OVERLORD 赤の陣営―試し書き― (サルミアッキ)
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外典・序章

 2138年、環境破壊や巨大企業が打ち出した学業破棄政策により、世界はディストピアへの一途を辿っていた。

 

 現在の世の中で、心穏やかに過ごせる人間はどれ程いるだろうか。荒んだ空しか見えず、鼠色の路地で這いつくばるように歩み、毎日を過ごす只の消耗品(パーツ)。そんな人権が形骸化した悍ましい世界において……凡庸な人間の『前世』という記憶を持った自分もまた、全く以て何の価値もない存在だった。

 

 

 小汚い酸性雨が降る嫌な日だった。その時前後の記憶が唐突に吹き飛んだ。そして、自分が気付いた時は何か(・・)があった後だった。

 

 爆炎の発生と共に聞こえなくなった耳が、周囲の騒々しさを捉えだす。

 

『……?……ッごほっ、ごほっ…がふっ』

 

 周囲には地獄が広がっていた。火の手が上がり、瓦礫が崩れ、マスクは外れて汚れた外気が流れ込む。

 

 こんな状況(・・・・・)でも『過去』に知った物語の一節が頭に浮かぶのは、不謹慎だろうか。否、それとも走馬燈と言う奴だろうか。

 

“地獄を見た。地獄を見た。地獄を見た。”

 

 血反吐を吐く口、そしてそこから入って来る毒の空気が喉を焦がす。何とかマスクを取ろうにも、ぐしゃぐしゃに砕かれたパーツがあるばかり。立ち上がろうと足を動かす…失敗した。道端で見ていた、誰か等に向かって手を伸ばす…、だが、自分の腕を掴む手は存在しない。そう、『手を掴む自分の腕も存在しない』。両手も右足も無くなっていた。

 

『……、あ。ぁ……あぁぁ……!?』

 

 体中から赤い液体が流れ、焼けるように熱い。しかし、生温かい血の海に浸った身体は凍えるように冷たい。頭を動かそうと思っても、視界がどうにも狭すぎる…そして気付けば、片目から涙のように血と混ざった体液が流れていた。眼球が潰れた。

 

『……、がッ…ぁ、ぁぁ……』

 

 そして、容赦なく襲い掛かってくる業火。血液と混ざった化学物質に引火し、そして……。痛い。苦しい。火が体中を蛇のように嘗め回す。紅蓮が這いずり回った痕が体の大半になった時、………………自分は意識を手放した。

 

 

“その顔を覚えている。目に涙を溜めて、生きている人間を見つけ出せたと、心の底から喜んでいるの姿。―――それが、あまりにも嬉しそうだったから。まるで、救われたのは俺ではなく、の方ではないかと思ったほどに。”

 

 

 ……目を開ける。

 

『……、……っ』

『初めまして、だ少年。私がお前の執刀医になるかもしれん女だ…まぁ、執刀するのは安楽死という施術だがな』

 

 あの事故の後、ぼやけた視界の中に一人の女性が佇んでいた。水気の失われた髪、くすんだヘーゼルの瞳、こけた頬をした白衣の人物が自分に近づく。

 

 

“誰も助けてくれなかった。誰も助けてやれなかった。その中でただ一人助けられた自分と、ただ一人助けてくれた人がいた。”

 

 

『………………』

『ぁあ、まだ身を起こすな。…しかし防毒マスクが外れて救援が来るまでの時間が長かったな……、肺胞組織に毒素が……』

 

 ぶつぶつとタブレットに映ったカルテに目を走らせている女医。その人を見て、ふっと思う。……あぁ、この世界が『過去』と同じ美しい地球(ほし)であったのならば、皆が満ち足りた生き方ができるのであったのならば、この人もまた魅力的な笑顔の(ヒト)であったろうに…。彼女はそんな人だった。その視線に気が付いたのだろうか、彼女は表情の死んだ顔をこちらに向け、ぎこちなく近寄り……そして。

 

 

 

“死の直前にいる自分が羨ましく思えるほど、 は何かに感謝するように、ありがとう、と言った。見つけられて良かったと。一人だけでも助けられて救われたと、誰かに感謝するように、    ないという  をこぼした。”

 

 

 

 だが……――――。

 

 

 それから幾日が過ぎると、自分の身体が急激に発熱しだした。聞いてみれば、衰弱した身体に様々な有害物質が入り、疲労と相まって身体を蝕んでいるというのだ。唯一残った片足も動くことが無くなった。……その結果を半ば納得しながら、自分は一言女医に呟いた……。

 

 ……死にたいと。

 

 それに闇医者は、こくりと静かに首を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……それにしても、まさかこんな少年が安楽死を望むとは世も末だな』

『…そうかもね、お医者様』

 

 十数歳の少年と三十路半ばの二人が病室の中で会話する。少年は包帯が巻かれた右側の顔を庇いながら、無機質な印象の左目を向けた。十字架がベッドの柵に当たり、ちりんと小さな音を出す。安楽死の準備を進めているようだが、それでも彼女の予約は意外に多いらしく、次だ次だとはぐらかされているようだった。

 

『…生きたいとは思わんのか』

『…、この苦しさと痛さが無くなったら。この手と足がもう一度生えてくるなら…、生きたいと思うかもしれないね…』

 

 闇医者の襤褸病院に運ばれた自分は、欠損した体を見て薄く笑った。笑うしかなかった。今のこれは夢か?現か?はたまた幻か…?諦観と失意が口から洩れていく……。

 

 そして、数か月が経ることとなる。闇医者の病院には何人もの大人が入り込み、そして穏やかな顔の遺体となって出て行った。それでも、なぜか自分は後回しにされていた。そんなある日のことだ。

 

『…、……、ダメ元だがこれをしてみるか?』

『…、…?ユグ…ドラシル?』

 

 闇医者の傍らには、ヘッドセットであるデータロガーとナノマシーン注射器が置かれている。それらは、瞬く星の様に、ちかちか瞬く電灯に照らされ…少年を待っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…あれから十二年、ですか」

 

 雲海の中、花弁と鮮やかな蝶が舞う庭園が浮上する。大理石と蔦によって絡み合う浮島の一つ、その噴水広場に腰掛け『彼』は呟く。過去の出会いに思いを馳せれば、光陰矢のごとく様々な事が思い出せた。

 

「嗚呼、ここまでの自由を謳歌できたのは僥倖でした……。何と満足のいく世界だったのでしょう」

 

 『Yggdrasil』。それがこのDMMO-RPGのタイトルであり、自由な冒険や未知の発見が楽しめる体験型ゲームだった。十二年前に少年はこの世界を初めて知り、そして見る間に魅了されていった。少年の頃の心が刺激され、始めの頃は年相応の顔を覗かせゲームの続きを闇医者にせがんだ。そして特殊な何かを追加したデータロガーだったのだろうか、身体に伝わる病の痛みも、熱の暑さにも、気持ちの悪い嘔吐感さえも、この世界には無かったのだから……。

 

(あの(ひと)もわざわざ私の為にこのゲームを一緒にしてくれて、……終末医療のつもりでしょうか?何人かの患者を引き連れてこのギルドを案内してあげたり……本当に色々ありましたね……)

 

 白い長髪を揺らし、リアルで失った四肢をゲーム内で自由に動かす少年のアバター。褐色の肌を包んだ神々しい切支丹の陣羽織が目にまぶしい。少年……否、十二年の歳月を経て既に青年となった彼は、この世界でもリアルの世界でも生涯を閉じようとしていた。

 

(もう、私の身体は生きているのが不思議なくらいにボロボロですし……闇医者の先生にこれ以上待たせるのも申し訳ないですし……、この世界と運命を共にするのも一興でしょうか)

 

 生前と合わせて、六十年は生きてしまいましたね…と笑う。それは、以前のような諦観の笑いではなく、心の底からの声だった。無論、データの集積である顔が歪むことは無かったが。

 

「本当にありがとうございました……。このアバターも、ギルドも、拠点も、私のエゴで創り上げたようなものですし……最後まで一緒にいてあげますよ」

 

 そう言って空を仰ぐ彼のアバター、『シロウ・コトミネ』。生前の記憶の中から、『彼』が憧れて止まなかった英雄譚『Fate/Apocrypha』。その中の少年を何とか形にしたソレは、ギルドの拠点……『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』の主に相応しい風格を漂わせていた。

 

「この庭園との別れは済ませたか」

「……!……これはこれは」

 

 パッシブスキルの気配遮断を解いたのか、彼の隣にはもう一人のギルドマスターが立っている。

 

「『セミラミス』……、いや、最後まで申し訳ない……」

「それはゲームでの事か?それともリアルについてもか?」

「……意地の悪い人だ」

「当たり前だ」

 

 黒髪を纏め上げた側頭部に黒い鳩のティアラ、手に突き刺さった棘の装飾、純黒のドレス……まさに女帝と言った風貌のアバターがそこにいた。両耳が尖り、長く伸びてはいるものの、種族は異業種の半神(デミゴッド)である。

 

「有態に言えば、お前は死ぬ。この世界では崩落に巻き込まれ(サービス終了で)、向こうの世界では苦痛なく…(私が……)な」

「でしょうね……」

 

 セミラミスが言った言葉にシロウ・コトミネも頷いた。何を隠そうこのセミラミス、シロウに『ユグドラシル』を進めてきたあの闇医者なのである。本来ならば患者に深入りしない主義だったあの女医だったが、シロウはサブ垢を創れない仕様のユグドラシルでの使用アバターを悩みに悩み、さらには年齢制限云々と無理矢理言い包められ、彼女もゲームに付き合う事になったのである。初めは渋々と言った様子でシロウの傍らに控えるだけのセミラミスであったが、異業種狩りの時期などの期間を経て徐々に彼と共にゲームを楽しむようになっていた。……これにシロウが『原作の様だ』と興奮していたのは別のお話。

 

「サービス終了まで、まだ間がある。……一つ聞いておこうか」

「何でしょう?」

「……、この世界は、楽しかったか?」

 

 表情の変わらない顔で、彼の心に直接尋ねる毒薬使い。

 

「えぇ、とっても。コレで、ようやく……満足して人生を閉じられる」

 

 シロウは既に諦観も苦しみも無く、晴れやかな口調で彼女の手に全てを委ねた。事実、彼の身体は騙し騙しの投薬と切除手術を繰り返しても……助からないレベルにまでなっていたのだから。

 

 だが。それでも。徐々に壊死し、カビが生えていく身体であっても、……彼は生きる事を選び続けた。失った世界、失った体。そして失った憧憬全てが詰まり、人生をかけて何かを成そうと足搔いた世界。それが彼にとっての救いであった。

 

 たかがゲームに私を……、といった皮肉の一つでも来ると覚悟したシロウ。……だが、隣の女性からは、吐息の一つも漏れはしなかった。

 

「……怒らないのですか?」

 

 隣にいる黒衣の女帝に恐る恐る尋ねてみた。ゲームが終われば、自分を殺す事になっている無免許医。十二年を患者と主治医の関係で過ごしてきた故か、彼女は自分を殺したがっていない。彼はそう気づいていた。

 

「それは死を求めることか?それともこの世界(ゲーム)にまで私を誘ったことか?」

「……、……両方です」

 

 二人の間に優しく柔らかな沈黙が流れる。

 

「…むしろ今まで良く生きた、あの姿で過ごす人生は苦痛だったろうに……、それにな」

 

 

 彼女のデータの上で固く結んだ唇が、解れた様に感じた。

 

 

「……楽しくなかった、と言えば嘘になるからな」

「…。…そう、ですか……」

 

 

 

 二人は腰かけていた噴水から立ち上がり、ギルドの拠点『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』内を歩んで行く。つかず離れずの距離を保ちながら、大理石の床を足音のみが叩く。

 

「……それにしても」

「……む?」

 

 様々なギルドが乱立するようになり幾らかのギルドと交流を持ちだした頃から、彼女のinの割合が高くなったのだ。『お前が言うには此処の主は私なのだろう?』と言って王座に座り、不本意げな雰囲気で頬杖をついた日の事を忘れはしない。傲岸不遜に下賜する女帝が誕生した瞬間だった。

 

 シロウの留守には戦闘も行い、何とかギルドランクを11位に落ち着けた功労者……それがセミラミスである。魔法職としてプレイヤースキルが高い彼女だったが、それでもリアルの時間を削ってまで十二年もゲームに付き合わせてしまい、シロウはセミラミスに些かの罪悪感を抱いていたのだ。

 

 だが、彼女は自分に言ってくれた。この世界で一緒に冒険をして退屈しなかったと、この世界には意味があるのだと。

 

「まさか……貴女に『そんな事』を言ってもらえるなんて、思ってもいなかったな…」

 

 そんな自分の声音を聞いて、女帝はぽつりと呟いた……。

 

「馬鹿だな……お前は」

「……かもしれません」

 

 その言葉にどんな意図が含まれていたのか……それは二人には分からない。

 

 

 道すがら、様々な言葉を交わし合った。セミラミスは『何故手間のかかるアバターを創ったのか』やら、『この浮き島を原型すら残さずにこんな要塞に変えたのか』等の質問をし、シロウは生前云々の事情をぼかしながら説明した。浪漫だ、夢で見た、歴史が好き……等ののらくらした返答だったからか、セミラミスからは「……不思議ちゃんか?」と突っ込まれたシロウ。肩を落としながらも空を見上げると、もう間もなくサービス終了の時間と相成った。

 

23:59:50

 

「嗚呼、世界が終わるな……」

 

23:59:51

 

 その言葉に、シロウの言葉は『重なった』。

 

23:59:52

 

「出来れば……もっと世界を見たかったものです」

 

23:59:53

 

 石造りのベンチに座り、相棒とも言える女帝を見て冀う。

 

23:59:54

 

「……看取らせてしまって、申し訳ない……」

 

23:59:55

 

「………………」

 

23:59:56

 

 女は過去に彼を重ね合わせ。男は物語に彼女を重ね合わせ。静かにその時を待った………………待っていた。

 

23:59:57

 

23:59:58

 

