目指すは忍ぶ忍者 (pナッツ)
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第1章:幼年期の始まりと終わり
1:もしも転生したら現状確認を怠らず


初作品につき、知らないことが多くあります。なるべく早く覚えていきます。がんばります



追記:1月13日リメイク
表現、文章の変更・追加を行いました。



俺の記憶の中、小さい頃から両親は「もしも、もしかして」と様々なことに心配性を発揮していた

 

その影響を受けてか、なるべくして俺も「もしも」が口癖となり、心配性な性格が形成されるのも時間の問題だった。……友人からは心配性の割に大雑把と矛盾した評価を頂いていたが。

 

ただまあ、心配性のおかげか俺の人生は大学4年まで割と穏やかに大きな問題もなく進んでいた。問題や厄介事を回避できるので自分の性格も悪くないなあなんて思っていたのだが……

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴方のことは、ちゃんと私が守って見せる。だから泣かないで――ちゃん』

 

 

 

 

 

『お主が運命を変える……いや、捻じ曲げる最後の望みだ。……次はないぞ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッと誰かの声が聞こえたと思い、俺が目を覚ますと一面きれいな青空で、見渡す限りの草原『しかない』空間にぽつんと立っていた。……何故に?

 

 

周りをキョロキョロと見渡しても、特別何もなく……あれ?さっきまで俺は何してたんだっけ?というか俺は誰?

 

何て混乱していると背後から急に声をかけられる。

 

「ハイ!気分はどうだいぃ?黙雷ぃ。頑張れる?悟ぅ」

 

微妙にラップを気取っているのか人の名前で馬鹿みたいな話し方をする角が生えた青白い顔のおっさんがいつの間にか背後に胡坐で浮いていた。

 

「どわ!?あんた何もん……。というか黙雷悟(もくらいさとる)……なんで俺の名前を知ってるんだ。さては変質者か!?」

 

「……ふむ、記憶が混乱しているようだな、どれ」

 

俺の罵倒を気にせず、急に厳格な喋りになった変人が、俺に向かって手をかざす。

 

「何す、うぐっ……」

 

頭が割れそうだ……、というか体全体が正に割れているような……。

 

そこで意識が飛んだ俺は、次に目を覚ました時不思議なことに事情をある程度把握できていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「つまりは俺は死んだのか……」

目を覚ました俺はそうつぶやいた。

 

「Yes,you死んじゃった、不安的中しちゃった、でも幼女助かった。OK?」

 

目の前の胡散臭いおっさんは謎のテンションで俺のつぶやきに答えてくれた。

 

そう、ついさっきまで俺、黙雷悟(もくらいさとる)は普通の公園にいた。今いる草原「しか」ない異様な空間には断じて居なかった。

 

その公園では「女の子」が一人で砂場で遊んでた。友達と遊ぶため待ち合わせ場所にしたその公園にいた俺は最近読んでいた漫画「NARUTO」の影響もあり

 

(もし俺が忍術使えるなら、何使おうかなあ。術と言えるかわからないけど仙人モードは便利そうだよなあ)

 

と空想にふけっていた。

 

(現実で仙人モードになれたら、超すごそう。例えばトラックとかダンプカーが突っ込んできても片手で止めたりとか……)

 

そしてふと視界に入った「女の子」を見て

 

(もしもトラック突っ込んで来たら助けてあげなきゃなwwwニンニンwww)

 

なんてふざけてヒーロー的な、ありえもしれない空想にふけっていたのだ。

 

そしたら突っ込んできた。俺の空想の下らなさに対する漫才の突っ込みとかではなくトラックが。

 

公園の木々をなぎ倒し俺の近く、「女の子」が遊んでいる砂場まで真っ直ぐ直進。

 

その時、俺は根が心配性なためか、冗談でも想定していたおかげなのか定かではないが咄嗟に動くことができた。

 

 

そして俺は女の子を突き飛ばし……。

 

 

 

 

 

「こういうあらましかぁ……マジかよ……」

おぼろげな記憶を頼りに事態を把握した俺は、目の前の不審者に問いかける。

 

「……確かに俺は死んだん……だな。なああんた、つまりここは死後の世界なのか?」

 

「Ye「普通に喋ってもらえません?」……そうだ、お主は今魂だけの存在となりこの場にとどまっている。」

 

普通に喋れるんじゃねえか……

 

「へえ~魂だけって、うっおぉ?!手がねえ!?よく見たら体全体が見えねえ!違和感すっご……はえ~すげ~……」

 

 

「中々個性的なりあくしょんだな。まあそれはどうでもよいか……。時間がないのでなさっそく本題に入るぞ」

 

「本題?」

 

「そう確かにお主は死んだが、こうして魂だけは……そうじゃの、善行によりうんたらかんたらで救われておる」

 

「……雑じゃないですか?もしかして今設定とか考えt」

 

不審に思う俺の言葉を遮るようにおっさんはまくしたてる。

 

 

 

「しかし、しかしなあ。時間が立てばたゆたう魂は消滅してしまう。なんと儚いことかぁ……。なのでな、お主の魂を別次元へと送り新たな肉体に入れることで魂の消滅を防ごうとワシは思案しておるのだ」

 

変な演技を挟んだ設定の小出しをジト目で(体がないのでジト目は出来ないが)聞いていた俺は、おっさんについて疑問に思ったことを言う。

 

「魂を別次元にって……。転生?何?貴方そんな胡散臭いなりで神さまなの?」

 

俺の失礼な発言に今度はおっさんがジト目になる。……失言だったか?

 

 

「……悠長にしておる時間はないぞ?あと1分でお主は消滅する」

 

 

…………へ?

 

「なので空きのある世界に問答無用で捻じ込む。思案といったがどちらかと言えば強制だ。ではまた会おう少年」

 

 

 

まくしたてる様に別れの挨拶までを言い切ったおっさんこと恐らく神様?が俺に向かって先ほどのように手を向ける。

 

すると俺の視界は万華鏡のような変化を見せ暗転した……。

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火の国、この葉隠れの里。そう、ここが俺の第二(誇張なし)の故郷だ。

 

漫画自体はあまり読まない俺でも、友達のを借りて読んだこともあるしアニメもたまに見たことがある。何が言いたいのかと言うとつまり「NARUTO」の世界に転生したことを理解したということ。

 

 

それを自覚したとき、俺は1歳ぐらいだったと思う。

 

1歳にしてはクリアな思考をしている俺は今、孤児院で生活している。

 

周りの大人の会話から「捨て子」などの俺に関するキーワードを拾い、自分の立場を確認した。

 

……この死が当たり前のように転がって安売りされている世界に転生してしまった俺は、かなり落ち込んだ。実際一度死んでしまっている以上贅沢は言えないのだが。

 

何とか、何とか、平穏に生きたい……。

 

漫画で読むのと実際に体験するのとでは全然違うということを身をもって理解した。

 

何はともあれまずはとにかく現状確認だ。

 

俺は黙雷悟(もくらいさとる)1歳、白色の髪に緑の瞳が特徴の男の子だ。名前は捨てられていた時に添えられた手紙に書いてあったらしい。

 

おっさん……神様の仕業なのか。最初から俺の名前知ってたぐらいだし、一応まあ、馴染み深い名前にしてくれてありがとうございます……?

 

俺はこの葉隠れ近辺に捨てられていたらしく、見まわりの忍びが見つけたことで保護された。

 

その際<呪印>や体の特別な特徴、血などを調べたそうだがその時は特に何も見つからなったそうだ。

 

つまり里にとって赤子を使ったテロとか、トロイの木馬作戦みたいな陰謀ありきの存在ではないことが証明されたので俺は孤児院に送られた。

 

……あれ、俺って凄い力的なものとか才能ないのか?転生物にはつきものでしょ?

 

まっまあ……まだ1歳だあわてるな……俺。

 

気を取り直して、年代について。孤児院の日課の散歩で外に出ているため、その時に情報を集めることができた。

 

確認できた情報は顔岩は4つであること。里は一部再建途中の区域があるようだ。あと住民が「九尾の妖狐」のキーワードを話していた。これらの情報から恐らく九尾がこの葉を襲った後だと見て間違いない。……かもしれない。

 

年代についての自信はない。漫画の内容を隅々まで覚えているほどのファンではないので、仮定としておいておこう。

 

次に俺の周辺環境について。孤児院といっても協会的に場所ではなくアパートの形をした建物になっている。

 

12歳の子が「下忍」とか言って額あてをしているのを職員が泣きながら見送っていた。

 

これはつまりアカデミーに「通える」選択肢があるようだ。他にもどこかの家や、職場など引き取られて孤児院を離れる子も少なくない。

 

俺は……アカデミーに通うつもりだ。忍びになる、ならないに関わらずこの世界は危険だ。耐え忍ぶ必要はない、むしろ耐えられないだろう。だがもしもの危険から忍び逃げる必要がある。

 

だからこそ少しでも力をつけないと……。

 

 

そしてこれらの情報を集め2年が経ち俺は3歳の誕生日を迎えた。

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「出かけてきます」

 

3歳になった俺は内心元気よく、声は小さくこそっと孤児院から出かけて、公開演習場へと向かう。公開演習場とはつまり、一般に解放されている演習場だ。そのままの意味だが実際には公園みたいなもの。

 

俺はここで自分の能力の現状を確認していた。

 

「元々二十歳すぎだったおかげで、意識的なところは同年代以上みたいだけど……いやそうでないと困るけど」と俺は呟く。

 

身体能力というのか、もといこの世界の「チャクラ」というものをまだ俺は理解できていない。

 

たまに見かける忍びが視界から消えるのは超早く動いているってことなのだろう。まあ、そういう光景意外に俺はこの世界にあまり前世とのギャップを感じていないのだ。

 

現状俺はひたすら演習場で筋トレをしている。まだ修行と言える域のものではないがやらないよりましだろう。……3歳が筋トレしている場面は傍から見たらさぞシュールだろうか。

 

ここは公園的な場所でもあるため遊んでいるちびっ子は割といる。忍者ごっこしている子なんて見ない日はないぐらいだ。

 

まあ、俺には関係のないことだ。あえてボッチでいるんだ、あえて、あえて……。

 

すると俺に声をかける少女が一人。

 

「さとる君~やっほー」

 

ほらきた呼んでもないが、俺がボッチではないという証明が向こうからなあ!!

 

「相変わらず変なお面付けてるんだねさとる君、外さないの?じゃまじゃない?」

 

ちょっと失礼な事をいうこの女の子はテンテンちゃん4歳。

 

「……恥ずかしいからつけてるの、問題ないよ」

 

と俺はテンション低めで答える。今の俺は狐のお面で顔を隠している。そして筋トレしている。奇天烈……なので周りに人が寄り付かないのだ。

 

お面で顔を隠しているのは俺の素性を広めない為である。忍びになろうというのだ。プライベートを静かに過ごすために幼少の頃から顔を隠すのは別におかしくないだろう……多分

 

そう考え俺がお面を触って少しいじっているとテンテンちゃんが話しかけてくる。

 

「そういえばぁわたしまださとる君の顔見たことないけど、本当に男の子なの?かみのけ後ろで縛ってて女の子みたいだよ~」

「男の子です。」

「じゃあ、お顔見せて♪」

「嫌です。」

「ぶーーーーー!」

 

ブーイングされても見せはしない俺は忍ぶのだ。

 

「まあ、いっか、今日は何して遊ぶ!?」

 

流石天然4歳児。似非3歳児の俺と違ってテンション高いなあ。

 

……まあ筋トレだけでは飽きもくるし今日も付き合ってあげるか。

 

そう思い俺は遊びの提案をする。なるべく体を動かせるものだ。

 

「鬼ごっこでもしましょうか?一時間後鬼だった方が負けです。鬼は私からで」

 

「いいよ~。今回も負けないからね~」

 

とテンテンちゃんがぴょんぴょん跳ねて準備運動をし始める。

 

……くっくっく。悠長だなあぁ……。

 

 

「はいよーいどん!!!タッチ!!!」

 

丁寧なゆっくりとした口調から、不意にスタートの合図をしテンテンちゃんをタッチしておもっいっきり逃げる俺。

 

 

「あっちょっとずるい!」

テンテンちゃんの苦言を無視してひたすらに全力で逃げる。

 

卑怯もクソもないのだ。これぞ……忍び……!

 

 

 

 

~~~~そして1時間後~~~~~

 

「はい私の勝ち~♪」

 

満面の笑みでピースを掲げるテンテンちゃん

 

「うううぅぅぅっぐぞおおおぉぉぉぉ……」

 

地面に這いつくばる俺。

 

俺が負けました……はい。

 




文字数は最初なので少なめにしておきます。


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2:無理しても引っ込まない道理はある

第二話です。
結構な人数の方々に自分の文を見てもらうのって嬉し恥ずかしいですね。



追記:1月17日リメイク
表現、文章の変更・追加を行いました。


テンテンちゃんとの鬼ごっこに惜しくも、惜しくも敗れた俺は、その悔しさを隠しつつも施設に帰ることにした。

 

「あ~くっそ。また俺の負けか……もう今日は終わりにしようか、私は用事があるので」

 

 

「え~もう?はあ~あ、やっぱり今日もあまり遊んでくれないんだね……」

と少し寂しそうに不満を言うテンテンちゃん

 

「施設での手伝いをしないといけないから。それじゃあね。」

 

そう別れの理由告げ俺は施設へと向かう帰路についた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

テンテンちゃんは所謂原作にいた人物だと俺は認識している。ちなみに俺が住んでいる施設のオーナーの「マリエ」さんは恐らく漫画やアニメには居なかったはず……読み込んでいないから確証はないが。

 

つまり俺が言いたいことは「ここ」が俺の見ている夢の世界ではないということ。そう、俺の知らない誰かが笑い、泣き、怒り、傷つき、それでも生きている世界。

 

……そして俺はまだまだ弱い、この世界で一人で平穏に生きていくにはまだ自信がないなあ……

 

あの角の生えた顔色の悪い不審者、とりあえず転生させてくれたから神様と呼んでいるが、彼曰く人助けの善行の結果俺は転生した……させられたようだ。

 

その先の世界が物騒なのは曰く空きに捻じ込んだからか。そこどうにかならんかったのか……。

 

「そういえばテンテンちゃんと出会ってもう約半年か……一回も遊びに勝てないのは俺がチャクラの何たるかを理解できていないからか?」

 

そう呟きながら俺は施設の扉を開く。アパート状で幾つか役割の分かれた部屋の中から俺は所謂キッチンへと向かった。

 

「あら、今日も時間通りに来たわね悟ちゃん。もっと遅くまで遊んで来てもいいのよ?」

 

そこにいたのは眠くなりそうなゆったりとした声で俺に声をかけるオーナーのマリエさんだ。ゆったりとした雰囲気と腰まで届く栗色の髪、あとボンキュッボンなのが特徴的な女性だ。

 

「大丈夫です。私が施設にいる以上何かでお返しをしたいので」

 

俺はそう静かに返し、マリエさんが行っている料理の手伝いを始める。

 

「別にお手伝いとか気にしなくて良いって言ってるのに~。私個人としてはね、悟ちゃんぐらいの年の子は外で元気良く遊んでくれてたほうが安心できるんだけどね~」

 

そうは言うがマリエさんは無理やり手伝うのをやめさせたりはしない。俺のしたいことや考えを尊重してくれているようだ。

そういう大人の気配りに感謝しつつも、俺は夕飯のみそ汁の具を切り始めた。……転生前の大学時代より家事やってんな、俺。

 

その後炊事掃除洗濯、一通りの作業(の手伝い)を終える。しかし毎回必ず後をマリエさんが付いてくる。この人も忙しいのに俺ばかりに構ってていいのか?

 

そんなことを思いながら、俺は自室へと戻った。

 

狐のお面を全く外さない俺を「人付き合いが苦手なのね~」と理解を示してくれたマリエさんが特別に個室を用意してくれた。簡易的なもので物置だったスペースを少し改築した部屋だ。布団が敷けるぐらいの広さだがありがたい。

 

俺は部屋に入るとそのまま眠らず筋トレを始めた。外から結構重めの石を持ち込みトレーニング用に部屋に置いている。これを使い俺は深夜、疲れて意識が落ちるまでまでひたすら体を動かし続けた……。

 

最近眠るのが怖く感じている。

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

こんな生活を約二年続けている。

 

 

朝起きて、身支度を終わらせ施設の手伝いをし、時間ができたら外に出かけ何かしらの情報を集めながら、鍛えるために公開演習場に向かう。

 

このルーチンに半年前からテンテンちゃんが加わっている。

 

ふと俺は気になっていたことをテンテンちゃんに問う。

 

「テンテンちゃんはどうして私にかまうのですか?他に遊ぶ子はいないのですか?」

 

という俺の失礼な質問に

 

「うーん?なんとなくかなあ。さとる君と遊ぶの楽しいからかなあ?」

 

とあいまいな返事しか返ってこない。皮肉とかは通じない。

 

4歳とはいえさすが女の子だ。俺には到底考えが読めない。

 

そう、テンテンちゃんは4歳で俺の一つ上である。つまり俺はあの「うずまきナルト」と同年代、同期ということになる。……何となく作為的、狙い的なものを感じるが気のせいか?

 

 

 

「なんと今日は私からお遊びにていあんがあります!」

と手をあげながらテンテンちゃんが珍しく俺に案を持ち掛けてきた。

 

いつも「何して遊ぶ?」って聞いてきてばかりだったからなあ。珍しい。

 

「いいですよ?何して遊びます?鬼ごっこ?このまえのチャンバラで負けたのも悔しいのでもう一度やりたいですね」

 

なんて俺が体を動かせる遊びを考えていると

 

「お昼寝しましょ!!」

 

と元気よく回答が得られた

 

……遊びとは?

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

現在俺は原っぱの上で天を仰いでいる。

 

隣では寝息を立てて寝ているテンテンちゃん。

 

役得か……?いや4歳相手にそれはまだない。まあ、可愛い子が寝ている様子を見られるのは親心的なものでいいものだが。

 

 

風が心地よく吹き抜け、木の葉が舞っている。

 

俺は……トレーニングをしようと起き上がるため、地面に手をついた。

 

その時に支えている腕をふいにつかまれ

 

「さとる君、お・ひ・る・ねしましょ……ね?」

目をばっちりと開け、テンテンちゃんがこっちを向いていた。

 

「……はい」

 

仕方がない寝るふりだけでも…………そうして俺は体勢を横にし目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

「すう……すう……」

 

 

 

「ふふ、さとる君やっぱり疲れてるんだね。いっつもからだ動かしてばかりだし、たまにはお昼寝してゆっくりしようね♪」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

あのときの夢を見る。

 

 

 

 

 

 

 

俺は死んだ。まだまだやりたいことがあったのに。

 

母さんや父さんはどうしたかな。心配性なのに俺が先に死んで悲しんでるだろうな。

 

待ち合わせしてた友達【天音小鳥】……、トラックにはねられた俺の死体とかみてトラウマにならないといいけど……いやなるか、ごめん

 

           大学のサークルのみんな。

 

ゼミの教授

 

        おじいちゃん、おばあちゃん

 

 

 

激痛が走る。体はぐちゃぐちゃに潰れている。

 

いたい、いたい、はねられてもすぐには死ねないんだ。

 

  折れた肋骨は肺を裂き、呼吸が痛みを生み俺の気力を、生気を削る。   

 

      ……苦……しい

        

 

痛みが後悔を生む

 

『ああ、赤の他人なんて助けな□□□良□□□』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

俺は飛び起きた。寝汗が噴き出ており、息が苦しい。胸が痛みまるであの時(・・・)のように肺が裂けているかのようだ。

 

汗が……汗が止まらない。嫌な思考が頭を駆け巡る。

 

 

俺の動作に気づいてテンテンが起きて声をかけようとしたが、今は何も聞きたくない。

 

 

その場を逃げるように俺は走った。テンテンに途中追いつかれ腕をつかまれたが

 

「どうしたのさとる君大丈「はなしてくれ!!俺に近づかないでくれ!!」……ごめn」

 

テンテンの謝る言葉に耳を貸さず俺は施設へと急ぐ。

 

今何時だ……夕日が沈み始めている……早く、早く帰って施設の手伝いをしないと……

 

 

おれの価値を示さないと……

 

施設を追い出される。

 

そしたらもう生きて、いけない……

 

 

 

施設の玄関を力任せに開け、キッチンへと向かう。

 

そこには既にエプロンを外したマリエさんがいた。

 

マリエさんは俺に気が付くと

 

 

「あら悟ちゃん、今日は沢山遊んできたのね!私うれし……悟ちゃん?」

 

声をかけてくるが俺の様子がおかしいことに気が付く。

 

 

 

 

 

夕飯の支度はすでに終わっている。俺は……もう必要じゃない。そもそもこの「世界」で俺は必要なのか?

 

 

 

必要……必要……いや

 

そうだ、この世界は、漫画は俺が何もしなくても完結するんじゃないか……。

 

思考が乱れる。

 

「俺、わた、私遅れて……ごめんさい、ごめんなさい……ごめ……」

 

言葉がうまくでない。息が詰まり呼吸ができない……

 

意識が遠のくのを感じる。

 

「悟ちゃん!?」

 

マリエさんがあわててこちらに駆け寄ってきている。

 

 

そんな様子を見ながら俺は意識を手放した。

 

 

 

俺は異世界に転生したことをまだまだ受け入れられていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




展開が突拍子ないきがしますね。


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3:感染型熱血漢

シリアスや誰かが辛いのは短めにしたいです。
原作キャラの口調が難しいよー。




追記:1月24日リメイク
表現、文章の変更・追加を行いました


…………

……

 

「すみません。こんな時間にお忙しかったでしょう?」

深夜、子ども達が寝静まる時間、私こと孤児院の「マリエ」は施設を抜け、とある居酒屋で旧友と会っていた。

 

「いえいえ、マリエさんが相談したいことがあると前々から聞いていたのに時間が作れなくて申し訳ない。」

 

彼は木ノ葉の上忍「マイト・ガイ」、私みたいな女性や子どもと話すときは丁寧で紳士然とした喋りになるが、根っからの熱血漢だ。

 

「それで? わざわざ私に相談事なんて、マリエさんらしくもない。そもそも私自身、相談事を受けるキャラではないですからな、わっはっは。」

 

何度か手元のグラスの飲み物を口に運んでいるガイ君は、軽くお酒が入り機嫌が良さそうだ。

 

私もお酒を少しあおり、相談事の本題、施設にいるある男の子について話をし始めた。

 

「黙雷悟」 赤子の頃里の近辺で保護され、私の施設で預かることになった子について。悟ちゃんは3歳にしては大人びた、それでいてまだ未成熟なあべこべな雰囲気をまとっている。

 

彼は一歳になり、歩き始めたころから何かと施設に対して貢献をしようとしていた。初めのころは周りの子が片付けない玩具などをしまう程度だったが、次第に家事や掃除など本格的な「手伝い」へと発展していった。

 

私個人としては小さな子にはもっと元気に遊んでほしくて、一度手伝いを断ったことがある。その時、悟ちゃんはどうしても手伝いをしたいと大きな動揺を見せた。

 

悟ちゃんは多分、周りの人間、私を含めて誰も心から信用をしていないのだと思う。二歳の誕生日(施設に来た日を誕生日としている)に祭りの屋台で彼がねだった狐のお面が悟ちゃん最大限のわがままだった。

 

自分が生きていくために、施設が必要であることを理解している。だからこそ自分の存在価値を示し続けている。

 

妙に体を鍛えようとしているのも、将来私たちからの援助を受けずに一人立ちするためなのか……。

 

この半年、悟ちゃんのあとをこっそりついていった私は彼が女の子と遊んでいるのを目にした。その時の彼は元気に感情を表に出していた。遊んでいる最中は一人称も俺になり、遊びに負けたことに本気で悔しがっていた。

 

その様子を見て私はとても……とても悲しい気持ちで……やるせない気持ちでいっぱいになってしまった。

 

……私では彼の信用を得ることはできないのかなあ。

 

そうして一通りの相談事を話し終え、お酒を軽く飲む私。

 

「ふむ、マリエさん。わかりました。俺に任せてください!」

 

私の、愚痴と自分の気持ちの整理が入り混じった相談とも言えない独り言を聞きガイ君はそう答えた。

 

「任せてってガイ君、あなた明日も忍びの仕事があるんでしょう?」

 

「旧友の悩みを解決せず! では、男が廃るってものですよ! なあに問題ありません。男同士、拳を合わせれば分かり合えると信じています! 任務なんてもの、ちゃっちゃと終わらせて明日にはどうにかして見せましょうぞ!! ぶわっはっはっはっは!!」

 

「……ガイ君がお酒に弱かったの忘れてわ。3歳児と拳を合わせるなんて非常識、私が許しませんよ」

 

そろそろ潮時なのかな。

 

完全に酔いが回る前に私たちは解散した。お互い朝は早いし。あまりお酒に浸るのは良くないだろう。

 

「ここの支払いは俺に任せてください! アッハッハッハ!!」

 

多分彼は相談事を明日には忘れてしまうかも。けれど私は誰かに弱みをさらしたかっただけ。彼にも負担がかかるかもしれないからこれでいいの。

 

 

 

そして悟ちゃんが倒れてから、次の日。悟ちゃんは今まで通り、何事もなかったのように施設の手伝いを済ませて公開演習場へと向かっていった。

 

またいつも通りの日常に戻るのかあ。なんて思っていたら……

 

深夜になっても返ってこない悟ちゃん。私が心配して探しに行こうと玄関で身支度をしていたら玄関が開かれ悟ちゃんが姿を現す。

 

 

一瞬安心した私は、彼の様子に気がつき驚愕する。

 

 

ものすっごくボロボロになって目は赤くはれ大泣きしていたのがはっきりとわかる……。落ち込んだ様子の悟ちゃんの後ろには狐のお面を持ったガイ君がいた。

 

 

 

 

私の右手にチャクラが籠る……

 

 

~~~~~~

 

 

気が付いたら朝になっていた。昨日マリエさんの手伝いに行けずに俺は気絶してしまったようだ。このままでは施設を追い出されるかもしれない……そんな気持ちばかりが心にあふれかえる。

 

何とか朝の身支度を済ませた俺は軽く混乱する頭を制しながらいつものように、施設の手伝いをこなす。

 

そして休憩時間には公開演習場へと向かった。

マリエさんはいつもと変わらずに優しく俺に接してくれていた。けれどのその優しさに最近少し恐怖を感じている……。

 

 

そして動揺してて気にしてなかったが昨日はテンテンちゃんにひどい態度を取ってしまった。謝っても許してもらえないかもしれない……。

 

 

そんなことを考えながら俺が公開演習場につくと違和感に気がつく。

 

見渡してみる限り誰もいない? 公園的なこの場所で、午後の3時に誰もいないなんて普通はありえない……。

 

そんな違和感を気にしないよう、いつも通りトレーニングを始めようとしたとき

 

俺に背筋が凍るような感覚が走る。

 

「ダアアイナミッック・エントリー!!!」

 

大声が聞こえ、反射的にその場から俺が大きく飛びのくと、俺がさっきまでいた地面が粉々に砕け散っていた……。

 

男が一人砕けた地面から顔を出す。覆面で顔を隠しているがその特徴的なグリーン一色のタイツ姿と暑苦しい声で、初対面でも誰なのかわかる。

 

「マイト……ガイ!」

 

「ふむ、俺を知っているのか!! なら小細工無用!!」覆面を脱ぎ捨て暑苦しい顔が外部に晒される。

 

「急に何なんだ! こんな……危ない真似!」

 

俺がいだく当然の疑問を口にしたが、熱血漢は俺に蹴りを入れようとしていた。

 

「問答無用!!」

 

「あっぶな!!」

 

すんでのところで転がり避けた俺だが、追撃で裏拳が飛び込んできた。なんとか防ぐも吹き飛ばされる。

 

息が漏れるが、何とか意識を保ち俺は目の前のわけのわからない敵を視界にとらえる。

 

「俺がなにしたってんだ、こんちくしょうがああ!」

 

動揺した俺が反撃のために走る。

 

しかし俺の正論を混ぜた拳は、あっさりガイに止められ反撃が返ってくる。

 

「君は何もしていない。だからこそ俺が行動を促すために来たのだ!!」

 

そういうと彼は打撃に吹き飛んだ俺に追撃のかかと落としをくらわせようとした。

 

「ぽっとでのあんたが俺のなにを知ってんだよ!」

叫びながら俺はなんとか避ける、地面にめり込むかかと落としってなんだよ! 死ぬわ!!

 

「知っているさ! 俺は今朝任務を終わらせ、残りの時間を君の身辺調査に割いた。そこで分かったことはあああ!」

気合を入れたしゃべりをしながら、俺に攻撃を加えるガイは続ける。

 

「君は孤独になるため、周囲から逃げ!努力から逃げているってことだああ!」

 

蹴りを受け吹き飛ぶ俺は、何とか反論をする。

 

「ぐっ……努力から逃げる? 俺が? 身辺調査したならわかってるだろ!! 俺はずっとトレーニングしているし、施設にも貢献し「ちっがーーーう!!」

 

「君のそんな後ろ向きな努力は努力とは言わん! 自分を信じない奴に努力する価値などないぃ!!」

 

「……無茶苦茶だ。」

 

攻撃の手を止め、ガイが語り始める。もうすでに肩で息をする俺は立っているのがやっとだ……話を聞くしかない。

 

「君のしているという努力は全て自分のためだけにしていることだ。悪いとは言わんが、だが悪い!!」

 

何言ってんだ、マジで無茶苦茶……

 

「君は怖いんだろう? だからこそ逃げ続けている。周囲の『やさしさ』という繋がりから。努力しているふうに見せかけても無駄だ。」

 

急にトーンを落としたガイがまじめな顔をする。

 

「そして君はやさしさを返すことに躊躇していると見る。子どもはときおり、親が自分のことを愛していないと考えてしまう時期があるそうだが君はそれとは違う。優しさを裏切られ傷ついた者の目をしている。」

 

「な、なにを言って……」

 

まるで見透かすような……

 

「違うか?」

 

ガイの問いかけに俺は、自分の本心に触れる。

 

「女の子」をトラックから助けた代償。それが想像も絶する痛み。そして危険な世界への転生。

 

この理不尽に俺は……「女の子」を助けなければ良かったと心から思ってしまっていた。元の世界での『つながり』が切れたことを自覚したとき俺はとても辛かった。

 

だから……だから俺は

 

「繋がりが、心を通わせることが怖いか少年……?」

 

「……何でわかるんだ。俺の気持ちがあんたに……」

 

狐のお面のひもが切れ落ちる。ともに涙も地面に吸い込まれる。

 

 

「なあに、俺の周りにはネガティブな奴が多いからな。それに俺自身そういう経験がなかったとは言えん。努力することで努力から逃げる。矛盾しているようだがよくあることだ。」

ガイは笑顔を見せて俺の問いに答える。

 

「俺は……辛くなりたくないんだ……もう。繋がりが切れる痛みを、そのきっかけを後悔することも怖いんだ……」

 

「女の子」を助けたことを後悔することは、つまり見殺しにすれば良いと思っていると同義だ。俺は自分が最低なことを考えていることに気づいていてもその思考を止められなかった。

 

「そうか……」

ガイが相槌を入れ俺に近づき肩に手を置く。

 

俺は泣くのが止められない。泣きながらも俺はガイに問いかける。

 

「俺は……どうすれば、いいんだ?」

 

「周りを頼るんだ! 少年。君の痛みを完全に理解できる人間なんていないかもしれない! それでも痛みを分け合い分かち合うことで共に困難乗り越えることは、誰とだってきっとできるんだぁ!!」

 

大きく、しっかりとした口調でガイは続ける。

 

「過去に縛られるのではなく、糧として明日へと前向きな努力をすれば、きっと未来はよくなる。そのために未来を語るのだ少年。未来を思い描け!!」

 

俺は心の重りが熱血漢に砕かれていくことに気がついた。

 

……ああ、そうか。施設での手伝いもトレーニングも、過去の出来事を後悔して取り繕っているに過ぎなかった。

 

俺が本当にすべきこと……「女の子」を助けたことを後悔しないように、誇りに思うために。助けて良かったと心から思うために……

 

「……俺は、平穏に笑ってこの世界で生きていきたい……繋がりを大事にしていきたい……です」

 

俺の本心にガイは笑って答える

 

「そうか……ならやるべきこともわかったか?」

 

 

俺は

 

「うん、ありがとう……ございます。ガイさん。」

 

足に力を思いっきりこめ

 

「なら施設にともに帰ろう。マリエさんが心配しているがなあに、少しぼろぼrっ!! 痛ったあああああい!?」

 

ガイの股間を蹴り上げる。

 

「な、何をするんだ少年んんん、うぐぐ……っここは笑顔で施設にただいまと……言って帰るシーンに繋がるのでは」

 

「うっせえ! 正論言ってても3歳児をボコボコにしてる人間が恰好つけんなよ!! ああそうさ……俺は強くなる前向きに! だからあんたに負けっぱなしなのは悔しい。つまりいいいぃぃっ死ねええ!」

 

ガイの目に思いっきり砂を捻じ込む。

 

「痛ったあああああい くうぅ~~~やるなあ少年。だがこの木の葉の青い猛獣マイト・ガイの視界を潰したところで無駄ぁ! かかって来いいいい!」

 

こうして俺は、珍獣と夜まで死闘を繰り広げた……。

 

 

心が軽くなった気がする……

 

 

~~~~~~

 

 

ボロボロになった俺はガイさんと「ラーメン一楽」にきた。

 

時間で言えば夕飯時はとっくに過ぎている。

 

「こんなにおそくになってマリエさん心配してるかなあ……」

 

「なあに、心配いらんよ悟少年。彼女はもっと遅くまで遊んでいて欲しいといっていたからな! さあ遠慮せず何でも食べるがいい! 拳を交えた俺からのおごりだあ!」

 

ご機嫌なガイさんに一楽の店長のテウチさんが苦言を漏らす。

 

「旦那ぁ、もう少し静かにしてくれよ。近所迷惑ですぜぇ」

 

俺は苦言を聞きながら注文をする

 

「あはは、すみません珍獣がうるさくて。あっ俺、肉増し増しの全乗せラーメン大盛で。あっナルトのトッピングもお願いします。」

 

「えっちょと悟少年。……頼むのはいいけど食べきれる?」

 

「(珍獣呼びスルーか……)大丈夫です。誰かさんのおかげでボロボロのボロボロでお腹もとっっても空いているので!」

 

「まあいっか! なら大将!! 俺も同じやつでえぃ!!」

 

「あいよ!!」

 

 

 

ガイさんと談笑しながら食べたラーメンは格別に美味しかった。さすがは「ナルト」がはまるラーメン屋だ。まあ誰かと笑いながら食べる食事も……やっぱりいいものだ。

 

 

ふと俺は気になったことをガイさんに質問する。

 

「そういえば、公開演習場に人が居なかったのはどうしてです? あそこは公共施設でしょ?」

 

「俺が部下に頼んで人が入らないようしてもらっただけだ、なあに心配いらんよ。あと君ぃ、身辺調査のとき女の子が君のことを心配してたぞ?」

 

「絶対に問題ありますよねそれ……。女の子はテンテンちゃんのことかなあ、明日には謝らないとなあ」

 

「うんうん、青春だなあ」

 

何かを噛みしめるような表情をしながらうなるガイさんに引きつつも食事を終え帰路につく。

 

「ああ、悟少年、このお面だがすまなかったな。紐が切れているようだが……」

 

「まあ、あれだけ暴れれば屋台のお面なんて壊れますよ……あっ玄関の灯りついてる」

 

施設につく頃には深夜になろうとしていたが、玄関の明かりがついていて中からマリエさんの独り言が漏れ聞こえている。

 

「やっぱり心配かけちゃったか、マリエさんには悪いことしたなあ……」

と落ち込む俺

 

「大丈夫、大丈夫!ほら元気にただいまあと言って……」

 

機嫌のいいガイさんが扉を開けるとマリエさんと目が合う。

 

「あ……えっと……」

 

俺が照れてただいまという前にマリエさんは俺たちの様子を見た後、真顔になり

 

土遁・岩状手腕(どとん・がんじょうしゅわん)

 

多分高速で印を結んだんだろう、俺には捉えることができないその動きの後、腕が岩で覆われたマリエさんが

 

「何をやったんだこの大バカ者ぉ!!」

と叫びつつ

 

俺の後ろのガイさんの顔面を高速で殴りぬけた。

 

 

「ぶっひゃあっ!!!!」と声にならない声を出しながら吹っ飛ぶガイさんを流し見しながら俺は

 

「たっただいまぁ……」

 

気の抜けた声しか出すことができなかった……

 

 

 

 




ちょっと長くなりすぎたかも。
ガイさんはすごい人だ(コ〇ミ)


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4:語る未来はベター

主人公の目標設定回。大事


ガイさんがふっ飛ぶ轟音に施設や近所の人間が驚き、小さな騒ぎになったがマリエさんが頭をブンブンと下げてなんとか収めた。

 

そして改めて施設の応接室で俺と顔がはれ上がって冷やしているいるガイさん、マリエさんで話し合いが行われた。

 

ちなみに空気は割と死んでいる。こういう時にこそお面を被りたいが生憎紐が切れてつけれない・・・。

 

「確かに、確かに私は貴方に相談しました。ええしましたとも。けれど私はこんな・・・こんな事を頼んだ覚えはありません!したのは相談だけです!」

 

深夜なので声の音量は抑えているがぷりぷりと怒っているマリエさん。可愛らしく見えるがさっきの殴りの場面の真顔がフラッシュバックして素直に萌えられない・・・。

 

「いやあ、でも私ぃ拳を合わせるって~言いましたし~・・・。」

 

顔半分がはれ上がっていて声が少し変になっているガイさんは、言葉を選びながら慎重に語っている。こちらは可愛いというより可哀そうだ。あと大の大人が指つんつんしている絵面はきつい。

 

「あの時貴方酔いがひどかったじゃないですか!昔から酔うと記憶が抜けるのは知ってたから私は・・・」

「いえ、あのとき俺はウーロン茶飲んでたので酔っていません。」

 

きっぱりと己の真実を語るガイさんと「ふへ?」と気の抜けた相槌をするマリエさん。

 

「いやあだって、マリエさんからの相談事ですよ?俺としては聞くからには解決してあげたいと思いますし、それにほら任務も控えてたので、ぱっぱと任務を終えて行動するためにも素面じゃないとって・・・」

 

意外とまじめだなっとガイさんの評価を改めるが、つまり俺のことついてマリエさんは酒の力を借りて相談したかったはず。色々と語った相手が素面だったなんて恥ずかし・・・マリエさん、うつむいて震えてるよ・・・。

 

「・・・素面だったなら私が拳合わせるのはダメって言ったことも覚えていますよね・・・?」

 

「はっはっはっ大丈夫ですともお!。悟少年は思っていたより根性のある子で!」

 

少しテンションと口調が元気な時に戻りかけているガイさんと、多分怒りと恥ずかしさに震えているマリエさん。

 

俺なりに総括すると今回の出来事は男女の悩みに対してのアプローチの差が招いたことだと、他人事のように考える。

相談して気力を保ちたかっただけの女性枠マリエさんと、それを何とかしてあげたいとお節介をやいた男性枠ガイさん。

 

元の世界でもよくあるいざこざってやつだなあ、ははは。

 

あっ、俺の角度からだとマリエさんが机の下で印を結んでいるのが見える。

 

「!話し合いはここまででいいでしょう。俺は昨日の任務の後処理が・・・ふご!」

 

何かを察して逃げようとしたガイさんだがマリエさんが右手で口を塞ぎ、左手で頭をつかみ力を入れる。どちらの手腕も岩に覆われている。

 

「逃がすか、大バカ者」

 

あ、怖いマリエさんだ。

 

「ふぐぐぐぐぐぐぐぐ!!」

 

口を塞がれ、よく見ると手と足が椅子に岩で固定されているガイさんが唸っている。涙目だ。

 

「おまえ、、、任務の後処理を後日するってどういうことだ?確か危険人物の調査と抹殺だったよな?一日やそこらで終わるわけがない、、、人の話を聞かないばかりか、任務まで適当に終わらせてきたな、、、?」

 

口調がすごんでいるマリエさんに涙目のガイさんが上目遣いで否定しようが多分無駄だろう。つまり、相談事をした相手は素面であるのに話も聞かず、仕事を心配して早めに解散したのにその仕事を疎かにして、するなといったことをする。

 

 

役満ってやつかな?

ていうか調査と抹殺って、昨日のうちにサーチアンドデストロイしたってことか?見かけによらずガイさんも怖いなあ。

 

「まあ、夜も遅いし、い・ち・お・う任務明けで徹夜してくれたようだし、、、」

 

マリエさんが声色をやわらげて語る。解放の兆しにガイさんの表情に希望が

 

「5分で許してあげる♪」

 

そういうとより一層左手に力を籠めるマリエさん。

 

まあ、なんだ。ガイさん頑張って!

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

5分後解放されたガイさんはフラフラになりながら帰っていった。帰り際にしおれたサムズアップとともに「少年、がんばりたまえ」と言葉を残していった。

 

まあ、不器用なだけでいい人なんだろう。

 

多分そのことについてはマリエさんも知っているはずだ。

 

「さて、悟ちゃん?」

 

名前を呼ばれて固まる俺。応接室にはガイさんが抜けて静けさが漂っている。

 

何とか返事をする俺にマリエさんは

 

「何か言いたいことはある?」

 

と俺に発言を促す。マリエさんが言いたいことはなんとなくわかる。それに対しての答えを今、求められているんだ。

 

俺は口を開く

 

「お、俺、、じゃなくて、私は・・・強くなりたいです。今まで私は周りのことを・・・あまり気にしてない、というより気にすることが怖かったんです。マリエさんのやさしさにも裏側があるかもって勝手に怯えてて」

 

マリエさんが悲しそうな表情をする。

 

「本当はわかってたはずなのに、優しくされると、自分がより一層醜く感じて・・・いて、だから一人でどうにかしたい、生きていきたいと思って強さを求めていました。でもそれは間違ってたって今では思っています。」

 

マリエさんは静かに俺の目を見据えている。

 

「・・・世界は私を必要としていない・・・かもしれないけど。私は自分の行動を後悔したくないし、この世界で私にやさしくしてくれる人にも後悔してほしくないだから」

 

俺は

 

「私は、強くなりたいです。ハッピーは無理でもよりベターな結果のために。」

 

強く言い切った後、沈黙が流れる。

 

言葉は少し濁しているがこれは俺なりの決意表明だ。この世界は厳しい。俺ができることは少ない。けれど、トラックから女の子を助けたことを誇れるように。この世界での出会いを繋がりを大切にしたい。

 

そのためにも、俺は強くなりたい。結果自体が変わらなくても、より良い未来のために!!

 

・・・

 

沈黙の中、マリエさんは真剣な表情のまま目をつむり、何かを考えている。そしてその口を開いた。

 

「私が聞きたかっことはガイ君が他に何かやらかしてないかってことなんだけど・・・(照)」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・は?

 

 

えっちょ何、qあwせdrftgyふじこlp

 

落ち着け俺、いややっぱ無理だわ

 

「死にます」

 

 

「ちょっとちょっと待って悟ちゃん大丈夫、大丈夫だからね?お姉さんそういう真剣な話をしてくれて嬉し・・・あ、ちょっと逃げないで」

 

マリエさんは逃げる俺を抱きしめ引き留める。

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

豊満なマリエさんに包まれて、俺のささくれ立っている感情の棘が抜かれる。

 

「・・・・・恥ずかしいんで離してください。」

 

「だーめ、絶対に逃げるでしょ?そうだこのまま一緒に寝ましょ!!もう夜も遅いし」

 

「はあ!?何言って・・・」

 

「3歳児なんだから甘えても良いのよ~?」

 

俺がリアクションを返すたびに嬉しそうな顔をするマリエさん。

 

そのままからかわれながら俺はマリエさんの部屋に連れ込まれ、布団に横にされる。

 

「ちょっともう・・・勘弁してえぇ・・・」

 

「最近はあまり悟ちゃんのお顔見れてなかったけど、恥ずかしそうにしてるのも相まって可愛いわ!結構中性的な顔立ちになってきているわね・・・声も割と女の子みたいだし、綺麗なグリーンの目も可愛いわ、うふふ。無理して私って一人称にしてるけど本当は俺って言いたいのね。可愛い可愛い♪」

 

猛烈に可愛い可愛いと連呼し、その後顔をこねくり回され、落ち着いたら頭を撫でられながら子守唄を聞かされた。

 

そんな子供みたいな扱いで寝るわけ

 

「スピー・・・・スピー・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。悟ちゃんがんばったね・・・貴方が安心できるよう私も頑張るから。」

 

 

 

 

 




ガイさんがお酒に弱いかどうかはちゃんと調べてないけど弱そう。場酔いしそう。


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5:よい子のための忍びっぽさ講座

思っていたよりもたくさんの方に読んでもらい感想までいただけるなんて、良いものですね。


気分的には全くの「新しい」朝が来た。今までなら俺は施設の朝食の準備を手伝っていたが、今日はなんと、普通に寝過ごした。

 

「・・・悟ちゃん昨日の今日でこんな事言うのもあれだけどもっとゆっくりしたら?」

 

急いで身支度を済ませ食堂に向かったが朝食の時間はとっくに終わり、マリエさんが洗い物をしていた。ぼさぼさ状態の俺を見てマリエさんは少し笑っている。

 

「習慣が根付いているのか何か手伝いをしないとって義務感がでてしまって・・・」

 

ふと、俺は違和感に気づく。この時間は普段朝食の洗い物を済ませ、洗濯物を干している時間だ。別に家事の時間がずれることは不思議でないが、周りに気を配る余裕のできた俺は昨日の衝撃的な初忍術見学の体験から一つの結論にたどり着く。

 

「もしかしてマリエさん」

 

「なあに、悟ちゃん?」

 

「もしかしてなんですけど “影分身”ですか?」

 

遅れた朝食のトーストを食べながらの俺の質問に、軽く驚くそぶりを見せたマリエさんは恥ずかしそうに

 

「ばれちゃったかあ」

 

とおどけて見せた。

 

俺自身、マリエさんが元忍びだったのは昨日知ったことだ。ガイさんが一楽で上機嫌に武勇伝を語っていたしマリエさんが俺のことを心配して相談事していたことも聞いた。

 

今までこんな施設の切り盛りをどうしているのか(他の職員さんは少ないため)気になっていた。・・・いや気にしてる余裕がなかったが正解か。

 

まあ、つまりは影分身を使えるから文字通り、独り舞台でも問題なかったってことか。

 

「私の手伝いは本当に意味がなかったわけですか・・・」

 

「そんなことないわよ、私嬉しかったわ!でも出来れば元気に遊んでくれていることの方がもっと嬉しいわ!」

 

なんてフォローを入れられる始末。

 

「影分身がいるなら言ってくれれば、、、あっ」

 

あることに気づいた俺と、俺が気づいたことに気づいたマリエさん。

 

そうだ。自分にそのつもりがなくても俺はべったりとマリエさんに甘えていたってことだ。

 

俺が「存在意義」を見失わないよう気を配って秘密にしていてくれたのか・・・。

 

自分の子どもっぷりに笑いがこぼれる。

 

「ふふふ、はっはっはっ!あー、可笑し。私って本当に子どもですね。あー、ちなみに分身体って何人いるんですか?」

 

俺が落ち込むかと思っていたのか心配そうにしていたマリエさんは、俺が気にしていない様子に安心したようだ。

 

「悟ちゃんが落ち込むかと思って言えなかったのよ~。何人だと思う~?」

 

ふむ、影分身はチャクラを均等に分け分身体を作る術。作る人数が増えるほど使うチャクラ量は大きくなっていき最悪術者を死に至らしめる。だから“多重影分身の術”は禁術指定で、それをバカすか使う「ナルト」は

チャクラ量が凄まじいという話なのだ。

 

つまり、多くても二桁は行かないはず・・・。

 

「4人とか・・・ですか?」

 

マリエさんの家事スキルなら4人も入れば十分お釣りがくるはず。これぐらいだろうか?

 

「ふふふ、正解は~?」マリエさんはニコニコしている

 

「正解は?」俺が正解を聞こうと促す。

 

 

 

 

 

「20人」

 

「多くないですか!?」

 

「いや~私のんびり屋さんだから分身体ものんびりお仕事してて、捗らないのよ~。一応悟ちゃんの前だと分身体も張り切ってテキパキするんだけどね~。」

 

ていうか20人のマリエさんに気づかずに施設で3年も過ごしてたのか俺・・・。

 

「でも20人もいると疲労がすごくないですか?影分身って経験とか疲労とかが本体にフィードバックするっていう術じゃないですか。」

 

何気なく俺が質問すると、マリエさんの洗い物を終えてのタオルで手を拭く動作が止まる。

 

マリエさんの顔は笑顔のままだが何か考えている様子だ。なんだ?まずいことでも言ったか・・・?

 

 

 

いや、言ったわ俺!?何で3歳児が影分身の仕組み知ってんだよ!怪しまれる!ていうか怪しい!!

 

俺は自分の失態に気づき目線を下げて、言い訳を考えうろたえる。

 

そんな俺にマリエさんが声をかける。

 

「悟ちゃんって~」

 

 

まずい

 

 

「勉強が好きなのね~」

 

 

・・・・勘違いしてくれてる?

 

「3歳なのに、結構ハキハキとお喋りができるし、受け答えも上手。」

 

大丈夫か?

 

「気が付いたら当たり前のように読み書きができて~。」

 

ん?

 

「教えてもいないのに、1歳半のころから自分の情報が載っている書類を漁っては読んでて~。」

 

んんん?

 

「昨日なんて3歳児が世界を良くしたいなんて真剣に語ってて~。」

 

あっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「演技するなら、もっと上手にね」

 

俺が目線を上げるとそこには、誰も、いない。

 

この食堂から人の気配が消え、そとではしゃいでいる施設の子どもたちの声が聞こえる。

 

心臓がバクバクと唸る。

 

 

 

 

 

「う・し・ろ」

「なあああああああああ!?」

 

後ろから不意に聞こえたマリエさんの声にびっくりして大声を上げる俺。

 

「なーんて冗談♪悟ちゃんがアカデミーでもやっていけそうで私安心したわ~」

 

「はは、ははは・・は」

かわいた笑いしかでない・・・

 

俺が椅子からずり落ちそうになって放心していると、視界に何かが覆いかぶさる。

 

「はい、お面は私が直しておきました!今日も公開演習場に行くんでしょ?気を付けてね~」

 

とそういってマリエさんはボンっと煙を上げて消えた。

 

俺が放心しながらもなんとか食堂を出ようとすると

 

 

「外ではしっかりと演技しろよ」

と耳元ではっきりとマリエさんの声が聞こえた。

 

振り返っても誰もいない・・・

 

 

忍って怖い・・・

 

マリエさんは俺のことどう思っているんだ・・・?

 

一応心配していてくれている・・・のか?

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

俺が何とか気力を持ち直し、狐のお面をつけ施設の掃き掃除をしていると同じく掃き掃除をしているマリエさんとバッタリ会った。

 

「・・・」

 

お互いに沈黙が続く

 

次第にマリエさんの顔が赤くなっていく。照れてる?

 

「あの、マリエさん?」

 

「・・・・(公開演習場に行くのって午後からだったね。)

 

小声で俺が公開演習場に行く時間を勘違いしてたことを告げたマリエさん。

 

「えーとその、マリエさん?」

 

「・・・(はい)

 

「さっきのは・・・」

 

俺が疑問を投げるとマリエさんは恥ずかしそうに俯き唸った。それから一分ほど唸ったあと、返事を返してくれた。

 

「実は・・・悟ちゃんが普通の子じゃないことには早くから気づいてて最初は私も少し警戒していたの。けれど本心から怯えている様子から、悪い子じゃないのは何となくわかったの。何か事情があるのは分かるけど無理に聞くことじゃないし・・・けれど私心配だからあまり外では怪しまれることしないでねって意味を込めて、忍びっぽく忠告してあげようと思ってたら・・・」

 

「たら?」

 

「反応が面白くて悪乗りしてしましました・・・」

 

「なっなるほど・・・」

 

やっぱりマリエさんはマリエさんだった。

 

「だってずっと「はい」、「わかりました」、「大丈夫です」ばっかりで会話してくれなかった悟ちゃんが、急にお話ししてくれて私混乱しちゃってて・・・」

 

「ああ、なるほど・・・確かに私のせい(?)ですね。」

 

マリエさんの動揺を抑えるためにとりあえずの同意を返す。

 

だが、俺が不自然なことにマリエさんは気づいていたんだ・・・。思い返してみればガイさん相手にも怪しい態度とってたかも・・・。

 

心配はすれど、深くは詮索しない。マリエさんの親切に俺も答えなくては。

 

「俺」

 

「ん?」

手で顔を隠して恥ずかしそうにしていたマリエさんがこちらを向く。

 

「いつか必ず、必ず事情・・・ていうやつを話すので待っててくれませんか?」

 

俺のこの世界でやりたいことが全て終わったら必ず事情を話す。気味悪がられてもいい。ただ俺に良くしてくれているこの人には正直でいなければ。

俺の言葉にマリエさんは短く

「わかったわ。」と返してくれた。

 

お互いまだ知らないことばかりだが、この信頼の絆は俺の心の力を強くしてくれるはずだ・・・。

 

「あの改めてお願いしたいことがあるのですが、いいですかマリエさん?」

 

俺がお願いをしようとするとマリエさんは嬉しそうに胸を張って答えてくれた。

 

「お願いなんて、何でもしてくれていいのよ!私に出来る事なら!」

 

 

「俺に、忍術を教えてください。出来れば影分身の術を。」

「いいわよ!」

 

食い気味に了承してくれたマリエさんはニコニコしている。

 

「あっでも今日公開演習場に行ったあと、寄りたいところがあるので時間は夜でもいいですか?」

 

「もちろんいいわよ。でも忍術を教える代わりに私からのお願いも聞いてくれる?」

 

「お願い・・・?」

 

「しばらく体のトレーニングは禁止ね。悟ちゃん気づいてないと思うけど体のあちこちがズタボロよ?」

 

ズタボロっていうほど自分の体に痛みとかはないのだけれど・・・

俺が不思議そうな顔をするとマリエさんはおでこに手を当てため息をつく。

 

「悟ちゃんが夜、ろくに寝もしないでトレーニングしてたせいで色々と限界がきているはずよ。忍術には身体エネルギーと精神エネルギーを混ぜ合わせて練るチャクラが必要なの。悟ちゃんは体力もメンタルもボロボロの状態だったのよ?昨日なんてそんな状態でガイ君と組み手なんてして・・・今の状態で忍術なんて教えても意味ないわ。だからしばらくは安静にしてチャクラを練り感じるところから始めましょう。」

 

「ガイさんとのあれは組手と言えるか微妙ですがなるほど・・・だからチャクラのチの字も感じられなかったのか・・・」

 

俺が自分の状態に納得がいくとマリエさんは

 

「それじゃあ、夜帰ってきたら私の部屋に来てね?」

と言って別の部屋の掃除に向かった。

 

確かに漫画とかでも身体とか精神とかの単語が出てたきがするなあ。と考えながら俺も別の場所の掃除をしに行った。

 

~~~~~~~~~

 

昼食をすませた俺は、公開演習場へと向かう。

そういえば、公開演習場はガイさんがボコボコと穴を空けてた気がするけど大丈夫なのか?公共施設を封鎖した挙句荒らすとかかなりの問題行動な気がする・・・。

 

そんなことを考えながら公開演習場につくと、心配とは裏腹にいつも通り人が賑わっていた。穴も塞がっている。

例の立ち入りを制限してたガイさんの「部下」さんが直してくれたのかな?誰かは知らないけど苦労人そうだなあ・・・。

とりあえず良かったと思いながらも、俺はテンテンちゃんを探す。どうしても謝りたいのだ。

 

そう思いながら公開演習場を軽く走って探していると、奥の木々が生い茂っているスペースの丸太が三本植えられたところでテンテンちゃんを見つけた。

 

俺が声をかけようとするとバシンッ!!と音が弾けた。

どうやらテンテンちゃんが棒で丸太を叩いているようだ。こちらに気づかずに丸太に打ち込みをするテンテンちゃんを眺めながら俺はしばらく木陰に座り待っていた。

 

しばらくすると「ふう」と一息ついてテンテンちゃんが振り向き俺と目が合う。

 

俺は立ち上がり謝罪の言葉を述べた

 

「テンテンちゃん、この間はごめんね。急に怒鳴って帰っちゃって・・・」

 

テンテンちゃんはジトーと俺を嘗め回すように見て

 

「さとる君、大丈夫?」と言った。

 

俺が何に対して大丈夫と言われたのか分からないでいると、テンテンちゃんから答えてくれた。

 

「昨日、変なおじさんがさとる君がどんな子かってしつこく聞いてきて、怒らせちゃったっていったら『おれにまかせろー』って言って走って行って・・・。変なことされなかった?」

 

ああ、ガイさんの身辺調査・・・。それで俺の心配をしてくれたのか。

 

「一応大丈夫だったよ。一応」

と俺は笑顔をつくろって答える。お面をつけてるけど雰囲気が伝わるはずだ。

 

そっかー、と言ってテンテンちゃんは

「悪い人は私がこらしめてあげるから、大丈夫!」

棒を素振りする。

 

頼もしい限りだ。

 

「それじゃあ、今日は何して遊ぶ?」

とテンテンちゃんが問いかけてくる。

 

この年の子に謝罪とかの、言葉で言うことは伝わりずらいかもしれないと思い、俺は

 

「一緒にお昼寝してくれる?」と提案した。

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

草原で、少女とお面を外した少年が気持ちよさそうに眠っていた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

気が付くと日が傾き始めている時間だ。俺はぐっと背伸びをして起きると隣でテンテンちゃんが笑顔でこっちを見ていた。

 

「私の顔に何かついてる?」と聞くと

「別にー」とニコニコと答える。

 

疑問に思ったが深く考えるのはよそう。今日は行きたい場所がある。

だから

 

「テンテンちゃん、また明日一緒に遊んでくれる?」と聞いた。

今まではテンテンちゃんが俺に話しかけてくれて、遊んでいた。たまにはこちらから誘わないと男が廃るってもんだ。

 

テンテンちゃんは「うん!」と言って元気に返事をしてくれた。

 

するとテンテンちゃんはピースの手をこちらに向ける。これは・・・

俺はテンテンちゃんの意図をくみ取り、ピースの手でお互いの人差し指と中指を結ぶ。

 

「すごいね、さとる君これ知ってるんだ!」

 

「テンテンちゃんこそ和解の印なんて・・・」「本に仲直りの印って書いてあったから!」

 

なるほど、やっぱりテンテンちゃんも気にしてたのか。小さいのによっぽど俺よりしっかりしているよ・・・。

 

「ケンカする印もあってね、こうするの!」と対立の印の仕草をするテンテンちゃん、だけど

 

「それじゃあ、『シー』って言っててケンカにならないよ。」と笑いながら俺は答える。指が一本足りないのだ。

 

「むー、いいもん!さとる君とはケンカしたくないからこれであってるもん!」

とふくれる。テンテンちゃん。

 

俺も人差し指を口の前で立て「それじゃあこれは『ケンカをしない印』だね」と答える。

 

テンテンちゃんは嬉しそうだ。しばらくお互いにに『ケンカをしない印』を続け、笑顔で分かれた。

 

「またねー」と手を振るテンテンちゃんに俺も手を振り返す。

 

心が温まると同時にお腹あたりに何か熱いものを感じる・・・これは?

 

 




無邪気な子どもに負ける大学4年の精神性。まあ今は仕方なかろう


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6:そうだ、伏線を張りに行こう

NARUTOは設定読み込んでるだけで時間が早く進んでしまい大変だあ



テンテンちゃんと明日の約束をして別れた俺は、ある目的地に向かい歩を進める。

元は関わる気がなかったため、場所だけ調べ近づかないようにしていたが色々と事情が変わってしまった。故に今日はその地へと向かう。

 

正直、恐怖9割・好奇心1割だがベターな(より良い)未来のためだ。覚悟は・・・できているとは言えないがやるしかない。大丈夫だ予定ではとりあえず今日は足を運ぶだけにしておくつもりだし。

 

そんなことを考えながら緊張を外面に出さないように気を付けつつ、あーでもないこーでもないと心配事や不安に対する自分へのフォローを入れていたら目的地についていた。

 

「うちは一族」の居住区域。

 

俺だけが平穏に無味無臭に生きるなら絶対に関わらずにおきたい場所だが、決心をして宣言もしたのだ。俺の言うベターな(より良い)未来とはつまり原作の悲劇を軽減することだ。

ここで肝心なのは回避ではなく軽減である。もちろん回避し悲劇自体をなかったことにするのが理想だが、現実は甘くない。だから俺は3点の事件の軽減を目標にこれから、自分を鍛えていくし暗躍もする。

 

1つ、大蛇丸による木の葉崩しの被害軽減。

 

2つ、ペイン=長門による神羅天征からの里の損害の軽減。

 

3つ、第四次忍界大戦での・・・死傷者の軽減。

 

これら三つが俺の目指す目標だ。俺が覚えている原作知識はそれほど細かくはないし、内容も少ない。だからこの3点を目指して・・・どうにかする。当たって砕けろだ。

いや、砕けたくはないが・・・。

 

問題があるとすれば3つの事件はどれも、その場にいた人物全員が全力を尽くしても、被害が甚大であること。つまり、俺個人で動いても限界があるところだ。だからこうしてコネクションを作り(伏線を張り)にきたのだ。

 

つまり、今日の目標は「うちはサスケ」と接触する前振りに来たのだ。

 

だが・・・

 

「サスケ・・・君?呼び方はどうしようか?」とつぶやく俺。

こうフレンドリー過ぎてもあれだし、素っ気ないのも問題があるよなあ。そもそもどう仲良くなっていこうかが問題である。もしも嫌われでもしたら・・・。とりあえず来ただけでアプローチも考えてないしなあ。

 

と居住区前で細かい所でしり込みするをする俺。仕方ない、性分だし。今日は区域を見て回る予定だけだし、そんなに急がなくても

 

「うちの弟に何かようかい?」

 

不意に声をかけられ振り向く俺。声をかけられたときに体が跳ねたし、振り向きもギギギと音が鳴ってもおかしくないくらいぎこちなかったと思う。相手は・・・

 

「うちはイタチ」だ。

 

何故だろう嫌な汗が流れる。彼の生きざまは覚えている。彼が弟のためにどれだけ自分を犠牲にするのかを。だからビビる必要なんてないはずなのに・・・。相手は恐らく10歳ぐらいの子どもだ(遥かに格上だが)。

 

この今の感覚を説明するなら、絶対に壊れない透明な板を挟んで銃口を向けられている、だろうか。しかし、何か返事をしないと怪しまれるぞ。いやもうすでに怪しいな。

 

「と・・・友達になりたいなあ・・・なんて」

「ふむ、そうか。」

 

 

 

気まずっ!

お互いに目を合わせてはいるが、どちらかと言えば俺が目をそらせないというのが正しい。

こうなったら、ここははぐらかして後日サスケ君とあって友達になるなり遊ぶなりして、今の件を有耶無耶にするしかない。とりあえず適当にこの場から離れて・・・。

 

 

 

その時「イタチ、何子どもをいじめてんだよ~?」と陽気な声がした。

 

イタチが「シスイか」とその声の方に振りむき「別にいじめてなどいない」と答える。

 

俺もそちらに目線を向けると雰囲気陽気な人物がいた。

 

「うちはシスイ」。俺の知識ではほとんど詳細がわからない人物。多分絶対強い。

 

「この子がサスケの名を口にしていたので気になってな」

とイタチが答え

「別に外であって遊んだことがあるとかじゃねえの?」

とシスイが返す。

 

このやり取りで俺は、後日イタチに「サスケ君に会ったことがありました。実は遊んだことあります。と説明する」作戦が使えなくなった。「今」関係を説明しなければならなくなったからだ。

切れ者二人相手に俺の演技力では歯が立たない。こうなったら・・・

 

「実は私、忍びを目指しててうちはの一族に興味があるんです。どんな方達か知りたいなあと思ってて、ここに来ました。」

この俺の発言に

 

「ほう」「へ~」と少し関心を持つ二人。

 

「けれど、自分は人見知りというか・・・恥ずかしがりな部分があってお面が手放せないんです。なのでうちはの誰かがおっしゃってた『3歳ぐらいのサスケ君』と友達になれたら良くうちはについて知れるんじゃないかと思って」

 

つまりよく知りたいけど恥ずかしいから同年代から知っていこう、そういうことだ。結局は本心を言い換えただけ。

 

この発言にイタチは少し考えるそぶりを見せる。一方シスイは「ちっこいのに感心だな。」と頭を撫でてきた。心地いい。

 

次第にわしゃわしゃと撫で方が強くなってきたシスイに「やっやめてください~」と俺が狼狽えていると、

 

「なるほど・・・君はどこのこかな。この時間帯にうろつくのは親御さんが心配しないか?」と声色が少し優しくなったイタチがしゃがんで俺に目線を合わせつつ質問してきた。今の時間は午後6時ぐらいか?確かに3歳の子どもが一人でうろつく時間ではない。

 

まだイタチに対するギクシャクした態度は解けないが「・・・中央区の孤児院『蒼い鳥』の者です」とシスイに後ろで縛った髪をグルグル回されながらなんとか答えた。

 

一瞬イタチが悲しそうな顔を見せたが、すぐに穏やかな顔に戻り「そうか」と答え「シスイ、俺はこの子を施設まで送っていく。直ぐに演習場に向かうから準備をしておいてくれ。」とシスイに伝えた。

 

それを受けシスイが「OK、早く来てくれよー」といいその場から消えた。送っていくって俺のことを?どうして?ていうかシスイの動きが早すぎて見えなかった・・・文字通り消えてるよ。

なんて考えていると。

 

「シスイはああ見えて実力派だ。彼の速さには俺もついていくのがやっとだからな。」と言いながら俺の前の背中を見せしゃがんだ。俺はイタチの行動の意図がわからず、少し疑問符を浮かべた。

 

そうすると「時間が時間だからな、サスケとはまた今度会ってくれないか?代わりといってはなんだが俺の背で『忍び』を、『うちは』を感じて見てほしい。施設まで送っていくよ。」と言われた。

 

俺は納得して、「ありがとうございます。ではし、失礼します」とイタチの背に乗る。その瞬間、俺は空を飛んだ。気が付けばそこらの家屋よりも高い電柱の上だ。

 

「す、すごい!」と俺が目を輝かせているとイタチは「しっかりつかまれ」と言い宙をかける。

 

俺を考慮してスピードは抑えられてはいるのだろう。けれど「忍び」の視点は俺からしたらかなりの衝撃で、心をくすぐられる。楽しい。

 

高い視点から見る里と夕日はとても綺麗だった・・・。

 

~~~~~~~~~~~

 

俺の足で30分はかかるであろう施設まで、5分ともかからずついてしまった。

 

少し名残惜しいが施設の前で、イタチさんの背から降りる。

 

「イタチさんありがとうございました!とても貴重な経験でした!また今度サスケ君に会いにいきます!」

俺が興奮しながら感謝を述べるとイタチさんは微笑みながら「そうか、俺との会話に緊張していたようだけど喜んでもらえてよかった。それじゃあまた今度、会おう。サスケともどうか仲良くしてやってくれ」といって踵を返すと

 

「あら、イタチ君!お久しぶりね~」とマリエさんが施設の庭から顔を出しながらイタチさんに声をかけた。

 

「蒼鳥さん・・・お久しぶりです。」とイタチさんが返す。蒼鳥はマリエさんの苗字だ。それをイタチさんが知っているということは二人は知り合いのようだ。

イタチさんは微妙そうな顔をしているが、マリエさんは「大きくなってまあ~。随分とイケメンになって私惚れそうだわ~」なんて言ってはしゃいでいる。姪っ子にでもからんでいるようだ。

 

一通りマリエさんがはしゃいだ後に「それでは失礼します」と言ってイタチさんは消えた。どちらかと言えば逃げたが正しそうだが。

少しの余韻のあとマリエさんから「悟ちゃんお帰りなさい、どう?今日は楽しかった?」と聞かれた。

 

俺は素直に「楽しかった!」と答え、今日の出来事を語りながら施設に入る。

 

テンテンちゃんと仲直りをし、イタチさんの背に乗り宙を駆けた。短くまとめればこうなるが今までのこの世界での俺の経験からしたらとても色濃いものだ。

 

充実した時間を過ごしたおかげか、夕飯は今まで以上にとても美味しく感じ少し多めに食べてしまった。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

夕食の後、俺はマリエさんの部屋を訪ねた。扉をノックすると中から「どうぞ~」と声がしたので扉を開け中に入る。

昨日、もとい今朝ぶりにマリエさんの部屋に来た俺は、部屋の隅の机で書類に眼鏡をつけて目を通していたマリエさんを目にする。

 

瞬間、俺の背後にマリエさんが回り込んできたのには驚いた。俺が背後にいるマリエさんを驚いた様子で見ていると、マリエさんも少し驚いているようだった。

 

「悟ちゃん、今の私の動きは見えてた?」と聞かれたので「なんとか・・・」と答えた。するとマリエさんは俺の体をペタペタと触り始めた。

「ふむ、今日一日激しい動きはしていないようだけど・・・」とつぶやき、俺の目をのぞきこもうとする。

 

「・・・悟ちゃんお面とってもらえない?」「わかりました。」とりあえず素直にしたがった。

ある程度されるがままだったが、しばらくしてマリエさんが口を開く。

「今日一日ゆっくりしてただけとは思えないぐらいに、体調が良くなっているわね・・・。悟ちゃん自分の体に違和感はない?」と聞かれた。

 

違和感?「テンテンちゃんとお昼寝した後ぐらいからお腹あたりが少し暖かいぐらいですかね?」と答えた。

するとマリエさんは「なるほど~。いい傾向ね!」と言い、少し嬉しそうだ。

 

俺の理解が追い付いていないことを察したマリエさんは説明をし始めた。

 

「その温かい感触はチャクラの流れがよくなってきている証拠ね。チャクラは大体お腹あたりで練られるものなのよ。流れが良くなっているおかげで、随分と顔色も良くなっているし、さっきの私の動きを見切ることもできたようね。」

 

俺は「俺はあまりチャクラを練っているつもりとかはないんですが・・・」と答える。自覚はないのだ。こう、チャクラには何というかポーズを決めて踏ん張って捻出するものというイメージがある。

マリエさんは「チャクラを練ること自体は人間は無意識に行っているものなのよ。ただ忍術を使うとき、戦闘時にその量を調節できるのが忍者なの。」と俺の疑問に答える。

 

「ただ」とマリエさんが言い「ただ?」と俺が聞き返す。「悟ちゃんはどうやら普通の人より自己治癒力が少し高いみたいね。普通なら今の状態まで復帰するのにもう少しかかると思ってわ~」

 

おお!?それは俺の長所ってことではないか!この世界に来てやっと自分に誇れることができそうだ。と俺が嬉しそうにしている様子を見てマリエさんは「ただ」と言う。

「えっただってなにか問題でもあるんですか!?」と俺があわてて聞くと「べっ別に問題はないのよ?ただ私は感知タイプ、つまりチャクラの知覚に関してアプローチの手段がある人ではないから、その~、治癒能力の由来が分からないのよ~」とマリエさんは申し訳なさそうに答える。

 

まあ別に由来とかは今の俺にとってはどうでもいいものだ。つまりは・・・

 

「俺がテンテンちゃんと鬼ごっことかで勝てなかったのは、オーバーワークで俺の体がチャクラをあまり捻出できずにいたことが問題なのか・・・」ということだ。

才能なしではなく、人並みに能力がある可能性に小躍りしてしまいそうだ。「あとメンタル面もね」とマリエさんが付け足す。

 

俺の嬉しそうな表情にマリエさんは少し吹きだして笑っていた。「えっなんです?」と俺が聞くと「悟ちゃんが表情豊かで、面白くて笑ってしまったわ~、ごめんね?それに私の前だと『俺』てっ言うしお面も素直に外してくれるしで昨日までのとのギャップが凄くて驚いているの~」と答えた。「マリエさん相手に警戒しても無意味だと気づきましたから、それにマリエさんは何だか・・・」ここまで言い自分の言おうとしていることが恥ずかしいことに気づきごまかしを入れる。

 

「まあ、とりあえず体調面が大丈夫なら“影分身の術”教えてもらっても大丈夫ってことですよね!」と俺が言うと「ばっちりよ!」とサムズアップを返された。

 

「影分身の前に分身の術から覚えていきましょうね~」と言われチャクラの練り方から、印のむすび方を教えてもらい今日の「忍術講座」は終了した。

 

~~~~~~~~

 

 

俺は自室に戻り布団の上でチャクラを練る練習をする。お腹の熱いところに集中してイメージを固め、元の世界では感じたことのない感覚に意識を集中する。イメージとしては無意識に練られるチャクラはたき火だ。このたき火に意識的に薪を入れて火を大きくする。この要領で行けばいけそうだ!こう、より熱くいい感じに~

 

「早く寝なさい」ドスの聞いたマリエさんの声が聞こえる。

背後の扉に恐る恐る目を向けるが開いた様子はない。いや俺が気づかなかっただけのようだ・・・。

 

今日はおとなしく寝よう。俺は仰向けに布団を被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でももうちょっとだけ・・・布団の中でチャクラを練る練習をしようとすると視線を感じた。扉に目を向ける。開いていない。

 

目線を戻すと、マリエさんと目が合った。とてもいい笑顔だ。よし今日は寝よう。

 

 

 

 

 




文の書き方を少し変更。


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7:雲行きが怪しい(物理)

うちわの欲しい季節ですね。


忍術講座から三日ほどたったある日。公開演習場でテンテンちゃんと遊んでいるとき、俺は周囲の大人たちから「平和条約」「雲の隠れの里」というキーワードを最近耳にするようになっていると感じていた。聞き覚えのない内容に原作の世界とは関係ない出来事かな?と呑気に考えていた俺は忍術の修行を並行して行っていた。

 

「分身の術」はすでに完成しており、マリエさんからはチャクラコントロールが上手だと褒められた。今は影分身の術習得のため変化の術を練習している。変化の術は影分身の術と似た原理らしい。つまりは変化のチャクラの表皮を作成する手順が、分身の術の仮定の一つらしい。変化の術は確か「うずまきナルト」の得意な忍術の一つだったなあ、と思いながら俺は里を気分転換に散歩していた。狐のお面を常につけている俺は割と周囲の大人から気味悪がられている。顔を隠したいなら別のお面をつければいいのかもしれないが、このお面はマリエさんからの誕生日プレゼントでもあって大切にしたいものだ。今思えば狐のお面を扱う屋台とかこの里の者からしたら気のいいものではないのかもしれなかったが・・・。

 

ただお面をつけているだけでこれだ。狐本人の扱いがよりひどいものだというのは考えるにたやすい。俺はまだ見ぬ主人公への同情を思いながら、いつもの公開演習場とは別の公園へと足を運ぶ。・・・ん?少し騒がしいな。

 

「きもいんだよーお前の目え!」 「なんか言えよー!」 「ほらほら泣けよー」

 

・・・いじめか。7人の子ども囲われた女の子。別にここの世界だけと言わないが陰湿なのは見ていて気持ちいいものではない。

俺は声をかけていじめを止めようとする。

 

「ちょっとそこの「うらあーーーーー!」」オレンジの影がいじめっ子たちの一人にドロップキックを決める。スカッとした、いやっそうじゃない!

ドロップキックを決めた少年は、残りの6人に囲まれて袋たたきだ。流石に俺も止めに入る。

 

いじめっ子たちが「なんだこいつ調子に乗りやがって!」と殴る蹴るを繰り返す。そのうち一人の服の襟をつかみ後ろに投げ飛ばす。チャクラを正しく使えるようになってきた俺に、ただの同年代を投げるのなんて造作もないことだ。

 

残りの5人がこちらに顔を向ける。「いじめを見過ごす「でやーー!」俺の言葉を遮りオレンジの少年は、注意のそれた一人に殴りかかりマウントを取る。・・・俺の発言をおとりにするな。俺は無言で残り4人がオレンジの少年の妨害に入らないよう間に入る。どうやら俺の風貌に少しビビっているようだ。けれど、直ぐに俺たちに殴りかかろうとする4人。先頭の子の殴打をしゃがんで避け、後ろに突き飛ばし後続にぶつける。ぶつからなかった1人に勢いをつけ近づき、そのままの投げ飛ばす。コケている3人のうち、一人はオレンジの少年に2人はこちらに向かっている。オレンジの少年はマウントを取っていたいじめっ子を倒し、向かってくる子にタックルを仕掛ける。

 

相手は2人、俺は印を結び術を発動する。俺が二人に増え、ひるむ子どもたち。そのすきに俺たちは各相手に殴りかかる。二人の少年は防護の態勢をとるが片方の俺はすり抜け、もう片方の俺は殴る姿勢をフェイントに相手を背負い投げる。そのまま俺がすりぬけて混乱する子どもに、投げつけて二人を倒した。オレンジの少年も勝ったようで、こちらに視線を向けている。いじめっ子たちは俺たちに敵わないことをさとり、逃げていった。

 

「やあ、大丈夫だっ「すげー!今二人にならなかったか!?」大丈夫そうで良かった!」発言を被せてくる少年に俺は負けじと言い返す。そんなことより、「そこのきm「お前大丈夫か!?」オレンジの少年は最初に囲まれていた少女にかけより寄り添う。・・・もう気にすまい。

「う、うん・・・ありがとう・・ございます」少女はオレンジの少年の手をとり立ち上がった。今更ながらこの二人は俺の知っている人物だろう。

 

オレンジの少年は「うずまきナルト」、最初にいじめられていたのは「日向ヒナタ」。確かこの二人は将来結婚するんだっけか?原作最終巻は途中までしか読んでないから、正確に覚えていない・・・。

ナルトの笑顔に、赤面するヒナタ。俺はお邪魔っぽいし、ここは一度退散「ヒナタ様!!」あわてた声がする方に目を向けると恐らく日向の者と思われる女性がいた。

 

「ご無事で・・・!?」・・・いじめられてボロボロのヒナタに取り囲む少年2人・・・あっ。瞬間俺とナルトは打撃を受けて吹き飛ばされ植え込みに突っ込んだ。ヒナタが「ち、ちがうの!」と訂正しようとしていたが気が付いたときには女に連れられその場から消えてしまっていた。

 

 

・・・俺はあまり運がいい方ではないのかもしれない。そう思いながら植え込みから脱出し、ナルトに手を貸す。「いてて、なんだってばよ~」と言いながら出てきたナルトは俺に目を向ける。「なんでお面なんてつけてるんだ?」と問われたので「恥ずかしいから」と簡潔に答える。ナルトは納得できていない表情だったが、とりあえず俺は自己紹介をする。「私は黙雷悟。いじめから助けたのに災難だったね。」というと「俺は!うずまきナルト!・・・あの姉ちゃんも俺のこと怖い目で見てたなあ・・・」と言った。

 

怖い目・・・確かに俺たち二人を見た日向の女性の目つきは、子ども相手にしては鋭く、打撃も割と3歳の子ども相手にしては容赦がない威力だ。九尾の人柱力に、狐のお面の少年。この里の人物からしたら不幸の象徴(俺はついでだが)みたいな二人である。納得してしまっている自分がいる。まあ、過ぎたことはしょうがない。俺は打撃に反応して防御姿勢をとれたし、ナルトはタフなようでもう平気そうだしな。

 

「とりあえず「なあなあなあ!!」だあああ!発言を被せんなあ!!」「おお、ごめんだってばよ・・・」いかんいかん。相手は3歳の子どもだ落ち着け。

 

「とり」・・・・よし黙っているな。「とりあえずお互いひどいケガはしていないようだし、どうする?」俺はナルトに聞く。「俺は今日はもうへとへとだってばよ・・・。」流石疲れているようだ。

 

「ならまた今度、会えたら一緒に遊ぼうか?」俺の提案にナルトは一瞬笑顔を見せたが「へっ!いいぜ!俺が遊んでやるってばよ!」と強がりを見せその場から去っていった。少し離れてからこっちを見て、すぐ走って帰っていった。・・・この頃はまだ激しい悪戯をするほどの承認欲求はないようだ。まだ周囲の悪意、いや敵意か。それにしっかり気づいていない分擦れていない。ただ、今でも尾を引く九尾事件は里に影響を色濃く残し、ナルトはその「責任」をこれから無理やりその背に乗せられ、傷つく。少なくとも事情を把握している数少ない人物に自分が含まれる以上友達ぐらいにはなって気持ちを少しでも和らげてあげられるだろう。

 

少なくとも彼はいじめられているヒナタを助けるため、不利な状況に突っ込めるぐらい良いやつだ。理不尽につらい目にあって欲しくない。・・・そういえば確かヒナタって幼少のころ攫われるんじゃなかったけか?正確な時期は覚えていないが、相手は雲隠れ・・・。時期は近いのかもしれないな。そんな身近な理不尽に俺はまだまだ無力だ。そういえばヒナタがさらわれた結果「日向ネジ」がグレるんだったか?・・・・いやだから俺は無力だ、考えるだけ無駄。今日はうちはサスケと会う予定だし、素直にうちは居住区に向かおう。俺は自分が関わるレベルではないことを自分に言い聞かせてながらうちはの居住区へと向かった。

 

~~~~~~~~~

 

 

はい、着きましたうちは居住区。時間は現在午後3時ほど。ここは里の中央から離れているため、来るのに時間がかかるが仕方ない。そんなことより、サスケやイタチさんの家ってどこだろうか?・・・とりあえず練り歩くか。

 

うちは居住区はやはりうちはの人間が多い。俺があからさまに外部の人間であり、狐のお面のを被っているのも相まって視線を良く感じる。あまり気にしないように、俺が散歩を続けていると美味しそうな煎餅屋が目に入る。おやつの時間も近いしちょうど良いと思い俺は煎餅屋で煎餅を買おうと店主に声をかける。

 

「すみません、煎餅を二つ欲しいのですが・・・」店主の男の人は「あいよ」といいこちらを振り返る。俺のお面を見ると一瞬顔を歪ませるが、それでも平静に煎餅を売ってくれた。煎餅の袋を受け取り店先から離れようとしたとき「嬢ちゃん」と店主に声を掛けられる。「あ、あの私、男です」と訂正を含めながら店主に目線を送ると「おお悪いなあ、声がかわいいもんで勘違いしてしまった。お詫びに一枚おまけしてあげよう。」といい追加で煎餅を一枚もらった。

 

「それで何かようですか?」と俺が聞くと「実はうちの女房が時間になっても帰ってこなくてな、見かけたらでいいんだが俺が待っていると伝えてくれないか?」どうせどっかで世間話をしてるんだろうと付け足しあきれた様子でと頼まれた。俺は「わかりました」と答え店主の奥さんの人相を聞き店を後にした。

 

そんなこんなで、煎餅を一枚、細かく割りお面の下の隙間から入れて食べ歩き続けること10分ほど。目当ての人物である煎餅屋の奥さんが世間話をしているのを見つけた。

世間話の相手は黒髪ロングの女性のようだ。・・・さて見つけたはいいがどう話しかけようか。俺が少し考えていると黒髪ロングの女性がこちらに気づき声を掛けてきた。

 

「ちょっとそこのお面の君、あなたこのまえうちのサスケを訪ねに来てくれた子じゃない?」と言われ相手が誰なのか察した。おそらくイタチさんとサスケの母親か。イタチさんが訳を話していたんだろう。俺は「そうです」と肯定を返し、二人に近づく。「自分は黙雷悟と言います。サスケ君と・・・その友達になりたくて」・・・若干恥ずかしいが事実だ。俺がそれを伝えると「あらやっぱり?イタチが貴方のことをサスケに話してて、ピンと来たの!サスケも同年代の友達が少ないから貴方とあってみたいと言ってたわ。」なるほど拒絶はされてなくて安心だ。俺は「良かったです」と返し、サスケの母親と話していた煎餅屋の奥さんに煎餅の袋を見せながら「旦那さんが帰ってきて欲しいっていってました」と伝えると「あらやだ、もうそんな時間?ありがとうね嬢ちゃん!」と言って軽くサスケの母親と別れの挨拶をしたのち、小走りで帰っていった。

 

「あら、貴方女の子なの?」と聞かれたが「男です・・・」と返し、サスケのいる家へと軽く話しながら案内してもらった。

 

~~~~~~~~~~

 

 

ついてみるとまず家、もとい屋敷の広さに驚いた。流石警備隊の隊長だったか?稼ぎはいいのかも。なんて尻込みしているとサスケの母親、名前を「うちはミコト」というそうだが、そのミコトさんに手招きされ「どうぞ、あがってちょうだい」と促される。俺はその言葉に従い玄関を通り、靴を脱いだ。ミコトさんは「サスケなら庭で遊んでると思うから、先に会ってきてちょうだい。私はあとでお茶でも持っていくわ」といい廊下の奥に消えた。俺は屋敷の外周から見た庭があるであろう方角に歩みを進めると狙い通り庭の縁側に出る事ができた。

 

そこでは一人の少年が、庭に置かれたまとめ掛け木製の手裏剣を投げていた。俺はその様子を少し眺めていると相手がこちらに気づいた。「おわ!?誰!?」と真っ当な反応を頂いたがすぐに「君が俺と友達になりたいお面の子!?」ときらめく眼で問い詰めてきた。俺は少し圧倒されたが「そうです。私は黙雷悟といいます。よろしくお願いしますね?」と返答をする。俺はサスケ君の持つ木製の手裏剣に目線を移し「修行中ですか?」と聞くと「そうなんだ!兄さんのようになりたくて頑張ってるんだけど中々うまくいかなくて」と少し照れながら答えてくれた。

 

なるほど忍者と言えば手裏剣。俺はまだ手裏剣やクナイといった忍びの武器には縁がない。「ちょっと私も手裏剣投げて見ていい?」と聞くと「いいよ!」と手持ちの半分ほどを手渡してくれた。サスケ君の隣に立ち、一度投げてみる。

俺は恰好だけかっこつけて投げたが離すタイミングが遅すぎて地面に突き刺さる。・・・そもそもオーバースロー、野球ボールの投げ方でいいはずなかった。サスケ君は少し吹きだしてたが、俺のとなりで「少し見てて」といって手裏剣を構える。横に手を薙ぎ払うように投げ見事的に当てて見せた。

 

思わず「すごい・・・」と俺がもらすとサスケ君はえへへと鼻をこすりながら照れた。「でもまだ兄さんみたいに真ん中にはちゃんと当てられないんだ」と少し悔しそうにいうサスケ君に俺は「そう?十分上手だよ。でも地面に当てるのは私の方が上手だから」と冗談をいいながら手裏剣を構える。サスケ君は冗談に「なにそれ」と笑顔を見せてくれた。普段言わない冗談が受け満足な俺は先ほどのサスケ君のモーションを真似て再度投擲。手裏剣は的のすぐ横に着弾した。惜しいな。

 

「惜しい!」とサスケ君が声を上げて、俺に手裏剣の投げ方をレクチャーしてくれた。・・・こんなにいい子が、あんな酷い目に・・・。ふと俺の意識がそれると手裏剣はあらぬ方向に飛んでいき庭の外壁を超えてしまった。「おわ!?ごめん!」と俺が謝るとサスケ君は「いいよ、俺がとってきてあげるから練習してて」といって走って縁側へとのぼり、玄関へと向かった。一人残された俺に「サスケ、楽しそうね」とミコトさんが声をかける。

 

「お茶を入れたからこっちに来て」と誘われたので「ありがとうございます。」といい縁側に上がる。外壁の外側にサスケ君の気配を感じたので「見つかりそー?」と大きめの声で声をかけると「あったあった、すぐ戻るよ」と返事が返ってきた。戻ってきたサスケ君はミコトさんからお茶を受け取ると一緒に縁側に座った。「そうだ、私煎餅買ってきたから一緒に食べよ」と言って煎餅を袋から出す。サスケ君は「テヤキさんとこの煎餅だ!」といって喜んでくれた。サスケ君が煎餅にがっつき、お茶で流し込んでいる隣で、俺もお茶を飲む。その様子を見ながらミコトさんは「サスケ、お礼を言いなさい」と少しきつめの口調でいいサスケ君はあわてて「ごめん、ありがとう」と俺に言ってくれた。

 

和やかな雰囲気に俺は「どういたしまして。」と答えながらも笑顔になっていた。しばらく休憩をした後で、再度二人での練習に励んだ。流石にちょっとやそっとでは旨くはならず的に当たるかどうかは五分五分だ。一方でサスケ君は的に当てるか中央に当てるかの五分五分である。すごいと褒めると兄さんはもっとすごいと、兄の自慢がすかさず入ってくる。「兄さんは一度に沢山投げて別々の的の中心に当てるんだ!」と現在の俺の価値観からしたら人間業を超えているような内容に流石に驚く。兄がすごいと伝わり、サスケ君も嬉しそうだ。その後しばらく午後5時くらいまで二人で遊びながら、サスケ君のイタチさんの自慢話に付き合っていると人の気配を感じた。

 

その方向、縁側に目を向けると男性が一人たたずんでいた。俺はその人を認識すると気配のなさに少しビクッとしてしまい、その反応にサスケ君が気づき縁側の人物に気づいた。「父さん!お帰り、今日は早いんだね!」と言う。なるほど彼はサスケの父親、たしか名前は「フガク」さんだったっけ?俺は「お邪魔してます、サスケ君の友達の黙雷悟と言います。」と言い頭を下げる。フガクさんは「ああ、俺はサスケの父、フガクだ」と言いながら俺を少し見定めるように見ている。?俺は何かしたか?と思いながらもフガクさんの目線の意図はいつものお面が原因だろうと思い気にしないように努めた。

 

俺の悪い癖だが、感情、特に焦ったりとか強者に対しての恐怖が表に出やすいようだ。フガクさんに対してもその恐怖の一端を感じてはいるものの、マリエさんが時々遊びで与えてくる謎のプレッシャーのおかげか今回は何とか平静を保てている。務めて平静を装う俺にフガクさんは「そろそろいい時間だ、親御さんも心配するだろうし帰るときは気を付けなさい」といい奥の部屋に移動していった。思わずふーっとため息をついた俺にサスケ君が「疲れた?」と聞いてきたので「少しね、サスケ君のお父さんの言う通りそろそろ帰るよ」と返した。サスケ君は少し残念そうにするが「また、また一緒に修行しよう!」と言ってくれた。もちろん返事はYesだ。

 

俺は帰り支度をし、玄関へとサスケ君と共に向かう。その途中、サスケ君が「ちょっと厠に行くから待ってて」といい俺は廊下の中途半端な位置で待たされた。その時、フガクさんとミコトさんの会話が不意に聞こえた。

 

「雲隠れとの平和条約は来週に取り決められるそうだ。雷影もその時にお越しになる。今日はその当日の警備ルートの下見をしてきた。」

 

「あら、そうなの?何事もなく条約が結ばれればいいのだけど・・・」

 

「・・・どうだろうな」

 

 

・・・来週か。俺が少し考え事をしていると戻ってきたサスケ君が声を掛けてくれる。そのまま二人で玄関まで来ると、ミコトさんが袋を持ってきて「お煎餅をサスケにくれたお礼にこれでも持って行って」とその袋を手渡された。中身はどうやらトマトだ。俺は「ありがとうございます。」とお礼を言い、玄関から外に出る。玄関ではミコトさんとサスケ君が見送りに手を振っている。俺は軽く手を振り返し、家路へとつく。いただいたトマトは冷やして、今日の夕食のサラダにでも入れようかな、と考えながら俺は夕日に照らされた里を駆けた。

 

~~~~~~~~

 

夜、何時ものようにマリエさんの部屋で忍術を習得しようとする俺。今は変化の術を練習している。マリエさんに変化しようとイメージとチャクラを練っていると、不意にマリエさんに声を掛けられる。

 

「悟ちゃん?」それに俺は「どうかしました?」と修行の片手間に生返事を返すとマリエさんはこちらをじっと見つめてきた。すると「何時までに影分身を習得したいの?」と聞かれた。続けて「ちょっと焦ってるみたいだからね~」と言われ俺は苦笑いを返す。「いや~それは~」と返事を濁しているとマリエさんは真剣な表情になっていた。敵わないなあ・・・。

 

 

「例えばですけど」「なあに?」「遥か格上に対して隙を作るとしたら、影分身て便利じゃないですか?」「そうねえ、誘導に情報収集、囮に何でもござれが影分身のいい所ね、影分身を見破るのは変化の術より困難だわ」

「ですよね、流石影分身!」「・・・それで何時までに習得したいの?」

 

 

 

 

 

「一週間後には」マリエさんに変化をした俺は、同じ真剣な表情で答えを返した。

 

 

 




主人公は無茶をしてこそ主人公。


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8:勇気をなす術

ここには誤字報告とか投票?とか色々なシステムがあるみたいですね。


人間は、きっかけ次第で考えもつかないほどの変化を見せる時がある。俺にとっては間違いなく、転生前の事故がそれに当たるだろう。成長と言えるかは、まだわからないが少なくとも理不尽を見過ごすことができなくなっている自分がいる。

 

夜、マリエさんの部屋で恐らく一週間後に起きるであろう事件に首を突っ込む覚悟を決めた俺とマリエさんの間で沈黙が流れる。窓からの月明りのみに照らされたこの部屋の雰囲気は重い。マリエさんからしたら、何か事情を抱えた3歳児が一週間後、里同士の平和条約の結ばれる日に影分身の術で何かをしようとしている、なんて意味不明で理解不可能な状況だろう。

 

今更ながら期限を真面目に宣言したのは正直うかつだったかも・・・。もしかしたらマリエさんは、影分身の術の習得を遅らせるよう指導するかもしれないし、一週間後外出を止められるかもしれない。・・・俺って忍びに向いてないかも。

 

そもそも、ヒナタが誘拐されるとも限らないのだ。ここが、この世界が「NARUTO」と同じ展開が起きる世界だとはまだ俺は確証できる立場ではない。もし事件が起きればおそらく今回の件が、俺がこの世界に本格的に干渉するはじめの一歩になるのかもしれないが。誘拐事件の全容は詳しく覚えていないが、たしか平和条約が結ばれたのち、日向ヒナタが誘拐され、日向ネジの父親が犯人を殺害。殺害の責任を負い、自殺。ネジがグレる。という内容だったはず。細かい所は違うかもしれないなあ・・・。

 

俺が沈黙の中、起きてもいない事件の内容を整理していると、マリエさんが口を開いた。「一週間後には影分身の術が必要になるのね?なら少し修行の時間を多めに取りましょうか。」

 

思っていた反応とは違うが、良かった、マリエさんは協力してくれるようだ。俺が安心した様子を見せたときマリエさんは、再度口を開き俺に問う「『貴方』じゃないといけないことなの?」と。俺自身も考えていた内容に対して「・・・はい」と答える。

 

この件に俺が出しゃばる必要性は皆無なんだと思っている。むしろ木の葉の忍びに依頼して警備を厚くするとかしてもらう方が事件を解決するのには現実的だろう。実力者に協力してもらうのも手だ。ただ幾つか問題がある。

 

その1事件の証拠がない。起きてない事件の証拠があるはずもなく。その1が結構決定的だが、

 

その2被害の拡大。こっちが俺が他人に任せない主な理由だ。

 

その3コネクション不足。

 

つまり現状、俺の妄言に付き合う人間、さらに言うなら実力者はいない。話を聞いてくれそうなガイさんでも、本編に絡む人に万が一があったら大きな問題だし、マリエさんに任せるのも問題外に決まっている。

 

被害の拡大とは『俺が知っている』被害からの剝離することだ。今回の件で言うなら誘拐を阻止した日向が、損をくらうのが納得がいかないのだ。それに本来関わらない人を巻き込むのはできるだけ避けたい。日向を助けても巻き込んだ人に被害が行っては元も子もない。

 

つまりほっといても解決するこの件に首を突っ込むのは完全に俺の自己満足、エゴでしかないのだ。

 

俺の返事にマリエさんは「死なないで」とはっきりと口にする。むろん死ぬ気はない。もう一度死んで、死ぬのにはこりている。ただ悲劇を見過ごせないわがままな俺がいるだけだ。

 

ただこのお節介をしなければ俺は、また後悔に溺れる自分に戻ってしまう、そんな気がするのだ。

 

「・・・いいんですか?」と俺は無神経な質問をする、いいわけがないだろう。けれど事情も聴かず止めもしないマリエさんの行動に違和感を覚えた俺はマリエさんに質問をした。マリエさんは辛そうに「貴方の選択ですもの。私がケチをつける理由はありません。それに貴方は人の痛みを、理解してあげられる人だから。・・・だからこそやらないといけないことなのよね?」と答えてくれた。

 

マリエさんは「俺」を信頼してくれている。俺の覚悟を読み取ってくれている。けれど、マリエさん自身に納得していないというか、何かを嘆いている様子に俺は理解が及ばない。ただ「はい・・・!」と強く答えて安心させてあげることしかできなかった。

 

また沈黙が流れる。不意に椅子から立ち上がるマリエさん。マリエさんに変化をして立っている俺と目線が同じになる。するとマリエさんは右手を上げる。俺がその手に目線を移したとき、急に足元をすくわれた。

 

マリエさんの足払いにより、俺の体は宙に浮き変化の術も解除される。マリエさんの身長分の高さから、落下し尻で着地した俺は「イッタい!」と声を上げる。一応このマリエさんの部屋は、土遁で補強されているらしく振動や音はあまり外には漏れない。一応シェルターの役割もあるらしい。

 

閑話休題

 

俺が立ち上がるとマリエさんは解説をし始める。

 

「この様に変化の術は衝撃に弱いわ。悟ちゃんの場合、自分の体より大きなものになるとき、本体がカバーしていない部分がより脆くなるの。今の場合、頭の位置は、変化の術の『義体』と悟ちゃんにズレはないけど、手足は悟ちゃんの本来の手足は全く届いていない。だから簡単な足払い程度でも解除されてしまうの。また、影分身の術も変化の術同様に衝撃によって解除されるわ。・・・つまり、悟ちゃんができる精いっぱいは『隙』を作ること。それも物理的な方法はリスクが高いことを忘れないでね。」

 

急なマリエさんの本格的な指導に一瞬あっけに取られるが、すぐに内容を理解し「わかりました!」と返事をいう。この日の夜からマリエさんは元の予定よりも早く、影分身の術習得のためのレクチャーをしてくれるようになった。

 

またそれに並行して俺が使える忍術。分身の術と変化の術に対して理解を深める勉強も行われた。

 

 

分身の術の原理は、自身の体の見た目をチャクラで再現しているという単純なものだ。例えるならホログラムだったり、霧に光で映像を映しているのがあげられると思う。

 

変化の術は、分身の術の延長にあたる。霧のように薄いチャクラで見た目だけを再現するだけではなく、質感をも再現する。見た目を変えられる、チャクラで出来た義手・義足を着けていると考えればわかりやすいかも。もちろん分身の術にくらべ質感を出すので、消費するチャクラ量は多い。

 

ちなみに変化の術の質感は極めれば、鉄をも再現できるとか。影分身が刀に変化して、それで本体が切りあうとかの芸当もできるようになるかもしれない。一応小物に変化する変化の術は時空間忍術に分類わけされるようだ。まあ、俺ができる変化の術は見た目の再現に精いっぱいで質感にまわすチャクラ量は少ないので脆い。そして小物に変化することもまだできない。悲しい。

 

そして、影分身の術。分身の術のように離れた位置に、全身を変化の術の要領で作った『義体』で再現するのが影分身の術だ。そして影分身の術による分身体は『意思』を持つ。チャクラには本人の『意思』が深くに宿っているらしい。印を結びチャクラが持つ、術者の『意思』を表面に出すことで、チャクラの『義体』は自分で考え行動するようになる。

 

影分身の術は『意思』を表に出しているため、分身体の経験はチャクラに強く刻まれる。だから術が解除され、本体に分身体のチャクラが戻るときに、情報や感情、疲労などがフィードバックされるのだ。ちなみに俺は勘違いしていたが、影分身の術はチャクラを完全に等分にしているわけではないようだ。敵の目の前で使ったときに、内包するチャクラ量が違うと簡単に本体を見切られてしまうから等分にしているにすぎないようだ。

 

つまり、単純作業をやらせるだけだったり強度を気にしなかったり、本体がばれても問題ない場合は分身体の数はより増やせるのだ。つまりこの施設でマリエさんが20人もの数の分身体を出せるのは、『義体』分と内包させる分のチャクラ量を低コストで済ませているからである。さしずめ安価版影分身と言ったところか。

 

術の特性を知るとなるほどと思うところはある。例えばナルトが分身の術をアカデミーの卒業試験で出来なかったのにも関わらず、印を覚えただけで影分身の術を成功させている。分身の術は、簡単な部類だがチャクラコントロールを必要とし、使うチャクラの分量が多すぎると中途半端に実体をもった『義体』ができてしまい体を支えられるずに崩れてしまうのだ。それに分身の術はチャクラの意思を引き出さないので、完全マニュアルで動かさなければならない。

 

一方で影分身の術は、極論全力投球で行使しても成功する術である。チャクラの量が多くても、分身体が増えるか、『義体』が強固になるだけ。チャクラコントロールは必要ないのだ。人並みの運動性能を持つ『義体』に本体と同じ分量のチャクラの内包量。『義体』使った分のチャクラは本体には戻らない所を考えるととんだブルジョワ忍術だ。まさにナルトのための忍術と言っても過言ではないのかもしれない。

 

結局、俺が影分身の術を使えるようになったのは木の葉と雲の平和条約が結ばれる二日前の夜だった。俺自身チャクコントロールは得意だが、量は特別多くない(むしろ3歳児なので少ないぐらい)。なので使えるクオリティの分身体は出せて1体であった。

 

そして影分身の術習得の間、俺は様々なことをしていた。テンテンちゃんと本屋に行き、忍びについて学んだりした。テンテンちゃんが憧れる忍びは伝説の三忍の一人「綱手」らしい。俺が知る限り、タイプがまるで違うので戦闘スタイルまで真似るのはよした方がいいと、時が来たら言ってあげようと思う。

 

また、ナルト君とも以前会った公園で再会し、一緒に遊んだりもした。そのとき影から様子を伺うヒナタちゃんも見つけたので割と強引に遊び仲間に入ってもらった。ヒナタちゃんを誘った理由は、何気ない会話から日向の様子をしるためだったりするが。

 

そして平和条約が結ばれる、もとい恐らく誘拐事件が起きる前日。俺はサスケ君と共に、最初に会ったときと同じく手裏剣術の練習していた。

 

俺が宣言した日に近づくに連れ、マリエさんは笑顔を見せなくなっていった。当然だろう、自分の施設の子どもが死地へと向かうつもりでいるのだ。しかも詳細は詳しく語らない。いい気分になるわけがない。

 

俺は、そんなマリエさんに対する後ろめたさから逃げるため、修行の時以外はなるべく外出していたのだ。

 

そんな俺の、不自然な様子にテンテンちゃんやナルト君にヒナタちゃんも気が付き心配をしてくれた。

 

そして「大丈夫悟?少し動きが硬いけど」とサスケ君も進行形で俺の様子に気づいた。俺は冷静に「大丈夫、少し疲れているだけだから」と答えた。なにが大丈夫なものか。俺自身決心しようともまだ、己の行いをただの蛮勇としか捉えていない自分がいるのも事実である。言ってしまえばめちゃんこ怖い。

 

そんな俺の様子に気づく別の人物がいた。その人物は俺に声を掛ける。

 

「少しサスケとの修行にこんを詰めすぎているんじゃないのか?どうだ、俺と少し歩かないか?」イタチさんである。

 

イタチさんの提案に「俺も行く!」とサスケ君が上機嫌で答えながらイタチさんに近づく。しかし、イタチさんはサスケ君のおでこを指で突いて動きを止めさせて「悪いなサスケ、悟君と話があるから、また今度だ」と言った。

 

そして俺はイタチさんに連れられ河川敷に来ている。サスケ君は少し不機嫌になっていたが「また今度」という言葉に期待を持っているようで、うれしさ半分の様子で見送ってくれた。

 

イタチさんは斜めになった地面に腰を下ろし、俺に手招きをする。隣に座れというサインか。内心なんでこんな状況になっているのか分からずひやひやしている俺は素直にイタチさんの隣に座る。するとイタチさんは会話を始めた。

 

「悟君は勇気について何か考えたことはあるかい?」と絶対3歳に聞く内容ではなかったが、俺は真剣に考え答えた。

 

「困難な出来事に挑むための心の着火剤・・・みたいなものだと、思っています。」

 

イタチさんは「そうだな、困難に立ち向かうのには勇気がいる。君はなかなか面白い言い回しを言うな。」と俺の考えに賛同を示してくれた。そして言葉をつなげ「俺は勇気は恐怖と同じものだと考えている。つまり恐怖があるとき勇気もあり、勇気もあるとき恐怖もある。表裏一体でかがみ合わせの感情だ。・・・俺は困難に立ち向かうのに勇気だけではなく、恐怖も必要だと思っている」と言った。

 

「君が・・・悟君が何を為そうとしているのか、何に緊張しているのかは俺にはわからないが、君自身そのことから逃げる気はないのだろう?」と聞かれ、この人はやはり何かと鋭いなあと思いながらうなずく。

 

「君ならきっと恐怖をわがものとし、勇気の支えにできるはずだ。だからもっと自分を信じてあげるといい、恐怖を恥じる必要はない」

 

俺は「はい!」と強く返事をする。

 

正直、俺の心構えなんて大局からしたら大した意味は持たないのかもしれない。けれど「恐怖をわがもの」にするという言葉は怖気着いた俺の心を奮起させた。恐怖は大切なことを人に思い出させてくれる。それを勇気というかがり火にくべ、心を強くする。・・・俺がやらねば。

 

恐怖の上に勇気を走らせる覚悟を決めた俺はイタチさんに感謝を述べる。「イタチさん、励ましありがとうございます。俺なりに心に向き合って頑張ってみます!」といい立ち上がる。イタチさんは「そうか」とだけいい少し満足そうな顔を見せた。俺はイタチさんに頭を下げ「用事があるのでもう帰ります、ありがとうございました!」と感謝を述べて背を向け走る。

 

その時イタチさんの方から物が飛んでくる感覚に振り返ると、どうやらイタチさんが小袋を投げたようで俺はあわててそれをキャッチする。

 

「これは?」

 

「俺からの君の勇気に対しての餞別だ。持っていくといい」

 

小袋の中身は丸薬?のようなものが入っていた。

 

「うちは特製の丸薬だ。いざというときのために口に忍ばせておけ」と言い立ち上がったイタチさんは俺に近づく。

 

俺の頭を撫でたイタチさんはその場から消えた。

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

夜、俺はマリエさんの部屋でマリエさんと向き合いお互いに正座をしていた。

 

「本当に明日、、、なのね?」

「恐らくですけど、多分」

 

「平和条約が結ばれる日に悟ちゃんが、遥か格上とやらに挑まなければならないなんて私心配だわ・・・」

「ごめんなさい、マリエさん。だけど・・・」

 

「わかっているわ貴方のことは。秘密主義だろうと、無茶をしようと。ただ一つだけ・・・絶対に帰ってきて」

 

「・・・はい!」

 

俺は立ち上がり部屋を出ようと背の扉に体を向ける。その時後ろから抱き着かれた。

 

そして俺の視界を何かが覆う。

 

「私のお古だけど、狐のお面よりは素性を隠せるし、防具にもなる。持って行ってちょうだい。」

 

俺の視界を部屋にある姿見に向ける。そこには白い無地の、2つの簡素なのぞき穴だけがついた仮面を被り、簡易的な黒い装束を纏う俺と、その仮面を肩を震わせながら俺にあてがうマリエさんが映っていた。

 

「さあ、行って・・・そしてただいまって聞かせてね。そしたら私嬉しいわ」声が震えている。

 

「もちろんです。行ってきます!」

 

チャクラをコントロールし仮面を顔に定着させる。

 

そのまま振り返らず俺は部屋を走り出ていった。

 

その時背後のマリエさんがつぶやく言葉に俺は気づけなかった。

 

 

「ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・・・・」

 

 




術の原理とか空想するのはフ〇ム脳的には楽しいです


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9:右手に乗せるのは「決意・熱血・卑怯」な意思

結構不定期更新ですみません、、、


夜のうちに日向の屋敷の付近まで移動して待機して様子を伺っていた。ちなみに今、俺の見た目は変化の術で転生前の22歳前後になっている。

 

黒髪天パな、身長170前後、細身な男性は屋敷の様子から人の出入りが少々多いこと以外、不審なことはまだ起きていないようだと思った。

 

まあ、事が起きるのは今日、平和条約が結ばれた後だろう。そもそも現在、日向の屋敷にはそこまで近づけていない。日向の人間が使う『白眼』は恐らく俺の姿を捉えると変化の術を看破してしまう。つまり怪しまれる。

 

なので俺は少し遠めの建物屋上から様子見している。ただの不審者。そんなこんなで時間は過ぎてゆく。

 

~~~~~~~~~~~~

 

深夜、待機場所からとりあえず様子見を続ける俺は緊張している。少なくとも雲隠れの忍び相手に時間稼ぎを行うのだ。少しでも時間を稼げば日向ネジの父親が相手の忍びを殺す可能性を下げられるはずだ。

 

里外に逃げられ、余裕がないから殺す。それの責任を取ってネジの父親が死ぬ。なら俺がすべきは雲隠れの忍びを里から逃げ出す前に足止めし、親父さんに任せる。

 

余裕さえあれば殺さずに、穏便に済ませてくれるはずだ・・・。

 

まあ、今日誘拐が起きるとは限らな・・・

 

少しの物音、屋敷から高速で飛び出る影。その影を追う影。

 

事が起きた。覚悟を決めろ!俺!影の飛び出た方向からして、木の葉の大門の方角に向かっているようだ。

 

大門以外には結界術で人の出入りを撃退するように出来ている。結果論だが木の葉に無理難題を吹っ掛ける気なのだ。自分たちの不利になるような結界術に触れることはないのだろう。

 

それを予想していた俺は、一度深呼吸をして息を整え、自身の術を解除する。

 

俺がボフンと煙を巻き上げると、その場には静寂だけが取り残された。

 

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

こちら大門付近に潜伏している本体の黙雷悟です。ただいま影分身の術からの情報を受け取り、奴さんが予想通り大門に向かっているのを確認した。

 

俺のいる位置まで、誘拐犯と追跡者が来るまでもう猶予はない。もうなるようになるしかない。どんな手を使ってでも時間を稼ぐ!

 

印を結び、変化の術を発動する。その時誘拐犯がちょうど目の前まで気ており、俺の変化後の姿に動きを止める。この動きを止めている時点で俺の目的は達成し続けている。

 

俺は化けた相手の声色しゃべり方を思い出しながら演技を始める。「貴様、こんなところで何をしている!」

俺が変化した相手は「雷影エー」だ。この事件の首謀者に化け俺は演技を続ける。

 

「決行日は今日ではなかっt」言い終わる前に俺の脳天に手裏剣が刺さる。雷影への変化は解け、その下から転生前の俺の姿が姿を現す。マリエさんの仮面のおかげで二重に変化していたうちの表だけ解除されただけで済んだ。

 

「そんな稚拙な変化で俺をだませると思うな」と誘拐犯がヒナタを抱えている手とは逆方向でクナイを構え突進してくる。ほんの少しの会話では後方の日向の追手は追いつけないらしい。

 

自分の決意と、ガイさんからもらった熱意、そして忍びとして生きるための卑怯な手。今自分にできる最善を尽くすため、俺も相手に向かい駆ける。マリエさんには物理的接触はやめろと言われたが、仕方ない。

 

俺は口に含んだイタチさんにいただいたうちは特製の丸薬を噛み砕く。すぐに自分のチャクラの量と巡りが良くなるのを感じた。狙いは一瞬。もてる全てのチャクラを右手に籠め、思いっきり殴りかかる。

 

相手の忍びは俺の右手にクナイを突き立てる。相手からしたら、俺の未熟な動きはスローモーションに見えるだろう。そんな俺の全力の一撃を潰そうとしたその動きは空振りに終わる。

 

右手をすり抜けたクナイを俺は見送り、相手の顔面に文字通り3歳児の拳を叩きこむ。ちなみに仕組みは単純だ。右手だけ変化の術を使わず、『分身の術』で再現し、無駄にチャクラだけ纏わせ誤魔化しをかけたのだ。

 

狙いは成功、誤魔化しにチャクラを割きすぎたため、相手を気絶させたりするほどの威力は出ないが怯ませることができた。このまま追げk

 

急に体に力が入らなくなった。殴り抜けた姿勢で前傾に倒れる。倒れた衝撃で変化が解け3歳児の姿に戻る・・・?

 

「ぅあ・・?」胸が熱い。そこに視線を向けるとクナイが深々と俺の胸を刺し、赤い血を流している。敵は俺の右手を狙ったクナイを切り返して俺の攻撃にカウンターを仕掛けたようだ。

 

口からも血が漏れる。まだだ時間を稼がないと。。。。

 

「こんなちびガキが忍術を使っていたとは、ただ所詮ガキのおままごとだ。止めを刺してやる苦しいだろう?」

 

こんなところで・・・死ねない・・・ただいまって言わないと・・・

 

俺はもがくが体が言うことを聞かない。クナイに毒でも塗られていたのだろう。思考がかすみ、息ができなくなってきた。俺の真上で誘拐犯がクナイを構え振り下ろす。

 

「死ね」

 

金属がぶつかる音がする。

「させるか」

 

・・・?知らない男の声が頭上で聞こえる。男がクナイをはじき誘拐犯の態勢を崩すし、顔に横一線の斬撃を繰り出す。誘拐犯の目が血で染まる。

 

そのまま男は柔拳の構えを取り追撃を繰り返す。繰り出される連撃が誘拐犯をのけぞらせ、抱えていたヒナタを取りこぼす。ヒナタは柔拳を絶えず繰り出す男の片手に受け止められ、途中から連撃は片手で行われた。回転しながらの流れるような打撃は誘拐犯に目立った外傷を残さないほど繊細であった。

 

一通りの型のような動きが終わると誘拐犯は打撃の衝撃の少なさに関わらず、崩れ落ちる。

 

「日向の六十四の打撃は貴様のチャクラの流れを止める。観念するのだな。」

 

誘拐犯はもがいているようだが、どうにもならないようだ。

 

日向の男は口笛を吹き、応援を呼んだようだ。俺の意識ももう途切れかかっている。

日向の男は俺に近ずき、抱えて移動を始めたようだ。

 

そこで俺の意識は落ちた。

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ヒザシ、すまない。」

「良いのです。兄上。これも定め。しかし私が選んだ運命でもあるのですから・・・」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

夢を見る。その夢の中では、日向の男性二人に男女の子どもが道場みたいな場所にいた。少しの悶着のあと、額に呪印の刻まれている男がもがきだす。

 

「これは日向の・・・」酷く悲しい運命に縛られた一族の光景を見たあと俺は気が付くと見晴らす限りの草原に立っていた。

 

「ここは転生したときの・・・草原?」ふと自分の体を見るとしっかりと体はある。3歳児の体だ。

 

以前も来たことのある草原は、一本の木が新しく生えている。その下には俺を転生させた神がいた。体は薄っすら反透明だが、こちらに気づくと手を上げ挨拶を交わす。

 

「おっすオラ宇宙人!またあったな!」相変わらずの謎テンションだ。「どうも・・・あの俺ってまた死んだんですか?」また死んだとか言うの割とパワーワードだな。

 

気になっていることを単刀直入に聞くと「いや、死にかけただけで問題はない」と厳格な口調で答えてくれた。少し安心するが現状が気になるところだ。

 

「なんでそんなテンションの浮き沈み激しんですか・・・」と俺があきれながら聞くと、あまり人と喋らないからと答えられた。難儀だ。

 

とりあえず死んでいないならここはいったいどこなんだ?と俺が疑問に思っていると、神様は「ここはお主の精神世界だ。故にお主の記憶や体験を掘り起こしてみることができる。・・・ほれ」と指をさす。

 

そこには『NARUTO』のアニメを見る俺がいた。場面はさっきの日向の道場の場面だ。だが俺自身この時の記憶は覚えていない。

 

「どうやらお主、こっちの世界の様子を知っているようだが、あまり正確には覚えていないようだな。現にほれ」と神様が手を上に扇ぐ。すると記憶の映像が切り替わり、俺が漫画を見ている様子に切り替わる。それは中忍試験。ネジの控室の場面だ。そこでは『日向ヒアシ』がネジに真実を語っていた。

 

漫画を読み進める俺を読み進めると、ある事実に気づく。「あれ、誘拐犯殺したのヒナタの方の父親じゃん!?」

俺の原作知識は間違っていたのだ。大まかにしか合っていない知識に不安を覚える。

神様はあきれた様子でこっちを見ている。そう言われると確かに、見た覚えがないけどこうデジャブを感じている俺がいる。

 

「お主の前世の記憶は、元々曖昧であったが、さらに今のお主の体の記憶ではない。それは夢にように儚いものだ。」つまり俺の原作知識は割と頼りにならないかもしれない。

 

「マジか~」と落ち込む俺は神様にもう一つ質問する「あの今の俺って!何か才能とか、転生の特典とかないんですか!?」割と切実だ。

 

「ほぼない」神様の回答は曖昧だった。いや、ほぼないって・・・「どれぐらいのほぼなんですか?」と聞くと

 

「ワシが何か特別なことをしているわけではないということだ。お主の魂をこちらの世界の体に定着させたこと以外な。つまり『転生者』という事実がお主が持つ唯一の特権だ。」

 

ほんのりとテンションが下がる。なら今貰えば!

 

「もうここのワシの存在は消える。ゆえに期待しても無駄だ。お主の様子を見るため残しておいたがそれもお主が精神世界に来て、ワシに接触したことで残りのチャクラも切れそうだ。」

 

チャクラ?この神様もチャクラを持つ存在なのか?言われてはいないが顔に見覚えがある気がする・・・

 

「そろそろお主の覚醒の時だ。ここまでの様子を見た限り何とかやっていけそうで安心している。では、達者でな。」

 

そういうと神様の半透明なチャクラは霧のように霧散し消えた。草原に残された俺は、現状の整理に入る。

 

つまり、元々のヒナタ誘拐事件ではヒナタの父「日向ヒアシ」が雲の忍びを殺害。そのことに対するいちゃもんにヒアシの双子の弟「日向ヒザシ」が身代わりに。宗家と分家の差で父が犠牲になったと勘違いして日向ネジがぐれる。

 

俺は改めて自分の記憶がおぼろげになっていることを自覚する。これからはあまり自分の知識に頼りきらず情報収集もしっかりしていかないとな。

 

しっかりと現状を確認した俺は、事件の「結果」がどう変化したのかに不安を覚える。俺の記憶では雲の忍びは殺害されずに済んだはずだが・・・とりあえず起きて状況を確認しないとな。

 

精神世界からの起き方なんてわからないので、転生したときの独特の感覚を気持ち再現してみる。どうやらビンゴのようだ。精神世界からの覚醒を感じる・・・

 

 

~~~~~~~~~~~

 

目を覚ますと白い天井が視界に移る。見たことも覚えもない天井だ。そういえばとクナイで刺された胸を確認しようと、今着ている病院服?のような服をめくると、傷跡がしっかりと残っていた。痛みはすでにないようだが少々痛々しい。

 

俺が苦々しい表情をしていると、俺が病院のベッドのわきに気配を感じ、横から地面に視線を移す。

 

緑の寝袋に入ったガイさんが、豪快にいびきをかきながら寝ている。アイマスク持参とは準備のいい・・・。どういう経緯でこうなっているがわからないが、あの夜、日向ヒアシに連れられ俺は病院へと連れてこられたようだ。

 

生きている実感を得ると少し、眠気を感じる。集中力も切れている。どれくらい自分が寝ていたかは不明だがもうひと眠りしよう・・・。なぜかいるガイさんも良く寝てるし。

 

そう思い、布団に潜り込もうとするとベッドを囲んでいたカーテンが開かれる。

 

暗い表情のマリエさんが花とフルーツを持って立っていた。

 

中途半端に布団に潜る体勢になっていた俺はマリエさんと目が合う。

 

沈黙・・・マリエさんは荷物を手から取りこぼした。

 

 

すると急に「うわああああああん!」とマリエさんが泣き叫びながらベッドに飛び込んできた。

 

ガシャン!と音がなり、押しつぶされる俺。泣きながら俺に抱き着くマリエさん。物音に反応して寝ぼけながら飛び起き「敵かあぁ!」と構えるガイさん。せめてアイマスクは外しなよ・・・。

 

静かな病院に舞い込んだカオスな騒がしい状況は職員の人がきて、大人二人を落ち着かせることで収束していった。

 

・・・やっぱりこの騒がしさは、心地がいい。

 



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10:過程と結果

文章を保存できることに気が付いたぞ!


大人二人の騒ぎに、病院の看護師さんが駆けつけてきた。当然のごとく二人を叱る看護師さんは、俺が目を覚ましている様子を確認すると急いで医師を呼びにいった。

 

医師を待っている間二人組は、椅子に座りながら「ガイ君のせいで怒られたじゃない・・・」「マリエさん、もう少し落ち着いたらどうです?」と互いに文句を言いながら肘で小突きあっている。・・・大人げない。

 

医師の男性が病室につくと直ぐに俺の診察が始まった。一通りの診察を済ませ、再びベッドに戻ると大人二人と俺は結果を聞かされた。どうでもいいことだがガイさんが保護者みたいな扱いを受けているのが失礼だが面白い。

 

要約すると俺は一週間眠っていた。クナイによる胸部への刺突と付属の毒でかなり死にかけだったが早めに病院に運ばれたので命に別状はなかったようだ。連れてきた男性は急ぎで、すぐに姿を消したそうだが間違いなく日向ヒアシだろう。あの夜から一週間経っているのか、日向がどうなっているか気になるな。

 

何となく分かってきていたことだが、傷の治りが早いことに多少の言及があった。体質なのかわからないが、少なくとも一般の医師には原因がわからなかったようだ。残念だ。

 

その他一通りの説明をして医師は退室していった。

 

退室する医師に大人二人は軽く礼をして見送ると俺に視線を送る。マリエさんは俺の頭をなでながら「・・・本当に心配したわ」と言い安堵の表情を浮かべた。ガイさんも腕組みをしながら、少し息を吐いていた。かなりの心配をかけたようだ。

 

するとマリエさんは「それにしても、貴方が夜に出歩くことは知っていたけど通り魔に出くわすなんて怖いわ~。しばらく夜に外出するのは禁止ですからね!」と少し叱る口調で俺に話しかける。

 

続いてガイさんが「ソウだゾ!前々から君が深夜に、探検と評して出カケルのはマリエさんから聞いていたが、里内とはいえ危機感がない!気を付けるんだゾ!」とかなり棒読みで叱ってきた。

 

マリエさんはともかく、ガイさんの棒読みで二人の意図をつかんだ俺はその意図に従うように声をだす。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。怖かったよ~散歩してたらいきなり刺されて痛かったよ~」と3歳児を演じる。あまりガイさんの棒読みをバカにできないのが悔しい。

 

俺が泣きじゃくる演技をするとマリエさんが俺を抱き寄せ、頭を撫でてくれる。・・・役得だ。じゃなくて!演技を続けながら、周囲に注意を向けると窓の外に気配を薄く感じる。しばらく泣く演技を続け、マリエさんに頭を撫でられ、ガイさんに背中をさすられていると外の気配を感じられなくなった。

 

「ふう」と俺が息をつくと二人も椅子に座りなおしてこちらに向きなおす。普通に恥ずかしかった。

 

マリエさんは「これで体裁を保てたわね。ガイ君の演技ひどすぎるわよ?」と言うとガイさんは「自分はこういうのは不得意ですからな・・・」と言葉を受け少し照れている。

 

「悟ちゃんが演技に気づいてくれて良かったわ~。最悪無理やり抱き寄せて喋らせないようにしようと思ったけど。」と言いながら軽く一息をつくマリエさん。

 

「やっぱり俺があそこにいたのは『偶然』ってことにして、かつ関わっていないという言い訳が必要だったってことですよね。内容が棒読み臭くても良いぐらい稚拙でも・・・。」と少し照れて言う俺。ガイさんも唸りながら照れている。

 

「悟ちゃんがどういう過程を踏んで、事件に関わったのか私にはわからないけど、あなたが意図して関わっていないことを稚拙でも示す必要があるの。わかってくれて私嬉しいわ~」とマリエさんは安堵している。

 

つまりは責任の問題なのだろう。雲の忍びは死んではいないはずだが、日向家は理不尽な責任を受けさせられたのだろうか・・・。

 

一連の流れに納得している俺は気になっていたことを聞く。「日向の人たちはどうなりましたか?」

 

この言葉に二人は苦々しい顔をする。「・・・あまり気持ちのいい結果にはならなかったな。」とガイさんが唸る。

 

二人はあまり説明したがらずに黙っている。こればっかりは結果の確認は自分でするべきかもしれない・・・。

 

窓からさす日の光は微かになって、日が沈むのを告げている。マリエさんは施設での仕事があるので、明日また来るわといって病室から退出していった。

 

・・・そういえばガイさんはなぜ俺のそばで寝ていたのか。俺はベッド横の寝袋を回収しているガイさんに「どうしてここで寝てたんですか?」と聞いた。すると「いやなに。君の怪我の症状の一部が、ある術の反動に近いものだと聞いてな。それを少し調べるために泊りがけで様子を見ていたのだ。」

 

「ある術?」俺の?マークにガイさんは答えてくれた。

 

「八門遁甲・・・言わば人間としてのリミッターを外す術だ。君はあの夜、どうやらその始まり、第一・開門を無意識で開けていたようだ。」

 

その言葉に俺は驚く。八門遁甲はガイさんが使うことで印象深い術だ。それを俺が・・・この術は間違いなく俺の切り札になるだろう。ぜひ習得したい!

 

「その八門遁甲という術はどうやってやるんですか?修行方法はどんn」と言いかけたとき「俺は君に八門遁甲を教えるつもりはない」ときっぱりと断られた。・・・まじか。

 

「なぜですか?」と少し不満そうに聞くと「危険すぎるからだ。将来君がたくましく成長するならば、そのしかるときに教えるかもしれない。しかし君は無茶をする人間だと、この短期間で俺でもわかる。現に俺がリミッターを外す術だと教えたのにかかわらず、君はすぐに食いついた。君は必要と感じれば、必ず俺がかける制限を無視し八門遁甲を使う。」

 

「・・・」ぐうの音もでない。自分が正義の味方になっているつもりは一切ないが、俺ができることなら自己犠牲は仕方ないと思っている。それが身近な相手にもなれば、躊躇はあまり起きないとも思っている。多分、転生前のトラックとの衝突とそれによる死の体験は俺の『なにか』のリミッターを壊している。

 

だから・・・「どうしてもだめですか?」と真剣な表情で再度聞く。俺には八門遁甲は、今後確実に必要になってくる術だと感じる。このとっかかりは逃せない・・・!

 

ガイさんは眉間に皺をよせ悩んでいる。「俺個人は教えたくはない・・・!だが教えずとも君はすでに開門の域までに到達してしまった。今後偶発的に次の段階に進み、身を亡ぼすことを考えると、ある程度の制御は教えなければならないだろう・・・。」

 

なるほど俺が八門遁甲に足を踏み入れているから、制御の方法を教えないといけないが教えれば自滅の道に走るかもしれない。前門の九尾、後門の一尾とでも言うか、ガイさんは苦渋の選択をしなければいけないようだ。・・・偶然とはいえ、ガイさんに心労をかけて申し訳なく思うなぁ・・・。

 

「少なくとも君が完全に回復して、退院するまではどうにもならないだろう。」とガイさんは言って病室から出ていった。確かにそうだ、少なくとも俺はまだ万全ではない。日向の件も気になるし、退院するまでは大人しくしておこう・・・。

 

そしてその日は、夕食の病院食を食べて適当にチャクラを練る動作を確認するなどの簡単な動作を確認して終わりを告げた。

 

病院食は思っている以上に味が薄かった。マリエさんのご飯が恋しいな・・・。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

次の日以降まばらにだが見舞いの客が病室に訪れることがあった。

 

テンテンちゃんは俺が遊び場に来ないことを心配して、施設に来訪しマリエさんと接触。俺が寝ている間に一度マリエさんと来ていたらしく、俺が起きてから来たときは一人で来てくれた。人のこと言えないが行動力のある4歳だなあ。

 

「ちゃんとわたしの話聞いてる!?さとる君は無茶なことばかりして、私怒ってるんだからね!」とお叱りを受けた。「ごめんね~、お腹が空いて話聞いてなかった~」と適当になごまそうとすると「さっきおひる食べたばかりじゃない!」と突っ込みを入れられてしまった。おじいちゃんになった気分だ。

 

しっかりと謝罪をテンテンちゃんに行うと少し機嫌を直してくれたようで、お土産の中華まんを渡してくれた。入院中の自分が貰うべきものかは微妙だが、手作りらしく少し恥ずかしそうにしているテンテンちゃんを見て、即受け取ってかぶりついた。

 

ぬるい。

 

けどとても美味しかったです。

 

また別日にはナルトがお見舞いに来てくれた。こちらはどういう経緯で俺が入院しているのか知ったのかわからないなあ。なんて思い「よく俺が入院してるてわかったね?」と素直に聞いてみた。

 

「ヒナタが教えてくれたってばよ!たく怪我するなんてだっせぇぜ!気をつけろよ!」といってケラケラ笑っている。・・・元気そうでなによりだよ。

 

「ん!とりあえずお土産だってばよ」と封のされたおしるこを手渡された。・・・何故におしるこ?

とりあえずお礼を言い受け取った。

 

「サトルがいないと退屈だからなあ。ヒナタもお前がいないと、もじもじしてて言いたいこと良く分からねえし・・・」普段ナルトに照れてうまくしゃべれないヒナタの仲介役を俺がしていたから俺がいないと上手く会話が進まないのだろう。

 

「別にヒナタはナルトが嫌いだからもじもじしてるわけじゃないし。ゆっくり付き合ってあげなよ」とフォローを入れると「別にヒナタが悪いとは言ってねーてばよ。なんかこう・・・遠慮する?」とナルトは自分の不明な気持ちに言葉を探る。

 

ほほえましい限りで良かった。その後退院したら一緒に一楽のラーメンに行く約束をしてナルトは帰っていった。

 

その後しばらくしてから、周囲に注意しつつ影分身の術で分身を出した。その分身を転生前の俺に変化させて、外出させた。いい加減外の様子が気になるし分身に情報収集に出てもらいながら俺はくつろぐ。体が本調子でなくとも術はある程度使える。本体が病院抜け出すのはさすがにまずいしなあ・・・。

 

分身が病室から出ようとドアに手をかけようとすると、先にドアが開く。空いたドアの先には日向ヒアシがいた。

 

分身の俺はそそくさと会釈しながら、その場から逃げていく。それとすれ違いながら入ってくる日向ヒアシに俺は緊張している。まあ、病院まで運んでくれたのだから来てもおかしくないのだが、俺は彼を直接見てはいないし面識もない。こういう場合どう反応すればいいんだろうか・・・。

 

とりあえず目を合わせないように布団に潜ってやり過ごそうとしたら、「体調はいいようで良かった」と存外に優しい感じで語りかけてきた。

 

「・・・初めまして?」と俺は警戒感を出して答える。「そのような芝居はせずともよい。今日は君に礼を言いに来た。娘と共にな」と言われ布団から顔を出して日向ヒアシの後ろに目を向けるとヒナタちゃんがいた。

 

反応に困るな~。とりあえず笑顔で手を振るとヒナタちゃんも振り返してくれた。かわいい。

 

「ヒナタよ、悪いが売店で飲み物を買って来てはくれぬか?」とヒアシさんが言うと「わかりました」とヒナタちゃんは病室からでる。

 

「君がどこまで知っていて、なぜあの夜あの場で時間稼ぎをできたのか、聞きたいことが山ほどあるが・・・」と言われ俺に緊張が走る。「先ほども言ったように、ただ礼を言いに来ただけだ。深い詮索はしない。恩人にそこまでの無礼をするほど日向の者は落ちぶれてはおらぬ。」

 

良かったと思いながらもヒアシさんの厳格なオーラに少し気圧される。「俺は・・・何か役に立てましたか?」と聞く。「そうだな、君が足止めをしてくれおかげで危険な手段を取らずに済んだ。結果・・・問題は起きたが最悪な事態は避けられただろう。」ヒアシさんは少し辛そうな顔をする。その問題が気になる。俺がたどった過程は、どのような結果につながったのかを。

 

「問題は・・・どのような・・・」と恐る恐る聞く。ヒアシさんは説明を始めた。

 

「雲隠れが娘を誘拐し、それを俺が阻止した。その時相手方の忍びを失明させたことが尾を引いてしまったのだ。平和条約が結ばれたその日に自里の忍びが害されたと雷影が難癖をつけてきたのだ。条約の撤廃を盾に木の葉にある要求を呑むように強いてきたのだ。」

 

「その要求とは・・・?」

 

「雲の忍びに傷をつけた忍びに同様の報復を。つまりこの俺に雲の連中の前で、目を抉りそれを寄こせと要求をしてきたのだ。」

 

・・・・ああ、本当に胸糞が悪い。

 

「けどおじさん・・・」わかっている。

 

「ああ、だが俺は目を失っていない」

 

「・・・俺には双子の弟がいる」

 

 

結果はベストにはならずベターとなった。けれど結果を知らないものからすればその差なんてないのかもしれない。俺は辛そうなヒアシさんの表情を見ながらそう思う。・・・結局は俺の自己満足なのかもしれない。けれど

 

 

 

「弟が俺の影武者となり、目を抉られたのだ。俺は最後まで反対した。だが・・・」

 

「大丈夫ですよ、ヒアシさんは悪くないです。」

 

俺の不意な言葉にヒアシさんは少し驚いた表情を見せる。

 

「そもそも雲隠れが悪いんですよ!それなのにクソみたいないちゃもん着けてきて・・・。そのせいでヒナタちゃんのお父さんが辛い思いするなんて間違っています!」と俺は声を大にする。

 

「そうだな・・・ハハハっ」とヒアシさんは乾いた笑いを出す。

 

「そろそろヒナタが返ってくるだろう湿っぽい話はやめにしよう。」

 

「はい」

 

「だが最後に一つだけ、君が体を張ってくれなければ恐らく弟は・・・死んでいた。最悪な未来を回避できたのは君のおかげだ。」

 

ふいな礼には少し驚いたが、確かに俺の成した過程がベターな結果へと繋がったことを確信させてくれた。

 

俺はその礼に笑顔で答える。

 

その時ちょうどヒナタちゃんが戻ってきたので俺たちは雰囲気を日常へと戻す。

 

「そういえばヒナタとも良く遊んでくれているそうだな。」「そうですね、お世話になっております。」

 

みたいな小芝居をうち、ヒナタちゃんが照れている様子をみて少し談笑を行った。

 

帰り際、ヒナタちゃんが選んだ見舞いの品を受け取り、手を振り合いながら分かれた。ヒアシさんは小さく頭を下げて病室から出ていった。

 

俺は少し満足しながらも悔しさを噛みしめていた。やっぱり悲劇を完全に回避するのは難しい。けれど抗うことが、俺が干渉することで緩和できることは確認できた。

 

・・・この先よりベターな結末を迎えるにはやはり八門遁甲が。

 

なんて思いながらも俺は物騒な思想を振り払う。今は自分を褒めよう。

 

とりあえずヒナタちゃんが選んでくれた見舞いの品でも確認しながら横になろう。

 

 

 

 

 

 

 

ぜんざい?ナルトのおしること言い、怪我人には小豆を贈る習慣でもあるのかこの世界・・・・。



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11:良い子のための忍術講座~禁術編~

諸事情で投稿がまばらです。申し訳ないです。

今回は書き方を変えてみました。読みやすくなっていると幸いです。


約2週間の時を経て、悟は病院から退院した。入院中、彼の不明瞭な身体回復能力は安静にし、体を動かさないことでより効率的になることが判明した。

彼は自身がそれなりに特異な体質であることに喜びを示していた。――無茶を出来ることが感情の主体ではあったが。この感情は周囲の人間に心配を掛けることになることは理解しているため、なるべく伏せていこうと悟は心に誓い退院の日を迎えた。。

 

退院の日、病院に迎えに来ていたマリエは

「思ってたよりずっと早い退院でよかったわ~。色々とあったけど、こうして悟ちゃんが無事に帰ってきてくれて私嬉しいわ!」

とルンルンと感情を表に出しながら、悟に抱き着く。

 

「……それなりに心配を掛けてしまったことは理解しているので、甘んじて逃げませんが……もう…少し、力抜いてください……ぐえぇ……」

と明るく振りまく感情とは反比例するような力で抱きしめられる悟は退院して、即息絶え絶えになる。

 

マリエが「ごめんね~」と言い抱擁を解く。解放された悟と、マリエは病院のエントランスから外へと出る。影分身を外に出し、情報を集めていた悟だが本体が外に出るのは実に3週間ほど期間が空いている。

 

久しぶりの外の空気感に背伸びをしながら、深呼吸をする悟は

「あ~、やっぱり晴れた外の空気は美味しいなあ~」

と呑気な声を出す。

 

緊張も危機感もない久しぶりの雰囲気にマリエも悟も、心からの安心感を得ながら施設「青い鳥」へ帰路を進めた。

 

~~~~~~~~~

 

施設の玄関前まで来ると、隣に並び談笑しながら歩いていたマリエは少し駆け、玄関の前で振り向き視線を悟へと向ける。ニコニコしているマリエは後ろで手を組みソワソワした素振りをする。

 

その行動の意図に悟は少し考えるも、すぐに気が付く。この一連のやり取りは傍から見たら正に「家族」に見えるだろう。そんなことに照れくささを感じつつも悟は同時にありがたみも感じ、行動で答える。

 

 

「ただいま!」と言い悟はマリエに飛びつき「おかえりなさい!」とマリエがしっかりと受け止める。

 

――本当の意味で我が家に帰ってこれたって気がする……。3年の期間過ごしたこの施設に帰ることと、マリエが待ってくれている施設に戻ることはすでに悟にとっては、心のよりどころになっていることにこそばゆい感覚を覚える。

 

その日の夜は、施設の皆が悟の退院祝いを開いた。

 

マリエ以外の数少ない職員は、悟に対して「少しませた、お手伝い好きの男の子」という良い印象を持っているため帰ってこれたことを純粋に祝ってくれた。施設の他の子どもたちも、一般的な3歳児から卓越した身体能力を持っている――忍者的に見るならまだ下の下も良い所だが――悟との遊びに励んでいたため、悟のいない期間の物足りなさから喜びを表にして祝った。

 

「……この幸せを守るために……」

 

悟の覚悟はより深いものへと成る。周囲の人間が危険なことに首を突っ込んでほしくないと願っていることには悟も気が付いてはいる。しかし、無茶をしなければ到底、この世界の理不尽を覆すことは不可能であると解釈をしている。

 

その後しばらくの間、友人と遊び、マリエとの忍術講座も行わない平和な期間が流れた……。

 

 

~~~~~~~~~

 

 

しばらく、チャクラのコントロールの修行と体力を回復させていただけにとどまっていた悟にマリエは安心感を得ていた。

 

「はあ~平和だわ~」と茶を飲みながら、施設の書類仕事に一段落をつけたマリエはぐっと背伸びをする。

 

日向の誘拐事件に意図的に関わった悟に、情報を得た経路や雲の忍びの目的を知り、阻止するまでに至る過程と言ったところを聞きたいと思っているマリエ。だが彼女はそれを踏み込んで聞くことが悟を追い詰めることを直感で感じているため、深くは詮索はしない。彼がいつか自分から話してくれることを待ち望み、今日もテンテンと遊びに出かけている悟への親心を募らせる。

 

すると「手紙でーーす!」と玄関から声が聞こえたため、書類仕事を終わらせたマリエは「は~い、今いきま~す」と自室から出る。玄関まで行き、扉の先の人物から、手紙を受け取った。

 

その手紙は昼頃に帰ってきた悟へと手渡たされた。

 

荒々しい字のわりにかしこまった内容が書かれた手紙に悟は目を通す。

 

『退院おめでとう!悟少年。しばらくの期間を置き君も体力が回復したころだろう。つきましては君に修行を着けたいと思い手紙をしたためました。特別に演習場を用意しましたので、準備ができましたら返信のほど、お願い致します!byマイト・ガイ』

 

物凄く複雑な表情を浮かべるマリエの前で、手紙を読み終えた悟は、微妙なため息をつき、手紙を裏返す。

 

そこに「よろしくお願いします。」と書きマリエと対面に座っている机の上に手紙を置く。

 

それを悟の隣に座る人物が拾い上げ「よし、了承したーー!では行くぞ悟少年んん!」と言いテンションを上げる。

 

 

 

 

「――いや!何でガイ君が自分の手紙を!自分で届けて!返事を直接自分で受け取っているのよ!手紙の意味は!?」

 

珍しく声を張り上げているマリエを珍しく思いながらも、とんちんかんな行動をとるガイに――やっぱりこの人は理解できないタイプだな。と悟は少し気疲れを感じた。

 

マリエの問いにガイは

「いやあー!悟少年をどう修行に誘うか考えて手紙を用意したものの、俺もあまり休みが取れていないのもあって、わざわざ郵便で送るより直接手渡した方が早いと思いましてなあー!わはっはっは!!」

 

つまり、手紙を用意するも時間を惜しみ、自分で直接届けに来て、悟が帰ってくるまで応接室で待ち、返事を直接受け取ったということになる。

 

普段おっとりしたマリエも旧友の奇行にあきれ果てて「……悟ちゃんの好きにするといいわ~」と言いながら、別の部屋へと逃げていった。

 

「……ガイさんって変わってますよね~」と悟は、ガイに対する評価を上げ下げする昨今に戸惑いながらもテンション高めのガイについて演習場へと向かった。

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

演習場につくとガイは腕を組み仁王立ちの姿勢で説明を始める。

「今回、俺が特別に修行をつけるのは飽くまで、君が八門遁甲で身を滅ぼさないための念押しである!つまりは制御方法をしっかりと身に着けてもらうぞ!!」

 

気合いの入ったガイの威勢に先ほどまでとのギャップを感じつつも悟は手を挙げる。

 

「はい」「はい!!悟少年!!」ビシッと指を刺される悟。

 

「自分、制御ができるなら積極的に使っていこうと思っているんですが……」

 

ほんのりと沈黙が流れる。

 

「ちっがあぁう!!」カッと目を見開いて叫ぶガイ。

「制御し、必要とする時以外に無暗に使わない!八門遁甲は禁術である!その理由は……ただ単純に危険だからではない。死に近づく術であるからだ。」

 

「死に近づく術……」実際に死んだ経験のある悟には妙に親近感を感じる術だと思えた。

 

ガイは解説を続ける。

「禁術であるから普通は制御法などを教えん!だが君を足をその域へと意図せず踏み込んでしまったため、恐らく今後意図せず開門を果たしていくであろう!そうならないためにも今日、いきなりだが正規の方法で第一開門を開けるところまで来てもらう!」

 

禁術とは単純にリスクが高い術のことを示すと考えてよい。リスクの方向性は様々だが、例えば多重影分身の術が禁術扱いなのは、使うだけなら容易な影分身の術の延長で出来てしまい、術者に死のリスクがつきまとうからである。

 

禁術指定された術は情報統制により、教え広める一般的な術と違い、秘匿される。無暗に使い自滅しないように。

 

禁術であることの重みを解説され悟は質問をする。

「……軽々しく使うことはダメなのは理解しました。それで、正規の方法を覚えるのは大切だと理解しましたけど、いったいどんな感じに修行していくんですか?今日中に出来るものなんですか?」

 

悟の問いにガイは答える。

「時間はそうかからんだろうさ。君は一度開門を果たしているからな。」

 

悟の問いに答えたガイは八門遁甲について解説を始める。

「まず八門遁甲とは、チャクラが流れる経路系にある八つの門の総称のことだ。本来チャクラ量を制御する要になっているその門を意図的に開放することで、火事場のバカ力を発揮することが八門遁甲の狙いである!」

 

悟は体育すわりをしながら真面目に聞き続ける。

「そして開放する手段とは、意図的に門にチャクラを集めることである。」

 

するとガイは懐から袋を取りだし。中身を悟に見せる。

 

「丸薬……ですか?」

 

「そうだ、この特別に調整した丸薬により増したチャクラで門を開ける。これが八門遁甲習得のすべである。その際、すでに会得している者が外部から門の位置をチャクラを流し込み教えることもある。今回は俺が、悟少年にチャクラを流し第一開門の位置を教えよう。」

 

そういうとガイは丸薬を一つ悟に投げ渡す。それを受け取った悟はさっそく口に含もうとするがガイはそれを制止する。

 

「待つんだ!まだ丸薬について教えていないだろう!君、人から手渡されたものを良く躊躇なく口に運べるなあ……」

 

ガイに少し呆れられた悟は顔を赤くして、ハハハ……と笑って誤魔化す。狐のお面を着けているので赤くなっている顔は見られてないが。

 

「その丸薬は会得する門ごとに調整されている。まだ第一開門用までならそこまで副作用はないのだが、五、六ぐらいまで来るとそれなりに苦しいぞ。第一開門なら軽いめまい程度で済む。」

そういうとガイは丸薬を呑むジェスチャーをして、悟に丸薬を口に入れるよう促す。

 

うなずき了承した悟は丸薬を口に含み噛み飲み込む。効果はすぐに表れるようで、自分の中で意識せずとも流れるチャクラの量が増していくことがわかる。同時に頭が熱を持ちめまいが起きる。

 

「あー、酒で酷くよってるみたい……」と悟は感想を口に出す。

 

「子どもなのに面白い例えを使うなあ君!よしでは俺がチャクラで誘導するから門にチャクラを集中させるんだ!」

そういうとガイは悟の頭に触れチャクラを左脳付近に集中させる。

 

「……うっぐうう、おぇっ。こ、こんな感じ……で」

 

ガイのガイド通りに、チャクラを左脳付近に集中させる悟。丸薬の副作用で集中力は最悪な状態だが、あの誘拐事件の夜、うちはの丸薬を使った直後の感覚を想起することで感覚をつかみ始めていた。

 

『あの時の感覚が第一開門を開けたということなんだろう。イタチさんにもらった丸薬のおかげできっかけが分かりやすくて助かるなあ……』

 

などと悟は、八門遁甲に触れるきっかけになったであろうイタチに感謝をしつつ、よりチャクラを集中させていく。

 

「ぐっ……なん、とか行ける気がする……」

「むっ!!いい感じだ悟少年!!そこで一気にチャクラを流し込むんだ!!」

 

ガイの言うとおりにつかみ始めた感覚を頼りにチャクラを集中させる悟。

 

「……どっせええええい!!」

 

声を上げ、気合を入れ、力むことで、チャクラが悟の左脳にある第一開門を開く。

 

瞬間悟に流れるチャクラ量は劇的に増えた。

 

「そうだ悟少年!!うまk「オボロオロロロロォ!!」

 

 

解放した瞬間、眩暈による気持ち悪さで悟は思いっきり吐いた。第一開門を開けたことで無意識に向上した身体能力による吐しゃは着けていたお面に一瞬抑えられたことで、爆発するかのように弾けた。

 

「「…………」」

 

吐しゃ物まみれなった二人の間に微妙な雰囲気が流れた……。

 



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12:第一の門・開門

近くの小川で吐しゃ物を洗い流した二人は再度演習場で向き合う。

 

「やはり君は筋がいいようだ。あまり大人として手放しに喜ぶのは難しいがとにかく第一開門を開けることができてなによりだよ。」

 

ガイは笑顔で習得結果を褒める。悟は丸薬の効果が切れて調子が戻り始めている様子で、ガイの賛辞を受け止めている。

 

「あー、ガイさん、お願いがあるんですけどいいですか?」

 

改まった様子で頼みごとをする悟の様子にガイはある程度中身の予想をつけて許可を出す。

 

「軽々しく使わないと言ったばかりで何ですが、開門した状態で何ができるか試していきたいなーなんて……」

 

ガイは予想通りの質問内容にあきれつつも、目の前の少年の謎の向上心に少しばかり関心をしめしている。

 

『丸薬の効果が切れているとはいえ、そうとう体の調子は悪いはずだが良く継続して修行をしようと思う。もう少し成長してから本格的な修行をつけてあげたいが、駄目だといっても彼は勝手に自分でやるだろうしな……仕方がない』

 

ガイは内心で悟を放っておくことの方が危険だと判断し、

「仕方がないが俺の目がない所で八門遁甲を使うことは俺が良いというまでは許可はしない!それでもいいなら君に付き合おう!」

と告げた。

 

~~~~~~~~~~~

 

まず悟は自発的に開門を試す。先ほどの感覚が残っているため、すんなりと開門を果たすと手足を軽く回し自身の体の調子を確かめる。

 

身体能力の向上を感じつつも軽く筋肉がきしむ感覚を覚える。

 

「この状態で全力で動いたら反動がすごそうだなあ……」

ぶつぶつと呟きながら、自身の状態を解明しようと軽く動作を確認しながらバク宙したりしている悟を見ながらガイは少し驚愕していた。

 

『こうも容易く開門できるようになるとは・・・この子は大した奴だ。』

 

本来なら、体のリミッターを開放するこの八門遁甲を常人が会得するのは困難を極めるものだ。第一開門を開けることにすら厳しい修行を必要とする忍びは少なくはない。

 

死に近づいていくこの術は死を体験した者と相性がいいのかもしれない。

 

そんな自身と八門遁甲との相性の良さをうっすらと感じつつも悟はある程度自身の体調を把握して拳を握りしめる。

 

「……ではガイさん!行きますね!」

 

悟はガイの方向に体を向け構えを取る。ガイも左手を背にまわし、右肘から腕を垂直に立てて構え「こい!」と気合をあげる。

 

相手は上忍でしかも体術のスペシャリストであるため悟は全力で遠慮なく殴りかかる。身長差から跳躍しながらの悟の攻撃は全てガイによっていなされていく。

 

「セイッ……オリャァア!」かけ声をあげながら悟は右手で殴りかかったり、左手で手刀を繰り出したり、とび蹴りを行ったりする。

 

ガイはそれらの攻撃全てを完全に受け流している。その様子に悟は忍びと自身との実力差を痛感していた。

 

『雲の忍びに一発入れて勘違いしそうだったけど、やっぱり忍びと自分では……まだまだ実力差があるなあ、相手がガイさんでなくとも八門遁甲だけじゃ限界がきそうだなあ』

 

最後に思いっきり助走をつけてガイの胸めがけて拳を繰り出す悟。それをガイは腕をクロスし受け止める。ほんの少しガイが滑り後退したが勢いはとまり、そのまま悟は地面に落ちる。

 

「ぶっ!!」と声を上げ地面にカエルのように落ちた悟は第一開門を閉じた。途端に反動が体に押し寄せて来る。

 

「ぐおおお、うおおおお……やばっやばいい~」

八門遁甲の思っていたより大きな反動に身をもだえさせている悟にガイは懐から塗り薬のようなものを取り出し悟の皮膚に塗り付ける。

 

すーっと清涼感のある塗り薬により、悟に引きおきている筋肉の痙攣などが若干抑えられる。

 

「あー、あー、これ……これは湿布?湿布だあああぁ……」

薬による効果は早く出て、悟は地面でのたうち回るのを止めることができた。

「自分が使う術である以上こういった反動を抑えるすべを用意していてね。どうだ、だいぶましに感じるだろう?」

 

ガイに抱き起され演習場のわきにある木陰に運ばれた悟は、八門遁甲の反動の大きさに顔をしかめながらも、息を整えながら一連の動作の振り返りを行った。

 

「ひと、一通りためして、みて……わかったんですけど八門遁甲はチャクラ穴の門をあけて一時的なチャクラ量の増加を図る術だと体でも理解しましたけど、開門中の忍術の使用は現実的ではないみたいですね……」

 

悟の実体験から基づく、考察にガイは関心をしめしながら答える。

 

「そうだ、八門遁甲は自身の限界を引き出している状態だ。チャクラコントロールは当然通常時よりも困難を極める。ゆえにオレなどは莫大なチャクラを身体強化にあてているのだ。」

 

忍術使用に制限がかかり、実質体術を使わざるおえない状態になる八門遁甲は悟の想定より使いづらいものだと感じられた。今のところ悟の戦闘スタイルと呼べる指針は忍術による奇襲であり、まともな体術の型を知らない今の状態ではあまり有効に扱えないことがわかった。

 

「……まずは基礎っていうのはなに事も一緒だな~」

悟のつぶやきにガイも同意し

「基礎がしっかりしていなくては八門遁甲は効果的に働かない。君はまだまだ将来が明るい少年だ。焦らず精進を続ければ必ず助けになる!だから、無暗に使うことは何度も言うが厳禁だぞ!」

 

と注意を交えつつ、少し落ち込んでいる悟を元気づける。

 

ガイの励ましに悟は笑顔を作り

「……わかりました、今日はありがとうございました!ガイさん。もう体がきついので今日はこの辺でもういいでしょうか……?」

と返事をする。

 

「そうだな、当初の目的も達したし、今日は解散にしよう。次君に修行がつけれそうな時間が取れたら俺から連絡を取る。それまで八門遁甲は使うなよ?では!!」

と言い残しガイは木の葉を舞い上げながらその場から姿を消した。

 

連絡を取ると言ってもまた直接来るんだろうと悟は内心苦笑交じりに笑った。

 

一人残された悟はしばらく木陰でこれからの方針を考える。

『八門遁甲を有効的に使うには、体術を会得するところからだ……。ガイさんは確か〈剛拳〉の使い手で、直接ぶん殴る系の体術を使う。他に自分が知っている体術は日向の〈柔拳〉か……。柔拳は白眼で相手の体に効率的にダメージを与える体術だったか。正直剛拳は、八門遁甲を扱ううえで王道に感じるけど、個人的には反動がキツイと思う。攻撃力に特化しすぎて、反動は体を鍛えて無理やり軽減しているイメージしかわかない。柔拳は白眼が前提だし……。』

 

ある程度長考を続けた悟は自身の体が施設に帰ることができるぐらいまで回復していることに気づき立ち上がる。

 

体のホコリを払いながら悟は帰路についた。

 

~~~~~~~~

 

帰り道の途中、人目のつかない裏路地を通りながら悟は周囲に気を配る。周囲に人がいないことを確認すると自身のチャクラの巡りをコントロールし、第一開門を開ける。

 

ガイの言いつけをさっそく破った悟は、そのままじっと立ち止まったまま動かない。

 

しばらく立ちすくむ悟は、じっと動かないまま何かを考えている様子だ。

 

思案の内容は自身の戦闘スタイルの方針であり、八門遁甲を軸にしつつ、絡め手も交える戦闘。スタイルを固めるために今後必要そうなことをあらかた考えまとめた悟は第一開門を閉じ、再び歩き始める。

 

八門遁甲を使っても、体に負担をかけなければ反動があまりこないことを確認した悟は今度こそ家路についた。

 

 

 



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13:日常on日常

開門を開けることができるようになってから、悟は本格的な体力のトレーニングを開始した。

 

内容は重りをつけての、ランニングや腕立てなど基礎的なものであった。しかし悟は必ず、開門を開けた状態でトレーニングを続けていた。

 

彼がガイの教えを破ることに罪悪感がないとは言えないが、破ることにはそれなりの理由があった。まず八門遁甲は体への負担が大きく、慣れていないといざというときに使えないと悟は考えている。

 

ガイの言う通りに規則を守り、修行をつけてもらえば確かに強くはなるだろう。しかしそれでは悟が力を必要とするタイミングには間に合わないのである。

 

より早く強くなるため、体への負担を増す八門遁甲はトレーニングの効率を良くする手段となっているのだ。――禁術をトレーニングの効率アップのために使うとは我ながら馬鹿げているような……。と悟も思いながらも効果は確かにあったのだ。

 

そんなトレーニングの合間に悟は自身の戦力を上げるために、貪欲に多方面に手を出していった。

 

テンテンと忍具について話しているときに、悟は自身に適合する道具があればより強くなれると考えてテンテンに相談する。

 

「というわけで何か便利な道具はないでしょうか、テンテン先生」

 

「クナイ」

 

悟のおおざっぱな質問にテンテンはおおざっぱに答える。クナイほど便利で多くの忍びに使われているものはない。

 

確かに……と納得しかけた悟だが自分の質問の仕方が悪かったことに気づき、条件を付けくわえて再度質問をする。

 

「訂正します……。身体強化をしたうえで、直接拳で殴るよりも効率的に

かつ小さな力で攻撃ができる武器が知りたいです。クナイとかの〈切る〉タイプの武器は扱いを習熟させるのが大変だと思うから、おおざっぱな感じで……。」

 

悟自身、刃を持つ武器はある程度の技術を必要としていることを知っている。八門遁甲を使用した状態ではクナイや手裏剣と言った〈忍び的技術〉を必要とするものは扱いにくいのだ。

 

悟のふわふわした質問にテンテンは真剣に考えている。

 

「切るタイプじゃないとしたらヌンチャクとかトンファーとかかな……。でも技術はあまり必要としない、じゃなくて多分悟くんが言いたいのはもっと単純に力を増幅させる感じの……。」

 

ぶつぶつと独り言を言っているテンテンを見つめながら悟は、開門を開いていた。慣れのためとはいえ悟はほぼ一日中開門をあけた状態ですごしている。当然長時間使えばほとんど動いてなくても身体的に反動が返ってくる。しかし悟は自身の謎の回復能力をあてにし、この傍からみたら無茶なトレーニングを続けている。――日常的に使えばそのうち、開門状態でも忍術が使えるくらいチャクラコントロールができるようになるかもしれない。と言った考えが悟にはあった。

 

ある程度テンテンが候補を挙げてはいるが、いまいちテンテンは納得がいかない様子で、あーでもないこーでもないと唸っている。

 

悟は軽く屈伸運動をして時間を潰そうとしたとき、テンテンが「あっ」と声をあげる。

 

微妙に屈伸した状態の悟はテンテンに目を向け「何か思いついた?」と声をかける。

 

テンテンは少し不服そうな表情で顔だけを悟に向けてただ一言

 

「棍棒」といった。

 

テンテン自身、長考の末にたどり着いた答えが原始的な武器であることに微妙に納得できていなかったものの、悟自身は「なるほど~」と感心していた。

 

強化した身体能力の威力をまっすぐ伝えることができる武器、ただ振りかぶり、振りぬく。扱うだけなら特別な技術のいらないそんな武器の提案に、悟はしっくり着た様子でいた。

 

悟はテンテンの手をとり「さすがテンテンちゃん!やっぱり相談するならその道のプロだね!」と褒めちぎる。

 

テンテンは自分の好きな分野で悟の役に立てたのがうれしいのか、どや顔で「そうでしょ~?」と得意げになっていた。

 

得意げになりながらテンテンは棍棒についての知識を披露し始める。4歳にして多くの武器の知識を保有しているテンテンに悟は素直に感心しながらも、当初自分一人で生きていくと考えていた自分の浅はかさに思いをはせていた。

 

『どんな世界にいようとも、その道のプロには敵わない……というより助けてもらった方が自分のためになるなあ。一人で多方面を見ることは出来ないとはよく言ったものだ。』

 

素直に他人に頼ることが自分のためになると思った悟は頼れる限り、迷惑になりすぎない限り力を借りていこうと思った。

 

テンテンは巻物に物を封じる〈封入の術〉を会得したいという話まで会話を進めていた。その内容に、悟は「テンテンちゃんならできるように絶対なるよ~」と軽く答える。

 

未来を若干知っているからこそ、一部の出来事に対して当然のように答える姿勢に、悟はマリエから注意されてはいるが気が緩むとついやってしまっていた。

 

そのことに言ったそばから気づいた悟だが「そう思う?やっぱり私は才能あるって感じ、さとる君にもわかっちゃう~?」とテンテンが上機嫌になっていたので、深く考えることはやめてテンテンをひたすら褒めちぎることにした。

 

『得意げになってるテンテンちゃんは可愛いなあ。』

 

この時の悟の感情の大半は子供を見て微笑んでいる大人の気分であった。体に精神が引っ張られてはいるが、悟の精神年齢は一応二十歳超えである。

 

 

~~~~~~~~~~~~~

〈別日〉

 

定期的にナルト、ヒナタと出会った空き地で悟は普段2人と会っているが今日は一人人数が少ない。

 

気まずそうにしているヒナタと、普段の会話をナルトを中心に進めていた悟は沈黙のなかにいた。

 

次に会う日を約束して集まっている3人だが悟やヒナタが用事でこれなくなることはあってもナルトが来ないということは初めてのことであった。

 

沈黙をやぶるため、悟は「ナルトはどうしたんだろうね」とヒナタに問いかける。

 

ヒナタはびくっと体を跳ねさせて一瞬言い淀むが「ど、どうしたんだろうね、ナルトくん……」と返事をなんとかする。

 

悟はこれ以上話のタネがないため、再び沈黙が訪れることを恐れて「……ナルトの家にでも行ってみる?」と無理くり話をつなげる。

 

その提案にヒナタはびっくりするリアクションを見せつつ、もじもじし始める。

 

ヒナタじゃ照れて決断できないと思った悟は少し強引だと思いながら「とりあえず行ってみようか~」とヒナタの手を引く。

 

「え、あ、う…うん……」と手を引かれながらヒナタは悟の提案に乗り、歩みを進める。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

場所は変わり、悟とヒナタはナルトの家の玄関前まで来ていた。大まかな場所は以前ナルトから聞いていたため分かっていた悟はアパートの位置を確かめるとなんとなく原作の知識で見た、ナルトの自宅の「絵」を思い出し場所を特定した。

 

「多分ここかな」と悟が言うと「た、多分なんだね」とヒナタが不安そうに答える。

「大丈夫。間違ってたら謝るだけだし」と悟は玄関をノックする。

 

……返事はない。

 

――間違えたかも……。と悟が思い始めたとき、部屋の中に人の気配を感じた。

 

悟は自分が有している若干優れた感知能力を自発的に使うことはまだできていないが、中にいる人物が異常なチャクラを持っていることと、気配が弱々しいことを知り相手が誰なのか気が付く。

 

『普段顔を合わせて会ってるから気が付かなかったけど、ナルトのチャクラは何というか〈大きい〉な。何でかの理由は知ってるけど』

 

悟はそう思いながら、扉のドアノブを捻る。ヒナタはその行為に、「勝手に開けたら……」と注意を促そうとするが先に悟が扉を開け中に入っていく。

 

ヒナタはびくびくしながらも「お、おじゃまします……」と言いながら部屋に入っていく。

 

悟が目にした部屋の様子は異質なものであった。生活感は感じられないが机の上などには菓子類やカップ麺などのごみが散乱している。床は綺麗にされているが、一部が汚い。

 

そんな様子に悟は怪訝そうにするが奥の寝室にいる〈気配〉めがけて歩みを進める。

 

躊躇なく扉を開け寝室に入るこむと、悟はベッドで横になっているナルトの姿を見つける。

 

様子は明らかに風邪をひいている様子のナルトに悟は「ナルト、大丈夫か!?」と駆け寄る。

 

その声を聴いてヒナタも「ナルト君、どうかしたの?」と心配を表にして寝室に入ってくる。

 

悟がナルトの額に手を当て、熱を測るが明らかに高熱である。「ナルト、ナルト!」と悟がナルトに声を掛けると、ナルトは「だ……誰だ……」と声を出す。

 

「俺だ、悟だ。どうした風邪か?薬とか飲んだか?」と悟は心配そうに声をかける。

 

「さと……さとる?なんでここに……。ヒナタも……。おれ、薬があるかとかわからねえし、今はとりあえず寝てるってばよ……」と弱々しくナルトは答える。

 

それを聞くと悟は「ヒナタ、綺麗そうなタオルを濡らしてナルトの汗を拭いてあげてくれ」とヒナタに頼む。ヒナタは「う、うん」と答え洗面所を探しに行く。

 

悟は薬を探すために棚付近を中心に探す。ナルトの各部屋の印象は場所、物はそろってはいるが、扱う人物がいない、そんな様子だ。つまり必要なものだけそろえて、ナルトを放置していると考えて間違いないと悟は考える。

 

悟の予想通り、救急箱を見つけ中を見ると中は全く手付かずの状態であった。悟は取り合えず、見つけた風邪薬を確保し、寝室に様子を見に戻る。

 

ヒナタが濡れタオルでナルトの額を拭いている。そこで悟は「ナルト、今日ご飯食べたか?」と聞くと「まだ……」と返事が来る。それを聞くと悟は台所に行き、冷蔵庫を開ける。中はぎっしりと一通りの食材がそろっている。こちらも手を付けた様子はない。

 

「そりゃ、3歳のナルトに食材だけ与えても……」と悟は少し怒気を出しながら、幾つか食材を見繕う。

 

元一人暮らしの大学生かつ、施設でもある程度食事の用意を手伝っている悟は、余りに余った食材を使いこみ、雑炊を作る。

 

悟が台所の椅子に乗り、コンロを使って食材を煮込んでいる所にヒナタが「わ、わたしになにかできることありますか?」と声を掛ける。

 

悟は少し考えながら、「それじゃあ、使えそうな食器とかスプーンを探してもらえる?」と頼む。

 

二人はテキパキと食事の用意をし、雑炊をお皿に盛りつけたタイミングでナルトが起きてくる。

 

「いい匂いがする……てばよ」とナルトが来たので悟は「雑炊をかってにつくったけど、ベッドで食べるか?」と聞く。

 

「こっちで食べれる……」とナルトが答えたので、椅子にナルトを座らせ雑炊と水を用意する。

 

悟は多めに雑炊を作ったので、自分とヒナタの分もよそい席につく。

 

「ヒナタも昼ご飯にどう?」とよそってから聞く悟に「う、うん」とヒナタは答え席につく。

 

三人は「いただきます」といい、雑炊を食べ始める。

 

 

 

「意外に……美味しいってばよ」

 

「意外とは失礼だな……。まあ味は薄めに作ったけど、わかめとか鮭とか具材多めにしたから食べ応えはあるだろ?」

 

「うん……美味しい。悟君すごいね」

 

「……なあ、ナルトが風邪ひくなんて意外なんだけど、何かあったか?」

 

「……知らない人に水かけられて、そのままにしてたら……」

 

「そんな……ナルト君は悪いことしてないのに……」

 

 

 

「でもある意味良かったてばよ。だって……こうして二人と楽しく飯を食べれたしな!」

 

ある程度の会話を挟み、食事を終えた三人は食器を片付けナルトをベッドに寝かしつける。

 

「これ、薬見つけといたから水で飲んどけよ」と悟がベッド脇に用意をしておく。

 

「ありがとうってばよ。お腹いっぱいになったら眠くなってきた……」とナルトは薬を飲みながら言う。

 

「な、ナルト君元気で……ね」とヒナタが言うと悟と二人で「それじゃあ」と言いながら部屋を出ていく。ナルトは少し寂しそうな顔をしたが「また今度遊ぼうな!」と言ってベッドに横になる。

 

ナルトの家を後にした二人は「ナルト君大丈夫かなあ……」「ナルトだし大丈夫だよ」

と会話をしてある程度ぶらぶら歩いて行く。

 

少しして悟は「ヒナタちゃん、今日はもう家に送ってくよ。俺たちも風邪を引かないためにも家で安静にしようね」と言う。

 

ヒナタは悟の提案に少し考える様子を見せる。悟は意外に思い何を考えているのか返事を待っていると、ヒナタが口を開く。

 

「悟君って喋り方が色々変わってるなって思って……」

 

「え……あっそう……いや……そうかも」

 

ヒナタの指摘に悟は動揺するも――別にしゃべり方自体、問題にならないか……。と気を取り直す。自然に、丁寧な口調・前世の口調が入れ替わりになっていることに気が付いた悟だが問題にならないと判断し落ち着く。

 

ヒナタは「それじゃあ、悟君一緒に帰ろう」と話題を戻す。

 

「了解!」と悟は返事をし、歩みを進める。

 

~~~~~~~~~~~

 

日向の屋敷までヒナタを送った悟はそのままうちはの居住区に行こうかと思い、ヒナタに手を振り「ばいばーい!」と声をかけその場を後にする。

 

 

……その予定だった悟だが今、悟は日向の屋敷にある道場にいる。

 

ヒナタと〈日向ネジ〉がお互いに修行衣で組手を行っている。その様子を眺めながら悟は隣にいる人物、日向ヒアシに目を向ける。

 

「……悟君だったか?どうだ、二人の組手を見て思うところはあるか?」とヒアシから声を掛けられ悟はびびりながらも感想を考える。

 

「……ヒナタちゃんは優しいからか、攻撃が甘いですね。逆にネジさんは大振りというか苛立ちが大きいような……」と恐る恐る思ったことを述べる。

 

するとヒアシは「もうよい組手をやめよ!」と二人に声をかける。その声にヒナタが構えをとく。しかしネジは構えを解いたヒナタめがけ掌底を繰り出す。

 

「!」咄嗟にヒアシがある印を結ぼうとするがその前に悟が開門を開け飛び出した。

ネジの掌底がヒナタに当たる直前で悟が間に割って入り腕をクロスし掌底を受け止める。

 

「っ!」ネジは割って入ってきた部外者にいらだちを膨れさせ、再度攻撃を繰り出そうとするがその前に「やめるんだ!ネジ!」と声がかかる。

 

声のする方に悟が目を向けるとそこには印を結びかけているヒアシと瓜二つの顔を持つ男が立っていた。

 

「ネジ!頭を冷やせ!」目を閉じたままの日向ヒザシは声を張り上げる。するとネジは舌打ちをしながらもその場を逃げるように去っていった。

 

「思ってたよりも重い一撃だった……」と悟が呟きながら手を振り痛みを和らげる。

 

ヒザシは「すまなかったな……君。ヒアシ様、ネジの無礼をお許しください」と悟に声を掛けつつヒアシに謝る。

 

ヒアシは「よい……ネジなりにお前の処遇に納得がいっていないのだ。……本家を、俺を恨んでいても仕方があるまい」と少し落ち込んだ様子で答える。

 

『手を振って屋敷を後にするつもりがヒアシさんに上がってけと言われ、こんな様子を見せられるとは……』

 

悟はむむむと顔をしかめる。ヒナタが「悟君大丈夫!?」とネジの掌底を受け止めた腕をさすってくれているが空気の悪さに顔をしかめている悟の表情は変わらない。

 

しばらくしてヒナタ自室に戻り、道場でヒアシ、ヒザシと対面して正座をする悟。

 

「確か悟君といったか?息子がすまなかった」とヒザシが悟に言うと「いや、別に大丈夫です。はい、大丈夫です!」と悟は元気そうに振舞う。

 

実際平気なので、あまり申し訳なさそうにされるとこまるのだ。

 

するとヒアシが「……日向には君に公にはできないが恩がある。だから、何か我々に出来ることはないか、考えてはくれぬか」と言う。

 

ヒザシも首を縦に振り、悟に気を向ける。

 

『つまり恩返しがしたいと……』と悟が自分が屋敷に招かれた真意に気づき内容を考える。

 

ちょっとした金銭でも施設のためになる。物でもいいかもしれないが。そんなことを悟は考えるが、マリエはそういうものは基本的には受け取らないだろうと思い、考え直す。

 

つまり自分のためになること、そう思い一つ考え付く悟だが内容が内容だけに言い出し辛い。

 

するとヒザシが「遠慮しなくてもいい、俺に恩を返させてくれ」と言う。

 

別に恩を売るために誘拐事件に手を出したわけではないが、ここまで言われて悟は口を開く。

 

「えーと、その~、失礼というか無礼というか、常識的に良くないことだと分かってはいるんですけど~」と悟は念入りに前置きを置く。

 

 

 

「日向の柔拳をすこ~し教えてもらうことは可能ですか……?」

 

 

 

内容が内容なだけにヒアシは物凄い殺気を悟に向ける。当然である。

 

しかしヒザシはヒアシの前に手を出し制止させる。

 

「……君が言う少しの柔拳とは、秘伝も含めたものか?」とヒザシが確認を取る。

 

「秘伝は遠慮します!自分は白眼持ってないので!知って周りに吹聴する気もないです!基礎を、柔拳の基礎まででいいので!」

 

悟は必死に弁明を続ける。

 

その様子にヒアシは落ち着きを取り戻す。柔拳を会得するとはつまり白眼をもってして完了する。つまり〈眼〉を寄こせといっているのと同義だと思っていたヒアシだが、悟の弁明に純粋に体術としての柔拳を教えてほしい事だと気がついた。

 

「……変わり種な内容に少し動揺したが、良いだろう」とヒアシは答える。

 

ヒザシが「良いのですか?ヒアシ様?」と確認を取ると「白眼無しでは、柔拳を極めることは出来ぬ。故に型なら教えても問題なかろう」とヒアシは答え立ち上がる。

 

「だが本家に伝わる体術は、たとえ白眼がないお主に、出来ないと分かっていても教えるわけにはいかない。それでも良いな」とヒアシは悟に問う。

 

「もちろんです!」と悟は素早く答える。我ながら無茶な願いをしたと悟は思っていたが、何とかなり内心安堵した。

 

「では……ヒアシ様、彼への指南の件。私が勤めさせていただきます」とヒザシが提案をする。ヒアシはそれにすぐに許可を出しその場を後にした。弟が直接教えるなら余計なことをしないという安心、信頼があるのだろう。

 

「改めて、悟君。随分と破天荒な願いだったが、我々からのお礼でもあるんだ。しっかり俺が教える分は習得してくれよ?」

 

とヒアシがいなくなりヒザシの雰囲気が崩れたものになる。

 

その様子に少し戸惑いながらも「はい!お願いします!」と悟は返事をする。

 

その後軽く道場で柔拳の型を習い、日が傾く前に悟は日向の屋敷を後にした。

 

 

 

悟は八門遁甲の有効活用のために体術を覚える必要があると思っていた。

 

しかしガイや将来〈ロック・リー〉が使うような剛拳では、体への反動が大きくなりすぎると考えた悟は、日向の屋敷での提案を受けチャンスだと思った。

 

威力はなく、白眼がなければチャクラ系へのダメージも期待できないがそれでも、防御に重きを置き隙をつく戦いをするうえで柔拳の型は優れている。

 

完全にそのままでは扱いにくいが八門遁甲を発動したうえで柔拳を少し打撃に重きを置けば、良い戦力になると悟は考えた。

 

……提案をした瞬間死を覚悟したが。悟は冒険に出てよかった思いながら施設への帰り道、ヒザシに教えてもらった型の一部を繰り返しながら歩みを進めた。

 



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14:血の壁

書き方を少し変更しました。


〈視点:黙雷悟〉

 

ここしばらく、俺は八門遁甲の第一開門に慣れることと、ヒザシさんに柔拳の型を教えてもらうことに集中していた。

 

そんなある日、うちは邸でサスケと組手をしていたところにうちはフガクさんから声をかけられた。

 

「黙雷君、少しいいかい?」

 

それに俺はサスケの打撃をさばきながら「何ですか?今見ての通り手が離せない状況でして」と返事をして掌底をサスケにお見舞いする。

 

サスケは防御して後ずさる。体術の動きの確認をする組手であるので、もちろん本気でやってはいない。

 

「サスケとの組手が終わってからで構わない。俺の部屋はわかるな?そこで待っている」といいフガクさんは庭の縁側から部屋の奥へと姿を消した。

 

正直、フガクさんは怖いというイメージしかないが改まって何か俺に用事なんてあるのか?

 

「父さん、悟になんのようかな?父さんに呼ばれてるしそろそろ切り上げる?」とサスケは若干不服そうに提案をしてくれる。

 

半年近くサスケと一緒に修行の真似事、つまり手裏剣の投げ方とか組手をやったりなどしていると彼の性格がわかってきた。

 

サスケは嫉妬深い。まあ、まだ子供だからというのもあるが、イタチさんが俺を褒めれば、例えサスケが先に褒められていようと拗ねる。逆に俺がイタチさんをべた褒めしていても意外なことに若干不機嫌になる。

 

もちろん「兄さんはすごい!」と賛同してくれるが、どこかで自分を見てほしいという独占欲みたいなものがあるのかも。複雑だ。

 

今もフガクさんが俺に用があるというだけで、少し不機嫌になっている。まあ、テンションが下がるだけで駄々をあまりこねないので、歳のわりに結構大人びているのかもしれない。

 

その後俺たちは五分ほど組手をして、サスケは台所におやつを取りに行き、俺はフガクさんの下に向かった。

 

「失礼しまーす……」小声でフガクさんの自室の扉を開く。

 

フガクさんは袴でお茶を飲んでくつろいでいた。俺の言葉に

「そこに座ってもらって構わない」と座布団をしめす。

 

俺は恐る恐ると言った様子を隠さずにゆっくりと座布団に腰を下ろす。今のところ怖い以外の感情が浮かばないし……。

 

俺の様子にフガクさんはふっと笑みをこぼしながら「そう緊張しなくてもいい。別に何か叱ることがあるわけでもない」と言う。

 

俺は「……はい」と返事をして、正座する。

 

フガクさんはお茶をすすり、湯飲みを置くと俺に問いかけてきた。

 

「サスケやイタチと普段から仲良くしてくれて感謝しているよ。二人としばらく一緒にいて何か思うことはあるか?」

 

俺は質問の意図がわからないので、邪推をせずに素直に答える。

 

「サスケ君とは忍びの修行を一緒にやっていて、本当に成長が早い子だなあと思っています。イタチさんは、何というか〈忍び〉として完成されているような、凄みを感じています。良くサスケ君と一緒に的確なアドバイスをもらって感謝しています」

 

べた褒めである。別に息子をおだててどうにかするとかではなく、純粋に今俺が思っていることだ。

 

俺の言葉を受けフガクさんは「そうか」と一言呟いて何か考えている様子だ。

 

少しの沈黙のあと「君は〈うちは〉と、しばらく関わらない方が良い」とフガクさんは言う。

 

……?どういう意味だ?俺は意味が分からず、混乱する。サスケともイタチさんとも別に問題がある関りなんてないし……。なぜそんな拒絶するような。

 

俺が戸惑う様子に「君はあまり我々に対して偏見がないようだ。それは良いことだが、逆にうちはには君を良く思っていない連中がいる」とフガクさんは先ほどの発言の補足をする。

 

「……俺が部外者だからってことで、うちはの警備隊長の御家族と公に関わることに快く思っていない方たちがいるんですね……」

 

うちは一族と里との関係は手放しで良いと言える状況ではない。俺は一部のうちはの者からしたら気分が良い存在ではないようだ。

 

「……そうだ。君はサスケと同い年の割に考えが回るな。今あまり我々の中で問題要素がある状況は避けたい。君に問題があるわけではないが、居住区に来ることを控えてほしい。」

 

フガクさんの提案の意図を理解し少し考える。そして俺は一つの提案をする。

 

「居住区の外でなら、サスケ君やイタチさんと会っても問題ないですか?自分は、このまま二人と会えなくなるなんて嫌です!」

 

子どもらしく駄々をこねてみた。俺の提案にフガクさんは考える素振りを見せるもすぐに返事をする。

 

「かまわない。そろそろサスケには居住区の外の様子を知ってほしいと思っていたしな。イタチは本人が忙しいせいで予定が合わせづらいと思うが、イタチが良いといえば俺は何も言うまい」

 

思っていたよりもあっさりとした了承に少しあっけに取られるも、俺の考え方が違っていたことに気づき平静を装う。うちはの居住区に堂々と入りびたるのがダメなんだ……。

 

同じ里の人間なのに、血が違うから関わるな、と。悲しいな……。

 

その後俺はサスケに次から、うちは居住区外、よくテンテンちゃんと一緒にいる公開演習場を今後の待ち合わせ場所に指定して別れた。

 

「というわけで今後はそっちで集合で」

と軽く流す俺に対してサスケは

「……」不安そうに俯く。

 

不安な内容には予想がついているのでそれに対処を試みる。

 

「ああ、流石にいきなり一人で知らないところに行くのは緊張するよね。だったらイタチさんと一緒に一回行ってみるといいよ。ね、イタチさん」

 

とこの場にいないイタチさんへと俺が語りかけると直ぐにシュンッとイタチさんが姿を見せる。フガクさんの部屋に入ったあたりからうっすらと居ることだけはわかっていたのだ。

 

イタチさんが姿を見せたことで、サスケは嬉しそうにイタチさんに近寄る。そんなサスケの頭を撫でながらイタチさんは「よくわかったな」と言い俺の問いかけに答える。

 

「もちろん、最初のうちは俺がサスケを送り届けよう。君といることはサスケのためにもなりそうだしな」といってOKを出してくれた。

 

その日は俺がうちはの居住区にいられる最後の日として若干長めにサスケとイタチさんと修行を行った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~^

 

〈三人称〉

 

悟は施設に帰ると晩御飯の手伝いを行った。しかし普段よりも若干低いテンションにマリエはいち早く気づく。

 

「どうしたの悟ちゃん?悩み事?」とマリエが悟に問いかければ悟は

 

「ちょっと、複雑な悩みが……ありまして」と遠慮しながらだが胸の内を明かす。

 

内容はうちは居住区での出来事。一族でないからと差別とまでは言わないが、区別され自由に一緒にいられない。こちらが強硬手段を取るわけにもいかない。相手はそれにより反発するだろう。

 

そんな里内にいくつもある〈血〉による区別が少し気に食わないと悟はため息交じりに相談する。

 

そんな相談の内容にマリエは少し作業の手を止め考える素振りを見せる。すると妙案だと手をポンと叩きマリエは自分の考えを口に出す。

 

「悟ちゃん!今日は一緒にお風呂入りましょう!そうしましょう!」

 

 

「…………はい?」

 

悟は盛り付ける予定のみそ汁をお椀よりも随分手前にこぼしながら思考をショートさせた。

 

~~~~~~~~~~~

 

施設共用のお風呂場。時間帯で男女の入浴時間が決められているこの場に深夜の今、悟とマリエは同じ湯舟に浸かっていた。

 

『どうしてこうなった!どうしてこうなった!!』と内心焦りまくりの悟。

 

普段マリエは大人びた雰囲気をまとってはいるが年齢はガイやカカシと同じで、つまり悟たちナルト世代のプラス14歳である。本人は語らないが年齢が約18であることはほぼ間違いない。

 

と悟はつい最近の誕生日で4歳になった自分の年齢と比較し現実逃避を試みるが

 

「それじゃあ、頭洗ってあげるからこっちに来て~」と湯船から出ながらマリエが悟に呼びかけると「はっはい!」と現実に呼び戻されて緊張で声が上ずった返事をする。

 

一応悟の中身、魂レベルで言えば20代前半である。

 

最近母性を感じていた相手の素肌を見て精神年齢を一気に魂レベルに引き上げられた悟は洗い場の椅子に座り、正面の鏡を見ないように目をつぶる。

 

「どうしたの?そんなに目をつぶって。まだシャンプーつけてないわよ?」とクスクスと笑いながら悟の背後のマリエはシャンプーを泡立てる。

 

『ここで魂の欲に負けてマリエさんの裸体を見たら俺は地獄に落ちる!』と悟は自分に言い聞かせ目をより一層強くつぶる。

 

マリエはそんな様子の悟をおかしく思いながらも「どうですか~?痒い所はないですか~?」とシャンプーで悟の頭をこねていく。

 

「……大丈夫ですぅ……」と悟が必死に返事をするものの、マリエのマッサージに近い手洗いに力が抜けていく。

 

しばらく大人しく頭を洗われていた悟にマリエはいたずらっ子のように「えい!」と悟の顔面まで泡で覆う。

 

「おわっぷ!」と悟は驚きに体をのけぞらせると柔らかい感触が頭に伝わる。

 

全神経をその柔らかさについ、集中させた悟は見てはいけない、しかし見たいという感情のせめぎあいによる発生した感情の小宇宙の爆発により、自身の感知能力を覚醒させ自覚する。

 

……感知したところで白眼のように姿が見えるわけではないが。

 

覚醒した悟の感知能力は、チャクラの揺らぎを見せる。そして目を閉じているため、聴覚や触覚はより鋭敏になる。つまりある程度空間把握を可能にした。

 

悟との接触で少し声を上げたり、その後シャワーで悟の頭を洗い流すマリエの手の感触による感情の揺らぎを悟は鋭敏になった感覚で堪能した。

 

『……良い』悟は本心でそう思う。

 

それでも目を頑なに開けないあたり悟の最後の意地は固かった。

 

その後悟はお互いの背を洗いあうなどのやべえイベントも何とか、覚醒した感知能力による空間把握で目を開けずに乗り切った。――天国と地獄は両立しうるんだな。と悟は思った。

 

流石にそんな悟の様子にマリエも『あれ?もしかして悟ちゃん、シャンプーが目に入るのが怖いんじゃなくて、私の裸を見るのを避けてくれているんじゃ……』とませてるなあこの子は、という感じの暖かい視線になる。

 

お互いに洗い終えた状態で湯船に再び浸かる。

 

お互い日頃に疲れることばかりしているため、ふうっとため息をつく二人。

 

流石にマリエが視界に入っていないためを目を開けた悟にマリエが語りかける。

 

「実はねえ……私、昔は孤児院にいたの。悟ちゃんと同じで血のつながった親はいないの」

 

突然のカミングアウトにマリエの方を向きかける悟。寸前で自制したが。

 

続けてマリエは語り続ける。

 

「そこの院長は眼鏡をかけたとても優しい人だった。私もその人みたいになりたくてがんばったわ……。でもその孤児院は今実質……。まあ、いろいろあって、私は戦争孤児だったけど、今現在は自分の居場所を見つけたわ」

 

マリエの話に悟は黙って真剣に聞いていた。

 

「私には血の繋がっている人はいない。だから血の繋がりというのはよくわからないけど……」

 

「悟ちゃんが知っているガイ君をはじめ、無口な天才君や、うちはのお馬鹿さん、色んなひとと絆を持てたことに〈血〉は関係ないと自信を持って言えるわ」

 

「悟ちゃんが迷うことはあるかもしれないけど、最終的に〈血〉ではなく〈個人〉を見てさえいれば上手くいくわ、絶対」

 

マリエの語りに悟は自身の悩みに決着をつける。

 

『うちはから一族以外の部外者だと嫌悪されても、サスケやイタチさん、フガクさんが俺自身を嫌っているわけではないんだ。ここで俺が不貞腐れても不幸しか生まない。』

 

言葉ではわかっていても感情が制御できなかった悟だが、マリエの励ましで感情においても、相手の続柄だけで判断しないという感覚を身に着ける。

 

ここでふと悟は疑問に思う。

 

 

 

 

 

『なぜマリエさんは孤児院の院長をしているのか?』

普段特に気にしたことがなかったが、悟は生活の節々で違和感を得ていた。

 

マイト・ガイと同世代。上忍並みと思われる実力。それらの情報からマリエが今現在

〈忍者〉でないことを不思議に感じる悟。

 

『よくよく考えたら、日向の誘拐事件の時もマリエさんの性格なら意地でもついてきて、俺を守ろうとするはずだ。実力がないわけでもないし。あえて俺を見守る姿勢を貫いた意味があるのか?』

 

自分がいた孤児院の院長に憧れたのなら、忍びとしてのスキルは必要ないはずと悟は考え自身が抱いた数々の疑問を口から出しかける。

 

「マリエさんは何で……」ふと悟の視界にマリエが映る。

その体は……酷く傷ついていた。尋常ではない数の傷跡を目にした悟は一瞬息をのみ思考を止める。

 

悟がまばたきをするとマリエの体に見えていた傷は消えていた。

 

一瞬の出来事に混乱する悟は言葉を出せずにいた。

 

『なんだ!?今のマリエさんの体の傷跡は……。それに傷が一瞬で消えた?そんなわけ……』

 

思考にふける悟にマリエは声をかける。

 

「さ、さすがにあまり凝視されると私恥ずかしいわ~」

 

「へ?」

 

悟はマリエの言葉で正気に戻る。すなわち自分が見つめているものを正しく認識することになる。

 

そこで悟は自身の混乱具合を制御できなくなる。

 

鼻血を出してふらりと湯船に沈む悟に慌てて近づくマリエ。

 

意識を手放す寸前。悟は『深く考えるのはよそう……』とマリエの過去について考えるのあきらめた。

 

 

 

あきらめたことを後悔することが数年後訪れるとも知らずに。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

〈視点:マリエ〉

 

湯船でのぼせて意識を無くした悟ちゃんを介抱する私は悟ちゃんに服を着せ、自室に運び込む。

 

流石に湯船に浸かって話し込んじゃったのはまずいと反省しながら、悟ちゃんを膝枕で寝かせて団扇で扇ぐ。

 

……少し昔話をしたせいで、感情的になっちゃってるなあ。私。

 

ガイ君やカカシ君、野原さんたちとほんの少しだけ一緒にいた日々を懐かしむように遠い目をしていた私は、膝の上で悟ちゃんの頭が動く感触で意識を戻す。

 

「……ぶあ?あ……ここは?」呆けている悟ちゃんに私は笑みをこぼしながら

 

「悟ちゃん、のぼせちゃったみたいね~。あまり無理して湯船に浸かってちゃだめよ?きつくなったら私に言えばよかったのに~」と声をかける。

 

「え……あ、すっすみません……」と悟ちゃんはしどろもどろにこたえてくれる。

 

何だか態度がよそよそしい……。悟ちゃんの言葉が丁寧になるときは何か隠し事をしている傾向にあると私は気づいているが、今回はあまり言及しないでおくことにした。

 

あまり深入りして嫌われたくないし……。

 

とりあえず気持ちを切り替えて私は「悟ちゃん、実はこの前の悟ちゃんの誕生日の時、渡していなかったプレゼントがあるのよ~」と悟ちゃんを起き上がらせ、自分は自室の机の引き出しから紙を一枚取り出す。

 

悟ちゃんはこの紙が何かは分かっていない様子。不思議そうにしている顔はとてもかわいいわ~。

 

私は自分が持つ紙にチャクラを流し込む。すると紙はボロボロと崩れていく。

 

その様子を見ていた悟ちゃんは一瞬目を見開くけど、とくに言葉を発しずにいる。

 

……多分反応を見る限り、チャクラ紙についても知識だけは知ってたんだろうな~この子は……。

妙な知識の豊富さについては前に隠すように教えたので、その教えのように知らないふりをしている悟ちゃんに私は説明する。

 

「これはチャクラ紙といって、チャクラが持つ性質を増幅させてわかりやすく教えてくれる便利な紙なの。悟ちゃんは強くなりたいみたいだし、特別に使わせてあげるわ~」

 

そう言い私は新しいチャクラ紙を取り出して悟ちゃんに手渡す。そこそこ価値が高いものだけど、今の私には不要なものだし、悟ちゃんのために役立てたいと思ってたので、誕生日の機会に使わせてあげようと考えていた。

 

悟ちゃんは緑色の目でこちらに了承を求めてきたので「ぐっとやっちゃって~」とゴーサインを出す。

 

悟ちゃんがチャクラ紙に流したチャクラはすぐに紙に変化を促す。

 

チャクラ紙はシワシワになり、クシャっと縮こまってからボロボロと崩れ落ちる。

 

「これは……雷と土?」と悟ちゃんは口に出す。

 

……私はまだどんな紙の変化がどの性質に当てはまるか教えてないのだけど……この子は。

 

少しあきれながらも、優秀な悟ちゃんの頭を撫でながら説明を加える。

 

「そうね~。雷と土であっているわ。燃えたら火、切れたら風、濡れたら水。まだ教えていなのによくわかったわね~」と少し言葉の最後の方の口調を強くして。

 

悟ちゃんはすぐに自分の失敗に気づいて、しまったって顔をする。……この子、お面被ってなかったら感情が表情に出すぎていて心配になるわね……。

 

まあ、重要なのはそこじゃないのでそこまでにして「土は私と同じ性質ね~。それなら幾つか術を教えてあげられるかも。雷は知り合いに使い手の人がいるけど、今は少し大変な時期みたいだから、術を覚えるのはあきらめてね~」と話をすすめる。

 

その言葉を聞いているのいないのか、悟ちゃんはぶつぶつと自分の世界でなにやら考え事中みたい。

 

……向上心の塊みたいなこの子は多分、進んで窮地に飛び込んでいく。

 

だからその時、力不足で死んでしまわないように私は出来る限りのサポートしてあげたい。

 

 

 

 

だって、私では直接は助けてあげられないから……。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

〈三人称〉

 

 

悟は、着実に力をつけていく。体術は日向の柔拳を。忍術は雷と土。扱う武器は棍棒。

 

切り札に八門遁甲。これらの能力を磨きをかけ続けること早2年。

 

悟は忍者学校、アカデミーに通う年になっていた。

 

 

そして不可避の〈負けイベント〉も着実に近づいていた……。

 

 

 

 

 



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15:勝ち負けの境界

なんとか生きてます


〈三人称〉

 

黙雷悟がアカデミーに入学する時期が来た。悟は一年早くアカデミーに入っていたテンテンから定期的に授業の内容や、実施訓練などの話を大まかに聞いていたため、入った当初は新鮮味をあまり感じていなかった。

 

 

『入学して一番大変だったのは……というか入学すること自体が今のところ一番緊張したなあ』と悟は振り返る。

 

アカデミーに入学する際、いわゆる入試や面接があった。悟は入試にあたる部分は問題なく突破できたが問題は面接にあった。

 

里出身のものであれば意気込みを聞かれる程度の面接である。悟は事前にテンテンから聞いていたため、余裕と高をくくっていたが問題が発生した。

 

「あなたは、里出身ではないようですが、里を愛していますか?里の平和のために尽力することができますか?」

 

このように所謂里に忠誠を誓うかどうかの内容を聞かれたのだ。

 

悟自身の本音を言えば、里自体は実際どうなろうがどうでもいい。自分が助けたい、良くしてあげたい人のために、である。

 

悟はそもそも、この里自体少し陰湿な部分があるため好きではない。

 

なので不意にこの質問を受けたとき、悟は狼狽えてしまった――さすがに面接なので普段つけている狐のお面は外している――ため、面接官が不審に思い保護者であるマリエが呼び出しを食らった。

 

前世、高校でバカをやらかして親が呼び出しを食らった申し訳なさ、不甲斐なさを反芻した悟は、待合室でマリエと少し話す内容を復習して再度面接に挑み、無事合格することができた。

 

その際、マリエの「悟ちゃんはやっぱりまだまだ子供ね~」という言葉と生暖かい視線は悟的に恥ずかしさを加速させた。

 

そんな一波乱の末、悟のアカデミー生活は始まった。

 

 

悟は入学前から知り合いだったナルトやサスケ、ヒナタとは偶にアカデミーで会話をしていたが基本的にはぼっちであった。

 

ナルトも大概風評被害で一部の生徒以外とはほとんど関わり合いを持っていなかったが、悟は見た目が悪かった。普段から狐のお面を外さない悟は普通に周囲から避けられていた。

 

それでも放課後、先の3名と遊んだり修行をしたりしていたため、孤独感は

感じてはいなかった。

 

ナルトとはかけっこや、一緒に悪戯を行うなどの子どもらしくはしゃぐことをしていた。もっとも悟にとって、ナルトの悪戯がやりすぎな内容にならないように監視するのが主な目的でああったが。

 

「それは危ない!誰かがケガするだろ!」

 

「落書きは後で落とすんだから落ちやすい水性の絵の具でやろうぜ!」

 

「物盗むのはガチでいかんわ!!バカたれ!!」

などなど。

 

「……悟ってば、うるさいってばよ……」

とナルトは悪戯をするたびに悟が介入してくるのがめんどくさいと感じ過激な悪戯を次第に控えるようになっていった。

 

サスケとは演習場を使い手裏剣術や組手、術の練習などを一緒に行っていた。

 

最初は居住区外での活動に消極的であったサスケだが次第に慣れていき、悟と一緒に切磋琢磨していた。憧れの兄を目指して。

 

「火遁?」

 

「そう火遁・豪火球の術。うちはで一人前と認めてもらうのに必要な術だ!俺もきちんと覚えたいんだけど、上手くいかなくて……。悟はコツとかなんか分かるか?」

 

「性質変化を持った術は基本的に会得難易度が高いし、豪火球は会得は難しいていうしなあ。俺が思うに、チャクラコントロールをしっかりできればサスケなら出来るようになると思うし、木登りでもする?」

 

「……?今更木登りで術ができるようになるのか?」

 

「ふっふっふっ只の木登りではない!手を使わない木登りだ!」

 

みたいなやり取りを悟とサスケはしている。

 

悟はサスケの〈負けず嫌い〉な部分を刺激しつつ、自信をつけさせるように動いていた。サスケは意外にかまってちゃんで自分に自信がない。

 

あの兄がいるのだ。自己評価が低くなりがちで、周囲の人間に自分を評価してほしいという欲求を悟は満たしてあげている。

 

そのうえで……

 

「もし兄さんが敵になったら!?そんなことあるわけないだろ!流石に悟でも怒るぞ!」

 

「例えばだよ例えば。もし超強い忍びが敵にいたらっていうシミュレーションだって」

 

「……納得できない。俺なら真っ先に敵になってる理由を兄さんに聞く!」

 

「……それもいいんじゃないかあ。相手の動機を知るのは結構大切だと思うよ」

 

と未来におきる事件の心構えをサスケにそれとなく仕込んでいく。

 

『……お互いに傷ついたりするのは見ていたくないしなあ。ほんの少しだけでも緩和してあげたいなあ』

と悟は願う。

 

意外にもヒナタとも悟は個人的に会っていた。理由は〈ヒザシさんが柔拳の型を教えてくれなくなったため〉である。そのため、悟はヒナタと演習場でひたすら組手を行っていた。

 

ヒザシ曰く「基礎は全て教えた。あとは君次第だ」のこと。

 

ヒナタとの組手は、単純な遊びとヒナタの修行のためという名目だが、悟の目的はヒナタの技術を盗むことにあった。

 

ヒナタは他人を傷つけることを躊躇しているが、柔拳自体の練度は歳の割にしっかりと進んでいる。

 

なので相手を傷つけない練習組手で、完成されたヒナタの型に触れることが悟にとって重要であった。

 

ただ、そんなに真面目に組手自体は行っておらず、大体は

 

「今日、ナルト君とアカデミーで少し会話出来て……」

 

「ふんふん」

 

「ナルト君がサスケ君に組手で勝てなくて悔しがってて……」

 

「へー」

 

「授業中にナルト君がノートに落書きしてて、先生に怒られそうになった時にね……」

 

「ナルトそんなことしてたのか……」

 

と日常会話を挟みながらの組手であった。

 

最初にあったころとは違い、随分と会話ができるようになったものだと悟は感慨深く感じる。

 

……ほとんどがナルトの話題なのはもう、しょうがないと悟は諦めていた。

 

また、会う機会は少なくはなったがテンテンとも放課後に会っていた。流石に数年前みたいな遊びをするような仲ではなくなったが、それでも忍びについて日々語り合っていた。

 

そんな日常と対になるように悟は日々、緊張感を増していった。

 

理由はうちはのクーデターについてである。

 

悟がうちはの居住区に出入りを控えるように言われてから、うちはと木の葉の一部の忍び同士でいざこざが起きるようになっていた。

 

「うちはは陰険だ」

 

   「これだから無能な木の葉の忍びは、うちはに任せればよいものを……」

 

里の影に潜む、不満や不信感は徐々に高まってきている。

 

大人でなくとも事情を間接的に知っている悟はこの雰囲気に気が付いていた。

 

また、サスケが「最近の兄さんは少し怖い・・・」と言っていたり、あのうちはシスイが行方不明になったりと明らかに事が起きようとしていることを悟は察知していた。

 

~~~~~~~~~~

<視点:マリエ>

 

悟ちゃんがアカデミーに入学して早いもので上半期が終わろうとしていた。

 

入学時の面接のことを考えると彼はまだまだ、忍びとしての振る舞いは苦手のようで少し、ある意味安心している私がいた。

 

けれど悟ちゃんの実力は間違いなく伸びてきている。嬉しくもあり、心配に思う親心……みたいなものがある。

 

それに、彼は少し特別な存在なのだと近頃思うようになってきた。

 

数年前の日向の誘拐事件のことを考える。そして今回里内でのうちはとの対立の増加。それに合わせて最近悟ちゃんはまたあの時のように悩み始めている。

 

私自身はうちはとは仲良くしていたつもりである。

 

けれどイタチ君という後輩や、ミコトさんとも最近は会えていない。

 

そして、そろそろアカデミーでの上半期の成績が返ってくる時期になり、何気なく悟ちゃんに聞いてみた。

 

「また、何か起きるのね……」と。

 

悟ちゃんはお面の奥の少しの動揺を隠せず、言葉を選んでいる。流石に私には隠し事ができないと諦めているようで説明しようとしているようだ。

 

「多分、近いうちに大きな事件が起きます」と悟ちゃん言う。

 

「細かい時期とかはわからないんですけど、俺、ただ起きるってことは分かるんです」

 

……それに自分から関わろうとしている、とは悟ちゃんは言わない。けれど私にはわかってしまう。彼は誰かが傷つくのを見過ごせない、そういう子だと。

 

「……それで今度も相手は遥か格上かしら?あの時みたいに」と私が言うと

 

悟ちゃんは苦笑いしながら「そうなんですよ、あはは……」と答える。

 

 

「勝ち負けの条件って知ってる?」と私は言葉を繋ぐ。

 

「この忍界では単純に生き死にが勝負を分けることは少ないわ。生き残っても負けるし、死んでも勝つことはある。……何が起きるか悟ちゃんは知っているなら、この条件をちゃんと考えておいて。死ぬのは……私が許さないけど。引き際をちゃんと考えておくのよ」

 

と精一杯のアドバイスを送る。

 

本音を言えば……いや私が思うことに意味はない。私は生き残って負けた人間だ。悟ちゃんには生き残って勝ってほしいだから……。

 

 

悟ちゃんは真剣に考えている。私が出来ることは支えること。

 

「これ、悟ちゃんが欲しいって言っていた棍棒。知り合いの武器職人の人に頼んで作ってもらったの、持って行って」と小さな巻物から、開封の術で金属製の黒い棍棒を二本呼び出す。

 

作りは単純、見た目は只の棒だけど、しっかりとした金属製で出来ている。

 

クナイの刃の部分をそのまま棒状に伸ばしたもの。……シンプルなつくりだけどこれが悟ちゃんの命を助けると思えば心強い。

 

「これは……いいんですか?」と遠慮がちな悟ちゃんに私は

 

「貴方のためのオーダーメイドよ。良い悪いじゃなくて貴方しか使わないわ」とクスクスと笑いながら手渡す。

 

ずっしりとした重量感におおっ……と悟ちゃんはこぼしながら軽く素振りをする。

 

満足している様子は顔を見なくてもわかる。プレゼントした甲斐があるわ。

 

「……ありがとうございます。マリエさん、俺絶対帰ってきます!」

 

とこっちを不安にさせる言葉を元気よくいう悟ちゃんにあきれながらも

 

「そうね、絶対に帰ってきてね。そしたら私うれしいわ」と返す

 

悟ちゃんなりに決心がついたようで良かった……。

 

こうしてこの日は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……マリエさん?」

「……どうかしたの?」

「封入の術とか開封の術をまだ使えないんで、持ち運びが……」

 

「あ~……」

 

 

とりあえず、その日は会得が簡単な開封の術を悟ちゃんに教え込んだ。

 

私が封入の術を使い必要な時に悟ちゃんが開封の術で取り出す。

 

この形でとりあえず落ち着き、本当に今日はお互い寝床についた。

 

……悟ちゃんに時空間忍術の適性がないことを痛感して不安を感じながら。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~

<視点:黙雷悟>

 

マリエさんに割と簡単と言われていた封入の術を会得できず、より簡単だと言われた開封の術の会得にかなり手こずって少し落ち込みながらも俺は布団に潜る。

 

 

夜、施設の寝床で、俺は近いうちに絶対起きるであろう、うちは虐殺について考えていた。

 

ピンポイントでいつ起きるか、正確な日時はわからないが多分、サスケと一緒に行動していれば関わるチャンスが来るはずだ。

 

そして関わるときの明確な目標も立てておく。うちはの人間を一人でも救いたい。

 

だけど、サスケと一緒に行動する以上、タイミング的にことが終わった後かもしれない。

だからその時は、せめてサスケがイタチさんを憎むようなことがないように足掻こう。

 

そのためにイタチさんと相対する覚悟をする。

 

実力は遥かに上だが、ただ一つだけイタチさんを怯ませることができる作戦がある。それで多少でもダメージが入れば、サスケとイタチさんとの邂逅に原作にはないズレが起きるはずだ。

 

不確かだけど、今の俺に出来ることはそれぐらいだ。

 

そんな自分の非力さを呪いながら俺は眠りにつく。

 

 



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16:長い夜

<三人称>

 

 

上半期の総復習と題したアカデミーでの試験を終えて、帰り道サスケと悟は帰り道を共にする。

 

「流石サスケだなあ。クナイや手裏剣の扱いは間違いなくトップだろ!」

と悟はサスケを褒めちぎる。サスケの自尊心を向上させることが目的だが、思っていることを口に出しているだけである。

 

「ははは、そうかなあ」とサスケは自分の頭を撫でながら照れている。

 

「そうだ悟、今度試験の成績が帰ってきたら、一緒にうちでご飯食べていかないか?父さんが、たまには呼んでもいいって言ってくれたんだよ!」

 

とサスケは無邪気に話す。

その話を聞いた瞬間、悟は自分でもわからない違和感を覚えるがお面と、歩みを止めなかったおかげでサスケ不審には思わなかった。

 

「そう、それならお邪魔しようかな。ミコトさんのご飯めちゃくちゃうまいし」と返す悟。

 

悟は直感で思う『ああ、その日か』と。

 

 

そんな悟にサスケは話しかけ続ける。

 

「そういえば試験の組手の時、ナルトの奴しつこかったなあ。弱っちいのに何度も立ち上がってきて」

 

「ああ、ナルトは諦めないし根性あるし、タフだし。そういうやつだからなあ」

 

「何かと俺に対して因縁つけてくるし、何なんだあいつ」

 

とサスケはあきれている態度をするが少しだけ嬉しそうだ。

 

試験の組手の時サスケと組んだ相手はほとんどがすぐに棄権をした。

 

負けず嫌いのナルトはボロボロになりながらも、サスケに向かっていった。

 

うちは一族としてではなく、勝手だがライバルとしてしか見ていないナルトのフィルターを通さない感情はサスケにとって清々しいものに感じられるようだ。

 

そんなことを悟は察しながらも

 

「まあ、同じ負けず嫌い同士仲良くすれば良いんじゃないか?」

 

とはやし立てると

 

「はあ?あんな落ちこぼれと一緒にするな!ナルトの奴、ウスラトンカチとか言ってきたが、あいつこそウスラトンカチだ!」

 

と意地になってへそを曲げるサスケ。

 

その後もウスラトンカチが、ウスラトンカチがとぶつぶつと文句を言うサスケをからかいながら、悟は楽しく帰路についた。

 

 

それから数日後、上半期の試験の結果が返ってきた。その日アカデミーからサスケと悟は直接うちは邸へと向かっていた。

 

黄昏時、お互いの試験の結果を見せあいながら二人は会話を弾ませる。

 

「サスケ、実技は完璧トップなのに筆記酷くないか?」

「うっうるさい!そういう悟は全部中途半端じゃねえか!俺と修行してる時と比べて手え抜いてるんじゃねえか?」

 

見たいに和気あいあいと。

 

「悟、マリエさんだっけか?ちゃんと今日のことは伝えてあるか?」

 

「ああ大丈夫今日はサスケの家で食べてくるって伝えてあるよ」

 

 

 

一緒に『今日がその日かもしれない』とも。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

うちはの居住区に近づくと悟は違和感を覚える。

 

『俺の感知能力だと全く違和感がないのに、何というか雰囲気が変だ。』

 

人の気配がするのに、恐ろしいほどに静けさだけが漂う。そんな異様な雰囲気にサスケも気づいたようで、少し戸惑っている様子だ。

 

そしてうちはの居住区に足を踏み込むと悟が感知していたにぎやかな気配は一瞬にして消え去る。

 

何らかの結界忍術なのだろう。居住区の外からは人がいるように感じられたが、踏み込めば真実があらわになる。

 

うちはがすでに壊滅しているという真実が。

 

悟はあふれ出る汗を止めらずにいるが動揺はしないよう心を強く保つ。

 

「悟……なんか変だ……」とサスケも違和感を確信する。

 

するとほんのわずかだが、悟の感知に弱々しい気配が引っかかる。

 

と同時にサスケが「父さん、母さん!」と叫び走り出してしまう。

 

異常な雰囲気に冷静さを欠いたサスケは一人で家の方角へと向かう。

 

悟はそれを追いかけたかったが、気配が気になり、そちらを優先する。

 

「もしかしたら生き残りが……!」そう願いながらサスケとは別行動を取った。

 

 

~~~~~~~~~~~

<視点:黙雷悟>

 

気配をたどっていくと、うちはせんべいの店へとたどり着く。それまでの道すがら、通ってきた家屋から全く気配が感じず、その中に……死体があると思うと心が折れそうになった。

 

けれどせめて生き残りを救いたいと、店の前まで来ると店からうちはせんべいの店主が血だらけで足を引きずりながら出てきた。

 

「大丈夫ですか!?」と言い俺は駆け寄る。

 

「……にげ、ろぉ」

 

瞬間、店主の胸からクナイが飛び出し、鮮血が近づいていた俺のお面に降りかかる。

 

 

俺は動きが止まり、思考も止まりそうになる。俺の感知に引っかからず、店主を貫いたクナイの持ち主は店主を横に倒し一瞥をくれる。

 

「これでターゲットは最後か。イタチめ、やり損ないが多いな。まあ、あれでもまだガキか……」

 

 

そう呟いたその<男>はこちらへと声をかける。

 

「……おかしいな。あの結界忍術には、よほど強い意志がないとうちはから気を反らすようにする効果があったのだが……貴様どうしてここにいる?」

 

黒い外套に面をつけた存在が俺に問う。

 

まさかこの人物がこの場にいるなんて……!想定外も想定外だ!!

