女子小学生に大人気の官能小説家!? (暮影司)
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肉欲に溺れるメイド

 

「お兄ちゃん! 来たよ! 高願社(こうがんしゃ)さんから電話!」

「マジか!?」

 

 ついに来たか、このときが。長年ずっと書き続けてきたが、18歳になるまで待って応募したんだ。ようやく俺は夢を叶えられるのかもしれない。

 

「もしもし」

「ああ、先生ですか。おめでとうございます、なんと大賞! もちろん書籍化決定ですよ!」

「本当ですか!」

「本当ですとも!」

 

 ――ああ、ついに。ついに叶えられるのか。作家になるという夢が。

 そして読んでくれた読者にこう思って貰えるのか。

 

 めちゃシコだと。

 

 エロくてエロくて仕方がないと。読んでる間はずっと勃起せずにはいられないと。なんてヌケる官能小説なんだと。何度使っても気が済まないなんてクレームのおハガキを出そうと。

 

 ああ、最高だ。

 想像するだけで嬉しくて死ぬね。

 子供の頃からの夢だった官能小説家になれるなんて。え? 何? 俺なにかおかしいこと言ってる?

 

 今回の作品は特に若い人向けに書いたから、ひょっとしたら男子高校生からファンレターが来たりしてな。先生、もはやビジュアルがあったらヌケませんと。やっぱり先生の活字じゃないと勃起できませんと。

 

「ぐふふふ、ふふふ」

「先生お喜びですね~」

 

 おっとトリップしていたら電話先の女性に笑われてしまった。っていうかこの声からすると若い女性みたいだけど大丈夫なのか?

 

「あの~、あなたも私の作品を読んだんでしょうか?」

「え? はい、もちろん」

 

 ――まじか。

 それは想定してなかったな。しかし、編集者が女性ということもあるのか、エロエロな小説だとしても。さすが男女雇用機会均等法だぜ。日本の未来は安泰だ。しかし、なんというか、その、恥ずかしい。自分の力量がどうとかそういうことじゃないね。ただ単に恥ずかしいね。男しか読まないものだと思ってたからね。

 

「どう思いました?」

 

 それでも感想を聞いてしまう。作家の本能なのであろう。どんなに恥ずかしくとも、感想は欲しいのだ。

 

「素敵でした」

 

 嬉しい一言。料理なら美味しい。親切ならありがとう。シンプルな評価がまずありがたい。でもなんだろうこの思い。官能小説ならエロいとかヌケるとかならわかるけど、素敵ってちょっと変わった表現だね。嬉しいけど不安だね。

 

「差し支えなければお聞きしたいのですが、どのへんが素敵ですかね?」

 

 遠慮がちにだが、詳細な感想を求める。そりゃそうよ、素敵の一言じゃあね。風景画じゃないんだから。

 

「この作品のテーマだと思うんですけど、欲望と戦って戦って、どうしても抗えなくて負けてしまう女性の弱い心ですかね。共感します」

 

 マジかよ!? 共感しちゃったの!? 官能小説に? あなたが?

 この小説は簡単に言うと、若いメイドがお屋敷に勤めるんだがご主人様が非常に劣情を煽るのが上手で、我慢に我慢を重ねるものの、結局自分から……という内容はベタなものだ。そのメイドさんに自分を重ねたっていうのか。

 思わず手を口に当てる。おいおいとんでもないあばずれが居たもんだぜ。この俺の超どエロ小説を読んでそんな気持ちになるとはね。ビッチなんてもんじゃねえ。奴隷だね。肉奴隷だね。なんか興奮してきたよ!

 

「あの~、失礼ですけど、日頃から鬱憤(うっぷん)が溜まってるんですか?」

 

 聞いてしまった。セクハラになってしまったらどうしよう。でも当然の疑問だよね?

 

「そりゃそうですよ~。私だって周りの目には気をつけてるんですから」

 

 おいおい、周りの目には気をつけてるのに俺には言っちゃうのかよ。まぁでも当然か。俺は作者だもんね。声からは伝わらないけど、きっと顔は真っ赤に違いない。くそっ、なんで音声のみの通話なんだ。とはいえ俺の表情を見られるのも避けたいところですね。俺は努めて平静を装った声で返事を返す。

 

「そ、そうですか」

「そうですっ」

 

 ちょっと拗ねるような声だった。えっちしたくてしたくてしょうがないことを俺に打ち明けた上に、性欲が溜まっていることを指摘されて拗ねるのか。なんというエロい人なんだ……。事実は小説より奇なりとはよく言うが、こんなエロい人は俺の小説にも出てこない。なんか負けた気がするぜ。

 

「ところでですね、出版するにあたって変更したい箇所があるんです」

 

 エロい人が突然ビジネスモードになる。それもいいね。などと思っている場合ではない。俺もお仕事スイッチ・オン。

 これは編集者による修正依頼ってことだろ。そりゃそういうこともあるだろう。確かにこれで完璧だと思って応募してはいるが、そこまで天狗じゃない。真摯に受け止めますとも。

 

「どこですか」

「まずタイトルなんですが」

 

 タイトルから変更か。まぁ仕方がない。かの芥川賞を受賞した限りなく透明に近いブルーだって最初は違うタイトルだったと聞く。売れ行きに大きな影響を与えるタイトルは編集サイドの意向が強いらしい。俺だって売れないより売れたほうがいいさ。より多くの青少年に使って欲しいからね! ちなみに変更前の題名は「クリトリスにバターを」らしいよ! 変えて当然! びっくりするほどエロいから一読をおすすめします!

 電話の奥からはこくんと何か飲み物を含んだ音が聞こえた。

 

「読者さんの年齢層を考えると、わかりやすい方がいいですからね」

 

 へえ。俺が若年層狙いだということをわかってくれていたか。官能小説でよくありがちな淫靡(いんび)とか卑猥(ひわい)とかそういう表現は避けたんだよね。読みやすく、それでいて直接的な表現は避けたわけ。やっぱりこういう小説って比喩が大事じゃない。そのまんま書いちゃうとつまらないからね。

 

「で、16歳~肉欲に負けて快楽に溺れたメイド~をどう変更するんですか」

「はい。まず肉欲っていうのがわかりづらいかと」

 

 肉欲が?

 わかりやすいと思うが、まぁそうか。高校生ならわからないかもしれない。

 

「どう変えるんです?」

「やっぱりわかりやすく、肉を食べたい気持ちが強すぎるメイドさん、というのはいかがでしょうか」

 

 は?

 肉を食べたい気持ちだと、それはもうお肉だろ。話が変わっちゃうだろ。

 

「それはちょっと……」

「あー、駄目ですか? じゃあ先生の方で考えてみてください。ただ、ターゲットのことを考えてくださいよ」

「んー、いや、さすがにわかるんじゃないですかね~?」

 

 確かにそりゃあ高校でも習わない言葉かもしれないが。エロ小説を読もうっていう人間なんだ、辞書のエロいところばかりに付箋が貼ってあるような奴らだろう。

 

「わかりませんよ~。いくら最近の子供は賢いと言っても限界があります」

「子供って」

 

 言い方に気をつけて欲しい。18歳以上しか読めない内容なのだから。実際は俺だってまだまだ子供かもしれないけどさ。

 

「子供ですよ。ターゲットは10歳から15歳の女子なんですから。もちろん乙女でもありますが」

 

 は!?

 何を言ってるんだこの人は?

 18歳以上の男子だろ。

 

「うちのレーベルは大きなお友だちも確かに熱心な読者がいますが、あくまでもメインターゲットは女の子ですからね」

 

 え?

 そんなわけがない。

 

 だって俺が応募したのは、書店だったらエロ漫画の隣に置かれるようなものだ。はっきりいって、中身どころか売り場の棚に近づくことすらできないはずである。

 

「今どきの女の子は若くてもスタイルを気にしてあんまり食べない娘が増えてるんです。恥ずかしながら私もダイエット中でして……だからこのメイドさんに凄く共感を」

 

 待て待て。なんだこの人。肉欲に負けて快楽に溺れたって言葉を太るのを気にしないでお肉いっぱい食べちゃったって意味だと思ってるわけ? そりゃないだろ。

 

「じゃあまずはタイトルを考えてくださいね。本文は変更したい点を赤入れして送りますので」

 

 そう言って電話が切れた。どうなってるんだ。

 

「お兄ちゃん、どうだった?」

 

 妹はずっと俺が電話をしている間、近くで見ていたようだった。さっきまでツーテールだった頭がお団子になっている。暇だと髪をいじって髪型を変える癖がある。

 

「ああ。大賞だってよ。書籍化決定だ」

 

 困惑したまま、事実を伝える。

 

「わ~! 白い鳥文庫の作家さんなんて凄いよ!」

「待て、なぜそれを知っている」

 

 電話の声が聞こえていたとて、うちのレーベルとしか言っていない。そもそもなんだそれは。

 

「私、高願社(こうがんしゃ)の白い鳥文庫レーベル大好きなんだよ! 図書館で借りてるから持ってないけど」

 

 うちの妹は中学一年生だ。まさに10歳から15歳の女子に当てはまる。若者に読んで欲しい気持ちはあったが、違うそうじゃない。

 

「だからお兄ちゃんが小説を応募する先が高願社(こうがんしゃ)って知って嬉しくって」

「嬉しくって?」

「宛先を白い鳥文庫大賞に変えておいたんだ」

「お前のせいかよ!!」

 

 謎が解けたが、しょうもねえ~! 妹が勝手に応募しちゃっていいのはジャニーズくらいのものだ。

 

「でも、私信じてたよ、大賞取れるって」

「はあ? なんでだよ」

「だって面白かったもん」

「はああ!? なんで読んでんだよ!! 読むなって言っただろ!?」

 

 中学一年生の女が読むもんじゃねえ。どっちかっていうと中年が読むもの。

 

「お兄ちゃん、恥ずかしいからって嫌がりすぎだよ。いいじゃん身内が読んだって」

 

 そういうことじゃねえんだよ。恥ずかしいという要素もなくもないが、18禁だから読むなって言ってんの。肘でつんつんすんな。

 しっかし俺の超絶エロ小説を妹が読んでいたとは……。思わず天を仰いだ。

 

「普段は女心なんてわかんないお兄ちゃんが、小説だと凄いよね。読んだ人、絶対乙女が書いてるって思うんじゃないかな」

 

 んなわけねえだろ。おっさんが書いてると思うだろ。男にとって都合の良すぎるお話だぞ。

 

「どのへんがそう思うんだ」

 

 なんか勘違いしてるに違いない。しかしいくらなんでも俺の文章でなぜそんなことに。自分で読んでも勃起するレベルでエロいんだぞ。

 例えばこんな感じだ。

 

 ――メイドは毎晩のようにご主人様のそれを見せつけられていた。そそり立つそのものは、あまりにも魅惑的なものであった。

 

「物欲しそうな顔をしているな」

「と、とんでもございません」

「そうは言っても、ここはこんなに正直だぞ」

「や、やめてください。恥ずかしい」

 

 男はそう言って、だらしなく垂れた液体を指で拭った。

 

「という部分があるが」

「うんうん」

「どう思うんだ」

「えっと、それ、とか、そのもの、っていうのはもちろんお肉だよね」

「は? あ、ああ」

 

 肉は肉でも肉棒のつもりで書いてるんですけど。なんて妹に言えるわけもない。

 

「そそり立つっていう表現がボリュームありそうでいいよね」

「あ、そう……」

 

 勃起してるだけですけど。説明などしないが。

 

「だらしなく垂れた液体って、よだれでしょ?」

 

 愛液です。だが、種明かしをする気はもちろんない。

 

「メイドさんがお肉食べたい気持ちが伝わってきて、私もお肉食べたくなるよ~」

 

 そう言いながら目をぎゅっとさせて、ごくりとつばを飲んだ。

 ああーもう! なんなのこいつら。なんで肉欲って言葉でそうなんの?

 

「なんでお兄ちゃん、そんな悩ましげな顔してるの」

 

 お前のせいだよ。

 

「相談に乗ろうか?」

 

 心配そうに俺の顔を窺う。ふー、とため息をついて、かぶりを振る。

 

「タイトルを見直せって言われてな」

「そっか! 確かに白い鳥文庫っぽくないもんね。そうだな~、わたしだったら『我慢できない! メイドのメイちゃん!』にしようかなっ」

 

 そんなに嬉しそうに言われたら、もうそれでいいかなという気がしてくるね。

 

「採用するわ」

 

 そう言い残して部屋に戻る。なんかもう疲れた。

 

「えっ、ほんとー!? えー! どうしよう~!?」

 

 小説の大賞を受賞した俺は疲れ切って肩を落としているのに、その妹はなぜかテンションマックスであった。はぁ~。

 

 

 

 



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白濁したものをかけられる女性編集者

 

「我慢できない! メイドのメイちゃん! いいじゃないですか~。さすが四十八(よそや)先生」

「あ、はい。まあ」

 

 頭をかきながら恐縮するが、そのタイトルを付けたのは中学一年生の妹だ。もちろん素人である。

 俺は編集者と初めての顔を合わせての打ち合わせをするため編集部にやってきていた。

 編集者はその声のとおりの若い女の人で、つややかな黒のロングヘアをシュシュでゆるっと丸めた髪型にスレンダーな体型。ちょっと垂れ目だがぱっちりした二重で目鼻立ちはそれほど派手ではない柔和なお姉さんタイプ。服装はいかにも編集者といったようなタイトスカートにハイヒールという出で立ちだが、キャリアウーマンというよりは国語の先生を思わせるような和風美人だ。

 

 官能小説に登場するこの手の女性は確実に性欲が強く、年下を手玉に取ったりオジさん相手でも攻めまくるような傾向があるが、それはそういうギャップが良いよねという話であり、フィクションです。

 彼女は絶対に箱入り娘として育てられたことは明白で、こんな人に卑猥な文章を見せるなんてとんでもない。そりゃ肉欲をお肉食べたいって意味だって思っちゃうよね。穢れを知らない乙女だものね。編集者としてどうなのかは知らんけど。

 

 頂戴した名刺には富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)と書かれていた。所属は児童小説編集部。彼女にはピッタリの部署だが、俺にはサッパリの字面である。どうしてこうなったんだ……。

 

「それでイラストレーターさんの件なんですけどね」

「ああ! イラストレーターさん! はい!」

 

 楽しみにしてたんだよなあ。イラストレーターが誰になるのかって。やっぱり色気ムンムンの俺の小説の挿絵を描いてくれる人だから、おっぱいを上手に描けることが重要。あと太腿も大事。さらには触手とかオークとかそういうのもどんどん出していきたいよね。出来ればエロ漫画とかバリバリ描いてる人がいいな!

 

「桜上水みつご先生です」

「ブフウウウウウ!」

 

 危なかった、牛乳を口に含んでたら噴射してるところだった。これが俺の書く小説だったら富美ケ丘さんはあわやブッカケられたとしか見えないイラストを描かれてるところだ。ふええ、びしょびしょですようなどと言いながら透け透けの白いワイシャツから丸見えのピンクのブラジャーを惜しげもなくさらしつつ指先の白い液体を舐めるといった感じになるだろうが、残念ながら現実は何も飲んでない。ツバすら飛んでない。

 彼女は俺の脳内でサービスシーンになっているなんてことは露程も思わずに、にこやかにぽんと手を打った。

 

「あ、ご存知ですか?」

「あの、ニチアサの女児向けアニメのコミカライズやアニメチックな絵本のイラストを描かれている人たちですよね」

 

 数年前によくうちの妹に音読をせがまれたシンデレラとか人魚姫とかのアニメチックなイラストの絵本に書いてあった名前だ。小さな女の子の目を輝かせるためのイラストを描いているわけであり、決して大きなお友だちの股間を熱くさせるためではない。まぁ結果的に熱くなっている人もいるみたいだが、あいにく俺はそういう性癖ではない。普通に可愛いなあと思うだけだ。

 

「ええ、やっぱり先生の乙女心が詰まったお話にはぴったりかと思うんです」

 

 彼女は本気でそう思っているのだろう。俺はドス黒い男の欲望をパンパンに詰め込んだつもりなんだが。桜上水みつご先生の手にかかれば触手は童話に出てくるファンシーな生き物に、オークは泣いた赤鬼よりも好感度の高いものとして描かれてしまうことだろう。ガッデム! 心の中でチョーノが暴れる。ガアッデム! 

 

「で、この小説を送って打診したところ」

「ええっ!? この小説を読ませたんですか!?」

「もちろんです」

 

 なんてことをするんだ。神をも恐れぬ蛮勇だな。絵本を描いてるイラストレーターに官能小説を送りつけるとかどうかしている! 絶対に見せてはいけない文章だよ。チョーノにビンタされても仕方ないよ?

 

「ぜひ描かせてくださいと快諾していただきました」

「ええ~っ!?」

 

 思わず手で目を塞いで天を仰いだ。なんということだ。もう訳がわからない。光栄とか感謝とかの気持ちはもちろんあるのだが、どちらかというと罪悪感の方が強い。しかし、快諾したということはつまりだ。この編集者や妹と同様に本当の意味はわかっていないということなのだろう。そりゃあわかるわけがない、普段は子供向けに絵を描いているのだから。

 

 どうやって断ったものか。難しすぎる。相手は俺とは比べ物にならない有名人であり、実績も人気もあるのだ。ただしターゲット層に大きな隔たりがあるが……。いや、内容はともかくレーベルから考えると隔たりはないが……。富美ケ丘さんは俺の苦悶の表情を気にせず話を続けている。

 

「早速ですね、一枚だけ描いてもらっているんです」

「なにーッ!?」

 

 どうなったっていうんだ。何を描いたっていうんだ。まさかまさかあんなことやこんなことを、女児受けする絵柄で描いたっていうのか……いや、冷静になれ。そんなわけがない。あれだ、メイドさんがソーセージを美味しそうに食ってるだけとか、大量のお肉を見てよだれをだばだばさせてるとか、そういうアットホームでファンシーでハートフルなやつだよ。俺はそんな小説を書いた覚えはないというのに。

 

「これですね。恥ずかしながらもお膝の上に乗っかっちゃうシーン」

 

 そう聞くとホームビデオみたいな感じですが、俺が書いたのは絶対にお茶の間で再生してはいけないものです。

 

 渡された絵を拝見する。

 

 むう!?

 これは、これは……!?

 

 合っている。書いた文章のままだ。つまり、椅子に座ったままのご主人様に自ら腰を落として挿入したシーンだ!

 確かに結合部はスカートに隠れて見えないし、メイドさんが赤面しているのもアヘ顔なのも、肉を食べた過ぎてお膝の上に乗っかったことが恥ずかしかったという解釈も可能ではある。

 だが、俺にはわかる。

 なぜかって? エロいからだよ!! イラストを見ているだけでムラムラするよ!!! 女児向けの絵柄なのが逆に興奮するよおおお!!!! 誰か今すぐ同人誌を書いて作者に送りつけてプリーズ!!!!!

 

「いかがですか、せんせ」

「最高です」

 

 俺は歯を光らせ満面の笑顔でサムズアップしたのだった。

 こうして俺のデビュー作は、この上なくえっちな内容のつもりだが小学生の女子が買ってもまったくおかしくないテイストの絵柄になった。

 

 



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妹のなすがままに手を動かす兄

 

「サイン……?」

「そう、サイン」

 

 はて。妹が兄にサインを求めるというのはどういうことでしょうか。連帯保証人かな。中学生なのに、一体どういうことでしょう。

 

 俺の妹は中学一年生。名前は、詩歌(しいか)。少女漫画や少女向けの小説が好きで、中学では文芸部に入ったらしい。

 

 俺が次作のプロットを考えるべく、えっちなシチュエーションを悶々と考えていたらノックもせずにずかずかと入ってきた妹の謎のセリフに思わず息子も消沈です。いや、これはあれだから、仕事だから。昼間っからいやらしい事を考えるのは仕事なんです。自分の息子も勃たせられないやつに、他人の息子をどうして勃たせられるというのか。わかった? 変態じゃないよ?

 誰に対してかわからない言い訳をしている間にも、詩歌は自分の要求を押し通そうとする気満々だ。

 

「サインだよ、サイン。芸能人とかがやるやつ! お兄ちゃんは作家先生でしょ?」

「ぐはっ! その言い方やめて! こそばゆい!」

 

 まだ印刷物が本屋に並んだわけでもないのに、身内からプロ扱いされるなんてのは恥ずかしい以外の何者でもない。そして俺は全く実績もないうちにサインの練習をするという中二病みたいなことはしない。ただし人生で一度もしたことがないという意味ではない。

 

「作家としてのサインが欲しいんだって、お友達が」

「トモダチ?」

 

 不思議なことを言うね。トモダチ。

 

「お友達くらいいるよ! お兄ちゃんと一緒にしないで!」

「いや、そういうことではなく……俺もちゃんとお友達いるし」

 

 コミケでお互いに欲しい物を交換する約束をして買い物を分担する仲間のことだろ?

 って俺の友人関係はどうでもいい。

 

「友達がいるのはおかしくない。お前のお友達が俺のサインを欲しがるのがおかしい」

 

 はっきりいって意味がわからない。

 我が妹は目をキラキラとさせつつ、

 

「私が読ませたら、超面白いって!」

「なんてことすんだ――――!」

 

 だからJC(女子中学生)が読んでいい内容じゃないって言ってるだろ!

 ゴリゴリの十八禁なんだよ!

 割と本気で怒ると、妹はいかにも女子中学生らしい態度でちぇっと拗ねつつ、

 

「印刷前の商品をタダで見せちゃったことは謝るけどさぁ、私のお友達くらい、いいじゃん。ネットにアップしたわけじゃないんだし」

 

 だから、そういうことではないんだよなあ。いや、まあ今更か。児童向けのレーベルで印刷が決まってるんだから。はー。ため息しかでない。

 

「だからファン二号になれると知って、喜んでたんだ~♪」

「二号とは? 一号もいるの?」

「私に決まってるでしょ! お兄ちゃん先生!」

 

 作家先生も恥ずかしいが、お兄ちゃん先生はもっとやめて欲しい。ママ先生を思い出す。ハッピーなレッスンをしてくれるんだよ? エロいよね? ところで俺はいったい何歳なの?

 

「だから、私とまなちゃんのサイン、よろしくね」

「まなちゃん? フルネームは?」

「あー。早くもファンを狙ってるー。やらしー」

「アホ。サインに書くんだろうが。〇〇ちゃんへって」

 

 べしっと後頭部を(はた)く。こちとら、やらしい文章を書くのを仕事にするくらいだから、やらしいことは間違いないが、JCの妹の友人は当然対象外だ。そういった作品もあることは知っているが俺は読んでいない。

 妹は大袈裟に叩かれたところを撫でつつ、彼女は友人のことを誇らしげに説明する。

 

清井真奈子(きよいまなこ)ちゃん。すっごくいい子なんだよ」

「そうか」

 

 そうなんだろうよ。こいつの友達だったらな。

 

「めちゃめちゃ可愛くって、お淑やかでお嬢様って感じで男子にモテモテなんだ」

「ほう」

 

 クラスのヒロインって感じだな。といっても中学生であることに変わりはないが。まぁでもいまどきの女子中学生でも色気のある子はいるかもな。俺の妹はともかく。

 

「しかもね、おっぱいおっきいの」

「なにっ」

 

 脳内で作り上げていたイメージが違う! 小公女セーラだと思っていたらクラリスだったようだ。どっちにしても俺のイメージ古すぎるな。

 

「いっこ下だからまだ小学六年生だけど」

「年下だとおおおお!?」

 

 なんとJCどころかJSだった。ランドセル背負って、小学校に通ってる女の子が俺の小説を読んだの!? どっちかっていうとそのお父さんが読んでるくらいの内容なんですけども?

 

「興味津々だねぇ?」

 

 そう言いつつ、わざとらしく顎を指で触りながらほくそ笑んだ。

 ははーん。わかった。こいつは俺をからかっているのだ。年の離れた兄を、恋愛ベタなヘタレとして扱って悦に入っているわけだ。妹より年下の女の子を女として見ている兄を見て精神的に上位に立ち、ニヤニヤしながら見下したいわけだ。そうはいかんぞ。

 

「いや、ガキには興味ない」

「ガキじゃないよ! 美少女だよ!」

 

 お前はガキだ。そのムキになるところがな。そしてまなちゃんとやらはお前よりも年下なのだ。それにしてもガキでも殴られると痛いからもうやめて欲しい。

 

「わかったわかった」

 

 ようやく攻撃をやめるが、ご機嫌斜めなマイシスター。

 とはいえ友達をガキ扱いして素直に怒りを表明するあたりは我が妹ながら可愛げがある。しょうがない、サインの練習に勤しむか。

 

「じゃあ、来週の日曜日にうちに来るからそれまでに練習しといてよ」

「オッケー、オッケー。は? なんで?」

 

 書いたサインをお前が渡せばいいだけでは?

 直接渡す必要はないだろ。

 

「お兄ちゃんだってサイン会行ってるから気持ちわかるでしょ!?」

 

 いや、あれはサイン会と言いつつ実際はAV女優に直接会って握手するのが目的だから全然違うんだけど……とは言えない。真実を告げられないので、嘘を吐くしか無い。

 

「わ、わかる~」

「でしょ!?」

 

 こうして兄妹は偽物の意気投合を繰り返していくのだな……。相互理解を深めたことでご満悦の表情の妹を見ていると若干の後ろめたさがある。その罪悪感を埋めるためにも直接サインを書いて渡すイベントはこなすしかなさそうだ。

 

 俺のペンネーム四十八手足(よそやてあし)は、もちろん四十八手が由来だ。手だけじゃなくて足も使っちゃうよという意味であり、ある意味では中二病のネーミングセンスだな。当然サイン映えするかどうかなど考えたことはなく、崩して書くのもやりにくくて仕方がない。それぞれの字の画数が少ないんだ。誰だよこんなしょうもない名前にしたやつは……。

 

 かっこよくしようと何度も試みるが、どうにも格好がつかない。

 練習を初めて三日経つがもはや打つ手なし。普段はパソコンで執筆する俺が、机の前に座ってサインペンをくるくると回すのも初めてと言っていいことだ。はっきり言って筆が進まない。こんなところでスランプとは……。

 

 サインペンを口に咥え、両手で枕を作って天井を仰ぐ。ぼんやりとペンをぴこぴこさせていると、急に視界を遮ったのは妹の笑顔だった。

 

「詩歌、何度も言ってるだろ、ノックしろって」

「お兄ちゃん、何度も言ってるでしょ、ノックするドアがないって」

 

 俺たちの部屋は六畳の子ども部屋の中央に間仕切りとしてアコーディオンカーテンがあるだけなのだ。年頃の女の子の部屋としてどうなんだと俺ですら思うんだが、本人がそれでイイと言うので三年前からこの状態だ。

 そもそもオープンな状態で兄妹がいつまでも寝てるのはどうなんだと言い出したのは俺の方であり、詩歌は何も文句はなかったらしい。

 俺がパーティションを欲しがったのは、詩歌が俺がいるにも関わらず平気で着替えるのを意識してしまうから……ではもちろん無く、妹がいると官能小説を読みにくいからである。

 読みにくいだけで読むけどな。いきなり読んでいるところを見つかってもそれはただの小説にしか見えないところがまた官能小説というのは素晴らしい。これがエロゲーやエロDVDであれば一瞬でエロいものを見ていることが女子小学生の妹に見つかってしまうということだからな。

 俺も頑張って同じような境遇の男の子達に、官能小説を届けたい。そういう思いで書いていたわけだが、女子小学生の方が読むことになるとは。意味がわからん。

 

「頑張ってるみたいだね」

 

 見下ろしながらそう言う妹は別にからかっている様子はなく、本気で労をねぎらおうとしているようだった。

 

「おう。すっかり肩が凝った」

「ん~、まあしょうがない。まなちゃんのためだ」

 

 ぽこぽこと下手くそな肩たたきが始まる。うっとりと目を閉じた。こういうのは本格的だったり上手である必要なんかないのさ。

 

「おに……四十八先生」

 

 家でそんな言い方はやめろ、と思うが作家としての俺になにか言いたいことがあるのだろう。なんにせよ肩たたきをされている間は抵抗し難い。身を委ねているときは、その状態を持続したいから余計なことは言わなくなるものだ。

 

「カッコつけようとしてない?」

 

 図星だな。しかし変なことか? サインっていうのはそういうものなのでは? そんなことより同じところばかり叩いていないで、首筋を揉んだりして欲しいです。

 

「相手は女の子なんだから、読めない文字をババババーってするより、読みやすくて可愛い方がいいんじゃない?」

 

 ガチ過ぎるアドバイスだな。しかし俺が可愛い文字など書けるはずがないだろう。

 

「実は私も書いてみたの」

「は?」

 

 肩を叩く手が止まったので、詩歌の方を向くとどこぞの官房長官が新しい年号を発表するかのようにサイン色紙を見せつけてくる。

 これは……丸字?

 

「かあいいでしょ」

「ああ」

 

 確かに可愛いが、なんでだよ。官能小説を書く作家のサインが可愛いってなんなの。いや、待てよ。俺は思い直す。

 そう言えば、エロ漫画家の人のサインとか絵ってやたら可愛いな。あとがきとかに書いてある字もやたらポップでキュートであることも多いぞ。

 

「ありだな」

「でっしょー!?」

 

 肩たたきの影響を受けてしまったかもしれないが、受け取るのも女子小学生なんだ。可愛いほうが受けが良いかもな。

 

 それから俺は詩歌の書いたサインを真似して書く練習に明け暮れた。そして、きっちり自分のものにしてから気づいた。なんで俺は妹が書いたサインを真似して俺のサインを作っているのかと。

 




なろうとカクヨムにも載せてるんですけど、ハーメルンが一番読んでくれるし感想くれるので嬉しいのです。すでに評価10貰ってたりするし。
しかし私の書く小説はほぼほぼ妹が出てくるなあ……


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いたいけな少女は羞恥で顔を赤らめる

「こちらが清井真奈子(きよいまなこ)ちゃん」

「清井真奈子です、よろしくおねがいします」

 

 ぺこりとお辞儀をした後に上げた顔は、はにかみながらの笑顔。

 驚いた。本当に美少女だ。

 日曜日、妹の紹介で我が家にやってきた俺のファンという女の子。

 小学六年生ということだが、完全に垢抜けていてとてもガキなんて印象は皆無。

 青い差し色がところどころに入っているフリルの付いた白のワンピースの着こなしは完璧で、そのファッションブランドの専属モデルなんじゃないのかと思うくらい似合っていた。

 つやつやのロングヘアはところどころ編み込まれていて、まあオシャレで清楚で品が良くて。あまりにも完璧すぎて近寄りがたいくらいに綺麗だから、子供の頃はいじめられたんじゃないのかと思うくらい。

 だって男子ってこういう女の子を好きになるとどうしていいかわかんないからいじめちゃうよねっていう感じの美少女なのだ。

 

「こっちがアニキのもうすぐデビューする作家の四十八手足(よそやてあし)せんせ」

「どうも」

 

 こいつ、友だちには俺のことアニキって呼んでるのかよと思いつつ、へこっと挨拶。なんだ、相手は小学生なんだがものすごく緊張する。ファンに会うのも初めてだが、ここまでの美少女に会うのも初めてだからだ。国民的美少女コンテストとかで見るようなレベルの女の子がウチにいるということが異常すぎて平常心を保つことができん。

 いやいや、相手は妹よりも年下の女子小学生(JS)だぞ。何を考えているんだ。

 

「やっぱり素敵……文章もだけど。わたし、先生の小説を読むと優しい気持ちになるんです」

 

 完全に尊敬の目で見られている俺。もちろんこんなことを言われたのは人生で初めてだ。そして文章を読んで優しい気持ちになるなんてことも意外すぎる。こちとら、やましい気持ちになるように書いているからね。よってこの感想はどちらかというと遺憾であるが、この子の前でそんな些細なことはどうでもいい。可愛いは正義。

 

「いやあ、恐縮です」

「わあ、わたしなんかにそんなに腰を低く……紳士ですね。かっこいいです」

 

 一点の曇りもない黒い瞳がキラキラと輝き、俺を見る目が満天の星空のようだ。青姦レイプされてる女の子が感情を無くした目で見上げながら涙をひとしずく零すのが似合いそうな夜空ですね。え、なんでそんな鬼畜で変態なことを想像するのかって? 職業柄仕方がないんだよ、わかってくれよ。そんなことばっかり考えるのが仕事なんだよ。デビュー前だとしてもそうなんだよ。

 

「まあ、中に入ってよ」

「おじゃまします」

 

 彼女は俺の脳内のことなどつゆ知らず、コルクのサンダルを脱いでいた。今は五月の下旬。夏並みの気温だ。妹が用意した来客用のスリッパに履き替えるときにそのあまりに小さな素足を見て、やはり子供だと感じる。子供用ではないスリッパはぶかぶかで歩きにくそうだった。

 

 我が家は一軒家だが、客間なんて立派なものがある家ではないので三人でリビングへ。

 玄関のすぐ左手にある十二畳のLDKだ。テレビの前にコの字に配置された黒いソファーに腰掛ける。

 俺とゲストが向かい合う形で、横にいるのが妹の詩歌(しいか)だ。

 座るやいなやお茶の用意をするべく立ち上がった。我が妹はこういったおもてなしをそつなくこなす。まぁメイドになれば完璧だろうな。俺の小説のメイドとしては不合格だが。なにせ粗相をしてお仕置きされるために存在しているのであり、決してメイドとして有能であってはならないからだ。

 そんなことを考えているとはつゆ知らず、引き出物で頂戴したヘレンドのティーセットにテキパキとアールグレイを注いだり、缶に入ったクッキーを飾り付けたりしている。あっちは任せておけば問題なさそうだ。

 さて目の前の見目麗しき女子小学生は、緊張がピークなのかスカートの膝の部分をぎゅうっと握り込み、うつむいてぷるぷると震えていた。何も悪いことをしていないのに、罪悪感を感じる。まるで今すぐにスカートをたくし上げて、下着を見せろと強要されているように見えるからだ。決してそんなことはしないのだが、そういうことをすぐに考えてしまうのは官能小説に対しての情熱とモチベーションによるものであって決して俺が変態だからではない。

 

「緊張してる? 自宅だと思って楽にしてよ」

「は、はひっ!? わわわわ、わかりましたっ」

 

 見ているだけでこちらの心臓も早くなってしまうほど、落ち着いていなかった。玄関先では平気で会話していたが、あまり他人の家に行ったことがないのかもしれない。これは大人として何気ない会話で平常心に導いてあげるべきだろう。今ならぱんつ見せてと言っても応じてくれそうだな、なんて考えている場合ではない。さっき変態ではないと言ったばかりだぞ、俺。強要してなければいいという問題じゃないぞ、俺。

 

「いつも妹と仲良くしてくれてるみたいで、ありがとね」

「と、とんでもないです! 詩歌さんは素敵でかっこよくて優しくて美人で、憧れなんです!」

 

 思わず破顔してしまう。なんていい子なのだろう。

 

「ええ、詩歌が? そうかな?」

「はい! わたしなんかにもいっつも気を使ってくれていて」

「へえ~、俺には気を使ってくれないけどな」

「お兄ちゃ~ん? 後で覚えてなよ~?」

「やべ、あいつ地獄耳だったわ」

 

 俺がしまった、という顔をすると、真奈子ちゃんはころころと笑った。愛らしいにもほどがあるね。

 

「仲が良いんですね、羨ましいです。わたしもお兄ちゃんがいるけど全然仲良くできなくて」

「そう? 真奈子ちゃんみたいな妹だったら最高だけどな」

「ええっ!? そ、そんな」

 

 両手で顔を覆ってぶんぶんと首を振り、長い髪が揺れる。恥ずかしがり屋さんなのだね。詩歌がこういう態度を取ったところは見たことがない。妹っていうのはかくあるべきだよなあ。

 

「まーったく、お兄ちゃんはまなちゃんが可愛いからってデレデレしちゃって」

「ん? ああ、ありがと」

 

 ちょうど、詩歌がトレーに乗せたティーセットを持ってやってきたので礼を言う。真奈子ちゃんはますます下を向いて髪を左右に揺らしていた。確かに可愛いが、デレデレなぞしとらん。

 

「ん? 二人分しかないぞ」

「ああ、私はいいから」

「そうなのか?」

「地獄耳の妹がいるとお邪魔でしょうからね。そのくらいの気はつかえるから」

 

 ちゃちゃっとテーブルの上にティーセットを配置させると、トレーを抱きかかえて退室していった。丁寧にお辞儀していったところがわざとらしい。

 やれやれ、機嫌を損ねたかな。あいつもまだ中学一年生だもんな、真奈子ちゃんの緊張をほぐすためとはいえ、やりすぎたかな。

 

「じゃ、頑張ってね」

 

 ぱちんとウインクなぞをかまして去っていった。別にサインくらい頑張らなくてももうマスターしたっての。

 詩歌が去ると真奈子ちゃんが、両手をぐっと握ってふぁいとっみたいな感じのポーズをとったが……真奈子ちゃんが頑張ることはないと思いますが。まだ緊張してるのかな。

 

「えっ、えっとっ」

「うん」

「好きですっ!」

「え? ああ、小説がね。ああ、びっくりした」

「あ、んー、その、はい。大好きです」

「ありがとう」

 

 まぁ、なんだ。書いたものを褒められるのは作家としては当然嬉しい限りだ。こんなに嬉しいことはないといっても過言じゃない。ただ、絶対俺が伝えたかったことが伝わってるわけではないことはわかっている。もしこの小説がまかり間違って学校の教科書に載り、テストでこのときの作者の気持ちを答えよ、なんて出たならば絶対に俺の気持ちを当てることはできないと断言できるね。ちなみに答えは『勃起してくれたら良いな』だ。国語の先生、もしものときは頼むぜ。違ってたらバツにしてくれよ。

 

「どんなところが好きなの?」

「あっ、えっとっ、好きなところはいっぱいあるんですけど、特に文章の表現が素敵だなって」

 

 ほう。

 ストーリーでもキャラクターでもなく、文章表現の部分か。

 正直なところ、これは意外だ。女子小学生だったら、主人公と共感できるとか、このキャラが可愛いとかかっこいいとかそういう感想だと思っていた。

 作家としては表現力を褒められたに等しく、嬉しいことだ。もちろん、ストーリーやキャラクターも褒めて欲しいのだけれど。

 それにしてもまさかこんな年下の、すなわち読書歴の少ない女の子に言われるとは。ぶっちゃけ、背伸びをしてわかったつもりで言ってるだけなのではないかという気もしてくる。別に彼女のことをいじめたいわけではないが、詳しく聞いてみてもいいだろうか。

 

「例えば?」

「そうですね、初めて知った言葉なんですけど、しとどに濡らしているとか、そんなの見たことなくて」

 

 うーん。確かにそうかもな。小学校の教科書にはあまり出てこないかもな。ただし、官能小説ではありふれた言葉です。しょっちゅう出てきます。陳腐と言っても良いね。

 

「あとは怒張とか、かっこいいなって」

「へえ」

 

 彼女がカッコいいと思っているのは当然、チンコが立派に怒張しているさまを想像してのことではないだろうが、俺はむしろチンコ以外に怒張するものを知らない。なんだと思ってるんだろ。

 

「あとはやっぱりメイちゃんが可愛いです」

「うんうん」

 

 そりゃそうだよね、それを言ってもらわないと困っちゃうよ。よかった~。

 

「例えばどんなところが?」

「そうですね、スカートの下まで垂れるくらいびっしょりとなるところとか」

「おおう!」

 

 そこか! そこなのか! 嬉しいが、なんだと思っているのか。おもらし? おもらしすると可愛いの?

 

「いくらなんでも、よだれがそこまで垂れるって、食いしん坊にもほどがありますよ、ふふ」

 

 そんなわけないだろ!?

 みんなどんだけメイちゃんが食いしん坊に見えてるんだよ。メイちゃんは食欲じゃなくて性欲が強いんだよ。よだれも垂らすけど、それは快楽に溺れた結果だらしなく口が開いたままになるからだよ。

 

「あと恥ずかしがり屋さんなのも可愛いです」

「おお!」

「すぐ顔を赤らめますよね」

「うんうん!」

 

 わかってくれたか! そうなんだよ!

 メイドに必要なものは恥じらいなんだよ!

 真奈子ちゃんはうっとりとした表情で目を閉じると、

 

「膨らんだ双丘が弾むさまを、ご主人様にジロジロと見られてメイは羞恥で顔を赤らめた」

 

 と朗読するように少し声を張って言った。

 

「おお! 暗記してるの!?」

「はいっ、ここの描写が大好きなんです」

 

 ええ~。こんなエロいところが?

 自分で書いてて勃起したよ?

 

「ほっぺたが膨らむくらい食べ物を口に入れちゃうメイちゃんと、それを見ていじめるところと、それを恥ずかしがるところがなんかもう、イチャイチャしてる感じで」

「な、なるほどね」

 

 双丘はほっぺただと思ったんだ。そっかー。おっぱいなんだけどなー。

 イチャイチャしてる感じってレベルじゃないんだけどなー。がっつりヤッちゃってるんだけどな。

 その真実を決して彼女に伝えるわけにはいかない。ああ、もどかしい。

 でもイチャイチャしてるってことは伝わってるんだな。ちょっと安心。

 

「真奈子ちゃんは、誰か男の人とイチャイチャしてみたいとか思ってるの?」

「えっ、ええっ!?」

「はは、メイみたいに顔が真っ赤だ。可愛い」

「あ、あう……」

 

 一瞬でゆでダコのように顔が真っ赤になるというのはこういうことだと教えてくれるような、お手本のような恥ずかしがり方だ。小説表現を映像化すると普通になりそうだが、事実は小説より奇なりというところか。人気のイラストレーターでもここまで可愛く描けないだろ。

 

「真奈子ちゃんとイチャイチャできる男の子がいたら羨ましいな」

「ほ、本当ですかっ」

「うん、やけちゃうね」

「はうう」

 

 うん、この恥ずかしがり方は勉強になる。メイの描写の際に参考にしたいから、もっと恥ずかしがらせて観察したいかも。

 

「ちょっとちょっと、お二人さん」

「あ? なんだいつの間にいたんだ詩歌」

 

 まったく気づかなかったが、妹の詩歌がジトッとした目をして俺たちの座っているソファーの横に仁王立ちしていた。

 

「二人が独自の世界作ってイチャイチャイチャイチャしてる間ずっといたんだけど」

「いや、イチャイチャしてたんじゃなくて、イチャイチャしたとしたらどうかという話をしてただけだ」

「あっそ……ところでまなちゃん、今日お昼ごはんウチで食べていきなよ」

「ええっ、そんなの悪いですよ」

「うーん、今食べるもの無くてさ、兄貴と二人で買い物行ってくれると助かるんだよね」

「えっ、二人で、お買い物ですか!?」

「うん、駄目?」

「い、行きたいです!」

「俺は……」

「お兄ちゃんに発言権はないから」

 

 くっ、俺がサインをしてあげるという設定だったはずなのに。

 若い女の子の前では無力だな。詩歌からがま口を受け取る。

 

「わーったよ、行ってくるよ。ごめんね真奈子ちゃん、つき合わせちゃって」

「いえっ」

 

 慌てて立ち上がった真奈子ちゃんは、膝をローテーブルにぶつけて、悶絶してソファーに倒れた。

 

「だ、大丈夫!?」

「だ、大丈夫、です」

 

 この子、ドジっ子なのかもしれないな。メイっぽいかも。ますますこの子を観察すると、小説のネタになるかもしれない。買い物に少しモチベーションが上がった。

 



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清らかな少女は黒くて太くて立派なモノを欲しがった

 

 小さい。

 やっぱり外に出て一緒に歩くとなおさら痛感するなあ。

 小学六年生の清井真奈子ちゃんは、おそらく140センチメートルくらいと思われる。

 女の子の身体としては小さいが、子供にしては大きい。そして手足が細い。

 去年の詩歌と比べても身体は一回り小さく感じるが、胸だけは今の詩歌よりも大きい。将来凄いことになりそうだ。AV女優で例えると……いや、止めておこう。

 いくら俺が官能小説を書いているからと言っても許されない思考だな、せいぜい少年誌のグラビアアイドルくらいにしておかないと。

 ぶんぶんと(かぶり)を振ると、真奈子ちゃんは小首をかしげた。君は俺の脳内のことなんて一生知らなくていい。

 

 俺たちは昼飯の材料を買うためにスーパーマーケットへ向かっており、場所を知らない真奈子ちゃんは半歩後ろをついて来ている。

 妹や小さな子供だったら気安く手をつないでもいいが、小学六年生といってもやはりレディ。そういうわけにもいかないので、ちらちら後ろを振り返りながら歩くことになっている。

 しかし俺が見つめるたびに彼女の足が止まってしまうので、近所のスーパーに行くだけなのに時間がかかっていた。

 

 う~ん、このあたりが参考になりそうな気がしますね。

 妹の要請で昼食の買い物をしている理由の一つとして、俺が今書いている小説のヒロインであるメイドの言動の参考になるんじゃないかと思っていた。

 なんかドジっ子というか天然というか、そういう雰囲気を感じるのだ。

 

 それにしても、早く目的地に着きたいからまだ来ないのかと思って見ているのに、それで足を止めちゃうなんて……。

 これがメイだったら。

 おどおどと怯えた表情で、もじもじとスカートの裾を握り込むメイ。

「これはお仕置きが必要だな」

 そう言ってご主人様は、とびっ子ローターのスイッチを入れるわけだ。

 怯えていた青い顔がだんだんと羞恥の赤い頬に変わっていく。

 そうするとますます歩くのが遅くなって……通路にぽたぽたといやらしい雫を零して……

 

四十八(よそや)先生?」

「おおう」

 

 つい、妄想の世界に飛び立ってしまった。まったく俺は仕事熱心すぎるね。

 決して女子小学生(JS)相手にド変態なエロい想像をしまくっているクソゲス野郎だと思わないでいただきたい。これは創作、創作活動です。

 

「ごめんごめん、ちょっと考え事を」

「ひょっとして小説のネタですか!?」

「そ、そうなんだ」

「凄いっ! さすが作家ですねっ」

「ま、まあね」

 

 なぜだろう、自分でもそう思っているはずなのに、こう素直に言われると少し心が痛む……。

 

「ちょ、ちょっと急ごうか。遅くなると詩歌にどやされる」

「あっ」

 

 うっかり詩歌にするように手を出してしまった。手を出すというのは、言葉通りの意味であって、決して性的な意味でいたいけな少女に手を出してしまった、という意味ではない。もちろん妹にも手を出していない。

 

 少しだけ躊躇したものの、真奈子ちゃんは俺の手を握ってくれた。手をつないで歩くのは恥ずかしいだろうけど、こうしてくれたほうが歩きやすい。

 ちょっと前まで、詩歌もこのくらい手が小さかったなあ。

 

 今日は暑いということもないが、なかなかの日差しが降り注いでいる。

 できれば木陰を歩きたい、そんな天気だった。

 彼女がなるべく影の部分を歩けるように赤いレンガのような歩道を、二人で手をつないで歩く。

 ようやくスーパーに入ると、冷房がふわっと身体を包んだ。ようやく一息つけるって感じだな。

 俺は左手でかごを掴むと、野菜の目玉商品売り場からチェック。

 野菜を買わないで帰ると、詩歌が文句を言うだろうからな。俺は味噌汁の具はワカメが好きだから野菜いらないんだけど。別にワカメ酒とかそういう意味ではなく。もずくの味噌汁も好きだな。

 

「あ、あの……」

 

 手をつないでからはずっと話してなかった真奈子ちゃんが、申し訳無さそうに唇を動かす。

 どうしたのかな、ワカメ酒って何ですかとか聞かれるのかな。聞くわけないな。

 

「どうしたの?」

「あの、は、恥ずかしいです」

 

 完全に下を向いている。おかしいな、うっかり何か言っちゃったのかな。まだ真奈子ちゃんはもずくみたいなものが生えてないからお酒を注いでもワカメ酒とは呼ばないかもしれないね、とか言っちゃったのかな?

 言ってたら恥ずかしいとかじゃなくて通報される気がするな。

 

「スーパーの中では、その、手を……」

「あ、ああ」

 

 スーパーは冷房が効いてるから手を握ってても暑くないな、などとアホな考えだったな。そりゃ食品スーパーの野菜売り場で手をつないでいるなんてバカップルすぎる。

 

「ごめんね」

「いっ、いえっ」

 

 俺が右手を離すと、彼女は解放された左手を胸に当て、息を整えていた。そんなに恥ずかしかったのか、申し訳ないな。

 

「あ、そうだ、お菓子買ってあげるよ、一つだけ。ってそんな子供じゃないか」

「あ、えへへ、実はそれ憧れてたんです」

「憧れ?」

「わたし、スーパーって来たことがなくて」

「スーパーに来たことがない?」

「うちのお料理は全部家政婦さんが作ってるんです」

「ええっ!?」

 

 な、なんと!? ドジっ子メイドみたいだと思ってたのに、メイドを雇ってる側のお嬢様だったのか?

 確かに見た目はお嬢様の方がよっぽど納得だった。

 

「お買い物のお手伝いするとスーパーで一つだけお菓子買ってもらえるっていうの、しーちゃん先輩が嬉しそうに言ってました」

 

 しーちゃん先輩ってのは、うちの詩歌のことだろう。小学校のときはよく、しーちゃんと呼ばれていた。中学生に上がったときから先輩が追加されたものと思われる。

 

「そっか、じゃあ、先におかずの材料を選び終わったらお菓子売り場に行こう」

「はいっ。楽しみです」

 

 まだ俺たちはスーパーの入り口付近にいる。立ちっぱなしだと邪魔になるので、一旦果物売り場の方へ移動した。

 

「あ、バナナ」

 

 別に珍しくもないだろうが、真奈子ちゃんがバナナを手に取った。まさか食べたことがないとか?

 本当にスーパーに来たことがないのだろう、房のバナナを一本ちぎってしまう。これはもう買うしか無いな。

 しかし、その一本のバナナを左手の指だけで握ると口元に持っていく。え、まさか食うの?

 真奈子ちゃんは右手で髪を掻き上げて耳にかけると、うっとりとした表情でバナナの先に向かって口を近づけ、少しだけ舌を出してはぁはぁと息を漏らす。えっろ……ってこれは。

 

「あ、メイの真似?」

「そうです~」

 

 これってご主人様が朝から行うセクハラなんだけど。女子小学生が真似しちゃうとはね。本当に発行して大丈夫なのかな俺の小説……。

 

「似てる似てる、可愛いよ、ありがとう」

「あ、あう。ありがとうございます」

 

 バナナを買い物かごに放り込みつつ、今の映像を脳内にバックアップ取りつつ、一旦は今見たことを忘れるという高度な技術が必要とされる作業を行った。

 ここにいるのはマズイと判断したので、早々に奥の方へ。

 

「食べたいものある?」

「先生の好物が食べたいです」

「俺の? んー、そうだなあ」

 

 ここで女体盛りだよ! なんて言ってもまったく面白くないことはわかっているので、本当のことを答えたいが、今から調理できないものを言っても仕方がない。二日目のカレーとか、何回も温め直したおでんとか。そういうの好きなんだよね。

 

「あ、あれって試食ですか?」

「お、そうみたいだね」

 

 スーパーの試食を見たことがないのだろう、はしゃいでて可愛いなあ。

 鼻をくすぐるのは、焼けた肉の美味しそうな煙と香り。

 

「ご試食いかがですか~、美味しいフランクフルトですよ~」

「ごめん、チョット待って」

 

 俺は真奈子ちゃんを止めた。ここでフランクフルトはマズイ。バナナですらあれだったんだ、フランクフルトはヤバイ。絶対ヤバイ。焼いているオバちゃんがドン引きするようなことになる。

 俺の小説には歯を使わずにフランクフルトを食べるシーンがある。本当は比喩なんだが、真奈子ちゃんはそう思っていないだろう。ここで止めなかったら女子小学生の公開フェラが始まってしまう。

 

「真奈子ちゃん、あれはね、楊枝に刺さったやつだけだからね食べていいのは」

「あ、そうなんですねっ。あぶないあぶない」

 

 本当にあぶないところだったぜ。

 美味しそうに試食を食べている真奈子ちゃんを見ながら、心から安堵する。

 お嬢様に食べさせるなら、思いっきり庶民のものがいいかもなー。

 

「よし、昼は他人丼にしよう」

「なんですかそれ?」

 

 面白そう、と彼女は目を輝かせる。親子丼が母娘とえっちするという行為をさすからといって、他人丼が母親と別の娘との三人プレイを指すわけではない。他人丼っていうのは親子丼の鶏肉を豚肉にしたもののことだ。え? 説明しなくてもわかるって? でも俺は初めて聞いたときそう思ったから一応ね?

 

 豚バラと玉ねぎ、卵を買い物かごに入れてお菓子売り場へ。

 きょろきょろと物珍しそうに目線を泳がせる真奈子ちゃん。これほどお菓子を買ってあげる甲斐のある相手もいるまい。

 

「わぁ、なんて黒くて太くて立派なモノなんでしょう。わたしの小さなお口で上手に咥えられるかなあ」

「ああ、それは、ふ菓子だね」

 

 真奈子ちゃんは決してエロいわけでも、天然なわけでもない。俺の小説っぽく言っているのである。作者としても嬉しさ二割で、罪悪感が八割ですね。

 ふ菓子を大事そうに両手で持って頬を赤らめている真奈子ちゃんに、カゴに入れるように促す。これがわざとやっているならともかく、ピュアゆえの行動だからなあ。

 

 レジでポイントカードを提示するところや、レジ袋不要カードを使用するようなことですら、興味深そうに覗き込む純粋な少女を見ていると、ますますもって俺の小説の真実なんて知らなくていいと思ってしまう。頼むから手を使わずにバナナを剥く練習なんてしないでくれよ。

 

 トートバッグに食材を放り込み、肩にかけてスーパーを出ると、すぐに左手を差し出してきた。

 俺はためらいもせずに右手でその手を掴んで歩き出す。

 うん、こういうところはメイの参考にできそうだ。

 

 ただ可愛いだけで、エロくもなんともないけれど。

 



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妹に彼女との初めてを見せつける

 

「わ~、新婚さんみた~い」

「えっ、えええっ?」

 

 どこがだよ。妹の詩歌による大きめの独り言に心のなかでツッコミを入れる。

 真奈子ちゃんはエプロンを付けていた。

 もちろん服の上からであって、決して裸エプロンではない。新婚だったら裸エプロンが必須だということもわからないのか詩歌は。

 普通に小学生にしてはちょっと巨乳の激カワロリがうちの台所で料理をしているだけだ。

 彼女は買い物も初めてだが、料理も学校の調理実習などでしか経験がなく、ぜひ手伝わせて欲しいと志願してくれたのだった。

 しかし真奈子ちゃんは少し嬉しそうに見える。まぁこの年頃なら花嫁に憧れるのかもな。純粋無垢のお嬢様のままで居て欲しいものだ。もっとも願わなくともこの娘が出会い系サイトで収入を絞り込み検索するようにはなりそうもないし、体を持て余している主婦ですと書き込むこともないだろう。まぁ、そういうネタは嫌いじゃないけど。

 そんなことを考えながら料理している間も、対面式キッチンの向かい側からは詩歌の視線が注がれていた。なんでそんなにニヤニヤしてんの? 俺の顔にチンコでもついてるのか?

 

「わ~、初めての共同作業みた~い」

 

 無理のあるからかい方だが、ピュアな心の真奈子ちゃんは「はうう」と恥ずかしがっている。

 どうやら詩歌の言う初めての共同作業というのはケーキ入刀を指しているらしい。

 単純に豚バラを切るのに、最初は俺も包丁を握っていただけだ。これを見てその発想、我が妹ながら乙女すぎやしないか。

 そもそも披露宴まで初めての共同作業をしない夫婦なんているだろうか。ホテルの部屋を選んだり、一緒に腰を振ったりするだろ。付き合ってすぐにするであろうコスプレ用の衣装や道具を選ぶ作業はどうなるんだ。ケーキ入刀より性器挿入の方が先だと思います。

 

「あ、うーん、固い~、入らない~、あっ、痛い」

「あっ、ごめんね、痛かった? 大変だ、血が出てる」

 

 今のやり取りは、決して俺がギンギンになった男のそれを強引にねじ込み、少女が破瓜の苦しみに耐えているのではない。

 真奈子ちゃんが包丁で玉ねぎを切るのに失敗して、ちょっと指を切っちゃったのだ。子供用の包丁を渡したからかえって切りにくかったかもしれなくて申し訳ない。

 俺は彼女の左手を取り、小さな薬指の先をじっと見つめて傷の様子を見る。

 

「わ~、指輪の交換みた~い」

「ふぇええ!?」

 

 どこがだよ。またしても詩歌は妙なことを口走っている。なに? あいつ結婚したい症候群なの? マジで病気を疑うレベル。真奈子ちゃんは真に受けちゃうんだからやめろっての。

 だいたい、指輪の交換だったら、こんな風に指をしゃぶったりしないぞ。

 

「ちゅぱ、ちゅぱ、ちゅぷっ。こんなもんか」

「ふぁっ!? ふぁああああ!?」

「なあっ!? なあああああ!?」

 

 思わず、メイドがご主人さまの指をしゃぶるようにご奉仕的に舐めてしまったが、もちろん目的は応急処置である。

 別に俺が実は吸血鬼という設定だから血を舐めたわけではない。

 急を要するため事前説明無しで行ったため、真奈子ちゃんが驚いたのはわかるけど、詩歌は何で叫んだの?

 俺の指しゃぶりがあまりにも上手すぎたからかしらん。スキルが高いのは俺が小説の描写のために普段からよく自分の指をしゃぶってるからです。俺に男性経験があるとかいうわけでは決して無い。

 

「驚かせてごめんね? ほとんど切れてないから舐めるだけだけでもいいと思うけど、心配だったら消毒と絆創膏を」

「いえっ! いいですっ! ありがとうございますっ!」

「は~。甘ったるくて見てらんない」

 

 詩歌はダイニングテーブルの椅子から立ち上がり、部屋を出ていった。

 今他人丼を煮るために温めている煮汁は確かに、砂糖とみりんの匂いを漂わせているが、見てらんないことはないだろう。変なやつだ。

 

 真奈子ちゃんはまだ痛むのか、傷口を舐めていた。なぜか痛そうというよりは、恍惚としたような表情だが……まさか真奈子ちゃんが吸血鬼だったのでは……って自分の血をそんな旨そうに舐める吸血鬼っていんのかね。

 吸血を性行為のようにエロティックに表現した創作物は枚挙にいとまがないが、俺は直接表現されたものが好きです。ヴァンパイアよりサキュバスが好きです。

 

 スライスした玉ねぎと豚肉を雪平鍋に放り込む。ちゃちゃっと混ぜつつ、炊飯器のご飯を丼に盛る。次に冷蔵庫に余っていた大根とねぎをだし汁で煮たものに味噌を溶く。漬物や常備菜も今のうちに出しておこう。

 意外かもしれないがそれなりに料理はできる。両親が不在にしがちな家で、年の離れた兄貴が妹に飯を作るのは当然の流れだからだ。

 我に返った真奈子ちゃんが手伝いを申し出た。

 

「あ、あ、あの~。役に立たなくて、ごめんなさい。どうしたらいいですか?」

 

 おどおどと怯えているようなその表情はまさにお仕置き待ったなしのドジっ子メイドそのものだな。もちろん足の指を舐めるように命令するわけにはいかない。

 

「これ、テーブルに並べてくれる?」

「はいっ」

 

 たどたどしくも料理を並べていく真奈子ちゃん。う~ん、滑って転んでうっかりヨーグルトとか蜂蜜とかを頭からかぶっちゃって「ふぇえ……」と言いつつイベントCGゲットのチャンスだったな、これがエロゲーなら。

 やっぱ和食だと絵にならんのかな……納豆とかかぶって「べとべとですぅ」とかでもエロいのかな。臭いから駄目かな……いや臭い方がエロいという可能性も……などと創作に携わる作家としては非常に至極まっとうな考えをしつつも、他人丼は完成。ほんと俺って仕事熱心で困っちゃうよね。クリエイターの鑑だね。

 

「詩歌呼んでくるから待ってて」

「は~い」

 

 まさか二人で食べて新婚気分を味わえという意味ではないと思うので、妹を探しに行く。

 トイレを開ける。いない。あいつはいつも鍵をかけないから開けないとわからん。

 風呂を開ける。いない。あいつはいつも鍵をかけないが、普段はさすがに入ってるときは電気が付いてるからわかる。まぁ、客人が要るのに風呂入ってるとは思えないが一応ね。どっかのしずかちゃんみたいになんでそのタイミングで入ってるのっていうこともあるからね。特にえっちなラブコメだとね。

 まさか親の部屋には居ないだろうから、俺たちの部屋かな。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 

 なんだ、なぜ俺が居ないとわかりきってるのに俺を呼んでいるんだ?

 しかも切なげな声で。

 まさか俺はもうすぐ死ぬのか? 実はこれは病院のベッドで見ている夢で、妹は死に際の俺を呼んでいるのか?

 

 様子をうかがうとどうやら、ベッドの上で少女漫画を読んでいるようだった。またか。

 うちの妹はスカートがシワになるからという理由で、下に何も履かない状態でベッドに寝転んで漫画や小説を読んでいることがある。Tシャツだけワイシャツだけパジャマの上だけとかだね。スカートのシワが理由ならパジャマの下を脱ぐ必要はまったく無いと思うんだけどね。

 漫画や小説がどういう話なのかは知らないのだが、だいたい読みながら俺を呼んでるんだよな。でも、それで呼ばれたかと思って行くと顔を真っ赤にして怒り出すんだ。どういうことなんだか、思春期の女の子はわからん。

 いつもは放っておくのだが、今は客人を待たせているからな。

 近づいても気づかないようなので、少女漫画のタイトルをチェックしてみる。

 モテモテ兄貴がすべてを見せつけてくるんですけど!?

 という題名のようだ。なにそれ。官能小説だったらブラコンの妹に彼女との性行為を見せつけて妹が寝取られ属性に落ちていくみたいな内容だろうけど、少女漫画だからそんなわけないし。

 

「ああ……お兄ちゃん……他の女の子とばっかり……ううっ、うっ」

 

 なんだ? どんだけ感情移入してんだ。本を読んでいるときの独り言にしてはやたらくっきり聞こえるよ。しかし、今呼んでいるお兄ちゃんというのは俺じゃなくて物語の登場人物なのだろうね。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」

 

 片手で本を持ったまま、妹はびくんびくんと痙攣した。おいおい、大丈夫かよ!?

 

「おい、詩歌、呼んだか? 大丈夫か!?」

「うわあああああ!? お兄ちゃん、いつの間に!? ノ、ノックしてよっ!?」

「だからノックできないんだって」

 

 ノックするドアがない部屋の作りはお前のせいですよ。奥まった廊下だから壁しか見えないとはいえ、部屋は廊下から丸見えだ。同じく二階にある親の部屋にはもちろんドアがある。

 

「見られたらまずい状況だったのか?」

 

 一応相手も難しい年頃なので、聞いてみる。

 

「んな、んな、んなわけないでしょ~。お友達が来てるんだよ~?」

「だったら漫画なんか読んでるなよ……」

「仕方ないじゃん、あんなの見せつけられたら……我慢できなくなっちゃう……」

 

 ……甘い匂いにむせて出ていったのでは?

 どうもこいつの言っていることは要領を得ない。

 

「まぁ、いいや。飯出来たから、下履いてダイニング来いよ」

「あ、うん。手を拭いてから行くね」

 

 拭いてから行く?

 洗ってから行くの間違いでは? なんで漫画を読んでて手が濡れるんだよ。

 

 食事を終えると、後片付けは詩歌が担当してくれるということで、二人でお茶など飲みつつ目をキラキラさせている真奈子ちゃんにサインを書いて渡した。

 

 大事そうに持って帰っていく真奈子ちゃんを見送ると、俺も少し作家としての幸せを感じて、それを噛みしめる。本来伝えたいこととはまるで違うとは言え、読者が喜んでくれるのは嬉しいことだなあ。

 

 さて、次の本のコンセプトは姉妹丼にしようかな……。



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うら若き少女の初めてを目撃する

 

 よしよしよし、手に取れ手に取れ……俺の大事なそれを……まずはじっくりと見るんだ。

 小学四年生といったところだろうか?

 今どきのファンシーな紫とピンクのランドセルが似合う少女は、短いスカートを揺らしながら俺のものに興味を示しつつも、ためらっていた。

 本当に初めてなのかもしれないな。

 少女の初めてのそれが俺のものだというのは、興奮するじゃないか。

 お試しで構わない。一度切りでも構わない。頼むから、お願いだから、願わくばその体験を与えたい。

 青春ともまだ呼ぶことが出来ないあまりにも青い少女。その少女にはまだ早いであろう体験を。

 ああ、もどかしい。

 ただ見ているだけというのは、これほどもどかしいものなのだろうか。

 しかしこちらから声をかけるのは、手を出すのはさすがにマズイだろう。

 こうやって見ているだけでも場合によっては問題になるわけで。

 くそ、勇気を出すんだ。

 そっちから手を出してくれないと困るんだ。

 頼む、頼む、頼む、頼む!

 俺の、俺の初めてをもらってくれ――――!

 

 駄目だったか……。

 

 少女は、人気作の続編である13巻を手にとってレジへ向かった。

 そりゃそうだよなあ……。

 

 白い鳥文庫から出版された俺のデビュー作の発売日。俺はほとんどの作家がそうするように本屋で自分の本が売れるところを見に来ていた。

 本当は官能小説家とデビューし、獅子の穴とかスイカブックスで見張るはずだったのだが、ターゲットがまったく異なってしまったのでショッピングモールに入ってる本屋のテナントにいる。土曜日の午前中なので家族連れがほとんどだ。

 電車や車のおもちゃが大量に掲載されている幼児向けの本が置いてある場所から、小学校高学年をメインターゲットにした売り場を伺うというのはどう考えても不審者極まりない。自分の本を手に取ってレジに持っていくところを見たいだけなのに、なぜこれほど気を使わなければならないのか。

 かれこれ二時間ほど見張っているが一冊も売れる気配がない。絵本を物色している幼女から不審な目で見られることに快感を覚え始めたぞ。

 

 昼飯時になってもう腹が減ってきたが不在時に売れたらと思うと離れられない。アンパンと牛乳を買ってくるか?

 

「ちょ!? おまー!? これはこれは桜上水みつご先生のイラストではござらぬか!」

 

 おお! あれはまさに本来のターゲットという形の佇まい!

 ショッピングモールには似合わないアラサー感たっぷりで非健康的な顔と体型! すでに薄くなり始めている頭皮! 将来が心配になるウエスト! 安そうなチェックのネルシャツとダサいブルージーンズ! いまどきそんな喋り方するオタクいねえよと突っ込みたくなるくらいのクドイ言い回し!

 やっぱりテンション上がるよね~。幼女だの少女だのにモテたって仕方ないんですよ。こういうお客様から神と崇められたいわけ。尊死とか言われたいわけ。

 まさか土曜日のショッピングモールで本来のターゲットが俺の本に注目してくれるところを見ることが出来るとは!

 

「むほー、萌え萌えのメイドさんですぞメイちゃんとやら~、これは買いなのではござらぬかー?」

 

 そうだよ、買いだよ!

 俺はあんたみたいな人のために書いたんだよ! 決して妹や妹の友達のためじゃないんだ!

 イラスト目当てでもいい、頼む、手に取ってくれ、読んでくれ、買ってくれ。そして出来ればヌイてくれ! さらに言えばおシコリ報告してくれ! ツイッターで「拙者、白い鳥文庫で抜いてしまった侍」とかつぶやいてくれ……!

 そんな願いも虚しく、

 

「うわっ、キモっ。どいてよ、そこの臭いブタ」

「ひいいっ!?」

 

 小さな女の子が容赦なくキモオタ……いや、お客様を毛散らかして……いや蹴散らかしてしまった。

 くそっ、美少女ごときが生意気な。どうせお前らなんて可愛いだけでおシコリ報告もしてくれないしツイッターで使った回数もつぶやいてくれないんだろうが。そもそもチンコも付いてないくせにだね……

 

 思わず睨みつけていると、なんとその少女は俺の本を手にとって、読み始めた。おいおいおいおい。

 俺は隠れるのをやめて彼女の顔が見える場所に移動した。

 

 いやー、さすがお目が高い。最初からわかってましたよ、知性が溢れてるもの。

 少女は長い黒髪を飾る赤いリボン以外は全身が黒ずくめだが、パンプスにしてもスカートにしても品が良く、かなりのブランド物を着こなしているようだった。どうみても十歳か十一歳かというところで、背も低くまだ胸もほとんどない状態だが、やたら垢抜けていて売れっ子の子役女優のようだった。

 

 長いまつげを少しだけ動かしながら、黒い瞳が縦に動いていく。

 結構読んでくれているな……。

 ごくり。

 思わずつばを飲んだのは、本を読んだ感想がどうか気になるからであり、決して頬を赤らめて立ち読みする少女がエロく見えたからではない。

 しかし、なぜこんな表情に?

 

 少女はもじもじと脚を擦り合わせたり、目は潤み、唇は開いたり、きつく閉じられたり。

 なんというか、物語を読んで夢中というよりは、性的に興奮しているような……いや、そんなわけないだろう。下手したらまだ男湯にだって入れるかも知れないようなビジュアルだぞ。

 

 手に汗を握りながら見守っていると、彼女はパタンと本を閉じた。あぁ、もうお終いか。

 がっかりしたのは一瞬だけだった。

 なんと、本を持ってレジへ向かっていくじゃないか……!

 おお、なんと、うら若き少女よ、あなたが女神様だったのですね……!

 

 俺はその場で懺悔を始めた。

 あんな小さな女の子が少ないお小遣いを使って俺の本を買ってくれたという奇跡的に喜ばしいことが起きた。それなのに俺ときたら、どうせツイッターにつぶやいてくれないだの、チンコも付いてないくせにだの、何様だというのか。

 俺のようなラッキーでたまたま本を出してもらえただけの作家があのような美少女に自分の書いた文章を読んでいただけるとか世界一の幸せ者だ。

 

 その日、他に俺の本を買ってくれた人に出会えることはなかった。

 そして、ツイッターに感想を書いてくれた読者もいなかった。

 




まぁ、休日のショッピングモールの本屋で青い鳥文庫を立ち読みした私がそのときに思いついたのがこのお話なんですけどね!?(最低だ)


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欲求不満の俺にサキュバスがやってくる

 

 だから俺にサイン会なんて時期尚早だと言ったんだよ~。

 

 白い鳥文庫の合同サイン会をジャンク堂という大手の本屋で行うことが決まったのはいいが、俺以外の二人はもう数冊出している人気作家であり、デビューしたばかりの俺は場違いにも程があった。

 

 二人に並ぶ行列を見やりながらため息をつく。この自分の人気の無さを思い知るだけのイベントは超ドMのメイドのメイなら快感になるだろうが、俺は残念ながらそうじゃない。ただただツライだけ。

 

 とはいえ二人のビッグネームの便乗で少しでも売れると編集から言われてしまえばやらざるを得ない。そりゃ一冊でも本が売れるならね。どんな陵辱にだって耐えましょうとも。今すぐココで全部服を脱いでも構いませんよ、逮捕されなければ。

 

 開始時刻の時点で俺の列はゼロ。

 他の二人は長蛇の列だ。サインしている作家さんは有名らしいが俺は当然知らない。官能小説家ならいっぱい知ってるけど。

 二人とも国語の先生みたいなお淑やかそうな美女だ。眼鏡にニットという組み合わせすら同じ。汚れを知らない乙女のまま大人になったような優しそうな顔をしている。おそらく一生官能小説を読むことは無さそうだ。

 

 並んでいるのは小学校高学年の女子を中心としつつ、中学生と高校生も多数。大人や男性もちらほらいるが、まぁなんだエロいことしか頭にない男子高校生みたいなお客様はいないね。当たり前だよ、そういうレーベルだもん。男子高校生はテレビアニメ化するようなライトノベルを読んでるだろうさ。俺はレンタルビデオショップののれんの奥に置かれるようなアニメか∨シネの映像化を夢見ていました。

 

 この二人の美人作家がもし官能小説家だったら、サインを待っている間にどれだけの人間に視姦されることだろう。ファンの人たちは「うわ~、こんな美人がこんなエロい小説を……」と感激しつつ、悶々とするんだろうなあ。これは作品を書くための取材だからとか言いながらエロいことをしたりするところを妄想したりして。ありそうありそう。いや、俺にはそういう経験ないけど。

 

 四十歳も過ぎたような男どもから、彼女たちが脳内でガンガンに犯されるところが容易に想像できる。こういう男の喜びを知ら無さそうな女に教えてやるよってな感じで、上からなスタンスで攻めるに違いない。別に官能小説でシコってるだけの魔法使いになっちゃった童貞のくせに、男子高校生でもしないようなしょうもない妄想で視姦するんだろうなあ。いいなあ。羨ましいなあ。

 

 いや、別に俺がキモオタに視姦されたいってことじゃないよ? そういう気持ちでムンムンなファンに囲まれたいということだ。

 

 アホなことを考えてるうちにも隣の席ではサイン会が進行していく。

 

「ずっとファンですっ。今日は感激ですっ」

 

 俺が求めているファンのそれに比べてこの純真な少女たちは当たり前だけど、そんなことは露ほども考えないのだろう。何度も読み込んだであろう少しボロくなった本にサインをねだっていた。夜のお供に使うわけでもないのに、そんなに何度も読むかね。俺は名作漫画は一度しか読まないが、お気に入りのエロ漫画は何度も読むよ。そういう本を書きたいんだよなあ。

 

 ぼんやりと横の列を見ていたら、俺の目の前に小さな影が出来た。

 

「はぁ、はぁ。どうやら間に合ったみたい」

 

 走ってやってきた少女は、どこか見覚えがあった。長く艷やかな黒髪……ってそりゃ日本では普通だし。芸能人みたいな美少女だけど、こんな子役に覚えはない。服装は、私立小学校の制服だろうか。紺色のブレザーと茶色の鞄はお嬢様学校のものに違いない。俺と接点なんかあるわけがないわけで、気のせいだろう。

 

「四十八先生ですか?」

「そ、そうです」

 

 女子小学生相手に、アガってしまった。そりゃサイン会に始めてきてくれたファンであれば緊張しないわけもない。メイちゃんが初めてスカートをたくし上げろという命令をされたときくらい緊張する。

 

「大ファンです、サインください」

 

 きっぱりとそう言いきってくれた。この子も何度も読んでくれたみたいだなあ。感激して、ぱらぱらとめくってみると、割と読み込んだ箇所にばらつきがあった。まるで、エロビデオの何度も使った場所だけが擦り切れてるみたいに。

 なんてな。そんなわけないけど。単にそのシーンがお気に入りなのだろう。有り難いことだ。

 

 サインをしているうちに、声をかけられる。

 

「お話してもいいですか?」

「もちろん。見ての通り他にお客様(どくしゃさま)もいないしね」

 

 サインペンに蓋をしつつ、前を向くと少女は顔を近づけていた。な、なんだ?

 形の良い唇が動き、小さめの声が紡がれる。

 

「これって、えっちなお話ですよね?」

「――な!?」

 

 大きな声を出してしまい、思わず口を抑えた。

 目を見開いて彼女を見る。女子小学生だ、紛れもなく女子小学生だ。清井真奈子ちゃんのようにグラマラスな体型なんてこともなく、ようやく膨らみ始めたかというくらい慎ましやかな胸部。二次性徴が遅延しているように見える細っこい腕と脚。

 そんな少女が今、なんと言った?

 まさか、俺の小説が本当はえっちな官能小説だということを理解しているというのか?

 ありえない。

 

「メイちゃんって、いやいや従ってるように見えて、本当はご主人さまのお仕置きが大好きなんですよね? えっちなお仕置きが」

 

 その完璧に正しい認識の感想を、やたら妖艶な顔で。嬉しそうにニヤリと笑って。そう、まるでサキュバスが獲物を見つけたかのようなイヤらしい表情を見せていた。

 そして、その顔を見て思い出した。

 そうだ、この子は、発売日にショッピングモールで俺の小説を手に取ってくれた子だ。

 

「名前、名前は? 書くよ」

 

 正直なところ、このファンの名前が知りたかった。サインに書くことを言い訳にして知りたいくらいに俺は感動していた。

 

小和隈(こわくま)あげは、です」

「あげはちゃんだね」

 

 あげはちゃんへ。と書きつつ、俺はぼそっと言った。

 

「これはね、ご主人さまのえっちなお仕置きが大好きなメイドの話だよ」

 

 それを聞いた彼女は、ぺろりと舌で唇を舐めた後、「わかってました」と言った。

 この少女は、大人の編集者ですらわからなかった俺の真意を、本当に伝えたかったことを理解してくれているというのか。しかし俺にはわかる。一見あどけない少女だが、その表情には雌を感じる。この子は、俺の小説を読んで、性的に興奮している。してくれていると確信できる。

 

 読み込まれている箇所を再度確認すると、それはまさにエロの濃度が高いシーンだった。そう、わかりやすくいえばヌキどころってことだ。この女子小学生は、濃密な性描写を理解したうえで何度も何度も読み込んだということだ。

 

 次のファンらしきお客様が来たので、あげはちゃんは去ろうとする。俺は名刺をサインのところに滑り込ませて返した。

 

 その後、数人のファンと、新規で購入してくれたお客様へのサインを行ったが、あんな感想をくれたのはあげはちゃん唯一人だった。

 

 

 



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少女の甘美な言葉で男は熱くほとばしる

 

 編集部からファンレターの入った小包が届いた。

 第一巻を読んでくれた読者からの。ありがたい。全部で八名分だ。

 可愛らしい便箋に、可愛らしい文字で、可愛らしいイラストまで描かれていたりして。書かれていることも、大好きですとか、何度も読んでいますとか、メイちゃんカワイイとか。感想そのものが可愛いですよ。小学生、中学生らしい感想ですよ。

 そりゃあ、もちろん嬉しいよ。嬉しすぎて頭がどうにかなりそうなくらいに。

 

 ただ。

 ただね、正直なところは一通のメールの方がもっと嬉しい。

 イラストもない、絵文字もない、ただの電子メール。ただそこに書かれているのは俺にとっては宝物だ。

 

『いただいた名刺のメールアドレスに感想を送ります、小和隈(こわくま)あげはです』

 

 あげはちゃんは俺が滑り込ませたメアド宛に感想をくれたのだ。今どきの小学生はメールも打てるらしい。パソコンからかスマホからかはわからないけど。

 

『さっそくですが、この作品を読んでいると初めての感情がわいてきます』

 

 ここまでは、他の子たちの感想とそれほど変わらない。ただそのときの感情には少し違いがあると思われるね。さて、ここからが本番だ。

 

『メイちゃんと同じことをしてみたいような、怖いような気持ちです』

 

 文章は普通だが、意味としてはとんでもないことが書いてある。要するにド変態の男からド変態なプレイを強要されたあげく処女を捧げたいという意味だ。他の子はよくわかってないからあっけらかんと似たような感想を書いているんだよね。それはそれで罪悪感があるのだが、あげはちゃんは恐怖心を感じているだけガチなんだよね。大人の階段はまだ登っちゃ駄目だよ!

 

『でもメイちゃんよりご主人さまの方が好きです。ご主人さまの気持ちになると、おまたがムズムズしてきます』

 

 ちんこが無いからムズムズするだけなんだよ。くそっ、もし今一つだけ願いが叶うならば彼女に男性器を付けてあげたい。きっとムクムクするだろうね。そしてドピュッピュするわけですよ。くう~っ、なんであげはちゃんは男子高校生じゃないんだ!

 

『なんであげはにはおちんちんが付いてないんだろう。付いていたらページをめくるたびに射精していたのに』

 

 本当だよ。おちんちんが付いてたら良かったのに。何度もヌキましたって言って欲しかったよ。ただね、普通に男性にだけ読まれていたらこの感想は来なかっただろうね。そう思うと感慨深いものがある。

 

 そしてこの最後の一文。

 

『この小説で、あげはの心のちんぽはフル勃起です』

 

 心の! ちんぽは! フル勃起!

 心のちんぽはフル勃起だよ!?

 なんという感想だ。女子小学生から貰える感想の中ではこれを超えるものがある気がしない!

 

 このファンレターは何度読んでも歓喜に打ち震えてしまう。熱いものが滾ってしまう。俺の心のヴァギナがぐちょぐちょですよ。うーん、あげはちゃんの表現に勝てないな。作家なのに文章で勝てない。くやしい、でも嬉しい! もうどうにでもして!

 

「うをー! もうどうにでもして!」

「ちょ、お兄ちゃん?」

 

 おっと、妹が普通にいるのに声をあげてしまった。

 俺たちはいまだに六畳の子ども部屋で生活している。一応机とベッドはアコーディオンカーテンによって仕切ることが出来るが日中は開けっ放しだ。

 チェアをくるーっと回して、パソコンから妹の方へ身体を向ける。

 

「いや、そのな? ファンレターを読んでいたら嬉しくてな?」

「あー、うんうん。それは嬉しいでしょーね」

 

 首を縦に振って共感してくれる詩歌。サイドポニーが揺れた。こいつはしょっちゅう髪型を変える。

 学校から帰ってきたらすぐに制服を脱いだら良いと思うが、夕方に風呂に入るからという理由で着たままだ。まぁ今のうちに着ておいてもいいかもな。普通は今のうちしか着れないから。大人になってから着る学生服はメイド服と並んで一番エロい服装だ。

 現状ではまったくエロくない我が妹はちょっとぶかぶかのブレザーから指だけを覗かせた。中学一年ならではの、あどけない仕草だ。

 

「ファンレターってほとんどが小学生の女の子でしょ? かあいいでしょ? ほほえまでしょ?」

 

 妹の優しい笑顔を向けられて目をそらす。可愛くて微笑ましいやつはいっぱい貰ってるんだが、今叫んだ原因となったファンレターはちょっと違うやつなんだ。お前には見せられないくらいなんだ。フル勃起なんだ。

 

「なんかさ、特別に熱烈なファンとかいたりするの? まなちゃんを超えるような子はいないよね?」

 

 そう聞かれて思い浮かぶのはもちろん一人しかいない。

 

「実はな、サイン会あっただろ。あのときに最初に走ってやってきてくれた女の子がいてな」

「そ、それは大ファンだね」

「そうなんだ。あげはちゃんって言うんだけど」

「あげはちゃんって、名前まで知ってるの?」

「サインで書いたし、メールにもそう書いてあるからな」

「メ、メールが来るの!?」

「おう。編集部通さずに直にファンレターが来る」

「完全にまなちゃんを超えちゃってるし……」

「その子のファンレターはちょっと他とは違っててな。めちゃくちゃ嬉しいんだよね」

「へ、へ~。特別なんだ」

「そうだな。どんな願いも一つだけ叶えられるという玉を七つ集めたらその子のために使いたいくらいだ」

「えええ~!? そ、そんなに!? なに、その子はなにか身体に悩みを抱えてるとか?」

 

 うーん。まぁ、そうといえばそうかな。おちんちんがあったらいいのにな、という悩みだな。俺にもしチンコが無かったらと思うと……考えられない。内臓を売ってでもチンコを買うぜ。

 

「そうなんだよ。その子の悩みは俺だけが理解ってるというかな。力になってやりたいというか」

「ふ、ふう~ん。そんなにその子のことを……あ、やば」

 

 何がヤバいのか突然会話を断ち切り、妹は俺から離れてアコーディオンカーテンを閉じた。

 

「ちょ、ちょっと一人にさせてね」

「お、おう」

 

 妹はたまーにこうなる。なんだろ、女の子の日なのかな。でもそういうことを言い出すのはデリカシーにかけるからね。俺の書くご主人さまだってそういう意味でのセクハラはしない。やたらに布面積の少ない服を着せることはあっても、風邪を引かないように室温は高くしておくからね。変態こそ紳士であるべき、そいつが俺のやり方。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ」

 

 これは俺を呼んでいるわけではないのである。ここでうっかり「呼んだ?」などとカーテンを開けると顔を真っ赤にして怒るから要注意だ。

 

「あげは……あげはちゃん……」

 

 なんで今知ったばかりの女の子の名前を呼んでいるのか。よくわからんが、乙女の秘密らしいからね。そっとしておこうね。

 

 もう一度、あげはちゃんのファンレターを読み直そうとパソコンを開いたら、新しいメールが届いていた。

 そこに書かれていたのは、たったの一行。

 

『四十八先生、あげはと会ってお話できませんか』

 




やっぱりメインヒロインが女子小学生だと来る感想も他とは違うというか。とっても刺激になりますねー。しかし他の作品はもっとPVに対して感想が来るのにこれは結構少なめなんです。やっぱり困惑が強いんでしょうか。四十八先生みたいにJSの直筆のファンレターが欲しいなあ。(R-15だから不可能)


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俺の股間にある棒を少女は舌だけで舐め上げる

 

 ぴんぽーん♪

 

 来たか。

 内心ドキドキしている。たかだか小学五年生の女の子がうちに来るというだけで。

 小和隈(こわくま)あげは。

 その少女は目の前で俺の本を買ってくれた。サイン会で一番最初にやってきてくれた。俺の小説の本当の部分を理解してくれた。そして最高のファンレターをくれた。

 彼女からメールで直接会って話したいという連絡を受けたあと、何度かのやり取りを経て、我が家へやって来る運びとなった。

 

 彼女の家で小説の話をするのは難しいようだった。ご両親はきちんとされた方らしく、俺が行ったら客として手厚くもてなされてしまうから、俺が彼女と二人きりになることも無理だと。そしてそんな親御さんの前で出来るような会話ではない。おちんちんという言葉ひとつで大騒ぎになるに違いないそうだ。俺たちが気兼ねなく話したらとんでもないことになるだろう。

 

 ファミレスというわけにもいかない。公共の場で女子小学生と卑猥な会話などしていたら通報されてしまう。

 

 小学五年生とわかったときは一人で来させるのはどうかと思ったのだが、普段から電車通学で我が家の最寄り駅は定期券内であり場所も大体わかるということと、六月に入って日が高いうちに帰宅できそうであること、そして何より彼女が我が家を訪ねたいと希望していることが決め手となった。

 

「はーい」

 

 俺が出迎えるはずだったが、勝手に妹が出てしまった。

 慌てて追いかける。

 

「あれ? 男の子?」

 

 玄関でドアを開けた詩歌は首をひねっていた。

 

「そんなわけないだろ、失礼な」

 

 妹をどかして来客を出迎える。

 梅雨入り前の強い日差しを浴びて立っていたのは、確かにあげはちゃんだが格好がボーイッシュだった。黒いキャップを目深に被り、黒い薄手のウェアと短いブルージーンズ、紺のスニーカーという出で立ち。

 しかしよく見ると肩のところはスリットが入っていて肌が見えているし、革のポシェットでいわゆるパイスラッシュが発生していて一応胸があることがわかる。

 

「こんな可愛い男の子がいるかよ。ごめんなうちの妹が」

「い、いえ……」

「待ってたよ、あげはちゃん」

「はい、あげはも楽しみにしていました」

 

 そう言って俺を見上げて微笑む。

 俺も笑顔で応えた。

 

「え、なに、もう恋人同士みたいじゃん……」

「何言ってるんだ詩歌、失礼だろ。おいで、あげはちゃん」

 

 妹はなぜか立ちすくんでいて役に立たないので、リビングに通す。

 外は暑かっただろうから、飲み物は冷たいものが良いだろう。

 

「オレンジジュースでいいかな」

「あ、はい」

 

 あげはちゃんはちょっと緊張しているようだった。当然だな。玄関に突っ立っていた妹がやってきて、自己紹介を開始する。なにを焦っているのだ。

 

「あ、あー、あげはちゃん。紹介が遅れてごめんなさい、四十八先生の実の妹の詩歌です」

「はじめまして。小和隈(こわくま)あげはと申します」

 

 お辞儀をし合う二人。

 

「あの、詩歌さんは、お兄さんの小説をお読みになってるんですか?」

「あ、うん! ファン第一号なんだよ」

「あ、そうなんですね! あの、あの」

「ちょ、ちょっと待った」

 

 ここで止めなければどうなるかはわかっていた。あげはちゃんが「詩歌さんもおちんちんがあればよかったと思ってるんですか、どこで心のちんこが勃起しましたか」とか言っちゃったらヤバイ。やばすぎる。

 俺はあげはちゃんの顔をじっと見てから、詩歌を一度だけ見て、その後あげはちゃんの顔を見ながら首を振った。こいつは、わかってない。というジェスチャーだが伝わるだろうか。

 

 あげはちゃんは人差し指を唇につけて、考える素振りを見せた後、手をパーにしてこくんと頷いた。わかってくれたか!

 

「詩歌さんは四十八先生の小説をまだちゃんと理解してないんですね」

 

 わかったけど言っちゃった!

 言っちゃうとあれだから目配せしたのに!

 でも、小学五年生だもんなー、しょうがないよなー。

 

「ちょ、ちょ、それはないんじゃあないかな~?」

 

 内心では激おこであろうが、お姉さんとしての矜持を保つため極めて冷静な態度を見せる詩歌。しかしここで小競り合いをしてもらっても困る。

 

「いや、悪いな詩歌。あげはちゃんは俺の小説の一番の理解者なんだ。お前よりも誰よりもだ」

「そ、そんなはっきりと……はあうっ」

 

 詩歌はよほどショックだったのだろう、膝をガクッと落とすとそのままぺたんと床に尻を付けた。

 

「もうしわけありません、お姉さん。そういうことですので」

 

 あげはちゃんは俺にピッタリと寄り添って、詩歌を見下ろしながら手のひらで口を覆った。

 

「そ、そ、そんな、そんなぁ~」

 

 妹は小走りでリビングを去っていった。悪いな、詩歌。これもお前のためなんだ。また枕を濡らすのだろうか。泣き声は聞こえないけど、よく枕は濡らしている。

 

「邪魔者もいなくなったことだし、お話しようか」

「そうですね」

 

 あれ、今そうですねって言った?

 いや、邪魔者がいなくなったことについてじゃなくて、お話をしようということについて賛同したんだよな。そうだよな。

 

「じゃ、そっちに座って」

 

 俺の向かいにあるソファーを指差す。

 

「……こっちのほうが声が大きくならなくて話せますよ」

 

 そう言うと、あげはちゃんは俺の隣に座った。それもそうか。俺はオレンジジュースを彼女の前に置き直すと、すぐに彼女は半分ほど飲んだ。氷がカランと音を立てる。

 帽子を脱いで、ふるふると頭を少し振ると、肩口まである髪がふわりとなびいて、少し甘い匂いが鼻をついた。真奈子ちゃんもいい匂いがしたけど、この子もいい匂いだな……。次回作の参考にしよう。

 ポシェットもとって傍らに置くと、胸元が見えてしまって目をそらす。まだブラジャーを付けていないんだな……。

 

「質問とかしてもいいですか」

「も、もちろん。ネタバレ以外は何でも話すよ」

「嬉しい」

 

 ふふ、と笑う表情はなぜか、なぜか色っぽく感じた。セクシーという言葉からは程遠い容姿なのだが。なんにせよ男の子と見間違うようなことはありえない。

 

「メイちゃんはまだ処女なんですか?」

「いい質問だね」

 

 さすがだ。最初の疑問がそことはね。いや、普通の感想だと思うんだよ。成人男子が読んだらそうなるはずなんだよ。

 

「最初は絶対そうですよね」

「うん。登場したときはね」

「ご主人さまが本当に自分のものを挿入したのかどうかって、わからないように書いてますよね」

「そう! そうなんだよ~」

 

 こういう話がしたかったんだよ! なんで編集者は言ってくれなかったの? この子以外の目は節穴か?

 

「フェラチオは何回もしてますよね」

「うん」

「最後はおもちゃじゃなくてご主人さまのおちんちんが挿入されたんですよね? そうなんですよね?」

 

 興奮気味に俺の顔を覗き込んでくる。俺も興奮してきた!

 

「そう! そうです!」

「やっぱり! 良かった~!」

 

 ばんざーいと両手を上げて喜んでくれるあげはちゃん。

 メイの処女喪失を女子小学生(JS)がこれほど喜んでくれるなんて! 児童向け文庫でデビューしてよかった! 俺が小説を書いたのはこのときのためと言っても過言じゃないね!

 

「ご主人さまってちゃんとゴム付けてるんですか?」

「付けてないよ」

「えっ、見損ないました」

 

 眉を吊り上げて、むっとするあげはちゃん。思わず笑ってしまう。

 

「なんで笑うんですか、先生のことも見損ないましたよ」

「違う違う、あのね、メイちゃんに飲むように命令されてるビタミン剤があるでしょ。あれがピルなんだよ。避妊薬。避妊はちゃんとしてるんだ」

「あ、そうだったんですね! それはわからなかったです、まだまだだな、あげはは」

 

 彼女は心底嬉しそうな顔をした後、心底悔しそうな顔を見せた。ほんと、最高のファンだな。

 

「ところで、あの二人が舌を出してる描写のところ」

「うんうん」

「あれってキスなんですか?」

「あー、ちょっと違うんだよね、キスよりエロい」

「どんな感じなんですか?」

 

 ベロチューより、口から出した舌だけを絡ませる方がエロいと思うのは俺だけではないだろう。しかしいくらあげはちゃんがおませさんだとしてもそれを理解するのは難しいだろうな。

 

「こう出すじゃん」

「はえ」

 

 俺が舌を出したら、あげはちゃんも出した。小さくて、ピンク色だ。

 

「ほうひて」

「ほうへふは」

 

 ベロを出して、口を近づけていく。

 目が潤んでいて、ぽうっとしたような表情になっていく。ほらな、女子小学生がやってもこんなにエロいんだ。俺の描写は間違ってなかったな。

 首を曲げると合わせてくれる。このままもう少し近づけたら……

 

「お兄ちゃん、あげはちゃんってまだ、いる、の……って、え! えええ!? 何やってるのぉー!?」

 

 いきなり妹が戻ってきたようだ。リビングには扉が付いていないので、廊下からは丸見えである。

 

「いや、ちょっとね」

「ん、もぅ。良いところだったのに、お姉さんは意地悪ですね」

「え、ええぇ。あ、ああ、もう駄目」

 

 何が駄目なのかわからないが、すぐにまたどこかへ行ってしまう。どんどんと階段を駆け上がる音が聞こえるのでまた自分のベッドに行くのだろうか。あいつどんだけベッドが好きなんだよ。

 

「勘違いされちゃったかな」

「そうですかね」

「でもわかった? どういうことか」

「はい。とっても、とっても興奮しました」

 

 俺のやっていることは、あくまでも小説の内容の補足でしかなく、決して女子小学生に卑猥なことを教えているのではない。ましてやえっちな行為になりそうになったなどということはまったくない。

 

「ご主人さまが手を使わないで舌だけでならアイスを食べていいって言うのありましたけど、あれってえっちなんですか?」

「うん。もちろんだよ」

「本当ですか~?」

「じゃあ、やってみる? ちょうどあるよバニラの棒アイス」

「え~、いいんですか?」

 

 ダイニングのほうがリアルなんだが、ソファーのところにはカーペットが敷いてあるので、ソファーで股を開いて棒アイスを股間のところにセット。

 あげはちゃんは、両手を腰の後ろに回して、俺の前にひざまずく。

 

「ぺろぺろ」

 

 ふむ。女子小学生が俺の目の前で棒アイスをぺろぺろしているだけだな。もちろん何もやましいことはない。

 

「ちゅぱちゅぱ」

 

 なんともほほえましい光景じゃないか。年下の女の子に棒アイスを奢ってあげただけだ。

 

「ん……はぁ、ぺろ、ん、あ、たれちゃう、はああ」

 

 下から上に舌を舐め上げる。思わずびくんとなった。俺が。

 

「髪が、邪魔ですね」

 

 鬱陶しそうに、長い髪を掻き上げる。その仕草はなんとも色っぽく、妖艶と言ってもいい。

 

「ぺろ、ちろちろちろ、はぁ、おいひい」

 

 俺は空いている左手で目を覆った。

 

「どうひたんですか? ひょっとして、すっごくえっちなんですか?」

 

 俺は無言で、顎を引いた。

 




私にはJSのファンがいないのはどうして!?(R15だから当然なんだが)


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純粋で卑猥な少女と、妖艶で純潔の少女

 

「もっとエッチなこと、教えて下さい」

 

 そう言う小学五年生の美少女、小和隈(こわくま)あげは。

 しかしこれは決して俺に性的ないたずらを要求しているわけではなく、小説のえっちな部分の解説をお願いしているのである。そこは絶対に間違えてはならない部分だ。

 

「わかった、もっともっと教えるね」

 

 俺も男だ、据え膳食わぬは男の恥……ではなく、これは義務というべきものだろう。作者として、ファンに対しての必要最低限やるべきことなんだ。

 

 ごくり。

 

 俺とあげはちゃんは、お互いに意識してか知らずか唾液を嚥下すると、見つめ合ってその身体を近づける。

 

「ちょ、ちょ、ちょ~~~~っと待ったぁ~~~~!」

 

 ムードをぶち壊す大音量を上げるのは廊下に現れた、我が妹である中学一年の詩歌。

 

「お兄ちゃんのファン壱号、参上!」

 

 戦隊ヒーローの決めポーズみたいな格好で廊下にひざまずいている。アホかな?

 

「そして、ファン弐号参上!」

 

 アホの隣に居たのはちょっと天然なお嬢様の小学六年生美少女である清井真奈子ちゃんであった。妹に感化されたのだろう、両手を上げて妙ちきりんなポーズをとっている。なにやってんの?

 

「いや、まじでどうしたの? 詩歌は本当はアホの子だって俺は知ってたけど、真奈子ちゃんまでどうしたの?」

「えっ、アホの子……?」

「えっ、しーちゃん先輩にこうすれば全部上手くいくって……」

 

 二人とも、後ろから爆煙が出そうな格好のまま固まっていた。出ていないからマヌケだ。

 

「ふふっ、ふふふっ」

 

 愉快そうに笑ってはいるが、嘲笑にしか思えない表情のあげはちゃん。いや、しょうがないけどね。今ココにいる中で精神的に一番大人である女の子は間違いなくあなたです。

 

「そこの少女! ファン壱号と!」

「ファン弐号を差し置いて、何をやってくれているんですか!」

 

 ……なに、練習したの? ポーズを変える二人。格好良くはない。

 唖然とするだけの俺に対して、あげはちゃんはそれはもう大人過ぎる対応だった。

 

「あげはと四十八先生は、トクベツな関係ですから」

 

 そう言って、俺の腕を胸にぎゅうっと抱きしめる。そうしてもなお腕に胸の感触は皆無です。今なら妹が男の子と間違えたのも仕方ないと思いますね。

 

「わたしだって特別ですもん! 負けないもん!」

 

 なぜか幼児退行する真奈子ちゃん。なんで? 年下が大人っぽいからってなんで子供っぽくなるの?

 彼女の格好は白いワンピースであり、清楚極まりなく、お嬢様感たっぷりで決して子供っぽいことはない。そして胸の部分も決して子供っぽくない。

 

 ポーズを解いた彼女は、ずかずかとやってきた。ソファーの右隣はあげはちゃんが牛耳っているのだが、左隣に真奈子ちゃんが座り、対面にはファン壱号を名乗るものが座った。なんだなんだ、どうしてこうなった。

 

「あげはが特別なの。弐号さんはお呼びじゃないの」

 

 そう言って、ますますギュッと俺の腕を抱きしめるあげはちゃん。胸部を構成する骨の感触がわかりますね。あと、弐号の意味もあげはちゃんが言うと意味が変わりますね。問題は壱号は妹だということだけど。

 

「わたしだって」

 

 真似をしているのか、同じようなことをする真奈子ちゃん。……全然違う! これはマズイって! 止めてくれ、詩歌!

 

「私より年下の美少女が、お兄ちゃんを取り合っている……うふふふ」

 

 妹は何やらぶつくさ言いながら、笑っていた。怖い。放っておこう。それにしても左腕が気持ちいい。

 

「っていうか、どうしたの真奈子ちゃん。なんで突然」

「突然じゃないですよ! しーちゃん先輩から連絡を受けたんです、なんかその、プレイ? をしてるって!」

「プレイって……意味理解って言ってるのかしら」

「なんなのよ~、あなたみたいなお子様に何がわかってるっていうのよ~?」

 

 何がわかってるかと言うと、真奈子ちゃんがわかってないことが全部わかっているんだよなあ。

 

「あ、まなちゃん。プレイっていうのは、なんか二人で舌を出してたの。多分、小説のあそこの部分だよ」

 

 詩歌がいうところのプレイとは、小説の再現プレイを指しているようだ。

 

「あ、あ~。メイちゃんがご主人さまの舌を美味しそうに見るところ!」

 

 うん。でも、そこまでわかってたらわかってそうなものなんだけども。小説の中で行われている性的なプレイの再現プレイですよ。

 

「牛タンが美味しいのはわかるけど、ご主人さまの舌を見て美味しそうなんて、ほんとメイちゃんって食いしん坊ですよね!」

 

 あー。へー。そうなるんだね。すごいね。人間の舌を見て牛タン食べたくなるんだ、メイちゃんって。作者の俺は知りませんでした。

 

「ぷっ、くくく」

 

 完全にマウントを取ったと確信するあげはちゃん。是非もない。

 

「なに? なんなの?」

 

 露骨に不機嫌になる真奈子ちゃん。やむを得ない。

 

「食欲しかわからないおこちゃまなんですね」

「な、なにをー!?」

 

 俺の腕を引っ張り合う女子小学生。どうしてこうなった。

 

「さっきのを見せてあげましょうよ」

「え、ええっ!?」

 

 小学六年生と実の妹がいるのに、舌を出して近づけるとか正気の沙汰じゃないよ! そう考えるとさっきの行為も完全にNGじゃん! 何やってんだ俺は!

 

「ほら、んべっ」

 

 くうう。小学五年生の女の子だけに恥をかかせるわけにもいかない。これは作家としてではなく、男としてヤラなければならない行為! 少しもいかがわしい気持ちはないんだよ。

 

「んべ」

「んふ」

 

 舌を出したまま笑う彼女は、さっきよりも更に魅惑的な表情を浮かべていた。俺は冷や汗モノなんですけども!

 残り10センチというところまで近づけると、にや~っと笑ってあげはちゃんは真奈子ちゃんを見た。なんと挑発的な……。

 さぞや驚いているだろうと左を向くと、意外にも彼女はきょとんとしていた。

 

「んべ?」

 

 無邪気極まりなく、舌を出す真奈子ちゃん。おいおい、真似をしようっていうのか。しかし、ここで出さないと露骨に贔屓していることになってしまうので、俺は出さざるを得ない。

 

「べ」

「んー」

 

 自然に首をかしげる真奈子ちゃん。こうして間近で見ると、改めて可愛い女の子だなあ。

 

「ぺろ」

 

 ――――え?

 

「ぺろぺろぺろぺろ」

 

 な、なななな!? なー!?

 

「なななな!?」

「あわわわ」

 

 なんと、真奈子ちゃんは俺の舌を舐め始めた。俺も初めてのことに動揺を隠せないし、なんかとっても気持ちがいいです! こんな感じだったのかよ、ご主人さまとメイちゃん!

 

「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」

「は、は、はあ……ああ……」

「ななななななな!?」

「あわわわわわわわ」

 

 ひたすら無邪気に俺の舌を蹂躙する真奈子ちゃんと、何も考えられなくなった俺と、とにかく困惑するあげはちゃんと、とんでもないことになったと慌てふためく妹である。俺が言うことでもないけど、誰かこれを止めなくていいの!?

 

「ふー。なんかドキドキしました、えへへ」

 

 ようやく舌を離した真奈子ちゃんは、頬を赤らめてはにかんだが俺はそれどころではない。人生でこんなに心臓がバクバクしたことがあっただろうか。それにしてもなんとあっけらかんとした態度。

 

「な、何をしたかわかってるの?」

「へ? 舌を舐めただけですよ」

 

 舌を、舐めた、だけ。

 舌を舐めただけですよ、と来たよ。こいつはとんだビッチですよ。俺の小説に登場させたいね。しかしながら、これは真逆! 彼女はこれを少しもえっちだと思ってないからやったということだ! なんということでしょう!

 

「それならっ」

 

 ぐいっと顔を横に向けられる俺。

 さっきは余裕だった表情のあげはちゃんは、打って変わって必死な顔だった。

 

「んー」

 

 おいおい、ぎゅっと目をつむって舌を出して俺に顔を近づけてきているよ。

 思わず肩を掴むと、びくっと身体を硬直させた。どれだけ勇気を振り絞っているのやら。

 

「んー、んー」

「無理しなくていいよ」

「ん、ん、ん~~~」

 

 あげはちゃんは、悔しそうな顔をして舌を仕舞った。なんということだ、彼女はこれが性的な行為だとわかっているが故にそれが出来ず、真奈子ちゃんはわかっていないが故にしてしまったのだ。どちらが大人なのか、それは俺にもわからない。

 

「え? なんでなんで? したらいいのに」

「く、くくく、ぐぐぐぐ」

「くちゅくちゅ」

 

 真奈子ちゃんの率直な感想を受けて、歯を食いしばるあげはちゃん。くちゅくちゅっていう音はよくわからない。左右ではなく正面から聞こえるような気がする。

 

「四十八先生の小説は、読んでるとドキドキするんですけど、今もなんかドキドキしてます」

 

 うーむ。なんかよくわかんないけど、ドキドキしてくれる真奈子ちゃん。豊かな胸を手で押さえている。俺はドキドキしまくりだよ!

 

「な、なにもわかってないくせにぃ」

 

 そして、よくわかったうえでなお小説のことを教えて欲しいと言ってくるあげはちゃんか。今は悔しそうに親指を噛んでいる。いや、絶対に身体は大事にしたほうが良い。君は正しいよ。真奈子ちゃんが純粋にもほどがありすぎて好きでもない男と舌を絡ませたんだ。そう考えるとなんかとんでもないことをしたような気がしますね!?

 

 どちらにせよ俺に対する気持ちは恋愛のそれでは勿論なく、作品をより理解しようとするファンの気持ちであることは間違いなかった。

 

「うーん、俺は幸せものだなあ、こんな素敵なファンに囲まれて」

「素敵なファン!? 私のこと!?」

「あ、ごめん詩歌、居たの?」

「ええっ!? そこにはファン壱号が含まれてないのぉっ!? あ、ああ、ん、ん~~~ッ!?」

「詩歌? なんで目をぎゅーってしてるの? 目にゴミでも入ったの?」

「はあ、はぁ、あーっ、良かったぁ、まなちゃん連れてきて……」

「お、おう」

 

 彼女は俺と舌を絡ませあってるという状況なのに、連れてきてよかったってこいつは大丈夫か?

 兄貴が自分の連れてきた可愛い後輩の小学六年の女の子とぺろぺろぺろぺろしていたら、普通後悔しませんかね。いや通報されても仕方ないくらいなんだが、やはりこいつはアホの子なんだろうか。

 

 




これでひとまず最初の部分のキャラ紹介といったところです。
真奈子ちゃん派とかあげはちゃん派とか妹派とか、そういう感想が欲しいんですよ!

二次創作がちょっと止まってるからそっち書かないと……


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通学電車で行われる男女の危うい攻防

 

 朝に通勤する乗客でごった返す駅から電車に乗ったのは、いつも見かける女子高生に痴漢をした後に駅のトイレで事に及ぶため……ではもちろん無い。そもそも電車は混んでいない。なぜなら下りの電車だからだ。余裕で座っているけど、少しばかり立っている人もいる状況であり、痴漢なんか出来るわけがない。いや、混んでてもしませんけども。

 

 俺のことなど誰も興味がないと思うが、専門学校に通学するためだ。我が家は東京の世田谷区で、学校は都心ではなく郊外にある。

 作家志望だから大学に行ってると思った? 残念、小説を読んで小説を書いてばかりしているのに大学受験なんてしているわけないのだ。この手のラノベなどでは、一流大学に通いつつ作家としても若くして超一流なんてチートな設定がよくあるが、そんなわけないだろ。受験勉強する暇があったら小説を書くに決まっている。

 

 そしてそんな俺を両親が快く思うわけもない。この手の漫画などでは両親は海外で暮らしてたりすでに他界していたりするが、そういう特殊な事情は無い。親は大学を出ていて会社に勤めているので、普通に心配されているわけです。

 で、父親が言うには小説が書けても飯は食えないだろうが、プログラムが書ければ食うのには困らない。

 だから、小説は書いてもいいから、プログラムが書けるようにしておけということで専門学校で情報処理を勉強しているわけです。下手な大学で遊んでいたやつよりよっぽど給料が良いらしい。

 

 ちなみに今はCを勉強している。Cというのは「ねぇねぇ彼氏とどこまで行った? A? B? うっそー、もうCまで行っちゃったの?」のCとは関係がなくてプログラミング言語です。C言語とも言う。

 C++というのもあって、これはコスプレとかストッキング破りとか眼鏡にぶっかけなどのCにオプションを追加したもの……ではなくてCよりも進化した言語らしい。まだ習ってないから詳しくは知らん。

 

 途中の駅で数人の乗客が乗ってきて、隣に女子小学生が座った。座るなり本を読み出す。俺がデビューしたレーベルではないが、子供向けの文庫のものだ。つまり作家としての俺のターゲット層なわけか。

 

 本当は官能小説家になりたかったわけだが、卒業する頃にバンバン本が売れていれば就職する必要は無いので、児童向けだろうと小説を書くモチベーションは高い。プログラマーになって残業する羽目になったら小説が書けなくなってしまう。

 

 よってこの隣に座った女子小学生には当然興味がある。彼女が俺の本を手に取ってくれるにはどうすればいいのか、その観察をするためだ。

 

 ふむ。まずおっぱいはそこそこありますね。真奈子ちゃんほど立派ではないが、あげはちゃんほど未発達ではない。詩歌よりちょっと小さいかなという程度だな。うむ。

 顔は……俺を睨んでいますね。なぜ?

 

「あの、どこ見てるんですか」

「おっぱ……」

 

 いかん、おっぱいを見ていたなんて女子小学生に言ったら社会的におしまいじゃないか!

 そもそも俺はなぜ一番最初におっぱいを見たんだ!? ターゲットとして観察するのに必要な情報じゃないじゃないか! 俺のバカ!

 いや、しかしギリギリで間に合った。言い直そう。

 

「胸です」

「死ね、このロリコン」

「あっ、待って待って、間違えたの、お願い、そのスマホをしまって」

 

 くそっ、なんで俺はこんなに正直者なのか!

 ときには嘘を吐くことも大事なんだよ!

 言っちゃったものはしょうがない、こういうときは怪しいものではないということを証明するんだ。幸いこの子は小説が好きなのだろうから、作家と知れば許してくれるに違いない。

 

「あのね、君がその、本を読んでいたじゃない?」

「それがなにか」

「実はね、お兄さんは作家なんだよ。我慢できないメイドのメイちゃんっていうタイトルなんだけど」

「は? 知りませんけど?」

 

 ぐふっ。キツイ。もともと不審者を見る目だったので、言い方もどぎつい。

 こういうとき「えーっ、そうだったんですかー、大ファンです!」っていう流れじゃないの?

 いや、今はショックを受けている場合ではない、今はとにかく通報されないようにしなければ。

 

「ま、まあ、一冊しか出してないんだけどね。白い鳥文庫なんだよ?」

「白い鳥文庫? 本当に?」

 

 どうやらレーベルはご存知の様子。やっぱり児童向けノベルが好きなんだな。

 しかし目つきは相変わらず言い逃れしようとしている変態ロリコン野郎を見るようだ。違うよ、俺はえっちな文章を読んだり書いたりするのが好きなだけなんだよ! 悪い大人じゃないよ!

 

「本当だよ、この前の白い鳥文庫大賞になって書籍化して二巻も決定しているんだよ」

「ふぅ~ん?」

 

 まだ疑っているご様子。なぜだ、なぜ面と向かっておっぱいを見ていたって言っただけでこんなことに。みんなだって言わないだけで見ているというのに! 正直者は馬鹿を見るとはまさにこのこと!

 

「ほらほら、高願社(こうがんしゃ)さんの名刺だって持ってるし」

「白い鳥文庫担当編集……へぇ、本物っぽいですね」

「ふう、ようやく信じてもらえたようだな」

「じゃあ、警察呼んでいいですか」

「なんで!?」

「いや、関係ないでしょ。ぼくの胸を凝視していたことは事実でしょ」

「へー、ぼくっ娘なんだー。萌えますね」

「通報しますね」

「だから待って!」

 

 くそっ、なんで変質者疑惑をされてる真っ最中に萌えてしまったのか! しかも女子小学生(JS)相手に! しかしこういう感情を大事にしなければクリエイターとしては駄目だ。

 

「あのね、たまたま今度出す新キャラの一人称をね、ぼくにしようかなーと思ってたんだよ」

「え~?」

「主人公が十六歳の女の子なんだけど、次巻では読者層に近い年齢の新キャラを出せって編集さんに言われてるんだよ、それで一人称が私だと被っちゃうからさ」

「ふうん、なんかそれっぽい」

 

 よし、いいぞ。この子はやっぱり小説が好きなんだ。だから小説の制作プロセスのような話に食いつくはずと踏んだ俺の作戦勝ちだ。

 

「それで新キャラのイラストを注文するときに胸の大きさもイラストレーターさんに伝えなきゃいけないんだよ。それでなんだよ。小説を書くためだったんだよ」

「言い訳乙」

「待って! スマホを出さないで! なんで!? 許せるでしょ? 小説のためなんだよ?」

「いや言い訳ですよね」

 

 おかしい! この子はおかしい! 小説を書くための行為であれば女子小学生のおっぱいを凝視するくらいイイじゃないか! みんなだってそう思うよね!?

 

「大変なんだよイラストの依頼だって。確かに桜上水みつご先生だったら細かく言わなくても描けると思うけどさ」

「桜上水みつご先生? イラストを描いてもらってるんですか? あなたが?」

 

 この食いつき! さすが桜上水みつご先生、彼女もファンと見た! これはチャンス!

 

「そう、そうだよ? ひょっとしたら次のキャラクターは君をモデルにしちゃうかもだよ? 桜上水みつご先生が、君を、モデルにして描いちゃうかもだよ?」

「ほお……」

 

 やぶさかでないね? やぶさかではないんだね?

 この子はちょっとツリ目で、メイはタレ目だからキャラが被らないし、マジでいいかも知れない。髪型もショートカットにするのは有りだ。

 

「桜上水みつご先生のサイン入りの新刊をプレゼントできるかもしれないなー」

「……本当に?」

「頼んでみるよ」

 

 会ったこと無いけどね。通報を避けるためなら、なんでもするさ。

 あ、もう降りる駅に着いてしまう。

 

「あ、一応作家としての名刺があるんだった。ここにメールアドレス書いてあるからさ」

「最初からこれを出せば良かったのに。四十八手足(よそやてあし)センセ」

 

 そうか、自分の名刺で身分を証明できたのか。

 この前富美ケ丘(ふみがおか)さんに貰ったのだが、誰にも渡したことが無いので忘れていた。

 

「ぼくは沙織。網走沙織(あばしりさおり)です。いつもこの電車ですから」

「そっか。さおりちゃん、じゃあね」

 

 手を振って電車を降りると、彼女も手を振ってくれた。

 

 よかった。通報されなくて。マジで。本が発禁になっちゃうよ。

 エロすぎて発禁ならいいが、児童向け小説家が女子小学生へのセクハラで発禁とか無駄にバズりそうなニュースになって発禁とか最悪すぎる。

 

 しかしモデルをゲット出来たとしたら楽だなあ。

 俺は冷ややかに蔑むツリ目の女の子の顔を思い出しながら、ほくそ笑んでしまった。

 

 





この作品はハーメルンだと本当にいっぱい感想貰えるので嬉しくて仕方がないためつい書いてしまうのでございます。今後とも宜しくお願いいたします。

最近は四十八先生と同じで、私もJSをよく観察しています。だってそうしないとコレが書けないからね。仕方ないね。本当に仕方なく見ているだけです。最近のJSは肩のところが切れ込みみたいなのがあって肌の露出が多いね。とっても可愛いと思います。


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いたいけな少女を連れ込んで酒池肉林の宴が始まる

 

 初めて会った翌日、同じ時刻、同じ電車の車両に彼女は乗ってきた。

 黒髪短髪でややツリ目、手足が細くて長い。夏服は白いワイシャツと灰色のスカート。ランドセルは黒と真面目そうな学校に通っている様子。

 昨日は胸と顔しか見てなかったが今回は全身くまなく観察したぞ、えらい!

 他の客はまばらで、空席も目立つがわざわざ隣に座ってくれた。密かに期待していた俺は、とっておきのプレゼントを鞄から取り出す。

 

「おはよう、沙織ちゃん。これ、俺の書いた本」

「おはようございます。もう買ったので大丈夫です」

「ええ! まじで! お買い上げありがとうございます!」

「うるさいです。静かにしてください」

「ごめん……」

 

 いや、だって昨日始めて会って通報されかかった相手の小説に金を払ってもらえるなんて思わないじゃない。名刺渡してるのにメール来なかったしさ。ツイッターのフォロワーも増えなかったしさ。

 

「でもこれサイン入りだよ」

「結構です」

「あ、そう……」

 

 まぁ、そうだよね。別にいらないよね、サイン。ファンじゃないもんね。ファンじゃないにしろ、少しは面白いと思ってくれたのだろうか。

 

「で、どうだった?」

「んー、ふつう」

「普通!?」

「だからうるさいです」

「ごめん……」

 

 面白いとか面白くないならまだしも普通とは。正直なところ児童向けレーベルとして書かれた中身が官能小説なんてものが普通なわけないじゃないか。アブノーマルであることだけは自信があるよ。むしろよくわからないとか変とか言われる方が納得できる。

 

 しかし、昨日も思ったがこの子こそマジョリティなのだ。真奈子ちゃんやファンレターをくれるのは少数の俺の大ファンだし、あげはちゃんのように本質を見抜いている子も激レアなわけ。この子、網走沙織ちゃんのような普段他の児童向けレーベルを読んでいるような子にこそウケなければならない。そう考えるとなおさらこの子をモデルにしたくなってきた。誰だって自分に似ている主人公の方が、自己投影しやすいからだ。メイとその妹の姉妹が主人公ということにしてしまおう。

 

「今日さ、うちに遊びに来ない?」

「……それは通報して欲しいということですか?」

「違うよ~? 友達としてだよ~。ね? 友達」

「友達……」

「白い鳥文庫の作家と友達になれるチャンスだよぉ~? 他の作家仲間とも会えるかもだよ~?」

 

 他の作家仲間なんていませんけどね! 白い鳥文庫なんて読んだことすら無いしね?

 俺の甘い誘いにも関わらず、顎をさすりながら訝しむ沙織ちゃん。なぜだ……。

 

「身体を触ったりしませんか?」

「しないよ~」

「舐めない?」

「舐めないよ~」

「嗅いだりも?」

「すごい質問しますね。しませんよ?」

「んむ~」

 

 そこまで睨む必要ある?

 知り合って間もないのに、ここまで怪しまれる必要ありますかね? なに、一度誰かにいたずらされてるの? 強引にハイエースに乗せられたことあるの? 俺はイチャイチャ和姦派だからそういうことしないよ?

 

「質問したり、お話するだけだよ~」

「……わかりました。では、住所とかを後で連絡してください」

 

 今どきの小学生はスマホもやってるし無料通話アプリも使いこなしているようだった。とりあえずこのアプリでともだちになる。

 

 自分の家をマップで調べるというレアな行為をして、シェア。返事は「了解」のスタンプ。どうやら白い鳥文庫の人気作スタンプらしい。ほんとに好きなんですね。

 

 さすがに小学生の方が早く放課になると思ったが、準備するものがあるということで我が家に来るときには俺は帰宅出来た。

 

 しかしこの三ヶ月くらいで俺の家にやってくる女子小学生が三人も……人生とはわからないものだ。

 

 チャイムではなく「着いた」というメッセージを受けて出迎える。

 

「いらっしゃい、沙織ちゃん」

「お邪魔します」

 

 彼女をリビングに通すと妹の詩歌がだらしない格好でゲームをしていた。

 

「詩歌、お客様が来たから、悪いな」

「えっ!? ええっ!? また増えたのファン! スゴイね、お兄ちゃん!」

 

 意外にも喜んでくれる詩歌。

 

「……ファンじゃないです」

「えっ」

 

 沙織ちゃんの正直な言葉に驚きを隠せない詩歌。まぁそりゃそうだな。ファンでもない女子小学生を家に連れ込む作家はそうそういないだろう。そしてたまたま電車で会った女子小学生を実家に誘う男子専門学校生もおそらくそうそういない。

 

「ファンじゃない女子小学生を家に呼ぶってどういう……??」

 

 頭にはてなマークを大きく出している。さすがに俺が攫ってきたと疑ったりはしないようだ。

 

「彼女は網走沙織(あばしりさおり)ちゃん。今度俺の小説の新しいヒロインのモデルになってもらう予定」

「ええっ!? ファンじゃないのに!? モデルって私じゃ駄目なの?」

 

 そうか、ファン壱号としては自分がモデルになりたかったのか。しかし官能小説に登場するヒロインを実の妹にするなんて鬼畜な所業を俺ができるわけ無いだろう。考えたこともないね。

 

「ありえないな」

「はううっ!?」

 

 よほどショックなのか、ぎゅっと目を閉じて顔を赤くする詩歌。まるでご主人さまにえっちないたずらをされているときのメイちゃんのような……いや、それは俺の勘違いだ。

 

「……はぁはぁ、ま、まなちゃんでも?」

 

 ふむ。ファン弐号を自称する妹の後輩かつお友達である真奈子ちゃんを推薦するのは詩歌としては当然かもしれない。しかし彼女は現在の一六歳のヒロインであるメイちゃんの参考にしているくらい似ているので、真奈子ちゃんをモデルにしたらキャラが被ってしまう。

 

「駄目だね」

「そ、そうなんだ……でもなんでその子なの?」

 

 何故か。それは通報されないための苦し紛れの作戦だから。なんて実の妹に言うわけない。まぁそれだけではないけど。ボクっ娘もいいなと思ったんだけど、それも言わなくていいな。

 

「ビビッと来たんだよ。この子じゃなきゃ駄目だって」

「り、理屈じゃない……ですと……」

 

 驚愕に目を見開き、ぶるぶると身体を震わせる詩歌。リアクション強すぎだろ。そこまでショック受けるかね。脚をがくがくと生まれたての子鹿みたいに震わせながら階段を登っていった。ま、放っておこう。

 

「さて邪魔者もいなくなったことだし、お話しようか。隣に座る?」

「二メートル以内に近づかないでください」

「あ、はい、了解」

 

 なんというか非常に慎重なんだね。ハイエースされなさそうで、安心だ。沙織ちゃんに比べると真奈子ちゃんはお嬢様でぽややんで天然で性的知識がないから非常に心配です。今度特訓でもしてあげようかな。

 沙織ちゃんを向かいのソファーに座らせ、氷を入れたサイダーを用意した。まだ室内はそこまででもないのでエアコンを付けてないが外は暑かったはずだ。けれど彼女はサマードレスというのか水色のワンピース。肌の露出が低い服装をしていた。薄手なのに防御力が高い。

 

「今日は来てくれてありがとう」

「どうも」

「あと、新キャラのモデルになってくれてありがとう」

「……いいんですか、なりたかった子がいるみたいですけど」

「君じゃなきゃ駄目なんだ」

「……そうですか」

 

 うーん、この暖簾に腕押しな感じ、心が痛い。しかしまあ、来てくれる時点で嫌われているわけではないと信じたい。

 

「さて、それでは質問させてもらうね」

「どうぞ」

「どんなぱんつ履いてるか見せて?」

「……なるほど、これがセクハラですか」

「待って! なにそれ、何を出してるの? パチパチしてるけど! まさかスタンガン!?」

 

 沙織ちゃんはポケットからなんとスタンガンを取り出したようだ。しかもすぐに使用可能状態。隣りに座っていたらヤバかった。学校から帰った後で準備があるって言ってたの、これのことかよ!?

 

「落ち着いて、沙織ちゃん。俺は触ってもいないし、舐めてもないし、嗅いでもないし、ましてや揉んでもいないよ」

「女児に下着を見せろなんて言っておいてよく平気ですね……」

「だって! それがわからないと! 新キャラがどんなぱんつ履いてるかわからないじゃない!」

「泣かなくてもいいでしょう……」

 

 え、私、泣いているの? これが、涙……?

 泣いたことに同情したのか、思案顔になった。どうやら妥協案を模索しているようだ。

 

「じゃあ見せないで言葉で教えるだけならいいです」

「ん~、細かい描写が出来ないなあ」

「細かく描写する必要ないですよね」

 

 うーん、確かにそれを書いても読者は興奮しないしな。読者が女子小学生だから。あまり創作に妥協はしたくないが、仕方がない。

 

「じゃあ、それでいいよ。教えて」

「くっ、なぜ譲歩したような……黒と白のストライプです」

「ほう、縦縞? 横縞?」

「縦縞」

「コットン? シルク?」

「絹です」

「ふ~ん、えっちじゃん」

「……」

「やめて、無言でスタンガン出すのやめて」

 

 うーん、素直な感想を述べてしかも褒めているのに怒るとは……難しい年頃だなあ。照れているのかな。とりあえずメモをとる。

 

「じゃ、次の質問させてもらうね」

「何も見せませんからね」

 

 さらに制限が付いてしまった。残念だな。

 

「ブラジャーは着けてますか?」

「その質問に答えると思いますか?」

 

 表情を伺うと、にっこりしていた。うん、機嫌がいいみたい。

 

「うん!」

「死ね、ロリコン」

「なんで!? 見せてとは言ってないよ!?」

 

 どうやら機嫌がいいと思ったのは間違いだったようです。本気で怒ると笑うタイプか、メモっておこう。

 

「くっ……汚い、大人はこれだから……」

「頼むよ~、そのくらいのおっぱいだと着けてるかどうか俺にはわかんないんだよ~」

「この変態め……」

 

 変態か。それは官能小説家にとっては褒め言葉といえよう。新キャラのためなら何でもするぜ。

 

「で?」

「着けてますよ」

「いつから?」

「……半年くらい前、十一歳の誕生日のときから」

「おおぉ~」

「なんで拍手してんですか変態」

 

 だって、なんかいい設定だなと思って。初めてのブラはメイがあげたことにしようっと。メモメモ。

 

「さって、次の質問だけど……あ、もう飲み物無いね。おかわり飲む? 麦茶の方がいい?」

「や、優しい……変態のくせに……麦茶ください」

 

 我が家のリビングはいわゆるLDKというやつなのでリビングとダイニング、キッチンがくっついている。

 グラスを下げて、キッチンに移動。水で濯ぎ、布巾で拭いてから新しい氷を入れて、麦茶を注いだ。ついでに棚から小さな袋に入った甘めのおかきを出す。

 

「はい、どうぞ。いくらでも飲んでね。これお茶請けにどうぞ」

「……変態紳士め……」

 

 好物だったのか、すぐに袋を開けた。喜んでくれて何よりだ。

 

「さて次は……」

 

 ほくほくした顔でおかきをカリカリさせている沙織ちゃんをみやりつつ、シャーペンをくるくるさせているとまたしても廊下に不穏な人影が。

 

四十八(よそや)ファン壱号!」

「弐号!」

「ぶ、ぶいすり~」

 

 デジャヴュかと思ったら、なんと一人追加されていた。顔は真っ赤だし、ポーズも中途半端で見ていられない。見ているこちらが恥ずかしくなるくらい恥ずかしがっている。

 

「あげはちゃん? 無理してない? 大丈夫?」

「うう……恥ずかしいです」

「詩歌、あげはちゃんに変なことさせるなよ」

「へ、変なこと!?」

「しーちゃん先輩、これって変なことだったんですか~?」

 

 我が妹は妙ちきりんな変身ポーズのままで固まり、その忠実なるしもべ、ファン弐号こと清井真奈子ちゃんは涙目で詩歌を見つめた。この子は純真すぎるのよね。

 

 俺は嘆息しつつ、人数分の麦茶とおかきを用意した。

 

 




長くなりそうだったので一旦投稿しておきます!

なぜか妹が人気なのでつい家に連れてきちゃうよね。


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なろうで漫才のネタを書いてみました。
この小説が好きな人なら面白いはず!
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うら若き乙女たちは自ら股間をさらけ出す

 

「それで? なんなんだ詩歌、あげはちゃんまで巻き込んで」

「そりゃあそうでしょ、私はともかく二人のファンを差し置いてファンでもない他の女の子を連れ込んでるなんて聞いたら二人ともすっ飛んで来たよ」

「それはお前の伝え方のせいじゃねえか」

 

 愚妹のアホちん加減にはほとほと困り果てたものだ。なぜかこのアホちんを尊敬している清井真奈子(きよいまなこ)ちゃんはともかく小和隈(こわくま)あげはちゃんまで召喚するとは。

 

 リビングのソファーはついに満員。対面のソファーには青みがかった黒髪ショートカットの沙織ちゃん。左のソファーにはツインテールにしている妹の詩歌。大人二人用のソファーの真ん中に俺、左にふわふわロング茶髪の真奈子ちゃん、右に黒髪さらさらセミロングヘアのあげはちゃんという布陣である。

 

 真ん中のローテーブルには数々の大人のおもちゃが置いてあり、みんなで自分を慰めるところを見せ合う……などというイベントは当然発生しない。人数分の麦茶と小袋に入ったおかきが置いてあるだけだ。

 俺は体を右に向ける。

 

「ごめんね、あげはちゃん」

「……教えて下さい、なんでその子じゃなきゃ駄目なのか」

 

 うーん、真実は伝えることは出来ない。電車でおっぱいをガン見していたことを誤魔化すためですとか口が裂けても言えない。

 

「あげはだったら、何でもしますよ?」

 

 その表情は蠱惑的で、思わずつばを飲み込む。この子の言ってる何でもはつまりはえっちなことだとわかるからだ。しかし何でもとは言ってもぱふぱふとかは物理的に不可能である。

 

「じゃ、今すぐぱんつ見せたら?」

「え?」

 

 俺ではなく沙織ちゃんがぱんつ発言したことであげはちゃんは驚いたようだ。俺も驚いた。あと、沙織ちゃんがいち早くおかきを食べ終えてることにも驚いた。そんなに好きならあとでまたあげるね。

 

「そこの変態は、私に、ぱんつを見せろって言ったのよ」

「なっ、くっ……」

 

 なぜか勝ち誇ったように言う沙織ちゃんと、なぜか負けたような顔を見せるあげはちゃん。何これ、いつの間に勝負が始まってたの? 大体、偉そうに言ってるけど君はぱんつ見せてないよ? あと普通に変態呼ばわりされてることについては誰も何も言ってくれないの? ぱんつを見せろって言ったのが事実だからですか? じゃあしょうがないな。

 

「見せてあげなさいよ、何でもするんでしょう?」

「……するもん……見てなさいよ」

 

 あげはちゃんはソファーから立ち上がり、俺の前に立った。真正面には薄い胸がある。やはりブラジャーは付けていない。

 あげはちゃんは、ショートパンツというのかほとんど太ももが全開の状態になっているデニムのボタンを外した。そして腰のあたりをぐっと掴む。みんなが見ている前でズボンを脱ごうというのか。

 

 あげはちゃんの奥にいる沙織ちゃんはこれは見ものとばかりに余裕の笑み。

 左にいる真奈子ちゃんは何も考えて無さそうな微笑み。

 妹は期待に胸を膨らませた笑顔。なんでだよ。お前は止めろよ。こいつだけはよくわからん。

 あげはちゃんだけは羞恥がありありとわかるほど顔を真っ赤にして、手も震えて、口を真一文字に結んでいた。

 ショートパンツを握ったまま固まる姿はまるで処女を消失する寸前の乙女の如く緊張感にあふれていて、とても見ていられない。

 

「いいんだ、あげはちゃんは無理しないで」

「う、うう……」

 

 がくっと肩を落として俺の右にもたれかかる。あげはちゃんは人一倍えっちだからえっちなことが苦手なんだ。こうなる前に止めてあげるべきだった……。俺は白いTシャツ越しに彼女の背中をさすった。

 

「何でもするって言ったのに、こんなことも出来ないなんて」

「いいんだ、いいんだよ、あげはちゃんは一番俺のことをわかってくれてるんだから」

 

 そもそもあげはちゃんのぱんつを見たって小説に活かせるわけでもないのだ。俺が猛省していると対面から舌打ちが聞こえた。

 

「くっ……変態のくせに優しくして……」

 

 勝負に勝ったと思われた沙織ちゃんだったが、何故か悔しそうな表情を見せる。なんかもうよくわかりません。

 俺と沙織ちゃんの間に入り込んできたのは、赤と黒のチェックのミニスカート。どうやら真奈子ちゃんのようだ。

 

「先生!」

 

 真奈子ちゃんは満面の笑みを俺に向けると、

 

「はいっ」

 

 一気にスカートを捲りあげた。

 

 ――レースのいっぱいついた白いシルクのぱんつが俺の視界を支配する。黒いワンポイントのリボンがチャームポイントだね。

 

「なっ!?」「くっ!!」「はううっ!?」

 

 周囲の戸惑いの声。そりゃそうだ。俺も現状を整理できん。あと詩歌は戸惑いなのかなんなのかよくわからん。

 

「どうですか?」

 

 なんと感想を求められた。何が正解なんだ、エロゲーでもこんな選択肢無かったぞ。

 

「えっとー。か、かわいい」

「やったぁ~! 先生に褒められた~! ふふ」

 

 む、無邪気過ぎる。フリスビーを取ってきたことを飼い主に報告する忠犬のようだ。

 清井真奈子ちゃん。彼女にとってはスカートを捲りあげてぱんつを見せることなどこれっぽっちもエロとは結びついておらず、お気に入りのイヤリングや靴を見せるのと何も変わらないのだろう。

 

「じゃ、じゃあ私もっ!」

 

 はいはいと手をあげてスカートをめくろうとした愚妹。

 

「お前はいい。いらん」

「ぐひゃううっ!?」

 

 当然、片手で静止した。じゃあ俺がやるよ、どうぞどうぞみたいな流れでぱんつを見せるな。

 

「あ、しーちゃん先輩、お漏らししてません?」

「ち、ち、違うのこれはお漏らしじゃないの」

「早くおトイレ行ってきたほうがいいですよ~」

「う、うん。違うけど行ってくる」

 

 詩歌は退室した。ま、あいつは放っておこう。

 そんなことより不穏な動きを見せる沙織ちゃんに注意だ。

 

「何もわからない少女を洗脳している男がいるんですよ、と」

「警察に説明するシミュレーション!?」

「変態というだけでは逮捕できないですからね」

「なんで俺を逮捕させたいんだよ!?」

 

 もはや沙織ちゃんは俺を警察に突き出すつもりであるようだった。くそっ、俺が何をしたというのか。ファンが強引に見せつけてきた下着を見ただけじゃないか。

 

「なんですか、あなた! 先生をいじめるのはやめてください!」

 

 おお、さすがファン弐号。俺の味方だぜ。

 

「そのセリフがすでに洗脳されているというのです。自分からスカートを捲りあげてぱんつ見せてるんですよ? もはや動かぬ証拠です」

 

 くっ、そう言われるとそうだね。

 

「待ちなさい! あげはは全部わかったうえでやってるの! 洗脳なんかされてない!」

 

 おお、そうだそうだ! さすが俺の一番の理解者。

 

「あなたは結局出来なかったじゃないですか」

「ううっ」

「よかったですね、洗脳されてなくて。良識のある普通の女の子で」

「うううっ、うううっ」

「沙織ちゃん、あげはちゃんをいじめないで、お願い」

 

 あげはちゃんは本当はえっちな小説を書く手伝いがしたいけど恥ずかしくて出来ないんだよ。でもその気持ちだけで俺は嬉しいんだよ。

 

「大体、なんで小説を書くのにぱんつを見せる必要があるんです」

「わかりませんけど、それを聞いたらネタバレじゃないですか」

「ほらわかってない。まぁ、わかっててやってたら完全に有罪ですけど」

 

 ばかな!? 日本はおかしな国です! ファンが作品を書くために出来ることをしたいと言って、それを作家が喜んで受け入れている。それの何が問題だって言うんです!?

