もないのでさっさと出ていこうとする。

 

「待ってくれ、南雲殿。まだ、報いる方法が決まっていない。もう少し付き合ってくれないか」

「いや、なんもいらねぇから。視線も鬱陶しいし、出て行かせてもらうよ」

「そう言うな。これだけの大恩があって、何もしなければ亜人族はとんだ恥知らずになってしまう。せめて、今夜の寝床や料理くらいは振舞わせて欲しい。だから、もう少し頼む」

「……はぁ~、わかったよ」

 

 ハジメは面倒そうにしながらも、アルフレリックに頷き元の場所に座り直した。それを確認し、アルフレリックがカムに向き直る。

 

「さて、これでハウリア族の功績が確かに確認された。追放された身で、襲撃者共を駆逐し、尚且つ、帝国に誓約までさせ同胞を取り返した。我等は、お前達に報いなければならない。取り敢えず、ハウリア族の追放処分を取り消すことに異存のある者はいない。これは先の襲撃後の長老会議で既に決定したことだ。これからは自由にフェアベルゲンへ訪れて欲しい」

 

 追放処分の取り消し。それは以前、散々揉めた長老会議の決定を覆すに等しいものであり、それを認めたということは、それだけハウリア族の功績が大きいということだろう。

 

 しかし、当のカムは「そうか」と呟くだけで、特に喜んでいる様子はなかった。どうでもいいと思っているような態度だ。

 

「そしてだ。此度の功績に対しては、ハウリア族の族長であるカムに、新たな長老の座を用意することで報いの一つとすることを提案したい。他の長老方はどうか?」

 

 アルフレリックの言葉に、側近達が驚いたように目を見開いた。ここ数百年、現在の種族以外が長老の一座席を受けたことはないのだ。森人、虎人、熊人、翼人、狐人、土人が亜人族の最優六種族なのである。そこに兎人族を加えるというのは、亜人族の基準からすれば、まさに歴史的快挙とも言うべき種族の誉れなのである。

 

 アルフレリックの提案に、他の長老達は、一度顔を見合わせると頷き合い、賛成で満場一致した。

 

「ふむ、そういうわけだ。カムよ。長老の座、受け取ってくれるか?」

「もちろん、断る」

「「「「「……え?」」」」」

 

 なんだか、「新たな仲間を迎えよう!」みたいな清々しい空気が流れていたのだが、カムはあっさりそんな空気をぶった切った。長老達の目が点になる。まさか断られるとは思ってもみなかったようだ。

 

「……なぜか聞いてもいいか?」

 

 アルフレリックが、どうにか気持ちを持ち直し、亜人族として最高位の恩返しの何が気に食わないのか頭痛を堪えるようにして尋ねた。

 

「なぜも何も、そもそもお前達は根本的に勘違いをしている」

「勘違い?」

「そうだ。私が亜人族全体を助けたのはもののついでだ。我等が決起を決意したのは、あくまで同族である兎人族の未来を思ってのこと。他の亜人族は、言ってしまえば〝どうでもいい〟のだよ」

「……なんだと」

 

 淡々と語るカムに長老達は信じられないものを見るような目を向けている。

 

「故に、勘違いするな。我等ハウリア族は、決してお前達の味方ではない。もし、お前達が、此度の勝利に味をしめ、人間族への無謀な戦争を企てたり、武器道具の類を仕入れようと我等やボスに迷惑をかけるようなことがあれば……ハウリア族の刃は貴様達自身に向くと思え」

「わ、我等は、同胞ではないか! 同じ亜人族に刃を向けるというのか! まるで狂人ではないか!」

「ふん、兎人族を蔑んでいたのはお前達も変わらんだろうに。今更、親しげにされてもな。まぁ、そんな事はどうでもいい。とにかく、我等の刃は全て、兎人族の未来のために振るわれる。それだけ胸に刻んでおけばいい」

 

 言い切ったカムの表情は清々しい。後ろに控えるハウリア達もいい笑顔だ。長老に加えることで、自分達の力をいいように使えると思ったら大間違いだぞ! とその瞳が語っている。

 

 実際、そういう打算が全くなかったと言えば嘘になるので、アルフレリック達の表情は苦々しい。

 

「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」

 

 一方、ハジメの周り、カービィ周りに控えて事の推移を見守っていた者達は、一様に、ジト目をハジメに向けていた。「大切な者以外、知ったことか! 興味ねぇんだよ! ぺっ!」というカムの言動が、どこかの誰かさんにそっくりだったからである。

 

「まるで、亜人族から兎人族だけ独立したような言い方だな」

「アルフレリック、お前はいつでも的確だな。全く、その通り。これからは、兎人族は兎人族のルールでやっていく。フェアベルゲンのルールに組み込まれて、いいように使われるのは御免なのでな」

 

 カムの不遜な物言いに気の短いゼルや長老を蔑ろにされた側近達が激しく憤る。カムは涼しい顔だが、後ろに控える部下のハウリア達は「あぁ? やんのかゴラァ!」とチンピラのようにメンチを切っていた。

 

 そんな中、難しい表情で考え込んでいたアルフレリックは、まるで、かつてハジメを相手にした時のようにどこか疲れた表情でカムに話しかけた。

 

「では、カムよ。お前さん達を〝一種族にしてフェアベルゲンと対等である〟と認めるというのはどうだ。当然、長老会議への参加資格を有することにして。これなら、フェアベルゲンの掟にも長老会議の決定にも従う義務はなく、その上で、我等にも十分な影響力を持てる」

「ほほう~。まぁ、悪くはないな」

 

 アルフレリックの新たな提案に、「その言葉が聞きたかった!」とでも言うようにカムはニヤリと笑った。

 

 カムとしては、いつか帝国が侵攻して来た場合に備えて、フェアベルゲンとの繋がりは欲しいと考えていた。しかし、だからといってフェアベルゲンに組み込まれてしまうと長老会議を無視できなくなって自由に動くことができなくなってしまう。なので、あくまで同盟種族、あるいは外部機関的な立場がベストだと考えていたのだ。

 

 だが、それは当然、ハウリア族を優遇し過ぎであると反発の声が上がる。それに対してアルフレリックは、溜息を吐きながら答えた。

 

「彼等は、一部族だけで事を成したのだぞ? フェアベルゲンが総力を上げても出来ないであろうことを、だ。対等と認めるには十分な理由だと思うが? それに、このままではハウリア族と縁が切れてしまう可能性があるわけだが、その損失の度合いを測れないお前達ではあるまい。同盟という形をとれば、追放してしまった彼等とも、また縁を繋げるのだ。ならば、この程度のこと、成し遂げてくれたことの大きさに比しても、過剰とは言えまいよ」

 

 長老達は、ぐぬぬぬっという音が聞こえそうなくらい頭を捻ったが、結局、良案がでるわけでもなく、種族の矜持やら長老会議の威信やらを何とか押し込めて、アルフレリックの提案を呑む事になった。

 

「そういう訳で、カムよ。長老会議の決定として、ハウリア族に〝同盟種族〟の地位を認める、ということでよいか?」

「まぁ、認められようが認められまいが、我等のやることは変わらんが、そういうことでいいだろう。ああ、ついでに、大樹近辺と南方は我等が使うから無断で入ってくるなよ? 命の保障は出来んからな」

 

 カム、まさかの追加注文。

 

 というか勝手に自分達の土地を決めてしまった。流石のアルフレリックも頬がピクっている。ハジメの傍らでシアが顔を両手で覆ってしまった。父親の傍若無人ぶりが恥ずかしくなったらしい。家の父様がヒャッハーしてますぅ~と。

 

 その後、妙に疲れた顔をしている長老衆を残し、ハジメ達は大樹に向かうまでの間、フェアベルゲンで滞在するための部屋に案内された。

 

 町中は、未だ、帰還した亜人達への対処に大騒ぎとなっている。光輝達は、何か手伝えることはないかと飛び出していったが、ハジメ達はどこ吹く風と部屋でくつろぐことにした。

 

 ちなみに、リリアーナはほんの少し前に王国へ送り帰している。まだまだ、帝国との折衝は必要であるし、今回の一大事件についても報告し、王国なりの行動方針を決めなければならないからだ。

 

 なぜ、直ぐに帰らず、ついさっきなのかについては……単純な話だ。リリアーナに送り帰して欲しいと言われるまで、ハジメが彼女の存在を忘れていたからである。ゲートをくぐるとき、リリアーナの瞳に光るものがあったのは言うまでもない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 夜中。

 

 未だ、ちらほらと町中の喧騒が聞こえてくる。どこかで帰還を祝って宴会でもしているのかもしれない。

 

 そんな中、割り当てられた部屋で思い思いにくつろぐハジメ達。だが、若干一名、妙にそわそわとしている者がいた。

 

 シアだ。先程から、チラチラとハジメを見ては、何か考え込んでいる。

 

 もっとも、当の本人はユエに膝枕されたまま、うつらうつらと半ば夢の世界に旅立ちつつあるので、シアの様子には気が付いていない。流石に、数千人を運ぶのは骨が折れたようだ。ユエは、体を弛緩させてだれているハジメを優しく撫でながら、「ふむ」と少し首を傾げながらシアを横目に見る。

 

 次いで、ユエを羨ましそうに見ながらハジメの傍に陣取る香織とティオを見た。そして、もう一度「ふむ」と頷くと、おもむろに香織とティオに話しかけた。

 

「……香織、ティオ。膝枕したい?」

「え? 代わってくれるの?」

「む? もちろん、してみたいのじゃ」

 

 期待した目を向ける香織とティオに、ユエはフッと笑う。

 

「……聞いただけ」

「「……」」

 

 どこか小馬鹿にしたような笑みを口元に浮かべたユエ。それを見て、香織とティオの額に青筋が浮かんだ。さらに、ユエは「どうだ、羨ましいだろう?」とでも言うように、ハジメの頭をギュッと抱え込んだ。

 

「……ユエ、喧嘩売ってるのかな? かな?」

「ふふふ、妾、ちょっとカチンと来たのじゃ」

「……やるの?」

 

 ユエの挑発的な笑みに、二人が「昼間の続きなら受けて立つ!」といきり立った。ちなみに、昼間の勝負ではユエ・シアペアの勝利だったりする。

 

「……逃げる私を捕まえられたら、ハジメの隣、今晩は譲ってあげる」

「「!」」

 

 流石に、町中で模擬戦するわけにはいかないので、鬼ごっこを提案するユエ。そして、勝利のご褒美は破格だった。香織とティオのテンションが夜中にもかかわらずハイになる。

 

 ユエは二人の反応を確認すると、優しくハジメの頭を枕に置き、愛おしげに一撫でした。そして、重力を感じさせずにふわりと窓際まで跳躍すると、そのままダンスでもしているかのようにクルリとターンを決めつつ後ろ手に窓を開いた。

 

 その際、「何事?」と目を瞬かせているシアにチラリと視線を向けるとパチリとウインクする。シアは、それでユエの意図を悟ったらしく、小さく笑みを浮かべながら感謝を込めて頷いた。

 

「……ゲームスタート」

 

 その一言と共にユエはスッと窓の向こう側へ身を躍らせ、次の瞬間にはその姿を夜闇に溶け込ませて消えてしまった。

 