 

『うちは……オビト!』

 

原作での記憶が不確かなせいでオビトがこの場にいたかわからないが、間違いなく会ってはいけない人物に会ってしまったと俺は動揺を隠せない。

 

 

「だんまりか……しかし俺の姿を見られたからにはガキだろうと生かしておくわけにはいかない」

 

そういいながらオビトは俺に手のひらを接触させようと、急接近しこちらに手を伸ばす。

 

俺は一瞬で八門遁甲第二・休門まで開け、開封の術で呼び出した鉄棒の一本でオビトの手を弾き、強化した身体能力で距離を取る。

 

「はあ……!はあ……!」肩で息をする俺。

 

緊張と同様、知り合いの死といった要素が俺の動きをぎこちなく縛る。それでも考えて動かなければ……死ぬ!

 

オビトは弾かれた手を挙げたまま「タイミングが合ったか、運がいい」と呟き、ゆっくりと手を下ろす。

 

俺は「あんた、何なんだ!!」と叫ぶ。

 

オビトはふうっとため息をつき「言うわけがないだろう。冥土の土産を添える程忍びは甘くない」と言う。

 

恐ろしいほどの速さの手裏剣をほぼノーモーションで投擲しながら。

 

八門遁甲で反応速度が上がっていてもその早すぎる手裏剣に対応しきれず、何とか鉄棒で軌道を反らすが手裏剣は俺の肩の肉を裂いた。

 

「ヅッう!」痛みに声が漏れるが目線はオビトから外さない。外せば死ぬ。単純にそれほどの実力差があり、さらに相手がまだまだ本気ではないという現実がある。

 

「ほう、今のに対応するとは見どころがあるな。ただのガキではない……。ならばこれならどうだ!!」

 

そう言った一瞬後に、大量の数え切れない手裏剣が俺に高速で迫る。

 

俺は二本目の鉄棒を呼び出し、八門遁甲を第三生門まで開ける。だがまだ生門は完璧には開けられないため反動が大きく本来の効果も得られない。

 

それでもこの攻撃に全力を出さなければ死ぬと俺の本能が叫び、手裏剣を弾き弾き弾きまくる。

 

「うああああああああぁぁぁ……!!」

死ねない、死にたくないという感情が俺の動作を促し、雪崩のような手裏剣を間一髪、致命傷にならないように弾いていく。

 

 

ガキンッという最後の手裏剣を叩き落とす音が聞こえたときには俺は全身血まみれになっていた。

 

以前、目線はオビトに向けてはいるが八門遁甲が閉じ生門の反動で膝をつく。肩も上がらず両手に持った鉄棒も手から離れる。

 

 

「ふふふ……面白い余興だった。ここで俺に出会わなければ、将来大物になれたかもしれなかったが、残念だったな。……死ね」

 

オビトは俺に近づき左手をかざす。……時空間忍術の神威だ。触れられれば異空間に飛ばされて終わりだ。

 

しかし俺の頭に手が触れる直前俺は印を完成させる。

 

「土遁!拳岩の術!!」

 

右手を岩に変化させ、無理やり第二休門まで開放した俺はオビトの手をすり抜け、顔面目掛けて拳を振るう。

 

本来、八門遁甲と忍術は相性が悪く併用できない。が、予め発動しておいた術を何とか保つことは今の俺にならできる。

 

合わせ技により威力を増した拳を目の前にオビトは「無駄だ」と呟く。

 

避けようしないオビトに俺は容赦なく拳を振るう。

 

ガッ!と言う手ごたえを感じた俺は思いっきり力を込めて拳を振りぬく。

 

「ッぶっとべええええええええ!」

 

オビトの顔面にヒットした拳はそのままオビトをうちはせんべい店へと吹き飛ばし叩きつける。

 

まさか自分が一矢報いたことに驚きつつも、俺は警戒を緩めず立ち込める煙の先を見据える……。

 

~~~~~~~~~~~~^

<三人称>

 

オビトが吹き飛ばされ突っ込んだことで、うちはせんべいの店先は煙が立ち込め、悟はその先のオビトを警戒して肩で息をする。

 

 

悟は後ずさりながらこの場を立ち去ろうとするがガラッと音がすると、煙の中からオビトが姿を現す。

 

うちはオビトは驚愕していた。彼はカウンターが来ることも読んでおり、それに合わせて自身の術、神威によりカウンターが当たる部分の体を異空間に飛ばし、攻撃をすり抜けさせその隙をつくつもりであった。

 

けれど悟の拳はオビトの顔面にクリーンヒットし、大きなダメージを残す。

 

「貴様……何をした!」仮面の一部が割れたオビトは怒気を孕んだ言葉を投げかける。

 

それに対して悟は休門で上げた身体能力で落ちている手裏剣を投擲する返事を返す。

 

しかし、その手裏剣はオビトの体をすり抜ける。

 

悟自身、何かをしたわけではない。けれど、己の絶対的な術が破られたことでオビトはその理由を求める。

 

「火遁・豪火球!」

 

オビトのその術は悟を殺すのに十分すぎるほどの威力を持っていた。

 

その死の予感に悟は飛びのき、必死に避けるがその先にオビトは先回りして待ち構える。

 

後ろで家屋が吹き飛び、待ち構えるオビトに悟は捕まり首を片手で締め上げられる。

 

「グッ……あ……ぁ」必死に抵抗してオビトの手をつかむ悟だが、八門遁甲が解け反動により抵抗する力が入らない。

 

「やはり……!神威が通じない。貴様、何か特別な……」

 

ギリッと悟の首を締め上げる手に力が入る。

 

 

 

 

 

「この感覚、貴様<この世からズレて>いるのか……!?」

オビトが何かに気づいた時、オビトの腕目掛けクナイが飛来する。

 

それにより、オビトは悟を手放し距離を開ける。

 

「……何のつもりだ、イタチ」

 

オビトが向ける視線の先にはうちはイタチが立っていた。

 

~~~~~~~~~~

<視点:うちはイタチ>

 

 

結界が二人の侵入を告げる。一人はサスケ、もう一人は……

 

「黙雷……悟……か」

 

俺は恋人を殺した刀を振り血を飛ばす。

 

俺には心というものがないのか?感情がないのか?

 

自問自答が頭の中を巡り鳴り響く。

 

それでも俺は忍びとして、この里を守るためになすべきことを為す。

 

その思いののまま心を殺し、仲間を、大切な人を殺した。

 

あとは

 

「父さん……母さん……」

 

ふと言葉が漏れ涙が目に浮かぶ。忍びらしくない。

 

深呼吸し息を整える。

 

 

ふと悟くんの気配が乱れていることに気が付く。

 

「まさか、マダラと接触したのか…!」

 

俺はあり得る想定を組み、移動を始める。本来ならこのまま俺は両親の元へと向かいこの虐殺のピリオドを打つ。しかし、うちはと関わりのない、<里>の彼が犠牲になるのは俺には見過ごせない。

 

彼は……良いやつだ。

 

シスイとも打ち解け、サスケの友となり、俺を慕ってくれていた。

 

そしてうちはと差別なく関わりを持とうとしていた彼を死なせる訳には!

 

頭の中の俺が「散々自分の一族を殺しておいて、赤の他人一人を救おうとは矛盾しているぞ」と指摘する。

 

それでも俺は足を彼らへと向け走る。

 

サスケは……まだ家にたどり着けていないようだが……。

 

時間があまりない……。

 

すると家屋が火遁で吹き飛ぶ様子が見えた。

 

現場にたどり着くとマダラが血まみれの悟くんの首を締め上げてい場面に遭遇する。

 

俺はマダラ腕目掛けクナイを投げ、彼との距離を開けさせる。マダラとはこの虐殺の夜の協力者でもある。本気では投げていない。

 

 

「……何のつもりだ、イタチ」

 

 

マダラは割れた面の向こうの目を覗かせ、こちらを睨む。

 

「今夜のターゲットはうちは一族だ。関係のない里の者を巻き込むわけにはいかない!」

 

と語気を強めに語る。

 

「今更命を救うつもりか?今夜の犠牲にガキ一人増えたところで何も世界に影響はない!」

 

マダラは珍しく冷静さを欠いている。

 

「影響がないなら、殺す必要もない。俺が後始末をする。……どうしたうちはマダラが子ども相手にムキになるのか?」

 

ゲホゲホとせき込みのたうち回る悟くんに目を向ける。

 

マダラは考える素振りのあとため息をつき「……そうか」

 

そう呟くと彼の術により空間にひずみが生じ、そこに姿をくらませていった。

 

 

「イタチ……仕上げをしくじるなよ……」そう言葉を残して。

 

 

「……大丈夫か悟くn」そう言いかけていた俺に手裏剣が飛来する。

 

せき込み血を流し、目から涙をこぼしながらも悟くんは立ち上がっていた。

 

手裏剣をクナイで弾き、彼を見据える。

 

明らかに敵意が込められた視線。

 

やはり、彼は気づいているようだ。マダラが情報を漏らしたか。

 

「……黙雷悟、助けられた相手に向ける視線ではないな」

 

「あんたもグルなんだろ!あの仮面の奴と!!どうして俺を……助けた!」そう言いながら悟くんは涙をこぼす。

 

死にかけの彼は冷静さを欠いているように見える。死の恐怖から涙をこぼすのも無理はない。

 

「ああそうだ。」肯定する。

 

「黙雷悟、この惨事は全て俺が引き起こした。そういうことにしてもらおう」

 

そう言いながら俺は目にチャクラを込め写輪眼を発動させる。

 

「何となくだが……今宵、君が現れるような予感がしていた。日向の件も君は事前に知っていたかのように動いていた。」

 

そう、彼は<何か>を知っている。

 

写輪眼による幻術で、彼の記憶からマダラの存在をなかったことにし、そして

 

 

「……君の秘密を覗かせてもらおう」

 

 

彼はまっすぐ俺の写輪眼を見据えていた。

 

 

~~~~~~~~~~~

<三人称>

 

 

 

木が一本立った草原。

 

黙雷悟の精神世界にうちはイタチは立っていた。

 

卓越した写輪眼を持つものは相手の精神世界へと干渉する術を持つ。

 

イタチは十分にその資格を有し、この場に立っていた。

 

「なんだか……気持ちが晴れる景色だな……」そう呟いたイタチは木の根元に座り込んだ狐の面をした少年に目を向ける。

 

「黙雷悟……」

 

「イタチさん……」

 

互いに声をかけあう。座り込んだ悟は言葉を繋ぐ。

 

「これから、ご両親のもとに向かうんですね」

 

「……ああ」

 

「そこで……サスケに試練を与えるつもりですね」

 

「……ああ」

 

やはりとイタチは思う。彼は<先>を知っている。

 

その秘密探ろうと悟に幻術の矛先を向ける。宙現れた無数のクナイが悟を取り囲む。

 

「悪いが悟くん、君の記憶を見せてもら「……させない!」

 

イタチの幻術を悟は跳ねのけクナイが消滅する。写輪眼による幻術を破ることにイタチは驚きをあらわにする。

 

「させない!させない!させない!」

 

木の根元の悟はそう叫びつつ立ち上がる。傍から見ても様子がおかしい。

 

イタチは警戒を強める。

 

するとお面をつけた悟の背後にもう一人の悟が背中合わせで立っていた。

 

「僕は」「俺は」

 

「「これ以上貴方を傷つけさせない!ここで止まって!!」」

 

そう悟たちが叫ぶと精神世界が揺れる。

 

「オレは、止まるわけにはいかない!一族の運命を閉ざした俺は歩みを止めるわけにはいかないんだ!」そうイタチが叫ぶ。

 

ふと精神世界の景色が変わる。

 

イタチは周囲を警戒する。

 

 

 

「ここは、公園?のようだが……」木の葉にこのような場所はない。

 

イタチの目の前の砂場では女の子が一人で遊んでいた。

 

一目見て服装に違和感を覚える。イタチが見たこともない作りの服装である。

 

「なんだ……ここは……?」言い表せぬ奇妙な感覚にイタチが襲われているとふと男の声が聞こえる。

 

 

「もしもトラック突っ込んで来たら助けなきゃなwww」

 

 

「とらっく?誰だ!何を言って……」イタチは声が自分から出ていることに気づく。

 

自分が誰かに成り代わっている。と

 

そして轟音が鳴り響く。木々をなぎ倒しながら、巨大な化け物が突っ込んでくる。

 

イタチは本能で感じた、恐怖を。けれどイタチの体は自然と動き、砂場の少女を跳ね飛ばしそのけたたましい音を鳴り響かせる化け物の前に飛び出る。

 

 

後悔の念がイタチに注がれる。

 

幾つかの人々を思う思い。

 

体がぐちゃぐちゃになってもすぐに死ねない苦しみ。

 

そして、己の行いを間違っていたと感じてしまった自身への嫌悪感。

 

 

 

『ああ、赤の他人なんて助けなければ良かった。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「っあああああああああ!!!」

 

現実世界に意識が戻ったイタチは頭を抱えうずくまる。

 

体にダメージはない。しかし精神世界での体験の衝撃がイタチを苦悶させる。

 

誰かが感じた後悔の辛さ、痛みを受けたイタチはしばらく動けずにいた。

 

黙雷悟がイタチに一矢報いる作戦は彼の生前の出来事を追体験させることであった。

 

写輪眼の幻術に対するカウンターとして、かつて精神世界で神と呼んだ老人が悟の記憶を映像化したことを応用しようとしていた。

 

悟自身の狙いは映像を見せ怯ませるだけのつもりであったが、何かが干渉し、よりリアルな体験をイタチへと流した。

 

 

しばらく苦しみで動けなかったイタチだが、しばらくするとゆっくりとだが立ち上がった。

 

「……いか、行かなくては……父さん、母さん……」

 

自身の生まれ育った家へと足を向けるイタチ。残酷な運命を受け入れに行くためにフラフラとその場を後にする。

 

それを止めたいと願っていた悟はすでに意識がない状態で地面に血だまりを作り倒れ伏していた。

 

 

 

 

 

 

その後、うちはイタチにとっての最も長い夜は終わりを告げた。



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17:敗北者のその後

今回から登場人物の思考は()で描写します。


<視点:黙雷悟>

 

 

……おかしいな。イタチさんに最後っ屁をかましたあたりまでは記憶があるんだが、現状を把握できない。出来ないというか、目が開かない。それどころから身体に力が全く入らない……。

 

最後の記憶も何だか視点が二つあるみたいな、説明しようもない違和感がある感じで混乱している。

 

今、俺はうつぶせで倒れている。多分場所はうちは居住区から移動していないはず。

 

意識だけがあり、辛うじて周囲に対して感知能力を働かせるのが限界だ。今はそれしかしていない。

 

サスケやイタチさんがどうなったかが気になる……。イタチさんを敵呼ばわりするのは、正直自分の立場的にしょうがないと思っていたけど言ってて自分で傷ついた。……将来、どこかの場面で謝ろう。

 

そんな状況の変化が起きない場所で長考してぶっ倒れている俺に、近づく人物の気配を感知する。

 

知らない気配は俺のすぐそばまで来て座り込んで俺に触れる。

 

「……うちはの子どもではないようだが、辛うじて生きているようだな。どうしてこのような場所に」

 

全く声にも気配にも心当たりはないが、多分木の葉の忍びか?助けてもらえるかもしれない、良かった。

 

なんて安心していたら

 

「悪いがこのまま永遠に眠ってもらおう。うちは以外の死体があると面倒が起きるからな」

 

とその忍びが言い、スチャッとクナイを取り出す気配を感じた。

 

 

……アッやばいやつだこれ!!多分木の葉の忍びだけど暗部、それも『根』とかの詳しくないけどやべえ方の奴じゃん!

 

イタチさんがクーデターを阻止して一族を壊滅させたことを確認しにきたのか。木の葉の上層部はサスケの保護を確かイタチさんと約束してはずだし、この人がそうか。絶賛死にかけの俺に止めをさそうとしているが。

 

危機を感じて俺は体を動かそうとするがピクリとも動かない。八門遁甲の第三生門を無理矢理解放した反動だろう。自分の体なのにまるで夢を見ているように『体』を感じない。

 

どうにかしようともがいているつもりだが、身体にはもがきが一切反映されない。

 

「せめてこのまま安らかに眠れ……」

 

そう忍びが言いクナイを振りかぶる。

 

(こんな……こんな死に方……嫌だ……誰か、誰か助けて!……マr)

 

俺の思考を遮るように衝撃が走る。

 

 

 

 

 

「ドゴンッ」鈍い音が響く。俺が思っていた衝撃とは全然違った衝撃は俺の首や心臓ではなく地面を揺らした。

 

俺の感知能力が暗部の忍び以外の『何か』を捉える。その『何か』は上空から落ちてきたようで着地の衝撃であたりが揺れ、振動が響く。明らかにサイズ的に巨大なそれはチャクラをほとんど感じさせない、つまりは何かしらの忍術で出来た無機物であることが分かった。

 

目が開かない以上わからないが巨大な岩か何かか。その岩はおかしなことにズシン、ズシンとまるで二足歩行で歩いているかのような衝撃を発生させている。

 

 

「なっ何者だ!貴様!」

 

暗部の忍びが明らかに動揺した様子で問う。その問いから二足歩行をする岩のような何かは『人物』のようだ。全身が岩のようで、かなりの巨体だ。軽く3メートルはあるかもしれない。そんな岩の人物は俺のすぐそばに降り立ち、暗部の忍びは距離を取っている。幸い命拾いしたようだが……まだわからない。この岩の人物が味方とも限らない。

 

 

「いや……その姿、貴様はあの!?」

暗部の忍びが岩に心当たりがあるようで、驚愕を口にした瞬間。

 

 

俺の隣で地面が爆ぜた。

 

それと同時に暗部の忍びが鈍い轟音を響かせ、吹き飛ばされる。そのまま家屋に突っ込んだのだろう。家々を貫通する音が大きく響く。

 

轟音の後静けさが漂う……。

 

何が起きたのか。見てはいないが単純に、ただ単純に岩の人物が暗部の忍びに近づいて打撃を加えたのだろう。あり得ないほどのスピードで。

 

音と衝撃の大きさから、あの暗部の忍びはただではすまないだろう。

 

静けさの中、取りあえずの命の危機が去って一安心した俺は……どうにもできない。まだ体が動かないのだ。

 

するとその岩の人物が声を上げる。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

声というよりは獣の唸り声。正確には咆哮か。もっと言えば生物の声ではない。正しくは岩が摩擦で擦れあう音だ。

 

明らかに異質な咆哮をあげた岩の人物は、周囲の家屋をなぎ倒し始める。

 

……まともじゃない。異常性を発揮し、暴れる岩の人物は周囲を破壊しながらどんどん俺に近づいてくる。多分俺のことは目に入っていないのだろう。どんどん、どんどん近づいてくる。

 

 

俺のすぐそばに拳を振り下ろした岩の人物は再度腕を振り上げる。その腕を振り下ろす先にいるのは……俺だ。

 

 

俺は再度『死』を覚悟する。

 

 

……もういやだ。そう諦めた俺に声が届く。

 

 

 

「ダァイナミック、エントリーーーーー!!」

 

暑苦しい声と共に豪速で気配が飛び込んでくる。先の二人と違い、声も気配も知っているあの人だ。

 

その人物、ガイさんは岩の人物を蹴りで吹き飛ばし、俺との距離を取らせる。

 

 

「全くぅ、状況は最悪だな!!」

 

ガイさんはそういうと構えを取る。この場にガイさんが来ていることに驚く俺だが、安心感がどっと押し寄せてくる。今は涙はでないが、正常な状態なら大泣きも過言ではないくらいに泣いていただろう。

 

「君はこういうことに首をつっこ……気を失っているのか……」

 

俺に説教しようとしたガイさんだが、俺の状態に気が付くとすぐに目の前にいる岩の人物に注意を向ける。

 

「ふうー。さあてどうするかぁ!正直『アレ』を止めるのはちとキツイぞ!!」

 

すると爆発音の後、岩の人物が先ほど暗部の忍びを吹き飛ばした打撃を繰り出す。

 

「第六・景門、開!!」

 

その打撃を、八門遁甲を発動させたガイさんが受け止める。

 

受け止めた際の余りの衝撃に、ガイさんの足から伝わる力が周囲の地面にヒビを入れる。

 

後方にいる俺のためにガイさんは岩の人物の攻撃を避けられなかったのか……。今の攻防の意図を思い、俺は落ち込んだ。

 

受け止めてもダメージが入る。ガイさんが苦しそうに唸るが、受け止めた岩の人物の拳を下から蹴りで打ち上げ隙を作る。

 

「くらえい!!朝孔雀ぅ!!!」

 

その隙にガイさんの神速の拳が数百と打撃を叩き込む。その拳による打撃は空気との摩擦で発火、火遁のような熱を生み出し、岩の人物の表面の岩を砕いていく。

 

「アタタタタタタタタタタタタタ!!オゥワタア!!」

 

ガイさんは連打で相手の巨体を宙に浮かせ、止めに思いっきり溜めた炎の正拳突きを相手に繰り出し岩の人物を吹き飛ばす。

 

家屋に叩き込まれた岩の人物は岩が剥がれ、中にいる人物が少し露出したためチャクラが漏れる。俺はそれを感知し分析しようとするが

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

先ほどと同じ咆哮をあげたと思ったのもつかの間、ほぼ一瞬でガイさんの朝孔雀で壊れた岩の部分を修復したのだろう。チャクラの漏れが途切れ、さらに漏れたチャクラは地面に吸い込まれてしまった。

 

岩の人物の情報を得られず俺は舌打ちをする。……もちろん心の中でだが。体はピクリとも動かない。

 

第三生門でこの俺の状態になるのだ。現在、第六京門を発動しているガイさんのすごさを改めて感じさせられる。

 

そんなガイさんでもキツイのか

 

「くううぅぅ!やはり、厳しいかあ。全ての岩を一気に剥がさなければジリ貧だぞーう!」

 

と自分を鼓舞するかのように独り言を喋っている。……それにしても相手に対する情報をガイさんは持っているようだ。原作の人物か?

 

その後も、ガイさんは高速移動で緩急をつけた突きを繰り出し続けるも、岩の人物は怯み、吹き飛び、岩が砕け散ってもすぐに立ち上がり、ガイさんへと乱暴な攻撃を繰り返す。

 

 

ガイさんがスピードで優っているにしてもこれでは八門遁甲を使っているため、本当にジリ貧だ。

 

お互いの拳が有効打にならない乱打戦は続く。

 

「はあ……はあ……!くう!!」

 

ガイさんのスタミナが切れるのも時間の問題か。さらに不安要素がある。

 

先ほどから砕けたときに漏れるチャクラ。それが地面に吸収されていっていることに何か意図を感じる。

 

相手はガイさんでも攻めきれない土遁使いだ。何かあるのだろう。

 

するとガイさんの動きが一瞬止まる。蹴りをしようとした足が地面から隆起した岩に捕らわれ動けないようだ。

 

あれ……何かデジャブのような。いや、今俺は視界が働いていないから既視感というのもおかしいけど……。

 

そのガイさんの隙に岩の人物のアッパーが刺さる。

 

隆起した地面に捕らわれた足などお構いなしに上空に吹っ飛ばされたガイさんはかなりのダメージを受けたようだ。

 

そして、ガイさんが着地するであろう地点でチャクラの動きを感じる。

 

そのチャクラは地面を変形させ剣山のように成形する。

 

足にダメージを負い、殆ど自由落下の状態のガイさんには避けるすべが……!

 

そのままガイさんは剣山に突っ込む。

 

しかし剣山は脆くボロボロ崩れ、むしろクッションのような役割をしてガイさんを助ける。

 

「?ぐぅ、いっいったい何が?」と言いガイさんが柔らかくなった地面から顔を上げる。

 

そこにはある人物がいた。

「雷遁・地走り。地面に雷遁を流して土遁を無効化させたのよっと。全く、人を正規部隊に引き戻したと思ったらこんな事に引っ張り出して、おたくら、オレを便利屋か何かと勘違いしてなーい?」

 

「カ、カカシぃ!」ガイさんが嬉しそうに声をあげる。

 

コピー忍者、はたけカカシ。原作でも第三の主人公と言われるほどの人物だ。俺が一番好きなキャラでもある。

 

「本当、迷惑な話だ。暗部から戻ってこいだのごねてのこれだ!まあでも

 

 

仲間のためなら喜んで俺は戦うけどね!」

 

 

 

「いくぞ!」とカカシさんが言うと影分身で二人に増える。

 

「風遁・大突破!」「火遁・豪火球の術!」

 

影分身したカカシさんが風遁と火遁を織り交ぜた忍術を岩の人物にぶつける。

 

あまりの熱量にかなり離れている俺でもじりじりと熱を感じる。むしろ動けないから熱を逃がせず、普通にあちい!

 

 

余りの高温に、岩の人物は動きを止める。

 

「よし動きは止めた。いくぞ、ガイ!一撃で決める!」

 

「よおおおおし!行くぞおお!カカシィ!!」

 

同時にカカシさんとガイさんによる飛び蹴りをくらい、岩の人物は完全に無防備になる。

 

二人は並び立ち、チャクラを高める。カカシさんのチャクラの質が少し変化した。おそらく写輪眼を使っているのだろう。

 

「八門遁甲、第七・驚門開!」ガイさんが第七まで八門遁甲を開放する。流石のガイさんでも反動が大きいこの段階を使うということは本当に一撃で止めを刺すつもりのようだ。

 

ガイさんは独特な突きの構えを、カカシさんは印を結び終えると二人のチャクラが最高潮に高まる。

 

「昼虎ぁ!!!」  「雷獣追牙!」

 

ガイさんは極まった身体能力による拳圧で空気を叩き、虎のような衝撃波を発生させる。

 

カカシさんは狼のような雷獣を発生させ、岩の人物へと仕向ける。

 

二つの獣は途中で混ざり合い、より大きな獣となり対象を飲み込む。

 

俺が大きなチャクラの収縮を感じた瞬間、それは弾ける。

 

雷鳴と衝撃音。

 

正に獣の咆哮のような爆発音と共に衝撃波が辺りに及ぶ。

 

そのあまりの余波は容赦なく俺まで届き……

 

俺を転がしふき飛ばす。

 

満身創痍で体を動かせない俺はもろに衝撃を受け、意識が飛びそうになる。

 

(ひ、ひどい……)と俺が思うと

 

「あっ!!悟少年を忘れてたぁ!すまん!いま、い……く、ぞぉ……」

 

とガイさんが駆け寄ろうとして転倒した。八門遁甲の反動が来たのだろう。

 

地面に顔から滑り込んだガイさんを見てカカシさんは

 

「はあ、しまらないねえ……。」と呆れながらガイさんに肩を貸して起こす。

 

そろそろ俺も意識を保つのが限界のようだ……。

 

薄れ行く意識の中、最後に聞いた声は

 

「うん?うーんと、あれ、え?何?この状況、俺が三人も抱えて戻れっていうこと!?」

 

というカカシさんの、自身に向けた突っ込みであった。

 



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18:なりたい自分

<視点:黙雷悟>

 

ふと意識が戻る。今度は体が動くようで身動ぎしながら目を開けると見知った天井が視界に入る。

 

「ここは……俺の部屋……いてッ!」

 

布団から体を起こそうとすると、鈍い痛みが入って俺の寝ぼけていた頭が覚醒する。痛みには強いと思っていたけど、この酷い筋肉痛のような痛みは格別につらい……。

 

全身が鉛のように重い。窓の外は明るい、どれだけの時間自分が眠っていたかはわからないが、体中が包帯まみれであり処置もされていてこの痛みだということは。

 

「八門遁甲の反動(リバウンド)か……手裏剣による切り傷は大したことなさそうだけど」

 

やはり、八門遁甲の扱いは慎重にならざるをえない。……今回はかなり、想定外のことが起きたせいでもあるが―主にラスボス級の敵とのエンカウントという―

 

 

自分の体の調子を確かめるよう、グネグネ体を動かしていると扉を開けて入ってくるマリエさんと目が合う。

 

……流石に気まずい。一応生きて帰ってこれたが、死ぬタイミングはいくらでもあった。ただ運が良かっただけだ。

 

するとマリエさんが立ち眩みを起こしたかのようにふらっと壁にもたれかかる。俺は咄嗟にマリエさんを支えようと動くが

 

「マリエさん!ッぐお!」立ち上がった瞬間、筋肉痛と体が覚醒していないせいで頭から地面にこける。

 

意識を失う前に感知していたガイさんと同じような体勢だ……。

 

「ちょっ、悟ちゃん!大丈夫!?」

 

マリエさんは頭を押さえながらもこちらの心配をしてくれている。

 

「マ、マリエさんこそ、大丈夫ですか?」と顔面を床に埋めながら俺もマリエさんの心配をする。

 

「私は大丈夫。ちょっと安心して気が抜けただけよ。まったく心配かけるんだから……」

 

微笑を浮かべながらマリエさん俺に近づいてく俺の体を布団に戻してくれた。

 

「……何だか恥ずかしですね」なんて俺が言うと「悟ちゃんが悪いのよ~、みんなに心配かけた分羞恥ぐらい感じてね~」と若干怒気をはらませた笑顔で微笑んでくれる。

 

俺はぐうの音もでないので大人しく看病を受け、少し落ち着いてから聞きたいことをマリエさんに尋ねる。

 

まず現在はあの夜から3日後の昼だということ。俺はマリエさんとガイさんの計らいであの夜あそこには「いなかった」ことにされていることが分かった。

 

そしてうちはの被害状況も……。

 

「生き残ったのはサスケだけ……ですか……」落ち込んだ俺は布団を握る。

 

結局俺はあの夜の大局に影響を及ぼすことができなかった。悔しさがあふれ出る。もっと力があれば……!オビトに出会おうが誰に会おうが寄せ付けないような力を!

 

するとマリエさんがパンッと俺の両頬を挟み込むように叩く。

 

「悟ちゃん、私の目を見て」  「……はい」

 

「勝ち負けの条件について覚えてる?今回悟ちゃんは自分の思った通りに行かなかったかもしれない。だけどね?それで大切なことを見失ってはいけないわ。手段と目的、しっかりと見据えるのよ」

 

「……はい」

 

力が足りない。それは事実だ。だからってそれが全てではない。心は折れても目的を違えては駄目だ!

 

「マリエさんありがとうございます。俺はもっと強くなります。ちゃんと目標をみすえて!」

 

俺の言葉にマリエさんは満足そうにして立ち上がる。そして

 

「そうね。がんばってね。……それで今回悟ちゃんが無事に帰ってきてくれて私は、うれしいんだけど……」

 

と歯切れ悪く言う。

 

俺が疑問符を浮かべているとマリエさんが言葉を繋げる。

 

「ガイ君が、その、カンカンに怒ってて……悟ちゃんが目を覚ましたら真っ先に俺を呼べって……」

 

「あ~~~。……なるほど~」

 

理由を察して俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。いつかはこうなると分かっていたけど、思っていたより早い……!

 

取りあえず「ご飯いただいてもいいですか?」

 

腹ごしらえだ……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

マリエさんの作る昼食で気力と体力を回復させ、普段ガイさんに稽古をつけてもらっていた演習場へと向かう。

 

ガイさんとはそこで落ち合う予定だ。

 

実際に会って言われる内容は予想済みである。十中八九、八門遁甲についてだ。

 

俺はガイさんの言いつけをほとんど破ってる。それに今回、俺は第三生門まで開けてほぼ自爆したようなものだ。

 

全身包帯まみれで普段着を身にまとい、ボロボロになっている狐のお面をつけて俺は唸りながら演習場で待っていた。

 

そして気が付く。その気づきに従いその場から跳躍。

 

 

俺がいた地面が割れる。

 

俺は辛いが第一開門を開けて、すでにその場から離れていた。

 

割れた地面と土埃の中から、ガイさんが姿を現す。

 

何時ぞやのやり取りを思い出す。

 

「ふむ、なるべく気配を消して攻撃したのだがよくぞ気が付いた」

 

ガイさんはいつもより低いトーンで俺に語りかける。

 

「気が付かなかったら俺、死んでますよ?」と俺が返すと

 

「気が付いてはいたのだ……」とガイさんはぽつりと言う。

 

(この人は一人で話を進めるから時々何を言いたいのわからない時があるなあ)と俺が思っていると

 

 

「君が俺の課した制約を無視して修行をしていることだ」と本題をぶつけられる。

 

こればっかりは俺が悪い。だけど……

 

「俺は謝りません」とハッキリと告げる。

 

この返しに流石のガイさんも眉毛を吊り上げ驚いている。

 

「……いや、謝らないというよりかは悪いと思ってないの方が正しいかな?実際ガイさんには申し訳ない思いがこれでもかとあるので……そこはしっかりと謝らないと……」

 

と訂正するとガイさんはわっはっはと笑い「落ち着きたまえ。ゆっくりでいい、君の意見を聞かせてくれ」と俺に考える時間をくれる。

 

「確かにガイさんの言い分、というよりやり方は間違っていないと思います。だけど、俺にはどうしても早くに力が必要だったので……。これからも考え方を改める気はありません」

 

ガイさんの修行が優しいとかそういうわけではない。ただガイさんは優しいのだ。俺の体調を考え、修行の内容も考えられている。けれど

 

「悟少年、そんなにも俺たち大人が頼りないか?」ガイさん少し悲しそうに言う。

 

「違います!実際今でも俺はマリエさんやガイさんに頼りっぱなしで、だけどそのことに感謝しています。前みたいに一人で生きていこうなんてことももう思っていません!」

 

「……ならどうして」

 

「俺の生き方……忍道っていうやつです。少しでもいい未来のために、俺に出来ることがあればやらなくちゃいけない。いややりたいんです。出来る可能性があるのに、それを諦めるなんて今の俺にはできない」

 

俺の覚悟がガイさんに届くかはわからないが、噓偽りなく本心を語った。

 

 

「自分の道を信じられる男になったな。数年前の君とはえらい違いだ。だがしかし、決まりは決まり。俺の言いつけを破った君には罰を与える」

 

 

 

「破門だ」

 

 

ガイさんはそう俺に告げた。ガイさん的には今の俺の状態がベストに近い。八門遁甲での自爆の可能性が低く、第三生門も会得しきっていない。この状態での放置が俺の安全性を考慮したうえで良いのだろう。

 

覚悟してはいたがやっぱり辛いなあ。自業自得だが。

 

 

「そして……」ガイさん言葉を繋げる。

 

「これからは俺のライバルだ!!!!」ガイさんが八門遁甲第三生門まで開け覇気を轟かせる。

 

「上下関係も、弟子でも師匠でもない!ただ純粋に力を高めあうパートナーとして君を認めよう!!こおおおおい!悟!」

 

はははっ……相変わらずの熱血漢だ……。俺は呆れるポーズを取るも、既にこの人の熱血がうつってしまっているようだ。

 

 

「……八門遁甲第一開門、開!!」

 

俺はガイさんに飛び蹴りを繰り出す。当然のように受け止められ反撃の拳が飛んでくるが、それを予め避ける態勢を取っていたことで受け流す。

 

距離が離れたときに俺はガイさんに問う。

 

「いいんですか?俺の安全とか考えて八門遁甲をセーブさせようとしていたん……でしょ!!」手ごろな石を投擲しながら。

 

「ふん!!確かにそうだが、君の成長ぶりをみて確信したよ。抑えるより、共に高めあった方が君のためになるとな!」石を裏拳で砕きながらガイさんは答える。

 

ガイさんも俺もどちらも本調子ではない。だけどこの組手は本気でやらねば意味がない。ガイさんの覚悟に答えるために!!

 

「第二休門……第三生門!開!!」俺は無理やり第三生門まで開放する。ガイさんが少し俺を止めるような動作をするが、途中で止め見守ってくれている。

 

 

「はああああ!どっっっせい!!」俺の咆哮に合わせ、チャクラが体を駆け巡り、第三生門の特徴である全身が紅潮する現象が起きる。

 

「ふっ……ふふ、どうですか!これが俺の覚悟です!!」

 

「ふあはははははっ!いいだろう来い!全力だあああああ!」

 

 

常人の域を超えた組手は数時間にわたり繰り広げられた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

<視点:はたけカカシ>

 

 

数日前、暗部所属のオレの動向を気にして仲間たちが、オレを正規部隊に移動するように出した嘆願書が通った。

 

オレは、死に急ぐように任務を遂行していたがそれを仲間たちは良しとしなかった。嬉しくもあるが、こんなオレがそんな心配を受ける権利がないと本心では思っていた。

 

とりあえず移動期間として、しばらくの休日を過ごしていたオレの自宅にある女性が訪れる。

 

「やーやー、これはこれは。オレを正規部隊に引き戻した一人のマリエじゃなーい。どしたの?」俺はおどけながら彼女に声をかける。

 

元同僚として彼女に思うところはあるが、そのことを話すわけではなかった。

 

「カカシ君にお願いがあってきたの……」彼女は俺にあるお願いをしにきた。

 

 

同じ願いをガイにもしていたようで、現場で合流したが……。彼女の判断は正しかったようだ。言いたかないが、『アレ』はガイとのタッグじゃないと骨が折れる。

 

そしてぶっ倒れているガイらを抱えて帰るのはとてもしんどかった……。写輪眼を使った後でもあり、スタミナが足りない。

 

まあ、そんなかんやであの夜から3日後の今日はそのマリエと外に出かけている。

 

「ごめんね~カカシ君。アカデミーまで付き合ってもらって」

 

「まあ、大丈夫ですよ。俺も担当上忍なるとかでちょいと用がありましたし。誰かさんたちのおかげで暗部から移動になっちゃったしね」

 

皮肉の感情をこめて俺がそういうと、彼女はとても申し訳なさそうに、たははと笑って誤魔化した。

 

マリエは彼女が保護している黙雷悟の復帰の連絡をアカデミーにしてきたようだ。彼女は彼女で大変そうだ。

 

「今日はカカシ君にこの前のお礼として一日付き合ってあげる約束だしね。どこ行きましょうか~?」

 

彼女はのほほんと言う。まあ、今日はそういう約束で昼過ぎにこうやって合流したわけで。

 

「そうだな。新しく出来た定食屋が美味しいらしくて、アスマとかがめちゃくちゃ進めてきてたんで。そこ、奢ってください」

 

俺の提案に彼女は任せてっと胸を張り答える。「ついでに組手やろうか」と付け足した俺の言葉に彼女は表情は変えずに「えっ!?」と驚く。

 

「別に組手くらいはできるでしょ?体を動かさないとね。元とはいえマリエも忍者だしね」俺がにこにこしながら言うと彼女は露骨にテンションを下げて

 

「……はい」と返事をして定食屋に歩みをすすめる。

 

……意地悪なことは理解しているが、先日のことを思えばこれくらいの意地悪は許してほしい。俺はそう思いながらマリエの後を追う。

 

定食屋での食事はとても満足したものだった。いい味付けをした味噌汁がグッドだ。

 

最近はこういった食事もあまりとってなかったしな。食事中のマリエとの会話はあまり弾まなかった。

 

一応黙雷悟の話題になると「可愛い可愛い」と口が早くなるが、すぐに組手のことを思いだしてテンションを下げている。

 

そして彼女のおごりで定食屋を後にしたあと、誰かが先に使用許可を取っていたようで演習場は空いてなかった。

 

仕方ないので空く時間までその間を日常品の買い出しに使い適当にぶらぶらしたあと演習場に向かった。

 

……まあ、演習場についたらおバカさんたちが2名ほど術の反動でカエルのように地面に突っ伏していたけど。

 

 

「……何やってんの。ガイ」俺が呆れ「……お前たち……怪我明けになにしてるんだ……」一緒にマリエが昔の口調で呆れている。

 

「「青春を……」」二人してバカな回答をする。ガイは言わずもがな。この悟って子もバカなタイプか。

 

 

結局この日は熱血バカ二人を抱え、4人でラーメン一楽に寄って帰った。当然マリエの奢りだ。

 

 

帰り道、月を見上げて俺は新たな熱血バカの心配をした。

 

「ガイはともかく、悟はマリエからの説教が待ってそうだな」

 

 

 

 



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19:意識アップグレード

<視点:黙雷悟>

 

 

……ふと意識が戻る。昨日とはこの件は変わらず、自分の布団で目を覚ました俺は体の調子を確認する。グネグネと。

 

おかしい……八門遁甲を使った反動の筋肉痛がほとんどない。第三生門まで開放したのに。自身の回復能力をもってしてもここまでのスピードで回復するのは今までにない。

 

自身の体調を理解しきれていない俺が手をグーパーしながら調子を確かめていると、扉からを気配を感じた。

 

そちらに目線を向けると、ほんの少しだけ空いた扉の隙間からマリエさんが目だけ見せている。……昨日、ラーメン一楽から戻った後こってりと説教をくらって、疲れから説教中に寝落ちしたんだな、俺。一楽ではカカシさんと軽く自己紹介を交わしたんだったか。社交辞令を絵にしたかのような自己紹介だった。

 

「……朝ご飯は作ってあるから食べなさい……それからガイ君は今日私がじっくりと怒りに行くから、会いにいかないように……」

 

口調はいつものマリエさんだが、トーンが低い。かなり怒ってるな……ははは。そのままキイッとマリエさんは扉を閉めてその場から離れていった。

 

俺は普段着に着替え(包帯やガーゼなどはマリエさんが寝ている間に換えてくれたようだ、感謝)食堂に向かう。

 

道中すれ違うマリエさん達影分身は露骨に俺に対する態度がプリプリして怒っている様子だ。心配をかけて申し訳ない。

 

食堂で朝食を済ませた俺は今日の予定を確認する。アカデミーは明後日まで休みだ。まあ、授業内容はそこまで難しくないし予めテンテンから聞いて予習しているから問題ない。

 

だから今日は……サスケに会いに行こう。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

<視点:三人称>

 

うちは虐殺の件から、うちはの土地は全て立ち入り禁止状態になっている。そのためうちはサスケも現在、住居を里内の住宅地に部屋を借りて住んでいる。

 

虐殺の夜からそう日が経っていないため、サスケは精神的に参っている状態だと悟は考えている。

 

悟は影分身を利用し、サスケの現在位置や様子、処遇などの情報を集めていく。

 

「うちはの生き残り?ああそれなら……」

 

「うちはの財産は全部実質その子の物になったらしいよ?おこぼれもらえないかしら」

 

「最近部屋から物音がして迷惑でしかたない……」

 

などなど。

 

悟は情報を集めていくうちに、里内の「うちは」に対するスタンスを改めて感じ嫌気がさす。

 

(サスケはまだ6歳の子どもだというのに、こいつら……陰湿だな)

 

無論全員がそうであるわけではなく、中には心配して様子を見てくれている人もいる。しかしサスケはモノや人に当たり散らしているため、そういった繋がりも切れかけている。

 

悟はますます心配になり、急いでサスケのもとへと向かった。こうなると分かっていたがどうすることも出来なかった自分に悔しさを覚えながら。

 

~~~~~~~~~~~~~

<視点:うちはサスケ>

 

……ひたすら闇の中をもがく自分がいる。知り合いだった人たちの死体が目に焼き付いて離れない。

 

父さんと母さんも……。全部全部全部!!兄さんが!!……イタチが全てを壊した!!

 

イタチの言葉、「憎しみを抱け」と言われ!弱いと言われ!

 

イライラを抑えられず、涙を流しながら辺りの物をぶん投げ、壁や床をなぐり続ける。

 

「あああああああああああああああああああ!!!」

 

そうやって俺が暴れているとチャイムが鳴る。

 

耳障りだ!!どうせ何も知らない他人が、うるさいだとか言いに来たんだろう……。

 

手に壊れた椅子の棒状の破片を手に持ち、玄関の扉まで行く。うざいうざいうざい!!

 

扉を乱暴に開け、相手に棒を振りぬく。相手は自分と背丈が同じくらいだったらしく顔面で俺の攻撃を受けた。相手が付けていたお面が地面に落ちる。

 

「……」「……な!?」

 

俺の攻撃で額から血を流したのは悟だった。驚いた俺は棒を落とす。俺は……なんてことを……。ほんの少しだけ俺は冷静さを取り戻す。

 

「……とりあえず、生きていてくれてよかった。悪いけどお邪魔するよ」

 

そう言って何事もなかったかのようにお面を被り悟は部屋の中に入ってくる。

 

何を考えているのかわからない悟に俺は怒鳴る。

 

「急にきておま、お前!何なんだ!いったい!!」

 

「ただの友達……それだけだよ」

 

そう極めて冷静に言う悟に対して俺は逆に感情を逆立たせる。

 

「何が友達だ!うぜえんだよ!」と言い放ち俺は殴りかかる。悟の実力は知っている、だから俺の攻撃をさばくと思っていた。けれど

 

一切避ける素振りを見せず、防ぐ構えもせず、俺の拳を悟は無防備に受けた。のけぞった悟はそのまま、俺の方を向いたままだ。

 

「なんで!なんで避けない!」俺が吠えても悟は答えてくれない。自分の感情が段々と制御できなくなる。

 

「くそ!!くそおおおお!」そのまま俺は悟を押し倒し馬乗りになって殴り続ける。悟のお面はぐちゃぐちゃになり、それを邪魔に思い俺はお面をはぎ取る。

 

……悟の緑色の目は俺の目をじっと見たままだった。俺には悟が何を考えているのかわからない。わからないわからない……。

 

けれど体はイライラの発散先を悟に向ける。自分の考えていることがさっぱりわからなくなる。

 

俺は叫びながらひたすら悟を殴り続けた。……友達を。

 

イタチの言う通り、憎しみに捕らわれた俺の暴力に悟は俺の目を見たままそれを受け入れ続けた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

気が付くと俺はベッドで寝ていた。焦って回りを見渡すと、俺の荒らした跡がある程度綺麗にされている。

 

するといい匂いがキッチンから漂ってくる。

 

不思議に思い俺がベッドから起き上がろうと手をつくと手に痛みが走る。

 

……手を見ると包帯がまかれていた。痛みの原因は……。そう思い、幾分か冷静になっている俺は自分のしでかしたことに気が付く。

 

焦って俺はキッチンへと向かう。

 

後ろで縛った白髪の髪を揺らしながら鼻歌まじりで悟がみそ汁を作っていた。

 

意味が分からず、俺はぼーぜんとその様子を見ることしかできなかった。……何を考えているんだ悟は……。

 

 

悟がこちらに気が付き振り向く。手当てをしたみたいだが悟の顔には傷やアザが大量についている。

 

自分のしでかしたことの大きさに言葉が詰まる。

「あっ……さ、悟……ごめ」

 

「起きたか……、ある程度片づけしておいたし、少し遅めの昼ご飯だ。……ろくに何も食べてなかっただろ?」

 

そういうと悟は配膳をし始める。俺がしどろもどろになっていると無理やり椅子に座らされ、食事を目の前に並べられる。

 

「さあ、召し上がれ」悟は優しく俺に言う。

 

意味が……わからない……

 

「いみが……わか、わからない……うっグスッ……」

 

目の前にはおかかのおむすびにトマトが入ったみそ汁。それとたくあん。いい匂いにつられて俺の腹がなる。

 

「ほらほら、泣いていないで冷めないうちに食べて……。あっよく噛んで食べろよ?胃が驚くから」

 

「うっ、うん、ごべん……ごめんなさい。ごめんなさい……」俺は泣きながら、謝りながらおむすびに手を伸ばす。

 

酷く久しぶりに「生」を感じた。イタチが、兄さんが言っていた憎しみとは別の何かを……。

 

 

 

 

数日ぶりにまともな食事を食べて、俺は落ち着きを取り戻していた。……痛みが消えたわけではないが。

 

「どうだ?ある程度は落ち着いたか?」

 

悟は食器を下げながら、俺に問いかける。

 

「あ、ああ。ごめん。悟、オレ……」

 

俺がした暴力に対して謝ろうとすると、傷に手を当てながら「ああ、別にこれは気にしなくていいよ。……サスケの痛みに比べたら何万倍もマシだ」と悟は悲しいそうにいう。

 

「なんで、悟がそんなに辛そうにするんだよ……」

 

俺の言葉に悟は「ごめん。サスケの痛みは理解できない……してあげられないんだ。だからそれが悲しくてね……それに残される側の気持ちは俺にはわからないんだ。残してきた側だから……」と答える。後半は良く聞き取れなかった……。

 

「だから少しでも、サスケの痛みをやわらげてあげたいんだ」悟は真剣に言う。

 

「ごめん……」俺はただ謝ることしかできない。次第に涙が溢れてきて、感情が制御できなくなる。心がいたい……。

 

そんな俺を悟は抱きしめ「辛いな……。苦しいな……。怖かっただろうな……。今は我慢しなくていいから……」頭を撫でてくれて、優しくオレを受け止めてくれた。

 

 

 

 

 

 

ひたすら泣いて、泣きまくってしばらくして……。

 

「……」恥ずかしさから俺はそっと悟から離れる。どれぐらい泣いていたのか……日が少し傾いている。

 

「どうだ?スッキリした?」悟は笑顔で俺の顔を覗き込む。

 

「ッつ!ああ、大丈夫、もう大丈夫だ!」冷静さを取り戻した俺は悟から距離を取る。

 

「そうか、良かった」そういうと悟は立ち上がって部屋の片づけをし始めた。

 

「色々と荒れてるな。とりあえず、住む場所は綺麗にしておこうか」そういうと悟は俺にも片付けの指示を出し始める。

 

……調子が狂うが、何もしていないともっと調子が狂いそうだ。俺は悟の指示に従って自分で荒らした部屋の片づけを始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

<視点:黙雷悟>

 

サスケが片づけを終え、ある程度落ち着きを取り戻した後俺は話題を振った。

 

「あの夜……俺はイタチさんと会ったんだ」そういうとサスケは目を見開く。

 

「どうにか抵抗は試みたんだけど、全く敵わなかった……。だけど俺は生きている」

 

俺の言葉にサスケは黙って耳を傾けている。

 

「サスケは……どうだった?」

 

俺が知りたいのは原作からの乖離した部分だ。俺の足掻きが世界にどれ程の影響を与えているのかの確認でもある。

 

 

「俺は……俺は悟と別れた後、色んな家を見て回ったんだ……。だけどどこに行っても皆、みんな死んでて……ッ!爆発音がして、父さんと母さんが心配になって急いで家に向かったんだ……」

 

「……そうか」俺は相槌をする。サスケは今とても辛い過去を話している。冷静さを失わないように、安心できるように細かい配慮は忘れない。

 

「そしたら、父さんも母さんも……二人して部屋で正座してじっとしてた……。俺が部屋に入ると、二人して俺を抱きしめて、それで、それで……」

 

サスケの呼吸が早くなり、涙がこぼれる。これ以上はサスケが辛いだろう。俺は「辛いなら無理しないで」とやめさせようとするが、サスケは手で俺を制止して話し続ける。

 

「父さんは、俺を誇りに思ってるって言って、言ってくれて、母さんは、大好きだって……そしたら俺に隠れろって……」サスケは必死に言葉を繋ぐ。

 

「……少しして兄さんが、部屋の窓から入ってきてそれで……」そこでサスケはハッとした表情を浮かべる。

 

「……泣いていた……」多分記憶を思い出す過程で衝撃で忘れていたことを思い出したのだろう。呟きながら自分の記憶を整理し始めるサスケ。

 

 

「そうだ、兄さん、泣いていて、父さんも母さんも受け入れるような顔でそれで……ッヅ!!」サスケが頭を押さえる。

 

「大丈夫か!?」俺はそばにより体を支える。

 

「兄さんは、本当は……本当は……!!」

 

過呼吸になり始めたサスケをなだめる。

 

「ふう、ふう、分からないけど、だけど兄さんは、腕試しで皆を殺したって言ってたけど違うかも……しれない……」

 

「違うかも?」

 

 

「兄さんは、泣いていたんだ……ずっと……だから」

 

 

この時俺はサスケの目が一瞬だけ朱く光るのを見た。

 

「何かが可笑しいんだ。理由はわからないけど、兄さんが自分を憎むように言ったのも全部、全部……」

 

「本心じゃない……?」

 

「分からないけど、もしかしたらそうかもしれない……」

 

しばらくの沈黙が流れる。サスケは自分の考えをまとめているようだ。

 

 

「……俺はどうすれば……いい」泣きそうにサスケが言う。

 

自分が見た惨状や経験、兄への信頼感、両親の死、それらがサスケに強く重くのしかかっているようだ。混乱するのも仕方ない……。だから

 

「どうすればいいか、何て俺にも、多分他の誰にも分らないと思う。だからこそ……知る必要があると思うんだ。真実を」

 

「真……実……?」

 

「人に与えられた情報だけでなく、自分で見て聞いたことを大事にするんだ。そしてわからないことがあるなら……」

 

「確かめに行く……そうだ理由を、『敵になったならその理由を』確かめるんだ……!」

 

サスケは立ち上がり、拳を握る。

 

「俺は、兄さんが、イタチがあの時どう思っていたのか……どうしてあんな事をしたのか、本当の理由を知りたい!!いや、知らなければいけない!!!」

 

サスケは覚悟を決めたようだ。

 

「そのために……強くなる……誰よりもイタチよりも……!」

 

そういうとサスケはふらっと倒れこむ。俺はそれを咄嗟に受け止める。気を失ったようだ。

 

(流石に疲労が限界か……)

 

俺はサスケを抱えてベッドに寝かせる。

 

かなり、サスケの心象が原作とは違うものになっていると感じた。この先がどうなるかわからない。だけど

 

「少しでも、辛い現実は変えていけるだろうか……」サスケの寝顔を見ながら俺はそう呟く。

 

 

 

俺も強くならないければならない。そう決意を抱き、俺はサスケの部屋を後にした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

施設に帰ると影分身の数人のマリエさんに囲まれた。

 

「どうしたの!?その怪我!」「大丈夫!?大丈夫!?」「なんでこう、すぐにボロボロになるんだ、貴様は!」「もう、もう、私わからないわ~~~」

 

同時に心配され、顔をこねくり回され、叱られた。一人は泣いている。

 

 

「……あっちょっ!!服めくらないでマリエさん!ああああ……」

 

マリエさんの波に呑まれながら、俺の悲鳴は夜に消えていく。

 

 

 

この後めちゃくちゃ手当と説教を受けた。

 

 

 

 

 



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20:しばらくぶりの日常

死んでた。


<視点:黙雷悟>

 

 

俺は今日からアカデミーに復帰する。あの夜から、少し経ち里も一応の落ち着きを取り戻している。

 

そんな雰囲気を感じながら俺はアカデミーへの通学路をゆっくりと歩んでいる。天気も良く、久しぶりにほとんど心労を抱えていない日常を感じている俺は鼻歌まじりでアカデミーへと向かう。

 

……まあ、サスケのことを思うと本当に手放しでハッピー!!っという感じではないが、『幸せそう』という雰囲気を出して行かないと周りにも影響が出る。

 

一応は俺がうちはの居住区にいたことは秘密である。あまり塞ぎこんでいると、マリエさんも不安にさせるし、数少ない友達にも心配をかけるかもしれない。

 

そんなことを思いながらアカデミーの教室の扉を開ける。

 

扉が引かれる音で一部の生徒がこちらを見る。

反応は三者三様。

 

「えっ!?……」「誰……?」「なんだあいつ?」

 

と引き気味な者が大半であったが。

 

原因は俺の容姿にある。

 

顔は、かつてマリエさんに頂いた白い無地の忍仮面をつけている。狐の面は流石にボロボロになってつけていける状態にないので、自室で保管している、大事な誕生日プレゼントだし。

 

これだけでも雰囲気は異様だ。自分で言うのもなんだけど。

 

そして服装。半袖半ズボンで動きやすい服装をしてはいるが、そこから出ている腕や足は包帯でぐるぐる巻き。

 

……客観的に見れば不審者だ。忍びとしては珍しくないかもしれないが、「普段着」と「子ども」という要素が異質さを醸し出しているコーディネートだ。

 

今朝、施設を出る時も「ほ、本当にその格好で行くの?悟ちゃん……私心配だわ~……」とマリエさんが心配するほどだ。

 

まあ、切り傷のあとがまだ完全には消えてないし、サスケの発散先になった結果のあざも全身くまなくある。包帯は必要だと判断した。

 

痛み自体はほとんどないが、公に見せれるような体ではない。……サスケがアザとか見て負い目を感じてほしくないけどこの包帯姿でも変わりないかもなあ。サスケの受けた痛みに比べればかなりマシだと思っているが。

 

まあ、そんな姿をしているため俺のことを黙雷悟だと理解できる生徒はいなかったようだ。

 

俺は自分の席までまっすぐ進み、座る。この時点で俺が誰なのか周囲は理解できたようだ。

 

「……おっす!サトル!おはよう!」

 

元気にナルトが挨拶をしてくれた。……席に着くまで、挨拶しようかおずおずしていたことには触れないでおこう。

 

「ああ、おはよう、ナルト。……サスケはまだ来てないか?」

 

挨拶ついでに聞きたいことを聞く。

 

「あ?サスケの奴は昨日から来てるってばよ。ずーっとムスーとしてて機嫌が悪かったな」

 

サスケは一応アカデミーには来るようになったようだ。少し安心した。

 

「それよりサトル大丈夫か?包帯とか怪我とか、お面とか」

 

「ん?ああ、大丈夫大丈夫。施設の手伝いで屋根に上ってるときにうっかり落ちちゃってさ。その時に狐の面も壊れちゃって……」

 

事前にマリエさんと口裏を合わせておいた俺が休んでいた理由を話す。俺が顔を出さなくて心配したテンテンにも、あらかじめ言い訳はしてある。

 

そんな雑談をしているうち、教室の扉が開きサスケが入ってくる。一部の女な子たちが黄色い声を上げているから、目を向けなくても誰が来たかすぐわかるが。

 

そんなサスケは俺を見つけるとまっすぐこちらに来る。

 

「……悟、悪かったな。そのいろいろと」

 

と照れながらいうサスケに

 

「おう」と短く返事をする。

 

「おうおう、サスケちゃんよー!昨日から元気がないようだけど大丈夫かー?今日の組手の授業、ギッタンバッコンにしてやるからな!覚えてろってばよ!」

 

と俺とサスケの間に割り込みながらナルトがサスケに挑発する。

 

「はんっ。お前なんて眼中にねえよ、ウスラトンカチ」

 

とサスケはバカにするような表情でナルトを煽る。……少し嬉しそうに見えなくもない。

 

もう少ししんみりした空気が続くかと思ったが、ナルトとサスケの関係は変わらないなあ。

 

何て会話をしているとイルカ先生が教卓を叩いて注目を集め、ホームルームが始まる。

 

今日もアカデミーでの一日が始まる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

昼食、アカデミーでは昼食は弁当を持参する。

 

時間はあるのでお金に余裕がある子は外食に行ったりもしているようだ。

 

俺はアカデミー近くの木陰にあるベンチでいつも昼食をすましている。

 

基本自作の弁当だが、たまにマリエさんが作ってくれる時もある。

 

弁当の風呂敷を広げいざ、おかずに手を付けようとしたとき不意に後ろの林から気配を感じた。

 

開けた口の手前まで運んだ卵焼きを制止し、後ろに振り返ると

 

「……じゅるり」

 

ナルトが涎を垂らして木に半身を隠していた。

 

苦笑いしながら俺が手招きするとナルトは嬉しそうに俺の隣に座り、自身の弁当を広げる。

 

「ははは、ナルト、おむすびだけとはちょっと質素じゃないか?」

 

「っむむむ。わかってるてばよ~。だけどな。サトルがカップ麺は駄目だっていうからこれでも頑張って作ってきてはいるんだぞ~」

 

ナルトの形が不ぞろいなおむすびを一つ頂き、口へと運ぶ。

 

「……塩つけすぎだぞ」と俺が評価すると

 

「だーー!?俺の弁当勝手にくうなよー!」とナルトが抗議する。

 

まあ、もらうだけで済ませるつもりはないので、幾つか俺の弁当箱からおかずをナルトの弁当箱へ箸で投げ入れる。

 

「おお!?いいのかサトル!頂きまーす!」

 

とナルトは俺のおかずと自作のおむすびをほおばり始める。

 

俺の弁当のおかずが目当てで最近はナルトが良く昼食についてくる。

 

 

こんなやり取りをしていると少し離れたところでまたもやこちらの様子を伺う気配を察知する。

 

そちらに目線を向けると、黒髪を揺らしながらさっと影が身を潜めるのが見えた。

 

……いやまあ、誰なのかは一目瞭然なのだが。俺がいない原作を思うと、彼女はかなりの時間、草葉の陰からこうしていたのだと思うと少し可哀想に思えてきた。

 

「ナルトぉ、他にもおかず欲しくないかぁ?」

と俺がわざとらしく、意地悪下に聞くと

 

「えっまじ!?もっとくれんの!」

とすぐに食いつく。

 

そして俺が箸でヒナタが隠れている辺りをちょいちょいと示す。

 

ナルトが不思議そうにそちらに目線を向けると、ヒナタを見つけたようで

 

「おーヒナターそんなところで何してるんだってばよー。昼飯の時間なくなっぞー」

 

と大きな声で呼ぶ。

 

呼ばれたヒナタがびくりと体を跳ねさせて持っていた弁当箱を落としそうになったところで、後ろから影分身の俺がその弁当を支える。

 

「……せっかくナルトのために幾つかおかずを用意したんでしょ?気をつけなくちゃ」

 

「あ、あ、ありがとう……悟くん……」

 

とへなへなと座り込むヒナタ。

 

直後再度ナルトに呼ばれてヒナタが跳ね起きたので、影分身の俺はヒナタと一緒に本体とナルトのもとへと向かった。

 

 

合流して影分身と拳を合わせ、術を解除する。ヒナタを見つけた時点で、念のため仕込んでおいてよかった。と影分身の見た景色を確認しながら思う。

 

「ナ、ナルト君、悟くん、一緒にお昼、いいかな?」

 

とヒナタが照れて顔を真っ赤にしながら言うと

 

「もちろんいいってばよ!弁当交換しようぜ!」

 

とナルトが笑顔で言う。

 

「おむすびオンリーの奴が良くいうよ……。まあ、俺もヒナタのおかずには興味があるんだけどね~」

 

と俺が軽口を挟む。

 

なんて会話を弾ませながら各自の弁当箱のおかずをサイクルする。

 

((……ヒナタの弁当箱でけえ……))

 

と俺もナルトも思いながら口には出さず、ナルトはおかずを口に運ぶ。

 

「うまい!うまいぞヒナタ!」

 

「う、うん……それはね、給仕さんに教えてもらって私が作ったの♪」

 

「ああ、本当、おいしいね。量もたくさんあるし、元々ナルトにあげるつもりだった?」

 

俺もおかずを食べ、冷やかしながら感想を言う。

 

「私、いつもこれぐらい食べてるよ?」

 

とヒナタがキョトンと答える。

 

重箱3段を……?ヒナタって大食いキャラだったっけ?

 

俺は少し驚愕しながらも箸を進めた。

 

楽しい昼食になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばサトルってばお面付けたままどうやってメシ食ってんだ?」

 

「それは私も気になってた……」

 

「ひ・み・つ」

 

相手が目線を逸らしたすきに、八門遁甲を発動させて、仮面を上げて物を口に運んで咀嚼する。

 

バカみたいだが、これがいい修行になる。

 

……マリエさんの前でやって「行儀が悪い!!」と言われ拳骨くらったので施設ではちゃんと仮面はずして食事してますがね……はい。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

昼食も終えて、午後の組手の授業が始まる。

 

組手の授業はかなり重要視されているらしく、回数が多い。

 

戦い方や戦術、道具の使い方をある程度予習してから、約束組手で動作を確認する。

 

忍びの基本的な戦闘である体術面は疎かにするわけにはいかないんだろう。

 

今日も鎖鎌の使い方を指導され、模造品で組手形式で無手の相手に使ってみたりもした。

 

俺はこの手の忍具を扱うのが苦手なようで、それはテンテンからもお墨付きだ。

 

『悟くん、棍棒以外使わないでね。こっちが怖い』ってね!

 

なんて思い出して落ち込んでいると、案の定、手を滑らせナルトに鎌をぶつける始末だ。抗議の声が飛んでくるが、手を合わせ頭を下げることしか俺にはできない。

 

後半の自由組手の時間が始まる。

 

好きな形式、人数で組手をしても良い時間だ。何となく小学校でのプールの授業を思い出す。

 

……まあ、俺は目立つのが嫌なので木の陰で休憩しているフリをしている。八門遁甲を開けて自分に負荷をかけてはいるが。

 

八門遁甲に慣れていくため、開けたり閉じたりを繰り返す。八門遁甲をこのように扱うあたり、俺自身の体はかなりの才能を秘めている様だが、いかんせん魂、『黙雷悟』自体が戦闘に慣れていない。前世が前世なだけに、根本的に戦いが得意ではないんだろうなと自己分析をする。

 

だからこそ、いざって時のために力押しを出来るよう八門遁甲を極めているのだ。

 

そうやって俺が自分の世界に浸っていると、目の前に影が落ちる。不思議に思い目線を上げると、『油女シノ』が立っていた。

 

俺が不思議そうに首を傾げると、「少しいいか」とシノが声をかけてきた。

 

「別に……いいけど?」と俺が返事をするとシノが語り始めた。

 

「俺は油女一族の油女シノだ。実は黙雷悟、お前に頼みがある。この俺と組手をしてもらいたい、なぜなら……俺は体術が得意でない。この先、自身の得意な分野が生かせない場合があるかもしれない、そんな時あらかじめ別の手段を用意しておくことは良いことだ、だから……」

 

「わざわざ俺と組手する必要はなくないか?」

 

長々と話そうとするシノの会話に割り込んで俺が問う。まあ、心意気は素晴らしいが俺とじゃなくても……

 

「……なぜなら実力が近いもの同士の方が良い訓練になると俺は考えている」

 

「ああ……なるほど、納得」

 

俺は傍から見たら平均よりちょっと下のアカデミー生だ。特に実践形式の授業は露骨に失敗ばかりしてる。体術も真面目にやらず、如何に組手相手を気持ちよく勝たせるか、みたいな演技の練習をしているぐらいだ。

 

……負けるふりをするたびサスケが抗議の目線を飛ばしてくるのが最近の悩みだが。

 

「まあ、理由には納得した。OK。組手、やろうか」

 

と俺は返事をし、立ち上がり木陰から移動する。

 

「とりあえず、軽く流しで組手して問題点とかを指摘しあう感じでいいか?」

 

と俺が提案すると

 

「それでかまわない。それではよろしくたのむ」とシノは対立の印を組む。

 

俺もそれに答え印を組み、組手が始まった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~^

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

「まあ、これぐらいかなあ」

 

軽く組手を行い、一息つく。シノはかなり息が上がっている。ひたすら攻めさせていたから消耗が激しいようだ。

 

「じゃあ、俺から改善点を挙げていくと……」

 

姿勢や体重移動、攻撃するタイミング、優柔不断な牽制など良くない点を一通り教えた。

 

まあ、基礎はガイさんとヒザシさんに教えてもらっていたからシノの問題点を見つけることができた。

 

「……」

 

シノは生き絶え絶えの状態で俺の言葉に耳だけ傾けて聞いている。……俺の評価は聞けなさそうだと少し苦笑交じりにシノを起き上がらせると、イルカ先生の声が聞こえた。

 

集合の合図に生徒たちが集まり、俺もシノに肩を貸し向かう。

 

シノは小さな声で「……感謝する……」とだけ言ってぐったりしている。

 

こんな平和そうな日常がずっと続けばと思いながらも、俺はそうはいかないことを知っている。

 

だからこそ、こんなのしばらくぶりの日常を噛みしめ、強くならないければならない。

 

 

 

 

 

そして幾つかの季節がめぐり、俺は12歳の誕生日を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと急だけど、幼少期編終了。次回登場人物のプロフィールをまとめてみたい。


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EX1:登場人物概要~幼年期の終わり~

登場人物の軽いおさらいとおまけです。



オリキャラ枠

<黙雷悟:もくらいさとる>

主人公。転生者。公園で友達との待ち合わせ中、突っ込んできたトラックから少女を守るために犠牲になり転生。転生前の口癖である「もしも」は口には出さずにいるが思考面でかなり影響を与えている。

 

本人曰く、「元々正義感が強いほうではない」らしくこの突発的な事故がきっかけで色々と自身の情緒が壊れたのかもしれないと考察している。

 

転生先は木の葉の里の外に捨てられていた赤子。この赤子自体特別な生まれであることは確認できていないが、色々と特殊な身体能力を秘めているため捨てられていたのにも何か事情があるのかもしれない。

 

外見は白髪に緑色の目、少し不健康に見える白い肌、成長しても中性的な顔立ちは変わらず、声も高め。基本的に顔を面で隠しているので、素顔はほとんど知られていない。人によっては性別を判断できずにいる。

 

原作知識についてはかなり曖昧。特別漫画を読み込んでいたわけでもなく、アニメもたまに見るぐらいであった。友達に勧められたことがきっかけで、友達の家でNARUTOの漫画を読むようになっていた。最後に読んだ場面は終末の谷でナルトとサスケが対決しお互いにきき腕を無くしたところであり、その後の知識はまったくない。

 

感知能力、自己治癒能力、幻術耐性があるなどかなり特殊な存在。八門遁甲に稀有な才能を示し、性質変化は土と雷を得意としている。指導者がいる土は実戦レベルで術が使える。将来覚えたい術のある雷に関しては指導者がいないため術はいまいち。

 

壊滅的なまでに時空間忍術が不得意。これは成長するにつれて悪化しているよう。

 

また、戦闘センスも元一般人だったためか良い方ではない。そのため、事前に組んでいた作戦や戦術が尽きると、全体的にポンコツになる。

 

彼の現在の目的は木の葉崩し。ペイン襲来。第四次忍界大戦の被害の軽減である。

 

 

 

<蒼鳥マリエ:あおとりまりえ>

孤児院施設、「蒼い鳥」の院長。年齢は若いがその実力が認められ施設の運営を任されている。元孤児。明るい茶髪でウェーブのかかった長髪。ボンキュッボンである。

 

普段はおっとり系で眠くなるような声で喋っているが、興奮したりすると口調が荒くなり、声にドスが利くようになる。同期のガイやカカシ曰く「荒い方が本性」

 

かなりの行き当たりばったりな性格。

 

元・忍びらしく土遁使いであることが確認されている。彼女の扱う土遁・岩状手腕は拳岩の術と似ているが仕組みや構造が違うらしい。「殴る」という用途は一緒である。

 

彼女の施設の職員には元々いた孤児院の仲間もいるようで、勝手がわかるためか運営自体はかなり安定している。

 

好きな食べ物は鶏肉全般。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

原作キャラ枠(オリキャラとの絡み。原作からの変更点などの記載)

<マイト・ガイ>

悟に八門遁甲、剛拳体術を教える師匠枠。マリエ曰く「酒に弱い」

傍からはマリエから頼りにされているように見えてはいるが、本人は悟についての相談事があるまでまったく頼りにされなかったことを地味に気にしている。

 

<テンテン>

武器指南役。悟の素顔を知る数少ない人物。悟のことは手のかかる弟のよう思っている。実際悟の忍具の扱いの下手さにてがかかっている。歳が違うため悟との絡みが減っていることを気にしている。

 

<うずまきナルト>

悟の監視が付いているため、イタズラが原作よりマイルドになっている。たまに悟が食事を作りに来てくれるのを楽しみにしている。原作とは変わらずサスケのことはライバル視しているが、どこか自分に似ている所があると感じているのも変わらず。

 

<うちはサスケ>

悟の影響で、復讐に本格的には囚われてはおらず真実を求め強くなろうとしている。悟の素顔を直接見た数少ない人物だが状況が状況だったため、あまり覚えていない。今のところナルトのことは悟の腰巾着ぐらいにしか思っていない。

 

<日向ヒナタ>

悟が柔拳の知識を得るために組手をする仲。本人はその意図には気づいてはいない。悟の料理をする姿を見て家事も覚えるように。ナルトとのやり取りは悟が場を無理やり設けるため、少しだが慣れてきてはいる。悟のことは気の許せる女友達だと思っている。

 

<日向ヒザシ>

原作とは違い、死ではなく失明で争いを回避できた人。悟に柔拳の基礎を教えた。ヒナタとの組手の件は知っているが聞かぬふりをしている。ヒアシの身代わりになったことでの失明が息子のネジに憎しみを植え付ける結果になったことを気にしている。

 

<はたけカカシ>

マリエの同期。マリエが行動を起こしたため、原作より若干早めに暗部をやめている。軽口で文句はいっているが、本人は嬉しいと思っている。けれどその幸せを自分は得るべきではないと思うのも原作とは変わらず。悟に密かに雷遁の修行を頼まれたが普通に断った。

 

<うちはイタチ>

原作より精神的にダメージを負った人。悟が只ものではないことに早くから気づいていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

おまけ<どこにでもあるありふれた日常>

 

 

<彼>の葬式後、慌ただしい生活の流れが正常に戻り始めた頃。<私>は改めて少し前までの日常を振り返る。

 

自分の友人、黙雷悟が生きていたころを……。

 

 

大学4年生になった<私>は、単位も十分に取っていたこともありほとんどを休日のように自堕落に過ごしていた。……やらないといけないことはあるけど、あと回しでもいいし。

 

そんな私が自室でダラダラと好きな漫画を読みふけっていると、スマフォに通知が届く。友人からのメールか何かだと思い何気なしに画面に目線を移すと意外な人物からであった。

 

「悟からか……」なんて冷静そうに独り言を呟くが、内心疎遠になっていた幼馴染からの連絡に少しどきどきしていた。落ち着け私。まずは内容の確認だ。

 

 

「なになに……。『友達との会話で漫画のNARUTOを全く知らないと言ったら引かれた。もしもこのまま知らないままでいると人生が駄目になる予感がするのです。天音小鳥さんはNARUTOに詳しかったですよね。ぜひご教授頂けると幸いです』……長文すごいなあ。それにかしこまりすぎwww」

 

まあ、彼の心配性な性格を考えればこの文でも長考の末に送られたものだとわかる。

 

まあ……好きなことで頼られるのも悪い気がしないし、私はすぐに『OK』とだけ返事をした。

 

素っ気なさそうにするが、しっかりと私の黒髪が嬉しさを表現するように左右に揺れた。

 

 

それからしばらく、彼と連絡を取り合いお互いの自宅の合間にある公園を集合場所にして、私の家で漫画を読んだり、ゲームをしたりする日々が続いた。

 

高校卒業後ほとんど接点のなかった彼が自分を頼ってくれることに嬉しさを感じつつ、態度ではそれを表現せず、彼にNARUTOの漫画を解説付きでいろいろ教えてあげた。

 

「ふーん、小鳥の髪型ってこのイタチってキャラに寄せてるんだ。」

 

「言わなきゃわからないでしょ?好きなキャラの真似すると何て言うんだろう……興奮する?」

 

「表現やばくないか……。もしも事情知らない人に聞かれたら誤解されるなあ」

 

「どうでもいいよ~そんな誤解されるとかは。で悟は?推しは見つけた?」

 

「推しっていうかまあ、気に入ったのはカカシ先生かなあ。カッコイイし、結果はどうあれ自信ありげな態度は俺からしたら良いと思う。」

 

なーんてそんな日常を春から夏まで続けたある日。

 

「ふーつっかれた~」と悟が漫画を置き、私の部屋の机に突っ伏す。

 

「今どの辺まで読んだ―?」

 

「決着ついて二人で寝てるとこ。」

 

「終わりまであとちょっとじゃん。今日はもう終わりにする?……時間があるなら、夕飯でも食べてく?それでそのあと最後まで読めばいいんじゃない?」

 

私が少し勇気を出して彼が家に留まるような提案を出す。

 

「いや、今日はもう帰るわ、疲れたし。急に夕飯食べるっていっても、おばさんに悪いしなあ。よければまた明後日来るよ。」

 

と言って彼が帰り支度をし始める。

 

「ねえ」

 

私は彼に質問をする

 

「もしも、NARUTOの漫画、全部読んだらもう……家には来ないの?」

 

後半少し声が震えてしまった。直ぐにそのことに気が付いて赤くなる顔を彼から背ける。

 

「……」

 

沈黙が辛い。あー我ながら女々しいこと言ってしまった。女だけど。

 

「いや、来るよ」

 

と簡潔に彼が答える。こんなことで露骨ににやけてしまう自分がバカみたいだ。

 

「だってNARUTOの漫画の続きがあるんだろ?せっかくならそれも読みたいしなあ」

 

そうやって彼は言葉を繋ぐ。

 

 

……私が期待していた言葉とは違うがまだしばらくこの日常が続くことに喜びながらも表情を律し、私は軽口で彼を見送る。

 

「あーはいはい。私は都合よく漫画を貸すだけの女ですよーと。それじゃあ帰り道気を付けてなー」

 

「なんだよそれ……。まあ、じゃあな。漫画読ませてくれるのは本当ありがたいと思ってるから」

 

なんて彼はお礼を述べながら、私の部屋から出ていった。その後私の母に挨拶して家から彼が出ていく気配を感じながら、私はベッドに顔をうずめる。

 

「我ながら変な聞き方したな~。ん?」

 

スマフォに通知が届く。

 

『なんか機嫌を悪くさせて悪かったな。心当たりないけど、お詫びにこんど公園に集合するときそのままどっか出かけないか?もしも小鳥の予定とかが空いてたらでいいんだけど』

 

「……ふふ、予定空けてるからいつもお前の相手してるんだっつーの」

 

そうやって軽口を呟き、簡素にOKと返事をする。

 

 

ああ、明後日が楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から下忍編だーーーーーー。


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下忍編~木の葉の忍びとして~
21:日に向かう追跡者


今回から下忍編……の導入です


<三人称>

 

木の葉の里の甘味屋、そこに二人の人物がいた。一人は里で忌み嫌われる狐のお面……ではなく、白い無地の仮面をつけた白髪の少年。

 

もう一人はお団子むずびの髪型にピンクのチャイナ服を着た少女。二人は団子に茶を交え、気が抜けたように会話をしていた。

 

「それにしても、久しぶりに悟と会ったわねー。前会ったのっていつぐらいだっけ?」

 

「半年前じゃなかった?テンテンはもう下忍で忙しいからね。しょうがないよ。アカデミー生の俺とは時間が合わなくても」

 

「は~時間がたつのが早く感じる……まだおばあちゃんじゃないけど、私は心身疲れてるわ~。最近調子はどう?悟はアカデミー卒業できそう?」

 

テンテンと呼ばれた少女は仮面をつけた悟という少年をからかう様に質問をする。答えはわかりきっているようだ。

 

「どうだろ、半々かな~」「ってそんなわけないでしょ!適当言わないでよ!」

 

「もう!最近私の班の暑苦しい2人組に突っ込みばかり入れてるから癖になりそう……。ってもうなってるかも、もうやだ~」

 

テンテンはへにゃりと机に突っ伏す。その様子を苦笑いしながら見る悟は

 

(ここ一年くらいガイさんと修行が出来ていないのも、テンテンやリー、ネジらの担当上忍になったからだよな。あーあ、あと少しで俺も下忍か……)

 

と今後の自分の様子を思い描きながら、決して短くはなかった今までの約12年を振り返っていた。

 

黙雷悟が転生して約12年がたち、今年にはアカデミーを卒業して下忍になれるという場面。悟自身は、いよいよ自分が知る漫画の場面へと物語が進んでいることに言い知れぬ緊張を感じていた。

 

と、そんな風に休日をダラダラ過ごしていた二人だが突然、机に突っ伏したまま行儀悪く団子を食べるテンテンが悟の肘を突く。

 

「なに?」

 

「いや、悟とさっき合流してから気になってたんだけど、いや逆に悟が気にしてないのが気になるというか……。いや!悟気づいてるよね!?」

 

「なにに?」

 

テンテンが悟の後方、甘味屋の外の電柱の陰に目線を向ける。そこには二つの影がありそれがずっと悟をつけていることにテンテンは気づいていた。

 

しかし、それに気づいているはずの悟が全く言及しないので、話題には出さなかったが流石に気になったようだ。

 

「ああ……あれね。別に害はないから気にしなくても「私が気になるのよ!訳をいいなさい!」……うっす」

 

最近気が強くなってきている幼馴染への説明をめんどくさがった悟は、渋々茶をすすりながら後方の陰について説明を始めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

<黙雷悟>

 

あれは半年ぐらい前か。俺は久しぶりにヒザシさんから稽古に来ないかと誘いを受け日向の屋敷へと来ていた。……狐の面を被らなくなってから、若干日向に呼ばれる回数が増えた。まあ、元々回数は少ないのだが。

 

そんなこんなで、ヒザシさんと道場で会い昔と同じように組手を始めようかとしていたとき、ヒザシさんから声がかかる。

 

「どうだい、悟君最近の調子は?その……ヒナタ様とも上手く付き合ってくれているようだが」

 

「?……ぼちぼち……というか普通に友達として仲良くしてもらってますよ?どうしたんですかヒナタ……さんとの仲を聞いてくるなんて、何かありました?」

 

「何かあるというより、 <起きるかもしれない>っと言った方が正しいか……すまないが今日は日向の修行衣に着替えて組手をしてくれないか?」

 

突然の意図のつかめない申し出に頭に?を浮かべる俺だが、まあ汗で汚れることを思えば服を貸してもらえるのはありがたいと思い、腑に落ちない感じで了承する。

 

するとふすまが引かれ、日向の女中さんのような方が姿を現す。……いつぞや、俺とナルトを吹き飛ばした人じゃないか。

 

なんて、少し不満に思うがそこは感情を隠し、素直に案内を受けた部屋で着替えを済ませ道場へと戻る。

 

改めて、ヒザシさんと向き合い構を取る。

 

「余計なことを頼んですまなかったな。では改めて、久しぶりに稽古をつけてあげよう。」

 

「よろしくお願いします!数年前の俺とは違いますよ……!」

 

そうして俺はヒザシさんと組手を始めた。

 

俺お得意の八門遁甲は使わず、素の技術だけで組手を行う。相手は目が見えないとしても、日向ヒザシだ。経験を積むのに不足なんてことはない。

 

そして、俺はヒザシさんと組手を行った。俺の型は柔拳の基礎と剛拳の基礎を混ぜたものになっている。効率的な動きをする剛拳、破壊力のある柔拳ともいえる。

 

師匠みたいな人にそれを披露できるのは自分の成長ぶりを感じられていいな。

 

そう思い俺は組手へと挑んだ。

 

数時間も組手をしたのはガイさんとの「あれ」以来か……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

流石にぶっ通しで数時間動き続けると体力がキツイ。転生前を思えば破格のスタミナだが。八門を使えばさらに体力にブーストをかけられる、まあ今は使うときではない。

 

「はあ、はあ、はあ、ア゛ーーーっキッツイ……」

 

汗だらけになりながら、構えを継続する俺に軽く汗をかいているヒザシさんが声をかける。

 

「ふう、なかなかどうして。柔拳の基礎から随分と形は変わったが、面白い拳だ。確かに数年前の君とはえらい違いだ。」

 

そしてヒザシさんの方から構えを解く。

 

(……そろそろ頃合いか)……そろそろやめにしようか。君も汗をかいただろ。良ければうちで汗を流していきなさい。」

 

「え?いいんですか?……何か変じゃないですか、今日の俺への扱い……」

 

「そんなことはない。ああ、そんなことはない。気にしなくてもいい。気にしなくてもいいとも。」

 

内心(絶対なんかあるやつだこれ……えっこっわ!)と思いながらも、修行衣を借りている手前女中の手を煩わせるのも忍びない

 

(しのびない……しのびじゃない……。まだ俺は下忍じゃない……ふふ)

 

なんてそんなことより、違和感を抱えつつも再び現れた女中に案内され脱衣所へと向かった。

 

流石というか日向一族の屋敷ともなるとスーパー銭湯みたいに広い湯船があるようだ。

 

脱衣所に俺の着替えを後から持ってくると女中の人が言い、下がったのを確認して俺は修行衣を脱ぎ始めた。

 

「人んちの風呂入るって少し緊張するなあ……」

 

なんて独り言を言いながら、脱いだものを籠に入れ風呂へと向かう。

 

ガラガラと戸を引けば、広がるのは木装の浴槽。

 

あまりの広さと豪華さにおお……と感嘆の声をあげ、俺は軽くかけ湯をして湯船に浸かる。

 

数時間の組手の疲れを吐き出すように「あ゛~~~~」と声を出してタオルを頭にのせる。

 

ちなみに仮面は着けたままで髪が湯船に浸からないよう高めのポニテにしてある。

 

にごり湯というのか、浸かっている首より下は見えないくらいのにごりだ。

 

そんな感じで目を閉じ完全にリラックスすると、脱衣所に気配を感じた。

 

(女中の人が服持ってきてくれたのかな……)

 

呑気にそんな風に思っていたがどうも様子がおかしい、そう、まるで脱衣所で脱衣しているかのような……。

 

(いや、まあ俺が貸し切りと言うのも変な話だし普通に日向の人が来るか……)

 

と自分が仮面だけを水面に出している状態の、見るからに不審者なのを思い出しどう対応しようかと迷っているとガラガラと戸が開かれる。

 

「先の方失礼します」と日向ヒナタが……

 

 

「ヒナあああああぁぁぁあああああ!?」

 

思わず声を上げる俺。

 

「ひゃぁ!!……さ、悟君!?」

 

俺の声に驚き、体が跳ねるヒナタ。

 

「悟君がどうしてここに?」

 

と驚き目をぱちぱちさせながらと質問をしてくる。

 

「ど、ど、どうしてと言われると、ヒザシさんが稽古に誘ってくださったからで……その、稽古が終わった後汗を流すと良いと言われてそのまま女中さんに案内されて……」

 

と震えながら早口で答える俺。この状況、ヒアシさんにバレたら俺殺されるんじゃないか……?

 

「そうなんだね、私との組手にもたまに来てくれてたしおかしくないね」

 

とヒナタはそう答えるとかけ湯をし湯船につかる準備をしている。

 

……なんで?当たり前のように湯船に向かってくるの?なんで俺のすぐ近くに浸かってくるの?

 

(?!?!?!?!?!?!?!?!?!)

 

仮面のしたの俺の表情が混乱を極めている中、ヒナタが微笑みながら声をかけてくる。

 

「ふふふ、悟君とこうして湯船に浸かる時が来るなんて考えてたことなかったなぁ」

 

「いや、まあ、俺もそうなんですけど、いや、はい」

 

混乱している俺だが、ここまでのやり取りをしてヒナタの顔を見ると大きなアザが目に入る。

 

「!……ヒナタそのアザは……」

 

「ああ、これはね……私さっきまで妹のハナビとその……試合をしていて……それで……」

 

露骨に表情が暗くなるヒナタ。

 

ヒナタの妹のハナビか……。確か「5歳下のハナビにも劣る」うんぬんで跡目争いでヒナタに勝った子のことか。

 

まさか……今日その試合があったのか?

 

「もしかして今のいままでそのハナビって子と、跡目争いをしてたんじゃ……」

 

目をはっと見開くヒナタ。

 

「そうなの。すごいね悟君、色んな事にすぐ気が付いて。落ちこぼれの私と違って……」

 

「いや、そんなことはない!落ちこぼれとか関係ないよ!それにヒナタの実力ならそんな風にアザが付く攻撃を受けるなんて……」

 

普段ヒナタと組手をしている俺は、彼女の実力が決して低くないことを知っていた

 

けれどそこまで言って俺は気づく。

 

実力うんぬんの話じゃない。ヒナタが、こんな心優しい子が妹を本気で攻撃できるわけがないんだ。

 

「……ごめん。俺がとやかく言う話じゃないかもしれないけど、ともかくヒナタが落ちこぼれとか言って自分を卑下する必要なんてないよ!」

 

「えへへ……ありがとう、悟君……」

 

目に涙を貯めてヒナタは肩を震わせている。妹に負けたことよりも、多分彼女は周囲の期待に応えられなかったこと、落胆させてしまったことに落ち込んでいるのだろう。

 

一瞬慰めるために胸を貸そうかと思ったが、流石に抱きしめるとかはこの状況ではできない。

 

いや、冷静になるとこの状況はやべえ。

 

そう思うと再び脱衣所で脱衣の気配を感じる。……嫌な予感がビンビンだ。

 

「つかぬことを伺いますがヒナタ様?」

 

「……っぐす。ど、どうしたの悟君?」

 

「ここってもしかしなくても女湯?」

 

「……そうだよ?」

 

俺は絶望した。

 

その絶望の審判をくだすようにガラガラと戸が引かれる。

 

「姉様!先ほどの試合はなぜ……っ!?」

 

噂をすればとはまさにこのこと。日向ハナビの御登場だ。俺を見つけたとたん白眼を発動させて飛び上がり、柔拳を繰り出してきた。不審者相手へのアプローチとしては間違っていない。

 

「え、ちょっとハナビ!?どうして……!」狼狽えるヒナタ。

 

「不審者め!姉様に何をした!?」

 

涙目のヒナタを見て勘違いしたんだろう。まっすぐ掌底が俺の顔面の仮面目掛けて飛んでくる。

 

俺は下半身は出さないように湯船から一瞬中腰で体を上げ、柔拳の攻撃を柔拳の円の動きで受け流し捌いて、ハナビを湯船に叩きつけ素早く首まで湯船に浸かる。……もちろんなるべく勢いは殺したが。

 

バシャンと大きな水しぶきが上がる。

 

「うわっぷ!クソー!」

 

とハナビが起き上がり再び俺に攻撃を仕掛けてくる。しょうがなく思い応戦しようと上半身を出そうとすると、間にヒナタが割って入る。

 

「ちょっとまってハナビ!この人は私の友達よ!」

 

必死のヒナタの訴えにハナビは構えを続けたまま制止した。

 

「……この人が?」と白眼で俺をジロジロと見てくるハナビ。  (/ω\)イヤン

 

「でもこの人……」と何かを言いかけたハナビの言葉を遮るようにヒナタが説明をし始める。

 

「この人は黙雷悟って言って、私と同い年のアカデミー生なの!仮面をつけててちょっと怖いけど……これは恥ずかしやがりだからで、決して悪い人じゃないの。」

 

「いやでも姉様?この人「だからハナビ、お願い構えを解いて!」……いやこの人」

 

 

 

「悟君は私の、大切な女の子のお友達なんだから!!」

 

ヒナタが自身の心のうちを叫ぶ。

 

 

 

「え?」

 

「……え?」

 

 

「…………あれ?」

 

ハナビ、俺、ヒナタの順で間抜けな声が連鎖した。この場の全員が頭にハテナを浮かべている。

 

「あの……姉様、白眼でその人見てみて?」

 

「えっなに?急にどうしたのハナビ?」

 

「……いいから」

 

 

 

「?……白眼」

 

 

そういうとヒナタの目の周辺に血管が浮き、白眼が発動した。……あっまずい。

 

 

「ヒナタ、あのぉ……もしかして勘違いしてるようだけど俺って……」

 

白眼がにごり湯を透過し、俺のナニかを確認したヒナタはどんどんと顔を真っ赤にしていく。目もグルグルと回っている。

 

そしてついには「……ふへぁあ」と息を漏らして湯船に崩れ落ちるヒナタ。

 

「姉様ぁ!?」「ヒナタぁ!?」

 

「ちょっと不審者!一時休戦!誰か人呼んで来て!」

 

「りょ、了解!!」

 

……その後俺がヒナタの体に触れるわけにはいかないので、ハナビの言う通り女中の人を俺が呼びに行きその間ハナビがヒナタを脱衣所まで連れてゆき長椅子に寝かせた。女中の人の処置が済んだのち、俺たちは応接室へと移動した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「訳を聞かせなさい、不審者!」

 

「訳を聞かせてください。女中さん!」

 

「訳はヒザシさんから……」

 

「訳は日向の御隠居から……」

 

 

ハナビが俺に、俺が女中さんに、女中さんがヒザシさんに、グルグルと問答を繰り返す。

 

ヒナタを囲んでワイワイしているとヒナタが目を覚ます。

 

「う……ううん。あれ……私……?」

 

「姉様!」「「ヒナタ様」」「ヒナタ!」

 

ヒナタが目を覚ますと、自身の現状を把握し始めて、気を失う前の状況を思い出して顔を赤くしている。かわいい。

 

それは置いておいて、俺は一瞬静まった現状を利用して状況の整理を図る。

 

「とりあえず、現状把握したいです!まず、ヒザシさん!俺を今回屋敷に招いたのには裏がありますね!それの説明をお願いします!」

 

「ううむ……詳しくは言えないが、ヒナタ様と君の仲の良さを見込んで、その……な。まあ、親睦を深めて欲しくてな……」

 

珍しく歯切りの悪いヒザシさんがもごもごと話している。

 

ならと、俺が女中さんに話を振る。

 

「女中さん!「不審者、その人はナツさん、私たちのお世話係よ」あっはいどうも……ハナビ。ナツさん!なんで俺を女湯に誘導したんですか!」

 

「普通に女性だと思いましたので……失礼いたしました。」

 

うぐっ……

 

「じゃ、じゃあヒナタ、なんで俺がいるのに隣に浸かってきたの?」

 

ヒナタに話を移すが

 

「…………ぅぅ」

 

顔を赤くして俯いたままだ。ヒナタも俺を女だと勘違いしてたってことね……。

最初に会ったときから、今まで……?

 

「えっと、俺のこと君付けで呼んだりしてたし、俺が俺っていう一人称でいるのに何も言わなかったからてっきり男だと認識してくれてると思ってた……」

 

「そういうカッコイイのが好きな女の子かなって思ってて、そうやって扱ってあげた方がいいかなって……」

 

小声で答えてくれた。優しいなあ。

 

「ハナビ」  「……なに?」

 

「ハナビの対応は間違ってない。」

 

「え、あ、そう、ありがとうございます……?」

 

実際、あの状況なら俺に殴りかかるのも無理はない。

 

まあ、一通りの状況が分かってきたので俺は退散しよう。

 

俺が立ち上がり、帰り支度をし始めるとヒザシさんがおずおずと提案してくる。

 

「悟君、もしよければ夕飯でも……」「では!俺は!帰りますんで!!」

 

そう言って立ち上がった俺にハナビが語りかける。

 

「不審者、私はあなたのこと信用してないから!姉様の裸見たこと許さないから!」

 

「……それは許されないってわかってるから言わないでくれ……ヒナタにもダメージが行くし……」

 

ヒナタの赤面がより朱く染まる。

 

「何時でも制裁は受けるから、好きな時に訪ねてくれ……。とりあえず今日は帰りますんで……」

 

そう言って俺は屋敷の庭に出て、八門遁甲を使い身体強化した力で跳躍。日向の屋敷を後にした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<三人称>

 

 

 

少し前の出来事を、テンテンに語った悟は自嘲気味に笑っている。

 

「それで、あの影二つはそのハナビって子とそのお世話係のナツって女の人ってことね~」

 

話を聞きテンテンは影の正体にあたりをつける。面白いことになってるとテンテンはニヤニヤしている。

 

「他人事だと思って……。まあ、あの二人は暇がある時、なぜか俺のストーキングをするようになったみたい。ハナビ曰く『完全な隙をつかないと不審者には有効打を浴びせられないから』ってことで……俺はもう、気にするのはやめたよ。」

 

最後の団子の串を皿に起きながら悟は乾いた笑いをする。

 

「で、どうだった?」

 

テンテンはニヤニヤしたまま、悟に語りかける。

 

「どうだった?て何が?」

 

仮面を少し上げ、茶をすする悟がテンテンの問いかけに疑問で返す。

 

 

「そのヒナタちゃんのハ・ダ・カ♪」

 

 

「ブフぅっっっ、ッツゲホッゲホ!!」

 

すすっていた茶を吹き出し、せき込む悟。仮面の目だし穴からも茶を垂らす様子に、甘味屋の店員も驚きタオルを持ってきている。

 

その様子にゲラゲラと腹をかけて笑うテンテン。

 

 

その様子を見ていたハナビたちは

 

「不審者相手にあの余裕、あのくのいちの人すごい人かも!」

 

「……ハナビ様、もうおやめになりませんか?」

 

 

一方は興味を示し、一方は日向の跡目たちの変わりように落ち込んでいた。

 

――元はといえば自分が黙雷悟を女湯に案内したのが原因だが。そう思い過去の自分の失敗を悔やむ日向ナツだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナタ様が負けると、隠居たちの考えは当たりました。しかし兄上、これで良いとお思いなのですか?」

 

「……ヒナタに跡目の役割は荷が重いと俺も前々から考えていた。だからこそ別の道が必要なのだろう。」

 

「ですが……」

 

「確かに隠居どもの考えには虫唾が走るが、彼、黙雷悟なら悪いようにはならないだろう。ともに下忍としての道を歩めばあるいは……婿として俺が認めるとは限らないがな」

 

 



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22:妖狐の影響

<三人称>

 

アカデミーの卒業試験。それはある程度の筆記、分身の術といった基礎忍術ができれば良い非常にシンプルなものである。

 

必要な年齢に達したアカデミー生たちに受験資格が発生し、一年を通して一度でも合格できたものが晴れて下忍への門戸を叩くことができる。

 

しかしそのよう試験でも受からないものがいても仕方がないことで……

 

「くっそ~次の試験落ちたら流石にまずいってばよ……」

 

金髪の少年は唸る。自身がいまだに試験に合格できていないことに焦っている様だ。

 

演習場で黙雷悟に教えをこいながらもうまくいかないうずまきナルトは焦っていた。

 

「こんなんじゃあ、火影になるのも……」

 

落ち込み始めたナルトの頭に悟はチョップを入れる。

 

「こらこら、お前が夢をあきらめてどうする!ほら、落ち込んでる暇あったら練習!」

 

悟の激励になんとかモチベーションを取り戻すもこの日、ナルトが分身の術を成功させることはなかった。

 

(なんだろうか、ここ最近ナルトから変なチャクラを感じるような……)

 

黙雷悟は最近ナルトから違和感を得ていることに一抹の不安を抱えていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

別日

 

黙雷悟が里で施設の食材を買いに出歩いていると、大人たちがざわざわと騒いでいる様子を確認する。

 

野次馬に近づいていくと怒号が聞こえた。

 

「こらあーーーー!!ナルト!先代の火影様たちの顔岩に落書き何て!!なんてことをしている!!」

 

「へっへーん。こんな卑劣な悪戯、お前たちにはできないだろ!だが俺にはできる!」

 

 

どこかで見たことのある光景に細目で呆れている悟。とりあえずその場は無視し、悟は施設へと戻っていった。

 

 

悟が施設に戻ると、既に昼食の準備が進んでおり悟の食材待ちであった。

 

「どうした、少し遅かったな」

 

施設で別の作業をしていた悟が問いかける。

 

「ああ、ナルトがちょっとな。顔岩に落書きしてて……」

 

そういうと食材を持っていた悟はボフンと煙だけを残して消える。

 

浮いた食材を入れたカバンをキャッチした悟は影分身の情報を受け取り、納得した。

 

「ついにこの時期が来たか……」

 

「あら~この時期てどの時期?悟ちゃんがタイミングについての話をするときっていいこと起きないのよね~」

 

「……後ろに気配消して近づかないでくださいよ。マリエさん……」

 

独り言に反応してきたマリエにジト目で文句を言う悟。

 

しかし「私がいるのに気づいていたくせに~」と飄々とマリエはその場を後にした。

 

ふうっと一息ついた悟は食材を台所へと運び、自身の影分身たちに残りの調理を任せて外へと出かけていった。

 

「ほら~お昼出来たから庭で遊んでるやつ、戻ってこい~」

「手え洗えよ~」

「ほらほら並べ~」

 

悟の影分身たちが施設の子どもたちに昼食を振舞う様子を目にしながらマリエはため息をつく

 

「誰に似たのか、私のやることがなくなっちゃうじゃない~」

 

~~~~~~~~~~~~~

 

 

「くそ~イルカ先生め」

 

ブツブツと文句を言いながら顔岩に書かれた落書きを消しているナルト。

 

イルカも教師としての責務か

 

「仕方がない、俺も手伝ってやる」

 

と言いイルカが手伝いはじめていた。

 

その時ナルトの悪戯に言及しながら悟が現れる。

 

「一応、水性の絵の具で落書きしたのか……」

 

「悟!手伝ってくれってばよ~」

 

「おお、悟か。いつもナルトの悪戯の後始末に付き合ってもらって悪いなあ」

 

イルカに「いつものことですから」と言い悟は顔岩の壁面に垂直に立つ。

 

その様子にイルカが関心を示し、ナルトは今だにチャクラによる壁面歩行ができないため、あまり面白く思わないのかふくれっ面をしている。

 

ある程度目測をつけ、悟は印を結び術を行使する。

 

「水遁・水あられ」

 

手を前に構えた悟の掌から水の塊が無数に射出され、顔岩に水を被せる。

 

水遁で浮いた絵の具をイルカとナルトがブラシで落としていく。

 

……黙雷悟はここ数年で全ての性質のチャクラを行使できる才能を開花させていた。

 

当初適性は雷と土だけだと思っていた悟だが、サスケとの修行中にサスケの提案で火遁を試してみることに。

 

「いや~俺の性質って雷と土だからな~」

 

とできないと高をくくって教えられた火遁・炎弾の印を結ぶ。

 

通常、適正のない性質の術を行使するにはそれなりの年月をかけた修行を要する。

 

しかし口にチャクラが集中するの感じた悟が、仮面をいそいで上に上げると、炎弾が発射され川に着弾。水しぶきをあげる。

 

サスケと術を行使した悟自身も目を丸くして硬直していた。

 

そんな出来事があったため、急いで悟は施設のマリエの部屋に向かいマリエにチャクラ紙を貸してもらえないか相談しに行った。

 

「どうしたの悟ちゃん?そんなにすぐは性質は増えないわよ~」

 

とそんなことありえないといった態度のマリエだが、悟のことを疑ってはいないので素直にチャクラ紙を手渡す。

 

悟が火遁を使ったときの感覚を思い出しながらチャクラ紙にチャクラを込めると、紙は見事に炎を上げて燃えカスとなった。

 

「「……」」

 

意外な事実に驚く、悟とマリエ。その後試しにと風、水の性質も簡易的な術の印を学び使ってみると、問題なく使用できた。

 

チャクラ紙でも反応を確認した悟は驚き、気分を高揚させた。

 

「いいじゃん!いいじゃん!俺の才能が開花している!」と。

 

ただそうことは上手くいかない。

 

術を練習し続けることで粗も目立って現れる。

 

問題点は2つ。

 

「あれ、連続して別の属性の術を使おうとすると上手く発動できない……」

 

「簡易的な術は使えるけど、それまででやっぱり実用的な術使うにはかなり時間を割いて修行しないとダメか……」

 

そう、使い分けが難しく、単純に術を使う素養があっても行使する才能が平凡であったのだ。

 

そんな自身の欠点を思い出しながら、顔岩の汚れを水遁で落とし終えた悟はため息をつく。……普通の忍びからしたら破格の才能であることに間違いはないが悟の成そうとしていることを鑑みると少々心もとないのである。

 

そしてそれを羨む少年がここにも一人。

 

「……」

 

 

「はあ、やっと終わったか、どうだ悟、ナルト。この後一楽で飯でも……」

 

 

「イルカ先生が奢ってくださるなら」

 

「おういいぞ!悟は良くいろいろと手伝ってくれるからなあ。アカデミーでの成績は平凡なのに、お前はよくやってくれてるよ。」

 

明るい笑顔を見せるイルカは「服の汚れを落として一楽に集合な!」と言ってドロンッと煙を巻いて消える。

 

「よし、俺たちもいったん帰って……」

 

「なあ、悟」

 

少し俯いた様子のナルトが悟に問いかける。ナルトのゴーグルが夕日を反射し、表情を隠している。

 

あたりに不穏な雰囲気とチャクラが漂うのを悟は感じた。

 

「ん、どうかしたか?」

 

と何でもないような風に悟が答えるが

 

「俺ってば本当に……本当に火影になれるのかな」

 

という弱気なナルトに少し驚く。

 

「おいおい、どうした。ナルトらしくもない」

 

「ッ!」

 

と励ますように悟が肩に手を置くがナルトはそれを払いのける。

 

「そうやっていっつも何でもないようなカッコうしてっけど!!俺ってば悟にできることは何にもできなくて!!チャクラもうまく扱えなくて!!悟みたいに簡単にたくさん術出来るわけでも、体術が上手くできるわけでもない!!俺ってば……俺ってば……」

 

ナルトは悟に劣等感を抱いていた。原作ではいなかった身近な比較対象に対して。

 

その存在はナルトの「できないこと」を明瞭にしてしまっていた。

 

ナルトの反応に驚き、思考が止まっていた悟だがすぐにそれを察した。けれど自分が何かできるわけでもないことも察したため何も言えない。

 

(……あまりに近くで接しすぎていたかもしれない……)

 

悟は自分の気持ちに影が差すのを感じた。なぜか、暗い感情が溢れてくるのを抑えられないと悟は困惑する。これ以上気分を下げるのも悪循環を呼ぶと思い、とりあえずお互い家に帰るように提案をしようとする。

 

「……そう思うなら、こんな悪戯なんてしてる暇ないんじゃないのか」

 

(?俺は何を言って……)

 

「俺だって出来ないことなんていくらでもあるさ……それでも何とかしたいって思って、頑張って生きて来たんだ」

 

(待て、俺が言いたいのは……そんなことじゃ)

 

「死にそうな目にあっても、頑張ってきてたんだ!それを……そんな簡単みたいな感じで……!」

 

自身の思惑と違った言葉を話す自分に、困惑する悟。

 

これ以上話を続けるのはまずいと思い口を閉じ、深呼吸をする。

 

ナルトは目に涙を溜めて唇を噛んでいる。

 

自身の失言に後悔しながらもこの場を後にしたい衝動に駆られ

 

「……もういい。俺は一楽にいかないから。イルカ先生に言っておいてくれ」

 

そう言ってその場から跳躍して姿を消した。

 

残されたナルトは涙を零しながら「畜生……」と呟き、ゆっくりと一楽へと歩みを進めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<うずまきナルト>

 

 

悟とケンカした後、俺が一楽に行くとイルカ先生が待っててくれた。

 

俺が悟は来ないと言うと、どうしてと言われて

 

「俺が悪いってばよ……。悟が頑張ってるって知ってるのに……。悟がいろんなことできるのうらやましく思って、それで……」

 

イルカ先生に叱られると思った俺が俯いたまま泣いていると

 

「バカたれ、そう思うことはおかしい事じゃない。誰だって羨ましく思うことはあるさ。それで将来火影になるうずまきナルトはこのままで良いと思っているのか?」

 

って言いながら頭を撫でてくれた。

 

俺は……俺は……

 

「良くないってばよ……。このまま悟とケンカして仲悪いままなんて嫌だ!俺ってば謝ってくるってばよ!」

 

俺は悟の家に行こうとする。けど

 

「まあ、待て。とりあえず腹ごしらえして、気持ちを落ち着かせてからだ。焦っても良いことはないぞ!」

 

そう言ってイルカ先生が一楽でラーメンを注文し始めた。

 

俺もイルカ先生の言う通りに席につく。

 

その後イルカ先生の額あてとか貸してもらったりして、いろいろ元気を分けてもらったってばよ……。本当、イルカ先生っていい人だな。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

腹ごしらえをしてイルカ先生と別れた後俺は、悟の家に向かった。

 

詳しい場所は聞いてなかったけど、大体の位置はわかるから何とかなるはず……。

 

 

しばらくそれらしい場所を探したけど、やっぱりぜんっぜんっわかんないてばよ。

 

悟は俺が風邪ひいた時、看病しに来てくれたのに……。

 

少し前のことを思い出すと、俺が悟を傷つけるようなことを言ったことを後悔する気持ちが大きくなる。

 

 

「悟……ごめん」

 

 

 

 

 

「あら~悟ちゃんのお友達?」

 

俺がびっくりして振り返ると美人なねえちゃんがいた。

 

「えっとそうだけど、あんたってば悟の……知り合い?」

 

「そうね~保護者みたいなものね~。悟ちゃんなら今外出してるから施設にはいないわよ~」

 

施設?そういえば悟の家って孤児院って所だっけか?よくわからないけど今はいないのか……。

 

「ありがとうってばよ。それじゃあ俺、帰るから悟に「あら~悟ちゃんに用があるならうちに上がってって~。ちょうど夜食買ってきたところなの。一緒につまみながら待ってましょ~」

 

「え!?ちょっと待ってくれってばよ!行くって俺言ってないっ……」

 

俺の話なんて聞いてないのか、このお姉さん。見かけ以上の力でグイグイと俺を引っ張っていったってばよ……。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<黙雷悟>

 

おかしい、おかしい、おかしい。

 

自分の感情を制御できない。あんなことをナルトに言うつもりなんて全くなかったのに。

 

それどころか、自分のチャクラのコントロールすら覚束なくなっている。

 

不安定な状態の俺は、夕飯時すぎに、木の葉の荒れ地。人が寄り付かない場所に来ていた。

 

俺はチャクラコントロールが売りだったのにそれが上手くできない。

 

試しに岩に火遁・炎弾を放てば想定以上の爆発が起きる。明らかにおかしい!

 

ただ、全く心当たりがないとは言わない。恐らくは……。

 

そう思っていると、気配を感じ振り返ると……ナルトがいた。俺のざわつきが強くなる。

 

「ッ……ナルトか……どうし……た。こんな場所で」

 

「大丈夫か!?悟、明らかに様子が変だってばよ!」

 

ああ、分かっている。分かってるけど……。これ以上ナルトに近づくのはまずい……。

 

「今日は、もう俺は帰るからナルトもさっさと家に……」

 

「そうやって!一人で抱え込むなっばよ!!マリエさんから聞いたぞ!悟は何でもかんでも一人で背負って自分で何とかしようって無理をするって!!」

 

余計なことを……。っ駄目だ、思考が引きずり込まれる。

 

「俺も、俺も悟のために何かしたいんだってばよ!頼ってくれよ!」

 

ナルトの咆哮に俺の意識が少し正常に戻る。……もう四の五の言ってられない。

 

「そうか……なっなら頼みがある。ナルト……!」

 

「なんだ!?」

 

 

 

 

 

「俺をぶん殴って……!気絶させてくれ!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<三人称>

 

黙雷悟が気が付くと見知らぬ場所にいた。

 

さっきまで感じていた憎悪の感情は今は感じていない。

 

辺りを見渡せば、水路に配管、見るからに下水道のような場所であると悟は気が付く。

 

「ここは……何となく状況が飲み込めてきたぞ……」

 

水路を伝って、奥に進むと広い空間に出る。

 

その先には大きな門のようなものがある。悟はそれを確認すると、さっきまで起きていた感情が制御できない現象の予測を、確信へと変える。

 

「ああっやっぱり……。何となくそうじゃないかと思ってたけど、まさか当たってるなんてな。」

 

そう悟が呟くと、門の奥の暗闇から声が轟く。

 

「貴様……随分とワシのチャクラに感応しているようだな……」

 

低くうねる様な呟きのごとく響く声は、悟の恐怖心を煽る。

 

「理由は知らないけど……っお陰様で結構つらいよ。九尾(・・・)

 

門の奥の存在が、薄っすらと姿を現す。前足を組み、そこに気怠そうに頭を乗せ、伏目で悟を観察する狐。

 

普通の狐と違うのは、放つプレッシャーとその巨大さであろうか。

 

「ナルトの小僧が随分と感情を荒らしているおかげで、ワシのチャクラをほんのわずか外に出せたが。まさか少量でここまで影響を受ける奴がいるとはな……」

 

九尾は意外や意外と言った様子で語るが、悟を観察する鋭い目は一切ぶれない。

 

「……ほう貴様……ジジイと同じ……いや、似た匂いを漂わせているな。相性で言えば、ナルトよりも貴様の中の方が居心地が良さそうだな……。どうだ?この封印を解いてくれるなら、貴様にワシの力の一端を分けてやることも考えてやる」

 

「残念ながら、尾獣を飼う余裕は俺にはないんでね……っ。チャクラもらすのをやめてもらってもいいかな?気が狂いそうになるんでね。」

 

悟は九尾の負の感情の影響を強く受けているようで、精神世界のこの場でも余裕がなくなってきていた。

 

その様子に九尾は満足そうに呟く。

 

「クックックッ。ここで貴様が暴走すれば、運よくワシの封印が弱まるかもしれん。俄然、貴様にチャクラを分けてやる気が出てきたぞ!」

 

そういうと水面を伝わり、赤いチャクラが悟の周囲を取り囲む。

 

(……ああ、まずいな)

 

冷や汗が止まらない悟はどうにか抵抗できないか、思案するが何も思いつかない。

 

チャクラが悟に触れる寸前。赤いチャクラが悟の後方へと流れていく。

 

「なにぃ!?」

 

九尾の驚きの声に、悟が後ろを振りけるとそこには

 

『悪いけど、九尾。今の君の力は()には扱えないから、一時的に僕が預からせてもらうよ……』

 

黙雷悟がいた。瓜二つ、全く同じ姿形、声も同じ。その姿に悟が驚愕して声も出せないでいると、九尾が面白くないと吠える。

 

「ふんっ貴様、随分とめんどくさい存在のようだな。影響を与えられない以上貴様らに用はない!!ワシの前から消えろぉ!!」

 

九尾の咆哮に悟が吹き飛ばされ、周りの景色が遠のいていった。

 

ドンッと悟が衝撃で意識を取り戻すと、自分の精神世界。草原の中に尻もちをついて座っていた。

 

「……何が何だか……ははは」

 

そう呟くと悟の後ろから声が聞こえる。

 

『今はまだ、僕と君との繋がりが強くないから、これ以上の干渉は出来ないけど尾獣からのチャクラによる影響は僕が引き受けるよ。だから安心して』

 

「いやいや!あんた誰だ!俺と同じ、というかこの精神世界にいるってどういう……!」

 

そういって悟が振り返るとそこには誰もいなかった。

 

そして声だけが響く。

 

『君にはやることがあるはずだよ。さあ、起きて時間がない』

 

「説明を!」

 

 

「しろぉ!!」

 

そういって悟は布団から体を起こす。

 

そう、気が付くと自室の布団に寝ていた悟は目を覚まし、起き上がった状態にある。

 

混乱している悟が思考停止していると、声を聞きつけたマリエが声をかける。

 

「悟ちゃん!やっと起きたのね!大変よ、ナルト君が……」

 

起き抜けの悟に飛び込む情報。

 

 

禁術を記した巻物をうずまきナルトが盗み出したことを知らされた黙雷悟は焦る。

 

 

(何か禁術を知りたいと思ってこの機会を待っていたのに!出遅れた!)

 

急いで忍び装束に着替えた悟が八門で強化した状態で施設を嵐のように出ていく。黄昏時ぽつんと残されたマリエが呟く。

 

「まったく……忙しい子ね」

 



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23:少年よ、野望を抱き、暗躍せよ

<三人称>

 

黙雷悟が精神世界から覚醒したのは、悟がナルトと接触し気絶させられてから丸一日時間が過ぎた時だった。

 

自身が体感していた時間より遥かに現実の時間は進んでいたことに悟は焦っていた。

 

既に日が沈み始めた時刻。ナルトが火影屋敷から禁術の巻物を盗み出して、ある程度の時間が経ち、マリエでさえもその情報を掴んでいるほど事は進んでいる。

 

食事もとらず、ろくに休息も挟んでいない悟は、体力的きつさを感じながらも急いで自身の忍び装束に身を包む。

 

この日、悟は将来のため禁術の書から幾つかの術の情報を得よう考えていた。しかしその機会の唐突さに悟は焦りながら着替えていく。

 

ガイからもらっていたタイツを黒く染めたものの上に、黒いパーカーに灰色のズボンを身に着ける。軽い竹で作られた手甲、足甲は黒く色が塗られ、赤い紐で連なっている。

 

標準的な忍びのサンダルを履き、背中には黒い鉄棒をクロスに差した帯を背負う。

 

そのまま急いで玄関を飛び出ようとしていた悟にマリエが仮面を投げつける。

 

「流石にこれを忘れちゃダメでしょ!焦りすぎよ悟ちゃん」

 

呆れた様子でそういうマリエにしまったと苦笑いしながら悟はキャッチした仮面を顔につける。

 

「ありがとうございますマリエさん!ちょっと出かけてくるので、夕飯には遅れると思います!」

 

そう言うと悟は八門遁甲で強化した身体能力で外へと駆けていった。

 

「まったく……忙しい子ね」

 

ポツリとマリエが呟くと、既にマリエも施設の中から姿を消していた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

里を駆ける悟は違和感を感じていた。里の雰囲気がおかしいと。

 

ピリピリした感情が渦巻いているような感覚を肌で感じながら、悟は感知能力を働かせる。

 

すると、チャクラとも言えない不自然なエネルギーが里中に漂っていることに気が付いた。

 

(これは……九尾のチャクラ?いや、チャクラと言うよりは九尾の精神エネルギーだけが漂っているのか。これの影響で周りの人はピリピリしているようだけど……)

 

周りを見渡すとイライラしている様子の大人や、口論している夫婦。ケンカしている子どもたちがチラチラといる。

 

悟が自身に影響がないのは、あの精神世界にいたもう一人の自分のおかげなのかと、ふと考えていると精神エネルギーがより濃い場所で忍びたちが結集していることに気が付く。

 

「どのみちろくな奴じゃねーんだ。見つけ次第殺るぞ!!」 「おおおおおおおお!」

 

 

その様子を仮面に隠した表情を暗くしながら悟は走りながら見ていた。

 

(う~わ。原作でも見たことあるシーンだ……。胸糞悪いけど、見た感じ九尾の影響があったから皆、あんなに殺気だっているのか……。漫画で見たシーンより人が多かった気がするけど)

 

ナルトの精神面が不安定になったせいで漏れ出た九尾のエネルギーはかなりの影響力があるようだと考察しながら、悟は朱い精神エネルギー漂う里を駆け、大元のナルトの居るであろう里外れの森へと駆けていった。

 

その様子をすれ違いざまに見ていた少女が一人。

 

「あれは……不審者!?あんなに急いでいったい……何処へ?」

 

少女は興味のまま、悟のあとを追いかける。

 

 

「ハナビ様?今宵はあまり里の雰囲気が良くありません。今日は早めに屋敷に帰り……あれ?ハナビ様?!」

 

一人残された日向ナツは不意に消えた本家の跡目を探し、白眼を使う。悲しいかな彼女の白眼では既に見えない位置にハナビがいるとも知らずに逆方向へと歩みを進めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

森の中、悟は八門遁甲を解除し影のようにこそこそと木の上を移動していた。

 

(何故か人の気配がこの森の中で多く感じる。この騒動でここにいるのはミズキ先生とイルカ先生、ナルトの三人だけだと思っていたのに……)

 

悟は原作では居ないはずの気配に注意しつつナルトを探していた。ナルトのチャクラは特別分かりやすいので場所もある程度特定済みである。

 

ナルトのいる場所まで行くと、ナルトが何やら印の練習をしているのを悟は確認した。

 

(多重影分身の術を練習しているのか……、練習に集中していて俺には気づいていないな。)

 

悟は木を降り、ナルトの近くまで気配を消して近づく。悟の忍びとしてしのぶスキルはまだまだ粗削りだが、ナルトはその気配には気が付かなかった。

 

小物への変化は悟にはできないが、幸い禁術の書は大きいため、悟でも問題なく変化することができる。

 

(小物に変化するには時空間忍術の適性が必要だけど、俺はその適性が全くないからなあ……。おかげで封入・開封の術ができないから鉄棒も二本とも背負う羽目に……)

 

そう考えながら、自身の影分身を禁術の書へと変化をさせて、悟は本物とそれをすり替えることに成功した。

 

(ナルトすまんな……。いったんこれは俺が預かるよ)

 

いったんナルトから距離を取るため悟は、書を腰に背負いその場を後にした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ナルトから距離を置き、身を隠せそうな藪の中で悟は書を置く。

 

早速書を拝見しようと思った悟だが、ふと原作でのある知識を思い出す。

 

(……念のため(・・・・)、やっておくか)

 

そう思い、ため息をついた悟は変化の術を使う。悟が変化したものは……。

 

長い黒髪に健康的な張りのある体系。濡れたワイシャツのようなものを一枚だけ羽織り、普通見えてはいけない局部が上下ギリギリ隠れているような、そう所謂『美女』である。

 

悟が変化した美女は顔を赤らめながらその一枚だけのシャツをゆっくりとゆっくりと脱ぐような仕草を行う。体はフルフルと震え、顔の紅潮もより鮮やかのモノとなる。

 

そしてその局部が露わになる瞬間。悟は変化を解いた。

 

元の姿に戻った悟は自身の行動の恥ずかしさに仮面の下を赤くしていた。傍から見たらただの狂行である。

 

お色気の術(・・・・)を実際に自分でやると恥ずかしさがすごい……。若干ナルトを尊敬するよ)

 

空を見上げて悟は思う。

 

(意味はないかもしれないけど一応な。一応。俺のお色気が通じるかはわからないけど。)

 

そうしてようやくと言った感じに悟は恥ずかしさに紅潮する顔を抑えながら、封印の書を開封した。

 

最初に書かれている多重影分身の術は使う気がないため、飛ばして読み始める悟。

 

(飛雷神の術……これは時空間忍術苦手な俺には論外だな。穢土転生……使う気はないけど一応やり方だけでも覚えておくか。互乗起爆札……うわっえっぐ……。)

 

目ぼしい術を自身の持つ巻物にそのやり方などを書き写しながら、悟は封印の書を読み進める。

 

(影分身の制限の解除(・・・・)?へ~こんな使い方が……!?)

 

書を読みふけっていた悟の元に大きな爆音が届く。

 

そして地面を伝い弱い地鳴りが起きる。

 

(なんだ?こんな爆発が起きるような戦闘に漫画でなってたか?……何だか嫌な予感がするな……)

 

違和感を覚えた悟は封印の書をたたみ、戦闘が起きているであろう場所まで移動を始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

爆発音の現場まで悟が駆けつけると、その状況に愕然とした。

 

(な、なんだこれ……!?)

 

辺りの木々は爆発により引火したのであろう。ちりぢりと燃え、煙が辺りを包んでいる。

 

地面には負傷したイルカと、それを庇う様に囲う数人のナルト。そして彼らを木々の上で見下ろす……

 

 

「おい、おいどうしたあ?さっきまでの威勢はどうしたよ!化け狐!!俺をぶっ飛ばすんじゃなかったのかあ?!」

 

ミズキと複数人の忍び。

 

正にナルトの絶体絶命のピンチといった状況であった。

 

(何でミズキが優勢で、しかも敵っぽい忍びが複数いるんだ!?)

 

自身の原作知識との解離に混乱する悟の元にイルカの声が届く。

 

「お、お前らあぁ……何でミズキなんかと一緒に……こんな事を!」

 

イルカの怒り震える問いにミズキの隣の忍びが笑いながら答える。

 

「ミズキさんが誘ってくれたのさ!バカな奴らを騙して、利用して!そうして他の里に封印の書の情報を売り込んでやろうてなあ!」

 

また別の忍びが興奮した様子で答える。

 

「俺たちは芽が出ない下忍や中忍の集まりだが、ミズキさんが目をつけてこの作戦に誘ってくださったんだ。これで俺たちも強くなれる!金も手に入る!」

 

そして満足そうにミズキが答える。

 

「まあ、こんな感じだあ、イルカ。俺を慕い着いてきてくれる信頼できる(・・・・・・)仲間を集っただけさ。なあにイルカ、お前にもその化け狐が慕って数人で囲ってくれてるじゃないか。不満かあ?はっはっはっはっは!!」

 

ミズキの様子にナルトが吠える。

 

「うるせえ!!!イルカ先生をバカにすんじゃあねえってばよ!」

 

ナルトが印を結び影分身を生み出し、影分身が影分身を投げ、複数人の木の上の忍びに向かって突進する。

 

しかしそれらの分身たちは手裏剣やクナイ、火遁などの攻撃で全て迎撃されてしまった。

 

「くそお!」

 

ナルトが悔しさに言葉を吐く。それを面白そうに見下ろしたミズキが口を開く。

 

「最初数千人か数百人かの多重影分身の術を使ってきたときはヒヤッとしたが、たかがアカデミー生のそれも落ちこぼれの分身だ。俺たち(・・・・)が冷静に対処すれば何とかなる。それにあれ程の人数はいくら化け狐といえども、何度も出来ないだろうしなあ?」

 

高笑いをするミズキ。

 

その様子を影から観察している悟は自身がどう動くべきか、迷っていた。

 

(ここで戦うのは、まずいか。俺一人ならともかくスタミナ切れかけて肩で息をしているナルトに、負傷しているイルカ先生を守りながらは……。二人を抱えて逃げるのも手だがこいつらを野放しにするのも……。それに実力を隠してこいつらを撃退はまず無理だろう。そうするとイルカ先生に俺の実力がばれてしまうし……。それに封印の書を手渡すわけには行かないし、どうする?!)

 

悟の思案を遮るように、ミズキの元に新たに現れた忍びがミズキに声をかける。

 

「ミズキさん!森でこんなガキを見つけました!どうしましょうか!」

 

「あん?おお、こいつは……」

 

 

「日向のガキじゃねえか!」

 

その声に悟は驚愕し目を向ける。

 

その目線の先では、日向ハナビが顔を殴られたのであろう。頬を青くし、ぐったりとした様子で忍びに抱えられていた。意識はあるようだが、恐怖で体が硬直している様だ。

 

その様子を確認した悟の思考は止まった。

 

「いいぞ!そのガキは売れる!それになあ……オイ!ガキにクナイをあてがえ!」

 

ミズキの指示でハナビを抱えた忍びはクナイをハナビの喉元に向ける。

 

「イルカあ!このガキの命が惜しければ!その封印の書を大人しく渡せ!お人好しのお前なら快く聞き入れてくれるよなあ!!」

 

これ以上面白いことがないというほど、上機嫌に表情を歪めるミズキにイルカは怒りで震えていた。

 

「ふざけたまねを!ミズキぃ!!」

 

ナルトも怒りに吠える。

 

「てめえ卑怯だぞ!!」

 

それらの咆哮などどこ吹く風かミズキには何の影響も与えない。ミズキが手で合図を送ると、ハナビに当てられたクナイが皮膚に食い込み血が流れる。恐怖と痛みで涙を流すハナビの様子にナルトやイルカが封印の書を手放そうとしたとき。

 

 

ハナビを拘束する忍びの上空で緑の閃光が走る。

 

 

上空から落下してきた緑の閃光は体を捻り勢いをつけ両手に持つ鉄棒でハナビを拘束している忍びの両腕を砕く。拘束を解かれたハナビを抱えた緑の閃光は砕かれた腕を認知する前の忍びの顔面にドロップキックを決め、反動でナルトとイルカの元へと降り立つ。

 

 

一連の流れにその場の誰も反応することができず、打撃を受けた忍びが地面に落ちる音と叫び声で周囲が事の流れに気づき始める。

 

八門遁甲・第四傷門を開放し、緑のオーラに包まれた黙雷悟の存在に周囲がどよめく。

 

 

「さ、悟か……?悟なのか!?」

 

ナルトが少し嬉しそうに問う。

 

「ああ、そうだ……。悪かったなナルト出てくるのが遅れて……」

 

普段の悟とは声の雰囲気が違い、あからさまに怒りを抑えているという悟の様子にナルトが少し怯む。

 

「ごちゃごちゃ考えるのはなしだ……。俺が全部ぶっ飛ばして、全部守ってやる。イルカ先生もナルトもハナビも!だから……!」

 

緑のオーラがより荒れ狂う様子が傍から見てもわかり、ミズキたちは怯んでいる。

 

ナルトはそんな悟に怯みながらも悟に近づき、そして

 

「バカ野郎!!」

 

頭頂部に拳骨を振り落とす。

 

「痛い!」と安直な感想を言う悟に、ナルトが叫ぶ。

 

「そうやって!一人で抱え込むなってばよ!俺は悟から見てそんなに弱いのか!?守らなきゃいけねえほどなのか!?確かに今はそうかもしれねえけど!だけど!!」

 

 

「俺たち友達だろ……?もっと頼ってくれってばよ……」

 

悲痛なナルトの様子に悟は目を見開き、八門遁甲を閉じる。

 

ナルトが感じていた悟への劣等感。しかしナルトが悟に対して本当に感じていた感情は。

 

周りを支えるという使命感に帯びた悟に対等に見てもらえていないという悲しみであった。

 

周囲に気を配り、まるで保護者かのように振舞う悟との関係性の歪さにナルトは違和感を持っていた。

 

黙雷悟は周囲を信頼していない。傍から見れば悟はそう見えていたのだ。

 

悟本人の意図とは違っても、周囲を守ろうとする気持ちが早っていた悟はそのように振舞っていた。

 

その事実をナルトは悟に突きつけた。

 

そして悟は……

 

 

「……ああ、そうか。そうだよな一人で突っ走って、施設のことも何でも一人でやろうとして、成長しているようで、精神面は全然だなあ、俺」

 

自嘲染みた笑いを響かせて仮面に手を当ててそう呟いた。

 

(原作を知っているから、俺がどうにかしないとって焦りすぎてたんだ。うちはと日向の件で少し天狗になってたか?俺一人で運命を変えられたと?お笑いものだな。誰かの手助け無しだったらとっくに死んでたくせに……)

 

 

「はああぁ……よし!!」

 

大きく深呼吸をした悟は

 

「ふん!!」ナルトの顔面を殴りつける。

 

 

「いってええええ!何すんだってばよぉ!悟……」

 

 

「これでお相子だ(・・・・)。一緒に戦うぞ。ナルト」

 

「……!おう!!そう来なくっちゃなあ!悟!」

 

そっぽを向きながら拳を向ける悟に満面の笑みのナルトが拳を合わせる。

 

その瞬間飛来するクナイを悟が鉄棒で弾く。

 

「少し待たせすぎましたかミズキ先生?焦ってもいいことないですよ?俺が言うのもなんだけど」

 

煽るように鉄棒の先をミズキに向けて悟が挑発する。

 

「はん!アカデミーでも落ちこぼれに、平均点以下の目立たないクズの二人に何ができる?この状況分かってんのか?」

 

 

木の上に並ぶ忍びたちが威圧するようにチャクラを高める。

 

しかしその様子を鼻で笑い悟とナルトが並び立つ。

 

「何ができるって?そんなの決まってるってばよ……!」

 

 

 

 

 

「「てめえらをぶっ飛ばせる!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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24:燃える森で燃やせ闘魂

<黙雷悟>

 

ナルトと同時に啖呵を切った瞬間、ミズキに連なる忍びたちがそれぞれ術を使用し攻撃をしてくる。

 

頭数がいるだけあって、五遁をすべて含んだ術が俺たちに迫る。

 

「ちょっ!?やべえってば……」

 

「まかせろ!」

 

怯むナルトに変わり俺が影分身を使い5人(・・・)分の頭数をそろえ……

 

「五遁連弾の術!」

 

それぞれが火・水・風・土・雷の術を使用し、相性がこちらが有利になるように敵の術にぶつける。

 

相性が良い分、未熟な俺の術であろうと相手の術を押し返し、大爆発を起こす。若干土と雷だけ出力がでかいのは修行の成果だ、エッヘン。

 

爆発で生じた衝撃波が相手を怯ませているうちに、俺は用意しておいた煙球を全てふんだんに使い、周囲を煙まみれにする。……忍具はおこずかいで購入しているからあまり消耗品を使いたくはないが背に腹だ。

 

「あいつ一人で性質変化を……」 「煙で状況が……」

「このままじゃ逃げられてしまいます、ミズキさん!」

 

ミズキの仲間たちが狼狽え始めたが

 

「落ち着け!奴らは負傷者とガキを抱えている!直ぐには逃げられない。煙を囲んで外に逃げられないようにしろ!風遁が使える奴は煙を晴らす準備をしておけ!」

 

ミズキの的確に指示で冷静さを直ぐに取り戻し、煙を取り囲むように俺たちの逃げ場を塞ぐ。

 

無駄に優秀だなミズキ先生。

 

取りあえず時間を稼げた。この間に……。

 

「ナルト、これでイルカ先生の傷を手当てしてくれ」

 

そういって緊急用医療キットを腰のポーチから出してナルトに手渡す。

 

「わかったってばっ……おっとと!!」

 

近くにいても煙が充満しているせいで、手元が良く見えずナルトがキットを落としそうになる。

 

「それ高いんだから気を付けてくれよぉ!」

 

俺の切実な訴えにナルトが「ご、ごめん」と謝りながらイルカ先生の治療を始める。

 

イルカ先生はそんな俺の様子に

 

「わ、悪いなあ、悟。そんな高い物俺のために……」

 

と謝ってくるが

 

「イルカ先生、今気にすることそこじゃないです。命が助かるなら金何ていくらでも使いますよ。それにこの状況を打破することのが先決です」

 

そういって俺は怯えて地面に座り込んでいるハナビに目線を合わせるようしゃがむ。

 

「……どうしてこんなところにとかは今は聞かない。だけどみんなが無事に戻るためにも、戦わなくちゃいけないんだ。それはわかるな?」

 

なるべくハナビを落ち着かせるようにゆっくりと話す。ハナビも何とか俺の言葉を聞き入れてくれている。ハナビの首元についた傷の血を拭きながら俺は話を続ける。

 

「今、ハナビだけを逃がしてあげることはできない。ハナビが捕まれば人質になって今度こそ終わりだ。それにナルトやイルカ先生を置いていくことも出来ない。だから」

 

俺は鉄棒を背負うための帯を緩め、しゃがんだままハナビに背を向ける。

 

「俺がハナビを守る。俺を信じて背に乗ってくれ」

 

それはハナビを戦闘の渦中に巻き込む行為だ。けれど、現状俺の本体が彼女を守り戦うのが彼女にとってもっとも安全だと考える。

 

彼女は恐怖を感じている様子だが、流石は日向の一族だ。

 

「……わかった。絶対に負けないでね」そう呟いて俺の背に乗ってくれた。

 

彼女の覚悟を背負い、俺は背の彼女を鉄棒の帯で少しきつめに固定する。

 

ハナビが少し声を漏らすが「大丈夫だから」と強く俺の肩を掴み、命を預けてくれる。

 

「あと、これ。俺の髪をまとめる用のゴム紐だけど、ハナビの髪をまとめておいてくれ。掴まれると厄介だしな」

 

「わっわかった……」

 

そういって渡した簡素な黒いゴムひもでハナビが髪をまとめているうちにさらに声をかける。

 

「……ハナビ、今白眼を使えるか?」

 

俺の問いにハナビは「今は広い範囲は見れないと、思う。思う様に体が動かないし……」と答える。

 

メンタル面で術の効果はかなり違ってくる。今のハナビでは白眼の視野も広くないだろうが、でも問題ない。

 

「大丈夫だ。白眼を使って俺の仮面の下、俺の表情だけを見ていてくれ」

 

俺の要求にハナビが不思議そうに白眼を発動させると

 

「……ぷっあっははは!なっなんでこんな状況でそ、そんな変顔……くっふふふ!」

 

俺の仮面の下の変顔で笑ってくれたハナビが背中で震えている。……よし大丈夫そうだな。

 

「悟、イルカ先生は大丈夫そうだってばよ!」

 

ナルトからOKのサインが飛ぶ。

 

そろそろミズキたちが煙を晴らしてくるだろう。

 

簡易的だが俺は作戦をみんなに伝える。

 

「とにかく頭数を減らすことが重要だ。俺とハナビで少し離れた位置に敵を誘い込む。ミズキ先生とその他一部はナルトの影分身を前衛にして、イルカ先生の忍具による支援で時間を出来るだけ稼いで欲しい。俺の方が片付いたら、合流してミズキ先生をぶっ飛ばそう!」

 

「おう!了解だってばよ!」

 

「今はお前たちに頼るしかなさそうだ。不甲斐ない先生ですまない……」

 

「落ち込まないでください、イルカ先生。……よし来るぞ!」

 

 

覚悟を決め仮面の下で笑顔を作る。ハナビが見てくれている以上不安にさせるような表情はしない。

 

背の命を感じ俺の意志が強くなるのを感じる。

 

 

 

いつかのイタチさんも同じように思ってたのかな……。

 

 

 

「「「風遁・烈風掌」」」

 

ミズキの手下達の風遁が煙を晴らすべく行使される。

 

風遁が来ると分かっていればこっちのものだ。

 

「火遁・炎弾!」

 

風遁を放ってきた忍びたちに向け炎弾を飛ばす。風の影響で火力を増した炎弾が忍びたちを焼く。地道に数を減らしていこう。

 

術の影響で煙が晴れてしまったがしょうがない。俺は封印の書をミズキに向けぶん投げる。

 

「プレゼントforユー!!」

 

「なに!?」

 

一瞬ミズキが怯んだ瞬間、封印の書に変化していた俺の影分身がミズキに襲い掛かる。直ぐに返り討ちに会うがその隙に

 

 

「じゃあ!!俺たちは逃げるんで!!」と叫んで俺はハナビを背負いナルトとイルカ先生から距離を取る。

 

「ふざけた真似を!!おい、あいつらを追え!封印の書に化けてたのが悟の奴、仮面のガキだとすると持っているのもあいつの可能性が高い!」

 

「了解しました。」

 

ミズキの指示を受けた、恐らくミズキの次に実力のありそうな中忍が複数の忍びを引き連れ、俺たちを追う。

 

「イルカと化け狐!お前らはじわじわとなぶり殺しだあ!!」

 

「やってみやがれえ!」

 

「いくぞ、ミズキ覚悟しろ!」

 

遠くでミズキとナルト、イルカ先生の声が響くのを聞きながら俺はそのまま距離を取った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

森は広範囲で燃えているようで結構距離を取ったにも関わらず景色は燃えた森林だ。

 

 

「ああ、流石に追いつかれたか!っと」

 

忍び達が投げるクナイや、手裏剣を両手の鉄棒で弾きながら

 

「八門遁甲・第二休門……開!」

 

休門を開放する。第三生門以上は背中のハナビが負担に耐えられそうにないので使えないが下忍ほどの実力の相手なら十分だ。

 

接近し、クナイで接近戦を仕掛けてくる相手に対して俺はただ鉄棒を振るう。実直安直な振りだが、休門状態の攻撃を捌ける下忍などそういない。

 

クナイでは俺の攻撃を受け止めきれず、下っ端たちの腕、手、足などをひたすら八門の力押しで砕いて戦闘不能に追い込む。

 

そんな俺の様子に怯んだ忍びたちは遠距離からの攻撃に切り替える。

 

正面から飛んでくる火遁に対して

 

「どっせい!!」と鉄棒を片方ぶん投げる。

 

鉄棒が回転しながら飛んでいくと、火遁をかき消し術者の頭を鈍い音で打ちぬく。八門の身体能力さまさまだな。

 

「よし、ストライク!」とガッツポーズを取ると

 

「不審者!上!」と背中のハナビが叫ぶ。

 

咄嗟に残った鉄棒を上にぶん投げると奇襲をしようとしていた忍びを打ち抜く。

 

「ちょっと!油断しないで!背中に私がいるんだから!」とハナビが語気を強めて言う。

 

「ごめん!あとナイス!!」

 

少し調子を取り戻し始めたハナビの様子に安堵すると、鉄棒を無くした瞬間を好機と捉えたのかまた正面から数人忍びが接近戦をしかけてくる。

 

「木の葉以外の忍びもちらほらいるな……。ミズキ先生カリスマどんだけよ……」

 

俺は呆れながらも柔拳のような構えを取り、攻撃を捌き、攻撃二段目を上に弾く。そのまま無防備な相手の腹を剛拳で打ち抜き、後列の忍びもろとも吹き飛ばす。

 

「やっぱり不審者って変な体術使うのね。柔拳のようで、そうでない気持ち悪い……」

 

「背中の人!悪口禁止!」

 

 

 

 

「軽口を叩きながらとは余裕だな!」

 

殺気を感じその場から飛びのくと、水で出来た龍が元居た位置の地面を大きくえぐる。中忍のお出ましか。

 

「その仮面のガキは体術が得意だ!背中のガキを守りながらで動きも鈍い。遠距離から削れ!」

 

中忍の指示で残った幾ばくかの下忍クラスが手裏剣や術で攻撃を仕掛けてくる。

 

逃げ場はない。こうなったら……

 

「ハナビ、しっかり捕まって口閉じてろ!舌噛むぞ!」

「えっちょっ……きゃあ!」

 

 

迫る火遁や水遁、手裏剣らに対して対抗するために俺はそのばでコマのように周る。

 

「八門八卦・剛天!」

 

言ってしまえば日向の八卦掌回天パクリのである。八門で増幅したチャクラを放出しながら、力技で回天を真似した体術は見事敵の攻撃を弾き打ち消す。

白眼がないので回転は荒い。

 

シュウッと音を鳴らし回転が止まると背中のハナビが目を回している。……ごめんよ。

 

残り僅かな下忍クラスの位置を捕捉すると、俺は構えを取る。ぶっちゃけて言うとカ〇ハ〇波の構えだ。

 

「八門八卦・剛掌波!」

 

両手で溜めたチャクラの塊を強化された身体能力で打ち出す。これも日向の八卦空掌のパクリだ。八門の身体強化で再現しているに過ぎないパチモンだが、威力は凄まじく下っ端たちを打ち抜き昏倒させていく。こちらも白眼がないので急所を射抜く正確性がないので力押しだ。

 

これより威力の高い昼虎はただの拳圧だと思うと、ガイさんの化け物加減が身に染みてよく分かる……。

 

「さてと……」

 

一人残された中忍と対峙して俺は八門を解除し相手を見据える。

 

「あとはあんた一人。定石通り、雑魚を散らして親玉と一騎打ちだ!」

 

「ふん、存外やるようだが無駄だなぜならそのガキを庇いなg」

 

相手が喋りはじめる前に遮るように俺がまくしたてる。

 

「いや、でもあんたも雑魚(・・・)の一人かぁ?そうだよなあ、何でもかんでもミズキ先生の言いなりでここまで来ているようだしぃ~い?」

 

「な……!?」

 

「親玉と言えばどちらかと言えばミズキ先生のほうだよな?俺みたいなアカデミー生に後れを取る中忍?ぶっはwwwザッコwwww」

 

 

俺の挑発に反応する中忍相手に罵詈雑言を繰り返していると目を回していたハナビが目を覚ます。

 

「う、う~ん……ハッ!不審者後ろ!」

 

その掛け声に振り返ると中忍の影分身であろう存在が俺にクナイを差し向け……。

 

俺の腹にクナイを突き刺す。

 

「油断したなガキぃ」

 

「グッ……くっ……そぉ

 

 

 

 

 

 

な~んちゃって」

 

中忍がハッとして俺の腹に突き立てたクナイを見ると、俺の岩状に変化した手で捕まれその動きは阻止されていた。

 

 

 

「何だと!?貴様が印を結ぶそぶりなど一切なかったはず……!」

 

中忍が驚いているうちに、今の俺にとっての後方にいる中忍の本体が叫ぶ。

 

「ぐああああッ!」

 

俺が振り向いて目線を向けると、首だけ地面から出した中忍がいた。中忍の影分身も消えたようだ。

 

 

「貴様どうやって……」

 

「ネタ晴らしをするわけないだろう?忍びだぞ?」そういって中忍の顔を岩状になった手で殴りつけ意識を吹き飛ばす。

 

「よし、ナルト無事でいてくれよ……!」

 

そのまま急いで俺はナルト達の元へと向かった。

 

「不審者、貴方結構えげつない……」

 

「忍びだからな…♪」

 

ハナビの評価をサラッと流した俺は八門を開放し走るスピードを上げた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ついでに先ほどの俺の行動のネタ晴らしはこうだ。

 

戦闘が始まる前に影分身を一人分、土遁で地中に配備。

 

八門中は術が上手く使えないので予め使っておいたのだ。

 

それで剛天の終わり際にひっそりと八門を一度解き『土遁・岩状手腕(がんじょうしゅわん)』の印を結び発動させておいた。

 

マリエさんの十八番忍術である岩状手腕は拳岩の術と違い、術の発動後好きなタイミングで身体から岩を排出しコントロールできる。

 

マリエさんが本気を出すときは全身を鎧のように岩を纏う、『土遁・岩状鎧武(がんじょうがいむ)』に発展させるらしい。ちなみにガイさん情報。

 

 

あとは岩状手腕で攻撃を防ぎ、中忍本体を俺の影分身が『土遁・心中斬首の術』で拘束したという流れだ。

 

 



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25:等価でお相子で1:1な友情

燃えよ(物理)


<三人称>

 

黙雷悟は追手を撃退し、そのまま急いでナルトの元へと急いでいた。用心を重ね少し距離を取りすぎたことを後悔していた悟だが、次第に駆けるスピードが衰えていく。

 

悟の軽口を叩く回数が減り、そんな目に見える変化に万全ではないが白眼で周囲を警戒していたハナビが不信感を持つ。

 

「……?ねえ不審者、何だか走るの遅くなってきてッ……ちょっと大丈夫!?すごい汗!」

 

ハナビが白眼で悟の仮面の下を覗くと、物凄く引きつった笑顔で冷や汗を大量に流す表情が目に入る。思わず声を上げたハナビに悟は生き絶え絶えに答える。

 

「はあ……はあ……、ただでさえ体調が万全でないのに、八門を使いすぎたかも……ッ。全然、いやちょっと……いや結構、かなりキッツイ……」

 

悟はハナビを不安にさせまいと笑顔だけは保ち続けているが、元々体力が万全ではない状態で自身が開ける限界の第四傷門をいきなり解放させたりと無茶がたたっていた。

 

筋肉組織の断裂や、体力を上昇させていたことによる反動が悟を襲う。

 

本来の傷門までのデメリットを考えれば、その場から動けなくなっていてもおかしくはないが、悟は日ごろから八門になれる修行を行ってきたため何とか動くことができている。

 

流石にそこまでの事情を把握していないハナビでも、これ以上自分を背負うことが悟の負担になることに気づき帯を解いて背を降りる。

 

「……っハナビ?」

 

「流石にこれ以上は無茶だよ!不審者苦しそうだし……ここで待ってて!私がたすけを……」

 

「いや……大丈夫だ……」

 

悟はハナビの肩を掴み制止させる。

 

「確かにキツイけどまだ、俺は戦える……それに約束しただろ?何時でも、ハナビからの制裁を受けるって……。だからそのためにもハナビも俺も無事に生き抜くんだ!」

 

仮面の奥の緑色の目は以前闘志を抱いたまま、ハナビの白眼に色濃く情念を写す。

 

「おかしいよ!あなたがそこまでして私を守る理由なんて……」

 

ハナビは自身がこの現状、足手まといだということを気にしていた。悟からすれば白眼でのサポートを五つ下の少女にやらせている時点で面目丸つぶれの状況だが、背に腹は代えられない。お互いの安全性が最優先である。だが少なくとも安全性の天秤を自分に傾けさせるほど悟は非情にはなり切れないし、そもそも選択肢として無い。

 

(ハナビがあの「女の子」に見た目の年が近いから意地張って……無茶して安心させようとしているのは俺のエゴだしな……)

 

本心は隠したまま、ただ自分のエゴだとしても、悟は戦う道を選ぶ。今までの格上との自分の命を懸けた戦いではない。

 

「おかしくないさ……初めて目の前で俺以外の命がかかっているんだ。それを守り切れないくらいなら……」

 

『転生などしなければ良かった』

 

それは口には出さず「死んだほうがマシだ」と言いハナビにしか見えない笑顔を作る。

 

「ッ!……」

 

その笑顔を見たハナビは何も言うことができず

 

「……ちょっと立ち止まったら、楽になった。急ごう」

 

そういって手を引っ張る悟の後ろで白眼での警戒を再開した。

 

(せめて、せめて足手まといでも、出来ることはしないと……)

 

 

 

燃える森の中、二人は目的の場所に向け歩みを進めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

歩みを進めた悟たちは、戦闘が聞こえはじめる位置で一度制止した。

 

「まって不審……も、黙雷さん。白眼で探りを入れて見ます」

 

「……ありがとう」

 

そんなやり取りのあと、ハナビが探りを入れている間に悟は思考を巡らせる。

 

 

(思っていたより、俺が感知できるチャクラが減っている……。流石ナルトとイルカ先生か。だけどなんだろう?違和感がある……それに俺ももう戦術の引き出しが殆どないしどうするか……)

 

 

思考に集中していた悟にハナビが声をかける。

 

「あの二人が結構奮闘してたみたい。あの親玉っぽいミズキって人は相変わらず木の上から見下ろしているだけで、地上で4人ほどの敵相手に今戦っているようです」

 

「……そうか、それは良かった……?」

 

返事をした悟は怪訝な表情を浮かべる。

 

(じわじわなぶり殺しとは言っていたが、未だに木の上にいるのはおかしくないか……?)

 

良いことではある。しかし思っていたよりもナルトが優勢であることや、未だに本格的に戦闘に参加しないミズキに何かを見落としている感覚に陥る悟。

 

「……どうしましょう黙雷さん?援護に入った方が……」

 

ハナビは悟に指示を仰ぐ。

 

確かにここで悟が戦闘に加われば、不意打ちで相手の数を減らし一気に優位に立てるだろう。

 

だが違和感を拭い去れずにいる悟はハナビに手で制止の合図を送る。

 

事態を焦って行動する訳にはいかず、悟は思案を重ねる。その時ふと過去、マリエに言われた言葉を思い出し口に出す。

 

「……忍びの世界は単純な生き死にが勝負をわけることは……少ない……生き残っても負ける……」

 

ブツブツと呟く悟にハナビは焦る気持ちが強くなる。

 

「……黙雷さん!」

 

(相手の一番の目標……達成すべきこと……封印の書の回収だ。そのためにナルトやイルカ先生をなぶり殺しにする必要は……あえてはない。それをあの時わざわざアピールしたのは……?)

 

ふと隠れた状態で戦闘を観察できる位置にいる悟は、木の上のミズキに目線を向ける。

 

(焦ってない……この状況で……)

 

不利な状況でも、自分は加勢せずに部下たちだけで戦わせていたずらに仲間の数を減らす。そうそれはまさに

 

 

「…………時間……稼ぎ……そうか……そうだ!!!!」

 

声は潜めているが何かに気が付いた悟はハナビの両肩を掴み、自信の違和感の正体を解説し始める。

 

「わかったぞ、ハナビ!」

 

「うっ……いったい何のこと、ですか?」

 

悟は早口で自分が気がついた事実の解説を始める。

 

「俺は戦力的に、ナルトたちが防戦一方になっていると思っていた。だからこそ俺は早く合流するために、八門で少し無茶をしてまであの中忍を早く戦闘不能にしたんだ。それはミズキが戦闘に参加する前提の予想だ。でも実際にはあいつは戦闘に参加していない。そして現状はナルトたちが優勢だ。なぜならあのミズキが……

 

 

 

 

 

影分身の囮だからだ」

 

 

ハッとしてハナビがミズキを白眼で見るが、その姿に違和感はない。それも見越してか悟はさらに言葉を繋ぐ。

 

「おそらく念には念を、あの影分身は多くのチャクラを割かれて作られている。……そしてわざわざ部下を差し向けあんな影分身を作ってまで時間稼ぎをしている理由は……」

 

 

一息ついて悟は焦る感情を抑えながらハナビに指示を出す。

 

「ナルトたちの後方の藪から突き出た木の根元、そこを白眼で見てくれ。俺はそこに封印の書を隠したが……」

 

悟が言い終わる前にハナビが言葉で遮る

 

「地面が掘り返された跡がある……!」

 

悟は内心しまったと舌打ちをした。

 

悟は恐らく自分が投げつけた封印の書が悟の影分身の変化だったことがわかった時点で、ミズキは封印の書が一度悟の手に渡っていた事実に気が付いたのだろうと推察する。

 

そして悟が時空間忍術を使えないことを恐らくミズキはアカデミーの教師として気が付いていた。そのことで封印の書が、封入・開封の術でしまわれていないこと。近くに隠されている可能性に気が付き……

 

「時間稼ぎをして、巻物を見つけてこの場からすでに離脱していたのか……っクソ!」

 

つまり悟が相対したあの中忍も、今現在ナルトが戦っている忍び達もただの

 

「時間稼ぎの手段にしか過ぎないってことか……何が信頼できる(・・・・・)仲間だ。最初っから捨て駒にする気だったんじゃねえか!」

 

やるせない気持ちが積もる悟だが、悠長に感情を揺らしているばかりではいられない。ミズキが封印の書を持ち逃げするのは現状一番あってはならないことだからだ。

 

どうにかして逃げたミズキに追いつき、封印の書を奪還せねばと悟は思案を続ける。その気迫の様子にハナビも息をのみ、ただ見守ることしかできない。

 

 

「どうする……移動スピードも既にボロボロの俺たちでは無傷のミズキと差がありすぎる……。あの影分身でかなりチャクラを消費しているだろうが……。どうにか、どうにかしないと……」

 

黙雷悟は焦っていた。だがそれ以上に現状をどうにかしようという感情が思考を巡らせる。

 

(手段……戦術……何か作戦が…………封印の書を……封印の書?)

 

そして自身の持つ「起死回生」の一手へと思考の駒を進めることができた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

<ナルト>

 

どうにか、こうにか。悟が敵を誘導してくれたおかげで、こっちも戦いやすくなったってばよ。

 

イルカ先生も俺の影分身を囮に的確に相手に傷をつけているし、やっぱし仲間って頼りになるな!

 

あと一人倒せば、残るはミズキだけ!

 

「くらえーー!」

 

俺の影分身が敵の足を掴んで止めたすきに、俺が思いっきりアッパーを食らわせる!

 

よし……これでもうあとは

 

イルカ先生がミズキを睨みつけて叫ぶ

「ミズキ!残るはお前ひとりだ!」

 

「そうだってばよ!観念しやがれぇ!」

 

……こんな状況なのにミズキはずっとほくそ笑んだまま。気味が悪いってばよ。

 

地面に降り立ったミズキが俺を挑発するように、手招きをする。

 

「へっ!余裕見せてられるのも今のうちだ!影分身!」

 

4人分の影分身と本体の俺でいっせいに殴りかかる。

 

「これで……お終いだあ!!」

 

その瞬間……俺の視界の横から黒い影が射しかかり……

 

「木ノ葉旋風!」風を巻き上げるような回し蹴りが放たれる。

 

俺たちを薙ぎ払って吹き飛ばしたそれは……

 

「悟!?なんで、ナルトに攻撃を!」イルカ先生が驚いて声を張り上げる。

 

俺が倒れた姿勢で悟を見上げると、悟はミズキに向かって……

 

 

 

 

 

「ふとんが吹っ飛んだ……!」

 

物凄くすごんだ声で……ギャグを……ギャグ?

 

そのまま悟は真面目そうな雰囲気を纏いながらおやじギャグを連発する。

 

「お金が……なくて……おっかねえ!!」

 

 

「「「…………」」」

 

みんな何かの術を食らったみたいに空気が止まっているのを感じる。

 

10秒ぐらい時間が止まったかと思っていた瞬間ミズキが叫ぶ。

 

「ぐああっ何すんだ!ガキぃ!」

 

そちらに目を向けるとハナビって子がミズキの足にクナイを突き立てていたみたいだ。

 

「ちょっ……あぶねえてば……!」

 

そのハナビに向かってミズキが蹴りを入れようと足を振りかぶったとき、悟が飛び出し

 

「二度目ぇ!木ノ葉旋風!」

 

猛烈な回し蹴りで、ミズキを木の幹に叩きつける。

 

「ウグッ!つうっ……な、なんで!?」

 

ミズキは吹き飛ばされた後、自分の体を確認するように見回す。……なにしてんだ?

 

「影分身の制限の解除……封印の書に記された、二代目火影の術の一つ」

 

悟がミズキに近寄りながら語る。雰囲気がおっかねえてばよ。

 

「先ほど自分の影分身で効果を確認したが、ようするに影分身を解除できないようにすることだったみたいで……」

 

悟が右手をミズキに見せる。その手は血が滴っていて痛そうだ……。

 

「影分身がどれだけ傷つこうが、解除されない。つまりその後分身が解除された時、本体に外傷と言うフィードバックが生じるようになる」

 

すると悟が仮面を上げたかと思うと、ミズキが足を押さえ痛みに苦しむ声が響く。

 

これも(・・・・)二代目火影が開発した水遁の術だが……解説はいらないかな」

 

そう言いながら悟は仮面を下ろし、血のにじむミズキの足を踏みつける。

 

「ハナビに持たせたクナイにはその制限を解除するための印を記しておいたの……さ!」

 

言い切ると同時に、悟はミズキの足を再度踏みつけてグシャッて音が響く。俺もイルカ先生もさっきの悟との印象の落差のせいで動けねえ……。

 

声にもならないと悶えているミズキに悟が手に持ったクナイを突きつけ脅迫をする。

 

「本体はどこだ?どこから離脱しようとしている?影分身でも逃げる算段を整えた後に術が使われているなら記憶があるはずだ。言え……さもないと」

 

 

「東だ……!東、東ぃ!そこの外れから里を、里から逃げ出そうと!」

 

慌ててミズキが喋りはじめる。焦って喋っているせいか呂律が回っていない状態でひたすら東と叫び続けている。

 

「……ふう、ハナビ、クナイを」そういって悟がハナビに手を差し出すと、クナイを受け取り

 

「……」無言でミズキの胸を突き刺した。するとボフンと音を立てて消える。

 

悟が俺たちに振り返ると、しーっと指を一本立てた後、耳に手を添えるジェスチャーをする。すると……

 

ああああああああああああああああああああああ……」

 

遠くの東の方から叫び声が聞こえる。

 

「この声……悟!」

 

「ああ、ミズキの声だな。影分身は噓をついていなかったみたいだ。急いで追うぞ」

 

俺たちでミズキを追いかけようとすると、悟は一歩踏み出した途端、足を止めて片膝をついた。

 

「八門はここで打ち止めか……くそ!」

 

八門?俺には何のことか理解できないけど、苦しそうなのはわかり肩で息をする悟に駆け寄ろうとすると

 

「こっちにこなくていい!ナルト、お前はミズキを追ってくれ、後で必ず追いつく……行けぇ!」

 

悟の声に後押しをされて。俺は走る。

 

「ミズキ……!ぜってぇ逃がさねえってばよ!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<黙雷悟>

 

 

 

第一開門すら解放できない状態になったが、それでもナルト一人では何かと心配だ。最低限の体力を回復しようとその場座り込む。

 

するとイルカ先生が近寄り話しかけてくる。

 

「……そのぉ、何というか悟は強かったんだな!びっくりしたぞ」

 

「ええまあ、隠してたので……」

 

「何でわざわざ実力を隠す真似なんてしてたんだ?もっとみんなにも実力を示していれば……」

 

それ(・・・)が嫌なんですよ。実力だとか血筋だとか、化け物だとか……。人の中身を見ない連中に力を見せたって意味がない。力で繋がる関係に未来なんてないと思っています」

 

「……そうかもな」

 

「だからこそ、俺は力をひけらかさない。この力を俺の使いたいように。誰かを守るために使うために。……対等でいようとしてくれる友達のために」

 

暗に組織に従わないという、俺の意思表示にイルカ先生は苦笑いをする。

 

「そうか……そうだよな。あいつ(・・・)も努力家で一途な奴……化け狐じゃない……そうだ。お前たちは立派な木ノ葉隠れの里の……」

 

俺との問答に何かを噛みしめるイルカ。

 

「俺は今日の悟のことについて、情報を漏らすことはしない安心してくれ」

 

イルカの意思表示に不意を突かれた俺は仮面の下でキョトンとした表情をする。

 

「元々お前は卒業試験を合格しているしな。ナルトの奴はともかく、お前のことを言いふらす意味なんて俺にはない。だから……

 

 

 

遠慮なんかせずミズキの奴をぶっ飛ばしてきてくれ」

 

グッと腕を突きのばし俺の胸に触れるイルカ先生。ニコッとしている。

 

「……ハハっ。了解しました」

 

この気持ちには答えないとな。時間にして五分ほどしか休憩していないが、俺の体質(・・・)のおかげか何とか動けるぐらいには回復していた。

 

俺は立ち上がり「イルカ先生、そこのハナビのこと見ていてください。ヒナタの妹です。流石にそろそろ木ノ葉の忍びが来るので事情の説明をお願いします」

 

そういってナルトのあとを追う。

 

 

「頑張れ、悟……さて君がハナビちゃんか。ヒナタの妹ってことは日向の子かな?ヒナタは頑張り屋で……」

 

「普段の姉様はどんな感じですか!」

 

「ははは……そうだなあ。何時も真面目に……」

 

 

 

遠くに聞こえる声に、イルカの教育者としてのスキルを感じながら俺は走った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

八門は流石に使えないが、ナルトのあとを追い感知しながら移動を続けると直ぐにナルトに追いついた。

 

「げ!本当に追いついてきた!」

 

「げっとはなんだ!俺はもう少し先に進んでると思ってたぞ……」

 

「いや~ちょっち道に迷っちゃって……てへへ」

 

「たくっ……こっちだ。こっちからミズキのチャクラを感じる」

 

そういってナルトを案内しながら、ミズキのあとを追う。しばらくすると大量の血痕の道を見つける。

 

 

「ここからミズキは負傷していたはず、それにしても諦めの悪い……。足を引きずってでも移動を続けるなんて」

 

そういってナルトともにミズキのチャクラを追うと、少し開けた場所。木に背中を預けたミズキを見つける。

 

「観念しやがれ!ミズキ」ナルトが叫ぶ。

 

流石にあの足の負傷ではどうにもできないと俺も安堵する。

 

するとミズキはぶつぶつとなにかを呟き始める。

 

「このまま……このまま……捕まれば……大蛇丸様に……クソっクソ!こんなガキどもにぃ!」

 

目を血走らせたミズキがこちらを睨みつける。……何か仕掛けてくるのか?

 

「負けてたまるかああああ!」

 

そう言うとミズキは懐から、注射器のようなものを取り出し自身の首に突き刺す。

 

「あいつ、何やって……!」

 

ナルトが警戒する。俺も身構えて様子を伺うと、ミズキが苦しみもがくように後ろの木を殴りつけると。

 

木がはじけ飛ぶ……。は?!

 

「奈良一族のぉ……特別ンあああ……試作の薬っを……おろ、オロチマルさまがが……かい、かいかいかいr」

 

あからさまに正気を失っているミズキが何かを喋ろうとしているが途中から意味をなさなく成り、そして

 

「ころろっろおろっろおおおおお!!」

 

消え……

 

「あぶねえ!悟!!!」

 

ナルトに突き飛ばされた俺が見た景色は、はるか後方に殴り吹き飛ばされるナルトと筋肉が異常なまでに肥大しているミズキ。負傷している足などおかまいなしに踏み込んでくる。

 

「っ!雷遁・地走り!」

 

隙を見せたミズキに雷遁を放つが、それを意に介さず殴りのモーションを見せてくる。

 

「くs」

 

ミズキの拳は俺のガードを突き抜けた。衝撃が走り吹き飛ばされる。

 

木の幹に叩きつけられ、肺の空気が押し出され、意識がもうろうとする……。

 

ナルトの声が聞こえてる……。

 

「だ……ぶか……さ……る!」

 

かすむ視界でミズキが印を結ぶのが見える。

 

ナルトが俺を抱え、逃げようとするがミズキの術が放たれる方がはるかに速い。

 

「があああああああああああ」

 

只の獣と化したミズキから放たれる特大の豪火球。

 

それが視界を埋め尽くし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

……

 

 

 

平原で俺を俺が見ている。

 

 

『君はもう、あきらめるの?』

 

 

 

 

 

「そんなわけ……ないだろう」

 

『君がこの(・・・)力を扱うには……』

 

 

 

「やってみなきゃわからない」

 

『この力はこの先のタイミングで必要に……』

 

「タイミングなんて関係ない!今がなければ、未来もないんだ!!」

 

 

 

今を生きているんだ……俺にとって……ナルトもイルカ先生もハナビも……

 

 

マリエさん、施設のみんな……

 

 

みんな、みんな俺にとっては漫画のキャラなんかじゃない。

 

今この瞬間を……残酷な忍界を必死に生きているんだ!

 

 

 

そんな皆を少しでも幸せにするために俺は……『僕は』……

 

 

『戦えなかった』

 

「戦う!!!」

 

 

 

「だからこそ、友達を!!ナルトを守れないなんて!!!」

 

 

絶対に嫌だ。

 

……

 

 

 

不思議と、時の流れが遅く感じる。

 

目の前には豪火球に大の字で立ちふさがるナルト。

 

俺は立ち上がりナルトの肩を掴み後ろに引き倒す。

 

 

「悟ぅ……!!」

 

尻もちをつきながらナルトがスローモーションで叫ぶ。

 

豪火球の前に立ちふさがり、俺は八門を開放してゆく

 

「第一……開門」

 

豪火球が前方の草を灰へと変えながら迫る。

 

「第二……休門!」

 

俺は右腕を前方に伸ばす。

 

「第三……生門!!」

 

腕の先端が豪火球に呑まれ焼かれていく。

 

「第四……傷門!!!」

 

『九尾の力の一端。それをまさか……』

 

肘までが豪火球に呑まれ、時の流れが遅く感じる状態でも激痛が走る。

 

だが、問題ない……痛みなんて、今は。

 

一瞬で全身を朱いチャクラがめぐる。

 

 

『制御するなんて』

 

 

限界を超えろ!恐怖を持って!!勇気となせ!!今がその時だ!!!

 

「第五……第六……

 

 

第七・驚門……開!!!」

 

 

『やっぱり……君は(・・・)じゃないんだね……うれしいよ』

 

朱いチャクラを上書きするかのように、碧い汗が噴出し、蒸発。碧いオーラとして顕現する。

 

 

豪火球が肩をも飲み込もうとする、その瞬間。

 

全ての力を込めて――――

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<三人称>

 

 

イルカとハナビはゆっくりだが、ナルトと悟のあとを追っていた。

 

その時

 

「パァンッ!!!」と破裂音が森に響き渡る。

 

イルカとハナビはその由来も知れぬ音に焦燥感を煽られ、先を急いだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

正気を失っているミズキの視界の炎が強大な破裂音を響かせはじけ飛ぶ。

 

豪火球が炸裂したと思いミズキは歪んだ笑みを見せる。

 

が、しかしその後訪れたあまりの衝撃波に足を負傷しているミズキは体勢を保てずに後ずさる。

 

 

 

 

陽炎が引くことで歪んだ景色のその先。

 

黙雷悟が片腕を突き出した状態で健在している姿を見せる。

 

右腕は、指パッチン(・・・・・)の形をしており、肩からは焼けただれ一部は黒く焦げ付いた状態。

 

仮面は衝撃波で吹き飛び、フードも外れ結んだ後ろ髪も解かれていた。

 

その素顔を晒した黙雷悟の緑の目は、闇夜に光を失わず真っすぐとミズキを見据えている。

 

その様子に獣と化したミズキが怯む。恐怖という本能を感じて。

 

 

悟は焼けた手を使い印を結ぶ。その直後右腕はダランと力が抜け垂れさがった状態になる。

 

「ナルトぉ!!来い!!!」

 

左腕を突き出した悟がナルトを呼ぶ。それに答えるかのように、悟の後方からナルトが飛び出し

 

「「これでお終いだあああ!」」

 

二人は咆哮する。

 

「風遁・烈風掌!」

 

悟は風遁でナルトを吹き飛ばし加速させ、ナルトが影分身を使い、さらに本体を投げ加速を重ねる。

 

そして、ナルトの頭突きがミズキの顔面へと炸裂する。

 

 

 

ズシンと音を響かせ大地に沈むミズキ。勢いが死なず、その後方に煙を巻き上げゴロゴロと転がるナルト。

 

少しの静けさのあと、ナルトは立ち上がり、悟と共にミズキに近寄る。

 

白目を剥いたミズキの体は、文字通り萎み、茶色く変色していた。辛うじて息をしているだろうが

 

「もう、再起不能だな……」

 

悟が呟く。

 

ナルトと悟は腰を沈め、お互いに地面に座る。

 

「やったんだな……俺たち勝ったんだな!悟!」

 

「ああ、そうだ。やったんだ!!」

 

二人は大きく息を吸い、勝利を称えるように笑いあった。

 

 

 

 

 

ひとしきり笑ったあと、ナルトが自身の涙を指で擦りながら悟に語りかける。

 

 

「悟ってば、そんな顔してたんだな……。思ってたよりいい顔じゃねえか!俺には劣るけどな!」

 

ナルトのそんな言葉に笑みを浮かべた悟は

 

「まあな。どこぞのバカ面の奴よりは見てくれは良いじゃないか?」

 

ナルトを煽る。今は仮面がなくバカにした表情が露わになっておりナルトへの効果は抜群だった。

 

 

むっきーとナルトは立ち上がり、「そういえば」と言いながら悟も立ち上がる。

 

そして悟は左手を持ち上げる。ナルトはそれを握手だと思い答えようと手を上げ……

 

 

 

「ふん!!!」

 

悟は左手で思いっきりナルトの頬を殴りつける。

 

「いってええええ!!いってえってば!!何すんだコノヤロー!!」

 

「いやあ、さっきお相子だって言ったけど、昨日殴られた分を思い出してやり返しておこうかなって」

 

「あれは悟がやれっていったんじゃねえか!てへって舌出しても誤魔化されねぇぞ!くらえ!!」

 

「痛ったあ!おい!俺の右腕見ろよ!こんな怪我人殴るなんて正気か!?おらあああ!」

 

 

「ウグッ!うるせえってばよ!一回は一回だ!くらええぇ!」

 

「何すんだ!」

 

「そっちこそ!!」

 

ドカっバキっボカっ……

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

しばらくしてイルカとハナビが追い付いたその場には

 

辛うじて息だけしている様子の気を失ったミズキ。そして……

 

「ナルト大丈夫か!?酷い怪我だぞ、どうしたその顔!?」

 

「大丈夫!?黙雷さ……ん?どうして仮面の下がそんなボコボコに……」

 

満身創痍の二人が大の字で寝ころんでいた。

 

 

「「いや……べつに」」

 

「なんでもない……」「なかったってばよ……」」

 

 

 

 

 

その後しばらくしてイルカはミズキから巻物を見つけ、開封の術を使い封印の書を取り出す。

 

「無事に回収できたか……良かった」

 

安堵の息をついたイルカは少し離れた場所で、悟の治療キットを使うハナビに治療を受けていた悟とナルトを見る。

 

(全く、本当大した奴らだ……。あの状況でホントにあいつらをぶっ飛ばしてしまうなんて……それにナルトの奴、分身を通り越して影分身を使えるように……よし!)

 

和気あいあいと喋っている彼らにイルカが近づき

 

「ナルト……ちょっといいか?」

 

「何だってばよ?イルカ先生?」

 

「いいから、ちょっと目を閉じててくれ、お前に渡したいもんがある!」

 

ハテナを浮かべたナルトは訳も分からず目を閉じる。

 

そして

 

 

「先生……まだあ?」「よし、目を開けていいぞ!」

 

ナルトが目を開け、悟の方を向くと、戦闘の余波で割れてしまった悟の手持ちの手鏡がナルトに向けられていた。

 

そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卒業……おめでとう!ナルト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと長めになってしまいました。ここまで読んでいただきお疲れ様です。

今回ミズキはアニメの設定を若干引っ張って来ているので唐突感がすごいですがご了承を。

設定としては大蛇丸の元部下、大蛇丸が封印の書を狙いミズキを利用。

念のため、劇薬(使ったら再起不能)を渡していたってくらいです。

結局はミズキも捨て駒に過ぎないんですよね。


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26:鎮火した森、燃える恋

<黙雷悟>

 

 

 

ミズキとの死闘を終えボロボロな俺たちはそれぞれ、帰宅することになったが……

 

「俺は詳しい事情を報告しないといけないからな。一楽に連れっててやるのはまた今度だ。あと悟、その腕……病院行けよ?」

 

イルカ先生は燃えている森の後始末やら、事情聴取やらで木ノ葉の忍びに拘束されてしまった

 

俺やハナビはただ居合わせただけの一般人扱いでちょっとした質問をされただけで解放された。

 

ナルトは……火影に直接呼び出されたらしい。まあ、怒られるわな……そりゃあ……ねえ?

 

ミズキも一応拘束されたらしい。あの様子じゃあ逃げることなんてできそうにないけども……。あとから知ったが彼には恋人もいたらしいのに……ちょっとだけ可哀そうだと思う、ちょっとだけ。まあ最終的には俺の知ったこっちゃない。

 

 

 

そうして俺が深夜、ハナビを屋敷まで送り届けることになった。

 

二人して、暗い夜道を無言で歩く。あの壮絶な状況から一転、夜の静けさが染みる……。あと物理的に右腕に夜風が染みる。

 

「あ~痛て~」と俺が呟くと、ハナビが心配そうに俺に問いかけてくる。

 

「あ、あの、その大丈夫ですか?やっぱり直ぐにでも病院に……」

 

そのちょっと遠慮する姿がヒナタに似ていると思いながら

 

「いやまあ、ハナビを屋敷に送り届ける方が大切だしな~。もう緊張する必要がないし、この静けさに浸ってたい……切実に」

 

そういって簡易的な処置が施されて包帯でグルグル巻きの右腕を持ち上げピースをしてみる。っ超いてえ!!

 

思わず出そうになる声を涙目になりながら抑え、なんとか日向の屋敷の前まで来た。

 

すると……

 

 

バナビざま゛~~~~!!!!!!!!

 

鼻水と涙を雪崩させながら白眼を発動させた日向ナツさんがその白い眼を血眼にし、屋敷の玄関を吹き飛ばして出てきた。……おいおい。

 

そのままハナビに抱きついて「ごぶじ、ごぶぎでなびぼりでずうううう」と

 

何言ってんのかわからない感じでむせび泣いていた。この人こんなキャラだったか?(汗)

 

 

「ちょっちょっとナツさん、くるしい……」ハナビがナツさんの涙に溺れそうになる姿を俺は苦笑いで見守る姿勢を貫く。

 

すると俺の目の前にヒアシさんが玄関から歩いてくる。

 

「事情は大まかにだが、木ノ葉の忍びから聞いた。……またも、君に娘を助けられるとはな」

 

「いや、まあ。前回(・・・)は俺はとくになにもしてないですし……」

 

俺の言葉を遮るようにヒアシさんが無言で頭を下げる。ちょっ!!

 

その様子にナツさんもハナビも驚いている。

 

 

「こんな往来でなにやってるんです?!せめてそういうのは屋敷の中でしてください!」

 

俺が慌ててそう言い、無理やりヒアシさんを片腕で押しとりあえず玄関先まで進む。日向のトップが簡単に頭を下げている光景など、そう人に見られていいはずがない。

 

 

そんな俺の様子に申し訳なさそうな、今まで見たことないような弱々しい表情をしたヒアシさんが呟く。

 

「……本当にすまなかったぁ……」

 

まあ、娘が心配だったのだろう。この人も人の子。感情がある。

 

そう思い、膝を崩して泣いている?ヒアシさんの肩を叩き(どうしよう……?)と思いながら慰める。

 

俺がナツさんとハナビに目線を向けるも「無理無理無理!」みたいなジェスチャーで返事を返される。

 

 

少しするとヒザシさんが出てきて「ほら、兄さん立ってください。悟君もすまなかったね。また後日正式な形で謝礼をするから……君は一先ず病院に向かいなさい」

 

そういって弱々しい背中のヒアシさんに肩を貸し、屋敷の中に戻っていった。

 

ハナビもナツさんに連れられ屋敷の中に……

 

 

 

 

「不審者!」

 

屋敷を後にしようとする俺にハナビが声をかける。

 

俺が振り返るとナツさんのスカートの裾を掴んで「……ありがと……」と言って顔を隠しているハナビがいた。

 

それに俺は「どういたしまして!」と笑顔で答える。まあ、白眼を発動していないハナビに今の俺の表情は見えないだろうけど。

 

そうして俺は日向の屋敷を……

 

「うごっ!!」

 

 

後にするために道に出たとたんに衝撃が走る。

 

何が起きたか、後ろから誰かが抱き着いてきてる。背丈からしてハナビしかいないが。

 

 

 

 

「黙雷さん。ありがとうございました……」

 

消え入りそうな震える声を響かせた表情が見えないハナビに俺はどうすることも出来ず

 

「君が無事でなによりさ。ほら、家族のみんなを安心させてきて」

 

と優しく諭す。

 

するとそのまま表情を見せずにハナビは玄関へと走って戻っていった。玄関にはヒナタも出てきており、遠くで俺に向かって頭を下げていた。

 

 

取りあえず、左腕を振り別れをすませ、今度こそ日向の敷地から出たとき

 

俺の体が抱えられ宙に浮く。

 

「おわっお!?なんだ!!」

 

俺は困惑の声を上げる。

 

 

俺をお姫様だっこで抱えたその人物は深夜の里を跳躍し駆ける。

 

「大馬鹿者!!!!」

 

俺を抱えている人物が俺を叱りつける。

 

 

 

相手は……マリエさんだ。表情は見えないが、声の感じからして怒ってるな。うん。

 

 

「お前と言う奴は!!こんな大怪我を負っておきながら!悠長にヘラヘラと!別れのあいさつなどして!!阿保か!!」

 

 

うん、怒ってる。

 

 

「いや、まあ。今回(・・・)は俺も意識をなくしてないですし、誰も死んでないし万々歳ってことで……「ふざけないで!!!!」」

 

 

 

おおう……。本気で怒られて、流石に俺も何も言えない。

 

その後はただすすり泣くマリエさんの嗚咽だけが夜の里に響いた。

 

ハナビのことを心配したヒアシさんのように

 

俺にも、嬉しいことに心配をしてくれる人がいる。

 

そんなことを再確認しながら俺は病院につくまでの少しの間、マリエさんの腕の中で眠りに落ちた。

 

 

 

うーん?そういえば「悠長」にってマリエさんはいってたけど

 

 

 

 

 

 

 

……どの場面(・・・)からマリエさんは俺のことを見ていたんだ?

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

その後病院に運ばれた俺は、医師たちからどたばたと処置を受ける。

 

疲れから薄れ行く意識の中

 

(マリエさんのご飯食いたいな~)

 

とか思いながら俺はその日は眠りについた。

 

緊張から解かれた反動で日常が恋しくなっていたんだな、うん。

 

 

なんやかんやマリエさんの存在に気が付いた時は安心したし。

 

 

 

 

そしてなんやかんや二日も入院すれば、俺にとって動き回るには十分回復する期間であり……。

 

「本当に……君の回復力には驚かさせられるよ……」

 

何時ぞやの日向の事件の時から、俺を何度か診ている男性の医師が眼鏡をクイっと調節しながらカルテを見て呆れた様子でいる。

 

「すみません、先生……何度も何度も……」

 

マリエさんが頭を下げ、俺も頭を下げお礼を言う。

 

その後病院から退院し施設に戻るまでの間、マリエさんは終始無言だった。

 

 

かなりのお怒りの様子。

 

そうして俺が施設に戻り自室で真面目に、安静にしていると来客が来た。

 

「やっほ~。悟元気~?」

 

ああ、テンテンか……。元気な声を聞きながら、玄関まで普段着を着て、仮面だけを着けた状態で応対する。

 

「あっやっぱりそこまで元気そうじゃないわね!聞いてたとおり、目が死んでる」

 

「そりゃあね……。怪我もだけど、マリエさんがずっと怒ってる様子なのが俺的には一番堪えてるよ……」

 

「ほら、元気出しなさいよ~?今日は甘味屋、私が奢ってあげるから!」

 

そういいテンテンは以前行った甘味屋へ行こうと提案をする。いつもあそこに行ってるけどな。

 

施設から出る時「行ってきま~す……」と恐る恐る言うと小声で

 

「行ってらっしゃい」

 

とマリエさんの冷たい声が響いた。自業自得だけど……つらい(泣)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

改めて里に出ると、事件の時に比べ里の雰囲気は普段通りに戻っていた。九尾の精神エネルギーも感じない。

 

「きょろきょろして、何かあった?」

 

「いや別に?事件があっても、日常は変わらないなあって思ってて」

 

「ああ、外れの森の放火についてね。確かにそこそこ大きい事件だったみたいだけど私は任務に出てたしね~」

 

「詳しくは知らない?」

 

「そうね、ただ一つだけわかるのは……」

 

テンテンが一拍おいて俺にささやく。

 

「悟がそれに関わってたってことかな……」

 

「……なんでそう思う?」

 

表に出さないが少し警戒して問う俺。そこまでの情報は出回ってないはずだが……。

 

前までの俺なら動揺していただろう不意な質問を投げかけるテンテンはクスクスと笑いながら俺の右腕を指さし

 

「悟ってば何か事件が起きるたびに大怪我してるし。それに今回は放火事件で右腕に大やけど。関連性があるに決まってるじゃないwww」

 

「……そりゃそうか……そう思うわなぁ……はあっ」

 

無駄なシリアス展開はテンテンの爆笑と俺の自嘲で幕を閉じ、甘味屋へと足を進める。

 

少し事件のあらましを聞かれ、日向とかナルトとかの固有名詞を使わずに大雑把に説明した。

 

……テンテンですらわかるって言い方は失礼だと思うが

 

火影や木ノ葉の一部の忍びが俺について何も把握していないなんてことはないんだろうな……。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

甘味屋で、黙々と団子を頬張る俺とテンテン。

 

二人で出かける時は大抵ここで、腹ごなしをしてから別の場所に移動している。

 

「……で?」

いきなりテンテンが肘をテーブルに突きながら、気怠そうな顔で声をかけてくる。食べ終えた団子の串をくるくると回しながら。

 

「……?」

 

俺は何のことかわからず、首を傾げるジェスチャーをしながら左手だけで何とか仮面をずらしてお茶をすすっていた。

 

 

ちなみ俺は両利きなので、右腕を怪我していても多少は問題ない。

 

「ハナビちゃんって子に手を出したんでしょ?」

 

 

「!?ぐっふぁあっっっゲホっっゲっっほ、うぐぅ……ぐッホッ!」

 

いきなりであんまりな質問に俺が茶を吹き出す。仮面の穴から漏れ出る茶を拭くために布巾に手を伸ばそうとすると

 

ニコッとした、目が笑っていない甘味屋の店員さんと目が合い、バスタオルのような大きい布巾を即手渡された。

 

 

……二回目ですもんね、はい。ご迷惑をおかけします。

 

「っって!!何言ってんだ、お前ぇ!!」

 

先ほどの質問を頭で理解し、周囲のお客さんの迷惑にならないよう小声で怒鳴る。

 

テンテンはヘラヘラ笑いながら団子の串で、甘味屋の外の電柱を指し示し

 

「ほら、またいるじゃない?」

 

と言う。

 

俺がそこに目を向けると、いつかのごとくナツさんとハナビがいた。ナツさんはなぜか白眼を発動し続けている様だが。

 

「いやあ、今回は気づいてなかった……。気配消すの上手くなったか?いやでもいつも通りじゃん?何で手を出したことになるんだよ!」

 

「はあ……ハナビちゃんの表情見た?」

 

「は?表情?」

 

「私はさっき甘味屋に入る時に確認したけど……」

 

(あれは完全に羨望の眼差し……ホの字に近い状態ねぇ)

 

と思うテンテンは自身の内心を語らずに

 

「何かあったんでしょ?」

 

と質問を投げかけてくる。

 

「え……いやあ……?思い当たる節はないかも?」

 

と答える俺に

 

「この朴念仁」

 

とテンテンが冷たく吐き捨てる。

 

「確かに仮面被ってるから愛想がないとは言われるけど……うごっっ!」

 

テンテンからなぜかボディブローを受ける俺。理不尽……。

 

身もだえる俺を無視してテンテンが席から立ち上がる。何をするのかと思えば……外の二人を無理やり引っ張って来て甘味屋の席につかせた。まあ、強引。

 

「あっどうも二人とも数日ぶりで……。ハナビは体調とか大丈夫か?首元の怪我とか……」

 

「わぅ……わっ私は大丈夫です。ふし……黙雷さんこそ、大丈夫……ですか?」

 

 

俺の問いかけに少し慌てて答えるハナビ。確かに少し様子が変だな。

 

「まあ、見た目よりは大丈夫。包帯グルグル巻きで動かすなとは言われてるけど」

 

と返事をする。

 

それよりも気になることがあるのでそちらに話題を移す。

 

「ナツさん……流石にそんなに力籠めて白眼を発動し続けなくても……」

 

「いえっ!!私は大丈夫です!もう二度とあのようなことが起きないように、白眼を一度もたりとも解除しません!絶対に!!」

 

力強く返事をされ、「そっそうですか」としか言えない俺。

 

目線をテンテンに向けると少し満足そう……なんでだ。

 

「それでぇ?お二人は悟とどんな関係なんですか~?」

 

少しふざけた態度で、二人に質問をするテンテン。

 

その後の会話では、俺は蚊帳の外だったのでほとんど聞いてなかった。自身の甘味の追加の注文とついでにハナビとナツさんの分も注文を済ませておく。

 

何かピンク色の会話から意識を逸らしながら、茶をすすった。……店員さんが茶をすするたびに睨みつけてきてこわい……俺は目をそらし、身体も机からそらしてただじっとしていた。

 

 

ついでに言っておくが支払いは全部テンテンだ。奢るって言ってたし俺は今日財布を持ってきていないし。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

甘味屋を出て、テンテンが涙を流しながら財布を逆さにする光景をバックに日向の二人と別れる。

 

「ごちそうさまでした。悟様(・・・)これで私たちは失礼します!行きましょう、ハナビ様」

 

「えっと……じゃあその……バイバイ、黙雷さん」

 

「はい、ナツさんは張り切りすぎずに……倒れますよ?それとハナビも元気そうで良かった。それじゃあ」

 

手を振って二人と別れる。二人の後姿を眺めながら、俺が守れた平和を噛みしめた。

 

 

 

そう言えばと、ハナビの長髪が俺のあげた黒いゴム紐で纏められていることに気が付く。

 

「ハナビー!その髪型似合っているぞー!」と最後にお世辞を送っておく。

 

女の子の外見の変化はとりあえず褒めとけと、前世で誰かに言われてたしな。

 

するとハナビがダッシュでいなくなり、ナツさんもそれを追いかけ姿を消す。

 

ふと視線を感じ横を見るとテンテンが信じられないといった目線を俺に向けている。

 

 

「あんた……素でそんなことしてんの?」

 

「質問の意図がわからないけども……?」

 

呆れるテンテンに連れられ、その後演習場へと俺たちは向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

演習場につき俺たちは組手を行う。

 

俺は右腕を負傷していて動かせないが、体術に関してはテンテンより俺の方が幾分か先を行っているので問題ない。

 

「てい!そりゃあ!!」

 

テンテンの拳打を左手で払いながら、隙を見つけ上段蹴りを放つ。

 

「甘いわよ!」としゃがまれるが、もちろんこの蹴りはその勢いのまま派生する。

 

「はい木ノ葉旋風」二段目の回し蹴りに対応できずにテンテンはガードごと宙に浮いたまま後方に吹き飛ぶ。

 

「いったあ……。ねえ悟の体術ってガイ先生に教えてもらったんでしょ?」

 

地べたに座り込みながら、テンテンが問いかけてくる。とりあえず休憩か。

 

「まあ、一部はそうだなあ。だけども全部がガイさん仕込みってわけじゃあないぞ」

 

「それは組手してればわかるわよ。柔拳、日向の型でしょ?ハナビちゃんと仲がいいし、ヒナタちゃんとも面識があるみたいだし。悟って何か日向の弱みでも握ってるの?」

 

「人聞きの悪い……。ただ少し教えてもらえる機会があっただけだよ」

 

そういって左手でクイクイっとテンテンに立ち上がる様に催促する。

 

「あー体術メインの連中の体力凄すぎィ……」と愚痴を言いながら再度テンテンは俺に攻撃を仕掛ける。

 

組手を行いながら雑談を続ける。

 

「悟は日向ネジって知ってる?私の班員なんだけど。ハナビちゃんの従弟でしょ?確か」

 

「おっと!うん?一応知ってるけど、その人のお父さんとも知り合いだし」

 

「見た目は好みなんだけど、性格が最悪なのよね~。ハナビちゃんと今日話した感じ、性格悪いのは日向の特性とかじゃなくてあいつだけね」

 

「そんなにか?」

 

漫画のイメージとすり合わせながらテンテンの話に耳を傾ける。

 

「クズとか、ゴミとかのろまとか言ってて口が悪いし。任務でもギャングとかを容赦なく殺そうとするし。いつもガイ先生に止められてるんだけどね?リーとも滅茶苦茶仲悪くて、リーなんてムキになって組手をやろうとするから、最初の頃は骨折までしちゃってて……」

 

わあお。過激。

 

イメージよりも結構印象の悪いネジを思い、ため息をつく。そういえば、日向の屋敷に行くとたまに殺気を感じるんだよなあ。ハナビを送り届けたときも実は感じてた。多分ネジだろうなあ。

 

そのため息を隙と思いテンテンが攻めてくるが、背を屈めながらカウンターで足払いをする。宙に浮いたテンテンの腕を掴み、一周ぶん回して投げ飛ばす。

 

「きゃあ!ああ~もう。きっついわね……」

 

運命の歪みを感じる……。まあ、中忍試験でネジの相手をするのはナルトだし。どうにかなるだろ……。

 

俺の目的はその後の木ノ葉崩しだしなあ。言い方悪いな、木ノ葉崩しの被害軽減ね。

 

そういえばミズキの事件はかなり漫画の方とは違う展開になっていたけど……。

 

俺がこの世界にいるからそうなったのか?それにしては……まるで関係ない所での変化だし……。

 

 

そこで一つの仮定を立てる。

 

 

この世界は……

 

 

「ぶほお!」

 

「これは完全に隙ありでしょ!」

 

思考に集中しすぎたせいでテンテンの拳を逸らしきれず俺の鳩尾を射抜く。

 

「さすがに、ぼ~としすぎじゃない?」

 

「うっす……そう……っすね」

 

痛みに少し悶えながらもとりあえずの俺の見解を出しておく。

 

 

 

ここは平行世界の一つ、ということ。

 

大まかな流れが漫画と同じ。だが、どこか、何かが違うそんな世界だと。

 

 

 



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27:親の心子知らず、子の心も親知らず

<黙雷悟>

 

 

テンテンとの組手からさらに数日後。俺はアカデミーで作成される忍者登録書について、頭を抱えていた。

 

忍者登録書とはまさにそのまま、隠れ里の忍びとしてのプロフィールを示す。

 

自身の大まかな戦法から出身、血統、身長体重年齢etc.自分の情報を出来るだけ残したくない俺にとっては悩みの種だ。

 

特に写真撮影なんて、素顔は晒したくないしなあ。

 

いや待てよ?忍者登録書ってことは……。

 

とかなんとか思いながら作成日当日。

 

火影屋敷の屋上でプロフィール用の写真撮影が行われるが……。

 

「オメエェ、本当にそんな状態で……撮るのか?」

 

撮影係の人が呆れているが、俺はそんなことお構いなしに

 

「大丈夫です。ほら一思いにお願いします!」

 

「さっきは歌舞伎メイク(・・・・・・・)の子のことを叱っておいて……忍者になる奴は変わりもんばっかだな……後悔すんなよ!」

 

パシャっ

 

~~~~~~

 

 

 

という訳で写真撮影を終え、忍者登録書の内容も書き終えた。

 

あとはこれを火影様に提出すれば今日のやることは終了。明日の班決めの説明会まで自由時間だ。

 

という訳でさっそく、木ノ葉隠れの長。火影「猿飛ヒルゼン」その人に書類を手渡す。

 

「……この写真の意図を……取りあえず聞いておくかのぉ?」

 

一目見てプロフィールの、仮面を着けたまま撮った写真について問われる。なので俺もそれについて用意しておいた回答をする。

 

「俺にとって、この仮面(・・・)こそが木ノ葉の忍びとしての顔です。これは冗談とかではありません。俺は大切な人が与えてくれたこの(仮面)を掲げ忍びとなります……!」

 

この内容に噓偽りはなく、事実しかない。俺は真っすぐ火影の目を見つめる。

 

マリエさんから与えられたこの仮面はもはや、素顔よりも知れ渡った黙雷悟の顔だ。これも事実である。

 

少しの沈黙の後、ため息をついた火影が「まあ、良いじゃろう。どこぞの上忍も顔を大半隠しておるしな。素直に写真を撮りたがらないのはある意味忍びとしては正しいのかもしれん」

 

そういい火影認可の判がおりた。……良かった~

 

部屋から退室するとき、ほんの一瞬、火影が何かつぶやいているように感じたが俺にその詳細を知る機会はなかった。

 

 

~~~~~~

 

午後からは特に予定もなく、里をぶらぶらしていた俺が衣装屋の前で暇つぶしに品物を物色していると後ろから声をかけられる。

 

「こんにちわ。悟君、ちょっと今時間良い?」

 

ヒナタか……なんかちょっと照れてる? まあ自分は怒ってるマリエさんがいる施設に帰りづらいから時間を潰してるだけだし「大丈夫」と答えてヒナタの誘いに乗る。

 

「お父様とヒザシさんが、悟君を呼んできて欲しいって……」

 

 

 

 

 

一気に帰りたくなった。

 

~~~~~~

 

日向の屋敷。もう何度も訪れているここで俺はその当主とその弟と正座をして向き合っていた。

 

(柔拳を教えてもらえるように頼んだ時と状況が似てるなあ)

 

なんて過去に思いをはせていると、ヒアシさんが口を開く。

 

「この度はハナビを……娘の命を救って頂き、誠に感謝いたす。ついてだが謝礼として君に少し相談、というより提案があるのだが聞いてもらえるだろうか?」

 

俺はとりあえず「いえいえ」、とか「はあ」とか相槌を打ちながら話を聞いている。

 

提案なんて何事かと思いヒザシさんに目を向けると申し訳なさそうな目でこちらを見ている。……ヒザシさんの方が感情を表に出してくれる分接しやすい。公的な状態でなければヒアシさんのことも「兄上」ではなく「兄さん」と呼んでいるし、兄に比べフランクな方だ。

 

そんな人の微妙な表情に不安感を持ちながらも「その提案とはなんですか?」と話を進める。まあ、取りあえず冷静さを保つためにナツさんに出された茶を飲む。……美味い。

 

 

「縁談だ。俺の娘のヒナタとの婚約の話を考えて欲しい」

 

「ブフウウゥぅぅッッッ!!……ッ……ッ!ゲホゲホっ!」

 

仮面の目だし穴からry…………何なんだ?! この世界はっ!! 俺にお茶を噴出させる回数のギネス記録でも狙ってんの?!

 

スッと出てきたナツさんから布巾を受け取り、息を整える。取りあえず仮面は外す。日向の前では仮面はあってもなくても同じだし、もう汚したくない。

 

若干睨みを効かせている俺にヒザシさんが苦笑いをしながら意図を話してくる。

 

「君のことだから、しっくりこないかもしれないが日向との縁談(・・・・・・・)とは忍びの世界からしたら妙々たるものなのだ。そしてこちらからの縁談ということは……」

 

「いやいやいやっ! 俺が思ってることはそういうことじゃなくてっ!!」

 

珍しく声を荒げる俺にヒアシさんとヒザシさんが押し黙る。

 

「ヒナタとの縁談?確かに普通に考えたら物凄く嬉しいことかもしれないですが……」

 

あんなに可愛い子との縁談何てひゃっほいと言ってしまいたい気持ちもなくはない。だが……そこに

 

「その話にヒナタの意思はあるんですか? 恐らく、いや絶対ないですよね?」

 

ヒザシさんとヒアシさんが俺から少し目線を逸らす。

 

忍びの世界、まあ12やそこらの歳で縁談があってもおかしくはないのだろう。だがヒナタにそれは余りにも酷だ。彼女が好きなのは……ナルトだ。

 

ずっとそばで見てきた。それこそ9年ぐらいの歳月。彼女がどれだけナルトを思い、努力してきたかを俺は知っている。だからこそ彼女の自由意思を尊重しない話に虫唾が走る。

 

「彼女にだって自由に相手を選ぶ権利ぐらい……「そんなものなどない」っ!!」

 

唐突な声に振り向くと、そこには

 

 

日向ネジがいた。

 

彼の言葉にカチンとくる。珍しく怒りの感情が表に出る。

 

「ああ?! そんなものはないだと? あるに決まってるだろ!」

 

跡目を救われたから、謝礼として血縁者を差し出すなんて馬鹿げている。

 

「あの落ちこぼれの娘に出来ることなど、そういう(・・・・)一族を存続させる……っ!」

 

 

空気を切る音がなる。

 

 

俺が繰り出した、顔を狙った上段横蹴りをバックステップで避けるネジ。

 

「それ以上口を開くな……! 不愉快極まるとはこういうことか……!」

 

「ふん……ゆるぎない事実だ。そしてこれこそが決められた運命だ! 力なき者にもそれなりの利用価値があるだけマシだろう?」

 

鼻で笑い、ヒナタをモノ扱いするこいつに俺の感情が揺さぶられる。

 

「利用価値……だと?」

 

彼にもそれなりの事情があるのは理解しているつもりだが流石に堪忍袋の緒が切れた。

 

俺が一歩、本気で踏み込んで攻撃を放とうとするその瞬間。

 

ヒナタが俺に抱き着き制止させる。

 

「大丈夫だから! 悟くん! 私のことは良いから落ち着いて!」

 

「良くねえよっ!ヒナタの気持ちを無視したこの一連の事も、この野郎も!! 一発ぶん殴らないと気が済まない! 蹴りでもいいぞ!」

 

一触即発の雰囲気。ネジは白眼を発動し俺も八門を……

 

ネジ、下がれ。二度は言わない……!

 

大きく響くヒザシさんの怒号が鳴る。

 

それに怯んだネジは「ふんっ」と鼻を鳴らし、面白くないといった表情を浮かべこの場から去っていった。

 

 

 

俺も一度座り一応深呼吸して落ち着こうとする。……すう……はあ……すう……あっ駄目だわ。

 

「やっぱあいつぶん殴って……!」「駄目、駄目だから、ほら悟君落ち着いて! 深呼吸して、ほら!」

 

立ち上がろうとする俺を抑えるヒナタ。そこに……

 

「黙雷さん! 落ち着いてください!」とハナビまで参戦してくる。

 

流石にこうも抑えられると暴れるわけにもいかない……。

 

俺は内心を抑えるように努めるが表情は怒りの形相のまま、ヒアシさん達に向きなおす。

 

「はい……冷静になりましたぁ。お見苦しい所をお見せしましたぁ……!」

 

そう口に出す俺だが傍から見て(そんなことは決してない……)という突っ込みを個々人の心のなかで受ける。俺には知りえないことだが。

 

「……君の気分を害して済まない。だが我々の事情もおもんばかって欲しい」

 

ヒアシさんが謝罪と説明をしようとするが、頭に血が上っている俺は先手を打つ。

 

 

 

「……いいでしょう。その縁談受けます」

 

 

 

 

 

 

 

周囲が呆気にとられる。さっきまでの俺の言動と矛盾した答えをいきなり突きつけたので当然とも言える。

 

言葉の意味を理解しヒナタは顔を赤らめ、なぜかハナビは絶望的な表情を浮かべる。

 

ヒアシさんとヒザシさんも動きがフリーズしている。なんやかんやで俺が断ると思っていたのだろうが知ったことかっ!