23:59:59

 

 

「「………………ありがとう」」

 

 

00:00:00

 

 

 

 

 そして、頭上の青空が……星空へと変わった。

 




 あと人智統合真国シンでのアレ。赤の陣営でやったらな思いつきネタ

劇作家「反逆三銃士を連れてまいりました」
猫耳&韋駄天「「反逆三銃士?」」

・スパルタクスの反乱
「圧政!」

・島原の乱
「貴方に恨みはありませんが」

・カム乱
「父上ェェェェェェェェェ‼」ウワァァァァァァァ

蝉様「待て待て待て、最後おかしい」


(ぶっちゃけこの小ネタを後書きでやりたいがために本文を書いてみました)


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忠義無き従僕

00:00:01

 

00:00:02

 

「……む?」

「………………はて?」

 

 急激に変化した空を見て、庭園にいた二人は頓狂な声を漏らす。

 

「……。ログアウトしない?いや、確かにサービス終了は今日だったはず……?」

「コンソールが…出ませんか。チャットも……GMコールも?」

 

 吸い込まれる様な星空を仰げば、微かな生前の記憶が過る。彼がベンチから立ち上がれば、耳に水が流れる音やひゅうひゅうと風が吹く音が入って来る……。急激に変化した体感覚が、突如として彼の脳幹に膨大な負荷をかけ始めた。

 

 くらり……。現実には無いはずの脚が、覚束ない感覚に絡まり体勢を崩す。

 

「……っと、大事無いか」

「すみません。少し……立ち眩み…が……?」

 

 セミラミスの膝の上へと仰向けに倒れたシロウは、触覚、嗅覚、視覚を驚きで奪われた。その柔らかな感触と毒婦の様な艶めかしい匂い、怪訝そうな女帝の顔……そのどれもがゲームではありえない現実味を帯びていたのだ。

 

「……口が動いている?何か異常が……と言うか、何故風も水も……匂いも再現されている?これは一体……」

「何、真か?……ふむ」

 

 彼女はシロウの頭を手持ち無沙汰に撫でながら、ほっそりした指で顔に触れた。そこにあったのは肉の感触。玉の様な滑らかな、リアルでは有り得ない健康的な肌だった。

 

「……と言うか」

「?」

 

 彼女が見下ろした先に、悪戯小僧のはにかみ顔が映り込む……。

 

「膝枕はR15に入るのでは?」

「……!…、…莫迦が」

 

 先程までの余裕は欠片も無く、髷を慌てて掴んで起き上がらせた。些か狼狽した顔で目を細め、声を整えるセミラミスのプレイヤー。

 

「……アカウントがBANされなかったのを見ると、この世界はユグドラシルとは別物という事になるな」

 

 話題を変えるために、現状の把握に勤しむことにしたようだ。羞恥と未知の狭間で冷静に状況判断ができている自分達に驚きつつ、お互いに情報の共有を開始した。

 

「……つまり、ここは本当にゲームの世界、若しくは異世界であると?」

「まぁ、何らか試してみれば良かろう……、ところで口調がもとに戻らんな……」

「……傲岸不遜なところがお変わりないので宜しいのではないでしょうか?」

 

 どうやら二人とも精神が身体に引っ張られ始めている。ロールプレイ時に意識していた口調が一番しっくり来てしまう様で、セミラミスの顔も些か困惑気味である。

 

「――Anfang(セット)

 

 いつの間にやら手に持っていた投擲武器を放り上げ、空中に魔法陣を浮かび上がらせるシロウ。一旦運動を停止した聖遺物級(レリック)アイテム『黒鍵』は、目にも留まらぬ速度で噴水の石瓶を破壊した。……因みにこのアイテム入り石瓶、破壊するにはレベル85以上且つ伝説級(レジェンド)アイテムでの攻撃でなければ破壊できないものだが、シロウはスキルのバフなどの強化によって何ら問題は無い。ガラガラと零れた欠片の中から、金貨と宝石が現れる。

 

「……どうやら、魔法や特殊技能(スキル)などは使えるようだな」

 

 黒鍵を摘まみ上げ、優雅に微笑むセミラミス。以上の行動の結果から、この世界の法則が段々と明確になってきた……。

 

「仮にここが異世界だとして、……お前は戻る手段を模索する必要があると思うか?」

 

 ふと、リアルの自身たちの事を思い、そして尋ねる。……未知に満ち満ちた世界か、はたまた暗黒と苦しみが蔓延する世界か。自分達は、どちらを選ぶべきなのか。

 

「…………むしろ、神の思し召しだとさえ思いますよ」

 

 ……その時、シロウは晴れやかに笑い、そして言う。

 

―奪われた手が……再び私の下に戻ってきたのだから―

 

 余計なものが混ざった魂の鎮魂も、生み出してくれた顔も知れない両親への愛も、自身の身を傷つけた汚れた世界への報復も、悲劇にしか進めない人類の基盤にも、憎しみが無いと言えば嘘である。だが……憎んだ(・・・)ところで(・・・・)何が変わる(・・・・・)?それが失望の理由になるのだろうか。今、私は幸いである。聖人でも英雄でもない自分は、新たなる福音を見つけたり。

 

「……、……。一旦玉座の間に行く。あそこならコンソールの確認もできるやもしれん」

「ではその様に」

 

 呟いた二人は懐から赤い十字架を取り出すと、星空の下から転移する。手に持った十字架は『外典礼のロザリオ』と言うマジックアイテムであり、その数も十六個しかない特別なモノ。転移ができない『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』内で、名前のついている部屋に回数制限無しで転移ができる。

 

「さて……と」

 

 絢爛豪華な壇上へ座すと、魔法陣に似せたマップやコンソールが投映され、ギルド『赤の陣営』の現状を映し出す。幾つもの旗の下の玉座。そこで女帝が指を弾けば、その途端に拠点のルートや階層、部屋数までがセミラミスの意思のままに(・・・・・・)切り替わった。……どうやら拠点の能力や特性に不備や欠陥は無い様だ。一安心している女帝を見て、シロウもほっと一息を漏らす。

 

「……、現在『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』は海上300m程の場所に浮遊しておる。ふん、ユグドラシルではヴァナヘイムの雲海の上だったはずだがな……」

 

 これで『この世界がゲームの中である』、などと言う仮定はほぼ無くなったと言える。そして、二人は完全に気付く事となるだろう。あまりに『かけ離れた場所』と『現実味を帯び過ぎた仕様』、そして……最後の一つである判断材料要素が迫ってきた。

 

「……待て、何か聞こえてこぬか?」

 

―ドドドドドドドドド……―と何かが突貫突進してくる音がする。

 

「ハッハッハッハ‼」

「……なっ!」

 

 灰色の躰を砲弾の様に丸め、玉座の間に飛び込んで来た拘束具の戦士。だが、そんな隕石の様な攻撃を阻むため、鉛色の肉塊へ紫の鎖が殺到した。捕縛され、雁字搦めに押し倒される笑顔の襲撃者は高らかに叫ぶ。歓喜の狂乱をまき散らす。

 

「おぉ‼汝を今こそ抱擁せん!!!」

「…っ!?」

 

 最上級の毒でできた鎖に巻かれながら笑顔を浮かべる屈強な男。彼は『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』の中ボスに相当する狂戦士。『空中庭園七大戦騎』という地位に就く……狂戦士『スパルタクス』である。それが……生きている様に動いている。否、命を吹き込まれ動き出したとも言えるのだろうか。

 

「圧政者よ、我が愛を受けよ!その傲慢で存分に受け止めるが良い‼」

「ほぉ…抜かせ奴婢が。この玉体、お前如きに触れさせると思うてか」

 

 形の良い眉目を鋭くすると、紫電と共に下級のモンスターが玉座の周りに出現した。

 

「《サモン・ドラゴントゥース・ウォーリアー/竜牙兵召喚》」

 

 数十体のモンスターを召喚するのと同時、鎖縛をレジストした狂戦士は悦びと誉れを露わにする。

 

「ハハハハハ‼自由である!自由こそ我が本懐、我が闘争であり、弱者を守る為の反逆である‼」

「ふむ…………成程。さっぱり話が通じんぞ」

「…ですねすみません」

 

 職業:バーサーカーの影響と書き込んだ設定故に、意思疎通の二重苦を強いられている女帝と切支丹。特にシロウ・コトミネは頭を抱えている……このNPCも彼が生前の記憶からデザインした故に、罪悪感がどっしりとその肩に圧し掛かっていた。

 

「おいシロウ、どうやらこの者はフレーバーテキスト通り我に刃を向ける様だ……」

 

 鬱陶し気に髪を掻き上げると、セミラミスの周囲に魔法陣が浮かび上がる。そして鎖に繋がれた鉤状の爪が、好戦的に揺れ動いた……。

 

「ならば『器の中(・・・)』へ送っても、構わぬよな?」

「…仕方ありません。面倒を起こされても困るので、一旦保存してしまいましょう」

 

 シロウは頭を振って諦めた。『セミラミス』と言うプレイヤーの心の奥にある苛烈さも、NPCとしてかの者を再現しようとしてできた『スパルタクス』の行動心理も、加味して考えれば相容れないことなど解りきっていた。

 

「解った。ではシロウ……出て行け」

「……良いのですか?」

 

 ユグドラシルとは異なるであろう世界で最初の戦闘、それも自分の拠点のNPCが相手である。何が起こるか不明な為、二人で協力した方が得だと思ったシロウだったが……。

 

「我が負けると思うてか。ほれ、『ブラッド・オブ・ヨルムンガンド』に『例のアレら』、『我の特殊技能(スキル)』を使う前に逃げた方が利口だぞ?フレンドリーファイアが有効だった場合、毒無効すら意味を為さんしな……」

 

 最上級の毒効果持ちアイテムの名前が挙がり、頬が若干引き攣った。

 

「そうでしたね……貴女の力に関しては疑うべくもない事ですし」

「おいおい、未だ此処が如何なる世界か、如何なことができるかも分からんと言うに」

 

 コレを無謀と断じる事もできる……だが、何故だろうか。シロウには、そうならないだけの『説明できない確証』があった。

 

「貴女なら『そうできる』と思ったのです」

「……まぁ良い。()()ね」

「頼みましたよ。では……他のNPC達を呼んできます」

「うむ、良きに計らえ」

 

 シロウ・コトミネはロザリオを光らせ、彼は毒霧が届くよりも先に別の部屋へと転移せんとする。去り行く時の玉座にて、これから長い付き合いになるだろう女帝が笑った気がした……。

 

 

 

 

 風景が変わる。本来この『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』は黒と金、そして紅白の装飾で彩られた大部屋しか存在しない。だが、ある一点を除いて、その室内は劇的に装いを変える。それは、この拠点を守護する『空中庭園七大戦騎』と言うNPCがスポーンした時だ。ユグドラシル時代ではランダムにスポーンしたキャラクターによって別のステージが構築され、プレイヤーは突発イベントの様にNPCが優位な空間で戦わなければならない。つまり、このギルドの拠点のシステムは、マップの情報は当てにならない事と同義となっている。

 

 閑話休題、シロウの目の前には……地中海の砂浜と鬱蒼とした森林が広がっていた。

 

「さて……此処には……、!」

 

 ひゅかん、と足元に一本の矢が届き、乾いた音を響かせる。

 

「……いるのでしょう、『アタランテ』」

「………………、………………ふっ!」

 

 ザザザザ、と木の葉が揺れる音が近づいてきた。そして上空の太陽を背に一体の獣が空を舞う。あらゆる遮蔽物を飛び越え、翠緑の衣をなびかせ着地した女。神器級アイテム『天穹の弓(タウロポロス)』を担ぎ直す様子は、あどけない少女などでは無く、狩人の英雄そのものだった。

 

「一体何用だ、ギルドマスター」

 

 彼女もまた、先の襲撃者であるスパルタクスと同様の100レベルNPC。『空中庭園七大戦騎・弓兵』の肩書を与えられた麗しの狩人、『アタランテ』。無造作に編まれた髪と獅子の様な瞳がシロウの眼前に揺れている。何より特徴的な獣の耳が用心深く(そばだ)っていた。

 

「どうやら、外界はユグドラシルとは異なる場へと移り変わったようです。これから貴女方『空中庭園七大戦騎』を含めて言葉を交わしたいと思ったのですが……ここで会うとは僥倖です。散歩でもご一緒しませんか?貴女の事も知っておきたい」

 

 人の良さそうな顔を綻ばせ、シロウは手を差し伸べる。だが……その笑みに苛立ったのか、はたまた信じられないのかNPCであるアタランテはその手を素早く払いのけた。ぱしっ、と乾いた音が響く。

 

「どうでも良い」

「おや……これは失礼」

 

 ギルドマスターにして創造主であろうとも、彼女の言葉に敬意は幾らかも含まれないのだろう。静かな獣の目が、シロウの金の瞳を冷たく見て告げる。

 

「世界が変わった?……それがどうしたというのだ。これからお前達が如何な事を成そうが、惰弱さ故に死のうが…私はお前達にそれと言った未練はない」

 

 その口から流れ出るのは獣の論理。弱肉強食にして戦い、生き延びるというシンプルな真理(答え)

 

「……」

「対話は玉座の間で良いな。先に行く。努々遅れるな、マスター」

 

 風を切る音と共に去り行く七騎の一体、『弓兵』。その場に残されたシロウは頬を掻きながら困った様な笑顔を浮かべた。確かにかの英雄然とさせるのに、フレーバーテキストにそう言った要素を書入れた覚えはある。だがこうもすげなく扱われると、どうにも苦笑する事しかできなかった。

 

「何でしょうね……この低評価……」

 

 

 

 一方玉座の間では、蹂躙の一幕も終わりを迎えていた。ここは様々なギミックが組み込まれた――例え毒無効の力があったとしても大ダメージを負う仕様の――まさに驕慢王の為の闘いの場。そんなところで戦えば如何にレベル100の戦闘職であろうとも、その部屋の主に勝る理由など大概ない訳である、が……。

 

「ふ、は……はは…これが……スパルタクス…で、ある……」

 