「くっ、絶対に捕まえるよ! 添い寝のために!」

「ふふ、負けんのじゃ!」

 

 気合一発。香織は銀の翼を、ティオは竜の翼を生やして窓から勢いよく飛び出していった。

 

 傍目には置いて行かれた形のシアだが、ユエがわざと香織達を挑発して二人を連れ出してくれたことは分かっていたので、有り難くチャンスを生かすことにする。いそいそと、ハジメの傍によると、優しく揺り起こした。

 

「ハジメさん、ハジメさん……起きてください」

「ん? どうした、シア。っていうかさっきユエ達が出て行ったっぽいんだが……お前は行かなかったのか?」

 

 夢現でも、魔力の流れを感じてユエ達が窓から出て行ったことは感知していたハジメが、なんでお前はいるんだと首を傾げる。

 

「え~と、それは何となく乗り遅れたみたいな、そんな感じです」

「……何となく、ねぇ」

「うっ。それより! みんな出ていってしまいましたし、私達も散歩がてら外出しませんか? 私、フェアベルゲンの中って知らないんですよね」

 

 シアは髪色のせいで人目に付けなかったので、フェアベルゲンに来たのはハジメ達と来たのが最初だったりする。その時も、直ぐに出ていくことになったので町中を知らないのだ。

 

「……まぁ、いいが」

「はい! 真夜中のデートですね! ……ちょっと卑猥な響きです」

「知らねぇよ」

 

 何となく、シアが話をしたがっているように感じて、本当はもう眠りたかったのだが、仕方なく付き合うことにしたハジメ。シアは、嬉しそうにハジメの腕にギュッと抱きついた。そして、二人で腕を組みながら真夜中のフェアベルゲンに繰り出した。

 

 十分ほど、他愛ない話をしながら二人並んで散歩をしていると、町中の喧騒が聞こえなくなるくらい遠くまでやって来たことに気が付く。そして、なにやら天井の樹々が淡青色に点々と輝く場所を発見した。

 

「あっ、モントファルタですよ、ハジメさん」

「モントファルタ?」

「はい、月明かりみたいな淡い青色に発光する蝶のことです。あんな風に群れて樹々の高いところに止まるので、まるで夜空に輝く星みたいに見えて人気なんですよ。ただ、いつどこであんな風に発光するか分からないので結構珍しいんです。一年に一回見られるか見られないかくらい」

「へぇ~、確かに綺麗なもんだな……」

 

 頭上を見上げる二人は、折角だからもっと近くで見ようと高い樹の上にヒョイヒョイと登っていき、太く座り心地のいい枝に並んで座った。しばらく、モントファルタの発するプラネタリウムのような光を堪能する。

 

 どれくらいそうしていたのか、おもむろにシアが口を開いた。

 

「あの、ハジメさん」

「ん?」

「有難うございました。色々、言葉にしきれないくらい……本当に有難うございました。あっ!もちろんカービィさんにも感謝してますけど…。」

「……ああ。たっぷり感謝してくれ。大迷宮攻略では期待してるからな。それに俺もカービィには助けられたからな。」

「ふふ。そこは普通、〝気にするな〟とか言うものじゃないんですか?」

 

 ハジメらしい返答に、シアがクスクスと笑う。しかし、直ぐに難しそうな表情になって、ハジメに視線を向ける。

 

「私、何をすればハジメさんとカービィさんに返せますか?」

「礼なら今受け取っただろう?それになら美味しいものをご馳走すれば喜ぶさ。」

「そんなの唯の言葉じゃないですか。私は、もっと形として恩返しがしたいんです。ハジメさんたちは、私が何をすれば嬉しいと感じてくれますか? ……2人が望むなら何だってします。本当に何だって……」

 

 シアはウサミミをピコピコと動かしながら、お尻をずらして隣に座るハジメにピトリと密着する。直ぐ傍でハジメを見つめる瞳は熱を孕んで潤んでおり、吐息は火傷しそうな程に熱い。言外に、シアが何を言っているのかをハジメは正確に理解していたが、敢えて気がつかない振りをする。

 

「……お前は、能天気に笑ってりゃいいんだよ。俺達のムードメイカーだろう?」

「もうっ、何ですか、能天気って! 皇帝の前で私のことを大切だって抱き締めたくせにぃ! ここは、『ならお前の体で礼をしてもらおうか、ぐっへっへっへ!』と言って私を襲う場面じゃないですか。空気読んで下さいよぉ」

「一度、お前の中の俺のイメージについて、とことん話し合う必要がありそうだな」

「一途という名のヘタレですぅ」

「そこは、普通に一途でいいだろうが」

 

 シアは、ぷくっと頬を膨らませて不満をあらわにした。しかし、直ぐに気落ちしたように項垂れる。ウサミミもペタリと力を失ったように垂れてしまった。

 

「……冗談抜きに、何かお礼をしたいんです。ハジメさん達と出会ってから、私はずっと貰いっぱなしです。ハジメさんもユエさんも笑ってくれればいいって言いますが、そんなの、お二人といるのが幸せな私からすれば自然なことで、全然お礼なんかじゃないです」

「だがなぁ、仲間だろ? いちいち、そんなこと考える必要ないと思うけどなぁ」

「親しき仲にも礼儀ですよ。ハジメさんにもユエさんにも、ちゃんとお礼がしたいんです。……色々、考えていたんですけど、中々思いつかなくて。ハジメさんは、私の体なんていらないっていうし……大切だって抱き締めたくせに、いらないって言うし……」

「やさぐれるなよ……」

 

 ハジメは、いじけるシアに困った表情になる。本当に、改めて恩返しがしたいと言われても、身内を助けるのは当然のことなのだから、一言「ありがとう」とでも言われれば十二分なのだ。

 

 だが、シアとしては、それではどうにも気持ちが収まらないらしい。

 

「ハジメさんが惚れてくれていれば、こんな苦労しませんのに。一杯、ご奉仕お礼しますのに……はぁ、仕方ありませんね。これまで以上に旅でお役に立てるよう頑張ることでお返しすることにします」

「そうか」

 

 シアは肩を竦めると、再び、頭上のモントファルタを眺めだした。

 

 その横顔を眺めながら、ハジメは、ふと、ガハルドの前でユエとシアを抱き寄せた時のことを思い出した。

 

 実を言うと、あれはほとんど無意識だった。気が付けば、二人共抱き寄せていたのだ。

 

 依然、〝特別〟だと断言できるような大きな気持ちはユエにしか抱いていない。それは断言できる。しかし、無意識にでも、シアを腕の中に閉じ込めたのは……

 

 そこまで考えて、ハジメは自嘲気味な笑みを浮かべた。

 

 何とも、まぁ、自分勝手なことだと思ったからだ。ユエに並ぶ者などいないと言いながら、シアに対して独占欲を持っているなんて、本当に身勝手である。気が付けば、シアの存在は随分と大きくなっていたらしい。少なくとも、ユエにそうしたように、無意識の内に離したくないと抱き寄せてしまうくらいには。

 

 ユエ以上の気持ちを誰かに抱くことはないだろうが、それでも、もはやシアに対する想いを誤魔化すことはできそうになかった。自覚してしまった以上、気がつかなかったことには出来ない。ならば、一生懸命頑張って、自分達について来た眼前の少女に相応の態度をとるべきではいか? ハジメは、ふと、そんな事を考えた。

 

「え、えっと、何でしょう? そんなにジッと見つめられると流石に恥ずかしいのですが……」

 

 気が付けば、シアが頬を真っ赤に染めながら恥じらうようにもじもじとしていた。ウサミミも「うぅ~、どうして見てるの~」というようにペタリと倒れながら、時折、ふにゃふにゃと動いてはハジメの方を向く。

 

 そんなシアに、ハジメは目元を和らげると、そっと手を伸ばした。そして、その恥じらうウサミミを優しく撫でる。

 

「ハ、ハジメさん?」

「……なぁ、シア。一つ、頼みがあるんだが……」

「頼み、ですか? もちろん、いいですよ! 何でも言って下さいですぅ」

 

 一瞬、ハジメの言葉に驚いたものの、シアは、少しでもお礼が返せるとニコニコしながら快諾する。

 

「いや、何、少し横になりたくってな。よかったら膝枕頼めないか?」

「ふぇ、そんなの頼まなくても、普通に使って下さい。さぁ、どうぞどうぞ」

「ありがとよ」

 

 シアは、ハジメの頼みに拍子抜けしたような表情をするものの、膝枕するのは嬉しいらしく、満面の笑みで自分の太ももをペシペシと叩いた。ハジメは、笑みを零しながら礼をいい、そのまま遠慮なく横になる。

 

 シアはミニスカートなので、直接、太ももの感触を感じる。温かくフニフニした感触が、柔らかくハジメの頭部を支える。仄かに、ユエとは似て非なる甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 

「ふふ、香織さんとティオさんに悪いですね。今頃、ハジメさんへの膝枕やら添い寝をかけてユエさんと勝負しているでしょうに、先に私が頂いてしまいました」

「まぁ、どうせユエが勝つから気にしなくていいんじゃないか?」

「そんな事言っちゃダメですよぉ。ハジメさんに惚れて欲しくて頑張っているんですから。ほんとに、いつになったらハジメさんは惚れてくれるんですかねぇ~」

「……諦める気は?」

「ないですねぇ~」

「そうか~」

 

 シアの手が優しくハジメの髪を撫でる。心地よい感触に、ハジメは目を細める。そして、お返しとばかりに、目の前に垂れ下がっているシアの髪を手に取り指で弄んだ。淡い青みがかった白髪は、頭上に輝くモントファルタの発光色と相まって実に神秘的だ。

 

 今のハジメとシアを見た者がいたのなら、きっと砂糖を吐きそうな顔をするに違いない。それくらい、二人の醸し出す雰囲気は甘かった。そう、まるでハジメとユエの作り出す世界のように。

 

 しかし、残念な事に、ユエを見ていつか自分もと願った雰囲気を既に作り出せていることに、シア自身は全く気がついていなかった。その辺、やはりシアは残念ウサギなのかもしれない。

 

 当の本人は気がつかず、それでも甘やかな時間は優しく流れる。モントファルタの月光が照らす中、ハジメとシアはしばらくの間、二人っきりの時間を楽しむのだった。

 




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道中:カービィ視点

久しぶりにカービィ視点を書くので変だったら指摘してください。

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UA 42,488
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80話突破!

これからもよろしくお願いします!