 

「ほら、ヒアシさん……いえお義父さん(・・・・・・)。早く手続き、済ませましょうか?」

 

完全に思考が止まっているヒアシさんをしり目に、何とか正気を保っているヒザシさんを動かし、その日のうちに書類作成などの手続きを行っていく。

 

そして

 

「この巻物に指印をお互い推せば、婚約がなされるが……」

 

説明途中にバンッと音が鳴る勢いで指印を押す。俺の躊躇のなさに、顔がひくついているヒザシさん。

 

「ほら、ヒナタもここに」

 

俺がヒナタにも促す。ヒナタは「えっ……あぅ……うぅっ……」と顔を紅潮させて目を回している。ヒアシさんも白い目の白目を向いて硬直したまま。……ハナビはうつ伏せで畳に伏せたまま微動だにしていない。

 

「さあ!」と俺が再度促すとヒナタも破れかぶれと言った様子で「ううううううう~~~~!!」と唸りながら指印を押す。

 

「よし、それじゃあお義父さん。俺はヒナタさん(・・・・・)を俺の家での夕飯に誘いますのでっ! そうだ、ハナビさん(・・・・・)、妹さんも一緒に行きましょう!」

 

そういって俺は仮面を着け、目を回しているヒナタと微動だにしないハナビを両脇に抱える。

 

「それじゃあっ御機嫌よう!」と言って八門を開放。二人をさらう様にその場を後にした。

 

さっきまでのカオスな空間から一転、静けさだけが日向の屋敷に流れる。

 

「……彼なら体よく断るか話を延期させると踏んでいましたが、まさか……? ちょっと兄上? 兄上ご無事ですか!? ……兄さんってば…………!」

 

白目を向いたままののヒアシを揺するヒザシの声だけが木霊した。

 

その一部始終を見ていたナツさんはヒザシさんの「悟君なら大事になることはしないと思うが、念のため様子を見てきてくれ」と指示を受け、一応俺のあとをつけてきた。

 

~~~~~~

<三人称>

 

この忍界では契約はかなり重要視されている。

 

婚約もまたこの世界では大きな力を持ち結婚とほぼ同義である。

 

契約巻物に自らの血で指印を押す行為はお互いをお互いに契約で縛るものであり、その契約を破ればそれなりの罰が下される。

 

この契約を解除するにはお互いの同意の元巻物を破棄しなければならない。

 

そんな契約をヒナタと結んだ悟は、施設へと彼女とその妹のハナビを連れ込んでいた。

 

「おか……!?」

 

先の事件のことで怒っているマリエが悟の帰宅を感じ取り、一応の出迎えをするがその光景は両脇に日向の御息女たちを抱えているというものだった。

 

(!?!?!?!?!)

 

流石のマリエも混乱した。そのまま悟は「ただいま」と不貞腐れた声で言い施設の中に踏み込んでいった。

 

「なっなにがなんだか……わからないわ~?」

 

マリエの抱く当然の感想が施設の中。悟を目撃した他の職員や子どもたちにもその後伝染した。

 

 

悟の部屋。そこは布団が引かれて引き出しが一つついた小さな机があるだけの簡素な場所であった。

 

そこにヒナタとハナビを放り込み、鍵を閉める悟。

 

状況が状況なために鍵を閉められた瞬間、ヒナタは「うひぃ!?」と声にならない声を上げる。

 

悟がいつも使っているだろう布団の上にヒナタとハナビがいる。その状況に鍵を閉めた悟がゆっくりと振り返り……

 

「土遁・防音壁土(ぼうおんへきど)」の術を行使。部屋の壁と床が黒い土で覆われ防音処理が施される。

 

窓も塞がれたことで月明りが消え天井からつるされた灯りだけが部屋を照らす。

 

あまりの徹底っぶりに自分とハナビの運命を悟り、ヒナタは目を閉じる。

 

(ああ、初めてはナルト君が良かったなあ……)と後悔の念を抱きながらヒナタは覚悟を決めていた。

 

そして、悟がヒナタの肩に手を置き……

 

 

 

 

 

 

 

「悟ちゃん!!!! そういうのは少し早いと私思うわ!!!!」

「悟様!! 婚約したのはヒナタ様ですよ!? ハナビ様にまで手を出そうなんて何て鬼畜なっ!!!」

 

マリエの持つマスターキーで開かれた扉から女性が二名、苦言を呈してきた。

 

「……」

 

無言で真顔の悟が二人を認識すると、ため息をつく。

 

「何か……勘違いしてません?」

 

 

~~~~~~

 

施設「蒼い鳥」の応接室。

 

かつてガイとマリエがひと悶着起こしたこの場は、現在先ほどの悟の自室のように防音壁土による処理が行われ、鍵も閉められている。

 

そこの机には、マリエお手製の夕飯が並べられ、悟、マリエ、ヒナタ、ハナビ、ナツが席についていた。

 

悟の自室ではこの人数は入りきらないので、全員が精神を落ち着かせてから移動してきた。

 

もぐもぐと白米を咀嚼し、飲み込んでから悟は訳を説明する。

 

「俺だって考えなしってわけじゃないですよ。確かに頭に血が昇ってたけど考えがあってあえて婚約の儀をしたんです」

 

説明を続けながら、悟は茶を飲む。……茶を飲む時に謎のフェイントを入れている様子に、周囲は不思議がる。

 

「つまりは今回の縁談を断っても、第二第三の婚約者候補が連れられてきてそのうち問答無用でヒナタが婚約させられるかもしれない。それを防ぐために俺が婚約者になり、しかるときにお互い同意の元、婚約を破棄しようというのが俺の作戦だったんですよ」

 

それを聞きヒナタが心底ほっとしたように息を吐く。ハナビの目にもハイライトが戻る。

 

「でっそれを当人と妹のハナビに説明するために情報が漏れないよう注意して俺の自室に連れてきたんです。それを……」

 

悟は大人二人をジト目で見る。

 

婚約の儀をしたが結婚する気がないなど知られれば、日向のお家からしたら面目丸つぶれも良い所である。なのでそこを配慮して当人たち以外にはこの意図を知らせずにいようとした悟の思惑はマリエの管理者権限(マスターキー)によって潰されてしまった。

 

結果的に日向の分家のナツにも事情が知られてしまい、悟は今までマリエには見せたことのない睨みを効かせてため息をつく。

 

そのため息が自分に向けられたものだと感付きマリエは表情を不服そうにする。

 

「でも、そういうことなら事情を説明してくれたら~……」

 

「そうは言ってもマリエさん。最近怒ってて俺の話聞いてくれませんよね?」

 

「そ、それは悟ちゃんが悪いんでしょ! 心配かけるようなことばかりして!」

 

「それとこれとは話が別でしょう! それに鍵かけた自室に即突っ込んでくるとかプライバシーを考えてくださいよ!」

 

珍しくお互いに語気を強めて言いあいを始める悟とマリエ。

 

「あ、あの~、私はヒナタ様とハナビ様の幸せを願っていますので口外はしないと誓います。なのでお二人もケンカはせずに……」

 

ケンカをおっぱじめようとする二人を仲裁するようにナツが割って話す。

 

「ほら! ナツさんも言わないって言ってるじゃない! 大丈夫よ!」

 

「結果論でしょそれは! マリエさんが普段から用心深くしろって言ってるくせに、自分が行き当たりばったりなの誤魔化さないでくださいよ!」

 

(あっこれ収拾つかないな)とナツは察し、出された夕飯をさっさと食べてしまおうとヒナタとハナビに提案する。

 

ヒナタもハナビも、段々と口喧嘩がエスカレートするこの場を早く離れるため食を進める。幸い味は良いので、喉をすんなり通るのは幸いか。

 

(あっこの味付け……悟君の料理と似てる。やっぱりこのマリエさんっていう女の人が悟君に料理教えてたんだぁ……)

 

とヒナタは一気に色々なことが起こりすぎて気疲れがピークに達してきているので現実逃避をし始める。

 

すると

 

バンッと机が音を鳴らすような感じで叩く動作を寸止めしたマリエが立ち上がる。 ……実際に机を叩いてはいない。

 

「こうなったら……庭に出ろバカ者! 婚約の儀なんて大切なことを保護者の私に相談もせずに決めやがって! 根性とかもろもろ叩きなおしてやるっ!」

 

同じく音は鳴らさず叩く動作だけして悟も立ち上がる。

 

「いいですよ受けて立ちますよっ! いつまでも俺がマリエさんに敵わないと思ったら大間違いですよ! 子ども扱いも大概にしてください!」

 

 

 

 

 

……妙な間をおいて二人はいそいそと座り、黙々と残りの夕飯を食べ終える。

 

二人同時に食べ終わると、食器をまとめ、お互い影分身を出して食堂まで運ばせる。

 

そしてマリエは「すぐに終わらせるから、3人ともゆっくり食べてて大丈夫よ~」といい部屋を出る。

 

その後悟が「明日、アカデミーで班決めの説明会あるけどヒナタはどうする? 今日は泊まってく?」とヒナタに問う。

 

それにナツが「今日の所は色々と事情が混線しているのでお屋敷に帰らない方が良いかと、ヒナタ様。ハナビ様はどうされますか?」と話を続ける。

 

「姉様が泊まるなら私も泊まる!」

 

「迷惑じゃないかな……大丈夫? 悟君?」

 

「部屋ならそれなりあるから大丈夫。客室があるし、そこでなら十分寝れるよ」

 

「ではヒナタ様、ハナビ様、私はお着替えを屋敷に取りに行きますね」

 

ある程度今夜の予定を取り決めてから、悟は部屋を後にした。

 

残された3人は、肉じゃがや焼き魚などのごく普通の家庭ででるような夕飯に舌鼓をうつ。

 

「姉様、あのマリエって人は黙雷さんのお母さんなの?」

 

「多分違うと……思う。あの人はこの施設の責任者の方って悟君は言ってたから。あと時々組手をしてるって言ってたから元忍者の人じゃないかな?」

 

「確かに、私も先ほど悟様の自室に踏み入るさいの彼女の身のこなしを見ましたが、一般人とは到底思えないほど無駄がありませんでした」

 

2、3分ぐらいの間、日向の3人が雑談を交えながら夕飯を食べていると応接室の扉が開く。

 

 

 

 

「ごめんなさいね~。お見苦しい所を見せちゃって~」

 

マリエが何食わぬ顔で応接室に入る。

 

(あれ?)と3人が思う。先ほどのやり取りで庭で組手でも行うものだと思っていたのに、すぐにマリエが戻ってきて虚を突かれる。

 

「あの、悟君はどうしました?」とヒナタがマリエに問う。

 

「……」にっこりと笑顔を浮かべたマリエは数秒沈黙を置き

 

 

 

「庭に埋めてきたわ~」

 

 

 

と何食わぬ顔で言った。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

施設の庭。小さな子供たちが遊ぶためのスペースの中心。そこに黙雷悟はいた。

 

時間が時間だけに、子どもたちは寝静まり職員の人たちも自室にいる。

 

昼の騒がしさとは打って変わって静けさ漂うこの場で足音が響く。

 

「悟君、大丈夫?」

 

ヒナタは若干引き気味に、そして心配そうに悟に問いかける。

 

ヒナタに気がついた悟は「見た目は悪いけど大丈夫」と簡素に答える。

 

あははっ……とヒナタは笑い、悟の様子を見る。

 

首から下が地面から埋まり、周囲の土と地中が土遁で硬く固められているようで悟は自力で抜け出せないでいた。

 

白眼でその様子を確認したヒナタはどうにか掘り起こせないかと、クナイで地面を掘り返そうとするが。

 

「すごい固い……」土遁で固められた土は予想以上に硬くどうすることも出来なかった。

 

「大丈夫、時限式だからそのうち解けるよ。それより、今日はごめんねヒナタ」

 

悟は地面に埋まりながらヒナタに謝罪をする。仮面がないため、白眼を使わずとも少し落ち込んだ様子なのが見てわかる。

 

「どうして悟君があやまるの?」とヒナタは不思議がる。

 

それに対して悟は「確かに、地面に埋められて落ち着いて考えてみると色々と焦って行動しすぎてたことに気が付いて……。ヒナタに巻物の指印を押させる時も強要したみたいに……」と段々声のトーンを落としながら説明をする。

 

悟は、ヒアシが、ヒナタの父親が子供の自由意思にお構いなく謝礼として婚約の話を持ち出してきたときにどうしようもない憤りを感じていた。そしてそれをネジに煽られ、冷静さを欠いた。

 

しかし親としてのヒアシについて、悟はなにも事情を知らない。ただ自分の感情論を振りまいただけだと落ち込んでいたのだ。

 

 

「確かに、悟君に指印を押すよう言われたときは少し怖かったけど……」

 

ヒナタが悟の目の前でしゃがみ、笑顔を見せる。

 

「私のために怒ってくれてるって分かってたから……大丈夫。それに……」

 

「それに?」

 

そこまで言ったヒナタは顔を少し赤らめ、恥ずかしそうに答える。

 

「えっと……その……ごめんね。この先は言わないでおきたいの……」

 

(知らない人ならいざ知らず、相手が悟君なら……悪い気がしないなんて……)

 

ヒナタの様子に悟は不思議に思うが、あえて追及はしないでおこうと思った。

 

すると、土遁が解除されたのか悟がゾンビのように地面から這い出して来る。

 

「やっと、解けたか……それでヒナタとハナビはどうする?その様子だと風呂はもうすましたみたいだし、客室にでも案内しようか?」

 

ナツが屋敷から調達してきた服装に代わっているヒナタを見ながらそう提案する悟にヒナタは

 

「えっとその、迷惑じゃないなら出来れば悟君の部屋にお邪魔したいかなぁ……ハナビと一緒に」

 

「自分で言うのもあれだけどあそこ窮屈だけどいいの?まあ、二人が良いって言うならいいんだけど……」

 

そういって悟は土を払いながらヒナタをつれ移動する。

 

途中応接室でナツとトランプで遊んでいたハナビと合流する。

 

「それでは悟様、私はこれで失礼します。……手を出さないでくださいね」

 

後半悟にしか聞こえないようにささやいたナツさんは屋敷へと戻っていった。

 

(12、13の歳でそうそうそんなこと……いや、この世界ではあり得るのか……)

 

ワールドギャップを感じつつ悟は自室へと二人を連れ移動する。途中来客用の布団を抱えた影分身と合流し、自室に布団を敷く。

 

「やっぱ、狭いなあ……うん」

 

三人分の布団を敷いてしまえばもうほとんど足の置き場のない自室に改めて狭さを実感する悟。

 

 

悟はそのまま、風呂場へと向かい二人は悟の自室を見学していた。

 

見学するほど物がなく、小さな机の引き出しにボロボロの狐のお面が大切に仕舞われていただけだった。

 

(これって悟君が昔付けてた……大切なものなんだね)

 

部屋主が返ってくるまで。ヒナタとハナビは悟についての話で盛り上がっていた。

 

~~~~~~

 

その夜はハナビを挟んで、それぞれ布団に入り、3人でたわいのない会話をする。

 

(姉様とこうして話すのも久しぶりかも……)

 

ハナビは正式な跡目として厳しい毎日を送っている。そのため今この時、彼女はとても幸福な感情に包まれながら静かに眠りについた。

 

そしてすぐに二人も眠気に落ちそうになる。そこでふと

 

「こうしてると……まるで……本当の夫婦みた……ぃ……すう……すう……」

 

ヒナタが眠りにおちながらポロっと感情を吐露する。

 

その後は静かに寝息だけが悟の自室に鳴っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いや、そんなことポロっと言われたら意識して眠れねえよ!!!!!)

 

 

悟が就寝できたのはその2時間後、深夜も深い時だったが。



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28:壊れた心で見繕った案山子

<黙雷悟>

 

 

(全然、寝れんかった……)

 

 

寝つきが悪く、朝の鳥のさえずりで目を覚ました俺は目が覚めてしまったので仕方なく起きることにした。

 

ふと隣に目線を移すとハナビとヒナタが一つの布団で仲睦まじい様子で寝ていた。

 

(ふふっ……布団二つ用意した意味ないかな……)

 

なんて思いながらも姉妹の中の良さに、昨日の荒れた俺の心が癒される。

 

……ずいぶんと朝早く起きてしまったなあ。班決めの説明会があるけど、その前にちょっとだけ修行するかな。

 

二人を起こさないよう、「先に起きて、修行に行く。アカデミーで会おう」といった主旨の書置きを残し、気配を消して部屋をでる。

 

最近は、黙って施設から抜け出す日々が続いてるなあ。まあ施設の連絡板にどこに行くかとかの書置きは残しているから問題ないけども。

 

そう思いながら、俺は演習場管理棟に向けて跳躍する。演習場を使用する際に申請をするところである。使用中の有無のパネルと、使用者のサインを書く場所で基本的にそこで申請してからでないと演習場は使えない。

 

 

 

朝日がまだ見えないくらいの明るさだが、静けさが心地よく感じる。

 

朝も早いので音を鳴らさないよう気を付けながら、屋根や電柱を足場にして跳躍して管理棟へと向かった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

珍しく「第三演習場」が空いていたので、申請を出してからそこへ向かう。

 

確かナルト達やカカシさんの班が使ってた場所だと記憶している。

 

ナルト達の場合は未来の話か……。

 

そう思いながら到着すると朝日が丁度出てきてて、演習場を照らす。朝日の眩しさに目を細める。

 

小川に反射する朝日が綺麗だ。前世ではあまりこういう自然の風景を生で見ることがなかったから、ありがたみを感じてしまう。

 

さて、自然の観賞もそこそこに術の練習でもするか……。

 

そう思いながら、八門を解放し印を結ぶ。

 

八門状態での術の発動は、ぶっちゃけありえない。……じゃなくて難しく、困難である。

 

だからこそ、予め発動させておける影分身とかと現状組み合わせて使っているが限界もある。

 

そのため、どうにか術を発動できないかと四苦八苦している。

 

開門中は術が発動するかしないかも曖昧だ。出ても、ちょろっと火がでる程度だったり、別の属性の術が勝手に発動したり、口から大量の泥を吐き出し続けたりと安定性がない。

 

今も正に、土遁を使おうとして泥を吐き出し続ける状態が続いている。

 

「おろろrrrrrrrrr……やっと止まった……。……痛っ?!」

 

喉に痛みを感じ、せき込む。まるで魚の小骨が刺さったみたいな……。

 

どうにかして、違和感の正体を吐き出すと、血の付いた木の小枝が出てきた。

 

「う~わっ小枝で喉が傷ついて、血ぃ出てんじゃん……。時間も良い頃合いだし、テンションも下がったしそろそろ切り上げるかな」

 

そう独り言を呟きながら、辺りにバラまいた泥や、暴発した火遁で開けた地面の穴の処理などを行う。

 

その時、ふと何気なく周囲に気を配ると人の気配が俺の感知に引っかかる。

 

(おかしいな……申請はしっかり出していたはずだし、一般の人たちはこんなところに来ないはずだし……)

 

そう思い、気配の元へと静かに移動する。……さっきまで派手に術を暴発させたり、泥吐いてたりしてたから今更気配を消しても意味ないかもだけど。

 

そーと藪に隠れ、気配を辿ると人工の建造物が目に入る。

 

(これは……慰霊碑?)

 

慰霊碑のそばに立つはためく旗がばさばさと音を鳴らしている。

 

その慰霊碑の元に人影が一つ。

 

(……カカシさん?)

 

かつてうちはの件で俺を救ってくれた命の恩人が慰霊碑の前にたたずんでいた。

 

こんな早朝から、墓参りか……。そう思いながら違和感に気づく。

 

何時から居たのか知らないけど、さっきまでの俺が出していた騒音に気が付いてなかったのか?そもそも今、俺の気配に気が付いてないのか?

 

木ノ葉最強の上忍が?

 

……少し興味本位で影分身を一つだけ出す。

 

(怒られない範囲で、カカシさんを観察しててくれ)

 

そう影分身に命令をし、適当に丸太にでも変化させる。

 

そうして本体の俺はその場を後にし、演習場管理棟に向かった。

 

 

~~~~~~

 

 

その後施設に戻った俺は、朝食をすませる。

 

「……」

 

ケンカしてて、口を利いていなくても俺の分までマリエさんは朝食を用意してくれている。……ちょっと複雑。

 

ふと昨日の日向のことに思いをはせる。

 

(ヒナタの意思を確認していない婚約の話……でもヒアシさんなりに考えがあったとしたら?)

 

そう、ネジに言われた「自由意思の無い」云々……。あれはこの世界(・・・・)では、間違いではないのだろう……。

 

その中で、親であるヒアシさんが最善を尽くそうとしていたとしたら?

 

俺の価値観は前世のままだ。この忍界にはそぐわない。

 

 

 

 

 

考えにふけって朝食を採る手を止めていると、ふとマリエさんと目が合う。

 

……

 

数秒見つめあい、マリエさんが不貞腐れた表情から俺を心配する表情に変化させる。けれど、すぐまた不貞腐れた表情になり視線を切られる。

 

マリエさんは……どうして俺に優しくしてくれているんだ?

 

親心?ただの親切心?それとも……意識が深く沈んでいく

 

………………

 

…………

 

……

 

「さとるにいちゃん、おじかん、いいの~」

 

施設の子どもに声をかけられ、ハッと意識が覚醒する。

 

時計に目を向けるとアカデミーでの説明会まで五分を切っていた。

 

「~~~~~~っ!!!」

 

声をかけてくれた子の頭を笑顔で撫でてから、朝食を口にかきこみ、仮面をつけて玄関に向かう。

 

「いってきます!!」

 

大声で叫びながら、八門を解放して跳躍する。

 

「……これだから心配するのよ~」

 

その様子を見ていたマリエさんはボソッと呟いた。

 

~~~~~~

 

 

アカデミーの教室の窓から、中にそっと侵入する。

 

良かった……間に合った……。ヒナタだけ俺に気が付き苦笑いを浮かべている。あと少し悲しそう……?

 

そ~とっ席に着くと前の席のナルトがボロボロの状態で机に突っ伏していた。サスケもどうも気分が悪そうだ。

 

その二人の間にいる「春野サクラ」がかなり不機嫌な様子だ。

 

 

 

 

……原作知識を思い出して察した。……そっとしておこう。あとヒナタ、どんまい。

 

 

その後すぐに、イルカ先生が入ってきて説明会が始まる。

 

3人1組(スリーマンセル)の説明……担当上忍が付くこと……班はバランスが均等になる様決められたこと。

 

……バランス云々は噓だな、意図アリアリだろ。

 

そして班ごとにそれぞれ生徒の名前が呼ばれる。

 

3人1組(スリーマンセル)か……悟が居ればあとは足手まといでも問題ないか……)

 

(絶対!! サスケ君と!! 一緒になるわよ!!)

 

(う~ん、サクラちゃんと~、悟と~……あとは~ヒナタとか? サスケとだけはぜってえ嫌だってばよ!)

 

前の席三人の願望は俺にはわからないが、誰と組もうが俺は最善をつくすだけ。

 

そう思いながら、話を聞いていく。

 

~~~~~~

 

 

そして

 

「以上9班。これで班分けは終了したが……」

 

途中7班のナルトがサスケと同じ班であることに不満を言い場が荒れたがその後はスムーズに進んだ。

 

俺には何の引っかかりもなく……そう俺の名前が呼ばれることなく……。

 

 

「じゃあ、みんな。午後からは上忍の先生方を紹介するからそれまで解散!」

 

イルカ先生が解散の指示を出すと、皆それぞれ昼食を取りに動き出す。

 

……え?

 

サスケが一瞬不憫そうな目を向けてくるが、そのまま姿を消した。

 

……え?

 

ヒナタが俺の様子にどうすればいいのかわからず、おろおろとしながらキバとシノと部屋を出ていった。

 

……え?

 

教室から生徒たちがいなくなり、俺が一人席に残される。

 

思考が停止している、俺にイルカ先生が近づき声をかけてくる。

 

「あ~悟。何というかお前は少し特殊でな。この教室に向かってくれ」

 

そういってイルカ先生が、行き先が書かれた紙をこそっと渡してくる。

 

呆けている俺はそれを受け取る。

 

「その、火傷は大丈夫か?俺の方は動くのがやっとだが……」

 

 

「……あ~大丈夫です。もう普通に動かせます。包帯は一応巻いてますけど」

 

ハッと意識が正常化し、イルカ先生の質問に答える。イルカ先生は手裏剣、クナイとめった刺しだったから治りが遅くても仕方ない。

 

まあ俺が異常なだけだけど。

 

「そういえば悟。額あてはどうした?持ってきてないのか?」

 

「ああ、額あては仮面つけてると着けれないのでポーチに入れてます。どうにか身に着けようとはしてるんですけどね~」

 

昨日衣装屋を物色していたのもそのためなんだけど、日向の件があったしな。

 

少し雑談してから

 

「それじゃあ、この教室に向かってきます」

 

「おう。昼飯はどうする?いつも見たいに弁当持ってきてないようだし、この前の約束通り一楽奢ってやるぞ!」

 

ミズキの件の終わりに一楽を奢ってもらう約束したっけ。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて。一楽で待っててください」

 

そういって俺は教室を後にした。

 

~~~~~

 

指定された教室の前につく。気配は中に1人分。

 

扉を引き開けると、椅子が二つ向かいあう様に置かれていた。片方の椅子には何処にでもいそうな老人が座っている。

 

……あからさまに変化の術を使った誰かだ。

 

少し警戒しながら「失礼します」といい中に入りながら扉を閉める。

 

 

「ふぉっふぉっふぉ。そう警戒せんでもいい」

 

ボフンと煙が上がって変化が解ける。

 

「黙雷悟、その席に座るがいい」

 

正体は……三代目火影……!?

 

 

予想以上な大物の存在に一瞬怯むが表に出さず、「……はい」といって席に座る。

 

すると目の前の火影は手に持つ資料をペラペラとめくりながら、ふむふむとうなずく。

 

「アカデミーの成績に、先日の忍者登録書の内容……ふむほとんどが噓っぱちじゃろ?」

 

ニコッとしながら俺に問いかけてくる。

 

ひえっ……なんでこんな面接みたいなことを?

 

「……どうしてそう……お思いになられたのですか?」

 

「どうしてか……か。日向やうちは、そして前日の放火事件。それらにお主が関わっていたこと。ここまで言えば十分じゃろう?」

 

…………流石に……ばれてるか。

 

どうする?何か疑われているか?他里のスパイ疑惑でもかかってるか?

 

最大限の警戒をし、席から立ち上がる。俺の感知能力では周囲に人がいないのはわかっているが……。

 

「そう警戒せんでもよい」

 

少し鬱陶しそうに火影は手で座る様に促す。

 

「……どういうつもりですか?」

 

「どう……というより、お主にある提案をするためにわざわざワシがここにおる。警戒せんでもお主が木ノ葉にあだなすことはないことはわかっておる」

 

「……」

 

一応座るが警戒は解かない。そんな俺の様子に火影はため息をつきながら説明する。

 

「全ての事件でお主は、大怪我を負いながらも何かを守るため動いていた……そうじゃな? ワシが見た(・・・)のは先日の件だけだが、見事な戦いっぷりよ。五大性質変化を操り、八門遁甲を扱った体術。アカデミー生でありながらこれほどの才能を示すのは稀有な存在じゃ。だからのぉ……」

 

火影は一息つく。俺も、あくまで敵としては認識されていないとわかり緊張の紐を緩める。

 

「お主を暗部に推薦しようという話があった(・・・・・・・)

 

 

 

……過去形?  いや、暗部は普通に嫌だが?

 

「ふとお主が、あの蒼鳥マリエ(・・・・・)の保護下にいると聞いてな。少し昔を思い出して、暗部推薦はワシが無理やりなしにした」

 

「……なぜそこでマリエさんの名前が?暗部とどういった関係が……」

 

「それは本人に確認を取れ。部外者がおいそれと言える内容ではないのでのう。もっとも彼女が言うとは思ってはおらんが」

 

……俺は少し不穏な感情を抱くが、火影が話を続ける。

 

「お主を欲しがってる暗部の者には悪いがお主には下忍として活躍してもらいたい。しかし、お主の才能は一つの班にとどめるものではないと思ってな。そこでだ……」

 

 

 

 

「黙雷悟、お主を火影の名をもって特別補助連携楔班『第零班』として任命する」

 

「はぁ!?……ぜろ……はん?何ですか、それは?」

 

「ワシが考えた、次世代のための班じゃ。お主のそのオールラウンドな能力をその他の各班の補助のために使って欲しい。そして各班を繋ぐ架け橋、繋がりとして各班の連携をスムーズにするのがお主に与えられた責務じゃ」

 

それってつまり

 

「どの班にも所属していないけど、必要に応じて3人1組(スリーマンセル)に加わる所謂助っ人……ということですか?」

 

「察しが良くて助かるのう。お主は基本小隊の4人の枠に入らずに支援する見えざる班、つまり零じゃ。そして各班を支援した経験を活かし、必要に応じて班ごとの連携を取る楔になる。零班はお主一人だが、班の要素はここだ、カッカッカッ!」

 

自分のネーミングを気に入っているのか説明しながら満足そうに笑う火影に俺は苦笑いしか返せない。……まあ、一応俺の役職が決まって良かった。

 

 

少しほっとする。

 

「ところでお主封印の書を見たじゃろ?」

 

「はい見まし……た……~~~~っ!!」

 

話の流れでポロっと喋ってはいけないことを喋らされて、仮面の上から口を押える。

 

「見事n、うおっほんっ!! ではなくあのような(・・・・・・)稚拙な陽動をすればその後にお主が何をするかぐらい見てなくても予想はできるのでな。まあ、深くは追及せんでおくがアレに書かれた内容は危険なモノじゃ。軽率に使うでないぞ?」

 

「しょ、承知しました……」

 

すけべジジイ火影の念押しをくらい、その後零班についての詳細を聞かされ教室から退室した。

 

担当上忍はつかないこと。既に各班の担当上忍には零班の存在は知らされていること。

 

そして、一先ずは第7班とともに、はたけカカシの指導を受けること。

 

 

それらを覚えながら、俺は気疲れを癒すためイルカ先生の待つ一楽へと向かった。

 

~~~~~~

 

滅茶苦茶ラーメン注文した。

 

~~~~~~

 

 

 

一楽で引くついたイルカ先生の顔を見納め、少し衣装屋を見てその後教室に戻ること数時間。

 

他の班の生徒は皆、上忍に引き連れられ教室を後にし残るはナルト、サスケ、サクラ、俺の4人になった。

 

「悟、おまえは結局どうなった?」

 

サスケが話題を振ってくる。

 

「零班……つまりどこかの班の助っ人要因だって。最初は第7班についていけばいいみたいだ」

 

零班については公言していいことになっている。暗部と違って裏とかそういうのを気にするものではないらしい。

 

「そうか」と鼻を鳴らしてサスケが話を切る。なんで若干嬉しそうなんだ?

 

そう思ってるとサクラも話しかけてくる。

 

「え~と悟くんっでいいんだよね? 私春野サクラっていうんだけど……あなたサスケ君と仲がいいの?」

 

「仲が良いというか何というか。まあ、修行仲間? みたいな」

 

「何か! サスケ君が好きなモノとかしらない? 食べ物とか!」

 

……実際に見るとサスケへのお熱っぷりがすごいなあサクラは。アカデミー生時代でもちょくちょく見かけてたけど、入学初期の小さいころに比べ少し活発になった印象を受ける。

 

昔は額を前髪で隠してて自信なさげだったのに。今じゃこのグイグイっぷり。

 

(確かサスケはトマトが好きだったか?)

 

そう思いながらも「知らないなあ」ととぼける。確かこの後自己紹介あったはずだし、その時にでも本人に聞きなさいな。

 

そうして、少し雑談をすることまた数時間。

 

 

「遅せーーーーーーんだってばよ!!!!」

 

ナルトが切れた。

 

俺も流石に遅いなあと思っていた。そういえば……

 

(今朝カカシさんの様子を影分身に監視させていたな……未だにフィードバックが来ないってことは消されてないのか?)

 

ふと思い出し、影分身を解除する。

 

 

そして影分身の記憶が俺に流れてくる。

 

 

~~~~~~

<黙雷悟の影分身>

 

丸太に変化してから数時間。多分本体がアカデミーの説明会を受けている頃。

 

カカシさんの様子に変化が全く感じられない。

 

かれこれ4時間近くはこうしてるが、この人……

 

少し不安に思い、カカシさんが呟いている独り言にも気を向ける。

 

まあ内容は聞き取れないが、オビトや野原リンさん。四代目火影波風ミナトの名前がちらっと聞こえるので自分を戒めてるんだろうけど。

 

あまりにも長すぎる。

 

だけどカカシさんの境遇的に仕方ないのかもとも考える。

 

親、親友、その親友に託された人、師匠。それらを亡くしてなぜカカシさんは忍びを続けられているのか?

 

心がタフだからと、漫画を読んでいた前世の俺は思っていたけどこの様子を見るとそんなことないと思うようになる。

 

既に心は壊れているんだ。それでも、無理やり使命感や忍びとしての責務と言ったものでバラバラになりそうな心を取り繕っている。

 

(友人の残した思いを、その小さな意思を消さないために)

 

数年前のうちはの件の直後。修行をお願いしたときはカカシさんはもう少し覇気があった。暗部と言う組織で、命を懸けて戦うことで生きる意味を無理やり見出していたんだろう。

 

だけど暗部をやめて数年。今やその時の見る影もなく。

 

すっかり忍びとしてのスキルも落ちている様だ。だって

 

 

 

 

 

俺が彼の背後でクナイを背中に当てがっていても気づいていないのだから

 

 

 

 

 

 

それでも、普段はこんな隙を晒しはしないのだろう。そこに彼のすごさを感じるが……。

 

(一日数時間こうして慰霊碑の前にいないと、精神が持たないのかも……な)

 

今の彼は文字通りただの案山子そのもの。そう思いため息をついてクナイをしまう。

 

するとカカシさんに変化が起きたので、音を立てずまた近くの藪に隠れる。

 

「……っ!おっともうこんな時間か。ナルトの部屋、思っていたよりも片付いていたなあ。さあてと、アカデミーに向かいますかね」

 

そう言ってカカシは跳躍してその場を後にした。終始俺には気づかなかったようだ。

 

さっきのナルト云々は原作でナルトの部屋の様子を見たときの感想のものかな?影分身に様子でも見に行かせてたのか……。

 

ナルトの家は本人に断って俺がたまに片づけとかしてるから、流石に原作のように賞味期限切れの牛乳とかはおいてないがな。

 

そう思いながら俺も移動を開始する。あとは本体が術を解除するだけなのでそれまでの間、俺は衣装屋に足を向ける。

 

ちぃとばかし、気に入った腰布があるんだよなあ。

 

そう思って衣装屋の前まで来て、お目当ての品がまだ売り切れてないことを確認した瞬間、俺の影分身の術が解除された。

 



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29:第7.0班合同鈴取り演習

<三人称>

 

影分身からの情報を受け取り、黙雷悟は自身の影分身の行動に若干の不安を抱えていた。

 

(いくらカカシさんが無防備だからって、クナイを突きつけるとか俺の影分身何考えてんだ? ……俺と同じ思考回路だと思うけど理解できない……)

 

自分の影分身の不穏な動きに一抹の不安を覚えながらも、同時に悟はカカシのメンタル面についても心配になっていた。

 

(今のカカシさんはかなり不安定な状態だ。どうにかして元気づけてあげたいと思うなあ。命の恩人だし)

 

そう思いながら悟は教室の扉に黒板消しのブービートラップを仕掛けようとするナルトに気がつき、近づいて頭にチョップを入れる。

 

「何やっとんだお前……」

 

「いてっ! だってさだってさ! 遅せえのがわりぃんだってばよ!」

 

「フン、そんなベタなもんに引っかかる上忍なんてこっちから願い下げだ」

 

(私はどうなるか少し興味あったけど、言わない方が良さそうね……)

 

ナルトが不満そうにいい、サスケも若干イライラしている。サクラはナルトの悪戯を若干楽しみにしていたようだ。

 

そんな状況で教室の扉が開かれた。

 

呑気そうな白髪の忍びが悪びれもなく笑顔で姿を現す。

 

「いやーごめんねー。道の途中で迷子の子どもがいてねー」

 

(あからさまに噓だってばよ)(嘘だな)(……噓ね)

 

(俺はこの目(影分身)で見てたから噓ってもろバレだなあ)

 

第7班のカカシに対する第一印象が「なんか嫌い」で決定付いた瞬間である。

 

 

~~~~~~

 

一同は屋外に移動しミーティングが始める。

 

「そうだな……まずはお互い自己紹介と行こうか」

 

そうカカシが提案するが「なら先に先生が手本で自己紹介をしてくれってばよ!」「そうね……見た目少し怪しいし……」

 

というナルトの提案とサクラの罵倒によってカカシが自己紹介を始める。

 

「あ~オレは、はたけかかしって名前だ。好き嫌いはお前らに教える気はない! ……将来の夢を語る年でもないしなあ……趣味はまあ色々だ!……以上」

 

生徒4人が顔を合わせ名前しかわからなかった自己紹介の不満を小声で言う。

 

「わかったの結局名前だけじゃない……」サクラのごもっともな意見を流しカカシが「じゃあ、次お前らの番だ」と自己紹介を促す。

 

 

「はーい、はいはい!! 俺ってばうずまきナルト!! 好きなものはカップ麺とイルカ先生に奢ってもらう一楽のラーメン!!嫌いなもんのはぁ……スカした奴!んでもって将来の夢はァ……歴代のどの火影をも超す、さいきょーの火影になって里の奴ら全員に俺の存在を認めさせることだってばよぉ!!」

 

ナルトの自己紹介を聞きカカシは目を細める。

 

(どの火影をも超す……ねえ。中々面白い成長ぶりだな)ふとカカシは四代目火影の顔岩に目線を移す。

 

「あっ趣味は悟にバレないようにするいたずらね!!」

 

追加の自己紹介で悟からデコピンを受けるナルトを見て、カカシは調子を崩される。

 

(はははっ……なるほどね……中身はまだまだ悪戯好きの子どもか)

 

そしてカカシは次の自己紹介を促す。

 

「名はうちはサスケ……嫌いなもんならいくらでもあるが好きなものは別にない「嘘つけトマト好きだろ?」悟は黙ってろ! ゴホンッ……それから夢は……」

 

サスケが少し考えこむ。

 

「夢ではなく野望ならある。一族の復興……。そしてある男に……真実を吐かせることだ……!」

 

真剣な眼差しで語るサスケにサクラは顔を赤らめ、ナルトはスカしている感じが気に入らず鼻を鳴らす。

 

サスケの自己紹介に若干の興味を示したカカシは「じゃ、次の女の子」と話を促す。

 

「私は春野サクラ、好きもの~てっいうかぁ……好きな人は~……」

………………

…………

……

サクラの自己紹介は終始照れテレな状態で行われ、カカシの自己紹介に文句が言えないくらいの情報量で終わる。

 

(この年頃の女の子は……忍術より恋愛……だな)

 

「ハイ最後~仮面の子」

 

「えーと第零班所属、黙雷悟です。好きなものは鶏肉料理と汎用性がある術。嫌いなものは……特にないかな。将来の夢はぁ……」

 

先ほどのサスケのように少し考えてから悟は口を開く。

 

「この忍界で起きる……事件事故……それらによる悲劇を少しでも軽減すること……かな」

 

悟は自己紹介を終えると一息つく。

 

(考え方は随分と甘いが実力はアカデミー生の中でも抜きんでている……あの時の少年(・・・・)がここまでくるとはね)

 

少しニコッとしたカカシは自己紹介を終了させ、明日やる任務について話し始める。

 

任務と聞きナルトがはしゃぎだすがそれはカカシが説明を続けることで鳴りを潜める。

 

 

「つまり、下忍と認められなければお前らはアカデミーへ再び戻される。脱落率66パーセント以上の超難関試験をお前たち4人に受けてもらう」

 

ナルトは苦言を吐き出し、サクラは引いて言葉が出ない。

 

(やっぱり俺も受けるんだ……)と悟が思いながら、カカシが配る演習についてのプリントを受け取る。

 

「まあ、とにかく明日第三演習場でお前らの合否を見極める。忍具は一式持ってこい。あ~それと! 朝飯は抜いてこい……吐くぞ」

 

そう言ってカカシは「遅刻するなよ~」と言いながら木の葉を巻き上げ姿を消した。

 

残された4人の間で重い空気が流れる。

 

 

 

「そ、それじゃああたしは帰って明日の準備でも……」

 

サクラがその場を離れようとしたとき悟が声をかける。

 

「ちょっと待った。このまま明日を迎えても恐らく俺たちは試験に落ちるぞ」

 

そう真剣に言う悟の言葉に3人は耳を傾ける。

 

「……どうしてだ悟、理由でもあるのか?」

 

サスケが悟の話に興味を向ける。

 

サスケが聞く耳を持つことに意外に感じたナルトとサクラは悟の話を素直に聞く。

 

「根拠とするには少々曖昧だけど、俺は今まで幾人かの上忍クラスと相対してきた。その経験から言うと明日のカカシさんがどんな試験をするにせよ、カカシさん相手に俺たちは手も足も出ないと予測できるんだ」

 

「悟くん……悟ってアカデミーであんまり目立ってなかったけど、そんな機会本当にあったの?サスケ君が居れば大丈夫よ」

 

悟の話に疑惑を向けるサクラ。サクラの言葉に感化されナルトが叫ぶ。

 

「だいじょーぶだって悟! サスケなんていなくてもこの前のミズキみたいに俺がきっちりカカシ先生をぶちのめしてやるってば……」

 

「……あの時の相手程度に手こずってた俺とナルトじゃ到底無理だって話だ」

 

「なっ……!?」

 

悟はサクラに言葉を向ける。

 

「はっきり言えば、流石のサスケでもカカシさん相手にはレベルがはるかに足りないと言わざる負えない」

 

その言葉に不服そうにサスケが立ち上がり抗議する

 

「ハっ……あののんびりした上忍がそんな実力あるようには……」

 

「サスケ……まだ足だけの木登り、できてないだろ?そういう基礎的な部分で遥かに俺たちは劣ってるんだ」

 

サスケはぐっと唸り、大人しく座る。

 

「じゃあどうするのよ……」

 

とサクラが言う。悟は少し間を溜めてから叫ぶ。

 

「勝てないというのは俺たちが個々で戦った場合の話……つまり、チームワークを鍛えるんだ!!」

 

拳を握り悟は握り決意を固める。

 

(カカシさん……恩を返させてもらいますよ……)

 

~~~~~~

 

 

 

次の日の午前十時ごろ。第三演習場にて

 

 

「やー諸君おはよう……てっ皆ボロボロじゃない。どしたの?」

 

 

「「「おっそい……」」」

 

身なりがボロボロのナルト、サスケ、サクラはテンション低めでカカシにつっこみを入れる。

 

すると土に汚れた悟がカカシの後から姿を現す。

 

「三人とも~朝食のごみ捨ててきた――ってカカシさんか、どうもおはようございます」

 

「うんおはようって朝飯抜けっていったじゃん……。ナニ?さっそく俺の言ったこと無視するの? 傷つくわ~……」

 

「そういう訳じゃないですけど、吐くほどつらいならむしろお腹に何か入れてないとそもそも動けないと思って、一度家に帰っておむすび作ってきてたんですよ~」

 

そういって悟はナルト達に並び立つ。

 

「はあ~帰ってお風呂入りたいのに~」

 

サクラが愚痴をこぼす。

 

(なるほど……ね、あれから泊りがけでここで特訓してたわけね。顔の血色からして夕飯もしっかり食べて休息・睡眠も取ってるようだ……。やる気満々じゃない)

 

「そうだな。お前らの第一印象は特に感想もなかったけど、今の感じは悪くない」

 

そう言いながら、カカシは時計を準備しタイマーを12時にセットする。

 

「それでは演習の説明をするぞー。任務としてここにある鈴を2つ、俺から昼までに奪い取ること」

 

手に持つ鈴を見せながらシンプルに説明するカカシ。

 

「鈴一つにつき合格者は一人。必然的に二人はアカデミーでもう一年過ごしてもらうことになる。忍具は使ってもいいぞ。お前らとの力の差を考慮すれば殺す気でこないと取れないだろうからな」

 

カカシの説明にサクラが何か言いたげにするが口を開かない。

 

(忍具を使うなんて危ないかもしれないけど昨日、悟に言われたことが正しかったらカカシ先生にはそれぐらいしないと勝てない……でも二人はアカデミーに絶対戻されるなんて……)

 

試験のルールに異を唱えたいサクラが口を開く前にナルトが先に喋りはじめる。

 

「カカシ先生ってば、遅刻魔でドンくさそーなのに!! 本当に殺しちまうかもだってばよ!!」

 

その言葉を受けカカシが目を細める。

 

「あのねぇ……お前みたいな実力のないやつほど強がってピーピー吠えるもんだって相場は決まってんのよ。わかる? ドベ」

 

カカシの挑発にナルトが、するりと乗り怒りからクナイを投擲しようと構える。

 

そしてナルトがクナイを振りかぶった瞬間。

 

(……やっぱり上忍は動きが早いな。ガイさん並みの速さだ。目では追うのもやっとって感じか)

 

悟の向ける目線の先ではナルトが振りかぶったクナイをそのままカカシが後ろに回り込み手を添え、ナルトの後頭部へ突き刺さるよう誘導する様が描かれていた。

 

一瞬遅れてサスケとサクラもこのカカシの行動に気がつき驚愕する。

 

「そうあわてるなよ。まだスタートって言ってないでしょ。でもまあ、俺のことを少しは脅威として認めてくれたみたいだし……じゃ、始めるぞ」

 

カカシは4人の反応に満足気にする。

 

上忍の実力を見せつけたカカシが息を吸い合図を出す。

 

「……よーい……スタート!!!」

 

 

………………

 

…………

 

……

 

「忍びたるもの、基本は気配を消し隠れるべし……なんだけどね……」

 

合図から一秒後、カカシが呆れながらそう口に出す。

 

目の前の4人に向けて(・・・・・・)

 

 

「……お前ら……やる気あるの?」

 

カカシの冷めた目に返事をするようにナルトが叫ぶ。

 

「いざ!!尋常に勝負だってばよ!!」

 

「ふん、上忍相手に目の前でよーいどんで隠れても無駄だとわかっているからな。そして時間制限もある。4人で一気に鈴を取りに行くのが最善手だ!」

 

サスケが自身らの思惑を話す。

 

その間に息まくナルトの隣で印を結びながら悟がにこやかな声で答える。

 

「やる気……という点で言ったら俺たちは殺る気しかないですよカカシさん」

 

いくぞ、という悟の合図でナルトが影分身する。そして

 

「風遁・烈風s「ちがうってばよ悟!この技は……名付けて!!」

 

 

 

「ナルティメットストーム!! の巻ぃ!!!」

 

 

影分身したナルトをひたすら悟が烈風掌で撃ち続ける。

 

カカシ本体を狙うナルトがカカシに手刀で払い落とされるが、段々とカカシの周囲に多数のナルトが迅速に配置されていく。

 

「へえ~中々やるじゃない……。さてと」

 

ナルトを軽くいなしながら、カカシがポーチから小説を取り出す。

 

小説に目を落とすカカシに悟の隣のサクラが「どういうつもりですか!?」と叫ぶ。

 

「単純に小説の続きが気になるだけだ。なに、お前らの相手なんて本読みながらでも変わらないよ」

 

そう言いながら、キレてるナルト達の猛攻をひょいひょい捌くカカシ。

 

「忍戦術の心得……体術。ただ突っ込むだけじゃ俺には攻撃は与えられないぞ!」

 

カカシが突っ込んでくるナルト一体に足して足払いで身体を宙に浮かせ、虎の印を組む。

 

(体術と言ったそばから火遁の印を組むだと!?)

 

サスケが、そう困惑を見せた瞬間。

 

「木ノ葉隠れ秘伝体術奥義!!!千年殺し!!」

 

ものすごいカンチョウを浮いたナルトの尻めがけて繰り出す。それを受けたナルトが叫びながらふっとび他のナルトにぶつかり煙になって消える。

 

「残念……影分身か。まあ、このまま本体が来るまで全員に千年殺しをし続けてもいいけど……」

 

その言葉にナルト達が怯む。

 

余裕しゃくしゃくなカカシの態度にサスケが苛立ちを見せる。

 

「ちっ……ナメた真似を!悟行くぞ!合わせろ!」

 

「りょ」

 

軽く返事を返した悟とサスケが並び立ち同じ印を結ぶ。

 

「「火遁・炎弾の術!!」」

 

二人が放つ炎弾が混じり大きな火球となってカカシに突き進む。

 

「おっと、これはちょっとまずいかな」

 

そう言いながらカカシは、影分身のナルトをいなして消しながら印を結び術を発動させる。

 

「土遁・土流壁……まあでも、アカデミー卒業したてで二人掛かりならこの程度の威力か……」

 

そう言い、土で出来た壁で火遁を受け止める。その態度はまだまだ余裕たっぷりだと感じさせるものだった。

 

しかし、カカシは少し驚愕し上空に跳躍する。

 

カカシがいた場所が複数のクナイや手裏剣で穿たれている。

 

(仕込みトラップ……サクラか!)

 

サクラが紐を引き、トラップを作動させている様子を空中で確認するカカシ。

 

(トラップを用意しておくなんて、こいつら用意周到すぎでしょ?!流石にイチャイチャパラダイスはしまっておくか……演習内容も教えてなかったはずなんだけど……なあ!?)

 

カカシの目線の先、カカシの着地予想地点ではナルトが火遁の印(・・・・・・)を結んでいた。その様子に一瞬驚愕したカカシ。

 

「アカデミー卒業したての火遁をくらえ……火遁・豪火球の術!!」

 

ナルトが放つ火遁の強さは先ほどの術の比ではないほど凄まじく

 

「マジか」

 

そう言い残したカカシを呑みこむ。

 

そして爆発した火遁を眺めながら、術を放ったナルトは変化の術を解きサスケが姿を現す。

 

「ふん」

 

と鼻を鳴らし満足そうにするサスケに

 

「なるほど、いいチームワークだ」

 

と背後からカカシが体術による攻撃を仕掛ける。

 

「な!?」と不意を突かれたサスケは4手ほど打撃を捌くが蹴りで大きく吹き飛ばされ、悟とサクラの元へと後退する。

 

サクラはサスケの火遁が決まらなかったことに動揺する。

 

「そんな! サスケくんの術が当たったはず……!」

 

「ああ、近くにナルトの影分身がわんさかいるからそれを身代わりにしただけ。それにしても最初のナルトの突撃にナルトに変化したサスケを混ぜておくとはやるなあ。そして悟が影分身と変化で、自作自演のコンビ火遁でサスケがまだそちら側にいると俺を油断させる」

 

拍手しながら悟たちの戦術を評価するカカシに、気圧される三人。

 

(悟はガイから八門遁甲の教えを受けているはず。てっきり使ってくると思っていたけど、随分とチームワークを重要視しているな……)

 

カカシに視線を送られる悟が肩唾を飲む。

 

(今まで八門に頼った戦いばかりで自滅してたから、今回はなるべく八門を使わないようにって思ってたけど……カカシさん相手では上手くはいかないなあ)

 

ことごとく作戦を突破され、汗を垂らす悟がハンドサインを出す。

 

そして印を結ぼうとしたその時

 

「チャンスタイムは終わりだ」

 

瞬身の術でサクラと悟とサスケの間に移動したカカシが、サクラだけを掴み上げ、何らかしらの術を行使する。

 

その様子に気がついた残りの二人が蹴りと拳打を繰り出すも、カカシはサクラをサスケに投げ飛ばし攻撃をやめさせ、悟の攻撃を受け止める。

 

 

「っつ! サクラ大丈夫か!」サスケが、受け止めたサクラの安否を確認するが様子がおかしい。

 

(ちぃ! 幻術か!)

 

サスケが乱されたチャクラの流れにより幻覚を見ているサクラを正常化しようとするも

 

「さ、サスケ君!! 死んじゃいや~~~!!!」

 

そう叫び抱き着いてくるサクラに身動きを封じられる。

 

「うわ! サクラ……はな、せ!」

 

その間も悟はカカシと肉弾戦を繰り広げる。

 

「奇妙な体術だね~。剛拳に柔拳。面白いじゃない」

 

そういって余裕を見せながらも悟の拳を捌く、カカシ。

 

「ならっもっと面白いもの見せてあげますよ!! カカシさん!」

 

叫ぶ悟が、印を結ぼうとするもカカシの攻撃により中断される。

 

「面白いもの見せてあげるので、印を結ばせてくださいカカシさん!」

 

「駄目に決まってんでしょ……。そういうのは隙を作るように……っなに!?」

 

 

 

 

「俺を無視するんじゃねえってばよ!!」

 

 

 

突如カカシを後ろから羽交い絞めにするナルト。

 

 

ナイスとばかりに悟は、サスケたちの元に向かいサクラに触れ幻術により乱れたサクラのチャクラの流れを正常化させる。

 

そのまま意識を失ったサクラをそっと地面に横たわらせるサスケ。

 

「やっと離したか、助かった悟」

 

「ああ、じゃあ奥の手のあれ(・・・)やるぞ。準備だサスケ」

 

そうして二人は同時に印を結ぶ。

 

 

そしてナルトと戯れているカカシに向け術を使用する。

 

「これが本当の俺たちのコンビ忍術ですよ、カカシさん! 食らいやがってください!」

 

「いくぞ! 悟!!」

 

 

「火遁豪火球!」「風遁大突破!」

 

両者の口から放たれる術は、彼らの目の前で混ざり尋常ではない火力を生み出す。

 

「「滅風焔(めっぷうほむら)の術!!」」

 

辺り一面を埋め尽くす熱気がカカシの肌をじりじりと熱する。そして超特大な炎の津波ががカカシに迫る。

 

(これは下手したら上忍の術をもしのぐ威力だぞ……)

 

カカシが術を見定めているとふと気づく。

 

「ナルトがいるのにお構いなくやるとは、容赦がない……ってナルトがいない!?」

 

カカシが地面に目を向けると、穴がポカンと空いている。

 

(悟の影分身が土遁でナルトを回収したか……!)

 

そしてそのまま、カカシは笑みを浮かべたまま炎に呑まれていった。

 

 

 

 

 



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30:シノビノ常

<黙雷悟>

 

サスケと連携して放った滅風焔の術は、広範囲を火の海にしその炎が場に滞留し続け完全にカカシさんの逃げ場を奪う。

 

「……流石にやりすぎたか?」

 

火の海を前にして、サスケが若干不安そうに呟く。だが

 

「そう易々とやられてくれるわけないと思うけどね。忘れそうになるけど鈴を取るのが最終目標だし」

 

俺はそうサスケの呟きに返事をする。警戒は怠らない。

 

すると俺のすぐ近くの地面からナルトを抱えた、俺の影分身が顔を出す。

 

「ギリギリセーフ……なんとかナルt「うえっぷ! 口に土が入っちまったぺっぺっ!!」……回収できた」

 

ナルトにセリフを妨害され影分身がテンションを下げる。そんな様子を見ながら、俺にとってはまだまだ大技の風遁・大突破を使って少し乱れている己のチャクラを落ち着かせ、感知を始める。……影分身を使いながらの大技はチャクラ消費が半端ない。

 

動きながらや、チャクラが乱れている状態では旨く感知できないのが俺の感知能力の弱点だが、少し落ち着いて……

 

「ハイ、油断大敵」

 

「!!っぬおおおおぉ……」

 

不意に聞こえるカカシさんの声に気を反らされた瞬間、俺の体が地面に埋まる。しまった……!

 

「心中斬首っと。これで厄介な悟は抑えた……」

 

俺を地面に埋めたカカシさんが、地面から姿を現す。俺の残した土遁の穴は使わずに自前の土遁の穴を掘ってきたようだ。俺の方で来たら、影分身が感知して『土遁・開土昇掘』で地面を掘り返して地中から上空に打ち上げる算段だったが、さけられてしまったようだ。

 

サスケは距離を離したか。

 

だがしかし、カカシさんの声が聞こえた時点で俺本体は土遁の術を発動しておいた。カウンターを狙う!

 

そうして俺は埋められた状態から、カカシさんの足を掴み

 

「心中斬首返し!!」

 

土遁を発動させ……

 

「はい、残念♪」

 

俺が足を掴むカカシさんが、雷のチャクラへと体を変換する。これは?! 

 

「まさか雷遁・影分身のjっあばばばばばばばばばばb」

 

土遁の性質変化を行っていたせいで、雷遁の攻撃がさらに威力を増して俺の体を駆け巡り地面に下半身を埋めたまま俺は気絶する。ついでに影分身も追撃しようとしていてくらってしまって消えている。

 

ち、ちくしょう……

 

………………

…………

……

 

~~~~~~

<はたけカカシ>

 

悟をキツメに気絶させてから、30分ほど時間が経った。雷遁影分身はチャクラを結構使うからな……大人気ないが少し本気を出してしまった。

 

ここまで見て確かに、4人のチームワークは演習の合格に値するものだった。それは認めよう。

 

しかし、それはあくまで零班の悟が居ることでの能力にしかすぎない。

 

何時でもいるわけじゃない悟に頼り切ったチームワークじゃ何時かボロが出ると、踏んでいた……が。

 

「中々案外、7班だけでもやるもんだね~。先生として少しわくわくするよ。ただ……鈴にはかすりもしていないけどな」

 

そうして俺は目の前の3人を挑発する。

 

幻術から復帰したサクラが戦線に戻ってきたがそれでもやはりアカデミー卒業したての子どもたち。

 

俺に手も足も出ない展開に諦めると思ってたけど、3人の目の闘志は衰えていない。

 

「俺には野望がある! こんなところで諦められるか!」

 

サスケがそう吠えながらクナイを俺に投げつけ接近してくる。同時に

 

「俺にも火影になるっていう夢があるんだ! サスケェお前にばっか良いカッコさせねーぞぉ!」

 

ナルトが後に続く。  

 

俺がクナイを弾き、サスケと取っ組み合う間にナルトが腰の鈴を狙ってくる。

 

「甘い!」

 

俺は打撃の合間に猫騙しでサスケを怯ませ、突っ込むナルトにぶつかるように蹴り飛ばす。

 

「ぐっ!」「いてぇ!!」

 

しかしボロボロになりながらも再び二人は俺に向かってくる。まあ、狙いはわかっている。

 

二人で俺の足止めをしている間に気絶している悟をサクラが復帰させるんだろうと。

 

ちらっと悟を見れば、サクラが介抱しているのが視界の端に移る。ちょっと邪魔するかな♪

 

そうして俺はナルトとサスケの攻撃の合間に跳躍し、そのままサクラの傍に着地する。

 

「ばあ!!」そういってサクラを脅かすと面白いぐらいに後ずさる。そのまま崩れた態勢でクナイを投擲してくるが甘い甘い。

 

投擲されたクナイをキャッチしそのまま投げ返す。何とか避けたようだがサクラの体勢が崩れている、このまま追撃して……

 

しかし俺の足が地面に固定され動きが封じられる。おっと……

 

「カカシさん、油断しすぎです……!」

 

上半身だけ地面から出した悟が、俺の足を岩状に変化させた手でつかみ、そのまま岩と同化させ地面と接着させている。既に意識が戻ってたか。

 

「サクラの作戦ですよ。カカシさんの油断を誘う……ね」

 

雷遁の効果でまだしびれている様子だが、中々どうしてマリエの十八番を使う悟の術は俺の足をしっかり固定して離さない。

 

なるほど、介抱する間に悟に作戦を伝えて、隙をわざと見せ妨害してきた俺を捕らえるのが本命ね。

 

遠巻きで7班が集結するのが見える。

 

「へっへ~ん! 悟ってばカカシ先生離すなよ! いざ尋常に、勝負!!!」

 

ナルトが先行して俺めがけて駆け寄る。

 

「ちっ! あのウスラトンカチ!」

 

それを追いかけるようにサスケが走る。

 

「私もやらなきゃ! いっくわよ~!!」

 

そうして3人が一斉に飛び蹴りを放ってくる。せめて腕でガードをっ!

 

しかし、悟の術による岩が腕まで拘束していて腕があがらない。しまった!

 

「ぐはあっ!」

 

もろに3人の飛び蹴りを受け、岩の拘束が砕けながら俺は吹っ飛ばされる。

 

流石にクラっときて隙を晒す俺にナルトが拳を振り下ろし、流れで蹴り上げてくる。

 

そのナルトを踏み台にサスケが俺に蹴りを入れさらに空中に打ち上げられる。

 

そのまま、ナルトが跳躍し空中にいるサスケと共にかかと落としを放つ。

 

ドゴンと音を鳴らして地面に叩きつけられる。途中ガードもしたし、受け身も取れたが少し痛いな……。

 

2人が地面に降り立つ前に俺が反撃をしようとするが

 

「しゃーんなろー!!」

 

遠巻きでサクラが仕掛けを発動させ、地面に隠されていた縄が現れ迫りくる。

 

着地後すぐに離脱したサスケと違い、ナルトはかかと落としを決めた余韻に浸っていたためそのまま俺と共に縄で雁字搦め(がんじがらめ)にされる。

 

「ぐえっ! ってなんじゃあこりゃあ!」

 

ナルトが叫ぶ。耳元でうるさいなあ。

 

「よし、ナイスだサクラ。これで鈴を……!」

 

サスケが俺に近寄る。いい連携だったな……だが……残念だけど。

 

 

ジリリリリリリリリリっと時計のアラームが鳴る。

 

 

 

時間制限を忘れていたのか、その音が示す意味にしばらく気がつかずに3人は硬直している。……さてと。

 

縄抜けの術で、ナルトのみ縄の拘束に残し、時計の音を止める。

 

「はーい。試験終了~」

 

俺の声を聞き、始めて自分たちが鈴を取れなかったことに、その意味に気がつき始め顔を青くする3人。

 

悟は……モゾモゾと地面から這い出ている最中か。あまり焦ってる様子も見られないし、こいつはわかってるな(・・・・・・・)

 

 

~~~~~~

 

 

場を改め、3本の丸太が並ぶ前に4人を横一列にならばせる。

 

「さてと今回の演習。鈴取り合戦の結果だが……おや~誰も鈴を取れていないようじゃな~い」

 

ニヤニヤとワザとらしく結果発表をする俺にサスケが睨みを効かせる。サクラも露骨に落ち込んでいる。

 

だがナルトは……

 

「……諦めねぇぞ……」

 

そう呟いて、震えている。

 

「下忍にとか、忍びとか俺には関係ねえってばよ! そんなんに成れなくったって! 俺は火影にぃ!」

 

 

 

「みんなごーかっく♡」

 

ナルトの決意表明を邪魔するようにそう4人に告げる。

 

 

 

「「「なッ……」」」

 

第7班の面々は目をぱちくりとさせている。悟は……特に表情はわからないが、安心しているようすだ。

 

「最初はお前らのこと、忍者をなめてる只のガキだと思ってたが、これがなかなかどうして、いい動きをするじゃない」

 

俺がニコニコしながら拍手を続けるとサクラが我慢ならずに質問を飛ばしてくる。

 

「ど、どういうことですか!? 私たち誰も鈴を取れてないのに……」

 

「ああ、鈴が取れるかどうかはブラフ。実際の合否は別の要素で判断していた。そうだな……サクラ、お前は試験が始まる前に異議を唱えようとしていたな?」

 

「ええ、私たちは4人しかいなくてそれで鈴が二つしかないのに……これじゃあ、仲間割れに……」

 

「そうだ、この試験、仲間割れをわざと(・・・)するように仕組んであったんだよ。なぜならこの試験の合否は、お前らのチームワークを見ていたからだ」

 

「チームワーク……」

 

「自分の利害に関係なく、チームワークを優先できるものを選抜する意図があった。それなのにお前らときたら、予想以上に良いチームワークを見せくれてたからな。途中から試験だったのを忘れて俺が楽しんでいた。いやマジで」

 

ハハハハハとわらう俺にサスケとサクラは理解が進み安堵の笑みを浮かべている。ナルトはいまいちわかっていないようだが。

 

「悟が何か仕組んでいたにせよ。お前たち自身が感じたはずだ。この演習でチームワークの大切さをな」

 

ここまで言ってもナルトはピンと来ていないようだ。ふう、やれやれ。

 

ナルトの後ろに回り込み、クナイを首に添える。

 

「サクラ!! サスケと悟どちらかを道ずれにしろ! さもないとナルトが死ぬぞ!!」  

 

なーんて演技をしてみる。ナルトがぎゃあぎゃあ騒ぐが、縄で縛られたままなので抵抗は出来まい。

 

サクラはかなり戸惑っている様子だが、サスケも悟も落ち着いている。流石に演技臭いか?

 

 

「とまあ、こういう状況になったときに、チームワークがなければ真っ先にナルト。お前が見捨てられるってことよ」

 

 

パッと両手を上にあげてナルトを解放する。

 

「任務ってのは命がけの仕事ばかりだ。これを見ろ」

 

そう言って俺は慰霊碑の前に移動する。

 

慰霊碑に手を置き、深呼吸して俺は話を続ける。

 

「この石に刻まれている名は全て、里で英雄として呼ばれている忍者たちのものだ。……がただの英雄じゃない」

 

英雄と聞き少し元気を取り戻したナルトだが、何かを察して押し黙る。

 

「これは慰霊碑、刻まれた名は殉職者。既に死んでいる英雄たちだ」

 

心臓を掴まれる感覚がする……。

 

「この中には仲間のチームワークが無いがために死んでいった……そんな奴もいる」

 

今は自分を戒める時間じゃない。そう思いぐっと昔を振り返るのを堪える。

 

「お前らが初めてだった。今までの素直に俺の言うことだけ(・・)を聞くボンクラどもと違う。……忍者は裏の裏を読むべし。忍者の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる」

 

4人は真剣な眼差しで俺の話を聞いてくれている。オビト……この子たちはお前の意思を引き継げるかもしれない。そう思うとこの言葉にも熱が入る。

 

 

「……けどな!! 仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ!」

 

それぞれ、グッと気を引き締めるような表情で俺の言葉を、オビトの言葉を聞いてくれている。

 

ああ、なんだか。俺まで気が引き締まる。

 

「よォーしィ! これにて演習は終了! 全員合格ってことで、第7班は明日より任務開始! 零班の悟は別個で指示があるから、このまま任務受付場に向かえ!」

 

グッドポーズでそう告げると、ナルトが嬉しそうに叫び始める。

 

「やったああああああああ!! オレってば! 忍者! 忍者!! 忍者ぁ~!!!」

 

思っていたよりも、良い結果で終わった演習に俺も満足して帰り支度を始める。

 

「よし帰るぞ~」

 

俺の号令にサクラとサスケが付いてくる。

 

   

 

 

 

 

 

「って! 縄ほどけェーー! どーせこんなオチだと思ったってばよォ!」

 

後ろで騒ぐナルトに呆れる俺と、サクラ、サスケ。

 

 

するとナルトにチョップを入れ悟がナルトに縄抜けの術を教える。……アカデミーでならうはずなんだけどなあ……。

 

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

第7班ことカカシ班が演習場からいなくなり、俺一人になったところで任務受付場に向かおうとしたとき、声をかけられる。

 

「やあ、悟。演習お疲れ」

 

「……カカシさん? ああ、影分身ですか」

 

先ほど姿を消したカカシさんが再度俺の前に現れた。

 

まあ、多分彼の用事は見当がつくが……

 

「悟がどうやってあいつらに、チームワークを仕込んだのか気になってね~」

 

そういうカカシさんに、俺は地面に腰を下ろして休息したまま説明を始める。

 

「別に単純ですよ。ナルトにはこの前の事件。封印の書の事件で、俺やイルカ先生が居なかった場合を想像してもらっただけです。あとはサスケですけど……。まあ、現状カカシ先生がサスケの完全上位互換だってことを反論されるたびに一個一個丁寧に解説したまでです」

 

木に足だけ昇る術だったり、印のスピードだったり。カカシさんに出来てサスケに出来ないことはまだまだ多い。

 

「それに戦い始めれば力の差が歴然として、手を取り合うしかないと伝えていたからサクラも鈴による仲間割れの可能性を一端無視して協力してくれました。捕らぬ狸の皮算用って言葉を教えておいたことも効果的だったかもしれないですね」

 

ハハハと笑う俺に、カカシさんはなるほどねっと言って納得してくれた様子。

 

「それじゃあ、俺はこれで……」

 

そう言って立ち上がりこの場を後にしようとすると

 

「少し待て悟。お前自身がチームワークを重視した理由。それも聞きたい。あとなぜ八門遁甲を使わなかった」

 

やれやれといった感じに俺は軽く話す。

 

「別に大した理由はないですよ。八門遁甲はリスクがでかい。それに俺は今のところ八門に頼らないと器用貧乏なので、ナルトのスタミナ。サスケの火遁の威力。サクラの機転の良さが必要だっただけですあとはまあ……そうですね。命の恩人であるカカシさん相手に良い所を見せたかった、それだけです」

 

 

そう言い残し、俺は演習場を後にした。これでカカシさんも満足してくれただろうか。後方で影分身が解除された音が聞こえる。

 

 

その後零班としての今後の活動内容を任務受付場の係の人に話を聞いた。

 

随時他の班同様に簡単なDランクの任務から受けられるようになるようだ。そして必要がある際は、連絡用の鳥の遣いで俺に他の班との連携の指示が出される。

 

そんな感じの説明を受け、明日紅班であるヒナタ、キバ、シノと合同で任務を受けることが決まり、この日の業務連絡は終了した。

 

~~~~~

 

午後の4時ぐらいに解放され、俺は衣装屋へと向かう。

 

いい加減あの腰布を買っておきたいと思い、店の前まで来ると俺は愕然とする。

 

「売り……切れ……?!」

 

そん……な、だって昨日確認したときにはまだ1つはあったのに……。

 

店先でうなだれている俺の肩を誰かが叩く。振り返るとそこには

 

「悟様、このような場でどうかされましたか?」

 

日向ナツさんがいた。手には紙袋を持っておりここの衣装屋で何か買い物を済ませていたようだ。

 

「いや、ちょっと欲しかったベージュの腰布が売り切れてしまってて……」

 

そう言ってその商品があった場所を指さすと、ナツさん少し戸惑った表情をする。

 

「ああ、ええとその商品でしたら……そのすみません。ハナビ様がどうしても欲しいとおっしゃっていたので、稽古で外に出れないハナビ様の代わりに私めがたった今、買わせていただきました……」

 

ちょっと気まずい空気が流れる。

 

「ああ、なるほど、大丈夫ですよ! そう大丈夫です。別に俺は額あてをつける装飾品が欲しかっただけなんで。えっと……それじゃあ、ハナビによろしく言っておいてください」

 

そういって俺は逃げるようにその場をあとにした。5歳年下の子が欲しがってるものを俺が譲ってもらう訳にはいかない。そういう空気になるのも嫌なのでさっさと切り上げたのだ。

 

「は、はい。悟様もお達者で……」

 

そういうナツさんの言葉を背に施設へと帰っていった。

 

 

~~~~~~

 

施設の前まで来ると、珍しくウルシさん(・・・・・)が帰ってくるときと鉢合わせをしたようだ。

 

「悟か! どうだった演習は? ってお前なら合格は当たり前か!」

 

「おかえりなさい、ウルシさん。任務帰りですか?」

 

彼は木ノ葉の下忍、あのマリエさんがいた孤児院の仲間の一人のウルシさん。

 

アカデミー経由ではなく、一般公募から下忍になった人だ。

 

彼は下忍としての収入のほとんどをこの施設「蒼い鳥」に収めて、職員としても働いている。

 

言ってしまえば、末端の忍びの一人。だが俺たち施設にお世話になっている人間にとってはヒーローみたいな人だ。

 

「おう、今日も色々と雑用を受けてきたぜ。悟も今度から俺と同じ下忍だろ? カー―ッ! あんなちっこかった奴がここまでくるとはなあ!」

 

バシバシと俺の背を叩くウルシさんに、苦笑を混ぜながら返事をする。

 

「まだまだ。俺はひよっこですよ。だからこそ経験を積んでより強くなりたいんです」

 

そう言いながら施設の玄関で二人してサンダルをぬいでいると、ウルシさんが俺に問いかけてくる。

 

「悟はどうするつもりだ? 下忍として収入が入るなら、無理してこの施設にいる必要はねえぞ? いっそのこと一人暮らしだって……」

 

「いえ。施設を出ていく気はありません。俺もこの施設のために働きます。それこそウルシさんの背を見てたんです。そういうふうに考えるのも可笑しくないですよね?」

 

そう言うとウルシさんは照れて鼻の下を指でこする。

 

「そうかぁ……でもまあ、無理はするなよ? 特にお前は就寝時間の9時以降でも当たり前のように外出して修行とかしてるからな。大きくなったからとやかく言わないが、マリエもお前のことを心配しているからな。……さっさと仲直りしろよ?」

 

そう言ってウルシさんは、彼の自室へと向かっていった。

 

俺もその後自室に向かう途中、マリエさんとすれ違いただいまと声をかけるが

 

「おかえりなさい。下忍になれて……良かったわね」

 

とまだまだ無愛想な感じで返事を返される。

 

流石にそろそろ機嫌を直してもらわないとなあ。一週間は立ってないとはいえ気まずい雰囲気が長い事続くのは嫌だ。

 

そう思いながらこの日は夕飯の支度や洗濯ものを取り入れ、風呂に入って一日を終えた。

 

 

ちょっと疲れたなあ。明日からは任務がある。

 

前世ではコンビニのアルバイトしかやったことないけど大丈夫かな? なんて。

 

そう心配に思いながらも、珍しく俺は9時に寝る施設のルールを守って眠りについた。

 

 

 

 

 



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31:ドキドキ初任務with紅班~ブリーフィング編~

長くなりそうなので分けます。


<黙雷悟>

 

荒廃…………。

 

崩壊した木ノ葉の里……辺りを見渡しても、動く命はない。僕の体も左半身がすでに無く、身体の感覚ももう消えている。

 

それでも、消えない笑顔の「太陽」が、赤い目の「月」が僕を生かす。そして……繋ぐ。これでいったい何度目だろうか……。

 

恐らく……次が最後の……最後のチャンスだ。

 

もう、時間が残されていない僕では……この運命(・・)を変えられないかもしれない……。

 

ならば……。

 

 

 

お願いです、□□□□様。希望を連れてきて欲しいんです……。

 

…………

………

……

 

 

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

目が覚めると、昨日早めに寝たおかげか朝日はまだ昇っておらず、木ノ葉の里には静けさが漂っていた。

 

 

変な夢を見たような気がするが、頭がボーとしていていまいち実感がない。

 

ふと、顔に手をあてがうと涙を流していたようだ。

 

「……?」

 

とりあえず、身支度を整えよう。今日から木ノ葉の里の下忍としての生活が始まる。

 

今日は紅班と合同で任務にあたる。集合場所も指定されている。……今の時間は指定された時よりずいぶん早いが、まあやることもないし早めに行くかな。

 

黒いインナー(右袖がミズキに燃やされたので、そろえて左右の肩から先は切り落とした)、黒いパーカーに灰色のズボン。いつもの仮面に、竹で出来た軽い手甲脚甲をつける。

 

両腕ともに肩から指先まで、包帯を巻く。『蓮華』も一応出来るのでそれ用の包帯だが、多分使うことはないだろう。

 

後は鉄棒二本を背負い、額あてをポーチに入れ、施設の玄関でサンダルを履く。

 

すると、寝起きのウルシさんが声をかけてくる。

 

「ふあ~あ……悟もう出かけるのか? 随分と早いなあ……」

 

任務明けで疲れている様子だ。ウルシさんの目がショボショボしているし髪もぼさぼさだし。

 

「はい、目が覚めちゃって……少し早いですが、軽く体を動かしながら任務の集合場所に向かいます」

 

そうしてサンダルをトントンとつま先までしっかりと履き、玄関に手をかける。

 

「気いつけろよ? 下忍になりたてとはいえ、任務は任務だ。しっかりと頑張ってこい!」

 

「はい、行ってきます!」

 

そうして俺は跳躍してその場を後にした。

 

玄関に残ったウルシさんが後ろの廊下の曲がり角に向けて言葉を向ける。

 

「……マリエ、お前も見送りたいなら素直に顔出せよ。ったく、心配だからってそうずっといじけてっと悟の奴、直ぐに成長して独り立ちしちまうぞ?」

 

「……わかってる。わかってるけど~……もお~ウルシ君意地悪言わないで~」

 

そうやっていじけているマリエさんに俺は気がつかなかった。

 

~~~~~~

 

 

集合場所に行く前に、アカデミー前の電柱の上に着地する。ルート的には遠回りだがいい準備運動にはなるだろうと。

 

そうして恐らくもうほとんど訪れることのないかつての学び舎に、懐かしみをこめた視線を送っていると何かざわつく感覚が頭を走る。

 

「……?……っ!?」

 

すると目が物理的に熱く感じ、咄嗟に目をつぶる。この感覚……何時か、マリエさんとお風呂に入った時にも感じたような……?

 

熱の高まりが少し安定したので、目を開けると、アカデミーの前にカカシさんがいるのが目に入る。

 

(こんな時間にカカシさんがアカデミーに……?)

 

そう不思議に思い、声かけようとしたとき、カカシさんと目が合う。

 

「!?」

 

目が合い、瞬きをした瞬間。カカシさんは姿を消していた……。

 

それに……カカシさんにそっくりだけど、どこか違ったような……。マスクを着けていないようにも見えたし。

 

奇妙な現象だったと思えば、いつの間にか目の熱も引いていた。

 

そんな変な現象も、あまり気にしすぎてもしょうがない。

 

俺は気持ちを切り替えて集合場所へと向かうことにした。

 

忍界は不思議なことばかり起こるから、気が気でない……。

 

昨日の演習の疲れでも残ってたかな?

 

~~~~~~

 

集合場所には二時間ほど早くついてしまった。

 

指定された場所は林の中。少し開けた場所である。

 

……本当にやることがない。演習場でもないため、術の練習をするわけにも行かないしなあ……。

 

そう思い、俺は地べたに座禅を組み座り込む。

 

やることもないので適当に周囲の感知でもしてみるかと思い立って実行する。

 

こうして、落ち着いていると感知できる範囲はかなりの距離になる。感覚的に言えば自然を感じている? みたいな気分になって距離が伸びるのだ。

 

鳥やリスといった小動物の気配も良く分かり、こうしてじっとしていると動物たちが俺の周りに集まってくる。

 

まあ、集まるだけで、近づいてはこないのだが……。

 

そんなこんなで一時間ほど時間が経つと、遠くの方で気配を感じる。

 

「このチャクラは……ヒナタか?」

 

そう思いながら、ヒナタが来るまで瞑想を続ける。

 

少ししてヒナタがこちらに気がつき声をかけてくる。

 

「あっ! 悟君おはよう。 随分と早いね」

 

「まあ、ヒナタも早い方だとは思うけど……? ん、どうした? その紙袋」

 

目を開けヒナタの姿を確認すると、ヒナタが紙袋を持っていることに気がつく。

 

「ああ、これはね。今日悟君と一緒に任務をするってハナビに話したら、悟君に渡してほしいって昨日の夜に頼まれたの」

 

はい、といいヒナタがにこやかに紙袋を手渡してくれる。俺は立ち上がり、その紙袋を受け取り中を確認する。すると

 

「これは……腰布……。これって確か昨日ナツさんがハナビが欲しいっていってて買ってた奴じゃ……?」

 

不思議に思いながらも手に取り広げてみる。無地で落ち着いた色合いの腰布でまさに俺が欲しがっていたものと同じものだ。

 

俺のつぶやきにヒナタは何かに気がついたのかハッとするが、少し笑顔になり

 

「せっかくだから悟君。付けて見て? 感想をハナビに教えてあげたいの」

 

と俺に言ってくる。まあ、元々欲しかったものだからいいんだけど、お金とかどうしよう、ナツさんに返した方がいいかな。あとでヒナタにでも預けるかな。

 

そう思いながら、腰布を巻く。

 

う~んいい感じだ。

 

ズボンに折りいれた腰布にポーチから出した額あてを着ける。位置は腰の右側。やっと木ノ葉の忍びらしい出で立ちになり、満足する俺を見てヒナタも嬉しそうにしている。

 

「どう? 似合う?」

 

「うん、似合ってるよ!」

 

どや顔しても仮面で見えてないだろうけど、恰好を整えるのは気分が良い。

 

ヒナタとハナビに感謝をしつつ、世間話を続けていると、また俺の感知に気配が引っかかる。

 

「うん? 誰か来たな……」

 

「悟君って感知も出来るんだったね。 多分シノ君だと思うけど……どうかな……白眼ッ!」

 

ヒナタも白眼で確認をする。

 

顔が少し明るくなった。シノだったんだろう。

 

俺の感知は、姿を直接見るわけじゃないから相手が誰かはチャクラの質を覚えていないと特定ができない。

 

少ししてシノが姿を現す。

 

「……おはよう」

 

相変わらずテンションが低い声だな。

 

「おはよう、シノ君」

 

「おはよう、えーと一応確認するけど、シノは俺のこと……わかる?」

 

シノに俺が誰かの確認を取る。アカデミーでは目立たないようにしていたし、今後仲が特別良くなかった人には確認を取っておこうと思う。

 

「…………ッ一度組手をしたことがあるだろう。俺はその時に随分とお前、悟に欠点を指摘されたおかげで体術が平均的な評価をもらえるまでに成長できた。こちらとしては印象深い出来事だったが、お前にとってはそこまで俺のことを気に留めるほd

 

「ごめんて! 大丈夫大丈夫油女シノだろ? 俺も覚えてるからそんな落ち込むなって、な? 一応の確認だって!」

 

暗いトーンで早口で語り始めようとしたシノに制止を入れる。

 

「……そうか、なら問題ない」

 

俺と同じく素顔を隠しているタイプだけど、シノって感情が読みやすいな……。

 

なんてやり取りをしているうちに、またもチャクラを感知する。スピードが速いので、感知してから姿を確認するまで5秒ともかからなかった。

 

スタッと黒髪で美しい女性が姿を現す。……正直好mゲフンゲフンッ。

 

「あなたたち、随分と早いのね。まだ集合時間まで30分はあるわよ?」

 

夕日紅。ヒナタ、シノ、キバの3人紅班の担当上忍だ。

 

紅さんはヒナタとシノと挨拶をすませると俺に話題をふる。

 

「あなたが零班の黙雷悟君ね。私は夕日紅。この子達の担当上忍……キバはまだ来てないみたいだけど、私たちが早すぎるだけだから気にしないであげて」

 

丁寧に挨拶をしてくれたのでこちらも、丁寧に所属と名前を言い返す。

 

すると紅さんが俺に任務内容の確認を行うために少し近づいてくる。あっいい匂い。

 

「今日の任務の内容は、里への物資提供依頼を忍猫に取り次ぐこと。そのために、まず第一目標が今木ノ葉隠れの里に訪れているとされている忍猫を見つけ出すことね。そのために様々な感知タイプが今回の任務にあたることになっているわ」

 

ヒナタの白眼、シノの寄壊蟲、キバと赤丸の嗅覚そして

 

(俺のチャクラの感知か。忍者登録書の内容にチャクラの感知ができると書いていたから抜擢されたのだろう)

 

俺の実力はなるべく隠していく方針なのは今も変わらず。少なくとも八門が使えること、五大性質を使えることは秘密だ。

 

メインの術は土と雷と申告しているし。

 

そう思いながら、紅さんの話を聞いていると一瞬紅さんが印を組むのを視認する。……?

 

……何も起きないが?

 

それでも紅さんは何事もなかったかのように、ブリーフィングを進める。

 

何なんだ。と思っているとどたどたと集合時間5分前にキバと赤丸が現れる。

 

「おーっと。あぶねーあぶねー!赤丸の散歩してたら、遅れそうになっちまったぜ」

 

まあ、集合時間には間に合っているので誰も文句は言わないだろう。

 

そうしてキバが班員と挨拶を済ませると、紅さんが俺の隣に立ち、俺の肩に手を置き俺の紹介をし始める。

 

……なんか手つきがサスサスしていて、ソワソワする。えっなんでこんな変な手つきで触ってくるの?

 

「――――というわけで今回は零班の悟とも協力して、忍猫の捜索にあたるわ」

 

という訳で、俺たち同士で方針を決めるわけだけど……

 

「うううううううぅぅぅぅぅ!!」

 

……めっちゃくちゃ赤丸に警戒されて唸られている。何でぇ……。

 

「アカデミーのころから、赤丸はお前のことが何だか嫌いだって言ってたぜ。俺は別にお前みたいな目立たない奴は印象に残ってなかったけどな」

 

なんて言われて少し落ち込む。この世界に転生してきてから妙に動物たちに避けられている感じがするんだよなあ。犬には吠えられるし、噛みつかれそうになるし。

 

現に赤丸を撫でようと、下から顎に向けて手をゆぅっくり近づけようとするが、噛むぞと言わんばかりに歯茎をむき出しにする。……これはいかんやつやな。大人しく手を引っ込める。

 

すると唐突にピーっと笛の音が鳴る。びっくりして、振り返ると紅さんが草笛を吹いているのが目に入るが……何してんだこの人? 

 

目が合うと紅さんは少し目を見開く。

 

「紅さんって、不思議系な感じ? 急に草笛なんて吹いて……」

 

コソッとヒナタに小声で聞くと

 

「笛? 紅先生なら、そこで任務の資料見てるよ? 私にはそんな音聞こえないけど……」

 

と心配されながら返事を返される。ヒナタは誰もいない位置を指さしている。残りの男子二人も少し心配そうに、憐むようにこちらを見る。

 

何なんだ、まじで。

 

とっ思っていると紅さんが柏手をして注目を集める。

 

「そろそろ行動開始時刻ね。取りあえず午前中は各自の能力を駆使して探索して頂戴。そうね……正午に南区の和食堂で昼食を取りながら集めた情報を一度まとめましょう。これで良いかしら?」

 

紅さんが確認を取ると、ヒナタは自身なさげだが返事を返し、シノはコクリとうなずく。

 

キバは猫は嫌いだから匂いは直ぐにわかると豪語し気合いを入れている。

 

俺は先ほどからの紅さんの動きに困惑しているが取りあえず、問題ないですと答える。

 

そうして一度全員解散し、各自で忍猫の捜索に向かった。

 

さてと、どうやって見つけようか……。

 

~~~~~~

<夕日紅>

 

嗅覚、視覚、触覚、聴覚。それらに訴えかけてみたけれど。

 

警戒していないから、挨拶代わりに幻術を披露してあげようとしてみたのに……黙雷悟……。

 

彼、もしかして幻術にかからないのかしら?

 

 

 

……流石に火影の推薦で選ばれた零班だけあるわね。

 

 

 



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32:ドキドキ初任務with紅班~解決編~

<黙雷悟>

 

 俺たちはさっそく二手に分かれて、里中を捜索した。しかし里は広い。比喩でもなんでもなく。俺と行動を共にするシノと市街地の方へ向かうが

 

「正直、俺のチャクラ感知だと限界があるなあ。良く知らない対象をこの広大な里の中から見つけ出すのは骨が折れそうだ……」

 

 そういう俺の愚痴にシノが

 

「確かに、こういう対象が限定される捜索においては、においの元がわからないキバや悟のタイプでは少々相性が悪いと言わざるを得ない。俺の虫による探索も相手が忍猫では警戒される可能性が高いと考えられる。その点で言えばもっとも見つけられる可能性があるのは対象物を見る(・・)ことができるヒナタの白眼だろう」

 

 と分析を交えながら答える。実際その分析は間違ってはおらず、紅さんが定めた集合時間まで俺とシノは忍猫の足取りを何一つ見つけることが出来なかった。

 

 

~~~~~~

 

 昼の集合場所に指定された飲食店の中で昼食を取る俺たち。

 

「くっそ! 全然見つけらんねぇぜっ。ッたくよ~本当に里にいるのかよ紅先生」

 

 キバが文句を言いながら、紅さんに問いかけている。普段来ない店だけど、紅さんが俺たちが初任務だからと奢ってくれるそうだ。そんな定食の中で遠慮をせずに一番高いものを頼んだキバが上手くいかずに不貞腐れている。

 

「そうね、確かな情報筋からの話だから里にいること自体は疑いようがないけど……。午後からはチームを入れ替えて見ましょうか」

 

 今回の任務は実は里から出ている。つまり、最悪失敗しても里の信頼が落ちるとかの問題はないのだ。だからこそ、俺たち新人にこの依頼が回ってきたようなもんなのだが……失敗前提なのは少しむかつくな。鶏肉の炭火焼きに塩を付けたものを咀嚼しながら何か方法はないかと考える。するとシノが口を開く。

 

「提案だが……何か忍猫をおびき寄せる方法も探した方がいいかもしれない。なぜなら俺たちが感知に優れているといえど今回の任務においては相手の特徴が分かり切っていないこともある。だからこそ相手から出向かせることも一考の余地があると考えられる」

 

 シノが茶をすすりながらする提案に俺は関心を示す。

 

「なるほど……おびき寄せる方法ね。猫だからマタタビとか?」

 

 俺の提案にヒナタが少し唸り答える。

 

「でも普通のマタタビだと普通の猫ちゃんが寄ってきちゃうだけかも……」

 

 全員でう~んと唸り考えながら昼食を取る。忍猫ねえ……。

 

「紅さん」

 

「どうかしたの悟?」

 

「思ったんですけどこういう任務に就くときに、他の忍びから情報を得るのって問題ないですよね?」

 

「そうね。本来任務は内容が極秘だったりするから情報を漏らすようなことはご法度だけど……。今回の場合はよほどのことがない限り問題は起きないと思うわ」

 

 なるほど……。取りあえず紅さんに許可を取り、食事を食べ終えた俺は席を立ち影分身を発動する。その影分身にはある人物(・・・・)を捜索させる。

 

「仮面を着けたまま、いつの間に食事を……」

 

 ボソッとシノが呟く。まあ、顔を見せるのは純粋に嫌だしな。この食事テクも段々とこなれてきたおかげで、ほとんど顔を見られずに問題なく食事を終えられるようになってきたもんだ。

 

「それじゃあ、午後はキバ……は赤丸が嫌がるから俺はヒナタと里を回ります。あとは影分身の情報が入ったら一度集まりたいので、市街地の中央通りに2時間後くらいに集まってもらっていいですか?」

 

 紅さんに確認を取る。問題ないわと返事が来たので食事を終えた俺とヒナタは先に飲食店を出た。

 

~~~~~

 

 里を跳び回りながらヒナタと雑談をする。勿論感知は続けているが。

 

「そういえばヒナタ。この腰布だけど……。代金は払った方が良いよな? 多分ナツさんがお金を出してくれたと思うけど」

 

 俺の腰ではためく腰布に目線を向ける。流石に何もしていないのにタダで物をもらうのは気が引ける。するとヒナタが白眼を発動させた顔を少ししかめながら答える。

 

「悟君、それはハナビから悟君への贈り物なの。あまりそういうのでお金について言うのは無神経だと思う……よ」

 

 ちょっと怒ったのかヒナタにしては強めの語気で注意される。……まあ、確かにそうだけど。

 

「ごめん……でも何もしてないのにこんな良いものただで貰うのはそれはそれで気が引けるというか……」

 

 俺の言葉を聞きヒナタが足を止めジト目で見てくる。

 

「……え?」

 

 俺が困惑しているとヒナタがため息をつく。ヒナタのこんな姿初めてみた。 ……俺が悪いのか、悪いんだろうなあ。

 

「悟君は何て言うのかな……。もう少し相手の気持ちを考えたりとか自分のしてることを客観的に見ることをした方が良いと思う……」

 

「えーと……了解」

 

 ヒナタからのお説教を受け少し反省する。意味までちゃんと理解はしていないが……。テンテンにも似たようなことを言われたことがあるような。

 

 なんてやり取りをしていると、突然頭の中に情報が流れてくる。影分身が自分で術を解いたようだ。

 

「なるほど。ヒナタ、悪いけど忍猫について情報が入った。試したいことがあるから、先に中央通りで紅さん達と合流して待っててくれ」

 

 そう言いながら、俺は逃げるようにその場を後にする。

 

 

 

「はあ……頑張って、ハナビ。婚約しちゃった私が言えたことじゃないかもしれないけど……」

 

 

~~~~~~

<黙雷悟の影分身>

 

【少し前】

 

 俺は飲食店から出て任務受付場に向かう。

 

「すみません。ちょっといいですか?」

 

 任務受付場の係の人に声をかける。相手が良いよと了承したので話を続ける。

 

「第7班が……カカシ班が今何の依頼を受けてどこにいるか知りたくて……」

 

 

~~~~~~

 

 

里の中心から外れた農地。その一画。

 

「はあ~~~~あぁ~~。もっと忍者っぽい任務がしたいってばよ……」

 

 ナルトが畑の作物を引き抜きながら文句を言っている姿を見つける。サクラやサスケもいるようだが……。

 

「カカシさんはここでサボってて良いんですか?」

 

 少し離れた家屋で依頼人が出してくれたであろう茶を横に置きながらニコニコとイチャイチャパラダイスを呼んでいるカカシさんに声をかける。

 

「うん? おお悟じゃない。どしたの、こんな場所で今日は確か紅のとこと任務でしょ?」

 

「いやあそうですけど。サスケにちょっと用があって」

 

「ああそう?それならちょっとこっちの任務手伝ってよ零班君。もう少しあいつらもやる気出してくれたらいいけどねえ~」

 

 ……一番ダラダラしてるあんたが言うことかよって突っ込みそうになるけど、めんどくさいので生返事を返し畑に向かう。

 

「サスケ、ちょっといいか?」

 

「悟か、どうした」

 

 つまらなそうにしていたサスケの土のついた表情が少し明るくなる。中々の重労働のようだ。

 

「今里に来ている忍猫を捜索してるんだが、その見つけ方というか会い方というか……まあそれについて、サスケなら何か知っていると思って聞きに来たんだ」

 

「忍猫か……。どうして俺が忍猫について知っていると……いやそうか、昔居住区に来ていたから知ってんのか」

 

 勝手に納得してくれたサスケが口を開こうとして止める。そうして少し考えた後……

 

「いいだろう。教えてやっても良いが、俺たちの任務、少し手伝ってけ」

 

 取引だ、と悪そうな笑顔でサスケが答える。手伝え、という言葉を聞きサクラの表情が期待に満ちたものになる。そんなに畑作業が嫌か。

 

「……はあ。OK。手伝うから忍猫の見つけ方教えてくれよ?」

 

 まあ、土遁で掘り起こしても良いが……。取りあえずナルトに近づき声をかける。

 

「……何で影分身しないんだ?」

 

「影分身たちも畑作業が嫌だつってちょっとしたら怠け始めんだってばよ……。俺も嫌だからテンション上がんねえ……」

 

 なるほどね、本体がやりたがらないことは分身も嫌がるもんだ、ならしょうがないと印を結ぶ。

 

「土遁・開土昇掘」

 

 地面に手をつき、術を発動させる。畑の作物を集めている位置のすぐ近くに小山を出現させる。雑に収穫できる根野菜を土遁で地中に引き込みかき混ぜ、小山の方へ地中の土ごと流す。

 

「よっと」

 

 チャクラを込めることで、小山の頂点の穴から作物をポンッと吐き出させる。それを五分ほど続け……。術を終えると根野菜の区画の収穫を全て終える。

 

「すご~い! 土遁って地味だと思ってたけど便利ねえ」

 

 サクラが感心して声を上げる。地味て……。まあ、いいか。再度手をつき術で荒れた畑を元の形に戻してサスケに方を向く。

 

「よし、これで良いだろ?」

 

「ふん、良いだろう教えてやるぜ。忍猫の見つけ方……というより呼び方だな。やり方は簡単だ。マタタビを手に持ち」

 

「手に持ち?」

 

「チャクラを流す」

 

「チャクラを流す……それだけ?」

 

「ああ、忍猫が認めた一族のチャクラや気に入るチャクラを持ったものを感じ取ると姿を現すんだ」

 

 はえ~なるほど~。思ったより簡単そうな内容で良かった。

 

「ならサスケが呼んでくれよ。うちはサスケなら問題ないだろ? 俺は影分身だけど本体がこれと同じマタタビを持ってるし」

 

 そういって俺のポーチからマタタビの小枝を出し手に持って見せるが

 

「言っておくがそんな安物の、質の悪いマタタビじゃあいつらは応答しない、機嫌を損ねるだけだ。それに俺はまだ任務があるんでな。あとは自分たちでやれ」

 

 冷たく言い放ちサスケはトマトのなる畑のほうに移動する。……ケチめ。しょうがない、確かに忍猫捜索は俺たちの任務だ。そう思いナルトとサクラに別れの挨拶をしてから自分の影分身の術を解除した。

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

 

 影分身の情報を整理し、紅班に伝えた後手ごろな空き地に移動する。

 

「一応今手に入るであろう高級なマタタビの枝を調達したけど、本当にその方法で大丈夫かしら?」

 

 紅さんが疑問を持って俺に問いかける。

 

「確かに、特定の一族か忍猫に気に入られるかどうかがカギみたいなんで呼べないかもしれないですが……最悪カカシ班のうちはサスケにやらせれば確実だと思うのでとりあえず俺たちだけでもやってみましょう」

 

 そういって紅さんの懐から出たお金で買った高級マタタビをヒナタに手渡す。まず伝統的な日向一族からだ。……俺は源流(ルーツ)がわからないから最後で言いだろう。

 

 ヒナタがマタタビにチャクラを流し込む……がしかし

 

「……何も起きないね」

 

「どれ、ヒナタ俺に貸せ! 猫なんて一発で呼んでやるぜ!」

 

 キバがヒナタから奪い取るようにマタタビを手に持ちチャクラを流すが

 

「……駄目みたいだな。キバは犬塚家の者だ。猫とは相性が悪いと考えられる。その点俺なら……」

 

 そういうシノが試してみたが相変わらず何も起きない。

 

「動物ってダニとか嫌いそうだから、シノの虫も……ごめんて! そう落ち込むなよ……」

 

 俺の茶々に暗い雰囲気をシノが出す。最後は

 

「隊長の私ね。3人に比べればうちはそこまで伝統的な家系という訳ではないから難しいかしら……」

 

 紅さんがチャクラを流すが

 

「駄目みたいですね。一応最後は俺か。孤児だから血的な意味では一番雑多としてそうだし……やっぱりサスケに頼むしか……」

 

 そして俺がマタタビにチャクラを流して数十秒。やはりだめかとマタタビを紅さんに渡そうとすると、ボフンと煙が立ち込め何者かが慌てて早口で喋りながら姿を現す。

 

「これはこれはっ! 遅れて申し訳ございませんニャッ! まさかあの、うちは…………ニャ?」

 

 「「「「「…………」」」」」

 

 ッ来た! 現れた少し老けた黒い忍猫は俺たちの顔を見渡すと一目散に逃げようとする。

 

「ッみんな! 確保よ! 一度見失ったらチャンスはもうないわ!」

 

 紅さんの指示で俺たちは一斉に忍猫に飛びかかるが隙間から逃げられる。……やっとこさ見つけたんだ! 逃がしてたまるか!

 

 キバとシノ、ヒナタがもみくちゃになっている間に八門を第二休門まで開放して、屋根に逃げた忍猫を追う。

 

(ッ早い! 黙雷悟の身体能力は平均より下だと情報ではあったけど、恐らくブラフなのね)

 

 俺を品定めするような紅さんの視線には気がつかず、一人忍猫を追う。

 

「待ってくれ! こっちは別に貴方に危害を加える気はない!」

 

 そういうが忍猫の速さはかなりのものだ。どんどんと距離を離される。……仕方ないこうなったら。一度八門を閉じる。

 

「ハッ……ハッ……諦めたかニャ……? はあ、とんでもない質のチャクラの持ち主ニャ。勘違いしたけどあれは……」

 

 後方を確認しながら、そう呟く忍猫。その頭上を……

 

「追いついたぞ!」

 

 雷遁のチャクラを纏った俺が飛び越し、忍猫の前に躍り出る。

 

「ニャニャっ! 何という速さにゃ!」

 

 それでもうまいぐあいに脇に避けられ、忍猫は縦横無尽に家屋をすり抜けてゆく。

 

 この雷遁チャクラモード(・・・・・・・・・)、速さだけなら八門の第四傷門並みで負担も軽いのだが……いかんせんまだ制御が上手くできない。

 

 まだ直線移動しかできないこのモードでは忍猫に近づけても、捕らえるまではいかないのだ。なので

 

 再度高速で移動する忍猫に走り近づき、隣接するように雷の軌跡を残しながらジグザクに並走する。

 

「どうやら速さだけみたいだニャ! ワシを捕らえるには柔軟性が足りないニャ!」

 

 家屋の並びが道路で途切れる。しかし忍猫は大きくジャンプし、遠くの道路を挟んだ反対側の屋根まで飛び移ろうとする。ねらい目はここだ! 俺は忍猫に続き大きくジャンプし、空中で捕えようとする。

 

「ふん、甘い甘い!」

 

 手が届きそうになる一瞬。忍猫は風遁を使ったようで、空中で加速する。あと少しで手が触れそうなところで逃がしてしまい、雷遁チャクラモードを解除していた俺は道路に落下する。

 

「ぐえっ……。ックソ!」

 

「ニャハハハハ! 小僧! 詰めが甘いニャ! それじゃあワシは……ニャニャ!?」

 

 屋根から悔しそうにする俺を見降ろし、去ろうとする忍猫が宙に浮く。その忍猫の背中にはチャクラで出来た糸(・・・・・・・・)が繋がっており、それを引き寄せる俺の手元に導かれる。

 

 俺は忍猫を空中でチャクラ糸で雁字搦めにしキャッチしたのだ。

 

「ニャンと貴様傀儡使いだったのかニャ?!」

 

「いや、俺はチャクラコントロールが上手い方なんでね。チャクラ糸だけ、使えるようにしてただけさ。傀儡のほうはさっぱりだ、傀儡を操る才能は微塵もないらしい。だけど……」

 

 こうして役立つこともある。俺は捕獲した忍猫を紅班が待っているであろう空き地まで連行した。

 

 

~~~~~~

 

「ちぃっ! やるじゃねえか」

 

 忍猫を連れてきた俺にキバが声をかけてくる。手元の忍猫は抵抗せずにぐったりとしている。……年でスタミナが無くて疲れたか?

 

「お前たちワシを捕まえてどうするつもりニャ……。ワシは食っても美味しくないニャ……」

 

 観念した忍猫を俺が地面に置き、紅さんに説得を任せる。大人同士の交渉が始まったようだ。俺たちは少し離れた場所でその様子を観察する。

 

「流石悟君だね!」

 

「ふむ。あの身のこなしの忍猫を捕まえるとはやはり、お前は大した奴だ悟。実際、俺もアカデミーの時の組手の時点でお前が」

 

「おい、悟!」

 

 シノの言葉を遮り、キバが俺に近づいてくる。

 

「お前、さっきの屋根にとび乗るときなんか変じゃなかったかっ? 赤丸がその時のお前が気味が悪いってさらに怯えてたぞ」

 

 キバの言葉に俺はどう答えるか迷う。八門についてだと思うが、一応秘密にしたいし……。

 

「いやあ、特に何かしたわけじゃあ……。チャクラコントロールによる基本的な身体強化だよ」

 

 そうはぐらかすが、キバは納得していない様子だ。そんなやりとりをしていると紅さんが声をかけてくる。

 

「皆、交渉は無事終わったわ。一定のマタタビを用意したら、それに応じた物資を提供してくれるそうよ。悟、もう拘束を解いても大丈夫よ」

 

 そう言われ俺は忍猫の拘束を解く。酷い目にあったニャ、と体を前足で叩きながら整える。

 

「手荒にしてすみませんでした。俺たちも一応任務だったので……」

 

 俺が謝罪を忍猫にすると

 

「まあ、しょうがないニャ。それなら驚いて逃げたワシにも一応責任があるようだしニャ。…………なるほど、ふむ」

 

 そういって前足を顎に当て何か考える様子でこちらを観察してくる。妙に人間臭い仕草だ。

 

「仮面のお前、ちょっとこっちに来いニャ。少し話がある」

 

 そういって俺を空き地の隅っこに誘導する。紅さんに目線を向けると言葉をかけられる。

 

「後はこちらで、任務報告は済ませておくわ。時間も余ったしあとで演習場で修行をするけど貴方も来るかしら?」

 

 それに俺は是非とも! と答え、忍猫の元にいく。何の用だろうか?

 

「お前さん名は何という?」

 

「黙雷悟……と言います。」

 

「黙雷……聞いたことない性じゃのう。ふむ……ふむ……」

 

 忍猫は品定めをするように俺の周りを歩く。

 

「お主、自身の生まれは如何なものか知っておるかニャ?」

 

「いえ、俺は赤子の時に施設に拾われた身なので、両親とかは知らないんです。あのそれが何か……?」

 

「まあ、詳しくは断定できんが、お主、まともじゃないニャ。言うなら生物的に不自然な存在ニャ」

 

 生物的に? その言葉を言われた瞬間、なぜか背中に嫌な汗が流れる。

 

「あの犬っころも。いや自然界の生物がお主のことを警戒するのも無理がないのかもしれないニャ」

 

「それは……どういう……」

 

「お主の体には高度な封印術が施されているニャ。恐らくうちは一族由来のもの。素人どころか、人間では知覚することすらできん代物じゃ」

 

 俺は唾を飲む。この体は一体……どんな秘密を抱えているんだ?

 

「その封印術はお主をまともな人間に見せるようにしておるが、動物達の目は誤魔化せないようじゃニャ。お主があの禁術、八門遁甲を使うたびにお主の本質(・・)が漏れ出し、封印術が劣化していくように思える。心当たりは?」

 

「ない……です」

 

「そうかニャ。ワシを捕まえた褒美にちょっと気になったから教えておいてやったニャ。まあ、気にしても仕方あるまい。それじゃあの」

 

 言いたいことを言うだけ言って忍猫は姿を消した。封印術? うちは由来と言ってたけど、居住区に行ってた時にそんなことされた覚えはないし……。いったい誰が?

 

 少し不安に思うが、忍猫の言う通り今は気にしても仕方ないのかもしれない。俺は気持ちを切り替え、任務の報酬金を貰うため任務受付場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うちはのチャクラに……千手……普通じゃありえん組み合わせニャ……それにワシも勘違いしたがあの()はまるで……ありえないことばかりニャ。一応猫バアの耳に入れとくかニャ」

  

 



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33:愛しさとか儚さとか

<黙雷悟>

 

 任務受付場にて報酬を受け取る……が。

 

「え? ……何か報酬の金額間違ってません? これじゃ多すぎ(・・・)るような……」

 

 すると三代目が不思議そうな顔をする。

 

「何じゃ、説明したじゃろう。零班が別の班と合同で任務にあたる際の報酬金は里の税から別で出るとな。お主はそういう立場だともう少し自覚するといい」

 

 係の人も間違いありませんと、念を押してくる。俺の金銭感覚が施設のお小遣いで止まってるから仕方がないが、急にこんなサラリーマン的なお給料渡されても困惑するだけだ……。

 

「案外、小心者の側面もあるのだなお主! ほっほっほっ!」

 

 ウルシさんから聞いていた下忍の平均よりも多額な報酬金を懐にしまいどぎまぎしながら、俺は任務受付場を後にした。

 

 

 

「……うむ、経験を積み順調に強くなるがいい悟よ。あやつとの約束もあることだしの……」

 

~~~~~~

 

 取りあえず俺は演習場管理棟で紅班が使用している演習場を調べそこに向かうことにした。……お金は必要分だけ持ち、残りは施設の自室に仕舞ってきた。

 

 着けば、各々修行に励んでいるようで

 

「お疲れ様です。さっきぶりですが、修行に混ざらせてください」

 

 紅さんが勿論いいわよ、と返事をしてくれたので俺は取りあえず丸太に打ち込みをしているヒナタと組手をすることに。

 

 しばらく組手を流していると、ヒナタが小声で語りかけてくる。

 

「悟君……」

 

「ん、どうした?」

 

「私、もっともっと強くなりたいの。確かに誰かを傷つけるのは嫌だけど……忍者になったからには……ね?」

 

 なるほどナルトだな。話題に一切出てないが動機が薄っすら見えているヒナタのやる気に答えようとは俺も思った。

 

「なら、ヒナタなりに柔拳を極めるべきだと思う。俺が思うに、白眼を使う以上経絡系への攻撃は必須だから……」

 

 手にチャクラを纏わせて拳の攻撃範囲を広めるように提案する。日向家のチャクラを通しての経路系へのダメージは一撃必殺になりうる。なら多少威力を落としても範囲を取った方が理にかなっていると俺は思う。

 

 二人して手にチャクラを集める方法をしばらく試行錯誤する。……すると

 

 うっかり俺の手のひらから、螺旋のうずまくチャクラが放出される。それは風になり、辺りに旋風を起こす。

 

「っ!すごいね悟君。今のどうやってやったの?」

 

「えっいやあ、えーとそうだなあ、まずは……」

 

 手からのチャクラ放出。渦巻く形態変化。あの螺旋丸の取っ掛かりをやって見せてしまった……。うっかりとは言え少しまずいかな。

 

 この世界で、俺がもっとも認知している術は螺旋丸と千鳥だ。当然やってみようとはしたが上手くいっていない。というより習得する訳にはいかないと途中で気がついたのだ。

 

 何せこの二つの術は俺の知りえないものである。……うっかりヒナタに見せてしまったけど。

 

 辺りを見渡しても、キバやシノ、紅さんは気づいていない様子。良かったあ。

 

「掌にチャクラを集中させて……」

 

「うんうん」

 

 取りあえずしょうがないので、ヒナタにも取っ掛かりの部分までは教えてしまうことにした。まあ一朝一夕で出来るものでもないしね。

 

 そうしてしばらく修行を続けていると……

 

「少し良いか悟。以前アカデミーで組手をした際にお前に注意されたところを自分なりに改善してみたのだが。如何せん体術に関しては俺は見識が少ない、なので……」

 

「長い長い。わかった組手付き合うから……ヒナタ、その調子でいけば何か掴めるかもね。頑張れよ!」

 

 シノから声をかけられ、組手をすることに。ヒナタが二人とも頑張って! とエールを送ってくれる。可愛い。

 

「では……こちらからいく!」

 

 やる気十分にシノが拳打を繰り出す。なるほど、確かにアカデミーのころより随分と動きが良くなっている。彼のことは良く知らないが、真面目で努力家なのだろう。それに……

 

「おっと!俺が指摘していない部分まで直してるとは……感心だな!」

 

 八門を解放せずに、柔拳の型も使わない状態のなら俺の攻撃を捌けるようになっていて感心する。

 

「ふっ……自分にできないことがあるなら直すべきだと誰もが思うはずだ。俺はそれを実行したにすぎない。それに俺はお前に的確に教えを受けたことで、互いに問題点を教え合うことの重要性にきd、ぐほあっ!!」

 

「あっごめん」

 

 長々と喋りはじめたシノが集中力を切らし、受け止められると踏んでいた俺の拳を受けてしまう。

 

 顎に攻撃が入っていしまい、立っていられなくなったシノを木陰で休ませる。

 

「不覚……」

 

「まあ、油断大敵ってことで……。そんなに欠点の分析ができて改善できるなら、人に教えるのも上手そうだな」

 

「人に……?」

 

「班員とかな。シノは縁の下の力持ちになれると思うよ。がんばれ」

 

 ぽんとシノの肩を叩き、俺はその場を離れた。

 

 俺は場の監督をしている紅さんに話しかける。

 

「あの~紅さんって幻術が得意な方ですよね?」

 

「あら、良く知っているわね。そうね、一応得意ってことで通ってるわ」

 

 にこっと返事をしてくれる紅さんに俺は頭を下げる。

 

「俺に幻術を教えてください! え~と、出来れば広範囲で弱めの幻術がかけれるものが良いです!」

 

 内容を指定していることが面白かったのか、クスクスと笑う紅さん。少ししてから

 

「ええ、もちろん良いわよ。貴方は幻術の才能がありそうだし、それに私の幻術が効かなったことも気になるから」

 

 俺に幻術が効かない……? いつの間にそんなこと試して……て、あっ

 

「あの奇行ってそういう意味が……」

 

「ふふっ貴方から見たらそう見えていても仕方ないわね。そう、幻術は五感に働きかけて相手のチャクラを乱すことが肝心なの。……あなたはなぜかそのチャクラが乱れないみたいね」

 

 面白いと笑う紅さんは俺から見たらとても美しく見える。正直タイプだから……何がとは言わないけど。

 

 すると紅さんは、手ごろな葉っぱを二枚用意し一枚をこちらに渡す。

 

「広範囲って指定だと魔幻・草笛の音(まげん・そうてきのね)が良さそうね。さっきも貴方にやって見せたけどうちの班員にしか術はかからなかったけど」

 

 という訳で紅さんが手本で草笛を吹く。コツは草を震わせる息にチャクラを乗せ、そのチャクラの混じった音の振動で三半規管に訴えかけてどうのこうのらしい。

 

 試しに真似してみるが……プスーッ! と情けない音が鳴るだけで到底笛と言える音は奏でられない……。

 

「ふふっそれじゃあ、遠くまで音が響かないから効果が薄くなるわ。先ずは普通に草笛の練習をしましょうか」

 

 そういう紅さんは……なぜか明後日の方向を向いている。……あれ? 

 

「それより今日は暑いわね……。ちょっと外套でも脱いで……」

 

「ちょっ!!?? 何服脱ぎだして……紅さん今外套何て着てないですよ!?」

 

 服を脱ごうとして胸を露わにする寸前の紅さんの手を掴み止めさせる。まさか……俺の幻術にかかったのか?!

 

 俺の邪な幻術にかかった紅さんをどうにかしようと、ヒナタやキバ、シノに助けを求めるが……

 

 全員、虚空に向かって話しかけている……。3人は俺のじゃなくて紅さんが試しに吹いたやつで幻術にかかってんのか!!

 

「もう……アスマ邪魔しないでよ♡……貴方も好きでしょ? 私のm

「だあああああああああああああストップストップストップぅう!!!!」

 

 

 一瞬で混沌とかした演習場に俺の叫びが木霊した……

 

 

 

~~~~~~

 

 

「「…………」」

 

 何とか紅さんの幻術を解き、残り3人も正常に戻したあと、演習場には俺と紅さんだけが残っていた。時間は黄昏時……。気まずい雰囲気を紅さんが払拭しようと声をかけてくる。

 

「ごめんなさい……油断してたわ……」

 

「いえ……こちらこそ……あんな変な音で幻術かけてしまって……すみません」

 

「3人も帰らしたことだし……今日はもう解散しましょう。零班としての今日の貴方の活躍、その……素晴らしかったわ。……それじゃあ」

 

 いたたまれない空気に耐え兼ね紅さんは姿を消した。なんか……すみません紅さん。

 

正直言って良いもの見た。

 

 俺も帰りに演習場管理棟で使用許可を取り消し、家路に着く。

 

 色々忙しかった今日の出来事を振り返りながら歩いているとふとヒナタに言われたことを思い出した。

 

『悟君は何て言うのかな……。もう少し相手の気持ちを考えたりとか自分のしてることを客観的に見ることをした方が良いと思う……』

 

 …………

 

 ちらっと花屋が目に入る。

 

 うーん……う~~~~~~ん……

 

 

 

 

 

「はーい、いらっしゃ……って貴方! 確かアカデミーでサスケ君とよく一緒にいた仮面君ね」

 

 ああ、そうかここは山中いの(・・・・)のとこの花屋だったか……。まあ、全く知らない仲でもないし……

 

「なに? あなた見た目的に花屋に用がなさそうだけど……もしかして私目当て? ごめんなさいね、私はサスケ君一筋……」

 

「花屋にようがあるんで、花を選んでくれ」

 

 そういうと意外と言った顔をするイノ……失礼な。

 

 俺は欲しい花をイノに伝え、選んでもらった花を二輪買った。

 

「毎度ありがとうございました~」

 

 ニコニコして手をふるイノ。選んだ花の花言葉の意味を思ってかニヤニヤしてやがる。関わり合い少ないけど、いつか覚えてろよ……。

 

 

~~~~~~~

 

 日向の屋敷の前。玄関まで来て呼び鈴を鳴らす。……妙に緊張する。あ~~やっぱやめ

 

「はい、あら悟様どうされましたか? ヒナタ様なら今はお風呂に……」

 

 ナツさんが出てきて対応をしてくれる。むむむっ……

 

「えーと、その~」

 

 もじもじしている俺にナツさんが何かを察する。

 

「……どうかされましたか?」

 

 ニコッと俺の言葉を待つナツさん。

 

「……えーと、ハナビにこれを……えーとこの腰布のお礼です。……ナツさんもありがとうございました」

 

 ビニールに包まれた白いガーベラの花をナツさんに手渡す。ナツさんは尊いと言った顔でこちらを見てくる。ッ……むうっ。

 

「ええ、かしこまりました。確かにハナビ様にお渡ししますね」

 

 そういって一礼してナツさんは下がっていった。…………はあ、疲れる。

 

 

~~~~~~

 

 そして施設に帰ってきた俺は玄関の前で立ちすくむ。もう夕食時も過ぎている。……豪火球に手を突っ込む勇気は出てもこういうのには慣れてないからなあ。

 

 もう1、2時間は立っているが踏ん切りがつかない。なんかっ! そわそわするんだもんっ!!

 

「何やってんだ~悟?」

 

 後ろからウルシさんが声をかけてくる。今日はオフの日だったのだろう、酒気を帯びている。

 

「えっとその~何というか、本当何してんだって感じですが……」

 

 ちらっとウルシさんが俺の手元を見てニヤニヤする。

 

「っ何ですか……! ニヤニヤしてえぇ……」

 

「いやあ? 俺は別に何も言ってないぞ~。まあお前の様子だとまるで告白前の女の子みたいだなってwww仮面がなければだがwww」

 

 上機嫌にそういってウルシさんが玄関からワザとらしく大きな声でただいまと叫ぶ。すると……

 

「もう! ウルシ君、そんなに大きな声で言わなくても……ってなに? 後ろ?」

 

 マリエさんが出てきて、ウルシさんがこちらを親指で指さす。余計な真似を……!

 

 こちらにマリエさんが気がつくとぷくっと頬を膨らませ目線をそらしその場を離れようと……

 

「ッマリエさん!! 待って!!」

 

 手に持つものを背中に隠す。マリエさんは俺に大声で呼び止められ、驚きの表情を浮かべる。

 

「……何かしら悟ちゃん……」

 

 冷たい目線でこちらを見るマリエさん。俺は仮面を外す。月夜に照らされ露わになった俺の赤面にマリエさんが少し困惑する。

 

「えーと、その……何て言えばいいのかな……俺ってマリエさんに何時も心配かけてて……それで……」

 

 言葉を探り探りに紡ぐ、うつむく俺の前にいつの間にかマリエさんが近づいていた。

 

「それで、あの時の……無神経に……マリエさんの気持ちも考えてなくて、その~」

 

 恥ずかしくてマリエさんの顔が見れない……。言葉もでないっ……ああもう、クソぉ~~~~。

 

「っごめんなさいでした!!」

 

 咄嗟にピンクのマーガレットを一輪差し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無言、無音の時が過ぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悟ちゃん」

 

 ぎゅっと、だけどそっと抱きしめられる。ッ!

 

「ありがとう……私もごめんね。意地になっちゃって……えへへ」

 

 ちらっとマリエさんの横顔に光るしずくが見える。

 

「俺も……ホントにごめんなさい。本当は俺、マリエさんのこと、大好きで……おかあs……じゃなくてえーと何というか……」

 

「ふふ、それまだ言わなくてもいいわ。何時か、貴方がもっと素直になってくれた時にその言葉を改めて聞きたいの……。ねえ、悟ちゃん」

 

「何ですか? マリエさん」

 

 ふとマリエさんの雰囲気が明るくなる。

 

「ふふふっこのお花はどうやって選んだのかしら~? 花言葉とか分かってて選んでくれたの~?」

 

 少しからかう様に俺に問いかける。

 

 

 

 

 

「いや~それは……勘弁してください……」

 

 

 

 

 

 

 その日は久しぶりにマリエさんと一緒の部屋で寝た。他愛のない会話を少ししてその後、二人して笑って眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 




イノ「でどんな花が欲しいわけ?」

悟「一輪は真面目に頑張ってる後輩にお礼のいみを込めて……」

イノ「もう一つは?」

悟「ッ信頼してる、だ、大好きな人に……向けて……」

イノ「あらら~。こちらで選ぶけど、花言葉とか聞く?」

悟「もう何でもいいから……そういうの……よろしく……」

イノ(仮面付けてても表情丸見えじゃない♪可愛い所もあるのね)



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34:仕事・頼み事・揉め事

次回から波の国編


<黙雷悟>

 

 初任務を終えてから、俺は忙しい日々を過ごしていた。

 

 零班として他の班と合同で任務にあたることは、頻度として多くはない。理由は俺の分の報酬金が追加でかかったり、そもそも必要とされるほどの任務は下忍の内には多くないからだ。

 

 なので現在俺は、単独で通常の依頼を回している。……高速で。

 

~~~~~~

 

「ちょっと、電柱の調子が悪くてなあ、電気を少し流して様子を見たいんだが」

 

「雷遁」

 

~~~~~~

 

「染物を乾燥させるのに使う大型扇風機が壊れてな……」

 

「風遁!」

 

~~~~~~

 

「厨房のガスが壊れて火力が……」

 

「火遁!!」

 

~~~~~~

 

「近所の悪ガキが落書き……」

 

「水遁!!!」

 

~~~~~~

 

「畑の作物……」

 

「土遁!!!!」

 

~~~~~~

 

 

「はい、終わり……ました……」

 

 任務受付場で依頼達成を示す書類を渡す。

 

「お、お疲れ様です……大丈夫ですか?」

 

 受付係の眼鏡のお兄さんが疲れているといった俺の様子に心配をする。一人で依頼を行うこと自体、別に忍なら珍しくもないが何しろ俺はペースが早い。

 

 雷遁チャクラモードの練習を兼ねて道中はチャクラモードを切らさず全力で依頼先に出向き、現場につけば器用さをこなして、スピード解決。影分身も有効利用する。

 

「やる気があるのは感心するが、もう少し落ち着いて……」

 

「へい! 追加の依頼もう一丁!」

 

「駄目じゃ駄目じゃ! お主だけでDランク任務が全て消費されてはかなわん! 今日はもう休め、火影命令じゃ!」

 

 テンションが可笑しくなっている俺に三代目が、休暇を取るよう命令を出す……。ケチめ。

 

 

~~~~~

 

 休暇を指示された俺は里の中をあてもなく歩く。施設のために出来るだけお金を稼ぎたいのに……。依頼にかこつけて術の練習をしていたので、それなりに術を使うのにも慣れてきた。……五遁を使えることは秘密にしたいので俺は、依頼主には口外しないように言ってある。まあ、強制力はないので多少うわさにはなるかもしれないが明言するつもりはないので、聞かれたらしらばっくれるつもりだ。

 

 まだ、午前中の賑わっている商店街を適当に歩いていると珍しく声をかけられる。

 

「あ! 悟じゃんやっほー! ちょうどいい所に来たわね!」

 

 テンション高めのテンテンに呼び止められる。……? 脇にはハナビもいるようだ。珍しい組み合わせだな。

 

「よう、テンテン。それにハナビも。……あれナツさんは?」

 

 ハナビがいるならと、辺りを見渡してもナツさんの姿が見当たらない。

 

「ああ、ナツさんならあそこ。今女性限定で抽選会をやってるんだけど、それに並んでるのよ。一等はなんと最新の限定高級化粧品! その他豪華な賞品めじろ押しだし、参加賞でも肌に優しいハンドタオルとバスタオルだから是非ハナビちゃんとナツさんもって私が誘ったのよ!」

 

 女の人って最新とか高級とかの枕詞好きだよなあ。俺もコンビニの『限定!! 秋のなんちゃらデザート』とか好きだったけど。

 

「へ~。人数増やして当たったら分けよう、つうことね。こんなのに付き合わされて大変だなハナビ」

 

「えっと……私は別に修行の休憩時間だったので。たまにはナツさんにも恩を返したいと思って……」

 

 良い子だな~。なんて仮面の下でのほほんとした表情をしているとテンテンが肩に手を置いてくる。

 

「えっなに?」

 

「悟も並んでよ」

 

「は? 女性限定だって今テンテンが言ったばかり……」

 

「悟ならいけるって!」

 

 グッとサムズアップするテンテン。

 

「ふざけんな。誰がそんなことやるか」

 

「ハナビちゃんのためを思って、おねが~い?」

 

 くっそ、こいつハナビをダシにしやがって……

 

「わかったよ。人数が欲しいなら、俺の影分身に変化でもさせて並ばせれば……」

 

「それが抽選場付近には術の使用を封じる結界術があるのよ~」

 

 なんだそれと、感知モードになるとなるほど確かに封印結界の術式が敷かれているようだ。……抽選ごときにと思っていると、奥でのびて気絶している額あてをした男性と気絶させたであろう用心棒が埃を払っている。どんだけガチなんだよ。

 

「……なら俺が力になれることはないぞ?」

 

「さっきも言ったけど『悟』ならいけるって!」

 

 こいつ、まさか……

 

「仮面取って並べってか! 嫌だわ、阿保! こんなしょうもないことで素顔晒せるかっ!」

 

「しょうもなくないわよ! 女にとって重要な事なの! お願いお願いお願い~!」

 

「駄々こねるな! 付き合ってられんわ!」

 

 そういって会話を切った俺は雷遁チャクラモードを使い本気でその場から逃げ出した。

 

「あっちょ……もう!! 悟のケチ! べ~~~だっ!」

 

「テンテンさん、しょうがないですよ。大人しく並びましょう?」

 

 

……全く。

 

~~~~~~

<日向ハナビ>

 

 黙雷さんに誘いを断られたテンテンさんが地団太を踏んでいると、抽選のガラガラを引き終えたナツさんがこちらに来る。

 

「……参加賞でした……残念です。」

 

「そう落ち込まないでナツさん。私とテンテンさんも今から並ぶから、きっと何かあたるはずです」

 

 落ち込むナツさんを私が励ましていると、テンテンさんが唸って黙雷さんの愚痴を言う。

 

「悟の薄情者め~。たくっしょうがない……。そういえば二人とも日向の白眼で抽選機の中身とか見れないの?」

 

「私が試しましたが駄目でしたね。ほんと、残念です」

 

 白眼さえ遮る結界忍術……すごいなあ。

 

 なんて思いながらテンテンさんと最後尾に並ぶ。列は長いので待ち時間が長そう。

 

「へんっ! 悟の奴に声かけるために列抜けなきゃもっと前だったのに……」

 

 テンテンさんは相変わらず。でも黙雷さんとの間にあった気の抜ける空気感? に少し憧れる私もいた。黙雷さんは私のことを子ども扱いしかしてくれない……。

 

 なんて思って、テンテンさんの黙雷さんに対する悪口を五分ほど聞いていると私たちの後ろに息を切らした女性の人が走って並ぶ。

 

「はあ、はあ、すみません。抽選の列はこ……ここで合ってますか?」

 

 黒い目の少し長い白髪を束ねた、薄い化粧をしている女性が私たちに声をかけてくる。一瞬私たちの顔を見て言い淀んだけど、そんなに急いできたのかな?

 

「はい、ここで合ってます」

 

「あら、そうですか。良かったどうもありがとう!」

 

 女の人は多分テンテンさんと同じくらいの年齢だけど、落ち着いた雰囲気もあってラフな格好だけど綺麗な人だった。その人は私の言葉に笑顔でお礼を言う。……なんだろう何かこの人の笑顔に既視感があるような?

 

「聞いてるハナビちゃん? あいつは昔っから顔を隠してばかりで私が素顔見たのももう何年も前で……!」

 

「えっあっはい、聞いています」

 

 テンテンさんに話しかけられその感覚を手放す私。その後はずっとお話しっぱなしのテンテンさんの愚痴を聞きながら列が進むのを待っていました。

 

 そして……

 

 

「くっそー! 参加賞だったああああああ」

 

「私は4等の髪飾りでした……」

 

 テンテンさんは参加賞、私は4等のヒスイがあしらわれた髪飾りという結果でした。化粧品は夢でしたね。私はまだ化粧品使わないのでそこまで落ち込みませんが、ナツさんにプレゼントしたかったな……。

 

 そう思ってテンテンさんとナツさんがグチグチと文句を言っていると後ろで鐘がなる。

 

「一等~~! 限定化粧品です! おめでとうございま~す!」

 

 

 周囲にどよめきが走ります。テンテンさんも悔しそうです。一等を当てたのは私たちの後ろに並んでいた白髪のお姉さんでした。

 

「まさか……本当に当たるなんて……」

 

 お姉さんも驚いていますね。テンテンさんはもう少し遅くならべば……と後悔しています。

 

「そういう運命だったんですよ。諦めましょう? テンテンさん」

 

 私がそういってその場から離れようとすると

 

「あなた、ちょっと良いかしら?」

 

 白髪のお姉さんが声をかけてきました。

 

「私実は化粧品には興味がないの。ほら薄化粧でしょ? だからお願いといってはあれなんだけど……良ければ貴方のその髪飾りと交換してもらえないかしら?」

 

「良いんですか?」

 

「ええ、貴方は列を教えてくれたし、親切にしてくれたから是非お願いしたいわ!」

 

 テンテンさんがすごい食いついていますが交換対象が私の髪飾りなので一応口を出してはいません。私は交換を了承してお姉さんと景品の交換をしました。それをナツさんに渡すと泣いて喜んでくれました。テンテンさんが羨ましそうに見ているのでナツさんは苦笑いをしながら「あとで屋敷についたら分けますので……」と言っていました。

 

 お姉さんは別れ際に

 

「あなたの親切が運命を変えたのよ。プレゼント出来て良かったわね」

 

 と笑顔で言い残し去っていきました。

 

 やっぱりあの人の笑顔どこかで見たような……?

 

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

 

 俺が施設の自室から出ると何やら外が騒がしい。なんだ? 俺は今精神的に疲れてるのに……。

 

 玄関まで行き扉を開けると

 

「悟少年っ! 修行しよう!」

 

 緑タイツ姿の激眉おじさんがいた。

 

「ガイさん、お久しぶりです。良いんですか? 今は自分の所の班の人たちを見てるんじゃってさっきまでテンテンが商店街にいたか……。今日はオフなんですね」

 

「そうっ! たまには班員たちにも休息をってねえ! それで俺が暇を持て余したから、久しぶりに悟少年と熱い拳の語らいをしたいと思い爆ぜ参じた!」

 

 久しぶりにあうと熱量がすごいなあ。気分転換に良いと思い俺はガイさんの誘いに乗って一緒に修行することにした。ちらりと施設の連絡板を見るとこの時間帯では珍しくマリエさんは外出していた。俺は連絡板に「黙雷悟、外出」と書きガイさんについていった。

 

「こういうときってカカシさんと勝負してるんじゃないんでしたっけ?」

 

「それがカカシの奴も任務がない癖に家にいなかったのだ! 最近Dランクの任務を誰かがハイペースでこなしているおかげか今日みたいなオフの日ができてしまっているようだ!」

 

「へ~そうなんですか……。まあ、ガイさんと修行できるなら悪い事じゃないですね」

 

「そうだなあ! 悟少年の成長ぶりが楽しみだ!」

 

 

 

~~~~~~

<三人称>

 

 とある演習場。里の中心からかなり外れ、豊富な岩場や木々が生い茂るこの場で二人の人物が、お互いに術を行使し修練を重ねていた。

 

「「土遁・土流雪崩の術」」

 

 二人が行使する土遁による土の津波がぶつかり合うが、術の威力はどうやら片方の人物の方が上らしく土の津波が片方の忍びを飲み込む。

 

「さて……」

 

 風を切る音と共に、土流に飲み込まれたはずの忍びがもう片方の人物の背後から拳を繰り出すが

 

「甘い!」

 

 その拳を受け止めた人物はカウンターで岩石で包まれた拳で相手を吹き飛ばす。受け止めた忍びは、大きく後ずさり衝撃を受けた腕の痛みを逃がすかのように振る。

 

「痛てて。やっぱり、俺よりブランクあるのにやるじゃないマリエ」

 

「お前が手を抜いてくれているからな、カカシ」

 

 片方の忍びは、はたけカカシ、もう片方の人物は普段着にエプロン姿の蒼鳥マリエである。

 

「……やっぱりその格好どうにかなんないの? 演習にエプロン姿は流石にねぇ?」

 

「悪いが私の忍び装束は破棄したからな。唯一残したあの仮面(・・)も今は悟ちゃんに託したし」

 

(……その口調でも悟のことはちゃん付けなのね)

 

「まあ、俺から誘ったわけだしこれ以上格好についてとやかく言わないけど、良くOKしてくれたね。何か理由でもあるの?」

 

「……前の組手の約束が果たせなかったからだ。あとはそうだな。カカシ、お前が珍しくやる気になっているのが理由か……何かあったのか?」

 

「まあ、優秀な子どもたちを教えるのに鈍った状態の俺だと色んな意味で失礼かなってね!」

 

 カカシが言葉を言い終えると同時に、高速でマリエに接近する。

 

「ふん、お前がやる気なら良いことだ!」

 

 接近にカウンターを合わせるように蹴りを放つマリエ。カカシは蹴りを躱し、拳打を繰り出すがマリエそれを捌き、お互いに攻撃をはじき合う。

 

「マリエ、()のこともあるけどやっぱりまだ実戦(・・)は無理そうなのっと」

 

「正直……わからない。だが、カカシお前も知っているだろう? 私のことはっ!」

 

 マリエの回し蹴りを受け止めカカシが吹き飛ぶ。

 

「……やっぱり精神的なものはどうしようもないのかね。お互い」

 

「ふっ……そうだな。お互い壊れ物同士、何とかやっていこう。ただ突っ立ているだけの案山子にならないようにな!」

 

 再度お互いの距離が縮まり、拳同士がぶつかる瞬間。突如大きな衝撃波が二人を襲う。

 

「何!?」

 

「カカシ、危ない!」

 

 マリエがカカシを抱え、衝撃波が二人を吹き飛ばす。怪我を負うほどではないが、二人はゴロゴロと地面を転がる。

 

 

 

 少ししてパラパラと、木々に飛んだ小石などが落ちる音が鳴りやむと衝撃波が発生させた煙の中から声が響く。

 

「ガイさん!! 熱くなりすぎですよっ! 俺たちの演習場から随分と距離離れちゃってますって!」

 

「いや~! 悟少年が第五杜門まで自力で開けるようになってて驚いたっ! 俺もつい熱が入ってしまって……」

 

 八門を第五まで開放し、互いに緑のオーラを纏ったガイと悟が煙の中から姿を現す。八門を解放したもの同士の組手がヒートアップし、マリエとカカシの居る演習場まで突っ込んでしまったようだ。そのことに悟が言及するが、ガイは全く気にしていない様子だ。

 

「ってほらぁ! 誰か吹き飛ばしちゃってますって! すみません、大丈夫ですか!」

 

「む? これは悪いことをしたなあ。いや~ほんとすみ……ま……せ……」

 

 吹き飛ばした人物らを見て悟が謝罪をし、それに続いてガイも謝るがその光景を見て言葉を失う。

 

「っ! カカシ……流石にその手はどかせ。流石に私でも恥ずかしい……」

 

「……え? あ!? ごめんごめん! ワザとじゃないから、決して!」

 

 仰向けのマリエに馬乗りになるような体勢のカカシが、その手をついマリエのある部位(・・・・)(うず)めている光景。

 

 

 

 

 

「おい、カカシィ」

 

 ドスの効いたガイの声が轟く。

 

 

「ん……ってガイ!? なんでここに!? って悟も!?」

 

 八門を開いた状態の二人は目が笑っていない。

 

「おいカカシ、いい加減手を……」

 

 マリエが、二人に気を取られているカカシに抗議をする。

 

「何してんですか? カカシさん? 人の保護者に……?」

 

「いや、これは……お前たちのせいだって……オレ悪くないから! ホント!」

 

「問答無用! カカシぃ! うらy……ゴホンっ! 女性を押し倒しあまつさえ~っ! ゆるされんぞぉ!!」

 

「ガイさん! どさくさに紛れて何言ってんだあんた! 心の声漏れてますよ!!」

 

「話を聞いてって二人とも! 事故! 事故だから!」

 

 ワイワイと言いあう男性陣。その様子にマリエが声を張り上げる。

 

「いつまでこの体勢でいるつもりだ! いい加減、胸から手をどかせカカシ! このバカ者がぁあ!!」

 

 マリエの蹴りがカカシを吹き飛ばす。

 

「うごおぉ!」

 

 吹き飛ばされるカカシ。そのまま起き上がろうとするカカシをガイが高速で回り込みがっちり羽交い絞めにして動きを封じる。

 

「って痛ってぇ! ガイ! キツイキツイ! その状態で拘束するのは本気でまずいって!」

 

「五月蠅い! このむっつりマスクマンめぇぃ! うらy……許さんぞぉ! やれぇい、悟少年!」

 

「カカシさん、観念してください……ね?」

 

 悟はカカシの忍び用のサンダルを脱がせ素足の状態にする。

 

「え!? え!? 悟何するつもりよ!?」

 

「実は今、医療忍術も覚えるために人体の構造について勉強しているんですよね俺。その一環で例えばそう、足裏のツボの位置とかも知っててですね……。ふふっ」

 

 手をゴキゴキッ鳴らして仮面の奥のハイライトの消えた緑の瞳を覗かせる悟にカカシは恐怖する。

 

「まさか……今八門解放してるでしょ! っ駄目だって洒落になってないって! 助けてマリエぇ!」

 

 珍しく余裕のない様子のカカシがマリエに助けを求める。八門を解放しているガイの拘束を解くすべはない。そのカカシにマリエは笑顔で

 

 

 サムズアップを裏返す。

 

「思いっきりやっちゃって♪ 悟ちゃん」 「了解!」

 

カカシの顔が絶望で染まる。

 

「ああああああああぁぁぁぁ……」

 

 森に悲鳴が木霊した。

 

 

~~~~~~

 

 

黄昏時、施設の前まで帰ってきたマリエと悟。

 

「まさか……カカシさんがあんな変態だったとは……まあ、あんな小説どうどうと読んでる時点でわかりきったことだったかな?」

 

「あらら~悟ちゃんも意地悪ね。それに二人とも八門解放した組手なんて無茶するわね~」

 

「そうですか? まあ、マリエさんもナイスキックでした! あそこでカカシさんと組手してたなんて知りませんでしたよ」

 

 雑談をしながら、玄関の前まで来たときに悟は何かにふと気がつきポーチに手を入れる。

 

「そういえば、偶々こんなものを手に入れまして、どうですかマリエさん? 使います?」

 

 照れている悟はヒスイの髪飾りを取り出す。

 

「あら~! 随分と高級そうなものね!」

 

 悟から受け取った髪飾りをかざして見るマリエ。ヒスイが夕日を反射して煌びやかに光る。目を細めてそれを見るマリエだが、しばらくして髪飾りを悟に返す。

 

「……気に入りませんでした?」

 

「そういう訳じゃないけど……そうねぇ。私はあまり、着飾るのは好きじゃないし……それに」

 

 悟の目を見てマリエが答える。

 

「こういう良いものは将来、悟ちゃんのプロポーズの相手のために取っておいた方がいいかなって思ってね~」

 

「なっ!?」

 

 楽しそうにからかうマリエと、仮面の下の顔をさらに赤くする悟。

 

 ……平和な時が過ぎていった。

 

 

~~~~~~

 

 カカシの自宅。散々な目にあったカカシが風呂からあがると自分の体調の変化に気がつく。

 

「体のコリがほぐれている。……悟の足つぼ、効いたのね……」

 

 

 

 




黙雷悟は前世では演劇に関わっていたという設定です。

なので化粧が出来たり、女の人っぽい声を出せたりしていました。

転生してからはより中性的かつ女性寄りの特徴がある顔つき、声になったので本気で寄せれば誰も女性だと疑わない感じになります。

なんでそんなこと解説してるかって? なんででしょう?


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波の国編
35:波が運ぶは人か感情か~その1~


<三人称>

 

 三代目火影猿飛ヒルゼンは任務受付場で第7班、その中でも頻繁にうずまきナルトと揉めていた。内容はナルトが任務内容に対して文句を言い、よりランクの高い任務がいいと我がままを言っているという最近よく見かけるものであったが……

 

「分かった、お前がそこまで言うなら……ある人物の護衛任務、Cランク任務をやってもらう」

 

 今日は珍しく三代目が折れる。彼自身、遠巻きにだがナルトの成長を見てきている。Cランクを任せても恐らく乗り切れるとふんだのであろう。果てはその成長を期待してのものか。

 

(しかし、それでも……不安だのう……)

 

 はたけカカシがいるにしても、やはりあの(・・)ナルト。三代目は初の里外での任務を心配に思い、もう一つの保険をかけることにした。

 

 任務の内容には文句を言わず素直に素早く解決するが、ひたすら数を要求してくるある下忍にもこの任務を受けさせるため遣いの者に、手でジェスチャーを送る。

 

(あやつの場合、里外に長期の任務で出した方がよい気がするな……)

 

 今朝も一番に受付場に「何か任務は、依頼はないのか」と聞きに来た下忍は今日も休みを言い渡され自宅の施設で拗ねている。そんな彼に連絡用の鳥が送られた。

 

~~~~~~

 

 木ノ葉名物の「あ・ん」と書かれた大門のまえで、はしゃぐうずまきナルト。そんな子供なナルトに護衛対象であり、依頼主でもある橋作りの名人『タズナ』が不満の声を漏らす。

 

「本当にこんなガキで大丈夫なのかよォ!」

 

「ハハハ……上忍の私もついてますのでそう心配はないですよ……それに」

 

 心配いらないとタズナに言い聞かせるはたけカカシ。彼は里の中に目線を送り追加で言う。

 

「彼も着いてきますので」

 

 その目線を不思議に思い、タズナがカカシの目線を追う様に目を向けると遠くの屋根から雷のようなものが、こちらに飛んでくるのが見える。その雷はガキ発言を受けて抗議しているナルトの傍に降り立ち、衝撃波でナルトを転ばせる。そして腕を払い纏う電気を晴らす。

 

 その仮面をつけて黒いパーカーを着た人物は四角いリュックを背負い、その傍らに彼の唯一の武器を一本ずつさしていた。

 

「お待たせ致しました。第零班の黙雷悟です」

 

 その人物はいでだちから予想されるよりも随分と可愛らしい声で自己紹介をする。タズナはカカシの発言から恐らく男だと思われる仮面の人物を疑いの目で見る。

 

(木ノ葉の忍びは超色物バカリじゃのう……)

 

 そして彼らは木ノ葉から出発する。今は豊かさを失い、英雄を待つ波の国へと……。

 

 

 

 一方施設「青い鳥」では

 

「ちょっと!? ウルシ君! 悟ちゃんが急いで出ていったと思ったら連絡板に『任務により長期外出』ってあったのだけれど!? どういうこと!?」

 

「どうもこうも、書かれている通りだろう。里外に任務で……」

 

「ああああ~~。心配、心配だわ~! 大丈夫かしら悟ちゃん……。着いていった方が……!」

 

「いやいや、流石にそれはやめてやれよマリエ……。保護者なら手土産の一つや二つでも期待してどっしり待ってるもんだぜ?」

 

 マリエがすごい騒いでいた。

 

~~~~~~

 

 波の国への道中、隊の先頭でサクラが波の国についてカカシからレクチャーを受け、真ん中でナルトが自分を認めさせてやるとタズナに絡んでいる中、後方にいるサスケと悟は雑談をしていた。

 

「プスーッ、サスケは最近プスーッ調子どう? プスーッ!」

 

「お前……草笛吹いてんのか? 下手過ぎんだろ……」

 

 会話しながら仮面の下に手を突っ込み草笛を吹く練習をする悟をジト目で見るサスケ。

 

(こんなんでも俺よりは実力が上なのを認めざるを得ないのがムカつくな……)

 

 タズナもナルトをバカにしながら不安そうに、後方の悟をチラチラみる。

 

「調子と言われてもな……手を使わない木登りも問題なく出来るようになってきたし。ひたすら術を磨いている。お前の方はどうだ悟」

 

「草笛、草笛、チャクラ糸、草笛、草笛、掌仙術、草笛、雷遁関係の術……やることいっぱいだな」

 

 指で数えながら、こりゃあ大変だと言わんばかりにオーバーなリアクションを取る悟。

 

「ほとんど草笛じゃねえか……どれだけ苦手なんだよ」

 

 そう呆れているサスケが足元の水溜りに目線を一瞬送る。そんな彼の仕草を気にも留めず、悟は愚痴漏らす。

 

「だって草笛が鳴らへんもん……自分は器用な方だと思ってたんだけどなあ」

 

 そうして呑気な雰囲気で歩く隊。傍から見たらまるで遠足かなにかだと思われても不思議ではない。

 

「避けろサクラっ!!」

 

 カカシがそう叫ぶまでは。

 

 カカシが叫びながら、サクラを後ろに突き飛ばす。それを受け止めたタズナとナルトはカカシがバラバラ(・・・・)に寸断されるのを目撃し言葉を失う。

 

「まずは……一匹目」

 

 互いの鉄で出来た右手と左手の爪をノコギリ状の鎖でつないだ、忍び二名が不敵に笑う。カカシをその鎖で巻き付け互いに引き合い細切れにして満足しているのであろう。

 

「そ、そんなぁ……カカシ先生!!」

 

 サクラが悲痛に叫ぶと、二人の忍びは姿を揺らめかせ瞬時にナルトの背後へと回る。

 

「二匹目!」

 

 ナルトにその双爪が襲い掛かる。がしかし

 

「甘い!」

 

 跳躍したサスケが手裏剣を投げ、忍び達の鎖を木に押さえつける。さらにクナイで鎖を押さえつけ忍びの動きを封じる。

 

「行け悟!」

 

「了解!」

 

 動きが止まり、鎖を外そうとした忍び達の顔面に衝撃が走り吹き飛ぶ。サスケの言葉を受け黙雷悟がリュックに差した二本の鉄棒を両手に持ち、忍び達の頭を打ったのだ。

 

 しかし、鎖を籠手から外した忍びは二手に分かれる。片方はタズナに。もう片方はナルトへと。

 

 ナルトはクナイを持ち応戦するも、忍びの殺気に気圧され動きが鈍り左手を傷つけられる。

 

「ッおじさんさがってェ!!」

 

 タズナに向かう忍びにサクラが立ちふさがる。しかし足が震えている様子にサスケが気づきさらにその間に割って入る。

 

「三匹目はお前だあ!」

 

 忍びはサスケへと攻撃のターゲットを変える。それをサスケは忍びの振るう爪をしっかりと見据え、カウンターで籠手の部分を蹴り上げる。

 

「なっ!?」

 

「遅せえよ」

 

 そのまま無防備な状態の忍びを蹴り飛ばしナルトに襲い掛かる片方の忍びにぶつける。

 

「はい、雷遁・地走り」

 

 纏まった忍び達に向け、悟が雷遁を行使し昏倒させる。

 

 一連の流れを終えて、地面に手をつくナルトの右手を引っ張りサスケが立たせる。

 

「よォ……ケガはねーかよビビり君」

 

 その言葉をうけナルトが青筋を浮かべ左手に力を籠める……が

 

「ケンカは後にしておけよ、ナルト。動き回るとこいつらの爪の毒がまわるぞ」

 

 そう言いながら、カカシが姿を現す。

 

「っ! カカシ先生! 変わり身で無事だったんですね!」

 

 サクラが嬉しそうに言い安心する。

 

「まあね、ちょっとこいつらの目的を知りたくて観察してたのよ。助けに入らなくてごめんね」

 

 まあ、と言葉を区切りカカシが続ける。

 

「ナイスだったサスケ、悟。サクラも悪くない動きだったぞ。ナルトは……もう少し動けると思ったんだけどな」

 

 カカシが一連の総評を述べる。そして

「タズナさん、話があります」

 

 カカシが、彼ら2人の忍びが霧隠れの中忍クラスであること。そして彼らのターゲットがタズナであることを指摘する。

 

 「こいつらの狙いを知るために、あえて手を出しませんでしたが……」

 

 依頼内容はギャングや盗賊などおおよそチャクラを戦術的に使用出来ないものからの護衛である。忍びからの襲撃の可能性など聞かされていないとカカシは言い、このままでは任務外として任務を破棄すると述べる。

 

「そうよ、この任務私たちには早いわ……やめましょ! それにナルトの怪我から毒血も抜かないと……」

 

 そのサクラの提案にうーーん、と唸って考えるカカシ。チラッとナルトの方を見て……。

 

「こりゃ、荷が重いかな」

 

 そういって撤収の合図をした瞬間。ナルトが自らの左手をクナイで貫く。派手に毒血を抜くナルトに一同が動揺する。唯一悟だけは仮面の下を苦笑いにしてその様子を眺めている。

 

 サクラの「何やってんのよ!」の声にナルトが答える。

 

「任務続行だってばよ! オレがこのクナイでオッサンを守る!!」

 

 ナルトの覚悟の宣言。それを受け、カカシは面白いと表情を変える。そして……

 

「そのままだと出血多量で死ぬぞ、未来の火影様」

 

 悟がナルトに指摘する。するとナルトは慌てふためくが悟が近づいてナルトの手の治療を始める。

 

「いやーーー! こんなんで死ねるかってばよ! 悟助けてぇ!」

 

「動くな動くな……あっごめんミスった」

 

 悟が使う掌仙術がナルトの傷口を活性化させ、傷をさらに広げる。

 

「いやぁーーーーー!! 悟何すんだぁ! 痛えよ!」

 

 おかしいなあ、と首を捻る悟は治療を続行する。その様子に心配になったサスケとサクラが横から口を挟む。

 

「悟、チャクラの調節が間違ってるんじゃないのか?」

 

「私の見立てだと、医療忍術ってもう少し傷口から離れた所から細胞を活性化させるんじゃないかしら」

 

 横からの指摘に悟が調節するもうまくいかない様子だ。

 

「あー、面倒になって来た。多分もう大丈夫だから後は適当に包帯でも巻けばいいんじゃないかな、ナルト」

 

「オイぃ! もっとオレの心配してくれってばよぉ! なんか適当だぞ!」

 

「「「自傷だからな(よ)」」」

 

「……仲間が冷たいってばよ」

 

 ナルトが涙目になって悟に包帯を巻かれている様子を眺めるカカシ。

 

「まあ、任務を続けること自体は問題なくなったかもしれないけど、タズナさん。……本当のことを教えてください」

 

 カカシの言葉を受けタズナは観念したように重い口を開く。

 

「先生さんの言う通りだ。こいつらの狙いは間違いなくわしだ。……実はわしは超恐ろしい男に命を狙われている」

 

 カカシは目を細め先を促す。

 

「……誰です?」

 

「ガトーという海運会社の大富豪だ、あんたらも名前くらいは聞いたことがあるだろう……」

 

 そしてタズナは事情を話し始める。

 

 一年ほど前からガトーに目をつけられた小国の波の国はあっという間に、ガトーによって交通・運搬を牛耳られてしまった。財力と暴力に物を言わせたガトーの支配を崩す術は、島国である波の国から橋を外にかけることであった。しかし……。

 

「だから、橋を作るオジサンが邪魔になって……怖い話ね」

 

 サクラが感想を述べる。つまりは先の忍び達もガトーの手下であったのだ。

 

「しかし、わかりませんね。ガトーが相手となれば忍びが出てくることになることも明白のはず。なぜ、それらの情報を隠して依頼をされたのですか?」

 

 カカシは疑問点を述べ、タズナは目線を下げてそれに答える。

 

「波の国は超貧しい国だ。前にも増してな……。高額なBランク以上の依頼は出せないのだ」

 

 第7班の面々は気の毒そうな顔をする。しかし悟だけ、あまり真剣に話を聞いていないような様子である。そしてタズナは空元気のように顔を明るくして

 

「まあ……依頼外としてお前らが任務をやめれば、ワシは確実に殺されるじゃろう……。だがお前らが気にすることはない!! ワシが死んでも10歳になる孫が一日中泣き、娘が木ノ葉の忍びを一生恨んで寂しく生きていくだけじゃ!」

 

 豪快に言って見せる。続けて、お前らのせいではないとワザとらしく言い放つ。カカシはその様子に折れて

 

「まっ!……仕方ないですね。国に帰る間だけでも「ちょっと待った」

 

 タズナの護衛を続けようと提案するのを悟が止める。タズナはカカシの提案に一瞬(勝った……!)と思いを走らせるが、悟は仮面の奥から冷たい目をタズナに覗かせながら声色を低くして言う。

 

「……僕らのことはどうでもいいと?」

 

「……どういうことじゃ?」

 

「先の忍びの奇襲もそうだけど、本来なら中忍相手に下忍の僕たちは敵わない。偶々優秀なサスケくんやカカシさんがいたからどうにかなった。……もし別の班だったら? 盗賊や強盗程度なら上忍が入らない隊でも任務を受けます。その時奇襲を受けて死ぬのは貴方だけではないんですよ?」

 

 悟の調子が変なことにサスケは気づいたが、その放つプレッシャーに気圧される。

 

(悟、様子が……?)

 

「だが……」

 

 タズナの言い分を押しのけ悟は言葉を繋げる。

 

「そうしたら木ノ葉は今後、波の国から依頼を受けないでしょうね? 依頼内容を偽り、自里の忍びを危険にさらしたのですから。……もしそうなってたら、貴方は自らの手で波の国の未来を閉ざしてしまってたんですよ? 貴方のかってな判断で」

 

 タズナは悟の放つ雰囲気の冷たさに息を呑む。

 

「……努々忘れないように。僕たちも()であり、繋がりのある存在であると。貴方にお孫さんや娘さんがいるようにね……」

 

 そう言って、悟は目線をタズナからそらす。その言葉を受けタズナは、顔を俯かせて少し黙り込む。そして

 

「……お前さんの言う通りかもしれん。ワシは波の国さえ助かればと思っておった。お前さん達さえ来てくれれば何となると思い、真実を隠して依頼をだしたが……。超すまんかった! だがお願いだ、金は直ぐには用意できんが、必ず用意する。だから頼む。橋の完成までどうか力を超貸してはくれんか?!」

 

 恥を捨て土下座をして、カカシたちに頼み込む。その様子にカカシ班は顔を向き合わせうなずき合う。ナルトがタズナに近づき肩を叩く。

 

「任せろ、おっちゃん! 俺たちがちゃんとおっちゃんとその橋を守って見せるってばよ!」

 

「ふん、お前が決めるなウスラトンカチ。だが、俺も別に今更里に戻る気もない」

 

「サスケ君がやるなら私もっ! 波の国の力にもなってあげたいし」

 

 三人組は任務続行の意思を見せる。

 

「……超ありがとう、お前さん達……」

 

「まあ、オレも元々任務続行するつもりだったんだけど……悟は? 里に戻るか?」

 

 カカシがそう悟に声をかけると、悟は少し反応を示さずにボーっとしていたが

 

「……俺も良いですよ。タズナさんには俺たちのことを軽んじて欲しくなかっただけなので。少しキツい言い方すみません、タズナさん」

 

 そう返事を返す。タズナは悟にもすまんかったと伝え、一同はようやく波の国へと歩みを進め始めた。 

 

 

~~~~~~

 

 波の国へ渡る小船の上。タズナの知り合いの協力の元、海上を移動しているナルト達。その中で悟だけは会話の輪には入らず黙りこくっていた。

 

(一瞬だが……意識を……? どういうつもりなんだ、もう一人の俺(・・・・・・)は……)

 

 語りかけても返事のない精神世界にいるであろうもう一人の自分に思いをはせていた。

 

 

 

 



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36:波が運ぶは人か感情か~その2~

時間がかかりました、申し訳ないです。


〈黙雷悟〉

 

 波の国のマングローブの陸地に小舟が隣接し、俺たちは地に足を着ける。

 

 航路の途中波の国を繋ぐための大橋を見かけ、ナルトが騒いでいた。確かに壮大な大橋を見たときには俺も少し感嘆の声を上げた。

 

 少し湿地帯を歩くと突然ナルトが叫び、茂みに手裏剣を投擲する。

 

「そこかァーー!!」

 

 ナルトの奇行に俺を除く全員が驚く。俺も事前に知ってなければ驚いてたと思うほどに唐突だった。

 

 そのナルトの奇行を合図に俺はチャクラ感知を行う。

 

 ……

 

 やっぱり、いるな。転生特典の原作知識を活用した先読みで刺客の存在を見つける。

 

 まだ騒いでいるナルト達の中、白いウサギを見つけたカカシさんと目が合う。

 

 その瞬間、殺気を感じた俺とカカシさんが同時に叫ぶ。

 

「「伏せろ!!」」

 

 飲み込みの早いサクラがぼけっとしているナルトを押し倒し、俺もタズナさんを伏せさせる。サスケとカカシさんは問題なく伏せ、不意打ちを避ける。……頭の上をでっかい包丁が掠れて飛んで行った、肝が冷えるなあ。

 

 頭部を掠めた刃物が木の幹に刺さるとその包丁の上に、忍びが姿を現す。……木の幹に刺さるってことは、今のは挨拶替わりか、怖。

 

 「へーこりゃあ……霧隠の抜け忍桃地再不斬くんじゃないですか」

 

 カカシさんが先頭に出ながら、挨拶をかます。ナルトの先走りを防ぐ意図もあるんだろう。

 

 「お前ら、下がってろ。こいつはさっきの2人とは桁が違う。……俺もこのままじゃあ、ちとキツいか……」

 

  そういうとカカシさんは左眼を隠す額当てに手を触れる。

 

「写輪眼のカカシと見受ける。そのジジイ、渡してもらおう」

 

「悪いがそうはいかない。卍の陣でタズナさんを守れ! ……悟は俺のサポートだ、だが前には出るなよ」

 

「っ了解です!」

 

 ナルト達がタズナさんを守るように囲むのを確認し、俺も印を結んで術を発動する準備をする。

 

「……千以上の術をコピーした男、コピー忍者のカカシ。クク、早速それを拝めるとは俺も運が良い」

 

 カカシさんが写輪眼を表に出す。サスケが少し動揺しているが事情を知らないから仕方ない。その様子に満足そうに笑う再不斬は腰を屈め、移動の姿勢を取る。

 

「さてと、お話はここまでだ。俺はそこのじじいを殺らなきゃならねェ……っとその前にカカシ! お前が先か」

 

 そういうや否や、巨大な包丁を抜きその勢いのまま再不斬は近くの池の上に移動する。そして大きくチャクラを練りこんでいるのが俺にはわかった。

 

「水遁・霧隠れの術……」

 

 術が発動し、一瞬で再不斬の姿と気配を捉えられなくなる。チャクラの混ざった霧は俺の感知方法と相性が悪いな……。

 

 静けさの後、霧に交じり再不斬による殺気が周囲を覆う。……俺も何時ぞやの夜、オビトと遭遇していなかったら耐えられないぐらいの殺気だ。現にサスケですら、冷汗を流している。そのサスケの様子にカカシさんがにこっと表情を作り語りかける。

 

「サスケ、安心しろ。お前たちは俺が死んでも守ってやる……。 俺の仲間は絶対殺させやしなーいよ!」

 

 その言葉を合図に俺は術を発動し……あれ?

 

「それはどうかな……? もう、終わりだ」

 

 再不斬の声が響き、卍の陣の中央に再不斬が現れる。俺は術の発動が上手くいかないことに焦る。再度印を結ぶが術は発動しない。一体どうなってる……!?

 

 その瞬間にカカシさんが再不斬の懐に瞬身の術で移動し切りつける。そのまま、水分身での化かし合いが始まる。術が駄目ならと八門を解放しようとするが……これもダメ。

 

 攻防の末、カカシさんが蹴り飛ばされ池に落とされる。そして

 

「水牢の術……さてと……やっかいなカカシは抑えた。カカシ、お前との決着は後だ。まずはアイツらを片付けさせてもらおうか」

 

 カカシさんを水牢で捕えた再不斬は水分身を三体けしかけてくる。俺とナルト、サスケで対応しタズナさんはサクラに任せる。

 

「クククッ……てめェーらみたいなガキがいっちょ前に額当てなんかして忍び気取りか。いいか? 忍びとは死線をくぐりぬけて来た者のこと。つまり……俺様の手配書にのる程度になって初めて、忍者と言える」

 

 ッ! 術が使えない上に八門もダメとなると分が悪すぎる。俺は水分身の首切り包丁相手に鉄棒二刀流で相手をするも、攻めきれず膠着状態になってしまう。サスケも殺気にあてられ動きが鈍い。

 

「お前らみたいなのは忍者とは言わねえェ……ただのガキだ」

 

「ぐあっ!!」

 

 ナルトが背後に回られ、蹴り飛ばされる。額当てが落ち、ナルトの顔に恐怖が浮かぶ。しかし

 

「っ痛!? …………っうおおおおおおお!」

 

 左手の痛みを思い出し、ナルトが落ちた額当てを踏みつける再不斬の水分身へと駆ける。仕方ないっ!

 

「どっせい!」

 

 掛け声で首切り包丁を押し返し、鉄棒を一本ナルトの向かう先の再不斬へと投げつける。

 

「ちぃ……」

 

 鉄棒が弾かれるが、その隙にナルトが殴り抜け、分身を只の水へと返す。それに気を取られた俺の相手の散漫なひと振りを柔拳で受け流しながら懐に入り、掌底を食らわせる。

 

 そのまま空いた片方の腕で鉄棒をサスケのいる方向へ投げる。一連の流れでサスケも相手の隙を作れていたので俺の鉄棒が相手にヒットして、全ての水分身を葬る。

 

「おいマユ無し、俺たちのことをその手配書とやらにのせとけ! そして一番でかくこう書いとけ! いずれ木ノ葉隠れの火影になる男……木ノ葉流忍者! うずまきナルトってな!!」

 

 取り返した額当てを付けなおしナルトが見得を切る。少しサクラが見惚れている様だ。どちらかと言えば見直したといった方がいいか。

 

「悟、サスケェ! 作戦があるってばよ、ちょっち耳貸せ」

 

 仕方ない……精神的に成長したナルトとサスケと共に、池上の再不斬に警戒しながら作戦を練る。

 

「あのナルトが作戦か、仕方ねえ」

 

「あっ俺今術使えないみたい」

 

 俺の申告にマジかと目を合わせるナルトとサスケ。すまんね……。

 

「なら、こういう感じに……」

 

 ナルトの提案に耳を貸していると、もう一体の水分身が姿を現す。

 

「三人とも! 次が来たわ!」

 

 サクラの忠告を受け、体制を整える俺たち。

 

「さーて暴れるぜェ……」

 

 鼻息荒いナルトと、冷静さを取り戻したサスケ。頼もしいな。ただ、そんな俺たちの気持ちとは裏腹にカカシさんは俺たちに逃げるように叫ぶ。

 

「お前ら何やっている! 逃げろ、俺たちの任務はタズナさんを守ることだ!!」

 

 その言葉を受けタズナさんが答える。

 

「先生さんよ……。ここで逃げ切ってもあんたが居なきゃ、どの道皆殺しだ……。なら、ワシは小僧たちに懸ける! 超すまんかったな、お前らこんなことに巻き込んじちまって。ワシは今更超命が惜しいとはいわん。だから……思う存分に闘ってくれ」

 

「フン……という訳だ」

 

「覚悟はいいなァ……サスケ、悟!」

 

「俺は出来てる……多分」

 

 サスケとナルト、俺のセリフに水分身の再不斬が不敵に笑う。

 

「クック……お前らと俺の違いを教えてやるよ」

 

 そうして再不斬は自身の過去を話す。霧隠の里の卒業試験、生徒同士での殺し合い。100人を超える受験者全員を殺し、手を血に染めた鬼人の逸話。……再不斬は楽しかったと歪んだ笑顔を見せるが……果たして本当にそうなのか? 『助け合い、夢を語り合い競い合った仲間』との殺し合いと説明する再不斬に違和感を覚える。

 

 その話に気を取られ、水分身が目の前に現れるが両手に再度持ち直した鉄棒でカウンターを仕掛ける。その隙にナルトが多重影分身を使い周囲を囲む。

 

「ほー影分身か、それもかなりの数だな……」

 

 大勢のナルトと共に俺も切りこむが、首切り包丁を振るう水分身に近づくことができない。それでも俺は接近を試み、首切り包丁を鉄棒で受け止めるが。

 

「っ! お……もい」

 

「一撃が軽いなあ」

 

 八門を解放できない俺はあっさりと再不斬に力負けをする。そのまま鉄棒の一本を叩っ切られる。半分になってしまった鉄棒を投げつけ、空いた手で煙球を一つ使う。

 

「俺相手に煙球とは考えが足りないな」

 

 そういうと水分身の気配が消えるが問題ない。この時点で完全にサスケがノーマークになった!

 

「風魔手裏剣・影風車!!」

 

 サスケが投擲した巨大な手裏剣が水牢を維持する池上の再不斬本体を狙う。

 

「本体狙いか……甘い!」

 

 手裏剣の中央の持ち手を狙いすましてキャッチした再不斬だが、驚愕し小さく跳躍する。影手裏剣の術を見抜いて、後続の風魔手裏剣を躱したようだが。

 

 躱された風魔手裏剣が再不斬の後方でボフンと煙を上げ、ナルトへと姿を変える。そのナルトは体勢が崩れながらもクナイを投擲し、跳躍して足が池につく前の再不斬を捉える。

 

 そして……

 

「カカシ先生ェ!」

 

 サクラが声を上げる。

 

 水牢の術が解け、手に持った風魔手裏剣でナルトを狙う再不斬の攻撃を受け止めるカカシさん。

 

「ナルト、作戦見事だ。成長したな。……さて生徒たちが気張ってくれたんだ。俺も今度こそ本気でいかせて貰う!!」

 

 ……ここからは一方的だった。カカシさんが完全に再不斬の動きを見切り、相手が使う術を相手より早く使う早業で動揺を誘っていく。段々と言動まで先読みされ始めた再不斬が水遁・大瀑布の術を使おうとするが……完全に先出ししたカカシさんの同術で吹き飛ばされ木の幹に叩きつけられる。

 

 そのまま複数のクナイを体に当てられ、再不斬は完全に隙を晒し……

 

「……ナゼだ!? お前には未来が見えるのか……!?」

 

「ああ、お前は死ぬ」

 

 カカシさんが止めをさそうとするその瞬間。千本が再不斬の首を穿つ。……来たか。

 

「フフっ……本当だ死んじゃった♡」

 

 霧隠の追い忍の仮面を着けた少年(・・)が姿を現す。

 

 地面に倒れ伏した再不斬の首に手を当て生死を確認するカカシさん。

 

 追い忍と会話をするカカシ班を尻目に俺はこっそりと拾ったクナイを持つ手に力を籠める。

 

 

 …………ここで、ここで再不斬に止めを……本当の意味で息の根を止めればもうこの任務での不安要素はなくなる。そうすればあの『白』も怒りで突っ込んでくるだろう。そうなれば数で有利な俺たちが勝つ……。

 

 

 

 

 

『へえ、迷っているんだね』

 

 気がつくと自分の精神世界に来ていた。目の前には俺がいる(・・・・)

 

「……さっきは勝手に人の体を動かして今度は何のようだ」

 

 俺は警戒しながら問いかける。

 

『別にさっきのはタズナさんの漫画での(・・・・)あの「勝った」って思う場面が僕は気に食わないから顔出しさせてもらっただけだよ。一応体を動かせるかのテストもかねてだけど。あと言うなら僕たち(・・・・)の体だ。自分のモノだけみたいに言わないで欲しいな』

 

「……なら今度は何の用だ!」

 

『そう怒らないでよ。君は未来を知っている。僕も君を通して未来の出来事を知れる。だから、ここで再不斬と白を殺せば良いって思ってることもわかるんだ。そうすればナルト君達に対する危機……リスクを避けることが出来る。でも……君……』

 

 一拍おいて目の前の俺は口を開く。

 

『まだ人を殺す覚悟がないんでしょ?』

 

 っ!

 

『君が元居た世界じゃ、人を殺すこと自体珍しいことだよね? まあ、別の国ならその限りじゃないみたいだけど。君は敵の命を取る覚悟がない。ミズキの事件の時でも、最高で重症で済ませてたからね。だから……』

 

 こいつは一体何を……。

 

『僕が変わりに殺してあげるよ。僕の方が慣れてるから(・・・・・・)

 

 真剣な目をして目の前の俺がそう提案を出してくる。

 

「何言って……!?」

 

 慣れてる? こいつは、俺じゃないのか? 所謂陰の……真実の滝で……現れるような人格の一部なんじゃ……。

 

『そうであって、そうではないよ。陰と陽、どちらかと言えば僕は陰だろうけど僕は僕だ。君であって君じゃない。だけど僕は君で……ややこしいね』

 

「お前は一体……」

 

『そろそろ僕が表に出られる時間が無くなりそうだ。大丈夫、君は僕だ。慣れるまでは変わりに僕がやってあげるよ……』

 

 頭が追い付かない。でも……でも……。

 

 目の前の俺は、俺の胸に手を触れようとする。このまま任せれば、全てうまく……。

 

 

 

 パシンッ

 

 

 俺は腕を弾く。

 

 

『どういうつもりだい?』

 

「再不斬たちは……殺さない、殺させない」

 

『そう? 君の言うより良い未来のために? だけど忍びである以上殺さなければ殺される運命……』

 

「確かにそうだ! だけど俺が、俺が迷っているのは再不斬たちにも……心がある。そんな相手を」

 

『そういうのを覚悟がないって僕は言っているんだ。どんな相手にも繋がりがある。殺すことはそれを断つこと。この先相手にするどんな敵にも事情はあるよ? 君はいちいち気にして、同情して? それでどうするの?』

 

 苛立ちを見せるもう一人の俺。その問いに俺は答えることが出来ない。するともう1人の俺はため息をつく。

 

『時間切れだよ……。君も気付いていると思うけど、この世界は完全には君の知る原作とやらと同じじゃない。……このままだと大切なモノを亡くすことになる。次の機会までに覚悟を決めることだね。あくまでヤルのは僕だから、君が苦しむ必要はないよ。僕にまかせる覚悟さえしてくれればいいんだ』

 

 そう言うともう1人の俺は姿を消し、意識が現実へと戻る。

 

 気がつけば白も再不斬と共に姿を消したあとだった。

 

「大丈夫だったか悟? 不甲斐ない先生ですまなかった……ってぼーとしてたみたいだし、術も使えてなかったけどホント、大丈夫?」

 

 心配そうにするカカシさんに声を掛けられた俺は生返事をすることしかできなかった。

 

「大丈夫……です。ちょっと覚悟が足りなかったみたいで」

 

 



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37:波が運ぶは人か感情か~その3~

<黙雷悟>

 

 再不斬を撃退し、追い忍である白と接触した後、俺たちは戦いの疲れを癒すためにタズナさんの家に招かれた。写輪眼を酷使しチャクラを消耗しきったカカシさんが寝ている所、素顔を確認しようとしてカカシさんのマスクを外そうとしているナルトとサクラ。案の定、再不斬が生きている可能性に気がついたカカシさんが飛び起き、ナルトとサクラは驚き後ろに倒れこむ。

 

 再不斬が生きている一連の仮説を話したカカシさんは少し考えこみ口を開く。

 

「まあ……再不斬が生きているのは仮説だが、クサいとあたりをつけたのなら出遅れる前に準備をしておく……それも忍びの鉄則!」

 

 カカシさんはそう言い、俺たち下忍組に修行を課す。その話の途中タズナさんの孫の『イナリ』がガトーに歯向かえば殺されると割り込んできた。案の定ナルトと揉めて、イナリが自室に戻ったところをナルトが追いかけていった。

 

「たくッ! ナルトったらあんな小さな子に怒鳴っちゃって! 器が小さいのよ」

 

 辛辣なサクラの言葉をしり目に、サスケとカカシさんは少し黙りこくっている。

 

(家族を亡くした人間同士、何か共感するところでもあるのかな……俺には……わからないけど)

 

 イナリはまだ、父が亡くなったことを俺たちに話してはいないがあの諦めの感情を吐く表情。サスケとカカシさんには思うところがあるのだろう。

 

「……ウスラトンカチの野郎が依頼人の家族に手を出したら事だ。少し様子を見てくる」

 

 そういってサスケもナルトの後を追っていった。二人はイナリの様子を見て何を思うのか、少し興味があるが俺まで着いていくのは野暮だろう。

 

 二人が戻ってくるまでの間、動けないカカシさんの外出の準備をサクラと手伝った。

 

「カカシさん。二人を待ってる間、さっきの再不斬との戦いで負った怪我に掌仙術かけましょうか?」

 

「うーんと……ハハハッ遠慮しておこうかな~」

 

 ……信頼がない。先の医療忍術・掌仙術でナルトの左手の治療が上手くできていなかったのを見ていたししょうがないか。そう思い俺は影分身3体分をチャクラを均等になるように配分して出現させる。

 

「どうしたのよ、悟?」

 

 その様子にサクラが疑問符を浮かべる。

 

「いや、さっきの戦いで術が使えないとかいう不甲斐なさを晒したし、俺は俺で個別で修行しておこうかなって」

 

 そういって3体の影分身に合図を送り、散開させる。

 

「分身に修行させるの? 変なの」

 

 サクラの指摘にそういうやり方もあるんだよ、と軽く答える。その様子を見ていたカカシさんは小声で「なるほど……」と呟いていた。

 

 

~~~~~~

 

「では、これから修行を始める!」

 

 第7班と森の中に移動し、カカシさんがそう宣言する。俺本体はこちら側の班での修行に着いてきた。分身たちはそれぞれ今の俺に技術的に出来ないことを練習させに送った。

 

 チャクラの解説でナルトが躓き、サクラが丁寧にアカデミーで習ったことの復習を教えている。

 

 体の細胞一つ一つから取り出す身体エネルギー。多くの修行や過酷な経験から積み上げられる精神エネルギー。この二つを練りチャクラを絞り出して術を行使する。……先の再不斬との戦闘。俺が術を行使できなかったのは精神エネルギーが不安定だったからだと推察する。

 

 何時かは来ると思っていた、『この』問題。まさか漫画での波の国編で俺自身が直面するとは……。同行すること自体、実際驚いたものだったけど。

 

 目の前では話が進み、カカシさんが足の裏にチャクラを集め木に吸い付かせることで木の幹を歩行している。チャクラのコントロールが上手くなれば、低燃費で術が使える。正しく言えば万全(・・)な術が使える、かな。術の威力はチャクラの量とその使い方できまる。

 

 少しのチャクラでも将来のサクラやまだ会ってないけど綱手のようにコントロールを極めることで、金剛力を発揮できるようになる。筋肉を鍛えるだけでなく、チャクラを駆使した方が最終的な身体能力は上になる。

 

 と言う訳で、俺たちは木登りの行を行うのだが……。

 

「いや~君たち優秀だねぇ。先生として嬉しく思っちゃう♪」

 

 元々チャクラコントロールの優秀なサクラ。俺が先んじて木登りの行を教えていたサスケ。そして当然その俺も。難なく木のてっぺんまで足だけで登りきってしまう。ただ一人を除いて。

 

「いってえぇぇええ!」

 

 チャクラコントロールが不得意なナルトのみ、足を滑らせ後頭部を地面にぶつける。俺たちを見上げるナルトはかなり悔しそうだ。

 

「案外修行ってのも簡単なのね」

 

 そう楽しそうに木の枝に座り呟くサクラの様子と、サスケの物足りなさそうな態度をみてカカシさんが提案する。

 

「そうだなあ。サクラ、サスケ。お前らは俺と別メニューだ。悟、ナルトの修行を見てやってくれ」

 

 俺が影分身を出して修行をしているのも加味してのことだろう。

 

「了解しました」

 

 俺は返事を返し、ナルトのそばへと着地する。

 

「さて、頑張ろうかナルト。根性の見せ所だな」

 

 手を引きナルトを起き上がらせる。カカシさんたちは建築中の大橋に向かい残された俺とナルトで木登りの行を再開した。

 

「ぜってェー木登り出来るようになって、すぐ3人に追いついてやるってばよ!」

 

 ナルトは声高く宣言した。その後ナルトの手を持ち、木の上からナルトをぶら下げひたすら木の幹に足の裏のチャクラを吸着させる修行を繰り返した。あんよが上手、あんよが上手。

 

 俺の方がチャクラコントロールが優れていて燃費が良いはずだが、修行に着き合うだけでナルトよりも先にバテてしまった。俺が影分身を出しているにしてもここまで無駄にチャクラを使っても平気なスタミナ、チャクラお化けとはまさにこのことか……。

 

~~~~~~

<はたけカカシ>

 

 さて、あっちは悟に任せて大丈夫だろう。再不斬との戦闘で悟は調子が悪かったようだけど、殺気に中てられたというよりは……戦い自体への躊躇か。彼は甘さが目立つとマリエも言っていたしな。精神的なところは他人がアドバイスしても最終的には自分でどうにかするしかない。今はあいつを信じて待つか。

 

「せんせー、建築途中の橋で修行なんてできるんですかぁ?」

 

 サクラの言葉に思考を切り替える。

 

「修行ってのはいついかなる時でもできるもんだ。日々これ精進ってね。お前たち二人は基本的なチャクラコントロールが出来ているからその派生をやってもらおう」

 

 作業中のタズナさんに頼み長いロープを借り、サクラとサスケの胴に結ぶ。一応警備を兼ねての修行だとはかるく伝えた。

 

「? 何をするつもりだ」

 

 訝しむサスケにニコニコして俺は答える。こいつらは優秀だ。そしてナルトも直ぐに追いついてくるだろう。

 

「お前ら橋から飛び降りろ!」

 

 二人に結んだのロープの先を手すりに結び、親指でクイっと橋の外側を指さす。

 

「ちょ!? 先生っ急に何言って……」

 

 サクラが文句を言ってくる。まあ、まだ説明していないから、当然……って!?

 

 サスケが俺の話を最後まで聞かずにそのまま橋の下の海面に飛び込む。

 

「サスケ君!!!???」

 

 バシャンっと音をたて、結構荒れている海面に消えるサスケ。慌ててサクラがサスケを助けようと飛び込みの体勢になるが

 

「サスケと同じ場所に飛びこむとあぶないでしょーが」

 

 俺がそういって、サクラを横に突き落とす。

 

「きゃーーーーーーっ!先生のバカーーー」

 

 サクラが俺の悪口を言いながら、ちゃんとサスケとずれた位置に落ちる。サクラは、三代目や俺たち上忍に対する尊敬というか敬う気持ちはやっぱりなさげね……若いなあ。

 

「っぷはあ! サスケ君どこー?」

 

 海面から顔を出したサクラがサスケを探す。サスケは……

 

「つまりはこういうことだろ、カカシ……」

 

 海面に足を震わせながら立っていた。不安定で波に呑まれ直ぐに海に沈むが再度足を上げて立とうと試みる。さすがはうちは。それでなくともサスケの向上心は目を見張るものがある。

 

「そうだ。さっきの木登りの行の発展。水面歩行の行だ。サクラもサスケに続いてやってみろ。コツは木登りの時と違いチャクラを常に適量放出することだ」

 

 サクラも修行の内容に納得が良き、水面歩行を試みる。二人ともまだまだ安定はしていないが、流石と言うか。兆しは十分に見えている様だ。

 

 さてと……俺は二人がバテたらロープで引き上げるまでの間暇だし。イチャパラでも読んでようかな。

 

「……むむ。むふふ♡」

 

「修行とか言っていきなり橋から飛び降りたり、変な本を読んだり。忍者ってのはこう、超変わりもんしかおらんのか……」

 

 

~~~~~~

 

 

 時間が経ち、昼頃。サクラはスタミナが尽きたので俺の横で倒れ伏している。流石に厳しいだろうけど、俺の期待に応えてくれるこいつらの頑張りは見ていて楽しい。サスケはまだまだ海面に立つのもやっとだが、始めた当初よりは安定してきている。

 

「随分とバテてまあ……そういえば嬢ちゃん、あの金髪小僧と仮面の小僧はどうした?」

 

 タズナさんがサクラに話しかける。サクラは疲れた様子ながらもその重い体を起き上がらせ、返事を返す。

 

「……修行中。ナルトに悟が教えてるのよ。私とサスケ君は優秀だから、警備も兼ねてカカシ先生に修行を見てもらってるの!」

 

 エッヘンと気分よく答えるサクラ。タズナさんが小声で「……ホントか?」と心配そうに呟いた。まあ……タズナさんの気持ちもわかる。

 

「まあ、よっぽど気にしなくても大丈夫ですよタズナさん。再不斬たちもそう、直ぐには来ません」

 

 俺の言葉にそうか、と答え返事をしてタズナさんが作業に戻ろうとしたとき。ギイチという男とタズナさんがもめ始めた。

 

 俺たちの任務は護衛だ。橋の建築云々に関しては口を挟まない。しばらくの後、タズナさんが昼休憩を作業員に告げる。

 

「サクラ、俺たちはタズナさんの家に厄介になっているしタズナさんの買い出しに付き添ってくれ。これも警備の一環だ」

 

「……はぁーい。りょーかいしました」

 

 少しめんどくさそうにサクラはタズナさんの後を追っていった。さて、俺はサスケがバテるまで……ん?

 

 遠くの方から気配を感じた俺は松葉杖をつき立ち上がり、橋の上から海面を見下ろす。あれは……

 

「悟の奴か?」

 

 雷を纏った悟が海面を高速で駆けているのが視界に入る。音を立て海を裂くように走る悟は橋の下を通り、また遠くの方へと姿を消した。シュールだな……ありゃあ影分身にチャクラコントロールをやらせているのか。チャクラモードと水面歩行の合わせ技。下忍の域はとっくに出てるねェ……。

 

 当然その様子を見ていたサスケはやる気を刺激され、立つのもやっとなのにも関わらず歩き出そうとして海面に沈む。

 

「サスケェ~。そう焦らずとも……」

 

「五月蠅い。あんたはやり方だけ教えてくれれば良い! あいつに追いつく……いや追い抜かすのにチンタラしてられっかよ……!」

 

 おお、熱い熱い。いいねえ、ライバルって奴は……帰ったらガイの相手でもしてやるかなあ。

 

 こうしてサスケがバテて海面から出てこれなくなり溺れかけるまで俺たちは建築途中の橋にとどまっていた。

 

~~~~~~

<春野サクラ>

 

 あ~~~……。水面歩行の行、穏やかな水面なら出来そうな感じだけど、波のある海面だと難しすぎよしゃんなろ~。カカシ先生、木登りがあっさりクリアされて意地になってんじゃないの?

 

 まあ、ナルトの奴は多分すぐに諦めて拗ねてタズナさんの家に戻ってるだろうし、さっさとタズナさんと買い出し終わらせたらさっさとお昼食べたいわ……。もうバテバテよ……。

 

 私がタズナさんと町の方面まで来ると、町の異様な雰囲気に気がつく。私よりも小さな子供たちが道にうずくまって、泣いているし……。大人の人たちも何だか皆目に生気を感じない。

 

 ドロボーと叫ぶ人や、それを気にも留めない通行人たち。木ノ葉の里とは全然違う雰囲気にこの波の国の現状が身に染みてわかってしまう。

 

「帰りに昼飯を材料を頼まれとったからな……」

 

 タズナさんがそう言って八百屋に入っていく。私も着いて入るけど、八百屋なのに殆ど食品は置いてなかった。それでもタズナさんが材料を買うため食品を見ていると、ふと私のお尻付近に気配を感じる……!

 

 

「キャー! チカーン!!」

 

 ドゴぉっ……

 

~~~~~~

 

「いやーさっきは超びっくりしたぞい」

 

 さっきのは痴漢じゃなくて私のポーチを狙った泥棒の気配だった……。びっくりして蹴り倒しちゃったけど……

 

「いったいこの町どーなってんの?」

 

 そうやって私が訝しんでいると、小ちゃい子供が私の服の裾を引っ張る。さっきのこともあって一瞬足に力をこめちゃったけど、待ち合わせの飴をあげてごまかしておいた。

 

 その子は飴を受け取ると笑顔で走っていき、他の子供達が集まっている集団で飴を分け始める。その集まりの中には若い男性の人がいて、草笛を子供達と吹いている。……その男性だけ吹けてないから子供達にやり方を教わっているようね。草笛を吹いていた男性が子どもたちにお駄賃を渡しているのが目に映る。理由をつけてお駄賃を渡したいだけの人のようね、優しい人だ。

 

「ああいう、明るく振る舞える兄ちゃんみたいな奴は大抵他の国の人間だ。……ここの大人たちはみんなふ抜けになっちまった。だからこそ、あの橋を完成させ勇気を示さないかん。勇気の象徴として、この国の人々に逃げない精神を取り戻させるために……橋さえ……」

 

 タズナさん……。私はとにかく目的とかなくて、なんとなくで忍者になったけど……サスケ君や悟、あのナルトにだって明確にやりたいことが、なりたい自分があるのよね。私もイノと……対等でいたい……。それにこの国の状態を知ってだまってることもしたくない……!

 

「タズナさん!」

 

「どうした嬢ちゃん?」

 

「絶対、タズナさんや橋の職人の皆さんは私たちが守って見せます!」

 

「ふ……超ありがてぇえなあ。よっし小僧たちも腹を空かせてるだろうし、さっさと戻るか」

 

「はい!」

 

 誰かのために、なんてちょっとクサいかもしれないけど……頑張らなくちゃ……!

 

 

~~~~~~

 

 タズナさんの家に着くと既にいい匂いが私の鼻に届く。修行で疲れてるし、お腹が刺激されるわ~、ダイエットとか言ってられないわね……。

 

 多分タズナさんの娘のツナミさんが料理の準備を進めていると思って仕事の汚れを落とすために離れるタズナさんから昼食用の食材を受け取って台所まで足を運ぶ。

 

「ツナミさん、昼食の食材を……って悟? あんたなんで台所に?」

 

「ああ……サクラか……。いやあ、修行ついでに魚を何匹かひっ捕らえてきたから、掌仙術で鮮度を保ちつつ昼食の準備を手伝わせてもらってるんだ」

 

「へえ~、料理できるんだあ、意外ね」

 

「まあ、人並みにね」

 

 そう思ってちらっと様子を伺うと十数匹の魚を捌いたり、フライにしたりしているようでつい私のお腹が鳴ってしまう。

 

「っ!」

 

「ははは、ちょっとまってて。 受け取った食材をみそ汁に入れて、他に炒めておかずが出来たらすぐに食べれるから」

 

 疲れてるのか悟は少し無理した感じで笑って作業を再開した。……恥ずかしいわね、大人しく食器の準備でもして待ってよっと。

 

 

~~~~~~

 

 その後バテバテになったナルトと、びしょ濡れで松葉つえを突くカカシ先生の背中に乗ったサスケ君が戻ってきて昼食を皆で食べ始める。 相変わらず悟は仮面を着けたまま食事をしてるし、カカシ先生も気がついたらご飯を食べ終えて手を合わせてるし……。顔隠す人って変なのしかいないのかしら。

 

 まあ味はとてもおいしかった。ツナミさんも普段は自分一人で料理してるから、悟と一緒に作れて楽しいとも言ってたし。私は悟のことまだよく知らないけど、悪い奴ではないってことはなんとなくわかるわ。でもタズナさんに急に文句を言ったりもしてたし、よくわからないのよねぇ。

 

 途中サスケ君とナルトがご飯を一気に口の中にかきこんで、おかわりをしようとしたときに嗚咽をして吐きそうになったりしたけど、悟が二人の口を塞いで無理やり飲み込ませてたりもしたわね。

 

「料理を粗末にするなんて許さんぞぉぉぉ……」

 

 て言ってたわ。うちのお母さんみたいなこというなって思った……。涙目になりながらも二人とも頑張って飲み込んでたのは印象深かったわ。

 

 食事も終えて悟が食器を纏めて洗い場に持って行って、食後にお茶で皆が一息ついているときに私がふと気がついたことを口にする。

 

「あの~なんで破れた写真なんか飾ってるんですか?」

 

 その後のことは……正直言って私も安易に聞いたのは迂闊だったと反省したわ。

 

 タズナさんが破れた部分に映っていたイナリ君の義理の父親、『カイザ』さんについて話してくれた。勇気があって、色々な人と助け合っていたって……イナリ君も相当慕っていたって。でもそんな人がガトーのせいで犠牲になって……。それでこの国の人々はガトーに屈するようになった。

 

 ガトーに公開処刑されたカイザさんは、国を、皆を、その勇気で繋いでいた両腕を見せしめで切り落とされたって……。だからイナリ君は、英雄だったお父さんが殺されたショックで、あんなに諦めたようなふうに……。ふと気がつくと悟も戻ってきて柱に背を預けて腕組みをして話を聞いていた。仮面の小さいのぞき穴から見える緑の目が、何だか葛藤しているようにも……見えた気がする……かも?

 

 するとナルトがいきなり席から立ち上がり外に出ようとしてこける。修行で疲れてて足もおぼつかないのに。

 

 私は少しびっくりして

 

「何やってんのナルト……」

 

 って言う。 

 

 カカシ先生はナルトの意図を汲んで

 

「修行ならもうやめとけ。チャクラの練りすぎでこれ以上動くと死ぬぞ」

 

 って忠告する。けど

 

「っ証明してやる……イナリに……この俺が……この世に英雄(ヒーロー)がいるってことを証明してやる!!」

 

 そういってナルトは出ていった。……ちょっとクサい……けどカッコイイわね。悟も息を吐くとナルトに着いていったわ。サスケ君もカカシ先生を無理やり立たせて橋まで同行させようとする。なら……私も

 

「私もまだまだ頑張らなくちゃ! 先生早く橋まで行きましょうよ、修行つけてください!」

 

 そういってカカシ先生の手を引っ張る。……頑張らなくちゃ!

 

 困ったように笑うカカシ先生はそれでも、「無茶するなよ?」と言って修行につき合ってくれた。

 

 

 




次回キャラ設定でかなりの原作改変があります。内容が内容だけに先に謝っておきます、すみません……。


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38:波が運ぶは人か感情か~その4~

一部の白のファンの方達に殺される覚悟。


〈黙雷悟〉

 

 修行を開始して6日目の朝。ここ数日、やる気満々のナルトに釣られて俺本体もチャクラの続く限りナルトの修行に付き合っていた。

 

 本体の俺がつきっきりで修行を見てアドバイスを都度していたおかげで、今朝やっとのことでナルトも木の頂点まで足だけで登ることが出来る様になった。

 

 原作よりも彼らが成長していることは嬉しく思うが……。いつかのミズキが起こした事件、あれは原作よりも遥かに危険なものになっていた。あの時は俺が居たから何とかナルトを助けることが出来た。だが、今の俺は戦うこと自体ができるのか、正直わからない。

 

 敵を殺す覚悟……か。あの時から「もう1人」の俺は語りかけてこない。アイツがどういう存在なのかも気になるが、俺に覚悟が無いことで周囲を危険に晒す可能性の方が今は問題だ。

 

 なんてことを修行に疲れ地面で仰向けに寝ているナルトを木を背にして座りながら見て、考えていた。……敵だから殺す? 任務の障害になるから殺す? 里に危険を及ぼすから殺す? 多分そういう『区切り』を自分の中に設けることが必要なんだと思うが……。何を殺して、何を殺さないのか。俺はどういう立場で決断するべきなのか。

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

(……うん?)

 

 ふと気がつけば、どうやら疲れから寝てしまっていたらしく目を覚ますと目の前で誰かが会話をしているようだった。とりあえず寝たふりを続けて会話を聞くことにしよう。

 

 

「……それは誰かのためですか? それとも自分のためですか?」

 

「……は?」

 

 

 

 

「君には大切な人がいますか?…………人は大切な何かを守りたいと思った時に本当に強くなれる(・・・・・)ものなんです」

 

「……うん! それは俺もよくわかってるってばよ」

 

 

「君は強くなる……また、どこかで会いましょう」

 

「うん!」

 

 

 ……うっかりしていた。いや正確には覚えていなかったというべきだけど。白とナルトの会話を聞き、自分たちがあまりにも無防備だったことを後悔した。白からしたら俺たちが再不斬と敵対するものだと分かっていたはずなのに……なぜ殺さなかった?

 

 いや、自分は、俺はわかってるはずだ。白は……誰かを殺せないことを。殺せないぐらい優しいやつだということを。漫画ではサスケも殺せたのに殺さなかった。今も、俺たちを殺さなかった。そしてナルトに……大切なことを伝えた。

 

 彼が良い奴だから、それを知っていたから俺は……。どんどん根深くなる思考からナルトが声をかけてくれることで一端抜け出すことが出来た。

 

「お~い、悟ってば。こんなとこで寝てっと風邪ひくってばよ」

 

 ペシペシと頭を叩いてくるナルトの手を掴み、言葉で返す。

 

「もう起きた、寝てたのはお互い様だろ」

 

「そういえばさっきな! サクラちゃんよりも美人な姉ちゃんがいてな!」

 

「はいはい、今日はいったん帰って休憩な。話は帰りながら聞くから」

 

 そうして俺はナルトが美人と薬草摘みをした自慢話を聞きながらタズナさんの家へと戻った。……ナルトは白が女だと勘違いしたままだ。原作だと何時男だと気づいていたっけ? もう漫画を読んでいたのも十数年前なんだよなぁ……おぼろげで細かい所は覚えていられないな。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 タズナさんの家に戻りナルトは朝食をがつがつと食べていた。そこで俺は自身の修行の進捗を確認するため、改めて一人で森の中へと戻る。

 

 初めに慈善行為をする男、に変化して町の子どもたちに教わった草笛の出来について。ここ毎日とはいかないが数日練習したおかげか、ついには遠くまで響く音色を奏でることが出来るようになった。これで「魔幻・草笛の音」を安定して使うことが出来る。音を聞いた者の認知をいじくれる術だ、かなり便利だがこれ単体では余程リラックスしていて気を抜いている相手にしか幻術をかけられない。警戒状態の相手を油断させる方法、そこは要検討だな。

 

 続いて、掌仙術。医療忍術の基礎である、傷んだ組織の修繕をここ毎日自分で捕まえた魚の鮮度を保つようにすることで練習を重ねた。正直重症には焼け石に水状態だが、多少の応急処置程度にはなるだろう。Dランクの任務で稼いだ金で買った応急処置キットもあるからよっぽどの大怪我でなければなんとかなる……はず。正直自信はない。

 

 最後に、チャクラコントロールを……というより雷遁チャクラモードについて。ここ数日、ひたすら使い続けて並行で別の雷遁の術も修行したおかげで随分と扱いに慣れはしたが……まだ俺が望むまでの状態にはなっていない。それでも下忍と言う立場からしたら過ぎた力だろうけど。

 

 ……あとは心の問題か。明日の修行はやめておこうかな。明後日来るはずの再不斬たちに備えて英気を養おう。

 

 

 俺はどうすればいいんだろう。マリエさんに泣きつきたいくらい正直参ってるし、何だったら逃げ出したい思いもないことはない。昔、3歳くらいの時に目標としていた、「一人で生きる」にはもう十分な力を持っている。

 

 「世界をより良くする」目標は……漠然としている。何となくじゃ駄目だ。この世界で、かつて多くの人が平和を目指してきたはずだ。それでも争いはなくなっていない。だからこそブレない忍道(・・・・・・)が必要なのかもしれない。ナルトのように諦めないど根性のような、自分の核となる信念が。

 

 

 

~~~~~~

 

 翌日7日目の昼頃、俺はカカシ班から離れ単独行動をしていた。カカシ班は橋での水面歩行の行の修行を最後まで行うようだ。と言ってもサクラとサスケはもう走れるぐらいまでにチャクラコントロールを高めている様だ。もっぱらの目的はナルトの水面歩行の行の修行を見ることなんだろう。

 

 俺はカカシさんに許可を取り改めて、町の散策に出ていた。仮面は外して腰布の額当てもポーチにしまいタズナさんの家に置いてきた。今は一般人として町の様子を伺う。この勇気の消えた町で、色々な人の話を聞いて回った。

 

 ガトーに身内を連れ去られた者。事業を潰された者。不当な値段での商談などなど。多くの理不尽を聞いた。タズナさんの橋を疎ましく思う人もいれば、逆に希望だという人もいる。

 

 ……橋の完成まであと少しだ。少なくともこの「希望」を絶やすことだけはしないようにしなければ。

 

 

~~~~~~

 

 散策を終えた俺は町はずれの山奥へと来ていた。何でかというと、町で聞いた情報の中にあった「山奥の秘湯」を目指しているからだ。湯の国・湯隠れの温泉に引けを取らないほどの名湯「だった」らしい。何でも湧き出る源泉を呑めばたちまち不老長寿云々……なんてことを懐かしむように町の人は語っていた。

 

 均されたであろう跡が見える土の道を辿るが、それは途中で消える。町からかなり離れているのにも関わらず、道の途切れた場所に看板が立てかけてある。

 

「この先ガトーカンパニーの所有地につき無断での立ち入りを禁ずる、ねえ……。こんな辺境にある人々の娯楽まで奪うなんてガトーは心底嫌な奴だな」

 

 少し募った怒りを看板に蹴りでぶつける。木っ端みじんにしてスッキリした。どうせ、看板の劣化具合から見て管理なんてしていないのだろう。それでもそんな建前の看板だけで町の人たちは怯えて温泉に行けなくなっていたのだ。……ムカつくなぁ。

 

 その看板があった場所からさらに歩くと、木造の小屋が見える。随分とボロボロだ。やはり管理などされていないようだ。脱衣所として簡易的に設置された小屋に入ると埃が舞う。これから風呂に入るのに出てまだ汚れるのは嫌だな。

 

 

「軽く掃除でもするかな。影分身っと」

 

…………

 

……

 

 

 荒れた小屋を片付け、脱衣所として最低限使えるようにした。服が埃まみれになったが、しょうがない。外で軽く叩いて埃を落とす。ふと空を見上げれば満天の星空が目に入る。

 

 脱衣所で脱衣して、湯船へと向かう。向かうと言っても引き戸は壊れているので、無理やり開け閉めするしかないのでギシギシとうるさく風情がない。本来なら温泉の周りにも竹柵があったようだが、バラバラになってもはや壁何て何もなかった。実際、遠目から見て小屋と温泉がセットで視界に入っていたしな。

 

 「わざわざ小屋で服脱がなくても良かったかもなあ。まあでも性分だししかたない。野外ですっぽんぽんになるのは気が引けるからなあ」

 

 誰が聞くわけでもない独り言を呟きながら、温泉へと浸かる。

 

 「ばあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁ~~~。染みる~~~♪」

 

 マヌケな声を響かせて湯に体を沈める。少し熱いが我慢できないほどの温度ではない。ガチ天然温泉に近いのにこの心温まる感じは、前世で家族で行った旅行で入った銭湯を思い出す。

 

 …………

 

 ちょっと昔を思い出して、しんみりしてしまった。そうなんだよなあ、俺って一度死んでるんだよなあ……。

 

 

 夜空を見上げて、星を数える。元の世界とは多分、見てる空も違うんだろう。良く「離れていても空は繋がっている」なんてドラマとかで言ってたけど、俺の状況だとガチで違う空見上げてるんだよなあ。

 

 少し寂しさを覚え、前世での思い出をひとつひとつ思い出しながらしんみりとしていると、ふと気配を感じる。

 

 それも脱衣所の小屋の中からだ。

 

 ってうかつにもほどがあるだろう、俺!! しんみりして警戒を怠りすぎて物音を聞くまで気がつかないなんて。とりあえず落ち着き小屋から一番離れた位置へと移動する。気配を消せば湯気で俺のことが見えないはz

 

 

「……あれ、服がある……。誰かいるのかな」

 

 脱衣所からそう声が聞こえた……そうだった。ご丁寧に服を脱衣所に置いていました。俺がいることがばれました。 バカっ! 俺! 全然落ち着けてないっ!

 

 えーと、まず相手の予測だ。声の感じからして、女性だと思われる。殺気なども感じないし、穏やかな雰囲気だから荒事には発展しなさそう……いやこれ、入ってこられたら普通に困るな。

 

 どうしようか……どうしよう……あああああああ。

 

「えーとすみません。誰かいますか?」

 

 ……小屋の扉越しに声をかけられる。どうしよう、真っ裸で逃げるわけにも行かないし。幸い忍具一式は置いてきたから、忍者だとはバレていないようだが。返事を返さないわけにもいかない。

 

 

「っ……あ~はい。入ってま~す……」

 

 

 俺のマヌケな声が響き、少し沈黙が流れる。あれ? 脱衣所で脱衣する気配が……。

 

 ギシッと引き戸が動く。

 

「っと、立て付けが悪いんですね。すみません、あとから失礼しますね」

 

 姿を見るわけにはいかないと視線を横に向ける。前にもこんなことがあった気が……。

 

 相手はそのまま温泉に浸かったようで波が伝わる。湯気越しにシルエットも何となく見えた。ってなんで入ってきた、アイアム男だよ!!!!????

 

 っと学習しろ黙雷悟。俺は男だけど、声はどちらかと言えば女よりだ、つまり。

 

(女だと勘違いされた……のか? こんなんばっかだなオイっ!!)

 

 ふうっと相手の一息つく声が聞こえて少し焦る。艶めかしい。じゃなくて。少し冷静になれ。こんな辺境、しかもガトーの土地に来るなんてまず普通の人間じゃない。そしてそれは俺も同じだ。相手は何で警戒もせずに……。

 

 突然夜風がびゅうっと吹く。すると温泉の湯気が飛び、湯船から顔を出す俺と相手の目線が不意に交わる。

 

 

 

 

 

(……白?!)

 

 

 

 

 相手の顔を認識して、驚愕する俺。同じ湯船に浸かる相手は昨日ナルトと薬草を摘んでいたあの「白」だったのだ。

 

 混乱もするし、びっくりもしたが顔には出さない。今は仮面を着けていないのだ。表情から何かを悟られるわけには……

 

「あの~僕の顔を見つめてどうかしましたか?」

 

 ……表情は変えなかったけど目線を切ってなかった。

 

「えっと、その~随分と綺麗な方だなあ~なんて、えへへ」

 

 照れた笑みを浮かべて、そう切り返す。本心だ。じゃなくて噓をつくときは本当のことも混ぜるとよいのは常識だ。……つまり、見惚れるぐらい白の顔は美しかった。昨日ちらっと見ただけではわからないほど綺麗だった。……これで男か……何かいけない気持ちがこみ上げてきそうで別の意味で怖い。

 

「ふふふ、ありがとうございます。貴方も整った顔立ちですね。……貴方はどういった経緯でこちらに?」

 

 混乱と油断でごちゃまぜの俺に不意に白が探りを入れてくる。当たり前の行動だ。相手がまじめに来てくれたことと、男相手だということで若干気持ちを持ち直す俺。

 

「私は、この木ノ葉隠れの孤児院の者です。今は休暇を頂いて、こうやって温泉を巡っているんです。ふもとの町で秘湯があると聞いたのでつい、入ってはいけない場所と聞いていたのですが……」

 

 にこっと笑顔で答える。この世界では十数歳で職に就くことは珍しくない。俺は施設の職員というロールを演じることにした。

 

「そうですか……。ちなみに僕は霧隠れの忍びです」

 

「えっ!?」

 

 さらっと白は自分が忍者であると明かした。素でびっくりした。いや白は正確には忍びではなかったはずだが……そこは突っ込まないでおこう。

 

「びっくりさせてすみません。ですが安心してください。何かしようという訳ではないです。ただ、少し気を緩めたかったのでここに来ただけですから貴方には危害を加えませんよ」

 

 白はふふふ、と笑って話を流す。

 

「はっはは……、そうですか。驚きましたよ……」

 

「一応貴方があまりにも無警戒だったので、釘を刺しておこうと思いましたので。一人でこんな辺境に来ては危ないですよ」

 

「っ……すみません」

 

 白は俺の心配をしてくれているようだ。まあ、確かに不用心にもほどがある。反省しよう。

 

「そういえば、え~と忍者さんはどうしてこちらに? 霧隠れの方がわざわざ波の国なんて」

 

「僕のことは白雪(しらゆき)とでも呼んでください。ちょっとした任務ですよ。もちろん内容は言えませんが」

 

 ははは、そりゃそうだ。

 

「私は……悟っていいます。自分は一人で観光を兼ねて旅をしていますが、白雪さんはお一人でこちらに?」

 

「いえ、上司と共に来ています。明日ぐらいに少し“事”が起きるのでリラックスしたくてここに来たんですよ。まさか先客がいるとは思いませんでしたが」

 

「リラックス、ですか……。忍者のお仕事はその~大変ですよね~? え~と……」

 

「そうですね。僕は忍びとしてまだまだ自分は未熟だとは思っていますが、けれどそれも仕事ですから」

 

 にこっと微笑む白。

 

(…………)

 

「仕事……でも嫌になりませんか? その、命のやり取りって」

 

 俺は思ったことを素直に聞いた。少し不自然だが気になってしまったのだ、白の心の内が。

 

「……僕は未熟で確かに誰かの命を奪うことに抵抗がないとは言えませんが、それでも僕はやります。だって……

 

 

 

 

それが僕のしたいこと(・・・・・)ですから」

 

 白は真剣な表情になる。

 

「抵抗があるのにしたいこと、ですか?」

 

「ええ、僕は“忍び”であること。さっき言った上司の役に立ちたいと思う気持ちがあるからこそ、頑張れるんです。……たとえそれが一方的な感情だとしても、僕がしたいことなんです。それをわざわざ自分が制限する必要なんてないじゃないですか」

 

 自分がしたいこと……を制限しない、か。俺は……。

 

「悟さんは何か悩みでもありますか? 良ければ聞きますよ、一期一会といいますし」

 

「……そうですね、大丈夫です。忍びの白雪さん相手にする相談何て恐れ多いですよwww ……そう、私は大丈夫です」

 

 

 

 やるべき(・・・・)こと。じゃない、したいことをする……か。

 

 

「僕は孤児院での仕事も立派だと思いますけどね。さてと……僕はそろそろ上がりますね。そういえばここの湯の源泉は飲めば体調が良くなるそうですよ。僕の目的の一つでもあるんですけどね」

 

「へ~そうなんですか、なら私も汲んでいきましょうかね。ちょっとした手土産に」

 

 二人して同時に温泉から立ち上がる。

 

 はあ~、色々緊張したけどなんとかやり過ごせそうで良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ!?」

 

 

 白が驚愕の声を上げる。

 

「ん? どうかしましたか、しら……ゆ……き…………さ……」

 

 立ち上がり、俺の方を見て目を見開く白。そして俺の視界にも白が映る。

 

 

 

 

 

 

「…………上があって、下がない」

 

 俺の口から無感情に言葉が漏れる。

 

「…………上が平ぺったくて、下に付いてる」

 

 白も言葉を漏らす。

 

 同時に二人して静かに湯船に浸かりなおす。

 

 重い沈黙が流れる。

 

 

 

 何がとは言わないがナニがない。そして恐らく白の方は「ナニがあって」驚いている……のか。

 

 

「悟さんって」「白雪さんって」

 

 

 

 

「男だったんですか」「女性なんですか」

 

 

~~~~~~

<三人称>

 

 

 夜、静けさの中夕食を取り終えたカカシは夜風にあたっていた。途中イナリとナルトがひと悶着あったが、カカシは家を飛び出ていったイナリにナルトのことを伝えることで「強さ」について語りナルトの胸中をイナリへと話した。その後イナリが家に戻った後、カカシは一人夜の海を眺めていた。

 

「あいつはもう、泣き飽きている。ねえ」

 

 それは確かにナルトのことであるが、同時にカカシ自身のことでもあるのかもしれない。ナルトがイナリを放っておけないように、カカシ自身もタズナ達を見捨てることが出来ないのだ。

 

「悟のこと甘いって思ってたけど。人のこと言えないかな~ってそういえば。悟の奴、夕食にも顔出さないで何やってんだろうかねェ」

 

「……何やってるというかナニがなかったというか」

 

 ボソッとカカシは不意に後ろから声をかけられ、少し驚いて振り向く。そこにはいつも通り仮面を被った悟がいた。心なしかテンションが低いようだが。

 

「どしたのよ? 休息のために自由行動許可したのにそんなに疲れた雰囲気だしちゃって。って何この瓶」

 

 悟は無言で水の入った瓶をカカシに手渡す。

 

「え~と、説明してよ悟」

 

「体にいい温泉です……。飲むといいらしいです……それじゃあ、俺はもう寝ます……」

 

 ふら~と悟はタズナの家の方へと消える。

 

「変なの……まあとりあえず、飲むか……」

 

 静けさに波が響く。微かな水を飲む音をかき消すように。

 

 

~~~~~~

 

 

「どうした白。遅かったな、何かあったか」

 

 ぼ~とした様子の白がアジトに戻ってきたため、念のため声をかける再不斬。

 

「……ナニはありました」

 

「あ? 何か言ったか?」

 

「いえなんでもありません再不斬さん。体に効く飲泉できる水です。こちらを飲んで明日に備えましょう」

 

 少し不審に思う再不斬だが、深く追求するのもめんどくさくなりそうだと感じ放っておくことにしたのであった。

 

 

 

 




白女体化。「化」というよりこの世界では元から女性だったという設定。


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39:己の道

<黙雷悟>

 

 0と1の差は大きい。それは誰もが知る真理だと僕は思う。こんな僕でも1を得たことで出来ることは多くなり、役に立つことが出来るようになった。……随分と時間が経っていたけれど。

 

 僕の場合はそう、いつも1が欲しい時には全ては手遅れな状態だった。何度も何度も届かぬその1。()はそんな1を早くも得ようとしている。

 

 ……煽った手前、彼には心労をかけていることは何となく理解できる。心の内を完全に覗くことは出来なくても、同じ精神世界を共有する者同士だ。

 

 だからといって僕は手段を選ばない。例えどんな手段を使おうとも、「運命をネジ曲げる」 それが僕の忍道でありここにいる意味、やるべきことであると、そう思っている。

 

 

 あとどれだけ、僕はこの世界にいられるのだろうか。

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

 

 運命というのは決まっている。なんて言葉はよく言われていて、多くの人が何となくで理解していることだ。基本的に未来なんてものは誰にもわからないからしょうがない。……心配性な俺は運命という言葉を前世では妄信していたかもしれない。「そういう運命だったから仕方ない」っと。

 

 ならもしも、未来を知っている人間が事象を変えたら? そのことも運命(・・)の範疇になるのか?

 

 ……俺はそうは思わない。つまり今世の俺からしたら運命というものは歩いてきた「道」を示す言葉に過ぎないのだ。

 

 それに俺が知っている運命という奴はあまりに不確かなようで。男が女だったり、悪い奴が多かったりで混乱させられる困ったものだ。

 

 そんな決まっていたはずの運命をより良いものにしたいと、するべきだと俺は使命感を持っていた。他人よりも優れた能力を授かり、恵まれた環境で、親同然の人に見守られて。

 

 そのことが悪いとは思わない。でもどこかで俺はやらされている(・・・・・・・)という感覚があったのだろう。それこそそういう「運命」なんだとその感覚に名前をつけて。

 

 だからこそ白の言うことは俺の柔い使命感を打ち砕いた。再不斬のためを思い、ひたすら道具であろうとする。強制されたわけでもない。いや強制なんてされていないからこそ彼……じゃないな。彼女は強いんだ。

 

 したいことをする。物事を良くするために俺は「結果」だけを追い求めていたのかもしれない。未来を知る俺がやるべきことだと。だからこそ「殺人」という障害を前に怯んでしまった。自分というものが希薄だったからか、「過程」を疎かにしていたからだろう。

 

 

 ……もう俺の答えは、出た。           

 

 

 

 そうだ、俺の……俺の忍道は……。

 

 

 

~~~~~~

<三人称>

 

「クククッ、カカシィ! もっと俺を楽しませてくれよォ! 借りは楽しく返したいんでなあ。 心配しなくてもあのスカしたガキと金髪小僧は白がすぐにでも殺す。お前はその術が使えない(・・・・・・・)ガキと一緒に俺が殺してやる。せいぜいあの世で己の力のなさと無力なガキどもを恨むんだな」

 

 再不斬は自身の優勢にひどく機嫌を良くしている。手ごまの白も優位なのも一因なのだろう。タズナとサクラと悟、カカシには守るものが多すぎた。それがカカシに手傷を負わせる要因となっている。

 

「助けたいと思う感情がお前の頭に血を昇らせたようだなァ」

 

 再不斬の指摘にカカシは無言で睨みつけることしかできない。霧隠の術で再不斬の動きを正確にとらえることが出来ないでいるからだ。

 

 大橋を覆う霧の中、カカシ班と再不斬たちの戦いはカカシ班の劣勢で事が進んでいた。その状況にカカシは心の中で弱音を吐く。

 

(クソッ……思っていたより再不斬の動きが良い。少し前まで仮死状態だったとは到底思えないな……。悟もまだ術が使えない状態で援護は期待できない)

 

 黙雷悟は開戦時に、前回と同じように術を行使しようとしたが何も起きず、再不斬の水分身は成長したサスケが一掃していた。

 

 しかしそんな劣勢であろうとそれでもカカシは次の手を出そうとする。コピーではない己自身の術を。

 

 だがその瞬間、辺り一帯を禍々しいチャクラが覆う。それを再不斬は不審に思い、カカシはナルトの九尾の封印が解けかけていることを危惧する。

 

 タズナの前でサクラと並び立ち鉄棒を一つ構えた悟は警戒度を高める。

 

(そろそろか……)

 

 悟はチャクラを練る。静かに、誰にも悟られないように。

 

 一方でカカシの血の匂いを頼りに「土遁・追牙の術」が再不斬を拘束する。

 

「ガトーのような害虫にお前が与したのも、全ては霧隠への報復のためか……。自里へのクーデターの件といいお前は危険すぎる。お前の野望は多くの人を犠牲にする。そういうのは忍びのすることじゃあないんだよ」

 

「知るかそんなこと、俺は俺の理想のために闘ってきた。そしてそれは! これからも変わらん!!!」

 

 再不斬の叫びにカカシは冷徹に言い放つ。

 

「お前の未来は死だ……!」

 

 カカシは手に纏わせた雷のチャクラを昂らせる。そして

 

「雷切!!」

 

 再不斬に止めの一撃を放とうとする。しかしその瞬間、カカシの写輪眼が、再不斬の後方に人影を見せる。再不斬が弱り、霧が薄くなったことも要因だろうか。その人影はナルト達と変わらない歳の見た目で目の下に特徴的な紫の忍び化粧をしていた。

 

 その姿を視認したカカシは大きく動揺する。その姿はまさしく「のはらリン」であったからだ。かつてカカシがその手で命を終わらせた仲間の姿が確かにカカシの視界に映った。しかしそれでもカカシは動きを止めず、再不斬へと突っ込む。

 

「……笛の音?」

 

 一瞬少し離れた位置でタズナを護衛するサクラがそう呟いた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カカシの雷切が白を貫いた。再不斬との間に割って入った白は、雷切を喰らいながらもカカシの腕を掴み、動きを拘束する。

 

「ゴフッ……ざ、再不斬……さん……」

 

 血を吐きながらも、白は再不斬を守れたことを安堵する。

 

「俺様の未来が死だと……はずれだなカカシ。クク……見事だ……白」

 

 カカシは手に伝わる感覚を認知する。

 

(! もう……この子は死んでいる……)

 

 白がカカシの口寄せの巻物を千本で貫いていたおかげで、再不斬を拘束する忍犬による土遁・追牙の術が解かれる。そして

 

「まったく俺はよくよくいい拾い物をしたもんだ。最後の最後でこんな好機を与えてくれるとは!!」

 

(この子ごと俺を斬るつもりか!!)