 消えゆく最中まで笑みを絶やす事が無かったNPCに、一抹の恐れを抱いたセミラミス。

 

「……何とも言えん輩よな。笑っておったぞ……」

 

 青白い色の粒子となって『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』の中枢へと送られた狂戦士。一通りの戦闘と魔法、スキルの確認が終わった女帝は呟いた……。

 

「こ奴ら……マジか……」

 

 早くも寝首を搔かれかけたギルドマスター達はどうなってしまうのか、それは全く分からない……。

 




シロウ・コトミネ
人間種
「全人類の救済」を追い続ける少年

役職―――虚栄の空中庭園七大戦騎「監督役」兼ギルドマスターの一人
住居―――庭園にある聖堂教会の自室。
属性―――極善[カルマ値:500]
職業レベル―セイント5lv.
      サムライ5lv.
      マーター5lv.
      バプテスト10lv.
      ホリー・バニッシャー5lv.
      メシア10lv.
      ほか
[職業レベル]―――計100レベル
職業レベル取得総計100lv.
能力表
HP――71%
MP――88%
物理攻撃――52%
物理防御――46%
素早さ――97%
魔法攻撃――85%
魔法防御――92%
総合耐性――98%
特殊――100%以上


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主従問答

 玉座の間に真紅と金刺繍で彩られた八つの旗が掲げられている。旗の中心にある紋章、それは三つの形が組み合わさって、各々の特徴を表しているようだった。それらは『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』の侵入者を阻む八人のマーク。

 

 “髑髏の様に荒々しい紋章”……『剣士(セイバー)』、“四角を形作った涼やかな紋章”……『弓兵(アーチャー)』、“梵字かと思しき陽光差す紋章”……『槍兵(ランサー)』。“駆ける風を簡略化したらしい紋章”……『騎兵(ライダー)』、“左右非対称な音符の様な紋章”……『暗殺者(アサシン)』、“筆記体の文字を思わせる紋章”……『魔術師(キャスター)』、“丸いフォルムから力強さを伝える紋章”……『狂戦士(バーサーカー)』。それら全ては原典の令呪の形を模していた。

 

 そして、最後の一旗には“十五角にも及ぶパーツからなる両翼の如き紋章”……『裁定者(ルーラー)』の令呪が静かに輝きを放っている。

 

 そんな荘厳な雰囲気の中、絢爛たる扉が軋むような音を立てて開き出した。玉座に座った黒衣の女帝、その傍に控える神父の視線が巨大なドアへと集まっていく。

 

「………………」

 

 コツ…コツ…、と金属音が大広間に響く。目に突き刺さる黄金の輝きが後光となって溢れ出た。

 

「カルナ。呼び立てて申し訳ございません」

 

 胸がはだけた服の男が立っていた。隙の無い歩みが赤い翼の様な衣を揺らし、半神の彼は入室して来る。……一瞬、シロウは其処に太陽を幻視した。大広間に寝そべり頬杖をついていた『若草色の髪を持つ男』も、壁に寄りかかっていた『獅子獣人の女』も片目を開けて彼を見る。

 

「構わん……残りは三人か」

 

 血色の悪い白髪の美青年、『空中庭園七大戦騎・槍兵』カルナが周囲の人物等を睥睨した。神器級(ゴッズ)を超越しようかと言う武装の数々…そして神の雷を具現化したような世界級(ワールド)アイテムを保持する最強格のNPC。彼の無感情な目が探るように刺さり、シロウは思わず肩をすくめる。設定したとはいえこれ程までに『原典の彼』を踏襲しているのであれば、隠し事など意味は無かろうと思い至る次第だった。シロウの隣では物憂げな女帝が“はぁ…”と形の良い唇を開く。

 

「例の問題児(ホムンクルス)は散々我を唾棄して出て行きよったわ……忌々しい」

「女帝サマをセミだのカメムシだの罵って、な。ははは!」

「ふっ、貴様の杯よりもセイバーの舌の方がよっぽど強烈な毒らしい」

 

 寝そべっていた青年は起き上がると胡坐をかき、にやりと笑った。先の愉快な出来事を思い出し鼻を鳴らすのは鬣の女性。暗殺者の金目が不愉快気に歪む。

 

「アーチャー、ライダー。黙っておれ」

「ふん」

「あーはいはい、こいつぁすまん」

 

 俊足の騎兵はこの場で暗殺女帝の機嫌を損なうのは下策と判断したようだ、両手を挙げて降参のポーズ。獅子の耳と尾を持つ弓兵は黙ってカルナの後方に移動した。

 

「バーサーカーはすでに『器』へ送っておいた。しばらくは…いいや、我の召喚以外の手段では出てこれまい」

「間もなく最後の一人もやって来ましょう。それまで……」

 

 セミラミスの言葉にシロウも続ける。だが、二人の言葉は突如として途絶える事となった。

 

「おぉ!これは皆様方におかれましてはご機嫌麗しく!」

 

 厳粛な場に声高らかに愛想を振りまく一人の道化。一瞬にして現れたその男に、奇異の目線が殺到した。中世ヨーロッパの気品ある服を纏っているが、ダンディな顔に浮かべる子供のような笑みによって、彼の者から受ける印象が噛み合わない。

 

「『シェイクスピア』……お主、今の状況を分かって言っておるのか」

「無論でございます女帝よ。“運命とは(Your soul is)最もふさわしい世界へと貴方様の霊魂を(carried to the most suitable place)運ばれるらしい。(with destiny.)”そして我々に集合をかけたからには、いよいよ壮大な開幕の時なのでしょう?」

 

 大仰に腕や体を動かし、芝居がかった動作で玉座に侍る『空中庭園七大戦騎・魔術師』。赤茶けたマントを靡かせると即座に詩的な言葉を紡ぎ、女帝や狩人の神経を逆撫でした。

 

世界樹(ユグドラシル)黄昏(ラグナロク)にて崩れ落ち、しかしながら天には太陽(ソール)(マーニ)が巡り征く。あぁこれは全く以って異なる事!」

 

 額に手を当て頭を振るう。そして一気に捲し立て、喜びと興奮に打ち震えながらこの場にいる演者(キャラクター)の行く末を夢想する『キャスター』。

 

「…シロウ、こ奴最悪だの。何故こんなキャラにした……」

「だが落胆することなかれ!“『あぁ何たる事!最悪だ!(The worst is not,)などと言える余裕があるならば、(So long as we can say,)断じてそれは最悪などでは無い(This is the worst)”!」

 

 ……絶句。玉座の間に静寂が訪れる。そんな中で“はぁ…”、と眉間を揉むセミラミス。これには設定者のシロウさえ苦笑いだった。

 

「…ともあれこの文筆家が言った通り、この城はヴァナヘイムとは全く異なる外界に浮かんでおる」

 

 気持ちをいち早く切り替えた女帝は呪文を呟く。そして庭園を飛び回る鳩の使い魔達と視覚を共有させ、自分等の拠点をあらゆる角度から観測する…因みにこの鳩要素は課金である。

 

「《クレヤボヤンス/千里眼》、《クリスタルモニター/水晶の画面》」

 

 続いて彼らの視線の先に巨大な波紋が広がり、何百羽の使い魔達の視覚が立体映像の様に映し出された。なお、これはユグドラシルのルールに縛られない事を読み取ったセミラミスが独自に命じて表現させたものらしい。彼女、とんでもない適応力である。

 

「…ほぉ、今いるのは海の上か」

「何だ姐さん。船旅でもしようってか?」

「……いや、なぜか知らんが二重に疲れてしまう予感がする…。月の女神スイーツ?顔だけが取り柄の英雄(笑)…?アルゴナウタイ、オケアノス?ぅう……」

 

 苦虫を噛み潰した表情をする『弓兵』と、気さくに茶々を入れる『騎兵』。…設定者(シロウ)の頭の隅にあった記録までも刷り込まれているのだろうか?

 

「…では、これより『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』の隠蔽及び警戒レベルを最大限に引き上げます。そしてセミラミスのスキルの鳩たちを使い情報網を共有することとします。異論はありませんか?」

 

 シロウの言葉に異を唱える者はいない。如何に胡散臭い神父と非道気な女帝であったとしてもその判断力は明晰であった。その沈黙を是と受け取り朗らかに笑う彼。

 

「…よろしい」

「神父、そんな御託は良い」

 

 その腹の底を咎める様に睨んでくる『空中庭園七大戦騎・弓兵』のアタランテ。『ライダー』と呼ばれた男も胡坐を解いて立ち上がり、槍を担いだ。

 

「些事を言うためにこの場に集めたのでは無いだろう。ずばり本音を我等に話せ」

 

 狩人の様にキラリと光る『空中庭園七大戦騎』の眼。シロウは一瞬呆けた様に顔を緩めると、セミラミスと視線を交え……頷いた。

 

「では…問いましょう」

 

 咳払いした彼の顔には笑みなどは無く、ギルドマスターとして、一人の長としての表情がありありと浮かんでいる。真摯に向かい合おうとする少年とその言を聞こうとする英雄達。

 

「貴女方はこの世界でどう生きたいですか?」

 

 

 

「………………なんだ、そんな事か」

「そんな事、とな?言ってみよ『アキレウス』」

 

 まず真っ先に口を開いたのは韋駄天の英霊。『空中庭園七大戦騎・騎兵』の名を賜ったNPC、『アキレウス』だった。カルナと同格の性能を誇り、正攻法で彼に勝るのはユグドラシルの上位数パーセント程になってしまった出鱈目NPCである。

 

「俺の理由はユグドラシルの時と変わらねぇよ。“英雄として生きる”。それだけだ」

 

 そうあれかしと定められたものだったとしても、それが過去の英雄の名を引き継ぐに相応しい行いだと信じている男。数多の英雄たちと同じように、彼が『彼』である事にそれ以外の理由など必要ないのである。

 

「汝はロマンチストだな……、まぁ私も似たようなものか」

 

 言葉を続けるは純潔なる狩人。鋭い視線を少しだけ柔らかくして微笑した。今まで触れ合ったことも無い無垢なる魂に思いを寄せて、少しの我儘を唇に乗せる。

 

「私は子供たちが笑顔で幸福に過ごせる日々を護る。その為に英雄でありたいのだ。……槍兵(ランサー)、汝はどうする」

 

 アタランテに尋ねられたのは施しの英雄。太陽神の産み落とした混血児は、その力に奢る事無く謙虚な願いを口にした。

 

「我が身はこの庭園の守護者として創出された。ならばオレはこの槍を振るうだけだ」

 

 その在り方は最も従者に近しいだろう。だが、余りの高潔さに会得しない者もいる。不潔極まりない現実に生き、不自由がどれ程の苦しみなのか…踏みにじられる事がどれ程の屈辱なのか嘗めさせられて来た、『セミラミス』と言うプレイヤーである。

 

「…NPCとしてそのまま仕えると言うのか。自ら自由を放棄するとは呆れたな…」

「それが願いであり、ギルドマスターの従者であるオレへの報酬だ」

 

 憐憫と高潔、困惑と信念の視線がぶつかり合い、………………先に折れたのは黒衣の女帝であった。

 

「……勝手にするが良い」

「感謝しよう、アサシン」

 

 無表情のまま淡々と頭を垂れるカルナ。“はん!”と面白くなさそうに鼻を鳴らすセミラミス。視線を彼から外すや否や、椅子の肘掛けを指で弾きつつ仏頂面になってしまった。

 

「さて、ではこのユグドラシルとは異なる世界にて!このキャスター、精一杯見守らせて頂きますとも!吾輩執筆の準備がありますので、残りの皆様頑張ってください!」

「……待たんか」

「うぉぅ!?」

 

 フラストレーションが溜まっていた彼女にコレである。毒鎖で胡散臭いオッサンの目前の床を削る位には苛ついていた。

 

「どこへ行こうと言うのだ劇作家…」

「…吾輩戦闘だの魔法だの滅法苦手でして。“神は(You)我々を(gods,)人間にする為に(will give us.)適当な欠点を(Some faults to)与えてくるのです(make us men)”!」

 

 “ぴきっ”、だか“ぶちっ”、だか変な音がシロウの隣から聞こえてきた。アタランテ達にも聞こえたのだから幻聴の類では無いのだろう……。

 

「貴様……」

「良いですかな?吾輩は自分自身の事を書かないのですよ。吾輩は他人の物語を紡ぐしか能が無く、それ以外に書きたいものが無いのです!」

 

 プルプルと肩が震えている女帝陛下。俯いているので表情を窺い知る事が出来ないが……猛毒・劇毒の効果のあるオーラが抑えきれずに溢れ出る。シロウも思わず距離を取ってしまった。

 

「そして!吾輩はこの有り得ぬ会合のエンディングを目撃したい!いやしなければならない‼幸福であれ不幸であれ、或いは絶滅的な真実であれ!皆様方の物語を、最後まで傍観することこそが!吾輩に課せられた使命なのです‼」

「……~~~っっっ!」

 

 オリジナルとなった英霊と同じくで芯が全くブレないNPC、ウィリアム・シェイクスピア。この魔術師、協力する気/ゼロである。

 

「……一先ずアサシンとキャスターの事は置いておきます。他には?」

「集められた状況は分かった。んじゃ今度は…こちらの質問にも答えて貰おうか」

 

 アキレウスが槍を掲げてシロウに詰め寄る。彼はその挙動を眉一つ動かさず受け入れた。

 

「返答次第では……その首を頂く」

「……何でしょう。言って下さい」

 

 アキレウスから言を引き継いだのはアタランテ。それは、彼等の根幹を如実に証明していたのだった。

 

「ギルドマスターの神父。お前に問いたい。私達とは『何だ』?」

 

 自分達が『彼の者達の影』だと本能で知っているが故に彼らは問わずにはいられない……何故自分達がそうあれと望まれたのか。

 

 ………一瞬の逡巡の後、顔を上げたシロウは一人の人間としての声を上げた。

 

「…貴方達は英雄達の影法師。歴史に刻まれた伝説。その幻想(そら)に憧れた弱者が望んだ、人の在るべき姿です」

 