体に纏わりつくような濃霧の中を、迷いのない足取りでボクたちは進む。

 

ボクとシアを先頭にボクたちは、大樹に向かっている。

 

フェアベルゲンに到着してから二日目に、ちょうど大樹への道が開ける時期になったみたいだ。

 

行く途中、当然のように樹海の魔物が霧に紛れて奇襲を仕掛けて来た。

しかし、けどボク達そしてハウリア達は一切対処せず、全て光輝達に任せている。

どうしてかというとハジメによると【ハルツィナ樹海】の大迷宮がどのような試練を用意しているかわからないから初挑戦の彼等に樹海の魔物でウォーミングアップをしていてもらおうというわけだ。

 

でも樹海の霧は亜人族以外の種族の感覚を著しく狂わせるため、【オルクス大迷宮】での魔物の戦闘とは勝手が違うから、光輝達は少し苦戦しているみたいだった。

 

 

おちょくるようにヒット&アウェイを繰り返し、濃霧を最大限に生かす魔物に龍太郎などは露骨に苛立っていた。

 

「……そこ! こうやって……こう!」

 

 そんな中、光輝達と混じって戦闘を繰り返しているのは香織だ。

 

 香織は未だ完全にノイントの体を使いこなしきれていないので自主的に鍛錬しているのである。ハジメによるとノイントの体は濃霧の影響も余り受けないようで、感覚の調整とノイントの戦闘経験・技能のトレースにはちょうどいいらしい。

 

 今も、銀色に輝く翼をはためかせながら、銀羽を飛ばして魔物を撃退している。銀羽の誘導も大分慣れてきたようで、まるでホーミングミサイルのように魔物を追跡し一瞬で分解・消滅させている。

 

「やっ!」

 

 更に、掛け声と共に銀羽をくぐり抜けて接近してきた魔物を、一瞬で取り出した銀光を纏う大剣の一振りで綺麗に両断した。

 

 まだ、ノイントのように双大剣を自在に振り回すことは難しいようだが、一本だけならかなりの腕前となっている。少なくとも〝剣士〟を自称しても何ら恥ずかしくはないレベルだ。

 

「大分、慣れてきたみたいだな。毎日、ユエと喧嘩しているだけの事はある」

「……スペックが異常。うかうかしていられない」

 

 ハジメが、「ふぅ~」と息を吐いて残心を解く香織の姿を見ながらポツリと呟いた。

 

「そんな事ないよ。魔法はまだ実戦だと使い物にならないし、分解も集中しないと発動しないし……ユエからは一本も取れないし」

 

 ハジメとユエの会話が聞こえてたみたいで、歩み寄りながら香織が唇を尖らせる。早く強くなりたいのに、そのイメージはあるのに、思う通りにいかなくてもどかしい……そんな気持ちが表情に出ている。

 

ボクだってこの世界に来てから何回も力不足を感じた。

今だって新しいコピー能力が増えてもみんなを守れる訳じゃない。

清水と言う人はボクがなんとか生き返らせたけどそれでもまだ安全な場所は無い。

マホロアが言うにはボクたちがこの世界に来てから時空が歪みだしてこの世界とプププランドの融合がいつか始まってしまうみたいだ。

マホロアがこの世界に来た理由を聞いた時信じられないと思った。

二度マホロアに騙されたからだ。でもマホロアの目は本気だった。

だからボクはマホロアだって友達だから信じることにした。

 

 

 

 




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紛い物

お久しぶりです。

ようやく続きを書けそうです。

大変お待たせしました。

感想をぜひお願いします。



「大丈夫だ、雫。大迷宮さえクリアできれば、俺達だってカービィは兎も角、南雲くらい強くなれる。いや、南雲が非戦系天職であることを考えれば、きっと、もっと強くなれるはずだ」

「だな。どんな魔法が手に入るのか楽しみだぜ」

「うん、頑張ろうね!」

 

カービィやハジメの強さは神代魔法だけが要因ではないのだが、その辺はスルーして光輝がグッと握り拳を作った。龍太郎や鈴も気合十分なようだ。

 

「みなさ~ん、着きましたよぉ~」

 

 光輝達が燃え上がっていると、シアが肩越しに振り返りながら大樹への到着を伝える。濃霧の向こう側へ消えていくシアを追ってカービィ達も前へ進むと霧のない空間に出た。前方には以前見た時と変わらない枯れた巨大な木がそびえ立っている。

 

「これが……大樹……」

「でけぇ……」

「すごく……大きいね……」

 

 頭上を見上げ、大樹の天辺が見えないこと、横幅がありすぎて一見すると唯の壁のように見えることに口をポカンと開けて唖然とする光輝達。きっと、初めて訪れたとき自分達も同じような表情になっていたのだろうなと、ハジメとユエ、カービィは顔を見合わせて小さく笑みをこぼした。

 

 ハジメは、〝宝物庫〟から今まで攻略して来た大迷宮の証を取り出しながら根元にある石版のもとへ歩み寄る。石版も以前と変わらず、七角形の頂点に七つの各大迷宮を示す紋様が描かれており、その裏側には証をはめ込む窪みがあった。

 

 しゃがみこみながら、ハジメが計五つの証を掌で弄んでいると、光輝達もようやく大樹の偉容から解放されて正気を取り戻しハジメのもとへ集まって来た。ここからは何が起こってもおかしくない本当の魔境だ。気を引き締めろと、ハジメは鋭い視線を光輝達に飛ばした。

 

「カム、何が起こるかわからないからハウリア族は離れておけ」

「了解です、ボス。ご武運を」

 

 フェアベルゲンとの交渉で、大樹近辺から南方はハウリア族の土地になったので付いてきたカム達だったが、ハジメの言葉に少し残念そうな表情になりつつ、それでも一斉にビシッと敬礼を決めて散開していった。

 

 それを確認すると、ハジメはおもむろに【オルクス大迷宮】攻略の証である指輪を石版の窪みにはめ込んだ。一拍置いて、石版が淡く輝き出し文字が浮き出始める。

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「これも前と同じだな。使う証は……【神山】以外のでいいか」

 

 ハジメは呟きながら一つずつ証を石版にはめ込んでいった。【ライセンの指輪】【グリューエンのペンダント】【メルジーネのコイン】……

 

 一つはめ込んでいく度に石版の放つ輝きが大きく強くなっていく。そして、最後のコインをはめ込んだ直後、その輝きが解き放たれたように地面を這って大樹に向かい、今度は大樹そのものを盛大に輝かせた。

 

「む? 大樹にも紋様が出たのじゃ」

「……次は、再生の力?」

 

 ティオが興味深げに呟いた通り、大樹の幹に七角形の紋様が浮き出ていた。トコトコとその輝く紋様に歩み寄ったユエは、そっと手を触れながら再生魔法を行使する。

 

 直後、

 

パァアアアアア!!

 

 今までの比ではない光が大樹を包み込み、ユエの手が触れている場所から、まるで波紋のように何度も光の波が天辺に向かって走り始めた。

 

 燦然と輝く大樹は、まるで根から水を汲み取るように光を隅々まで行き渡らせ徐々に瑞々しさを取り戻していく

 

「あ、葉が……」

 

 シアが、刻々と生命力を取り戻していく大樹にうっとりと見蕩れながら頭上の枝にポツポツと付き始めた葉を指差す。まるで、生命の誕生でも見ているかのような、言葉に出来ない不可思議な感動を覚えながら見つめるカービィ達の眼前で、大樹は一気に生い茂り、鮮やかな緑を取り戻した。

 

 少し強めの風が大樹をざわめかせ、辺りに葉鳴りを響かせる。と、次の瞬間、突如、正面の幹が裂けるように左右に分かれ大樹に洞が出来上がった。数十人が優に入れる大きな洞だ。

 

 カービィ達は顔を見合わせ頷き合うと、躊躇うことなく巨大な洞の中へ足を踏み入れた。

 

 ハジメが少し懸念していたこと――実際に四つ以上の大迷宮を攻略していないメンバーは樹海の大迷宮に挑戦できないのではないかという点については、どうやら杞憂だったようである。問題なく全員が洞の中へ入ることが出来た。

 

今回のメンバーは全員で挑む。

数秒後ローアがやって来てマホロア達もやって来た。

 

 おそらく他の大迷宮と同じく、「入りたければ、あるいは入れるものなら入ればいい。但し、生きて出られる保証は微塵もないけど」というスタンスなのだろう。

 

 ハジメは視線を巡らせる。だが、洞の中は特に何もないようだった。ただ大きな空間がドーム状に広がっているだけである。

 

「行き止まりなのか?」

 

 光輝が訝しそうにポツリと呟く。

 

 直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始めた。

 

 徐々に細くなっていく外の光。思わず慌てる光輝をハジメが一喝する。入口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、咄嗟にユエが光源を確保しようと手をかざした。が、その必要はなかった。

 

 なぜなら、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発したからだ。

 

「うわっ、なんだこりゃ!」

「なになに! なんなのっ!」

「騒ぐな! 転移系の魔法陣だ! 転移先で呆けるなよ!」

 

 動揺する龍太郎や鈴にハジメが注意した直後、彼等の視界は暗転した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「っ……ここは……」

 

 再び光を取り戻したハジメ達の視界に映ったのは、木々の生い茂る樹海だった。大樹の中の樹海……何とも奇妙な状況である。

 

「みんな、無事か?」

 

 光輝が軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し仲間の安否を確認した。それに雫達が「大丈夫」と返事をする。全員が問題はないようで、周囲を警戒し鋭い視線を飛ばしている。

 

「南雲、ここが本当の大迷宮なんだよな? ……どっちに向かえばいいんだ?」

 

 ハジメ達が飛ばされた場所は、周囲三百六十度、全てが樹々で囲まれたサークル状の空き地であり、取るべき進路を示す道標は特に見当たらなかった。

 

 頭上は濃霧で覆われているので飛び上がって上空から道を探すことは出来そうにない。なので、光輝はどうしたものかと大迷宮経験者であるハジメに尋ねたのだ。

 

「……取り敢えず、探すしかないな」

 

 ハジメは、どこか不機嫌そうな表情でそれだけ呟くと、近くの木の幹に手を当て〝追跡〟を発動する。魔力的なマーキングがなされ、進行方向を示すように矢印型の紅い光が木に貼り付いた。

 

 それを見て光輝達が頷く。目印を残しながら探索するしかないと理解したようだ。そして、大迷宮の試練をクリアしたのだと認められなければ神代魔法を授かれないと聞いていたので率先して歩き出した。

 

 ぞろぞろと、他のメンバーもその後を付いて行く。しかし、ハジメだけは、どこか瞳に冷たさを宿しながら何故かその場を動かない。歩き出して、それに気がついたシアが頭上に〝?〟を浮かべてハジメの方へ振り返った。

 

「……ハジメさん? どうし――」

 

 シアが、ハジメに声をかけた……その瞬間、

 

シュバッ!

「コピー能力バーニング!」

 

 そんな風切り音が響いたかと思うと、一瞬でユエとティオ、、龍太郎、そしてマホロアたち、がワイヤーに巻き付かれた挙句、両端の球体が空中で固定され拘束されてしまった。ハジメが、神速で〝宝物庫〟から拘束用アーティファクトであるボーラを取り出し投げつけたのである。

そしてカービィはそれにバーニングで体当たりした。

 

 ジタバタともがくユエ、ティオ、龍太郎、マホロア達、そんな彼女達を見て光輝達が唖然とする。しかし、直ぐに正気を取り戻すとキッと音がしそうな強い眼差しをハジメに向けた。

 

「南雲!カービィ! 一体、なんのつもりだ!」

 

 光輝が思わず怒声を上げる。雫達もどこか緊張したような表情でハジメに視線で事情説明を求めた。

 

「……少し黙ってろ」

「わからないの?」

 

 しかし、ハジメとカービィはそれだけ言うと光輝達の疑問には答えずユエのもとへ無言、無表情でスタスタと歩み寄った。

 

 そして、自分を困惑したように見上げるユエの額にゴリッとドンナーの銃口を押し付けた。その瞳には絶対零度の冷たさが宿っており、ハジメが激烈な怒りを抱いていることが示されていた。

 

「ハジメ……どうしっ」

 

 ユエが、自分に銃口を向けるハジメを見て信じられないといった表情をする。そして、ハジメの名を呼びながら疑問の声を上げようとした。

 

 が、その直後、

 

ドパンッ!