 

「じゃあ事実だけ伝えてみましょうか? 彼女にぱんつを見せてと頼んだら見せた、と」

「それはヤメて!? 刑事的に無罪だとしても社会的ダメージがデカいから!」

「ほら、見なさい」

 

 ふふん、と冷たく笑う沙織ちゃん。ふうむ、その表情。黒ストッキングのまま股間を踏みつける生徒会長キャラみたいで非常にいいですね。メモしておこう。

 

「ふふ、お子様ね」

「な、なんですか」

 

 意外すぎることに真奈子ちゃんが沙織ちゃんをガキンチョ扱いしはじめた。確かに身体的には一番大人だが間違いなく内面は君が一番お子様だぞ。

 

「先生はね、作家なの。文学者なの。アーティストなの。つまり芸術のためなの。写真や絵画のモデルをしているのと同じなの。そ~んなこともわからないなんて~」

 

 おおお! そうだよそうだよ! なんてこった、真奈子ちゃんは実は本当は真実を理解していたんだね! 俺は今、モーレツに感激しているぅ!

 

「むうう。い、一理ある……」

 

 ようやくわかってくれたか、沙織ちゃん!

 

「そうですよ。ここまでエッチで変態だったらもはや芸術です」

「ごめん、あげはちゃんは今すこ~しだけ黙っててもらえる?」

 

 理解力が有りすぎるというのも考えものだね。世の中にはね、本音と建前っていうのが必要なんだよ?

 

「沙織ちゃん、そういうことなんだよ。君が好きな作家だって、探偵とか少女漫画家とか旅館の女将さんとかに取材をしたり質問したりしてるんだよ」

「くっ、なにか一緒にされたくないような気もしますが、そのとおりですね」

「わかってくれて嬉しいよ」

 

 うん、うん。わかりあえるって素晴らしいね。

 

「この前、舌をぺろぺろしたのだって小説に活かされるんですから」

「誰が、誰の舌をぺろぺろしたんです?」

「私が、先生の。舌を、ぺろぺろ」

 

 えへん、と眉毛を吊り上げて、立派な胸を反らす真奈子ちゃん。

 こほん、と咳払いしてから、スタンガンを取り出す沙織ちゃん。

 

「待って! 事情があるの、待って!」

「黙れ変態、死ねロリコン」

 

 沙織ちゃんを落ち着かせるのに、おかき三袋を必要とした。

 





ロリの日ということで更新しました!

それにしても感想が通報だの警察だの不穏すぎますね。
多分、読者の目がちょっと濁っているのだと思います。
ほのぼのとした創作ですので、そこをご堪能ください。


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俺の声を聞きながら体中を濡している少女

 

「え~四十八(よそや)先生、非常に言いにくいのですが、ボツです」

「全然言いにくそうに言ってないんですけど!?」

 

 俺に電話をかけてきたのは編集の富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)さんだ。相変わらずほんわかした優しい声だが、言ってることは鬼です。むしろ(オーク)に襲われて「くっ殺せ」ってなりそうな見た目のくせに!

 

「なんでですか」

「んー。いや、新キャラのメイちゃんの妹のマイちゃんですか」

「ええ」

 

 メイちゃん十六歳の妹はマイちゃん十二歳。最近知り合った網走沙織(あばしりさおり)ちゃんをモデルにした新キャラクターである。

 

「正直、可愛くないです」

「な、なんですって!?」

 

 官能小説において女の子が可愛くないと言われることほどツライことはない。いや、彼女は官能小説だと思ってないだろうけど。どっちにしてもキツイ感想だ。

 

「メイちゃんは共感できるし、応援したくなるし、素直で良い子じゃないですか」

「そうですね」

 

 素直に愛液をだだ漏れにしちゃう、えっちな女の子だ。ご主人さまの言いなりではあるが、勇気を出して自分から腰を動かすところとか応援できる。それに共感しているとしたらなんてエロい女編集者なんだ……と思うけど、そうは思ってないんだろうね。

 

「マイちゃんは可愛げがないんですよ」

「くっ」

 

 俺のことはなんと言っても構わないけど、沙織ちゃんを悪く言うのはやめてください! いや言ってないんだろうけど同じことだよ! くそっ、彼女の魅力を伝えられてないとしたら俺の罪だ。

 彼女は、沙織ちゃんは。

 うーん。

 あれ?

 特筆するほど魅力的じゃないな……いや、俺がモデルと見込んだんだ、そんなわけがない。だって俺が通報を免れるために選んだ、ターゲットに近い属性だからという理由なんだから……。しまった! そんな理由じゃそんなに魅力的なワケ無いじゃん! 俺は馬鹿なのか!?

 

「マイちゃんのキャラクターを見直してくださいね」

 

 そっけなく言われて通話は終了。これがプロの洗礼か!

 

「あぁ~~」

 

 頭を抱えて懊悩する。どうしたらいいのだ。しかし、真奈子ちゃんもあげはちゃんもとっても可愛いけど、沙織ちゃんもやっぱり可愛いことは間違いない。その自信はある。ただ小説というのは見た目や仕草、表情に声などの情報が減っているわけで、それを考慮したらこれでもかというくらい可愛く描写しないと伝わらない。

 

「どしたの、お兄ちゃん」

 

 冷房が効いているというのにやたら薄着の妹がやってきた。小説のタイトルやサインなど、いままで幾度となく有効なアドバイスをしてくれた詩歌だ、相談してみるか。

 

「新キャラが可愛くないからボツだって」

「なるほどぉ、じゃあ可愛い妹をモデルにしたらどうかな?」

「それはないな」

「即答!?」

 

 面白くもない冗談を言う詩歌だったが、意外にもショックを受けたようだ。親指を噛んでいる。悔しがっているんだと思うが、その顔はちょっとエロい。なんで?

 

「戯言はいいから、アドバイスしてくれよ」

「くっ、戯言とは……沙織ちゃんをモデルにして可愛くないって言われてんの?」

「そうなんだよ」

「沙織ちゃんが可愛くないからじゃないの」

「そんなわけないだろ」

「そ、そんなわけないんだ。う~ん、でも正直詩歌ちゃんの方が可愛いんじゃないかな~?」

「あげはちゃんに相談しよう」

「ああっ!? あっさり無視された!?」

 

 すごすごと撤退する詩歌。カーテンを閉めて、ベッドにダイブしたようだ。また枕を濡らすのかな。意外とメンタル弱いよね。

 充電していたスマホを取り出し、無料通話アプリを起動。数回のコールで繋がった。

 

「あ、あげはちゃん? 今、お話してもいい?」

「はい。今、ちょうどお風呂から出たところです。だ~か~ら~、音声通話じゃない方がいいんじゃないでしょうか?」

 

 うーん、相変わらずえっちな事を言う小学五年生だなあ。本当なら彼女のようなキャラクターを主人公にした小説を書きたいところだが、白い鳥文庫では不可能だ。

 

「そうだね、じゃあビデオ通話にするね」

「…………ううう」

「ごめんごめん! 嘘! 音声通話でいいよ!」

「うう……ごめんなさい」

 

 どうせこうなるとわかっていたのに言ってしまった。反省。

 

「ええっと、話したいと思ってたのは小説のことなんだけどね」

「二巻ではどんなプレイをさせるかってことですね」

「そうそう。メイちゃんがドMだったから、新キャラはドSにしようと思ってるんだ」

「そうなんですね……えっちですね」

「そうだよねー。そう思うよねー。でも編集から可愛くないって言われちゃって」

「エロくてドSなロリとか、サキュバスみたいで最高じゃないですか」

「そう! そのとおり! あげはちゃんは本当によくわかってる!!」

 

 さすが俺の唯一の理解者だよ。ただ今わかっちゃったね。俺と同じ意見すぎてアドバイスにならないねコレ。人選を間違えました。

 

「なんか自信が出てきたよ、新作楽しみにしててね~」

「はい。応援してますね」

 

 ファン弐号はやはりファンだな。出来たときに見せる相手であって書くときの参考にしては駄目だ。真奈子ちゃんも同様だろう。

 こういうときに頼りになるのはやはりファンではない冷静で客観的な読者だ。そちらをコールする。

 

「もしもし、沙織ちゃん?」

「なんですか、今お風呂入ってるんですけど」

「じゃあビデオ通話にしようか」

「死ね」

 

 うんうん。安心するね、この反応。これでこそ網走沙織ちゃんだよ。あげはちゃんと違って罪悪感がない。

 

「それは冗談なんだけどさ」

「つまんないですよ、小説と同じで」

 

 なんと辛辣な……いや、しかしその耳の痛い意見こそ拝聴すべきなのだ。

 

「実はね、二巻の序盤を編集に見せたら、ボツになったんだ」

「そうですか。甘くないですね」

「うん。新キャラが可愛くないって」

「……新キャラってぼくがモデルじゃなかったでしたっけ」

「そう」

「喧嘩売ってるんですか?」

 

 ちゃぷんと言う音が聞こえる。湯船を叩いたようだ。やっべえ怒らせちゃったよ。でも普段から怒ってるから別に怖くないな。

 

「いや、沙織ちゃんが可愛いのは間違いないんだよ」

「むっ。むむ」

「俺が悪いんだ、沙織ちゃんが言う通り小説を書くのが下手くそだから沙織ちゃんの魅力を伝えられないみたいなんだよ」

「な、なんですか、そこまで言ってないです……。で、ぼくに何をして欲しいんです?」

「キャラクターの深堀りが必要なんだ。だから沙織ちゃんのことをもっと知りたいんだよね」

「スリーサイズとか体重とか絶対教えませんからね」

「身体的な情報はもう十分なんだ。大体わかるから」

「変態め……じゃあ?」

「普段の何気ない魅力を知りたいから、一緒にどこかに遊びに行きたいんだよ。遊園地とか。奢るからさ」

「ゆ、遊園地……本当に?」

「うん。どう?」

「し、仕方ないですね」

「ほんと? よかった~」

「集合場所と日時を送っておいてください。じゃ、髪を洗いますから」

「うん。ありがとねー」

 

 よしよし、うまくいったぞ。これで彼女の魅力を深く深く知ることが出来るだろう。

 





今回会話ばっかりですけど、次回はお出かけしますから!

しかし四十八先生の悩みは私の悩みでもある……沙織ちゃんの可愛さを伝えるのは難しい……。

私個人としてはショートカットの女の子に冷たくされつつもなんだかんだかまってくれるとか凄く好きですけど。
職場で一番冷たい目で見てくる割にはLINEすると返事してくれる新入社員の女の子とか好きですけど。

新入社員の女の子に冷たい目で見られてるのかよこの作者、やっぱりなとか思わないように!


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暑い夏の日に薄い布一枚の少女を三度抱いた

 

「ふ~ん、スク水か。そんなに好きじゃないんだけどな」

「うるさい変態。そもそもなんでプールなんですか」

「いや、この時期遊園地って言ったら普通はプールだよ? 通常エリアなんて熱中症になっちゃうよ」

 

 俺の言う遊園地というのはランドはランドでも千葉にあるテーマパークとかではなく、多摩の山の上に存在するランドのことだ。七月のクソ暑い時期に遊ぶ場所としては最適ですよ。デートだけではなく家族連れも多いので、俺と女子小学生が一緒に居てもまったく不審がられることもない。

 

「これは一応メイちゃんの小説のネタ探しだからね。ご主人さまとメイドがジェットコースターとかに乗るわけないでしょ。別荘のプールでご奉仕するんですよ」

「知りません。う~ん騙されたな、プールか」

 

 網走沙織ちゃんは、プールの外にある観覧車を羨ましそうに見やる。観覧車の中でこっそりエッチなことをしたいとか思っていたのかな。そうだとしたら大変申し訳無いけど多分そうじゃなくて、単純に乗り物に乗ることをすっごく期待していたのかもしれない。

 

「あれ? プール嫌い? ウォータースライダーとか楽しいよ?」

「なんですかそれ」

 

 ふうむ。ウォータースライダーを知らないとな。そりゃあ人生の半分を損してますよ。残りの半分は使い捨てのオナホだね。俺の人生って一体……。

 

「じゃ、並びながらお話しようか」

「並ぶんですか」

「ジェットコースターほどは待たないよ」

 

 もともと彼女のことを詳しく知ることが目的なんだ。特に魅力的なところを。決して水着姿を目に焼き付けるためではない。

 まだほとんど日焼けしていない彼女の肌は白く、水着のお尻のところを人差し指でぷりんとさせたときも肌色の違いを感じなかった。そこはちょっと色が違うほうがいいと思います。アネッサ反対!

 

「沙織ちゃんはあまり遊園地とか来たこと無いのかな」

「初めてです」

「初めて!?」

 

 水着を持ってきてねって言ってあったのにプールと思わなかったわけだぜ。ひょっとしたらスク水のままでメリーゴーランドとかコーヒーカップに乗ったかもしれないね。惜しいことをした!

 

「両親が厳しくて。基本的に遊びというものはしたことがほとんどありません」

 

 なんと……。こちとら遊び以外のことをした記憶が殆ど無いぞ。

 螺旋階段を上がっていくと、カップルだらけの列の最後尾に到着。彼女を日陰の方に誘導する。少しは日焼けして欲しいけどね。

 

「テレビも決まったものしか見せてもらえないし、漫画もほとんど許可されません。でも小説なら読んでいいことになっています」

「なるほど……だから児童向けレーベルを読むのは数少ないエンターテイメントってことなんだね」

 

 沙織ちゃんはこくん、と頷いた。

 そうか、そういう家庭の事情で俺の書いた小説を読む人もいれば、数少ないお小遣いで買ってくれる読者もいるんだ。そう考えると、もっとエロい……いや面白いものを書かなきゃなあ。

 それにしてもそんな厳しいご両親はどうして今日は許可してくれたんだ? 女子小学生がエロいことばかり考えている変態の専門学校生と二人でお出かけなんて俺が言うのもなんだが絶対許可しないだろ。

 

「でも今日はなんで遊びに来れたんだい」

「ごめんなさい」

「えっ?」

「嘘をついてきたんです」

「そうなんだ……」

 

 膨らみ始めて一年くらいの慎ましやかな胸を包むあばしりと書かれたゼッケンに手を当てて、彼女は沈痛な表情を見せる。それほどの罪悪感が生まれるような嘘を? 

 

「小説家の人に誘われて取材に行くと言ったら、それは素晴らしい、きっと勉強になるって……」

「ん? 待って? それは嘘じゃないよ?」

「エッチなことばかり考えている変態の専門学校生と遊園地で遊ぶなんて本当のことは言えなくって」

「う~ん。それも真実だけど、さっきのも真実なんだよ? 別に嘘じゃないよ?」

「だから口裏を合わせて欲しくって」

「ねえ、聞いてる? だからそもそもそういう理由で誘ってるんだけど? 領収証だって取材のためって切ってるからね?」

 

 不条理な罪悪感を拭い切る前に最上部に到達した。一人ずつで滑るか、二人で体を密着させて滑るかの二択になるようだ。詩歌が小さいときはよく一緒に滑ってあげていたな。そのときの体位は背面座位……って説明の仕方がちょっとアレだね。要は妹が滑るときに背中を抱きしめるような格好ということだ。

 

 俺たちはどうするかね、と思っていると隣りにいる小柄な少女は俺のトランクス型の水着を指先できゅっと掴んだ。まさか脱がさないですよね。

 

「一緒に滑る? それとも別々に滑る?」

「高い」

 

 高い。まあ、そうだ。この遊園地はそもそも多摩地区の丘の上にあるため、ウォータースライダーの上に立つだけで東京タワーやら都庁やらが見えるほどだ。それはそうだが、俺の質問の答えになっていない。

 

「高い」

 

 もう一度言われましても。あれか、女性は共感を求めるってやつか。答えなんか出さなくていいから、わかる~、とかそうだよね~、とか言っておけってやつだ。詩歌に関して言えば全然わかんないから言えないが、この場所が高いことは共感可能だ。

 

「そうだね~、高いね~」

「……ちっ」

 

 え? なんで? 舌打ち? どゆこと?

 

 困惑している間にタイムアップだ。

 目の前のカップルたちは別々に滑っていった。ラブラブかどうかというより、一人で足を閉じて滑ったほうがスピードが出るからだろう。

 

「お先にどうぞ」

 

 俺はそう言って手で促すが、なんと無反応。

 沙織ちゃんを置いていくわけにはいかないのだが、俺の水着を掴んだまま微動だにしない。

 

 やむを得ず俺がウォータースライダーに座ると、沙織ちゃんも……って、ええ!?

 

 沙織ちゃんは俺の前に座るのではなく、俺の上に乗ってきた。しかも俺の方を向いて。抱っこというか、なんというか……。さすがにこれは……。

 胸板に吐息がかかってくすぐったいし、お腹のあたりに柔らかいものが当たってるし。いくらなんでも密着し過ぎだよ……。

 

 しかし彼女はもう俺の背中に手を回してがっちりホールドしている。後ろからの視線からさっさと滑ろという非難を感じるし、ええい、このまま滑るしか無い。

 

 高さはかなりのものだが、ループ型でくるくる回りながら落ちていくタイプなのでそこまでスピードが出るわけではない。

 

「ひゃわわわわ」

 

 なので、こんなに慌てふためいて心臓の高鳴りが伝わるほどぎゅっと抱きしめる必要はないんだ。落ち着いて!

 

「目を開けて、前を見て」

 

 努めて優しく話しかける。

 

 ちら、と目を開けた。俺と目があう。目の前じゃなくて進行方向を向いて欲しいんですけど?

 

「ひゃわわわわ!」

 

 さっきより更に冷静さを無くし、目をぎゅっと閉じて、ますます俺をキツく抱きしめる。なんで!?

 このまま入水すると溺れてしまう。左手を太ももに、右手を腰に回す。

 

 ざぱーん。

 

 なんとかして最初から立つことが出来た。彼女は俺の首に手を回しており、駅弁……ではなく完全に抱っこ状態。少しの抵抗もなく、離したら溺れてしまいそうなのでそのままプールサイドまで歩いた。すとん、と足を着地させる。

 

「こ、怖かった?」

 

 恐る恐る確認するが、態度で丸わかりだ。うつむいて自分の体を抱きしめるように突っ立っている。遊園地が初めてでウォータースライダーも初めてで高いところから滑るという行為はどうやら恐怖であるようだった。配慮が足りなかったか……。

 

「ごめんね? もうヤメておこうね?」

 

 絶対に正解の問いかけだと思ったが、ぶんぶんと首を横に振られてしまった。なぜ。

 

「え? もう一度やるの?」

 

 こくこくと無言で短い髪の毛の頭を縦に振る。なんで。

 あれか、今は全然目を開けられなかったしよくわからなかったのが悔しいのかな。今度こそ普通に滑りたいのかな。

 

 ところが、その後三回滑ったのに、毎回同じ体勢で滑ることになった。

 

 




庵野秀明監督がラブ&ポップという映画を撮る前に当時女子高生だった仲間由紀恵など4人の美少女たちと取材と称してデートしたのも確かこの遊園地だったような気がします。
いつかこの小説が実写化されて原作者と女の子たちで遊園地プールに出かけることが私の夢になりましたとさ。みんな応援してね♡


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子猫たちによる水辺のキャットファイト

 

「肺活量なさすぎません?」

 

 ついさっきまで大人しく殊勝にしていた沙織ちゃんだが、すっかり毒舌に戻ってしまった。まあ、いつもどおりになってくれて安心だけど。やっぱりさっきはちょっと怖かったのかな。

 

 ウォータースライダーを満喫した俺たちは今度は流れるプールを楽しもうとしていた。

 沙織ちゃんはプールと言えば学校の授業でしか経験がなく、大して好きでもない水泳をさせられるものだという印象だったらしい。

 むしろ遊園地のプールや海は水泳している人の方が希少だと説明すると、遊園地の平常エリアに行きたかったとがっかりしていた沙織ちゃんのモチベーションは完全に回復。プールでの遊びに対して非常に興味津々となった。

 

 現在はあひるちゃん……あひるちゃんじゃ説明になっていないな。要するに足を突っ込んで使うタイプの浮き輪を購入してその空気を入れているところだ。さすがにポンプを買うのは散財しすぎだと判断したため口で空気を入れている。応援してくれるのかと思ったらまさか肺活量の無さをディスられるとはね。

 

「代わりますよ」

 

 間接キスになってしまうことを少しも考慮することなく膨らまし役を交代。俺の倍くらいのスピードでぷーぷー膨らましている。ははーん、実はこれ、やりたかったんだな……。こういうことをしたがるところはやっぱりまだ子供だなと思って微笑ましくなる。

 っていうかそもそもあひるちゃんを使いたがる時点で子供だけど。小学六年生でやりたがる子はあまりいないだろうが、今まで遊んだことがないツケというやつだろう。流れるプールでぷかぷか浮いているだけの幼児を見て羨ましがった沙織ちゃんは正直可愛かった。言葉でお願いするのが苦手なのか、そういうときはただ俺の腕を引っ張って、指をさすだけ。ほんと子供みたい。

 

 沙織ちゃんは完全に膨らんだあひるちゃんに足を突っ込んで、むふーっと鼻息を荒くした。やる気満々ですね。

 

「さっさと行きますよ」

 

 セリフは刺々しいが、ルックスはあどけない。なんかこう、そういうのいいよね! ギャップ萌えってやつですね。これは小説に使えそうだ、脳内でメモしておこう。ドSの女王様なのにおむつとおしゃぶりしているとか……いや、これはあまりいいネタじゃないな……。今度時間をかけて考えてみよう。

 

 早々に装備してしまったため、流れるプールに向かうプールサイドをあひるちゃん状態になっている沙織ちゃんと一緒に歩いていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

「見つけましたよー先生―! しーちゃんせんぱーい! こっちでーす!」

 

 むう、小学六年生とは思えないけしからんナイスバディに白いワンピース! どうやら清井真奈子ちゃんで間違いなさそうですね。普段はそのままにしているロングヘアは、ゴム紐によって高めの位置のポニーテールになっていた。こういう髪型変更、魅力的だよね。

 

「あー、いたー! ってなんて格好してるの」

 

 続いてやってきたのは妹の詩歌である。同じくポニーテールにしているが普段から髪型をちょくちょく変えているので何の面白みもない。水着は水色のワンピース。特に思うところ無し。所詮実妹などそんなものだよな。

 

「あげはもいますよ」

「うわっ」

 

 あげはちゃんはいつの間にやら背後から忍び寄っていた。

 水着は黒のビキニ。随分と布面積が少ないので心配しそうになるが、胸は殆どないので問題なし。下もパレオを装着していた。それなら安心かな。

 

「そんなに見られたら水着に穴が開いちゃいますよ?」

 

 そこまで見てないと思うが、からかうような叱るような口調でたしなめるあげはちゃん。表情は美人家庭教師がうっかり勃起してしまった生徒に対するそれだ。なんと蠱惑的な小学五年生であろうか。

 

「ほら、ちら、ちら」

「うおっ」

 

 なんとあげはちゃんは俺だけに見えるようにパレオをめくりあげた。疑似パンチラというやつか、これは素晴らしい。メイちゃんにも是非やらせよう。仕事のことばかり考えている俺、偉いなあ。

 

「えっちですか?」

「うん、えっちだよ」

 

 するとあげはちゃんは、嬉しそうにむふんと鼻を鳴らして真奈子ちゃんを見る。なんだろう、ライバル意識があるのかな。小説のネタを提供したから偉いぞ、勝ったぞとか思ってるのかな。なんて熱心なファンなんだ……。

 

「ん? 水着の自慢ですか? それならわたしもすっごく見せたいポイントがあって~」

 

 そう言うと真奈子ちゃんは俺の前にとててっとやってきて、おもむろに胸元をぐいっと開けた。はあっ!? どういうこと!?

 

「この水着、裏地が可愛くなってるんですよ、見えますか?」

 

 いや、もうなんというか谷間ががっつり見えてるし、下手したらおへそすら見えそうですよ。裏地なんか目に入らんぞ。ピンク色の突起物なんて俺は見てないからね?

 

「なにやってんだ変態」

 

 げしっと腰を蹴ってきたのはあひるちゃん……いや、沙織ちゃんだ。思わず前のめりになるが、当然それは蹴られたことによる物理的な現象であって、生理的な現象によるものではない。あげはちゃんがパレオをちらちらさせたことや真奈子ちゃんが胸を見せつけてきたこととは全くの無関係です。

 

 真奈子ちゃんは夏の日差しを浴びてひまわりのように笑っているが、あげはちゃんと沙織ちゃんはどうやら機嫌を損ねたらしい。やはり胸の大きさの問題なのだろうか。そういうコンプレックス、いいですね。メイドのマイちゃんも姉のメイちゃんが巨乳であることに対してぐぬぬってなるようにしましょう、そうしましょう。

 

「ところで詩歌、何しに来たの?」

「くっ!? アニキがプールで沙織ちゃんとデートしてるなんて見逃せるわけないでしょ!」

「いや、俺は変なことはしないぞ」

「嘘! ぎゅっと抱きしめたりしてるんじゃないの!?」

「……」

「え、無言で目逸らし!? まさかホントに!? く、くぅ~っ!? 突然の尿意がぁ~っ!」

 

 詩歌は内股でダッシュして、トイレに向かったようだ。た、助かった。沙織ちゃんもぷいっと顔を反らしている。あひるもそっぽを向いている。まあウォータースライダー滑るのが怖かったなんてバレたら恥ずかしいもんね。

 

「邪魔者はいなくなったことだし、早く流れるプールに行きましょう」

「そうだね」

 

 俺はあひるちゃん……じゃなかった沙織ちゃんの手を取って、流れるプールの方へ再度歩き始める。

 

「ちょ、ちょっと先生」

 

 真奈子ちゃんに行く手を遮られる。そういえば詩歌を尊敬している後輩だった。邪魔者扱いしたことに異議があるのだろうか。

 

「わたしとも遊んでくださいよ~っ!?」

 

 そういうことではなかった様子。

 

「あげはもいますよ」

 

 同じことを言いたい様子。しかし本日は取材であって、ファンサービスデーではない。

 

「うーん、今日はちょっとなあ」

 

 小説のネタ探しのために沙織ちゃんに同行をお願いしている立場であるから、俺の一存でオーケーするわけにはいかない。

 

「どう? 沙織ちゃん」

 

 お伺いを立てる。沙織ちゃんとしては同年代の女の子が居たほうが楽しいだろうし。初めての遊園地だから賑やかな方が嬉しいとは思うけど。

 

「ぼくの魅力を知るためのデートですから、二人は邪魔ですね」

 

 めちゃくちゃ意外な意見だった。そこまで小説のネタのためを思ってくれていたとは! ファンでもないのにありがたすぎる。

 

「しーちゃん先輩はともかく、わたしが邪魔!?」

 

 真奈子ちゃんがポニーテールを揺らして憤慨している。なにげにうちの妹をディスってるような気もするが、まぁそれはどうでもいいか。

 

「あんたの魅力って何? ぼくとか言っちゃう痛々しいとこ?」

 

 あげはちゃんはたいそうご立腹だ。言葉遣いが悪いですよ? あと、マイちゃんの一人称をぼくにしようと思ってる俺の小説もディスってる感じになってて辛いからやめて欲しいです。

 

「さあ? ぼくの魅力なら、そこの作家さんに聞いたら?」

 

 にらみ合う、沙織ちゃんとあげはちゃん。うーん、この二人相性が悪いな……。

 

「四十八せぇんせぇ~、あげはの方がゼッタイ魅力的ですよねぇ~?」

 

 右腕に抱きついて、猫なで声を出すあげはちゃん。まぁ、官能小説を書くとしたらモデルとしてこれ以上魅力的な人物はいないかもしれない。なにせ心にちんこが付いているからね。そこが魅力的だよね。

 

「こんな色ボケしたド貧乳のおこちゃまなんて厄介なだけですよね」

「何だとこのブス」

「なんだよ」

「なによ」

 

 ぎゃー! 二人が喧嘩を始めてしまった!? お互いに水着を引っ張り合っている。大変だ! あげはちゃんの露出が大変だ!

 

「まぁまぁ抑えて抑えて」

「なにあんた」

「関係ないでしょ」

「わわわわ」

 

 仲裁に入った真奈子ちゃんも水着を引っ張られている。やばい! ポロリしちゃう! これがご主人さまのプライベートプールならいいけど、この遊園地では危険すぎる!

 

「や、やめるんだ、みんな」

 

 とりあえず眼福を独り占めにする……ではなくて、他の人間に見えないように近寄る。壁になるのだ。

 

「先生は誰が一番大事なんですか」

 

 そんなことをそんな格好で言ってはいけません! いいから引っ張られている水着を何とかするんです!

 

「あげはですよねぇ~?」

 

 パレオをちらちらさせるのはいいけど下がずれてますよ!? さっき取っ組み合いしたからじゃないの!? ヤバイって!

 

「ぼくだよね変態」

 

 俺を変態呼ばわりする前に、自分の格好をなんとかして!?

 

 三人をなだめすかして水着を直させるのに三分かかった。その間、俺はカバディのような動きで周囲の目から乙女たちを守った。

 

 




小学六年生のときに学校のプールで隣にいた女の子が、おっぱいの大きな女の子のスク水の胸元をぐいっと引っ張ったんですけど、それをたまたまガン見してしまったんですね。「ちょっと、見られたじゃん!?」みたいにおっぱいの大きな女の子が抗議していたわけなんですが、その数秒のことは心に深く刻まれているわけです。
そんな経験を小説を書くことで活かすことが出来たなんて、素晴らしいことですね。本当に水着を引っ張った彼女には感謝です。


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白く濁る液体を口から零した少女が欲するものは

 

「ボツです」

「ええ!?」

 

 富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)という女性編集者に新しいプロットを送ってしばらくしてからかかってきた電話に出たら、いきなりこれだ。

 前回言われたのは読者層と同じ年代の新キャラであるメイちゃんの妹のマイちゃんが可愛くないというえげつないダメ出し。

 そこでモデルとなるJS(女子小学生)の網走沙織ちゃんと遊園地のプールに行って散々可愛さを研究してきた。よってボツなわけがない。そんなんだから上司に濃い目のカクテル飲まされていつの間にかホテルに連れ込まれるんだよ。俺の妄想だけど。

 

「マイのどこが可愛くないって言うんですか」

「うーん。まぁ可愛くはなりました」

 

 可愛くはなったのかよ!

 

「じゃあ?」

 

 何が問題だと言うのか。っていうか先に褒めてくれませんかね。ご褒美くれませんかね。年上の女編集なんだからそれくらいわかってよ!

 わかるわけもないので大人しくダメ出しを聞く。

 

「メイちゃんは食欲がありすぎるけど我慢出来ないところが共感するわけですよね」

「え、ええ」

 

 ほんとは違うけどね。性欲だけどね。っていうかご主人さまの誘惑に負けるだけだけどね。

 

「マイちゃんにはそういうポイントが無いじゃないですか」

「うーん」

 

 意外と言うのはプロの編集に対して失礼だが、まっとうな意見だった。だって、肉欲って言葉をお肉食べたいって意味だと思ってるような人だからアホかと思ってたし。あとDVとか平気でしそうなダメ男と付き合いそうだと思ってたし。それはただの偏見だが。

 

「じゃあ、食欲の代わりに性欲がありすぎるということで」

「……四十八手足(よそやてあし)先生……? 児童向けレーベルで性欲があるヒロインなんて許されると思ってるんですか?」

 

 思ってるんですか、もクソもすでに出版されてますけど? あんたたちの目が節穴なだけですけど? 俺が書いたのはゴリゴリの官能小説でそれを児童向けレーベルで出したのはあんたですけど?

 内心ではお前に言われたくねー! と思ってるとはいえ年上のきちんとした社会人の人からここまで低い声で叱られるとビビる。

 

「す、すみません。そ、それじゃあ睡眠欲……」

「は? それじゃただの睡眠障害じゃないですか。真面目にやってくださいよ」

 

 ううう、眠くて仕方がない女の子だって可愛いじゃんかよお。寝たフリしてえっちなことされてるシチュエーションとか知らないの? 知らないんだろうな……。

 

「じゃ、よ~く考えてくださいね」

 

 通話が終了してホッとした。ふええ、大人の女の人って怖いよぉ。

 

 さて考えるにしても人間の三大欲求はすでに封じられている。小学生が何を考えているかを考えてみるが、なんにも考えてなかったとしか言いようがない。うんことかちんこでゲラゲラ笑うようなバカであり、おもちゃが欲しいとかお菓子が食いたいとかしか考えてなかった気がする。あと女の子のぱんつが見たいとか。それは今も変わらないし、きっと一生変わらない。やだ、男ってみんなバカ?

 

 結論としては男はバカなので参考にならない。考えるべきはマイちゃんのことであり、女の子にしかわからないことだ。うんうん唸ってるより聞いた方が早いな。

 

「どしたの、お兄ちゃん。また女の子に聞きたいことがあるの?」

「さすが詩歌。そのとおり」

「ふっふーん。そうでしょそうでしょ。じゃあどうぞ」

「ん? 何が?」

「え? 女の子の気持ちを聞きたいのでは?」

「そうそう。だから呼んでくれよ、女の子」

「えっ? えっ? それって女の子だと思われてないってことー!? ん、ん~ッ!?」

 

 いやそうじゃないけど、とか言う前に勝手に部屋を出ていく詩歌。ショックだったのかと思ったが、なぜか気持ちよさそうだった。気持ちよさそうってはっきりいって意味がわからないが、そう見えたのだからしょうがない。要するに、こいつはちょっとおかしいのだ。普通の女の子とはとても思えないので参考にならない。

 

 マイちゃんのモデルである網走沙織ちゃんに意見を聞こうか。しかし、彼女はエンタメを禁止されていて、小説を読むのが唯一の楽しみというすでに禁欲的な子だ。一般的な意見といえるのだろうか。

 メイの場合は食欲、ということになっている。遺憾だけれども。食欲旺盛なメイちゃんはダイエットのために食べ過ぎを我慢している女の子なら共感を得られるだろう。しかしメイが単純に食事を摂取するのが困難でもっと食べたいという事情だと、この飽食の時代には可哀想になってしまうだけだろう。つまり駄目だな。

 

 よし、じゃああげはちゃんをモデルにしよう。いや、やめておこう! 絶対違う! 彼女は見た目はともかく中身は愛すべきエロジジイだ。絶対に女子小学生と同じ意見なわけがない。沙織ちゃんなんか比較にならないくらい共感を得られない。本来俺が書きたかったのは彼女のような女の子なんだが、とても児童向けレーベルでは表現できない。非常に残念だ。児童向けレーベルに相応しくない思考の女子小学生、それが小和隈(こわくま)あげはという女の子だ。

 

 そうなると消去法で必然的に真奈子ちゃんになる。真奈子ちゃんはメイのモデルではあるが、別に食いしん坊キャラではまったくない。天然でドジっ子な一面という性格的な部分はメイに活かすとして、真奈子ちゃんの好きなものをヒアリングしてマイのキャラクター設定の参考にするのはアリじゃないか。

 

 早速俺は、清井真奈子(きよいまなこ)と書かれた連絡先をタップ。コール二回で通話が開始される。

 

「はいっ! あなたの真奈子です!」

「あ、あー、真奈子ちゃん。実は話したいことが……」

「今すぐ行きます!」

 

 プツッ。

 

 あっという間に通話終了。別に会う必要はなかったのだが……。それにしてもあなたの真奈子って言い方。あなたの小説の大ファンという意味だろうが、誤解されるような言い回しをしてしまうあたり天然なんだよなあ。

 

 ゲストを出迎えるにあたり身だしなみを整えようと、洗面所に入ったら風呂場に電気が付いていた。どうやら妹は昼から入浴しているようだ。まぁ俺たちの部屋は扇風機だけで冷房を使用していないので、シャワーを浴びるのは少しもおかしいことではないのだが、シャワーの音は聞こえない。

 

「ひうん、ふう、ひうっ」

 

 漏れてくるのは過剰な快感で身悶えているような声だ。なんだろう、水風呂にでも入ってるのかな。ぬるま湯で十分だろうに。

 ヒゲを剃り終わり、顔を洗って髪を整えている間もずっと詩歌は風呂から出てこなかった。可愛い後輩の真奈子ちゃんがやってくることは伝えておいたほうがいいか。

 

「詩歌ー」

「ええっ!? お兄ちゃん!? そこにいるの!!」

「ああ。ちょっといいか?」

「え、え!? いくら女の子だと思ってないからってお風呂に入ってくるのは駄目だよ!?」

「いや、そうじゃなくてな。えーと、お楽しみのところ悪いんだが……」

「お、お、お楽しみのところって……!? あ、あ、ううううう! はぁはぁ……ば、バレてるの?」

 

 何がだよ。どんだけ水風呂を楽しんでるんだこいつは。確かにアホな行動ではあるがそこまで秘密にすることもないだろ。

 

「まぁ、ほどほどにしとけよ」

 

 風邪ひくからな、とは言わなかったが。

 

「ほ、ほどほど……あ、だめ、ますます捗っちゃう」

 

 なんでだよ。まぁいいや、真奈子ちゃんが来ちゃうし放っておこう。

 

 リビングに移動し、お茶菓子を用意していたら程なくしてインターホンが鳴った。

 本当にすぐにやってきたにも関わらず、髪の毛は綺麗に編み込まれており、可愛いバレッタを付けて、服装もばっちりコーデされたものだとわかる。オフショルダーの白いフリルのトップスと黒いミニスカート。そのスタイルも相まって、もはや幼いとは言えない。

 

「ごめんね、なんか来てもらっちゃって」

「とんでもないです! いつでもすぐに駆けつけますよ!」

 

 走ってきたからだろうか、テンションは高いし、汗もかいているようだ。早く上がってもらおう。

 リビングは冷房が効いており、真奈子ちゃんは中に入るとふうと息をついた。

 

「座って」

 

 ソファーに座るよう促して、カルピスを作る。お中元でいただいたものだが、こういうときじゃないと飲む機会がない。のどが渇いているだろうから大きめのグラスであえて薄めに作った。

 こういう場合、少年漫画のちょっとえっちなラブコメだったらうっかりカルピスを頭から被って「ふえぇ、べとべとだよお」みたいな展開になるだろうな。

 そんなことを考えつつ渡したら、すぐにごくごくと半分ほどを飲んだ。急いで飲んだせいか白い液体は唇からつつと溢れる。それをぺろりと舌で舐めあげると、「おいし」と呟いた。うーん、えっちなラブコメよりエロいような気がしますね……。

 

 座ってと伝えていたはずだが、彼女は突っ立っていた。なんででしょう。

 俺がソファーに座ると当然のようにすぐ横に座った。キャバクラかな?

 

「今日はどうしたんですか、四十八せんせ?」

 

 キャバクラなのかな? 知らないけど。でもこれは媚びてるわけじゃなくて天然なんだよなあ。

 

「えっと、小説のネタ探しで悪いんだけど」

「そんな! 一番の光栄です!」

 

 まぁファン弐号を豪語する真奈子ちゃんだ、そこは本当にそうなんだろうなあ。

 

「大好きだなって思うことある?」

「えっ!? 今、思ってます……」

 

 そう言うと、指を絡ませながら少しうつむいた。今、思っている……? あぁ、小説のネタを提供できることが嬉しいのか。それだと特殊な事情すぎて困るな。質問を変えよう。

 

「幸せだなって思うことは?」

「今、思ってます……」

 

 ますます顔を赤くして声が小さくなる真奈子ちゃん。ううむ、同じ意味になってしまったか。作家としては嬉しいが、ネタ探しにはならない。

 

「んーと、じゃあ今欲しいものは?」

 

 我ながらこれは良い質問じゃないか。ここで真奈子ちゃんが「肉棒」とか「えっちなお仕置き」とかは絶対言わない。そして「四万十川の鮎」とか「夜中に作らせたふぐ刺し」とかも絶対言わないわけ。これだ。

 

「欲しいものは、お洋服とかアクセサリーとか……もっと可愛くなりたいです」

「うわー、可愛い」

 

 言ってることが可愛い。さすが、男子とはえらい違い。ただし、小学六年生でカッコイイ服が欲しいとかいう男子のことは大嫌い。

 

「お化粧とかにも興味あるの?」

「あ、あります。でも、まだ早いからって」

「まあね、全然必要ないもんね。あー、でも、それいいな~。そういうのいい。これだ!」

 

 もう確信していた。そうだ、女の子はもっと可愛くなりたいという欲望があるじゃないか。とびっきり可愛らしい欲望が。

 

「ありがとう、真奈子ちゃん。相談して本当によかった」

 

 お礼を言うと、意外にも真奈子ちゃんは俺の手を取って、

 

「じゃあ、ご褒美ください」

 

 と言ったのだった。ご、ご褒美……!?

 

 





詩歌の奇行を期待している声が大きくて困惑ですが、詩歌に関してはすらっすら書けるので全然ネタが切れません。本編はそれなりに考えているんですけども……w


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少女は言われるがままに妖艶になってゆく

 ご褒美とは。

 

 官能小説においてはお仕置きとほぼ同義である。ご褒美もお仕置きもやることは同じなのである。一般的にはさぞ不思議であろう表現であろう。「ふざけるな」と「ふざけろ」がまったく同じ意味であるかのように。日本語って難しいね。

 しかもご褒美とは言いつつ、嬉しいのか嬉しくないのかわからないし、お仕置きと言いつつヤメて欲しいのかヤメて欲しくないのかもよくわからない。読者がどちらとも取れるようにするのが良いのです。でも下の口だけはいつも正直だよね。嘘つきだったことが無いね。

 

 さて、清井真奈子ちゃんがお仕置きをして欲しいわけがないので詳しく話を聞かねばなるまい。

 

「もちろん何でもするけど、どんなご褒美?」

「えっと、お買い物に付き合って欲しいです」

「ん? またスーパーに行くの?」

 

 黒くて太い棒……ふ菓子が欲しいのだろうか。いっそ駄菓子屋行ったらどうかしら。日本一長い棒もあるし、うまい棒もあるし、チョコバットもあるよ。

 

「ち、違います」

 

 ぷるぷると首を横に振る。真奈子ちゃんはみんながいると元気で幼い感じがするが、二人きりになると妙にしおらしくするような気がする。なんでだろ。ご褒美が欲しいとか恥ずかしいこと言ってるからかな。いや、ご褒美が欲しいというセリフが恥ずかしいのは官能小説だからであって現実にはそんなことないだろう。謎は深まるばかりだ。

 

「お洋服を買いに行きたいんです」

「あー、なるほど」

 

 言われてみれば当然の話でしたね。ついさっき洋服とかアクセサリーとかが欲しいっておっしゃってましたよね。俺はバカなのかな?

 

「了解、了解。財布と鞄役ってことだね」

「えっ? 財布と鞄じゃなくてお洋服を買って欲しいです」

「違う違う、俺が、財布と鞄。つまり金を出して荷物を持つ役目ってことだよ」

 

 説明の仕方が昭和だったかな。アッシー君みたいだったかな。俺って何歳なの? バブル時期に書かれた官能小説を読みすぎて知識が偏っているのかな。

 

「そ、そんなの駄目です。お金は自分で出しますから、選んで欲しいんです」

「俺に?」

 

 こくこくと頷く真奈子ちゃん。ふうむ。普通女の子は自分の着たいものを着たいのでは? 詩歌は俺が選ばなかった方の服を買うという天の邪鬼だが、真奈子ちゃんはそんなことはしないだろうし。似合ってないとか好きじゃないとか言われるのがわかってて購入する妹が変なのだ。

 

「もちろん構わないけど」

「ほんとうですか」

 

 ぱああ、と顔をほころばせる。ううむ、詩歌と一緒に「ファン弐号、参上」とか言ってたときとは別人だ。やはり愚妹がすべて悪いに違いない。

 

「今からでもいいですか?」

「あ、うん。全然いいよ」

 

 夏休みの午後二時。今から出かけてもたっぷり時間はあるだろう。

 

「行くのはスーパーの二階でいいのかな」

 

 やたら白ブリーフの品揃えがいいところだけど。買い物してるのおばちゃんばっかりだけど。

 

「え? デパートですよ?」

 

 デパート! 服を買うのはデパート! 昭和かな。そんなことないのか。お金持ちは今でもそうなのかな。ちなみにこの街からは電車で十五分程度で行くことが出来る。

 早々に支度を済ませると、わくわくとした気持ちが溢れ出ている真奈子ちゃんと玄関を出た。

 

 ぴよぴよ

 

 先に自動改札を通った彼女は懐かしい音を立てた。そうなんだよなあ、こども、なんだよな。

 詩歌がもう子供じゃないのかっていうと違うと思うが、それでも電車に乗るときにこども料金であるということは否が応でも痛切にこどもであるということを明らかにする。そんな相手に、俺はエロい小説を読ませているということを忘れてはならない。いや、つらい。忘れたい。

 

 夏休みの昼の鈍行列車はがらがらで、冷房の効いた車両に俺たちは座った。隣に座ることに抵抗が無くなってきたな。

 

「しーちゃん先輩とお買い物したりするんですか?」

「デパートには行かないかなー」

「そうなんですねっ。やった」

 

 ぐっと二つ握りこぶしを作ってガッツポーズ。うーん、やっぱり詩歌に対して何かあるんでしょうか。同じ男を取り合ってるとか? そんなわけないな……。

 地下に入っていく電車。突如暗くなる車内。こうなると三分以上の間ドアが開くことは無い。

 そして窓から突然入り込んでくる触手。動けなくなる男たちと、絡め取られる女たち。ぬるぬるの触手は衣服を溶かす粘液を……

 

「先生?」

「お、ごめん」

 

 ついついネタを考えてしまった。我ながら仕事熱心にも程がある。それにしても児童向けのレーベルで触手ってどうやって出せばいいんだろうね。うーん、見た目が可愛いキャラクターなのに触手があるってことにしようか。これは凄い発明かも知れないぞ!?

 

「ひょっとして小説のことを考えて?」

「あはは、そうなんだ。ごめんね」

「いえっ! 凄いです! つい考えちゃうなんて、凄い……カッコイイ」

 

 ぽわわと顔をとろけさせる。うーん、本当に小説が好きなんだなあ。このファンのためにも考えないと。触手について。キリッ。

 

 目的の駅につき、俺は真奈子ちゃんの後をついていく。この街については俺のほうが詳しいとは思うのだが、どこのデパートに行くのかわからないからね。

 到着したのは下着売り場だった。

 

「えっ? えっ?」

「お洋服を買うときは、先に下着を買うことにしてるんです。インナーに似合うアウターを買いたいので」

 

 そういうことを聞きたいわけじゃなかったんですが。俺が選ぶの? 真奈子ちゃんが身につけるランジェリーを? え? マジ?

 なんかもう売り場に足を踏み入れるだけでも恥ずかしいのですが。さすがに詩歌だって下着を買うときは母親と買いに行く。俺が一緒なんてことはありえない。

 しかしこの清井真奈子ちゃんという女の子はまったくもって純真無垢な存在なので、男性に下着を選ばせるということに対してえっちな意味を一切感じていないわけだ。言ってしまえば、ぱんつやブラジャーを選ぶことと、靴下を選ぶことに違いがないのだろう。だとしたら俺だけがエロい気持ちになってはいけない、決して。

 

「先生、これとこれならどっちがいいと思いますか」

「こっちのほうがえっちだな」

「えっち?」

 

 しまったぁー!? えっちな気持ちになってはいけないと考えすぎて、えっちという言葉が出てしまった。でも実際にえっちなんだから仕方がないぞ。

 真奈子ちゃんは言葉の意味がわからないとばかりにきょとんと首を傾げる。なんということだ。絶対に言っちゃ駄目だって思っていましたが、そもそも言葉がわからないときた。

 

「ごほん、いい間違えた。ニッチだね、ニッチ。マニアックとも言う」

 

 なかなかうまい言い訳だ。実際のところ女子小学生が黒いレースのブラジャーをするのはニッチでありマニアックであり邪道だろう。はっきりいってえっちすぎる。まるでサキュバスの設定ですよ。

 もう一つの方はシンプルな白の下着。王道だ。真奈子ちゃんには白が似合うよ。

 

「わぁ~、さすが小説家ですね。ボキャブラリが豊富です」

 

 そういう褒め方が出来る女子小学生も凄いと思うけどね。その二つを胸の高さに掲げる。左の胸は白、右の胸には黒があてがわれている状態だ。うーん、無自覚って怖いね。

 

「それでどちらがいいでしょうか」

「もちろんこっちの黒い方」

「あ、そうなんですねっ。じゃあ、一つ目はこれにしようっと」

 

 ――俺って一体……。このままでは真奈子ちゃんがサキュバスになっちゃうじゃないか。それにしても小学生でDカップって……。

 真奈子ちゃんは「これ、セットでください」と店員に告げる。ブラとショーツのセットで購入するらしい。それにしても買い物カゴとか使わずに店員に言うだけで買うのが自然だなー。ほんとうにお嬢様なんだな。

 

「次は、こっちのしましまと」

 

 次はぱんつから選ぶようですよ。ふむ。縞パン。間違いないね。横縞と縦縞どちらがと聞かれたらどっちもと答える。縞パンの嫌いな男子なんていません。それに若い子に似合うよね。もちろん真奈子ちゃんにも似合うだろう。

 

「こっちかな~」

 

 フリルいっぱいのレースのピンクのぱんつだった。しかも紐パン。えっちえち! えっちえちですよ!

 

「どっちで……」「こっちだね!」

 

 質問が終わる前に選んでいた。もちろん紐パンの方を。なんか半分以上透けてるんだけど!? けしらからんね~。

 

「こっちなんですね、すみませーん、これもくださーい」

 

 しまった、またしてもえっちな方を選んでしまった!? そして、真奈子ちゃんは単純に俺の選んだものを買っていくだけだからいいが、女性店員が俺を見る目がヤバイ! 完全に女子小学生にエロい下着を買わせているド変態を見る目だ! 違うんです、違うんですよ。……少しも違わねえ~。

 でもさー。俺は二択で選んでるだけじゃん? 別に俺の好みを押し付けているわけじゃないじゃない?

 

「あと他には……」

「あ、これなんかどう? セパレートじゃなくて一体型になってるよ」

「あ~、素敵ですね~」

 

 下着というよりすけすけのエプロンのような。そして秘部だけをぎりぎり隠すような代物だね。まさにメイちゃんに着せるべきものだ。つまり超えちえちということで……

 

「店員さん、こちらも含めてお会計お願いします」

「あ、はい」

 

 にこっと笑って手に取るが、俺の方を向いたときの顔はセクハラ野郎を見るようだった。もはや何も言うまい。でもいいじゃない、別にそれを身に着けたところを見るわけじゃないし。

 レジではクレジットカードでサクッと購入していた。カードなんて持ったことないよ……。

 

 次に向かったのは普通の洋服売り場。普通といってもブランド物だけど。

 

「服は試着したところを見て選んで欲しいんです」

「あ、おっけーだよ」

 

 ワンピースやらスカートやらをいくつか手にとって試着室へ。試着室の前で待つっていうのも緊張するな……。

 

 しゃーっとカーテンが開く。

 

「先生、どうですか。さっき選んでもらった下着に合ってますかね?」

 

 ……そういえば言ってましたね。インナーに合うアウターを買うって。真奈子ちゃんは下着が見えるように着崩した状態で俺に感想を聞いてきた。ついさっき見るわけじゃないしとか言ってたバカはどこの誰なんでしょうね。誰かに見られたら通報されませんでしょうか。

 彼女の格好はすけすけのランジェリーの上から羽織ったブラウスとカーディガン。なんというか清楚で真面目なファッションの奥でこんなエロい下着着てたのかよ、と興奮が止まりませんね!?

 

「凄く、似合っています」

「ありがとーございますっ」

 

 この日、彼女はとてつもなくえっちえちなコーディネートを三つ購入することになった。

 




えー、作者は縞パンの方が好きです。(何言ってるの?)

っていうかあとがきって性癖暴露コーナーじゃないですよね。なんなんですかね。そういうのが知りたいって人はTwitterをフォローしてくれたらいいじゃない!(宣伝?)


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ロリコンを叱りつける女を言葉巧みに惑わせる

 

 俺は自信満々で編集部へやって来ていた。

 

 目の前にいるのは俺の担当編集、富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)女史である。あいも変わらずぽわぽわと色気のない雰囲気を醸し出している。わかりやすく言うと女家庭教師だとしたら、生徒に性の喜びを教えてあげるお姉さんではなく、不良の男に勉強を教えたお礼として気持ちよくしてもらうタイプのお姉さんだ。俺はどっちも好きですよ。

 

 今はそんな女性編集へ渡したプロットについての打ち合わせ。「こんなの、こんなの知らないぃ」とか言って感動するに違いない。アヘ顔待ったなし!

 

「どうですか、マイちゃんの設定。可愛くなりたいんですよ!」

 

 この清井真奈子(きよいまなこ)ちゃんからヒアリングした乙女すぎる性格。圧倒的可愛さ。これは間違いないだろう。

 文乃さんはアヘ顔には程遠い、究極に無表情な顔で口を開いた。

 

「ベタですね」

 

 ベタ!?

 ありきたりの設定ってことかよ! 大発明だと思ったんですが!?

 

「ええ、だって、髪型とかいろいろ試すんですよ?」

「みんなしますね」

「アクセサリーにも興味津々で」

「普通、興味ありますよ」

「化粧ですら、してみちゃうんですよ?」

「だからしますって」

「俺はそんなことなかったですよ!?」

「そりゃ男のコはそうでしょうけど」

 

 嘘だろ……。俺たちが川の周りでエロ本落ちてないから探検してるころに女子はそんなことを!?

 そりゃ「男ってみんなガキね」とか言うわけだぜ、委員長キャラが。そして本当にガキなのか試してみるかとか言われて大きなイチモツを見せられて本当に大人になっちゃうやつだな。いかん、脱線した。そんなことを考えている場合ではない。

 

 つまり真奈子ちゃんのような考えは割りと普通のことだったわけだ。なんてこった、普通のJS(女子小学生)はどんだけ可愛い生き物なんだ。うちの妹も隠れてやってたのかしら。

 

「なんてこった……」

 

 頭を抱える俺に意外な優しさが降りかかる。

 

「いえ、ベタだとは言いましたが駄目とは言ってませんよ」

「へ……?」

「別にいいじゃないですか。メイちゃんの妹のマイちゃんはオシャレが大好きなおしゃまさん。いいですよ。全然いいです」

「おおお!」

 

 なんてこった、女神じゃないか。ろくでもない男に騙されて体を売られそうだなーなんて内心思ってたことを本当に申し訳ないと思っています! 一生ついてきますよ、文乃さん!

 ところが、彼女は少し顔を曇らせた。

 

「問題はですね」

「も、問題は?」

「ご主人さまとの関係ですよ」

「は、はい」

 

 そりゃ重要な部分だ。メイドのお仕事がストーリーの中心ではなるが、そんなものは導入部ってやつだ。要するにご主人さまとのやり取りのほうがメインなんだよ。仕事を頑張ったからご褒美。失敗しちゃってお仕置き。結局やることは同じ。これが基本だ。

 

「なんか、マイちゃんに対して、ちょっとえっちな目線じゃないですか?」

 

 は?

 はあああ!?

 ……今更、何を言ってるんだコイツは―――――!!!!

 

 最初から、ずっと、ご主人さまは、常に、えっちな目線しかしてねええええええよ!!

 

「メイちゃんにはそんなことなかったのに、マイちゃんにはって……ロリコンじゃないですか」

 

 メイちゃんにもそうだったんだよ―――――!!!!

 ものすっごくエロい目で見てましたよ―――――!!!!

 なんなら何度もエロいことしてるし本番だってしてるんだよ―――――!!!!

 

「なんですかその顔、ふざけてるんですか?」

 

 ふざけてるのはそっちだろ―――――!?

 

「言いたいことがあったら言ってください」

 

 うーん。人生で一番エクスクラメーションマークの多い一分間だったが、言いたいことが言えない一分間でもあったな。しかし最悪、言いたいことを言ったら発禁すらあり得る。「本当はメイちゃんはご主人さまに中出しされて気持ちよかったんですよ」なんて言ったら何が起きるかわからない。だから俺は言いたいことを極力抑えて、せめてこれだけは言わせてもらおう。

 

「ロリコンの、何が悪いっていうんですか!」

 

 俺の正義の一言に、文乃さんは勢いよく立ち上がり、烈火の如き怒りの表情を見せた。

 

「悪いに決まってるでしょ! 女子小学生向けの小説にロリコンの男が出てくるなんて許されるわけないでしょ!?」

 

 頭ごなしに叱られる。言いたいことがあったら言えと言っておきながらこれですよ。なんと理不尽な。

 いや、はっきり言って反論は可能だ。だって女子小学生向けの少女漫画にロリコンは山ほど出てくるもん。むしろロリコンのお兄さんばっかりと言っても過言ではない。こちとら少女漫画だってちゃんと読んでますよ。もちろん、勉強のためであって特殊な性癖があるからではない。

 まあ、他所の話をしたところで意味はないだろう。一旦とりあえず黙っておく。

 

「確かに少し背伸びした女の子向けの恋愛ものや性を扱ったものもありますが、そちらの方向に転換しようということですか? それにしたってロリコンは駄目です」

 

 最初っからそういう方向なんだよ! 腹ペコキャラだと思ってるほうがどうかしている!

 なんならそっちが思ってる性なんてレベルじゃないし。まぁそれを今更言ったところで仕方がないが。今はそういうことを言っている場合ではない。

 

「ちょっといいですかね」

「はい?」

 

 ここは反論させてもらおう。編集がいつも正しいわけではないし、譲れないところは譲れないと言うべきだ。

 

「おしゃれに憧れる、可愛くなりたい女の子は、やっぱり年上の大人っぽいお兄さんに女性として扱われたい。そういう気持ちもあるのでは?」

「……まぁそれは確かに。私も小さいときは……ごにょごにょ」

 

 眼鏡をくいっと押し上げる文乃さん。ほらほらほら、少女漫画を読んでいた甲斐がありましたよ!?

 

「そこでですよ。読者の自己投影である主人公の女の子が好意を寄せる男性が、ガキには興味ないぜみたいな態度だったらどうです?」

「いや、まぁそれは駄目ですね……」

「そうでしょ? 恋に年の差は関係ないっていう方が良いですよね?」

「そうですね……それはその方がいいですね……」

「ですよね」

 

 よしよし、いいぞいいぞ。ここでもうひと押しだ。

 

「しかも。しかもですよ。自分の姉が好きかもしれない相手とか、興味があるのでは?」

「なるほど……それはありますね。背伸びしたい年頃ですからね。年上の男性にも憧れるし、姉と比較されて勝ちたいとかそういう気持ちもあります。そういう方向で攻めるんですか」

 

 そういう方向。ここで言ってるのは官能小説的な方向という意味ではなく、少女漫画的な方向ということだろう。姉妹とご主人さまとの三角関係にするというのは大きな方向転換とも言える。いままでの読者はメイを主人公として応援、または自己投影していたはずで、今後はどちらの味方をするかで意見が別れてくるはずだ。

 

「そういうことです。マイは可愛くなりたい気持ちがいつしかご主人さまのためになっていく。そして食べることだけにしか興味のなかったメイが、自分より年下のマイの影響で段々と恋する気持ちに気づいていくんです」

「なるほど……さすがですね四十八手足先生」

 

 よっしゃー! うまくまるめこめ……違った、真意が伝わったぞ! これでプロット通るだろ。やったぜ。

 

「じゃあ、締切は再来週ですから」

「え!? 再来週!?」

「再来週が無理なら、二巻は半年後ですね」

「なにその二択! つらすぎる! 二ヶ月後とかになりませんか!」

「なりません。二週間後の原稿次第では、二巻が出るのは来年です」

「書きますぅ! 書かせてくださいぃ!」

 

 俺はその日から家に引きこもって執筆に明け暮れた。専門学校が夏休みで良かった……。

 

 

 





ビジュアル的には何も起こらない、極めて真面目なお仕事モノらしいエピソードでした。この小説の本筋ですね。
極めて稀に存在する一部の性癖の持ち主の方々には物足りなかったかもしれません! ごめんなさい、一部の性癖の持ち主の人!


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兄から与えられた性の喜びを隠匿する妹

 

「ボツですね」

「な、なんでですか!?」

「うーん、メイちゃんのときと違って、マイちゃんとご主人さまのやり取りはドキドキしないんですよね」

 

 な、なんだって……。

 ドキドキしてたのか……。

 いや、しないほうがおかしいんだけど、何やってるのかよくわかってない割にはドキドキしてたんですね。ご主人さまが舌を出しているのを見て牛タン食べたくなったりしてるならドキドキしないと思ってたんですけどね。

 

「読んでるとドキドキするところが四十八先生の持ち味なんですから、そこは頑張ってもらわないと」

 

 そうだったんですね!?

 全然意味わかってないのになんで大賞とれたのか不思議だったのですが、なんとなーくドキドキしてたんですね!? 幼稚園児がドラマのラブシーンを見てる感覚なのかな?

 

「ですからマイちゃんの部分、メイちゃんくらいドキドキするように書き直し、よろしくお願いしますね」

「は、はい」

 

 電話が切れる。俺はスマホを充電器に置いて、ため息をついた。

 執筆開始三日目、書いた一章をまるまるボツにされてしまった。

 要するにだ、編集はえっちなことをしてるとは思っていないが、えっちなことをしている文章である必要はあるということだな。厄介!

 しかしだよ、メイちゃんは十六歳で俺の創作上の世界では大人なわけで。まぁ現代日本でも結婚可能な年齢だからいいとしてもですよ、マイちゃんはマズイでしょ。十二歳だよ?

 

「う~~~~~~ん」

 

 手を伸ばして、背中を反らす。どうしたものか。なんとかしないと次巻が出るのは来年になってしまう。そんなこんなだとプログラマーとして就職することになっちゃう。そしてメイドロボの人工知能を開発して、魅惑的に見える仕草のコーディングの第一人者に……違う違う、そうじゃない。俺は小説家になりたいの。専業で食っていける小説家に。

 

「どしたの、お兄ちゃん」

 

 肩をモミモミしながら声をかけてきたのは、妹の詩歌だ。ファン壱号を豪語するだけあって、俺が執筆しているときは献身的だ。そういえばこいつは十二歳だったな。

 

「なぁ、えっちなことについてどのくらい知ってる?」

「え!? は!? え!?」

 

 肩を揉んだ状態で固まった。いや、まあ当然か。こいつに()()()()()()()()()()()()()んだけど。

 

「いや、説明不足ですまん。もちろん小説の話なんだが」

「う、うん」

 

 肩揉みが再開される。たどたどしいので、顔を見ずとも動揺が解けていないことが伝わる。

 

「新キャラは十二歳なんだ」

「うんうん」

 

 網走沙織ちゃんをモデルにした新キャラのことだということは黙っておこう。

 

「で、ご主人さまに憧れてるわけだ」

「わ~、面白そう」

「そこで重要なのが、読者と同じくらいの女の子のマイちゃんだ。彼女はおませさんという設定なんで、ファッションや化粧なんかにも興味がある」

「ふんふん。私みたいな」

「えっ?」

 

 あまりにもびっくりするようなことを言うので、椅子をくるりと回転させる。詩歌はなぜ俺が驚いているのかわからずにきょとんとしている。肩を揉んでいた手が宙に浮いてマヌケだ。

 

「お前が、おませ?」

 

 俺の小説を読んで、腹ペコ主人公だと思ったお前が? いや、大人の編集ですらそう思っていたのだから、こいつが特殊なわけではないにしろ。

 

「ほらほら、髪型とかすっごくオシャレでしょ。くるりんぱだよ」

 

 くるりんぱ? ダチョウのギャグ? 帽子無いじゃん。

 妹が髪型を頻繁に変えているのは知っているが、大人っぽい行為だとは思っていない。むしろ子供っぽいと考えていた。まさかオシャレだったとはな。気まぐれじゃなかったのか。

 

「まぁ髪型は確かに。でも化粧なんてしないだろ?」

「んー、そりゃ普段はしてないけど。少しはしてるよ」

「ええ~!?」

「そこまで驚くことかな」

 

 いや、だってついこの前まで小学生だったのに化粧って。

 

「ファッションなんて興味ないよな?」

「え、待って。今、この姿を見て何か思わないの?」

 

 ん?

 確かに詩歌は部屋なのに、部屋着ではないようだった。なにこれ。

 

「どうやら……制服じゃないようだな」

「なにそれ!? 他に感想ないの!?」

 

 そう言われてもな。

 

「コスプレでもないようだな」

「そりゃそうだよ! お兄ちゃんはコスプレして欲しかったの?」

「いや別に」

「ほら、これ、可愛いでしょ?」

 

 そう言われてしまうと仕方がないので、よく観察する。白い袖のないTシャツ? 田舎のおっさんみてえ。軽トラで運転してそう。下はデニムの……パンタロン? 古くね?

 

「ダサい」

「くううう!?」

 

 俺の容赦のない言葉に衝撃を受けたのか、くるくると回転しながら倒れ込む詩歌。そこまで? 時代劇で御代官様が帯を引っ張って「あ~れ~」って言う町娘みたいですよ。まぁファッションは江戸じゃなくて昭和だと思いますけどね。

 

「こ、これは今流行ってる、原宿のファッションで……」

「んなわけないだろ、ダサいもん。可愛くねえもん」

「ぐはっ!? ぐふっ。ぐふふふふふ」

 

 なんだこいつ。ショックで笑い始めたぞ。

 生まれたての子鹿のような動きで自分の机に移動して、何やら取って戻ってきた。

 スマホだ。なんかいじっている。

 

「えっと、この可愛い~い格好を見て、お兄ちゃんの感想は?」

「だから、クソダサいって。可愛くねえよ」

「~~~~~っ!! はあ、はあ。録れた~~っ」

 

 何がしたいんだコイツは。本当にわからん。俺のセリフの録音していたのか? なんで? 褒めてるならまだしも、ボロクソ言ってるのを録ってどうするの? 言っとくけど、親に告げ口するためだとしたら無駄だよ? そんな証拠なんかなくったって問答無用で詩歌の味方なんだから。

 

「はぁはぁ……そ、それで? おませだから、え、え、えっちなことにも興味があるの?」

 

 うーん。マイが興味があるというよりはご主人さまにそういうことをされちゃうけど、どの程度理解できるのかとかどう思うのかって話なんだが。えっち、という言葉を口にするだけでここまで顔を真っ赤にして動揺している詩歌は何も知らなそうだ。

 

「興味があるんだが……もちろん、めちゃくちゃえっちなことなんか出来ないだろ。白い鳥文庫だし」

「う、うん。そうだね」

 

 詩歌は頷くが、本当はめちゃくちゃえっちなことしてるけどね。

 

「で、丁度いいくらいのえっちさを模索しているんだが、そもそも何をえっちだと思うのかがわからん。年齢もそうだが、男と女じゃ違う気もするし」

「なるほどぉ」

 

 顎の下を人差し指でくりくりしながら、思案顔。

 

「じゃあ、私に実際にやってみてよ。えっちだと思うか、思わないか言うよ」

「それはありがたいが、いいのか?」

「小説のためだし……ほら、兄妹だから、え、えっちなことをしても問題にならないと思うし」

 

 果たしてそうなのだろうか。むしろ問題なのではないか、とも思わないではないが。しかしこれはチャンスだ。もちろん妹にセクハラするチャンスじゃない。マイのキャラクターの参考となる情報を得るチャンスだ。

 

「よし、じゃあ始めようか」

「よ、よろしくお願いしますっ」

 

 お願いするのは俺なんだが。緊張してるのかな……。

 じゃあ、まあ最初はライトにライトに。まずは俺の椅子に詩歌を座らせて、背後から顔を近づける。

 

「ふぅ~」

「はうん!?」

 

 耳に生暖かい息を吹きかけた。正直なところ、俺もえっちなのかどうなのかわからない。えっちなお姉さんにされたらえっちだと思うけど、それはえっちなお姉さんだからだと思う。しかし、意外にも詩歌の反応は強い気がした。

 

「どうした?」

「ん~、一回じゃよくわかんなかった」

「そうか? ふぅ~」

「はふん!?」

 

 ……すでに性的に興奮しているのではないかという懸念が……いやそんなわけないか。

 

「お前、いまのえっちだった?」

「そ~~んなわけないよぉ~~。くすぐったいっていうか。膝カックンとかと同じだよ~」

「あぁ、やっぱね」

 

 そりゃそうだよな。耳に息を吹きかけられたことなんて、えっちじゃないだろ。じゃあ、次だな。今度は触っていこう。俺は椅子に座っている詩歌の足元に座り込む。

 

「いいか?」

「う、うん。痛くしないでね」

「ちょっと痛いかもしれないけど」

「あっ、あっ、痛い、でも、気持ちいい」

「このへんなんかどうだ」

「あ、あっ、はぁん」

 

 声だけならえっちな感じがしないでもないが、これはあくまで足裏マッサージだ。ここから段々とエスカレートしてリンパがどうたらでえっちな展開になることはあるが、この時点ではえっちじゃないだろ。

 

「痛っ……ん、あ、気持ちいい……」

 

 小さな足は、俺の片手よりも小さいくらいだ。両手で揉んでいると蹂躙している感じがする。痛いような気持ちよさそうな顔にするのはなんともやりがいがあるというか、楽しい行為だ。

 

「あん、そこは、だめっ、はぁん、はうっ!?」

 

 えっちじゃない。えっちじゃないぞ。決してえっちな意味の喘ぎ声ではないんだ。

 

「で、どうだった?」

「痛気持ちいいけど、えっちじゃない。絶対、えっちなことじゃない」

「だよな」

 

 まぁ、これがエロだとなっちゃうと足つぼマッサージのお店は風俗になっちゃうもんな。ただ、なーんとなく裸足の足を触るという行為とか、痛いことをするというのがなーんとなくえっちな気もしたんだが、やっぱり気のせいだったな。

 

「じゃ、次は二の腕を揉むな」

「に、二の腕?」

 

 何で二の腕かというと、二の腕とおっぱいは同じ柔らかさだとまことしやかに言われているからだ。それを信じているかどうかで、この行為の意味は変わるような気がするね。実際には腕の筋肉次第だから、当然柔らかさは違うだろう。

 

 向かい合って床のカーペットに直に座る。

 親指、人差し指と中指の三本で妹の二の腕を摘む。

 

 ふにふに

 

「ふむ。柔らかいね」

「んー、なんでここを揉むのかな……」

「さーなあ。男と全然違うからかなあ」

「お兄ちゃんの二の腕も揉んでいい?」

「あ? ああ、もちろん」

 

 俺が妹の左腕の二の腕をふにふにして、妹が俺の左腕の二の腕をぐにぐにする。

 

 ふにふに

 ぐにぐに

 

 ふーむ。なんだろうな、お互いの二の腕を揉むってのは。兄妹だからとか、これは小説のためだからとか前提があるからそうでもないが、もし学校の教室で男女がやってたら爆発しろって思うくらいのいちゃいちゃではある気がします。

 

「ちょっと硬くなってない?」

「ああ、詩歌に触られてたらちょっと硬くなっちゃったな」

「へ、へ~。私に触られて硬くなっちゃったんだ」

「まぁな」

 

 筋肉があるって思われたいのかな。見栄? 中学高校で運動部に所属してなかったくせに、妹に男らしく思われたいとでも思ってるの俺?

 

 ふにふに

 ぐにぐに

 くちゅくちゅ

 

 なんか俺が揉んでいる詩歌の左腕が上下に動き始めたような気もするが……まぁじっとしてるのもツライのだろう。

 

「ん、ん……ち、ちなみにお兄ちゃんは、今の所、私にいろいろなことやって、えっちな気持ちになったの?」

「いや? 全然?」

「ぐふうっ!? じゃ、じゃあ……このままだと全然えっちな感じがしないかもしれないし、いつもの三人の可愛い女の子たちも呼んで話を聞こっか?」

 

 ふにふに

 ぐにぐに

 ぐちゅぐちゅ

 

「あ、ああ。そうだな、その方がいいか。詩歌はえっちなことに疎すぎるかもしれないしな」

「そ、そお、だよねっ。うん、ん、んぅ」

 

 ふにふに

 ぐにぐに

 ぐちゅっぐちゅっ

 

「はぁ、はぁ、ふうん……あ、あと、ちょっとおトイレも行きたいしね」

「そっか、すまん」

「じゃ、じゃあ、ちょっとごめんね」

 

 詩歌は、スマホを持って退室していった。どんだけトイレ我慢してたんだ、足腰がフラフラじゃないか。

 しかし最近よくゲストを召喚するなあ。友達が出来たということなら喜ぶべきことだが。

 詩歌が居なくなった後も、しばらく右手をふにょふにょ動かしていた。うん。なんか気持ちよかったな。

 





大丈夫なの? 詩歌さんは妙に人気あるけど、これで下がっちゃったりしない?
前回は真面目すぎるというご意見でしたが(そんなことないと思うけど)今回はいかがだったでしょうか。


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俺は禁忌の扉を開けたことに気づいてしまった

「ごめんね、みんな急に呼び出してしまって」

「いいえ、私は先生のためならいつでもどこでも駆けつけます!」

「あげはは、真のファンですから」

「ぼくは詩歌さんに呼ばれたんであって、あんたのためじゃないから」

「みんな、ありがとうね!?」

 

 それぞれに返事をするとややこしいことになりそうだったので、ここはサラッと流したいところ。

 本日も最近お世話になりっぱなしの女子小学生三人に我が家へ来ていただいた。呼んだのは詩歌だけど。なんで呼んだのかよくわからないけど。兄妹だからえっちなことをしても問題ないって言ってたのに、なんで呼んじゃったの? それって問題あるってことじゃないの?

 今回はリビングではなく俺と詩歌の部屋に通している。リビングでえっちなことをするのはちょっと背徳感があるし。

 いや、ちょっと誤解のある表現でしたね。まさか女子小学生にえっちなことをするわけないです。これはそう、マーケティングだね。ターゲットのインサイトを知るためのモニタリングだね。俺は真面目過ぎるかもしれないね。小説に真摯に取り組みすぎる紳士だね。

 だからやっぱり問題ないってことなんだよね。

 じゃ始めよう、えっちな実験……じゃなかった、女子小学生が何をえっちだと思って、何は思わないのかという調査を。

 

「ええっと、今からみんなに俺からしたことをどう思うかを教えて欲しいんだ。行動の意味を言っちゃうとネタバレというか、正確な感想にならないから質問はせずに、素直に教えて欲しいんだけどいいかな」

「はい」

「うん」

「ま、いいけど」

 

 一応の了承を得た。よしよし。

 

 どたどたどた!

 

「ちょちょちょ、ちょー!」

「なんだよ」

 

 妹が慌てた様子で部屋に戻ってきた。焦りすぎだろ。

 

「な、なんで私がいない間に始めようとすんの」

「いや、お前を待つ必要ある?」

「はうっ!? ふぅふぅ、さすがお兄ちゃん」

「何がだよ……」

 

 相変わらず何を言ってるのかわからんやつだ。

 

「さ、私の前で思う存分、やっちゃって!」

 

 なぜかビデオカメラを構える詩歌。それはお前の運動会や学芸会を撮影するために親父が買ったものであって、俺がいたいけな少女にえっちなことをするところを撮るもんじゃないだろ……いや、違った。何を言ってるんだ俺は。これは貴重なご意見をいただく機会なのだから記録に残すのは当然じゃないか。さっすが詩歌、我が妹。

 

 じゃあ、詩歌と同じ順番でやってみるか。まずは耳に息を吹きかけるぞ。三人には俺のベッドに腰掛けてもらった。

 

「じゃ真奈子ちゃんからお願いするね」

「はいっ! がんばります!」

「ははは、頑張らなくていいからね。とりあえず三人とも同じことをします。後で感想を聞くから、最初は黙っておいて」

「はいっ」

 

 ふーっ

 

「ふわわわ」

「思ったことを覚えておいてね」

「は、はい」

「次、あげはちゃんね」

「ごくり」

 

 ふーっ

 

 あげはちゃんは、肩をびくびくと震わせた。感度が高いっぽいな。次は沙織ちゃんの番だな。

 

「え、ぼくにもそれをやるの……」

「後でお菓子あげるから、ね?」

「はぁ……仕方がないですね」

 

 ふぅ~

 

 ノーリアクションだった。

 

 それぞれに感想を聞く。最初は真奈子ちゃん。

 

「なんか、嬉しかったです。えへへ」

「嬉しい?」

「はい」

 

 うーん? 真奈子ちゃんはいい子すぎるのかもしれない。参考になるだろうか……

 次はあげはちゃんだな。

 

「これは前戯ですね」

「は!?」

「前戯です」

「いや、聞こえなかったわけじゃないんだけど……」

 

 あげはちゃんは性知識がありすぎるというか、理解が有りすぎると言うか。そんなふうに考える女子小学生がいるのか? 果たして参考になるのだろうか。

 

 最後は沙織ちゃん。

 

「キモい」

「えっ!?」

「キモい」

「二回も言わなくていいから!?」

 

 キモいって……これほど傷つく言葉があるだろうか……

 しかし耳に息を吹きかけたらキモいって厳しくね?

 あと、ひたすら無言でビデオカメラを回してる詩歌も怖くね?

 

 次も同じ要領で、足裏マッサージを行う。それぞれの感想は、

「幸せです」

「疑似SEXです」

「死んで欲しいです」

 だった。マジで参考にならなくね?

 

 ここでヤメたら本当に意味がないのでとりあえず続行。詩歌はやたらに反応していたお互いの二の腕をもみ合うという行為だが……

 

「これはちょっとよくわからないです」

「なんですかこれ」

「イミフ」

 

 うーん、ここに来て同じ意見で揃うとは。この行為はさすがにえっちではないようだ。

 

「えっ、ええっ、そうなのぉ?」

 

 詩歌はその反応に驚いたようだ。お前はどう思ってたの?

 

「そうなんだぁ、うへ、うへへへ」

 

 驚いた後、なぜかニヤついていた。ショックを受けたのかと思って少しでも心配した俺がバカだった。

 

 さて気を取り直してネクストステップだ。二の腕を揉むのは問題なし、ということだからその次っていうと……揉んで、いいよな。

 

 もみもみ

 

 うっわー。柔らかい。

 

 もみもみ

 

 うーん、真奈子ちゃんに比べるとボリュームは少ないけど、あげはちゃんも揉み心地がいいね。

 

 もみもみ

 

 沙織ちゃんは手に馴染むというか、吸い付くような肌だな。

 

 ということで太ももを揉んだわけだが……とりあえず詩歌のカメラワークがウザい。俺の顔と彼女たちの顔と、揉んでいる手のアップとみたいにせわしなく動かしていた。資料映像なのだから俺が文句を言うわけにもいかないが、ウザい。

 

 さて、感想を聞こうと思ったが、何やらみんなで目配せしている。そういうのはバレないようにやってくれないかしら。

 

「ねえ変態」

「なにかな沙織ちゃん」

「早くお菓子持ってきて。今すぐ」

「あ、ああ。そうだな、飲み物も出してなかったな。みんなの分持ってくるよ。詩歌も手伝って……」

「あ、詩歌さんは残ってください」

「え。あ、そう」

 

 沙織ちゃんがそう言うと、他の三人がコクコクと頷きつつ、親指を上に向ける。だから、そういうのは俺にバレないようにやってくれないかしら。そりゃ俺はアウェイでしょうけども。

 

 階段を降りて、お湯を沸かし、お菓子を用意して、お茶を煎れる。

 みんな何を話しているんだろう……俺には言えないことなのかな。例えば、太ももを揉んだことをセクハラとして訴えるとか……いや、そんなわけないよね。太ももだもんね。おっぱいじゃないし。だからまったくもって問題なしだ。

 仮に電車で横に座っている女子高生の太ももを触ったからって問題……あれ? あるな!? ひょっとして太ももを触るのはダメだったのか!? しまった! しかも詩歌がビデオでしっかり証拠を!

 

 って、熱っ!? ポットのお湯が手にかかった!

 

 じゃばばばと水道の水で冷やす。左手の小指はパソコンでAを打つのに必要だからとても大事なものだ。火傷のせいで締め切りに間に合わなかったら……いや、それは杞憂か。俺はもう豚箱行きだ。新刊どころじゃないんだ。

 

 終わったな……俺の人生。

 

 お茶とお菓子を乗せたお盆を持ってとぼとぼと歩く。階段を登る足が重い。

 ため息を漏らしつつ、陰鬱な気持ちでがらりと戸を開けると、思いがけない歓待の声。

 

「先生、お待ちしておりました!」

「あげはは、どんなことでもしますよ」

「お菓子」

「お兄ちゃん、お疲れ様」

 

 お、お前ら……俺を訴えないのか。脅迫しないのか。

 

 俺の人生はまだ終わらないのか……その有り難さを噛み締めつつ、まずは沙織ちゃんにお菓子を提供。

 

 ざくざく

 

「な、なんですかこの甘いおせんべいは」

「歌舞伎揚げだよ。お茶に合うんだ」

「ほおでふか」

 

 正直、沙織ちゃんはお菓子を出しておけばなんとかなると思っていました。目をきらきらと輝かせて、頬を膨らませて一所懸命に咀嚼している。

 こんなに美味しそうに食べてくれると餌付けしそうになるね。

 

「ありがとな、沙織ちゃん」

「なにがでふか」

 

 こちらに目もくれず、歌舞伎揚げに夢中だが、一番好感度の低いであろう彼女の態度は俺をほっとさせてくれた。

 

「先生、先生、早く続きをしましょう。先生の原稿のお役に立ちたいです」

 

 正直、俺の大ファンであるところの真奈子ちゃんは大丈夫だと思っていました。両手で拳を握って、縦にぶんぶんと振りながら本気で俺の役に立とうとしてくれている。

 天と地がひっくり返ったり地球が静止する日が訪れても、この子だけは俺の味方でいてくれるとそう信じている。

 

「ありがとう、真奈子ちゃん」

「えへへ。お役に立てたら嬉しいです」

 

 俺のことを心から思ってくれているファンの笑顔を見ると、本当に救われる思いだ。

 

「あげはは、わかってますから」

 

 きゅっ、と俺の服の袖を掴むあげはちゃん。そうだ、そうだよ。この娘は俺の真の理解者じゃないか。俺がしていることはあくまでも小説を書くためのものだということを言わなくてもわかってくれるんだ。

 

「ありがとね、あげはちゃん」

 

 こくり、と頷いてくれる。頭を撫でると、くすぐったそうに目を閉じた。なんという信頼感。この娘が俺に怒ったり文句を言ったり通報したりする気がしない。

 

 でも、ダメだ。

 やっぱりダメだよ。

 

 だって耳に息を吹きかけることを前戯だと思ってるのに、太ももを触ってしまったのだから。

 このまま続けたらアウトだ。

 

「みんな、ごめん。さっきのことだけど反省してる」

「あ、お兄ちゃん、そのことだけど、あの」

「三人とも、今まで本当にありがとう」

「あの、お兄ちゃん?」

「でも、もういいんだ。これ以上は……」

「お、お兄ちゃん?」

「もし出所してきたときにまだみんなが俺のことを忘れてなかったら……」

「お兄ちゃんてば!」

「なんだ、詩歌か」

「はうあっ!? そ、それでこそお兄ちゃん……」

 

 詩歌は休憩中にも関わらずビデオカメラを回していた。なにがそれでこそなのかはさっぱりわからん。

 

「あ、あのねお兄ちゃん。えっと、お兄ちゃんが下に言ってる間にみんなで話したの」

 

 ああ、なるほど。

 それぞれの認識では、あれっ、二の腕と同じノリで太ももを触られたけど……これって……いや、考えすぎか。ってなるところだったかもしれない。

 そこでみんなの認識のすり合わせを行った。そんなところか。

 

「みんなはお兄ちゃんがすることには疑問を持ったりしないけど、それだとちょっと問題があるかもって」

 

 ……そうか。そうだよな。

 

 耳に息を吹きかける行為と足裏マッサージ、そして二の腕を揉む行為までは詩歌も経験済みだから問題なしと判断できたが、太ももについては妹からみてもNGだった。そういうことだろう。

 

 俺は覚悟を決めた。

 初犯だから実刑だけは、なんとか免れるように弁護士に払う費用は惜しまないことを!

 

「だから、お兄ちゃんは次からは自分の考えではなくて、私の言うことを聞いて」

「……は?」

「だから、事前にみんなに話しちゃうとネタバレで意味がないでしょ。でも、私はお兄ちゃんの目的も知ってる。私は参加しないし、私は女の子だから、ね?」

 

 それはつまり、続けていいと。

 しかも俺の意思じゃなくて妹の指図だから、一切の責任を取らなくていい。そういうことなのか?

 

 うう……

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」

「悪い……ありがとうな、詩歌」

「ふえっ!? 泣いてまで感謝するの?」

「するよ……」

「いいんだよ、お兄ちゃん。小説のためだからね」

「うう、すまねえ。すまねえなあ」

「いいってことよぉ~。こちらこそごちそうさまだよ~」

 

 詩歌以外の三人も、ただ微笑んでいた。なんて、なんてありがたいんだ。俺なんて、本来なら豚箱送りでも仕方ないというのに……

 

 よし!

 じゃあ、気を取り直して。

 思う存分、妹の言いなりになろうか!




たまーに反省する先生であった


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四人の少女にかわるがわる抱かれるだけ

「じゃ、手始めにお兄ちゃんは(ひざまず)いて」

 

 手始めに跪くとか、マジカヨ。そしてそのまま足を舐めろとか言い始めるのではあるまいね。そんなわけないか、詩歌だもんな。

 先程まで女子小学生の性的か性的じゃないかの瀬戸際を見極めるという、あくまで小説を書くためだけとはいえ非常にリスクの高い取材を行っていた。

 しかし、今は妹の命令に従うだけなので安心、安全。

 妹は俺の官能小説を読んでも、それがエロいものだと全く気づかないくらいだからな。

 

「そのまま膝をついた状態でいてねー」

 

 俺の部屋の真ん中で、妹と女子小学生三人が取り巻いている状態で絨毯の上に膝をついているという不可思議な状況。しかし心配ない問題ない、詩歌の言うことに間違いない。信じる、それだけで跪けないわけはない。

 

 俺が膝で立つ状態になると、一番背の低いあげはちゃんでも俺より少し背が高い状態になる。こんな状況で一体何をしようというのか。亀甲縛りではないよね?

 

「じゃあ、まずお手本を見せますね」

 

 お手本?

 どうやら最初に詩歌がやるらしい。なるほど、自分ができないようなことはしないということで説明しているのかもしれない。実妹が兄にするようなことであれば、倫理的や性的にアウトなものは無いということか。なんというセーフティっぷり。これはもう身を委ねればおけまる水産だね。女子小学生相手の作家だからこういう若者言葉がつい出ちゃうね、ほんと仕事熱心な俺エライ。

 

「はい、ぎゅぅ~っと」

 

 詩歌はそのまま抱きついてきた。後頭部を手で抑えて、顔を喉元に押し付けるように。腰にも手を当てて、上半身のほとんどが密接になるように。

 

「よーしよし、ぎゅぅ~」

 

 こ、これは必殺技()()じゃないか!?

 こういう健全な少女漫画に出てくるタイプのことについては俺はあまり詳しくないのだが、頭をよしよしとナデナデして、ぎゅうっと抱きしめるという伝説の技だ。

 通常は親子などが使用する技だったが、美少女が使用することでどんな悲しみのどん底からでも復帰できる精神回復力があるというよ。

 なるほど、これをするための膝立ちだったか。背の低い女の子でも包み込まれるような形になる。

 

 とある筋からの情報では「会社行きたくないでしゅ、みんな嫌いでしゅ」とか旦那さんが言っても「よーしよし、大丈夫だよ~、みんな怖くないよ~、渡る世間に鬼はなしだよ~、ぎゅっ」ってされたら「ぼく、頑張って会社行くよ!」ってなるという。新婚っていいですね! 官能小説界では朝勃ちしているところをいきなりフェラしはじめてそのままエンドレスになって結局会社をサボる方が普通だけどね!?

 

「はい、こんな感じ」

 

 妹が身体を離した。お手本に相応しくしれっとした態度だ。まるで普段からやっていることでこんなことは何でも無いというような。俺は初めてなんだが……誰かにやっているの?

 詩歌の態度はいつも変だから理解不能なことには慣れているのに、普通にさっぱりしてる方がなんか気がかりだな……。

 

「何? もっとして欲しかった?」

 

 ぷぷっとからかうように俺を見る詩歌。

 

「ち、ちがわいっ」

 

 心配していると言ってしまうのは恥ずかしいので、思わず拙い否定が口をついて出てしてしまったが、否定するにしてももうちょっとなんとかならなかったね、俺。

 

「か、かわいい……」

 

 ぽわわ、と頬を緩ませているのは清井真奈子ちゃんだ。誰が誰に何を言ってるの?

 

「じゃあ、次はわたしがしてあげますね、よしよし、ぎゅ~」

「ぷふっ!?」

 

 真奈子ちゃんは、不意をつくようにいきなり俺を抱きしめてきた。ぐいっと引き寄せられて俺の顔は彼女の胸元に。胸元っていうか胸の谷間に。

 これはもはや()()じゃない。()()()()だ。さすがにこれはと思って離れようとするが、両手でがっちりホールドされている。

 なんとなく息を止めていたが、死んでしまうわけにはいかないので仕方なく、本当に仕方なく鼻から息を吸い込む。

 あぁ……ローズのようなミルクのような、華やかでうっとりするほど甘い香り。そしてぐりぐりされるたびに感じる超小学生級のバスト。天国過ぎてあの世に逝きそうだし、この出来事がきっかけで地獄に連れて行かれそう。

 

「十秒~」

 

 突如、将棋の残り時間を示すカウントダウンがスタート。俺は視界を奪われているのだが、どうやらこの鼻にかかったような声からするとあげはちゃんのものっぽい。意外とルールがしっかりされているのですね? しかし十秒って結構ありますよ?

 

「残り五秒~」

 

 と思っていたものの、残り時間が少なくなると惜しいような気もしてしまう俺。しかしどうしようとしたって俺には何も抵抗できない。これほどどうしようもない状況もないだろう。俺に許された行為など、鼻から息を吸い込む以外には、うっとりと目を閉じることくらいだ。

 

「終了~」

「おまけにぎゅぎゅ~っと」

「早くどかんかい!」

 

 アディショナルタイムに突入した往生際の悪い真奈子ちゃんを強引に引っ剥がすあげはちゃんだった。エラくきっぷがいいね。

 

「次は待望のあげはですよ、うふふのうっふーん」

 

 うっふーんと口に出して言ってまで、セクシーなポーズをしているような雰囲気を出している。特に無い胸をアピールしたり、くびれていない腰を曲げてみたりしているが、そこに色気は見受けられない。まぁ小学五年生なんだから当然なんだが。

 

「そ、それでは、ぎゅ、ぎゅうっと」

 

 セクシーなポーズは照れずにするのに、抱きしめることについてはめちゃくちゃアガっていた。というか、これは抱きしめるとは言わない。俺の後頭部を恐る恐る指で触りつつ、身体を近づけただけ。とはいえ、膝立ちした俺と彼女の顔は近い。抱きしめることに躊躇している状態のためあげはちゃんの唇は俺の目と鼻の先だ。

 これはキスしようとして出来ない、みたいな感じがして逆に恥ずかしいのですが……?

 

「ぎゅ、ぎゅ、ぎゅぅ~」

 

 そう言ってはいるが全くぎゅっとされていない。無理するなって今すぐ抱きしめてやりたいが、それは本末転倒だな。

 

「はい、おつかれ~」

 

 沙織ちゃんは、伸ばした左手だけでぽーんとあげはちゃんをどかした。抵抗するかと思いきや、あげはちゃんは本当に疲れたとばかりにふ~ふ~と息を整えていた。おぼこいなあ。

 

「じゃ、次はぼくね」

 

 あげはちゃんとは打って変わって淡々と抱きしめる沙織ちゃん。

 

「よーしよしよし」

 

 女子小学生から頭を撫でくり回されつつ、身体はぴったりとフィット。うーん、行われていること自体は詩歌と同じであるのだが、妹ではないというだけでこうも違うかね。

 

 いや、妹じゃないというだけじゃない。今、この年下の女の子に感じているのは……おそらく()()()

 

「はい、ぎゅー」

 

 さっぱりとした態度と行動にも関わらず安心感と安定感のあるこの包容力。自分のことをぼくと呼ぶ黒髪ショートヘアで、辛辣な物の言い方をするこの少女にまさか俺が()()()を感じることになるとはッ! これがエロ漫画だったら何故か不思議な理由で彼女から母乳が出ること請け合い。

 

「終了」

 

 すっと離れるママン……じゃなかった沙織ちゃん。うぅ……

 

 それにしてもアレだな。俺がこれほどまでに興奮している時点でこれはマズいのでは? 俺はおっかなびっくりしつつ、セーフティな方法を選んでいたが、妹は一気にやりすぎたのではないか? 

 

「みんなどうだった?」

「んー、普通にハグですよね。パパやママとするみたいに。先生と出来て嬉しいです」

「ふ、ふ、ふつー」

「別に。早くお菓子」

 

 杞憂! 圧倒的杞憂!

 

 確かに小学生であれば親とハグをすることは欧米でなくとも普通のことだ。

 あげはちゃんは目が泳いでいるからそう思っていないものの、むしろほとんど触れ合ってないくらいなので何も問題なし。

 沙織ちゃんに至っては向こうはなんとも思っていないし、こっちも異性を感じていない。むしろ母性を感じている。

 つまり、超健全ということだ。

 

「じゃあ、次行きますね」

 

 詩歌は沙織ちゃんに細い棒状のプレッツェルを一本だけ渡してそう言った。おいおい、それだけでいいのか。それだけで()()()を感じることが出来るなんていくなんでも安すぎませんかね。

 

 真奈子ちゃんはのほほんと微笑み。

 あげはちゃんは、なにやら握りこぶしを作りながら気合を入れ。

 沙織ちゃんは嬉しそうに前歯でサクサクサクサクかじり。

 

 そして、詩歌は、俺のところへやって来て、キスをした。





うーん、まったくえっちじゃないから不安ですね~。
もっとサービスしないと読者離れされちゃう! 


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禁忌であればあるほど興奮してしまうのが人の性

 誤解を招く表現であったかもしれない。

 キスはキスでもチークキスである。

 生粋の日本人の諸兄らにおいては馴染みのないものであろう。俺もない。そして妹もないはずだ。なんなんだこいつ。

 チークキスとは欧米、とくにヨーロッパにおける挨拶の一種で頬と頬をあわせる行為のことだ。決して口づけではない。

「ちゅっ」と音を立ててキスっぽくすることはあるらしいが、頬に口を当てているわけではないらしい。

 大体おっさん同士でもやるような挨拶であるからして。

 まぁこの流れはHUGと同じで欧米挨拶シリーズということだろう。握手と同じってこった。

 

「んちゅっ」

 

 うん、耳元で聞こえましたね。

 詩歌が俺の肩に両手を乗せ、頬をくっつけてからそういう音を立てた、それだけのことだ。

 先程右の頬にしたので、今度は左の頬にしたということのようだ。両方に一回ずつの計二回するスタイルのようですね。

 

 詩歌は立って後ろを振り返り、これがチークキスってやつじゃい、わかったかとばかりに力強く頷くと、三人もわかったとばかりに頷いた。

 本当にわかったのかなあ、俺からみんなの顔が見えてるってことはみんな詩歌の後頭部しか見えなかったわけで。まぁ、でもわかるか……。

 

「あげは、いきます」

 

 しゅたっと右手をあげるあげはちゃん。なにやらやる気満々のご様子。

 

「うふふ、せぇんせぇ~、キス、してあげますねぇ~」

 

 うん。言い方はエロいんだよね。ただのチークキスなのにね。ほっぺたくっつけるだけなのにね。まったく口だけは威勢がいい……なんて言い方をしてはいけない。彼女はサービス精神が旺盛なのに慎ましやかな乙女なのだ。最高だね?

 

「んちゅっんちゅっ……ぷはあっ」

 

 うん。エロいね。音だけはね。もちろん口は俺の体のどこにも当たってはいない。そういう意味ではこの行為はあげはちゃんには向いていたのかも知れませんねぇ……。

 とは思いつつ、あげはちゃんの頬はぷにっぷにで凄く気持ちいい感触であり、頬ずりされるだけでも思わずどきどきしてしまう。なんかいい匂いするし。ミルクとローズが混ざりあい、赤ちゃんと大人の間という感じがする。とってもあげはちゃんらしい匂いだね。

 

 もう片方のほっぺたもおかわりして、終了。これは本当に健全でしたね。微笑ましさすらある。

 

「ふふふ、どうでした、あげはの、キス♡」

 

 そして今まで不完全燃焼だったあげはちゃんはやりきったという顔でご満悦だ。よかったね。本当に口づけされたならともかく、意味深に頬をすり合わせただけだ。正直、どうということはない。

 どうということはないが、ここで「べつに」とか言っちゃったらあげはちゃんが悲しむかもしれない。なんと言えば彼女は喜んでくれるだろうか。「うほおおおお! もうおちんぽビンビンだよぉお! 我慢できないよー! 見抜き、見抜きしてもいいですか、あげはちゃーん!」とでも言えばいいかもしれない。

 ただし、その場合は沙織ちゃんにスタンガンで容赦なく気絶させられて気づいたら冷たい檻の中だろう。

 なんてこった、俺とあげはちゃんが幸せでも周りの人間がそれを許さないなんて……。この世知辛さから逃れるためにみんな異世界転生モノを読むんだな……。

 

 ここは当たり障りのない言葉にしておこう。

 

「かわいかった」

 

 本当に、奇をてらわない、素っ気ない一言だと思う。ともすれば作家として恥ずかしとさえ思う。そう思ったが……あれ?

 みんな、どうした?

 

 あげはちゃんは、ぽ~っと熱に浮かされたような、心ここにあらずという表情を浮かべている。エロい言葉じゃないぞ?

 真奈子ちゃんはぎゅっと唇を噛んで、ぷるぷると震えていた。恥ずかしい言葉でもないぞ?

 沙織ちゃんは特によくわからない。悩んでいるような困っているような、首を傾げたり、眉根を寄せたりしている。わからない言葉じゃないでしょ?

 そして詩歌はぱぁ~っと満面の笑み。ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。お前に言ったんじゃないんですけど?

 

 うーん、無難に済まそうと思ったのに妙なことになったな。変なこと言った?

 

「つ、次はぼくか」

 

 頬をぽりぽりと掻きつつ、近寄ってくる沙織ちゃん。なぜだろう、平常心を装っているように見えるが……ま、気のせいか。

 

 沙織ちゃんは少しかがんで俺の頬に頬を当てる。すべすべの肌だ。ほのかなシトラスの香りが漂う。

 

「ちっ」

 

 え? 舌打ち? 舌打ちですか?

 今度は反対側の頬を当てる。

 

「ちぇっ」

 

 ……絶対に舌打ちだな……

 

「どうですか」

「ん~ごめんね」

 

 謝るしかなかった。よくわからないがとにかく機嫌を損ねているに違いない。そもそも彼女はお菓子につられて仕方なくやっているのだろう。他の女の子と違ってファンでもないわけで、舌打ちするのも仕方がないことだ。

 そう思って俺は心をこめて謝罪したわけだが……

 

「ごめんね、ですか、そうですか」

 

 しょぼーんという顔をみせる沙織ちゃんだった。舌打ちっぽくなったのは不器用なだけだったのかな。だとしたらもうしわけないが。それにしても随分と落ち込んでいるのが気になる。謝ったことで凹んでいるのだとしたらもう謝ることはできない。どうにもならない……申し訳ない……。

 

「残念でしたね」

「チィッ!」

 

 やんわりとだが片手で押しのけた真奈子ちゃんに完璧な舌打ちで返す沙織ちゃん。うん、これが舌打ちなんだね。さっきのはやっぱり舌打ちじゃなくてキスのマネごとだったんだね。ごめんね。

 

「よしっ」

 

 前髪を直し、目をパチパチとさせてきゃるんっと小首をかしげる真奈子ちゃん。妙な気合の入れ方だなあ。アイドルが写真を撮られるときみたいな。チークキスの前にする行為ではない行為だが……正直かわいい。

 

 顔を近づけて、頬を寄せてくる真奈子ちゃん。うん、さすがにもう慣れてきたな。

 

「ちゅっ、ちゅっ」

 

 うん、これももう慣れて……違っ、違う!

 真奈子ちゃん、違うよ、空中で音を立てるだけだって!

 

 耳にキスをするんじゃないって!!

 

「はぁ、はぁ、んちゅっ、ちゅぱっ」

 

 あぁ、あぁ……

 

 なんか体中の力が抜けていく……何も抵抗できない、違うとか指摘できない。甘い吐息が耳にかかり、舌が耳たぶを蹂躙し、キスの音が鼓膜に何度も襲いかかる。性的な知識がない女の子がしているとはとても思えない、とてつもなくエロティックな行為。

 俺は目の焦点が合わなくなり、口もだらしなく開いてしまう。これじゃまるで俺の方がメイちゃんみたいじゃないか……。

 

 ようやく左耳が自由になり、俺はこれはチークキスじゃないと伝えようとしたが、右耳に同じ行為が始まるまでの時間に言葉にすることが出来なかった。それは舌に力が入らなかったからなのか、それともこれから始まる快楽を自らの手で止めることなどもったいなくて出来なかったからなのか……。まるでご主人さまのお仕置きの手を止めることが出来ないような……こ、これがメイの気持ち……?

 

「ちゅっちゅっ、ぺろぺろ、んっふうぅっ」

「あぁ、あぁ……」

 

 為す術もない俺。しかし、俺を正気に取り戻してくれたのは詩歌だった。

 

「お兄ちゃん、すっご……!」

 

 なぜか興奮した様子の妹がバッチリとビデオカメラを構えているっ!

 冷水をぶっかけられたように頭が冷え切っていく。途方も無いやっちまった感が襲う。そう、彼女たちは妹が用意した安心安全な挨拶のような行為をしているだけにすぎないが、その結果俺が性的に興奮してしまったら俺だけが完全有罪。そしてそれは動画という完璧な証拠として残されている!

 な、なんということだ……この動画をネットに流されたくなかったら……などと脅されて俺は妹の肉奴隷に……と思ったが詩歌はそういう知識がないから大丈夫だ、なーんだ安心! それこそバラされたくなかったら焼き肉を奢れくらいかもしれん。お兄ちゃん奢っちゃるわ!

 

「ふぅ、どうでしたか?」

 

 やりきった感たっぷりでむふんと年不相応の胸を反らす真奈子ちゃん。ここで興奮しちゃったなんて言ったら大変だ。冷静沈着を装う必要がある。

 ごほんと咳払いのようにみせかけて呼吸を整えた。

 

「うーん、まぁ、普通かな」

 

 そっけなく言ってから腕組みをして目を閉じる俺。そして薄目を開けて実は胸がバクバクしていることがバレてないかみんなの表情を伺う。

 なぜかガッツポーズを見せるあげはちゃん。そして、なぜか絶望的な表情で膝から崩れ落ちる真奈子ちゃん。そしてそして、なぜか俺の股間を撮影しようとしてくる詩歌。

 なぜかだらけで何もわかってない俺は不甲斐ないとは思うが、愚妹だけはこいつがおかしいとわかる。やめろ、絶対にやめるんだ。そこは俺の意思とは関係なく行動する俺の息子だ。大きくなるなと言っても大きくなるし、小さくなれと言っても小さくならない。常に反抗期でやんちゃな息子である。彼の状態がどうであれ撮影は禁止だ。

 

「ちょ、ちょっと休憩しようか。ね、みんな」

 

 抗議するにもどう言おうかと考えていたら、妹の方から丁度いい提案がなされた。良かった、女子小学生三人の前で実の妹に俺の立派なちんこを録画するなとは言いたくなかった。

 

「お兄ちゃん、ガリガリちゃんでも用意してあげて」

「ん? お前は?」

「ちょっとね。撮影したものを使っ……じゃなくてチェックしないと」

「そうか、悪いな」

「ぜんぜん悪くないよ~、うへへ」

 

 ビデオカメラを持ってどこかへ去っていく詩歌。別にここでチェックしてもいいような気がするが……?

 

「ガリガリちゃん!? なんか変な味とかあるやつだ!」

 

 妹は気になるが、沙織ちゃんがテンションを上げているので早く取ってこなければならないだろう。真奈子ちゃんは真奈子ちゃんでまだorz(こんな)状態だし、駄菓子チックなアイスキャンデーで慰めなければ。

 




ハロウィンなんかよりチークキスとかいう風習こそ日本に導入されるべきですね?


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男なのに為す術もなく穴とその周りを蹂躙される

 ガリガリちゃんを持った三人は三者三様に溶けさせていた。

 テンションの上がっていた沙織ちゃんは「冷たすぎ」と言いながら、少しずつ少しずつかじっており、溶けるスピードに追いついていない。じわじわと右手が水色になっていく。アイスキャンデーを食べることにすら慣れていないのだな……。

 あげはちゃんはガリガリちゃんを手渡す前からずっと……というかチークキスをした後からずっと虚空を見つめたままだ。どうしたんだろうか。さすがに心配な気もするがときおり咀嚼しているし、ときおり「にょほふふ」みたいな日本語になっていない言葉を漏らすのでとりあえず放置している。白昼夢でも見ているのかな……。

 真奈子ちゃんは「普通、普通かぁ」と言いながらときおりため息をついていた。うん、どうやらこれは俺が悪いみたいですね!? 急いでフォローしなくっちゃ!

 

「あ、あのね真奈子ちゃん、普通っていうのはもちろんいい意味で普通ってことだよ。きんどんの良い子悪い子普通の子の普通の子というか」

 

 うん、女子小学生には絶対に通じないよね、この例え。むしろなんで俺は知っているの?

 真奈子ちゃんは無言で垂れているガリガリちゃんの液体を舐めていたが、こちらをちらと見ると、

 

 「悪い子でもいいから、かわいいって言って欲しかったです……」

 

 とおっしゃった。

 うむ。超絶に可愛いですね。

 いや、そんな場合じゃないな。俺の下手なごまかしによって凹んじゃってるんですよ、早く元気づけなきゃ!

 

「可愛いよ! 超絶に可愛いよ!? さっきはむしろ、そう、あまりの可愛さに動転していたというか? 可愛すぎて逆に可愛いと言えずに普通と言ってしまったというか?」

 

 本当は可愛さじゃなくてエロさですけどね? 耳を舐められることの気持ちよさを教えてもらっちゃいましたよ?

 

「ほんとに?」

「ほんとほんと」

 

 溶けていくガリガリちゃんで口の周りと手をべたべたにさせつつ、口を尖らせる真奈子ちゃんは子供らしくもありつつ、セクシーさもあった。いや、それはマズいだろ。非常に今更ではあるが真奈子ちゃんは小学生らしからぬナイスバディのため非常に魅力的なわけだが決してそういう目で見てはいけない。純真無垢な女の子なのだ。

 

 とりあえず機嫌を治してくれたっぽい真奈子ちゃんから目を逸らすとあげはちゃんが睨んでいた。あれ? 俺また何かやっちゃいました?

 

「可愛すぎると可愛いと言えないんですね」

 

 し、しまったー!

 そうなっちゃうよね? 今の話の流れだと「かわいかった」と俺があげはちゃんに言ったことが逆に普通だったことになっちゃう!

 しまった~、適当な嘘をつくからこんなことに。

 待てよ? あげはちゃんは真奈子ちゃんと違って小学生らしい姿をしているが、おませさんなので女性らしく扱われることを好むぞ。

 

「ごめん、実はあげはちゃんは本当はセクシーだと思ってたんだ」

「せ、せ、せくしー!?」

「そうなんだ、あげはちゃんがあまりにも女の魅力に溢れててそれを言うのが恥ずかしくてかわいいって」

「女の魅力……そ、そうですか」

 

 両手を頬に当ててはにかむあげはちゃん。片手にはガリガリちゃんを持ったままだし、ぼたぼた溶けてるけど、どうやらすっかりご機嫌になったようだ。よかったよかっためでたしめでたし。

 

「へ~、つまりえっちな目で見てたわけですね、小学五年生を」

 

 ぎゃー!?

 

「待って! 沙織ちゃん、スタンガンはヤメて!」

 

 目の前にやってきたのは左手にガリガリちゃん、右手にスタンガンを持ってバチバチいわせている網走沙織ちゃんだった。こんな絵面見たことないですよ!? ガリガリちゃんとスタンガンを同時に持つというのは成立するの!?

 

 一難去ってまた一難。ピンチを乗り越えたら、さらなるピンチがやってきた。なぜ俺はこんなに窮地に立たされがちなのか。

 うーん、しかしあれだな、これはひょっとしてアレじゃね?

 

「ごめんね沙織ちゃん」

「また謝罪ですか。謝って済むなら警察はいらないです」

「いや、そういうことじゃなくてね。ほら、俺が真奈子ちゃんとあげはちゃんに可愛いとかセクシーとか言ってたから。嫉妬して拗ねちゃったんでしょ?」

 

 そういうことだったとはね。まったく沙織ちゃんも可愛いところがあるじゃない。

 

 ばちっ

 

「あっち! あっつ! 痛った!?」

「誰が嫉妬ですか」

 

 ま、まさか照れ隠しで尻にスタンガンをぶち込まれるとは……とりあえずここは褒めてなんとかするしかない。

 

「沙織ちゃんも良かったよ、舌打ち」

「し、舌打ち!?」

 

 しまった、舌打ちだと思ってるのは俺だけで彼女はチークキスを上手にやっているつもりだったのか。フォローしなければ……

 

「いや、むしろ舌打ちが良かった」

「ええ……」

 

 フォローしたつもりがドン引きしている。なんてこったい。

 

「あっ、それってご主人さまの?」

 

 突如会話に入り込んできたゆるふわウェーブ髪の真奈子ちゃん。ナイス! それだ!

 

「そう。そうなんだよ。メイとマイのご主人さまみたいで素晴らしいんだよ」

「ふーん。じゃあもっとしたげるよ」

 

 目をきらきらさせて期待している真奈子ちゃんの前で、淡々とした表情で細い身体の沙織ちゃんから床に組み伏せられる俺。そして服を捲られ、腹が出される。スタンガンはとりあえず放ってくれましたが、とんでもないことになってきた気がしますね?

 

「食べすぎてお腹が出てないかチェックするシーンですね!」

「あ、あのシーンか」

 

 真奈子ちゃんが俺の小説の解説をしてくれているぞ。言われて初めてわかったよ。あれはそういう言い訳でしたね。本当はただのセクハラです。

 

「ああ、おへその周りをたっぷりねっとりと」

「あげはちゃん、それ以上は言わなくていいからね」

 

 この場において真実は俺とあげはちゃんだけが知っていればいいんだよ。しかしメイドさんのお腹をご主人さまがいじくるのはえっちですが、女子小学生が男の腹を触ったところで誰得なんだって話だよ。

 

「さて、さて。変態はお腹大丈夫かな」

 

 仰向けに寝転されて太もものあたりに沙織ちゃんが……要するに騎乗位みたいな感じになった。彼女は左手を俺の胸に置いて、前のめりになる。おいおい、なんかどきどきしてきたぞ。

 

「ひうっ!?」

 

 いきなり肉棒を突っ込まれた処女のような声をあげたのはなんと俺だ。沙織ちゃんはいまだにガリガリちゃんを右手に持っており、俺の腹にぽたぽた落ちている。そう、女王様がローソクのロウを垂らすようにだ。

 

「ふーん。お父さんと違って太ってないな」

 

 さわさわと左手が俺の腹を撫でていく。そして右手からはぽたぽたと冷たい雫が垂れてくる。なんだこのプレイ!?

 

「ちょ、はう!? あの、ひう!?」

 

 俺が出来るのはただ耐えるだけ。つめたいくすぐったいつめたいくすぐったい、やめてやめてやっぱりやめないで、なんか気持ちいい……

 

「あはは」

 

 真奈子ちゃんは俺の横に突っ立って、見下ろしながら無邪気に笑っている。どうやらガリガリちゃんは食べ終わった模様。

 

「うふふ、先生、勃っちゃだめですよ?」

 

 あげはちゃんはすべてを見透かしたかのように俺を見下ろしている。いや、勃ってないよ?

 

「へそ」

 

 そう呟いた黒髪ショートヘアの女の子の細くて小さな指が、俺のへそをなぞる。沙織ちゃんは笑うでもなく、ただ淡々としていた。

 

「くっ」

 

 くすぐったいのは身体なのか心なのか。なんともいえない気持ちになる俺。メイはさぞ恥ずかしかっただろう。自分の生み出したキャラクターと同じ境遇になる作家は世の中にどれほどいるでしょうね? ましてや官能小説の女の子側になる男の作家なんていますかね!? いや、いっそ児童向け小説でもいいよ。児童向け小説の女の子の主人公と同じ体験をする一八歳男性なんていますかね!?

 

「あひゃああ!?」

 

 これも俺だ。彼女が持っていたガリガリちゃんがいよいよ溶けて棒から滑り落ち、俺の腹にずるりと落ちたのだ。冷てえよ!?

 

「あ、もったいない」

 

 なになに!?

 沙織ちゃんは俺の腹に落ちたガリガリちゃんを直接食べ始めた。

 

「しゃくしゃく、ぺろぺろ」

「ちょっ、ちょっ、くすぐったぃ」

 

 お腹を歯や舌がなぞっていく。なんというこそばゆさだ。これがメイの味わった感触なのか……

 

「ふ~、やれやれ~って、ええ!? どういうこと!?」

 

 妙につやつやした顔でやってきた妹は俺たちの現状を見て驚いたようだった。無理もない。女子小学生にお腹を舐められ、それを微笑みながら見ている女子小学生が二人いるという状況。俺もどういうことなのかわからん。

 

「う~ん、もう。まったくお兄ちゃんはいっつも私のいないときにぃ」

 

 文句を言いながらビデオカメラを回し始める詩歌。やめてくれ。

 

「ぴちゃぴちゃ」

 

 うひー。沙織ちゃんが俺の腹を舐めている。それを妹が撮影している。そんな様子を真奈子ちゃんとあげはちゃんが見下ろしている。なんだこれ!?

 

「なんだこれー!?」

 

 妹も同じ気持ちだったようです。兄が女子小学生におへそを撫でられながらお腹を舐められているというシチュエーションはやっぱりなんだこれって感じですよね? だが、嬉々として撮影する気持ちはよくわかりませんね? ちなみに少しもえっちではないよ?

 

「ひうん!?」

 

 またしてもお腹に冷たいものが落ちてきた! ってか、こういう声を上げるのが毎回俺なのおかしくない!?

 

「おっと、あげはも食べるのが遅かったー」

 

 棒読み! あげはちゃんわざとやりましたね!? くっ、あげはちゃんは恥ずかしがり屋さんだが、俺の腹にいたずらするくらいなら平気ということだろう。そりゃそうだ、少しもえっちじゃないもん。

 

「もったいないから、舐めなくちゃー。ごくり……」

 

 んほおおお! くすぐったい! 沙織ちゃんと違ってあげはちゃんは意識しまくっているため、手もソフトタッチで舌使いもおっかなびっくりだから、かえってそれがくすぐったい。今、俺のお腹は女子小学生の舌が二つと手が三つ動き回っている状況なのだ。

 

「どんな状況なのこれ」

 

 そう言いながら詩歌はビデオカメラで俺の腹を撮影する。マジでどんな状況なんだよ。

 

「いいな、いいなー」

 

 なぜか羨ましいという顔で俺の腹を覗き込む真奈子ちゃん。ちょ、ちょっと、仰向けで寝っ転がってる男にスカートで近づいちゃ駄目だって習わなかったの!? もちろん紳士の俺は目を閉じましたけど、もう水玉が頭から離れませんよ。考えないようにしようとすればするほど意識しちゃう。そうするとお腹の下が膨らんじゃう。ヤバい!

 

「あっ、ふふふ、あげはの舌で感じちゃったみたいですね?」

 

 あげはちゃんにバレた! 違うよ、そのせいじゃないよ水玉のせいだよなんてとても言えない。もう、そういうことにしておこう!

 

「ふう、なんとか食べ終わった」

「ああ!?」

 

 なんということでしょう、腹のアイスキャンデーを食べ終えた沙織ちゃんは、休憩のつもりなのか片手を俺の股間に置いてしまった。

 

「はわわわ」

 

 あげはちゃんが両手で顔を覆い、指の隙間から見ていた。いや、ちゃんとズボンは履いてますよ? テントみたいになってたところに女子小学生の手が触れているだけです。わあ、それって大変なことじゃない?

 

「ん? こんなのさっきあったっけ」

 

 沙織ちゃんは不思議なものを見つけたというようにためつすがめつしている。やめて、そこをそんなに見つめないで。そしてその様子を妹が撮影している。絶対駄目だって!

 

「ご、ごめん、トイレ行きたい」

「あ、はい」

 

 さすがにトイレという話であれば沙織ちゃんもすぐにどいてくれた。あぶなかった……



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恍惚とした顔の動画を晒される

 とある事情によりおしっこは座ってしにくかったので、立ったまま行った。なんとか零すことなく用を足すことが出来た。トイレを出てすぐに向かいにあるパウダールームへ。手を洗ってから、手を拭いたタオルで、お腹も拭く。唾液と溶けたアイスキャンデーで、べったべただ。

 洗面所の鏡を見て、ため息をついた。なんて俺はイケメンなんだ……と思ったわけではないぞ、残念ながら。冷静になればなるほど現状を理解できないためだ。

 そもそもの問題としては、官能小説のヒロインとして書いたメイという十六歳のキャラクター並みにマイという十二歳の女の子もドキドキさせなきゃいけないというミッションを編集から提示されており、ならば同じ年代の妹や女子小学生ならわかるだろうと協力してもらったわけだ。

 妹は耳に息を吹きかけたり足裏マッサージしたり二の腕を揉んだりしても、当たり前だがえっちだなとどは思わなかった。俺も同様だ。

 その後、三人の少女たちとは、ハグとチークキスを行った。まぁ挨拶だからこれは全く問題ないわけだが……本当に少しも全然完全に完璧に問題など無いわけだが……

 じゃばばばば!

 ふー。なぜか無性に顔が洗いたくなりましたね……きれい好きだからね……

 まぁ、改めて。あくまで挨拶は挨拶だからいいとして。お腹を舐められるというのはヤバい。それはヤバい気がする。しかも二人からされたところが更にヤバい。これは語彙力の低下ではなく、他の言葉で表現すると何か問題がありそうだからです。

 なんでこうなった……

 そもそも、俺が書きたかったのはメイドさんが頑張ってご奉仕しようとしたけどドジだから失敗しちゃってお仕置きされちゃうけどそれがむしろ快感……というこうして書くと身も蓋もない話だ。官能小説として書いたからそれは問題なかったが、もうそういうことを言っている場合でもないのではないか。当然すぎて何を言っているんだという感じだがローティーンの女の子向けの小説にエロエロな要素は不要だ。読者は絶対にヌかないのだ。まったく何のために書いたんだか。プンプン!

 ただし、読者はドキドキさせなければならない。そこが自他ともに認める俺の小説の一番重要な部分なわけだ。

 もちろん俺は最初から読者をドキドキさせようとして執筆している。だが、想定している読者は大人の男性であり、女子小学生をドキドキさせようとして書いたものでは決して無いわけだ。一巻はたまたま上手くいっただけで、二巻からはもう通用しないということだろう。読者にとって望ましい男女関係というのは、エロ漫画と少女漫画の性描写が異なるように、当然同じではないわけだ。

 それにしてもドキドキ……か。

 わからなくなってきた。

 メイがお仕置きされてドキドキしたのは何故だったのだろう。今、俺はなぜドキドキしているのだろう。

 こんなんじゃ、二巻を出せるのはいつになることやら……

 いい加減、鏡の中にいる男の不景気なツラを見るのが嫌になってきたので、とりあえず洗面所を後にする。

 

 部屋に戻ると妹を含む四人の少女たちは、録画した動画を再生しながらきゃーきゃー言っていた。

 

「どうしたの?」

「わあ、お兄ちゃんいつの間に戻ってきたの!?」 

 

 急いで隠す詩歌。なんでだよ。えっちな動画でもあるまいし。

 みんなの顔を見るとなにやら興奮した様子で頬を紅潮させていた。沙織ちゃんは笑いをこらえているかのように口に手をあてながら、

 

「変態が、変態な顔してた」

 

 そりゃそうだろう、って言うのも変だな。セリフからすると汚物を見るような目でもおかしくないが、むしろ嬉しそうに見える。そんな顔してこんなことを言う方が変態なんじゃないかと思わなくもないが、口に出すのはデリカシーに欠けるな。彼女は素直じゃないところがチャーミングなんだから。

 

「な、なんか先生が、すっごく可愛かったです」

 

 真奈子ちゃんが摩訶不思議なことを言う。俺が? 可愛い? 誰が誰に何を言っているんだ。

 

 あげはちゃんを見ると、俺が言いたいことがわかったのか、ちょいちょいと手招きした。さすが、あげはちゃん。心にちんこが生えてるだけのことはある。なんとなくこそこそと泥棒のように身を縮こませて抜き足差し足して近づき、中腰になると彼女が俺の耳に手を当ててこそこそ話。まぁ、みんな見てますけどね。堂々たる内緒話だ。

 

「さっきの動画をみんなで見てたんですね」

「うん」

「あげは達が乳首舐めみたいにおへその周りをぺろぺろしてあげてるときに勃起してたじゃないですか?」

「…………う、うん」

 

 いくらあげはちゃんでも、女子小学生から改めてこんなことを冷静に言われると死にそうになるな。俺にだって恥ずかしいという感情はあるんだよ? あげはちゃんだけならまだしも他の二人や実の妹にまで……はっ!?

 

「ま、まさか」

「いえ、それはバレてません」

 

 ふー。よかった、勃起は妹や他の女子小学生にバレていないんだ……ってなんか最低の理由で安心してないか?

 あげはちゃんはぺろりと舌を湿らせると続きを話す。

 

「詩歌さんのカメラが捉えていたのは股間ではなく、四十八先生の顔だったんです」

「ん? うん?」

「わかりませんか? 要するにアヘ顔を見られたってことです」

「あ、アヘ顔!? 俺が!?」

「そうですよ、あげはの舌技で勃起してアヘ顔だったんですよ、うふふ」

 

 なんと……正直なところ勃起は真奈子ちゃんの水玉模様に包まれた超小学生級のお尻によるものだと思うんだが、アヘ顔とは。確かにただくすぐったいのとは違う気持ちだった気がする。つまり俺は女子小学生に腹回りを舐められて感じていたというのか……

 

「それでその表情を見てみんな騒いでるわけです」

 

 なるほど。俺のアヘ顔を沙織ちゃんは変態な顔だと思ったと。そりゃそうだな。そして真奈子ちゃんは可愛いと思ったわけか。可愛い女の子はなんでも可愛いと思っちゃうから困りますね。

 

「ほら、ほら~。カワイイ~」

「ほんと、変態」

「お兄ちゃん……こんなになっちゃって……ハァハァ」

 

 三人は動画を何度も見ている模様。恥ずかしいんですけど。あと妹は俺より遥かにアヘ顔な気がするんですが。気のせいか。

 

「ま、変態が変態な顔してるのは、ぼくのせいだからしょうがないか」

「いいな~、いいな~、わたしも先生にこんな表情させたいなぁ~」

 

 なぜか得意げに鼻をふくらませる沙織ちゃんと文字通り指を咥えて羨ましがる真奈子ちゃん。

 

「お兄ちゃんってば……うぇへへ」

 

 詩歌はだらしなく口を開けて、よだれを垂らさんばかりだ。妹にこんな表情をさせているのはどうやら俺らしいが、少しも得意げに振る舞える気がしないね。

 

「ふふふ、本当はあげはのテクニックなのに。まぁ、お子様達には夢を見させておいてあげましょう」

 

 あげはちゃんは長い黒髪をかき上げながら、俺にだけ聞こえるようにそう言った。違うけどね。まあ、あげはちゃんには夢を見させておいてあげよう。

 しかしなんでまた俺をアヘ顔させたことがこんなに自慢みたいになってるんだ?

 

「先生、わたしもぺろぺろしたいです」

 

 しゅたっと手をあげる真奈子ちゃん。俺は思わずへそを隠した。純真無垢すぎる君が本当に心配だ。

 

「えぇ~、わたしだけ駄目なんてズルいです」

 

 ちえ~っと唇を尖らせる。そんな顔されちゃうと困りますね。

 

「お腹が駄目なら、他のところでもいいですけど。どこが一番ドキドキしそうですか?」

 

 小首をかしげて上目遣いに聞いてくる。彼女とはすでに舌を舐められているわけで、それ以上の場所なんて……

 

「あ、今思いついたんですね、顔に出てますよ」

「いや、それは駄目! ダメ、ゼッタイ」

 

 俺はぶんぶんと顔を振った。何を考えているんだ俺は。いくら普段からそういうことばかり考えて執筆活動をしているからって。

 

「ダメですよ、それはあげは以外にしたら犯罪です」

 

 あげはちゃんだったら合法なのか……そんなわけがない。彼女は細長い手足に凹凸のない完全に子供なボディ。確実に犯罪だ。そしてあげはちゃんは口だけ番長だが、それは言葉だけは達者な人という辞書通りの意味であって、オーラルセックスが上手という意味ではもちろん無いのである。こんな当たり前すぎる解説必要なのかと自分でも思うが。

 いや、じゃあ真奈子ちゃんはスタイル抜群だからいいのかっていうとそういうことではないけどね?

 

 それにしても。俺は疑問に感じていた。

 なぜ彼女たちとえっちなことをしたら犯罪になってしまうのか……という疑問ではない。なぜ彼女たちがそれほど俺をドキドキさせたりしたいのかということだ。

 

「真奈子ちゃん、なんで?」

 

 俺は疑問をそのままぶつけた。恥ずかしがる顔が見たかったわけじゃない。その理由が小説の続きを書くためにとても重要な気がしたからだ。

 





いやー真面目な内容ですね~(どこがやねん)


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最高潮に達して絡め合う手と手

「だって、ドキドキさせるってドキドキじゃないですか」

 

 小学六年生の女の子は、豊かな胸に手を当てて、ドキドキした気持ちを溢れさせながらそう言った。

 ドキドキさせることがドキドキする……か。

 俺にとってドキドキするというのは単純に性的に興奮するということだった。ぱんつが見えるとか、胸が腕に当たるとか、素足で踏んでもらうとか、靴下の匂いを嗅ぐとか……おっと、今は足フェチすぎて共感を得られないのはマズい。要するに、えっちだからドキドキするってことだ。これはみんなにわかっていただけると思う。

 俺が書いた官能小説は、自分で書いていても読んだらドキドキする。それはえっちだからに他ならない。だから富美ケ丘さんが官能小説だと思っていない、少しもえっちだと思っていないのにも関わらずドキドキしていたことに驚いた。それがないからボツだと言ったことにずっと違和感があったのだ。

 いや、そもそも官能小説を女子小学生が読んで面白いと思うことが違和感以外無いわけだが。あげはちゃんのような特殊な読者を除けば、普通の読者は、例えば真奈子ちゃんのような子たちはえっちという概念が芽生えていない。でも面白いと思ってもらえたのは何故なのか。

 その答えがこれなのだろうか。

 俺はお腹を舐められたことそのものはやはりえっちではなかったと思う。ただ、好意を前提としたコミュニケーションだとは感じた。身体を触ったり、舐めたりするなんて少なくとも嫌いだったら行わない行為だ。かといって頭を撫でるというような親子で行うようなものでも、キスのような恋人で行うものというわけでもなかった。

 それがドキドキすることにつながった?

 性の知識がない少女たちは、メイとご主人さまのしていたことも同じように捉えていたのかも知れない。何をやっているのかよくわからないが、何かイチャイチャしているような、この二人お互いを実は好きなのではないかと想像させるような、そんなくすぐったくてヤキモキさせる二人のやり取りを楽しんでくれたのかも知れない。

 だとしたら、だとしたならば。

 本当に俺が読んで欲しかったのは。伝えたかったのは、これなんじゃないのか。

 

「ドキドキさせたらドキドキ、か」

「はい」

「ドキドキしてる二人を見るのも」

「ドキドキします」

 

 真奈子ちゃんは少しだけ興奮した様子で微笑んだ。

 そうだよな。

 そう、だよなぁ。

 俺は天井を見やる。

 

 ――そもそも俺はなぜ官能小説が好きなのか。

 もちろん、エロいからだが、それならもっと他にあるはずだ。はっきり言って動画や漫画の方がメジャーだと思う。文章だから妹にバレにくいからという理由もあるがそれだけじゃない。

 やっぱり小説だからだ。忘れがちだが、官能小説は小説なんだ。だから物語があるわけだし、だから感動するんだ。登場人物にバックグラウンドがあって、キャラクター同士が出会う。そのときの男女の思いが、言葉で、態度で、行為で示される。その描写は恋愛小説よりも濃厚で濃密で魅惑的で蠱惑的でグッとくるからガッと心を掴まれる。

 官能小説で描かれているのは、やっぱり男女間の気持ちなんだ。

 

 例えば、急な夕立で制服を濡らした同級生への告白だったり。

 例えば、生徒が秘めていた思いを教師に知られてしまったり。

 例えば、金銭で行われた性行為から本当に恋愛が始まったり。

 例えば、兄妹がちょっとしたきっかけでその思いを打ち明けあったり。

 そして、ご主人さまとそのメイドがお仕置きと称して行う行為が、本当は愛しているからこそだったり。

 

 俺は小説が好きだ。

 男の子はいつだって冒険に憧れる。俺も子供の頃からいろいろな本を読んだ。さまざまな冒険の物語を読んだ。

 それは未知の大陸だったり、別の星だったり、過去だったり、別の世界だったりするけど、俺にとって一番の冒険は女の子だった。女の子は魔法よりも不思議で、ドワーフやエルフよりもよくわからなくて、そして宝島よりもたどり着きたい目的地だった。その女の子というものを一番魅力的に表現しているものが官能小説だったんだ。だから俺は好きになった。

 何よりも興奮する冒険だったから。何よりも面白いと思える物語だったから。

 

 俺は改めて真奈子ちゃんの顔を見る。

 そこには、期待と不安をないまぜにしたような、どきどきしてわくわくしてそわそわしている表情があった。そうだ、これだよ。俺は読者をそういう気持ちにさせたかったんだ。

 

「真奈子ちゃん、ありがとう!」

 

俺は感極まって、彼女の手を握った。

 

「ひゃわわわわ」

 

 小説を書きたい気持ちに改めて気づかせてくれた真奈子ちゃんに感謝を伝えたいと思ったのだが、なにやら慌てふためいているご様子。どうしたのだろうか。

 

「どうしたの、真奈子ちゃん」

「手、手を握られたので、ちょっとその、ドキドキしてます」

 

 そんなバカな。無邪気に舌を舐めちゃうような子が手を握られたくらいで。大体、ハグとかいろいろ散々スキンシップしてたじゃないの。

 そう思うが、まさにドキドキさせることがドキドキということなのだろう、顔を赤らめて恥らう真奈子ちゃんを見ていたら俺もなんだかドキドキしてきました!

 

「わかったんだよ、そのドキドキに俺は助けられたんだ。これで小説の続きが書ける。真奈子ちゃんのおかげだよ」

「そ、そんな……」

 

 じっと目を見つめると、視線から逃げるようにギュッと目をつむった。

 

「フフフ、手を握っただけで……お子様ね」

 

 そう言いながら近づいてきたのはもちろんあげはちゃんだ。膝立ちしている俺たちの横にやってくる。口ぶりには余裕があるが、態度からは焦りが伺える。また、なにか無理しようとしているのかな。

 

「あげははそんな手を握るだけでドキドキなんて」

 

 そう言って真奈子ちゃんとつないでいる俺の右手を取って両手で握り込んだ。

 

「ふふふふ、こんなに大きな手をして……わぁ、男の人ってこんな感じなんだ……この手があの文章を生み出しているんだ……あぁ」

 

 最初こそ大人のような余裕な態度だが、俺の手を触りながら、明らかに興奮していた。うん、まぁあげはちゃんはそうかなって思ってました。

 二人の女子小学生に手をにぎにぎされていると、妙な視線を感じる。しかも二つ。

 一つは妹のものだ。

 

「お、お兄ちゃん……これもう完全にもう……はぁ、尊い……」

 

 神に祈るかのように握った手をかざして恍惚の表情を浮かべていた。なぜか俺たちよりも興奮している様子だ。こいつがおかしいのはいつものことだし、妙な視線も珍しくはないのでどうでもいい。問題はもう一つの方だ。俺は首だけを沙織ちゃんの方に向ける。

 

「……」

 

 無言でスタンガンを構えていた。なぜ!?

 

「あ、あの~、沙織ちゃん?」

 

 珍しくやましい事は何もない自信があったので、極めてシンプルに疑問を投げかける。

 

「なんか面白くない……いや、違いました。不健全な波動を感じたので」

「ええ!? 今!?」

 

 今までもずっと全くこれっぽっちも不健全なことなど一つもないのだが、それにしたって今のこの状況は不健全ではないだろう。耳を舐められてたことの方が若干、少し、比較的ほんのちょびっとだけ不健全な感じがなかったとは言い切れないが、手を握り合ってるなんて健全にもほどがある。むしろ感動的な場面と言っても過言ではない。

 

「だって、その、みんなの顔がなんか……まるで……なんかズルい」

 

 へ? 何をおっしゃっているのかさっぱりわからない。まだ詳しくは知らないが、きっと沙織ちゃんは賢い子なんだと思う。こんな支離滅裂なことを言い出すのは意外だ。

 沙織ちゃんはスタンガンをしまうと、真奈子ちゃんとあげはちゃんの間に強引に割り込んだ。

 

「ぼ、ぼくも変態をドキドキさせてあげる」

 

 そう言っている沙織ちゃんはなぜかすでに大興奮していた。なんでそんなに鼻息が荒いんですか。そんな態度をされるとますます俺もドキドキしてきますね。こんなに健全なのにドキドキするなんて俺もお子様だな。

 

「いいよ~、沙織ちゃんも混ざるんだね~、いいよ~」

 

 そしてこの様子を妹が撮影していることにもドキドキしますね。何がそんなに嬉しいのかわからないが嬉々としてビデオカメラを回している。まぁ、健全だからいいか。なんとなく後で見直したい気もするし。なんとなく。

 

「ちょっと、ファンでもないのに邪魔しないでください」

「そうよ、ガキんちょは引っ込んで遊ばせ」

「はぁ? うるさいっての。あんたらこそ気持ち悪い顔してんなっての」

「なんですって」

「くそガキが……」

 

 ひええっ!? なんで喧嘩になるんですか!? 四十八(よそや)わかんない!

 

「ふひひっ」

 

 気持ち悪い声を出したのは、当然詩歌だ。笑うタイミングがおかしい。俺は肝を冷やしているというのに。こんな修羅場をビデオに残そうなんてとんでもなくないですかね!?

 

 「先生!」

 「四十八(よそや)センセ!?」

 「変態!」

 

 女子小学生三人は俺の手を奪い合う。なんで?