 その言葉に『アタランテ』が……、『カルナ』が、『アキレウス』が視線を動かす。

 

「人間誰しも“平凡”で“一般”です。ですが、だからこそ思うのです……星々の海を渡る為、標として貴女方英雄が必要だと。どれ程の絶望があったとしても、その絶望の後には希望が残る…その希望に縋る為に折れない心、それが人間であり英雄なのだと…」

 

 彼が言ったのは英雄であるのが何たるか。正義を守るのは何なのか。その言葉にアタランテは苦言を呈す。

 

「随分と耳触りの良い台詞だな。救世主でも気取るつもりか?」

「…まさか」

 

 ふっと自嘲気味に笑みを浮かべた。それは聖人の様で、あらゆることを是認し包み込む慈悲か……はたまた諦観の重荷であったのか。

 

私は(・・)人間が(・・・)嫌いです(・・・・)

 

 聖者の衝撃的な言葉に従者達は眉を吊り上げる。いや、その在り方は、破綻した正義の味方の方が正しいのだろうか……。

 

「あの世界は地獄でした。自分を救うことは度し難く、競っても逃げ出しても勝利はない。助けを求める腕は弾け飛び、立って歩く為の脚は腐り落ちた。……そうなった理由など定かではないが、私が『正義』であったから弾圧を受けた」

 

 含みを持ったシロウの声。ユグドラシル時代から、リアルの彼について踏み入った知識はないが、英雄達は彼もまた英雄に連なる精神性を持っていると薄々感じとる事が出来た節があった。その一端が口から洩れる。

 

「人間という基盤の元、創り上げられた世の醜さと弱さ、下等さすら知っている……故に人間というのは幸福になどなれはしない。……あぁしかし」

 

 勘違いするな、とでも言うかの様に慈悲深い笑みを顔に浮かべた。

 

 

それ如きが(・・・・・)人類を恨む(・・・・・)結論に至る(・・・・・)理由には(・・・・)成り得ない(・・・・・)

 

 

 それが精神の柔軟さから出たものか、はたまた欠落したナニカから来ているのか…。個人を度外視し、諦観を超えた覚悟が滲み出る彼の瞳。ただ、彼の真正面から人間を受け止めるあり方は、英雄らの顔を歪ませた。

 

「……は」

 

 口を開けたのは誰だったのか。途端にシロウに対する評価が少しばかり変化した。

 

「ははははははは!」

「何ですかライダー。私がおかしいのは知っていますが、面と向かって言われると少しばかり…」

「いやいや。……まぁなんだ、胡散臭さと危うさはあるが、スカッとするのは事実だわな」

 

 ライダー『アキレウス』は破顔し、一方のアタランテは苦々しそうな顔をしながらも言葉を続けた。

 

「…仕方あるまい。こちらの世界でも汝をマスターとして認めよう」

「オレもそれに異論はない。……ただし一つ言っておく。人間は平凡で一般だといった。だがお前はその様な人間ではなかろう」

 

 カルナは一言多くシロウに言った。淡々と何か含みを持たせ主に言葉を伝達する。傍から聞けば侮蔑にもとれる言動である、事実シェイクスピアと睨み合っていたセミラミスは非難めいた視線をカルナへと送っている……。

 

「努忘れるな。その非凡、逸脱は最早お前を損なう。身の丈に合わぬ旗は持つべきで無い」

「……もしや、励ましの言葉ですか?」

 

 そう言えば原典のカルナも一言多い言葉足らずだったな、と思い返すシロウ。え?とアサシンは彼らの顔を順繰りに見た。

 

「そうだが」

「…そうなのか?お前は口下手だな、施しの英雄」

「……………………………………そうなのか」

 

 暗殺者の的確なツッコミが冴え返る。槍兵の表情は変わらないが、纏う空気がどんよりと淀む。意外に気にしているらしい施しの英雄であった。

 

「あのー女帝殿、吾輩そろそろ執筆があるのですが…」

「……知っておるか?我は完結した話より未完の物語の方が好みなのだ」

「なんと!?それは勿体無い!いや締切よりも悪辣な!」

「……《トリプレットマジック/魔法三重化》《ショック・ウェーブ/衝撃波》」

「お、お待ちを女帝陛グフッ!?……ぐぅ…吾輩、原稿より薄い紙装甲なのですが…」

 

 吹っ飛ばされる劇作家。だが、そんな彼を心配する人間はここにはいないようだった。南無。

 

「ともあれ…先程遠見の術を使って索敵したのだが、見よ」

 

 キャスターを放っておき、セミラミスはクリスタルモニターに映る景色を移動させた。そこに映っていたのは闘争、戦い。血を流して戦う騎士達と、それに襲い掛かる獣人だった。

 

「亜人と人間種が戦い合っている?」

「おぉっと、如何なさるおつもりで?吾輩こう思うのです、“弱き人間を(Something weak,)助けたとしても、(as much as I help up,)救済には程遠い。(for, it isn’t enough.)その後も支えてやらねばならぬと(I also have to resist after that)”」

 

 ……それを見て、シロウはこう言った。

 

「魔法や戦闘行動に問題が無いとは言え、我々がこの世界でどれ程の強者であるのか皆目見当がつきません。…見捨てる事も吝かではないですが」

「では、生涯この城で閉じこもっておくか?くく…」

 

 人間嫌いの聖人を暗殺の女帝が嘲笑する。それに続く形で、NPC達も各々の意見を交わし始めた。

 

「……流石に天に漂い惑うなど御免被るぞ」

「ふぅむ。一国に奉仕するのも一興やも知れませんな!」

「オレはお前の命じる儘に槍を振るうとしよう」

「止めるってんなら別にいいぜ。その場合令呪でも切ってくれや」

 

 それを見て、シロウはにこりと笑う。存外、大した異世界転移だと。

 

「折角の異世界とやらだ。今の我は非常に興が乗っておる」

 

 セミラミスは声高らかに宣言する。己が自由を、支配を、権利を証明する為に。

 

 

 

「この世に招待を受けた恩、返さねばならぬ。派手に往こうではないか、のぅ?」




セミラミス
異形種
驕慢なる慈悲の女帝

役職―――虚栄の空中庭園七大戦騎「暗殺者」兼ギルドマスターの一人
住居―――王座の階の自室。
属性―――邪悪[カルマ値:-400]
種族レベル―半神(デミゴッド)10lv.
      ほか
職業レベル―マスターアサシン5lv.
      ポイズンメーカー10lv.
      エンプレス5lv.
      ファニーヴァンプ10lv.
      ロード・オブ・ア・キャッスル15lv.
      など
[種族レベル]+[職業レベル]―――計100レベル
種族レベル取得総計20lv. 職業レベル取得総計80lv.
能力表
HP――64%
MP――100%以上
物理攻撃――42%
物理防御――45%
素早さ――47%
魔法攻撃――82%
魔法防御――93%
総合耐性――76%
特殊――94%


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動き出す運命

―■■■■王‼■■■■王は何処か⁉―

 

 言葉を言えぬ我が身が恨めしい。

 

―貴方は何故私を認めない!?認めてくれない!?―

 

 遠ざかって行くあの背を追えない。星々を絡め合わせたあの光の下へ動けない。

 

―憎いか!それほどまでに私が憎いか‼魔女の子である私が憎かったのか!?―

 

 

 純白の甲冑と獅子の兜を被ったあの人(人物)が、手の届かない遠くに…、取り戻せない遠くに行ってしまう。

 

 

―答えろ■■■■ァァァァァァァァァッッッッッッ‼―

 

 

『……行くのですか、獅子王』

『はい、モードレッドを宜しくお願い致します。シロウ』

 

―何故……何故だ……!何故、私を最後まで……円卓に居させてくれないのか……!―

 

あの場所(王位)は、この者には相応しくない』

 

―ッッッ…―

 

『さようなら、もう二度と会う事も無いでしょう』

 

―…………………ぁ、ぁあ、ぁ―

 

 

 ……………………、どうして……。

 

 

―……………………ち、ち……ぅ、え……―

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 目が覚めれば、薄ぼんやりとした朝霞に混じり焚火の熾がゆらゆらくゆる。周囲には昨日食べた干し肉や安酒の空き瓶が転がっていた。

 

「よぉ、起きたか」

「……、…ちっ」

 

 『サングラスをかけた強面の男』の言葉に舌打ち一つで不機嫌を伝える。嫌なものを見た、とでも言いたげなしかめっ面のトゲトゲ髪。露出度の高い服に赤いレザージャケットを羽織った彼女は寝惚け眼で頬を掻く。終わってしまった思い出であっても、彼女が彼女である限り、その夢から覚めることはないのだろう…。

 

「どうした?セイバー(・・・・)

「何でもねぇよマスター(・・・・)…さて、そろっと出発か」

 

 男勝りな粗暴な口調の通り、はるかに年上な同行者に敬意の欠片も見せない剣士の少女。筋骨隆々の男が出立の支度を始めているのを見た途端に跳ね起き、その身体に白銀で有角の全身鎧を出現させる。

 

「ん?おいおい、マスターはあの神父サマと女帝様だろ」

「あ゛ぁん?」

 

 『神父』と『女帝』、彼女はその言葉に強烈な反感を抱いた。彼らの下に集った従僕は忠義や尊敬が殆ど無い者たちであるが、『空中庭園七大戦騎』の『剣士』の彼女はもっともそれが顕著である。……だが、それも全く道理であろう、彼女は…『モードレッド』は『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』の為に生まれたNPCではないのだから。

 

「ギ・ル・ド・マスターな。確かに俺は『赤の陣営』の所属だが、それとこれとは別問題だ。俺はアイツを主人だとは認めてねぇ。……つーかよ、あのカメムシの方は『母上』と同じクランメンバーだって言うじゃねーか…そんな奴ら信用できるか!」

「おいおい……ま、信用できないと言うか怪しいと言うか、そう思うのは同意見だがな」

 

 モードレッドと会話するスカーフェイスの男。彼の名前は『獅子劫界離』。とある過程でシロウが手に入れた公式NPCの改造品であり、ガンナーの職も修めるネクロマンサーである。

 

 ユグドラシル時代、シロウが攻略していたクエスト内で傭兵NPCを購入できるイベントがあった。初めはゲーム内とはいえ『赤の陣営』に世界観を崩すキャラを入れたくなかった彼であったが、雇用選択できるNPCの中に強面で筋肉質な人物を見つけその考えを取り消した。ちょうど良いことに武装や名前は『ある手段を用いれば』変更も可能だということだったので大枚を叩いて彼を『獅子劫界離』にプロデュースしたのだった。

 

「……マスターこそどうなんだよ、俺は『別のギルド(キャメロット)』で創られたホムンクルスだぞ?良く城を一緒に出てくれたよな…」

「お前さんは俺をマスターと言った。……それは設定からか?それとも直感からか?」

「……そりゃ、傭兵の職を取ってるからか、似た感じがあったっつーかさぁ…」

 

 つまり、この二人は立ち位置が非常に近しい。一人は騎士として創出された王の現身のホムンクルス、もう一人は故郷など無い雇われるだけの死霊魔術師。そんな彼らがギルドの支配者足らしめる神父と女帝の命令を従う理由はゼロであった。

 

「なら、これが正解って奴だ。お前の直感を俺は信頼する」

「そりゃーどうも。うん、まぁ…なんか安心したぜ。傍にいると落ち着くっていうかさ、カチッと噛み合うっつーかさ」

 

 バンバンと鎧姿のまま獅子劫の背を叩くモードレッド。その様子はシロウが意図したわけではないものの、外典の原点と瓜二つだった。

 

「あ、少しだぞ。少しだけな」

「そいつはどうも。さて、地図だけはあのアサシンから奪ってきた」

「いろいろ国があるもんだなオイ……、…!」

 

 地図を見て、現在地を確認していたモードレッド。だが、その途端に進行方向を見て声音を潜める。……真っ直ぐ見つめるその先にあるのは人類至上主義を謳う『スレイン法国』。

 

「……マスター。行くんならこの国は止めた方がいい」

「…そうか」

「…やっぱ理由は聞かねーのか?」

 

 手を頭の後ろで組みながら鎧兜で首を傾けるセイバー。だが、そのマスターは一本煙草に火をつけると一服し、煙とともにぽつりと零す。

 

「言っただろ、“お前の直感を俺は信頼する”ってな」

「!…♪」

 

 一瞬体の動きを止めるモードレッド。冷静を務めているが鼻息がちょっと荒くなる…。それを見て“分かり易い”と思うマスターなのでした。

 

「それじゃ、まずはリ・エスティーゼ王国だ」

「ん、おーっし…んじゃ派手に行くとしようぜぇ‼」

 

 自信満々で元気な声が、朝日とともに青空へと昇っていった。

 

 

 

 

 

 

 派手にいこうとは言ったものの、セミラミスは病的にまで疑い深く、それゆえに既知や未知に対しての情報を第一に考える狡猾なプレイヤーである。ユグドラシルがまだゲームだった頃……、彼女が冒険によって得た情報は『形のない武器』とまで言わしめられ、また他人にとっては無価値な噂であっても容易く混乱を呼ぶ毒に仕立て上げられた。誰が呼んだか情報系戦闘職、現代に蘇った奸計の女帝とまで揶揄され、ドリームビルドなロールプレイヤーでありながら数々の都市伝説を打ち立てた実績がある。

 

「まぁ、情報を集めるのにいくらかリソースを割かなければならないのはわかりますよ?そしてユグドラシル金貨を使うべきではない事も」

 

 さらに言えば彼女は金に糸目をつけない派手好きな浪費家でもあった。おそらくリアルでの反動もあるのだろうが、ゲームの中でしか得られない富や力に愉悦を感じ、その趣向はシロウのギルド拠点の趣向と相まって豪華絢爛な醜悪さと相成った様だ。実際、城内にPOPするモンスターの中には、彼女が選んだ『素材アイテムにもならない宝石型ゴーレム』などなどが嫌がらせのように発生する。

 