 

 再不斬の大振りな一太刀がカカシを襲う。しかしカカシは白を抱え後方に飛びのくことが出来たことでそれを回避をする。

 

「クク……白が死んで動けたか」

 

 その様子を見ていたナルトの怒りが周囲を覆いそうになるが

 

「ナルト……お前はそこで見てるんだ……。こいつは俺の戦いだ!」

 

 カカシは白の目を閉じ、ナルトを諫める。そして再び再不斬と接近戦を開始する。すでに霧は晴れていた。

 

 そしてナルトに気がついたサクラがナルトに声をかける。

 

「ナルト! 無事だったのね! あれ……サスケ君は?」

 

「っ! ……」

 

 ナルトの反応にサクラは不安を煽られる。

 

「嬢ちゃん、ワシも行こう。そうすれば先生の言いつけを破ったことにはならんじゃろ」

 

「……うん」

 

 サクラはタズナと共に離れた位置にいるサスケの元へと向かう。サスケを失ったと思う悔しさと無力さに唇をかみしめるナルトはふと気がつく。

 

「あれ……悟はどこ行ってんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~

<黙雷悟>

 

 

 カカシさんと再不斬の戦いは一方的だった。

 

「どうしてだ……なぜ……ついていけない……クソォ!!」

 

「今のお前では俺には勝てないよ……お前は自分の変化に気づいていない。これでさよならだ鬼人よ!」

 

 カカシさんの狙いすましたクナイによる一撃を再不斬は辛うじて反撃をしてそらすが腕を負傷し、両腕が使い物にならなくなる。

 

 そしてその瞬間追い詰められた再不斬を笑う存在が姿を現す。……霧が晴れた時点で俺にはチャクラ感知で奴ら(・・・)の存在は筒抜けだったが、随分と多いな。それに一部は忍びだろうかチャクラが他のごろつき共よりも大きい。

 

「おーおーハデにやられてェ……がっかりだよ、再不斬」

 

 

 此度の黒幕、ガトーがふてぶしく姿を現す。大勢の部下を従えているためか、一切の緊張も感じられない立ち姿は憎らしい。

 

 その姿を確認した再不斬は傷に苦しみながらも、疑問を口にする。

 

「ガトー……どうしてお前がここに……それに何だその部下共は……」

 

 その疑問を嘲笑うかのようにガトーが答える。

 

 初めから再不斬もろとも、橋に関わる関係者を皆殺しにつもりであったこと。抜け忍を裏切ろうが世間体に傷はつかない。そして金もかからないと。

 

「誤算といえばそうだな、再不斬。お前がただのかわいい小鬼ちゃんだったことだ。霧隠の鬼人が聞いてあきれる」

 

 木ノ葉の忍びが未だに健在なのを言いたいのだろうが……カカシさんをここまで追いつめているのだ。ガトーはどうやら商才はあるようだが、人を見る目はないようだな。

 

 一連の出来事を理解した再不斬は

 

「カカシ……すまないな、戦いはここまでだ」

 

 カカシ班との停戦を呼びかけ

 

「ああ……」

 

 カカシさんもそれを承諾する。既に再不斬と敵対する理由はないからな。

 

「そういえばこのガキ、こいつには借りがあったな。私の腕を折ってくれたがねぇ……ちぃ……死んじゃってるよコイツ。女だから利用価値はいくらでもあったのにねェ……」

 

 ガトーは白に近づき、その顔を蹴り侮辱する。

 

 ナルトがその行動に激高するが、カカシさんがそれを落ち着かせる。それでもナルトはその怒りを再不斬へとぶつける。

 

「お前も何とか言えよ!! 仲間だったんだろ!!!」

 

「黙れ小僧、白はもう……死んだ」

 

 再不斬は非情にそう告げる。それでも納得しないナルトは再不斬へ言寄る。

 

 

「あいつは……白は!! お前のことがホントに好きだったんだぞ! それなのにそんなっ! お前のために命を捨てたあいつをそんな非情に、なんとも思わねのかよォ!? お前みたいに強くなったらホントにそうなっちまのかよォ!? 自分の夢も見れねーで……道具として死ぬなんて……そんなの……」

 

 

「……小僧」

 

 

 再不斬の声色が変わる。

 

「それ以上は……何も……言うな」

 

 鬼人は涙を流していた。

 

「白は……優しすぎた。俺だけじゃなくお前らのことも闘いながら思っていたと、俺にはわかる……。最後に……お前らとやれて良かった。忍びも人間だ、感情のない道具にはなりえない……。小僧お前の言う通りだった……」

 

 鬼人も人だった。改めてそれを確認した俺は安堵する。俺の覚悟が間違っていなかったと。

 

「小僧クナイを貸せ!」

 

「え……あ、うん」

 

 ナルトが再不斬へとクナイを投げ渡すが。

 

 

 

 

 幻術を解きながら(・・・・・・・・)それを俺が奪い取る。

 

 

 

「な!? 悟、いつのまに!」

 

 

 ナルトが驚愕する。まあ、俺の姿を認知出来ていなかったから、虚空から急に姿を現してクナイをキャッチしたように見えただろうからな。

 

「仮面の……てめえどういうつもりだ!」

 

 再不斬が抗議をしてくるが、俺は片手に抱えた白(・・・・・・)を地面に降ろしながら答える。

 

「どう……というとそうだな。己の定めた忍道を貫くつもりだ」

 

 俺は静かにそう答えガトーらに振り返り、目線を向ける。

 

 殺気(・・)を感じたガトーはすぐに部下たちの中へと逃げていく。

 

 一連の流れから白を見たカカシさんは驚きを露にする。

 

「悟……その子……生きているのか!?」

 

 その言葉に再不斬とナルトが急いで白の元へ駆け寄る。そう……白は死んでいない。

 

「ええ……魔幻・草笛の音……この幻術で、音を聞いた者にある認知を刷り込ませたんです。『白は致命傷を負って即死』したと」

 

「何……?」  

 

 再不斬が何のためだと表情で語ってくる。俺は先頭に立ちガトーたちを威圧しながらその疑問の表情に答える。

 

「実際はカカシさんにも幻術をかけて、少し雷切の当たる位置を下げさせて致命傷を避けた。そしてカカシさんが白を降ろした後 幻術で姿を消した俺が白を回収して橋の隅で姿を消しながら医療忍術と道具を使って一命取りとめていたってわけです。因みにガトーが蹴った白は幻術だから安心して。橋の下にガトーらがいるのはわかってから一緒に幻術にはめておいて良かった。見てて胸糞悪かったけど」

 

「ちげえ! 俺はそれをした理由が!」

「只、俺がそうしたい(・・・・・)と思ったから、それだけだ。つまりはそうだな……」

 

 

 強く、そう答える。

 

 

 

 

 

 

 

『君は……一体何を……』

 

 一連の流れを見ていた、精神世界のもう一人の俺が困惑している。

 

(お前の予想通りにならなくて不満か?)

 

 困惑するもう一人の俺に語りかける。

 

『……彼らは木ノ葉の敵だったんだ! それをっ……! 君は自分のやるべきことをわかって……』

 

(悪いけど、俺は俺の忍道を貫かせてもらう。お前も言っていただろう? 俺はお前だけどお前じゃないって。お前の定めたやるべきことなんて俺の行動基準にはならないんだよ)

 

『何を言って!?』

 

(困惑して質問する立場が変わったなwww まあ、つまりはそう俺の忍道は……)

 

 意識を現実へと戻す。

 

 

 

 

 

「俺の忍道『やりたいことをやる』……それに従ったまでだ」

 

「……ふざけているな……」

 

 再不斬が呆れて笑っている。

 

 

 諦めねえど根性なんて、良い信念は俺にはない。ただ俺は運命という言葉に縛られずに生きていく。やりたいことをやりたいようにやる。

 

 つまりはエゴイストだ。他人なんて知ったことじゃない。木ノ葉の里の下忍として働きすぎて、価値観が木ノ葉に染まっていたが……もう吹っ切れた。ただ気に入った奴が傷つくのは嫌だから助ける。それだけだ。正義でも何でもない。俺だけの行動基準。

 

 そもそも、世界を良くするということに、それを確認する基準なんてないんだ。ヒザシさんが死なずに済んだことを誰も運命が変わったからだとは認識していない。どこまでいっても俺の自己満足に過ぎないのだ。

 

 俺は俺を満足させる……。そのために俺の感情を最優先させる。満足する過程を踏んで、自己満足するための結果を勝ち取って見せる。そのためなら。

 

 

「俺はもう、容赦はしない。今ならガトー以外殺さずに返してやろう。だが、お前らの集団の一人でも俺たちに敵意を向けた瞬間。……皆殺しだ」

 

『再不斬たちは助けるけど、ガトーたちは殺す? 君は一体どれだけ身勝手な』

 

(少し黙っててくれ)

 

 再度語りかけてくるもう一人の俺を無理やり封じ込める。  

 

 

 さて。忠告はした。まあ、この忠告も、『忠告をした』という事実で少しでも殺人による罪の意識を逸らす意味しかないのだが。だってほら

 

 

「ガキが一人で何ほざいてやがる!」「調子に乗るなよ! この数相手に何ができる!」 「こっちにはまだ抜け忍がいるんだ。てめえら傷だらけの状態で勝ち目なんてねえんだよ!」

 

 

 ガトーたちは誰も引く気はない。敵意むき出しだ。

 

「さてと、カカシさん達は下がっていてください。俺一人で片付けます」

 

 カカシさんが異議を唱えようとするが、無視して前に一歩踏み出す。

 

 

 

 もう後戻りはできない。

 

 

 

 ナルトから奪い取ったクナイを八門を解放し投擲する。

 

 

「ひいっ!」「ぎゃあっ!」

 

 

 高速で飛翔するクナイが、幾人かの顔面を貫く。あっけなく人を殺した感覚に胃が燃えるような感覚がして、平衡感覚が狂いそうになるが正気を保つ。

 

「野郎、やりやがったなあ!」「皆殺しだぁ!」

 

 ごろつき共が攻撃をしようと一斉に踏み込んで来るがもう、遅い。

 

 八門第六・景門まで開放した俺は思いっきり大橋を殴りぬく。霧に紛れて影分身が土遁を使い橋を脆くしておいたのでガトーらがいる位置の橋は崩れ、雇われの抜け忍以外は海面に落ちていく。これでも幾人かは瓦礫に押しつぶされて死ぬだろう。

 

「俺たちの超努力の結晶が……っ!」

 

 後方でタズナさんが大きく壊れた橋を嘆くが、謝罪は後だ。橋に飛び残った忍びは4人。どれも中忍クラスではあるだろうが……。

 

 彼らが術の印を結ぶ隙をつき、仮面を上げ口を出した俺は『水の針』を射出して忍びらの手を負傷させる。

 

 

「痛!」「クソっ一体なんだ!」

 

 水遁に分類される「天泣」は印を必要としない。純粋なチャクラコントロールのみによる術だ。印を必要としないので、攻撃スピードで先手を取れる。そして

 

 八門を閉じ、雷遁チャクラモードを使い天泣で怯んだ忍び一人に接近し

 

「終わりだ」

 

 鉄棒を振るい首を砕く。……感情がささくれ立つ。命を奪うたびに背中に重いものが載るような気がしてならないが、これも俺がやりたいと思ったことだ。吐き気は我慢する。

 

 俺の実力に気づき残り三人の忍びが逃げ出そうとするが

 

「雷遁・雷鼠走(らいちゅうばし)りの術!」

 

 俺が発動した雷遁の雷で出来た数十匹の鼠で逃げ先を塞ぐ。

 

「ひぃいい!」

 

 一人に鼠を集中して纏わせ黒焦げにする。それに焦ったもう一人を土遁・岩状手腕で頭を砕く。

 

 残った一人の忍びも数匹の雷鼠に当たり痺れている。

 

「あああああ、たったすけてっ……!」

 

「……」

 

 命乞いをして仰向けに倒れている忍びの目を見て俺は

 

 思いっきり鉄棒を心臓へと貫通させ、雷遁チャクラを流して絶命させる。

 

「……残りは……」

 

 そう呟いた俺は崩れた橋から、海面を見下ろす。そこでは橋に来るために寄せ付けていた大型のボートに這い上がるごろつき共がいた。

 

「……火遁・炎弾」

 

 炎弾を数発放ち船を吹き飛ばす。橋の崩壊で巻き込まれずに運よく生き延びた海面の奴らには一人に一匹雷鼠をプレゼントして麻痺させ沈め、文字通り海のモクズにする。

 

 さてと

 

 橋の下の海面に降り立ち、生き残った最後の男を一人抱え上げ橋の上へと連れていく。

 

 無造作に男を投げ捨てると、完全に怯えている男、ガトーは命乞い始める。

 

「ひぃぃぃぃぃいいい。 た、たすけ……金ならいくらでも……!」

 

「お金は間に合っているんで。身の丈以上の金はいらないんですよ、あんたと違って俺は」

 

 優しい声色で申し出を断る。そしてガトーの骨折している腕を踏み抜く。ぐしゃりと音がなり、ガトーが悲鳴を上げる。

 

「そういえば、あなたに反抗した男の人がいたの覚えていますか?」

 

「あがっ……? な、なにをぉ?!」

 

 八門で強化した体を使い、足でガトーの肩を抑え、腕を引き抜く(・・・・・・)

 

「……っっっっ!」

 

 もう、言葉は引き出せないだろう。残ったガトーのもう一つの腕を風遁のチャクラを纏わせた鉄棒で砕き切る。

 

 恐怖に引きつったガトーの胸倉をつかみ引きずり、橋の端へと向かい外側へと突き出す。

 

「英雄の話を聞いた時、俺はお前をこうして両腕を失くして殺したいと思ったんだ。……誰だってそうだ。偽善に駆られて頭で猟奇的な発想をすることもある。だけど実際には行動はしないだろうけどな。俺もその時は実際にやるとは思っていなかったんだが……そうだなやってみるととても、とても楽しいよ」

 

 もうガトーはほとんど意識を手放している。語りかけるのも俺の自己満足だろう。

 

「だけど同時に想像以上に苦しくて、虚無だ。もうトラウマになりそうなぐらい心がぐちゃぐちゃだよ。さてと……さよならだ」

 

 ガトーを海に落とす。両腕がないあの状態では確実に死ぬだろう。

 

 

 これで、これで俺のやりたいことは終わった。だけど……

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 仮面の下の涙がべたついて気持ち悪い。

 

 




『もう一人の僕の思考がぶっ飛んでて怖い』


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40:波が運ぶは人か感情か~終~

波の国編終了につき、活動報告にて幕間劇に関するアンケートを取りたいと思います。興味がおありでしたら是非覗いてみてください。




<黙雷悟>

 

 夕日が視界を染めて、目を細める。気がつけば自分の視界にはかつて前世で自分が住んでいた町が広がっていた。

 

「ここは……いったい……夢でも見ているのか。確か俺はガトーたちを殺し……うっ……」

 

 不意に自分が行った虐殺劇を思い出し、吐き気を催す。だが気を確かに持ち思考は止めない。自分が必要だと思ってやったことだ。後悔をするわけには行かない。

 

 現状確認のため視界に広がる町の散策にでる。人の気配はしないし、一部の家屋は靄がかかったようになっていて視認ができない。しばらく知っている道を歩いて自分の家の前までたどり着いた。

 

「はは……十数年ぶりの我が家だけど、恰好が忍び装束のままだからか違和感がすごいなぁ」

 

 現代にそぐわない忍びの恰好のまま、玄関のドアノブに手をかけ開ける。扉の先は真っ暗な空間が続いていた。驚いて後退しようとするも、その暗闇から人の手が伸びてきて俺の胸ぐらを掴む。

 

「ちょっ! なんだこれ怖!!」

 

 抵抗する暇もなく、手に引き寄せられ暗闇に引き込まれ落ちると少しの浮遊感の後、草原へと尻もちをついていた。くらくらするが辺りを見渡せば、いつもの精神世界(・・・・)の草原が視界を占める。前方では俺と同じ格好をしたあいつが木の下でこちらを見ていた。

 

『人の申し出を無下にして、さらには精神世界を勝手にさまよって……君って思っていたより、数倍自分勝手なんだね』

 

 呆れたようにこちらに語りかけてくる。お互いに仮面を被っているが感情は伝わってくる。

 

「……あんたからの申し出は……大切なことだから。他人(・・)に任せるわけには行かないと、思っただけだ」

 

『他人……か。僕のことを一人の人間として見ているってこと? 面白いね』

 

「少なくとも感情があるようだし、どうやら俺の知らない過去もあるようだからな。……あんたが何者かは正直どうでもいいんだ。俺がしたいと思ったからやったことだ」

 

『……そんなにも苦しんでいる癖に。精神的にダメージを負っているから寝込んでここに今いるってこと自覚してる? わざわざごろつき共まで丁寧に殺して、色々飛躍しているよ君』

 

「……なんとなく自覚はしている。だけど再不斬たちを助けて、はいそれで終わりとはいかない。再不斬が殺すはずだった……やるべきことを肩代わりしただけだ。ある意味再不斬たちを助けた責任を取った、とも言えるかな」

 

 彼には少しだけ申し訳なく思う。一応同じ体を共有している者同士の気まずさを感じる。

 

「なあ、そういえばずっと気になってたんだけどお前……って姿が同じなら多分名前も一緒なんだよな? 呼びかたとか考えた方が良い?」

 

『(独特なペースしているな彼……)はあ……なら取りあえず苗字を分割しようか、僕が「(もく)」を担当しよう。君が「(らい)」だ。これでいいかい?』

 

「まあ、どうせ俺たち以外知りようがないと思うからお互いがわかれば何でもいいか。なあ黙、お前は一体なんなんだ? 言動からして俺とは違う経験をしているようだけど俺じゃないんだよな? 九尾みたいな存在なのか?」

 

『何れ説明しようとは思っているんだけどね。だけどまだその時じゃない』

 

「……俺はそういう『その時じゃない』ってもったいぶるの好きじゃないんだけどな、ドラマでも小説でも。ちなみにその時じゃないという理由は?」

 

『僕が君を完全に信頼していないというだけさ。僕の存在や、君の存在。真実を知って君に潰れられたら僕が困るしね』

 

「潰れ……って。黙、その言い方は何かありますと言っているようなもんじゃ……」

 

『僕が存在している時点で、自分が真っ当な存在じゃないとは雷も感付いているでしょ? まあ、強いていうなら雷にやって欲しいことがあるってこと。2つほど……いや3つかな』

 

「なら内容を」

 

『まあまだ僕たちの「魂」が同調しきってないから伝えれないこともあるのさ、そろそろ交信限界だし』

 

「はっ?」

 

『それじゃあおはようだ(・・・・・)雷。そうだね、予定通りに行けば次は「木ノ葉崩し」の時に会おうか。それまではここ(精神世界)で君を見守っているよ』

 

 納得がいかない俺が木の下にいる黙に向かい手を伸ばすが、気がつけば伸ばした手は虚空を掴み、手を超えた先の視界には木造の天井が見えていた。俺は気がつけば布団の中にいた。

 

「……ほぇ?」

 

「マヌケな声出して悟、寝ぼけてる?」

 

 ふと声のする方に顔を向けるとカカシさんが布団で横になって呆れた顔でこちらを見ていた。

 

「っ! あ、仮面は着けたままか、良かった……。ってあの後どうなりました?!」

 

 仮面が顔を隠していることに安堵するがすぐに自分が気を失った後のことを心配してカカシさんに質問をする。するとカカシさんは身体も起こさずに手だけで俺の反対側を指さす。

 

 そこには再不斬が寝ていた。さらにその奥には白もおり、俺は安心した。俺たちは4列で仲良く個別の布団に入っていたようだ。シュールだなあ。

 

「タズナさんも豪傑な方だ。自分を狙っていた暗殺者を自身の家で休ませるなんて……。まあ、悟の行動を尊重してのことらしいし。あとでお礼言っときなさいよ」

 

「りょ、了解。……そういえばナルト達は?」

 

「ナルトとサクラは橋の建設作業の手伝いをしに行ってる。サスケは、白の千本で一時的に仮死状態になっていたから橋にはいるけど体を休めて作業を見学しているはずだ」

 

「そうですか……。なら俺も作業を手伝いに……」

 

 そういって膝をつき立ち上がろうとすると

 

「その前に悟、一ついいか?」

 

 カカシさんがまじめな声で問いかけてくる。ああ、あの事はやっぱり聞かれるよな(・・・・・・・・・)

 

「お前があの時幻術を使ったのには納得した。だがその時……俺に何か見せたんじゃないか? 変化の術を使って(・・・・・・・・・)

 

 そう、草笛の音を使って幻術をかけるときには必要な要素がいくつかある。その一つ、相手が精神的に構えていない状態であること、又は抵抗力が低い状態でないといけないことをあの時一人だけクリアしていない人物がいた。  

 

 俺はチャクラの感知でカカシさんだけが、幻術に対抗してくると読めていた。タズナさんやガトーら、ナルトとかは元から抵抗力が低いから問題ない。サクラも少し幻術にかかるか怪しかったが、傷ついたサスケの様子を見て動揺してくれたおかげで幻術にはめることが出来た。  

 

 再不斬もカカシさんの忍犬による拘束で動揺していたから良かったが……。カカシさんだけはどうしても、自力で動揺させなければいけなかった。だからこそ、霧隠れの術で視界が悪いことを利用して、雷切を使うカカシさんのトラウマである「のはらリン」さんの姿を変化で見せる必要があった。

 

「さあ? あの時は術が使えなくて、イチかバチかで草笛の音の術を使っていたので変化まで使う余裕はなかったですよ」

 

 さらりと噓をつく。けれど苦しいか……。最悪自身のトラウマのせいだと納得してくれるのが一番なんだけど。

 

「……そうね。了解、悪いね尋問みたいに聞いちゃって、少し気になっただけだから」

 

 カカシさんはニコッとして雰囲気を明るくする。そして

 

「引き留めて悪かった。それじゃあ、悟。自分が壊した分も橋を直してきてちょーだい」

 

「ははは、了解です……」

 

 カカシさんは冗談を言い俺を送る。

 

 強がっているが精神的に弱っているのであまりプレッシャーをかけないで欲しいな……。

 

~~~~~~

<はたけカカシ>

 

 ……あの「リン」は状況的に見て間違いなく悟の仕業だろう。幻術によるトラウマの想起か、悟の変化か。マリエ繋がりでリンのことを知っている可能性はなくはないが……。警戒は必要かな。

 

 俺が悟について思案していると空いた布団を挟んだ位置にいる再不斬が声をかけてくる。

 

「……あのガキは一体なんだ? 術が使えない素人と思えば、あれ程の力を見せ……。そして俺と白を庇うような仕草をする。何を考えてんのかさっぱりだ」

 

「ああ、それに関しては俺も同感だよ再不斬。感情はわかりやすいんだが、行動が読めん。実質意外性ではナルト以上かなぁ……ははは」

 

「ふん、写輪眼のカカシともあろうものが、自分の仲間のことでわからないことがあるとはな」

 

 再不斬が起き上がれない体をこちらに向け、不敵な笑みを向けてくる。

 

「……鬼人ともあろうものが、そのざまなんだ。俺にだってわからないことの一つや二つあるさ」

 

 先日まで殺し合いをしていた相手と皮肉を言いあう。忍びの世界でも珍しいことだが、雇い主がいるという忍びの性質上ありえなくはないのだろう。そんな奇跡みたいな状況で俺と再不斬は少し先のことを話し合った。

 

「その内俺たちは追い忍に始末されるだろう……」

 

「まあ、だろうね」

 

「だがあの仮面のガキがくれたチャンスだ。最後は忍びじゃなく人らしく白と隠居をしようと思う」

 

「……わざわざ俺に言わなくても良くない?」

 

「ふん、只の宣言だ。鬼人が人として生きるためのけじめみたいなもんさ」

 

「そうかい。まあ、木ノ葉に敵対しない限り俺はどうにかするつもりはないよ。お互いまだまだボロボロだしね」

 

 なんて会話を続けながら、俺たちは身体を休めた。……白って子はまだ目を覚まさない。下腹部に穴が開いたんだ。致命傷をギリギリ避けたところで重症には変わりない。

 

 再不斬は俺のことを恨むだろうか……。まあ、忍びとして生きる以上恨みつらみは避けようがない。

 

 

 ……悟は折り合いを付けられたのか?

 

~~~~~~

<三人称>

 

 

 それから数日、黙雷悟が壊してしまった橋もナルトの影分身による人海戦術と悟の土遁でスムーズに修復が進みあと少しで橋が完成するというとき。

 

 白が目を覚ます。

 

「……随分と賑やかなことで」

 

 白が目を覚ましたとき目にしたものは。タズナの家族とナルト達カカシ班。再不斬と悟が大きな机を囲んで夕食をとっていた光景だった。

 

 両手を何とか動かそうとしている再不斬と食事を食べさそうとスプーンを差し出す悟。その様子をからかうナルトと睨みを効かせる再不斬。呆れるサスケとサクラ。にこやかに見守るカカシとタズナ。イナリはまだ再不斬が怖いのか母ツナミの陰に隠れている。

 

(僕は夢を見ているのだろうか……)

 

 少し離れた位置の布団で寝ていた白は身体を起こすが下腹部に痛みが走り声が漏れる。

 

「……ッ!」

 

 その声に気がついたナルトと再不斬はドタバタと白へ近寄る。

 

「目を覚ましたか白。たっく……」

 

「良かったってばよ! 再不斬のおっさんも滅茶苦茶心配してて」

 

「金髪小僧! それは言うんじゃねえっ!」

 

 その様子を笑みを浮かべて見る白は涙を浮かべていた。それを下腹部の痛みからだと思ったナルトが心配するが

 

「いえ、大丈夫です。この涙は辛いものではなく……嬉しさによるものですから」

 

 白は笑顔でそう答えた。

 

 

~~~~~~

 

 夜更け。森の中で白と悟は二人である場所へと赴いていた。

 

「これが……僕たちの墓……ですか」

 

「ああ、取りあえずのな」

 

 そこには木の杭で作られた簡易的な墓が二つ建てられていた。片方には特徴的な大きな包丁が。もう片方には橙の腹巻が備えられている。

 

「これだけの工作で追い忍を完全に巻けるとは思いませんが、何もしないよりは良いでしょうね」

 

「再不斬がこの包丁を手放すことの意義を考えると、追い忍も納得してくれるかもな」

 

 白は墓に手を合わせ目をつぶる。

 

「……結局、僕は忍びにはなり切れなかった。彼、サスケ君を完全には殺せず、敵だった君に生かされ……。それでも良かったと思う自分がいる。……再不斬さんの道具としての僕はここで眠ってもらいましょう」

 

「それで……白は次にしたいこと(・・・・・)は決まっているのか?」

 

「ええ、ある程度は……。けれどそれもまた、容易では……ん?」

 

 悟の物言いに違和感を覚える白。そして

 

「そうですね。取りあえずは僕の裸を見た責任でも取ってもらいましょうか(・・・)さん?」

 

 意地悪な笑顔を見せる白に悟は仮面の奥の表情を引きつらせ、答える。

 

「ははは……やっぱり気がつきますよね~。それはお互いさまということで胸にしまっておきましょう白雪さん(・・・・)

 

 悟は仮面を外して、頭を下げる素振りを見せる。その後少しお互いに目を合わせ、不意に同時に笑いあう。

 

「まあ、冗談です。悟さん、あなたは命の恩人だ。何かあれば僕たちに頼ってください。どんな些細な事でも助けに向かいますから」

 

「……そんな冗談言うようなキャラだったっけあなた? まあ、そうだなぁ。助け……ということなら実は考えていたことがあるんだ」

 

「それは?」

 

 悟は自身の考えを白へと話す。しばらく話を聞いていた白は驚愕に目を見開く。

 

「……あまりにも突拍子もないというか、無茶な内容ですね……。あなたへのメリットより僕たちへのメリットの方が……」

 

「まあ、そこは気にしなくていいからさ。再不斬と考えておいてくれ。かなり無茶な内容なのは承知しているから実現できるかは約束はできないけど」

 

「ええ、前向きに考えさせてもらいますね」

 

 そうして二人はタズナの家へと戻った。

 

 

~~~~~~~

 

 そしてそれから二週間……。波の国から内陸へと繋がる橋の入り口でタズナ達と談笑するカカシ班。それとは別に離れた位置で悟と再不斬、白は会話をしていた。

 

「でだ……例の件の根回しは出来たのか小僧」

 

「まあ、何とか……まさかOKがでるとは思ってなかったけど……」

 

「よく了承が得られましたね……。正直に話す悟君も変ですが、聞き入れる方も変わっていますね……」

 

 仮面の下で隈を作って眠そうにしている悟は欠伸をしながら肩を落とす。かなりの疲労が見て取れる。

 

「おーーーい、悟帰るってばよ!!」

 

 ナルトに声を掛けられた悟は手を上げ返事を返す。

 

「……? ナルト何泣いてんの」

 

「っいや、これは涙じゃなくて、潮風が……」

 

「ったく、ごーじょーっぱりねあんた。素直にイナリ君と別れるのが悲しいって言いなさいよ!」

 

「ちょっ、サクラちゃん!? それいわないでぇ!」

 

 一同は和やかな雰囲気のまま、橋を渡っていく。

 

……

 

 

「また忍者と戦うAランクの任務やってやるってばよ!」

 

「ダメダメ! 再不斬と白相手に皆無事だったのが信じられないくらいだよ。Aランクはもっと強くなってからだ」

 

 ナルトとカカシが会話をしている。

 

「……守りたいもんかあ……。カカシ先生、忍者ってやっぱり只の道具にならなきゃいけないのかなあ?」

 

「そうだねェ、例え木ノ葉であろうとも忍びは国の道具としての在り方を求められるのに違いはないさ。けれど其のことを悩んで生きていくことが悪いとは、俺は思わないね」

 

「うーん難しいけど……俺は俺の忍道を行ってやる! カカシ先生もすぐに追い抜いてけちょんけちょんにしてやるってばよォ!」

 

「言うねえ! こりゃあ、帰ったらDランク任務を沢山やってもらわないとなあ!」

 

「……それはちょ~とっ嫌だってばよォ……」

 

 遠巻きでその様子を見る再不斬は鼻を鳴らす。

 

「あんなガキを連れた奴らに遅れを取ったなんて、癇に障るぜ……」

 

「いいじゃないですか再不斬さん、僕は……忍びとしての最後の敵(・・・・)が彼らでよかったと思っていますよ」

 

「……ふん、世の中そう争いごとから縁を切れるわけじゃあねぇ。まあだが、そうだな……。あいつらと戦えて良かったと……俺も思っている」

 

 しんみりと会話をする二人を見るサスケは

 

(こいつら……いつまで着いてくるきだ……?)

 

 という思いを浮かべながら歩みを進めた。

 

 

 

 

 



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幕間~中忍試験まで~
41:新しい風


皆様も体調にはお気を付けください。


<三人称>

 

 波の国での約4週間近くの長期任務を終え、一同は木ノ葉隠れの里の大門の元までたどり着いていた。

 

 門の受付で、長期の外出による手続きを済ませたカカシ班の一同は門を抜け、少し歩いた先で後ろを振り返る。

 

「……結局あいつら、木ノ葉までついてきたのか。カカシ、あんたなにか事情は知ってたんだろ?」

 

 少しあきれた口調でサスケはカカシへと問う。門の受付場では黙雷悟と、桃地再不斬、白が書類に色々とかきこんでいる様子が見受けられる。

 

「まあね、悟からの提案で再不斬と白を木ノ葉に引き受けられないかなって話になってな。で俺が推薦状書いて、悟が一夜で里まで駆けて予めの手続きを済ませてたわけ。いやあ、悟の奴仕事が早いねえ」

 

 ニコニコした表情で悟たちを見守るカカシ。敵だった再不斬を里に招き入れることへの是非をサスケは問いたいのだが毛頭気にしていない様子であった。

 

「へえーだから悟ってば、道中疲れた様子をしてたのね。一晩で波の国と里の往復作業……。非常識ね~」

 

 悟の行動に若干引き気味のサクラがそう小言を零す。事情を把握できていないナルトは、「何となくあの二人と今後も会える」程度の認識で嬉しそうにしていた。

 

 手続きを終えた悟たちがカカシ班と合流する。そして悟は二人を紹介するように手を添えるジェスチャーをする。

 

「改めまして、こちらの顔の怖い方が鬼頭桃乃太郎(おにがしらもものたろう)で、こちらの麗しき乙女が鬼頭白雪(おにがしらしらゆき)です。……名前を間違えないようにお願いね。特にナルト」

 

 再不斬と白の里での(・・・・)名前を紹介した悟はじっと仮面の奥からナルトに視線を送る。

 

「……流石にそこは気をつけるってばよ。ってことでよろしくな! ざ……モモのおっちゃんと、白雪!」

 

 心外だとナルトは気を引き締め、再不斬と白へとニコッと笑顔を送る。

 

「ええ、改めてよろしくお願いしますねナルト君、皆さん」

 

「……ちっ。ああ、よろしくな……」  

 

 白はやわらかい笑顔で応え、再不斬は自分の悟の紹介や、ナルトがさっそく言い間違えそうになったことに不安を覚える。

 

「ってことは二人は木ノ葉の忍者になるわけ? それなら心強いわね!」

 

 強い仲間が加わるとテンションが高くなるサクラ。

 

「……いや。そう易々と抜け忍とはいえ他里の忍びを、自里の忍びとして登録する訳にはいかないはずだ。外交問題にもなるし、信用が試される忍の世界、正体がバレたらそれこそ打ち首も良い所だぞ」

 

 そのサクラの喜びを遮るようにサスケが言葉を挟む。

 

「ははは……。やっぱりそうよね?」

 

 サクラもやはり内心そこはわかっていたらしく、挙げた手をゆっくりと降ろす。

 

「ええ、僕たちはもはや忍びではありません。波の国で、ガトーらと揉めたただの一般人として任務途中のカカシ班の皆さんに保護されたという設定です。ですから、余程の緊急時以外は忍びの力は使うこともないでしょう」

 

「ふんッ。俺は白雪、あんたにリベンジをしたいと思っていたんだけどな」

 

 サスケは白と手合わせができないかもしれない事実に面白くないと鼻を鳴らす。

 

「まあ、そこは追々考えていくといいでしょーよっとサスケ。取りあえず長期の任務で疲れたでしょ、皆? 今日はもう解散ね。7班は明日は休みで明後日から任務再開だ。それでその二人のことは…悟に任せても問題ないってことで?」

 

 カカシはパンと手を鳴らし、解散を宣言する。門を過ぎたところで大人数でたむろするのはあまり良くない。カカシは霧組の今後のことを悟に確認する。

 

「はい、まあ俺からしたら所謂施設への手土産(・・・・・・・)ってところです。それではお疲れさまでした」

 

 悟も浅い礼をして、その場を離れる。悟についていくように、白も頭を下げ、再不斬も軽く手を上げその場を後にした。

 

~~~~~~

 

施設「青い鳥」

 

 中では少し普段と違って、ドタバタたと狼狽えている様子のマリエが身支度を整えていた。

 

「今日が新規職員さんの雇用日だっけウルシ君!? 私、正装どこにしまったかしら~!」

 

「……雇用は後日で今日はそのための面接だ。正装は自室にしまってあるだろ。何で掃除用具入れ漁ってるんだよ……」

 

 混乱している様子のマリエを普段着のウルシが呆れた様子で見ていた。マリエのあわってぷりから彼女がこの手の作業に慣れていない様子が見て取れる。

 

「面接面接……って何聞けばいいの!? ウルシ君!!」

 

「……いやそこは俺も知らんけど。火影様からの推薦状があるんだろ? 男女二人だろうし、よっぽど変な奴じゃなきゃ即採用決めても問題ないだろ。うちは慢性的な人手不足だしなあ~」

 

 欠伸を噛み殺すように顔をだらけさせたウルシは自室へと戻っていく。前日準備をしなくていいかと聞いた時に「大丈夫大丈夫!」と答えられ安心した自分がバカだったとウルシは反省した。彼女が行き当たりばったりな質であることを失念していたのだ。それに彼女はこういう事務手続きのようなことには単純に慣れていない。

 

「えーとっえーと~。ってあれぇ? 推薦状どこだっけ!? ある程度の個人情報載ってたはずなのに。確認しないとまずいわぁ!」

 

 施設の中をマリエの影分身が飛び交う。施設の子どもたちも、施設長のあわてた様子に我がままを我慢して自分の身支度を整えたり、自主的に片づけをするなどしている。

 

 そんな中施設のチャイムが鳴る。

 

「あれぇ!? まだ時間まで余裕……ってないわあ! もう約束のお昼じゃない! あれ、そういえばお昼ご飯の調理は!?」

 

「えっまだしてないわよ!?」

 

「誰よ、調理係!」

 

「全員で急いで面接の準備ってあなた(本体)が言ったんでしょ!」

 

 影分身と揉め始めたマリエ本体。お互いに責任を擦り付け合う醜い争いで、正装の準備や、推薦状の行方のことなど頭から抜け落ちている様だ。

 

「あの~お昼から面接を受ける予定の者ですけど、誰かいませんか?」

 

 施設の玄関から凛とした女性の声が響く。マリエは慌てながらも取りあえず影分身を消して「はーい、今行きまーす!」叫び、と忍びの身体能力を生かし、廊下を駆け壁を蹴り素早く玄関へと到着する。

 

 ガラッと玄関を引くと、そこには見た目が麗しく雪のように白く綺麗な肌をした女性と、対照的に包帯塗れの体に不釣り合いで似合っていない平服を着た強面の男性が立っていた。

 

 女性の方はマリエのあわてた様子に心配そうな表情をうっすらと浮かべる。二人を目にしたマリエは施設長として言葉を掛けようとするも混乱する頭が、言葉を捻りだせないでいた。

 

 あわあわとしているそんなマリエの様子に再不斬の陰からひょこっと姿を現し言葉を掛ける悟。

 

「……色々大丈夫ですか? マリエさん?」

 

 その悟の姿を目にしたマリエは、正に口から魂が抜け出るような表情をした。そして

 

 

「……だずげで、ざどる゛ぢゃん゛~~~~!」

 

 

 泣き出した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

30分後

 

 

「ってことで、白雪さんと桃さんです。この人は施設で働いている下忍のウルシさんです」

 

「よろしくお願いしますね」

 

「……よろしく……頼む」

 

 仮面を外した悟はそう言い目の前のウルシへ二人を紹介する。白と再不斬はその紹介に続き、挨拶をする。今は食堂で子どもたちと一緒に席に着き昼食を食べている場面。悟たちも席に着き昼食をつまみながら軽い自己紹介をしている最中である。調理場で慌ただしく動いている悟の影分身たちを奇妙そうに見つめる再不斬。ウルシも悟の作った昼食を口にしながら、話を続ける。

 

「ああ、よろしくな。って帰ってきてそうそう色々悪いなあ悟。俺も任務で疲れてて手伝わなかったのは悪いけど、ここまでマリエがポンコツぶりを晒すのも珍しいからなあ……」

 

 施設の中では悟の影分身が数十動き回り、今朝からマリエが残していた仕事を片づけていっている。「料理の腕あげたなあ~」なんて呟きながら眠そうな顔をしているウルシに悟は苦笑いを返す。

 

「ええまあ、俺もこんなことになってるなんて意外でしたよ……。ほらマリエさんも、机を涙で濡らしてないで、俺の料理食べてくださいよホラ、波の国で少しは調理の腕上げて来たんで」

 

「…………」

 

 机にうつぶせに顔を伏せているマリエの体を悟が揺するが反応はない。ただ耳が真っ赤なので、羞恥心を感じているのは確実だろう。

 

「……思っていたよりも、活気がある場所ですね。ね、桃さん?」

 

「ああ、そうだな白雪……ん?」

 

 白が苦笑いのまま、再不斬に同意を投げかけるとそれに答えた再不斬が目線を落とす。そこでは施設の子どもが再不斬の服を引っ張っていた。

 

「おじちゃんだあれ?」

 

 そんな子どもの素朴な疑問に、ウルシは少し警戒する。「見るからに強面で、優しくなさそう」なこの男が子ども相手にどう動くか、ウルシはじっと観察をする。

 

「……」

 

 無言のまま再不斬はじっと子どもを見下ろす。そして……子どもの頭に手を置き

 

「俺は桃乃太郎というものだ。これからこの施設で厄介になる……予定だ。よろしく頼む」

 

 スッとしゃがみ目線を合わせ、はにかむ。声色は優しく、見た目も強面さが薄れている様子が見て取れる。

 

「うん! よろしく!」

 

 挨拶を済ませた子どもは満足そうに自分の席に戻り、昼食を食べ始める。その席では「どんな奴だった」とかいった話題が溢れている。

 

 

「「……」」

 

 意外だという悟とウルシの視線に気がつき、咳ばらいをして再不斬は席に着く。

 

「……なんだ?」

 

「「いや、なんでもないです」」

 

 ハモった悟とウルシの言葉に白はクスクスと笑っている。

 

「子どもは嫌いだぜぇ! ひゃっはっはっはぁ!! 的な感じだと俺は思ってたわ。ごめん」

 

 悟がスッと失礼な謝罪を入れる。悟のものまね入りの演技にウルシは少しツボにハマり顔を逸らす。再不斬は露骨に嫌そうな顔をして黙り込む。

 

「桃さんは、子どもは嫌いではないんですよ。対応は不器用ですけどね」

 

 白はしみじみとした表情でそう語る。

 

「余計なことをいうな白雪……」

 

「余計ではないですよ、この施設で採用してもらうためのアピールですっ!」

 

 再不斬の苦言を、正論でかき消す白。その様子を見た悟は

 

(何か見ててほっとする二人だなあ……)

 

 なんて呑気に思っていた。するとマリエが顔をあげる。

 

「……お二人は悟ちゃんと知り合いみたいだけど、どういった経緯で木ノ葉に来たんです?」

 

 声のトーンは低いがマリエは疑問を口にする。

 

「そうですねぇ……悟さんとは波の国で助けて頂いて。揉め事に巻き込まれて職を失った僕たちにここを紹介してくれたんです」

 

 本当に助かりました、と白は丁寧に説明する。

 

「しかし、そんな急な話でなんでまた火影様からの推薦状が……」

 

「早めに手続きした方が良いと思って、俺が班のリーダーのはたけカカシさんに推薦状を書いてもらったのを木ノ葉まで持って来て、直接三代目に手渡しました。……まさかその場でOKの判を頂けるとは思いませんでしたけどね、ははは」

 

 ウルシの疑問に悟が答える。

 

(本当、なんで許可を出したのかはわかってないのが少し不安かな。三代目はなにを思って推薦状を書いてくれたのか……)

 

 悟は心の中で疑問を浮かべるがそれはすぐに引っ込み、世間話へと思考が切り替わる。調子を取り戻してきたマリエが悟の作った料理を美味しい美味しいと褒め殺して、悟がたじたじになる様子を白と再不斬は面白いものを見るかのように眺めていた。

 

 

~~~~~

 

 午後、午前の慌ただしさが嘘のように穏やかな時間が流れる施設の中、悟は久しぶりの自室で布団を敷いてただ寝ころんでいた。特に何かをするわけでもなく、否。彼は現在何もやる気が出ない状態でいたのであった。

 

(……この感じ……何だろうか……自分で思うのも変だけど何もしたくないなあ)

 

 そうして布団でまどろんでいたところ、自室の扉がノックされて開かれる。

 

「……悟ちゃんちょっといい?」

 

「マリエさん? どうかしましたか?」

 

 ひょこっと扉から顔を覗かせるマリエが手招きをする。不思議に思いながらも悟は、マリエに従い後をつけマリエの自室まで来た。

 

「改めて何かありました? 施設の作業は殆ど終わって……」

 

 マリエの自室の扉を悟が閉めた瞬間、悟の言葉はマリエの抱擁で塞がれる。びっくりして悟は腕を緊張したように伸ばしたが、直ぐにリラックスしてダランと垂れ降ろす。

 

「やっぱり、波の国の任務。大変だったんだよね? 体力的というよりは精神的に無理してる感じがしてたわ、悟ちゃん」

 

「……わかるもんなんですね。ただそういうならマリエさんも、最近無理してたんじゃないですか? 昨日今日でそこまでマリエさんがつかれている様子になるなんて、そんなわけないでしょ?」

 

 悟は自身が帰ってきてから思っていたことを述べる。マリエは片手で抱擁しながら悟の頭を撫でるが、悟はするりと拘束から抜け出しす。

 

「……わかっちゃうかあ~。流石ね、私ある意味嬉しいわ~。悟ちゃんが疲れてるのもわかるけど、そうねぇ私も疲れてるのよだから……ていっ!」

 

 掛け声の可愛らしさに似合わないスピードと技術で悟に抱きついたマリエは悟の胸に耳を当てる。突然のことに驚く悟だが抵抗はしない。

 

「こうやって生きて帰って来てくれて私本当に嬉しいわ……」

 

 マリエは悟の心臓の鼓動を聞き心底安心したように力を抜く。その様子を見た悟は思う。

 

(マリエさんは、俺の生き死に、安否を随分と気にしてくれている様だ。それは今までのことで良く分かっている。だがその心配の仕方は正直、過剰だ。……何かしらマリエさんの過去に関連することがあるのか)

 

 ……誰かの「死」が。思えば自分はマリエの過去を良く知らないと悟は考える。

 

(……まあ俺も、転生者だとかそこら辺の事情は諸々隠しているしお互い様みたいなところはあるのか。俺はマリエさんのことが既に家族の、親同然のようにしか見れないだからこそ。……何時かお互いの事情を話し合うときがくればいいなって思ってる)

 

 悟は微笑みを浮かべ、自身の胸の位置にあるマリエの頭を撫でる。するとマリエは驚き後ろに飛びのく。

 

「……悟ちゃんに少し甘えすぎたみたい。うっかりしてたわ~」

 

 少し顔を赤らめたマリエは顔をはたき気を持ち直す。

 

「別に甘えたいなら、甘えればいいじゃないですかほら」

 

 悟は意地悪な笑みを浮かべ、手を広げる。一瞬マリエはその様子を見たとき、どこか別のものを見るような目になる。しかし直ぐに

 

「……あまり調子に乗るな」

 

 と強い口調で否定する。悟はですよね~、と手を引っ込める。

 

「……コホンッさて、悟ちゃん。実はあなたに修行をつけてあげようと思っていたの。ちょっと話がそれちゃったけど準備はいいかしら?」

 

「修行って、これまたいったい……?」

 

「ずばり尾行術よ!!」

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の里の商店街、人の賑わう中白と再不斬はメモを片手に買い出しに出ていた。

 

「衣食住付きで、施設で働けるなんて中々の贅沢ですね桃さん」

 

「……その呼び名には慣れんな……」

 

 早速施設で住み込みで働くことになった二人は、木ノ葉の土地の場所をまず覚えるために買い出しのついでにぶらりと散歩してくるようにマリエに言われていた。

 

「しかし、あのマリエとかいう女……匂うな。確実に訳アリだと見て問題ないだろう」

 

「女性にそういう表現使うのはどうかと思いますよ。確かにそうおもいますけど、雇い主である以上変に詮索しないのが吉ですね」

 

「お前……ここ数日で言葉に遠慮がなくなってきているな」

 

「ええまあ、ナルト君たちのおかげですね。夢だけでなく、自分自身の気持ちに正直になるのも悪くはないと思いまして。桃さんもそう思いませんか?」

 

「まあ……そうだな……」

 

 そんな和やかに会話をする二人の後方で、悟とマリエは尾行をしていた。

 

『マリエさん、気配を消す方法をレクチャーしてくれるのは嬉しいんですけど、何であの二人を尾行するんですか?』

 

『私から見たらあの二人が忍びなのは筒抜けだ。だからこうやって表向きは警戒しているとアピールする訳だ。誰にとは言わないがな』

 

 小声で会話をする二人。マリエが強い口調で指摘したことに、やはりバレたかと気まずそうに顔をそらす悟。

 

『別に責めてはいない。事情があるのもわかるし、何よりもお前が連れてきた人物だ。信用には値する』

 

(何か照れる)

 

『おい油断するな、まだお前の気配の消し方は甘い。白雪の方はまだしも、桃には恐らく既にバレている』

 

『マジですか!?』

 

『まあ、相手も事情をくみ取って変なことはしないだろう。ほらターゲットが移動する。なるべく気配を消して行け』

 

『りょ、了解です』

 

 マリエの指導に悟は何とかついていく。再不斬もつけられていることに気がついても仕方ないことだと思い、見過ごした。ふと再不斬は笑みを浮かべる。

 

「どうかしましたか? 桃さん」

 

「いやなに、お前とこうして穏やかに過ごせるなんて……何というか、良い……と思ってな」

 

「ッ……桃さん急にそういうこと言わないでください。照れます……」

 

 そうして木の葉での新たな日常が時を刻み始めた。

 

 

~~~~~~

 

深夜、火影邸。

 

「しかしまあ、良く許可を出しましたね。初めに推薦状を書いた俺が言うのもあれですが」

 

 はたけカカシは膝を突き自分の意見を述べる。

 

「なあに、問題はない。元々あの施設はワシの提案でマリエのために建てたものだ。そのマリエが信頼する黙雷悟の考えなら悪い事にはならんだろう。それにカカシ、ワシはお前のことも信頼しておるしな」

 

 三代目火影猿飛ヒルゼンは座敷でゆったりとした姿勢でパイプで煙を吹かす。

 

「……あの施設……やはりそうでしたか。あの事件(・・・・)の後、三代目の動きがあったからこそマリエは」

 

「いや、よい。言うなら未然に阻止できなかったことを悔やむしかあるまい。ワシの甘さが招いたことだ……罪滅ぼしにはならないだろうが彼女らをダンゾウから守るのもワシの責務じゃ」

 

「そうですか……それで中忍試験はどうお考えで?」

 

「うむ。ダンゾウが手を出せぬよう、黙雷悟の名を広げるために少し強引な手を使うつもりじゃ。なに、他の里にも同様の仕様(・・)を使うても良いとしてある。特別処置だが通るであろう」

 

「わかりました。こちらでも悟の体勢を整えられるよう他の班と演習を組んでみましょう。彼は十分強い。下手したら俺でも足元をすくわれるかもしれないほどです。気を引き締めていきます」

 

「はっはっは、カカシよ。お主も少しは鍛えなおしたほうが良さそうか? どれワシが稽古をつけてやろう」  

 

「ハハッ……御冗談を……」

 

 

 

 

 



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42:演習ブリーフィング~1対6~

<黙雷悟>

 

 俺の朝は早い。波の国の任務から約二週間たち、生活リズムも戻り日課の任務を受けに行く前に今は朝食を食べている。

 

「相変わらず、朝は早いですね悟君」

 

 早朝で静かな食堂で白に声をかけられる。

 

「おはよう、白雪。そういう白雪も珍しく早いな」

 

「ええ、今日はマリエさんと共に火の国内にある孤児院の集会についていきますので……」

 

「へえ~……そういうマリエさんは?」

 

「今は着ていく服を選んでいるそうです。僕たちを雇っていただいた時のこともあるので、早朝から準備をしようということになったんです」

 

「ああ、納得……」

 

 白と雑談をしながら朝食を終えた俺は、食器を片付け施設を出ようと装束に身を包み玄関に立つ。

 

「おう、もう行くのか悟」

 

 再不斬が珍しく髪などを整えた姿で見送りに出てきた。

 

「白雪とのアレ(・・)は順調にいってんのか? しかし、影分身を使って暇さえあれば俺からも術を習おうなんて、中々欲深いなァお前」

 

「ああ、それなら何とか形に……。水遁はほぼ独学だったんで得意な人が来てくれて良かったですよ~♪」

 

「まあ、俺たちは里内で身分を隠しているから口頭での指導になってるが……それでもムカつくほど成長が早いぜ、お前」

 

 ふんッと鼻を再不斬は手を上げて挨拶をして準備をしに戻っていった。さて俺も任務受付場に行こう!

 

 

~~~~~~

 

「あ、悟じゃな~い。こんな所で奇遇だねェ!」

 

 任務受付場、受付開始5分前に扉の前で待っていた俺にカカシさんがウキウキで声をかけてくる。

 

「ああ、おはようございますカカシさん。……奇遇っていうには場所が限定的なような……何か用ですか?」

 

「察しが良いね~。最近また悟が任務を洗いざらいやって困るからって火影様からお前を演習に連れていくように申し付けられてね~」

 

 カカシさんはわざとらしくニコニコして語りかけてくる。露骨に怪しい……。

 

「演習……ですか? まあ、一人での修行もマンネリを感じてたのでちょうど良さそうですね」

 

 演習を楽しみに思い声の感じにわくわく感がでてしまった。咳ばらいをして誤魔化しておく。

 

「一応零班宛ての依頼扱いだから報酬金もでる。ヨシッそれじゃあ、演習場まで着いてこい」

 

「金が出るのか……。太っ腹だ、修行しながらお金も稼げるなんて……!」

 

 そんな俺の様子にカカシさんはクスクスと笑いながら、俺たちはその場を後にした。

 

~~~~~~

 

 演習場に近づけば、随分と大人数の存在を感知する。大人数と言っても8人程度だけど、忍びがここまで集まるのも珍しい。

 

「よっと、おまたせ~紅にアスマぁ。どう準備は出来てる?」

 

 カカシさんが演習場で待っていた上忍2人へと声をかける。朝早いのにご苦労様です。

 

「へえ~、そいつ例の有望株の仮面君か。カカシィ本当に今回の演習の内容はアレ(・・)で良かったのか?」

 

 俺をジロっと見ながら『猿飛アスマ』がカカシさんに返事を返す。

 

「私としては、あの内容でも悟なら問題ないと思うわ。アスマも一度彼と任務に就けばわかるはずよ」

 

 紅さんが俺に手を振りながら言う。早朝でも化粧はしっかりしていて美しい。……アスマさんがいるからか? 取りあえず邪推をやめて会釈をしておく。

 

 演習と聞いて来てみれば演習場の離れた位置でヒナタたちは既に軽い組手などしているようで、そんな雰囲気に少し気分が高揚する。楽しみだなあ。

 

 俺が表情に出ないようにわくわくしているとカカシさんが俺に向け演習の内容を説明してくれる。

 

「内容は実戦方式で行う。まあ、俺とやった鈴取りみたいなもんだ。でお前の役割は、その鈴だ」

 

「鈴?」

 

「つまり、紅班・アスマ班の下忍6人対零班のお前ってことォ。まっ頑張れ!」

 

 カカシさんがポンっと肩に手を置く。随分とニコニコしている。

 

「それまた随分と極端な……1対6なんてそうそうないですよ……まあ」

 

 それでも負ける気は微塵もないけどな。

 

 

~~~~~~

<三人称>

 

 準備を済ませた下忍6人組は各自汗を拭いたり、水分を取ったりして休息を取りながら演習のブリーフィングが始まる。

 

「つまり、この黙雷悟を抜け忍と想定して捕縛。その後悟に伝えてある合言葉を回収出来たら君たちの勝ちだ」

 

「私たち上忍は問題が起きないように、陰で見守っているわ。邪魔にも手助けにも入らないからそのつもりでね」

 

 カカシと紅が任務の説明を続ける中、六人と離れた位置にいる悟はふと彼らに目を向けるとヒナタと目が合う。

 

(おっ……ヒナタの目が本気(マジ))だ、珍しい。いつもならニコッとして手を振ってくれるのに)

 

 悟はそんな風にあまり集中していなかったのだが

 

「なお、悟は抜け忍の設定なので君たちの参謀役、シカマル君には昨日の時点で俺がこの一週間で集めた情報を手渡してある。内容は一緒に活動した際の俺が気になった点とかも含まれている。参考にしながら、各自数が多いからと油断しないようにね」

 

 カカシの発言に悟が首を振り向き、驚愕の視線を向ける。

 

「ちょっ!? それってどこまでの内容を……!」

 

「俺が見た悟の使用忍術から体術の特徴まで、選り取り見取りィ♪ つけられてること任務に集中してて気がつかなかったァ?」

 

 煽るようにニコニコの笑顔を向けるカカシに悟は仮面の下で舌打ちをする。主にカカシの尾行に気がつけなかった自分への不甲斐なさが感情のメインになっている。

 

 その時スっと手を挙げる少年が一人。髪を後ろで結んだ少年、『奈良シカマル』が発言権を求める。

 

「ちょっとイイすか? 俺たちアカデミーでそいつ、悟と一緒にいたけど手渡された書類の中身ほど化け物染みた能力はなかったはずなんすけど……内容、合ってんすか?」

 

 シカマルの発言にう~んと唸ってからカカシは返事をする。

 

「俺の予想だけど、俺の調査以上に悟はヤバい奴だと思う。つまりはその情報も当てにしすぎないようにってね!」

 

 その返事にシカマルは驚愕し、悟に視線を向け「ならもう……詰んでるようなもんじゃねえか」と小声でつぶやく。

 

「言っとくがシカマル辞退……はナシだからな」

 

「わーってますよォ、アスマ隊長。やるだけやるよ、抜け忍相手に怖いからほっときますなんて選択肢はありえないしな」

 

 アスマはシカマルの様子に注意を入れるが、シカマルは仕方ないとため息をつき一応のやる気を示す。

 

「だーいじょうぶだってシカマルぅ。こっちは6人だよ? 負けるわけないってェ!」

 

 お菓子をつまみながら、シカマルを励ます『秋道チョウジ』

 

「私も彼についてなら知ってることあるわよ! この前花を買いにうちに来て~」

 

 ウキウキと悟について語る山中イノ。二人の呑気な様子にシカマルは内心頭を抱えた。

 

 一方紅班は各自集中している様子である。

 

 悟のことを評価しているシノと実際に組手を行っていたヒナタは気合を入れている。キバは相変わらず悟に怯える赤丸を何とかなだめていた。

 

「それじゃあ、一端悟は俺に着いてきて。スタート位置に案内するから」

 

 そういって跳躍して姿を消したカカシを追いかけるように悟も姿を消す。

 

 残された下忍たちのは早速シカマルを中心とした作戦会議を始めるが…… 

 

「紅先生ェ! 赤丸はやっぱり、駄目みてぇだ。悪いけど赤丸のこと預かってくれねえか?」

 

 キバがそう申告する。赤丸は完全に悟に怯えきっており、演習どころではない様子だ。

 

「わかったわ。赤丸は私が預かる。貴方たち、健闘を祈るわね」

 

 赤丸を預かった紅が姿を消すとそれに続けてアスマも消える。

 

「相手が絶望的なのにさらにこっちの戦力ダウンか……厳しいな」

 

 めんどくせーとシカマルが愚痴をこぼす。

 

「なになに? そんなに悟の奴強いの?」

 

 とイノがシカマルの肩を持ち揺する。渋々といった感じにシカマルは悟の情報を開示する。

 

「……単純な近接戦闘能力はかなりの高水準。日向の柔拳に似た特殊な体術を使ってカウンターに重きを置いている……らしい」

 

「……それは間違ってないよ。私と組手してるから……悟君」

 

「それにえーと、忍術は全ての性質変化を扱い、基本的には殺傷能力の低い忍術を好む……と」

 

 シカマルの言葉にどよめきが走る。性質変化を全て扱えるのは相当な才能と修行を積まなければ成しえないことである。上忍ですら2つ以上扱えるものは稀なのだから。

 

「幻術に対する耐性があり、広範囲に音で幻術をかける手段をもっている……改めて説明してるとやっぱヤベー奴だな悟の野郎」

 

「でもでもこっちは6人いるんだよォ? 何とかなるよ」

 

 チョウジの励ましにシカマルは顔をしかめる。

 

「戦闘スタイルは初期は手に持った鉄棒による様子見から始まる傾向アリ。あの背中に背負ってたやつだな、今は一本だけだが少し前は二本使ってたらしい。んで、雷遁チャクラモードという高速移動形態で瞬殺を図る……と。それで駄目なら各忍術をぶつけ相手の不利を徹底的につく戦法を取る。それでも相手を倒しきれない場合……」

 

「場合……は?」

 

 話の内容に恐怖を感じ始めていたイノが恐る恐る続きを促す。自分が花屋で悟を煽ったことを後悔しながら。

 

「八門遁甲と呼ばれる身体能力を極限まで高める禁術を使うらしい……。これはあのカカシさんでもあまり確認は取れてなく、書類の補足に『本気で使われたら負け確定なのは事実だから気を付けて!』と書かれてたな。上忍のこの評価には笑うしかねえなァこれは」

 

 お手上げだと肩をすくめるシカマル。一同は暗い雰囲気に包まれる。

 

「一応書類には、悟の戦闘スタイルから考えられるつけ入る隙が書かれていた……が。情報を当てにするなって言ってたし、通用するかはわからない。だけど、まあやるしかないねえな」

 

 そう言ってシカマルは頭をかきながら昨晩考えてきた作戦を伝える。内容は一発限りの奇襲作戦である。

 

「相手が全能みたいな奴なら、こっちも各自の能力をフルに使っていくしかねえ。アカデミーで猫被ってたあの野郎の仮面を引ん剝く勢いでいくぞ!」

 

 やる気を出したシカマルの激励に各々が頷き、立ち膝の姿勢から立ち上がる。

 

 

 

 そして演習の合図を知らせる笛の音が鳴り響いた。

 

 



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43:蹂躙

少し長くなりました。戦闘描写は間延びしやすいですね。


<三人称>

 

 

 下忍6人組は演習の開始と共に全員で纏まって移動を行う。

 

「セオリー通りに行くなら2人一組で捜索に当たるもんだが、相手が相手だ。バラけてて各個撃破されたら勝ち目なんて零も良い所だぜ」

 

 そういうシカマルの指示に従い、紅班の面々は各々の感知能力をフルに扱い悟を捜索する。

 

(奴さんは感知能力もあるようだが流石にこちらの小隊の方が感知は優れている……めんどくせーけど、強みを押し付けていくしかねェなやっぱり)

 

 しばらく森の中、黙雷悟の捜索活動が行われている中、演習場中央にある監視塔では担当上忍たちが集まっていた。

 

「でだ、カカシ。お前が調べたっつー黙雷悟の情報はどこまで正確なんだ? あのシカマルに情報を与えれば、並みの忍びなら直ぐに八方塞がりになると思うんだが」

 

 煙草を吸いながら問いかけてくるアスマにカカシは返事をする。

 

「ナニ? 俺が手でも抜いてるかもって言いたいわけ? 心外だな~俺は俺なりに全力で悟のことを調べ上げたよ。ま、俺もお抱え班の面倒も見ながらだから限度はあるけどね」

 

 忙しい忙しいと肩をすくめるジェスチャーをするカカシ。紅はそんなカカシに問いかける。

 

「今日は随分と楽しそうねカカシ。何かいいことでもあったの?」

 

「ん? そー見えるかな。まあ、単純に悟を煽るのが楽しくってね、それだけェ」

 

 ニコニコと答えるカカシに(結構お気に入りなのね悟のこと。ガイも気にかけている様だし、私も何となく気持ちはわかるわ……)と紅は胸中で納得する。

 

「ただ監視するのもつまらねぇし、演習の成否で賭けでもしねェーか? 俺は自分の班が悟を捕らえると予想させてもらうぜ」

 

「悟」

 

「迷うわねェ……。まあ、自分の班を信じたい気持ちはあるけど成否で言うなら悟……かしらね」

 

 アスマの提案に即答するカカシと悩み回答する紅。

 

「じゃあ、アスマ。この後の親睦会での会計よろしくね」

 

「悪いけどアスマ。そういうことだから」

 

「もう勝った気でいるのかよ、カカシに紅……お前らそんなに悟のことを評価してんのか……」

 

~~~~~~

 

 一方下忍たちはものの数分で悟の存在を感知しその所在を明らかにしていた。悟のチャクラ感知に引っかからないよう、なるべく気配とチャクラを抑えた彼らはシカマルの作戦遂行のために各自配置に着く。

 

 だが、シカマルは悟の様子を伺い警戒度を高める。

 

(小川の流れる見渡しの良い所で仁王立ちとは随分と舐められてるのか、俺たち? それだけ自分に自信があるのかそれとも……)

 

 悟は仁王立ちで腕を組み、何やらブツブツと呟いている。そんな不気味な様子に不安を覚えつつもシカマルはハンドサインを飛ばす。

 

「さあ、零班様とやら。実力御拝見だぜェ」

 

 シカマルのつぶやきと共、奇襲が始まる。

 

「擬獣忍法・四脚の術、喰らいやがれェ! 通牙ぁ!!」

 

 悟の後方から螺旋回転の体当たりを繰り出すキバ。悟はそれに反応し、岩状手腕により巨大な岩の右手で通牙を受け止める。

 

「まだまだぁあ!!」

 

 キバが回転数を上げ、悟の岩の手を削る。その隙をつくように木々をなぎ倒す轟音が悟めがけて突き進む。

 

「肉弾戦車ァ!!」

 

 巨大な肉弾が悟に迫るが、悟は左手も岩の手へと変え受け止める。

 

(あの高火力をあえて受け止めるとは、俺たちのことをなめてるなこりゃあ。後悔させてやるぜ!)

 

 シカマルは茂みから影を伸ばし、左右から回転の猛撃を受けている悟の影へと繋げる。そして悟の動きを完全に封じた状態で

 

「ヨシ、影真似の術成功! イノ! ダメ押しだ」

 

 シカマルの指示で隠れていたイノが心転身の術を使い悟へと精神を飛ばし…… 

 

「二人ともストップ! 私が入ったから! 潰れちゃうゥ!」

 

 そう悟が叫ぶ。イノの術が成功し、悟の身体の主導権を得たイノは成功を口にする。そして両腕の岩がボロボロとくずれさり、隠れていたヒナタ、シノが飛び出した。

 

「縄で拘束だ、両手を塞げば術は使えない!」

 

 シカマルの作戦通りに、影真似で拘束され体の自由を奪われた悟に近づくヒナタとシノ。完全に縄で縛り、拘束すればあとは情報を聞き出して演習は終わる。

 

 余りのあっけなさにシカマルが印を結ぶ手の力を緩めた瞬間、違和感を感じた。その瞬間影真似の術が強引に破られ、シカマルの印が弾けるように解かれる。

 

 その瞬間、シカマルは叫ぶ。

 

「ッ全員悟から離れろ!!」

 

 悟の周囲の4人が叫びを聞き入れた瞬間。

 

 

 

 

「雷遁・地走り」

 

 悟を中心に電流がほとばしる。何とか後方に飛び退く4人だがシノだけは反応が遅れ少し電流を浴びてしまう。

 

「何でェ!? イノが中に入ったはずじゃあ!」

 

 チョウジの疑問の声をスルーし悟は一人動きの鈍ったシノに接近する。

 

「まずは一番厄介なお前からだシノ」

 

 そう言う悟は1人孤立したシノの腹に掌底を喰らわせ吹き飛ばす。そのまま木に叩きつけられたシノは意識を飛ばす。

 

「ちぃ!! イノはどうしたんだ!?」

 

 シカマルの叫びに、ゆっくりと悟が振り向き答える。

 

「俺の(精神)に入るのにはリスクが伴うぞっと……クックック。……俺ァ今無性にイライラしてんだ。八つ当たりの相手になってもらうぞ!! 木ノ葉の忍びどもォ!!」

 

(悟君……変な口調になってる……やっぱり自分の情報知られるの嫌だったんだ)

 

 テンションが可笑しい悟の様子に一瞬ヒナタの気が緩むが、悟の放つ威圧感は凄まじくすぐに臨戦態勢を取る。周囲を囲まれた悟は辺りをぐるりと見渡す。

 

この状況がありえる可能性(・・・・・・・・・・・)か……、カカシさん)

 

 黙雷悟は演習開始前に言われた言葉を目を細め思い出していた。

 

~~~~~~

 

 演習開始の少し前。

 

「何で俺の情報を……わざわざ尾行までして……!」

 

 黙雷悟は珍しく声を荒げて、目の前でのほほんとしている上忍に対して抗議をする。忍びの世界で情報というものは強力な武器へとなりえる。そのことを知っているからこそ悟はカカシの行動を解せないでいた。

 

「まっ……お前の抗議ももっともだ。理由が知りたいんだろ? じゃあ教えてやろう」

 

 カカシの目は冷たかった。その様子に悟は少し怯む。

 

「まずお前は悪目立ちが過ぎる(・・・・・・・)。言っちゃあなんだが、一言怪しいんだよ」

 

「ッ!?」

 

「アカデミー時代の成績は中の下、にも関わらず下忍になった直後から異例の数の任務達成率。少し調べればお前が実力を隠している不自然さには誰でも気づける。つもりそれがどういうことに繋がるかわかるか?」

 

「……」

 

 黙雷悟は押し黙る。自分の存在の客観性。その歪さを自覚し始める。

 

「……まあこういう差別みたいなこというのは俺も好きじゃあないんだけどね。『里出身でもない秘匿主義者が好き勝手なことをしている』としか一部のものには見られないわけだ。お前が良かれと思ってやっているかもしれないことでもな」

 

 カカシも強く叱るように言ってはいるが少し気まずさを感じているのか、目線は幾分か柔らかくなる。

 

「実際お前に関しての不満もいくつか里に寄せられているようだし。俺は実際に確認したわけでもないけど、確実にお前を疎ましく思う存在はいるってことだ、最悪お前が今回の演習の内容のような場面に立たされる可能性が……少し……あるわけね」

 

(そして同時にその才能を欲する人間もっ……とは流石に言えないかな。実際悟の里に対する帰属意識の低さは初めての演習の自己紹介の時から感じていたことだ。それに再不斬たちを里に連れ込む発想自体、木ノ葉からしたらまともとは言えない)

 

 悟は俯き目を伏せている。表情を伺えないが決して良いものではないのだろう。

 

「そこで三代目がお前を心配して、俺に色々根回しをするよう依頼された」

 

「三代目が……?」

 

「三代目はお前を高く評価している。それと同時に心配も。だからこそお前を『木ノ葉の忍び』としてその実力をアピールする案を出された。……かつてお前と同じような優秀な忍びがいたが、皆の目の届かない場所で悲劇を迎えてしまった。そうはならないようにお前を俺たち大人の目の届く位置に置いておきたいんだ」

 

 後半カカシの言葉に熱がこもる。悟は自分が心配されていることに、不謹慎にも嬉しく思う気持ちを抑え逆にそうして周囲に影響を与えてしまっていた事実に自分の考えのなさを痛感する。

 

「……カカシさんの考えはわかりました。えっとその……心配してくださってありがとう……ございます。つまりは任務などで悪目立ちする行動は自重しつつも俺という存在を木ノ葉に有益なものだとアピールすればいいわけですね」

 

「ああ、そうだ。理解してくれて嬉しいよ。ちょっと強引な感じになったが、今回の演習はお前に報酬金がでる正式な任務扱いだ。つまり内容も一部の者には開示される。お前に不満や不安を持つ者にも、見せつけてやれ! 『俺は強い木ノ葉の忍びだ』ってね♪」

 

 

~~~~~~

 

 ふーっと息を突き、悟は目を見開き回想を終える。

 

「抜け忍である俺を捕らえようなんざァ、百年早いんだよッ!!」

 

 そう叫び悟は、小川の上に移動し印を組み右手を上げる。その様子を監視しているカカシは苦笑いを浮かべる。

 

(あれ口調……再不斬の真似かw? 抜け忍って設定だから真似してるのね、結構似てるじゃない。ってあの術は……!?)

 

「水遁・霧隠の術」

 

 悟の足元の水が露散し、辺り一面を濃い霧が覆う。と言っても再不斬のような完全に視界を奪うような性能はまだない。頭上から監視する上忍たちには各自の姿が薄っすらとだが映る。

 

「早速資料にない術を使って来やがったッ! 視界を悪くするタイプの忍術だ、キバは俺と、ヒナタはチョウジと固まって不意打ちに備えろ!」

 

 悟の術に即座に反応したシカマルは、感知タイプとそうではない人物を組ませる。

 

(私の白眼なら、姿を捕らえ続け……!?)

 

 ヒナタが悟を監視する中、悟の影分身が発動し4体分の悟が霧の中、雷遁チャクラモードで辺りを駆けめぐる。チャクラを等分された影分身を見抜くほどヒナタの白眼はまだ精錬されていない。

 

「ひっひぃぃぃいいいい。どうなってるのォ!?」

 

 辺りを飛び交う雷鳴と霧の中に走る稲光に周囲の状況を正しく確認できないチョウジが狼狽える。

 

(霧を効率的に晴らすにはチョウジの部分倍化の術による巨大化させた手で大きく扇ぐぐらいしかねえが、パニックになってそれどころじゃねえな……)

 

「チョウ……じぃいいぃぃぃ!? …………」

 

 シカマルが案をチョウジに指示しようとするも、声を出した瞬間に2体分の悟がシカマルの襟を掴み、奥の茂みへと連れ去る。

 

「えっ!? シカマルぅ!! どうしたのォ!?」

 

「クソッすまねぇシカマルを連れてかれちまった!! 俺たちだけでも固まるぞ!!」

 

 チョウジの心配の声にキバが答える。

 

「ヒナタどこにいる!? 指示をくれ!」

 

 キバの声にヒナタがキバの姿を確認し、自分たちの位置を知らせる。辺りを飛び交う悟に臆しているチョウジにヒナタが耳元で囁く。

 

『チョウジ君、キバ君の姿が見えたら思いっきり攻撃をして!』

 

『えっ? どうして……』

 

『いいから……!』

 

 ヒナタの余裕のなさそうな顔にチョウジがハッと冷静さを幾分か取り戻す。そして

 

「ヒナタ、チョウジ! そこか」

 

 キバの姿をうっすらと確認したチョウジは部分倍化の術で肥大化した腕で殴りかかる。

 

「うおおおおおお!!」

 

「ナニっ!? ッ!!」

 

「イチかバチか……チョウジ君伏せて!!」

 

 チョウジがキバを殴り飛ばした瞬間にヒナタが起爆札を上空に複数枚投げ起爆する。辺りを爆風が舞い、霧が晴らされる。

 

「……あれは!?」

 

 晴れた視界にチョウジが見たものは、殴り飛ばした先にキバから変化の術が解けて姿を現した悟であった。

 

「多分、シカマル君を連れ去ったタイミングでキバ君を地中に拘束して入れ替わったんだよね……悟君」

 

「ちっ流石ヒナタだ……。少し演技クサかったか」

 

 チョウジの攻撃で吹き飛ばされた際にガードで使った腕を振りながら悟はヒナタとチョウジの前に立ちふさがる。

 

「一番厄介なシノを仕留め、次に厄介なシカマルも俺の影分身が行動不能にしているころだ……さあ、お前らも終わりの時間だ」

 

「っ!!」

 

 雷遁チャクラモードでのチョウジを目掛けた飛び蹴り。しかし反応できていないチョウジの代わりに、先読みと白眼を駆使したヒナタがガードをして立ちふさがる。

 

「くうぅっ……」

 

「防ぐだけじゃあ、勝てないぞ!!」

 

 防いでのけぞったヒナタに拳の連撃で追撃を図る悟。雷遁チャクラモードの連撃は加速し、白眼でも見切れきれなくなってゆく。

 

「肉弾戦車ァ!」

 

 チョウジがヒナタを助けようと横から加勢するが悟が一足後ろに飛び退くことで避けられてしまい、再度悟の猛攻がヒナタを襲う。

 

「そらそらァ!! どうした?! この程度か!!」

 

 悟の叫びに、ヒナタが一瞬目を見開く。

 

(強い……強いね悟君。だけど私もやられっぱなしじゃ終われない!!)

 

 悟が放つ攻撃を肩に受け怯むヒナタにボディブローが放たれる。しかし

 

「何!? っつう!!」

 

 攻撃をしていたはずの悟が大きくヒナタから飛びのき距離を取る。態勢を整えたチョウジが不思議そうにその様子を見ると、悟の腕が片方だけぶらんと垂れさがり力が入っていない様子であった。

 

 息を整えるヒナタに悟が問う。

 

「柔拳による経絡系へのダメ―ジ……チャクラモードで軽減していたはずなのに、どうして急に……」

 

「悟君がくれたヒントを参考にしたんだよ……まだ未完成だけど上手くいったみたい」

 

 悟が注意深くヒナタを観察するとヒナタの手には薄いチャクラの螺旋が渦巻いていた。その手によって先ほどのボディブローを防がれたと悟は気づく。

 

「なるほどね……チャクラの螺旋で俺の経絡系に一瞬で何度もダメージを与えた訳か……恐ろしい術だな」

 

 カウンターを警戒していた悟であったが、防御をそのまま攻撃へと転じたヒナタの術に感心する。動かなくなった左腕に悟が目を向けるが、動く気配は微塵もない。

 

 そしてその瞬間。悟に複数のクナイが迫る。

 

「お待たせ!! ちょっとダメージ喰らっちゃったけど何とか戻ってこれたわ!!」

 

 クナイを投げたイノが姿を現す。心転身の術から復帰してきたようだ。それに続き

 

「……通牙ぁ!!」

 

 クナイを避けた先で地面から飛び出てきたキバの奇襲に会い悟は吹き飛ばされる。

 

「固め方が甘いんだよ! 俺なら地面掘って進めるんだぜェ!」

 

 意気揚々とキバは唸る。悟は舌打ちをして、茂みの奥を見つめる。

 

「影分身が消されたと思ったら、いつの間に復帰してやがったのか、シノ」

 

「そう、俺を一番厄介と評価しておきながら気絶させたことを確認しなかったのはお前の落ち度だ悟」

 

 茂みからシカマルに肩を貸したシノが声色を少し明るくして姿を現す。

 

(シノの奴、地味に評価されて喜んでやがるな……)

 

 そのシノの様子にキバが思う。木に叩きつけられて気絶はしたものの、気がついたその瞬間から姿勢を変えずにシノは蟲だけに指示を出し連れ去られたシカマルの救助を行っていた。

 

「はあ……クッソ、全員復帰してきたか……」

 

 悪態をつくかのように愚痴る悟にシカマルが語る。

 

「確かにあんたはクソつえーけど、こっちも6対1なんて甘く見られた設定をされた以上意地があるんでね」

 

 6人に囲まれた悟は俯き、身体を震わせる。そして大きく高笑いをする。周囲の6人がその様子に怯んだ瞬間に悟のつぶやきが響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら俺も少し本気を出そう」

 

 

 

 

 

 

 

 悟の居た地面が爆ぜる。その瞬間にはチョウジが吹き飛び、小川に叩きつけられていた。

 

「なっ……!?」

 

 チョウジが攻撃されたことに反応したキバが身構えるが、瞬時に目の前に現れた悟に首を掴まれ地面に叩き伏せられる。

 

 先ほどまでの悟の動きやスピードからは隔絶した次元の動きにどよめきが走る。

 

 監視していた上忍たちも、関心を示す。

 

(あれは……ガイの八門遁甲か!? 段階はわからねェがスピードもパワーも先ほどとは桁違いだ)

 

 悟の情報が少ないアスマは驚愕する。悟が肌を包帯で隠しているため、八門をどの門まで開けていいるのかの目安はなく誰にもわからない。

 

「っ蟲壁の術!」

 

 悟のスピードを警戒し、シノが無数に蟲を使い自身を覆う。しかしシノの目の前で爆炎が爆ぜ、蟲を吹き飛ばす。

 

「……その姿は!?」

 

「これは初お披露目だぜ、誇れよシノ」

 

 シノの確認した悟の身体は炎の渦で包まれている。シノが接近されたことに気づいたシカマルとイノがクナイと手裏剣で援護をするも悟の腕の一振りで生じた爆炎が全て吹き飛ばしてしまう。

 

「左腕が動かねえのに何で術を!?」

 

 シカマルの疑問に悟は燃え盛る右腕に力を籠め答える。

 

「火遁チャクラモード……純粋なチャクラコントロールの産物だァ!」

 

 悟は叫びながら腕を突きだし爆発を起こす。シノは蟲で壁を作るも、自身と共に吹き飛ばされいくつかの蟲が悟に取り付こうとするも体の炎が蟲を近寄らせない。

 

「……っやは……り。お前は強いな、悟……」

 

 シノはそう呟き気絶する。その瞬間には悟は身にまとう炎を消し、八門遁甲による高速移動に移る。

 

「ちぃ、これならどうだ」

 

 シカマルは周囲に乱雑風にクナイを投げつけ、辺りの木々に差し込む。クナイにはワイヤーが繋がれていた。

 

(高速移動でワイヤーにぶつかればひとたまりも……)

 

 そのシカマルの作戦を察したかのように悟は動きを止めシカマルの直線状に立ち留まる。それを確認したシカマルがさらにクナイでワイヤー張り巡らせる。

 

 悟の動きを封じたことに安心したシカマルは、影真似の術による拘束を試みるため影を伸ばす。しかし

 

 悟は背中の鉄棒を引き抜き大きく振りかぶる。

 

「……は?」

 

 シカマルの声にならない呆けた声が響いた瞬間。悟が鉄棒をシカマル目掛けて投げる。鉄棒は風遁のチャクラを纏いワイヤーを切り裂きながら進む。

 

「滅茶苦茶だろォ!」

 

 そういって鉄棒をなんとか回避するシカマルが次に目にしたものは、悟の履くサンダルの裏であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ぬうっと悟が体を動かし、次のターゲットに目を向ける。

 

「ひぃ! こんなの無理よォ!」

 

 イノはそう泣きべそをかきながらもクナイを構える。その悟とイノの間にヒナタ割り込み立つ。

 

「イノさんはチョウジ君の元へ行ってください。まだ何とか意識がある様です」

 

 ヒナタはそういって悟を見据える。先ほどの格闘戦のダメージで呼吸が荒いヒナタはグッと噛みしめ構えを取る。

 

「ヒナタ、お前は強いよ。だから」

 

 悟は八門を開く。

 

「俺もお前に対して手を抜かずに戦う」

 

 そう言って悟は構えた。

 

「八門八卦・剛掌波!」

 

 かつては両手を使い繰り出していたチャクラ弾を打ち出す拳の突きを右手のみで打ち出した。ヒナタは白眼でそれを見切り何とか回避をするものの悟は剛掌波を連続で繰り出し続ける。

 

(これじゃあ……近づけないっ!)

 

 ヒナタの柔拳を警戒して悟は遠距離攻撃に徹する。剛掌波の威力はヒナタが避けたものが後方の木々を砕いていくことで証明している。

 

 じりじりと追いつめられるヒナタ。

 

 悟は剛掌波の一発をヒナタの目の前の地面に当て炸裂させ、石つぶてを飛ばす。広範囲の攻撃にヒナタが怯んだ隙に悟はその場で飛び上がり右足を後ろに振り上げる。

 

「八門八卦・剛乱脚」

 

 そのまま横に振りぬいた蹴りは衝撃波の嵐を発生させる。ヒナタはそれを何とか見切ろうとするも、広範囲に及ぶ衝撃波に対してすでに崩れた態勢からでは手でガードするしか術がなく大きく吹き飛ばされた。

 

「残るはイノ……とチョウジか」

 

 着地した悟は小川に振り向く。そこでは倒れたチョウジを何とか起き上がらせようとするイノがいた。

 

「早く!チョウジ立って! マジでヤバいわよ!!」

 

「う、ぐぐぐぐ……」

 

 イノは焦りながら悟を見ると、八門によるオーラを纏った悟が一歩一歩地面を踏み抜いて近づいてきていた。

 

(怖い怖い怖い! なんなのよ! やっぱり花屋でのこと根に持ってるわけ!?)

 

 イノがチョウジの手を引き上げようと一瞬目を離した隙に悟が目前に迫り右手でイノの首を絞め持ち上げる。

 

「がっあッ! う……」

 

 何とか悟の腕を引っ掻いて抵抗するイノだがまるで意味を成していなかった。その光景を見たチョウジは恐怖に呑まれる。

 

「も、もうやめよう!! 悟の勝ちでいいからイノを放してよォ!!」

 

 涙ぐんだ声で魂胆する尻もちを付いているチョウジに悟は冷たい目線で見下ろす。

 

「……抜け忍がこの程度で済ますと思うか? やめさせたければ力ずくでやるんだな」

 

 再不斬に似た声色で威圧する悟はイノをより強い力で絞め上げる。グウッと呻き声を上げるイノに対してチョウジは恐怖で動けないでいる。

 

「どうした、かかってこいデブ(・・)

 

 悟の煽りもチョウジには届かない。本来ならデブと言われればキレるチョウジだが、こと戦闘においては当てはまらないのかもしれない。

 

 震えて小川に座り込むチョウジに声が微かに声が響く。

 

 

 

 

 

「助、けて……ちょう……じぃ」

 

 

 

 

 忍びとしての覚悟はまだないのかもしれない。何となく過ごしていけば『大人』にはなれるのかもしれない。けれど

 

 

 今仲間を助けれないで、何に成れるというのか?

 

 

 

 

「……イノを放せよぉッ!」

 

 

 

 巨腕が振りぬかれ、悟は大きく吹き飛ばされ小川を跳ねる。悟が岸にぶつかり、その衝撃で小川のふちが爆ぜ雨のように水が辺りに降り注ぐ。崩れるイノの身体をチョウジの大きな手が受け止める。

 

「助けるの遅れてごめんね、イノ……僕……怖くて……」

 

「ゴホッ……たく遅いわよチョウジ……」

 

 2人がつかの間の安堵に浸る中、水が止んだと同時に影が立つ。仮面を右手で少しずらして口から血を吐いた悟は満足そうに小さく笑った。

 

「さてと、じゃあ止めといくか」

 

 悟は腰のポーチから千本を取り出す。そしてそれをおもむろに自身の左腕へと突き刺す。

 

「ひえぇっ何やってんノォ?」

 

「げぇ、何? あいつマゾなの」

 

 チョウジとイノのリアクションに不服そうに唸った悟は左腕を持ち上げ大きく肩を回す。経絡系へのダメージで動かなくなっていた腕を動かしたことで周囲には驚きが走る。

 

(なるほどねぇ、八門と医療忍術。それらの知識から自分の点穴の位置は把握済みだと。おおかた千本の扱い方はあの白くんにでも教わったか……)

 

 カカシが面白いものを見る目で観察する中悟はチョウジらとの距離を詰める。

 

「部分倍化!」「岩状手腕!」

 

 強大な腕同士が衝突する。

 

「うおおおおおお!」

 

 パワーで優るのかチョウジが悟を押しのけようとする中、悟が右手の術を不意に解く。チョウジの左手が空を切る中、右手側に回り込んで手裏剣を投擲しようとしていたイノに目線を向けた悟は片手で(・・・)印を結ぶ。

 

「雷遁・地走り」

 

 悟から放たれた電流が小川を伝わってチョウジとイノを怯ませる。怯んだチョウジに対して片手で再度印を結んだ悟は炎弾を放ち爆炎で吹き飛ばす。

 

 そして最後に残ったイノに対してゆっくりと近づき

 

「……花屋での仕返しだ」

 

「えへへ、やっぱり根に持ってt……ヘブゥッ!!」

 

 八門からのデコピンを額に食らわせ昏倒させた。

 

 

 

 

 

 こうして1対6の演習は黙雷悟の勝利で幕を閉じた。演習を記録していた上忍らの報告書により、黙雷悟の忍者登録書は更新される。それらの内容により火影の提案である黙雷悟の中忍試験参加を1人ですることに上層部が認可を出したことはまた少しだけ先の話であった。

 

 

 

 

 



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44:懐かしき青春

<はたけカカシ>

 

 無事演習を終えた俺たちは、報告書をまとめるアスマを尻目に昼の食事についての話題を進めていた。

 

「やーや―君たちぃお疲れさん。さて演習内容に各自思うところはあるかもだけどこの後は親睦を深めるために皆で焼肉いこーってね。ま! アスマのおごりが決定してるから何ならお高い場所でもいいぞぉ!」

 

 俺の提案にチョウジ君はどうやら乗り気らしく目を輝かせている。が他のメンバーは随分と悟にボロボロにされて殆どがうなだれていて反応が鈍い。こりゃ力の差に落ち込んでる部分もあるかもね……どーも。

 

「それじゃあ皆、一度解散してからあとで集合ね。身支度を整えてから焼肉、頂きましょう」

 

 紅の柏手を合図に下忍たちは解散していく。悟とヒナタだけは残り何か会話をしているようだ。一通り話した後ヒナタは先に帰っていった。そして残った悟は俺に近づき内緒話をするように小声で語りかけてくる。

 

「……途中から気づいていましたけど、この演習。上忍の皆さん以外にも1人監視している人いましたよね?」

 

「……? 噓、俺は気づかなかったけどそれ本当?」

 

 これはのちに調べたことだが実際、この演習場に誰かが立ち入った様子はない。にもかかわらず悟は第三者の視点を感じていたらしい。

 

「……何となく心当たりがあるんですけどね。あの独特な視線(・・・・・)

 

 そういって悟は挨拶をして帰っていった。少し気になるが俺たちもそろそろ撤収するかな。

 

「あ、アスマ。俺の班の子どもたちも呼んでいい?」

 

「鬼かてめえ!!」

 

 

~~~~~~

 

「おーす! 焼肉ごちになりまぁーす!!」

 

 ナルトの大きな声を合図にゾロゾロと焼肉屋になだれ込む。演習終わりでもあるため、殆どが私服で来ていた。かくいう俺も任務服に匂いを付けたくないのでラフな格好で来ているが。

 

「ひーふーみー……12人……だと……ッ! ただでさえチョウジだけでもえらいのに……」

 

 アスマが驚愕しているが無視して足を運ぶ。紅がアスマを励ましている。お熱い感じがして少し同期としてムズムズするなぁ。

 

「カカシせんせー! どれ食べてもいーのォ?」

 

 座敷の席に着いたナルトがはしゃいでいる。まったく微笑ましいね、こりゃ。

 

 食事会は大いに盛り上がった。演習の内容に興味を持ったサスケが説明しようとするイノに詰め寄られて、それをサクラが怒って……。チョウジ君のドカ食いにシッカリ噛んで味わえと悟が言いながら、焼肉の焼き加減にケチをつけてきたりヒナタがナルトに野菜を取り分けてあげていたり。静かにシカマルとキバ、シノが先ほどの演習の反省点を話し合っていたり。

 

 賑やかな様子を一歩引いて見ていると何だか昔を思い出すな……。

 

~~~~~~

 

「カカシ約12歳」

 

 

 

『はあ? 食事会?』

 

 色々なことが起きた戦争もついには終戦を迎え木ノ葉に浮かれた雰囲気が漂う中。リンの提案に俺は珍しく変な声で聞き返した。

 

『うん……大変だった戦争も終わったけど、それでも私たちは前を向いていかないといけないでしょ? 同期の皆を集めて、明るくなれたらなーって……』

 

 ……確かに戦争は残酷だ。俺たちにも消えない傷を残していった。だからこそ……。

 

『……俺は遠慮したいね。……何だかそういうのオビトのことを思うと申し訳なくてやる気が出ないんでね……』

 

 あの戦争で失った俺の大事な……大切な友を思うと、自分がそういう幸せを享受することが酷く残酷なものに感じて俺はリンの前から姿を消す。

 

『カカシ……それは私も……』

 

 リンのつぶやきに気づかぬまま。

 

………………

…………

……

 

 

 新しく火影岩が彫られている崖の隅で一人黄昏ていると不意に声を掛けられる。

 

『やあ、カカシ。あまり……元気はなさそうだね』

 

『ミナト先生……』

 

 黄色い髪を夕日に揺らして俺の師、「波風ミナト」が寝そべっている俺の顔を覗き込んでくる。

 

『……何だか平和っていうのが落ち着かなくて……こんなことしてていいのかなって』

 

『ははは……それは贅沢な悩みだね。カカシ、平和っていうのは長く続くかわからないものなんだ。だからこそ享受できるときにめいいっぱい受け入れることを覚えた方がいいかもね』

 

『……何かの犠牲で成り立っているのに……ですか?』

 

『だからこそ、だよ。……オビトのことだね』

 

『はい……』

 

『気持ちはわかるよ……。でもそれとリンの誘いを断るのは別だ。ほら、今からでも行って来たらいいよ』

 

 そういったミナト先生は手で合図を送ると、暗部の面を付けた忍びが姿を現す。

 

『同期で集まるなら2人でいってきたらどうだい? マリエ(・・・)

 

 その忍びは暗部の面を被っているのにも関わらず、腰には無地の仮面をさげている。ミナト先生にそういわれた忍びは面を外し顔を晒す。

 

『いいんですか? 私は火影様の護衛で……』

 

『いいから! カカシもマリエももう少し気を張りすぎないことを覚えてきなさい』

 

『……承知しました』

 

 栗色の短い髪が夕日に照らされたマリエは不服そうにそう答え、俺に近づいてくる。

 

『火影命令だ、行くぞ。はたけカカシ』

 

『……俺が言うのもなんだけど、気を張るという面でこいつとは一緒にしてほしくはないですねミナト先生』 

 

 「なんだと」っとくってかかってくるマリエから逃げるように俺はリンが予約指定していた焼肉屋に向かう。正直マリエの方がスピードは速いので途中で追い抜かされ、得意げな表情を見せるアイツにカチンときてムキになってしまった。

 

 

 

 

 

『……君たちは里の未来を担う子供たちだ。大人の俺が、幸せそうにしていて欲しいって思うのはエゴかな……』

 

 次期四代目火影はそう、夕日に呟いた。

 

 

………………

…………

……

 

 

『……ふん、他愛もない。鈍っているんじゃないのか? カカシ』

 

『ゼ―ッハーッ……や、焼き肉屋に行くだけで何でこんなに疲れなきゃいけないんだ……まったく』

 

 そうして扉を開けると、リンを始めガイ、アスマ、紅が席に着いているのが目に入る。

 

(……思ったより同期って少ないな)

 

 なんて心の中で思うが、俺を見つけたリンが嬉しそうに手を振ってくる。

 

『あの席か、行くぞ』

 

『全く……』

 

 席についた俺たちは、何ともない日常会話に花を咲かせる。アスマや紅がそこそこいい雰囲気なのが鼻に着くがまあ無視だ無視。

 

 途中鶏肉しか食わないマリエの皿に牛肉を乗せてやると

 

『……牛肉は嫌いだ……』

 

 と呟きリンの皿へと横流しをしていた。リンは「仕方ないなぁ~」なんて言い代わりに食べてあげていたが、その様子が面白くて何度も牛肉や豚肉をマリエの皿に乗せているとマリエが胸ぐらを掴んできて少し場が荒れた。手が出るのが早いんだよ、まったく。

 

 そして会計の時。

 

『ん? ガイは?』

 

『あれェ? テーブルで寝てる見たいだね。起こしてくるね』

 

 俺の疑問にリンが答え、テーブルに突っ伏しているガイをリンが揺すると……

 

 

 

『青春だあああああああ!!』

 

 

 跳ね起きたガイはいきなり机をひっくり返して暴れはじめる。周囲の客や店員がどよめき、紅が驚いている様子にアスマが申し訳なさそうに口を開く。

 

『やっべぇ……あいつの飲み物に酒をふざけて混ぜたのやばかったか?』

 

『少なくとも冗談では済まないよーだよ、全く!』

 

 俺がそういってガイを止めに入るが、変則的な打撃に対して上手く近づくことができない。手をこまねいているうちに周囲にも被害が……。

 

 すると突然、ガイを巨大な岩の腕が掴み外へと引きずり出す。

 

『この大馬鹿者めぇ! 折檻だ!!!』

 

 あれは……マリエの「土遁・岩状手腕」か……。発動した後は単純なチャクラコントロールのみで動かせるから、別の忍術との組み合わせがしやすい便利な術だ。

 

 なんて解説している暇はない。俺はアスマの頭を叩き(はた)

 

『アスマ、ここはお前の奢りね』

 

 そういってリンと共にガイたちの後を追った。

 

 

 

『えっマジかよ……』

 

『アスマが悪いのよ……まったく』

 

 

 

………………

…………

……

 

 

~~~~~~

 

(あの時は結局ボコボコにされたガイが泣いているのに、絶えず攻撃を繰り返すマリエを止めるのにリンと2人で何とかしたんだっけか……)

 

 昔を思い出して少しガイを不憫に思う。一番悪いのは酒を飲ませたアスマであるのに。

 

「アスマ……」

 

「あ? なんだ、カカシ。割り勘でもしてくれるのか?」

 

「お前が悪い」

 

 そう告げて俺は追加の焼肉を注文する。アスマがうなだれているが自業自得だ。

 

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

 少し時間が遅くなってしまったが、アスマさんの奢りの焼肉弁当のお土産を持って施設へと帰る。

 

 夕飯時も近いぐらいまで話し込んでしまった。キバに通牙のやり方を聞いたり、シノと戦術について話したり。意外にもシカマルが一番向上心が高くて色々聞いてきたのが印象的か。チョウジがお礼を言ってきたのも意外と言えば意外。まあ、一番問題だったのは俺とヒナタの距離感が近いことをイノがはやし立ててきて、ヒナタが婚約していることを口を滑らせて言ったことだが……。ああ、もう思い出したくない。

 

「ただいまー、マリエさんいますー?」

 

 声をかければ、直ぐに顔を出してくれるマリエさん。

 

「あらーお帰りなさい。私たちも今帰ってきたところよ~」

 

 そういうマリエさんは少し疲れた表情だ。

 

「鬼さんと白雪は?」

 

「2人も緊張してたみたいで、部屋で休憩してるわ。ってそれェ……」

 

 マリエさんが俺が手に持つ物に気づく。

 

「同期と担当上忍含めて食事会に行ってきたんですよ。そしたらカカシさんが『せっかくアスマが奢ってくれるしマリエにお土産でも持ってったら?』って提案してくださったので、折角なので4人分の焼肉弁当貰ってきました。子供たちの食事の準備は俺がやっておくので、3人で食べててください。ウルシさんは今日任務でいないですよね?」

 

「あら、嬉しいわ~。がっつりしたもの食べたかったの~。ウルシ君の分は冷蔵庫に入れておけば……ってあら?」

 

「? どうしました」

 

 マリエさんが弁当を広げていると弁当に挟まれていた手紙らしきものを手に持っていた。

 

「いつの間に……何ですかそれ?」

 

「…………ふふふ、何でもないわ。さあ、悟ちゃんに甘えて食べてくるわ~」

 

 少し機嫌が良くなったマリエさんは再不斬と白の元に弁当を持って移動していった。……どうしたんだろう? 俺は疑問に思いながら影分身を十数体出して単純作業を任せて、夕飯の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今回はちゃんと鶏肉だけにしておいてあげるよ』

 

 

 

 

 

 

 

 



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45:「本当の□□□」前編

「貴方をいつも見守っている」


<日向ヒナタ>

 

 楽しかった皆との食事会の次の日のお昼頃。私は外に出かける支度をしていました。

 

「……姉様……こんなに時間からどこへ?」

 

「あら、ハナビおはよう。え~と今日はその、悟君が年上の班の人たちと演習をするみたいだからその見学に来ないかって言われてて……」

 

「ええ!? いいなぁ~私も見に行ってもい~い?」

 

 最近のハナビは私相手だけだけど、昔みたいに甘えてくれるようになってくれている。少し嬉しく思っちゃうな。

 

「多分悟君は良いって言ってくれると思うけどハナビは、お父様に予定を聞いてからじゃないと……ね?」

 

「大丈夫! 悟さん関係のことなら父さまは大抵許してくれるから! ちょっと聞いてくる!」

 

 はしゃぐ様にハナビは走っていった。……悟君関係かぁ。昨日のことを思い出して少し自己嫌悪に浸ってしまう私がいる……。

 

 

~~~~~~~

 

昨日の「焼き肉屋」にて。

 

「悟君、これぐらいの焼き加減で大丈夫?」

 

「ん? ああ、そうそう結構焼いた方が俺は好みなんだよね~」

 

 悟君はカカシさんに取り分けられたお肉の焼き加減が気に入らないと文句をつけていたので、私が変わりに焼いてあげたお肉をお皿に乗せてあげました。その時にカカシさんが少し懐かしむ感じで悟君を見ていたのは印象的でした。

 

「あら~ナニナニぃ? ヒナタちゃんって人見知りだと思ってたけどこんな仮面野郎には結構慣れた様子じゃな~い。もしかして付き合ってんのぉ?」

 

 私と悟君のやり取りを見ていたイノさんが声をかけてきました。確かに悟君は幼馴染で、気を抜ける仲、一番の友達なので……。私が返答に困って悟君の方を見るとジュースを仮面をずらして飲みながら、イノさんに露骨に嫌そうな表情をしていて……。仮面を被っていても悟君の表情はとても読みやすくて少し面白いなんて、本人には言えないかも。

 

「変な詮索をしないで欲しいなイノ」

 

 そういって悟君がデコピンの動作をするとイノさんは顔を引きつらせて黙り込んでしまいます。……何かあったのかな?

 

「でも確かにヒナタってアカデミーのころから、ちょっとオドオドしてた印象だけど久しぶりに会うとしっかりした様子で驚いたわぁ」

 

 サクラさんがちょこんと顔を出して声をかけてきます。ナルト君が好きな人はこのサクラさん……。いけない……そう思うとちょっと暗くなっちゃうな……。

 

「そうかぁ? ヒナタも悟も昔っから仲良しだよなぁ?」

 

 ガバッとナルト君が私と悟君を抱え込むように後ろかr……だddddd

 

「なな、ナル……なる……トくぅんぅうん!?」

 

「なっ!? ちょっとナルト食事中に抱き着いて来るな……ってヒナタぁ! 落ち着け!!」

 

 ナルト君の顔が近くに近くに近い近い……。

 

「わt、し私ぃ!! べ、別に普通です!」

 

「お、おう分かってるってばよ……。大丈夫かヒナタ顔真っ赤だぞ?」

 

「おいナルト良いから離れろっ!!」

 

 ナルト君と私と悟君、さとるくんなるとくんわたし……

 

「べ、べつに悟君とはそういう特別なか、関係とかじゃないですぅ! えっとえっと!」

 

「そこ掘り返さなくていいから! ヒナタ落ち着けって!!」

 

「そう、ナ、なルト君!! 勘違いしないでね! 悟君はただ、私の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

婚約者なだけだから!!!!

 

 

 

 

 

 

 

だから特別な関係とかそう……い……う……?」

 

 

 あれ、私何言って……? 婚約者って特別……なんじゃ……?

 

 冷静になって周囲を見渡すと、シーンとなって皆が私たちを見てる。キバ君がお茶を零しながら唖然とした表情d

 

「キャーーーー! 婚約者ァァアああ!! なにそれなにそれぇ!!!」

 

「ちょっとォ悟やるじゃない!! いつの間にこんなかわいい子に手ェだして!!」

 

 イノさんがはしゃぎ始めて、サクラさんが悟君の背中をバシバシと叩いて……あわわわ……。さ、悟君からの視線が、いっ痛い……。

 

「なっマジかぁ!? ヒナタ!?」

 

「これは同じ班として祝福の言葉を送らなければな……」

 

 キバ君シノ君……。ちょっこれは違うのぉ!! イノさん身体を揺らさないで~。

 

「へぇ~婚約者かぁ……。僕たちにもそういう人出来るのかなぁシカマル?」

 

「まあ、悟の奴の能力、実力を考えれば日向がその力を欲しがるのもわかるが……。俺たちも名家っちゃあ名家だからな、そういう話がめんどくせーけどあり得るかもなチョウジ」

 

「あらあら、班員に先を越されちゃったわね、ね? アスマ」

 

「そういう話はここではやめてくれ

 

 

パチーーーンッ!! と突然の炸裂音が鳴り響く。

 

 

 続いて悟君の位置から風圧を感じて、皆が顔を向ける。指パッチンをした悟君のはあの八門遁甲のオーラを漂わせていた。悟君の近くにいたサクラさんのピンクの髪が風圧でぼさぼさに……。

 

 

「二度は言わない。これ以上この話題を出した者、折檻だ……覚悟しろ……」

 

 

 「「「「「「……はい」」」」」」

 

 本気で怒った悟君の一言で場が静まり返る。あああ、すごい怒ってる……。

 

「ご、ごm」

 

 謝ろうとする私の口に悟君は人差し指を押し付け

 

「話題に出すな」

 

 と一言。

 

 うううううぅぅぅ……。

 

 その後はぎこちなくも皆が日常の会話に花を咲かせるようになって。そ、そう言えばナルト君は、私の婚約についてどう思ってるんだろう……。

 

 そう思った私がナルト君がサスケ君と小声で話している内容に耳を傾ける。気になっちゃうから盗み聞きするなんてはしたないけど……。

 

「なーなーッサスケェ」

 

「んだよ? ウスラトンカチ」

 

「婚約って結婚ってやつと何か違うのかってばよぉ?」

 

「……おいマジか常識だぞ? いいか、婚約は結婚の前約束のことだ。ヒナタと悟の婚約は恐らく正式な儀式n」

 

「へぇ~楽しそうな話題だなあ~。ナルトぉ? サスケぇ? 俺も混ぜてくれよぉ」

 

 あっ悟君がぁ……!!

 

「ちょっおい待て悟! 俺はナルトに聞かれたことを答えただけでっ!」

 

 パンッと乾いた音が響きました。……イノさんがオデコを押えながら引きつった顔でナルト君とサスケ君を見ていたのが印象深かったです……。

 

 

………………

…………

…… 

 

 そして食事会も終わり、皆が家路に着いている頃にナルト君がコソッ近づいてきて

 

「なんつーか、おめでとっヒナタ! よくわからねーけどっ良い事なんだよな! だけど……

 

 

 

 

なんだか俺だけ仲間外れみたいでちょっと寂しいってばよ……へへへッ……」

 

 

 

 

 ナルト君はそう言って……そう言って……少し元気なく帰っていきました。

 

 

 その時私の胸には熱したクナイを突き立てたような痛みが走って……

 

 

~~~~~~

 

 

「姉様! ボーっとしてどうしたの?」

 

「えっああ、ハナビごめんね。もうそろそろ着くから……」

 

 昨日の失態に気を落としているとハナビに心配されてしまった。食事会自体はとても楽しかったのに……。

 

 すると私たちに声をかけてくる人が1人。

 

「おお、ヒナタ。それにハナビもこんにちわ」

 

「さ、悟さんこんにちわ! お久しぶりです!」

 

「……こ、こんにちわ、悟君」

 

 ……流石に気分を変えていかないとね! 昨日演習では悟君の強さを改めて痛感した。だからこそ、悟君の演習する姿を通して何か学べることがあるはず!

 

「そういえば、姉様も悟さんも任務はないんですか?」

 

「ん? ああ、今日は午前中は皆任務があったみたいだけど、各班の担当上忍に連絡が入ったとかで休憩中……のはずなんだけどガイさん(・・・・)から俺に名指しで任務という形で担当する班と演習をして欲しいって話が来てね」

 

「それで悟君が、私に見学に来ないかってお誘いをしてくれたの」

 

「へえ~、悟さんの闘う姿私楽しみ~!」

 

 ハナビは随分と悟君に慣れた様子。そんなハナビと悟君が雑談しながら、指定された演習場へと向かうとそこには用意された数多くの的や藁人形におびただしい数のクナイや手裏剣が突き刺さった光景が広がっていた。

 

「……」

 

 奇妙な光景にハナビが絶句していると、2人組の声が聞こえてくる。

 

「オイ……おいおいおい聞いたかよ、今度の中忍試験……5年ぶりにルーキーが出てくるって話」

 

「あ~、1人ヤバい奴に心当たりありすぎてヤになるわ~。只の上忍の意地の張り合いとかだといいのに……」

 

「いや……ルーキーの内3人はあのカカシの部隊だっていう話だぜ」  

 

 微妙に話がかみ合ってないような話声は私たちの存在に気がつくと声をかけてきました。

 

「ってあら噂をすれば悟じゃない! それにハナビちゃんにヒナタも! おひさ~!」

 

「おいおいおいテンテン、話の途中だぜ? ってこれはこれは麗しい子猫ちゃん達が2人も「いい加減そのキモイ口調やめてよ、リーッ!」……わかりましたよォテンテン。カッコイイと思うんだけどなぁ……」

 

 独特な口調をしていた濃い顔の人はリーというみたいで……。悟君の顔を見るとなんだか、笑いをこらえているような? どうしたんだろう……。

 

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

 演習場に集合してしょっぱなから面白い者を見た……。なんてどうでもいい話題は置いておいて、俺はテンテン、リーと演習内容について話し合う。

 

「……という訳で第零班の黙雷悟です。って自己紹介いるか? テンテンは当然知ってるよな?」

 

「あら~? そうだっけェ? 顔をよく見せてくれないとよくわからないわねぇ~?」

 

「(無視だ無視)で、そっちが『ロック・リー』さんだね? はj「初めまして貴方があの黙雷悟君ですかっ!!!! 話はガイ先生からたくさん聞いていますっ!! 僕は弟弟子ですがそれでも、貴方に負けないよう日々努力をかs」ああよろしく……」

 

 知ってたけど熱い、暑い、厚い、リアクションが。一応年上だから敬語で行こうかと思ったけどこれはいらんな……。

 

「それで演習についてなんだけど……」

 

 で、肝心の演習の内容については単純な忍び組手で良いらしい。だがリーは最終的に八門遁甲・第3生門まで開けて組手をすると宣言してきた。マジかよ、と思えば『悟がいれば八門の扱いを誤ることもそうないだろう! それに医療忍術も扱えるようだからなっ、弟弟子として兄弟子の胸を借りてこい! リ―!!!!』というガイさんの伝言があったからだそうで。  アツい。

 

 ガイさん本人は呼び出しがあって演習の終わりごろには来るそうだが……。

 

 という訳で先にテンテンと組手をする前に、見学しようと隅で座り込んで話をしている姉妹の所に行き、小声でヒナタに声を掛ける。

 

『……昨日も演習の終わりに言ったけど、恐らく誰か(・・)が遠くから俺を監視しているはずだ。白眼でそいつの正体を探ってくれ。頼んだぞ、ヒナタ』

 

『……うん、わかった。注意して視てるね』

 

「悟さん、頑張ってください!」

 

「おう、少なくともテンテンは余裕にけちょんけちょんにしてやるよ!」

 

「……聞こえてるわよ~むっつりマスクマン」

 

 なんてことを言いあいながら組手が始まった……。

 

 

~~~~~~

 

 

「グガガガっま、まさかここまでとは……さすがは僕の兄弟子ですね……」

 

「……痛っ……ふう~マジで危なかったァ……でもいい経験になるな」

 

 あれから数時間。テンテンを軽くノシ、軽く休憩を入れた後のリーとの組手は熾烈を極めた。初めから重りを外したリーの動きに対応できなかったので第1開門を開き対応したが、リーが体内門を開くたびにその追い上げはかなりのものになった。

 

 結論から言えばリーは第3生門、俺は第5杜門まで開き組手は拮抗していた。リーの方が少ない開門で爆発的な力を得ていたのだ。だがまあ、反動は俺よりもでかいようで今目の前でのたうち回っている。……俺が言うのもなんだけど体術の化け物だな。

 

 という訳で掌仙術でリーの八門の反動を和らげてあげているときにガイさんが現れる。

 

「トォーーウっ青春しているかーーーッ!! 少年少女よぉ!!」

 

 暑苦しい登場にヒナタもハナビも苦笑いに。俺はもう数年の付き合いがあるから慣れているけど、あっハナビはリー相手にも結構嫌そうだったし顔がもう何というか露骨だ。

 

 なんてことでガイさんが為になるようなことを総括として話しているときにヒナタに耳打ちをする。

 

『今日もやっぱり視線を感じたんだけど、誰かいたかわかった?』

 

『うん……えっとかなり離れた場所でその……ネジ兄さんが……』

 

 ……なんとくなくそうじゃないかと、思っていたけどやっぱりそうか……。しれっと演習にも来てなかったしどんな目的があるにせよ、前回と今回の演習での俺の動きを観察されていたわけだ。

 

 もし戦うことがあるなら気を付けなければいけないなぁ~。

 

「悟さん! 今日の演習とてもためになりました!」

 

「そう? ハナビがそう思ってくれるなら張り切ったかいがあるよ」

 

 久しぶりにハナビに会って、ハキハキと喋る様子に何というか保護欲? みたいなものを刺激される。 はあ、普通にいい子だなぁ……貴重だよな、普通にいい子。

 

 なんて俺は思いながら今日の演習は解散した。

 

 今日は施設に人がいない日だ。所謂孤児院間の交流とかなんとかで、職員や子どもたちは別の施設に泊りがけで出かけているからだ。

 

「俺とウルシさんは任務がある里に残るし、ウルシさんは里外に出てるし、つまり今日は施設に完全に1人か……」

 

 帰路でそう呟いた俺は、思い付きで別の演習場を借りに赴く。取りあえず日が落ちるまでは1人で修行ができそうだ。

 

 

~~~~~~

 

 日は落ち、俺は1人施設へと帰る。夕飯は一楽で済ませた。1人だと楽をしたくなるのは仕方ない。そう思い施設の前へと来ると、明かりが全くついていない普段とは異質な施設に少し心がざわつく。

 

 ……1人が寂しい……なんていまさら言わないけど……。まあ、特に家事とかやることもないし応接室でゴロゴロ暇をつぶしてさっさと寝るかな。そう思いながら玄関の扉を引き、誰もいない施設に俺のただいまと言う声が響く……。

 

 

 

 

 

 

 当然返事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はずだった。

 

 

 

 ……俺の気のせいかもしれないけど、ただいまといった瞬間に誰かがおかえりと返事をしたように、感じた……気がする。なぜだか背中に汗が染み出る。

 

 今の俺は忍びとしての聴力を持ち、ちょっとやそっとの物音は聞き取れる自信がある。その俺が聞き取れるかどうかの微かな声……。

 

 施設の子どもでもない。職員でもない。それでも懐かしいような、暖かいようなそんな異質な声……。

 

 ……少し警戒をしながら施設に踏み入る。こんなに警戒しながら施設に入るのも2歳の時ぶりか。

 

 取りあえず、何かつまむものでも食堂に取りに…… 

 

 

 

 その瞬間自分の目に熱が走る。まるで太陽を直視したような感覚と熱により一瞬怯むが別に痛みがあるわけではなかった。……この感覚は何時か、アカデミーの前でも感じたものだ。目に何か異変でも起きているのかと目をつぶり手探りで洗面所まで向かい鏡の前で目を向ける。

 

 

 「目」が見えない。視界がないのではなく、鏡の中の俺は仮面を取っている、のにも関わらず目の部分だけ認識ができない。目があるはずの場所は黒いモヤみたいなものが漂い、薄っすらと目があるであろう場所に暗い山吹色の光が灯っているように見えなくもない。

 

(一体なんだ、どうなってる!?)

 

 水で目を洗うが変化はなく、目の熱は引くことがない。

 

 焦っている俺が鏡で自分の顔を凝視していると不意に背後に人の姿を見る。

 

 

 金髪で整った顔の男性がいた。その人物の顔は、木ノ葉にいれば誰もが見たことのある……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四代目火影のものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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46:「譛ャ蠖薙�遘�」

「この忍界はどうしようもなく残酷で醜い、だからこそ……」



<黙雷悟>

 

 

 四代目火影、うずまきナルトの父、「波風ミナト」……

 

 鏡に映るその人物を認識し咄嗟に振り返れば、そこには変わらずその人物がいた。

 

「縺薙%縺後�繝ェ繧ィ縺ョ螳カ窶ヲ窶ヲ縺ィ縺ェ繧句�エ謇€縺ァ縺吶°��」

 

 ……何か……喋るような口の動きをしているが、声は……聞こえない。聞こえているような気がしないでもないが、水の中で喋っているような不鮮明な音だけが頭の中に響く。そんな俺を認識していない四代目の様子に、1つこの事象に中りをつける。

 

(もしかして、俺が見ているこれは過去の出来事……なのか?)

 

 そう思ったことに明確な理由があるわけでもなく、自身の異常にも心当たりはないが、この状況……そう言う風に納得しなければ精神がもたない。

 

「縺昴≧縺ァ縺吶�縲∝スシ螂ウ縺ォ縺ッ蠢�ヲ√↑蝣エ謇€縺�」 

 

 もにゃもにゃと喋る四代目は扉をすり抜け移動を始める。気になる俺は目の熱さに違和感を覚えながらも、ついていくことにした。

 

 道中も

 

「繝槭Μ繧ィ縺ョ蠢��蛯キ繧偵←縺�↓縺九〒縺阪k縺ョ縺ッ迚ケ蛻・縺ェ蟄伜惠縺�」

 

 四代目は誰かに語りかけるように、口を動かしている。

 

 かなり不気味に感じるが、俺はこの現象の顛末を知りたいという欲求に従い四代目の後をつける。

 

 だんだん目の熱が引いていく感覚を自覚していると、四代目の姿がおぼろげになっていく。そんな四代目は1階にあるマリエさんの自室に扉を開けるような動作をしてすり抜けていく。

 

 マリエさんの自室には普段は鍵がかけられている……が、この事象が気になる俺は心の中で謝りながら鍵に手持ちの針金を2本差し込む。

 

(まさか施設でこんな技術を使う破目になるとは……前世の演劇の芝居でやった、鍵開けの練習を試すなんて)

 

 カチャカチャと数秒動かせばカチリと音が響く。

 

(手錠の鍵開けとかも練習して出来るようになってたし、単純な鍵なら開けれてしまう……ごめん、マリエさん) 

 

 ある意味転生特典を披露した俺は扉を開ける。中には先ほどの四代目の幻影がいて、相変わらず何かを喋っている。この部屋に入るのもしばらくぶりか……影分身を教えてもらっていた時を思い出す。

 

「蠖シ螂ウ縺ョ蛻�」ゅ�陦薙↓繧医k蛻�」ゆス薙r縺薙�蜈医�」

 

 そうして懐かしんでいると、解説するような仕草のまま四代目は本が沢山敷き詰められている本棚をすり抜け消えていく。そして最後に

 

「蠕後�荳我サ」逶ョ縲∬イエ譁ケ縺ォ莉サ縺帙∪縺吮€ヲ窶ヲ縺ゥ縺�°繝槭Μ繧ィ繧�」

 

 四代目の言葉らしきものが聞こえた。それと同時に俺の目の熱が引く。自分の目が気になって部屋に置かれている姿見で確認してみると。

 

 いつもと変わらない俺の緑色の目が窓から入る月明りを反射させていた。

 

(一体なんだったんだ……?)

 

 自身の異変が収まると同時に、先ほどの四代目の動きが気になり本棚の前に立つ。

 

(基礎的な忍術の心得……美味しい料理の作り方……ジャンルがバラバラな本ばかりだ。俺もいくつか借りたことのある本があるが……)

 

 本棚を観察する俺は、ふと分厚いアルバムが気になり手に取る。中を開いてみるが写真は一枚も入っていない。

 

(てっきりマリエさんの写真でもあるかと……これは……?)

 

 てっきり何も入っていないと思っていたアルバムの中に1枚だけ写真を見つける。

 

「……これは……俺……なのか?」

 

 日付は約12年前、赤子の写真。

 

 その写真の下には

 

 

 あなたのために

 

 

 と一言書かれていた。

 

 ……何だか見てはいけないものを見ている気がしてアルバムを戻そうと本棚に目を向けると、アルバムが入っていた位置の奥に不自然な木の板を見つける。

 

 気になり、木の板を取り外すと、四桁のダイヤルが現われる。数字は、前に聞いたマリエさんの誕生日を示していた。

 

(実際には生まれた日じゃなくて孤児院に来た日にちだと言ってたけど)

 

 流石にパスワードに心当たりはない。これが何の意味を示すのかはわからないけどこれ以上の詮索はやめておこう、流石にマリエさんに……悪い気がする。

 

 そう思い俺は手に持つアルバムの存在に気が向く。

 

 

 

 

 

 

(……まさか……)

 

 

 

 

 

 いやでも、これ以上は流石に……自身の感情が警告で染まるのを感じる。……けれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイヤルを俺の誕生日、施設「蒼い鳥」に引き取られた日付に変える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガチャっという音が静かな夜に響く。

 

 本棚が僅かにずれたかと思えばまるで戸のように木のきしむ音を小さく響かせ本棚が開く。

 

 本棚の先、現れた小さな空間には

 

 

 

 

 

 

 封印術、結界忍術の印で埋め尽くされた扉があるだけであった。

 

 

 

 額に汗が滲む。今、扉の先に何があるのか確認しなくても、今後の日常は変わらないはずだ。けれど俺は

 

 数年前にお風呂で幻視した傷だらけのマリエさんをなぜか思い出し、扉に手をかけていた。

 

 どうしようもなくこの先にあるものを確認したいという欲求を感じる、同時に誰かに呼ばれているような感覚もある。

 

 開けた扉の先には、洞窟のような石段があり地下へと続いていた。明かりもなく、暗闇が奥へと続く石段を俺は手だけ火遁チャクラモードにして明かりを確保して降り進む。

 

 

 

 

 

 一段、一段と降りるたびに、緊張感で胸が張り裂けそうになる。この先に何があるのか俺は本当にそれを見ていいのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 階段の終わりにはまた少し開けたスペースがあった。そこには鉄格子がありまるで牢屋のようになっていた。

 

 心が乱れ、チャクラモードの維持ができない……っ!

 

 何なんだここは……っ! 

 

 暗闇に視界が覆われ、呼吸が荒くなる。

 

 

 

 

 自身の呼吸の音に紛れ、微かに声が聞こえる。

 

 

 

 

 

「……tゃん……」

 

 

 

 

 

 そんな有り得ない……何で……何でこんな……場所に……っ!!!

 

 暗闇の中視界の先、牢屋の奥からその声は聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 今世の記憶の始まりからずっと聞いてきた、俺が、俺がその声を……聞き間違えることなんてない……あり得ないっ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っマリ……エ……さん?」

 

 どうしようもなく泣きそうな、まるで親鳥を呼ぶヒナのようにか細い俺の声が暗闇に響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん悟ちゃん……」

 

 

 

 目が闇になれ、現実を映す。暗闇の先、牢屋の中身。

 

 布一枚で最低限だけ体を隠したまるで囚人のような姿のマリエさんを。

 

 奥のベッドでうずくまり、小声でずっと俺の名を呟いている。

 

 布で隠せていないマリエの身体は傷跡だらけでやせ細り、骨が角ばって見える程だ。特徴的なロングの栗色の髪も、無造作に伸ばされ放置されているかのよう。

 

「ッ……なん……?!」

 

 言葉が口から出てこない。俺は今何を見ている、何を……。

 

 檻の中のマリエさんは俺を認識できていないのか虚空見つめている。理解しがたい状況に正気が削られるが、今はそんなことはどうでも……いいっ!

 

 こんなふざけた檻っ! ぶち壊してや

 

「止すんじゃ、悟よ……」

 

 風遁チャクラモードによる手刀で牢屋の檻を切断しようとした瞬間、第三者の声が地下に響く。

 

 「っ誰だ!!」

 

 荒む感情が俺の声を荒立てさせる。振り返ったその先には、忍び装束に身を包んだ

 

 

 三代目火影猿飛ヒルゼンがいた。

 

 

「っ何で三代目が……」

 

「悟よ、落ち着け……今すぐにこの部屋から」

 

「……何が落ち着けだ!! マリエさんがこんな状態でいるのにっ!!」

 

「そ奴は……マリエではない」

 

「てめぇ!! 何言って……!!!!」

 

 マリエさんじゃない……? 違う、彼女はマリエさんだ俺が間違うはずがないっ!! こいつは、このじじぃはマリエさんがこんな状態だって知っていたのか!? ここに今いるってことは何か事情をしってやがるのか……っ! 

 

「何で俺を止めようとする!! 事情を知っているなら今話せっ!! 隠し立てするなら……」

 

 八門遁甲・第6景門を解放する。

 

「口を割らせるまでだ……!!!」

 

 

 

 

「マリエが望んだことなのだ……」

 

 三代目は、全くの無抵抗を示し立つ。俺は拳を握り、何時でも相手の顔を吹き飛ばせるよう剛掌波を構える。

 

「マリエさんが望んだことだと? 本来ならマリエさんはいま里外の別の孤児院にいるはずだっ!」

 

「そう、そ奴はマリエが望みを叶えるために必要な言わば……

 

 

 

犠牲じゃ

 

 

 

ある術により、マリエの壊れた部分(・・・・・)を切り離した存在と言っていい」

 

 

「壊れた部分……? 何でそんなこと……! じゃあこの人は何時から……」

 

「12年前、お主を……マリエが拾ったあの日から……お主の為に、彼女はこうせざる負えなかったのだ。お主を見守り、成長を見届けるために、壊れたままではいられなかった」

 

「……」

 

 三代目が語る内容を聞き逃さないように警戒を高める。

 

「マリエは……悪意と殺意に反応して、意識が暴走する……言わば心的外傷を負っておった……」

 

「なんでそんな目に……」

 

「木ノ葉の闇……その存在がマリエの()を欲した……それ故に傷つき心が壊れたのだ。ワシは……それに気づけなんだ。だからこそ、償いとして彼女の望みを叶えるためにこの施設を用意した。本来であれば、この施設は……マリエ1人の為のものだった。表向きは孤児院であり、マリエの隠れ蓑として用意したのだ。だが……」

 

 木ノ葉の闇……その単語を聞いた瞬間どうしようもないほどの憎悪を感じる。1つは背後のマリエさんから、もう1つは俺の中から。

 

「壊れていた彼女が……お前を見つけ、見守りたいと言ったのだ……。四代目火影、ミナトは彼女の上司としてこの施設に彼女が暴走したとき用の牢を用意していた。この牢にはミナトの妻のモノの術が施され、強力な結界の元外に干渉できないようになっておる」

 

 四代目……火影……それにその妻ってことは『うずまきクシナ』……

 

「本来であれば、暴走しそうな時に彼女が入るものだった場所にマリエは自身の一部を封印したのだ。彼女の風遁と火遁の素質、そして心の大半を」

 

 そう言われて振り向き、檻の中に目を向ける。じゃあ、このマリエさんは……っ!

 

「外におるマリエも、そこのマリエもどちらもマリエではある。じゃが、そこのマリエは言わば外のマリエが人として(・・・・)活動するための、負の依り代となるモノだ……」

 

 依り代……

 

「そんな……じゃあ、俺のせいで……こんなっ」

 

「それは断じて違う!! マリエはお主の存在があったからこそ、生きる希望を見出せたのだ!! それは努々忘れるでないっ!」

 

 三代目の叱咤に俺は驚く。

 

「そんな……俺は……」

 

 八門は解け無防備に三代目に背を向けた俺は檻にすがりつく。

 

「マリエさん……マリエさんっ!」

 

 このマリエさんはずっとこんな状態で……1人で……。

 

「マリエの話では、そ奴とそとのマリエの意識はわずかだが繋がっておるそうじゃ……つまり外のマリエも殺気や悪意に反応することもある、それがマリエが忍びをやめた理由でもある」

 

 俺の泣きそうな顔に檻の先のマリエさんが近づいてきて

 

「さとる……ちゃん? なかないで……なかないで……いいこだから……ね?」

 

 そっと俺の頬に手を添えてく微笑んでくる。その笑顔は紛れもなくマリエさんのものだった……。

 

「悟よ……場所を変えるぞ……ここにいては何時マリエが暴走するかわからん……」

 

「そんな、マリエさんを置いていくわけにはっ!」

 

「ここのマリエが暴走すれば、繋がっておる外のマリエも暴走する可能性がある。そうなれば……どうなるか言うまでもないであろう」

 

 ……マリエさんの近くにいる……再不斬や白、子どもたちが危ない……。

 

 俺は断腸の思いで三代目の後を付いていく。最後にマリエさんの方を向くと。

 

 

 笑顔で手を振っていた……。

 

 

 

~~~~~~

 

 

火影屋敷、火影の自室。

 

 

「……それで結界忍術のおかげで、俺があそこに入ったとわかったんですね……」

 

「そうじゃ、マリエ以外の人物があそこに入ればワシにはわかるようになっておった。ある組織のモノの侵入を警戒してのものだったがまさか悟、お主だったとはな……」

 

 俺は出された茶に口をつける。落ち着けるようにと三代目が出してくれたものだったが、華やかな香りで心が静まる。

 

「それとほれ」

 

 そういって三代目は俺の仮面を投げ渡してくる。

 

「自分が顔を晒して里を移動しておるのにも気づけんほど動揺しておるようじゃが、まあ無理もない。今宵は……どうする? 落ち着くまではここにいてもよいぞ?」

 

 心配するように語りかけてくれる三代目の言葉を聞きながら仮面を被る。

 

「それはちょっと……そういえば先ほどは無礼を……すみませんでした」

 

 里のトップに対してあんまりな態度を取ったことを思い出す。

 

「よい……育ての親のあんな事情を知ったのだ……仕方もあるまい」

 

(それにあのマリエは殺意に反応する……つまりこやつにその(・・)つもりは本気ではなかったことはわかっておったことだしのォ)

 

「さて、こうも色々と事情を知られたのだ。明日伝えるつもりであったが今お主に知らせることがある」

 

「……はい」

 

「第零班黙雷悟よ。今年の中忍試験、お主には特別枠として1人で出てもらう」

 

「1人で……」

 

「あくまでも任務の部分は、木ノ葉の力を里外に示すことじゃ。だが……もうお主には伝えても良いじゃろう」

 

 そういってパイプを吹かした三代目は言葉を繋ぐ。

 

「もう1つの狙いは、お主をある男から守るためのものだ」

 

「ある男……?」

 

「そのためにお主には目立ってもらわなければならない。お主を見守るであろう里の者に存在を認めさせよ。でなければ……」

 

 何時しかお主はマリエと同じ道を歩むかもしれぬ。

 

 その言葉に俺の心はぐらつく。

 

「さて、伝えることは伝えた。今宵はどうする? 施設には戻りにくいであろう?」

 

「任務の件はお受けします……。カカシさんからもざっくりとは話を聞いていたので目立つことの必要性は分かってきていたので……。今日はそうですね……正直弱っているので……信頼できるところで厄介になろうかと思います」

 

 三代目はそうかと言って俺を見送ってくれた。

 

 夜も遅い。

 

 少し迷惑になるかもしれないが、今の俺は誰かに甘えなければ心が折れてしまいそうだ。

 

 

~~~~~~

 

 

「急にいらして驚きました。どうぞ上がってください、ヒアシ様とヒザシ様には私から事情を伝えておきますので」

 

 日向ナツさんはそういって、日向の屋敷の客間に俺を案内してくれている。

 

 情けないが俺が頼れる施設以外の場所はここ以外ないだろう。

 

 そんな俺に声をかけてくる人物が……。

 

「悟さん!? どうしたんですか!」

 

 ハナビが風呂上りなのか顔をあからめた状態で驚いている。

 

「……今日は施設に誰もいなくて、その何というのか寂しいからこちらにお世話になれないかなってね……えへへ」

 

 苦笑いで誤魔化す。

 

「そうなんですか……そうだ! 私の部屋に来てください! 姉様も呼んで夜更かしましょう!」

 

 随分とテンションが高いハナビはふと気がついたのか黒いヘアゴムで髪を後ろで縛る。……?

 

「いや流石に……夜も遅いし、ヒナタにも悪いって……」

 

「大丈夫ですよ! 姉様も悟さん相手なら大丈夫って言います、遠慮しないでください」

 

 ……そう言うハナビは真っ直ぐ俺の目を見つめている。

 

 

 もしかして心配してくれているのか?

 

 

 ……良く俺のことを見ていてくれるよ、ホントありがたい……。

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

 今日知ったことは決してただ事ではなかったが、それでも俺は歩みを進めなければいけない……。

 

 

 頑張ろう

 

 

~~~~~~

 

<黙>

 

 まさか、こんなことが……。

 

 だからあいつは施設を……。

 

 ……本当に雷はよくやってくれる。僕にはわからないことをこうも短期間で、さて後は

 

 

 

 

 木ノ葉崩しの時、その時を待つのみだ。

 

 

 

 

 今度こそ絶対に助けて見せます……

 

 

 

 

 

 

 

 

 マリエさん。

 




 今回の内容は少し暗く重たいものでした。マリエが誰の血を引いている設定なのか、わかる人にはもうわかるかもしれません。

 次回から中忍試験編、始まります。


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中忍試験編~木ノ葉崩しを添えて~
47:目立たずに目立つ


中忍試験編スタートでございます


<黙雷悟>

 

 例えば未来を知ることが出来るとして、知った当人はどう動くだろうか? 最高最善の結果を目指す? もちろん誰だってそうするに決まっている。

 

 僕だって例外ではない。けれど運命を変えることは一筋縄ではいかない。多分、それを一番体験している僕だからわかることだ。

 

 ……最初(・・)の記憶はこびりついて剥がれ落ちることはない。

 

 飛び交う悲鳴。倒れる人々。里を崩壊へと導く大蛇。

 

 母親代わりの、いや……僕の大切な母さんは最後には何時だって笑っていた。僕を助けるために。

 

 2度目以降忍びの力をわずかに得たばかりでは運命は変わらなかった、否変えられなかった。

 

『貴方のことは、ちゃんと私が守って見せる。だから泣かないで悟ちゃん』

 

 ……もう後はない、次何てない……。だけど待っててマリエさん。

 

 今の僕なら今の彼なら絶対に……絶対に貴方をちゃんと守って見せるからね。

 

 

~~~~~~

 

 ……何だかまた不思議な夢を見ていたような……いやこの感覚はもしかして黙の感情……なのか? 昨日のあの場所、マリエさんの前でも感じた、自分のモノではない感情の渦。

 

 頭の中で黙に語りかけても、反応はない。俺が寝起きだからか、寝ぼけているからなのか。そういえば黙とこっちから接触したことってあったっけ? 

 

 ……あいつもある意味で俺なら……マリエさんについて何か思うことはあるのかもしれない。

 

 そう思って布団から体を起き上がらせると違和感に気づく。

 

「……んんん?」

 

 同じ布団にヒナタg

 

 思いっきり唇を噛んで冷静さを零さないよう気をつける。大丈夫、記憶はある……。昨夜結局眠れないと口走ってしまった俺に、ナツさんが

 

「ではお酒を少々飲んでみては如何ですか? こちらで準備いたしますので」

 

 と好意で少量の酒を持ってきてくれた、この世界で飲酒の年齢にとやかく言うのもナンセンスか……? で、それを後からハナビの部屋に来たヒナタが口をつけて……荒れた。

 

「本当は……本当は……なるとくんと……!! 婚約……したかったっっ……!!」

 

 ヒナタの本心は、言葉にされると実際心に来る……ごめんって。

 

 ……正直俺は原作を最後まで読んでないせいで、大人になった彼ら(同期ら)がどういう付き合いをしていくのかいまいち知らない。

 

 まあだからこそ、ヒナタの恋を応援したって誰にも責められることではないのだろう、運命なんてものは自分で切り開くものだから。

 

 改めて、ヒナタの恋心の応援をすることを決心してヒナタを揺すって起こす。

 

(確か、今日は班で集まるって言ってたしな)

 

 ついでに隣の布団で寝息を立てているハナビの鼻をつまんで起こす。

 

 

 

 ……普通に怒られた……

 

 

~~~~~~

 

 さてと、ヒナタたちに挨拶を済ませ日向の屋敷から俺は一端施設へと帰る。

 

 そこで身支度を済ませ、仮面を着けた俺は今一度玄関でサンダルを履き口に出す。

 

「……行ってきます」

 

 やっぱり……僅かな感覚がある。誰かが見送ってくれるような、暖かな感じを……微かすぎてで今まで気づかなかった大切な人の声。

 

 ……物理的にはありえないんだろうけど何となく感じてしまうものは仕方ない。

 

 今の俺には無理でも、いつか必ず貴方(・・)を助けて見せます……っ!

 

~~~~~~

 

「ほう……思っておったより随分としっかりとした佇まいじゃな」

 

 昨日の夜から引き続き三代目の部屋に再度俺は訪れ話をする。

 

(もう少し動揺が続くと思っておったが、なるほど確かに幾つかの修羅場をくぐりぬけて来ただけはあるのぉ……)

 

「……別にまだしっかりと立てるほど、昨日のことを受け入れ切れてはないです……。だからって止まってもいられないんです。……時間は有限ですからね」

 

「そうか、では昨日の件詳細についてお主に伝えていくとしよう」

 

「はい、お願いします」

 

 と、言う訳で俺が中忍試験を受けるうえでの注意点などを三代目に聞いた。

 

 

・1つ、今期の中忍試験には、各隠里の力を示すために特別枠として『下忍1人』で試験に参加させることが出来る制度の実施がなされた。

 

・2つ、特別枠の忍びには各試験ごとに追加でルールが課され、困難を極める……らしい。というより本来3人一班でやることを1人でやれってことで、『1人』だから有利になることはしないようだ。

 

・3つ、特別枠の忍びは各里に事前に知らされる。ただ……

 

 

「今期の特別枠……俺だけなんですか……?」

 

「うむ、一応砂隠れが一度申請を出してきたが風影殿の名で取り消されておる」

 

「つまり、俺こと黙雷悟は中忍試験に参加する全員に『唯一の特別枠』であることを知られて……いるわけですね……超悪目立ちじゃん……」

 

 後半の愚痴は小声で言った。だが、これは必要なこと……なのだろう。

 

「うむ、その目。覚悟は出来て居る様じゃな。では第零班黙雷悟よ、三代目火影の名によって改めて命ずる。中忍試験において必ずや結果を残せっ!! それが引いてはお主とマリエのためになるのじゃ……」

 

「承知致しました三代目……!」

 

 何だか忍びっぽいな。いや、忍びか。

 

 覚悟は決まっている。やりたいことを成すために、俺は力を振るおう……。

 

 

~~~~~~

 

次の日、中忍試験当日。

 

「僕は貴方が中忍になること、少しも疑わないですよ」

 

 早朝、身支度を整える中、白が声をかけてくる。

 

「そう……かな? まあ、俺に出来ることをやるまでさ。皆昨日の夜帰ってきて疲れてるだろうし、白雪も今日は桃さんとゆっくりするといいよ」

 

「ふふふ……そうですね。少し合わない間に貴方はまた随分と成長を……少し嫉妬してしまいますね……。中忍試験の本選、悟君の闘う姿楽しみにしてますね!」

 

 白は気が早いなあ。

 

 っていうかそんなに俺変わったかな? 俺の疑問を放置して再不斬さんとの共同部屋に白は戻っていった。白なりのエールを貰った……のか?

 

 再不斬さんは昨日「任務だけが過酷だと思ってたぜ……」とか呟いて撃沈してたし、起こさないでおこう。子供の相手は大変なのだ、うん。

 

 身支度を整えた俺はマリエさんの自室にの前に向かう。

 

 昨日、マリエさんには会っていない。向こうから避けてきたからなんだけど……恐らく地下のマリエさんとの接触に気がついているようで。三代目も繋がっているって言ってたし。

 

 部屋をノックする。……まあ、返事はない。

 

 俺が残す言葉は決まっている。それに対して返事はいらない。

 

 

「……行ってきます!!」

 

 

 昔貴方は言っていた。元気に遊びに行っている方が私嬉しいわ~って。だからこそ俺は元気でいようと思う。貴方が安心できるように。

 

 俺の心は貴方のおかげでもう、折れない。

 

 施設を飛び出し俺はアカデミーへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……子の成長って本当に早いのね~。……マザーも同じこと思っていたのかな、ねぇマリエ……」

 

 自室の本棚に背を預け座り込んだマリエは呟く。

 

 彼女は自身を案山子だと思っている。壊れた(マリエ)を寄せ集めて繕ったただの案山子だと。ただ見守りたいと思った子どものために。

 

 

 

 

 

 彼女のその役目も……あと少し  

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~

<三人称>

 

数時間後

 

 中忍試験会場、アカデミーの3階では少しの集まりが出来ていた。そこでナルト達第7班は『薬師カブト』と名乗る忍びに忍識カードと呼ばれる紙媒体で、様々な忍びの情報を得ていた。

 

「そう! リーや我愛羅のような、各国から選りすぐられた下忍のトップエリートたちが此処にいる。……そして今回はさらに特別枠として1人注目株がいる」

 

 カブトはそう得意げに言うとあるカード見せる。

 

「黙雷悟、仮面を常につけていて顔については情報開示されていないが、つい先日彼の能力に関しては公開されていてね。情報がブラフだとしてもほぼ全ての能力に関して隙のない忍者だ。強いて挙げられる弱点は忍具の扱いがあまり得意でないことぐらいかな」

 

「……ああ、そいつに関してはよく知っている」

 

 カブトの解説に、サスケは肯定を示す。

 

 実力者たちの情報が開示されることで、臆するナルトの同期達。それでもナルトは宣戦布告を会場全体にし、注目を集める。

 

 その後カブトが音隠れの忍びに襲われたが、会場に試験官たちが現われることで喧騒は収束する。

 

 現れた試験官、森乃イビキにより中忍選抜第一の試験の概要が語られた。

 

 ペーパーテストをやることにショックを受けているナルトを尻目に解説は進む。

 

 ・試験は個人で持ち点10から始まる減点方式であること。問題数は10問。1問間違えれば1点減点。

 

 ・チーム方式であり、スリーマンセルで30点の持ち点を如何に減らさないかが合否を判断する基準になる。

 

 ・無様なカンニングなどの不正行為は持ち点から2点減点される。

 

 ・持ち点が0になれば所属する班ごと道ずれ不合格

 

 下忍の間でざわめきが起きる。その中で1人の忍びが手を挙げ質問をする。

 

「今回の試験には1人で参加している奴がいます! そいつ、木ノ葉の忍びに有利すぎじゃないですか!!」

 

 イビキは質問した下忍を睨みつけ一括する。

 

「うるせえ! お前らに質問する権利はないんだよ! それについてもちゃんとルールはあるっ! 呑気に茶を飲んでいる『特別枠』!! よく聞けっ!」

 

 急に名指しされた水筒に入れたお茶をストローで飲んでいる悟は、ビックリしてむせ返している。

 

「当然、特別枠用のルールもある。特別枠には班員がいない、つまり失敗をフォローしてくれる者がいないという状況を想定して……」

 

 

 一度の減点で失格とする。

 

 

 そう宣言するイビキに悟は仮面の奥の目を丸くしていた。

 

 周囲の忍びがクスクスと笑い始める。

 

「特別枠とかで参加するとか調子に乗るから……」

 

 そんな声が聞こえるなか、試験は開始された。

 

 

 

 暫くの時間が経ち、うずまきナルトは頭を抱えていた。

 

(どうしようどうしようどうしよう! このままじゃサクラちゃんとサスケに殺されるーっ!)

 

 彼がペーパーテストを自力で乗り越えることなど到底不可能なことは彼を知る人物なら想像に難くない。そんな彼はふと前方の方にいる黙雷悟の様子を気に掛ける。

 

(そういえば、悟の奴大丈夫か……? 変なルールもあるしあいつ勉強出来たっけ?)

 

 そのナルトの視線の先ではあからさまに挙動不審な悟がいた。

 

(……ああ、あいつも俺と同じで駄目ッぽそうだってばよwww)

 

 自分もピンチであるのにさらに焦っている人間がいると少しだけ冷静になれる。そんな謎の余裕をかましたナルトに意外な人物が声かける。

 

(てめー、まだ気がついてねぇのか)

 

(っ!? 誰だってばよ!!)

 

 ナルトが頭に響く声に驚き顔を机に伏せる。隣のヒナタが少し心配するが、ナルトは驚きで声を上げないようにしていた。

 

 すると瞬間、ナルトの意識は自身の精神世界へと落ちる。

 

「ここは……?」

 

 地下水路の様な風景の中前方の檻の中では、巨大な狐が苛立っているのか、巨大な前足を地面にゴツゴツとぶつけている。

 

「まさかお前が……九尾……っ!?」

 

「おい、小僧ってめぇあの仮面野郎に遅れを取りすぎていて見てて余りにも哀れで不愉快だ……っ!」

 

「あ? 急に何言ってんだってばよこいつ……」

 

「あの仮面野郎はワシが嫌いなチャクラの感じを2つも持っておって気に食わん……そして見ていると余りにも神経を逆なでにしてきて尾が立つ!」

 

 九尾はいらいらを抑える様子がなく、吠えて辺りの水面がバシャバシャと音を立てている。

 

 突拍子のない邂逅にナルトは呆けている。

 

「ナルトォ! 今回は特別だ、目を覚まさしてやる。狐扱いの貴様が化かされるのは何だか無性に腹が立って仕方がない。目が覚めたらあの仮面野郎の邪魔をしろぉっ!! いいなぁ?!」

 

 そういう九尾は一方的に話をきりナルトを精神世界から追い出す。

 

 うつ伏せだったナルトが顔を上げるとそこには

 

 

 

 会場の前方、試験官のイビキの横の椅子で足を組みふんぞり返って座っている黙雷悟がいた。

 

 

 一瞬何が起きているのか、判断に困ったナルトはふと気づく。

 

(この部屋……何か良い匂いがしてるってばよ? あと遠くの方で笛の音のような……)

 

 それらが何を示すのか、理解できなかったナルトだが場の異様さだけには気がついた。

 

 ふんぞり返った悟は緊張感のないだらけた姿勢で何やら資料を見ている。周囲の中忍の試験官たちはそんな悟に目もくれず、別の受験者たちに目を光らせている。

 

 ふと呆けているナルトは悟と目が合う。

 

「……へ~まさかナルトが俺の幻術を解くなんて、意外だな。一部の奴にはかかってないのは分かっていたけど。なあ、砂漠の我愛羅?」

 

 そういって悟は我愛羅に向けて、目を細め手を振る。仮面の下では笑顔を作っているのか、ナルトにはわからない。

 

「……面白い奴だ……。お前のことは覚えておこう。後でじっくりと殺してやる」

 

 我愛羅と呼ばれた少年は不気味な笑みで悟に一瞥する。悟は手を振るのをやめ苦笑いをする。

 

「何かよくわからねーけど。悟、お前が何かしてるのか!?」

 

 喋っても問題ないのを確認したナルトは悟に問いかける。

 

「YES!! 俺は諜報分野にはまだ明るくないからな。幻術のごり押しで突破させてもらおうと思って、事前に色々仕込んでおいたんだ。どうだ? 今ならカンニングし放題だぞ?」

 

 仰々しい態度で悟は、試験官の1人の前に立ち視界を塞ぐように手を振りアピールをする。試験官が反応することはない。

 

「……いや、それはやらねぇ……。俺ってば俺の実力で、悟を超えてぇーって思ってるんだ。だからこんな試験、実力でどーにかしてやるってばよぉ!」

 

 ナルトは悟の誘いを断り、試験プリントに目を向ける。すると

 

(あいつの邪魔をしろといっただろぉ? ナルトォ)

 

 ナルトに九尾が語りかけてくる。

 

(うっせ!! こんなしょうもないことで悟に勝ったって意味ねーんだってばよ! ちょっとは黙ってろ、化け狐!)

 

(ちぃ……面白くねぇ……)

 

(暇ならお前も問題考えてくれってばよ! 俺の体に住んでんだからそれぐらい……)

 

(……自然現象に人間が勝手に名を付けたことなんてワシが知るわけないないだろう!)

 

(……なんだ九尾つっても賢くねーんだな、俺とおんなじだってばよ)

 

(あぁ?! 貴様と一緒にするなぁ!! ……どれ問題とやらを見せてm………………ワシは寝るっ!)

 

(えっちょ九尾!?)

 

 一方的に念話を切った九尾のナルトは呆れながらも試験に取り組むことにした。そんなナルトの態度に少し疑問符を浮かべる悟。そして時は経ち……

 

 

「よし! これから第10問目を出題する……」

 

 イビキはそう宣言する。なんやかんやで結局一問も解けていないナルトは班員を思い、身構える。

 

 第10問目はまず、受ける受けないの選択を迫られた。もし受けなければ、班まるごと道連れ失格。もし受けて問題が不正解となれば、今後永久に中忍試験の受験資格を剝奪されるというものであった。

 

「受けないものは手を挙げろ、番号確認後ここから出てもらう」

 

 イビキのその言葉の後に幾つかの下忍たちは今年中忍になることを諦め始める。次があるからと。

 

 そしてその中でもうずまきナルトも手を挙げ……

 

 机へと叩きつけた。

 

「なめんじゃね-! 俺は逃げねーぞ!! 受けてやる!! もし一生下忍になったって……意地でも火影になってやるから別にいいってばよ!!! 怖くなんかねーぞ!!」

 

 そう宣言したナルトは鼻息を荒げる。ナルトを知る同期達はその様子に安堵し、決意を固める。そうでなくともナルトの決意は会場の不安を一蹴した。

 

(おお、生で見るとカッコイイ)

 

 そんな中悟は呑気に幻術を解いていた。もう必要がないからであろう。

 

 ナルトの宣言を聞きイビキは再度問いかける。

 

「もう一度訊く。人生を賭けた選択だ。やめるなら今だぞ」「まっすぐ自分の言葉は曲げねえ……それが俺の……忍道だ!」

 

 ナルトの言葉を受けたイビキは笑みを浮かべ、言葉を告げる。

 

「良い決意だ……では、ここに残った全員に……第一の試験合格を申し渡す!!」

 

 突然の合格発表に騒然とする会場。それを諫めるようにイビキはこの試験の目的を解説する。情報が如何に大事であるか。そして敵に掴まされた情報は危険であること。そして10問目で見たことは、忍びとしての心構え、いざという時に自らの運命を賭せない薄い決意の者に中忍になる資格はない、ということ。

 

 イビキは受験者に向け賛辞の言葉を送り

 

「君たちの健闘を祈る!!」

 

 そう告げた次の瞬間、教室に乱入者が舞い込む。

 

(いい話だ……俺がそこまで大層な忍びになるかは正直わからないけども。もしもなれたらイビキさんの言葉でもパクって演説でもしてみるかな)

 

 乱入者を気にも留めず、悟は呑気に構える。原作で知っている展開を眺めたのち、悟は試験用紙をイビキに提出した。

 

「ほう、問題なく全問正解か……しかしどういうつもりかはわからないが、なぜ俺だけ途中で幻術を解いた?」

 

 イビキは試験の途中から悟に解術されていた。その真意を悟に問う。

 

「まあ、何といいますか……目立つことが目的なのであえて……ね」

 

「パフォーマンスか面白い、それで俺が減点を告げていたらどうする?」

 

「なら、それよりも早く貴方を無理やり気絶させたまでですよ……。言うなら目撃者を消せば見られていないのと同じ……そうじゃないですか?」

 

 そう言って悟は先ほどの乱入者第2試験官「みたらしアンコ」に試験会場を誘導された受験者たちの後を追った。

 

「ククク、いうじゃないか。なるほどあれが特別枠……将来が楽しみだな」

 

 イビキは1人試験会場のプリントを回収する。

 

(片や特別枠で満点、片や落ちこぼれとの噂だがまさか……白紙で通過する者もいるとは、うずまきナルト……面白い奴だ)

 

 イビキは笑顔で受験者たちの健闘を祈った。

 



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48:お姉キャラは大体ヤベー奴

<黙雷悟>

 

 はい、どうも黙雷悟でーす。現在俺は、第2試験をしています。木ノ葉第44演習場通称「死の森」にて巻物争奪サバイバル演習中だ。

 

 第1試験では強キャラムーブをかまして、静かに目立ってたと思います、はい。

 

 ナルトが幻術を解術したのには驚いた……どうやったのかわからないがまあ、あいつが強くなってくれてるなら良いことだ。

 

「……」

 

 足元で気絶させたスリーマンセルから地の書を巻き上げる。ラッキーだこれで2つ(・・)揃った。

 

 バックパックに地の書を入れ立ち上がる。

 

「さてと、忙しくなりそうだ……」

 

 そう呟いた俺はすぐにその場を離れた。はあ、結構な覚悟がいるぞ、これは……。

 

 

~~~~~~

 

「フフ……あの九尾のガキが生きていt

 

「ダイナミックエントリーーーっ!」

 

 感知をした先、九尾のチャクラが漏れ出ているナルトを捕まえている「大蛇丸」に飛び蹴りをかます。

 

「っ! うふふ、君ね……第一試験での見世物、面白かったわ」

 

「お褒めにお預かり光栄だ。じゃあ、そのまま逝ねっ!」

 

 八門を第3生門まで開け、鉄棒で殴りかかる。

 

「「悟!!」」

 

 サクラとサスケは嬉しそうに俺の名を呼ぶ。ああ、覚悟はしてたけど大蛇丸の放つ殺気は並大抵のモノではない。殺気からまだ俺では勝てない実力差を感じる。

 

 俺の攻撃と共に、九尾のチャクラを滾らせたナルトも蹴りを繰り出す。

 

「ガあぁっ!!」

 

「……あなた達邪魔ねぇ……少しどいてなさいっ!」

 

 俺たちの攻撃を避けた大蛇丸は大きく息を吸う。ああ、早すぎて印を結ぶのも見えない。大蛇丸の不意打ちなのに特大級な「風遁・大突破」により数百メートルは吹き飛ばされる。

 

 途中、巨大な木の枝にぶつかり、ダメージが重なるが何とか受け身の取れないナルトを抱き庇い地面に激突する。

 

「……っづぅ!! ああ、やべぇ。今ので左腕折れたかも……」

 

 とりあえず今の一撃で気絶したナルトを茂みに隠して、雷遁チャクラモードで大蛇丸に最接近する。腕を治療している暇はない。

 

「サスケ君!!」

 

 サクラの声が聞こえたと同時に、サスケが先ほどまで消失していた戦意を滾らせ大蛇丸に突撃する光景を目にする。っクソ! 間に合え!

 

「私はサスケ君の実力が見たいのよ……ホント邪魔ね」

 

 サスケの手裏剣術を囮に再度雷遁チャクラを纏い鉄棒を振るうが……

 

「なっ……!?」

 

「どいてなさい」

 

 ヒュンと空気を裂く音がした。気づけば自分の胴体から大量の血が噴き出ているのが確認できる。

 

「カハッ……」

 

 大蛇丸の口から取り出した刀で袈裟切りされた俺はそのまま地面へと落ちる。雷遁チャクラを纏った鉄棒ごと俺を切り裂きやがった……なんつう刀だよ……っ!

 

 地面に激突した俺が立ち上がろうとするも、身体に違和感を覚え動けない。

 

(……刀に毒が……塗って……っ)

 

 この少しのやり取りで大蛇丸のヤバさは実感できた。木の上でサスケが大蛇丸と交戦する気配を感じるが早々にサスケの苦悶に満ちた声が響く。

 

(クソっ呪印を付けられたか……どうにかして防ぎたかったのに……)

 

 呼吸を整え無理くり立ち上がると背後に気配を感じる。振り向いた瞬間に首筋を大蛇丸に噛まれた、何時の間に後ろに……。

 

「づぅう! ナニ……しやがるっ!」

 

「あなたも、優秀そうだから唾を付けておこうかと思ってねぇ。サスケ君ほど特別な唾ではないけどね……」

 

「っ余計なお世話だ!!」

 

 右腕で火遁チャクラモードを発動させ、爆炎で薙ぎ払う。少しだけ大蛇丸の顔に掠ったが大きなダメージにはならないだろう。

 

「それじゃあね、金の卵たち……死ななければ私のための良い駒になること期待しているわ……」

 

 そう言い残した大蛇丸は地面へと同化して気配を消した。

 

 っ!? 視界が大きく歪み膝をつく。追加で毒を盛りやがったなぁ……大蛇丸めぇ……。

 

 そのまま倒れた俺は意識を失った……。

 

 

~~~~~~

 

「起きなさい! 悟!」

 

「っつあ? ……だれ……だ?」

 

 目を覚ませば明け方。夜は明け気絶してから一日近く立っていることに気がつく。

 

「私よ! あんた同期の子たちがピンチだったのに呑気に寝てて情けないわよ!」

 

「……テン……テンか? って今どうなって……!」

 

 テンテンに起こされた俺が体を起こすとサクラがイノに短くなった髪を整えてもらっている風景が目に入る……。

 

「……ああ、なるほど……」

 

「なるほどじゃないわよまったく。ネジは単独行動するし、リーは『サクラさんが!!』とか言って関係のない子助けようとして私まで戦闘に巻き込まれて大変だったわ」

 

「……お疲れ……俺も今やべえ状態だからそっとしておいてくれ……」

 

 左腕は折れたままだが、一応添え木などの応急措置はされていた。毒のせいか傷む頭を無視してチャクラ感知をすると、この場にいる人間の少なさに気づく。ナルトは地面でムスッとしていて、サスケは茫然と立ちすくんでいる。リーはこちらに手を振っているので適当に振り返しておく……俺の記憶が正しければあとチョウジとシカマルもいるはずだが……この場には見当たらない。

 

 俺はなんとか立ち上がり、サクラに近づく。

 

「……あっ悟起きたのね! 良かったわ!」

 

「ああ、この応急措置はサクラがやってくれたんだよな……。ありがとう」

 

「……っえへへそんな……私は出来ることをやっただけで……」

 

 ボロボロなサクラとイノに目を向ける。

 

「……あの後何があった?」

 

 そういう俺の問いにサクラは順を追って説明をしてくれた。

 

~~~~~~

<春野サクラ>

 

【時は大蛇丸との交戦後】

 

「ぐああああああああ……」

 

 サスケ君が……首筋を抑えたまま気絶……しちゃった……。

 

 鬱蒼とする森の中、不気味な環境音が耳をつんざく。

 

「うう……サスケ君っ! サスケ君っ! ……たすけてナルトォ!」

 

 班員2人の名前を呼んでも返事がない。折れそうな私の心に微かなうめき声が聞こえる。

 

 声をたどり私たちがいる木の枝の下に目を向けるとあの悟が、大量の血を流して倒れ伏していた。

 

「……っ!!」

 

 状況の凄惨さに目から涙が零れる。

 

「わ、私どうしたら……いいの……っグス……」

 

 あんまりな状況に思考を放棄しようとした私はふと気がつく。

 

「……そうだ……悟は、班でもない私たちのために駆けつけてくれて……ナルトはサスケ君のために頑張って……サスケ君も…………なのに私だけなにも……なにもしてない」

 

 自分の不甲斐なさ。それを悔いることだけを原動力に震える体を無理やり動かす。涙は止まらないがけど気にしてられない。

 

「私が……私がなんとかしないと……」

 

 サスケ君を抱え、地面に降り立つ。地面で気絶している悟は血を流して気絶している様だけど、薄く呼吸はしている。後は……。

 

「ナルトを連れてこないと……」

 

 多分風遁で吹き飛ばされた方角にいるはず……。

 

 

~~~~~~

 

「その後3人を看病しつつ朝を迎えて……」

 

「……壮絶だったんだな、悪いな気絶してて……」

 

 あの同期でもずば抜けている悟に謝られるとなんだかムズムズしてしまう。

 

「いや、その、いいのよ謝らなくてっ! だって悟の怪我だと、もしかしたら死んじゃうかもって思って怖かったから、生きててくれるだけで……ホント何で生きてるのその怪我で……?」

 

 純粋な疑問が口から出てしまう。気まずそうに悟は頭をかき苦笑いで誤魔化したけど……。

 

「まあ、それは置いといて……で、その後に襲撃があったと……」

 

「! そうなの。その後に音の忍びが3人襲ってきたんだけど、リーさんとテンテンさんが助けに来てくれて……その後にイノもついでに」

 

「ついでとはなによっ! 十分不意打ちで役に立ったでしょ!」

 

「うるさいイノ! っで後はサスケ君が何かすごい力で相手をぶっ飛ばして、相手は地の巻物を置いて逃げてったの」

 

 少し無理やり明るく振舞う。サスケ君のあの力……とても冷たくて怖かった……まるでサスケ君じゃないみたいな……。それでも私たちの声で正気に戻ってくれたから、大事にしないでおこうと思う。

 

「なるほど……でイノ、お前の班員のチョウジとシカマルは?」

 

「……ああ!! 忘れてた!! ネジとかいうヤバい奴に2人ともやられて、2人を引きずって逃げてるときにサクラたちが交戦しているのに巻き込まれたの、ちょっと連れてくるわ!」

 

 そういうとイノは茂みの中に入っていった。

 

「……あ~~~、テンテン?」

 

「え、私が悪いの!? ネジの奴は自分勝手に行動してるから何してるか知らないわよ!」

 

 テンテンさんと悟の距離感は傍から見ても近いように感じる。悟はヒナタと婚約しているのよね……まさか

 

「……浮気?」

 

「おい、聞こえてるぞサクラ! 変な誤解するな! あとそういう事にすぐに結びつけるなよ!」

 

「ご、ごめん」

 

「あはは~、悟とはそういうのじゃないのよ。まあ、私からしたら手のかかる弟みたいなやつよ」

 

「手がかかるのはどっちだよ……」

 

「聞こえてるわよ、悟~? せいっ!」

 

「痛だだだっ! 折れてる方の手を持つな!」

 

 何というか、気の抜ける仲っていうのかな? ちょっとそういう関係は羨ましく思う。

 

「さて、取りあえず全員ぼろぼろ見たいだし、俺が掌仙術である程度怪我は治してやるから並んで……」

 

 イノが班員を連れてきたタイミングでそう告げる悟。だけど……

 

「お前……俺たちに構っている余裕あるのか? 特別枠のお前の時間制限は今日までだろ?」

 

 サスケ君が口を開く。そう特別枠の悟はこのサバイバル演習の期限が私たちの5日間と違って2日しかないはず……。さらに巻物も特殊な「空」(・・・・・・)しか持たされていないはずだし……悠長に私たちの治療をしている暇なんて……。

 

「ああ、巻物ならもう揃えてあるよ」

 

 さらっと回答する悟にガクッと調子を崩される。そういうところあるわよね、悟。何でもないような感じですごいことをさらっと……

 

「……なら、お前がもつ『天』の巻物を俺たちに寄こせ……っ!」

 

 急にサスケ君がクナイを構える。ちょっと……!

 

「サスケ君!? 何言ってるの!! 悟は私たちのために……」

 

「……ふふ、良いよサクラ。それが忍びとして一応正しい考え方だ……よっぽど余裕が無いようだな? サスケ」

 

「ああ、お前と違ってな……どうだ勝負……受けるか……?」

 

 サスケ君と悟は両者立ち上がって睨み合う。そんな……そんなのって……

 

「まあ、まずは皆の治療が先だ。サスケ、お前は後っ!!」

 

 ビシッと右手でサスケ君を指さす悟。そんな調子にサスケ君も肩をずり落として拍子抜けしている。

 

「うっわ……チョウジ大丈夫か? 色んなとこの骨が折れてるぞ……」

 

 そうしてサスケ君に背をイノたちの治療を始める悟。すごいマイペースね……。

 

「……どうしてそこで俺に背を向ける!! 俺は眼中にはねえってのか!?」

 

 サスケ君が叫ぶ。ちょっと荒っぽいけどその怒る気持ちはわかるかも……。

 

「欲しければそもそも寄こせ、なんて勝負の宣言をせずに問答無用で『空』の巻物の方を奪えばいいだろう? 特別枠が『空』の巻物を奪われた状態なら天地を揃えても失格になると知っているはずだ。『空』は天と地どちらとしても扱える巻物だしな。あえて『天』を寄こせなんていうお前の方がなめてんじゃねーのか?」

 

 悟の指摘にグウっと音を鳴らすサスケ君……。確かにその通りね……。だけど

 

「……まあ、お前の気持ちもわかってるよ。そう焦ることない。まだお前たちには時間があるだろ? もう俺は今日中に死の森中央の塔まで巻物3つ揃えていかないとダメなんだ。だから治療後で……」

 

「……やっぱり……イイ……てめぇから巻物を取っても後味が悪い気がしてならねぇ……。さっきの話はなしだ……忘れてくれ……」

 

「へへ、そうかい。じゃあ、次はサスケお前の番だ。傷見せてみろ」

 

 そういって気まずそうに嫌がるサスケ君の治療を始める悟。ホント読めない男ねえ……。でも何となく、今はその仮面の下が笑顔なのはわかるかも……。

 

 その後悟は私たちの怪我の応急手当をしてくれた。

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

 サクラたちと別れた俺は、気配を消しながらゴール地点の塔まで移動している。

 

(チョウジの奴……男らしくなってて偉いなぁ……)

 

 話を聞けばネジに見つかったイノたちは、ネジから一方的に見えない攻撃(・・・・・・)を喰らっていた。その時にチョウジは前に立ちシカマルとイノの盾となったようだ。

 

(だがあの怪我……チョウジは暫く動けないだろうし、この後の本選予選……参加できるだろうか……)

 

 俺はそんな心配をしながら左腕を掌仙術で治療し続ける。……焼け石に水だけどしないよりはましだ。

 

 皆を不安にさせないように大物ぶっているが結局それも演技に過ぎない。

 

(あ~~、さっさと帰って、マリエさんの手料理を食べたいなぁ)

 

 弱音は心にしまい俺は移動を続けた。

 

 



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49:勝負は結果が出る

<黙雷悟>

 

 死の森中央の塔へとたどり着いた俺は、巻物を開き口寄せされた人物と相対する。

 

「……あれ、まさかあなただとは……てっきり別の中忍が来るかと」

 

「その口ぶり、中忍が来ることもお見通しだったってわけか……」

 

 そういうイルカ先生は当然のごとくと言った様子で俺に第2試験の合格を申し付ける。

 

「さてと……じゃあ、あとはナルト達のことよろしくお願いします。イルカ先生」

 

 そう言うと俺は塔の中にいるスタッフに案内され待合室に通される。

 

「……ふふふ、随分ボロボロだったが悟もあの時から成長しているんだな。さてとじゃあ、俺もあとはナルト達のことも信じて待つか……」

 

 そう呟いたイルカ先生は再度逆口寄せにより塔から姿を消した。

 

 それから第2試験終了までの間。俺はひたすら眠りについて休息を取った。

 

~~~~~~

 

『ねえ、悟ちゃんは何が欲しい? 祭りの屋台にあるモノ何でも買ってあげるわよ~』

 

『別に……私は……欲しいモノなんて……』

 

 ただ平穏に平和に生きられるならそれでいい……。1人でいたい……。もう繋がりを持つなんて……。

 

『2歳の誕生日なんだから遠慮しないで! 遠慮する歳じゃないでしょ~?』

 

『なら……あのお面を……』

 

 誰も信じたくない……誰かに自分を認識してほしくない。だからこそ顔を隠せる狐の面をこの人にねだる。

 

『これでいいの? ほらもっと沢山甘えてくれても……』

 

『十分ですすみません……お願いなんてしちゃってごめんなさい……わがままいってごめんなさい……』

 

『そんな我がままなんて……いいのよぉ? ほらもっと私を頼ってくれても……』

 

 

 

 ああ、これは……昔の夢か。

 

 

 懐かしい。確か2歳の誕生日の時にマリエさんに祭りに連れて行ってもらったときの……。

 

 

 この時も貴方は地下で1人でずっと我慢していたんですね……。

 

  

 俺は誰かと繋がりを持つのが怖かった。その繋がりを後悔することになった時の自分の醜さが怖くて……。

 

 

 貴方は……どんな思いで俺と繋がろうとしていたんですか?

 

 

 ……心が壊れるぐらいの目にあったはずなのに……なぜ俺なんかと?

 

 

 

~~~~~~

 

「ぶあ……? 夢か……」

 

 ふと目を覚ませば、塔の中の部屋の1つのベッドで横たわる自分に気がつく。

 

「……あれから大体3日か、ああ腹減った……」

 

 体を動かし、塔内の食堂へと向かう。……毒の影響はもう殆んどない、少しぐらつくぐらいか。相変わらずの自己治癒能力に感謝だ。一応待機スタッフに毒について説明したときに

 

『すみません、あなたの傷口付近から採取した毒を調べたところ、それに対して効き目のある薬の用意がなくてですね……アンコ特別上忍が戻ってくるまで我慢していただくしか……』

  

『あ~なるほど……』

 

 というやり取りがあった。俺の反応の薄さにスタッフが拍子抜けしていたのが印象的か。

 

 アンコさんが戻ってきても、大蛇丸にこっぴどく返り討ちにあったみたいで、俺どころに構っている暇は無さそうだったので黙ってたが……。

 

 食堂に着くと、三代目が定食を食べていた。……いきなりシュールな場面に出くわしてしまった。

 

「ふむ? 悟か、どうじゃ隣にでもこんか?」

 

「何でこんな所で三代目が食事を……。隣は遠慮します」

 

 そういって自分の分の食事を持ち三代目の正面に座る。

 

「ふははは……ふむ、お主が1番で試験をクリアしてくると思っておったが、まさか砂の忍びが先を越すとはな」

 

「……なんですか、唐突に……。大蛇丸と交戦しちゃったんでしょうがないじゃないですか」

 

 俺の言葉に三代目が動揺する。あっ大蛇丸と交戦したこと誰にも言ってねえわ。

 

「そ、それは……無事で何よりじゃ……」

 

「そうですね、滅茶苦茶強かったですよ。まだまだ基礎的な部分が成ってないと実感できました」

 

「ワシが言うのもなんだが……大蛇丸と会ってよく平静を保てるな、お主」

 

「……? マリエさんのことに比べれば精神的には余裕ですよ」

 

「そうか、そうじゃったか……」

 

 何ですか、その不憫そうな目は……そう言えば、大蛇丸の野郎(?)唾とか言って俺の首筋を噛んでいたけど……サスケと違って別に呪印を刻まれたわけではなかった……。体調に関しても、毒による影響しかわからないし……何されたんだか少し怖いな。

 

 三代目と小話をして、食事を終えた俺は部屋へと戻ると丁度塔内にアナウンスがかかる。

 

「第2の試験終了に着き、通過者は一階にある広場まで……」

 

 さて、同期達は合格できているのか。少し心配だ。

 

~~~~~~

 

「まずは第2の試験通過おめでとう!!」   

 

 アンコ特別上忍の言葉を尻目に、並んだ通過者たちに目を通す。

 

(同期達は……ん? チョウジがいない……シカマルとイノはいるが……何とか班で通過はしたが、怪我がひどすぎたのか。俺では完璧に治療するのに時間も技術も足りなかったからな……。すまん、チョウジ)

 

 テンテンたちは普通にいた。多分ネジの白眼なら、遠くからで班員を見つけられるから単独行動したんだろうが……俺が知る原作より随分と冷酷じゃないか。

 

 その後三代目により、中忍試験がなぜ同盟国同士で開かれるかの解説が入る。つまりは下忍を使った代理戦争ってことだ。

 

 で第3の試験の前に多すぎる通過者を減らすために予選をすることになって……チョウジは運営の判断で強制的に辞退になった。シカマルと、イノが悔しそうにしている。

 

「仲間の為だとか不相応に足掻くからこうなる……無様だな」

 

 ふと聞こえた呟きに、怒りが沸く。ああ、お前はそう言う奴かネジ。もし戦うことがあれば容赦はしないぞ……。

 

 その後に薬師カブトが自ら辞退をする。ナルトが残念そうにしている……確か少し仲良くなったんだっけか? 大蛇丸の部下とは知らずに……しかたないかもだけど。

 

 ふと辞退したカブトが会場から出ていこうとしたときに、カブトがこちらを見るような視線を感じる。

 

「ん? なんですか?」

 

「ああ、いやごめんよ。特別枠って言うだけあって1人で合格してすごいなぁってね。同じ木ノ葉の忍びとして誇らしいよ。君は……がんばってね」

 

 まさかカブトに声をかけられるとは……大蛇丸関係で何か知らてるのか? まあ、疑ったところで俺が知りようがないのだが。

 

(間違いない……あの面は……あの人の……)

 

 そんなカブトの思考については気にも留めずに俺は前を向いた。

 

 

 

 という訳で長いルール説明を終えて1対1の予選が開始された。

 

 初戦はまあ……原作と変わらずサスケとヨロイって奴だった。……アカドウ・ヨロイ……覚えているようなないような……。

 

 

~~~~~~

 

 

 サスケは危なげだったが体術・獅子連弾を決めて勝利。……表蓮華のアレンジとは恐れ多い。やっぱりすごいなって、安直な感想が出た。

 

 まあ、試合後はカカシさんに連れられ別室に……。呪印を封印するんだろう。

 

 でまあ、次戦、ザク・アブミVSアブラメ・シノ

 

 うん、シノが勝った。まあシノ強いしね。俺も火遁チャクラモードとかメタを張らないと戦うのは遠慮したい相手だし。

 

「へいナーイス、シノ!」

 

「ふん……他愛もない。悟、お前も勝ちあがってこい」

 

 中々の強者セリフじゃないか……機会があれば真似するか。

 

 はい次戦、ツルギ・ミスミVSカンクロウ

 

 カンクロウの勝ち。特にいうことはない、うん。

 

 次戦、ハルノ・サクラVSヤマナカ・イノ

 

 中々壮絶だった試合。2人とも意外にも体術面での伸びが良いのか接近戦で応酬が続いていた。

 

 最終的にはイノの心転身の術をサクラが看破して、ダブルノックダウン。2人は少しの間気絶していそうなので、ちょっとだけ掌仙術で怪我を治療をしておいた。

 

 ちなみに前の演習で俺がイノの心転身の術を破った方法は、例のトラックの映像をイノに見せるといったものだった。それでイノの精神を体外に追い出した。黙の存在のおかげか、精神世界での自由度が高い気がするな俺。

 

 ことごとく変な精神性の奴の中に入るイノが少し不憫に感じた、まあ他人事なんだが。

 

 ハイ次、テンテン対テマリ。

 

 ……まあ、何というか。相性が悪い、それに限る。

 

「ハンっ!! 遠距離攻撃で私の上を行こうなんざ、百年早いんだよぉ!!」

 

 テマリの風遁でテンテンの武器は全て撃ち落される。

 

「……くっ!!」

 

 テンテンは随分と苦しそうだ……手がないのは仕方ないが。やっぱり、何か俺が術でも教えてあげるべきk

 

「でえああああっ!!!」

 

 急に動きの質を変えたテンテンの飛び蹴りが炸裂してテマリを大きく吹き飛ばす。扇子でガードされたが、ダメージは入ったはず……てっ……

 

 ……テンテンの飛び蹴りでテマリの風遁を突き抜けただと? ていうかあの、身体能力とチャクラの高まり……まさか。

 

 俺が驚愕でガイさんに顔を向けるとガイさんもまさかという表情でこちらを見ていた。ガイさんも知らないっていうことはあいつ独学で……

 

 

 

 

 八門を……!? 多分開門段階自体は浅いだろうが、そんな無茶な……俺が言えたことじゃないけど。

 

「こいつ急に身体能力が……ちぃ!!」

 

 予めばらまかれた忍具をテンテンは強化した身体能力で扱いテマリを追いつめる。

 

 忍具の投擲は風遁を貫通し、テマリへと迫る。それをテマリは巨大なセンスで弾くが、迫りくる投擲の嵐が着実にテマリに襲い掛かる。

 

「テンテンさん! 頑張れー!」

 

 いつの間にか起きていたサクラが応援を送る。今は優勢にみえるが、八門をテンテンがそう長く維持できるとは思えない。現に動きが鈍くなってきている……っ。

 

「……テンテンっ!!」

 

 思わず出た俺の声にテンテンが反応したのか、床に転がる鈍器「メイス」を持ち特攻を仕掛ける。

 

「「ああああああああっ!!」」

 

 互いの武器同士がぶつかり、押し合いになるが……。

 

「木ノ葉を舐めてて悪かったねぇ……でも、これでしまいだぁあ!!」

 

 テンテンの攻撃をいなして距離を取ったテマリが風遁を展開する。テンテンは……八門の反動で動けないっ!

 

「風遁・大鎌いたちの術!」

 

 テマリの風遁に対して最後の力を振り絞ったテンテンがメイスを投擲するが自分の身体ごと吹き飛ばされる。

 

 勝者は……

 

「勝負あり。勝者、テマリ」

 

 審判月光ハヤテの宣告が轟く。……っ!

 

 思わず飛び出た俺はテンテンを抱える。

 

「大丈夫か!? テンテン!!」

 

 声をかけるが、意識はない。早く治療をっ!

 

 焦る俺は医療班がつく前に応急処置を行う。背後で少しリーとテマリが揉めている。

 

「それが死力を尽くした相手に投げかける言葉ですかっ!」

 

「ふん、確かに苦戦はしたが負けは負けだ。負ければそれで終わりなんだよ、へっぽこ」

 

 挑発に乗るリーをガイさんが止めている。俺はそのまま医療班にテンテンを預けついていく。

 

 担架で運ばれるテンテンが目を覚ます。

 

「……さとる?」

 

「テンテン、無茶しやがって……ったく心配したぞ」

 

「ごめんね、わたし負けたく……なかった……まけだぐぅ……グスっ……」

 

「……ああ」

 

「わたし……さとるに……おいつきたくて……それで……」

 

「ああ、わかってるよ。お前はよく頑張った……ほら今度一緒に修行しような……約束だ」

 

 俺は小指を差し出す。それにテンテンも小指で応える。

 

「ふふふ、指切り何て……なんだか……昔にもどった……みた……い……」

 

「……っテンテン……お疲れ様……」

 

 再度気を失ったテンテンを見送り、俺は会場に戻る。

 

 ……勝負の世界は厳しい。死ななかっただけマシなのだろうが、俺の心はどうしても荒れてしまう。頭ではわかっているつもりでも……。

 

「大丈夫? 悟君……」

 

「ヒナタか……ああ、大丈夫だ。テンテンは命に別状はない。だから大丈夫……」

 

「……悟君は?」

 

「俺……?」

 

「悟君、少し前から無理してるよね? なんだか明るく振舞っているみたいだけど、私にはわかるよ……。テンテンさんのことも不安だろうけど、悟君。自分のことも少しは……」

 

「……ハハっ大丈夫だ。!……というかそれこそヒナタは俺の心配をしている暇があるのか?」

 

「それは……どういう意味?」

 

 俺は電光掲示板を指さす。俺がテンテンの付き添いをしている間にシカマルの奴は試合を終わらせたようだ。随分とあっさり決着がついたもんだ。

 

 

 その掲示板に出ている次の対戦者の名前は……

 

 

 ウズマキ・ナルト

 

 

   VS

 

 

 モクライ・サトル

 

 

 

 …………ククク。

 

「さてとヒナタ……お前はどっちの応援をしてくれるのかな?」

 

 多分この時の俺の仮面の下の笑顔はかなり邪悪だったと振り返って思う。

 

 

 

 



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50:九尾の威を借るはナルト

<うずまきナルト>

 

 武者震いが止まらねぇ!!

 

 俺は自分の名前が出た瞬間に下に降りる。

 

「ほらシカマル、どけってばよぉ! 次はこのナルト様の~出番でぇい!!」

 

「……たくうるせー奴だな……少しは俺の勝利を褒めろよめんどくせー」

 

 さっさとシカマルどかせて、ふんぞり返って悟を待つ!

 

「随分とやるきだなぁナルト」

 

 カカシ先生が呑気に言ってるがそんなの関係ねーっ……確かに悟はつえー。だけど、だからこそ

 

「お前とは本気でやりあって見たかったってばよぉ……悟っ!!」

 

「そうだな、何時かの森での一発分……この試合で返させてもらおう」

 

 目の間に現れた悟の気配はびんびんでヤベー感じがする。左腕を骨折の影響で固定して包帯でぶら下げているけど多分シノの相手見てーにあれはハッタリだ、気を付けておくってばよ。

 

「それでは第7回戦ゴホッ……始め」

 

 心気くせ―にいちゃんの掛け声を合図に一斉に影分身をしまくる。悟は、まだ動かない。

 

「「「「「いざぁああ!! 勝負!!」」」」」」

 

 影分身達でいっせいに悟に襲い掛かる。軽くいなされるけど問題ねェー……。

 

「ここだあ!」

 

 隙をついて手裏剣を投げつける。今悟は鉄棒を持ってねーから弾くことは出来ないだから。

 

「おっと」

 

 体勢を崩して避ける!! そこを狙って……!

 

「影分身ロケットぉ!!」

 

 影分身を投げつけまくる。

 

「いけいけいけいけいけぇええい!!」

 

 影分身に埋もれた悟。よしかt

 

「八門八卦・剛天……勝ったと思ったか?」

 

 悟がなんかやべー回転をして影分身たちをはじけ飛ばす。……。

 

「やっぱりつえーな悟!!」

 

「ふん、相手が強くて喜ぶなよ……なっ!!」

 

 悟が火球を飛ばして突っ込んでくる!

 

「おわあおっアブねっ!!」

 

 何とか避けたと思ったら、身体の下から蹴りを喰らって浮き上がらされる。この攻撃はまさか……まずいってばよ!

 

「サスケが見てねーけどこれが本家だ喰らえナルト!」

 

 浮き上がった俺に悟は右手の包帯を使って俺をグルグル巻きに……!

 

「おらぁ表蓮華っっ!!」

 

「っささえろーーー!」

 

 俺の声に地面に残った影分身たちが回転して落下する俺たちを受け止めようと、さらに数を増やしてクッションになる。

 

 クッション影分身を蹴散らした悟の攻撃は……

 

「どらあーーー俺!! 無事ぃ!!」

 

「ちぃっ影分身多すぎんだろ……」

 

 なんとか無効化できた! そのまま影分身に囲まれた悟は雷を作って周囲に攻撃をする。攻防が熱いってばよぉ……!

 

「無茶苦茶な戦いだ……」

 

「あのナルトが……」

 

 会場では俺たちの戦いを見て色々ぶつぶつ言ってるみてーだけど聞いてる余裕はねえ……。

 

「へん、悟さんよぉ。手ぇ抜いてんじゃねえのか?」

 

「まあ、そうかもな……なら少し、本気を出そう」

 

 ……消えっ!! 今の一瞬悟が雷になって影分身たちを薙ぎ払う。

 

「お前は雷遁チャクラモードの相手を出来るか? ナルト?」

 

 っやべぇやべぇ早すぎる! 訳も分からずに攻撃を喰らいまくる。目にも止まらない拳と蹴りにガードするしかできねぇ……出した影分身も即座に消される、どうすれば……!!

 

(ふん、不甲斐ねぇーなあ)

 

(九尾!? 今忙しいんだ、用なら後に……)

 

(……右に拳を突き出せ、ナルト)

 

 っ!! 咄嗟にパンチを繰り出す。すると……悟の顔に拳が当たり移動の勢いのまま、悟は転がっていく。

 

(どうなって……?!)

 

(仮面野郎の高速移動……あれはカウンターに弱い。速さで誤魔化してはいるが、事前に組んだ動きを繰り返しているにすぎねーんだよォ。お前の影分身がやられるパターンで動きは見切った。ワシが合図を出すからお前は身体を動かせぇい!!)

 

(何でそんなアドバイス……俺に)

 

(ふんっあいつが気に入らない、それだけだ……)

 

 何かよくわからねーけど、九尾のおかげで悟の動きに対応できる!

 

「いつつ……。今の動きまぐれじゃなさそうだな……。一体どうやって……!!」

 

 再度悟が電気を纏って視界から消える。だけど

 

(……下だぁ!!)

 

 っ!! よし、足払いでぇ……

 

「っナニ!?」

 

 悟の体を浮かせる! 

 

「くらえ、新技!!う・ず・ま・きぃ!」

 

 完全に宙に浮いた悟は十分なガードができねぇ! 影分身で追い打ちをかまして、もらったあ!! 

 

「ナルト連弾!!」

 

 空中に浮いた悟をかかと落としで思いっきり地面に叩きつける。床にヒビが入るぐらいの衝撃、流石に悟でも大ダメージだぜ!!

 

「へっへーん!!大勝利ぃーーー!!」

 

(あいつの高速移動は相手の反撃を想定していない……ふん。種が割れれば脆いもんだが……油断はするなよ、ナルトォ)

 

「へ?」

 

 

 悟は立ち上がっていた……。何か緑のオーラが……

 

「八門八卦・剛掌波!」

 

「うっぐえ!!!」

 

 咄嗟に手でガードするが見えない何かが体を吹き飛ばす、滅茶苦茶痛てー……。

 

「……なるほどな。大した奴だよ……ナルト……ならこれならどうだ?」

 

 ってうわあああ。さっきのを右腕だけで滅茶苦茶な数飛ばしてくる。ガードしてもいたいし、攻撃がみえねーからよけらんねー!

 

「さあ、諦めろナルト」

 

「っ誰が! 諦めるかぁーーー!!」

 

(威勢は良いが……純粋な実力差だな……こりゃぁ……)

 

 ぐっ……つうっやべーマジヤベー!!

 

(九尾! 何か作戦とかねーのかよぉ?!)

 

(無理だな、今のお前では手段に乏しい。お手上げと言う奴だ……)

 

「っだらあ!!」

 

 影分身を出しまくって無理やり前に出る。

 

(無駄だ、そんなことしてもチャクラの無駄にしかならん)

 

(うっせー! 俺は諦めねぇ……諦めなねーぞお!!)

 

(……ふんっ)

 

 影分身を投げつけてもすぐに高速のパンチで消される……クソっ!!

 

「まだ……まだぁあ!!」

 

「これで終わりだ、ナルト!!」

 

 急に目の前に悟がっ……防ぎきれ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナルト君っ!!!!!!」

 

 

 

~~~~~~~

<三人称>

 

 ナルトの目の前に移動した悟の拳は額を捕らえる。会場にいる誰もが決着を予想したが……。

 

 ナルトはその場で踏ん張りを効かせ微動だにしていなかった。会場にどよめきが走る。

 

 すると突然

 

 

「だあああああ!!」

 

 ナルトが振るう腕が濃密なチャクラ纏い悟を吹き飛ばす。

 

「っつう!?」

 

(この力まさか……)

 

 態勢を整える悟は驚愕する。感知したチャクラの質は過去に自身も扱った……九尾のものだった。だが目の前のナルトは目を朱く変化させたまま理性を保っている。

 

「ッいってーけど、負けねー……ぞ」

 

「クククッ、お前って奴は……行くぞ! ナルト!!」

 

 朱いチャクラを纏うナルトの身体能力は八門の状態の悟に匹敵していた。

 

(俺は今、第五・杜門まで開いているが……なるほど九尾のチャクラはこれほどまでか……っ!)

 

 互いに移動スピードは常人の忍びを遥かに凌駕している。

 

 しかし、交戦が続くと次第に悟が圧倒し始める。その差は体術、技術の差であった。

 

 ナルトの重い一撃も柔拳の型が受け流し、その隙を剛拳で打ち抜く。悟の集中力は拮抗するライバルの存在で鋭さを増し、より動きが洗練されていく。

 

(ここまでやってんのに……っ悟はすげーってばよ……)

 

 ナルトは心からそう思う。

 

(ワシのチャクラを分けてやったんだ!! 仮面野郎だけはぶちのめせぃ!!)

 

 九尾の試合観戦を熱心に見る様にナルトは心の中で笑う。そして……

 

「今度こそ止めだァア! ナルトォ!!」

 

「来やがれ!! 悟!!」

 

 お互いの右拳がぶつかり合う。勢いはナルトが優勢で、悟は足を滑らせ後退させられる。拳同士のぶつかり合いを制したのは……

 

「だらああ!!」

 

 ナルトだ。ナルトの振りぬいた拳は悟の右手を砕き鮮血に染め、そして後ろに倒れ行く悟。

 

「ホンっと―に今度こそ俺の……勝ちだってばよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八門遁甲第六・景門……開」

 

 倒れる姿勢の悟は、包帯でぶら下げて固定された左腕を大きく振るい解き放つ。倒れ行く中、蓮華用の右手の包帯をチャクラであやつり、ナルトの右手に巻き付ける。

 

「な……!? 左手のことわすれてたあ!!」

 

「悪いな、今までの拳は腰が入ってなかった……これがぁ!!!! 俺のっ!!!! 本気だぁ!!!!」

 

 悟は右腕を引き、ナルトの身体を浮かせ引き寄せる。そして無防備に近づくナルトの額を左の拳で打ち抜いた。

 

 

 ゴっ……! そんな鈍い音が響き、ナルトは空中で目にも留まらぬ速さで回転、地面に叩きつけられる。

 

 会場は静まり返り……

 

「ゴホッ……勝者、黙雷悟」

 

 審判の月光ハヤテの宣言だけが響き渡った。

 

 

~~~~~~~

 

 少ししてナルトと悟は2階の観戦場に戻る。あれ程の激闘を繰り広げたにも関わらず、ナルトはすぐに目を覚まし起き上がっていた。

 

「あんたたちなんか……色々とすごかったわよ……」

 

「ああ、俺も驚いちゃった……」

 

 サクラとカカシの賛美にナルトは照れながらも

 

「いやあ……でも負けちまったからなあ……」

 

 と落ち込む様子を見せる。

 

(ナルトの奴……いつの間に九尾のチャクラを扱えるように……?)

 

 カカシは不思議がるが、そのことについては考えても仕方がない。真相は「気に入らない奴の勝ちを阻止する」ために九尾が素直にチャクラを貸しただけなのだから。相手が悟でなければ、同様の実力を出すことは今のナルトには到底無理な話だろう。

 

「いやースカッとした!」

 

 にこやかに笑う悟と、悔しがるナルト。悟は両手から血を垂れ流し、ナルトは全身くまなく傷だらけだ。凄惨な様子についヒナタは声をかける。

 

「2人とも!! そんな怪我でどうして戻ってきて……医務室に行かないとっ!!」

 

 珍しく声を張るヒナタに目をぱちぱちさせるナルトと悟。

 

「いやあ、俺は自分で治療できるし……」

 

「俺も何か傷だらけだけど調子はなぜか良いんだよな~」

 

 怪我の酷さの割に呑気な2人にヒナタは顔を赤くして手に持つ塗り薬を塗りたくるヒナタ。

 

「……っ! ……っ!……っ!」

 

「あははは、おいおい、怒らせたか?」

 

「おわっとヒナタ何すんだ……いてて……あっでもこの塗り薬よく効くってばよ」

 

 2人の傷に塗られた薬はシュウウ~と煙をあげる。

 

(何だあれ……只の塗り薬でこんなに傷が早く治るわけ……相変わらず驚かされるな、意外性コンビめ)

 

 カカシの呆れる顔とナルト達の様子に何も察せないサクラは疑問符だけを浮かべていた。

 

 そして

 

 

「あはは……はあ……さてヒナタ、俺たちに構うのもいいがよく見ろよ」

 

 悟の促すその先には、日向の運命の鎖が表示されている。

 

 

 宗家と分家。

 

 

 

 ヒュウガ・ネジVSヒュウガ・ヒナタ

 

 

 

 ヒナタの覚悟が問われる戦いが、始まる。

 



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51:叛逆の精神

<三人称>

 

 ヒナタ対ネジ

 

 その組み合わせの発表は悟の心に影を落とす。原作においてもこの組み合わせの結果ヒナタは重傷を負っている。その怪我は一か月後、中忍試験本選まであとを引くほど重いものだ。

 

 それでも悟は不安な素振りは見せずに彼女を送り出す。

 

「さあ、ヒナタ……勝ってこい……!」

 

「頑張れってばよ、ヒナタぁ! 応援してっぞ!!」

 

「う、うん……行ってきます……っ」

 

 2人の声援を受けヒナタは降り立つ。

 

「……ふう、まさかあなたとやりあうことになるとはね……ヒナタ様……いや……日向ヒナタっ」

 

「っ……ネジ兄さん……」

 

 宗家と分家の確執。悟が知る限りでもそれは現在の日向の家に根強く浸透している。ヒアシとヒザシ。両名の公での扱いの差は自然と目に入るからこそ確執を理解する。あくまでヒザシは影武者扱いであること、その肩身の狭さは計り知れない。

 

 そんな因縁深い対決の火ぶたが……

 

「では、試合を始めてください! ゴホッ

 

 切られた。

 

 開始の合図とともに大きく踏み込んだ、ネジの一撃をヒナタは受け止めいなす。お互い白眼を用いた一瞬の攻防は簡潔に見え、その実幾重の攻防が織り交ぜられている。

 

「……あなたに棄権しろとはいいません。なのでどうか……

 

 

 

 

 

死なないでください」

 

「っ! ……ハアっ!」

 

 ネジのその言葉は暗に殺すという脅迫めいた意味を示す。本気の殺意。ヒナタは恐怖に呑まれそうな自分を鼓舞して牽制を繰り出す。

 

「……クククっまるで、成ってない! 貴方の柔拳は己を守るために振るわれるだけの弱者の拳だ。宗家の人間が、この程度とは…………ふざけるなっ!!!」

 

 怒りに任せるような荒々しいネジの柔拳は、確実にヒナタの経絡系にダメージを浸透させ、傷つけていく。

 

「お前みたいな価値のない人間のために、才能無き者のために。何故肩書の差だけで有能な者が虐げられなければならないっ!」

 

「……っ!」

 

 ネジの怒りは宗家を目の前にして、膨れ燃え上がる。

 

「そう……これは……叛逆だ。俺の運命に対しての叛逆の始まりっ! 俺は日向などという肩書に縛られなどしない!」

 

 ヒナタの腹部への一撃が炸裂。大きく仰け反って、口から血を吐くヒナタは苦しそうに俯く。

 

「フンッ…………あなたも可哀想なお方だヒナタ様。その名だけで周囲に期待され、無理やりこの場に立たされている……。本当なら今すぐにでもこの場から逃げ出してしまいたいと思っているのに」

 

 大きくせき込むヒナタは口から血を流しながらもネジの目を見続ける。

 

「どんなに繕っても、俺の白眼には見通せてしまう……人の本質が。あなたは足掻いて見せているだけで、その実他者の期待に応えることすら出来ない臆病者だ。本質は何も変わってなどいないのだ。……そう自分を変えるなんてこと絶対に出来

 

 

「「出来る!!!」」

 

 会場に響き渡る怒号。ネジはその2つの音源を無言でジッと睨みつける。

 

「人のことかってに可哀そうだとかっ! 臆病者だとかっ! 決めつけんなバーーーーーカっ!! ンな奴ぶっ飛ばしてやれ!!」

 

「……人の本当の本質は確かに変えようがないのかもしれない……だけどそれが(イコール)人が変わらないことにはならないんだ……っ! 本質の引き出し方なんてそれこそ人それぞれだっ!! だからこそ今の君の力を見せてあげるんだっ!!」

 

 

「「ヒナタ!!」」 

 

 ナルトと悟の叫び。荒々しい応援。見守るような声援。その2つの心の力はヒナタに力を与え……

 

「……あり……がとう、2人とも……っ!! 私は……私は……っ!!」

 

 震える体を持ち上げ、その両目に闘志を宿して再び立ち上がらせる。

 

「……その状態で立ってくるなど……」

 

「私は……大好きなあの2人のように強く……なりたいのっ! いえ、なって見せます……!! まっすぐ……もう自分の言葉を曲げない……私も……それが忍道だから……っ!」

 

「……無駄だ、あなたはもうチャクラを練ることができない。勝負は着いている」

 

 そのネジの言葉を合図にヒナタは攻め込む。煩わしそうに構えるネジは驚愕する。チャクラの流れを止める点穴は既に幾重にも突き、練れるチャクラなど雀の涙ほどもないはずのヒナタ。

 

 そのヒナタの攻撃の鋭さは、幾段にも上がりネジに迫る。そしてヒナタの掌底を防いだ腕の感覚の鈍りに驚愕するネジ。

 

(……っ何が!? なぜチャクラを練れる……なぜ俺の経絡系がダメージを……っ!?)

 

 ヒナタの気迫に押され大きく退くネジ。白眼での観察により、事象の原因を探る。

 

 ヒナタの腹部には、クナイが刺さっていた。それは自傷行為にほかならない。けれどそのクナイは点穴を突かれ閉じた経絡系の道を無理やりこじ開けている。

 

(……っあの演習で黙雷悟が見せた秘策をクナイでするなど……それに)

 

 ヒナタの右手に宿る、チャクラの塊。朧気にそれはまるで獅子の顔を型取り、渦巻いている。そのチャクラの塊が自身の経絡系へのダメージを加速させていると瞬時にネジは判断する。

 

 ネジに猶予を与えないようにヒナタが攻勢にでる。右手による攻撃を注意し避けるネジ。

 

「種が割れればそんな小細工などっ!」

 

 勢いが増したにしてもすでにヒナタの動きは、経絡系の負った重傷と自傷により乱れている。冷静に脅威になりうる右手の動きを捌くことでネジの優勢は揺るがない。

 

「……ハアっ! ……ハアっ! ……っ!!」

 

 ヒナタの苦しそうな呼吸が、ネジの勝利を彩り始める。

 

(所詮、最後の悪あがきだ……練れる僅かなチャクラを右手の術にまわしている以上他が疎かになる)

 

 ヒナタ唯一の武器だと思われる右手による攻撃も、スピードが落ちネジは完全に見切る。纏うチャクラの隙を突いて柔拳を叩きこみ、右腕の点穴を完全に塞ぐ。それによりヒナタの渦巻くチャクラは消失。

 

(勝っ……!!)

 

 完全に相手の最後の牙を折ったことによる勝利への確信。その瞬間

 

 

ゴっ!!!

 

 

 会場に鈍い音が響く。

 

 

 そして大きく吹き飛ばされるネジ。

 

 

 会場にどよめきが走る。

 

 

 吹き飛ぶネジが見た光景は、大きく振り抜かれたヒナタの左手の拳であった。

 

 

「日向の人間が……剛拳(・・)を……っ!」

 

 観戦しているカカシの驚きの声が響く。

 

 柔拳による右手での攻撃を囮にした左手での拳骨。相手の力量を決めつけ、慢心していたネジはそのヒナタが繰り出すはずのない一撃を読めずにもろに喰らった。

 

「よっしゃー! ナイスだぁ!! ヒナタぁあ!!」

 

 ナルトの歓喜の声が会場に轟く。そしてその声に笑顔で応えたヒナタは

 

 

 

 

 

 そのまま地面へと倒れこむ。

 

 

 ……そして対照に立ち上がるネジ。

 

 

 

「……勝者、日向ネジ…ゴホッ」

 

 

 非情にも審判は下された。しかし

 

 ネジは再び構えを取る。

 

「っネジ君……もう試合は終了ですよ……?」

 

 月光ハヤテは訝しむ。離れた位置にいるにも関わらず構える、ネジの内包するチャクラはありえない一撃に憤怒して増加している。審判のハヤテがそれに気づき間に割って入るよりも早くネジによる一撃は放たれた。

 

「八卦空掌っ!!!」

 

 放たれたのは急所を射抜くチャクラによる真空の衝撃波。それがヒナタに迫る。

 

 その不意の攻撃に対処できるものはこの会場には

 

 

 

 

 

 

 

 

 黙雷悟しかいなかった。

 

 

 

 

「八門八卦・剛天っ!」

 

 

 ネジの一撃をヒナタの前に現れた悟がかき消す。

 

「……これ以上やるなら俺が相手だ……っ」

 

 悟の放つものは紛れもなく殺気であった。

 

「ッ……フンっ……貴様の婚約者だからか? そんな落ちこぼれを守るとはなっ!!」

 

「そんなことは関係ない……」

 

「……貴様はっ……何なんだ貴様は黙雷悟っ!! お前は紛れもなく天才の側のはずだっ!! 日向に認められっ!! 父上にも認められっ!! 数多の力を操るお前がなぜっ!! わざわざ愚図共の味方をして助けるっ!!! お前は何故足手まといのためになぜそこまでっ!」

 

「そんなこと……知りたければ教えてやるよ……けどそれは今じゃあない……」

 

 そういう悟の背後ではナルトがヒナタに駆け寄り、医療班が集まっている。

 

「本選で待ってろ……」

 

 悟の放つ確信をもったその言葉をネジは受け止める。

 

「良いだろう……貴様を殺して……否定しやろう貴様の考えをっ!! そして証明して見せる、この世は」

 

 

 

 力が全てだと。

 

 

 

 そう言い残したネジは会場から姿を消す。

 

 それを見届けた悟はすぐさま、ヒナタに付き添い医務室についていった。

 

 会場から2人の通過者が消えども、試合は続く。

 

 ロック・リーVS砂漠の我愛羅

 

 そして犬塚キバVSドス・キヌタ

 

 リーは忍者生命を危ぶまれる重傷を負い、キバもまた接近戦に強いキヌタの音波を駆使した忍術に敗れ去る……。

 

 かくして中忍試験第3の試験予選は幕を閉じた。

 

 本選はトーナメント形式で一か月後に開かれる。

 

 会場から姿を消した日向ネジと黙雷悟は代理でくじが引かれその組み合わせが決定する。

 

 第一試合は

 

 

 

 黙雷悟対日向ネジであった。

 

 

 

 

 

 

 




サクラ「悟ってたまに口調変わる時ありません?」

カカシ「さあ……保護者の影響じゃない?」


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52:各自の激戦が明け……

<三人称>

 

 木ノ葉の里にある病院の一室。その中からは揉め合う会話が聞こえる。

 

「通してください! 僕は……僕は努力しないとっ!」

 

「だ、駄目です! 今は絶対安静にしていないといけません……キャッ!」

 

 その内の男性の声の主、ロック・リーが病室のナースを押しのけ片手片足のみ使って病室の戸を開け飛び出る。

 

 その瞬間、飛び出た拍子で倒れそうなリーを支える人物が1人。

 

「リーさん、焦る気持ちはわかりますが、女性を突き飛ばすのは感心しませんよ?」

 

 リーが顔を上げると、無地の仮面が目に入る。背後のナースもまた、仮面の人物が支えていた。

 

「は、離してください悟君! 僕はまだ……!」

 

「ダーメ」

 

「うっうわ!」

 

 リーをひょいと持ち上げた悟は、そのまま病室のベッドまでリーを連行する。ナースを支えた影分身は会釈をしてボフンと姿を消した。

 

「リーさんは自分が相手しますので、後は任せてください」

 

「は、はい……」

 

 中忍試験の予選から数日。黙雷悟の顔(仮面)は木ノ葉の里でも知られるものとなった。このナースもまた悟を知っており、紳士的な態度とその手腕(物理)を信頼して病室を後にする。

 

「……オラぁ!!」

 

「痛ったあ!!」

 

 ナースが出ていったのを確認した悟は、愚図るリーの額にデコピンをかます。

 

「何してんですか……たくっそんな体で無茶を……」

 

「いてて……無茶じゃありません! 修行です!」

 

 ベッドの横の椅子に座った悟は仮面を手で押させ頭を振る。

 

「何かしていないと辛い気持ちはわかるけど、それで周りに迷惑かけるのは間違っているってわかってるでしょ?」

 

「グッ……でも……」

 

 もう一度デコピンを構える悟に、リーは額を隠し黙ってベッドに沈み込む。

 

「まあ、休息を取るのも修行の内……オーバーワークは非効率だ。今はほら、これでも読み込んでて」

 

 そう言うと悟手に持つ紙袋から数冊本を取り出す。

 

「それは……?」

 

「体術に関する理論書とヨガについてと、あと家で出来る健康法などなど……暇を潰せる読み物を、お見舞いにね」

 

 そういって悟が置いた本を手に取るリー。

 

「……ふむふむ。よしっ! ではさっそく、次回から病院食を一口百回噛んで食べることにしますっ!」

 

 『家で出来る健康法』……その一ページに書かれた内容を5倍ほど増して宣告するリーに苦笑いが零れる悟。

 

「……すみません、悟君……安静にしていないといけないとわかっていても……僕は体を動かす努力しか知らなくて……」

 

「……」

 

 リーの気持ちを何となく理解している悟は黙る。かつて後ろ向きに努力を重ねていた自分にリーが重なる。

 

「……まあ、誰かの言葉を借りるなら『ただ自分の為だけにする努力』を悪いという気はない……だが悪い……てね」

 

 しみじみと語る悟にリーは(変な貫禄がありますね……本当に年下なんですか悟君)と思う。

 

「自身の行く末が不明慮だと怖くて、無茶苦茶な努力をしがちだけどそれは自分を信じ切れていないからってことだと俺は理解している。リーは努力の天才だ! 周りにも配慮した努力が出来るって信じてる」

 

「努力の天才……しかし天才というなら君やネジ……のような」

 

「俺やネジだって万能じゃないし、人間の範疇は……出ていないはず。どんな忍術にも弱点があるように、人にも欠点がある。だからそれを補ってくれる誰かが人には必要なんだ。リーを必要としている人の為にも無茶な(・・・)努力は慎むようにっ!」

 

「僕を必要とする人……? 心当たりが……」

 

 ないと言いたげなリーに悟は天を仰ぐ。

 

「ガイさんだよっ! 言わなきゃわからんのかっ!」

 

「ガイ先生には欠点はありませんっ!」

 

「あるわっ! ありまくるから、お前が支えろって話っ! そのためにも安静にしててねって話ぃ!  たくっ真面目に語ってこっぱずかしいっ!!」

 

 顔に熱がたまり、手で顔を仰ぐ悟。仮面のせいでほぼ意味を成さない行動だが。

 

「コホンっ……それじゃあ、俺はまた別の人のお見舞いに行くから」

 

 そういって悟は立ち上がり、病室のドアに手をかける。

 

「お見舞いありがとうございました悟君。……悟君?」

 

 ドアに手をかけたまま、立ちすくむ悟をリーは不思議に思う。

 

「もしもだけど……」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

「もしも俺はリーが我愛羅と戦ったらこうなるって知ってて止めなかったっていったらどう思う……?」

 

「君は……何を……?」

 

「戦うのを止めて欲しかったですか?」

 

「……」

 

 お互いに目を合わせずに無言の時が少しすぎて……

 

「そうですね……僕があの時もしも悟君に『怪我をするから戦うな』と言われて提案を受けたら……

 

 

 

 

 

君の顔面を殴ってでもお断りします」

 

「……っ」

 

「どんな状況だろうと、戦わなければいけない時はあるんです。僕にとっては、我愛羅君との戦いがそうであったように。……なるほど、君にも随分と心配をかけてしまっていたということを痛感しましたよっ! だいじょーぶ、僕はこれから全力で安静にしますので、心配をせず他の方のお見舞いに行ってください!」

 

 そういうとリーは本を手に取り、顔を本に近づけ顔を隠す。

 

「……それじゃあ、お大事に」

 

 そういって悟はドアを引き、病室を後にした。

 

(いつか……悟君……君にとっても必要な人間に僕はなって見せますよ~っ!)

 

 そう硬く決意したリーは、全力で安静にすべく悟の持ち込んだ本を穴が開く勢いで読み漁った。

 

 

~~~~~~

 

「忍びってのは……ままならんもんだなぁ……」

 

「病室に来て早々何よ悟」

 

 ベッドで雑誌を読むテンテンの病室の床で悟は項垂れている。

 

「……なんつーか、俺も人の子だなって」

 

「そう? 割とバケモンでしょアンタ」

 

「……ひっでぇ……」

 

 お互いに軽口を言い合う仲に、先の悲劇をしっているからこそ、回避しないという選択を取った自分を責めている気持ちが幾分か軽くなる。

 

「……あんたは何でもかんでも気負いすぎんのよ。何? 私が怪我したことでも落ち込んでんの?」

 

「…………別に……」

 

 明らかに一段落ち込んだ様子を見せる悟に、テンテンは顔を引きつらせる。

 

「傲慢にもほどがあるわよ、アンタ。私が負けたのは実力不足だった私のせい。それ以上でもそれ以下でもないわ。落ち込んでる暇あったら、少しでも私を喜ばせなさいよ」

 

 そう言ったテンテンに悟は紙袋からお見舞いの品を取り出す。

 

「……中華まん……?」

 

「……手作り」

 

「そ、そう……。アンタがテンション低いとなんか調子狂うわね……ていうか病院に中華まんって……まあ、嬉しいけど……」

 

 少し顔を赤らめるテンテン。取りあえず中華まんを口にして、その美味しさから顔をほころばせているテンテンに更に悟は紙袋から巻物を取り出し手渡す。

 

「モグッ……ん、今度は何……?」

 

「禁術」

 

「っぶっはあ!!」

 

 あんまりな回答を聞いたテンテンは吹き出し、傷口に痛みが走りうずくまる。心配した悟が掌仙術をかける。

 

「変なこと言うなバカーっ!」

 

「いや、その……ごめん」

 

「あ~~ったくもう……。で、一応聞くけど内容は?」

 

「正確には会得難度Sランクの時空間忍術なんだけど、会得が難しすぎて禁術指定喰らったらしい。俺は時空間忍術はからっきしだから、テンテンならって……」

 

「アンタがどうやってそれを知ったとかはこの際気にしないけど……会得難度Sって……禁術をさらっと幼馴染に勧めないでよ……」

 

 そう言ってテンテンはやれやれと頭を振る。

 

「……そう言えばテンテンはどうやって八門を……八門も一応禁術なんだけど?」

 

 予選でのテンテンの戦いを思い出した悟は疑問を口にする。

 

「あ~それはガイ先生が、表蓮華の素質を見る時に軽く触りだけは教えてくれていて、でもリーは出来ても私は見込み薄だったの。でも実際悟の動きを見てると出来るとすごいんだろうな~って思って何とか一人で形に……」

 

 テンテンが説明している最中から悟は少し怒りの感情を露わにする。仮面で隠せど、幼馴染には感情は筒抜けである。

 

「えっアンタなんで怒ってんの?」

 

「ガイさん、テンテンが八門開けること自分は知らないって顔でこっち見てきてたのに……きっかけ教えてたのあの人じゃんかっ!」

 

 まあまあ、と悟をたしなめるテンテン。

 

「まあでも、負けたくないって思って実戦で使ってみたけど駄目ね。私は開門以上の開放は無理そうだし、反動もバカでかいし……。合ってないっていうガイ先生の言葉もよく分かるわ~」

 

 ホント反動キッツイ、といって悟に肩を「ん」と言って差し出すテンテン。悟はやれやれといった様子で肩をもみ始める。

 

「まあ、その禁術の巻物。暇つぶしにでも読んでみるわ。出来そうならやってみるし、駄目なら他の手段を探して強くなるだけね」

 

「ん、わかった。修行には俺もつきそうよ」

 

 そういった悟は「はいおしまい」と言ってテンテンの肩もみを終える。フイーッと息をついて肩を回すテンテンは思い出したかのように「あっ」と声を上げる。

 

「アンタヒナタちゃんと婚約してたって? 良いの? こんな他の女のところに来て……周りに浮気してるって思われるんじゃない? www」

 

「……この後ちゃんとヒナタの所にも見舞いに行くよ……。 それにたかが見舞い程度で浮気だのなんだの言われてたまるか」

 

「あっそう……ねえ何となくだけどさ……アンタ」

 

「……何?」

 

「ぶっちゃけ結婚する気ないでしょ? ヒナタちゃんと」

 

「……………っ……………………………何でそう思う?」

 

「そんな長い沈黙……まあ、理由らしい理由はないけどそうねぇ……幼馴染の勘よ!」

 

 そんな馬鹿なとジト目になる悟に、ニコッと笑顔を見せるテンテン。

 

「……話変えるけどテンテンはそういう話はないのか? 好きな人とか?」

 

「露骨に変えすぎよ……そうねぇ実は気になっている奴はいるのよね~」

 

 テンテンの回答に意外だと悟は驚く。

 

 

 

 

 

「ネジよ」

 

 

 

 

 

 悟はその中身にも驚くことになるのだが。

 

「……マジでいってんのか?」

 

「大マジ。別にゾッコンていうわけじゃないけどちょっと気になるって感じ、そうね何でって言うなら……

 

 

 

 

昔のアンタを見ているみたいでほっとけない……からかな」

 

「……そういう……まあ……うん、ああ~少し……理解した。……っはあ~~あ~~~……そういう所あるよな~テンテンさあ~……っ」

 

「へー意外。アンタ分かってくれるんだ。じゃあ私の将来の為にも! あのバカネジのねじ曲がった根性本選で叩きなおしてきてね♪」

 

「了解……何でこんな話してんだ……俺たち……」

 

 悟はそう言いながら椅子から立ち上がり「それじゃあお大事に」と言って病室を後にする。

 

「バイバーイ」

 

 と手を振ったテンテンの元気な声を背に悟はまた別の病室へと向かった。

 

 

~~~~~~

 

「悟さん……」

 

 病室に入った悟に声をかけるのは日向ハナビ。

 

「やあハナビ……ヒナタの調子は……」

 

「姉様、まだ目は覚まさないけど、今は容体も落ち着いています……時折、チャクラの流れが乱れて身体に悪影響を及ぼしているそうで、その時はとても苦しそうですが……」

 

 余りにも元気のないハナビの様子に、悟もどうにかしたいと思案するがこれといった解決策は思い浮かばない。

 

「そうか……大丈夫だ。ヒナタは良くなるよ絶対。それまでにはハナビも元気な顔を出来るようにしておこうな」

 

 仮面の奥で笑顔を作る悟。ハナビは白眼を使っていないが、悟はハナビの前では笑顔を絶やさないようにしている。

 

「一応見舞いの品、ここに置いておくな……ってこれ……」

 

 悟は持ち込んだ紙袋からぜんざいを取り出すが、既にお見舞いの品の数々の中にお汁粉が置かれていた。

 

(……? 誰かは知らんがダブったな)

 

 そう思いながらもぜんざいを置いた悟はそのまま静かに病室を出ようとする。しかし

 

「おっと……すまない。おお……悟か久しぶりだな」

 

 出入り口で男性と接触。相手は日向ヒアシであった。

 

「ヒアシさん……ご無沙汰しております。その……」

 

「ふむ、お前が心配していることを当てようか……」

 

 唐突なヒアシの提案に悟は生返事をすることしかできない。

 

「私はどちらを支持するか……であろう? 娘の婚約者であるお前か、日向の名を持つネジか」

 

(……別にそういうことじゃなくて、娘さんが大怪我しているから貴方がまいってないか心配しただけなんだけど……)

 

 この人、弟のヒザシさんに比べて天然の気があるよな、あと人の話を聞かない。っと悟は心の中で思う。

 

「私は中忍試験では悟の応援をするつもりだ」

 

「はあ、それには何か理由でも……?」

 

「立場上……という建前があるが正直に言えば……娘をこんなにした輩の応援など出来るはずもないっ!」

 

「それもそうですね」(そりゃそうか。つーかアンタも大概ヒナタに強く当たってることは自覚してください)

 

 仮面の奥での作り笑顔は余りにも不自然だがヒアシに気づかれることはない。

 

「父さま、あまり大きな声を出さないでください……病室です」

 

「うむ、そうだな……すまないハナビ。だがな悟よ、ネジについては我々も手をこまねいておる。あやつほど日向の才能に祝福された者もいないであろう。……ヒザシと比べてもな」

 

「まあ、確かにそうれもそうですね。なまじ力があるせいで、力が全てと思うのも無理はないと思います。……ヒザシさんを見ていれば尚更……」

 

 悟の一言に、ヒアシは唸る。宗家と分家の格差というものはかつて必要とされていたことであり、決して意味のないルールであるわけではない。しかし昔の通例ということだけで盲信してきたことも事実である。それを痛感しているヒアシは『力』というもののままならなさを感じる。

 

「名声、富、血継限界……それらを持つというのも……苦労するな。悟よどうか、ネジのことよろしく頼む」

 

「ええまあ……幼馴染からも頼まれていますし、俺自身。今のネジを放っておくきはさらっさらないですよ」

 

 悟の言葉は力強く響く。それに安心したのかヒアシはふうっとため息をついて肩の力を抜く。そして

 

「ハナビ、お前もあまり根を詰めて病室に通うのは良くない。悟よ、ハナビを外に連れ出してはくれんか?」

 

「グッ……でも姉様が寝込んでいるのに……」

 

「承知しました、お義父さん(・・・・・)。ほらハナビ、気分転換に外で組手でもしようか」

 

「……っわかりました。父さま、姉さまをどうか見ていてください」

 

「ああ、わかっている」

 

 そうして悟はハナビの手を取り病室から出ていく。

 

「……もしもあの時、私の目を差し出していたなら……」

 

 運命は今と違っていたのか……ヒアシは過去の後悔を拭えぬまま、娘のベッドの隣に座り込んだ。

 

~~~~~~

 

 外に出た悟たちは、公開演習場へと向かう。その途中。

 

「おっ……悟じゃねえか……その子は、ヒナタの妹か?」

 

 ハナビは軽く頭を下げる。

 

「ああ、キバか。お前、予選での怪我の方は良いのか?」

 

「まあ、俺は怪我ッつーか。無理やり気絶させられたからそこまで外傷はねーし。ああ、赤丸……やっぱ悟は嫌かぁ」

 

 軽く挨拶をするキバと悟。その瞬間でも赤丸は悟に怯え、キバの服の中に潜る。

 

「可愛い! ワンちゃん触ってもいいですか!」

 

 目を輝かせるハナビにキバは屈んで目線を合わせる。

 

「おう、いいぞ! 赤丸も悟以外の奴なら歓迎だからな!」

 

「…………疎外感」

 

 微笑ましい光景の中、地味に傷つく悟。

 

「そう言えば悟はあれか、ヒナタの見舞いの帰りか?」

 

「ああ、そうだ。で帰りに軽く体を動かそうかなってハナビと公開演習場にでも……」

 

「お前、仮にも本選に出る奴が公開演習場に行く気かよ……ちゃんと手続きして演習場借りてこい」

 

「まあ、ごもっともで……」

 

 赤丸のため、キバと少し離れて会話する悟に声をかける人物が1人。

 

「おや、悟君。施設の外で会うとは珍しいですね」

 

(……って滅茶苦茶美人の姉ちゃんじゃねえか!! 悟の奴ヒナタの婚約者の癖にどういう関係だぁ、ああ?!)