 妹はビデオカメラを俺たちに向けながら、

 

 「いや~、女子小学生(JS)に大人気だねぇ~」

 

 と言った。

 官能小説家になろうと思ってたのに、女子小学生(JS)に大人気とか意味分かんないだろ。でも、もう決めた。俺は三人の手を振り払って立ち上がる。ぽかんとする三人に俺はきっぱりと言い放つ。

 

 「俺は今から小説を書く。真奈子ちゃんが、あげはちゃんが、そして沙織ちゃんも。ついでに詩歌も。読んだらドキドキするような小説を、今から書く!」

 

 真奈子ちゃんも、あげはちゃんも、そして沙織ちゃんも、ついでに詩歌もとびっきりの笑顔で俺を応援してくれた。

 

 第二巻を入稿することが出来たことは言うまでもない。

 

 




第一章がこれで終わりです。10万文字以上読んでいただいた読者サマに感謝。


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俺の胸板を枕に少女とピロートークの日々

 第二巻を入稿することが出来た俺は、つかの間の休息を……とるつもりだったのだが……。

 

「ほら、変態。これもおすすめ」

 

 ショートカットの小学六年生、網走沙織(あばしりさおり)ちゃんだ。女児向けの小説の大ファンだが、俺の小説のファンではない。それってツラくない? しかも俺のことを変態と呼んでいる。そんな彼女だが、なぜか自分の家からお気に入りの小説を持ってうちに遊びに来ていた。

 

「これはね、本当に面白くって、三回も読んでるの」

 

 うん、遠回しに俺のはあんまり面白くないって言ってるようなもんだよね。愛おしそうに本の表面を撫でる姿を見ていると微笑ましさと同時に嫉妬心が湧き上がる。

 

「あの~、なんでこれを……」

 

 俺に? と人差し指を自分に向ける。なんとなく聞きづらい。

 

「変態はぼく達に頼りすぎ」

「うぐっ」

 

 沙織ちゃんの言葉は日本刀のように鋭く、冷たい。だが、確かに二巻を執筆できたのは彼女たちのおかげであることは間違いない。

 

「人に聞くのもいいけど、インプットならまずは本を読むべき」

 

 うぐっ。正論だ。官能小説家が官能小説を読まないわけがない。しかし、俺は女児向け小説家であるが、そのジャンルを読んでいない。だって俺は女児じゃないから……などと言ってる場合じゃない。当然読むべきなのだ。どこの世界に官能小説を読んで女児向け小説を書こうというやつがいるのか。ここにいるけど。

 

「だから、仕方なく持ってきてあげた。感謝するべき」

 

 そう言って沙織ちゃんは頬をかきながら、目線を天井に逸らした。

 

「そ、そっか。ありがとう」

「これは貸しだから」

「えっ」

「変態が、小説家の先生たちと仲良くなったときに返してもらう。サインとか」

「あ、ああ」

 

 そう言えば桜上水みつご先生のサイン入りの新刊も用意しないといけなかった。そう、俺と沙織ちゃんはギブ・アンド・テイクの関係なのだ。決して通報をするか見逃してもらうかという関係ではない。

 俺も一応、その小説家の先生なんだけど。なんで俺だけ変態呼ばわりなの?

 つい不満が表情に出てしまうが、彼女は上の方を向いたままだ。

 

「ファンになったとか、す、好きになったとかじゃないから。勘違いしないで」

「いや、しないよ……」

 

 この流れで、そんな勘違いをするようなやつがいるだろうか。ラブコメの主人公にでもなったつもりで生きているような頭のめでたい男だけだろう。

 

「本当にわかってます?」

「わかってるよ……」

「……絶対わかってない」

「わかってるっての。桜上水みつご先生のサインも忘れてないし」

「……あ、ああ。そ、そうですよ。ちゃんと忘れないようにしてくださいよねっ」

「はいはい」

 

 ちゃんと理解しているから安心しろ、と深く頷いてみせるが、機嫌は悪くなった。うーむ、女子小学生はわからんな……。

 

「じゃあ、ちゃんと読むんだよ。感想聞くんだからね」

「うん、わかったよ」

「明日来るから」

「え!? 明日!?」

「……何? イヤなの?」

「いやいやいや、そんなことないよ~。もちろん今日から読む気マンマンだったし」

「お菓子も用意しといてね」

「あ、うん」

 

 ここで来客用のお菓子を買っちゃいけないんだよな。むしろ駄菓子の方がいいに違いない。それだと真奈子ちゃんも喜ぶからな。

 

 翌日。

 

 彼女はお昼過ぎにやってきた。お菓子を食べるならもう少し遅く来てもいいだろうが……結構食べるからなあ。いっぱい食べるために早めに来たのだろう。

 

「どうですか」

「えっと、これです」

 

 俺が用意したのは、ハートの形をしたお米のチップスだ。ガーリック味がたまらんのよね。絶対にお気に召す事請け合い。

 

「違う」

 

 ――痛っ!?

 

「お菓子の話じゃなくて、読書の状況の話です」

 

 え、何されたの? え、痛い。

 

「全く、無駄に電気を使わせないでください」

「えーっ!? 今のでスタンガン使ったの!?」

「いや、一番弱くしてるけど」

「いや、一番弱くても痛いんですけど? スタンガンの手加減は手加減に入らないんだけど!?」

「お菓子の事しか頭にないみたいな扱いをした当然の報い」

 

 なんと、意地汚い女の子扱いしてしまったから怒ってるのか。くーっ、女子小学生って扱い難しいな!? これが官能小説だったら、結局ちんこを挿れれば万事解決だがそういうわけにもいかないし。現実は大変。

 

「そ、そっか。ごめんごめん」

「何冊読んだの」

「えっと、二冊ちょい。これとこれは読み終わった」

「じゃあ、感想を聞かせてもらうからそこに座って」

 

 ソファーではなく、カーペットに直接座れとのご指示。おとなしく従う。サイドテーブルの前にあぐらをかくと、当然のように俺を座椅子扱いして腰を下ろした。

 え?

 

「じゃ、まずはこの表紙から感想を聞きましょう」

 

 俺のあぐらの中で両手で本を持つ沙織ちゃん。

 え? この体制は何故? ソファーじゃなくてなんで俺に座るの?

 え? 表紙? なんで表紙?

 

「表紙は……あんまり見てなかったな……」

「は?」

「待て待て、今スタンガンしたら自分にもダメージ来ちゃうって!」

「ちっ」

 

 舌打ち強くね?

 小説の感想って表紙の感想から聞く? それは絵の感想では?

 

「この本はイラストも装丁デザインも素晴らしいんです。ほら、読む前からワクワクしてきませんか」

 

 ふうむ。確かにエロ漫画だったら気持ちはわかる。キャラクターもそうだが装丁デザインによって雰囲気が異なるもんね。タイトルのデザインとかね。同じ女子高生(JK)って書いてあったって、甘いイチャイチャ恋人モノもあれば、えげつない調教ビッチモノもあるし、それで買うかどうかわかるっていうのはあるよね。ただ、この理解について今話すことが出来ないことが残念でならないけど。

 

「そ、そうだね~」

 

 色々頭の中で考えてはいるにも関わらず言えたのはこれだけ。他愛もない賛同だが、沙織ちゃんは頷いた。

 

「じゃあ、次は……ここの感想」

 

 一ページめくる沙織ちゃん。

 え?

 この調子で感想を? 何時間かかるんだよ!?

 

「えっと……著者のプロフィールの写真を見る限りは美人だと」

「そこじゃない」

「痛い! なんで!?」

 

 スタンガンの底の部分で物理的に脛を攻撃された。

 

「イラストや装丁に興味ないのに美人の写真には興味あるとか……全く変態ですね」

 

 くっ。確かに触手が似合いそうな顔だなとか思ってたけど……。とにかく本の感想でダメージを受けるのはツラすぎる。っていうかまだ物語の内容にたどり着けてないんだけど。

 

「お菓子」

「え。お菓子?」

 

 そんなシーンあったかしらん?

 

「お菓子を食べさせて。ぼくは本を持つから、お菓子を触ったらよごれちゃうでしょ」

「あ、ああ」

 

 菓子袋を開ける。確かにこれを食べながら本を読んだら大変だ。

 

「あーん」

 

 右に顔をそむけて、口を開けた。ああ、俺が食べさせるんですね。

 

「さくさく……」

「どう感想は」

「美味しい~……ってぼくのお菓子の感想はいいの! 感想を言うのは変態の方でしょ」

 

 ふふふ。文句を言いつつも、なんて美味しそうに食べる人なんだ。こっちまで嬉しくなる。

 

「で? この出会いのシーン、どうなの」

「あ~、結構子供向けにしては衝撃的だよね。ちょっと驚いた」

「うんうん、そうだよね」

 

 俺の感想を聞いた沙織ちゃんは、それは嬉しそうに頭を揺らしている。

 あ、そうか。

 俺がお菓子をあげて、美味しそうに食べたら嬉しい。

 沙織ちゃんは、俺に貸した本の感想を聞いて嬉しい。

 そういうことなんだな。

 

 それから一時間ほどかけて袋菓子一袋と、ノベル一冊の感想を味わった。

 

「あれ?」

 

 俺たちのいるリビングに、うちわでぱたぱたと胸元を扇ぎながらやってきたのは妹の詩歌(しいか)。白のショートパンツに緑色のタンクトップという夏の定番のスタイルだ。胸元に風を送り込む仕草が、かえって胸の小ささを浮き立たせている。サイドポニーの髪型が涼しけだ。

 

「沙織ちゃん? どしたの?」

 

 目を見開いて結構な驚きを見せている。真奈子ちゃんと違って沙織ちゃんは俺の直接の知り合いなのだから、詩歌の知らないうちに訪ねてきたっておかしくはないだろうに。

 

「いつの間に、そんなに仲良く……?」

 

 あー。そういうことか。ファンでも好きでもない彼女がやってきている理由がわからないわけだ。そりゃそうだ。

 

 仲が良いわけではないという説明をしようとしたが、沙織ちゃんが俺の腕の中で詩歌に向かって答えた。

 

「ぼくが説明します、お姉さん」

「お、お姉さん!?」

「変態の妹さんの方がいいですか?」

「む、ぐぐ」

 

 渋面を作る妹。その二択で悩む必要など、どこにあるのか。相変わらずわからんやつだ。

 対する沙織ちゃんは、俺の身体を玉座にしたかのように深く腰掛けた。ふわりとシトラスの香りがする。

 それにしても変態の妹ってスゴイよね。俺の妹で変態なのか、変態である俺の妹なのかわからん言い回しだが、おそらくその両方だろうね。素晴らしいネーミングセンスだ。

 密かに感心していると、沙織ちゃんは俺の膝を肘掛けにして話を続けた。

 

「ファンでもないぼくが、差し出がましいとは思うんですけど、本を貸しているんです。なにせファン一号さんは図書館で借りているだけで本を保有していないということでしたので」

「ぐ、ぐぬぬぬ」

 

 あれ? なにこれ? 二人はなに、仲が悪いんですか? それとも網走沙織ちゃんは誰に対してもこうなんですか? 触るものみな傷つけるジャックナイフなんですか? 

 

「沙織ちゃん、大丈夫? お菓子どうぞ」

 

 落ち着いて欲しいと思って、ライスチョコを食べさせる。

 

「もぐもぐ、ふふふ」

「あ、ああ~?」

 

 沙織ちゃんはますます王の風格を醸し出し、妹は敵国の兵士に囲まれたように戦慄している。なんでだよ。駄菓子食ってるだけだぞ。

 

「い、いつの間に……こ、こんなことに……」

「ふふふ、もぐもぐ。昨日本を貸して、今日から感想を聞いているワケ。もちろん、明日も明後日も」

 

 えっ!? 明日も明後日もやるんですか!? 初耳なんですけど!?

 

「ぼくはファンを超えた存在。そう、パートナー。パートナーなんです」

 

 えっ!? パートナー!? 本を貸して感想を言い合う関係は普通、お友達というのでは?

 

「さ、さすがお兄ちゃん……」

 

 俺は一つもさすがと言われるようなことはしてませんが。詩歌はいつも何を言っているのかよくわからない。

 

「も、もう、あれ、そうだ、シャワーを浴びるしかない。暑いから。アツアツなところを見せられたから」

 

 俺は何も言っていないのに、勝手に言い訳みたいなことを言いながら、酒も飲んでないのにふらふらと千鳥足で出ていった。なんなんだ。

 立ち去る妹を見送りながら、沙織ちゃんは「むふーっ」と満足そうに息をついた。よくわかんないけど勝ったの? なぜそんなに勝ち誇っているの?

 

「そういうことで、ぼくが今後、変態の読む本を選んで、読ませて、いいところを理解させていくから。読書生活を管理するから。略して書生管理」

「しょ、しょせーかんり!?」

「何? ぼくのネーミングに何か問題でも?」

「いや!? いやいや。別に!?」

「じゃあ、そういうことで」

 

 どうやらマジみたいだぞ。いや、インプットは重要というのは正しいし、三巻のプロットを考えるまでにやっておくべきことなんだろうけど。しかし、毎日か……それだとエロゲーをやる時間が足りない。二巻を書き上げるためのモチベーションだったんだぞ。ようやくプレイできるというのに冗談ではない。

 

「毎日だったら、一日一冊でもいいよね?」

「駄目。ぼくより読まないなんてやる気あるの?」

「あ~。だよね~。えっと~、一日二冊は必須ですかね?」

「もちろん。できればもっと、なるべく多く読んで。あ、ぼくの推薦以外の本に浮気するとか許さないから」

「え、ええ~!?」

 

 エロゲーだけでなくエロ小説も読めないだと!? 駄目だ、このままではマジで射精管理みたいな拘束を受けるぞ。なんとか回避せねば。

 

「で、でも夏休みの宿題とかあるんじゃ……」

「これがそう。作家が読んだ本の感想についての研究という自由研究」

「な、なんと」

 

 俺はいつの間にか管理されて研究されてるというのか。なんということでしょう。しかし沙織ちゃんの自由研究をエロゲーがやりたいからという理由では拒否できない……。

 

 「わ、わかりました」

 「ん。お菓子も忘れないように」

 

 彼女は俺を見上げながら、満面の笑みをつくった。やれやれ、観念するしか無いか。

 こうして俺は沙織ちゃんに書生管理されることになった。



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その声と身体を武器に男に近寄る熟れた果実

 夏休みが終わり、専門学校が始まった。

 沙織ちゃんの書生管理(しょせいかんり)が終了するかと思われたが、毎日から毎週に変わっただけだった。

 感想を言う前提で本を読むことは大変に意義のあることだった。ただぼーっと読むのとはワケが違うのだ。なにせ彼女が気に入っている箇所で何の感想も言わなかっただけで物理的に不条理なダメージを受ける。よって、常にどこが面白いのか、心を揺さぶるのか、表現方法はなぜこうなっているのかと考えなければ生き残れない。死にものぐるいで読み込むことは非常に勉強になる。

 それに一週間ならごまかしも効くので、エロゲーくらいはプレイできるようになった。先が気になるのでなるべく夜はそちらに時間を使いたい。夜に読書の時間を減らすためには、登下校時に読む必要がある。

 

 専門学校に向かうバスは、学生だけで満員だ。こんなところで女児向け小説を読むのは非常に恥ずかしい。はっきりいってえっちな漫画を読むほうが全然マシだ。それでもエロゲーをプレイしたいのでなんとかして読む。

 もちろんブックカバーはしているので、基本的には問題ないが挿絵の箇所など後ろから見られるのだけは気をつけねば。

 俺は周りの人に見られないよう顔をなるべく本に近づけて読んでいた。二人席の通路側に座っているのだが、通路側には人がたくさん立っている。ページをめくるとちょうど主人公の女の子が幼馴染の男の子にからかわれて怒るイラストが挿絵になっていた。絶対見られたくない。

 

「おっと」

 

 通路側に立っている男が揺れでこちらにぶつかってきた。右肩を押され、背骨を支点にくるりと左に。

 

「おおっと」

 

 さらに背中を押される。背筋は強制的に伸ばされ、手は前に伸びた。

 

「ん? ああっ、これは……」

「げえっ!?」

 

 左に居た女性に本を差し出すような形になり、がっちり本の中身を見られた。最悪だ!!

 急いで胸元に本を隠し、相手の顔を伺う。

 

「そういうの、読むんですね?」

 

 今一番言われたくないセリフだ。言ってる相手はもちろん女学生。同じくらいの年齢の女性に見られるなんて。しかもよく見たらとんでもない美人だ。青いリボンのポニーテールがよく似合っている。見るからに明るくて元気で友達が多くいそうなタイプ。恥ずかしいにも程がある。

 

「こ、これは勉強で」

 

 とりあえず言い訳をしたい。何が何でも言い訳したい。

 

「へぇ~。学科はどこなんですか?」

「……情報処理です」

「へぇ~」

 

 にんまりと笑われてしまう。そりゃそうだ、情報処理科が勉強するならプログラミングの本とかだろう。女児向け小説を勉強のために読むやつなどいるわけがない。

 

「いや、あの、ホントに。ホントなんです」

「ふぅ~ん」

 

 にやにやと見られながら、非常に可愛らしい声の相槌。くっ、殺せ。もはや気持ちはオークにレイプされる寸前の女騎士だ。しかしここで実は俺は女児向け小説を書いている小説家なんだと暴露するのも恥ずかしい。官能小説を書いているんだと宣言する分には平気なんだが、官能小説を書くために女児向け小説を読んでいるという説明には無理がある。ほぼ実話なのにな。

 

「ううー。本当なんだけどなあ」

「そこまで言うなら嘘じゃないみたいだね」

 

 うんうん唸っていたら意外にも信じてもらえたご様子。

 

「実は自分もなんだ。勉強のためにそういうの読んでて……」

「なるほど……って、ええ?」

 

 そんなやついないだろ!? ここにいるけど!

 

 ぷしゅーっと音を立ててバスが停まる。最寄りの駅から学校までを結ぶバスなので、それほど乗車時間は無い。俺は流されるようにバスを降りて教室に向かう。疑問は残ったままだが、まぁいいか……

 

 今日はデータベースを作る授業だった。好きな題材でデータを取り扱って構わない、ということでみんなサッカー選手やらゲームのモンスターやらのデータを打ち込んでいる。やれやれ、そんなエロくないものの何がいいのかね。

 俺は自分で考えたセクシー女優のデータベースを作ることにした。実際の女優のデータを学校のネットワークで検索すると閲覧不可になるからだ。なんでだよ。俺みたいに真面目に授業でアダルトビデオの情報を手に入れたいやつだっているというのに。まったくこれだから世の中ってやつはと文句を言いつつ、僕の考えた最強のセクシー女優のスリーサイズを入力していく。単純作業だがこれは実に楽しい。あとで胸の大きい順に表示しようっと。

 

「んー、どうしようかな」

 

 思わず独り言が漏れる。バストとウエストはすぐに決まるんだが、ヒップがいつも悩む。お尻ってのはどのくらいがベストなんでしょうね。小さくてもエロいし大きくてもエロい。とはいえどっちでもいいなんてとても言えない。お尻は大事だよ。

 

「何、悩んでんの?」

 

 その声が聞こえた方を見ると、いいかんじのお尻があった。ぱっつんぱっつんの薄いジーンズが優雅なラインを描いている。うーん、これは完璧だ。やっぱり尻ってのはこうプリッとしているのがいいね。

 

「ちょうどよかった、ヒップサイズを教えてもらえますか。授業で必要なので」

「……へぇ。お尻の大きさもあんたの勉強に必要なんだ」

 

 も、とは? というかこの聞き覚えのある声は……

 

「あ、ああ! 朝の」

 

 登校バスで隣りにいた美少女じゃないか。なんで情報処理科に。ここにはほとんど女子などいない。掃き溜めに鶴状態なので、周囲からさぞ目立つだろうと見回すがほとんど人がいなかった。

 

小江野忍琴(こえのおしごと)だよ」

「……お尻が?」

「名前が、に決まってんでしょ……」

「あれ? 怒ってます?」

 

 だとしたら理不尽な話だ。聞いたことに答えない方が悪いのではないか。お尻の大きさを問われているのに氏名を答えるなんてどうかしている。しかも、まるで俺がセクハラでもしてるみたいな態度を取りやがって。ちょっとカワイイからって調子に乗っているのでは?

 

「……はぁ。ここじゃなんだから、ほら、着いてきて」

 

 なんだ、ここじゃ言えないくらいケツがデカイのかな。そうは見えないけど。誘われるままに着いて行っていいのかと時計を見たらすでに昼休みになっていることがわかった。どうやら講義が終わっているのに気づかずにデータベース制作に打ち込んでいたようだ。本当に俺は真面目だなあ。

 

 のこのこと着いていくと、普通に学食であった。校内に三箇所ある学食のひとつであり、安くてボリュームがあるのでもっとも混雑している。こんなに人が多いところでケツの大きさを教えてくれるとな? 実はそういう趣味が……?

 

 小江野と名乗った彼女はからあげ定食を注文していた。ここでうどんとかにすると俺だけさっさと食べ終わっちゃうだろうと思い、同じメニューにすることにした。

 

 出遅れたせいもあって、すでに椅子はほとんど埋まっていたが、長い机のど真ん中あたりだけは空いている。彼女は向かいが空いている席に座ったので、その対面に腰を下ろす。ここまで混んでいれば逆にうるさくて俺たちの会話は周囲には聞かれないかもしれない。木を隠すには森の中というやつか。

 

「いただきます」

 

 彼女は割り箸を割って、手を合わせた。なんだ、普通に食い始めるつもりか。こっちはそれどころじゃないんだぞ。生真面目な学生なんだ。

 

「で? そんなにケツでかいの?」

「ぶっ」

 

 俺が心底生真面目な顔で質問すると、目の前にいる美少女は口に入れた味噌汁をお椀にリバースした。

 

「げほっ、げほ」

 

 わかめが喉にでも詰まったのか苦しそうだ。俺は紳士なのでコップの水を差し出すと、彼女は一気に飲み干した。

 

「はぁ、はぁ」

「大丈夫? どしたの?」

「こっちが言いたいよ……よく平気でそんなこと言えんね」

 

 疲れ切ったような表情で俺を見た。なんでだよ。俺はさっきからずっと同じことしか言ってないだろ。俺はからあげを口に放り込んだ。冷めてしまっては元も子もないからね。

 

「そ、そんなに自分の、その、お尻が気になるの?」

 

 自分のっていうのは俺のということではなく小江野さんのということだろう。一人称が自分とは軍人みたいだなと思いつつ返答する。

 

「もちろん。だって勉強のためだし」

「どんな勉強だし……わかった。じゃあ、教えてあげる」

 

 彼女はメモ帳を取り出すと、すらすらとペンを走らせる。ごはんを咀嚼しながら待っていると、メモを渡された。

 

 なになに、身長159cm、B85、W60、H86か。なるほど。そのくらいなのか。これで入力できるな。安心して味噌汁を口に含む。

 

「感想は?」

「乾燥わかめは好きじゃないな。生わかめがないなら、なめことかの方が」

「味噌汁の感想は聞いてないっつーの」

 

 ええ、こいつ自分のスリーサイズの感想を初めて会った男に聞いてるの? なんてやつだ。官能小説を書いている俺でもびっくりだよ。しかし、感想か。面と向かってスタイルのことを言うなんて機会は今までなかったな……

 

「そうだな……豊満かつ大胆な部分が主張しがちでありながら、バランスの取れたその健康的なボディからは匂い立つほどの色気が感じられ、見るものの男の本能が沸き立つように……」

「ちょ、ちょ、そういうのじゃなくて。っていうかなんか凄くない?」

 

 即席ながらできるだけの感想を贈ろうとしたのだが、彼女は割り箸でバッテンを作って止めた。行儀悪いな。

 

「勉強のためになったかって聞いてんの」

「あ、ああ。うん、助かったよ」

「ふー、やれやれ」

 

 何がやれやれなんだかわからんが、彼女はようやくからあげを囓った。俺も箸を動かした。飯を食いながら、話を待つ。一つ目のからあげとごはんを三口ほど食べると、油でテカってる唇は話を続けた。

 

「自分があんたの勉強の役に立った。そうだよね」

「うん。そうだね」

 

 相槌を打つが、嫌な予感がする。

 

「だから次はあんたが自分の勉強のために協力してくれる。そうだよね」

「あー、そういうことなのね」

 

 ようやく合点がいく。つまりは取引だったということだ。むしろそうじゃなければいきなり知り合ったばかりの男にスリーサイズなど教えないだろう。よかったよかった、どうやら彼女は変態じゃないようだ。つまりスリーサイズを人に教えるような勉強をしている……なんてエロい人なんだ。俺も官能小説家を目指した男、ひと肌脱ごうじゃないか。

 

「今度、オーディションがあるの」

「なるほど、悩殺ポーズの練習か。自信はないけどそれなりには詳しいと思う。俺に出来ることなら……」

「ち、違うし!」

「え、まさかもっと過激な?」

 

 なんてこった、俺の初めてが……いや、官能小説を書いている俺だ。恋愛の結果じゃなく取引でなんて相応しいじゃないか。

 

「わかったよ。どんなえっちなプレイでも……大丈夫」

「だーからー、違うから。その、えっと、ちょっとえっちな仕事もあるけど……」

「任せろ! 俺はえっちだ!」

「ちょちょ、学食のど真ん中でからあげ食べながら何言ってるの!?」

 

 自分から言いだしたくせに慌て始めたぞ、このドスケベボディめ。

 

「だからえっちな勉強がしたいんでしょ?」

「だから違うから! 自分がしたいのは小さな女の子の役の練習なの! 声優科の勉強なんだってば!」

 

 な~に~? そういえばこの学校には声優科もあったな。声優ってのは昔と違って容姿にも恵まれていないと難しいと聞くぞ。グラビアとかの仕事だってあるとか……そう思って彼女をもう一度見直してみる。

 

 うん、確かに声優っぽいな……

 

「バスで読んでたでしょっ! そういう本を! そういうのに詳しいんでしょっ?」

 

 あー。そういうことね。正直、俺は女児向け小説について詳しいとはとても言えないが、まあなんだ。二冊ほど本を出してはいるかな……

 





やばい、JSが出てこない! 読者が望んでいるシーンがない! ヤバい!


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日の高いうちから艷やかな唇で誘惑してくるナイスバディ

 

「小さな女の子役って、課題なの?」

 

 昼休み、からあげ定食はまだ食べ終わっていない。俺は小江野忍琴(こえのおしごと)と名乗る声優科の女学生と会話を続けている。

 

「ん~ん。学校のじゃなくて、オーディション」

「えっ、オーディションとかもう受けてるの?」

「っていうか、まぁ、一応? 声優の仕事もしてるかな」

 

 も? もということは別の仕事がメインなのか?

 

「AV女優のついでに?」

「ち、違う! なんで!?」

 

 大きな声で否定した後、小江野(こえの)さんは注目を浴びたことがわかってトーンダウンさせた。俺も少し前のめりになって、声をひそめる。

 

「えっちな仕事もあるって言ってたじゃん」

「ちょっとえっちなって言ったの! ちょっとだけ!」

「つまりイメージビデオということか……」

「なにそれ……」

 

 知らないけどろくでもなさそう、という顔をした。説明はしなくてよさそうだ。じゃあなんなのよ。俺が疑問符を頭上に浮かべると、彼女はいかにも恥ずかしそうに口を開いた。

 

「グラビアとかやってるんだけど」

「ふーん」

「えー。リアクション薄い……」

 

 だってセクシー女優に比べたらエロくないもん。しかしグラビアアイドルか、なるほど、それでスリーサイズとか教えるのに抵抗ないのか。普通教えないっていうか詳しく知らないよな。

 

「本当はハズいんだけど、声優になるのは本当に難しいから……」

「声優になるために身体を売っていると」

「言い方悪すぎない?」

 

 怒ってるのかテレているのか、その両方なのか顔を赤くする。

 しかし声優になるためにグラビアアイドルをやるってすげー話だよな。ある意味真逆の存在な気がするんだが。まぁ、目の前の女の子はとんでもないスペックの持ち主ということなんだろう。

 

「声優の仕事って?」

「んー、まぁ、その、まだ大したものは全然……えっと、成人向けの同人ゲームなんだけど」

「なにっ!? タイトルは!? どういうやつ!?」

 

 がたっ! 椅子が音を立てるくらい俺は勢いよく立ち上がった。

 

「えー。リアクション強い……」

 

 そりゃそうだろう。だって同人とはいえエロゲー声優ってことだろ!? すごい! すごすぎる! サイン貰わなきゃ!

 ご自慢の声優の仕事に熱烈に反応している俺になぜか冷淡な目をしている対面の彼女は首を傾げた。

 

「それ聞いて、どうするの?」

 

 んー。サインを貰えるくらい好感度を上げるにはなんと答えるべきか。

 立場を逆転して考えてみよう。仮に俺が官能小説を出版してたとして、それを彼女に伝えたときに一番嬉しい反応とは。

 そりゃあ、もちろん買ってくれて、読んでくれて、そして使ってくれたら最高だ。そういうことだな。

 

「買って、やって、ヌく」

「――――ッ……」

 

 目を><(こんな)にして震えている。嬉しくて嬉しくて震えているのだろう。更に褒めたらさぞ喜ぶだろうな。

 俺だったら……先生の文章でヌきます、楽しみです。こんな感じかな。想像するだけでニヤつくね。よし、もうひと押しだ!

 

「お前の声を聞きながら、オナニーする」

 

 俺はニヤついた顔のまま、そう言い切った。さぁ、喜べ。

 

「さ、さ、さいてー……だけどちょっとだけ嬉しい……うう……」

 

 彼女は箸を置いて両手で顔を覆った。ドスケベボディを青少年に惜しげもなく晒してるやつにしては随分と恥ずかしがり屋だな。

 

「でも、その、自分はそういうシーンは無いキャラクターの声で……」

「ちっ、なんだよ」

「うわっ、露骨。だから、ちょっとえっちなって言ったでしょ」

「ふ-ん。からあげ早く食わないと冷めるよ?」

 ぱりぱり、もぐもぐ。

「完全に興味失って漬物食べ始めた!?」

 

 そりゃそうだろ。エロゲーでエロシーンのない声をやっていますって、そりゃねえぜって感じ。

 

「えっと、そういうシーンがあったら買って、自分の声で、そ、そういうことしたいって思ってるってこと?」

「ん? うん」

「そ、そうなんだ」

 

 ちょっと嬉しそうな顔を見せる。うーん、俺だったら狂喜乱舞するけどな。小江野さんは食欲が回復したのか、からあげを食うのを再開させた。所詮は学食の味なのだが随分と美味そうに食う。

 

「で、なんでまた小さな女の子役のオーディションを? ロリコンもの?」

「ぶふっ」

 

 せっかく美味そうに食ってたのにまたしても噴飯した。

 

「なんでそういうのしかやらない前提なの!?」

 

 彼女はご飯を水で飲み込んでからそう言った。よく噛んで食べた方がいいぞ。

 

「だって、えっちじゃない仕事なんてしたくないだろ?」

「したいよ! えっちじゃない仕事がしたいの!」

「ふーん。変わったやつだな」

「えぇ……」

 

 またしても箸が止まっている。俺はもう食い終わっちゃうよ。

 

「それが? 女児向けのアニメか何かなのか?」

「そうよ。小さな女の子役がやりたいの」

 

 熱意を感じる眼差し。夢見る少女は美しいね。

 俺は味噌汁を啜りながら、そう思った。

 それにしても世の中とはうまくいかないものだ。

 俺のようにえっちな仕事だけがしたい人間が女児向けの仕事をすることになって、女児向けの仕事がしたい女の子がえっちな仕事をしているなんて。

 

「それで?」

「それで、とは?」

 

 からあげを頬張りながら、なぜか怒ったような態度を見せる。冷めたからかな。だから言わんこっちゃない。

 

「だから! あの本、付箋とかいっぱい貼ってあった。小さな女の子向けの小説を本気で勉強で読んでいるんでしょう? なんで?」

 

 むう。

 女子小学生に書生管理(しょせいかんり)されているからです、というのが真実だが、それを言うのはどうかと思う。いろいろな意味でどうかと思う。

 

「うーん、なんて誤魔化したらいいんだ」

「えっ、ごまかすって言っちゃった?」

「しまった」

 

 真面目で正直者だとこういうときに困る。

 

「なに、本当のことが言えないワケ? まさか、え、えっちな理由じゃないでしょうね」

 

 頬を赤らめつつ眉をひそめて睨まれる。えっちな理由で女児向け小説を読むやつがいるかよ。もっと恥ずかしい理由だっつーの。

 

「うーん、ちょっとここでは言えないな……」

「えっ、そんなに!?」

 

 こんなに恥ずかしそうな顔で、からあげ定食を食べる女の子を俺は知らない。勝手にえっちな理由だと勘違いしているなコイツ。ひょっとして実はえっちな娘なのでは? この人も俺の小説のモデルになってくれそうな気がしますね?

 

「大体、小さな女の子のことなんてわかるんじゃないのか。俺はわからんから勉強しているが、君は数年前のことを思い出せばいいだけだろ」

 

 まったくの正論だと思うのだが、彼女は少し困ったような表情になる。どうした、からあげだけ先に食べてしまったからご飯が余ってるのか。やらんぞ、漬物で食え。

 

「それが、その……その女の子はちょっと変わってるというか……いや、変わってるっていうのは今の御時世的によくない表現なんだけど、自分が子供の時とは少し違う感情が……」

 

 何やら煮え切らないことを言ってから、白米を口に含んだ。おかず無しでイケるタイプなんだ。おかず、無しで。俺は無理だな~。大好きだもん、オカズ。

 

「とにかくっ、小さな女の子に詳しいんでしょ?」

 

 いや、その言い方はやめてくれ。絶対ヤバいから。

 

「うーん、まあ、ある意味プロだけど……」

 

 まったく自覚はないが、女子小学生のファンがいるからね。

 

「えっ、えっ、プロ!? ちょっと、詳しく」

「だからここじゃちょっと」

「んー、じゃあ連絡先交換しよ! ほら、QRコード」

 

 こうして俺は、からあげの油でテカテカした唇の女の子と連絡先を交換した。

 





次回はJS出ますから! ちゃんと出ますから!


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妖艶なる女神の問いは新たなる性の扉か

 

 いつものとおりにやってきた、黒髪ショートヘアのちょっとボーイッシュな印象のある女の子。今日は珍しくデニムのミニスカートを履いている。薄いピンクのポロシャツも眩しく、とても女の子らしい格好だった。

 キャップを取ってから、リビングに入ってきた網走沙織ちゃんはちらりと普段と異なる状況であることを認識したようだが、大して気にすることもなくいつもとまったく同じように俺が組んだあぐらの中にすぽっと収まった。

 

「えっ?」

 

 何一つ違和感のない、小学六年生の女の子が俺を座椅子扱いするという行動に違和感を持ったらしい小江野さんの声が漏れた。よくあることだよ?

 

「で?」

「今日は柿ピーです」

「なにそれ、おいしいの?」

 

 なにそれおいしいの、という疑問は俺たちの中では知らない言葉を聞いたとき、もしくは知っているけど知りたくない言葉、例えば「バレンタイン? なにそれおいしいの?」という使い方をするが彼女は違うぞ。

 本当に柿ピーというものが食べ物ではあるだろうけれども食べたことはないから美味しいのか聞いているんだ。可愛いですね?

 書生管理の日々は児童向け小説の授業の時間でもあるが、毎回知らないお菓子を教えていく楽しみでもある。

 

「今回の小説も面白かったよ」

「そんなの当たり前。どこがどう面白いのかちゃんとわかってんの?」

「そうだなあ……」

 

 夏休みが終わってからも毎週末に行われ、すっかり慣れたこの時間。俺は柿の種を二粒、ピーナッツを一粒を右手でつまんで左手に乗せ、それを彼女の口に放り込む。

 沙織ちゃんはむぐむぐと噛んでから、いつもどおり淡々と、それでいて弾んだ声で感想を述べる。

 

 「ピリ辛でカリカリとした小さなおせんべいの歯ごたえとそれを絶妙に和らげる落花生のハーモニー。これは止まらない」

 

 さすが沙織ちゃん。読書感想文並みのフレーズがすらすらと出てくる。個人的な黄金比を薦めた俺も嬉しくなる。しかし、ここでお菓子の話をするのは実は愚策。俺は本の感想を述べるのが正解だ。

 

「今回も主人公の頑張りには胸を打たれたよ。しかも可愛いっていうか可愛すぎっていうかなんていうか」

「ほんと当たり前なことしか言わないし。他にないの? 早く次」

「次のページはね」

「柿ピーが先!」

 

 足の裏にパンチを喰らいながら、俺は柿ピーを準備。彼女は本を持っているからお菓子は俺が用意しないといけない決まりだ。パンチ出来るならお菓子も食べられるんじゃないかと言うと更に攻撃を食らうことになる。

 

「ほい」

「かりかりかりむぐむぐ……さっきのほうがバランスがいい!」

 

 今度はぺしっと足の裏を平手で叩かれる。俺は扁平足なのでちょっと気持ちがいい。

 いやしかし、そりゃ柿の種が二粒でピーナッツ一粒がベストだけどピーナッツだって半分に割れているのもあるしだね。毎回理想的にはね? 違いも楽しむべきじゃんね? 妹はピーナッツ二粒と柿の種一粒でちんことか言いながら食ってたよ? あいつはバカ。まぁ、俺は笑っちゃったけど。

 そんなことを思いつつも、柿の種一粒とピーナッツの半粒を準備して、口の動きが止まったら口内に。この割合は間違いないはずだ。

 

「うんうん、これでいい。飲み物は!?」

 

 ばしっと土踏まずに拳が叩き込まれる。正直、気持ちいい。扁平足の俺にとってはただのマッサージだけど、そうか、ドリンクを準備し忘れていた。

 

「じゃあ、取ってくるね」

「こら、動くな」

 

 べしっと、太ももに打撃。痛くはないが、どうしろというのか。

 

「そこのおっぱい」

「……え? 自分!?」

 

 彼女はソファーの上で膝を抱えたまま、きょとんとした。

 

「わかるでしょ? 他に誰がいるの?」

 

 そりゃ他には誰も居ないのだが、初対面の小学生からおっぱい呼ばわりされるとは夢にも思わないのだろう。俺も思わない。なんで? なんで沙織ちゃんは常識的な子なのにそんな言葉遣いなの? おっぱいなんて失礼だよね、おっぱいが大きいって意味だもん。あれ? ……褒め言葉なのか?

 わちゃわちゃしている小江野さんに何のフォローも出来ない俺。なぜならば俺も困惑しているのです。失礼なのか褒めているのかわからないのです。でもね、むしろ常識的な子なんだよ、彼女は。少なくとも俺よりは。

 

「飲み物を用意して頂戴」

「あ、あー、うん」

 

 彼女からしたら始めて訪ねた男の家の冷蔵庫なので抵抗があるだろうが、沙織ちゃんの圧倒的な有無を言わせない雰囲気によって行動していた。俺の許可とか聞かないんですね? いや、聞かれても俺に何の権限も無いことは明白なんですけれども。

 

「ごめんね、キッチンに何か飲み物あると思う。冷蔵庫も開けていいから」

「う、うん」

 

 小江野さんは戸惑いながらも、食器棚からグラスを取り出した。

 

「よそ見してないで。続き」

 

 内腿を(はた)かれる。うーん、いつもより不機嫌な気がする。柿ピーは好評そうなのに何故だ。俺が本の感想の続きを話していると小江野さんが俺たちの前にあるローテーブルにコースターとグラスを置く。

 

「なに、これは」

「え、サイダーだけど」

 

 やたら縮こまっている小江野さん。それに対して姑のような雰囲気を醸し出している沙織ちゃん。なんでだよ。お礼を言いなさいと躾けるべきなのかしらん。

 

「あはは、サイダーというのはスナック菓子に合う飲み物でしょう。米菓子は日本茶じゃないかしら」

 

 なぜかマウントを取ろうとする沙織ちゃん。君はそういうことをよく知らないのだから年上に対してそういう態度を取るのは止めたほうがいいぞ。炭酸だってついこの前飲めるようになったばかりじゃないの。

 

「あら。あら、あら、ご存じないのかしら~」

 

 やたら芝居がかった態度をとる小江野さん。なんで? お嬢様役のオーディションがあるのかな? 「おほほ」とか「ざーます」とか言いそうな役作りだぞ。偉そうな態度を取っている小学生に反撃しようとしているのかもしれない。

 

「なに?」

 

 やや態度の悪い女子小学生は俺の膝に肩肘をついて、くるりと俺を回転させてリクライニング。俺は新幹線の椅子じゃないっつーの。ま、抵抗はしませんが。

 

「これはね、おつまみなの」

「は?」

 

 バチバチと目線が交わる。竜虎相打つという趣だが、柿ピーの話をしているだけだ。世の中には妙なきっかけで始まるバトルもあるものだ。

 

「柿ピーはビールに合うおつまみなのよ。お子様にはわからないでしょうけ、ど!」

 

 いや、俺たちもまだ酒飲めない年齢だけどな。お酒に合うらしいということはまぁ知っている。それにしても腕組みをすると尚更に胸が強調されますね。

 

「は? お菓子でビールなんて飲むわけないでしょう。ビールというのはカリーブルストとかチョリソーとかを食べるのよ」

 

 妙に本格的ィ!? 沙織ちゃんのご両親はドイツ人なの? 家でそういうの食べるの? 枝豆とかじゃ駄目なの?

 

「飲むんですー! 柿ピーでビール飲むんです―! 野球中継とか見ながらー! だからサイダーとかにも合うんですぅー!」

 

 お嬢様キャラはどこに行ったのか。やたら庶民的で子供っぽい態度に変貌を遂げるナイスバディのお姉さん。多分カリーブルストとか知らないんだろうな。ぶんぶんと手を縦に振るたびにタンクトップの中がぷるんぷるん震える。これは初めて会った女子小学生からおっぱいと呼ばれてしまうのも仕方ないな。

 

「そうなの?」

 

 小声で俺の顔を見上げる沙織ちゃん。一気に自信が無くなったんですね。かわいい。

 

「そうなんだよ」

「……そうなんだ」

 

 ぷくっと頬を膨らませて悔しそうにする沙織ちゃん。かわいい。

 

「ほら、試してごらん」

「うん」

 

 俺は柿の種二粒とピーナッツを一粒、手のひらに載せてスタンバイ。沙織ちゃんは俺の顔を一度見てから、手の上からつまみとり口内へ放り込む。ぽりぽりかりかりさせた後、サイダーをこくんと飲んだ。

 

「おいしい」

「よかったね」

「うん」

 

 微笑む沙織ちゃん。かわいい。思わず俺もニッコリ。

 

「ちょっと、ちょっと、お二人さん!? なんで二人だけの世界作ってるの!? 自分がサイダー持ってきたんだけど?」

 

 柿ピー対戦で勝ったはずなのに悔しそうに地団駄を踏む小江野さん。変な役はもうヤメたのかな。まだこの人の素がよくわからない。

 とりあえず次のセットを作らないとね。サイダーがあるなら、柿の種三粒とピーナッツ一粒という少しピリ辛のブレンドでもいいだろう。

 

「平然と続けるんだねっ!? そもそもこの子は誰なの? そろそろ説明してよ!?」

 

 説明が難しいので見ればわかるから家に来いと連れてきたのに、見てもさっぱりわからなかったご様子。まぁ、わかんないか。俺もよくわかんないし。

 

「妹? 妹さん?」

「そう見える?」

「見えない」

 

 だろうね。似てないし。まぁ詩歌と似ているかと言われてもそんなに似てないけどな。

 

「えっと……」

 

 俺が説明しようとしたが、柿の種一粒を口に入れられる。かりかり。これは黙ってろということだろうか。

 

「先に自分から名乗るのが常識」

「くっ、生意気な……」

 

 俺を椅子にしてどっしりと構え、ふふんと余裕の表情の沙織ちゃんに対してぐぬぬと腕を組んで睨む小江野さん。大人げないな。この生意気なところがかわいいんじゃないか。しょうがないな、ここは大人の俺が助けてやろう。

 

「彼女は俺と同じ学校の学生で小江野さん。声優科なんだけど、もうお仕事をしてるんだよ」

 

 そうだそうだ、スゴイんだぞとでも言いたそうに豊かな胸を張った。紹介に満足いただけたようで良かった。

 

「ふーん。どんな仕事?」

「グラビアとか」

「なにそれ」

「水着とか着てえっちなポーズをする写真だね」

「変態じゃん。声優関係ないし」

「ああ、あとエロゲーの声もやってるって」

「エロゲーって何?」

「18歳未満の子供はプレイできないえっちなゲームだな」

「……変態じゃん」

「そうだね~」

 

 俺と沙織ちゃんが至近距離で話し合っていると背中を叩かれた。

 

「そうだね~、じゃないよね。誰が変態だって?」

 

 笑顔で怒るというのはこういうことなんですね。女優のほうが向いているのでは? セクシー女優にも向いていそうですが。

 

「大体ね、えっちな男の人のためには仕事しているかもしれないけど、自分はえっちじゃないから」

 

 ほう。ロリのために仕事しているけどロリじゃない俺と同じようなものなのか。そう思うと仲間だし、えっちな男のために働いてるということは俺がやりたかった事をやっているわけでむしろ尊敬するべきだな。神だな。

 

「じゃあ、えっちの女神ということで」

「は!? いきなり女神? 振り幅大きすぎない?」

 

 変態と言われて怒り、女神と言われても文句を言うのか。なんてワガママなんだ。

 

「で、えっちの女神は何しに来たの? えっちしに来たの?」

「えっ、そうだったのか?」

「ちっ、違うわよっ!? 小さな女の子の気持ちが知りたいんだって言ったよね!?」

 

 そう言えばそうだった。それで家に呼んだんだった。

 要するに沙織ちゃんに協力してもらうのが一番だろうからね。

 

「えっと……」

 

 俺が説明しようとしたが、柿の種一粒を口に入れられる。かりかり。なんでピーナッツはくれないんですかね。

 

「ぼくは変態の先生としての先生」

 

 そう説明した沙織ちゃんだが、小江野さんはちんぷんかんぷんという表情だ。そりゃそうだろう、俺もわからん。

 

「変態はいいよね」

「俺のことだな」

「なんで君は変態と呼ばれていることを認めているのよっ!?」

 

 ふうむ、考えたこともなかった。確かブラジャーを着けているかどうか聞いたときからそう呼ばれている気がしますが、官能小説家にとって変態は褒め言葉みたいなもんだしな。

 あと、その前はロリコン呼ばわりだったからマシだと思っちゃったんだよね。だって書いてる小説はロリものじゃないし。むしろ読者がロリなんだよなぁ……

 

「俺は沙織ちゃんが呼びたいように呼んでくれればいいんだ」

「いや、カッコよくないから……なんでキリッとしてんの」

「変態……変態さん……」

「いや、なんでそんなうっとりした目で見つめてんの? カッコよくないからね? 小さな女の子から変態呼ばわりされて喜んでるド変態じゃん」

 

 小江野さんはジトッとした半眼で俺たちを睨みつつ、嘆息した。ヤキモチかな?

 

「とにかく、沙織ちゃんからは、変態と呼ばれています」

「あぁ……そうなんだ……」

 

 どうやら残念な人だと思われたっぽいな。事実なんだからしょうがないだろう。同情するならえっちしてくれ。

 

「で、変態は先生。これもいいよね」

「え? 先生なの?」

「それも知らないの?」

「だって、学生だよ?」

「変態は白い鳥文庫から本を出している作家だよ?」

「え!? ええ!?」

 

 目を丸くする小江野さん。俺もちょっと驚く。沙織ちゃんが少し自慢げに語っているからだ。認めてくれたような気がして嬉しい。

 

「でも、インプットが足りないから頭打ちなワケ。そこでぼくが読書に関する手取り足取り、すなわち書生管理をしているということなの。わかった?」

 

 人差し指をふりふりしながら得意げに話す女子小学生に「いや、わかんないんですけど」というような表情で見ている声優の卵。

 

「沙織ちゃんは俺が書いてるようなレーベルの小説に詳しくって、しかも現役の女子小学生だからね。意見をもらったりしてるんだよ」

「ふーん、なるほどね」

 

 一応理解したのか、腕を組んで思案顔。

 

「そうなの」

 

 対する沙織ちゃんも腕を組んでしたり顔。なぜ張り合うの? なぜ腕を組むの? つけ麺屋同士が味でバトルしてるの?

 

「ってことは……この子に教えてもらえばいいのね」

「何? ぼくに何を教えて欲しいって?」

 

 ふたりとも、教えてもらう態度でも教えてあげる態度でもない。そして、更に小江野さんは表情と似合わないセリフを口にした。

 

「ねえ、女の子のこと、好き?」

 





なぜか書くのに時間がかかりました……別にラブプラスのせいではないです。
そして後書きを書くのにも……思いつかないなら書かなければいいのにね。
でも何も書かないと感想が少なくなるんだよね。
では、今からメイドインアビスの映画を見に行ってきます。


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百合という名のもとに手をつなぎ合う美少女たち

「女の子は好きだな! 特にえっちな子が!!」

「あんたには聞いてない!!」

 

 小江野さんからばしり、と背中にもみじを作られた。「何を言ってるの?」と言わんばかりの目つきだが、こちらのセリフだ。俺にならともかく、女子小学生に女の子が好きかと聞く方がおかしいのではないか?

 ん? あ、そうか。そういうことか!

 ピーンと来たね。

 

「わかった、つまり今度の仕事が女の子同士のやつなんだ」

「どうやらわかっちゃったみたいだね」

 

 小江野さんはわずかに微笑む。

 なるほどなるほど。今までの発言に合点がいったね。

 個人的にはそんなに好きじゃないけど、そういうジャンルもあるよな。

 

「でもさ、その話を沙織ちゃんにするのはちょっと早くないか?」

「え、あ~、やっぱりそうかな……」

 

 頬を人差し指で掻きながら、ちょっとバツの悪そうな顔をする。

 沙織ちゃんは無表情のまま俺たちのやり取りを静かに見守っていた。あげはちゃんと違って無垢な子なのだ、きっと言ってもわからないだろう。

 とはいえ、ちょっと話題が話題なので、俺は沙織ちゃんの頭を両手で挟むようにして耳を塞いだ。

 

「俺はレズものは好きじゃないんだけど、応援するよ、AVデビュー」

「な、な、なんでよっ!?」

「なんでかというと、やっぱり男優に自分を重ねるのがいいから男がいないとちょっと気持ちが乗らないというか」

「そういう理由を聞いてるんじゃないよっ!?」

 

 なぜか激昂する小江野さん。テレているのだろうか。恥ずかしさをごまかすために怒ったふりを? しかし男と出会ったその日にスリーサイズを教えるようなドスケベのくせに今更なぜ?

 

「なにその、きょとんとした顔……」

「いや、ここまで来て何を恥ずかしがっているのかな、と。いいじゃんAVだって。買うよ俺」

「か、買うんだ……へぇ……って、だから、違うんだって! なんで全部そういう発想になるの!? このエロ小説家!」

 

 褒められた。やったね。

 それにしても、レズビアンポルノじゃないとすると一体? 皆目検討もつかない。

 顔を真っ赤にした小江野さんとは対象的に、冷静極まりなく無表情な沙織ちゃんは俺の両手首を掴んでそっと外し、小江野さんの前に立つと、

 

「百合のお芝居をするってこと?」

 

 とおっしゃいました。どゆこと?

 

「そう! そうなの! さすがね~」

 

 小江野さんはポニーテールを揺らしながら大きく頷く。

 沙織ちゃんがさすがなのは同意なので、俺も頷いておく。名探偵みたいだもんね。

 

「今度オーディションを受けるアニメの原作が百合小説で、自分は女の子同士の恋愛をしたことがないからちょっとよくわからない……そんなところ?」

「うわ、すっご、まったくそのとおりっ!」

 

 小江野さんはそう言って、両手をぱちぱちとさせながら称賛をおくった。すごい、さすが名探偵沙織ちゃん!

 なるほどそうだったのか。だったら、さっさと言えばよくね? なぜ自白しなかったんだ、犯人は。

 

「お、女の子同士の恋愛とか、ちょっとわかんなくて。はは」

 

 よくわかんないのが恥ずかしかったのかな? 小さな女の子に教えを請う事を恥ずかしがっているようでは成長できないぞ。ソースは俺。

 

「いかにも男が好きそうだもんね、おっぱいは」

「ちょっ……そ、そういうわけでもないけどっ!? 好きな男性は画面の向こう側から出てこないから……」

 

 小江野さんは、その豊満なボディをくねくねとよじった。

 ふーむ。やはり声優を志す女の子はアニメに出てくるイケメンが好きなのか。

 官能小説を書いている俺が、活字で表される女性を魅力的だと思うように。

 好きな異性が空想上の生き物という意味では俺たちは同士かもしれないな。

 

「男好きという意味ではなくて、男性に好まれそうという意味だったのですが。主に体目的で」

「なっ……」

 

 沙織ちゃんのセリフを聞いた小江野さんは、くねくねを止めて自らのボディを守るように抱いて、頬を染めた。おそらく褒められて照れているのだろう。

 沙織ちゃんはいつもどおり無表情だが、若干ジト目な気もする。せっかく褒めたのに勘違いした鈍感女だからかな?

 

「じゃあ好かれる方じゃなくて好きになる方ってことか」

「あっ、あ、うん。そうそう!」

「……ですよね。ぼくとしたことが」

「え? え?」

 

 ドスケベボディだから男からはモテるだろうけど、女子から好かれるタイプじゃないからそっちの役で当然だな、という意味だな。言わないでおこう。

 

「それで、作品はなんという……?」

「えっとね。まだ情報解禁前だから内緒だよ? お稲荷様がみてる、っていう……」

「おいみて!? おいみてだとう!?」

 

 どうした!? 沙織ちゃんがいつもの沙織ちゃんじゃない! 初めてテンションが上がった状態をみた気がする。好きな作品なのだろう。

 

「ほほう、まだ二巻しか出ていないのにアニメ化ですか、やりますね。しかしながら作品の格からして映像化は必然。ぼくはアニメを見ることは出来ませんが、原作が脚光を浴びて続編やスピンオフが出ればそれで十分です。むしろ原作ファンとしてはイメージが崩れるのが嫌なので、みなくて全然いいのです」

 

 饒舌極まりない沙織ちゃんは、段々とテンションが落ちていく。やっぱり見たいんじゃないか。

 

「詳しいね! その主役のオーディションを受けたいの」

「あなたが? うかのみたまちゃんを?」

 

 少し上を向きつつ、顎をさすり、値踏みするように睨めつける。そして「ふぅ」と嘆息して首を横に振った。なんか見てるだけでぞくぞくするほど冷たい態度ですね。なんだか興奮してきました。

 

「な、なによー!? 私じゃ駄目っていうのー!?」

「そんなはしたない体で、みたまちゃんの声は無理でしょ」

「か、体は関係ないから!? 声優は声のお芝居だから!?」

「みたまちゃんは純真無垢なの。変態には無理」

「変態じゃないってば! 自分は純真無垢だってば!」

 

 さらりと短い髪を掻き上げる沙織ちゃん。超クール。

 うぐぐと涙目になる小江野さん。超哀れ。

 

「このままじゃ受からないと思ってるから頼みに来たんじゃん」

 

 じろっと目線を送られる。俺はそっと横を向いた。

 

「そもそも、ぼくにはメリットがない」

 

 そう言ってから、ぽすんと俺という座椅子に着席。おかえりなさいませ。

 つまりメリットがあれば協力するということだ。俺は沙織ちゃんの頭の上から、肩を落としている小江野さんにアイコンタクトを試みる。ウインクとかで通じるかな。

 

「……?」

 

 ぽけっとしていた小江野さんは、俺の顔をみて小首をかしげた。伝わらないのか。もう一度、片目を閉じる。

 

「……うん!」

 

 両手を使ってガッツポーズしながら、俺にウインクを返した。違うんだよ、俺は励ましてるわけじゃないんだよ。「頑張るね」みたいなアピールをして欲しかったわけじゃないんだよ。ポーズしたときにぷるんっとちょっとだけ大きな胸が弾んで見えるとかそういうのを求めていたわけじゃないんだよ。でも、このやり取りは小説に使えそうだから、心の中にメモっておきますね。メイちゃんにやらせようっと!

 

 それにしてもどうやって伝えようかと思ったが、別にこっそり伝える必要はないことに気づきました。

 

「あるよね? 作品のファンである沙織ちゃんにとってのメリット」

 

 俺がそう言うと、彼女は人差し指を顎に当てて目線を斜め上にした。

 

「う~ん。もし自分がキャスティングされたら、試写会に友人を連れて行くこともできるけど」

 

 ぴくっ。

 反応しているね、沙織ちゃん。

 短い髪から、シトラスの香りが鼻をくすぐる。ふわ~。

 

「アフレコ現場を見学とか」

 

 ぴくっ。

 反応しているよ、沙織ちゃんが。

 デニムのスカートが俺の股間をくすぐる。あひ~。

 

「ひょっとしたら原作者に会って、写真とかサインとか貰っちゃったり」

 

 がたっ。

 ついに俺という椅子から立ち上がった。ちょっとさみしい。

 

忍琴(おしごと)さん」

「えっ」

「ぼくのお友達の忍琴(おしごと)さん、オーディション合格のためにひと肌脱ぎましょう」

「う、うん! ありがと! さおりん!」

「さ、さおりん……」

「え? 嫌だった?」

「全然。お友達ですから。当然です」

「だよね~! よかった~」

 

 手と手を握り合う二人。なにやら友情が芽生えたようでよかったです。なんか3Pするときの女子たちみたいだな、なんてことは決して思っていない。





声優の卵でグラビア女優できるくらいナイスバディの18歳というハイスペックな女子を女子小学生達の刺身のツマみたいな扱いをしてくる感想欄って素敵ですね。

そんなわけで感想を手軽に送れる3択をご用意

1.「そんなことないよ小江野さんいいじゃん」
2.「そうだそうだ、もっとJSの出番ふやさんかい」
3.「そんなことよりアホな妹を出せ」



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禁断の関係を強制される妹

 

「変態」

「はいっ」

「すっかり調教されてんね……」

 

 沙織ちゃんから名を呼ばれて軍隊式の敬礼をした俺に、妙なことを言う小江野さん。

 これが調教だって?

 今度、調教というものがどういうものかきっちり教えてあげようか?

 沙織ちゃんは小江野さんの戯言などまったく気にもせず、

 

「清井真奈子と妹さんを呼んで」

 

 とご命令なされました。

 俺は心臓を捧げる戦士の如く、右手の拳を左胸に当てるのであります。

 

「サー、イエッサー」

 

 なんで? なんでその二人を呼ぶの、なんで? と思わなくもないが、沙織ちゃんに質問をするなどありえないことであります。早速架電するのであります。

 

「あ、詩歌?」

「兄貴? 何?」

 

 態度が冷たい。兄貴という呼び方からして、これは近くに友達がいるのだろう。そういやなんかデートとか言ってたな。

 

「今すぐ帰ってこい」

「はー!? ヤダよ」

「なんだと!? 沙織ちゃんの命令だぞ!?」

「……だから?」

 

 おいおい「だから?」だと!? 王様の言うことは絶対、沙織ちゃんの言うことも絶対というのが世界の常識だろ。……あれ? ひょっとして俺、調教されてない?

 

「今すぐ帰ってくるんだ、詩歌」

「ねえねえ、そんないいよ、いきなり今日じゃなくても。自分のために悪いよ」

 

 スマホを持っている右手の袖を引きながら、通話を邪魔しようとする声。

 

「小江野さんは黙ってて、関係ないんだから」

「えーっ、関係ないの!?」

 

 これは沙織ちゃんに対する俺の忠誠心が愚妹のせいで果たせないかもしれないという問題なんだよ!! ……あれ? やっぱり俺、調教されてるのか?

 

「ちょっと待ってお兄ちゃん、今の女の人はだれ」

「ん? 小江野さんのことか」

「誰なの。どういう関係」

「えっとな、俺の学校の学生でな」

「なっ……」

「声優科なんだが」

「せ、声優っ!?」

「グラビアなんかもやってるわけだが」

「ええ!? そ、そんな馬鹿な!? おっぱい大きいの!?」

「ん? ああ。そりゃもう」

 

 俺はタンクトップの盛り上がりを見ながら頷く。小江野さんは小首をかしげた。

 

「その人ってやっぱり、美人?」

 

 俺はタンクトップの盛り上がりから目線を少し上げる。

 

「美人だな」

 

 小江野さんはボシュっとやかんが音をたてて沸騰しているんじゃないかというくらいに瞬間的に顔を赤くした。通話中は通話相手以外にも声が聞こえているということを忘れがちだな。

 

「そんな人がなんで!? どんな状況!?」

 

 通話相手の妹は声のボリュームがどんどん上がっている。もはやデートの相手が隣にいることなど忘れているな、これは。やはり通話中は通話相手に集中してしまうのだろう。気持ちはわかる。

 

「経験不足を補うためにいろいろ教えてくれって言って、今うちにいる」

「今すぐ帰ります!!」

 

 通話が切れた。

 なんで小江野さんにそんなに興味があるんだ? おっぱいの大きな美人に憧れでもあるのかね。それとも声優という言葉に惹かれたとか?

 よくわからんが、帰ってくるならそれでいい。

 お次は、真奈子ちゃんだな。

 無料通話アプリを操作する。真奈子ちゃんのアイコンはメイちゃんになっている。ファンであることは嬉しいが、本人の写真の方がいいと思います。

 タップするとすぐに繋がった。

 

「はいっ、先生! あなたの真奈子です!」

「ちょっと今から来て欲し」「今すぐ行きます!」

 

 話が早い。女子小学生を家に呼ぶより、実の妹を家に帰させる方が難しいというのはどういうことなのか。やっぱり詩歌はおかしい。

 

「沙織ちゃん、二人とも召喚に成功しました」

「ん」

 

 命令通り遂行した報告が出来たぞ! やったね! 至福だね! 出来て当然すぎるから「ん」の一言だけなんだよね。ご苦労さまとかありがとうとか言われたり、頭を撫でられたりしたらそれはむしろ失礼だからっていう配慮なんだよね!

 感動でじ~んとしていると、

 

「ええっと、詩歌ちゃんっていうのは妹なんだよね。真奈子ちゃん、って誰なの?」

 

 とタンクトップ姿のポニーテールがまだ赤い顔で言った。当然の疑問だな。

 

「俺の妹の友達だな。小学六年生だ」

「あぁ、普通の関係なんだね」

 

 普通の関係ってなんだよ。まるで俺と沙織ちゃんは普通じゃない関係みたいじゃないか。

 おっと、沙織ちゃんが俺にちょろっと目線を送ってきた。ご命令だ。

 

「ん」

「お菓子のおかわりだね? 了解です!」

 

 梅しそ味の柿ピーをお皿に入れて渡すと、わずかに顎を引いて受け取った。

 美味しそうに食べているところを見守りつつ思う。

 あれ? 普通の関係じゃないかもしれないね!?

 俺と沙織ちゃんの関係はどんな感じだろう。

 お嬢様と執事? 姫と騎士とか? 神と使徒? 女王様とブタ? 

 そんなことを考えている数分の間に真奈子ちゃんが到着した。早い。愚妹は何をしているんだ。

 

「えっ、えっ、あの、は、はじめまして」

 

 玄関で行儀よく待っていた真奈子ちゃんをリビングに連れてきたら、小江野さんを見て驚いたようだった。そりゃそうか。真奈子ちゃんには何も説明していなかった。

 

「わ~、かわいい女の子」

 

 素直な感想を漏らす小江野さんと俺の顔を、真奈子ちゃんは交互に見ながら、

 

「あの、まさか、ひょっとして、彼女さんですか?」

 

 となぜかおどおどと不安そうに問うた。

 万が一そうだったらどうしよう、というような。

 まるで、囚われた姫が敵国から性的な命令をされているか確かめるかのようですね。

 こんな表情をされたら、さらっと「全然違うよ」と言えないぞ。

 

「おや、おやおや~」

 

 そんな庇護欲をそそられる真奈子ちゃんを見ているにも関わらず、面白いものを見つけたというような表情で、大きな胸を反らす小江野さん。君が敵の女幹部だったか。百合の主人公よりそういう役の方が似合いそうだぞ。

 

「安心して、真奈子ちゃん」

 

 悪のおっぱいポニーテールが、そっと聖女の肩に手を回す。ねっとりした言い方が上手いなあ。オーディション受ける役はやっぱり悪の女幹部にしたら?

 

「まだ、違うから」

 

 そう言ってからニヤリ、とねちっこい笑みを浮かべて見下ろす。

 真奈子ちゃんはギリッと眉毛を凛々しくしながら、悪を睨んだ。

 もう主人公は真奈子ちゃんがやったほうがいいんじゃないの? 誰がどう見ても正義と悪だよ?

 当然ながら俺と小江野さんは付き合っていないので、言っていることは何一つおかしくないのだが、なぜそんな変な役を演じているの? 

 

「ごめんね、真奈子ちゃん」

 

 小江野さんのおかしな態度も含めて俺が謝ると、肩に置かれていた手をばしっと払い除けてから表情を一変させて俺に近寄る。

 

「いいえっ、お会いできて嬉しいです」

 

 ぱああ……と表情がいつものような聖女の微笑みに変わった。この子にあんな顔をさせていた小江野さんは天性の悪魔なのかもしれん。

 

「ありがとね」

 

 感謝しながら、頭を撫でる。彼女は俺の小説の主人公であるメイドのメイちゃんにそっくりなだけに、俺もご主人さまのような気持ちになる。

 うっとりとした表情で目を細めるところもそっくりだ。

 頭を撫でるのはセーフだろうが、ご主人さまのようにご褒美と称していきなり挿入しないように気をつけないとな。

 

「むー」

 

 俺が紳士的に振る舞うように注意しているのに、なぜか俺を睨む小江野さん。なぜだ。まさか俺がうっかり挿入するんじゃないかと思って警戒しているのかな。だとしたらごめんね。

 

 どたどたどた

 

 廊下の方がやかましい。帰ってきたのかな。

 

 どかどかどか

 がたがたがた

 

 どうやら階段の上り下りをした模様。何をしているんだ、愚妹は。

 

「ハァハァ、お待たせしました」

 

 お待たせしすぎたのかもしれません、と続きそうな勢いでビデオカメラを肩に乗せてやってきたのは、もちろん中学1年生の実の妹である詩歌だ。当然だが全裸ではない。

 

「うわ! ほんとに美人でおっぱいデカい!?」

 

 出会っていきなりビデオカメラを向けながら、不躾なことを叫んだ。失礼だろ! いや、待てよ、これは褒め言葉だから失礼じゃないのかも知れない。逆に考えてみよう。俺が小江野さんの家に行ったら、小江野さんのお姉さんが俺を見るなり「わっ、イケメンだし、ちんぽ大きそう!?」と言ったらどう思うか。これは嬉しい。よって問題なし。なーんだ。

 

「か、変わった妹さんだね、あはは」

 

 妹から最上級に褒められたのに、乾いた笑いだった。まあ、普段から言われ慣れているのだろう。あれ? じゃあ、なんでさっき俺が言ったときは赤くなったんだ?

 ウチの妹は確かに変わっていると思う。

 

「で? で? 沙織ちゃんと真奈子ちゃんまでいるの? いいよ、いいよ、ビデオは回しておくから、イチャイチャしていいよ?」

「「え、ええ!?」」

 

 なぜか知らんが小江野さんに対して俺とイチャイチャしていいという。何を言っているんだコイツは。ビデオを回しておくからという理屈も意味がわからない。

 小江野さんだって当然意味不明すぎて驚いている。

 しかしまあ、なんだ。

 

「じゃあ、しよっか、イチャイチャ……」

「え、ええ!?」

 

 俺がちょっとだけ勇気を出して、小江野さんの顔をじっと見る。再度顔を真っ赤にさせる彼女を見ていると、イチャイチャしたくなってきますね……

 

「このバカちん!」

 

 腰の入った綺麗なローキックが俺のふくらはぎを打った。超痛え!?

 先程の声の主と蹴りはどうやら沙織ちゃんのようだ。なんだご褒美か……

 

「詩歌もバカ」

「えっ」

 

 バカ妹がバカと言われて動揺している。プークスクス。

 

「なんのために変態が詩歌を呼んだと思ってるの」

「へ? 沙織ちゃんが命令したからでしょ」

 

 うんうん。そのとおり。

 

「じゃあぼくが呼んだのはカメラマンとしてだと思う?」

「うーん? みんなでイチャイチャしてるところを見せつけるためじゃないの?」

「ち、違うよバカ!」

 

 激昂する沙織ちゃん。そりゃそうだ、イチャイチャしているところを見せつけるためにデート中の妹を呼び出す命令を出すわけないだろ。……いや、沙織ちゃんだったらありえるんじゃないかという気もしてきたぞ。

 っていうか、そうだとしたらなんで帰ってきたの? 自分がイチャイチャするのをキャンセルしてまで俺たちがイチャイチャするのを見に来るってどういうこと?

 

「ち、違うんですね……」

 

 真奈子ちゃんは、くねくねさせていた身体を動かすのを止めた。安心したのかな。みんなの中には自分も含まれているからだろうな……。

 っていうか、俺がイチャイチャ要員として呼んだとしたら超セクハラ野郎ということになるんじゃないの。そりゃマズいぞ。違うんだ、俺はただ沙織ちゃんの命令に従っていただけで自分の意志で行動していないんだ……それもどうかと思うけど……

 そう言えば、なんでこの二人を呼んだのかしらん。そういえば命令の理由を考えるのは放棄していたんだった。

 俺は沙織ちゃんの真意を汲み取るべく、顔を見る。

 

「みんな揃ったから、ぼくから説明するよ」

 

 沙織ちゃんはスリッパを脱いでソファーの上に立った。黒くて短い靴下が可愛い。

 

「イチャイチャするのは、ぼくたちじゃなくて、詩歌と真奈子」

 

 な、な、なんだってぇ~!?





あげはちゃんファンには申し訳ない。
さぁ、これからが本番だ!


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命令されるがままに行われる濃厚すぎる接吻

「真奈子」

「え。はい」

「あなたはもちろん、詩歌のことは好きよね」

「はいっ。先生の妹であるしーちゃん先輩のことは大好きです」

 

 真奈子ちゃんも調教されてないか?

 沙織ちゃん、恐るべし。

 

「詩歌」

「いつの間に呼び捨てに……」

「ビデオはこのおっぱいが撮っておくから、ぼくの演出に従って」

「命令によるけど」

「とりあえず、ソファーに座っておいてくれればいい」

「はぁ。おっけー」

 

 ソファーに深く腰掛ける詩歌。今日はツインテールである。デートだと言うことだったからか、水色のワンピースなどを着ており、めかしこんでいる。

 

「真奈子は隣に座って」

「はい」

 

 真奈子ちゃんは隣に座った。白いフリルのブラウスに、ネイビーのスカート。ソファーに座ると、膝がよく見えて夏のスカートの短さが強調される。

 

「おっぱい」

「は、はい」

 

 小江野さんもすっかり調教済み。もはやおっぱいと呼ばれることを当然のものとして受け入れている。わかる。俺も変態と呼ばれて久しいからね。

 

「ちゃんと撮影しておくこと。これはあなたのためなんだから」

「はい」

 

 詩歌の持っていたビデオカメラは、小江野さんに渡された。

 左にはふわふわの少し茶色いロングヘア、小学生にしてはやや発育のいい真奈子ちゃん。

 右はいつもと違っておしとやかにしている詩歌だ。

 

「さて、二人はお互いの太ももに手を置く」

 

 黙って従う二人。

 オラ、なんだかワクワクしてきたぞ!?

 

「そのままじっと見つめ合って」

 

 じーっと見つめ合う二人。

 時折、俺の方に目線が来るような気がするが。

 二人とも俺が見ていることなんか、気にしなければいいのに。

 

「そのまま、お互いに髪を触ってみて」

 

 妹たちは素直に命令に従う。

 なんだろうね、なんか健全なのに、なんかこう、いいね。

 

「匂いも嗅いでみて」

 

 妹のツインテールの片方の束を持って、くんくんと鼻を動かす真奈子ちゃん。

 

「あ、先生と同じ匂いがする……」

「シャンプー同じだからね」

「すぅはぁ、すぅはぁ」

 

 ツインテールを両方手にとって、ガンガン匂いを嗅ぎ始めた。

 片方が妹とはいえ、女の子同士がイチャイチャするのを見るというのはなかなか貴重な経験かもしれない。万札見せられながら三人でどうかと誘われてホテルにやってきた仲良しの二人みたいな感じですよね。片方は妹ですけど。

 

「はぁはぁ」

「はぁはぁ」

 

 匂いを嗅いでいるだけとは思えないほど興奮している真奈子ちゃん。匂いフェチなのかな。

 匂いを嗅がれているだけとは思えないほど興奮している詩歌。嗅がれて興奮ってなんだよ。こいつはやっぱりオカシイ。

 俺が妹の様子に困惑している間にも、沙織ちゃんは次なる指示を出す。

 

「視線でキスをして」

 

 ちょっとまって、視線でキスという表現、俺も小説に使いたいからメモるね。でもそれって女子小学生に伝わる言葉なの?

 二人はじっと見つめ合いながら、ときおり目を細めたり、首を傾けたりしている。伝わってるようですね。素晴らしいですね。たまに鼻先が触れ合うほど、ディープでねっとり濃厚ですよ。

 

「恋人繋ぎして」

 

 当然のごとく、おとなしく従う二人。ソファーの上で、見つめ合いながら、手を握りあっている。なんとも、美しさと淫靡さを併せ持つビジュアルだ。この指示を沙織ちゃんがしているというところがまた素晴らしい。これが汚い顔のおっさんの命令だったらと思うと……それはそれでいいな。

 

 小江野さんはカメラを向けながら、うはーとか、うほーとか言っている。百合がなんだかわかってきたのでしょうか。

 

「どう? 撮れてる?」

「いい感じかも」

 

 ディレクター沙織ちゃんが、カメラマン小江野さんに確認している。小江野さんから見ても、いい感じなんだね。諭吉を払えるんだね。

 

「じゃ、真奈子は詩歌をお姉さまと呼んで」

 

 ぴくり。

 

 真奈子ちゃんはわずかに頬を引きつらせている。どうしたのだろう。間違えて俺がとびっ子ローターのスイッチを押しちゃったとか? いや、そんなものは装着していないな。

 

「そ、それはちょっと」

 

 なぜか抵抗している。今まで信じられないほど盲目的に従ってきたのに、なんで? 調教が足りなかったのかな。洗脳が解けたのかな。

 ディレクターは腕を組んだ。とんとんと人差し指が動き、苛つきを表明している。おいおい、逆らうなんてとんでもないぞ。

 あわわわと内心で恐れていると、指の動きが止まる。

 

「逆でもいい」

「そうしましょう!」

 

 よくわからんが、沙織ちゃんの出した提案を真奈子ちゃんは承諾した。逆とは?

 

「じゃ、詩歌が真奈子にお姉さまって呼んで」

「えっ」

 

 さすがにそれはないだろう。詩歌も突然の突飛な命令に驚いたようだ。

 年齢としては一つしか違わないとはいえ、女子中学生が女子小学生をお姉さまと呼ぶなんて……

 

「そ、それって……それって……くううっ」

 

 と、何故か妹は嬉しそうに顔をほころばせ、

 

「ま、真奈子お姉さまっ」

 

 と呼んだ。なんでだよ。こいつのやる気スイッチはどこに付いてるの?

 

「ああ……愛しい妹、詩歌……妹の詩歌……」

 

 真奈子ちゃんはもはや女神のような慈愛をもって俺の妹を見る。どうしたの? お姉ちゃんに対する憧れでもあるの?

 

「真奈子……お姉さま……はうっ」

 

 なぜかうっとりとした表情になる詩歌。ほんとに芝居なの? 上手すぎない?

 

「妹……妹……義妹……」

 

 ぎまいって口に出して言う? そりゃ本当の姉妹ではないだろうけど。

 

「すごい……これが百合……」

 

 カメラマンも目を見開いている。確かになんかすごいよね。お稲荷様が見てるという作品は本当にこういうのなんですか? 俺は疑問符ばっかりで何もわかりませんが。

 

「詩歌……いもうと……ずうっとこうしたかった……」

「くううっ……」

 

 真奈子ちゃんは詩歌を愛おしそうに抱きしめ、詩歌は恍惚の表情を浮かべる。

 

「見てる……」

 

 真奈子ちゃんは俺たちの方を見て、そうつぶやく。そりゃ見てますよ。

 

「見られてる……」

 

 詩歌は目を閉じていた。視線を感じているのでしょうか。

 

「た、確かに、おいみてのセリフだけど……」

 

 目を見開いて、演出の沙織ちゃんが驚嘆していた。ってことはさっきの作品の中のセリフってことかな。見てるのは俺たちじゃなくてお稲荷様ってことなのかな。こうなってくると早く原作を読みたい。

 

「そうか、詩歌の姉になるってことは、そういうことか……」

 

 意味深なことを言いながら、顎を擦った。沙織ちゃん、そういうことって、どういうことなんですか? 三国志の桃園の誓いみたいに、義兄弟の契りを交わす感じで姉妹になるっていう設定の百合なんじゃないの? あくまで想像ですけど。早く原作を読みたい。

 

「しょうがない、じゃあぼくも……」

 

 おっと、沙織ちゃんが動いた。ゆっくりと二人に近づく。な、なんと三人になるんですか。そうか、しょうがないのか。しょうがないんじゃ、しょうがないな。

 

「詩歌を妹にするのは、ぼくだ」

「なっ……?」

 

 おっと、義姉妹の契りが三人になるのかと思ったら、どうやら詩歌を奪い合うみたいですね。

 そんなに妹にしたいですかね。実の兄としては複雑な気持ちですね。

 でも多分、そういうお話なんだろうな。どんな話だよ。早く原作を読ませてください。

 

「詩歌の姉の座はゆずりません」

 

 真剣な眼差しで沙織ちゃんを睨む、真奈子ちゃん。非常にレアな表情だ。

 

「す、すご。なんか本気に見えるんだけど」

 

 カメラを構えた声優志望もびっくりしている。ここまで本気で芝居をするとは思わなかった。これは芸の肥やしになるだろう。そういえばそういう目的だったな、これ。

 

「いいえ。彼女の姉になるのは、ぼく」

 

 沙織ちゃんは比較的、淡々と語る。まぁ、普段どおりの口調だ。ソファーに座っている二人の間に割り込んだ。そこは普通、詩歌の両脇に座って取り合うのが普通では? 大岡裁きを避けてるのかな?

 

「そんなに姉になりたいんですか」

「もちろん」

 

 バチバチと火花を散らす目線。腕ずくで妹を奪い合うような作品なの? 一触即発の雰囲気なんだけど。小さな女の子向けの百合小説にバトルシーンなんてあるの? 早く原作読ませてくれよマジで。

 あと、ほんとにこれお芝居なんですか? 二人とも声優デビュー出来るんじゃないですかね。

 蚊帳の外に置かれてしまった我が妹は、空気を読みつつ手を上げた。

 

「あの~」

「「あなたは黙ってて」」

 

 申し訳無さそうに、二人に声をかけた詩歌に対して、お前はすっこんでろとのこと。うちの妹を取り合っていたはずですが……。

 しゅーんと手を下げた詩歌の隣の二人は、同時に俺の方を向いた。

 

「先生」

「変態」

 

 二人の視線は俺の顔をまっすぐ見やる。その瞳は真剣そのもの。

 

「え? 俺?」

 

 なんかまたやっちゃいました? それとも、カメラ撮影に夢中の小江野さんの太ももをちらちら見てたのがバレたのでしょうか。仕方ないんだよ! さすがグラビアアイドルって感じなんだよ!!

 

「「どっちが姉に相応しいと思う!?」」

 

 ……いや、それは俺が決めることではないのでは……?

 なんで妹の姉を、俺が決めるのよ。

 待てよ?

 ひょっとして……ひょっとして……そうか。

 詩歌の、妹の姉ってことはつまり……

 

 俺にとっても、兄妹ということか!

 

 待て。

 まだだ。

 もう一つの可能性がある。

 

 それは……もちろん……

 兄妹じゃなくて……姉弟ということ!!

 

 つまり、どちらかが俺のお姉ちゃんになるという可能性!

 

 どちらかが俺のお姉ちゃんだと……

 

 最高かよ……

 





見てるのは私のお稲荷さんだ。

女子中学生が女子小学生をお姉さんって呼ぶなんて、と言いながら女子小学生を姉にしようとする専門学校生が主人公とは作者もびっくり。


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血の繋がらない姉弟たちの情事

「よし。それでは二人とも、覚悟はいいか」

「「はい」」

「俺のお姉ちゃんとして相応しいか、試させてもらう」

「「はい」」

「「って、ええ!?」」

 

 すごいハモリっぷりだ。

 ふわふわ茶髪ロングヘアーのお嬢様、グラマラス小学生の清井真奈子ちゃんと、黒髪ショートヘアでボーイッシュ、超低温スレンダーガールの網走沙織ちゃん。

 この二人のどちらが俺のお姉ちゃんに相応しいのか。

 その戦いの火蓋が今、切って落とされる!

 と脳内に野太い声のナレーションが流れるが、その二人にはそのテンションがまるで伝わっておらず、ぽけーっと呆気にとられている。

 プロレスみたいにリング入場から始めればよかった。

 

 困惑している二人を見て、俺も困惑してきたところで、妹がおずおずと手を挙げる。

 

「あのー。どっちが姉に相応しいと思うか聞いたのは、私の姉という意味で、お兄ちゃんの姉という意味じゃないんだけど」

「んなことはわかっている」

「じゃ、じゃあなんで……ひょっとして、私のために?」

「んなわけないだろ」

「んんっ」

 

 意味のわからない事を言う妹をツッコむ。喜んでいるように見えるが、喜ぶ要素がない。妹のことは考えても無駄だ。人間の理解を越えている。

 

「俺が言いたいことは」

 

 何を言うのかと身を乗り出す小学生の二人。顔は真剣そのもの。それほどまでに詩歌の姉になりたいのか。変な妹なのに。

 

「詩歌の姉に相応しいのは、俺のお姉ちゃんとしても相応しい方ということだ」

 

 眉毛をキリッと上げて、シャキーンと本気の顔を見せる。俺は本気なんだ。俺はマジで女子小学生の弟になりたいんだ。もちろん個人的な願望ではない。女児向け作家としての職業的な成長のためである。

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 巨乳すぎるカメラマンが手を上げた。そこまで大きくはないのかもしれないが、女子小学生の身体を見慣れてしまったので。

 

「だったら自分もやる」

「「なっ!?」」

 

 小江野さんの提案にどよめく小さな女の子たち。なぜそんな提案を。そんなにうちの愚妹を妹にしたいのですか?

 

「オーディションを受けるのは自分だから、その練習」

 

 そういえばそうだった。そういう理由なら納得だ。

 真奈子ちゃんと沙織ちゃんは顔を見合わせると、一度頷きあってから、がっちりと握手をした。いつの間にか仲良くなったぞ。女の子たちの気持ちはよくわからないな。やはりもっと調査が必要だ。

 

「はいっ! はいっ! 先生!」

 

 突如、小学生のように手を上げる真奈子ちゃん。いや、正真正銘の小学生なのだが。授業中みたいですね。

 

「はい、清井さん」

 

 俺は教師もののアダルトビデオのように、下手くそな演技で真奈子ちゃんの発言を許可する。

 

「先生の本名はなんですか。しーちゃん先輩は教えてくれないんですっ」

「そういえば変態の名前は知らなかった」

 

 ふむ。そういえば教えていなかった。作家としては本名など知られても面白くないが、このタイミングであれば答えざるを得ない。兄のことをお兄ちゃんと呼ぶことはあっても、弟のことと弟ちゃんとは呼ばないからだ。つまり、姉を演じるために必要な情報なのだ。

 俺ももともとはエロゲーを本名でプレイするタイプ。ここは恥ずかしがらずに、答えるべきだろう。

 

「賢者と書いてさかひさだよ。ね、東方賢者(ひがしかたさかひさ)くん」

「なんで小江野さんが言っちゃうの!?」

 

 驚く俺。せっかく俺が気合を入れたのに。

 俺は自分の名前が恥ずかしいのだ。だって賢者だよ? 賢者モードだよ? 毎朝ヌイてから学校行ってるみたいだよね?

 詩歌なんて勉強全然しなくても楽しく生きればいいじゃんって感じの名前で羨ましい。

 

「ちっ」

「……ちっ」

「はぁ、はぁ、んっ、んっ」

 

 えっ、今舌打ちした? 沙織ちゃんだけじゃなくて真奈子ちゃんも舌打ちした? そんなに俺のツッコミ下手だった?

 

「そりゃ同じ学校だから知ってるよ……むしろペンネームを知らないんだけど。先生とか変態とかしか言ってないし」

 

 そういやそうだった。

 

四十八手足(よそやてあし)よ」

四十八(しじゅうはち)に手足でよそやてあし先生です。4本の手足じゃとても書けないくらい沢山の小説を書くという意気込みに溢れた素敵なお名前なんです」

「へー、そうだったの!?」

 

 えっ、そうだったの!?

 小江野さんより俺のほうが驚きだよ。そんなふうに思ってたんだ。いい名前だなー。俺はふざけて付けたつもりの筆名なのになー。手はともかく、足じゃ書けないけどなー。

 

「じゃあ、私から……」

 

 トップバッターは真奈子ちゃんらしい。沙織ちゃんは無言で頷く。沙織ちゃんがそれでいいのなら、それでいいのだろう。小江野さんも特に異論はない様子。

 

「では、こほん」

 

 これからお芝居に入るぞ、という意思表示の咳払いであろう。可愛らしいなあ。

 

賢者(さかひさ)くん、おいで」

 

 ソファーに深く腰掛け、俺においでおいでをする。うーん、これが姉なのか……。

 

 とりあえず隣に座る。なんかキャバクラ的な緊張感があるが、気のせいだろう。隣りにいるのはドレスを着たお姉さんではなく、女子小学生だ。

 

賢者(さかひさ)くんは、面白い小説をいっぱい書いて、偉いね」

 

 なでなで。

 頭を撫でられる。

 あぁ……

 俺がアンデッドだったら浄化されてしまうところだ。

 なんということだ、姉がいたらこんな感じなのか。あまりにも嬉しすぎて死にそうだ。しかしここは、弟らしさを出したいところ。

 

「そんなことねえよ。たいして面白くもないし、偉くもない」

 

 ぶっきらぼうに言ってみる。微塵も思っていない。

 

「んーん。そんなことあるよ。とっても面白いし、偉いよ。お姉ちゃんの自慢の弟なんだから」

 

 そして、頭はふとももの上に。いわゆる膝枕状態で、頭を撫でられる。あー、なんてこった。弟ってのはこんなに幸せなのか。そして女子小学生っていうのはこんなに甘えられる存在だったのか。マジ天使。

 その態度を表してしまったらおしまいなので、俺はあえてふてくされることにする。

 

「嘘だね。どうせ口だけなんだ」

 

 うわー。むかつく弟だぜ。俺だったら殴るね。しかしスラスラとセリフが出てくるあたり俺はさすが小説家だね。今度おねショタものに挑戦してみようね。

 

「ほんとだよ~。お姉ちゃんはね、賢者(さかひさ)くんの小説がだぁ~い好きなんだよ~。初めて読んだときから、大好きで、もう何度も何度も読んでるんだよ」

「ほんとかな」

「ほんとほんと」

 

 やっべー。もう死んでもいいね。口がにやけすぎて液状化して顔が無くなりそうです。本名を教えてよかった……

 

「な、なんというお姉ちゃんっぷり」

 

 声優科の小江野さんが驚くほどの演技力であるようだ。そりゃそうだ、俺はもう延長料金を払う気満々だ。世の中に借金が無くならない理由が今理解できたね。

 

「そんなもんでしょ。次は僕」

 

 おっともう終わり? 回転早いね? ってキャバクラじゃなかった。

 今度は沙織ちゃんがお姉ちゃんらしい。楽しみだなあ。

 どれだけ甘やかしてくれるのかと思ったら、やおら沙織ちゃんはソファーにうつ伏せに寝そべった。俺が座る余地はない。

 

賢者(さかひさ)ー。コーラ持ってきてー」

 

 リアル!?

 妹が買った雑誌なんかをなんとなしに見てる感じが超リアル。

 これはいわゆるリアル姉パターン。実際に姉のいる弟に聞くと姉ちゃんなんてそんないいもんじゃねえってとか言うやつらが言うエピソードの一つ。弟使いが荒いお姉ちゃんというやつだ!

 デニムのミニスカートから覗く長い素足が目に眩しく、ぴこぴこと無駄に上下に動かすところから目が離せない。

 

「あいよ、姉貴」

 

 何気なく言ったが、なんかいいぞ!? 女子小学生に姉貴とか言っちゃうのいいぞ!? 忠実なしもべとしての喜びを感じつつ、冷蔵庫とソファーを往復。

 

「ん」

 

 ありがとうとかお礼をすることはなく、ストローをずちゅーと吸う。ある意味普段どおりの沙織ちゃんなんだが、姉だと思うと気分が違いますね。

 

賢者(さかひさ)、マッサージして」

「へっ」

 

 当然だが、俺は妹にマッサージを依頼したりしない。

 そして沙織ちゃんは俺にお願いなんかしない。命令したほうが早いからね。

 しかし姉は弟に頼むものなのだろうか。

 沙織ちゃんがあまりにも自然な態度なので、姉とはそういうものだという気がしてくる。

 どこから揉んでいくか……胸、は無いから揉めない……ソファーの上で足をぴこぴこさせているところからすると足からやれということかもしれない。

 

「しょうがねえなあ」

 

 一応、弟っぽいことを言ってみる。

 はっきりいってしょうがないどころか全然やぶさかでない。

 

「ん」

 

 上を向いたまま止まった足を手に取る。小さい。

 足の裏からじっくりと指で押していく。

 

「……」

 

 なんと無言。

 まぁまぁ強めに押しているのだが、「痛っ!? 初めてなんだから優しくしてよぉ」とか「んっ……あっ……気持ちいい……もっと、もっとぉ」みたいな、いわゆるえっちと勘違いするようなセリフは出てこない。さすが沙織ちゃんだ。

 続いてふくらはぎを揉んでいく。

 まーなんともすべすべしていて、無駄な肉がないけど柔らかい。今度は弱めに、ソフトタッチだ。

 

「……」

 

 やはり無言。

 聞こえてくるのは、ぺらりぺらりという雑誌をめくる音と、俺と沙織ちゃん以外の三人が固唾を呑んでいる音だけ。

 ふくらはぎを揉み終わったので、指先だけのフェザータッチで膝裏をなぞる。

 もはや揉んでいないのだが、「ちょっ……なんか、触り方が、え、えっちっぽい……」などとは言わないのだ。さすが沙織ちゃんです。

 

「なるほど……」

 

 必死にメモをとる小江野さん。確かにリアルな姉としての完成度が高いとは思うが、無言の芝居なので声優として活かすのは難しいだろうな。勉強熱心なのかアホの子なのか……なんとなくどっちもな気がする。

 次はお待ちかねのふとももだ。

 片足を取って、ソファーに座り、膝を立たせてから太ももを身体に引き寄せると、とうぜんながらデニムのミニスカートがぱかっと開く。

 ま、やっぱり無言で見せてくれるのだろうし、とりあえず後学のためにチェックしておこう。女子小学生向けの小説を書く仕事をするからには、生の女子小学生のぱんつは見ておくべきだ。

 

「見んなバカ」

 

 げしっと素足で顔を蹴られた。なるほど、ここは蹴りが正解か!

 弟にぱんつなんて見られたってなんともないから、黙ってると思っていた俺はなんと浅はかなのだ。

 あっさりぱんつを見せてくれる姉より、「見んなバカ」と言って顔を蹴ってくる姉の方がいいに決まっている。

 

「な、なるほど……」

 

 小江野さんも感心している。やはりわかりますか。この素晴らしさが。

 

「え、何を見ようとしたの?」

 

 妹に質問する真奈子ちゃん。教えなくていいぞ。

 

「え? ぱんつ?」

 

 教えちゃったよ。なんで教えてんだよこの愚妹が。

 

「お姉ちゃんが見せてあげようか?」

 

 見せてくれるのかよ。さすが真奈子ちゃん! よくぞ教えた我が妹よ!

 

「見んなバカ」

 

 なるほど! さすが沙織ちゃん! もう一度蹴られてラッキー!

 さて、この二人ともが全然違いながらそれぞれに最高の姉だったことを受けて、曲がりなりにも声優志望はどんな演技をみせてくれるのか。

 

 小江野さんは遠くを見ながら「ごくっ」っと音を立てて喉を鳴らした。誰の目にも明らかなくらいに緊張しているようだ。大丈夫かよ……。

 





お気づきかもしれませんが、筆者には女姉弟がいません。
JSの姉さえいればいい、の気持ちで書きましたね。
このお題ならいくらでも書けそうな気がします。

次回予告

女子小学生二人の演技に影響を受けた声優志望の小江野忍琴は、負けてなるものかと出来る限りのお姉ちゃんっぷりを発揮する。しかし彼女はグラビアアイドルとして活躍できる身体であることを自覚していない……!

女子小学生に浪漫の嵐!
(新サクラ大戦をクリアしました)


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ぎこちない手つきの姉はスキンシップが過剰すぎる

 

「さ、賢者(さかひさ)! こっち来なさい」

 

 小江野さんの姉の演技が始まったようだ。なぜか素人の女子小学生よりも遥かに不自然な気がするが。

 

「ん~? なぁに~?」

 

 しかも、俺の演技が上達している気がする。おねショタもののAVで男優としてデビューしようかな。

 

「えっと、えっと、ひざ枕してあげる」

 

 下手くそか。

 大体、それは真奈子ちゃんがやったじゃない。パクリ?

 そもそも、真奈子ちゃんは自然にそこまで持っていったけど、いきなりひざ枕してあげるなんて姉弟で言い出したらオカシイだろ。

 例えば仮に、詩歌がそんないきなりひざ枕してあげるなんてことを言ったとして……俺がされるかって話だよ。あれ? おとなしく言うことを聞くな。あながちおかしくないのか。

 

「されてあげよう」

 

 だからといって「わぁいありがとう! さかひさ、ひざ枕大好き!」とか言うのは我ながらキモいにもほどがあるので、先程までと同様、俺の中での弟を演じることにする。まったくしょうがねえな姉ちゃんは、みたいなキャラである。正直羨ましい。

 小江野さんはソファーの右端に座ったので、俺の向きとしては彼女のお腹を見る形になる。左頬に神経が集中されていくね。

 

「わわわわ」

 

 言うことを聞いただけなのに、慌てふためくとかおかしな話だ。

 とりあえず、頭の位置の具合が悪いという素振りで頬を太ももになでつけたり、手で太ももを触ったり、しておこう。もぞもぞ。ぺたぺた。

 

「ううう」

 

 ふーむ、姉の演技が足りてないな。こんな日常的に行われていることでいちいち反応しすぎなんだよ。もぞもぞ。ぺたぺた。くんかくんか。

 

「むむむっ」

「くっくくっ」

 

 なぜか真奈子ちゃんと沙織ちゃんが反応したような……いや、気にするな。俺は今、小江野さんの弟であることに全力を注ぐべきなんだ。ここで手を抜くことは三人に対して失礼だと言わざるを得ない。まぁこの場にはもう一人いるけれど……

 

「んっ、んんっ、ハァハァ……うんっ、ひううっ」

 

 ……いや、気にするな。俺は今、小江野さんの弟であることに全力を注ぐべきなんだ。俺に妹などいない。

 それにしても、太ももがむっちむちである。やはり小学生とは全然違う。さすが声優だ。いや声優関係ないな、さすがグラビアアイドルだ。

 ……ちょっと膝を曲げよう……

 その動きの意味に気づいたかどうかわからないが、右耳に軽く吐息がかかるように言葉が降ってくる。

 

賢者(さかひさ)さ、えっと~、なにか困ってることとかある?」

 

 なんと。小江野姉は弟の悩みを聞いてくれるのか。

 ズボンがテントを張ってしまって困っている。なんて言えないよ絶対。

 ここは無難なコメントにしておこう。

 

「うーん、次の小説のネタに困ってる、かな」

「そ、そうなんだ~」

 

 ……え? そんだけ?

 マジカヨ、と思って顔を見上げようとするが見えない。

 下乳しか見えない。

 仕方がないから見るしか無い。本当は顔を見たいんだけど、まったくしょうがねえなあ……

 

「え、えっと~、よしよし」

 

 ド下手くそ!

 真奈子ちゃんの何を学んでいたんだ。この流れで頭を撫でられたところで……

 

 !?

 

 下乳が押し寄せてくる……!?

 そして何も見えなくなった……暗闇がこんなに嬉しいものだったとは……柔らかい……温かい……優しい……これが、これがお姉ちゃん、なのか……

 

「よしよし、いいんだよ~」

 

 いいのか……マジか……いいんだ……頭を撫でられていると、何もかもどうでもよくなっていく……言葉で精神的に癒やしてくれた真奈子ちゃんとは、まったく別のアプローチ。肉体的な癒やしというものが、この世にはあったんだな……

 

「そ、そうだ、お姉ちゃんがマッサージしてあげるね~」

 

 おお……そうきたか……若干沙織ちゃんのパクリだが、するのとされるのはむしろ逆だ。別物かもしれない。

 優しく頭を上げられると、そのまま肩を揉んできた。

 肉体的にというよりも精神的に癒やされますね。

 そのまま腕も揉まれる。いいですね。

 そして手首の方へ移動していき……

 

 !?

 

 肩になにやら素敵な感触が!

 顔もいいけど、肩もいいねえ。

 

「ど、どう? 気持ちいい?」

「……めっちゃ気持ちいい」

「そっか、よかった」

 

 うーん、素晴らしき哉、姉弟。

 でも全然言い方が姉っぽくない。素じゃん。

 この状況、みんなはどう思っているのか……テントに気づいてないだろうかと、様子を見る。

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

「く、くく……」

「く、くちゅくちゅ……」

 

 ふうむ、この癒やしの空間にいるとは思えない反応……これは声優志望なのに演技の出来ないポンコツっぷりに遺憾の意を表しているのだろうか。とりあえず俺の股間を凝視したりはしてないようです。そりゃそうか。

 

「あ!」

「え、痛かった? ごめん」

「いや、そうじゃなくて」

 

 突如として、太ももの付け根を揉まれたので思わず声が。

 強引にテントをつぶされる痛みが心地よい。そして背中でクッションをつぶす感触も最高だ。

 

「も、もっと」

「あ、うん、おっけー」

 

 ああ、これが。これがリンパマッサージ……リンパが……リンパがね、リンパ―!

 

「はい、もう、おしまい」

「小江野さん……長いですよ」

 

 女子小学生たちは明らかに怒気を含んだ声で、リンパマッサージをやめさせた。やっぱりリンパなんて言葉じゃ騙されないんだね。みんなやってることなんですよ?

 

「さて、次は私の番か」

 

 すっくと立ち上がる、詩歌。

 

「いや、キミは違うだろ」

「なに言ってるの」

「あんたはいいから」

 

 すぐさまツッコミが入った。あぶねー、妹が姉になることをあまり不思議に感じていなかった。

 そんなことよりさっきから真奈子ちゃんがちょっと怖くない? そんな変な女でもあなたの先輩だよ?

 

「くっ……ちょっとトイレ……いや、やっぱお風呂」

 

 ええ……なにその水回りの選び方……どっちでもいいことないだろ……風呂でするのはやめてくれよ……。

 心配な俺を置いて妹は、姉選び選手権から離脱した。まぁそもそもノミネートされていませんが。なんでいきなりボケたんだろ。

 というわけで、姉候補全員の演技が終了したことになる。

 

「で?」

 

 説明するまでもなく、これは沙織ちゃんのセリフである。

 

「えっと~、それぞれみんな良かったと思うな」

 

 うんうん。俺は素直で正直な感想を述べた。

 

「で?」

 

 説明しよう。これは真奈子ちゃんのセリフである。

 

「全員、俺の姉に相応しいと言えるだろう……」

 

 ふむふむ。俺はこういうときの選択肢を間違えない男だ。こういうときは、選ばない。それが正解。

 

「えっと……ありがとう?」

「「そこは、で? でしょ」」

「ひーん!?」

 

 うむうむ。こういうときの選択肢を間違えちゃうのが小江野さんだ。小学生にツッコミを入れられて半泣きである。でもここでバラエティのノリを要求する? 詩歌がボケたから?

 

「「賢者(さかひさ)」」

「はひっ!?」

「「どっちが姉に相応しいの?」」

 

 はうう……なんでこの二人こんなにグイグイくるの? 俺は選択しないという選択をしたのに……。

 

「え、えっと、自分という可能性もあるのでは……」

「「は?」」

「ご、ごめんなさい……」

 

 哀れなり、小江野さん。まぁ、明らかにド素人の小学生に演技力で負けていたのだ。声優への道は遠い……。

 

「「……」」

 

 無言の圧力。この状況でどちらかを選ぶことなどできるだろうか。いや、できない(反語)

 

「フ、フッフッフ……」

 

 俺は出来うる限りふてぶてしく、腕を組んで目を閉じ、にやりと笑う。

 

「合格だ」

 

 片目だけを開けて、肩をすくめる。我ながら、芝居がかっているにもほどがある演出ですね。しかしここで大事なのは雰囲気なんです。

 案の定、三人ともどういうことなのかと思案顔だ。

 

「みんな合格だよ。みんな俺の姉に相応しい」

 

 そう、そもそも一人にする必要など無いのだ。姉が三人いる。まったく問題なし。むしろ多いに越したことはない。

 AVだって一対一より、3Pの方がいいし、4Pだったら尚良い。そう考えている。

 

「三人とも、詩歌の姉に相応しいよ」

 

 キラーン。

 俺は歯を輝かせて笑った。(想像上の演出です)

 

「……」

 

 あれ?

 

「……」

 

 なんで二人とも、そんなジトッとした目をしているの?

 

「や、やったー。自分も合格だー。やったー」

 

 助けてもらってなんですけれど、なぜキミはそんなに芝居が下手なの? うちの学校の声優科は何を教えているの?

 この空気、なんとかせねば。

 俺はコホンとわざとらしく咳払いをしてから、

 

「俺はね、真奈子ちゃんみたいな優しいお姉ちゃんも好きだし」

「好き!?」

「沙織ちゃんは本当の家族みたいだったし」

「ほ、本当の家族!?」

「小江野さんのように残念な姉も悪くない」

「残念!?」

「みんな、それぞれの良さがあるし、みんな素敵だったよ」

 

 うんうん。みんな違ってみんないい。優劣など、つけられるはずもありません。

 

「そ、そういうことなら……」

 

 髪をいじいじしながら嬉しそうに微笑む真奈子ちゃん。うんうん。

 

「まぁ、いいけど……」

 

 ぎゅっと肩を抱いているが、顔がほころんでいる沙織ちゃん。うんうん。

 

「ざ、残念……」

 

 ぽけっとしている小江野さん。おそらく嬉しすぎて放心しているのだろう。うんうん。演技は残念だったけど、姉としては魅力的だよ。主に身体的な意味で。

 

忍琴(おしごと)さん、良かったね」

「まなちん……」

「ま、まなちん? えっと、先生の言うとおりだよ」

「自分にも良さがあるかな」

 

 早くも姉妹愛が垣間見える、真奈子ちゃんと小江野さん。

 

「うん、残念さではとても敵わない」

「……さおりん……?」

 

 沙織ちゃんともすっかり仲良しだね。よかったよかった。

 

「じゃあ、小江野さん、オーディション頑張って」

「うん。……うん? いやいやいや、弟がいるお姉ちゃん役じゃないんだけど?」

 

 どうやら気づいたようです。俺もすっかり忘れていました。

 

「しーちゃんだっけ。彼女はどこに……」

 

 探しに行こうとする小江野さんを、片手で静止する沙織ちゃん。

 

「いや、詩歌は妹に向いてない」

 

 俺の実妹なのに妹に向いていないと言われてしまうとは。でも俺も向いてないような気はしていました。

 

「だから、真奈子を妹にしなさい」

 

 なるほど。確かに真奈子ちゃんは俺の妹よりも遥かに、妹に向いている。さすが沙織ちゃんだ。

 

 





劇場版SHIROBAKOを見てきました。最高でしたね。
この小説も同じお仕事モノとして、頑張らないと。(全然違う)

次回予告

百合とはなにか。
それを知るディレクターの網走沙織は、発育のいい二人に容赦ないカラミを要求する。
純粋すぎる清井真奈子は、どんな要求でもNG無し。
自分のオーディションのために懸命な二人に対し、小江野忍琴がノーといえるわけもなく……

ドンドン親子丼、ドーンとイこう!(最低だな)


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ベッドの上で激しく出し入れ

 

「じゃ、始めて」

「始めて、と言われても……」

 

 沙織ちゃんが始めろと言っているのに、ただまごまごするばかりの小江野さん。そんなことで声優が務まるとでも?

 俺たちはリビングから移動して、現在は俺と詩歌の部屋だ。

 俺のベッドの上に小江野さんと沙織ちゃんが座っている状況。ここで始めろと言われたらそりゃあ……おっぱじめるしかないでしょう。え? 何を? よく考えたら俺も小江野さんと一緒で困惑です。

 

「姉妹なんていないし……」

「は? バカなの?」

 

 大きな胸の割に情けない顔をしている相手に対して、容赦のないセリフ。沙織ちゃんの方が声優に向いているのでは?

 そしてまた、これから何が始まるのかさっぱりわからない状況でありながら少しも動じることなく、ただ微笑を称えている真奈子ちゃんも大物の予感。

 しかし実の妹がいる俺でもこの状況でどうしていいかなんてわかりませんが。妹とベッドの上でやることって何?

 

「姉妹とかどうでもいいでしょ」

 

 なんと、どうでもよかった。

 そうだそうだ、当然だという顔で俺も頷いているが、本心は小江野さんと同様に動揺している。DOすんだYO!

 

「女の子を好きになった女の子の役を演じるんでしょ?」

「あ、そうだった」

 

 おお、そういやそうだったな。好きな女の子同士が義理の姉妹になるという話なだけだ。

 単純に好きな相手とベッドの上で何をしたいかということだ。うーん、なんでしょう? 官能小説家の俺には検討もつかないな。

 

「真奈子を好きな人だと思って、始めて」

「うーん、そう言われても……」

「なに? まさか男も好きになったことないとか?」

「いやっ、そのっ、なくはないけど……」

 

 両手の指をくっつけて恥ずかしがる小江野さん。

 それを冷ややかに見つめ、失笑する沙織ちゃん。

 そのやりとりを、菩薩のように見守る真奈子ちゃん。

 俺はなんとなく腕を組んで考える素振りを見せるが、何も考えていない。ふーむ……。

 

「ま、真奈子ちゃんはどうかな。好きな人いるのかな?」

「いますよ」

 

 即答だ。

 小江野さんはちょっとだけ驚きつつも、助かったと安堵を示している。

 

「じゃあその好きな人としたいことを、自分にもしてくれるかな」

「はい、わかりました」

 

 素直だなあ。いい子だなあ。

 そんな真奈子ちゃんは、好きな人に何をするんだろう。

 

「じゃ、舌を出してください」

「へ? 舌?」

 

 小江野さんは、検討もつかないことを言われた困惑しつつも、んべっと舌を出した。ふーむ、グラビアアイドルが舌を出すとなんかこうスゴイですねぇ……。

 それにしても舌なんか出させていったいぜんたいどうするつもり? ふえぇ、ぼくは児童向けの小説家だからこんなとき顔射くらいしか思いつかないよぉ……。

 

「ぺろ」

「んん!?」

 

 舌を舐められた発育のいい女の子は、驚きのあまり刮目した。まぁそうだよね。俺もなにかに目覚めそうです。

 一方、網走プロデューサーは当然のことが起きただけという態度でなんということもなく目を閉じた。これは予測の範疇なんですね? 敏腕すぎますよ。

 

「ぺろぺろ」

「あ、ああ……」

 

 ああ……女子小学生から一方的に舌を舐められるとこうなるのか………小江野さんはベッドの上でぺたんと座ったまま、出した舌を引っ込めることもなく、ただただ呆然としているばかりだ。

 全身から力が抜けて、どこか遠くを見ている。

 おそらく生まれて初めての経験なのだろう。

 俺が初めて舌を舐められたときはびっくりしたものだ。

 

「ぺろ、ちゅっ」

「んん……」

 

 ちょっと舌を吸っただけ。

 吸っただけなんですね。

 真奈子ちゃんはあのときも舌を舐めただけのことだとあっさり言っていたが、今回も初対面の年上の同性相手に平然としたものだ。

 あのときはなんかドキドキした、と言っていたが……今は淡々と、事務的に。本当に舌を舐めているだけ、吸っているだけという感じ。

 沙織ちゃんは静観しているし、小江野さんもされるがままだ。

 ふーむ、舌を舐めあうという行為をキスよりエロいと思っているのはこの世で俺だけなのかもしれない。

 

「れろれろ」

「ああ……」

 

 舌を絡ませただけ。

 絡ませただけですよ。

 焦るんじゃない。

 俺はただ、美少女たちが舌を絡ませてるのを見ているだけだ。

 そんな冷静を装う俺の隣から、困惑の声が。

 

「やりすぎ、のような気が」

「やっぱり!?」

 

 網走ディレクターの意見に賛同です!

 うすうすそうじゃないかと思っていましたが、それを言えずにいました!

 さすが沙織ちゃんだ! 俺の言えないことを平然と言ってのける!

 

「真奈子ちゃん、ストップストップ」

「はへ」

 

 真奈子ちゃんは、舌をしまうと口の周りをハンカチで拭いた。

 小江野さんは、舌を出したまま放心状態だ。遅すぎたんだ!

 

「小江野さーん! 小江野さーん!」

「はっ……自分は一体……」

 

 背中をぽんぽんと叩いてあげたら、なんとか目に光が戻った。あぶねー、あやうく昇天してしまうところだった。

 しかし、ここまでの状態にしてしまう真奈子ちゃん、おそるべし……。

 完全に事後という状態の二人を見た沙織ちゃんは、ふむんと息を漏らす。

 

「正直なところ、ぼくが読んでる小説にこういうシーンはなかった」

「だよね」

 

 あったらやばいよね。俺が言うのもなんだけどね。こういうシーンばっかり書いてるけどね。

 

「でも……なんかイイ気がする」

「えっ」

 

 驚いて沙織ちゃんの顔を覗き込むと、少し頬を赤らめている。沙織ちゃん? 目覚めちゃったの?

 

「それで……わかったの?」

「へっ!?」

 

 沙織ちゃんの質問に答えられない小江野さん。何をやっているんだまったく。それで、なんのことなんでしょうね。

 

「真奈子が好きな人としたいことをしてみて、とリクエストしたのはおっぱいでしょ」

「あ、うん。そうだね」

「……」

 

 無言で見つめる沙織ちゃんだが……

 

「えっと、よくわかんなかった……あはは」

 

 笑ってごまかすとはなかなかやるね。俺には無理。

 

「……」

「あはは……ごめんなさい」

 

 ごまかせなかったようだ。やっぱりね。

 

「うーん、なんていうか、男の子ともしたことないことだったから、違いがわかんないっていうか……」

「じゃ、変態と同じことしたら」

「え!?」

「ええ!?」

 

 沙織ちゃんの命令は絶対とはいえ、それはヤバいのでは!?

 いや、それよりも。

 

「小江野さんは、嫌だろう……」

 

 俺と舌を絡ませたいと思うわけがない。

 諭吉を三枚ほど渡してようやくってところじゃないだろうか。ホテル代、別で。

 

「うう……」

 

 目をぎゅっとさせ、俺のベッドの上でシーツを握る小江野さん。ますますホ別三万という雰囲気が漂ってくるのでやめて欲しい。

 

「はいっ、私は嫌じゃないです」

「え!?」

 

 なぜか真奈子ちゃんがしゅたっと手を上げた。

 

「ぼくも嫌じゃない」

「ええ!?」

 

 腰のあたりで小さく手をあげたのは沙織ちゃんだ。どういうことなの。

 

「じゃ、じゃあ、自分も」

「「どうぞどうぞ」」

「ダチョウ!?」

 

 まさかそう来るとは。網走ディレクターはバラエティ番組もできるんですね。さすがです!

 

「じゃ、座って」

 

 とりあえず沙織ちゃんの指示に従う。

 なんか緊張しますね……。俺の緊張をほぐすために監督は全裸になるというのはどうだろう。いや、沙織ちゃんがパンツ一丁でカメラ持ってたら、もっと緊張するな。

 

「真奈子、手本を見せて」

「がんばります」

 

 ぐっとガッツポーズを見せる真奈子ちゃんは、俺の前に立つと、そのまま俺の膝に乗った。なにこれ、なにこれ!

 

「失礼しますね、先生」

 

 そのまま俺の首に両手を回す。これじゃ完全におっぱいパブだよ! やばいよ!

 しかし、そんなこと言ったらここで三人におっパブについて説明するというのも地獄なのでここは黙っておこう。

 

「ちょ……本当にするの?」

 

 焦ったように言う小江野さんだが、実は真奈子ちゃんに舌を舐められることはすでに経験済みなので、この行為がヤバいものだということになるとマズいのだ。

 

「お前のオーディションのためだしな」

「賢者くん……」

 

 そう。これはすべて小江野さんの芝居のためなのです。表現者として俺にできることならしてあげたい。そのためなら可愛い女子小学生に舌を舐められるくらい、全然大丈夫なんですよ。

 

「んべー」

 

 目の前の少女が舌を出したよ、可愛いね。

 

「えっ? 俺からすんの!?」

 

 されるものだと思ってたら、俺がするとは!?

 されるならともかく、俺からいっちゃったらマズくない!?

 

「なにか問題でも?」

 

 沙織ちゃんが小首をかしげる。

 そうだそうだ、何を言っているんだ俺は。舌を舐めるだけだ、なんの問題もなかった。あぶないあぶない。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

 細い肩に手を置くと、真奈子ちゃんは目を閉じた。

 うう……なんかキスするみたい……。いや違います。キスなんかじゃないです。ただ舌を舐めるだけの安全で健全な行為だった。

 キスよりエロいと思ってるのはこの世界で俺だけ! 官能小説の読み過ぎでおかしくなった俺だけ!

 女子小学生の舌を舐める、ヨシ!

 

「ぺろ……」

「んっ」

 

 びくん、と身体を震わせて悩ましげな声を出す真奈子ちゃん。なんかイケないことをしているような気がするからやめて欲しい。

 

「ちろちろ」

「はあっ、んっ」

 

 あえぎ声のような声を出さないでくれないかな……さて、がっつり舌を絡ませるか。

 

「れろれろれろ」

「んんんん」

 

 真奈子ちゃんの表情はさっき小江野さんとしていたときとはまるで違うものだった。

 まるで恋人と前戯をしているような表情だが……いや、気のせいだな。やれやれ、官能小説家の悪い癖だ。なんでもエロく感じてしまう職業病ってやつだね。

 

「ふー。よし」

 

 こんなもんか。舌をしまって身体を離す。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 目をとろん……とさせた真奈子ちゃんは、舌を出したまま息を整えていた。エロ……くない。まったくエロくない。

 

「通報したほうがいいんじゃ……」

「そうだね」

「ちょっと!?」

 

 スマホをしまえ!

 俺はただ、女子小学生と舌を絡ませただけなんだ!

 

「いや、これは自分のためだった、気がする」

「ぼくがやれって言ったことだった、気もする」

「そうだよ!」

 

 あぶねー。

 絶対無罪だとは思うが、通報された時点でヤバいからな。

 

「じゃ、じゃあぼくも」

 

 おずおずと恥ずかしそうに、俺の膝の上に乗ってきた。

 通報しようとしてたとは思えない。

 おずおずとおっかなびっくり舌を出す様子を見ていると、なんかイケないことをしているような気がしてドキドキしますね。

 でも、女子小学生と舌を絡ませるなんてことは、俺はもう慣れたもんですよ。

 

「んっ」

 

 彼女の舌に俺の舌を当てただけで、目をぎゅっと閉じて身体を縮こませた。感じているのかな……。

 舌を絡ませると、サイダーの味がした。

 

「ふうんっ」

 

 ぎゅっと抱きつかれる。

 急に顔が近づいたので、沙織ちゃんの舌が俺の口の中に入ってきた。せっかくなので吸ってみる。

 唇も触れ合うが完全に塞ぐ形になり、女子小学生の口の小ささを感じる。

 

「あー! ちょ、それキスじゃないですかー! ずるい!」

 

 真奈子ちゃんが何やら抗議をして、沙織ちゃんは俺の膝から強制退去。

 そうか、キスはしちゃったらマズかったのか。難しいですね。

 

 沙織ちゃんはへたりと力なく倒れた。腰砕けというような感じ。

 真奈子ちゃんは、珍しくぷんすか怒っている。

 そして、小江野さんは両手で顔を覆っていた。おいおい、何やってんだ。

 

「小江野さん、ちゃんと見てた? お手本だよ?」

 

 俺がベッドの上でそう言うと、彼女はとんでもないことを言った。

 

「そ、そんなえっちなこと、恥ずかしくてできない……」

 





今日関東はすごい豪雪です。
JS達がスキーウェアで雪だるまを作っていました。

桜を見ながら花見酒
雪を見ながら月見酒

今日はどちらもできるわけですが、
JS酒が一番美味しいかもしれませんね。


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行為をせがむメスたちを置いて他の女と

 何をおっしゃっているのか。

 

「は? えっち? これが?」

「どう考えてもえっちでしょ……」

 

 馬鹿なことを言う小江野さんを問い詰めたい。小1時間問い詰めたい。俺もキスよりエロい行為だなんて思っていたこともあったけど、それは間違いだったんだよ。

 

「あのね、小江野さんも出演されているエロゲーあるよね。エロゲー」

「う……まぁ、お仕事させていただいておりますけど」

「そのゲームでね、回想シーンが全部舌を絡ませただけのシーンだったとしたらどうなのよ。そんなんでエロゲーになると思う? エロゲーなめんなよ!?」

「べ、別にそういうわけじゃないけど! じゅ、十分えっちなの! ……あと、海藻シーンって何……? もずくとか?」

 

 やれやれ。何をわけのわからないことを。

 誰も小江野さんのもずくを見せろなんて言ってないんだよ。

 それにしても、舌を絡ませることの何がえっちだっていうの。そりゃ、えっちしているときに舌を絡ませてたらえっちですよ? 今は誰も服すら脱いでないんだ。こんなものがえっちであろうはずがありません。

 

「大体、小江野さんのために見本を見せてくれた二人に対して申し訳ないと思わないの?」

 

 俺は二人の女子小学生を見ろと手を動かした。

 泣きそうな顔をしても無駄だ。いいから俺と舌を絡ませろ。四の五の言ってないでさっさと舌を出せ。舐めて、吸って、これでもかというくらい蹂躙してやる。

 

「わたしは別に構いませんけど」

「えっ」

「ぼくもまぁ別にいいけど」

「えっ」

 

 あまりにも優しい天使すぎる二人があっさり許可。これはよくない。

 

「甘やかしすぎても、彼女のためになんないよ?」

 

 そう、これは小江野さんのオーディションのためなんだよ。決して俺がしたいからじゃないんだよ。

 沙織ちゃんは、俺には見せたことがないくらい優しい表情で、

 

「忍琴は、要するにすっごく意識してるってことでしょ」

 

 なんて声をかけ、真奈子ちゃんも本当の妹に対する姉のように、

 

「わたしとするのとは全然違うってことだよね」

 

 と言って微笑む。

 なんだなんだ。この女の子たち同士だけでわかりあっている感じ。

 

「うん……」

 

 ものすごく小江野さんが、恥ずかしがっている。俺は小学生にここまで優しくされることのほうが恥ずかしいのではないかと思うが、いかがか?

 ちなみに俺は恥ずかしくないよ。むしろ誇らしいよ。俺にも優しくして欲しいですよ。駄菓子屋さんに行って大量に買い込んでやるぞ、ちくしょう。

 ジェラシーを感じる俺だが、女子たちは仲良しな感じで話を続ける。

 

「変態と、さっきみたいなこと、してることを想像するだけでそんなふうになったんでしょ」

「う、うん」

「それでいい。その気持ちのまま、芝居に臨めばいい。セリフ」

 

 どゆこと?

 俺はよくわからんが、小江野さんは深く頷いた。

 

「こ、今度、二人でお出かけしてくれませんかっ……?」

 

 ファッ!?

 小江野さんの声じゃない……いや、確かに小江野さんの声なのか。ロリっぽい感じの甘ったるい声。沙織ちゃんよりよほど子供の声に聞こえる。

 しかも、上手だ。本当に声優だったのか……。さっきまでクソ下手だったのに。

 

「わー。かわいい~」

 

 真奈子ちゃんが賛辞を送る。真奈子ちゃんがかわいいというなら、それはもうかわいいに違いない。

 

「合格」

 

 沙織ちゃんがそう評価した。沙織ちゃんが合格というなら、これはもう合格するだろう。

 

「ありがとうございます、さおりん師匠! まなちんもありがとう!」

「お友達の役に立てて嬉しいよ」

「うんうん」

 

 ふむう。これが友情パワーなのか。闘う男同士の友情も美しいが、美少女たちの友情は美しく、麗しい。絵になるっていうやつだ。ラノベだったらここに挿絵が入るね。もはや嫉妬の感情はなくなり、芸術品を鑑賞する気持ちだ。

 

「さて、先生。わたしともキスしてください」

「は?」

「ぼくもよくわかんなかったから、もう一回」

「へ?」

「じゃ、じゃ、じゃあ、やっぱり自分も」

「ダチョウはもういいだろ!?」

 

 みんなして俺をからかっているのか? バーゲンセールの服を取り合うように俺の顔を奪い合い始めた。えっちすぎて恥ずかしいからできないと言っていたのにどういうことなのよ。

 

「いやー。いいお風呂だった。スッキリしたー」

 

 丁度いいところに妹が帰ってきた。

 

「助かった、詩歌、見てくれこの状況」

「んっ!? どういう状態なの!?」

 

 確かによくわからん。説明もしにくい。

 

「ぼくが変態とキスしちゃった」

「ええええええ!?」

 

 沙織ちゃんがわざとらしく、汚された感満載で言うと、詩歌が仰天した。しかし事実なので否定できん。

 

「自分はまだなので、キス、しようかなっと。お礼に」

「うぇええええええ!?」

 

 恥ずかしそうな顔を見せる小江野さんに、目をくわっと見開く詩歌。

 

「先生とキスするのに邪魔なので、しーちゃん先輩はどっか行ってください」

「ええええええ!?」

 

 辛辣すぎる真奈子ちゃんに驚いたのは俺だ。詩歌は水槽の中の金魚のように、口をパクパクさせている。

 

「お……お兄ちゃん、ちょっと、今すぐマッサージしないと……」

 

 ふらふら~と、同じ部屋にある妹のベッドの方へ倒れ込むと、布団の中から顔だけを出し、こちらをぼんやりと見ながらの電動マッサージ器の電源を入れた。

 あいつ、中一のくせに妙にマッサージが好きだよな……今すぐしないと駄目なことあるか? 不要不急の電マはお控えくださいよ。

 

「しーちゃん先輩なんてどうでもいいから、キスしましょうよキス」

「ええっ!? 真奈子ちゃん!? どうしたの!?」

「順番待ち」

「沙織ちゃん!?」

「自分は三番目、ヨシ!」

「今、この状況でよく指差し確認でOK出せますね!? 小江野さん、顔真っ赤ですよ? そんなに恥ずかしいならやらなくていいですよ!?」

 

ブイーンブイーン

 

 おっと。

 これは決して妹の電マの音ではない。

 無料通話ではない電話の呼び出しだ。着信通知は、高願社(こうがんしゃ)

 

「ごめん、編集からだ」

「「ええ~」」

 

 ええ~じゃないよ。俺のほうが、ええ~だよ。何の用事だかわからんから怖いのよ。

 

「はい」

「ああ、四十八(よそや)先生、お世話になっております」

「お世話になっております、富美ケ丘(ふみがおか)さん」

 

 スマホを片手に、ぺっこりお辞儀。

 

「わ~。先生がお仕事してる……カッコいい……」

「白い鳥文庫の編集さんと話してる……素敵」

「ほっ。やっぱり恥ずかしいから、よかったかも」

「ブイーンブイーンブイーンブイーン」

 

 ええい、仕事の電話中なのにうるさいなあ。

 とりあえず、廊下に出る。

 

「一、二巻の売上なんですけど、微妙です」

「び、微妙ですか」

「とりあえず四巻までは出すことになりましたが、三巻の売上次第では四巻で終わりです」

「な、なるほど」

 

 要するに、次が正念場だけど、わかってんのか。おい。という脅しだ。この編集者は脅されたらすぐに股を開きそうな顔をしているくせに、すぐ俺を脅す。

 

「で、三巻のウリはどうするんです。二巻で妹を登場させて三角関係にしたのは、まあまあでしたけど」

 

 まあまあか。そんなに間違ってはいなかったということだろう。新キャラを登場させるというのは王道だが、問題はどういう役回りかということ。

 沙織ちゃんのような読者が、喜ぶような新キャラ……。

 今さっき見た、美しい光景が浮かんでくる。

 

「メイのことを好きになる女の子を登場させる……とか」

「ええ!? 四十八先生、百合!? 百合展開!?」

「ま、まあ。そんな感じ……駄目ですかね」

「全然! 全然駄目じゃない! むしろイイ! 最高! 待ってました!」

「あ、そうですか。それはよかったです」

 

 何このテンション。百合好きなのかな。それともそういう人なのかな? やたら俺の性表現に鈍感なのはそういうことなのかな?

 

「じゃ、それで! プロットお待ちしております!」

「あ、はい。わかりました」

 

 電話を切り、部屋に戻る。

 

「あ、先生、どうでした?」

「えっと……みなさんにお願いがあります」

「なんですかっ! なんでもしますよっ!?」

 

 真奈子ちゃんは、頼もしく目を輝かせて胸を叩いた。

 

「お菓子を用意するなら」

 

 沙織ちゃんは、照れくさそうに、頬を掻いた。

 

「自分も助けられたからね。今度は助ける番」

 

 小江野さんは、任せなさいとばかりに胸を揺らした。

 なんと頼もしいのでしょう。

 よし、お言葉に甘えるぜ!

 

「女の子が女の子を好きって、結局どういうことなんですかね? 俺だけわかんなかったんだけど……」

 

 頭を掻きつつ、そういうと。

 三人は、しょうがないなあと言わんばかりに、姉が弟に見せるような笑みを見せた。

 ……やっぱり、恥ずかしいわ。これ。





サブタイトルはいつも最後に考えるんだけど段々難しくなってきます。
サブタイトルと後書き書くのに時間をかけすぎなのではと思わなくもない……。

さてこれで小江野さんオーディション編が終わりです。

つまり感想を送るチャンスということです。たまには送ってやるかと思っていただけたら是非!

好きなシーンやセリフ、キャラとその理由があると最高に嬉しいです(多分みんなそう)


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青空の下で処女をもらう

「エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ」

 

 エロい。エロすぎる。

 あまりにもエロい。

 それを見た俺のあそこは、それはもう大きなものに。

 

「わあ、立派」

 

 と彼女は言った。

 俺はもうガマンできない。

 すっぽんぽんになると、怒張したあそこが天を衝く。

 

「ごくり」

 

 彼女はどうやら嚥下したようだ。

 ベッドに押し倒す。回転するやつです。

 

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

「あん、あん、あん、あん」

「ギシギシギシギシ」

「ぱんぱんぱんぱん」

「イクぜ」

「あーん」

 

 そして俺たちは何度も何度も愛し合った。

 ぽろり、と一輪挿しの牡丹の花が落ちた。

 

 終わり

 

 ……これで終わりか……。

 

 ふー。

 俺は、なんと言っていいのかわからず、天を見上げた。読書の秋と言うにはまだ暑いが、少し涼しい風が吹いている。

 

「どうですか? 勃起しちゃいました?」

 

 くふふ、と笑うのは小和隈(こわくま)あげは。小学五年生のオマセな女の子だ。俺の小説が本当は官能小説だと理解したうえでの大ファン。大ファンである。大切なことなので二回言いました。

 あげはちゃんは夏休みの間、なんと俺に憧れて官能小説を書いたと。そして、最初に俺に読んで欲しいと言って連絡してきたのだ。

 あげはちゃんが書いた小説と知れば、詩歌は読みたがるに違いないが、それが子供には読ませられないくらいエロいものであるとわかるとマズいので、俺たちは公園にやってきていた。

 大きな池の周りには老人たちが釣り糸を垂らしていて、画用紙にスケッチをしている若者もいる。彼らはベンチに座った俺達が、エロい小説を書いたり読んだりしているのだとは夢にも思わないだろうな。

 俺は冷たい缶コーヒーをひと口飲んで、時間を稼ぐ。まだなんと言っていいのかわからないからだ。

 

「むふふ。あげはの()()作ですよ、()()作」

 

 処女という言葉を強調して言うあげはちゃんだが、生まれてはじめて書いた小説を俺に読んで欲しいという彼女の気持ちは、それはもう嬉しかった。そして、嬉しかったからこそ、困っている。

 なにせ、先程のものが書いてきたもののクライマックスだ。それまでの文章など推して知るべし。

 娘が初めて作った料理がマズくて食えたものじゃないときの父親の気分だ。いや、それよりもツライ。苦笑いしながら美味しいよと言って、我慢して全部食べるだけでいいのだから。小説の感想をさすがに「面白かったです」で終わらせるわけにもいかんだろう。

 しかし、この読書感想は厳しい。とりあえず、これで勃起などするわけがないが、それすら面と向かっては言いづらい。

 

「先生の大ファンだから、先生の書いた小説に似すぎかもしれないですけど」

 

 こんなに非道い悪口を言われたのは初めてです。いや、あげはちゃんじゃなかったらぶっ飛ばすよマジで。どこがどう似てるんだよ。反省するから言ってくれ。

 大ファンを公言してくれている美少女に対して、こんな気持ちになるとは思いませんでしたね。

 こうなってくると、適当にごまかすのは違う気がしてくる。

 料理の上達に必要なのは、まず自分が食べてみるということだ。味見しないやつは上達しない。

 

「うーん、逆に聞くけど、あげはちゃんはこれで勃起するの?」

「一生勃起できませんけど」

 

 そうだった……女の子に勃起するのかと聞くのはセクハラの可能性がありますね……これは気をつけないと。

 

「じゃあ、この登場人物の気持ちになってみて。この女の人の気持ちに」

「もう、びしょびしょですよ、びしょびしょ」

 

 んなわけない。

 結局セクハラになってしまったが、そんなことはどうでもいい。

 ここまで舌がおかしい料理人は上達しない。俺のファンが馬鹿舌なんて絶対認めないぞ。

 

「うーん、それはどうだろうな」

 

 とはいえ、あまり厳しく言えないので優しく疑問形で会話を進行させる。

 

「先生はあるんですか? びしょびしょになったこと」

「無いです……男なので……」

「ですよね」

 

 小学五年生に論破されてしまいました。どうすりゃいいんだこれは。どうみても褒められることを期待している顔だ。俺だってそりゃ褒めてあげたいが、褒められる点が本当にひとつもない。いや、あるか。ひとつだけ。

 

「それにしてもすごいよ。初めて小説を書いたのに、最後まで書けたなんて」

 

 書き始めて、ちゃんと終わらせること。それが一番大事だ。

 そうだよ、小学五年生が小説を書こうと思うだけでもスゴイことなんだ。ましてやちゃんと書いて終わらせて人に読ませるなんて。もう手放しで褒めてもいいだろう。

 下手すればギネスに載る。18禁のエロ小説を書いた最年少記録間違いなし。

 ぱちぱちと手を叩いて、頭を撫でてやる。

 猫にそうしたときのように、くすぐったそうに目を細めた。うんうん、子供らしくてカワイイね。それじゃ一件落着ということで。

 頭から手を離すと、見開かれた瞳は黒猫のように妖艶で、メスの顔をしていた。

 

「でも、読んでもらっただけじゃ意味がない。でしょう?」

 

 下から覗き込むように、黒い長髪を揺らす。

 

「官能小説は、読むものじゃない。使うもの。使ってもらってようやく意味がある」

「むっ……」

 

 わかってる。あげはちゃんは、よーくわかってる。そのとおりだ。同年代の男であれば握手してハグしてハイタッチして、お宝を交換するところだ。

 だが、この局面では裏目に出る。

 読者として優れていればいるほど、ごまかしがきかない。

 君は大変よくわかっているが、実力がまったく伴っていないのだ。

 

「あげはの、コレで、おなにー、してくれますか?」

 

 そう言って小首をかしげる彼女は、本当に超小学生級の色気だが、どう頑張っても無理だ。コレが小説じゃなければよかったんだが……。

 

「こんなもんでオナニーできるわけねえだろ、この下手くそ! お前はこれでオナニーできるのか!? できんのかよ!? このションベン臭いガキが! おおん!?」

 

 と俺が大声で言ったとしよう。事案どころではない。もうね、逮捕して裁判も無しに即執行猶予無しの実刑判決だね。そうしないと俺が俺を許さない。

 

「ん?」

 

 無言の俺に、あげはちゃんは、右に傾いていた顔を左に倒した。あどけなさとセクシーさが入り混じった、あげはちゃんらしい表情。くっ、言えねえ。何も言えねえ。

 

「あげは、使ってるところ、見たいなあ。あっ、応援しますよ。がんばれがんばれ、って」

 

 ……それを書けよッ!!

 エロいことばっかり考えてる男にこっそり連絡してきて、女の子が用意したおかずでオナニー中にがんばれがんばれ、って応援してくれる女子小学生の小説を書けよ!!

 くそ、本人はエロいのになぜ創作物はなぜこれほどエロくないのか……!

 

「ぐぐぐ、ぎぎぎ」

 

 あまりの歯がゆさに声にもならない声が。

 感情が伝わったのか、足元に近寄ってきていた鳩が飛び立った。

 

「おや~? 勃起を我慢しているのかな~?」

 

 んなわけねえだろ。

 どうやら鳩より空気が読めないようですね。

 つか、なんでそんなに自信満々なの? 根拠はどこから湧いてくるの?

 ……いや、わかる。

 考えてみれば、俺もそうだった。

 はっきり言って初めて書いた小説なんて、今なら怖くてみることができない。

 稚拙で独りよがりで、言いたいことがまるで伝わらない代物だった。それでもなぜか書けている気がしたものだ。

 当時は妹くらいにしか読んでもらうことはできなかったから、えっちなシーンのまったくない女児向けの小説を書いて感想を貰っていたっけ。

 今思えば、詩歌が「ぜんぜんわかんない」とか「おもしろくない」とか言ってくれていたからこそ上達したのだ。結果的に女児向けの小説家になってしまったのも、それが原因……いや、そのおかげだと思う。

 ということは、ここは俺が心を鬼にして、本当のことを言うしか無いのだろう。

 それが彼女のためだ。

 

「あげはちゃん、心の準備はいい?」

「はい、先生になら……なにをされてもいいです……」

 

 それを書けばいいのに。ほんと。

 





お待たせいたしました。お待たせしすぎたかもしれません。
あげはちゃんの出番だよ!!!



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容赦なく攻め立てた強姦の代償

「プレイ前はまぁそんなところだけど、このクライマックスのところも問題だらけだ。まず冒頭の『エッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』ってところだが、これは読者に思わせるべき感想であって書いてどうするんだと」

 

 ラブコメならむしろアリだけど。主人公がエッッッって言ってたら読者も共感するという点で。

 

「で、次が一番問題ね。『エロい。エロすぎる。あまりにもエロい。』これは最悪だよ。エロいって言葉を使わずにそう思わせるのが一番大事なわけだけど、具体的なことは何一つ書かれてないわけ」

 

 これって読者にエロを勝手に想像させているわけで、それじゃ書いている意味がない。俺のエロい妄想を読んでエロい気持ちになってね、っていうのが官能小説だと俺は思うわけ。エロ漫画もきっとそう。

 ここで書くべきなのは、読者に映像を思い浮かべさせるための描写であって、作者の感想ではない。

 

「次が、『それを見た俺のあそこは、それはもう大きなものに。』か。これは表現が陳腐だね。どんぐりころころとかの絵本でおにぎりを表現するような感じがしますね」

 

 対象年齢が五歳の官能小説、というのは斬新だが一冊も売れない。矛盾してるからね。十八禁なのに絵本売り場に置いてるとかね。「こづくり」というタイトルだったりして。それはそれで売れそうな気がしてきたな。

 まてまて脱線している。

 

「んで、『わあ、立派と彼女は言った。』ですね。逆にスゴイよね。素人モノのアダルトビデオより大根役者って感じだよ」

 

 実際に小江野さんが俺のあそこを見て「わあ、立派」って言ったらそれは興奮するかもしれないが。

 

「その後は結構面白いよね。『俺はもうガマンできない。』という短調な表現のあと、『すっぽんぽんになると、』がいきなり子供っぽい表現になって、『怒張したあそこが天を衝く。』で突然難しい言葉を使い始めるというアンバランスっぷり。中二病をこじらせてる子供って感じでウケる」

 

 いや、マジで面白い。天を衝くじゃねえよ。ロボットもののアニメかよ。愚息も苦笑するレベル。

 

「あー、面白い。『ごくり』というセリフがあってから、『彼女はどうやら嚥下したようだ。』だって。わかってるっての。嚥下って言葉を使いたくてしょうがないのかよ」

 

 こういう言葉を使うと官能小説ぽくなるでしょう、と思ってんのかな。大間違いだっつーの。

 

「で? 『ベッドに押し倒す。回転するやつです。』どんな倒置法やねん。よくわかんないけどラブホテルのベッドって回転するんでしょ? って思いながら書いてるのがバレバレだよ」

 

 これじゃ興奮できないね。まあ、女子小学生が書いていることをバラせば、興奮する人もいそうだが。

 

「そこからプレイ中のセリフになると。『はあっ、はあっ、はあっ、はあっ。あん、あん、あん、あん。ギシギシギシギシ。ぱんぱんぱんぱん……』という部分ね。エロ漫画から漫画を抜いたような感じ。面白くない」

 

 小説は小説だからこその表現があるわけだよな。まぁ、ここについてはまだいいけど。他がひどすぎる。

 

「この後のセリフがまたヒドイ。『イクぜ。あーん。』なんで棒読みなんだよ。イクだけカタカナなのもまたダサい」

 

 イクという表記自体はアリだけど。イクぜ。って。

 

「最後は『そして俺たちは何度も何度も愛し合った。ぽろり、と一輪挿しの牡丹の花が落ちた。』という昭和の昼ドラの浮気シーンみたいな終わり方ね。突然ジジくさい表現になったよね。若い人はピンとこないんじゃないの」

 

 まあ、あげはちゃんより若い読者は存在しないけど。あげはちゃんの知識が特殊すぎるのだろう。

 

「こんなところかな。ちょっとあっさりしてたかもしれないけど……」

 

 首をあげはちゃんの方に向けると、下を向いて肩を震わせていた。どうしたのかな……?