「……だからと言ってこれはやり過ぎでは…」

「仕方がないのではないですかな?ユグドラシル金貨はこちらの世界では流通しておりません。えぇ、ならば宝石物品の物々交換こそが波風立てない行商の仕方ではございませんか」

「その物品の質が波風が立つレベルなのですが…」

 

 若草色の洋服に身を包んだ男が往来を堂々と歩いている。そしてその彼が持つ小箱、その中身を思い出し護衛として寄り添う褐色の少年は気が気でない。白い短髪がしんなりしているのは気のせいではないだろう。そして丁度良い卸問屋の中に入るや否や、野太い男の叫びが上がった。

 

「お…オタクら、何者です?こんなに上玉な金細工に宝石…見たこと、ないんですが…」

「詳しいことは申せませんが、実は吾輩没落した家の者で。流浪の旅をしている傍ら、金策としてこういう風に家財を売り払っているのですよ」

 

 やっぱりこうなったか、と騒ぎを尻目に外に出るシロウ。人間の文化レベルを把握する過程で、貴金属や宝石の価値もゲーム世界のはるか下位であると発覚していた。ゆえに、中級アイテム以下を作る金銀宝石程度のゴミ素材であろうとも、こちらの世界では十分な価値があるわけで……。

 

「……な、るほどそれで…。……では売っていただいた宝石のお代金として、これくらいかと…」

「ほう?いやいやしかしこれでは少し足元を見過ぎではございませんか?ここはやはり…」

「成程、只の貴族殿では無いと見える…では……」

 

 職人気質な店主と上品で洒落た貴族服の男が店内で値切り交渉を行う中で、褐色白髪の少年はじろじろとこちらを見てくる街中の視線に晒されつつ天を仰いだ。

 

「…それにしても褐色の肌というのは珍しいのでしょうかね…」

 

 情報収集のために『虚栄の空中庭園(ハンギング・ガーデンズ・オブ・バビロン)』に最も近いこの国、『ローブル聖王国』を訪れていたシロウとシェイクスピア。なお、シロウはゲーム時代に使用していた神器級アイテム――切支丹大名の様な着物である『スティグマータの陣羽織』――を脱ぎ、神父服に装備を変更した。そしてその上からマントとストラが融合した赤い外套を着用している。頭部も『天草四郎時貞』の長髪の状態ではなく『シロウ・コトミネ』と同じ様な逆立った短髪に変化していた。

 

「どうもありがとうございます、また御贔屓にー」

「…おや、終わったようですね」

 

 ようやく十分な資金を得られたウィリアムと少年。彼らは次々と店を回り、旅支度を開始した。

 

「さて、では馬の準備を!」

「はい。畏まりました、ウィリアム様」

 

 因みにだが、身振り手振りが多い演者の様な貴族の姿も往来の目線を集めている。快適な車輪(コンフォータブル・ホイールズ)が搭載された馬車を買い取り、ぽんと現金を出せる財力もさることながら、二人とも整った顔立ちの青年と中年ゆえに周囲の視線…特にご婦人方の眼が痛いほどに刺さる。だが二人ともそんなことどこ吹く風。一人はソネットにもなりはしないつまらん題材だと無視し、もう一人に至ってはどこの鈍感か気付いてない。供に連れた亜麻色の髪の女性に運転を任せ、彼らは馬車内に乗り込んだ……。

 

 

「…さてマスター。如何でしたかな吾輩の演技は?なかなかに悪くは無かったでしょう?」

「キャスター、ご苦労様でした」

 

 馬車の中にて、二人は芝居の仮面を取り払う。シロウが彼を人選したのには理由があった。…無論庭園に置いておくと女帝の精神衛生に何を及ぼすか分からないというのもあるのだが…閑話休題(それは兎も角)。シェイクスピアはかなり異質な魔法詠唱者である。キャスターの名を冠しているにも関わらず、歴史上やFateの彼を再現するため演劇に関するクラスが大多数。それゆえ獲得している職業は魔法職よりも『バード』や『オーサー』といった特殊な生産系クラスであり、バッファーとして役に立つかどうか、というレベル。……ただし、それはゲーム時代という枠組みにおいての話である。今の彼は、職業の影響で、設定したキャラクターが紡ぐ物語(バックグラウンドストーリー)通りに他人になりきることさえ可能となっていた。

 

「では…まずはマスターに冒険者登録でもしていただきましょうか?」

「この国での冒険者は丘陵の戦いの為に使われる傭兵でしょう?自由に行動ができなくなりますが…」

「ですが、吾輩は戦えませんぞ?この場でこの世界の力の一端に触れることができるのはマスターのみ!戦うべきか死ぬべきか、それが問題だ(To be, or not to be: that is the question)

「……貴方は本当にブレませんね」

 

 ……こんな異世界でもハムレットの台詞を聞くことになるとは思わなかった。そして絶対安全圏から高みの見物をしようとするこのチョビ髭にいささか苦笑を溢さざるを得ないシロウ。ただ、この伊達男が言うことも一理ある。

 

「どちらにせよ、この世界における自分の戦闘能力を何時かは調べなければなりませんしね…。まぁ、セミラミスの見せてくれた映像のお陰で強さの標準は大体判明してますが」

「あぁ成程成程。確かにあの場に召喚されておりましたね…ユグドラシルのモンスターが!」

 

 その後朗々と気の利いた一文を語っていくが、シェイクスピアの言葉を無視したままシロウは熟考する。

 

(おそらくだが、この世界でもユグドラシルの魔法が流用されている。であれば蘇生魔法も行える可能性は極めて高い。現にスパルタクスを殺したが、『例の器』に保存された為証明としては十分…)

 

 黒い神父服の上から胸板をなぞる。そこにあるのは彼と従僕たちを繋ぐ呪の様なもの。とあるアイテムを使い彼のみが保有する強大なリソース。

 

(まぁ復活が及ばない仮定も考えておくべきですね。ワールドアイテムの『アレ』か、はたまたこの世界特有の何らかの力があるやも知れませんし……)

 

 未知に対する警戒は怠らない。しかしあまりに慎重になりすぎることはしない。彼が世界を上手に生きるため心掛けてきたことの一つであった。

 

(だが……死んで生き返ることができるのならば、生きる為の目的があると言えるのか?)

 

 しかし、彼の心の中に暗雲が突如立ち込める。

 

(食料を摂取する事はできるが、飲食不要のアイテムで食べる必要もない。ギルドでPOPする宝石型モンスターの部位を売り払えばこちらの世界の金になる。ユグドラシルのモンスターも存在するが、認知されているものは脅威とは言い難い。そもそもレベルが我等よりも低いと予想される。宿はギルド拠点がある……。そして、死もほぼ無い……)

 

「死んでいないだけ、か。……結局こちらでも俺は本当の意味で『生きていない』、救われていないのだろうか…」

「む、如何なされた?さぁ行こうではありませんか!」

 

 馬車を出るまで熟考していたシロウは、キャスター・シェイクスピアのマスターから没落貴族ウィリアムの従者にくるりと変わる。

 

「承知しました、では参りましょう。ウィリアム様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シロウたちが地上へ旅立って四日程。100レベルのNPCたちが各々の行動を開始する中で、庭園で吉報を待つ女がいた。

 

「やれやれ、今のシロウには心を満たす愉悦が必要のようだの……。未だこの世界に執心していない様だ」

 

 手元の帳面を見て頬杖をつくのはもう一人のギルマス、セミラミス。だが、動きやすい様に床にまで届く射干玉の黒髪を解き、玉座の間で着込んでいた神器級アイテムもファー付きのライトなものに変更したようだ。(……口が裂けても言えないが、あの恰好のままだと露出度が高くて気が気でないらしい。)医学書や哲学書だらけの本棚が目立つ薄暗い彼女の自室……そこで彼女は着々と世界に適応し続けていた。

 

「それにしても、我等はこの世界では異質過ぎたる超越存在という事か。……なんともつまらぬ」

 

 この身の在り方を吐き捨てると同時に、力なく日誌帳を机に置く。開いた頁は右から左に『シリア文字』が躍っていた。

 

 セミラミスのアバターの女が生きたリアルの世界……この時代、既にこの文字は途絶える寸前となっており、理解できる者達は言語学者程しかいなかった。運良く学習する事ができた彼女だったが、会話をする相手もいないのに何故覚えていたのか。それは彼女の職業に関連している。医者は英語やドイツ語でカルテを書くが、彼女の場合は安楽死を多用する闇医者だ。彼女がアブジャドを使う場合、それは理解されてはならない事の隠蔽である。患者が望んだ死に方、病ごとに区別した“苦しまずに死ねる薬物”の配合、患者たちの個人情報に至るまで全てをシリア文字で示してきた。

 そして、この世界でシロウ達が収集した情報も自分達が異質な存在を示す証明足り得る為に極秘であり、盗難防止策の為にカルデア現代アラム語…カルダヤ語で書かれている。無論、異世界でこの言葉が分かる人間など絶無だろう。

 

「……(シロウはよもやこのアッシリアの女帝(アバター)と『私』を重ね合わせたのか?)……全く。多少知恵があるとは言え、我がサンムラマットの様な執政ができる確証は無いのだが…」

 

 やれやれと頭を振りながらサイドテーブルに置いてあるデキャンタを手に取った。虹色の華奢な金属細工で装飾されたデキャンタの中は暗褐色の液体で満たされている。……ちなみにこれはワイン蔵の中から適当に選んだ一本なのだが、手に取った後に一本魔法のように追加されてびっくりしたのは完全なる余談である。

 

「しかし…だ」

 

 トクトク…と小気味良い音を立て、血色の液体が豪奢なワイングラスに注がれる。彼女にとって晩酌はリアルから引き継いだ趣味の一つだった。しかし、碌な食料飲料がない世界で買える嗜好品が美味であるとは言い難く、彼女は異世界に来て初めて美食を堪能している。

 

「紛い物を真の物にして初めてこの世界に立つことができる。私が『我』になる為に、ヤツが『シロウ』になる為に……」

 

 窓辺でグラスを傾ける彼女。喉元を通り過ぎる毒にも似たアルコールの熱。彼女はワインの好ましい苦味に顔を綻ばせる。その様子は絵の様に美しく蠱惑的だった。

 

 かつては使用者にバフをかけるだけの只のデータだった酒。それが本物の『酒』になったことが、ここが虚構で無くリアルだと言う事をまざまざと理解させてくる。そして何より、その味を受容しているこの身にも信じ難い影響が出始めている………。

 

「黒魔術師である女帝の身体は十分に『本物』になりつつあるな。これならば一つや二つの帝国程度なら………クク」

 

 リアルでも毒殺を得意とする彼女は、眉目を鋭く光らせると女帝の覇気をまき散らす。その様子は『あのアッシリアの女帝』と同じ……。傲慢さと狡猾さ、そして一種の清廉さを抱かせる孤高な『毒婦』の顔だった。

 

「おっと……はてさて、我も随分と血気盛んになったものよ。これほどまで毒に塗れた覚えは無いのだが。………まぁ良いか(・・・・・)

 

 その時、女帝の私室に軽快な音が響いた。ノック四回、相手に配慮した静かで耳に届きやすい音だった。

 

「む、入れ」

「失礼する」

 

 ドアが開く。そこには黒いエプロンをつけた赤いワイシャツのカルナが立っていた。ちなみにこのカフェテリア店員のような服装、『フラワーコーディネイター』とか言う名前の聖遺物級アイテム一揃えであり、例え戦闘職のキャラであっても調理や生花、果ては自分の主が例えエリートニートであっても甲斐甲斐しくお世話できるクラス編成になるのだとか。……制作したシロウは何を思って作ったのだろうか、聞いた時は「謎だ」とさえ思ったセミ様であった。

 

「お待たせした。カフェの店長に作ってもらったぞアサシン。『セーフリームニルのプロシュートとイザヴェル産ルーコラの付け合わせ、ヘイズルーンのシェーブルチーズ添え』だ」

「ほう、心得ておるではないか」

 

 サイドテーブルに皿を置き、品良くスターシルバー製のフォークを動かすセミラミス。塩味と爽やかな苦みが広がる口の中、彼女は思わず舌鼓を打つ。

 

「うむ、これは中々……」

「そんなことよりも、聖王国とやらに潜伏したマスターとキャスターから定時連絡が来ている」

「ふん、…分かっておる。繋げ」

 

 女帝の命に恭しく従う戦士(クシャトリア)。言葉少なく彼の人の令を伝達する。

 

「《メッセージ/伝言》。会話を許可する」

 

 ランサーの言葉の後、セミラミスの頭の中にピコンという気の抜けた着信音が届いた。唯一の同郷との会話の為、生ハムをもきゅもきゅと咀嚼しながら赤ワインで胃の中に流し込む。

 

「(…ンク)…あぁシロウか?我だ」

『いいえ吾輩でございます!女帝陛下におかれましてはまるでマスターと新婚夫婦の仲の様ですな!』

 

 

 ガチャン。

 

 

 片手のワイングラスが砕け散った。ひくりと頬が引き攣った。ついでにカルナが箒と塵取り持ってきた。握りしめた手からポタポタとワインが零れていく……なんと勿体ないと思う間も無かった。

 

「カルナ……何故我に言わなかった…」

「言ったはずだが、キャスターとマスターが話があると」

 

 ……確かに言ってはいた。だが致命的に言葉が足りない。『王国一座の書庫』にある本の中の“コミュ力アップの技術書”でも探そうかと思うアサシンである。

 

「………キャスター、誰と誰が夫婦だ。歳の差を考えよ歳の差を」

『でしたら勢いが足りません。こう言った方がよろしいのでは?“食事にするか?それとも褥か?(Or wilt thou sleep? we'll have thee to a couch softer)寝床は鳩の羽毛の様な極上の設えだ。(and sweeter than the lustful bed)優しく柔く大層気持ちが良いものだぞ?(on purpose trimm'd up for )我の膝の上の様にな(Semiramis.)”と』

「おい待て貴様。なぜ貴様がそれを知っている?」

『おや、墓穴を掘りましたな?』

 

―…ぶちん―

 