 

 ハジメは躊躇うことなくドンナーの引き金を引いた。樹海に、乾いた炸裂音が木霊する。一応、銃口は額から外されてユエの肩に向けられていたが、それでもハジメが最愛の恋人を撃ったことに変わりはない。

 

 その事実に、光輝達は当然のことシア達は激しく動揺する。カービィはニンジャで分身してシアたちを足止めする。

そして、ハジメの正気を疑うような眼差しを向けた。

 

「な、何をやってるの! 南雲くん!」

「ハジメくん! やめて!」

 

 光輝がハジメを取り押さえようと今にも飛びかかりそうな雰囲気だったが、それは、次ぐハジメの言葉で霧散することになった。

 

「許可なくしゃべるな、偽物。紛い物の分際でユエの声を真似てんじゃねぇよ。次に、その声で俺の名を呼んでみろ。手足の端から削り落とすぞ」

「ボクは騙されないよ!」

 

 ハジメとカービィが声を発した瞬間、まるでその場が極寒の地にでもなったかのように冷気で満たされた。実際に気温が下がっているわけではない。その身から溢れ出る殺意が、生命の発する熱を削ぎ落としているのだ。心なし、周囲が暗くなった気さえする。余りに濃密な殺意に、光輝達の呼吸が自然と浅くなり冷や汗が滝のように流れ落ちた。

 

「お前は何だ? 本物のユエは何処にいる?」

「……」

 

 ユエの姿をした〝何か〟は表情をストンと落とすと無機質な雰囲気を纏って無言を貫いた。〝何者〟ではなく〝何か〟なのは、撃たれた肩から血が流れ落ちないからである。明らかに〝人〟ではなかった。

 

ドパンッ!

 

 ハジメは、今度は逆の肩を撃ち抜く。しかし、ユエの偽物は表情一つ変えることはなかった。どうやら痛覚がないらしい。ノイントよりも尚、人形のようなイメージを受けるそれは、あるいは本当に意思を持っていないのかもしれない。

 

「答える気はないか。……いや、答える機能を持っていないのか。ならもういい。死ね。カービィ!」

「コピー能力ガン!」

 

ドパンッ!

 

パァン!

 

 ハジメは、ドンナーの銃口をユエの額に向けると今度こそ頭部をレールガンで撃ち抜き吹き飛ばした。

カービィはコピー能力ガンを使いユエの形をした物を蜂の巣みたいにした。

 

ユエ(偽)の後方に、何かがビチャビチャと飛び散る。

 

 思わず顔を背ける雫達だったが、堪えてよく見てみれば飛び散ったのは脳髄などではなく赤錆色のスライムのようなものだった。頭部を失ったユエ(偽)の胴体は、一拍おいてドロリと溶け出すと、同じように赤錆色のスライムに戻りそのまま地面のシミとなった。

 

 ハジメとカービィは続けてボーラで拘束しているティオと龍太郎の頭部も撃ち抜く。弾け飛んだ二人に思わず総毛立つ光輝達だったが、やはりユエ(偽)と同じように赤錆色のスライムに戻るとそのまま地面に吸い込まれていった。

 

カービィはコピー能力クリエイト『ガン、ガン、ガン、ガン』でマホロア達の偽物を撃ち抜いた。

 

「チッ。流石大迷宮だ。いきなりやってくれる……」

 

 ハジメがドンナーをホルスターに仕舞いながら悪態を吐く。

 

「ハジメさん、カービィさん……他の人達は……」

「転移の際、別の場所に飛ばされたんだろうな。僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持っている赤錆色のスライムに記憶でも植え付けて成り済まさせ、隙を見て背後からって感じじゃないか?」

 

 ハジメが恋人をダシにされて不機嫌そうに表情を歪ませる。ハジメの推測を聞いて雫と鈴が感心したように頷いた。

 

「なるほどね。……それにしてもよくわかったわね」

「うんうん、鈴には見分けがつかなかったよ。二人ともどうやって気がついたの?」

 

 鈴が、また成り済ましで仲間に紛れられたら困るとハジメに見分け方を聞いた。光輝もはぐれた親友の安否を気にしつつ興味深げにハジメを見やった。

 

 そんな疑問に対するハジメの答えは……

 

「どうって言われてもな。……見た瞬間、わかったとしか言いようがない。目の前のこいつは〝俺のユエじゃない〟って」

「「「「「……」」」」」

 

ある意味、惚気とも言えるような回答に全員がガクッと脱力した。

 

「ボクも見た時にわかったかな。なんか…違う人の雰囲気で…、ボクの星にも、鏡の大迷宮って場所でボクと同じような姿と能力を持ったひとがいたから。(鏡の大迷宮のシャドウカービィや色違いのカービィの事)たとえ見た目が違ってもボクはわかったって所かな…。」

 

「「「「「!?」」」」」

 

カービィの回答に予想外だった全員は驚いた。

 

「じゃあ、他の皆さんは?」

 

「一度、偽者がいるって分かれば、後は注意して見れば〝魔眼石〟で違和感を見抜くことは出来るんだよ。だから、今後は俺といる限り心配無用だ」

 

 そうですかぁ~と、光輝達はどこか呆れたような眼差しをハジメに向けた。そんな中、シアが何か思いついたようにハッとすると、もじもじしつつ期待を含めた眼差しでハジメに問う。

 

「あの、ハジメさん、カービィさん……私でも、見た瞬間に気づいてくれますか?」

「!」

 

 シアの問い掛けに隣の香織が反応し、視線で「私はどうかな?」と問いかける。何となくハジメに視線が集まる。微妙に甘酸っぱい雰囲気の中、ハジメは特に気負った様子もなくあっさり答えた。

 

「さぁ? 見た瞬間は無理じゃないか?」

「「……」」

「ボクはわかるよ!」

 

 普通は空気を読んで「もちろん、気が付くに決まっているだろ?」と答えるべき場面であるが、そこはハジメクオリティー。容赦なく思ったことをそのまま伝える。

カービィは自信を持って答えた。

 

 思わずジト目になるシアと香織だったが、そんな二人の視線などどこ吹く風といった様子でハジメは樹海の奥へスタスタと進み始めてしまった。

 

「神経が太すぎるのも考えものね……」

「あぅ、カオリン、シアシア、元気だして!」

「香織は本当に、何だってあんな奴を……」

 

 ハジメとカービィの後に続きながら、雫達が頬を膨らませて不機嫌さをアピールしている香織とシアをチラ見する。一行は最初から色々問題を抱えつつ樹海の中へと足を踏み入れるのだった。

 

 ちなみに、内心では「シアなら分かる」と、ハジメは思っていたりするのだが……素直に態度で示そうと決めたばかりなのに、つい素っ気なくしてしまうところはやはりハジメもツンデレと言えるかもしれない。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ブゥウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!

 

 まるで扇風機を最大速で動かしているような、そんな音が樹海に響く。一つや二つではない。おびただしい数のそれは羽音だ。超高速で羽ばたかれる半透明の羽が、既にそれ自体攻撃になりそうな騒音を撒き散らしているのだ。

 

「うぅ~、キモイよぉ~、〝天絶ぅ〟!」

「泣き言いわないの! 鈴、そっち行ったわよ!」

「くっ、素早い! 〝天翔剣〟!」

 

 鈴が相対する魔物の姿に生理的嫌悪感を抱いて泣きべそをかく。

 

 それも仕方ないかもしれない。何せ、羽音の元は幼児サイズの〝蜂〟だったからだ。フォルムを例えるならスズメバチだろう。超巨大な蜂型の魔物が、強靭な顎と尾の針を凶器に群れをなして襲いかかって来ているのだ。

 

 黄色と黒の毒々しい色合いと、ギチギチと開閉される顎、緑色の液体を滴らせる針、わしゃわしゃと不気味に動く足、そして赤黒い複眼……確かに直視は避けたい生き物だ。

 

 しかも、この蜂型の魔物、動きがやたら素早く群れで連携までとってくるので厄介なことこの上なかった。更に、尾の針は射出可能で飛ばした直後には新しいものが生えてくるので、中距離からマシンガンのように掃射されると厄介どころでは済まない脅威であった。

 

 何とか鈴の障壁が毒針の攻撃を防ぎ、雫が速度で相手の連携を崩して、生まれた隙に光輝が強力な一撃を叩き込むという方法で対抗しているが、視界を埋め尽くす蜂の群れは一向に減った様子がなかった。

 

「くそぉ、こいつら、まるで魔人族の魔物みたいだ!」

「いや、逆だろう? 奴らの魔物が大迷宮の魔物に近いんだ」

 

 必死の形相で聖剣を振るう光輝が、少し前に経験した修羅場を思い出して思わず悪態を吐いた。大迷宮の魔物の強さに余裕が全くないようだ。

 

 そんな光輝の背後から今にも奇襲を仕掛けようとしていた体長二メートルはあるカマキリ型の魔物を、歯牙にもかけずに瞬殺しながらハジメがツッコミを入れた。

 

 ハジメから少し離れた場所では、シアが、これまた三メートルはありそうな巨大なアリ型の魔物をドリュッケンの一撃で地面ごと爆砕し周囲に屍の山を築いている。香織も負けずに、次々と銀羽を飛ばして既に三十体近い蜂型の魔物を分解・撃墜していた。

 

 光輝は視界に入ったその光景を見て、改めてハジメ達との実力差を感じ悔しそうに歯噛みする。

 

「〝天絶ぅ〟〝天絶ぅ〟! もう、ダメだよっ。押し切られちゃう!」

 

 既に半泣きの鈴が展開する幾枚もの輝くシールドは、破壊されては新たに作り出されてを繰り返し、鈴の魔力を容赦なく削り取っていく。

 

 〝天絶〟は、確かにシールド自体の強度はそれほどでもなく展開数を重視した障壁ではあるが、それでも〝結界師〟である鈴が張るものであり並みの魔物なら一枚割るにも数度の攻撃が必要なくらいの強度があるのだ。

 

 しかし、蜂型の魔物が射出する毒針の前では文字通り紙屑のように一瞬で破壊されてしまい、鈴は現在、かつてない速度での障壁展開を余儀なくされていた。

 

 少しずつ、少しずつ、障壁の展開が遅れがちになり飛んでくる毒針が徐々に距離を詰めてくる光景は、まるで真綿で首を絞めるかのように鈴の精神にもダメージを与えていた。

 

「奔れ、〝雷華〟! 刻め、〝爪閃〟!」

 

 雫の詠唱と共に、宙に雷の華が咲き、風の爪痕が刻まれる。黒刀の能力をいかんなく発揮させ迫る蜂型の魔物に振るっていく。

 