 

(すっごい美人な人……悟さんこういう人が好みなのかな……)

 

 その白い肌の女性が親しそうに悟に声をかけることで、嫉妬が2つ生まれる。

 

「ああ、白雪。今同期のお見舞いに行ってきたところで、帰りにちょっと体を動かそうかなって。白雪は?」

 

「僕ですか? 僕は施設のガタが来ている所を修理してもらうために、依頼を出しに行ってました。まあ、只のお使いですよ」

 

 クスクスと談笑して笑う白はそれだけで絵になる。周囲の男性の注目を集める白に悟は少し咳ばらいをする。

 

「そういえば、お互いに知らないどうしだよな。えーとこの二人は俺の知り合いの犬塚キバと日向ハナビ。っでこいつは白雪、俺の施設の……同業者? かな」

 

「ふふ、どうぞよろしくお願いしますね」

 

「オッス……えーと!! よろしくっす!!!」

 

「はい、よろしくお願いします。白雪さん」

 

 珍しい組み合わせが出来たところで、悟は思い着く。

 

「せっかくなら白雪も演習場に来るか? ちゃんと演習場も借りて体動かしたいからな」

 

「良いんですか? 確かに僕も暇している所ですし、同じく少し体を動かしたい気分ですからね……」

 

「悟っ! 俺もついてって良いよな! つーか駄目ッていわれてもついてくぞ!」

 

「……キバさんテンション高い。男の人って美人に弱いのって変わらないんだ……」

 

 こうして悟たちは演習場へと向かった。

 

~~~~~~

 

 里の中心から少し離れた演習場。

 

「通牙っ!」

 

「やっぱり威力はあるよな、通牙。 ちょっと真似してみるかな……」

 

 螺旋回転をする体当たり「通牙」を素手で弾きながら考え事をする悟に

 

「てめぇ!! もうちょい本気出せや!!」

 

 何度も通牙を繰り出すキバ。

 

 そんな二人とは少し離れた位置で組手をするハナビと白。

 

「白雪さんって忍者……じゃないんですか? 動きに無駄が全くないですよ?」

 

「いやあ、僕のこれは護身術を教えてくれる大人がいるので……。忍術とかはからっきしです……ふふふ」

 

 息を切らさず軽く組手の相手をする白にハナビは驚く。自身の動きに対してまるで子供をあやすかのように受け流す白にハナビは世界の広さを痛感した。

 

「あの~白雪さんって悟さんと同じ家に住んでいるんですよね……?」

 

「ええまあ、そうですよ?」

 

「……実は悟さんのことが好きだったりとかは……」

 

 内緒話のように声を静めるハナビに付き添い白も声を潜める。その内容は随分と可愛らしいもので、白はつい笑みをこぼす。

 

「それはどうでしょうか? ふふっ確かに悟君は頼りになりますし、僕の目から見ても魅力的に映りますからね」

 

 意地悪をするかのような白の発言に、本気で心配するハナビ。

 

(こんな美人の人相手……勝ち目なんて……っ!)

 

「でも、僕には別に好きな人がいるので」

 

 からかいすぎて涙目になりかけているハナビを不憫に思い、白はさらっと真実を告白する。

 

 

 

 

(……何話してんだろう……流石に女子の会話を盗み聞きはしないけど気になるなぁ……)

 

「おい、よそ見すんなっ! 喰らえ通牙ああああ!! あああ、クッソぉ何で片手で受け流せんだよっ!!」

 

 

 

 

「悟君を好きになるのにはそれなりに覚悟が必要そうですが……ハナビちゃんなら何となく大丈夫そうですね」

 

「そ、そうですか? 悟さんは姉さまと婚約……はっ!?」

 

 咄嗟に口を塞ぐハナビ。

 

「……っ今のは聞かなかったことにしますが、悟君は貴方のことを多分大切に思っていますよ」

 

 ハナビのカミングアウトに一瞬余裕を崩されそうになる白だが、気を持ち直しハナビを励ます。

 

「そうですか……?」

 

「まあ、悟君はどちらかと言えば恋愛に関しての意識は今は皆無だと思うので長い目で見る必要があると思います……。頑張ってくださいハナビちゃん」

 

「……っはい、頑張ります!!」

 

 女性の秘密の会話は和やかに終わる。

 

 

 

「なあ、四脚の術のやり方とかないのか?」

 

「秘術の内容バラすわけねーだろっ! お前ナルト並みに馬鹿か!!」

 

 男性の会話のバカ騒ぎは続いた。

 

 

 

 

 



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53:仙人は訝しむ

<三人称>

 

 ある日、1人新術開発中の悟はふと思い着く。

 

(確か本来なら今頃ナルトは三忍が1人「自来也」に口寄せの修行をつけてもらっているはずじゃ……)

 

 同じく三忍と呼ばれた大蛇丸に一度完敗を喫した悟は、何か強くなるヒントは得られないかとナルトと恐らく一緒にいるはずの自来也を捜索することにした。

 

 そして数時間後。

 

「だーもう~、お前ホント才能ないのう……」

 

「うっせーてばよ! エロ仙人の教え方が悪いんじゃねーのかぁ?!」

 

 小川の近くで修行する彼らを見つけた悟は、少し離れた位置から観察することに。しかし

 

(……おいナルト、仮面野郎が近くにいるぞ)

 

(え、マジで!? つーか居るなら口寄せにチャクラ貸せよ九尾!!)

 

「どうした? 手が止まっておるぞ……ん、この気配は……?」

 

 早々に感付かれる。悟本人はそこそこのレベルの隠遁術で隠れているが、尾獣と仙人相手にはまだ実力は足りない。

 

「おーいもしかして悟いんのかー? ちょっと術のコツ教えてくれよー」

 

「おん? この気配お主の知り合いかぁ? ならさっさと出てこんか悟とやらぁ!」

 

(自来也ならともかくナルトにもばれてるのか……やっぱ俺の隠遁術精度悪いのか?)

 

 呼ばれてしまった以上話をややこしくしないためにも素直に姿を表す悟。自身の能力を疑うが今回は素直に相手が悪かった。

 

「はい、どーも黙雷悟です。様子を伺っていてすみません。あの自来也さんの指導が気になって観察させていただいていました」

 

「何じゃお主ワシのこと知っておるとは……さてはファンかぁ!!」

 

「俺が18禁小説のファンな訳あると思いますか……?」

 

「まあそれもそうだな、ガッハッハッハ!!」

 

「エロ仙人のファンとかそんなのどうでもいいんだってばよ! さとるぅー口寄せの術っつー術のコツ教えてくれってばよ~おまえなら何か知ってんだろー?」

 

「えっいやー……俺時空間忍術全般使えないから何も教えれることはないぞ……?」

 

「ちぇーマジかよ~どうすればカエル呼べんだよ~~……」

 

 ナルトの淡い期待は悟の申告で砕け散る。その悟の言葉に

 

「……ほお悟とやら、時空間忍術が使えんとはどういう訳だ?」

 

 自来也が興味を示す。

 

「言葉の通り、才能がないのかうんともすんとも……封入の術、開封の術すら使えないんですよね……何故か」

 

「それは深刻だの~。どれ試しに開封の術をやってみせろ。当然、印はわかるのォ?」

 

 自来也は悟に封入の術を仕込んだ巻物を投げ渡す。そもそも開封の術は印を結ぶ過程を省けるほど簡素な術である。わざわざそれの印を結んでまで行おうとする悟は忍びの世界でも稀な存在でもあるが……。

 

「……やっぱり出来ない……」

 

「ガッハッハッハ、まさか本当に出来んとはのォ!! しかし本当に全くうんともすんともいかんとは……はて、少し心当たりがあるような……」

 

 悟の症状に何か思い当たるふしがあるのか、自来也はブツブツと独り言を言い始める。その脇で口寄せをしようと術を繰り返すナルトの様子が気になり悟は覗き込む。

 

「ナルトぉ、今どんな感じ?」

 

「オタマジャクシしか呼べてねーんだってばよ……。九尾の赤いチャクラを使えってエロ仙人は言うけど、九尾は全然協力してくんねーし」

 

「……そう言えばお前、予選では割と九尾のチャクラ使いこなしてるように見えたけど?」

 

「あれは何か九尾は悟のこと嫌いだから力貸してくれてただけ見てーで……」

 

「なんだそれ……いや、前に気に食わんとか言われたよーな? 赤丸といい、俺って動物に嫌われるたちなのかな……」

 

 悟がしょんぼりしたその時、悟は意識が何かに吸い込まれるような錯覚を覚えた。その後悟の目の前には水路が広がりその先の檻では……

 

「ワシを犬畜生と一緒にする気かぁ小僧ぉ!!」

 

 九尾が不機嫌にしていた。突然呼び出されるかの様に九尾の目の前に立つ悟は驚きで目をぱちぱちさせる。

 

「あ~~~、ひ……久しぶり九尾……?」

 

「貴様呑気かぁ?!」

 

「何で急にナルトの精神世界なんかに……もしかして九尾が呼んだりとか?」

 

「ふん、貴様は本当にワシら(・・・)尾獣と相性が良いようだ……呼べばチャクラが直ぐに反応をしめす……が……ワシはとにかく貴様が気に食わん! ワシのチャクラで気を狂わそうとしても、どうやら既に影響を与えられぬようになっておるようだし……。 なおさら気に食わんっ!!」

 

 吠える九尾の圧を受ける悟は毅然とした態度で立っている。

 

「……確かに前に比べてプレッシャーがあまり感じられないようだし……」

 

 少しだけ悟の周りに朱いチャクラが漏れ出るがすぐに悟に吸収されてしまう。そんな悟は?を浮かべるだけであり、その様に九尾は更に機嫌を悪くする。 

 

「そんなに邪険にしないでくれよ、九尾。俺が何かしたわけでもないし……ほら、何だったら今からでも友達に」

 

「っなるかボケぇええい!! 気色悪い!! 貴様のチャクラがワシに嫌な記憶と感情を想起させるのだ!! 死ね!! さっさと存在事消え失せろぉ!!」

 

(滅茶苦茶嫌うじゃん……ちょっと傷つく……)

 

 急に呼び出されて罵詈雑言を浴びせられた悟は若干涙目になる。

 

「……うっせ、うっせ!! だったらいちいち呼ぶなバーカ!! ていうかナルトに手貸してたってマジでどんだけ俺のこと嫌ってんだよ!!」

 

 流石に一方的に言われていた悟も言い返し始める。

 

「だぁれがバカだぁ!! ナルトの野郎、ワシが力貸したのにも関わらずこんな奴に負けおってぇ……」

 

「ハンっ! かの九尾の力もその程度ってことじゃないか? 俺みたいな小僧に遅れを取るんだもんなwwww」

 

「~~っ!! 貴様ぁワシを愚弄するのか?! 許せん許せん!! ……そもそも小僧、貴様の扱う八門遁甲という術も気に食わん!! なぜ九ではない?! なぜタコ野郎の数字までしかない?!」

 

「そんなこと俺が知るか! 人間の体の構造上そうなってるだけだわ!!」

 

 お互いに言い合う内容がくだらないモノに移行し始めた辺りで、悟は気がつく。

 

「つーかここナルトの精神世界だろ。本人はどこだ! 躾がなってねーぞ!!」

 

「畜生扱いすんじゃねぇ!! あいつはまだ自力で精神世界にはこれん……ふん口では埒が明かないっ! こうなったら……ナルトぉ!!」

 

 九尾がナルトの名を呼ぶすると……

 

「あんだよ、九尾……俺ってば今修行中……って悟!?」

 

 スーッと姿を現すナルト。

 

「ああ……おっすナルト……」

 

「えっ……悟何でここにいんの……?」

 

 あまり展開のドタバタ具合に悟も少し呆れ気味になる。

 

「ナルトぉ! ワシがもう一度力を貸してやる! だから今ここでそいつを叩きのめせ!!」

 

「なりふり構わねーのな、九尾……」

 

 九尾の言葉に本格的に呆れる悟。そしてナルトはムスっとした表情をして

 

「嫌だ」

 

 と即答する。

 

「ナニ!? 貴様、ワシの言うことが聞けんのか?!」

 

「今は俺ってば強くなるために修行中なのしゅぎょーちゅう!! つーかお前なにかと悟悟うっせーんだってばよ!! 口寄せの術の修行ではチャクラ貸してくんねーのに都合のいい時ばっかホイホイ話しかけてくんな!! バーカっ!!」

 

「グッ!!?? 貴様もワシをバカ呼ばわりか!!」

 

 ナルトにバカ呼ばわりをされてこめかみをピクピクさせる九尾。

 

「俺ってばお前のつごーの良い道具じゃねーんだってばよォ!!」

 

 機嫌を悪くしたナルトの放った言葉は意外にも九尾の心に刺さり唸らせる。道具として扱われることに嫌気がさしている九尾はナルトの指摘に少し冷静さを取り戻す。

 

「……なら交換条件だナルトぉ。ワシのチャクラを少し分けてやる。その分は口寄せだのなんだの好きに使え。その見返りにお前は悟に挑め、そして無様な姿をさらさせろ! これでどうだ……?」

 

「……別に俺は悟のこと嫌いじゃねーしな」

 

 2人のやり取りを、見た悟は(九尾って、案外人間臭いんだな)と思う。

 

「いやナルト。お前、悟に嫉妬しておるだろう最近。あの小娘n「だーーーー余計なこと言うんじゃねー九尾!! その交換条件飲んでやるから黙ってろ!」

 

 九尾の指摘にナルトは叫び、交換条件を受け入れる。

 

「……つーわけで悟。ちょっち勝負だってばよ!!」

 

 そういうナルトは九尾からチャクラを受け取り、目を朱く変化させた。

 

(負の精神エネルギーを取り除いたチャクラをナルトに貸し与えているのか? ナルトがすんなり扱えてるのそれが理由か……)

 

 ナルトの様子を観察する悟は、辺りに漂う九尾のチャクラを見極める。

 

「仕方ない……じゃあ、俺は戻るからそしたら戦ってやるよ……」

 

 呆れた態度の悟はそういってナルトの精神世界から戻り現実へと意識を移す。地味にその作業をすんなり行えた自分に少し驚く。

 

 現実世界ではそこまで時間がたっておらず自来也は未だにブツブツと悟の症状の心当たりを探っていた。その自来也がふと気がつく。

 

(……ん? この感覚まさか九尾の……!?)

 

 ナルトから漏れ出る九尾のチャクラ。それを自来也が感知した瞬間。

 

 

 

 悟が八門を解放させ、ナルトの顔面を殴りぬけていた。

 

 

「ぐっぴぃ!!!!」

 

 

 奇声を上げそのまま吹き飛び、小川に突っ込んだナルトは気絶してプカッと水面に浮き出る。

 

「はい、俺の勝ち」

 

 パンパンっと手を払い勝利宣言した悟に自来也は呆然とする。

 

「……急に何しとんじゃお主……」

 

「いやあ……ケンカを売られたんで……つい……」

 

 取りあえず悟は気絶したナルトを回収する。自来也は事の意味が分からないが、取りあえず悟に危険性を感じていないのでスルーすることにした。

 

「で自来也様、心当たりがあると言ってましたけどどうなんですか?」

 

「うーむ、随分と昔のことだったからのー? 確か楼蘭とかいうとある龍脈のある土地で似た症状があったらしい……ような……」

 

「楼蘭……? 聞いたことない地名ですね」

 

「何でも時折、不思議な事を言う人物がいたらしいのう……。魂がどーだとか、次元が云々だとか」

 

「う~ん、さっぱりですね……ん?」

 

 そういえばと悟は思い出す。かつてうちはオビトと遭遇したときに彼が言っていた言葉『この世からズレている』を。

 

(……もしかして俺の魂が異世界から来たことが……原因?)

 

「心当たりでもあるのかのー?」

 

「いえ、やはりわかりませんね……」

 

 適当にはぐらかした悟は肩をすくめる。悟の反応に目を細める自来也だが、別のことが気になり追及はしないことにした。

 

「ついでに聞くが悟。お前、自然エネルギー……という言葉に聞き覚えはあるかのう?」

 

「……いえ、ありませんが?」

 

「ワシの見立てではお主随分と自然エネルギーを扱う素質があるようだが……本当に知らんのか?」

 

(少なくとも、仙術チャクラは練れておらんようだが……自然エネルギーを取り込む素質は探ろうとしなくともわかるぐらい化け物級だ……誰の手ほどきも受けておらんとは信じられんぐらいにのう)

 

「いえ、さっぱり。何か知っているのであれば是非自来也様にご教授お願いしたいものですが……」

 

「まあ、さわり程度の知識なら教えてやらんでもないのう」

 

 ナルトとは違い素直かつ態度も悪くない悟に若干気を良くした自来也は自然エネルギーについて説明をする。

 

 通常のチャクラを練る際に使われる身体エネルギー、精神エネルギーこの2つとは違い体外から取り入れられるエネルギーを自然エネルギーと言う。先の2つのエネルギーと自然エネルギーを上手く練り合わせることで仙術チャクラという極めて強力なチャクラが練られる。

 

 その簡単な説明は黙雷悟も知る知識の内ではあるが、自分にその素質があることは自来也に指摘されるまで微塵も感じていなかった。

 

(……なるほど……思い返せば心当たりありまくりだ……)

 

 自来也曰く、仙術チャクラを練れていないのでそこまで効果的には働いていないがそれでも自来也が自然に気づけるぐらいの量を常に体に取り入れているらしい。

 

「その仙術チャクラ……練るにはどのような修行をすればいいんですか?」

 

「お主ほどの素質は稀で手ほどきするのも面白そうで悪くはないと思うんだが……如何せん修行するための場所がのう……ちと面倒な場所にあるのでな」

 

 そういう自来也は巻物を取り出し広げる。

 

「口寄せ契約の巻物だ。自分の血で名前を書け。その下に片手の指全ての指紋を血で押せ」

 

「……俺は口寄せの術は使えないと思いますけど……」

 

「違う! お主は口寄せをせんでいい。契約せんとガマたちからの口寄せも出来んのだ」

 

 自来也の説明に納得した悟は嬉々として契約をすませるが、ふと気がつく。オビトの神威が効かなかった理由が彼のいう世のズレであり、それが時空間忍術が使えない理由でもあるのならば……

 

「さて……口寄せ!」

 

 自来也は術を発動させ老蛙を呼び出す。

 

「おお? 自来也ちゃん久しぶりけんのー!! 何かようあるんか?」

 

「はい、実はこの仮面の少年が……」

 

 自来也は少し丁寧な喋りで老蛙に事情を説明。

 

「確かに……普通じゃない自然エネルギーの集まりかたをしとる……よし自来也ちゃんの頼みじゃ、逆口寄せ、やってみるかのう」

 

 そう言って老蛙が煙を巻いて消えてから、しばしの沈黙が流れる。

 

「……? おかしい、直ぐにでも逆口寄せがされるはずだがぁ……」

 

 何となく予想していたことが起こり、悟は落ち込む。

 

「……あの~もしかして俺って時空間忍術が使えないだけじゃなくて、受けつけすらしないんだと思います……」

 

「まさか、そんなことが……ありえるのかのう……」

 

 そういう自来也は再度老蛙を口寄せする。呼び出した老蛙とごにょごにょと小声で相談をした自来也は、ふむと頷いて老蛙を返し一言悟に告げる。

 

「先の話はなしだ。諦めろ」

 

「え……」

 

 その言葉に硬直した悟を尻目に、自来也は気絶したナルトを抱える。

 

「まあ、お前はお前で頑張れのう。仙人の場でなければ会得は不可能だと思うが、なに……機会があれば少し手ほどきしてやらんでもない。だが今はこの馬鹿を教えることが優先なのでな。ではっ!!」

 

 そのまま姿を消した自来也のいた場所に視線を落とした悟は呟く。

 

「……ままならねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<黙>

 

 ……この身体には仙法の素質もあったのか……いや、アイツ(・・・)が言っていたことが本当ならばむしろあって当たり前なのか。

 

 結局、今まで僕が引き出せていたのは半分の力だけだったという……。そう思うとやっぱり「雷」を呼んで正解だったとも言える。

 

 彼が扱う八門のおかげでこの身体にかけられた封印術が脆くなるのも予想より随分と早い。……本来なら後20年はかかるはずなんだけど、無茶苦茶だね……。

 

 それに……あの瞳術(・・・・)と思われる現象も……彼は何かに導かれるようにマリエさんの部屋の秘密を解いていたが一体何が見えていたのか僕にはわからなかった。

 

 まあ、原因として思い当たるのは

 

 

 

 

 ()の魂が異世界のモノであり半分穢土、半分浄土に存在していることぐらいか。時空間忍術に対する耐性もそこに原因があると見える。

 

 

 

 

 さて……僕の活動時間も残り少ない。僕の魂の摩耗具合から表に出られるのも長い目を見て数回が限度か……。

 

 

 

 今世で出来ればやりたいことは3つ。その内1つはもう少しで事が起きる。

 

 

 ……頼んだよ、雷。

 



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54:才が投げる賽

<日向ネジ>

 

 黙雷悟、奴が俺の目の前に現れたのは何時の頃からか。直接相対することは少なくとも奴はいつも目障りな存在であった。

 

 何時の頃か日向の屋敷に出入りし、何時の頃か父上から柔拳の手ほどきを得……何時の頃か家の者に認められていた。

 

 最初は、皆警戒していたはずだ。齢3歳児がまさか宗家の人間の誘拐を阻止するなどあり得るはずもない。だが奴は……。

 

 もし本当に奴が現場に居合わせたとして何ができた? ただヒアシ様の邪魔になっていただけではないのか? 父上が目を失う原因は……奴にあったのではないのか、そんな考えが頭にこびりついて離れない。

 

 確かめようもないが、父上は目を失うばかりか本格的にヒアシ様の影武者扱いを受け分家としての屈辱を受け続けている事実がある。

 

 公には日向ヒアシは目を失ったことになっているからだ。日向のお家として業務では父上が駆り出され、ヒアシ様は変装し御つきの者として安全を確保している。

 

 ……実際、記録にはないが幾度も命を狙われることがあったらしい。白眼のない父上はその度に怪我を負う。それを知らぬ悟がマヌケにも柔拳を教わりに来る様は俺の腹を煮えくり返らせる。日向ナツに「ヒザシ様は用事があるから」と追い返される奴を見るたび、何度殺してやりたいと思ったことか。

 

 日が経ち奴は、ハナビ様をも助けた。迷い込んだ森で賊に襲われたハナビ様を、右手に重度の火傷を負ってまで助けた奴はどんどん日向の者を認めさせていく。……かつては人一倍奴を警戒していた日向ナツまでもが何時しか、ヒナタ様やハナビ様を安心して預けるようにもなっていた。

 

 ……結局は力なのであろう。他者を納得させるだけの力さえあれば、全てを掌握できる。奴は力を証明し続けていた、だから認められた。

 

 ヒアシ様は、いや日向そのものが分家の父上の才能を恐れた。古き体制を変えうる存在、出る釘が打たれたのだ。そして父上は屈服した、日向の血という力に。

 

 

 

 俺はそんなクソったれな運命には従わない、力なき弱者どものために強き者が犠牲になる必要なんてどこにある?

 

 

 

 なのに……

 

 

 『……これ以上やるなら俺が相手だ……っ』

 

 

 奴は常に、弱者を守るために闘う。己も傷つき、苦しんでいるはずなのに。何がそこまで奴を駆り立てる? 

 

 本選で奴はその理由を教えると言っていた……フンッ面白い。

 

 

 待っていろ、黙雷悟……っ。力こそ全てだ、勝者こそ正義だ!! 全てを屈服させ、究極の個として俺が火影になり、声を上げるだけの無能どもを根絶やしにしてみせる。

 

 他者との無駄な繋がりが枷であることを俺が貴様に見せつけてやろうっ!!

 

 

~~~~~~

<黙雷悟>

 

 ネジと接触する機会は殆んどなかった。過去に対面したのも、ヒナタとネジの組手に割って入ったあの時ぐらいか。それ以降俺を刺すような視線が続いた。

 

 ネジからしたら俺はどのように見えていたのだろう。俺が誘拐事件に関与しなければ、結果が良くなっていた可能性というのはきっと事情を知らない第三者からすれば当然思いつくことだ。

 

 俺だけが知っていた未来の出来事であるヒザシさんの死。それを回避したがゆえに、ネジは日向の闇を父を通して見続けてしまったのかもしれない。

 

 ネジは「力が全て」だと言っていた。……力とは? ヒアシさんが言っていた、富や名声……そして血継限界……。力というものは数多くある。

 

 ネジの言う力とは恐らく他者を屈服させるモノのこと全てを示しているはずだ。……日向の分家に刻まれる額の呪印のような。

 

 ……力さえあれば……とは、俺も何度も考えたことだ。でもある時気づいた。自分には限界があると、どんなに忍術を体術を幻術を得ようが手の届かない命があると。

 

 だからこそ、三代目やカカシさんが俺の存在を広めようとしていることにも納得がいった。俺の力は普通ではない、誰かに狙われる可能性がある。だからこそ、俺にとっての繋がりを増やすように彼らは仕向けた。

 

 今、ネジの繋がりは細く少ないのだろう。それでも彼を心配する人間はいる。テンテンや彼の父親のように。

 

 ……繋がりなんてものはそう簡単に切れるものではない。切ったつもりでも見えないどこかで繋がっているもんだ。それをネジに自覚させることは俺の役目……いややりたいことだ。

 

 ……お互いになまじ力があり、天才と呼ばれるもの同士だ。俺の方が、実年齢が重なっている分余計なおせっかいを焼いてやろう。

 

 

 

 

 

「何とか新術……というか新モードも形になったな……」

 

「まさか、私の投擲全てを見切るなんて……それこそ白眼みたいねそれ(・・)

 

 演習場での修行。退院明けで俺の修行に付き合ってくれるテンテンには感謝している。

 

「でも無茶苦茶集中しないと、維持ができないし……使いどころを考えないとな」

 

「……どう、ネジには勝てそう? ネジの班員の私が悟にこんな事聞くのも変な感じだけど」

 

 少し不安そうにするテンテン。ただ勝つだけなら、恐らく問題はない。むしろ

 

「へん、どうやってあの天才の心をバッキバッキにしてやるか今から楽しみなぐらいだよ」

 

 示さなければならない。彼が見えていないものを。

 

「そういえば当日は施設の人も見に来るんでしょ? 張り切らないとね!」

 

「わざわざ、施設を空けてみんなで来ることないのになぁ。恥ずかしい……」

 

「それだけ、アンタの晴れ姿を見たいってことでしょ? マリエさんも悟のこと大事に思っているのは私でもわかるし、いいとこ見せて安心させてあげなさいよ!」

 

「……うっす、がんばります……」

 

 テンテンに背中をバチンと叩かれ気合を入れられる。さてと今日はもう帰ろう。

 

 

~~~~~~

 

 

 夕方、施設に帰りマリエさんの部屋の扉をノックする。

 

「たくっ……何時まで俺と顔を合わせない気ですか……明後日には本選の会場に来るんでしょう? ほら、ドアを開けて~♪」

 

 俺の呼びかけに答えるように、ドアが少し開く。隙間からマリエさんが顔を覗かせる。

 

「……悟ちゃん、私たち(・・・)のこと気にしていないの?」

 

「は? 気にしていますよ、心配もしていますし、どうにかしたいとも思ってます。でもそれは今じゃない。マリエさんがもっと俺に心を開いてくれるように頑張ってからです」

 

「……はあ~何時から私たちの立場は逆転したのかしら~。昔は悟ちゃんの心を開かせようと必死だったのに気づけば……」

 

「何だったら下のマリエさんにも会わせてくださいよ、色々話したいこととか……」

 

「それは絶対ダメ!! ただでさえこの間貴方が下に行ったせいで、彼女若干覚醒状態になっているのに……あまり刺激しないで頂戴」

 

 私たちの事情は本当に深刻なんだから。そういうマリエさんは酷く辛そうだ。

 

「……わかりました。でも俺は諦めませんよ? いつか必ず2人をホントの意味で笑顔にして見せますからね」

 

「わかったわよ、もう……。悟ちゃん、応援しているわ。あまり私を心配させないでね……」

 

「………………なるべく善処します」

 

「そこははっきりと、はいって答えてくれたら私うれしかったのに~……ふふふっ」

 

 お互いにこうやって話し合うだけでどれだけ心が救われるか。同じ思いをマリエさんにも感じていて欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりあの2人が笑顔でないとこの施設はしまりが悪いよな」

 

「ええ、そうですね、新参者の僕たちもそう思いますよウルシさん。ね? 桃さん」

 

「……まあ、あいつらが辛気臭えとガキどもにもめんどくせぇ影響があるからな……」

 

 

 

 明日はゆっくり体を休めよう。明後日はネジとの本選。

 

<黙>

 

 そして木ノ葉崩しが待っている。

 

 

 

 

 



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55:白き眼が見ゆるもの

<三人称>

 

 中忍試験本選の朝。黙雷悟は日課のように早朝に目を覚ますが、里の雰囲気は随分と日常とは違っている。外は時間の割に騒がしく、人の往来を感じさせる。中忍試験は一種の祭りの側面もある。各国の大名も観戦のために訪れ、里の警備はそれなりに万全となる。それなりに。

 

「さてと、軽く体を動かしてから会場に向かうとしますか……」

 

 悟は何時ものように装束を身に纏い、施設の玄関を飛び出る。

 

「……いってらっしゃい、悟ちゃん。さてと、みんなで出かける分、お弁当たくさん用意しないと!」

 

「マリエさん、僕も手伝いますよ」

 

「……はあ、ピクニック気分かよ……」

 

「まあ、たまにはこういうのも良いと思うぜ。桃さんよ! 俺たち男組もやることやろうぜ」

 

 見守る者たちもまた、各自の準備を始めていた。

 

~~~~~~

 

 第三演習場で、軽く体を動かす悟に近づくものがいた。

 

「……ふうっと……そろそろ会場に向かうか……ん? ナルトか、お前が早起きとは珍しいな」

 

「おう、おはよう悟……。いやあ、緊張して眠れなくって……」

 

「何でお前まで緊張してんだよ……」

 

「お前までって……悟でも緊張するんだな、意外だぜ!」

 

「でもってなんだでもって!! ……んで緊張の原因は? わざわざ俺のとこまで来て……どうせ九尾に感知してもらってここに来たんだろ?」

 

「……この間のこと九尾は根にもってんからなぁ……。あとぉ俺も流石にムカついたってばよ!! 急に殴りやがって!! ってそうじゃなくて……。 我愛羅って奴は相当ヤバいってこと教えておこうと思ってな」

 

「ふーん、ナルトが俺に忠告ねぇ……」

 

(そういえば原作ではナルトは病院で我愛羅と接触したんだっけか? そん時に我愛羅の境遇や力に触れて少し不安に思ってるのか……)

 

「だから悟、気をt」

 

「それは俺じゃなくて、初戦で戦うサスケに言いに行けよ」

 

「……サスケの奴、探しても何処にもいねぇから……」

 

「まあ、我愛羅を何とかするのはどちらかと言えば……」

 

 そこまで言いかけた悟は口を閉じる。じっと目を見てくる悟にナルトは不安を感じる。

 

「……んだよ。じっと見てきてきめぇぞ悟」

 

「……フッ何でもない。まあ、やるだけやるさ何事も」

 

 軽口を言い合う悟とナルトの元にさらに来訪者が現われる。

 

「あっナルト君、悟君おはよう」

 

「悟さん! おはようございます!!」

 

 訪れたのはヒナタとハナビであった。

 

「ああ、おはよう。ヒナタ、ハナビ」

 

「おう! おはようだってばよ、ヒナタ!」

 

 軽く挨拶を済ませる一同。その内ハナビは少しもじもじとした様子でおり、ナルトがそれに気づく。

 

「……ん? ハナビってばどうしたんだ、ヒナタの陰に隠れて……様子が変だってばよ」

 

「……ちょっと待って今気持ちを落ち着かせているから……ふうっナルトさんは姉さまとあっちで少し話していてください!」

 

 ビシっと指をさすハナビの勢いに押されナルトとヒナタは少し離れた位置に行く。その様子を苦笑いで見送る悟に、ハナビは話しかける。

 

「……っ悟さん!!!!」

 

「お、おうどうした、そんなに大きな声出さなくても聞こえてるぞ……」

 

「はい、いや、えっとその……」

 

 文字通り草葉の陰に移動したナルトとヒナタは2人を見守る。

 

「ハナビの奴どうしたんだってばよ……なあ、ヒナタ?」

 

「……えっとその……大切なこと、かな……見守ってあげよう、ナルト君」

 

「……? おう」

 

 そういうヒナタの横顔を見るナルトはよく分からない感情により、目をヒナタから慌てて逸らす。

 

(……たくっ人間てのはめんどくせー生き物だなぁ。言いたいことがあるならサッサと言えばいいものをどいつもこいつも……)

 

(……よくわからねーけど、多分お前は自分勝手すぎんだよ九尾)  

 

 こなれた感じで会話する九尾とナルト。お互いに悟と言う対象を挟んで接触する機会が多いために奇妙な慣れが生じているようだ。

 

 そんなナルト達に見守られ、ハナビは決意を固めて話を切り出す。

 

「き、今日の本選が、が、が頑張ってくださいぃ!! 応援しています!! そのそれで……そのこれを……」

 

 余りにもハナビの緊張した様子に悟が苦笑いを浮かべていると、ハナビは後ろに回していた手を差し出す。そこには小袋があり

 

「これは……中身は丸薬かな?」

 

「……えっと滋養強壮に効くものを、ちゃんとレシピを見て……ナツさんに手伝ってもらってつく、作りました……。よかったらその……」

 

 ハナビのあまりに緊張している様子に、気の毒に感じた悟は丸薬の入った小袋を受け取り中身を取り出し仮面をずらしてそれを口にする。

 

「えっあちょっと……!」

 

「ふむふむ。これ……味付きか珍しいな……? ん、何かちょっと変わった味なんだけど……?」

 

 そう言って丸薬を味わう悟。不思議そうな顔をしている彼の表情を見透かしてハナビは言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの……私は特別味はつけていないので、市販の丸薬と風味とかはそんなに変わらないはずですが……」

 

 昨日完成させて自分で味見をしているので、とハナビは言葉を付け足す。

 

「………………なるほど」

 

 そう呟いた悟は丸薬の咀嚼を続ける。覚えのない味の指摘に少し考えこんだハナビはふとある可能性に気づき……

 

「っ!!! 悟さん、今すぐその丸薬を吐き出してくださいっ!!」

 

 そう言って悟に詰め寄る。

 

「えっやだ」

 

 ハナビの言葉を即拒否する悟。その2人のやり取りに違和感を覚えたヒナタとナルトは彼らに歩み寄る。

 

「どうしたのハナビ? そんなに慌てて……」

 

「どうしたぁ? 食いもんみたいだけど、そんなに美味しくなかったのか?」

 

「丸薬だよ。……丸薬に上手いも不味いもないと思うんだが……」

 

「呑気に話している場合じゃないですよ!! 悟さん、その丸薬には……

 

 

 

 

 

毒がっ!!

 

 

 ハナビの叫びを聞き、ヒナタが青ざめる。

 

「っ悟君!! 何で咀嚼し続けているの!?」

 

「っマジかぁ!? 悟サッサと吐き出せっ!」

 

 事情を把握した2人も悟に詰め寄るが

 

「ヤダ」

 

 悟は即答。口の中の丸薬を飲み込み、残りの丸薬を全て口に放り込む。

 

「っ悟さんっ!!!???」

 

 余りに常軌を逸した行動にハナビが声を裏返させ叫ぶ。ヒナタも口を手で被い、ナルトも汗を垂らしてその光景をただ見ることしかできない。

 

(……正真正銘のバカだなコイツぁ……)

 

 ナルトの中の九尾も呆れるその行動に、周囲が絶句する中

 

「……ふうっごちそうさまでした」

 

 全ての丸薬を飲み込んだ悟は両手を合わせ頭を下げる。

 

「なんで……なんで……」

 

 そう呟くハナビに悟は仮面の下で笑顔を作り答える。

 

「……毒を食わば皿までってね。せっかくのハナビからのプレゼントだ、無駄にしたくなかったからなぁ」

 

「そんな言葉……文字通り使う人は普通いないよ! 悟君のバカッ!!」

 

 ヒナタの怒った声にたはは、と悟は頭を掻いてとぼける。そして

 

 

 そのまま前のめりに倒れこむ。

 

「グッ……ちょっと……流石にまずかったか……あっ丸薬の味がまずいとかそういう訳じゃ決して……」

 

「バカですか!! 毒の混ざった丸薬の味のフォローとかしなくていいんですよ!!」

 

 かなり怒っているハナビたちに心配され囲まれる悟。

 

「ちょっ……どうすんだってばよ! 本選までそんなに時間もないはずだぞぉ!?」

 

「と、取りあえず病院に連れていかないと!!」

 

「いえ、姉さまそれでは会場に間に合いません!! 道すがら解毒する方法を……!!」

 

 慌てふためく3人に息も絶え絶えの悟が呟く。

 

「……施設の俺の部屋の机の……引き出し……解毒……」

 

「っわかりました!! ナルトさんと姉さまは悟さんを抱えて会場に向かってください!! 私が施設まで解毒薬を取りに行って途中で合流しましょう!!」

 

「お、おうわかった、了解だってばよ!」

 

「っハナビお願いね!!」

 

「はい!!!」

 

 ハナビのハキハキした指示により散開し二手に分かれる。

 

(こん中だと、ハナビっつうガキが一番冷静で常識がありそうだな……確かナルトぉ、お前より5つ下だったか?)

 

(今はそんなこと言ってる場合か?! そうだ! 九尾チャクラを貸してくれってばよ、そうしたらもっと早く悟を……)

 

(嫌だねぇ……)

 

(なんで?!)

 

(この状況はその馬鹿が自業自得で生んだものだ。なんでワシがフォローしないといかんのだ……ったく……)

 

 そういう九尾は一方的に交信を切る。背に悟を乗せたナルトは焦りながらもヒナタの誘導で本選会場まで向かった。

 

 

~~~~~~

 

「すみません! 誰かいませんか!! 悟さんが大変なんです!!!」

 

 施設「蒼い鳥」についたハナビは施設に向かって大きな声をかけるが反応はない。

 

(もしかして、中の人みんな会場にもういってるの!?)

 

 焦るハナビ思考を駆け巡らせる。玄関の施錠はしっかりとされており、恐らく窓なども同様であるとハナビは考える。まだ木登りの業ができない以上玄関から進むしか今のハナビに手はない。

 

(……っしょうがない!! 後で怒られても、悟さんが助かるなら!!)

 

 そう思い玄関をぶち抜こうと構え、突進するハナビ。

 

 

 

 

 

 ガチャ

 

 

 

 

 すんでのところで鍵が開く音を聞き、ハナビは急停止する。

 

「っすみません!! お邪魔します!! 事情はあ……とで……」

 

 勢いよく扉を開けたハナビは急いでいる主旨を鍵を開けたと思われる人物に叫ぶが該当する人物は、すでに姿形なく、施設の中は人の気配を感じさせない静けさを漂わせていた。

 

(どうなって……いや今はそんなことよりも!!)

 

 若干の未知の恐怖を感じつつもハナビは、急いで過去に自身が運ばれた悟の自室に向かう。自室の扉にも鍵がかかっていると思いドアノブを捻ると。

 

「開いてる……っ!」

 

 ハナビは驚きつつも部屋に突入。部屋の隅にある小さな机の唯一の引き出しを開ける。

 

 中には、小さめの煙球や修繕されているがボロボロになっている狐の面、翡翠の髪飾りなどが入っている。その中に小さな液体入りの小瓶を見つけたハナビは咄嗟にそれを掴み部屋を抜け出し、施設を飛び出す。

 

 

 

 静けさを取り戻した施設の開けっ放しの扉や玄関。それらはふと風が吹き全て閉じられる。それは何者かの風遁による仕業だがそれに気づくものはすでに誰もいない。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「これより予選を通過した8名の『本選』試合を始めたいと思います。どうぞ最後まで御覧下さい!」

 

「……8名なら……2人足りないようですが……」

 

「……」

 

 火影の開幕の挨拶が済み、会場のボルテージが上がる中風影は参加者の少なさを指摘する。

 

「なあ、審判さんよぉ」

 

 会場中央に集まる参加者の内シカマルが審判に問いかける。

 

「ん? なんだ」

 

「もし時間までに参加者がこねー場合はどうなるんだ?」

 

「自分の試合までに到着しない場合、不戦敗とする!」

 

(おいおい……サスケに悟、あいつらめんどーになって逃げる玉じゃねーだろォ……どうしちまったんだ?)

 

 その後審判からの軽いルールの説明が入り……

 

「じゃあ一回戦……日向ネジ対黙雷悟……いちおうネジを残して残りの奴は会場外の控室まで下がれ!」

 

 ネジと審判のみになるフィールド。会場の上がったボルテージが次第にブーイングへと変わっていく。

 

「オイ審判、到着しない奴は不戦敗なんだろ?」

 

 腕を組み余裕そうにしているネジがそう囁く。審判はめんどくさそうに舌打ちをして火影へとアイコンタクトを送る。

 

 ……火影は残念そうに首を横に振った。

 

「仕方ない……え~第一回戦は黙雷悟の棄権にy

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとまったぁぁぁあああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 どこからか響くその轟音。それに会場の騒音はかき消され、静まり返る。声に心当たりがある人物たちは皆頭を抱える。

 

「「「この声、ナルトか(ね)……」」」

 

 会場の外から影分身の人梯子により屋根に上ったナルトが跳躍し、会場の真上から影分身ロケットの要領で背負っていた人物をぶん投げる。

 

「行ってこい馬鹿仮面!!」

 

 そういうナルトが投げた人物は、煙を巻き上げ音を響かせ着地する。

 

 煙が晴れた先で、片膝と片手を突いた黙雷悟が姿を現す。

 

 

「……待たせたな」

 

 

「フンッ……どうした? 随分と顔色が優れないようだが?」

 

 

「いっとけクソ野郎、おかげさまで絶好調だよ」

 

 

 白眼を発動させたネジと視線をぶつける黙雷悟。

 

 賽は既に投げられている、後は……己の信念を賭すのみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッべえ……!!」

 

 悟の脇に墜落したナルトは奇声を上げる。

 

「カッコつけてんだから……ちゃんと隅にはけるか着地決めろよ……」

 

「誰のせいだと思ってんだ……てばよ……」

 

 ナルトに手を貸し、会場の出入り口へとナルトを誘導する悟。

 

 

(……おい、仮面野郎……)

 

(……? 九尾か、なんのようだ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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56:音無き雷は不気味に明滅する

<三人称>

 

「……おい仮面野郎……」

 

「……? 九尾か、なんのようだ?」

 

 急にナルトの精神世界へと召集された黙雷悟は不思議そうな表情を浮かべる。

 

「すっ呆けやがって……てめぇ何処まで本気で(・・・・・・・)やってやがる……?」

 

「……ああそういう…………気になってわざわざ話しかけてくれるとは俺嬉しいよ、フフッ……なんてね」

 

 悟の態度は柔らかく、精神世界において今の彼は余裕を持っていることが九尾には分かる。

 

「少し観察すれば、違和感はどこにでもある。普通じゃ有り得ねぇてめぇの演技は芝居がクサすぎんだよぉ!」

 

「そうか……俺的にはそこそこの道化を演じられてると思うんだが……芝居の腕鈍ってるか……? まあ、前世でも大学のサークルに参加してただけで演技の技術は鈍らだよな……

 

「ボソボソと何を喋ってやがる? サークルぅ?」

 

「いや、何も? 九尾は探偵になれるかもなぁなんてね」

 

 飄々とした悟の態度に九尾の苛立ちが積もる。

 

「……いい加減にワシの質問に……っ!!」

 

「悪いがネタバレはなしだ、やるからには俺はやり通すって決めている。いちいち他人に内容明かしていたら、日が暮れちゃうからな。……今は精神世界だけど」

 

 手を前に出し、拒絶の意を示した悟に九尾は面白くないと唸る。

 

「……フンッ少しは骨の在るやつだと思ったんだがなぁ。いたずらに他者を心配させて何が楽しい?」

 

「それは買い被りずぎなだけだと思うぞ。……まあ実際俺に骨はないだろうが、あるように振舞うだけさ。あと心配かけて色々と行動してもらった点については後でフォローはするつもりだけど……滅茶苦茶怒られそうだなぁ……まあ俺が悪いし……。まっという訳で時間だ。それじゃあな

 

 

 

 

 

九喇嘛」

 

 そういい精神世界から姿を消す悟。九尾は豆鉄砲を喰らった鳩のような顔になり、その後ほくそ笑む。人間とはどうして、測れない奴ばかりなのかと。

 

~~~~~~

 

 ナルトを会場から出した悟が試合開始位置まで戻る。そこまでの動きにはぎこちなさがあり、白眼により悟の表情を捉えているネジは彼が毒によって苦しんでいる様を一瞥し面白いと表情を変える。

 

「どうした? 毒でも喰らったかの様な表情だな? 辛いなら棄権でも勧めるが……何っ!!??」

 

 ネジは悟の行動に驚愕する。それは悟が取り出した丸薬を入れていた袋(・・・・・・・・)を揺する行動と、仮面の中で口を大きく開ける仕草に対してだ。

 

「まさか……全て……食っただと? ……クックック、貴様正真正銘のバカだな!!」

 

「一応多分将来の義妹と義義兄の手作りだ。全部喰らわせてもらったよ」

 

「っそこまで分かっていて、貴様何故……」

 

 暗に毒を仕込んだ犯人はお前だと突きつけた悟の表情はいつの間にかケロッとしている。それに気づけるのはネジのみだが。

 

「……何を考えている……?」

 

「証明だよ」

 

「……証明……だと?」

 

「あの時に言っただろ? 知りたければ、教えてやるってな……愚図ども? 足手まとい? フフッ面白い……。俺が何で出来ているか(・・・・・)、その大層な目で見極めてみろ」

 

 2人の軽口を遮るように審判は声を上げる。

 

「……では一回戦、始め!!」

 

 審判の合図を皮切りに、黙雷悟は雷を纏いネジに突進。ぶつかり合う腕はお互いにチャクラを纏い、膠着状態になる。

 

「俺を殺して……この世は力が全てだと証明するんだろ? やってみろよ……出来るものならなッ!」

 

 悟はそう言い近接したネジの真上に跳躍、影分身で5人分に空中で増えお互いを蹴り合いネジを中心に包囲するように移動する。

 

「五遁・大連弾の術!!」

 

 五属性による一斉攻撃がネジを襲う。

 

「っ八卦掌・回天!!」

 

 それをチャクラを纏った旋回行動で受け流し、弾くネジは焦りを見せる。

 

(……これで毒を喰らっている状態だと……? デタラメな奴め!!)

 

 場面の派手さは会場を盛り上げる。先ほど不満が出ていた分、その上がり幅は強烈なものになる。

 

「ちぃっ八卦……空掌!!」

 

 周囲5方向へと瞬時に繰り出したネジの遠距離攻撃は悟全部を射抜く。本体だけは腕に纏った火炎を爆発させ、空掌を打ち払う。

 

「さてと……第三生門・開!」

 

 生門を開いた悟は自身がいた地面が抉れるほどの加速で突撃する。移動するたび踏む抜く地面には穴が開き、その一歩の強さを表している。

 

「っ来たな、だが!!」

 

 ネジは構えを取り、呼吸を落ち着かせる。周囲を超スピードで駆ける悟に対し焦らず、じっと待つ。そして

 

「ここだ!!」

 

 悟の接近に合わせカウンターを仕掛ける。見事ネジの掌底は悟の顔面を捕らえ悟を吹き飛ばす。

 

~~~~~~

 

「あれってば、予選で俺が悟にやった……」

 

(正確にはワシの指示でやったカウンターだがな!)

 

 会場観客席に移動したナルトはヒナタと席に着き、悟の試合を観戦する。ハナビはヒアシの元に向かった。

 

「ネジ兄さんは白眼の分ナルト君よりも、より正確なカウンターができる……悟くん……頑張って……っ!」

 

 事情を知る彼らは、固唾を飲んで見守る。

 

~~~~~~

 

「八門遁甲……ガイの奴がリーやテンテンに教えていたもののようだが、所詮は付け焼き刃と言ったところ。己の高速移動のせいでカウンターに対処できないその体術は欠陥だらけだ」

 

 そういう、ネジは吹き飛び壁に激突した悟に空掌を浴びせながら接近。

 

「これで終わりだ、お前は俺の八卦の領域内にいる。っ柔拳法八卦六十四掌!!」

 

 壁から飛び出ようとした悟の勢いを利用するかのように、ネジは先起きした柔拳を当てる。

 

「八卦二掌!」

 

 怯んだ悟にさらに追い打ちをかける。

 

「四掌!」

 

「八掌!!」

 

「十六掌!!

 

 抵抗しようと手を伸ばす悟の手をはじき落とし、連撃は続く。

 

「三十二掌!!」

 

「六十四掌!!!」

 

 最後の一撃を喰らい仰け反る悟の胸倉を掴んだネジは悟を会場中央に投げ飛ばす。

 

「全身64個の点穴を突いた、お前はもう終わりだ……黙雷悟っ!」

 

(……勝った……!!!)

 

 完全に勝ちを確信したネジは悟に一歩ずつ近づく。

 

 ネジが近づく前に悟は腰のバッグから千本を取り出すが、ネジの空掌が悟の腕を弾く。

 

「俺が何度も点穴を外させる訳がないだろう? 大人しく降参すれば……」

 

「命までは……取らないってか……? ククっ俺を殺すんじゃないのか……?」

 

 フラフラと立ち上がる悟は誰の目で見てもダメージが重なり、立つのがやっとの様子なのに

 

 ネジは攻めあぐねる。審判でさえも気づけぬネジだけが気づける違和感。

 

 黙雷悟は

 

 

 

 

 笑っている。

 

 

 

 

(この状況下で……こいつ……!)

 

 

 点穴を突かれて、チャクラの流れは殆ど止まり切り札の八門も使えない。そんな状態の黙雷悟の不気味な様子にネジは、冷や汗を流す。

 

 

~~~~~~

 

 

「分家の者が宗家を越えるか……、ヒザシよ。お前はあれ(・・)を望んでいたのか?」

 

「兄上、確かに俺は宗家を恨んできました。自分の呪われた運命を憎み……けれど、目を失う判断をしたときに気づいたのです。運命とは――――。」

 

「ふむ、そうか……。ネジにそれを伝えるのは、私たち大人の役目かそれとも……」

 

 目と額を包帯で隠したヒザシとそれに語りかける、護衛に扮したヒアシ。彼らが見守る中戦闘の局面は終わりに近づく。

 

(悟さんどうして……)

 

 傍らでハナビは悟を見つめる。彼の真意が分からない彼女はただ見守り戦いの行く末を案じる。

 

 

 

 

 

「ゴホッゴホッ……」

 

「っ大丈夫かヒナタ! まだお前、予選の時のダメージが……っ!」

 

 せき込むヒナタを心配するナルト。

 

「だ、大丈夫。悟君がよく医療忍術をかけてくれてたから、随分と治りがいいの……っ。一緒に見届けよう、ナルト君」

 

「……分かったってばよ」

 

 

~~~~~~

 

 

「お前は何を考えている……っ黙雷悟」

 

「……宗家の人間であるヒナタに『この程度』って言っただろう?」

 

「……何?」

 

「仲間の為に不相応に足掻いたと、チョウジを無様だと言った……俺の仲間たちを愚図だとか足手まといとか言った……何だかんだで頭には来てたんだ……」

 

 ゆらりと立ち上がる悟に、ネジは怯む。

 

「だけど、テンテンに言われて気づいた。お前は……全てを自分の力でどうにかできると思っている視野の狭いかつての俺と似ているってなぁ……」

 

「っ!」

 

「力というもんは1人じゃ成り立たないんだ……お前のその柔拳もっ! 結局は古から受け継がれた人の意思による産物だ」

 

「何が受け継がれただ……結局それは呪われた運命でしかない!」

 

 ネジは額当てを外し、呪印を見せつける。

 

「お前ならわかるだろう黙雷悟っ! この呪印が示す意味が!! 運命に捕らわれた俺が叛逆の意を示して何が悪い!!」

 

「お前は駄々こねてるだけだって言ってんだよ!!」

 

「っ違う!! 口だけじゃなく俺は行動で示す! 俺は弱者を駆逐し……」

 

「矛盾してんだよっ! 周囲の人間を見下し認めず、自分だけは『強者』の側だと主張しているがその実、目に入る『弱者』と罵る存在に一番気を取られ感情を揺さぶられているのはお前だっ!」

 

「黙れぇっ!!!」

 

 叫ぶネジの空掌が放たれ悟へと迫る。

 

 それを悟は一瞬朱い(・・)チャクラ纏い、手で打ち払う。

 

「何っ!? 点穴を突かれた貴様が何故動ける!?」

 

「……ほんの少しの友達の力を借りただけだ」

 

 不敵に笑う悟は八門を解放、全身に緑色の薄いオーラを纏わせる。

 

(点穴が外れているだと……!? 一瞬見えたあの朱い禍々しいチャクラは、あのナルトとか言う奴が予選で見せたものに似ていた……っ!)

 

「お前が『弱者』を毛嫌いする理由は……お前が一番自分のことを『弱者』だと思っているから……そうだろう? 強さを証明するのは勝利だけ? 違うね!! 結果だけしか見ていないお前の我儘もここまでだ!」

 

「っ!?」

 

「運命に叛逆の意を示す? 笑わせるな!! 弱者を駆逐? バカにするな!!! ネジ、お前が自分に繋がりがないと言い自分だけの力だけしか見えていないのなら、その力の内の毒だろうが術だろうが何だろうが全部受け止めてやる、そのうえではっきりとそのメンタマに見せつけてやるよ!! お前が一切の言い訳ができないようにな!!!」

 

 

 

 繋がりが生む力の強さを

 

 

 

 黙雷悟のオーラは形を変えて、まるで雷のように放電を始める。

 

 ネジは変化に気づき咄嗟に空掌で牽制を入れるも、全て悟に弾かれる。

 

 その悟の放つ緑色の放電は収縮、仮面の奥の『緑の目』に宿り仮面の目出し穴からは緑色の放電が流れる線のごとく漏れ出る。

 

 会場でその光景の真髄を理解できるのごく一部の人間のみ。

 

(悟の奴……八門を解放したまま、性質変化を……!?)

 

 そのうちの1人、はたけカカシは驚愕する。八門を開けばチャクラコントロールは乱れ性質変化など到底出来るものではないからだ。しかし悟は八門により増幅したチャクラを雷遁チャクラへと変換し、それを目に集中させている。

 

 例え第一開門とてそのチャクラコントロールは困難をきす。悟の修行に付き合っていたテンテンのみが知るその形態は

 

 

「……言うならば、生門・雷眼チャクラモード……お前の節穴の目に焼き付けとけ」

 

 今までの悟の取る体術は奇妙なものであった。八門の解放時は剛拳をそうでないときは柔拳を軸にしていた。

 

 そして今の構えは半身は剛拳、もう半身は柔拳というより歪なモノである。

 

 歪な構えを維持し悟は瞬時にネジとの間合いを詰める。

 

(先の動きよりは遅いっ! ……俺なら見切れる!)

 

 接近する悟の攻撃パターンを白眼で見切り、カウンターを喰らわせようと最小限の動きで繰り出した掌底は

 

 

 

 

 悟に腕を掴まれることで阻止される。

 

「っ!?」

 

 その掴んだ腕を起点に体を回転させた悟の肘鉄をネジは間に手を滑らせガードを試みるが

 

 狙いすましたかのように攻撃位置が変えられ、もろに喰らう。

 

「ガっ!!」

 

 吹き飛ぶネジをゆっくり一歩ずつ追いかける悟。

 

 起き上がり、臨戦態勢を取るネジだが瞬間、高速で動く悟は『後だし』のように攻撃の手段を直前で変え攻めを続ける。

 

(一体……何が……!?)

 

 雷眼チャクラモードとは莫大な雷遁チャクラを扱い人体でもチャクラによる強化が鈍い視力を集中して強化するもの。体術面にまわせるチャクラは通常の八門解放状態よりも劣るが、高速移動に対応した視力・洞察眼は相手のカウンターを見切り対応を可能にする。その洞察力は同時に、柔拳と剛拳を混ぜる柔軟性をも生む。

 

 何とか応戦をするも着実にダメージを負うネジに悟は攻めながら語りかける。

 

「ヒナタやハナビたちがいなければ、俺は会場には来られなかった。このモードは、テンテンが協力してくれなければ完成しなかった……ナルトがいなければ点穴も外せず……そもそもサクラたちがいなければ死の森で俺は死んでいたかもしれない。サスケがいたから俺は誰かのために血脈関係なく動きたいとも思えた。俺の忍びとしての覚悟は…………。他にも沢山の、多くの人に支えられて今の俺がいる!!!!!」

 

 ネジの攻め手を半身で逸らし、空いた手でネジを突き飛ばす。

 

「グアッ!!」

 

 それでも膝をつかずに後ずさるネジに悟は突進そして

 

 頭突きをかます。

 

「……っあぁ……」

 

 ネジの視界が暗む。そして悟る。自分が負けることを。

 

(これが奴のいう繋がりの力……か……俺が持ちえない……力)

 

 

「負けるなっ!!! ネジ!!!」

 

 

 しかし不意にネジに聞こえた厳格な声が意識を呼び戻し、後ろに倒れる体を持ちこたえさせる。

 

「お前の力はそんなものではないだろうっ!! 日向の……お前の意地を見せてみろっ!!」

 

 ネジの視界は声に導かれ明るくなる。ネジの思考はその復帰の理由を認識してはいない。

 

(……っどんなにカウンターを狙おうが、手を変え攻めをしようが今の黙雷悟の洞察力だけは少なくとも白眼に匹敵している……っ。身体能力の分で上を行かれる分手がない……ならばっ!!)

 

 続く攻防の中ネジは自身のカウンターをさらにカウンターされるタイミングで全身からチャクラを放出し術を放つ。

 

「……っ回天!!」

 

 密接状態からの回天による決死の反撃は、悟が後ろに飛び退き衝撃を緩和してしまう。

 

「っ駄目か……」

 

 それでもネジの目に僅かばかりの光が戻る。ダメージにより白眼が切れたその目は、それでも幾分かの感情を揺らす。

 

「……黙雷悟……お前は一体何なんだ……クククっ……」

 

 怒りに笑いと呆れ、諦めと言った様々な感情が入り乱れたネジが口からこぼす言葉に悟は答える。

 

「……お前と同じ、どこにでもいる天才の内の1人だ」

 

 自分を天才と評する傲慢者に一瞥鼻で笑い、日向ネジは構える。

 

「……っふう……これで!! 最後だっ!!! 来い黙雷悟っ!!!!」

 

 離れた位置の黙雷悟は目に集めていた緑雷光を片足に集中させる。

 

「ああ、覚悟しろよ日向ネジ」

 

 悟の居た位置の地面は弾け飛び、姿を見失ったネジは目を瞑り構えを取る。

 

 

 

 目ではもう黙雷悟を捉えられない。しかし、彼が目にしてきた過去の光景が彼に僅かな光明を与える。

 

(……タイミングさえつかめれば……)

 

 その目を失いながらも、音と気配を頼りに組手を行う父の姿が。

 

 悟が周囲を跳び回る音が響く中、ネジの後方、会場にそり立つ大きな壁が大きく蹴られ砕ける音が轟く。

 

 それを合図にネジは渾身の力を振り絞る。

 

 

 

「八卦掌・回天っ!!!!」「八門・飛雷脚!!!」

 

 

 雷のような飛び蹴りを回天で受け止めるネジ。

 

 緑の雷光と青いチャクラのドームの衝突は一瞬の拮抗の後

 

 

 

 

 雷光がドームを貫通する。

 

 

 

 回天のチャクラが晴れた先では、ネジは地面に膝を着いていた。

 

 

 

 蹴りの勢いで地面を削り滑る悟が勢いを完全に殺したのと同時にネジは倒れる。

 

 

 

「……勝者、黙雷悟」

 

 

 審判は悟の勝利を告げる。2人の衝突の凄まじさに一瞬静まり返っていた会場が歓声で沸いた。

 

 

~~~~~~

 

 

 試合が終わり選手の控室に戻った悟は1人ため息をつく。

 

(……上手くできただろうか、ネジに気持ちは伝わったのだろうか……)

 

 1人勝ったことに歓喜するのではなく、不安に押しつぶされそうになっていた悟に話しかける人物が1人。

 

(……君も随分と不器用だね雷。この後木ノ葉崩しに対処するのは君の目標の1つだろう? それなのに随分と気落ちして……)

 

(黙か……久しぶり、一か月前にヒナタの試合の観戦の時に少し顔出しした時以来か? こっちが話しかけても無視する癖に……)

 

(僕が、こうやって表に出てくるのにもそれなりに力が必要なんだ。ヒナタさんのあれは……つい熱くなっちゃったから……)

 

 表に出るのが大変なのに感情任せに出てきてたのかよ……、と呆れる雷。

 

(……君も似たようなものだろう? 毒に苦しむ芝居何てして……あれに意味あったのかい?)

 

(俺はナルト(主人公)じゃないからなぁ。その立場に立っちまった以上過剰だろうが出来る限りの演出をしたまでだ。演技クサいとは九喇嘛に言われたけど……)

 

(日向ネジの改心か……僕たちの存在が随分と問題を拗れさせていたけど、本質は父親が苦しむ姿を見て運命に悲観していたってことだよね?)

 

(多分そうだろうな。原作とは違い、呪いが目に見える形だった……親が生きているがためにそうなるなんて、運命を変えた俺に対する当てつけか何かかって思ったね)

 

(憎しみに目が眩んだネジ君にも見えるよう……。あえて騒ぎが大きくなるように演技して、彼の作戦が君の周囲の人間の助力で打ち砕かれたと見せつけるために)

 

(まあ、丸薬噛んだ時点で毒だとは気づいたし、ハナビお手製のモノに仕込めるのなんて同じ日向くらいだ。それで誰が仕込んだのかなんてすぐにわかった。大蛇丸のみたいにガチでヤベー毒でもなかったようだし……いやそう簡単に大蛇丸なみの毒用意されても困るが……)

 

(多分比較的ヤベー毒だけど、僕たちにはそこまで効かなかっただけだと思うよ……君が残りの丸薬口に入れたときは流石にビックリしたけどね)

 

(一応、大蛇丸の時の反省も込めて解毒剤は用意しておいたから……)

 

(君のバックパックに入っているそれね。持っているのにわざわざ予備を自室までハナビちゃんに取らせに行くなんて、君性格悪いよ?)

 

(まあ、俺が毒にかかったと周知するためにな……ネジの前で毒にかかったふりしても後でピンピンしてたってバレたら恥ずかしいじゃん?)

 

(……でも丸薬全部飲み込む必要は絶対なかったよね?)

 

(……毒自体そこまで効かなかったし多分一個も何個も解毒剤飲めば俺なら問題ないと思ったし……ハナビのお手製のモノ無駄にしたくなかったから……)

 

 

(気持ち悪いね君)

 

 

(グうッ……否定はしないでおく……皆にバカバカ言われて、流石に駄目だったかと反省してるから……)

 

(皆に心配かけた分キッチリとフォローはしておいた方が良いよ。大がかりな演技にそれとは知らずにつき合わせたからね)

 

(本来なら俺一人の胸中に収める内容をこうもペラペラと話すなんて……)

 

(同じ黙雷悟同士、実質話していないのと同じだよ)

 

(そうかい……テンテンに宣言した通り、心はバキバキにしてやった……後は)

 

(生きている家族の問題だ、僕たちの出る幕じゃない。僕たちに出来ることは……)

 

(波の国でお前は言っていたな、木ノ葉崩しの時に会おうって。つまりどうにかするってことだろ? 黙、お前も何か事情があるにせよやりたいことは多分一緒だ)

 

(正確には僕はマリエさんさえ無事なら他はどうでもいい。後は君の領分だ。体を休めつつ作戦会議といこうか、黙雷悟)

 

 心の中で語り合う2人。

 

 次の決戦までの時は近い。

 

 




黙「君は随分と演技をするのが好きなようだね。今回の件と言い同期との演習の時と言い」

雷「前世では演劇サークルに入ってたし……。特撮が好きだったんだよ。飛雷脚もライダーキッk」

黙「別に理由は聞いていないよ。何だったら忍びをやめて役者にでもなったらどうだい?」

雷「……っそれもいいな……」

黙「……冗談だよ」


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57:異世界人×未来人

<三人称>

 

 精神世界での黙との作戦会議と情報共有をひと段落終えた雷は精神を現実世界に戻し、一息つく。

 

「今頃会場では、シカマルとテマリが戦ってるはずだが……」

 

(確かに僕の記憶でも彼の試合は少し長引くはずだね、こちらとしても休息が取れてありがたいよ)

 

「……なあ、お前が言っていることは本当なのか? いや、まあ俺の存在よりは世界目線でアブノーマルじゃないのかもしれないけど……」

 

(僕が未来人(・・・)だってことかい? まあ、正確には未来から過去の自分の体に魂を送っただけだから何とも言えないけどね)

 

「ふ~ん……じゃあこの身体には異世界人である俺と未来人の黙の魂が入ってるってことになるのか……一気にファンタジー感出てきた……」

 

(難しく考える必要はないよ、君がこの世界を記した本の記録に沿って活動するように、僕も自身の記憶を頼りに動いている人間てだけさ)

 

 黙からの衝撃的な情報を聞き、雷は何とも言えない気持ちになる。

 

「……ちゃんと原作最後まで読み込めば、タイムスリップする術とか載ってたのか……?」

 

(さあ? その本とやらが最後、どこまでの時代を記していたかは僕は知らないし……僕自身は詳しく方法を知らないからね、ある道具を解析した結果どうのこうの……おや、人が来たみたいだ)

 

 控室の部屋がノックされ、悟は返事をする。そして開けられた扉の先にはハナビとテンテンがいた。

 

「お、ハナビとテンテンか。どう……したぁあ!?」

 

 不意にテンテンが長杖を出し殴りかかってきたことに驚き、悟は長杖を掴みながら驚きの声を上げる。

 

「アンタ!! ハナビちゃんの丸薬に毒入れられたのに気づいてたのに態々全部飲み込んだって……バッカじゃないのぉ?!」

 

「ああ事情を聴いたのね、いやちょっと捨てるのも忍びないし」

 

「作った方は責任感じるのよバカたれ!!」

 

「ごもっともです!! 指摘されて気づいて結構反省してます!! ごめんなさい!!」

 

 ぎゃーぎゃー杖を押し合い言い合う2人にハナビはそっと語りかける。

 

「テンテンさん、もう大丈夫です。すみません、ここまで付き添ってもらって……」

 

 ハナビの声に「……ったく……」と一端杖を巻物にしまったテンテンは気持ちを落ち着かせる。

 

「あの……テンテンさん、悟さんと少し話がしたいので外で待っててもらっていいですか?」

 

「?……ええいいわよ。悟! 反省しなさいよ!!」

 

 そういうテンテンは控室から出ていく。扉の外で待機していることはわかるが聞き耳は経てないであろうことは、幼馴染の悟にはわかる。

 

「どうした? 態々テンテンを外に出して……いや心配かけたことは本当、反省してるから……」

 

「……悟さんどうして……どうして毒に苦しむ演技何てしてたんですか?」

 

「うっ!? …………サア、ナンのコトカワカラナイナ~」

 

(……君、不意を突かれた時の演技だとボロがですぎだよ……)

 

(……うっせいやい!!)

 

 思ってもみなかった質問に焦る悟に、ハナビは淡々と言葉を繋ぐ。

 

「……気づいたのは解毒薬を持って、姉さまとナルトさんと合流した時です。悟さんは事前の準備をしっかりするタイプだと伺っています。なので解毒薬を自前で用意しているのには納得しましたが……おかしいんですよ」

 

「……ナニが?」

 

 全力でとぼける悟。

 

「それを携帯していないことです。姉さまもナルトさんも焦っていてそこまで考え付かなかったようですが、ふと私は気がつきました。なので皆さんと合流するために発動していた白眼で悟さんの腰の用具入れを透視させてもらいました……わざわざ手持ちの解毒薬を飲まないなんて……毒にかかったふりをしているのか、そもそも毒なんてなかったのか……どちらかしか思いつきません」

 

 仮面の下、悟は顔を引きつらせる。腰のバックパックを隠す動作をついしてしまうが、ハナビが白眼が発動しその行動は無に帰す。

 

「今もそこにありますよね、解毒薬」

 

「…………っ」

 

(……君は九尾を探偵と評していたけど、ハナビちゃんにこそふさわしかったようだね。まさに探偵だ)

 

(他人事だと思って……!)

 

(同じ黙雷悟だけど僕は悪くないからね、他人事さ)

 

 根拠を述べるハナビの白眼の威圧感に押される悟。

 

「ありますよね?」

 

「……っイヤぁ無いヨ?」

 

「ありますよね?」

 

「…………っ」

 

「あ・り・ま・す・よ・ね?」

 

「……はいアリマス……ゴメンナサイ……」

 

 圧に押し負け、悟はやっとのことで認める。見苦しい。

 

「……理由を教えてもらえますか?」

 

「それはぁ……い、言えない……かなぁ?」

 

「…………わかりました」

 

「おっえっ?!」

 

 理由についても問い詰められると思っていた悟はハナビの追及の浅さに驚く。

 

「……何も理由なく悟さんはそんな事しないとは思います。何か事情があると思いますのでそこまでは聞きません……しかし」

 

「しかし?」

 

「次、似たようなことがあれば、問答無用で痛みを伴う点穴を、出来る限り突かせてもらいます」

 

「ひえっ……気を付けます……」

 

 騙されたハナビが抱いた怒りの大きさを改めて痛感した悟は深く反省をする。

 

「……本当に心配したんですから……」

 

「うん、ごめん……」

 

(ハナビには本当に申し訳ないことをしたな……)

 

 しゅんと反省している悟の様子を確認したハナビは控室の扉を開けテンテンを呼び込む。

 

「すみません、テンテンさん。お待たせしました」

 

「いいのよ~。ってあら……まあ……随分と絞られたようねぇ悟」

 

「はい……反省してます……」

 

「ならいいわ。ハナビちゃんの保護者たちはネジの控室に行っているみたいだし、ハナビちゃん一人にするわけには行かなかったからついてきたけど面白いもの見れて良かったわ!」

 

 項垂れている悟の頭をペシペシと叩くテンテン。

 

「まあ、一回戦勝ち上がりおめでとう。こっちの意味もあって来たんだから」

 

「……ありがとう……」

 

 一通り悟の頭を叩いたテンテンは満足そうな笑顔を浮かべる。

 

「それじゃあ、私たちは観戦場に戻るから……アンタも頃合い見て来なさいよ?」

 

「それでは悟さん、失礼しました」

 

「うん、色々とありがとう。2人とも」

 

 そういう2人を見送り悟は控室に1人になる。

 

(さてと……僕たちも行くかな。成すべきことなすために、やりたいことをやるために。先ずは)

 

(……ああ、先ずは)

 

 

 マリエさんの安全の確保だ。

 

 

 2人の黙雷悟は行動を開始する。そのために先ずは控室を出て、観戦場へと移動する。

 

(黙、お前の話ではマリエさんは木ノ葉崩しの影響で暴走してしまい、木ノ葉の人間を手にかける……。そしてその責任を問われて死刑……になるんだな?)

 

(ああ、マリエさんが暴走する詳しい原因は僕も今までわからなかったけど今回君のおかげで知ることが出来た。彼女の不安定な精神が木ノ葉崩しで揺さぶられて崩れてしまうのが原因だったんだ。先ずはマリエさんの所在を確認しよう)

 

(その後マリエさんの安全を確保し、三代目と大蛇丸の戦いに加勢して大蛇丸を早めに撃退出来れば三代目が自由に動ける。そうすれば木ノ葉崩しの被害はかなり抑えられるはずだ!)

 

 2人のプランをすり合わせる中、観戦場まで移動した悟はチャクラ感知を行い、良く知るマリエ、再不斬、白、ウルシのチャクラを探る。

 

(あれ……白と再不斬とウルシさんだけしかいない?)

 

 一抹の不安を感じながらも施設の関係者の元へと駆けつける悟。

 

「おや? 悟君。一回戦お疲れ様です、とてもいい勝負でした……どうかしましたか、そんなにも急いだ様子で」

 

「ん、どうした悟?」

 

 白とウルシは悟に気づき声をかけてくる。

 

「っマリエさんは? 観戦場に見当たらないけど……」

 

「ああ、マリエさんなら忘れ物を取りに行くと一端施設に戻っていますよ」

 

 白の回答に焦る悟。

 

(おい、どうする黙!)

 

(いや、これは都合がいいかもしれない僕に変わって雷!)

 

(りょ、了解!)

 

 悟が少し黙り込んでいる間白は不思議そうしている。

 

「白雪、お願いがあります。桃さんと一緒に施設に向かってください」

 

「突然……どうしてですか?」

 

 悟の急な要請に不思議がる白。悟は白へと耳打ちする。

 

「恐らく、近いうちに里全体で戦闘がおきます。マリエさんが心配なので2人でマリエさんを施設に留めていてください」

 

「それは……本当ですか? にわかに信じられませんが、それなら早いうちに皆を避難させた方が……」

 

「大丈夫、この会場には手練れがいます。それに木ノ葉の暗部も。子供たちとウルシさんは下手に動かずここにいた方が安全です。白と再不斬はここにいては戦闘する可能性が出て、木ノ葉に素性が知られる危険性があります。なのでマリエさんと共に施設で隠れていて欲しいんです」

 

「……なるほど……わかりました。サスケ君の対戦が見られないのは残念ですが、君がそういうなら従いましょう」

 

 そういって白が再不斬の元へ向かう背を見る悟にウルシが話しかける。

 

「おいおい、俺を無視すんなよ悟。白雪に耳打ちなんて、ちょっと羨ましいことしやがってwww」

 

 冗談を言うウルシが悟の目を見ると、懐かしさと悲しみを抱いた瞳が一瞬見える。しかし瞬きの間にいつもの悟の目に戻ることで違和感はすぐに消え去る。

 

「……いや、ちょっとマリエさん一人じゃ探し物いつまで経っても見つけられそうになくて心配になったので、白雪と桃さんに手伝いをお願いしたんですよ」

 

「ああ、たまにそう言うことあるよなマリエ。お前の次の試合まで探し物してそうなの普通にありえそうで怖いぜ」

 

 マリエを出汁に笑いあう、悟とウルシ。悟は同期と話してくると言いその場を後にした。

 

(なあ、黙……そういえばあんたって実年齢いくつなんだ? 何歳の時にタイムスリップを……)

 

(30歳前後だったかな、確か)

 

(……年上かよ……)

 

(……言っておくけど敬語になんてしなくていいからね? よし、取りあえずこれで最低限のマリエさんの安全は確保できた)

 

(了解って……これで最低限なのか? あの2人がいればかなり安全だと思うが……)

 

(僕だって色々試してきたのに一度もマリエさんを助けれていないんだよ、最悪を想定して動かないと。地下にいるマリエさんと表にいるマリエさんが近ければ守りやすいはずだ、後は……)

 

(三代目か)

 

(本当なら僕たちがマリエさんの傍にいるのがベストなんだけど、君は一応里も守りたいだろうからね。少し僕は休憩しているから、今はナルト君たちに謝ってきておいで)

 

(……了解)

 

 2人の交信は黙が黙ることで終わる。

 

 黙と会話しながらナルト達を探していたので、悟はすぐに彼らの元へとたどり着く。

 

「あ~……2人とも……今朝はごめん……お手数をおかけしました」

 

「悟! お前ホントバカだってばよ! 俺よりバカだ馬鹿」

 

「悟君……ハナビもすごく心配してたんだから……変に格好つけなくていいんだよ?」

 

「ぐっ……2人の言う通りです……反省しています」

 

 悟は2人と一緒に席に着いて観戦しようと椅子に手をかけた瞬間。

 

 

 

「まいった……ギブアップ!」

 

 

 

 戦っていたシカマルが降参を宣言する。

 

「っ?! はあ~~~!? あいつ何やってんだってばよぉ!! せっかくのチャンスだったってのにぃ~~~! ……俺、説教してくる!!」

 

「な、ナルト君!?」

 

「あ~……行っちまった……あいつ自分がもう中忍試験の関係者じゃないの、分かってないだろ……」

 

 シカマルの戦いが終わりを告げたということは、悟の()の戦いも目前に迫っていることを示している。

 

「あれ、悟君座らないの?」

 

「……サクラとかにも挨拶してこようかなって思ってな。ヒナタもナルトと2人っきりのほうが……って後ろにシノがいたか、気づかんかったすまん」

 

「……別に気にしていない。なぜなら俺は対戦相手が棄権してしまい、時間を持て余しこうして班員のヒナタの元に来てみたは良いものの、意中の人物と居るヒナタの邪魔をすることは出来ないので気配を消していたからだ。決して俺の陰が薄いとかそう言うことを気にしているわけではない。なので」

 

「なげぇーよ……。つーかシノお前、ヒナタがナルト好きなの知ってたのか?」

 

「あ、あれ?! 私そんな……し、シノ君! 確かにナルト君のことはその、と、友達として好きなだけで……決して婚約者の悟君のことが嫌いという訳じゃなくて……その」

 

「別に、俺は何も言うまい。悟の気の利かせ方といいヒナタの態度と言い、何か事情があるのは直ぐに察せられる。ヒナタ、焦って意味のないフォローをすると逆にわだかまりができることもある。気をつけるといい」

 

(……シノっていい奴だよな……)

 

 悟のシノに対する評価が上がったところで、悟は「それじゃあ」と言いその場を後にする。ヒナタには同期に挨拶に行くと言っていたが、悟が移動した位置は、三代目の所在を確認できる位置だ。

 

 客席では、遅れてうちはサスケが現われたことにどよめきが走っている。

 

(そろそろか……緊張してきたかも……)

 

 現れたサスケに目を向ける悟は、サスケと一瞬目が合う。

 

(サスケのお手並みでも見て、緊張をほぐしておくか……)

 

 軽く手を振った悟は気を落ち着かせるために、観戦に集中することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

同時刻

 

 

 

 

 

施設「蒼い鳥」

 

「違和感を感じて来てみれば……っマリエ(・・・)、お前どうやって外に……!!」

 

 自身の名前を口にするマリエは驚愕している。内側から開けられる構造ではないはずの、地下へと続く道。それは開かれており、マリエの自室の椅子で腰かけているのは……

 

「……静か……だけど……五月蠅い……人の悪意……ねえ、マリエ(・・・)貴方は感じない? 近いうち……いえ直ぐにでも戦いが起きるわ……醜い醜い殺し合い……」

 

 もう一人の自分。外に出てはいけないはずのやせ細った姿で足を抱え椅子に座るその人物。

 

(一度()が暴走したことと、悟ちゃんが地下に行ったことで意識が覚醒しかけているのか……!)

 

「……私たちの願いはただ悟ちゃんを見守ることのはずだ!! お前が結界の外に出れば、私たちは……っ!!」

 

 普段通りエプロンを身に着けている方のマリエは突然、頭を押さえてうずくまる。

 

「っつう……今す……ぐっ!! 地下に戻れ!! マリエェ!!」

 

(ううっ……不味い……同じマリエ同士……結界が反応しないせいで三代目も異変には気づけない……! クシナさんの封印術の仕込まれた空間からどうやって……)

 

「醜い……この世界は……残酷で……どうしようもないほどに……こんな世界……偽物なの……偽物……」

 

「っ思いだっ……せ……私たちは悟ちゃんを………みま……もるため……っ」

 

 やせ細ったマリエは上を見つめ呟き続ける。頭を押さえるマリエは必死にもう一人の自分に語りかける。

 

「……っ気を持て……あの時の覚悟を忘れるなっ! 何のために、2人になったのか……」

 

「偽物……偽物……偽物……オビトも……リンも……みんながいない……みんながいない……みんながいない……みんながいない……みんながつらいこんな世界」

 

 

 

 

 

 壊した方が良い

 

 誰かが傷つく前に

 

 絶望する前に

 

 夢を諦める前に

 

 

 

 こんな世界は偽物だ

 

 

 

 己のために

 

 欲望のために

 

 力のために

 

 

 

 悪戯に他者を傷つける世界なんて

 

 

 

「っ思い出せ! マリエ!! カカシに言っただろ!! あの子が……生きていくのを見届ける……そのために私たちは分かれた! これ以上……ガイやアスマ……紅……仲間を傷つけないために! 力を抑えるために!!」

 

 

 

「……思い出すのは貴方よ、マリエ」

 

 

 

 虚ろに上を向くマリエは不意にはっきりとした口調になり視線を落とす。お互いに目が合い、お互いの感情が同調していく。

 

 

 

「私たちの本当の名前は(なき)。マリエなんてものは噓で作られた存在」

 

「ちっ違……う! その名は捨てた!! マザーがくれた名が……マリエが私だっ!!」

 

 

 

 椅子から降り、目をほぼゼロ距離まで近づけるマリエ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、もう考えるのはやめよう? 一つになって……世界を……塵へと還すのよ」

 

 

 



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58:大切なモノ

<三人称>

 

 本選会場では、うちはサスケの千鳥により怪我を負った我愛羅が動揺している。

 

(そろそろか……っ)

 

 黙雷悟が身構えた瞬間。会場全体を対象に幻術が行使される。木ノ葉の忍び達は幻術返しにより、術を跳ねのけ臨戦態勢を取る。

 

 一瞬悟は施設の子どもたちへと目線を向ける。

 

(ウルシさん……は何とか幻術返し出来てるか、流石だ)

 

 それを確認した悟は、誰よりも先に会場の屋根へと移動し潜む。

 

 会場が戦場へと変わる中、カカシやガイと言った手練れたちは敵を減らし、ナルトとサクラへと指示を出している。

 

(サスケは変容した我愛羅を追った……あっちはナルト達に任せれば問題ない。あとは)

 

 風影が三代目火影ヒルゼンを連れ屋根へと上がってきたのを確認した悟は生門を開き、雷遁チャクラモードを発動する。

 

「……飛雷脚!!」

 

 風影めがけて繰り出したその攻撃は、すんでのところで躱される。ヒルゼンの拘束を解いた悟に周囲にいる暗部たちは驚きをしめす。四隅に配備している4人の音の忍び達は様子を伺う。

 

「あら……お前は……また私の前に立つとは、随分と勇気があるのね。それともただの蛮勇かしら?」

 

「いいや、実際怖いけどそんなこといってられないだけだ」

 

 風影は変装を解きながら、悟へと殺気を飛ばす。

 

(……前回での接敵が噓だと思えるぐらいの殺気……気は抜けない……!)

 

「……大蛇丸、貴様か……」

 

 ヒルゼンは目線を変装を解いた大蛇丸へと向け呟く。

 

 膠着した状況になり、一瞬静まり返ったその瞬間

 

 

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 

 

 奇妙な轟音が響く。まるで獣の咆哮のように聞こえるそれは会場から遠く離れた施設「蒼い鳥」方面から聞こえる。

 

 一瞬それに気を取られた悟をヒルゼンが蹴り飛ばす。それを合図のように大蛇丸の指示が飛び、大蛇丸とヒルゼンは「忍法・四紫炎陣」により囲われる。

 

「っ三代目!! 何を……!?」

 

「悟よ、お主がいるべきはここではない……施設へと向かえ!」

 

 悟の疑問にヒルゼンは羽織を脱ぎ捨て、忍び装束になり指示を出す。

 

「だけどこのままじゃ……!」

 

 三代目が死ぬ。その未来を知る悟の感情をくみ取ったのかヒルゼンは優しい笑顔をむけ語りかける。

 

「心配するでない……ワシは火影じゃ。この里を……皆を守るために命を張る覚悟などとうに出来ておる。……三代目火影の名において第零班黙雷悟に命ずる!!」

 

 ヒルゼンは息を吸い声を張り上げる。

 

「蒼鳥マリエを……救え!!!!」

 

「っ……!! ……はい……必ず戻ります! 三代目どうか、それまでご無事で……っ!」

 

 動揺しながらも悟は雷遁チャクラモードによりその場を離れる。

 

「蒼鳥マリエ……確か『国落とし』とも呼ばれた忍びだったかしら……あれ(・・)、壊れたと聞いていたけど?」

 

「ふん、まだあやつらの未来は決まっておらぬわ。じゃが大蛇丸よ、貴様の未来は……死じゃ」

 

「老いましたか……随分とずれたことを言いますね、猿飛先生。……今や私は貴方をも越える!」  

 

 至高の忍び同士の戦いの火ぶたが切られる。

 

 

~~~~~~

 

 中忍試験会場にも轟く咆哮に反応を示すものが2人

 

「おい、カカシぃ!! この音はまさか……」

 

「ああ、そのまさかだねっと!!」

 

 敵と交戦しながら、ガイとカカシは互いの嫌な予感を擦り合わせる。

 

「どうする! 俺たちが行かなければ到底止めようがないぞ!」

 

「いや、この音量……恐らくマリエは元に戻っている(・・・・・・・)……俺たちでも無理だ! それにここを空ける訳にはいかない」

 

「っどうするカカシぃ!?」

 

 焦るカカシが会場の屋根を見上げる。三代目と大蛇丸が結界に覆われる中、その屋根から飛び出る雷光が一つ……。その光を確認したカカシは苦し紛れの笑みを浮かべる。

 

「……まっここは信じるしかないでしょ。マリエと……あの子を!」

 

「っ~~~~~! クソぉ悟よ!! 本当に頼むぞぉ!!!」

 

 己の不甲斐なさを悔やむかのように敵をなぎ倒すガイを尻目にカカシは昔をふと思い出す。

 

(あの雨の日……マリエが拾った命が今マリエのために……っ頼んだよ……悟)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 黙雷悟は屋根を高速で渡り飛び、施設へと急ぐ。その方角では、岩で出来た巨人が暴れ狂っている。

 

(あれが……マリエさんなのか!?)

 

(……僕が知るマリエさんの暴走形態より、ずいぶんとデカい……15メートルはあるね)

 

(どうして……!? 白や再不斬たちが向かっているはず……こんなにも早く接敵なんてするはずもないし……!)

 

(マリエさんについて僕たちがまだ知らない情報があったということか……クソっ……)

 

 黙の認識ではマリエは敵との接触により暴走してしまうとなっていた。いつも彼女は誰かを守るために敵の前に立ち、感情を失くしていた。まだ敵が内部まで攻め込んできていないはずなのに暴走し始めているマリエに黙は動揺を隠せない。

 

 黙の思考が停まる中、雷は影分身を10体出し全員で雷遁チャクラモードを発動させる。

 

(雷……! 何をしている! チャクラを無駄に使うなっ!)

 

(考えててもマリエさんがああなった以上、周囲に被害は出させれないだろ?! 建物はどうしようもなくても、周囲の人間は絶対にマリエさんに傷つけさせられない!)

 

 影分身体はチャクラ感知により里に散らばる民間人を特定し、避難を促す。

 

 

「「「「今、木ノ葉は戦闘状態です!! 一般の方々は避難をしてください!!」」」」

 

 

 素早く動けない老人や怪我人は悟が抱え、施設周囲の人間を避難所へと大急ぎで誘導する。攻めてくる忍び達は雷遁で牽制し、避難を優先する。

 

(っ! 早く早く早く!!)

 

 施設周辺は人が少ないが、零ではない。異変を感じて家屋に逃げる子どもとその親を悟は窓を飛雷脚でぶち破り抱え込む。

 

「説明している暇は無いです! ゴメンナサイ!!」

 

 そういって窓周辺をさらにぶち壊して、屋根を駆ける。後方では先までいた家屋が巨人の手によって崩壊している場面が映る。

 

「ひいいいい!!」

 

 悟は悲鳴をあげる抱えている女性とその子どもを避難所になっている病院へと直送する。

 

「……! こちらへ!!」

 

 病院の出入り口では、年老いた忍びが誘導を行っていた。悟を確認したその忍びは声を出し誘導する。

 

「怪我人はそのまま中へ、健康な方は外の広場へと連れて行ってください」

 

「っはい!」

 

 忍びの誘導にしたがい、避難を行う悟たちがなだれ込むように病院へと駆けつける。

 

「怪我人です!!」「乱暴でごめんなさい!」「……飼い犬はどこに連れていけばいいんですかぁ!!」

 

 そう叫ぶ影分身の悟たちに年老いた忍びはあっけに取られる。

 

「……こりゃあ、ワシも負けておられんですな」

 

 

~~~~~~

 

 

 施設周辺の見晴らしのいい大通り。岩の巨人となって暴れているマリエは群がる敵の忍びを一蹴し、途中からあらわれた巨大な口寄せ蛇を殴打し殲滅していく。

 

 人気がない大通りの先では、悟が立ちすくみその様子を見ていた。

 

(……恐らくだが、あれが本来のマリエさんなんだろうね……)

 

 黙り込んでいた黙が語り始める。

 

(僕が今まで見てきたマリエさんの暴走は半身(・・)の状態だったんだ……それでもかなり厄介で止めようがなかったのに……)

 

(なんとなく俺にも覚えがある……あの時、うちはの居住区で動けない俺の近くで暴れていたのも多分マリエさんだったんだ。……俺を心配して見守っていたけど、暗部が俺に止めをさそうとして……)

 

 暴走する彼女を眺める悟は拳を握る。

 

(あの時はカカシさんとガイさん二人係で止めていた……)

 

 かつて八門を解放したガイの昼虎とカカシの雷獣走りの術によって動きを止めたであろう暴走を、今悟は1人でどうにかするしかない状況に立っている。

 

 分身たちが避難を進める中、1人悩む悟に声をかける人物が2人。

 

「っ悟君! あれはマリエさんなんですか?! 施設に近づいたとたん中からあれが飛び出てきて……」

 

「厄介だな……あれが噂に聞く『国落とし』の本来の力か……」

 

 白と再不斬だ。2人とも軽く怪我をしているが、深刻ではなさそうである。

 

「……2人とも……お願いだ。周辺の人の避難を頼みたい。あれはマリエさんだけど……今は正気を失っているみたいだ」

 

「そんな……悟君は1人でどうにかするつもりですか!? なら僕たちも手伝いますよ、ねっ再不斬さん!」

 

「……いや、俺たちは避難誘導に徹するぞ白」

 

 白の提案に再不斬が異を唱える。白が疑問を口にすると再不斬は悟を見る。

 

「……あいつを止められるのは、土遁に有効な雷遁を使える小僧が確率として高い……それに見ろ、敵があの巨人に群がっているが土遁が自動で迎撃している……俺たちが手を出しても恐らく焼け石に水だ……」

 

「っそれでも何か僕たちにも出来ることが!!」

 

「白、状況を見ろ! 今は小僧のチャクラ消費を抑えるために避難活動を俺たちが替わるのが最善手だ、感情に流されるな……!」

 

 再不斬の判断に、白が迷いを示していると悟は自身の仮面を外し白へと差し出す。

 

「白……これを預かっていてくれ、多分着けてたら壊しちゃいそうだから……マリエさんから貰った大事なものだ……」

 

「っ……わかりました……悟君、約束してください!! 絶対に2人で戻ってきてください……無事に……絶対にっ!!!」

 

「……俺もこの短い間だが、施設でマリエの手伝いをしているのは……楽しいと思えた……。頼んだぞ、悟!!」

 

 白と再不斬はそのまま、飛びあがり周囲の避難を進める。 1人素顔をさらし、チャクラを練り続ける悟は瞳を閉じて集中を深めていく。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 避難所となっている病院では敵が攻め込んできて戦闘が起き始めている。

 

「水遁水龍弾の術!!」

 

 老忍者の術が敵を蹴散らす中、病院内へと忍びが1人舞い込もうとする。

 

「しまった……!」

 

 老忍者が振り向くその先、侵入を試みた忍びは大きく吹き飛ばされ壁へと叩きつけられる。

 

「おじさん、僕も手伝うよ!!」

 

 そう言うのは骨折の怪我で入院していたチョウジ。包帯を巻きながらも片腕を肥大化させて敵を殴りぬけていた。

 

「助かります、今は一刻を争う……お互い全力を尽くしましょうぞ!」

 

 他の木ノ葉の忍びが応戦し戦場と化した現場に、不意に病院全体を覆う様に幾つもの氷で出来た鏡が出現する。

 

「これって……うわあ!!」

 

 チョウジがその鏡に気を取られた隙を狙い敵がクナイを突き立ててくるが

 

 

 

 その忍びは勢いを失くしてその場で倒れ伏す。よく見れば首筋には千本が刺さっている。

 

 

 

「びっくりしたなぁもう~って君は……」

 

 

 チョウジの目の前には黙雷悟の仮面を着けた人物が千本を構え立っていた。

 

「……悟ぅ? 君ってこんなきれいな術も使えたの?」

 

 服装やら体格やらが色々違うにもかかわらず、チョウジはその人物を悟と呼ぶ。老忍者は先ほどまで避難活動をしていた忍びの面だと認識する。

 

「……君は……木ノ葉の味方ですな?」

 

「……ええ、僕は今『黙雷悟』として木ノ葉の味方をします。……この力にかけて、全力でここを死守します!!」

 

 そういうと悟を名乗る人物は、消えるように移動をして辺り一帯の敵へと飛び攻撃を始める。

 

「流石悟だなぁ~。よ~し僕も負けてられないぞう!!」

 

 そう言って張り切るチョウジに老忍びは

 

「ええ、彼は『黙雷悟』……そういうことにしておきましょうか」

 

 と賛成の意を示す。

 

 傍らで避難を誘導する再不斬は呟く。

 

「あいつ……熱くなりやがって……最近後先考えなくなってやがるな」

 

 それでもそう言う顔には、笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『貴方のことは、ちゃんと私が守って見せる。だから泣かないで悟ちゃん』

 

 

 

 黙は何度も見たその光景を思い出す。

 

 

 木ノ葉が襲撃を受けたその日。彼が何度も繰り返した『その日』にマリエはそう語り、敵へと向かっていった。時には自分を守るために。時には施設の子どもを守るために。時には民間人を助けるために。

 

 

 そうして彼女はいつも精神に異変をきたし、暴走してしまっていた。……その後『あの男』が現れ暴走を終えて気を失っている彼女にクナイを突き立てる。

 

 

『こ奴は木ノ葉の不穏分子である。皆も見たであろう、暴れ狂うこ奴の姿を……今ここで処刑せねばならぬ』

 

 

 

 もう

 

 

 

 そんな光景を見るのは……沢山だ……っ!

 

 

 

 

(雷……僕は覚悟を決めたよ)

 

 暴れる巨人を見据え、集中する悟同士の会話が始まる。

 

(今ここで、マリエさんを止められるのは僕たちしかいない……例えこの身が朽ち果てようとも……今回(・・)こそは彼女を助けてみせる……っ!)

 

(やっと覚悟が決まったのか黙。年上なんだからもう少しシャキッとしてくれよな)

 

(……想定外のことが起きても、意外に君の方がしっかりしているようだね雷。君も覚悟はいいかい?)

 

(愚問だな……マリエさんを助けるためなら、何だってしてやるさ)

 

 最後の自身の影分身が術を解き、チャクラと情報が流れてくる。

 

「避難活動は終わった……マリエさんによる人に対しての被害は深刻じゃない……後は」

 

(彼女を止めるよ……雷)

 

 目を見開き、その緑の両目で岩の巨人を捉える。

 

(全力の一撃でマリエさんをあの岩でできた巨体から引きずり出すよ。恐らくあの術は土遁・岩状鎧武(がんじょうがいむ)……マリエさんを核としてチャクラが巡るあの巨人は土遁を扱い地形を味方につける、範囲に入れば僕たちも自動で攻撃対象だ。あれから引きずり出せばマリエさんは大半のチャクラを失い暴走を止められるはず……)

 

(岩状手腕の発展形……術1つでここまでの規模になるなんて、マリエさんは半端ないな……。だけどあの巨体からマリエさんがどこにいるか特定できるのか?)

 

(問題ない……僕が力を貸す。君は全力の一撃を放つことに集中して、雷!)

 

(了解!)

 

「八門遁甲……第六景門……開!!」

 

 今開けることが出来る最大門を解放する悟。そして

 

「コントロールに失敗したら多分死ぬけど、今はやるしかない」

 

 あふれる膨大なチャクラを、雷遁チャクラへの変換を始める。

 

 ネジとの戦いで見せた雷眼チャクラモードは第三生門まで開き、強化部位も目や足に集中することで行使を可能にしていた。

 

 現在、第六景門を開きその全てのチャクラを雷遁チャクラモードへと充てている。暴れ狂うチャクラが、一部の血管を破り、腕や足からは流血が始まる。

 

「景門……でも……本気で動けば……反動が重いのに……それ……でチャクラモードは……無理があるなぁ!!」

 

 口から漏れ出る弱音をかき消すように唸り力を溜める。鼻からも血を滴らせ始める悟は痛みにコントロールを失いかける。

 

(しまった……!!)

 

 暴走し始めるかと思えたチャクラは何とか安定を保つ。

 

(っ……チャクラコントロールができるの君だけじゃない、僕だって手伝うさ……!)

 

 コントロールの綻びが生じそうな部分に対して黙がフォローを入れる。黙の声が辛そうであることからその負担がうかがい知れる。

 

(無茶すんなよ、黙っ!)

 

(お互いが無茶しなきゃ、いけないだろ? 僕たちは今や2人で1人、全力を尽くすまでだ!)

 

 次第に渦巻く雷光が収まり安定の兆しを見せる。しかし

 

 

 

 

 

 不意に悟へと奇襲をかける忍。

 

 

 

 

 

 

 悟がそれを認識する前に、水龍が忍を穿つ。

 

 

「……っ何が……?」

 

 

「隙を晒しすぎだ……とは流石に言えねえな……お前は集中しろ、俺が守ってやる」

 

 

 現れた再不斬は周囲の家屋から調達した出刃包丁を構える。

 

「お前を狙って辺りに敵が潜んでやがる……だがまあ、安心しな。首切り包丁よりランクは随分と下がるが俺も最近はこっちの包丁も使い慣れているからな」

 

 冗談をいう再不斬は霧隠れの術を使用して悟が周辺を隠し、それを合図にするかのように周囲で金属がぶつかる音が響く。

 

 

 

 戦闘音を聞きながらも、髪を逆立たせチャクラモードを安定させる悟は歯を食いしばる。そして

 

 

「成功だ……言うなら雷神チャクラモード……少しでも油断したら、身体が物理的に爆ぜそうだ……ぜっ」

 

(長くは保てない……! 雷、準備を!)

 

 

 全身を纏う緑の雷光は高密度の雷遁チャクラで形成されている。再不斬にも、もはやこのチャクラの壁を突き抜ける攻撃は存在しえないと思わせる程に圧倒的なその力を保ち、悟は低い姿勢になり、両手を前に着く。

 

(距離は目測1キロぐらい……スピードに『目』が追い付かないが……)

 

(大丈夫『目』は僕が用意する……マリエさん目掛けて後は……)

 

 

 

 

 

 

 突き進むだけだ

 

 

 

 

 

 霧のなか、誰にも気がつかれないで黙雷悟の目に朱い光が宿る。

 

 

 

 

 

 そして大地を蹴り飛び出た瞬間、周囲の家屋や屋台を衝撃波で吹き飛ばし霧を晴らす。

 

 あまりの衝撃に再不斬が崩れる家屋に吹き飛ばされ叩きつけられながらも叫ぶ。

 

「いけぇええ! 小僧!!」

 

 

 

 黙雷悟の視界は、辺りを認識している。超越したスピードで移動しているのにも関わらず、目は周囲を確認し目標を真っ直ぐに捉える。

 

(まるで時の流れが遅くなったかのような……それにこの目に映るものは……チャクラ(・・・・)なのか?)

 

 悟の視界に映るのはチャクラの流れ、そして色。捉える岩の巨人の胸骨の先に人型のチャクラの塊を見る。

 

(あそこに……マリエさんが……!)

 

 悟がマリエの所在を確認した瞬間に、目の前巨大なに石つぶてが降り注ぐ。

 

(土遁による自動反撃だ! 僕たちの膨大なチャクラに反応している、避けて!!)

 

「……っ……オラあああ!!」

 

 大通りを塞ぐ勢いで降り注ぐ岩の隙間を閃光のごとくすり抜け、勢いをそのままに岩の巨体へと接近する悟。

 

 岩の巨人はその巨大な腕を構え、チャクラを収束させている。手の間では巨大な立方体のブロックの様な力場が発生し、悟の目にチャクラの色を見せる。

 

(三つのチャクラの質が一つに……!? あんなのが発射されたら、里が粉微塵になるぞ!)  

 

(止めるんだ、雷!!!!)

 

 

 巨人の足元へとたどり着いた悟は大きく踏ん張る。地面を砕きながら滑り、巨人の胸元目掛け跳躍する。

 

 

(少しでも威力を……技借りるぞ、キバぁ!!)

 

 

 

 

 

 

 

「通牙ぁあああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 雷をも凌ぐその螺旋の一撃は巨人を穿ち、その巨体を少し浮かせるほど。順調に岩を砕いていたその一撃はしかし、次第に衰えを見せる。

 

 巨人が術の行使をやめ、螺旋回転する悟を両手で掴みつぶそうとしているからだ。

 

 回転は岩の手を砕きながらも、威力を削られる。

 

(このままじゃあ、威力が足りない……!)

 

 驚異的なまでの岩の再生スピードと、頑丈さ。有効な雷遁を纏った状態での突進をも受け止めるその鎧に、次第に勢いが落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

(雷……聞こえるかい)

 

 精神世界で向き合う黙雷悟どうし。

 

(ああ、何だ!! もう限界は越えてるぞっ!!)

 

(お願いがあるんだ……どうか僕の代わりにこれからもマリエさんを見守ってていて欲しい……)

 

(黙……お前何言って……)

 

(下手したら僕の存在は消えるかもしれない……だけど、君なら……雷なら未来を託せそうだ……もっと早く、君に出会い、君を信用していたら良かったって今なら思うよ……)

 

(おい、縁起でもないこと……!)

 

 

 

 

(後は頼んだよ……黙雷悟)

 

 

 

 

 

 精神世界に留まる黙は自身を構成するチャクラを使い術を発動する。目の前の黙の体が薄れるのを確認した雷は手を伸ばすが、空を切る。

 

 

 現実世界、岩の手で被い押しつぶされそうな悟を真っ青なチャクラが覆う。

 

 

「これが……僕の……今までの全てだ!!!」

 

 

 

 

 黙が発現させるその術の名は……『須佐能乎』

 

 

 

 

 

 突如として悟の周囲に現れるチャクラで出来た青色の骸骨。あばら骨の様なものが悟を守り、巨大な骨の腕が岩の腕を押し返す。

 

 悟の両目はより真紅に染まり、映す紋様は「直巴」のようにも見える。

 

 そして

 

「「っぁぁぁあああああああああああああ!!!!」」

 

 最後の力を振り絞る。身体中の筋肉は断裂し、目からも血を流す悟たちの螺旋回転は一瞬大きな輝きを見せる。

 

 

  

 

 

 

 

 お願いだ、生きて

 

 

 

 

 

 

「おかあさん」

 

 

 

 

 

 

 巨人の胸を貫通する螺旋の雷光。

 

 はるか上空へと舞い、自由落下を始めるその物体は崩れ行く青いあばら骨に覆われる。

 

 巨人から大きく離れた位置に落下し家屋に衝突した骨は砕け散る。

 

 

 

 

 

 大きく壊れた屋根の家屋の中、そこには息をする2つの命が……確かにあった。

 

 




「本当に何時かで良いの……貴方がおかあさんって呼んでくれたら……私嬉しいわ」


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59:「本当の私」中編

所謂過去編


<三人称>

 

 屋根が崩れた家屋の二階部分。パラパラと木くずが落ちる中に蠢く人の影。

 

「……っあ? どうなった……?」

 

 目や鼻から血を吹き出し、全身の筋肉もブチぶちに千切れた瀕死の黙雷悟は自身の僅かな感覚を確かめる。

 

 目も霞んでいてよく見えていないが自身が抱きしめている存在は確かに息をし、命を宿している。

 

(良かった……痛てて……よく俺生きてんな……)

 

 安心感から緊張を解く悟だがふと少し前のやり取りを思いだす。

 

(っおい!! 黙!! いるか?! マリエさんは無事だ、いるなら返事を……)

 

 もう一人の自分へと声を投げかける。精神世界には雷1人しかいない。

 

(そんな……お前も、マリエさんと話したいこととか色々あったはずだ!! 未来で出来なかったこと……やっと叶えられるのに……そんな!!!)

 

 声が響く精神世界。ただ草原に木が一本生えたその光景は雷の叫びを木霊させるだけで返事がない。

 

 悔しさか、不甲斐なさか、ただ精神世界で項垂れる雷。

 

 

 

 

(……うるさいよ、雷)

 

 ふと聞こえたその声に顔をあげる。

 

 そこには限りなく薄っすらとした体をしている黙の姿があった。

 

(っ……!!! あんなやり取りしたから心配したぞ、この野郎!!!)

 

(……いやあ、ごめん。どうやら僕はまだ死んではいけないらしい。まあ、やりたいこともまだあるし都合が良いと言えばいいんだけど……)

 

 薄っすらとしている黙は精神世界の中央の木を見つめる。

 

(本当に……仙人っていうのは何考えているのかよくわからないものだ)

 

(……ズビっ……何言ってんのお前?)

 

 黙は「さあ?」と肩をすくめ、若干泣いている雷を見つめる。

 

(君のおかげでマリエさんの暴走は止められた。でもまだ油断しないでね)

 

(そりゃあ、もちろん。マリエさんを処刑したがっている奴は、被害にお構いなくやってくるだろうからな)

 

(そうだ、それに僕ももう表には出ていられない……次に表に出てこれるのは数年を目途に見た方が良さそうだ……)

 

 そういう黙は満足そうな笑顔を浮かべて、雷へと語りかける。

 

(……あとは頼んだよ……悟)

 

(まかせろよ、相棒……!)

 

 雷の言葉に面をくらったかのような表情になる黙は1人呟く。

 

(僕にその資格はない……だからまた何時か……君に真実を話す時が来るのを待とう……)

 

(何か言ったか?)

 

(いや、何でもないそれじゃあお休み……)

 

 そう言った黙は精神世界から姿を消す。

 

 若干、泣いてしまった悟は恥ずかしさに顔を赤らめながらも現実世界へと意識を戻す。

 

 視界が霞むなか、自分たちが突っ込んだ屋根の穴を見る悟が目にしたものは。

 

 

 巨大な蛇の頭だった。

 

 

「っ俺たちを追いかけて……!」

 

 咄嗟に起き上がろうとするも全身はボロボロで立つことすらままならない。

 

「ここまで来て……死ねるものかよ!!」

 

 気力で膝をつき蛇を睨みつける悟だがもはや、僅かばかりのチャクラを練ることする出来ていない。

 

 背後のマリエを守るため、それでも手を広げ蛇の前に立ちふさがる悟。

 

 そして大蛇はその巨大な頭を持って家屋へと突撃する。

 

 

 

 

 瞬間、不意に悟の視界に影が落ちる。

 

 

 

 その後ろ姿はいつも見ていた彼女のモノであった。

 

 

 

 

「……っ塵遁・原界剥離の術」

 

 彼女の放つ光に巨大な蛇が突っ込む。

 

 するとまるで反動も衝撃もなく、蛇は見る見る内に頭から消失する。

 

 彼女の持つ両手から作り出した巨大な立方体のブロックは独特な金属音のようなものを響かせ、蛇を飲み込むように分解していく、そして。

 

 ブロックの消失と合わせ、辺りには静けさが蔓延る。遠くの方では収束しつつある戦闘音が聞こえている。

 

「っマリエさん……?」

 

 あっけに取られた悟が呟くその名に彼女は振り返る。

 

「……すまん。心配を掛けたな……」

 

 彼女の様子は歪であった。ボロボロになったエプロンを付けている普段着は肌を露出させている。そこから覗く半身はやせ細り、その片手、片足の爪の伸びようから体が示す時間の流れの歪さを感じ取る。顔や髪も半身部分がやつれているその様は正に、二つのモノをくっつけたかのようであった。

 

 

「……あんまりジッと見ないでくれ。今の姿は流石に……恥ずかしい……」

 

 

 照れて顔を赤くし、腕で隠すマリエを見る悟は涙をブワッと噴出させる。

 

「ちょっ……! 泣くな、男だろ!」

 

「だっでぇ……だっでぇ!!」

 

「ええい、仕方ない奴だ……お互いチャクラもほとんど練れないほどボロボロになっているのに……仕方ないそこのベッドで休息をとろうか」

 

 そういうマリエはフラフラとしながらも悟を抱え、半壊しているベッドに寝かせる。

 

「ふふ、昔を思い出すな……悟、お前をベッドに寝かせるのも本当に懐かしい……あんな小さかった奴が……ここま、で……グズっ」

 

 ベッドに腰かけたマリエは顔を悟から背ける。

 

「……っそんな物心あるかないかの時のことなんて引き合いに出さないでください……恥ずかしい」

 

「ふふ、そうだな。お前は本当に、よく頑張ったよ。お疲れ様……」

 

 微笑みを浮かべ涙を目に溜めるマリエは、ボロボロになっている悟の頭を撫でる。

 

「……流石に今回のことと言い、お前には私の全てを話さなければいけないようだな……」

 

「そんな……無理しなくても……」

 

「いや、お前には聞いて欲しいんだ。蒼鳥マリエという……忍びの話を」 

 

 お互いに体が満足に動かない中、蒼鳥マリエは語り始める。自身の全てを。

 

 

 

 

~~~~~~~~

<蒼鳥マリエ>

 

 

 蒼鳥マリエ3歳

 

 

 私は自我が芽生えた頃には既に戦いの最中にいた。私の本当の生まれは土の国にある岩隠れの里。私はある人物の血縁としてその力を振るっていた。

 

(なき)様……此度の戦いも良きものでした。またのご活躍を……」

 

「わかっている……」

 

 風遁、土遁、火遁の三つの性質を合わせる血継淘汰、それを使える私は固定砲台としての扱いを受けていた。血縁者は既にこの世になく、しかし別にその時はそのことに何も感じていなかった。

 

 戦いも私には日常そのものであり、術を使えば、正面にあるもの全てが塵となる。手を叩けば音が鳴るのと同じくらい、私にとっては戦いで敵を消すことは当たり前の日常となっていたのだ。

 

 従者のような忍びは私を持ち上げるように褒めたたえるが、その目に宿る恐怖は私を化け物として見ているのがよくわかった。

 

 塵遁を開発した先代土影の残した教えにより、血縁の私は「塵遁」を上手く扱えた。現土影、両天秤のオオノキよりも強く、正確に。

 

 影をも越えるその力を恐れ、人々は私を孤立させた。それでも一人だけ、唯一私に優しく話しかけてくれる忍びがいた。

 

「あら、亡また泣きそう顔ね。せっかくの可愛い顔が台無しよ?」

 

 名を『ナニガシ』と言ったそのくノ一は私に親身になってくれていた。

 

「……私に可愛さなど不要だ。戦いの糧にならない。それに泣きそうな顔などしていない」

 

「まだ3歳なのに、相変わらず硬いわね……。貴方が笑顔になってくれたら私も嬉しいんだけど……」

 

「……お前の笑顔になど興味はない。私はただ……強さだけを求められている存在だ」

 

 いつも強く彼女を否定する私は、心の中でそのやり取りを楽しんでいた。

 

 

 しかしある日……

 

 

「ナニガシがどこかのスパイの可能性があると上層部に情報が入った……これ以上奴を里においておけば……」

 

「しかし奴の存在は替えがきかない。無暗に動かせば……奴が亡様に近づいているのも我らの戦力を削るために……」

 

 ナニガシにスパイの容疑がかけられた。彼女は相当優秀な忍びだ。長期間、岩隠れに滞在していたことで彼女が本当にスパイかどうか皆が信じられていないほど。

 

 それでも私は……

 

 

「ナニガシ、貴様木ノ葉の諜報員だろう?」

 

 普段通り笑顔で語りかけてくる彼女に事実を突きつける。私は感知タイプでもある。

 

 彼女が情報をやり取りしている現場を気づかれずに押さえられるほどに優秀なのだ。まだ誰もナニガシが木ノ葉の者だと気づかぬうちにその情報を得、彼女に暴露する。

 

 瞬間、真顔になった彼女に押し倒され首元にチャクラメスがあてがわれる。

 

「……どうした? 私を殺さないのか?」

 

 彼女が腕を引けば、私は死ぬ。この空虚で無に等しい人生も……それで終わるのだ。けれど彼女は腕を震わせだけで、行為におよばない。

 

「……亡……抵抗しないの?」

 

「……してもいいが、すれば貴様は塵になるぞ?」

 

 そういい腕を構えチャクラを練る。その私の動作に対して、ナニガシは一切動じずに私に目を見る。

 

「おい、ナニガシ。本当にこのままだと……」

 

 両手の先のチャクラは収束を始め、独特な音を響かせ始める。

 

「私……もう疲れちゃったの……」

 

「何を言っている……?」

 

 彼女の目には涙が溜まっていた。

 

「こんな……誰かを害するだけの私は……生きていちゃいけないって……最近そんな考えばかりが頭を埋め尽くしているの……」

 

 彼女の言うその言葉に嘘偽りがないのは直ぐにわかる。子供ながらに、噓と賛辞に囲まれた私だからこそわかる彼女の真意。

 

「……お前はそんなんじゃないだろう! 私にいつも語りかけてくれていたお前は優しい、私が保証しよう」

 

「……ふふふっ3歳児に励まされるなんて、忍びとしても大人としても失格ね……」

 

 私は術の行使を止める。それと同時に彼女もチャクラメスを納め、力なく項垂れる。

 

「貴方に優しくしていたのも、私のただのエゴ。誰かを殺す情報を扱い続ける自分の心を保つために、ただそれだけで貴方に同情を示していたにすぎないの」

 

「……それでいいだろう……自分のことを守れるのは自分だけだ。お前が悔いる必要はない。ただ死にゆくものが弱かった、それだけだ」

 

 私の物言いに彼女は力なく笑う。普段の彼女はもっと綺麗に……美しく笑っていたのに。ただその笑顔を見たいがために私はとある提案をする。

 

 

 

~~~~~~

 

「……っこれが無様の血縁者の力……大したものじゃぜ……皆の者、この場から離れろ!!」

 

 

「「塵遁・原界剥離の術!!」」

 

 

 里で暴れる私に三代目土影・オオノキは術を放つ。塵遁は同じ塵遁でしか相殺できない。だからこそ、私が暴れれば奴が出向いてくるのも想定内だ。

 

 塵遁の扱いは私の方が上。より密度の高い塵遁がオオノキに迫る。

 

「っ土影様ぁ!!」

 

 群衆が影の心配をする。このまま押せば奴を殺すのも容易い……だが

 

 塵遁で競り合う私に、人影が迫り首を切り裂く。力なく倒れる私を抱えたその人物は

 

「っナニガシ!! 貴様! 亡様を手にかけるとは……!」

 

 がなる取り巻共に、ナニガシは一喝する。

 

「このままではオオノキ様の命が危なかった! ただ見ていたお前らと一緒にするな!」

 

 ナニガシの行為と発言は問題として取り上げられる。

 

 影への忠誠心は示した。しかし、影が負けると判断し間に割って入ったことは侮辱に値するらしい。それに私を手にかけたことも一応重罪らしくナニガシにはそれを理由にある任務を申し付けられる。

 

 木ノ葉の里への長期潜入任務。

 

 重要な情報を得られるまで、国への帰還を禁じたその任務は優秀なナニガシを飼い殺すのにちょうどいいモノだった。

 

 本当にスパイならこれ以上情報を与えずに済み、仲間ならなにか情報を得られる。

 

 そんな彼女が土の国を出るさいに、平服に身を包んだ私は彼女を路の陰で待ち伏せる。

 

「……本当に無事だったんですね亡。殺してしまったのではないかと心配しました」

 

「まあ、実質半分死んだが問題ない。私の分裂の術も役に立つものだな」

 

 分裂の術……無が使ったとされる己を分割するその術は塵遁にカテゴライズされる。自身を分子レベルで分かち2つに増やすのだ、まさに塵遁の応用と言ったところ。オオノキはそこまで塵遁を得る(・・)ことは出来なかったようだが、血縁の私には問題なく使える。

 

 分裂の片方を犠牲に、私は地中へと避難したのだ。分裂体は最低限の機能のみを割り振った血と肉で出来た人形みたいなもの、私の力はかなり弱まるが長い目でみればいづれ元に戻る。死体を調べても私が死んだという情報しか得られないだろう。

 

 そうして私はナニガシと共に岩の国を出た。

 

 ナニガシと私は……笑っていた。

 



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60:「本当の私」後編

<蒼鳥マリエ>

 

 それなりの旅路をへて、ナニガシと私は火の国へと入る。第一印象は……緑が豊か……それぐらいだったか。

 

「ナニガシ……ここがお前の故郷か?」

 

「ええまあ……何か思うことでも、亡?」

 

「いや、それは私が聞きたいぐらいなのだがまあいい……」

 

 ナニガシの顔の曇りは幾分か晴れている。私は別に岩の国に思い入れはないが、故郷への思いは人それぞれなのだろう。彼女の笑顔が明るければ私もそれでいい。

 

「亡……ここから先はナニガシという名は使わないわ。私のことは『薬師ノノウ』……そう呼んで頂戴」

 

「なるほど、それがお前の本当の名か? まあ、いずれにしても私も名を変えねばなるまいな……」

 

 兵器としてではない、私の名前……、ふむ存外思いつかないものだな。

 

「ナニg……いや、ノノウ。私の名前も考えてくれ」

 

「あら、私が考えても良いの? 貴方我が強そうだからてっきり……」

 

「フンッ別にこだわり何てない。……お前が付けてくれるならそれでいい」

 

 そういうと移動の馬車の中で彼女は楽しそうに私の名前を考えてくれていた。……親が居れば、こんなやりとりも日常だったのか……?

 

「青い鳥……そうね、貴方は『蒼鳥マリエ』。どう? 良い名前じゃない?」

 

「自分で良いと判断するのか……いや別に構わないが、どうしてそういう名前になった? 空を見上げていたが、別に青い鳥なんて飛んでいなかったぞ。ついに幻覚でも……」

 

「ついにとは失礼ね。あなたには青い空に羽ばたく鳥のように自由に生きて欲しいって思ってね、マリエっていうのは貴方性格キツイから少しでも優しそうな名前にしてあげようかなと……」

 

「……ノノウ、お前も大概失礼だ……。まあ、名前はそれでいい、使い続ければいずれ慣れるだろう」

 

「……慣れるだろうって……せっかく考えたんだからもう少し嬉しそうにして欲しいわ~」

 

 ……この時はそういう感情表現をしたことがなかったから、つい強がってしまった。

 

 

 そして

 

 

 

「ここは木ノ葉の里から少し離れているけど、私が昔お世話になってた孤児院なの。今日からあなたもここの一員よマリエ」

 

「ここが……?」

 

 随分とぼろぼろで、森の中に佇むその施設は元々私がいた屋敷に比べれば貧富の差は歴然だった。……まあ、趣があって良いと言えばいいか。

 

「ノノウ! お帰りっ! 貴方が戻ってきてくれるなんて……」

 

「マザーただいま! 手紙に書いた通りなのだけど、この子が……」

 

 年老いた女性がノノウを出迎える。ノノウの表情から見て、大切な存在なのだろう。

 

「蒼鳥マリエだ……です。よろしく頼む……じゃなくて頼みます」

 

 第一印象というのは大事らしい。私の性格はキツイらしいので丁寧な言葉を使いたいが……存外難しかった。……笑うなノノウ。

 

 そうしてしばらく私はこの施設で厄介になることになった。

 

 色々とボロが来ているその施設を私の土遁で直してやったりもした。

 

「小さいのにここまでの……マリエちゃんはすごいのね~」

 

「別に……いや、そこまで……じゃなくて……普通だ……です」

 

 ノノウにマザーと呼ばれていたこの女性はいつも笑顔を絶やさなかった。貧しいだろうに、孤児など抱えて。厄介になっている私が言うのもあれだがお人好しとは彼女のためにある言葉のようだ。

 

 仕方ない……私もやれるだけのことはしよう。

 

 

 その後二年を施設で過ごし、私も少しは彼女らのお人好しが移った頃。

 

 

「マリエ貴方アカデミーに行くってホント!?」

 

「ああ、そうだ。私が木ノ葉の忍びになればそれで稼ぎも得られるだろう。ノノウ、いちいちお前が心配することじゃない」

 

「だけど、それだと貴方また戦いに……」

 

「ふん……気にするな。私にとっては、文字通り呼吸と同じ……容易いことだ。幸い入学金やその他諸々、成績が優秀なら待遇も良いようだ。金の心配ならいらない」

 

「お金の問題じゃ……!」

 

「いや、金の問題だ。マザーの体調も最近すぐれない、誰かがやらねばならぬなら私がやるまでだ。戦時中とはいえ、お前の忍び相手の医療行為で得る金にも限度がある」

 

「……っわかったわ……でも無茶だけはしないでね……絶対!!」

 

「ふふっ、もちろんだ」

 

 無茶をしているのは貴方だろう、ノノウ……最近の貴方は笑えていない。

 

 

~~~~~~

 

 アカデミーの入学式。

 

 ノノウと共にアカデミー前に来ていた私はふと視線を感じて振り返る。

 

「ノノウさんどうも、うちの子がこれからアカデミーでお世話になります。その子はノノウさんの?」

 

「ええ、うちの施設の子なんですけど……。そちらはサクモさんのお子さんですか?」

 

 大人同士で世間話をし始める。つまりは子ども同士でも話をしろということか……。

 

「ああ~……貴様……じゃなくてお前は……その……つ、強いか?」

 

「ナニその話題と話し方……まあ、父さんほどじゃないけど俺もそこそこやれる自信があるよ」

 

 ……なんだろうか、この白髪のガキ……いや同い年か……スカしていて気に食わないな。

 

「そうか、私は蒼鳥マリエ。……お前よりかは強い自信がある」

 

「……俺ははたけカカシ。何となくだけどお前、会話苦手でしょ……」

 

 ノノウとサクモとかいう人の会話は幾分か盛り上がっている。ん? ……変な服装の二人組が……。

 

「あ、初めまして……そちらも子供がアカデミーでご一緒になるんですか? ぜひうちのこと仲良く……」

 

 よくあんな格好の人間に自分から話しかけれるな……。はたけサクモ、穏やかなのに随分と勇気がある。

 

「イヤ、それは無理ですな!」

 

 サクモ……さんの言葉かけを一蹴する濃い人物。失礼な奴だな、サクモさんもモンスターペアレントかと焦っているではないか……そこまで動揺することか?

 

「父さん、今回こいつはアカデミー試験に落ちたの。忍術もろくに使えないようだから当然だね」

 

 変な格好の親はカカシの指摘にガハハっと自分の子が落ちたことを認める……。カカシもどうやらその息子に将来性を無いとふんでいる様だ。まあ、弱い奴が戦場に出れば死ぬ。それだけだ。

 

「良かったな……太眉、下手に受からなくて。弱い奴は大人しくしているのが一番だ」

 

 私も一応、子どもの方に声をかけてやる。慰めてやるのもやぶさかではない。

 

「……まさかだと思うけど、それで励ましてるつもり?」

 

 カカシがいちゃもんを付けてくる。どういう意味だ?

 

「はたけカカシに……蒼鳥マリエだったな! 応援ありがとぉうっ!」

 

「……は?」

 

 ほら見ろ、私の励ましは届いたぞ、なんだその不服そうな顔は。

 

「……なにそのドヤ顔……マリエもこいつもずれてる奴ばかりだな……」

 

 呆れるカカシを無視して、いい加減にアカデミーへと足を向ける。

 

「マリエ! ちょっと待ちなさい!」

 

 まあ、弱いこいつらとの関わり何て持つだけ無駄だ。

 

~~~~~~

 

 アカデミーでは初歩的な忍術や体術ばかりを学んだ。今更感拭えないが、実力を示せば待遇が良くなるならやらない訳にもいかないだろう。

 

「すごーい! マリエさんって強いんだねぇ!」

 

 ある日組手でカカシを負かしてやると、女子が1人話しかけてくる。

 

「……お前は?」

 

「あ、ごめんね! 私のはらリンっていいます! マリエさんすごいよ、カカシ君もすごい強いのにすごい!」

 

 すごいばかり言うこの女子は私のことを知っているらしい、なら自己紹介は省こう……苦手だからとかじゃない、決して。

 

「別に大したことじゃない……だがスカしたカカシの奴が悔しがる顔が見ものだからな、相手をするのも悪くない」

 

 そういう私に突っかかってくる男子が1人。

 

「けっ!! そうやってスカしやがってのはお前もだろ! てめぇ俺と勝負しろ、勝てば実質カカシに勝ったも当然だ!」

 

 ……うんざりだな……あの変な格好したマイト・ガイとかいう補欠合格の奴と言いこいつ、「うちはオビト」といい弱い奴はなぜこうも突っかかってくるのか……。

 

「なら賭けだ。私が勝てば貴様の昼飯を頂く」

 

「なっ!? 何でだよぉ!」

 

「嫌なら私は組手をしない」

 

「オビトやめときなよ、マリエさん強いよ?」

 

「うっせー! 強い奴から逃げるなんてダッセーことできっか! 良いぜ勝負だマリエ!!」

 

 

~~~~~~

 

 

「ふむ、この鶏肉は美味だ……悪くない」

 

 オビトの弁当をかっさらい頂く私。

 

「うううぅぅぅっぐぞおおおぉぉぉぉ……」

 

 負けてボロボロになったオビトに声をかける奴らはお情けで自分たちの弁当を分けてやっている……。

 

「オビト……私のお昼分けてあげるから……泣かないで……ね?」

 

「オビト、お前がマリエに勝てるわけないだろ、俺でもまだ勝てないのに……たくしょうがない奴だね」

 

「どうしたぁ?! オビトぉ泣いているのか! なら俺の青春のこもった弁当を分けてやろう!!」

 

 ……なんだろうか。別に羨ましいとかそういうのじゃないが……

 

  

 

 

 そこには私に足りないものがあるように見えた。目も眩むほどに、眩い何かが……。

 

 

 

 全く……仕方がない。

 

「まるで私が悪者みたいじゃないか……ほら弁当返してやる」

 

「ううう……グズっ……っておかず全部食ってんじゃねーか!? 白飯だけ残すなよぉ!」

 

 ふふ……面白い奴だ。

 

 

~~~~~~

 

 

 アカデミーで一年も経てば私の実力なら、飛び級で卒業するのも容易かった。

 

「ほお、カカシ。お前も同じタイミングで卒業か。私の評価はカカシと同列か、いささか不服だな」

 

「……相変わらずの嫌味だね。ちょっとは丸くなったと思ったけどお前本当ヤナ奴だな……」

 

 アカデミーで同期達だった奴らは私たちに賛辞を贈る。

 

 三代目の息子や、そいつに惚れている節がある奴。他にもアカデミーに残る奴らは……名残惜しそうにする。

 

 別に今生の別れという訳でもあるまいし……。

 

「マリエさん! ……私たちも直ぐにあなたに追いつくから! 先に頑張っててね!」

 

「マリエ! 勝ち逃げなんて許さないからな、覚えてろよ! 俺も写輪眼さえあれば……」

 

 

 ……フン。下忍など私にとっては通過点にすぎない、別に喜ばしい事でも……。

 

 

 

 施設に帰れば、ノノウが私を出迎える。

 

「卒業おめでとうマリエ! 今日は夕飯豪華にするわね」

 

「別にいらない……祝い事だと思うなら鶏肉料理にしてくれ、それで十分だ」

 

「……何か良いことでもあった? 貴方ちょっと笑顔に」

 

「うるさい、余計なことを言うな」

 

 あいつらとの繋がりは……存外……楽……しいのかもしれない、よくわからないが。

 

 

~~~~~~

 

 

 翌年6歳になった私は既に中忍として活動していた。里も財政が苦しいのかあまり稼ぎは良くなかったが、まあないよりはましだ……。

 

 カカシの奴も私と同じく中忍なっていたようだ。

 

「いちいち私の目の前に来る奴だなカカシ。狙ってやっているのか?」

 

「……さあね。オビトじゃないけど、俺としてもマリエに負けっぱなしなのは嫌だからね。それに何だかお前のことはほっとけない感じもするし、主に危なっかしい感じで」

 

「私はお前より強い、無用な心配だな」

 

「へいへいそうですねっと」

 

「……まあなんだ、気持ちだけは受け取っておいてやろう」

 

 

 

 

 ……なんだその顔は……相変わらずムカつく奴だ……ふふっ。

 

 

~~~~~~

 

 

 さらに一年後事件は起きた。

 

 

「カカシ!!」

 

 雨降る中、慰霊碑の前に佇むカカシ。その目は暗く、光など微塵も宿していなかった。

 

「……探したぞ、こんなところで何をしている」

 

「……マリエ……何の用?」

 

「別に……ようなどない……ただ……お前が心配で……」

 

「ははっ……マリエでも人の心配ができるんだな、意外だよ……」

 

「っ……! カカシ、取りあえず家に来い!」

 

 このまま放っておけば今にこいつは私の視界から消えてしまいそうで不安だった。……いつも勝手に視界に入っていたのに勝手に消えるなんて許さない……!

 

 

 

 

 

 

「マザーっ客だ! 勝手に風呂に入れるぞ!」

 

「あら、マリエ……とカカシ君いらっしゃい……遠慮なんてしなくていいから……ゆっくりしていってね……」

 

 ノノウはマザーと呼ばれるようになっていた。だから私も彼女をマザーと呼ぶようになっていた……人は何時か死ぬ。それが悲しいことだとつい最近私も知った。だからこそカカシの奴を放っては置けなかった。

 

 カカシを風呂に叩き込み、私はマザーの夕飯の支度を手伝う。

 

「サクモさん……自殺したって……」

 

「ああ……彼は尊敬できる人物だった……なのにっ!」

 

「マリエ……」

 

 マザーは私を心配するが、それは私には無用だ。

 

「……私がなってやる……」

 

「えっ?」

 

「私が火影になって、腐った奴らを塵に還してやる……! それでカカシの奴のにやけた笑顔を取り戻す……!」

 

「マリエ……」

 

 外の雨は止んだが……カカシの心に振る雫は止むことはなかった。

 

 

~~~~~~

 

時は経ち12歳。

 

 私は三代目火影直属の暗部に就任した。

 

「はいマリエさん! 私からのプレゼント!」

 

 澄み渡った快晴の中、リンは私に暗部就任祝いを手渡す。……暗部就任を祝うのも変な話だが。

 

「これは……仮面?」

 

 渡されたそれは、白地の仮面。模様も何もない無垢な仮面であった。

 

「ほら! 暗部の人たちって色々なお面付けてるでしょ! だからマリエさんにもお面がいるかなって思って」

 

「言いにくいんだが……暗部の面は里から支給されるんだ……だから」

 

 いやこういうのは無粋と言う奴だな。

 

「いや……ありがとうリン。大切に使わせて貰うよ」

 

「……! えへへ、どういたしまして!」

 

 全くリンはいつも抜けている……だがそれがこいつの良い所でもある。それに、これでいて周りに気を配れるいい奴だ。

 

「……ほらオビトも!」

 

「……おいマリエ! 忍び組手で勝負だ!!」

 

「なんでそうなる……」

 

 

 

 呆れる私はオビトを一蹴する。他愛もない。

 

 

 

「クソぉ! 何で勝てないんだ!」

 

「諦めろ、ガイと言いお前と言い、もう少し実のあることに時間を使え」

 

「ちっ……フン、ほらよ」

 

 尻もちをつくオビトが私に小袋を投げ渡す。

 

「……これは?」

 

「うちは特製レシピの丸薬……俺様に勝ったからくれてやるよ!」

 

「もう、オビトったら素直じゃないんだからぁ……」

 

 リンに抱え起こされているオビトは照れくさそうにしている。

 

「……まあ、貰って無駄になるものじゃないな。……ありがとう」

 

 私をお礼を言うと二人はじっと私の顔を見てくる。

 

 

 

 

 

 

 ……おい、何だその意外だ、みたいな顔は。

 

「お前ってそんな顔できたんだな……」

 

「そんな顔とはなんだ! 貴様、バカにしているのか!!」

 

「ああ、ごめんごめん!! いやあ~あのマリエも笑顔の1つや2つ……ぶふっwww」

 

「オビトっ!! マリエさんに失礼だよぉ!!」

 

「……っ折檻だ! 覚悟しろ貴様ぁ!!」

 

 

 確かカカシの奴は上忍になったようだ。サクモさんと同じ上忍に……あいつ……思いつめてなければいいが……。

 

 

~~~~~~

 

 

「あら~! マリエ!じゃない、貴方こんな雑貨屋にくる娘じゃなかったでしょ? どうかしたの?」

 

「っ……別に……私がどこで何を買おうが自由でしょ、クシナさん」

 

 紅の髪をたなびかせる元気のいい彼女は、カカシたちを率いる波風ミナトの奥さんだ。……私はこの人の相手は苦手だ。

 

「いいじゃない、いいじゃない見せてってばね! 何買ってるの~?」

 

「ええい、寄るな!!」

 

 この人からは逃げるが勝ちだ、さっさと会計を済ませて急ぎ足でその場から離れる。

 

 

 

 

 

「ねえ見せてよ~」

 

「ぜえ……ぜえ……シツコイ……っ」

 

 里を数周したのにこの人は……バテる素振りすら見せない。

 

「あら~可愛いアップリケの小布じゃない! なになに? 誰か意中の男の子でもいるの~? お姉さんに相談してみなさいってばね!」

 

「違う……ただ……何となくだ……」

 

「もう~意地っ張りなんだから~」

 

 何でこうも私に構ってくるのか……私は別にミナト班とは関係ないのに……。

 

 久しぶりに疲れた……任務でもこうはバテないぞ……まったく。

 

 息を整えていると、クシナさんは私の顔をじっと見てくる。

 

「何ですか……人の顔をじっと見て……」

 

「いやぁね? 貴方も随分と良い顔をするようになったって思ったの」

 

「……顔? 別に何も変わりはしませんよ……流石に目上の人への口調は少し変えましたが」

 

「そうね! 前はもっとムッス~ってしてて何時も怒ってる感じだったから、今の方が良い感じよ!」

 

 ……話が微妙にかみ合わんな。私が石に腰かけていると、クシナさんも隣に座ってくる。

 

「貴方のこと……ちょっとだけミナトから聞いていたの。すごい優秀なくノ一がいるって」

 

「まあ、私は優秀ですから……」

 

「ふふっ貴方……火影になりたいんですって?」

 

「……他里から来た人間が言うのはおかしいですか?」

 

「別に? 私も同じ境遇だったから何となく気持ちが分かるかな~って思ってただけ!」

 

「……クシナさんも火影に?」

 

「ええ、昔は目指していたわ……今は、火影になる人を支えるって夢になってるけどね~!」

 

 体をクネクネ動かす彼女の動きの多さは、見ていて疲れる……。

 

「私は貴方のこと応援してるから! 気張りなさいってばね!!」

 

 両腕でグッとガッツポーズをする彼女の笑顔はとても眩しかった。

 

 豪傑な方だな……ふふ。

 

 

~~~~~~

 

 

 今の生活は悪くない。戦争も過熱しているが、私の周りには私を見てくれる人たちがいた。亡だった頃では想像もできないほど、多くの同期、同僚、そして里の人々と繋がりを持てた。

 

 別に全てが好調だとは言わない。この木ノ葉も、サクモさんを追い詰める闇の部分はあるし、カカシもあれ以来全く笑っていない。マザーも激化する戦争を心配して、医療行為に専念している。施設に帰ることは少なくなったが、たまに顔を見せるとマザーは喜んでくれた。ノノウの笑顔を見ると私も嬉しくなる。

 

 だからこそ、カカシにも笑顔になって欲しい……そう思っていた

 

 

 

 

 

 

 

のに

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 知らせが届く。

 

「オビトが戦死した……だと?」

 

 神那毘橋へと赴く彼らミナト班を、私は任務の合間を縫ってクシナさんと見送りをした。その時もあいつは、相変わらずバカで……それでいて笑顔で……笑顔で……

 

 

 もう……あの顔を見れないのか?

 

 

「そんな……なんでっ……なん……でっ……」

 

 私が力なく項垂れるのをそばにいたクシナさんはひたすら背中をさすってくれていた。彼女も苦しいはずなのにだ。

 

 子供ができたら、オビトみたいな明るく元気に育って欲しいって言うぐらいに……あいつのことを気に入っていた。

 

 岩隠れ……私の故郷の人間共と戦い……っ

 

 

 

 

 

 

「気をしっかりもてマリエ」

 

「っすみません、三代目」

 

 三代目の護衛についているときにも、私の頭は常に冷静さを欠いていた。

 

「……どうした、何かあるならワシに話して見ろ」

 

 三代目がそう優しく語りかけてくれ、私の心の声が漏れ出る。

 

「同期が……仲間が死にました……神那毘橋で……私は、誰かを殺すことなんて造作もないことだと……っ思っていたのに……オビトが死んで……こんなにも辛いと思うなんて……」

 

「……」

 

 三代目はじっと私を見つめる。

 

「私が今までしてきたことは……こんなにも辛い思いを誰かに……強いることだと思うと……急に怖くなってしまい……っ」

 

 命なんて拍手で散る花びらのごとく、儚くどうでもいいものだと思っていた。その価値観は岩隠れにいた頃から成長せず、大切な仲間を失って初めて現実を突きつけられ気づく。

 

「ふむ……お主の考えもわかる……だがそうも言ってはおれんのも自覚している。だから苦しい……そうじゃな?」

 

「……はい」

 

「……心の問題とはこれ、やっかい。ワシでも未だに悩みの種だ……。だがそれに気づけたことは何も悪い事だけではあるまい」

 

「……?」

 

「守る大切さも、同時に身に染みたはずだ。……我々の行いは醜いものだ、決して正しいとは言えん。だが結果がどうであれ、その間に持つ志だけはしっかりと見据えておかなければ……我々忍びは人ではなくなる……それは忘れるでないぞ」

 

「はい……承知……しました」

 

「では、お主についでに教えておこう。……未来を担う新しき火影についてな……その護衛役、しっかりと務めるのだ」

 

 

~~~~~~

 

 

 時代は進む。戦争が終戦を迎え、新時代を切り開く四代目火影波風ミナトの護衛として私も新たな歩みを進めた。

 

 ミナトさん……いや、火影様は強い。私が勝てないと悟る人間はそう多くないが、間違いなく彼には勝てない。だからこそ安心して、この里を任せられるというものだ。

 

 考えは少し、柔らかすぎるように感じるが……あのクシナさんがいるのだ。皆が支え合い、平和へと向かっている。

 

 

 

「あら、マリエおかえりなさい。随分と久しぶりね?」

 

「ただいま、マザー。ちょっとだけ休暇が貰えたから、帰ってきた」

 

 久しぶりにあうマザーは少しやつれたか? 戦争の残り火が生む孤児たちを助けるため彼女は日々奮闘している。私も必要最低限の分を残し、残りの稼ぎを施設に送っているが人数も増え厳しいようだ。

 

 

「? 初めて見る奴がいるな」

 

「あらカブトのこと? つい最近施設に来たのよ」

 

「へぇ……おいカブト」

 

「えっ……?」

 

 私がカブトという名の少年に声をかけると、ビクッと体を跳ね上げさせこちらを振り向く。

 

「……なんだそんなにも驚かなくてもいいだろ」

 

「マリエは声のかけ方が粗暴なのよ。ごめんなさいね、カブト。この人は蒼鳥マリエ、この施設での所謂先輩よ」

 

「……っうん……始めまして」

 

 随分と内気な奴だ……それも仕方ないのだろう。私はカブトの肩に腕をかけ話しかける。

 

「慣れない環境は辛いだろうな。だが安心しろ、マザーはお人好しだ。十分に甘えろ」

 

「っひぃ……」

 

「ちょっマリエ、貴方色々雑よ!」

 

「カブトって名前もマザーからもらったものだろ? 私とお揃いだな。精々大切にすると良い」

 

「……あら、良く分かったわね私が名前つけたって」

 

「……お前は昔から何かと雑だったからな。……人のことは言えんぞ」

 

 元忍びの癖して、マザーは色々と雑なところが目立つ。……主に家事。

 

 まあ、今日は後輩の為にも私が家事を頑張ろうか。

 

「マリエ、貴方失礼な事考えていない……? そいえば最近貴方の名前を良く聞くわね、もちろん『雑だ』という方面でね」

 

「……私も最近は『国落とし』なぞと呼ばれて、名をはせてしまって忙しいなあ。実際にやっていないことを二つ名にされても困るのだが……」

 

「貴方のあの岩の巨人は目立つのよ……」

 

 仕方あるまい。塵遁は使う訳には行かないのだ。ゴリ押すなら土遁に限る。

 

 さて新入りに挨拶もすましたことだ、とっとと家事でも…。

 

「……おいカブト、お前目が悪いのか?」

 

 肩を組む距離で狼狽えているカブトを観察すると、目線が定まっているようには見えない。離れた位置にいるマザーを目を凝らして見ているようだ、助けを求めるような視線で。

 

「……ちょっと借りるぞ」

 

「わっちょ、マリエ?!」

 

 マザーのつける眼鏡をかっさらいカブトにかけてやる。

 

「どうだ、これで見えるだろう?」

 

「えっと……はい……」

 

 私の読みは当たったらしい。

 

「あら、ならカブトはその眼鏡をかけてて頂戴」

 

「え、いいんですか……?」

 

「マザーなら問題ない、チャクラを弄れば多少の融通ぐらいきくだろう。こと戦闘をするわけでもあるまいし」

 

 カブトはそういっている私の腰元を見ている。

 

「あの……マリエさん、は忍び……なんですか?」

 

 ああ、話の流れと腰にぶら下げているリンから貰った仮面を見て気になったのか。

 

「そうだ、聞きたいことでもあるのか?」

 

「えっと……怖くないんですか?」

 

「はははっ忍びをやるのがか? そうだな、全然……」

 

 怖くない……と以前までは思っていた。だが今は……。

 

「マリエ? 大丈夫?」

 

 固まってしまった私にマザーが心配して声をかけてくる。いかんな……最近調子が良くない……。

 

「いや、何でもない。忍びをやるのも施設のための仕事だからだ。カブトも大きくなったら、何かマザーの役に立ってやるといい」

 

「……はい!」

 

 取りあえず年上として当たり障りのないことを言って誤魔化し、私は施設の様子を見て回ることにした。

 

 

 

 

 

 ……ガタが来ているな。

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 あくる日、リンが主催で同期を集めた食事会が開かれた。……始めは行く気はなかったが、火影様の命令なら仕方ない。カカシの奴は相変わらず、笑顔を見せない。……いや、私も元気はあまりでなかったので人のことは言えないか。会場まで、カカシを煽って競争をしたがあいつは最近鈍っている様だ。スピードで私に負けていては話にならないだろう。

 

 アスマの悪戯で、ガイが酒を飲み手が付けられなくなった。かなり悪酔いするたちなのだろう、店の外に引きずり出すと手をクイっとして挑発してきたのでボコボコにしてやった。……なに、ガイなら問題ないタフだからな。私に何度も勝負を挑んでくるぐらいだし。

 

 

 リンとカカシが気の毒そうな顔で止めに来るまでしごいてやった。……ガイが泣いている? いつもの男泣きと言う奴ではないのか?

 

 

 何はともあれ、彼ら仲間が居れば私もそれでいいと思えるようになってきた。……恥ずかしくて誰にも言えないが。カカシも私たちが一緒にいさえすれば……いずれ。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 なぜだ?

 

 

 

 なんで……

 

 

 

 どうして?

 

 

 

 視点が定まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 最近、木ノ葉の忍びが失踪する事件が起きていた。平和の波がゆっくりと来ている中での不穏な空気。

 

 火影様は別件で里から、離れていた。そんな私に舞い込む情報。

 

 

「のはらリンが霧隠れにさらわれた」

 

 カカシとリンは別の班との任務により、別行動を取っていた。だからって何でリンが……!

 

 

 情報を聞きつけたカカシと私は里を飛び出していた。

 

 

 カカシとは別行動で、雷雨が降る森の中ひたすらに彼女の痕跡を探した。

 

 情報を持って帰ってきた忍びの証言を聞き私たちは、霧隠れの隠れ家を見つけリンを助け出す。

 

 ただ敵の数は多く、カカシとリンを逃がすために私は殿を務める。その時の私は湧き出る怒りを抑えられなかった……。

 

「土遁・岩状鎧武!!」

 

 土遁で形成した巨人で隠れ家周辺を更地にする。

 

 

 ひたすらに潰して潰して潰して…………潰して。

 

 

 気がつけば私は意識を失くしていた。

 

 

 雨が降る中、岩状鎧武で踏み鳴らされた土地で意識を取り戻す。

 

 

「……っ頭が割れそうだ……!」

 

 

 頭の中で何か、自分とは別の意思が蠢くような感覚を覚えながらも当初の目的を思い出す。

 

 

「っリン……カカシ……!」

 

 

 感知能力を働かせ何とか2人を探す。大丈夫だ……カカシがついている、万が一もあるはずがない……。

 

 

 あるはずないんだ……お願いだ……。

 

 

 私の勘違いで……調子が悪いだけだ……そうだそうに決まっている……。

 

 

 感知できるチャクラが1つだけなんて……っ

 

 

 嘘だ嘘だ嘘だっ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血の海が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで横たわるカカシとリン。

 

 

 

 多くの霧隠の忍びの死体が辺りに転がっていた。

 

 

 呼吸が定まらない、リンに近ずくにつれ手が足が、身体全体が震える。

 

 

 リンの居る血だまりに膝を突き、彼女を見ると左胸には穴が開いている。

 

  

 ……なんで……?

 

 

 彼女は死んでいる?

 

 

 なぜ私は、こんなにも……苦しんでいる?

 

 

 なぜだ、なぜだなぜだ!!!!

 

 

 心があるからなのか?

 

 

 皆に……出会わなければ……マザーと……ノノウと岩隠れを出なければ……こんな痛みを知らずに平気でいられたのか?

 

 

 繋がりがあるから……?

 

 

 頭の中のもう一つの意思が小さくはっきりと呟く

 

 

『こんな世界は間違っている』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、木ノ葉の里にいた。どうやらカカシと、リンを抱えて戻っていたらしい。流石私だな。

 

 

「どうした? ガイ、なぜ泣いている?」

 

 

 いつも通り挑んで来ないのか?

 

 

「アスマ、何時も見たいに調子に乗らないのか?」

 

 

 何やかんや、悪戯好きな奴だ。

 

 

「紅、そんなに泣いたら折角の美人がもったいない」

 

 

 同期でも抜群に綺麗な奴だ、私に化粧を勧めてくれた。

 

 

 ……? みんなどうして私をそんなにも気の毒そうな顔で見るんだ?

 

 

 私は元気だ。何も問題ない。何も問題ない。何も問題ない。

 

 

 体はどこも傷ついていない。そう、あいつらに比べれば平気だ。オビトは半身岩に潰されたらし、い、リンは胸をつら……ぬ……?

 

 

 

 違う、そんな世界はない

 

 

 

 ……アハハハハハハハハハハっ!

 

 

 ああ大好き、皆大好きだ!!

 

 

 だからせめて大好きなみんなが死んでしまうその前に私の手で

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を塵に

 

 

 

 

 

 

 

「マリエ!!!」

 

 誰かが私を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 息苦しい……?

 

 

 何かが顔を覆っている。視界が効かない。身体も自由に動かせない……。

 

 

 誰かの話声が聞こえる。

 

 

 ……記憶があいまいだ……頭が痛い……何も思い出したくない……

 

 

 

「……声は聞こえるか?」

 

 

 

 聞いたことのない男の声が語りかけてくる。

 

 

「……っあ……?」

 

 

 返事をしようとも体が上手く動かない。口が半開きで、舌も垂れ涎が顔を覆う布に吸われる。

 

 

「色々と薬を使わせてもらったが、意識があるなら問題ない」

 

 

「うあ……?」

 

 

「貴様は、はたけカカシ、のはらリンを回収したのちに単独で霧隠れへの報復を決行した……その記憶はあるか?」

 

 

「…………っぅあ?」

 

 

「ふむ……既に壊れているか……情報を聞き出せるかと思ったが……」

 

 

 この男は……何者だ? ここはどこだ? 私は……?

 

 

「単独で誘き寄せる事には成功したが、これでは血継淘汰の情報は引き出せないな……仕方あるまい実験素体として使うしかあるまいか」

 

 

 私は……私は……私はっ

 

 

「っ……お、まえは、だれ……だ……なに、を?」

 

「ほう、その状態で……発作を起こして正気を失くしたと報告ではあったが……今は壊れている部分を認識できていないだけか、都合が良い」

 

「……なに……をしっ、てい、る」

 

「色々だ。貴様が岩隠れで亡という名で兵器として運用されていたこと。血継淘汰には他者に伝授する方法(・・・・・・・・・)があること」

 

「……しら、ない……」

 

「いや知っているはずだ。貴様は先代土影の血縁者で、淘汰の秘伝を受けていたはずだそうだな……

 

 

 

 

 

 

 

そうノノウの報告にあった」

 

 

 

「っあ……?」

 

「貴様はノノウに売られたのだ、哀れだな『国落とし』よ」

 

 こいつは何を言っている……? マザーがノノウが……

 

 

 ナニガシが私を…………?

 

 

「……霧隠れの連中がコソコソ動き回るのを、幾つか素材を提供してやって引かせていたらまさかその素材で尾獣を送りつけてくるとはな……上手くいけば尾獣が手に入ったものを、本当に余計なことをしてくれたな、はたけカカシもお前も」

 

 男のため息が聞こえる。

 

「所詮は、ヒルゼンの手の内のモノ……ということか。仲間だの、火の意思だのとのたまい闇に触れる覚悟すらない」

 

 頭の中で何かが蠢く……

 

「……っううう! ぁうっああ!」

 

「潮時か……おい、眠らせろ。後はこいつの血肉で実験を……」

 

「っ! 報告します、四代目火影がこの場所をかぎつけたようです」

 

「まさかこうも動きが早いとは……さては予見していたな、ミナトめ。どうやらヒルゼンの系列にしては頭がキレるらしい。仕方があるまい、ここは廃棄だ撤収する」

 

「良いのですか、せっかくこの娘を捕らえたのに……」

 

「問題あるまい。最低限のサンプルは幾つか取ってある、後はどうとでもなろう。なに……こ奴をヒルゼンの元へ贈るのも一興というものだ、ふふふ……」

 

 カツカツ歩く音が響いた後に、男は気配を消す。

 

 頭が冴えてくると、段々と正気が削れていく。現実を認識すると痛みが増していく。

 

「っああああああ! うわあああっ!!」

 

 思い出すな思い出すなっ!!

 

「っマリエ! 無事かい?!」

 

 聞き馴染んだ声が私の名を呼んだ瞬間、意識が途絶えた。

 

 

~~~~~~

 

 

 気がついた私の意識は朦朧としていた。目を開けているはずなのに、視界の情報を頭が処理しない。私は……椅子に座っている……?

 

「三代目……まさかこのような事態になるとは……」

 

「……マリエが、カカシを連れて来たときには様子が変だと目撃情報があった。支離滅裂な言動の後に、『霧隠れを塵に還す』と言い残して里を出たと……。その後奇襲に会い『根』に囚われてしもうたか……」

 

 だれだっけ……この2人は……?

 

「……実際、この時期に他里へ報復行為に出るのは問題があるとは思います。しかし、マリエがこんな仕打ちを受けるいわれはないはずです……!」

 

「あやつの考えを甘く見ていたのか、ワシらが甘いのか……。いずれにしてもマリエをどうにかせねばなるまい……、定期的に発作を起こしているようだが何か抑える手立ては……」

 

「僕に……考えがあります。里内にある建物に、クシナの封印術を施した一室を用意して彼女をそこに住まわせるのです。ただマリエの意識の全般を深層に押し込める術のため、到底1人で生きていくことは……」

 

「……保護者には……頼れんか……名前を出した瞬間、発作を起こす。マリエの様子を見に来た時は手が付けられなくなる寸前だったと聞いておる」

 

「ええ、何かしら情報を刷り込まれた可能性があります。……早速僕はクシナと準備を進めます」

 

「あいわかった……。建物はワシが確保しよう、カモフラージュの手立てはこちらで手配する」

 

「ありがとうございます、三代目。では」

 

 

 男の気配が1つ消え、隅にいたもう1人の男が喋り始める。

 

 

「三代目、マリエはどうなるんですか?」

 

 カカシ……?

 

「……聞いていたとおりだ。何とか生かしてやることは出来るが到底まともな状態では過ごせんじゃろうて……。何とか出来るのは……マリエの友であるカカシ、お前かその仲間たち。あるいは……また別の何かかもしれぬ」

 

 カカシが私の前に来る。

 

「……仲間の為なら、俺は何だってします……オビトが残した目を持つ以上、俺には……この先を見続ける責任がある」

 

「……お、び……と?」

 

「……今日はお休みだマリエ。俺の……目を見てくれ」

 

 綺麗な朱い目が見えたら、だんだんと眠くなってきた……。

 

 

 

~~~~~~

 

「ここがマリエの家となる場所ですか?」

 

 朦朧とした意識の中、多分車いすに乗せられ建物の中に連れていかれる。

 

「そうじゃ、孤児院として運営しておる。この施設の者にマリエの世話を頼もうと思ってな」

 

「洗面所に集まると流石に狭いってばね……早く行きましょうミナト」

 

「例の準備は出来ておるのか?」

 

「ええ、そうですね彼女に必要な場所はすでに……」

 

 綺麗な赤髪の女性が車いすを押してくれている様だ。優しい声の人が扉を開けて移動する。

 

「その場所に押しとどめて、マリエの症状は改善できるのかのう?」

 

「いえ、マリエの心の傷をどうにかできるのは特別な存在が必要でしょう、彼女の心を動かすような特別な何かが」

 

「……悔しいけど私たちでは力不足ってことね」

 

 少ししてある部屋の中に移動する。

 

「ここの奥に僕とクシナが封印術を施した地下室があります。この先に彼女を連れていけば意識を抑えある程度の理性を取り戻させることが可能かと……」

 

「だが……そう長くは理性は保てない……そうだな?」

 

「そうだってばね。あくまでたき火の炎を小さくするだけ……種火まで消すことは、彼女の人格を完全に殺すことになってしまうので……一時的な処置に過ぎません……」

 

「理論上、彼女の意識をこの部屋に留め、身体だけ外に出すことが出来れば人としての活動は可能……だと思います。あくまで理論上ですが」

 

「そうか、すまんがミナトこの先を案内してくれ」

 

「はい、クシナはここで待ってて」

 

「わかったわ」

 

 男の人が2人、扉を開け下の方へと向かっていく。

 

「どうして、若い子たちばかり……こんなつらい目に合ってしまうの……私が替わってあげられたら……」

 

 女の人は、悲しそうにそう呟く。変な気配だ……女の人のお腹の中からも何を感じる。

 

「あ、か……ちゃん?」

 

「っマリエ! ……そうよ、私とミナトの子どもがいるの……貴方も笑顔にできるくらい元気な子になって欲しいってばね」

 

 お腹をさするその様子は……絶対に壊してはいけない、そんな光景のはずだ……。

 

 その後、暗い場所に連れられ私は眠りについた。

 

~~~~~

 

 定期的に友達が施設に遊びに来てくれる。記憶があいまいだけど、とてもたのしい。

 

「マリエはいくつになった?」

 

「うーん? 14歳……?」

 

「そうだぞぉ! 俺たちは同い年だ! そして俺はカカシと同じくらい強いマイトガイ!!」

 

「へ~ガイつよいんだね~」

 

 私がそう褒めると緑色の男の子はとても嬉しそうに笑顔を見せてくれる。この子はいつも目が隠れている子と一緒に来てくれる。

 

「そうですともぉ!! 皆を守れるぐらいに俺は強くなるって決めましたからぁ!」

 

「ガイ、うるさいよ。喋り方もなんか変だし……」

 

「ヘンとなんだぁカカシぃ。女性をいたわるために紳士的な会話をだなぁ」

 

「はいはい、それじゃあ俺は今日はここまでね。この後暗部の任務があるから、ガイもあまり騒がしくしないでよ?」

 

「了解だぁ! カカシぃ気をつけてなぁ!!」

 

 目が隠れている子は、そういってどこかに行ってしまった。何時も辛そうな顔をしているので、笑顔になって欲しいな。

 

「今日はどうしますかぁ! マリエさん! 外の空気でも吸いに行きません? 俺が車椅子押しますよぉ!」

 

「うん! お月様みたいなぁ」

 

「っ……その時間までの外出は良いのかなぁ……まあ、良いか。マリエさん! 行きましょう!!」

 

 緑の子は私の車いすを押して外に飛び出す。色々な場所に連れていってくれて楽しかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時がたてば思い出す。忌まわしき感情、世界への憎しみが。

 

「っしまったか、すみませんマリエさん! もう少しで施設ですので」

 

「っ……ううううう……」

 

 綺麗な満月を見ていたら急に、嫌な思い出がフラッシュバックした。あの血だまりで見上げた満月を。

 

 ガイが慌てて車いすを押して施設へと戻る、その時。

 

 

 

 

 

 里に負の感情が蔓延る。

 

 里中に轟く唸る獣の鳴き声と咆哮。

 

 

 その時感じた感覚は、あの霧隠れのアジトでリンを見つけたときにも感じたものだった。

 

 世界への憎しみと絶望……。

 

 

 

「っなんだぁ! あの大きな化け狐はぁ!?」

 

 ガイは狼狽え、車椅子から私を抱え狐から距離を取る。

 

 途中避難誘導に従い、森の中に避難した私たち。

 

「どうするっマリエさんを施設に戻さないといけないが、今里ではあの狐が暴れている……無理に戻すわけにも……」

 

「あ、たまが、いたいよぉ……」

 

 負の感情が、私の心を刺激し記憶を呼び覚ます。

 

「っガイ!! それにマリエも!?」

 

「カカシぃ!どうしてここに!?」

 

「……若い奴らは戦線に出るなと……それよりもナイスだガイ。マリエを連れて避難をするとは、ありがとう」

 

「ああ、だがこのままだとマリエの発作が……」

 

「仕方ない、写輪眼で一度眠らせて……」

 

 2人の会話の中、私の感知が働く。ああ、そんな駄目だ!! 

 

 

 

「っ!! マリエさん!?」「マリエ!?」

 

 

 

 ガイを押しのけ、私は走る。

 

 

「っ土遁岩状鎧武!!」

 

 

 感情が負に呑まれようとも、あの化け物をこれ以上野放しにはできない!

 

 

 

 不意に覚醒した意識は、ただ「里を守る」ためだけに思考を働かせる。

 

 

 

 

 九尾が口から放つ砲撃を空へと打ち上げる。

 

 

「私なら……少しでも止められる!」

 

 

 鎧武を操り、九尾を殴り飛ばす。

 

 

 遠くでは今にも消え入りそうな、クシナさんの気配がする。里の中ではいくつもの命が散っている。

 

 

 っ絶対に守らないといけない……!!

 

 

「あああああああ!!」

 

 

 起き上がる九尾の尾が鎧武を貫き、削る。その威力は凄まじく再生が追い付かない。ほとんどのチャクラを使い、それでもなんとか九尾に組み付き、里の外れの森へと押し込む。

 

 

「マリエ!! どうしてここに!」

 

 ミナトさんが鎧武の肩に現れる。

 

「今……私は何ができますか!!」

 

 声を響かせるとミナトさんは焦りながらも、指示を出す。

 

「九尾を組み伏せてくれ! ッ口寄せ!」

 

 巨大なガマが九尾の上から現れ、私と一緒に押さえつける。もがき、口にチャクラを溜める九尾。その口を鎧武の手で押さえつけ閉じさせる。

 

 暴れる九尾の力は凄まじく、ガマと合わせても数秒とはもたない。

 

 瞬間に、九尾は消え去る。ミナトさんが飛雷神で九尾ごと飛んだのだろう。

 

 もう後は私に出来ること……何も……。

 

 不意に頭痛が起きる。……感覚で分かった、九尾の怒りの感情が私の中へと流れ込むのが。

 

 術を解き、その場に崩れ落ちる私。

 

 

 鎧武でチャクラをほとんど使ったが、それでも残るチャクラが世界への憎しみに染まる。

 

 

「マリエ!」

 

 

 カカシとガイ、三代目が視界に入るが理性は既に保てない。

 

 

 私の意思は既になく、再び鎧武の駆動音が鳴り響いた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 九尾事件から、数日。里の雰囲気は酷く暗い。

 

 四代目火影とその妻は死に、里にも甚大な被害を及ぼしたからだ。

 

 もう少し私が早く、駆けつけられていたら?

 

 そんな考えも、無事だった施設の封印部屋に入れば霧がかかり、覚えていられなくなる。

 

 あの夜、殆どのチャクラを使い切ったことで精神エネルギーの乱れが幾分か良くなりわずかに理性が戻ってきている。

 

 そんな後数日で自分のことも忘れそうな私は、雨降る中カカシと共に里の外に出ていた。

 

 

 

「……どうして皆いなくなるんだろうな、カカシ」

 

「さあね、俺も……どうせならいなくなりたい気分だよ」

 

 2人で傘もささずに雨に濡れ、外を徘徊する。

 

 信頼できる人は次々に亡くなり、残ったマザーにさえ、会えば私は発作を起こしてしまう。頭ではマザーが私を売る訳ないとわかっていても、心が否定してしまうのだ。

 

 そうして私はもうすぐ記憶を思い出せなくなり、無垢な状態へと還る。

 

「……なあ、私たちは何がいけなかったんだろうか……何か選択肢を間違えたのか?」

 

「……さあね」

 

 カカシも限界をとっくに越えているはずだ。なのに、正気でいられるのは……いや私たちは既に壊れている。カカシもオビトの託された意思にすがり付いて立って見せているだけなのだろう。

 

「今後私たちは生きている意味はあるのか? もういっそのこと……」

 

 死んでしまいたい。

 

「そうだね……俺もそう思うよ……だけど何かしないと、リンやオビト達に顔向けできない」

 

 ああ、カカシ。お前は強い。本当の意味で、私にはない強さを持っている。

 

 ……カカシの重荷になるのは嫌だなぁ。生きてても、死んでもカカシに、皆に迷惑をかけてしまう。

 

 ……どうにか道はないだろうか……?

 

 不意に声が聞こえた気がした。雨音にかき消されそうなほど、小さく弱い。

 

「……カカシ聞こえるか?」

 

「……ああ」

 

 2人でその音の出所まで行くと、辺りに人の気配はなくぽつんとバスケットが置かれていた。

 

 中には……赤子が入れられていた。雨に濡れ衰弱している。

 

 

「あああ……っどうして……どうして、この子は……まだ何もしていないはずなのに……どうしてこんな……」

 

 涙が止まらない。赤子を抱き寄せ私は震える。

 

「……マリエ、分かっているとは思うけどこの状況は不自然だ。今里は混乱している、十分な検査が出来ない現状その子は里に連れていけない……」

 

「私は……! いままで多くの命を奪ってきた……だから辛い思いをしても仕方ないと、心のどこかで諦められるのに……世界の醜さはどうしてこんな赤子まで」

 

 手の中の命の炎は段々とその鼓動を弱めていく。

 

「……マリエ、見なかったことにしよう。さあ、その子を置くんだ……」

 

「いやだ……」

 

「マリエ……」

 

「もう嫌だ……もう沢山だ……これ以上繋がりを失う気持ちを味わうのは……だけど……それ以上に皆に貰った、『本当の私』を見失いたくない……」

 

 

「……」

 

 

「誰かを殺すだけの兵器じゃない……みんなと楽しくバカして、騒いで、食事をして……笑顔でいる……そんな人として私を作ってくれたみんなの思いを……道を……結果が残酷だからって……死んで零にはできない……!」

 

 

 赤子をバスケットに戻し、それを抱える。

 

 

「……どうするつもりだ?」

 

 カカシは警戒の目をする。

 

「……この子は……私が育てる……」

 

 カカシは私の胸倉を掴み、怒鳴る。

 

「っ我儘をいうな!! 自分のことすら見失って暴走するお前が!! 人の面倒なんて……見切れる……わけ……っ」

 

 カカシは泣いてくれている。

 

「……方法はある」

 

「……何?」

 

「私には……血継淘汰……塵遁がある。物質を分解する塵遁は……私自身を分かつことが出来る。その分裂体は同じ『自分』で、だからこそ意識の部分的共有も可能だ……」

 

「マリエ、何を……?」

 

「……最低限の意識を持たせた分裂体を外に、私の記憶や意識、感情など憎しみに侵され抑えが必要な部分をクシナさんが残したあの地下に封印する」

 

「おい、本当にそれが可能だとして……地下にいるお前はどうなる……!?」

 

「所謂本体は地下だ。外で活動する私のために、必要な情報を意識下で共有し、湧き出る狂気は封印術で抑え込む。そうすれば……『蒼鳥マリエ』はもう一度だけ人に戻れる」

 

「答えになっていない! 俺の」

 

「お前なら分かるだろ? カカシ」

 

「……っ!」

 

 例え地下で一人ぼっちになろうが……

 

「私の……我儘を聞いてくれ」

 

 皆との繋がりがあれば……あの地下でなら最後の一線は超えないでいられるはずだ。

 

「……その子がもし、何かの陰謀に利用されていたとしたらどうする?」

 

「その時は……責任を持って私と一緒に……消えてなくなるだけさ。痛みもなく、一瞬で」

 

「…………はあ、わかった」

 

 そう言うとカカシは、私に背を向け歩き出す。

 

「……一応三代目には報告する。それで、封印の件は三代目と俺だけの秘密にしよう。ガイとかが納得するとは思えない」

 

「ありがとう……カカシ」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 里内の施設の一室、地下へと繋がるそこは本棚によりカモフラージュをする。

 

「本当に良いのか、マリエ?」

 

「はい、ありがとうございます三代目。私の我儘を聞いてくださり……」

 

「マリエ準備はいいか……っ?」

 

「うん……そうだカカシ……最後に一つだけ……私と出会ってくれてありがとう」

 

「っ!! くっ……お前、卑怯だよ……っグス……」

 

「大丈夫、何も怖くない……この先どれだけ時が過ぎても、私はみんなと過ごした思い出を糧にして行ける……外の私も、ある意味で私だ。私とは意思を別つもう1人の私」

 

 分裂の術に印はない。ただ、風遁、土遁、火遁の三つのチャクラを合わせた反応を体に澄み渡らせるだけだ、分かちたいものを意識して。

 

「外の私には土遁の性質だけ残す。……下手に塵遁を使われても困るからな、最低限の力だけだ」

 

 チャクラを混ぜ、塵遁を発現させる。

 

「……じゃあ、サヨナラ……カカシ」

 

 そして私自身の意識はそこで分かたれた。

 

 

 暴れる、魂の比重の重い私は三代目とカカシに拘束され地下へと封じられた。

 

 

 そして……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「今日からこの施設の院長として働きます! 蒼鳥マリエです! よろしくお願いします!」

 

 

 私は施設のオーナーとなった。元々私を世話していた人たちには「病気」だと説明していたので、それが治ったと説明した。納得したかは微妙だけど、私の様子から大丈夫と判断してくれたみたい。

 

 この施設の職員は元々2人いた。もちろん人では足りていない、なので

 

「影分身!」

 

 私は残された力で、人手不足を解消した。

 

 そうして、少しして病院に預けられていたあの子が施設に引き取られる。

 

「あら~可愛いわね~この子は何てお名前なんですか?」

 

 職員の方が赤ちゃんを覗き込み表情であやしてあげている。

 

「この子、名前は決まっているんです。捨てられていた時に名前が書かれた紙が一緒に合って……」

 

 

 

 黙雷悟

 

 

 

「悟ちゃん、これからどうぞよろしくね! 貴方が元気に育ってくれると私、嬉しいわ」

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

 

 暗い地下室は、まるで母のお腹の中みたいで安心できる。

 

 

 クシナさんの愛情が詰まった地下室。

 

 

 意識は混濁して、狂気も判断できない夢うつつ。

 

 

 世界は醜く、嘘ばかりだ……でもそんなのどうでもいいと頭は考えるのを止める。

 

 

 だけど少しだけ、僅かに外の私からの情報が流れ込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、この子は笑顔にしてあげたいなぁ

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 



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61:受け継がれた意思、受け継がれる笑顔

今までの本編:マリエさん視点


<蒼鳥マリエ>

 

 悟ちゃんの体の十分な検査は行えなかった。けれど簡易的に逆口寄せの印や、周囲を巻き込む呪印など最低限検査は済ませてあるので里に孤児として登録することは出来た。

 

 悟ちゃんはとても静かな子だったわ。夜泣きも数えるほどしかなく、全く手のかからない子だと、職員の人も珍しがっていた。

 

 同期のみんなは、私が正気に戻ったと喜んでいた。……本当のことは言えないの、ごめんなさい。

 

 私自身、私を本来の蒼鳥マリエと同一視できていない。まさに別人になった気分でもある。

 

 あの日以降、カカシ君とは合ってはいない。彼の方が私に負い目を感じているのか、それとも私が合うのを心のどこかで拒否しているのか。

 

 ガイ君も、同期や元同僚たちも皆私が忍びとして戦えなくなったことを心配している。

 

 ……飽くまで地下の彼女が感情を抑えているだけで、恐らく『その場』に立ってしまえば正気ではいられない。

 

 それでも私は、悟ちゃんを見守るために生き抜く意思を抱き続けた。

 

 

~~~~~~

 

 

 悟ちゃんが1歳になり、自分一人で歩き出すようになると様々な場所を自身の足で物色するようになっていった。

 

 私の自室にある悟ちゃんに関する資料を読み漁っている姿を見たときは、正直めまいがした。

 

 ……他にも、職員の方や他の子どもたちの会話に聞き耳を立てているようすが目に入る。

 

 あの様子……完全に読み書きを理解しているわよねぇ……。

 

 

~~~~~~

 

 

 2歳になり流暢に喋る悟ちゃんは周囲に対して警戒心が強いのか、目立たないようひっそりとしていた。他の子のように我儘をいわず静かに……それが逆に不自然で目立っているとは本人は思っていないのか。

 

 その目は、すでに恐怖をしっているようにも見えた。

 

 2歳にもなり、個人的に彼を連れ出し祭りの屋台を巡ったりもした。……唯一のおねだりが、狐のお面とは……。

 

 狐にはいい思い出がないので、深く考えないようにしようと思っていた。

 

 

 

 正直毎日、その面をつけるのは勘弁してほしいわ……。

 

 

~~~~~~

 

 珍しくカカシ君から、飲みの誘いが来た。まあ只の食事会なのだけど。

 

「こいつ後輩のうちはイタチね」

 

「……どうも、うちはイタチです」

 

「はあ……、よろしくねイタチ君……っえ、どういう意図?」

 

 久ぶりに見たカカシ君は随分とやつれていた。あまりいい噂は聞かないけど、私が何か言える立場ではない。

 

「……ある意味マリエの後輩でもあるでしょ? なんでも弟のことで色々相談があるみたいで……俺じゃあそういう相談は乗れないからよろしく」

 

「……すみません、蒼鳥さんは2歳ぐらいの子ども相手をしているとのことで……少し相談が……」

 

 感情表現が苦手な子なのか、人と話す機会が少ないのかイタチ君は少しづつ相談内容を話し始めた。

 

 ……私も特別人付き合いが得意なわけではない……けどマザーの真似をしてがんばって取り繕っているにすぎない。

 

 それでもやれることはしよう。

 

 真摯に相談に乗り、イタチ君が帰っていったあとカカシ君は私の顔を見つめていた。

 

「……どうかした? カカシ君」

 

「……どうも慣れないね」

 

 そういってそくささとカカシ君は帰っていった。

 

 ……それは私も感じているわ。

 

~~~~~~

 

 噂に聞いていた通り、里外にあるマザーの施設が閉鎖状態になったらしい。そこで暮らしていた子どもや施設の人が私の施設に来ることになった。

 

 ……久しぶりに見る顔もある。

 

「あんた……あの蒼鳥さん……?」

 

 すごい警戒した様子でウルシ君が話しかけてくる。

 

「え~と、その久しぶりウルシ君……」

 

「……マザーの真似か?」

 

「……まあ、そんなところ……かな」

 

「急にマザーもいなくなるし、カブトの奴は俺たちを置いていくし……やなことばかりだ……」

 

 ウルシ君は今10歳ぐらいだっけ? 随分と疲れた様子をしている。少しでもこの施設で安心して過ごしてくれればと思う。

 

「……俺あんたの代わりに忍びになるよ」

 

「……え!? それはぁ……あはは、頑張ってね!」

 

 正直施設から忍びを輩出するのには拒否感がある。それでも、ウルシ君はやれることをしたいとお金の掛かるアカデミーではなく、一般公募から忍びを目指すらしい。

 

 ……嫌だなぁ、マザーも私が忍びをやるといった時に同じ気持ちを抱いていたのかもしれない。

 

 

 マザーのことは深く考えてはいけないと直感で思う……。知ろうとすれば、私は多分今の私でいられなくなる。だからこそ彼女は私にとって過去の象徴となった。

 

~~~~~

 

 私も17になり、悟ちゃんは3歳になった。

 

 最近は公開演習場で筋トレをするのにハマっている様子。ハマっているというよりは強迫観念に近い何かを動力に鍛えているように感じるけど。

 

 公開演習場では、女の子と遊ぶこともあるみたい。……ああ、我が子に異性が近ずくのはなんだかもやもやするわ……世の親たちの気苦労を少し知れた気がする。

 

~~~~~

 

 悟ちゃんの様子がおかしい。考えられるのは、精神的負担と身体的負担……その両方かしら。世界に怯え、オーバーワークをしている。施設に対するお手伝いも度が過ぎている。

 

 ああ、私が心配で参ってしまいそうだわぁ……。こちらから接触するのは出来れば避けたかったけど……ガイ君に話を聞いてもらおうかしら。

 

 酔うと確か酷かったわよね……、私も強い方ではないし、酔うと地下の私に影響がありそうなので控えよう……。

 

~~~~~

 

 色々あってついカッとなってガイ君を殴ってしまった。岩状手腕を使ったけれど、私が暴走する気配はなかった……。興奮すると口調が『元』に戻ってしまうが……意識してどうにかできるものでもないみたい。

 

 ……おかげで悟ちゃんと正面から話し合うことが出来たので結果良ければ……というものかもしれない。

 

『ハッピーは無理でもよりベターな結果』……少しでも何かを変えようとする彼の姿勢は私としても見習うべきものなのかもしれない。

 

 私が言うのもあれな感じだけど3歳児にしては口調が大人びているわね……本当。

 

~~~~~

 

 悟ちゃんは彼が知る機会のないはずの知識を持っていることがあるみたい。……いきなり影分身についての知識を披露し始めたときは、頭を悩まされた。不用意に警戒を招く行為は今後咎めていくことにしましょうか……。

 

 元忍びだと知られてしまったけど、彼の心の余裕が出来たのを感じれて嬉しかった。話し方もフランクになっていった。……ガイ君の荒療治は成功だったみたい。私では無理な手段ね。

 

 悟ちゃんの成長具合は凄まじかった。最初の頃は少し才能があるぐらい、チャクラコントロールが良いぐらいのはずが今では上忍かそれ以上の実力に……。

 

 きっかけは日向の誘拐事件に関わったことだと私は思う。あの夜、リンから貰った仮面を悟ちゃんに渡したのはお守りの面もあった。私が直接戦えば、被害が大きくなる可能性があるから。なのでこっそりと後をつけた……見守ることしかできない私の代わりにどうか彼を守って欲しい。

 

 彼が影分身を駆使し、さらに分身の術、変化の術を組み合わせ雲の忍び頭による誘拐を食い止めたのには驚いた。

 

 しかし、怪我を負った彼は日向ヒアシに連れられ病院に。後を付けていた私はそのまま、病院で悟ちゃんを見守り続けた。

 

~~~~~

 

 それ以降八門遁甲へと入門した彼は、その実力を開花させていく。恐らく八門が彼の本質を引き出しているように思える。身体能力、チャクラ量、回復能力。傍から見ても八門の段階が上がるごとに彼はより強さを増していった。

 

 彼には大切なものを失くすような経験をして欲しくはない。一緒にお風呂に入ったときに、彼には私が人生で得た、教訓を伝えた。

 

 

 (血継)ではなく、蒼鳥マリエ(本当の自分)が大切なのだということを。

 

~~~~~

 

 うちはのことで悩む彼を心配しながらも日々を過ごす。前に見たイタチ君は少し見ないうちに大きくなり、随分とカッコよくなっていた。……うちはの人って美形が多いように思うの私の感性の問題かしら……あ、オビトはそうでもなかったような……いや考えるのは止そう……。

 

 アカデミーに入り、うちはの友達の家に行くこともあったから色々あるのだろう。

 

 

 

 

 

「上半期の試験の結果が帰ってくる日、その日が事件が起きる時かも知れません」

 

 悟ちゃんの唐突な言葉に眩暈がした。この子、自分がそういう事をハッキリというの怪しいって自覚……あるけど私を信用してくれているのね……嬉しいけど複雑だわ……。

 

 彼曰く『うちは』で何かあるとのこと……一応その日は私も悟ちゃんの後を付けようとは思うけど……

 

 数日の猶予がある、出来ることはしておこう。

 

 

 ガイ君に余裕があればその日うちはの居住区に顔を出してもらう様にお願いする。

 

 そして

 

 

「やーやー、これはこれは。オレを正規部隊に引き戻した一人のマリエじゃなーい。どしたの?」

 

 こちらからカカシ君に接触する。……同期の間で彼を正規部隊に移籍させる嘆願書を出したことに文句を言われるが、仕方ないでしょう……貴方が傷つくのは『私たち』も悲しいから。

 

「カカシ君にお願いがあってきたの……」

 

 

 

「まったく……久しぶりに会うのが、暗部を辞めさせられた直後なんて……意図してやってるでしょ」

 

「ごめんなさい……でも本当のことを言えるのは貴方ぐらいだから……カカシ君」

 

「で、お願いってナニ?」

 

「一応、ガイくんにも真意は伝えずに同じお願いをしてきたわ」

 

「ガイにも……? 俺たち二人にするなんてよっぽど……」

 

「私の暴走を止めて欲しいの」

 

「……っ!! ……自分が何言ってるかわかってる……よね流石に。断って暴走されたら木ノ葉が滅びかねないからその話は受けるしかないよ、まったく……」

 

「一応今の私は三分の一程度の力しか出ないから……ガイ君とカカシ君なら大丈夫だと思うわ」

 

「……九尾の時は三代目が居たから良かったものの……まあ良いよ。で、理由は?」

 

「……悟ちゃんのことで」

 

「……ああ、あの子ね……やっぱりなんか変な子なんじゃないの?」

 

「失礼ね!! 悟ちゃんはとても良い子よ!!」

 

(ハハッ……すっかり子煩悩になって……まあ、マリエにとっては大切な存在だろうからな)

 

「話逸らして悪かったよ……それじゃあ詳しく」

 

 そうしてカカシ君に事情を話し、うちは居住区近辺で私の動向を監視してもらうことになった。

 

 

~~~~~~

 

 

「うん? うーんと、あれ、え? 何? この状況俺が三人も抱えて戻れっていうこと!?」

 

 カカシ君の声に目を覚ます。

 

「……っ……ああ、私……やっぱり……」

 

「ああ、良かったマリエ正気に戻ったみたいだね……にしてもこのうちはの状況と言いこの血まみれの悟って子と言い……普通じゃあないね」

 

 崩れた鎧武の中か何とか這い出す。

 

「……カカシ君は三代目に報告を……私は……っ!」

 

「無茶したら駄目だ。ガイは八門の反動で気絶しているし、今のうちに取りあえず事情を話してくれ」

 

 私はうちはで起きたことを思い出す。

 

 うちはに入っていった悟ちゃんを追いかけようとしたとき、結界忍術の効果か意識が薄れ付近を徘徊するように幻術をかけられた私は正気に戻ったと同時に悟ちゃんを探しに居住区の中に入っていった。

 

 ……狂気の漂うその場の雰囲気が私を介して、地下の彼女へと伝わってしまう。

 

 

 そして

 

 

「せめてこのまま安らかに眠れ……」

 

 暗部……それも『根』と思われる忍びが血塗れの悟ちゃんにクナイを突き刺そうとする場面を目にして、正気が無くなる。

 

 封印術が仕込まれた地下にいようと、『抑えの効かない私』の感情は私へと伝わり暴走へと導く。

 

 無意識に岩状鎧武を発動した私の意識は怒りに飲み込まれた……。

 

「……という訳で……」

 

「はあ、嫌な予感は当たるものだね……まあ、この子も息はあるみたいだしサッサとずらかろう……」

 

 そう言ってガイ君を背負ったカカシ君が私をお姫様抱っこの形で抱え上げる。私の上に悟ちゃんを乗せ、ノシノシと移動を始めるカカシ君。

 

「ねえ、影分身は使わないの?」

 

「……誰のせいでチャクラがカツカツになってると思ってんのよ……っ。取りあえず、病院行くのは事情が拗れるから。マリエの施設に行くぞ……っ」

 

「……私……重くないわよね?」

 

「この状況でそれ聞く!? まっ…………ノーコメントで」

 

 

~~~~~~

 

 一度暴走してしまったことで、三代目が施設にお忍びで視察に訪れることになってしまった。

 

「……すみません、忙しいのに私のせいでこんなご足労おかけして……」

 

「……ふむ、まあ良い。うちはの件についてはワシらの対応力不足でもあった……。悔やまれることだが、『根』が関わってることも鑑みて後の対応をしっかりせねばなるまい」

 

 三代目と共に、私の自室の隠し扉を開け封印の術式を確認する。

 

「少し封印が緩んでいるようじゃな……。クシナほどのものではないが、ワシの術式を重ねておこう。ついでにお主以外がこの扉を潜ったさいにワシにわかるようにしておこうかのう」

 

 そう言って三代目は封印式を締め直してくださった。

 

「……本来なら私みたいのは里に置いておかない方が」

 

「バカを言う出ない……お主は里のために、仲間のために良く頑張った……それで良い。今や里内の孤児院でも有力なこの施設のオーナーとしても名をはせておる。今後も期待しておるぞ」

 

 三代目はそのまま、私が用意した茶と菓子をつまみ施設を後にした。

 

 悟ちゃんは八門遁甲の扱いについてガイ君に指導を受けに行っている……。ガイ君の教えを破っていたらしいから、多分叱られるのは目に見えているわね……。

 

 私もこのあとに、アカデミーに悟ちゃんについての連絡を入れないと行けないし……その後カカシ君に暴走の件のお詫びしないと行けないから忙しくなりそうね。

 

~~~~~~

 

 時は経ち、悟ちゃんは12歳になった。私は26……歳を取ったものだ……。

 

 アカデミーをいよいよ卒業しようという悟ちゃん。私の時とは時代が違うので、こう……じっくりとアカデミーにいるというのもわからない感覚だわ。

 

 まあ、彼なら問題なく卒業できるはず。昔の私ほどではないが彼も歳の割には規格外である。

 

 そんなある日。

 

 

「あら、悟ちゃんおかえ……どうしたの!?」

 

「いえ……何でもないです。ちょっと調子が悪いので、荒れ地の方に行ってます……では」

 

「ちょっと……行っちゃった……。どうしたのかしら、あの様子ただ事じゃないけど……」

 

 明らかに調子が悪い悟ちゃんが帰って直ぐに人の寄り付かない場所へと出ていき、少し心配する私。

 

 後をつけようとも考えたけど……彼にも彼なりの事情があるのかもしれない……。

 

 よし、夜食でつまめるものでも買って悟ちゃんの相談事にでも乗ってあげましょうか!

 

~~~~~~

 

 夜食を買った帰りに、バッタリと『うずまきナルト』君と出会った。

 

 話は悟ちゃんから少し聞いていたけど……

 

「姉ちゃん……俺ってば悟に用が……」

 

「気にしない気にしない! ナルト君も暗い顔してるくらいだったらほら、ちょっとお菓子食べってていいから」

 

 施設に彼を招き相談に乗ることにした。……クシナさんとのやり取り思い出す、お節介を焼きたい気持ちも今ならわかる……かも。

 

「……悟ってば姉ちゃんみたいな人と一緒に居られるなんて……少し羨ましいってばよ」

 

「あら~お世辞が上手ね~、ジュースもつけてあげるわ!」

 

「そんなつもりで言ってないってばよ! なんつーか、俺ってば大人の人から嫌われているって感じするから、優しそうな姉ちゃんがいて良いなって思っただけで……」

 

 彼、うずまきナルトは人柱力である。その事実はトップシークレットであり九尾が彼の中にいるということは知られてはいけないことのはず……。

 

 なのに、この里には『うずまきナルトは化け狐の生まれ変わり』などの噂が蔓延している。

 

 ……恐らく誰かが意図して流した噂だろう。彼に対して闇を植え付けようとする策略か何かか……。

 

「姉ちゃん?」

 

「あら、ごめんなさい、考えこんじゃって……悟ちゃんは最近は無理して何でも一人でやろうとするのよね~」

 

「ああ! それわかるってばよ! あいつすごい強いし、何でもできるけど……だからって全部背負いこもうとしてるの見てんのは……なんか嫌だ」

 

 悟ちゃんの気持ちもわからなくはない。力があるのならそれを行使して何が悪いと考えるのも、昔の私が通った道だ。……失くしてから仲間たちの大切さに気付くのが遅れた私みたいにはなって欲しくはない。

 

 ……幸い、オビトに似た感じのするナルト君は悟ちゃんのことをしっかりと見ていてくれる。彼に託すのも悪くはないのかもしれない。

 

「悟ちゃんは今、人の少ない荒れ地の方に行ってるみたいよ。ナルト君、君が良ければ様子を見て来てくれないかしら?」

 

「……わかった! ちょっち行ってくるってばよ、姉ちゃん菓子ごちそうさま!」

 

「お粗末様……頑張ってね~」

 

 ナルト君を見送る。その背は正に昔のオビトを見ているようだった。

 

~~~~~~

 

 

 でだ……

 

「……しろぉ!!」

 

 気絶した悟ちゃんを抱えたナルト君がばつの悪そうな顔で戻ってきて、そのまま帰っていって大体丸一日。

 

 眠り込んでいた悟ちゃんが変な叫びを挙げながら起き上がる。

 

 悟ちゃんが眠っている間にナルト君が封印の書を持ちだしたことは、里中に噂として広まっていた。

 

 ……私も、懐かしい感覚を覚えている。かつて九尾と接触した私の流れ込んできた悪意の塊。それに似たものを。

 

 ナルト君の調子が良くないのかもしれない。九尾の精神エネルギーの影響は計り知れない。

 

 悟ちゃんが、夕飯には遅れると言い施設を飛び出たのを確認して私は悟ちゃんの後をつける。

 

 十中八九ナルト君の元に向かうのだろう、最悪を想定して私もついていくことにした。

 

 何ができるわけでもないけれど。

 

 

~~~~~~

 

 

 途中、里中に漂う九尾の精神エネルギーの影響でふらつき悟ちゃんを見失うが森の中で何とか彼を見つける。

 

 

 

 

 

 なんか……艶めかしいボンキュッボンの黒髪の女性に変化して顔を赤らめている場面を見てしまった……。

 

 

 

 …………あ~~~~~え~~~~~何やってんだ……アイツ……。

 

 

 

 ゴホンッ……森の中は少し騒がしい。外で待機して、人を直ぐに呼べるように準備しておこうかしら。

 

 

~~~~~~

 

 

 見るからに大怪我。大やけどを負った彼を後からつけ、日向の屋敷にまで来た私。

 

 

 ッ悠長に別れの挨拶をしている様子にイライラさせられ、道に出た彼を問答無用で抱え病院へと向かった。

 

 そんな状態にも関わらず、万々歳などという彼に、珍しく苛立ち叱る。

 

 

 

 ……精神的にとても疲れたわ。

 

 

~~~~~~

 

 後日。

 

 ある日悟ちゃんが日向のご息女たちを抱えて施設に帰ってきた。

 

 

 …………っ!?

 

 

「おか……!?」

 

「……ただいま」

 

 

 かなり機嫌を悪くしている悟ちゃんはそのまま自室へと向かう。

 

 

 何が何だかわからない状況に混乱していると、日向のメイドさんが施設に上がり込んでくる。

 

 

 焦っている様子の彼女から事情を聴く。

 

 

「……はあ!? 婚約ぅぅう!?」

 

「はい、ヒナタ様と婚約の義をなされた悟様はそのままハナビ様も抱えご自宅のこの場に……」

 

「……ハッあの子ったら!! 自室でナニするつもりよ!!!」

 

 

 嫌な予感がして、マスターキーを持ち悟ちゃんの自室へと駆けこむ。

 

 

 そういうのは……もう少し大人になってから……私の目の届かないところでやって欲しいわ!!!!!

 

 

~~~~~

 

 また後日。

 

 

 それから長い間続いた、悟ちゃんとのケンカも彼が私に花を贈ってくれたことでわだかまりは解けた。

 

 あの時の悟ちゃん、本当に可愛かったわ~。

 

 なんて思いで、日々を過ごしていると

 

 

『黙雷悟:任務により長期外出』

 

 

 施設の連絡板を見て絶句する私。

 

 慌てる私にウルシ君は保護者なら手土産の1つや2つ期待して待てと言う。

 

 

 私のにとって悟ちゃんは精神安定剤みたいな役割でもあって……地下の私の気分を抑える意味もある。

 

 つまり大好き。

 

 なのに何時かえってくるかもわからない、長期任務に出るなんて……。

 

 

 私、耐えられるかしら……。

 

 

 

~~~~~~

 

 一ヵ月近く悟ちゃんと会わずに施設の仕事に専念する私に、連絡が届く。

 

「新規契約者推薦状?」

 

 三代目からの推薦何て……何事かしら。

 

 最近、地下の私からの『悟ちゃんはどうした!?』という催促が強くなってきて、精神的に参ってきている……。

 

 こんな状態で上手く面接とかできる気がしない……早く帰ってきて……悟ちゃん……私、寂しいわぉ……。

 

 

~~~~~~

 

 波の国から帰ってきた悟ちゃんからの手土産は、鬼頭桃乃太郎さんと鬼頭白雪さんの二人だった。

 

 ……立ち振る舞いからして、只の一般人ではないのは容易にわかるけど、悟ちゃんの意思を尊重しあまり詮索はしないでおく。

 

 彼らは良く働いてくれており、私も大助かりだ。

 

 桃さんは無愛想だけど子ども相手には真摯な態度で好感が持てる。白雪ちゃんの方も、とても綺麗な子で人当たりがとても良い。

 

 白雪ちゃんをお使いに出すと、出先で何かしらのサービスやおまけを貰ってきてくれるので節約になり、とてもありがたいわ……。

 

~~~~~~

 

 桃さんと白雪ちゃんと共に、孤児院関係の催し物に出ることになった。と言っても里外にある孤児院に視察に行くとかそんなものである。

 

 施設にはウルシ君と悟ちゃんが残るため、安心して私たちは外に出れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして視察先で、白雪ちゃんと夜の街を出歩いているときに感じてしまった。

 

「……っ!!」

 

 動揺。……感覚が告げる。もっとも知られてはいけないはずの彼に……『私たち』の事情が知られてしまったという感覚。

 

 あまりのことに膝を着いた私を、白雪さんは心配してくれる。

 

「どうしましたマリエさん、大丈夫ですか!?」

 

「……っええ、ちょっと立ち眩みがしただけよ……少し座らせてもらっていいかしら……」

 

 そういう私に肩を貸して白雪さんは、ベンチに座らせてくれる。

 

 

 どうして……どうやって……。あの地下への道に何で気づいたのか……私には何もわからない。

 

 ただ、地下の私の「悟ちゃんに会えて嬉しい」という麻薬めいた幸福感だけが強烈に私の頭を支配する。

 

 ……里外で分裂体である私との繋がりも薄れているにもかかわらず、強烈な感情が押し寄せる。

 

 それほどまでに、『彼女』の意識が覚醒している

 

 恐らく三代目が悟ちゃんに対応してくれるはず……大事にはならないはずだけど気が気でない……。

 

 

~~~~~~

 

 中忍試験本選。悟ちゃんの戦いを見終えた私は、僅かに感じる感覚に冷や汗を流す。

 

「ごめんなさい、ちょっと私施設に忘れものしたみたい。取りに帰るから悟ちゃんが来たらよろしく言っておいてね」

 

 そう皆に伝えた私は施設へと急いだ。

 

~~~~~~

 

 『彼女』の意識は完全に覚醒していた。九尾から影響を受けたときに悪意を感知する力を身に着けていたようだ。殺意や悪意が里中に蔓延るのがわかる。

 

 私は飽くまで分体……本体の『彼女』の力には敵わない……。

 

 再び1つに戻る私たちの意識は只、この世界への復讐心で満たされていた。

 

 

 おかしいな……悟ちゃんが生きるこの世界……を見守り……た……

 

 

 

 

 

 ……あの子が傷つく前に全てを塵へと還そう、この偽物の世界を。

 

 

 

 

「塵遁・限界剥離の術」

 

 

 

 

 

 鎧武を使い術を構えたその瞬間、雷光が視えた。

 

 

 希望の光、暗い精神の底に沈んだ私を呼ぶ声。

 

 

『お願いだ、生きておかあさん』

 

 

 悟ちゃんでもあり、そうでもない誰かの声。

 

 気がつくと私は岩隠れの屋敷にいた。

 

 

 

「ここは……?」

 

「やっとここまでこれたよ……おかあさん」

 

 声に振り向くと、そこには背の大きくなった悟ちゃんらしき人物がいた。

 

「あなたは……私は……っ」

 

「ここはマリエさんの精神世界だね。自身の心の住処ともいえる場所だ」

 

「私の……心……こんな場所……いい思い出何て……」

 

 そうだ、こんな忌まわしき場所なんて……っ!