 毎度のことながらかなり苛つく。同名の偉人(シェイクスピア)の作品から言葉を引用するところが特にイラつく。よりにもよって『じゃじゃ馬ならし』のセミラミスの一節を持ってきたのがさらにイラつく。要するにこのNPCはこの上ない程無性にイラつく。

 

「…死ね、さもなくば死ね」

 

 何とか口からひねり出した言葉の答えは一択であった。……地でかなり暴君なお人なようだ。

 

『何と容赦のないお言葉っ!吾輩恐ろしさに手が滑って、詩かはたまた喜劇を執筆してしまいそうです!』

「……、(プチッ)」

 

 ……今後はシロウの方に鳩を飛ばそう、そして《ファミリアピジョン・サイト/鳩の使い魔・視力》で茶々を入れてくる劇作家を蚊帳の外にせねばと思い至った女帝陛下なのであった。

 

「…早く《メッセージ/伝言》を切ってシロウに替われ。いい加減にせねば縊り殺すぞ」

『ふむ、分かり申した。ではその様に』

 

 カーペットの上に零れ落ちたガラス片……それを片付けるランサーをしり目に、彼女は夜空を見上げてた。満天の星空が無性に綺麗でなんか悲しくなった。

 

『お疲れ様でしたセミラミス』

「…で、どうだ『ローブル聖王国』とやらの様子は」

『えぇはい。では先の続きから話させてもらいます……』

 

 疲れた顔で指を鳴らすと、机の上に七×七マスのチェスボードが出現した。そこには剣士などの七つのチェスピースとマスター駒と呼ばれる七つのピースが配置されている。彼女はシロウの話を聞きながら、その内容を整理する為駒を忙しなく動かしていく……。傍眼から見れば無意味な行為だと思われるが、存外彼女にはそうでも無い様だ。脳内に明確なヴィジョンが浮かび上がり、世界を俯瞰した映像が刷り込まれていった。

 

『………と、まぁこの様な具合ですね』

「ふむ、可もなく不可もない国だな。ところで現国王の………カルカ・ベサーレスだったか?」

 

 その絵に描いた様な清廉さに、かすかな興味と踏み躙りたい衝動を感じたセミラミス。リアルからの性分か、偽りの支配者を嘲る口調で彼女を皮肉る。

 

「聞いた話ではオルレアンの乙女の様では無いか」

 

 行きつく先は火にくべられるのやも知れんな、と続けた毒婦。……だが、冷淡で残酷な微笑みは次の彼の言葉で笑みへと変わる。

 

 

『まさか』

「…?」

『……かの“聖処女”には程遠い俗物ですよ、聖王女は。彼女には聖処女にあった覚悟が無い。犠牲の上に立つと言う責任が無い。これまでの政策では失敗が無いようですが…このままではいずれ破綻するでしょうね』

 

―戦争に加担した時点で、聖なる人など血に塗れた殺戮者と何ら変わりないのだから……―

 

 彼の…『シロウ』の聖女に対する言葉の奥。達観した少年にあった、憧れとも違う聖者への認証。無いと思っていた彼のある感情の発露。それら全てに『付き合いの長い彼女(セミラミス)』は驚き、憐み、……そして大層『愉しい』と感じた。芳醇な、だが歪んだ愉悦を彼女に与えた……。

 

「そうか…なぜお前が嫌悪するのかは分からんが、才能だけはあると思うが」

『嫌悪?…私が?……それこそ、まさかです』

「そうか?……まぁ良い。お前が苦しむ顔も一興よ、くくっ」

 

 女帝は見透かす、人間になりきれていない少年の心を。憐憫と、共感と、ほんの少しの羨みを以て吐いた台詞を。それをただただ見守り続ける。リアルの世界では“善良や寛容などに興味はなく”、“破滅や絶望”と共に生きてきた。人の今際に立ち会うものとして、苦痛、悲嘆、無常、安息、あらゆるものを見てきたが……世界の絶望に弄ばれてもなお、『彼』の心は見えなかった。故に…『絶望』であれ『希望』であれ見届けたいと思った。…いいや、思ってしまった(・・・・・・・)

 

『話を戻しますよ…』

「うむ。ではどうする?この国にこだわる理由が無いのなら……」

『いえ、我々はこの聖王国にしばらく腰を落ち着けるべきだと考えます』

「ほぉ、その理由は」

 

 先ほどまでの腹に一物持った声色は遥か彼方、シロウ・コトミネは外見年齢相応の人懐っこい声で言う。試すようなアサシンの言葉にも冷静に返答、解説していく。

 

『正体を隠しながらこの国の情報を収集するのは時間がかかります。我々のギルドには隠密系のNPCは少数であるため情報収集は後手に回るしかないでしょう。それに移動しようにもギルド拠点を動かすには時間も金もかかります』

 

 その通りだな、とセミラミスは頷く。ギルドマスターはアサシンとシロウの兼任だった。それ故シロウもまた彼女と同格の先見の明は持っていたらしい。女帝の傍に控えるのは伊達ではないようだった。

 

『丘陵の向こうのスレイン法国は人類至上主義を掲げる国家、アサシンやアーチャーは外見から迫害の対象になります。しかしこの国は一部の亜人やドラゴンと交易を行うという比較的寛容な政策を推し進めているようです』

「確か…それでも国境の獣人共とは戦争をしている様子だったが…」

『アベリオン丘陵には様々なビーストマンが存在しているという話。ですが、聖王国へ流れ込んでくるのは縄張り争いで敗れたものが多いようですよ』

 

 なるほど、やはりな…と自分の仮定が合っていたことに満足するアサシン。そして、これから生きていく新世界の最重要事項を確認した。

 

「薄々感づいているが、再三だと思うが聞いておこう……。奴らの中に危険な者はいたか?」

いいえ(・・・)

 

 見下すことも、嘲笑することもせず、ただ淡々と事実として報告するシロウ。その言葉に彼女は、今日もまたふぅとため息を漏らす。

 

「そうか…ならば良い。ただし目立つような行為は未だするなよ?」

『分かっていますよ。対抗する事も可能ですが、ユグドラシルの想定以上の戦力を保有しているという仮定を忘れてはなりませんし、何より転移してきたプレイヤーが我々だけとは限りません。敵対は避け協力をしたいところですので、反感を買う様な行為は慎むとしましょう』

 

 その後二言三言の会話の後、定時連絡は途絶えたのだった。

 

 

 

「…ふむ、シロウとキャスターは聖王国に、セイバーと獅子劫はリ・エスティーゼ王国へ向かっている。残りはアーチャーとライダーだが……」

「聞くまでも無い。奴らなら今頃丘陵を駆けているだろう」

「あぁ、シロウが先手を打っていたのだったな」

 

 中心にある聖杯のピースに一手、また一手と近づいていく暗殺者の駒。

 

「さぁて、下拵えはもう間もなくだ…。杯は我の毒で満ちておるぞ。この世界の喉元に注いでやろるとしよう。そして……世界を見届けよう」

 

 彼の誉れ高い女帝の様に、リアルからの繋がりを愛おしむ様に、彼女は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 そんな報告を受けたのは三日前。再びセミラミスの元へシロウ・コトミネの連絡が届いた。届いた、のだが……。

 

『…申し訳ないセミラミス。聖王女様に王国に仕えないかと問われています』

「………は?」

 

 カチャン……。開口一番に聞かされたあまりの言葉に、アサシンのモニュメントピースがすっ飛んで行った。

 

『ついでに言えば、恐ろしい顔の騎士見習いが“正義の味方になりたい”と私に師事を………』

「……待て待て待て、一体ホントに何があった」

 

 カラン。……聖杯の駒が、倒れた。

 




英霊のセミラミス様……「良かろう、貴様に毒酒を呷る機会を与えてやろう、光栄に思え(カリスマ感)」

セミラミス(ハリボテ臭)の中の人……「せみせみせみらみす!……………だとぉ!?えぇい、何故我がこのような愛想を振りまかねばならんっ!?(ぽんこつ)」


 あまり進まなくてすみません……。


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聖者の蹂躙

We are such stuff as dreams are made on, and our little life is rounded with a sleep.


『……物書きか。私に一体何用だ?』
『純潔の狩人様、そちら側の計画は順調なようで結構ですな。吾輩、執筆の調子が上がっておりますぞ。ですが、あー…しかしですな。気まぐれに手を出したことの無いジャンルの筆を執ったのですが、ぇえはい。微力ながらもお手伝いしようとした次第……なのですが』
『なんだ、歯切れが悪いな貴様?いつもの歯に衣着せぬ物言いはどうした?』



『ではズバリ言わせていただきます。マスターには至上の物語を紡ぐ未来がある!ですがしかし、未だわが眼は冴え返らない!即ちマスターは未だ答えを見つけていない!』
『……』
詩人の瞳は天恵を得て回転し(The poet`s eye,in fine frenzy rollings,)天から地、地から天と広く見渡す(Doth glance from heaven to Earth,from Earth to heaven.)…。なればその為に少し編集者の真似事でもしようかと。舞台を整え、物語の序文を認めるのも劇作家の手腕でありますしな。まぁ“本来のウィリアム・シェイクスピア”であるならばこんな推敲もしないでしょうが!』
『…つまり厄介ごとを押し付ける腹積もりだな?ならば一言伝えておくぞ』
『何でしょう?』
汝は獣に言葉を教えてくれた。(You taught me language;)その言葉で返答しよう。(and my profit on't Is, I know how to curse,)“クソくらえ”(The red plague rid you)黄金の果実を与えてくれたお返しだ(For learning me your language!)
『!…ははははは!これは一本取られましたな!ではその通り、嵐の如き怪異の獣をお送りさせていただきましょう』
『否、やめて欲しいのだが?…だが!?』
『まぁそう言わず…煮るなり焼くなり好きにしていただいて結構!インスピレーションを湧き立たせる序文としては十分でしょう。あ、一応シャドウサーヴァントとなっておりますので頑張ってください?』
『待てと言っているだろうが。……と言うか事後承諾か!締切を守らんくせにこういう時だけ貴s【プツッ…】』

「さてさて、では物語を始めましょうか。第一幕!序章!シロウ・コトミネに真なる誕生を!これは英雄でも聖人でもない、ただ一人の人間の歩む物語だ!」


 『カストディオ姉妹』といえば、このローブル聖王国の国政、戦闘を担う双翼である。両名とも聖王女カルカ・ベサーレスを敬愛し、(少しの問題はあるものの)この国のために尽くそうと考えられる従者としては立派な人物だ。

 そんな姉妹のうち、姉であるレメディオス・カストディオは戦闘面において類い稀なる才能を持った聖騎士である。賢さは全く無いが人望はそこそこあり、よく言えば寛容なその人柄に苦労はすさまじくあれど苦情はあまりない。部下の胃に穴が開く日々を送ることになるが、反感によって離反する人間はいない。

 その理由は明確だ。ただただ強いのである。人の身であれど難度20もの獣人(ビーストマン)を討ち取り、勝利に貢献するその剣技、逆境のみにこそ輝くその裁量には、自然と人が付き従う。(戦場時の賢さが普段も残っていれば良いのですがね…とは妹の談)

 

 

 だが。今聖王国の騎士たちは次々と倒れ伏していく。

 

「馬鹿な…一体アベリオン丘陵に何があったというのだ⁉」

「っ…!第三波、来ますっ!」

「ッッおのれ…!獣崩れの怪物共が…!」

「どっちかと言えばアレ海産物では無いですか!?」

 

 恨み言を言ったところで何も変わらない。死傷者は動員した兵士たちの―見習いと聖騎士を含めた―約五分の三と、大損害であった。このままではさらに被害が拡大してしまう。

 

 目の前には(The Tempest)の様な災害をまき散らす異形の人影があった……。

 

 

 

 

 初めは今回もまた小競り合いか、と言うような規模の侵攻だった。実際見張り台の警報に従い討って出てみれば、傷だらけの消耗した獣人を狩るだけでよかった。以前の戦いを思い返しても、手間取ることはあっても驚異的だとは思えなかった。

 

(……それにしても、なんだこのヤな感じは?ケラルトに聞くべきか…)

 

 しかし、レメディオスの直感…聖騎士の勘は、獣人たちを屠ってもなお警鐘を鳴らし続けていた。ぼろぼろになっている獣人たちの死体を見下ろす。

 ただの勘だけで戦場の異常性を感じ取ったレメディオスだけでなく、その配下の騎士や見習いたちの胸中にも、じわじわと違和感が押し寄せてきた。砦の上から狂眼を細めたネイア・バラハ、聖騎士長のそばに控えていたイサンドロ・サンチェスとグスターポ・モンタニェス、その他獣人を撃退しようとした一般兵は獣人たちが“すでに手負い”という状況に気が付き、鬼気迫る亜人の逃走(闘争)に、森の背後に潜む“畏怖”の存在を確かに感じた。

 

 ハッと気づいてももう遅い。

 

 

《我が弓と矢を以って、二大神に奉る………》

 

 

 森の奥から膨れ上がる、恐ろしいまでの殺戮の意思。たった一瞬だけだったが、ソレは戦いを続けていた兵士、聖騎士らをも竦み上がらせる。森の居場所から敗走し、逃げ出した獣人達の恐怖はさらに凄まじい。『狩人の』目の前から逃走しようと醜く足掻く。

 

 

「……?なんだよ、アレ……?」

「ッッッ、総員退避しろぉっっ!!!」

 

 

 彼女のその声が戦場に響き渡るとほぼ同時、……聖王国の兵士たちは、空を仰いでいた。

 

 

 ソレは、矢の形をした災厄だった。幾万、幾億の碧い光が雨の様に無慈悲に獣人(ビーストマン)たちへ殺到する。立ち尽くすだけだった獣人が真っ先に餌食になり、……肉片一つ残さずに弾け飛んだ。あまりの矢の量で轢死にもならない破壊力、それが兵士達の元へも向かってくる…。丘陵の遥か奥から放たれた二本の矢文が神に伝えた証書が着弾し、木々がなぎ倒され、聖王国の砦へと到達せんとしていた。

 

「早く下がれ!城壁の向こうに、早くッッ‼」

 

 殿として剣を構えながらも、兵卒たちに指示を与える聖騎士長だったが……砦の耐久性を踏まえての発言で無かったのが誤算という名の被害を生む。

 

 その弓矢の災厄が、城壁に到達するまで、残り300メートル……。即座に撤収し、彼女も転がるように砦の門の奥へと飛び込む。

 だが、しかし…。

 

「……は?」

 

 地表を削り取り、木々を穿ち、進路上の獣人の死体を抉り進みながら、矢の豪雨は砦へと到達する。

 一瞬、耐えるように矢を受け止める要塞。だが、数瞬の間に瓦解する。

 

「――――――――っ⁉」

 

 崩落する。物見やぐらにいた人間は危機を察知し何とか逃げた。その行動は英断だった。すぐ後に城壁は瓦礫から只の砂塵になったのだから。

 幾年もの月日、獣人(ビーストマン)の襲撃を耐え、聖王国を守護してきた要ともいえる巨大な砦は…………一瞬にして廃墟と化した。

 

「…ば、かな……!」

 

 だが、それは攻撃などでは無かった。むしろ、獣人たちの自己防衛の為の力であったのではなかろうか。

 

「騎士団長!」

「ッ、…今度は何だと言うのだ!?」

「森の中から化け物が突っ走ってきます!?」

 

 瓦礫を崩しながら部下の救出を始めたレメディオスの傍らで、イサンドロは叫ぶ。獣人たちが、何故あの様な攻撃をしたのか、理由となるその原因が現れた……。

 

 

『ガアアアアァ…!…ガァァァァァァァァァァァァッッッ!』

(……、こいつは一体?)