 その鋭い太刀筋は、確かな手応えと共に蜂型の魔物を切り裂いていった。スピードファイターである雫と蜂型の魔物は相性がいいのだろう。〝無拍子〟を利用した緩急自在のスピードで連携を乱しつつ、一体一体確実に屠っている。

 

 しかし、蜂型の魔物の強みはその数の多さだ。倒すことは出来ても雫には圧倒的に殲滅力が足りなかった。それ故に、戦局は徐々に押され始めており、それに気がついている雫の表情は苦々しい。

 

「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け! 〝光刃〟!」

 

 光輝が、雫のおかげで出来た隙に詠唱し、聖剣に光の刃が宿らせる。

 

 その光刃は、聖剣の先から更に伸長し二メートル近い長さとなった。光輝は、巨大な光の刃を振りかぶると体を回転させながら一気に振り抜き周囲の蜂型の魔物を纏めて切り飛ばす。

 

 しかし、隙の大きいモーションをとってしまったために技後硬直を狙われ魔物が殺到。体当たりを受けて後方へひっくり返ってしまった。

 

「くっ、このっ!」

「光輝!」

 

 顎をギチギチ鳴らしながら毒針を突き刺そうとする蜂型の魔物だったが、幸い、光輝の纏う聖なる鎧が針を寄せ付けず、光輝はその隙にどうにか頭部を切り飛ばして起き上がろうとした。

 

 雫の心配する声に応える余裕もない。次の瞬間には、再び大量の魔物が体勢を立て直しきれていない光輝に襲いかかったからだ。

 

「うぉおおおお!」

 

 雄叫びを上げながら聖剣を振る光輝だったが、一度晒してしまった決定的な隙を簡単に立て直しさせるほど大迷宮の魔物は甘くない。遂に、聖剣を掻い潜って背後に回り込んだ蜂型の魔物が、そのスパイクのような足でがっちり背中に組み付き、凶悪な顎で光輝の首筋を噛み千切ろうとした。

 

「ッ!?」

 

 声にならない悲鳴を上げる光輝。

 

 刹那、

 

ドパンッ!

 

 銃声一発。

 

 今まさに蜂の顎が光輝の首に突き刺さろうとした瞬間、横合いから空を切り裂いて閃光が迸り、蜂型の魔物の頭部をあっさりと吹き飛ばした。

 

 その余波でフラつく光輝は、首筋に感じるヒリヒリした熱さを無視して取り付いている蜂型の魔物の残骸を引き剥がす。九死に一生を得たものの、更に群れをなして押し寄せる魔物に光輝の頬が引き攣った。

 

――押し切られる

 

 そう確信した。そんな光輝の耳に何の焦りも感じていない声が届く。

 

「動くなよ、天之河」

 

 直後、無数の流星が蜂型の魔物を容赦の欠片もなく無慈悲に蹂躙した。

 

ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン!

 

 一発分に聞こえる銃声は、その実、六条の閃光を生み出している。

 

 紅く輝く光の槍は、たった一発で射線上の魔物達を後方まで貫き一瞬で絶命させた。更に、計算され尽くした射角で解き放たれた弾丸は、あろう事か空中で他の弾丸とぶつかり、微妙に角度を変えた上で、より効率的に敵を撃ち抜いていく。

 

 見方によれば、まるで敵の方が自ら弾丸に飛び込んでいるようにすら見えた。そんな絶技とも言うべき銃技で、光輝が散々苦労した魔物を圧倒するハジメは、手元に転送した弾丸をガンスピンさせて次々とリロードしながら、更にドンナー・シュラークを乱れ撃つ。

 

 ……全ての片がつくのに一分もかからなかった。まさに秒殺。

 

 瞬く間に蜂型の魔物を殲滅してしまったハジメは何事もなかったようにドンナー・シュラークをホルスターに仕舞うと、呆然とする光輝達を放置して倒した魔物に近寄った。

 

「ちっ、喰っても意味なさそうだな……」

「く、喰う? えっ、南雲くん、これを食べるつもりだったの? 本気で?」

 

 思わず、先の蹂躙劇を忘れてドン引きしながら雫が聞いた。

 

「言ってなかったか? ……自分と同等以上の魔物を喰うとな、相手の固有魔法を自分の物に出来ることがあるんだよ。奈落の底じゃあ、喰うものなんて魔物くらいしかなかったからな。あぁ、お前らは真似するなよ。まず間違いなく死ぬから」

「頼まれたってしないわよ。改めて聞くと本当に壮絶ね……」

 

 雫が、どこか複雑そうな眼差しをハジメに向けた。本当に頼りになるし今まで何度も助けられてきたのだが、その強さのもとが余りに壮絶な経験の果てのものであると改めて実感し、素直に感心していいものか迷ったのである。

 

「で、でも、じゃあ何でこれは食べないの? いや、鈴としては、そんな捕食シーンは見たくないから食べないにこしたことはないんだけど……」

「今、言っただろう? 自分と同等以上じゃないと意味ないって。この辺の奴等じゃあ雑魚すぎるんだよ。それにカービィに料理してもらうから大丈夫だ。」

「……そっかぁ~。南雲くんにとって、この魔物は雑魚なんだぁ~。そっかぁ~、アハハ」

「鈴、気持ちはわかるから壊れないで。戻ってきなさい」

 

 若干、壊れ気味に乾いた笑い声を上げる鈴を、雫が嘆息しながら正気に戻す。

 

「……」

 

「コピー能力コック!」

カービィはカンカンと調理道具を鳴らし鍋に素材を入れてハジメに食べ物を渡す。

 

 そんな中、光輝だけはハジメが撒き散らした魔物の残骸をギュッと拳を握りながら見つめていた。自分が危うく死にそうになる程の強敵を相手に、まるで何の価値もない路傍の石の如き評価を下すハジメを見て、その隔絶した実力差を嫌というほど感じているのだ。気がつかないふりをしているが、心の内には、かつて感じた黒い感情が湧き出している。

 

 無言で佇む光輝をハジメはチラリと見やった。

 

「……天之河」

「っ。な、何だ?」

「今は、お前の幼馴染を探し出すことだけ考えとけ。あれこれ悩むのは、やることやってからで十分だろ」

「あ、ああ。そうだな、早く龍太郎達を見つけないとな……」

 

 多少どもりながらも、ハジメの言葉にしっかりと頷く光輝。行方不明の幼馴染を思って気を引き締め直す。

 

 ハジメは、そんな光輝をしばらく見つめたあと興味を失ったように視線を逸らした。

 

 実のところ、ハジメには光輝が今感じているものが何なのか手に取るように分かっていた。劣等感や焦燥感、強さへの嫉妬……かつて、ハジメも感じたことのある感情だ。

 

 まさか、何でも持っている光輝が、そんな感情をよりにもよってハジメに感じるとは何とも皮肉な話である。そんな事を思いつつもハジメに光輝を慮る気持ちは皆無なので、あっさりスルーした。先の言葉だけでもハジメからしてみれば大盤振る舞いなのである。

 

「ハジメさん、向こうは掃討しましたよぉ~」

「ふぅ、こっちも終わったよ」

 

 そうこうしている内に、香織とシアも魔物を片付け終わって戻ってきた。

 

「よし。それじゃ、出発するか。ユエとティオのことだから大丈夫だとは思うが、少しでも早く合流できるに越したことはないからな。坂上は……まぁ、なるようになるだろう」

「ちょっ、龍太郎の扱いが雑すぎない? いえ、恋人が大事なのはわかるのだけど……」

 

 ハジメの物言いに雫が困った表情でツッコミつつ、一行ははぐれた仲間を探して樹海の奥へと進んでいった。

 

 




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たとえ姿が変わろうが

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ズドォオオオン!! ドォゴォオオン!! ゴォバァア!!

 

 樹海の中に地を揺らす程の轟音が幾度となく響き渡り、生息する生き物が半ば恐慌に陥ったかのように爆心地からの必死の逃亡を図っていた。

 

「オラァ!! 森ごと果てろやァ、ドカス共がァ!!」

 

 絶えず響き続ける轟音に混じって、そんなガラの悪い叫びが聞こえる。

 

 声の主はハジメだ。

 

 ついでに、轟音を撒き散らしながら現在進行形で樹海を爆撃しているのもハジメだ。額に青筋を浮かべ、両手にオルカンを持ってロケットやミサイルを乱発している。

 

「あ、あの、ハジメさん、もうそれくらいで……」

「そ、そうだよ、ハジメくん。きっとあの魔物も、もう死んじゃってると思うし……」

 

 狂乱とも取れる激しい怒りを隠しもせずに、既に数百発のロケットとミサイル及び、クロスビットによって上空から降らせたクラスター爆弾を前方の森に放ち続けているハジメに、オロオロしながらシアと香織が制止の声をかける。

 

 しかし……

 

「あ゛ぁ゛?」

「いえ、何でもないです」

「うん、邪魔してごめんなさい」

 

 血走った目で振り返ったハジメに、二人は即行で前言を撤回してすごすごと引き下がった。

 

「うぅ……怖いよぉ。シズシズぅ、止めてよぉ~」

「無茶言わないで、鈴。私だってまだ死にたくないわ。まぁ、彼が怒るのも無理はないと思うけど……」

 

 ガクブルしながら雫に抱きつく鈴をなだめながら、雫は深い溜息を吐いた。そして、チラリと傍らに目をやる。そこには、涙を流しながら両手で自分の目を抑えつつ、うずくまっている光輝の姿があった。

 

「目がぁ~、目がぁ~。ちくしょう、南雲の奴めぇ! いきなり、何すんだよぉ!」

 

 まるで何処かの大佐のような苦悶の声を上げる光輝。まんま、目潰しされた人の姿だった。そして、その言葉通り、光輝の目をチョキでプスッ! と突き刺して目潰ししたのはハジメである。

 

 では、なぜハジメは怒り狂って森を焼き払い、かつ、光輝の目を潰したのか……

 

 それは、ハジメ達一行が、蜂型の魔物と戦ってから三十分ほど樹海を探索した時のこと。とある魔物と邂逅したことが発端である。

 

 その魔物は猿型の魔物で群れをなして襲ってきた。樹々を足場に縦横無尽に飛び回って、あらゆる角度から飛んでくる攻撃は中々に厄介で、どこから手に入れたのか棍棒や剣なども装備していた。

 

 光輝、雫、鈴は、案の定、猿型の魔物のトリッキーな動きに翻弄され苦戦を強いられていたのだが、当然、それでもハジメやカービィの敵ではなかった。

 

 出来るだけ早くユエ達と合流したかったハジメは、ある程度、光輝達に敵を割り振りつつも自らの手でさくさくと片付けていった。仲間があっさり殺られていくことに危機感を覚えたらしい猿型の魔物は、この時点で最優先目標をハジメに変更。

 

 猿型というだけあって知能は高いのか、人質を取ろうと行動し始めた。しかし、ハジメにとっては、その程度の浅知恵などお見通しであり、むしろ人質を取ろうとする猿型の魔物の思考すら利用して瞬殺していった。

 

 その辺りで、猿型の魔物もどうあっても敵わない相手だと気が付いて撤退すれば良かったのだが……中途半端に知恵が回るものだから選択を誤ってしまった。そう、彼等にとって最悪の選択をしてしまったのだ。