 

「うっぐ、うぐ、えぐ、ぐす……ひぐ」

 

 号泣している!?

 太ももはびしょびしょに濡れ、ベンチの下の砂が黒くなるほど。

 

「誰だ、あげはちゃんを泣かしたやつはぁぁああ!? 許さんぞぉっ!?」

 

 俺はあまりの怒りに、髪が金髪を超えて青くなる勢いで髪を逆立てた。

 しかし、周りはのどかな公園であり、近くに人はおらず、静かな湖畔には行水をするカラスすらいない。ときおり鳩のぐるっぽーという鳴き声がする程度だ。この行き場のない殺意はどうすればいい、教えてくれウーフェイ。

 

「えぐ、ふぇ、ふぇええ……」

 

 声を押し殺して泣くのを我慢しているようにも見える。くっ、いつものまったく無い色気を出そうとして背伸びをしている態度に比べてあまりにも等身大な感じがギャップ萌え……してる場合ではない。

 俺は赤くなったぷにぷにのほっぺをツンツンすることを必死で我慢して、そっと涙を拭う。

 

「あげはちゃん……どうしたの、なんで泣いているの?」

 

 優しく優しく、女子小学生を慰めるように。いや、女子小学生だったわ。あげはちゃんだって女子小学生だったわ。普段のエロジジイみたいな言動はともかく、泣き顔は紛れもなく女子小学生だ。

 

「……わかんないの?」

「ん? ごめんね、わかんないよ」

「あげは、レイプされちゃった」

 

 な、なんだと……!? いつのまに!?

 

「先生に、レイプされちゃったよ」

「俺に!?」

 

 馬鹿な……ついに官能小説を書きすぎて現実と妄想の区別がなくなってしまったのか……いやまて、あげはちゃんとは妄想でもそんなことをしたことないぞ、あげはちゃんとは。

 

「責任、とってくれますか?」

「も、もちろん」

 

 とっさに言ってしまったが、責任をとるってつまり婚約だよな……あげはちゃんと婚約……確か一八歳未満であっても婚約者となら条例に違反しないはずだ。つまりあげはちゃんは合法ロリということになる……よし、婚約しよう。それが紳士たる俺の真摯な態度であろう。

 海が見える丘に立てた白い家に、大きな犬と一緒に庭で遊ぶ俺とあげはちゃんとの間に生まれた子供を妄想し始めたあたりで、俺の左手を握る小さな手。

 

「あげはの書いた小説をレイプした責任、とってもらいます」

 

 え? 小説をレイプ?

 

「一生懸命書いたものを……こんな、嫌がるお姫様を寄ってたかって汚い男どもが、ビリビリにドレスを引き裂いて泣き叫ぶ声にますますその卑猥な棒を怒張させ、ろくに前戯もしないまま強引に挿入するような言い方をして……」

「待って? 今のセリフが言えるならもうちょっとマシな文章書けたんじゃない? すっぽんぽんとかあーんとか全然出てこなかったよね?」

「クッ……あげはの身体ならどれだけ酷い目にあわされても屈しないけど、魂を込めた創作に対しての陵辱は耐えられない……」

「いや、ごめんね? でも、今くらいの表現してくれてたらここまで言わなかったよ?」

 

 あげはちゃんは涙を拭いながら、すっくと立ち上がる。

 ベンチに座る俺の前に立った。太陽を背にして、がばっとお辞儀をする。どういうこと?

 

「あげはを弟子にしてください」

 

 で、弟子ですと? とんでもない。

 

「俺は児童小説のレーベルの作家だよ? 官能小説家じゃないし、弟子なんて」

「弟子にしてくれたらお礼は、身体で払います」

「誘惑!?」

「弟子にしてくれなかったらレイプされたってみんなに言います」

「脅迫!?」

 

 困ったな、と後頭部を掻く。しかし、拒否する選択肢はなさそうだ。





予想通りの展開……ですかね~




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取材と称して弟子と秘密の関係

 

「マズいよー。絶対マズいよー」

「小説家とその弟子が取材に来ていることの何がマズいんですか?」

「18歳の男が小学生の女の子とラブホテルに入ることがマズくないわけないよ!?」

 

 俺とあげはちゃんは川沿いにある、ちょっとお城っぽいホテルを土手から見ていた。俺がこれ以上近寄ることを拒否しているためである。

 

「回転するベッドを見たこと無いから下手くそなんだ、と師匠が言うからじゃないですか。さぁ、行きましょう」

「ごめんって! ごめんなさい! 謝ります! 許して!」

 

 俺は夕日を浴びながら、川の土手で必死に女子小学生に土下座していた。一応草のある場所で土下座しています。コンクリートはさすがにツライので。

 なお、あげはちゃんの俺の呼び名は先生から師匠に変わりました。先生ですら恥ずかしいのに師匠はちょっと、と思いましたが責任を取らないといけないので。ダーリンよりはマシだと思うことにしました。

 

「師匠、頭を上げてください。なんなら亀頭も上げてください」

「いや、土下座で亀頭が上がるような性癖はないんですけども」

「師匠が、あげはのことを女として意識してるからラブホテルに入ることについてドキドキしすぎてビビっちゃうのはわかります。でも、あくまでも小説家の師匠と弟子なんですよ。問題ないんですよ」

「いや、単純に社会的に死ぬことが怖いだけなんですけど」

「なるほど、つまり社会的に死んでしまった後なら躊躇なく入れるということですね……」

「やめて!? 何をする気なの!? やめてください!」

「じゃあ、入りましょう。大丈夫、怖いのは最初だけです。すぐに気持ちよくなりますよ」

「うう……」

 

 あげはちゃんに土下座程度で勝てるわけがなかった。袖を引っ張られてラブホテルに連れて行かれる俺。ふえぇ……。

 

「そもそも小学生だってわかったら即通報では?」

「受付は顔が見えないようになってますよ」

 

 なんで知ってるんだよぉ……。

 着いちゃったよぉ……。

 こんなに入るのが怖い入り口初めてだよぉ……。

 白いお城っぽいのに、ラストダンジョンくらい怖い。

 あげはちゃんは少しも怖がってないどころか、ピクニックにでも出かけるような表情だ。

 

「ほら、早く部屋を選びましょ」

「うう……なんでこんな水族館みたいな感じなんだよ」

「ムードがありますね~。ここなんてどうですか、お風呂にジャグジー付いてます」

「なんでそんなに平然としてるの……ラブホテルだよ、ここ?」

 

 タッチパネルで空いている部屋の中から、それなりに広い部屋を選択した。せっかく取材するなら設備が全部整っている方がいいという説得力のある発言を弟子がいうので。

 費用だって経費で落とせるでしょう、と言われたが、白い鳥文庫の小説でラブホテルに入らないと書けない小説などあるわけがない。どうやって自作に生かすんだよ。そもそも領収書を編集の富美ケ丘さんに出す勇気がない。

 

「師匠、そんなにキョロキョロしてないで。さ、早く行きましょう」

「うう……誰かに見つかったら……」

「そのときは、結婚してあげますね」

 

 ……じゃあ、いいか……。

 覚悟を決めて、中へ。

 

「401号だそうです……どこかな」

「401号ってことは4階だよ」

「えっ、そうなんですか!? すごい、さすが師匠」

 

 こういうことを知らないあたり、小学生だということを再認識するな……。

 

「やっぱりラブホテルに詳しいんですね」

「普通のホテルもそうだし、カラオケルームもそうなんだけどね」

「そっか、普通のホテルやカラオケルームでもエッチしますもんね」

 

 そういうことではないのだが。

 エロいことしか俺が知らないと思っているのだとしたら……光栄だな。官能小説家として誉れなので、それでいいや。

 

「やっと二人っきりになれましたね」

「エレベーターに乗ってるだけですけども」

「その割には、緊張してますね」

 

 そりゃそうだろ。女子小学生とラブホテルのエレベーターに乗ってんだぞ。誰か乗ってきたらどうすんだよ。

 4階に到着し、ドアが空いた。誰も居ないことに安堵する。

 

「ん~……こっちだな」

 

 抜き足、差し足、忍び足。なんとなくそうなってしまう。

 あげはちゃんは完全に堂々と歩いているので、俺一人が忍者になっても意味はないのだが。

 

「よし、ここだ」

「おじゃましま~す」

 

 ドアを開けてあげると、他所の家に伺うみたいにあげはちゃんが入室した。俺は今の声が誰かに聞こえたらと思うと気が気でない。

 

「なんか明るいんですね」

 

 あげはちゃんはキョロキョロと、まるで遊園地のアトラクションでも見ているかのようだ。いつも大人びた態度なのに、こういうときに限って年相応なんだよなあ……。

 

「すごいすごい、お風呂、丸見えですよ! 丸見え!」

「そ、そうだね。大体そうだよ」

「さすが師匠」

 

 俺も初めて入るんだが、今更そんなことは言えない。ベッドの隣にバスルームがあるのだが、その壁が透明なアクリルで出来ているようだった。

 

「わ、コスプレ衣装がありますよっ」

「結構色々あるね」

 

 チャイナドレスにセーラー服、ナース服といった定番のものから、有名なアニメキャラクターのものもあった。いいですねえ~。

 あげはちゃんも興味深そうに服を選んでいる。

 

「うーん、でもサイズが合わないな~」

 

 ラブホテルに小学生サイズのコスプレ衣装があるわけない。特にあげはちゃんは、色々と小さい。幼稚園児の服というマニアックなものもあるが、それでも大きい。

 

「せっかくなら着てプレイしたいですよね」

「プレイはしないよね!? 取材だもんね!?」

「これだけ付けとこ」

 

 メイド服のカチューシャだけ装着した。超かわいい。全部着たらヤバいな。

 てこてこと壁に歩いていき、くりくりとつまみを動かすと、部屋がぼんやり暗くなったり明るくなったりした。

 

「これは照明の調節か~。師匠は、明るいのと暗いのどっちが好きなんですか」

「ん~、小説だと暗くても描写できるからいいけど、実際には表情とか明るくないと見れないから明るいほうがいいな」

「じゃあ明るいままにしますね」

「いや、どっちみち暗くする必要はないよね」

「あげはは、明るいと恥ずかしいんですけどぉ……」

「だからプレイはしないから! むしろ写真とか撮るよね?」

「写真を? は、恥ずかしい……」

「恥ずかしい写真は撮らないよ!? 取材だよね!? 部屋とか設備の写真を撮るんだよ!?」

 

 俺はスマホで撮影を開始。もちろん部屋やベッドなどであり、あげはちゃんではない。お風呂の照明のつまみも撮っておこう。

 天井も撮影しとくか……

 ベッドに寝っ転がり、照明などを撮影。

 ぼすん、という音とともに俺の腰に重みが。

 

 カシャッ

 

 スマホの撮影音がする。

 腰のところに、あげはちゃんが跨って、俺にスマホを向けていた。

 

「騎乗位なう、と」

「こらああああ!?」

 

 俺を社会的に殺すってそういうことかよ! やめろ、俺は児童向けレーベルの小説家だぞ! 駄目、絶対!

 

「やっぱり最初は騎乗位じゃないですかね。正常位? バック?」

「そういうことじゃないのよ!? 嘘はよくないよ!?」

 

 むしろ騎乗位がいいです。おっぱいが揺れるのを見ながらがいいです。そんなことはどうでもいい。

 

「あ、こっちはミラーになってるんですね」

「おっ、そうだな」

「師匠、アヘ顔ダブルピースしてください」

「こうか?」

 

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 連写!?

 

「四十八先生と、ラブホなう、と」

「こらああああ!? だから嘘は駄目だと!」

「嘘じゃないですよ」

「おっ、そうだな。いやいやいや! おっ、そうだなじゃないんだよ。これは秘密でしょ? あげはちゃんと俺だけの秘密」

「ヒミツ……甘美な響き。師匠とあげはだけのヒ・ミ・ツですね」

 

 満足したようで、ベッドからどいてくれた。

 その後、回転するベッドを動画で撮ったり、お風呂を観察したり、取材を行なって退室。

 やれやれ、誰から見つかることもなく、なんとか平和に終わってくれて何よりだ。本当に取材になったが、もちろん経費計上はしません。

 

 その夜、あげはちゃんから「お土産」というタイトルのメールが届いた。文章はなく、画像が添付されている。お土産?

 その画像は、コンドームを口に咥えたあげはちゃんだった。おそらく自撮り。

 どうやらホテルのベッドにあったものを貰ってきたようですね……。いつのまに。まったくとんでもない女子小学生だ。

 

 でも。

 うん、この子は絶対に官能小説家として才能がある。

 いい弟子をもった。





この小説、小説家になろうとカクヨムにも載せてたんですよ。

そしたら運営から連絡きまして。

性的表現がNGですって。削除になりました。

異種族レビュアーズかよ。

ハーメルン様~、許してくだせぇ~。
これはあくまでコメディで、エロいのは言葉だけなんですぅ~。小学生と仲良くしてるだけなんですぅ~。勘弁してくだせぇ~。


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揺れるベッドで何度もおねだり

「温泉ですか?」

「ええ」

「なんで温泉に行く必要が?」

 

 富美ケ丘という編集の女性は本当に常識がない。

 水着回と温泉回は基本の基であり、王道中の王道であり、やらなければならないものだということがなぜわからないのか。

 

「みんなメイとマイの入浴シーンのイラストが見たいはずですよね」

「そのニーズはないですね。ご主人さまならまだしも」

 

 ええ……?

 ご主人さまの入浴シーン?

 そんなので喜ぶのは女児くらいだろ……俺の読者のメインは……女児だった。忘れていた。桜上水みつご先生の描くご主人さまは、超格好良いので女児から人気なのだ。

 

「つまり、ストーリーで温泉に行くからその取材をしたいと」

「そう。そうですよ」

「却下です」

 

 切られた。

 くそっ、取材旅行ということで経費を使わせてくれない編集など、存在している意味がわからない。

 

「温泉行きたいナァ」

 

 そうつぶやいた途端に、スマホに着信が。

 

「はい」

「真奈子です」

「どうしたの、真奈子ちゃん」

「我が家の温泉付き別荘にご招待します」

「えっ!?」

「今すぐ行きましょう」

「ええっ!?」

 

 どういうタイミングなんだ……まるで盗聴器で会話を聞いていたかのような……そんなわけがないが。

 

「じゃあ、準備を……」

「あ、大丈夫です。着替えとか全部用意してますので」

 

 浴衣とかのことか。

 

「じゃあ、下着だけ」

「それも用意していますから、そのままでどうぞ」

 

 どうして……

 

「じゃあ、そちらに向かうね」

「もう車で迎えにきています。玄関前でお待ちしております」

 

 ……。

 

「あ、あと、しーちゃん先輩には見つからないように。面倒くさいので」

 

 面倒くさいって……

 まぁ、あいついっつも変だからな。

 それにしてもこの外堀を完全に埋められている感じ、怖いのですが。

 ただこの流れでお断りするのも怖いし、有無を言わせず行くしかない気がする。

 スマホで会話をしながら階段を降り、廊下や部屋をスニーキングミッションしながらダイニングへ。行き先掲示板を目指す。

 

「詩歌は……デートって書いてあるな」

 

 家にいないことがわかったので、警戒を解く。

 

「デートですか?」

「親父とだよ」

 

 詩歌の言うデート、というのはつまり俺の親父と二人で出かけることを指す。だから親父の行き先もデートと書いてある。ハートマークまで付いている。娘と二人で出かけるのがそんなに嬉しいのかね。

 なんでデートなんて言い方をするかというと、親父はデートなら全部費用を払うからだ。デートではない振る舞いをするといきなり割り勘になるから要注意。

 いちいち「今はデートなの? それとも親子のおでかけなの?」と確認する親父はキモいが、詩歌は割と嫌ではないらしい。あんな俺とそっくりの顔をしている親父のどこがいいんだか。

 

「別荘ってどこかな?」

「ヒ・ミ・ツです」

 

 ここで清井さんの別荘って書いたら何かと面倒だな。母さんが早合点して「婚前旅行? 紹介してよ」などと言いかねない。JSを紹介したら死ぬ。

 

「探さないでください、と」

「それでいいです」

 

 本当にいいのだろうか。まぁ俺の両親は探さないでって書いてあるから、探さなくていいだろうと安心すると思う。素直。

 

「お待ちしておりました」

 

 玄関を出ると、運転手が待っていた。ハイヤーを運転するようなスーツだ。やはり黒塗りの高級車なのだろうか。そして誰かに追突されるんだろうか。そこで提示された示談の条件とは……。

 

「ええっ!?」

 

 無駄な心配をしていたようだ。車はなんとキャンピングカーだった。

 ステップに足をかけてドアを開けると、真奈子ちゃんが待っていた。ルームウェアだ。

 

「先生、ようこそ、私達の愛の巣(くるま)へ」

 

 なんか気になる言い回しだな……

 

「広いね、車とは思えないなあ」

「でも、ベッドは一つしかないので、一緒に入りましょう」

「いや、まだお昼だし……」

「眠る必要はないですから、一緒に入りましょう」

「こっちのソファーの方が……」

「一緒に入りましょう」

「はい……」

 

 真奈子ちゃんは一緒にベッド・インすることの意味をわかっていないので困る……。あげはちゃんみたいに、わかっていても困るけど……。

 

「同じ枕で寝ながらお話してたらすぐに着きます」

「そうだね……」

 

 初体験の前にピロートークを体験することになるとは……

 

「先生の小説であったじゃないですか。ご主人さまがメイちゃんをベッドで慰めて、その後とりとめもない話をするシーン」

「あ、うん」

「わたしにもしてください」

 

 絶対駄目でしょ……

 

「実は朝、メイちゃんのマネがしたくて、パンをかじったらパパに叱られてしまったんです……」

「あ~」

 

 パンはちぎって食べるのがマナー、っていうのを実践しないといけない日本人はあまりいない想定で書いてるのに実際に起きたんですね。お嬢様すぎる……。

 

「だから、慰めて欲しいんです」

 

 なるほど、俺の書いた小説で起きてしまったから、過ちも起こしてしまえと。

 書いた小説の責任であれば取るしか無い。

 俺は覚悟を決めて彼女が寝ているベッドに体を滑らせる。

 

「慰めてください、言葉だけじゃなくて」

 

 わかっているとも。

 

「優しくしてください」

 

 もちろんだ。

 ぎゅっと目を閉じた真奈子ちゃんに、俺は覚悟を決めて……

 

「頭を撫でて慰めてください……」

「だよね」

 

 そうだよね! 慰めるってそういう意味だよね! 女子小学生が認識している慰めるって言葉はそうだよね! きっと読者の殆どはそう思ってるんだよね。あげはちゃん以外!

 

「よしよし」

「えへへ」

「よしよし」

「えへへ」

 

 ベッドの上で、女子小学生の頭を撫でて、笑顔にするだけの簡単なお仕事。

 自分の小説のキャラクターのマネをしてくれた読者に対して、このくらいのことはなんでもない。いくらでもしてあげたくなる。

 

「ぎゅっとして」

「ぎゅっ」

 

 ベッドの上で、女子小学生の頭を撫でながら、ぎゅっと抱きしめるだけの簡単なお仕事。

 いくらでもしますとも。

 

「おでこにちゅーして」

「ちゅっ」

 

 ベッドの上で、女子小学生の頭を撫でながら、ぎゅっと抱きしめつつ、おでこにキスするだけの簡単なお仕事。

 いくらでもしますとも。

 

「ほっぺにもちゅーして」

「ちゅっ」

 

 いくらでもしますとも。

 

「口にもちゅーして」

 

 いくらでも……

 

「それは駄目かな」

「なんでですか~!?」

 

 あぶねー。うっかりキスしてしまうところだった。なんか最近、真奈子ちゃんはことあるごとに俺とキスをしようとするから注意せねば。

 

「ご主人さまとメイだってしてないだろ」

「してしまったら、恋人になってしまうから、ですよね」

 

 そう。ご主人さまはメイにもマイにもキスはしない。もっとエッチなことはしまくっているが、それはしていないという関係性が俺は好きなんだ。好きになっちゃうと困るからという理由でキスだけNGにしているソープ嬢みたいでよくね?

 なので、ご主人さまが「キスをしたら、それは恋人だ」って言わせている。

 

「あの二人の距離感が素敵なんですよね」

「うんうん」

 

 そっか、真奈子ちゃんにもわかりますか。ソープ嬢の気持ちが。

 

「先生とわたしの関係も、ご主人さまとメイの関係みたいなものですよね」

 

 いや、それは絶対に違う。真奈子ちゃんが知らないだけで、あの二人はとんでもないことをしているのだ。

 俺は否定の言葉の代わりに、髪をくしゃっと撫でてからベッドを降りた。

 

 車が高速道路に入ったのか、ベッドの揺れは治まった。



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濡れた全裸でにゃんにゃん

 のぞくべきか、のぞかないべきか。

 それが問題だ。

 

 やはり温泉といえば、のぞき。

 のぞかない温泉なんて、意味がない。

 

 しかし、しかしだよ。

 

 相手が女子小学生というのは、いかがなものか。

 ましてや、俺が求めているのは小説のネタである。

 真奈子ちゃんがメイに似ているというのは内面的なことであり、体型は異なる。まぁ三年くらいしたら同じくらいになるかも知れないが。

 じゃあ、マイならいいのかというと、それもいかがなものか。

 つまり、ご主人さまがマイの風呂をのぞく。それを俺が書く。そして富美ケ丘さんに見せる。うん、アホほど叱られる気がしますね。

 

 理想的には、俺が小江野さんをのぞき、それをハプニングとして小説に載せるのがベストなんだが……うーむ。

 

 お昼寝している真奈子ちゃんの顔をぼんやり見ながら、そんなことをずっと考えていたら車が止まった。どうやら着いたようです。

 

「んう……」

 

 目をこすりながら、可愛らしく伸びをする真奈子ちゃん。天使。

 

「着いたみたいだよ」

「あ、寝ちゃってたんだ……恥ずかしい……」

 

 シーツをぎゅっと手繰り寄せて、恥ずかしがる真奈子ちゃん。なんか意味深な感じがするからやめて。何もしていません。

 

「うわー、いいところだなー」

 

 キャンピングカーを降りたらそこは湖の見えるログハウス。周りは静かな林であり、隣の家は見えない。

 こんな別荘に一人で居たら、ひょんなことから少女と知り合って、その子が太古からのお祭りの儀式で生贄として捧げられることを知り、その子と愛の逃避行をすることになりそうだ。悲劇っぷりがヌけるいい作品になりそうだぜ。

 

「ありがとうございます、わたしも気に入ってるんです」

 

 今考えていたことを彼女には伝えないでおこう。つい、いつでも官能小説のネタを考えてしまうぜ。

 

「それでは失礼します」

 

 運転手の方が頭を下げて、車に乗り、そのまま去っていった。あの人はここに泊まらないのか……。

 

「さ、入りましょう」

「うん」

 

 真奈子ちゃんは、玄関のドアノブに鍵を刺し、回してから入った。

 ……あれ?

 

「あの~、他の人は?」

「いませんよ?」

 

 ええええええ!?

 二人っきりはマズイだろ!?

 

「いや、それは……」

「大丈夫ですよ、温泉は入れるようになってますし、わたしお料理できますから」

 

 そういうことではないが……いや、うん、俺が意識しなければ問題ないだろう。

 なにせ彼女はあげはちゃんとは違って、まったくそういうことに疎いからね。あげはちゃんはおませさんだが、乙女すぎて何も起こらないのでそれはそれで結局大丈夫なのだが。

 

 中は木がふんだんに使われている洋風の部屋だ。木製の重そうなダイニングテーブルやら、暖炉やらが設置されており、まぁまぁの広さ。

 真奈子ちゃんが冷蔵庫に入っていた麦茶を入れてくれたので、口にする。

 

「さて、まずはお風呂にします? お食事にします? それとも、あ、た、し?」

「ぶっふぅううううう!」

 

 麦茶吹きました。

 

「げはっげほっ」

「わー、たいへん」

 

 背中を擦ってくれる。優しい。そしてやらしい。いや、やらしいわけがない。

 

「い、今の、それともあたし、っていうのは……」

「よくあるじゃないですか、一度言ってみたかったんですよ」

 

 そういうことね。

 意味はよくわかっていないけど、漫画や映画で見たことあるセリフを言ってみたかっただけ。納得です。

 ちょっとした、いたずらごころがむくむくと湧き上がる。

 

「今の、真奈子ちゃんを選んだら、どうなるの?」

「えっ、あたしを選んでくれるんですか」

「そりゃあ、そうだよ」

「えへへ……」

 

 はにかんだ。もう満足です。なにかしてもらう必要なんてないじゃん。

 あ、床が麦茶でびちゃびちゃだな。

 

「えと、雑巾とかあるかな」

「あ、大丈夫ですよ」

 

 台所からキッチンペーパーを一枚取ると、ささっと吹いてくれた。

 

「服も濡れちゃいましたね」

「あ、ごめん」

 

 俺の服もだが、彼女の服も少し濡れていた。麦茶の噴射が「いっぱいでたね……」って感じだった。もちろん、べとべとはしていない。

 

「じゃあ入っちゃいましょうか、温泉」

「あ、そうだね……」

 

 扉を少し開けて、案内してくれる。

 中に入ると脱衣場だった。そりゃ男湯と女湯があるわけないよな……

 

「お先にどうぞ」

「ありがとう」

 

 だよな。

 さすがに一緒に入るわけがないね。

 水着で一緒に入るパターンとかなんじゃないかと予想していたりしたが、杞憂であったようです。

 ささっと脱衣して、引き戸をがらがらがら。

 

「うわー」

 

 小さいけど内風呂と露天風呂があって、サウナまであるみたいだ。ほんとにお金持ちなんだな……。

 ぱぱっと体を洗って、外へ。内風呂なんて入ってる場合じゃねえ。外に出るんだ、外出しだ。

 

「しゅ、しゅごい……こんなに白くて、濃くて、どろどろなのぉ……」

 

 まさかの濁り湯だった。本格的だぜ……。

 

「おお~」

 

 丁度いいぬるさ。長いこと入っていられそうだ。

 見えるのは緑の山々、西日が水面を照らす。秋の到来を予感させるような、少しだけ涼やかな風が濡れた肩を撫でる。

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

 気持ちいい。

 思わず、鼻歌が出ちゃうね。

 

「ふんふふふ~♪」

 

 お、一緒に鼻歌を歌ってくれるんだね、こりゃいいや。

 

「ふんふふふんふんふ~ん♪」

「ふんふ~ん♪」

 

 こうやって露天風呂にゆっかり浸かりながら、二人で鼻歌を歌っていると、エロいことすら考えなくなるな……たまにはこういうのもいいよな……

 

「ってええ!?」

 

 なぜ一緒に歌ってくれる人が!?

 

 振り返るとそこには、一度きりのアヴァンチュールを求める熟れた果実のような豊満な痴女が……いるわけがないが、やっぱりいるわけがない真奈子ちゃんがいた。いつの間に!?

 

「うふふ、ご機嫌ですね~」

 

 俺は口をパクパクするしか出来ない金魚状態なのに、真奈子ちゃんは平常運転だ。

 実は水着を着ている……なんてこともない。

 お湯が白濁しているので、ほとんど見えませんが、たしかに裸ですよ!

 

「よかったです~」

 

 にこにこしている……。

 ここで襲う……いや、襲うわけないだろ、騒ぐだ。

 騒いだら……この幸せな雰囲気が、笑顔が失われてしまう。

 彼女は俺と一緒に風呂に入るということを、幼稚園児同士が一緒に風呂に入るのと同じような、純真無垢な気持ちでいるのだろう。

 だから俺も平然とした態度のまま、穏やかな気持ちのままで、ゆったりとお湯に浸かっていようじゃないか。

 そうだよ、どうせこれは経費も落ちないわけで、取材じゃないんだ。

 小説のことなど考えずに、休暇を楽しむとしよう。

 それにしても髪をアップにしている真奈子ちゃんは可愛いなあ……

 

「あ、猫だ~」

「ぎゃー!?」

 

 真奈子ちゃんは猫を見つけたらしく、立ち上がってしまいました!

 俺はにゃんにゃんな部分を見つけてしまい、勃ち上がってしまいました!

 穏やかな気持ちでいようと思った途端にこれだよ! しかし、詩歌よりもご立派な……もはや幼稚園児のようだなんて思えない……。

 

「ほらほら、あそこ、猫いますよ。にゃ~」

「ちょ、ちょっと、近いですよ……」

 

 当たっちゃったらどうするの……胸を当てられるのは構いませんが……俺のが当たっちゃったら大変だよ……

 

「あれ? 先生、ひょっとして恥ずかしいんですか?」

「つんつんしないで……」

 

 肩を人差し指で突いてくる……なにこの感じ……恥ずかし甘酸っぱい……はっ!?

 

「ご主人さまがメイに背中を流せと命令して流させたけど、その後一緒に入ったらご主人さまがテレまくってたじたじになってメイがからかう……これでは!?」

「わぁ~! さすが! いつも小説のことを考えてるんですね~。尊敬です」

「まあね!」

 

 30秒前に小説のこと考えるのやめようと思ったばかりとは言えない。

 

「にゃ~ん」

「わ、猫ちゃん近づいてきましたよ」

「お、ほんとだ。かわいいにゃ~?」

「かわいいにゃ~」

 

 児童小説家モードになった俺はすっかり平静を取り戻し、真奈子ちゃんと一緒に露天風呂にいることにも慣れました。そうだよ、別に風呂に入るくらいなんてことないんですよ。舌を絡ませた仲ですよ。いまさらなにをって感じですよ。

 

「撫でちゃお」

「きゃー!?」

 

 猫を撫でようとした真奈子ちゃんは、身を乗り出してしまって、俺の目の前にはぷりんとしたヒップが!

 慌てて目を逸らすが、完全に目に焼き付いております。やっぱり全然平気じゃないぞこれ。

 かと言ってお湯から出るのも無理。天国のような地獄ですね。

 

 その後、三十分ほど露天風呂に入って、完全にのぼせた。

 

 





うーん、なんて健全なんだ……

個別パート、意外と嬉しい感想いただけるので続けます。


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言われるがままに頭が甘く溶けてゆく

「あーん」

「もぐもぐ。おいしい~。じゃ、お返しにあーん」

「うふふ、おいしい」

「おいしいね」

「うん」

 

 料理をお互いに食べさせあっているだけですが、何か問題でも?

 ひとつ屋根の下、二人っきりで箸を交差させているだけだ。

 まともな感覚であれば、ほっこりするはずだ。もっこりしたとしたらそれは病気です。

 

「はい、焼売ですよー」

「あーん」

 

 焼売でも俺と違って箸をぶっ刺すようなことはしない。丁寧に箸でつまんで、辛子を付けて食べさせてくれる。ンマーイ!

 よっしゃ、それじゃあ今度は……。

 

「じゃあ、お返しに手羽先どうぞ」

「あーん」

 

 手羽先揚げを手で掴んで、口元へ。

 

「んっ」

 

 食べさせやすくするために、少しだけ斜めにしたり、下から上からと角度を変える。まるで口づけをするように。

 

「んんっ……ちゅ……かぷ」

 

 彼女は骨から肉をはずしながら、口だけで手羽先を食べているだけだ。何一つやましいことはない。

 きれいに揃った歯と、小さな舌が目の前で懸命に動いている。

 もっと、もっと食べさせたい……。

 

「おっきくて、お口に入んないよう……」

「ああ、無理するから……いいよ、先っぽだけで……」

 

 手羽元のさっぱり煮をあーんしているだけだ。何一つやましいことはない。軟骨の部分をかじるのは難しそうだった。

 

 鶏を食べ終わる頃には、彼女の唇は油とタレでてらてらしていた。

 同じようにあーんしてもらった俺も、おそらく同じような口になっているだろう。

 次は……これかな。

 

「はい、カレーを付けたナンだよー」

「あーん」

 

 彼女はなんと、本格インドカリーも作れてしまう。スゴイんだよなあ。

 俺はもちろん、本格的に手でちぎって、カレーを付けて口に近づける。

 

「あ、ちょっと垂れそう」

「あっ」

 

 指をぺろりと舐められた。

 

「指を舐めるのは普通だよ、普通、気にしない、気にしない」

 

 ……まぁ、気にしないよね。そうだよね……。

 

「もっかい……じゃないや、もう一口どうぞ」

「はい……あ、もっと垂れそう」

「まぁ、たっぷりつけたほうがね、美味しいからね」

「あーむ」

 

 うーん、指ごと口の中に……俺の指が唾液で濡れちゃったじゃないか……。

 

「お返しです」

「わ、わっ」

 

 もう付け過ぎだよ~。舌を出して床に落ちないように、顔を近づけ、彼女の親指、人差し指、中指を口に。間違えた、ナンを口に。

 

「ちゅぱっ」

「んっ……」

「あ、まだ付いてる……ぺろっ」

「は、んっ……」

 

 指に付いたカレーを舐めるたびに、スパイシーな香りと、甘さでクラクラくる。

 

「もっと……」

「たっぷりのほうが美味しいよ、たっぷりの方が美味しいよ……」

 

 ますますカレーがひたひたになっているナンを食べあう。本当だ、たっぷりの方が美味しいな……。

 

「交代、しよっか……」

「うん……おいしいね……」

 

 もう俺たちの指はお互いの唾液で、てらってらしていた。

 

「ナンが無くなったね」

「カレーだけでいい……よ。指についていれば……むしろ指が美味しいんだよ」

「そうだね……」

 

 それからしばらく。お互いに指に付けたカレーを舐めあった。本格インドカリーなのでスプーンは使わない。当然だ。

 指をなめることに、指をなめられることに夢中になる。

 

「美味しかった」

「美味しかった……ね」

 

 ふー、さすが本格インドカリーだ。二人とも汗をかいた。舌が出たままで、しばらく口にしまえそうにもない。

 当然だが、自分の指はべちょべちょだ。唾液で。

 

「唾液は甘くて美味しいよ?」

 

 あ、本当だ、すごく甘いな……カレーの後だからだろう。

 

「あ、おいしそう……わたしの……わたしも……ぺろぺろ……」

 

 お互い、自分の指を丁寧に舐めあげて、その甘美な味に満足していた。カレーを食べた後は、コーヒーよりも大好きな人の唾液がオススメだ。あんなの苦いだけでちっとも美味しくないんだ。

 しかし、指も口の周りも体液でべっとべとだ。

 

「さ、もう一度お風呂に入りましょう? いい子だからね?」

「そうだね……」

「はい、ばんざーい」

「ばんざーい」

「はい、いい子いい子」

 

 お互いに服を脱がし合う。

 なにか問題でも?

 まぁ、確かに小学生にもなってばんざーいをするのは幼いかもしれない。幼稚園児じゃないんだぞ、と。

 でもいいんだよ、ぼくたちはこれで。

 

「おいで、賢者(さかひさ)くん。かわいいかわいい弟の賢者くん」

「うん、()()()()()

「いいお湯だねぇ」

「そうだね」

「背中流してあげよっか、賢者くん」

「うん、ぼくも背中流すね」

 

 ごしごし。

 ごしごし。

 真奈子お姉ちゃんの背中は、すべすべで白くてキレイだなあ。

 

「さ、お風呂から出たらバスタオルで拭きますよ~、賢者く~ん」

「うん! ぼくも拭いてあげるね!」

「賢者くんは、まだ小さいのに、賢いね~。お姉ちゃんの自慢の弟だな~」

「えへへ~」

 

 ぼく、ほめられちゃった! うれしいな!

 

「パジャマも似合ってますよ~」

「お姉ちゃんもかわいいよ!」

「うそ! ありがとぉ~」

 

 お姉ちゃん、うれしそう! かわいいな!

 

「はい、ハミガキしてあげますよ~」

「ぼく、じぶんで出来るよ?」

「ううん、お姉ちゃんがしたいの。させてくれるかな?」

「じゃあ、いいよ!」

 

 しゃかしゃかしゃかしゃか!

 お口の中がきもちいい!

 

「はい、がらがらがら~」

「がらがらがら~」

「ぺっ」

「ぺっ」

 

 洗面台の鏡に向かって、にかっとする。

 お姉ちゃんも笑った。

 

「さ、一緒に寝ようね」

「うん!」

 

 お姉ちゃんとベッドに入る。

 同じお風呂に入っていたのに、お姉ちゃんからはとてもいい匂いする。ふしぎだな。

 

「お姉ちゃんに抱きついていいんだよ、いつもみたいに」

 

 そっか、いつもそうしてるもんね!

 じゃあ、しようかな!

 安心する……

 

「じゃあ、おやすみのちゅーをしてね? いつもみたいにね? ちゃんと口にだよ?」

「うん!」

 

 お姉ちゃんとキス!

 恥ずかしいけど、嬉しいな!

 いつもしてるんだから、いいよね。

 姉弟だったら就寝前にキスくらい……ん? しないだろ!? 兄妹だってしないんだから!? キスは恋人になってからって言ったよね!?

 っていうか、お姉ちゃんって誰!?

 いつもみたいにちゃんと口にキスしろってどういうことだ!?

 いかん、なにかオカシイ!!

 

「はうわ!?」

「ど、どうしたの、賢者くん」

「どうしたの賢者くんじゃないよ!?」

 

 うわうわうわ、記憶は少しも失ってないけど、意識は誰かに乗っ取られていたような感覚だ……。おいおい、俺は一体、何を……

 

「ほ、本当に俺は催眠術に?」

「あーあ、とけちゃった」

 

 残念そうに肩を落とすお姉ちゃん。じゃないよ、真奈子ちゃんだよ!

 思い出してきた……別荘に来てから、お風呂を出た後にやっぱり俺たち二人だけで泊まるなんて駄目だって俺が言ったら……

 

「でも、しーちゃん先輩と二人なら問題ないですよね?」

「ないよ、そりゃ兄妹だから」

「わたし達も姉弟ですよね? ほら、お姉ちゃんですよー」

「くっ!? 魅惑のひざ枕……?」

「賢者くんは偉いね~、小説のために弟の気持ちになるんだよね~」

「弟の気持ち……」

 

 そう言えば、女児向け作家としての職業的な成長のために女子小学生の弟になったこともあったな。あれは勉強になった(気がする。そうであれ)

 

「ほ~ら、わたしはお姉ちゃんだよ」

「お姉ちゃん……」

「わたしはお姉ちゃん。真奈子お姉ちゃん。賢者くんの大好きなお姉ちゃんだよ~」

「真奈子お姉ちゃん、好き……」

「そうだよ~、賢者くんは~、真奈子お姉ちゃんのことが大好きな~、小学生の男の子で~、わたしの大切な弟だよ~」

「そうだ……そうだった……」

「じゃあ、一緒にご飯を作って食べようね……いつもどおり食べさせあって……」

「そうだね……」

 

 こんな感じで今の今まで、俺は真奈子ちゃんの弟になりきっていた。やべえ、真奈子ちゃんはなんと催眠術を使うぞ!?

 一度催眠術にかかった後は、言われるがままに何を言われてもそうだと思ってしまっていた。

 小さな男の子として扱われれば、自分が小さな男の子だと思い込んだ。

 今となっては真奈子ちゃんの唾液が甘露だったことが、催眠術のせいだったのかどうかもわからない。

 お風呂にいるときは自分が弟だと信じて疑わなかったな……おかげで少しも恥じることなく身体を隅から隅まで見てしまった。

 これは……このままにはしておけない。

 

「真奈子ちゃん」

「はい……やっぱり同じベッドで寝ちゃ駄目ですか……?」

「そんなことより、催眠術のことを詳しく」

「えっ!?」

「小説のネタにするから詳しく教えて」

「な、なるほど! さすが先生です!」

 

 催眠術なんて、王道じゃないか!!

 官能小説のネタとして最高だぜ!!

 ま、ひょっとしたら児童向け小説でも役に立つかもしれない。

 

 その夜、俺は催眠術のことを聞いて、メモを取りまくり、気づいたら寝落ちしていた。




難産でしたー!

こういう後で仕掛けがわかるタイプの小説書いたことなくて。
なんていうんですかね、ミステリ?(こんなアホなミステリがあるか。ミステリをなめるな)



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学校では教えてくれない授業

 

「どうした? ついに脱ぐのか!?」

「ち、違うっ! なんで脱ぐのよ」

「いや、最近は声優も結構水着になるだろ」

 

 突如、通話アプリのコールをしてきたのは小江野忍琴(こえのおしごと)。同じ専門学校の、声優科で学んでいる声優のたまごだ。

 一応すでにデビューしていて、エロゲーのえっちシーンのないキャラの役などで声優をしている。早くエロい役をやれ。

 声優さんも最近は若くて可愛くてナイスバディな人が増えており、小江野さんもまさにそういう女の子である。

 声優雑誌にも水着写真のグラビアは結構載っていて、小江野さんがそこにいても不思議ではない。

 まぁ俺は別に声優ファンではないので、普通にもっと肌の露出が多い雑誌を買うが。

 

「私なんかが脱いだって、売れません」

「俺は買うけど」

「……ッ! 買うんだ」

「乳首が出てたらな」

「出さないからっ!? ……で、でもそれなら買うんだ」

「三冊買ってもいいね」

 

 使う用と、使う用と、使う用だ。

 汚しちゃったときのスペアと、それも汚しちゃったときのためのスペアだ。

 そのくらいの慎重さが必要。

 

「そ、そっか。三冊も買っちゃうんだ。へへ」

「嬉しそうだね。やっぱり乳首出す? 出しちゃう?」

「絶対出さない!」

 

 ノリが悪いな。ポロリといけよ、ポロリと。

 まぁ水着でも買うけど。

 

「で? なんの用?」

 

 明日も普通に学校があるのに、わざわざこうして連絡してきたということは何かあるのだろう。学科は全然違うので普通には会わないが、訪ねてくればいいわけで。

 つまり学校では言えないことなのかもしれない。

 

「今、妹は風呂に入ってていないから、大丈夫だぞ」

「な、何が?」

「学校で言えないようなエッチな話なんだろ?」

「ち、ち、違わない……けど……」

 

 なんだと!?

 マジでエッチな話なの!?

 来たか。ついに俺にもそういうときが来たかっ!?

 

「実はその」

「実は、その!?」

「エッチな」

「エッチな!?」

「ゲームの」

「ゲームの!?」

 

 ここまで来て、またしてもエロくない役をやるとか言うわけがない。

 おめでとう! エロゲー声優デビュー! シナリオに参加したい! 紹介して!

 

「ラジオをすることになった」

「……えっ?」

 

 ラジオ?

 ラジオですか?

 

「うん……エッチなゲームを紹介するインターネットラジオのパーソナリティをやらないかって」

「ええ……それって普通エロゲー声優がやるんじゃないんですか」

「ほら、競馬を知らない女の子が競馬番組をやったりするじゃない」

「あぁ……確かに。そういうノリなんだ」

 

 何も知らない声優のたまごの一八歳の女の子が、段々とエロゲーに詳しくなっていくラジオか……素晴らしい。企画とプロデュースと俺が出来ないことが不思議なくらいだ。

 

「しかし意外だな。そういうのやりたいんだ」

「そりゃエッチじゃないゲームのほうがいいけど。ラジオはありがたいの。アニメは嬉しいけど1クールだけで終っちゃうじゃない。ラジオは結構長く続くかもしれないし」

「リアルな話だなあ」

「リアルな話なの」

 

 声優になりたくてなれる人間は本当に少ないと聞く。このチャンスを逃すような真似は出来ないのだろう……。

 つまり広義の意味では枕営業みたいなものだ。興奮してきましたね。

 

「それでエロゲーをやる前にエロいことをしたいから俺に連絡してきたわけか」

「ち、ち、違います! エロいことじゃなくて、エロゲーがしたいの!」

 

 エロいことではないのは残念だが、今なんて?

 

「エロゲーがしたいだと」

「う、そりゃそうだよ。エロゲーを紹介する番組だもん。やらないと話にならない」

「そういうのって構成作家さんとかディレクターとかが考えるんじゃないの」

 

 Youtuberじゃないんだから、本人が好きなゲームをやるってことはないだろう。

 

「言っちゃったんだもん」

「へ? 何を?」

 

 なんか突然子供っぽい言い方をするから、驚いちゃったじゃないか。

 

「エロゲー大好きでいっぱいやってるって、言っちゃったんだもん」

「はあー!? なんでそんなことを」

「だ、だって、面接でそう聞かれたから……好きですかとか、普段からやってるんですかーとか」

 

 要するに口からでまかせでテキトーなことを言ってたら合格しちゃったと。そして嘘だったなんて言って、このチャンスを棒に振るわけないはいかないと。

 

「なるほど、それで俺を頼ってきたわけか……」

「うん……パソコンはあるけど、エロゲーなんて持ってないし、そもそも知識がないことがバレちゃったら……」

 

 うら若き乙女が、エロゲーの知識がないことを嘆いている。ここで一肌脱がないやつは男じゃないぜ!

 

「エロゲーのことなら俺が知っている。俺に任せろ」

「やったー! じゃ、今から私んち来て」

「えっ、今から!?」

「明後日収録だから、時間がないの!」

 

 しょうがねえなあ……と思いつつも、ワクワクしてきた。

 何も知らない声優のたまごの一八歳の女の子が、段々とエロゲーに詳しくなっていくのが、なんと俺のプロデュースによるものだとは。

 四十八(よそや)Pはやる気満々だよ!

 

 ゲームディスクをケースに詰め込んで、バッグを背負う。

 私鉄に乗って、数駅。降りた後は送られてきたMAPのところへ、軽く駆け足で向かう。

 夕飯を食べる前に家を出たが、すっかり日は落ちて、秋ならではの涼やかな風が吹き付ける。

 それにしても平日の夕飯時に女の子の家に押しかけるなんて、家族の方がどう思うかしら……と考えていたが、目的地に到着するとそれが杞憂であることがわかった。

 っていうか、むしろ心配だ。

 

「これ、どう見ても一人暮らし用のアパートじゃん……」

 

 それは2階建てのアパートであった。

 階段は錆びまくっており、築年数はかなりのものと思われる。

 廊下に設置されている洗濯機もみんなボロボロだ。小江野さんは本当にこんなところに住んでいるのか……?

 表札などかかっていないので『201号室だょ』というチャットのメッセージと部屋番号を何度も交互に見ながらブザーを押す。インターホンじゃなくてブザー。

 がちょっと音をたててドアが少し開く。

 

「いらっしゃい」

 

 小声だ。大きな声では隣に聞こえるからだろう。

 なんか、夜にこっそり一人暮らしの女の子の家にやってきていることを意識してしまうな……。

 いや、落ち着け。俺はエッチなことをしに来たんじゃない。エッチなゲームをしに来ただけなんだ。

 薄手のタンクトップとホットパンツ姿の肌色の多さを気にしてはいけない。もっと肌色率の高いイラストを見るのだから。

 

「おじゃましまーす」

 

 中に入るとすぐにキッチン。といっても一口コンロと流しがあるだけ。

 その奥は六畳一間の和室だった。ドレッサーが置いてあったり、家具の色とかは女の子っぽいけど……。基本的にボロい。エアコンも古い。

 

「ここ、座って」

「う、うん」

 

 ちゃぶ台って感じの小さなテーブルの前に、座布団が二つ。

 

「ノートパソコンなんだね……」

「うん。え? 駄目なの?」

「いや、大丈夫だよ」

 

 エロゲーはスペックの高いパソコンである必要はない。問題は、二人でノートパソコンを使うとなるとよっぽどくっつかないといけないということである。

 

「どれからやる?」

 

 一応、ディスクをいくつか見せる。

 

「わっ、わわーっ」

「なぜ目を覆う?」

「だって、だってエッチなんでしょ?」

「おいおい」

 

 ディスクに印刷されている程度のイラストで何を言っているのか。正直、このイラストよりも目の前にいる女の子の方がよっぽどえちえちです。

 

「えっと~、そもそもどういうやつがあるのかわかんない」

「なるほど。最初はそんなにエロくないやつの方がいいのかな」

「え? あんまりエッチじゃないものもあるの?」

「そりゃいっぱいあるよ。全部が全部抜きゲーじゃないし」

「ぬ、ぬきげー? 毛を抜くゲーム?」

 

 俺は今、美少女から抜きゲーとは何かと説明を求められている。そういうことなのか。ふーむ、なにかトンデモナイことに足を踏み入れてしまった気がしてきたね。

 

「毛は抜かない。単に、抜くっていうんだが意味はわかるか?」

「え。わかんない」

「説明した方がいいか? もちろん、エッチな言葉だぞ?」

「う……お願いします」

 

 ったくしょうがねえな……教えてやるか……本当にしょうがない……手を当てて、耳打ちする。ご近所に聞こえたらマズイもんね!

 

「うっ……そうなんだ」

「そうです」

「え、でも待って。そもそもそれって当たり前なんじゃないの」

「ふむ。エロゲーは全部抜くためにあるんじゃないか。そういう質問だな」

「うん」

 

 俺は腕組みをした。なんというか、そう、今から俺はとても重要なことを説明しなければならない。

 俺が真剣な目をしたから、小江野さんも背筋を伸ばす。

 

「例えば、泣きゲーというジャンルがある。これは泣く」

「え、泣くの?」

「うん。泣く」

 

 マジで泣く。

 

「これはつまりエロがなくても成立するが、あったほうがより物語に入り込めるパターンだ。純文学とかでも、エッチなシーンがあったりするだろ」

「あー、そういうやつか……確かに少女漫画でも結構エッチなやつあるよね」

「そうそう。そういうノリ」

「なるほど。泣きゲー……と」

 

 丁寧にメモをしていく小江野さん。あまりの勉強熱心さに泣きそうである。

 

「あと、バカゲー」

「バカ?」

「要は下ネタってことだな。エロいんだけど、基本的には笑える感じのやつ」

「なるほど、バカゲーと」

 

 バカ丁寧にメモる小江野さん。あまりの勉強熱心さに頭がおかしくなりそうだ。

 

「他には、格闘とか麻雀とかで勝ったらエッチなシーンになるやつ」

「ふんふん。それは抜けないんだ」

「出来ないことはないが、これはゲームセンターにあったものの派生だよな。要するにご褒美としてエッチなイラストが見れるという感じ」

「なるほど、ご褒美ね」

 

 俺がそれを教えてあげたご褒美はもらえるのかな?

 

「そんなわけで色々だ。シミュレーションゲームやロールプレイングゲームとして普通に面白いけど、エッセンスとしてエッチなシーンがあるものもあるし」

「奥が深いんだね」

 

 関心したように、頷く。

 もはやエロゲーに対しての恥ずかしさなど微塵もなく、純粋に仕事のために知識を得ようとしている。プロだ。

 

「で? 最初はどういうやつからプレイする?」

「ロリコンがやるやつ」

 

 は?

 謎の即答に俺は唖然とするばかりだった。





個別パート、小江野さん編をお届けします。

エロゲーに詳しいことで女性声優にモテる。そういう当たり前のことが起こらない現実の方がどうかしているんだ。そうは思いませんか。


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新婚気分で朝までしっぽり

「だってほら、小さな女の子だったら、ねえ? そんなにエッチじゃないでしょ」

「ああ……」

 

 そういう理由だったか……だとすると残酷なことを告げねばならない……。

 

「あと、キミが本当にそうなのかっていうことも知りたいし……」

 

 え?

 本当にそうとは……まさか、児童向け小説家だということを疑われているのか。それに関しては自分でも疑わしいと思っています。正直、エロゲーシナリオライターの方がよっぽどしっくり来ます。

 でも小さな女の子だらけのエロゲーと、児童向け小説はまったく関係ないぞ。

 俺のさっきの説明で、ちょっとえっちな少女漫画と区別がついてないのかもしれない。

 

小江野(こえの)さん。むしろ小さな女の子ばっかりのヤツの方がガチの抜きゲーなんだ」

「え!? なんで!?」

 

 なんでと言われても……。

 なんでと言われてもねえ?

 性癖というのは神秘と同じだ。なぜ惹かれるのか、本人にさえわからない。

 よって論点を変えるぞ。

 

「ほら、だって萌えゲーとか泣きゲーとかだったら普通のさ、中高生くらいの方が違和感ないじゃない。小学生だとさ、なんで? ってなっちゃってシナリオに没頭できないんじゃない」

 

 多分、そうなんじゃないかな。

 しらんけど……。

 

「……中学生は十分小さな女の子だと思うんだけど……」

 

 ハメられた!?

 そんな普通の社会の一般常識みたいなことを言うなんて!

 くそっ、エロゲー声優のくせに……

 

「こほん。いいかな? 真面目な話だ」

「真面目な話なんだね」

 

 小江野さんも仕事ですからね。真面目です。俺も真面目です。

 

「こういうゲームはね、高校生が主人公であることが非常に多いんだ。だから年下キャラとして中学生くらいは普通に登場するんだよ」

「あー、不思議だよね。ラノベなら読む人が高校生だからわかるけど、エロゲーなんてオジさんがプレイするのに」

 

 こやつ……いちいち言ってはならぬことを……。

 

「エロゲーなんてな、高校のときにモテなかった男が、女子中高生とえっちな青春したかった思いを叶えるためのもんなんだよ」

「そうなんだ……キミが言うならそうなんだろうね」

 

 屈辱!

 これほどの屈辱がこの世にあったとは!

 

「別に俺の話ではないのよ?」

「あぁ、つまり賢者(さかひさ)くんは、小学生のときにモテなかったんだね」

 

 モテた……とは言わないが……。

 っていうか別にそういうのを持っているわけでは……持っていないわけでもないけれど……。

 そんなことはいい。

 そもそもの話。

 今彼女がプレイするべきなのは、そういうやつなのか?

 

「なあ、ラジオで話をするときに、ガチロリ抜きゲーの話なんて出来るのか?」

 

 アリかもしれないが、初っ端からパンチが強すぎるだろ。

 まぁ、陵辱レイプものならいいのかというとそれもアレだけど。

 

「うっ……ほら、妹みたいな小さな可愛い女の子が好きでー、っていう設定で」

 

 どこのこんなに可愛いわけがない妹だよ。

 

「コンシューマに移植されそうなやつの方がいいんじゃないのか? 将来そういう仕事がしたいんだろ」

「えっ。ひょっとして……自分の事すっごく考えてくれてる……?」

 

 えっ私の年収低すぎ? みたいな顔をするな。

 

「とりあえず有名どころをいくつかインストールしよう。で、ひとつクリアしておけば最初の収録は乗り切れるだろう」

「すごい……頼りになる……エロゲーの師匠」

 

 エロゲーの師匠。

 その肩書、悪くないね。

 

「ところでインストールって何?」

「そっから!?」

「だってパソコンなんてブログとSNSくらいしかやらないし……」

「ああそう……基本的にパソコンゲームはメディア再生で遊ぶんじゃなくて、一度取り込む作業が必要なんだよ。ちょっと時間がかかるぞ」

「そうなんだ。じゃあ、待ってる間にお礼をしようかな」

 

 そう言うと、彼女は立ちあがった。

 お礼……!

 しゅるしゅると衣擦れの音をさせる小江野(こえの)さん……!

 ――来たか。

 少しは期待していたんだ。

 財布の中に、お守りも二つ入れてきた。

 

「そこまでしてくれるなんて……嬉しいよ」

「え? そんな大したこと無いよ」

 

 大したこと無いのか。

 結構大胆だな……普段からちょいちょいしているのかな……なんてエッチな人なんだ……。

 

「こんな夜に、急いで来てくれたんだもん」

 

 恥ずかしそうに、頬を赤らめた。マジですか。

 そこまで感謝してくれているとは。

 ただエロゲーを持ってきただけなのに。

 まさか、それほどの見返りがあるなんて……

 俺が財布から薄いお守りをひとつ取り出そうとしたところで小江野(こえの)さんは、小さくガッツポーズをすると、

 

「夕飯くらいごちそうするの、当たり前だよ。お金はいらないから」

 

 ……夕飯?

 じゃあその今、身につけたエプロンはコスプレじゃないのか。すっかりそういうプレイなんだと思っていた。

 普通エプロンっていうのは台所でえっちをするときに雰囲気を盛り上げるためのアイテムだろう。

 まさか料理をするために使うなんて……。そんな……。

 

「あれ? がっかりしてる? もうご飯食べてきた?」

「いや、腹は減ってるけど」

「じゃあ、下手だと思ってるんだなー? インスタに載せるために練習してるんだぞー」

 

 むふん、とガッツポーズをして台所へ。

 ほどなく包丁で食材を切る音が聞こえてきた。

 後ろから胸を揉むシチュエーションだな……まぁ実際にやったら刺される可能性があるからやめておこう……

 お尻なら許してもらえるだろうか……

 あ、次のディスク入れないと。

 

「ふんふんふふ~ん♪」

 

 台所から鼻歌が聞こえる。

 うーん、完全に新婚シチュじゃないですか。やはり料理の邪魔をするしかないのかっ。それがお約束というものだ。

 おっと、次のディスクを入れなければ。

 

 インストール作業を真面目にしてしまった結果、料理は完成してしまった。なんということだ……。

 

「どうよ、感想は?」

「んー。新婚みたいだなって思った」

「えっ!? ええっ!? 料理の感想を聞いたのに……」

 

 料理の感想を聞くなら、食べてからにして欲しいんですが。見た目の感想を求めるあたり、インスタのために料理をしすぎだ。

 ただ、確かに見た目がいい。

 うっすら焦げ目のついたバケットに、黒酢の酢豚、そしてトムヤムクン。豪華だし、かなりの腕でないと作れないだろう。

 しかし……

 

「バカなの?」

「えっ!? すごくない?」

「すごいけど、どうすんのコレ。酢豚を口に入れてからすかさずバケットをかじってトムヤムクンで流し込むの?」

「あー。食べ合わせのことは考えてなかった」

「一番重要なことだよ!?」

 

 普通にご飯と味噌汁に酢豚でよかっただけの話だ。インスタでもそういう反応になると思いますけどね。

 

「まぁ、いただきます」

 

 とはいえ食わないという選択肢はないので、ありがたくいただく。

 

「うん、美味しい」

 

 トムヤムクンも酢豚も美味い。一緒に食べたのは初めてだが。

 

「はー。ごめんね?」

 

 食べ合わせのことで反省しているらしい。本当に考えてなかったのね……。

 

「いや、なんかこういうやり取りも新婚っぽくていいよ」

 

 不発に終わった新婚シチュを補充できたような気がするね。ちなみに俺はぬか漬けの切り方や味噌汁の具の数で文句を言ったりはしない。

 ただし枕は、はいとイエスの二択だ。新婚でノーとは言わせん。

 

「っ!? またそういうことを……」

「早く食べて、二人でやろうぜ」

 

 なぜか食べようとしない小江野さんを急かす。

 頬に手を当てている場合ではない。酢豚を咀嚼しろ。

 

「えっ!? 二人で!?」

「そりゃそうだろう……こうなったら朝までやるしかないだろ」

 

 インストールしといたからやっとけ、っていう感じじゃない。きっちりマンツーマンで熱烈指導だ。

 意外と酢豚のタレは、フランスパンにも合うようだ。

 しかし俺は飯を食いに来た訳じゃないからね。

 ゲームをしにきたんだよ!

 小江野さんと!

 

「うう……新婚……そっか……」

 

 顔を赤らめる小江野さん。

 今更なにを。

 

「むしろ食べながら始めるか」

「ええっ!?」

「大丈夫、小江野さんは何もしなくていい」

 

 ゲームといっても、いわゆるアドベンチャー系のやつはオートモードにしておけばオッケーだ。勝手にテキストが進んでいく。

 

「俺に任せておけばオッケーだから。ね?」

「あうあう……でも、そうだよね。初めてだから優しくしてね……」

 

 初めてなのは知っている。

 だから来たんだろ。

 

「じゃあ、いくぞ……最初からいきなりハードだからビックリしないでね」

 

 抜きゲーじゃないけど、序盤がエロいというパターンはよくある。今からやるのはそういうやつだった。

 

「うう……優しくしてって言ったのに」

 

 そう言われてもしょうがない。

 とりあえずパソコンの位置を変えようと、立ち上がると小江野さんはびくんと身体を固くした。そこまでビビらんでも。所詮ゲームだよ。

 

「で、電気」

「へ?」

「暗くしないの?」

「しないけど?」

 

 ホラーゲームじゃあるまいし。

 

「でも、明るいと恥ずかしいし……」

「明るくても暗くても同じだろ」

 

 暗い部屋で二人でエロゲーをするというのも悪くないが、目によくない。

 料理の皿をずらして、ノートパソコンをテーブルに乗せる。

 小江野さんの隣に腰を下ろす。

 

「じゃ、始めるか」

 

 マウスを握って、彼女の顔を見たら、目をつぶっていた。

 

「おいおい、目をつぶってちゃ始められないだろ」

「うう……目を開けるの?」

「そりゃそうだろ」

 

 サウンドノベルって言い方もあるが、基本的にはビジュアル重要だぞ。

 

「さ、プレイするぞプレイ」

「ぷ、ぷれい……」

 

 いくらなんでも緊張しすぎだろ。がっちがちになってるぞ。

 

「大丈夫?」

 

 肩に手を触れると、びびくんと大きく反応。いきなり触れるのはまずかったか?

 

「だ、だだだだ、大丈夫」

 

 大丈夫じゃねえな。

 まぁ、いいや。

 オープニングでも流そう。オープニングにはエロいグラフィックはない。歌もエロくない。

 

「ほら、目を開けて」

「あうう……あれ?」

「これはオープニングだから安心してくれ。ま、すぐにそういうシーンになるがこの作品はライトな感じなんで。オートモードにして見ながら食おうぜ」

「……そ、そ、そうだね。そうだよね!」

 

 なんだ?

 トムヤムクンを飲みながら、顔を真っ赤にしている。

 辛いのが苦手なのに作ったのかしら。

 俺たちは朝までしっぽりとエロゲーをプレイした。なんとかひとつは全クリアしたので、なんとかなるだろう。ガチロリ抜きゲーは、ちょっとしかやらなかった。

 





タイミングって重要ですねー



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公共の場でメイド美少女と

「どうしてこうなった」

 

 落ち着け。

 落ち着くんだ。

 もうすぐ収録開始だけど落ち着くんだ。

 

「ごめんねー、ありがとー」

 

 両手を合わせて感謝してくれるのは、同じ専門学校に通う声優科の小江野忍琴(こえのおしごと)

 今から録るラジオのパーソナリティーだ。

 ラジオはインターネットラジオで、美少女ゲームの紹介をすることがメインの内容となっているのだが、彼女はハッタリで知っていると言っただけなので、ろくに知らなかった。

 直前に一夜漬けでエロゲーをプレイしてみたものの、やっぱり時間が足りないことがわかり、できるかぎりの知識を与えるべく一緒に居たら、結局スタジオまで着いてきてしまった。

 

「始まりました~、美少女ゲーム好きのためのラジオ、HEY! MEN! ガールズ!」

 

 二次元だから平面。平面のダジャレでHEY! MEN! らしい。翻訳すると「やぁ、男。女の子たち」ですね。いや、そんなことはどうでもいい。

 問題はラジオパーソナリティが目の前にいるということだ。

 つまり、俺は、インターネットラジオの、収録ブースにいる。

 

「パーソナリティをつとめますのは自分、新人声優の小江野忍琴(こえのおしごと)で~す! この番組も第一回目なんですが、自分も初めてのラジオです! 大変緊張しております~!」

 

 いや、凄くない?

 どんだけ練習したらそんな上手にできるんだっていうくらいスラスラだぞ。

 さすがエロゲー声優経験者は違うね。

 

「美少女ゲームは好きなんですけど、いかんせんまだ一八歳になったばかりなので、まだまだ知識がない自分なんですが!」

 

 そう。

 そりゃそう。

 エロゲーに詳しい女子中学生がいる方がおかしいのであって、普通は知らない。なので、この設定は正しい。

 一応プロデューサーも若い女の子が美少女ゲームの紹介をするのが面白いから起用しているので、ドン引きするくらい知識がある必要はない。

 面接のときのハッタリが嘘ではないくらいに知っていればオッケーなのだ。

 

「強力な相方がゲストに駆けつけてくれました! 白い鳥文庫、我慢できない! メイドのメイちゃんの作家。四十八手足(よそやてあし)先生で~す」

「ど、どうも。四十八手足(よそやてあし)で~す」

 

 なぜか。

 なぜか俺も出演。

 スタジオに付いてきちゃったら、出演することになっちゃったのである。

 素人が出るのはオカシイと思ったが、彼女は俺を作家だと紹介して突然俺の出演を提案。プロデューサーはそれを聞いて二秒で了承した。

 しかし、俺は主に小中学生を対象とした小説のレーベルである白い鳥文庫の作家だぞ。こんなアダルトなラジオに出ていいのか。

 とはいえ代表作のメイドのメイちゃんは、はっきりいって本当はエロ小説だ。読む人が読めばわかる。

 だからといって……

 いや、だからこそマズイのでは……そもそもこんなこと出版社が許さないと思ったのだが。

 

「もうすぐ、拙著の我慢できないメイドのメイちゃんの二巻が発売となります、ヨロシクおねがいします~」

 

 富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)という女性編集者は美少女ゲームというものをよくわかっておらず、電話してみたところラジオの出演は新刊の宣伝になるからぜひやって欲しいと言ったのだ。ほんとにいいの?

 

四十八(よそや)先生はとっても美少女ゲームに詳しいんです!」

 

 やっぱり、まずくない?

 コミカライズしたときにヤングなんちゃらとか、なんとかスクエアで掲載されるタイプの小説ならいいけど、俺のは付録がいっぱい付いてくるタイプのやつだよ?

 あと、一八歳になったばかりという意味では小江野さんと俺は同じなんですよ。理屈的におかしいよね。

 さっき自分は一八歳になったばかりだから詳しくないって言っちゃったのに、なんで俺は詳しいんだよ。駄目じゃん。

 

「やっぱり、作家ですからね。シナリオを重視する美少女ゲームに詳しいわけです。先生の小説にも、もちろん美少女は登場しますしね」

 

 うん、登場するんだけどね。

 違うのよ、そういう意味の美少女だとマズイのよ。白い鳥文庫はね、文科省が推薦するタイプの文庫なのよ。

 家族で見に行って感動する映画の原作を生み出しているやつなのよ。

 でもねでもね、俺が最初に書いたときは、そういう意味の美少女として書いていたのよ。なんせ官能小説のつもりで書いてたからね。

 だからなおさらマズイのよ。

 どうすんのよ~。

 

「四十八先生の一番思い出に残ってるゲームと言えばなんでしょうか」

「そうですねえ、たくさんあるんですけども」

 

 つい、たくさんあるって言っちゃったよ。

 まぁいいや、俺は一八歳という年齢を公表してないしね。なんとかなるだろ。

 

「やっぱりメイドものですかね」

「やっぱりメイドものなんですか」

「そりゃあね。メイドさんが好きだから、書いてるわけで」

「なるほど」

「主従関係という立場がいいし、ご奉仕っていう言葉がいいし、何よりもメイド服はカワイイですからね」

「はい。自分も始めて着たんですけど」

 

 そう。

 小江野さんはメイド服を着ている。

 ラジオだから基本的には声だけの出演だが、収録の様子の写真を一枚だけ撮るらしい。WebやTwitterで宣伝用に使用するためだ。

 エロゲーの紹介ラジオで着用する可愛くてそれでいてスケベではない衣装は何かと聞かれた、スーパーバイザーの俺の回答はあまりにも正しかった。

 非常に似合っている。とてつもなく似合っている。

 正当な家政婦さんにはとても見えない。明らかにエロゲーのキャラとしてのメイドに見える。端的に言って、えちちのちです。素晴らしい。

 

「カワイイですね、メイド服」

「ええ。やっぱりそうですね」

「そんなメイドさん大好きの四十八先生がとくにお勧めしたい美少女ゲームはなんでしょうか」

「一つ目はですね」

 

 いつの間にか普通に喋っていた。

 好きなメイドものの美少女ゲームの話を、メイド服を着た美少女にするという激レアイベントだ。そりゃテンションが上がります。

 ちなみにうっかりえっちな言葉を使ってしまっても、ピー音で編集してもらえるので大丈夫だと説明を受けている。安心だね!

 

「メイドさんのピーが、ピーピーなんですよ。それで俺のピーもピーです」

 

 オンエアされたときはこんな感じになるだろうね!

 

「あ、あ、そ、そうなんだ~」

 

 小江野さんはピー音がない俺の声を聞いているので、全部丸聞こえだ。合法的セクハラって感じでお得ですね!

 

「やっぱりメイド服を着た美少女は最高です。はっきりいって小江野さんを見てるだけでピーです。マジでピー! ピーピー!」

「あ、ありがとう?」

 

 うへへ。こりゃ楽しい。

 すっかり自分が女児向けの小説家であることなど忘れてしまう。

 ……はっ!?

 そもそも白い鳥文庫の作家がラジオ出演時にピー音連発していいのか?

 それで文科省が推薦してくれるのか!?

 やっちまったなぁ!?

 

「さて、本日は初回の放送でしたが、特別ゲストの白い鳥文庫、我慢できないメイドのメイちゃんの作家の四十八手足(よそやてあし)先生でした。本当にメイドへの愛がありましたね~」

 

 ……いいのか?

 これでいいのか?

 ピー音連発的な意味でメイドを愛している俺の書いたメイちゃんは、全国の女子小学生に支持されるのか!? 「がんばれメイちゃん!」とか言って応援してもらえるのか!?

 

「実は! 自分と四十八先生は同じ学校に通っていて、同じ学年という縁があって今回ご出演いただいているんですよね~。一八歳で作家なんて凄いですよね!」

 

 おいおい、年齢もバレちゃったよ!?

 一八歳の学生でメイドもののエロゲーをやりまくっていて、小学生の女の子が読むレーベルの、メイドが主人公の小説を書いているやつだということがインターネット経由で赤裸々に明かされたよ。

 くそっ、我ながらなんてやつだ!

 

「来週も出演していただけるということで、次回もよろしくお願いします~。ではでは、今週はこのへんで~」

 

 次回も出るんだよなあ……

 この番組は一回の収録で二回放送分を録るいわゆる二本録りというやつなので、このあとも続く。

 何もかも丸裸になってしまった状態で、今度は妹について熱く語ることになっている。

 二巻がメイちゃんの妹のマイちゃんが登場するからね。

 メイド愛と同様に妹愛を語るわけだ。やっぱりヤバくないですか!?

 しかも俺には実妹がいるというのに……

 このラジオ、誰も聞かないでくれ……。

 





小江野さんルートについてはこれが書きたくて始めたって感じですねー。
バカですねー。


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妹の性癖の名前を兄はまだ知らない

「お兄ちゃん」

「ん? なに?」

 

 イベントでの購入特典用に色紙へのサインをしていたら、改まって呼びかけられた。子ども部屋に一緒にいるときはいきなり要件を話すのが普通で、なにやら違和感がある。

 まぁ、大した用事じゃないだろうが。

 

「ラジオ聞いた」

「なんだってー!?」

 

 とんでもない要件だった。

 

「なんでだよ! 普段ラジオなんて聞かないでしょ!?」

富美ケ丘(ふみがおか)さんがツイートしてた」

 

 あの編集! 余計なことを!

 

「今度私も出演したいな」

 

 できるわけ無いだろ!

 ラジオ自体は十八禁じゃないが、トークテーマが十八禁なんだよ!

 

「で、美少女ゲームってなぁに?」

 

 ですよねー!?

 当然その質問出ますよね―!?

 

「ググったんだけどよくわからなくて」

 

 でしょうね! 俺の小説を読んでエロいと思わないくらいですからね!

 

「教えて欲しいんだけど。可愛いメイドさんが出てくることはわかったけど、それ以外はよくわかんなかった」

「うーむ……それはなあ」

 

 なんとかして、ごまかしたいが。

 どうにかなるのかこれ。

 

「小江野さんは知ってたんだよね」

「いや、知らないから俺が教えた」

「え!?」

「この前に家に帰らなかった日あっただろ。あの日に一晩中教えてたんだ」

「――んー!?」

 

 体をびくんとさせる詩歌。たまになる。

 

「ちょ、ちょっとベッドで話してもいい?」

「またか」

 

 妹は体調不良でもないのに、やたら布団をかぶって話を聞きたがることが多い。

 スカートのままでベッドに入るのはどうかといつも思うのだが。

 ちょっと遠いので、仕方なく詩歌側のスペースに入り、ベッドの近くに置いてあるドーナツクッションに腰を下ろした。真奈子ちゃんが遊びに来たら座る場所だ。

 

「ふぅふぅ、で? 小江野さんと?」

「朝まで一緒にいた」

「……っ……何をしてたの?」

「まぁ、その、ゲームだな」

「それって対戦的な?」

「違う違う。パソコンのやつ」

「パソコンのゲーム? どうやって二人でやるの?」

「一台しかないからな。肩を寄せ合って」

「一晩中、肩を寄せ合ってた」

「そう」

 

 くちゅくちゅくちゅ

 

「ん?」

 

 どっから音が?

 なんか最近我が家はこの謎の音が聞こえることが増えている。

 

「んん~っ!」

「どうした?」

「ふぅふぅ、いやなんでもない」

「そうか?」

 

 様子がおかしいが、こいつが変なのはいつものことなので気にすることもない。

 

「で、どんなゲームなの」

「うーむ」

 

 なんと言えばいいのか。

 エロゲーとは何かを実の妹に説明するとき、みんななんて言っているの?

 

「なんというか、あれだな。ノベルゲームだな」

「ノベルゲーム。あー、文章を読むやつ」

「そうそう。それの美少女が出てくるやつが、美少女ゲーム」

「ああ。なんだ、じゃあお兄ちゃんが書いてる小説みたいなものってこと?」

「そうだよ! まさにそう!」

 

 俺の書いてる小説はエロゲーみたいなもんだよ! まったくそのとおりだが、全国の女子小学生の三万人が読んだらしいよ! やばい! なんか小学校の図書室にあるっていう話も聞いたことある。やばい!

 

「じゃあ、私もやりたい」

「え、駄目でしょ」

「なんでよ!?」

「あげはちゃんならともかく」

「ん!? あげはちゃんならいいの?」

 

 あげはちゃんは下手したらやってるんじゃないでしょうか。

 年齢制限のあるものですから、やってたとしたら褒められたことでもないので聞けませんけど。

 

「まぁ、あげはちゃんは特別だから」

「あっ、やば」

 

 くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ

 

「ん、あっ、お兄ちゃん、もう一回、もう一回今の言って」

「は?」

「いいから! 早くしてくれないとイッちゃう」

「はあ? うーん、あげはちゃんは特別なんだよ。他の子とは違うの」

 

 くりゅっくりゅくりゅ

 

「んんんんん~ッ!」

「な、なんだよ」

 

 いつも変とはいえ、変すぎるぞ。

 

「ふう、ふう。ふひー。いやー、他にはいないの? 特別な子」

「は? ゲームのことはいいの?」

 

 いいならいいが。

 

「ああ、そういえばそうだった」

 

 忘れてたのかよ。

 

「どんな美少女が出てくるの?」

「んー。真奈子ちゃんみたいな」

 

 いや、実在する小学生をエロゲーのキャラに例えるのはどうかと思うけど。

 

「お兄ちゃんって、まなちゃんのこと美少女だと思ってるの?」

「誰がどう見ても美少女だろ」

「うんうん。そうだね、いいよいいよ、その調子」

 

 何がいいんだ。

 

「どのくらい美少女かな、まなちゃん」

「そうだな、ゲームで言うとメインヒロインだな」

「メインヒロインって、ゲームのパッケージに一番大きく描かれてるってこと?」

「そうそう。一番可愛い子」

「んっ、一番、可愛い……まなちゃんのこと……そんなにっ」

「なんか顔赤くないか?」

 

 なんで?

 お前を可愛いって言ったんならわかるのよ。

 俺の小説で頬を赤らめるシチュエーションとまったく異なるんだよな、我が妹は。

 自分以外を褒めてるんだから、嫉妬するんじゃないの、普通。

 いや、別に兄になんて嫉妬することもないと思いますけども。

 

「その子とどういうお話になるの?」

「うーん」

 

 いろいろあるが。

 陵辱することもあるし、一緒に戦うこともあるし、世界を救うこともある。

 だが基本的にはアレだな。

 

「その子と恋愛をして、エンディングを迎えるかな」

「まなちゃんみたいな女の子と恋愛するゲームやってるんだ」

 

 そう言われると俺がやばいやつみたいじゃん。

 

「ゲームやってて、どんどん好きになるの?」

「あ、ああ。そういうゲームだからな。ラジオでもそう言ってたと思うが」

 

 ぐちゅぐちゅぐちゅ

 

「はぁはぁはぁはぁ!」

「おいおいおい! 何してる! 何をしてるんだお前は! 布団の中見せろ!」

「ええ? はぁはぁはぁ、それもアリかも……――ッ! ふぅ~」

 

 うーん。まるで賢者タイムみたいな表情なんだけど……。

 むしろこいつがエロゲーをプレイしてたんじゃないかと疑うレベルだよ。

 ところがどっこい、俺がゲームの話をしていただけなんだ。わけがわからないよ。

 

「じゃあお兄ちゃんがまなちゃんそっくり美少女にハァハァしてたゲーム貸してよ」

 

 言い方……! 少しも間違っていないが……!

 しかしながらエロゲーを妹に貸せるわけがない。断りましょう。

 

「やだよ。そもそもパソコン持ってないだろ」

「パソコンも貸してよ」

「駄目だよ、原稿書かなきゃいけないんだから」

「え! 三巻!? 三巻書くの!?」

「そうだよ」

「どうなるの、どうなるの」

「お楽しみに」

「楽しみだな~!」

 

 そう言いながら、ティッシュで手を拭く詩歌。

 そこまで楽しみにされると悪い気はしない。

 

「じゃ、ゲームはいいや。十分楽しんだし」

「あ、そう」

 

 助かった。あぶなかった。俺は胸をなでおろした。

 

「ラジオも楽しみだな~」

「来週は聞かないでくれ!」

 

 来週は妹モノのエロゲーの話だ!

 絶対に聞かれてはまずい!

 

 





なにこれw

自分で書いててどうかしていると思いますね(今更か)


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触手に溶かされてゆくエルフの衣服

 ピシュピシュピシュ!

 マイに襲いかかるのはピンク色の大きなミミズのようなモンスター。それを弓矢で撃ち落としていくのはエルフのエルだ。

 

「くっ」

 

 多勢に無勢。ミミズは次々にマイの体に巻き付いていく。

 

「マイっ!?」

「僕のことはいいから! エルは逃げて!」

「そんなの、出来るわけないっ!」

 

 弓矢を投げ捨て、引き剥がそうとするエルに、ミミズたちが襲いかかる。

 

「あたしが囮になるから、今のうちに!」

「それこそ出来るわけないでしょっ」

「でもこのままじゃ……」

 

 ぎゅううっ

 二人のうら若き乙女たちに、絡みつくミミズモンスター。ヌルヌルとした体液が、少しずつ服を溶かしていく。

 

「ああっ……あつい……」

「くうっ……助けて、助けて勇者様……」

 

 二つの月による月光が二人の白い素肌を明るく照らす中、二人はお互いの無防備となった肢体を見ながら、身の危険以上に目覚めた新たな気持ちに気づくのだった……

 

「ボツです」

「ええ!? なんでですか!?」

 

 三巻の原稿の内容についてこんな感じで考えていますよというメールを送ったら、担当編集の富美ケ丘さんから電話がかかってきたのだが、またしてもボツだと言う。自信作であり、そんなわけがない。

 

「説明いります? 世界変わってるんですけど。モンスター出てるんですけど。月が二つあるんですけど。そしてこんなの百合じゃないんですけど」

 

 ボロクソじゃないか!

 何だよ!

 これが編集者の仕事かよ!

 文句を言うだけで飯が食えるなんて羨ましいですね!

 俺が苦労して触手プレイを入れようとして頑張ったっていうのに!

 

「じゃあどうやって触手を出せばいいんですか」

「ショクシュ? よくわかりませんが出さなくていいです」

 

 畜生!

 作家が表現したいことが何一つ表現できない! 創作に携わるものへの暴力だ!

 面白いものが世の中に出ないのはこういう横暴のせいなのだ! 我々は団結しなければならない! 読者のみなさ~ん! こいつが敵ですよ―!

 

「エルフが出てくるようなファンタジーだったなんていまさら読者が混乱するようなことはやめてください」

 

 読者の味方みたいなことを! 読者は待ち望んでいるだろ!

 だいたい、ご主人さまとメイドの姉妹がいる状況なんて十分ファンタジーだろ! 現代日本でそんな事あるかよ! エルフが出てきてなぜ悪い! メイドもエルフもみんな大好きだろ! いいかげんにしろ!

 

「名前もエルフのエルって、ちょっと安直すぎませんか」

 

 今更だろ! メイドのメイちゃんだぞ! 今更すぎるだろ!

 

「そもそも勇者様って。てきとーに新キャラ出すのやめてください」

 

 てきとーって言うな! なんか、こう……助けを求めて欲しい雰囲気だったんだよ! エルフが出てきたら勇者も出てきてほしいんだよ! なんとなく!

 

「服を溶かすのは意味がわからないし、本当にやめてください」

 

 そこが一番書きたいんだよ! 要するにデカイみみずに服を溶かされるエルフがみたいの! 桜上水みつご先生の!

 

「そこは譲れないのですが」

「三巻が売れなかったら四巻で打ち切りですけどいいんですか」

「すみませんでした! 書き直します!」

 

 卑怯者め。売上の話と、打ち切りの話をしやがって。それを言っちゃおしまいだよ。

 くっそー、作家のクリエイティビティを何だと思ってるんだ。ゴブリンにレイプされちゃえ。死ねずに次々と犯されろ。

 

「四十八先生は編集部としても期待している新進気鋭の若手作家ですからね」

 

 ん?

 

「独特の文体自体はいい持ち味だと思いますし、ちゃんとした続編にしてくれれば問題ないですから」

 

 んん?

 

「この我慢できない! メイドのメイちゃんは個人的にも大好きな小説ですから、本当に楽しみにしているんで、もっと頑張って書いてくださいね」

「はい! がんばります!」

 

 なんていい編集者なんだ。

 こんなに素晴らしい人がこの世にいたことに感謝しなければならない。

 一生ついていこう。

 

「お、お兄ちゃんやる気だね。どうしたの」

「生きててくれることに感謝するレベルの女性に出会った。一生ついていくことに決めた」

「ン~ッ!? また新たな出会いに感謝ぁ~ッ!」

 

 妹は自分のベッドにルパンダイブした。

 不二子ちゃんどころか抱き枕すらないのに、何がそんなに興奮するのか。

 愚妹に構っている暇はないので、さっさと三巻のことを考えよう。

 さて、百合要素を追加することは決定。メイの相手が本当の妹のマイではないことも決定しているから、新キャラの登場は不可避だ。

 エルフが出せないとしたら、どんな魅力的なキャラクターを生み出せばいいのか……。

 

「んむ~」

「んっ、んっ」

 

 そんなに魅力的な女性なんて……いたじゃん!

 今、いたじゃん!

 そう、もちろん!

 

「んっ、ん~!」

 

 なんか変な声を出してベッドをごろごろしている愚妹、ではもちろん無く。

 素晴らしき美人編集者富美ケ丘文乃その人であります! こんなに魅力的な女性を登場させないわけがない!

 メイの年上で、メイを評価する立場。うん、そうだね、メイド長だね。

 メイド長の名前は……フミでいいな。

 よっしゃ、これで書ける!

 

 ――翌日。

 俺と担当編集はパソコンによるWeb会議を実施していた。

 出版社のエリート編集者らしく、ぴしっとした藍色のスーツ。美しい。

 プリントアウトされた俺の原稿案をぺろぺらとめくってから、こちらを向く。品のいい化粧だ。本当にきれいな人だな。仕事もできそうだ。

 

「なるほど、メイド長ですか」

「ええ。いいでしょう、メイド長」

「うーん、この女性……なんか魅力的じゃない気がするんです」

「な!?」

 

 まさか。だってモデルはあなたですよ?

 清楚で可憐で柔和で、上品なうわ若き乙女ですよ?

 

「なんかこうメイに対する指導? というか苦言? にですね、愛を感じないというか」

 

 ええ!?

 だってそれは富美ケ丘さんが俺にしてくれたアドバイスですよ!?

 

「ビジネスライクというか……上っ面というか……」

 

 そ、そんな馬鹿な。

 そのまま頑張ればいいだけで、期待していて、大好きなはずでは。

 

「本当は好きじゃないけど、仕事だからなっていう感じがだだ漏れなんですよね」

 

 いやいやいやいや、そんなはずは……。

 

「あ、すみません。せんせー! すいちゃんせんせー!」

 

 モニターに映った富美ケ丘さんは、上げた手をぶんぶんと振る。大好きな友達を見つけた女の子のように。どうやら編集部を通りがかった作家らしい。

 

「すいちゃんせんせーの次回作、もう、さいっこう! さいっこうですよ!」

「えー。いつもそう言ってくれますけど、そうですかぁ?」

「やばいです。もう読んでて興奮が止まらないし、涙も止まらないし。好き。大好き」

「あはは」

「ちょーっとだけ矛盾みたいなのとかあったんで、後でメールしますけど、ホント、それだけですから。基本名作ですから。永遠に重版ですよきっと」

「ありがとうございます」

「それじゃ、すいちゃんせんせー。ちょっと今野暮用なんで。また」

 

 ……全然俺と対応が違うじゃねえかよお!!!

 今のと比べたら俺なんてビジネスライクとか上っ面どころじゃねえよ! まじで仕事だからしょうがない感じがだだ漏れまくりだよ!

 そもそも俺との打ち合わせを野暮用って言っちゃったよ。

 しかも顔だよ。満面の笑みからのこのスンとした顔。もう露骨すぎませんかね。

 

「で、ですねえ」

「あ、いや。すみません。ちょっと今わかったことがあるんで、書き直します」

「あ、そうですか。じゃあ、できたらまた送っておいてください」

 

 ぷつっと回線を切ったあと。

 

「だ~」

 

 ぐで~っと椅子にだらけた。

 一生ついていこうと思ってからまだ24時間経っていないのだが、もはやそんな気持ちはない。

 かといって文句も出ない。

 あれが本当のことなのだ。

 愚痴っている場合ではない。

 俺はWeb会議の録画を見直す。

 腹は立つ。腹は立つが、今の富美ケ丘女史こそ、理想のフミだろう。

 よく知りませんが、すいちゃんせんせーとやらへの態度は理想的だ。

 俺もあんな風に接してほしかったし、メイド長がメイに今のように接していたらそれは百合なのかもしれない。

 

「書いてやる。書いてやるぜぇ……」

 

 編集者にちやほやされないと書けないようなやつと一緒にするんじゃねえ。

 書きたいものだけ書くのがクリエイターか? そうじゃないだろ。

 理不尽な思いとか、思い通りにいかない歯がゆさとか、そういう経験を作品に昇華することが創作だろ!

 

 翌日に送った原稿はオーケーが出た。

 フミが魅力的だしメイへの愛を感じるってさ。あんただよ。自画自賛か。

 しかし、俺は清々しい気持ちだった。

 編集の富美ケ丘さんのおかげで書けたことには間違いないからね。そりゃエルフのエルちゃんは無いだろ。冷静に考えたら当然だ。言ってもらわないとわからない方がどうかしている。

 そう思ったら、感謝していた。

 そして好きになっていた。

 なんせ、自分のキャラクターのモデルだからね。

 一生ついていくかどうかは、わからないけどな。




お久しぶりです。
連休を使ってこれを読み直したら、自分で書いたのに笑ってしまいました。
笑っちゃった所に「ここすき」したいですよね。
ぜひみなさんも「ここすき」していただけると幸いです。


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いいなり使用人と貴族の部屋

 生演奏のゆったりしたジャズを聞きながら、若干俺はビビっていた。

 自宅でパーティーが出来るということ自体が驚きだが、そこはちょっとしたホテルのパーティールームそのものといった部屋で、シャンデリアがいくつも光り輝き、白いテーブルかけの丸テーブルがそこかしこに配置されている。

 芸能人の結婚披露宴みたいだ。ここまで大金持ちとは思わなかった。

 

「あ、四十八(よそや)先生」

 

 彼女が小走りで近づいてきたおかげで、少し安心する。

 真奈子ちゃんの装いも純白のドレスで、ところどころがきらきら光っている。

 ウェディングドレスに見えなくもないが、どちらかというとディズニープリンセスを思わせた。エロい対象にしてはならないものナンバーワンだ。怖い。不安になってきた。

 

「12歳のお誕生日おめでとう、真奈子ちゃん」

「ありがとうございます、四十八(よそや)先生。わたしももう12歳なので、これでもういつでも大丈夫です」

「……何が?」

 

 大丈夫と言われると、かえって不安になることがあります。今です。

 頭を掻こうとして、使い慣れない整髪料でべったりだということに気づく。

 いや、本当に大げさじゃなくビシッとした格好で来てよかった。まさかこんな本格的だとは……。

 

 今、俺は清井真奈子ちゃんの誕生日パーティーにお呼ばれしていた。彼女は俺の妹である詩歌の年下のお友達なので、その経緯で招待されたのだ。

 詩歌は中学生なので学生服姿で、一緒にやってきたので俺の隣にいる。

 

「おめでとー、まなちゃん」

「あ、しーちゃん先輩、来てたんですね」

 

 あれっ?

 詩歌が真奈子ちゃんにお祝いの言葉をかけたわけだが、その存在を今知ったかのような反応だ。まるで俺についてきた金魚のフンを見るような。

 いや、そんなわけがないのだが。きっと俺の目がおかしいのだろう。

 詩歌は少しもショックを受けた様子はなく、笑顔で応える。

 

「そりゃそうだよぉ~、まなちゃんは私にとって姉妹(しまい)みたいなものじゃない」

「しーちゃん先輩! ちょっと、ちょっと! そこのスタッフさん! しーちゃん先輩をVIPルームにお通しして」

 

 やはり俺の目が節穴だったらしい。真奈子ちゃんは大歓迎のようです。それにしても姉ならともかく姉妹という言い方が気になる。百合のお芝居のときのことが忘れられないのかしら。なんなら俺のお稲荷様も見てましょうか?

 真奈子ちゃんは、おいでおいでのような手付きを素早く繰り返し、その手の先から一人の女性が近づく。

 

「しーちゃん先輩さま、こちらへどうぞ」

 

 むっ!?

 キュピーン。女体アンテナが反応したぞ。鬼太郎が妖怪を見つけたときのように、ビンビン来る。

 この女性は一体……!?

 

「メ、メイ!?」

 

 そこに居たのは、紛れもなく俺の書いている小説のヒロインであるメイドのメイそのものだった。

 

「はい?」

 

 小首を傾げるその表情は、物憂げというか落ち着いた大人の雰囲気を醸しており、まったくメイとは似ても似つかない。

 しかし顔と服装、そしてボディ。要するにルックスだけで言えば完全にメイだった。むしろメイよりメイだ。つまり、桜上水みつご先生が描いてくださったメイよりも俺が思い描いていたメイにそっくり。

 こんな完璧なメイドが日本にいたのか。メイドさんは本当にあったんだ! エルフみたいなファンタジーじゃないんだ!

 

「ま、真奈子ちゃん。この人は?」

「はい? ああ、バイトの方です」

「バイトなの!?」

「はい。パーティーだから人手が足りないので」

 

 バ、バイト……こんな完全無欠のメイドさんが……。

 

「しーちゃん先輩さま、お段差にお気をつけくださいませ」

「う、うん」

 

 メイがパーティールームを出ていった。あぁ……。

 

「さぁ、四十八(よそや)先生。まずはダンスタイムを……そしてその後……うふふ」

「あのバイトさんの名前は?」

「え? いえ、バイトさんの名前までは知りません……。今日はじめて会いましたし」

 

 むむむ。あれほどまでに似ているなら色々と知りたい。なんなら決めていなかったメイのプロフィールを彼女にしてしまいたい。血液型とか。誕生日とか。好きなディルドーの形とか。

 

「知りたい……」

「えっ?」

「彼女のことが知りたい」

「えええええ?」

 

 ズカズカと後を追うと、困ったような表情であたふたしつつ真奈子ちゃんが袖を掴む。

 

「あ、あの、えっと、わたしの誕生日ですし、その、ダンスの後にもいろいろと予定が」

「真奈子ちゃん」

「は、はい……」

 

 俺が彼女の名前を強い語気で言い放ったため、萎縮してしまった。しゅんとした表情は可愛らしいが、胸が痛む。しかしこの出会いを見逃すわけにはいかない。なんとしてでも彼女を逃してはならない。ただのバイトであれば尚更だ。一期一会かもしれないのだ。

 

「彼女のことが知りたいんだ」

「な、なんでですか……」

「それはもちろん……」

 

 大きな瞳をうるませて俺を見上げている。なにか予定していたことが駄目になってしまうかもしれない不安からだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいだが、我慢できない。メイドのメイちゃんに我慢できない、我慢できないメイドのメイちゃんの作者です。

 

「まさか。ひ、ひとめ……」

「作品のためだ」

 

 うつむきながら何か口にした真奈子ちゃんだが、俺の小説のファンである彼女なら理解してくれるだろう。

 

「あのバイトの彼女は、メイドのメイちゃんそのものなんだ。彼女のことを聞くことで、描写がよりリアルになると思うんだ。もちろん小説のためだよ」

「あ、ああ! そういう! さっすが四十八(よそや)先生! さすがです!」

 

 やっぱりな。小説のためだと知れば、わかってくれると思ったんだ。彼女はありがたくも、俺の小説の大ファンであるのだから。本当は官能小説だということはつゆ知らずも。

 

「そういうことなら……」

「ありがとう。ごめんね、せっかくの誕生日パーティーなのに」

「いいえ、じゃあVIPルームに行きましょう」

 

 パーティールームから両開きのドアを開け、絵画や花瓶が飾ってある廊下を少し歩いく。VIPルームと思われる部屋の少し開いているドアから何やら声が漏れていた。

 

「許してください……」

 

 こ、これは我が妹の声。

 一体何が起きているのか。どうせ妹のせいでろくでもないことが起きているに決まっている。俺の魂を賭けよう。

 

「何をやってるのかな」

 

 不穏なセリフが聞こえているにも関わらず、俺と同様にのんびりとした感じで中に入る真奈子ちゃん。

 そこで見たものは。

 

 じゃーんじゃーんじゃーん(げえっ、関羽! ではなく、サスペンスの方です)

 

 突っ立ったままで微動だにしないメイドさんと、その下でうずくまっているパンツ一丁の妹だった。なにそれ。どんな事件だよ。

 

「えっ、お前、何やってるの」

 

 俺は推理を披露することもなく、普通に疑問を口にした。

 真奈子ちゃんも俺の隣にすっくと立つ。蘭のポジですね。

 

「しーちゃん先輩、相変わらずですね」

「相変わらず!? この状況は普段どおりじゃないよ!?」

 

 確かに目に映る光景は異常事態なのだが、なんか異常に感じない。詩歌そのものが常に異常だからだろう。

 

「何やったんだ、詩歌」

「ちょっとは信頼してくれてもいいのに!?」

「何言ってるんだ、そのメイドさんが変なことするわけないだろ」

「んん~っ!? 名前も知らない会ったばかりの女の子にその信頼度~ッ!?」

 

 部屋のど真ん中で、メイドさんと真奈子ちゃんと俺に見下されながら、パンツ一丁でカーペットにぺたんと座った妹は、高い声を上げた。おっぱい見えるぞ。あるのか知らんけど。

 

「はぁ……はぁ……まなちゃん、おトイレどこかな」

「お風呂じゃなくてですか?」

「あ、そうだね。じゃあお風呂にする」

 

 だから何でどっちでもいいんだよ。

 真奈子ちゃんはパンツ一丁だから言ってくれたんだと思うけど。

 

「しかし、しーちゃん先輩さまは、完全に全裸になるまで野球拳をやめないというお約束でしたが」

「何やってるんだよお前……」

「だって! VIPだって言うから!」

 

 VIPの概念どうなってるんだコイツは。

 そういえば俺が持ってるちょっと古い官能小説の短編で、そういう設定の話があったけど……まさかな。

 

「しーちゃん先輩をお風呂場に連行して。終わったら戻ってきてね」

「承知いたしました」

「まなちゃん? 今、連行って言った?」

「上着いります?」

「いります……」

 

 前かがみになったところに、上着をかけられて、メイドさんに連行されていく我が妹……どうみても逮捕です。早く罪を償って帰ってこいよ。

 二人が出ていったが、ソファーに腰掛ける雰囲気もなく、突っ立ったまま、顔を見合わせる。

 

「……野球拳? っていうのしますか?」

「しっ、しないよ?」

「そうですか……」

「あの、一応補足しておくけどVIPルームでそういうことしないからね?」

「あ、やっぱり」

 

 あぶない。野球拳がなんだかわかってないんだと思うけど、真奈子ちゃんのお父上がVIPルームにお客様を通すたびに「あ、野球拳やるんだな」って思っちゃったらヤバい。そうなったら妹は確実に有罪。執行猶予も無しで実刑確定。

 

「ただいま戻りました」

 

 カーペットの上に少し濡れた部分があるのを見ていたら、バイトのメイドさんが戻ってきた。冷静というか感情の起伏が少ないタイプらしい。表情も少しまぶたを閉じた状態をずっとキープしている。

 

「おかえりなさい。名前を教えてくれますか」

 

 年上であっても、こういった言葉遣いになるのは普段から雇い人に接しなれているということだろう。金持ちぱねえ。

 

瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)です」

「瀬久原さんね」

 

 名前はメイじゃなかった。そりゃそうか。

 

「瀬久原さん、このカッコイイ男の人が四十八先生。最高の小説家です。小説の取材だから聞かれたことはすべて答えてね」

「承知いたしました」

 

 あっさり了承したな……。いいのだろうか。

 

「よろしくね、柑樹」

「はい」

「よ、呼び捨て!?」

「マズかったかな」

「いえ、その瀬久原さんがいいのなら」

「甘んじて受けます」

 

 メイだと思ってる相手だと、どうしてもさんを付ける気がしない。

 真奈子ちゃんは少し不服そうだ。それはそうだろう、雇い主がさんを付けているのに俺が呼び捨てというのはおかしい。おかしいのだが、ここは許して欲しい。

 まぁ、とりあえず聞きたいことを聞いていこう。まずはジャブだ。

 

「身長はいくつですか?」

「158cmです」

 

 なるほど。メイの身長は158cmだったのか……メモメモ。

 そこから計算すると、ご主人さまが174cmで、マイは148cmということになるな。すごいな、めちゃくちゃ捗るな。

 

「体重はいくつですか?」

「44kgです。昨日のお風呂上がりに量ったものになります」

 

 正確な回答。素晴らしい。

 やっぱりちょっと痩せているんだよな。イラストのメイは食いしん坊設定だから、肉付きがよくなっている。その方が元気な印象だし、児童向けなのだろう。

 しかし柑樹がそうだと言うならそうなのだ。

 

「ブラジャーはBカップですか?」

「そうです」

 

 やっぱり! そうだと思っていたんです。身長や体重なんかは特に考えていませんでしたが、ブラはBだと思って執筆していました! 裏が取れました!

 一応メモをしていると、肩をつんつんされる。

 どうやら真奈子ちゃんが指で突っついていたようだ。

 

「わたしには聞かないんですか?」

「え? ブラのこと?」

「はい」

「それはセクハラになっちゃうでしょ……駄目でしょ」

「そうですか……」

 

 なぜか残念そうだが、俺はそんなセクハラ野郎ではない。

 柑樹は、メイドさんのエプロンのところで両手を合わせたままじっとしている。こういう態度や表情はメイとはまったく違う。ドジなんかしなさそうだ。

 

「お尻は柔らかいですか?」

「それは誰と比較してでしょうか」

 

 なるほど。本当に正確な考え方をしていらっしゃる。

 

「わ、わたしが、四十八先生と瀬久原さんのお尻を触って比較しましょうかっ」

 

 真奈子ちゃんが興奮気味にそう言ってくれた。真奈子ちゃんでもメイドさんのお尻を触るのは興奮するらしい。

 

「構いませんが……」

「でも……俺より固いわけないもんな」

 

 こくり、と頷く柑樹。

 メイのお尻が俺と比較して固いなんてありえません。

 

「平均的なお尻の固さの女の子がいればいいんだが……」

「あ、そういえばわたし、お尻の固さが平均ですっ」

 

 真奈子ちゃんがはい、はいと手を上げた。なんと都合のいい。平均的なお尻の固さの女の子が目の前にいるなんて。いくらなんでも渡りに舟すぎやしないかと思うが、真奈子ちゃんがウソを付く訳がない。

 

「じゃあ……」

 

 真奈子ちゃんが自分のお尻を触った後、柑樹のお尻を触ってもらおうと言おうとしたら、真奈子ちゃんが俺にお尻を突き出した。

 

キャイ~ン、とか言うわけじゃないよね……





なんか真奈子ちゃんがどんどんとんでもないことになってる気がします!


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官能小説家的身体測定

 

 まず平均的な柔らかさを知ろう。

 

「触るよ」

「どうぞ!」

 

 むにむに……

 

「うーん」

「ど、どうしました四十八(よそや)先生」

「手触りが……」

 

 服が邪魔だ。よくわからない。

 

「あ、そうですよね」

 

 ぺろん。

 真奈子ちゃんはスカートを捲った。

 よしよしこれでちゃんと触れ……

 

「ん? なにこれ」

「へっ? なんか変ですか?」

 

 黒いスパッツのようなものを履いていた。

 なんだこれは。なんだこれは!

 

「変でしょ。なにこれ。なんでこんなクソダサいもの履いているの」

「ええっ? これ履いてないとぱんつが見えちゃうからみんな履いてますよ」

 

 は?

 スカートが捲れたのに、ぱんつが見えないなんてことがあってたまるか。

 蛇口を捻ったら、水が出る。

 ライターを付けたら、火が出る。

 そのくらい当たり前だろ。スカートを捲ったらぱんつが見えるだろ。

 スパッツって、ドアを開けたら壁だったっていうくらいおかしいだろ。

 ぱんつ以外で許されるのはスク水くらいだろ。

 わかってない。なんにもわかってない。

 そしてきっとこの人はわかってる。

 

柑樹(かんじゅ)、スカートを捲って」

「はい」

 

 スカートの中は、黒いガーターベルトと白いシルクのぱんつだった。

 

「完璧だ」

「ありがとうございます」

 

 俺のサムズアップに対して、丁寧に頭を下げる柑樹。まごうことなきメイドさんだ。

 

「えっ、えっ」

 

 なぜか困惑する真奈子ちゃん。今の一連の流れに疑問の余地があったか? いや、ない。

 

「わかるね?」

「も、もちろんわかります!」

 

 真奈子ちゃんは、すぽーんとスパッツ的なものを脱いだ。

 

「うん。それでいい」

「どうですか?」

「ん? どうですかとは?」

「見たかったんですよね、ぱんつ」

「か、勘違いしないでよねっ!?」

「えっ?」

 

 なんということでしょう。まさか真奈子ちゃんは、俺がぱんつを見たいから脱がしたと思っているのでしょうか。そんな変態だと思われているなんて心外です。

 12歳になったばかりの女の子のぱんつが見たいわけないじゃないですか。赤いリボンのついたコットン100%の白いぱんつなんて全然興味ないです。

 

「真奈子ちゃん。俺はね、蛇口を捻っても水が出ないことに納得いかなかっただけなんだ」

「は……?」

「ライターを付けたら、火がつくべきだ。そうは思わないか」

「は……あっ、ひょっとして哲学的な偉人の名言ですか?」

「ん? いや今俺が思いついただけだけど」

「すごい! さすが四十八(よそや)先生。すぐに名言が出ちゃうんですね」

「え? ま、まあね」

 

 ぱんつ丸出しでぱちぱちと手を叩く真奈子ちゃん。照れるぜ。

 

「……」

「あ、ごめんごめん。もうスカートは捲らなくていいよ柑樹」

「はい。減るものではないのでお気になさらず」

「ありがとう」

「わたしも、大丈夫ですよ! むしろ穴が開くくらい見てくださいっ」

「いや、真奈子ちゃん。だからね、別に真奈子ちゃんのぱんつを見たいわけじゃないんだって」

「なんでですか! 見たがってください!」

 

 わからない子だなあ!!

 俺の名言聞いてた!?

 

「お嬢様。そんなことより」

「そんなことより!?」

「ぱんつなんてどうでもいいのです。お尻の柔らかさの話だったはず」

「むう~」

「そう。そうだよ柑樹」

「むうう~!」

 

 なぜか真奈子ちゃんが不機嫌だ……どうして……。

 

「まあまあ。二人とも。俺は感謝してる。二人がお尻を触らせてくれることを」

「いえ。減るものではないのでお気になさらず」

「そうです。むしろ増えます」

「増えはしないでしょ」

「揉むと大きくなるって、第1巻の142頁に書いてありました!」

 

 ああ……メイドのメイちゃんのご主人さまが胸を揉む口実の話ね……。お尻を揉んでも大きくならんでしょ。胸も本当に大きくなるのか知らんけど。

 

「じゃあさっそく、お尻を出して貰えますか」

「はい」

「はい、柑樹は一等賞で~す」

「え!? わたしも一等賞欲しいです!」

「お尻を出した子は、みんな一等賞です」

「はい! はいどうぞ!」

「真奈子ちゃんも一等賞~」

「やったー! やったー!」

 

 なんでお尻を出したら一等賞なのかは知りませんが、人間っていいなぁと思います。真奈子ちゃんは妙に喜んでいますが、柑樹は無表情です。どちらが可愛いのでしょうか。二つ丸を付けてちょっぴり男の子です。

 

「じゃ、失礼して」

「はい!」

「どうぞ」

 

 右手に真奈子ちゃんのお尻。左手が柑樹のお尻だ。

 ぱんつの横から中に手を入れる。やっぱり直接触らないとな。

 むにむに……うーん。柔らかいけど、弾力もある。まるでひな鳥のぼんじりのようだ。これが平均か……。なるほど、わかりました。

 んで、左はと。つるつるした下着の中に手を滑らせる。

 

「柔らかい!」

「そうですか」

「ふにふにだ……メイのお尻はこんなに柔らかいのか……」

 

 ああ……気持ちいい……メイの尻を触っていたご主人さまはこんな気持ちだったのか……ずっと触っていたい……。

 

「四十八先生……? 手が止まってますけど」

「あ。うん。平均っていうのはもうわかった」

「えー!? もう触ってくれないんですかー!?」

「その必要はないかなと」

「が~ん」

 

 真奈子ちゃんはなんでショックを受けているのか。

 

「メイは平均より圧倒的に柔らかいお尻だということがわかったんだ」

「じゃあもういいでしょうか」

「あ、ごめん。もっと触りたいんだけどいい?」

「問題ありません」

「ありがとう」

「が――――――ん!」

 

 真奈子ちゃんはなんでショックを受けているのか。5秒ぶり2度目。

 

「ど、どのくらい柔らかいのかは、平均と比較しないとわからないんじゃないでしょうか。数値で表せるくらいに」

「あー。そっか。その方がいいか」

「その方がいいです! ぜったいいいです!」

 

 おすすめされたので、右手を動かす。

 ぷにぷに。

 

「どうです?」

「うん。偏差値50」

「うう……なんかショック……」

 

 自分で平均だと認めているのになんでショックなのだろう。

 右手で平均点を確かめつつ、左手を動かす。

 

「うっは……やわらっけ……偏差値78」

 

 東大間違いなしです。お尻の感触だけのAO入試があれば。

 

「そうですか」

「悔しい……」

 

 なぜか真奈子ちゃんがずっと悲しい思いをしているようでつらい。褒めよう。

 

「真奈子ちゃん。お尻の柔らかさは普通なのかもしれないけど、手触りが最高だよ」

「えっ? えっ? 本当ですか?」

「うん。ぷりっぷりしてて手に吸い付くようだし、肌は赤ちゃんのほっぺたみたいにすべすべできれいだし」

「えへへ……」

「揉まなくても、触ってるだけで気持ちいいというか」

「ずっと触ってていいんですよ。ふふふ」

 

 嬉しそうだ。よかった。

 料理を出してもらったら感想を言う。

 お尻を出してもらったら感想を言う。

 やはり人としてそういうことは大事にしていきたいよね。

 

「あ、ごめんね。柑樹も褒めたほうがいいよね」

「いえ。別に」

 

 雇い主である真奈子ちゃんに遠慮しているのだろう。お尻を褒められたくない女の子なんていないだろうに。奥ゆかしいなあ。

 

「んじゃ次はふとももだね」

「そうですか」

「どうぞ!」

「真奈子ちゃんはふとももについても平均なの?」

「えっ!? えっとー、そうです! 柔らかさは平均です」

「柔らかさはどうでもいいんだけど」

「ええーっ!? じゃあ何がですか?」

「太さだけど」

「もちろん平均です」

「そうなんだ」

 

 お尻の柔らかさとふとももの太さが平均な女の子がたまたまいるとかラッキーすぎるんだよなあ。

 

「それじゃ触っていきます」

「そうなんですかっ!?」

「そりゃ触らないと太さがわからないからね」

「そ……そうですよね」

 

 さわさわ。

 うーん、すべすべだなー。まぁ、これは平均じゃないだろう。特筆すべき肌触りだ。

 

「うーん」

「どうですか?」

「細くないかな」

「え」

「普通もうちょっと太くない? 本当に平均?」

「えー。細いですか。そうですか」

「なんか喜んでない?」

「そ、そんなことないです」

 

 変だな……まぁいいや。そんなことより柑樹だ。

 太さがわかりやすいように、少し股を開いてスカートをたくしあげてくれている。本当によく出来た子だ。

 

「さて、柑樹はどうかなっと」

「……」

 

 真奈子ちゃんが余裕で両手でつかめてしまうのに対し、指がギリギリ届くかどうかというところだった。

 

「太いな」

「……」

「めっちゃ太い」

「……」

「メイのふとももは、激太っと」

「違います」

「え?」

 

 否定されたことにも驚いたが、はじめて声に感情があるように思えた。いままでアンドロイドみたいだったし。

 

「太くありません」

「え? だって真奈子ちゃんに比べたらかなりのものですよ?」

「お嬢様は脚がかなり細いです」

「瀬久原さん?」

「四十八様の生み出したキャラクターのことはよく知りませんが、本当に激太ふとももでよいのでしょうか」

 

 がーん!

 なんてこった。

 言われてみればそのとおりだ。

 メイは結構スレンダーなキャラなんだよ。

 

「激太ふとももっていうのも嫌いじゃないけど、メイはそうじゃあないな」

「お嬢様はそもそも12歳になったばかりですよ」

「そ、そうか! メイは16歳だ。12歳になったばかりのふとももと同じ太さというのは無理がある」

「し、しまった。そこに気づくなんて」

「仮にお嬢様が平均的な太さだとしてもそれは所詮、お子様の話です」

「お子様……!?」

 

 膝から崩れ落ちる真奈子ちゃん。

 

「この瀬久原は17歳です。JKです。人生で一番むちむちです」

「人生で一番むちむち……!?」

 

 前かがみに崩れ落ちる俺。

 太さなんて計ってる場合じゃなかったんだ……!

 

「だから決して太いわけじゃありません。年相応です。だいたい、太さは触らなくても見ればわかると思います」

 

 見れば……わかる……!

 すごい、そこに気づくなんて天才か……?

 

「そもそも小説でふとももの太さなんて表現してどうするんですか」

 

 それを言っちゃうのか……それだけは言っちゃいけないことだった……。

 

「だいたい、お尻の柔らかさを数値で表す小説? なんですかそれは」

 

 俺も真奈子ちゃんもorz(こんな)状態になって動けない。そうだね、なんなんだろうね……。

 

「それに女子小学生のお嬢様と比較していたら、この瀬久原も巨乳ということになってしまいます」

「いや、真奈子ちゃんの胸の大きさは女子小学生の平均じゃないけどね。見ればわかるけどかなり大きい方。そしてBカップは巨乳じゃない」

「……」

 

 なぜだろう、柑樹の目がすっと細くなって俺を見る目が冷たい。

 

「……」

 

 なぜだろう、真奈子ちゃんの目がくわっと見開かれて俺を見る目が熱い。

 

「では触らなくてもいいですね。お嬢様、そろそろパーティーに戻られたほうがいいのでは」

「あ、もうこんな時間! 四十八先生、バースデーケーキのケーキ入刀しないと」

「お、おう」

 

 ああ、胸の大きさは見ればわかるけど、胸の柔らかさが……。

 いや、確認するまでもないか。

 俺の理想の柔らかさだ。





左手にJKの尻。右手のJSの尻。
そういう身体測定ですね。よくあることです。

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人妻の強引な誘惑

 小和隈(こわくま)あげは。

 小学五年生の女児にして、俺の官能小説の一番の理解者だ。むしろ唯一の理解者と言っても過言ではない。

 彼女以外は額面通りに女児向けレーベルの小説を信じて疑っていない。彼女は夏休みにエロい小説を書き、俺に見せてきた。その後、小説をレイプ……いや、添削のようなことをしたので弟子にすることになった。正確には弟子にせざるを得ないよう脅迫された。

 そして、今、彼女のお家にお邪魔しています。

 

「先生がお師匠様になってくださって、ほんと~に感謝しているんですよ~」

「は、はあ」

「おしぼりをどうぞ」

「あ、はい」

「先生、おタバコは?」

「いえ、まだ18歳なので……」

「あら。じゃあ、お酒も駄目かしら。でもエッチなのはオッケーってことね。ンフフ」

 

 ごくり。

 これは、あげはちゃんが小説のためにキャバ嬢のマネごとをしているわけではない。

 あげはちゃんのママです。略してあげママ。

 茶髪のロングでウェーブかかってて、まつげは盛ってあって、二重の目がぱっちぱち、小さい口には真っ赤な口紅。黒いドレスは胸元がばっくり開いてて、谷間が見えております。ええ、完全にキャバ嬢です。女子小学生のお家にお邪魔したと思ったのに、キャバクラ感が凄い。20代後半くらいに見えますし、すごくキレイです。

 あげママが娘の師匠にご挨拶させて欲しいということで、そりゃ小学生の娘が大人の男と懇意にしていれば心配するのは当然だから顔を見せに来たのである。

 あげはちゃんからはその後、簡単な小説の取材を手伝って欲しいと言われている。

 

「ママ、ちょっと先生に近すぎ」

「あら、ごめんなさい」

 

 近すぎなんてものではない。ちょっと乗ってる。

 今、どういう状況かというと、革張りのデカイ二人がけのソファーの真ん中に俺が座っている。左にあげママが座っていて、右足は俺の足の上に乗っている。俺の首には彼女の手が回されていて、ずっと左の耳元で甘ったるく吐息がかかるように話をされている。

 右側にはあげはちゃんが座っているが、ぴったりと俺にくっついていて、あげはちゃんが何かしゃべると脇腹がこそばゆい。

 ごめんなさいと言ったものの、少しも離れることはなく、左手が俺のお腹に置かれた。うう、細くて少し冷たい手……。ピンク色のネイル……。

 確かに顔を見せに来たつもりなのだが、ここまで近くで見る必要はないだろう。

 

「せ、ん、せ」

「は、はひ……」

「あげはと仲良くしてくださってありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ、あげはちゃんには仲良くしていただいて」

「そうなの、あげは?」

「一緒にラブホテルに行きました」

「ちょちょちょちょ!?」

 

 あげはちゃんの口を手で抑えるが、時既に遅し。

 何ということを言ってしまうんだ。秘密って言ったよね!?

 ギギギギと首を左にひねる。

 あげママは小首をかしげて微笑む。汗が吹き出る。

 

「小説の取材でしょ」

「そう、そうです~」

 

 あっぶねー! 焦ったー! 理解されてた―! そうなんですよ、小説の取材なんです。ふひゅ~。

 

「あげはからちゃんと聞いてますから」

「あ、そうなんですね~」

「そうだよ、四十八先生」

 

 そうだよね~。あげはちゃんはちゃんと報告してるよね~。俺は絶対に誰にも言わないけどね~。

 

「ゴムは使わなかったことも聞いてます」

「ちょちょちょちょ!?」

 

 これはヒドイ。報告の仕方に悪意がありすぎる。あげはちゃんが勝手にコンドームを口に咥えた写真を送りつけてきただけだよ。

 

「え? 使ったの?」

「いやいやいや、使ってないですけど」

「やっぱり、未使用だったのよね」

「そうなんです……ゴムを使ってくれなくて……」

「あげはちゃん!?」

 

 超絶鬼畜野郎みたいに聞こえるからやめて欲しいな!? 使わずにしたんだじゃなくて、してないんだよ。そもそも女子小学生相手だったら使ったところで駄目なんだよ。完全にアウトなんだよ。生とか生じゃないとかそういう次元じゃないんだよ。

 

「まぁ、あげははまだだからいいんじゃない」

「ちょちょちょちょ!?」

 

 ちょっと? お母さん? 理解がありすぎて理解できません。生理がまだ来てない娘に対して性的なことを許容しすぎ。来てないからいいとか無いんですよ。来てないってことは当然駄目ってことなんですよ。

 

「四十八先生、いまのうちですよ。ウフフ」

 

 あげはちゃん、実際は全然怖くて無理なんだから、そういうこと言うのやめておくんだよ。俺だからいいけど、これがロリコンの変態だったらどうするの?

 

「せんせ、あたしにはちゃんと使ってくださいね」

「なななななな!? とんでもない!」

 

 左腕におぱーいを押し付けながら、とんでもないことを言うあげママ。やめてください。押し付けるのはやめなくていいです。言うのはやめてください。

 

「えっ? ナマがいいんですか? ……そうですよね、あげはも妹が欲しいかしら」

「なんで!? なんでそうなるんです!?」

「そうだよ、ママ」

 

 あげはちゃん! そうだよ、言ってあげて。あなたのお母さんは変です。

 

「あげはは弟が欲しい」

「そうだったのね、頑張るわ」

 

 あげはちゃん、違うの。そうじゃないのよ。妹か弟はどうでもいいの。あなたのお母さんと俺が子作りしてはマズイっていうのわかるよね?

 俺は言葉ではなく、目で訴える。あげはちゃん、ママに言って。弟が欲しいならパパに言えって。こんな当たり前のことは口に出す必要ないはずなんだ。

 

「あげはと作りたいんですね。もうちょっとだけ待ってください」

 

 違うの。違うのよ、あげはちゃん。俺と子作りしようっていう目をしてた? そんな情熱的な目をしてなかったよね? そもそもあなたは、ちゅーも出来ないですよね。実際はそんな勇気ないんだから思わせぶりなことを言わないで。

 

「せんせ、あたしとも」

 

 あたしともっておかしいでしょ。止めてくださいよ。なんで俺とあげはちゃんが子作りするのを認めた上で、自分とえっちして欲しいんだよ。もうなんか俺が官能小説家っていうの自信なくなってきた。この親子に比べたら常識的すぎる。

 

「あっ」

 

 そうか。そういうことか。

 あげはちゃんが、口ばっかりで行動はさっぱりなのは母親ゆずり。そういうことか。

 つまり、これは単に俺をからかいたいだけだと。そういうおままごと的なことなんだ。

 そりゃそうだよな。こんなの真面目に考える方がどうかしていた。これは漫才。俺はノリツッコミをするべき。

 

「奥さん……本当にいいんですか」

 

 こんな陳腐なセリフを現実に口にするとは思わなかった。小説の中ではありきたりで手垢の付きまくった表現だが、言ってみたら興奮しますね。

 

「あら、んふふ」

 

 彼女の左脚が俺の脚の上に乗る。左手の人差し指が、俺の右の乳首をくりくりとくすぐる。翻弄されるんじゃない、これはノリツッコミの途中段階。

 これから「本当にいいワケないやないかーい」というツッコミがあって「もうええわ、ありがとうございました~」の流れだな。ヨシ!

 

「本当に……ッ!?」

 

 俺の右手は彼女の胸元に吸い込まれ、強引に揉みしだく形に。下着すら付いていない、ダイレクトな手触り。あたたか~い。やわらか~い。

 いかん、もうBが発生してしまった。早くツッコミしないと。もちろん身体的にツッコむわけじゃないぞ、ヨシ!

 

「本当に……むぐ」

 

 突っ込まれた。口に。舌を。こ、これがミサトさんの言ってた大人のキス!? 唇は完全に奪われ、俺の口内はあげママに蹂躙されるがママ。右手も気持ちいいママ、俺は何もできないママ~。イエ~。

 何も言えないから脳内だけでも反逆しようとして、クソみてえなリリックをしちまったぜ、マザファッカー。でもこのままだと女子小学生のマザーとファックしちまうぜ、どうするマイ・ブラザー?

 

「ぷはっ」

 

 なんとか息をさせてもらえた。

 なぜだろう、ようやく開放されたのに、すでに拘束を望んでいる自分がいる。ヤバい。BもAもしてしまっから次はCの流れ。このままでは……俺はとりあえず、右にいるだろうあげはちゃんに助けを……あれ? いない。

 

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャ

 

 この音は一体?

 音の方向を見ると、それはスマホを構えたあげはちゃんがカメラを連写していた。まさか……今のを……?

 

「ばっちり撮れました」

「なんてことを……!?」

 

 もう完全に不倫の証拠じゃないですか! あげパパに殺されたらどうする!?

 

「よかったわね、あげは」

 

 なにが……?

 なんなの、あげはちゃんは自分の母親と俺がディープキスをしていると嬉しいの? どんだけマジカルでミラクルな性癖なの?

 

「うん。これで書けると思う。浮気男を主人公にした小説」

「ありがとうございます、あげはの書きたい小説の取材に付き合ってくださって」

 

 あー。

 あー、なるほどね。

 そういうことなんですね。

 わかる。

 超わかる。

 小説の取材なら何をしてもいい。それが世界の常識だったよね。

 人妻とディープキスをしながら胸を揉みしだくくらいなら、全然オッケーの範疇だよね。ましてや実の娘さんの目の前でやっているわけで、こっそりやってるわけじゃないし。問題なし!

 

「いえいえ、師匠としてできることは何でもします。当然ですとも」

「よかったわね~、あげは。なんでもしてくれるって」

「うん。最後はパパに見つかって、間男として殴られるけど、最終的にはお尻を開発されるところもお願い」

 

 俺は、ダッシュで逃げた。もっと早くそうするべきだったと思った。

 





何書いてるんだろう。俺は。

たまにそう思いますね。

カクヨムでBANされないような真面目な小説ばかり書いていたので、余計におかしくなったのかもしれません。


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指を咥えて見ている旦那の前で

 しかし回り込まれた! 逃げられない!

 

「なんでだよ!?」

 

 そこにはいるはずのない人間がいた。いや、まだわからないが……。マジの間男の可能性もあるが……。

 

「どこへいくんですか、四十八手足(よそやてあし)先生?」

「帰るんですけど」

「まだ、ボクに殴られてもいないし、お尻を開発されてもいないのに?」

 

 やっぱりかよ!?

 玄関前で俺の行く手を遮ったのは、あげはちゃんのパパだった。あげパパ。

 あげパパは自宅にいるにも関わらず、白いスーツを着ており、髪型はばっちり整っている。金髪だ。さすがあげはちゃんの父親だけあって、端正な顔立ちだし、若く見える……が、要するにホストっぽい。

 

「尻を開発されるなんてゴメンだ」

「ハハハ。娘が望んでいるから、キミの尻は開発させてもらう」

 

 うん。やっぱりやべーやつだ。

 

「さっきの、見てたんですか?」

「全部見てたとも」

「あの、俺、ディープキスされてましたけど」

 

 自分の妻が他所の男とディープキスしてるのを平然と見ている男がどこにいるというのだろう。

 NTR属性なの?

 

「取材だろ?」

 

 確かに。

 小説の取材は最優先事項であり、そのためならば何をしても許されるのは自明の理。世界の常識だが、しかしそれは俺たちの、書く側の世界の常識なのでは?

 ふつー、それで納得できるのか? いや、この男からは普通じゃない感じがビンビン伝わってくるけども。

 

「取材ならすべて許されるんです?」

「可愛い娘が望んでいることだ。娘のためなら命も惜しくない」

 

 確かに。

 あげはちゃんの可愛さは異常であり、あげはちゃんのためならば命を投げ売ってもおかしくはない。それはそうなんだが、やっぱり理解し難い。

 

「それが奥さんとのエロいことでも?」

「娘が望むことはなんでもしてやりたい。それが父親というものだよ」

 

 なんだろう、そのセリフは理解できるんだけど、あなたという人間はまるで理解できない。

 

「だから、キミを殴ってからお尻を開発させてもらう」

「だが断る」

 

 可愛い弟子のためでも、殴られて尻を開発されるのはゴメンだ。断固拒否。

 

「すでに靴は隠させてもらった」

 

 鬼か。

 

「裸足で帰ります」

 

 尻を開発されるくらいならその方がマシ。

 

「四十八先生、どうして急に……」

 

 あげパパと玄関前でカバディカバディしていたら、あげはちゃんがやってきた。

 俺を睨みつけていたイケメンの顔がゆるむ。

 

「あげはちゅわ~ん、今すぐこいつを殴ってお尻を開発するから待っててねぇ~」

 

 あげパパキモい。

 

「パパ、キモい」

「グハア!?」

 

 さすがあげはちゃん。キモさについての感性が正しかった。あげパパは倒れた。ふー、俺の尻はこれで守られるぜ。

 

「やっぱりパパは何もしなくていい」

「そ、そうか……」

「こっちきて見てて」

「わ、わかった……」

 

 ずるずると這いつくばって廊下を移動するあげパパ。見るも無残だね。

 

「四十八先生、戻ってください」

 

 ずるずると首根っこを掴まれて部屋に戻される俺。ふふふ、どうだあげパパ。羨ましいだろう。

 そのまま、あげママの隣に連行される。あげパパは見苦しくも白いスーツで床を掃除しながらリビングに到着した。

 

「はい、座ってください」

「おかえりなさ~い」

 

 強制的にソファーにリターン。ついさっきと同じ様に、あげママが左隣、あげはちゃんは右隣にひっついて座っている。ほんの少し違いがあるとしたらが、あげパパが俺の目の前で俺を見ていることくらいのものだ。

 

「じゃあ、浮気現場の続きをしましょう」

「は~い」

 

 は~い。

 じゃねえよ!? あげパパの前で何をしろって?

 

「じゃあ、ママはおっぱいで顔を挟んでください」

「は~い」

 

 は~い。

 え、マジ?

 

「本当はあげはがしたいんですけど……物理的にできないので」

 

 そうだね、おっぱいがまだないからね!

 でも、倫理的には二人ともできないことだと思いますけどね!?

 

「失礼しま~す」

 

 手慣れた感じで、俺のひざの上に座るあげママ。うーん、女子小学生(JS)がひざの上に乗るのは慣れたけど、大人の女の人は初めてです。

 女子小学生(JS)を抱っこするのはまったく問題ないが、大人はマズイでしょ……。ヤバイよ……。

 ましてや、人妻であり、さらにいえば、その夫が目の前にいる。マズすぎるしヤバすぎる。

 そしてその夫は何か言おうと口を開いた。

 

「そんなことを」

 

 許すはずがない。そう続くんだろうな。普通はそうだぞ。いいぞ、この状況は止めていいぞ。

 

「パパは指を咥えて見てて」

「はい」

 

 あげパパは律儀にも人差し指を口に咥えた。訓練されスギィ!

 

「ねえ、あげは。服は脱ぐのかしら」

「あ、四十八先生は着衣の方が興奮するタイプなのでそのままで」

「おっけーい」

 

 あげはちゃん……さすが、俺のことをよくわかっている……! 俺はメイドさんのメイド服を脱がすとかは決して許さない主義。着たままでお願いしたい派。よってメイやマイも基本的に服は脱がない。

 しかし今は少し後悔している。あげはちゃん、決して胸が見たくないわけじゃあないんだよ? 勘違いしないでよねっ、全裸より半裸がいいだけなんだ。

 あげママは胸元がばっくり開いた黒いドレスのまま、俺の膝の上から立ち上がってその豊かな胸で顔を挟む。ブラジャーはつけていない。

 

「こうかなぁ」

 

 ふにょ~ん。

 ああ”~~。

 全裸だの半裸だの、どうでもいい。

 やわらか~い。気持ちい~い。

 おっぱいで顔を挟まれたらすべてのことはどうでもよくなる。これはとんでもないことを発見してしまいましたね。ご主人さまはよくもまぁ、この状態から偉そうなことが言えたもんだ。

 

 ちゅぱちゅぱ

 

 違います。これは俺があげママの乳首を吸った音では無いんです。これはあげパパが自分の指を吸っている音です。うーん、自分の妻が他所の男にぱふぱふしているのを見ながら指を咥えて見ているとか、なかなかのもんですよ。しかしなんかこう、勝った! っていう感じがしますね。フハハ!

 

「いいですね~」

 

 何がいいんでしょう。あげはちゃんは何故か満足しているようです。どんな小説書くつもりなんですかねえ……。

 

「ママ、ピースして~」

「は~い」

「四十八先生もお願いします」

 

 え?

 目線をずらすと、あげはちゃんはスマホをこちらに向けていた。ぴ~す。

 

 カシャカシャ

 

 俺があげママのおっぱいに顔をうずめながら二人でピースしている写真が撮れました。わ~い。

 

 ちゅぱちゅぱ

 カシャカシャ

 

 あげはちゃんは、その現場を指を咥えて吸ってる父親の写真も撮りました。うわ~い。

 

「あげはちゃん? これどういうことなの?」

 

 さすがに理解できなさすぎて質問する。

 

「お尻を開発されたかったですか」

「違うよ。それは絶対に違うよ」

 

 して欲しかったよぉ……っていう顔してた?

 

「普通に考えて、四十八先生がママとえっちしてるところ見たいじゃないですか」

「そ、そう?」

 

 見たいのか……あげはちゃんが見たいならしょうがないな……。

 

「パパも見たいよね」

「え!? そ、そりゃもちろんだよ」

「うん。指を咥えて見てて」

「任せろ! ちゅぱちゅぱ」

 

 あげパパ……。いや、もはや尊敬しはじめてきた。

 

「ちなみに詩歌さんも見たいということなので、ビデオ通話にします」

「なんで!?」

「やっぱり見たいんですよ。ほら、もっとおっぱいを揉んでください」

 

 そうじゃなくて、なぜそんな連絡をしたのかっていうことなんですけど。

 スマホに詩歌の顔が映る。もみもみ。

 

「うっわー、お兄ちゃんがー! 人妻の、お、お、おっぱいをー」

 

 なんということだ。

 おっぱいを揉んでいるところを、中学一年生の実の妹に見られるとは。

 さらにその女性の実の娘も見ているし、夫も見ている。

 しかしあげはちゃんがもっと揉めというから揉むしか無い。なんということだ……。気持ちいい……。

 

「えっちですね~、はぁはぁ。もっとやってください」

 

 あげはちゃんがそういうなら仕方がないんだ……揉んだり吸ったり舐めたりちゅーしたりするしかない……。

 

「せんせ、気持ちいいわ」

「もみもみ」

「はぁはぁ」

「ちゅぱちゅぱ」

「くちゅくちゅ」

 

 なにこれ……。

 

「ぺろぺろ」

「もみもみ」

「ぺろぺろ」

「はぁはぁ」

「ちゅぱちゅぱ」

「くちゅくちゅ」

 

 なんなの、これは……。

 でも弟子の小説のためだから、しょうがない。しょうがないんだよなあ……。あげはちゃんが言うことは何でも聞いてあげないと……。

 

「いまだ! パパ! お尻を開発して!」

「よし! 指はちゃんと濡らしてある!」

 

 チキショウ! 謀ったな!?

 あげママが、がっつり俺をホールドしてるから逃げられないぞ! くっそー! もみもみ!

 

「アーッ」

 

 その後のことはよく覚えていないが、詩歌は忘れられないと言っていた。誰か妹の記憶を無くす方法を教えて下さい。

 

 





続き書くとは思いませんでした。
賢者くんは逃げられるはずだったのに。
作者に感想が与える影響は大きいです!


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きしむベッドの上の拷問

 ピシーッ

 

「ひいーっ」

 

 ピシャーッ

 

「きゃーっ」

 

 ピッシーン

 

「きゃーじゃない!」

「ひーん!」

 

 網走沙織(あばしりさおり)ちゃんは突然俺の部屋に押しかけてきて、競馬で使うムチをぶんぶん振っていた。怖すぎる。

 沙織ちゃんはなぜこのような異常行動を?

 

「変態、なんで異常な行動してるの。ろくに小説も読まずに。書生管理(しょせいかんり)が足りてないことを実感してるから。今日は反省するように。さぁ、異常な行動について1つずつ、懺悔なさい」

 

 ええ……こんな異常な行動の人にそれを言われるんですか。俺はそこまでオカシイことはしてないと思うんだけど。

 しかも今、俺をベッドに四つん這いにさせて、上に乗ってるんだけど。沙織ちゃんはまだお馬さんごっこがしたい歳だっけ?

 お子様なのか、女王様なのか。あるいはその両方です。とんでもない属性だ!

 沙織ちゃんは、馬を走らせるように、太ももで俺の腹をぴしっと締める。

 

「まず、あげは」

「あげはちゃん?」

「彼女に何をした? 異常なことをしてるよね?」

 

 んー?

 あげはちゃんと? 大したことしてないよね。異常なこと? 強いて言えばあれか。

 

「ラブホテルに一緒に行ったな」

 

 ピシーッ

 

「痛ーッ!」

 

 尻にムチが入った。

 こんな痛かったら走るどころじゃねーッ! 競走馬すげーッ!

 

「この変態! この世のどこに女子小学五年生(JS5)とラブホテルに行くバカがいるんだ! このド変態!」

「ひいーっ! だって小説の取材ですよ!」

「だったらぼくでいいでしょっ!」

 

 なるほど、女子小学五年生(JS5)だと変態だけど女子小学六年生(JS6)なら……何が違うんですかね……?

 

「そうじゃなくて、あげはちゃんの取材なんだよー。俺は付き添いなんだよ」

「18歳の男が小学生の女の子とラブホテルに付き添いなんて言い訳が通じると思うの?」

「いや、俺もあげはちゃんとラブホテルに行くのはマズイと思ってたんだよ! 河川敷で土下座までしたんだよ!」

「土下座までしてラブホテルに行ったのか、この変態!!」

「痛い! 違うよ! 勘弁してって土下座までしたけど行く羽目になったの! 小説の師匠として当然の義務だって! やむを得なかったんだ!」

「そういうときは土下座の前にぼくに連絡すればいいでしょっ! あげはなんて、ぼくから言えば諦めさせられるでしょっ!」

「ひいーっ! 痛ぇ~っ!」

 

 ムチで叩かれているけど、なんか言ってることは優しいような?