 

 身体は霧の様な黒い闇に覆われているが、半魚にも似た悍ましい顔面ははっきりとわかる。背中は海洋生物の様な触手で覆われ、片手には何かの本が抱えられている。それは間違いなく、野蛮で奇形、冒涜的なナリをした怪奇なケダモノだった。

 

■■■■■■(ここはどこだ)…!■■■■■(お前たちも)■■■■■(嵐に迷って)■■■■■■■■■(私のもとへ来たのか)…!』

 

 口角泡を飛ばすその人型。喉から掠れる様に零れる声。深き者の叫びだ。

 

■■■■■■、■■(汚泥に塗れよ、人間)!」

 

 その途端に磯巾着の様な、蛸の様な蒼い魔物が溢れ出る。深海の泡の様に絶え間なく沸き立ち、数を増やしていく。分裂し、そして奇声を上げる星形の化け物。

 

「――――――――――――――――――ッッッッッッ!!!!!!!」

「ケダモノ風情が…」

 

 毒づくレメディオス。目の前には正気を疑う外見の化け物共が跋扈する。コレに比べれば獣人共の身体は何と可愛げがある事か。

 

「……、行くぞ。適度に間引いたら即撤退だ‼」

 

 切る。斬る。伐る。

 

 聖剣を振るって気持ちの悪い使い魔たちを屠っていくレメディオス。

 

「っ!続け‼」

 

 断つ。絶つ。裁つ。

 

 それに倣い、聖騎士達も各々が得物を手に取り、振り上げ、一心不乱に戦い始めた。だが、聖王国最強の騎士ならばいざ知らず、……只の人間に怪魔の群れは無理があった。幾十数もの魔物が森の奥からさらに増える。

 

「何だ……、こいつ等…‼」

 

 怪物を切裂き続け、はたと気が付く。うぞうぞと脈動する海魔は、途轍もない数になっていた。それは、森からの増援などでは説明がつかず、寧ろ眼前の死骸を見れば一目瞭然だった。

 

「死体から新しいモンスターが産まれるだと?化け物が物量作戦とは生意気な…‼」

 

 その時、聖剣サファルリシアの動きが止まる。見てみれば…海魔の触腕が何重にも絡みついていた。如何にレメディオスの腕力でも引き剥がせない。

 

「っ、こいつッ」

 

 その隙が、命取りとなる。死角から一本の絶命を呼ぶ冒涜が雷の様に聖騎士長に迫る……。

 

「レメディオス団長‼」

 

 

 

 そこに弱く凛々しい自己犠牲の塊が、転がってきた。

 

 

 …………ぐちゃり。

 

 

 レメディオスの隣で、些か湿った音がする。

 

「……?…!」

「………が、は……」

 

 溢れる赤い液体と、臓腑に収まっていた内容物。恐ろしいまでの形相の少女が、口から血の泡を飛ばして倒れ伏していた。

 

 

 

 腹部にぽっかりと穴が開いたネイア・バラハ。海魔の触手がそこから飛び出している。……つまりレメディオス(自分)は騎士団長でありながら、見習い騎士に命を助けられ、彼女の命を自分の目の前で散らせてしまったのだ。

 

「っ……!」

 

 度し難い屈辱だった。度し難い失態だった。戦場だけが自分の得手であり、犠牲を最小限に抑えなければならない誓があった。

 

「くっ…そぉぉぉ、アァァァァッッッ‼」

 

 次々に嬲り殺されていく彼女の部下たち。そして、その部下の臓物が新たな海魔に変化していく。腹を食い破られ、脳髄や腕を残し人は死んでいく。一方で怪魔の数にも差が開いていく。

 

 悲鳴、悲鳴、悲鳴。

 

(守れないというのか!カルカ様が望む“誰も泣かない世界”の為、私は戦わなければならないのに‼こんな悍ましい化け物にこの国を…‼この国を、カルカ様を、おォォォォォォォォォォッッッ!?)

 

 丁度その時だった。何処からか、憐れみを込めた聖句が届く。

 

 

 

Agnus Dei, qui tollis peccata mundi,(神の子羊、世の罪を除き給う主よ、)dona eis requiem.(彼らに安息を与え給え。)Agnus Dei, qui tollis peccata mundi,(神の子羊、世の罪を除き給う主よ、)dona eis requiem(彼らに安息を与え給え)

 

 倒壊し見る影もない砦、その背後で海魔と戦う聖騎士長。そのすぐ傍に彼はいた。

 

Agnus Dei, qui tollis peccata mundi,(神の子羊、世の罪を除き給う主よ、)dona eis requiem sempiternam(彼らに永遠の安息を与え給え)

 

 ………そこにいたのは白髪、褐色肌の少年。唇には微笑を浮かべ、彼はなお戦場に佇んでいる。

 

「おい、貴様!そこで一体何をして…っ!?」

 

 途端、彼の纏う雰囲気が一変する。片手に持っていた鞘に収まった剣。それを前方に突きだし、誰かに告げる。

 

「さて、一応聞いておきましょう………投降する気はありませんか?」

『がぁぁッ!………“ふんぐるい(夢は良い。)むぐるうなふ(夢の我ならば)くとぅるう(雲間から宝)るるいえ(を得る。)うがふなぐる(故に夢往く儘)ふたぐん!(に待ち至り)”』

 

 黒衣の少年は跳び退る。その刹那の後、彼がいた場所では冒涜的な触腕が地面を抉り取っていた。

 

「おっと」

「そりゃ無理でしょうよ我がマスター?」

 

 木影の奥から今度は貴族風の男が現れた。片手にはオレンジ色の本を持ち、左肩には茶色のマント。この場にそぐわない外見で、一つの演目を見る様な…そんな気軽さでこの場全てを睥睨している。

 

■■■(貴様ァ)…!■■■■■■■■(まさかプロスペロ)…、ガァァッ!』

「おぉっと失礼!吾輩戦う気は毛頭ありません。吾輩は見守り、応援するだけ」

「えぇ…戦うのはこの私、シロウ・コトミネです」

 

 何故こんなところにこんな風変わりな二人組がいるのか、一体どこから湧いて出たのか。疑問はグルグル頭の中を巡りだしたが、何より驚いたのはその少年の持つ力だった。

 

「では、使わせていただきますよ、キャスター」

「えぇ、どーぞどうぞ!ご存分にお使い為されい。烈火を伴う(You sulphurous and)嵐の様に、(thought-executing fires,)稲妻を伴う(Vaunt-couriers to)豪雨の様に(oak-cleaving thunderbolts)!」

 

 政には疎く、頭の弱いレメディオスだが、武器に対しての造詣はあるほうだ。ゆえにその異常性にもいち早く気付いた。…いいや、知識がなくともわかっただろう。聖騎士から兵卒、魔術師に至るまで…その黒服の少年の一挙手一動に目を離せない。

 

 キン、と澄んだ鋭い音が鳴る。

 

「「「ッッッ!?」」」

 

 鞘から解き放たれる剣。その武器は南方の砂漠にある都市のもの……即ち『刀』。だが、今まで見たことがない力の奔流を感じる。これほど離れていても、神聖な白い雷が周囲を明るく照らし、そして……。

 

 

「永劫醒めぬ物語が、これより始まる‼」

 

 

 マントの伊達男の声高らかに、丘陵の奥に茂る森の中へと……黒服の少年は駆け出した。

 

 

 

 

 悲鳴が上がる。飛沫が弾ける。そして剣戟が幾度も瞬く。

 

 重心を落とし片手に刀を、もう一方の手に黒鍵を持って丘陵を駆ける黒服の男が一人。海魔は刀が閃く度、汚物の様な内臓を晒し死に絶える。それに出目金の様などす黒い人型は心の中で発狂していた。

 

(あれが人間だと!?有り得ない!我ら■■(深き者)を容易く屠り、手傷を負わせられない存在が人間であってたまるものか!!この匹夫めが…‼)

 

 一閃。聖なる光を宿した斬撃が四方八方から飛来する。闇に包まれた人型の眼前では、180度の視界内にいた同胞たちの魂が一瞬にして切り飛ばされる。蛇行し、だが駿馬すら凌駕する健脚にて彼にも死という福音が与えられる。

 

(おのれ!おのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレおのれオノレ‼)

 

 末期の言葉は声に出されることはなかった。

 

「――Anfang(セット)

 

(あ……ぁ?)

 

 頭に何かが突き刺さる。そして、影のサーヴァント()の意識は反転した……。

 

 

 

 

 

「……アレは、一体……」

「あれが人の所業ですと……?この世よりも遥かに上位の……“ナニカ”の力を代行する、バケモノでは…!?」

「さながら神の“代行者”…ですか?」

 

 数百メートル離れた森の中。突如吹き飛ぶ巨木と岩石。そして天へと立ち上る幾つもの光。恐らく信仰系の魔法だろう、と理解した聖騎士達。身近な信仰系魔法詠唱者にはカルカやケラルトがいるが、眼前で起こされる魔法現象は彼女らの使用するものを濃縮し何倍にもしたかの様な輝きを放っていた。

 

「良かった、お前達にも見えているようだな……。頭だけで無くとうとう目までおかしくなったのかと思ったぞ私」

「それはいつも通りでは…」

「それもそうだな…」

 

 呆気にとられていたグスターボやイサンドロに声をかける聖騎士長。自覚は無いだろうが、彼女もあまりの事態に自虐ネタを言い放っている上、その部下は爆弾発言を投下していた。

 だが、そんな事を気にしてはいられない…というよりも、頭の片隅にも残らない。戦況に微かな動きがあったからだ。

 

「……なんだ?音が…途絶えた?」

「まさか、あの少年が死んだ……とかじゃないですよね?」

「本当にそう思うか……?」

「…………」

 

 副団長の二人は無論そんな事欠片も思ってはいない。現在森の中にいる褐色白髪の少年、彼を見た瞬間に相当の実力者だとは気が付いていた。所作や足の運びから滲み出る隙の無さ…どれをとっても聖騎士長レベルだと肌で感じられる、それほどだった。

 

 

「…出てきました、ねっ!?」

「……ッ!無事だったか……」

 

 彼の片手には“人皮でできた奇妙な本”が、もう一方の手にはどす黒い体液が付着した刀を持っていた。

 

「さて……ではこの現状をどうにかしましょうか。私は無駄な死は好みません。それに、気になるのではないですか?海魔の本(コレ)の事も」

「ふむ」

 

 シロウ・コトミネの言葉にあごに手を当て思案顔のレメディオス。だが、真面目なのは外面だけで、頭の中の選択は「分からん。カルカ様かケラルトに任せるか」一択しか無かったのだった。一方で、頭の足りない団長に代わり、副団長たちが矢継ぎ早に質問する。

 

「……無駄な死、と言いましたね?まさかですが君は…蘇生魔法が使えるのか!?」

「……………………」

 

 それに彼は、少しの優しい微笑で返した。

 

 

 

 

 

(………どうして、私は生きている……?)

 

 ネイア・バラハは目を覚ます。手傷を負い、気がふれた獣から団長を守る為に飛び出して、それで…………、あぁ、腹を割かれカチ上げられたんだった……。確か、身体がどんどんあの魔物に変化していって…それで………。

 

 だから、私が生きているわけが無い……。けれど、これは一体どういう事……?