 

 その主たる原因は猿型の魔物が持つ固有魔法――〝擬態〟である。あのハジメを怒らせた赤錆色スライムと同じだ。

 

 転移陣が読み取ったユエ達の情報も受け取って、はぐれた大迷宮挑戦者の仲間に成り済ますことが出来る。ただ、赤錆色スライムと異なるのは猿型の魔物達が先に述べたように知恵が回るという点だ。

 

 すなわち、どのような人物に擬態して、どのような行動をとれば相手が心を乱すか、という点を考えることが出来るのである。考えることが出来てしまったのである。

 

 結果、彼等は擬態した。最も危険な敵が、最も大切にしている者に。激しく動揺させるために最低の方法で。

 

 猿型の魔物達は、奥の茂みから擬態した同胞を引きずって来たのだ。その姿はユエだった。あられもない格好で傷だらけとなり、なされるがままに引きずられる姿。赤錆色スライムと同じく、転移陣によって読み取られた情報をもとにしているので見た目は本物と寸分違わない。

 

 当然、ハジメは赤錆色スライムの擬態すら感覚だけであっさり偽者だと見抜いたくらいであるから、猿型の魔物達が引きずって来たそれがユエでないことはわかりきっている。

 

 それでも、本物と寸分違わない以上はユエのほとんど裸とも言える悲惨な姿を見ているのと変わらないので、〝縮地〟で距離を詰めると、取り敢えずユエ(擬態)の方を振り返りそうになった光輝の目を潰した。

 

 この時点で既にハジメはキレかかっていたが、まだ十分に理性は利かせられていた。しかし、知能はあっても空気は読めない猿型の魔物達。ハジメの目の前でユエ(擬態)を殴りつけると下卑た笑みを浮かべ、更に擬態した魔物がハジメに目を向けながらユエの声で「……ハジメ、助けて」などと言ってしまったものだから大変だ。

 

 その瞬間、誰もが確かに耳にした。ブチッと何かが切れる音を。

 

 後は、現在、業火に包まれる樹海の一部を見れば、何があったか一目瞭然だろう。

 

 既に、四方五百メートルが完全な焼け野原となっている。よく見れば、人型の炭化した何かがあちこちに転がっている。他にも蜂型の魔物やアリ型の魔物らしき残骸もちらほら見られた。

 

 一瞬にして空爆にあったようなものであるから、空間転移でも出来ない限り逃れられた魔物はいないだろう。

 

 放っておけば、このまま樹海の全てを焼き払いながら進撃しそうなハジメ。光輝は未だ涙目。止められるのはシア達しかいない。

 

「ほら、二人共、諦めないで! シアと香織とカービィ以外に誰が南雲くんを止められるというの!」

「「でも……」」

「はじめならだいじょーぶだよ。」

「大丈夫じゃないわ。というかどうしてそこで諦めるの! 諦めたらそこで終わりよ! ほら、頑張れ! 頑張れ! 出来る、出来る! 恋する乙女は無敵よ!」

 

 どこかのコーチ達を思わせるセリフでシアと香織を鼓舞する雫。ぶっちゃけ、今のハジメに近寄りたくなかったので何とか二人に行かせようと雫も必死だったのである。

カービィは違うが。

 そんな雫の内心など露知らず、シアと香織は互いに頷き合うとオルカンの再装填の隙を狙ってハジメに飛びかかった。それぞれ左右の腕に思いっきり抱きつく。二人の双丘がムニュウっと押し付けられた。

 

「ハジメさん! もう、これくらいにっ、これくらいにしときましょう!」

「そうだよ、ハジメくん! ユエ達が巻き込まれるかもしれないよ!」

 

 必死にぎゅううと抱きつくシアと香織を一瞥して、ハジメは不満そうに「あ゛ぁ゛?」と声を上げ表情を歪めた。

 

 その姿は、どう見ても頭にヤの付く自由な人にしか見えなかった。しかし、二人が「ね?ね?」と一生懸命、自分を宥める姿を見て何とか落ち着きを取り戻した。

 

「ふぅ~~~~~。わかった。取り敢えずこれくらいにしとく。ぶっ放して結構スッキリしたし」

 

 ハジメは肩からスッと力を抜くとクロスビットを呼び戻して、オルカンと共に〝宝物庫〟に仕舞い込んだ。どうやら本当に落ち着きを取り戻したようで、それを察してシアと香織もホッと息を吐いた。

 

「悪かったな、気を遣わせて」

「いえ、あいつらのやり方は私も頭に来ましたし。仕方ありませんよ」

「うん、ホント、最低だったね。……ある意味、流石大迷宮って感じだよ」

 

 落ち着きを取り戻したハジメが苦笑いを見せると、二人は頭を振りながら嫌悪感をあらわにしつつ頭を振った。同じ女として、やはり思うところがあったらしい。

 

 ほとんど荒野と化した樹海の一部を背景にハジメ達が話していると、雫が頬を引き攣らせながら歩み寄ってきた。

 

「南雲くん。落ち着いたのなら、そろそろ光輝を何とかしてあげて欲しいのだけど……」

 

 その言葉に、ハジメが「あ、そう言えば」と光輝の方へ振り向く。

 

 光輝は未だしくしくと涙を流していた。何とも哀れを誘う姿である。視線で香織に治癒を促すと、香織は心得たと直ぐに回復魔法を発動した。

 

「うっ、この感じ。回復魔法か? あ、光が見える……」

 

 光輝が目の痛みから解放されて嬉しそうに視線を彷徨わせた。そして、痛みの元凶であるハジメを見つけるとギュイン! と目を吊り上げて抗議の声を張り上げた。

 

 雫が事情を説明するも、他にもやりようはあっただろうと不満顔である。

 

「あのなぁ、天之河。手加減が下手だったのは悪かったが、自分の恋人のあられもない姿を他の男に見られるか否かの瀬戸際だったんだ。男なら……目を潰すだろ?」

「なに、『常識だろ?』みたいな口調で同意を求めているんだ。危うく失明するかと思ったぞ。大体、偽物だって分かっていたんだろ? 本物ならともかく、偽者のためにあの痛みを味わったかと思うと……すごく腹が立つんだが」

「馬鹿だなぁ。お前の視力とたとえ偽物でもユエの半裸……路傍の石と最高級の宝石を天秤にかける奴がいるか?」

「俺の目は路傍の石かっ!」

 

 ハジメの物言いに憤りをあらわにする光輝だったが、ハジメは柳に風と受け流し既に意識は探索へと向けていた。

 

 相手にされていないことに、更にウガァーと怒り出す光輝。それを雫と鈴がなだめすかす。ある意味、身近な女の子の世話になるという点では共通していた。嫌な共通点である。

 

 と、その時、不意にハジメの〝気配感知〟が真っ直ぐ接近してくる生物の気配を捉えた。小走りくらいの速度で一体だけ向かってくる。

 

 気配の感じからして、それほど強敵というわけではなさそうだ。その為、ハジメは訝しそうな表情で背後の樹海を振り返った。

 

 シアも気がついていたようで首を傾げながら樹海の奥を見つめている。

 

 二人の態度に何かが迫っているのだと察して光輝達も身構えた。空気が張り詰めていく中、ガサガサと音を立てて樹々の合間から現れたのは一匹のいわゆるゴブリンに酷似した生き物だった。暗緑色の肌に醜く歪んだ顔、身長百四十センチメートル程の小柄な体格でぼろ布を肩から巻きつけている。

 

 そのゴブリンは、ハジメ達の姿を見つけると「グギャ!」と一瞬どこか弾んだ声で鳴いたが、直後、自分の声にハッとしたように動きを止めた。そして、その場に佇みジッとハジメを見る。顔の造形のせいで、まるで殺意を滾らせ睨んでいるようにも見えた。

 

 実際、光輝にはそう見えたのだろう。

 

 碌に戦果を挙げられていないことからくる焦燥感と少しでも活躍したいという思いから、半ば無意識でゴブリンへと急迫した。瞬く間に距離を詰めて光を纏わせた聖剣を大上段に振りかぶる。

 

 しかし、今まさにその命を刈られそうになっているゴブリンはというと、一瞬、光輝に視線を向けたものの直ぐに視線を戻し、回避行動も防御行動も取らず無防備に佇んだままだった。

 

 一瞬、そのことを訝しむ光輝だったが、大迷宮の魔物であることに変わりはなく油断は出来ないと全力で聖剣を振り下ろした。

 

 光を纏う聖剣の輝きが、奇妙なゴブリンを両断しようとしたその瞬間、

 

「何してくれてんだ、ボケェ!」

「そーだよ!コピー能力ファイター、バルガンジャブ!」

「んなっぶべらっ!?」

 

 一瞬で追いついたカービィとハジメがローリングソバットとコピー能力ファイターで光輝を吹き飛ばした。奇怪な悲鳴を上げて、ダンプカーに轢かれでもしたかのように樹海の奥へと消える光輝。余程の力で吹き飛んだようで、光輝が突っ込んだ場所からベキベキッ! と樹々の折れる音が響いた。

 

 魔物を前にして、目潰しに続いてローリングソバットを味方に放つという行動に唖然としていた雫達。流石に看過できなかったようで、怒り気味に目を吊り上げてハジメのもとへ駆け寄って来た。

 

「ちょっと、南雲くん! 今のは何!? いくらなんでも滅茶苦茶よっ。光輝はただ魔物を倒そうとしただけじゃない!」

「そうだよ! っていうか、光輝くん大丈夫かな。直ぐに探しに行かないと」

 

 雫と鈴がハジメに非難の眼差しを向ける。シアと香織も、ハジメの行動の理由が分からず困惑した表情だ。

 

 しかし、ハジメは雫達の声が聞こえていないのか、全く反応せず一心不乱に眼前のゴブリンを見つめている。

 

 その視線で、ハジメがローリングソバットで光輝を蹴り飛ばすという衝撃展開に吹き飛んでいたゴブリンの存在を思い出し雫達が身構えた。

 

 と、樹海の奥から腕をさすりながら光輝が現れた。どうやら無事だったようだ。しかし、全身から怒気を発しており、今にもハジメに飛びかかりそうな雰囲気である。

 

「……南雲。どういうつもりだ。なぜ邪魔をしたんだ? さっきとは状況が違う。下手な言い訳は許さない。魔物を庇うなんて正気を疑う――」

「魔物じゃない」

「見て分からないの?」

「何だって?」

 

 光輝の怒気にも反応せず、ただそれだけポツリと呟いたハジメとはっきり言ったカービィは問い返す光輝を無視して、未だ佇んだままのゴブリンの前にそっと跪いた。その行動に全員が驚愕し、益々ハジメの正気を疑う。シアだけは何かに気がついたのか「まさか……」と呟いている。

 

 ハジメは、視線の高さを合わせ真っ直ぐゴブリンを見つめるとフッと目元を和らげ、驚愕すべき言葉を繰り出した。

 

「……ユエだよな?」

「ユエだよね?」

「グギャ!」

「「「……は?」」」

 