 これがアメとムチ?

 

「それで? 真奈子とは何を?」

「へ? 真奈子ちゃん? 二人で別荘に泊まったくらいだけど」

 

 ピシーッ

 

「痛ーッ!」

「この変態! この世のどこに女子小学生(JS)とお泊りするバカがいる! このド変態!」

「だって、入浴シーンを書くために温泉に入りたかったんだよ!」

「だからって二人は問題あるからぼくも呼べ!」

「ひいーっ」

 

 なるほど、女子小学生(JS)ひとりだと問題だけど女子小学生(JS)と二人で三人になったら……問題ないんですかね……?

 ムチで叩かれていると、まともな判断が出来ないですよ?

 

「あとは? 小江野忍琴(こえのおしごと)とも何かしているな?」

「んー? ラジオやってますね」

「それは聞いてるから知ってる」

「聞いてくれてるんだ? 深夜なのに」

「たまたま! そんなことより他にしたことがあるな?」

 

 ん~?

 なにこれクイズ?

 

「朝まで彼女の部屋でエロゲーやったこと?」

「変態! 変態すぎ!」

 

 ピシーッ

 ピシーッ

 

「ぎゃーっ!? なんで? 俺たちは18歳以上ですし、むしろ他のことより問題ないです!」

「ぼくともその、エロゲー? ってやつを一緒にやること! ラジオで言ってる美少女がいっぱい出てくるやつ?」

「それは絶対駄目なんですけど!?」

「うるさい! あの女とはしたのに、ぼくとは駄目とか許さない!」

 

 ピシーッ

 ピシーッ

 

「わかった、わかったからムチで打たないで! いつの間にか二回打ってるし!」

 

 痛すぎる! 二倍じゃすまない!

 よくわからないが、エロゲーがなんだかわかってもいないっぽいのでなんかちょっとエッチな格好のキャラクターが出てくる格闘ゲームでもやればいいだろ。嘘も方便! 糞は大便!

 

「で? 真奈子のバースデーパーティーでも誰かに何かやらかしたな?」

 

 沙織ちゃんは探偵なのかな?

 どこまで知ってるの?

 っていうかそんなに知ってるなら俺から何かを聞き出す必要あるの?

 これはもはや尋問じゃなくて拷問なのでは?

 

「な、なんのことでしょうか……」

 

 うっかり何か言えばムチでしばかれる状況。

 絶対に余計なことを言ってはいけない自分の部屋。

 

「なんか? アルバイトの? メイド? に?」

 

 ……全部知っているのでは……怖い……。

 

瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)っていう17歳のムチムチのJKさんがいまして、お尻やふとももを触りました」

「それだけ?」

「えっ? いや、うん。それくらい」

「ふーん。じゃあそれはいいや」

 

 そっか。考えてみればあんなの大したことないもんな。お尻に偏差値をつけるとかよくあることだよね。ムチで叩かれなくて安心。

 

「で? それはいいけど、あげはのお母さんと何かあったとか?」

「ああ、うん。別に大したことないよ、あげママのおっぱい揉んでキスしまくっただけ」

 

 お尻や太ももを触るのと対して変わらないというか、むしろ母親が子供としてたら問題ないようなことだよね。

 

「死ねーッツ!」

 

 ピシーッ!

 ピシーッ!

 ピシーッ!!

 

「ぎゃあああ!?」

 

 どうして!?

 尻が! 痛い! やめて!

 最後太ももに当たってる! 死ぬ! せめて尻!

 

「駄目に! 決まって! いるでしょうが!」

「ひい! ひい! でも、こっそりじゃないし! あげはちゃんもパパもいるところでオープンだし!」

「なおさら! 駄目でしょ! 死ね!」

「なんで!?」

 

 もう、わからないよ。沙織ちゃんの言っていることがわからない!

 あまりの痛さにまともな思考が無理!

 

「メイとマイのママがご主人さまにおっぱい揉んでキスされてたらどうなるの!」

「えっ? なにそれ、いいね。沙織ちゃん、それいい」

 

 一気に思考がクリアーになったぞ。よっしゃ、そのネタいただきだ!

 

「よくなーい!」

「ぎゃあああ!?」

「そんなもん! 出版! できる! わけないでしょ! 女子小学生に読ませられないだろ! このバカ! クズ! 変態! 死ね! 賢者(さかひさ)!」

「ひい! ひい! 賢者(さかひさ)は罵倒じゃないよ! 本名だよ! はぁ、はぁ、なんか気持ちよくなってきた」

「変態!」

「変態ですぅ! 俺は変態ですぅ!」

「賢者!」

「賢者ですぅ! 俺は賢者ですぅ!」

「お兄ちゃん、な、なにやってるの? お馬さんごっこ?」

「お兄ちゃんは賢者なんですぅ!」

「それは知ってるけど」

「詩歌のお兄ちゃんは変態なの!」

「お兄ちゃんは変態なんですぅ!」

「待って! 録画するから待って!」

 

 その日、沙織ちゃんは肌をツヤツヤさせて帰った。

 なぜか詩歌もツヤツヤしていた。

 俺はげっそりしたし、とにかく尻が痛くて眠れなかった。おかげで沙織ちゃんが置いていったハートフルな小説が読めましたとさ。

 





結構久しぶりでしたね、沙織ちゃん。
沙織ちゃんファンにはたまらない内容になったはず。きっと。


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ママに嘘をついて男の家にお泊り

「ここすき」はダブルクリックをすると出来まぁす!


「昨日は手が汚れるお菓子だった」

「あ、うん。そうだったね」

 

 コーンポタージュ味のコーンスナックを出したんだよな。あれ、甘さが絶妙で食い始めると止まんないんだよね。

 

「今日はなに」

「うん、あまじょっぱいパウダーがついてるおせんべいだよ」

「せんべいなのに甘いの」

「そうだよー」

「手が汚れそう」

「そうだね、パウダーがついてるから」

「じゃ、食べさせて」

「うん」

 

 このところ毎日、網走沙織ちゃんは我が家に来る。エロゲーをやるために。

 いや、間違えた。エロゲーだと思っているだけのただの格闘ゲームをやるために。勝ったときに胸が揺れるとか、負けたら服が破けるっていうだけです。全年齢です。

 で、ゲームをやるためにはコントローラーを持たねばならない。そこで手を汚してはゲームが出来なくなる。

 よって俺が食べさせなければならないという理屈なんだが、手が汚れないお菓子を用意するとメチャクチャ怒り出すので意味がわからない。で、結局俺が口に放り込む。

 柿ピーのときだってそうだったし、手が汚れようが汚れなかろうが俺に食べさせるのだから、どうでもいいだろうと思うんだけど、どうやら決して食べさせて欲しいのではなく、手が汚れるから仕方がないという理由が欲しいみたいです。

 いつもどおり、俺を背もたれにして座りながらゲームをする。対戦プレイしている俺の方は手が汚れるんですけどね。だから汚れないお菓子の方がいいんですけどね。

 プレイしながら俺がちょいちょいお菓子を食べさせることによって、ちょうどハンデになっていた。だって食わせてる間に攻撃されるからね。なんだこの遊び。

 

「やった、必殺技出た」

 

 しかし、このようなガッツポーズを見せられては、怒りなど湧くはずもない。微笑ましすぎて満面の笑みに到達しちゃう。

 ゲームが楽しいんだなあ……。

 沙織ちゃんは両親が厳しいというかお固いご家庭なので、アニメやバラエティ番組は見せてもらえず、漫画は学習まんがだけ。そしてゲームは一切駄目と禁じられてきた。

 お菓子もデパートで売ってる上品なものしか食べたことがなく、いわゆる駄菓子は食べたことがない。

 そんな沙織ちゃんに駄菓子を食べさせたり、ゲームをさせてあげるのは楽しくもあるが、本当にいいのかという不安もある。

 そもそも同級生の家に遊びに行くことすらNGの家なのに、俺の家には毎日来ていいというのも納得できていない。

 

「変態」

「なに?」

 

 変態というのは沙織ちゃんにとっての俺のあだ名であり、決してそのものの意味ではない。ないよね? 出会ったときにたまたま胸をガン見していただけだよね。たまたま。ちなみに沙織ちゃんのおっぱいは最近少し大きくなってきたよ!

 

「今日、泊めて」

「あ、うん」

 

 食べさせる。

 俺も食う。

 攻撃する。

 避ける。

 

「ええー!? うちに泊まる~?」

「うるさい」

 

 げしっと裏拳を食らう。ゲームじゃなくてリアルで。

 いやいや、うちに泊まるなんて駄目でしょ~。右の頬をさすりながらなんと言ったらいいものか考える。

 

「沙織ちゃん、それはちょっと」

「さっきうんって言った」

「まぁそうだけど、ちょっとさ。やっぱり問題じゃない?」

「真奈子と二人で別荘に泊まる方が問題」

 

 それを言っちゃあ……。

 

「あのおっぱい声優とも朝までゲームしてたし、ぼくともするべき」

 

 いや、だってあれはほら、相手は女子小学生じゃなくて、18歳のうら若き乙女だから……。あれ? そっちのほうが普通問題なのでは? そう考えると、女子小学生のお友達が家に泊まることくらい問題ないな。

 親も今日はいないから、親の部屋で寝かせればいいだろ。

 

「まぁ、いいけど、よくご両親が許可したね」

「いえで」

「え? いえで?」

 

 家で許可したのか。そりゃそうでしょう。なんで外で許可するの。

 

「家出した」

「ああ、そういうことか。家出ね。ってええーッ!? 家出!? マズイよそれは」

「うるさい」

 

 裏拳パート2を食らう。痛い。しかしそれどころではない。

 

「なんで、なんでそんなことを?」

「ラジオ聞かれた」

 

 一発で理解。

 

「つまり、頻繁に遊びに行っている小説家というのがエロゲー大好きだということがバレたんだね!?」

「そう」

 

 なんということでしょう。俺は公序良俗に違反する相手扱いになってしまったのだ。小学生向けノベル作家というメッキが剥がれてエロゲー大好きエロエロ野郎だと言うことがバレてしまったのか……。

 いっそ沙織ちゃんのママも吸ったり揉んだりしてしまうという手も……。

 

「突然、四十八先生に会うのはもうやめなさいとか言い始めた」

 

 まぁ、そうだよね。だってラジオでエロゲーの話ばっかりしているやつのところに女子小学生の娘が頻繁に遊びに行くなんて普通のご家庭でも心配だよね。お固いご家庭だったら当然そうなるよね。

 やはり俺のテクニックで固い考えなんて無くさせるしかないのか……。

 

「だから家出した」

「ええ……」

 

 家出するくらいなら誰かの家で勉強をするとか適当な嘘をついて、うちに遊びに来ればいいと思うけど、そういう発想がないところが沙織ちゃんらしいんだよなあ。

 

「そんな事言うなら、四十八先生の家で一晩中エロゲーやるって言って出てきちゃった」

「なんということを」

 

 それはヤバい。沙織ちゃんじゃなくて俺がヤバい。通報される可能性すらある。

 

「沙織ちゃん、親御さんに電話しないと……」

「駄目。いや」

 

 困るよ~。

 

「警察呼ばれるかもしれないんだって~」

「連絡したら、絶対連れ返される。今日は泊まる」

 

 困るよ~。

 スキャンダルだよぉ~。

 

「ただいま~。あ、沙織ちゃん、こんにちは~」

「ん」

 

 詩歌が帰ってきた。あー、そうだ。

 

「俺の家じゃなくて、詩歌の家に泊まることにすればいいんじゃないか」

「ん?」

「へ?」

 

 制服姿の妹はポニーテールを振ってこちらを向き、沙織ちゃんは俺の脚に手をついて首をひねってこちらを向いた。

 

「詩歌、実はな。沙織ちゃんは家出してきたんだ」

「ええー!? なんで家出なんで!?」

「俺に会うのを禁止されたからだって」

「え、お兄ちゃんを会うのを禁止されてうちに家出しにきた!? おっふ、これは、おっふ」

 

 妹の様子がおかしい。おかしいのはいつものことなので、気にしない。

 

「で、電話しないとマズイと思うんだけど俺の家に泊まるなんて言うとマズイから、お前から連絡して欲しいんだ。俺の家じゃなくて私の家に来ていますって」

「でも、私が妹だってバレちゃうんじゃないの」

「大丈夫。詩歌のことなんて一言も話したことないから」

「そ、そうなんだ……」

 

 ショックを受けるならわかるんだけど、なんでそこで嬉しそうなの? なんかちょっと快感っぽい顔だよね? まぁ、詩歌だからな。理解しようとしてはいけない。

 

「女子中学生のお友達ってことなら問題ないだろ」

「友達じゃないけど」

「ええっ!?」

 

 ほんと嘘がつけないんですね。

 

「まぁ、ほら、先輩ってことでいいだろ」

「中学の先輩とエロゲーをやるって言うの?」

「えっ!? エロゲー!?」

 

 ほんと嘘がつけないんですね!?

 詩歌はエロゲーのことをまなちゃんそっくり美少女にハァハァするゲームだと思ってるからややこしいぞ!

 もちろんエロゲーをやるなんてことはないので、さおママが納得する理由を考える必要がある。

 

「いや、さおママ……じゃない、親御さんがそれならいいよって言ってくれるような……そうだ、勉強会をするとかどうかな」

「えー。詩歌とー?」

「不満だろうけど、そこは我慢してよ」

「むー。はあ、しょうがないか」

「くーっ!?」

 

 ぺたんと床にお尻をつく詩歌。さすがに申し訳ない気持ちはある。

 

「詩歌、悪いけど沙織ちゃんの家に電話して、うちで勉強会するからお泊りって説明してやってくれ。頼む」

 

 きっちり頭を下げる。こんなに真摯に頼みごとを妹にするのは久しぶりだ。これなら納得してくれるだろうか。

 

「う~ん」

 

 悩む妹。なんでだよ。

 

「詩歌、どうしても変態とずっとエロゲーしたいの。お願い」

 

 沙織ちゃん、真剣な顔で何を言っているの? そんな理由でオッケーする人いないよね?

 

「了解!」

 

 快諾かよ。なんでだよ。

 詩歌は沙織ちゃんに電話番号を聞いて、リビングを出ていった。 

 

「お願い……」

 

 神様に祈るように、出ていった詩歌の方を向いて両手を合わせる沙織ちゃん。そこまで俺と格闘ゲームしたいんですかねえ。こんなに真剣な顔を見せられたら本当にエロいゲームをやってもいいかと思ってしまいますね。

 しばらくすると、どたどたっと軽く廊下を駆ける音がして戻ってきた。

 

「許可、とったどー!」

 

 ぱぱーんとスマホを掲げる詩歌。

 沙織ちゃんの組まれていた手は、ぱちぱちと称賛する拍手に変わった。

 

「良かったぁ」

 

 涙ぐむ沙織ちゃん。

 それを見て涙ぐむ俺。やろっか、美少女ゲーム……。

 

「それじゃあ、みんなでお風呂入ろうか」

「うん」

「うん……うん!?」

 

 流れで言ってしまったが、この妹は何を言っているのだ!?

 

「いや、入らないだろお風呂」

 

 当たり前のことを言ったつもりだが、沙織ちゃんは眉根を寄せる。

 

「ん? お風呂は毎日入りなさいって言われてる」

「そうじゃなくて! 沙織ちゃんは一人でお風呂に入れる歳でしょっ!? 俺と沙織ちゃんが一緒に入るのはおかしいでしょっ!?」

「真奈子とも入ってた」

 

 睨まれる。

 スッと目をそらす。ムチ怖い。

 詩歌はスマホを振りながら「あのねー」と俺たちの注意を引いてから説明を始める。

 

「沙織ちゃんのママから、いくつか写真を送るように言われたんだよ。それで必要ってわけ。私と沙織ちゃんの写真を撮らないといけないから、カメラマンしてもらわないと」

 

 証拠が必要というわけか。厳しいご家庭というか、心配性というか。それでも聞いたこともない友達の家に突然泊まることを許可する条件としては妥当なのかもしれない。

 それにしても……

 

「俺が一緒に入る必要はないのでは?」

「一緒に入るならいいけど、そうじゃないなら写真を撮られるの恥ずかしいよ」

 

 そういうものか?

 まぁ、妹と女子小学生の入浴姿を俺が服を着て撮影していたら明らかに絵面がヤバいのは確かだが。裸ならいいかというとそんなわけなくないか。

 

「沙織ちゃんは? それでいいの?」

「三人で入るなら問題ない」

 

 沙織ちゃんはムチを振るってるときも二人なら問題だが三人ならいいと言っていた。理屈はよくわかりませんが。

 

「じゃ、お風呂沸かしてくるねー」

 

 妹はノリノリで風呂場に向かったが、兄と風呂に入ることに抵抗はないのか。まぁついこの前まで一緒に入っていたしね。夜ご飯にお赤飯が出てくるまでね。

 少し前のことを思い出していると、沙織ちゃんがすっくと立ち上がった。

 そして、いそいそと服を脱ぎ始める。

 

「沙織ちゃん!? まだです! まだお風呂沸いてないよ!?」

 

 スカートの中に手を突っ込んでいきなりぱんつを下ろしていました。

 あまりの状況に俺の頭が沸いてしまいますよ。ふええ、フット―しそうだよお。

 

「え、と。変態と一緒に入る前にシャワーを浴びようと思って」

「どういうこと!?」

 

 恥ずかしそうに何を言っているのですか?

 本末転倒という言葉をキミに捧げよう。

 お風呂に入る準備でシャワー浴びるなんてないよ!

 

「いいから履いて、詩歌戻ってくる前に」

「ん」

 

 沙織ちゃんはぱんつを履き直した。

 これからお風呂、そしてお泊りか。不安しかない……。

 



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身を清める行為を見て、心を清く保てるか

 なんということはない。

 我が家の風呂だ。

 なんということはない。

 妹がいるだけだ。

 なんということはない。

 今日泊まるお友達もそこにいるだけだ。

 ここは脱衣所で、詩歌と沙織ちゃんが先にお風呂に入っている。俺は沙織ちゃんのママに送信するための動画を撮影するべくスマホを起動した。

 

「はい、それではですね、さっそく女子中学生の妹と女子小学生の入浴シーンを撮影していきたいと思いまーす」

 

 などというYouTubeチャンネルを開設したらどうだろう、なんて一瞬だけ考えたが速攻で終了(BAN)だし、人生も終了(END)です。おしまいデス(DEATH)

 

「アニキも早く来なよー」

 

 さっさと来いと妹から入浴の催促だが、そこには妹だけではなく六年生の網走沙織ちゃんがいるわけで。もちろん裸なわけで。決して「じゃーん、水着でしたー。期待した? 残念でしたー、このスケベ!」みたいな少年誌のような展開にはならないわけで。

 沙織ちゃんのママに動画を送る際に、水着なんて着てたら怪しまれてしまうからだ。完全に裸です。そしてそれは何かとマズイです。

 

「入浴剤溶けたか~?」

 

 そう、この問題を解決する方法はお湯を濁らせること。勘違いしてはいけない。俺が撮らなければならないのは、あくまで入浴しているということであり、裸ではないのだ。

 濁ったお湯の中にいれば、俺が入っても見えちゃうことはない。このことは真奈子ちゃんの別荘のときに発見しました。露天風呂だとキレイな風景だの動物だのが見えたときに思わず立ち上がってしまうアクシデントが発生したけど、ここはそういう心配なし! ヨシ!

 

「溶けたよ~」

「じゃ、入るぞ」

 

 録画状態にしたスマホを持って、妹たちのいる風呂へ。何か? 何の問題もないよ?

 

「いらっしゃーい」「らっしゃい」

「ブーッ!?」

 

 ぴしゃ―ん!

 すぐに扉を閉めた。なぜなら、二人とも湯船に入ってなかったからだ。

 問題しかねえーッ!

 

「入浴剤溶けてても、中に入ってなかったら意味がないよね!?」

「沙織ちゃんは体とか全部洗ってから湯船に入るように言われてるんだってー」

「先に言えよ!?」

 

 じゃあ、なんで早く入れって言ったの!?

 

「洗ってるところも撮影した方がいいってー」

「まじで?」

「変態、撮って」

 

 変態というのが俺のあだ名だというのは重々承知だが、いくらなんでもそのセリフは……メモっておこう。官能小説で使えそうです。

 

「じゃあ、あれだ、大事な部分を石鹸の泡で隠そう」

 

 ナイスアイディア。これならお茶の間で見るアニメでも入浴シーンが実現できるね。

 

「隠した」

「隠したってー」

 

 一応沙織ちゃんの声は聞こえるのだが、声が小さめだからか詩歌もフォローしてくれているようだ。

 今度こそ安心だな。スマホの動画撮影をONにして、っと……。

 いざ。

 ガラッ。

 そこには大の字で待ち構える全裸の沙織ちゃん。でも、大事なところには泡がついてるから、大丈夫……じゃねーッ!?

 ぴしゃ―ん!

 またしても風呂場から脱衣所にリターンです。

 

「隠れてないんですけどー!?」

「心臓は隠した」

「確かに心臓は大事ですけど! 心臓の周りが隠れてないんですけど!」

「大事じゃない」

「大事にして! おっぱいを大事にして!」

「大きくないから大した事じゃない」

「おっぱいは大きさじゃないんだよ! 小さくても大事なんだよ!」

 

 俺の大事な心臓がバックンバックン大変なことになってますよ。

 まったく完全にぺたんこだった胸が最近大きくなってきたことが、証明されてしまった瞬間です。

 

「やっぱりなー、沙織ちゃんは隠したっていうけど、隠せてないなって思ってたんだー」

「言えよ!?」

「さっきのは隠したって言ってるけど、隠せてないよーっていう意味だった」

「わかんねえよ!?」

 

 フォローしてくれていると思ったのは勘違いでした!

 

「変態は、ぼくのおっぱいが大事」

「そうだね! 大事だから泡で隠してね!」

 

 なんか際どいセリフだったけど、否定している余裕がありません。いいから隠してください。

 

「隠せたよー」

 

 今度は「隠せた」だから安心だね。

 

「入るよー」

「どうぞ」

 

 沙織ちゃんの返答を聞きつつ、中に。

 今度は椅子に座った状態で、適度に泡がついてる状態だった。やれやれ。

 詩歌は白濁した湯船に浸かっており、肩より上しか見えない。安心。

 しかし妹は不満らしく、頬を膨らませた。

 

「なんでパンツ履いてるの?」

 

 そりゃパンツ履いてるだろ。妹の入浴を撮影するだけでもヤバいのに、全裸だったらそれはもう全裸監督ですよ。ナイスじゃないですね。

 

「こっちは裸なのにぃ」

「いや、俺は撮影のために風呂場に入ってるだけだから」

「ぶーぶー」

「ちゃんと浸かっとけ」

 

 なぜか抗議する詩歌だが、こいつの文句などどうでもいい。俺には女子小学生が体を洗うところを撮影するという大事な任務があるんだ。

 沙織ちゃんはお風呂の椅子に座って、鏡を見ながらスタンバイしていた。顔は真剣そのもの。これから撮られるということをわかっている。そういう顔だ。

 ちょっとだけ緊張しているみたいだけど、それがまた初々しくて良い。

 

「よーし、じゃあ沙織ちゃん、まずは首から洗ってみようか」

「うん」

 

 泡のついたスポンジが、顎の下から鎖骨まで滑り降りる。俺は沙織ちゃんの斜め後ろからスマホを構えた。

 

「ん……ん……」

 

 喉を洗うたびに、少し息が漏れる。

 

「いいよ、いいよー」

 

 その様子を録画。なんか楽しくなってきたぞ。

 

「次は肩、いっちゃおうか」

「ん」

 

 華奢な肩を撫で回すスポンジ。柔肌にキレイな雪山が作られていく。このゲレンデで恋をしない男などいないだろう……。

 

「次は腕」

「うん」

 

 腕をこする手から、シャボンが浮かぶ。これは本当にお風呂に入ったことを証明するためのレコードなのだろうか。うっかりアートになってしまっているのではないか。

 そんなことを思いつつも、カメラマンとしては洗う場所を指示してしまう。

 

「腋」

「うん」

「胸」

「うん」

「お腹」

「うん」

 

 俺の指示通りに体を洗う沙織ちゃん。順調だ。なんか胸を洗っているときにちょっとだけ肌がピンク色だった場所が見えた気もするが、大事な場所には泡がついてるから問題ないだろう。

 さて、さすがに股を洗うところは撮らなくていいな。

 

「足の裏を洗おうか」

「うん」

 

 ちゃんと足の裏も洗っていますよ。それが伝われば十分に違いない。

 

「んしょ、よいっしょ」

 

 足の裏は洗いにくいのか、椅子の上で脚を動かしている。

 くぱあ。

 

「ん?」

 

 なんか今、音のような何かが聞こえた。

 俺は足の裏に集中しているからさっぱりわからないが、脚の根本の方から何やら聞こえたような……いや、気のせいだろう。

 

「洗い、にくっ、あっ」

 

 少し腰を浮かせてくるぶしを洗っていた沙織ちゃんは、バランスを崩してしまった。だが、俺の両手はふさがっている!

 

 すってーん。

 

 ToLOVEる発生です!

 沙織ちゃんは俺を押し倒す格好に。俺のパンツの上に彼女がまたがっている。そういう状態です。この状態で撮影をすることをなんて言ったっけ。そう、ハメ撮りです。それをお母さんに送っていいんでしょうか。いいわけないんデス!

 

「ちょ、沙織ちゃん」

「あ、すぐにどく、あ、んっと、あっ」

 

 腰の上からどこうとして、そのたびに足の裏がアワアワのために滑ってしまい、何度も俺に腰を打ち付ける沙織ちゃん。ピストンを止めて!

 沙織ちゃんの体は泡まみれで、特に大事な部分は泡がついており、この状態で密着されて動かれると……

 

「ん? なんかパンツが……」

「きゃー! パンツを見ないでよ、エッチ!」

「ごめん」

 

 まったくもう! うら若き男のパンツをじっくり見るなんて、沙織ちゃんは悪い子! テントなんて張ってないんだからねっ!

 

 ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ

 

「ん? 詩歌、湯船で何かやってる? 激しい水音が」

「んーっ、なん、にも、やって、ない、よぉっ」

「そうか?」

 

 バスタブで小鳥が泳いでいるかと思ったぞ。

 

「それ、より、パンツ脱いだら? 泡だらけだし、んっ、苦しそうだし」

「く、苦しそうって何が? 全然そんなことないんですけど?」

 

 何を言っているのかしら、うちの妹は。ほんといつもわけがわからないね。

 

「変態、なんか苦しそう」

「苦しくないから!」

 

 まったく沙織ちゃんまで……

 

「そ、そんなことより、もう十分撮れたからね、俺はもう出るから」

 

 ずるずると沙織ちゃんから抜け出て、ひいこらひいこら風呂から上がる。別になんらかの事情で普通に立って歩くのが難しいからではないですよ?

 

「しかしこれ、編集が大変だな……ふぅ……」




風呂だけで一話使っちゃったよ!?
そしてなぜか、これが妙にすらすらかける不思議。
この後も一話使うのか……?
この先生、全然小説書いてないぞ……?


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黄金水をかけられた夜

 動画の編集は大変だった。

 なぜなら送っちゃいけないシーンが多すぎると言うか、見ちゃいけないシーンが多いというか、見ちゃいけないのに見ないと編集できないからというか。

 撮影より編集のほうが時間がかかるんだよなあ……別に凝視しているからではなくて……決してそういうわけではなくて……。

 

「お兄ちゃん?」

「うわあ!」

 

 妹がいつの間にか近寄っていた。服を着ている。当然だが。

 

「何かね」

「何かねって……ご飯だよ」

「おおう!? もう夜ご飯か。いつの間に料理を」

「料理なんてしてないよ」

「へ?」

 

 スマホと格闘していたリビングのソファーから、すぐ後ろのダイニングテーブルの方を見やるとそこには目を輝かせた沙織ちゃんが湯気の出ているヤカンを持っていた。

 

「どうしたの」

「んふー。なんと、ぼくが作るんだよ」

 

 鼻息を荒くしているが、目の前にあるのはカップ麺だった。どういうことかしら。そもそも沙織ちゃんがこんなに機嫌良さそうなのがレアすぎる。駄菓子食うときですら文句言いつつなのに。

 詩歌は無駄にエプロンをつけており、料理の師匠気取りで、沙織ちゃんの肩を触る。

 

「沙織ちゃん、これはカップ焼きそばだから湯切りするんだよ?」

「なにそれ……難しい」

「大丈夫だよ~、お姉さんに任せてね~」

「うん……」

 

 なんと。あの沙織ちゃんが詩歌を慕っている。どういうことだ。実は我が妹は真奈子ちゃんのように催眠術が使えたとでもいうのか。俺の知っている沙織ちゃんじゃないぞ。

 驚愕していると詩歌は、種明かしとばかりに説明口調で解説を始めた。

 

「ふっふっふ。実はね、沙織ちゃんはインスタントの麺類を食べたことがないの」

「なっ……なんだってー!?」

 

 確かに、漫画やテレビ番組も規制される網走家ならありえない話ではない。駄菓子も知らなければカップ麺も知らない。箱入り娘なのだ。

 

「カップラーメンに、カップ焼きそばに、カップのかき揚げそば……」

 

 なんと嬉しそうなのか。その様子を見て詩歌もニヤニヤしているが俺は恐ろしい。

 

「あのさあ、一切そういうもの食べさせてない家の娘さんが成り行きでうちに来てるのに、食べさせちゃっていいのか?」

 

 なんというか、未成年に酒をすすめたり、タバコ吸ってみろよという誘惑をしているかのような罪悪感がある。さおママにバレたらどうする!

 

「なんか文句でもあるの変態」

「無いからその熱湯がたっぷり入ったヤカンを俺に近づけるのはやめて!」

 

 怖すぎる。大事なお肌がやけどしたらどうするのかしら。でも逆にいつもの沙織ちゃんになったことで安堵している自分もいます。ヤバい、俺の感覚がおかしくなっている。

 

「お兄ちゃん、駄菓子を散々食べさせておいて何言ってるの」

「くっ」

 

 なんと。とっくにお前は罪を重ねている。そういうのか。むうう。

 

「ねえねえ、詩歌。このかやくっていうのは? 爆発させるの?」

「そのかやくじゃないんだよ~。これはねお湯を入れる前にいれるの」

「へえ~! この焼きそばはいつ焼くの?」

「焼かないの。一切焼かないけど焼きそばなの」

「へえ~!」

 

 なんだこのほんわかしたやり取りは。ええい、毒を食らわば皿までか。

 

「わかった、わかった。で、沙織ちゃんはどれを食べるの」

「えっ、どれかひとつだけ?」

 

 沙織ちゃんは見捨てられた子犬のような顔で俺を見上げる。そういう顔も出来るのかとびっくりする反面、シチュエーションとのギャップに困惑です。

 まぁ、生まれてはじめてだとすると、全部食べてみたいか。

 

「お兄ちゃん、シェアに決まってるでしょー。シェアハッピーだよ」

 

 カップ麺はあんまりシェアしないんだよなあ……。チョコ菓子じゃないんだよなあ……。

 

「沙織ちゃん! これ、なーんだ!」

「あっ! これってひょっとして、割り箸!?」

「そう、あの伝説の割り箸だよ!」

「わあー!」

 

 うーん、目の前の娘が純粋無垢で天使すぎるところを目の当たりにすればするほど、沙織ママが真実を知ったときの恐怖が……。

 

「あちゅい!」

「ちゃんとふーふーして食べてねー」

「はーい」

 

 うう……。いつの間にそんなに仲良く……。きびだんごを貰った犬かと思うくらいに素直で小学生みたい……いや、小学生なんだけど……。沙織ちゃんはムチを振るってる方が普通っていうか……あれ、俺がおかしいのか?

 

「おいしい!」

「そう? うふふ」

 

 うう……妹が先輩風を吹かせすぎて、もはや母性すら発揮しはじめている……詩歌ママ……いや、落ち着け、あれは妹だ。しかも、変な妹だ。ママみを感じてどうする。

 しかしながら、下手をすれば園児のような表情とセリフの沙織ちゃんが、割り箸を使う箸の持ち方や食べ方のマナーを見ていると、やっぱり食べさせていいのだろうかという疑念が……カップ焼きそばをあんなに上品に咀嚼する人は初めて見たよ……なんか実は懐石料理なんじゃないかと思っちゃうよ。

 こんなに嬉しそうな沙織ちゃんを見ていたら、二人の食べ残したちょっと伸びているカップラーメンを食べていても、嬉しい気分になった。

 

「ありがと、詩歌。変態も」

 

 そんな俺の心中に気づいたのか、そうでないのかはわからないが、口の周りをソースでテカテカにした沙織ちゃんからのお礼の言葉。こんな表情で言われたら、罪悪感など消し飛んでしまう。

 カップ焼きそば程度でここまで感動されてしまうと、もっとおもてなししないと気がすまない。

 わかった、今日はもう彼女のために出来ることはなんでもしよう。

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

 

 本当にお粗末だったな。

 もちろんこのインスタント食品は素晴らしい商品だとは思うが馳走という言葉とは真逆の存在だ。

 やはり、おもてなししないと……。

 

「歯を磨きたい」

「はいはい」

 

 洗面台に連れて行く。食べたら磨く。そう躾けられているのだろう。

 

シャカシャカ

 

 二人で歯を磨く。つい腰を横に振ってしまいますね。隣りにいるのはヘスティア様じゃないですけども。

 

ぺーっ

 

 うがい完了。

 

「変態」

「ん?」

 

 あーんと俺に口内を見せてきた。ちゃんと磨けているか確認ということか。

 小さな口を精一杯に開けている姿はいじりたい……じゃない、いじらしい。んー。

 

「青のり付いてるな」

「嘘だっ!」

「いてえ!」

 

 スリッパで足を踏まれる。嘘じゃねえっつーのー。カップ焼きそばのせいだよ~。

 

「本当についてるから」

「じゃ取って」

 

 歯ブラシを渡される。

 俺が磨くんですか。まぁ、今日はなんでもするって決めたしな……。おもてなししないといけないもんな……。

 しかし他人の歯を磨くなんて初めてだ。

 俺は腰をかがめて、沙織ちゃんの顎を触って少し上向きにする。

 彼女は目を瞑り、俺に身を任せる。

 任せろ、初めてだけど痛くしないように、優しくするから……ちょっとだけ我慢してくれ……。

 

しゃかしゃかしゃか……

 

「あ、あ……」

 

 声を出すのはやめて欲しい……唇から少しよだれが垂れて、左手を濡らした。目はとろんとして、潤んでいる。指に当たる吐息が温かい。

 よし、軽くブラッシングするだけで青のりの除去に成功したぞ。

 

「とれたよ」

「ん」

 

 タオルで口の周りを拭いて、手を洗う。

 

「寝る」

「あ、もう眠いんだね」

「子供扱いするな!」

「痛いーッ!?」

 

 足を踏まれるならまだいいが、ローキックはしなりが効きすぎてヤバい。

 しかし、沙織ちゃんが突如攻撃的になるのはもう慣れました。痛いことは決して悪いことじゃない。むしろさっきみたいに普通のこどもっぽい方が不安。

 痛くしてもらえてありがとう。そういう風に考えればこの世は天国。

 俺は蹴られたばかりとは思えないだろう穏やかな表情で、沙織ちゃんに話しかける。

 

「じゃあ、一人で眠れるね。こっちの部屋使っていいから」

「無理に決まってる! 一緒に寝ろ!」

「痛いーッ!?」

 

 やっぱり痛いものは痛いーッ!? 金的は駄目、ゼッタイ。

 それにしても子供扱いするなと言っておきながら一人では眠れないとかJSの取り扱い難しいーッ!?

 

「じゃあ詩歌と一緒に……」

「一緒に寝ろって言っただろ変態!」

「ぎゃあーッ!?」

 

 もうダメ。全然天国じゃない。沙織ちゃんにはむしろムチを渡しておいたほうがいいことがわかった。素手の方が危険!

 一緒に寝ろって言われちゃ寝るしか無い。普通に考えたら駄目だと思うが、今日はもう彼女のために出来ることはなんでもすると誓ってしまったからね。おもてなしおもてなし。

 二人で階段をのぼり、俺と詩歌の部屋へ。

 

「わかったわかった。一緒に寝よう。じゃあ、とりあえずパジャマに着替えようね。詩歌が着てたやつでいいよねー」

 

 こんな事もあろうかと、詩歌のパジャマは捨てずに保管してあります。俺が秘蔵の引き出しを開けようとしたら、沙織ちゃんに腕を引っ張られた。

 

「変態のワイシャツを着る」

「俺の!? なんで!?」

「お泊りのときは男のもののワイシャツを着るって読んだ」

 

 今どきの児童向け小説は進んでますね!? 俺が言うのもなんですけど!?

 クローゼットから白いワイシャツを取り出し、沙織ちゃんに渡す。高校のときに学生服として着ていたものだ。

 

「じゃあ俺は一旦出てるから……ってええーッ!?」

 

 手渡した相手はすでにすっぽんぽんだった。ぱんつすら履いてねえーッ!?

 

「これは裸で着るって読んだ」

「あ、そう! そうなんだね!?」

 

 まぁ気にすることないか! さっき一緒に風呂入ったしね! 問題なし! ヨシ!

 

「じゃあ寝て」

「はい」

「乗るよ」

「乗るの!?」

 

 決して騎乗位ではありません。かけ布団のように乗っているのです。

 

「う、動けないな……」

 

 肌は直接触れてなくても、ワイシャツ一枚だとほとんど裸で抱き合っているのと変わらないな……なんというか柔らかくて温かくていい匂いがして……絶対眠れないぞコレは!

 

「スヤァ~」

「寝るの早えーッ!?」

 

 大変よく眠れました~!? 俺の上でおやすみです。

 さて、沙織ちゃんはすでに熟睡されてしまったので動きたいが、がっちりホールドされている。動けない。

 

「は、裸ワイシャツだと……」

 

 詩歌!?

 そこにいるというのか。やべーっ、この状況を見たらどうなるか!?

 

「す、すや~」

 

 忍法、寝たフリの術でござる!

 

「二人とも寝てる……?」

 

 寝てるでござるよ!

 決してクンカクンカなんてしてないし、モゾモゾもしてないし、ましてやビンビンになんかなってないでござる。本当でござる。

 

「ハァハァ……」

 

 どうなったんだ……。荒い息遣いだけが聞こえる……。早く自分のベッドに戻って!

 

「ベッドで……お兄ちゃんが沙織ちゃんと……ハァハァ……んっ……」

 

 うう……よくわからんが眠れない……眠れないし、モゾモゾできない……。うう……。

 そうして地獄のような時間がすぎるのを待っていると、沙織ちゃんの寝息が止まる。

 

「ん……トイレ」

「あ、うん」

 

 沙織ちゃんが起きた。助かったのだろうか。

 

「お兄ちゃんが沙織ちゃんとトイレ……ハァハァ」

「詩歌? 邪魔だからどいて?」

「わたしが邪魔……ハァハァ」

「はやくどけ」

 

 さっきまで仲良し親子のようだったのに、今や沙織ちゃんに蹴り飛ばされている妹。残念ながら当然の結果です。ふう、これでようやく眠れるかな。

 

「ついてきて」

「一人で……痛え!」

 

 うう、エスコートするのは当然ですよね……言うまでもないですよね……。一人で眠れないくらいだ、夜に一人でトイレは難易度が高いのだろう。

 

「ここがトイレだよ」

「知ってる。ついてきて」

「ええ!?」

「夜は一人じゃ危険」

「ええ!?」

じょろじょろじょろ

「ええーっ!?」

「あ、ちょっと変態にかかっちゃった」

「えええーっ!?」

 

 こうしておもてなしの夜は更けていった……。





沙織ちゃんお泊り篇がようやく終了~1万文字以上使ってる~
次の話全然考えてな~い~
感想お待ちしております~
ここすきしていただくだけでも嬉しいです~
それでは~



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半裸で問われる罪

 吾輩は小説家である。

 そんなことを言う作家がいるのでしょうか。ましてや女児向け作品の作家が。ここにいるんだよなあ……。

 なんでこんな独白をしているかというと、なんというか小説家っぽいことがしたいなーという気持ちなのである。

 それは決して専門学校の成績が悪かったこととは一切関係ない。

 

 カランコロンカラン

 

 喫茶店だ。

 レンガとか使ってるような、レトロな感じの喫茶店だ。

 チェーン店のコーヒーショップなどではなく、非常に入りにくい門構えの喫茶店だ。

 こういうところで執筆をするとなんかそれっぽい。ここで万年筆を走らせて官能小説を書いているおじいさんとか超憧れるが、俺はノートパソコンで女児向けの物語を書くことにする。

 

「いらっしゃいませ」

 

 迎えてくれたのは、激シブの格好をしたロマンスグレーのナイスミドル。そうそう、そうでなくちゃな。

 

「いらっしゃいませ」

 

 そしてウェイトレス。大学生が腰エプロンでやる気なさげにやってる感じ……じゃなくて、その格好はメイド服で、この場には似つかわしくないくらい見目麗しい……まるでメイのような……

 

「って瀬久原さん!?」

 

 そこにいたウェイトレスは瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)さんだった。真奈子ちゃんの12歳の誕生日会に出会ったアルバイトのメイドさんだ。

 身長は158cmで、体重は44kg。Bカップ。17歳のJKで、太ももがむちむちしている美少女である。

 しかしやっぱり見れば見るほどメイそのものだ。あまりにもメイ過ぎて最近はメイを彼女に寄せている。

 

「お好きな席にどうぞ」

「お、は、はい」

 

 他に客はいないようだった。こういうところは静かで、やんわりとした音楽が聞こえるくらいがいいのだろう。

 テーブル席に座ると、彼女が接客を開始した。

 

四十八(よそや)先生、でしたね」

 

 おお。

 俺のことを覚えていてくれたことが少し嬉しい。ぱんつを見せてくれたりお尻を触ったり太ももを触ったりしただけの俺のことを……たったそれだけの関係なのに……。

 俺の方は黒いガーターベルトと白いシルクのぱんつだったことを一生忘れないけれど。桜上水みつご先生にも伝えておいたしね。いつか挿絵に描いてくれるはず!

 

「こちらをどうぞ」

 

 瀬久原さんは水とおしぼりを置いてくれた。ふーむ。

 水をこぼさないな……普通こういうときはこぼすよね。メイならね。

 

 じっ

 じっ

 

 俺が彼女の目を見ると、彼女も俺の顔を見つめる。

 そのまま水を口に運ぼうとして……

 

「つめたっ」

「ああっ」

 

 俺はうっかり水をこぼした。ズボンはびしょびしょだ。

 

「あ~しまった~」

「大丈夫ですか、お客様」

 

 取り乱した様子で、股間をおしぼりで拭く。

 うん、非常にメイっぽい行動だ。素晴らしい。

 こうなったら俺もご主人さまっぽく振るまわないとな。

 

「濡れてしまったな」

 

 俺はイケボを出す。俺の中での声優の設定があるからね。

 足元にひざまずき、懸命に股間を拭いてくれるメイドウェイトレス。頭に手を置きたくなりますね。

 

「お客様、大丈夫でしょうか」

 

 あっ。やべ。ナイスミドルが来ちゃった。

 

「大丈夫です。なんでもありません」

 

 キリッ。

 ここで邪魔をされるわけにはいかない。

 

「すみません、一番手間のかかるメニューはなんですか」

「は、一番手間のかかるメニュー……当店ではフルーツパフェになりますが」

「ではそれをください」

 

 ふう、とりあえず注文をすることで邪魔者を遠ざけることに成功だ。

 果物を取りに行くのか、裏手に消えた。しめしめ。

 おしぼりでは吸水力がないからか、奥からタオルを持ってきたメイ……いや瀬久原さんは、懸命に俺の股間を拭く。とっても気持ちいいですね。

 喫茶店の水は股間を濡らすためのものだな。飲んでる場合じゃないね。

 

「ちょっとお尻の方にもかかっちゃったなー」

 

 そう言うと、すぐに拭こうとしてくれる。ただし、少しだけの躊躇や恥じらい、とまどいがにじみ出る。これが重要だ。

 俺は一切動かないので、当然、俺の腰を抱きしめるような格好になる。

 太ももには胸が押し付けられ、お腹は顔がくっついてヘソに吐息がかかる。

 

「もうちょっと上も濡れちゃったなー」

 

 濡れているわけがない。物理的におかしいから。

 しかし彼女は体を上に動かしていく。やはりメイだ。見た目だけじゃない。

 普段のメイは真奈子ちゃんの性格に近い。しかし、ご主人さまの命令に関することであれば話は別。

 真奈子ちゃんであれば天真爛漫にくっついてきて、俺が抱っこするだけになるだろう。

 しかし瀬久原さんはたどたどしくも、体をぎゅっと押し付けながら背中をまさぐる。

 信じ切ってるわけじゃない。

 疑りつつも、嫌ではない。

 この綱渡りのような感覚。

 お互いが、相手が嫌じゃないか、相手がどう思っているかを探りつつ抱き合っている……。

 あくまでも俺は拭かれているだけだから、当然密着している彼女に手を回すことはない。

 あぁ、この感じ……。

 たまらなくドキドキする……ッ!

 これだ、これが、官能小説ではなく女児向け小説に必要な距離感だ。

 この体験が今後の執筆活動に活かされること間違いなし。創作のためにもっと濃厚に接触しなければ。創作のために。

 

「ありがとう、ごめんね」

「いいえ」

 

 ゆっくりと体を離していく瀬久原さん。

 これがいい。

 バッと離れるのではなく、ちょっと惜しんでいるかもしれないと思わせる感じが。

 ひょっとして、ひょっとしたらだけどまだくっついていたかったのか、と期待させる感じがいい。

 

「新しいお水を用意いたします」

 

 カラのコップをお盆に載せて、歩いていく。

 その後ろ姿を見て思った。

 好きだ。

 愛していると言ってもいいね。

 なぜならこの人はメイだから。

 自分の生み出したキャラクターを好きでない作者がいるだろうか。

 ましてや官能小説のヒロインである。メイという女の子は少なくとも俺は官能小説として書いた小説のヒロインなのである。

 それが目の前にいたら、愛さざるを得ない。

 

「どうぞ」

「ありがとう……あっ」

 

 ここで言う、愛とは何か。

 それは、水をこぼすことである。

 

「ああー、またしても手が滑ってしまった」

 

 顔面から水を浴びた。

 もう顔から首から膝までびしょびしょだ。

 

「なんということだ」(イケボ)

「大丈夫ですか、お客様」

 

 そう。

 ここで、わざとやりましたね、などと。

 野暮なことは言わない。

 迷いなく、ソファー席の俺にまたがって、頬を包み込むように手を当てて、タオルで顔を拭く。

 

 ここで言う、愛とは何か。

 それはちゃんとタオルを準備しているということである。

 

 近づく顔。

 見つめ合う瞳。

 唇が触れていないだけで、接吻をしているかのような。

 しかしあくまでも客の接客をしているウェイトレス。それ以上のことはしない。俺も客としての一線を越えることはしない。

 わざと水をこぼした客と、気づいていても何も言わずに拭いてくれるウェイトレスがいるだけなのです。嗚呼、なんと素晴らしいことでしょう。

 

 顔を拭いてもらい、首を拭いてもらう。抱きしめるように、しかし決して抱きしめないように。

 

「中まで濡れてしまったな」

 

 イケボでそう言ってから、俺はボタンを外していく。

 彼女は、首から鎖骨、そして胸と。俺がボタンを外していくに従って拭いていく。

 

 カチャカチャ

 

 俺はベルトを外した。

 ズボンを下ろす。

 

「やれやれパンツまで濡れてしまったな」

 

 当然、股も濡れている。

 そして、当然、拭いてくれる。

 優しく、優しく。

 中のものの大きさがよくわかるボクサーパンツを。

 少しも嫌がることはなく、けれどまったくの無感情ではなく。

 ちょっとだけ恥じらうように、ちょっとだけ臆病に。

 ふきふき。

 ふきふき。

 

「パンツの中も、濡れてしまった」

 

 俺のセリフに、小さくつばを飲む音がする。

 パンツを脱ぐようなことはしない。だってお店の中だし。いくら他に人がいないからといっても超えちゃいけないラインはわかっております。

 

「失礼いたします」

 

 脱がさずに、タオルをそっと差し入れて拭いてくれる。

 ふきふき。

 ふきふき。

 何の問題もないですね。ただ17歳JKの美少女メイドが俺のパンツの中に手を突っ込んでふきふきしているだけだ。

 ただそれだけのことなんだ。

 メイがご主人さまにするように。

 

 生きてて……よかった……。

 

 それにしてもこんな状況で平然としていられるご主人さまは理解できない。誰だこんなわけのわからないキャラを生み出したのは。

 もっと読者の共感を得られるようにしなければ……ふふふ、俺ってマジで小説家って感じだな……。

 

「拭けたと思いますので失礼いたします」

 

 それにしてもメイはご主人さまのことが好きだから何でもしちゃうわけだけど、瀬久原さんはアルバイトなのにどうしてここまでしてくれるのか……。

 いや、まさか。

 まさかとは思うけれども実は俺のことを……?

 そんなバカな。

 いや、むしろそうでもないのにここまでしてくれる方がおかしいのでは?

 こりゃ小説なんて書いてる場合じゃないぞ……むむむむ。

 

「お客様、フルーツパフェをお持ちし……」

 

 前のときも、いろいろと触らせてくれたりはしたけど、あれは真奈子ちゃんの命令で仕方なくやっていたと思っていたが、それにしたって普通あそこまでしてくれるものだろうか。

 実は初めて会ったときから特別視してくれていたのでは……その方がよっぽど納得できる……。

 

「お客様?」

 

 しかし、なぜ出会ってすぐに俺のことを……元々どこかで会ったことがあるとか……?

 はっ!? まさか前世で!?

 そうか、彼女がメイにそっくりなのは実は前世で一緒になっていたからでは……!?

 俺の中にある朧気(おぼろげ)な彼女の記憶が創作に表現された、そういうことなのか……?

 

「瀬久原くん。あのお客様とは知り合いなのかい」

「いえ、別に」

 

 つまり彼女は俺の運命(デスティニー)の女性。

 なるほど確かにそれならばすべての謎に説明がつく。

 だから彼女は俺のことが大好きで、俺は彼女のことを無意識に小説のヒロインにしたのか……現世こそ俺は彼女を幸せにしなければなるまい……ふふふ。

 

「もしもし、警察ですか。うちの喫茶店でお客様が半裸になっておりまして……声をかけても反応しない状況で……」

 

 





ついに通報されちゃったよ……

柑樹ちゃんを書きたいなーっていうだけで書いちゃったエピソードでした。

やっぱり感想があまり来ないと筆が進まないので、お願いですから感想くださいいいいい!


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淫らな夢から醒めないで

 

「こわかったよー」

「大丈夫、大丈夫だよ~」

「おまわりさんたちが、おまわりさんたちがね」

「いいのいいの、全部忘れていいんだよー」

「うん……」

 

 なにもかもどうでもいいんだ……。

 ぼくには、真奈子ちゃんがいるからね。

 いやなことを思い出しても、真奈子ちゃんがいればだいじょうぶだ。

 

「真奈子がついてるからねー。賢者(さかひさ)くーん」

「うん……」

 

 あたまをよしよししてくれる。

 よかった……。

 

「真奈子が守るからねー」

「うん」

 

 ぼくのことは真奈子ちゃんが守ってくれる。

 あのこわい人たちからも守ってくれたもんね。

 

「はい、ぎゅー」

「うん。ぎゅー」

 

 だきしめてくれる。

 やわらかくて、あたたかくて、いいにおいがする。

 

「ん……」

 

 かおをおむねに押し付けると、もっとやわらかくて、もっとあたたかくて、もっといいにおい。

 

「ふわふわしてる」

「うふふ。かわいい」

 

 ベッドのうえで、真奈子ちゃんのむねに顔を押し付けていると安心する。

 どきどきもする。

 真奈子ちゃんのからだをぺたぺたとてきとうにさわってみるけど、どこもやわらかくて、きもちいい。

 

「あっ……うん……」

 

 真奈子ちゃんがこえをもらす。なんかきもちよさそう。

 もっとしたほうがいいのかな。

 なんか真奈子ちゃんの体はちいさいきがするな。ぼくよりぜんぜんちいさい。おむねはおおきいのに。

 

「むにむに、ふにふに」

「あっ、先生……」

「せんせい?」

「賢者くん! 賢者くんはいいこだねー。いいこいいこー」

「うん……ぼくいいこ」

「あぶないあぶない」

 

 ぎゅっと、だきしめあう。

 ずっとこうしていたい。

 

「でも……」

 

 おぼろげにかんじる、ふあん。

 なんかこわいんだ。

 それをかんじとった真奈子ちゃんが、そっとあたまをなでてくれる。

 

「真奈子の部屋にいれば大丈夫なんだよー」

「そうだった」

「外に出たら怖い人たちがいるよー」

「こわいなあ」

「ずーっと。ずーっとここに居ればいいんだよー」

「うん。ありがとう。真奈子ちゃん」

「いいこだねー」

「うん。ぼくいいこ」

 

 外はきけん。

 あんぜんなのはココだけ。

 なんども言われているからおぼえた。

 

「さ、お風呂に入ろうか」

「うん……ちょっとはずかしいような……」

「恥ずかしくない。全然恥ずかしくない。恥ずかしくないんだよー」

「……そうだった。はずかしくないんだった」

「そうだよー」

 

 トイレとおふろのときだけは、真奈子ちゃんのへやを出る。

 真奈子ちゃんが手をつないでくれるから、真奈子ちゃんのへやから出てもだいじょうぶなんだー。

 

「おふろーおふろー」

「うふふ」

 

 ふたりでろうかを歩く。

 

「い、いたー!」

 

 ん?

 あれは……

 

「見ちゃいけません!」

「わあ」

 

 真奈子ちゃんが手で目をふさいだ。みちゃいけないものだったのか。おばけかな?

 

「ちょ、ちょっとまなちゃん! お兄ちゃんに何してるの!」

「誰か! 侵入者よ!」

「まなちゃん!?」

 

 なんかきいたことのあるこえのような……?

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃ―ん! ちょ、離しなさいよ、バカ兄貴ー!」

 

 バカ兄貴……?

 そんなことを言うのは……

 

「――ハアッ!? 詩歌!? ここは誰!? 俺はどこ!?」

「チイッ! 正気に戻ってしまったっ! まったく余計なことをっ。……ハヤテさん、その人を離してあげてください。学校の先輩でした」

 

 ハヤテさんと呼ばれた執事が去っていくところを見ながら記憶を辿る。

 どうやら俺はまた催眠術にかかっていたらしい。

 真奈子ちゃんの催眠術は深く入ってしまうから危険だ。

 しかし、通報されてしまったことを誰にも言えず、ビビりまくって警察のご厄介になている際にいち早くやってきて助けてくれたのが真奈子ちゃんだった。

 

「そうだ……思い出してきた」

 

 あの日の夜。通報された夜だ。

 真奈子ちゃんのご両親の力はなかなかのものらしく、俺は速やかに開放された。

 そもそもお店の中で半裸になったまま問いかけに応じなくなっただけなので、きちんと説明すればそれほど問題にはならなかったようだ。

 とはいえ開放されたときには夜遅くなってしまったので、そのまま清井家に泊まることになり、夜中に悪夢を見た。

 児童向け小説家はとんでもないヘンタイだった、ヘンタイすぎて逮捕された……そういうニュースが日本を賑わすという夢。

 その夢を見て、ふらふらと廊下をさまよっていたら真奈子ちゃんが声をかけてくれた。夢が怖くて眠れない、という話をしたら真奈子ちゃんが催眠術を使って俺の不安を取り除いてくれた……とそういうことだ。

 

「なるほど……それで今こういう状況か……」

 

 そのときは心のダメージが大きすぎて耐えられなかったのだ。

 馳せ参じてくれたこと、催眠術をしてくれたことには感謝してもしきれないな。

 あのときは本当に助かったけど、いつまでも真奈子ちゃんに頼っていてはいけない。

 もう、催眠術はおしまいだ。

 

「よかった、お兄ちゃん。編集さんから電話とか来てるよ。締め切り過ぎてるって」

「編集……? 締め切り……?」

 

 どうやら俺は間違っていた。

 やはり真奈子ちゃんの部屋の外は危険だ。

 編集者だの締め切りだの、こんな恐ろしい言葉を使うやつらが生息している場所に存在しちゃいけない。

 

「真奈子ちゃん、お風呂行こうか」

「そうしましょう」

「ちょっと!? お兄ちゃん!? 小説書かないと。読者が待ってるよ。ファンが」

「読者……ファン……ううっ、頭が!」

 

 あげはちゃんを始め、女子小学生からファンレターをもらっており、続きを待ってますと言われている……ううう……。

 しかし……ぐぬぬ……。

 

「まなちゃん、ホントなにやったの……魔王に洗脳された勇者みたいになってるんだけど」

「しーちゃん先輩、なに言ってるんですかー」

「目が笑ってないんだけど……」

「賢者くんはずっと我が家に居たいだけですよ」

「賢者くん!?」

「落ち着け、詩歌。真奈子ちゃんは俺に催眠術をかけていただけだ」

「催眠術をかけていただけ!? ええ!?」

 

 詩歌はおどろきにとまどっている。

 催眠術なんて官能小説とかエロ漫画とかエロビデオではよくあることなんだが、詩歌はそういうものを見ないのでピンと来ないのだろう。

 

「真奈子ちゃんは悪くないんだ。俺が通報されたのが悪いんだ」

「通報!? え!? もう全然わけがわからないんだけど!?」

 

 詩歌はますます混乱している。

 実の兄が警察に通報されるなんて官能小説とかエロ漫画とかエロビデオではよくあることなんだが、詩歌はそういうものを見ないのでピンと来ないのだろう。

 

「詩歌……俺には編集とか締め切りとかの方がよっぽどわけがわからないんだけど」

「お兄ちゃん! 現実から目をそむけないで」

 

 そむけたい……!

 全力でそむけたい……!

 催眠術にかかっていたい……!

 

「詩歌、俺は帰りたくない……真奈子ちゃんに催眠術をかけてもらって生きていきたい……」

「なに言ってるのお兄ちゃん……」

 

 俺が言ってることがおかしくて、妹が正しいということはわかる……。

 詩歌のほうがまともで正しいなんてことがヤバいってこともわかる……。

 わかるんだが……。

 

「お兄ちゃんは小説を書かないと。本当は書きたいんでしょ」

 

 うう……。

 正しい……。

 

「ファンが待ってるよ……」

 

 ううう……。

 正しすぎる……。

 

「あと専門学校も休み過ぎだよ。お父さん怒ってたよ」

「それはマジで目をそむけたい……」

 

 うううう……。

 正しすぎてツラい……。

 

「通報されたせいだってお父さんに言う?」

「今すぐ帰ります!」

 

 あぶねえ。

 迷ってる場合じゃなかったわ。

 通報されたなんてバレたらどうなることやら。

 数日いなかったことは、ちょっとうっかり催眠術にかかってたって言えば許してくれるだろ。

 

「先生、行かれてしまうんですね。でも、真奈子はいつでも待っていますから、つらいことや悲しいことがあったらいつでも戻ってきてくださいね」

 

 真奈子ちゃん……!

 実家に帰るのに、実家を離れるような気持ちに……!

 真奈子ちゃんがいるところこそが心のふるさとなのか……!?

 

「なにやってんの。早く行くよ、バカ兄貴」

「お、おう……」

 

 珍しく妹が手を握ってきた。

 ……やっぱり帰るべきは自分の家か。

 




まともな詩歌
まともじゃない真奈子ちゃん
どうしてこうなったんだ……

もしノベルアッププラスのアカウントをお持ちの方がいたらお願いです!

https://novelup.plus/story/820823816

応援ポイントください! お願いします!
この小説の全年齢版……じゃない。もともと全年齢版だった。じゃなくて絶対に公開停止されないようにした版です。HJ大賞に応募してます……書籍化できるかもしれないから……。


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はじめての甘い誘惑に抗えるか

「え!? コミカライズ!?」

 

 俺は衝撃のあまり、混乱した。

 もちろん自分の書いた小説が、漫画になるということは嬉しい。嬉しすぎるくらいだ。

 しかし、素直に喜べないのも確か。

 目の前にいる編集の富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)女史に確認する。

 

「それって、小学生が読むんですよね」

「? 当然でしょう」

 

 それはマズイですよ。

 だって子供がみちゃマズイものなんですよ。

 いや、子供が読んでるけど。読者のメインは女子小学生なんだけれども。

 小説だからなんとかごまかせているだけで、中身は官能小説なんだから。コミカライズしたらエロ漫画になっちゃいますよ。

 

「といっても、ずっともに連載とかじゃないですよ?」

 

「ずっとも」というのは、主に女子小学生が購読する月刊の漫画週刊誌だ。出版しているのは白い鳥文庫と同じ高願社(こうがんしゃ)

札捕獲者(タグキャプチャー)すもも」とか有名な連載もあるし、桜上水みつご先生も漫画を描いている。

 なのでてっきり「ずっとも」かと思ったが、そうじゃなくてよかった。いや、メイちゃんのなりきりメイドカチューシャが付録について全国の女子小学生がつけてくれるという夢のような光景は惜しいけれども。

 

「はっきりいって、この程度の部数で、まだ三巻の発売ですからね。コミカライズなんてありえません」

 

 そんなはっきり言う必要あったのか?

 思わせぶりなことを言わないでくださいよ。無駄にいろいろ心配しちゃったじゃないか。

 こういう性格だと上司にもなんか余計なことを言って、怒らせてしまってその結果おしおきと称して……おっと本当に無駄な心配をしてしまいそうだ。

 

「書店で販促用のPOPにするっていうだけです。あとWEBにも載せますけど」

 

 なるほど、そういうことでしたか。

 それならば大したページ数ではないので、ごまかせそうだ。ごまかすっていうのもアレだが……。

 

「それで、三巻のどこを漫画にするかですけど、ここでどうでしょう」

 

 プリントアウトされた俺の原稿に付箋がついていた。

 やっぱり新キャラのフミかしら。富美ケ丘さんがモデルだから。

 どれどれ、「マイはくすりとほほえむと、ご主人さまの頬にふれ、食べさせてほしいとねだった」この部分か。フミさん関係ないな。

 えっと……これは……NTRですね……。

 これは、マイがこっそりメイを出し抜いてご主人さまを誘惑するシーンです。

 官能的な指使いで頬を触りながら、なんというか……口で攻めてもいいか聞いている、と。まぁそういう場面だ。

 

「ここは結構かわいいシーンですよね」

「そ、そうですか?」

 

 いや、もちろん俺はかわいいと思って書いているけど。

 小悪魔的な意味で。

 

「そのあとで『おっきくてお口に入らないよお』って言うじゃないですか」

 

 うん……言うね。なんというかエロ漫画ではよくあるセリフだよね。うん。っていうか俺もなんでそれをわかってて児童向けの小説に書いているのだろうね。

 

「このご主人さまがマイちゃんに食べさせてあげてるのに、一口で食べられる大きさには出来てないっていう不器用さが微笑ましいですよ。肉の棒を食べさせるのが下手なご主人さま、かわいいです」

 

 エーッ!?

 そっち?

 ご主人さまがかわいいの?

 作者の俺は一度もそう思ったこと無いけど?

 そもそも、食べさせて欲しいという言葉の意味が違ってるんですね。ご主人さまの肉棒を食べちゃってもいいですかというつもりだったのですが、ご主人さまに肉の棒を食べさせてくれませんかという意味になってるんですね。WAO! 日本語ムズカシイネー!

 めずらしく編集が褒めてくれているけど、俺の意図するところとは程遠いから嬉しくないです!

 

「なのでここを漫画にしようかと」

「う~ん」

 

 それはちょっと嫌だな。

 本当のシーンを理解できる読者からするとご立腹案件だし。あげはちゃんがぷんすかしちゃう。それはそれで可愛いからいいか……いやいや、よくない。よくないぞー。

 

「主人公はご主人さまではなくてメイなので、やっぱりメイの活躍する場面が……」

「あー、まぁやっぱりそうですよね」

 

 納得のご様子。それほど残念そうには見えない。

 

「ご主人さま人気にあやかった方が売れるかなーと思ったのですが」

 

 そうなのである。

 桜上水みつご先生のイラストの影響が九割だと思うが、めちゃくちゃイケメンのご主人さまは大人気なのである。

 ファンの方から可愛らしい封筒が届いて、中にファンアートがあるという大変嬉しいことがたまーにあるのだが、まずそのイラストはご主人さま。メイのえっちなイラストなんて贈られてこないのだ! ちくしょう!

 ご主人さま大好きなJKですと書かれた、可愛らしい便箋を見ているとむしろご主人さまに嫉妬するよね。

 よってご主人さまをメインにした販促用漫画をつくるのは戦略的には正しいんだろうな。だが断る。

 

「ではやはり、ここでしょう!」

 

 次に指定されたのは、メイとマイが一緒にお風呂に入るシーンだった。

 

「え!? ここですか!?」

 

 これは俺が二人の入浴シーンを桜上水みつご先生のイラストで見たいから書いただけのシーンだ。イラストでは妹が姉の背中を洗ってあげるところで微笑ましいシーンとなっており、背中しか描写されていないが俺は少しお尻が見えただけで満足だった。

 しかし漫画となるとそうはいかない。裸のオンパレードだろう。

 俺は嬉しいが、ここを漫画にして喜ぶのは男子諸君なのでは?

 

「ここって、お互いの体をずいぶんと触り合うじゃないですか!」

「え、あ、はい」

 

 どうして富美ケ丘女史がこんなに熱心なのかがわからない。いつの間にか俺と中身が入れ替わったのでしょうか。胸を触ってみますが、残念ながら柔らかくありません。そりゃそうだ、体は目の前にいるんだから。

 

「普段そこまで仲良くない姉妹が、ずいぶんと仲良くしてて……てぇてぇなぁ……」

 

 もしもし?

 富美ケ丘さん、どうしたの?

 夢見る乙女のような顔で眼鏡の奥のおめめをきらきらさせてますけど。

 てぇてぇ?

 尊いってやつですか?

 ……そういえば俺が三巻のダメ出しを食らっているときに大絶賛していたすいちゃんせんせーという作家。沙織ちゃんの書生管理(しょせいかんり)で読んだのだが、ライトな百合作品だった。

 ひょっとしてこの編集者……。

 

「メイは普通に妹のマイが好きなんですけど、マイはご主人さまとメイの関係に嫉妬してるんでちょっとぎこちないんですよね」

「そう! そうなの~。そこがマイちゃん可愛くってぇ~」

 

 やはり!

 やはりそうですか!

 どうやらこの編集者、あきらかに百合好きの模様。

 それにしても嬉しい!

 これは嬉しいですよ。

 別に百合を書いてたつもりはないけど、褒められたら嬉しいわけですよ。

 

「本当はお姉ちゃんのこと大好きなんですけどね」

「読者には伝わってますよ!」

 

 なんてこった。

 それは伝わってるんですね!?

 もっとわかりやすくご主人さまと二人はこれでもかっていうくらいえっちなことをしているのに、それはまったく伝わってないのに!

 この姉妹の微妙な感情のやり取りは伝わるんですね!

 でも嬉しい……読者に伝わるということの嬉しさ……ハンパない……。

 

「ここで背中を洗い合うシーンは、マイが言葉にできない感謝を表しているわけですが、いつか言葉にできるように読者が応援してくれるといいなと思っていたり」

「応援してるよ、マイちゃん!」

 

 編集者が応援してくれるという初めての経験……。ありがたい……。なにこれみんなこんな感じなの? すいちゃんせんせーが羨ましすぎるだろ。

 ちなみに正式なペンネームは翠最愛(すいもあ)まいも先生というらしい。

 結構年上のバツイチの女性作家さんだ。酸いも甘いも噛み分けた結果、女児向け百合に目覚めたらしい。元の旦那さんと何があったんでしょう……。

 

「じゃあ、漫画にするのはここでいいですかね」

 

 俺と編集者が意気投合したのは初めてであり、これは大変嬉しいことなんだが……。

 

「ちょ、ちょーっと考えさせてもらうことはできますか?」

 

 逆に怖くなってブレーキを踏んだ。

 

「いいですけど……ちなみに漫画はフルカラーです」

 

 フルカラーでお風呂シーン……!?

 み、みたい……!

 しかし。

 

「少しだけ、少しだけ時間をください」

「そうですか。週明けに決めればスケジュール的には問題ないです」

 

 そう言って、付箋のついたプリントをもらう。

 付箋が候補となっているからこの中から選ぶならいいらしい。

 

「難しいな……」

 

 家に帰る電車の中で、俺は自分の原稿と向き合う。

 個人的に嬉しいのはもちろん、入浴シーンで間違いない。

 だが、ひゃっほーいイラストどころか姉妹のお風呂シーンが漫画になるぞう! なんて浮かれている場合じゃないだろう。

 そもそも最初の問題である小学生が読んでいい漫画にはなっていない。女の子同士とはいえ、ふざけていろいろ揉んだりするからだ。普段は冷静な判断のできる富美ケ丘女史はどうやら百合の前では盲目らしい。

 そして、このシーンは富美ケ丘女史が冷静でいられなくなるくらい百合。そしてこの作品は百合モノではない。書店で勘違いさせてしまいかねない。

 三巻が売れなかった場合は四巻で完結させなければいけないことになっているわけで。

 編集者が初めてこんなに褒めてくれたから狂喜乱舞しちゃったけれど、これはマジな話だ。

 さりとて売上最優先でご主人さまのカッコいいシーンにしておくのも違う気がする。

 

「しかし読めば読むほど難しいな」

 

 だってほとんどのシーンが本当はエロいことばかりしているからだ。

 誰だよ、女子小学生向けの小説の中身をこんなビジュアル化したらマズい内容にしたやつは!

 自分だけでは解決できないと判断した俺は、スマホを取り出した。

 





JSが出てこない!
どうなってんだ!

自分で書いててもそう思っちゃう。


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コケティッシュになってゆく少女

 こういうときに頼りになるのは、やはり網走沙織ちゃんだろう。

 三回コールしたら出てくれた。

 もちろんビデオ通話です。顔が見たいからね。

 沙織ちゃんは家でもしっかりとした服を着ていた。うちの妹なんて部屋着はゆるいのに。やっぱり厳しいご家庭らしい。

 髪も今さっきブラシをしたみたいにツヤッツヤ。

 

「漫画? わかりませんね」

「そう言わずにさ~」

「漫画はほとんど読んだこと無いって言いましたよね」

「そうは言っても知ってはいるでしょ? ほら、俺の作品のさ、どこを漫画にするといいとか」

「さあ」

「好きなところでいいからさ」

「別に好きじゃないですし」

「そんなー」

 

 相談相手を間違えたのでしょうか。

 

「三巻の原稿を読んでもらって、どこを漫画にするか決めてほしいんだよ~。自分じゃ決められないから誰かにお願いするしか無いんだよ~」

「誰か……それは他の女性にも聞いてるということですか?」

「いや、沙織ちゃんだけだけど。沙織ちゃんがダメって言うなら、真奈子ちゃんに頼もうかな」

 

 普通に考えたら詩歌が適任だと思うけど、まっとうな感覚を持ってないから怖いんだよな。

 

「仕方ないのでやります」

「あ、そう? 助かるよ~」

 

 原稿はトップシークレットでもあるので、渡すわけにはいかないから、プリントアウトしたものを家で読んでもらうことに。

 土曜日は用事があるということで、日曜に我が家に招いた。

 

「いらっしゃい、沙織ちゃん。今日はありがとうね~」

「別に。お菓子食べに来ただけ」

「お菓子いっぱい用意してます! アイスもあるよ!」

「うん」

「じゃあ早速食べる?」

「バカ。読むよ」

「読んでくれるの!」

「喜びすぎ。バカじゃん」

 

 俺は沙織ちゃんを前にすると基本的に飼い犬だ。全力でしっぽを振っている。恥ずかしい? いや、むしろ誇らしいね。

 

「じゃ、リビング? 俺の部屋?」

「変態のベッドで読む」

「はいはい、じゃ二階にどうぞ~」

「おじゃまします」

 

 きっちりと靴を揃える沙織ちゃん。まぁ、品のよろしいこと。ご両親が厳しいらしいからね。

 夏の間、ずっとボーイッシュな格好をしてた印象の沙織ちゃんだが、今日は女の子っぽい、ちょっと大人っぽいファッションだ。

 白いフリルのついた黒くドレスっぽいワンピースで、太もものところだけ透けている。ボタンがハートだったり、細部まで可愛らしい。

 

「沙織ちゃん、すっごくかわいい格好だね」

「は!? 別に今日のために買ったわけじゃないけど」

「え? そりゃそうだろうけど」

「……」

 

 ぷいっと顔をそらす沙織ちゃん。かわいいとか言っちゃいけなかったのだろうか。大人っぽいとか言ったほうがよかったのかな。

 玄関から二階への階段を登り、自分の部屋へ。妹は不在。というか家族は不在。

 

「これが三巻だよ」

「ん」

 

 俺のベッドに指差す沙織ちゃん。

 

「ん、とは?」

 

 聞き返した俺にローキックが入る。痛いです。

 

「椅子になれ」

「え、ベッドなのに?」

「早く。いつもやってるでしょ」

「はい……」

 

 どうやら書生管理のとき同様に、俺を座椅子にして読むようです。お菓子を食べさせるわけでもないし、俺は読む必要がないのに。

 

「よし」

 

 俺の膝をぺしっと叩いてから、ページをめくり始める。

 

「……」

「……」

 

 やることがない。

 沙織ちゃんの後頭部を見ることくらいしか。

 ちょっと伸びてきたかな。男の子みたいに短かったけど。

 

「ふふっ」

「あっ、笑った! やった」

 

 自分の書いた小説を読んで笑ってくれてる瞬間が見れるなんて。嬉しすぎる。

 

「どこで? どこで?」

「ここ」

 

 沙織ちゃんが指をさしたのは、マイが嫉妬のあまりメイに嫌がらせをするシーンだった。

 

「え? ココ?」

「ここ」

 

 笑うような場所ではないのだが。

 マイがメイの座る椅子にこっそり仕掛けをして、メイが半泣きになるんだよ?

 

「本当は姉のことも好きなのに素直になれなくて可愛いなって」

「あ~」

 

 なるほどね。そういう笑いもあるのか。

 

「これってどういう状況なの? 痛いのはわかるけど、すぐに飛び上がったんじゃなくて、座ってるよね」

「そうだね」

「ちょっと再現してみないとわからない」

「ええーっ!?」

 

 仕掛けっていうのは、つまり小さなこけしを置いてるんだよね。ちょっとボカして書いてあるからな。っていうかこの小説は基本的にいろいろボカして書いてあるよ。だって詳細に書いたら発禁になっちゃうからね。

 

「変態、準備して」

「まじか……」

 

 しかし、こけしなんて……あったわ。

 目に見えるところにあったわ。妹の部屋のベッドの近くに、いろんな大きさのこけしがあるんだわ。なぜかあいつこけし好きなのよな。

 沙織ちゃんだから……この二番目に小さなこけしでいいか。うん。メイが使われたのはもっと大きいけど。

 

「なにそれ」

「こけし」

「ふーん……それを?」

「椅子に立てて置いてある」

「座る直前にこれが置かれたってことなんだ」

「そう」

 

 小学生の男子みたいないたずらだな。

 しかし男子だから笑い事で済むが、挿入されちゃったら笑い事じゃないですよ!

 まぁ書いたのは俺なんですけどね。

 

「座ればいいの?」

「あ、先にぱんつ脱いで」

「メイはぱんつ履いてないの?」

「さっき下着まで濡れてしまったっていう描写あったでしょ。だから脱いでるんだ」

「そうか。ちゃんと読めてなかった。ごめん」

「いやいや、いいんだよ!」

 

 国語の長文読解みたいなつもりはなくてね?

 単にぱんつを脱ぐ描写を入れるとちょっとアレだからね?

 ごめんね?

 

「んしょっと」

「ごくり」

 

 平然とベッドの上で少女がぱんつを脱いでいる。

 ワンピースがめくれあがって、細い太ももがあらわになっている。

 いかん、いかん。平常心、平常心……。

 ぱんつはぽいっと俺のベッドの上に。

 沙織ちゃんはこけしがセットされた椅子の横に立った。

 

「で、この状態で座る?」

「そうだね」

「よいしょ。んっ……痛くない。ちょっと気持ちいい」

「そりゃ股の間に当たってるからね。しかし気持ちいいのか……」

「どこが当たるの?」

「ちょっと誘導しますね」

 

 沙織ちゃんの腰を掴む。目標をセンターに入れて……ここです。

 

「これで座るの?」

「一気に座ると痛いと思うからゆっくりね」

「メイと同じじゃないと意味ない」

「あっ」

 

 どすんと座ってしまう。

 こけしは一気に全部彼女の中に。

 

「ん~な~ッ!?」

「うわー」

 

 痛いのだろうけど、どう痛いかはさっぱりわからない。

 なんとなく野球中にボールが股間に当たったことを想像してしまう。かなり痛いのでは?

 

「うう~っ」

 

 沙織ちゃんは半泣きだ。メイと同じ状況!

 俺の書いた小説がリアリティを持った瞬間ですね。

 

「う……ん」

 

 おや?

 沙織ちゃんの様子が……?

 

「……変態、なんかこれ気持ちいい」

「そ、そうなんだ」

 

 なんか、こう、恥ずかしい。

 自分が赤面していくのがわかる。

 

「こ、これ、メイも実は気持ちよかったの?」

「そう、だね。実は気持ちいいね」

「そうなんだ……」

 

 沙織ちゃんの表情は、痛みやら快楽やら羞恥やら興奮やらが混ざっているのか、なんとも言えない複雑さで、少なくとも小学生らしい表情ではなく、色っぽく見えた。

 

「ん……はい」

「はい」

 

 こけしを返していただきました。

 ティッシュで拭いて、詩歌に返しておきましょう。

 

「……」

「……」

 

 沈黙のまま、俺はベッドの上に。

 沙織ちゃんは、沈黙のまま、その俺を椅子にして座る。

 ぱんつは履いていない。

 

「……ここじゃぁ、ないかな?」

「そうだね。漫画にするのはココではないかもですね?」

 

 そうだよね、漫画にしちゃうとマズイよね。

 ただ、問題は大体のシーンがマズイんだよね。

 

「とりあえず、続きを読む」

「そうだね」

 

 再度、ページをめくる音を聞きながら、後頭部をぼんやり見る時間が始まった。

 沙織ちゃんの体温は、さっきより少し上がったように感じた。

 




実はこの作品、ノクターンの方で18禁作品として更新していました。
基本的に同じ話ですが、結構加筆してます。
https://novel18.syosetu.com/n3441gx/

こちらでも更新は続けていきますのでよろしくおねがいします。


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具体的にお仕置きを再現

「ここは?」

「ここか……」

 

 沙織ちゃんが選んだシーンは俺のお気に入りだ。

 我ながらとってもいいと思っているが……。

 

「これ、具体的にはどういうことなの?」

「やっぱり」

 

 具体的にはよくわかっていないのに、なぜチョイスするのか。

 

「なんでココがいいと?」

「マイがまだメイより下手だってわかるけど、ご主人さまが優しく感謝してるところかな……」

「ふーん。沙織ちゃんはご主人さまのこと好きなの?」

「別に」

「じゃあ、マイが好きなの?」

「特には」

 

 じゃあなんでよ……っていうかウソでも好きだって言ってくれよ……自分の作品のキャラが読者に好かれてないの辛いんですけど。

 

「これ、何が固いの」

「えっ」

 

 そうね。ご主人さまの固くなってるものに対してご奉仕するって書いてあるものね。

 

「なんだと思う?」

「固くなるものだよね」

「そう」

「大人だから固くなる?」

「そうだね」

 

 作者としては答えは一つしかないのだが。他になにかあるの?

 編集とかはこれでオッケー出してるわけだけど、なんだと思ってるのかな?

 

「肩だよね」

「肩だよね~。大人は肩が凝るからね~」

 

 肩だった。なるほど、そういうのもあるのか……。

 

「変態も?」

「どうかな、執筆も授業もパソコンだから、ちょっと固いかもね」

「じゃあ再現してみる」

 

 俺という椅子から立ち上がり、俺の背後に回る。

 ベッドの上に膝立ちになって、揉み始めた。

 

「あー、気持ちいいな」

「そ」

「うん」

 

 小さな手で肩を触られることがすでに気持ちがいい。

 

「沙織ちゃん、気持ちいいよ~」

「なんか違う」

「へ?」

 

 沙織ちゃんは、原稿をバシバシと叩いて、見ろと促す。

 

「ここ」

 

 俺が書いた原稿をちゃんと見ろと言われる俺。

 読みますよ。

 

「あっ……いいぞ……もうちょっと強く、あぁ、いいっ……んっ、早くできるか?」

 

 我ながら、エロいね!

 こう、まるで固くなったどこかを舐められてるかのようですね!

 

「全然違う」

「あー」

 

 そりゃ違うよね。だって肩じゃないんだもの。

 揉まれてるわけでもないし。

 

「どういうこと」

「ひいっ」

 

 冷たすぎる声。この声で何か言われると問答無用で俺は奴隷になってしまう。命だけはお助けを!

 

「あの、ほら、ご主人さまは肩がガッチガチなのよ。俺はご主人さまより若いから、そこまで固くないというか」

「ふーん。変態はご主人さまより固くないんだ」

 

 なんか傷つく言い方だな……。

 ぐりぐりっと肘で肩を押される。なんか怒ってます?

 

「他の場所にする」

「はい」

 

 不機嫌です。

 

「あ、お菓子食べる?」

「原稿汚れちゃうでしょ、バカ」

「はい、ごめんなさい」

 

 手書きならわかるが、所詮パソコンで執筆した小説をプリントアウトしただけ。別に汚れても良いのだが……。

 お菓子を出さないと不機嫌になるが、あまり薦めても不機嫌になるのが沙織ちゃん。難しいお年頃なんだよなあ。

 沙織ちゃんの頭の上から、ぼんやりと読み進めるのを眺める。

 自分の書いた文章を、小さな指がなぞっていく。

 

「マイは可愛いな……」

「ありがとう」

「なんで変態がお礼を言うの」

 

 ぺしっと膝を叩かれる。

 だって俺のキャラだから。褒められたら嬉しいのですが?

 

「マイってなんでこんなに素直なの」

「え?」

 

 これってどういう質問なんだろ。

 メイとご主人さまがお互い素直になれないから、マイはそういう立ち位置のキャラクターとして設計したんだよ、っていう答えでいいのか?

 

「ぼくはこんなに素直になれないな……」

 

 どうやら違うようです。

 沙織ちゃんは素直になれない悩みがあったんだね。

 

「素直なのもいいけど、素直になれないのも可愛いと思うけどな」

「……ほんと?」

「うん。メイはそういうところがいいんだよ。俺はメイもマイも大好きだから」

「そっか」

「それに、素直になれなくても、気持ちって伝わるもんだよ」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

「好きな気持ちとか?」

「わかるわかる」

「ぼくの好きも?」

「わかってるわかってる」

 

 原稿から俺の顔に視線を移す沙織ちゃん。自信なさげだ。ここは俺がどれだけ理解しているかを伝えておくべきだろう。

 

「沙織ちゃんが好きなのは、甘い系よりしょっぱい系のお菓子。でも一番は甘じょっぱいやつが好き。そうでしょ!?」

 

 どうだ。

 結構自信ある。

 今日はちょっと高級なチョコがけのポテチを買ってあります!

 

「はぁ……」

 

 返事はため息だった。

 露骨にガッカリされている。おかしいな……。

 沙織ちゃんは無言でぺらりとページをめくる。

 何この残念な感じ。ハズレなわけないのになぁ。

 

「あ、ここがいいかも」

「ここですか」

 

 毎度おなじみ、ご主人さまがメイをお仕置きするところですよ。

 

「今回のお仕置きって……なんか子供っぽくて可愛いですよね」

「そう?」

 

 確かにいつも大人っぽいことしかしてないけど。

 アダルトな表現はわからないようになっているので、おそらく「パンパンパンパンパン!」とかお尻を叩いてると思ってるんでしょうね。

 今回はそういう誤解は無いかもな。

 

「くすぐってるってことだよね」

「んー」

 

 確かにメイはくすぐったがっているので、間違っていないが。

 

「こちょこちょしてるわけじゃない、ってこと?」

「んー」

 

 こちょこちょしてるといえば、しているんだが。どっちかっていうと、ぴちょぴちょかな。

 

「やって」

「え?」

「やってみて」

 

 いいのか……?

 まぁ、いいか。別に。

 

「んじゃ、失礼して」

「ひあっ!?」

 

 俺はベッドの上で、沙織ちゃんの首筋を舐めた。

 鎖骨から、耳のあたりまで、やや固くした舌で。

 

「くすぐったい?」

「ちょっと、びっくりした」

「うん。メイもそんな感じ」

「じゃ、じゃあ続けて」

「うん」

 

 後ろから、羽交い締めにするように、脚で彼女を動きを封じる。左手を回して、シートベルトのようにがっちりホールド。

 

「はむ」

「ひゃわわわ」

 

 沙織ちゃんからは聞いたことがない甘い声。ちょっと耳を唇で、はむはむしただけなのに。

 普段攻撃するときには躊躇しない、強い沙織ちゃん。攻められると弱いんだな。

 

「ちゅっちゅっ」

「あ、あ、あん」

 

 首にキスを浴びせる。

 そのたびに、せつなそうに声を漏らす。

 うーん、かわいい。愛おしい。

 

「れろ、れる」

「ひあああああ」

 

 耳を舐める。丁寧に。

 溝を舐める。突起を舐める。穴を舐める。耳たぶを舐める。内側から舐める。外側から舐める。

 左耳も舐める。右耳も舐める。

 温かい息を吐きかけながら、舐めてない方の耳を指でなぞりながら。

 

「はふ、れろっ、はぁ、れるっ」

「はん、ひん、ひう」

 

 体をよじる。

 しかし逃げることは出来ない。動けないように、更に強く抱きしめる。

 

「あっ」

「ごめん、強かった? 痛い?」

「ううん、だいじょうぶ」

「うん」

 

 耳元で、そう言ってから。

 

「ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅー」

「ん、ん、ん、ん~」

 

 耳から、鎖骨へ。

 細かくキスをしながら移動。

 若い肌は水を弾くというが、それどころではない。光までも弾いてしまうのではないか、そう思わせるほど。

 柔らかくて、ハリがあって。

 すべすべで、むちむちで。

 特に、鎖骨の下の肌は、素晴らしい。

 もっと、もっと下に行きたい。

 

「よいしょ」

「あっ」

 

 抱きしめていた力を緩めると、明らかに落胆した声。

 まだ終わって欲しくない。そう思ってくれているのだろうか。気持ちがいいと、感じてくれているのだろうか。俺の舌技もまんざらじゃないのかな。

 

「今度は下から、くすぐるんだけどいいかな」

「……ご主人さまのしたとおりにして」

 

 真剣に漫画のシーンを選んでくれているようだ。これはお仕置きなのにな。何もドジをしていないのに、お仕置きされてくれるなんて。感動だね。これはこっちも本気でやらないと。

 

「やっ」

「ごめんね」

「な、なんで靴下脱がすの」

「ごめんね」

 

 靴下はつけたまま派の俺だけど、ここは脱がさないといけないんだ。

 妙に恥ずかしがる沙織ちゃんだが、ご主人さまのしたとおりにしないと!

 

「ねぷ」

「ええーっ」

 

 足の指をねぶるという行為は想定外だったようです。俺は変態じゃないから、別にこういうことはしないのですが、ご主人さまはこういうの大好きなんでしょうがない。

 

「ぺろぺろ、はむはむ、れろれろ」

「はへ、はへ」

 

 小さな足。小さな指。小さな爪。

 小学六年生の女の子の足は、想像以上に小さい。

 くるぶしも、かかとも小さい。小さいと、興奮する……。

 足は十分に堪能したので、徐々に上に移動。ここで焦ってはいけない。ふくらはぎを軽んずべからず。子どもと思わせる細く筋肉が中心のふくらはぎ。三年もすれば太くなってしまうことだろう。

 ふくらはぎを舐めて、キスして、愛撫して。そう、今はふくらはぎを愛するのだ。

 

「ん、ん」

 

 脚をよじらせるが、俺は彼女の足首をがっちり掴んでいる。ワンピースがはだけていく。

 さて、ここで自然にめくれてきた太ももだ。

 ふくらはぎがまだ子どもなのに、太ももは女性であることを主張している。柔らかくて、むっちりしていて。ごつごつした男のものとはぜんぜん違う。

 俺は太ももで顔を挟む。

 左を舐めて、右を舐めて。

 

「は、は、はず、かしい……」

 

 恥ずかしがって脚を閉じようとするが、ますます顔に太ももが当たり、より股に近づいてしまう。

 

「ぺろ」

「あああん」

 

 太ももを舐めるつもりだったが、舌に当たったのは違う場所だった。ちょっと濡れてるような……? とりあえずぺろぺろしておくか!

 

「あ、はあっ……はあっ……」

 

 どうやら沙織ちゃんはお疲れのようです。俺も疲れました。舌が。

 ぐったりしている彼女の、ワンピースを裾を直してあげて、頭を撫でると弱々しく口を開いた。

 

「これ……」

「うん……どうだった?」

「ここ、漫画にしたらいいよ……」

「え、ほんと?」

「ご主人さまが、お仕置きって言って、首にキスするの、いいと思う……」

「そっか」

 

 沙織ちゃんが言うならそうなんだろう。

 足を舐めるのは、いらないそうです。首がいいってさ。

 こうして、初めての漫画化されるシーンが決まった。



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しつこい枕営業の誘いは断って

 

賢者(さかひさ)くん、なんのよう?」

「俺に枕営業しない?」

「は?」

 

 俺は同じ専門学校に通う声優の卵、小江野忍琴(こえのおしごと)を久しぶりにランチに誘った。またしても唐揚げ定食だ。どうやら唐揚げのような油が多いものは喉に良いと聞いてるかららしい。

 

「声優といえば、枕営業だろ?」

「……」

「どうした、唐揚げが口に入ってないのに、口をパクパクさせて」

「いや、呆れ返ってモノも言えないという貴重な体験なんだけど」

「ふむ? でも小江野さんは、可愛いし、スタイルも抜群だから、確実に求められるよね」

「……」

「どうした」

「いや、ちょっと気持ちの整理が。ちょっと、待ってね」

 

 お味噌汁をゆっくりと飲む小江野さん。

 まさか?

 

「ひょっとしてすでに枕営業を?」

「ぶっ」

「ああっ、なめこ飛んできたぞ!?」

 

 もったいないから食べますね。

 俺は天丼と冷たい蕎麦のセットなので、蕎麦になめこ入れちゃう。

 小江野さんは、水を一口飲むと、俺を睨む。

 

「してるわけないでしょ!?」

「まぁ、そうか。小江野さんが枕営業したら、もう日曜日の朝のメインヒロインくらいは余裕だもんね。まだなれそうにないもんね」

「……ほんとに?」

「おっ、やっぱり枕営業しようと思ってるね?」

「……し、しないよ」

「悩んだね? 悩んじゃったね?」

「しない!」

 

 ぶすり、と唐揚げに箸を突き刺す。お行儀悪いですよ?

 わさびを蕎麦につけて一口啜るが、所詮専門学校の学食という味だった。やっぱり温かい方が無難だったか。

 唐揚げを一気に口に入れて、もぐもぐと咀嚼し終えた彼女は、ご飯を追いかけることも忘れて俺に質問してきた。ご飯余っちゃうよ?

 

「で? そもそもなんでキミが誘ってきてるの? まさかアニメ化したの?」

「いやいや、まさか」

 

 そんなわけがない。そもそも白い鳥文庫でアニメ化した作品なんて、十年で一つだけ。そういうレーベルじゃないのよ。

 

「ん~? じゃあ、ドラマCD?」

 

 ラノベとかだと、アニメ化の前にドラマCDが出るのはよくある。そのままアニメ化したときの声優にも抜擢されやすいよな。

 

「いやいや、まさか」

 

 ドラマCD化されてえー!

 もっと売れないと無理です。

 

「じゃあ、何の声を」

「いや、そうじゃなくてね、俺の小説の宣伝をラジオでして欲しくてね」

「ん?」

「タダでしてもらうのも悪いから、せめて俺の体を」

「どういうこと!?」

 

 大きな目を丸くした。二重のきれいな目だな~。

 

「いや、だからね。俺が枕営業しようかと。小江野さんに」

「な、なんでよっ!? 逆でしょ」

「逆ならいいんだね」

「そ、そうじゃないけど!」

 

 元気だなあ。

 こんなに元気な女の子とランチできるの嬉しいですね。

 枕営業してくれたらもっと嬉しいです。目指せアニメ化!

 

「ラジオで宣伝してくれるなら、俺は小江野さんに抱かれてもいいよ」

「なにそれ……」

「じゃあ、宣伝しなくていいから、抱いてくれ」

「な、なにそれ」

 

 彼女は慎重に紙コップの麦茶を飲んだ。

 俺も喉を湿らしておくか。

 

「まぁ、冗談はこれくらいにして」

「冗談だったの!?」

「そりゃそうだよ」

 

 蕎麦を四本ほどつまみ、ずるるっと啜る。なめこそば美味しいです。もっとなめこ飛ばしてくれないかな。

 小江野さんは恨みがましい目で、ごはんを口に運ぶ。唐揚げを食べてから時間が経ちすぎですけど、大丈夫ですか? もっとこう、口に唐揚げが入ってる間に飯を食ったほうがいいですよ?

 俺は回りをちらりと確認してから、少し前傾姿勢にする。

 

「本題に入るけどさ」

「なんで小声?」

「あんまり他の人に聞こえないほうがいい話をするからさ」

「いまさら? 散々してたと思うけど? 他の人に聞こえる声で枕営業なんて言わないでよ……」

 

 そうは言いつつ、耳を澄ませてくれる。優しいな。

 

「エロゲー、今度エロいシーンやるでしょ」

「な!? なぜそれを……」

「ふふふ、エロいシーンのないキャラクターが、ファンディスクでエロ解禁。よくあることです」

「よくあるんだ……」

「当然予約したよ」

「予約したんだ……」

 

 当たり前だった。小江野さんがエロ声優やってるゲームなんてやらないわけないじゃん。

 

「いや~、待ち望んでたよ」

「待ち望んでたんだ……」

「そりゃあね。小江野さんが声優やってるから、とりあえず買ったものの、やっぱり不満だったからね。アンケートハガキも送ったよ」

「そ、そんなことしてたの!?」

「どう考えても三人のヒロインより、小江野さんのキャラの方が声がエロいだろ、いい加減にしやがれくださいって書いて送ったぞ」

「うあー」

 

 目を><(こんなふう)にする小江野さん。感謝するがよい。

 

「っていうかさ、そもそも自分、言ってたっけ? 名前」

 

 小江野さんはラジオのときなど声優の仕事を本名で活動しているが、エロゲーでは名前を変えている。よくあることです。

 

下野雄梅(しものおしばい)だろ」

 

 本名をもじってるパターン。よくあることです。

 

「バレてる……」

「声聞けばわかるだろ」

「わ、わかるの」

「わかるよ」

 

 小江野さんはいかにもアニメ声といったキンキンした声ではないが、独特の甘さと色気を持った声をしている。見た目は太陽とかひまわりの似合うグラビア女優だが、声優としてはミステリアスな美女とか、ゴスロリ美少女とかを演じるといいんじゃないかな。

 なお、エロゲーをやるとしたら、調教されるキャラクターがベストだね。メイドでもロボットでも生徒でもいいんだが、とにかく調教したいです!

 

「調教はないけど、期待してるよ」

「ちょ、ちょうきょう?」

 

 小江野さんがエロ無しのエロゲ声優としてデビューしたエロゲーは、よくある学園モノだ。幼馴染と、ずっと憧れていた女の子。そして転校生の三人が攻略できるというゲームだった。

 下野雄梅が担当したのは、女教師の役だ。そのエロゲーに登場する女性の中では最年長だが、アフレコした声優の中では一番若かっただろうな。なんせエロゲーの収録に一八歳の女の子がいるわけだから。

 

「先生とえっち……小江野さんの声の先生とえっち……早く発売してくれ」

「ちょ、ちょっと……」

 

 恥ずかしがる小江野さん。ふうむ。

 

「ひょっとして、まだ収録してない?」

「う……台本はもらってる」

「ほ~。これから演じるってわけか……」

 

 わくわくが止まらないですね!

 海老天を半分かじって、ご飯を掻き込む。くふー!

 

「そ、そうなんだけど……」

 

 割り箸で唐揚げをつんつんさせる小江野さん。早く食べなさいよ。冷めてしまっては元も子もないんだよ?

 

「どうした? どうせあの先生だって、実は男性経験ほとんどないんだろ」

 

 エロい経験が少ないから自信がないと見た。

 しかしあの手のゲームのお約束として、だいたいああいう女性キャラは男性経験がない。非処女が童貞のユーザーに嫌われるという理由もあるだろうが、エロい女教師がそのままエロかったらつまらないし。「実は初めてなんだ、優しくしてほしい」ってお願いしてくる年上のセクシーな女性。いいですよね~。

 

「そう、なんだけど……」

 

 ころんころんと転がされる唐揚げ。そいつはそんなことのために生まれてきたんじゃない。食ってやれ。

 

「なんだ? 何を悩んでるんだよ」

「んー……」

「やっぱり恥ずかしいのか?」

「それは、だいじょぶ。ラジオでなれたから」

 

 そりゃよかった。

 エロゲー紹介のラジオパーソナリティをやってるから、エロゲーそのものには抵抗がないらしい。

 

「んじゃ、何が?」

「その、やっぱり、本当にしたことないから、嘘の演技になっちゃうなって。経験が少ないキャラでも、収録のときは、その、するわけだし」

 

 ほーん?

 俺は素直に思ったことを口にしてみる。

 

「しかしさ、別に殺人鬼役の声優だって人を殺したことはないだろうし、魔法少女役の人も魔法は使ったことないだろう」

 

 何でもかんでも経験したことがないといけないということもなかろう。レイプモノの官能小説を書いてる人だって、レイプはしてないだろうし。

 ましてやロリコンエロ小説を書いてる人は、ロリとえっちなことをしていない。してないよ!

 

「うん。でも、それは誰も経験がないから違和感がないの。もし唐揚げを食べたことがないのに、唐揚げを食べるお芝居をしたら浅い芝居になると思う」

「なるほど……」

 

 小江野さんはお芝居に対して真摯なご様子。すでにプロ意識があるのかな。胸と一緒で立派ですね。

 ようやく転がすのをやめて、ぱくり。

 

「この歯ごたえとか、肉汁の感じとか、にんにくとしょうがの風味とか、ご飯との相性とか。知らないのに演じるなんて」

 

 目を閉じ、唐揚げを味わい、ぱくぱくとご飯を食べる。美味しそうだ。

 確かに、唐揚げを食べたことがある人間が、食べたことがない人のお芝居を見たら違和感があるかもしれないな。

 イカ天を食べながら、こんなの食べたことなかったら想像もつかないだろうなと思う。歯ざわりとか、むちんとしてるよ。むちん、と。

 

「つまり、小江野さんはお芝居のために、経験したいということだね」

「そ、そうなんだけど、相手がね」

「……」

 

 ばくばく唐揚げとご飯を食べる小江野さんを、じぃ~っと見る。

 これは、ひょっとして、ひょっとするのか?

 

「じゃあ、枕営業はしないけど、俺の小説の宣伝をしてもらうお礼として、小江野さんのお芝居の手伝いをするというのはどうかな」

「そ、それはいいアイデアだね! ウインウインだね!」

 

 うんうん。小江野さんはご飯を口に入れたままお味噌汁を飲み干す。

 

「じゃ、じゃあ、明日はどう? ちょうど土曜日だし」

「うん、問題ない、ぜ」

 

 俺も天丼を口に入れたまま、冷たい蕎麦も啜る。味はよくわからん。

 

「じゃ、そういうことで」

「ん。じゃな」

 

 二人とも立ち上がる。

 同じ場所に食器を下げるはずだが、なんとなく別々のルートで向かった。



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身も心もモンスターに

 大人の階段、の~ぼる~。

 古いボロアパートの、二階へと続く錆びた階段を登る。これほど緊張することはない。前回来たときは、お守りとしていざというときのために持っていたものを、今回は使う気満々で持ってきているわけで。

 

 ブー

 

 インターフォンなんて無く、ただ押したら音がなるだけのブザー。事前に到着する時刻は伝えてある。

 

「はーい、いらっしゃいませ~」

「おおう……」

 

 小江野さんは、ちゃんと女教師らしい格好で待っていた。薄いグレーでタイトなスカートのスーツだ。メガネはかけていない。

 ってか、でっか……。

 女教師の格好って、胸の大きさやらお尻の形やらくっきり出るし、太ももの露出も大きいよな……。

 

「どうしたの?」

「ちょっと見とれてしまいました」

「……そ、そう」

 

 長い髪をファサッと掻き上げた。いつもはポニーテールだが、女教師らしくするためにほどいている様子。本気を感じるね。こっちも頑張らないと!

 靴を脱いで彼女の部屋へ。このアパートは1DKで、玄関かつキッチンかつダイニングの他には六畳の和室とユニットバスしかない。

 前回来たときはエロゲーをするだけだったが、今回は違うぞ……。

 

「さ、さて。これが台本なんですが」

「お、おう」

 

 お互い緊張していることがミエミエだった。

 これからエロゲーのシナリオに書いてあることと、同じプレイをするんだからね。

 

「ここからが、そ、そういうシーン」

「お、おう」

 

 どきどき……。

 まずはちゅーかな。ちゅーをするのかな。女子小学生と舌を絡ませるだけとは違うからな……どうしよう……。

 

「にゅるにゅるにゅる……?」

「うん……」

 

 口づけじゃなく、ベロチューなのかな? だとしても、いくらなんでも舌を絡ませすぎでは?

 

「っていうか、こいつ何?」

 

 セリフが「きしゃー!」とかなんだけど。

 主人公は普通の学園の生徒だったはずだが?

 

「触手だって」

「え? なんで?」

「ファンディスクは異世界のエピソードなんだって」

「なんでだよ!?」

 

 でた、そういう余計なことをするやつ!

 いいんだよ、ファンディスクも学園で! せいぜいプールとか温泉とか行けば十分だって! なんで異世界に行くんだよ!

 

「だから、賢者くんは、触手モンスターをやって欲しいんだけど……」

「……」

 

 なんてこった……。

 まったく想定していませんでしたよ。俺が、触手。え? 俺が触手なの? どうやるの?

 

「やっぱり無理だよね。ごめん、この話は」

「待て。待って」

 

 この話はなかったことに。それは避けたい! それだけは避けたい! こっちだって準備してきてるんだ。二日も一人でするのを我慢しているんだ!

 

「俺は小説家だぜ? 触手だって余裕だ」

「さっすが、賢者くん」

 

 男には、ハッタリをかまさなければならないときがある。今です。できない、じゃないんだよ。やるしかないんだよ。

 とりあえず台本を読む。

 うん。触手だね。他にあまり言うことがないね。みなさんがよくご存知の触手です。どうすりゃいいんだ。

 

「しかし、これをやるとその服がべっとべとになっちゃうけどいいのか?」

「うーん。できれば服を着ている間はぬるぬるしないでやってもらって、その後、服が溶けたシーンからは脱ぐから、そこからぬるぬるしてもらえる?」

「わ、わかった」

 

 とりあえず彼女が後で服を脱ぐことがわかった。やるしかない。俺が、俺こそが触手だ。

 

「じゃ、じゃあやるよ」

「よ、よろしくおねがいします」

 

 深呼吸。

 格闘家が闘う前にやるように、手をプランプランさせ、肩、足を振る。体を柔らかく、やわらか~くするんだ。

 そして気持ちを触手に……俺は触手……俺は触手だ……。

 

「うにゅる、うにゅる!」

「す、すごい。役者だね、キミは」

 

 別にタコではないのだが、口がタコになる俺。なんとなく、その方がやりやすいと思った。そのへんを高く評価してくれているのだろうか。

 

「うにゅるー!」

 

 俺は彼女に襲いかかった。設定を遵守するため、二人とも立っている。

 左足は、彼女の股の間。左腕は左脇から、右の肩へ。右腕は、右脇から左の肩へ。

 

「くっ!」

 

 触手に絡まれたら「くっ!」ですよね。女教師もいいけど、ビキニアーマーも似合いそうだよ、小江野さん。

 

「うにゅる、うにゅる~」

「くうっ」

 

 両腕で、彼女のバストをきつく縛りあげる。抱きしめる。長い髪から、シャンプーの匂い。

 

「うにゅ、うにゅ」

「ううっ。結構痛い」

「あ、ごめん」

「いい、いいの。続けて」

 

 痛みを芝居に活かすらしい。なんて立派なんだ……なんて立派な胸なんだ……腕に重みを感じる……。

 触手らしさを出すため、きつく抱きしめながらも、腕や脚は動かしている。ぷにぷにしてるし、ぽいんぽいんしている。しゅごいよう……。

 

「これが触手なんだ……」

 

 どうやらわかってくれたみたいです。そうです、俺が触手です。

 お尻やら胸やらをぐいぐい締め上げます!

 

「ん。だいたいわかった」

「じゃ、じゃあ?」

「うん、そろそろ服を溶かそうか」

「うにゅるー! ぷっしゃー!」

 

 俺は服を溶かす溶液を吐き出した!

 触手になった俺は無敵だ!

 

「じゃ、脱ぐから」

「あ、はい」

 

 女性が服を脱ぐところをマジマジと見ることは少ない。マナーとしては見ないのが正しいのだろうが、俺は触手。俺が溶かしているわけなので、むしろ見ないといけない。ごくり……。

 タイトスカートを脱ぐ仕草、ブラウスのボタンを外す動き。それを俺が見ているということを意識しているのか、気にしないふりをしているのか。どちらにしてもいいですね。

 さて、都合よく下着以外が溶かされました。ランジェリーは紫です。しかしスタイルがすっごいな……。

 素敵ですね、色っぽいですね、可愛いです。似合ってますみたいなことを言いたい。

 

「にゅる、にゅるにゅる」

「そう? ありがと」

 

 もはや触手語で会話が成立するようになった。

 恥ずかしがりながらも喜んでいる。

 

「で、ぬるぬるってどうやるの?」

「にゅる!」

 

 俺はキッチンの方に移動。シンクの下を指差す。

 

「なるほど、サラダ油か」

「にゅる!」

 

 本当はローションがあればよかったのですが。

 

「じゃあ、お風呂場だね」

「にゅるにゅる」

 

 畳が油だけになっちゃうのは困るもんね。

 

「キミも脱ぐよね」

「にゅる!」

 

 体中に油を塗りたくらないといけないからね。俺も下着だけになりましょう。

 サラダ油を持ってお風呂場へ。

 

「ぬりゅぬりゅぬりゅ~」

「わぁ~」

 

 肩、首から胸と油を塗る。てっかてか!

 

「にゅるる!」

「よっしゃ、こい!」

 

 小江野さんの気合は十分です!

 体を密着させつつ、まずは太ももを。

 

「んっ」

 

 ぬる~り、ぬる~り。今度は手を使って揉む。ふーむ、ぱんつ姿のお尻が目の前に……ちょっと手を差し込もう。それが触手の本能。

 

「あんっ」

 

 いい反応だ……さぞかしいいエロゲーになるだろう。

 っていうか生尻の弾力すごいな。ぷりんぷりんにも程があるでしょ。

 

「にゅる、にゅる」

「ひん、ひんっ」

 

 油を追加して、お尻と太ももをたっぷりと、ねちっこく触る。

 ……そういえば、もともと俺には触手みたいなものがあったな。

 

「ねろり」

「ひゃー!」

 

 へそのあたりを舐めた。

 くすぐったさに身をよじる。いいね。触手されてる感じ、出てますよ!

 にしてもウエストすごいなー。くびれてるなー。

 

「ねろねろり」

「くっ、んっ」

 

 味もいいですね~。桃みたいだ。

 こうなると尻も味わいたいぜ。

 

「ねろねろねろ」

 

 うえっ!?

 んだこりゃ、油舐めてるみたい! 気持ち悪!

 

「ぬりゅ!」

「ひあっ!?」

 

 いらっとして尻を叩いた。油まみれなので、ぬりゅんって弾む。ふーむ、マジで触手じゃん。

 

「ぬるぬる」

「くっ……先生は、諦めませんよ」

 

 ちゃんと芝居を続ける小江野さん。偉いなあ。俺はただ触手なだけなのに。

 

「ぬにゅる~、ぬにゅる~」

「ううっ。あっ」

 

 首を舐めながら、胸にも触手の魔の手が。ブラジャー越しにもわかる、たわわな胸。すっごいなあ。

 うーむ。

 触手的にはもっとブラの紐の間や、ブラの中にも触手を入れていきたいのだが、俺の触手レベルが低いばかりに。くそっ、もっと立派な触手になりたいっ。

 仕方がないので、やむを得ず、ブラジャーの上から揉むだけにする。

 

「ぬにゅる!?」

 

 すっご……なんじゃこりゃ……これが、おっぱい……?

 

「ぬにゅる、ぬにゅる~。ぬにゅるぅ~」

「ん、ん、んんっ」

 

 もう、夢中です。なにこれ。ずっと触っていたい。

 

「ぬにゅる……ぬにゅるぅ~」

「あ、あ、あ、んっ……だめっ」

 

 なんか、声がエロくなってきました!

 いいぞいいぞ、俺はこのまま触手を……!

 

「あ、これだっ! この声! これが使えるっ!」

「ぬにゅる!?」

「ちょっと、どいて」

「ぬにゅるー!」

 

 俺の触手の気持ちが!

 まだ消化不良なんだけど!?

 小江野さんは、風呂の外に置いておいたスマホを手に取る。

 

「今の声を録音して……あ、あ、あ、んっ、だめぇっ」

 

 すげえ!

 さっきよりエロい!

 天才だ!

 

「ぬにゅるー!」

「あ、シャワー浴びてきてね」

「ぬにゅる……」

 

 油を落としたら、触手ではなくなってしまう……まだ俺にはやり残したことが……。台本には、上の口と舌の口にも触手が入るシーンが……。

 

「触手の感覚……うん、わかったぞ」

 

 ……どうやら、もう終わりのようです。うにゅる……。



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みんなスカートをめくるべき

「缶じゅーすさん?」

「缶じゅーすです」

 

 俺はコミカライズを担当してくれるという漫画家のもとに来ていた。

 小江野さんのアパートよりも更にボロい、家の二階の一室。乱暴に登ったら崩れ落ちるんじゃないかと思うような、細くて急でサビだらけの階段を登り、ノックをしたら出てきたのが彼女。

 

「ほんとに缶じゅーすさんですか」

「ほんとに缶じゅーすです」

 

 担当編集から漫画家さんが直接お話したいという依頼があったのだ。なんせ描写するには随分曖昧でよくわからないという、もっとも理由だったからだ。絶対アニメ化できない作品ですね!?

 漫画家は「缶じゅーす」という名前らしく、男か女かもわからないということだった。

 住居を見た瞬間、おじさんだと確信していた。こんなところに女の子が住んじゃいけませんよ!?

 

「中にどうぞ」

「はい」

 

 外廊下すらなく、階段から直接玄関に入るタイプなので、長居は不可能だ。階段といってもサビだらけの手すりをしっかり持っていないと落っこちてしまいそうで、もはやハシゴに近い。

 この辺りは基本的に家賃が安い地域ではないので、安いところを探すとこうなるのだろうという感じ。

 中は薄暗くて埃っぽく、天井が狭い。掃除は行き届いているのに、居心地の悪さを感じる。

 しかし、そんなことは些細なことだった。

 

「柑樹だよね?」

 

 彼女の名前は瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)

 真奈子ちゃんの家のバイトのメイドとして出会い、喫茶店でも会った女の子だ。

 ルックスは俺の小説の主人公であるメイにそっくりで、17歳のむちむちJKながらも落ち着いた大人の雰囲気を持っている。

 158cmの44kgでBカップだ。見間違えるわけがない。

 

「そうです」

「漫画家だったの?」

「漫画家志望です」

「缶じゅーすっていうのは?」

「ペンネームです」

 

 あー、柑樹だから缶じゅーすなのか。なるほど……。

 

「そちらは、四十八先生(よそやせんせい)でしたよね」

「ああ」

 

 そうだよな。俺がビックリしているように、そっちもビックリだよな。全然そうは見えないが。超ポーカーフェイス。

 

「確か最高の小説家、と紹介されましたが」

「そう、だね……」

「……」

「そこで黙らないでもらえる!?」

 

 いきなり手厳しくない!?

 真奈子ちゃんにとっては最高の小説家なの! そういう数少ない貴重な意見を心の支えにして書いてるの!

 

「警察にも連れて行かれてましたが……」

「その話はもうしないでもらえる!?」

 

 催眠術を受けないとマズイくらいにトラウマになったんだぞ。

 

「水に流しましょう」

「そうしてくれ」

 

 水をこぼした結果だからそう言ったのかな?

 いや、わざわざ蒸し返すのはよそう。

 

「本題に入りますが、今回漫画制作の依頼を受けて該当箇所を読んだのですが、まったく意味がわからないのでお呼びしました」

「容赦ないっすね!?」

 

 メイそっくりの女の子に、メイが主人公の小説の意味がわからないと言われるとは。

 

「桜上水みつご先生のイラストは最高なので、この仕事は光栄なのですが」

 

 どうも、イラストが褒められて文章はボロクソに言われる小説家です!

 つらすぎる。

 警察のご厄介になったときも助けてくれなかったわけで……。

 この人は……この人は……!

 

「一応、メイの気持ちに近づけるようメイド服を着ているのですが」

「相変わらず、超似合ってるよね」

 

 超カワイイのだった。

 いいや、もう見た目が完璧だから多少のことはどうでもいい。

 なんなら漫画なんて描けなくてもいいです。そうだ、このメイのコスプレをした柑樹の写真で良くないっすか?

 

「全然場面が浮かばないです。ちゃんと漫画を描きたいので、詳しく教えて下さい」

「そうですか……」

「なんで残念そうなんです」

 

 露骨にがっかりしたのでバレたようです。

 編集部の予定を勝手に変更して漫画をコスプレ写真にする権利など、有りはしないのですが。

 

「あなたの小説の販促用の漫画なんですが?」

「そうですよね、よろしくおねがいします」

「棒読みですね」

 

 柑樹はずっと棒読みなんですけどね。

 

「で、そもそもご主人さまのお仕置きということなんですが」

「うん」

「なんでお仕置きを? 主人公が頑張ってるシーンを漫画にするべきでは?」

「えっ、そっから?」

「そっからです」

 

 そこはこちらで決めたことなんだが。

 っていうか沙織ちゃんが決めたんだから、絶対なんだが。

 

「この作品は、頑張ってる場所より、お仕置きが魅力だからね」

「なんですかその作品」

「作品批判やめてくれよ!?」

 

 いいだろ、お仕置きが魅力の女児向け小説だって!

 小学生の女の子だって、みんなお仕置きされたいと思ってるよ!

 俺だって小学生の女の子にお仕置きされたいんだから、相手だってそう思ってるだろ!

 

「わたしにはわからないですが、高願社で三巻も出てるなら仕方がないです」

「仕方がないですか!」

 

 仕方がないってよ!

 JSからファンレターだって来るのに。ご主人さま格好いいとか、ご主人さま素敵とか、ご主人さまの活躍増やせとか。

 

「じゃあこのお仕置きを詳しく教えて下さい」

「はいはい」

 

 沙織ちゃんにしたことをもう一度やるだけだな。

 簡単です。

 

「じゃ、やりますよ」

「実演ですか」

「問題ある?」

「いえ、甘んじて受けます」

 

 当然だな。

 小学六年生の女の子だって平気でやったことだ。

 俺は彼女の肩に手を置くと、首筋を舐め始めた。

 

「れろれろれろ」

「……これはどこのことなんですか」

「え? メイが『くすぐったいですご主人さま』って言うところだけど」

「首を舐めてたんですか?」

「そうだよ」

「……そうですか」

「続けるよ?」

 

 鎖骨や顎の下、耳など、舐めまくる。

 

「……」

 

 柑樹はいつものようにリアクションが薄いが、呼吸が吐息に変わっている気がする。気持ちいいのでしょうか?

 この辺はなんとも思わない人と、ばっちり感じる人と分かれるらしいですよ。

 

「はむはむ」

「……」

 

 耳をはむはむしたが、やはりリアクション無し。

 沙織ちゃんは「はわわわ」などと非常に愛らしい反応だったというのに。

 これでは漫画になったときに、全然お仕置き感が出ないだろう。

 まずはキツめに抱きしめよう。

 

「ぎゅっ」

「……抱きしめてます?」

「抱きしめてるよ。ちゃんと『動くなよメイ』ってご主人さまが言ってるでしょ」

「そうですか」

 

 どんだけ伝わってないんだよ。

 でも、あげはちゃんには伝わってるからね。俺の表現が悪いんじゃないんだよ。みんなの感受性と読解力が不足しているのです。

 

「お尻を触っています?」

「触ってるよ」

「そうですか」

 

 当たり前だよ!

 沙織ちゃんみたいに小さければともかく、ご主人さまの体型でメイを抱きしめようものなら、自然と手は尻に行くだろ。

 首や耳や頬にちゅっちゅちゅっちゅしながら、ぎゅぎゅっと体を抱きしめつつ、お尻をナデナデしてるなんて、書かなくてもわかるだろ!

 一から十まで書いたら、読者の想像の余地というものが無くなるでしょう?

 まったくこれだから、やれやれ。

 

「太ももも触るんですね?」

「当然」

「そうですか」

「お尻と太ももの間の部分とか、触ってて気持ちいいんだよな」

「そうですか」

 

 ちゅっちゅちゅっちゅ、もみもみもみもみ。

 

「……長くないですか」

「すぐ終わっちゃったら、お仕置きにならないじゃん」

「そうですか」

 

 れろれろ、はむはむ、さわさわ、もみもみ。

 

「……」

 

 ふーむ。余裕だな。

 まぁ、お尻は減るものじゃないから触っていいって以前言われているし、この程度ではお仕置きにもならないのだろう。

 

「口には、キスしないのでしょうか」

「ん?」

「いえ、口以外は散々舐め回されていて、口はキスしないのかなと」

「……して欲しいの?」

「純粋な疑問です」

「ふーん」

 

 俺は顎や頬など、唇の回りだけに口づけを連打していく。

 

「……これがお仕置きってことですか」

「そう。言うまでもないが、メイはご主人さまが好きだよな」

「さすがにそれはわかります」

 

 わからなければ困る。好きとは書いてないが、いくらなんでもそれはわかってるらしい。

 

「メイは好きな人とは、唇を合わせたいと思ってる」

「……それもわかります」

 

 俺は別に好きじゃなくてもきれいな女性とは唇を合わせたいが、メイはかっこいい男子となら誰とでも唇を合わせたいとは思わない。

 だから俺は柑樹にちゅーしたいが我慢している。

 

「そういうお仕置き。一番望んでることだけは与えない」

「そうですか」

 

 まだよくわかっていないご様子。

 というか、この柑樹に普通の感覚があるのだろうか。

 俺はこんなに我慢しているというのに。

 少しは理解してもらわねば。

 抱きしめていた力をほどき、彼女の前でしゃがむ。

 

「ぱんつ見せて」

「はい」

 

 メイド服のスカートをめくりあげる柑樹。メイが履いていそうな、清楚な薄いイエローのシルクのぱんつだった。相変わらず完璧だな。

 

「メイは、ご主人さまにぱんつを見られるのは恥ずかしいんだ」

「……お仕置きってことですか」

「そう。柑樹は平気すぎてお仕置きになってないみたいだけど」

「……ちょっと恥ずかしいです」

「ほう?」

 

 そういう感情があったのか?

 あまりにも顔に出ないのでわからなかった。

 しかしちょっとか。

 ここはメイと同じ気持ちになってもらうためにも、俺が頑張らねば。

 

「じ~っ」

「……」

 

 まずはガン見。顔を近づけて、ジロジロ見る。

 

「ふむ、いいぱんつだね。センスがいい」

「そうですか」

「相変わらず太もももキレイだし、肌白いし、毛薄いね」

「そうですか」

 

 感想をたっぷり述べる。

 これも普通は恥ずかしがる。

 

「くんかくんか」

「……」

「ふんふん」

「……」

 

 匂いを嗅ぐ。

 特に匂いは無いのだが、スカートをめくった女子のぱんつの匂いを嗅ぐというシチュエーションが良いのです。

 ましてやこの薄暗い畳の部屋は、メイドなんて絶対いないような場面。

 この違和感というか、非日常感がたまらない。

 今度、ご主人さまとメイも和風の家に行かせようかな。

 

「ここも漫画に?」

「いや、これはないけど。一巻のシーンだから」

「ではなぜ」

「メイはこのお仕置きをされたときものすごく恥ずかしかったので、その気持ちをわかって欲しいと思って」

「……そうですか」

 

 わかったのだろうか。

 俺が立ち上がると、彼女はスカートをめくる手を離した。

 じっと俺の顔を見て、確認するように質問した。

 

「ご主人さまは本当にして欲しいことはせず、彼女を恥ずかしがらせている。それがお仕置き?」

「そう」

「でもそこには、ただのお仕置きではない感情が見て取れる……」

「そうそう」

「その雰囲気が読んでいる方にも伝わって、こそばゆいような、あたたかいような、それでいて応援したくなるような気持ちになる」

「いまのでそこまでわかった!?」

 

 想像以上に一気に理解が進んだよ!

 俺にぱんつを見せることで、そんなに小説の解釈変わるんだ?

 これは全読者、編集者も含めて俺にスカートをめくってぱんつを見せるべきでは……?

 

「そして実はメイだけじゃなくご主人さまも、本当にしたいことを我慢している……」

「うん……そう……」

 

 彼女も俺も、セリフは尻すぼみになった。

 なんとなく、目線を合わせづらい。

 

「で、では、意地悪そうな顔でメイの首にキスするご主人さまと、赤面しまくりのメイを描きます! それで最後はメイもご主人さまも本当は唇にもキスしたかった感じにしますっ!」

「か、完璧ですっ!」

 

 俺は結局お茶も出されずに、そそくさと退散した。

 うっかりまた警察が呼ばれるかもしれないし。

 しかし、最後は柑樹もかなり赤面してたな……。

 やっぱりノーリアクションだとこちらも平気だが、あんなに恥ずかしがられるとこっちもドキドキするな……。

 帰る途中、自販機でレモンの炭酸の缶ジュースを飲み干した。甘酸っぱい味だった。




瀬久原さんは赤面とかしないはずだったのに……
しかしこれヒロインレース結構いい線行くのでは(他人事)


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オトナの階段を登るのは少女の方が先だった

「生理が来たの……」

「……?」

 

 生理が来なかったの、と言われて焦るシーンはドラマなどの物語ではありがちだ。来たことを言われて焦るのはあまりないと思う。レア体験なう。

 

「どうしよう、生理がきちゃった……」

「なんでお腹さすってるの?」

「お腹が空いてるからです」

「あ、そう……」

 

 彼女は小和隈(こわくま)あげは。

 小学五年生のおませな女の子だ。早熟すぎてすでにエロい小説を書いており、俺を師匠と仰いでいる。

 現在は、話があるということで我が家にやってきて、生理が来たことをご報告されたところだ。

 顔を赤らめ、ちらちらと俺の表情を伺う様子は、どう見ても生理が来なくなったときの上司を見るOLのようです。なぜだ。

 

「つまり、オトナになった、ってことですよね」

「まぁ、そうなるかな……」

 

 生物学上はそうなんでしょうかね。しかし妹の詩歌に生理が来て、お赤飯を食べたからと言って、妹がオトナになったとはまったく思わなかったわけで。

 

「そんなわけで、責任、取ってくれますよね?」

「あげはちゃん、わざとだね?」

「バレましたか」

 

 ぺろり、と舌を出すあげはちゃん。マジ小悪魔すぎる。

 俺のせいで生理が来ないなら責任取るのもわかるが、俺のせいで生理が来たら責任は取りませんよ。いや、あげはちゃんに生理が来たのは俺のせいじゃないよ。

 

「やってみたかったんですよね」

「やめてよ、心臓に悪い」

「本当に責任を取らないといけないのは、ママに対してですよね」

「やめて! 心臓に悪い!」

 

 あげはちゃんのママ、あげママと何があったかは別の話。

 

「冗談はさておき」

「冗談キツすぎるんだよな」

 

 そもそも女子小学生から初潮が来たことを報告されていること自体、冗談キツイのよ。

 

「さて、わざわざ報告に来たのはですね、ジョークのためではなく」

「うん」

 

 よかったよ、本題がちゃんとあって。

 なぜか今回もソファーの横で俺にぴったりくっついて座ってるあげはちゃんは、微炭酸のドリンクを細いストローでちうーと吸った。

 エアコンをつけなくてもよくなった分、部屋の中はかえって暑いかもしれない。まだ体感としては夏だが、もうあげはちゃんは秋らしいファッションに身を包んでいる。肩を見せていた夏の服に比べ、腕は見えているものの肩は見えないブラウス。スカート丈も少し膝に近くなった。

 あげはちゃんは露出が少ないほうがセクシーに見えるな。

 それとも生理が来るようになったから、色気を感じるようになったのだろうか……。

 

「あげはと下着を買いに行って欲しいんです」

「……なんで?」

「今、師匠が舐め回すようにあげはの体を見ていたように、大分女っぽくなってきました」

「……」

 

 否定したいのだが、できないですね。

 俺は嘘がつけないタイプなんだね。

 

「そこで師匠に質問です。全裸と下着姿、えっちなのはどっち」

「下着姿に決まってる!!」

 

 もちろん、いろいろなシチュエーションとかにもよる。

 えっちというのは、簡単に二択にしてはならない複雑なものです。

 だが、あえて断言すべきこともある。

 あげはちゃんの書く文章的にいえば、すっぽんぽんだよね。すっぽんぽんなんて、全然ダメよ。女児が川で遊んでるかのごとくエロくないよ。

 

「下着……いいよね」

「さすが師匠、思った通りの反応です」

 

 がっちりと握手する俺とあげはちゃん。

 師匠と弟子の、魂の絆を感じるぜ。

 

「それはもちろん、あげはの場合でも同じですよね」

「もちろん! まだ体が未成熟なのに、色気ムンムンの下着っていうのがいいんじゃないか!」

 

 マイにもそういう下着を着せようとしたが、編集からNGが出ました。何もわかっちゃいないんだ!

 そもそも下着の描写など不要だってさ。わかりあえない!

 

「うんうん。ですから師匠にあげはに似合うランジェリーを選んでもらおうかと」

「えっ」

 

 小学五年生の初潮を迎えたばかりの少女に、色気ムンムンの下着を選ぶんですか?

 それって大丈夫なんですか?

 もう二度と警察のご厄介になりたくないのですが?

 でもよく考えたら、すでに小学六年生の女の子の下着を選ぶのは経験済みだった。対して変わらないか! セーフセーフ!

 

「まあいっか。真奈子ちゃんにも選んであげたもんな」

「……今なんと?」

「前にさあ、真奈子ちゃんに、デパートで黒いレースのえっちえちなブラジャーを選んであげたんだよね」

「……そ、そーですかー……。じゃ、じゃああげはにも……」

「あげはちゃんはDカップじゃないから無理でしょ~。デパートよりしま○らがいいんじゃない?」

「ぶちっ!」

「え、なにそれ。堪忍袋の緒が切れた音みたいなセリフ」

「大正解です」

「やった~、正解だ~、わーいわーい」

 

 正解のご褒美は何かな?

 

「今から、黙ってついてきてください」

「あいよ~」

 

 うちの近所にはし○むらはないので、電車で行くことになる。

 あげはちゃんの使う鉄道用ICカードは、改札を通る際にぴよぴよという音を立てる。初潮を迎えても社会的にはこどもということだね。

 

「おや、そっちに行くの」

「えーそうです」

 

 ずんずんと歩いていくので、なにか決めた店があるようですね。

 子供服ブランドのアウトレットとかかな?

 駅を降りても、迷うこと無く進む。

 行き慣れているのかな。だとすると、やはり子供向けのお店だね。

 

「ここです」

「ここか~。エーッ!?」

 

 とんでもねー!

 看板にオトナのお店って書いてあるじゃねーかヨーッ!

 これはなんというか、見るからにヤバい店です。

 

「行きますよ」

「ま、ちょ、ちょま」

 

 引き止めることに失敗。

 中に入ってしまう。

 ビルの一階は黒と紫とピンクの装飾で、店の前だけはカムフラージュのつもりか普通の雑誌が置いてあるが、中に貼ってあるポスターは完全にアダルトだ。

 建物からも、中にいる店員、客からもいかがわしさしか感じない。オーラが違う。

 なぜこのような店に!?

 

「うう……」

 

 官能小説を書いている俺ですら、この店には入りづらい。正直30歳未満は入らない方がいいんじゃないかと思うくらいだ。勇気を出して、中へ。

 

「あ、あげはちゃ~ん」

 

 恐る恐るへっぴり腰であげはちゃんを追う。遊園地のホラーハウスでもここまでビビりませんよ。

 なんというか、玄人のおじさんとかに見られて鼻で嗤われたり、激アツカップルから指さされたりしないかとか、イヤな想像しちゃうんだよなぁ。

 

「こっちです」

「まじかよ」

 

 まさか階段で二階に上がるとか。

 のしのし行ってしまうので、ついていくしか無い。

 

「早く」

「はい……」

 

 三階へ。怖い。さっさと来いと睨むあげはちゃんも怖い。

 

「さて」

「ええ……」

 

 ついたフロアはますますヤバい雰囲気だった。

 な、なんなのこれは。

 

「さ、師匠選んでください」

「何をですかね……」

「もちろん、あげはに似合う服です」

「……え?」

 

 あげはちゃんがこの辺から選んでくれと指をさしたのは、ボンデージやらキャットスーツやら、黒や赤の革でできたピチピチの服。簡単に言うと、SM女王の服だった。

 

「いや、え? これ下着じゃないですけど」

「師匠はド変態なので、普通の下着よりこちらの方が興奮するかと」

「それほどでもないけどさ~」

「褒めたつもりじゃなかったのに。さすがです」

 

 うっかり褒められて照れてしまったが、それどころじゃない。

 俺がド変態なのはいいよ。別に問題ないし。

 問題なのは、あげはちゃんが着るということですよ。マズイでしょ~。

 でも、あげはちゃんのサイズがあるってことは、小学生用ということだ。売ってるからには問題ないか。

 俺が心配しすぎなだけだな。世の中は広い。

 

「これとかどうですか」

「似合うでしょ」

 

 下がハイレグ、上は胸までで肩は出ているという黒のドレス。それにブーツを履くらしいです。かっけー。あげはちゃんには似合いまくりだ。

 

「これは」

「似合うでしょ~」

 

 フェイクレザーのビスチェとスカートというパターン。悪の組織の幹部って感じがします。あげはちゃんに似合わないわけがないのよ。

 

「じゃあこれは」

「似合っちゃうよね~」

 

 ビキニタイプのやつだ。ブーツと手袋と帽子がついてて、一言でいうとエロポリスウーマンって感じ。あげはちゃんにはバッチリ似合うよ。

 

「一番プレイしたいのはどれなんですか」

「プレイ!?」

「プレイ以外に何に使うんですかこれを。コンビニにでも行きます?」

「いや、そのとおりだね……」

 

 コンビニなんてとんでもない。

 ましてや小学校に行くなんて想像だに恐ろしい。

 それに比べてプレイなら安心だ。

 

「たださあ」

「なんです」

「そういうプレイは沙織ちゃんがする役割では?」

 

 ドSプレイは沙織ちゃんだけで間に合っている。

 ムチと言えば沙織ちゃん。沙織ちゃんと言えばムチ。

 他にムチが似合う女性は不要だ。

 

「沙織ちゃんがこれを着て、あれやこれやするのはよくあることかなと思うけど。あげはちゃんは結局何もできないでしょ~」

「ぶっちーん」

「何その切れた堪忍袋の緒をようやく締めようとしてたのに盛大にブチギレたみたいな音」

「わかってて言ってるところがもう勘弁できません」

 

 この後、買い物かごにぶち込まれていくアイテムを見て、俺は戦慄していくことになった。

 



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初めての痛みはすぐに期待へと変わった

「くっ、殺せ」

 

 俺がこれを言う日がくるとは。

 

「すぐに殺しちゃったら、つまらないじゃないですか」

 

 妖艶な笑みを浮かべるあげはちゃん。今にもヒーローに戦闘員をけしかけそうだ。現在の格好は戦隊モノの女幹部にも見える。

 

「お似合いですよ、師匠……いや、賢者(さかひさ)

 

 小学五年生の女の子が18歳の男を呼び捨てにするとか……いいですね。今度書いてみましょうね。いつも小説のことばかり考えてる俺、エラい! プロ! 早くプロになりたい!

 なお、お似合いなのはむしろ彼女だ。露出が多く、胸と股間と膝から下だけが黒いレザーで包まれている。つけた耳は猫というより女豹を思わせた。

 

「賢者は、手錠が似合いますね」

 

 嬉しくねえ~。

 警察のことは思い出したくないんだよ!

 そう、俺は今手錠をかけられている。手にも、そして足にもだ。

 後ろ手に縛られ、正座させられている。しかもパンツ一丁で。なんでそんなことになったかって? しょうがないじゃん! 手錠を買っちゃったんだもの、あげはちゃんが!

 

「取材ですからね、取材」

「……」

 

 あげはちゃんは取材と言っておけば俺はなんでも納得すると思っているようだ。パンツ一丁で手錠かけられた経験が、青い鳥文庫で活かせると思っているんでしょうか。

 もっともあげはちゃんの書きたいものには役に立つのかもしれない。彼女はまったくエロくない官能小説を書きます。

 

「さて、何から使おうかなぁ」

「くっ」

 

 アダルト極まりないお店で買ってきたアイテムを物色するあげはちゃん。

 今は俺の部屋で、家族は誰もいない。さすがにこの状況を家族に見られたらそれこそ死ぬ。

 家族がいないのはいいが、普段寝起きしている部屋に、SM女王の格好をしたJSがいるという状況だ。異常です。

 

「これかな? それともこれかな?」

 

 手に取って、俺の顔を伺い、また次のアイテムを手に取る。ねずみをいたぶる猫のように。恐ろしい子……!

 

「これ?」

 

 それはニップルクリップと言うらしいものだった。乳首に取り付けて、ぎゅっと締め付けるものだ。バラエティ番組で乳首に洗濯バサミを挟むやつがあるが、あれの本格的なものと思えばいいのだろうか。見た目は銀色のアクセサリーにも見える。

 よくわからないが、痛い気がするので顔をしかめた。

 そもそも乳首は女性は気持ちいいらしいが、男は別にね?

 

「ふーん、これで乳首を攻められたいんだあ~。とんだヘンタイさんですね~」

「くっ」

 

 もう「くっ」しか言えなくなってしまったぞ。あげはちゃんの方が断然いいセリフを言っており、このままでは師匠としての威厳が!

 しょうがない、ここは小説家の面目躍如といえるボキャブラリィに満ちた、文学的アプローチのリアクションをしてやろうじゃないか。

 

「こうかな」

「んほおおおおおおお!!」

 

 無理!

 無理だった。

 

「もうちょっとキツくしよ」

「んごおおおおおおおお!」

 

 死ぬほど痛い。というわけじゃないのだが、未知の痛みのため悶える。

 なんだよこれ。何やってんのマジで。

 男の乳首を痛めつけて、何の利益があるのでしょう。この世にこれほど無意味なことがあったとは。

 こんな意味のわからないことをして何が面白いんだ!?

 

「面白い」

 

 面白いのかよおおおおお!

 やってる方は楽しいんですかね!?

 別にやりたいとも思いませんよ。乳首は舐めたほうがお互い幸せになれるのではないでしょうか!?

 

「さて次は」

「ええええええ!?」

 

 この状態のままなの!?