 

「いいや……精神世界が『ここ』であるのには理由はあるはずだよ。ほら、ゆっくり思い出してごらん」

 

 ここでの……思い出……

 

 

 

 

 

『貴方が笑顔になってくれたら私も嬉しいんだけど……』

 

 ナニガシ……?

 

「マリエさん、貴方自身の思いを忘れないでください。世界は確かに残酷で……醜い……噓に塗れています! だけど

 

 

僕が貴方に頂いた笑顔は……心の揺らめきは決して偽物なんかじゃないんです!

 

 

そしてそれは貴方も同じはず」

 

 

 

 リンやオビト……皆と一緒に過ごした日々。

 

 

 そして施設で過ごした悟ちゃんとの12年間……。

 

 

「それらを噓だと言って否定してしまうなんて悲しいじゃないですか……まだまだ、これからも生きて見守っててください! 僕たちと一緒に生きてください!」

 

 切実な悟ちゃんの叫びは私の心に響く。

 

 リンを失ったと気がついたあの瞬間、世界を偽物だと思い込み、夢の世界に逃げた私。

 

 だけど、カカシ君やガイ君、皆は私に現実という未来を見せ続けてくれた。

 

 自己完結で終わる夢ではない、皆がいる世界……。

 

 悟ちゃんが……これからも成長していく世界に……私も……いたい。

 

「ああ……本当にカカシや皆は私よりも強かったんだ……。繋がりという未来を創る力に溢れていたんだな……」

 

「マリエさん……さあ……」

 

 悟ちゃんの差し出す手を私は取る。

 

 

 

 

 12年前にした……未来を見届ける覚悟を今一度。

 

 

 

 

~~~~~~ 

 

 

 気がつけば悟ちゃんの背が見えた。ボロボロになりながらも大蛇に立ちはだかる彼。

 

 ……さあ、今こそ忌まわしき過去ではなく未知なる未来の為に力を振るう時だ。

 

 

 

 

 

「塵遁・限界剥離の術」



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62:木ノ葉の舞う先

<三人称>

 

 お互いに体が満足に動かせない中、マリエの独白をただじっと聞き続けていた悟。

 

 彼女の出生から今日まで抱いてきた感情の流れを聞き、彼はじっと考えにふける。

 

「……これが私、蒼鳥マリエ……そして亡と呼ばれた存在の顛末だ」

 

 全てを話し、満足そうにそう呟いたマリエに悟は語る。

 

「顛末じゃないです。これからも先、俺たちと一緒に生きていくんでしょ?」

 

「……そうだな、そうしたいな……」

 

 どこか遠くを見るマリエに、悟は一つの決心をつける。

 

「実は俺……マリエさんに話しておきたいことがあるんです……」

 

「……なんだ?」

 

 悟の言葉にマリエは穏やかな顔で返答をする。

 

 

 

 

 

「俺……実は異世界人なんですよ」

 

 

 

 

 

「………………ん?」

 

「後、俺の中には未来人であるの黙雷悟の魂が入ってて」

 

「ちょっちょっと待て……悟ちゃん……何を言っているんだ!?」

 

 悟が摩訶不思議なことを告白し始めたとこに驚き、腰かけていたベッドから立ち上がるマリエ。

 

「随分前に言ったじゃないですか、『事情をいつか話す』って」

 

「ええ……ええぇ? ああ、悟ちゃんが色々なことを知っている理由……のことか?」

 

「そうです……俺は実は別の世界の人間で簡潔ながらこの世界の行く末を知っています」

 

「へっへえ~……」

 

「ただ、若干俺が知る内容とこの世界の出来事には違いがあって……例えば白雪は俺の知識では実は男だったりとか……」

 

「……そ、そうなんだな……」

 

 マリエは若干どころではないぐらいに引いている。

 

「ただ、この身体はこの世界のモノで、魂だけこっちに来た感じ……なんだと思います。それでこの身体の本当の持ち主は、実は未来から魂をこの身体に移していたらしく」

 

「…………はぁ……」

 

「偶にですけど、俺の代わりに体を動かしたりだとか……さっきマリエさんが話していた精神世界に出てきた大人びた俺って言うのは多分そいつ、『黙』のことだと思います。俺にはその記憶がないので」

 

「じゃあ……私のことをおかあさんって言っていたのは……」

 

「それだけ『黙』は貴方の事を、マリエさんのことを大事に思っているってことです。もちろん、俺もマリエさんのことは大好……大事に思っています」

 

「本当に未来から……先の時代からその……黙ちゃんが来てたとして……いったいどんな理由で?」

 

「俺も詳しく知りませんが、貴方なら言われなくてもなんとなくわかっているでしょう?」

 

「……私のため……ってことね……。今回の私の暴走を止めるために……『やっとここまでこれた』って言うのそういう意味で……」

 

 少し納得したかのように、考え込むマリエ。息子同然に育てた子どもは、自分を助けるために未来から来たと。もしそれが世迷言だったとしても、その愛の深さにマリエは少し笑顔が漏れる。

 

「……未来の悟ちゃんが黙ちゃんって言うなら、『貴方』は何て言うのかしら?」

 

「一応『雷』って呼ばれています」

 

「……別の世界から来たのなら、貴方自身の名前があるんじゃないのか? わざわざ黙・雷を分けなくても」

 

「元の世界でも俺の名前は黙雷悟だったんですよ……偶々同じ……」

 

 ……そこで悟は黙り込む。マリエは不思議に思うが、絶賛常識外れの知識を植え付けられているので、自身の頭のクールダウンを優先させる。

 

(……今まで気がつかなかったが、転生したときに『俺』の名前をあの神様がこの身体に付けてくれたと思い込んでいたけど、『黙』がいる以上この身体の名前は『黙雷悟』で確定しているってことじゃないのか? 俺がいようといまいと、黙雷悟という名前になっていた……)

 

 『空きのある世界へ送る』、そもそも神様と思い込んでいる人物とのやり取りで、悟は違和感を覚えていたことを思い出す。その場で考えたかのような設定を小出しする神様に不信感を覚えていたはずだと。

 

「……俺がこの世界に来たのは……偶々じゃない……?」

 

「大丈夫? えーと『雷』くん?」

 

「……大丈夫です……って俺は君つけなんですね」

 

「話が本当ならつまり、黙ちゃんの方は『おかあさん』と言ってくれたからな……お前はどうだ?」

 

 ニヤニヤとそう言うマリエに、悟はベッドから体を起こし、ジト目になる。

 

「別にちゃんつけして欲しいわけでもないからいいですよ……そんなの……」

 

「あらそう? はあ、私悲しいわ~雷くんがグレちゃって……」

 

「っどういう意味ですか?! もう、俺もちゃんと……母さん……みたいに思ってますよ! じゃなきゃここまで来てないです!」

 

 照れている悟にマリエはそっとハグをする。悟は驚き、手をこわばらせる。

 

「……何となくわかっているさ、なんせ大切な息子たち(・・)のことだからな……」

 

「っ……あのマリエさんさっきから口調が凄いごちゃごちゃと入れ替わっていますけど……」

 

 照れて露骨に話題を逸らす悟にマリエはクククと笑いハグをやめる。

 

「私の分裂の術の影響だろうな。長年分かれていた『私たち』が一緒になったことで人格も一つに戻り、十数年分の経験の擦り合わせで混乱しているんだ……こればっかりはどうしようもないわね」

 

 すごい違和感を覚える悟だが、しょうがないのだろうと苦笑いをする。

 

「さて、俺はなんとか体を動かせるようになってきました。……これから三代目の所に向かいます」

 

「そうか……わかった、お前のことだ。何かあるのだと納得して見送ろう……」

 

 そう言い悟がベッドから立ち上がると、2人の人物が姿を現す。

 

「無事か!! 小僧!!」

 

「大丈夫ですか!? マリエさん!!」

 

 慌てた様子の再不斬と白である。2人は、何とか生きているマリエと悟の様子に安堵する。

 

「ったく……心配かけやがって……ぶっ飛んでいって離れたから探すのに苦労したぜ。ってマリエ、その顔は……」

 

 再不斬がマリエの顔を見て、少し驚く。半分は病的までにやつれているのにもう半分は健康的な張りをしているからだろう。白も驚きを露わにする。

 

「……たはは……2人にも後で事情は話しておかないといけないみたいね……取りあえず今は避難しましょう? 里での戦いもほとんど終わっている様だからな……」

 

 口調の異変にも、気付く2人だがそれどころではないとマリエたちを抱えようとする。しかし

 

「あっ白雪面返して、俺は行くところがあるから」

 

 そういって白のつける無地の面を催促する悟に、白は素直に面を外し返す。

 

「ったく君は……そんなボロボロな状態でもまだ何かするつもりですか? 呆れて何も言えませんよ……」

 

「ははは……すまん……どうしても行かないといけないんだ……それじゃあマリエさんをよろしく、2人とも。後で病院で合流しよう」

 

 そういう悟はチャクラもほとんど練れず、筋肉もズタズタに裂けた状態にも関わらず屋根伝いに本選会場の方角へと向かっていった。

 

 

~~~~~~

 

 悟が四紫炎陣の張られた屋根に近づくと、術が解除され大蛇丸たちが撤退していく姿を確認する。

 

「っ……三代目!」

 

 体を引きずりながらも悟は三代目の元へ行くと数人の暗部が大蛇丸たちを追い、一人三代目の元に残っている様子が見える。

 

「三代目は……!」

 

 血塗れの悟に暗部の忍びが気がつくと、首を横に振る。しかし悟を手招きして近くに呼び寄せる。

 

「三代目はもう助からないっ……禁術の類か何かで生命力が僅かもないのだろう。……君を呼んでいる、近くに来てあげてくれ」

 

 暗部の忍びがそう言い三代目の上半身を抱え、悟はその傍に崩れるように座り込む。

 

「っ……三代目すみません……! 俺がもっと……」

 

「…………気にす、るでない……お主が……来たということは……マリエは……」

 

「はい、無事です……マリエさんは里の誰も傷つけてなんかいません」

 

「ほほぅ……それは……何よりじゃ……ようやったのう……悟」

 

 既に目も見えていないであろう三代目が虚空に挙げる手を悟はしっかりと握る。

 

「……大切な者を守る時……真の忍びの力は表れるの……のだと、ワシは信じていたが、どうやら間違って……ゴホッ……はおらなんだようだ。悟よ、火影としてお主を誇りに……思うっ」

 

 悟は手に力を籠める。……どうあがいても、目の前の人物は死ぬ。だからこそせめてその意思を受け継ぐ思いで耳を傾ける。

 

「そして、今から言うことは……ただの……火影ではない、ジジィの世迷言だ……っゴホッ!!」

 

 声を出すのもやっとの三代目の口元に悟は耳を近づける。

 

――さ――を――よ――

 

 三代目の言葉に悟は目を見開く。

 

「お主の……力なら……それも……1つの……道……」

 

 三代目の呟きは既に音を出さなくなる。

 

(火影としては……満足に皆を導けんかったが……悟よ……そして里の皆よ。ただ一人の人として……皆に出会えたこと……生涯の誉れであった……)

 

 辛うじて三代目は目を開け悟を見る。仮面の奥のその瞳を見て改めて感じる。

 

(初代様に……先にお会いしたからか……本当によく似た目をしておるのう、悟よ……)

 

「「――三代目っ!」」

 

 暗部と悟の呼ぶ声も聞こえない。満足そうに微笑みを浮かべた三代目火影猿飛ヒルゼンは

 

 

 

 

 ここに亡くなった。

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

 

 悟は涙を流した。火影として働く彼を、里を見守る年長者としての彼を。そしてマリエや自分の為にも、心配を続けてくれていた彼を思い。

 

 

 思い出されるのは、依頼をせびりに行った時の三代目の苦笑い。

 

  

 本来感情を表に出さないはずの隣に居る暗部の忍びすら嗚咽を漏らしている。

 

 

 それほどまでに慕われている彼の優しさに触れ、悟の心に一つの選択肢が芽生えた。

 

 

~~~~~~

 

 ……二日後

 

 

 

 

 

 第三演習場

 

 

 

 

「こんな日に何やってんの……悟」

 

 早朝雨の降る中、はたけカカシは黒い喪服を身にまとい慰霊碑の元へと1人来ていた。

 

 そこで演習場で1人、術の修行をしている黙雷悟にカカシは声をかける。

 

 

「見ての通りです……っツ!」

 

 

 全身包帯まみれの上に上下に適当な服を着た悟は、痛みにうずくまる。

 

 

「……無茶をするな。そんなに焦ったところで……」

 

「別に……無茶じゃないですよ……オーバーワークがいけないことは良く知っていますただ……」

 

 悟はカカシの目を見据える。

 

「ちょっと自分を戒めたくなったので」

 

 その言葉にカカシは息を漏らす。

 

「……実はなんだが……俺もそんな気分だ。……ちょっとだけ付き合ってあげるよ」

 

「……ふふっそんな感じ、してました」

 

 雨の中ずぶ濡れになりながら、2人の忍びは組手を始める。

 

 

 

 

「随分とボロボロだけど、体動かして大丈夫なの?」

 

「いえ……流石に過去一番でつらいですけど……同時に、調子の良さ……みたいなものも感じていて」

 

 悟の感じるそれは恐らく、自身の限界を超えた八門による術の発動が、かつて忍猫に言われた『封印術』の綻びを示していると推測する。

 

 同時に黙の行使した写輪眼は悟に未知なる感覚を呼び覚まさせていた。

 

(……この身体の持つ力は……計り知れないし普通じゃない。黙に聞こうにも、しばらくは外に出てこれないようだし……)

 

 更なる力の予感に、悟はじっとなどしていられず自身の目の前で息絶えた三代目に誓い、ただ守るために強くなろうとしている。自身がそれを望むゆえに。

 

「そういえば、マリエについてなんだけど……」

 

「ああ、一応は大丈夫です。事件のあと厄介事がおきましたけど……里の皆が助けてくれましたから」

 

 そういう悟は嬉しそうに笑う。

 

「そう、それは良かった。ガイも心配してたし俺も同期として、マリエのことは気にしてるから……この後施設に様子見に言ってもいいかな?」

 

「俺に聞かなくても良いって言いますよ。マリエさん、あれから精神的には余裕があるみたいなんで」

 

 雨の中、2人は組手を続けた。

 

 

 影で見守る人物には気がつかず。

 

 

「黙雷悟……以前会った時と比べ仙人としての素質の高まりが異常だのう……仙郷でもないのにこうも短時間で……。これは少し、ワシが見てやる必要がありそうだな」

 

 

 

  

 

 

 



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63:雨上がりの里

次回から新章です。


<黙雷悟>

 

 里全体あげて行われた三代目や木の葉崩しで亡くなった方の葬式が終わり、暗い雰囲気を残す中人々は日々の暮らしに戻っていいく。

 

 雨も上がり、カカシさんと組手を終えた俺は彼の奢りということで午後から営業を再開した茶屋に来ていた。

 

「で、マリエの暴走の後の厄介事って?」

 

 席に着き茶をすする俺にカカシさんは話を切りこんでくる。

 

「それですね……え~と、ざっくりと説明しますと……」

 

 三代目を看取った後病院に移動したときに起きた厄介事をカカシさんに説明することになった。……気持ちのいい内容じゃないからあまり話したくないが、カカシさんはマリエさんにとって結構密接な方なので話さないわけにもいかないだろう。

 

~~~~~~

 

二日前

 

 

 

 

「……っいたいた。やあ、白雪」

 

 病院に足を引きずりながら来た俺は、怪我人でごった返している中白雪を見つけ声をかける。

 

「ああ、悟君ちゃんと来ましたね。……改めて見ると酷い怪我ですね、すぐにでも治療を受けた方が」

 

「いやいいよ、俺は……何とか動けてるし、命にかかわることでもなさそうだからな」

 

「そうですか……見た目とてもそうは見えませんが、君が言うなら。僕たちもマリエさんの事情は少しだけですが聞きました、よく頑張りましたね」

 

「……ああ、誰かをマリエさんが傷つける前で良かったよ」

 

「まあ、一番危険だったのは施設に近寄っていた僕たちですからね。……事情を隠した君の指示のおかげで」

 

 ジト目で抗議の意を示す白の視線に、「……うっ」と言い俺は目線を逸らす。

 

「本当にすみません……」

 

「あはは、別にいいですよ気にしてません。僕たちのことを信頼してくれての行動だったと勝手に納得していますから、マリエさんは奥にいます着いて来てください」

 

 白雪はあっけらかんにそう言うと、俺をマリエさんのいる場所まで案内をしてくれた。……危険に晒したのは事実だし、何時かお詫びをしたいと思う。

 

「はい、止血は出来ました。患部はあまり動かさないでくださいね」

 

 白雪の案内で、病院のロビーまで来るとマリエさんは半身を包帯で隠した状態で怪我人の治療を手伝っていた。

 

「マリエさん、ここにいて大丈夫ですか?」

 

 俺は心配になってマリエさんにそう声をかける。

 

「あら、悟か。……気分が良いんだよ、今のところ。私の感情の大半は10年近い歳月のおかげか、納得は出来ないが受け止めることは出来るようになっていたみたいだ。……他人事みたいだけど、実際私は2人になっていたしね」

 

「そうですか……今回の……そのきっかけは……」

 

「……私がかつて九尾と接触したのが原因だろう。いつの間にか九尾のチャクラと精神エネルギーを少し取り込んでいた私は、元来の生体感知能力が影響を受けて悪意、殺意を感じ取れるようになっていたみたい。覚醒しかけていた私が今回の事件でそれを感知してしまったことが直接の要因ね」

 

「なるほど……今は」

 

 心配する俺の声にマリエさんは被せるように話す。

 

「今は、何も感じない……。生体感知も出来ないしチャクラを練ることも出来ない。恐らく、暴走していたときに九尾の影響を受けた部分を発散させたからだろう。それで私の経絡系が大きなダメージを受けていると考えられる」

 

 無意識下に影響を与える九尾のチャクラは、俺も経験済みだ。感情を抑えることが出来なくなる、その力を気づかず取り込んでいたとは精神的に不安定だったマリエさんにとっては悪影響しかないだろう。それが取り除かれた今……。

 

()のマリエさんでいてくれる、ていう意味でとらえても良いんですよね?」

 

「……経過観察は必要だ。今、私は私自身を信用していないからな」

 

 そう言ってマリエさんは話を切り上げ、別の人の治療に向かおうとする。俺も今は掌仙術を使えないが、怪我の処置の知識は一応ある。

 

 マリエさんの手伝いをしようとした俺は、唐突にロビーに響く声に驚いた。

 

「蒼鳥マリエはいるか?」

 

 その声に振り向けば、暗部の仮面を被った忍びが2名いるのが見える。

 

 ……わざわざ、暗部がこんなところに。とその瞬間、俺の記憶がフラッシュバックのように蘇る。内容的には恐らく『黙』の記憶だろうが。

 

 その記憶は今まで『黙』が見てきたマリエさんが処刑される場面であった。その時、マリエさんを連れていく暗部の……『根』の忍びは今ここに来た2人だった。

 

 病院関係者が声を抑えるように暗部に近づき語りかけるものの、腕で押しどかされズイズイと病院の中に入ってくる。

 

 暴走した件を持ち出し、マリエさんを処刑する気の彼らにマリエさんは渡せない。白と再不斬も素性が知られるとマズイので、ハンドサインで隠れさせる。

 

「先の戦いで、岩の巨人となって暴れていた忍びがいるはずだ! 志村ダンゾウ様の命により、そのものを木ノ葉の敵とみなして処刑する!」

 

 白雪は焦るような表情をしながらも、人ごみに紛れる。

 

 病院は騒然となり「ダンゾウって誰だ?」「木ノ葉の偉い人の1人だって聞いたような」「あの岩の巨人になっていた奴がここに……?」「三代目が亡くなったっていう話があるのに……もう厄介事は勘弁してくれ……」

 

 

 と人々の不安が掻き立てられる。

  

 

 三代目の死は、噂として既に里中に広まっている。……これも恐らくダンゾウの仕込みだろうと『黙』の記憶から予測する。

 

 俺は自分の体で、マリエさんを隠すようにするがマリエさんはスッと立ち上がり声を張る。

 

「……私が、蒼鳥マリエだ! 用があるならサッサと連れていけ!」

 

「……なっ!? マリエさん! 処刑するって相手がいってんのに……!」

 

 俺は驚きマリエさんを止めようとするも彼女は根の忍び達の目に既に止まっている。

 

「潔くていい。さあ、サッサとこい!」

 

 マリエさんはこれ以上周囲の不安を煽りたくないのと、自分が暴走した負い目からか自ら歩みを進み始める。

 

 ふざけるな! 絶対に行かせるわけには行かない!! 

 

 そう思い俺がマリエさんの前に立つよりも早く、声を上げる人物が出てきた。

 

「はて……岩の巨人は……彼女は果たして木ノ葉の敵と言えるのですかな?」

 

 その人物は根の忍びと俺たちの丁度中間に立ち、根の忍びに声をかける。

 

「何を言う! こ奴が暴れている姿、里の者が見ているはずだ。言い逃れなど出来るはずも……」

 

 声を上げた人物は、避難誘導をしていたあの老忍びだった。この人は……?

 

「彼女は暴れていたのではなく……立派に木ノ葉の敵と戦っていた。そう、それを見たものはこの場にもいるはずですよ」

 

 そういう老忍びは言葉を続ける。

 

「彼女が戦っていた付近では、木ノ葉の関係者の死傷者は出ていませんでした。それはワシが確認したので間違いはありません」

 

 マリエさんの暴走時、俺がひたすら高速で救助活動をしたから、建物以外の被害は出ていない。そのため、老忍びの意見に賛同する者が少しずつ出てくる。

 

 

「確かに……巨大な蛇たちとも戦っていたし……」

 

「敵の多くが岩の巨人に群がって蹴散らされているの、私あの仮面の子に抱えられながら見たわ!」

 

「爺さんの言う通りなら、あの人は味方じゃないのか?」

 

「病院でも、自分も辛そうなのにあの人は治療をしてくれていたぞ……そんな人が木ノ葉の敵な訳ないだろう!」

 

 

 大衆はマリエさんのことを守るように根の忍びとの間に並び立ち始めた。……っ!

 

 黙の記憶では、罵られ罵声を浴び木ノ葉の敵としてマリエさんは処刑されてしまっていた。……凄惨なその記憶を塗り替えるように、目の前で広がる光景に胸の奥が熱くなる。

 

 

 

 ……わかっている。マリエさんが危険な存在だというのは……本来俺がいなければ、多くの犠牲が出ていたはずだということも……だけど

 

 

 

 俺が、マリエさんに生きていて欲しいと思う。

 

 

 それ以上の理由は、俺の行動にはいらない。

 

 

「貴様ら、その女の危険性を」

 

「……この人が危険だというダンゾウの命令が正しいと、言い切れる根拠はあるのか?!」

 

 根の忍びの言葉を遮り俺は声を張り上げ問う。

 

「ダンゾウ……とか言う奴は何をもって、そんな命令を出してるっ!」

 

「……それが木ノ葉のために必要n

 

「命を張って戦った三代目やっ!! ここで怪我をして治療を受けている忍者たちっ!! 里を守るために決死の戦いに挑んだ人たち相手に、『何もしていない』ダンゾウとやらが口を挟むんじゃねえ!!」

 

「貴様! ダンゾウ様に対して……!」

 

「事実だろう! 今回の事件で、ダンゾウは……お前らは何をしていた! その傷1つない外套に仮面をつけてどの面さげてここにいる!」

 

 

 

 俺はダンゾウについて詳しくは知らない。

 

 

 

 けれど彼が原作で『ペイン襲撃』において、何も手を出さなかったことを知っている。そう思えば恐らく今回の事件でも静観に徹していたのだろう。

 

 

 俺は大義名分を振りかざす。名誉の負傷、戦い傷ついた者の名分を。

 

 

 ……人々がどちらの味方になるのかは明白だ。

 

 

 表の感情は熱くしかし、心は冷静に酷く落ち着いている。ダンゾウという存在が、黙を通して俺に復讐心を芽生えさせる。

 

 

 俺の声を皮切りに、病院の人々は根の忍びに押しかかり外へと追い出す。

 

 

 喧騒が落ち着く頃には根の者たちは既に撤退しており、一息ついた俺は老忍びに声をかける。

 

 

「……ありがとうございます。俺たちの側に立っていただき……」

 

「何、若い者がこうも必死になって守ろうとするもの。それをこの老兵も守りたいと思ったまでですな。実際、君たちの活躍は多くの者を助けた。……多少の印象操作(・・・・)をしてもバチは当たりますまい」

 

「……改めて、俺は下忍の黙雷悟と言います。貴方は……」

 

「ワシも君と同じ、しがない下忍で名をまるほしコスケと言います。どうかお見知り置きを」

 

「コスケさん……下忍なんですね、てっきり上忍ぐらいの方かと」

 

「カッカッカッ! ワシ見たいな老骨は縁の下がいるのが性に合っておりますので、いつか君が中忍、上忍になったときにでも部下として使ってくだされ」

 

「いやそんな……俺はそういうの苦手何で……部下とかそういう関係はなしに仲間として協力していきましょう」

 

 俺の言葉に満足そうにうなずいたコスケさんは、再び怪我人の処置の方へと回っていった。

 

 騒ぎを聞きつけて様子を見に来ていた再不斬と、隠れていた白が心配そうに寄ってくる。

 

「……っマリエさん! 何あんな奴らに素直についていこうとしてんですか!」

 

 俺が怒ってマリエさんそう語りかけるのをなだめる2人。

 

「……私が原因でもあるからな。だが確かに、頑張って私を抑えてくれた悟ちゃん達にも、私自身が自分のことを容易く諦めるのは良くないわよね……繋がりを持つって難しいモノね……」

 

 反省するマリエさんを俺はため息をつきながら諭した。

 

 

~~~~~~

 

 

「ってな感じです。根の連中がマリエさんを処刑しようとしてきたってことで」

 

 俺は仮面を少しずらして茶をすする。

 

「……ダンゾウに、根……やっぱりマリエに絡んでいたか」

 

 カカシさんは納得した様子で、目線を落として何かを考えている様子だ。

 

「この後はカカシさんどうしますか? 家にマリエさんの様子でも見にきます?」

 

「……ん、いやそれはまた今度余裕がある時にガイと一緒に行くよ、これから少し忙しくなりそうだからな」

 

 カカシさんの返答に「そうですか」と言って俺は団子を噛み、飲み込む。

 

「……そういえば、マリエさんの事情は大体俺も聞いたんですけど……」

 

「そうか、まあマリエがお前に話すのも無理はない。悟がいなければ、最悪の事態になっていたのは想像に難くないからな。俺としてもホッとしたよ」

 

「マリエさんが赤子の俺を拾ってくれたときにカカシさんも一緒にいたんですよね?」

 

「……まあ、お前には悪いけど俺は正直反対だったけどね」

 

「結果としては色々と手を回してくれたそうじゃないですか、ありがとうございます」

 

 俺が頭を下げると「よせやい」とカカシさんは嫌そうな顔をする。……三代目やカカシさんがいなければ、俺はここまで成長するチャンスすらなかったわけだ。感謝はしてもしきれない。

 

 頭を上げた俺は、支度をして席から立ち上がる。

 

「……それじゃあ、俺はこの後ぶらぶらしてから帰ります。奢り、ありがとうございます

 

 

パパ♪」

 

 

「ぶっッッ!! おま、急に何言ってんの気色悪いよ!!!」

 

「実質そうじゃないですか? カカシさんて」

 

「実質そうじゃないよ! 全く、まだ26の歳でそんな呼ばれ方をするなんて……あ~ヤダヤダ!」

 

 カカシさんは手で払う様に「シッシ」と俺を追い払う。

 

 俺は意地悪な笑顔を仮面に秘め、手を振りながら茶屋を後にした。

 

 

~~~~~

 

 

 で、その帰り道。

 

 

「見つけたぞ、黙雷悟」

 

「……なに用かな、日向ネジ」

 

 俺は声をかけられる。白き眼は真っすぐ俺を見据える。こめかみに血管が浮き出ている様は中々に、機嫌が悪そうに見える。

 

「……俺は貴様を認めていない」

 

「……へ?」

 

「確かに、俺はお前に負けた。だがそれは俺に力が足りず、お前が強かった。それだけのことだ」

 

 ……何が言いたいのか、ネジは滅茶苦茶に睨みつけてくる。

 

「……俺はさらに強くなり、お前を必ず超えて見せよう! 今後は……父上に稽古をつけてもらう。……首を洗って待っていろ、天才(・・)

 

「……ふふ。ああ、いいだろう何時でも挑戦を受けてやるよ! だが、俺もそう簡単に負けてやるほど甘くはないからな精々技を磨けよ天才(・・)

 

 ネジは目を閉じ鼻を鳴らす。

 

「随分と強気だな、まあ言いたいことはもうない。さらばだ」

 

 そう言ってスッと去っていったネジの後姿を見る。……ネジなり何か吹っ切れたのだろう。随分と原作より攻撃的な気がしないでもないがそれは知らない。

 

「ネジ兄さん、少し雰囲気が変わりましたね」

 

「……急に後ろから話しかけてこないでくれ、ハナビ」

 

 そういって俺が振り返ると、ハナビとヒナタがいた。

 

「……何、日向がそろって……俺に何か用でも?」

 

「そういうわけじゃないんだけどね……ネジ兄さんが『悟の奴に会うにはどうすればいい』って聞いてきたから……一緒に私とハナビも探すの手伝ってたの」

 

「そうそう私たちも一緒に悟さんを探してたってわけ。姉様相手にネジ兄さんから話しかけるのはかなりレアだったわね~」

 

 なるほどね……、ヒザシさんとヒアシさんは上手いことネジと話し合いが出来たのだろう。

 

「……そうだ、2人とも。毒の件で色々心配かけたしこの後家に来ない? お詫びがしたいんだけど……」

 

「悟君……あの件は本当に……反省してね?」

 

「あの時の悟さんの意図は知らないですけど、たっぷりとお詫びを受け取りましょうか姉様♪」

 

 そういう2人を連れ、俺は施設へと帰る。途中影分身をナルトの元へと送りナルトも呼ぶ。ナルトにも心配をかけたからな。

 

 

 

 施設に戻って、俺は食堂で甘味を作る。……フレンチトーストとか、そういう簡単な奴だが。

 

 それを振舞うことで、少しでも心配を掛けた分をチャラに出来たらと思う。

 

 途中、匂いにつられた再不斬と白が顔を出してきて「俺たちにも詫びがあるだろう?」って顔で見てきた。

 

 

 ……影分身を追加の材料を買うお使いに出す。

 

 

 まあ、皆には本当、感謝しかないなぁ……ははは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、本当にこういう幸せは覚悟(・・)を鈍らせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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覚悟をしたためる者たち
64:今はまだ青き木ノ葉


今回から文を三人称に固定します。


 木ノ葉崩しにより、里の力の低下を招いた木ノ葉の里。

 

 三代目火影の死の噂を聞きつけた他里の謀略に対するために、里の忍び達は尽力して防衛に当たる。

 

「……大規模の戦闘の跡、まだ近くに誰かいるな」

 

 第零班黙雷悟は、単体の戦力を見込まれ1人里外に出てパトロールをしていた。その際に見つけた戦闘痕をたどった悟は岩隠の部隊とみられる負傷者を多数見つける。

 

(かなりの手練れの仕業だな……取りあえずこいつらは侵入者だが、既に虫の息。先にこれをやった人物を探すか)

 

 そうしてチャクラ感知をして岩隠の部隊を撃退した人物の捜索に出た悟はすぐに馴染のチャクラを感じ取り、気を緩める。

 

 対象者にワザと気配を悟らせながら、近づく。

 

(変に気配を隠していって攻撃されても敵わないからなぁ……特にナルト相手だと勘違いで手裏剣投げてきそうだし)

 

 そう思いながら悟はうずまきナルトとまるほしコスケに声をかける。

 

「第零班黙雷悟です。岩隠れの部隊と接触したのはあなた達ですね?」

 

「……っ悟か! 良い所に来てくれたってばよ!」

 

「おや……君はあの病院での……」

 

 全員が顔見知りであるので、悟は態度を崩しナルト達から報告を受ける。

 

……

 

「つまり、それなりに人数の揃った部隊が近くにいるってことか……」

 

「ハヤマ隊長たちが足止めしてくれてるけど、早く助けに戻らねえとっ!」

 

 焦るナルトを手で制止して悟は影分身を1人分出す。

 

「俺の分身を残す、コスケさんの怪我の治療をしてからナルトは里に戻ってくれ。そのハヤマ隊長とかやらは俺に任せろ」

 

 そういう悟は首を鳴らし、身体の柔軟を始める。

 

「いいのですかな? 君1人で……」

 

 心配をするコスケに悟は仮面の奥の自信にあふれた目を覗かせ告げる。

 

「まあ、大丈夫ですよ。木ノ葉崩しの怪我もある程度治ってきたので、ここらでちょっと体を動かしておきたいと思っていたところです。大丈夫です……」

 

 八門第一開門と、雷遁チャクラモードを併用し薄く緑色の雷光を纏った状態の悟は言葉を残し、その場から跳躍して姿を消す。

 

 

「俺は速いので」

 

 

 そういう悟を見送り、コスケがその速さに二代目火影の面影を少し見たところでナルトの様子に気がつく。

 

「どうしましたかなナルト君?」

 

「いや、やっぱあいつってすげえなって……。俺も負けてられねえってばよ……!」

 

 同期の中1人頭抜けた実力を持つ黙雷悟に対して、対抗心を燃やすナルトは握りこぶしに力を込めた。

 

 

~~~~~~

 

 

後日、「施設蒼い鳥」

 

「聞きましたよ、岩隠の大部隊相手に1人で立ち向かい見事勝利を勝ち取ったって。君も良くやりますね」

 

 昼前、悟は施設の掃除をしている最中に白に声をかけられる。

 

「……まあ、見事に目立ってしまったよ……俺以外にもコスケさんとか木ノ葉の忍びが居たんだけどなぁ」

 

「今の時期、木ノ葉は他里に牽制することに重きを置いています。『下忍が1人で部隊を追い返す』という捏造により、戦力が落ちていないことをアピールする意図があるのでしょう」

 

「……しょうがないのは分かってるけど……二つ名(・・・)何て大層なモノいらないんだよなぁ……」

 

「『翠色(すいしょく)の雷光』……かつて四代目火影は『黄色い閃光』と呼ばれていたそうですが、随分と似ている重い名前を貰いましたね」

 

 クスクスとからかう様に笑う白の様子に悟は照れて顔を背ける。ある程度慣れては来ているが未だに悟は白のふとした瞬間に見せる笑顔などを直視できないでいた。

 

(……ああ、相変わらず滅茶苦茶綺麗だな白は)

 

 そう思う悟は逃げるようにその場を後にした。

 

 

 

 

 施設の中を移動し、台所で昼食の準備をしているマリエを見つけた悟は声をかける。

 

「マリエさん、こんにちは。手伝いましょうか?」

 

「……ああ悟()ね。大丈夫だ、お前はこの後修行に行くんだろ? そっちに集中していなさい」

 

 少し素っ気なく答えるマリエに、悟は「ははは……」と苦笑いを浮かべる。

 

(あれからマリエさんの精神が暴走する兆候は見られない。それは良い事なんだけど同時に、チャクラを練ることも出来なくなっている状態が続いている様だ。最近は再不斬と白が施設の仕事に慣れてきたから、他の職員の方たちと力を合わせてマリエさんの影分身に頼る必要はないんだけど……)

 

 心配そうに眺める悟の視線に気づきマリエはムッと表情を変える。幾分かの時間が経ち、マリエの姿は元の健康体に戻っているためすでに顔には包帯はない。

 

「……なんだ? あまり施設のことを気にしないでもいいのよ。お前は自分のことを考えていろ、シッシ!」

 

 そういうマリエは手で払いのけるようなジェスチャーをして悟は追い払う。

 

 悟が演習場に行くと告げ苦笑いのままその場を後にした後、マリエは1人顔をしかめて唸る。

 

(……いざ彼が異世界の人間で元々20前後の年齢だと聞かされても、実感は湧かないな。けれど顔を見ると不思議と意識して緊張してしまうし、声も少し上ずってしまう……呼び方もちゃん付けは今更恥ずかしいし……ああ、もう少し普通の子でいてくれたらって私が思うのは筋違いだよなぁ)

 

 マリエは悟との距離感に迷いを持っていた。

 

「だから、昔お風呂に一緒に入るのとか拒否してたのね~。ああ、納得できる場面はそれなりにあるのがそれはそれで悩ましい……」

 

 複雑な感情を抱くそのマリエの呟きは湯が沸いた音にかき消され、日常へと溶けていった。

 

 

~~~~~

 

 仮面をつけ施設を出て悟は、演習場に向かう前に腹ごしらえにと一楽へと向かう。

 

「何となく、だけどナルトが居そうだな」

 

 そう呟きながら一楽の暖簾をくぐると、元気よくラーメンの注文しているナルトを目にする。

 

「……やっぱり」

 

「……あ? ああ、悟かっ! お前も昼飯にラーメン食べに来たのか?」

 

 テンション高めのナルトに「ああ」と簡潔に返事をして、店主のテウチに悟は注文を済ませる。

 

「ナルト、この前のコスケさんと一緒にいった任務はどうだった?」

 

 悟はラーメンを待つ間に、世間話にと数日前の出来事を振り返る。

 

「いやあ、コスケの爺ちゃん、滅茶苦茶強かったってばよ。下忍って言ってたけど色々なつえー術使ってたし……後、鍋のご飯もかなり上手かった」

 

「鍋ってあの背負ってた奴か……背面は傷だらけだったから盾にしてたんだろうけど、それでちゃんと調理もするのか。経験の豊富さを感じるなあ」

 

「最初は変な爺ちゃんだと思ったけど、コスケの爺ちゃんを見てたらやっぱり下忍とか中忍とかってのはあまり大きな問題に思えなくなってくるからすげえよな」

 

 話を膨らませ、最終的に二人とも中忍なれなかったことに対して冗談を言い合う様になる。黙雷悟が中忍になれなかったのは、大切な本選前に毒を受けたことが後になりわかったからである。中忍として部隊を預かる人間が、大事な件の前に問題を起こしていることはありえない。よって悟の中忍選抜に落ちた結果はわりと早期に知らされた。

 

 ナルトの言う様に飽くまで「身分」というものに悟は重きを置いてはいない。確かにあれば有利になるかもしれないが、それは同時に枷にもなると考えているからだ。一長一短、それは多くのことに当てはまる。なるべく自分のしたいこと・やりたいことを優先したい悟は下忍のままでも問題ないと考えている。

 

 しばらくして注文したラーメンが完成し、その味を堪能している二人に来訪者が現れる。

 

「聞いた通り来てみりゃ……本当にラーメンばっか食っとるようじゃのォ……ついでに仮面小僧もおるとは幸先良いのォ」

 

 

~~~~~~

 

 

 一楽に来た自来也は自作小説の取材旅行のお供としてうずまきナルトと黙雷悟を指名した。

 

 最初は興味を示していなかったナルトは自来也が「千鳥よりすごい術知ってるのになぁ~?」という自来也の呟く餌に食いつき同行を即決する。

 

 悟は話の内容から(……綱手捜索の奴かこれ……)と推測する。

 

(何で俺まで巻き込まれているかはわからないけど、自然エネルギーについて学べるチャンスだな!)

 

 そう思い悟も同行を了承し、準備をしに施設へと戻る。

 

 

「……という訳でしばらく里の外に出ます。任務などについても自来也さんが、里の上層部に話をつけてくれているそうなので何とかなるみたいです」

 

 そういう悟の言葉にマリエはポカンとお口を開ける。暫く動きを停止させたマリエは何とか考えをまとめ言葉を捻りだす。

 

「……そうか。……う~~~~~~ん……頑張って……こいな」

 

 ぎこちないマリエの言葉に、悟はまたしても苦笑いを浮かべる。マリエとの距離感が少しおかしいのは悟もわかってはいる。原因が自分が異世界人云々をカミングアウトしたことであることも。なのでしょうがないと思いながらも悟はバックパックを背負いそのまま挨拶を済ませ玄関へと向かう。

 

 悟が玄関にある連絡板に『黙雷悟:長期外出』と記入し、サンダルを履いた時にマリエが慌てて走り寄ってくる。

 

「悟くn……ええいっまどろっこい!! ……悟ちゃん! 必ず元気で、笑顔で戻ってきなさい! 貴方が何者だとか、そんなのどうでもいいのよ! 貴方は私にとっては大切な家族の一人! だから!!」

 

 目を点にしている悟にマリエは顔を赤くして告げる。

 

「もう、悩まない。貴方のことを信じてるから、元気でね」

 

 そういうマリエに悟は笑顔をこぼれさせ、返事をする。

 

「ええ、貴方が嬉しいと思ってくれるように、貴方を安心させられるように。強くなってきます! では」

 

 行ってきます。そう告げた悟は玄関から姿を消した。

 

「……はあ、どっと疲れたわぁ」

 

「お疲れ様です、マリエさん。自分の感情に正直になるのは良いことですよ」

 

「っ! し、白雪ちゃん!? 聞いてたの!?」

 

「それはもちろん。随分と大きな声でしたから、多分施設の皆に聞こえていますよ。まあ、貴方風に言うならマリエさんの元気が戻ってきたようで僕は嬉しく思いますね」

 

 少しにやけてからかう白の言葉にマリエはその場にへたり込み、うつ伏せになり顔を隠す。

 

「……全く事情はわからねえけど、マリエと悟はいつもぎこちなくなったり仲良くなったりしてるな」

 

 影で見守るウルシはそう呟く。その呟きにウルシの背後の再不斬が答える。

 

「ふん……雨降って地固まるて奴だな。困難を乗り越える程絆は強くなるもんだ、そういう関係は少し……羨ましくも思えるな」

 

「桃さんアンタ……けっこうロマンチスt」

 

「黙れ、ウルシお前午後から任務があるんだろう。お前もサッサと用意を済ませてこい!」

 

 ウルシの言葉を遮るように再不斬はまくし立て、洗濯籠を手に持ちながらもウルシに蹴りを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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65:交わる写輪眼

休みがないため、書く時間が取れないなぁ……。遅れてすみません


 黙雷悟は、ナルトと共に自来也に連れられ木ノ葉から少し離れた宿場町に着く。

 

「なんか怪しい街だよなぁ……」

 

「わかるぅ……(前世でも怪しい店に呼び込みとかしてる街に行ったことはあるけど……その時もナルトと同じ感想だったなぁ)」

 

 少しアダルトな街の雰囲気に子供なナルトと悟は、少し警戒の色を示している。そんな2人のことなどお構いなく自来也は受付で宿を取り声をかける。

 

「おう、ガキども今日はここに泊まるぞぉ……と、おおぁ!?」

 

 自来也は突然嬉しそうな声を上げだらしない顔になる。その様子に、目線を自来也の向ける先に合わせたナルトと悟は自来也が黒髪ロングの美人にウインクでアプローチをかけられているのがわかった。

 

 ナルトもその美人にテンションを上げている。悟も自身の好みに近いため、仮面の奥で少し顔を緩める。

 

(……そういえば、俺の好みの女性のタイプってマリエさんに知られてたんだよな……)

 

 かつて、封印の書関係の出来事で自身のお色気の術をマリエに見られていたという事実を思い出し、げんなりする悟。マリエも深くそのことを聞いてこない。……悟の背に嫌な汗が流れる。

 

 1人、隠している大人な本を見られた思春期の子どもみたいな葛藤を抱えた悟を無視し、自来也は宿のカギをナルトに押し付けその黒髪の美人についていった。

 

「ちぇ!! エロ仙人ばっか自由に何でもかんでもやっててつまらないってばよ!! おい悟、ボーとしてないでさっさと部屋行こうぜ」

 

「……え、ああ。わかった……」

 

 若干テンションが下がった2人は大人しく宿の部屋へと向かった。

 

 

~~~~~~

 

 

(……思い出したけど、ここってイタチさんとあの~……サメっぽい人……が確かナルトを攫いに来るとことだっけ……流石に何もせずにくつろいでるのは不味いか……)

 

 呑気に部屋の天井に足をくっつけ、瞑想をしている悟は同じくベッドでチャクラコントロールを鍛えるため印を組んで唸っているナルトに目を向ける。

 

「ナルト~?」

 

「あんだよ、今俺ってば集中してんの。ちょっと黙っててくれってばよ」

 

「いや、集中するなら耳栓でも貸してやろうかなって。あとついでにちょっとしたチャクラコントロールコツでも教えようかな~」

 

「マジで!? なんだよそれならさっさとコツとかいうの教えてくれってばよ!」

 

 悟の出す餌に食いついたナルトに悟は自前で持っている粘土をちぎり、ナルトの耳の穴を塞ぎながら説明をする。

 

「静かに目を閉じてジッと自分の精神の中に潜り込むんだ。……んで九尾ならなんか有意義なこと教えてくれるだろ」

 

 半分以上九尾を頼りにした悟のアドバイスを鵜呑みにしたナルトは喜び勇んで目を閉じ集中し始める。

 

(貴様……勝手にワシを教師扱いすんじゃあねえっ!!)

 

 悟の提案に納得せずに念話を飛ばしてくる九尾に悟は心の中で苦笑しつつ

 

(ナルトとお前の為だから……適当にナルトの相手しててくれ。ちょっと外でドタバタするけど、ナルトをここから動かさないでくれよ)

 

 そう九尾に頼み込んだ悟は部屋を後にする。

 

(ケッ! 人間の小僧ごときが偉そうに……)

 

(九尾~九尾~いるんだろ~? 何か悟に勝てるようになる術とか、サスケの千鳥みたいなカッコイイ奴とか教えてくれよ~)

 

 面白くないと憎まれ口を叩く九尾は、精神世界に潜ろうと頭の中でうるさく九尾を呼ぶナルトの声に鬱陶しさを感じながらも仕方なしに答えてやることにした。

 

(……なぜワシがこんなことを……はあっ……)

 

 

~~~~~~

 

「しかしまあ、あの三忍の1人自来也が子守をしているとは……全く面倒ですねぇ」

 

「……だが、どんな忍び成れど弱点はある。特にあの方は恐らく素であの手(・・・)に引っかかっているのだろうからな」

 

 朱い雲の模様を浮かべた外套を羽織る2人組は、悟たちが停まる宿の前まで来て中の様子を伺っていた。

 

「多少の時間稼ぎにしかならないと思いますけどねぇ。まあ、あまり時間は無さそうですから、早い所九尾の人柱力を……」

 

 外套を纏う大柄の男は、穏やかな口調ながらも廊下を進み自身の目的の人物を探る。

 

「……こっちだ鬼鮫。チャクラの色からして間違いなく、九尾の……っ!」

 

 対象にかなり落ち着いている様子の男はその朱き目を光らせ、漂うチャクラの色から対象の大まかな場所を割り出す。しかし何かの存在に気がついたその男は廊下を振り向く。

 

 釣られて鬼鮫と呼ばれた『干柿鬼鮫』も、朱い目を持つ『うちはイタチ』が向ける視線の先に注目する。

 

「……何となくだが……君は俺たちが来ることを予見している、そういう根拠のない自信があったが……」

 

 イタチは目に力を籠め、廊下の先に立つ男の仮面の奥の緑の目を見る。

 

「どうやらその予想は当たったようだな……黙雷悟」

 

「そうですか……良かったですね。ならそのままサッサと逃げた方が身のためですよ? 自来也さんを呼んできたので」

 

 イタチと目線をぶつけ合う悟はそう軽く言い放つ。その言葉に一瞬鬼鮫が反応するが

 

「それはフェイクだ。かの三忍自来也なら間違いなく、最初に大見得を切る。君と一緒にいない時点でまだここに自来也は来ていないのだろう」

 

 イタチが悟の嘘を看破し、一歩悟に近づく。

 

「……随分と噓が上手くなったな、黙雷悟」

 

 ほんの僅か懐かしむような雰囲気を出すイタチの様子に悟も、少しだけ肩の力を緩める。

 

「一瞬で見破っておいて……まあ、いいか。……あなた達に勝てるとは思っていないので……」

 

 悟は印を結ぶ。

 

「全力で時間稼ぎだ!」

 

 水遁・霧隠の術を使い廊下を濃霧で埋め尽くす悟。再不斬がカカシ相手にそうしたように、イタチの写輪眼を鈍らせる狙いがある。

 

 そしてそのまま、正門・雷神モードを発動させ飛雷脚でイタチ目掛けて飛び蹴りを繰り出す……が

 

「随分と器用な真似をしますねぇ」

 

 イタチの前に出た鬼鮫が、背負っていた包帯が巻かれた得物を盾にしてそれを防ぐ。

 

 攻撃を防がれたことを確認した悟は蹴りの反動で跳ね返り急いで距離を取る。

 

「おや? 随分と良い警戒をしていますね~まるで私の大刀の力を知っているかのような……なんて」

 

「時間稼ぎと言いつつ、速攻で俺を打ち取りに来る点と言い、鬼鮫の鮫肌から逃げたことと言い……相変わらず君の動きは面白い」

 

 そういうイタチは息をするよりも自然に、素速く印を結び風遁を行使して霧を晴らす。

 

「流石に霧隠れぐらいじゃ、簡単に破られるか……っ」

 

「イタチさんと私相手では、その術の効果はあまりありませんよ? さて、あまりウロチョロされてもうっとおしい……貴方はターゲットではないのでサッサと殺させてもらいましょう……」

 

 鬼鮫の放つプレッシャーに少し怯む悟。確実に格上である彼ら2人とまともにやり合えば、悟と言えどもモノの数秒の命であることは火を見るよりも明らかであった。

 

 高速で接近し、得物で押しつぶすように攻撃を仕掛けてくる鬼鮫に対して悟はより洞察力に優れる雷眼モードに切り替え、避けに徹する。

 

「へえ~随分と芸達者のようで、まるで写輪眼、白眼の洞察力を持つ者のような動き。それに体捌きは先ほどの珍獣をも思わせる節が……少しイラッとしますねぇ……」

 

 動きが荒くなった鬼鮫の大振りの攻撃を何とか避ける悟。

 

(このまま時間を稼げれば……っ!)

 

 そう思った矢先。

 

 鬼鮫の大きな体により死角になった場所から不意に手裏剣が複数飛来する。鬼鮫と距離を取るために、後ろに飛び退いた瞬間に現れ出たその手裏剣は確実に悟に命中する軌道を描く。

 

「しまっ……!?」

 

 そういう悟は咄嗟に腕で防御姿勢を取る。

 

 

 

 しかし手裏剣は金属音を響かせ、軌道が逸れることで宿の壁に刺さる。

 

 

 

 何が起きたのかと困惑する悟が鬼鮫に集中していた感知を広げれば、後ろに見知った人物の気配を感じ取ることが出来振り返る。

 

 

 

「……随分と騒がしいことになってるな……悟」

 

「……サスケっ!」

 

 

 写輪眼をその目に宿したサスケはイタチの手裏剣に手裏剣をぶつけることで悟を守ったのだ。

 

「……ウスラトンカチの野郎は無事か?」

 

「ああ、部屋に閉じ込めてる。……足止めさえできれば自来也さんが来るはずだけど」

 

 サスケの質問に悟は簡潔に答える。サスケはその目をうちはイタチに向けていた。

 

「ほう……写輪眼……1日に三つもの写輪眼を見ることになるとは……イタチさんによく似ているようですし……そうですか、あれが例の弟さんですか?」

 

「……そうだ」

 

 鬼鮫が珍しいとイタチに顔を向けるとイタチは目を伏せ気味にして簡潔に返事をする。

 

「うちは……イタチっ……!!」

 

 サスケの感情が高ぶるのを感じた悟は不味いと思い、サスケをなだめようとする。しかし

 

「っ余計なお世話だ悟……俺は一応冷静だ……っ」

 

 悟の庇うかのような動きをうっとおしいと手で遮るサスケは、イタチを見据え語りかける。

 

「あの夜……アンタは言ったな……『この俺を殺したくば憎め!』と。だが俺は、アンタに言われた通りには生きてこなかった! っアンタに対して憎しみがないわけじゃない!! だが……っ!!」

 

 ちらっと悟を見たサスケは再度鬼鮫とイタチに対して警戒の構えを取る。

 

「俺は余りにも知らないことが多い……なんたって長年かなり近くにいるこの秘密主義仮面バカのことさえも多くはまだ知らないからな……だからこそだ、俺はあんたを理解する……っ! 理解したそのうえで復讐の相手とするか……兄として許すかを俺自身が、決める!」

 

 サスケは左手にチャクラを集め、雷遁へと変換して千鳥を発動させる。

 

「……随分と甘い考えだな。それではいつまでも俺を越えることは出来ない……」

 

 サスケの言葉に挑発するかのようにイタチが返す。

 

「……かもな。俺はまだまだ弱い、だからこそ悟。力を貸せ!」

 

「ガッテンだ!!」

 

 サスケの千鳥の発動前に鬼鮫が再度突撃をかけてくる。

 

「あなたの弟さんだからと、手加減はしなくてもいいんですね?」

 

「……当然だ、ヤレ。鬼鮫」

 

「っ土遁、土流壁!」

 

 鬼鮫の圧に、悟は咄嗟に土遁で口から土を吐き廊下を土の壁で塞ぐも鬼鮫は以前包帯を解放していない大刀で綿を裂くように突き進む。

 

「っまだだ! 多重土流壁!!」

 

 距離を近づけさせないように土の壁を重ねる悟に対して、突進を止めない鬼鮫。

 

「まだまだ、術の練度が足りませんねぇ! 歯ごたえがまるでない!」

 

(っあんたが規格外に強いんでしょうが!)

 

 響く鬼鮫の声に土を吐き出して壁を作り続ける悟は心の中で悪態をつく。

 

 自身がそれなりに実力がついてきているからこそ、それよりもはるか高みにいる存在を認識できるようになっている悟はそれでも諦めずにいる。

 

 距離が近づいた瞬間、土の壁越し鬼鮫は大刀を突くように構える。

 

「捉えましたよォ!!」

 

 そして土壁を穿つ突きを放つ瞬間。

 

「っ鬼鮫、首を逸らせろ!!」

 

 イタチの声が響くと同時に、土壁の先から千鳥を放つサスケが現れる。

 

「っちぃ!!」

 

 反応が遅れた鬼鮫の頬をサスケの千鳥が削り、そのサスケが開けた穴から悟が拳を放つ。

 

「八門八卦・剛掌波!」

 

 その拳が放つ圧に鬼鮫は大刀で防ぎ対処をするものの態勢が整う前にサスケが印を結び術を発動させる。

 

「火遁!」

 

「させるか」

 

 サスケは術を放つ瞬間に、後方のイタチの印を感じ取り咄嗟に対象をイタチへと向ける。

 

「「豪火球!!」」

 

 廊下を焼き尽くさんとする火炎はしかし、サスケの方へと押し込まれている。

 

(っ鬼鮫とかいう奴事焼き尽くす気か!)

 

 サスケは同じ術であれど、そのより研ぎ澄まされた豪火球の威力に押されじりじりと後退する。その背では大刀を振り上げる鬼鮫。

 

「させるかよ! 雷遁地走り!」

 

 土流壁の先から、悟は雷遁を放ち鬼鮫の動きを止める。先ほどのサスケの千鳥同様土遁の壁を雷遁はもろともしずに突き抜ける

 

「っうっとおしい!」

 

 雷遁に痺れ吠える鬼鮫の振り上げる腕に悟は掴みかかり、八門を解放させ体重を乗せて投げ飛ばし廊下の壁にぶつける。そして

 

「お待たせ! 行くぜ風遁!」

 

 悟は押され気味のサスケのわきに立ち術を構える。

 

「大突破!!!」

 

 サスケの火遁と悟の風遁が混じり、超火力の《b》滅風焔(めっぷうほむら)の術へと昇華される。

 

「っ!」

 

 イタチはその圧に少し押されるものの、僅かに均衡した術同士のぶつかり合いは直ぐに幕を閉じる。

 

「っあぶねえ!」

 

 そう言って悟は術を止めてサスケに飛びつき廊下脇の部屋に向かって飛び退く。

 

 瞬間、先ほどまでいた場所を大刀が風を唸らせながら通り過ぎるのを目にする。

 

 飛ぶ大刀はイタチの火遁を喰らいながらも突き進む。それを術を止めたイタチは上に飛び避ける。

 

 もつれる悟とサスケは直ぐに廊下に戻り、イタチと鬼鮫に挟まれる位置にいながらも応戦をする。

 

「千鳥!」

 

「いまなら大刀がないなぁ!! 喰らいやがれ! 飛雷脚!」

 

 イタチへと突き進むサスケと、反対方向へ飛び蹴りを放つ悟。

 

 互いに接敵をした瞬間

 

 

 

 

 

 

 

「……甘いな」「甘いですねぇ」

 

 

 

 

 サスケの千鳥はイタチの写輪眼に見切られ、チャクラの纏わない上腕部を掴まれ動きを封じられる。悟の飛雷脚も同様に膝部分から腕を差し込まれ軌道を逸らされる。

 

 瞬間八門を身体強化に全振りした悟は、右腕の損傷を気にせずに大きく振る事で風圧を発生させ無理やり鬼鮫との距離を取る。

 

 しかしその悟の後方ではサスケのイタチに掴まれた腕の骨が砕かれた音が響く。

 

「ぐああああっ!!」

 

「ッサスケ……クソ!」

 

 サスケの悲鳴に悟は転がりながらも態勢を整えイタチへと足を向けるが

 

「余所見が過ぎますねぇ」

 

 鬼鮫の裏拳を背後から受け壁に叩きつけられる。

 

「がッッ……」

 

 崩れ落ちる悟に鬼鮫は語りかける。

 

「惜しいものです。イタチさんの弟さんと貴方のコンビは中々いいモノでした。私一人では少してこずってしまうかもしれませんねぇ……がしかし。こちらもツーマンセルを組んでいますのでねぇ」

 

 そういう鬼鮫は悟の首を掴み持ち上げる。

 

「っ悟! この……はなし……やがれ!」

 

「……やはり甘い」

 

 サスケの言葉に呆れたように呟くイタチは掴んだ腕を引きサスケの鳩尾に膝蹴りを放ち、うめくサスケを壁に向け投げつける。そして叩きつけたサスケの首を掴み、イタチは瞳をサスケのものと合わせる。その数秒後サスケの悲鳴が、火遁に燃える廊下に響く。

 

「……っ」

 

「……イタチさん……月詠を使いましたねぇ……そう日に何度も使うものでは……っ!」

 

 小さくうめく悟に目もくれずにイタチを見た鬼鮫は、急激に接近してきた()に突き飛ばされる。悟を離し鬼鮫はイタチのすぐ脇の壁へと叩きつけられた。

 

「っガハゴほ……クッソ……思ってたより滅茶苦茶おっせぇ……!」

 

 悟は小さく毒づきながらも、その蛙の脇に歩いて姿を現す忍びに目を向ける。

 

「この男自来也!! 女の色香にホイホイと着いてい「遅れたうえにそんな服装乱れさせた状態で出てきても威厳何てねえーんだよ、この変態仙人がぁ!!」

 

 自来也の見得に対して悟の罵倒が切りこむ。悟の知るよりもかなりべったりと『釣られた後』のような自来也の様子に命がけで戦っていた悟はかなり怒り心頭になった。

 

「おっおお、遅れてすっすまんのぅ……(大人しい奴かと思っておったが流石にキレるとおっかないのぅ)」

 

 悟の様子に慌てて自来也は廊下の床に手を突き術を発動させる。その瞬間、何かを察したイタチはサスケから手を離し壁に叩きつけられた鬼鮫の手を引き起き上がらせる。

 

「口寄せ・蝦蟇口縛りィ!」

 

 自来也の声が響くと同時に、宿の廊下の壁・床・天井がピンク色の肉のようなもので覆われる。

 

「妙木山・岩宿の大蝦蟇の食道を口寄せした。キサメ、イタチ、お前らはどーせ御尋ね者だ。このまま岩蝦蟇の餌にしてやろうかのォ!」

 

 壁から離れたイタチと鬼鮫は瞬時に逃げに徹する。その瞬間イタチは肉壁に埋もれていくサスケに何かを耳打する。

 

「イタチさん、早く引きましょう。このままでは少し厄介なことになりますよォ」

 

「分かっている、鬼鮫。こっちだ」

 

 鬼鮫は肉壁に取りこまれそうになっている大刀を力尽くで抜き取り、そのままイタチと共に走り出す。

 

「ここまでここから抜け出せた奴はおらんのォ!」

 

 自来也は肉壁にチャクラを流し、操作する。視界の外のイタチと鬼鮫を捕らえるべくチャクラを操作する自来也は何かに気づき、駆けだす。

 

「……よもや……」

 

 自来也の目先に広がる光景には、黒き炎に焼かれ大きく穴をあけ外に繋がった肉壁があった。

 

「ちぃっ……逃がしたか。まあ仕方あるまい、今はこの炎を封印するのが先決かのォ」

 

 黒い炎を巻物に封印する手順を踏んでいる自来也だがふと気がつく。

 

「……ん? 悟ゥお主随分と静かになっておるが、どうかしたかァ!?」

 

 イタチと鬼鮫を捕らえることに集中して、悟から意識を外していた自来也は心配になり炎の封印をしたのち、蝦蟇の食道の口寄せを解除する。そして

 

「……お主……何しとんじャ」

 

 床にうずくまる悟の様子に少しあきれた様子になる自来也。

 

「……俺……ぬめぬめした生物的なもの滅茶苦茶苦手で……」

 

 そういう悟は仮面を着けているにもかかわらず、ブルーな感情いっぱいな雰囲気を醸し出す。

 

(……この様子、綱手のとこのアヤツ(・・・)を見たら卒倒ものだのォ)

 

「忍びがこの程度のことでうだうだ言うなァ! サッサとサスケの介抱とナルトを回収して移動するぞぉ」

 

「……了k」

 

 悟の返事が済む前に虚ろな様子のサスケのそばにいた悟と自来也の間にクナイが通り過ぎ……

 

 

 

「ダイナミック・エントリー!」

 

 緑色の影が自来也を蹴り飛ばした。

 

 

~~~~~~~

 

 緑色の影はサスケを追って来ていたガイであった。ガイに蹴り飛ばされた自来也は酷く不機嫌になりながらも、悟が連れて来たナルトに一連の流れを説明する。

 

「つまり今カカシ先生もサスケも、イタチッつーサスケの兄ちゃんの術で意識がねえ状態なんだな……。なんで……そんなこと……」

 

「それは……お前の中の()を狙って……としか考えられないのォ。少なくともカカシとサスケを救うには()()()を探し出し、連れてくるしかない」

 

 そういう自来也にガイは申し訳なさそうにしながら、サスケを背負う。

 

「……自来也様、どうか綱手様を……」

 

「わかっとる。お前さんが事態をややこしくせねばもう少し早く出発できたものを……」

 

「グッ……申し訳ないです」

 

(ガイさんのかしこまる姿は珍しいな)

 

 悟は若干グロッキーになりながらも、普段のガイとは少し違う雰囲気に珍しさを感じていた。

 

「ぜってーその綱手って人連れてくるってばよ! それまで、サスケとカカシ先生のこと頼むぜ激眉先生!!!」

 

「じゃあな、ガイ。サスケの方は頼んだぞ」

 

 ナルトの様子にガイは笑みを浮かべ背に乗せたサスケを支える手とは別の手でジャケットを探る。

 

「ナルト君、君みたいにガッツのある子は好きだ! そこで俺からこれをプレゼントしよう!」

 

 その様子に悟は(あれかぁ……)と少し遠い目をする。

 

「悟もリーもこれで強くなったと言っても過言ではない……」

 

「え!? なに!? なに!?」

 

 ガイの言葉にナルトが食いつく。そのうたい文句はかなり信憑性があった。

 

「これだぁ!! 通気性・保湿性に優れ動きやすさを追求しつくした究極の――――」

 

 ガイは取り出した緑色のタイツの説明を早口で続ける。その様子に悟も自身がそれを受け取った数年前を思い出し、苦笑いを浮かべる。自来也も何か思うところがあるのか呆れた様子でいた。

 

「おお!!」

 

 ガイの説明を熱心に聞くナルト。説明の途中にリーやら悟やら、ナルト自身が強いと認めている者たちのことも話も交じり目を輝かせる。

 

(俺もこの黒いパーカーの下に、黒く染めた奴着てるからなぁ。実際に……確かに性能が良い点は否定できないが……真緑は流石にチョット俺もなぁ)

 

 悟の心の内などお構いなく、ガイはナルトにタイツを手渡し手を振りながらその場を後にした。

 

「ナルト君! 悟! 自来也様! どうかよろしく頼みます!!」

 

 ガイが見えなくなっても嬉しそうにタイツを持つナルトに自来也は顔を引きつらせて話しかける。

 

「お前……まさかそれ着て旅する気かのォ……?」

 

「似合うかなぁ……!」

 

「……流石にそのまま着るのはやめとけよ、ナルト……」

 

 ナルトの嬉しそうな顔に、悟は自身が黒く染めてインナーにしていることを教える。隣を真緑タイツを着た人物に歩いて欲しくない自来也と悟は、そのタイツは一度自来也が預かり後日染めて使う様に勧めることで折りをつけて、旅路を再開したのであった。

 

~~~~~~

 

 道中

 

「なあ、悟。サスケの兄ちゃんが狙ってんのは九喇嘛のことだろ? 何でこいつを狙ってんだ?」

 

「ああそれは……ん?」

 

 自来也の少し後ろを行く2人。ナルトが悟に声をかけるがそれを聞いた悟は、目を丸くする。

 

「え……あ……へ? ナルト九尾の名前をいつの間に……」

 

「さっき宿にいたときに教えてもらったんだよ。何か変か?」

 

「いや……イイことなんじゃないか? (……ちょっとびっくりしたけど、まあ打ち解けてるならいいことだよな……?)」

 

「でさー、九喇嘛ってば悪い奴に操られて里を襲ったらしいんだってばよ。それ聞いたら、こいつもかわいそーだなぁって思って」

 

「悪い奴……悪い奴かぁ……まあそうだよな……。それで?」

 

「で……ああそうか何で九喇嘛を狙うのかだってばよ!」

 

「……良くわからないけど、その悪い奴と同じことをしたいんじゃないのか?」

 

「ああ、なるほどぉ!」

 

 会話の区切りがついた時に、九喇嘛からの念話を受け取る悟。

 

(……貴様がワシの名を知っていること自体不思議だが、ナルトが知ったことにそこまで動揺するとは……貴様何か知っているな?)

 

(……さあ、何ノコトカナ?)

 

(ふん……そういう態度だろうと思っとったわ……。まあナルトも、弱いままではまたワシが迷惑こうむって操られるかもしれんからな。少しだけ手を貸してやることにしたまでだ)

 

(そういうことか……それじゃあナルトの事、よろしくな。九喇嘛)

 

(ナルトも貴様も、慣れ慣れしいィ! どうしてワシのことを恐れんのだ……)

 

 ぶつぶつ言いながら念話を切る九喇嘛に悟は内心(原作でナルトの相棒になった姿を知ってるからなぁ)などと思いながら、ナルトと普通に会話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(『九尾の名前をいつの間に』……か。それはつまり悟、お前も名を知っておったということになるがのォ……。先の戦い、悟の様子を見るため割って入るのを遅らせたが、少なくとも木ノ葉の敵になる奴ではないと判断した……。 しかしまあ、あまりにも不可解な奴よのォ)

 

 道中、2人の会話に聞き耳を立てていた自来也は内心悟の存在の不気味さに考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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66:可能性の渦

ちまちまと進めていきます。


 悟たちが旅路を行く中、自来也は捜索対象である綱手についてナルトに説明をする。

 

「んで、綱手ってどんな人?」

 

「……そうだのォ……一言で言うとヤな奴で……あとは賭け事が死ぬほど好きで顔は国々に知れ渡っとる」

 

 その後ろで悟は先のイタチたちとの戦闘について思いふけていた。

 

(……途中までは……自分の力が通用すると、勘違いしていた。しかし実際にはイタチさんと鬼鮫、確実に……どちらにもまだ俺は勝てない……)

 

 鬼鮫もイタチも本気ではなかった、と悟は高みにいる忍びの実力にある種の恐怖を覚える。自分がしたいことを成す、そのためにはあのまだはるか先に感じられる実力者たちに連なる力が必要である。そして……

 

(俺には猶予も……あまりないな。長い目で見てあと()()()もあるかどうか、それまでに……)

 

 悟は猿飛ヒルゼンの最後の言葉を思い出していた。そして彼の音にならなかった呟きの部分、目に焼き付いたその光景を後に調べた読唇術に照らした内容についても。

 

(『ダンゾウに気をつけよ』っか……。元々狙われていたらしいマリエさんは今は忍びとしての力を発揮できずにいる。つまり、今は……俺が狙われている可能性が高いってことか……)

 

 もし自身が狙われているということは必然的に周囲の者たちも巻き込むことになる。そうなることを悟は望まない。

 

「ハア……」

 

 思わずため息の漏れる悟に自来也が語りかける。

 

「どうしたァ? 元気がないのォ! 取りあえずはこの街で綱手についての情報収集をする。ついでにナルトともに気分転換でもしてこい!」

 

 自来也がそういい指をさした先には、地面をくりぬいたような地形の中に活気あふれる街が広がっていた。

 

~~~~~~

 

 町に着き、はしゃぐナルトのお目付けのように悟は隣で唸る。

 

(……自来也様とは、一応別行動になったが……別れ際にナルトの財布を持って行ったな……どうなるのか()()()()()分、あの仙人に対しての信用を無くすなぁ)

 

「忍びの三禁とかなんとか知らねえぇけどよぉ~。やっぱ三百両(大体三千円)ばかしじゃ出来ることが限られるってばよ~。なあ、悟」

 

「……そうだなぁ。あの変態仙人がどういうつもりかは知らないけど、まあ言われた通り暫く時間を潰そうぜ。ちょっとなら俺も金を出してやるからさ」

 

「マジでっ! やっぱ持つべきは友だってばよ!」

 

(調子のいい奴だな……ふふっ)

 

 ちらちらと悟のバックパックに目を向けていたナルトに乾いた笑いを出しながら、悟は提案をした。それでも心の中ではそれほど悪い気はしていない。悟にとっては手のかかる弟の面倒を見ている気分であった。

 

「よっしゃー! じゃあまずは金魚すくいからやろうぜぇ! 悟! どんだけ取れるか勝負だってばよ!!」

 

「……ふふ、上等。お前、器用さで俺に勝てるとでも本気で思ってんのか!」

 

~~~~~~

 

 そして一通り、街での遊戯を楽しんだ二人。

 

「……結局、輪投げとか射的とか……全部悟の勝ちかよ……やってらんねぇってばよ……」

 

「大人気なくて悪かったなぁ? 俺は勝負ごとには基本、手を抜かない性分だからな」

 

「知ってる……っつーか何が大人気ないだなんて同い年だろ俺と悟は! ……はあ~あ、まあ落ち込んでても仕方ねぇ! 残りの金でエロ仙人に何か食いもんでも買っていってやるかな」

 

 そういうとナルトはイカ焼きの屋台の元へと向かっていった。

 

(そろそろ自来也様と合流するか、あの人のチャクラは特徴的で探知しやすくて助かる)

 

 そう思い悟はスムーズに合流するために感知能力を働かせるが……

 

「げ……」

 

「おう悟、どうしたんだ? 取りあえずお前の分もイカ焼きおまけで貰ってきたってばよ、ほい!」

 

「おう、ありがとう。いや、いま変態仙人の感知をかけたんだが……見つけたチャクラが乱れに乱れててな。恐らく酒を飲んでるなこりゃあ……」

 

「はあ!? 綱手って言う人の情報を集めてんだろぉ!? 何やってんだエロ仙人の奴!」

 

 ぶつくさいうナルトを案内した悟は、直ぐに店の外まで響く豪快な笑い声が耳に届きため息をつく。

 

「……あそこ」

 

 そういって悟が指さした先の店にナルトが勇み足で向かっていく。

 

 ()()を知っているとはいえ、あまりの大人の駄目ッぷりさを見たくはないため悟は店の前でイカ焼きを仮面の隙間からガジガジと噛んで待機することにした。

 

 

 ……少しの時を待ち。

 

 

 チャクラ密度の濃い反応に悟が気がつき、待機していた店の前の暖簾から少し立ち位置をずらす。

 

(ふむ……これでも()()()()()()()()()とは……まあでも、人としての印象は今のところ最低だな。いい加減様付けする気も失せてきた)

 

 悟の目線は轟音を響かせ、店の暖簾をぶち抜きその向かい側にある水風船の屋台に突っ込む2人の男を追う。

 

(これが()()()……形態変化のみを突き詰めた、四代目火影考案の術か)

 

 店から出た自来也は、螺旋丸で吹き飛ばした男たちから掏った財布を水風船の屋台の店主に渡し、あるだけの水風船と風船を買いたたく。

 

「ナルトォ、悟! ついてこいのォ! 修行をつけてやる」

 

「……オッス!!」

 

「了解です」

 

 

 

 

 

 

(……ナルトの財布の金使いこんだことをうやむやにしたな変態仙人め)

 

 ふと悟はそのことに気がつき、自来也への人的評価をまた一つ下げたのだった。

 

 

 

~~~~~~

 

 数時間後

 

 

「むむむむむむ!!」

 

 開けた場所でひたすら水風船を掴み唸るナルト。そのすぐ近くでは木に背中を預け自来也が昼寝をむさぼっている。

 

 ナルトが螺旋丸習得に向け修行を開始してから、第一段階のチャクラを回して水風船を割る段階を実行する中悟の姿はそこにはなかった。

 

「むむむ……ぷはーーっ!! ぜんっっっぜん割れねえ……、ただ中の水がグルグルと回るだけだってばよ……」

 

 修行に集中するナルトはふと自分とは別の言付けを受けた悟について思いをはせる。

 

(……悟の別メニューってなんだろうな?)

 

 

~~~~~~

 

 

 悟は街から少し離れた森の中で、座禅を組み座っていた。これは里にいたときも、たまにしていた集中力を高める修行であるのだが

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ねぇ。なるほど確かに辛い……主に別の修行を出来ないことがぁ……)

 

 黙雷悟は心配性である。前世においても心配性故に常に「もしも」と口にし、様々なことを想定・予測し生きていた。つまりは……本質的に言えば落ち着きがない性分である。

 

 そんな悟に自来也は数時間前にこう伝えた。

 

『お前さんは自然エネルギーの活用について教えようと思うのだがのォ……。如何せん()()()()に行けない以上、道は果てしなく遠い。如何にお前さんが自然エネルギーを無意識に集める体質であっても、下手すりゃ数十年単位の修行になりかねん。……それでもやるか?』

 

『ええ、それでもお願いします自来也さん。俺には……力が必要なんです』

 

『言うてもなぁ出来ることは()()()()と変わらん、ひたすらに動かないことだ。自然エネルギーを集め、仙術チャクラを練るのには動かないことがセオリ―だのォ。見たところお前さん、()()()にそう言うことが苦手そうに感じるからのォ……まずは手始めに、限界だと感じるまで一点に座り()()()()()()に慣れる所かスタートだ』

 

 自来也の説明に原作の知識からも納得し、現在森の中でひたすらジッとしている悟。

 

 しかし数時間の時を経て、頭の中は雑念に溢れかえっていた。

 

(……あ、もしかしたら火遁の術って使い方次第で身体強化や医療忍術にも応用が……水遁の天泣……もうすこし工夫すれば威力をあげれそうだよなぁ、それこそ螺旋丸の技術を使えば……)

 

 試したい、練習したい、鍛えたい。ただひたすらにそんな思いが募る悟。彼の修行に対する熱心さも集中力も心配性の業によるものである部分が大きい。はたまた師の一人である碧き猛獣の影響か……。

 

 それでも信念は固く、高みを見据え悟はひたすらにはやる気持ちを抑え座禅を続けた。

 

 

~~~~~~

 

 

 数日後

 

 

「オオオオオオオォォォォォォオオオオオ!!」

 

 螺旋丸を会得せんとするナルトは第二段階、一点集中によるチャクラの爆発的な威力を形成する修行を見事こなした。

 

 ナルトの手のひらのゴムボールははじけ飛び、生じた風圧は術者のナルトすらも吹き飛ばす。しかし

 

「おっと……どうやら第二段階、終了だの」

 

 そのナルトを受け止めた自来也は顔に笑みを浮かべる。それはナルトの持つ資質に対してであるが、それこそ孫を見守る祖父のようでもあった。

 

「うう……早く第三段階……を」

 

 数日ぶっ通しで修行に励んだナルトはすでにボロボロなっている。それでも更なる修行を自来也に催促するが

 

「それは一先ず後だ……。これから()()の元に行く。あの駄々姫の居場所がようやっとわかっからな、すぐに悟も呼びよせるかのぉ」

 

 そう言って自来也はナルトを抱え、起き上がらせ旅支度をするように泊っている宿に荷物を取りにいかせた。

 

 その間に悟の修行の監視を任せた蝦蟇を口寄せする自来也。

 

「どうじゃ、首尾は?」

 

 口寄せされた小さく若い蝦蟇は肩をすくめて、こう答えた。

 

「あいつはイカレやろうじゃ! 近くにおるのも恐ろしい……しばらくは俺を呼ばないでくれな!」

 

 その答えに自来也はハテナを浮かべるが、蝦蟇は悟の居場所を伝えて直ぐに煙を巻き上げ帰っていった。

 

 そして、蝦蟇の伝えた場所。悟の修行場所に赴く自来也は、直ぐに異変を感じ取る。

 

(このバカげた量の自然エネルギー……!! まさかとは思うが……)

 

 額に汗を浮かべた自来也が自然エネルギーの集まる中心まで行くとそこには悟が居た。

 

 座禅を組んだ悟は、ぶつぶつと何かを呟いているようでその自然エネルギーの多さから異変を感じている野生の動物たちが草葉の陰から悟を囲う様に観察している。

 

(仙人の場……妙木山の環境に行かずともここまで自然エネルギーを集めるとは……しかし妙だ。これほどの自然エネルギーを集めているにもかかわらず、体内には殆んど取り込めてはいないようだのぉ)

 

 自然エネルギーを感じ取れる自来也は少し臆す気持ちがあるが、悟の背後に回り背を強く叩く。

 

 バンッ! と音が響くと同時に僅かな仙術チャクラを纏った打は集まった自然エネルギーを霧散させた。

 

「……っ痛ったい!! お!? あ!? …………自来也さん? あれ……俺……今……何してたっけ?」

 

「はあ……全くお主、どれ程座禅を続けていた? 様子を見させていた蝦蟇が怯えるほどの自然エネルギーを集めおって……」

 

「座禅……ああそうか。ええと、初日はあまり集中が続かなかったので取りあえず慣れるために数時間続けて……それで、一端宿に戻って……」

 

 悟は朧気に記憶をたどり、ゆっくりと口に出す。

 

「その次の日からは、妙に頭がすっきりしていたから座禅が長く続いて……あれ……? 今何時ですか?」

 

 悟の問いに自来也は寒気を覚える。

 

「……もうあれから数日は経っておるぞ……」

 

「そんな馬鹿な……俺の感覚だとまだ、数時間かそこらの……いや……?」

 

 ふと悟が立ち上がろうとして、ふらつき倒れる。身体に上手く力が入らない様子に自来也が手を貸し立たせてやると悟の声は驚きの色を見せる。

 

「体の調子が……すごく良い?けどすごく悪い……何だこの感じ……」

 

(飲まず食わずの極限状態で自然エネルギーを糧にしておったと予想するがのぉ……。取り込むという概念とは別の、自然エネルギーをそのまま己の糧にするなど、それこそ初代火影千手柱間様のような……)

 

 自来也は驚きを隠しながらも、悟に肩を貸し宿へと向かう。

 

「全くバカみたいに座禅をしおって、加減を知らぬのかお主は。まあ、あのガイの弟子なだけあるのう」

 

「バカみたいッて、座禅を限界までしろって言ったのは貴方でしょうに……でも……座禅をしているときに、懐かしい夢を見ていたような……」

 

 何かを呟く悟を無視し自来也はため息をつく。

 

(ナルトも悟も……限界などあっさり超えて修行に食らいつく……筋金入りのど根性持ちの……大馬鹿者どもだのぉ!)

 

 2人の根性の硬さに少し嬉しそうにする自来也だが、その2人の体力はかなり落ちてしまっているためその日は2人の体力の回復に時間を割き明日改めて出発することにした。

 

~~~~~

 

 次の日

 

 

 探し人の綱手がいるという情報があった「短冊街」に既にたどり着いた悟たちは賭場を回り綱手の情報をかき集める。

 

 と言っても

 

「綱手の奴、そう遠くには行きっこないハズだが……」

 

 余り状況は良くはないようだ。唸る自来也をよそにスロットに床に落ちていたコインを入れて遊んでいるナルトとそれを見守る悟。

 

「うっひょー! 何かよくわかんねぇーけど7が沢山そろうってばよ!!」

 

「……えげつねぇ運してるな、ナルト」

 

「小僧ども! サッサと移動するぞぉ!」

 

 自来也の一言で直ぐにその場を離れるナルト達だが、スロットから出た分だけ換金をすれば先日自来也に使いこまれしょぼくれていたがま口のナルトの財布がはちきれんほどの膨らみをみせる。

 

術の才能はないのに……

 

「おい悟! 小声で滅茶苦茶バカにしてんだろ!」

 

「うっさいのぉ! そんなことより、城に昇るぞ。上から綱手を探す」

 

 自来也が先に立ち、短冊城へと向かう一行。しかし

 

 

 

 

 

 

「……どう見ても瓦礫の山にしか見えないんですが……」

 

「どこに城なんかあんの?」

 

 悟とナルトは疑問を口に出す。それもそのはず、目線の先は天守閣が崩れ落ちた()()()()()()しかなかったからだ。

 

「のォ……」

 

 驚き呆けた声を絞り出す自来也に通行人が声をかける。

 

「……! アンタら城に行くのは止しときな! 上には大きな蛇の化け物がおるで!」

 

 その言葉に悟たちは全員反応を示す。

 

「ふむ、その()とやらは……ワシらと関わり合いの在る奴とみて間違いなさそうだのう。急ぐぞ2人とも!」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

「で……結局。綱手さんは見つからなかったと」

 

「うむむむ……確実にあの場には居たはずだが一足遅かったかのォ……」

 

「エロ仙人~腹空いたってばよ~」

 

「うっさいのう、取りあえずここで飯にするか……」

 

 崩れた城跡では、結局綱手を見つけることが出来なかった一行は夕飯を食べるために居酒屋に立ち寄る。

 

 店に入った途端、ガタンと机を叩く音が響く。

 

「……! ん……あの人」

 

 音の元凶である位置に目線を向ければ、金髪で豊満な胸をもった女性が驚いたような目を悟たちに向け机に手を突き立っていた。

 

「っ綱手!!」

 

「……っ自来也……!?」

 

 自来也と綱手が互いに気づき名を呼び合う。

 

 

 

 

 

「え!? あのネエちゃんが50歳の綱手って人? ……詐欺じゃん……」

 

「おまっ……余り女性にそう言うこと言うのやめとけよ……」

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 綱手とその付き人、シズネと同じ席に座った悟たち。自来也はさっそくとばかりに話を切り出す。

 

 木ノ葉の里からの五代目火影就任の要請を。

 

 ナルトは聞かされていない情報に驚き夕飯を詰まらせ、シズネに背中をさすられる。ともに驚いたとリアクションをして見せる悟だが、内心で「知ってた」と呟く。

 

 「……あり得ないな……断る!!」

 

「「「「!」」」」

 

 その誘いに対しての綱手の返事に各自、驚きを示す。

 

「……ふん思い出すな、そのセリフ。いつかお前に付き合えっつって同じように断られたのォ」

 

「あ゛~~~取材とか何とか言ってたのは何だったんだってばよ~!」

 

 混乱するナルトを落ち着かせようとする悟。気を失っているサスケとカカシを看て貰う話や、火影就任の話があたまでごちゃまぜになっているナルトに自来也は綱手について話す。

 

「どっちみち火影はこの綱手しかありえない。大戦時代の功績、肩を並べるもののいないその医療術……さらに初代火影の孫であり木ノ葉の忍びとしての血はまさに誰よりも

正統だのぉ。綱手が火影になれば里に帰ることになる。そうなれば2人を診てもらえるはずだ」

 

 自来也の説明に一応の納得を見せるナルト。しかし

 

 

「火影ねぇ…………私のじいさんも、二代目も。自来也、お前の弟子だった四代目も……そして今回、三代目までも、皆里のために命を懸けてまで……。命は金とは違う、簡単に懸け捨てするのは………馬鹿のすることだ

 

「……心でどう思おうが、それを口にまで出すとはな……変わったな綱手」

 

 綱手は自来也の言葉に、歳月を理由にする。いつまでも夢見る子どもではいられないと。

 

「火影なんてクソよ、馬鹿以外やりゃしないわ……」

 

 

 

 

 

 

 その言葉に反応しナルトは綱手に殴りかかる。自来也に止められ、ナルトは唸るが、そのナルトの脇を影がすり抜ける。

 

「俺の前でじいちゃんや四代目をバカに……っ!」

 

 ナルトが叫ぶ瞬間

 パシンっ!! と乾いた音が居酒屋に大きく響き、盛り上がる居酒屋の雰囲気をシンっとしたものに変える。

 

「……全く……実は根っこはナルトとそうたいして変わらんのぉ。()()()

 

 呆れて顔を片手で隠す自来也。内心自来也も苛立ちを覚えていた手前、ナルトを止めた時点で油断していた。

 

「……大切なモノを守るために命を懸けて……それが馬鹿だと……?」

 

 拳を突き出した悟は、その仮面の奥の目を見開き低く呟く。

 

 その拳を受け止めた綱手は鼻で笑う。

 

「いい度胸だね……三忍の一人であるこの私に向かって……表に出なガキども」

 

 

~~~~~

 

 

 夜道。暗がりのなか、綱手と向かい合う、悟とナルト。

 

「……面倒なことになったのォ……」

 

「すみません自来也様、綱手様も……決して……」

 

「あいや、わかっとる。だが夢見がちなガキどもは納得せんのだろうのォ……」

 

 腕組みをしシズネと会話する自来也は呆れながらも、少しの()()を持ち彼らを見守る。

 

「来な、下忍のお前らなんて()()()()で十分だ」

 

 そう言う綱手は人差し指を立てて見せる。

 

 並び立つ2人は少し話し合い、声をそろえる。

 

「「……女だからって関係ねェ!! 一発ぶん殴ってやる(ってばよぉ)!!」」

 

 言葉と共に悟が駆けだす。

 

「飛雷脚!!」

 

 電光石火の飛び蹴りを放ち綱手に迫るが

 

「ふん、()()……だけだな」

 

 そう呟く綱手が手を横に振る。

 

 綱手の人差し指と、悟の足が接触した瞬間。悟は大きく弾かれる。

 

「っナニ……グッ!」

 

 地面に叩きつけられる悟だがすぐに態勢を整える。その間に既にナルトが綱手に接近されていた。

 

「オラぁ!!」

 

 クナイで切りかかるナルトだが、綱手に人差し指一本で動きを制され額にデコピンを喰らう。額当てもはじけ飛ぶその威力は本物である。

 

「ぐわぁぁあ!」

 

 数メートルは吹き飛んだナルトを尻目に再度悟は八門の段階を上げ綱手に突進する。

 

(雷神モードだとパワー不足か……っ?! なら……!)

 

 チャクラコントロールをかなぐり捨てることで雷神モードを止め、八門を第六景門まで開放する悟。

 

「ほう、八門遁甲ねぇ……」

 

 綱手は少し関心を示す。パワーに重きを置いた悟の拳は

 

 

 

 

 

 綱手に軽く受け流される。

 

 

「っ!?」

 

「ふん、全くなってないな。所詮は下忍程度、()に頼るだけだ、それじゃあ上手く誤魔化して上忍程度が関の山だな」

 

 全ての攻撃を人差し指だけでいなされた悟は蹴りを放つために振り上げようとする足にデコピンを先置きされ足ごと弾かれる。

 

 攻撃の出始めを崩され膝を着いた悟の胸元に、綱手が思いっきり力を溜めたデコピンが炸裂する。

 

 

 

 

 「ゴッッ!!」

 

 

 

 おおよそデコピンが放つものには思えない鈍い音が響き、悟が地面を土煙を巻き上げながら転がっていく。

 

 自来也の元まで吹き飛んだ悟は自来也に受け止められた。

 

「づあ……痛っ……!」

 

「おっと……相変わらずの剛力だのぉ」

 

「キミ! 大丈夫ですか!?」

 

 綱手の付き人のシズネは吹き飛んできた悟の様子を見る。

 

「……お前ら……何で火影の名にそこまでカミつく……」

 

 ふとそう呟く綱手に何かを答えようとする悟だが、胸の痛みで言葉が上手く出ない。

 

 

 

 

「オレってばお前と違って……ぜってぇ……火影の名前を受け継ぐんだ……」

 

 

 代わりとばかりに先に吹き飛ばされていたナルトが立ち上がりながら答える。

 

 

「火影は……オレの夢だから」

 

 

 その言葉を受け、動揺を見せる綱手。ナルトの言葉は彼女の思い人たちを想起させ感情をぐらつかせる。

 

「……っ」

 

 その綱手の隙に、ナルトは修行中の術を構える。

 

「……集中」

 

 ナルトの呟きを聞きフォローに入るため、痛みをこらえて悟は体勢を整え影分身を1人出して雷遁チャクラモードになり、夜の闇を雷光で照らして突進する。

 

 綱手は直ぐに正気に戻り、悟への対処を行う。

 

「……っふん、甘いね」

 

 2人分の連撃を体捌きと人差し指一本で受け流す綱手に、悟はある感覚を得る。

 

(……この人を始め大蛇丸や、自来也さん。そしてイタチさんらの多くの強者たちと俺との差。何となくだが、掴めそうな感じが……っ)

 

「! こっちが影分身か」

 

 人差し指を横なぎ一閃し、悟の影分身を防御の上からかき消す綱手。その攻撃の隙を突こうとした悟は八門・雷眼モードに切り替え、綱手を観察しながら柔拳と剛拳を織り交ぜて繰り出す。

 

(……雷遁チャクラを眼にだけ集中させるとは、この仮面のガキ。自来也が連れてるだけはあるねぇ)

 

 その攻防は10秒にも満たない。しかしその中でのやり取りで悟は綱手から、『忍び』としての戦いの在り方を感じ取る。

 

(こっちが雷眼モードで動きを見て後出しをしているにもかかわらず、綱手さんはそれ以上の反応で対処を……いやこれは()()なんかじゃない。そうだ! 鬼鮫やイタチさんとの戦いでも感じた。この『戦い方』これは……)

 

 不意な綱手の人差し指の突きの攻撃が悟に迫る。

 

 

(コイツッ!?)

 

 

 綱手の攻撃に対して悟は……先と同じように回避を行う。しかし、その()()の質の違いに綱手は瞬時に気がつく。

 

(ほう、忍びとしての才を活かしきれていない印象だったのだがのぉ。こいつぁ……)

 

 自来也も悟の動きの変化に気がつく。本来『戦闘』というものと縁の無かった世界の住人であった黙雷悟(らい)が、十年近くこの世界で生きてきてやっとのことで掴み始めたその()()。……それは

 

 

 

 戦いへの『慣れ』であった。

 

 

 

 ここ数か月、時には強敵と時には近しい実力の者との戦闘をこなしてきた悟だが、その戦い方は『用意していたカード』を使うのみになっていた。予め用意しておいた忍術、戦法を繰り出すだけ。ガイやマリエとの修行を通し、悟は十分に力をつけていった。

 

(けれど、それだけじゃ不十分だったんだ。根本的に俺自身が戦いと言うもモノを勘違いしていた。強力なカードさえ用意しそれを出しさえすればそれで勝てると。飛雷脚や雷眼モード、威力や効果が優れていると自負するが、それを使う俺自身が……)

 

 悟が自覚し身に着け始めているその感覚を言葉で言うなら慣れであり、技術としていうなら『見切り』と言える。パターンの予測、経験則、突き詰めるところは戦闘に対しての『嗅覚』。言葉を連ねればいくつか該当するものがあるがつまりは

 

 

 勝負はノリが良い方が勝つ。ということ

 

 

 そして

 

 

「チッ‼ 調子にノルんじゃぁ……っ!」

 

 綱手の動きを雷眼モードで観察し、見てからの対処ではなく予測して予め対処し始めるようになった悟に痺れを切らした綱手が大きく一歩踏み込む。地面を砕くその一歩は綱手に攻撃の意図がなくとも衝撃波を生む。それに体勢くずされる悟の脇を

 

 

 

 忍界一のノリ(嗅覚)の良さを持つ忍びが飛び抜ける。

 

 

 

 その高速で飛来するオレンジの影の行使する術に綱手は驚きを露わにする。

 

(こ……この術は!?)

 

 驚きと、忍びとして根付いた直感が、咄嗟に綱手に左の拳を握らせ繰り出させる。

 

 ナルトの渦巻くチャクラを纏った掌底と綱手の拳がぶつかり……

 

 

 ナルトが大きく吹き飛ばされる。

 

 

 後方で控えていたナルトの影分身がその吹き飛ばされた本体にぶつかり勢いを殺しながら消え去る。

 

 そのナルトの様子を見ていた悟は大きく体を震わせる。

 

(今ナルトが放とうとしたのは螺旋丸なのはわかる。だが……アイツまさか……)

 

 後ろで控えていたナルトの影分身がそこにいた理由。高速で接近してきたナルトの本体。そして悟が感じた直前のチャクラの反応……

 

「風遁を……烈風掌を……あのナルトが……使ったのかっ!」

 

 原作ではナルトは螺旋丸と影分身を主軸に戦い抜いていた。その知識を持つ悟はナルトの予測していなかった成長に、身震いする。かつてミズキとの戦いで2人が行ったコンビネーションをナルトは影分身と行ったのだ。

 

「ほう、本体の自分を風遁で飛ばし飛び道具扱いとは……バカなことするのうアイツは! カッカッカッ!!」

 

 嬉しそうに笑う自来也に、綱手が問いかける。

 

「自来也、お前四代目の螺旋丸を……こんな夢見がちなガキに教えるなんて……だから火影になるなんて戯言を言い始めんのさ」

 

「……ふむ、夢見がちだしガキなのはまったくもって同意はするがのう。綱手、お前に拳を握らせる程度には()()()は戯言を言ってはいないと、ワシは思うんだが?」

 

「……っ!」

 

 大きく吹き飛ばされたナルトを心配して、悟はナルトの元へ駆け寄る。

 

(今は俺の方が()に居るつもりだが……すぐにでも追いつかれそうだなこれは)

 

 ナルトに対してその成長の速さと、自分にはない戦いの最中における()()()()()に恐ろしさに似たものを実感した悟は、同じく心配で駆け寄ってきていたシズネと共にナルトを支えて起き上がらせる。

 

「っそうだってばよ! ザレごとなんかじゃねぇ……俺は火影になってやる! このラセンガンとかいう術もすぐにでもマスターして……」

 

「ふん、無理だね! アンタなんかに「三日もありゃこんな術マスターしてやらぁ!」……フン言ったねガキ。男に二言は無いよ!」

 

 綱手の無理、という言葉に触発されナルトは大きく宣言をする。その場のノリの良さは評価をするがその無鉄砲さに悟はナルトを支える手と逆方向の手で仮面を押さえて顔を振りため息をつく。

 

(……この子、苦労人気質な感じがして共感できそうかも……)

 

 その悟の様子を見ていたシズネは心の中で悟に同情した。

 

~~~~~~

 

 その後、ナルトに綱手は一週間で螺旋丸を習得してくるように告げる。その賭け事に出された質は、初代火影が持っていたとされる特殊な鉱石が着いた首飾りであった。

 

 シズネはそのことに酷く狼狽えた。また、習得できなければ

 

「アンタのこのがま口財布、この有り金全てを私が頂く!」

 

 戦闘中いつの間にか掏られていたナルトの財布を手に持ち綱手が告げる。その様子に

 

(……ナルトの財布……三忍にこき使われる呪いでもあるのか……)

 

 と細目になる悟。あとは大蛇丸か……なんて思う悟を尻目に綱手は自来也に誘われ夜の街に消えた。

 

 残された悟とナルト、シズネは取りあえず今晩の宿を取るために移動を始めた。

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 自来也と綱手が酒を飲み始めて幾分かの時が立ち……。

 

「……そういえばあの仮面のガキだが……」

 

 大切な弟とナルトを重ね、悲しみに浸っていた綱手は気分を変えるために話題を変える。

 

「ん……? ああ、あやつか。得体の知れなさはお前もすぐに気がついたかのぉ」

 

「得体の知れないって……おまえそんなやつを連れてるなんて、どうかしてるんじゃないのか?」

 

「ハッハッハッ! そうだのぉまあ所謂それが面白いと言う奴だ。根が悪い奴ではないとわかっているから今は様子見と言ったところかのぉ」

 

 酒も随分と入り、呂律が怪しくなってきている自来也にうっとおしさを感じ始めた綱手は正気があるうちに会計をすませ屋台から逃げるように立ち去る。

 

 屋台で何やら声を上げる自来也を遠巻きに見、自身の宿に帰ろうとした綱手はふと感じた懐かしい感覚に浸るため目を閉じる。

 

「おじい様……」

 

(居るだけで大樹のような安心感を周りにもたらした、あのおじい様のような雰囲気……。僅かとはいえなぜ、あの仮面のガキからそれを……感じたのか)

 

 綱手は最初に悟の存在を知覚した時の感覚を思い出し、懐かしさと気持ちの良い夜風を堪能した。

 

 

~~~~~~

 

 

 一方宿に着いた3人。着いたとたんにシズネは、綱手が賭けに出した首飾りについて熱弁を始める。

 

 既に知っているその内容は聞いているフリをし、そもそも話の輪に入っていない悟はふと気になったことを確認するために目を閉じ集中する。

 

(あー、あー、もしもし聞こえていますか? 私はいま貴方の頭の中に直接……)

 

(何をふざけたことをぬかして居る……)

 

 悟は念話を九喇嘛へと飛ばし、その反応はすぐに返ってきた。

 

 そのままナルトの精神世界で対面する2人。

 

「よっす! 九喇嘛」

 

「……貴様らガキどもの気楽さにはワシも呆れるわ……なんだワシに用か?」

 

「いや先の戦いでさ、ナルトが風遁の烈風掌を使ったのが驚きで……。多分だけど教えたのは九喇嘛かな~って」

 

 あまりにもフランクな雷の態度に、封印の柵の先にいる九喇嘛は呆れてため息をついている。

 

「……ああ、そうだ。お前に初めてちょっかいを出した()()()以降、気に入らない貴様の動きをナルトの中から観察していたからな。いくつかの術の印とやらはすぐに覚えたわ。ナルトの奴は風属性のチャクラを持っているからな、単純な術の1つや2つぐらい、覚えて貰わなければ九尾の人柱力としてワシが恥ずかしい」

 

「ああ、なるほど……いやでいくら単純とは言えナルトに普通の術が……?」

 

「大概てめぇもナルトのことバカにしてるだろ……。まあ、確かに骨は折れたがな、貴様がうちはの者と戦っている最中にたっぷりと教え込んでやったわ」

 

 そんな会話をする雷と九喇嘛、ふと九喇嘛はあることに気がつく。

 

「そういえばてめぇ、()()1()()はどこ行った?」

 

「もう1人? ああ、黙のことかな。あいつは今、多分休憩中って奴かな結構前だけどかなり無茶したみたいだから……」

 

「ふむ……前から気にはなっていたが……どうやら()()はお前の方ではないようだな」

 

「原因? 何の話……」

 

 九喇嘛の言葉に疑問符を浮かべた雷に九喇嘛は告げる。

 

 

 

「貴様たちが()()()()()()()()()()()のチャクラを持っておることについてだ」

 

 

「…………はい?」

 

 

 雷は言葉の意味を理解できずに精神世界で動きを止め棒立ちになる。

 

(今、九喇嘛は何て……?)

 

 呆ける雷に九喇嘛はさらに語りかける。

 

「観察しておったがやはり、()()()()は自覚がねえようだな。チャクラを持つといっても、完全なモノではない。何かしらの術がその()()を隠している様だが」

 

(うちは……マダラに千手柱間……? チャクラを持つ? 確かにこの前、黙は須佐能乎を行使していた。本人に確認できないうちは考えても仕方ないと思っていたが……俺は……黙雷悟はマダラの血縁関係にあるのか? いやでも千手……)

 

 頭の中がぐちゃぐちゃになっている雷を尻目に、九喇嘛は納得したかのように言葉を連ねる。

 

「少し前に比べ、それらの質は格段に高まってきている。あと数年もこの調子でいったらお前のチャクラの質は想像もつかないことになっていそうだな。まあ

 

 

 

 

 本来は他人の貴様には関係のないことだろうがな?

 

 

 

「……は?」

 

「クククッ()()、そう貴様の方だ。何も知らずに必死に戦い続けているお前に取ってその体は、本来のモノではない。そうだろう? 大方他人の魂、精神エネルギーをその依り代に定着させているのだろう」

 

「何故、それを……っ!」

 

「何となくだが察しがついてきたぞ。あのバカ狸ならいざ知らず、聡明なワシだからこそ気がつけたことだな」

 

 得意げに鼻を鳴らす九喇嘛に、雷は息を荒げ動揺で膝をつく。

 

「じじいの気配といい、なにかの企みがあるんだろうがな。貴様はワシの目から見ても不憫だな、事情を知らされずに」

 

「おい待て! 企みとかじじいとか何の話だ! 俺が一体何……」

 

「□□□□……貴様らはそう呼ぶ存在のことだ」

 

「……あ? 何て言った?」

 

 雷は九喇嘛に聞き返す。

 

「じじいのことだ。□□□□と呼ばれているだろう?」

 

「いや、何て言ってるのか聞き取れない……急にことばが……ってアレ……きゅう……ねむ、け……が」

 

 突然ナルトの精神世界の床に倒れ伏す雷。その様子に九喇嘛は眉をひそめる。

 

「……質が悪いとはこのことか。てめぇ、いや違うなぁ。じじいとも共犯って奴だろう」

 

 九喇嘛の言葉に、通路の奥から姿を現す黙。

 

「共犯か。確かにね、()()()がやっていることは到底許されることじゃあない……それはわかっているつもりさ」

 

「記憶の改ざん……その大元であるじじいの存在とその周辺の出来事を認識できなくしているってとこか」

 

「なるほど、さすが九尾だ。察しが良いね」

 

「てめぇに褒められても嬉しかねえぜ。こっち()より数段てめぇの方が気に食わねぇなぁ。人をコソコソ影から弄ぶのは楽しいか?」

 

「弄ぶなんて……これも世界のためさ。まあ、少し前まで僕は自分の大切な人を守れさえすればそれでいいと思っていたけど。最終的に『あの人』を止めないことには結局はそのことにも意味なんてないことを再認識してね。目的のためにも()の協力が必須なんだ」

 

「……協力ねぇ。明かせない事情がある協力関係なんて都合のいい道具を使う方便もいいとこだな」

 

 九喇嘛は機嫌を悪くする。人間の身勝手に他者を利用するその性質は九喇嘛にとって憎悪の対象であるからであろう。

 

「……最終的には真実を話すさ。僕にも少なからず罪悪感があるからね、その時が来たら……ね」

 

 後ろめたさを感じたのか雷を抱えた黙は目を伏せ九喇嘛に背を向け歩きはじめる。

 

「……てめぇ、一体何者だ?」

 

 九喇嘛の問いかけに黙は鼻を鳴らして答える。

 

「僕自身も正確には知らないけど……『あの人』の言葉が嘘でないなら僕は……

 

 

 

 

 

 

うちはマダラの……息子……かな」

 

 

 

 

 

 

 淡白にそう答える黙に九喇嘛は驚愕を露わにする。

 

「……なるほどな、てめぇが気に食わねぇ理由がはっきりしたぜ」

 

「そうかい、まあ本当にそうなのかは僕も確かめたわけじゃないから知らないけど……。この身体に千手柱間のチャクラがあることも()()初めて知ったことだしね。……僕って本当歪だねぇ」

 

 そう言い残し乾いた響かせたまま黙はナルトの精神世界から姿を消した。

 

「歪か……、ちっ……事情を知らずに当たり散らしてたワシが悪い見てぇに感じてヤな気分だぜ……」

 

 



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67:とある輪廻の始まり

 

 朝、宿の窓から差し込む太陽の光が降り注ぐ。その明るさに少しの眩しさを感じた黙雷悟はうなりながら、仰向けに寝ていたその体をゆっくりと起こす。

 

「……うう……うん? あれ……俺っていつの間にか……寝て……たか……?」

 

 頭が冴えない中、悟が周囲を見渡すと酒瓶がいくつも転がっている。そして自身と同じく宿で用意されていたベッドではなく、畳の上で酔いつぶれている人物が悟の目に入る。

 

「う~ん……つっ綱手さま~これ以上賭け事にお金は~っ……むにゃむにゃ……」

 

 綱手の付き人、シズネが酒瓶を抱いて寝ている様子に悟は一瞬自分の服装に気を向ける。

 

「っ! ……いや、流石に()()()()()はないか……少し、いやガチで焦ったぁ……」

 

 そう言いながら、ため息をつき身支度を整えようと被ったままであった仮面を取りながら洗面所へ向かう悟。昨日の記憶をたどりながら、蛇口を捻り顔を洗う。

 

(……昨日は確か、綱手さんと会って原作通りにナルトが一週間以内に螺旋丸を習得する流れに……その後はシズネさんとナルトと宿を取って……それから?)

 

 顔を洗い終え、備え付けのタオルでひとふきしたことでさっぱりした感覚が悟の記憶を思い起こさせる。

 

(ああ、そうか。ナルトが風遁を覚えたことについて九喇嘛に聞いて、()()()綱手さんの話を聞いたナルトがそのまま熱くなって修行に行っちまって、残された俺とシズネさんで世間話をしていたら……)

 

「このありさまか……俺は酒飲んでないはずだが……いまいちにシズネさんと話していた内容を思い出せないなぁ、場酔いでもしたのか俺?」

 

 記憶をある程度思い出した悟は部屋に広がる光景を目にして、昨日のシズネの様子を頭に浮かべる。

 

「朧気だが……まあ、苦労人そうだしな。色々愚痴りたいこともあったんだろう……さてこの部屋、流石に片付けるか」

 

 思い出せるのは酒を煽りながら泣きべそをかくシズネの様子だけであった。悟は会話の内容を覚えていないようだが、流石に気の毒に思い部屋に転がる酒瓶などの片づけをしながらシズネを起こして身支度を整えさせた。

 

 

~~~~~~

 

 

「たはは~~っ……面目ないですね……。大人の私があんな様を晒してしまうなんて……ホント……ハハっ……ホント……」

 

 すっかり目を覚ましたシズネは、昨晩のことを覚えているらしく顔を赤らめ恥ずかしがっている様子を見せ落ち込む。

 

「大丈夫ですよ、まああまり抱え込むのも良くないですから……どうしますか朝食も済ませましたしシズネさんは綱手さんの所へ?」

 

「ええまあ、そうします。……所で自来也様が見当たらないようですが、悟君達と宿を共にする話ではありませんでしたか?」

 

 シズネの疑問に悟は「そういえば」と思い、自来也がこの場に居ないことを不思議に思う。

 

(流石に原作でここに自来也さんがいたかどうかまでの詳しいことは覚えていないしなぁ、多分酔いつぶれてどっか別の場所で寝泊まりしてるオチだろう)

 

 楽観的に考える悟は

 

「別に気にしなくていいですよ、そのうち合流できるので。それじゃあ俺はナルトの様子でも見に行ってきます」

 

 そう言い残し、宿から姿を消した。

 

 残されたシズネは部屋の隅に片付けられて寄せられた酒瓶を見て呟く。

 

「この年にもなって……みっともないことしちゃったなぁ……悟君は何だか甘えたくなる感じがしてつい愚痴をこぼしちゃったし…………っさて、クヨクヨしてられない! 私も綱手様の所に向かわないとっ!」

 

 二日酔いに頭を痛めながらも、シズネは気持ちを切り替えるために自身の頬を叩きその場を後にした。

 

 

~~~~~~

 

 町外れの荒れ地。悟が大雑把に感知能力を働かせれば、すぐにナルトの居場所を探り当てることが出来た。

 

「おお、やってるやってる。昨夜からぶっ通しだろうな、俺もやりがちだけど流石はスタミナお化けさんだな」

 

 崖の上から様子を伺う悟は眼下に広がる、枯れ木の群に螺旋丸をぶつけ続けているナルトを目にする。自分もスタミナにある程度の自信があるのと、割と無茶をするタイプなので一夜ぐらい通しで修行をすることに違和感を覚えていない悟はナルトに声をかけるどうかを考えていた。

 

(……ぶっちゃけここで、『影分身使えば楽だよ!』って言えばそれで解決何だが……それじゃあ、今後のナルト自身の身にならないよなぁ)

 

 悟が考える()()の様子を思い、下手に答えを与え続けてしまうとかえってナルトのためにならないかもしれないと考えた悟はアドバイスをしないことにしてその場からそっと姿を消す。

 

 経絡系の痛みに震える手を抑えながら修行を続けるナルトの中、悟に気がついていた存在は目を伏せる。

 

(あの様子……昨夜のことは覚えていない……か。ワシの考えが正しければ、あのうちはマダラの息子と自称する方ではなく、雷と呼ばれておる方が今のところは主人格のように見える。……が、何者であろうとじじいの存在が関わっている以上今後碌な目には会わないのは火を見るよりも明らかだろうな……。フンッ……このワシが他人の心配とはな、絆されたような気がして気に入らん。ナルトの奴も、しばらくワシに構っている暇もなさそうだしな……寝るか……)

 

 

~~~~~~

 

 

 静かな町外れの森の奥、妙に頭がスッキリしていない悟は1人座禅を組んでいた。

 

(試したい術とか動きとかはあるけど、それ以前に自然エネルギーを如何にかして利用するかの手立てが欲しいな……っと思えば今はこうして座禅するしか当てがないわけで……自来也さんも何か見つからんし、俺は俺のできることをするしかないか……)

 

 1人瞑想に集中する悟。前回の修行でコツを掴んだのか早くに雑念を振り払った悟はより深く……瞑想に耽る。

 

 意識が溶けてゆき、自身の感覚を感じられないほどに『精神』に潜り込んだ悟は夢を見たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『一度目』

 

 

 

 最古の記憶、思い出せるのは僕に微笑みかけてくれる彼女の……マリエさんの笑顔だった。

 

言葉も碌に覚えていない僕が、彼女を始めて笑顔にしてあげられたのは名前を呼んだ時だったか……正直本当に始めの始め、特に物心ついた辺りの記憶は今では朧気だ、

 

……それが()()なんだろうけどね。

 

 僕には本当に『才能』というものが無かった。同年代の孤児院の子と比べてもそれは歴然としていた。だからだろう、マリエさんも忍びという道を僕には勧めず、何も知らない僕もそんな道があるとは思いもせずに日々を過ごしていった。

 

 そんな、なんて事のない甘えた日常の中。数年も経てば僕もそれなりに施設の手伝いをするようになっていた。当時は里の仕事をする器量などなかったから只、家事や施設の手伝いに励んでいた。まあ、世界に恐怖を感じていない僕は()ほど非常識な手伝い方とかはしていなかったよ。

 

 ある日に施設に普段見ない来訪者が現れた。飄々とした口調、額当てで隠していない片目を半目にしながらその男性はチケットの様なものをマリエさんに手渡していた。マリエさんは照れているのだろうか……その男性はふとこちらを見ると目線が僕とぶつかる。彼は何とも言えないような眼をして、そのままマリエさんに頭を下げて施設を出ていった。……マリエさんが懐かしむようにそのチケットを握りしめていた様子は今でも忘れない。

 

 そのチケットは所謂「座席」を取っていたものであった。予約とでもいえばいいのか、二席分を予め確保していたらしい。何の座席かって?

  

 

  『中忍試験』

 

 

 僕と言う存在にとってその日は本当に、本当に()()()だ。()()()()()()()()中でその日をどれだけ過ごし、自分の無力さを感じてきたか。……まあ、本当に無力だったからしょうがない。いやそう思い込まないと心が前に進むことを諦めてしまう、それだけなんだ。

 

 ()()()その日は、とても楽しかったよ、途中までだけどね。同年代の子どもたちが、己の信念や誇りをかけて戦う姿はとても……良いものに感じた。当時の僕には到底できそうにない次元の戦いを観戦し続けて……興奮する僕をマリエさんは暖かい目で見ていた。

 

 そして……黒髪の少年が雷を纏った突き手を放った辺りで会場に異変が生じる。僕もその異変……幻術の術中にはまり、意識を失くすがすぐに起こされる。マリエさんが幻術返しをしてくれたのだろう。会場が木ノ葉崩しに参加する敵の忍びの襲撃に合う中、マリエさんは痛むのか頭を押さえながらも僕を守るように抱きしめてくれていた。

 

 不安がっている僕に彼女は声をかけてくれた。

 

『貴方のことは、ちゃんと私が守って見せる。だから泣かないで悟ちゃん』

 

 苦しそうな彼女の顔を見て何も知らない僕は、自分の無力さを始めて痛感した。その直後、僕たち二人を狙う忍びが現れた。その忍びの襲撃を受けそうになった瞬間、手に岩を纏ったマリエさんが反撃を……()()()()()()

 

 相手の頭を打撃で砕いたマリエさんは、息を荒げて膝を着く。そして

 

 僕の意識が途絶えた。

 

 気がつけば、既に全てが終わっていた。木ノ葉崩し、その全てが。僕は目を覚ました病院で、マリエさんを探した。非力な僕は唯々、泣きながら彼女を求めて彷徨い……ウルシさんが僕を見つけるまでまだマリエさんがこの世にいると信じて疑わなかった。

 

 ウルシさんから真実じゃない真実を聞かされた。他の情報は僕にとって興味がない、つまりは()()は死んだ、それだけだ。それだけのことを受け止めるのにどれだけの時間が必要だったのだろうか……いや、今もその時の『感情』は消え去っていないし受け止めきれていない。僕が彼女を失ったという事実は、僕の中から消えることはないのだろう……一生、僕が死ぬまで。

 

 それでも時間は止まることはなく、気がつけば16歳になっていた。マリエさんが居なくなった施設は人手不足が続き、下忍のウルシさん一人の稼ぎで維持できないほどになっていた。それでも当時の僕に出来たことは只管に、孤児たちの世話をすることだけだった。……本当に無力だったなぁ。

 

 その時の僕の心の支えは彼女の居た施設を守るという行為そのものだった……だから

 

 

 

 

 さらに数年後、一瞬で木の葉が壊滅したあの瞬間。僕はその時初めて……心が折れる感覚を得た。そう更地になってしまったんだ、全てが。

 

 

 

 

 奇跡的に瓦礫に埋もれながらも死ななかった僕は、絶望した。施設が吹き飛んだこともそうだけどウルシさんが僕を庇って死んでしまっていることに気がついて。何もかもが僕の手から消え去った瞬間でもあった。

 

 でだ……その後どうやら、とある金髪の少年がその里を壊滅させた犯人を倒したらしい。そしたらなんと死んでしまっていた人たちが生き返ったんだ。勿論ウルシさんも含めて。僕は喜んだと思うかい? その時の僕の心の中は一つの感情でいっぱいだった。

 

 怒り

 

 人が生き返ればそれでいいのか? 喪失を経験した心の傷は治らない。目の前で生き返ったウルシさんを目にした僕はその心のどす黒い感情を抱えたまま、支えになっていた施設の瓦礫を呆然と眺めていた。

 

 

 

 

 その後里の復興が進み、少し経った頃。例の金髪の少年と会話する機会があった。なぜか顔面をボロボロにしたその英雄ともてはやされた少年に僕は聞いた。

 

 何故木の葉を壊滅させた相手を殺さなかったのか、と。その力がキミには備わっているはずだろうって。

 

 ……彼は悲しそうな顔をして答えたよ。

 

 「俺にも……良くわからない。正解ってのが何なのか。それでも前に進むためには……痛みを抱えていくしかないのかもな」

 

 綺麗ごとだと僕は彼を罵った。その後も何て言ったかなんて覚えていないけど、酷いことを言ったのは間違いないのだろうね。彼の仲間と思われる色白の少年が僕を彼から遠ざけた様子からもそう思い出される。

 

 その後……僕は、感情を持たずにただ淡々と生きていった。少ししたら忍界大戦が始まった。……本当に力のある人達はなんて身勝手なんだろうか。もう世界に興味を持たない僕は、ただただ最後()()が守りたかったであろうこの命だけを生き長らえさせるためだけに生きていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと光を浴びたような錯覚の後気がつけば、マリエさんが生きていた。施設も、里も壊れておらず皆が笑顔だった。そして僕には超人的な力が備わっていて……。

 

 人を、敵を拳の一振りで潰していった。逆らうものは何もいないまるで夢のような世界で僕は幸せを謳歌していた。

 

 失わずに済んだ世界。全てを思い通りに出来る力が僕にある世界。

 

 心の赴くままに、敵を殺し続ける。慈悲なんてない、必要がない。悪い奴を殺して何が悪い。敵を殺してこその英雄だろう。

 

 そんな僕を誰も否定しない世界。幸せなその世界がずっとずっと続くのだと思っていた。

 

 ある日。

 

 いつものように敵を殺した僕にマリエさんが何故か悲しそうな顔で語りかけてくる。

 

 「どうしてそんなことをするの?」

 

 「……こいつらが悪い」

 

 「何が悪いの?」

 

 「……人のモノを奪うことが悪い」

 

 「だから殺すの?」

 

 「っ何が言いたいんだ! いままでもっ! これからもっ! マリエさんはずっとずっとずっとずっと……僕の味方だろう!?」

 

 「ええ、私は悟ちゃんの味方よ。そう悟ちゃんの。……貴方は

 

 

 

 

  誰?

 

 

 

 

 そういうマリエさんに向かって僕は、拳を振り上げ…………

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、僕は繭の様なものの中で目を覚ました。……強くいつの間にか握りしめてた拳には僕の血が滴っていた。

 

 

 

 

 

 

 何のために生まれて、何をして生きるのか。

 

 僕は答えられない人間になっていた。

 

 

 

 

 忍界大戦から数か月後。

 

 

 ウルシさんと僕は、薬師カブトと言う人間が営む里外れの施設で働くことになった。ウルシさんは戦争で怪我を負い、忍びは完全にやめたそうだ。

 

 

 

 

「やあ、君が黙雷悟君だね。話は事前にウルシから聞いてるよ。これからよろしくね」

 

「……はい」

 

 

 彼への第一印象は「人間ぽくない」だった。……凄い、蛇? みたいな顔をしていた。

 

 その後は何度も彼と話をする機会があった。

 

「そう……か。親を……木ノ葉崩しで……」

 

「本当の生みの親って訳ではないんですけどね。……数年も前の事なのに、彼女の……マリエさんのことが忘れ……なくて……っ」

 

「……忘れる必要なんてないよ。大切な人のことはちゃんと覚えていないとね、そのまま自分を見失ってしまう。その人が愛してくれていた自分を見失わないことが、難しいけどとても大切なことなんだ」

 

「失礼ですけど、カブトさんも……そういう経験が……?」

 

「……そう、僕も自分を見失っていた。今の君のように、自分を語る言葉を失くしていたんだ。まあ、ある忍びに説教されて思い出せたんだけどね。だから、君のことは()()()()()でほっておけないのさ」

 

 カブトさんとは何だか気が合った。カブトさんも良く僕の事を気にかけてくれていた。

 

「……君が良ければだけど悟君。組手を……してみないかい?」

 

「組手……ですか? 僕はそういう戦うとかいったことはしてこなかったので……ちょっと」

 

「大丈夫、僕が教えてあげよう。気晴らしだと思って! 遠慮はいらないから」

 

「おいカブト……悟に無茶させんなよ~」

 

 カブトさんの提案に驚き尻込みする僕を見てウルシさんが庇いに来てくれる。……小さい頃は運動が苦手で忍びなんて慣れないと思っていた。ウルシさんもそれを知っている。まあだからこそ、力を持つ『忍び』が羨ましくもあり……。

 

 そして実際に組手をカブトさんと始めたとき、僕はある異変に気がつく。

 

 「戦う」と思い、身構え、息を大きく吸うと何故だか懐かしい感覚に心が侵食される。僕のモノではない誰かの感情。

 

 

「とりあえず一発僕に殴りかかってきて御覧」

 

 そして軽く構えるカブトさん目掛けて、僕はとりあえずがむしゃらに拳を振るう。がむしゃらのはずなのに、まるで知っていたかのように自然に僕の体は動き……。

 

 鋭く乾いた音がパンッと響く。自分でも驚くほど、スムーズに体は動きカブトさん目掛けて繰り出した拳は受け止めた彼を後ろに後退させるほどの威力があった。

 

 意外も意外。自分でもよくわからない感覚に戸惑う僕に、カブトさんは驚いた表情を見せながらも顔の眼鏡を整えながら声をかける。

 

「へ~、筋はかなりいいじゃないか。ウルシの話だと昔はあまり運動できないほうだと聞いていたけど。正に今の一撃は『忍び』のようだったよ」

 

 カブトさんはそう言うと、少しワクワクしているのか声の調子を上げて僕に組手の手順を説明し始める。

 

 ……彼は知識を教えるのが好きなのか、何かの解説をしているときはかなり早口になっていたっけ。

 

 それから晴れて僕はカブトさんの弟子となった、正式なモノではないけどね。

 

 

 

 幼年期、力がないと思っていたはずの僕は『忍びの才』に目覚めていく。カブトさんも元の忍びとしてなのか、僕に技術を教えることにやりがいを感じていたようだ。何でも覚えていく僕に嬉しそうに色々教えてくれたっけ。

 

 一年もしないうちに僕は忍びとなり、カブトさんの施設のために働きにでていた。

 

 その後も、数年ごとに色々と事件は起きるが僕はそれらに関与はせずにイチ忍びとして慎ましく生きていった。

 

 

 

 

 忍界大戦から大体15年は過ぎたかな。ある日施設に同じ顔の少年が大人数引き取られた。同じ顔とは言うが体系とかは少し違っていたので、カブトさんやウルシさんとともになんとか名前を絞り出して一人一人つけていく。

 

「君達は今日からここで暮らします。つまり今日から僕が君達の父親になります。僕の名前はカブト。遠慮はいらないよ」

 

 そういうカブトさんはとても優しそうな表情をしていた。

 

 ふと気がつけば、彼ら……皆で『シン』という名前というのか、そういう団体だと説明されたっけ。彼らが僕をジッと見て

 

 

『……父さん?』

 

 

 彼らはそう僕に問いかけてきた。

 

「いや違っ…………わないか、そうだね。僕たち、カブトさんやウルシさんがこれからは君たちのお父さんになるよ」

 

 我ながら、30歳を過ぎたにも関わらず上手い事説明とかできないのは恥ずかしいと思った。口下手なんだ、僕は。

 

 

 時間はまた少し過ぎて、彼らとの生活にも慣れてきたころ。

 

「父さん、洗い物終わった」「父さん、薪割終わった」「父さん、下の子の面倒見た」「父さん」「父さん」「父さん」…………

 

 シンらは僕だけを父さんと呼び、何故だか結構なついてくれた。カブトさん達相手だと割と普通なのに、僕相手にはとても甘えてくる。

 

 台所で彼らに囲まれた僕は苦笑いを浮かべる。

 

「わかった、わかった。皆偉いよ、だけどいっぺんに来られても僕は1人だからね、1人1人来て欲しいな。そうした方が僕は嬉しいよ」

 

 そういうと、シンたちは皆で集まり相談をし始め……

 

 僕の前に綺麗な列が出来た。

 

「そう言う訳じゃ……まあ……良いか。 ホラっ皆良くできました」

 

 仕方なく彼ら1人ずつの話に耳を傾け、1人1人褒めて頭を撫でていく。

 

 

 こんな生活にも悪くはない。……そう思い始めていた。

 

 

 

 

 なのに

 

 

 

 

 

 その夜

 

 

 カブトさんと珍しく、晩酌……酒は飲まずに茶で済ませていたけど、静かに机を挟んで語り合っていた。

 

 するとシンが1人、慌てたように僕たちの元に来る。

 

「どうしたんだい? 9時はとっくに過ぎて」

 

 そういうカブトさんに目もくれず、シンは僕に抱き着き叫ぶ。

 

「父さん逃げて!!!!」

 

 

 瞬間、爆発に吹き飛ぶ施設。

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたのか。

 

 

 衝撃に眩む感覚に戸惑いながら、火遁の術による爆発だと思われる衝撃から直ぐに立ち上がり、自身の上にかぶさっていたものに目を向ける。

 

 焼けただれた……息子だったものが、目に入る。爆炎から僕を庇ったのだ……。

 

 

「そん……なっ! 何でっ!?」

 

 

 僕の口から出る言葉は、疑問でしかない。何がどうなっているのか、その時の僕にはわからない。

 

 次第に火事になった施設から、子ども達や職員を逃がすシンたちが飛び出していく。

 

 放心している僕はカブトさんが居ないことに気がつく。辺りを見渡しても見つからず、取りあえず僕はシンたちに里に逃げるよう指示を出す。

 

 シンたちは数人を残して皆、避難を優先してくれた。何故か残る数名に僕は声をかける。

 

「君たちも早くっ! カブトさんを見つけたら僕も直ぐにいくから」

 

 シンたちはじっと構えて、燃える施設に視線を送っている。そこで再度、施設が爆発で吹き飛ぶ。

 

 跡形もなく吹き飛び、火を纏った施設の破片が周囲の森に伝搬していく。そんな地獄のような光景の中、施設のあった場所に佇む人影が見えた。

 

 

 より蛇の様な姿になり、角が生えたカブトさんの首を青いチャクラの塊の手ようなものがワシ掴みにしている。

 

「マダ……ら…………」

 

 そう呟いたカブトさんの首を青いチャクラの手が砕き、胴と分離させる。

 

 

貴様ああああっ!!!!!!」

 

 

 その光景を見た僕は、怒りに燃える。そして……

 

 

 視界が一変する。

 

 

 チャクラが目に見えるようになっていた。

 

 

 そのまま、直ぐにそのカブトさんを殺した人物に襲い掛かろうとする僕だが

 

 

 シンに止められる。

 

 

「な……っ!?」

 

「父さんは逃げて」

 

 簡潔にそういうシンたちは、その青いチャクラに突っ込み何やら術を行使して戦う。それでもものの数秒、不意に現れた巨大な刀がシンたちを両断していく。

 

 

 

 

 

 

 

 許せない許せない許せない

 

 

 

 

 

「何なんだ!!!!! お前はっ!!!」

 

 

 圧倒的な力の前に、震える。けれど怒りが僕をその人物に対しての復讐心を煽る。

 

 

「…………強いていうなら『親』……だろうな」

 

 

 青いチャクラを霧散させて現れた人物は、まるで生きていないと感じさせるほどの空虚な表情をしてそう答える。

 

 

「っふざけるなぁああああ!」

 

 

 怒りに狂う僕は火遁・豪火球の術を男に浴びせる。

 

 何度も何度も何度も。

 

 チャクラが切れ、膝を着く僕は目線を男の居た場所へと戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬるいな……」

 

 

 

 

 

 

 男は生きていた。あの青いチャクラを再度纏い全て防いでいたのだ。

 

 男は幽鬼の様な印象を持たせたまま、こちらに近づいて来る。

 

 チャクラの切れた僕はそのまま男に首を掴まれ持ち上げられる。

 

「グ……ゾッ死ね……し……ねっ!」

 

 何とか呪詛だけを呟く僕に男は、拳を腹に突き立てる。

 

 一瞬の痛みの後、腹部に熱がこもる。

 

 血があふれ出て、自身の命が流れ出るのを感じ取る。

 

「やっとだ……これが……おれの……俺たちの……」

 

 男の呟きは、歓喜の色に染まり僕を地面へと叩きつけ腹部の溢れる血をすするためなのか顔を僕の腹部に押し当てる。

 

「……ヅ……あ゛……ぐっ……」

 

 手で押しのけようとするも、男の力にもはや抗う術はない。

 

 一通り僕の血を啜った男は、顔を上げ嬉しそうに高笑いをする。

 

「ぐへッ……ぐっふふふふ、ハハハハハハハハハハっ! ついに、俺はっ!! 俺はっ!!!! かん……完全に……柱間と一つにぃぃ!!」

 

 男は巨大な青い鎧武者を発現させ、その翼をもってして木ノ葉へと向かう。ついでと言わんばかりに連れられた僕の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辛うじて覚醒した意識は、音だけを拾う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……全て終わりなのか……全部全部……」

 

「まだ……だ。まだ最後の手がある」

 

「こいつか……? マダラが連れていた奴みたいだが……確かカブトのとこの……」

 

「ナルト……良く聞け……コイツを……」

 

 そこで何とか目を開けた僕の目の前に広がる光景は、火の海とかした木ノ葉だった。顔岩のあった場所から見下ろす里は文字通り火に呑まれ、上の街も完全に燃え盛っていた。視界は否応なく火を収める。

 

 傍に立つ声の元の二人の人物は絶望にくれた顔をしている。1人は良く知っている……七代目火影様だ。もう1人は……見たことのない黒髪の男性だった。2人とも血だらけであり、相当疲弊しているようすだ。よく見れば体も一部が欠けているように見える。

 

 2人の相談は終わり僕に近づいて来る。

 

「……目が覚めていたか。悪いがお前には、過去に飛んでもらう」

 

 黒い男は唐突にそう述べる。死にかけの僕に有無を言わさずに彼は言葉を並べる。

 

「方法も事情も詳しくは説明している暇はない。あと少しでここも……俺たちもマダラに見つかる。 里の生き残りも、俺たちで最後……そして過去に戻すには俺と、ナルト……この火影の力が必要だ。つまり過去に行けるのはお前だけ、無茶を承知で頼む、この惨状を……止めてくれ」

 

「俺たちは誰も……守れなかった。この場所にあった顔岩の……先人たちの意思を守れなかったんだ……。ハハッ火影失格だな……オレってば……」

 

「……ナルト……やるぞ」

 

「……ああ」

 

 2人は手を結び、2人で印を形作る。すると僕が横たわる地面に紋様が浮かび上がり……白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと気がつくと、知らない空間に立っていた。

 

 

 目の前には、顔色の悪い座禅を組む老人が1人。

 

 

 

「お主……一体何者だ……六道の力を感じて様子を見に来てみれば、赤子が1人……」

 

 老人は何を言っているのだろう……

 

「貴方は……?」

 

 声を出す。出したつもりなのだが、何故だろう音として自分では認識できなかった。

 

「……ふむ。予測できるのは未来での異変……という所だろうか。自身を『大人』だと認識しているからこそここでは言葉を発せることができるのだろうが……」

 

 ごちゃごちゃと呟く老人に嫌気がさしてきた。なんだかとても眠い。

 

「ふむ、仕方があるまい。若者……いや赤子にそう言うのも……いや元は幾つかもまだわからんからなぁ。……ゴホンっまあ良い、まずはワシの名を名乗ろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……我は安寧秩序を為す者……。名をハゴロモと云う。

 

さあ、お前の話を聞かせてくれ」

 



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68:忍びは覚悟の連続

 コツン

 

 

 黙雷悟は頭にぶつかる衝撃に目を覚ます。妙な爽快感と倦怠感の入り混じったかのような感覚を覚えながらも自身が静かな森の中座禅を組んでいることを思い出した。

 

「…………懐かしい……夢……いやただの夢じゃない。()ではない、黙の……経験を夢に見たってことなのか、今のは……?」

 

 悟が伸びをしようと体を動かせば違和感が押し寄せる。まるでチャクラを感じていなかった幼少期の、それよりもさらに前、前世の頃を思い出させる動きの鈍さに悟は朧気であった意識を覚醒させていく。ふと視線を落とせば木の実が1つ。それが自身にぶつかり目を覚ましたのは明白であった。

 

「うぐぐぐっ~~何でこうも瞑想すると体が固まって動きにくくなるのか……前回はえーと()()()()()()()()()()()ぇ……えっ数日?」

 

 自身の不調を前回の瞑想に照らし合わせて考えた悟は、再度自分が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実に気がつき体側を伸ばしながらの姿勢で固まる。

 

 恐らく誰もが感じたことがある感覚。起きなければいけない時間に目覚ましが鳴らずに、目を覚まして視た時計の針が予定の時間をとっくに過ぎていた()()肝が冷える感覚。

 

「……っやっっっっっばい……かも……?」

 

 そう呟き冷や汗を垂れ流す悟は、急いでチャクラの感知を()()()()()()

 

「……おかしい……上手くチャクラが感知できない……それどころか練ることも、出来ないっ!?」

 

 体の不調、チャクラの存在を知覚できない事実に気づき焦る悟。原作知識通りに行くとも限らないこの世界。綱手と大蛇丸との接触に何とか関わろうとしていた悟は焦りに焦る。

 

「こんなことなら、自来也さんに蝦蟇の一匹や二匹借りて時間になったら起こしてもらえばよかった……っ!」

 

 汗を垂らしながらも短冊街へと引き返すために走り始める悟。しかしチャクラの恩恵を上手く得られない現状、一般人より少し早い程度のスピードしか出ない。

 

 それでも走り続けていると、ふと悟は自身の目の変調に気がつき足を止める。その瞬間視界の隅に、髪の長い男性が通り過ぎるのを目撃する。

 

「今のは……人なのか……いや、この感覚は以前にも……確か施設で四代目火影を見たときにも似たようなことが……」

 

 その現象に疑問を感じながらも、悟は男性の後をつける。相手は半透明のようで見るからに()()のようであり意思のようなものを感じ取ることは出来ない。それでもその男性の誘うかのような動きに誘導されて悟は森を抜け、各地で岩が突出している荒れた草原へと足を踏み出した。

 

「……ん、見失った……っうお!?」

 

 その男性の誰かを心配しているかのような表情を見た瞬間、悟は彼を見失い突然の地響きに体勢を崩す。少し離れた位置から響くその振動に悟は心当たりがあり急いで震源地へと駆けだした。

 

 

~~~~~~

 

 

 

「流石の綱手姫も、うちのカブト相手には少々手間取るようね? それとも本調子ではないからかしらぁ?」

 

 脂汗を額ににじませながらも軽口を叩く大蛇丸は、部下のカブトと綱手の戦いを少し離れた位置で観察している。

 

「うるせーぞ大蛇丸っ!! この眼鏡をのしたら次は貴様だ!!」

 

「ふふ、僕を侮らない方が良いですよ綱手様。まあ、体術の方はあまり得意ではないので少し小細工をさせていただきますが……」

 

 大蛇丸の調子に、あまり余裕のない感じで叫び返す綱手。その綱手を相手取るカブトは兵糧丸を口に入れ、己のチャクラの増進を図る。

 

「っ私と同じ、医療忍者か……っ」

 

「さて、僕の方から行かせてもらいますよ!!」

 

 カブトが印を結び、手にチャクラを纏わせた。その瞬間、煙球が炸裂して煙が辺りに充満する。しかし開けた場所であるためすぐに煙が風で飛び、先ほどまでにいなかった人物が姿を現す。

 

「……まあ……普通に声かけて現れるよりかはマシかな。不意打ちは流石に出来そうにないしな」

 

 ブツブツと自分の参戦方法に反省している悟の様子に、綱手はあっけに取られる。

 

「おまっ……自来也の連れの……どうしてここに?」

 

「どうしてと聞かれたら答えてあげましょう。……貴方が苦しそうに戦っているからですよ」

 

 綱手の問いかけに顔をカブトの方に向けたまま悟は答える。数日前に自分と対峙した時とは雲泥の差がある綱手の余裕の無さ。悟は原作知識からその理由には気がついている。

 

(確か()()()()……だったかな。まだ直接血を見ていないにしても見てしまう可能性がある行動、つまり本気の戦闘行為を出来ないのはしょうがない……。あれ、この人若干マリエさんとシチュエーション似てるかも?)

 

「それで、君が綱手様の代わりかい? 『翠色(すいしょく)の雷光』君?」

 

「……うげぇっ……俺その二つ名とか別に好きじゃないんで名前で呼んでくださいよ、音隠れのカブトさん?」

 

 互いに軽口を叩き、戦闘態勢に入る。しかし悟の方は依然としてチャクラを練れないでいるので珍しく唯一携帯しているクナイを構える。

 

(僕の素性は割れているか……。黙雷悟……僕の持つ彼のデータでは、雷遁チャクラと八門遁甲を合わせた柔剛拳による徒手空拳が基本の戦闘スタイルのはずだが……)

 

 カブトは少し警戒しながらも、牽制の意味をこめクナイを投擲しながら接近戦を仕掛ける。

 

 無難にクナイをクナイで弾き、接近戦が始まる……が。

 

 カブトの打撃は割とすんなり、悟へと届きダメージを幾たび重ねていく。

 

「ぐっ!! クッソ、キツイなぁ!!」

 

「……君、ここまで弱かったかい? ガッカリだなぁ」

 

 力さの差は歴然とばかりにカブトに押される悟。その様子に綱手が叫ぶ。

 

「何やってる?! お前この前はもう少しマシに動けただろう!?」

 

「今、調子悪いんで静かにしてもらえますかぁ!!」

 

「調子とかの問題かな……? 君、うまくチャクラが練れていないようだけど」

 

 何故か戦闘相手のカブトが心配そうな顔をし始めたため、悟は息を大きな声に変え叫び攻勢に出る。

 

 

 も、すぐに押し返される。

 

 

(クッソ、マジでやばいぞ……チャクラが練れないとここまで非力になるとは……普段のチャクラの有難味に気づかされるなぁ!! もうっ!!)

 

 心の中で悪態をつきながらも、何とかカブトに食らいつく悟だが顔面に蹴りを入れられ大きく仰け反る。

 

「ふふ、その仮面のおかげでダメージは抑えられたかい? それじゃあお子様はどいててくれないかな、君に構ってられるほど暇じゃないん……っ?」

 

 カブトは余裕しゃくしゃくに残身として蹴りを放った脚をゆっくりと降ろす。がその間、仰け反りながらも顔をカブトに向け直した悟の()()()()()()を見てカブトは疑問を露わにする。

 

(あれ、彼の瞳の色は確か……緑色のハズじゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()……?)

 

 その瞬間、カブトは衝撃に仰け反る。余りにも予想だにしない意識外からの衝撃にカブトは咄嗟に防御態勢に入る。

 

「ガっ!? 今何が……っ?!」

 

「カブト……?」

 

 カブトの一瞬の動揺に、脇の大蛇丸が少しの疑問を抱く。

 

 傍から見れば相変わらずのチャクラによる能力の強化の無い緩慢な悟の打撃。本来なら、それを食らうことなどあり得ないカブトが段々とそれを食らい始めていた。

 

「一体……何が起きている……?」

 

 肩で息をしながら、呼吸を整えている綱手もその様子に疑問を浮かべる。

 

「くッどうなって……ッッ!!」

 

 攻撃を食らうカブトも訳が分からず、目の前の攻撃に対処しようとする。しかし、その攻撃と防御のやり取りを繰り返すたびにカブトの防御は正確性を失っていき悟の攻撃を通していく。

 

(……何で急にカブトの動きが鈍くなって……?)

 

 攻撃を繰り返す悟自身も自覚していないその現象に唯一カブトのみが自身の不調を自覚し診断していく。

 

(右から……いや、左か……っクソ。悟君の攻撃がブレて見える……いやそんなものじゃない。幻術でもくらっているかのようなまるで()()()()()()()()、その映像が本体の悟君の攻撃を隠している……僕の()()が全く当てにならない……っなら!)

 

 ヒュン

 

 そんな風切り音が鳴り、悟の呻き声が響く。

 

 カブトの放ったクナイが、悟の左の肩を射抜いたのだ。

 

「グっ……急に反撃が……ってなんで目を閉じて……?」

 

「えっ……いや君の幻術じゃないのかい? っ視覚に影響がある幻術にかけられたものと思って音で君の行動を判断したんだけど……」

 

 悟の気の抜けた質問についカブトもクナイを放った体勢のまま目を瞑り首を傾げながら答える。

 

 少しの沈黙の後、不意に悟の後方で物音がした。

 

「(ってしまった、クナイで血を流したから……)大丈夫ですか!? 綱手さん!」

 

 それは悟の肩口から垂れる血を見てしまい、膝を突き震える綱手の出した物音であった。

 

「っくう……」

 

 ガタガタと震える綱手を心配する悟だがすぐ目の前までカブトが接近し、打撃を繰り出してくる。

 

「っ音だけでこんな正確に攻撃できるものなのか……っ」

 

「喋らない方がキミの為だよ、それで位置や呼吸のリズムが分かってしまうからね」

 

 再度カブトに押され始めた悟。カブトもあまり余裕がないのか当初よりも殺意のこもった攻撃を目を閉じながら繰り出す。それをクナイでそらす悟だが次第に体に生傷が増えていく。

 

(っ子どもが……ガキが目の前で傷ついて……この私を庇ってくれているというのに……私は何も出来ないのか……っ!?)

 

 その光景を睨むように見つめる綱手は、自分の無力に震える体を抑え込もうと両の手で自分の体を強く抱きしめる。

 

(せめて……せめて悟の傷だけでも……!)

 

 震える体に意思の鞭を打ち、綱手は自身の親指の先を噛み千切る。その様子を見ていた大蛇丸が叫ぶ。

 

「っカブト、気を付けなさい()()()が来るわ」

 

「「!」」

 

 戦闘中のカブトと悟はその言葉に身構えた瞬間、綱手が地面に着いた手から流れる印がボンっと煙を放つ。

 

 

 

 

 

 ヒュン

 

 

 

 

 煙から舞出た三十センチ前後のそれは悟の左の肩へと飛び乗る。びちゃぁっと音を立てる粘膜、そして

 

「お久しぶりの口寄せですね、綱手様。此度はこの子の傷を癒せば良いのですね」

 

 随分と可愛らしい声が戦場に響く。

 

「っ頼むカツユ……」

 

 自身の血と、悟の血を見て気分を悪くしている綱手は辛うじて口寄せしたカツユに悟のサポートを託す。

 

「小さくとも湿滑林の大ナメクジ、厄介なことに変わりはないわねぇ……カブトさっさと……カブト?」

 

 大蛇丸が戦局の流れを汲み、カブトに行動を促すがカブトは動きを止め硬直したまま動かない。大蛇丸の呼びかけにカブトはゆっくりと口を開く。

 

「あの、どうやら勝負は着いた……みたいです……大蛇丸様」

 

 そういうカブトの指す指の先では悟がべしゃっと音を立てながら、うつ伏せに地面に沈み込んでいた。

 

「……どういうことかしら、カツユには傷を癒す能力があるはずなのだけれど……」

 

「それは僕にもさっぱり……どうやら気絶しているようですが」

 

「っカツユ!? どうした、何をしている!?」

 

「えっっえっ……ちゃんと治療してますよ、私~?!」

 

 何故か急に気絶し、倒れ伏した悟を見てその場の全員が動揺を露わにする。

 

 疑問を感じながらも、呼吸のリズム、その強弱でカブトは悟が完全に意識を失くしている状態だと推察する。

 

(突拍子もない状況だが……念には念を……距離を空けて殺すか)

 

 そうカブトは思いクナイを振りかぶる。

 

「残念だよ、仮面の後継者……」

 

 カブトの呟きの後、鋭くクナイが投擲され……

 

 

 

 

 

 

 

 

 悟が顔を上げたことで仮面がクナイを防いだ。

 

 

「「「!」」」

 

「綱手様! 意識戻りました!!」

 

 周囲の驚愕の視線とカツユの無邪気な事実報告を浴びながら、悟は唸りながら立ち上がる。

 

「全く……急に()()()()()()と思ったら、これまた急に気を失うなんて……」

 

 1人ブツブツと呟く悟に、綱手は安堵しカブトは苛立ちを募らせる。

 

「なんなんだキミはぁっ! もう少し緊張感というか、その……こう……雰囲気をさぁ!!」

 

 珍しく変なペースに巻き込まれているカブトに大蛇丸は少し呆れて首を振っている。

 

 そのカブトたちの様子を気にも留めず、悟は1人で呟きを続ける。

 

「完全に気を失うなんて、これじゃあチャクラを練るための精神エネルギーが()()()しか使えないじゃあないか……ホント、ここまで表に出るつもりなんてなかったのに……」

 

 ぶつくさ文句の言う悟はため息をつき、めんどくさそうにクナイを構える。

 

「この状況は……彼の記憶だと確かあと少しで自来也様が来るのか……なら僕がするべきことはただ一つ……それに奇しくも相手がカブトさんとは……」

 

 戦闘の構えが変わった悟にカブトは頭を混乱させる。依然、悟からチャクラを感じられないながらも、先ほどとは段違いの圧にカブトは牽制の意味を込めてクナイを再度投擲する。

 

「……!」

 

 そしてその後の光景に大蛇丸は興味を示す。カブトがクナイを投擲するために体を動かしたその瞬間と同時に悟が踏み込むカブトに急接近する。そのままカブトのクナイを最低限の動きで避け、接近に対してカブトが蹴りで応戦しようとするも先出しで悟がその足に蹴りを入れカブトの態勢を崩す。

 

「っ! 急に動きが……!」

 

(あの動き……完全にカブトの行動を先読みしているわね……不思議な子……)

 

 一気に押され始めたカブトに目もくれず、大蛇丸は悟の動きを観察する。

 

 拳、蹴り、クナイによる斬撃。カブトの攻撃は全て、悟によって紙一重に、最小限の動きで躱されそれのお返しにと、チャクラで強化されていない普通の打撃をカブトに一撃一撃丁寧に浴びせている。

 

(まるで、()()()()()の組手の様な……一方的な展開)

 

 大蛇丸は少しだけ懐かしむような遠い目をした。そのことにこの場の誰も気がつくことはなく、押されているカブトはたまらず大きく跳躍して大蛇丸の元へと飛び退く。

 

「はあ、はあ……急にどうなって……それに錯覚が直ってきたと思えば、気がつけば悟君の()()()()()()に変化している……」 

 

 只管自分の攻撃を潰され、強くはない打撃を受け続けカブトは肩で息をし始めている。悟の攻撃は決してカブトに重傷を負わせるほどの威力は出てはいない。その奇妙な現状にカブトも綱手も混乱していた。

 

 場をかき乱している当の本人は

 

(ふむ……久しぶりにまともに組手をしているが……存外動けるなぁ僕。()が完全に気絶しているせいでチャクラは全く練れないけど……相手はカブトさん(師匠)だ。この世界を何周もして、何度も弟子になっているおかげか()()彼の動きなら制するのは容易いな)

 

 欠伸をするように仮面に手を当て、空いた手でクナイを回して余裕を見せつけている。その様子に背後の綱手は

 

(こいつ……私とのケンカで見せた()()とは比べるべくもないぐらいの勘の良さ……なるほど自来也が得体の知れないと言うのも頷けるな)

 

 乾いた笑みを浮かべ悟の背を見守る。しかし綱手が今の彼から感じる雰囲気はカノ千手柱間とは違い……

 

 

 

 ボフンっ

 

 

 

 不意の煙球の炸裂。先ほど悟が見せたものと同等の演出が突然なされ、煙の中から3人の人物が姿を現す。

 

「ふん……久しぶりねぇ……自来也」

 

「おーおー相変わらず目つきワリ―のォお前は。今は目つきどころか、具合もワルそーだがのォ」

 

 大蛇丸の言葉に、姿を現した自来也が気分悪げに軽口を返す。

 

「……なんでカブトさんが悟とたたかって……?!」

 

 着いてきたナルトは場の様子に混乱しているようだ。

 

「カブトさんの額当てを見ればわかるでしょ?」

 

 ナルトに対して悟は気だるげに答える。

 

 自身の背後で血に震える綱手をシズネが寄り添うのを確認した悟は肩に乗るカツユを撫でながら小さく声をかける。

 

「すみません、カツユ様。僕は……実はナメクジが苦手なので今後は急には近づかないで様子見をしていただけると幸いです」

 

「あっそうなんですね。最初気絶してしまったのはそういう理由で……驚かせてごめんなさい……」

 

「いえいえ。僕の方の傷はもういいので一旦帰って頂いて大丈夫ですよ」

 

「一旦……? 取りあえずわかりました。それでは失礼しますね」

 

 会話を終え煙を立てて消えたカツユを確認した悟は一通りの状況を確認する。

 

(取りあえず、これで雷の記憶で見た()()通りの流れにはなっているはずだ。正直手を出さなくても良かったかもしれないが、雷的には綱手様、五代目火影であろうとあまり傷ついて欲しくなかったんだろうね。あとは三竦みと、ナルト君の螺旋丸が完成していることを願って僕は引っ込むかな。……うーん、久しぶりに動くとやっぱり疲れるなぁ、でも精神エネルギーを温存できたのは御の字かな)

 

 ちらっと悟はカブトに目線を向ける。カブトが訝しげに悟を見たと同時に悟は先ほどと同じように地面に倒れ伏した。

 

「っまた気を失ったのか……コイツ」

 

 綱手が震えながらも心配そうに声をかける。その様子に心当たりがあると自来也は綱手に声をかける。

 

「あ~~、まさかと思うが綱手ぇ……おまえカツユを悟に付けたかのォ?」

 

「何だ……駄目なのか?」

 

「……ぬめぬめした生物が苦手らしいからのォ……」

 

「そうか……それは悪いことをしたな……」

 

 微妙な空気が一瞬流れるが、ナルトが痺れを切らしてカブトに影分身を出して突っ込んでいくことで雰囲気は再度緊張したモノへと戻る。

 

 

~~~~~~

 

 

 

「うーん……ナメクジ……嫌ぁ……」

 

「……まさかこういうハプニングが起きるとは想定外だったかな」

 

 黙雷悟の精神世界。さわやかに風が吹き抜ける草原に唯一生えている木の陰で二人の黙雷悟が腰を落ち着かせている。片方は眠り込んでいるのだが。

 

「……何となく察していたけどぬめぬめ系が苦手なんてね。罪悪感から雷の前世の記憶は見てなかったけど、何か嫌な思い出でもあるのかな」

 

 唸り悪夢を見ているかの様に顔を歪ませている雷に黙は、仕方ないと苦笑いをしながらも頭を撫でて落ち着かせようとする。

 

「しかし……雷が瞑想を始めると精神世界の構造がぐちゃぐちゃになって僕と雷の繋がりが不安定になるなんてね。まあ、今回の事もあるし彼も今後瞑想はほとんどしないだろうから気にするだけ無駄か。……久しぶりにカブトさんにも会えて悪い気はしてないし……いやでも初めて戦争前のカブトさんを生で見たけど……普通に人……だったな。いつも何か蛇っぽかったし」

 

 クスクスと笑いながら、その白い髪をなびかせて黙も仰向けに寝そべる。

 

「さてと僕も疲れたし、またしばらく寝るかな」

 

 しばらくすれば精神世界の草原には2つの小さな寝息が微かに響き始めた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「……ぉい……おーい……起きんか悟」

 

「ううん……ナメクジがぁ……うっぁあぁっ……」

 

「いい加減に起きんかこのバカ者」

 

 コツンと音が響く。黙雷悟の仮面をデコピンで弾いた自来也はかなり気分が悪そうであった。

 

「……ううん? あれ、ここは……」

 

「やっと起きたか……全く呆れた奴だのォ。戦いは終わった、ワシらは一旦街に戻って休息を取るからナルトを抱えてくれぇ」

 

「あっはい……あれ……何がどうなったんだ……?」

 

 起き抜け意識がもうろうとしている悟は、周りを確認する。

 

 巨大な何かが暴れまわった痕跡などが周囲に見受けられ、シズネがフラフラの綱手に肩を貸し歩いている。その綱手の片手はそこだけ時を進めたかのように皺を深く刻み込んでいた。

 

「終わったのか……。何で俺気絶してたんだっけか……」

 

「ボーとしておらんでさっさと動かんかい。ワシもあばらと足の骨がいっちまってるから余裕はない、早く休みたいんだのォ」

 

「了解です……俺は……そこまで怪我は負ってないか。よし」

 

 立ち上がり悟は気絶しているナルトを背負う。その時自然とチャクラを身体強化に中てていることに悟は気が付く。

 

(……あれチャクラが使える……一体何だったんだ、本当)

 

 不思議に思いながらも、チャクラが使えるならと悟は影分身を出して自来也に肩を貸す。

 

 こうして一行は短冊街へと戻りしばらく休息を取るのであった……。

 

 

~~~~~~

 

 

「ハア~生き返るのぉ゛~~」

 

 短冊街に戻り夜、宿にて自来也は横になりながら綱手から掌仙術を施術してもらいながら気の抜けた声を出していた。

 

「フン、何じじくさい声出してんだ全く……」

 

「何、昔馴染みがワシの怪我に負い目を感じないように雰囲気を和ませようかとのォ」

 

「別に私はその程度の事では動揺などせん」

 

「冷たい奴……ワシの酒に麻酔薬混ぜおった癖にそのことも気にせんとは、胸だけでなく年相応に面の皮も厚くなって痛だだだだだだだっ!!」

 

「……何やってんだか、オジサンオバサンが……」

 

 軽口を言い綱手の怒りを買っている自来也のその様子を窓の傍の椅子に腰かけた悟が仮面の奥の目を細めながら眺めていた。その正面に同じく腰かけ温泉から出た後で浴衣を着ているシズネは苦笑いを浮かべている。

 

「たはは……でも、あんなに気楽そうにしている綱手様も久しぶりに見ますね……本当に……良かったです」

 

「そうなんですか……俺としては三忍全員癖のありすぎる人たちだから何とも言えない感じがありますがね」

 

「三忍全員に会っているというのは何気にすごい事なんですけど、悟君はそこのところドライそうですね。……それにしてもナルト君大丈夫ですか? 宿に戻ってからずっと眠りっぱなしで」

 

「ああ、その点は大丈夫ですよ。明日の朝には目を覚ましてますよきっと。それに俺はその……ナルトの体調には詳しいので」

 

「?……面白いこと言いますね、悟君は」

 

 クスクス笑うシズネに、少し照れながら悟は席を立ち温泉へと向かう支度をする。

 

(九喇嘛に聞けばそういうナルトについてのことは一発で把握できそうだしなぁ……)

 

 そう思う悟はさっそくとばかりに念話を試みる。

 

(……という訳なんですが九喇嘛さん?)

 

(どういう訳だ、全く……ああ、ナルトの奴の体に問題はない。ただの無茶しすぎで疲れとるだけだろう)

 

 その九喇嘛からの返答に安心したのか悟は鼻歌まじりで、宿の温泉へと向かった。

 

()()()……は……だがな。少し雲行きが怪しいと感じるのはワシの考えすぎか、それとも……)

 

 

~~~~~~~

 

 

 悟の予想通り、次の日の朝にはナルトも目を覚まし一行は帰り支度を済ませ昼食を取るために飲食店へと入った。

 

 そこでの会話の内容は自然と綱手の今後についてのものになり……

 

「五代目火影様ぁ!!?? 綱手のバアちゃんがぁ!!??」

 

 ナルトの叫ぶ声に、予想していたかのように悟頭の横を手のひらで押さえていた。

 

「そんな信じられないことか? 俺としては自来也さんの言っていた通り、綱手さん……あ、今からは綱手()か。綱手様なら何も問題ないと思うが……」

 

「だってさだってさ、三代目のじいちゃんと比べると何だかなぁって……落ち着きがないって言うかぁ……我儘で賭け事大好きだし、なーんかちゃんと火影出来るのか心配だってばよオレ」

 

(……三代目を高く評価しとるのは感心だが、ちと言い過ぎだのォ……ワシも概ね同感だがな!!!)

 

 原作での火影っぷりを知っている悟は素直に綱手が火影になることを受け入れているがナルトは少し渋い顔を見せ、その言葉に自来也もニヤニヤしながら頷いている。

 

 自来也は火影の要請を出しには来たが、昔馴染みである点では綱手が火影としての執務をこなせるかどうか、そこまで信用してはいないようだった。

 

「……悟ぅお前だ・け・は良い子だねぇ~」

 

 綱手はナルトの言葉を受け、青筋を浮かべながらも自分を評価してくれている悟の頭を撫でる。

 

(……こっえぇ……)

 

 悟自身手から伝わる力みと圧に生きた心地はしていないが。

 

「つ……綱手様、何か注文でも……」

 

 シズネも雰囲気を察して話題を逸らそうとするが……。

 

「それにホントは50代のババぁなのに若く変化してさぁ~、火影が皆に嘘ついてていいのかなぁ」

 

 無情にもナルトは追撃を放つ。

 

「表へ出なガキィ!!」

 

「あひィ~~~!!!」

 

「いでででででっ!!」

 

 声を荒げる綱手に慌てるシズネ。力んだ綱手に頭を鷲掴みにされ悟が痛みに叫ぶ。そんな騒がしい光景に自来也は笑みをこぼして言葉を呟く。

 

 

 

 

「……まあ、退屈はせんで良さそうだのォ」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉は舞い、新たな風が吹く。木ノ葉の里にて、五代目火影という火の意思を継ぐ新たな風が里に息吹を巻き起こす。彼女の覚悟はこの先多くの人を救うことになるであろう……。

 

 

 

 久しぶりに木ノ葉に帰還した悟たち。悟は直ぐに施設へと足を向ける。

 

「……もういいですか? 俺はさっそく家に帰ろうと思うんですが……」

 

「おお、お疲れだのォ。まあ、お主がやることは別にもうないからサッサと帰って家族を安心させてやれ」

 

 悟の言葉に、自来也は手を振り返るように促す。本当に悟に対しての用事はないのだろう、ナルトは綱手をサスケやカカシ、リーの元へと早く連れていきたいのか自来也にそのままついて行くようであった。

 

 さっそくと悟は数週間ぶりの木ノ葉の屋根群を駆け、施設へと舞い戻る。

 

「今回は波の国の時と違って、お土産持ってきてないのが心残りか……」

 

 屋根の間を飛びながらボソッと呟いた悟は「まぁいっか」と開き直るが

 

「そのお土産とは僕の事ですか?」

 

 不意に後ろから声をかけられ、身体を大きくビクつかせて振り返る。そこにいたのは白であった。

 

「うええ!? ああ、白雪かビックリした~~~っ何っでわざわざ気配を消してぇ……」

 

「いやぁ買い出しに出ていたら君を見つけたのでつい……それに僕の隠遁術も大したものでしょう? 表立って修行はしていないですがこれでも再不斬さん色々教えてもらっていますから。それに君が任務でいない間はマリエさんにも施設の庭で稽古をつけて貰ってますしね」

 

「色々初耳……ていうか屋根の上にいるの見られるのお前は不味いだろ……下を歩こうか」

 

「ええ、旅の話色々聞かせてください」

 

 ニコニコしている白に(若干テンション高いなぁ白)と思いながらも悟は地面に足を降ろし2人で会話に華を咲かせながら施設へと戻った。

 

 

「……あれは……悟さん……?」

 

 

 後ろに日向の追跡者を引き連れて。

 

 

~~~~~~

 

 

 施設へと戻り、荷物を置きに行った白を見送り連絡板の自分の項を「予定なし」に変えた悟はふとマリエの項を見る。

 

「外出中……か。向かう予定の場所は木ノ葉病院? うーん、カカシさんの見舞いかな?」

 

 そう呟いた悟の背後に気配が1つ。すでにそれに気がついていた悟は取り合えず振り向き明るく声をかける。

 

「そんなとこでどうしたハナビ?」

 

「ぐっ……バレていましたか……お久しぶりです、悟さん」

 

(流石に白の隠遁に比べれば、まだまだだなぁ)

 

 玄関の引き戸から恥ずかしそうに顔をのぞかせたハナビの挨拶に悟も「おう!」と仮面の奥を笑顔にして応える。

 

 オズオズとしている様子のハナビに悟は頭に?を浮かべる。先刻里に帰って来たばかりなので、自分はまだ何もやらかしてはいないはずだと言い聞かせながら。

 

「あの、この後予定がなければ……その……お付き合いして頂きたいところが……」

 

「ん? 別に構わないが……そういえばナツさんは? 一緒にいないなぁとは思ったけど、どこかに行くなら一言……」

 

「大丈夫です! 先ほど悟さんを見つけたときに用事があると言って先に屋敷に帰ってもらいました」

 

「そうか、なら構わないが……」

 

 そういい、悟は旅の荷物を置きに自室へと戻り服装を普段着の白いパーカー姿へと変える。

 

(なんやかんやで、この忍び装束もボロボロになってきたな……)

 

 そう脱いで眺めた服を洗濯籠へと突っ込みながら、悟は帰りの挨拶を済ませたエプロン姿の再不斬に出かける趣旨の声をかける。

 

「別に構わないが……できれば早めにマリエの奴に顔を見せてやれよ。……お前がいないと毎日『悟ちゃん悟ちゃん』とうるさくてかなわん」

 

「ハハッ……病院に行っているそうなので機会があればそっちにも顔を出してみますよ、それじゃあ」

 

 再不斬と軽く言葉を交わし、悟はハナビと共に里の中へと向かった。

 

「ん? 悟君、どこかに出かけたんですか?」

 

 廊下の角からひょこっと頭だけ覗かせた白が1人洗濯籠を持って歩き始めた再不斬に声をかける。

 

「んあ? ああ、日向のとこの嬢ちゃんと出かけるとよ……っておい白雪……何でお前も出かける準備をしてやがる」

 

「いえ、少し事が起きそうな予感が……僕も外出しますね! ああ、ウルシさん厨房の火の番お願いしますね、ついでにお昼の仕込みもお願いします!!」

 

 慌てて、目立たない服装に着替えた白は持ち前の身体能力を存分に生かし滑らかな動きで外へ出ていく。出ていきながら大きな声で火の番をウルシへと押し付け、その声に部屋でくつろいでいたウルシは眠りかけていたのか顔をこすりながらも厨房へと足を向ける。

 

「……最近さぁ……俺の扱い雑になって来てねぇ? なあ桃さん」

 

「俺が知るかよ。つーか居るならもっと家事手伝えウルシ」

 

 

 

~~~~~~

 

「いや~これは気になりますねぇ。僕も年頃の女、と言うことなのかな、うん」

 

 悟とハナビの後方で、人ごみに紛れながらも白は2人の様子を観察している。顔は彼女のイメージとは違い随分とにやけているが。するとそこに

 

「あら? 白雪じゃない!」

 

 テンテンが声をかけてくる。白はドキッとして驚きながらも、口に指を当て悟たちを黙って指さす。

 

「…………ああ~そう言えば()()()の集まりでのこともあるしぃ…………そういうことね。なら私もついて行くわ!」

 

 ウキウキとテンテンも尾行に加わる。

 

「良いんですけどテンテンさん、恰好が目立つので僕の上着を羽織ってください」

 

「了解っと……この前の女子会でも思ったけど貴方って意外に()()()()()に関心があるのね~」

 

「自分でも驚きですが、まあこの感情の大半はどちらかと言えばハナビさんを心配する面もありますからね……今はどうやらお店を見て回っているようですね……」

 

「積極的について来てる私も人のこと言えないのかなぁ、あはは」

 

 コソコソと悟たちを突けるくノ一たち。そんな彼女たちの出会いは数日前へとさかのぼる。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「あらぁ、ハナビちゃんとナツさんじゃない!」

 

 街角でふらりと遭遇するマリエとハナビ。そのまま話し込んでしまい……

 

「悟ちゃんが暫く帰ってこないと心配で心配で……」

 

 というマリエに悟の話が色々聴きたいとハナビが申し出をし、施設へと招かれることに。

 

「そういえばあまり話したことなかったわよね~」

 

 とテンテンが施設に白を訪ねてきたところにマリエたちも合流し、女子会が開かれることとなった。

 

 

 

 

 話題の中心は、自ずと彼女たちの共通の人物である悟になる。主に彼との思い出話に花が咲く。

 

「悟ちゃんが小さい頃は、周りにおどおどして危なっかしい感じがしてたけど最近じゃあたくましくなって……」

 

「小さい頃は私の方が色々出来てたのに、いつの間にか追い抜かれて今じゃ『翠色(すいしょく)の雷光』なんて大層な二つ名まで……嫉妬しちゃうわ~」

 

「僕の悟君との出会いは……………………あっ! いっ色々な意味で内緒と……いうことで。強いていうなら彼は色々と抜けている面があるようですね。……僕も人の事言えないか……

 

「悟様の第一印象は……はて……悟様とは確か日向の屋敷でお会いしたのが初めてだと思っていましたがそれよりも前にもお会いしたことがある様な……?」

 

 彼女たちは思い思いに悟との過去の話を持ち出す。唯一ハナビだけはそれらを黙って聞いているにとどまっていたが……

 

「ハナビちゃんは悟ちゃんのことどう思ってるの?」

 

 マリエがハナビへと話を振る。

 

 シンッと一瞬場が静まり返る。テンテンと白、ナツはハナビが幼いながらも悟に恋心を持っているのを知ってはいる。しかしそれはあくまで彼女たちが個人個人で察しているに過ぎない。つまりは

 

「あら? 急に静かになったわね、どうかしたの?」

 

 天然なマリエは除いて3人は恋バナという甘味に興味が尽きないのである。

 

 モジモジして言葉を探るハナビにマリエはニコニコと言葉をゆったりと待っている。妙な緊張感をもったテンテンと白は

 

(テンテンさん、僕思ったよりもソワソワしています……!)

 

(アラ奇遇ね、私も興味深々だわ!)

 

 小声で何やら絆を深めていた。

 

「わ、私は……」

 

 ハナビが口を開くと、言葉を聞き逃さないためにも視線がハナビに集中する。

 

「悟さんのことす、すっ好き……だと思い……ます……

 

 ハナビの言葉にその場全員のニコニコ具合が振り切れそうになったとき、マリエが口を開く。

 

「それでハナビちゃんはどうしたいの?」

 

(……なにこれ尋問?)とマリエの追い言葉にテンテンが少し息を呑む。マリエの意図が読めないからであろう。テンテンからしたら悟の保護者として何回もあったことはあるのだが、真意がくみ取れない状況だ。

 

「どうしたい……というのは?」

 

「そう、好きなのは良いことだと思うわ。だって私だって悟ちゃんのことはとても……とても大好きだもの……。だけど好きだからってだけで何もしなければ良くも悪くも関係性は変わっていくの、嫌でもね。だから私のアドバイスとしてはそうね……」

 

 少しマリエが考える素振りを挟み口を開く。

 

「『自分に正直にいる』……恥ずかしい事でも、それを表に出さないことはいつか後悔に繋がるかもしれないわ。……相手が何時までも傍にいるとは限らないから」

 

 マリエの言葉に場の空気は重くなる。経験による裏打ちされたかのような言葉にテンテンも白もナツも押し黙る。しかし

 

「私は……悟さんと……一緒に……いたいです! まだまだこれから沢山の事を悟さんと一緒に過ごして……私はまだまだ子供だけど、これから知ることも悟さんと一緒に……!」

 

 言葉が覚束ないながらも必死にハナビは答える。その様子にマリエは微笑み「そう、頑張ってね~」と優しく語りかけた。

 

 

~~~~~~

 

 

「あの時のハナビちゃんの必死さを思えば今日何かしらのアクションが起きるのも可能性大ね」

 

 女子会を振り返り尾行中のテンテンが小さく呟く。

 

「僕もそう考えます。ただ心配ごとが……」

 

「ああ~……悟の対応よね~……」

 

 女子2人は小さくため息をつく。

 

「僕の印象では悟君は恋愛とかそういうのに興味が全くないように感じていますので……ハナビさんに失礼な事をしないかと、心配で心配でっ」

 

 白の言葉にテンテンはうんうんと腕を組み頷く。そんな2人の心配などどこ吹く風だと、ハナビは楽しそうに悟の手を引き連れまわす。

 

「悟の事だから、恋するには若すぎるとかその気持ちは気の迷いだ、なんて失言をしそうなのよね~、ああ心配で胃が痛くなってきたかも」

 

 テンテンは日ごろの彼の印象から最悪のケースを想定して1人勝手に胃を痛める。そうこうするうちにハナビたちは商店街から移動をし始めた。

 

 そして、里でも少し高めの土地にあるベンチが置いてあるような広間までハナビたちは来た。風がそよぐ心地の良い場所だが今は人気はない。

 

 そこのベンチに休憩がてら座り、談笑している悟とハナビにテンテンと白は高鳴る鼓動を抑えながら背後の離れた位置から文字通り影ながら見守っていた。

 

 そして

 

「あ、あの……悟さん、実は今日は大事な話が……あ、あります!」

 

「ん? 大事な話?」

 

 ハナビがひときわ大きな声で切りこむ。早口になっているハナビは深呼吸をして息を整える。その様子に悟は少しだけ背筋を伸ばしているのが、テンテン達からも見えた。

 

 そしてハナビは決心し、口を開く。

 

「私……私はっ! 悟さんのことが……ふう~~~っ…………悟さんのことが大好きです!!! あの、出来れば……これからもずっと私の傍で……一緒に居てください!!!

 

 ハナビの大きな声に場が静まり返る。後方のテンテンたちからは悟の反応が上手く読み取れない。

 

(幼馴染だから仮面付けてても大体の雰囲気で悟の感情は読み取れる自信はあるんだけど……)

 

 テンテンは悟の雰囲気に少し違和感を覚えていた。悟は今はハナビの言葉を受けて顎に手を当てる動作をして何やら考えている様子である。

 

(悟君の返答次第では、嘘をつかなくとも僕の千本を文字通り飲ませることになりそうですね……)

 

 白は白で緊張感に世迷言を考える始末になっている。

 

 2人の予想では悟は上手い事ハナビを傷つけないようにはぐらかすものだと思っている。彼は優しい、考える動作からしてハナビの気持ちを無下にはしないだろうと。

 

 ハナビが緊張からか荒い呼吸をして息を整える中、黙雷悟がゆっくりと口を開き言葉を述べた。

 

「ありがとう、ハナビ。好きだって言ってもらえるのはとても嬉しいよ、何だかんだ最初は結構嫌われてたと思っていたし」

 

 そういい優しい口調で悟は語る、自分の思いを。

 

「だけど……ごめん、そのハナビの気持ちには多分……いや俺は答えることが出来ない」

 

 その言葉の内容はテンテンからしたら予想の外のモノであった。5歳年下の少女の言葉に対して悟なら、断るにせよもう少し甘さを含ませた回答をするのだと思い込んでいた。

  

 しかし彼は真面目に、真っ直ぐに。ハナビの言葉に対して黙雷悟は遠慮などせずに言葉を返す。

 

「そ……それは……あの、姉さまとの婚約があるから……とかそういう」

 

「それは違う。前にも話したが俺は婚約を破棄するつもりだ、将来的にだが。……俺はあまりそう言う恋愛的なことに明るくないが、ただハナビが真剣なのはとても伝わったよ。だからこそ俺もちゃんと本音でハナビに答えたい」

 

 その悟の様子に白は目を細める。

 

(本音で……『自分に正直にいる』ということ、ですね。考え方の似方は血など繋がってなくともまさに親子というほかないですね、悟君とマリエさんは)

 

 悟も深呼吸をして、ハナビの覚悟に答えるかのように言葉を並べていく。

 

「ハナビが俺の事を好きでいてくれるのは嬉しい……だけど、俺にも思い人……がいるんだ」

 

「……っ! それは……し、白雪さんとか……テンテンさんのこと……ですか?」

 

 泣き声が混じりそうなハナビの声にテンテンも白も胸を締め付けられる。まさか自分が……というまんざらでもないかもしれない妙な期待感を持ちながら。

 

「いやあいつらはナイ、テンテンは姉みたいなもんだし白雪に関しては確かに美人で見た目は好みなんだがアイツにも意中の人がいるの知ってるし……。あいつらよりもっと……俺にとって特別な人がいるんだよ……まあ、相手が俺のことをどう思っていたかはわからないし、その人にはもう会えないと思うけど……」

 

 ハナビの言葉に即否定し、そのまま悟は懐かしむような声色で語る。悟の返答に後方の2人は少し安心感を得ていた。幼馴染のテンテンだけは語る悟の様子に違和感を覚えていた。

 

(……悟ってあんなんだったっけ……何か少し大人びて見えるような……)

 

 ハナビは悟の言葉に、何とも言えない表情になりながらも疑問をぶつける。

 

「もう会えない……その人は私の知ってる人ですか?」

 

「いや、う~ん……どこまで言って良いのかわからないが……俺以外の人は誰もその人について知らないと思うから、聞いて回るなんて止してくれよ?」

 

「流石にそこまでデリカシーの無いことはしません……。が、そうですか……悟さんにも……好きな……人が」

 

「もう会うことも叶わないだろうけど、俺のその人への気持ちが消えない限り……少なくともハナビの気持ちには答えられないんだ、ごめん」

 

 悟は深く頭を下げてハナビに謝る。ハナビの覚悟を気持ちを真剣に理解したうえで、自分がその感情を受け止められないことを謝罪したのだ。

 

 聞く者からしたら酷く曖昧な悟の言葉だが、悟の様子からハナビは噓ではないとわかってしまう。それは同時に、彼が自分1人に振り向くことのない事実を理解することになる。

 

 しかしそれでも

 

「……グスっ……悟さんの気持ちはわかりました」

 

「……本当にごめん」

 

「だけど……私は諦めません」

 

「…………うん?」

 

「確かに私は、悟さんとその……恋人的なものになれたらと思い告白をしましたが、まだ私の歳は8つです。そういうことを考えるのは時期早々だとは思っていました。けれど、悟さんが思い人さんへの気持ちを大事にする人で良かったです。私は……」

 

 ハキハキと喋り始めるハナビに目を点にしてぱちぱちさせる悟。

 

「貴方にとって、その思い人さんを超えるほどの存在になってやろうと思いました。私は、それまで諦めません……っ!」

 

 火のついたかのようなハナビの目にたじろぐ悟。確かに今は悟が自分に振り向くことがないと理解したが、それがこの先もそのままであるとは限らない。

 

(……私も悟さんへの印象は最初から良かったわけじゃない。……人の評価はその人の行動で変わる、悟さんが私に示してくれたことです!)

 

 燃えるハナビの熱意に

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 悟はただ手加減を所望するしかなかった。

 

 

 

 2人の雰囲気が和らいだところで、ふと腹の音が鳴る。ハッとハナビが顔を赤らめお腹を押さえると、悟は小さく笑いベンチから立ち上がる。

 

「ふふ、色々緊張して疲れたから腹も減ったんだろうな。昼はどうする?」

 

 微笑ましさに仮面の下でニコニコしているであろう悟に、ハナビは俯きながらも

 

「……屋敷でナツさんがお昼を用意してくれているはずなので、今日はもう帰ります……」

 

 そう小声で返事をした。「そうか」と悟が返事をするとハナビに背を向け、その場に屈む。ハナビが疑問符を浮かべると

 

「いつかの時みたいに背負って日向の屋敷まで送ってやるよ。俺の速さなら、五分もかからん」

 

「っいやでも、悟さんにあまり迷惑をかけるのも……。私の思いを聞いて頂けただけで……」

 

「……遠慮はなしだ。問答無用っ!」

 

 悟は残像を残すほどのスピードでハナビを抱える。

 

「わっ!? ちょっと悟さん!?」

 

「大丈夫、大丈夫。人には見られないように配慮するから」

 

 妙にテンションの高い悟の様子にテンテンは

 

(……まあ、誰かに好きって言ってもらえるのって……理由もなく嬉しくなるモノよね。昔は全てに怯えてるみたいな目をしてたのに……)

 

 そう納得する。テンテンの悟に向ける眼差しは、手のかかる弟の幸せを願う姉の様なもの。

 

 

 

 

 

 その視線が冷たい目をした悟の視線と合わさり、テンテンの肝が冷える。

 

「ひえっ!!??……もしかしてぇ……」

 

「どうしました、テンテンさん?」

 

 驚きヒュッと喉を鳴らしたテンテンに白が話しかけると、ドンっと衝撃波が走る。

 

 白がその方向に目を向けると、悟がハナビを抱えたまま跳躍したようで姿を消していた。

 

「ああ、流石にもう追うのは無理そうですね」

 

 そう言ってにこやかに隠れていた茂みから体を伸ばしながら出た白にテンテンが呟く。

 

「……かも

 

「ん? テンテンさん何か言いました?」

 

「多分尾行してたの……最初っからバレてたかも……」

 

「…………えっ?」

 

 青ざめた顔のテンテンは幼馴染の冷めた目線に、次に会った時にどのような報復が行われるのかを想像しながら白と慄きながら帰路を共にした。

 

 

~~~~~~

 

 

 着地音と何かが地面をこする音が、静かな昼下りの日向の屋敷に響く。

 

「……この音は……悟君だろうか」

 

「父上……そんなことまでわかるのですか……って思えば日向の屋敷でこんな音を響かせるのは奴ぐらいか……」

 

「はっはっはっ! 確かにそうだな、だがもしもがある。確認しておこうか」

 

 稽古場で座禅を組み、お互いに瞑想をしていたネジとヒザシはその音に反応し、一応庭に繋がる戸を開けてみる。

 

 その瞬間には何かが跳躍する音がして庭にいたのはハナビ1人であった。

 

「ハナビ様、お帰りなさい。ちょうどお昼頃ですね」

 

 ヒザシの優しい口調の言葉に、ハナビは目を回したように呆けながらも

 

「た、ただいま戻りました……」

 

 何とか返事する。

 

 ネジは白眼を使い、悟の存在を視認しようとするが

 

「……速すぎるな。奴は全力ではないのに、捉えられるかも怪しい……相変わらずのでたらめさだ」

 

 補足しきれずに舌打ちをする。そんなネジにヒザシは

 

「ネジよ、白眼に頼りすぎるのも良くないぞ? 時には私のように音や振動など、別の感覚で……」

 

「ええ、理屈はわかっていても俺ではまだ父上の様には行きません……。ハナビ様、ナツが帰りを待っていました、顔を出してあげてください」

 

 ヒザシの言いたいことは理解しているつもりのネジはその難題さにため息をつきながらも、ふらふらと足の覚束ないハナビをナツの元へと優しくエスコートをしてあげた。

 

 

~~~~~~

 

 

(隠遁が優れてても、いくら白でも俺のチャクラ感知には引っかかるんだよなぁ。ハナビと一緒に居る時は万が一があるから周囲を警戒するようにはしてたけど、全くあいつらは……)

 

 木ノ葉の里を駆ける悟は、病院へと進行方向を取る。

 

(ええと確か、マリエさんは病院に行ってるらしいしな。まあ、もし先に施設に帰ってるならカカシさんとかの顔見て俺もさっさと帰るだけか)

 

 今後の予定を組みながら、悟は木ノ葉病院の前へと降り立つ。

 

「……俺って結構この病院と縁があるよなぁ」

 

 そう呟きながら、悟は病院の中へと入り受付を済ませる。

 

 幼少期から怪我を含め数度運び込まれ、木ノ葉崩しの時においても病院を中心に動いていた悟。妙に縁深くすでに見慣れた廊下を通り、悟は受付で聞いたカカシの病室の扉に手をかける。

 

「こんにちは~カカシさん調子どうですか~」

 

「……ああ、悟か。お久だね」

 

「っ悟ちゃん!?」

 

 扉を開ければ、少し顔色を悪くしたカカシはベッドで身体を起こし小説に目を通していた様子であった。そのベッドの脇で椅子に座り、同じく何かの本を読んでいたらしい眼鏡をかけたマリエは驚き声を上げ、ドタバタと悟にすがるように飛びかかる。

 

「ちょっ……マリエさん、ここ病院なので静かに……」

 

「ああ~~~~~~~悟ちゃん~~~~無事で私嬉しいわ~~~~!」

 

 腰辺りに抱き着き、号泣し始めるマリエに戸惑う悟。その様子を苦笑いで見守るカカシは小説を置き悟に助け舟を出す。

 

「悟が自来也様とナルトとともに綱手様を連れてきてくれたんでしょ? ありがとね」

 

「ええ、まあ……ほらマリエさん立って…………俺はあまり活躍してませんよ。ナルトが大きく成長したんで今度成果でも見てあげてください」

 

 何とか泣きべそをかいているマリエを立たせた悟。

 

「カカシさん身体の方はどうですか? うちはイタチに幻術かけられて寝込んで調子でないですか?」

 

「いや、まあ身体の方は良いけど。流石にメンタルがやられたね今回は……」

 

 しばらく腰を下ろして雑談を続ける2人だが悟が何かに気がついたように立ち上がり病室を出ようとする。

 

「それじゃあ、俺はこれで。ゆっくり休息取ってくださいねカカシさん」

 

「ん? ああ、綱手様の話だとコキ使う気満々でちょっとげんなりしてるよ。悟はこれからどうする?」

 

「ちょっとサスケの方の様子も見ておきたくて、それでは」

 

「ちょっ悟ちゃん!? 私のことスルーしすぎじゃあないかしらっ!?」

 

 カカシに挨拶をすませた悟はマリエに静かにするよう指を口に添えるジェスチャーをしてカカシの病室を後にした。

 

 

 

「ううううっ……悟ちゃんが冷たい……」

 

「そういう年頃なんでしょ、落ちこみすぎよマリエ。言っとくけど俺この後すぐに家に帰るから泣くなら外いって泣いてね、迷惑なの」

 

「同期も冷たい……ううぅっ」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 その後うちはサスケの病室の前で悟は中の様子を伺っていた。

 

(既にナルトが中にいる……)

 

 彼が心配そうに中の様子を伺っているのは原作ではこの後、ナルトとサスケが病院の屋上で一騎打ちをするからである。

 

 場がエスカレートした場合、止めに入るつもりでいる悟なのだが

 

(……思ったより静かだな)

 

 中からは予想に反してサスケの怒号やナルトの挑発と言った荒々しい語気の音は聞こえてこなかった。

 

 そして、病室の扉が開き

 

「……悟こんな所で何してんだってばよ?」

 

「あら、悟。こんにちは」

 

 いたって平静なサクラとナルトが出てくる。悟は咄嗟に返事をする。

 

「お、おうこんにちは。いや、別にサスケの見舞いに来ただけだが……」

 

「そうか? なら入れよ。俺はこのあとサクラちゃんと一緒に修行でも~っ!」

 

「……いかんわっ! 私は私でやりたい修行があるからあんた一人で行ってきなさいよ」

 

「え~~サクラちゃんのイケず~~」

 

 そう言い合いながらナルトとサクラは病院を後にした。開けられたままの病室の扉から声が通る。

 

「どうした……見舞いに来たんじゃないのか?」

 

 サスケのその声に悟は恐る恐る、病室に入る。そこには窓の外を眺めながらサクラが剥いたであろうリンゴを爪楊枝で刺して食べているサスケの姿があった。

 

「ちょ、調子はどうだ?」

 

 悟の固い問いかけにサスケはちらっと悟を見て平静に答える。

 

「……良いわけねーだろ。お前は()()()()()()知ってんだから想像つくだろ」

 

「ああ、イタチさんとのね……だから俺はもうちょっと荒れてるもんかと思ったけど……」

 

「内心穏やかじゃねえけど……感情に流されて力を振り回しても、気分が良くなるわけじゃないからな……」

 

 そういうサスケは悟の顔をジッと見つめる。

 

「……なに?」

 

「いや、お前ことだからもう忘れて……いやそもそも気にしていねーってことだろうな」

 

「……なにが?」

 

「何でもない。ただ、内心穏やかじゃないのは事実だ。成長を続けるナルトや……イタチとの戦いで俺はこのままじゃ駄目だと……思い始めてきた」

 

 そういうサスケは皿の上のリンゴを全て食べて、ベッドから降りる。

 

「おい、身体の方は……」

 

 心配そうにする悟にサスケは一言ハッキリと告げる。

 

 

 

 

 

 

「俺と戦え悟」

 

 

~~~~~~

 

 

 第3演習場

 

 ちょうど三時ごろの時間、忍び装束を身にまとったサスケと悟は向き合う。

 

「……手加減はするな、悟お前の全力で来い」

 

「病み上がりみたいなもんなのに何無茶言って……」

 

「俺は……真実が知りたい……そのためには『力』が必要だ。……その『力』が何であろうと構わない。そして今の俺の実力を、俺自身が思い知りたい、それだけだ」

 

 スっと対立の印を結ぶサスケは真剣な目をしている。その目に悟は

 

(原作みたいにサスケには闇の道に走って欲しくないと……思っていたんだが、どうにも()()()()()……)

 

 フッと笑う悟。その様子にサスケは眉をひそめる。

 

「良いぜ、受けて立つ。出し惜しみはナシだ」

 

 悟も対立の印を結び、風がなびく。

 

 風が運ぶ木の葉が小川に落ちた瞬間に互いが同時に動く。

 

「火遁・豪火……」

 

「遅い!!!」

 

 印を結ぶサスケに悟は正門・雷神モードで接近し蹴り飛ばす。写輪眼を発動したサスケは辛うじて手を割り込ませてガードをするも吹き飛ばされ小川に突っ込む。

 

 水しぶきが辺りを濡らす中、手裏剣が数枚悟に飛来する。どれも高速かつ軌道が不規則であるが

 

 

 

 全ての手裏剣を悟はデコピンで生じた圧で弾き飛ばす。

 

 

 

 続いて態勢を立て直したサスケが、火遁・鳳仙花の術で牽制を企てるも先に悟の豪火球がそれらを飲み込みサスケに迫る。

 

「ちぃっ!」

 

 咄嗟に避けたサスケに悟は高速で接近し、掌底でサスケの腹部狙い吹き飛ばす。

 

 勢いよく吹き飛んだサスケが気に叩きつけられ、項垂れる。悟は戦闘態勢を解くが

 

「……ま、まだだっ……」

 

 木を支えにサスケは立ち上がる。

 

「あまり無理は……」

 

「俺はっ! 弱いままではいられないっ! ナルトも、お前も……サクラも先を見据えている、俺だけが立ち止まるわけには……っ」

 

 サスケの咆哮に悟は再び構えを取る。己の運命にもがくサスケに悟の心中は変化を見せ始めていた。

 

(俺は……サスケのことを……)

 

 バチッと鋭く雷鳴が響く。悟の纏う緑の雷光がより輝きを増した。第四傷門状態で雷神モードに入ったことで悟自身に負荷がかかっている様だが、それでも腰を低くし悟は構える。

 

「……なら、強くなれよサスケ。ほら俺の一撃で何か見えるものがあるだろう……いくぞっ!!」

 

 サスケに目掛け、フェイントの入り混じった稲妻のような動きで接近する悟。

 

(っ集中しろ……俺の眼なら……写輪眼なら見切れるはずだ……!)

 

「飛雷脚!!」

 

 悟の雷を纏った上段蹴りがサスケの顔面に迫り……

 

 

 

 サスケの後方の木の幹だけを吹き飛ばす。

 

「っ!? 避け……ガっ!?」

 

 驚き隙を作った悟がサスケからの蹴りで距離を取らされる。悟がサスケをよく観察すれば、その目に宿る勾玉模様が3つに増えているのがわかる。

 

「……見切れた、悟の動きを……」

 

 静かにそう呟くサスケに、悟は仮面の下で笑顔を作る。

 

「調子が出てきたかサスケ?」

 

「ふん、お陰様でな……つーか今の避けれなかったら首が吹き飛んでただろ……」

 

「……避けると信じてたっ!!」

 

(コイツ、避けたことに驚きを隠してなかったくせに……)

 

 クスッと笑ったサスケはよく眼を凝らして悟を観察する。見るのはそのチャクラの流れである。

 

(雷神モードとか言ったか。今の俺なら、そのチャクラ流れを見切れる。そして……)

 

 千鳥の構えを取るサスケに、悟も応戦するために柔拳を構える。

 

「千鳥か……なら」

 

 悟はチャクラを目に集中させて、雷眼モードへと移る。洞察力を上げ千鳥に対してカウンターを狙うつもりだ。

 

 しかしその変化もチャクラを見る写輪眼を持つサスケには筒抜けであり

 

「悟、お前は良い観察対象だな……見ているだけで強くなる道をイメージできる」

 

「?」

 

 千鳥の雷光がサスケの左手から全身へと巡り……

 

「おいおい、まさか……」

 

「これが()()()()()()()……か、なるほどな。今ならお前の動きについて行く……イヤ、その先に行けそうだぜ」

 

 一瞬の間を置き、サスケの高速移動での接近を悟が許してしまう。

 

(千鳥の、ただ直線の高速接近じゃ……ないっ!)

 

 雷眼モードの悟は何とか接近してきたサスケの蹴りを手で受け止めるも、その受け止められた足を軸にサスケがもう片方の足で蹴りを放ち、悟を蹴り飛ばす。

 

「ヅッ!! はっや……」

 

「休ませるかよ!」

 

 サスケの連撃に、悟が押され始める。

 

(雷眼モードでないと、今のサスケの動きを見切れないが……体が速度に追いつけないっ!)

 

 サスケが優勢に傾き始めているのはその写輪眼と、()()()雷遁チャクラモードに悟が対応できていないからである。

 

(なるほどな……千鳥の濃く練られた雷遁チャクラを纏うことで、出力が普通の雷遁チャクラモードより高いのか……だが)

 

 サスケの攻撃に幾分かダメージを受けながらも悟は次第にサスケの対応を見せ始めている。

 

 速さで上を行かれる分を、悟は予測で攻撃を捌き続け……

 

 

 

 バチンっ……

 

 

 

 サスケの纏う雷光が消え失せたタイミングで悟がサスケに組み伏して、地面に拘束する。

 

 

「……随分と良い術だけど……燃費が悪そうだな」

 

「っクソ……!」

 

 完全に拘束されたサスケは身動きを封じられる。そして

 

 サスケの顔面の真横に、悟の少しずれた仮面から見える口から放たれた水遁・天泣による水の針が突き刺さる。

 

「これはわざと外した。俺の勝ちだ、サスケ」

 

「……チっ……」

 

 拘束を解いた悟は和解の印の形でサスケの手を引き起き上がらせる。

 

「俺のチャクラの流れを参考に、チャクラモードまで行きついたのは流石だ。だが俺の状態を写輪眼で見切れても、自分のことまでは気が回らなかったな」

 

 ふらっとしていて立っているのもやっとなサスケに悟は、組手の感想を伝える。

 

「ただでさえチャクラ消費の激しい千鳥のチャクラを応用して、身体活性をするのは……写輪眼と相性がいいとはいえ、きついものがあるだろ?」

 

「ああ……そうみたいだ……っ一瞬でもお前に近づけた高揚感で自分を見失ってたようだ……」

 

「まあ、結局は『慣れ』だな! もう少しチャクラコントロールを磨いて燃費を抑えられるようにすれば、実戦でも使えそうだ」

 

「ああ……」

 

 疲労からか返答も曖昧になっているサスケの様子に苦笑いの悟は肩を貸し、演習場の丸太を背にして座らせる。

 

「どうする? 家まで送ろうか?」

 

「いや……いい、しばらくここで休憩してから自分で戻る。お前も……長旅の帰りだろう……悪かったな付き合わせて」

 

「良いさ、これぐらい。それじゃあ、俺は施設に帰るよ。お前も、修行やるならキリのいい所で帰れよ? あまりチャクラ不足の状態は身体に良くないから……」

 

「……お節介な奴だな……ほら、もういけ」

 

 サスケがもうろうとしながらも手で払いのける仕草をするので悟は、苦笑いを仮面で隠し手を振りながら姿を消した。

 

 

 

 

「……クッソ……」

 

 

 

 1人座り込んだサスケは悔しさに涙を流した。

 

 

 

~~~~~~

 

 その後、日は落ち夜も更ける。久しぶりに施設で、住民たちと団欒のときを過ごした悟は狭い自室の布団の上で満足感を噛みしめていた。

 

 すると自室の扉がノックされる。

 

「ん? どーぞ」

 

 取りあえず返事をした悟に、扉が開かれるとそこにはマリエが立っていた。

 

「悟ちゃん、ちょっとついてきて……」

 

 静かにそう言うマリエに悟は疑問を覚えながらも、上着を羽織り自室を出ていった。

 

 

 

 

 マリエについて行き悟はマリエの自室へと招かれる。

 

「どうしたんですか……こんな夜更けに……っえ?」

 

 悟は疑問を口にすると同時に部屋の光景に驚く。マリエの自室の隠された地下への道が開いていたのである。

 

「ずっと考えてたことがあるの、私」

 

 手招きをしながらそのまま地下に降りていくマリエに、悟は少し緊張しながらもついて行く。マリエはつらつらと言葉を探りながら話し続ける。

 

「私が、私自身と向き合えて……こうして今1人のマリエとして生きているのは貴方のおかげで……それに対して何か私なりの感謝をね……したいと思って」

 

 石造りの階段を降りていく2人。あれからコマめに出入りがあったのか、蝋燭が壁に掛けられ灯りは充分にあった。

 

「感謝なんて……俺は、マリエさんに生きていて欲しくて……ただそれだけなんで……」

 

 むず痒さを言葉に表しながらも悟は仮面のない自身の顔を緩める。

 

「まあ、そうね。悟ちゃんは自分のしたいことをした……なら私がしたいことも、悟ちゃんなら受け入れてくれると思って……用意していたの」

 

 かつてマリエの本体が閉じ込められていた牢があった場所に机が置かれており、その引き出しをマリエが開ける。

 

「はいこれ」

 

 マリエが開けた引き出しから取り出したものを悟に軽く放る。悟がそれをキャッチするとその受け止めた小瓶を蝋燭の光にあて眺める。

 

「これは……血……ですか?」

 

「そう、それは私の血だ。……血継淘汰……塵遁を得るための鍵でもある」

 

 雰囲気を変えたマリエの言葉に悟は驚きを露わにする。

 

「塵遁を得る……? それって」

 

「前にも話したが私は塵遁の開発者の血縁者だ。そしてその伝授の方法を口伝されている。方法としては単純だ、塵遁継承者の遺伝子……まあ簡単に言えば血を摂取すればいい」

 

 小瓶を眺める悟は不安そうにするが、マリエは淡々と解説をし始める。

 

「……手順としては、割と簡単なんですね」

 

「まあ、“方法”だけだがな。条件が2つある。1つは継承者が火・土・風のチャクラ性質を持つこと」

 

「……もうひとつの条件とは?」

 

「チャクラコントロールに優れていること。まあ、この2つさえ満たしていれば素体の準備は良い、あとは……」

 

「あとは?」

 

「体がその遺伝子を受け入れるかどうか、ということだ。他の血継のモノとは幾分か条件は違うが、塵遁がそれでも血継の名を冠しているのにはそういう所以がある」

 

 用意された2つの木の椅子に2人は腰かける。

 

「……塵遁開発者、二代目土影・(むう)は血継限界を超えることに尽力したと伝わっている。無本人は悟ちゃんと同じく五遁の性質変化を有していたそうだけど、戦争での決定打を欲っしていた……そこで目をつけたのが血継限界の原理」

 

「確かに血継限界は強力なのは分かりますけど、それを出来るようにっていうのは現実的ではないと……」

 

「そうだ。そこで無は己の体を血継の力に耐えられるよう血継限界を持つ者の血肉を集め幾つも植え付けていったという」

 

「……(グロっ……)」

 

「その結果、無の身体は後天的に血継を得た。血肉を取り込む以外にも禅を組み、断食をして体を極限状態にしていたとか逸話はいくつかあるが……それらにどこまでの影響力があったかは知らん」

 

「それなら、他の血継限界でも同じように他人に受け継がれる話があっても可笑しくはなさそうですが……」

 

「言ってしまえば、無が特別であったというだけの話だ。血継の器となり、自身の血肉すらもその形に染め上げられるという……な」

 

「……他人にチャクラを分け与えるには、チャクラの質をその人に合った状態にしないと出来ない……っていう医療忍術の基礎みたいに、無さんは血継の血に後天的に染まれる体質だったと……」

 

「そんなものだ。つまり、無の血は血継に淘汰されずにその力を得……その血は他者の血を淘汰し侵食する」

 

「無さんの血を受け入れられれば、淘汰の力を得られると……」

 

「素質がなければ、血が汚染され……まあ、最悪死ぬ。塵遁を得た三代目土影・オオノキはその素質があったという訳で、無論血縁者だろうと無の血を受け入れられるとは限らないが……私はそれが出来たというだけの話だ」

 

 オオノキの名を口にしたマリエは普段の穏やかな彼女が見せることは決してない、苦虫を嚙み潰したような顔を見せ悟は苦笑いを浮かべる。

 

「つまり塵遁継承者の血は無の血に一部染まっている。私の血にもその継承(淘汰)の力があるという訳だ。ほら、説明はした、一気にそれを飲み干せ」

 

「ちょっ……いきなり血を飲むのは……それに俺がその適性があるかどうかなんて……」

 

「大丈夫だ小瓶程度では殆ど影響は出ないはずだ、それに継続的に摂取することで身体を慣れさせていくという訳であってだな飲めばすぐに塵遁が使えるようになるわけでもない」

 

「……そういうものなんですねぇ」

 

「過去の記録では、血の摂取後数回塵遁を使用できたが再度血を摂取するまで使えなくなる術者もいたそうだ……その者は最終的には死んだが。完全に塵遁を得るには長い目で見る必要がある。わかったらホラ、さっさと飲め」

 

 マリエの催促に悟は渋々小瓶の栓を抜き、血の匂いを嗅ぐ。

 

「血だ……うん、血だなぁ……」

 

 悟がちらっとマリエを見れば腕組みをして顎で飲むように催促をしてくる。

 

 少しの沈黙を置き、悟は(感謝は建前で、俺のことが心配で力を付けさせるのが目的なんだろうなぁ……)とマリエが自分を心配する思いを組み意を決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うえぇ……っ(泣」

 

「……幾つか小瓶を渡しておく。血の鮮度の関係で数は少ないが、一日一回食前に飲むようにな」

 

(普通の修行の方が俺には性にあってるぅ……)

 

 その夜前世の倫理観的に血を飲むという辛い行為に、悟は涙目を浮かべた。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かを得るには何かを捨てなければならない」

 

 

 深夜の第三演習場で声が響く。悟との組手の後、疲れからそのまま眠ってしまったサスケはとある4人の忍びに襲撃され……

 

 

「ハッキリしよーぜ。大蛇丸様の元に来るのか、来ねーのか」

 

 

 選択を迫られていた。

 

 

「……俺は……俺は……っ!」

 

 

 ボロボロにされながらも食いつくサスケに二頭の忍びは告げる。

 

 

「今は身体の調子が悪そうだからなぁ……このまま里を抜けても、都合が悪そうだ。……一週間考える時間をやるよ。まあ、木ノ葉にこのことを流されても面倒かもだが……」

 

 

 

 

 

 今の『お前』には何もできねーからな、問題はないか

 

 

 

 

 その言葉を最後に、4人の忍びは姿を消した。

 

 

 1人無力感に打ちひしがれるサスケは、土を掴み拳を地面に叩きつけた。

 

 

 鈍い音が夜の静寂に、小さく波紋を残して、消えた。

 

 

 




次回おまけ回、の予定


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EX2:登場人物概要~新時代の兆し編前おさらい~

簡潔におさらい。とオマケ

希望があれば補足の欲しい所や他のキャラについてコメントを頂ければ追記します。

オマケは食事中に読まない方がイイキガシマス……


<黙雷悟:雷>

 

 本作の主人公、異世界から転生してきた魂の方の人格。EX1の頃に比べ忍びとしての才能に開花しつつある。五遁を扱え、主に雷遁と八門遁甲による身体能力強化を好んで使う。原作知識は段々朧気になっている様子。

 

 仙術の修行は余り上手くはいっておらず、本人も長い目で見ているため進行度は遅め。最近では前に使っていた棍棒の代わりになる忍具を探しているらしい。

 

 時空間忍術が一切使えないのは変わらず。もう一人の黙雷悟:黙の記憶を夢と言う形で一周分見たが、とあるワードを認識したせいでそれも朧気になっている。

 

 三代目火影の残した言葉に対して、身の振り方を悩んでいる。

 

 ぬめぬめもといナメクジが大の苦手。

 

 

<黙雷悟:黙>

 

 本作の裏主人公。未来から転生してきた魂の方の人格。落ち着いた口調であり、転生を何度も繰り返していることを示唆する言葉を残している。本人の意思では蒼鳥マリエさえ無事なら他の事には関心を示すつもりもなかったようだが、雷の行動による影響と世界の行く末を知る関係で渋々雷に協力するようになっている。

 

 主に火遁を使い、戦い方は未来の薬師カブトに仕込まれている。『黙雷悟』はうちはマダラの息子と認識しており、第四次忍界大戦でマダラは死んだという情報を持っているためその後のマダラ本人からの襲撃に疑問を感じてはいる。何度世界を巡っても、マダラに肉体の一部を喰われ世界が壊れていく様を眺める結末になっている。

 

 世界の終わりには必ず未来のうずまきナルトとうちはサスケが『六道の道具』の能力を、残された2人のチャクラと魂を代価に再現することで黙の魂だけを過去に飛ばしている。

 

 黙雷悟の身体に刻まれた封印術が綻びるまで、チャクラの使用に制限がかかっていることは此度の世界で忍猫との接触時の言葉により知覚する。

 

 自身の千手柱間のチャクラを持っていることも今回初めて知ったため、自分の存在の異常さには薄々感付いてきている様子。

 

 写輪眼を開眼しており、万華鏡まで段階は進んでいる。なお、雷は意識して写輪眼の能力を使うことが出来ないため、現状は黙が出てこなければ扱えない。

 

 好きな食べ物は鶏肉料理全般。

 

 

<蒼鳥マリエ:(なき)

 

 塵遁を継承している元土影:無の血縁者。現在はチャクラを扱えない状態になっている。分裂していた身体が元に戻り、十数年分の経験の擦り合わせに苦労したようだが性格面は落ち着きを見せている。元々影分身を頼りにしていた施設運営は、桃地再不斬が代わりに影分身を使用していることで補っている。

 

 黙雷悟が転生者であることを知る唯一の人物。

 

 

<日向ハナビ>

 

 黙雷悟に恋心を募らせる少女。心を本人に打ち明けたが成就はしなかった。黙雷悟から影響を強く受けているため、口調も行動力もアグレッシブさが原作よりも増している。

 

 

<うずまきナルト>

 

 原作と比べ、九喇嘛と現時点では良好な関係を築けている事と大蛇丸に封印術を弄られなかったためチャクラコントロールは原作よりもマシになっている。そのため簡単な風遁なら扱えるようになっている。順調に成長を見せてはいるが、尾獣・九喇嘛からはとある部分の心配をされているが……?

 

 

<うちはサスケ>

 

 原作と比べ、性格は大人しくなり我慢強さも増している。雷遁の扱いを悟を見て学び、実力を確実につけてきてはいるが焦る気持ちがあるのは原作と同じ。

 

 

<桃地再不斬・白>

 

 原作とは違い生き延びた彼らは鬼頭桃乃太郎、鬼頭白雪という偽名を名乗って施設に馴染んでいる。再不斬は性格が穏やかになり、白は明るくなってきている。

 

 

 

 

 

オマケ

 

 

 

~思い出は、ダレのために?~

 

 私の名前は天音小鳥(あまねことり)。黙雷悟の幼馴染だ。彼が事故で命を落としてから数か月、私は久しぶりに自室で埃をかぶっていたNARUTOの漫画を手に取る。

 

「……あいつのこと、思い出しちゃうからなぁ……」

 

 そう呟く私。彼との真新しい思い出はNARUTOを通じて築かれていた。だから私はしばらくこの漫画を手に取る勇気はなかった。

 

 だが、()()()()()()()……かどうかは分からないがそれを噓にしないためにも、私は彼との思い出を辛いもので終わらせるわけには行かない。

 

 ……思い出かぁ……そういえば、あの時悟が言っていた私を「好きになった理由」ってそう言えば小学生の遠足の時だかの……

 

 あの頃はまだ悟の心配性の癖も頭角を現す前で、他の友達と元気に野原を駆けまわっていたっけな。

 

 それで、学校の遠足の自由時間に荷物を置いて遊んでいた悟が昼食の時に弁当を広げて……

 

 ああ……その遠足の弁当の時間、湿った地面の上に敷いたシートに座った彼が大口で放り込んだご飯に

 

「さとるくん、ナメクジィ!!」

 

 そうナメクジが乗っていたのだ。弁当箱をシートの上に置き蓋が少し開いていたのが原因だったんだと今なら思う。

 

 私がそれに気づき、大声を挙げた。それからは悟がご飯を吐き出し、付き添いの先生たちが大慌てになっていたのを今でも覚えている。

 

 彼はその時の不快感と、喧騒の原因になったのをトラウマにしてしまい……。

 

 その時に大泣きしていた彼に私が色々付き添ってあげたのが好印象だったとか……イヤ、まあ……ナメクジが原因だろうと好かれるのは悪い気はしないけど……。

 

 彼のトラウマが直ることは……恐らくもうないのだろう、色々な意味で南無阿弥陀仏。可哀そうに悟。

 

 さて、久しぶりに見たNARUTO漫画を楽しんでひと段落をつける私。

 

 思い出しついでに墓参りにでも行ってあげようか。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 彼の墓の前で手を合わせ私は呟く。届くかわからないが、アレが只の私の妄想に過ぎないのかもしれないとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ、悟」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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仮面の忍び、雪に舞う
69:何のための夢


所謂劇場版


 早朝の施設「蒼い鳥」では大人たちやその手伝いをする者達が忙しく働きまわっている。

 

「……」

 

 その働く大人の一人は無言でキッチンに立ち、朝食の仕込みをしている再不斬その人である。外はまだ暗く、ガスが火を揺らめかせる音だけが聞こえる。ふと再不斬が包丁を手に持ち、その瞬間素早い動きで素振りを行う。

 

「……」

 

 左手では、みそ汁の入った大き目の鍋をお玉でゆっくりと回しながらも右手で包丁を振り回すその異様な光景は普段誰の目にも留まることはないのだが

 

「おや、桃さん手持ち無沙汰ですか?」

 

 そう再不斬に声をかけながら、白が身だしなみを既に整えた状態でキッチンがある食堂に入ってくる。

 

「……白雪か。妙に気配が薄い奴が来るとは思ったが……どうかしたか?」

 

「今日は、早く目が覚めてしまって……マリエさんも今は追いついてない事務仕事をしているようですし、()()()()()も忙しそうだったので様子を見に」

 

 そういう白は食堂の椅子に座り、本を開ける。働く再不斬の影分身たちに本体の場所を聞いて食堂まできたのであろう。

 

 その白の行動に、少しだけ不可解だと再不斬は眉をひそめるが特に口に出していう訳でもなく、静かなガスの音だけが再び静寂を占める。

 

 しばらくすると本に目線を落としたまま、白は口を開く。

 

「……そのおみそ汁……以前マリエさんと訪問した施設で、レシピを教えてもらったやつですよね?」

 

「ん?……ああ、そうだな。ガキどもは好みがバラバラだからな、色々試していはいるんだが……」

 

「……」

 

「……」

 

 やり取りは直ぐに終わり静けさが直ぐに戻ってくる。それでも二人はお互いに気まずいと思う訳でもなく、無言でそれぞれの時間を過ごす。

 

 ふと再不斬が白へと問いかける。

 

「昨日は……悟の奴と出かけてたのか?」

 

「……え? はい、昨日は五代目火影様の就任式があった後そのまま悟君に無理やり連れられてしまって……ハハハッ……」

 

 白の曖昧な返事に再不斬は「そうか」とだけ答え何やら眉間に皺を寄せている。

 

(再不斬さん……急にこんな話題を振ってくるなんてどうしたんだろうか……僕の動向を気にかけるなんて……一昨日の悟君とハナビちゃんのデートをのぞき見してたことで、昨日は悟君に怒られてたなんて……流石に言えないかな)

 

 少しだけ二人の間の空気が微妙なものになり始めていた。

 

「白雪は……アレか……やはり悟の様な奴がその……」

 

 珍しく歯切れ悪くブツブツ呟くように語りかけてくる再不斬に流石の白も、本を読むこと集中できずに再不斬へと声をかける。

 

「……桃さん? どうしたんですか、らしくないですよ?」

 

「ッ……ああ、そうだな……」

 

 白の問いかけにたじろぐ再不斬。何か自分に聞きたいことでもあるのかと、白は自分に思い当たる節がないか考える。すると

 

「白雪は悟の事を……どう思っている?」

 

 再不斬が再度口を開く。恐らくそれが聞きたかった内容であったのか、その言葉の後に小さく再不斬のため息が混ざる。

 

「どう……とは悟君のことでですか……? 今更な問ですね、僕は彼の事をとても大事な親友だと思っていますよ」

 

 ハッキリとその問いに答える白。再不斬はその回答に満足していないのか煮え切らない態度のまま言葉を繋げる。

 

「……男女の関係……的な……そういうのはないのか?」

 

 余りにも恐る恐るで恐怖に慄いているかのように呟く再不斬のその言葉は白の思考を停めさせる。

 

「ハハハッ男じy……えっ……は?」

 

 先ほどとは明らかに種類の違う、重い沈黙が流れる。

 

(……えっ何でそういうことになってるんですか再不斬さん!? 何時!! どうなって!! そう言う風に解釈したんですか!?)