 ポカンと口を開けて呆ける光輝達を尻目に、ハジメは躊躇うことなくゴブリンの手を取ると、もう一度「ユエ…」と呟いた。ゴブリンもまた、どこか嬉しそうに「グギャ」と鳴く。

 

「えっと、ハジメさん。まさかと思いますがユエさんなんですか。その、私には魔物に見えるのですが……」

「わ、私も魔物に見えるよ。本当にユエなの?」

 

 疑問の声を上げて目の前のゴブリンを見るシアと香織。そんな二人を、ゴブリンはチラリと見たあと何かを訴えるように「グギャ、グゴゴ、ギャアギャ」とハジメに向けて鳴き始めた。そして、やはりまともに喋れないことに悄然と肩を落とす。

 

 しかし、そこはカービィとハジメ。ユエをこよなく愛する彼と友人を大切にする2人の前に不可能はない。

 

 

「ん? ん~、転移したあと気が付けばその姿に変えられていたって?」

「! グギャ! ……グゴゴ」

「なるほど。」

「ふむ、肉体そのものが変質したってところか……」

「グギャ……ギャギャ、グギ」

「そんなことが……。」

「装備品も失ったのか。……ああ、俺の残したマーキングを追って来たんだな?」

「ググッ……ゴガゴガ」

「そう言う事だったんだね。」

「なるほど、爆音が響く場所にハジメありってか? まぁ、間違ってないか……」

「……ギュウウ、ゴゴ」

「言えてるかもね。」

「そうか、魔法も使えないと……でも、これ以上変質するような感覚もないか」

「ギギギ、ガギ」

「そうだよね。」

「まぁ、大丈夫だろう。これもおそらく試練の一つだろうしな。不可避のスタート地点に立った時点でゲームオーバーとか試練の意味がない」

「……ギュウウ?」

 

「ああ、あと、ティオと坂上もマホロア達もいないんだ。おそらくユエと同じだろう。何の魔物かまでは分からないが……まぁ、そう心配するなよ、ユエ。いつも通り何とかするさ」

「頑張ろー!」

「……グギャ!」

 

 普通に会話が成立していた。

 

「「「「「……」」」」」

 

 思わず無言になる光輝達。そんな彼等に、ハジメは恋人と再会できた喜びを隠そうともせず笑みを浮かべながら振り返った。

 

「そういうことだ。じゃあ、取り敢えず再生魔法かけてみよう」

「「「「「いやいやいやいや、待て待て待て待て」」」」」

「あ? どうした?」

 

 綺麗にハモリながらツッコミを入れる光輝達に不思議そうな表情をするハジメ。一同は、そんなハジメとカービィに更にツッコミを入れたくなる。というか、実際に我慢できずツッコミを入れた。

 

「おかしいでしょ? おかしいわよね? どうして2人とも意思疎通が出来ているの? それもごく自然に!」

「いや、何でも何も……ユエだって喋ってるだろ?」

「そうだよ。ボクも普通に聞こえてるよ。」

「鈴にはグギャ! としか聞こえないよ! 何語なの!? 何で理解できるの!?」

「いや、そこはフィーリングで……目と目でも会話は出来るし」

「言語理解があるから…。」

「そう言えば普段から見つめ合ってますよね。……あれが、まさかこんな時に役立つなんて……お二人の通じ合い方が天元突破してますぅ」

「いや、恋人なら普通だろ」

「普通じゃないからね? 明らかに普通じゃないから。……どうしよう。〝特別〟の座がとても遠くに感じるよ」

「っていうか南雲。どうやって気がついたんだ。俺を蹴り飛ばしたってことは最初から分かっていたんだろ?」

「どうやってって、お前。そりゃあ、単純な話……」

 

 数々のツッコミを、さも常識を語るように返していくハジメに皆が疲れた表情になっていく。そして、最後に光輝がした質問に対してはゴブリン姿のユエを優しく見つめて、いつものように頬に手を這わせながら、

 

「姿形が変わったくらいで、俺がユエを見失うわけない。それだけのことだ」

「「「「「……そうですか」」」」」

「……グギャ!!」

 

 砂糖を吐きそうな表情で投げやり気味な返事をする光輝達と嬉しげに鳴くユエ(ゴブリンVer)。

 

「そんな事ことより、香織。再生魔法を頼む」

「あ、うん、了解。……それじゃ、いくよユエ。〝絶象〟!」

 

 少し遠い目をしていた香織はハジメの呼びかけで正気を取り戻し、ユエ(ゴブリンVer)に向けて再生魔法を行使した。言うまでもなく、再生魔法は神代の魔法でありその効果は絶大だ。ハジメ達も再生魔法を使えば元に戻ると考えていたのだが……

 

「……グギャ?」

「あれっ? 何で!? も、もう一度、〝絶象〟!」

 

 ユエの姿は元に戻らなかった。

 

 再生魔法が発動していないわけではない。銀色の魔力光がユエに降り注ぎ、香織の魔力はガリガリと削られている。それでもユエの姿が戻る気配はなかった。

 

「どうして……」

「グギャ……」

 

 呆然とする香織と悄然と肩を落とすユエ(ゴブリンVer)。他のメンバーも一様に心配そうな表情になっている。そんな中、ハジメは腕を組みながらこめかみをトントンと叩き、今の現象を考え込んでいた。

 

 難しい表情をするハジメに、ユエ(ゴブリンVer)はその服の裾を掴みながら、どこか不安そうにハジメを見上げた。彼女としても、まさか再生魔法を使って戻れないとは思わなかったのだろう。

 

 そんなユエ(ゴブリンVer)に、ハジメは思考の渦から帰還して力強い笑みを向ける。

 

「大丈夫だ、ユエ。さっきも言ったが、トラップにはまったわけでもないのに、スタート地点でゲームオーバーなんて有り得ない。必ず元に戻る方法があるはずだ。再生魔法が効かなかったのは、おそらくその変質が同じ神代魔法によるものだからじゃないかと思う。他にも特殊な方法が使われているんだろう。挑戦者が再生魔法を持っているのは自明の理。あっさり治されちゃ試練の意味がないからな。いずれにしろ、先に進めば元に戻る方法がわかるはずだ」

「……グギャ」

「ああ、心配するな。あと、忘れてたけど、ユエ。これ持ってみ?」

「……ギギ?」

 

 ハジメの推測に、ユエ(ゴブリンVer)だけでなく他のメンバーも納得の表情をする中、ハジメがユエ(ゴブリンVer)に宝石の付いたイヤリングを渡す。姿を変えられ魔法も使えない身ではあるが、魔力を通すくらいのことは出来るため、それが何かを察したユエはさっそく受け取ったアーティファクト――〝念話石〟を発動した。

 

『……ハジメ? ハジメ、聞こえる?』

 

 すると、まるでティオが竜化している時のように空間そのものに可憐な声が響いた。ほんの僅かな間しか離れていなかったのに随分と懐かしく感じる愛しい声に、ハジメの表情が嬉しげに緩む。

 

 今まで目の前のゴブリンがユエだと言われても、どこか半信半疑だった光輝達も、ユエの声が聞こえたことで改めて目の前の存在がユエの変わり果てた姿なのだと実感したようだ。

 

「ああ、聞こえるぞ、ユエ。姿は変えられちまったが……無事でよかった」

『……んっ。ハジメなら気が付いてくれると思ってた』

「当然だろ。ずっと見てきたんだから分かるに決まってる」

『……ん。でも嬉しかった。大好き』

「……よせよ。恥ずいだろ?」

『……ふふ』

 

 目の前にいるのは見た目完全にゴブリンなのだが、周囲に満ちる空気はどこまでも甘やかで桃色だった。姿が変わっても〝二人の世界〟は変わらず作り出せるらしい。他のメンバーの目が死んだ魚のようになっている。

 

「ウォッホンッ! そろそろいいかな? ユエ、無事で良かったよ」

『ん……香織も』

「ユエさん……絶対、ぜぇ~たい! 元に戻して見せますからね! その為なら、私、何だってしちゃいますからいっぱい頼って下さい!」

『……シア、ありがとう。今は戦力になれないから頼りにしてる』

 

 何とか精神の均衡を取り戻したシアと香織が口々にユエと言葉を交わす。

 

「ユエさん、その、さっきは済まなかった。君だと気が付かなくて……危うく傷つけるところだった」

『……気にしないで。仕方ないこと。それに信じてたから傷つくとは思わなかった』

「えっ、それって俺が……」

『……勇者が(笑)でも、必ずハジメが守ってくれるって』

「……そうですか」

 

 ユエのさり気ない一撃がクリーンヒットする。光輝はすごすごと引き下がると乾いた笑い声を上げた。雫と鈴が励ます。

 

「それじゃあ、早くユエを元に戻す為にもティオと坂上を見つけて、さっさと攻略を進めるぞ」

 

 ハジメの号令により荒野と化した樹海の一部を背後に、一行は再び樹海の奥へと歩みを進めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……ハジメさん、今度は私にもわかりますよ。あれがティオさんだって」

「ボクも!」

「私もわかるよ。どうみてもティオだよ」

『……むしろ、ティオ以外にあんなのがいたら大変』

「満場一致で、あれがティオだな」

 

 どこか汚物を見るような目を前方に向けているハジメ達。

 

 ユエと合流してから更に三十分後の現在、彼等の目の前にはゴブリンの集団がいた。その集団は寄ってたかって一匹のゴブリンに殴る蹴るの暴行を加えている。

 

 しかし、そこには相手を殺傷しようという意図はなく、どこかイジメじみた雰囲気が漂っており、事実ゴブリンの集団に囲まれて暴行を受けながら蹲っているそのゴブリンには目立った傷はないようだった。

 

 それだけなら、仲間内の序列とかその辺の事情で弱いゴブリンが虐められているだけかと思うのが自然なのだが……

 

「恍惚としてる……わよね? どう見ても……」

「ただでさえ顔がゴブリンなのに……あれは放送禁止レベルだよ」

「ほーそーきんし?」

「南雲……お前はあんな人まで……懐の広さでは勝てる気がしない」

「よせ、天之河。俺があの変態を許容しているみたいな言い方は心外だ。……諦めているだけなんだ……」

 

 ドン引きしながら呟く雫達の言う通り、その暴行を受けているゴブリンは恍惚の表情を浮かべていたのである。その姿はとある変態を彷彿とさせた。というか、どう見ても一人しか居なかった。

 

「ティオ……お前って奴は……。お前等、あいつはもう手遅れだ。残念だが諦めよう」

 

 ハジメは哀しげな表情で頭を振ると、そっと踵を返した。ユエ達が何の躊躇いもなく追随する。いつもなら「仲間を見捨てるのかっ!」とか言って突っかかってくる光輝ですら、どうしたものかと視線を彷徨わせている。

 

「グ? ギャギャ!」

 

 と、その時、ゴブリンの一体がハジメ達の存在に気がついたようで声を上げた。

 

 それにより、暴行を受けていたゴブリン(ティオ)もハジメ達の存在に気がついたようだ。ガバッと頭を上げると大きく目を見開き、ハジメに向かって今まで暴行を受けていたとは思えない素早さで突進して来た。

 

 地面をカサカサと這うように高速移動するゴブリン(ティオ)に、同じゴブリン達が思わずドン引きして後退りしている。実は、意気揚々と虐めをしていた彼等だったが、流石に途中から「あれ? 何かコイツおかしくね?」と感じていたようで、それが今、確信に変わったようだ。

 

「グギャギャギャ!!」

 

 そうこうしている内に、ゴブリン(ティオ)はルパ○ダイブのような姿勢で飛び上がると一直線にハジメの胸に飛び込もうとする。ゴブリン語で何を言っているかは分からないが、見た感じ、きっと「ご主人様よぉ~、会いたかったのじゃ~!」とかそんな感じだろう。

 

 当然、ハジメの対応はと言うと、

 

「寄るな、このド変態がっ!」

 

メキョ!