 乳首がぎゅーぎゅーされてるんですけど?

 

「お待ちかねのムチだよっ」

「くっ」

 

 なんて嬉しそうにムチを振るっているんだ……沙織ちゃんとはエラい違いだ。なんかテンション上がってていつもと口調が違うし。目が輝いている。

 ムチも競走馬用のものではなく、バラ鞭という先が何本にも分かれているもの。やはり見た目が違いますね。ボンデージの服装に似合うし、ムチを振るうだけでパシーンパシーンと音が出る。

 今度、沙織ちゃんにもこの衣装を着て欲しいですね……。

 

「アゲハ様とお呼びっ!」

「あ、あ、アゲハ様ーっ!」

 

 ノリノリのあげはちゃんに、バシーンと背中を打たれる。

 打たれたが、んー……痛くないな。沙織ちゃんにやられたのに比べたら、全然大したことがない。普通の人もそうなのか、俺が沙織ちゃんによって調教済みなのか判断できないが。

 

「ほらっ、ほらっ」

「……」

 

 なんだろう。音はパシーンパシーンと派手なのだが。物足りないような……いや、物足りないってなんだよ。俺はね、別にそういうんじゃないんだよ。

 

「痛い? 痛い?」

「んー」

 

 痛くないんだよね。

 痛くないのは良いことだと思うんだよ。痛いのは嫌だもんね。

 じゃあ、この気持ちは一体……。

 

「ふふっ、賢者も興奮してきた?」

「うーん」

 

 興奮しない。そう考えてみると、沙織ちゃんのときは興奮してる。

 

「もっと、力いっぱいやってくれない?」

「さ、さすがね、賢者」

 

 引いてない?

 そんなことないよね。

 

「うりゃー!」

「もっともっと」

「おりゃー!」

「うーん」

 

 なんかもの足りないんだよなー。

 

「うう……」

 

 ああっ!? ムチを振るう女王様が涙目に!?

 これはこれで非常に魅力的なのだが、罪悪感がある。無罪なのにムチで打たれて罪悪感があるとか意味がわからなすぎる。理不尽。

 

「他のにしよ……」

「ごめんね……」

 

 俺がすでに調教済みなせいで……。

 しょんぼりしながら次のアイテムを探す。次は俺がちゃんと苦しむやつにしてね……。

 

「やっぱりこれかな」

「くっ」

 

 王道……なのか知らないが、出てきたのはロウソク。これは嫌だ―。ちゃんと苦しむことになりそうだ。

 

「火つけて」

「くっ」

 

 なんで自分を痛めつけようとするローソクの火を自分で着けなければならないのか。しかも手錠されてるのに。

 

「くっくっ」

「ついたついた」

 

 ふー。後ろ手でライター使うの難しいぜ。小学五年生にライター使わせるのは危ないからね。俺がつけるのはしょうがないね。でも小学五年生がロウソクを使うのはいいんですか?

 

「専用の低温ロウソクだから安心、らしいです」

「……」

 

 だから安心だね。とはならないんですよ。なおさら女子小学生が使ってはいけないのでは?

 

「んー。きれいな炎」

 

 無邪気。

 確かに赤いロウソクに火がついてるのはきれいだが。使い方がね?

 

「さて、まずは太ももから」

「くっ」

 

 まじで「くっ」しか言えなくなってきた。これはよくない。さっき誓っただろ、ボキャブラリィだよ! 文学的アプローチだよ!

 

「俺は、俺はそのような理不尽な行為に屈しな……あああああー! あっつ! あっつ!」

「あはははは」

 

 俺はあげはちゃんが喜ぶならなんでもしてあげたいと思っていました。撤回します!

 確かに火傷するような熱さじゃないが、熱湯風呂ってきっとこういうやつだろと思う熱さ。

 自分から足を入れるならまだしも、手錠で拘束されて正座しているときに、不意打ちで胸にかけられるのはたまったもんじゃない。

 

「次は背中かな~?」

「くっ」

 

 結局「くっ」しか言えない。

 

「と見せかけて胸~!」

「あああああああ!」

「あっはははは! ふふふふ!」

 

 マジで熱いのだが、あげはちゃんは大喜びだ。

 今回は沙織ちゃんと同じようなことをしていると思っていたが、全然違うことが判明した。沙織ちゃんは基本的に怒ってるのだが、あげはちゃんは笑っている。

 さっき俺がムチで平然としていたことを落ち込んでいたので、喜んでいただいてよかったが。

 暴力的な行為をしているとき、怒ってるのと笑っているの、どちらが怖いかというと後者のほうが怖い。その方がヤバいからです。

 

「ほらほら」

「ぎゃー!」

 

 肩にもだ!

 首にも当たった!

 熱いですよ!

 

「いい表情ですね、賢者……」

「くっ」

 

 そう言うが、あげはちゃんこそいい表情だった。俺をいたぶるのが楽しくて楽しくて仕方がないと興奮しているご様子。ぺろりと舌なめずりをする態度がよく似合う。頭につけている耳も相まって、まさに女豹という感じ。

 この顔が見れるなら、ロウソクくらい大したことは……

 

「あっ、顔にかけちゃった」

「あっちー! あー! あちー!」

 

 頬にかかったロウ熱すぎる! 目にかかってたらどうするの!?

 

「あ、なんかカッコいい……」

「え」

 

 頬に赤いロウがかかってカッコいいということか?

 ふむ、あげはちゃんにカッコいいと言われるのは嬉しい。だったらうっかりロウがかかっちゃったくらいは許せるな。

 

「こっちにもかけた方がカッコいいな」

「ぎゃああー!」

 

 なんてことをするんだ!?

 右の頬を叩かれたら、左の頬を差し出しなさいと言ったやつはどうかしている。

 

「わー。カッコい……じゃなかった、ふん、賢者にふさわしい無様な格好ね」

 

 言い直す必要あったのか?

 さっきカッコいいって言ってくれてましたよ。俺は絶対忘れませんよ?

 だが、芝居がかった態度の方がありがたいのはありがたい。素でこんなことやってたらヤバいからです。これは取材であり、お芝居ということよ。ただしロウソクは本当に熱いし、動くたびに手錠が痛いのよ。乳首は慣れてきました。

 

「さて次は」

「くっ」

 

 次は何だ……何が来るんだ……?

 あれ?

 俺は意外にもワクワクしていた。

 そのままは使えないが、この気持ちは小説に活かせるかもしれない。





SMの道具とかググって調べたりしたので、今Webを見るとそういう広告が出るようになっちゃったよ。


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苦手なタイプに優しくされるとすぐ好きになる

 

渋谷百九(しぶやももく)ちゃん?」

「はい、先生のちょー大ファンなんです!」

 

 漫画ならじゃじゃーんと書かれそうな動きでご紹介してくれたのは、俺の小説の大ファンである清井真奈子(きよいまなこ)ちゃんだ。小学六年生の清楚系正統派美少女であり、年齢に似合わないDカップ巨乳の所有者。

 その真奈子ちゃんが紹介したいと連れてきたのが、渋谷百九ちゃん、らしい。

 俺の部屋に女子小学生(JS)がいるという状況もすっかり慣れたな。

 二人には俺のベッドに座ってもらい、俺はクッションの上であぐらをかいた。

 

「ちょりーっす」

 

 ちょりーっすだと……。

 ちゃきっと人差し指と中指をおでこに付けるポーズを見せた。派手なネイルが見える。

 

「ちょー大ファン、なの?」

「でーす!」

 

 そうは見えない……ちょー大ファンなら、本人を目の前にしてこんなに軽い態度になるだろうか。

 というか、そもそも小説を読むように見えない。ファッション雑誌以外の本を読むとは思えない。

 

「サイン、する?」

「あ、そういうのいいんで!」

「あ、そう……」

 

 なんなんだ?

 よくわからない人種すぎて、困惑する。

 彼女は茶髪のような金髪のような……イエローブラウンとか言うらしい……髪の色で、ウェーブのかかりまくったロングヘア。

 手足が長く、スレンダーで、浅黒い肌の色。

 目にはカラコンを入れ、まつげが明らかに長い。目つきからは強い意志を感じるが、基本的に笑顔のため印象は柔らかい。

 つまり……一言で言えば……ギャルだ。

 カワイイことは間違いないが、あまり俺の得意なタイプではない。なんか敬語で話しちゃいそうだし。

 

「小学生、なんだよね?」

「ですよー?」

 

 当然という顔をするが、本当かよ。確かに胸は真奈子ちゃんのように大きいわけではないし、背丈も真奈子ちゃんとあまり変わらない。それでも小学校にいるように見えない。今どきの小学校というのはド派手な髪やネイルを容認しているのか。

 服装もなんというか派手で、ところどころ肌が見える黒のトップスとシマウマみたいなスカートと茶色のロングブーツ。絶対小学校に行く格好じゃない。

 

「ほんとに、あの、真奈子ちゃんの、お友達なの?」

 

 まずそこから違和感がある。

 

「お友達です!」

「ん。ダチだよ~」

 

 マジなのか……。

 肩を組んで仲良しアピールする二人。確かに二人とも陽キャではあるが、二人が体育のときにペアを組んでいたり、修学旅行で同じ班になるイメージがわかない。

 

「昨日友達になったばっかとは思えないくらい、ちょー仲良しだから」

 

 昨日友達になったばっかなのかよ。

 真奈子ちゃんはうんうんと頷くと、ぴんと人差し指を立てた。

 

「いつものように、学校の廊下でメイメイを普及していたときのことです」

 

 え? 小学校の廊下で普及していた? なにやってるの真奈子ちゃん?

 ちなみにメイメイというのは拙書「我慢できない! メイドのメイちゃん!」の

略称だ。

 

「そうそう、またマナっちがいろんな人に声かけて本薦めてるな~って思って見てたんだけどさ~」

「あの、渋谷ちゃん?」

「渋谷ちゃんだって。ウケる。アタシのことはももきゅーでいいよ」

 

 ももきゅーでいいよと言われましても。呼ぶほうが恥ずかしいのですが。

 

「も、ももきゅー、ちゃんさ~」

 

 ハズいんですけど。

 

「ん。なにー?」

 

 当然のようなタメ口だった。全然違和感ない。むしろ敬語を使われたら困ること請け合い。俺も敬語になる可能性高し。

 

「真奈子ちゃんはいつもいろんな人に俺の本を薦めてるの?」

「そだよ? 会長だし」

「会長?」

「ガッコの部活、四十八小説同好会っての作って会長やってんだよね」

「なにやってるの真奈子ちゃん!?」

 

 初めて会ったJSをももきゅーと呼ぶことを上回る恥ずかしさが発生するの、早すぎるでしょ!?

 

「? 先生の小説を普及するのは当然です。読まないのは人生の九割を損してます」

「……ありがとう」

「どういたしまして!」

 

 真奈子ちゃんの目から伝わる信念が強すぎて何も言えない。恥ずかしいのは恥ずかしいが、嬉しいのも本当だし。

 

「そんでそこまで熱心に薦めるのなんでかなーって興味持ったんだよね。そんで表紙を見せてもらってビックリっていうか」

「そう、そこからが奇跡なんです」

「奇跡?」

 

 二人は「ねー」と微笑みあった。カワイイな……。正統派美少女JSとギャルJSの組み合わせ、意外と悪くないですね。その時、ふと閃いた! このアイディアは今度の小説執筆に活かせるかもしれない!

 

「アタシ、アニキがいんだけど」

 

 ギャルの兄か。

 すぐにグラサンつけて日焼けしたサーファーみたいなイメージが思い浮かぶ。苦手だわ~。

 

「アニキって結構マンガとかに詳し―んだけどさ」

 

 マンガ? 結構読むよ。ワンピとか。そんなイメージだ。

 

「マナっちが持ってる本をアニキが読んでんの見たことあったんだよね」

「そう、実はももきゅーさんのお兄さんがすでにファンだったんです!」

 

 ええ~?

 うそーん?

 似合わないんだけど?

 まぁ、本当の内容でいえば真奈子ちゃんにも似合いませんが。実は小学校で普及しちゃ駄目なのよ。

 

「で、そのこと話してさー、すぐにダチになったってワケ」

「びっくりでした。素敵なお兄さんをお持ちですよね」

「アハハ。で、家帰ってアニキに貸してーって言って。アタシが小説を読むって言ったらちょービックリしてた。ウケる」

 

 ああ、やっぱりももきゅーちゃんは普段全然小説とか読まないのね。

 ちょっと安心しているよ。

 

「で、読み始めたんだケド。そしたらイラストがちょーカワイイし」

 

 うんうん。

 桜上水みつご先生のイラストはちょーカワイイからね。

 まぁ、そのヘンはギャルでもわかるか。

 

「けっこー読みやすくてー」

 

 うんうん。

 そりゃ児童向け小説ですからね。当初は官能小説だったなんて信じられないくらい読みやすいよ。

 ギャルでも読めるなんて俺はスゴいなあ。

 

「ご主人さまもかっけーし」

 

 うんうん。

 ご主人さまはね、異常に人気あるからね。

 ギャルはイケメンが好きだよね。

 

「読んでるとなんかドキドキすっし」

 

 うんうん。

 みんなエロいことはわからないけど、なんかドキドキするらしいな。

 ギャルでもそれは同じなんだね。ギャルだからってエロいわけじゃないんだね。

 

「メイちゃんがさー。頑張るんだよねー」

 

 うんうん。

 すごく、熱のある言い方だ。

 

「ご主人さまとの関係もさ~、むず痒いけど応援したくなってさー」

 

 うんうん。

 すごく、表情が豊かだ。ほんとに応援してくれてる。

 

「で、二巻もすぐに読んじゃってさ」

 

 うんうん。

 普段全然小説読まないのに、一気に二巻も。嬉しいな……。

 

「マイもいいんだよなー。妹欲しくなった~」

 

 うんうん。

 マイのことも気に入ってくれたか……よかった……。

 

「二人ともさ~。いい子でさ~」

 

 う、うん。あれ? 泣いてる?

 派手なハンカチで目尻を拭った。

 

「ちょー面白かったよ。センセ」

 

 ……。

 満面の笑みで、俺の顔を見るJSのギャル。

 

「うをおおおおおおおおおお!」

「え? どしたし」

「先生、どうしたんですか?」

 

 オタクはギャルに優しくされると弱い!!

 今、実感!!!!

 めっちゃいい子だし!

 カワイイし!

 超褒めてくれるし!

 こんなの、こんなの、好きになっちゃう~!

 

「真奈子ちゃん」

「はい」

「ありがとう、普及してくれて」

「は、はい!」

 

 がっちり握手。

 

「ももきゅーちゃん」

「ん?」

 

 がっちり握手。しようとしたが、派手な爪が長いので軽く握手。

 

「ありがとう、感想くれて。嬉しかった」

「そお? よかったー」

 

 二人とも、にこにこしている。天使すぎる。 

 あげはちゃんのように、官能小説だと理解してくれるファンも嬉しいが、単純に面白いと言ってくれる女子小学生も嬉しい。読者が増えることも、紹介してくれることもありがたくてしょうがないよ。

 

「でも、さー。アニキが言うには、ちょ~っと違うんだよね」

「ももきゅーさん、ちょっと違うっていうのはどう言うことなの?」

「それがね、子供向けの内容じゃない、って言うワケ」

 

 む?

 兄貴?

 兄貴だからわかっちゃったのか。そりゃそうだよな。俺からしたらわかんないほうがどうかしてんだよ。

 

「それはおかしいですね。白い鳥文庫というのは子供向けのレーベルですよ」

「だよねー。だけどアニキが言うには、実は子供向けじゃないって」

「どういうことでしょう? ちょっと詳しく聞かせてもらえますか?」

「うん。アニキが言うにはね、肉欲っていう言葉の意味が違うって」

 

 あ、兄貴……!

 ももきゅーちゃんに言っちゃったの!? ほんとの意味を!?

 

「それは変なことを言いますね。肉欲なんだから、お肉を食べたいって意味しかないでしょう」

「うん。アタシもそう思うんだケド。子供ににはわからないって言うんだよねー」

「意味がわからないですね」

「だよねー」

 

 どうやら説明はしなかったようです。ホッとした。

 なぜだろう、あげはちゃんは本当のことを知ってていいのだが、ギャルには純真無垢なままでいて欲しいという気持ち。

 そこまで言われてもインターネットやAIに聞いたりしないんですよね、この子たちはね。

 

「でー、アニキが言うには、お仕置きも子供向けの内容じゃないって」

「どういうことでしょう。お仕置きっていうのは大人が子供にするのが普通なのでは。あまり大人の人がお仕置きされることは無いでしょう」

「だよねー。アニキはお仕置きのところが好きなんだってー。興奮するって」

 

 兄貴……!

 ももきゅーちゃんに褒められたのも嬉しいが、兄貴の感想も聞きたい!

 どんな人なんだ兄貴ー!

 見た目はきっとイケメンなんだろうけど、魂で繋がれる気がするね。

 

「むしろお兄さんは、どうしてメイメイと出会ったのかが不思議です」

「あー。それアタシも気になって聞いたー。別に他の白い鳥文庫ってやつは持ってないし」

「教えて下さいっ」

「なんかショッピングモールでたまたま見かけたんだってー! 絵を描いてる人のファンだったからビックリしたって」

「ふーん? イラストですか」

 

 真奈子ちゃんはピンと来てないようだが、イラスト目当てで買う方が自然だ。ましてや小学生でもない男が買うなら。

 

「メイちゃんに一目惚れしたんだって。ウケるー」

 

 ギャルはウケるのかもしれないが、メイに一目惚れして買ってくれるというのは極めて普通だ。そうじゃないほうがヘンだ。

 

「し、か、も。くふふ。そんとき、アニキったらそこにいた小学生からキモいからどけとか言われてすぐには買えなかったらしいよ! ちょーウケる!」

「は、はぁ……そうですか……」

 

 ……なんかこれ、知ってるな……。

 見てたというか……その小学生ってあげはちゃんのことでは……?

 だとするとアニキさんは……いや、それはないか。この妹と血がつながっているようには見えなかったからな……。

 日焼けした細マッチョと、アラサーアキバ系の顔が浮かぶ。絶対前者だろ……常識的に考えて……。

 

「しかも『どいてよそこの臭いブタ』って言われたのに、その娘がめっちゃ可愛い小悪魔みたいなJSだったから嬉しかったんだってー!」

 

 後者だったー!

 じゃあ、もうあの人だわ!

 ツイッターで「拙者、白い鳥文庫で抜いてしまった侍」とかつぶやきそうな人だわ!

 あんときの人かー。その後ちゃんと買ってくれたんだー。ありがとうございまーす。お互い、自分に似てない妹がいるんですねー!

 ギャルはげらげら笑っているが、正統派美少女は苦笑いだった。

 

「だからさー、アニキは大ファンだっていうケド、全然話が通じないんだよねー」

「あはは……なるほどなぁ。先生の小説は奥が深いから、人それぞれ魅力的な場所が違うんでしょうね」

 

 そんなに奥が深い作品だったのか……知らなかったぜ……。確かにあのお兄さんとこの妹さんが褒めてくれる作品はそう多くないかもしれん。

 

「まー、マナっちが好きなのはホントは作品じゃないと思うケドねー」

「な!? も、ももきゅーさん!」

 

 ぽかぽかと肩を殴るマネをする真奈子ちゃんと、ぺろっと舌を出すももきゅーちゃん。いいですね、仲睦まじいJSというのは。こんなんなんぼあってもいいですからね~。

 

「ジュースのおかわり持ってくるよ。二人とももうちょっとゆっくりしていってね~」

 

 俺は鼻歌交じりで階段を降りていった。

 




四人目の女子小学生が登場です!
新キャラを登場させるのはいつもドキドキですね。


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パパ活で稼いだお金でパーティー

四十八手足(よそやてあし)大先生の我慢できないメイドのメイちゃん第三巻発売と、十九歳のお誕生日をお祝いするパーティーを始めまーす!」

 

 元気よく開会宣言をしたのは、清井真奈子(きよいまなこ)ちゃん。かなりのお嬢様で、このパーティーも全員参加費無料でみんなを招いている。

 

「嬉しいんだけど、ちょっとやりすぎなのでは……」

 

 なんせ真奈子ちゃんの誕生日ですら彼女の家だったのに、このパーティー会場は普段、結婚披露宴を行う場所だった。白いテーブルクロスがいくつも並び、そこかしこに花が飾ってある。天井にはシャンデリア、床は高級そうな絨毯。

 普段着でここに居ていいのかと困惑するレベル。真奈子ちゃんは白いドレスを着ている。

 

「先生すみません、この程度で……私のパパ活じゃこの程度です」

「パパ活!?」

 

 なんてことを!?

 もっと体を大事にして! 俺の書いてる小説のキャラじゃないんだから!

 

「パパからお小遣いをもらうためにいろいろするんです」

「パパって……本当のパパってこと?」

「はい? 本当じゃないパパってなんですか?」

 

 ですよね!?

 そりゃそうですよ。本当じゃないパパってなんだよな? 意味分かんないよね!?

 

「ちなみに、いろいろって?」

 

 質問したのは小和隈(こわくま)あげはちゃん。髪にはリボンがついているが、服装はファストファッションだ。

 

「体を洗ったりとか」

「体を洗う?」

「ええ。お部屋はメイドさん達が掃除しますが、パパを洗う人はいないので」

 

 そりゃそうでしょうね!?

 

「スポンジを使わずに、私の体を使って洗うとお小遣いが増えるんです」

「「ほう……」」

 

 俺とあげはちゃんは、感嘆しつつ顔を見合わせる。これ、相手は実の父親だけどやってることはマジでパパ活だった。

 他にも裸同然でマッサージをするなど、どうにもけしからんことをしていることが判明した。あどけない女子小学生を無知であることをいいことに、とんでもないやつだ。しかし。

 

「俺のために、そんなに頑張ってくれたんだね……」

 

 それはそれとして、俺のためにパパ活してくれた人には感謝しなければならない。ただ金持ちの家に生まれたから手に入れたお金ではないのだ。

 

「いえいえ! 先生のためなら、たいしたことないです!」

 

 たいしたことだと思っていないところがね。うん。でも、それをたいしたことだと思ってしまったら、俺ともいろいろやってることがわかっちゃう。教えるわけにはいきませんね。ただ感謝するのみ。

 

「早く、乾杯」

 

 イライラした声で睨むのは、網走沙織(あばしりさおり)ちゃん。シャンパンを注ぐ細長いグラスを持ってずっと待っていた。中身はラムネ。みんな普段着でと招待状に書いてあったが、沙織ちゃんはなぜかパーティードレスを着ている。厳しいご家庭だからですかね。

 

「あ、ごめんなさい。それでは、かんぱーい!」

「「かんぱーい!」」

 

 真奈子ちゃんの音頭で、みんながグラスを掲げる。

 参加しているのは、俺を入れて八人。料理を運んでくれたりするスタッフの方が人数が多い。贅沢すぎるでしょ。

 

「センセ、おめ~」

「あ、ありがとね、ももきゅーちゃん」

 

 ギャルらしい祝辞をくれたのは、この前知り合ったばかりの渋谷百九(しぶやももく)ちゃんだ。よくわかりませんが、ギャルらしい服装です。派手。似合ってます。

 

「おめでとうございます」

「あ、ありがとう。マンガもありがとう」

 

 続いて挨拶してくれたのは瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)。一七歳のむちむちJKだが、実は書店販促用マンガを描いてくれた「缶じゅーす」さんでもある。今日はメイド服ではなく、学生服で来てくれた。夏服。いいですね……。私服の高校に通ったことを悔やむ。

 

「マンガのことは……」

「あ、ごめん」

 

 どうやら内緒にしておきたいらしい。

 指でしーっとされ、俺も両手をあわせてメンゴメンゴする。

 

賢者(さかひさ)クン、おめでと」

 

 そう言ってポンと肩を叩いたのは小江野忍琴(こえのおしごと)だ。俺と同じ専門学校の声優科に通っている声優の卵。

 

「ようやく一九歳ですか。ふふん」

 

 彼女の方が先に誕生日を迎えていた。少しだけ年上ということになる。プロポーションはTシャツとジーンズでもよくわかるほど大人だ。あいかわらず、すっご……。

 

「小江野さんがオトナ……いや最年長だね」

「な……そうだけど、なんかイヤな言い方」

 

 ぷんぷん、と言いながら席に座った。ごめんね、ある意味一番オトナなのはあげはちゃんなんだ。これでみんなが一つの丸テーブルに着席している状態に。

 数人のウェイトレスにより前菜が運ばれてきた。なんか野菜をジュレで包んだものだ。高級すぎるだろ。

 

「うわーっ、すごい、すごいねお兄ちゃん」

「お、おう」

 

 大騒ぎしているのは妹の詩歌。中学一年生だ。俺たちだけ庶民感が生まれる。みんなナイフとフォークの使い方が上手なんですよね……。

 

「あ、お箸もらえますかー?」

 

 と思ったら、小江野さんだけは箸をもらっていた。なおさら最年長感が出てしまいますね。

 

「さて、宴もたけなわではございますが」

 

 真奈子ちゃんは、俺の左隣の椅子で司会を始めた。たけなわも何も、前菜を一口食べただけですよ。

 

「まずは、皆さんから三巻の感想を言っていきましょう」

「ええ!?」

 

 感想をもらえるのは嬉しいが、こんな感じで言われるの!?

 そもそも発売するのは来週なので、まだみんな読んでないのでは?

 

「みんなもう読んだの?」

「当然です。読み終わらないとパーティーには参加できません」

 

 真奈子ちゃんは自信満々に言い切る。

 

「だってまだ発売してないよね?」

 

 著者である俺には本が先に届いているので、詩歌は読める。あとマンガを描いた柑樹はすでに読んでいる。沙織ちゃんはマンガにする場所の相談のために、現行の状態で読んでいる。他の人は読めないはず。

 真奈子ちゃんは優雅にナイフとフォークを置くと、口を軽く拭いてから、俺の顔を見る。ちょっと化粧してる?

 

「取り寄せました」

「取り寄せた?」

「印刷所から」

「印刷所?」

「株を買いまして」

「株!?」

「刷りたてを手に入れています」

「刷りたて!?」

 

 だとすると俺より先に手に入れているのでは!?

 

「この前、ももきゅーさんを紹介したときにはまだ五回しか読んでいませんでしたが、もう三十回は読んでいますから準備万端です!」

「はあ!?」

「皆さんにもとっくに渡してます」

 

 そう言って作者にドヤ顔を見せた。何をしているの真奈子ちゃん!?

 っていうかツッコミどころが多すぎてどうしていいかわからん! 

 

「ちなみに、本だけじゃなくて書店用のマンガも手に入れています」

 

 はえー。

 しかしウマいなこのジュレ。

 もうツッコミしててもしょうがないから、食べ物に集中しちゃうよ。

 

「そうですね、先にマンガの方からレビューしましょう」

 

 レビューって……。まぁ、真奈子ちゃんだから大丈夫か。ワオ、あ~んしん。

 

「はっきりいって、マンガはダメダメです」

「えっ」

 

 まさかの辛口でビックリしてしまう。

 俺が言うのもなんだが、彼女は俺に対して全肯定しかしない。

 そんなことより……

 

「……」

 

 マンガを描いた本人、柑樹がそこにいるんですけど……。

 カラフルな野菜を突き刺したフォークがピタッと止まっている。

 

「文章で表現されている情報量に比べて、マンガ表現は陳腐と言わざるを得ません」

 

 いや……明らかにマンガの方が繊細な表情になってるんですけど。俺の描写はエロいことをエロく思わせないことに注力しているから、表情とか動きとか基本的な説明が足りてないんですけど。

 柑樹は悲痛な顔をしている。ドリンクではなく、水を飲んでいる。

 

「ご主人さまの顔がなんかヘンですし」

 

 いや……お仕置きと称してメイドの首筋を舐める顔としては、完璧だと思いますが……。ご主人さまの顔なんてどうでもいいから俺は書いてないけど。

 柑樹はちびちびずっと水を飲んでいる。可哀想に……。

 

「メイの顔もなんか違うと思います」

 

 いや……好きな人にお仕置きという理由で体を舐められるという、うれしはずかしくすぐったい顔だったよ。アヘ顔にはならずにちゃんと可愛かったし。そのへん俺の文章では全然描写できてないしな。

 っていうか俺の小説は大丈夫ですか? 心配になってきました。

 俺より柑樹が心配ですが。今すぐ抱きしめてあげたいです。

 

「まぁ、そもそもチョイスがどうかと。三巻は面白いポイントがいっぱいあるのに、なんであのお仕置きのところなんだか」

 

 そこもダメ出ししちゃう!?

 そこを選んだのは……

 

「真奈子はわかってない」

 

 怒っている……というより静かにブチギレているような声。当然だ、沙織ちゃんが選んだわけだから。

 真奈子ちゃんは反論があるとはつゆ程も思っていなかったようで、キョトンとしている。

 

「あのマンガは完璧だった。メイは可愛いし、ご主人さまもかっこよく描けている。二人の関係が伝わるようで、かつ謎がいっぱい残って続きが気になるマンガになっていた。ちゃんと小説を読んでみたい気持ちにさせる効果がある」

 

 沙織ちゃんの大絶賛だ。でも俺もそう思う。しかしそんなことより、柑樹が気になる。普段ポーカーフェイスなのだが、生き返ったような顔をしている。さっきまで土気色だった顔には赤みが戻り、食欲も戻ったようで、パクパク食べ始めた。多分味はわかってないな。

 

「ぼくはマンガを全然読んだことないけど、とても上手だと思ったし、すっごく絵も素敵だと思う」

 

 柑樹はバクバク食べて、パンもバクバク食べている。相当嬉しいんだな、あれは。

 

「缶じゅーすって名前の人だったけど、すっごく好き。他の作品も見てみたい」

 

 沙織ちゃんがここまで褒めることがあるんですね!?

 俺は全然褒められないのですが!?

 柑樹、泣いてない? 嬉しすぎて泣いてますね?

 

「ふーん、そうですか。原作の方が少なくとも五億倍くらいいいと思いますけど」

 

 真奈子ちゃんは過剰に俺を褒めてくれるが……。

 

「マンガの方が二兆倍くらいいいです」

 

 沙織ちゃんは異常に俺に厳しいが……。

 どっちも褒めるという選択肢は無いのでしょうか?

 あげはちゃんは優雅にぶどうジュースを傾けている。自分が一番理解しているという自信に満ちた、高みの見物スタイルだ。

 真奈子ちゃんと沙織ちゃんはバチバチと目線から火花を散らして竜虎相打つ、という様相を呈し、真奈子ちゃんはぐるりとテーブルを見回した。他の人の意見を聞くのだろう。

 

「瀬久原さんはマンガについてどう思いますか?」

「ふえっ!?」

 

 びっくりしすぎて可愛らしい声を出してしまった柑樹。頬は赤いままだが、目はぐるぐるしている。

 

「そ、そのですね」

 

 俺の顔をちらちら見てくる。自分で描いたものの感想を言うのだから難しいだろう。ましてや大絶賛している人と、ボロクソに言ってる人がその場にいるという状況。がんばれーという気持ちで見ることしか出来ない。なんと無力な俺。

 

「えと、原作はもちろん素晴らしいのですが、マンガはマンガの魅力がある……といいな……なんて」

「ぼくはマンガの魅力、すごくあると思う」

「……えへへ」

「なんで瀬久原さんが照れているのかしら」

 

 よかったね! よかった~という気持ちで柑樹を見る。俺も褒めたいぜ。

 

「ま、マンガはいいでしょう。そんなことより小説を褒め称えないと!」

 

 真奈子ちゃんはとにかく小説を褒めてくれるらしい。誕生日プレゼントのつもりなのかもしれないな……。

 

「はい、じゃあまずは小江野さん!」

「へ?」

 

 小江野さんはフォアグラを乗せた丼をかっこんでいた。そもそも白米は俺には運ばれてきていない。勝手に注文したらしい。

 

「感想を」

「……とっても美味しいです」

 

 全然聞いてなかったようです。料理に夢中なのよ。美味いからね。しょうがないね。

 俺も和牛フィレステーキにフォアグラが乗ってるなんて初めて食べるからね。味わいたいよね。

 

「料理の感想なんてどうでもいいんです! もう、じゃあ、しーちゃん先輩……はどうせアレだから……」

 

 どうせアレ。

 ついにうちの妹はどうせアレ扱い。

 アレは別に傷ついた様子もなく「わたしもご飯くださーい」と手を上げていた。

 

「ももきゅーさん!」

「え? アタシ?」

 

 やたらカラフルな()えるドリンクを飲んでいた、ももきゅーちゃん。う~ん、と悩む素振りを見せる。

 

「アタシはさ~、この前一巻を読み始めたばっかだし、三巻も一度しか読んでないからみんなと比べたら全然わかってないと思うんだけど~」

 

 普通はそうなんだよ。何度も読んでくれるのは嬉しいが、別に一回で十分だよ。

 

「今回はメイド長のフミが出てくんじゃん? フミはけっこー厳しいことも言うけど、メイのこと大好きってわかんだよね」

 

 さすがももきゅーちゃん。わかってくれてますね。うんうんと頷く。

 

「でもさー、やっぱご主人さまとメイの方がラブラブでいて欲しいっつーか。だからフミにジェラって欲しかったんだよねー。女だからって恋敵になんないと思いこんでるんだとしたら、ちょっとビミョーかな」

 

 ……目からうろこなんですけど。このギャルを編集担当にした方がいいのでは?

 確かにそういう描写を入れたほうが盛り上がるぞ。

 肉食ってる場合じゃねえ、メモだ、メモ!

 

「も、ももきゅーちゃん、他に思ったことは?」

「んー。アタシそんなによくわかってないと思うケド~。フミがメイを気にかける理由がもっとあったほうがいいかもって。昔メイのお母さんに可愛がられてたーとか」

「おおお!」

 

 わかってるのよ!

 ある意味、あげはちゃんよりわかってるよ! あげはちゃんは俺が書いたままを理解しているが、ももきゅーちゃんは俺が書くべきだったものを教えてくれている。

 これは最高の誕生日になりそうだ。



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プレゼントは男の夢

 広いバルコニーから、夏の終りを感じさせる、爽やかな風が入ってくる。

 会場ではゆったりとした音楽が流れ、ときおりカチャカチャとカトラリーを動かす音が聞こえるという、優雅な食事の時間だった。

 一人の長すぎる……いや、ありがたすぎる演説のような感想を除けば。

 

「それで、ここのご主人さまの描写ですよ。すごい。すごすぎる。こんな表現がこの世にあったなんて」

 

 あるある。全然ある。

 それにしても、小江野さんは食欲全開だ。さっきフォアグラ丼を食べていたのに、今度は真鯛のカルパッチョ丼を食べている。そこまで白米大好きだとすると、俺が初めてアパートに行ったときに酢豚とバケットとトムヤムクンが出てきたのは、結構無理をしていたのかもしれないな……。

 美味しそうにぱくぱくと食べている姿は健康的で、見ているだけでも嬉しくなってしまうな。肉棒も食べて欲しいですね!

 

「そしてメイちゃんが~、ここでまさか泣いちゃうとは。こっちも泣きそうになりました!」

 

 それ本当は泣いてるんじゃなくて、濡れてるんだよね。濡れ濡れになってんだよね。

 あげはちゃんは当然それがわかっているが、まったく気にせずにぶどうジュースを味わっていた。飲む前に鼻をワイングラスに近づけて香りを愉しんだりしてるけど、それ本当にジュースだよね?

 表情は大人っぽいが、彼女はまだ小学五年生だ。まぁ、この前初潮が来たからもうオトナと言えなくもないですが。どんどんオトナにしてあげたいものです。

 

「ここで今回登場したヒロインのフミですね。フミは完璧すぎませんか。こんな人いないでしょ」

 

 編集です。編集の富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)女史がモデルです。全然完璧じゃないです。

 ギャルのももきゅーちゃんは、スマホで写真を撮っていました。自分以外写っているのか心配になるような写真を。ポーズはキマっていますが、ここで撮る必要があるのでしょうか。

 それにしても表情が豊かだな。笑顔だけでもすごいバリエーション。アヘ顔も見てみたいですね……ぜひ撮影したいと思います。

 

「ここでご主人さまは、メイド達を何気なくねぎらってくれるところもスマートで好きですね」

 

 セクハラだけどね。全然スマートじゃなくて、いろんなところを触るために適当なこと言ってるだけなんだけどね。

 感想を聞いているのかそうじゃないかわからないが、おとなしくしているのがJKの瀬久原柑樹。ポーカーフェイスだと、なおさら顔面偏差値の高さがわかります。

 柑樹は小説に出てくるメイドよりも、遥かにセクハラを許容してくれる夢の存在だ。テーブルの下に潜っていたずらしてみようかしらん。

 

「とにかく最高、最高でした。この世で一番面白い小説です!」

 

 ありがとうございます! なんにせよ、読んで喜んで貰えればそれほどありがたいことはない。

 そこで、「んなわけねーだろ」と言わんばかりにジトーっとした目で真奈子ちゃんを見ているのが、網走沙織ちゃんです。うん、書いた本人もこの世で一番ではないと思いますけど、そこは許してくれませんかね。

 目が合うと、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにぷいっと顔を反らされてしまった。いや、ひょっとして弱点の耳を見せてくれているのかな? 舐めたほうがいいのかな?

 

「ふ~」

「あー、ありがとね、真奈子ちゃん」

 

 ようやく一息ついて、炭酸水を飲む真奈子ちゃんにお礼を言う。

 

「いいえ! 本来なら三日三晩語り尽くしたいところなのですが」

「十分、十分だから」

 

 十分どころか百分くらい有り余っている。

 

「誕生日プレゼントのつもりで、絶賛してくれたんだよね」

 

 労をねぎらうつもりで言ったが、真奈子ちゃんは大きな二重のおめめをぱちくりさせる。

 

「それはこれからです」

「あれ、そうなの?」

「当然です。これからみんなでバースデープレゼントを渡しますよ!」

 

 その声で、みんなが一気に反応。それぞれが好き勝手していたことをやめた。

 

「やっとか」

 

 沙織ちゃんはキレイにラッピングされたプレゼントの箱を取り出した。

 

「あら、網走さんは先生にプレゼントを渡したくてうずうずしてたのですか」

「なっ! んなわけないでしょ!」

「どーだか」

「ちっ」

 

 この二人いつの間にこんなに仲が悪くなったんだ……?

 さっきもバチバチしてたしな……。

 

「では、網走さんは最後ということで。最初はももきゅーさんからにしましょう」

「ふん」

 

 仲良くして……仲直りのキスしよ? あれだったら三人でしよ?

 

「アタシからかー。ちょーっと時間かかるけど、いーい?」

「時間が? まぁ、大丈夫ですよ」

「じゃ、ちっと準備してくんね」

 

 ももきゅーちゃんは、手をふりふり出ていった。

 待ってる間に他の人が渡すようなことはしないようだ。

 

「なにあげるんだろうねー?」

 

 小江野さんは期待で胸を膨らませているようだ。もともとすっごく膨らんでいますが。ほんと、でっか……。Tシャツがもうパンパンですよ、パンパン。

 しかし女子小学生のギャルが俺のような知り合ったばかりの年上の男に何をプレゼントしてくれるのか。まったくもって皆目検討もつかない。あげはちゃんなら予想できるのですが。電動オナホとかでしょ?

 あげはちゃんがくれそうなプレゼントを考えて待っていると、スピーカーからハッピーバースデーな歌が流れる。

 

「ん?」

「へ?」

「どういうこと?」

 

 さっきまで料理を運んでくれていたスタッフが、大きな箱を台車に乗せてやってきた。どこにも、ももきゅーちゃんがいない。別にこの曲を歌っている、というわけでもない。なぞなぞかな?

 二人のスタッフが、箱を地面に置いて一礼し去っていく。

 とりあえずプレゼントが届いたので、開けるしか無いだろう。みんなも何が入ってるのか気になるようで、視線で急かされる。

 しかしなんだろ、コレ。1辺が1mくらいある箱だ。特大のケーキかなにかかな。インスタ映えするような?

 

「じゃ、開けるよ……」

 

 両手で蓋を開ける。

 ぱたりぱたりと壁の部分も倒れて、中身が現れた。

 

「じゃーん」

「なっ!?」

「うわー」

「これは」

「ひゃー」

 

 そこに居たのは、誰でもないももきゅーちゃんだった。

 ただし、全裸にリボンを巻いた状態の。いわゆるひとつの「プレゼントはわたし」ってやつに見える。

 なにこれなにこれ?

 ギャルの中で流行っているの?

 ティックトックとかではこういうのが見れるのですか? ダウンロードしたほうがいいかな?

 それはそうと、どういうことなのか確かめましょう。

 

「ももきゅーちゃん、これはどういうことでしょうか?」

 

 丁寧な物言いになってしまいますね。リボンだけ状態のギャルに会ったことがないので、言葉遣いが難しいのです。そもそも意図がわからないので、これをえっちな目で見ていいのかどうかがわかりません。リボンは赤と金のもので、胸や股はちゃんと隠れていますが、かなり露出度が高いです。えっちです!

 

「アタシがプレゼント」

「まじですか!?」

「とんだ伏兵が」

 

 あげはちゃんもびっくりのようです。

 

「わー、かわいー」

 

 能天気に笑っているのは小江野さんだ。無邪気にパシャパシャ撮影している。後でくださいね。俺には邪気があるけど。

 

「も、ももきゅーちゃん、これは一体」

「アニキに相談した」

「なるほど」

 

 秒で理解した。

 おそらく「(おとこ)の欲しいプレゼントといえばリボンラッピングでわ・た・しに決まっているじゃないでござるかムホホ」みたいに言ったのだろう。百パーセント賛同しかないぜ。

 だが、仮に我が妹の詩歌が俺に、年上男子へのお誕生日プレゼントを相談されたとき、このアイデアを伝えられるだろうか。俺は渋谷兄には遠く及ばないことに気付かされます。

 

「だから、ほら」

「ん?」

 

 開いた箱の上で両手を広げるプレゼントのJS。どういうことでしょう?

 

「召し上がれ」

「め、召し上がれ!?」

 

 ちょっとアニキさん!? どこまで説明しているの!?

 

「え、さすがに食べるのはちょっと……」

 

 真奈子ちゃんはドン引きだ。うん、そうだよね。召し上がれって言葉をそのまま食料として食べると思っているんだよね。メイのことを食いしん坊だと思うわけだぜ!

 

「ほんとだよね」

 

 沙織ちゃんも同じ意見だそうです。仲良くなってくれて嬉しいです。

 

「や、アタシを食べて、っていうのはそういう意味じゃなくて」

「わー! わー!」

 

 それは教えなくていいんです!

 この二人は知らなくていいの!

 っていうか、ももきゅーちゃんはマジでオッケーなの?

 

「どうぞ」

「どうぞと言われましても……」

 

 いくら俺でもここで「いっただきま~す」とルパンダイブしたりはしないのですよ?

 そこでいままで完璧なまでにずっと満面の笑みだったギャルの表情に陰りが。

 

「ひょっとして……アタシ、魅力ない?」

「な、なななな、そ、そんなわけないよ~」

 

 ギャルの悲しそうな顔、ヤバい。摩訶不思議な罪悪感がある。

 

「かわいくない?」

「か、かわいいよ!」

「じゃあ、子供だから? 小学生は女の子として見てくれない?」

「いやいやいや、そんなことないよ! 六年生は女の子だよ!」

「じゃあ、なんで何もしてくれないの?」

「するするする!」

 

 俺は彼女を一度抱きしめると、そのまま唇を奪った。

 

「わー」

「六年生は子供じゃない、女の子……」

「いい度胸してるね変態」

「くちゅくちゅくちゅくちゅ」

 

 とりあえず今は舌の感触を味わっているが、背後からはとてつもないプレッシャーを感じる……。



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アダルトな撮影会

「ほい」

「あんがと」

 

 箱を開ける。

 

「お~」

「いいでしょ」

「うん」

 

 プレゼントは俺の好きなキャラクターのフィギュアだった。ちょっとえっちな少年漫画の妹キャラだ。

 

「ありがとう」

「ごめんね、物で」

「いやいや、嬉しいよ」

 

 やや丁寧にお礼を言う。好きなキャラだし嬉しい。

 妹がこんなことを言うのはさっき俺が「物をもらうより、こういうふうになにかしてくれる方が好きだな」と言ったからだろう。単純にももきゅーちゃんに喜びを伝えたくて言っただけなんだが……。

 

「はい、詩歌さんからのバースデープレゼントでした」

 

 ぱちぱちぱち……という音のなんと小さいことよ。

 その場にいるみんなの、静かなこと……心ここにあらずという感じだ。詩歌とすでにプレゼントをくれたももきゅーちゃん以外。

 ももきゅーちゃんだけはニコニコしている。目が合うと投げキッスをしてくれた。さっきキスした感触が蘇る……。

 

「さて、次にプレゼントを贈りたい人はいますか」

 

 パーティー会場に緊張が走る。

 ……なんで?

 一触即発の雰囲気で渡すものではないのでは?

 ももきゅーちゃんが最初にプレゼントを用意しようとしたときとは、まるで違っていた。

 詩歌がプレゼントを贈る前に、休憩時間があったのだが、それが意外にも長かった。そして詩歌とももきゅーちゃん以外は、なにやら様子がおかしいのです。

 

「じゃ、じゃあ、自分が」

「はい、小江野さん! 小江野さんです!」

 

 ぱちぱちぱち!

 詩歌のときとはエラい違いで大きな拍手。

 小江野さんも片手をあげて、声援に答えている。どういうことなんですかね。

 

「それでは準備してきます」

 

 小江野さんは当然のように会場を出ていった。みんなもそれが当たり前、という感じで受け止めている。不思議に思っているのは俺だけらしい。

 待っている間も、談笑する様子はなく、深く考えていたり、祈っていたり。お笑いの賞レースでも始まるのかな?

 ももきゅーちゃんと詩歌の二人だけは、余裕の表情でおしゃべりしていた。すっかり仲良しっぽい。というか多分、ももきゅーちゃんは誰とでもすぐに仲良くなる気がする。俺と仲良くなるのも早かったし。早すぎるくらいだし。もうちゅーしちゃってるし。

 ももきゅーちゃんともっと仲良くなる方法を考えていたら、さっきと同じようにバースデーソングが流れ始め、扉が開いて大きな箱を運んでくる女性スタッフ二名が登場した。

 

「……」

 

 いや、これ中に入ってるよね。

 小江野さんが中にいるってことだよね。

 さっきはサプライズだったけど、もうバレバレでは?

 

「おっしーも、わたプレなのかなー」

 

 忍琴(おっしー)私がプレゼント(わたプレ)なのかという意味であろう。ネタバレだとツッコミを入れる人もいない。

 しかし漢の兄貴の助言でそうなるのはわかるが、小江野さんがその発想に至るのは不自然では。

 ともかく、ももきゅーちゃんには大きな箱でも、小江野さんには窮屈だと思われるので、早く開けてあげよう。

 箱を開けると、当たり前だが、小江野さんが居た。

 ただし、普通の服でも、リボンでもなく、ほとんど裸に近い格好で。

 

「こ、これは……」

「ちょーヤバいんだけど」

「そうきたか」

「メスブタ……」

 

 みんなの反応を聞いて、恥ずかしそうにする小江野さんだが、体育座りからすっくと立ち上がり、きりっとした顔で俺の目を見る。

 

「自分の誕生日プレゼントは、マイクロ水着撮影会です!」

 

 マイクロ水着撮影会……やたら布地面積の少ない水着で行われる撮影会か。好きなポーズを取らせることができるやつ。現役グラビアアイドルがやったら、参加費はとても高そうだ。

 

「これでどうぞ」

 

 スマホを取り出すと、真奈子ちゃんがデジカメを貸してくれた。大きくはないが、高級品であることはわかる。

 

「よっしゃあ、尻を突き出せ!」

「いきなりローアングルとはさすが師匠」

「股を開け!」

「いきなり股間のどアップとは、さすが師匠、さすししょ」

「ちょっと、あげはちゃん、そんなの褒めてないで、顔も撮るように言ってよ」

 

 正直なところ、照れ隠しだった。

 はっきりいって、かわいすぎるし、えっちすぎるので、まともに見ていられない。

 尻だけ撮影するほうが、恥ずかしくないんだよ。

 とはいえ、おっしゃるとおり、顔が写っていなければ意味がないな。

 顔と股が同時に見えるように撮影するには……。そうだ。

 

「まんぐりがえしの格好で」

「……なにそれ?」

「ごめん。聞かなかったことにしてくれ」

 

 あげはちゃん以外はわかっていなかった。

 誰にでもわかるような……そうだ。

 

「だっちゅーの、をやってくれ」

「……なにそれ?」

「ごめん。聞かなかったことにしてくれ」

 

 あげはちゃんもわかっていなかった。

 どうやら古すぎたらしい。そういう意味でアダルトだった。

 ジェネレーションギャップ! 一九歳の誕生日にジェネレーションギャップ!

 

「じゃ、適当にあっはーんとかうっふーんとかしてくれ」

「うわー、てきとーだ」

 

 俺なんかがとやかく言う必要もないだろう、プロなんだし。

 小江野さんは想像以上に、その豊満なボディを、ぷりんぷりんぶりんぶりんさせながら、ポーズをとった。

 

「いいねー。さすがだねー」

「へへ」

 

 笑顔がはじけてますね。

 健康的な印象だが、なんせ布地面積が少ない。

 胸は乳首が隠れているだけだし、尻なんてほとんど見えている。

 なんならもうちょっと隠れていた方がエロいんじゃないかと思うくらい。

 

「おっぱい最高だな」

「そうかな」

「最高すぎるな」

 

 これ以上大きかったら、ちょっとイヤかなっていうギリギリのラインの巨乳。

 ポーズをとると形の良さも弾力もわかるように、弾んでいる。

 

「太ももも素晴らしいな」

「そうかな」

「素晴らしすぎるな」

 

 男が好きなむっちり太ももだ。もともと小江野さんの太ももは素晴らしいと思ってはいたが、こうして間近でじっくりと見ると、非の打ち所がない。

 

「お尻……」

「なに?」

「言葉にできないな」

「なにそれ」

 

 官能小説家失格かもしれない。この尻をどうやって言葉にできるのか。いや、できない。あれだよ、松尾芭蕉が松島を詠んだ時と同じだよ。いい尻だ、ああいい尻だ、いい尻だ。いい尻なんだよなぁ……。

 

「かわいいなー」

「へへ」

「えっちだなー」

「そっかな」

「たまらんなー」

 

 カメラを止めるなって感じですよ。ずっとやってられるなコレ。

 

「かわいくて、えっちだねー。最高だー。こんないい女はそうそういな、ギャアーッ!?」

 

 無心でシャッターを切っていたら、突如俺の尻に激痛が!

 

「ごめん、変態。手が滑った」

「沙織ちゃん!? ムチを持った状態で手を滑らせないで!? っていうかなんで俺の誕生日パーティーにムチを持ってきちゃったの!?」

「こんなこともあろうかと思って」

「じゃあワザとじゃないか!? 手が滑ったんじゃなくて、カンペキにギャアーッ!?」

「また滑っちゃったごめん」

 

 俺の人生でここまで気持ちのこもっていない謝罪は初めてです!

 

「……時間もありますから、そろそろ次にいきましょうか」

「え、ええ~。もうちょっといいんじゃない?」

「なんでしーちゃん先輩が延長を希望するんですか」

 

 なぜか応援してくれる詩歌。

 よし、俺も真奈子ちゃんに延長をお願いだ!

 

「うん、もうちょっと撮りたいポーズがあるんだよね」

「へえ、また手が滑っちゃうかもしれないけど」

「いや、やっぱり大丈夫だった」

 

 どうやら沙織ちゃんが許さないようなので、あっさり諦めます。

 

「では、おっぱいさんは着替えてきてください」

「おっぱいさん!?」

「真奈子ちゃん、小江野さんはおっぱい以外にも太ももとかお尻も魅力的だからそのあだ名はギャアーッ!?」

「変態は黙れ。メスブタはさっさと引っ込め」

「うう……メスブタよりはおっぱいさんの方が良かったよ」

 

 メスブタ……じゃない、小江野さんは服を着てしまうようだ。

 Tシャツとジーンズを履くだけなので、早かった。

 戻ってきた小江野さんは、リボンラッピングされた箱も持っていた。

 

「あ、あとこれもプレゼントね」

「ああ、ありがとう」

 

 箱の中身はフォトスタンドだった……今の写真を飾れってことなのか……えっちすぎませんかね……。

 真奈子ちゃんは俺が貰ったプレゼントをバッグにしまうのを見て、司会進行を再開する。

 

「さて、次は誰がプレゼントを贈りますか……まだ贈ってないのはわたしと、あげはさん、沙織さん、瀬久原さんの四人ですね」

 

 再び緊張が走る。なんか真奈子ちゃんのすべらない話が始まりそうな勢いですよ。いっそサイコロで決めますか?

 

「ここは瀬久原さんから行ってみましょうか」

 

 なるほど、JS三人を残してJKからですか……むしろハマちゃんみたいなMCだなと思いました。

 

「はい」

 

 さすがに柑樹は箱に入って出てくることはしないようだ。

 着替えることもなく、学生服のまま。そして彼女は、ラジカセのボタンを押した。歌のプレゼントとかかな?

 しかしまったく想定外のものが再生される。

 




何が再生されたんでしょう、か!?
とか書いて、当たっちゃったらどうしようw


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痴漢の流儀

 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。

 次は、明大前に止まります。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。

 

 ラジカセから流れてきたのは、電車の中の音だった。どういうことですかね。

 

「なるほどね」

 

 知っているのか、あげはちゃん。一人だけその手があったかという顔をしている。すごいな、俺なんて電車と言えば痴漢くらいしか思いつかないよ。

 柑樹は電車の吊り革部分だけを取り出すと、それを空中に掲げた。

 

「どうぞ。合法痴漢です」

「合法痴漢!?」

 

 まったく想像していなかった単語が登場。いや、痴漢は思いついてたけど、実際に提案されるとは思っていなかったのです。

 あげはちゃんはやはりそうかという顔をしている。弟子はすでに俺の想像を超えているようだ。

 あげはちゃんはまだわかるが、柑樹がこれを思いつくというのが不思議だ。

 

「何かをするのは苦手なので、されるのが得意なことを考えました」

「されるのが得意!?」

「電車で痴漢されるのは得意です」

「ええ!?」

 

 痴漢は特技欄に書くものじゃないのでは?

 

「好きですよね、痴漢」

「好きです!」

 

 即答してしまったが、好きなもの欄に書くものでもないぞ!

 

「先生は痴漢が好き……と」

「真奈子ちゃん、メモしないで」

「あげはは知っていました」

「あげはちゃん、知ってないで」

「死ね」

「沙織ちゃん、ごもっともだけど今は許して」

 

 痴漢は犯罪なので、みなさんも誕生日プレゼントなど相手からどうぞ痴漢をしてくださいという許可をもらってからしましょうね。

 

「小説に活かせるからね、こういう経験は」

「さすがですね、先生」

「さすが師匠。さすししょ」

「死ね」

 

 沙織ちゃんは容赦ないな。まぁ本気で尊敬してくる真奈子ちゃんの方が若干怖いのだが。

 ラジカセからは「次は調布に止まります」というアナウンス。どうやら俺が専門学校に向かう路線のものを使っているご様子。なんてきめ細やかなサービスなんだ……ただしこの路線は下りだから現実には混まない。痴漢は無理です。いや、混んでたらするってことじゃないのよ? わかるよね?

 つり革を持って立っている柑樹をあまり待たせるのも別のプレイになってしまうので、早速ですが痴漢していきたいと思いま~す。

 でもまずは気持ちを作っていきましょう。

 電車の音と、つり革を持った夏服姿の女子高生。

 周りの景色や視線を気にせず、電車痴漢に集中する。俺はチカン、電車でJKにチカンだ……よし、チカンスイッチオン!

 そっと彼女の後ろに立つ。

 どきどき……。

 本来は絶対触ってはいけない。だけど今は触っていい。こんなに嬉しいことがあるだろうか……。やっちゃいけないことをやっていいことほど、ありがたいことはない。

 噂によると最新の痴漢は、触るんじゃなくて、匂いを嗅ぐらしいね。勉強してますよ、そういうことは。作家だから。

 少しかがんで、上からうなじにむかって鼻を近づける。

 

「くんくん」

「うわ、リアルなんだけど」

「ごめん、ももきゅーちゃんそういうこと言うのやめてくれる?」

「あ、ごめ。ちょっとキモかったから」

「追い打ちやめてもらえる!? 俺は誕生日プレゼントを貰ってるだけです」

「そうですよ、ももきゅーさん。先生は小説を書くのも痴漢をするのも上手なだけです」

「さすが真奈子ちゃん、わかってるね」

「えへへ」

 

 こちとらどれだけ痴漢モノを読んだり見たりしてきたと思ってんだって話ですよ。

 女子高生の匂いをぞんぶんに嗅ぎつつ、そっと尻を撫でる。もちろん手のひらではない。まずは手の甲でほんのり当てるだけ。

 柑樹もさすが痴漢されるのが上手なだけあって、手で払うようなことはせずに、ちょっとお尻を逃がすだけ。

 いきなりすぐに追いかけることはせず、ちょっと時間を空けてから、また手の甲を当てていく。

 こうして、たまたま手が当たっただけかもしれないという状況から、段々とエスカレートさせていく。これが痴漢の流儀です!

 お尻に当てる部分を、手の甲から手のひらに変える。

 次はスカート越しにお尻ではなく、太ももを直に触る。

 そして満を持して、右手をスカートの中に入れるのだ。もちろん、目を閉じて我慢している顔をそっと後ろから覗き見つつね!

 

「詩歌ちゃん、通報した方がいいんじゃない?」

「あー、小江野さんもそう思います?」

「おい! 合法だから! これは合法な痴漢だから!」

「いや、普段からやってるでしょ絶対。手口がプロだもん」

「真奈子ちゃんが言ってただろ、上手なだけなの!」

「上手なことが犯罪なんじゃ」

「そんな法律はない」

「法改正が必要な気がしてきたよ……」

「黙って見てなさいよ、俺の痴漢を」

「うーん……妹に女子高生を痴漢しているところを黙って見てろと言う人がなんで無実なんだろう」

「じゃあ見なくていいですよ?」

「見るけど……」

「見るけどね」

 

 小江野さんと妹が通報しようとするのをなんとか阻止しました。大人しく見ておけばいいんだよ。まったく、俺は誕生日プレゼントを貰ってるだけだっていうのに。

 こっちは痴漢に没頭するために気持ちを作ったり、いろいろ気を使っているのだから邪魔をしないで欲しい。

 俺がしぶしぶ茶々を入れる周囲の相手をしている間も、集中をとぎらせることなく、ずっと痴漢されていることに没頭している柑樹。あっぱれだね。少しだけ体を震わせているあたりがすごくいいです。興奮します。

 太ももはむちむちしていて、ハリがある。たっぷりと太ももを堪能してから、お尻にいきます。むんずと掴むようなことはせず、ぱんつの布地を愉しむように指で触っていきますよ。コットンだね……いいですね、女子高生らしくて……。

 ん?

 

「気持ちいいの? 痴漢」

 

 小さな声で、耳元でささやく。

 心得たもので、返事をする代わりにふるふると顔を横に振った。本当に上手だな、痴漢されることが。

 

「下着、濡れてるよ」

 

 股間のところだけ濡れていた。

 それを指摘すると、恥ずかしそうにうつむく。唇を軽く噛み、頬を赤く染めて。完璧だ……完璧な痴漢のされ方だ……。世界大会があったら俺たちが優勝できるだろう。社交ダンスのように、痴漢をリードする側と痴漢される側のペアで出場する大会だ。残念ながら現実には存在しない。メイとご主人さまに挑ませるか……。

 さて、そろそろ遊ばせていた左手の出番だ。

 お尻を触るのは左手に任せ、右手は胸に。制服の上から胸を揉む。なんという至福。制服なのに至福。

 

「んっ……」

 

 ちょっとだけ声を漏らすところも上手だ。完全に感じてしまっては痴漢ではなくなってしまうが、本当に嫌がられても困るので、実はちょっと気持ちいいんじゃないのかと思わせるくらいがベスト。

 しかしここで調子に乗ってしまうのはよろしくない。ここで他に人が居たら絶対にやらないようなことをするのは違うんだよ。あくまでもこっそり。ワビとかサビと同じように、趣が大事なんだよ。

 脇腹のあたりから制服の中に手を差し込む。くすぐったがらせてしまうと、台無しになるから細心の注意を図ってお腹には触らない。

 ブラジャーに……あ、完璧だ。簡単にずらすことができた。つけてないのはリアリティがないからダメなんだが、ガチのやつだと外さないといけなくなる。ずらすだけで直に触れるというのが本当に最高なんだよなあ……。

 おっぱいを揉みながら、お尻を触りつつ、電車の音を聞く。うーん、いい痴漢タイムを過ごしているなあ……。

 左手で触るのもいいが、股間を押し付けるのもいい。固く膨らんだズボンを、スカートに。ぐいぐいと当てていく。

 気持ちいいなあ……。

 さて、ここいらで止めるのが正しい痴漢道です。痴漢道は紳士の嗜み。

 服を脱がしたり、股間を露出させるなんてことは許されない。他の乗客がなぜか気づかないなんてファンタジーなんだよ! 時間が止まるのと同じようなもんなんだよ!

 本当に痴漢を愛するなら、ここでストップなんです。男の美学ってやつだね。

 

「ありがとう、柑樹。最高の誕生日プレゼントだったよ」

「いえ」

 

 淡々とつり革をしまい、ラジカセを止める柑樹。オンとオフの切り替えすごいな。

 

「あとこれもプレゼントです」

「あ、そうなの?」

 

 普通のプレゼントもあるようだ。これは色紙?

 

「え? まさかこれ俺?」

「そうです」

「えー! マジか、かっけー」

「最大限美化したので」

「……それは言わないほうがよかったなー」

 

 俺の似顔絵だった。リアルなやつではなく、マンガ風の。これは嬉しい。

 

「さて、それでは次のプレゼントにしましょう。みなさん席に戻ってください」

 

 再び真奈子清井のすべらない誕生会が開催される。

 なぜか誕生日プレゼントをもらうだけの俺が緊張するんだよなあ……。

 残りはあげはちゃん、沙織ちゃん、真奈子ちゃんの三人です。

 




はい、ラジカセから流れてくるのは「電車の車内音」でした。
なんと正解者ゼロ。簡単な問題だったのに。

それにしても痴漢道が学びたいですね。
痴漢の部活で学校を救う話とかどうだろう。


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性欲から解き放たれて天国へ

「さて、次はどちらからいきますか」

 

 MCの真奈子ちゃんが、沙織ちゃんとあげはちゃんの二人の様子をうかがう。どうやら自分という選択肢は無いらしい。

 

「じゃあ……あげはがいきます」

 

 おずおずと手を挙げるあげはちゃん。

 みんな勇気を振り絞っているご様子。そうだよね、なんかもう今の流れ的にプレゼントを渡して終わりって感じじゃないもんね。

 サプライズされる側の俺よりみんなドキドキしちゃってるんだよね。

 

「では、師匠。着替えて来てください」

「えっ、俺が着替えるの」

 

 ここまでの経緯を考えると、コスプレ的なものは当然のように受け入れられるのだが、まさか俺がするとは。

 こちらも着替えないと成り立たないとは一体……?

 しかし箱を開ける前にプレゼントの中身を聞くなんて野暮なことはできない。

 

「あげはも着替えます」

 

 あげはちゃんも着替えるんですね?

 手を振りながら部屋を出ていった。これからどうなるのか……検討もつかない。いや、検討もつかないなんて作家として恥ずかしいな。

 そうだな……あげはちゃんが男装してきて、俺が女装して、TSプレイが始まるっていうのはどうだろう。うん、別に俺が嬉しくないです。駄目だ、俺は作家失格だ。

 呆然としていたら、俺の手が小さな手で包まれる。

 

「先生、先生が着替える部屋に案内しますね」

 

 真奈子ちゃんは司会進行だけでなく、俺が着替える部屋までの誘導なども行うようです。働きものだなあ。

 手をつないで、廊下を歩く。

 

「おトイレ大丈夫ですか?」

「あっ、大丈夫です」

「……先生、なんで敬語に?」

「えっ、なんとなく」

 

 だって手をつないで歩きながら「おトイレ大丈夫ですか?」って言われたら敬語になっちゃうじゃない。なっちゃうよね?

 

「はい、こちらです」

「……え?」

 

 中に入る。普段結婚式場として使われるだけあって、着替える部屋としては何もおかしくない。タキシードならおかしくないし、パーティードレスでもおかしくない。しかし、これは明らかにおかしい。そもそも()()()()()

 困惑しきりの俺を見て、真奈子ちゃんは「はい、着替えましょうね~」と俺のシャツのボタンを外し始めた。普段自分が着替えさせてもらうことが多いお嬢様だからか、人を着替えさせることにも抵抗がないらしい。

 俺はどうかって? 真奈子ちゃんに対して抵抗力がないです。ナスがママ。きゅうりがパパです。催眠術なんか使わなくても言いなりなんだよなあ……。

 

「はい、ばんざーい」

「ばんざーい」

「はい、ズボン脱がしますねー」

「はーい」

 

 なんで着替えさせてもらっているのだろうか。それは自分で着替えるにはあまりにも抵抗があるからだろうか。おそらく、これは誰もが自分で着替えるものではないからだ。着替えさせてもらうのが当然の衣装だからだろう。

 

「はい、寝っ転がってくださーい」

「はーい」

「パンツ脱がしますよー」

「はーい」

「いい子でちゅね~」

 

 真奈子ちゃん……上手すぎでは? 妹や弟はいなかったはずだが……。

 

「お手々あげてー」

「はーい」

 

 この衣装なんだよ……このデザインでこの大きさの服。どこで用意したの……?

 いや、今更この程度の些末な疑問などどうでもいいだろう。気にしない、気にしない。

 

「じゃ、行きましょうね~」

「は~い」

「おトイレ大丈夫ですかー?」

「あっ、大丈夫です」

 

 元々いた場所に戻るだけなのだから、もう手を引いてもらう必要はないのだが、もはや自分一人で歩こうなんていう気はさらさらなかった。というか、自分の脚で歩くことすら違和感がある。なんで俺は二足歩行なんてしなきゃいけないんだ。

 

「先生戻られました」

「ざわ・・・」

 

 俺の登場に、みんなざわついた。なにか特定の言葉ではなく、ざわ・・・ざわ・・・という感じ。おかしいな、俺はギャンブルとは真逆の世界にいざなわれるんだと思うのだが。たぶん。

 

「ししょ……賢者(さかひさ)くーん」

「ばぶ」

 

 当然、当然だが、俺は「ばぶ」しかない。他の選択肢があるわけない。

 俺が最初に履いたのはおむつ。その後、ロンパースを着せてもらった。そしてあげはちゃんはエプロン姿。ここまでくれば説明は不要です。

 

「おかあさんでちゅよ~」

「ばぶ~!」

 

 ハイハイであげはちゃんの元へ。要するにあげはちゃんのプレゼントは「赤ちゃんプレイ」ということだ!

 この発想はなかった。なぜなら俺は官能小説家を夢見ていた男。性欲の一切ない世界については性癖が無かったから。このプレゼントは今まで俺になかった価値観、発想、引き出しをくれようとしているのだ。さすが弟子!

 

「ばぶ!」

「いい子でちゅね~」

 

 これが……赤ちゃん……俺は……赤ちゃん……。

 このプレイが俺を作家として一つ上のステージに押し上げるんだね。

 

「え、けっこーカワイイかも」

 

 ももきゅーちゃんがときめいている。当然だ。俺は赤ちゃんなので、カワイイに決まっている。

 

「先生、かわいいです!」

 

 真奈子ちゃんが大興奮している。当然だ。赤ちゃんの俺だよ?

 

「きも!?」

 

 ただ一人、妹だけがドン引きしていた。お前は何もわかってない。いつもお前だけが何もわかっちゃあいないんだ。

 

「おいでおいで」

「ばぶー」

 

 自分の体の体重の半分もない母の元へ。

 膝の上に頭を乗せると、手で撫でてくれた。

 

「よちよち」

「ばぶばぶ」

 

 しかし、母性は本物ですよ。あげはちゃんは私の母になってくれたかもしれない女性だ!

 だが。だが。

 

「ばぶ!」

「賢者くん、どうしたの?」

「バブー!」

「あー、ママのおっぱいが小さいから怒っているのね?」

 

 小さいというか無いんだよ!

 胸のない母とか……いや、いいのでは? それはそれでアリなのでは? どうやら視野狭窄に陥っていたようですね。

 

「ばぶ」

「許してくれるの? 優しいな……」

「ばぶ……」

 

 胸がなく、体が小さく、まだ子供と呼ばれるような少女に。俺は全身全霊で甘えて、体も心も包み込まれる。これが癒やしでなくて何なんでしょう。これを尊いと言わずして何が尊いのでしょう。愛です。これが愛なんです。決して通報されるような事案ではないんです。

 

「いないいなーい、ばー」

「きゃっきゃっ」

 

 面白すぎる。こんなに面白いコンテンツがこの世にあったとは。いないと思ってたのに、いたんだぜ? やばすぎる。抱腹絶倒。

 

「いないいないいなーい、ばー」

「きゃっきゃっ」

「いないいないいなーい、ばー」

「きゃっきゃっ」

 

 誰もいないと思ってたら、いっぱいいた! 面白すぎだろ。超楽しい。最高。語彙力……赤ちゃんプレイは語彙力を奪う……というか思考力も奪うぞ……。脳が、脳がとろけていく……。

 

「こっちおいでー」

「ばぶ」

 

 ガラガラを振りながらママが後ろ歩きを始めた。ハイハイで追いかける。ママ……いなくならないで……ママ……。

 

「こっちこっち」

「ばぶー」

 

 どうして逃げるの……やだよ……。もうゴールしてもいいよね……。

 

「あんよが上手、あんよが上手」

「ばぶ……ばぶっ!」

 

 届いたっ……ごぉるっ……!

 

「上手でちたね~、いいこいいこ~」

 

 もうこの膝の上から動きたくない。一生。もう一生このままがいい。

 いい匂い……温かい……気持ちいい……これこそが天国ではないか。天国というのは死んだ後に行くところじゃない。生まれてすぐのときこそが天国なのだ。

 さらに言えばこれは悟りではないか。一切のこだわりを捨て、ただあるがままに生きる。欲望に負けることなく、ただ生の喜びを味わう。

 天国とは、悟りとは、赤ちゃんと見つけたり!

 人生に迷った時、生きることに悩んだ時、するべきことは赤ちゃんプレイなんだよ!

 

「ばぶばぶ……」

「きれいな目……」

 

 どうやら俺の心が浄化されたようですね。俺はもう邪念がないからね。

 

「あげはちゃんはおっぱいがないから、小江野さんのおっぱいを吸う?」

「ばぶ!?」

「目が濁った……」

 

 おっと……俺としたことが……俺は赤ちゃん……俺は赤ちゃんだ……。

 邪念を消せ。ただ小江野さんのおっぱいを吸うだけ……あの大きな……おっぱい……。

 

「先生の顔が赤ちゃんじゃなくなっちゃったので、そろそろ終わりましょう」

「ばぶ……」

 

 あげはちゃんの誕生日プレゼントが……くそ、俺が赤ちゃんとしてちゃんと出来なかったばかりに! 精進が足りない! おっぱいを性的なものではないと認識してキラキラした目で見れるように特訓しなきゃ! 小江野さんと!

 

「あとこれもプレゼントです」

「ばぶ……ばぶーっ!?」

 

 赤ちゃんにアダルトグッズを渡すなんて何を考えているんだ! けしからんバブ!

 

「先生、もう赤ちゃんは終わりです。3.2.1、ハイ」

「はっ!?」

 

 真奈子ちゃん、正気に戻すのなら、着替え終わってからにして欲しかったのですが!? この格好で冷静になるとキッツいですよ!? すみませーん、撮影はやめてくださーい! カメラしまってくださーい!

 俺を守るように真奈子ちゃんが俺の手を握る。スーパーに買物に行ったときは立場が逆だったのに、逆転するまであっという間でしたね……。

 

「はい、着替えに行きましょうね」

「うん……」

「おトイレ大丈夫ですかー?」

「あっ、大丈夫です」

 

 こうしてあげはちゃんの誕生日プレゼントを貰った。次はおそらく沙織ちゃんだ。俺がバブバブ言ってる間、一言もしゃべらずに緊張していたからな。一体、何をしようとしているんだ……まさか死なないよな……。

 




わたしも赤ちゃんプレイくらいしておかないとこれ以上の成長が見込めないかもしれません。
これを読んでいるカワイイ女子小学生でお母さんをやってくれる人を募集します!


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真心がシミに

「よし……」

「沙織さん、心の準備はできました?」

「うん……」

 

 網走沙織ちゃんは、相当勇気のいることをしようとしているようだ。

 こっちも緊張しますね……。

 そもそも普段から、息をするようにムチを振るう娘ですよ。気合いれてかかってきたら、死んでしまうかもしれないですよ。「ぼくの誕生日プレゼントは天国を見せることだよ」とか言いながら首を締められたりするとか。怖い……。

 

「じゃ、行きましょう」

「うん」

「みなさん、ちょっと待っていてください」

 

 なぜか、真奈子ちゃんと沙織ちゃんが二人で出ていった。どういうことだ?

 まさか3P……? 2人同時にP(プレゼント)をくれるということでしょうか。

 そんなドキドキソワソワの俺に、ひらひらと手を振る女の子がひとり。

 

「ンフフ……ばぶちゃーん」

 

 プレゼントを渡し終えたあげはちゃんは、リラックスして俺をからかってきた。妖艶に……いや、そのつもりでにっこりと、女児らしい笑顔だ……。むしろ毒気が抜かれる。

 実のところ、さっきまでは緊張していたのだろう。これはおそらくトップバッターだった、ももきゅーちゃん以外のみんな共通だ。

 感謝しかないが、せっかくからかわれているのだから、うまいこと返したいものだ……。

 俺は髪をかきあげ、できる限りのイケメンを演じながら、白い歯を輝かせて、渋い声で「バブー」と言った。

 

「あっははー、ウケるー」

 

 こういうときにわかりやすく盛り上がってくれるももきゅーちゃん、ありがたい……。

 いつもどおり無表情な柑樹はわからないが、小江野さんも「ぷふーっ」と笑っているし概ねウケたらしい。

 

「はずかしがってるのね、かわい」

 

 あげはちゃんは、意地でもからかいたいのかな?

 大人ぶっているようにも見えるが、沙織ちゃんの誕生日プレゼントを緊張して待っている俺の気を使ってくれたとしたら本当に大人っぽいな。やはり俺の母になってくれたかもしれない女の子なのか……!?

 

「みなさん、おまたせしました」

 

 ちょうど平常心を取り戻した頃、真奈子ちゃんが帰ってきた。その後ろには沙織ちゃんが……ええ!?

 

「賢者様ぁ~! 好き、好き、大好きですぅ~!」

 

 沙織ちゃんはそう叫びながら、両手を広げて俺に抱きついてきた。は!? 誰!?

 普段は変態と呼んでいる俺を賢者様!?

 

「ああ~、賢者様、好き、好き、好きぃ……」

 

 俺の胸に顔をこすりつけながら、ひたすらに俺に好意を伝える沙織ちゃん……これは一体……。

 困惑する俺に、真奈子ちゃんが説明をくれる。

 

「沙織さんのバースデープレゼントは、言葉攻め、だそうです」

「言葉攻め!?」

 

 思いもよらなかった……というわけじゃない。言葉攻めの可能性は想定内だった。だが、出てくる言葉が真逆といっていい。

 

「しゅきぃ……賢者様、だいしゅきでしゅ……」

「お、おう……」

 

 それにしても別人というか……いくらなんでもプレゼントってだけでこんなことになりますかね……?

 これが演技だとしたら、声優の小江野さんの立場は一体?

 

「沙織さんの希望により、ちょっとだけ、催眠術を使わせてもらいました」

「そういうことか!」

 

 それで真奈子ちゃんと一緒に!

 催眠術でこうなったんなら、わかりますよ。俺のことを異常に()()()()()()()ってことね!

 

「ぼく、ぼく、ほんとはね、ほんとは大好きなの……賢者様のこと、大好きなのぉ」

「あ、ああ、うん。嬉しいよ」

 

 俺を見る目がハート過ぎて、受け止めきれない。

 真奈子ちゃんはちょっとだけって言ったけど、やりすぎなのでは?

 嬉しいというより、戸惑いが強すぎるのですが?

 

「最初はなんか気持ち悪いと思ってたんだけど」

「……はい」

 

 突然のいつもの感じ。

 

「女子小学生のおっぱいをガン見してるキモい変態だと思ってたし」

「あ、はい」

「一応買ってみた小説もいまいちだったし」

「……」

 

 戸惑いはなくなったのですが、普通に心にダメージが。普段の沙織ちゃんは大げさに言ってる感じがあるんだけど、これってマジというか……()()に聞こえるんだよな……。好きになる催眠ですよね?

 

「でも、何度か会ってるうちに、どんどん好きになっちゃって……」

「……」

 

 なんというかリアルだな……盲目的に好きになってるんじゃなくて、ストーリーがあるのか……これは催眠術のなせる技なのか、沙織ちゃんの才能なのか……。

 

「小説に関しては真面目だし……向上心があるし……夢見てて素敵だし……紳士的で優しいし……よく見るとカッコイイし……ちょっとえっちだけどそこもなんかドキドキするし……」

「おお……」

 

 う、嬉しい……ようやくプレゼントとして受け取れそうな感じ……。

 目も、ただのめろめろハートじゃなくて、俺の顔色を伺いながら、頬を染めてぱちぱちとまばたきしながら上目遣いで……くっ、かわいい……。

 

「ねえ? ぼくのこと……好き?」

「おふっ」

 

 ギャップが凄すぎる。

 自信満々のドS女王様が、初恋どきどきボーイッシュ女子になっている……普段の沙織ちゃんも好きだが、これは反則だろ……。

 

「好きだよ……」

 

 て、てれくさい!

 これが嬉し恥ずかしということなのでしょうか?

 

「ほんと? いつもヤじゃない? 痛いこととかしてるし……」

 

 かー!

 なんですかこの、か弱さ。

 手の指をこちょこちょとくっつけたり離したりしている。マジで催眠術効きすぎじゃない? どちらかというと俺の指を折ったり詰めたりするタイプだよ?

 

「ヤじゃないよ。沙織ちゃんに痛いことされるのは、むしろ快感だよ?」

「「うわあ……」」

 

 なんか周囲からドン引きの声が聞こえてくるけど、気にしないよ。俺は天使に会えたよって感じなんで。

 

「じゃあ……こうだぞ」

「あいたたた」

 

 弱い力でデコピンされた。少しも痛くない。ひたすら甘酸っぱい。

 

「嬉しい?」

「うん」

「ほんと?」

「うん」

「えへへへへ」

 

 デレデレになる沙織ちゃん。それを見てデレデレになる俺。

 

「「……」」

 

 いいんだよ。周りは気にしない。そもそも他の人を気にしてたら、やっていられない。合法痴漢なんて出来るわけないんだから。痴漢とか赤ちゃんプレイに比べたら、よっぽど普通ですから。ただのバカップルですからね。

 

「賢者様……大好き……カッコイイ……ステキ……」

 

 言葉攻め……嬉しい……。

 普段は「変態、死ね」とかしか言わないのに……。

 脳がとろけそうだ……。

 

「いい匂い……」

 

 耳の周りの匂いを嗅ぐ沙織ちゃん……この辺からフェロモンが出ると聞く。

 

「キスしたい……ちゅーしたい……したいなあ……」

 

 耳元でなんてことを……。

 直接キスされるより、キスしたいと連呼される方がヤバいな……これはアダルトビデオよりも官能小説の方が興奮するのに近いかもしれない……。

 

「触って欲しいなあ……抱きしめて欲しいなあ……」

 

 ごくり……。

 おねだりってやつか……。

 こういうとき、官能小説だとさっさと触って抱いちゃうからな。これは新しい感覚だ……。

 

「ちょっとえっちなことも……されたいかも……」

 

 じわり……。

 どうやら息子が期待しすぎて、パンツにシミを作ったようです……。

 ひとりでするときは、そろそろ脱ぐか……ってタイミングですね。いまさらですが、この状況は脱いでいい場所ではないです。ほんといまさらですが。

 よって何もできずに、ただ見つめ返すだけの俺に、彼女はシュンとしつつ、キュンとなる表情で小さな口を動かした。

 

「いつもは恥ずかしくてすぐ叩いたりしちゃうけど、ほんとは甘えたいんだよ?」

 

 うおおおおおおおお!

 これが言葉攻めかーッ!

 真奈子ちゃんの催眠ハンパねえーッ!

 のたうち回りたいくらいやべえーッ!

 

「ああ……好き、好きすぎる……」

 

 頭を撫でられ、頬を触られ、体を押し付けられ、耳元でささやかれ、目の奥を見つめられる。

 なんてこった……直接的に体を交わらせるより、この方がヤバい。脳内麻薬ってのがドッパドパ出て、多幸感で溺れそうだ。

 この時間が永遠に続けばいいのに……。

 

「……ちょ、ちょちょちょ……」

「ん?」

「ち、ちちちち」

「乳乳?」

「違うよ、バカ! 変態! 死ねっ!」

「ぎゃあーッ!?」

 

 アッパーカット!?

 完全に無防備なところにアッパーカットですかっ!?

 

「あ、催眠とけちゃった」

「真奈子ちゃん、納得の説明ありがとう!」

 

 そうだよね。これは催眠術のせいですからね。永遠に続くわけがないのよ。あくまでも誕生日プレゼントだから!

 

「違うから、これは違うから!」

「わかってる、わかってるよ、沙織ちゃん。でも、俺を大好きになる催眠を使ってまでプレゼントしてくれてありがとう」

「先生? 使った催眠術はそうではなくて……」

「そ、そう! 全然好きじゃないけど、好きになる催眠術を使ってまでプレゼントしてあげたの! 感謝して」

「う、うん。すっごく嬉しかったよ」

「あっそ。キモ」

 

 ぷいっと腕を組んで顔をそらす沙織ちゃんだが、逆にそこまでして誕生日プレゼントしてくれたことで感謝が倍増なんですよね……。

 ドン引きしていたみんなも、なんか子猫でも見ているように優しく微笑んでいるし……。

 

「さおりんかわいー」

 

 ももきゅーちゃんのセリフに、誰も反論なし!

 

「は? バカじゃん。……顔洗ってくるから。あと、コレ」

 

 恥ずかしすぎて出ていってしまったよ。かわいいなあ……。

 まぁ、催眠術にかかったことのある俺からすると当然という気もするが。記憶はバッチリ残ってるからねアレ。

 沙織ちゃんが出ていく寸前に俺に押し付けたのは、かわいくラッピングされた紙袋だ。封を開けるとオシャレな栞セットだった。俺が使っていたのがえっちなマンガを本屋で買ったときの特典のものだったので、女児向け小説を読むのに似合っていなかったのだ。センスがいいなあ。

 

「さて、それじゃ最後になってしまいましたが」

 

 沙織ちゃん以外が椅子に戻り、真奈子ちゃんが次は自分だと表明し、改めて立ち上がる。

 普通に栞セットのようなプレゼントで嬉しいのだが、この流れでわざわざトリをつとめるというので、どうしても期待は膨らむ。なんだろう……合法レイプとかかな……。そんなわけないな。痴漢ならともかく。痴漢は問題ないけどレイプは問題があるものね……。うん……? なにが問題なのかわからなくなってきたな。

 当たるはずもない予想をやめて、おとなしく真奈子ちゃんの発表を待つ。

 彼女は大げさに右手を振り上げてから、力強く拳を握った。

 

「私から、先生に最高のエンターテイメントをプレゼントします!」

 

 えんたーていめんと??

 とりあえず予想はハズレのようだった。




バースデープレゼント編もあと一話です。
いつものように見切り発車で書き始めましたが、よくもまあネタ切れしなかったものだと自分でも驚いています。



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下着の中に札束を

 最高のエンタメ……?

 普通に考えれば、映画とか……さすがに映画はないだろう。

 お笑い……? それもないだろ。

 となると、歌とダンスかな? アイドル的な? 

 そう思って俺はアイドル真奈子ちゃんを想像していたのだが。

 

「まず最初にこちらを配りますね~」

 

 そう言って真奈子ちゃんがみんなに渡したもの……それはお金だった。

 

「な、なんでお金」

「やば! しかもドル!」

「10ドル札……?」

 

 妙によれよれの10ドル札を輪ゴムで縛ったものが配られた。まったく意味がわからない……。

 

「では、準備してきます」

「いってらっしゃ~い」

 

 会場から出ていく真奈子ちゃん。残された俺達は顔を見合わせる。

 

「どういうことですかね」

「人生ゲームでもするのかな」

「人生ゲーム!? やってみたい」

「沙織ちゃん、絶対違うと思うよ。今度一緒にやろうね~」

 

 小江野さんの発言を全否定してしまったが、他に思い当たるものも無い。

 

「ギャンブルでは」

「あ~」

 

 さすが柑樹。なるほど、ここが希望の船(エスポワール)というわけですか。そしては俺はボロ負けして地下強制労働施設に……どんな誕生日やねん。

 

「ま、まさか……」

「どうした、あげはちゃん」

「いや、まさかそんなわけない……」

 

 あげはちゃんの様子がおかしい。なにか思いついたのかな。しかし、あげはちゃんが想像しつつ、まさかそんなわけがないものとは一体……?

 

「ん?」

 

 なにやら音楽が流れ始めた。

 やはり歌とダンスなのでは……つまりこのドル札はおひねりってことかな?

 

「や、やっぱり、やっぱり……?」

「あげはちゃん、この曲で確信を?」

 

 この曲に秘密が……うーん……なんだろ洋楽だけどロックとかじゃないというか……これで何がわかるのか……。

 

「家族旅行で海外に行ったときに、あげはも行ったんです……」

「どこに……?」

 

 あげはちゃんが答える前に、ドアが開いた。

 やってきたのはステージ。二本のポールが立っている。そしてそこにいるのは真奈子ちゃん……

 

「ま、真奈子ちゃん!?」

 

 なんと真奈子ちゃんは、ぱんつ一丁だった。しかも、やたら布面積が小さいTバックだ。お、お、おっぱいが丸見えですよ!?

 

「師匠……これは、間違いなく……ストリップです!」

「す、ストリップー!?」

 

 その発想はなかったよ!

 官能小説家にすら無い発想だよ!?

 あの純真無垢な清井真奈子ちゃんが、誕生日プレゼントでストリップをプレゼントとは……。

 そして家族旅行でストリップに行くあげはちゃんのパパとママ、やっぱやべーな!

 

「すとりっぷ? なにそれ!」

 

 ストレートに質問したのはギャルギャルした女の子、ももきゅーちゃんだ。ストリップなんて知らない。それがギャルの常識! っていうか女子小学生が知っている方がおかしいからね。

 

「まあ、まずは見ましょう」

 

 あげはちゃんの指示に従う我々。基本的にエロいものに詳しい俺だが、ストリップは未経験だ。みんなでステージの近くへ。

 初めてのストリップが、女子小学生がストリッパーで、女子小学生の説明を受けながらということになるとは夢にも思いませんでしたね。

 ぱんつしか履いていない真奈子ちゃんは、ステージの上でくねくねと踊っている。ぽよんぽよんと弾む胸……ごくり……なんて綺麗な乳首なんだ……おっと、いかんいかん、ストリップでそんなところを見るなんて……ん? いや、これでいいのか?

 

「かわいいー!」

「きれいだよー!」

 

 みんなから掛け声が飛ぶ。ストリップというものにめちゃめちゃ順応しているな……。

 真奈子ちゃんはしゃがんでから、脚をぱかぱかさせるという大胆な動きを見せる。少しも恥ずかしそうにしていないのは、慣れているから……ではなく、これがエロいことだと少しも思っていないからだろう。おそらく真奈子ちゃんだけは今日やっていたことすべてがエロいことだと思っていない。

 続いて、後ろを向くとポールにつかまって、振り返りながら、お尻を振った。

 

「そろそろいいでしょう」

 

 ステージにかぶりつくようにしゃがんで見ていたあげはちゃんが、立ち上がった。よくわからないが、踊り子さんに触るのはNGなのでは?

 

「これを、こうするんです」

 

 あげはちゃんは、10ドル札一枚を指でつまむと、真奈子ちゃんのぱんつの紐に差し込んだ。

 

「ありがとう、ございま~す!」

 

 真奈子ちゃんは、あげはちゃんに顔をおっぱいで挟んでぷるぷるぷるーんとさせた。ははーん、そういうことね!

 

「ちょー楽しそうなんだけど!」

 

 ももきゅーちゃんもノリノリだ。ドル札を振り回している。

 くねくねさせながら近寄る真奈子ちゃん。

 

「ありがとう、ございま~す!」

「わー! 柔らかくて気持ちいいんだけど! すご!」

 

 おそらく何かで勉強したとおりにやっているのだろう。真奈子ちゃんは10ドルを貰ったら「ありがとう、ございま~す!」と言っておっぱいで顔を挟んでぷるぷるさせる。そういうものだと認識しているようだ。

 沙織ちゃんと柑樹はおとなしくしている。小江野さんはどうしようか悩んでいるようだ。小江野さんもステージに上ったらいいと思うよ。

 周りの状況を観察していた俺を、真奈子ちゃんはじっと見つめてきた。ですよね。俺がやらないと意味がないからね。ったくしょうがねえなあ……。

 

「真奈子ちゃん! 俺にもお願いします!」

 

 お尻に10ドル札を差し込む。なにこれ、この時点で楽しいんですが。

 

「ありがとう、ございま~す、先生!」

 

 んほお~。

 ぽわぽわふわふわ……気持ちいい。

 しかし、これはなんというか、エロい感じがしない。そう、エロくないんだよ。楽しいだけ。

 プレゼントはエンターテイメントだと言っていた意味がよくわかる。

 実際、俺がストリップについてまったく知らないのも、エロい題材になっていないからと言えるだろう。ストリップもののエロ漫画とかアダルトビデオなんて見たことないもの。

 こんな健全なイベントなら、もっとあけっぴろげにやっていいのでは? 中学校の文化祭とか、町内会の夏祭りとかでやったらいいと思います!

 

「もう10ドル!」

「ありがとう、ございま~す!」

 

 更にお金をつぎ込むと、今度はお尻を顔に押し当てて、ぷりぷりっと振った。面白いなあ。気分は高揚するが、息子はおとなしいままなんだよね。そりゃそうだよ、お尻で顔をぷりぷりさせてるだけだし。

 冷静に考えたらバカバカしすぎる。10ドルというと、1200円くらいになるのか? 1時間アルバイトしてもらえるかどうかという金額だろ。全然見合ってない。

 見合ってないけど、それがこの楽しさなんだろうな……。このバカバカしい狂気じみた散財をするというのが。

 1000円札じゃなくて10ドル札っていうのも、現実からちょっと離れている感じがしていいのだろう。海外旅行のテンションで行くとちょうどいいのも理解できる。いまや、あげはちゃんを連れて行ってしまう親の気持ちすらわかる。健全だもの。

 

「20ドル、一度に渡してみてください」

「うん」

 

 あげはちゃんが助言してくれた。頼れる作戦参謀である。

 もはや手慣れた手つきで、ドルをぱんつに。何度やっても楽しいなこれ。

 

「だ~いすき~」

 

 セリフが変わった。

 そして行動も変わった。

 俺の後頭部を足で引っ張り込むと、顔を自分の股間に押し付ける。

 

「ふがふが」

 

 目の前にありすぎて見えないTバックをふがふがさせる俺。

 数秒もしたら、足は解除され、真奈子ちゃんはまたダンスを再開。

 え、それだけ?

 おっぱいでぱふぱふされてる方がまだ嬉しいのでは?

 今の行動に本当に20ドルの価値があるのか?

 冷静に考えるとそういう結論になるが、それこそ莫迦だろう。

 これはつまり踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々というやつですよ。乱痴気(らんちき)状態を楽しむエンタメだと、そう考えるべき。

 つまり、つまりですよ。全くエロくない健全なエンタメなので、女児向け小説家である俺にとっては参考にするべき題材ってことですよ。よっしゃ、次回作はストリップを中心に話を展開しよう!

 

「ほらほら、沙織ちゃんもやってごらん」

「変態」

「いや、全然変態じゃないよ。すっごく健全だよ」

「……本気で言ってる目だ……」

 

 沙織ちゃんは俺の本気をわかってくれたようだが、テレているのか10ドル札を触る気配がない。楽しいのに……。

 ももきゅーちゃんに続いて、小江野さんもぱんつにお札を差していた。おっぱいをリクエストしている。自分のほうが大きいのだが、自分で自分にぱふぱふ出来ないしな。正しい。

 

「ありがとう、ございま~す!」

 

 真奈子ちゃんは笑顔でサービスをしまくっている。本当に健全なエンターテイナーとしての顔だ……ストリップがこれほど明るく楽しいものだったとは。

 

「だいだい、だ~いすき~」

 

 すっかりテンションの上がった小江野さんが30ドルつぎこんだ。

 みんな楽しそうで何よりだ。笑顔に溢れている。

 これがもし俺だけに向けられたものなら、そこまで楽しめなかっただろう。

 こんな世界があったとはね……。

 女子小学生からストリップというものを教わったよ。女子小学生たちと一緒にストリップが楽しめる誕生日なんて、俺は最高の幸せ者だ。

 

「お、お兄ちゃん、これ全部ツッコんでいいよ」

「そうか? やらなくていいの?」

「見てるほうが捗るから」

 

 妹がくれたお金を一気にぶち込む。本当に自分で稼いだ金でこれをやったらと思うとクラクラするね。

 そんなこんなで、みんながあらかたお金を使い終わったところで終了。

 みんながまた席について、飲み物を飲んでいたところに、真奈子ちゃんが戻ってきた。もちろん、服を着ている。

 

「楽しかったよ、真奈子ちゃん。ありがとう」

「喜んでいただいてよかったです」

「でもなんでストリップ?」

 

 真奈子ちゃんにしては発想がぶっ飛びすぎている。

 

「最高のエンターテイメントなんじゃないかという話をテレビで見たんです。そこから調べていたので助かりました。まさか今日自分がするとは思っていませんでしたが……はっ」

「するとは思っていなかった……?」

「ばかっ」

 

 やってしまったとばかりに手に口を当てて目をつぶる真奈子ちゃんを、沙織ちゃんが何をやっているんだとばかりに睨んでいる。

 どういうことかと見回すが、ももきゅーちゃんだけがきょとんとしており、他は全員あちゃーという顔をしていた。ふーむ?

 ここで俺がミステリ作家だったら名推理で解決できそうなんだが、あいにくとそういう小説は書くどころか、とんと読んだこともない。

 

「そ、そうだ。これもプレゼントです」

 

 真奈子ちゃんも普通のプレゼントがあるようだ。中身は万年筆。作家だけど万年筆なんて持ってなかったので、ありがたい。おそらく高級なブランド物っぽい。

 

「ありがとう……それにしても……」

 

 ストリップや合法痴漢などの予定はなかった……?

 それについてトップバッターのももきゅーちゃんだけがピンと来ていない。

 そして、ももきゅーちゃん以外は普通のプレゼントも用意していた。

 それらを考慮すると……。

 

「うーん?」

 

 わからなかった。

 

「さて! 最後にケーキを食べましょう!」

「そうだね! ごはん食べてから結構時間も経ったし、ちょうど何か食べたいと思ってた!」

「誕生日はケーキだよね!」

 

 ケーキで盛り上がる女子たち。

 まあ誕生日のお祝いとしては欠かせないか。

 

「先生はコーヒーと紅茶のどちらにしますか?」

「あー、紅茶かな」

「どっちもありますからねー」

「うん、ありがとう真奈子ちゃん」

 

 こうして人生最高の誕生日パーティーが終了した。

 女子小学生四人を含めた女子たちから、お祝いしてもらったんだ。これは間違いなく、女児向け小説のヒントになるだろう。




最後の最後で健全すぎてごめんなさい!
まさかここまで健全な内容になるとは……。
このくらい健全じゃないと公開停止になっちゃうかもしれないからちょうどいいか。
ちなみにストリップが最高のエンタメかもしれないっていうのは酒の肴になる話で松本人志さんが言っていたことなので間違いない。


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ハーレムプレイのお返しを

「は?」

「だからですね、痴漢ですよ」

「……痴漢されてしまって泣いているところをご主人さまが慰めるとかですか?」

「いや、メイがご主人さまのお誕生日に痴漢されて喜ぶんです」

「何を言ってるんですか?」

 

 ん?

 俺なにか、変なこと言ってる?

 出版社のミーティングルームで、俺は担当編集の富美ケ丘さんと打ち合わせをしている。紙コップに入った自動給茶機のまずくてぬるいお茶を飲み干した。

 次巻の内容をどうするかと聞かれたから答えているのに、まったく意思疎通ができない。このひと、編集者として問題があるのでは?

 

「ですからね、メイがね、まず電車の音をラジカセで流すんです」

「……メイメイの世界に電車なんかないですよね」

「……」

 

 俺の作品「我慢できない! メイドのメイちゃん」略してメイメイは、メイド喫茶のメイドじゃなくてガチのメイドにするため貴族社会がまだ残っている時代設定にしていた。電車どころか自動車もまだない。設定ミスだ! 電車痴漢できないような舞台で物語なんて書けないだろ!

 いいや、諦めるな。諦めなければ道は開ける!

 

「乗合馬車の音にします!」

「だからラジカセもないですよね?」

「……」

 

 諦めるしかないか……。

 音がなかったら意味ないもんな……。

 

「じゃあ、赤ちゃんプレイにします」

「……は?」

「赤ちゃんになるんですよ」

「メイちゃんがですか?」

「ご主人さまに決まってるでしょ!?」

 

 何を考えているんだ、この編集は。メイが赤ちゃんになって子育てするご主人さまとか……ん? それって桜上水みつご先生がメイのおしめを替えるイラストを描くってこと? 天才か?

 いや、それはそれで検討するとして。

 少なくともそれじゃ誕生日プレゼントにはならない。

 

「ご主人さまが赤ちゃんになるから、プレゼントなんじゃないですか」

「赤ちゃんになりたいってことですか?」

「当然でしょ!?」

 

 愚問すぎる。

 バブみって言葉を知らないのか?

 男はみんなおっぱいを吸うだけで褒められる、そういう存在になりたいんだよ。

 

「あの、そういう特殊な趣味はあまり言わないほうがいいですよ」

 

 変態扱い!?

 男ゴコロがわかってないな。

 俺が特別変態なんじゃないんだよ。男は全員変態なんだよ。

 

「せっかくご主人さまは人気があるのに、赤ちゃんになって喜んでいたら読者が幻滅しますよね? かっこ悪いですよね? 気持ち悪いですよね?」

「……」

 

 かっこ悪くて気持ち悪くて幻滅するのか……そうか……。

 どうやら俺が女ゴコロがわかってなかったようです。

 ご主人さまの人気がなくなったらファンレターは激減、バレンタインデーも期待できなくなる。

 男が全員変態だとしても、それを表現していいかどうかは別です。夢を見せる商売だからね!

 女児にはステキな紳士を、男には可愛くてえっちな女の子を提供しないとね!

 

「わかりました。じゃあストリップにしましょう。これなら健全だし」

「……頭大丈夫ですか?」

 

 さすがにここまで言われちゃうと俺もツライ。

 なんかゴミムシを見るような目で見てくるよ……ふぇぇ……。

 どうして。俺は自分の作品を少しでも面白くしたいだけなのに。

 

「白い鳥文庫でストリップなんて言葉が登場していいわけないでしょ。真面目に考えてください」

 

 くそ……俺には女子小学生たちに健全かつ最高のエンターテイメントを教えてあげるという使命があるのに、頭ごなしな一般論を振りかざしやがって……。俺にもクリエイターの矜持というものがあるぞ。

 ここは断固として抗ってみせる!

 

「ストリップは譲れない! みんなに健全なエンタメだということを伝えるんだ!」

「新刊でなくていいですか?」

「すみませんでした!」

 

 こういうときに自分が折れるというのが大人だからね。素直に頭を下げられる俺、エラい。

 作家として一番大事なことは、小説を読んでもらうことだから。新作を心待ちにしている読者のために!

 

「まったく……」

 

 そう言って、コーヒーショップのタンブラーを口につける富美ケ丘さん。俺もそっちが飲みたいのですが?

 飲みかけでもいいからくれませんかね……そう思ってじっと見ていると、ため息をついて腕を組んだ。

 

「ご主人さまの誕生日でもいいのですが……メイちゃんの誕生日をやりませんか」

 

 なんか首をひねりながら、言ってるな。助言する気かな、編集者みたいに……あっ編集者だったわ。

 でもね、俺はみんなから誕生日を祝われたことで今回のシナリオを思いついたわけよ。普段だったらできないようなこと、関係性が違っていても、プレゼントという形なら相手の喜ぶことをしてあげられる。欲しい物を聞いてあげるんじゃなくて、これを喜んでくれるんじゃないかって考えてくれたことが嬉しい。

 そういうことをね、読者に伝えたいわけ。

 だから逆じゃ駄目なんだよなー。

 ま、人の話は最後まで聞かないとマナー違反だから聞きますけど。

 

「ずっと頑張ってるメイちゃんにご褒美をあげてほしいという希望もあるでしょうし、メイドとご主人さまという立場でもバースデープレゼントってことであれば普段できないようなことが出来るんじゃないでしょうか。普段メイドであるメイちゃんがご主人さまのために色々と喜ぶことを考えているわけですが、逆の立場になってメイちゃんのために考えるご主人さま。そのことで普段からどれだけ自分のために尽くしてくれているかを理解して、一層感謝するようになる……どうですか」

「それしかないです!」

 

 そう、そうなんだよ!

 俺が本当に書きたかったのはまさにソレ。

 やっぱりなんだかんだで伝わっていたのか……。さすが富美ケ丘さん……やはりこの人に着いていくしかないね!

 

「じゃあ、ご主人さまがメイちゃんを喜ばせるプレゼントを考えて、いくつかメールで送ってください」

「わかりました!」

 

 元気に出版社を後にする。パーフェクトコミュニケーションでしたね……。

 さて、そうなるとこの前の件じゃ書けないな。

 俺がプレゼントを考えなければ。

 問題は誰にするか……とりあえず妹じゃないことは間違いないが……。

 改札を通り、電車に乗る。

 メイと見た目が同じなのは瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)だが、性格がそっくりなのは清井真奈子ちゃんだ。

 正直なところ、誕生日会は真奈子ちゃんが場所から料理から全部用意しており、いくらなんでも貰いすぎだと思っていた。

 ここは誕生日会のお礼ということで、真奈子ちゃんにお返しをさせてもらおう。

 こうして真奈子ちゃんには、小説を書くたびにお世話になっている気がする。

 なおのこと感謝を伝えなければ……。

 

「次は、笹塚~」

 

 そうだ、俺が真奈子ちゃんに痴漢してあげるというのは!?

 ……バカか俺は……喜ぶわけがない……痴漢されると喜ぶ女の子の小説の読みすぎだ。現実と区別できてないのかよ。メイじゃないんだよ。それこそ俺のことが異常に大好きになる催眠でもかけないと嬉しくないだろうね。

 真奈子ちゃんが喜ぶこと、真奈子ちゃんが喜ぶこと……。

 

「う~ん」

 

 さっぱりわからない。

 みんなは俺の喜ぶことをわかっていてスゴイなあ……。

 ここは同じ女子小学生である沙織ちゃんやあげはちゃんに相談を……いや、それは違うな。それじゃご主人さまのアイデアとは程遠い。

 俺が考えて、考えて、考え抜いてすることに意味がある。

 

「真奈子ちゃんな~」

 

 お金持ちだからな~。美味しい食べ物も、綺麗な服も、ぬいぐるみやおもちゃでもなんでも手に入ってしまうことだろう。

 沙織ちゃんは駄菓子やプールを喜んでくれたが……。

 真奈子ちゃんとはスーパーに買物に行ったことを思い出す。ああいう庶民的な場所に行くのがいいのかな。

 最寄り駅に到着。

 

「こういう商店街を歩くとか……」

 

 肉屋のコロッケをかじりながら歩くとかな。悪くはないが、お返しにならないよな。近所で散歩してるだけじゃん。

 

「お出かけだけど、庶民的……」

 

 帰宅。

 部屋に戻って、ベッドにどすん。

 

「とりあえず、真奈子ちゃんに連絡するか……」

 

 まぁ、チャットでいいよね……とスマホを触った途端、着信音が。

 

「おお……」

 

 なんと真奈子ちゃんからだった。なんというタイミング。

 

「はいっ、真奈子です! どういったご用件でしょうかっ!」

 

 ……?

 

「え、かけてきたのは真奈子ちゃんだよね」

「はっ!? しまった」

「しまった……?」

 

 よくわからないが、電話越しに困っている様子。お礼をしたいのに困らせちゃどうしようもない。

 

「まぁいいや」

「ほっ」

 

 あきらかにホッとしているぞ……。

 

「実は用件あるんだよ、えっと日曜日暇かな?」

「もちろんです!」

「じゃあ朝迎えにいくね。歩きで出かけて……結構歩くかもだけどいいかな」

「はいっ! 幸せです!」

 

 歩くだけで幸せなのか……車でしか出かけないのかもしれない。大丈夫かな。

 




正直前半が書きたかっただけでした。



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アワビより赤貝が好き

 真奈子ちゃんの家に迎えに行って、背の高いサンダルを履こうとしたので、スニーカーに変えてもらった。結構歩くからね。

 

「どこに行くんでしょうか……」

 

 家を出てからずっとワクワクを隠さない真奈子ちゃん。そこまで期待されると困るのですが。たいしたところじゃないのよ。とりあえず駅。

 

「電車……!」

 

 電車に乗っただけでテンションMAXですよ。これはやっぱり痴漢した方が良かったのだろうか……でも多分、逮捕されるからやめとこ。

 真奈子ちゃんとは上りの電車には乗ったことがあるが、下りは初めて。それもあるのか明らかに興奮している。俺は学校が下りなので乗り慣れているのだが。

 

「ここで降ります」

「ここで……!?」

 

 驚くのも無理はない。

 だっておしゃれな街でもないし、テーマパークがあるわけでもない。

 ただの商店街と住宅のある、なんの変哲もない街だ。住むにはステキなところだが、わざわざおしゃれなワンピースで訪れる場所でもないだろう。

 

「すてきな……ところですね……」

 

 きょろきょろしながら無理やり褒めている。別にステキなところはない。

 取り立てて何もない駅前を進み、列に並ぶ。

 

「……バス停ですか?」

「そう。バスで行くんだ」

「じゃ、またパスモを使うんですね」

「いや、今回は使わないんだ」

「えっ? じゃあどうやってお支払いを? カードですか?」

「タダなんだよ」

「タダなんですか!? どうして!?」

 

 一緒に並んでいるおばさんが「くすくす」と笑っていた。真奈子ちゃんが特別お嬢様ということもあるが、女の子が純真に質問しているのがかわいいのだろう。

 こういうところ、小説に活かせるかもしれない。ご主人さまが世間知らずってパターンな。正直かわいくもないしどうでもいいが……ウケそうな気がするよ。

 最近わかってきたことだが、俺がこういう女の子いいよねっていう要素をご主人さまにぶち込んでみるのは、悪くないっぽい。

 ただし、女の子がおもむろに下着を見せてくるのっていいよね、と思うがそれをご主人さまがやっても共感は得られない。

 それくらいは編集と相談しなくてもわかるよ。うん。そもそもメイがおもむろに下着を見せる話を書いても編集でNGになるよ。最近はそれもわかるよ。くそっ。

 それはさておき、バスがやってきた。

 

「さ、乗ろうか」

「あ、はい……」

 

 バスに乗るときに、段差があるので手をとってあげると、嬉しそうに笑う。うん、こういうのはご主人さまがしてもいいだろう。

 馬車に乗るときにメイがご主人さまに手をとってあげる。いつもは命令する側がリードされるというシチュエーションだな。

 官能小説的に例えると、普段従順なメイドが夜になった途端主導権を握る的な。間違いないね!

 ともかく、後方の二人席に座ったはいいがどこに行くのか不安な真奈子ちゃんに説明しようか。

 

「このバスは行き先が決まってるんだ」

「行き先が決まっている?」

「そう。これは専用バスなんだ。この行き先のサービスでバス代が無料ってこと」

「そんな場所があるんですね」

 

 やはりご存じない様子。

 真奈子ちゃん以外の人ならそろそろ行き先がわかったと思う。郊外にあるデカイショッピングモール……家族連れがこぞって車で行く場所だ。癒やし効果があるとされる。マイナスイオンが多いとかなんとかで。

 

「ここだよ」

「わー!! おおきい! すごい人!」

 

 やはり始めてみたらしく、両手を挙げて驚いている。

 これを女児向け小説に変換すると、貴族のご主人さまがメイドに連れて行かれた先の市場でびっくりみたいな感じか。平和だな……ご主人さまが突然ヘンタイに誘拐されてしまえばいいのにとか思っちゃう。

 ……真奈子ちゃんは駄目だよ!? いくら俺でも許さないよ!?

 無駄に心配しつつ、ガチな心配の方を確認しよう。

 

「今日はここで一日過ごすんだけど……いいかな?」

 

 ここまで連れてきちゃってるので、イヤだと言われても困るけど。

 

「もちろんです! 知らない場所に連れてきてもらえて嬉しいです!」

 

 ……真奈子ちゃんが嫌がるわけがない。そう確信していても、そう言ってもらえると嬉しい。

 

「さ、どこから行こうか。適当にうろうろするから、気になったところから入ってみよう」

「わ~。へ~。あっ、これは?」

「これはお菓子屋さんだね。お菓子だけ売ってる店。ちょっと安いんだよな」

「知らないお菓子がいっぱい……」

「よし、俺がおごるから好きなのかごに入れていいよ!」

「そ、そんな、悪いですよ」

 

 奥ゆかしい。わちゃわちゃと両手をワイパーみたいに振っている。

 こういうところが真奈子ちゃんらしくて好きだが、今回はお返しだ。今日一日、遠慮しないでもらわなければ。

 

「詩歌にもよくおごってるから」

「じゃあ遠慮なく!」

 

 詩歌の名前を出すと遠慮しなくなる。真奈子ちゃんの特徴の一つだ。

 詩歌の姉になることを熱望していたはずだが、妙に対抗意識があるというかなんというか。

 

「どれにしましょう……」

 

 お嬢様はあまり駄菓子に詳しくない。これはこれはと質問してきて、非常に可愛らしい。

 ちなみに沙織ちゃんはもはや駄菓子について調べまくっており、次はあれを食べてみたい、新しいフレーバーが出たから買っておくようになどリクエストするようになっていた。まぁ、これはこれで可愛いですよ。ええ。

 沙織ちゃんの好みは熟知しているのだが、真奈子ちゃんはあまりよくわからない。なんでも喜んじゃうから……。

 

「真奈子ちゃんはどういうのが好きだったっけ」

「そうですね、フルーツの味のものとか、好きですね」

「じゃあ……キャンディとか、グミとかかな。ここがグミ売り場だね」

「これ全部グミですか? どれにしていいのか……」

「そう。いっぱいあるよねー。俺は固いグミが好きだけど」

「わたしも、わたしも固いのが好きです! すっごく固くてカッチカチのやつが好きです!」

 

 真奈子ちゃんはすっごく固くてカッチカチのやつが好き……グミの話です。ええ。もちろん。

 

「キャンディはあんまり俺は食べないけど……」

「あ、じゃあ別に……」

「キャンディを舐めてる女の子って可愛いよね」

「買ってください!」

「あ、うん。遠慮しないでね。小さいのと大きいのがあるけど……せっかくなら大きいのを買おうか」

「はい! わたしは大きいのが好きです! すっごくおっきくて舐めるのが大変なやつが好きです!」

 

 真奈子ちゃんはすっごくおっきくて舐めるのが大変なやつが好き……キャンディの話です。ええ。もちろん。

 

「じゃお菓子はこんなものでいいかな」

「はい、ありがとうございます……」

 

 大切なもののようにぎゅっと抱きしめる真奈子ちゃん……安い菓子だよ。感謝の仕方が大げさだが、育ちがいいからだろう。

 会計を済ませると、ちょうどいい店が目の前にあった。

 速攻で飴を舐めようとする真奈子ちゃんに待ったをかける。

 

「ここに入っていこう」

「コーヒーショップですか。コーヒー豆にこだわりがあるんですね」

「ううん。コーヒーは買わない」

「そうなんですか!?」

「というか、別に何も買わない」

「ええ!?」

 

 思いどおりすぎてちょっと笑ってしまいそうになる。

 

「このお店は入り口で、紙コップに入ったコーヒーをくれるんだ。砂糖も入ってるから真奈子ちゃんも美味しいと思う」

「えっ、コーヒーがもらえる?」

 

 店員さんが配っているコーヒーをもらう。

 真奈子ちゃんも俺の様子を見て、店員さんから受け取った。

 

「ほえ~」

「これを飲みながらちょろちょろっと店内を見て、飲み終わったら出るんだ」

「なんか不思議ですね」

「季節で商品入れ替わるから、うろうろしてるうちに気になるものとかあったら買うって感じかな。珍しい輸入品とかもあるからね」

「なるほどお」

 

 楽しそうにきょろきょろしている真奈子ちゃんを見ながらコーヒーを堪能した。ほっこりしますね。

 ここも小説に活かそう。ご主人さまがきょろきょろしてても俺はかわいいとは思わないが……世間知らずのご主人さまを見てほっこりするメイはかわいいぞ。つまり俺もかわいいってことか。照れるぜ。

 

「ここに紙コップ捨てるんだよ」

「はい」

「さって、じゃあ、次はどこ行こうか」

「順番に見ていきたいです」

「じゃ一階をぐるっと回ろっか」

 

 日曜日の午前中、多くの家族連れが歩いている。

 携帯電話のキャンペーンでくじびきをやっていたり、百円で乗れる小さな列車に子どもたちが興奮していたり。

 そういうありふれた日常に目を輝かせる真奈子ちゃん。どうやら大正解だったみたいだな、ここに連れてきたのは。

 メイメイに活用する場合は……ご主人さまが目を輝かせていてもキモいと思うけど……まぁ、喜びを隠せないみたいな表記にしとけばいいだろう。桜上水みつご先生が描いたら大丈夫です。

 真奈子ちゃんは、通路の間で立ち止まった。

 

「これはどんなお店なんですか? すごく大人気みたいですが」

 

 入店待ちの椅子には人がずらっと並んでいる。電光掲示板には一時間待ちの表記。本当に人気だな。

 

「これは……回転寿司だよ」

「か、回転寿司! あの伝説の!」

「伝説!?」

 

 お嬢様の真奈子ちゃんにとって、行ったことがないどころか見たことがなかったようです。

 

「お昼ごはんも真奈子ちゃんの好きなものと思っていたけど……」

 

 正直、不安だ。

 ちょっと確認しておこう。

 

「真奈子ちゃん、お寿司好き?」

「大好きです!」

「うん……じゃあ、やめておこう」

「ええー!?」

 

 まさかそうなるとは思わなかったのだろう。大きなおめめを更に大きくして、口もぱかーんと開けている。いっそがぼーんかもしれない。いや、がぼーんは言い過ぎた。顎が床に着いたりはしてないです。

 

「な、なんで……」

 

 はわわわ……とかわいらしく困っている。ちょっと目が潤んでいる……どうやら俺がいじわるしてると思ってますね! やばい!

 しかし、回転寿司の中にも結構美味しいところはあるのだが、ここは……。

 

「いや、あのね。真奈子ちゃんが好きなお寿司のタネって何?」

 

 ネタというのは業界用語で本当はタネという。タネをネタって言うのはつまり銀座で寿司のことをザギンでシースーって言ってるようなものってことだね。

 ちなみに俺が好きなのは赤貝。……深い意味はないですよ? ぷりぷりしててね、甘くてね、若々しい感じでね。アワビとか牡蠣もいいけど、やっぱり色がキレイだしね。うん。ペロペロしたくなるよね。深い意味はない。

 さて、真奈子ちゃんの好きなのは……? おいなりさんかな?

 

「そうですね、つぶ貝とか、ボタンエビ、ウニ、のどぐろ、関サバ……梅雨の時期のいわしも大好きです」

 

 うおーい! めちゃめちゃ本格的なラインナップ!

 食通だよ!

 ただの金持ちじゃないよ!

 大トロとかアワビとか高いの連発ってわけじゃないところがガチだよ!

 いわしなんか旬をおさえちゃってるし!

 関サバなんて食べたこと無いよ!

 普通の小学生はサーモンかまぐろ。むしろイクラか、玉子とかだろ。最初につぶ貝が出てくる小学生いる!?

 超小学生級のグルメだよ、この娘!

 ここでもし「カニカマの天ぷらと、牛カルビ、ハンバーグ、あとやっぱり炙りマヨサーモンかな!」って言ってくれたら中に入ろうかと思ったが、やっぱりそんなお嬢様いないよね!

 だとすると。うん。確信した。

 

「なるほど……やっぱり、多分食べられないと思うんだ……」

「ええ!? 食べられないってどういうことですか?」

「もっとはっきりいうと、食えたものじゃない、こんなものは寿司じゃない、シェフを呼べ! って怒り狂ってテーブルをひっくり返すと思うんだ」

「えええ!?」

 

 さすがに真奈子ちゃんがそうなるところは見たくない……。

 小説のネタとしては悪くない。例えばご主人さまが露天の串焼きだかなんだかを食べて、こんな固くて臭い肉始めてだ……って泣くけどメイが美味しそうに食べてるから言えないみたいな。

 でも俺は小説のネタのために真奈子ちゃんが泣くのは耐えられない。俺に遠慮して美味しい美味しいと泣きながら食べるさまが目に浮かぶ。

 ここは心を鬼にして、ちゃんと説明しておこう。

 

「回転寿司というのはね、寿司じゃないんだよ。回転寿司というB級グルメなんだよ。本物の寿司を食べさせることが出来ない親が、子どもにごちそうを食べさせている……そう思い込むための施設なんだ」

「えっえっ」

「もちろん回転寿司の中にも美味しいところはあるけど、ここは特にマズい」

「ま、マズい!? こんなに行列なのに?」

「うん……子供だましというか、子どもでも騙せないくらいヤバい。実際に子どもはフライドポテトとかラーメンとか食ってて寿司食べてない」

「お寿司屋さんなのに……?」

「お寿司っていっても1皿100円の寿司だからね……真奈子ちゃんが食べてるのは多分1貫で2000円くらいすると思う。値段40倍だよ? そんなの食べられないからこうして並んでるんだよ」

「せ、先生、あの、他のお客さんたちが睨んでます」

 

 気づいたら、茶髪でロン毛のジャージの女の人から完全にメンチを切られていた。ひえっ。

 

「と、とりあえず混みまくってるから、別の場所行こっか」

「はい……」

 

 逃げるように脱出。というか逃げた。

 決して後ろを向いてはならぬ。

 なにせ人はいっぱいいるので、ちょっと歩けばもう安全地帯だ。やれやれ。

 

「他にもレストランがいっぱいありますね」

「うん」

 

 定食屋にラーメン屋、とんかつ屋とイタリアンに焼き肉屋。喫茶店やビュッフェもある。

 俺には見慣れた店ばかりだが、真奈子ちゃんはどれも珍しいらしい。

 

「入ってみたいお店ある?」

「そうですね……どうしようか迷っちゃいます」

「実は、俺のオススメはここじゃないんだよ」

「そうなんですか?」

 

 わくわくしている真奈子ちゃんと、エスカレーターで三階に登った。

 





タイトルもだいぶ無理やり感がw
わかってるんですよw


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べとべとのからだをぺろぺろ

 そうだね、フードコートだね。

 こういうところの醍醐味ですよ。家族で来た場合、回転寿司かフードコートになるじゃないですか。

 どっちがオススメかっていうと、ショッピングモールだったら断然フードコートでしょ。

 だだっ広い空間に、多種多様なテーブルと椅子があり、家族連れを中心に多くの人がごった返している。

 その入口で俺は、ドヤドヤのドヤ顔でご紹介。

 

「真奈子ちゃん、これがフードコートだよ」

「ふ、フードコート!? な、なんですかそれは!?」

「あそこにいっぱいお店があるよね」

「はい、いっぱいあります」

「あの中から好きなものを買ってきて食べることが出来る。それがフードコートだよ」

「えっ、好きなものを……? これだけあるお店からなんでも好きなものを買ってきて食べていいってことですか……!?」

「そうだけど?」

「す、すごい、すごすぎます!」

 

 あれ、俺また何かやっちゃいました?

 お嬢様をフードコートに連れてくるのは、異世界で無双するのと同じ感じだということがわかったよ?

 気に入ってもらったが、ここからが重要だ。

 

「で、でもどれを食べたらいいのか……知らないお店ばっかりで……」

 

 そう、フードコートは食べるところであり、食べるものは決まっていない。

 特定の店のものを買うことももちろん可能だし、それぞれが好きなものを買ってきて持ち寄るのもアリだろう。

 だが、彼女は初めてのフードコート。俺がエスコートしなければなるまい。

 

「よければ俺が買ってくるよ」

「あ、はい。お願いします」

 

 フードコートで食い物を買ってくるだけなのに、ここまで感謝されることがあるだろうか。いや、ない。

 この期待に応えるためには、フードコートならではのラインナップにしなければ。

 フードコートの各店の看板を見回す。

 ハンバーガーショップにフライドチキン、さぬきうどんに長崎ちゃんぽん。この辺はフードコート以外でもよく見かけるチェーン店だ。

 カレーライスの店とハンバーグの店、それと餃子がメインの中華料理。この三店はちょっと専門的な感じだな。値段も普通の店のランチの価格帯だ。

 ラーメンは豚骨系とボリュームのあるタイプの二店。スタミナたっぷりのラーメンは、女性には普段お店では食べられない量ということもあり、母と息子で一つのラーメンを食べていたりする。

 他にたこ焼き屋、アイス、ドーナツといったサイドメニュー系の店もある。

 とりあえず冷水機で水を汲んで、テーブルを確保だ。油断していると場所が取れなくなるからね。

 

「さて、どう組み立てるかな……ファーストフード系かそれともがっつり系か……」

「かっこいい……軍師みたい……」

 

 真奈子ちゃんは俺の背後に白い羽で出来た団扇を持つ軍師が見えたようだ。これは食べる順番まで考慮しなければなるまい。

 

「真奈子ちゃんには初めてのフードコートを楽しんでもらいたいから、ここはやはり……」

「ああ……すごく考えてくれてる……好き……」

 

 フードコートは、それぞれが好きなものを持ち寄って、思い思いのものを食べるというのが基本のスタイル。

 そして応用編とも言えるのが、シェアだ。普通は許されない、一人前だけ買って二人で食べるという行為。

 多くの店のものを食べるという意味で、やはりシェアしかあるまい。

 さっきの親子のように大盛りを分けるというのもあるが、ニンニクマシマシなラーメンやカツカレー……喜ぶような気もするが、やはり同じものを分けるより、いろいろなものを味わえた方がいいだろう。

 きっとお嬢様の女子小学生の胃袋はそれほど大きくない。

 何をシェアしていくか……。

 

「そうだな……真奈子ちゃん、たこ焼き、好きかい」

「たこ焼き……食べたことないです」

「フッ……じゃあ、食べてみようか」

「はい……♡」

 

 関東風の揚げたこ焼きを買ってきた。

 次の店は二人で並ぶことに。

 

「ここはハンバーガーショップだよ」

「えっ、たこ焼きとハンバーガーですか?」

「フッ……ハンバーガーは買わない」

「ええっ!?」

「フライドポテトとドリンクだけ買うんだ。このアプリのクーポンを使ってね」

「あ、あぷりのくーぽん……!?」

「これでドリンクのMをLに、ポテトもMからLに出来るってこと」

「そ、そんな魔法みたいなこと……」

「あ、すみません。ポテトですけど、塩抜きで」

「えっ、塩抜き……!? なんでですか、お塩があった方が美味しいんじゃ……」

「フッ……ポテトの賞味期限は五分しかない」

「ご、五分!?」

「絶対に揚げたてを食べる必要がある。そのための塩抜き」

「どういうことなんでしょう」

「作ったポテトには塩がふってある。そこで塩抜きを注文すると、新しく揚げるしかない。つまり……」

「はっ!? 出来たてになるということですか!」

「フッ……そういうこと」

「す、すごい……すごいですっ! さすが先生ですっ」

 

 もうね、俺くらいになると、フードコートのハンバーガーショップで注文するだけでこれですよ。普通だったら学校同士の魔法スポーツ対決でメカニックとして大活躍してようやくこの反応だと思うね。

 

「さっ、急いで座ろう」

「はいっ」

 

 そそくさと座る。

 早く食わないとね!

 

「まずはそのまま、塩無しで食べてみて」

「はいっ」

「うん……うん」

「あっ、美味しいです!」

 

 うん。ほんと出来たては美味い。

 特に、このふにゃふにゃになってるやつ、美味い。

 

「そして次は塩……じゃなくてケチャップなんです!」

「ケチャップ!」

 

 ケチャップを貰っておいて、ポテトにつけて食べる。

 これは基本でしょ。

 

「あっ、美味しいです~」

 

 間違いない。

 これはお嬢様でも、いや、お嬢様だからこそ美味い。

 品のいいポテトも美味いが、これは別物だからね。

 

「さらに……このたこ焼き」

「いい匂いです」

「ソースと、マヨネーズ。多めにかけてもらってる。つまり……?」

「ま、まさか!? ポテトに!」

「フッ、そういうこと!」

 

 俺はポテトにマヨソースをつけて、真奈子ちゃんに差し出す。

 彼女は驚いたが、意を決してパクついた。味の想像がつかなかったんだろうね。

 

「はう……」

 

 あまりにも美味すぎたのか、目を閉じて天を仰いだ。……そこまでか?

 でもね、ポテトにつけるものなんてなんぼあってもいいですからね~。

 

「飲み物……あっ、しまった!」

 

 やっちまった!

 つい、妹と同じ感覚で……。

 

「ど、どうしたんですか先生」

「ドリンク、一つしか買ってないんだ……いつもの癖で」

「えっ、いつも一人でいらっしゃるんですか?」

「違う違う、ポテトと一緒で妹とシェアしてるんだよ」

「……えっ?」

「ほら、ポテトもLだと十分たっぷりあるから二人で食べられるじゃない」

「はい、そうですね」

 

 むしろ一人でLなんて食べられない。賞味期限の五分を超えてしまう。

 

「コーラもLだと十分なんだよ……詩歌はそんなに飲まないし。だから二人で飲んでるんだよね」

「なるほど」

「でも、真奈子ちゃんと同じコーラを二人で飲むのはマズかったよね、ごめん、もう一つ買ってくる」

「いえ! 私もそんなに飲みませんし! ちょうどいいです!」

「でも……」

「ごくごく!」

「えっ」

「どうぞ! 飲んでください!」

「うん……」

「はい、すぐに私もごくごく!」

 

 そんなに飲まないって言ってたのに立て続けに飲んでるぞ。

 

「あ~。おいしい。こんなに美味しい飲み物は生まれて初めてです」

「あ、そう。よかった」

 

 俺は詩歌で慣れているから気にしないが……お嬢様だから駄目かと思っていた。衛生的もだし、マナー的にも。

 なんにせよ喜んでくれてよかった。

 

 こんな感じで、ポテトを堪能し、たこ焼きを食べ、その後で32種類のアイスを売ってる店でカップのトリプルを一つだけ買い、二つのスプーンで食べた。

 この体験は小説に活かせることだろう。

 たこ焼きとポテトを女体盛りして食べてから、今度はアイスを載せてどろどろのベトベトにして上半身から下半身に向かってペロペロと……間違えた、官能小説じゃなかった。

 ご主人さまとメイが、お出かけしたときの話だった。

 いつもは料理を用意する立場と、食べる立場に分かれていて、一緒に食べることはない。ましてや同じ皿に乗った料理を一緒に食べるなんて。これだな。うんうん。

 

「ごちそうさまでした」

「足りた?」

「ちょうどよかったです」

 

 やはりもやしとチャーシューと太い麺を食べさせなくて正解だった。あれは詩歌と来たときに食おう。

 

「次はどこに行くのかな」

 

 これから行く場所にも期待大のご様子。

 意気込んでどこかへ、というところでもないが、行ってみたいところがちょうど向かいに見えた。

 つやつやのロングの黒髪。

 清楚でおしとやかで、純真でいい子で。

 小学生にしては胸の大きな、正統派の美少女。

 そんな真奈子ちゃんと、一緒に行ってみたいところだ。

 



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眼鏡を汚す液体

 

 そうだね、大人のテーマパークだね。

 イメージクラブだったお店を改造して、部屋とコスチュームを提供しているお店だね。

 例えば体育倉庫や、保健室。電車に、オフィス。マニアックなところでは、忍者屋敷とか教会なんてのもある。

 ここで男女が好きな格好をして、好きなシチュエーションでえっちなことをする。

 グッズも貸し出していて、椅子に縛り付けることもできるし、不自由な患者になってご奉仕してもらうことも可能だ。

 真奈子ちゃんには囚われた姫を演じてもらおう。俺は勇者をやるので、オプションでオークを雇おうか。

 オークにひん剥かれて泣き叫ぶ真奈子ちゃんを救出し、俺はそのとき彼女のお礼をいただくという形で……いいですね。

 

「先生? またお仕事ですか?」

「あー、ごめん。すぐ小説のこと考えちゃって」

「ふふ、大丈夫です。そういうところが好きなので」

 

 真奈子ちゃんは俺の小説家としてのファンなので、エスコートしなきゃいけない場面でも小説を優先することに寛容だ。

 それにしてもなぜこの店がないのか不思議だ。オークは難しいが、他は用意できるだろう。歌舞伎町にオープンしたらいいのに。

 どちらにしても今来ているこのショッピングモールに、この夢のような店はない。

 まぁ、仮にあったとしても女子小学生(JS)と一緒に入ってはいけない。

 そして俺の小説にも活かせない。くそっ、なんて俺は不自由な小説を書いているんだ。夢のプレイルームを借りて、ご主人さまとメイドがいつもと立場を逆転させるプレイをするストーリーなんて、秒で一冊書き上げられるというのに。児童向けのレーベルであるがゆえにそれは不可能なのです。

 日本の少子化を解決するためには、子供のうちから性行為の素晴らしさを伝えていくべきだと思うのだが。

 

「先生、ここで立ったままだと……」

「あ、ごめん」

 

 休日のショッピングモールの、ランチタイムのフードコートの入り口だ。完全に邪魔者になっていた。ぼーっと勃ってる場合じゃねーよ!

 今の日本を憂いてないで、さっさと次の場所に移動しよう。

 

「こっちこっち。ここに入りたかったんだ」

「ここは……」

 

 そう、ここは眼鏡屋だ。アイウェアショップなどとぬかしてるが、眼鏡屋だ。

 頻繁に訪れる人もいれば、一生入らない人もいるだろう。

 

「めがね……目が悪くなっちゃったんですか?」

 

 真奈子ちゃんはちょっと心配そうにした。

 確かに専門学校に通い始めてから、パソコンを使う頻度が増えて、若干視力が落ちている。

 しかし、もともと目はよかったので、まだまだ眼鏡のお世話になることはない。

 

「そうじゃないんだよね」

「……あっ。ひょっとして、ご主人さまの目が悪くなったというお話を書こうとして参考に?」

「なるほど。それもいいな」

「えっ!?」

 

 真奈子ちゃんのアイデアは悪くない。

 というのもメガネ男子って人気出そうだから。男に興味のない俺には無い発想。

 それは別途考えるとして。

 

「俺が考えていたのは、単純に眼鏡をかけたメイを見たいと思ったんだよ」

「なるほど、挿絵ですね!」

 

 メイもマイもメガネっ娘ではない。俺はそこまでのメガネ属性ではないので、主要キャラをメガネっ娘にはしないのよね。

 ただし、眼鏡をかけた女の子も大好き。特に、たまーにかけるくらいがいいのだ。

 舞台を見に行った時とか、車を運転するときとか。

 普段かけていない女性が眼鏡をしていると、ドキッとしますね。

 ただし逆は許されない。メガネっ娘が肝心なときに眼鏡を取るとかね。それはやってはいけないことですよ。

 眼鏡屋の女性店員を見ながら、デートのときにコンタクトで来るんじゃないぞ……と睨みつけた。

 店員さんは他の客の接客をしており、俺の視線には気づいていない。真奈子ちゃんが俺の服の袖をくいくいっと引く。なにかしら。

 

「そういえば、眼鏡をかけたメイドさんもいましたね」

「あ、うん」

 

 我慢できないメイドのメイちゃん、略してメイメイに登場するメイドはメイやマイだけではない。巨乳のメイドやら眼鏡のメイドやらいるのだ。

 

「あのときのご主人さま、かわいかったな」

「ん?」

 

 眼鏡のメイドとの絡みで、ご主人さまがかわいいなんてことあるだろうか。

 そもそも作者の俺からして、ご主人さまを一度足りともかわいいと思ったことはない。

 全く理解できないという俺の顔を見て、真奈子ちゃんは文章を思い出しているようだ。

 

「確か、くっ、うっ、もうダメだ、出る、出るぞっ……って言って、顔にぶっかけちゃうんですよ」

「うん……そうだね」

 

 そのシーンは気に入っています。一巻なので、完全に官能小説だと思って書いてますし。

 

「で、眼鏡にかかっちゃうんですよね。眼鏡を汚してしまってすまない、って謝るというシーン」

「そうだね……」

 

 どこがかわいいんだよ!?

 確かに「全部口で受け止めろ、そして飲み込め」とか言わないという意味ではちょっと優しいけど。ご主人さまがドエスになるのはメイにだけだからね。

 それにしたって……ここがかわいいって、真奈子ちゃん……いや、まてよ。

 あげはちゃんじゃないんだ。これは真実を理解してないぞ。

 

「ごめん、かかっちゃうのってなんだっけ」

「あはは、我慢できなくなってついつい顔にかけちゃう、眼鏡が汚れるもの、なんて一つしかないじゃないですか」

 

 そうだね……俺の中では一つしかないんだよな……。

 でもきっと勘違いなんだろうな。肉欲は肉を食べたい欲だしな。

 食い物と間違えるパターンがよくあるが、このシーンはベッドだからね。カレーうどんをすすってたら、うっかり汁が飛んだ……とかそういう勘違いはありえない。

 ……わからん!