 

「おい、本当に蘇生したのか……!?」

「良かった……成功しました」

 

 目の前には、団長と……そして男の人の顔があった。死んでいたのは自分()であったというのに。救われたのは自分()では無く、彼であったのかの様に……。まるで、確かなものを見つけ、それにホッとした様に……それに光を見出した様に。

 

「良かった」

 

 その人は安心しきって私の手を取る。優しく握ってくれる褐色の手。とくん、とくんと小さく動く私の鼓動を触れて確かめてくるヒト……。

 

「生きている……生きている……」

 

 数多くの死体が並ぶ丘、そこで彼は命の価値を噛みしめる様に慈しみ、憐れんでくれた。彼が……この人が聖人で無くてなんと言おう。

 

「ありがとう……生き返ってくれて、ありがとう」

 

 何故だろうか……感謝された。感謝するべきは私の方なのに。

 

 安堵の表情が霞んだ眼に映り込む。助けられたのは自分の方なのに、なぜかその人はしきりに「ありがとう」「ありがとう」とお礼の言葉を言い続ける。言い続けている。

 

 救われたのは私の方なのに……彼はなおも自分に感謝の言葉を言い続けている。何を考えているのかは定かではない。だが。それでも。“彼の願い”が聞き届けられ、心から安心したことだけは分かった。

 

 それは、彼女が……自分が“何か大切なモノを託された”のだと考え至るには十分だった。

 

(あぁそうか…、私は、願われ、送り出されるのか……)

 

 憧れは、この時“願い”に変わる。正義を成すには、力がいる。私の生涯に、意味がいる。

 

 無力な人間だから死んでしまった。意味を為さない偽善な誓い(エゴ)。無価値という地獄を通過して、果たされない言葉を吐くしかできない無力な自分。……だが、それでも救われた。生きる意味が再び与えられた。

 

―■は■で■■■■る―

 

 少女の心の中に正義の火が灯る。その火が、いつの日か……剣の丘で鉄を()つ。遥かな未来……彼女が無銘の求道者として錬鉄の道を歩む事など、今は誰にも分らない……。

 

 

 

 

 次々と死者が蘇生され、肩を互いに貸しながら撤退していく騎士団員。先ほどの怪訝そうな顔はすでに無く、ニコニコと笑顔を浮かべているレメディオス・カストディオ。

 

「見習いとはいえ団員を助けてくれて感謝する。それに死者全てを蘇生してもらえるなどと……思ってもみなかった!」

「いえいえ。……ところで、貴女は?」

「あぁ、その肌を見たところ聖王国の住人ではないのだな?私はレメディオス・カストディオ。この国の聖騎士長だ」

「成程、お噂はかねがね(・・・・・・・)

 

 夕陽を背景に互いに手を繋ぐ聖なる男女。それはさながら、一枚の絵の様であった。……そして、その背後から近づく一人の女性。

 

「私からも謝礼を」

「ん?ケラルト…いつの間に」

 

 レメディオスと顔の造作が似た女性。だが聖人の様に清い者だとは思えない。腹に一物ある様な…そんな人物だった。

 

「見たところ、レメディオス殿のご血縁でしょうか?」

「えぇ、私はケラルト。ケラルト・カストディオ。このローブル聖王国の神官団団長を努めております。……ところで、貴方は、見るにどこの国にも所属していない流浪の魔法詠唱者ですね?」

 

 冷笑を湛え、距離を詰める。深い色を帯びた双眸が、シロウ・コトミネを舐める様に観察していた。

 

「はい、そうですが…」

「国民を救っていただいた恩人に心苦しいのですが、少々お時間よろしいですか?」

 

 

 

 

『……と、言うわけでして…』

 

 その言葉に頭を抱えた暗殺女帝。もしも聖杯大戦のアサシンであるならば悦んで杯を傾けていたであろう。だが、女帝歴僅か数日の彼女にとっては荷が重い。笑い飛ばす事などできなかった。

 

(シロウゥゥ……!厄介な真似をしでかしてくれたな…!)

 

 だが、思考を巡らせはたと思い至る。

 

(いや、原因があるとすれば同行していたシェイクスピアが物足りなさに煽ったからか?そちらの方が説明が付く。奴め…本当に殺しておいたほうが良いのかも知れんな、ふ、フフフフフ…)

『あと因みに倒した怪物なのですが、キャスターの創作幻想によって作られたものでした。彼は“いやー、まさかあんなもんが産まれるとは吾輩も捨てたもんじゃないですな”などと宣っており…』

(……………)

 

 一度逆さ吊りくらいにはした方が良いな。うん、この後ヤツは呼び戻す。代わりにカルナを護衛に就かせるか…、と思案を続けた。

 ……従者として優秀な奴がいなくなるのは業腹だが、代わりはいくらでも存在する故問題は無かろう。

 

「……あの自作大好き英国作家は…全く。わざわざ『テンペスト』のキャリバンを用意したとはな」

『なんでも獣人たちを管理、統率しアーチャーの下へ向かわせる予定だったとか……』

 

 嘘くさい、と思うアサシン。『―――馬だ(A_horse)馬を引け(A_horse)馬を引いてきたら王国をくれてやるぞ(My_kingdom_for_a_horse)!』とか言って何か執筆していたし……。

 

(……、それはひとまず置いておくか。今は情報を聞かなければ…)

 

「では、情報交換だ。蘇生魔法は使えたのだな?」

『えぇ、神官団には根掘り葉掘り聞かれましたが、蘇生魔法自体はあるようです』

「…、…根掘り葉掘りと言ったな?……何を使った(・・・・・)

『確実性が欲しかったので、《トゥルー・リザレクション/真なる蘇生》を使いましたが……マズかったでしょうか?』

「~~~~っ……」

 

 ……確かにこの世界のレベルの人間を復活させるには、経験値消費の極めて少ない魔法でなければ蘇生できないだろう。

 シロウが使ったのは第九位階魔法。この世界のレベルの信仰系魔法詠唱者は使えて第五位階魔法《レイズデッド/死者復活》程度。この差は大きく、“この世界における強者”を“この世界の信仰系魔法詠唱者”が復活させる際には激しい経験値消費に伴い心身共に弱体化する。だが、シロウが復活させた人間達はそこまでレベルは低下しておらず、成人した聖騎士達は身体が怠く感じるものの自分の脚で兵舎まで戻って行ったものもいた。これはシロウが取得した職業やアイテムによるEXP減少軽減作用なのだが、こちらの世界の人間も“経験値”と言うモノが存在するかの確認に役に立ったと彼はご満悦だった。

 だが、ただ人を蘇生させただけとは言え、これほどの情報の開示はこの世界においてパワーバランスを崩しかねない。容易く人を屠る強大な戦力を有した魔法詠唱者よりも、死者を蘇らせることが可能な救世の魔法詠唱者の方が厄介ごとに巻き込まれやすいだろう。

 

(……待て。これは使えるやもしれん。そも、国をバックにする事と国を乗っ取る事にそう大差はない。むしろこちらの方がデメリットは少ないか。幸い異形種は寿命が長い……暫く辛抱すれば良いだけだ)

 

 だが、それでも。セミラミスは自らの望みの為に考え続ける。新たな策謀を巡らせ始めた。

 

(唯一の懸念は……シロウが受け入れられるか否かという事だが。聖王国は身分の知れない相手であっても“他国に渡す”より“受け入れる選択をする”タイプの国だ。トップがアレだしな……)

 

『あの弓兵の子供には感謝してもし足りないです……生き返ってくれて本当にホッとしましたよ』

 

 問題があるとするならば……正義を抱いた見習い弓兵(ネイア・バラハ)だろう。

 

「(…そのせいで刷り込みが起きているようだがの……)一先ず聞くが、シロウよ。お前……善意でやったのか?」

『?…えぇ。何があろうと人は救われなければなりません。たとえそれに意味が無い(・・・・・)のだとしても』

 

 その反応に再び頭を抱える。堂々とした晴れやかな回答。シロウのそれに他意は無い(・・・・・・・・・・・・)他人の命を救えた悦びも(・・・・・・・・・・・)助けになれた至福も無い(・・・・・・・・・・・)

 

(悪意もない分余計タチが悪いなコヤツ…)

 

 言ってみれば、このシロウという人物の判断基準にほとんど“遊びはない”のだ。ゲーム中、パートナーを選ぶ際にもそれが顕著に表れ、外見や器量の良し悪しよりも強さや実用性のみでしか判断しなかった。

 いや、意図してそう言った心の贅肉を削ぎ落したのかは分からないが……、その弓兵を生き返らせたのだって実験の意味合いのみだろう。セミラミスは目つきの悪い少女に少しの憐れみを抱いていた。

 

「……まぁ良い。その『弓使い』のことは任せる。そのまま騎士団に入れたままにするか、はたまたお前の軍門に下らせるか、それはお前たちで決めろ」

『ではそのように』

 

 鳩からの通信が切れた。アサシンは顎に手を当て考える。

 

(リアルの世界ではスタートラインが最悪だった。世界が巨大企業に支配され、おそらくナノマシーンという首輪で監視下に置かれていた……だが)

 

 すでに“リアルの世界(地獄)”の本性に感付いていたセミラミス。どす黒い悪意()を呑み込まれて尚、厳しい監視の目を食い破って(生き抜いて)きた彼女の智恵が胎動しだす。

 

(この世界で我は自由だ。そして力も現実のものとなった。たかがゲームの力だ……が、利用できるものはすべて利用し『私』ではできなかった悲願を叶える……“叶えてやる”)

 

 最初に見たあの景色……親も無く、頼れるものもおらず。それでも老いた善人に拾われ生きてこれたという幸運と、その後やって来た絶望と。それら全てが彼女の全て。

 

(苦しみを受けたのは『私』であって我ではない。辛酸を舐めたのは『私』であって我ではない)

 

 『小鳩』と呼ばれた悪人が、決意を新たに悪政(ルール)を布く。

 

(もう誰にも支配されてなるものか……支配者なるは、絶対者なるは我ただ一人)

 

 セミラミスは気が付かない。クックックッ、と喉元から擦れる様なその笑い声。愉悦に捻じ曲がったその端正な顔、肌は高揚したように熱を帯び、世界を見下したその金色の目。

 

 一介の捨て子は知恵と力を以て、毒に塗れた女帝の道をなぞる様にして進んでいた…。

 

 

 

 

 一方その頃。

 

―くるっぽ~―

 

「肉付きの良い鳥だな…食えるのか?兵糧として使えるなら…」

 

―ぽっ⁉―

 

 何気ない聖騎士の一言が使い魔を襲う――――。

 

「ふむ、空腹を紛らわせたいのであれば…今はお茶請けのお菓子くらいしかありませんが」

「姉様がすみません…」

 

 騒動の原因となった男は、王族管轄地の居城でティータイムとしゃれ込んでいた。よだれが垂れる騎士団長に狙われたアサシンの鳩。騎士王もびっくりの動物的思考回路であった。

 

「手作りのチョコクランチクッキーです。お近づきのしるしにどうぞ」

「どうもご丁寧に…、おぉこれはなかなか」

 

 バレンタインの特別イベントでゲットしたアイテム、それを使用し自分で調理した菓子を彼は常時携帯していた。……もはやシロウではなく士郎である。

 

「………(もきゅもきゅもきゅもきゅ)」

「姉さん、みっともないのでやめてください…あ、お替りありますか?」

 

―サクサクサクサク…―

 

 聖王国最大戦力の二人も女の子ではあるらしい。その食べっぷりからなかなか好評なようで安心する。こうして食べてくれただけでもありがたい。自分の胡散臭さを解消するためのコミュニケーションツールなのだが、数日前アタランテなどにも勧めたところ、『アサシンの毒でも入っているんじゃないか』と勘繰られた。従者より赤の他人の方が信頼関係を築きやすいとはこれ如何に。シロウは悲しい(ポロロン)。

 

「ふむ、良い物を貰ったらお返しをしなければならないのだったな」

「姉様…、そうですが口に出すのはどうかと…」

 

 頭の弱い騎士団長はゴソゴソと懐から一冊の取り出した。

 

「これをやろう!聖騎士団に命じて刊行させる予定の“カルカ様ファンクラブ”会報誌、その草案だ!まぁ今のところ私しか持っていないがな!」

「…“かるかさまふぁんくらぶ”?」

「ちょ…姉様?」

 

 思わず鸚鵡返ししてしまうシロウ。純白の女騎士を見て、どこぞのフランス元帥を幻視してしまった彼は異常だろうか?

 

「そうだ、カルカ・ベサーレス様の身長体重誕生日スリーサイズまでおさめた完全版わずか二十冊の一つ。ローブル聖王国の至宝と言われている聖王女カルカ様がどういう人生を送りどういう足跡を辿っているのか国民をどれほど愛しておられるのかこの国をどう導いていきたいのか好きな食べ物は何で嫌いな食べ物は何で一日のスケジュールはどんな感じで動いているのかを完全把握したまさに珠玉とも呼べる本だ交流を持った他国の王女にもインタビューをして私の年俸が半分ぐらいすっ飛んだらしいがまぁカルカ様の魅力や慈悲深さを布教するためには仕方のないことだよな顔も魔法の才能も血筋も完璧なお人はそうそういまいついでに言えば『やっぱり年はとりたくないものですね』としょんぼりしていたカルカ様を不思議に思い私が調べてみたところ独自に研究していたビヨーホー?とかニューエキ?とかふぁんでーしょん?とかその他諸々の試作品の効能とやらも載っているようだが私には魔法に知識はないからもったいないが全然理解できなかったぞそして最近マーマンとの交流のために服屋に仕立て上げさせた伝説の衣装“すくーるみずぎ”というものを着用したカル『《サモンエンジェル4th/第四位階天使召喚》』」

 

 異常ではなかった。摩耗しきった記憶の奥のバレンタインイベントを思い出したシロウさん。そういえばセミラミスがFGOに実証されたのもそのあたりだったな…と彼は遠い目をしだしていた。

 そしてレメディオスは話に夢中で気づかない。ドアの向こうからやってきた人物が彼女の背後に天使を召還していたことに。

 

―がしっ―

 

「あいだだだだ首が!首がもげる!カッ、カルカ様⁉」

「えぇもぎますよ。あ、シェロサンデスネレメディオスハスコシアタマガヨワイコナノデサキホドノモウゲンノタグイノコトハホンキニシナイデイタダケマスネ」

「え、あっはい」

 

 部屋に突入していた白いドレスの女性。鬼気迫る顔で念を押してきた金髪の女に、いかにレベル100の青年も気圧されざるを得なかった……。それはそうだろう、途中からシロウやケラルトは聞き流していたが、彼女が秘密にしていたとんでもない情報がレメディオスにダダ漏れだったのだから…。

 

 

 ちなみにこの後、聖王女カルカの寝室から聖騎士団長の悲鳴が聞こえてきたことで、カルカとレメディオスハードな感じにデキてる説が濃厚になったのは完全なる余談である。




 原作キャラは赤の陣営メンバーに接するとFate/要素が強くなる模様……さて?

 遅くなって申し訳ありません。……魔王信長が来なかったのとかは関係ありません、あまり……。


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