 

 罵りと義手を用いたアッパーカットである。

 

 何だか鳴ってはいけない音を響かせながら、ゴブリン(ティオ)は四回転半の芸術的なバク宙を決めつつ傍の茂みにドシャ! と墜落した。

 

『……死んだ?』

 

 ユエ(ゴブリンVer)が茂みを覗き込みながら、そこで倒れ伏すゴブリン(ティオ)の体を木の枝でツンツンと突く。

 

 するとビクンッビクンッ! と体を痙攣させつつゴブリン(ティオ)が意識を取り戻しガバッと起き上がった。体はゴブリンなのに耐久力は竜並なのかもしれない。あるいは変態補正か……

 

「ギャギャギャ! ゴゴ、グゲ! グギャ!」

 

 ゴブリン(ティオ)は何か興奮したように鳴き喚きながら両手で自分の頬をはさみ、まるでイヤンイヤンするように身を捩らせている。そして、熱っぽい瞳でハジメをチラ見し始めた。

 

 思わず、ドンナーを抜きかけるハジメ。必死にシアが宥める。香織が代わりにゴブリン(ティオ)へ念話石を手渡した。

 

『む、念話石じゃな。……どうじゃ、ご主人様よ、聞こえるかの? 再会して初めての言動が罵倒と拳だった我が愛しのご主人様よ』

「チッ。体は変わってもしぶとさは変わらねぇのか。そのまま果てればいいものを……」

『っ!? あぁ、愛しいご主人様よ。その容赦の無さ、たまらんよぉ。ハァハァ。やはり、妾はご主人様でなければだめじゃ。さぁ、ご主人様の愛する下僕が帰って来たぞ。醜く成り下がった妾を存分に攻め立てるがいい!!』

 

 どうやら、ゴブリンに変わってしまったことすら快感に変換できるらしい。確かに、ハジメの言う通り既に手遅れだった。

 

 大の字に寝転がり「煮るなり焼くなり好きにせよ!」と妙に期待のこもった眼差しを向けているティオを無視して、取り敢えず未だ固まっているゴブリン達を瞬殺するハジメ。そして、無言のまま探索を再開した。

 

 他のメンバーも相手にしないことにしたらしく、視線を向けないようにしてハジメに追随する。

 

『ほ、放置プレイかの? 全く、ご主人様は仕方ないのぉ~。って、本当に置いていく気かえ!? 待って欲しいのじゃ~、さっきの一撃で視界がまだ揺れておるのじゃ~』

 

 ティオの声が虚しく樹海に木霊する。しかし、やはり歩みを止める者は誰もいなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

その後も同じようにゴブリンにマホロア達はなっていた。

 

 鞭のようにしなり不規則な軌道を描いて襲い来る巨大な枝。刃物のように舞い散り飛び交う葉。砲弾のように撃ち込まれる木の実。突如地面から鋭い切先を向けて飛び出してくる槍のような根。一つ一つが致死の攻撃。

 

 それは、かつてハジメが【オルクス大迷宮】のとある階層で戦った木の魔物に酷似していた。いわゆるトレントと呼ばれる魔物だ。もっとも、ハジメが相対したトレントに比べれば大きさが段違いであり、目の前で大暴れしているそれは直径十メートル高さ三十メートルはありそうな巨木である。

 

 そんな巨大トレントと相対するのは光輝、雫、鈴、そしてオーガのような生き物だ。

 

『ぐらぁああ!』

 

 そんな、実際のオーガと変わらない雄叫びを上げながら、岩のような拳を振るい襲い来る枝を迎撃しているのは龍太郎である。

 

 ここに至る道中、他のオーガと死闘を繰り広げているオーガを発見したのだが、そのオーガがやたら洗練された武術――ぶっちゃけ空手の動きをしていたのである。龍太郎であることは一目瞭然だった。

 

 もっとも、ユエやティオと同じくステータスは下がっているので、あと少し発見するのが遅れていたら龍太郎は死んでいたかもしれない。そこまで戦う前に逃げろよというツッコミは一度火のついた脳筋には通じなかった。

 

 そして、遂に最後のメンバーである龍太郎と合流し、周囲の樹々と比べ明らかにサイズの異なる巨木が鎮座している場所に辿り着いたのだが……その巨木が「この先に通りたければ我を倒していけ!」とでも言うように暴れ始めたのだ。それが、眼前のトレントである。

 

 今のところ成果が特にない光輝達が「こいつは俺達で倒す!」と飛び出し、まぁいいかとハジメ達は見物することにしたのだ。ちなみに、香織は回復要員として参加している。

 

「ぐぅううっ。攻撃が重い!」

 

 それだけで丸太のような太さの枝が風を切り裂きながら迫り、光輝が聖剣でその一撃を受け止める。しかし、あまりの攻撃の重さに食いしばった歯の隙間から呻き声が漏れた。その表情には全く余裕がない。

 

 雫は手裏剣のように飛んでくる葉刃を捌くので手一杯だ。鈴も強力な障壁を張って、どうにか攻撃をしのぎ光輝が一撃を決める隙を作ろうと必死である。

 

「くっ、ダメね。香織がいるから継戦能力は心配ないけれど……」

 

 黒刀の〝爪閃〟をフル活用し、次々と枝葉を切り裂きながら雫が押しきれないことに歯噛みした。

 

 大迷宮に入ってからというもの、今の雫達では返り討ちにあうというかつてのハジメの言葉が身に染みる。ハジメ達がいなければ雫達はとっくに全滅しているところだ。【オルクス大迷宮】で磨いてきた自信が粉微塵になりそうである。

 

 雫は少し悩んだあと光輝に向かって叫んだ。

 

「光輝! 〝神威〟を使って!」

「なっ、ダメだ。詠唱が長すぎる!」

「大丈夫よ! 私達が必ず守るから! 信じて!」

 

 光輝は雫の提案にどうしたものかと悩んだ。

 

 目の前のトレントモドキは明らかに魔人族が引き連れていた魔物よりも強い。たった一体だけで攻撃方法もパターン的な上、香織による驚異的なバックアップがあるので何とか戦えているが、一瞬でも気を逸らせば即座に命を狩られかねない。そんな中、無防備を晒すのは並みの神経で出来ることではない。

 

 しかし、圧倒的な攻撃力不足に全くトレントモドキへ攻撃が届いていないことも確かであり、このままではいずれ何も出来ないまま敗北するのは目に見えていた。

 

 それに……

 

 光輝はハジメとユエが再会した時のことを思い出す。姿が変わっても何ら変わることのない信頼関係。ハジメは一瞬で恋人の正体を見抜いたし、ユエも光輝に殺されかけながら動揺一つ見せなかった。正直、そんな風に信頼し合う二人に、そんな関係を築けていることに、嫉妬しなかったといえば嘘になる。

 

 故に、光輝は決断した。自分達にだって信頼関係はある。それは決してハジメ達に負けるものではないのだと、そう証明する為に。

 

「わかった。後を頼む!」

「ええ、任せなさい。龍太郎、鈴! 固まって!」

「了解だよ!」

『応よ!』

 

 光輝がその場で聖剣を頭上に掲げたまま微動だにしなくなった。口元だけは詠唱のためにブツブツと動いているが、意識は〝神威〟の発動に全て注がれているため無防備といっていい状態だ。

 

 その隙をトレントモドキが逃すはずもなく、左右から木の枝が、頭上から竜巻のように迫る葉刃が、木の実の砲弾が正面から、木の根が地面を隆起させながら下方から襲い来る。

 

「ここは聖域なりて、神敵を通さず! 〝聖絶〟!」

 

 それを見越していた鈴が輝く障壁を張る。今まで何度も自分達の窮地を救ってきた十八番の障壁は、多大な衝撃にヒビを入れられながらも初撃の集中砲火を何とか凌ぎ切った。

 

「つぅうう!」

 

 連続して放たれるトレントモドキの攻撃に〝聖絶〟のヒビは大きくなり、やがて耐え切れず粉砕される。鈴の呻き声が響く中、急迫する攻撃を雫と龍太郎(オーガVer)が必死に捌いた。

 

「っぁああ!」

『おぉおお!!』〟

 

 それでも、怒涛の攻撃に無傷でとはいかず、一瞬にして傷だらけとなる。悲鳴とも雄叫びともつかない声を上げながら持てる技の全てで迎撃する。捌ききれなかった攻撃によって傷ついた二人の体から血飛沫が噴き出し宙に舞うが、それでも、ただの一撃も後ろへは通さない。

 

「〝回天〟」

 

 戦場に響くその一言で、雫達の傷は一瞬で癒えた。香織の回復魔法だ。

 

 〝回天〟は複数人用の中級回復魔法だが、その効果は既に軽く上級レベルだ。ほとんど時間の巻き戻しかと思う速度で傷が癒えていく。ノイントの体になってから香織の回復魔法は神懸かっていた。再生魔法も回復に使えるが、神代魔法は魔力消費が半端ないレベルなので通常の魔法の方が使い勝手は断然いいのだ。

 

 鈴が再び障壁を張り数秒を稼いで、また破壊され、再び張り直すまで雫と龍太郎が体を張る。傷ついた体は香織が即座に癒し、また鈴が障壁を張る。それを繰り返すこと三度。

 

 遂に、光輝から膨大な魔力が迸り掲げる聖剣に収束していった。太陽のように燦然と輝く聖剣をグッと握り直し光輝は大きく息を吸う。

 

 そして、

 

「――――みんな、行くぞ! 〝神威ッ〟!!」

 

 自身の切り札たる最大の魔法を解き放った。光の奔流が射線上の地面を削り飛ばしながら爆進する。葉刃を吹き飛ばし、木の枝を消滅させ、木の実の砲撃を真正面から呑み込み、そして、トレントモドキに直撃した。

 

 轟音と共に光が爆ぜ、周囲を白に染め上げる。

 

「やったか!」

 

 光輝が会心の笑みを浮かべて叫ぶ。後方に控えて、ちょっとしたお菓子を頬張りながら観戦していたハジメが、思わず「あ、フラグ立てやがった……」と呟く。

 

 そのフラグはきっちり回収された。

 

 光が収まり粉塵が晴れた先には……無傷のトレントモドキの姿。

 

「うそ、だろ……」

 

 光輝の呆然とした声が虚しく虚空に響く。呆けているのは光輝だけではなかった。雫達もまた、光輝の切り札が通じなかったことに激しく動揺していた。

 

 トレントモドキは、そんな光輝達目掛けて殺意を滾らせると再び怒涛の攻撃を繰り出した。

 

 

 

 



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