 

「くしゃみが出ちゃって、つばがかかったんですよね」

「……」

 

 は~、なるほど。

 その発想はなかったな……。

 で、くしゃみしたからかわいいっていうことなのか……確かにうっかりくしゃみをしただけなのに、ご主人さまは頭を下げて新しい眼鏡を買ってあげるわけだから……そうなるか……。

 

「ご主人さまは、カッコよくて、かわいいですよ」

「そういうものですか」

 

 小学生から届くファンレターにもそう書いてあるが。よくわからんぜ。

 腕を組んで突っ立っていたら、店の会話が耳に入った。

 

「お客様、大変よくお似合いです~。知的に見えますよ」

「そ、そうかな~」

 

 先程の女性店員さんが、おじさんを褒め称えていた。

 店員さんは家庭教師モノの女優ができそうなルックスだが、おじさんはオタクにしか見えない。

 これがプロの接客サービスなのだろう。

 真奈子ちゃんも同じ方向を見て、ふんふんと頷く。

 

「先生も、眼鏡が似合いそうですね」

「ん? そう? 俺は真奈子ちゃんが眼鏡が似合いそうだと思ってきたんだけど」

「ふぇっ!? あ、へ!? そうなんですか?」

 

 そりゃそうだ。

 確かに小説のネタにしたい気持ちはあるが、これはあくまで真奈子ちゃんへのお礼であるからして。

 

「目が悪くなくても単におしゃれとして眼鏡をつけることもあるみたいだし、紫外線カットみたいな目を守るタイプもあるしね」

「……嬉しいです」

「いろいろかけてみよう」

 

 アニメだと服や水着の試着もバンバンされてウキウキワクワクだが、現実には着替えるのに時間がかなりかかる。

 その点、眼鏡は簡単に着脱できる。いろいろ試して似合うとか似合わないとかやるのに向いているアイテムだ。

 

「ほら、これなんかどう」

「これですかー?」

 

 でかくて丸いサングラス。

 セレブがかけてそうな。

 真奈子ちゃんはお嬢様なので、かけていてもおかしくはない。

 

「どうですか」

「ぷふっ」

 

 真奈子ちゃんはお嬢様だが、女子小学生(JS)なのでかけていたらおかしかった。

 

「あーっ! もう」

「ごめんごめん、今度は似合うやつにするから。ほら、これとか」

「これですか?」

「あー、似合う。すっごくかわいいよ」

「え、え、そ、そうですか」

「これも似合うと思う」

「そうですかね」

「あー、これもいい。ベリーキュートだよ真奈子ちゃん」

「へへへ」

 

 フチが細くても太くても可愛らしい。

 やっぱり清楚な黒髪ロングストレート正統派美少女が眼鏡をすると、グッと来ますね。

 

「な、なんか眼鏡をかけるだけで褒めてもらえるなんて嬉しいですね」

「そう、そうなんだよ~。普段から可愛いと思っててもなかなか言うタイミングがね」

「ふ、普段から……はう」

 

 明らかに顔を赤らめた。眼鏡をかけて恥ずかしがる真奈子ちゃんは、非常に愛らしい。眼鏡屋、最高。

 これはご主人さまとメイにも行かせるしかないな。桜上水みつご先生のイラストに期待大。

 

「ご主人さまも、普段はメイを褒めるとかないからな。眼鏡をするとか、普段とまったく違う見た目なら、こういうセリフも言えるかもしれないなー」

「ふふっ。男性ってかわいいですね」

「へっ!?」

 

 俺は割と真面目にふつうのことを言ったつもりなので、女子小学生(JS)からそんなレディの意見を聞いて面食らってしまった。

 

「普段からもっと思ったとおりに褒めたらいいのに。恥ずかしがり屋さんなんですね、ご主人さまも」

「ん。んー。まぁご主人さまがメイドに対して褒めまくるってのも立場的にな」

「そうですか? むしろ上司だったら部下にもっと優しくするべきなのでは」

「た、たしかに!」

 

 上司が偉そうにしてるとかダサすぎる。上司は部下に優しくするべきだし、編集者は作家に優しくするべき。

 そのとおりだが、もともとご主人さまはドエスで、メイがドエムという官能小説からスタートしている物語。その設定を踏襲しすぎていたか。

 読者は真奈子ちゃんのように、ただ単に素直になれないだけだと思っている。

 

「よし、じゃあ今日は真奈子ちゃんを褒めまくっちゃおうかな」

「ふふっ、じゃあ私は先生を褒めまくっちゃいますね」

 

 事前にこういう約束をしておく。それも恥ずかしさを薄めてくれそうだ。ご主人さまは特に照れくさいだろうし、メイもご主人さまを褒めるというのは立場上難しいだろうし。

 

「これなんてどうかな」

「かっこいい! 先生、かっこよすぎです。クールです」

「真奈子ちゃんこそ、やばいよ。それ、めちゃくちゃ可愛い」

「先生こそ、それはやばいです! 胸がきゅんきゅんします」

「いやいや、俺はもうとっくに心臓バクバクだから」

「私のほうがドッキドキです!」

 

 バカップル爆誕です。

 お互いに眼鏡をかけて褒め合うだけという、この時間。めちゃくちゃ楽しいです……永遠にやっていたい……。

 

「お客様~、どういったものをお探しで」

 

 邪魔が入った!

 超邪魔。知的な印象を与えるナイスバディなお姉さんなのに邪魔です。

 

「えっと、あの、また今度にします……」

「す、すみません……」

 

 俺と真奈子ちゃん、脱出。

 別に買ってもいいんだが、もはや恥ずかしくて無理だった。

 とりあえずちょっと歩いて、店員の目の届かないところに。

 

「真奈子ちゃん」

「はい」

 

 真奈子ちゃんも恥ずかしそうにしていたが、きっと俺と同じ思いであるようだ。

 

「次は、靴屋にしよう」

「いいですね!」

 

 眼鏡屋とほぼ同じことを靴屋でやった。

 





眼鏡屋でイチャイチャするだけのデートしたいですね……。
友人がデートが好きじゃないって言っててびっくりしましたね。デートより楽しいことなんてないと思いますけどね。
レンタル彼女にJS6がいたらいいのに。



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恋人同士を満喫する場所

 

「真奈子ちゃん、次はどこへ行こうか」

「そうですね……先生は、恋人が相手だったらどこに行きたいですか?」

「えっ!? 恋人と行きたいところ……?」

「はい。そこに行ってみたいです」

 

 恋人と行きたいところ。そこに女子小学生の真奈子ちゃんと二人で行く。

 まぁ、行くだけならいいのか?

 

「そこに行って、恋人同士でしたいことができたらいいなって」

 

 そこで俺がしたいことを?

 駄目に決まってる!

 

「そ、それはちょっと駄目かな」

「な、なんでですか」

 

 くっ……そんなカワイそうな顔をされるとツライが、じゃあ行こうかとはならない。

 行ってもいいが、その場合は()()()使()()()()するしかない。

 

「だって真奈子ちゃんは……まだ子どもっていうか……」

「子どもじゃないですよ、見てください」

「いや、たしかにおっぱいは大きいけど。っていうかすっご……でっか……たゆんたゆんしてる……」

「ほら、よく見てください……子どもじゃない、子どもじゃないですよ~」

「確かに……こんな立派なおっぱいの子どもがいるわけない……」

「そうですよ~、子どもじゃないですよ~、立派な女の子ですよ~」

「立派だ……立派なおっぱいだ」

「恋人ですよ~」

「そうだった、真奈子ちゃんは恋人だった」

「じゃあ、今一番行きたいところへ行きましょう~」

「そうだねー」

 

 そんなわけでやってきたのが、漫画喫茶。

 漫画喫茶というと、ただ漫画を読み漁る場所と思っている人もいるかもしれない。

 逆に、終電を逃したときに、ぼーっとネットサーフィンや動画を見て寝るところという認識の人もいるだろう。

 郊外型の大きな店舗は、家族連れが休日をゆったり過ごすこともあるようだ。

 しかし俺がしたかったのは、そういうことではない。

 ショッピングモールの近くに、この漫画喫茶があることを俺はチェックしていた。

 

「カップルシートで」

「はーい」

 

 店員に言ってみたかったセリフの一つを言えた。

 

「か、かっぷる……」

 

 カップルシートという言葉に反応する真奈子ちゃん。なんか不思議なことある? アベックの方がしっくりくるくらい大人だったっけ?

 お嬢様の真奈子ちゃんは、当然こんな施設のことは知らない。

 

「こ、ここが恋人と来たかった場所なんですね~」

「カップルシートは恋人としか使いたくないな」

「しーちゃん先輩とは来れないんですか」

「妹となんか来るわけないだろ」

「そうですか、うふふふふ」

「さ、入って」

 

 個室に入る。

 とはいっても、壁は非常に薄い。

 

「へ~、小さなお部屋」

 

 足を伸ばせるソファーとパソコンが置いてある。

 かろうじて二人が寝れるかどうか。

 ここに漫画とドリンクを持ち込んでダラダラ過ごす……わけがない。それは普通の使い方だ。

 

「ここに二人で並んで座るよね」

「はい……」

 

 パソコンのモニターを二人で見るような形。

 漫画喫茶のポータルサイトで、Vシネマのバナーが動いている。これを見る……わけがない。

 

「本当にいいのかな」

 

 俺が恋人同士でしたいことは、恋人同士ならしていいものじゃない。

 あまり人には勧められたものではないのだ。

 

「はい、ここで先生が本当に恋人同士でしたいことをお願いします。私は子どもじゃないし~、恋人です」

 

 そうだ、真奈子ちゃんは子どもじゃないし、めちゃめちゃ俺の恋人だ。だから、俺が恋人同士でしたいことをしても、嫌がったり、嫌いになってしまうことはないんだ……。

 

「わかった。ここは、あまり大きな声を出してはいけない。わかるよね」

「そうですね、図書館ほどではないにしろ、こそこそお話した方が良さそうです。ふふっ、なんかくっつけていいですね」

「そう、カップルシートだからね……くっつくしかないんだよ」

 

 肩を寄せ合い、口を近づけ……

 

「ちゅっ」

「ん……」

 

 休日に、家族連れがのんびりソフトクリームを食べながら、少年漫画を読んでいるすぐそばで。

 薄い壁を隔てただけの、この場所で。

 俺たちはキスをしている。

 そのことに興奮する……!

 

「んっ」

「あまり声を出すと聞こえちゃうからね……」

「あっ……はい……」

 

 俺は彼女を抱きしめると、そっと胸に手を当て、ゆっくりと揉み始めた。

 左手は背中に、右手は胸に。

 顔は見つめ合って。

 右手を動かすと、真奈子ちゃんは目を閉じる。

 恥ずかしそうに、気持ちよさそうに。嬉しそうに、せつなそうに。

 その様子を観察しながら、ゆっくりと揉む。

 ときおり、唇をちゅっちゅっと合わせてみたり。

 頬や首すじを軽くついばんでみたり。

 そう、つまり、俺がしたいのは。

 イチャイチャして、ちちくりあう。これしかない。

 

「ん……あ……」

 

 小さく声を漏らす。

 大きな声を出してはいけない、そういう状態だと、この小さな声がたまらなくスリリングだ。

 ホテルなら大きな声を出すというわけでもないのだが、本当ならこんなに我慢しないだろうという気持ちになるからか。

 

「うん……ふうっ……」

 

 この吐息のような小さな声が……すごく興奮する……。

 ただキスをしているだけなのに、この背徳感。

 かといって、映画館でするよりは壁があるだけ安心。

 俺と真奈子ちゃんは、とっくにそうだからいいけど。

 

「あっ……?」

 

 俺が彼女の服のボタンに手をかけたことに、若干驚いた様子。

 じっと見つめると、黙って頷いた。

 俺は最初から全部脱ぐより、こうして少しずつ脱がしていくのが好きだ。

 服の上から揉む。その後、下着の上から揉む。そして下着の中に手を入れて揉む。最後に直接揉む。

 こうやって段々とクライマックスを迎えるのがいい。

 

「かわいいブラジャー」

「……あり、がとう、ございます」

 

 そこまで小さい声になる必要はないのだが、こうして二人にしか聞こえないように喋るのが醍醐味といえる。やはり盛り上がるためには背徳感が必要。

 視覚的にブラジャーを堪能するのも悪くないが、触りたいという欲望に勝てない。

 この自分の欲望に勝てない自分を自覚すると、更に興奮してくる。

 俺は真奈子ちゃんを後ろから抱きしめるように体勢を変えて、ブラジャーの中に指を滑り込ませる。

 

「あん……」

 

 突起に触れると、声が漏れる。

 この反応、たまらないな。

 左手は、太ももを触る。すべすべして、むちむちして。最高だ。

 ブラジャーを外し、ダイレクトに触れるようにする。

 あくまで直接触るためだけで、脱がしてしまうわけじゃないのがポイント。

 確かにここは一応個室なのだが、全裸になっていい場所ではない。

 そもそもこの時点で完全にルール違反のはずなんだが、そういうところを気にしてプレイするのが大事なんだよ。

 

「どう?」

「どきどきします……」

 

 そう。ドキドキすることが目的と言ってもいい。

 なんでわざわざこんなところでイチャイチャするのか。

 

「くんくん」

「へっ?」

 

 髪の匂いを吸い込む。

 こういうことも、カップルシートだとそれっぽい感じがしてくる。

 手を絡ませてみたり、耳を甘噛みしてみたり。

 

「ふえっ? ふええっ?」

 

 真奈子ちゃんは、何が起きているのかわかっていないような感じ。そんなわけないが。俺と恋人同士で何度も何度もしていることだ。

 大きな音さえ出さなきゃ大丈夫、という意味で頭を撫でる。

 

「はう……」

 

 ついでにお尻も撫でる。

 たわむれに、くるぶしなんかも撫でてみたりする。

 子猫とじゃれあっているような感覚だ。

 いろいろなところを、触ったり、舐めたり、嗅いでみたり、抱きしめてみたり。

 すると真奈子ちゃんも、触ってきたり、頬ずりしてきたり。

 最高だ……時間を無為に過ごす方法として最高峰に位置するだろ……。漫画喫茶に来て、漫画を読まず、動画も見ないでネットもしないで。ただ恋人とちちくりあう。

 これが幸せじゃなくて、なにが幸せだっていうのか?

 官能小説ばかり読んでいた俺は、本当に恋人ができたら逆にこうした健全なイチャイチャを夢見ていた。

 

「真奈子ちゃん……」

「ん……」

 

 抱きしめて。

 キスをして。

 口を離して、見つめ合って。

 少し胸を揉んでみたりして。

 また抱きしめて、キスをして。

 今度は深く、長く、舌を入れたり、吸ったり。

 

「ぷは……」

「ふう……」

 

 抱きしめる力を弱め、舌を離す。

 これで終わったとわかるのか、安心したように脱力する真奈子ちゃん。

 ありがとうやら、好きだよやら、いろいろな気持ちを込めて頭を撫でると、くすぐったそうに笑った。

 ああ、なんて可愛いんだ俺の彼女は……?

 

「ん?」

 

 真奈子ちゃんが、俺の彼女?

 は? え?

 ん、ん~!?

 いや、とりあえず落ち着こう。

 そうしている間に、漫画喫茶の個室で、女子小学生と、やってしまったということがわかる……。

 駄目だ、ここはむしろ冷静になっては駄目。

 いつの間にか催眠にかかっていたが、ここは……かかりに行く!

 

「真奈子ちゃん、俺たちってどんな関係だっけ」

「恋人同士ですよー、二人はラブラブな恋人同士です。ずっとお付き合いしてますよ~」

「だよね」

 



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手だけでギャルを悦ばす

「あの、お兄様に?」

「でーす」

 

 本日我が家にやってきた女子小学生(JS)は、ももきゅーちゃん。本名は渋谷百九(しぶやももく)ちゃん。ギャルギャルしい小学六年生です。

 目はつけまつげをつけて、カラコンでシャンパンゴールド。

 髪はイエローブラウンのウェーブのかかりまくったロングヘア。

 肌は浅黒く、ノリは明るい。

 今日はミニスカでルーズソックス着用と、コギャル感満載だ。

 そんな彼女の兄は、どうやら俺の小説の読者らしい。挿絵の桜上水みつご先生のファンでもあり、ただの女児向け小説ではないと見抜いてるタイプの。

 渋谷兄は、ももきゅーちゃんの俺へのバースデープレゼントのアドバイスをしてくれた。自分をプレゼントという、最高のアイデアを。俺だったら絶対に詩歌に言わない。

 ももきゅーちゃんが本日うちに来た理由。

 それは。

 

「アニキの誕生日、どしたらいーかなー?」

 

 渋谷兄が喜ぶ誕生日プレゼントの相談だった。

 ももきゅーちゃんは俺の小説のファンで、兄もファンであるし。渋谷兄は俺へのプレゼントの助言をしてくれているわけなので、俺も最大限お手伝いしたい所存。

 

「アニキのアドバイスでセンセが喜んでくれたじゃん? ってことはセンセのアドバイスでアニキもちょー喜ぶと思うんだよねー」

 

 なんていい妹なんでしょう!?

 もうこの時点で泣くだろ。

 この気持ちをそのまま伝えたら、それだけでいいんじゃないのかしら。

 

「いやー、ももきゅーちゃんみたいな妹がいて幸せだろうなー」

「そお? しーちゃんもかわいーじゃん」

「ん? んー」

 

 まぁ、かわいいかどうかで言えばかわいいけど。

 そんなことよりアレすぎるのが目に余る。

 

「しーちゃんの誕プレでコレだ―っての、ない?」

「詩歌がくれた誕生日プレゼントで嬉しかったものか……」

 

 一応家族のルールとして、誕生日はみんなでプレゼントをあげることになっているから貰ってはいる。

 今年はフィギュアだったな。檸檬ちゃんの。

 

「去年は……ギャルゲーだったかな。妹モノの」

「ゲームかー」

「一昨年は、ラノベだったな。妹モノの」

「ちょい待ち。なんか全部妹モノじゃね?」

「確かにそうだな……」

「妹モノを贈られてアニキは嬉しいの?」

「うーん」

 

 正直あまり意識してないな。檸檬ちゃんは好きだし、ギャルゲーは楽しかったし、ラノベもかなり笑った。それだけだな。

 

「面白ければそれでいいかな」

「そー? 考えすぎかー」

 

 なんかプレゼントに意味があると考えたらしい。んなもんないだろ。

 

「その前は……詩歌もお小遣いがないからな。買ったものじゃなかったはず」

「うんうん。そういう方がいっかも」

「なんだったっけなー。あー、マッサージだったかな。肩たたき券みたいなノリでくれたんだった」

「マッサージかー。なるほどねー。嬉しかった?」

「まー。そうね。詩歌は力なんか入らないし、俺も別に体が凝ったりする歳じゃないけど。嬉しかった感じはあるかな」

「んー。マッサージってどうやんの?」

「あー」

 

 そもそもマッサージというものがわからない。そういうことらしい。小学六年のギャルはマッサージとは無縁であろう。

 

「センセ、ちょっとマッサージしてみてよ」

「俺が? ももきゅーちゃんにマッサージ?」

「イヤ?」

「とんでもない」

 

 ももきゅーちゃんにマッサージしていいとかご褒美しかない。

 俺のベッドにぽいんと寝そべる。ふーむ。マッサージがなにかよくわかっていない女の子にマッサージをしていい。なるほど……。

 

「じゃ、下の方から揉んでいきますね~」

「よろ~」

 

 ルーズソックス越しにふくらはぎを揉んでいく。匂いを嗅いでみたり。ルーズソックスってなんか嗅ぎたくなるよね。なんかお花みたいないい匂いです。

 次に太もも。細い。

 

「どう?」

「揉まれてるーってカンジ」

 

 まあね。別に気持ちいいわけでもないだろうね。だって小学生だよ?

 どこも凝ってないし、元気そのもの。マッサージなんて不要ですよ。

 でもここは気持ちいいかもしれないな。

 

「うわ、ぷりんぷりんだ」

「え? それって褒められてる?」

「褒めてるよー。最高のお尻じゃない?」

「褒められるの好きー」

 

 お尻を触って、それを褒めたら、喜んでもらえる。なんてハッピーな。

 ただ、ももきゅーちゃんがアニキのケツを揉んで褒めるとか、ただの地獄です。これ参考になるのかな。

 とりあえずお尻は重点的に揉みます。幸い、スカートはかなり短いので手を入れやすいです。

 

「うーん、いいお尻」

「やったー」

 

 吸い付くような肌。まてよ、なんでダイレクトに肌なんだ……ぱんつは……履いている。腰の部分には布地がある。なるほど、ティーバックタイプか。女子小学生にしてティーバックですか、さすがギャルですね。

 

「お尻ってこうやって揉むんだー」

「気持ちいい?」

「きもちーよ? センセが上手なのかも」

 

 まあな。マッサージには自信がないが、尻を触ることは多少自信ありだ。

 もみもみもみもみ。

 いいなー。本当にいい尻。ぷりっぷり。エビを超えてますよ。

 

「さて……腰を揉むか」

「……なんかー、つまんなそーじゃね?」

「いやいや、そんなことは」

「……あんまりー、きもちくない」

「そうだね、腰とか背中はあんまり意味ないね」

 

 マッサージにおいて、腰とか背中は重要じゃないよね。足の裏もやってないし。

 

「肩とか首もやめとくか」

「センセに任せるよー」

 

 肩も首もマッサージする場所じゃないよな。どうでもいいもん。

 

「はい、向きを変えてくださいね~」

「は~い」

 

 ころんと転がって、俺と目が合う。

 俺のベッドに、寝転がって、俺と見つめ合うギャル。

 ふ~。

 落ち着け……マッサージするだけだ……。

 

「じゃ、ほっぺたを揉んでいきます」

「はーい」

 

 不思議には思わないようです。

 ほっぺがぷにぷにしてそうで、触りたいから言ってみただけなんですが。

 

「むにむに……」

「ふにゅふにゅ」

 

 わー。やわらかーい。ぷにぷにしてるー。

 あと俺がほっぺたをむにむにしてるのに、マッサージしてもらってるっていう態度だからニコニコしてるー。

 

「ももきゅーちゃんって、かわいいよね」

「んにゅ!? んにゅ~」

 

 ほっぺたをモミモミしてるから普通にしゃべれないのも可愛いな……。

 むにーって左右に引っ張ってみたりして。どうやっても可愛いな。

 しかし本番では、渋谷兄のほっぺたをむにむにするももきゅーちゃんになるのか。地獄だな。

 ふー。かわいかった。マッサージってのはこうじゃないとな。

 

「さて、次は胸か」

「胸って、おっぱい揉むのー?」

「もちろん」

 

 断言します。自信満々に。

 

「へー。そーなんだ」

 

 納得しました。当然だね。

 

「ブラジャーは外してくださいね~」

「は~い」

 

 外すだけでよかったのだが、完全に脱いだ。ブラジャーはレースたっぷりのワインレッド……さすがですね。下はお揃いのティーバックなんですね。ギャルってすげーな。

 服の中に手を入れて、胸を揉む。強く揉むのは駄目だ。大人と違って、これから大きくなっていく胸は優しくしなければ。官能小説にもそう書いてあったからね。

 マッサージにも役に立つ。それが官能小説だね。やっぱり読書は大事です。ちゃんと本を読んでなかったら、いざ女子小学生の胸を揉むときに困るからね。

 

「あ、ん~」

 

 明らかに気持ちよさそうな、ももきゅーちゃん。背中とはえらい違いだ。

 そしてマッサージしているこっちも、えらい違いだ。

 

「ん、んっ」

「固くなってきたな」

「固く?」

「あ、ごめん。固くなってきたのは俺の方」

 

 ただマッサージしてるだけで固くしちゃうとか、マッサージ師失格ですね……。

 

「んっ、ふぁっ」

「気持ちいい?」

「ん、きもちー。あ、そこ」

「乳首だね」

「ここ、きもちーんだね」

 

 乳首は気持ちいい。それをももきゅーちゃんは覚えたようです。よかったね。

 ただ、誕生日にももきゅーちゃんが、渋谷兄の乳首を攻めていたらと思うと……なにそれ……。妹に乳首攻めされたい兄は、あまりいないと思いますね。ええ。

 そう思いつつも、胸はたっぷり触った。俺も彼女も気持ちいいから。なんの問題もないよ。ハッピーしかない。むしろハッピネスしかない。

 

「お腹は……」

「く、くすぐったいよー!」

「そうだね」

 

 お腹もすべすべして、触るのは悪くないが。やめておきましょう。

 そのまま、下にスライドしていく……。

 

「やっぱり、マッサージと言えばここか……」

「そーなの?」

「うん。リンパがね」

 

 よくわからないが、だいたい一番大事なのはここだってみんな言ってる。

 なので俺は脚の付け根の部分を、しっかり揉んでいく。

 

「ちょっと股を広げますね~」

「あ、ぱんつ見えちゃう……」

 

 恥ずかしげが今まで少しもなかったギャルが、突然スカートがめくれることを恥ずかしがる……いいですね!

 

「ごめんごめん、大丈夫。見ないようにするから」

「あんがと。へへ、センセってジェントルだね」

 

 そうです。俺はとても紳士的な男です。

 そもそもブラジャーは見てるから、だいたい想像つきますけどね。ええ。

 ですから、ぱんつは見ないようにして、親指でぱんつを触っていきます。

 

「あっ、んっ」

 

 ももきゅーちゃんは、結構敏感ですね。

 ちょっと親指が股間にあたっているだけなのに。

 

「大丈夫ですよ~。みんなやってることですからね~」

「センセ、なにそれ?」

「いや、なんかここをマッサージするときは、だいたいこう言うんだよな」

「ふーん?」

 

 股間のマッサージ……。

 これ、ももきゅーちゃんが、渋谷兄の股間を揉むってことだよね……なんとなくですが、アウトでは?

 

「どう? 気持ちいい?」

「うん……ちょっとやばい」

 

 やばいんだ……俺もやばいです。

 

「あ……」

「うわ……」

 

 ももきゅーちゃんの顔が、とろんとあへって来たので終了させる。

 

「どうだった? マッサージ」

「うん。きもちーとこ、わかったから、センセにやってみるね」

 

 俺は、尻と、ほっぺたと、胸、特に乳首。そして脚の付け根を揉んでもらった。

 

「どーかな?」

「うん。他のプレゼントにしよっか」

 

 やっぱり、これじゃなかったね。途中でわかってました。

 



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ソープの香り漂う中

「他に嬉しいのあったー?」

「え? ああ……」

 

 妹の詩歌が小六のときが、ギャルゲー。小五がラノベ。そんで、小四でマッサージだったな。小三か……。

 

「お風呂で体を洗ってくれる券だったな」

 

 当時、俺は妹と一緒にお風呂に入っていた。それまで体や頭を洗ってあげていたのだが、その頃自分で出来るようになったはず。

 それでお返しの意味もあって、詩歌が洗う券をくれたんじゃないだろうか。

 

「お風呂か~。じゃ、一緒に入ろっか」

 

 そう言って、自然に俺の手を握り、ベッドから立たせるももきゅーちゃん。

 あまりに自然すぎて、抵抗せずに立ち上がる。

 まあ、我が家のお風呂に女子小学生(JS)が来るのも初めてじゃないし。網走沙織ちゃんなんか撮影してたくらいですよ。

 真奈子ちゃんとも温泉に入ったし。慣れたもんですよ。

 俺の部屋を出て、階段を降りて、廊下を歩いて、パウダールームへ。

 トイレと、洗面台、洗濯機と、そしてバスルームがある小部屋だ。

 

「ん?」

 

 二人で風呂に入るの?

 すっぽんぽんを見られてもなんとも思わない沙織ちゃんと違って、ぱんつを見られることも恥じらっていたももきゅーちゃんでは、わけが違いますよ。

 

「え? 脱ぐの?」

「そりゃそーっしょ」

「え? 水着とかじゃなくて?」

「しーちゃんは水着だったん?」

「んなわきゃない」

「だよね」

 

 え? でも、小三の実妹と、小六のギャルでは全然話がちがくね?

 いや、俺はいいよ? 俺はもう慣れてるから。ももきゅーちゃんが恥ずかしいんじゃないのかなって。ほら、俺は紳士なんで?

 

「ほら、脱ぐんだからあっち向いてよ、スケベ」

「え? お、うん」

 

 脱いでるところを見たらスケベなのに、一緒に入るの? 裸で?

 あれ? 理解できてないの俺だけ?

 とりあえず俺も脱ぐが……下着はこのまま洗濯機に入れられないから、後で自分で洗うしかないな……。

 

「あ、ねえねえ、見てこれ」

「え?」

 

 見んなって言われたのに、今度は見ろと?

 

「ほら、ブラとぱんつ。どう? カワいくない?」

「う、うん。カワいい」

「だよねー。気に入ってんだー」

 

 嬉しそうに下着を見るももきゅーちゃん。ブラはさっき見たけど。ワインレッドだったよね。そんでぱんつは見るなって言われたはずだが。今は見てくれという。わからん……。

 ワインレッドのティーバックだって知ってたけど、きっちり確認することになってしまった。カワいいっていうよりエロいよ。

 

「ぱんつ見られるの恥ずかしくないの?」

 

 ずばり聞いてしまう。こういう気持ちを聞いておくのは、小説のためになるだろう。

 

「え? 履いてるときに見えるのはハズいけど」

「あー。なるほど」

 

 スカートの中や、着替えは見られるのは嫌だが、下着そのものは別にいいということか。

 考えてみれば、俺もスカートの中や着替えなら興奮するが、下着そのものを見てもなんともないもんな。そういう意味では当然か。

 

「じゃ、はいろ」

「うん」

 

 なんでお風呂に入るのに手をつなぐんですか?

 わからないことだらけだ……まぁ、小学六年のギャルの思考回路を一九歳男子がわかるはずもないが……。

 バスタオルを巻いて入るのかと思ったけど、普通に裸だし……もちろん俺はジェントルマンだから見てないが。キレイな肌してるなあ。

 

「はい、座ってね~。こっち見ちゃだめだヨ?」

「うん」

 

 っていうか後ろ向かなくても、鏡に映ってますけどね。俺はジェントルマンだから見ないけど。しかし、スタイルいいなあ。

 足に少しだけお湯がかかる。

 

「熱くない~?」

「あ、大丈夫です」

 

 つい敬語になってしまったが……ここはお店じゃないんですよ。

 あ、お店ってあれだから、美容室のことだから! 勘違いしないでよねっ!?

 ももきゅーちゃんがシャワーで俺の体を濡らしていく……なんかこれだけでも結構気持ちがいい。不思議なもんですね。

 同じことをするにしても、自分でするのと違って、してもらうと気持ちがいい。うーん、奥が深い。もちろんシャワーの話ですよ?

 

「洗っていくねー」

 

 首の後に手が当たる。スポンジじゃなくて手で洗うタイプらしい。

 肩、そして背中に。

 背中を手で洗うというのは自分では出来ないから、新鮮な感じ。

 しかも手がすごく小さい。

 

「背中おっきーなー」

 

 娘みたいなことを言う。詩歌が親父にそう言っていたかどうかは知らんけど。

 

「お兄様はもっと大きいから大変だな」

「確かにー」

 

 渋谷兄は痩せてるタイプのオタクじゃなくて、大きいタイプのオタクだった。ちらっと見ただけだが、印象には残っている。

 ちなみに詩歌が俺の体を洗ったのはスポンジだ。手じゃちっこくて全然無理だし。

 

「立ってー」

「はーい」

 

 お尻も洗われる。男は女性のお尻を触れるのは嬉しいが、逆はどうなのだろうか。

 

「わー。お尻かっこいー」

 

 カッコいい!?

 尻にカッコいいとか悪いとか、あまり考えたことなかった。悪い気はしない。

 

「わ、固ーい。太ーい。すごーい」

 

 脚のことです。ええ。勘違いしないでよねっ!?

 ふくらはぎ、くるぶし、足の裏まできっちり洗われます。気持ちいいです。

 

「座ってー。目はつぶってよー?」

「はい」

 

 前の方を洗ってくれるようだ。詩歌は背中だけだったんだけど……まぁいいか。

 泡の付いた手が、首、肩、胸とだんだん下に。目を閉じている分、余計に感覚が研ぎ澄まされる。優しく、肌がなぞられていく感じ……これは誕生日プレゼントとして申し分ないんじゃないですかね?

 

「お腹も……あ、も、も~……スケベ」

 

 何がですかね!?

 全然わからないですね。まぁ、小学六年のギャルの思考回路ですからね、わからなくて当然なんですね。ええ。

 

「あ、ここは自分で洗うから……もう、大丈夫。先に出てて」

「ん。ハーイ」

 

 俺はボディタオルで体を洗う派だけど、ここは手で洗うよ。みんなそうだと思うけど。

 洗って、シャワーを浴びて出ると、服を着て待っていてくれた。

 何も言わずに、バスタオルで拭いてくれる……なんでこういうところは上手なのか?

 

「全部洗えなくてメンゴ」

「いえいえ、こちらこそ」

 

 渋谷兄は妹にこうされても、こうはならないだろうからな。

 ならないよね? 大丈夫だよね?

 

「でも気持ちよかったし、これがプレゼントならお兄様も喜ぶと思うよ」

 

 うん。間違いない。

 

「え? あー、アニキとお風呂入るのムリー」

「ええー!?」

「アニキに裸見られるのも、見るのもムリだー。これナシ~」

 

 ムリムリと手を振るももきゅーちゃん。今までのなんだったんだよ!?

 

「はい、パンツ」

 

 まるで幼児に履かせるように、広げてスタンバイしてくれている。なんでこんなに手慣れているんですか?

 服を着ると、またしても手をつないでくる。

 階段を登って、俺の部屋に戻る。

 彼女は、俺のベッドにぽすんと座った。手を離さないので、隣に座る。

 

「ていうかー。センセ、サインちょーだい」

「へ? そりゃいいけど、いらないって言ってなかった?」

 

 大ファンだっていうから、あげようかと言ったら、そういうのいいんで、って言われた。結構ショックでした。

 

「アタシはそういうのいらない人なんだけど、アニキは欲しいと思う」

「あー。そういうこと?」

 

 なるほど、俺のサインを誕生日に贈るのね。

 まぁ、俺のサインだけじゃ正直どうかと思うが、桜上水みつご先生の絵が入ってるサイン色紙をいくつか持ってる。それなら十分喜んでもらえるだろう。

 

「そそ。だから、アニキ宛にサイン書いてもらうとして……そんなことよりさー」

「そんなことより!?」

 

 今日ここに来た本題だったのでは!?

 そしてマッサージとお風呂はなんだったんです!?

 

「センセって、アタシのこと好きじゃん?」

「へっ!?」

 

 なんかほっぺた赤らめつつ、くねくねしながら言い始めた。どういうことなんですか!?

 

「カワイイって言ってくれたしさー」

 

 誰でも言うだろ!?

 

「すっごく褒めてくれるしー、やさしいしー」

 

 それだけで!?

 このギャル、チョロすぎるのでは?

 

「あと、ホラ。アレがほら。アレってアタシのこと、好きだからっしょ?」

「……そうだね!」

 

 そりゃそうですよ。

 好きじゃなきゃねえ?

 アレはああならないもん。

 まあ、ももきゅーちゃんのことはもちろん好きだよ。うん。

 

「んでさ、アタシもセンセのこと、好きじゃん?」

「ええっ!?」

「っていうかー、好きかもって思ってたけど~。今日確信っていうか~」

「えええ!?」

「アタシのこと、大事にやさしくしてくれるし。紳士だし、大人だし、でも子供扱いしないでマジで向き合ってくれるし、それでいて女の子として意識してくれてるしー。嬉しいっていうか……ぶっちゃけ好き」

「……」

 

 なんというストレートな告白……何も言えない……。

 これで「チョロすぎでは?」と返すような男にはなりたくない。

 彼女の思いはありがたいが、さすがにこれを受け止めるのは……。

 

「だから、付き合って」

 

 握られてままの手は、ぎゅっと力を増した。

 だが、俺は……。

 

「付き合ったら、恋人同士っぽいこと、いっぱいしよ?」

 

 魅惑的な笑顔!

 え、えっちすぎる……。

 

「あ、アタシは浮気は気にしないから。全然ダイジョーブ。だからデメリットないよ?」

 

 つ、都合がいい女~!

 チョロくてえっちで都合がいい~!

 いやいや、ここで流されちゃうのは……。

 何か言おうとして言えない俺の口を、彼女が塞ぐ。

 

「ちゅっ……ちゅっ……」

 

 キスから伝わってくる。何度も唇と唇が合わさって、そのたびに「好き」という思いが伝わってくるような。気持ちよさ、嬉しさ、それを上回る「好き」という気持ちの連打……脳がノックダウンしそう。

 ゆっくりと顔が離れる。

 

「付き合って。カノジョにして?」

「はい」

 

 断れねー!

 チョロいのは俺の方だー!

 いや、この状況で断れるやつ、そうそういないと思う! 思いたい!

 

「やったー! 初カレピだー!」

 

 バンザイして喜ぶももきゅーちゃん。いや、カノジョか……俺も初カノジョということになる……妹より年下のギャル……。

 

「センセ……いや、んー。さかひさだから~、さかぴね」

「さかぴ!?」

「よろしく、さかぴ」

 

 こうして、さかぴとももきゅーちゃんは、彼氏彼女となった。

 





意外な展開になりました。
私は自分で書いていても作品内でキャラクターが思い通りにはならないタイプでございます。


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天職と思ったら殉職

 

 東京郊外の大きなキャンパス。

 俺の通う専門学校は、大学も併設されており、プールやゴルフ練習場、野球場やボウリング場まで完備。設備は結構充実している。

 ドラマの撮影もよくされていて、たまに戦隊ヒーローが戦っていると「あ、うちの学校じゃん」なんてこともしばしば。

 東京都ではあるが、最寄り駅から専用のバスで通うそこはなかなかの山奥で、野生のたぬきが出没することもある。

 もともと学生数はそれなりに多いが、今日はいつになく賑わっていた。

 

「こちらで予約になりまーす!」

 

 若手人気声優のトークライブの呼び込み。

 

「顔だけでも覚えていってくださいねー」

 

 テレビに出始めたくらいのお笑い芸人の声。

 

「出た―ッ! フライングボディープレス!」

 

 学生プロレスの実況。

 そんな声や音が聞こえてくる。

 今日は、学生気分の最高潮ともいえるイベント。

 学祭だ。

 そこで俺はもちろんカノジョと校内をのんびりとデート……するなんてとんでもない。

 ここで小学生ギャルと付き合ってるなんてバレたら社会的に死ぬよ!

 絶対にバレちゃいけない。

 そして、この俺の現状もバレちゃいけない。

 

「へぇ~、スカート割引だって~」

「300円が50円ってやば! やってこうよ!」

「いらっしゃいませ~」

 

 俺は一人で店番をしている。

 焼きそば屋とか、フランクフルト屋とかが並ぶ出店の一番端。

 この学園祭で担当している出し物は、水ヨーヨー釣りだ。

 お客さんは主に学生。来年受験しようと思っている高校生もいる。

 つまり17歳から22歳くらいの女性ばかりが、俺の目の前でスカートのまま座り込んで水ヨーヨー釣りに夢中。

 その状態がずっと続いている。

 どうしてそんな夢のようなことが可能なのか。

 これは俺の策略によるもの。つまり価格設定が300円、ただしスカートを履いている人は50円に割引する、という値段設定にした。

 もともと男がやるものでもないが、300円払ってまで水風船なんか欲しくもないだろう。そしてスカートの女の子はそのオトク感から、結構遊んでいってくれる。

 結果、目の前には色とりどりのカラフルな光景が広がっている。

 黄色、赤、黒に、白。

 無地に、縞々に、水玉に、レースにリボン。

 まさに絶景だ。

 ヨーヨーのことかって?

 そんなものを見ている暇はないね。

 そう……つまり今、俺はスーパーぱんちら祭真っ最中というわけだ!

 最高だ~!

 学園祭とはいえ仕事がこれほど楽しいものとは知らなかった。

 ひょっとしたら天職かもしれない。一生これで食っていこうかな。

 

東方(とーほー)、店番変わろうか~?」

 

 俺の本名は東方賢者(ひがしかたさかひさ)だが、あだ名でとーほーとか、けんじゃとか呼ばれている。

 彼はクラスメイトで、あまり話したことはない。

 

「いや、いい。大丈夫」

「そうか? それならいいが」

「うん、こっちには来なくて大丈夫だから」

「おー、じゃあ俺はサークルの方いくわー」

「あいあいー」

 

 手を振って見送る。

 

「……あぶねー」

 

 店番を変わったら、ここがパラダイスであることがバレてしまう。

 誰か信用のおける人物でないと、ここは交代できませんな。

 

「よっ、あっ、釣れた~」

「すごーい、わたしも~」

 

 受験生二人組かな?

 仲良くヨーヨー釣りを楽しむ、清楚な紺色の制服姿のお友達……いいですね。スカートの中まで仲がいいんですね、どっちも穢れなき白ですね。

 ……しかしそろそろトイレに行きたい。

 いや、あれだよ?

 おしっこがしたいってことだよ?

 それ以外の理由じゃないですよ。ええ。

 

「おっ、賢者(さかひさ)くん。繁盛してるねえ~」

「小江野さん」

 

 同じ学校に通う、声優科の小江野忍琴(こえのおしごと)さんだ。学園祭に参加しているのは当然といえる。

 うん、小江野さんなら店番を交代しても大丈夫じゃないだろうか。

 

「小江野さん、よければなんだけど」

「うん、もちろんやらせてもらうよ。50円だしね」

 

 俺に50円玉をぽいっと渡して、すぐに遊び始めてしまった。

 うう……トイレ……。

 

「よっ、とっ……逃げるぅ~」

 

 よっ、とっ……ぱかーん。

 膝上丈のスカートがご開帳。

 むっちむちの太ももの奥にサバンナを見た。

 ゼブラ~! そんなの見せられたら困ってしまうま~!

 白と黒の縦縞はいいんだけど、限界が……股間が限界だよ~。

 この状況だと、見ないほうがいいんだろうけど、見ちゃう。だって、男の子だもん。

 

「あ、変態」

「ああ、沙織ちゃん」

 

 続いてやってきたのは網走沙織ちゃん。

 小学六年の女の子である。格好はジーンズ。スカートじゃない。

 これならやらないだろう。

 交代してもらおう……。

 

「沙織ちゃん、もしよかったら」

「やる。楽しそう」

「えっ」

 

 五百円玉を貰って、二百円返した。

 

「そーっと、そーっと……」

 

 沙織ちゃんはヨーヨーを釣るのに夢中だ。こういう娯楽が好きなんだね……。

 店番は交代できない……いや、交代して真実がバレた時、俺は無事でいられるのだろうか。

 わからない……わからないが、あとで尻をムチでどれだけ叩かれてもいいから、今はトイレに行きたい……。

 もうさっきのクラスメイトでいいから、戻ってきてくれないか……。

 

「……」

 

 無言で俺を見つめるものあり。

 

「た、助かった」

 

 彼女は瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)。痴漢されたりセクハラされたりするのが上手などこにでもいるごく普通の女子高生だ。

 柑樹なら、ぱんちらパラダイスの店番をしてもなんとも思わないに違いない。

 

「あの、店番を……」

 

 交代しようと思ったが、看板やら俺やら、客を観察。

 なるほど、というようにピンと人差し指を立てた。

 そして柑樹は、お客さんたちと少し離れた場所で座り、俺に見えるように股を開いた。

 うん、白い肌にピンクのぱんつが眩しいね。

 

「って、ちがーう!」

 

 柑樹はわかっていない!

 いや、わかりすぎている!

 俺の想像や期待を超えるくらい、わかりすぎている!

 違うの、違うのよ。

 普段だったら完璧なんだけど、今は違うの!

 

「……?」

 

 首をかしげる柑樹。おかしい、完璧なはずなのに……という顔をしている。

 確かにここで理解した上で、周りにバレることなく、俺にはサービスしてくれてるし、ぱんつもカワイイ。完璧といえる。

 問題はね、俺と交代してくれのジェスチャーをわかってくれないことなのよ。恋ダンスじゃないのよ。

 

「……!」

 

 もう一度指をピンとさせる柑樹。

 わかってくれたのか。

 柑樹はとことこと俺に近寄る。いいぞいいぞ~。

 

「はい」

 

 そして、ストローを俺の口に。

 

「ありがとう」

 

 ごくごく。

 あー、冷たいコーラだな。おいしい~。

 

「って違ーう!」

 

 おしっこしたいんだって!

 なんで冷たいドリンクくれちゃうの。

 ますますピンチじゃないですか!

 

「そうじゃないでしょ」

「……あ、そうか」

 

 柑樹は自分でちゅーちゅーと吸ってから、もう一度差し出した。

 

「そうそう、ちゃんと間接キスしないとね」

 

 ごくごく。

 

「あー、おいしい~。さっきの百倍おいしい~。って違うわ!」

 

 違うの? と首をひねる柑樹。

 いや、すごく正しい。すごく正しいんだけどね。

 で、俺もさっさと店番代わってくれって言えばいいのにね。こんなノリツッコミなんかしてる暇があったらやれよって思うよね。

 でも、間接キスできて嬉しかったです!

 

「やっほー! き、た、よ!」

「おお! ももきゅーちゃん」

「トイレ行きたいんでしょ、代わったげんよ」

「うわ―! さすが! 頼む!」

「はいはーい」

 

 すげー!

 ももきゅーちゃんのコミュ力半端ないね。

 何も言わずに伝わるとは。さすがギャル!

 もう限界に近い膀胱を刺激しないように、そーっと急いでおトイレに。

 ちゃっちゃとコトを済ませて、舞い戻った。

 小学生を店番にするのは心配だが、さすがにこの早さなら問題ないだろう。

 

「ももきゅーちゃん、おまた……」

 

 あれっ?

 なんか周囲の人がみんな俺を見ているのですが?

 

「あー! さかぴ~。待ってたよ~! みんながあたしみたいな女子小学生と付き合ってるなんて信じられないとか言ってんだけどー! 証明するために、ここでちゅーしよ? ね?」

 

 投げキッスをしてくるももきゅーちゃん。

 そして、その様子と俺を見て完全に白目になっているオーディエンス。

 あはははは。

 俺がトイレに行ってる間の短い時間で、周囲に俺たちの関係をばっちり伝えたんだね。

 ももきゅーちゃんのコミュ力半端ないね。

 俺はおしっこより多くの水分が、だくだくと体から出ていた。

 

「ところで、さかぴ! このお店、すっごいぱんつ見えるんだけどー! もう! スケベなんだから! 言ってくれれば、あたしが見せてあげるのに!」

 

 周囲の空気が凍てついてゆく……!

 さ、寒い!

 吹き出した汗が、一瞬で蒸発していく! 凍えて死ぬ!

 生まれたての子鹿のように足をがくがくさせて、崩れ落ちた。

 

「あっ……あ、あ……」

 

 サイヤ人と対峙したときの孫悟飯みたいな声しか出ない。助けてピッコロさん……!

 そして俺はピッコロさん……ではなく、沙織ちゃんに引きずられながら、その場を退散した。

 





わー、普通のラブコメみたーい。
って、もともとそうだったー。


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カラオケで寝取られ

 

 ピシーン!

 バシーン!

 

「ぎゃあー!」

 

 ここはカラオケルームだ。

 間違いなく、学校の近くにあるカラオケルームだ。

 そこでなんで俺はムチで打たれているんだ!?

 いつものように俺は四つん這いで、馬乗りにされて尻を打たれている。場所がカラオケのステージなのが新鮮だね。スポットライトが当たってるからね。

 なんか普段どおりみたいな言い方だけど、明らかにおかしいよね。

 

「さ、沙織ちゃん。なんでムチを持ってきているの?」

 

 そうなんですよ。

 うちの学園祭に来るのに、ムチはいらないでしょ。

 我が家ならともかく……。

 

「うるさい」

 

 ピシーッ!

 

「ぎゃぼーっ!?」

 

 痛えーっ!?

 ムチを持ってきた理由は聞いてはいけないのか!?

 

「さ、沙織ちゃん。そ、そもそも、なんでうちの学校に?」

 

 そうなんですよ。

 そもそも、なんでうちの学園祭に来たのか。

 

「うるさい」

 

 ピシーッ!

 

「んほーっ!?」

 

 答えが帰ってこねえーっ!?

 大人は質問に答えない。

 それは聞いたことがあるが、女児も質問に答えないんですね?

 ん? 質問に答えずにムチで叩くって、よく考えたら普通じゃないな?

 いくら沙織ちゃんでも、これはおかしい。

 

「ひょっとして怒ってるんですか?」

「怒ってる」

 

 ピシーッ!

 

「怒ってたーっ!?」

 

 尻がもう限界なので、早く怒りを沈めねば。

 今、彼女が怒る理由……ひとつしかあるまい。

 

「ごめん、パンチラパラダイスしてごめん」

「何言ってんだ」

 

 ビシィーッ!

 

「超痛エーッ!?」

 

 なんか間違えたらしい!

 店番してたのに強制的に連れてこられたのは、水ヨーヨー釣りで俺がスカートの中を見まくってたのがバレたせいだと思うのですが。

 他に怒られる理由があるのかい!?

 

「さかぴったら~」

「ももきゅーちゃん……」

 

 ドリンクバーのメロンソーダを飲みながら、足を組んでこちらを見守っていた俺のカノジョ。助けてくれてもいいんですよ?

 

「そーじゃないっしょ。もっと乙女心を考えてあげて」

 

 ヒントをくれたらしい。

 直接助けてくれないんですね……。

 カレシがムチでバシバシ尻を叩かれているというのに……。

 逆の立場だったら俺は……どうしようもないな。だって沙織ちゃんだし。しょうがないか。

 ヒントは乙女心。

 あー、わかった。

 女児向け小説家だからね、乙女心を理解してますよ当然。

 

「沙織ちゃんだけぱんつを見られてないから怒ってるんだね。ズボンを脱いでぱんつ見せて。じっくり見て感想も言うから」

「死ね」

 

 バッシーン!

 

「ンギャーッ!?」

 

 バシーンバシーンパシーンパシーン!

 

「止まらねえーっ!?」

 

 どうやら外したらしい!

 自信があったのに!

 

「あはははは」

 

 ももきゅーちゃんは足をばたばたさせて笑い転げている。助けてよ!?

 笑い事じゃないくらいムチがしなってるんですよ!

 そんな足をばたばたさせてないで!

 

「ちなみに、あたしのぱんつは?」

「めちゃくちゃカワイイ。さっきからチラチラ見えてるけど、目が離せないもん。さすが俺のカノジョだ、ぱんつのセンスが」

「死ねっ」

 

 ぺしょっ!

 

「クソ痛エエーッ!?」

「あはははは」

 

 尻じゃなくて太ももに当たってるから!

 痛すぎて死ぬ!

 ももきゅーちゃん、マジで笑ってる場合じゃないんですよ! 太ももは駄目だって!

 ったく、これはもうびしっと叱るしかないな。

 

「沙織ちゃん、自分のぱんつは見られたくない、他人のぱんつも見てほしくない。そんなワガママばっかり言っちゃ駄目だよ」

「それが普通。死ね」

 

 ピシーッ! バシーッ!

 

「アーッ!? ごめんなさい、もう謝るから許してください!」

 

 俺は正しいことしか言ってないと思うが、暴力の前には正義も屈するしかないのか……。力こそジャスティスなのか……。

 

「ふー。疲れた」

 

 疲れるまでムチを振らないでほしい。

 

「あはは。終わったみたいだね~。さかぴ、叫んで喉乾いたっしょ?」

「うん、カラカラだよ」

「口移しで飲ましてあげよっか」

「お、それはいいねって、痛えぇーッ!? 終わったんじゃなかったの!?」

「今のは渋谷が悪い」

「あはは、メンゴメンゴ」

 

 ももきゅーちゃんが悪いのになんで俺が!?

 いや、ももきゅーちゃんにムチ打たれても困りますが。

 

「喉乾いた」

 

 沙織ちゃんは俺の上からようやくどいて、炭酸のオレンジジュースを飲んだ。

 そしてももきゅーちゃんが座っていない方の座席に座る。

 俺はももきゅーちゃんの隣に腰を下ろし、コーラで一息ついた。ふー、氷がいっぱい入ってて冷たいぜ。

 

「……」

 

 沙織ちゃんはつめた~い目で俺を見ていた。氷どころかドライアイスですね、これは。

 

「ももきゅーちゃん」

 

 顔を近づけて、ひそひそ話だ。

 

「なーに、さかぴ」

「なんであんなに怒ってんの?」

「あはは。こういうことしてるからじゃん」

「こういうこととは……」

 

 ちゅっ

 

「こういうこと」

 

 頬にキスされた途端、足にムチが飛ぶ。

 

「痛エーッ!?」

「ハグしてみよ」

「痛エーッ!?」

「膝枕してみたりして」

「痛エーッ!?」

「わかった?」

「ええ……」

 

 ちょっと待って?

 ももきゅーちゃん、だとすると俺が攻撃されることをわかっててやってましたよね?

 実戦形式で教えてくれるんじゃなくて、言葉で教えてくれてもいいのよ?

 

「うーん」

 

 俺とももきゅーちゃんが、イチャイチャすると怒るってことか?

 仮説は実践して立証しないと真実にならない、実に面白いってガリレオが言ってた気がするな。

 

「ももきゅーちゃん、ちゅっ」

「あ、やん」

 

 ピシーッ!

 

「ぎゃ、ぎゃあー! やっぱり!?」

 

 どうやら合ってるみたいです!

 検証のためにダメージを受けたよ!

 実に面白くない!

 

「と、いうことは……沙織ちゃんが怒っているのは……俺とももきゅーちゃんが付き合ってることなのかな」

「……」

 

 どうやら合ってるっぽいぞ……どういうことなのだ。

 それが嫌だということは……?

 

「ま、まさか……」

「……」

「わかっちゃった?」

 

 俺は沙織ちゃんとももきゅーちゃんの顔を交互に見ながら、顎に手をやる。

 

「自信はないんだけど、ひょっとしたら……」

「……」

「うんうん、言ってみ」

 

 沙織ちゃんは、睨んでいるものの顔は赤い。やはり……?

 

「沙織ちゃん、ひょっとして……」

「……」

「……」

「好きなんじゃないのかな……」

「……ああ……」

「……おお……」

「ももきゅーちゃんのことを」

「……ん?」

「……ほ?」

 

 沙織ちゃんはももきゅーちゃんが好き。もちろん恋愛的な意味で。

 だから俺を攻撃した。これなら納得だ。

 沙織ちゃんは「お稲荷様が見てる」っていう百合小説のファンだし、そういうこともあるでしょう。うん、なるほどね。

 

「ももきゅーちゃんを奪った俺が憎いってことか……」

「や、さかぴ、それは」

「そう」

「えっ?」

「そう。そういうこと」

「やっぱりそうだったか……」

「えー」

「だから二人を別れさせる」

 

 きっぱりと言い切られてしまった。

 でも、なんだか冷たい怒りの空気は消えて、なんか沙織ちゃんの目がキラキラし始めた。沙織ちゃんが怒ってるのはツライので、とりあえずよかった。

 やっぱりムチはもっと優しく叩いてくれないと。怒り任せじゃ気持ちよくないですからね。

 

「どうせ変態がえっちな誘惑に負けて流されて恋人になっただけに決まってる」

「な、なん……」

 

 なんでわかったんだ……という言葉を飲み込む。

 さすが沙織ちゃん、恐るべし……。

 

「ふーん。そっか、そうくるんだ」

「容赦しないから」

 

 バチバチと視線を交差させる二人……沙織ちゃんは好きな人相手にこれだけ攻撃的な顔をするとか、ほんと生粋のドSなんですね……。

 これはももきゅーちゃんがムチで叩かれるプレイの餌食にならないように、守らなければならないかもしれない……。

 それはそれとして。

 

「ももきゅーちゃん、ちょっと沙織ちゃんにちゅーしてあげて」

「えっ!?」

「はっ!?」

 

 さすがに罪悪感もあるからね。

 まさか沙織ちゃんの好きな人を奪ってしまったとは。

 俺にとって沙織ちゃんは、とても大切な存在。そうと知っていたら付き合うこともなかっただろう。

 

「俺とももきゅーちゃんが別れるわけにはいかないけど、沙織ちゃんが好きだっていうなら独占できないからね」

「……」

「ぷっ……さすがあたしのカレシ」

 

 ぽかんとする沙織ちゃんと、思わず吹き出したももきゅーちゃん。

 沙織ちゃんも驚いたようです。俺は沙織ちゃんのためなら自分のカノジョのキスくらいは差し上げちゃうよ!

 

「ももきゅーちゃんのちゅーはめっちゃ気持ちいいからね」

「そうそう。きもちーよ?」

「なっ……くっ……」

 

 どうやら沙織ちゃんは、俺の度量の大きさに驚いているようですね。

 

「ももきゅーちゃん、やっちゃって」

「はいはーい」

「え、え……ん」

 

 ももきゅーちゃんは、カラオケのソファー座席をする~っと移動して沙織ちゃんに近づくと、濃厚なキスを始めた。

 

「ん……あ、んん……舌が……はっ、んっ、ふっ」

「ん……さかぴと、全然違う……んっ」

「くっ……はあ、ふう」

「れる……んっ」

「あっ、はっ……」

 

 ……おいおい!

 スゴイことになってますよ!

 写真撮っておこう!

 

「ああ……あ……」

 

 沙織ちゃんは、目をとろーんとさせて、体がくてりとなった。

 うん、好きな人とキスできてよかったね!

 あとこの写真はなんかスゴく捗りそうです!

 




鈍感系主人公はあまり好きじゃないので、よくわからない状態で放置しないというこだわりがあります。
勘違い系主人公は別に嫌いじゃないのです。


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漏らしたのはため息と吐息と

 カラオケルームを出た俺たちは、何もなかったかのように小江野さんに会いに行った。沙織ちゃんも「え? 今日来た理由? そ、そんなの忍琴さんの応援に決まってる」って言ってたし。そりゃそうだ。俺の水ヨーヨー釣りなどが目的で、こんな遠くまで来るわけもない。

 沙織ちゃんは、小江野さんがお稲荷様が見てるというアニメのオーディションに参加するときから仲良しになっている。結果はまだわからないらしいが、沙織ちゃんが応援してるわけだし、いい結果になるに違いない。

 小江野さんは俺と同じ専門学校の声優科。学祭では舞台で朗読劇をするそうだ。

 ミュージカル科やミュージシャン科など、エンタメ系の学科も多いうちの学校にはそれなりの劇場がある。

 俺と沙織ちゃん、ももきゅーちゃんの三人は最前列をゲットした。

 目の前の舞台では数人の男女が、椅子に座って台本を持っている。

 

「へー、セイユウって何かと思ってたけど、声のお芝居なんだー。スーパーじゃないんだー」

 

 俺のカノジョは、声優をご存じなかったようです。小学生のギャルじゃ、そんなもんですかね。あのスーパーだと思ってたとは。ということは、みなさまのお墨付きブランドはご存知みたいですね。ちなみに小江野さんのカラダは俺のお墨付きですよ。

 それはともかく、ももきゅーちゃんは脚をぶらぶらさせてご機嫌に見えるが、もうひとりが気にかかる。なんかつまんなそうというか。水ヨーヨーを釣っていたときのほうがよっぽど楽しそうだった。

 そう心配しつつも。

 

「ねえねえ、さかぴー」

「なんだい」

「呼んでみただけー」

「おいおい……」

 

 ギャルのカノジョは、息を吸う如くイチャついてくる。

 ニコニコしているももきゅーちゃんの、反対側を見ると……。

 

「は~」

 

 ため息だよ……。

 しかも睨んでる……。完全に俺を睨んでいる……。沙織ちゃんはももきゅーちゃんのことを好きだから、目の敵に……。

 でも、俺は沙織ちゃんのことが好きだし、ちょっと親切にしてご機嫌を伺わないと。

 俺は学祭のプログラムを取り出した。

 

「ほら、沙織ちゃん。演目はこれらしいよ」

「ふーん」

「あれ? 興味ないの? 小江野さんの応援のためにはるばるこんな山奥の学校まで来たんじゃ……」

「あ、ある! あるけど、別に内容はどうでもいいし。忍琴さんの芝居を応援するだけだから! そんだけ!」

 

 そう言う沙織ちゃんは、焦っているというか、顔を真っ赤にしている……。芝居を応援するためだけに、ここまで来るのはやりすぎというか、恥ずかしいということかな……確かに、ちょっと仲がいいだけならそこまでしないよな……ん!?

 

「そうか、そういうことか……!」

 

 そもそもわざわざ一時間以上も電車に乗って学祭に来るなんて、なんでだろうと思っていたのだが。

 つまり沙織ちゃんは、小江野さんにラブ!

 なるほど、好きな人がいるからという理由なら納得ですよ。

 ようするに好きなのはももきゅーちゃんだけじゃなくて、小江野さんのことも好きだったというわけですか。なーんだ、沙織ちゃんと俺は似たもの同士だったんですね?

 それにしても、そうですか、沙織ちゃんが小江野さんを。

 沙織ちゃんはまだ見ぬ小江野さんが出る予定の舞台をぼんやりと見ている。

 

「ふ~」

 

 沙織ちゃんの吐息は、まさに恋する乙女といった感じだ!

 あら^~

 いいですワゾ~

 レズものはあまり好きじゃなかった俺だが、百合の魅力はわかってきたのよほ~。小江野さんにベタベタする沙織ちゃんを妄想していたら、アナウンスが流れた。

 

「声優科による、朗読劇。学校の怪談です」

 

 始まった。正直、怪談は興味ない。学校の猥談がよかったな。

 スポットライトを浴びた男が語りだす。

 

「誰もいない音楽室から、ピアノの音が……」

 

 はあ。そうですか。

 昔はそれでも怖かったのかもしれないが、今どきどうとでもなるだろう。自動再生するピアノもあるし。怖くないです。

 誰もいない音楽室の話が終わると、次の男に交代した。

 

「階段の数が一つ多い……」

 

 だからなんだよ。別にどうでもいいだろ。

 興味ない。次。

 

「なんと、人体模型が動いたんです」

 

 ダッチワイフも動いたらいいのになー。

 次。

 

「女子トイレの一番奥、そこには花子さんがいるという……」

 

 ほう。ちょっと興味あります。

 学校の女子トイレ。それは俺も入っていいということなんでしょうか?

 怪談が本当かを確かめるため、女子トイレに潜入するか……仕方がないな……。

 

「これは花子さんに会いに行った一人の女生徒の話」

 

 次にスポットライトが当たったのは、丸い眼鏡の女の子。丸顔でほにゃっとした敵を作らなそうな顔だ。イギリスのファッションと思われるデザインのワンピースは、ちょっと頑張っておしゃれしている感じがあってとても良い。

 

「花子さん」

 

 いいですねー。さすが声優になりたいだけのことはあって、声がカワイイ~。純真無垢というか、汚れを知らない少女の声だ。いつか俺の原作がアニメ化したら参加して欲しいね。レイプされる女の子役にぴったりの声です。

 

「なぁ~に」

 

 おお! スポットライトを浴びたのは、白いブラウスと青いジーンズでも溢れる色気。後ろで縛っただけの髪型でもセクシー。むっちむちぱっつんぱっつんボディで、一所懸命に幼い声を出そうとしている小江野さんだった。

 水ヨーヨー釣りのときはスカートだったので、わざわざ地味な格好に着替えたっぽいですね。

 演技はさっきの女の子に比べると下手くそだなあ。でも、レイプされる女の子にはぴったりの声です。二人とも原作者の力でなんとか起用したいですね。

 それにしてもトイレの花子さん役なんて、大抜擢じゃないですか小江野さん。枕営業でもしたのかな? 俺にもして欲しいですね?

 

「花子さん、いるの?」

 

 おどおどとした少女の声。いいですね~。

 小江野さんもがんばってー!

 

「ピンクの地獄と、バイオレットの地獄、どっちがいい?」

 

 随分エロティックな色のチョイスですね、トイレの花子さん。

 きっとピンクの地獄は、可愛い系のサキュバスに囲まれる地獄。

 バイオレットは、セクシー系のサキュバスに囲まれる地獄であろう。なんて悩ましい二択なんだ!

 左に座っている俺のカノジョはどう思いますか?

 

「すっごー。おっしー、すごいねー」

 

 音が出ないように拍手しているももきゅーちゃん。優しいなあ。沙織ちゃんは厳しい意見が出そうだと思いながら右を見る。

 

「……」

 

 座ったままで固まっており、目は開いているが動いていない。

 あれ?

 沙織ちゃん?

 おーい。

 沙織ちゃんの目の前で手を振ってみるが、反応がない。

 ま、まさか小江野さんの演技が下手すぎて気絶してしまったのか!? そこまではひどくないと思うけど?

 

「ん……?」

 

 なんか、椅子の下が濡れている……?

 というか、沙織ちゃんのジーンズも濡れてないか?

 なんとかしなければと思うが、反応のない女の子をいきなり触るのは紳士的でない。

 

「ももきゅーちゃん、ちょっとこれ」

「ん? うわっ、やばっ」

 

 ももきゅーちゃんは、沙織ちゃんの様子を見るなり肩を抱いて出ていった。うーん、一体どういうことなんだ。

 沙織ちゃんの座っていた椅子を触る。びしょびしょだ……。

 

「ぺろり」

 

 うーん、これは……おしっこだな……。女子小学生らしい味だ……。

 

「ぺろり」

 

 間違いない。おしっこ。一応もう一回舐めるか。

 

「ぺろり」

 

 やはり確実に、沙織ちゃんのおしっこです。この味、間違いない。

 それにしてもどうして。

 怪談が怖くておしっこを漏らした……ってことはないだろう。むしろ怪談の方が沙織ちゃんを怖がるならわかるが……。

 あれかな? 大好きな小江野さんの芝居に影響されすぎて、ここがトイレだと思っちゃったのかな? これはピンクでもバイオレットでもなく、イエローな地獄なのかな?

 トイレの沙織ちゃんがいなくなっちゃったが、小江野さんの演じるトイレの花子さんは目に焼き付けておかねば。トイレの沙織ちゃんのためにも。

 

「二宮金次郎像が……」

 

 終わってたー!

 もうトイレの花子さんの話は終わっていたー!

 それにしてもこの演目つまんねえ―! 

 

「声優科による、朗読劇。学校の怪談でした」

 

 終わったよ。おしっこの味くらいしか覚えてないが……。

 ぱちぱちぱち……と、それなりの拍手だった。

 

「この後、声優科による物販コーナーがありますので、よろしければぜひお立ち寄りください」

 

 物販コーナーとな?

 これは行くしか無い。

 

「小江野さん」

 

 舞台横の廊下で、立っている小江野さんに声をかける。

 緊張していたのか、俺を見ると少しほっとしたようだ。

 

「あ、来てくれたんだ。ありがと」

「当たり前だよー」

 

 小江野さんだって俺の水ヨーヨー釣りに来てくれたわけだしね。そしてストライプのぱんつを見せてくれたわけですからね。50円払ってまで。こっちが払いたいくらいですよ。

 

「それにしてもトイレの花子さんなんて大抜擢だね。すごいね」

「聞いてくれたんだー。ありがと」

 

 照れくさそうにする小江野さん。枕営業で手に入れたとは思えない喜びようだ。

 

「じゃ、小江野さんのコスROMを貰おうかな」

「えっ? コスROM?」

「あるよね、コスROM。コスプレ写真集めたやつ。写真集でもいいけど、あれでしょ? ポロリしたやつはROM限定でしょ?」

「何言ってんの!?」

 

 照れくさそうにする小江野さん。いや、恥ずかしいのかしら。ポロリしたやつのことは秘密だったのかしら。あっ、わかった!

 

「ひょっとしてポロリはDL限定だった?」

「だから何言ってんの!? ないから。コスROMないから」

「ええ~? ま、まさか動画があるとか?」

「ないから」

「どうして……」

「どうしてって、声優科だって言ってんでしょ」

 

 ふうむ……。

 小江野さんは、声優にしては演技はイマイチだが、そんじょそこらのグラビアアイドルよりはるかに顔もスタイルもいいからね。

 ちょっと残念だが、健全でも買おう。

 

「じゃあ……普通の写真集でもいいよ。できれば下着か水着なら嬉しいけど」

「だから、声優科はそういうのないって!?」

 

 ええ……?

 だって、声優って写真集とか出すじゃん……グアムとかオーストラリアとかイタリアとかおとぎ話の世界で撮影するんでしょ、知ってますよ?

 

「じゃあ、小江野さんが出てるやつは何があるの」

「え、自分が出てるやつ……買ってくれるんだ」

「そりゃそうだよ」

 

 他の何を買うっていうんだよ。

 コスROMがあるなら、眼鏡の女の子のやつも買おうと思ってましたけどね。意外と大胆なんだよね、ああいう女の子って。

 

「ドラマCDがあるんだよ」

 

 なるほどなるほど。

 小説には文章だけの魅力があるように、音声だけの魅力もあるからね。俺は好きだよ?

 

「じゃあ、18禁のやつ全部ください」

「18禁のは無いよ!?」

 

 ええ……?

 18禁が無い……?

 待って、18禁じゃないドラマCDって何……?

 

「ちょっと? ちょっとー? おーい?」

「ああ、ちょっと絶望のあまり三途の川超えそうになってた」

「そんなに!?」

 

 軽く頭を振る。気を失いかけたが、口の中に酸っぱい液体が残っていたから、正気に戻れたよ。ありがとう、沙織ちゃん。

 

「まあいいや、出てるやつ全部買うよ」

「そ、そなんだ……ありがと……」

「他は?」

「歌のCDがあるね」

「それも買うよ」

「あ、ありがと……」

「今度コスROMも作ってね」

「うん……」

 

 よし、うんって言ったね。絶対だからね。言質取りましたよ?

 

「じゃ、トイレの沙織ちゃんが心配だから行くよ」

「うん、じゃね……トイレの沙織ちゃん……?」

 



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女スパイ

 

「こんにちは」

「……はい、こんにちは」

 

 インターホンに出ると、意外な人物だった。

 いまどき、普通は事前に連絡も無しに訪問しない。

 

「お邪魔していいですか」

「いいです、よ」

 

 断る理由もないので、部屋にあげる。

 今日はメイド服ではなく、地味な格好だ。珍しく眼鏡をかけている。

 彼女は瀬久原柑樹(せくはらかんじゅ)。漫画家を志す女子高生だ。俺の小説のメインヒロインであるメイドのメイちゃんにそっくりの容姿で、二重で目の大きい、ちょっと丸顔の美少女です。

 あまりに似ているため、身長は158cm、体重は44kg、ブラジャーはBカップというメイのプロフィールは彼女のデータをもとにしているくらい。

 ただし、表情や雰囲気は妙に大人びているというか、落ち着いている。

 メイは元気で明るくちょっとドジという、典型的な少女漫画の主人公みたいな性格だ。

 柑樹の内面はメイとは正反対と言っていい。基本的にポーカーフェイス。はっきりいって、何を考えているかよくわからない。アンドロイドかもしれないと思うくらい。

 そして今も何を考えているかわからない。なんでうちに突撃してきたの。

 

「……」

 

 とりあえずリビングにお通ししたが、なんの反応も無し。

 

「……」

 

 とりあえずお茶を出したが、なんの反応も無し。

 どうしよう。

 とりあえずお尻でも触っておくか?

 

「ずず……」

 

 いや、我が家でお茶をすすってる女子高生にいきなり痴漢するなんてできないが。あれは誕生日プレゼントだからね。来年までお楽しみに待っておきましょう。

 

「えっと、今日はなんの御用で」

 

 ストレートに聞くことにした。

 

「バイトです」

「バイト?」

 

 そんな募集してたっけ?

 俺に痴漢されるバイト、時給1500円。いいですね。2時間くらい働いていくかい?

 

「スパイのバイトです」

「スパイのバイト!?」

 

 スパイっていうのはバイトでやるようなものではないのでは!?

 そしてスパイっていうのは、スパイだってバレてはいけないのでは?

 そもそも、インターホンを押して入ってくるのはスパイとしてどうなのか?

 ツッコミどころが多すぎる。

 しかし、スパイという言葉の響き。いかにも小説のネタになりそうですね?

 スパイだとバレて、えっちな拷問をされるという流れでしょ?

 そういうのいいよね~。

 

「誰に雇われたんだ!」

 

 言わないと……げへへ。わかってますね?

 

「清井のお嬢様です」

「言っちゃったよ!?」

 

 なんで雇い主をすぐ言っちゃうの!

 そんなスパイいないだろ!

 ちゃんと俺にいろいろされてから吐きなさいよ!

 

「っていうか……なんで真奈子ちゃんが?」

 

 確かにスパイとして人を雇う財力がある知り合いは、清井真奈子ちゃんくらいしかいないが。

 うちにスパイを送り込む理由がわからない。

 

「ひょっとして、詩歌を?」

 

 うちの変な妹の弱みを握ろうというのか!?

 

「いえ、対象はあなたです」

「あ、そうなんだ」

「はい」

 

 だからなんで言っちゃうの。

 真奈子ちゃん、この人スパイに向いてないですよ。素直すぎて。

 しかし俺をスパイしてどうするんだ。

 

「なんで?」

 

 いっそ聞いちゃおう。

 聞かれたら全部答えちゃうわけだから、聞いちゃえばいいじゃない。

 

「それはわかりません」

「わかんないのかよ!」

 

 目的も知らずにバイトしちゃったよ!

 中身を知らずに運び屋とかしそうで、心配だよ!

 

「でも時給4000円です」

「高いよ!?」

 

 そりゃ金に目がくらむよ!

 っていうかそこまで払って一体俺の何をスパイする気なんだ!

 

「しかし、そうか……スパイか」

「はい」

「スパイなら身体検査しないといけないな」

 

 そう。危険な武器を持ってるかもしれないからね。

 

「甘んじて受けます」

 

 無防備に立つ柑樹。スパイなのに素直すぎるんだよなあ……。

 

「眼鏡は外さなくていいからね」

 

 俺は眼鏡と靴下はつけたまま派だからな。

 ただ、今回は靴下は脱いでもらうことになるが。

 

「じゃ、脱いで」

「はい」

 

 ボタンを外していく……。

 脱がす方がエロいと思っていたが、脱いでいるのを見るのもエロいな……。

 ブラウスがソファーにかけられ、水色のブラジャーが目に飛び込んでくる。

 

「ふむ……上は何も持っていないようだな」

 

 なんてね!

 一応それっぽいことを言っておくけど!

 そんなことはどうでもいいね!

 柑樹は肌がキレイだね~。

 

「……」

 

 靴下とジーンズを脱いでいく柑樹。

 のぞき部屋みたいですね。

 むしろのぞき部屋だったら、時給4000円も納得ですよね。

 そう考えると、これは妥当なバイトなのかもしれないですね?

 

「ふむ……下も特に持っていない」

 

 っていうか、ぱんつだね。

 ぱんつっていいよね。なんでこんなにエロいんですかね。学祭のときはピンクのぱんつでしたが、今はブラジャーとおそろいの水色のぱんつです。パステルカラーが好きなのかな? 俺も好きだよ!

 

「下着の中に危ないものを隠しているかもしれないな」

「脱ぎますか?」

「いや、それには及ばない。上から触るだけで十分」

 

 脱いでしまったら、触る口実が無くなっちゃうからね。

 勝手に脱がないあたり、やはり柑樹はよくわかってる。

 

「はい、ばんざーい」

「ばんざーい」

 

 どきどき……痴漢もよかったが、身体検査というのもいいですね……。気持ちの問題ですけれども……。

 

「ふむ……」

「……」

 

 ブラジャー越しに触るというのも、趣がありますね……。

 大事なところは固くてちゃんと揉めないというのがね……それはそれでという感じですね。

 お次は下半身だ。

 

「ふむふむ……」

「……」

 

 ぱんつ越しに揉む。これは最高だな。直接触るより興奮しますよ。

 相変わらずやわらっけー。偏差値78をキープしてるわ。

 初めて会った日も、こうして触らせてもらったよな……。しみじみ。

 お尻の間にもちゃんと指で確認。何も入っていないな。よし。

 

「ぷにぷに」

「……んっ」

 

 前も確認。ちょっと声が漏れましたね。残念ながら何も入っていません。

 

「どうやら何も持っていないようだね」

「はい」

 

 まぁ、別に疑ってないけどね!

 服を着ている様子をガン見しながら待つ。着替えの時に目をそらすなんて失礼だからね。紳士としては、ちゃんと着替えを見守る義務があるよ。紳士として。

 服を着た柑樹がソファーに座るのを見届けてから、俺も着席した。レディーファーストですよ。紳士だねえ~。

 

「そういえば、この前の学祭はどうして? あれもスパイ?」

「コミック学科があるので」

「あー。ひょっとして進学したい感じ?」

「検討中です」

 

 なるほどなー。

 うちの専門学校のコミック科は、ストーリーの作り方とか表現みたいなことももちろんだが、デジタルの漫画ツールの使い方とかをきっちり教えるらしいからね。

 柑樹はパソコンを持っていないし、画材を買うお金にも困っているから表現方法が限られている。

 しかし親の支援無しに専門学校に行くのはなかなか大変だろう。

 そう思うと、このスパイのバイトも役になっているのかもしれない。よし、ずっとスパイしていいよ。その代わり毎回身体検査は受けてもらいますが。

 それにしてもやはりスパイをする理由がよくわからないな。

 

「しかし、なんでわざわざスパイなんて。真奈子ちゃんが自分で来たらいいだろうに」

「お嬢様は引きこもっているそうです」

「ええっ!?」

 

 真奈子ちゃんが引きこもりに!?

 そんなバカな。

 この前一緒にショッピングモールで遊んだばかりですよ?

 一体何があったんだ……。

 

「ところで、彼女が出来たとか?」

「ん? あ、うん……」

 

 この質問、なんでタイミングで? まるで関係ないと言うか、藪から棒だな……。

 

「実は、ももきゅーちゃんと付き合うことになりました」

「ふ~ん」

 

 ふーんて。

 聞いておいてソレはないんじゃないですかね?

 ん? 待てよ?

 

「ま、まさか柑樹も俺のことが好きで、付き合いたかったとか?」

「いえ、別に」

 

 なんだよ!

 じゃあ、なんでそんなこと聞くのよ!

 ちょっと期待しちゃって恥ずかしいじゃん!

 ……じゃあ、アレか。

 アレな意味でのスパイか。

 絶対に負けられない戦いになるのか。

 

「あれですか。小学生と付き合うなんてヤバいとか、そういうことですか?」

 

 そういうこと言う人いそうだなとは思ってるんですよ。

 だけどね、障害がある方が恋愛は盛り上がりますからね!

 俺はももきゅーちゃんが、小学生だから付き合ってるわけじゃない! 彼女がえっちだから付き合ってるんだ! 年齢なんか関係無いんですよ!

 

「いえいえ、滅相もない」

「滅相もない……?」

 

 てっきりロリコンの証拠を見つけて通報するためのスパイかと思っていました。

 そうじゃないのはよかったが、滅相もないってどういうことだ?

 せいぜい「別にそうじゃないです」とかくらいだろ。普通は。

 

「小学生と付き合うのはイイことに決まっています」

「えー!? そうなの!?」

 

 まさか推奨されるとはね。

 柑樹に言われると頼もしいですね。

 でも「女子高生の方がおすすめですよ」とか言って誘惑してきて欲しかった気もしますよ。

 彼女は眼鏡をちゃきっとさせて、俺を見つめる。やだ、テレちゃう……。

 

「でもどうして彼女を選ばれたのでしょう。仲のいい女子小学生がいっぱいいるのに」

 

 なんかインタビューみたいになってきたな。

 これスパイ活動じゃなくてインタビュアーじゃね?

 

「そうですね……」

 

 手を組んで、目を閉じてみる。

 なんとなく勿体ぶっているだけで、別になんにも考えていない。こういうのは雰囲気が大事なんですよ。ふーむ。

 

「選んだ、というのは違うかな」

 

 手を無駄に動かしてみたりして、なんかカッコいい感じを演出。

 

「選んでもらった、ってコト」

 

 脚を組み替えてドヤァ。決まったな。

 

「つまり、彼女から恋人関係を提案されてそれを承諾したということですか」

「……まぁ、そう」

 

 過剰な演出をしているのに、本質を暴くのやめてもらっていいですか?

 

「そのときの状況は?」

「え? そうだな……」

 

 キスされまくって籠絡したとは言えない……。

 

「なんというか、情熱的なアピールをされてね」

「つまり肉体的に迫られたってことですか」

 

 そう言われると俺がエロに目がくらんだけみたいじゃん!? やめてよ!

 

「言葉では伝えきれないくらい、好きだって伝わってきたからだよ」

 

 そう。そういうことなんですよ。

 俺はね。

 ももきゅーちゃんの気持ちを受け取ったんですよ。

 

「恋人になったらもっとエッチなことしてあげるとか言われたんですね?」

「なんでわかったんだよ!」

 

 なんでわかったんだよって言っちゃったよ!

 

「違う、違いますよ?」

 

 これはね、あれだよ。

 俺というよりも、ほら、ももきゅーちゃんの名誉に関わりますよ。

 

「失礼します」

「な、なんだ?」

 

 無防備に俺に近づいてくる。まさか殴られるのか?

 

賢者(さかひさ)様」

「えっ? えっ?」

 

 しなだれかかってくる。

 受け止めようとするが、どこを触れていいのか困り、結局俺の脚の上に座られてしまう。

 

賢者(さかひさ)様」

「はい」

「実は好きです、付き合ってください」

「えっ? えっ?」

 

 困惑のまま、俺は唇を塞がれる。

 舌が……なんか震えてるし……勇気を振り絞ってしてくれているのがわかる……。

 そうか、スパイなんていうのは嘘に違いない。

 俺がももきゅーちゃんと付き合うと知り、俺のことを本当は好きだった柑樹は居ても立っても居られずに会いに来た。

 そして手段を選ばずに俺を恋人にしようと……なんてこった、そんなに俺のことが好きだったなんて。

 

「ほら、こんなにどきどきしています」

 

 そう言って俺の右手を胸に当てる。

 こちらから触るより、触らせられるというのは嬉しい……。

 

「彼女と別れなくてもいいので、どうか……」

 

 二股でもいいから付き合いたいというのか……。

 よし、俺も男だ。覚悟を決めよう。

 

「わかったよ、柑樹。付き合おう」

「はい、よくわかりました。さっきのは嘘です。付き合いません」

「だ、だ、騙したなあー!?」

 

 ひ、ひどい!

 ひどすぎる!

 男子のピュアな気持ちを弄びやがって!

 ついていい嘘とそうじゃない嘘があるだろ!

 

「バイトはこれで十分なので、そろそろ帰ります」

「本当にバイトなのかよ!」

 

 それは嘘でもよかったんだよ!

 

「目的がわからない、というのは嘘です」

「それは教えてくれるのかよ!」

 

 丁寧な種明かしありがとうございますね!

 もうそんなのどうでもいいよ。

 俺のメンタルボロボロですよ。

 そそくさと俺の元を去っていく柑樹。体に残ったぬくもりがせつない。

 

「お邪魔しました」

「……」

 

 なんだこの気持ちは……。

 あ、そうだ。次の話、大して好きでもないのにメイに告白してくる男でも登場させよう。わー、仕事ねっしーん。俺ってえらーい。

 




「ここすき」していただいてる方、ありがとうございます。
結構気にしてまして、そういうのがいいのかって参考になります! よろしくおねがいします!



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波打ち際で子作りを迫られる

「……ん?」

 

 どこだここは……?

 見知らぬ天井だ……いや、これ天井じゃないな。外?

 

「はあ?」

 

 周囲は、大自然だった。

 なんだ、森と海に囲まれている。

 ベッドと俺だけが、ぽつんとそこにある。そういう状態。

 砂浜の上に俺のベッドが……どういうことだ?

 

「ははーん。水曜日だな?」

 

 もし俺が芸人だったら、それで納得してしまうところだ。

 しかし、俺は芸人じゃあないので、これは……。

 

「夢ですね」

 

 二度寝します……。

 ……。

 

 いや、眠れないですね。

 落ち着かないことこの上ないので。

 そして、日差しと、風と、海の香りが、リアリティ半端ない。

 

「夢じゃないのかよー」

 

 じゃあなんなのよ?

 なんの説なのよ?

 まさか編集部の罠ですか?

 無人島に小説家を放置したら、他にやることがないからめちゃくちゃ筆が進む説? 

 残念、説立証ならずです……絶対書かないぞ!

 やるんだったら、常に可愛い女の子が「書いて♡」って言いながら胸を押しつけてたら小説を書き続ける説とかにしなさいよ。

 そうなったら小説書いてる場合じゃないんだよなあ……。

 

「せんせー、賢者せんせー」

 

 おや?

 俺を呼ぶ、可愛らしい声。これは……

 

「真奈子ちゃん?」

 

 手を振りながら駆け寄ってくるのは、真奈子ちゃんだった。

 日差しを浴びて光り輝く長い髪、キラキラとした笑顔が眩しい。

 

「せんせー、よかった、目を覚ましたんですね」

「……ここは?」

「どうやら、無人島みたいです」

「無人島ー!?」

 

 突拍子もなさすぎだろ。

 なんでベッドと俺と真奈子ちゃんだけが無人島に転移されるわけ?

 そもそも真奈子ちゃんは引きこもってるのでは?

 

「間違いなく無人島ですね」

「おお!? 柑樹か……」

「ええ」

 

 柑樹もいたんだ……気づかなかった……って。

 

「なんでそんな格好なの?」

 

 柑樹は、大きな葉っぱを使った衣服を来ていた。葉を使って作ったパレオ付きのビキニみたいな感じ。無人島にはピッタリではあるが。

 なお、俺はパジャマであり、真奈子ちゃんは普通のワンピースだ。

 

「無人島ですから」

 

 ……答えになってないぞ。

 まぁ、柑樹の格好を気にしている場合でもない。なんせ突然無人島にいるわけだから。

 

「それはともかく……なんでこんなことに」

 

 考えなければいけないのは、この状況だろう。意味不明すぎるわけで。

 

「そうですね……でも、そんなことより」

「そんなことより!?」

「これ、トラベルセットです。歯磨きと洗顔など、身支度を」

「歯磨き!?」

 

 なぜか無人島にいるのに、歯磨き!?

 真奈子ちゃんの冷静さが怖い。

 

「朝起きたら、普通すると思いますけど」

 

 困惑する俺に、柑樹がポーカーフェイスで当然だとばかりに真奈子ちゃんに賛同した。普通はするけど、今が普通じゃないんだよ。

 

「……はい」

 

 タオルの上に、手鏡とポーチが乗ったものを受け取る。まぁ、確かにこの二人の前で寝起き姿というのはよくないね……。

 

「あちらに、お手洗いがありますので」

「ん。あんがと」

 

 柑樹が靴を揃えてくれたので、それを履いて真奈子ちゃんの指差す先へ。

 岩に囲まれた場所に、木製のお手洗いがあった。小さいながらも、小便器と個室、そして手を洗うシンク。

 俺はシンクの蛇口を捻って顔を洗い、タオルで拭いて、歯磨き粉をつけた歯ブラシを口に咥える。

 俺は思った。

 朝の水が冷たくなってきたな……と。

 例年、俺の誕生日を過ぎるとどんどん秋になっていくのだが。ついこの前まで暑いと思っていたのに、もう冬が近づいていることがわかる。

 朝の日差しは温かいが、風は少し冷たい。

 こうやって外で歯磨きをするのもいいものだな。季節を感じられるよ。

 口を濯いで、手鏡を見る。

 うん、ヒゲは剃らなくていいだろう。

 一応、カミソリもポーチに入っていたが、俺はヒゲが薄いので、毎日剃る必要はない。そして、俺は電気シェーバー派で、カミソリってやつは苦手だ。血が出る。

 髪型をチェックしてから、二人がいる場所まで戻った。

 

「おかえりなさい」

「ただいま」

「さて、それじゃあ、朝ごはんをどうにかしないとですね。無人島ですから」

「そうですね。無人島なので役割分担をしましょう。水の確保と、食材の調達と、調理でしょうか」

 

 うんうん、と頷く。

 二人とも冷静だね。頼もしいくらいだ。

 これなら無人島暮らしでも、ちゃんとやっていけそうだね……

 

「いやいや! 待って? 無人島じゃないでしょ!?」

「えっ?」

「……?」

 

 目を丸くする二人。いやいや!

 

「トイレあったんですけど? 蛇口から水が出たんですけど?」

 

 顔を見合わせる二人。わかってくれました?

 

「「だから?」」

 

 わーお。

 何言ってるんだこいつくらいの勢いで見られてるんですけど。

 無人島にトイレは無いでしょうし、水道も出るわけないのよ。

 

「そんなことより」

「そんなことより!?」

「朝ごはんを探してきてください」

「朝ごはんが最優先事項なの!?」

 

 ここが無人島かどうかなんてどうでもいいんですかね?

 真奈子ちゃんは、両手を腰に当て、小学生とは思えない胸をむんと張る。

 

「当然です」

「当然なんだ……」

「当然です」

 

 柑樹も同じポーズで胸を張る。ふーむ、葉っぱビキニはえっちですね……。

 二人に言い切られてしまってはしょうがない。

 

「水を汲んできます」

 

 柑樹が勝手に桶を持って歩いていった。桶はどこで手に入れたんだ……。

 

「先生は料理担当で」

「あ、うん」

 

 と言っても……無人島でどうやって調理を……。

 火をどうやって起こすか……。

 俺が悩んでいると、真奈子ちゃんが俺のベッドの下からごそごそと何かを取り出した。

 

「あ、これカセットコンロです」

「カセットコンロ!?」

 

 着火剤とライターくらいあればいいのにと思ったら、カセットコンロ!?

 なんで俺のベッドにそんなものが。そして、本来そこにあったはずの夜のグッズはどこへ。気がかりではあるが、今はそれどころではない。

 

「包丁とまな板と、フライパンとお鍋だけはありますので」

「準備万端じゃない!?」

 

 これ、もはやキャンプですよね?

 俺のベッドの下、キャンプに行くようにカスタマイズされてますよね?

 

「じゃあ、食料を手に入れてきますね」

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

 無人島に一人で歩いていって大丈夫なのだろうか……と普通は思うだろうけど。お茶でも淹れてきますね、というような言い方だったので、あっさりと送り出した。

 こんな何もなさそうな場所で、どうやって手に入れるのか……。

 真奈子ちゃんの背中を見送るが、迷うこともなく森の方へ入っていった。

 

「ただいま」

 

 背中から声。

 どうやら柑樹が戻ってきたようだ。

 

「ああ、おかえり……?」

 

 そこにいたのは間違いなく柑樹だが。

 

「それペットボトルですよね?」

「そうですね」

「桶を持って水を汲みに行ったはずですよね?」

 

 水の入った2リットルのペットボトルを持っていた。

 

「衛生的にこちらの方がいいかと」

「そりゃそうですけども」

 

 ラベルこそついてないが、汲んできた感じじゃないんだよなあ……。

 蓋も一度も開けてないように見えるんだよなあ……。

 

「ただいまです」

 

 どうやら真奈子ちゃんが戻ってきたようです。こんなに早く戻ってきたということは、収穫は無しかもしれない。

 

「これくらいでいいでしょうか」

「待って待って」

 

 真奈子ちゃんが渡してきたのは、卵……明らかに鶏の卵が6つ。

 

「無いでしょ~。無人島に鶏卵ないでしょ~?」

「いえ、ありましたよ? にわとりさんが産んでました」

「ええ~?」

 

 野生の?

 にわとりの?

 卵?

 嘘だよ~。

 

「あと、これ、トマトです」

「トマト!?」

 

 無人島に?

 トマト?

 天然の?

 んなわけないですよ~。

 

「これだけじゃ料理難しいですよね」

「いや、十分だけど……」

 

 無人島にしては。上出来すぎるだろうな。

 

「ただ、味付けがなあ。塩でも作るか……」

 

 海水をフライパンで焼けば手に入るだろうか……。

 

「あ、これ調味料セットです」

 

 調味料セットもあるのかよ!

 

「塩と、コショウと、だしパック、醤油とコンソメとうま味調味料。あと中華スープの素と、お酢。焼肉のたれ……これだけですけど」

「十分なんだよなあ……」

 

 むしろ一人暮らしの男だったらここまで持ってないくらいですよ。

 お湯を沸かしつつ、トマトをカット。卵をかき混ぜて、中華スープの素と一緒に鍋に投入。

 卵とトマトのスープの完成だ。

 なお、紙皿とか割り箸とかも用意されていた。だからキャンプですよね?

 

「おいしいです」

「おいしい」

 

 三人でスープを啜る。

 朝日を浴びながら、温かいスープを飲むのはなかなか良いものだ。

 このサバイバル感のなさ、おそらく本当は無人島ではなく、ちょっとしたサプライズなんだろうな……。

 テレビのドッキリみたいだと思っていたが、なんかの理由があってやっているに違いない。

 そういうことなら、この設定に乗っからないのも野暮というものだろう。

 スープをふーふーさせながら飲んでいる二人を見ながら、これからの無人島生活を楽しもうと決めた。

 

「朝ごはんを食べたと行ってもスープだけだしな。昼ごはんの調達を頑張らないとな」

 

 そう、気軽に言ったのだが。

 

「「そんなことより」」

「そんなことよりですか!?」

 

 よもや二人から否定されるとは。

 なんなんですか、昼ごはんより大事なことは。

 テントかな?

 焚き火かな?

 

「結婚しましょう」

「そうしてください」

「エーッ!?」

 

 意味がわからねーッツ!?

 なんで真奈子ちゃんがプロポーズを?

 そして柑樹は当然のように賛同してる。イミフ。

 

「無人島に取り残されてしまったのですから、もうこれは結婚して子作りするしかないです」

「しょうがないですね」

「待って待って」

 

 いや、確かにね?

 この無人島コントに乗っかろうと思ったよ?

 でもこうなっちゃったらもう駄目ですよ。

 

「仮に、仮にここが本当に無人島だとしてもだよ?」

「仮にじゃないです」

「そうですよ、誰もいないのですから」

 

 ごちゃごちゃ言ってるが、無視して話を進めます。

 

「普通脱出するか、助けを求めるよね? 結婚とかじゃないよね?」

 

 無人島にたどり着いたとして。なんでもう一生そこで住もうとなるのか。

 おかしいですよマナコさん!

 

「そんなことより」

「ええ~?」

 

 そんなことよりなんですか~?

 もう何度目だよ、そんなことより。

 

「まさか私よりも瀬久原さんと結婚したいんですか」

 

 じとりと睨まられる。なんでそうなる。

 

「えー。そうなんですかー」

 

 棒読みの柑樹。

 

「いや、あの、そういうことではなくてね」

「ごめんなさい」

「フラれた!?」

 

 無駄にショックなんだが?

 

「他に好きな人がいるとかじゃないんですけど、ごめんなさい」

「なんだよ! いないのにイヤなのかよ!」

 

 余計にショックなんだが?

 なんでこんなに傷つけられないといけないの?

 

「ですので」

「そうです。やっぱり私と結婚した方がいいです」

「なんで二択しかないのよ!?」

「「無人島だからです」」

 

 ……わからん……。

 何がしたいのか全くわからん……。

 そもそもこの前スパイに来たのも一体なんだったのかわからん。

 とりあえず、話が通じないから、二人から離れるのがいいだろう。

 

「いや、俺、本当にここに人がいないか、探検してくるわ」

「それは駄目です」

「なんで駄目なんだよ!?」

「そんなことより」

「そんなことより!?」

「ごまかさないでください。ちゃんと結婚するかどうか答えて」

「話をごまかしているのはどっちですかねー!?」

 

 思わず海に向かって叫んでしまった。

 なんなんだこれは。

 これが小説だったら、編集から怒られますよ!?

 誰か説明してくれ―!



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プライベート・あーんいやーん

「はい、あなた」

「あ、ありがとう……」

 

 真奈子ちゃんから大きなグラスに入った青いドリンクを受け取る。氷がたっぷりと入っていて、フルーツで飾り付けられ、ストローもついている。冷たくて美味しそうだ。

 大きなビーチチェアで足を伸ばすと、水着姿の真奈子ちゃんが寄り添って座った。少しだけ肌が触れるのが心地よい。

 

 ボコボコボコボコ……ぷかぁ~

 ボコボコボコボコ……ぷかぁ~

 

 露出度多めのメイド服を着た柑樹は水タバコを作っていた。

 何度か煙をぷかぷかさせて、調整している。

 吸口を渡された。もちろん口をつけた部品を交換することなく。

 

「旦那様、お味見を」

「う、うん」

 

 ボコボコボコボコ……

 口に煙を遊ばせて、吐き出す。

 

「あー、マンゴーかな」

「はい、マンゴーとグァバ、それにハニーのフレーバーです」

「へえ、いいね~」

 

 ドリンクをちうーと吸い、煙をもこもこ吐く。どっちもおいしい。

 柑樹は大きな葉で作ったうちわを仰いでくれる。涼しくて気持ちがいい。

 俺は、寝そべりながら、真奈子ちゃんの頭を撫でると、くすぐったそうに目を閉じた。とても可愛らしい。

 

「あなた……幸せね……」

「ああ……」

 

 足を組んで、ゆるやかな波の音に耳を澄ませる。

 白い砂、青い海。さんさんと降り注ぐ太陽。

 南国風の贅沢なドリンクに、水タバコ。

 そしてきわどい水着姿の女子小学生と、メイド服を着た女子高生。

 うーん、トロぴかってる~!

 何も言うことはないね!

 一生、ここで生きていこう!

 

「って、待て待て待てーい!」

「ど、どうしましたか?」

「旦那様、落ち着いて」

「柑樹、まずその旦那様ってなんだよ!」

「旦那様は旦那様です」

「そうですよ、あなた」

「真奈子ちゃんがそんなふうに呼ぶからでしょ!」

「じゃあ……ダーリン?」

「そういうことじゃねー!?」

 

 俺は水平線に向かって叫んだ。

 意味がわからなすぎる!

 結婚を考えろというわけのわからないオーダーは受けていたけれども、もちろん無視したわけですよ。

 なのになんで勝手に旦那様だの、あなただの呼んでるんですか!?

 もはやキャンプを越えてハネムーンなんですよ! 南国リゾートで夢のバカンスなんですよ!

 そりゃ最高かもしれんが、わけがわからなすぎて不安しかないだろ!

 

「ちょっと、柑樹さん。こちらに」

「はい」

 

 手招きして、二人で岩陰に行く。

 柑樹に問いただす。それしかない。

 

「あのね、この状況はいったい」

 

 そう切り出すや否や、短いメイド服のスカートをこちらに向ける。

 

「お尻触りますか?」

「触ります」

「あーん」

 

 さわさわ……やっぱり触り心地は最高だな……。相変わらず柔らかい尻だ。メイド服のスカートの下から手を入れてぱんつ越しに触るのが一番ですよ。

 お尻さえ触っていたら、他のことなんてどうでも……はっ!?

 

「じゃなくてだね、今のこの状況」

「胸触りますか?」

「触ります」

「いやーん」

 

 あぁ……おっぱいって、いつ揉んでも最高ですよね。手にちょうど収まるBカップ。

 直接触りたい気持ちはあるが、あえてメイド服の上からというのがいい。

 後ろから抱きしめるように揉みしだくと、もう他のことなんてどうでもいい……と思っていたら、すっと離れた。

 

「じゃ、そういうことで」

「あっ」

 

 すたすたと去っていく……。

 ちくしょう、またはぐらかされた。

 話があるって言ってるのに、いつもこうして体を触らせてきてごまかすんだから……卑怯な……。

 

「しかしなんなんだ、ほんとに……」

 

 海に向かってぼやく。

 無人島……らしき島……いや、そもそも島かどうかも怪しいが……にやってきて三日目。

 いまだに俺の状況は謎だらけだった。

 わかったことといえば、ここが日本、いや東京じゃないこと……いや、かなり南の離島ならありえるかもしれないが。

 とにかく温かいということ。今は11月の後半、もうすぐ12月という時期だ。朝や夜でも半裸で平気で活動できる気候なんだよな。

 虫も出ないし、日光がキツいということもない。

 バカンスをするなら理想的な場所だ……うっかり無人島に流れ着いたとしたらラッキー過ぎる場所です。

 だからといって本当にバカンスを満喫できるのがおかしい。

 あの水タバコ(シーシャ)はどこから持ってきたんだって話。

 そもそも法律的にいいのか……いや、ここは無人島だからいいのか……知らんけど……。

 真奈子ちゃんは冷凍庫もないのに平気で氷を用意するし。明らかに天然じゃない青色のドリンクだし。

 イリュージョンなんですかね?

 

「戻るか……」

 

 ベースキャンプ……俺のベッドがある場所に戻る。

 今やベッドの上にはタープが設置され、テーブルや椅子、焚き火……要するにキャンプセットが整っていた。

 徐々にキャンプセットが揃っていく時点で、それはもはや無人島ではないと思うが、真奈子ちゃんは絶対に無人島だと言う。

 ではどうやって、物資や食料などを調達しているのかと聞いても「あった」とか「落ちてた」とかよくわからないことを言うだけ。

 真実を知っていそうな柑樹に聞こうとすると、さっきのようにはぐらかされてしまう。

 しょうがない、真奈子ちゃんと話そう。

 

「真奈子ちゃん」

「あ、プロポーズですね?」

「違います!?」

「違うんですか……?」

「いや、逆になんでそう思ったの?」

「だって、夕日が沈む海をバックでロマンチックだし……」

 

 確かにそうだけどー!

 二人で浜辺を歩くデートならねー!

 わけもわからず無人島にいる状態だとロマンチックじゃないと思うよー!

 

「違うよねー。プロポーズはしないよねー」

「どうして……?」

 

 どうしてかと?

 説明いる?

 

「真奈子ちゃん、よく聞いて欲しい」

「はい……」

 

 俺の目をまっすぐ見て、大きな目をキラキラとさせる。夕日を浴びて頬は赤く、黒いビキニ姿は小学生離れしたナイスバディ。つやつやとした長い髪が、海風になびく。

 そんな彼女に、俺は……

 

「無人島では結婚式出来ないでしょ」

 

 そう言い放った。そうでしょうよ。

 神前式での神主さんが、キリスト教式なら、神父か牧師。人前式だったらそれこそ人がいるんだから。

 

「大丈夫です。この海と太陽に誓いましょう」

「えっ!」

 

 なにこの乙女……いや、真奈子ちゃん以上の乙女なんてこの世にいないか。メイがいつか言うかもしれないのでメモっておきましょう。ええ。

 これにはまいったが、他にも問題は山積みです。

 

「ハネムーンにも行けないし」

「もう来てると思えばいいじゃないですか」

 

 まあそうだけど……そう思えば、いいのか……。

 新婚旅行で無人島ってなんだよ、とも思うが。俺は妻となる女性が行きたい場所に行けばいいと思っていたので、それでいいならそれでいい。

 だが……

 

「でも、ここじゃ婚約指輪すら手に入らないし」

「そんなのこれで十分です」

 

 そういうと、砂浜から適当に拾った指輪を指にはめた。待って、そんなちょうどいいキレイな指輪が落ちてるわけなくね? どういうこと?

 

「……いや、なんにせよ駄目だな」

「どうして……」

 

 悲しそうな表情に胸が痛む。やっぱりプロポーズするか……いや、そういうわけにはいかん。

 

「俺は、小説を書かないと」

「……!」

「書いて、本を出さないと」

「そ、それは……」

「ちゃんと自分で仕事をしてないとさ。プロポーズなんて無理だよ」

「い、いえ! わたしがなんとかしますから。ちゃんと生活には困らないようにしますから」

 

 そう言う真奈子ちゃんに、微笑んで首を振る。

 

「真奈子ちゃん。俺はね、仮に一生遊んで暮らせる状況になったとしても、小説だけは書くよ」

「あっ……!」

 

 手で口を抑えて、目を見開いた。

 そうだよ、真奈子ちゃん。

 君みたいな、俺のファンのためにも。

 俺は小説を書くことだけは、やめられないんだ。

 

「ごめんなさい、先生……」

「いいんだ、わかってくれれば」

 

 真奈子ちゃんを抱きしめる。

 よくわからないが、真奈子ちゃんは俺と結婚したいらしいことはわかったからね……ただ、手段が未だに意味がわからないです……。

 

「柑樹さん、帰りましょう」

「そうですか。じゃあ、明日にでも」

 

 やっぱりなにもかもわかってたよね、柑樹は……。

 じとりとした目を向けても、そしらぬ顔だ。

 

「今日はパーティーにしましょうか」

 

 真奈子ちゃんが明るくそう言うと、柑樹がスマホを取り出した。スマホが使えるんじゃないか……。

 

「バーベキューでいいですか」

「いいですね」

 

 ぴぴぴとスマホを操作する柑樹。

 しばらくすると、ドローンが数台近づいてきた。どういうことですか。

 

「無人島だからこうやってドローンで用意してるんです」

「あ、そう……」

 

 ドローンが砂浜に置いていったものを拾う柑樹。確かに「拾った」「あった」というのは嘘ではないらしい。だが、真実をひた隠しにしていたというのも事実であろう。柑樹め……。

 

「本当にここは無人島なの?」

 

 真奈子ちゃんに問う。今更嘘はつかない気がする。

 

「間違いないです。うちが持ってる島なので」

「持ってる……別荘みたいなこと?」

「そうですね。プライベートアイランドです」

 

 プライベートビーチの上位互換らしい。島ごと清井さんちなんだってさ。つまりマジでキャンプでバカンスじゃないですか。

 柑樹はちゃきちゃきとバーベキューの準備を始めている。

 クーラーボックスから缶を取り出し、俺に放り投げた。

 

「ビールどうぞ」

「おう。ってビール?!」

 

 日本語でない記載の缶でよくわからん。

 

「この国では16歳からビールが飲めます」

 

 そう言ってぷしゅっと缶を開ける柑樹。手慣れてませんかね?

 缶のままごきゅごきゅ飲みつつ、肉やらイカやら焼いていく。休日のお父さんかな?

 ここがどこの国だかわからないが、俺も飲んじゃうか。

 

「ふーっ!」

 

 うまい。

 暖かい国では、ビールは薄いと言われているが、確かに飲みやすい。ごくごくいける。

 トングをカチカチさせつつ、柑樹は紙皿を真奈子ちゃんに渡す。

 

「真奈子さま~。ぶっといフランクフルトで~す」

「ありがとう」

「先生のはこんなに大きくないので期待しないでくださいねー」

 

 ……こいつ酔ってるな!?

 薄くて飲みやすいビールは決してアルコール度数が低いわけじゃないんですよ!

 

賢者(さかひさ)ちゃん」

「ちゃん!?」

「まぁ、食いなよ、飲みなよ」

「はい……」

 

 肉やら野菜やらが乗った紙皿を俺に手渡し、ビールを煽りながら、俺の隣に座って、肩を組んできた。

 絡み方が完全に酔っ払いのおじさんだった。

 

「で、賢者ちゃんはさ」

「ん?」

「真奈子さまをどう思ってるワケ?」

 

 この切り出しに、真奈子ちゃんはフランクフルトを咥えたまま、俺たちの方を見て固まった。

 



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胸の大きさに関するフィロソフィー

 真奈子ちゃんをどう思っているか?

 それを酔っ払ったメイド服の柑樹に問われている。正直、答えをどうするかより、今押し付けられているおっぱいに集中したい。

 

「どう思っているんですかぁ~」

「う~ん」

 

 なんだろう、この酔っぱらいに絡まれるというシチュエーション。それがおっさんだったら最悪だが、美少女だと最高だな?

 ぜひともメイとマイにも酔っ払いエピソードを用意したい。女児向け小説で酒を飲ませたら編集に怒られるので、カフェインで酔うとか酔っ払いみたいになるキノコとかそういう設定にしよう!

 

「ね~え~」

「う~ん」

 

 普段ドライな柑樹だが、酔うとずいぶんと馴れ馴れしいというか、べったりしてくる。甘えん坊の彼女みたい。正直、嫌いじゃないね!

 

「ねえってば~」

「うう~ん」

 

 夜の海風を浴びながら、缶ビールを飲みつつ、ゆさゆさされたり、抱きつかれたり、耳元でごちょごちょ言われたり……。いいぞこれ。しばらくこのままでいたい。

 

「……」

 

 やばい。

 真奈子ちゃんが極太フランクフルトを咥えたまま固まってる。

 目も焦点がおらず、ただ俺たちの方を向いているだけ。これは放置してはまずいですね。

 自分のことをどう思っているか。

 そんなやり取りが目の前で行われていて、気にならない人などいないだろう。ごめんね、真奈子ちゃん!

 

「ごほん。えー、真奈子ちゃんのことはね……」

 

 俺がそう口にした途端、真奈子ちゃんの目がキラキラと……なんかすごく期待されている!

 これは野暮なことは言えないぞ……。

 

「おっぱいが大きいと思っています……小学生とは思えないほど……」

 

 うん。やっぱり正直に答えないとね。

 これならめっちゃ褒めてるし、いい答えだろう。

 

 ぱきっ

 

 真奈子ちゃんは、ようやくフランクフルトをかじることが出来たようです。やはり正解だったか。

 

「ばかたれ! すけべ!」

「うごっ」

 

 柑樹から、頬にエルボースマッシュをくらった。なんでエルボーなんだよ! 肘は硬いから女子でも痛いよ!

 

「すけべなのはわかってるからいいけど、ばかたれとはなんだよ!」

 

 頬を擦りながら、怒りを表明。

 

「真奈子さまの気持ちを考えて!」

 

 いや、考えてるし。

 

「いや、だって、嬉しいでしょ」

「どして」

「逆に聞くけど、柑樹は俺におっぱい小さいと思ってるって言われたら嬉しいのかよ」

「超むかつきます!」

「ほら」

「ほらってなんですか!」

「小さいって言われたら嫌だってことは、大きいって言われたら嬉しいってことじゃないか」

「なるかー!」

「うげっ!」

 

 ジャンピングニー!?

 肘より膝のほうが痛えよ!

 ツッコミにしては攻撃力が高すぎるって!

 脇腹を抑えつつ、柑樹を睨む。

 赤ら顔は、なにやら偉そうな態度で人差し指をずばっと立てた。

 

「じゃあ自分の立場で考えてみてください」

「俺?」

 

 どういうことですかね?

 首をひねると、柑樹がドヤ顔を見せる。

 

「真奈子さまが、賢者ちゃんのことをどう思ってるかと聞いて、ちんちんが大きいと思ってるって言われたら?」

「そりゃ嬉しいだろ」

「そうでしょうそうでしょう……あれ?」

「あれじゃないよ。だから小さいって言われたら嫌だけど、大きいって言われたら嬉しいじゃない。おっぱいもそうでしょ」

「……作戦失敗だー。この人を甘く見ていたー……」

 

 がっくりとうなだれる柑樹。どうしたんだろう。

 そもそも柑樹の意見など、どうでもいいのでは?

 

「真奈子ちゃんはどう思った?」

 

 素直に聞いたらいいんですよ。

 俺におっぱいが大きいと言われてどう思ったのかと、女子小学生に聞いています。なにか問題でも?

 

「……小学生とは思えないほど、おっぱいが大きいことは、先生としてはどうなんですか?」

 

 じっと俺の目を見て問う真奈子ちゃん。

 結構難しい質問だ。

 真奈子ちゃんのおっぱいが大きいことは俺にとってどうなのか?

 ……嬉しいことのような気がする。

 しかし、その場合は小さかったら悲しいという意味をはらんでいる。

 真奈子ちゃんが普通の女子小学生と同様の胸のサイズだったとしたら?

 がっかりする?

 いや、そんなことはない。そんなことはないよ!

 しかし、真奈子ちゃんをどう思っているのかと聞かれてそう答えたのは、ちょっと褒めているつもりで言っているわけで……だとするとそれは明らかに小さいより大きいほうが良いと言ってるということで……。

 哲学だ……。

 人類に課せられた、難問だ……!

 

「先生? せんせー?」

「はっ!?」

 

 心配そうに俺を見つめるピュアな瞳。

 

「ごめんごめん、ちょっと真剣に考え込んでしまって」

「そ、そんなに……嬉しい……」

 

 喜んでくれた。

 どうやら女子小学生というのは、自分のおっぱいについて真剣に考えてもらうと嬉しいらしいです。

 

「あの、つまり、聞きたいのは……わたしの大きなおっぱいは嫌いなのか、ってことです」

「そ、そんなわけないよ!」

 

 悩んでいたのは小さくても嫌いじゃないということであり、大きいから嫌いなんてことは絶対にありません!

 

「じゃあ、好きですか?」

 

 これは簡単!

 さっきまで哲学かと思っていたが、これは超簡単な質問!

 

「好きだよ! 自信を持って言います! 好きです!」

「わたしの? おっぱいが? 好き?」

「真奈子ちゃんの! おっぱいが! 好きです!」

「~っ!」

 

 なんだなんだ。

 右手を高々と上げた。何かに勝ったのか。それとも今ここで電車痴漢ごっこがしたいのか。どっちなんだ……!?

 

「か、髪は?」

「えっ? 髪?」

「髪の毛はどう思いますか?」

「あー。長くてきれいだよね」

「つまり?」

「つまり?」

「わたしの髪の毛は好きですか?」

「ああ! うん! 好きだよ」

「~っ、よし!」

 

 目をつぶった。感極まっているのか。それとも今ここで目隠しプレイをしたいのか。どっちなんだ……!?

 

「顔はどうですか」

 

 可愛いに決まっている。

 決まっているが、そう答えたら「つまり?」と問われるわけだ。

 俺もバカじゃないので、わかってきたよ?

 

「顔は可愛いから好きです!」

「性格はっ」

「性格も可愛いから好きです!」

「つ、つまり、わたしのことは」

「真奈子ちゃんのことは、好きです!」

 

 どうやら、真奈子ちゃんは好きだと言って欲しいっぽい。めちゃくちゃ喜んでいるので間違いない。

 しかし、どうしてだろうか。

 なぜ、俺に好きだと言われたいのだろうか……?

 そもそも、突然無人島にやってきたワケとは……?

 結婚をほのめかす発言はどうして……?

 そして、家に引きこもっていたという事実……。

 ここから導き出される答え。

 わかった! ひとつしかない!

 

「真奈子ちゃん」

「はい」

 

 うるんだ瞳。

 俺は彼女の両手を強く握る。

 ごめん、今まで気づいてあげられなくて。

 

「真奈子ちゃん……いじめられてるんだね?」

「……えっ?」

 

 真奈子ちゃんは、学校でいじめられている。

 みんなから嫌われている。

 だから俺からだけでも好きだと言われたい。

 真奈子ちゃんは、美人でおっぱいも大きくて、いい子でしかも金持ちときている。これは同性からはやっかまれるし、異性からはちょっかいを出すつもりでいじめられてしまうのだろう。

 無人島で結婚したいという突拍子もない案は、学校以外の居場所を求めたためだ。

 

「あの、いや、えっと」

「いい。いいんだ。つらかったね。いじめはつらいよね」

「え。いや。え?」

 

 なんでわかったのか。不思議なのだろう。

 俺はそっと抱き寄せる。

 

「言わなくていい。何も言わなくていいんだ」

 

 思い出すだけでも辛いことだろう。

 俺はぎゅっと抱きしめる。

 

「あっ……はい」

「いいんだ、いいんだよ」

 

 頭をゆっくりと撫でてやる。

 妹が「お股から血が出たー!」と泣き叫んだときもこうしてやったもんだ。

 

「俺は、真奈子ちゃんが好き」

「……は、はい」

「真奈子ちゃんは、俺が守る」

「はいぃ……」

「だから、もう何も心配しなくていいんだ」

「ふぁい……」

 

 かわいそうに。

 ようやく安心できたのだろう。

 真奈子ちゃんの顔はだらしなくゆがみ、目は半分イッている。ダブルピースが似合いそうなアヘ顔っぷりだ。

 こんなになるまで放っておいたのか……!

 それにしても、この俺の名推理っぷりは異常。

 ミステリも書けてしまうのでは?

 やはり天才作家だったか……。

 次の巻はメイのぱんつが盗まれる事件で決まりです。まさか自分でかぶっていたとは……。こりゃミステリ界がひっくり返るぞ!

 

「……これはいったい」

 

 頭を抑えながら、ふらふらとしている柑樹。

 抱き合う俺たちを見て、困惑している。ちょっとは酔いが覚めたのか?

 しかし、残念ながらもう遅い。

 

「もう解決したよ」

 

 君は解答編に間に合わなかった残念な登場人物なんだ……。

 

「え? え?」

 

 意味がわからないらしい。

 ひょっとしたら、そもそもいじめられていたことすら気づいてないのかもしれない。

 

「柑樹はわからなくていいよ」

「ええ……? お嬢様?」

「わからなくていいです」

「あ、そうなんですか。はあ。じゃあ、いいですけど」

 

 柑樹は首をすくめると、アワビをかじりながらビールをあおりはじめた。やってらんねーということだろうか。気楽なもんだ。

 

「真奈子ちゃん。無人島で結婚なんて、そんなの必要ないんだ。俺がいつでも真奈子ちゃんを守るから安心して」

「あ、はい。もう愛人でいいです……」

 

 愛人って。

 意味わかってるのかな。

 いや、わかってるわけがなかった。

 なんせ肉欲をお肉が食いたい欲望だと思っているくらいだ。

 愛する人、くらいの認識だろう。

 ……愛ってなんだよ(二度目の哲学)

 愛とはLOVEだろう(トートロジー)

 つまり愛するとは、メイク・ラブということではないか(二度目の名推理)

 つまり真奈子ちゃんとはメイク・ラブする関係ということだね。なーんだ、それって愛人じゃん! あってた!

 

「じゃあ柑樹、ちょっと愛しあってくるね」

「はいはーい」

 

 いってらっしゃ~いとばかりに適当に手を振りながら、伊勢海老をばくばく食っている。高いものばっかり食ってるな……いいけど……。



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女子小学生に読ませたい官能小説

 担当編集からの着信だと確認して、俺はスマートフォンを耳に当てた。

 

「はい、四十八(よそや)です」

 

 ペンネームを名乗ると、仕事モードになる。

 俺ももう、いっぱしの作家ですよ。ええ。

 

「あの……いただいた原稿についてですけど……」

「ええ。はい。どうでしょうか」

 

 自信があるからこの態度です。

 やっぱりね、俺は主な読者である女子小学生の恋人と、愛人までいるわけですから。読者の気持ちがわかり、読者に好かれるわけですよ。ガッハッハ。

 

「ちょっと意味がわからなくて」

「え?」

 

 今までこんな質問なかったな。

 もちろんわかってなかったのだが、それを訊いてくることがなかった。

 いつも勝手な、わけのわからない解釈をしてたのに。

 

「メイが肩たたきをするとご主人さまの前のほうが大きくなった……という箇所ですが前のほうってなんですか」

 

 ほう。

 子どもじゃあるまいし、なんでわからないんだというツッコミを入れたくなるが、ここは素直に質問してきたことを成長と捉えよう。

 

「おちんちんです」

「は?」

「だから、ご主人さまのおちんちんです」

「……」

 

 電話ごしに相手が困惑していることがわかる。

 むしろそれ以外に何があるんだと俺は困惑ですよ。

 

「あ、なんで肩たたきで、ということですか?」

 

 おちんちんなのは理解したが、大きくなった理由がわからない。そういうことかな?

 

「その前にメイがちゃんと裸になる描写と最近また胸が大きくなったっていう情報入れてるんで、読者はちゃんとわかってくれますよ」

 

 なんでもかんでもわかりやすく書けばいいというものでもないのよ。

 読者に想像の扉を開けてもらう仕掛けが大事なんですよ……ふふ、俺ってプロの作家だな……。

 

「……編集者が理解できてないのですが?」

「え? だから、肩を叩こうとすると結果的に背中におっぱいが当たりまくるじゃないですか」

「……どんどんわからなくなるのですが?」

「え? 男は体におっぱいを当てられるとおちんちんが勃起するものなんですけど?   ご存じないんですか?」

 

 いちからか?

 いちから説明しないとだめか?

 

「なんで、おち――その……ぼっ、ぼっ……前のほうが大きくなる描写が必要なんですか」

「その後、メイがマッサージするからですよ」

「え? え? じゃあこの固くて大きなモノっていうのは」

「もちろんバッキバキに勃起したおちんちんです」

「……」

「あ、ちなみにヌイてあげたっていうのは、射精させるって意味ですよ」

「……」

 

 なんか反応が無くなったのですが。

 

「白い鳥文庫に何を書いてるんですか、あなたは――ッ!」

「うわーっ!?」

 

 耳が!!

 思わず電話を離す。

 なんつーでかい声だ。

 おそるおそるちょっとだけ耳を近づける。

 

「な、な、何を考えているんですか?」

「ええー……」

 

 いまさらなんですよ。

 ずーっと、そういうことばっかり書いているんです。

 説明を求められたのが初めてなだけで、さんざっぱら書きまくっているんですよ!

 

「だいたい、小学生が読むんですよ!?」

 

 知ってるよ!

 それに俺だって最初は小学生に読ませてどうすんだと思ってたよ!

 ただ、今回はちょ~っといつもと違います。

 いつもなら、あげはちゃんとか、ももきゅー兄とかに「エロいね」って思ってもらえればいい。そういう気持ちで書いていました。

 今回は、今回についてはむしろ女子小学生に向けて書いているんです。

 

「ええ。だからこそです」

「は?」

「読者の女の子が、お父さんとお風呂に入って、こういうことをしてたとしたら、それはちょっとヘンかもってわかってもらえるじゃないですか」

 

 どうですか、この崇高な使命。

 

「こ、こんなことしてる女子小学生なんていません!」

「いや、いるんですよ」

 

 真奈子ちゃんがパパとお風呂で近いことをしていると聞いています。

 いけませんねえ、編集者が自分勝手な偏見でモノを言っては。こっちはちゃんとした情報源(ソース)があるんですよ。

 実際にそういうことが起きているんです!

 だからこそ。

 現実に身近な女の子が、そういうことになっているからこそ。

 俺は書かなければならない。

 そう思ったんですよ!

 

「こういうことは、小学生高学年の女の子が一番気をつけた方がいいんです。読者が性的搾取されないようにしたいんですよ!」

「くっ……普段めちゃくちゃなくせに、こんなときだけ妙に理路整然と……」

 

 なんですかその言いようは。

 俺はいつだって真面目に、女児向け小説に見せかけた官能小説を書いてるだけですよ。

 

「だったら、もっとイヤなものとして描写しないと。明らかに楽しんでるじゃないですか」

「え? まじで言ってます? メイに性的暴力をしろって? 冗談じゃないですよ」

「そ、そうは言っていませんが……」

 

 言ってるだろ。

 メイにそんな目に合わせられないということもあるが、この作品はダークファンタジーじゃないんですよ。ショッキングな内容を楽しんでもらうのではなく、主人公の女の子の努力と成長、そしてご主人さまとの不器用な恋愛の物語です。

 そもそもエッチなことは怖いとか嫌だとか気持ち悪いだとか、そう思われちゃったら本末転倒なんだよ。

 

「ご主人さまからは、意地悪なことや、恥ずかしいこともされるけど、それが本当は好きなんじゃないか、愛なんじゃないか、そう思ってもらえるように書いているはずですが?」

「そ、そのとおりですね」

 

 さすがにそこは伝わっている。

 読者からのファンレターにも、そう書かれているしね。

 どんどん女子小学生にはエッチの素晴らしさを伝えていきたいですね!

 

「メイとご主人さまがするようなことを、女子小学生の自分が父親……あるいは祖父、おじ、兄、教師や塾の先生なんかが要求してきたら、それはちょっと変だな。そういうふうに感じるはずです」

「……!」

「それに富美ケ丘(ふみがおか)さんのように、読んでもわからない場合はまだわからなくていいということですし。よくわからないけどメイとご主人さまがイチャイチャしてる……それでもいいじゃないですか」

「……確かにそこが一番人気の理由ですしね……」

 

 もはやメイとマイより、ご主人さまの人気がすさまじくなっている。

 ぶっちゃけご主人さまにセクハラされたいという内容の感想ばっかりです。

 ならばこそ、ダメなものはダメ。それを知ってもらわないと。

 そうじゃないと……そうじゃないと、()()()()()()()ことに気づけないから!

 禁断の果実こそ美味であるように、禁忌であればあるほど興奮する。

 つまり「聖職者だからダメ」「実の娘なんてダメ」「ご主人さまとメイドの関係なんてダメ」と、わかってないと魅力が半減なんですよ!

 読者の中には、ご主人さまとメイドの恋が基本的にはNGだということを知らないことも多い。クラスメイトと付き合うのとはわけが違う。それを知ってほしい!

 その結果、パパとエッチするのが好きだったらそれでいいし、好きな人としたいならパパとは嫌だと言えばいい。

 

「わかりました……では、これでいきましょう」

「よろしくおねがいします」

 

 どうやら俺のアツい思いが伝わったようです。

 富美ケ丘(ふみがおか)さんにも、エッチの良さがわかるといいですね!

 なんだったら、お相手してもいいですよ?

 

「ところで……」

「はい?」

 

 こうして話が長引くのは、めずらしい。

 富美ケ丘(ふみがおか)さんは俺以外の作家とはやたら仲良くしているが、俺には淡白というか、あっさりというか、興味がないことが多い。泣きそうです。

 俺は泣いて頼まれたらエッチなことをしてもいいくらいには好きなのに。

 

「その、あくまでも相手が父親や兄はダメ……ということで、母や姉だったら問題ないんですよね?」

「ちょっと詳しく教えて下さい」



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淫でタブーなインタビュー

 よもやこんなことになるとは。

 ここは賃貸マンションの三階のドアの前。

 意外と我が家から近く、隣駅ではあるが、歩いてこれる場所だった。

 小江野さんのアパートに比べると、さすが社会人という感じがする。高級とまでは言わないが、それなりにキレイでセキュリティも安心できそう。

 

 ぴんぽーん

 

 インターフォンを鳴らすのも、妙に緊張する。

 エロゲーをやりにきたわけじゃないからな……。

 

「いらっしゃい」

 

 インターフォンではなく、ドアを開けて直接出迎えられた。

 メイクはきちっとしてあるものの、普段はきちっとしたスーツなのに対し、服はパステルカラーのルームウェア。しかも普段はつけていないメガネを装着。

 普段と違う姿を見ちゃうと、ますます意識してしまう……!

 落ち着け俺、俺は小学生の彼女と愛人がいるんだ。いまさらちょっと美人の年上の女性なんて……めちゃめちゃ緊張するよ!

 

「どうぞ」

「ひゃいっ」

 

 ガチガチになっている俺……。

 こころなしか、いい匂いがする。玄関に花が飾ってあったり、いちいち女性らしさを感じてしまう。

 

「お、おじゃましま~す」

 

 廊下からリビングに入る。ここでいまさら「おじゃまします」と言うことに意味はないのだが、つい。なんなんでしょうね。

 どぎまぎしつつ彼女を見ると、あっけらかんとした顔で。

 

「あ、最初からベッドに行く?」

「ぶーっ!」

 

 な、なんてハレンチな!

 官能小説を書いてる俺もびっくり仰天ですよ。

 とんだビッチですよ。こんなむっつりだったとは……いいですね!

 

「え? あ? そ、そう?」

 

 頭をぽりぽり。

 なんか俺、童貞みたいだな……。

 

「じゃ、いきましょうか」

「あ、は、はい」

 

 先にシャワー浴びなくていいの?

 イソジンは?

 トイレ先に済ませておかなくて大丈夫か聞いてこないけど?

 手を出したものの、手をつないでくれることはなく、虚しく宙に浮いた。

 

「こっちです」

「あ、は、はい」

 

 寝室……。

 大人の女性の寝室に、二人きりで……。

 

「どうしたんですか、たかが取材でしょ」

「そ、そう、ですよね」

「なんでそんなに緊張してるんですか?」

 

 むしろ平然としている方が異常だと思うんだが?

 確かに、確かに取材なんですよ。

 彼女は、俺の編集担当でもある富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)女史は。

 この前電話で、しれっと言ってのけた。母や姉となんかいろいろやってると。

 どうも完全にアウトっぽいのだが、なんせ言葉では説明しにくいと。じゃあ見せてくれと言ったら「小説に関係あるんですか」との問い。もちろんあると返答すると「じゃあ、取材ということならウチに来ますか?」と。

 そんなわけで取材に来たわけだけれども。

 要するに、ベッドで、口では言えないようなことをするってことですよ!?

 

「とはいえ、家族以外とはしたことがないですが……」

 

 ようやく少し恥ずかしそうにする。

 ベッドに腰掛けた女性が、もにょもにょと髪をいじる仕草、ますます俺が緊張しちゃう!

 

「そ、それで、取材ですが」

「はい。どうぞ。なんでも聞いてください」

「えー、じゃあ最初からがいいので、そうですね、お母さんとお姉さんはどちらと先に?」

「ママですね」

 

 ママか……非常に一般的な名詞であるママという言葉、どうしてこんなに興奮するんでしょうね!

 

「な、何歳くらいですかね」

「胸が膨らみ始めたころでしょうか。九歳くらい」

 

 ……落ち着け~。これは女児向け小説を書くために必要な取材だ……眼の前の女性が九歳のときの胸を想像している場合では……。

 

「お風呂で説明されたものです。胸は男に見せてばいけない。それがパパや先生でもと」

「おっ、俺の小説と同じメッセージじゃないですか」

「そうですね……」

 

 ちょっと嬉しくなる。ママさんと俺は仲良くなれるかもしれないですね。

 

「そのあと、乳首を舐められました」

「ええーっ!?」

 

 驚きですよ! ママさんと俺は確実に仲良くなれそうです!

 

「な、な、なんでですか?」

「逆に、先生は乳首を舐める理由ってわかりますか?」

「……な、舐めたいから……」

「おそらく同じでしょう。ママは、わたしが可愛いから舐めたいのよ、と言っていました」

「な、なるほど」

 

 そう言われれば、むしろ納得しかない。ママさん、一生着いていきます!

 

「お風呂のときに乳首を舐めあう……これは問題ないですよね?」

「うえっ!?」

 

 どうやら富美ケ丘(ふみがおか)家においては普通のことらしい。うーむ。

 

「ほ、本人たちが幸せならいいかと」

「そうですよね。乳首を舐められるのは気持ちいいから、いいことですよね」

 

 富美ケ丘文乃(ふみがおかふみの)さんは九歳の頃から、乳首を舐められて気持ちよかったそうです。

 いいことでしょうか? もちろんいいことです。ええ。

 

「ど、どんな感じで?」

「ですよね。詳細が知りたいですよね……」

 

 彼女はすっと立ち上がると、服をぬぎぬぎした。うほーっ。

 

「男性に見せるのは初めてなのですが……」

「取材ですからね! 作品のためですから!」

「そうですよね。作品のために肌を脱ぐのは編集者として当然ですよね」

 

 さすがプロですよねー!

 俺もプロですからね!

 作品のために、頑張ろう!

 

「あっ、ブラジャーの写真も撮らせてください」

「……必要なんですよね?」

「もちろんです」

 

 白をベースに水色も含まれた、上品な下着姿だった。大人のブラジャーって感じで凄くいいです。

 

「撮れたので、脱いでいただいて」

「……はい」

 

 後ろを向いてではなく、こちらを向いたまま、ブラを外した。いいですね~。取材だから恥ずかしくないのだと思い込んでる感じがいい。

 もちろん俺も仕事だと思ってますからね。真面目モードですよ。しかしズボンが痛いな。俺もズボン脱いだほうがいいか?

 

「ここをですね」

「はいはい」

 

 人差し指が、乳輪の下半分をなぞった。

 

「舌でこういう感じで」

「はいはい」

 

 くるくると舌で乳輪を舐めて、乳首を下からつんつんとつついたりしたようです。普通に前戯だな!

 ママさんのプレイは、まぁ、俺に似てるかもですね。ええ。

 

「それにしてもきれいな乳首ですね」

 

 乳輪は小さく、色は薄い。形も美しい。

 

「あ、ありがとう?」

「撮っておきましょう」

 

 参考にしたいですからね。きれいな乳首。

 

「それはお姉さんも?」

「おねえもママからはそうされてたそうです」

「ふんふん」

 

 まぁそうだろうな。

 それにしても「おねえ」もいいね。うん。詩歌も俺のことを「おにい」って言えばいいのに。

 

「おねえと乳首を舐めあってはいないんですね?」

「してないですね」

「ふんふん。ママさんは他にも?」

「もちろん、こっちの方を……」

 

 股間を指差す文乃さん。

 そもそも、電話では伝えられないというのは、そういうことだからだ。

 彼女は、女性の性器についてあまりご存じないらしい。官能小説家の編集としては失格ですね。

 

「なるほど。では詳しくお願いします」

 

 言葉では説明できないから、直接目で見せてくれるというのです。素晴らしいですね。

 

「あ、ぱんつも撮らせてくださいね」

「……」

 

 取材だからね。大事ですよ、写真は。ええ。何度も見返すことになると思いますので。はい。

 

「では」

「はい」

 

 するするとぱんつを脱ぐ……ごくり。

 ベッドに腰掛け、ぱかんと脚を開いた。俺は間近に寄ってじっくり見る。んー。これが大人のか……普段は小学生のしか見てないからな。結構違うものですね。

 

「毛は剃ってるんですね」

「えっ!? 普通じゃないんですか!?」

 

 大人の女性が普通は陰毛を剃るのか剃らないのか。そんなことは俺にはわかりません。普段見てるのは、単純にまだ生えてないんだよ。

 ただ官能小説においては、割と陰毛の描写はある気がする。

 なんにせよ似合ってると思いますね。剃った跡が。うん。

 

「いえいえ、お手入れしてるのはいいことです」

「そうですか。よかった」

 

 パイパンを否定するなんてとんでもないことですよ。

 とりあえず写真を撮って。さ、取材を続けましょう。

 

「それでお母さんは……?」

「まず、ここを舐めますね」

「おおう……」

 

 舐めちゃうのか……母親が、娘のそこを……。

 おそらくだが、それは普通ではないと思いますね……。

 

「ここをこう、舌でくるくると」

「ほー!」

 

 勉強になりますね。なるほどなるほど。

 

「そして、ここを舌を固くしてツンツンします」

「ふぁ~!」

「ここに舌を入れたりもします」

「うっひょー!」

 

 いや、うん、絶対この親子やばいです!

 

「ママはこのくらいなんですが」

「え? おねえは!?」

「おねえは、もうこっちの穴からこう」

「うえっ!?」

「そして同時に指でここをこう」

「げえっ!?」

「さらに、ここにこういうものを装着して、ここに挿れちゃいます」

「……」

 

 やべーな……姉やべーよ。

 

「個人的には……うちのレーベルくらいのスキンシップとは言わないまでも、もうちょっとライトな方が好みです」

「あ、はい」

 

 彼女が百合モノが好きなのは、そういう理由だったのですね……。

 ご実家がディープなせいで、ライトな百合を好むことになったという経緯だったとは。

 そして妙に男性慣れしてないのも理由がわかったよ。

 

「それで、どうでしょうか」

「えっ」

「だから、これは普通なんでしょうか」

「……」

 

 多分普通じゃないと思います……。

 しかし普通とは何かと言われると。

 例えば俺のように、女子小学生の恋人と愛人がいるのは普通なのかということになりますよ。普通かな?

 しかしながら、そもそも今の時代に普通とか普通じゃないとか考えるのがもうナンセンスなのでは?

 

「愛し合っているようで、羨ましいご家庭ですね」

 

 言った―!

 これは良い答えなのでは?

 そうだよ、家庭に普通も何もないんだよ。幸せならいいじゃない。そんなこといったら、あげはちゃんのお宅なんてどーすんの。

 

「そう、ですよね……」

 

 スッキリしたー。という反応ではなかった。まぁ、そうですよね。

 

「個人的には、お父さんはどうだったのかなーと」

 

 登場してないからね。

 

「パパはお姉のことを愛していたのですが、愛しすぎたことでママから近づくことを禁止されたそうです」

「愛しすぎちゃったんですか」

 

 何をやっちゃったんだよパパ。

 まさか真奈子ちゃんのパパよりスゴイことをしちゃったんじゃないでしょうね?

 

「はい……ほっぺにキスしたとか」

「ええーっ!?」

 

 それだけかよ!?

 

「男女ではちょっと」

「いや家族ならいいんじゃないんですかね」

「そうなんですか?」

「そうだと思いますけど……」

 

 しいて言えば、あなたのお姉さまは絶対ヤバいです。

 

「もちろん、俺ももう妹と風呂に入ったりはしませんが……」

「ほっぺにキスくらいならいいと?」

「うーん。いいと思いますけど……」

 

 どっちかっていうと妹の友達のJSとえっちなことをしちゃう俺の方がダメな気がするんだよね。しいて言えばですけど。別にどっちも問題ないっすよ。

 

「そうですか……ちょっとお願いがあるのですが」

「あ、はい。なんでしょうか」

「弟になってもらってもいいですか? 実は……本当はもっと男性に慣れたくて。年上はちょっと怖いのですが、年下のかわいい男の子なら……」

 

 むっ?

 かわいい男の子?

 俺のことをそんなふうに思っていたのですか?

 

「弟になりまぁす!」

 

 こうして俺は姉ができた。

 



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精彩を欠いたムチ

「どういうつもりだ!」

「ぎゃーっ!? どういうつもりか聞きたいのはこっちですけどーっ!?」

「質問してるのはこっち!」

「ほんぎゃーっ! 相変わらず絶妙な痛さーっ!」

「うるさい!」

「んぎょーっ! わかった、答えるから、どういうつもりってどういうことか教えて!」

 

 説明する必要もないが、俺は今、ムチで網走沙織ちゃんに叩かれている。

 もはや日常の出来事のため、訪問してきた沙織ちゃんがムチを持っていることも、無言で俺の部屋のベッドまで来ることも、当たり前のように四つん這いにして俺の上にまたがることも、当然のこととして受け入れた。

 しかしながら「どういうつもりか」と言われても。

 普通に考えて、突然ひとの家にやってきてムチを振るう方がどういうつもりか聞きたいですよ。

 

「真奈子を愛人にしたとか」

「ああ。うん。そうなんだよ」

 

 祝福してくれるのかしら。

 ひょっとしたら愛人祝いとかくれるんですかね。愛人ができるなんて、結婚や出産くらいめでたいことですからね。

 

「死ね」

「ぎゃあああ!? どうして!?」

 

 飴かと思ったらムチ!