 

 顔は相変わらずの笑顔を浮かべながらも、白は完全にショートした頭の中でぐるぐると思考を巡らせる。

 

 沈黙に気まずさを感じたのか、再不斬が先に口を開いた。

 

「いや、すまなかった……少し興味本位というか……あれだ……一応保護者的な立ち位置にいるからな、俺は。そういうのが心配だっただけで余計なお世話だったな……すまん」

 

 焦って動揺しているのか珍しく口数が増える再不斬に白は咄嗟に言葉を返そうとする。

 

(まさか再不斬さん、僕と悟君の仲がいいからって()()()()()()かもって勘違いしているつてことですか!? ちょっと待ってください! 僕が好きな人は……っ!)

 

「待ってください再不斬さん……! 僕は……っ」

 

 慌てて椅子から立ち上がり口を開く白は途中で言葉を停める。

 

『再不斬さんの事が好きなんです』

 

 そう言うはずの白の口は硬直して動きを止める。不意に本名で呼ばれ、眉をひそめる再不斬だが白の様子に首を捻る。

 

 

 

 白の心の中で様々な感情、思考が渦巻く。

 

 

 

 『元々再不斬さんの人形だった僕が、彼の事を好きだというなんておこがましくないのか?

 

 再不斬さんに取って僕は所詮、保護者として見守るだけの子どもの様な存在。僕のこの気持ちを伝えられてもただの迷惑になるだけなんじゃ……

 

 せっかくの……貴重な、平穏で楽しいこの施設での日々を……時間を、こんな僕の身勝手な感情で台無しになんて……』

 

 

 

 マイナス方面の思考が一瞬で白の感情を染め上げ、一昨日の光景をフラッシュバックさせる。

 

『ごめん、そのハナビの気持ちには多分……いや俺は答えることが出来ない』

 

 悟に告白の言葉を受け入れてもらえなかったハナビのその、悲しみに染まった表情。木陰からその横顔を見ていたときに感じた心を抉るようなズキッとした痛み。

 

 もし再不斬に受け入れて貰えなかったとき、自分はあの時のハナビと同じ様に前向きになれるのだろうか、そのような考えが白の心を染める。

 

 ……

 

「僕は、悟君のことをそういう目で見てなんかいないですよ、僕に……意中の人はいません」

 

 白は笑顔を作り、ゆっくりと再不斬の問いに答えた。

 

「そう……か」

 

 白の答えに再不斬は無感情に相槌を打つ。

 

 再不斬の感情を探ろうとする白だが、直ぐに再不斬が別の話題を出すことで雰囲気が流れてしまった。

 

 その瞬間、何かに気がついたのか再不斬は顔を明後日の方向へ向け呟く。

 

「! ちょうど、悟の奴が任務を受けに出かけたようだな……()……()()()()()()()()

 

「……っ! あの件……話が進んでいたんですね」

 

 再不斬は先ほどとは雰囲気の違う様子で白へと言葉をかけ、それに白もその内容をくみ取る。

 

「ああ、ちょうど昨日話に決着をつけておいた。すでにマリエにも話は通してある」

 

「分かりました……本当は桃さんに稽古をつけて貰えないかと身支度を整えていたんですがね、丁度良かったようです」

 

 そう言い白は席を立ち、食堂から立ち去ろうとする。瞬間、再不斬が投擲した物体を白が受け止める。

 

「おっと……これは?」

 

「なんてことはない簡単な握り飯だ……頑張ってこい……」

 

「……はい!」

 

 年相応の明るい笑顔を飾った白はそのまま、自室へと向かい外出の身支度を整えるのであった。

 

 

「俺も甘くなったもんだな……こんな醜態、カカシの野郎に見られでもしたらにやけ顔が目に浮かぶようでムカつくぜ全く」

 

 

 1人、静寂の訪れに再不斬はぼそりと呟く。まんざらでもないと笑顔を浮かべて。

 

~~~~~~

 

 日が出る前の木ノ葉の里を駆ける一つの影。

 

「やっとこさの通常の任務、しっかりとこなしていくかぁ」

 

 ぼそりと独り言を呟く仮面の人物、黙雷悟は音もなく屋根の上を掛ける。

 

(思えば、俺も成長したもんだな……なんて。かつてイタチさんの背に乗って忍者スゲーって興奮してた頃が懐かしい……ってこれはもう何回も思ってるな)

 

 干渉に浸りながら、移動を続ける悟は直ぐにも目的の地点、火影屋敷の任務受付場の入り口までたどり着く。

 

(綱手様の就任式が昨日あって、白とテンテンに色々と折檻したのも昨日。一昨日に里に帰って来たばっかだが、通常業務にこうも早く戻れるとは、綱手様も頑張ってるな~)

 

 呑気に受付場の扉の前で物思いにふけっている悟。その背後に近づく影が1つ。

 

 

 

「……相変わらずの早起きごくろうさん、悟さんよ」

 

「……ん? シカマルか!」

 

 気怠そうな声で悟に語りかけたのは、奈良シカマルであった。悟は少し明るい声でその語りかけに答える。

 

 以前演習をこなした仲の二人だが、その出来事からもお互いそれなりに戦術やチームワークについて語らいあう機会があるようで仲は良好であった。

 

 砕けた態度の悟に苦笑いをするシカマル。

 

「おいおい、これでも俺は()()()……お前の上司見てーなもんだぜ?」

 

 シカマルは自身が来ている、中忍が着ける忍者用ベストをトントンと指さす。

 

「へぇー……だから?」

 

「だからって……たく、やっぱしおめぇーはそういうの(上下関係)気にしねーと思ってたぜ」

 

 余りにも興味無さそうな悟の声にシカマルはそうなるとわかってたと言わんばかりに、苦笑いを浮かべる。

 

「中忍ベスト見せびらかそうが、シカマル自体が強くなったわけじゃあるまいし……第一()()()()()って奴に一番しっくりきてないのシカマルだろう?」

 

「ちぃ……からかいがいのない奴だな……そうだよ、めんどくせーぜ全く。俺はこれから数日中忍として学ぶため、幾つかの小隊の補佐に入って任務だってよ」

 

「露骨に嫌そうな顔するなぁwww……まあ、大変そうで何よりだぜ。頑張ってくれよ中忍殿?」

 

「……任務ジャンキーにはこのめんどくささ、伝わりそうもなさそうだぜ……」

 

 お互い任務受付までの時間を談笑して過ごす中、ふと悟が気配を感じ取り意識を向ける。

 

 その瞬間、音もなく姿を現したのは……

 

「いやー最近の若い子は真面目だねぇ。こんな早朝から任務受付場に来てるなんて」

 

「ああ、カカシ先生すか……どうもっす」

 

「おはようございます、カカシさん。調子は良さそうですね」

 

 はたけカカシであった。ニコニコと笑顔を浮かべるカカシだが、上忍としての任務を昨日受けていたのを悟は小耳にはさんでいたので

 

(昨日のうちに任務を終わらせてきたのか……流石カカシさん)

 

 と関心を抱きつつ、軽口を叩く。

 

退()()()()()()()、随分と忙しそうですね!」

 

「っ!……そうだねぇ、もうちょっと休みが欲しいーなんてね……五代目も人使いが荒いよ全く」

 

 オイオイと泣くような仕草をするカカシと、それを見てけたけた笑う悟。その様子に若干引いているシカマル。

 

「……っさてと、冗談はここまで。悟、お前に用事があるのよ」

 

「俺に用事ですか?」

 

 カカシの言葉に疑問符を浮かべる悟。

 

「まあ、詳細は後で伝えるからついて来てくれ。おっとそう言えばシカマル君、中忍昇格おめでと。アスマともども過労仲間が増えそうでオジサン嬉しいぞ!」

 

 じゃっ! と手を掲げ歩き始めたカカシに、それじゃあなと声をかけてその場を去る悟。

 

 残されたシカマルは1人、苦笑いを浮かべていた。

 

「過労仲間ねぇ……親父もこんな感じでめんどくせー忍びの社会通って来たのかもなって思うと……ほんのちょっとだけ見直すぜ」

 

 

~~~~~~

 

 

 カカシに連れられた悟は、火影の執務室の前まで来ていた。

 

「何でわざわざ綱手様の所まで……?」

 

 疑問を口にした悟にカカシは苦笑しながら答える。

 

「どうやら五代目は執務が苦手なようで、三代目の様に任務受付場での采配をしている余裕はないそうだ。だから重要なAランク以上の任務以外は受付場で、それ以外は直接指示を出すことにしたみたいよ」

 

「ははっ……そうですか」

 

 綱手様らしいな、と失礼と思いながらも軽く笑った悟はカカシが開けた執務室の中の光景を目の当たりにする。

 

 眠気で机に突っ伏しそうになり、肩ひじを突き頭を揺らす綱手。床で資料に埋もれてうつ伏せに寝息を立てているシズネ。

 

「……わお」

 

 その様子に大人って大変だと心底思う悟。悟とカカシの来訪に気づき、綱手は隈の刻まれた目をこすりながらも椅子から立ち上がる。

 

「おお、きたか……おまっ……おまえたち」

 

 呂律が回っていない綱手に流石に心配になる悟だが、綱手は椅子に再度腰かけちらばった資料から、目的のモノを拾い上げ読み上げる。

 

「早速だが……えーとだなぁ、今回お前たち第七班と第零班にはとある人物の護衛兼護送をやってもらう」

 

「ああ、そういう……前振りとかないんですね」

 

「悟、あまりお疲れの五代目の話を遮らないの」

 

 ぼそぼそ喋る緊張感のないカカシと悟の呟きに、こめかみをひくひくさせながらも綱手は業務的に読み上げ続ける。

 

「依頼人からの指定はAランク相当。依頼金は相当奮発しているようでな、カカシ、お前の指名入りだ」

 

「ほぉ……俺指名……ですか?」

 

「ああ、あと三代目が作った零班という制度はこういう訳ありそうなものにくっ着けると良いと()()()に書いてあったから悟、お前もついでに同行させることにした」

 

「ついでって……ん、助言書?」

 

 なんだそれと言いたげな悟に、綱手は何やら分厚い書物を机から持ち上げひらひらと見せつける。

 

「三代目……あんのじじぃが自分に何かあったとき用に後続に対しての幾つか助言を残した書物があってな、把握するのに滅茶苦茶時間がかかったが……ハアっ……まあ、お陰様で有用そうなお前を扱えるんだ、感謝しないとな」

 

 へっとやけくそ気味に笑う綱手に、その書物の把握が大変だったことを容易に想像できた悟は同情の目を向ける。

 

「さて……任務内容を告げる前に悟、その零班に新しい班員を追加させてもらった。そいつの紹介を先に済ませよう」

 

「へぁ!? 新しい班員!?」

 

 憐れみを向けていた悟が驚くのと同時に悟の背後に気配が現れる。

 

「まあ紹介……はお前たちの関係なら必要ないのかもな」

 

 綱手のその言葉を聞きながら振り返った悟は、仮面の下を驚愕の色で染めた。

 

 

 

 

 

「本日付けで第零班配属となりました。名を……白と申します」

 

 

 

 

 木ノ葉の額当てを、額に身に着けたその人物はその整った顔立ちから繰り出される営業スマイルを悟に向ける。

 

「よろしくお願いしますね? 悟先輩♪」

 

「な……でっ……い……を?!」

 

 言葉にならない疑問の感情を口から漏らす悟に、これは驚いたとカカシが片目をぱちくりさせて綱手に目線を向ける。

 

「お前たちの事情は、大方把握している。三代目が()()()()()()()と交渉をしていたみたいでねぇ。まあ、アレ(鬼人)と違って名はそこまで知れていないようだしその子だけなら忍びとして運用してもまあ……多分問題ないと私が判断した。……ん、なんだぁ? 火影の決定に文句でもあるのか?」

 

 助言書をトントンと指で叩いて説明する綱手に悟は再度目線を白に戻して、事情を話してくれと懇願するように目を向ける。

 

「まあ、何といえばいいのか……僕が施設では大した手伝いが出来ていないことに不安を感じていて、そのことをマリエさんに相談したら……こうなってました、はい」

 

「そこで説明を投げやりにするなよ! それじゃあ何か!? 俺だけ知らされてなかったのか!?」

 

「いえ、ウルシさんにも伝えてないですよ? 一応忍びとして活動するときは僕は『白』ですので、『白雪』としての日常を守るため、顔も君みたいにお面で隠すつもりです」

 

「いや~あの白君が味方になるなんて、心強いな~。ナルト達にもいい刺激になりそうだな~うん!」

 

 まだ早朝にも関わらず、騒がしくなる火影屋敷。その後落ち着きを取り戻した各々は綱手から任務のブリーフィングをしっかりと聞き、任務に取り掛かるための準備を進めることになった。

 

 

~~~~~~

 

 数刻後

 

 木ノ葉の里から離れた位置にあるとある町。そこにある小さな空き地に集まる三人組がいた。

 

「は~あぁ……カカシ先生遅いなぁ」

 

 ピンク色の髪を揺らしながらつまらなそうにそう言う春野サクラはうちはサスケの座る積み重ねてある土管に寄りかかりながら空を見上げる。

 

「いつものことだ……あきらめろ」

 

 サスケももう慣れたと言わんばかりに言葉を吐き俯いていた。

 

 1人地べたに座り込むナルトは空き地から見える()()()()()の看板を見上げて、ブツブツと何か独り言を呟いている。

 

「サスケ君……そういえば怪我の方大丈夫? 何だか一昨日より怪我が増えてるような……」

 

 ナルトの呟きに興味の無いサクラはサスケを気遣う様に声をかける。

 

「ああ……問題ない。アレだ……悟の奴と組手をして少し無茶をしすぎただけだ」

 

「そう? それならいいんだけど……ホントあまり無茶しないでね? 悟の奴とか修行馬鹿だから、加減とか知らなそうだし……」

 

 そんな2人の会話とは別にナルトが呟く。

 

「どこかにいねーかなぁ……()()()みたいなお姫様……あんなお姫様のために闘えるなら忍者も本望だよなぁ」

 

 ナルトの呟きにサスケが鼻で笑い答える。

 

「くだらない……所詮は()()の話だ」

 

()()()()()()()に影響受けすぎよナルト! ガキじゃあるまいし……」

 

 サクラにも呆れられたナルトは「わかってっけどよ~」と項垂れる。

 

 すると

 

 子気味の良い馬の蹄の音が段々と三人の居る場所に近づいていることに気がつく第七班。

 

 そのより音が大きくなった瞬間、空き地の壁を飛び超え白馬がナルト達の前を横切る。

 

 そのまま着地し走りぬける馬の蹄の音が響く中、その馬の背に乗った女性に三人の目が行く。

 

「う、うそ……あれって」

 

「まさか風雲姫かぁ!?」

 

 ナルトとサクラが白馬に跨っていた女性を見た感想を漏らす。彼らが驚きを露わにするのは馬の背に居た女性が先ほど見ていたという映画に出ていた主人公、『風雲姫』と瓜二つの外見をしていたからのようだ。

 

 すると突然白馬が飛び越えた柵が開かれ、音に警戒してその場から離れていたサスケを除いた2人が開いた柵に押しのけられ吹き飛ばされる。

 

「っあれは……」

 

 態勢を整えながらそう呟くサスケ。柵を押し開けなだれ込むように、馬にまたがる甲冑武者が進軍していく。

 

 こけた態勢のサクラナルトは不格好ながらも跳ね起き

 

「「……なろぉおおおおお!!」」

 

 吹き飛ばされたのがしゃくにさわったのか、雄たけびを上げる。2人が立ち上がるとサスケも鼻を鳴らし、同時に第七班は屋根を駆けた。

 

 

~~~~~

 

 

 甲冑武者たちに追われる白馬に跨る長髪の女性。彼女を思い、第七班は甲冑武者たちを次々と叩き伏せていく。

 

「どりゃー覚悟しろぉ!」

 

 ナルトの影分身に群がられ、甲冑武者たちが次々と拘束されていくなかサスケもサクラも拘束の手を緩めず、見失った白馬の女性の行方を気にする。すると

 

「っ!」

 

 一際素早い影が武者たちを縛り上げるサスケに迫る。

 

 接近してきた曲者に気がつきその手刀を捌き、続いて放たれる拳を受け止めたサスケ。

 

「てめぇ……何者だ」

 

 相手の拳を強く握り動きを制限し、鋭い蹴りを放つサスケだが拳の拘束を解きその曲者は素早く後退する。その外見は仮面を被り、外套を羽織っているものであった。

 

「明らかに素人の動きじゃねえ……ナルト、サクラ! こいつら(甲冑武者)とは格が違うぞ!」

 

 サスケの叫びにナルトもサクラも並び立ちクナイを構える。

 

「なぁサクラちゃん、仮面着けてるってことは……悟じゃないのか?」

 

「バカナルト、よく見なさいよ! 同じ無地の仮面だけどアイツのは目出し穴の形が悟のより細いわ!」

 

 ナルトの疑問にサクラが呆れて怒気を孕ませて答える。

 

「……」

 

 仮面の人物が揺らめくように動き出し、そのスピードが加速し始めた瞬間。

 

「こらこら、何やってんのよお前ら」

 

 頭上から不意に声がかかる。近くの建物の屋根から顔を覗かせるようにし声をかけてきたのはカカシであった。

 

「「カカシ先生!?」」

 

「カカシか……」

 

 第七班がそろえてカカシの名前を呼ぶその瞬間にはカカシは地面に降り立つ、その瞬間にはすでに甲冑武者たちの拘束は解かれていた。

 

 その早業により解放された武者たちの1人、眼鏡をかけた男性に手を貸し立ち上がらせるカカシ。

 

「いや~どうもすみません。うちの子たちが早とちりしたみたいで」

 

「「「?」」」

 

 女性を追いかけていた賊のような存在に対して丁寧に振舞うカカシの様子に第七班が疑問符を浮かべる中、仮面の人物も他の武者たちを立ち上がらせながらクスクスと笑い声を響かせながら話し始める。

 

「そそっかしい様子は変わりありませんね皆さん。彼らは君たちと僕たちの依頼人ですよ?」

 

 ちらっと仮面をずらして覗かせたその顔に第七班の三人は驚きを露わにする。

 

「あああああ!? お前ってば白っ……じゃなくて白雪ぃ……っでいいのか……? てかあれ、なんでお前がこんとこでそんな格好してぇ!?」

 

 あれよあれよと未知の情報が舞い込み混乱するナルトをよそに、説明を求めると言わんばかりの目を向けるサスケらにカカシが苦笑いしながら事情を説明し始める。

 

「白君も……何となくこいつらが事情を分かってないって気づいてたでしょ全く……ま、いいか。お前らに先に映画を見るように言っておいたでしょ? んで、見たと思うけどさっきの逃げてった女性、彼女はその映画の風雲姫を演じる女優の富士風雪絵(ふじかぜゆきえ)さんだ。それで今回こちらの眼鏡をかけた男性の浅間三太夫(あさまさんだゆう)さんの依頼で彼女の護衛をするのが俺たちの任務ってわけよ」

 

 カカシの説明に、未だ納得のいかない様子のサクラが疑問を口にする。

 

「えっとじゃあ、この如何にも悪役みたいな甲冑の人たちは?」

 

「映画のスタント兼用心棒の皆さんですよ」

 

 仮面の奥から朗らかな声を響かせながらサクラの疑問に答える白。

 

「まぎわらしい恰好を……それで何でお前が此処にいる」

 

 その白の存在に疑問をぶつけるサスケに、カカシが答える。

 

「綱手様の命令という形で白君は零班の所属になったわけで……つまりは今回第零班との共同任務ってことでもあるから~」

 

「あ、ついでに言えば忍びの僕は『白』と呼んでくださいね。七班の皆さん?」

 

 白の補足に乾いた笑いを浮かべるサクラ。

 

「零班か……つまり……」

 

 サスケのその呟きにカカシが「ご明察」とニコッとして答えた。

 

 

~~~~~~

 

 

 小川で白馬が水を飲み、傍らで座り込んで休憩する女性が1人。

 

 長髪の黒髪を垂らし、その蒼い瞳を伏せながら暗い表情を地面に向けるその女性はため息を大きくつく。

 

 うつむく彼女にふと影がかかる。

 

「お怪我はありませんか、風雲姫?」

 

 急にそう語りかけられたその女性は目を見開き、声の方に振り向く。

 

 その方向には、膝を突き頭を垂れる仮面の忍びの姿があった。如何にも芝居がかった声色と仕草が目に付く。

 

「……なーんて、芝居はかじった程なんですがね。プロの目から見て今のは何点でしょうか?」

 

 その仮面の人物、黙雷悟はタハハとお道化て、その女性富士風雪絵に声をかける。

 

「……」

 

 少しの沈黙の後、雪絵は黙って立ち上がり白馬に跨り颯爽と駆けだす。

 

 しばらく馬が駆けたのち、雪絵が後ろを振り返るもその目線の先には誰もいない。

 

 「……ふん」と鼻をは鳴らした雪絵が目線を前に向けると、馬の進行方向に突然人影が現れる。咄嗟に手綱を引き馬を停める雪絵だが、その衝撃で馬の背から振り落とされた。

 

 地面との衝突の衝撃を覚悟し目を瞑る雪絵だが、瞬間誰かに抱きかかえられ痛みが体を襲うことはなかった。

 

「ハハハ、忍を舐めないでください。撒いた……とでも思いました?」

 

「あなた……っ」

 

 地面との衝突を抱きかかえ回避したのは仮面の人物である悟であり、さきほど馬の前に現れたのも悟であった。影分身を解いた悟は雪絵をゆっくりと立たせる。

 

「もう、あまり無茶しないでください。私はあなたの護衛としてぇ……え~……っ話してる最中に走って逃げる奴がいるかよ……全く」

 

 悟が語りかけるころには既にその場から走り出して逃げ出そうとする雪絵に対して、ため息をつく悟。するとその先で雪絵が子どもたちに囲まれ始めていた。

 

「ちょっとあなた達……どいてっ……!」

 

 どうやら雪絵は子どもたちにサインをせがまれ行き先を塞がれている様子であった。悟は(流石女優……前世と同じで人気な職業なのかな?)なんて思いながらゆっくりと歩みを進める。

 

 すると

 

「いい加減にして!!!」

 

 雪絵の声が轟く。流石女優というべき通りの良い声が、子どもたちや周囲で見守っていた一般人たちのガヤを消し去り辺りを一瞬静寂が占める。

 

「サインなんて……下らない、ゴミに成り下がる何の役にも立たないものなんて欲しがって……バカみたい……っ!」

 

 そう捨て台詞の様に吐いた雪絵は子どもたちを押しのけその場から走り去る。

 

「……」

 

 その様子に周囲の人間は反感を示していた。ただ一人悟だけは、少しだけ憐れむような眼で彼女を見つめ、その場から姿を消した。

 

 

~~~~~~

 

 

 一方映画の撮影所に集まった、第七班と白と関係者たち。

 

 

「海外ロケ……()()()でやるんですね!」

 

 映画の内容について知れたことか、はたまたお気に入りのミッチーとかいう俳優に会えたことでか1人鼻息を荒くしたサクラが雪の国の名を口にする。

 

「そっ! 俺は昔その国での任務に就いたことがあるんだが……そこはかとなく白君とも因縁がありそうな国での任務だね」

 

 カカシは昔を懐かしむかのように顎に手を当てながら白に語りかける。

 

「……どうでしょうか。地名としては前から知ってはいましたが、僕の……『雪一族』と何かしら縁があるのかどうかは良くは知りません。母は何も語っていなかったので……」

 

「あそこの雪忍は君と同じ氷遁を使っていたが……まあ、そんな昔話は今はいいか」

 

 そう言うとカカシは此度の任務地についての情報をまとめる。

 

 映画撮影のために雪の国へと海外ロケへと向かうスタッフたちと女優、富士風雪絵を護衛・護送を任務とすること。

 

 雪の国はかつては貧しくとも科学技術に長けていたが、その化学力の向上に陶酔したかつての殿様が散財を繰り貸したことで国自体の運営が疎かになっているとか。

 

 歳を召した映画の監督である白髪にサングラスをかけた男性、マキノは呟く。

 

「どんな場所……状況だろうと、カメラさえ向けりゃあ、雪絵は女優としての演技を完ぺきにこなす。そんな女優としての誇りを持ったあいつが、こんなにも逃げ回るっつーことは何かしら深い理由があるのかねぇ……まあ、ワシは役者の私生活などには興味はありゃせんがな」

 

 その言葉を受け、今回の依頼人兼雪絵のマネージャーの浅間三太夫は額に汗を浮かべながらも無言でその場に佇んでいた。

 

 

~~~~~~

 

 時は経ち夜、闇が深くなる時刻。

 

 町の隅っこにあるこじゃれたバーで雪絵は酒を飲み独り愚痴を吐いていた。流れるムードのいい曲や店の雰囲気にそぐわずべろんべろんに酔っている雪絵。

 

「冗談じゃない……誰が雪の国なんかに……」

 

 そう言いながら首から下げた水晶の飾りを懐かしむのか、憎しみを持っているかのような複雑な表情で眺める彼女。

 

「撮影があるんでしょう? 酒を飲み過ぎて大丈夫ですか?」

 

 気配もなく、ふっと現れ話しかけてくる悟に目を見開き少しだけ驚きを示す雪絵だが直ぐに顔は「不機嫌だ、不愉快だ」という感情に染まる。

 

「うるっさいわね~……アンタマネージャーでもないくせにシツコイのよ……」

 

「……まあ確かに、私はマネージャーでもないしシツコイとも思いますけど……一応護衛なのでね……それとは関係なしに役者としてあれはどうかと思いますよ? 昼頃の対応」

 

「……はあ? 何? 私にケチつけるの?」

 

「ええつけます、ケチ」

 

 じっと目線を合わせた両者の間に沈黙が流れる。

 

「……俺の知っている俳優や役者ってのはもっと、夢を……皆に希望を与える職業なんです。貴方だって風雲姫を演じているとき、そうやって見てくれている人たちのこt

 

「アッハッハッハ!! ……夢ぇ? ……希望? バッカみたい……女優なんて人を薄っぺらい言葉で騙す最っ低な人間がする最っ低な仕事に夢見てんじゃないわよ……結局は脚本家の書いた嘘ばっかりの線路の上をなぞるだけの……ただの傀儡よ、くだらない」

 

「……相当酔っていますね、貴方」

 

「ふん……そういえばアンタ芝居をちょっとカジッたって言ってたけど……てんで駄目ね。あんな短い演技でボロが出るくらいしか演技について知らないからそんなバカげたことを……」

 

 その言葉を受けた悟の仮面の奥の目がバーの明かりで揺らいだ瞬間。

 

 バーの扉が勢いよく開く音が響いた。

 

「雪絵様~~!」

 

 マネージャーの三太夫が雪絵の名を呼びながら、姿を現す。

 

 一瞬三太夫に目を向ける雪絵だが、知ったことかと構わず酒をのみ続ける。

 

 三太夫は息を切らしながらも口を開く。

 

「ゆ、雪の国行の船がもうじき出港します……! さあ、急ぎませんと」

 

「もう、いいの」

 

「……え?」

 

 三太夫と雪絵の2人のやり取りを見ていた悟は、第七班と白も続いて来ていたことに気がつきアイコンタクトで挨拶を済ませる。

 

「風雲姫は降りるわ……」

 

 その雪絵の言葉に、三太夫とサクラ、ナルトの3人が驚きを露わにする。

 

「そんなぁ!?」「何を言っているのですか、雪絵様!?」「何言ってんだ姉ちゃん!?」

 

 酔いにふらつき、浮ついた仕草でおちょこ片手に雪絵は語る。

 

「いいじゃないの、良くあることよぉ。ほら、続編で主演俳優が変わったり監督が変わったr

 

「だまらっしゃい!!!」

 

 突然の三太夫の叱咤にナルトが、条件反射で背筋を伸ばす。普段からの悪戯で叱られているための反射なのだろう。

 

「雪絵様意外に、風雲姫を演じられる俳優などおりませぬっ!」

 

 雪絵は、目線を三太夫から逸らす。その雪絵の様子を悟は無言で見守っている。

 

「……もう……いいじゃない……何もかも……」

 

 消え入りそうな雪絵の言葉。

 

「仕方ないですねぇ……」

 

 真面目な雰囲気のカカシの言葉に、不穏な空気を感じ取った雪絵が振り向くと……

 

 カカシの左目が朱くグルリと回転する様子を見てしまい、雪絵は意識を手放した。

 

「……催眠眼ですか、強引ですねカカシさん」

 

「仕方ないだろう。俺たちの任務は、()()()()()()()

 

 意識を失くし倒れる雪絵を支えた悟は、何とも言えない目をして雪絵を背負う。

 

「どうしたんですか悟君。君らしいと言えばそうですが、感情をそんなに表に出して」

 

「君らしいってなぁ……白。仮面付けてるのに俺ってそんなに分かりやすい?」

 

 白の言葉を受け、周囲に質問を投げかける悟。三太夫とナルトを除いた全員が頷く。

 

「仮面着けてようがなかろうが、昔からお前は分かりやすい性格だ」

 

 サスケの言葉にガックシと頭を垂れる悟。

 

「ほらほら、おしゃべりしてないでさっさと移動するぞお前ら。船が出港する」

 

 カカシが柏手で合図し、移動を促す。

 

 三太夫がすみませんと頭を下げながら、一行はそのバーを後にした。

 

 

 そのバーでの様子を見ていた身なりの悪そうな男は、一行が姿を消したのちに闇へと溶けていった。

 

 

~~~~~~

 

 雪の国某所。

 

「斥候から情報が入りました」

 

「……その情報は確かか?」

 

「はい、女優富士風雪絵が風花小雪(かざはなこゆき)であることに間違いはないようです」

 

 大柄の男性と、白い装束を纏った3人の忍びが会話を交わす。

 

「この10年……探りを入れ、探し続けた成果が出ましたね」

 

「……小娘1人、楽勝だぜ」

 

 その忍びの内、女性の忍びは成果を喜び、大柄な忍びは此度の行く末を軽んじる。

 

 長身の忍びは続けて口を開く。

 

「小雪には、あのはたけかかしが護衛についているそうだ」

 

「……因縁の対決ね」

 

 女性の忍びの言葉に長身の忍びは小さく余裕の笑みを浮かべた。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

ちちうえ~?

 

 

 どこなの~

 

 

 

 小雪か……こっちに来て御覧……そこで何が見える?

 

 

 

父上と私……

 

 

もっとほら、よーく見てごらん、未来が……み……え……て……

 

………………

…………

……

 

 

 

 

 

 

「ちち……う……ううん?」

 

 

 目を開けて揺れる視界に戸惑いながら、雪絵は身体を起こす。

 

 

「っ……うえ……はあっ……はあぁ……っ」

 

 頭痛を抑えるため眉間をつまむ雪絵の起き上がる仕草の音に気がついたのか、部屋の外から三太夫の声が聞こえた。

 

「お目覚めですか雪絵様?」

 

「三太夫……おみず……頭がくらくらする……」

 

 雪絵がそう呟くとすっと視界の隅から水の入ったコップが差し出される。

 

「ありが……うわああっ!?」

 

 コップを差し出したのは、細い目出し穴がある仮面を着けた人物であった。その唐突なビジュアルの不気味さに雪絵は大きく驚き、転げまわるように部屋の出口まで移動してその扉を開けた。

 

「三太夫!!! 変な奴が……って…………何なのよこれ!!!!!」

 

 扉を開けた雪絵が見た景色は……見渡す限りに大海原であった。

 

「雪絵様、落ち着いて……」

 

 扉の脇に他っていた三太夫が、雪絵に声をかけるが落ち込む雪絵は視線を落とす。それでも自分の身体が感じる揺れに雪絵は現実を思い知らされる。

 

『自分が船の上にいる』という現実を。

 

 その船は大きな木造のモノであり、広い甲板では映画のスタッフ達が忙しそうに駆け回っている様子が見られる。

 

 ちらりと、離れた位置で談笑している第七班と悟の存在を確認した雪絵が背後の部屋の中に目を向ければ

 

「2日酔いではあまり激しく動かない方が身のためですよ。はい、お水です」

 

 仮面の人物・白が、先ほどと同じように水を差しだしていた。

 

「はは……ハアっ」

 

 大海原の波の音が雪絵の乾いた笑いとため息をかき消した。

 

 

 

 



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70:叶えたいの事

「おーい、こっちだぁ」

 

「そのセットは此処においてくれ!」

 

「衣装の小道具足りてないわよ~」

 

 冷たい風が吹く大海原を行く船の上では『風雲姫』の映画のスタッフたちが船上のシーンを彩るための準備を進めていた。雪絵も死んだ表情で風雲姫に成るための化粧を受け入れている。

 

「あの姉ちゃん何か苦手だってばよ……」

 

「ハハハッ護衛対象に苦手も何もないだろう、ナルト」

 

 その様子を眺めていたナルトの感想に悟が笑う。

 

「そうだぞナルト、これはAランク任務。苦手な相手だろうと、命をかけてでも依頼人達を守るのは忍びの常だ」

 

「そうなのよねぇ……Aランク任務……ってことは波の国の時と同じ……」

 

 カカシが付け加えたその言葉に反応を示したサクラが顔色を悪くする。それは彼女のなかでは未だ良い思い出に成りえていないことなのであろう。

 

「ああ、僕と戦った時の任務はAだったんですねサクラさん」

 

「……ホントのホントはCランク任務だったのよ。下忍が急にやるには荷が重いわよ、しゃんなろ~……っていうかそのとき敵だった白が今じゃ仲間なんてのもおかしな話ね……」

 

「僕もまさかもう一度こうして忍びになろうとは……ふふふ、今回の任務も実はSランク相当だったり

 

「やめてよぉ、白!! 縁起でもない……」

 

 女子組の話の内容に乾いた愛想笑いを浮かべる悟。

 

(Aランクと言えば相当な任務だけど……ナルト達が漫画でこんな感じの任務受けてたなんて場面あったか? 俺の存在が影響を与えてって奴か、それとも俺が忘れてるだけか……はたまた……)

 

 悟は自身の原作の知識とかけ離れた現状に少し不安を感じつつも、和やかな班員たちの様子に仮面の下で小さく笑みを浮かべる。

 

 ふと悟は船の後方の人がいないスペースでサスケが海を一人眺めている様子に気がつく。

 

 周囲では撮影の準備が出来たのか、スタッフたちの間に緊張の色が見え始めていた。

 

 段々と静かになる周囲をよそに、悟はスタスタと海を眺めるサスケの元へと向かう。

 

「シーン23、カット6、テイク1、アァクション!!」

 

 助監督の合図を背に撮影が始まったのか、雪絵の風雲姫としてのセリフが聞こえる中、悟は船体の縁に両腕を置いた姿勢のサスケに語りかける。

 

「どうしたサスケ? 1人離れて」

 

「……いやなんでもない、特に理由なんて

 

「ハイ噓。俺相手にごまかしがきくとでも思ったか」

 

 撮影中なので距離が十分に離れてはいるが気を使い小声で喋る2人。縁に背中を預けた悟は仮面の奥をジト目にしてサスケの側頭部をデコピンする。

 

「痛て……ちっ、めんどくさい奴に目をつけられたな」

 

「クックック……シカマルみたいなこと言ってんなwww …………あ~~、何となくだけでども、サスケが何で悩んでるのか当ててみようか?」

 

 鬱陶しそうにするサスケに悟は提案を出す。

 

「フンっ……やってみろ、どうせ当たる訳が

 

 

 

 

 

「大蛇丸のことだろ?」

 

 

 

 

「……」

 

 2人の間に沈黙が走る。遠くで雪絵の悲痛な演技の声が聞こえている。

 

「……沈黙は肯定とはよく言ったもんだ。むしろ驚きを露わにしない分、流石サスケと言ったところかな」

 

「……」

 

 顔を自分とは反対方向に向けたサスケに悟は優しい声色で語りかける。

 

「まあ、お前が悩んでることに俺が正解がこうだ! とかこっちの方が良い! とか言える訳じゃないけど……10年近く……ん、そんぐらいだよな? まあ、そんなぐらい仲の俺が言えることは……」

 

 少し茶化しながらも悟は一呼吸置く。

 

「自分のやりたいようにやったら良いと思うぜ?」

 

「……」

 

 相変わらず黙ったままのサスケに悟は話を続ける。

 

「俺も最初は、サスケにもっといい道を示せるんじゃないかぁって……ちょっと傲慢……? になってた時があったんだけどな、今思えばそれって、サスケの意思の自由を尊重して無いような気がして……何だか俺の忍道に反するようなことしてたなぁって」

 

「……お前の忍道は『自分のしたい事を貫く』って奴じゃなかったか?」

 

 ボソッと口を開くサスケに悟は仮面の下の表情を明るくして語る。

 

「そうなんだけど……突き詰めれば『自由』であることに重きを置いているんだと思う、俺は…………多分」

 

「フッ自分のことなのに、多分かよ」

 

「案外わからないものさ、自分のことなんて。だからこそ、自分が何をしたいのか探っていくことが人生であり……夢なんだと思う」

 

「……」

 

「夢は到底、他人に与えられるモノじゃない。誰かしらの影響は受けるにせよ、最終的に自分が頑張って思い描いて、そこにさらに踏み込んで……ジャンプすることに意義があると思うんだ。叶う叶わないはともかく」

 

 しんみりとした声色になり始めている悟の様子にサスケは顔を悟に向けて話をじっと聞いている。

 

「だからこそ、俺はサスケがどんな判断をしようが……応援しようと思う」

 

「……俺の夢が、もしお前の障害になったとしてもか?」

 

「ああ、もしそれで俺の夢が潰えてしまっても良いと思ってるよ……まあ、『今』の俺は諦めが悪いからな。潰れた夢の破片を集めて、何度でもチャレンジしてやるさ」

 

 にししと笑う悟が目線をサスケと合わせる。

 

「どうだ? 少しは心の整理に繋がったか?」

 

 鼻で笑ったサスケは少し笑みを浮かべて答える。

 

「……全くダメだな。お前の人生設計をクソ真面目に聞かされても面白くもなんともない」

 

「おまっ……!? 人が恥ずかしいことを真面目に言ってやったのに……っ!」

 

「だが……ありがとう……俺は……『俺』をもう少し知る必要がありそうだと気が付けた」

 

 サスケからの滅多にない感謝の言葉に、悟のにやけた目線がサスケの顔を射抜く。その様子にサスケは顔を逸らした。悟からはサスケの耳が赤くなっているのが少しばかり見えていた。

 

(こいつはいつもそうだ。俺の心の内を見透かすように……事情を全て知っているかのように振舞う……まるで……)

 

 悟について考えを巡らせようとするサスケに、悟はサスケの背中を叩き映画の撮影を見学しようと誘う。

 

「俺ってこういう収録とか演技してるの見るの結構好きでさ~」

 

「……そうだったのか? 初めて聞いたな」

 

「あれっ言ったことなかったっけ? 俺も昔は演劇のサ……あっ……いや何でもない、取りあえずさっさと行こうぜ!」

 

 早口で喋り、急に話を切り上げる悟。

 

「……演劇のサ? 俺も昔はって……十代前半の俺たちが使うような言葉じゃねぇだろ」

 

 1人サスケは疑問を口にしながらも、やれやれといった様子で悟の後に続いたのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 翌朝、早朝

 

 まだ空が白みがかり、日が射していない時間に二つの影が甲板で会話をしている光景があった。

 

「しかし、忍びの悟殿がこうも演技に興味がおありとは……」

 

「いやあ、忍びとしてやはり演技の上手い下手も重要じゃないかって思ってるだけなんですよ~まあ、命のやり取りに緊張してろくに演技何て出来ないですけどね」

 

 悟と会話するのは三太夫であった。悟は普段の習慣から朝早くに目が覚め、船のマストに足を張り付けてチャクラコントロールの修行をしていたのだが、ふと甲板に現れた三太夫が気になり自分から声をかけたのであった。

 

 三太夫も雪絵のマネージャーとしての業務から、早朝から働くことになれているためか、2人は自然と演技についての会話に夢中になっていた。

 

「それにしても、やっぱり雪絵さんの演技……凄かったですね~、真に迫るものがあるというか……やっぱり生でみると迫力が違いますねぇ!!」

 

「ふふふ、随分と楽しそうに語りになりますね。お面のせいで少し不気味な子だと思っていましたが、こうして話してみるとやはり年相応でいらっしゃる」

 

「年相応……ッ……それはある意味年相応じゃなくて、落ち込むというか……」

 

 ハハハっ……と乾いた笑いをする悟に、三太夫は疑問符を浮かべた。

 

「ともかく、あれ程の演技力……才能だけでなくて余程の努力をしてきたんだろうなって、良ければご指導ご鞭撻をお願いしたいぐらいですよ」

 

「雪絵様は誰かに意見をすることがあれど、基本的には人と関わるのをお嫌う方なので……そういったことはなさらないかと」

 

「ちぇ……やっぱりそうか……そう言えば演技の時の涙、あれも三太夫さんが点してましたよね? 本来ならマネージャーじゃなくて他のスタッフの人たちがやることだと思うんですけど、それも人とのかかわりが嫌だからとか……ですか?」

 

「ええ、この目薬を点すお役目もマネージャーの私以外にはさせたくないと仰っており……メイクなど専門の能力がいる作業は口を閉じて素直にお受けに成るのですが……ハハハ」

 

 そういって苦笑する三太夫の様子は、しかし雪絵の存在を誇らしく思っているのかまんざらでもない雰囲気をまとう。悟は三太夫が握りしめている目薬と、それに紐で繋がれている脇差しに目を向ける。

 

「その脇差しも、雪絵さんの護身用としてお持ちに?」

 

「ええまあ……しかし悟殿や、あのカカシさんの部下の子どもたちの動きを実際に見てみると、私程度が脇差しを持っても雪絵様をお守りできるかどうか……」

 

「ああ、あいつらがスタント兼護衛ごと三太夫さんも蹴散らしちゃった奴ですね。あれはホント……すみませんでした」

 

「いえいいのです。私としてもこんなにもお強い方たちに雪絵様を護衛してもらい心強い限りで……ん?」

 

 会話の最中、ふと三太夫が言葉を止める。会話相手の悟の様子が少し変なことに気がついたのであろう。

 

「どうかされましたか、悟君?」

 

「いや…………何だか,違和感というか……変な感覚が……」

 

 三太夫の心配をよそに、悟は辺りをキョロキョロと見渡す。

 

 悟の視界には海と、遠くの方に巨大な氷山が映るのみであった。

 

(何だ、この感じ……冷たいチャクラのような……前にもこんなことがあったような……? 確かナルトが封印の巻物を盗み出したときの……)

 

 妙な気配を感じた悟が警戒心を募らせる中仮面を着けた白が不意に姿を現す。三太夫は音もなく現れた白に「ひえ」と小さく驚きの声を漏らす。

 

「おはようございます、悟君……あの……妙な気配みたいなものを感じませんか? 近くで寝ていたナルト君も叩き起こして聞いてみても何も感じないといっていたので、君ならと思い……」

 

「白も『コレ』を感じるのか? いや俺も今しがた気がついたんだが……ってナルトもついて来てたのか」

 

 少し神妙に会話をする悟と白に、眠そうな顔に額当ても着けていないナルトが緊張感もなく欠伸を噛み殺しながら声をかける。

 

「何だってばよぉ……朝っぱらから……何か滅茶苦茶さみいぃしよぉお……」

 

「よう、ナルトおはよう。美人の白に起こされてまんざらでもないだろ?」

 

「目ぇ開けたら至近距離に仮面があったら、びっくりするわアホぉ!! 白も悟も、仮面着けてるから見た目物騒で……って」

 

 悟と子気味イイ感じの会話をしたナルトは何かを見つけたのか、「おおおおおおお!!??」と大きな声を上げ、悟と白の間を走り抜け船の縁に乗り上げるように身を乗り出す。

 

「何か見つけたか!?」「どうしましたナルト君!?」

 

 警戒を強めた悟と白の呼びかけにナルトが答える。

 

「何だぁ!! あのでっけぇえ氷の山!!」

 

「……」「……」

 

 ナルトが大きなリアクションを取って驚いて見せたのは、先ほどから海に見えていた氷山が原因であった。

 

「あんなの見るの始めてだってばよ! カキ氷何杯分あるんだぁ~!!」

 

((……警戒して損した))

 

 妙な気配のようなものを感じる2人とはよそにはしゃぐナルト。その声に続々と人が集まりはじめ……

 

「あちゃ~こりゃ船の進路とぶつかってるねぇ~」

 

 めんどくさそうにそう呟くカカシ。

 

「うっわぁ……さっむ……もうちょっと着るもの持ってくるんだったわぁ……」

 

「ほぉ……随分とでかい氷の山だな」

 

 寒がるサクラとサスケも姿を現す。

 

 彼らの様子から、悟と白が感じている違和感を覚えている者はいない様子であり、

 

「取りあえず警戒は怠らずにいましょう」

 

 白のその提案に了解と返事をする悟であった。

 

 すると映画監督のマキノが、その氷山に上陸し映画の撮影を行うと叫び準備を進め始める。

 

(船は後で迂回させるとしても、その間の時間を撮影に中てるとは……ロケって大変だな)

 

 そう思いつつ準備に走り始めるスタッフたちの様子を眺めている悟は、はしゃいでいるナルトに目を向ける。

 

「俺が一番に上陸してやるぅ!」

 

「ふん……なにガキみたいに興奮してやがる……ウスラトンカチが」

 

「あ!? んだよサスケェ! あんなでけぇ氷の山なんて火の国じゃお目にかかれねぇんだぞ! 興奮して何がわりぃんだよ!?」

 

「うっさいわね……バカナルト」

 

 第七班のやり取りを見守る悟は、寒さでテンションの低いサクラに声をかける。

 

「サクラ、寒そうだが大丈夫か?」

 

「…………あんまり」

 

 ただでさえ早朝で、氷山もある気候にサクラはかなりまいっている様子であり、気の毒に感じた悟は自身の巻いている腰布をサクラに差し出す。

 

「ほら、俺は寒いの平気だからこれでも巻いとけ。ちょっとはマシになるだろ」

 

「えっいいの?」

 

「俺は寒さ熱さに強いからな、チャクラコントロール的な意味で」

 

「何それ羨ましい……アンタそういう小技好きよねぇ」

 

 そういうサクラの羽織る外套の下に、自身の腰布をまく悟。

 

「ん……ありがと悟。これ結構いい腰布じゃない? 触り心地も良いし」

 

「だろぉ? 俺も気に入っててさ」 

 

(確かそれってハナビさんからのプレゼント……とかいうのは野暮ですかねぇ……忍びとして実用的に使うのが間違っているとは言えないですが、乙女心的には複雑な心境です)

 

 その様子を微妙な視線で見守る白。そこにカカシが声をかける。

 

「ほら、お前たち上陸の準備だ。まあ、人数もいるし一人ぐらい船で留守番してても良いが……」

 

「カカシ先生、私船で待ってま~す」

 

 カカシの提案に即返事をするサクラ。よほど寒さに体調を左右されているのか、テンションがあからさまに低いのを隠せていない。

 

 サクラを船に残し、船が迂回して氷山の反対側まで回りこむまでその氷山に上陸することになった一行。

 

「こういうのが映画の神様が降りてきたっていうのかな、撮影としては最高のロケーションだろうし」

 

「フンッ……俺にはよくわからん。さみぃって感想と……敵が居たらどこにでも潜んでそうだと思うぐらいだ」

 

 上陸が進み、氷山の上に降り立った悟の感想にサスケが興味なさげに答える。

 

「悟に白、お前らいつも通りの装束だけど寒くないのか?」

 

「俺って火遁使えるし、薄っすらそのチャクラを纏えば寒さも平気なんだよ」

 

「僕は元々寒さに強いので……」

 

「チャクラを漏らしている状態ってのは感心しないけどねぇ……」

 

 テンション高めに上陸したナルトは、炭ストーブで暖を取りながら悟と白に疑問を投げかけその悟の答えにカカシがジト目で感想を言う。

 

「こんな大人数で移動してる状態に忍ぶもクソもないですよ、むしろ……ん?」

 

 撮影の準備が進み、氷山の小高い丘に悪者役の役者がスタンバイをしている場面に目を向ける悟。

 

 そのままチラッとカカシと白にアイコンタクトを送った悟は、すうっとその場から足早に離れる。

 

「サスケ……わかってるな?」

 

「……ああ」

 

 カカシの呼びかけに、サスケが答える。白もその場から姿を消し、そのやり取りに一人だけ追いつけずに疑問符を浮かべるナルトがストーブの前に残っていた。

 

 

 その後

 

 

 一行の映画の撮影が始まった。

 

「よく来たな、風雲姫!! 貴様らの命運もここまでよぉ!!」

 

「魔王!!」

 

 悪役と雪絵のやり取りのその直ぐあと。

 

 突然撮影に割り込む形でカカシが姿を現した。

 

「アンタ、何やってんだぁ!」

 

 助監督の声にカカシが起爆札付きクナイを悪役の後方の氷山と投げながら

 

「全員、下がって!」

 

 と周囲に忠告を投げかける。騒然とする現場に爆破された箇所から人影が現れ、声が響く。

 

「……ようこそ、雪の国へ」

 

「お前は……っ!」

 

 その人物以外の気配を感じ視線を逸らしたカカシはさらに1人のくノ一を視界に収める。

 

「歓迎するわよ、小雪姫。六角水晶は持ってきてくれたかしら?」

 

「っ!? 小雪姫だって!?」

 

 くノ一の言葉にカカシが振り返り雪絵へ目線を向ける。近くに来ていた三太夫は焦りの表情を浮かべ、雪絵も具合が悪そうに顔を歪める。

 

「はっはっは、流石は、はたけかかしこれ以上の接近はできなんだな」

 

 積もった雪から大柄の忍びが姿を現しながら、カカシに賛辞を贈る。カカシの警戒範囲に入っていることに勘付き自ら姿をさらしたのであろう。

 

 3人の雪忍の登場に緊迫する現場で、カカシは声を張る。

 

「サスケ、ナルト。お前らは雪絵さんを守れ! スタッフ全員は船へと戻るんだっ!」

 

 カカシの指示にスタッフたちが困惑を示す中、真っ先に現れた長身の雪忍が他の2人に指示を出す。

 

「フブキ、ミゾレ、小雪姫は頼んだぞ……!」

 

「ふ……やれやれ」

 

 フブキと呼ばれたくノ一、鶴翼(かくよく)フブキは仕方ないといった様子で、指示を出した長身の忍び狼牙ナダレに従い雪絵へと足を向ける。

 

 向かい来るナダレにカカシが前に出て相対する。

 

「久しぶりだなカカシ、今度は逃げないのか? ()()()みたいに……」

 

「狼牙……ナダレ!」

 

 お互いに体術で戦闘を始めたカカシとナダレ。

 

 ナダレの実力を加味したのか、カカシは雪絵たちから離れるように戦いの場を離していく。

 

「よくわかんねぇーけど、まさに映画みたいになってきたぜぇ!」

 

 戦闘の予感に、雪絵を守るために背を向けテンションを上げるナルト。向かい来る大柄の忍び、冬熊(ふゆくま)ミゾレが背負った板を雪面に置き、その上に飛び乗る。

 

 その瞬間に、雪の上を滑るように高速移動を始めたミゾレに対しナルトが相対しようとした瞬間。

 

「飛雷脚!!」

 

「なn……!!」

 

 遠く離れた位置から、弾丸の如く放たれたまさに雷のような蹴りに横からぶつかられたミゾレは大きく吹き飛び、氷で出来た氷山の壁に叩きつけられる。

 

「ふう……奇襲成功、これこそ忍びの醍醐味ってね」

 

「おい、悟ってば!! 俺の見せ場を盗るなよ!!」

 

「んなこといってる場合……っと流石にそう易々とはいかないか……っ!」

 

 蹴りの感触から、違和感を得ていた悟はその場から飛び退く。悟がいた場所にミゾレの剛腕が叩きつけられ、地面が割れる。

 

「ガキが……調子に乗るなよ……!」

 

「ヘンな膜みたいなのが蹴りの瞬間に出てたな……あれで衝撃を受け止めたのか、油断するなよナルト」

 

「おめぇーこそな悟!!」

 

 ナルトと悟のいる反対側からはくノ一の吹雪が責め立てる。

 

「氷遁・燕吹雪」

 

 そのフブキが放つ、氷で出来た燕の弾丸群にサスケは驚きを露にしつつも印を結ぶ。

 

「氷遁……! 火遁・豪火球の術!!」

 

 放たれた豪火球と燕吹雪が接触する瞬間、その間に氷で出来た鏡が割り込み現れる。

 

「あれは……?!」

 

 現れた氷の鏡にフブキは疑問の声を上げる。その鏡は両者の術を吸い込み、フブキの目の前に随時現れた2つの鏡から燕吹雪と豪火球が発射される。

 

「氷遁秘術・魔鏡氷晶……改良を重ねて僕以外の対象も移動可能にしてみました。どうですかサスケ君?」

 

 音もなく傍らに現れた白にサスケは鼻を鳴らす。

 

「フン……それがどうした、今は目の前の敵に集中しろ」

 

「ごもっともです、僕以外の氷遁……見極めてみたいものですね」

 

 2つの術を浴びたにもかかわらず、煙の中から無傷で姿を現すフブキ。

 

「へぇ……雪忍でもないのに、氷遁を……噂の『雪一族』の子かしら……()()()()が喜びそうな素材ねぇ」

 

 不敵な笑みを浮かべるフブキは自らが装着する器具に手をそわせて語り始める。

 

「まあ、どれだけの術が来ようとこの()()()()()()が放つ逆位相のチャクラが全てを無効化するから無駄なんだけどねぇ?」

 

 そう言いながらフブキは舌なめずりをしながら、印を結ぶ。

 

「氷遁・氷牢の術」

 

 フブキの触れた地面の氷が隆起し、サスケと白を飲み込もうとうねりを見せる迫る。

 

 それらから逃げながら白とサスケは会話を続ける。

 

「君の写輪眼でなら、彼らの氷遁を見極めることが出来るのではないですか?」

 

「無理だ、血継限界は扱うのには体質が……いや待てもしかしたら……」

 

 目を凝らすサスケは何かに気がついたのか、集中するために動きを止める。

 

「燕吹雪!」

 

「魔鏡氷晶!」

 

 動きを止めたサスケにフブキの燕吹雪が襲い掛かるも、盾のように展開した白の魔鏡氷晶がそれを吸い込みフブキへと撃ち返す。

 

 フブキはその攻撃を避ける素振りを見せずに、仁王立ちで受ける。

 

「っ……あれが先ほどから彼らが無傷でいられる原因ですか……まるでチャクラで出来た膜に保護されるように……」

 

 燕吹雪はフブキの眼前で紫色のチャクラの膜で弾かれ、無効化される。

 

「私たち雪忍にはこのチャクラの鎧があるのよ。貴方たちが何人がかりで来ようと、無意味なのy……ガっっ!?」

 

 悠長にチャクラの鎧について再度語ろうとしたフブキを視界外から飛び込んできた悟が、飛雷脚で弾き飛ばす。

 

「チャクラが通らないのはあっちの大男相手で何となくわかったが、衝撃までは完全に防げないようだな!」

 

 大きく空中へと弾かれたフブキは、羽のような機械を展開して空で制止する。

 

「……空を飛べるなんて万能だな、チャクラの鎧とやら……俺もそう言う移動手段を何か考えないとな」

 

 横やりを入れた悟は再度ミゾレとナルトの戦いに横やりを入れるためにその場から跳躍して姿を消す。

 

「相変わらず悟君の動きは自由ですね。しかしサスケ君」

 

「ああ、あのチャクラの鎧とやらは忍術やチャクラを弾くのみ……ならば!」

 

 白は千本を、サスケは手裏剣を両手で構え、連続で雨のごとく投擲する。

 

「目の付け所は良いんじゃない? でも……」

 

 空中に居るフブキは手をかざし、紫色チャクラの膜を能動的に展開して忍具を弾く。

 

「出力調整をすれば、こんなこともできるのよ。装着者のチャクラをも増幅する、それを持って強固な壁を展開する、まさに最強の鎧!!」

 

 誇らしげにそう語るフブキに攻めあぐねる白とサスケ。自らの攻撃が無効化され、一方的に不利を押し付けられる展開に苦戦を強いられていた。

 

 そんな戦闘の様子を眺める雪絵はその場から動けずに立ちすくんでしまったいた。ミゾレに対して数多の影分身で殴りかかるナルトと八門を開いて拳打を繰り出す悟はミゾレの展開するチャクラの膜を破れず一端距離を取る。

 

「しっかし、硬いな……俺たちの攻撃を弾き続けるなんて……」

 

「だーもう!! あいつ守ってばっかでせこいってばよぉ!!」

 

 愚痴を言い合うナルトと悟。背後に居る雪絵に対して悟は注意を促す。

 

「雪絵さん、早く船に戻ってください! ……雪絵さん?」

 

 呆然と、サスケの火遁とフブキの氷遁のぶつかる様を眺める雪絵は頭を抱えてうずくまる。ブツブツと何かを呟く雪絵の様子を心配する悟。すると

 

「姫様~!」

 

 そう叫びながら、雪絵へと走り寄ってくる三太夫が現れる。

 

 その様子を見た雪絵は

 

「三太……夫、アナタ……!?」

 

 何かに気がついたかのような素振りを見せながらも不意に気を失ってしまった。

 

「!? ナルトっ! 影分身で三太夫さんと雪絵さんを船まで運んでくれ!」

 

「っ了解だってばよ!」

 

 悟の指示に、ナルトが印を結んだ瞬間

 

「させるか、氷遁・土豪雪崩」

 

 ミゾレの忍術が、多量の雪雪崩を巻き起こし悟たちに迫りくる。

 

「火遁・炎陣壁!」

 

 悟は火遁の壁を口から吹く炎で展開するも、相手の術の威力が大きくしだいに押され始める。

 

 部下たちのピンチにカカシがナダレとの戦闘を切り上げ、助太刀に向かおうとするも

 

「お前の相手は俺だカカシ、氷遁・一角白鯨!!」

 

 ナダレが装着したチャクラの鎧の効果で強化した忍術を発動させる。

 

 カカシの進行先の氷で出来た地面が突如割れ、巨大な氷の角を生やしたクジラが姿を現す。その巨大さはナルト達がいる氷山を二分するがのごとく巨大であり、ナダレの忍びとしての実力を指示していた。

 

 その術の衝撃による地響きに各々が態勢を崩す。

 

「間違いない……奴らの氷遁は白、お前の血継限界とは仕組みが違う!」

 

 揺れる大地に足を取られながらも、とある事実に気がついたサスケがそう叫ぶ。

 

「仕組み……? それはどうゆう……っ!?」

 

 サスケに説明を求める白だが、フブキの幾多の燕吹雪を相手にサスケとの距離を強引に取らされる。

 

「そうか……ならば」

 

 一方でカカシは自らの写輪眼をもって、サスケと同じ結論を導き出した。

 

「ナルト!! 奴らの隙を作る、その隙に影分身で全員の撤退を補助しろ!!」

 

 カカシのその言葉にナルトが目を向けた瞬間、ナダレが先ほどと同じ印を結ぶ。

 

「いい術だな……俺も使わせてもらうぞ、狼牙ナダレ!!」

 

 カカシは、写輪眼の観察眼を使いナダレの印を盗みほぼ同時と言えるスピードで印を結ぶ。

 

「「氷遁・一角白鯨!!」」

 

 同時に行使されたその術は巨大な鯨を二匹召喚し、海から氷山を砕くかのように覆いかぶさる。

 

「ほう、流石コピー忍者・カカシ。()()は我々の術の仕組み気がついたか、だが同じ術では決着はつかんぞ」

 

「決着か……悪いがそれはまた今度だ」

 

 ナダレの言葉にその気はないとカカシは返す。カカシの召喚した氷の鯨は、ナダレのモノを受け流すように倒れこみ氷山を完全に砕きにかかった。

 

 その衝撃で生じた波は、映画スタッフたちを乗せた船を押し出し遠くの方まで押しのけていく。

 

 衝撃の大きさに、雪忍たちも退避に専念しカカシたちもそれに乗じて、波に荒れ狂う海を走り船まで撤退していった。

 

 完全に砕かれ、元の氷山の姿の原型をとどめていない流氷の上に着地する雪忍たち。自分の術を上手い事利用され撤退を許したナダレは、口元を歪め逃げ行く船を睨む。

 

「……まあいい、奴らの行く先は、雪の国だ。我々はそこで奴らを待てばいい……」

 

 そう呟くナダレに続き、フブキとミゾレらはその場から姿を消したのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 全速力で動く船の上では転がり込むように、ナルト達が飛び乗って着地をする。

 

「だぁぁぁあああ!?」

 

 勢い余って転がり続け、縁にぶつかるナルトを他所に悟が出した影分身がナルトの影分身が運ぶ人たちの身の安全を保護していた。

 

「っふう……中々に危機的状況だったな」

 

 一息つく悟に続き、白とサスケ、カカシも船の甲板へと姿を現す。

 

 その様子にサクラが心配そうに走り寄ってくる。

 

「ちょっと皆、大丈夫だった!?」

 

「ええまあ、重傷者はいませんね。……しかし色々と疑問点がある戦いでした」

 

 サクラの声掛けに答える白は、カカシへと視線を向ける。

 

「カカシさん、どうして貴方が氷遁を……?」

 

 その質問にカカシは答える。

 

「……どうやら、サスケと俺。写輪眼を持つ者だけが見切れたようだが奴らの忍術にはカラクリがあったんだ。それは……」

 

 カカシの解説に耳を向けていた悟だが、不意に意識を引っ張られる感覚に襲われ気がつくと……

 

 

 ナルトの精神世界へと訪れていた。

 

 

「……は? え、なんで」

 

 急展開に驚きを口にする悟。そのまま恐らく呼び出したであろうその主に目線を向ける。

 

「何の用だよ九喇嘛、今結構興味深い事聞いている最中なんだが……」

 

「悟、てめぇ……何か違和感を感じていたな」

 

 札の張られた檻の奥で、尾獣・九喇嘛は悟へと問いかける。

 

「違和感……ああ、氷山に上陸する前の……白も感じてたアノ……何だ、九喇嘛なら何かわかるのか?」

 

「まあな、恐らくだが……ワシらと()()()()()()()が関わっていると見て間違いがねぇようだ……」

 

「似た……存在? つまりは何だ、尾獣……がいるのか近くに?……んな、まさか」

 

 九喇嘛の言葉にそんな馬鹿なと答える悟。九喇嘛は鼻を鳴らして会話を続ける。

 

「さっきから、というか雪の国とやらに近づくにつれ感じるお前が言う違和感……恐らくそれは精神エネルギーだろう。ワシら(尾獣)が持つ物と似たものだ。白という小娘がそれを感じられたのは恐らく相性の問題か……」

 

「違和感の正体は精神エネルギー? なら白との相性が良いって言うのは、それは」

 

「氷のチャクラ性質を持った尾獣に列なる存在がいるかもしれねぇってことだな」

 

「……ハハッ……マジで言ってる? 尾獣ってみんなで九体なんじゃ……氷の尾獣なんていなかったはず……だよな?」

 

「……てめぇが尾獣について粗方知ってても今更驚きはせんが……つまりは尾獣に類するもだと考えろ。ワシら尾獣は自然環境が顕現したものだと思っていい。つまりは自然エネルギーの塊みたいなものなら、尾獣に近い存在に成りえるということだ」

 

 九喇嘛の言葉に呆然と立ちすくむ悟。

 

「そんなホイホイと九喇嘛みたいな存在が……? インフレやばくない?」

 

「ワシほどの強さのモノは早々……というより尾獣最強のワシに匹敵する奴はまず出てこないと思っても良い……まあ、小規模でならクソ狸程度の奴なら出てきても有り得ん話ではないかもなぁ?」

 

「……いや守鶴ほどの奴もたくさんいたらヤバいだろ……つまりは、何が言いたいんだ九喇嘛?」

 

「カカシの野郎が氷遁を扱えたのは、その()()()()()()()の精神エネルギーが、水と風の性質のチャクラを結び付けるのを補助したからだろう。あの雪忍とか言う奴らはその性質をあの鎧で増幅させていると見て良い」

 

 九喇嘛の解説に、口を半開きにして聞き入る悟は、内心(部隊長が敵に対する考察を説明しているのを聞いているみたいだ)と思っていた。

 

「チャクラを色で見る写輪眼でなら、その精神エネルギー影響具合に気がつき水と風の性質を結び合わせ、一時的に氷遁を扱えるのだろうが……まあ、カカシの小僧程度ならあの規模の術はスタミナが持たないだろう」

 

 ふと悟が現実世界の視点に切り替えれば、カカシが九喇嘛と同様の解説をしていた。ただ、影響の元がどういった存在なのかの目星は着いていないようであった。

 

「カカシさんも、肩で息してるな……写輪眼でのチャクラの消耗に慣れない氷遁を大規模で使ったからってことか……九喇嘛の言う通りなら、俺も使えるかもしれないけど慣れないことは無理してやるもんじゃないな」

 

「そういうこった……でだ、ここからが本題だが……」

 

 九喇嘛は少し口ごもり、その様子に悟が疑問符を浮かべた。

 

「どうかしたか?」

 

「ワシのチャクラを悟、貴様に預けられるだけ預けたいんだがぁ……」

 

 歯切り悪くそう言う九喇嘛に、悟は首を傾げながらもすぐに答える。

 

「いいよ」

 

「二つ返事か……貴様、もう少し考えてから返事をした方が良いと思うぞ……ワシが言うのもなんだが」

 

「まあ、理由はさっぱりだがわざわざ九喇嘛から接触してきての提案だしな。何かそれなりの理由があるんだと思えば協力するのもやぶさかではない

かなって」

 

 そう言う悟は、九喇嘛に対して警戒の素振りなど一切見せずにあっけらかんとしている。

 

「……理由ならちゃんと伝えてやる。ワシが今現在その、()()に対してどうこうできる術がないからな、貴様を利用してやろうという……」

 

「同族的な奴の動向が気になるから、ナルトと俺の二つの視点で見られるようにしたいってことか?」

 

「……」

 

 九喇嘛の説明を、悟なりに解釈したその言葉は的を射たのか気まずそうに黙り込んでしまう九喇嘛。

 

「まあ、九喇嘛は今はナルトの中に封印されているわけで直接何か出来るわけじゃないからな。気になることがあってそれが知りたいってならお安い御用だ」

 

 そういう悟は九喇嘛の檻の前まで来て拳を突き出す。

 

「貴様は何故こうもワシに対して、警戒心がないのか不思議でならん」

 

「……始めて会った時とかはそれなりに警戒心はあったけど、やっぱり必要ないかなって……こう、何回か話してみると九喇嘛って優しいしさ」

 

「優しいだとぉ……? 馬鹿馬鹿しい……ワシを舐めくさりおって……だがまあ、力を貸してやるわけでないことを忘れるなよ? 貴様が死にそうであろうとワシは一切力を貸すつもりはないからな」

 

「了解ですよっと」

 

 檻の間から差し出された九喇嘛の拳と、悟の拳が合わさりチャクラが送られる。

 

「……これぐらいで良いだろう。言ってしまえば渡したチャクラはワシの意思を持つ分身体だ、後で本体であるワシに記憶を還元できるよう下手な真似はするなよ?」

 

「……コレ結構な量じゃないか? まあどっかにチャクラを落っことすなんてことないだろうから心配しなくても良いよ」

 

 拳を離した悟は現実世界の様子を伺う。

 

「ん……カカシさんも説明が終わって休憩室に戻るみたいだし、俺も船の個室に戻るか……それじゃあ九喇嘛、また今度な!」

 

 「じゃ」っと言いながら片手をあげて合図を送った悟はナルトの精神世界から姿を消した。

 

「……イヤな気配やチャクラを持つくせに、妙に親しみやすい気味の悪い奴だ……」

 

 精神世界に一人になった九喇嘛はそう呟き、檻の中でその目をそっと閉じた。

 

 

~~~~~~

 

 その後

 

 しばらくの航海の後

 

 雪の国の港に着いた船から荷降ろしが進む最中、木ノ葉の忍びと、三太夫、映画監督のマキノと助監督は船室に集まり会議を開いていた。

 

 

 

「三太夫さん、アナタ知っていたんですね?」

 

 カカシは少し神妙な面持ちで三太夫に問いかける。

 

「……はい」

 

 三太夫も覚悟を決めているのか真剣な表情でカカシの言葉を受ける。

 

「彼女が……雪絵さんが雪の国に()()()()()()どんな事態になるか、予想できたはずだ」

 

()に……この国に帰ってきてもらうにはこうするしかなかったのです……」

 

 辛そうにカカシの言葉に答える三太夫。その様子を見ている悟は(……護衛任務って訳ありというか……こういう裏事情的なものが絡むの多くないか?)と思いながら隣に座る白をチラリと見る。そんな悟の内心に気がつかない白はその視線に取りあえず仮面の下を笑顔にして悟を見返す。

 

 雪絵を姫と呼ぶ三太夫の言葉にナルトが笑いながら茶々を入れた。

 

「三太夫のおっちゃん! あのネーちゃんが風雲姫なのは映画の中の話でホントのお姫様じゃねえってばよぉ?」

 

 サクラもうんうんとうなずいているが、カカシの言葉に一同は顔色を変えた。

 

「……本物のお姫様なんだよ。女優・富士風雪絵とは仮の名……本当はこの国のお世継ぎ、風花小雪(かざはなこゆき)姫様なんだ」

 

 机に乗り出し、驚きを露わにするナルトとサクラ。話の流れから察していた、悟と白、サスケは内心やっぱりかと思いながらも黙って話を聞く姿勢でいた。

 

 三太夫はカカシの言葉に続き話を紡ぐ。

 

「私がお傍におりましたのは姫様がまだ御幼少の頃でした。覚えていらっしゃらないのも無理はありません」

 

「三太夫さんも雪の国の人だったんですか?」

 

 三太夫に対してサクラは質問をする。

 

 三太夫はその質問を肯定し、雪の国での出来事について語り始めた。

 

 

 

 かつての雪の国の主君、風花早雪(そうせつ)に仕えていた三太夫。雪の国は小さいながらも、昔は平和な国であった。

 

 その平和な国も10年前、早雪の弟であった風花ドトウが雪忍たちを雇い反乱を起こしたことで崩れ去ってしまった。

 

 雪の国はドトウの手に落ち、風花の城は焼け落ちたことで三太夫は小雪姫も亡くなったと思い込んでいた。

 

「10年前……俺一人では、あいつらにはまだ勝てなかった……逃げるしかなかった」

 

 当時雪の国の任についていたカカシは、クーデターの起きた城から小雪姫を救い出していたのであった。

 

 その後、数年の時を経て三太夫は映画に出演していた雪絵を見つける。

 

「あの時、姫様を見つけた時どれ程嬉しかったことか……っ!!!」

 

 当時の思いを振り返り涙を流す三太夫、そこに

 

 

 

「あの時死んでればよかったのよ……」

 

 

 

 雪絵……もとい小雪が船室の入り口にもたれかかった態勢で現れそう呟く。

 

「そんなことをおっしゃらないで下さい……姫様が生きていることこそが私たちにとっての何よりの希望……

 

「生きてはいるけど……もう心は死んでいる……」

 

 三太夫の言葉を、小雪は目に影を落としながら否定する。

 

 三太夫は、富士風雪絵のマネージャーとして小雪を雪の国へと連れていく方法を探っていたことを明かす。それはつまり

 

「ええ!? それって俺たちはあんたに利用されていたってことぉ!?」

 

 助監督はその事実に不満を漏らす。三太夫は慌てて謝罪を口にする。

 

「っ黙っていたことは謝罪申し上げます! しかしこれも雪の国の民のため……」

 

 そのまま小雪の元へと走り寄り、膝を着く三太夫。

 

「小雪姫様! このままドトウを打倒し、どうかこの国の新たな主君と成って下され!!」

 

 そう懇願する三太夫。その姿を見ている悟は少し冷めた目をしていた。

 

「この三太夫、命に代えても姫様をお守り申し上げます!!! どうか我らと共に立ち上がってくだされ!!!」

 

「イヤよ」

 

 小雪は三太夫を見下ろしながら、簡潔にそう述べる。

 

「冗談じゃないわよ!!」

 

「しかし!! 雪の国の民は……!?」

 

「そんなの関係ないわ、お断り」

 

 冷たくそう言い放つ小雪に、三太夫は顔に絶望の表情を積もらせる。

 

「姫様ぁ……」

 

「いい加減……諦めなさいよ!! バカじゃないの!? アンタがいくら頑張ったって、ドトウに勝てるわけないじゃない!!!」

 

 小雪は苛立ちながらそう叫ぶ。ナルトがその小雪の態度に我慢できずに机を叩き立ち上がろうとする瞬間

 

 

「全く持ってその通りだと思いますね」

 

 

 そのナルトの腕を持ち、代わりに悟が立ち上がる。

 

「悟……あの姉ちゃんのいう事が正しいっていうのか!? 三太夫のおっちゃんは命を懸けて、夢を叶えようとなぁあっ!!」

 

 悟の言葉にナルトが手を振り払い、胸倉を掴む。

 

「……悪いが三太夫さんが幾ら命を掛けようと、そんなの無駄だと言わざるをえない。雪忍の実力を実際に見ただろうナルト? 俺たちが苦戦するような、それも一国の存在に対して命をかけてもまさに焼け石に水なんだよ」

 

 その言葉を受けたナルトは抵抗の素振りを見せない悟の首をそのまま締め上げようと力を籠める。

 

「ナルト!」「ナルト君!」

 

 サクラと白が止めに入ろうとするも、悟が手で制止しナルトを睨みつける。

 

「この忍界での、命なんてものはな……少しの行き違いで消える儚いものなんだよ!! 夢のために命をかけるなんてのたまうのは自己満足だ!! 死んで叶える夢に何の意味がある!? 一番最後に、夢を叶えた自分がいないと何の意味もねえんだよぉ!!!」

 

 珍しく怒鳴る悟にナルトが少しだけ怯む。

 

「波の国の時も言ったよなナルト!? 依頼人に騙された忍びが負うリスクとその後の事も!! それに夢を求めて死んだ後に、残される奴の事も考えてみろ!!」

 

 そう言い放つ悟の言葉に、三太夫は床に視線を送り項垂れる。

 

「じゃあ、どうすんだよ!? ワリィ奴らに大切な国奪われても何にもせずに、夢を諦めればいいっていうかよぉ!?」

 

「バカが!! 夢は諦めんな!!」

 

 ナルトの言葉に、悟が高速で言い返す。

 

 その言葉にナルトは目を丸くし、小雪もまた目線を悟に向ける。

 

「自分の命なんて大切なモノかけずに、もっと先に他のモンにすがってでもどうにかすんだよ!!」

 

「他の……モノ?」

 

 三太夫は悟の言葉に弱々しく聞き返す。

 

「相手が雪忍を雇って、クーデターを起こしたんなら貴方も俺たち忍びを雇えばいい。10年前はカカシさん一人でどうにかできなかったとしても、今ここには6人も忍びがいる!!」

 

「悟、お前……」

 

 ナルトの手の力が弱まる。

 

「自分の命をかけるのは最後の最後、本当にそれ以外の手段がなくなったときだ! それまでは、気軽に命なんてかけないでくださいよ、三太夫さん!!! ていうか、命をかけるのは基本的に忍びの仕事ですっ!!」

 

「は、はいぃ……っ」

 

 悟の言葉に返事をしながら顔を上げる三太夫。その様子を見ていた白は(別に三太夫さんも気軽に命をかけるつもりではなかったでしょうに……まあ、周りに事情を話さないリスクというのは確かに大きいものですが)と思いながら悟の言葉に耳を貸していた。

 

「アンタ……結局何が言いたいのよ!?」

 

 悟の言葉に小雪が疑問を言い放つ。

 

「死ぬなんて言うのは夢を諦めるのと一緒だと思うんですよ。その先の未来を生きるために、小雪さんみたいに諦める暇も、三太夫さんみたいに死ぬなんて言ってる暇もないってことです!!!」

 

 ドンッと言い切った悟に、小雪は「滅茶苦茶だわ……」と呟く。

 

 すると

 

「諦めないから夢は見られる。夢が見られるから未来は来る。いいねぇ! 風雲姫完結編に相応しいテーマじゃねぇか」

 

 黙ってそれまでの話を聞いていたマキノ監督が口を開く。その言葉に

 

「か、監督ぅ!? まさかまだ撮影を続ける気じゃぁ……!?」

 

 助監督は尻すぼみに反応を示すが、

 

「この映画は化ける。考えても見ろ、本物のお姫様を使って取れる映画なんてそうめったにあるもんじゃねぇだろう?」

 

「た、確かに!!」

 

 一瞬で監督の言葉に説得されてしまう。

 

「ちょっとぉ!?」

 

 当然そのことに小雪は不満の声を上げるが、そこにカカシが言葉を挟む。

 

「残念ながら選択肢は一つしかない。ドトウ達に存在を知られた以上貴方にはどこにも逃げる場所なんてない。戦うしか……貴方が生き延びる道はないんだ」

 

 カカシが言うその言葉は筋を通してはいる。しかしサスケは(三太夫が無理やり表舞台に引きずり出した結果ともいうだろうがな……)と黙りながらもカカシの言葉に内心思っていた。

 

 場の雰囲気に乗じてナルトは息巻く。

 

「OッK~~任務続行だってばよぉ!! つまりは風雲姫は雪の国に行って悪の親玉をやっつけるぅ!!」

 

「ふざけないでっ!! 現実は映画とは違うハッピーエンドなんかこの世のどこにもないの!!」

 

 ナルトの物言いに反発する小雪、しかし

 

「んなぁものは気合い1つで何とでもなる!!」

 

 マキノ監督は気合が全てだと言い切り、意見を押し切る。

 

「これだけの任務だと、里に救援要請を出すのがセオリーなんだが……」

 

 カカシの言葉にサスケが口を開く。

 

「時間の無駄だ。こちらの存在が知られた以上素早さを欠くのは何よりもの痛手だ」

 

「そうですね、下手に時間をかければ相手にそれだけ対策を許してしまいますからね」

 

 サスケの意見に同調した白は、共に任務続行の意思を表明した。

 

 その場の様子にサクラはテンション低めに悟へと問いかける。

 

「悟ぅ……こういう国の先行きを左右する任務って……Sランク相当……よねぇ?」

 

「まあ、そういう事になるよな。乗り掛かった舟とは言うけど、随分と危険な任務になりそうだ、それなりの覚悟は必要だろうな」

 

 先の展開に不安を感じているサクラに悟はキッパリと自分の意見を言った。その言葉を受けサクラは開き直るかのように、気合を入れるために自身の顔を叩く。

 

「皆様方……」

 

 皆の意思に感銘を受ける三太夫に、悟は近づき言葉を掛ける。

 

「ドトウの事は俺たち、木ノ葉の忍びが何とかします。間違っても、三太夫さん貴方は命がけで差し違えるとかそう言うことはしないでくださいね? 貴方は生きて小雪さんの傍にいてください」

 

「はい……わかりました」

 

 場の纏まりに、マキノ監督は鼻を鳴らし、声を張り上げる。

 

「決まりだな、撮影を続行だぁ!!」

 

 

 

 

 

 



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71:夢を閉ざしたものの末路

 一行は、複数の雪の国仕様の雪上車に乗り込み道を行く。雪上車の中で共に待機している零班の2人は暖房の効いている車内で雑談をしていた。

 

「しっかし……雪の国の技術って凄いな、こんな車まであるなんて……(というかこんなガソリンで動く車まであるなんて、前世の化学力とそう大差ないように感じるなぁ)」

 

「そうですね、五大国では今はまだ馬車を使うのが基本ですから、こういった乗り物は珍しいですね。桃さんや、マリエさんへの良い土産話になりそうです」

 

 仮面を着けた二人の会話に、運転手が言葉を掛ける。

 

「忍びのお方、この先の洞窟の前で小便休憩だそうで、一旦止まりますね」

 

 そう言う理由で、車の列は止まり大きな洞窟に入る直前で休憩がとられる。

 

 白は車内に残るため、悟は1人車外へと出る。雪が降る雪山の中、火の国との景色の違いにしんみりしながら悟は、別の車から出てきたナルトや映画スタッフたちとツレションをする。

 

 そんな光景を眺めながら、カカシは三太夫が船で話したこの先のプランを反芻していた。

 

(この大洞窟の先に三太夫さん達、ドトウに反する雪の民たちの集落がある。洞窟を抜けた先での撮影後に落ち合う手はず、か……10年前、俺一人で小雪さんを連れてひたすら逃げるしかなかった時を思えば、随分と心強い。それに……今の俺には優秀な部下たちがいる)

 

 昔を思いながら、悟に小便を引っ掻け叩かれているナルトを見るカカシは笑みを浮かべていた。

 

 

~~~~~~

 

 洞窟の中を行く一行。出口が中々見えないことにナルトが少し不満を述べると、同じ車内にいた三太夫は洞窟についての話を始める。

 

「かつてはこの洞窟には、鉄道が走っていたのですよ。この長い洞窟も鉄道に乗ればすぐに通り抜けることが出来ました」

 

「鉄道……?」

 

「ええ、今はツララが伸び放題で管理もされていませんが10年前までは様々な資源を運ぶために蒸気機関で動く巨大な荷車が在ったと思って貰って構いません」

 

 鉄道という存在に馴染みがない木ノ葉の忍び達は物珍しい三太夫の話に耳を傾ける。

 

 彼らの車より後方にいる悟もまた、車窓から顔を出し地面へ視線を落として鉄道の線路の存在を認識していた。

 

「地面の氷の下に線路が見える……つまり、鉄道も在ったってことなのか、雪の国は」

 

「鉄道……ですか? 聞いたことのないの言葉ですね」

 

「馬のいらない馬車みたいなもんだよ。それが高速で移動して人や物を運ぶんだ」

 

「へぇ~……つまり僕たちの乗るこの車より規模の大きい物の専用の道だったってことですね。雪の国の技術力の高さがうかがい知れます」

 

 悟と白の会話が途切れるころには、長い洞窟を抜け車列は外へとでる。

 

 予定通り、その少し開けた場所での撮影を開始するべくマキノ監督が声を張り上げる。

 

「よぉーし!! 撮影を始めるぞぉ!」

 

 が、しかし

 

「か、監督~雪絵がまた逃げました~~!!」

 

 助監督が車から降りたマキノ監督にそう言いながら走り寄る。

 

「ナニぃ!?」

 

 驚くその監督の様子を見た悟が、急いで小雪の乗っていた車内に目を通す。そこには撮影用のカツラやマネキンで作られた小雪の『変わり身』が置いてあり頬を引くつかせる。

 

「あんの女優……忍者かよ」

 

 そう苦言を口にしながら、悟たち忍びは逃げ出した小雪を探すためにその場から散り散りに分かれて捜索を始めた。

 

 

~~~~~~

 

 雪が降り積もる林の中を、息を切らしながらも小雪はひたすら走り続ける。何かから逃げるように……

 

(冗談じゃない……冗談じゃないわよ……っ!!)

 

 深い積雪は小雪の進行を妨げ、体力が落ちた彼女は足をもつれさせ坂を転がり落ちてしまった。

 

「っあ!?」

 

 数か所体を打ち付けながら、うつ伏せに雪の上に倒れ伏した小雪は辛い現実から目を背けるように、その瞼を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

『よーく見てごらん、未来が見えてくるから』

 

 

『何も見ないよ?』

 

 

『大丈夫。そう、春に成ったら見えるさ』

 

 

『父上、春ってなに?』

 

 

 

 

 

 

「父上の……嘘つき、この国に春なんてないじゃない……」

 

 昔の父とのやり取りを思い出しながら泣きそうな声でそう呟く小雪。そこに雪を踏みしめる音が近づく。

 

「見つけましたよ、全く……別に逃げたい気持ちもわかりますけど、それは貴方の本心じゃないですよね?」

 

 仮面を着けた、外套も羽織っていない忍び、黙雷悟は言葉を掛けながら小雪に近づく。

 

「アンタに何がわかるのよ……」

 

 悟に支えられながら立ち上がる小雪は悟の言葉に疑問を投げかける。そんな小雪が打ち身で動けないことを察した悟はそのまま、小雪を背負い歩みを進める。

 

「あの時……バーで酒をあおっている貴方の瞳は、昔を懐かしんで……それでいてその頃に戻りたいって感じの表情をしているように……感じました。小雪さん、貴方も本当はこの雪の国が好きで……」

 

 その悟の言葉に背負われた小雪は、肩に置いた手に力を籠めることで意思を示した。

 

「……。 確かに三太夫さんのやり方は強引でしたけど、貴方も本気でこの国の思い出を捨てられなかったんでしょ? 未練があったから、だからその、思い出の首飾りの水晶を持ち続けているんじゃないんですか?」

 

 雪を踏みしめる音と悟の言葉だけが、雪降る林に吸い込まれていく。

 

 順路を戻るために、先刻車で抜けた洞窟まで戻ってきた悟は、小雪を背負い洞窟の中へと歩みを進める。

 

「……」

 

 長い間、沈黙を貫く小雪を背に悟は小雪の思いに同調する。

 

 既に戻るすべのない自分の『前世』。自分とは違い、背に乗る人物は帰りたい場所がまだあるのだから。

 

(俺は……何としてもこの人の……この国を取り戻したい、ってそう思ってしまう。それは俺自身と小雪さんを重ねて……)

 

「どうして……? どうしてアンタは私に付きまとうのよ?」

 

 ふと口を開く小雪に悟は、自分の世界から引き戻され返答をする。

 

「そう依頼された忍びだから……と言っても味気ないですね。……ただそう、夢を諦めるのは辛いことです。だから俺は、夢を諦めようと、目を背けようとする貴方が気になってしまうのかもしれないですね」

 

「そんなのアンタに関係ないじゃない……」

 

「関係はないかもしれないですが、俺が只ほっとけないだけですよ。一度夢が潰えた俺だから、誰かの夢を守ろうともがきたいだけ……それだけです」

 

「アンタ…………別に私は戻っても、カメラの前で演技をするだけ。 ……他の事はなにもしないわ」

 

「……別にそれでいいんですよ。()()()は俺たち忍びの仕事です、貴方は風雲姫として希望を届ける演技を…………んっ?」

 

 洞窟を歩く悟は、奇妙な音を耳にして足を止める。その音は悟に既視感を覚えさせ、音の鳴る後方を向いた悟はまた別の異変に気がつく。

 

 氷の下の線路がチャクラが流れることで、氷を溶かし表面へと表れていた。

 

 嫌な予感をひしひしと感じた悟は、同じく疑問符を浮かべていた小雪を背負い直し、突然勢いよく走り始める。

 

「わっ……ちょっと!!?? 急に何よ!?」

 

「ハッ……ハッ……ッ! いや多分これっ!!」

 

 急に走り始めた悟に、背を叩き文句を言う小雪。悟は走りながら後方を見る。

 

 後方の緩やかな曲がり角を、明るいライトが照らし出し何か轟音を鳴らすものが近づいてきているのが嫌でもわかる影が映る。

 

 そしてその特徴的な、汽笛の音が鳴り響き……

 

「汽車ぁ!?」

 

 小雪が背の上で後ろを振り向きながらそう叫ぶ。

 

「だぁぁぁあああ、うっそだろおおお!?!?!?」

 

 全速力で迫りくるその汽車に対して、横に逃げる幅のないことを確認した悟は只管に足の回転を速める。

 

 汽車は洞窟内のツララや壁面の氷を砕きながら、スピードをさらに上げていく。

 

 その汽車のスピードは凄まじく、段々と悟たちをひき殺さんと迫る。

 

「追いつかれるわっ!!」

 

 小雪の悲観にくれたその諦めの言葉に悟は反発する。

 

「そんな、こと、ないっ!!」

 

「無理よ!! こんなの!!」

 

「無理じゃないっ!! 舌噛むんで黙っててっ!!」

 

 前世でも体験したことのない蒸気機関車の目の前を走り続けるという、危機的状況に滑る氷面をチャクラで吸着させつつ、焦りながらも足の回転をさらに速くする悟。

 

 すぐ後方で轟音を鳴らす汽車を一瞬睨みつけた悟は、走りながらも無理矢理背の小雪を体の前で抱えるように抱き直す。

 

「きゃっ!?」

 

「小雪さんすみません、ちょっとの間我慢してください!! 第四・傷門……開!!」

 

 傷門を開いた悟は一気にスピードを上げ、汽車との距離を少しづつ離し洞窟を走り抜ける。

 

 

 洞窟を抜けた先で脇道に逸れた悟たちを、後方から迫ってきた汽車は追い抜きその全貌を明らかにした。

 

「ふう……生きた心地がしない……何だよアレ……って小雪さん大丈夫ですか!?」

 

「……おっぷ……は、吐きそう……かも」

 

 八門のスピードに酔った小雪を降ろし、背を撫でる悟は通り過ぎた汽車の後方が全て同じ形状で、何か機械染みた仕掛けを思わせる外見であることに仮面の下の眉をひそめる。

 

 すると

 

「久しぶりだなぁ、小雪」

 

 拡声器を使用したような男性の声が、汽車からその場に広がり辺りを囲む山々に反響する。悟は先ほどまでこの場に居た映画のスタッフたちが姿を消していることに気がつきながらもその汽車へと注意を向ける。

 

 その響く声に聞き覚えがある小雪は目を見開き、その名を憎らし気に口にする。

 

「風花……ドトウ……っ!」

 

 先頭の汽車の上に、雪忍の狼牙ナダレを引き連れ姿を現したその男、風花ドトウは拡声器使い嬉しそうに言葉を繋げる。

 

「10年ぶりかぁ……さぁあ、もっと顔を良く見せておくれ」

 

 風花早雪の弟、風花ドトウは兄の娘である小雪に対して叔父としての言葉を投げかける。しかしその言葉は先ほどまで彼女らをひき殺そうとしていた者の言葉と思えば、悟は小雪とドトウの間に割りこんで立ち、その邪悪な笑みを浮かべるドトウに睨みを効かせる。

 

 その瞬間、雪山のほうから音を響かせ数多の丸太が滑り落ちてきた。

 

 ドトウやナダレ、悟がそれに気がつけば、その丸太群は列車の車列にぶつかり小さくはない被害を与える。

 

 丸太が滑り落ちてきた元には、鎧を着こんだ幾多の者たちが居た。

 

「あれは……!?」

 

 悟の呟きに答えるように、その者らの中から名乗りを上げる男が1人。

 

「皆の者!! 我らが小雪姫様が見ておられる!! 勝利の女神は我らにありじゃあ!!」

 

 その男、三太夫の言葉に雄たけびを上げる群勢が次々と姿を現す。

 

「……三太夫」

 

「三太夫さんが言ってた、雪の民たちか……?」

 

 その様子を見ていた小雪は呟き、悟はそのもの達の存在を確認したのちにすぐさま嫌な予感を感じ取る。

 

「風花ドトウ、この日が来るのをどれほど待ったことか……この浅間三太夫以下50名、亡きご主君風花早雪様の仇、責任の恨み今こそ晴らしてくれよぅぞぉ!!」

 

 その様子を眺めるドトウは余裕を見せながら呟く。

 

「まだこんな連中が残っていたのか」

 

「申し訳ございません。直ぐに片付けて参ります」

 

 ナダレが動き出そうとするのを制止しドトウは笑みを浮かべる。

 

「ああいった連中には完全な絶望というものを味合わせなければならない……!」

 

 ドトウの手の合図を遠目から確認した悟は、嫌な予感が現実になると確信し素早く印を構える。

 

(小雪さんから離れるわけには行かない……ならっ!)

 

 影分身を出来るだけ出し、それらを列車に襲い掛かろうとする三太夫らとの間に割り込ませる悟。

 

 ドトウの合図を受け、列車の数ある車両の機械仕掛けが全て開きその瞬間

 

 その機械からはまるで雨のように数千もののクナイが射出され始め、三太夫ら雪の民に襲い掛かる。

 

 機械仕掛けのクナイ射出装置や、雪忍が手回しで動かすガトリング砲のように手裏剣を放つ機械らの猛攻が三太夫らに迫る中

 

 悟の影分身らが、一斉に術を発動する。

 

「「「「「土遁・土流壁」」」」」

 

 雪の下から勢いよく湧き出る土の壁に、それらの忍具が弾かれる。

 

「悟殿!?」

 

 三太夫が驚きを露わにした様子に土壁がクナイを弾く音にかき消されないよう、悟は振り向かずに声を張り上げる。

 

「何やっているんですか三太夫さん!? 相手の戦力を計る前にこんな場当たり的なことして、アンタバカ!!」

 

「す、すみませぬ……」

 

 悟の影分身の一人の怒号に怯む三太夫。しかし彼らを容赦なく叩き伏せるため、再度のドトウの合図で射出されるクナイが起爆札が着いたものに変わり

 

 幾多もの爆発が土の壁を砕き始た。

 

「しまっ……っ!!」

 

 その爆発は土流壁を優に飲み込み、悟の影分身諸共、三太夫らを爆発の海へと沈める。

 

 

「クッククククっ……アッハッハッハぁ!!!」

 

 

 その蹂躙される光景を高笑いで眺めるドトウ。

 

 爆炎に包まれたその光景を小雪と、本体の悟はただ眺めることしかできずにいた。

 

 

 

 

 忍具の雨が止んで、爆炎による煙が寒風により晴れた頃には地面へと倒れ伏す雪の民たちが転がっていた。

 

 しかしそれでも、彼らの中にはまばらに息をする者たちがおり、血を流しながらもその中から三太夫は立ち上がる。

 

 

「フフッ……やれ」

 

 

 壁となった悟の影分身は全て消え失せ、それでも立ち上がった三太夫1人へとドトウの指示で最後のクナイの波が無情にも発射された。

 

「三太……っ!」」

 

 小雪が名を呼ぶ声が届くその前にクナイが三太夫へと迫り……

 

 

 

 キンッ

 

 

 

 金属音が響く。

 

 

 

 三太夫の目の前には白がクナイを両手で構えて姿を現しており、クナイを弾き落としたのを物語っていた。白の背に立つ三太夫はそのまま力尽きたかのように膝から崩れ落ちる。

 

 その瞬間、再度追い打ちのクナイを放とうとする車列が爆発を起こす。

 

「何!?」

 

 ナダレの驚きの声。その爆発は雪に隠れ忍んだサスケが放った起爆札付きクナイが引き起こしたものであった。

 

 車列に乗る雪忍たちはいつの間にか現れたナルトの影分身らの海に手を煩わされ、動きが鈍っているうちに雪山の上方で別の爆発が起きる。

 

 その爆発はサクラが起こしたものであった。爆破で生じた雪崩が汽車らを飲み込むことを予見して、急発進をする汽車はその先の線路を乗せた橋が爆発を起こし崩れ去ることで谷へと落下していく。

 

 先頭のドトウやナダレを乗せた汽車だけが何を逃れ線路の先へと走り去り、他の車列が一瞬でスクラップとなったその光景を最後に現場には一瞬の静けさが訪れた。

 

 その静けさを幾人もの呻き声が占め出したころに悟と小雪は、雪の民たちの元へと走り寄っていた。

 

 脅威が去ったことを確認できた、隠れ忍んでいた映画スタッフたちはまだ息のある雪の民たちの治療と避難に走る。

 

「三太夫さん!!」

 

 悟は急ぎ、三太夫に駆け寄り掌仙術による治療を試みる。

 

(かなりの傷だ……っ!)

 

 ヒューヒューッと息をする三太夫に、小雪も歩み寄って近くに座り込む。

 

「白、他の人の避難を頼む!」

 

「ええ、わかりました」

 

 悟の言葉を受け白はそのまま、映画スタッフたちと共にまだ息のある雪の民らを林に隠していた雪上車へと運び始める。

 

 必死に治療を続ける悟に小雪は語り始める。

 

「これが……これが諦めなかった結果よ。ドトウに逆らわなければこんな目には……っ!」

 

 必死に、自分に言い聞かせるようにそう呟く小雪に悟は、

 

「確かに感情に煽られての突撃なんてバカだっ! だけど、それが夢を諦める理由にはなりません!」

 

 そう三太夫の傷から目をそらさずに答える。

 

「誰だって夢のためにもがき苦しむ、こうやって命をかけることが正しいとも言いませんけど、それでもそれほどまでに三太夫さんは明日の平和を夢見ていたんだ!!」

 

 その悟の声に反応するかのように三太夫が目を覚ます。

 

「ひ、姫様……申し訳ぇ……ありません。こんなことに巻き込んで……ゴホッ……しまって」

 

 その様子に小雪は三太夫の目を黙って見つめる。

 

「ここにいる者たちは……姫様が生きておられるから……諦めず……に居られました……姫様……どうか、ご自分を信じて……くだされ」

 

「なによ……それ……勝手なことを言わないで……」

 

「どうか姫様……泣か……ない……で」

 

 そう消え入る声量の言葉を最後に三太夫は意識を失くす。

 

 三太夫の手を強く握る小雪。

 

「小雪さん……大丈夫です、三太夫さんは何とか一命を取り留めています」

 

「ホント……馬鹿よ、三太夫。目薬は……貴方が持っているじゃない。私一人じゃ……泣けないわよ」

 

 悟の言葉を聞きつつも、小雪は三太夫の腰にぶら下がっていた、脇差しと目薬入れを手に取り自分の胸に押し付ける。

 

「もう終わりにしましょう、悟」

 

「……何をですか?」

 

「もう……火の国に帰りましょう、これ以上此処にいても命を無駄にするだけよ」

 

 そういって立ち上がる雪絵。

 

「……貴方が帰るのは火の国じゃない。ここ、雪の国でしょ!」

 

 背を向ける雪絵に悟は言葉を投げかける。

 

「貴方なら変えられるはずだ! この国を!!」

 

「無茶言わないでそんな事……!!」

 

 この場から逃げ去ろうとする小雪の手を走り寄る掴む悟。

 

 その瞬間

 

 飛行船が列車が落ちた谷底から姿を突然現す。

 

「なっ!?」

 

 悟はそんな光景に驚き声を上げる。

 

 その飛行船の機体は先ほど、逃げ去ったドトウらを乗せた列車のものであり、それを気球で浮かせているのであった。

 

 機体から姿を見せたミゾレがチャクラの鎧内臓の左腕の機械のアームを小雪目掛けて射出する。

 

「んなことさせるかよォ!」

 

 小雪の手を引き、悟が前に出てアームを蹴り返す。直後チャクラの鎧につけられた翼で飛行船の周りを飛ぶフブキが特殊な球を括り付けたクナイを投擲する。

 

「あれは……!!」

 

 遠巻きにそれ見ていたカカシが、即座に影分身を数体だし現場に残るスタッフたちや三太夫ら雪の民を抱えて飛び退く。

 

 フブキのクナイが雪面に刺さると、そこから氷の茨が瞬時に生えわたり、近くに寄せていた雪上車を氷の棘が貫き破壊する。

 

 火遁チャクラモードで氷の棘を砕き、退ける悟だが急に奇妙な悪寒を感じ取る。そして避難を済ませていた白の方へと振り返る。

 

 その悪寒は雪の国に入った時にも感じた違和感を強烈にしたものであり、白もまたそれを感じ取り仮面の下で冷や汗を流す。

 

 そんな2人の目線があった瞬間

 

「貴様ら木ノ葉の忍びも存外良くやるようだ……ならば出し惜しみなく、貴様らに我ら雪の国の最終兵器を見せてやろう」

 

 ドトウの拡声器を通した声が響いく。その言葉に続き上空を暗い雪雲が覆い吹雪が吹き荒れ始める。

 

「クッ……何が……っ!?」

 

 吹雪の中小雪を背の方に隠し、腕で視界を保とうとする悟は得体の知れないチャクラの塊が上空から接近するのを感じ取る。

 

 

 そして、吹雪が止むのと同時に『それ』が姿を現す。

 

 

 そこには札が幾重にも張られた巨大な鉱石が上空に浮かんでいた。

 

 それを取り囲むように、人間の胴体がスッポリと収まるような機械仕掛けのリングが6つ、鉱石の周囲を回転している。

 

「なんだ……あれはっ!?」

 

 サスケが物体を見た疑問を口にした瞬間、鉱石から目に見える程の莫大なチャクラがあふれだし、リングが地面の四方に別れ設置される。

 

 鉱石からあふれるチャクラが、6つのリングに吸われるように動きを見せ形を成していく。

 

 やがてチャクラは半透明ながら巨大な獣の姿を形作っていることがわかるほど、その存在を確かなものとした。

 

「あ……ああ……っ」

 

 そのチャクラ量と、巨大な獣の姿に恐怖を感じ取り身動きが取れなくなるサクラ。

 

 6つのリングの内4つはその獣の四肢を縛る腕輪となり、残りの2つは首輪となる。獣は2()()()()を持ち上げ大きく唸り声を上げる。二つの尾を持つその狼に似た、青白いチャクラの塊で出来た獣の咆哮はその地帯全てを揺るがすかのような振動を起こす。

 

 

 その獣の顕現した姿に誇らしげなドトウの声が響く。

 

 

「お見せしよう諸君。これこそが我が雪の国が持つ忍び五大国の尾獣にも匹敵する戦力、究極の兵器。その名は

 

 

 

 

 人工尾獣・双頭狼雪羅(せつら)だァ!!

 

 

 

 

「WOOOOOOoooooo!!!!!」

 

 雪羅と呼ばれたそのチャクラの獣の咆哮を合図に、周囲を再度猛烈な吹雪が覆う。

 

 そして雪羅の2つの口がチャクラを溜め始め……

 

「全員逃げろォ!!」

 

 咄嗟のカカシのその言葉の直後、辺りを破壊するチャクラ弾が雪羅から連続で射出され始める。

 

 ……そのまま爆炎と、衝撃が辺りを埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 雪羅がチャクラ弾を打ち終わり煙が晴れれば、辺りの雪ははじけ飛び、抉られた山の表面が露わとなった。

 

 地形を変えるかのような怒涛の攻撃に木ノ葉の小隊は多大なダメージを受けていた。

 

「はぁ……はあ……っさ、サスケ君……?」

 

「くっ……無事か、サクラ……っ」

 

 震えて足が動かなかったサクラを抱えて岩陰に逃れたサスケだが、2人とも爆発に吹き飛ばされ怪我を負ってしまった。

 

 ナルトはカカシが庇ったが、2人とも爆発の余波で壁に叩きつけられ小さくはないダメージを負った。

 

 唯一近くの小雪を庇おうとした悟と白は直接はチャクラ弾に狙われずに済んだものの

 

「生きてるか……っ白」

 

「ええ……なんとか……っ」

 

 2人で展開していた土遁と氷遁のドームは衝撃を受けきれずに、ボロボロに朽ち果てていた。守られていた小雪もその衝撃の強さに意識がもうろうとしている。

 

 2人が一瞬気を抜いたその瞬間、巨体に似合わない雪羅の巨大な前足による高速のフックに吹き飛ばされた悟は壁面へと叩きつけられた。

 

「……っガ!?」

 

 その悟の叫びに遅れて反応した白が目の前に瞬時に移動してきた雪羅に印を結び対処を試みるも

 

「ッ!! 氷遁……!?」

 

 しかし印を結んだ瞬間に白は、膝を着く。

 

「こ、これは……あの化け物に僕のチャクラが……吸われて……!?」

 

 白は力を抜かれたかのように崩れ落ちる。白の練り上げたチャクラは雪羅へと目に見える形で吸収されていく。

 

 その様子を空から眺めていたフブキがドトウへと進言する。

 

「あの仮面のくノ一は『雪一族』のようですドトウ様。氷遁への適応力が高いため、雪羅への贄として適切かと」

 

「そうか、では殺さずに小雪諸共回収するとしよう」

 

 身動きの取れなくなった白に鎧の翼を折りたたみ近づくフブキは、近くで動きを止めている雪羅を見て味方ながらもその圧迫感に冷や汗を流す。

 

「ほら行くわよ、お嬢ちゃん、小雪姫」

 

 フブキが身動きの取れない2人を抱え、飛びたとうとした瞬間

 

 

「逃がすかぁあっ!!」

 

 

 悟の放つ飛雷脚がフブキを襲う。咄嗟にチャクラの鎧で衝撃を受け止めるも、フブキは態勢を崩し白を地面へと取りこぼす。

 

「小雪さんも離せっ!!」

 

 雪羅から受けた一撃で、仮面を落としてしまい血で濡れた素顔を晒しながらも悟は鬼気迫る勢いで蹴り飛ばしたフブキへと近づく。

 

「っこのガキっ!!」

 

 フブキの生じたチャクラの鎧の障壁を、手に風のチャクラを纏わせることで掴みかかり強引に引き裂こうとする悟。

 

 そのまま障壁が破れんとした瞬間悟がふとチャクラの圧を感じ、咄嗟に視線を横に振れば

 

 

 

 再度チャクラ弾を発射する雪羅の姿が目に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発音と耳鳴りが、悟の知覚する世界を染め上げた。

 

 強い衝撃が体を襲い、意識を黒に落としそうになる悟だが

 

 存外に体へのダメージは弱いのかすんでのところで意識を保てていた。

 

 

(…………っ白?)

 

 

 意識が朦朧としている悟だが、彼を庇い魔境水晶を盾にしてひたすら雪羅のチャクラ弾に耐える白の姿を響く衝撃に揺れる視界で認識する。

 

 彼女の仮面は砕け落ちており盾にしている魔境水晶にもひびが入る。そんな白が限界を迎えるその一瞬。

 

(守られっぱなしは……趣味じゃない……っ!)

 

「土遁・岩状鎧武!!」

 

 自分を庇う白を、岩の鎧を身に纏いながら悟は庇い返す。

 

 そこから数度の爆発音が響き、悟の纏う岩は弾け飛ぶ。

 

 最後の爆発を生身で受けた悟は抱き庇う白ごと大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 爆発の木霊が止むころに、か弱い声が悟へと投げかけられる。

 

「そんな……さ……悟……くん……悟君、無事、です……か?」

 

 朦朧とし耳鳴りが響く中に白の言葉を受け意識を直ぐに取り戻す悟。

 

(まだ……俺生きてのか……っ)

 

 悟は遠目で、フブキと小雪ごと機械のアームで掴んだミゾレが飛行船に引き上げているのを確認する。フブキは悟たちごとチャクラ弾に巻き込まれていたがチャクラの鎧のおかげで小雪と共に爆発の影響の少ない場所まで吹き飛び無事であったようだ。それでも満身創痍なため、ミゾレが引き上げた彼女らを直ぐに飛行船の内部へと連れ行く。そのまま飛行船はその場から高度を上げて離れ行った。

 

 悟の目の前では止めと言わんばかりに黒々としたチャクラの球を両の口で形成する雪羅の姿が目に映る。その黒い球体を見た悟は

 

(これは、尾獣玉……か?)とその技の名を思う。悟の視界に隅に、ふと雪羅の巨大な体の後方で印を結んでいるナルトの姿が悟の視界に入る。

 

 必死にチャクラを練り上げようとするナルトだが、旨く行っていない様子でその顔を険しくしている。

 

(クソォ!! なんで、なんで上手く九喇嘛のチャクラを練れねぇーんだ!? このままじゃ、悟たちが……)

 

 自身の奥の手である九喇嘛のチャクラを練り上げようとするもそれが出来ずにいるナルトは九喇嘛へと声を荒げる。

 

(おいっ!!! 何で力貸してくれねぇーんだ九喇嘛ぁ!?)

 

(い……無理……さ……ち……つ……てに……ろ!)

 

 しかし返ってきたのは不明慮な九喇嘛の声であり、それに苛立ちを覚えたナルトは、舌打ちをしながらも術を行使しようとする。

 

「こうなったらガマオヤビンに来てもらうしか……っ!」

 

 地面へと叩きつけた手のひらから、印が広がる。しかしボフンと小さな煙が上がっただけでそこには何も現れなかった。

 

「っ……なんで……なんでっ!!??」

 

 焦るナルトの身体が不意に、カカシに抱き上げられる。

 

 それはカカシの影分身であり、本体のカカシが抱き上げられたことに驚きを露わにするナルトへと声をかける。

 

「ナルト、蝦蟇たちをこんな雪山に呼ぶのは難しい。今は逃げるしかない……状況が落ち着くまで隠れてろ。大丈夫だ、悟たちは任せろ!」

 

 ナルトを抱えたカカシの影分身が雪羅から離れるように跳躍したと同時にカカシは覚悟を決めた表情で左眼の写輪眼を表に出し駆けだす。

 

 

 

 

 

 悟はその光景を目にしながら立ち上がり、白を背中へと庇う。白も小さくはない怪我を負い今は動くこともままならない。

 

 血塗れになり、纏う装束も殆ど形を成さない状態にありながら悟は脱臼で動かなくなっていた左腕の痛みを無視し、出来るだけ右手にチャクラを集中させる。

 

(こんな所で死ねない……っ……白も死なせない……っ!!)

 

 

「……あああああああああああああっ!!!」

 

 

 雄たけびを上げ、右手を雪羅へと突き上げる悟。そんなか弱い必死の抵抗に対して雪羅はただ無情にその尾獣玉を放った。

 

 

 

 

 

 

 しかしその尾獣玉が炸裂することはなかった。

 

 

 

 

 

 襲い来る衝撃に目を瞑っていた白だがその異変にすぐに気がつき目を開ければ

 

 眼前の雪羅は身体を形成するチャクラを薄れさせ、本体と思われる鉱石を露出させ空へと上昇して視えなくなった。

 

 見上げた視界の外で何かの崩れ落ちるような音が聞こえた方に白が意識を向ければ、カカシが地面へと倒れ伏していた。

 

「……っ一体……ハぁっ……何が……っ?」

 

 混乱する白。

 

 しかしすぐに悟の右手が白の左肩を掴むことで、意識がはっきりとする。

 

「ゴほッ……は、白! 術は使えるか……?」

 

「悟君……何を言って……?」

 

 鬼気迫る様子の悟は、すでに遠くまで離れている飛行船を指さす。

 

「このままじゃ小雪さんを連れ去られちまう。あの飛行船に乗り込むにはお前の協力がいるんだ。頼む!!」

 

「君は何を言って……っ! こんな状況で……っ」

 

「四の五の言ってる暇は無いんだ!!」

 

 体に雷を纏う悟。既に死に体でありながらも、その体は赤黒く染まり八門を解放している様が見て取れる。

 

(先の瞬間まで死ぬであろう状況であったのに……直ぐに切り替えて次の手を打つ。正直狂人の域に入っている……それでも彼の純粋な思いがあるからこそ……)

 

 必死な悟の様子に白は、ため息を吐き叫ぶ。

 

「……君が死んだら、僕は後悔しますからね悟君!!」

 

「ああ……()()なんてさせないさ……絶対」

 

 

 悟の真剣な表情を見て白は残りのチャクラと体力を振り絞り立ち上がる。

 

 悟の指示で、白は持てるチャクラを使い遥か遠くに見える飛行船目掛けて氷の道を伸ばす。

 

 悟は地面に落ちていた三太夫の脇差しを手に取り鞘を口にくわえてそれを右手で抜刀する。

 

(後は頼んだ)

 

 そんな眼差しを白へと向けた悟は洞窟の中へと全速力で駆ける。

 

 

 その数秒後

 

 

 洞窟内の地面の表面へと露出していた鉄道のレールを滑り止めと言わんばかりに踏み抜きまくり、高速に加速した悟が洞窟内から衝撃と共に現れ

 

 

 瞬間、白の形成した氷の道を弾丸のごとく滑り上がり黙雷悟は空目掛けて砲弾のごとく空へ飛びあがった。

 

 

…………

 

 

 その後静けさを取り戻したその場に、怪我を負いながらも戻ってきた映画スタッフやサスケやナルト、サクラに白とカカシは保護され、一同は満身創痍になりながらも態勢を整えるため雪の民たちの集落へと向かった。

 

 意識を失い簡易的な荷車で担がれているカカシの傍に寄り添いながら白は、疲労からくる意識の混濁に落ちていく。

 

(悟君……どうか死なないで……必ず助けに……いき……ます)

 

 

~~~~~~

 

 

 

 一方空へと飛び出した悟は、はるか先の飛行船目掛け大砲で打ち出された球のごとく迫る。

 

 雪羅の攻撃で受けた傷やダメージに意識を奪われそうになりながらもその移動の負荷に八門で強化している身体で耐え、悟は風遁チャクラを練り上げチャクラモードへと移る。

 

(飛べるわけじゃないけど、ちょっとでも推進力を……!)

 

 後方へ風を吹き出しながら、飛行船へとさらに迫る悟。降りしきる雪が体にぶつかるたびに痛みが生じるも不都合な感覚に対して無理やり無視を決め込む。

 

 ゆうに十数秒、空中で移動を続ける悟はしかし目前の飛行船にギリギリ届かない可能性を感じ汗を流す。

 

(あとちょっとなんだ、落ちてたまるか!!)

 

 風遁チャクラモードをやめ、悟は右手に逆手で持った脇差しに雷遁チャクラを流し込み……

 

 飛行船の鋼鉄の機体下側に深々と突き刺して無理やり機体へと張り付いた。

 

(痛っっっだ……あ゛あ゛~右肩も死にそうかも……っ!)

 

 高速移動からそのまま機体へと張り付く負荷を一身に受けた右半身に痛みを覚えながらも、機体に刺さった脇差しを起点に次第に膝や肘をチャクラで吸着させて姿勢を整える。

 

(高っか……当然落ちたら死……イヤ今の俺ならどうにかできそうかも)

 

 下の光景に前世の価値観で一瞬恐怖を感じながらも、今世の自分の能力の高さに冷静になる悟。

 

 そのままチャクラによる吸着で機体をよじ登り、後方の扉から中へと潜入を果たした。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「……綺麗になったな小雪」

 

 飛行船内では、意識を取り戻した小雪に対してドトウが優しい声色で声をかける。

 

 顔を逸らしている小雪は、その言葉に反応示さずにいる。

 

「……六角水晶はちゃんと持っているのか?」

 

 声色に期待の色が見えるように喋るドトウ。

 

「ええ……」

 

「フフッ結構……」

 

 小雪の返答に満足感を笑みで示す。優越感か、既に目的を達成した思っているのかその口から、嬉々として六角水晶について語られ始めた。

 

「あれこそが風花家を結ぶ唯一の絆……だからな。 ……そして秘宝を開ける鍵となる」

 

「秘宝……?」

 

「ワシがお前の父からこの国を()()()()()()()、風花家には何の資産も残されていなかった。……ワシは早雪が隠したであろう資産を探し、そして見つけた。それは≪虹の氷壁≫に隠されている」

 

「六角水晶はその鍵……ってこと」

 

「そうだ、風花の秘宝さえ手に入れば、その資金で人工尾獣やチャクラの鎧をより完璧なモノへとすることが出来る。忍び五大国なぞ、優に凌駕するほどの()()()が手に入るのだよ!!」

 

 満足そうに己の野望を語るドトウ。

 

「そんな事させるわけないだろうがよ」

 

 そこに声が響く。その声の主に心当たりがある小雪は振り返る。

 

「悟!! アンタ……」

 

 血塗れであり、既に身に纏う装束もボロボロに朽ち果て、上半身も顔も晒したその忍びは脇差しの切っ先をドトウへと向ける。

 

「貴様、あの状況でどうやってここまで……っ!?」

 

「フン、忍者なめんなよ!」

 

 雷を纏い、ドトウへと切りかかる悟だが間に現れたナダレがクナイでその斬撃を受け止める。

 

「小僧、良くもその傷で生きていられるものだな……正直気味が悪い」

 

「まあ生憎、頑丈さなら世界一の自信があるんでね!!」

 

 雷遁による身体活性で、素早く切りつける悟だがナダレはその攻撃を容易くさばききる。無理やり動いては見せているものの悟は既に瀕死の状態であり、手練れのナダレに取ってはその動きを捌き切るのは容易であった。

 

 悟の脇差しの斬撃をクナイで逸らすナダレは力の差に余裕を感じ始めた瞬間。

 

 悟の振るう斬撃が一瞬、雷を纏い攻撃を捌こうとしているナダレのクナイを横から切り裂く。

 

「その首貰ったっ!」

 

 悟の斬撃がその振りのままナダレの首に迫ったその時、ドトウの声が響く。

 

「動くな、動けば小雪を殺すぞ?」

 

「クッァ…………グっ?!」

 

 動きを止め、その声に悟が視線を向ければドトウが小雪を片腕で締め上げ、空いた手でクナイを突きつけていた。

 

「ってめぇ!? ガ……っ!!」

 

 気を取られた悟は、ナダレの打撃を受け態勢を崩し、周囲に潜んでいた雪忍らの装備したチャクラの鎧の籠手から発射された剛糸に縛り上げられる。

 

「クソ……この小僧死に体の癖に侮れない、それに恐ろしいほどまでの生命力にチャクラ……例の装置を使いましょうドトウ様」

 

 ナダレの進言に

 

「そうだな、テスターとしては申し分ないだろう。()()()もデータを欲しがっているからな」

 

 そう答えるドトウ。

 

 ナダレは手のひら大の機械を取り出し、悟へと近づく。

 

「……クっ!?」

 

 その瞬間、悟が口から放った「水遁・天泣」の針をナダレは咄嗟に腕で受ける。

 

「目を狙ったんだが……外したか……」

 

「このガキが……っ!」

 

 腕から血を垂らすナダレは悟の顔面を殴り大人しくさせ、悟の腹部へと無理やりその機械を押し当てる。

 

 すると機械から飛び出た触手のような配線が、悟の腹部へと突き刺さり電撃を巻き起こす。

 

「っっっぐああああああ!?」

 

 食い込んだ配線と機械から出る電撃に悟は悶え苦しみ叫ぶ。

 

 その様子をドトウの腕から解放された小雪は見る。

 

「何よ……アレっ……」

 

「チャクラの制御装置だよ。装着された者のチャクラを吸い上げ、それに比例した装置自身を守る障壁と電撃を生成する。その為に破壊することも取り除くことも出来ぬ……絶対にな」

 

 自信ありげに語るドトウの説明の後に、悟はついに意識を失いその場に倒れこむ。

 

「これでこいつはもうチャクラの使えない、ただのガキだ」

 

 満足そうにナダレは悟を乱暴に抱え上げその場から運び出した。

 

「さあ、小雪。六角水晶を渡せ」

 

 連れ去られる悟を、流し見た小雪は胸元に下げた首飾りを無言で取り出す。

 

「おお……これぞ……っん? ……これは……?」

 

 それを受け取ったドトウは歓喜を示すも直ぐに顔色を曇らせる。そのまま小雪を睨みつけ、その首を鷲掴みにする。

 

「くっ!?」

 

「ふざけるな!! こんな偽物で私を騙せるとでも思ったのかぁ!!」

 

「そ、そんな……はず……っ!?」

 

 戸惑いを見せる小雪だが、直ぐに心当たりを思い出す。

 

 朧気ながらも船内でカカシが首飾りに触れていた記憶を。

 

「はたけカカシが……一度その水晶に触れて……っ!」

 

「なるほど、はたけカカシか……」

 

 納得したドトウは小雪を突き飛ばしながら、偽物の六角水晶を砕く。

 

「ならば、待てばいい。奴らは必ずワシらの前に現れる……必ずな……フフフッ……はっはっはっはっはぁ!!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

『嫌だ、そんな……なんでっ!!??』

 

(真っ暗の視界……誰かの、悲痛な叫びが聞こえる……)

 

『こんな、こんなのって……っ』

 

(女性の震える声が聞こえる……それに身体の感覚がない……俺は……どうなって……?)

 

『ねえ、嫌だよ……せっかく自分の気持ちに正直になれそうだったのにこんなのってっ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だぁ!!!』

 

(直ぐ耳元で聞こえるそんなとても辛そうな、女性の声……俺は……()()に……何か言うべきことがあるはずだ……)

 

 楽しかった

 

 嬉しかった

 

 ありがとう

 

 ……違う、自分本位では駄目だ。俺のことなんて、()はどうでもいいはずだ。

 

 

 

 

 ()()を傷から少しでも守れる、そんな言葉を言わないと……っ!

 

 

 

 

 お願いだ、言葉を口にさしてくれ……せめて俺の()()の夢を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(目を……さ……)

 

 

「……れの……ゆ」

 

 

 

(目を覚ま……)

 

 

 

 

「俺の……ゆめ……は……」

 

 

 

 

(いい加減目を覚まさんか、悟!!)

 

 

 

「うおああ、ごめんなさいぃぃ!?!? ぃ……ってあれ……っ?」

 

 

 驚きに体をビクつかせた衝撃でガチャと鎖の擦れる音と共に悟は目を覚ました。

 

「……痛つつ……ここは……?」

 

 自分が両手と両足を鎖に繋がれて吊られていることを自覚した悟は自分が今牢の中にいることに気がつく。

 

(……さっきまで夢でも見てたか……? 良く思い出せん……)

 

「……てかっうわ、寒…………ズボンしか履かせてくれてないのか」

 

 自分が上半身裸で下半身には粗末なズボンをはいているだけの状態であることを認識し、悟は無意識に体を温めようとチャクラを練る。

 

 しかし、その瞬間電流が悟を襲る。

 

「っぐあああ!? …………なんだクソ、この機械……腹に食い込んでっ」

 

 目線を下に向ければ、皮膚に食い込むその機械からはチャクラの鎧に似た障壁が形成されていた。食い込んでいる部分からは血が滴っていたのか、身体を伝う乾いた黒い線が下へと数本伸びていた。

 

 苦痛に耐えながらも何とか牢から見られる範囲から情報を集める悟。

 

(辺の壁には氷がびっしり……どっかの施設の地下かな……目の前に見える別の牢は、鎖につながれた氷漬けの骸骨がいる牢と空き牢のみ……うーん、ヤバいな、うん)

 

 左肩の関節が外れたままであることも確認し、どうにかできないものかと思案する悟。

 

(オイ、いい加減こっちに意識を向けんかぁ!!)

 

 一瞬の怒号の後に、悟は精神世界へと引きずり込まれる。

 

 精神世界の草原に降り立つ悟。精神世界なので怪我はなく普段の姿の悟だが、怒号の声の正体に驚きながら後方を見る、そこには……

 

「全く……意識を失くしやがって……それにワシが何度も呼びかけてやっているのに、呑気に無視するとはいい度胸だなぁ?! ああん?!?!」

 

 怒り心頭の九喇嘛がいた。しかし

 

「九喇嘛……なのか? お前……何というか」

 

「あぁん? 何だ?」

 

「随分と可愛いな!!!」

 

「……はぁっ!?」

 

 悟の声色の高い叫びに九喇嘛は目を丸くする。

 

 なんと九喇嘛の身体のサイズがぬいぐるみサイズになりちんまりとしていた。その様子に興奮した悟は九喇嘛に抱き着き抱え上げる。

 

「もっふもふやんけ!! もっふもふやんけぇ!!」

 

「ええい、うっとおしい!! こんなことしとる場合か!!」

 

 顔を擦りつけてくる悟にミニサイズ九喇嘛のパンチが炸裂、吹き飛ばされ悟は表情を崩れた笑みから、パッと真剣なものへと変える。

 

「ハッ!? ……俺は正気に戻った、すまん」

 

「てっめぇ……この状況で緊迫感とかねえのかよ、全く」

 

 崩れた毛並みを体を震わせ整える九喇嘛の様子に、「うぐっ……」と再度我を忘れそうになる悟だが何とか踏みとどまり真面目に話を切り出す。

 

「……あれだ、えーと九喇嘛が言ってた尾獣に似た存在ってのは……あの人工尾獣ってやつがそうだな?」

 

「ああ、間違いない……だがあそこまで()()()()()()だとは、ワシも人間の悪意というものを舐めていたのかもなぁ?」

 

「胸糞……? どういうことだ?」

 

「まあ、その内お前も気付くだろうが……それよりも厄介なのは、アレを制御しているカラクリだろう」

 

「ああ、動きから何となくだけど人工尾獣が何かしらの手段で操作されているのは疑ってたけど……そのカラクリが何の問題なんだ?」

 

「言ってしまえば、尾獣……やそれに連なる魂だけの存在を縛る……何といえばいいか、そう……波が出ていたのだ」

 

(波? ……電波的なものか?)

 

「それのせいで、あの雪羅とかいうのがいる間、ワシが表にでることが出来なんだ!!」

 

 悔しそうに唸る九喇嘛の様子に苦笑交じりに悟は言葉を口にする。

 

「なるほどな、焦ってて気づかなったけどあの場面で九喇嘛が口出ししてこないのも可笑しいよな、そんなことになってたのか」

 

「フン……せっかくこのワシが力を貸してやろうと思って

 

「えっ力は貸してくれないんじゃ?」

 

「っグ…………まあ、そんなことはどうでもいい!!」

 

 悟の横やりにキバをむき出しにする九喇嘛。(デフォルメされてると可愛い)と悟は思いながらも、精神世界に居る以上九喇嘛に悟られると話が拗れそうなので、気を落ち着かせる。

 

「貴様、今の状況分かっているな?」

 

「まあ、ピンチだな」

 

 現実世界に視点を変えれば、腹に食い込んだ機械が自分のチャクラを制御しているのがアリアリとわかりため息をつく。

 

「お前がど・う・し・て・も、というならワシのチャクラを貸してやろう……と言いたいところだが、この場所にもそのワシらの動きを制限する波のようなものがある。あの狼野郎がいる時ほど強力ではないがな」

 

「つまりチャクラは貸せないと……実質1人でどうにかしないとか……いやまあ、九喇嘛が居てくれるだけ寂しくないし心強いけど」

 

 試案を重ねる悟は現実世界での異変に気がつく。複数人の足音に気がついた悟は意識を失くしているフリをしてその様子を伺うことにした。

 

 カチャカチャ……

 

 悟の牢の正面の牢の鍵が開く音の後に、誰かがその中に入れられる気配がした。

 

 その人物を連れて来た雪忍らが、居なくなったのを薄眼で確認する悟。安全を確認してからその牢屋に入れられた人物へと声をかける。

 

「随分と暗い表情ですね、小雪さん」

 

「……アンタもイイざまね。諦めなかった結果、そんなボロボロになって……」

 

 座り込み死んだ目をした小雪がそこにはいた。

 

 悟の有様に気の毒そうな目線を向ける小雪に悟は

 

「ボロボロでも、まだ死んでないんでねっ……何とでもして見せますよ」

 

 もがく悟の様子に小雪はぼそりと呟く

 

「諦めないで未来を信じれば……きっと春が来る……」

 

「……?」

 

「父が言っていた言葉よ。皆がその言葉のようにもがいて、足搔いて……結果傷ついて倒れた。フフッアンタこそまさにいい例ね、そんな怪我でよく生きてるわね、ホント……」

 

 悟を鼻で笑い小雪は顔を膝と腕にうずめる。

 

「そんな父も死んで、わたしはこの国から逃げ出して……信じることを辞めた……」

 

「……」

 

「嘘をつき続ける人生が続いて……そんな私には嘘をつく女優ぐらいしか、なれるものが」

 

「……女優ぐらいって何ですか……っ?!」

 

 悟の言葉に小雪は目線を悟へと向ける。

 

「貴方は女優を卑下してるつもりかもしれないですがねぇ……貴方の演技を見てたら、それが本心じゃないって素人の俺にでも直ぐにわかりますよ!!」

 

 悟は小雪の言葉を否定しながらチャクラを練り始める。しかし当然のごとく悟を装置が出す電流が襲う。

 

「そんなこと……私は本当に……」

 

「あのバーで酔いつぶれてた時もっ……! そして今でも、貴方は……アンタは自分で吐いた言葉に自分で傷ついている!!」

 

 バチバチと体に走る電撃の痛みにもがきながら、悟は腕や足を拘束している鎖を引きちぎらんと力を籠める。

 

「無駄よ……そんなことしても貴方が傷つくだけでっ」

 

「体が傷ついても関係ないっ! 俺は……俺は、自分の行動に後悔したくないんだっ!! そんで、アンタが自分自身を信じられていないのを見るのも……心底嫌なんだよ!!!」

 

 より一層強い電撃に、悟は怯み、力が抜けて項垂れる。ジャランと鎖の擦れる音が寂しく響く。

 

「俺が……そうだったから。自分を信じられずに、夢を諦めて……なあなあで日々を過ごして……結局最後の夢も果たせずに……っ!!」

 

 それでも悟は言葉を口にし続けもがき続ける。

 

「何言って……?」

 

「だけど、俺はそんな卑屈な自分でも信じたい……自分が成したことに後悔したくないんだよ……んで……同じように後悔してる、苦しんでる誰かを助けたいと思っちまうっ!!」

 

 もがく悟は再度、大きな雷撃に怯む。

 

 その様子に小雪は思わず、悟へと疑問を投げかける。

 

「アンタの諦めた夢って…………何よ?」

 

「皆に……希望を……勇気を与えるお仕事……≪役者≫……だよ」

 

 生き絶え絶えになりながらも、悟は小雪の言葉に目を見て返事をする。

 

「…………そんな…………っ」

 

 自身が否定する存在を夢という少年の言葉に小雪は顔を上げ悟へと顔を向ける。

 

「だけど今俺は忍者だ……耐え忍んで……それで誰かのためになるならそれも良いと思って……る。一度は役者の夢を諦めた俺だからこそ、もう他の誰かの夢を諦めさせたくないんだっ……」

 

 

 しばらくの沈黙が続く。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

「なら……」

 

「……?」

 

 小雪は小さく呟く。

 

「アンタは私の夢を……叶えてくれるとでも言うの……っ?」

 

「ああ……やって見せるさ」

 

「そんなに傷ついているのに……出来っこないわ……」

 

「生憎俺は、度が過ぎる程頑丈なんでね。……アンタが望みさえすれば俺は何だってやってやる」

 

 そう言った悟は「へへへっ」と笑う。

 

 その様子に小雪は表情を引き締め、決心を着ける。

 

「ならお願い……ドトウを倒して……この国を救って……っ!」

 

 すがるように、振り絞るように出たその声に悟は声を張り答える。

 

「勿論だっまっかせろ!!!」

 

 力強くそう答えた悟に小雪は少し潤んだ表情になりながらも、グッと堪え悟へと提案をする。

 

「もしも……アンタたちがドトウを倒してそれで……もしも……アンタが……悟が忍者を辞めることがあったら、私の伝手で……アンタを役者にしてあげても……いいわ」

 

「……っ! へへっ楽しみにしておくよ」

 

 照れて目も合わせない小雪に、とびっきりの笑顔を見せる悟。

 

「じゃあ、何としても……小雪……アンタを助け出さないとな……んでついででこの雪の国もだ」

 

 そう言い瞼を閉じじっと動きを止める悟。すると次第に、腹の機械が煙を上げ始め異音が鳴り響く。

 

 今までにないほど巨大な電流が流れたのちに、そのチャクラ制御装置は黒い煙を巻き上げ爆発を起こす。

 

 そのまま、腕の鎖を引きちぎった悟は地面へと落下しそのまま動かなくなった。

 

「……悟!? ちょっとアンタ大丈夫!? 悟!?」

 

 その様子に悟の身を案じた小雪は声を張り上げる。

 

 流石に爆発音が響くほどの異変に、先ほど小雪を連れて来た雪忍2名が気がつき戻ってくる。

 

「今の爆発音は!?」「おい見ろ、木ノ葉のガキが鎖を解放しているぞ!!」

 

 牢の中で倒れている悟の様子に気がつき、牢のカギを開け中へと踏み入る雪忍たち。

 

 

 

 

 

「「うぐっ……っ!?」」

 

 

 

 

 その瞬間そんな呻き声が響けば、忍びらはうつ伏せに倒れこむ。彼らを不意打ちで昏倒させ、立ち上がり鍵をすり取った悟はその鍵を持ち上げて見せ、小雪に受かって笑みを見せる。

 

(上手いぞ悟……莫大な自然エネルギーを集めることで、腹のカラクリを破壊するとはなぁ!!)

 

 装置の破壊の手段に九喇嘛は感心を示す。

 

(流石に、普通のチャクラ以外の……自然エネルギーにまでは対応してなくて良かった……上手くいったけど爆発で腹が超痛てぇよ……)

 

 精神世界の九喇嘛の誉め言葉に照れながらそう答える悟。機械が爆発して生じた腹部の怪我を掌仙術で治療しながら、小雪の牢へと近づく。

 

「……またさらに痛々しくなったわね」

 

「ハハハッ……まあ……さすがに痛いかな」

 

 牢の鍵を開け、身体に残った機械の一部を抜き悟は苦笑交じりにぼやく。

 

 小雪のいる牢の中へと悟が足を踏み入れる。

 

 そのまま悟は、膝をつき小雪に右手を差し伸べた。

 

「お怪我はありませんか、風雲姫?」

 

「!……ええ、行きましょうか。貴方の意地とやらを見せて頂戴」

 

 牢を脱した2人は手を取り合いその場から姿を消した。

 

 

 

 

  

 

 

 



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72:思いの強さ

 風花ドトウの根城である、旧風花城は夜襲を受けてた。

 

 複数個所での爆発により、責め立てられている城内では雪忍たちが敵を打ち取るために駆け巡っている。

 

「何が起こっているの?」

 

「多分、カカシさん……というか俺の仲間たちが来てるんだと……よし、敵はいないな、こっちだ」

 

 爆破に揺れる城内。牢のひしめくエリアを敵に気づかれないように進む悟と小雪。悟は先ほど自分で治した左肩の関節の動きを確かめながら歩みを進めていた。

 

「…………ねぇ悟」

 

「何だ?」

 

 敵を警戒し、壁から顔だけを出し道を探る悟に小雪は声をかける。

 

「口調が変わってるのはまあ、置いといて……それよりも何で敵から奪ったマフラーで顔隠してるのよ……」

 

 喋るたびに、もごもごしている悟の姿に小雪は疑問を抱いていた。牢を脱した際に倒した雪忍から手早くマフラーだけを奪い身に着けていた悟。その小雪の指摘に悟は

 

「……恥ずかしいから」

 

 簡潔に答え、歩みを進めた。

 

(爆破とかで状況が落ち着いてないから悠長に着替えが出来ないからって、身につけてるものが頭部を隠すマフラーと、ボロのズボンだけなのは……絵が悪いわね)

 

 小雪は目の前のまさに不審者な恰好の忍びの存在に、頼りになるのか頼りないのか心配を胸に抱えていた。

 

 2人が牢の在る城内のエリアをある程度進むと、雪忍が1人悟の前の道に立ちはだかっていた。

 

「よし、先手必勝……!」

 

 悟が相手を認識し、飛雷脚でその忍びの頭を蹴りぬこうとした瞬間

 

「ッ!?!? 僕ですよ悟君!!」

 

 その雪忍は顔の覆面を取り、その美麗な素顔を晒す。

 

「白ぅ!? どわああっ!!」

 

 蹴りを止めても感性で白へと突っ込んだ悟は白に受け止められ、そのまま彼女を押し倒す。

 

「すっすまん……」

 

「いいですから……直ぐどいてください……!」

 

 もみくちゃになり、謝りながらも立ち上がり手を引いて白を立たせる悟。

 

「アンタ……そういうこと(イチャイチャ)は助かってからにしてくれない?」

 

「小雪……今のは事故だって……ってそんなことより、白!」

 

「ハイ?」

 

「カカシさんは無事なのか……!? ていうか皆来てるのか……!?」

 

(あの雪羅の尾獣玉をかき消したのは、恐らくカカシさんの≪神威≫……使えば今のカカシさんなら当分動けないハズだが……)

 

 悟の質問に、雪忍の装束を脱ぎ捨て自身の仮面を被った白は説明を始める。

 

「カカシさんは自身の術で相当消耗していたようです……半日ほどたって、ようやく体が動かせるようになりましたが忍術の行使には問題があるそうで……ナルト君達も、僕も怪我は負っていますが……君ほどではないので……ええ、今は三太夫さんらが用意した爆薬をふんだんに使ってこの城を攻め落としています」

 

「そうか……皆大丈夫なのか」

 

 安堵する悟に、白は仮面を投げ渡す。

 

「忘れ物です、そんなマフラーだけじゃしまりませんよ?」

 

「! サンキュー……だけど、上半身裸に裸足なのはやっぱりどうも格好がつかないな……白、今ちょっと余裕があるしその雪忍の装束貸してk

 

「女の子が来てた服着るの……?」

 

「……寒サハ平気ナノデヤッパイイデス……」

 

 小雪のジト目に悟は自分の行為の危うさに気がつき、訂正をする。

 

(そんなこと気にしている場合じゃない、とは思いますが……ホントに必要なモノなら悟君はそう言いますし大丈夫そうですね、どうみても体はボロボロですが)

 

 悟のようすに安堵した白。そんな彼らの元に、雪忍らを蹴散らしながら第七班が姿を現す。

 

「……無事か悟!」

 

「大丈夫だったか、ねーちゃん!」

 

「小雪さん、無事で何よりです!」

 

 サスケとナルト、サクラの声に悟は仮面のしたで安心の笑みを浮かべる。

 

「……随分と悪趣味な格好だねぇー悟、まっ無事で何よりだ」

 

 3人の後方から「よッ!!」と姿を現したカカシの言葉に悟は「そうですね……」と目を逸らして答える。

 

「思っていたよりもカカシさん、平気そうですね……」

 

「ん? 平気ではないんだが……ま、鍛え直しておいて良かったというべきか、マリエやガイに感謝ってところだ」

 

「ハハハッ……なら良かったです」

 

 

 そんな悟と会話をするカカシに、小雪が喋りかける。

 

「貴方が、六角水晶をすり替えていたのね……」

 

「……ええまあ、敵の狙いは何となく読めていたので、すみません」

 

 小雪は六角水晶の有無を確かめ、カカシが懐から出した本物の六角水晶を受け取る。

 

「こんなもののために……」

 

 そう六角水晶を見つめ呟く小雪。

 

「仕掛けが順次発動している、あまり悠長にしている暇はないぞ」

 

 サスケのその言葉に、小雪が答える。

 

「この城の構造は知っているわ。私に着いて来て!」

 

 その言葉を頼りに、一行は小雪の先導の元先を急ぐであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 しばらく走り続け、とある広い空間で小雪は立ち止まる。

 

「小雪さん?」

 

 サクラのその疑問の声のすぐあと、辺りが光で照らされる。

 

「「「「「「!」」」」」」

 

 

 

 

「クックククク!! はっはっはっはっは!!」

 

「ドトウ……!?」

 

 灯りの中には玉座に座るドトウが高らかに笑う姿があった。驚きドトウの名を口に出すカカシ。

 

「ご苦労だったな…………()()

 

「!?」

 

 ドトウの言葉と共に小雪はドトウの元へと走り去る。それを追おうとする一行の目の前には、3人の雪忍ナダレ、フブキ、ミゾレが立ちふさがる。

 

「まさか……」

 

 カカシの心配を肯定するかの如く、小雪は六角水晶をドトウへと手渡す。

 

「みんな忘れていたようね……私は女優なのよ」

 

 小雪の言葉に衝撃を受ける一行。

 

(小雪さん……)

 

 悟の視線に気がつき目を逸らす小雪。そんな小雪歩み寄り肩に手を乗せたドトウは

 

「そういうことだ、全ては小雪が一芝居売ってくれたのさ」

 

 そう満足気に言い、六角水晶を光に照らし眺める。

 

 恍惚とした表情を浮かべるドトウの隣で小雪は小さく呟き叫ぶ。

 

「そう……全ては芝居…………っやああああああ!」

 

 突如ドトウの脇腹に、小雪は三太夫の脇差しを突き立てる。

 

「……ぐお!?」

 

「だから言ったでしょう……私は女優なんだってっ!!!」

 

 三太夫の脇差しを全力で突き立てる小雪。

 

 完全に隙を突かれた形のドトウは俯き……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女優程度が、このワシ……風花ドトウに傷をつけられると思うなぁ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 刺されたはずのドトウは、小雪の首を片手で鷲掴みに宙へと掲げる。

 

「ねーちゃん!?」「小雪!」

 

 ナルトと悟の心配の声をかき消すが如くドトウは叫ぶ。

 

「全ては無駄な努力だったな……このワシが、いやこのワシこそが世界の王となる。そのために……」

 

 ドトウは自身の羽織っていた豪華な着物を脱ぎ捨てる。その下からは、黒々と怪しい光を放つチャクラの鎧が姿を現す。

 

「この最新式のチャクラの鎧そして……人工尾獣……これらをより高みへと昇らせる!!」

 

 ドトウは締め上げている小雪に耳打ちをする。

 

「そうだ、私は優しい……貴様を、父親に……早雪に合わしてやろうか……文字通りになぁ!!!」

 

「何を……うぐっぅ……」

 

 大きく振りかぶり、小雪を宙へと放るドトウ。

 

「!?っ小雪ぃっ!」

 

 それにいち早く反応し、跳躍して空中で受け止める悟だが……

 

 着地地点にはカラクリが仕掛けられており、地面にスッポリと大穴が開く。

 

「しまっ……!」

 

 小雪を抱えながら宙に手を伸ばす悟。その手を掴もうとサスケが手を伸ばすも

 

 

 ダンっ!

 

 

 と音を立てその大穴は閉じてしまう。

 

「さあ、ワシの夢を阻むものは残り少ない……行こうか、()()()()()()

 

 ドトウのその言葉と共に、城は爆発の勢いを強め天井が崩れ落ちる。

 

「逃がすかぁ!!」

 

 激高するナルトは、天井からのワイヤーで逃げるドトウに向かって紐付きクナイを投げつけその動きに追随する。

 

「ナルト!!」

 

 カカシがそれを止めようとするも、城の崩壊が彼の動きを阻む。雪忍の3人もチャクラの鎧のロープでその場を後にした。

 

 いったんその場から引くしかない状況だが

 

「悟君が……!!」

 

 白は穴に落ちた悟を助けようと、穴のカラクリをこじ開けようとしている。

 

「白君!! この場は引くんだ!!」

 

「しかし……っ!!」

 

 カカシの言葉に反発する白。その瞬間

 

「バカ野郎!! てめぇは悟を信用してねぇのか!?」

 

 その怒号が、崩落する城に響く。

 

「サスケ君……」

 

 サクラの心配の声に耳を貸さず、怒号の主は白の胸倉を掴み、叫ぶ。

 

「あいつはこんなことでくたばる様な奴じゃねぇ!! お前もあいつと過ごしてきたならわかるだろォが!?」

 

「……っ」

 

「……サッサとウスラトンカチとドトウを追って、この国の……悪夢を晴らすんだ。あいつは死なない……わかったら行くぞっ」

 

「……すみませんサスケ君。どうやら僕は冷静さを欠いていたようです……彼は殺しても死なないような人だ。小雪さんと一緒に生き伸びると……信じます!」

 

 意見の纏まった2人を含め、カカシらは城を脱出した。

 

 班員の無事を信じて……今はドトウ達の後を追うのであった。

 

~~~~~~

 

 

「きゃああああああああああ!?!?!?」

 

「っ……!!」

 

 大穴に落ちた悟と小雪は自由落下で加速し暗闇の中、縦穴の深部へと落ちていく。

 

「何とか……何とか……壁に……っ!」

 

 落下しながらも、壁に手を付けようと、右手を伸ばす悟。左手で小雪を抱えながら何とか壁に触れるも

 

(勢いが着きすぎてて、2人分の落下を止められない……っ!)

 

 わずかに減速するのみで、落下の勢いは止まらない。すると下方に明るく白い穴が見え、そこにとてつもなく広い空間があるのを確認する悟。

 

「クソっ止まれぁーーーーっ!!!」

 

 その空間に落ちる前に何とか、止まろうと無理やり脚や腕を壁に押し付け勢いを殺す悟。

 

 ギリギリその穴から空間へと至る際に壁に留まることに成功した悟は、落ちてきた穴から指先だけ吸着させぶら下がった状態のままその白く明るい空間を上から眺める。

 

「っはあ……はぁ……危なかった……なんだココは……だだっ広い部屋?」

 

「……ううう……グス…………」

 

 脇の小雪は刺激の強い経験に涙を流している。少し安堵した悟はふと手の先の力とチャクラを緩めてしまい

 

「あっ……しまっt」

 

「えっ……きゃああああああああああ!!!」

 

 指先を滑らせその白い空間へと再度落下を始めてします。

 

(この空間の壁までの距離は遠い……仕方ないっ)

 

「小雪! 舌噛むから口閉じててくれ、後ごめん!!」

 

「はぁっ!?」

 

 謝罪を述べながら悟は片手で印を結び、影分身を空中に出す。そして

 

 その影分身に自分を思いっきりその空間の壁目掛けて投げさせたのであった。

 

「「…………っ!!!!!!」」

 

 当然乱回転しながら壁面へと叩きつけられる悟だが、ぶつかった瞬間にチャクラの吸着を全身でしっかりとして見せ、そのままズリズリと地面へとずり落ちていった。

 

 地面に着きへたり込む悟。抱えられていて、悟と同じく空中を乱舞しながら共に移動した小雪も庇われていたとはいえそのまま、地面へと倒れ伏す。

 

「…………ぜってぇ……何か飛べるような術、覚えよう…………」

 

「……もう……ィゃ……」

 

 そう呟く悟と小雪。悟は息を整えながらその空間の観察を始める。

 

 白い壁面に、白い床。灯りがそこら中に埋め込まれているのか、少し近未来風のその空間はとてつもなく広く

 

(まるで野球ドーム…………ってそれよりも少し広いくらいか……落ちてきた穴がある天井もかなり高い位置にある)

 

 キョロキョロと辺りを見渡せば、前方の壁の一部がガラス状になっていることに気づき、注視する悟。すると

 

「ようこそおいでなさいました!! 小雪姫、そして木ノ葉の忍びヨ!!」

 

 その空間に拡声器の声が響く。

 

「っ何者だ!?」

 

 悟の言葉に声の主は答える。

 

「我が名は風花レンゲ……風花の名を冠してはおりますが末端の人間でありまスルヨ。しかし人は私を……()()()()……そう呼び敬うのデス!!」

 

 悟はその声の人物が、注視していたガラスの先に居ることに気がつく。

 

 年老いた白髪の男性は、先ほど見たドトウと同じ黒いチャクラの鎧を身に纏い大げさに身振り手振りをしながら窓ガラス越しに拡声器での会話を続ける。

 

「さて、あなた方木ノ葉の忍びのおかげで城は多大な損害を~……被った!! しかしドトウ様が風花の秘宝を手に入れさえすれば、全ては解決!! ナノで!!!!」

 

 途端、嫌な予感を感じた悟は立ち上がり構えを取る。

 

(おい悟……来るぞ!!)

 

(分かってる、九喇嘛……っ)

 

 内にいる九喇嘛からの警告の後、空間の中央の床が機械式に空き中から、札の張られた巨大な鉱石と、機械のリングがその姿を見せる。

 

(なん…………どうに……か……助け…………る!)

 

(九喇嘛……? 九喇嘛……っ! ……クソっ)

 

 その瞬間から九喇嘛との意思の疎通が出来なくなり、悟はふらつく小雪を壁にもたれ立たせ息を吐きその鉱石を睨みつける。

 

「木ノ葉の忍び、貴方にはこの我が最高傑作、≪人工尾獣・双頭狼雪羅≫の贄となっていただき今回、上の城での被害の責任を~~~~~とって頂きマス!!!」

 

 マイクが拾ったであろう機械を操作するカチッとした音と共に、以前洞窟の先で見せた工程を踏み、雪羅がその姿を現す。

 

 

「WOOOOOOoooooo!!!!!」

 

「はあ………………やるしかないよな」

 

 

 

 剛拳、柔拳を交えた構えを取る悟は、身体を紅潮させ緑の闘気をほとばしらせる。

 

「……リベンジだっ!!!」

 

 その言葉と共に、駆けだす悟。高速で移動を始めた悟めがけ、雪羅はチャクラ弾を幾度となく放つ。

 

(小雪からは距離を離さないとな……っ!)

 

 悟の思惑通り、雪羅は悟だけを狙い、攻撃を仕掛けてくる。幸いこの巨大な空間がその誘導を容易くしていた。

 

「流石、ドトウ様があのチャクラ装置を使った相手デスね! あれも自信作でしたの二……ムカついたので雪羅の出力をサラニサラニ上げます!!」

 

 レンゲの声が響くと、雪羅に装着されている機械式のリングが光を放ちその拘束を緩めるように少し広がる。すると

 

 雪羅の放つチャクラ弾は威力、連射速度を増し悟へと放たれる。

 

「クッ……まともに避けらんねぇ……なら!!」

 

 そう判断した悟は、壁を駆けあがりながら開門した状態で印を結ぶ。

 

「火遁・鳳仙花・乱舞!!」

 

 雑多に放たれた鳳仙花は、雨のごとく展開され雪羅のチャクラ弾を空中で誘爆させる。

 

 爆風が辺りを埋め尽くしたが、その中を悟は突き抜け

 

「飛雷脚!!」

 

 攻撃へと転じ、雪羅に向け蹴りを放つ。雪羅の片方の頭を弾き上げるも、もう1つの頭の持つ口からチャクラ弾が放たれ悟を壁へと叩きつける。

 

「っヅ……!!」

 

 ダメージを負いながらも悟は動きを止めずに、雪羅の追撃のチャクラ弾をかわす。

 

 戦闘機と生身の人間との戦いのように一方的に見えるその展開に、小雪は叫ぶ。

 

「こんなこともうやめさせてェっ!!」

 

「オヤオヤ!!! 小雪姫ェ!! やめさせてトハ? これは私が被った害を彼に償って貰っているだけですヨ? やめて欲しいのであれば……んんっ!」

 

 

 レンゲはわざとらしく、ゆっくりとその言葉を口にする。

 

 

「貴方が、雪羅に喰われて頂ければ……彼を見逃してアげましょう」

 

 

 雪羅の放つ氷遁の吹雪が悟の動きを鈍らせ、その隙にチャクラ弾が直撃、悟は壁に叩きつけられる。 そのまま雪羅は攻撃を止め、小雪の元へと向かう。

 

 

「クソ、が……駄目だっ……小雪逃げろ!!」

 

 ダメージの蓄積により、壁から立ち上がれずにいる悟は小雪へ叫ぶ。

 

 自身の元へと巨大な獣が迫りくる恐怖に、小雪は涙を流しながらも視界の隅で無理やり動こうともがく悟に目を向ける。

 

(アナタだけでも……悟……生き延びて夢を……っ!!)

 

 大きく口を開き、小雪を喰らわんとする雪羅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その雪羅のもう一つの首が突如、小雪を喰らおうとする首に食らいつく。

 

 

 

 

 

 

 

「ナンデスト!?」

 

 想定外の行動にレンゲの驚きの声が響く。

 

 目の前で、自傷行為をする獣の存在に小雪はあっけに取られる。雪羅のもがき苦しむ唸りが二重に空間へと響く。

 

 しかし、小雪を守った雪羅の首は反撃にあい食いちぎられしまい、その首は地面へと落ち形成していたチャクラが霧散する。

 

 小雪がその落ちた雪羅の首へと目を向けた瞬間に小さく声が轟いた。

 

「こ……ゆ、き…………い……きろ……春……を……っ」

 

 落ちた雪羅の首が発したその言葉に、小雪は勢いよく膝から崩れ落ちる。有り得ない、けれど理解してしまったその事実に小雪は息を忘れ、かすれ震える声を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父……さん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 呆然とする小雪に再度雪羅のキバが迫る。

 

 しかし爆発音が響く。その生じた衝撃は雪羅の巨体を宙に舞わせ、反対側の壁へと叩きつける。

 

 小雪の目の前には、身体を紅潮させ渦巻く焔に包まれて悟が拳を振り上げた姿を見せていた。

 

「……てめぇやりやがったな……」

 

「ハテぇ?」

 

 静かな、けれど確かに怒りの滲んだ悟の呟きにレンゲはとぼけるような言葉で答える。

 

「風花早雪を……小雪の父親を……雪羅に喰わせたな……っ?」

 

 一連の出来事の原因を悟はレンゲへと問いかける。その言葉にレンゲは……

 

「ウーム……君のように勘の良い忍びは煩わしいぃ……」

 

 肯定を示す言葉を呟く。

 

 そのレンゲの言葉に悟の眼は見開き、食いしばり歯ぎしりの音が轟く。怒りに反応するように悟のチャクラ量は増し、渦巻く炎はより強大なものとなる。

 

 しかし悟はその炎を一旦収め、事実を飲み込むのを拒否するように呆然と涙を流す小雪へと近づく。

 

「……俺の仮面をアンタに渡しておくよ」

 

 悟は自身の仮面を小雪の頭に被せ、そのまま距離を置き風花レンゲの居る窓越しの部屋を睨みつける。

 

 瞬間、第六・景門を解放し火遁チャクラモードの炎を滾らせ悟は言葉を発した。

 

「人を……命を弄びやがって……レンゲ、お前は必ず……殺す」

 

 態勢を立て直し、再度二頭に再生した雪羅が悟へと突進を開始する。

 

 自身の限界に近い、六門・景門とチャクラモードの併用に悟の身体が軋む。それでも悟は、その声にならない怒りの咆哮を伴い雪羅へと突撃する。

 

 人工尾獣と炎の塊のぶつかりあいは、衝撃の余波で巨大なその部屋全体を揺らすものであった。

 

 明らかに限界を超えた悟の挙動。悟は雪羅のチャクラ弾を拳圧で生じた炎の衝撃波で相殺し、その巨躯を仰け反らせるほどの爆炎で攻撃を繰り出す。

 

 攻撃のたびに、八門で紅潮する体に血が滲み、腕を振るえば骨が軋む音が響く。

 

 そんな悟の様子にレンゲは

 

(恐るべき火力……シカシ! 怒りで我を忘れる愚か者ならば、諭してより自滅へと追いこむのが傑作!)

 

 その思考の元、マイクへ言葉を掛ける。

 

「何を怒るのかね、木ノ葉の忍び? 人工尾獣雪羅は、かつての風花の者が、元より災いと呼ばれていた自然現象をチャクラを吸収する鉱石へと封じたモノダ。封印されていたそれに人の魂、生き血を与え()()に形を与えたもの……ドトウ様がクーデターを起こしたあの記念すべき10年前の日、捕らえた早雪に呪印を刻み込み、その鉱石へと括り付け体を喰らわセタ!! ……それ以降も反逆者や、能力の足りん愚か者などに呪印を刻み幾つもの生贄をささげることで、呪印を多く取り込んだ()()の雪羅を制御できる()()へと昇華サセた。そして私の作り上げた制御装置は、その実体を持たなかった魂を縛り制御することに成功し、雪羅を意のままに操るという偉業を成し遂げたのだ!!」

 

 長々と喋るレンゲの言葉に反応するように、悟の火力は怒りの増長に比例するように増していく。

 

 幾つもの命への侮辱を孕んだレンゲの高笑いに、悟の理性はその一線を越える。

 

「しかしマサカ、雪羅に喰われたのにも関わらず娘のために10年の時を経て意識を浮かび上がらせるとは……オヨヨ、これぞ親子の愛とデモいうべきですかな? 今後は親族同士、愛し合おうもの同士を一度に食らわせれば、より雪羅の昇華に……うぬ?」

 

 雄たけびのような爆発音、それは雪羅を壁へと押し込み、幾度も響く爆発音はその衝撃をレンゲの予想を上回る勢いで炸裂を続ける。

 

(ナントォ!?!? いくらなんでも、人間の枠を超えた力……っ! 雪羅が完全に押され始めるなど、予想外!?)

 

 完全に理性を失くしたのか両腕が折れているにもかかわらず、その腕を振るい爆炎を生じさせ続ける悟。

 

 あまりのその力に煽ったレンゲ本人が焦りを見せ始める。……雪羅がやられれば、あの爆炎を次に受けるのは……

 

 その恐怖はレンゲを突き動かす。

 

(こうなれば雪羅の出力を上げ続けなけレバ……!)

 

 手元の機械を操作し、雪羅の制御を緩める。力を増した雪羅は一瞬悟を押し返すも、より大きな爆炎となった悟は雪羅へと襲い掛かり爆発は鳴りやまない。

 

(駄目だ駄目だ駄目だ!! 何だあのガキはっ……っ!? 普通じゃない……!! …………止む負えん、私が死ねば全て意味がない。雪羅を完全解放しても、幾らかの雪忍を犠牲にすれば再度私の制御装置で縛れる……っ! 今はあの化け物を、殺すのが最優先ダ!!!! )

 

 悟の脅威に怯えたレンゲは雪羅の制御装置を切る。その瞬間、雪羅がその解放されたチャクラの圧で悟を強引に吹き飛ばしその姿を変えていく。

 

 青白く半透明だったその姿は、本物の獣のごとく実体を帯びていく。コアの鉱石から漏れ出る赤黒い物体は、その双頭狼を血に濡れた獣のようなモノの姿に変える。

 

 今までに犠牲になった者たちの血肉で構成されたかのようなその雪羅のおぞましい姿。

 

 小雪は、側へと吹き飛んできた悟へと走り寄る。身体の怪我などお構いなしに起き上がろうとする悟に抱きつく小雪。

 

「悟……! これ以上は駄目よっアナタの身体が……っ!」

 

「コロス……コロス……コロス……っ!!」

 

 うわごとのようにそう呟き続ける悟。

 

「お願い悟……帰ってきて……っ!!」

 

 すがるように、小雪の願いがその口から発せられた。

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 

「君は誰かを悲しませてまで、自分の感情を優先するような、そんな愚か者だったかい?」

 

 

 

 よく知っている声が頭に響く。気がつけば俺は精神世界の平原に来ていた。

 

「ここは……俺は……」

 

 意識が朦朧とする俺に、声がかかる

 

「全く……ワシが表に出れないうち、ここまで追いつめられるとはな。存外に貴様の事を過大評価していたのかもな?」

 

「……九喇嘛」

 

 今は、誰かに構っている場合じゃない、一刻も早くあいつを……コロサナイト……

 

 俺の集中を妨害するかのように、突然拳が俺の顔を殴りつけた。

 

「……っ!?」

 

「うちはの一族……僕たちは、この身体はその血を引いている。だからこそ彼らと同じく感情の爆発は大きな力を生む……」

 

 俺を殴ったその人物はやれやれと言った様子で手を払う仕草をし、倒れた俺へと手を差し伸べる。

 

「でも、その力だけに頼りすぎてはいけない。本当の目的まで見失っては意味がないんだ」

 

「黙……!?」

 

 その人物は俺と同じ顔を持つ黙であった。

 

「お前は、しばらく出てこれないって……」

 

「お、やっと正気を取り戻したね。自分と同じ顔を殴るのは存外に気味が悪い、あまり手を掛けさせないでくれ」

 

 俺を引き起こした黙は、九喇嘛へと視線を向ける。

 

「まさか……九尾が()()()()()チャクラを貸してくれるなんてね? 彼の手伝いなしには今は僕もここまでハッキリと存在を保つことは出来ないから」

 

「フンッ……ワシもマダラと柱間によく似た貴様らに手を貸すなんてまっぴらごめんだ。 ……だが今回はワシの思惑のために仕方なく貴様らに力を貸してやる、利害の一致、それだけだ」

 

 目の前で、互いによく思っていないどうしの2人がいがみ合いながらも俺へと向き合う。

 

「雷……君は僕たちの体についてどれだけ知っているのかな?」

 

「……うちはマダラの息子かもしれなくて……、自然エネルギーを上手く集めれるから、多分千手柱間の力も受け継いでるかもって……内心思ってる。確かにマダラの息子で血を受け継いでるなら、うちは一族ってことになるし、マリエさんを助けた時に黙が青い須佐能乎を使えたのもわかる。でも……柱間の細胞を得たマダラの息子ってなると……俺たちの年齢とか時期的に、なんか無理があるような……」

 

「そこは……僕も気になるけど、今の問題はそこじゃない。うちはの一族って病みやすいんだ、精神的に……わかる?」

 

「えっっと……今の俺みたいに……ってこと……か。 確か漫画でも扉間が言ってたような……」

 

「そう。感情の爆発に合わせて、チャクラが増す……けどその力じゃ、君の夢は叶わない……そうだろ?」

 

 優しく諭すような黙の言葉に、俺は精神世界で深呼吸をする。そうだ、俺の目的はあのレンゲとかいう奴を殺すことが本筋じゃない……!

 

「ありがとう、黙。俺ちょっと自分を見失ってた……」

 

「現実世界の小雪さんに、心配を掛け過ぎてるからね、気づいてくれてよかった」

 

「ちょっとどころではないように思うのはワシだけかぁ?」

 

 俺の言葉に九喇嘛がからかうように口を挟む。……うるさいなぁ。

 

「クックック、そうへそを曲げるな。貴様が暴れたおかげでこうしてワシらが表に出れるようになったようだからな、そこだけは褒めてやる」

 

 マスコットみたいな体をした九喇嘛は、その姿を変え大きな九尾の妖狐の顔面を形作る。隣に立つ黙の目はマダラと同じ模様の万華鏡写輪眼へと変わった。

 

 

 

 

「あんのふざけた、ワシら尾獣を、命を舐めたかのように扱う男に本当の尾獣の力をわからせる!! 悟、それとそっちのより気に喰わん方の悟、今だけは貴様らに力を貸してやるから……」

 

「……フフッ僕も九尾がくれた分のチャクラを使って君を全力でサポートするよ、だから……」

 

 

 ぶちかませ!!!!

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 暴れる悟の身体を必死に押さえつけていた小雪は、その抵抗がなくなったのを感じ悟の顔を見る。

 

「……恥ずかしい所見せたな、小雪」

 

 体の紅潮は無くなり、疲れ切ったかのような声でそうささやく悟に小雪は涙を零しながら笑みを見せる。

 

「良かったわよ……ホント、アンタの事思ったより信用してるんだから……っ!」

 

 笑みを交わす彼らだが、悠長にしている暇は無い。実体を形成した雪羅は吠え、狙いを命・魂を持つ悟たちに定める。

 

「小雪……渡した仮面の裏側に、テープで丸薬が1つ括り付けられてるんだ、それを俺の口に入れてくれ頼む」

 

「でも……っ」

 

「大丈夫、もう自分を見失わない。……役者にしてくれるんだろ、頼む」

 

 悟の真剣な眼差しに、小雪は急いで手に持つ仮面の裏側にあった丸薬を悟の口へと運ぶ。

 

 それを噛み砕いた悟は身体を小雪に支えられながら立ち上がる。

 

「少し離れていてくれ……」

 

「うん……」

 

 雪羅が地面を踏み砕きながら迫りくる。それに対抗するように悟も駆けだす。

 

 小雪の願いを背負った悟は大きく深呼吸をするそして……

 

 雪羅の質量を伴った頭突きが悟を押しつぶす。

 

 その光景を見たレンゲは歓喜の声を上げた。

 

「やったゾ!! これで私の野望を妨げるものは…………ハアっ!?」

 

 しかし、雪羅の身体はそこから一度も踏み込めずに硬直している。

 

 その頭突きを放った頭の先では

 

 

 悟が片手で雪羅を抑えていた。

 

 

 受け止めた衝撃により小さく唸る悟は腕には明るい橙色のチャクラを纏っていた。そのチャクラの作用か腕の怪我は再生しており次第に、そのチャクラは全身を外套のように包み込む。

 

 雪羅のもう片方の頭が、悟に向けチャクラ弾を放つ。

 

 爆発により、悟の姿が見えなくなる。レンゲは事態の先が見えないことに困惑しながら、その煙が消えた光景を注視した。

 

 

 煙の晴れた現れた悟は雪羅の頭を押さえた手とは逆の手に、真っ青なチャクラの鎧を身に纏ってその攻撃を受け止めていた。その鎧も次第に身体全体へと形成されていき……

 

「何なんだ貴様は……何なんだぁ貴様はぁ!?!?!?!?」

 

 混乱するレンゲの言葉が部屋全体に鳴り響く。雪羅を殴りつけ、大きく後退させた悟は自信満々に答える。

 

「ちょっとだけ凄い……只の忍びだ」

 

 九喇嘛のチャクラを羽織の用に身に纏い、肩や胴体、腕・脚に青いチャクラの甲冑を顕現させた悟は、量の目を朱く光らせ雪羅を睨む。

 

「雪羅……お前の存在、俺が祓う」

 

 顔に狐の青いお面を上半分だけ形成して被り、かけだした悟。

 

 雪羅は遠吠えを上げ、血に濡れたような氷の槍を幾つも空中に形成し、悟へと射出する。

 

「火遁・豪火球!!」

 

 悟の放つ規格外の大きさの豪火球がその槍を巻き込み消滅させる。

 

(雷、これを使って!)

 

 内なる黙の言葉の後、悟の手には須佐能乎の太刀が形成される。

 

「忍具の扱いは苦手だからな、大雑把に行かせてもらうぜ!」

 

 そう叫ぶ悟は雪羅へと駆ける。チャクラ弾や、氷の槍が無数に襲い掛かるも須佐能乎の太刀で切り落としていく。

 

 雪羅は悟の存在に本能から危機を感じとり距離を取ろうと、離れながら攻撃を浴びせ続ける。

 

「ちょこまかと……」

 

(ワシのチャクラを放てぇ!)

 

 九喇嘛の指示に従い、悟は左手にチャクラを集中させ数珠状に連なる複数の橙色の勾玉を形成する。

 

「八坂ノ勾玉!!」

 

 放った勾玉は、雪羅の遠距離攻撃を撃ち落しながらも進み雪羅へと直撃し爆発を引き起こす。

 

 怯む雪羅に接近し片首を太刀で切り落とす悟。しかし雪羅も抵抗し、前足による打撃で悟を吹き飛ばす。

 

「クっ……!」

 

 空中に弾かれた悟は須佐能乎の羽を広げ、態勢を整える。雪羅に目を向けると、既に雪羅の首は再生を完了していた。

 

 その様子を確認した九喇嘛はめんどくさそうに呟く。

 

(人間の血肉、チャクラ、魂を多く喰らっている奴を倒すのは骨が折れそうだな。ダメージを与えても、直ぐに再生しやがる)

 

「どうすればいい、九喇嘛?」

 

(奴の核……あの鉱石をドでかい攻撃で叩ければ行けそうだが……ワシの残りのチャクラ量では、今のままではジリ貧だ)

 

「クソっ……!」

 

 雨のごとく襲い掛かる雪羅の猛撃を太刀で対処する悟。けれどこのままでは九喇嘛のチャクラが残り少ない悟たちが負けるのは自明の理であった。

 

「ドでかい一撃……か……」

 

 完全体となった雪羅の攻撃を受け続けることも出来ない。悟は、反撃の一撃のために前へと切りこむ。

 

「心当たりがないわけじゃないが……」

 

 そう呟く悟に九喇嘛は反応を示す。

 

(ならそれをやるぞ、どんな術だ?!)

 

「尾獣……玉」

 

 悟は以前自身の目の前で放たれようとしたその攻撃の名を口にする。

 

(オイオイ、確かに尾獣玉ならいけるだろうが……今のワシのチャクラ量だとまともなやつは放てんぞ!)

 

(……でもそれ以外の方法はない……か。九尾、やり方は君が知っているよね?)

 

 九喇嘛の言葉に黙が切り返す。九喇嘛は仕方ないといったため息をつき答える。

 

(アレは何というか嘔吐する感覚に似た感じだが……そもそも、今の悟のような形態でやるもんじゃねぇ……人間の体で扱えるとは思えんが……)

 

「そのための螺旋丸……確か、漫画でもそんなやり取りがあったはずだ! 頼む、九喇嘛協力してくれ!」

 

 雪羅との攻防もそう長くは続けられない。九喇嘛はため息を吐き、悟の提案に了承する。

 

(仕方ねぇ……ぶっつけ本番だ、時間はそれなりにかかるだろう、何とか奴の隙を作らねぇと玉を作ることすらできんぞ?)

 

(……それなら大丈夫、僕に案があるよ)

 

 黙はその提案を口にする。

 

(雷……僕たちにはマリエさんから託された()()()がある。それを使えば、十分に時間を稼げるはずだ)

 

「あれって……上手くいくのか? やり方は教えて貰ってるけど……」

 

(やるしかない……だよ。迷っている時間ももうない、雪羅の四肢を切り落として動きを一端封じたら作戦開始だ)

 

 八坂ノ勾玉を放ち、再度雪羅の隙を作った悟は相手の攻撃を受けながらも、強引に雪羅の四肢の間を飛び抜きその太刀で切り落とす。

 

 態勢を崩し、倒れこむ雪羅の目の前に降りたった悟は通常の姿へと戻る。そして

 

「ふう……行くぞ黙!」

 

(うん、この術に印は要らない……必要なのは)

 

 

「「明確なイメージ!!」」

 

 

 

 

 ≪分裂の術≫

 

 

 

 火・土・風の3つチャクラが、悟の身体を駆け巡りそして術者の身体を、細胞レベルで複製する。

 

(イメージは単純に二等分で構わない。片方の身体に僕の魂を入れるんだ!)

 

 黙の指示に従い、術は行使され悟の身体は二等分に別れる。そして瓜二つの悟が並び立つ。

 

 現実世界で初めて、雷と黙が肩を並べる。

 

「上手く……いったか……何か違和感が凄いな……っ」

 

「感想言ってる時間はないよ。そっちは九尾と尾獣玉を作るんだ。 ……僕は」

 

 黙は前に出て万華鏡写輪眼を発動する。

 

「須佐能乎!」

 

 黙は須佐能乎を展開する。九尾のチャクラを全て雷の側に配分したため、その須佐能乎は先ほどの鎧の姿とは違い、人骨のような形態へと戻っている。

 

 発現した須佐能乎の両腕で黙は雪羅を抑え込む。

 

 

「文字通り全力で足止めだ!」

 

 

 一方雷は九喇嘛と共に尾獣玉の作成に取り掛かる。

 

「チャクラコントロールに自信はあるけど、いけるか……」

 

(てめぇの提案だ、つべこべ言わずやるぞォ!)

 

 雷が構えると、九喇嘛のチャクラが手の形を複数形成し現れ、腕から生えたそれが雷の手に陰遁・陽遁のチャクラを集中し始める。その途端

 

「グオッ!!??……滅茶苦茶……お、重たいィ……っ!!!」

 

 手に集まるチャクラの圧の重さに雷が片膝を着く。

 

(ワシの残りのチャクラ量的に一度も失敗はできんぞ、キバりやがれェ!!)

 

 九喇嘛の咤激励を受けつつ、雷はその形成しつつある尾獣玉の形を保つため高速の乱回転を加える。

 

 尾獣玉のチャクラが、悟の掌が発光するほどの熱量で焼き始める。その痛みは想像を絶するものであった。

 

「ヅっ……グぅぅぅぅっあぁぁぁあぁああああ!!!」

 

 それでも雷の目は、希望を失わず目の前で暴れる雪羅を抑える黙を見つめる。

 

「俺は……一人じゃないっ! ……勝って……ハッピーエンドを迎えて見せる……っ!」

 

 九喇嘛は己の持てるチャクラを集め、悟の腕に圧縮されたチャクラの黒い塊が形成され始める。

 

 しかし、雪羅もその尾獣玉の気配を感じ取り黙の須佐能乎の腕を1つ噛み砕き、再生し始めた脚で態勢を立て直そうと大きく暴れる。

 

「雷っ!! まだか?!」

 

 焦る黙だが、雷の方の術は未だ完成はしていない。

 

(チィっ……やっぱりチャクラが足りねぇ……どうする……っ)

 

 九喇嘛の弱音に、それでも雷は手元のチャクラの塊の回転速度を高め続ける。

 

「自然エネルギーを……九喇嘛なら集められないのか……っ?」

 

(今のワシじゃ、無理だ。てめぇが集めた自然エネルギーをチャクラに変えることなら出来なくもないが……この手一杯の状況だと……)

 

 

 その瞬間

 

 

 雷の背後から、雷の手を支えるように小雪の手が添えられる。

 

「!? 小雪、そんなことしたらっ……!?」

 

 振り向き、小雪に目を向ける雷。直接でもなくとも尾獣玉の熱に小雪の手も焼かれるが、苦しそうな顔をしつつも小雪は笑顔を見せる。

 

「ハッピーエンド……見せてくれるんでしょ……っアンタを信じてるん……っだから!!」

 

 小雪の言葉は、悟の精神を落ち着かせ、小雪の手が支えとなり僅かな余裕が雷に出来た。

 

 その瞬間、莫大な自然エネルギーが雷へと集中する。

 

(一瞬でこの量の自然エネルギーを……自分でチャクラに練り上げられないのが不思議で気に喰わんが、千手の力は本物のようだなっ)

 

 好機とばかりに九喇嘛は仙術チャクラを練り上げ、雷へと還元し始める。

 

 すると次第に、雷の髪が黒色に染まりはじめた。

 

「悟……アンタ髪が……」

 

 驚く小雪に雷が振り返り微笑む。

 

「行ってくる……小雪のお父さんたちを……救けてくる」

 

「……お願い……っ」

 

 小雪の言葉を受けた瞬間、雷の手元の尾獣玉は小さいながらも安定した形を模る。

 

「黙!! 行くぞぉ!!」

 

 小雪の元を離れ駆けだした雷は、黙目掛け走りこむ。

 

 須佐能乎は持ち直した雪羅により、完全に砕かれ今まさに雪羅のチャクラ弾を受けようとしている黙が、駆け寄る雷へと手を伸ばし……

 

 チャクラ弾の爆発が2人を巻き込んだ。

 

「悟……っ!」

 

 小雪が名を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 爆発の煙から、上方へと白い髪の悟が飛び出す。

 

「喰らえ……尾獣玉!」

 

 それを予見していた雪羅のチャクラ弾が空中の悟へと打ち出され、

 

 

 貫通する。

 

 

 その分身の術がかき消されたその瞬間煙の中から、雪羅の胴体の下に雷を纏った黒髪の悟が高速で移動し構える。

 

「ひねくれた俺たちが素直に、術をぶつけると思うなよっ!! ……正真正銘喰らいやがれぇ!!!!!」

 

 

 

「「「尾獣玉!」」」

 

 

 瞬間、悟の手元の空間が歪み圧縮して見せ

 

 直後に上方に向けて光の柱が立ち上がる。

 

 今までのどの攻撃にも比べられないほどの衝撃と爆音。

 

 雪羅の胴体を完全に飲み込むその爆発は核となる鉱石は砕き始める。

 

 爆発を制御しようとする悟の手は肘まで高温で発光しており、両手が震えながらもその尾獣玉の指向性を空へと向け続ける。

 

(気を抜いたら、尾獣玉の爆発がワシらも飲み込むぞっ! 踏ん張りやがれぇ!!)

 

 九喇嘛の言葉に、悟は声にならない叫びで答える。

 

「――――っ!!!!」

 

 最後に上空に向けて突き出された悟の腕から、ひときわ大きなチャクラの奔流が流れ

 

 

 雪羅の核を砕く。

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 その空間が静けさを取り戻す。

 

 灯りは衝撃で全て消え天井には穴が開いていた。はるか上方、ドトウの城ごとくり抜いたその穴は間もなく朝を迎える空を覗かせる。

 

 パラパラと、瓦礫の崩れる音が広大な空間に響く。

 

「…………キッツ…………」

 

 上空に向けて突き出された悟の腕の発光は熱が静まることで収まりを見せ、焦げた皮膚を露わにする。髪の色も白色に戻っていた。

 

 一言呟いて前に倒れこむ悟を走り寄ってきた小雪が支える。

 

「……アンタ命をかけるのはバカとか言ってなかった……っ?」

 

 涙声の小雪。

 

「……生きてるでしょ……俺たち二人……はっはっはっはっは」

 

 弱々しくもそういって笑う悟に小雪は一言「……バカ」と言い強く抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

「生きて返すわけがないダローーーっ!!!!」

 

 途端激高したレンゲが、羽を広げ悟たちの前に降り立つ。

 

「私の……ワタシの最高傑作をぉ……この10年の積み重ねを台無しにしておいて、タダで返してたまるものかぁあああ!!」

 

 そのレンゲに対し、悟は力の入らない両腕を垂れ降ろしながらも小雪の前に立ち、レンゲと向き合う。

 

「アンタ、ドクターなんだろ……慣れないことはしないに限るぞ……」

 

「うるさぁああい……貴様ぁっその腕では印を結べまい……だが私にはチャクラの鎧があるっ!! 無敵の鎧でぇ……私の手で殺してやるっ!!」

 

「へへっ……やれるものなら……やってみろっ」

 

 殺すと宣言したレンゲに対して、悟は小雪の腰帯に携帯されていた脇差しを口で引き抜き駆けだす。

 

 レンゲはチャクラの鎧から、千本を幾つも放つ。

 

 が、悟はその軌道を読み最小限の動きで避けレンゲに近づく。

 

「ひぃい!?」

 

 決して素早くもない今の悟に攻撃を当てられないレンゲは焦り、障壁を展開する。

 

 しかし

 

 その障壁をすり抜け悟は、レンゲに肉薄する。

 

 腕を振り殴打を繰り出すレンゲの攻撃をかわした悟はレンゲに飛びつき、彼の両肩を両膝で押さえつけ組み伏す。そして

 

 肉の切れる音が静かに鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 僅かに痙攣を見せるレンゲの身体に対し、悟は口にした血のついて脇差しを離して呟く。

 

「もう……何度もその障壁を見てんだ、そんで今の俺の眼なら……」

 

 悟の目から、いつの間にか灯っていた()()()が消える。

 

「障壁に弾かれないようにチャクラの波をコントロールすることも出来るんだよ……まあ、アンタがまともに格闘できる人間だったら負けてただろうけどな」

 

 小さくため息をつく悟に、小雪が声をかける。

 

「……死んだの?」

 

「……ああ、悪いけど苦しませてやれなかったのが心残りだ。悪いな、あっさり殺して」

 

「いいわ……もう、悟……ありがとう」

 

 複雑な表情の小雪に、悟は立ち上がり近寄る。

 

「……っ」

 

 その瞬間ふらっと倒れこむ悟に、小雪は慌ててその身体を支える。

 

「大丈夫!?」

 

「いや、流石にもう……キツイ……」

 

 完全に疲れ切った表情の悟に小雪は、自身の膝を枕に成るように屈みその上に悟の頭を乗せる。

 

「アンタは十分すぎる程、頑張って……ホントに頑張って私に希望を見せてくれたわ……」

 

「ああ……頑張った……ぜ」

 

 悟の髪を撫でる小雪。

 

「……お疲れ様」

 

「五分……経ったら……起こして……く……れ……」

 

「フフッ馬鹿じゃないの? ……もうゆっくり寝てて良いのよ」

 

 パラパラと施設の崩れる音が静けさに響く中、明かりの消えた空間の大穴から見える空から射す淡い光が2人を照らしていた。

 

 

 

 

 

 



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73:雪姫忍法帳

 

 スー……ス……

 

 

 

 

 

「よし、五分経った!!」

 

「きゃあ!?」

 

 寝息を立てていたと思った悟が、突然跳ね起き小雪は驚きの声を上げる。

 

「……よし、最低限動けるくらいには回復したな」

 

 身体をクネクネと動かし、調子を確かめる悟。両腕は火傷のような変色を見せ、未だ動かせる様子ではなく力なく揺れている。

 

「アンタ……ホントに五分ぐらいで起きるなんて……どんな身体をしてるのよホント」

 

 呆れた感じの小雪の言葉に悟は

 

「……まだ、やるべきことが残ってるからな」

 

 そう答える。

 

「やるべきこと?」

 

「まだエンディングじゃないってことさ」

 

~~~~~~

 

 悟が寝ていた5分の間

 

 

 悟の精神世界の草原で、黙と九喇嘛が会話を交わしていた。

 

「……これで今回の君の目論見は終わりかい、九尾?」

 

「まあな……ワシとしては、雪羅など放っておいても構わなかったが……」

 

「嘘だね、君には聞こえていた……雪羅の犠牲になった人たちの、魂の声が。それを放っておけないとは君も存外人が良い……尾獣だから人が良いとは言わないかな?」

 

「……っケッなんのことかさっぱりだぜ」

 

 お互いに向き合う2人。黙は身体が半透明になり九喇嘛もまたそのデフォルメされた姿は消えかかっていた。

 

「……僕にも少しだけ聞こえていたんだ、怨嗟の声が。まあでも君にチャクラを分けてもらうまでは前回表に出た反動で、ずっと夢を見ているような感じで意識はなかったんだけどね」

 

「何が言いてぇ……?」

 

「……案外、君のことは好きになれそうかなってね……()()()

 

 そう言う黙の言葉に、九喇嘛は心底怪訝だという表情を見せ唸る。

 

「気持ちワリィこと言うんじゃねぇ!! ……たくっワシは雪羅の存在が気に喰わなかっただけだ!! ワシのやりたいことをやるためにてめぇらを利用したにすぎねぇ!! わかったか!?」

 

「……フフッよくわかったよ。今もわざわざ自分のチャクラでこの身体(黙雷悟)の回復をしてくれてる優しい尾獣様?」

 

 クスクス笑う黙に九喇嘛は面白くないと、拗ねた表情を見せる。

 

「それじゃあ、僕はもう寝るとするよ。もう意識を保てなさそうだ……」

 

「……あっちの悟の奴には何か言ってかねぇのか?」

 

「彼は……雷はもう十分に忍びとして成長しているからね、信頼してこの身体(黙雷悟)を任せられる」

 

 そう言った黙は眠るような表情を見せスウッと消えていき……

 

 瞬間クッキリとした姿になる。

 

「…………あれ?」

 

 呆けた黙の声。

 

 そんな黙の代わりとばかりに九喇嘛の姿が霧のように霧散する。そして九喇嘛の声が草原に響く。

 

「てめぇにも貸しを作るのも嫌だからな貴様にワシの残りのチャクラをくれてやる」

 

「……僕のことは嫌いなんじゃなかったかい?」

 

「フンッだから、本体にこの記憶が行かねぇように分体のワシは消える……ワシのチャクラが残ってたら本体がこの気味のワリィ()()を経験しちまうからな」

 

 

 

 じゃあな

 

 

 

 そんな優しい声色の声が草原を巡った。

 

 

「……ははっ、確かにこういう感情は……慣れてなくてむずがゆいかもね」

 

~~~~~~

 

 

 

 そして現実世界

 

 先頭の余波で明かりが消え薄暗く広い空間の中、小雪はレンゲから脱がせたチャクラの鎧を悟へと着せていた。

 

「ええと……多分これで良いと思うわ」

 

「悪いな……ちょっと気味悪かっただろ?」

 

 レンゲの身体に目線を送ってそう言った悟に小雪は答える。

 

「いいのよ……血の繋がりは確かにあるけど、私からしたら憎むべき相手で……清々したわ。それより、アナタその怪我でホントに大丈夫なの? ……たった五分休憩しただけで……」

 

 悟の心配をする小雪も疲れからか、顔色は優れない。

 

 悟はチャクラの鎧に備え付けられていた強靭な糸の装備で、自分と小雪の身体を括りつけるように指示をする。

 

「見た目よりは大丈夫そう……まあ、当分は両腕は動かせなさそうだけど早くナルト達と合流しないとな」

 

 悟の指示を受け小雪が2人の胴体を正面からくっつく。少しの無言の間の後に小雪が口を開く。

 

「ねぇ……今、こんなこと言うのもアレだけど……女優とこうも密着して、何か感想とかないの?」

 

 腕の動かない悟に変わりに糸を結ぶ小雪はからかうような笑みを見せる。その様子に悟は少し顔を赤くし

 

「今更……そんなことより、仮面……被せてくれ」

 

 そういって顔を背ける悟に、小雪はクスクスと笑いながら糸を結び終えた後に預かっていた悟の仮面を着ける。

 

「……役得とは思ってます」

 

「えっ……なんtきゃああああああああああ!?!?!?」

 

 悟が呟いた言葉を小雪が聞き返した瞬間、チャクラの鎧の翼が展開し、城の開いた縦穴を勢いよく飛びあがる。

 

 しかし操作が上手くいかないのか安定しない軌道で上昇を続けることに小雪が不安を感じ叫ぶ。

 

「ちょっとォ!?!? ホントに大丈夫なのォ!?」

 

「チャクラコントロールは得意だから……大丈夫っ!!! のはず……

 

「ちょっとォ!?!?!?」

 

 瞬間、スピードの増した飛行速度で城上空まで一直線に飛び抜ける悟たち。

 

「っっっ……!」

 

「huーーー!!!!」

 

 その上昇圧に小雪はつい口を閉じ、目を伏せ強く悟に抱きつく。テンションの上がった悟は楽しそうに声を上げる。

 

「あ、コツ掴んだかも」

 

 悟がそういうと、ドトウの根城の遥か上空で制止することに成功し安定した状態になる。

 

「た……高い……早く降ろしてぇ……っ!」

 

 しかしそのあまりにもの高高度、一般人の小雪は下に見える光景に目を回し震える。

 

「確かドトウは虹の氷壁とかいう場所に向かったはず……方角はわかるか、小雪?」

 

「き……北ぁ……っ」

 

「よしきた、行くぞ!!」

 

 目的地を見据え悟は、飛行を開始する。

 

(やっぱ飛べるって便利だな……)

 

 恐怖に慄く小雪をよそに、悟はその移動手段のすばらしさと楽しさを噛みしめていた。

 

 

~~~~~~

 

 

 虹の氷壁では既にドトウの手により、<風花の秘宝>と呼ばれる装置に六角水晶がはめられていた。周囲を囲むように立つ巨大な氷壁は光を放ち雪の国ではめったに感じられないほど、周囲の気温を高めていた。

 

 地べたに座り込み、肩で息をするカカシは朦朧とした意識の中、目の前の出来事に目を向け呟く。

 

「まさか……風花の秘宝が……発熱機だったとはね。ドトウの思惑は外れたようだが……」

 

 映画監督のマキノと助監督は、カカシのスグそばで、その()()をカメラを回しながら見守る。

 

「頑張れ、気張れよォ!! 若者たちぃ!!」

 

 カカシと監督らの目線の先では、風花ドトウと木ノ葉の下忍たちの最後の戦いが繰り広げられていた。

 

「氷遁・黒龍暴風雪(こくりゅうぼうふうせつ)ぅうう!!」

 

 ドトウの両手から放たれる、黒龍の形を模った吹雪が周囲を薙ぎ払う。

 

 魔鏡水晶を辺りに展開し、高速移動でその術から逃れる白。水晶の鏡同士が時空間忍術で繋がっているため、ワープのように移動し回避に徹するがしかし、追尾するその黒龍は次々と魔鏡水晶を砕き白へと迫る。

 

「くっ……っ!」

 

 術の脅威に白が晒される直前、青い雷光が白を抱え、黒龍との距離を取る。

 

「千鳥・雷装…………クッ……長くはもたねぇか」

 

 その稲光は千鳥を纏い身体強化を為したサスケであった。

 

 何とか逃げ切りドトウの術が切れ、少しの間嵐の様な術の轟音が消える。

 

「螺旋丸!!」

 

 その隙に、影分身を引き連れたナルトが螺旋丸をドトウへと叩き込むが

 

「甘いぃ!! より強化されたこのチャクラの鎧の前ではどのような術も無意味だっ!!」

 

 ドトウが着るチャクラの鎧の効果に螺旋丸はかき消され、ドトウを中心に放たれた衝撃波がナルトの影分身ごと本体を吹き飛ばす。

 

 その戦況を遠目で観察するサクラ。

 

(何とか皆で、雪忍たちナダレ・ミゾレ・フブキは倒せたけど……カカシ先生もチャクラ切れで動けなくなっちゃったし、ドトウのチャクラの鎧は破れない……どうすればっ)

 

 劣勢に立たされている木ノ葉の下忍たち、白は悔しそうに呟く。

 

「ナダレとの戦いで、カカシさんに僕が無理を強いてしまったせいで……っ!」

 

「んなこと、後悔してる場合かっ! 次が来るぞっ!!」

 

 サスケはチャクラの鎧により、術を強化させているドトウのチャクラの色を写輪眼で見切り全員に回避の合図を送る。

 

「黒龍暴風雪っぅぅう!」

 

 周囲を薙ぎ払う単純、しかし強力なその術とチャクラの鎧の効果に手をこまねく状況が続いていた。

 

「畜生っ!! なんで俺の螺旋丸が……力が通じねぇんだ……カブトだってぶっ倒せたのにぃ……っ!!」

 

 苛立ちを表しているナルトは、防戦一方になっている状況に苦言を漏らす。

 

 そんな戦況をただ眺めるだけのカカシは悔しさを呟く。

 

「クソっ……このままじゃ……んっ?」

 

 ふとカカシは自分の耳に届く微かな音に気がつく。それはまるで女性の叫び声のような……

 

「きゃああああああああああ!!!」

 

「これは……まさか……っ!?」

 

 ふとカカシが振りむき、それに合わせ監督らもそちらの方向にカメラ向ける。

 

 そこにはかなたの空から、チャクラの鎧の羽で飛行してきた悟と簀巻きのようになっている小雪の姿があった。

 

「悟に小雪さん!? いったいどういう状況なのかわからんが……っ!」

 

 2人の生還にカカシは喜びの表情を浮かべるがその様子の可笑しさに気がつく。

 

 明らかに、飛行する2人の勢いが衰えることなくこちらに向かっているのだ。

 

「オイオイ……まさかぁ……」

 

 嫌な予感を感じたカカシがそう呟くと、そのアンサーとばかりに悟の声が響く。

 

「止まれないんで、受け止めてください、カカシさん~!!!」

 

 その次の瞬間、殆ど勢いそのままカカシへと突っ込んだ悟と小雪は3人とも、発熱機の影響で解けかけている雪だまりへと突っ込む。

 

「……雪絵無事かぁ!?」

 

 その様子を見ていたマキノの声に何とか返答の声が聞こえる。

 

「……ええ、無事……こんな体験二度とゴメンよ……」

 

 悟たちはヨロヨロと雪だまりから這い出てくる。悟と小雪を結んでいた糸はカカシがその手に持つクナイで解いたようだ。

 

「お前は……ホント……常識に当てはまらないねぇ……流石の俺も一瞬死を覚悟したよ……」

 

「いやぁ、スピード出たら止まりきれなくって……すみませんカカシさん」

 

 苦笑いを浮かべばつの悪そうにする悟に、カカシはその手を悟の頭に乗せ目を細める。

 

「ま、随分ボロボロのようだが生きてるようでなによりだ……お前に何かあったらマリエに合わせる顔がないからな」

 

「ハハハ……」

 

 そんなやり取りの後、仮面の下の顔を緩めていた悟はナルト達の戦闘の様子に気がつきその緑の眼を戦闘に赴く者へと変容させる。

 

「それじゃあ、俺行ってきます。カカシさんはその様子だと、もう動けなさそうですね」

 

「ああすまない、不甲斐なくて……」

 

 カカシの立つのもやっとだという様子に悟は「待っててください」と言わんばかりに再度、チャクラの鎧の翼を広げ背を向ける。その悟に

 

「悟……」

 

 心配だという声色の小雪が声をかける。小雪は悟がどれだけ傷ついてきたのかを殆ど見ておりその体を気遣うのも無理はなかった。

 

 振り返らない悟は目線をナルト達と戦うドトウに向けたまま、小雪の心配に答える。

 

 

「小雪さん、俺たちを信じてください……そうすれば……俺たち、<忍び>は負けない……っ!」

 

 

 その言葉を残し、悟は戦闘の渦中へと飛び立っていった。

 

 

~~~~~~

 

「黒龍暴風雪!!」

 

 ドトウの放つ術は、そのチャクラの鎧の効果も相まって強力なモノでありひとたび放つたびに戦局を大きく傾けていく。

 

 幾度も放たれるその術の牙に、サクラが餌食になりそうになった瞬間

 

「サクラ、捕まえれぇ!!」

 

 悟が大声を挙げながら飛来し、サクラは悟の足を掴むことで危機一髪、術の脅威から逃れる。先ほどまで自分がいた場所が抉れる様を眺めながらサクラは悟へと声をかける。

 

「悟……アンタ、遅いのよ……でも、絶対来るって信じてた!」

 

「悪かったよ、これでも結構急いだ方だから許してくれ!」

 

 その様子を見ていたナルトやサスケ、白は悟の無事に気を持ち直す。

 

「アイツ……!」

 

「生きててくれましたか、悟君!」

 

「悟……!」

 

 そして悟の持つチャクラの鎧にドトウが反応を示す。

 

「貴様……その黒いチャクラの鎧……まさかレンゲを……!?」

 

「その通り。あとそれだけじゃない、頼みの綱の雪羅ももうない。アンタの10年越しの野望もここまでだっ!!」

 

「……貴様……貴様キサマぁあああ!!!」

 

 悟の言葉に激高するドトウは印を構え腰を低くする。すると周囲の大気が震え始め、辺りの空気がドトウに集中するように渦巻き始める。こめかみに血管が浮かぶドトウは怒りを滲ませながらも、己の野望を口に出す。

 

「……雪羅が消えた以上、この国に蔓延している雪羅のエネルギーもやがて消える……そうなれば残った雪忍どもは氷遁を扱えなくなるだろう……だがなぁ、チャクラの鎧には雪羅のエネルギーを取り込み新たな<核>となる機能も備わっている……つまりだ」

 

 その瞬間、ドトウを中心に衝撃波が発生し木ノ葉の忍び達を吹き飛ばす。

 

 空中で何とか態勢を整えた悟は飛んだままサクラを背に乗せ、ドトウの様子を伺う。先ほどまでとは違い常に黒いチャクラの膜に覆われた状態になったドトウは苦しそうに額に汗を滲ませている。

 

「明らかに無茶をしている……だが」

 

「そう、今、ここでぇ!! 貴様らを殺しさえすれば、あとで何度でもやり直せるのだ!!」

 

 嫌な予感を察した悟の呟きにドトウは答えを示す。明らかに異常なまでに膨れ上がったチャクラを練り上げたドトウの放つ黒龍暴風雪は嵐を巻き起こし、周囲を薙ぎ払い始めた。

 

(人工尾獣・雪羅の力を集めた、人工的な人柱力……って所か……不味いなっ)

 

 自身を追いかける黒龍の形を模した嵐に何とか飛行速度を高め逃げ続ける悟。背に乗るサクラはこの状況に悲観することなくブツブツと呟きながらも勝機を伺っている。

 

 地上のサスケたちも、数の増えた黒龍から逃れるのに必死であった。反撃の糸口が見当たらないこの戦況。

 

 

 

 それでも木ノ葉の忍び達の目に宿る光が鈍ることはなかった。

 

 

 

「悟……ドトウのチャクラの鎧を壊す方法があるかも……っ!」

 

 気づきを得たサクラが、そう悟へと語りかける。

 

「だけど、かなり無茶な方法だし、それに私なんかの作戦じゃ……」

 

 しかし自信を持てないのか、躊躇するサクラに悟は明るく声をかける。

 

「大丈夫だ、俺たちなら無茶をやり通すことなんて造作もない。それに……俺はサクラの事もすごい奴だって知ってるからな、そんなサクラの作戦なら心配ない!」

 

「私が……っ」

 

 未来を知るからだけでなく、一緒に里で過ごしてきた仲間としての悟の自信の溢れる言葉にサクラもまた答えようと勇気を振り絞る。

 

「……まず、術を打ち消すチャクラの鎧のあの保護膜……アレは鎧の膜同士でぶつかると干渉を起こしてしまうみたいなの。さっきナルトとサスケ君と一緒に倒したミゾレとフブキがお互いにぶつかった時にそれを確認したわ」

 

「つまり俺が着てるコイツの保護膜をドトウの鎧にぶつければいいってことか……!」

 

「ええ、だけどその為にはこの攻撃をかいくぐらないと……それにドトウの鎧の力は何だか強くなってるみたいだから壊せるっていう確実性はないのだけど……」

 

 会話を続ける2人に迫る黒龍に、悟は急旋回し突っ込む。ぶつかる瞬間に螺旋軌道で飛び黒龍をすれすれで回避した悟は、背にしがみつくサクラへと指示を出す。

 

「影分身で作戦を地上の3人に伝える! サクラ、腕が使えない俺の代わりに影分身の印を結んでくれ!」

 

「印をってそんなこと……できるの?」

 

「俺たちなら出来る、特にチャクラコントロールが得意な俺たちならな……!」

 

 悟は、直接は見てはいないがナルトが我愛羅との戦いで行ったであろう、ガマブン太とのコンビ変化の要領を真似して影分身を発動させる。

 

 印を結んだサクラと悟の残り少ないチャクラを使い発動した影分身は、不安定ながらもその形を成し地上へと降り立ち走り始める。

 

「おお、思ってたよりすんなり術が使えたな、流石俺たち」

 

「っ攻撃が来るわ、悟!!」

 

 悟の少しの歓喜を打ち消すように再度黒龍が3つ迫ってくる。

 

「頼んだぜ、3人とも……っ!」

 

 迫る攻撃をかいくぐりながら悟は反撃の機会を待つのであった。

 

 

~~~~~~

 

 地上では瓦礫に身を潜める白の元へと悟の影分身が訪れ、作戦を伝えていた。

 

「ええ、わかりました。つまり僕たちで隙を作ればいいわけですね」

 

「ああ、出来そうか?」

 

 悟の影分身の問いかけに、お互いの面越しに視線を合わせ白は答える。

 

「愚問です、やって見せますとも」

 

「……よし、頼んだぞ白」

 

 そう言って煙を上げて消えた悟の影分身を尻目に白はドトウの様子を伺う。空中では悟たちが、地上ではナルトとサスケが黒龍の脅威にさらされている。

 

「まずはサスケ君とナルト君との合流ですね……」

 

 そう呟いた白は大きく深呼吸をする。

 

(ドトウのあの強化は大気中の<雪羅の力>を取り込んだものだろう……船でのカカシさんの推察を考慮すれば元より氷遁が扱える僕にも同じことが、いやそれ以上のことが出来るはず……)

 

 目を閉じ呼吸を整え、無音の精神へと潜る白。

 

 大気の<それ>を感じるために集中を深める白が気がつくと、先ほどまでいた虹の氷壁とは別の場所に自身がいる事に気がつく。

 

(此処は……ああ、なるほど僕の精神が反映されている空間……ですか)

 

 雪降る森の中、白は目の前にある小さな小屋に目線を送る。隙間風も多そうな簡易的でボロボロな小屋。それでも懐かしさを感じさせるその小屋の中へと白は足を向ける。

 

 戸を引けば、小屋の中の囲炉裏の中心に青い炎が小さく灯っているのが分かる。

 

「これは……」

 

 その光景に何か納得のいった様子の白は徐にその炎を両手で包み込むように囲う。するとその青い炎は手を伝わり、白の全身へと広がり炎の規模が広がる。

 

「アノの邂逅の時に、僕の中に欠片が宿っていたのですね……<アナタ>が何者であるかなどは関係ありません。ですが、どうか今は一緒に闘ってください……っ!」

 

 

~~~~~~

 

 

 黒龍の脅威がナルトとサスケに迫る。ナルトは影分身を使いトリッキーに逃げるもジリ貧になり追い込まれている。

 

 一撃一撃が鮮烈な術の脅威に焦りを感じたナルトに死角から不意に多数の黒龍が迫る。

 

「っナルトォ!!」

 

 それに気がついたサスケの叫びをかき消すように黒龍がナルトを影分身ごと飲み込み地面を揺らす。

 

「ますは……一匹……っ!」

 

 取り込んだ力の脈動に脂汗をかきながらも、ドトウはナルトを仕留めたことに笑みを浮かべる。

 

 しかし土煙が晴れた先、黒龍の抉った地面にはナルトが居た形跡がなく少し離れたサスケの元に水晶の鏡が現れる。

 

「ドトウ、アナタは僕たちに負ける……誰一人……欠けることなく……っ!」

 

 その鏡から、ナルトを抱えた白が現れる。しかしその様子は、普段の彼女と異なり彼女の髪の一部が白く変色している。

 

「サンキューだってばよ、白。危機一髪だったぜ……」

 

「白か……お前のその様子……」

 

「説明は後です、サスケ君。ナルト君も聴いてください、サクラさんからの作戦です」

 

 ドトウの気のゆるみが生じた一瞬に情報の共有を済ませた3人は一斉にその場から散らばる。

 

「さあて、反撃の時間だってばよ!! 多重影分身の術」

 

 走りながら印を組んだナルトは数百の数に増え、数体の影分身がさらに印を結ぶ。

 

「うずまきナルト・多重砲弾の巻ぃ!!」

 

 風遁・烈風掌により飛ばされるナルトの影分身たちの物理的な波がドトウを襲う。視界を塞ぐような幾重にも連なる光景にドトウは印を結び対処を試みる。

 

 そのナルトの反対側では、サスケが印を結び終え大きく息を吸い込む。

 

「火遁・豪火球!!」

 

 強化されたチャクラの鎧の効果で、豪火球もナルトの影分身も振れた傍からかき消されるがドトウの視界は確実に塞がれる。

 

「小賢しいっ! 双龍暴風雪!!」

 

 両腕をそれぞれナルトとサスケの居た位置に向け構えたドトウの手から黒龍が放たれ、豪火球と影分身を押しのけながら2人に迫る。

 

 その瞬間、辺り一帯、地上と空中問わず魔鏡水晶が広範囲に展開される。

 

「氷遁秘術・群像魔鏡……!」

 

 白の術が発動し、現れた幾数の鏡にナルトとサスケが飛び込み術から逃れる。一時的にチャクラの増している白が展開した魔鏡がナルトとサスケの移動をカバーし、彼らの攻撃をサポートする。

 

「サポートだけで終わりません、氷遁・燕吹雪の術!」

 

 印を瞬時に結び終えた白は、自信も術を放ちドトウへと攻撃を行う。

 

 その様子を見ていた、カカシは

 

「あの術は、雪忍の一人が使っていた術……! なるほど、白君が使えても疑問はないか……」

 

 コピー忍者として、白の行動に少し好感を示していた。

 

 炎と氷と影分身が入り乱れる戦場。マキノたちもカメラを回しながらその様子を見守り、小雪も両手を握りしめて彼らの勝利を願っていた。

 

 ドトウの頭上、その遥か高度から人影が落下する様子に、遠巻きで見ていた彼らは気づく。

 

 

 

「大丈夫、私ならできる……皆の役に……立つのよ……っ!」

 

 上空から1人自由落下でドトウへと迫るサクラ。彼女は持てる限り、外套や懐、ポーチに仕込んだ忍具をドトウの元へと手あたり次第にバラまく。

 

 チャクラの鎧がそれらの忍具を弾くが、その全ての忍具に結びつけられた小袋が弾け、小さな紙が舞う。

 

 その紙は桜吹雪のごとくドトウの周囲を舞い、埋め尽くし最後にサクラが投げた小型の爆弾がチャクラの鎧の膜に触れ爆発。

 

 紙吹雪の正体は全てが小型の起爆札であり、誘爆により全ての札が爆発を起こし大規模の爆炎を巻き起こす。

 

 その衝撃さえも受けきったドトウは苛立ちを募らせ、周囲を爆炎と煙に覆われた中、上空から落下してくるであろうサクラに向け黒龍を放つ。

 

 空中での回避の手段を持たないであろうサクラ目掛け放たれた術はしかし、術とサクラの間に現れた魔鏡がそれを防ぎ、サクラは魔鏡に吸い込まれ姿を消す。

 

 黒龍が魔鏡を砕いた瞬間、その黒龍により煙が晴れドトウの視界にあるものが映しだされる。

 

 保護膜が発生している、無人のチャクラの鎧が。

 

「なっ……!?」

 

 驚きの声を挙げたドトウだが、その瞬間にチャクラの鎧同士が干渉を起こし、激しいスパークを起こす。

 

 苦しみに吠えるドトウの声が響く中、虹の氷壁の壁面にサクラの外套を咥えて立つ悟は喋る。

 

「ほへへへ、ふへ、ほへほ、ふふふへへ……」

 

「何て言ってるかわかんないわよ悟、まあなんとか作戦……成功ね」

 

 勢いをつけて身体を揺らし壁面にチャクラコントロールで吸着したサクラ、それを確認して悟は外套を口から離す。サクラはスパークを起こしているドトウに目を向けながら呟く。

 

「悟が鎧を着たままだと、あの干渉に悟まで巻き込まれちゃうから……どうにかして鎧だけをドトウにぶつけたかったけど……」

 

「保護膜を発生させた鎧に気づかれて術で弾かれたら、それで一巻の終わり……出来るだけ地表組に気を反らしてもらっている間に、この氷壁の上でサクラと鎧をひもで結んで俺がサクラをドトウの頭上まで足で蹴り飛ばす……」

 

 サクラの呟きに続きに合わせ悟も一連の流れを振り返る。

 

「あとは私が忍具を使ってギリギリまで、頭上からドトウに接近……このとき私に繋いだ鎧は影手裏剣の要領で、ドトウから見えないから……」

 

「白の魔鏡で移動する寸前にクナイでつないだひもを切り、魔鏡でサクラをここまで白に飛ばしてもらい俺が受け止め、残った鎧だけがドトウにぶつける……いや~何とかなるもんだな!」

 

 壁面を降りるサクラは悟をジト目で見る。

 

「まあ、自由落下の勢いを殺す算段を用意して無くて、悟が力技で何とかした以外は良かったと思うわ」

 

「急ごしらえの作戦だったから、詰めが甘くても目的さえ果たせれば良いんだよ、自信もてサクラ」

 

 完璧に上手くいかなかったことにサクラが少しナイーブになるも悟は励ましの言葉を掛け、2人して地面まで降り地表組と合流する。

 

「上手く行きましたね、皆さん」

 

 白が嬉しそうにそう声をかけるも、不意に態勢を崩して倒れこむ。咄嗟に近くにいたナルトが白を抱える。

 

「大丈夫か白!?」

 

「ちょっと……無理し過ぎたみたいですね……それは皆さんもなんですけど……不甲斐ない」

 

 バチバチとスパークを起こしていたドトウの周辺で音が止む。悟たちがそちらに目を向けるとドトウは空を見上げ白目を向き、立っていた。

 

「……やったか?」

 

 静けさにの中、サスケのその言葉の瞬間

 

 

 

 ドトウが雄たけびを上げる。

 

「まだだっ……まだ終わってない!!!!」

 

 

 一斉に構えを取る一同。ドトウは身体から焦げた黒い煙を上げながらもゆっくりと印を結ぶ。

 

「チャクラの……鎧の核に傷がついたが……まだだ……私の夢は終わらない……虫の息の貴様らなぞ……」

 

 涎を垂らし、怒りに顔を歪めドトウが吠える。

 

「殺してやる!!」

 

 ドトウの放つ術が再度、周囲に嵐を起こす。

 

 満身創痍の一同、しかし誰一人諦めるものはいない。

 

 そこに小雪の声が響く。

 

「皆……私は信じるわ……あなたたちは、風雲姫が認めた最高のチームよ!!! お願い、ドトウをうち倒して……この雪の国に平和を……っ!!!!!」

 

 その切なる願いのこもった声援に

 

「フンっ俺たちは、俺たちの任務を遂行するそれだけだ……いくぞ」

 

 サスケが先陣を切り、前に出ると左手にチャクラを集中させ青白い(いかづち)を放つ。

 

 しかしチャクラ量の限界か、その目は既に写輪眼を維持できずにいた。

 

 それでも直線、ドトウへ向け駆けるサスケ。

 

「死にぞこないが……っ! 黒龍暴風……っ」

 

 手を正面に構え、術を放たんとするドトウの腕に手裏剣が突き刺さり動きを止める。

 

「自動ではもう、チャクラの膜は発生しない……っ!」

 

 手裏剣を放ったサクラの妨害で、ドトウはサスケに対して拳を放つ。写輪眼がない今のサスケはその攻撃を見切ることが出来ない……が

 

 ドトウの拳が捉えたのはサスケではなく氷で出来た魔鏡であった。

 

「これで……限界……ですっ」

 

 術の行使と共に白の白く染まっていた一部の髪は元に戻り、白は膝を着く。

 

 瞬間ドトウは自身の左から来る死の予感に咄嗟に手をかざす。

 

 バチンと大きな音が鳴り響いた後に、雷の轟く音が響く。

 

「野郎……まだチャクラの鎧が……っ」

 

 サスケの苦言はドトウがかざした手からチャクラの鎧の保護膜が発生していることについてだった。

 

 鎧の核に傷がつき、自動では効果は発生しなくなっているがドトウは保護膜に指向性を持たせサスケの千鳥を防ぐ。

 

「まだだ……まだ……まだぁっ!!!」

 

 必死の形相のドトウは叫ぶ……10年の歳月、それ以前からのうっ憤。自身の夢が打ち崩されんとするその現実を否定するかのように。

 

 サスケの千鳥とは別の雷鳴にドトウはサスケの反対方向にも右手を使い保護膜を発生させた。

 

「飛んでないけど、飛雷脚!!」

 

 大きく青白い火花が散る。悟の放つ雷を纏った上段蹴りがドトウの右手の保護膜とぶつかる。八門も開けていないため、青白いままの雷を纏った悟の蹴りとサスケの千鳥に挟まれ、ドトウは汗を垂らし唸る。

 

「っ……悟……そんなもんかよ、随分とひ弱な蹴りだな?」

 

「ああ!? まだまだだっ!! サスケもバテてんのか雷が小さく見えるぞ!!」

 

 ドトウを挟んで飛ぶサスケと悟の煽り合い、2人は残りのチャクラを振り絞り一段と大きなスパークを起こす。それでも破れないチャクラの鎧。

 

 サスケと悟は大きく息を吸い込み、叫ぶ。

 

「「さっさとこい、ウスラトンカチぃ!!!!」」

 

 

 

 

「誰がウスラトンカチだ、コラ……」

 

 

 

 

 ドトウの正面、大きく渦を巻くように風が1か所に集まる。

 

「……知ってるか、ドトウ。終わりってのはなぁ!! 正義が勝って、悪が負ける。ハッピーエンドに決まってんだよォ!!!」

 

 うずまきナルトが吠え、その右手に持つ螺旋丸を掲げ走る。

 

 

 

 その瞬間、朝日が昇り虹の氷壁がその光を照り返し辺りに光が散らばる。

 

 螺旋丸がその光をさらに反射し虹色の輝きを放ち、まるで虹色の竜巻がナルトの右手に集まるかのような光景を作り出す。

 

「映画の……風雨姫の……虹色のチャクラみたいっ」

 

 その光景を見てそう呟くサクラ。

 

 

「行けぇええ、小僧!」

 

 マキノ監督の声が響き、そしてその場の誰もが、後に続いて叫ぶ。

 

 

『行け、ナルト!!!』

 

 

 

――――螺旋丸!!!

 

 

 

 ドトウへと炸裂した螺旋丸は、一瞬小さく収縮し瞬間、大きく爆ぜドトウを遥か上空へと螺旋軌道で吹き飛ばす。

 

 サスケと悟もその螺旋丸の炸裂に左右に吹き飛ばされつつもドトウの行方を目に追う。

 

 ドトウは虹の氷壁の朝日を反射している氷壁と叩きつけられ、そこに大きなヒビを入れる。

 

 そのヒビが広がり、氷壁が崩れ去ることで強い光が辺りを照らし周囲の光景を大きく塗り替えていく。

 

 雪の残る、荒れた土地に、青々とした草原が一瞬で広がる。

 

 その魔法のような光景に仰向けに倒れている悟は呟く。

 

「これは……立体映像……って奴か……すごい技術だ、まるで春の光景みたいで……温かい」

 

 周囲の人間はその現象に戸惑いを見せ、マキノ監督と助監督もその映像技術に奇声を上げていた。

 

 唯一、小雪は悟の元へと走り寄り近くへと膝を着く。

 

「ねぇ、悟これって……」

 

 悟を抱き起した小雪の言葉に悟が答えようとしたときに、声が響く。

 

 

『未来を信じるんだ、そうすればきっと春は来る。小雪は春になったらどうしたい』

 

 その音声に合わせ、虹の氷壁から映しだされた立体映像が空に幼少の小雪を映しだす。

 

「この声、お父さん……それにアレは私……?」

 

 はつらつとした小さな小雪は明るい笑顔を作り語る。

 

『小雪はね、おひめさまになるの!!』

 

『ふうん? どんなお姫様かな?』

 

『う~とねぇ……やさしくてぇ……つよくてぇ……そんでもってせいぎのみかたのおひめさま!!』

 

『はっはっはっはっは、それは大変だなぁ!!』

 

 父と娘、和やかなそんな過去のやり取りの映像に

 

「私……あんな事言ってたんだ……っ」

 

 小雪が涙を目に溜めて呟く。

 

『でも、その夢をずーーっと信じていればきっとなれるさ』

 

 立体映像の小雪の背後に風花早雪が映り、六角水晶を小雪の首元へと着ける。

 

『見えるだろう? ほらここにとってもきれいなお姫様が立っている』

 

 微笑む早雪。映像の小雪は水晶の首飾りを笑顔で手の中で弄り喜ぶ。

 

「……なれるよ、小雪なら……立派なお姫様に……」

 

 優しい声色の悟が小雪の手を握り語りかける。

 

「うんっ……うんっ……!」

 

 涙をポロポロと零しながらも小雪頷き答える。

 

『でもね、小雪なやんでるの……もう一つなりたいものあがあってねぇ……』

 

 涙を指でふき取った小雪は、過去の自分の笑顔に顔を向ける。

 

『じょゆうさん!!』

 

 その言葉に、小雪は笑みを零した。

 

 父と、娘。幸せそうな笑い声が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 満足そうに、地面に身体を預けた悟は呟いた。

 

「これで……ハッピーエンドだ」

 

 

 



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74:雪姫忍法帖:エピローグ

 桜……のような花飾りが散る戴冠式。

 

 雪の国の新たな幕開けを祝うかのような壮大な式は、なんと、ドトウを打倒した当日に行われた。

 

 ドトウに虐げられてきた多くの雪の国の民たちは戴冠式を行う城の広間に集まり、城のバルコニーから姿を見せた新たな君主の姿に大きな歓声を上げる。

 

 発熱機の効果で、温暖な気候を呈していた区域はドトウの打倒を受け大きな賑わいを見せていた。

 

 歓声が止まらない中、一度手を振り眼前に広がる民たちの姿に視線を向ける風花小雪。

 

「……っ!」

 

 ふとその中で父が微笑んでいる……そんな気がした小雪は飛び切りの笑顔を民へとみせ一度、城の中へと引き上げていった。

 

~~~~~~

 

「はぁ~~~~つっっかれたぁ……」

 

 豪華な着物に身を包んだ小雪は先ほどまでの威厳のある姿から一変、城の中の一室の椅子へと座りへたり込む。

 

「ひ、姫様……行儀がわるぅございます……!」

 

 その様子に、身なりを整えた三太夫が慌てて近づき、着物が皺にならないように手で整える。

 

「三太夫!! アンタ、ドトウ倒した当日にこんな戴冠式やるなんて馬鹿じゃないの!?!? アンタの怪我も全然治ってないでしょ!!」

 

「ははぁ……いやしかし、木ノ葉の忍びの方たちに後を託したのちに我々に出来ることが思いつきませんでしたので……姫様の勝利を信じて……こう……準備だけでもと……」

 

「消極的な奴だと思ってたけど今回の出来事でアンタへの評価が変わったわぁ……行動力のあるおバカなお節介焼きってねぇ!!」

 

 フンっと鼻を鳴らした小雪に三太夫は頭をペコペコ下げて謝っていた。

 

 するとコンコンッと部屋の扉がノックされる。

 

「姫様、仮面の忍び様をお連れいたしました」

 

「どうぞ~」

 

 侍女の声に間の抜けた小雪の返事が返され扉が開く。そこには悟がいた。流石に服も着ていない戦闘直後の状態ではなく、雪の国の衣装に身を包み仮面をつけた姿であった。

 

「俺だけ呼ばれてきましたが……何か御用ですか?」

 

 かしこまった様子の悟は、その場から下がっていく侍女に頭だけで軽く礼をして部屋の中に入る。

 

「三太夫……」

 

 そう呟いた小雪は顎で三太夫に部屋から出ていくように指示する。

 

 汗をハンカチで吹きながらも三太夫は一礼をして扉を閉め部屋から出ていく。

 

 少しの無言が部屋の空気が占める。

 

「とても似合っていますよ、その衣装。流石小雪姫……」

 

 悟がお世辞を言うと鋭い目つきの小雪のガンつけが飛び少し怯む。

 

「……ぷっ……アハハハハ! 変にかしこまらなくて良いわよ……アンタ、手が動かないと下のパーティーで碌に食事も食べられないと思ってね」

 

 朗らかに笑った小雪は悟の包帯の巻かれた両腕に指をさし、部屋の机に広がる豪華な食事にそのまま指先を向ける。

 

「ほら、今は私以外いないからアンタのその仮面外して食べさせてあげるわ」

 

 椅子から立ち上がり、机の上の料理をさらに盛り付け始めた小雪に悟はぎょっとする。

 

「え゛あ゛!? そんな、いいってそんなこと……っ!!」

 

「遠慮したら、雪の国でアンタの事指名手配犯にするから」

 

 ビシッと悟にフォークの先を突きつける小雪。

 

「……横暴極まってんぞ……っ!!!」

 

 そう言いながらも悟は渋々、席へと着く。一度顔を見られている以上、下手に駄々をこねても仕方ないと持ったのだろう。

 

「そう、お姫様のいう事は聞いておくべきよ♪」

 

 機嫌を良くした小雪は悟の仮面を外し、皿の料理を悟の口へと運ぶ。

 

「……やっぱハズかし「火の国との貿易断っちゃおうかな~?」……はむっ」

 

 有無を言わさない小雪に、悟は顔を赤らめながらもフォークの先の肉を口に含んだ。

 

「どう?」

 

「美味しい……香辛料が独特かも」

 

 咀嚼しながら照れてる悟に、にっこりとした笑顔で小雪は料理を口に運び続けた。

 

 

~~~~~~

 

 城下の会場では悟を除いた木ノ葉の面々が食事を行っていた。

 

「小雪さん、綺麗だったわね!」

 

「ええそうですね、流石女優さんです。そうでなくともああいう衣装は少し憧れるもので……」

 

 サクラの言葉に白が返事をし、場は盛り上がっていた。

 

「はぁ~今回ばかりは、お前たちの成長のすごさを見せつけられて、先生、感動しちゃった」

 

 おちゃらけてそういうカカシにナルトは口の中に食事を運びながらも

 

「まあね、まあね、まあねぇ!! やっぱ俺ってば火影に成る男!! こんな任務なんてお茶の子さいさいぃ!!」

 

 そう気分を良くしてはしゃいでいた。

 

 サスケも黙々と食事をしているが、サクラがあれこれと持ってくる料理に少し参った様子を見せていた。

 

「ああでも、あの発熱機って未完成何ですって、しばらくしたらまた冬に戻るみたいよ」

 

 サクラが小雪から聞いていた情報を口に出す。それに白が答える。

 

「それでも、この国の人たちなら開発を進めてより良いものが出来ると思います。そう……いつか春の国と呼ばれるぐらいに……」

 

「……意外だ。お前って、そういうことも言うんだな、もっと感情がない奴だと……いてっ」

 

 サスケの意外だという言葉に白は無表情で机の下で蹴りを入れる。

 

「まあまあ、一件落着ってね! あとはこの国の人たちに任せて、俺たちは午後の便で火の国に帰るぞ」

 

「ええ!? もう帰っちゃうんですかカカシ先生!? もっとゆっくりしていきましょうよ~」

 

「あ・の・ねサクラ、任務は小雪さんの護衛でもあったけど、映画スタッフたちの分の護送もあるのよ。マキノ監督が気合い入って映画作りしたいって言って火の国に帰りたがってるから忍びの俺たちはそれに従うしかないの、わかったか?」

 

「は~い……」

 

 渋々と言ったようすのサクラ。カカシはたしなめるように優しく言い聞かせ、食事を終えたら帰りの準備をする様に言い聞かせた。

 

~~~~~~

 

 一方食事を終えた、悟と小雪。机の上には皿が幾重に重なっていた。

 

「アンタ、結構量を食べるのね……まあ、あんなに凄い動けるし忍びなら食べて当然なのかもね」

 

「普段は食事量は控えてるけど、まあ今回は良いかなって……」

 

 ふうっと一息ついた2人。ふと小雪が呟く。

 

「……君主かぁ……」

 

「……やっぱり不安か?」

 

「まあね、口と態度で誤魔化すのは女優の専売特許だから……正直不安よ」

 

「……」

 

「でも大丈夫よ、何てったって小さい頃の私の夢なんだから。どんなことがあっても挫けないわ」

 

「フフっそうだな」

 

 お互いに笑みを浮かべる。ふと小雪は悟の顔をまじまじと見つめる。

 

「な、なんだ?」

 

「いやぁこう見ると中性的な……いやどちらかというと女性的な顔立ちしてるわねアンタ」

 

「よく言われる」

 

「それに声も結構高いし……」

 

「それも良く言われる……なんだよ急に」

 

「いやもしアンタと共演するならどんな作品になるのか気になっちゃって」

 

 その小雪の言葉に悟は疑問符を浮かべる。

 

「共演って……小雪は女優はやめて君主になるんだろ? 何言って……」

 

「誰が止めるなんて言ったのよ?」

 

「……はあ!?」

 

「雪の国の君主も……女優も両立させるわよ、ここで諦めるなんてばかみたいじゃない?」

 

 飛び切りの笑顔の小雪に悟は、少しの間呆けてその後笑い始める。

 

「……アンタの言葉、忘れないから。悟も、あの約束忘れないでよ?」

 

「……おう」

 

 

 

 

 その後、悟は仮面を着け部屋を後にしようとする。

 

「ああ、渡し忘れるところだったわ」

 

 ふと小雪は、大きめのバッグを悟へと背負わせる。

 

「ん?」

 

「お土産よ、お土産」

 

「何か異様に重くないか……?」

 

 そのバッグの重さに違和感を覚える悟が小雪に中身を聞く。

 

「そんなに種類は多くないわよ? 私のサインの色紙、人数分でしょ? それと雪羅の核になってた鉱石の一部」

 

「ん……んんん!? とんでもないモノじゃねぇか!?」

 

「私の色紙はレアよ? そりゃ将来とんでもない価値に……」

 

「いやいやいや!? そっちも嬉しいけど、あの鉱石の一部って……」

 

「大丈夫よ、今は何の変哲もない鉱石だって三太夫たちに確認してもらったし……ほら鉄の国の侍が使ってるチャクラを通しやすいっていうアノ鉱石、それと一緒よ」

 

「一緒……ではないと思うけど……まあ、うん……それじゃあ有難くもうらうよ……」

 

 あまり納得の行っていない悟だが、無理無理小雪に持たされたそれを無下にも出来ず、そのまま港へと向かった。

 

 

 お忍びの小雪や三太夫らに見送られ、悟たちを乗せた船は火の国へと向けて出航した。

 

 出会いと別れ、そんな春の出来事のような、そんな任務は終わりを迎えたのであった。

 

 

 



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それぞれのターニングポイント
75:最後の日


 深夜の静けさが漂う海原の上、火の国へと向かう船の中で木ノ葉の忍び達は一室に集まっていた。

 

「白が熱だした!?」

 

 黙雷悟が確認の為に、サクラへとそう問いかける。

 

 雪の国からの帰りの船で白と同室になっていたサクラは、体調不良を訴える白を心配に思い午後は付きっ切りで看病していたと語る。ちなみに他の面々も任務の疲れから午後のほとんどを体力回復に努めるために睡眠を取っていた。

 

「サクラちゃん、何で言ってくれなかったんだってばよ~? 白が熱出してるなら俺たちも何か……」

 

「白本人があまり心配かけたくないからって……ていうかナルト、そういうアンタは特にこういう時何もできないでしょ?」

 

「うぐっ……その通りだけどさー……心配じゃんか~」

 

 サクラの言葉にうなだれるナルト。その様子を見て鼻で笑ったサスケは提案を出す。

 

「零班組は、木ノ葉に戻ったら先に帰路につくと良い。帰還後の火影への任務の報告は第七班で済ませる……それで良いだろうカカシ?」

 

「ま、そうだね。確か悟も白君も、同じ家に住んでるからそのほうが都合がいいでしょ?」

 

「……そうですね、お言葉に甘えて戻ったら白を連れて先に施設に帰らせてもらいますね」

 

 サスケの提案に、カカシも賛成し悟はその提案を受け入れた。特に零班の2人の消耗が激しいのは、誰の目に見ても明らかであるからであろう。

 

「じゃ、明日の早朝にでも木ノ葉には着くそうらしいし、悟は今回の任務の報告書の作成手伝ってね」

 

 カカシはそういい、悟と2人部屋に残り任務の報告書の作成に取り掛かった。

 

「そんじゃあ、俺はもういっちょ寝てこようかな~」

 

「そうねぇ私は午後寝てなかったし……今回の任務も、いろいろ堪えて……はぁ、休める時に休んでおきましょ……」

 

「……」

 

 ナルトとサクラは自室へと戻ったが、サスケは1人無言のままその部屋に留まっていた。

 

「どしたのよサスケ? お前も随分と無茶しただろうから寝てきても良いぞ?」

 

「そういうならカカシ……お前も、最後の方は身体を動かすことすらままならなかっただろう? 俺にも報告書の作成ぐらい手伝わせろ」

 

 普段の様子からは思っても見ないサスケの厚意に、カカシは目をぱちくりさせながらもニコッと笑顔を作り「じゃ、よろしくぅ♪」と返事をし、各自書類作成に取り掛かった。

 

 

~~~~~~

 

「んで、悟。どうやって雪羅を止めたのかを聞きたいんだけど……その両腕の怪我とも関係もあるんでしょ?」

 

「そうですねぇ……ええと、俺も無我夢中だったからなぁ……」

 

 カカシが雪羅の件を悟に聞いているが、どうも反応がよろしくない。当然のことだが、自分が写輪眼と九尾の力を使って正面から打倒したなど言えるわけもなく……

 

「えっと~……その、小雪さんと穴に落とされた後にチャクラの鎧と雪羅の制作に携わっていたという風花レンゲとかいう男がいて……」

 

 悟は何とかカバーストーリーを考え、任務報告書に記載していく内容を口頭で説明していった。

 

(真相を知るのは俺と、小雪だけだからなぁ……よっぽどバレはしないだろう…… 多分)

 

~~~~~~

 

 書類作成も一段落して、最後のまとめをカカシに任せ悟とサスケは2人月に照らされながら甲板で一休みを取っていた。

 

「ホント今回の任務は……きつかった……」

 

「フッ……お前はいつも、自分からイバラの道を進んでいってるようなものだから……いつものことだろう?」

 

「やりたいことやろうとすると、勝手にそうなるんだよな~、俺も別に傷つくのが好きなわけじゃないし……」

 

 2人の他愛のない会話が続く。

 

 ただ波の音だけが聞こえる船の上、サスケは縁に背を預け、上空の月を見上げる。

 

「……」

 

「どうした、サスケ?」

 

「……俺も……やりたいこと……成し得たいことのために……動こうか、てな……」

 

「……そうか……俺は、応援するよサスケの事」

 

「……フッ……わかってるのか? 俺が成そうとしていることは……」

 

「木ノ葉だとか……里とか……確かに大事だけど……たった一人の家族には代えられない……そうだろ?」

 

 仮面の奥から覗く真剣な悟の目に、サスケは敵わないとため息をつき、歩き出す。

 

「それじゃあな、俺はもう寝る……お前もさっさと寝て腕直せよ」

 

「おう、実はもう動かすだけならほとんど支障はないんだがな!」

 

(回復力は相変わらずでたらめだな……)

 

 悟に見えないよう、苦笑を浮かべたサスケは船の自室へと戻っていった。

 

「……。さあて俺も寝ようか……ん?」

 

 悟が両腕を上げて伸びをし、歩き出そうとするとスッとナルトが姿を表す。

 

「ナルト……寝たんじゃないのか?」

 

「ああ、悟……いやな? 九喇嘛の奴が何か悟の所に行けってうるさくてな~……今回全然力貸してくれなかったくせに偉そうに……」

 

(九喇嘛は今回、結構協力的だったと思うけどな……ナルト的には何か不満でもあったのか……?)