 どういうつもりか聞きたいのはこっちなんですよ!

 

「うるさい」

「んぎゃああ!」

 

 相変わらず質問に答えてくれない。

 どうやら自分で考えて答えないと許されないらしい。

 前回のカラオケのときもそうだったが、あのときは怒っていたんだよな。

 沙織ちゃんは別に怒ってなくてもムチを振るうので忘れがちだが、普通は怒ってるかー。

 沙織ちゃんの場合、表情もよくわからないし。いつもクールすぎて冷たすぎる視線しかくれないですからね。

 さて、なんで怒っているのか。前回は……ももきゅーちゃんを彼女にしたからだったね。

 実はももきゅーちゃんが好きだったんだよね、沙織ちゃん。

 ん?

 ということは?

 

「ま、まさか、沙織ちゃん……真奈子ちゃんを愛人にしたことをお怒りに?」

「それもある!」

「いてえーッ! ヤッターッ!」

 

 一応正解だったっぽいぞ!

 しかしそれもあるとは。真奈子ちゃんを愛人にしたことは怒りポイントそのイチということですか。

 他に何があるんだ。

 

「ひょっとして、編集の富美ケ丘さんの弟になったこともお怒りに?」

「なんだそれ!」

「ギャアーッ! やぶ蛇だったーっ!」

 

 もはやムチは気持ちよくなってきているから、叩かれることは問題ないが……正解しないと終わらないのは困ります。

 俺は別にいいが、沙織ちゃんの家は門限も厳しいから早く帰らせないと怒られちゃうんだよね。

 ムチで叩きに来るなら休日に時間をたっぷりとってした方がいいのに、こんな夕方に来るから……。もう日が暮れるのも早いし、寒くなっちゃうじゃん……。

 

「ヒントちょーだい、ヒント」

 

 難問すぎるって。

 ここはプライドを捨てて、教えを乞うぜ。まぁ、沙織ちゃんの前でプライドを守れたことなど一度もないけどね! えっへん。

 

「だから、弟子だの、彼女だの、愛人だの、姉だの作って、ぼくのことはどうするつもりかって、聞いてるんだーっ!」

「痛い、痛い、気持ちいい、気持ちいいーッ!」

 

 もはや気持ちいいが強いが、なんか重要なことを言っている気もします。

 なに?

 沙織ちゃんをどうするつもりか?

 んー?

 そもそもみんなもどうにかしようとしてそうなったんじゃないんですよ。彼女も愛人も姉もなんか勝手にできちゃったんですよ。

 しかしながら、ここで「どうするつもりもない」と答えたらどうなるかは火を見るよりも明らか。

 どうせプライドなどないので、ここは素直に聞いちゃおう。

 

「ちなみにご希望はなんでしょうかー」

「希望?」

 

 意外だったのか、ムチが止まりました。なぜか寂しいですね。物足りないというか。これが調教か……いい経験だ。体験は作品にリアリティを生む。

 

「うーん」

 

 悩んでおられる様子。

 ムチが弱いですね……。

 

「な、なんでもいいの?」

「そりゃ、沙織ちゃんの希望だったら何でも叶えますよ」

 

 これは本心ですよ!

 ペットになれと言われればなりますし、奴隷になれと言われればなります。

 最悪、処刑と言われても甘んじて死ぬまである。

 

「せ、正妻(せいさい)

「えっ!?」

 

 ……制裁(せいさい)

 すでにされてるんですけど!?

 

「そのつもりだったんですが……?」

「えっ!?」

 

 ムチが止まった。またしても。寂しい……。

 

「いや、ずっとそうだと思ってたけど……違うの?」

「え!? ええ!?」

 

 なぜか混乱しているようだ。

 確かに、沙織ちゃんからしたらムチを振るうことなど日常なのだろう。階段を登ったり、点滅した信号を見て小走りになる程度の認識かもしれない。

 しかし俺は一般人なので、ムチでしばかれるというのは制裁の意味合いだと感じていますよ。ええ。

 もっと強力なものを要求しているのかとも思ったが、どうもそうではないことが背中のお尻から伝わってくる。完全にそんなつもりではなかったって感じ。

 

「そ、そんな。いつから」

「いつからって……最初にスタンガンを使われたときからだけど」

「そこで!?」

 

 いやそりゃ、そこでしょ。

 初めて会ったときから通報されそうにはなってたが、それは制裁というほどじゃないし。

 

「で、でもぼくは渋谷のことを好きだと思ってるんじゃ」

「うん。それが? なんか関係あるの?」

「……!」

 

 俺に馬乗りになっているため、表情はわからない。しかし、お尻から息を呑んで驚いていることはわかった。

 どう考えても、沙織ちゃんがももきゅーちゃんを好きなことと、俺がムチで叩かれることは何一つ関係ない。

 

「ま、まさか最初からそのつもりで……だからわざわざ真奈子を愛人に」

 

 なんかブツブツ言ってるが、せっかく一緒にいるのだからムチを使って欲しい。もうすぐ帰らないといけない時刻だし。尻が寂しがっています。

 

「んー……スタンガンがそんなに……」

「あ、いや、あれだよ? ムチのほうが好きだよ?」

「えー……」

 

 なぜか引いている気がするが……普通じゃね? スタンガンの方が好きな人いる?

 はっきりいってスタンガンはキツすぎる。ムチはほら、なんか愛も感じるから。勘違いだと思うけど。

 

「時間もあまりないから、叩いて」

「え、え~」

「はやくはやく」

「えー」

「よわいよわい」

「ええー」

「いつもみたいにやってよ。結構気に入ってるんだ」

「変態」

「なに?」

「呼んだんじゃないから」

「なーんだ」

「ばか」

「なに?」

「呼んだんじゃないって」

「そっか。もうちょっと強めに叩いて」

「……今度からあなたって呼ぶ」

「あなた?」

 

 変な呼び方だが、変態って呼ばれるよりはだいぶまともだな。

 沙織ちゃんは駅まで送っていく際、いつもよりなんか嬉しそうに見えた。なんでだろう……。



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体で払ってもらおうか

 おっ?

 

「どうした、俺が声を聞きたいと思ってかけてくれたの?」

 

 そろそろ寝ようかと思っていたときにかかってきたスマホの着信は、小江野さんだった。

 

「えっ? 自分の声が聞きたいと思ってたの?」

 

 いつものように適当なことを言っただけだが、明らかに嬉しそうだ。

 

「そりゃあ、やっぱり小江野さんは声がいいからね。人気声優間違い無しだからね」

「え? そ、そう? うへへ……」

 

 嘘です。

 小江野さんは声とか芝居には向いてないのよ。はっきりいって顔とスタイルなのよ。グラビアアイドルになるべき存在。

 

「でも顔も見たいんだよね」

「あ、そう? じゃあビデオ通話にしよっか」

 

 よし!

 まずは1ステージクリア。

 肩より上がスマホに映った。

 

「ど、どうかな」

「かわいい! かわいすぎ! え? まだ化粧してんの?」

「してないしてない! お風呂上がりだよ~」

「マジか……信じられないな……どんだけ美少女なんだ」

「え~、褒めすぎだよ~」

 

 そうです。褒めすぎています。

 さすがにすっぴんに見えます。お風呂上がりだってわかります。でも、お風呂上がりって可愛いよね。妹ですらそうだもん。

 

「それ、パジャマ?」

「あ、うん。そう」

「パジャマも可愛いなー、え、ちょっと下の方も見せてよ」

「ええ? 恥ずかしいなあ」

 

 よし! よし!

 2ステージクリア。

 くるっとターンしてくれたりして、ノリノリだ。

 ヘソより上が見える状態で、座り直した。

 

「でか! いや、でっか……! なんて魅力的なおっぱいなんだ」

「え?」

「すご! え? パッド?」

「入れてないけど」

「マジか……なんて巨乳……しかも形も完璧だ……」

「ええ……」

「ちょっと見せてくんない? おっぱい。生で」

「駄目だよ!?」

「え~!?」

 

 なんだよ!

 3ステージ難しすぎだろ!

 1ステ、2ステと同じ感じで攻めてるのになんでだよ!

 畜生! せっかく褒めまくったのに! おっぱい見たいから褒めまくったのに!

 チョロいから褒めとけばおっぱいくらい見せてくれると思ったのに!

 こんなんじゃ6ステージクリアは夢のまた夢だよ!

 

「は~。じゃあいいよぱんつで」

「え!? どゆこと!?」

「おっぱいは我慢するから、ぱんつ見せてよ。そっちはいいでしょ」

「よくないよ!?」

「ええ~!?」

 

 馬鹿な!?

 2.5ステージも駄目だと!?

 いや、待て。これはちょっと下手っぴだったな。

 妥協で見せてくれるタイプじゃない。

 前回シマウマ模様のぱんつを見たのは、250円引きのサービスでうっかり見えただけで見せてくれたわけじゃないのを失念していたぜ。

 

「小江野さん、小江野さんってすごく魅力的だよね」

「え!? そ、そう?」

「すっごく魅力的で、特におっぱいが最高」

「う、うーん。ありがと」

「でも、小江野さんってそれだけじゃないよね」

「そ、そう?」

「やっぱり、お尻も最高だと思うんだ」

「ん、んー。そう?」

「そうなんだよ……見たいんだ、お尻が……本当に……」

「う、うーん。しょうがないなぁ」

 

 Yes!

 やったぜ!

 うひょー!

 小江野さんはパジャマの下をするーっと下げると、お尻をぷりんとスマホの方に向けてくれた。ベージュか……ぱんつは萎えるが、尻は最高だ。

 夏目漱石ならこう言うだろう、尻がきれいですね(I Love You)

 

「いいものを見せてもらった……ありがたやありがたや」

「ちょっと、お尻を拝まないで!?」

 

 いや、もうここまで来たら信仰の対象ですよ。

 日本には男根崇拝があるくらいですから、尻を崇拝するくらい余裕余裕。

 俺が征夷大将軍だったら、小江野神宮を作って乳と尻の神として祀るね。

 

「それで、乳と尻の女神様がなんの御用で?」

「いつのまにか女神になってる!?」

「いくら女神様でも、俺に尻を見せるために夜中に連絡してきたわけじゃないんだよね」

 

 二礼二拍手一礼を終え、人間としての小江野さんに向き合います。

 

「んー。まぁいいや。そう、用事があります」

「ついにエロゲーか! 買います!」

「買ってくれるんだ……でも違います」

「じゃあエロビデオか! 買います!」

「買ってくれるんだ……でも全然違います」

「じゃあなんなんですか。マイクロビキニ写真集? 買うよ?」

「買ってくれるんだ……」

 

 嬉しそうなんだよなー。もういっそ俺と同人でやる?

 楽しいセクハラタイムをもっと続けたいとは思うが、そろそろ本題に入ってあげないと夜も深いからな。 

 

「ごめんごめん、ほんとは何?」

「実は、その、ラジオなんだけど」

「ああ、はいはい」

 

 俺が初回ゲストで参加した、小江野さんがパーソナリティを務めるラジオ「HEY! MEN! ガールズ!」のことだな。

 基本的にエロゲーの紹介をするラジオだ。うっかりエロゲーに詳しいとか言っちゃった小江野さんをサポートしたんですよ。

 あのラジオがどうしたというのか。

 

「動画配信をすることになりました」

「ほう」

 

 今はなんでも動画よね。ただ小江野さんのボディがあまりにけしからんという理由で配信停止にならないか心配ですよ。

 

「チャンネルも開設します」

「エロ動画サイトに?」

「全年齢向けサイトに!」

 

 全年齢か……大丈夫なのかな。

 世の中、思ったより厳しいよ?

 どう考えても全年齢だろと思ってても、これは一八禁ですねっていきなり公開停止されたりするよ?

 

「ってことは一回だけじゃないの?」

「うん、レギュラーだって」

 

 おお~。

 レギュラーの出演を手に入れるのはありがたいことだと聞いてるからな。

 例えそれがエロゲーの紹介だとしても。

 俺は画面に向かってぱちぱちと手を叩くふりをする。

 

「それに出演して欲しいって」

「よかったね~、ぱちぱち~」

「賢者くんにも」

「へー。……え? 俺も!?」

 

 それはマズいのでは?

 女児向け小説家が、エロゲーの話をするのはデンジャラスですよ?

 この前はあくまでも深夜ラジオだったわけで、読者が聞いてるわけがないという理由でまだよかったわけだが。

 今回はインターネットですよね。

 つまりは俺の名前で検索したらエロゲー紹介動画がヒットするってことでしょ? ヤバいですね。

 ましてやウィキペディアなんて見た日には……「四十八手足は主に女児向けの作家、一八禁美少女ゲーム紹介動画のパーソナリティ」なんて紹介されちゃうわけよ。なんだこいつ。

 さすがにこんなの出版社が許さないだろ。

 

「あ、高願社(こうがんしゃ)のオッケーはもらってるって」

「もらってるんかい!」

 

 両手で○を作ってる小江野さんに、思わずツッコミ入れちゃうわね。なんでいいんすかね。

 

「本人の意思を尊重するし、出版社としては本の宣伝になるならありがたいって」

 

 作品ならともかく、作者がメディアに出てどうこうって話は出版社が止めるものじゃないのかもな。勝手にやれと。

 

「ただ、ギャラの交渉はしないから制作側でやってくださいって」

「あー」

 

 ギャラ。なるほど。

 小江野さんは声優だから所属事務所があるわけで。当然仕事だからギャラが発生するわけだな。

 俺は前回はノーギャラでのゲスト出演で、新刊の宣伝だけさせてもらったってわけだ。

 レギュラー出演となると話が違うしな……。

 それで小江野さんから連絡が来たわけか。ふんふん。つまりこういうことだな。

 

「そこで小江野さんの体で払うってことか」

「違うよ!?」

「あれっ、違うの?」

 

 てっきりそういうことかと思ったぜ……。

 

「じゃあなんで?」

「じ、実は……この企画って賢者くんが参加するのは前提条件だから……NGだったらナシになっちゃう」

 

 えっ、俺次第なの?

 いつの間にそんなことに!?

 確かに初回のラジオではほとんど俺がしゃべってたけど!

 

「これってチャンスだから、絶対やりたいなって思って……だから、その」

「体で誘惑するってことか」

「だから違うんだけど!?」

 

 え?

 わかんねーの俺だけ?

 なんで違うの?

 そもそも俺に何かをお願いするということはそういうことでは!?

 俺のような、人間の三大欲求のバランスが悪い男。酒もタバコもギャンブルも興味なく、ただひたすらエロが好きな男。

 自分で言うのもなんだが、エロいこと以外の理由では動きませんよ!?

 

「楽しかったから」

「えっ」

「一緒にラジオしたの、すっごく楽しかったから」

「……」

「だからまた一緒にしたいなって」

「……さすが声優だな、今のは完璧だったわ……」

「いや、今のはお芝居じゃなくって」

「わかった、わかったから」

 

 ふー。

 あぶねー。

 まさか小江野さんがこう来るとは……エロくもないのに心臓がバクバクしてるぜ……。

 小さな画面越しにちらちらと、上目遣いでおねだりされているだけだというのに。

 

「あと、収録は温泉旅館なんだって」

「なにっ、そこで小江野さんと混浴か! よし、じゃあオッケー!」

「それは」

「楽しみだな―! あー楽しみだ。じゃ、そういうことで」

「あっ」

 

 切った。

 ふー……落ち着け……。

 

「なに今の、あっ、ん、やばっ、さいこうっ、ひうっ」

 

 俺よりよっぽど興奮しているやつの声が聞こえるが、落ち着け……妹がおかしいのはいつものことだ、気にしてはいけない。



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眠れぬ夜はお姉ちゃんに甘えよう

 俺はエロが好きだ。

 エロはいい。わかりやすい。

 なんせ人の三大欲求。

 性欲の話だもの。

 ラーメンはうまい。脱ぎかけの女はエロい。

 そういうことですからね。

 

「お兄ちゃん?」

「なに」

「や、なんでもないけど……難しい顔してるから」

「ちょっとな」

「ふーん。じゃ、おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 俺は妹が好きだ。

 妹はいい。わかりやすい。

 なんせ血の繋がった家族。

 性欲の対象ではないもの。

 猫は可愛い。妹も可愛い。

 そういうことですからね。

 

「ん、メッセージか……」

 

 ももきゅーちゃんからの他愛もない挨拶だった。

 渋谷百九。俺の彼女。

 彼女はわかりやすい。

 存在がはっきりしている。

 ……そういうことなんだよ。

 つまり、俺は、わかりやすいものが好きなんだ。

 ……言い訳だな。

 わかりにくいものが嫌い。

 いや……これも言い訳だ。

 本当のところは、こうだろう。

 わかりにくいものから目をそらして、わかりやすいものにすがりついてばかり。それが俺ってやつなんだ。

 

「はぁ……」

 

 なんとなく、枕元の本を手に取る。

 俺は小説が好きだ。

 小説はいい。わかりやすい。

 なんせ誰かの考えた物語。

 結末が決まっているもの。

 面白い。楽しい。好き。

 そういうことでいいですからね。

 

「ふぅ……」

 

 夜更けにとりとめもなくこんなことをずっと考えているのは、わかりにくいからだ。

 コミュニケーション。人付き合い。

 現実の女の子の心。

 まったくわからない。

 男女の気持ち。どきどきしてわくわくする、未知の体験。それはとても魅力的なことだが、俺にとってそれはエンターテイメントの話だった。

 お姫様が休日にデートをする映画だったり。

 冴えない浪人生が未亡人を好きになる漫画だったり。

 召喚した女剣士と共に戦うゲームだったり。

 そういう魅力的な女の子が登場するエンタメは好きだ。

 しかし、現実は……難しい。

 

「小江野さんは……」

 

 小江野さんは魅力的だ。しかし存在がわかりにくい。

 妹じゃないし、編集でもないし、ファンでもないし、彼女でも愛人でもない。

 だから気になるのだろうか……?

 いや、これも言い訳なんだ。

 本当は、目を背けているだけなんだ。

 実際は真奈子ちゃんも、あげはちゃんも、沙織ちゃんも、ももきゅーちゃんも、柑樹も。富美ケ丘さんもだ。

 全員に対して、特別な感情を持たないようにしている。

 好きかと問われれば、即答できる。

 だがそれは、ラーメンと同じ。寿司も焼き肉も天ぷらも、好きかと聞かれれば、好きだと答える。大好きとも言える。

 俺はももきゅーちゃんをカノジョにしたが、おそらく誰に誘われても断ることは無かっただろう。

 一番好きだから彼女にしたとか、そういうことは一切ないんだ。そもそも誰が一番かということを考えることすらしていない。

 

「うーん……」

 

 なぜこんなことを考えてしまうかというと、やはり編集者のせいだろう。

 俺が書く小説は、イチャイチャする。それはもう男女がイチャイチャする描写はたっぷりある。

 なんせ官能小説だと思って書いてるくらいだ。

 心理描写もちゃんとある。主人公のメイは、恥ずかしいとか、恥ずかしいけど頑張ろうとか、恥ずかしいけど嬉しいとか。まぁとにかく恥ずかしがる。その方がエロいからね。

 しかし乙女心が描写されてないと。ご主人さまを好きなのかわからないと。そういう指摘をされたのです。

 もちろん抵抗した。

 好きかどうかわからないのがいいんじゃないかと。

 だが、駄目でした。

 ご主人さまがどう思ってるのかわからないのはいいが、メイがここまでいろいろやってるのに好きかどうかわからなくていいわけないだろって叱られました。

 読者が共感できるようなエピソードを入れて、読者がメイの恋心に寄り添えるような描写をしろってさ。

 

「ぐぬぬ……」

 

 書けるわけがない。

 そもそも自分自身ですら、そういう感情から逃げてきたのに。

 ましてや女の子の気持ちなんてわかるわけがないだろ!

 誰だよ、好きとか嫌いとかそうでもないとか最初に言い出したのは。エロいかエロくないかでいいだろ!

 くそう、眠れない!

 

「くそっ、こうなったら」

 

 責任をとってもらう。それしかないね。

 俺は、携帯電話を持って誰もいないリビングへ。

 

「はい、もしもし? どうしました?」

「あ、お姉ちゃん、俺だよ~、さかひさ~」

「ああ、うんうん。どうしたのこんな夜中に」

 

 編集の富美ケ丘さんではなく、文乃お姉ちゃんに電話だ。

 俺は弟になるという契約を結んでいる。

 電話番号は同じなのだが、俺がお姉ちゃんと呼んだらお姉ちゃんになる。そういうルール。富美ケ丘さんと呼んだ場合は編集者として対応となります。

 

「ちょっと仕事がうまくいかなくてさぁ~」

「そ、そーなんだ~」

「そこでお姉ちゃんに話を聞いてみたいなーと思って。だめかな~?」

「あら、甘えてくれるのねえ~。かわい」

 

 弟になる。これはわかりやすい。

 そういうロールプレイであれば、俺は上手にできるタイプ。あざとすぎる弟なんて余裕だぜ。

 

「お姉ちゃんって、初恋のときどんな感じだったの」

 

 男性経験は全然無いらしいが、片思いくらいはしてるだろう。

 

「あー。初恋かー」

「教えてよ~」

「そうねー。うん。あれは……中学生の時」

「ほうほう」

「相手は高校生だったの」

「おお~」

 

 思っていたより有益な話が聞けそうじゃないか。

 

「その人はね~、空手部の主将だったの」

「ほう!?」

 

 武闘派男子ですか、これは意外ですね。男性に慣れていないというから、初恋相手も中性的な感じなのかと思っていました。

 

「体は大きくて、無口で、背中で語るタイプ」

「ほほう!?」

 

 ますます男らしい感じ。

 

「でも、優しくて、後輩の頭をがしがし撫でる」

「ほぉ~」

 

 もうあれじゃん、後輩にウザい先輩じゃん。

 

「髪も長くって」

「ほ?」

 

 一気にイメージが違うな。

 まぁ、武闘家は長髪の人もいるか。

 

「スレンダーで」

「スレンダー」

 

 違和感しかない言葉。せめて細身とかでは。

 

「なのにおっぱいは大きい」

「女子だった」

 

 女子だったわ。よく考えてみたらそんなに意外でもないわ。そういう人なんだわ。

 

「笑顔が素敵なんですよー」

「いいですね」

 

 聞いてる情報からすると俺も好きですね。その人。

 

「あんなに可愛いのに、言われて慣れてないから、可愛いって言うと顔真っ赤にしてテレルんですよね」

「超いいですね」

 

 こうなってくると好きになるの当然という気がしてきたね。でもそれじゃ意味ないのよね。

 

「魅力的なのはわかったけど、どうして恋にオチたのぉ~?」

 

 弟感出そうとしすぎて、体は子供で頭脳は大人の名探偵みたいな口調になってしまった。あれれ~?

 

「お姉と付き合ってたんだけどね」

「そうきたか」

 

 お姉……そんな素敵な女の人にまで手を出していたとは……。

 

「お姉の前だと甘えまくってるのが可愛くて……」

「そうきたかー」

 

 聞いてるだけで俺も恋に落ちそうですね?

 

「わたしが見てると、恥ずかしがるんだけど、それでもお姉に甘えたいから、恥ずかしそうに、顔をまっかっかにして、涙目でお姉の膝に……」

「ふむう……」

「長いロングのポニーテールで、おっぱいが大きくて、切れ長の鋭い目つきで、でも優しい笑顔で……」

「うむう……」

 

 うん、それが可愛いのはわかるのよ。

 なんで自分の姉に甘えてるのを見て恋をするのでしょうか。

 

「舐めるのが上手なところが最高だったな」

「は?」

「やっぱり気持ちよくしてくれる人が好き」

「はい終了~」

 

 終了です。

 なんだこの人。

 俺に偉そうなことを言ってたくせに、俺とおなじ穴のムジナだよ!

 



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ランドセルはしょったままで

 

「えっ? 今のエロゲーってこんなことになってんの?」

「そうなんですよ~」

 

 温泉旅館での収録が始まって、俺は驚きの連続だった。

 美少女ゲーム好きのためのラジオ「HEY! MEN! ガールズ!」の企画の動画サイト版で、メインパーソナリティの小江野さんとのトークだが。

 彼女がプレゼンターで、俺がゲームをプレイしながら、ということに。

 ラジオでは、あまり詳しくない小江野さんのフォローをするのが俺の仕事だった。

 ところが今回は「四十八先生が知らないエロゲーの世界」と銘打って、俺が知らないタイトルの話をすることになったのだ。

 俺が知らないタイトルというのは、新しいエロゲーだ。

 

「全画面表示でこんなにキレイなわけ~?」

「そうですよ」

「ちょっ、なにこのコンフィグ、どんだけ細かく設定できんのよ」

「そう、そうなんです」

 

 なぜかオカマっぽく喋っちゃう、どうも俺です。

 しかしビックリしてるのはマジですよ。もともと俺はエロゲーについては、新しいものはわからないのだ。

 むしろ若いのだから、新しいのしかわからないのではないか。と思われるかもしれないがそんなことはない。

 発売日からある程度経ってるエロゲーは価格が安くなるが、新作のエロゲーは結構な金額だ。俺は金持ちじゃないので、新しい作品は基本的に買えないわけ。

 しかも俺の場合は官能小説が大好きだということからもわかるとおり、グラフィックやアニメーション、ゲーム性とかではなくシナリオ重視。

 このエロゲーをやってないようなやつは、人生の半分を損している。

 そんな評価をされている名作エロゲがいくらあると思っているんだと。

 なので、そういうのをやるだけで精一杯だったわけで、今やってるのは大変新鮮な印象です。

 うっかり夢中でプレイしないように、なんか喋らないとな。

 

「え、フルボイスなんだ」

「そうですよ」

「小江野さんもやってるの?」

「やってないです!」

「残念だなあ」

「残念なんだ……」

 

 映像がある分、ラジオよりは無言に耐えられるが、基本的には喋ってないといけませんね。

 ラジオのメインスポンサーは、エロゲーのダウンロード販売サイトだったのです。よって販売中であれば過去の名作の話をしてもオッケーだった。

 今回の動画サイトのスポンサーは、製作販売をしているレーベルです。

 現在絶賛販売中となっているゲームと、今度発売される新作タイトル。その紹介をするのがメインとなっている。

 そのため今は去年発売されたタイトルをプレイしているというわけ。小江野さんは事前にプレイ済みで、俺は知らなくて驚く役目、彼女が知ってて解説するというラジオのときとは逆の立場になった。

 ところが、小江野さんはまったく進行なんてしてくれないので、俺がゲームをプレイしながら喋って、相槌をしているだけという状況です。

 

「しかし、イラストが美しすぎる」

「そうですよね~」

「結構動くよね」

「そうなんですよ」

 

 ……ぽんこつか?

 マジで相槌をしているだけなのよ。これは解説でもなんでもないし、先にプレイしていた意味もないぞ。

 これ、コンテンツとして成り立ってます?

 俺はディレクターの方を見やる。

 なにそのジェスチャー……俺を指差して、両手を合わせてペコペコ……なんとかしろってことらしい。おいおい、ディレクションしてくれよ。

 しかし美人ディレクターにお願いされちゃったら、任されるしかないな。大人の美人がペコペコしてるのなんか可愛いし……うむ……。

 ふーむ。

 

「小江野さんは、どのキャラが好きなんですか?」

 

 相槌以外のことを話させるには、質問をすればよかろう。

 登場人物がある程度出てきたので、誰を攻略するか決めておいた方がいいし。

 

「そうですねえ、四十八先生が気になってるキャラは誰ですか?」

 

 出た―!

 質問に質問で返すやつー!

 視聴者は小江野さんの好きなキャラが知りたいのであり、俺の好きなキャラなんて興味ないだろ、常識的に考えてー!

 ただ不毛なやり取りをしてもしょうがない。

 

「この子ですかね」

「あ、やっぱり。先生はロリコンですもんね」

「……えっ」

 

 俺がロリコンだと?

 とんでもないことを言われたな。

 

「いやあの、このゲームに登場する人物はすべて18歳以上なんですけど?」

「そうでした」

 

 まったく。

 俺のことはなんて言われてもいいけど、エロゲーがヤバいものだと思われたらどうすんの?

 誰がどう見たって、大人の女性だろうが。

 

「ランドセルをしょってたので間違えてしまいました」

「小江野さんはおっちょこちょいですね!」

 

 まったく。確かにランドセルは似合ってるけど、大人なんですよ。

 意外とランドセルが似合う大人の女性は多いんですよね。ええ。

 

「背は低いですけどね」

「まー、大人でも150センチない人はいっぱいいますからね」

「胸も小さいですけどね」

「まー、大人にしては小さめですけど、ランドセル背負ってると大きく見えますよ」

「ツインテールですしね」

「まー、大人はあんまりしないですけど、個人的にはもっとみんなツインテールにしてもいいと思いますね」

「ぱんつも可愛いですしね」

「まー、大人はあんまり履かないでしょうけど、猫ちゃんのプリントされたぱんつ可愛いですよね」

「このロリコン!」

「ええ!?」

 

 どうしてしまったんだ小江野さんは。

 何度も言うけど、これは18歳以上のキャラなんですよ。

 

「いやいや違いますって。こう見えても子供じゃなくて――」

「四十八先生の彼女は小学生ですもんね」

「ふあっ!?」

 

 何を言い出すんだこの人は。

 確かに俺の彼女は渋谷百九、小学六年生だ。それを隠すこともしないが、何もここで言うことないでしょうよ。

 

「ま、まあまあまあ。俺のことはやめましょ。ゲームのね、ゲームの話をしましょう」

「そうでした」

 

 ふーっ。あぶねーっ。

 小江野さんも一応プロだからね。仕事はちゃんとしてくれるはずです。

 

「じゃあ、このロリ――じゃなくて、仁多村裕佳梨(にたむらゆかり)ちゃんルートを目指そうかな。大人っぽい名前ですよね、裕佳梨ちゃん」

「今ロリって言いましたよね」

「言い間違えちゃった、てへ」

「……」

 

 てへ、とか言ったあと無言はやめてくれますかね……。恥ずかしいんですよ。

 せめて相槌を打つのがあなたの仕事では。

 まあ、進めるか……。

 

『おにいちゃ~ん! うりゃ~!』

 

 キンキンに甘ったるい声とともに、画面が揺れた。

 これは飛びかかられたことの演出なのだろう、すごいね。

 

「これはいいな」

「やっぱりロリコン」

「はあ!?」

 

 なんか随分つっかかってくるんですけど、この人。

 男がエロゲーやってるときに隣にいる女の人って、普通はもっと優しいものでは? 

 がんばれがんばれって応援くらいしたらどうなんだ。

 

『おにいちゃん、この格好どう?』

 

 ゲームの中では、裕佳梨ちゃんがスク水姿となっていた。

 

「いいね最高だよ、っと」

「ロリコン」

「いや、もう一つの選択肢の方がヤバいだろ。めちゃくちゃにしてやりたい、だぞ」

「変態」

「うーん。じゃあそっちの方がよかったか」

 

 変態と言われるのはやぶさかじゃないからな。ロリコンは心外なんだよ。俺は多少年下もイケるだけで、年上もイケるのだから。

 

『このロリコン!』

 

 ええー?

 

「ほら、この娘も言ってますよ」

「この娘は、あれか、同い年のキャラだな」

 

 ちなみに裕佳梨ちゃんの年齢は今のところ不明。年上の可能性もある。ランドセルをしている300歳とかザラにいるかんね。

 

堀彫江唯(ほりほりえゆい)ちゃんですよ。ナイスバディだし、普通こっちを選ぶと思います」

 

 この言い方。

 明らかにこの娘を推してるとしか思えない。

 

「さっき好きなキャラ聞いたとき言わなかったよね」

「普通は選ぶと言ってるんですよ」

 

 機嫌悪くね?

 なんか知らんけど、機嫌悪くね?

 これ動画コンテンツなんですけど?

 基本的に小江野さんの笑顔が見たくてみんな視聴するんだろうに。

 

「プレイスタイルは人それぞれだろ……俺はですね、最後まで楽しくプレイするために、本命のキャラは後回しにすることが多いです」

「えっ!?」

「ほら、好きな順番でクリアしちゃうと段々テンション下がっちゃうじゃないですか。どうせ全員クリアするんだから、楽しみはとっておいた方が」

「ほ、本命はとっておくタイプ……?」

「そうなんですよね~」

 

 好みのタイプというよりは、正ヒロインっぽい娘とかはとっておくことが多い。

 基本的には何も考えずにプレイするけども、なるべく脇役というかメインどころじゃなさそうなキャラから攻略するかな。

 早めに初回プレイを終わらせた方が、おまけモードが解禁されて嬉しいという理由もある。

 そもそもこの手のものは攻略し終わった段階で、第一印象からどれだけ好きになったかというのが大事だと思うから、プレイ前に好みを決めない方が良いんだよな。

 そういうことを加味したうえで、この裕佳梨というキャラは最初にプレイするのに向いてると思いますね。明らかに好き嫌いが分かれるタイプ。

 

「じゃ、じゃあ、え?」

 

 小江野さんは、なぜかおどろきにとまどっている。収録中だって言ってるでしょ!?

 

「おっ」

「あっ」

 

 音楽が変わり、そういうシーンに突入した。

 ここで選択肢が。

 

「ランドセルをつけたままか、おろすかの二択か……おろすわけないだろ」

「ロリコン!」

『ロリコン!』

 

 小江野さんはおろか、裕佳梨本人にも言われてしまった。

 いや、その、だって、ねえ?

 ちなみに、自分を好きな男にロリコンって言うとか……そういうキャラは大好きです。



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湯気がない!

 温泉といえば、覗き。

 そう思っていた時期もありましたが、昨今はコンプライアンス的によくないのかそういうイベントは減りましたね。

 いまや温泉といえば、男湯女湯の暖簾変わってて混浴トラブル。これですよ。

 結果的にはこちらの方がエロいわけで。災い転じて福となすってやつですね。

 つまり! 今から起きるべきは小江野さんの入浴シーン! 見ないわけにはいかないッッ!

 さて、俺は官能小説専門なので、推理小説は書いたことがないのだが、ひとつトリックを考える必要がある。

 なぜなら、男湯と女湯の暖簾をかけ間違えるなんて、現実にはめったに起こらないからだ。

 チャンスは待っていてもやってこない。チャンスは自ら生み出すものなんだよ!

 動き出すぜ、この俺の桃色の脳細胞が……!

 ――こういうのはどうだろう。暖簾を俺が変える。これは斬新だな。

 少年漫画に出てくる主人公にはとてもできない芸当だろう。女子のアンケートで嫌いなキャラクター一位にまっしぐらだね。だが、俺ならできるぜ!

 しかし、俺が自分で暖簾を変えると、証拠が残っちゃうかもしれない。指紋は拭き取ったとしてもだ……。目撃者に気をつけても、隠しカメラなどがあるかもしれないし。警察のご厄介になるのは二度とごめんだ。

 女将を買収して、小江野さんが入った直後に暖簾を変えてもらうというのはどうだろう。いや、これは買収を持ちかけた時点で通報の可能性がある。ダメだ……。

 ここは逆転の発想が必要だろう。

 すなわち、暖簾を変えない。す、すげー。その発想は無かったぜ……。さすが俺、さす俺。

 いっそ普通に女湯へ入っちゃうというのはどうだろうか。結局「からだが勝手に……」には勝てないということだ。うん、これってトリックでもなんでもないよね。それがまかり通るなら、苦労しないよね。

 うーん。俺が酔っ払いすぎて正常な判断ができなかったというのはどうだろうか。容疑者は正常な判断ができる状況になかったため、情状酌量の余地があるわけだ。うん、容疑者になる時点でアウトなんよ。裁判でどうこうじゃなくて、裁判まで行きたくないんです。

 酒じゃなくてクスリだったらいいんじゃないだろうか。うん、手に入れた時点でアウトだわ。覗きのためにクスリって、シャレになんね―わ。

 ここは逆転の発想が必要だろう。二回逆転したら元に戻っちゃう気がしますが、気にしない。

 すなわち、小江野さんが男湯に来る。す、すげー。その発想は無かったぜ……。さすが俺、さす俺。

 要するに小江野さんにクスリを使って、男湯に来させるわけ。これを生娘シャブ漬け作戦と呼称する……!

 それは官能小説のネタとしてメモしておくとして、当然却下だ。

 酒やクスリなんて使わなくても、洗脳させる方法はあるじゃない。

 そう、催眠術だね。

 真奈子ちゃんの催眠術によって、小江野さんは自分を男だと思い込み、男湯に入ってくる。これだ! さす俺!

 

「よし」

 

 今電話すれば、真奈子ちゃんはすぐに来るだろう。

 っていうか、独り言で「真奈子ちゃんに会いたいな」とか言うだけですぐに来るし。催眠術だけじゃなくてエスパーの可能性ある。

 

「あ、ここにいたんですか、四十八せんせい」

「へ?」

 

 声の主は美人ディレクターだった。

 

「こっちこっち」

「え? え?」

 

 なんと、俺の手を引っ張って女湯の暖簾をくぐった。なんてこった、いともたやすく行われるえげつない行為とはまさにこのこと。催眠術もなしに、あっさりと!

 

「わわわわ」

 

 いざ合法的に女湯に入ってみると、あまりのアウェー感にビビる。

 

「さあさあ」

「あーれー」

 

 ディレクターに浴衣の帯を引っ張られ、くるくると脱がされる俺。なんで女中側なんだよ! くるくる脱がす側をしたかった! へたり。

 

「ほらほら、パンツも脱いで脱いで」

「いやん、えっち!」

 

 だからなんでパンツ脱がされる側なんだよ~。脱がされるより脱がしたい、マジで。

 

「はいはい、カメラ撮って撮って」

「ちょっ、やだ、ヘンタイ!」

「別にチンコは撮りませんよ」

「やだ! チンコとか言わないでよ、えっち!」

 

 ひどいわひどいわ、セクハラで訴えてやる!

 ってなんで俺が訴える側なんだよ! おかしいだろ! 俺は訴えられる側だろ、どう考えても! どんな世界線だよ!

 そんなことを思いながらも、ディレクターさんに背中を押されて露天風呂へ。

 

「きゃあ!」

「きゃあ!」

 

 最初の悲鳴は小江野さんであり、後の声は俺である。だって俺は一糸まとわぬ状態なんだもの。いや~ん。小江野さんは露天風呂の中。裸なんですか!?

 

「小江野さんまでどうしたんです。あなたは水着を着てるじゃないですか」

「そ、そうですけど」

 

 恥じらう小江野さん。なんだよ、水着かよ!

 俺はディレクターに抗議。

 

「なんだよ! じゃあ俺も水着でいいだろ!」

「男の水着なんて誰も見たくないですよ」

「裸も見たくないだろ!」

「私は見たいです」

「えっ……やだ、もう……」

 

 いきなりなんなの、美人にこんなこと言われたら恥ずかしいよぉ……。ふえぇ。

 

「まぁ、入浴してくださいよ」

「はい……」

 

 股間と胸を隠しながら、かけ湯をして温泉の中に。どきどき。

 

「な、なんで胸を隠してるの?」

「え? 小江野さんも俺の胸を見たいの?」

「そういうわけじゃなくて!」

「もー、みんなえっちなんだから」

「どうしたの、賢者くん、なんか変だよ?」

 

 誰のせいだと思ってんのよ~!

 ディレクターのせいだった。別に小江野さんは悪くないね。しいていえば、水着なんてつけてるのが悪いくらいのものです。

 ん?

 

「え? 小江野さん、ほんとに水着つけてる?」

 

 近寄ってみると、肩に紐も無いし、なにかつけてるように見えなかった。というか、おっぱいが見えてる。見えてますけど?

 

「つけてるよ。カメラではつけてないように見えるように、下半分だけ隠れる水着なの」

「あー、なるほど」

 

 だから上乳については丸見えなんですね。そうだとわかっていても、温泉に入ってて隣にスタイル抜群の女の子が一糸まとわぬ姿に見えるという時点で! 時点でーっ!

 

「さて、じゃあカメラ回しますので、ふたりともよろしくお願いしますね~」

 

 ええ!?

 ちなみに俺はなんの説明も受けていない。

 

「はい、始まりました。DVD&Blu-ray購入特典の特別座談会、特別に露天風呂を貸し切りにして、撮影の許可をいただいてお送りします」

 

 そうなんですね!?

 あるよね、そういうやつ!

 なぜそれを先に言わない?

 ドッキリ仕掛けるなら、小江野さんの方にするだろ普通。俺にやってどうすんだ?

 

「さて、ここでは温泉に浸かりながらゆったりとトークさせていただくわけですが」

 

 配信ではスポンサーのプロモーション扱いだから内容が限られるが、こっちは購入特典だから単純に喜ばれるものをやるのだろう。

 でも正直、小江野さんの上乳が見えてればコンテンツとしてはオッケーなんじゃね?

 小江野さんの上乳をお楽しみ頂くため、邪魔にならない程度の差し障りのない会話をお楽しみ頂く番組にしとけばいいんじゃね?

 

「四十八先生は、お風呂に入るときどこから洗いますか?」

「ん?」

 

 マジで差し障りのないない会話。

 しかしガチで答えると差し障りあるな。だが俺は裏表のない真っ直ぐで正直な男。ここで嘘をつくことはできません。

 

「ちんこです」

「ち、ち!?」

 

 よほど想定外だったのか、慌てふためく小江野さん。確かにな。無難すぎるトークテーマだと思ったのでしょう。事前に打ち合わせしてないことが裏目に出ましたね。

 

「やっぱりまずちんこ洗いますよ。あ、正確に言うと先にタマキンを洗ってから竿を洗います」

「……」

 

 おや?

 小江野さんは早くものぼせたのかな? 返事がありませんが?

 

「あ、でも勃ってるときは先に竿を洗うかな」

「……」

 

 おいおい、何も言わないぞ。

 俺は何も聞かされていないのだから、司会進行やってもらわないと困りますよ?

 

「小江野さんはどうですか?」

「え、ああ、自分ですね」

 

 俺が司会やらないとダメっぽい。しょうがないね。

 みんな俺のことより小江野さんのことが知りたいんだから。よーし、円盤買ってくれた人のためにも頑張っちゃうぞー。

 

「乳房を洗ってから、乳首ですか? それとも先に乳首?」

「えっ、えーっ!?」

「俺には聞いておいて、自分は答えないのは無しですよ?」

「そういう質問したつもりはないんですけど~!?」

「俺みたいに乳首が立ってるときは先に乳首とか?」

「乳首なんて立ちません!」

「じゃあ乳房からですか?」

「と、特に意識してません。お腹を洗うときのおへそと同じです」

「へー、そうなんですね~」

 

 これでよかろう。

 こんな調子で会話を続ければ、問題なしだ。

 それにしても乳首は立たないのか……となんとなく、彼女の乳首の方を見ると。

 

「!?」

 

 立ってる!?

 っていうか、見えてる!?

 こ、小江野さんの乳首が……見えちゃってる。どうやら水着がずれてしまったようだ。

 ディレクターの方を見るが。

 

「?」

 

 そのまま続けて、という指示だった。どうやら至近距離だから見えてるだけで、向こうからは見えないようだ。

 それにしてもキレイな乳首だ。色も薄く、乳輪は小さく。形も好みだ。うっ……。

 

「どうしました、四十八先生?」

「いや!? えっと、あれですよね。おへそも乳首くらい感じやすいって話ですよね」

「全然違います!?」

 

 あぶねー、ごまかせたか。

 

「もう体をどこから洗うかの話はいいです。次にいきますね」

「あ、はい」

 

 ちゃんとトークテーマが設定されているらしい。

 

「自信がある身体のパーツはどこですか」

「なるほど。小江野さんは乳首ですよね」

「なんでですか!? あの、自分のじゃなくて先生ご自身のを答えて欲しいんですけど?」

「俺はそんなに乳首は自信ないですね」

「乳首から一旦離れてください!」

「それって、一旦口に含んでから離れろってことですかね」

「どうしてそうなるんですか!?」

 

 いや、だって。見てると舐めたくなるというか……ごくり。

 

「身体のパーツ……四十八先生は、意外とたくましいときがありますよね」

「ああ、そうですね。普段はへにょへにょですが、今は結構たくましいことになってますね」

「……? ああ、そうですよね、裸ですもんね」

「そうですね、裸っていいですよね」

「だから腕とかじゃないかなと思うんですけど」

「え? 俺の腕?」

「はい。ちょっとムキってしてみてくださいよ」

「こう?」

「わー、かたーい! 結構太いんですね」

「そう?」

「ほら、カチカチ! すごーい、おっきーい、かっこいー」

 

 なんだろう、違う箇所がもっと固く大きくなるんですけど。腕を触るために近づいた小江野さんはますます乳首が見え見えで、太もも同士が触れ合っている。

 

「自分はあまり自信のあるパーツはないけど、しいていえばやっぱり声ですかね」

「あっはっは、なんでやねーん」

「え? ボケてないんですけど!?」

「いやいや、ないない。ウケる」

「なんでー!?」

 

 そんな感じで収録は順調に行われ、小江野さんは途中で水着も直し、無事に終了した。

 



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官能小説家に大人気の官能小説家!?

 ファンレター!

 それは小説家にとって、いや、クリエイターにとって最も嬉しいもののひとつ!

 今回我が家に届いたファンレターは最多。生きていてよかった!

 見るからにファンシーな女の子からのものが多いが、渋い茶封筒もある。ひとつずつ、大切に読ませてもらおう。

 どれどれ、最初は小学生らしき文字で書かれたコレから。開封する前からほっこりするよ。

 

「わたしは小学四年生です。メイちゃんもマイちゃんも好きです。でもやっぱりご主人さまが大好きです」

 

 はいはい。一番多いタイプの感想です。

 はっきりいって、作者としてはご主人さまに対して思い入れはありません。

 むしろなんでこんなセクハラくそ野郎が人気なのか不思議です。いくらイラストがイケメンだからといっても、エロ漫画に出てくるキモいおじさんと中身は一緒ですよ?

 いや、そりゃ一応ご主人さまではあるから、それなりに常識や気品はあるが……。

 

「ご主人さまが、よく頭を撫でたり、よしよししてるのが優しくてステキだと思います」

 

 うん、セクハラなんすよ。ただの。

 頭も撫でるが、その後尻も撫でてるし。よしよししながら尻も触ってるし。ダイレクトに尻とは書いてないが……まぁ小四じゃわからないか。本当は尻の穴にまで指が届いている事も把握しているあげはちゃんが特殊なんだ。

 もしご主人さまのようなことを先生がしてきたら即通報するんだよ……。

 

「ご主人さまは本当にメイとマイが大好きなんだなーと思います」

 

 まあね。それはそうです。

 ただ、あまりキラキラした目で言われたら俺は目をそむけます。

 

「でも、本当はギフのことが好きですよね」

 

 へ?

 ギフ?

 誰?

 

「ギフがマイを預けにきたとき、このカップリングしかないと思いました」

 

 マイを預けに……?

 って、あれか。メイとマイの父親のことか。名前も忘れてたわ。

 なんでカップリングされてんの?

 

「マイを預かるとき、顔を赤くしてギフになにか言おうとして言わなかったところ、完全に恋です。ごちそうさまです」

 

 怒ってんだよ!

 普通はテレてる仕草を怒ってると勘違いすんだよ。逆のパターンあんまないのよ。

 借金返すために自分の娘を売りに来てるおっさんをなんで好きにならんといかんのだ……小四女子はわからん……腐るの早すぎるだろ……。

 

「ギフもご主人さまの前では笑ってましたし、好きなんだと思います」

 

 いや、そんないい意味で笑ってないよ。

 ほらメイだけじゃなく妹も連れてきてやったぜ、ゲヘヘ。金さえもらえりゃこんなやつら好きにしてくれよ。ヒヒヒ。そんな感じよ? クズだよクズ。

 ご主人さまなんて、好きなわけないっす。好きなものはギャンブルっす。目を覚ましてくれ、小四女子のファンよ……。

 

「わたしも大人になったらギフのような男になって、ご主人さまみたいな男と一緒になりたいです」

 

 男の子だった!? 最近はBLが好きな男の子もいるらしいですけども!

 正直、男の子からファンレターは滅多にもらえないから嬉しいのだが! だがしかし!

 ううむ……ギフの出番を用意するか……この子の将来には責任を持てませんが。恋愛は自由ですからね。

 よし、次。

 

「娘がいつも楽しみに読んでおります」

 

 ほー。親御さんだ。大人だ。これもありがたいですね。

 

「しかし今となってはわたしの方が夢中になってしまいました」

 

 おー。いや、うん。そりゃ嬉しいですね。

 でもあれでしょ、またご主人さまがステキとかでしょ。人気なんだよな、お姉さま方に……。

 

「特にこのご主人さまが最高です」

 

 やっぱりか……なんでこいつこんな人気なんだろう。お母さま、こいつみたいな男を好きになってはいけません。

 

「メイへのセクハラの数々、同じ男として興奮します」

 

 お父さんだった!

 セクハラだってわかってくれてるぞ!

 そしてご主人さまを主人公として気持ちを共有しているタイプだった!

 

「メイちゃんはカワイイし、お仕置きに興奮してるところ、たまりません」

 

 コレだよ。

 本当に欲しかった感想、コレです。

 お父さん、本当は娘さんのためじゃなくて、あなたのために書いているんです。

 

「しかし、メイちゃんはまだしも、うちの娘と同じ年頃のマイちゃんにあそこまでするとは」

 

 OH……。

 これはマズイですね……。

 自分の娘と同じ年頃の女の子にエロいことをする男。こりゃさすがに許せないということか……お怒りの感想だったか……。

 

「ご主人さま最高すぎ! わたしも娘の友だちにそういうことをしたいと常々思っていたのです」

 

 そっちかよ!?

 お父さん……。ヤバいっすよお父さん……。

 

「しかし、もちろん我慢しているわけです。その気持ちを、その衝動を。ご主人さまが、この本が救ってくれている。そう思っています。これからもお体に気をつけて頑張ってください」

 

 わかりましたっ!

 あれですね、痴漢したくてムラムラしてるおじさんが痴漢モノAVで溜飲を下げてるようなことなんですね!?

 お父さんのためにも俺が頑張って小説を書きましょうね。俺の小説は犯罪を予防する効果があるかもしれないんですね。娘さんのお友だちを守れるんですね。モチベーション上がるな~。書くしかねえ!

 さて、次はどんなファンレターかな。

 

「四十八神、崇拝しております」

 

 出だしからとんでもないな。これは嬉しいというより、怖いんですよね。もはや。

 

「何もかも、素晴らしすぎる小説。いや、小説という言葉ではもはや表せないですよね。神託(オラクル)ですね」

 

 小説だよ。

 なんでオラクルってルビ振った? ファンレターにそういうのいらないよ?

 

「いや、ホント、何もかも最高」

 

 いやー。こういうのむしろ本当に好きなのかって思っちゃうよね。読んでなくても書けるじゃない。どこが最高なのか教えて欲しいんだよな。

 

「特に好きなところは」

 

 ああ、あるんですね。それは嬉しいなあ。

 

「文章が美しいところでしょうか」

 

 うーん。そう?

 嬉しいっちゃ嬉しいが……別に美しくしてるというわけでもないしな。小学生にもストーリーが伝わりやすいようにしているつもりだ。

 

「そういう本当の魅力をわからずにご主人さまが好きとか、そういう浅はかな連中には反吐が出ます」

 

 うわー。ご主人さまが好きとかのファンの方が全然いいよー。なんだこいつー。

 ちなみに本当の魅力をわかってるのはさっきのお父さんの方です。

 

「我々はこれからも、この神の如き作品の真の魅力を多くの人々に伝えようと思います。偉大なる同士、清井真奈子さまとともに」

 

 うおーい!

 真奈子ちゃんに布教された人だったわ!

 うーん、この人はなんか被害者なのかもしれない……。真奈子ちゃんにファンレターを送る強要行為などがなかったか聞かなければ。

 最悪洗脳してる可能性まである。催眠術が使える真奈子ちゃんならやりかねないからな。偉大なる同士って書き方も怖すぎるし。もうヤバい団体みたいじゃん。

 やれやれ……普通のファンレターが読みたいな。見た目普通のものを選ぶか。

 

「拙者は、究極将軍(アルティメットジェネラル)と申すもの」

 

 普通じゃなかった……一行でわかるくらい普通じゃなかった。だからファンレターにルビはいらんて。

 

「将来はライトノベル作家になりたいと思い、普段は主に異世界バトル物を読んでおる」

 

 ほー。そういうことなら一行目も納得だが。そういう人に読んでもらえるのも嬉しいですね。

 

「だけどメイドが大好きなもんで、ついつい手に取ってしまいましたっ」

 

 三行目にしてもう将軍っぽさが皆無に。異世界バトル物より日常系を書きそうな文体ですが。メイドが好きだから読んでくれたなんて、いいじゃないですか。ありがたいよ。

 

「しかしメイはいけません。こういうメイドはいけませんよ」

 

 アンチだったか……。普通のファンレターが読みたかったのに。

 

「こんなカワイすぎるメイドはいけません! もうメイちゃんの虜ですぅ~」

 

 絶賛だったわ。こういうファンレター欲しかったんですよ。これこれ、こういうのですよ。コーヒーが美味しいよ。

 

「マイちゃんもぐうかわ。ぐうかわですよ。マイちゃんしか勝たん」

 

 嬉しいけど、本当に異世界バトル物を書きたい人なのかが気になります。私、気になります。

 

「文章も読みやすくて、ストーリーがすっと入ってくる感じで、とてもいいと思います」

 

 お、おう。いきなりどうした。作家志望っぽいっちゃぽいけど。さすが、美しすぎる文章だの神託(オラクル)だのじゃなくて的を射てる感じです。

 

「今後も楽しみにしています。ちなみにお恥ずかしいのですが、今は官能小説を書いていて、越井野覚三と名前です。それでは」

 

 越井野覚三(えちいのかくぞう)先生~!?

 ちょ、え? マジ? 嘘だろ?

 え、これから異世界バトル物書くの? しかも究極将軍(アルティメットジェネラル)ってペンネームで?

 いや、そんなことはどうでもいい。俺が大好きな官能小説家のひとりで、特にメイドものは最高だ。二十年はこの世界にいる尊敬する大先輩である。そんな人からファンレターがもらえるとは。ひょ、ひょえーっ!

 

「お、お兄ちゃん、なんで変な踊りを?」

 

 そりゃ混乱もするだろ。くねくねくねくね。

 しばらく踊って、興奮が収まってから寝た。

 



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聖☆四十八さん

南無四十八手足~(なむよそやてあし)

『南無四十八手足~』

 

 手を合わせて、拝む白い服の人たち。

 やばくね?

 俺は神でも仏でもないっつーのー!

 

「先生、これが礼拝です」

「礼拝」

 

 自分の写真を拝んでいる人たちを見たことある人いる?

 俺は今見ている。怖い。全然嬉しくない。

 

「礼拝が終わると、次は音読です」

「音読って、まさか、俺の?」

「もちろんです。先生の小説を順番に音読します」

 

 こわっ。

 読んでもらえるのは嬉しいが、集団で音読こわっ。あと普通に自分が書いた文章を人に読まれるのは恥ずかしい。黙って読んでくれ。

 

「その後、筆写です」

「ひっしゃ?」

「先生の小説を書き写す作業です」

「ええ……」

 

 そんなんしなくていいよー。

 別に嬉しくもないし、得るものもないと思います。書くより、カイて欲しいよね。

 

「平日はこの程度です。日曜日は一日かけて活動します」

「なにするんだよ~」

 

 自分の人生を生きてください。お願いですから。

 うん、よくわかった。

 やはり、俺のファンクラブを名乗る団体は間違っている。

 

 先日、真奈子ちゃんに確認したんだよ。ファンレターの中にあった、真奈子ちゃんの同士からのものについて。

 なんかおかしいことしてないかと。同士ってなんだと。

 それで連れてこられたのがここ。のどかな住宅街にぽつんとある、小さなオフィスビルの2階。10人ほどの女の子たちが、全員同じ地味な白い制服を着て活動していた。

 そうです、完全に怪しい宗教です。

 

「先生は、この四十八ファンクラブが嬉しくないんですか?」

「うーん」

 

 本来なら嬉しいに違いない。女の子がファンクラブを作ってくれたのならば。だが嬉しくない。

 だって、ファンクラブって感じじゃないんだもん。新興宗教四十八教だもん、これ。

 真奈子ちゃんから、俺のファンたちが集まって活動しているという説明を受けたときは嬉しかったけど、どう見ても健全な活動とは思えない。

 やっぱりこんなことはやめるように言おう。

 

「真奈子ちゃん、この人たちだけど……」

「あっ、せっかく先生に来ていただいたわけですから、みんなに会っていただけますか?」

「あ、うん」

 

 真奈子ちゃんに両手を組んでうるうるした目でお願いされては断れるはずもない。ちょうどいい、みんなに直接言おう。こんなことしてないで、もっと有意義なことをしなさいと。目を覚ましてくださいと。俺のファンなんて頭おかしいよって。

 

「みなさーん! なんと四十八先生がいらっしゃいましたー!」

『きゃあー!』

「ちょ、ちょっと」

 

 みんな大スターが来たかのように歓迎している。あれよあれよという間に取り囲まれて、椅子に座らされる。

 そして始まる大歓待。

 

「力加減どーですか」

「う、うん。気持ちいいよ」

「わぁい」

 

 肩を揉んでくれているのはまだ小学生だろう。手が小さくて、なんとも言えない気持ちよさ。

 

「先生、これは気持ちいいですか」

「これはどうですか」

 

 腕を揉む人や、脚も揉まれて。過度なボディタッチで頭の中がぽわぽわしてくる……。

 そして、いい香りのお茶が登場。

 

「ふーふー」

 

 一番おっぱいが大き……一番年上と思われる女の子がお茶を冷まして飲ませてくれる。おいしー。あと眼の前のおっぱいがしゅごいよう。

 

「はい、ゆっくり飲んでね」

「うん、ずずー」

 

 あまりのバブみに幼児退行してしまう。

 お茶は、甘くて、独特の香りが口に広がり、脳がくらくらしてきた。

 

「先生の作品は全部最高です」

「天才です」

「ああ、先生、会えて幸せです」

「先生、ステキです」

「先生、かっこいい」

「先生、好きです……」

 

 四方八方から甘い声が飛び交う。言って欲しかった言葉を上回る美辞麗句。夢の中より夢のよう。気持ち良すぎでは? 明日死ぬのかなと思うレベル。

 

「先生はわたしの生きる意味」

「先生こそ、この世の希望」

「先生は、神様のような人です」

「先生は、神です」

 

 うん、わかりました。俺は新世界の神になる。

 君たちのためにね……。

 

「みんなありがとう。みんな可愛いよね……」

 

 そう。なぜかみんな可愛い。10歳から17歳くらいの可愛い女の子が10人いて、揃いも揃って俺のことを好いてくれている……これはハーレムというやつでは?

 男なら誰もが一度は夢見るやつじゃないですか。史上最強の称号より欲しいことでおなじみの。

 

『か、かわいいだなんて……』

 

 みんな顔を赤らめて恥じらった。かわいすぎる。

 

「本当にかわいいと思ってますか? わたしも?」

 

 そう聞いてきた一人の少女。中学生くらいだろう。ちょっとボーイッシュかも。

 

「もちろんだよ。すっごく可愛いと思うな」

「じゃあ、いいですよね」

 

 そういうとボーイッシュガールは、俺の頬にキス。

 

「ああっ!?」

「ずるいです」

 

 それをきっかけに、みんなが俺に口づけを始める。ふむ……もう死んでもいいか……。

 頬に、顎に、額に。キスの嵐ですね。生きていてよかった。

 真奈子ちゃんがただじっと微笑んでるのが気になるが。

 

「四十八様……好きです」

「四十八様……愛してます」

「四十八様……どうかわたしを見てください」

「四十八様……!」

「ああっ、四十八様っ!」

 

 いつまでも、君に一緒にいて欲しい。そういうお願いなんですね?

 俺は時を司る女神……じゃなくて新世界の神として、その願いを叶えるんですね?

 

「願いを言いなさい」

 

 クリエイターとは創造主。すなわち神である。

 ファンの願いを叶えることこそ、神のなすべきことである。

 さあ、サインでも、握手でも、リクエストでもなんでも言いなさい。

 

「ここを触ってください」

「いいだろう」

 

 ふむ……手じゃなくて脚とは……すべすべ。

 

「わたしはここを」

「いいだろう」

 

 ふむ……尻を触って欲しいとは……。

 

「あの、ここに口づけをお願いできますか」

「いいだろう」

 

 ふむ……へそにキスして欲しいとは……人間の考えることはわからないな。

 

「四十八様……ここを……」

「四十八様……ここにも……」

「いいだろう、いいだろう。なんでも言いなさい」

 

 迷える子羊たちよ。

 我は君たちのためにある。

 真奈子ちゃんの目が、そう教えてくれている。

 

「四十八様……どうか神聖な神棒ををお見せください」

「四十八様……!」

「いいだろう」

「四十八様……!」

「触っても」

「いいだろう」

「お舐めしても」

「いいだろう」

「ここをこうしても」

「いいだろう」

「いいだろう……」

「いいだろう…………」

 

 ……。

 …………。

 

「はっ!?」

 

 なんだ!?

 ここは……家の風呂か。

 どうやら、寝てしまったようだ。

 そうだ、俺は疲れてるんだ。きっと、変な夢を見ていたに違いない。

 神になる夢とか、どうかしている。

 湯船から上がって、鏡を見る。

 俺の体はキスマークだらけだった。




ノベルアッププラスでも投稿してるのですが、HJ大賞の一次通過したみたいです。よくまあこのタイトルで「恋愛・ラブコメ」で通過できたものです。


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近親と不謹慎な関係を

 哲学。

 難しいことだと思っている人もいるかもしれないが、哲学とは常に人生に寄り添っているものである。

 この世の理を学ぶ自然科学には明確な答えがあるが、誰も正解を持っていないものが哲学と言っていいだろう。

 なぜ世の中はこうなっているのだろう。

 なぜ俺はこう思うのだろう。

 そういったことを考えて、考えて、考えた結果を文章として紡ぎ出す。それが小説家という生き物なのだろう。

 さて、俺が向き合う哲学とはなにか。

 うん、エロいことだね。それしかないね。知ってた。

 エロい哲学とは。

 例えば、なぜパンストを破くとエロいのか、という問いである。

 わざわざパンストを履いてくれと頼んで、そしてそれを破いて。それに興奮する。うん、意味がわからん。どんだけ考えてもわからないし、俺も見ると興奮する。哲学ぅ~。

 

 自然科学としてエロを考えると、これは生殖行動である。よって、生まれてくる子供が生き延びて、子孫を繁栄していくであろう可能性が高くなる異性を好む。

 それは利己的遺伝子(セルフィッシュジーン)によるものである。生物には自分の子孫を残そうとする本能があり、その要因とされているのが利己的な遺伝子。

 なぜかわからないけど、こういう女の子が好きだな―と思ってるとき、それは

 利己的遺伝子(セルフィッシュジーン)が「この相手なら子孫が繁栄しそうだよ!」と判断したから、という説だ。

 性欲を司っているのが利己的遺伝子(セルフィッシュジーン)なので、本人が交際相手には容姿なんて求めない、性格良ければいい、と心が思っていても遺伝子が拒否したらもう無理なんですよ。つまり勃たない。

 我々が赤ちゃんやおばあちゃんに性的に興奮しないのは、生殖能力を持っていないからなわけ。子供をバンバン生めそうな年齢が魅力的に見えるのは、そういう理由なのである。みんなが女子高生を好きなのは普通なんですよ。受胎する確率が高そうな女の子を好むのは、遺伝子的な観点で考えて当然というわけ。

 つまり遺伝子サイドから考えるとわかりやすいんですね。特に女性から見るとわかりやすいかも。

 小さいときに脚の早い男子がモテただろ。あれはやっぱり運動能力がある方がいい子孫が残せそうだから。

 そのうち学校の成績がいい男子がモテ始める。それは運動能力よりそちらの方が社会的に価値があると気づくから。

 そして最終的には金持ちがモテる。財力があるほうが子孫繁栄できるから。実に理にかなっている。

 みんながスタイルのいい、整った顔の人が好きだというのは、遺伝子がより優秀な遺伝子を残そうとする結果でしょうし。うん。

 ここまでが絶対評価というわけだな。

 それに対して相対評価もある。つまり、人それぞれ異性の好みが違う点だ。これは、遺伝子の相性の問題に違いない。

 背が高い人は背が低い人で、逆に背が低い人は高い人が好きだったりするのは、子供の身長のバランスを取ろうとしているのだろう。あまり背が高すぎたり低すぎたりすると、その子供が生きづらいからと考えられる。

 遺伝子の至上命題は生き延びることである。生き延びるには環境に適応することが大事だ。よって、自分とは異なる要素を取り込もうとするのだろう。お相撲さんの奥さんが背が低くてめちゃくちゃ細かったりするよね。あれエロいよね。それはさておき。

 異性の好み。これは当然、いわゆる萌え要素というか、キャラクターの魅力にも通じるだろう。

 

 例えば、ギャル。

 なぜオタクはギャルが好きなのか、という問いである。

 インドアの陰キャのオタクであるがゆえに、真逆の存在であるギャルに惹かれるわけだ。これも遺伝子の視点で説明可能だ。

 普段、オタクの遺伝子ちゃんは「子孫残したいよー、残したいけど、ヤバいんじゃね? 運動不足だし、モテないし。こんなんで生きていけんの? 絶滅か? この遺伝子は絶滅すんのか?」なんて考えてると思うわけ。

 そこでギャルを見ると競走馬の血統を考えるように「ギャルは非常にたくましいですね。この宿主は弱々しいもやしみたいな生き物だが、ギャルとの交配なら期待できるでしょう。不足していた健康と社交性を補強したいい子供が生まれるのでは」とか思ってて、それが宿主たるオタクの「ギャルっていいですね、デュフフ」というセリフになるのでしょう。わかる。ギャルの彼女がいる俺が保証します。

 メイドが好きなのも、同じように考えることができる。

 なぜオタクはメイドが好きなのか、という問いである。

 オタクは見た目がだらしないし、口答えばっかりする理屈バカだから、清楚でキビキビ働く従順な女の子を好きになるということだ。うん、冷静に考えると死にたくなるね? もっとピュアな気持ちでメイドさんに萌えていたかったね?

 もっと死にたくなるのは痴漢とかレイプだよね。これが好きなのってつまり遺伝子ちゃんが「普通の方法じゃ無理だ……なんとしてでも子孫を残したいからなりふり構っていられねえよ!」となった結果好きになるジャンルと考えられる。ひどいよ遺伝子ちゃん!

 これに比べて非常に真っ当な、恥ずかしくない好みとして別の人種というのがある。ファンタジーで言えば、エルフやウォーウルフみたいなことですね。ヒトに似ているが、少しだけヒトと異なる部分がある。これがポイントだ。

 リザードマンのようにもうヒトとは程遠い見た目では、興奮できない。これは遺伝子ちゃんが「いくらなんでも交配できるように見えん……仮にしたとしてどんな子供になるのやら……こわっ」となるからだ。

 その点ちょっとだけ見た目が違う場合は遺伝子ちゃんは「わっ、なんか違いがいっぱいあって適応能力すごく増えそうじゃん。子孫が繁栄しそうな気がしてきましたよ」とお喜びなわけですよ。猫耳とか兎耳が好きな男子、あなたは普通です! 安心してください!

 現実よりの話をすると、隣国の女性なんていうのがまさにそう。

 中国、韓国、台湾、フィリピン……そしてロシア。

 ロシアの女性は日本に近い隣国でありながら、アジア系とはまったく異なる要素のてんこもり。日本人の遺伝子からするとさぞ魅力的に見えるに違いない。ロシア人嫁との間に生まれた娘なんて可愛いに違いないと確信できるし。うん。

 つまり、普通に考えてみると、男性が惹かれる女性には遺伝子的に魅力があるからというふうに考えることができる。ここまでが前提だ。

 

 そして、これからが哲学だ。

 お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。今までのは全部ただの前置きです。

 考えるべきは、ただひとつ!

 なんで「近親相姦」に興奮するのか、という問いである!

 はっきりいって、おかしいです。おかしいですよ遺伝子ちゃん!

 もちろん普通に機能していることもある。通常の男子において、一番性的魅力がないのは実母である。勃起しちゃいけないとき、母ちゃんのことを考えるなんて人も多いだろう。これはまさに遺伝子の為せる技。

 隣国の女性が魅力的なのとまったく逆だからです。血が近すぎて、子供にとってよくないから。どんだけ人間として母親を愛していても、母親には勃起しない。これが真っ当に遺伝子が仕事しているということですね。

 じゃあ、なんでAVとかエロ漫画とかにはこんなに近親相姦モノが多いのでしょう?

 いいですか、おさらいですよ?

 環境に適応するために?

 自分にはない要素を好ましく思ったり?

 自分とは少し遠い存在に惹かれるんでしたね?

 だから、一番ありえない女性というのは「親戚」ということですよ。そうですね?

 

 ――なぜだーッ!

 なぜ、世の中にはこれほど多くの近親相姦モノにあふれているんだーッ!

 WHYセルフィッシュジーン! オカシイダロ!

 姪に興奮するなよ、遺伝子ちゃん!

 嫁の連れ子ならいいですよ? 倫理的にどうかはともかく、遺伝子的には変じゃないよ。他人なんで。

 姪はダメよ。どのくらい駄目かっていうと、競走馬でもやめた方がいいレベル。インブリードすぎて。

 そして一番ダメなのがこれ。妹。絶対ダメ。ありえない。妹との間に子供が生まれた、父マルゼンスキー、母の父マルゼンスキーになっちゃう。ナイナイ。

 

 ――なぜだーッ!

 じゃあ、なぜ!

 なぜ、世の中にはこれほど多くの妹モノにあふれているんだーッ!

 実際問題、リアルはどうなのかということはこの際どうでもいい。ここで考えるべきなのは、なぜわざわざ妹モノにするのか。なぜその方が興奮するのか、ということである。

 もちろん、マニアックな性癖は存在する。例えば死姦とか獣姦とか。これは絶対子孫繁栄できないから遺伝子ちゃん激おこ案件なんだが、まあ激レア性癖だからそういうこともあるだろうって話。例外とします。

 ところが妹属性はメイドを遥かに上回る一大ジャンルだ。妹モノのエロゲーだっていっぱいある。決してマイナーなものではないのである。

 マジで意味がわかんねえ!

 この世界で一番難しい問題、それが近親相姦といっても過言ではない。哲学とは、近親相姦のことである。

 

「妹をエロい目で見るとか……」

 

 無いだろ。無い。

 

「えっ」

 

 なんだ? 今の声は……って、詩歌か。もう寝てるはずなので、きっと寝言だろう。寝るのが早くて寝言が多い、それが詩歌です。いつものことなので、気にしない。

 

「詩歌も俺のことをエロの対象にするってことは絶対無いだろうしな」

「ふあっ……はぁっ……その認識がまたイイっ……」

 

 今日も寝言がでかいな詩歌は……。

 まぁ、無いよ。ナイナイ。

 

「詩歌だけは無いもんなあ」

「ぐふぅっ……だが、それがいい……」

「だが、それは妹だからなのかどうかという話だ。妹じゃなかったらどうなのか」

「ほう……?」

「つまり詩歌の写真だけ見て、これは中学のときの同級生だと思い込む」

「同級生」

「もちろん詩歌のルックスだ、クラス一の美少女」

「ほ、ほう? そんなふうに思ってた?」

「お前、誰好きなんだよとか恋バナになったとき友達はみんな詩歌の名前をあげる。これが客観的な評価だろうな」

「ほひょふふふ」

 

 独り言がうるさいなあ……。

 いつものことであるが、さすがに今日は多い。どんな夢を見ているのやら。

 

「クラスのマドンナ、詩歌……それが俺にバレンタインのチョコをくれたとして」

「ふほほ……かわいいこと言ってる」

「普通だったら絶対に断らない状況……だとしたら」

「したら……」

「んー、ないなー」

「ないっ……! だが、それがいい……」

 

 詩歌の夢の舞台は地下帝国かなにかなんだろうか。なんかざわざわしてるな。

 

「いや、バレンタインイベントくらいじゃ無理か。エロくないと」

「き、きたーっ!?」

「詩歌が誘ってくるわけだ、スカートをめくりながら」

「わわわーっ!?」

「しかもゴムを口に咥えて」

「そういうのがいいんだ。輪ゴム?」

「そんなんされたら普通はヤバいが」

「やばいんだ。なんで? 輪ゴム、やばい、なんで?」

「最強エロシチュ、でも詩歌なんだよな。ん~……やっぱ、ないな」

「がーん! でも、それもイイっ……」

 

 完全に会話になってるな。寝てるのに。すげーな。でも言ってることが意味不明だからな。それもイイってなにがイイんだか。やっぱ寝てるんだよな。

 

「詩歌が妹じゃなかったら、という設定ではこんなものか。次は、詩歌以外の女の子が妹だったらという方向で考えるか」

「なるほど、そういうNTRもあるのか」

 

 誰を妹にするか……。妹にした上でエロい目で見れるかどうか……。ふーむ。なんて楽しい妄想なんだ……。できることなら誰かと語り合いたいくらいだ。この話題だけで朝までファミレスだろ、これ。

 

「まずは、そうだな。小江野さんとか」

「おっぱいかー。おっぱい妹かー」

 

 おっぱい妹。まさにそうだな。

 つまり詩歌はちんちくりんだからいまいちエロくないわけで、妹だとしてもおっぱいが大きかったらエロいのではないか。そういうことだな。哲学ぅ~。

 

「ふむ……ないな」

「えっ、ないの!? ふ、ふーん。へ~」

「そもそも想像がつかない……年下じゃないからな。やっぱりあの体で妹って無理がある……」

「た、確かに……」

 

 リアリティがなさすぎると妄想もきつい。

 詩歌と同じくらいの年頃のほうが想像しやすいな。

 

「ももきゅーちゃんか」

「でたー。ギャル妹でたー」

「……ないな」

「ないんだ」

 

 ももきゅーちゃんには実際に兄がいて、どういう人か知っている。

 

「ももきゅー兄の顔がチラついて無理だ……」

「妹的にはそのカップリングもいけるけどね」

 

 イカれた寝言が止まらねえな、妹は。どんな夢を見てるんですかね。

 

「あげはちゃんは……やめとこう」

 

 実の妹よりちんちくりんにしてどうする。

 中身は男だし。正直、エロ本を貸し借りするような仲になりたいね。あげはちゃんとは。

 

「あれっ、理由は?」

「あげはちゃんは弟にしたい」

「えっ!? あれっ、お兄ちゃんってそっちもイケるの!? ハァハァハァハァ」

「うるせえなあ……」

 

 詩歌じゃない妹はこんなに寝言がうるさくないんだろうな……。俺も寝言に反応する必要なんかないのに、つい言ってしまったな。

 

「真奈子ちゃんが妹」

 

 可愛らしくて清楚で、小学生だけど詩歌より発育はいい。これは有力候補だろう。

 

「くっ……出た……やはりこれが本命かっ」

 

 真奈子ちゃんが妹だったら……。

 ……。

 ぞくぞくぞくっ……!

 せ、背筋が!

 なぜか恐怖が!

 

「やめとこう」

「意外!?」

 

 なんでだろうね。どう考えても、理想的な妹っぽいのにね。うん。理屈じゃない恐怖が襲ってきたからね、しょうがないね。

 

「やっぱ沙織ちゃんか」

「やっぱって言ってる!? こっちが本命だったかっ」

 

 沙織ちゃんが妹だったら……。

 ……。

 ぞくぞくぞくっ……!

 せ、背筋が!

 なぜか恐怖が!

 でも、同時に快感が!

 

「だめだ、俺が奴隷になるイメージしかできなかった。兄なんて無理だ」

「この兄はもうだめだ」

 

 うん。俺も、俺はもうだめだと思う。でも、しょうがないんだよ。沙織ちゃんも理屈じゃないんだよ。ペットにしてもらう妄想すらおこがましかったもん。

 小江野さんも、小学生4人もダメ。そうなると……。

 

「柑樹はどうだろう」

「あー……ダークホース」

 

 17歳のむちむちJKの妹……あり得る……!

 

「例えば、風呂上がりにバスタオルを巻いただけでうろうろする柑樹……」

「あー、やっても全然効果ないんだよ」

「そう、詩歌だとなんとも思わないやつだが……」

「ぐふぅっ……」

「柑樹だと……太ももが……胸が……うん、エロいな」

「ぐふぅっ……! きたきたきた、これこれこれ!」

「そこで妹っぽさを出しておくか。『お兄ちゃん……どこ見てるの』とか言う」

「それ言いたいのに見てくれないんだよ」

「胸と太ももだよって言うよな」

「言っちゃうところがお兄ちゃんだよね。好きだよ、そういうとこ」

「すると『そうですか。触りたいならどうぞ』とか言うね。妹の柑樹が」

「言いそう」

「めちゃくちゃ触るよな」

「めちゃくちゃ触る……!」

「妹の太ももと胸をめちゃくちゃ触る……」

「今度触りたいならどうぞって言ってみようっと」

「詩歌の太ももと胸には興味ないが」

「ぐはあっ」

「柑樹だったら妹だとしても……くっ」

「くっ……」

「くっ……」

「イクっ……」

「イクっ……」

 

 こうして夜は更けていった――

 



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ニュージャパンフロレスリング

 

「あなた、今日はムチにする? スタンガンにする? それとも……|STF《ステップオーバーザトーホールドウィズフェイスロック》?」

「うーん、じゃあSTF」

 

 そう言うやいなや、沙織ちゃんは俺を背おいなげ。

 倒れた俺の左足を折り曲げ、足でホールド。躊躇なく俺の背中に倒れ込み、流れるように腕で顎を締めてきた。ガアッデム! 上手すぎる!

 

「どう?」

「……!」

 

 どうと言われても、声なんて出るわけがない。

 頬骨は軋んでるし、首は折れそうだし、背中は悲鳴をあげている。パワーはないが、テクニックがエグい。

 この痛みと、触れ合った肌から伝わる体温……。

 最高だな!

 でもこのままだと死ぬから、タップしましょう!

 

「ふー、ふー、はぁはぁ」

「どうだった?」

 

 俺は生死をさまよっていたのだが、沙織ちゃんはお味噌を変えてみたときのお味噌汁の感想を聞くかのように質問してきた。

 

「これを毎日食らえたら幸せだね」

「ふーん。幸せものだね」

 

 幸せに違いない。結婚相手に求めることはね、食事が美味いとか、風呂が沸いてるとか、そんなことじゃあないんだよ。

 家に帰ってきたときの出迎えのムチがちょうどいい痛さとか、ゾクゾクするような視線とか。そういうのがいいんじゃないかな。沙織ちゃんと結婚できる男が羨ましいよ。

 

「もっと正妻(せいさい)らしいことないの」

「も、もっと制裁(せいさい)らしいこと!?」

 

 もう十分だろ!

 そう思うのは俺だけなのか?

 沙織ちゃんは最近、制裁という言葉を気に入っているようで、何度も言ってくる。日曜日は制裁しにいきますと宣言されちゃったしな。そんなに制裁されるようなことはしてないと思うのですが。

 しかしながら、これは考え方次第というか。

 さっきみたいにプロレス技をかけてもらえるわけで。

 

「やっぱりプロレス技なんじゃないか?」

「やっぱり。パパとママの部屋に夜行くとプロレスしてたって言うもんね」

 

 パパとママ……プロレスしてるんですね。なるほど。沙織ちゃんの妹が生まれてくるのを楽しみにしていよう。

 

「なにがいい? 吊り天井固め(ロメロスペシャル)? 閃光魔術(シャイニングウィザード)? |日本海式竜巻原爆固め《ジャパニーズオーシャンサイクロンスープレックスホールド》?」

「沙織ちゃんプロレス技に詳しいね!?」

「べ、別に、結婚したらプロレスすることになるから勉強してるとかじゃないから」

「……」

 

 なんだろう、親のごまかし方で子供って人生変わっちゃうんだね。気をつけたほうがいいね。

 しかし技を知ってるとして、沙織ちゃんが俺にロメロスペシャルをするとか無理では? 足が折れちゃうよ。

 ここは沙織ちゃんでも簡単にできる技がいいだろうね。

 

「お、漢固めかな」

「男色の?」

「た、確かそう」

「わかった」

 

 男色という言葉の意味は知らなそうだが、レスラーの名前にも詳しいらしい。

 こちらが構える暇もなく、タックルされてあっさりダウン。どこで練習してるんですか?

 すぐに頭を押し付けられた。

 

「はい、漢固め」

「むぐむぐむぐ!」

 

 説明しよう!

 漢固めとは、ゲイのレスラーが相手の顔に自らの股間をぐりぐり押し当てるという恐ろしい技である!

 だが、これを女子小学生にやられた場合は最高の技である! 

 沙織ちゃんはフリフリのピンクのかわいらしいミニスカートであり、その中はやわらかいコットンの生地であることが顔の感触でわかる。

 頬に当たる太もも、温かい体温。むせ返るほど匂う、沙織ちゃんの香り。これはもう漢固めとは呼べない。

 よし、これを女子小学生式股間固め(ハッピーロリコンホールド)と名付けよう。

 

「ほらほらほら」

 

 ぐりぐりぐりぐりと、股間で顔を蹂躙してくる。くっ……動けない……! 動けないのではなく、動きたくないから動けない。3カウントどころじゃない、3イヤーくらい動けなさそうだ。石の上にも三年というが、JSの下にも三年といったところか。

 顔はぼーっとしてくるし、頭はクラクラする。ぽわぽわと多幸感が溢れていくのがわかる。

 しかしアレだな。

 ちょっとこれは……。

 俺はポンポンとお尻を叩いてタップした。ずっとタップしていたい。

 沙織ちゃんは俺の顔から体を離して、そのままストンとお腹に座った。ナチュラルに見下される。

 

「どうだった?」

「うーん、ちょっと幸せすぎてダメだな」

「は?」

 

 なんか違うんだよね。

 チョロい小学生を騙してラッキースケベみたいな感じがする。

 そうじゃないんだよな。

 思案する俺を、ゴミを見るような目で見てくれている。その魅力的な顔を見ていたら気づいた。

 

「わかった。俺がリクエストしたのが間違いだったんだ」

 

 STFを選んだことは間違いじゃなかったと思うが、俺からSTFをしてくれと頼むことはないわけ。その三択ならそれしかないだろと思っただけ。

 制裁なのに俺からなにか言うとかオカシイんだよ。

 

「制裁ってやっぱり一方的にされるものじゃない?」

「ん? こうしてあげたい、っていう気持ちが大事ってこと?」

「あ、うん。そうだね」

「なるほど」

 

 わかってくれたようです。

 沙織ちゃんは腕を組んで、目をつむっています。考えてるぞ、考えてるぞ~。

 さあ、なにをされるんでしょう。

 踏むのかな。蹴るのかな。叩くのかな。ま、まさか潰す? それはちょっと……いや、アリか?

 

「足を洗ってあげたい」

「え?」

 

 俺は別に犯罪者では……い、一度逮捕されたけど……。

 

「足が臭いから」

「ごめんね!?」

 

 シンプルに足が臭かったから足を洗いたいという話だった。そうかな?

 

「背中も流したいから、お風呂を沸かす」

「ふーむ?」

 

 それのどこが制裁なのか。

 沙織ちゃんはもう我が家の風呂なんて慣れたもの。テキパキと洗って、お湯はりを始めた。

 

「さて」

 

 沙織ちゃんはもう我が家の風呂なんて慣れたもの。テキパキと服を脱いで、風呂に入る準備を完了した。

 

「って、まだ沸いてないよ、沙織ちゃん!?」

「しまった」

 

 あちゃーという顔だが、すっぽんぽんなことは気にしてないんですよね。すでにお風呂から出たかのようにキレイな体ですね。剃毛もしたのかな?

 全然服を着る素振りのない沙織ちゃん。全然目をそらす素振りのない俺。

 くりくりとした丸くて大きな瞳が、俺の顔をじっと見る。

 

「もう入ろ」

「え。そう?」

 

 そう言われちゃ入るしか無い。

 なぜかズボンとパンツが脱ぎにくいなあ。なんか引っかかるんだよな。

 先に風呂に入った沙織ちゃんを追いかけて浴室へ。

 

「どうぞ」

「はい」

 

 自分の家の風呂の椅子に座るよう促されるというのも、なかなか斬新ですね。電話で女の子を呼ぶタイプのお店みたいですね。

 シャワーヘッドを持った沙織ちゃんは、いきなり蛇口をガッと回した。

 

「アーッ!」

 

 何だ何だ何だ!?

 なにこれなにこれ!?

 

「み、水が冷たすぎる!」

 

 あるあるっちゃあるあるだが、シャワーの温度を確かめてからかけてくださいっ!

 

「ごめんごめん」

 

 全然悪くなさそうに謝る沙織ちゃん。わざとなのか……?

 

「……?」

 

 シャワーの温度が上昇してきた。しかし……。

 

「あ、熱い!! アツーイ!」

「あ、間違えた」

 

 何をどう間違えたらシャワーから熱湯が出るのか。ここまで熱いお湯を出す方法を俺は知らないのですが?

 

「ぎゃあーっ!?」

 

 また冷たい水なんですが!? 途中は無いんですか!?

 

「火傷しちゃうから冷やさないと」

 

 これはわざとだったんですね!

 冷水をかけるんだったら、事前に言ってもらっていいですか!?

 

「じゃ、背中洗うね」

「ぎゃーっ!? それはスポンジじゃなくて浴槽を洗うブラシだよ!」

 

 熱されて冷やされた背中がーっ!?

 

「そうなんだ」

「継続!?」

 

 ブラシは止まるどころか、スピードアップです!

 

「ボディソープいっぱい使っちゃったから」

「エコだねえ!」

 

 ガシュガシュと音を立てて背中をこすられる。激痛。

 うん……。

 これだよこれ!

 この容赦のないプレイ!

 沙織ちゃんはこうでなくちゃ!

 

「顔も洗う」

「痛ェーッ!」

「股間も洗う」

「ぎゃあああああああ」

 

 痛い、だがそれがいい。

 沙織ちゃんは、 怒って攻撃してきてもいいし、そのつもりがなくうっかり攻撃になっちゃってもいい。

 ダメージはすべてご褒美。それが沙織ちゃんなんだよね。

 

「あっ、シャンプーが飛んじゃった」

「ああーっ! 目が、目がーっ!」

 

 ご、ご褒美、ご褒美ィー!

 

「そろそろパワーボムかパイルドライバーしよっか。バスタブに当たる感じで」

「死んじゃう! 死んじゃうから!」



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見抜きいいですか

「なに? エッチケット? エロ同人誌即売会か?」

「違う! ネチケット!」

「ネチケット? ねちねちしたエロの同人誌即売会か?」

「違う! ネットのエチケット!」

「オンライン上で開催するエロ同人誌即売会か?」

「だから違うって! そもそもエチケットって言葉を知らないとは」

 

 やれやれというポーズの小江野さん。いきなり学校でエロいことを質問してきて、やれやれだと思っていたが、やれやれだと思ってるのは彼女の方だった。やれやれ。俺はやれやれと思われるのには慣れてるんだぜ。やれやれだぜ。

 

「エチケット……えちちってことは間違いないよな」

「間違いあるよ」

「えっ? じゃあ一体なんのマーケットなんだ……」

「マーケットでもないよ。エチケットって言葉本当に聞いたこと無いの?」

「吾輩の辞書に、エチケットという言葉はない」

「最低の男だよっ」

 

 蔑む小江野さん。いきなりえちちな言葉を聞いたことないか質問してきたと思ったが、どうやら知らないと最低な言葉だったらしい。やれやれ。おれは最低と言われることにも慣れているんだぜ。やれやれだぜ。

 

「あーあ、情報処理科だから、ネチケットくらい知ってると思ったのに」

「ふむ……ひょっとしてネチケットってあれか。ネットで人とコミュニケーションするときに守るべき配慮とか礼儀みたいなやつか」

「知ってるじゃん!?」

「いや、正直に言うが……それ死語だよ」

「死語!?」

 

 ネチケットって、今どき言わないだろ。そう言われてみれば、エチケットは知ってたな。ネチケットも知ってるから。

 小江野さんがショックを受けているぞ。やれやれだぜ。

 

「なんでネチケットなんて言い出したの」

「SNSをやろうと思って。やっていいか事務所に聞いたら、ネチケットわかってるならいいよって」

「ほーん。おっさんの社長に聞いたのか」

「マネージャーだよー!」

「なにっ!? お、男か!?」

「女の人だけど……」

「ほっ……」

「え? なんでホッとしてるの? ん? なんで?」

「そりゃああれよ、あのー、やれやれだぜ」

 

 まったくやれやれなんですよ。こちとらアイドルがマネージャーやらプロデューサーやらとくっつく話を見すぎてるもんでね。俺たちはなりたい職業は先生かプロデューサーになりがち。現実は見ていない。

 

「それよりネチケットについてだな、教えてあげよう」

「うんうん」

「ちょっとここではアレだから、静かなところでね」

「えっ? なんで?」

 

 なんでと言われても。他の人に聞かれたらマズイでしょ……。

 エロ同人誌即売会とかくらいなら、いいけどさ……。

 

「今日はあんまり寒くないし、外でもいいかも」

「そうだね~」

 

 たっぷりの日差しを浴びながら、キャンパスを歩く。

 改めて見ると広くてキレイなところだ。

 そして……。

 

「改めて、ここのオブジェって全部全裸の女体だよね」

「そこは改めて見なくていいから」

 

 いい尻してるのに……。

 いわゆる銅像っていうの? そこらじゅうにあるんだけど。

 なぜか全部エロいんだよな……。

 尻や胸を確認しながらウロウロしていると、いい場所を見つけた。

 

「このベンチなら、話は聞かれないだろ」

「えっ。ここだと登下校する学生たちから見えるんだけど」

「ん? 見られる分にはいいでしょ。聞かれたら困るだけで」

「あ、そう? まあ、いいか」

 

 二人で腰掛けると、自然に近づきつつ、少しだけ間ができた。ネチケットの話をするにはちょうどいい距離感だろう。

 通路と通路の間にある、花壇の前のベンチ。前方も後方も花壇とオブジェがずらっと見える。のどかな光景だ。

 

「さて。ネチケットね。とりあえず初歩からね。『見抜きいいですか?』って聞かれたら『しょうがないにゃあ』って答えるんだ」

「ん? え? なに? 一つもわからないんだけど」

「ええ? 一からか? 一から説明しなきゃ駄目か?」

「いいえ、ゼロから!」

「そう言われちゃゼロから始まるネチケット講座するしかないな」

 

 さすが声優の卵、セリフが上手すぎる。録音したいレベル。

 

「さて、見抜きがわからないのかな」

「わ、わからない。なに? ミヌキーマウス?」

「ボケが危険すぎる」

「そう言われても」

 

 見抜きもわからないとなると、確かに勉強不足と言わざるをえない。SNSなんてまだ早い。そう思われても仕方なし。

 それにしても間違えがひどすぎたね、ハハッ!

 

「見抜きってのは、見てヌくこと」

「えっ? はっ? ど、どういう……?」

 

 やれやれだぜ。ヌくがわかんないんだもん。

 

「ヌくっていうのは、シコるとかオナるとかと同じ意味ね」

「そっ、それはわかるけど……」

 

 それはわかるらしい。小江野さんはヌくという意味はわかる。ちぃ覚えた。

 

「見て、ぬ、ぬ、抜いていいですか、ってどういう」

「つまり見抜きいいですかっていうのはオナペットにしていいですか、という質問だね。今からあなたを見てシコるけどいいですか、ってこと」

「……」

 

 目をまるーくして、ぱくぱくと金魚のように口を開けている。やれやれだぜ。

 

「な、なんでそんなこと聞くの?」

「許可をもらわずに勝手に見抜きするのはエチケット違反じゃん?」

「勝手にする分にはわからないのでは? ネット上なんだから」

「だからこそのネチケットなんですよ。わからないからって勝手にやらない。紳士的でしょ」

「いや、そんな質問することがセクハラだと思うんだけど……?」

「セクハラ……?」

「いや、セクハラは知っててください」

 

 もちろん知っているが、考えたことがなかっただけですよ。

 なに、見抜きいいですかって聞くことがセクハラだと?

 うーん。

 つまりセクハラをするのがエチケットだったのか。今後、どんどんエチケットしていきたいと思います。

 

「とにかくこれはネチケットの基本だから」

「えー? た、例えば? 自分の写真を投稿したりして、そこにリプライで来るってこと?」

「ん? んー。まあ、そういうこともあるか」

 

 俺が知ってるのは、オンラインRPGとかで女性キャラを使っていた場合の話だけど。自分のリアルの写真をネットに投稿って、想像もつかないが。

 

「ちょっとシミュレーションしてみるか」

「自分が水着の写真を投稿したら……」

「むほほ、えちえちな水着写真ですね~。見抜きいいっすか~?」

「うわっ、きもちわる」

「な、なんてこと言うんだ。これはネチケット違反。事務所には絶対にSNSをやらない方がいいって伝えないと」

「ごめん、ちょっと待って! やりたいの! SNSやりたいの!」

 

 腕を取って懇願してくる小江野さん。ちょっと胸が当たっています。しょうがないにゃあ……。

 

「次はちゃんとやるんですよ」

「むむ……わかりました」

 

 気合を入れて、姿勢を正した。胸は当てたままでもよかったんですけどね。

 

「はい、じゃあ小江野さんがすっぽんぽんの写真を投稿します」

「しません!」

「ええ!?」

「なんですると思ったんです?」

「見抜きしやすいし」

「そのためにSNSやりたいんじゃないんですよ!」

 

 言われてみればそうだな。俺はえっちな画像を投稿するアカウントしかフォローしてないから、そういう目的だと思ってしまっていたが、そんな声優はいないな。

 

「じゃあ、自分がヒロインを演じることになったアニメキャラのコスプレを投稿します」

「うわー! いいですね、それ」

「なんとニチアサ」

「えー! やばー! 夢見たい!」

 

 想像しただけでテンションが上ったらしい。両手をぶんぶんしながら、目をキラキラさせている。

 

「そこでリプが来ます、見抜きいいですか?」

「うーん。複雑な気分……小さな女の子とかの感想がよかった……」

 

 複雑な表情をされてますね……。いきなりコレだと嬉しくないか。

 やれやれだぜ。しょうがないにゃあ……。

 

「わー、すっごくカワイイですね! 衣装が似合ってます!」

「あ~。嬉しい~。そういうリプがいい~」

「ほんとにカワイイ! まるでアニメから飛び出てきたみたいです!」

「ん~! いい! 最高! SNSやりたーい!」

「見てたら勃起してきたので、見抜きしてもいいですか?」

「しょ、しょ、しょうがないにゃあ……」

「いいですね~。その調子ですよ」

「うう……ネチケットって恥ずかしいね」

 

 ネチケットより今の方が恥ずかしいのだが。

 小江野さんが大声でわちゃわちゃやってるせいで、行き交う学生たちがこちらを見て指をさしたり、ひそひそ話をしているんですよ。

 こうして俺たちはネチネチとネチケットの話をした。



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パパ活をする児童向け小説家

「パパ活しようと思うんだー」

「へぇ~。いいじゃんいいじゃん、似合うし、面白そうじゃん……って言うわけないでしょーっ!?」

 

 びっくりですよ。

 女子小学生の彼女が、フランクにパパ活をしようと言い出したわけで。

 渋谷百九。ももきゅーちゃんは、正直ルックスはパパ活をしてそうなギャルであるが、実際にやるとは思わなかった。

 なお、真奈子ちゃんはパパ活をしているが、実の父親が相手なので問題なし。本当に問題がないかどうかは自信なし。

 

「そんなバイトみたいな感覚で」

「バイトみたいな感覚でやってみようかなって」

「うわーい! どうなってしまったんだ、日本の女の子は! やまとなでしこの慎みはどこに行ったんですか!?」

「別にパパ活くらいふつーじゃん?」

「OH……」

「買いたいものがあるんだ~」

 

 なんでも俺が買ってやる、と言いたいところだが……。

 

「ももきゅーちゃん、ちょっとそこに座りなさい」

「はーい。体育座りするね。ぱんつ見えるようにサービスサービス」

「なんていい子なんだ! だからこそ不安!」

 

 こんないい子がパパ活したらヤバいって。パパがパンチラで興奮しちゃう!

 

「そもそもパパ活っていうのはどういうものか知ってるの?」

 

 そう。そこからですよ。

 JSはどうしてパパがお金を払うのか、その理由をわかってない可能性が高いです。

 真奈子ちゃんみたいに、スポンジを使わずに体を洗うプレイとかしちゃうかもしれない。

 

「おじさんが若くて可愛い女の子と一緒に遊んだりお話したりするためだけに高いお金を払うやつっしょ。ちょっとだけ気のある素振りを見せて、ワンチャンあるかもと思わせるのがコツじゃん」

「わかりすぎてるじゃん」

「えっちなことなんて知らな~い、って感じを求めてると思うから、今みたいに無防備にぱんつ見せたりとか、ほっぺにちゅってするくらいにしとけばむしろすぐには手を出してこないと思うんだよねー」

「すげーわかる」

「ぶっちゃけ、おじさんなんてチョロいから、かわいくおねだりしとけばウィンウィンだと思うんだけど」

「うわー」

 

 なんだろう、俺よりわかってるまである。

 他の子ならともかく、ももきゅーちゃんはちょーどいい距離感で上手にパパ活できちゃうタイプ! 俺も払ってしまいそうだ!

 

「とはいえ心配だ」

 

 世の中には変態がいっぱいいるからね。

 俺みたいな紳士ばかりじゃないんだよ。

 強引になにかしてこないとも限らない。

 世の中のおじさんがそんな甘いわけじゃないと、わからせないと。

 ももきゅーちゃんは「じゃあ、練習しよーよ」と提案してきた。

 練習か。

 確かに。

 なんでも練習が大事ですよね。

 事前にシミュレーションしておけば安心だ。

 

「ぱぱ~」

 

 甘い声で、猫の手で腕を触りながら、上目遣い。

 細くて浅黒い脚を、俺の脚に軽く乗せた。

 イエローブラウンのウェーブの掛かったロングヘアが、少しだけ俺の体にかかって。ふわっと少女ならではの香りが漂う。

 

「5万払うわ」

「ちょちょちょ! チョロすぎだから!?」

 

 無理だろ!

 もうオチたって!

 なんでもするって!

 

「さかぴ、世の中のおじさんはそんな甘くないヨ?」

 

 わからせられてしまった。

 いや、違うな。

 

「ももきゅーちゃんは、自分の可愛さがわかってないんじゃない?」

「え」

「普通の女の子じゃないんだよ? むちゃくちゃ可愛い女の子なわけ。だから、普通だったらそこまで甘くなくても、チョロくなっちゃうんだって」

「そ、そこまでじゃねーし! んも~、さかぴはアタシのことが好きすぎ~」

「いや! そこまでです!」

「そんなの……さかぴだけじゃね?」

「いーや! 特にパパ活なんてするようなヤツは、ももきゅーちゃんみたいな激カワJSギャルに弱いんです!」

「へへへ」

「はい可愛い! 2万あげます」

「んも~、チョロさかぴ」

 

 駄目だこれ、単にお互いにデレデレしてるだけで何も進まねーわ。

 なんか永遠にやっていたい気もするが。

 

「まあ、ももきゅーちゃんがパパ活したら、秒で稼いでしまうことはわかったけど。そもそもなんでやりたいの? 何が買いたいの?」

 

 動機ですよ。目的ですよ。なんでも大事なのはね。

 

「やっぱカレシのクリスマスプレゼントくらい、自分で稼いだお金で買ってあげたいじゃん?」

「俺のためかよー!?」

 

 涙腺崩壊です。

 その気持ちだけでもう、ハッピーメリークリスマス。

 それにしても、パパ活したお金で彼氏にプレゼントって。

 賢者の贈り物か?

 動機はわかったけれども。

 

「それは嬉しいが……ヤバい人かもしんないじゃん?」

「それはダイジョーブ」

 

 ど派手なネイルでVサインを繰り出すももきゅーちゃんは、ダイジョーブイなんてご存知ない世代です。

 なぜ大丈夫なのでしょうね。

 ももきゅーちゃんは、スマホのマッチングアプリの画面を見せてきた。

 

「だって、相手はあげはちゃんのパパだもん」

「な、なんだってー!?」

「お友だちのパパとのパパ活だから、ダイジョーブだよ~」

 

 はたしてそれは大丈夫なのか!?

 少なくとも、娘のお友だちとパパ活しちゃうあげはちゃんのパパの方はヤバい。何を考えているんだ。

 そもそも、あいつは俺のお尻を開発してくるようなやつだった。俺の理解が及ぶ相手じゃないな。

 

「やめとこうよ。あいつ……あげパパはちょっとヤバいんだ」

「……なに。まさか、今、あげはちゃんのパパの悪口言ってる?」

「ひえっ!? 言ってません!?」

 

 怖っ!

 長いまつげ、カラコンの目でメンチきられると超怖い。

 ギャルは誰かの悪口、特に友達とか家族など身内が悪く言われることを許さない。たとえそれが、自分のカレシであっても! そういうところ、好きだよ。

 

「あげはちゃんのパパだから、安心。だよね?」

 

 笑顔なのに怖い!

 

「はいっ! そうです!」

 

 思わず敬礼。

 ギャルと俺のヒエラルキーを思い知らされます。

 しかし安心なわけがねえ。

 そうだ。やきもちってことにしよう。

 

「でもぉ~。ももきゅーちゃんがあげパパとラブラブになっちゃったら、嫉妬しちゃうかも~」

「あはは! さかぴったら~」

 

 うむ。

 イチャイチャモードならいける!

 

「だから、俺もついていくっていうのはどうかな~」

「ラージャマハル~」

 

 了解という意味らしい。

 ちゃちゃちゃーっとスマホをいじいじ。

 一緒に行けば、なにかあったら助けられる。これで安心だ。

 

「パパ活、ふたりでもオッケーだって!」

「よしよし、これで安心……ってなんだって!?」

「さかぴはJKってことにしたから」

「いやいやいや、無理だろ!」

「アタシがメイクしたらイケるっしょ」

 

 目がマジだ……。

 ま、いいや、好きにさせてみよう。どうせ、やっぱ無理だわってなるっしょ。ブスでもいいんだ、ももきゅーちゃんが守れれば。

 

「これが、わたし……!?」

 

 当日。

 あげはちゃんの家に行く前。

 ももきゅーちゃんプレゼンツの女装した俺は、びっくりするくらいの美少女だった。

 

「うそ、でしょ……」

 

 姿見の前で、スカートをひらりとさせて一回転してみる。

 やば。かわいいんだけど。俺。

 着ているのは、ももきゅーちゃんが持ってきてくれた冬物のワンピース。グレーのチェック柄で、大きめのベルトがポイントだ。

 ウィッグは茶色のポニーテールにしてもらって、紺色のリボンもつけちゃった。

 

「さかぴは肌がキレイだからお化粧ノリがいーんだよねー」

「そうなんだ……」

 

 顔もかわいい。

 ガーリーっていうの? けっこう女の子っぽい顔立ちなんだな、俺……。

 

「さかぴはちょっとタレ目だけど、そこがまたかわいーよね」

「うん……」

 

 つけまつ毛が、タレ目に似合っている。

 目は大きくクリクリするようにメイクされており、眉毛もキレイに整えられている。かわいい……俺、かわいい……。

 ちょっと前髪が決まってないな……。

 

「あ、さかぴ。前髪気にしてんだ。ウケる」

「ここ、ちょっと巻きたいな」

「やったげる」

「ありがと」

 

 目をつむって、ヘアメイクをお願いする。楽しい。嬉しい。なにこれ、女の子っていつもこんなことやってんの? なんで男になんて生まれちゃったのかしら!

 

「できたよ、さかぴ。ちょーかわいい」

「ほんとだー、ありがとー」

 

 うふふ。わたし、かわいっ。やったね。

 

「じゃ、いこっか」

「うん。るんるん」

 

 あー楽しい気分。これでおでかけできるなんて……。

 って、どこにいくんだっけ?

 

「うわ―っ!?」

 

 でかける先があげはちゃんの家でパパ活だったーっ!?

 やばいって、こんな可愛い俺、どうなっちゃうのよ!?

 

「どしたの、さかぴ。おうちの前で大声出して」

「わたし、かわいすぎて、ヤバいなって」

「あはは。よかったねー」

 

 脳天気な……女の子は可愛いと危険なんだよっ!

 

「つっても、ホラ。あたしもカワイーじゃん? いちおー? マジの女の子だし?」

「そだよね。ごめん、ちょっとチョーシのってた」

「そんなことないよー。メイクした甲斐があったってカンジ」

 

 女の子同士の会話って、気を使うなあ。

 いくらももきゅーちゃんが可愛いったって、さすがに俺のほうが可愛いじゃん?

 やっぱギャルより、清純派で女の子らしい子の方が普通好きだと思うし。

 そう思いながら、待合場所に。

 

「やあ」

 

 まじで、あげパパだよ。

 ホストみたいなギラギラのスーツ着てるよ。

 

「ふたりとも、かわいいね」

 

 やはり俺は可愛いのか……知ってた。

 

「渋谷百九ちゃん……ももくちゃんと、えー」

「あ、わたしのことはさかぴって呼んでください」

「さかぴちゃんね。オッケー」

 

 どうやら俺だってことにも気づいてないようだ。安心安心。

 

「じゃ、行こうか」

 

 ナチュラルに腰に手を回される。

 こいつ……。

 文句言ってやろうか。

 

「それにしても、ほんとに可愛いね。さかぴちゃん」

 

 ふむ……俺が可愛すぎて、つい……ということか。

 じゃあしょうがないかな。

 しかし……。

 

「えー。みんなに言ってるんじゃないですかー?」

 

 チャラい男ってほんとイヤよね~。

 

「そんなことないよ。ほんと、好みのタイプ」

 

 ほんとかしらね~?

 キャバ嬢感たっぷりのあげママと、清楚なお嬢様の俺は似てないと思うの……。

 

「かわいいよ。好きだな」

「そ、そうですか……?」

 

 う、うれしい……。

 思わず頬が緩んでしまう。

 なんだろう……この気持ち……なんだか体を許してしまいそうな……ヤバい!?

 少し体を離したら、ももきゅーちゃんがささっとあげパパの腕を取った。

 

「えー、アタシはー?」

「おっと、ごめんごめん。ももくちゃんは、とってもチャーミングだよ」

「本気で言ってるー?」

「本気、本気」

 

 ももきゅーちゃんを口説いているあげパパ……なんかイライラするな。

 

「アタシ……ぱぱの事、けっこー好きかも?」

「そう? 嬉しいね」

 

 おいおい、なにそんな簡単な嘘でコロっとデレてんだよ。

 俺のほうが絶対可愛いのに……。

 男の気持ちは男である俺のほうが詳しいはずだ。

 

 このパパ活勝負……絶対に負けられない!



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寝取るか寝取られるか

 いきなりホテルに連れ込まれた……!

 となるかと思ったが、そこまであげパパは鬼畜じゃなかった。

 やってきたのは、カラオケルーム。

 奥にモニターやカラオケ機器があり、両脇にオレンジ色のソファータイプの椅子がある。真ん中にはガラステーブル。

 当然のごとく、俺はあげパパの隣に。やはり近くでサービスせねばなるまいと思ったのだが。

 なんと、ももきゅーちゃんは対面に座った。そして自然にぱんちらをスタート。なんと小癪な。ギャルなファッションなのに、ぱんつは清純そうな白のレースというのがまた小癪。

 ドリンクや軽食を注文しながらも、あげパパはときおりそちらに視線を送って楽しんでいる様子。

 まったく男ってバカなんだから……。見てることなんてバレバレなのに、がっつり見るわけでもなく、見ないようにするわけでもなく……なにやってんだか。俺もまったく同じように見てしまうけれども。小癪だなあ。

 そしてカラオケルームに届けにきた女性店員さんのこともチェックしてしまう。まぁまぁ可愛いが、俺に比べたら大したことはないな……。いや、俺と比べるのはちょっと可哀想だが。

 

「フラポおいしー」

 

 ケチャップをつけたフライドポテトをあざとく食べるJSギャル。俺もチョコバナナかアイスキャンデーをペロペロするしかねえか……そうすりゃ、あげパパも思わず前かがみですよ。うーん、残念ながら無かった。フラポ食うか。

 

「最初に歌っちゃおうかな~」

「どうぞ」

 

 歌うだと? カラオケルームらしからぬ会話をしているな。

 普通カラオケといえば歌わずにペッティングだろうが。マイクより握るべきものがあるでしょ?

 

「いっくぞー!」

 

 ノリノリでシャイニング娘。を歌い始めたよ。なにやってんだか。しょうがねえからマラカス振るけど。

 あげパパは歌っているところを見ている……と見せかけて、ぱんちらを見ている。歌に合わせて脚を動かしているから、ちらちらちらちらするのです。小癪すぎる。

 もうすっかり、ももきゅーちゃんに夢中じゃないか。シャカシャカとマラカス振ってる場合じゃない。

 ここはテクニックを使うぜ。

 

「あっ、すみません。わー、結構たくましー。スポーツとかやってたんですかー?」

 

 必殺、マラカス振ってたらついつい隣の人に当たっちゃってからのボディタッチだ。男はボディタッチに弱い。バカだから。

 

「サバゲーを少々」

「そ、そうなんですね~」

 

 思ってたのと違いすぎて軽く混乱したが、何をやっていたかなんてどうでもいい。ボディタッチするための理由にすぎない。

 

「わー、すごーい、たくましーい」

 

 そんなにたくましくないが、腕やら胸板やら、ふとももやらを触る。男なんてこれやっとけば大体オチる。ソースは俺。

 どうだ、あげパパ。興奮しすぎて言葉も出ないのかな?

 

「……あ、見えた」

 

 ももきゅーちゃんのぱんちらに夢中!

 いや、いつまで凝視してんねん、あげパパ。もういいだろ!?

 さすがの俺もレースの形までくっきり覚えきってしまうまで見たら十分だよ?

 しょうがない……。

 

「ねえパパ~」

 

 俺はあげパパの腕を取り、胸の間に挟む。

 今どきは偽乳(にせちち)もなかなかのもので、正直自分でも揉みまくってしまったからね。

 

「へえ、思ったより、すごいね」

「え~? なにがですかぁ~?」

 

 どうせならとEカップにしたからね。

 よかろう俺のおっぺえはよ~。気持ちよかんべよ~。

 なんかこっちまで興奮してきたぞ。

 

「当たってる、当たってるよ」

「え~? なにがですかぁ~?」

 

 当ててんのよ~。

 なんだろう、男におっぱい当てるのなんか楽しいな。こんな面白いことなんでみんなやんないの? 俺はいつでもウェルカムだよ?

 

「あっ、なんかふたりともイチャイチャしてる~」

 

 歌い終わったももきゅーちゃんが、あげパパの隣りに座った。いまさら俺と同じ方法で対抗しようとな? 小癪な。

 しかし小娘、まだまだ胸の大きさが足りないんだよ、ははっ、残念だったな!

 ももきゅーちゃんは、胸を寄せて上げるようなこともせず、じっとあげパパの目を見た。

 

「パパ、あたしとちゅーする?」

「なっ!?」

 

 なんてことを言うんだ、このJSは!?

 俺というカレシがここにいるのに……。

 カレシの目の前で、あろうことか……。

 許せん!

 許せないぞ、絶対に……!

 

 あげパパを直接誘惑するとは!

 

 俺が一所懸命にボディタッチで誘惑してるのに、キスのお誘いって!

 反則だって!

 そんなのアリかよ!?

 しかし、これを真似すると言うことは……うーむ。

 正直、体に触るだの、ぱんつ見せるだの、偽のおっぺえを触らせるだのは大した問題ではない。

 しかしだよ。

 ちゅーはアレでしょ。

 いくらパパ活でお金もらえるからって、ねえ?

 おっさんとちゅーは、いくらなんでも……。

 

「ももきゅーちゃんにキスしていいのかい?」

「いいですよー?」

 

 ヤバい!

 このままでは、このままでは!

 奪われてしまう!

 俺の、俺の……!

 

 あげパパの唇が奪われてしまう!

 

「パパ!」

 

 俺はあげパパの顔を強引に引き寄せ、強引に口づけた。

 

「んっ……」

 

 やってしまった……。

 おっさんとちゅーしてしまった……。

 なんか顎にひげが当たってチクチクする……なにやってんだ俺は。

 ふたりのキスを防ぐのが目的なら、彼女であるももきゅーちゃんとすればよかったのでは?

 なんであげパパを独占しようと思ったんだ俺は。どう考えても俺のやってることはオカシイ……。

 も、もういいだろ。

 

「ちょっ……んっ」

 

 唇を離そうとしたら、後頭部を抑えられてしまった。

 に、逃げられない……。

 

「んっ!?」

 

 くっ。

 し、舌が……。

 っていうか、俺からキスしたはずなのに、いつの間にか主導権を握られていて、全然キスが終わらない……。

 おっきいよお……女の子と違って、おじさんの舌はおっきいよお……。ふええ……。

 

「え、ええー」

 

 なんか隣から、ドン引きしているギャルの声が聞こえる。

 このままではまずい。

 

「ま、待ってください」

「……なんだい」

 

 そう言いながらも、目をじっと見て胸を触ってくるあげパパ。

 完全に火をつけてしまった。

 正直、そうしようとしてたのは俺なんだが、こうなってくると俺もドン引きだった。

 駄目だ、もう、本当のことを言おう。

 

「すみません、俺は男なんです」

「……わかってるけど」

「えっ?」

「いや、そりゃわかるでしょ。声が男なんだし」

 

 たしかになー。

 顔は美女だけど、声は男だもんな。

 俺は別に中性的なボイスではないし、声色を女性にするなんてこともできない。盲点だったぜ。

 

「思ったよりすごいねって言ったじゃない。胸パッド」

 

 そういう意味だったのかよ!

 偽乳バレバレかよ!

 

「それに当たってるって言ったじゃない。大きくなったモノが俺の脚に」

 

 ええ!?

 俺のモノが当たってたの!?

 ニセおっぺえじゃなくて!?

 っていうか、俺はなんで大きくなってたの!? 確かになんかちょっと興奮してたけど!

 

「っていうか、四十八先生でしょ」

「ええーっ!?」

「最初からわかってたよ」

 

 嘘だろ……!?

 俺ですら、鏡を見たら「これがわたし……!?」ってなるのに、すぐにわかっただと!?

 わかったうえで、俺とキスを……!?

 

 きゅん……。

 

 あっ、今なんかときめきが……。

 

「だから問題ないだろ」

「あっ」

 

 顎をくいってされて、熱烈なキス。

 力強く背中をぐいっと抱きしめられて……こんなのされたらオチちゃうよお……。

 

「えー」

 

 彼女にドン引きされながら、俺はされるがままだった……。

 



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妹とのモーニングコーヒー

「おはよう」

「おはよ」

 

 いつものように、パジャマでダイニングにやってくる詩歌。

 歯を磨いて、顔を洗っても、まだ眠そうだ。むにゅむにゅと口を動かし、くしゅくしゅと目を擦っている。

 俺は少しだけミルクを入れたホットコーヒーを飲みながら、たっぷりとミルクを入れたコーヒーを作る。

 いつもどおりの朝。

 いや、今日は比較的温かく、いい天気だ。窓から見える空は青く、家の中であっても、冬のきれいな空気を感じる。

 

「はい」

「あんがと」

 

 ふーふーしてから、こくりと一口。

 いつものとおり、美味しいでしょうね。

 微笑みながら、俺の方を向く。今日はなんだかいつもより美味しい気もするし「ありがとう」とか言ってくれたりして。

 

「お兄ちゃんって、おじさんともエッチするんだね」

「ぶふぉーっ!?」

 

 コーヒー吹いた。マジで。

 マグカップの中に。掃除が大変じゃなくてよかったね。

 じゃあないんだよ!

 ヤバすぎるでしょ、妹が兄に言うセリフじゃねーっ!

 

「す、す、す、するわけないじゃん!?」

 

 大パニックの俺に対して、ゆっくりとゲンドウポーズしてから目を光らせる妹。

 

「これはしてますね」

 

 な、な、な、何を言ってるんでしょうねえ!?

 

「しょ、証拠は! 証拠はあるんだろうな!?」

 

 言ってて思った。

 これ推理小説の犯人が言うやつや。

 ももきゅーちゃんが言うわけないからね。カレシがパパ活してることなんて、口止めする必要もないことですよ。

 

「あげはちゃんが」

「あげはちゃんが!?」

 

 そうか、あげパパは娘の奴隷も同じ。

 例え自分にとって恥ずべき行為でも、娘に言われたら洗いざらい吐いてしまうというわけか……。

 

「パパが家に帰ってくるなり、自慢気にべらべら喋ったって」

「あの野郎~!?」

 

 口止めが必要だったのはそっちかよ!

 パパ活してるやつが、娘にパパ活してることをべらべら喋るってどういうことなんだよ!?

 

「女装してて、めちゃくちゃ可愛かったって……」

「えっ……そ、そう……かあ……」

 

 俺が可愛すぎて、自慢したくなっちゃったってことか……。

 じゃあ、しょうがないな……。んもー、まったく……。

 

「お、お兄ちゃんって女装するんだね」

「んなっ!?」

 

 そりゃそうなるね。

 妹に女装がバレました!

 でもあれだな、それは大した秘密ではないな。

 おじさんとエッチなことしてることに比べたら、ニュースとしては弱すぎます。

 兄が女装?

 ふーん、そうなんだ。

 その程度でしょうな。

 

「ま、初めてやったんだけどね」

「初めてであんなに可愛いんだ」

「まーねー。俺もあんなに可愛くなるとは思わ……って、なんで見た目知ってるの!?」

 

 待て待て待て。

 知ってるのはまだわかる。見てるのはおかしいって。

 

「写真はないはずなんだが?」

 

 俺のスマホにある200枚以外にはね。あれは極秘ですよ。

 

「動画で見たけど」

「動画!?」

「カラオケルームだったけど」

「カラオケルームの動画!?」

 

 そんなの絶対駄目じゃん!

 盗撮じゃん!

 めちゃくちゃやべーシーンじゃん!

 

「ポテト食べてるとこ」

「あー! そこね! そこかー!」

 

 安心したー!

 人生でここまで安心したことないわ―!

 

「なに、メールかなにかでもらったの?」

「あげはちゃんがツイートしてるんだけど」

「ツイートですと!?」

 

 全世界に公開されてるじゃないか!?

 

「めっちゃリツイートされてるよ」

「うおおおおおおおい!?」

 

 めちゃくちゃ見られてしまうじゃないか!?

 何やってんだよ、あげはちゃんは!

 

「もう、いいねが1万以上ついてて、リプ欄がこの美少女は誰だとか、可愛すぎて死ぬとかばっかだよ」

「んもう、しょうがないにゃあ……」

 

 俺の可愛さは世界を救うレベルだからね。

 隠すのは地球にとって損失ともいえる。

 持続可能(サステナブル)な社会のために、俺の女装が役に立つなら……。

 

「で、なんで女装してあげはちゃんのパパとえっちなことを?」

「……」

 

 実の妹にされる質問のなかで、これよりひどいものがあるだろうか。いや、ない。

 女装しておじさんとエッチなことをした。本当に悔やまれる事件です。我が人生に最大級の悔い有り。

 

「違うんだよ、パパ活をしただけなんだよ」

「えっ……何が違うの」

「……」

 

 何も違わなかった。

 

「いや、違うんだよ。パパ活をしたのはももきゅーちゃんなんだよ」

「えっ……自分の彼女がパパ活を?」

「そう! それで心配になって一緒についていっただけなの!」

「女装して?」

「……」

「なんでついていくの? 普通行かせないよね?」

「……」

「なんで女装して一緒に行くことになるの?」

 

 なんででしょうね……。

 俺もわかんないっすよ……。

 

「なんでお兄ちゃんがあげはちゃんのパパとエッチすることになるの?」

「だって!」

「だって?」

「あげパパが、ももきゅーちゃんを狙ってたから」

「あー」

「俺のほうが可愛いのに、ももきゅーちゃんの方を」

「あー?」

「だから振り向かせたくて」

「んー?」

「誘惑したらこうなったんだよ。しょうがないんだよ」

「あれ? わからないな?」

 

 俺は事実を話したまでだ。

 決してわからなくてよい。

 

「まあ、そんなことはいいや」

「よし。それでいい。気にしないことだ」

 

 俺はコーヒーを再度すする。

 すっかりぬるくなってしまったな……。っていうか、これ一回口に含んでから吹き出したやつだな……。

 

「大事なのは、お兄ちゃんが寝取ったのか寝取られたかなんだよ」

「ぶふぉーっ!」

 

 コーヒー吹いた(二度目)じゃねーかよ。

 どう考えても大事なところはそこじゃねーよ。

 しかしこれはごまかすチャンスともいえる。

 

「そ、そーだな」

 

 寝取ったか、寝取られたか。考えたこともなかったね。

 彼女があげパパに寝取られそうになったんだよな。

 で、あげパパは既婚者なわけだから、俺が寝取ったことになるかな。

 

「寝取られそうになったので、寝取られるのを防ぐために、寝取った感じかな」

「え? おじさんを寝取ったの?」

「ぐっ!?」

 

 現実とは思えないほど、パワーワードすぎる。

 事実は小説よりも奇なりというが、奇妙奇天烈にもほどがある。

 ツイッターとかに表示される漫画の広告バナーで「なんで俺がおじさんを寝取ることに!?」とか出てきたら、何じゃその設定はと思うね。

 

「お兄ちゃんは女装しておじさんを寝取った人なの?」

 

 女装しておじさんを寝取った人。

 俺が。

 その質問をしているのは実の妹。

 ぐにゃあ~……ギャンブル漫画で大負けしたときのような気分だよ。

 イヤだ……イヤすぎる……自分で自分が許せねえよ……。

 ここで動き出す俺の防衛本能……!

 

「ね、寝取られました」

 

 そうです。俺は寝取られたんです!

 まさか俺が寝取るわけないじゃあないですか!

 ましてや誘惑をしたなんてことはまったくないんですよ。ももきゅーちゃんのぱんちらに夢中のおじさんを振り向かせたいなんてことあるはずがない。

 

「あげパパに?」

「そうです、おじさんに寝取られたんです。目の前に愛する彼女がいるのに、無理矢理に!」

 

 俺から唇を奪ったなんてことは絶対にありえないんですよ!

 

「どうして?」

「女装が可愛すぎてでしょう……可愛ければ性別なんて関係ない、そういう人なんです」

 

 というか、彼は女装しなくても俺を襲いましたよ。とんでもないやつだ!

 

「お兄ちゃんは寝取られた……それでいいんだね?」

「そうです……うう……」

 

 さめざめと泣く。

 

「本当は妹のことが好きなのに……そうだね?」

「うう……そうです……ん?」

 

 なんて?

 

「よっしゃ録画成功だ、じゃね、お兄ちゃん」

 

 ダッシュで階段を駆け上がっていく詩歌……なんかめちゃくちゃ興奮してるようだったが……。

 

「ま、いいか」

 

 俺はコーヒーを入れ直すことにした。

 空は青く、晴れている。世はすべてこともなし。

 



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男の娘でも妹なら問題ないよねっ

「もしもし、どんなぱんつ履いてるの?」

 

 ……。

 え?

 俺? 俺に?

 誰が誰に聞いてるの?

 俺が言うならわかるんだが……。俺が言われるのは意味がわからんぞ。

 

「あの~、どちら様ですか?」

「もちろん、あなたの姉の文乃よ」

 

 もちろん本当の姉ではなく、俺の担当編集者の富美ケ丘さんである。美人編集者でありながら、俺のお姉ちゃんをやってもらっている。

 確かに、スマホの着信通知は富美ケ丘と書いてあったよ。うん。

 で?

 

「えっと……弟のさかひさだと思ってかけてきてるの?」

「違うわよ」

 

 ほっ。

 違ったらしい。

 誤爆ってやつですね。

 そうだよなあ。俺だと思ってたら、言わないよなあ。

 俺が言うのもなんだが、俺のぱんつのことを知りたいとかどうかしている。

 

「誰と間違えたのさ」

「妹のさかひさよ」

「は?」

 

 なんだって?

 

「俺が妹? どういうこと?」

 

 いつTSものになったの? 俺のおにいちゃんはおしまいなの?

 そういうタグとか設定しなおさないといけない設定変更はヤメてほしいです。

 スマホからは俺の質問に対する答えが聞こえてくる。

 

「女装、したんでしょ?」

「……!? なぜそれを」

「女の子になった動画、みたよ」

 

 あげはちゃんがツイートしたやつのことか。

 それを見たというのはわかる。なんせバズったから。

 それはわかるけども……。

 

「だから女装して、妹になって」

「いやいや、それは」

 

 さすがに勘弁だ。

 トラウマが蘇る。あげパパに……ううっ。

 だから全世界が求めていても、俺はもう女装はしないと決めたんだ。

 英語、中国語、スペイン語で、美人だ可愛いセクシーなどと大絶賛されていても、俺は名乗り出ない。

 国民的アイドルが友達になりたいと言っていても、アメリカの雑誌記者が探していても、イギリスのスター発見のテレビ番組で呼びかけられたとしても。

 俺の女装がどれだけこの世に必要とされているか、そのことはよーくわかるけど。俺も俺以上に可愛い女の子なんていないと思うけど。この世に人類が誕生してから最も美しい人が女装した俺なのは間違いないけれども。

 それでも俺は……もう……。

 ん? それにしても……

 

「なぜアレが俺だと?」

 

 そう、あの女装は完璧すぎて、俺を知っている人でも俺だとはわからないのです。ただの超可愛い女の子にしか見えない。

 よってあれは実の妹である詩歌でも、俺だとあげはちゃんに教えてもらってようやくわかっているのです。

 だからあげはちゃんのツイートを見たというだけでは、俺だとわからない。むしろ女装だということすらわからないはずだ。

 

「わかるよ、お姉ちゃんだもん」

 

 トクン……。

 うそ、でしょ……?

 

「妹の顔を見間違えるわけないわ」

 

 ドクン……!

 心臓が……アツい……!

 一度も見たことない妹の顔だぞ……!?

 っていうか、俺だぞ……?

 弟になったばかりの……俺の女装を……見破るって……それって、それって完全に……。

 

「異常なまでに姉妹シチュが好きな、姉妹狂(マリみてファン)だもの」

「そうだったんですね!?」

 

 あぶねーっ!?

 すっかり俺への愛の為せる技かと思っちゃったよ!?

 ラブかと、ラブなのかと思っちゃったよ!?

 姉妹狂(マリみてファン)だったんすか!?

 いや、児童向けの小説の編集者がマリみてが好きってのは、そんなに意外ではないけれども。

 

「で、でも俺のはあくまで女装だよね。さすがに妹っていうのは」

 

 そう。

 そうだよ。

 いくら見た目が見目麗しいからって、俺を妹ってのは無理だろ。

 俺がプティスールなわけないんですよ。

 やっぱり……やっぱり、それって愛……

 

「異常なまでに男の娘の姉妹が好きな、男の娘姉妹狂(おとボクファン)だもの」

男の娘姉妹狂(おとボクファン)だったんすか!?」

 

 いや、わかるけど。

 マリみても、おとボクも好きだけども。っていうかやるんですね、おとボク。そうだったの? 女装した男子が女子校に入学するストーリーのエロゲーだよ? 

 児童向けの小説の編集者がエロゲーのタイトルを好きって言っちゃうのは……いやごめん、作家の俺がエロゲーファンだったわ。作家がやってんだから、編集がプレイするのはむしろ必須と言ってもいいよ。

 児童向け小説にエロゲーは必須! 間違いない!

 

「だから、あなたが女装してても、どこにいても、あなたのこと見つけられるのよ」

「おお……」

 

 お姉さま……。

 間違いなく、お姉さまだよ……。

 

「そんなわけだから、今すぐ女装して会いに来るのよ」

「ぐっ」

 

 したくないし、行きたくない。

 しかし……

 

「妹は姉の言うことを聞くものよ」

「お姉さま……」

 

 そう言われると抗えないんだよな……。

 

「はやく来るのよ、賢子(さかこ)

賢子(さかこ)

 

 男の娘としての名前つけられちゃったよ。

 でもさー。

 女装はもう……。ごめんねお姉さま。

 

「家に来なさい。一緒に寝るわよ」

「賢子、行きまーす!」

 

 そういうことなら話は別ですよ。

 妹として一緒に寝ますよ。そして男の娘として……フフフ。

 なる早で向かうと告げて、準備を開始だ。

 とりあえずカノジョに連絡。

 

「あ、もしもし。ももきゅーちゃん?」

「どしたの、さかぴ」

「女装するから、手伝ってほしいんだけど」

 

 俺が千年に一人の美少女になれるのは、ももきゅーちゃんのメイクによるところが大きい。自分ではとてもとても。せいぜい十年に一人ってところだろ。

 

「おっけーおっけー、おけら街道まっしぐら」

「おけら街道……?」

 

 ギャルの言葉は難しい。

 官能小説にすら出てこない言葉がさらさら出てくるんだよな。

 

「んじゃ、すぐに行くから、お風呂入って待ってて」

「ラージャマハル」

 

 ギャル語で答え、通話を終える俺。いや、本当にギャル語なのか知らないけど。

 風呂に入っておくのは、詩歌のボディソープで体を洗い、詩歌のシャンプーで頭を洗っておけということだ。やっぱり体を女の子の匂いにしておかないとね。

 あと、ひげとか脇毛とかの脱毛ね。大事です。

 お風呂からあがり、服を着て待つ。まさかまたこれを着ることになるとはね。

 ももきゅーちゃんを出迎えて、ドレッサーの前へ。

 大人しく化粧をされていると、とんでもないことを言われた。

 

「それにしても、またパパ活するなんてね~。そんなによかったの?」

「しないよ!?」

「え? なんで? パパ活しないの?」

「しません。二度としません」

 

 そんなことのためにするわけがない。

 ブロードウェイやハリウッドが欲しがっても女装なんてしないのに。

 

「ちょー楽しそうだったのに~。ウケる~」

 

 けらけらと笑うももきゅーちゃん。とんでもないですよ。

 

「やめてください」

 

 あれは悪夢です。黒歴史です。

 本当の理由を説明しておかないと。

 

「お姉さまに会いに行くのです」

「お姉さま?」

「文乃さんのことだよ」

「ふーん? なんで?」

 

 俺と編集の文乃さんが義姉弟の契りを交わしていることは、カノジョのももきゅーちゃんもわかってくれている。

 ももきゅーちゃんは、理解が広く、懐は深く、太ももはムチムチなので、包み隠さず伝えた方がいいんだよ。

 というか、隠し事がバレると超怖い。ももきゅーちゃんは、それが裏切り行為とみなした場合は、容赦がないのです。

 簡単に言えば、浮気するよって先に言っておけば浮気してもいいんだが、こっそり浮気したら殺すということ。

 よって今から行うことも全部「ありのままを話すぜ」って感じ。

 

「お姉さまは、女装した俺を妹として溺愛したいらしい」

「は? なに言ってんの?」

 

 ももきゅーちゃんを持ってしても、理解の範疇を超えているようです。むべなるかな。

 

「彼女は妹が好きらしい」

「ふーん。それはわかる」

「俺は今、彼女の弟なのよ」

「ま、それもわかる」

「で、弟が女装したら、それは妹なんだって」

「それはちがくね?」

 

 うん。違うよね。そのとおりだね。

 弟が女装しただけで妹になるなら、苦労しないよね。

 

「あのね、女装した男が好きで、妹も好きだから、女装した弟も好きなんだって」

「なにいってんの?」

 

 うおー!?

 理解が得られねえーッ!?

 いつも女神のごとく、なんでも笑顔で許してくれるカノジョだというのに!?

 女装した弟を妹として愛でる姉とは、そこまで異常なことなんですか!?

 もうね、何が正常で何が異常かわかんないのよ! 小学5年生の女の子を弟子にして、その子が官能小説を書いてくるような日常なんですよ! その子のお父さんとパパ活する女の子に言われても!? ももきゅーちゃんの方がおかしいのでは!?

 いや、ももきゅーちゃんが間違っていて、俺が正しいなんてことあるはずないか。うーん。

 

「まぉ、俺もよくわからないんだけど、お姉さまが望んだことだから」

 

 そう。そうですよ。

 自分のことはよくわかりませんが、お姉さまが言うことには従わないと。だって、俺は妹ですもの。うふふ。

 

「それってあたしがお兄ちゃんの言うことなんでも聞くようなもんじゃね?」

「おっと、それはどうだろう」

 

 お兄様には悪いが、彼と一緒にされては困りますよ。

 

「兄妹と姉妹じゃ全然違うでしょう」

「どこが?」

 

 どこがだと?

 どこもかしこも違うだろと思うが、まあそう言うわけにもいかない。

 

「だって同性同士と、異性同士じゃない!」

 

 そこでしょうよ。

 大きな違いだよ!

 

「異性じゃん。女装してるだけで、さかぴは男なんだから」

「そうだったー!?」

 

 なんてこった。姉妹だから問題ないと思っていた。

 いや、待て。他にも違うところがあるぞ。

 

「でも、本当の姉弟じゃないし!」

「本当の姉弟じゃない方が問題じゃん」

「そういやそうだー!?」

 

 なんてこった。本当にそのとおりだね。

 実の兄弟だったら問題ないじゃん。うちの詩歌と同じだよ。

 実妹なんて女とは思わん。義妹はエロい。間違いない。

 

「俺が血の繋がってない男なのに、女装して妹になるのが問題だってことか?」

「え? 問題ないって思う?」

 

 ……。

 問題があるか、ないか。

 うーん? そもそも問題がなんだかもよくわからん。

 わかんないよー。もう、わかんないよー。

 

「おかしーっしょ」

 

 なんか怒ってるよー。怒らせちゃったよー。ギャルが怒ると怖いよー。

 なんでも理解してくれて、わかってくれて、許してくれると思っちゃってたよー。さすがにそんなことなかったんだよー。

 でもなんでだよー。なにがそんなに気に食わないんだよー。

 苦悩する俺に、メイクする手を止め、髪をくるくるいじりながら、カノジョは問う。

 

「パパ活みたいに、それが妹活(いもかつ)ってことならいいけど」

「その理由ならいいんですね!?」

 

 なんでだかわかりませんが!?

 どういう理屈なのか?

 っていうか、いもかつって何?

 混乱する俺を見て、ももきゅーちゃんはちょっと照れくさそうに、派手なネイルで頬を掻きながらぽつりぽつりと。

 

「ほら、なんか都合のいいように使われてそーだったから。言われるがままじゃダメだよ。ちゃんと見返りっていうか? ちゃんとするんだよ。損しないようにしなよ」

「ももきゅーちゃん……」

 

 なんてこった。俺を心配してくれてのことだったんですね?

 それで怒っていた……いや、怒ってくれていたと?

 

「パパ活みたいに、自分を大切にね」

 

 パパ活って自分を大切にする行為だったのか……知らなかったよ……。

 妹活っていうのは、要するにちゃんと対価を貰えってことなのね。

 小さな手で、頭をナデナデしてくれるももきゅーちゃん。

 優しすぎる……ラブが、ラブがありすぎる……。

 

「ちょ、泣いたらメイク崩れちゃうじゃん」

「うう……なんていいカノジョなんだ」

「へへ。大事にしなよ、カノジョ」

「うん。うん、大事にします」

 

 最高の彼女にメイクをしてもらい、最高の美少女になった俺は、妹活をしに向かった。

 ちゃんと対価を貰うぞ! もちろん性的な意味で! ももきゅーちゃんもそうしろって言ってくれてるしね! 自分を、自分の性欲を大切にね!



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