 

 不満そうなナルトに対して、愛想笑いをした悟はそのまま、精神を集中しナルトの精神世界へとコンタクトする。案の定、九喇嘛からの誘いがあるのかすんなりと九喇嘛の檻の前まで来る悟。

 

「どうも、九喇嘛。今回は助かったよ」

 

 手を振り、挨拶を兼ねて感謝を述べる悟。しかし九喇嘛は機嫌が悪いのか、目を閉じたまま鼻を鳴らして返事をするのみであった。

 

「ど、どうした? 何か気に障ることでもあったか?」

 

「……てめぇに預けたチャクラ、どうやら全部使っちまったようだからなァ? ワシは知りたいことが何も知れなんだのだ……全く、徒労とはこのことだなァ?」

 

 随分といじけた感じの九喇嘛に苦笑を浮かべる悟。

 

「いやあ、それは色々と悪かったよ……でも()()()()()()()からの提案で、雪羅との戦いに全力を尽くしたわけで……心強かったよ、ホントありがとうな?」

 

 手を合わせペコペコと平謝りする悟を、チラリと細目で見る九喇嘛。

 

「……悟よ……1つ聞きたい」

 

 姿勢を正した九喇嘛は真剣な目で、悟を見下ろす。

 

「な、何……改まって……」

 

「……ワシが人間を嫌うのは、ワシの身勝手な行いだと思うか? ……ワシが間違っていると、思うか?」

 

 悟を試すかのような九喇嘛からの質問。流石の悟も、真剣な顔つきになり顎に手を当て考え込む。

 

「………………俺的には」

 

「ふむ?」

 

「そう言うことに、間違いだとか正解はないと思う……な、うん。結局は自分が感じることが自分にとっては大事な指標だと思うし……九喇嘛が人間を嫌うのもまあ……俺個人は理解できる……いや、してる? ……まあ分かってるつもりにはなってるよ」

 

「……」

 

「俺的にはそりゃあ、知り合った全員と分かり合えるなんて思ってはいないし……だからって逆に分かり合えるって思っている奴を馬鹿にする気もない……ありきたりだけど、時と場合による……としか言えないかな」

 

 何とか自分の思いを言葉にして話終えた悟は、精神世界にも関わらず、疲れたという様子で一息つく。

 

「……ワシとナルトは分かり合えると思うか?」

 

「……それこそ、九喇嘛とナルト次第だと思う。九喇嘛が納得いってないなら今は無理する必要はないよ……いつか……最終的に自分が良いと思える落としどころを見つけたらいいさ」

 

 ……少しの沈黙の後九喇嘛は前足で胡坐をかき再度目を閉じる。

 

「なに? ナルトと何かあったのか?」

 

「……いやいい。ワシも少し……考えるところがあったというだけだ、柄にもねぇがな……」

 

 ふうん? と言いあまり納得の行かない様子の悟は、しかしあまり追及するのも意地が悪いかと軽く挨拶をしてナルトの精神世界から消えていった。

 

 

 

 

 スッと……消えたと思われた黙雷悟が九喇嘛の前に姿を再度表す。

 

「ん……てめぇ……()()()の方か?」

 

「ご明察、僕も九喇嘛……お世話になった君に挨拶をしておこうかと思ってね?」

 

「フン……てめぇに名前を呼ばれるなんて気色悪ィ……何があったが知らんが、ワシは慣れ合うつもりは…………ッ!?」

 

 突然現れた黙に対して素っ気なく振舞おうとする九喇嘛だが、黙が九喇嘛に対して手をかざすことで、話を止め黙りこむ。

 

「僕はあまり借りを作るのは好きではないからね……借りたものを返すよ、()にも言った通り僕は雷を信用しているから()()()()()()

 

「……黙、てめぇえっ!?!?!?」

 

「おお、怖い怖い……サッサと寝るに限るねこれは……」

 

 お互いに言葉を出さずに何かのやり取りを済ませ、黙は存在を薄れさせ消える。

 

「……ぐっ……ぐぬぬぬぬぬうううううっがあああああ!!!!」

 

 何かに身悶える九喇嘛の唸り声がナルトの精神世界に響き渡った……

 

~~~~~~

 

 早朝、まだ日も昇らぬ朝。港に着いた船から、映画スタッフたちの荷下ろしを手伝いマキノ監督や助監督らと別れの挨拶をすませた木ノ葉の一行は里へと駆けていた。

 

「思ってたより、ずっと早く火の国に着いたってばよ。行きは結構時間かかってた気がしたんだけどなぁ?」

 

「そりゃね、船上の映画撮影でたまに船の進行を止めたりしてたから……ま、監督らも早く作業に入りたくて船員の方達を色々せかしてたみたいだしね」

 

 ナルトとカカシは、それとなしに会話をしつつ雑談をしている。

 

 その後方ではサクラ、サスケ、悟と悟に背負われた白が会話をしていた。

 

「ねえ悟、ホント白を背負ってて大丈夫? 荷物も重そうだし……て聞くのももう野暮ね。アンタなら……」

 

「いや帰りが一緒だから……」

 

「バカが、里に着くまでは体力の戻ってないカカシは論外として俺かサクラに任せればいいだろう……ウスラトンカチの奴は信用できなから任せない方が良いが……」

 

「ぼ、ぼくを背負うことにみんなでそこまで……躍起にならなくても……ハハハッ……」

 

 自分のことで言い合う光景に、白はまんざらでもない感情を抱いたのであった。

 

 取りあえずの妥協案ということで悟のお土産入りのバックは里に着くまでサスケが持つこととなった。

 

~~~~~~

 

 そんなこんなで木ノ葉の大門についた一行は零班と七班で別れる。七班は任務の報告後、休暇を取る様で別れの挨拶をすませた悟は体調を崩した背に乗る白を気づかいながら荷物を抱え施設へと向かった。

 

「しかし、白がこうも弱り切ってるのもなんか珍しいなぁ」

 

「……何となく……原因は分かっているのですが……」

 

 辛そうにしながらも、白は自身の不調に思い当たる節があるのかある程度の確信を持った口ぶりをしていた。

 

「? それって……まさか」

 

「……ですが大丈夫です。()()()()()()()()()()()……今はそれだけだと思うので心配しないでください……じきに良くなりますよ」

 

「……わかった。帰ったら再不……桃さんに看病してもらえよ~?」

 

「……っ……君、余計な事したら針千本飲ましますよ……って悟君こそ、その腕の怪我に忍装束まるまるの紛失、マリエさんに心配されるのが目に見えてますよ?」

 

「うぐっ……そうだよなぁ……頂いた雪の国の服はなんか着物っぽい感じで……見た目の印象が普段と違い過ぎて流石に一目でわかるよなぁ……説明どうしよ……」

 

 お互い軽口を叩き合いながら、朗らかなムードで帰路についた2人は施設の玄関前まで、たどり着く。

 

 白は体調がやはりすぐれないのか、途中で悟の背で眠り込んでしまった。

 

 朝も日が昇り、大人組は既に起きているであろう時間帯。施設の子供たちも一部は起きている様だが極力迷惑の掛からないよう、念のため静かに玄関を開ける悟。

 

「ただいま~……」

 

 小声でのその言葉に反応する者はいなかったが、朝帰りにコッソリと家の敷居をまたぐことに妙な焦りを感じた悟は、サッサと白を寝かせるために部屋へと連れていこうとした。

 

 取りあえずの持つだけは玄関で降ろし廊下を抜き足差し足で進む悟。

 

 

 その時

 

 

 ドサッと何かを落とす音が、廊下を忍び足で歩く悟の背後で聞こえる。……横着してチャクラ感知をしなかったことを不味いと思いながらもゆっくりと振り返った悟の視線の先には……

 

「……」

 

 洗濯籠を落としたエプロン姿の再不斬がいた。

 

「……スーッ……スーッ……」

 

「……」

 

「……誤かいd

 

 白の寝息だけが聞こえる両者の沈黙の中、無言の再不斬は悟の発しようとした言葉に有無を言わさないように煙を巻き上げ姿を消す。恐らく単純作業用の影分身だったその個体は()()()()()を持ち帰るため、瞬時に情報を本体に還元する判断をしたのだろう。

 

「……っ!」

 

 嫌な予感に悟は、瞬時に八門を解放。なるべく白に負担をかけないよう、かつてないほど軟かな、けれど洗練されたスピードで白と再不斬たちの部屋へと踏み込み、白をゆっくりとベッドに寝かせ間髪入れずに施設から逃げ出した。

 

「……――っ!!!!!」

 

 瞬間、声にならない声と共にバンっと音が鳴り、白が寝ている部屋の扉が開く。扉を開けた、明らかに目が血走っている再不斬は大した距離も移動していないのに息を切らしている。……片手に包丁を持っている点といい完全に不審者である。

 

「……ううん……あれ……もう家について……」

 

 音に気がついた白が目を開けると、おぼろげにその不審者の姿を薄暗い部屋の中でみてしまい…………

 

 施設「蒼い鳥」に甲高い声が響き、しばらくの間慌ただしい状況が続いた……

 

~~~~~~

 

 施設から逃げ出した悟は、ゆく当てもないためとりあえず何か依頼でも受けられないかと火影の屋敷へと歩みを進めていた。

 

 すると、通りの途中で悟に声がかかる。

 

「おお、悟……か? いつもの装束と服装が違うが、その仮面は悟だろ?」

 

「ん……おっシカマルか、四日ぶり……ぐらいか?」

 

「そうだな、ちょうど互いに任務が終わったぐらいじゃねーの? 俺は日が昇る前には里に帰ってたが……」

 

「俺もさっきちょうど返ってきたところだ。……色々あって家に帰るのはもう少し後になりそうだが……」

 

「あん???」

 

 ため息をつき、目線が横を向いて乾いた笑いをする悟にシカマルは疑問符を浮かべる。

 

「何だ、悟お前もう任務受けにでも行こうってのか? 流石にやめとけよ、それなりに頑張ってるつもりの俺がみじめに感じられるからな」

 

「いや、俺とシカマルの評判は別だろ?」

 

「めんどくせーことに誰かさんの方が中忍としての実力があるなんて、陰口があるんだよ。気にはしてねーけど」

 

「………………っ」

 

 シカマルの言葉を受け、悟は一瞬動揺したかのように目線が泳ぐ。

 

「おまえ……今俺が影真似の術使うから、陰口(かげぐち)言われた……とか何とかクソしょーもねぇこと考えてるだろ……?」

 

「…………ブフっwww……用事思い出した、じゃあな!!

 

 ヒュンと音を立て、逃げるように悟は姿を消した。

 

「……図星かよ……俺の心配をしねぇのは信頼されてるからなのか……やれやれ、仮面着けてるくせにホントわかりやすい奴だぜ全く」

 

 

~~~~~~

 

 逃げ出した悟は里を当てもなく移動している最中、木ノ葉の里に幾つかある高台、忍びが軽く待ち合わせをしたりする見晴らしのいいそんな場所で項垂れている人物を見つける。

 

「ん、あれは……流石に遠目でも誰かわかるな、見た目的な意味で」

 

 項垂れることとは無縁そうなその人物の様子に悟は高台の縁に着地、その人物の頭上から声をかける。

 

「どうしたんですか、ガイさん?」

 

「……っ悟か! 任務から帰ってたんだろう! お疲れさん!!! ということはカカシの奴も帰って来たんだな!!!!」

 

 悟に気づき、ぎこちない笑顔で無理をして明るく振舞うガイに悟は、事情を察して隣に座る。

 

「あ~……リーの手術の事……ですか?」

 

「っ……! あ、ああ……流石悟、カカシ並みにお見通しだな……そうなのだ、手術したとしても成功の望みが薄いと綱手様が……」

 

 珍しくため息をつくガイの様子に、長い付き合いの悟はどうにかできないかと心を焦らせる。

 

「俺なんかが大丈夫って言っても気休めにもならないですよね……」

 

「……仕方のない事だという出来事は、忍びの世界では日常茶飯事だ……俺も慣れている、つもりだった。だがしかし大切な存在がいざその場に晒されると、俺はこうも動揺し、心を乱してしまっている……情けない……クッゥ……っ」

 

「情けなくなんて……心がある以上、そういうのは仕方ないですよ……」

 

 悟はガイに対してかける言葉を見つけられないでいる。『未来を知っているから、成功率50パーセントの死ぬかもしれない手術は絶対成功します!!』なんて死んでも言えない。そもそも()()()()が悟の知るNARUTOの世界とは既に幾つか乖離している部分がある以上未来は確定ではないのだから。

 

「……俺が言えることは大したことじゃないですけどただ1つだけ……」

 

「……」

 

「ガイさんだけは、他の誰が何と言ってもリーの事を信じてあげてください……っ! リーにとって、アナタは()()なんです。そんなあなたがブレてしまったら、リーだって……」

 

 悟の言葉を受け、ガイはハッとして顔を上げる。

 

「……っそうだな……そうだ!! 俺が……師である俺がこんなところで項垂れていてどうする……?! 可愛いあのリーが苦しんでいるときに。自分だけ悲劇のヒロインぶってどうする?!?! 師である俺が、リーを安心させてやらないでどうする!!!!!!!!」

 

 ガバッと立ち上がったガイは悟に力強く抱擁し、そしてそのまま勢いよく跳躍して遠ざかっていった。

 

俺がやらずして誰がやる!!! 今行くぞリー!!!! 願掛けだろうが何だろう、やれることは全てやりィ!!!! 命を張ってこそが師ではないのかァ!!! ありがとう悟、俺は大切なことを君に気づかされた!!! ありがt…………」

 

 遠ざかりながら叫んで消えたガイに、小さく手を振る悟は仮面の下で苦笑を浮かべた。すると

 

「……今の声ってガイ先生……って悟じゃない、おひさ~!」

 

 何事かと様子を見に来たテンテンがひょっこりと姿を表した。

 

「おお、テンテン……ってなんだよ、その人の身体を嘗め回す目つき……」

 

 テンテンは眉をひそめながら、悟の姿を足先から頭のてっぺんまで見て少し考えてから発言をする。

 

「アンタ……その変わった服装もそうだけど、いつも着けてたハナビちゃんから貰った腰布どうしたのよ……」

 

「ああ、それは……え~と、実は腰布は任務先でサクラに貸し出してな?」

 

「……ふーん……」

 

 目線が一気に鋭くなったテンテンに、悟は何故か言い訳をする様に身振り手振りで事情を話す。

 

「サクラが『ちゃんと洗濯してから返すから』って言って……だから今手元にないだけで……」

 

「ハナビちゃん、悟の事昨日あたりから帰ってくるの待ってるみたいよ? 一緒に行きたいところがあるとか何とかで……腰布なしでガッカリしないかな~~?」

 

 明らかに動揺している様子の悟は「はわわわわ」と仮面越しでもわかるぐらいに狼狽えている。

 

「……プフフッなーんて大丈夫よー! ハナビちゃんもそれぐらいの事情はくみ取ってくれるわよ、なんせアンタみたいなのに惚れるぐらいだから気配りはお手の物よ、あの子」

 

「なんでお前が誇らしげに語ってんだ……」

 

「ハナビちゃんのこと最近は妹みたいに感じて来てね~、世話の焼ける弟分のアンタと可愛い妹分のことは私は良く分かってるって自負しているだけよ」

 

「へいへい……まあ、冗談にしてもあの腰布の件は一応サクラとも話をしておかないとな……テンテン」

 

「ん? なに?」

 

「ハナビの事教えてくれてありがとう、じゃあ行ってくる」

 

 ほんの少しだけかしこまった感じの悟のお礼に、テンテンはほんの少しだけ照れる。

 

「……なによ改まって……サッサと行ってきなさい、時間に幾ら余裕があると言っても無駄にするもんじゃないわよ?」

 

「ああ、行ってきます」

 

 お互いに別れの挨拶を済ませ、悟は跳躍、少し離れた位置の屋根に着地した瞬間。

 

「さ、悟!!」

 

 少し慌てた様子でテンテンは悟を呼び止める。

 

「ん、なんだぁ?」

 

 何事かと着地したままの低い姿勢で顔だけで振り返る悟。

 

 何かを言おうとしているテンテンの開いた口が、一度閉じ、そして

 

「あ、いや……何でもない……急ぎなさいよ!!」

 

「わかってるよ~……」

 

 当たり障りのない会話が行われ悟は姿を消した。1人その場に残ったテンテンは独り言を言う。

 

「なんだろう……悟の様子……変だけど……変じゃないみたいな……違和感がないけど違和感があるみたいな……あ~~~っ! 何かスッキリしない!!! ……こういうときは甘味処にでも行くべきね……任務前だけど、気分転換は必要よね」

 

~~~~~~

 

「確かここらへんだよな?」

 

 悟はとあるアパートの前まで足を運ぶ。事前に知らされていたサクラの家の住所まで来た悟は「春野」と表札の出ている部屋のチャイムを鳴らす。

 

「はーい」

 

 中から女性の声が聞こえ、悟がしばらく待っていると……どたばたと部屋の中で音が鳴る。

 

 その騒音に悟が不思議に思い疑問符を浮かべたその瞬間、勢いよく扉が開かれ突然の掛け声とともに飛び蹴りが悟を襲う。

 

「とりゃーーーーーーっ!!」

 

「……はぁ?」

 

 勇みよい掛け声ともに放たれた飛び蹴り。呆けた言葉を口にしながらも悟はその飛び蹴りに対して、反射に近い動きにより脚を掴み相手の身体を地面に引き込むように倒すことで襲撃者の拘束を行う。

 

「いだだだだ!?!? た、助けてママぁ!!!」

 

 悟に拘束された男性は情けなくそう叫ぶ。すると

 

「しゃーんなろーーー!!!!」

 

 家の中からフライパンを持った女性が表れ悟に対して手に持つそれを振りかぶる。

 

「どうなって……!?」

 

 訳も分からないまま驚きの言葉を口にする悟は男性を片手で抑え、空いた手で印を結び薄い岩状手腕を発動させ腕でフライパンを受け止める。

 

 ガインッと騒音が鳴り、フライパンで殴りつけてきた女性は固いものを殴ったせいで怯んでいる様子であった。

 

 そして

 

「何やってんの、ママ!! パパ!!」

 

 騒音に不穏な気配を感じ駆け足で現れたサクラがそう叫ぶ。

 

「……サクラぁ逃げろォ!! こんな怪しい奴が(うち)に来るなんて普通じゃない!! 目的は可愛い可愛いお前しか考えられん!!!」

 

 悟に拘束されているサクラにパパと呼ばれた男性がそう叫ぶと、サクラは頭痛を堪えるかのように頭を押さえながらも自体の収束を図ったのであった。

 

 

~~~~~~

 

「……何か……悪かったなサクラ」

 

「いいのよ……うちの親はなんというか……2人とも早とちりだから……こっちこそなんか、ゴメン……」

 

 サクラの自宅のリビングで、悟は自身に向けフライパンを振りかぶった女性・春野メブキの手に掌仙術をかけながらサクラと会話をする。

 

「ごめんなさいねぇ、サクラの同期の子だったなんて……玄関ののぞき穴から姿を見たら怪しい見た目だったからつい何事かと思って焦っちゃって……アハハハハ!!」

 

 豪快に笑って見せるサクラの母である春野メブキは、細かいことはあまり気にしない性格なのか先ほどの出来事は既に笑い話になっているようだった。ちなみに父親である春野イブキは特徴的な桜の花ような髪型をしている人物であり現在は部屋の外に追い出されている。

 

「はい、どうですか? これで手の痛みは取れてると思うんですが」

 

「うん、大丈夫よ!! しかしホント器用なのねぇアナタ。一家に一人欲しいぐらいよ」

 

 悟がメブキの痛めた手を掌仙術で治療をし終えるとメブキは冗談を言いながら、悟の肩を叩く。

 

(豪快な人だ……)と思いながら仮面の下で愛想笑いをする悟。

 

「もうっ!! ママはちょっと席外しててよ!! 悟と話があるんだから!!」

 

 家族の行動に恥ずかしさを感じて顔を赤らめながら怒るサクラにメブキは飄々といった様子で台所へと向かった。

 

「ハア……任務帰りってのに、余計疲れたわ全く……んで、悟は何の用なのよ?」

 

 話を仕切り直したサクラの問いに悟が答える。

 

「腰布の件なんだけどな?」

 

「ああ、ちゃんと洗濯して返すって帰りに話したじゃない、気が早いわねぇ? 流石に私が数日付けてたのを返すのは気が引けるし…………ちょっとまさかアンタ……!?」

 

「おい、誤解すんな! ただ直接受け取れないかもしれないから、その時はうちの施設に届けてくれって言いに来ただけだ」

 

「あらそう? 確か悟の家って『蒼い鳥』ってとこよね?」

 

「そう、そこであってるよ……ああ、帰るのが億劫だ……」

 

 悟のげんなりした様子にサクラが疑問符を浮かべると、台所で朝食の準備をしているメブキが声をかける。

 

「あら、なら黙雷君、うちで朝食食べってったら?」

 

「それは流石にご迷惑では……」

 

 渋る悟にサクラが

 

「いいのよ、うちの両親が迷惑かけたお詫びに食べていきなさい。……それにしてもうちの両親も一応忍びなのに悟に歯が立たないなんて情けないわねぇ」

 

 とお詫びだという名目で悟を朝食に誘った。悟も断る理由は余りないので、言葉に甘えて朝食を頂くことにした。

 

 朝食を食べる間、年頃の娘の両親ということもあり悟は普段のサクラの様子についての質問攻めを受けるがサクラの鋭い視線を受け当たり障りのない内容を答えていった。

 

~~~~~~

 

「じゃあ、お邪魔しました~」

 

「腰布はちゃんと届けておくから! アンタもさっさと帰って休みなさいよ!」

 

 玄関から体を半身だけ出して見送るサクラに、悟も軽く手を振り目線を前に向ける。その手には腰布に着けていた額当てが収まっていた。

 

「これは流石に回収しておかないとな、うん」

 

 そういって額当てをポッケに仕舞う悟は、自分がポーチなどの装備が丸々ないことに気がつく。

 

「しまったな……買い出しに行こうにも、持ち金は全部雪羅の攻撃で装備ごと燃えカスになってたし……金は自室……再不斬、まだ勘違いして怒ってるか?」

 

 自身の身体をまさぐっても当然お金は出てこないため、ため息をつく悟に声がかかる。

 

「おいおい悟、施設で桃さんをキレ散らかしたと思ったら女の子の家に出入りとはやるなぁ?wwww」

 

 その声に悟はげんなりした様子で、目線を向ける。そこには忍び装束を身に纏ったウルシがいた。

 

「ああ、ウルシさん……ただいまです。……さっき家にいたんですね」

 

「おう、昼からちょっとした任務があるから準備してたら変な奇声と白雪の悲鳴が聞こえてな? マリエと何事かと行ってみたら……」

 

 少し前の事を思い出す素振りを見せるウルシはケタケタと楽しそうに笑う。

 

「……はぁ……で、桃さんは事情を白雪から聞いたりして落ち着いてくれたんですか?」

 

「いやぁそれがな? 俺とマリエは、白雪が『他の施設に出張した帰り』に体調崩して、たまたまお前と会って背負われて帰って来たっていう説明をすんなりと受け入れたんだが……」

 

「『だが……?』 なんで『だが……?』なんですか!?」

 

「桃さん、『俺は許さん、認めん、コロス、認めん、許さん、コロス……』って血走った眼で呟きながら玄関で仁王立ちで動かずに……マリエは説得してたみたいだけど、俺はおっかないから逃げてきた」

 

「っ……はぁ」

 

 ウルシの説明に悟は地面に頭がつきそうになるぐらいに項垂れる。その様子に流石に気の毒になったウルシは落ち込む悟へと声をかける。

 

「まあ、お前も数日の任務の帰りで疲れてる様子だし……身なりから察するに荷物とかは部屋にあるんだろ? 俺の任務まではまだ時間があるし俺が持って来てやるから、な? そう落ち込むなよ」

 

「……ウルシさぁん……!」

 

 珍しく悟に大人振れたことと、悟から羨望の眼差しを向けられ気を良くしたウルシは「俺に任せとけっ!」と言って駆けだしていった。

 

「そうだ……必要なモノの買い物とか準備は影分身に任せるかな、ウルシさん、ありがとう……!」

 

 ふと思いついた悟は影分身にウルシの後を追わせて、自身は自分に用があるらしいハナビの元へ向かうために日向の屋敷に足を向けたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 悟が日向の屋敷の前まで来ると、何やらどたばたと騒音が聞こえ不思議に思う。何事かと、屋敷の玄関へつながる門を軽くノックする悟。すると

 

「……悟様、ちょうどよい所にいらしました!」

 

「ナツさん、ちょうどいいって何が……それにしても珍しいですね、忍び装束着ているなんて」

 

 門が軽く空き、木ノ葉の忍びの装束を身に纏った日向ナツが悟の応対をする。そのナツは悟の手を引き屋敷の敷地内へと連れ込む。

 

「ど、どうしたんですか? 何か慌ただしいみたいですけど……」

 

「それがどうしても、日向の力が必要な任務が幾つかあると火影様から伝令が来まして……最低限の人員を残して、日向の者皆、里外に出ていくのですよ」

 

「それは……大変ですね、つまりナツさんもですか」

 

「ええ、一応私も中忍ですので。 里が木の葉崩しの影響で力が落ちていないことを証明するため、尽力させていただきます」

 

 そういってやる気を見せるナツは応接間まで、悟の手を引き移動する。

 

「で、俺はどうすれば?」

 

「私は今日の夜までには戻って来られる予定なので、それまでどうかハナビ様のお相手をお願いしたいのです」

 

「なるほど、良いですよ任せてください」

 

 悟の返事に安心したナツは、後は屋敷の者がハナビを呼んでくるとだけ説明し足早に屋敷の外へと駆けだしていった。

 

「いってらっしゃーい」と手を振りナツを見送った悟は、広い応接間に1人正座して一息つく。

 

 悟は屋敷の従者たちや、普段はあまり任務に出ないであろう日向の者たちの仕度に慌てる音を聞き

 

(名家の人たちも、急な仕事が入るとこう……人並みに慌てるんだなぁ)

 

 などと呑気に感想を抱いていた。普段、日向の人間が醸し出している雰囲気とのギャップに微笑んでいると応接間の襖が突然開く。

 

「……何故お前がここに?」

 

 白眼を発動させていたらしいネジが、目の周りの血管の隆起を収めながら姿を表した。

 

「えっと……ハナビを待ってる」

 

 応接間で何をするでもなく正座で待っていた悟の様子に、少し可笑しさを感じ鼻で笑ったネジは

 

「ハナビ様なら、稽古の後でただいま汗を流していらっしゃる……まだ少し時間がかかるだろう」

 

 そう言いながら悟の前に正座で腰を下ろす。

 

(え……何で座った?)とそのネジの行動に内心狼狽える悟。

 

 ふう、と一息ついたネジの様子から悟は彼もまた修行の後だということに気がついた。

 

「いい機会だ……少しお前と落ち着いて話がしたくてな」

 

「ああ、ああそういう……ハナビが来るまでだったら別に時間があるし良いけど……」

 

 悟の返事に話す内容を考えるために少し間をおいてネジが話し始める。

 

「以前、俺は自分の眼は何でも見通しているのだと思っていた。……だが最近、他人の顔色というモノが見えていなかったと気がついた」

 

「へ~……」

 

「父上もそうだが、ヒアシ様を始め周囲の人間の表情というものは存外に内面を映しだしているようで……注意深く観察するのも意外に趣があると思う」

 

「そうだな……」

 

「お前は何故その仮面を着けている?」

 

 世間話のような内容から一転ネジからの悟の核を射抜くような質問に悟は

 

「……これは大切な人から譲り受けたものだ。だから……」

 

「違う、お前が顔を隠す理由だ。 何故執拗に顔を隠す?」

 

 無難な返事をするも、それがはぐらかしていることだと見抜いているかのようにネジは質問を続ける。

 

「別にネジには関係ない事だ、それに白眼でなら俺の仮面の下の表情を覗くことなんて造作もないことだろ? そんなに気にしなくても」

 

「……白眼でも、顔そのものを覗けるわけではない。 例えば色などは透視眼では不鮮明に映ってしまう、つまりは本当の意味でのお前の顔を見ているわけではない」

 

「へ~そうなんだな……」

 

「……お前はそのことを知っていたのだろう?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「顔を隠すお前が日向の者に対して、あまりにも無防備だからそのことを不思議に感じたまでだ」

 

「別に、深い意味はないよ。 俺は顔が見られるのが元々恥ずかしい……それだけ」

 

「本当か?」

 

「本当」

 

 まるで尋問のようなネジの質問に、悟は特に動揺もせずに答えていく。(なんのつもりだ?)と不思議に思う悟にさらにネジが問いかける。

 

「俺が思うに、悟、お前は…………顔ではない何かを隠している…………そうじゃないのか?」

 

「何かって……随分とアバウトだな」

 

 ネジの言葉に悟が苦笑する。

 

「お前は、仲間を……他人を信頼できる人間だ。なのに今更顔を晒すことになんの抵抗がある? 特別傷があるわけでもない、それなのに……」

 

 悟が顔を隠し続ける理由、その真意にネジがさらに一歩踏み込もうとした瞬間

 

 応接間の襖が開く。

 

「悟さん!! いらっしゃいませ!!」

 

 ハナビが元気よく、姿を表す。ラフな格好であるが、急いで準備をしてきたのか息を切らしている彼女の様子に悟は仮面の下で笑みを浮かべながら立ち上がりハナビに歩み寄る。

 

「……悪いなネジ、その話はまた今度な?」

 

 軽い口調でそう話した悟は、仮面の口元に人差し指一本を当てるジェスチャーをしてハナビと共に応接間から出ていった。

 

 1人残されたネジは、納得の行かない表情を浮かべ独り呟く。

 

「奴の感情は……わからん……テンテンやリーの如く単純な奴なら良かったのだがな……」

 

 

~~~~~~

 

 日向の屋敷の外に出た悟とハナビ。ハナビは身だしなみが気になるのか髪を弄っている。

 

「さて、そう言えば俺に用があるなんて話を聞いたんだけど?」

 

「はい! 実は悟さんと一緒に行きたい場所があるんです……だけど里の外になるのでナツが居ないと行っても良いのか……」

 

 モジモジと悩む様子のハナビに悟は

 

「まあ、確かに立場上そう言うのもあるのか……ハナビはその歳でしっかりしてるなぁ」

 

 そう口に出し、ハナビの頭に手を乗せる。

 

「ちなみに何処なんだ、行きたい場所って」

 

「『映画』が見られるという町があるそうです、一度そこでこの……」

 

 ハナビはポーチから紙切れを二枚取り出して悟に見せる。

 

「映画を見て見たくて……チケットだけナツに準備してもらってたのです」

 

「うーん里にはまだ映画館ないもんなぁ……ってことは……ああ、うん」

 

 少し考える様子を見せた悟は、笑顔で腰を下ろしハナビと目線を合わせる。

 

「よし里抜けだ、ハナビ!!」

 

「……へ?」

 

~~~~~~

 

 

「もう駄目だ、このままでは……もう……」

 

「諦めてはいけません、助悪郎、鰤金斗、獅子丸。諦めない限り道は続きます!! 悪頭大魔王を打倒すその時まで……!!」

 

 薄暗い映画館、映画の音声が響きスクリーンに映された映像の光がハナビの無垢な表情を照らす。

 

 その様子を隣で座ってみている悟は

 

(年相応……真剣に映画を見ている様子は、普通の……普通の子どもだな)

 

 表情を微笑ませていた。

 

 

~~~~~~

 

 

 映画館から出てきたハナビはとても興奮した様子で、映画の感想を悟に語っていた。

 

「すごかったです!! 何が凄いって……こう……凄く……すごいっです!!」

 

「ははっ、語彙が凄いことになってるぞ……」

 

 ハナビの熱量に圧倒された悟は困ったといった様子で苦笑を浮かべる。

 

 はしゃぐハナビが、息巻いて話していると『きゅ~』と可愛らしい音が聞こえる。

 

 顔を紅くしたハナビに、悟は

 

「丁度昼時だ、あそこの飯屋にでも入ろう」

 

 笑顔でそう提案を出した。

 

「良いんですか? お金は……」

 

「大丈夫、俺の影分身に必要分は持って来させてたから……ゆっくりご飯でも食べながら、映画の話をしようか」

 

 

~~~~~~

 

 

 昼時の飯屋で、席に着き一息ついたハナビは申し訳なさそうに口を開く。

 

「しかし、良いんでしょうか……黙って……こんな里の外の町まで来てしまって……」

 

「文字通り里抜けだしな、ぶっちゃけ悪い事だと思う」

 

「ええ!? そんなあっさり……」

 

「まあ、そのためにわざわざ変装したりしてるわけで……似合ってるよ、その服」

 

 そういう悟とハナビは普段の恰好からかけ離れた姿をしていた。ハナビは普段彼女は着ないようなワンピースに、顔を隠せる大き目な帽子をかぶり、髪を後ろで纏めている。

 

 一方で悟はいわゆる前世の姿である、黒髪天パ、少し痩せている20代前半の男の姿に変化していた。

 

「悟さんも、変化していると仮面を着けないんですね……普段より男らしい感じと背の高さに少しドキドキします」

 

「声も変化すれば、普段よりは低くなるしな。 まあ、ハナビとの絵面が少し怪しい感じになるんだが……多少の不条理は仕方がない、うん」

 

 運ばれてきた定食に手を付け始めた2人は映画の感想を話し合うのだった。

 

 

 

 

「悟さん、先ほどの映画を見るのは初めてじゃないんですか?」

 

「まあ、何というか……初めて見たと言えばそうなんだけど、実質二回目かな?」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 里への帰りの路を変化を解いた姿でハナビを背負い高速で駆ける悟。

 

「任務帰りなのに、こんなに走らしてしまって申し訳ないです」

 

「いいよー別に。 俺にとってはお茶の子さいさいさ!」

 

 ハナビの心配を他所に今朝も通った道を走る悟にハナビは続けて声をかける。

 

「しかし、悟さんがこうも思いっきったことをするとは驚きです。 確かに時間としては5時間も経ってはいないですが実質里を抜けるなど……」

 

「たまにはいいさ。 ハナビも楽しかっただろ?」

 

「はい、楽しかったです。 しかし、流石にこのことは誰にも言えませんね……」

 

「ああ、2人だけの秘密だ」

 

「……っ! そうですね、秘密……です!」

 

 会話を楽しむ2人だが、里に近づくとある程度気配を消さなければいけないので小声になり会話を続ける。

 

 里への抜け道を歩く悟にハナビは疑問を口にする。

 

「この抜け道は……悟さんはどうして知っているんですか?」

 

「ああ、ここは里の外と繋がってる居住区……つまり隅っこに位置する場所で昔通ってたんだよ。一応侵入禁止の場所だけど、管理がずさんだからな」

 

「悟さんは真面目な方だと思っていましたが……」

 

「見損なった?」

 

「いえ、思えば毒入りの丸薬をワザと喰らうほどの変態不審者なので今更見損なうことはないです」

 

「おっとこれは手厳しい……あと少し懐かしい呼び方だな」

 

 うちはの元居住区を通り、里へと戻ってきた悟たちは人通りがある場所まで来る。この時点でハナビを降ろし2人は並んで歩き始める。

 

「当然、里の人間じゃなきゃ出入りの時に結界忍術に引っかかるから、部外者がおいそれと通れるわけじゃないけど」

 

「そうですね、今はただでさえ里が忙しい時期みたいなので……ただ結界忍術に頼って警備を疎かにするのもどうかと……」

 

「正論だけど、今は人員が少ないからなぁ。ナツさんもそれで任務に出てるわけだし……」

 

 世間話をしながら2人は日向の屋敷へと戻る。

 

「……悟さん、あと一つ……我儘を承知でお願いがあるのですが……」

 

 屋敷の前まで来て、モジモジして話しかけてくるハナビの様子にヒナタを見ているような既視感を覚えた悟は軽く返事をする。

 

「何でもござれだ、ハナビの願いは出来るだけ聞いてあげるさ」

 

「私に、稽古をつけてください!!」

 

「ん!? おお、良いけど……良いのか?」

 

 悟は日向の跡目であるハナビに対して外の人間である自分が、稽古をつけて良いものなのか迷いその確認をハナビに取る。

 

「確かに跡目として、日向の技を極めるのが私の務めでもあります。 しかし、()()()()ではいけないとも考えています。 私は……強くなりたいんです……っ!」

 

 真剣なハナビの眼差しに

 

(まあ、確かに俺がハナビに与えた影響を思えば些細なことか……力の使い方は本人次第……ってね)

 

 悟はサムズアップをし、ハナビの提案を受け入れたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 正規の手続きで演習場を借り、道着に着替えたハナビと向かい合う悟。

 

「普段の稽古が屋敷の道場だと、床を踏み抜きそうで怖いよな~」

 

「わ、私はそこまでの力はまだありません……父様も普段は本気を見せる方ではないので……そういうことはないと思います」

 

「……まあ、屋敷でも庭で稽古とかしてるもんな……っと世間話はここまで、さて普段とは違う場所だが、問題ないよな?」

 

 悟の放つ雰囲気が鋭いモノへと変わり、空気がひり付く。 まだ構えを取っていない悟の佇まいを目の前にハナビは深呼吸をし目を閉じる。

 

(あの森で悟さんの戦いを見て以降も悟さんは目まぐるしい早さで強くなっている……跡目として……いえ、私個人がその彼の強さに触れてみたいと心を躍らせている……っ!)

 

 息を静かに吐き、ハナビは白眼を発動させ鋭く柔拳の構えを取る。

 

「よろしくお願いします!」

 

「ああ、行くぞ。 ハナビは本気で来い!!」

 

 そういい悟は、手始めに柔拳の構えを取りハナビへと肉薄する。

 

 構えは一見同じように見える両者だが、悟の柔拳は動きだけの紛い物であり本家であるハナビの柔拳による経絡系を削るチャクラの放出は真似できない。

 

 近接格闘において、柔拳による経絡系へのダメージは一撃貰えば致命打になりかねないものである。

 

 しかし、悟はハナビの掌から放たれるチャクラの攻撃を自身の掌にチャクラを纏わせ払うことで無効化する。

 

(白眼のない悟さんの柔拳は型の特性を生かし防御に徹底している……っ!)

 

 ハナビからの一方的な責め手は、全て悟にいなされてしまう。

 

「ほらほら、どうした? 普段の稽古みたいに型にこだわりすぎなくてもいいんだぞ!! 今は自由に来い!!」

 

 そういう悟はいなした攻撃の隙に軽く掌底を混ぜ、ハナビを仰け反らせ距離を作る。

 

「っ……! なら……こうです!!」

 

 衝撃を受け止めたハナビは、脚に力を籠め地面を蹴り悟へと突進する。

 

 悟はその体当たりを横に飛び避けるが

 

 すれ違う寸前で急停止したハナビがその勢いを回転へと変え回し蹴りを放つ。

 

「足技……っ!?」

 

 想定外のハナビの足技に悟は素直に腕でそれを受け止める。

 

 少し後ずさった悟に対して、ハナビはクナイを腰に構え突き刺すように接近する。

 

(なるほど、柔拳での格闘戦では拳同士の接触でいなされてしまうからクナイでの攻撃に……って!?)

 

 悟はハナビの攻撃を弾こうとするも、片腕が上手く上がらないことに気がつく。

 

(さっきの蹴りで、経絡系にダメージが……!? 蹴りでもダメージアリとかやっぱ柔拳使い相手に体術勝負は分が悪いなっ!!)

 

 悟は咄嗟にハナビに対し背を向け、背後に向けて足を蹴り上げる。

 

「お返しだっ!」

 

「く……っ!」

 

 その蹴りはハナビの構えていたクナイだけを下から弾きクナイをハナビの手から空中へと飛ばす。

 

 クナイを手から離したハナビに対して、悟は片足だけで軽く跳躍し空中で態勢を整えながら先ほど蹴りを放った脚で再度薙ぎ払う様に蹴りを繰り出す。

 

 その蹴りに対しハナビは

 

(チャクラを纏った蹴り……柔拳でのカウンターでダメージが見込めないのなら……っ!)

 

 大きく後方に飛び、息を整え直す。

 

 蹴りを避けられた悟は、そのまま動きの鈍い腕の動きを確かめるため手を振りながらハナビに対して警戒の目線を向ける。

 

(白眼がある以上こちらのチャクラの動きは見切られている……無理にカウンターを狙ってこない辺り、堅実……けど攻めっけはヒナタ以上だな)

 

 ふう、と一息ついた悟はスピードが鈍っていながらも両手で印を組む。

 

「忍術……っ!」

 

 警戒の様子を見せるハナビに悟は小さく面をずらし口から小さい火球を数発放つ。

 

「火遁・鳳仙花っ!」

 

 見え見えの前動作も合わさり、ハナビは横に走り鳳仙花を躱す。

 

 しかし悟の遠距離攻撃に対して

 

(私ではまだ、日向の奥義『回天』を上手く使うことが出来ない……それでも今できる最善をつくさないとっ!)

 

 ハナビは白眼の観察眼を強め、繰り出され続ける鳳仙花の術の雨の隙を伺う。

 

 乱発される鳳仙花に対しハナビは、機会を伺い悟へ向け直線で接近を開始する。

 

(何か策ありか!? なら見せて貰おうか……っ)

 

 その動きに対して悟はハナビに向け鳳仙花を構わず放つ。

 

 鳳仙花がハナビに当たる寸前、ハナビは柔拳の要領でスピードを落とさず身体をうねらせ鳳仙花を撫でるように躱す。

 

 直線の動きのようで、身体の軸はそのまま流線を描く無駄のないハナビのその動きにかつて見た日向ヒアシの動きを重ね

 

(末恐ろしい……っ! 回天の動きを一部切り取ったような動きで、ここまでやるとはな……っ)

 

 そう思いながらも悟は笑みを浮かべる。

 

 鳳仙花を躱される以上撃ち続ける意味もないため、悟は独自の柔拳と剛拳を混ぜた構えを取る。

 

(悟さんの柔剛拳……私の柔拳が届けば……まだ勝機がっ!)

 

 ハナビは渾身の掌底を悟に向け放つ

 

 

 がその掌は、悟の流れるような動きの左手の払いで大きく弾かれる。

 

 

 態勢を崩し仰け反るハナビに対して、音が聞こえる程強く握りしめられた右手による剛拳の突きが顔に迫り……

 

 顔と拳がぶつかる寸前で両者の距離の変動はなくなり、拳圧がハナビの髪をなびかせる。

 

「っ……ぁ……」

 

 自身の攻撃がいなされてからの一連の動きの速さとなす術の無さ、そして悟の拳を振るう瞬間に一瞬放った本気の威圧に驚きハナビは息を口から漏らしその場にへたり込む。

 

「っやべ、ハナビ大丈夫か!?」

 

 ついやりすぎたと、拳を引っ込めた悟は地面に座るハナビの肩を持ち様子を確かめる。

 

「だ、大丈夫です……流石悟さん……ッ敵いません……」

 

 少しふらっとしながらも立ち上がるハナビに悟は、彼女の手を引き木陰へと移動させ安静にさせる。

 

「いやでも、ハナビもやるもんだ。 修行が趣味なだけあるよ、俺がハナビと同じ歳だったら負けてたかもな」

 

「な……っ!? 私の趣味をどこで知って……!?」

 

 自身の事を思っていたよりも知られていたことによる恥ずかしさにハナビは顔を紅くする。

 

「ヒナタが前言ってたんだよ、『ハナビは修行が趣味って真面目に言うから少し心配かも……っ』て」

 

「っ姉様ぁ……!」

 

 姉への抗議の意思を抱きながらも、可愛らしくない自分の趣味に対して悟がどう思うかのほうが気になりハナビは質問する。

 

「悟さんは……どう思いますか……その……っ」

 

「ん~やっぱり白眼は相手にすると厄介に感じるなぁ……ネジと戦った時も思ったけど柔拳自体はとてもアドバンテージのあるものだと思う。 だからこそ遠距離攻撃っていう方法で対処されたりするわけで……今回は俺が柔拳の対処の仕方とそれを打ち破る基礎力がハナビになかったから、俺が有利だったけど――――」

 

 ハナビの質問の意図は曲がりくねって悟に伝わり、悟は真面目に先ほどの組手の感想をつらつらと語る。

 

 暫く早口で語る悟の様子は傍から見れば、かの油女シノのようであり2人が意外に仲が良いのも頷けるものであった。

 

「そう思うとハナビは柔拳ともう1つ、威力のある術や技を覚えて軸にするのがいいんじゃないかな? 小細工というより柔拳と白眼を活かせるような……って悪い、一方的に喋りすぎた……」

 

 ハッと気がつき悟が謝罪するとハナビは

 

「い、いえ……そうですね。 せっかく出来るようになるのなら、自身の持ち味を生かせるようなものがいいですね」

 

 真面目に返答する。

 

(悟さんにそう言う面で期待しては……やはりいけないようです)

 

 少し遠い目になるハナビに悟は疑問符を浮かべるものの、ハナビの戦闘方法についての考察をつらつらと再度述べていく。

 

「接近戦を仕掛ける動きは良かったけど、俺のチャクラの膜で柔拳の攻撃を防ぐ方法を対処できないのは痛いよな~、だからハナビが覚えるべきは『柔拳を対処しようとした相手を狩る』……そんな方法だと思う。 俺自身余り思い付きが良い方ではないんだが、俺が考えるに相性が絡む属性関係に手を出すよりも形態変化による――――」

 

 乙女心など意にも介さない悟の真面目な考察とそれを成すためのハナビの修行は数時間続いた。

 

 

~~~~~~

 

 

「――つまり、俺は柔拳と剛拳を使い分けて攻めと守りを役割分担し長所を得て短所を補っている……こんな感じにチャクラの形態変化を駆使すれば、物理的な破壊力も出せるからハナビも柔拳の破壊力の無さを補い――」

 

 『出来損ないの螺旋丸のようなモノ』で木の幹に傷をつけた悟が色々と語る中、形だけでもそれを真似ようとするハナビ。

 

 気がつけば日が沈み始め、夕暮れ時となっていた。

 

 時間を忘れるほどに修行に集中できる2人の相性は決して悪くはないのだろうと傍から見れれば感じ取れるのかもしれない。

 

「くっ……難しいですね、チャクラを形態変化で扱うのはそれ自体元々高等技術ですし一朝一夕で出来るものでは……一夕……っていつの間にか日が沈み始めて……!?」

 

 ハナビが時間の経過に気がついたことで、悟も夕日に目を向け苦笑する。

 

「ハハハッ……熱が入りすぎたな……よし、帰るかハナビ」

 

 修行によりボロボロになったハナビの身だしなみを確認した悟は、少し考えた後

 

「そうだハナビ、今日はうちで夕飯食べていくか?」

 

 そうハナビを誘う。

 

「えっ!? そ、そのいいのですか? 急にお邪魔することになってしまいますし……服装も汚れていて……」

 

「それこそ日向の跡目をボロボロの状態で返すわけにもいかないだろ? うちの施設ならハナビくらいの歳の子もいて、代わりの服とかもあるしな。 もちろんハナビが良ければなんだが……」

 

「私は大丈夫です、行きたいです!!」

 

 ハナビのまだまだ元気の溢れる返事に仮面の下の表情を笑顔にして悟は

 

「そうか、なら一応日向の屋敷に影分身で連絡しとくかな。 ナツさんがいつぐらいに帰ってくるかわからないし……」

 

 そう言いながら影分身を使用し帰り支度を始めた。

 

 2人で後片付けを済ませ、施設へと向かう。

 

 帰路の最中、ふとハナビが悟へと疑問を投げかける。

 

「今日一日……悟さんと一緒に居て気になることが1つだけあるんですが……」

 

 それに対して悟は

 

「ん? 修行の事とかか?」

 

 と呑気そうな声で返事をする。

 

 少し不安そうな顔をしているハナビの様子に悟が気がつき足を止める。

 

「どうした?」

 

 悟の心配する声にハナビは言葉を選ぶように口ごもりながら口を開いた。

 

「む、無理をしていませんか悟さん?」

 

 悟を心配するかのようなハナビの問いかけ。 悟はほんの少しだけ沈黙を作り直ぐに

 

「任務帰りでってことか? 俺は回復力と体力には自信があるからハナビが気にするほど――」

 

「そうじゃないんです、今日の悟さんは……何だか無理をしているような……普段と少し違うような……」

 

「そんなことないよ、俺はいつも通りさ」

 

「なら……私と約束をしてくれませんか?」

 

 急なハナビの提案に、虚を突かれた表情を作る悟。 ハナビは悟に近づき、小指を悟に向けて立てる。

 

「今日みたいに……また、もう一度……で、デートし、してください!!」

 

 目を瞑り、どもりながらもそう必死に叫ぶハナビの様子に悟は、微笑し目線をハナビに合わせてしゃがみ自身の小指を差し出す。

 

「ああ……良いよ。 鈍い俺は今の今までデートなんて思ってなかったけど、確かに今日のはそうだよな、俺も楽しかった」

 

 2人は小指で約束の印を結ぶ。

 

「や、やっぱり一度だけじゃなくて、何度でもしてください!!」

 

 小指を揺すりながらも早口にそう提案するハナビに悟は笑いながら答える。

 

「思っていたより欲張りだなハナビは……良いよ、いくらでも付き合おうか!!」

 

「言いましたね、約束ですよ……っ?! 約束したからには破ったら針千本ですからね……っ?!」

 

 小指に力を入れる必死のハナビの圧力に、悟は苦笑いを浮かべた。

 

 そうして2人は暫くの間、小指で印を結んだまま並んで歩いて帰路を行くのであった。

 

~~~~~~

 

 施設へと戻った悟はハナビを風呂場まで案内し、自身も服装を普段着に変えマリエの自室へと向かっていた。

 

 部屋の扉をノックする悟に

 

「どうぞ~」

 

 中からはマリエの返事が返ってくる。

 

「失礼します」

 

 かしこまった感じに部屋に入った悟は中で眼鏡をかけ、書類を書いていたマリエに対して言葉を掛ける。

 

「ただいま、母さん」

 

 その一言にマリエは持っていた書類を落として、目線をぎぎぎぎっと悟へと向ける。

 

「……おか……お帰り、わが息子よ……っ?」

 

 テンパったマリエの返事に仮面を外している悟は無邪気な笑顔を浮かべる。

 

「クククッどこかの偉い人みたいな口調ですよ?」

 

「と、突然そんな……母さんって言われたら、動揺もするだろう……っ!」

 

「いやあ、今日は影分身で一応帰りの挨拶はしましたけど本体の俺は初だったので……新鮮味を持たせようかと」

 

「いらん、いらんそんな新鮮味……ああびっくりして体温が上がってしまってるのが分かる……っ」

 

 動揺し、口調が素に戻っているマリエは手で自身の顔を扇ぐ。

 

「ゴホン……今日は災難だったわね~? 朝から帰ってくるなり桃さんが怒り散らして、納めるの大変だったし……」

 

「ええ、ウルシさんとマリエさんと白雪の説得のおかげで今は自室で落ち着いて白雪の看病していますからね」

 

「悟ちゃん、ホント悪いわね……任務帰りなのに今日一日施設のこと任せっきりにしちゃって……」

 

 今日、ウルシから自身の所持金などを受け取った悟の影分身は、本体に荷物を受け渡した後さらに多重に影分身をして施設の運営を行っていたのであった。

 

 その時再不斬はマリエと昼頃まではウルシも一緒になって部屋に押し込めて説得していた。

 

「良いんですよたまには。 俺だってこの施設で育ったんだから……」

 

 そう噛みしめるように壁に手を当てる悟にマリエは少しだけ違和感を覚える。

 

「どうかしたの……?」

 

「いや、話してはなかったんですけど任務先でまた死にかけて……ここの大切さを再度痛感したんですよ、帰るべき……この場所の……」

 

「っ……そう……やはり忍びなれど……死んでしまっては何の意味がないわ。 これは私も昔っっっから口を酸っぱくしていっていることだけどね」

 

「そうですね、何度も痛感して……そのたびに生きてて良かったって思いますよ」

 

「そう思うなら、あまり無茶はして欲しくないのだけど…………そうはいかないのよね?」

 

「ええ、譲れないモノが俺にもありますから……まあでも安心してください」

 

 マリエに笑顔を見せ悟はサムズアップをしてみせる。

 

「俺は死にませんよ」

 

 その様子にマリエはかつての友人の面影を感じ取る。

 

「……自信を持つことは悪い事ではないが……慢心はするな、油断に繋がる」

 

「もちろんです! ということで……1つ報告したいことが……」

 

 急に下手に出る悟に対してマリエは疑問符を浮かべる。

 

「実は分裂の術を使ってしまって……」

 

「ハっ!?!? おま、お前……そんな数日やそこらで使える術じゃない……って術のリスク・危険性とかも色々血を渡した後説明しただろう!? ~~~~~~ッ!!!!」

 

 塵遁を扱ううえでのリスクと、血を摂取してから数週間の経過観察をするなどの安全性に考慮していたマリエの思いを裏切っていたことに悟は目を逸らし額に汗を浮かべる。

 

 呆れかえっているマリエが頭を抱えながら悟に注意を促す。

 

「……っ普通……そんな早くに血が馴染むわけもないだろうし、拒絶反応もある程度出るだろうと考慮していたが……まあ、そんな意味もない嘘はお前がつくわけもないだろうし、本当に……お前は……っ」

 

「いや~本当に申し訳ないです……で、分裂の術を使ったので~その~っ」

 

 悟の態度にマリエは察しがついたのか机の引き出しを開ける。

 

「追加の血がいる……ということか……任務から帰ってきたら渡そうとは思っていたが……全く……ほら」

 

 数本マリエから悟に小瓶が投げ渡される。

 

「塵遁が使えたとなれば、既に血が馴染み始めていると見て良い……だからと言って慢心はするなよ?」

 

「はい、もちろんです。 っと、そろそろ夕飯が出来るころです。 久しぶりに俺の手料理食べてくださいよ!」

 

 話の内容の切り替えにマリエが1つため息をつき

 

「ええ、悟ちゃんのご飯……楽しみね」

 

 2人は食堂へと向かった。

 

 

~~~~~~

 

 

 施設での大人数の食事は賑わい、悟が個人的に用意した大量の食材は豪勢な料理となり施設に居るものの腹を満たした。

 

 マリエや施設の子どもたち、任務を終えて帰ってきていたウルシや、若干冷静さを取り戻していた再不斬、動けないながらも自室で白も悟の料理に舌鼓を打った。

 

 

 

 その後月が里を照らす中、日向の屋敷にハナビを送り届けるために悟はハナビを背負い建物の屋根の上を駆けていた。

 

「悟さん……いつの間にあそこまでの料理の準備を……」

 

 悟の背に居るハナビは、可愛らしい普段着を身に纏い、悟の料理を堪能し顔の血色を良くしていた。

 

「影分身ってのは本当に便利だって思うよ、俺自身も」

 

 他愛もない世間話も屋敷に直ぐについてしまい、早々に切り上げられる。

 

 屋敷の門の前ではナツが忍び装束のまま、ハナビの帰りを待っていた。

 

「ハナビ様、お帰りなさいませ!」

 

「ナツただいま」

 

 ハナビを背から降ろした悟は、包んだ弁当をナツへと手渡す。

 

「任務お疲れさまでしたナツさん。 良ければですが、弁当作ったので夜食にでもしてください」

 

「これは……悟様……ありがとうございます……っ」

 

 忍びなれど人である。任務で夕食もままならないであろうと考えていた悟はナツのために弁当も用意していた。

 

「ナツ……その弁当……私も作るの手伝ったから……」

 

 少し照れているハナビのその言葉に、先ほどまで疲れを隠しきれていなかったナツは満面の笑みになり喜び勇んで屋敷の中へと駆けていく。

 

 その様子に苦笑しながらもハナビは門をくぐり、悟へと振り返る。

 

「……悟さん、〈約束〉忘れないでくださいね?」

 

「……もちろんだ!」

 

 悟の明るい返事に対してハナビは

 

「絶対に……私を好きにしてみせますから……っ!!!」

 

 と恥ずかしさと嬉しさ、笑みの混ざった表情でそう宣言し屋敷へと戻っていった。

 

 姿が見えなくなるまで手を振っていた悟は

 

「これは……まいったな……あはは」

 

 ハナビのアプローチに困惑しながらも帰っていった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 夜中、施設には起きている者が1人も居なかった。

 

 皆が深い眠りと落ちている中1つの影が施設の窓から飛び出す。

 

 その影は目的地があるかの如く、静かに……真っ直ぐにとある場所へと向かう。

 

 

 

「……やっぱり来たか……」

 

 月が雲に隠れ、街路に佇む人影を黒く染めている。その人物の呟きのすぐあと

 

 影はその人物の元へと現れる。

 

 影はすぐそばのベンチの上で眠る少女に目線を向ける。

 

「…………サクラも気づいていたのか……流石だな」

 

 そして雲が流れ月明かりが2人を照らす。

 

 うちはサスケと黙雷悟。

 

「フッ……俺には思っていたよりも……繋がりが多くできていたようだ」

 

 サスケはサクラに目線を移し、そう呟く。

 

「そうみたいだな……サクラも俺と同じくお前の事に気が付けるくらいには、良く見てくれていたってことだ……」

 

「そうだな……」

 

 満更でもないというサスケの表情に悟も安心した表情を仮面の下で作る。

 

 2人は目線を合わせる。

 

「今更俺を止めるつもりもないんだろう?」

 

「ああ、見送りに来ただけだ。サスケの選択を尊重するつもりだ、だけど……」

 

「……」

 

「健康には気をつけろよ?」

 

「……気が抜けることを言うな……っ遠足じゃあねーんだぞ」

 

「分かってるけど、これが俺の本心だ……じゃあ元気でな」

 

「はぁ……相変わらずお前は……まあいい。 ……じゃあな、悟……ありがとう」

 

 サスケは振り返り歩み始め、悟はその背を見つめ見送る。

 

「……」

 

 無言でサスケを見送った悟は、月を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよならだ」

 

 



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76:謀略、渦巻く

 翌朝、施設「蒼い鳥」にチャイムの音が鳴り響く。

 

 何度も、素早くならされるその音に蒼鳥マリエは自室に引いた布団から跳ね起きる。

 

「ハッ!? ……私いつの間に寝て……ってそんなことよりこの音は……?」

 

 自分が寝巻まで着てしっかりと寝ているということに心当たりがないまま、混乱する思考を無理やり現状の現象の対処へと向かせる。

 

 玄関に向かうまでの間、現在が早朝の4時30半ほどの時刻であることを確認しつつマリエは急ぐ。

 

「悟~~いねぇ~のか~!?」

 

 玄関先に2つのシルエットを確認したマリエは急いで玄関の引き戸を開けた。

 

「あら、ナルト君に……シカクさんの所のシカマル君だったかしら……?」

 

「ああ、マリエのねーちゃん!! 悟はいねぇのかってばよ!?」

 

 マリエが2人の姿、うずまきナルトと奈良シカマルを確認するとナルトは焦っているのか、マリエの後方の施設の中を覗き込みながら悟の所在を聞く。

 

「……どうかしたの?」

 

 マリエの問いに

 

「いや……詳しくは言えねーんすけど、悟の力が借りたくてですねぇ……でもいないようなら仕方ねぇか……悟の保護者のマリエさんでしたっけ? もし悟が帰って来てたら至急五代目様の元に来るよう伝えてください」

 

 シカマルは内情をボカしつつも悟への伝言をマリエに頼む。

 

「そうだ……はk……じゃなくて白雪は!? ねーちゃん、白雪は元気になってるか!?」

 

「白雪ちゃんは昨日の夜の時点でも熱が下がってなかったから……って!?」

 

 マリエの返事の途中からナルトはシカマルの手を引き走り去っていく。

 

白雪って誰だよ……ってことで、伝言よろしくっす……ナルト、焦るのは分かるが手ぇ引っ張んな――――」

 

 引きずられながらもシカマルはマリエに一言かけ、その姿を消していった。

 

「……何かあったのか……それよりも悟ちゃん……今うちに居ないのかしら?」

 

 何やら胸騒ぎを感じつつ、マリエは静けさを取り戻した施設の中へ戻る。

 

 悟の所在を確認するために、悟の自室へと向かうマリエ。

 

 途中施設の子どもたちが眠る部屋を覗くも、先ほどの騒がしさにもかかわらず誰一人として起きている者はおらず、皆心地よさそうに寝息を立てていた。

 

 白と再不斬の部屋でも白のベッドに寄りかかるように再不斬が寝ており、白もまた同様に熱があるのか多少の寝汗をかきつつも寝息が聞こえる。

 

 ウルシもまた同様にあまり寝相良くない彼は布団からはみ出すようにして心地よさそうに寝ていた。

 

「……」

 

 余りにも静かな施設の様子に不安を感じつつも悟の自室前へとたどり着くマリエ。

 

「……悟ちゃーん? 居ないのー?」

 

 悟の部屋の扉をノックするも返事は返ってくることはない。マリエがドアノブに手を当てると鍵がかかっていないことに気がつきそのまま扉を開けた。

 

 部屋の中は普段通り片付いており、部屋の隅にはたたまれた布団が重ねられていた。

 

「……こんな早朝から出かけるなんて任務か、修行……かしら。 !っそう言えば……」

 

 段々と思考が澄み渡ってきたマリエが玄関に設置されている掲示板に外出記録の有無を確認しに戻ると……

 

「『長期外出中』? 昨日の今日でこんな……何も言わずに……」

 

 黙雷悟の名札の下には長期外出の字が記されていた。

 

(何か……起きてるのか?)

 

 一抹の不安を感じつつもマリエは、『蒼鳥マリエ』として今日もまた施設の運営をするために通常業務に取り掛かるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 そして……

 

 

 

「うう……?」

 

 森の中、木の幹もたれかかる一人の少年。

 

 意識を失っていた彼は、自身の組織が、細胞が死滅していく痛みが和らいだことで意識をわずかに取り戻す。

 

「だ……だれ?」

 

 彼、秋道チョウジは自身に対して医療忍術を施す人物へと声をかける。

 

 一族秘伝の丸薬の効果により、死へと向かっていたチョウジ。仲間のサスケを……里を抜けた彼を連れ戻す道中、接敵した相手に1人立ち向かったチョウジは瀕死の状態となっていた。

 

「随分と……頑張ったみたいだなチョウジ……お前はやっぱりすごいよ」

 

 目が霞むチョウジは、自身の動かせない体が外的力によって拘束されていることに気がつく。

 

「俺の医療忍術じゃ、今のお前の状態を完全に治すことが出来ない……悪いが、結界忍術との併用で症状の進行を抑えることしかできないんだ、ごめんな」

 

 そういう〈彼〉の優しい声に安心感を覚えたチョウジは、気を緩ませ意識を手放した。

 

 

~~~~~~

 

 

「……グッ……っ」

 

 森の中をよろめきながらも歩く長髪の少年。彼は身体に幾つもの穴を開け、傷をから血を流しつつも前へと進む。

 

「っ……!」

 

 体は限界を迎えようとし、前のめりに倒れようとしたときにその少年、日向ネジの身体を何者かが支える。

 

「よう、随分とボロボロのようだな、ネジ」

 

「お前は…………ッ」

 

 その者はネジの身体をゆっくりと地面へと横たわらせる。

 

「フフッまさかネジがここまでボロボロになるとはな。それに仲間のためにお前がここまで身体を張るのも奇妙なもんだな?」

 

 医療忍術により、ネジの身体に最低限の応急処置が施される。

 

「別に……俺は仲間が……どうだの……そういう……感情に惑わされてなどいない……っ!」

 

「へぇ~?」

 

「だが……仲間の為に不相応に足掻くのも……悪くはないものだな……」

 

「そうか……」

 

「ッ……やはり人は弱く、運命はどうにも捻じ曲げることが難しい。 それでも……秋道チョウジのような、気弱な奴が奮起する姿に、不覚にも俺は……」

 

 ゴホッと大きく吐血したネジは自身に医療忍術を施す人物へと目線を向ける。

 

「……俺たちは天才と呼ばれるが……繋がりが必要なただの人間なんだと……その繋がりのために足掻く、力の一部なんだと気がつかされた」

 

「……意外におしゃべりだな」

 

「ッフ……だがお前のことはやはり分からない……お前はなんの……た……め……」

 

 意識を手放したネジに向け、〈彼〉は呟く。

 

「何時だって俺は……〈俺〉のために戦っている……」

 

 

~~~~~~

 

「木ノ葉の同盟国……砂の忍びだ」

 

「僕はまだ……酔っているのでしょうか……」

 

「リー……俺とやり合った時よりも随分とスピードが遅いな?」

 

「言ってくれますね……っ」

 

 砂が渦巻き、朱い衣に身を包んだ少年は緑衣の少年の前に立つ。

 

「貴様……そうか、砂漠の我愛羅か」

 

 自身の身体から幾つもの〈骨〉を突出させた人物は、警戒すべき人物へと指先を向ける。

 

十指穿弾(テシセンダン)

 

 指先から放たれた骨の白き弾丸は我愛羅の前に展開された砂の壁に突き刺さり、あわや貫通するほどの威力を見せる。

 

「……せっかちだな」

 

 我愛羅の呟きと共に砂がうねりを見せた瞬間

 

 

 

 

「追いついた」

 

 

 

 

 仮面の忍びが緑の閃光をほとばしらせながら姿を現す。

 

「次から次へと……」

 

 呆れる〈骨〉を突出させた人物に目もくれず、仮面の忍びはリーと我愛羅へと声をかける。

 

「ここは俺が引き受ける、2人はナルトを追え」

 

「ですが……っ」

 

 リーが反論を述べようとするが

 

「お前たちはサスケを取り戻すのが目的だろう? 行け」

 

 有無言わさないよう仮面の忍びは手で合図を送る。

 

「お前……」

 

「我愛羅か、久しぶりだな。 あまり会話したことないけど俺のこと覚えておいてくれるって言ってただろう? ならリーを連れて先に行って、出来ればナルトを助けてやってくれ」

 

 少し目を瞑り思案した我愛羅は、砂を操作し自身とリーの身体を砂で持ち上げ浮き上がらせる。

 

「ああ、覚えている……ならここは任せよう」

 

 そのまま移動を開始させた2人に向け

 

「行かせるわけがないだろう」

 

 再度骨の弾丸が放たれようとした瞬間

 

 (いかづち)が閃光を放ちそれを妨害する。

 

 仮面の忍びの援護を受け我愛羅たちは先の森へと進行していく。

 

「ふー……お前たちはぞろぞろと……イラつかせてくれる」

 

「悪いな……()()()()()()()に手を煩わせて、なあ〈君麻呂〉」

 

 仮面の忍びに名を呼ばれた音の元五人衆、君麻呂は警戒を露わにする。

 

「貴様……」

 

「何故それを……って? お前について俺はある程度把握している、んでもどうしてもお前に聞かないといけないことがある」

 

 君麻呂は腕の骨を身体から抜き取り、剣のように構える。

 

「僕がお前にモノを教える義理などない……サッサと殺して、先の2人も後を追わせてやろう」

 

 仮面の忍びは身体から緑の雷光を放ち構えを取る。

 

「そんなことはさせないし、出来ない。 なんせ俺が来たからにはな」

 

「なるほど貴様が……『翠色(すいしょく)の雷光』・黙雷悟。 カブト先生が警戒しろとおっしゃっていた忍びか」

 

 

~~~~~~

 

 

 先へと進んだ我愛羅とリーは砂に乗り素早く移動している。

 

「この調子ならナルト君とも直ぐに合流できそうですね」

 

「ああ、うずまきナルトには個人的に借りがあるそれを……っ?」

 

 ふと砂の移動を止めた我愛羅にリーは疑問符を浮かべる。

 

「どうしましたか? 急がないと……」

 

「……何者だ?」

 

 警戒の色を示す我愛羅の呼びかけに、素直に木の陰から1人の人間が姿を現す。黒いローブを身に纏い、フードで顔を隠した人物は見た目からは性別すらも確認することができない。

 

「敵……ですか?」

 

 リーもその人物の不穏な感じに警戒をし、構えを取る。

 

 その怪しい人物は手を叩き拍手を行い、明るい声色で話し始める。

 

「いやー流石砂漠の我愛羅。 アタシの存在に気がつくとは……いやあ…………めんどくさ~」

 

「女性……?」

 

 リーの呟きに反応しその人物はビシッと指をさす。

 

「正解!!! ……ってことでじゃあ、ついでにアタシの目的もわっかるっかな~♪?」

 

 明らかにテンションの高いその人物のふらふら身体を揺らしローブの袖をひらひらと揺らす奇妙な様子に、リーと我愛羅は警戒の色を強める。

 

「名と目的を言え」

 

 簡潔な我愛羅の要請にその人物は少しだけ不健康そうな白い肌と薄い口紅が塗られた口元を大きく歪ませ答える。

 

「素直に答えてあげよう! 私の名前は天音小鳥、目的は…………アナタたちの排除♪」

 

 瞬間、我愛羅の隣にいたリーが気を失い前のめりに倒れる。

 

「っ幻術か……っ?!」

 

 我愛羅の予想には有無も言わず、天音小鳥を名乗った人物はローブから右手だけを所謂指鉄砲の形にして露出させる。

 

「BAN♪BANん~~♪」

 

 明るい声色を出しながらも、その指先から水を高速で射出し我愛羅を狙う撃つ天音。

 

 我愛羅の砂によるガードはその水の弾丸を軽く受け止める。

 

(先ほどの奴の攻撃よりは威力がかなり低い……)

 

 我愛羅がそう判断した瞬間、我愛羅の意識外で砂のオートガードが発動し我愛羅の周囲を覆う。

 

「何……っ」

 

 砂に包まれた我愛羅に聞こえる風切り音から風遁による不可視の攻撃を受けていることがわかる。

 

「印を結ばずに……? 影分身を死角に隠していたか?」

 

 冷静にことを分析しようとする我愛羅、しかし

 

「悠長にしてる暇はないよ~? お仲間も守らなきゃ♪」

 

 外で、リーの方が狙われ始めたことで我愛羅の意識をそらす。砂のオートガードは我愛羅本人にしか発動しないため気絶しているリーは意識的に守る必要があるからだ。

 

「連弾砂時雨」

 

 反撃に転じ、我愛羅は砂の壁から無数の砂の弾丸を射出する。

 

「ウップス! 危ない~危ない~♪」

 

 天音はその攻撃を素早い身のこなしで避ける。

 

「でも私を捕らえるには数が足りないかもね!」

 

 明らか手数の多いその攻撃を余裕に避ける天音に我愛羅は

 

「ならばこれでどうだ? ……砂瀑柩!」

 

 と掌を広げて突き出す。 すると辺りに散った細かい砂が女性の四肢を捕らえる。

 

「ウップス!?」

 

「……喰らえ」

 

 そして見せつけるように我愛羅は掌を握りしめ砂の圧力を強めそのまま四肢を砕きにかかる。

 

 が

 

 炸裂音と共に、女性の四肢を覆っていた砂が爆ぜる。

 

「手足からのチャクラ放出で逃れたか……」

 

「ちょっと痛かった!!」

 

 天音は抗議を示すかのように声を荒げるも、その場に似つかわしくない声色であることに変わりはない。

 

(繊細なチャクラコントロールを得意としているようだが、チャクラ量自体は大したことがなさそうだな)

 

 そう判断した我愛羅は一気に勝負を決めに行く。 両の手の広げ辺り一面を砂で被い女性を捕縛する。

 

「へぇ~かまくらみたいね♪」

 

 呑気な女性の声に、我愛羅が呟く。

 

「砂瀑牢……そして終わりだ」

 

 広いドーム状の砂が一気に収束を見せる。

 

 

「砂瀑送葬!!」

 

 

 我愛羅の叫びとともに、多量の砂が互いをすり潰すかのように圧力をかけ収束する。

 

 あたりに砂の散る音が聞こえる中、我愛羅がその砂の塊に目を向ける。

 

「……死んだか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、思うじゃん?」

 

 瞬間我愛羅は大きな力に弾かれるように、周囲の木々をなぎ倒しながら突き飛ぶ。

 

 突然の衝撃とその威力の高さに、我愛羅の盾である体表を覆う硬い砂の鎧がボロボロと崩れ去る。

 

 水遁でオートガードの砂の動きが固められ鈍り、ガードが間に合わない素早く重いその一撃は我愛羅の意識を削った。

 

「っ……何が……?!」

 

 狼狽える我愛羅の呟きに背後から囁き声が聞こえる。

 

「教えなーい♪」

 

 その瞬間には再度我愛羅は吹き飛び、砂の鎧は完全に崩れ去る。

 

 地面を転がる我愛羅は何かにぶつかり止まる。

 

 薄れ行く意識の中、それは先ほど自分を蹴り飛ばした天音であることに気がつく。

 

(……ッ速すぎる……)

 

 言葉を発する気力すら削がれた我愛羅に、女性は足で踏みつけている我愛羅に目線を向ける。

 

 フードを下から覗く我愛羅が目にしたその女性の瞳は

 

 

 朱い光を見せる。

 

 

(うちはサスケと同じ……?)

 

 意識が消えかける我愛羅にその女性はしゃがみ込み、耳打ちをする。

 

「お疲れ様……もしかしたら、また会えるかもね……砂漠の我愛羅」

 

「き、きさま………………」

 

 

 

 そこで我愛羅の意識は完全に落ちる。

 

 近くに避難させられていたリーが我愛羅の気絶により砂の保護から解放される。

 

 その様子を確認した天音小鳥を名乗った人物はフードを取り、その黒髪を露出させる。

 

「ハ~~~~~っ思ってたよりも何倍もキッツイかも……不意打ちもバレてたし……()()()()()()()()()()()()とはやっぱり我愛羅は強いわねぇ」

 

 そう呟く彼女。 ふと何かに気がついたように「そうだ」と手をポンと叩き呟く。

 

 

 

 

 

 

「せっかくのチャンスだから〈彼〉にも会っておきましょうか……っ!」

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 一方悟と君麻呂の戦いは熾烈を極めていた。

 

 お互いに一歩も引かない戦い、君麻呂は己の〈地の呪印〉を解放し悟を追いこむ。

 

「話に聞いていたよりも、随分と力が弱い……興ざめだ」

 

 悟の飛雷脚を君麻呂は皮膚の下に展開した骨の鎧で受け止め、呟く。

 

「あいにく調子が悪いんだよ、アンタと一緒でねっ!!」

 

 追撃の蹴りで、君麻呂の骨の剣による反撃を躱す悟。

 

 雷神モードによる剛拳は君麻呂の防御を崩せないことに気づき悟はため息をつく。

 

「ハぁ……思ってたよりもキツイなぁ……やるしかないか……っ」

 

 そう呟く悟は大きく息を吐き、より激しい緑の雷光を纏う。

 

「八門遁甲・第六景門・開……いくぞ」

 

 更にスピードの増した悟の動きに君麻呂はガードのために全身から骨を突出させる。

 

「雷神・剛掌波!!」

 

 ほぼ同時と錯覚するほどのタイミングで360°から衝撃波が君麻呂を襲う。

 

「っ……スピードが煩わしい……なるほど威力も上がり厄介だな」

 

 体術メインの君麻呂に対し、拳圧による制圧を試みる悟。

 

 しかし君麻呂の体表を覆う呪印が肌へと染みわたり、体表を浅黒く染める。

 

 そして君麻呂の身体は骨の砕けるような奇妙な音を響かせ変化する。

 

 その様子を剛掌波を放ち続ける悟が確認する。

 

(尻尾が生えて、背中から角のような骨の突出……これが状態2、見た目的に差し詰めトリケラトプスって所かな)

 

 そう君麻呂の変化した姿に感想を思った瞬間

 

 剛掌波に怯みもしず君麻呂は一直線に悟へと突き進み始める。

 

「死ね」

 

 君麻呂のシンプルな突進、背中から前方に飛び出た2本の骨が悟に突き刺さる直前でその動きは止まる。

 

 ギリギリのところでその骨を掴み受け止めた悟。

 

「っグゥ……!!!」

 

「この状態でなら、パワーは僕の方が上のようだ。 そして……」

 

 その言葉の後、君麻呂の身体から無数の鋭い骨が飛び出し悟の身体を傷つける。

 

 変幻自在の追撃が悟の肉を削る。

 

 辺りに血が飛び散るも、そんなことはおかまいなしに悟は大きく頭を振りかぶる。

 

「……ッ喰らいやがれぇ!!!」

 

 振りかぶった瞬間、仮面のチャクラの吸着を止め仮面を外し顔を晒した悟は君麻呂の頭に向け頭突きをお見舞いする。

 

 大音量の鈍い音が響き、両者の距離が離れる。

 

 骨の硬度が硬い君麻呂であっても、幾分かの衝撃が脳を揺らし足取りをふらつかせる。

 

 しかし

 

「ッお前の方がダメージは大きいようだな?」

 

 君麻呂の言葉通り、額から大量の血を流す悟。 尻もちをつき、頭を押さえながらもその緑の眼は君麻呂を捕らえ続けている。

 

「ふー……あまり時間もない……その様子では先ほどの()()()()に……やはり答えるわけにはいかないようだ」

 

 そういう君麻呂は大きく跳躍、そして

 

「終わりだ、早蕨の舞(さわらびのまい)

 

 君麻呂の全身から悟に向け、おびただしい量の骨が突き進む。

 

 無数の骨の集まりが、1つの塊となり悟を押しつぶさんとする。

 

「っ……クっ!!」

 

 巨大な隕石と見間違うほどの質量に、景門・雷神モードの悟さえも支えきれずに片膝を着く。

 

 上方からの質量の暴力、支える両手に突きさる骨、次第に悟の姿が骨に埋め尽くされ……

 

 

 ……

 

 

「死んだか……」

 

 骨の塊の上部から君麻呂が呪印を収めた姿ではいずり出る。

 

 ピクリとも動かない巨大な骨の塊が悟を押しつぶしたことを確信した君麻呂は

 

「しかし……奇妙な男だった……知りえるはずのないことを知り……なおも僕に……〈()()()()〉の詳細な位置を尋ねるなどと……」

 

 そう呟き先に進んだ我愛羅とリーの行く末を睨む。

 

(もう……僕に時間はほとんど残っていない……しかし大蛇丸様のためにも……)

 

 意識が完全に悟からそれた瞬間

 

 

 

 

 骨の塊が爆ぜた。

 

 

 

 

 民家ほどの巨大さと高密度を誇る骨の塊がバラバラに爆ぜ、上部に居た君麻呂を地面へと落とす。

 

 

「っ!?」

 

 驚く君麻呂はが見た光景は……

 

 

 

 青い蒸気を発し、上方へと拳を突きあげている悟の姿であった。

 

 

 

「……ありえないっ」

 

 そう呟く君麻呂。

 

「はぁ……はぁ……ッ八門遁甲……第七・驚門……ここまでリスクのある術を使ったんだ……いい加減俺の質問に答えて貰おうか」

 

 全身が血に染まり、雪の国で譲り受けた装束もボロボロになってもなお、黙雷悟の緑の眼の光は鈍らずに君麻呂を捕らえる。

 

「なるほど……君も特別な忍びの一人ということか」

 

 その一種の狂気を孕んだ視線に、君麻呂は目を閉じ思考する。

 

「いいだろう……次の一撃で君を見極める」

 

「OK……シンプルに行こうか……っ!」

 

 君麻呂は再度呪印を解放し、〈状態2〉の姿へと変貌

 

「穿て……鉄線花の舞・花!!」

 

 右腕を骨が侵食し、巨大な槍の形へと変化する。

 

 一方で悟も、驚門による反動に顔を歪めつつも、柔剛拳の構えを取る。

 

 お互いに決死の一撃を放つための、タメを作り一瞬の静寂の後

 

 

 

 相応の蹴った地面が爆ぜ、距離が縮まる。

 

 

 

 超高速での接近、既に互いの認識が勝つか負けるか、衝突の瞬間に注がれるはずの展開、しかし君麻呂が刹那に見た景色は彼の思考に

 

 

 

 自身の負けを連想させていた。

 

(……朱い瞳っ!?)

 

 悟の柔の構えを取る右手が骨の槍に触れた瞬間、大きく側面を撫で槍内部に内部破壊のチャクラが注ぎ込まれ……

 

 剛の構えを取る左手による渾身の左ストレートは最高硬度の骨の槍を麩菓子のように砕き、そのまま君麻呂の右半身を吹き飛ばす。

 

 

 

 殴りぬけた拳圧が、君麻呂の後方の木々を揺らす。

 

 悟の放つ青い闘気は収まり、君麻呂は正面へと倒れ伏しその体を悟はしっかりと受け止めた。

 

 

「グッ……あ……ああ、僕は……ここまでなのか……っ?」

 

「……その体でよくやったよ、アンタは……あとは()()()()()

 

 君麻呂の呪印は主の衰弱により、収まりを見せ姿を元の者へと戻す。

 

 口から血を垂らした君麻呂は噛みしめるように、悔しそうな表情を見せる。

 

「大蛇丸さま……僕の生きる意味……僕は…………ッ」

 

 うわ言のように呟く君麻呂の様子に、彼の身体を抱く悟もまた複雑な表情になる。

 

「――――」

 

 瞬間小さく何かを呟いたように君麻呂の口元が動き、悟がハッとして彼を見た瞬間には

 

 

 君麻呂は息絶えていた。

 

 

「ありがとう……アンタの意思は無駄にはしない」

 

 悟はそう呟き、君麻呂の身体を地面へとそっと横たわらせる。

 

 彼の目を撫ぜ、瞼を閉じさせた悟だが直ぐにハッとして何かに気がついたように立ち上がる。

 

(この気配……ッ)

 

 チャクラ感知に引っかかった対象に、警戒を示す悟。

 

 

 

 

(俺が弱るのを待っていたのか……ッまあ最初っからそれが狙いだったんだろうな……)

 

 

 

 

 悟の背後に位置する森の中から黒いローブを纏った人物が姿を現す。

 

「よし、見つけた……♪」

 

 小さく明るい声で呟くその人物の手にはクナイが握られている。

 

 

 悟は息を整える。

 

(大丈夫……まだいける……俺は死なない……こんなところで死ねないっ)

 

 

「3」

 

 ローブの人物の明るい声が小さくカウントを取る。

 

「2」

 

 悟は残る力を振り絞り、雷神モードへと移行しその目を写輪眼へと変える。

 

「1」

 

 ローブの人物がフードの合間から朱い瞳を覗かせ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 そしてこの日を境に黙雷悟は忍界から姿を消したのであった。



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77:終末の谷の戦い

「俺から……逃げんのかっ!!」

 

 終末の谷、千手柱間の像の頭上でうずまきナルトが吠える。

 

 対岸、うちはマダラの像の頭上で背を向けるうちはサスケがその言葉に振り返る。

 

「よう、ウスラトンカチ」

 

 サスケの顔左半分は呪印の侵食が見え、瞳の色を月の如く黄色く変色させている。

 

「サクラの次は……お前か」

 

 感情のない、無表情のサスケにナルトは小さく恐怖を覚える。

 

 ナルトの知る彼の普段の表情とは違い、それは突き放すように冷たい表情だった。

 

「何で……何でだよ……サスケェ……」

 

 ナルトの脳裏に浮かぶ、第七班での任務の日々。 つまらないと言いつつも、任務でお互いムキになって畑の収穫を競ったり修行で進捗を報告し合ったり……。

 

 アカデミーから続く、奇妙で、けれど暖かい、そんな日々……

 

「何でそんな風に……お前はっ!!」

 

「俺には俺の道がある……それだけだ」

 

 つい先日、一緒に雪の国の事件を解決した仲間が……里を抜けようとしている。

 

 その余りにも不条理で理解できない今の状況にナルトは苛立ちを見せる。

 

「……シンプルに言えば、ドベのお前にもわかるか……? 俺には……お前ら木ノ葉の連中と慣れ合う時間はないってことだ」

 

 突き放すサスケの言葉に、ナルトは理解を拒絶するように頭を横に振る。

 

「チョウジやネジ……キバやめんどくさがり屋のシカマルまで……それに手術したばっかりのゲジ眉まで……みんな命懸けで……」

 

「ご苦労なこったな……そんな暇があれば里で修行の1つでもしてれば良かったものを……」

 

 サスケの言葉にナルトは目に涙を浮かべ歯ぎしりを鳴らす。

 

『最後に一番大切なことを言っておく。 サスケは俺にとっちゃ深いダチって訳でもねーし、別に好きな奴でもねぇ……けどサスケは同じ木ノ葉隠れの忍びだ! 仲間だ!! だから命がけで助ける……これが木ノ葉流だ』

 

 サスケ奪還の任に着くときのシカマルの決意を固めた言葉を思い出し、ナルトは目を見開く。

 

 ナルトに再び背を向け、歩き始めたサスケが自身に影が落ちたことに気がつく。

 

 サスケの頭上へと跳躍したナルトが叫ぶ。

 

「てめぇは木ノ葉の仲間を何だと思ってんだ!!!!」

 

 そのままサスケを地面へと叩きつけ、ナルトはサスケの顔を殴りつける。

 

 それでも口から血を流しつつも表情を変えないサスケにナルトが組み伏せたサスケの胸倉を掴み持ち上げる、すると

 

「その仲間とやらは……俺の何を知っている……?」

 

「……ッ!?」

 

 サスケがその口を開き、反論をナルトに叩きつける。

 

「うちはの惨状も……その真実も……何もかもが……里の奴らが知る由もないことだ」

 

 サスケの視線が僅かに鋭くなる。

 

「うちはが壊滅したあの夜、あの場に居た俺と……悟だけは違和感を覚えた……だからこそ、あいつは俺の無様な暴力すら受け入れ……」

 

「何言ってんだ、サスケ……?」

 

 困惑を露わにするナルトにサスケも胸倉を掴み返す。

 

「俺は……里は信用していない」

 

「っ……なんでだ!? お前も……あんなに楽しそうに……」

 

 サスケの言葉に至近距離でナルトが怒鳴り返す。 思い出が輝かしいほどに、それを否定されナルトは激高する。

 

「ああ、俺自身も……お前らとの日々を……満更でもないと、思っている」

 

 だが

 

「それだけだ……日の当たる面にばかり眼を向け続けてしまえば暗い……闇を見通すことは敵わなくなる」

 

 瞬間、サスケの頭突きがナルトの顔面を捉え怯んだ隙に蹴り飛ばされてしまう。

 

 起き上がり埃を払う仕草をし、サスケは言葉を続ける。

 

「ナルト……お前も、俺と同じはずだ」

 

「っ痛ぅ……何がだ……」

 

 サスケがナルトへと指差す。

 

「イタチが狙っていた、お前の中に宿る〈力〉……その力が木ノ葉で()()()()()()……お前自身が詳しくはなくとも知らないわけがないだろ?」

 

「っ……!」

 

 サスケの言葉に仰向けのナルトは目線だけをサスケに向け押し黙る。

 

(……)

 

 さらにナルトの中の九喇嘛もまたその言葉を聞き、瞼を伏せる。

 

「多くの者を傷つけたその力……それがもたらした影響……少なくとも、悟と出会う前のお前はそれに苦しんでいた」

 

「……うるせぇ

 

「そして、お前自身が感じたハズだ……その力さえなければ、いや〈己の意思で振るえる力〉があればと」

 

「うるせぇ!! サスケェ……お前に何が!!!!」

 

 そこでナルトは気がつく。 ……サスケの憐れむような視線に。

 

「……その力はなぜ、お前の中にある? ……なぜ里の者は皆、極秘として火影が指定したはずのその秘密を公然と知り、お前を虐げてきた?」

 

 ナルトはサスケの言葉に、言葉もなくうつむく。

 

「秘密を、闇を暴くのには闇へと進みそれを払う力が必要だ。 ……そこで仲間の力を借りたところで、己自身が弱ければ意味がない」

 

 己の左手を睨みそれを握りしめるサスケ。

 

「力そのものには、善も……悪もない。 あるのはそれがどのように振るわれるか、振るわれたか……だ」

 

 サスケの目線は再びナルトへと向けられる。

 

「俺は……俺の目的を成すための力を手に入れる……それが例え……己以外が忌み嫌う力だとしてもだ」

 

「……大蛇丸ってのは三代目を殺して、里を潰そうとして……お前の体を只の入れ物として欲しがってるだけの変態ヤローだ……そんな奴のところに何て……」

 

「だからこそ、闇を見通せる。 兄が……イタチが居るその場所を」

 

 ナルトはサスケを説得するために立ち上がる。

 

「所詮今の俺たちは何も知らない……知ることのできないただのガキだナルト。 自分の立場さえ本当の意味で理解できていない……」

 

「……そうかもしれねぇ!! だとしてもだっ!!! それはサクラちゃんを悲しませてまですることなのかよォ!?!?」

 

「………………俺の道を助けろともいうつもりもないが、邪魔をするなら……その全てが俺の敵だ……っ!」

 

 ナルトの言葉を受けたからか、呪印がサスケの首元へと収束を見せる。

 

 しかしその瞬間に放たれたサスケからの冷たい殺気にナルトは、苦虫を嚙み潰したような表情で俯き、身体を震わせる。

 

「例えお前に敵と思われてもだ……俺は……てめぇを、サスケェ!!! ぜってぇに木ノ葉に連れ戻すっ!!! 大蛇丸なんかにはやらねぇっ!!」

 

 ナルトの咆哮に合わせるように、高速で接近したサスケの不意打ちの蹴りにナルトは対岸の柱間の像へと叩きつけられる。

 

「ッがぁ!?」

 

「ならやってみろウスラトンカチっ!! てめぇが今持つ、全力でなっ!!」

 

 叫ぶサスケは額当てを着け、対立の印を構える。

 

(サスケ……俺はこんな形でお前とは戦いたくはなかったってばよ……っ!)

 

 ナルトも立ち上がり、対立の印を構える。

 

 いつか互いに戦いたいと願った2人の対立が印をもってなされる。

 

 

 

 2人の間、その空間に木ノ葉が漂い滝壺へと吸い込まれていく。

 

 思い出も、感情も……今は言葉に意味はなく

 

 忍びが語らうのはただ己が研鑽した〈力〉のみ

 

 

 

 木ノ葉が水面へと着いた瞬間、互いが己の最高峰の技を構える。

 

 ナルトは影分身と螺旋丸を

 

 サスケは千鳥を

 

 サスケは千鳥の身体活性により大きく跳躍、ナルトも影分身の烈風掌に押し出され宙へと飛び出す。

 

 

「サスケェーーーーーっ!!!」 「ナルトぉーーーーーっ!!!」

 

 

 互いの術が、力が、意思が滝の上で衝突する。

 

 術と術の衝突が発生させた衝撃が水面を削る。

 

 

 

 数秒ののちに、お互いの術の衝撃が両者を吹き飛ばす。

 

 水面へと着地したサスケは印を構える。

 

(俺の千鳥とあの螺旋丸とかいう術の威力は同等か……千鳥はチャクラ消費が激しい……ナルトとのあの術と相打ちで終わる今は、搦め手で攻める……っ!)

 

「火遁・鳳仙花!」

 

 サスケの放つ複数の火の玉はそれぞれが弧を描き、態勢を整えるナルトの元へと向かう。

 

「影分身!!」

 

 咄嗟にナルトは火の玉の数だけの影分身をだし、それらを盾にすることでサスケへと走り寄る。

 

 影分身が消えた瞬間の煙を巻き上げながら、ナルトがサスケへと殴りかかる。

 

 しかし、その攻撃の推進力をサスケは発動させた写輪眼をもってしていなし、滝壺に向けナルトを投げ飛ばす。

 

「うわっ!?」

 

 空中へと身を投げ出させたナルトに向け、追撃のためサスケが印を結びながら同じく滝壺へと跳躍する。

 

「火遁・豪火っッ!?」

 

 その瞬間サスケがナルトを視界に納める前に、ナルトの拳がサスケの視界を覆う。

 

「ガっ!?」

 

 写輪眼でいくら見切ろうが、身体が反応できないタイミングでの攻撃、サスケはナルトのアッパーカットを空中で喰らう。

 

(っ影分身に烈風掌で自身を打ち出させて、反撃に転じやがったかっ……!)

 

 ナルトの拳に怯みながらも、サスケはナルトの腕を掴んで引き込み膝蹴りを喰らわせる。

 

「グハっ……!」

  

 口から息と唾を吐き出すナルトだが、自身の額当てをサスケの額当てに思いっきりぶつけ仰け反らせる。

 

 そのままお互いに滝壺へと落ちながらの攻防を数度行い……

 

 終末の谷の2つの像の間に大きな水しぶきが上がる。

 

 数秒の静けさののちに、再度水しぶきが上がり2人が宙へと舞う。

 

 水面へと着地する両者。 サスケは呪印を解放しつつ、ナルトへと問いかける。

 

「知ってるかナルト……一流の忍び同士なら拳を一度交えただけで互いの心の内が読めちまうらしい……どうだナルト? お前に俺の本当の心の内が読めたか……?」

 

「そんなもん……わかんねぇよ……けど、だけど俺は……っ!」

 

「フッ……お前は甘いな……」

 

 サスケは容赦なく印を結び火遁を放つ。 後手に回るナルトは術を捌いた瞬間を狙われ、サスケの打撃を喰らってしまう。

 

(わかんねぇ……わかんねぇよ……サスケ)

 

 防戦一方となったナルトは徐々に意識を内へと潜らせる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワシの力が必要かナルト?」

 

 ナルトの精神世界、九喇嘛はナルトへと問いかける。

 

「……ああ」

 

 不貞腐れたようにナルトは呟く。

 

「……」

 

 その様子を少し見つめた九喇嘛は、ナルトへと渡る寸前になっていた朱いチャクラを引っ込ませる。

 

「っ……なんで!?」

 

 そのことに、つい疑問の言葉を述べるナルトに九喇嘛が語りかける。

 

「……うちはの小僧の言葉通り、ワシの力は多くの者を傷つけた」

 

「っそれは前にも聞いたってばよ! でもそれは操られて仕方なくなんだろ……? いいから今は力を……貸して――」

 

「いいや……確かに操られたの事実だ、だが……ワシは心の内でそれを楽しんでいた……」

 

「……っ!? ……そんなことは今は関係ねぇよ!! だから――」

 

 九喇嘛の語りを聞き受けたくないと首を振りナルトは力を催促するも、九喇嘛はナルトを冷たい目で見下ろす。

 

「言い方を変えさせてもらえば……ワシは貴様の師、イルカの両親を……悦び蹂躙したのだ」

 

「っ…………っク……」

 

 九喇嘛の言葉にナルトが目線を逸らし後退る。

 

「ナルト……お前は本当の()()から目を逸らしている……そうだな?」

 

「そんなこと……っ!」

 

「気づいているハズだ……そしてこうも思っているハズだっ! ワシさえ……九尾さえいなければ、自分は孤独を感じる必要がなかったとっ!!!」

 

 九喇嘛の指摘する声はだんだんと荒くなっていく。

 

「最近の……いや具体的に言おうか、貴様が螺旋丸をもってカブトを落ち倒したときに感じたハズだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を」

 

「……っ」

 

 口を挟もうとするナルトの言葉に被せ九喇嘛の言葉が続く。

 

「そして雪の国でもそうだ、ドトウを打ち倒したときにお前は何よりも先に自身の力の強さに酔いしれていた」

 

「……」

 

「お前は未だに黙雷悟に対して、嫉妬している……イヤ、初めからか? 初めから、悟と出会ったあの公園での出来事からお前は常に先を行く悟の力に憧れ、対等と口にする奴の言葉に怒りを覚えていた」

 

「……」

 

「ワシはお前の中でずっと見てきた……お前はまだ〈力〉を持つことへの、理解と覚悟が足りん」

 

「……だったら何だって言うんだよっ!! 今は説教聞いてる場合じゃっねぇんだよォっ!!」

 

 

 

 

「本当の……〈力〉が何なのか、貴様に教えてやろう……小僧」

 

 

 

 

 その九喇嘛の言葉の瞬間、現実世界のナルトの周囲に衝撃波が発生しサスケを吹き飛ばす。

 

 ナルトの周囲に渦巻き、立ち昇る朱いチャクラ。

 

(あれが……中忍試験で悟相手に見せたと聞いていた……なるほどナルトの内なる力か)

 

 サスケは、さらなるナルトの力に期待と不安を感じ、僅かに顔をニヤつかせる。

 

「……」

 

 無言のナルトの周囲に渦巻いていたチャクラは収束を見せ、ナルトの体表を覆う。

 

(まるで雪の国でのチャクラの鎧みてぇだな……だが随分と……身に迫るプレッシャーが違う)

 

 サスケの思う感想の如く、ナルトの体表のチャクラは、まるで獣を模したかのような形状となる。

 

 目を朱く変化させ、牙をむきだすナルトは一瞬視線をサスケに向け

 

 高速で接近をする。

 

 サスケの写輪眼は辛うじてその動きを察知し、ナルトの叫びと共に繰り出した攻撃に対応する。

 

「ガぁあああ!!!」

 

(身体能力の向上したか……だが俺の写輪眼なら見切れる動きだっ)

 

 大ぶりな引っ搔くようなナルトの攻撃をすんでのところでかわすサスケ。 しかし

 

 横を通り過ぎるナルトの腕の、朱いチャクラの衣が巨大な拳を模る。

 

「なっ!?」

 

 サスケが驚愕の声を上げた瞬間、その拳が振るわれサスケを吹き飛ばす。

 

 大きく吹き飛んだサスケは水切りの如く水面を跳ね、崖へと激突する。

 

 大きく弾けた崖にめり込んだサスケは吐血する。

 

(チャクラだけで……この密度の衝撃……っ)

 

 サスケが崩れ落ち、僅かな地面へと転がると既に跳躍したナルトがサスケの上空から飛びかかっていた。

 

(避け――)

 

 反応の遅れたサスケは右腕をナルトに踏み抜かる。

 

 地面がその攻撃で大きく陥没をして見せ、流れ込んだ水がサスケを攫い水深深くまで落とし込む。

 

「ガボッ……」

 

 水流に巻き込まれ、サスケは水中から水面に居るナルトへと目を向ける。

 

(あの様子……制御出来ていないのか……)

 

 折られた右腕の痛みに耐えながらもサスケは、ナルトの様子を観察する。

 

(あれが……あのナルトかっ)

 

 獣のように暴れ狂い、周囲に拳を振るうその姿はサスケの知るナルトのモノではなかった。

 

「……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――初めは、只の悟の腰巾着だと思っていた……イヤ違う、その前からも俺は……奴を、ナルトを知っていた。

 

    元より孤独だったお前の感情なんて、俺には少しも理解が出来ていなかった。

 

    だが俺の失った繋がりの痛み、それを痛感していると時に……ナルト……

 

    お前が1人で居る時の姿を思い出していた。

 

    互いを理解するのに……感じなければいけない痛みは同じである必要があるのか?

 

  

「っ!」

 

 水中のサスケは痛む右手を無理やり左手で補助し動きを追従させ印を結ぶ。

 

 

――――段々と強くなるお前を見て俺は焦っていた……中忍試験で悟と戦い、あの我愛羅を止めたお前を

 

    例え、お前が強くなろうが……俺には関係ないはずなのにだ。

 

    だが今ならわかる……お前は…………俺にとっての……

 

 

(雷装・千鳥……っ!)

 

 千鳥を全身へと纏い、サスケは一気に水面へと上昇する。

 

 

「っ!?」

 

 ナルトがその気配を察知するも、刹那のごとくサスケの拳がナルトを打ち抜く。

 

「おうらぁ!!!」

 

「ガっ……!」

 

 そのまま吹き飛ぶナルトに影舞葉で追従し、連続で蹴りを浴びせる。

 

 一撃一撃、纏った千鳥がナルトを被うチャクラの衣を削り痛打を与える。

 

 水面へと落下しつつも連撃をナルトへと浴びせ、着水する瞬間に、大きく体を回転させる。

 

「獅子連弾!」

 

 回転の勢いを乗せたかかと落としでナルトを水面へと叩きつける。

 

 大きく上がる水柱、しかし追撃の手を緩めないサスケは水面が衝撃で固まっている瞬間には既に動き出し、ナルトの左肩に対して千鳥の突きを繰り出し貫通させる。

 

 そのまま、すくい上げるような動作でナルトを対岸の崖へと放る。

 

 ナルトが崖の壁面にぶつかり、大きなクレーターを形成する。

 

「……ナルトぉ!!! てめぇは……そんなんで満足か!?」

 

 サスケはナルトに向け叫ぶ。

 

「力に振り回されるだけの……目的もなく、意思もないそんな状態がてめぇの望むものなのか?!?!」

 

「……うるせぇ!!」

 

 ナルトの咆哮が、ナルトの周囲の瓦礫を吹き飛ばす。

 

「何なんだよサスケェ……おめぇは何がしてぇーんだよ?!?!」

 

 正気を取り戻したナルトは右手の拳を壁面に叩きつけ憤る。

 

「俺は……俺にしか出来ないことを成す……」

 

 サスケは目を閉じ、集中する。 そして呪印を解放する。

 

 全身を覆う呪印はサスケの皮膚を浅黒く、髪を伸ばし白く染める。 呪印により、背中から拳のような羽を生やしたサスケが跳躍。

 

 それに合わせナルトも飛びかかり、空中で衝突する。

 

「その為に力を求める、この呪印のようにっ!!」

 

「力、力……ってうるせぇんだよ!! ……もう今はどうだっていい、ただサスケェ!! お前の手足を砕いてでも、里に連れ戻す!!! 俺がァ!! そうしたいから、そうするんだってばよォ!!!」

 

 背の羽で空に飛ぶサスケに水面に着地したナルトは、チャクラの衣を伸ばしサスケに向け攻撃を繰り返す。

 

「お前にとって、俺が何でもねぇーただの落ちこぼれでも、俺はぁ!! おめぇをライバルだと……兄弟みてぇな奴だって思っちまってる!! その繋がりだけは、何が何でも切らせねぇ!!」

 

「ナルト、お前は俺にとっての……()()()()()()だ。 だが、その繋がりは今は不要だ……重荷となるならば捨て行くまでだ!!」

 

 跳躍したナルトに、サスケが飛翔し勢いそのままに蹴りを放つ。

 

 衝突の勢いを互いが利用し、距離を離す。

 

 互いが終末の谷のそれぞれの像の足元に降り立ちチャクラを練る。

 

 右腕が動かないサスケと、左腕が動かないナルト。

 

 サスケは発動させたままだった雷装を左手に集中させ、呪印に染まったチャクラを加え黒き雷遁の光を左手に宿す。

 

 ナルトは右手にチャクラの衣から供給されるチャクラを回転させ、圧縮し留める。

 

「互いにリスクがある力のようだな……そろそろしまいにしよーぜ」

 

「……ッ」

 

 2人の視線がぶつかる。

 

 例え周囲に理解されなくとも、己の意思を貫き通す視線。

 

 ただひたすらに目の前の友を失いたくないという視線。

 

 

 

 

「終わりだ、ナルト」

 

「終わらせねぇーぞ、サスケェ」

 

 

 

 

 

――千鳥!!――螺旋丸!!――

 

 

 

 

    

 



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78:それでも止まらない時代

恐らく次で少年編は終了です。 長かった……


 灰色の雲が空を覆い、降りしきる雨が火の国を濡らす。

 

「カカシ、無茶せんでも……」

 

「イヤ、俺に構うなパックン……ナルトとサスケの匂いを追ってくれ……雨が匂いを流す前にだ」

 

 はたけカカシは、パックンらに頼み周囲の捜索を行っていた。

 

 数刻前に別の任務から帰還した直後にカカシはサスケの里抜けを知らされる。

 

 雪の国で万華鏡写輪眼の能力『神威』を使用したこともあり、そこからの連続の任務を終え、カカシの体力は限界を迎えつつあった。

 

(…………頼む、どうか最悪の結果にだけはっ)

 

 スタミナはとうに切れ、肩で息をしているカカシにパックンが声をかける。

 

「……近いぞ2人だ。 匂いが薄れてはいるが間違いない、こっちだカカシ」

 

「ああ、行こう……」

 

 それでもカカシは走る。 教え子たちの、変わらぬ明日を思って……

 

 

~~~~~~

 

 

 終末の谷、かつてうちはマダラと千手柱間の戦いにより崖ができ、川が流れたその渓谷は、若き2人の忍びによりまた別の爪痕が残っていた。

 

 国境沿いのこの場所の柱間の像の足元に、カカシは少年を一人見つける。

 

「ナルト……っ!」

 

 雨に髪を濡らし、息を切らすカカシが仰向けに倒れるナルトを見つけかけよる。 そしてその傍らに落ちているあるものに目が行き表情を曇らせた。

 

「遅かったか……ッ」

 

「間違いない……サスケの額当てだな……」

 

 パックンが雨に濡れ、木ノ葉のマークに横一線の傷がついた額当ての持ち主を当てる。

 

 カカシはしゃがみ込み、意識を失っているナルトを抱える。

 

「間に合わなくて……済まなかったな……お前の事だ……必死だったんだろ……」

 

 既にサスケの足取りは雨により追うことは不可能になっていた。

 

 自身が何もできなかった不甲斐なさがカカシの胸中を煮えたぎらせるが、しかしそれでも彼らの先生として、1人の大人としてカカシは冷静に撤退の準備を進めたのであった。

 

(サスケ……お前は……っ)

 

 

~~~~~~

 

 

 国境を越えた薄暗い森の中、木々の合間を縫い振る雨がサスケの体を冷やす。

 

「…………」

 

 無言で足を引きずり、折れた右腕を支えながらもサスケは前へと足を進める。

 

(兄さんが俺に……何をさせたいかなんてわからない……だけど……)

 

『最も親しい者を殺す』ことで手に入る力を拒否しサスケは目の前の暗闇を睨む。

 

(俺は……俺のやり方でアンタを越える……っ!)

 

 覚悟を心中に宿したサスケは……ふと足を止め後方を振り返る。

 

 この世界で現状、最も自分を理解してくれているであろう友がふと現れて励ましてくれるような……そんな心の弱さをふと覗かせたその行動。

 

 しかしそこに見慣れた仮面を見つけることは当然出来ない……

 

「……フッ」

 

 そんな未練がましい自分の行動を鼻で笑い、サスケは再び闇へと向け歩みを向けたのであった。

 

 

 

 

「うちはサスケ……」

 

 その様子を木の陰から覗く、ローブを身に纏った天音小鳥は小さく呟きそのまま姿を眩ませた。

 

~~~~~~

 

 

 カカシがナルトを背負い、木ノ葉へと帰還する道中医療班に所属する忍び達が2人を迎える。

 

「カカシさん! ご無事でしたか……っ!」

 

「うずまきナルトの容体は?」

 

「サスケは……うちはサスケは……?」

 

 カカシ本人への心配の声や、ナルトの安否を問う声が彼らから発せられる。

 

「どっちも……体は大丈夫だ。 だが……」

 

 カカシは顔を横に振る。 医療班たちはそのカカシの反応、そしてその背でその事実を確認した目を覚ましていたナルトに対して顔を曇らせる。

 

「他の下忍たちの状況は?」

 

 けれどカカシは感情を切り替え、この度の騒動での被害状況の把握を優先する。 それに対し、医療班たちは冷静さを取り戻し報告を開始する。

 

「火影様の命で、医療班が出動、既に今回の任務にあたった忍びを全員回収しました。 ……日向ネジ、秋道チョウジの二名は重体ですが……恐らく黙雷悟による応急処置があったため、油断は出来ませんが命に別状はないかと」

 

「何……?」

 

 報告内容に疑問を感じたカカシの呟きに、医療班の忍びが

 

「どうかされましたか?」

 

 とその内容を聞き出す。

 

 少しの沈黙の後、カカシが口を開く。

 

「悟が居ただと……?!」

 

 

~~~~~~

 

 

 ナルトを医療班に預け、彼を保護した状況の説明をパックンに任せたカカシ。

 

 カカシと医療班の忍び1名は、悟と君麻呂が戦闘していたであろう森の中の開けた場所に来ていた。

 

「辺りに散乱する骨のような物質、血の跡などの戦闘の跡が見受けられますが……ここにこれが」

 

 案内する医療班は、2箇所の木陰にカカシを導く。 そこにはそれぞれ悟の所持していた血の付いた仮面と、木ノ葉の額当てが落ちていた。

 

「間違いない……これは悟のモノだ……それで悟はどこに?」

 

「それが……」

 

 口ごもる医療班は、少し間を置き口を開く。

 

「分かりません……」

 

「分かりませんって……アイツも五代目の任でここに来てたはずだ、イヤ…………そう言えば五代目は悟については何も言っていなかった……」

 

 カカシは、綱手からサスケの里抜けの話を聞かされた時にそれにあたっていた忍び達の名を聞かされていた。

 

 その時当然居ると思っていた悟の名がないことに疑問を持ったものの、焦っていた当時のカカシは綱手の制止を振り切り木ノ葉を飛び出していたのだ。

 

「……辺りの調査は?」

 

 嫌な予感がカカシの胸を締め付ける、至って冷静に、カカシは現状の把握を優先する。

 

「一通り済んでいます。 激しい戦闘の跡が目立ちますが、ここで採取された血からこの場には少なくとも4名の忍びがいたことが確認できています、しかし」

 

「しかし……?」

 

「その中で、黙雷悟の登録されている血液サンプルと合致する血液はありませんでした。 確認できた血液の持ち主はロック・リーただ一人です。 それに周囲に遺体は一つも見当たらず……」

 

「サンプルと合致しない……? サンプルは忍者登録の時に採取された本人の血のはずだ……この仮面と言い、悟がこの場に居たのは間違いないハズだ……っ一体どうなって……?!」

 

 混乱するカカシだが、時は待ってはくれない。 はやる気持ちを抑えながらカカシは木ノ葉の里へと帰還するのであった。

 

 

~~~~~~

 

 木ノ葉の里では、既にシカマル、キバ、チョウジ、ネジらの治療が進められていた。

 

 特にネジ、チョウジの二人は重傷なため長時間の治療が施された。

 

 それぞれ綱手とシズネの先導の元、医療班らの必死の治療により結果として死者が出ることはなかった。

 

 そして……

 

 数回のノックの後、許可の声を聞き火影室にカカシが入室する。

 

 そこには今回、サスケ奪還のために協力を要請した砂隠れの砂漠の我愛羅と術後勝手に飛び出したロック・リーの二名が既に待機していた。

 

「綱手様……黙雷悟の件ですが……」

 

「ああ、それもあるが……我愛羅とリーが遭遇したというの謎のくノ一についてカカシ、お前の耳にも入れておきたい」

 

「くノ一……?」

 

 カカシの疑問の言葉に、我愛羅が一歩前に出て喋り始める。

 

「砂の忍び、我愛羅だ。 今回はサスケ奪還の力に成れず……済まなった。 今回俺とリーが遭遇した、くノ一について情報を共有しておく」

 

 感情に余裕の無いカカシはせかすように

 

「大蛇丸の手の内の忍びじゃないのか?」

 

 と疑問を口にするが我愛羅はそれを否定する。

 

「それは考えにくい……。 なぜなら今回、サスケが大蛇丸の元に行ったのは奴の血継限界『写輪眼』を狙ってのことだと推測される……しかし」

 

 我愛羅が目線を綱手へと向ける。 綱手は頷き我愛羅の言葉を繋ぐ。

 

「そのくノ一とやらは、信じがたいことに写輪眼を有していたそうだ。 実際リーが催眠眼をくらい、我愛羅が直接目を見て確認している」

 

「バカな……!?」

 

 信じられないという感想を抱くカカシ。 うちはは既に壊滅し、現状写輪眼を持つ忍びも確認されているだけで、はたけカカシ、うちはサスケ、うちはイタチの3名しかいない。

 

 新たに女性で写輪眼を持つ忍びが居るという事実にカカシが驚愕する。

 

「……それでそのくノ一については?」

 

 カカシの催促に我愛羅は答える。

 

「奴は名を天音小鳥と名乗っていた。 確認できたところ水遁・風遁を使い、恐らく特殊な体術に秀でていると思われる。 目的は俺とリーの排除だと言っていたが、俺たちを気絶させたにも関わらずそれ以上危害を加えてはこなかったようだ……そして」

 

「そして……?」

 

「『また会えるかも』……とも言っていた。 何を意味するかも分からないが、何かしらの目的を持った第三勢力の忍びであることは間違いないだろう」

 

 我愛羅が説明を終えると綱手は眉間に手を当てため息をつく。

 

「はぁ~……っ今回の件、多くの出来事が裏で起きていると見て間違いない……ホント厄介なことをしてくれる、大蛇丸め」

 

 綱手の愚痴に、相当参っている様子が伺えカカシが大丈夫かと口に出そうとするも手でそれを制され、綱手は再度口を開く。

 

「さて我愛羅、リー疲れているのに報告済まなかったな。 我愛羅は暫くはこの里でゆっくりしていくといい、無論残りの二人の連れも同様だ。 そしてリー、お前は入院だ。 手術を終えて直ぐに飛び出すとはバカ者!! そんなところはガイに似なくてもいいから、身体を休めることに集中しろ、以上だ」

 

 その言葉に我愛羅は一礼し、リーはしゅんとして落ち込みながら火影室から退室した。

 

 残されたカカシに綱手が重い口を開く。

 

「……悟の奴がサスケを追っていたことには私も気がつかなかった。 チョウジの治療の後、付き添っていたシカマルに確認したが悟当てに、マリエには一度私の元へ来るようにと伝言を残していたそうだが……」

 

「……悟の事です。 別のルートで事情を知り彼らの後を追ったとも考えられる……しかし」

 

 カカシは仮面を取り出し見つめる。

 

「こうも行方が分からないとなると……それに現場からは悟のモノと思われる血も出なかったとか」

 

「ああ、全くもって不可解だな……あの小僧がちょっとやそっとのことでくたばるとは考えにくいが」

 

「それは俺も同感です。 しかし無事であるならば、なぜ里に戻らないのか……」

 

「考えられるのは二つ……意図して里に戻らない何かがあるのかそれとも、本人の意思に関係なく……」

 

 綱手の推察にカカシが言葉を繋げる。

 

「誘拐された……?」

 

「戦闘の跡があるのにも関わらず、周囲に遺体がなかったことを考えると第三者が介入していると見て良い……そして」

 

「写輪眼のくノ一が……そうであると?」

 

「状況的に考えるとだ。 しかし目的も理由もハッキリとせず正体すら掴めない……もはや悟が生きているのか死んでいるのかすら推測もできん」

 

 頭を抱える綱手はさらに人差し指一本立て話を続ける。

 

「さらにだ……頭の痛いことにもう一人消息を断っている者がいる……」

 

「それは……?」

 

「火影直属の暗部部隊の一人がサスケの里抜けの報告直前から姿を消しているようだ……三代目の頃から仕えている優秀な奴だったが……」

 

 綱手は大きなため息をつく。

 

「とりあえずは以上だ。 現状、分からないことの方が多い……それに残された者のケアも怠れない。 カカシ、暫くお前にも休暇をやる、無茶をさせて悪かったな」

 

「いえ……ですが」

 

 綱手の提案に心配を口にしようとするカカシだが綱手が先に口を開く。

 

「心配するな、しばらくは砂の三人を木ノ葉の里で運用しても良いと砂から連絡があった。 もちろん就かせられる任務に制限はあるが、優秀な奴らだ。 ……お前もゆっくり休め」

 

 以上だと言って綱手は最後に

 

「あと……黙雷悟についてだが……蒼鳥マリエへの報告はまだしていない……このことについては私も正解が分からないのでな……」

 

 そう表情を曇らせる。 カカシは部屋から退室しながらもその言葉に答える。

 

「それは俺から伝えます……黙っていても仕方ないですし、それに……俺はあいつ(マリエ)の……友人ですから……ま、辛いことは一緒に乗り越えていきますよ」

 

 パタンっと火影室の扉が閉められる音が静かに響く。

 

「……ハァ……やはり火影というものは……ままならないな……」

 

 1人愚痴を吐いた綱手は、書類をまとめ、今回の怪我人の予後を見るために病院へと向かうのであった。

 

 

~~~~~~

 

 カカシは重い足取りで、施設『蒼い鳥』へと向かう。

 

 三代目がマリエへのためにと思い、増築し四代目とうずまきクシナが協力して作ったマリエの居場所。

 

(悟もそこに加わり、笑顔が絶えない場所になっていた……それなのに)

 

 カカシは迷う。 綱手にはああは言ったものの、マリエに悟の事を伝えるべきかを。

 

 カカシこそ、マリエが悟に執着するその意味を正しく理解できている一人であり、真実を知った後の彼女の動向を悪い方に何通りでも推察できてしまう。

 

 施設の近くまで来たカカシは、遠目にその建物を眺め目を細める。

 

(俺は……どういう面をしてマリエに会えばいい?)

 

 気持ちが落ち込み、カカシの目線が地面に落ちたときふいにカカシの背中が叩かれる。

 

「痛ぁ!?」

 

 何事だと思えば。カカシの背後に全身緑の色の……

 

「ガイ……」

 

「どうしたぁカカシぃ! また少し前のしょげくれたお前に戻っているぞっ!」

 

 明るい友が立っていた。 が、良く見れば声だけが明るく聞こえ、彼の眼には酷い隈が出来ている。

 

「ガイ、お前はまだサスケや悟の事、聞いてなかったか……」

 

「……っとすまん、色々あったのだな……リーの手術の成功まであちこち奔放していたのでな……二日ほど寝ていなかったのだ……」

 

 自分が空気を読めていなかったことを自覚したガイは気を落としカカシへと謝罪する。

 

「ま、気にすんなって……起きてしまったことはどうしようもない……そう、俺も覚悟を決める時みたいだ」

 

 ガイの雰囲気に中てられ、幾分か気分を持ち直したカカシはそのままガイを引き連れ施設の玄関前まで来る。

 

「悟について、詳しいことは分かってないが……お前とマリエは知る権利があるはずだ」

 

「カカシ……」

 

 覚悟を決めたカカシがチャイムを鳴らす。

 

 施設の中からは子どもたちの無邪気な声が聞こえる。

 

 少し待てば、玄関が開かれる。

 

「はいはい~とっお? 確かアンタらはマリエの同期の……」

 

 子供を2人背負い、ウルシが玄関から姿を現す。 直接は会話をしたことがないが、共通の人物を知っているため何となく互いを認識している間柄であった。

 

「はたけカカシです、こっちは友人のガイで……マリエはいますか?」

 

 簡潔なカカシの物言いにウルシは少し考える。

 

(あの暑苦しい方は、よく悟と一緒にいるのを見かけてたしマスクの方も最近マリエと出かけているところを見たな……怪しい人物ではなさそうか)

 

「ええ、マリエならいますよ……昨日少しごたごたしてて、今は部屋で書類整理をしています。 案内しましょうか?」

 

 そうウルシが提案するも、ウルシの足元にはさらに2人の子どもがしがみつきじゃれつく様子が見られ、カカシは少し微笑み

 

「いえ、お仕事の方が大変でしょう。 場所ならわかりますので、俺たちには構わず子どもたちの相手をしてあげてください」

 

 丁寧に言葉を返す。 ウルシが申し訳ないと頭を下げながら、子どもたちを抱えて廊下から別の遊戯室へと駆けこむ様子を確認しカカシとガイは施設へと足を踏み入れる。

 

 時間にして、昼過ぎぐらいであり、既に食事を終えた子どもたちはめいいっぱい遊び倒しているのであろう。 楽しそうにはしゃぐ声を聞きながらカカシとガイはマリエの自室前へと来る。

 

「……」

 

「カカシ、大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫だ……」

 

 カカシが扉をノックする。

 

「……っ俺だマリエ。 今時間いいか?」

 

 カカシが扉に向け声をかけると、部屋の中で椅子から立ち上がるような音が聞こえる。

 

 少し待てば扉が中から開けられ

 

「……中に入れ」

 

 マリエは速やかにカカシとガイを部屋の中へと招き入れた。

 

 

~~~~~~

 

 マリエの自室に入ったカカシとガイは、急須に入れられたぬるいお茶を振舞われる。

 

「いちいち淹れなおす時間もなくてな、すまない」

 

 申し訳なさそうに笑うマリエは客用の椅子に座る二人に自身の椅子に座り机を挟んで向かい合う。

 

「忙しいとこに悪いね、マリエ」

 

 カカシの気遣う言葉に

 

「たまにはいいさ……それにやっと落ち着く目途も出来た。 あと少しもすれば、私の仕事も楽になる」

 

 フッと笑いマリエは答える。

 

「そうですな、マリエさんは昔から真面目で……真面目で……」

 

 我もとガイが世間話を持ち掛けようとするも、気の重さに言葉が口からでなくなる。

 

 その様子にマリエはため息をついて

 

「……悟ちゃんのことだろう? 聞かせてくれ」

 

 声のトーンを落とす。 

 

「……っマリエ……気がついて……」

 

「御託も建前も良い……サッサと言え」

 

 カカシの言葉にマリエは本題を要求する。 鋭い目つきのマリエの圧に押され、カカシは口を開く。

 

「悟が……行方不明になった」

 

 

 

 

 カカシの簡潔な説明に、部屋の空気が重くなる。 ガイはその言葉に目を見開き、そのままマリエへと目線を向ける。

 

 俯き表情を見せないマリエ。

 

 

 そのまま、とてつもなく長く感じる1分が過ぎた頃にマリエがため息をつく。

 

「……やはりな、そんな事だろうと思った」

 

 これは困ったと、いう感じのニュアンスでそうマリエが呟く。

 

 思っていたマリエの反応とのギャップに男二人組が驚く。

 

「マリエ……お前」

 

 カカシの言葉にマリエは被せるように話し出す。

 

「少し、あいつにしては不自然な行動が2日前にあってな。 違和感はあったが上手く隠すようになったものだ……なるほどまた事件に巻き込まれたか、巻き込まれにいったか……」

 

 仕方ないといった感じのマリエの言葉にカカシとガイは黙る。

 

「昨日の朝、目が覚めたらナルト君達が来て……何かが起きているとは察した。 その時には既に悟ちゃんの姿は施設になかった、私が知る情報は以上だ」

 

 マリエは手を叩き、手を差し伸べ話し手の順番をカカシとガイへと譲る。

 

「……平気なのか?」

 

 カカシの信じられないといった声色の言葉に、ガイも頷く。

 

「平気……か、そうだな。 全く持って平気ではない」

 

 マリエは目線を落とすものの、直ぐに前を向く。

 

「だが、悟ちゃんのことで私がブレてしまえばこの施設の運営が揺らぐ。 私が守るべき存在は、アイツ一人だけじゃない……」

 

 その言葉にカカシは驚愕する。

 

 マリエは悟と言う存在に依存して精神の安定を保っていたはずだという認識がカカシにはあった。 しかし目の前の彼女は……まるで昔のように割り切った考え方をしている。

 

「それで、悟ちゃんは何の事件に巻き込まれてそれがどうなっているのか……部外者の私にも話せる範囲で話してくれ、カカシ」

 

 マリエは優しい声色でカカシへと問いかける。

 

「あ、ああ……わかった」

 

 動揺を隠せずにいるカカシだが、ガイとマリエに対して自分の知るうるサスケの里抜けについて語った。

 

 

~~~~~~

 

 

「なるほどな……あのサスケ君が……」

 

 話を聞き終え、考えるような仕草を見せるマリエと、悲痛な面持ちで下を向くガイ。

 

「リーが病院を飛び出したと聞いたが……まさかそんなことになっていようとは……っ」

 

「ガイは事情を綱手様から聞く前に、根を詰めて気絶してたと聞いてたけど……体調には気をつけろよ、お互い二十代後半なんだから」

 

 カカシの言葉に、ガイは乾いた笑いを浮かべる。

 

「全くだ……子どもたちを守ってやれないで……何が大人だ」

 

 気負いするガイにマリエは言葉を掛ける。

 

「気にしすぎるなガイ……確かに守ってやるのも私たちの務めだが、信じて見守るのも必要なことだ」

 

「マリエさん……」

 

「私たちは私たちに出来ることをしよう、そうだろうカカシ?」

 

 マリエの投げかけに、カカシはハッとする。

 

「……ああ、そうだな。 今回の事で俺たちが感情に囚われていては駄目だ、子どもたちのケアをしてあげないとな」

 

 そういいながら椅子から立ち上がるカカシ。

 

「もう行くのか……?」

 

「ああ、長居するのも良くないってね……それじゃあマリエ、ガイ。 今度メシでも食べに行こう……落ち着いたらね」   

 

 カカシがドアノブに手を掛けると、最後にとマリエが声をかける。

 

「白には私から事情を伝えておく」

 

「ああ頼んだよ、マリエ」

 

 カカシは音もなく、部屋から退出していった。 残ったガイも椅子から立ち上がる。

 

「俺も、ネジとリーの見舞いに行ってきます。 マリエさん、どうか辛くなっても一人で抱え込まずに俺たちに頼ってくださいね!! それじゃあっ!!」

 

 空元気を見せ、部屋から慌ただしくでていった。

 

 1人残ったマリエは、冷めたお茶をすすりため息をつく。

 

「……全く……悟ちゃんの奴め……」

 

 そう呟き席を立つマリエは部屋の外へと出て廊下を歩く。

 

 そのまま、悟の自室へと入り机の上に出されたボロボロの狐のお面を手に取る。

 

 昨日の時点で悟の部屋に探りを入れたときにそのお面にされた細工をマリエは見つけていた。

 

 お面を裏返せば、そこには一枚の折りたたまれた紙が張られている。

 

 マリエがその紙を手に取り、広げると

 

 その紙には一言だけ言葉が書かれていた。

 

「……ハァ……何が『信じて』だ……もう少し詳しく書かんかバカ者……」

 

 その言葉を呟くように読み上げマリエはその紙をお面に戻し、机の引き出しの中へとしまう。

 

()()のことを今更信じないわけがないだろう……早く帰ってきて私に笑顔を見せて頂戴、悟ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 1人一粒の涙を落としたマリエは、悟の部屋から名残惜しそうに出ていった。

 

 どれだけ苦しくても、どれだけ辛くても……明日は必ずくる。

 

 時計の針は止まってはくれないのだ。

 

 

 

 

 

 



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79:助走、奔走、遁走

 うちはサスケの里抜け、および黙雷悟が行方不明になってから二か月ほどたったころ……

 

 日向ハナビは早朝からの修行を終え、風呂場にて汗を流していた。

 

 日向の屋敷にある広い風呂場に1人、静かに湯船に浸かるハナビ。

 

 その表情は決して明るいものではなく、湯に染みる掌の傷に顔を歪ませていた。

 

 ふと、風呂場の戸が開きもう1人の少女が姿を現す。

 

「ハナビ……隣良い?」

 

 その少女は日向ヒナタであった。

 

 任務帰りだったのであろう彼女は、汚れた体を軽く洗い、ハナビの隣に浸かる。

 

「姉様……お帰りなさい……」

 

 声に元気のないハナビにヒナタは

 

「うん、ただいま」

 

 と朗らかに答える。

 

「……ハナビ、また無茶な修行してない?」

 

 心配するヒナタはハナビの掌に目を向けそう語りかける。

 

 悟が行方不明になったことを知らされてから、ハナビは厳しい修行を己に科すようになっていた。

 

「別に……無茶は……していません……」

 

 目を逸らして不貞腐れたように答えるハナビに対し、ヒナタは湯船の中でハナビの手を取る。

 

「嘘……ほら、こんなに傷ついてる。 ハナビの気持ちも分かるけど……こんなこと、悟君は望んでないと思うよ?」

 

 優しくその手をさするヒナタ。 幼馴染の悟の行方不明についてヒナタも、辛く感じてはいるがハナビの落ち込み様に自身は幾分かの冷静さを保てていた。

 

 二か月という時間も経ち、気持ちの整理もつき始めているのだろう。

 

 姉として気丈に振舞うヒナタの様子にハナビはただ俯いて

 

「……ゴメンナサイ……」

 

 そう呟くことしかできなかった。

 

 

~~~~~~

 

 

 風呂場から上がり、姉妹はそろって朝食の席に着く。

 

「思えば、悟君との付き合いも……色々と複雑というか……奇妙な関係だよね」

 

 静かに2人で朝食を食べているときにヒナタがハナビに話題を振る。

 

「……そうですね」

 

 ハナビの相槌には元気はない。

 

「ハナビが初めて悟君と会ったのは、さっきの女湯でだったし……その時は私もまだ悟君のこと女の子って勘違いしてて……それに悟君は私たちのことを色々と助けてくれて……」

 

 ヒナタの優しい声色で振り返る過去にハナビも少し笑みを見せる。

 

「そうですね……私も最初は悟さんのに対して『不審者』と呼んでキツク当たっていました……でも何時しか――」

 

 互いに悟の事が好きなのであろう。 しばらくぶりの姉妹の会話は昔話に花が咲き、儚く力強くもないが、確かに明るい声がそこにはあった。

 

 

~~~~~~

 

 

 朝食も食べ終え、身支度を整える姉妹。

 

「ハナビ、今日は何か予定ある?」

 

 ヒナタの問いかけにハナビは即

 

「試してみたいことがあるので修行でも……」

 

 と今さっきのことで後ろめたさを感じながらも答える。 心配してくれている姉にわざわざ言いたくもないが嘘をついても直ぐにバレてしまうので仕方がない。

 

「だーめっ! やっぱりそう言うだろうと思った……今日は私とお出かけしよ?」

 

 優しい声色のヒナタの注意と誘い。 ハナビは目を見開く。

 

「姉様……とですか? しかし……」

 

「遠慮しちゃダメだよ? たまにはね、ゆっくりすることも大切なの」

 

 ハナビの前でだけ見せる、ヒナタの姉としての姿にハナビは絆されその誘いを受ける。

 

「……わかりました。 それでは父様に話をつけてきますので、姉さまは準備をして待っていてください」

 

 普段から跡目であるハナビは、当主であるヒアシに逐一自身の行動を報告している。 そのため今回もヒナタと出かけること告げに立つ。

 

「分かったわ。 それじゃあ待ってるね」

 

 ヒナタの言葉を受けハナビは、父親の部屋へと向かう。

 

 ここ最近、修行をつけてもらうことばかりをねだりに行っているせいで今回もそうであろうと勘違いされてしまうかもと少し心配をするハナビ。

 

 縁側を歩くハナビがヒアシの部屋の襖の前まで来ると、中から何やら会話が聞こえてくる。

 

「例の男――所在についてだが――里抜け――俺が――」

 

「本当に――兄さん……無茶――」

 

 恐らく日向ヒアシと日向ヒザシの兄弟の会話であることを察したハナビは部屋に入るのを躊躇する。 すると

 

「ん? ハナビか、何か用か?」

 

 部屋の中のヒアシから声をかけられ、ハナビは礼儀正しい所作で襖を開け頭を下げる。

 

「これは、ハナビ様……失礼しています」

 

 ヒアシの弟であるヒザシの、兄よりも優しい雰囲気にハナビもつい頭を下げて挨拶を返してしまう。

 

 ……立場的にはハナビの方がヒザシよりも上であるので所作という面では間違いだが、親戚同士と思えば微笑ましくも思える。

 

「あの……父様……これから……」

 

「何だ、今日も修行をつけろというのか? 最近無茶を――」

 

「いえ、あの……姉様とこれから、外出しようかと……」

 

 普段しない会話の流れにハナビはぎこちなさを出す。

 

 その話を受け、ヒアシは少し目を見開くも、その厳格な顔をわずかに緩ませ

 

「……そうか、ならナツも連れて……いや、五代目の手腕で最近治安も安定してきている。 たまには姉妹水入らずで出かけてくると良い……」

 

 ハナビの外出の許可を出す。

 

「……っ! ありがとうございます、父様!!」

 

 緊張させていた表情を笑顔にし、ハナビは頭を下げその場から急いで立ち去った。

 

 その様子を見送った、ヒザシは呟く。

 

「兄さんにしては珍しい……本当に良いんですか?」

 

 ヒアシはその言葉に

 

「偶には良いだろう……黙雷悟が居なくなってからの様子を思えば、流石の俺も厳しくは出来ない……」

 

 ため息をまじりで答える。

 

「そうですね心配になる気持ちもわかります……ネジも、悟君の件から修行に対する身の入り方がかなり鋭くなり……最近だとあのうずまきナルトと手合わせをしてお互いにボロボロになったりもしたとか」

 

「っほう……あのネジとやり合うとは、あのうずまきナルトという下忍もやるものだな?」

 

「ええ、流石はヒナタ様の……おっと」

 

 咄嗟に口を紡ぐヒザシに

 

「どうした? 何故そこでヒナタの名が……」

 

 疑問を感じたヒアシだが

 

「いえいえ……ふふ、気になさらないでください、兄さん」

 

 はぐらかす弟の態度に、疑問を感じながらもヒアシは深く追求することはしなかった。

 

 

~~~~~~

 

「お待たせしました、姉様。 それでは行きましょう」

 

 身だしなみを整え外出用の服に着替えたヒナタは、屋敷の門の前でハナビに声をかけられ彼女の服装に目を奪われる。

 

「……すごいハナビ、可愛い服だね。 どうしたのそれ?」

 

「これは……悟さんに頂いたモノです……」

 

「そう……とても似合ってるよ」

 

 ハナビの見慣れないワンピース姿をヒナタは心から褒める。 ハナビもその言葉を心から喜び、2人は日向の屋敷を後にした。

 

 少し歩くとヒナタがハナビを見つめながら、何かを悩んでいる。

 

「どうしました、姉様?」

 

 何か自分のことで気になることがあるのか、少しだけ不安になったハナビがヒナタへと声をかける。

 

「ううん、え~と……。 一緒にお出かけして、遊ぼうかなって思っていたけど……まず」

 

 そういうとヒナタはハナビの手を取る。

 

「女の子の手が傷だらけなのは駄目だと思うの、せめてクリームを塗るとかケアだけでもしないと!」

 

「だけど、私そういうのはあまり興味がなく持っていないので……」

 

「なら今から買いに行きましょう、ハナビ!」

 

 買い物に行こうと、ヒナタは提案しハナビの手を引っ張り走り出す。 内気な姉があまり見せない活発な姿にハナビは(姉様が楽しいのならいいか……)と1人思い歩幅を合わせるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 2人は木ノ葉の商店街まで来る。 昼前の時間帯、人がそれなりいる通りには買い物をするために訪れている一般の人たちが日常を形作っていた。

 

(ナツと出かけることはあっても……悟さんと会わないときは最低限必要な物しか買わないから、ゆっくり見て回るのも新鮮かも)

 

 キョロキョロと周囲の店を見渡すハナビ。 すると

 

「ハナビ何か興味があるものある? 私は先に薬屋に軟膏とか傷薬買いに行こうと思うんだけど」

 

 その様子を見ていたヒナタはまず、別行動することを提案する。

 

「ここら辺にあるお店で寄りたいところに目星をつけておいてね。 私は直ぐに戻ってくるから遠くにはいっちゃ駄目だからね?」

 

「わかりました、姉様」

 

 ヒナタはそういうと小走りで、薬屋がある路地へと進んでいく。 

 

(動きに迷いがない……姉様はよく薬屋に行ってるのかな?)

 

 なんてことをハナビは考えつつも、商店街の探索に意識を向ける。

 

 普段は1人では来ない場所に、妙な罪悪感とそれを楽しんでいる感覚が出てつい小走りで辺りを見回すハナビ。

 

(いつもは目を向けてこなかったけど……人を見て回るだけでも楽しいかも……以外に動きの観察が修行に繋がって……)

 

 楽しんではいるものの、つい修行のことが頭をよぎり頭を振りその雑念を飛ばす。 その時ふと目線を向けた先には一つの雑貨屋があった。

 

(! あそこは……)

 

 その雑貨屋に近づいたハナビ。 そこはかつてテンテンとナツと共に参加した抽選会を催していた場所であった。

 

(……そう言えばあの時、一等の化粧品をテンテンとナツに渡してから二人との仲も良くなった気がする……)

 

 思えば当時はナツの事をさん付けしていたことや、テンテンとも今ほど距離の近い付き合いではなかったことを思い出し少し微笑むハナビ。

 

(あの時は私は本当は4等の髪飾りを当てて……親切な女性の方に1等の化粧品と交換して頂いたのでした。 そう言えば……)

 

 ふとハナビは、気がつく。 記憶の片隅にある違和感に。

 

(あの女性と交換したはずの翡翠の髪飾り……あれと同じものをどこか別の場所で見たような……?)

 

 抽選会の景品で、一応非売品であった髪飾り。 それを交換した後の自身記憶をたどるハナビ。

 

(……ハッキリと覚えてないけど……何だか引っかかる。 ……私の本能が思い出さないといけないって警告しているみたいな……)

 

 思い出せそうで思い出せないもどかしさに、唸るハナビ。 ふとヒナタがあとどれくらいで戻ってくるのかを考え、(そろそろ見て回るお店の目星にを着けに行かないと)と思ったその時。

 

(姉様が()()から戻……? ……()……っ!? そうだ中忍試験本選の当日、悟さんが罹った毒を治療するために私が悟さんの部屋にある()()を取りに行って……その時だ……その時翡翠の髪飾りが)

 

「悟さんの机の引き出しに……入ってた……っ!!」

 

 ハッキリと思い出したハナビがそれを口に出す。 すると雑貨屋の中から1人の女性が出てきたことをハナビは、無意識に目で追い確認する。

 

 白髪で、黒目。 肩の下ぐらいまで伸びている髪を束ねた薄化粧の女性。 歳はヒナタと同じぐらいに見える。

 

 

 

 

 そうかつて、ハナビが当てた髪飾りと化粧品とを交換した女性、その人であった。

 

 

 

 

 雑貨屋から離れようとするその人物に対してハナビは、咄嗟に無意識で声を張る。

 

「ま、待って!!!!!!」

 

 その声に、周囲の人間が少しだけハナビを注視するも、何か異変があるわけではないと確認が取れ次第興味を失くし再び日常が流れ始める。

 

 しかしその雑貨屋から出てきた白髪の女性だけは、ハナビを見たままであった。

 

「あ……そ……そのっ」

 

 混乱と焦りが混じるハナビの様子を少し見つめたその女性は口を開く。

 

「あら……貴方は……確かここで抽選の景品を交換した子じゃない?」

 

 随分と明るく優しい声色。 その人物はニコニコとしてハナビの顔を見つめる。 逆にハナビは、まるで睨むかのような形相でその人物を頭の先からつま先まで観察する。

 

(まさか……でもそんなわけ……でもちゃんとよく見れば骨格と顔の形とかが()()()()()()……声は女性にしか聞こえないし目の色は違うけど……けど……けど……っ!!!)

 

 震えるハナビの手。 渇望する何かがそこあるかのようにその手は行き先を求める。

 

「――ですよね?

 

 小さすぎるハナビの呟き。

 

「ん? 何か言ったかしら?」

 

 その女性はその呟きに対してハナビに聞き返す。

  

 涙目のハナビは声を震わせながら、再度その言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悟さん……ですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 期待、願望、焦燥感。 様々な感情でぐちゃぐちゃになったハナビの内心を見抜くようにその女性は黒い目を薄めゆっくりと口を開く。

 

 

「ごめんなさい……私()()()っていう名前で……多分その()()()とは別人だと思うわ……勘違いさせてしまうことでもしたかしら……?」

 

 丁寧に、落ち着いた声色でハナビの願望が否定される。

 

「……う……嘘です……っ」

 

 体を振るわせそう呟くハナビ。

 

「そ、そうは言われても……私は旅芸人の娘で、この里に定住しているわけじゃないから……」

 

 マリサと名乗った女性はハナビの言葉に困ったような表情をする。 それでも一度()()だと思い込んでしまったハナビはその言葉を受け入れられない。

 

「だっ……だって!! そうだ!! あなた私と交換した髪飾り、今もっていないはずです、そうでしょ?!?!」

 

「ああ、貴方と交換して頂いた髪飾りね? あれなら……」

 

 ハナビの追及にマリサは……

 

 

 

 

 

 

 

「貴方と別れた後、一緒に来てたパパとはぐれた時に悪い人に襲われてしまって……その時に助けて頂いた仮面をつけた忍びの方にお譲りしたの」

 

 優しい声色でそれを肯定しそのハナビが望まない理由を口にする。

 

「……っ!」

 

 それを聞きハナビは歯ぎしりをする。

 

(そんなわけない……そんなわけない……そんなわけ……っ!)

 

「大丈夫? ……貴方随分と顔色が悪いようだけど……」

 

 マリサの心配する声は届かない。 ハナビは事実の確認だけを欲する。 焦りは自制心を狂わせ、ハナビを無茶な行動へと狩り立たせる。

 

「……貴方は……悟さんのはずです……男性で……そんな……」

 

 キッと目を見開いたハナビの手が勢いよくマリサへと伸ばされる。

 

 

 

 

 

 

「……なんのつもりだ?」

 

 

 

 

 

 ふと、頭上から低い男性の声が聞こえ、そのハナビの腕は横から伸ばされた手に掴まれ動きを止める。

 

 帽子をかぶり、外套に身を包んだ長身の黒髪の男性がハナビが気がつかないうちに傍に立っていた。その男性は腕を引き上げマリサからハナビを引き離す。

 

「……いたっ……!」

 

「ちょっとパパっ!? 乱暴は駄目っ!!」

 

 マリサの言葉にパパと呼ばれた男性は長い前髪の間から覗かせた黒い右目をマリサへと向ける。

 

「……だが今」

 

「女の子相手に暴力何て駄目よ……()()に言いつけてもいいの……っ?!」

 

「クッ……ああ、わかった」

 

 マリサの説得に、マリサの父親は渋々と謝罪しながら手を離す。

 

「手荒に扱ってすまない……」

 

「……っ……ぅ……」

 

 ハナビの腕が解放されても、彼女の顔の浮かないようすにマリサはしゃがみこんで目線を合わせる。

 

「貴方にとって……悟さんという方がとても大切な人だということはわかりました、私では代わりになってあげることが出来ないほどの」

 

「……ぅぅ……グスッ……」

 

 涙を流し、感情の振れ幅の大きさにハナビは嗚咽を漏らす。

 

 優しい笑顔で対応するマリサに彼女の父親は気まずそうにその場から離れる。 そのタイミングでマリサはハナビと目を合わせる。

 

 少しの間を置いて、マリサがハナビを抱き寄せ背中をさする体勢になる。

 

「……きっとその人は貴方のそんな辛そうな顔は望んでいないと思うわ。 自分のせいで、こんなに可愛い子を悲しませてしまうなんて!! ってね?」

 

 少しお道化る様子のマリさに、不思議とハナビは感情を落ち着かせ小さく笑顔を見せる。

 

「悟さんは……私のことを可愛いなんて……」

 

「いいえ、絶対思っているはずよ!! 女性の私でも思うんだもの、男性なら皆思うはず!! そうよねぇ~パパぁ?」

 

 少し離れた位置にいる男性は小さくうなずく。

 

「ほらね? 大丈夫、自信をもって……そう笑顔でいてくれたら私、嬉しいわ!」

 

 マリサの寛容な態度はハナビの精神を落ち着かせ、冷静さを取り戻させる。ハナビは強く抱きしめられた状態で。何とか涙を拭い謝罪を述べる。

 

「はい……ごめんなさい、急に……手を出すマネなんてして……そしてありがとうございます、こんな私を心配してくださって」

 

「良いのよ、良いの……ほらもう大丈夫よね?」

 

 そうしてマリサが抱擁を解く。 瞬間ハナビは名残惜しさを感じ小さく声を出してしまうが、口を押させ我慢をする。

 

 そんな様子のハナビにマリサは慈しむような目線を向ける。 

 

 その時遠くの方で誰かが大きな声を出しているのが聞こえた。

 

姉ちゃ~ん、まだ用事終わんねぇーのかよぉ~

 

 その声を聞き、マリサは何かに気がついたようにハッとして口を開く。

 

「……っていけない……弟を待たせているんだった……ごめんなさいね? 私もう行かないと」

 

 そうしてハナビから遠ざかろうとしたマリサにハナビが声をかける。

 

「あ、あの……私は日向ハナビと言います。 マリサさん……また会えますか?」

 

 背中を見せていたマリサが立ち止まり振り返る。

 

「……ええ、きっと……また会いに来るわ」

 

 微笑んだ彼女は、父親の手を引き走り出していった。

 

 マリサの姿が見えなくなると遠くで

 

「どこ行ってたんだよ、姉ちゃん」

 

「ごめんなさいねぇ……友達と会ってたのよぉ」

 

 そんなやり取りが聞こえ、ハナビは小さく微笑む。

 

「仲が良さそうな姉弟……ってそうだ、姉様!?」

 

 ふと我に戻ったハナビはヒナタとの合流地点へと向かった。

 

 ……不思議と晴れやかになった心を持ち合わせて。

 

 

 

 

 

 

「ハナビっ! どこ行ってたの?」

 

「姉様、私決めました」

 

「ん……何を?」

 

「笑顔で……待ちます。 そして彼が返ってきたときに……今度は私が彼を守れるように、強くなってみせます……絶対」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 …………

 

 吹く風は留まらない。

 

 例え目の前に壁が立ちはだかろうと。

 

 木ノ葉は舞い、高くへと、遠くへと、まだ見ぬ地を目指して。

 

 

 

 例え友たちが傍を離れようとも。

 

 例え愛する者がその手に届かぬ場所に行ったとしても。

 

 例え今ある光を捨て去ろうとも。

 

 

 

 一人の少年は自身の力のなさを悔やみ、憤慨した。

 

 一人の少女は、再会を信じ彼の者の力に成れるように邁進した。

 

 母は血の繋がらぬ我が子を信じ、居場所を守り続けた。

 

 

 

 

 闇へとその身を投じた者は、暗闇から世界を覗き、その身に宿る火の心を絶やさずにいた。

 

 

 

 

「約束の時まで……後わずか」

 

 そこはどこでもない、()()()()()()()の存在しない場所。

 

 1人漂う仙人は忍界を案じる。

 

「だが信じるしかあるまい。 九喇嘛と共にいる少年を。 闇から光を臨む少年を。 そして……」

 

 

 

 

 

 

 

 (ことわり)を越え、世に忍ぶ者を




次回から、所謂疾風伝編。 

投稿期間はそれなりに開いてしまうかも知れません。

すみません。


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第2章:音の鳴らない雷
1:もしも忍びなら用意周到に


 雷の国。

 

 高山が立ち並ぶ山脈地帯の多いこの国の山と山の間に、少しだけ老朽化が進んでいる基地が1つあった。

 

 そこには木ノ葉の忍びが少数名滞在しており、雷の国のにある隠里、雲隠れの里の動きを木ノ葉へと伝える仕事を担っている。

 

 この場所はかつて、日向ヒナタを攫おうと雲隠れが画策した事件を元に三代目火影・猿飛ヒルゼンが監視の名目で雲と交渉を続け設けられたものである。

 

「暇っすよねぇ俺たちって……」

 

 若い中忍の忍びが基地内で書類を整理しながら、現状を愚痴にして呟く。

 

「仕方ないわよ……私たちが暇なら、雲も不穏な動きをしていないってことだし」

 

 眼鏡をかけた真面目そうなくノ一は書類を戸棚に仕舞いながらその愚痴に返事をする。

 

「そうかぁ? こんなあからさまな監視基地にバレるように、忍びの隠里が動くとは俺は思わないんだけどなぁ……」

 

「そうねぇ……けど表立って動けないという意味では、牽制としての価値があるから五代目様もここの維持を続けてるのよ?」

 

 くノ一と中忍の二人は雑談をしながら、ふと互いに壁に掛けられた時計に目をやる。

 

「っと……そろそろ時間すね。 まあ暇な仕事だけど楽しみがあるだけ、俺たちは恵まれてるってことで」

 

「夕飯時ね、いい匂いがさっきからしてたし私もコスケさんの料理が無かったらもう少し気が滅入ってたかも」

 

 二人は仕事を切り上げ、食堂……というほど広くはない部屋へと向かう。

 

 こじんまりとしたその部屋には、蒸気を上げた出来立ての料理が四人分机に並べられていた。

 

 その光景に若い中忍は

 

「はぁ~まじ、嬉しいっすわ~ホントこんな寂れた基地でこんな料理にありつけるなんて……」

 

 感激し手を合わせ料理に拝む仕草をする。

 

 その様子をくノ一は少し引き気味に見つつ、料理を作った下忍・まるほしコスケに声をかける。

 

「コスケさん、いつもありがとうございますね。 ……半年前にコスケさんが来てくれてからホント助かってます」

 

 深々と礼をされ、コスケは年老いて皺の刻まれた頬を指で掻きながら

 

「いえいえ……老骨のワシみたいな下忍でも役に立てているのなら幸いです」

 

 と照れながらそのくノ一の言葉に答える。

 

「下忍とかそんなの関係ないっすよ~コスケさん!! 俺たち三人じゃろくに家事出来る奴がいなくて……ホント……辛かった……グス」

 

「あなた……まあ、そうね。 隊長もガサツな人だし……私もサバイバルは不得手だから……コスケさんにはホントに助けられてます」

 

 若い忍びからの尊敬の眼差しに半年がたつも慣れないコスケは話を逸らしにかかる。

 

「ハハハっ……まあともかく食事にしましょうか……料理が冷めぬうちに」

 

 コスケの言葉を受け、二人は席に着き箸を手にする。

 

 ふと空いた一人分の席に目を向け若い忍びが疑問を口にする。

 

「隊長、見まわり遅いっすね~。 真面目なのはいいっすけどコスケさんの料理を冷ますのはギルティっすね~」

 

「……確かに今日は隊長、戻ってくるのが遅いですね。 隊長もコスケさんの料理を旨い旨いって楽しみにしてるのに」

 

「ふむ……最近近場の集落が抜け忍と思われる輩に襲われる事件が多発しているそうで、隊長殿はそれの調査に赴くとおっしゃっていましたが……はて」

 

 コスケは自身の作った料理の味を確かめながら、隊長の動向を気にする。

 

 そのコスケの言葉に若い中忍が反応を示す。

 

「抜け忍……すかぁ……そう言えばあの二年半前に()()()()()()と、その同時期に居なくなった()()()()()()()()()()忍び、行方は未だに掴めてないらしいっすね」

 

 抜け忍の話題になり、くノ一は暖かい料理に眼鏡を曇らせながらも

 

「うちはサスケはあの三忍の一人大蛇丸の元に行ったとか、詳しくは伏せられていますが正式に抜け忍としては扱っていないのは五代目の計らいでしょう」

 

 自身が持つ情報を口にする。 うちはサスケは抜け忍ではあるものの、その処遇は抹殺ではなく保護となっている。

 

「らしいっすね。 あのサスケと同じ班のうずまきナルトも三忍自来也様の元で里を出て修行してるそうですし……春野サクラって子も五代目様の所で修行してるんすよねぇ。 俺たちみたいな地味な奴らとは行く道が違うっすねぇ」

 

 二人の会話にコスケは食事を喉に通しながら、昔に会った彼らのことを案じる。

 

(ナルト君も、友達が二人も居なくなり落ち込んでいましたが……今も努力を重ね、あの頃よりも大きく精進しているのでしょうな)

 

 その時ふと、食堂の扉が開き大柄な木ノ葉の上忍が姿を現す。

 

「ふ~ただいまぁっと、いやぁ遅れちまったぜ」

 

 その上忍の姿を確認した各々は

 

「隊長遅いっすよ!」

 

「お帰りなさい隊長」

 

「隊長殿、見まわりお疲れ様です」

 

 労いの言葉を掛ける。

 

 上忍はおどけながらも明るく

 

「俺も腹が減ってかなわねぇ……たく調査が少し長引いっちまってなぁ」

 

 そういいながら席に着きさっそく食事に舌鼓を打つ。

 

「調査が……と言いますと隊長殿、何やら不穏な動きでもありましたかな?」

 

 一人手早く食事を終えたコスケは席を立ち、料理に使った器具を洗いながら上忍の言葉に反応を示す。

 

「ああ、近くの集落を襲っているという抜け忍……恐らく単独での犯行のようでな。 被害にあった集落で雲隠れの忍びとばったり会っちまったが奴らは『この件には手を出すな』と言ってやがった」

 

「つまり抜け忍は元雲の忍びってことっすか」

 

「なるほど……自里の抜け忍を他里の我々に手を出されるのはメンツに関わりますからね」

 

 眼鏡のくノ一は食事を終え手を合わせながら、上忍が伝えた雲の忍びの言葉の意味を推察する。

 

 上忍は少し冷めた料理をかきこむように食べながら会話を続ける。

 

「まあ、手を出すつもりはないが取りあえず調査は雲の忍びと一緒に行ってな。 被害にあった集落では『雷の落ちるような音』が響いた後、住人の脚を何かが貫通し負傷しているようだ」

 

「なにかって……目星は着かないんすか?」

 

 上忍の言葉に若い中忍が食事を終え食器をシンクへと置きながら疑問を口にする。

 

「……脚を負傷した住人の様子を見たが傷口は火傷のような跡が見られた。 恐らく貫通し穴が開いていたことも含め雷遁の類だろう……だが村人は襲撃してきた忍びの存在を確認できていない」

 

「というと?」

 

 話に興味を持っているくノ一は上忍の言葉に相槌を打つ。

 

「被害は『()()()()()()()()()()()()()』だそうだ。 姿も見せず物が盗まれたわけでもないとなると、抜け忍が行ったのは遠距離攻撃で住人を襲うのみ……」

 

「愉快犯……ということですな。 人々をいたぶることを楽しむとは何と歪んだことか」

 

 コスケは抜け忍たいして怒りを募らせる。 若い中忍もまた

 

「俺も理解に苦しむっすね、まあそんなやべぇ奴が居るなら俺たちも警戒を怠らないようにしないとっすね!」

 

 とお道化て「怖い怖い」とリアクションを取りながらも少しだけ警戒の色を表に出していた。

 

 すると上忍はお茶で喉を潤し、くノ一へと話かける。

 

「そう言えば、査察の話は進んでいるのか?」

 

「はい、()()()()()()は明日にでも此処に着くそうですね。 飽くまでその忍びの経験の為という題目なので滞在の日数は多くはないようですが」

 

 くノ一の報告に上忍は一言「そうか」と返事を返す。

 

 その話に興味を持ったのか若い中忍は茶を入れたコップを持ちながら壁に寄りかかり話へと加わる。

 

「ああ、あの女の子っすね……暗部みたいに仮面をつけてるみたいっすけど、既に上忍になってるらしいっすね。 あと歳も俺より若いのに……確か17かそこららしいっすね。 さらにさらに氷遁という――」

 

「急に早口に……あなたあの零班の忍びにお熱みたいね」

 

 若い中忍の早口にくノ一は呆れながら自分が使った食器を片付けている。

 

「だってだって、かっこいいじゃないっすか! 俺もああいう仮面着けようかな……」

 

「はっはっはっ!! お前さんには似合わねぇーよ、それに年下に追い抜かれて悔しくねぇのか?」

 

 上忍の言葉に若い中忍は

 

「別に俺は気にしてねーすよ。 この界隈、年齢が強さや偉さを決めるわけじゃないっすからねぇ……あっコスケさんのことは尊敬してますよ! それはマジっす!!」

 

 若い忍びの明るい調子に周囲の人間が朗らかな雰囲気になる。

 

 上忍も食事を終え、片付けがすむとふと上忍が呟く。

 

「そう言えば……集落の調査の時、不穏な忍びらしき人影を見たな」

 

「それマジっすか? 結構重要そうなことっすけど」

 

 反応を示した若い中忍に上忍は不思議そうに顔をしかめて唸る。

 

「見たは見たんだが……様子がどうもおかしくてな……長髪で穴の空いていない仮面を着けていて木ノ葉のベストを着ていた……俺がそいつに気がついても直ぐには姿を消さず、その場に数秒は佇んでいやがった……怪しいが特別敵意があるわけでもなさそうだったな」

 

 くノ一はその話の内容に

 

「木ノ葉のベストに、穴の空いていない仮面……少なくともそのような人物について里から報告は来ていないですね、それに木ノ葉の忍びであるなら我々に接触してこないのは不思議ですねぇ……」

 

 その人物について考察を巡れせる。

 

 ふと片づけを終えたコスケが、汚れを拭き終えた自前の中華鍋を手に持ち背に背負おうとしたとき

 

 ほんのわずかに窓から見える景色が照らされたのを確認した。

 

「……皆さm――!」

 

 コスケが何かに気がつき叫ぼうとした瞬間

 

 

 

 その声をかき消すように落雷のような音が鳴り響く。

 

 

 

 その直後若い中忍の叫び声が響く。

 

「っああああああああ!?!?」

 

 何かの衝撃で部屋の照明が落ち、窓から照らす月明りのみを頼りにしなければいけない状態になる。

 

 コスケは若い中忍が床に倒れ、脚を押さえているのを確認し、彼の立っていた背後の壁に紅く高熱に帯びた小さな穴が開いているの見つける。

 

(雷遁の……攻撃……!)

 

 コスケは素早く、中忍と壁との間に割って入り中華鍋を構える。

 

 直後、鋭い金属音を鳴り響く、と同時に雷のが落ちたかのような音が鳴り響く。

 

 手に伝わる振動から、コスケは敵からの攻撃を弾いたのを確認する。

 

「皆さま、相手はこちらの位置を感知しております! 私の背後に!!」

 

 その声を聞き、上忍、くノ一はコスケの背後へと回る。

 

 そこから数度に渡り、金属音と雷鳴が鳴り響く。

 

 敵の雷遁の攻撃の貫通を防ぐためチャクラを流しながら中華鍋を構えるコスケは汗を垂らす。

 

(……っかなりの威力……このままではっ)

 

 背後のくノ一は印を結び目を瞑る。

 

「……駄目ですっ……射角から大まかな方向は分かりますが、私の感知能力の範囲外にいるようで……かなり離れた位置からの攻撃です!」

 

 上忍は、負傷した若い中忍の手当てをしながら現状を整理する。

 

「敵の狙いは、恐らく俺たちへの攻撃そのもの……長距離でこの威力の忍術、俺たちの位置を遠距離から正確に把握する感知能力……相当な手練れだ」

 

 敵の雷遁が基地の壁を蜂の巣のようにする頃には、コスケの中華鍋に小さく亀裂が入る。

 

(クッ……もう耐えられそうにっ……)

 

 コスケが中華鍋の破損を覚悟した瞬間その手に伝わる衝撃が止まる。

 

 雷鳴は止まらずも、中華鍋が発する衝撃音が消えたことに一同は困惑する。

 

「何が……?」

 

 くノ一が困惑を露わにする中、コスケと上忍は素早い判断で脆くなった壁を突き破り外へと突き進む。

 

 外にて二人が目にしたモノは……

 

 

 

 

 月夜に輝く大きな氷で出来た鏡であった。

 

 

 

 

 その氷壁を手で支えている様子の忍びが二人に振り向く。

 

 細い目だし穴が開いた仮面をつけたその人物は、腰に木ノ葉の額当てを着け透き通るような声を出す。

 

「どうも、間に合って良かったです」

 

 コスケはその人物に思い当たる節があった。

 

「君は……木の葉崩しの時の……?!」

 

「……そんなこともあったような、なかったような。 まあ、とにかく敵の攻撃は僕が防ぎますので負傷者の手当てを」

 

 涼しい様子で攻撃を受け止めている様子の仮面の忍びに上忍は驚く。

 

(あの威力の忍術を……衝撃音がないことから、素直に受け止めているのではないのか……?)

 

 コスケは信用できる人物が来たことに安堵し、基地内の中忍の治療へと走る。

 

 上忍は窮地に駆けつけた仮面の忍びに声をかける。

 

「……君は?」

 

 雷鳴の中、小さく微笑むような声を出し仮面の忍びははその問いかけに答える。

 

 

「ふふ、()()()()()……白です。 ああ、ご安心を……敵は僕の()()が相手してくれますから」

 

 

 二年と半年の歳月がたち、背が伸び大人びた様子になった白は再度攻撃の来る方向へと目線を向ける。

 

 その白の言葉に上忍は疑問を口にする。

 

「連れというのは……? 確かここには零班の君一人が来ると聞いているのだが」

 

「詳しくは言えないので……今相手している敵に対応できる味方、とでも思って貰えれば現状十分ですよ、安心してください」

 

 そう言った白は悠々とその場で攻撃を防ぎ続けた。

 

 

~~~~~~

 

 

 基地から数キロ離れた山脈の崖の上。 そこで爆音を鳴らし構えた指先から雷を纏った千本を飛ばす忍びの姿があった。

 

 ふと苛立ちを顔に滲ませていたその忍びは、伏せた狙撃姿勢から目線を逸らさずに立ち上がる。

 

「……ってめぇ何もんだ」

 

 狙撃していた忍びの背後に位置する場所の木陰から、その言葉を受け目出し穴の開いていない仮面を着けた忍びが姿を現す。

 

「……随分とその眼で……好き勝手してくれている様だな」

 

 仮面の忍びの僅かに怒りを感じさせるその言葉を受け、狙撃していた忍びこと雲の抜け忍はそちらに振り返る。

 

 振り返った抜け忍の眼は白く、眼窩の周囲には血管が浮き出ていた。

 

 無穴の仮面の忍びは小さく鼻で笑い、少しづつ抜け忍へと歩み寄る。

 

「だが、その眼も万能ではない。 遠くを見れば見る程、己の近くが見えづらくなる……今までの襲撃では攻撃回数を抑えられたようだが、木ノ葉の忍びを狙ったのは間違いだったな。 ……現にこうして俺に接近を許してしまった」

 

 仮面の忍びを文字通り白い目・「白眼」で観察した抜け忍は、顔に歪んだ笑みを浮かべた。

 

「き……ひひひっああ、()()()か……っ! まさか火の国から離れて、雷の国で()()会えるとはなぁ?」

 

「ふっ……随分と落ちぶれたものだ、だがこうして貴様が抜け忍となってくれたおかげで、再度まみえる機会が出来るとはな……()()()()()()()、大人しくしていれば命までは取らん」

 

 仮面の忍びが柔拳の構えを取り発したその言葉に、抜け忍は笑みを浮かべたまま饒舌に喋り始める。

 

「……ひひひってめぇには感謝してるぜぇ? だがな折角の力を手に入れたのにも関わらず、数年前里は俺を認めなかった……今の俺の実力さえあれば、雷影の名は俺のものに……っ!」

 

「……くだらん。 ()()()()()で、そこまで活きられるとは愚かな……力を振りまくためにこうして里の周囲を襲う考えと言い、貴様は影としてふさわしくない」

 

「うるせぇ!! 他里の忍びにとやかく言われる筋合いはねぇーんだよ……まあ、いい……いつかてめぇにも()()()をしたかったんだ。 なあ

 

 

 

 

日向ヒアシ」

 

 

 

 

 抜け忍の言葉にヒアシは仮面を取り、その素顔を晒す。

 

「アンタの眼は俺の元にある……なのにその眼窩に収まる眼……同族の白眼でも奪ったか? ああ、惨いねぇ……アンタが条約に違反さえしなければそいつは目を奪われずに済んだのにぃ……」

 

 皮肉たっぷりに煽る抜け忍の言葉にヒアシは表情を変えずに答える。

 

「……確かにな。 だからこうして、その眼を取り返しにきたのだ」

 

 ヒアシのそのブレの無さに詰まらないと言った様子の抜け忍は手を鉄砲の形に構える。 人差し指と中指の間には千本が挟まれ黒い稲光を纏う。

 

「てめぇの死体を手土産に帰りやがれっ! 嵐遁・漆黒隷流頑(ブラック・レールガン)!!」

 

 抜け忍の手元が光った瞬間、ヒアシの僅かに逸らした顔面の横を黒い閃光が走り、背後の木々を貫通していく。

 

(嵐遁……雷の性質変化を含んだ血継限界か……)

 

 ヒアシが観察する抜け忍の指先は小さく煙を上げている。 抜け忍は再度指の間に射出するための千本を挟み術を放つ。

 

 その攻撃を最小限の動きで避けるヒアシ。

 

「てめぇら日向は柔拳の体術使い! 接近さえさせなければ俺は負けねぇ……あの夜もそうだっ! あの()()にさえ気を反らされなければ、てめぇが俺に近づくことなんて出来るわけがなかったのによォ!!」

 

 文句を口にしながら、抜け忍はヒアシから距離を離しながら術を放ち続ける。

 

 接近しようとヒアシが走るも、術を避けるための動作が入るため距離は離され続ける。

 

 ヒアシは小さく掌を腰で構える。

 

「八卦……空掌!!」

  

 ヒアシのチャクラを圧縮し掌の突きから繰り出される真空の砲弾は抜け忍へと迫るが

 

「遠距離攻撃もあんのか……だが見え見えだぜぇ?」

 

 抜け忍はそれを難なく避け、岩壁へと身を隠す。

 

「……っ!」

 

 瞬間岩壁から貫通して飛来する嵐遁がヒアシを襲う。

 

 掠りはするものの、ヒアシは超高速の攻撃をすんでのところで躱し続ける。

 

「互いに白眼を持つ以上、より強い遠距離攻撃を持つ者が勝つっ!! つまりはてめぇの負けだよ、日向ヒアシぃ!!」

 

 抜け忍の放つ術を躱しながらも、ヒアシは着実に前へと歩みを進める。

 

 傷を負いながらも近づいて来るヒアシの様子に抜け忍はその行動の意図を探る。

 

(俺が岩場に隠れているのにも関わらず、迂回する訳でもなく真っ直ぐ距離を詰めてくる……一体なんのつもり――)

 

 抜け忍が思考に意識が削がれ、攻撃の手が緩んだ瞬間。 ヒアシは腰を引き、両手を下げ深く構える。

 

「八卦……」

 

「っその術じゃあ俺まで攻撃は届かない……っ!」

 

 

 

「空壁掌っ!!!」

 

 

 

 ヒアシが繰り出した両手による掌底が、チャクラを高速で押し出す。 そのチャクラの規模、歪む空間の様を白眼で確認した抜け忍は顔を青ざめた。

 

「っ……でたらめ――

 

 抜け忍の言葉が言い終わる前に、ヒアシの正面に位置した岩場は空壁掌で吹き飛び辺りに岩石が飛び散る。

 

 パラパラと岩石の散る音を背にそのまま、残心を取るヒアシ。

 

「俺に……柔拳に遠距離の手段がないと決めつけるのは浅はかだったな。 ……かつては娘を人質に取られていた以上、使えなかったに過ぎん」

 

 岩場ごと吹き飛ばされた抜け忍は、重傷を負いながらもよろよろと立ち上がる。

 

 その様子を目にしたヒアシは構えを解かずに告げる。

 

「……大人しくしろ。 その眼さえ差し出せば命までは取らぬ」

 

 その余裕のある立ち振る舞いに抜け忍は歯ぎしりを響かせる。

 

「……ぅるせ……上から指図すんじゃあねぇぞ……っ!」

 

 顔に垂れる血を拭いながらも抜け忍は再度術を構える。

 

「嵐遁……っ!!」

 

「空掌!」

 

 その術を構える腕はヒアシの攻撃で叩き落とされる。

 

 二度のダメージを受け両腕をやられた抜け忍は、フラフラの状態で項垂れブツブツと何かを呟く。

 

 警戒を解かないヒアシはじりじりと距離を詰め、点穴を突き抜け忍の動きを止めようとしたその瞬間。

 

 

 抜け忍は雷を纏い、崖へと向かい走りだす。

 

 

「何を……っ!?」

 

 驚愕し同じく駆けだすヒアシに抜け忍は叫ぶ。

 

「てめぇだけにいい思いなんてさせてたまるかぁっ!! この眼ごと……死んでやるよォ!!」

 

 山脈連なるこの地域の崖からなけなしの身体活性で飛び降りた抜け忍。

 

 谷底へと消えた忍びの姿を目で追いヒアシは呟く。

 

「……愚かなっ」

 

 白眼を解いたヒアシが一人佇むその場に静かな夜風の音だけが鳴る。

 

 

 

 

 

 ふと唇を嚙みしめたヒアシが気がつく。

 

 谷底から聞こえる叫び声に。

 

「これは……っ!?」

 

 ヒアシが再度白眼を発動させたその瞬間

 

 崖下から、抜け忍を抱えた人影がヒアシの目の前に躍り出る。

 

 空中に留まるその人影は、暴れもがく抜け忍の首根っこの服を片手で掴み、空いた手でヒアシに向け中指と人差し指を立てたハンドサインをして声をかける。

 

「こんばんは♪ こんな時間にこんな場所で人に会うとは奇遇ですね!」

 

 わざとらしいほどに明るい声のその人物に対し、ヒアシは警戒を強める。

 

 なぜなら

 

(纏う外套の中を、()()()()()()()()()……結界忍術の類か、それに)

 

 その人物が身に纏っている外套は、黒地に

 

 

 ()()()赤い雲の模様が映えていたからである。

 

 

「貴様……何者だ、その模様の外套……暁と呼ばれる組織の一員か?」

 

 ヒアシの探るようなその言葉に、空中に留まる人物はその外套につけられたフードを脱ぎ、その顔を晒す。

 

 黒髪、月夜に映える白い肌と、薄い口紅。 左眼に着けた黒鉄色の片眼鏡(モノクル)が印象的に映るその人物は微笑みを浮かべて自身の名をヒアシへと告げる。

 

「私の名前は、天音小鳥……まあ()()()()ってところかな、今は。 色々と訳ありで()()()の眼が必要なんだ♪ じゃ、そう言う訳でっ!!」

 

 瞬間上空に向けて飛び始める天音。 ヒアシは咄嗟に空掌で天音を撃ち落そうとするも、天音はそれをうねる様に飛び避ける。

 

「ざーんねーん、外れぇ♪ それじゃあ、お疲れ様でした~」

 

 煽り言葉を残し、天音は上空、雲の上へと姿を眩ましたのであった。

 

 一人残されたヒアシは、深呼吸をしその様子を眼で追っていた。

 

 

 

 

 

 雲の上へと逃れた天音は、不意に抜け忍を掴むその手を離す。

 

 落下を覚悟した抜け忍だが、しかしその体はふわふわと宙に浮かんだまま落ちることはなかった。

 

「安心して♪ ()()()()()()()()で重力の影響力を少なくしてるから落ちはしないよ、でも……貴方の得意な嵐遁は雷の性質も併せ持ってるからもし使ったら相性の問題で術の効果が消えて地面へと真っ逆さま!!」

 

 手で、地面に落ちて何かが弾けるようなジェスチャーをする天音は「ぐしゃぁ」と効果音をお道化た感じで口に出す。

 

 顔を青ざめさせ大人しくなった抜け忍の様子に天音は満足そうに笑顔になる。

 

 雲に遮られない月の明かりが二人を照らし、天音は身動きの取れない抜け忍の眼へと手を伸ばす。

 

「貴方の事は嫌いだけど……情けでせめて痛くはないように優しくしてあげるから、大人しくしててね♪」

 

 そういい、静かな上空で肉を抉るような音と男の呻き声が響いた。

 

 

~~~~~~

 

 

 手に取った白眼を外套の下、腰のベルトに着けた緑色の液体の入ったガラスの筒に納める天音。

 

 カシュッと子気味の良い音で筒の蓋を閉めた天音は宙で項垂れ、完全に無抵抗になっている抜け忍の目元に手を当てる。

 

「貴方には生きててもらわないと、めんどくさいことになるからねぇ……一応治療だけはしてあげる」

 

 そういう天音は手元から緑色のチャクラを放つ。 医療忍術・掌仙術を行使し、眼球を失くした抜け忍の眼窩の出血は抑えられた。

 

「さて、それじゃあ雲隠れにでも届け……っ!」

 

 そう独り言を呟いた天音は何かに気がつき体を逸らせる。

 

 その瞬間天音の体を、白い光のような帯がかすめて伸びていく。

 

(これはまさか……っ!)

 

 瞬間そのレーザーとも見間違う帯に収束するように空気が爆ぜる。

 

「そんなでたらめなぁ!?」

 

 その拍子で吹き飛ばされた天音が態勢を立て直すと、その白い帯が通り穴の開いた雲目掛け抜け忍が落ちていくのが目に入る。

 

「しまった、術解けちゃったか……っ!」

 

 視界がなく、腕も怪我で動かせない抜け忍はただ自分が高所から落下する感覚だけを感じ、恐怖で喚き叫ぶ。

 

「全く……っ」

 

 呆れた感じにそう呟いた天音は印を結ぶ。

 

「土遁・軽重岩……最大!!」

 

 天音は自身に掛かる重力の影響を際限まで少なくし、全身からチャクラを放出することで高速で飛行し始める。

 

 落下する抜け忍目掛け、飛来する天音は地上で掌底を構えているヒアシを眼にして舌打ちをする。

 

 

 

 

 

 地上で構えを取ったヒアシは、小さく息を吐く。

 

「……八卦・破山撃……っ!」

 

 そして一瞬鋭く、集中して放たれた掌底は手先からチャクラの真空弾を放つ。

 

 もはや光線のように白く輝く高速弾が地上に向けて飛来している天音を貫かんとするが

 

 天音は掌に作った()()()()()()()()()()()()()()を盾にしてそれを受け流し、落下していた抜け忍に手を伸ばす。

 

(目的が何にせよ、暁に白眼を渡すわけには……っ!)

 

 抜け忍を掴み落下スピードを抑えた天音に向け、再度ヒアシは腰を落とし八卦空掌の構えを取る。

 

 しかし、天音は身体を回転させ勢いをつけてその手に掴んだ抜け忍をヒアシへ向け投げ飛ばす。

 

「何っ!?」

 

 急なその動きに躱しきれないことを悟ったヒアシは抜け忍との衝突による衝撃を覚悟する。

 

 がしかし、抜け忍の体はとても軽くヒアシは容易に受け止めた。 

 

 ヒアシは一連の天音の動きに疑問を感じながらも天音の術が解除され体が重くなった抜け忍を地面へと投げ、空中で旋回して逃げようとする天音に向け空掌を放つ。

 

「逃がさんっ!」

 

 放たれたチャクラの真空弾を天音は身体を向きなおして、掌の平からチャクラを流し払い、その空掌を打ち払う。

 

 互いに向き合う形になった時、天音は口を開く。

 

「……貴方の気持ちも分かるけど、落ち着いてよ……ねっ?」

 

「俺は落ち着いている。 貴様が手にした白眼を取り戻すためにな」

 

 構えを解かないヒアシに、天音はため息をつき首を振る。

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんとそのうちに返しに行くからさ、それまで大人しく待っててくださいよ♪」

 

「信用する訳がないだろう」

 

 容赦のないヒアシは空掌を放ち、天音はそれを「ですよねー」と良いなが手で弾く。

 

 その様子に

 

(やはり破山撃でなければ……)

 

 とヒアシは溜を作る。

 

 天音はそれを見た瞬間、ヒアシの為の隙に印を結ぶ。

 

「多重影分身」

 

 瞬間数十人に分身した天音。

 

 その内数体がヒアシの放つ破山撃で貫かれ消え去るも、残った天音は高速で上空に向けてバラバラに飛翔する。

 

「っ……逃したか」

 

 これ以上の追撃が意味を成さないことを悟ったヒアシは、構えを解き遠くの雲の合間に消えていく数十人の天音の姿を見送る。

 

(あやつの雰囲気……どこかで……)

 

 少し考えこんだヒアシだが、足元で小さく唸る抜け忍の存在に気がつきため息をついてその体を抱え、遠く離れた麓に見える白の元へと移動を始めた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 ヒアシから逃れ、夜の上空を飛翔する天音。

 

「やっぱりクソ強いなぁ……ヒアシさんは、まともに相手してたら下手したら負けちゃうかも……」

 

 顔に疲労の色を浮かべながら、腰に下げた白眼を収めたガラスの筒に目をやる。

 

「……ま、目的は達したし……さてあと()()の流れに身を任せ……いや、違うかな」

 

 不敵な笑みを浮かべた天音は加速し、空を駆ける。

 

 

 

「私が流れを捻じ曲げる」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 白は攻撃の手が止んだことを確認してから、基地内へと入り木ノ葉の忍び達と会話を行っていた。

 

「しかし、ホントにアンタの連れとか言う奴に任せて大丈夫なのか?」

 

 基地の上忍が少し不安そうに荒れた部屋を片付けながら白へと尋ねる。

 

 白は基地のくノ一から手渡された、基地内の資料に目を通しながらそれに答える。

 

「ええまあ……僕よりも強い人ですので問題はないかと。 ただ彼は極秘で来ているので、皆さんは彼について口外しないようにお願いします」

 

「そうは言われてもなぁ……なぁ?」

 

 上忍の納得いっていないという様子に、仮面の下で(どうしたものか)と思案をする白。 すると

 

「分かりましたっす!! 俺は何でもあなたのいう事を聞くっす、白さん!!」

 

 足を怪我した基地の中忍が、基地内にあった杖を突き敬礼しながら白へと声をかける。

 

 その元気な声に、一瞬目を見開く白だがその後小さく笑う。

 

「フフッ……ええ、そうしてもらえると助かります」

 

「任せてくださいっす!!」

 

 怪我をしたのにも関わらず、元気な様子の中忍に呆れ上忍が頭を抱えているとコスケが姿を現す。

 

「ふむ……ワシらの命を救ったのは事実。 ワシは黙ることもやぶさかでもないですぞ」

 

 コスケの言葉に上忍は納得いかないといった目を向けるも、くノ一もまた

 

「ええ、あの状況で白さんが来てくれなかったら下手したら全滅していましたから……救われた命の借りをただ黙っているだけで返せるのならお安いものです」

 

 中忍の意見に賛同を示す。 その3人の様子に上忍がため息をつく。

 

「……ああ、わかったわかった。 多数決を受け入れて俺も黙っとくよ……たく、こう見えて俺は報連相を大事にしてるんだがなぁ」

 

 折れた上忍に向け、白は手に持つ資料を示して口を開く。

 

「ええ、この報告書や活動記録を見ればよくわかりますよ。 綱手様にもいい報告が出来そうです」

 

 恐らくニコッとした白の傾けた頭の様子に、乾いた笑いを浮かべる上忍。 すると

 

「……戻った」

 

 無地で目だし穴を開けていない仮面をつけた男が、崩れた壁から男を肩に乗せ姿を現す。 そのビジュアルの強さに、白以外が警戒の色を強めるが

 

「お疲れ様です、その雰囲気……上手くいきませんでしたか?」

 

 白の調子の変わらない男への質問が、雰囲気を幾分か和らげる。

 

「……うむ、男は確保できたが……目的は達成できなかった」

 

 男はそういいながら抜け忍を床へと降ろす。 気を失っているその抜け忍の様子に、上忍は若干引きながらも

 

「アンタ、集落で見た忍びか……つまり今回の事件の犯人を捕まえることが……」

 

 と仮面の男に歩み寄る。 しかし白が少し威圧した気を放ち、口元に指を当て

 

「しー……」

 

 と呟く。

 

 冷たい氷のように張り詰めた空気に上忍が息を呑む。

 

「……俺は休ませてもらおう、案内を頼めるか?」

 

 そんな中仮面の男はそう言い

 

「わ、わかりました。 私が空き部屋に案内させていた、頂きマス!」

 

 その言葉を受けくノ一が眼鏡をずらしながら、わたわたと仮面の男を先導する。雰囲気に飲まれながらもそおまま仮面の男を部屋の外へと連れ出していった。

 

「……」

 

 冷たい雰囲気にの中、白が口を開く。

 

「その雲の抜け忍の扱いはそちらにお任せします。 ……確か手を出すな、と雲に言われているとか?」

 

「ああ……そこは襲撃に合ったので返り討ちにした、ということで問題だろう。 ここまで無抵抗にされていると、俺の幻術で記憶操作も問題なさそうだしな……ハハッ」

 

 上忍は乾いた笑いを浮かべながら気を失っている抜け忍を抱え別室へと移動していった。

 

 残った白とコスケ、中忍は軽く常日頃の業務について情報を交換しその日は就寝した。

 

 

~~~~~~

 

 

白と仮面の男・ヒアシは、深夜同室語り合っていた。

 

「こっちについて早々、ターゲットに接触できたのは幸か不幸か……まだ僕の任務が残っているんですよねぇ、ヒアシさん的には早く木ノ葉に戻りたいですよね?」

 

 白の申し訳なさそうな口調に

 

「構わない。 白眼は逃したが所在を見失ってはいない……それに」

 

「それに……?」

 

 仮面を外した白は、同じく仮面を外したヒアシの言葉の続きを促す。

 

「天音小鳥という……自称暁見習いとかいうくノ一が、『いずれ返す』……とも言っていた」

 

「ええ……その言葉、真に受けるんですか?」

 

「そうではないが……不思議と信用できるような気が……まあ、そうでなくともいずれ相まみえたときに今度は力尽くで取り返すまでだ」

 

 ヒアシの威厳のある冷静さに、白は小さく笑いながら呟く。

 

「天音小鳥……確か二年ほど前、悟君失踪時に付近にいたくノ一だとか……暁に与したとなれば、所在は以前より掴みやすいですね。 ……僕も個人的に彼女には悟君について問いただしたいところなんですが、今はここでの任務が優先ですね」

 

 その白の様子にヒアシは頼もしさを感じながらも、話題を切り替える。

 

「……しかし今回、奴の情報を掴み、雷の国に来るのにわざわざお主の手を煩わせてすまなかったな」

 

 その言葉を受け白はその綺麗な顔から繰り出される社交辞令的笑顔を浮かべて返事をする。

 

「いえいえ……ハナビちゃんのお父様の願いと成れば、協力するのも悪くはないです。 それに最終的に許可を出したのは綱手様ですし」

 

「ふむ……何かあっても五代目が悪いと? ……はっはっはっ中々に狡いな、白よ」

 

「それが火影というものでは? それに僕たちがこうして火の国を離れられるのも、残ってくれている()()()()()()()のおかげですからね」

 

「……ううむ」

 

 白の言葉にヒアシは顔をしかめる。

 

「心配ですか……?」

 

「いや……信頼をしてはいるが……俺の勝手に――」

 

「家族を巻き込んだのは忍びない……ですか?」

 

「……そうだ」

 

 ため息をつくヒアシの様子に(存外に人並みの感性は持っているんですね)と白は思いながらも、励ましの言葉を掛ける。

 

「家族というのは自分を頼って欲しいと、大抵思っているものですよ。 大丈夫、少しの間とは言え、貴方無しでもヒザシさんなら()()()()()()を務められるでしょう……それに」

 

 白は部屋の窓から見える、月を見上げその先の言葉を口に出す。

 

「僕の代わりを務めてくれている、可愛い()()()()()のことも信用してあげてください」

 

 白の少しにやけて言うその言葉に、ヒアシは苦虫を嚙み潰したように顔に皺を寄せ大きく唸りを上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒザシよりも、()()()()()が俺としては心配なのだが……ああ、直ぐにでも木ノ葉に帰りたくなってきた……っ」



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2:語りすぎるのは良くないこともある……うん

 場面は木ノ葉の里。 

 

 里内の演習場近くの木々が生い茂る林に、素早く駆ける二つの影がある。

 

 片方がもう片方を追う様に、距離を置いて、しかし双方高速での移動が繰り広げられる。

 

 影同士の距離が100メートルほどとなった時、片方の影は木の枝上で止まり、様子を伺う後方の影は茂みに身を隠す。

 

 茂みに隠れながら様子を伺う影・日向ハナビは追っている対象を白眼で監視し続けていた。

 

 歳月を経て、かつての黙雷悟と近い背丈になった彼女の雰囲気は随分と変わっていた。

 

 髪をロングからショートへと変え、後ろで短く纏めている。黒い服と腕全体を覆う包帯、腰には年季の入った腰布を巻きその両側には二つの木ノ葉の額当てが見て取れる。

 

 2つの内片方の額当ては傷と歪みがあり、もう片方は新品のように金属の光沢が鈍く輝いている。

 

 そして腰の後ろ側には、それまた傷のついた無地の仮面が下げられていた。

 

 そんな彼女は1人、木の枝の上で休息を取っている存在に注意を向ける。

 

(……移動能力は対象の方が上……林を抜けられたら追いつけなくなる……距離は充分狙える、仕掛けるならここだっ!)

 

 ハナビは掌をピンと張り、チャクラを巡らせる。

 

 掌に集まったチャクラはその形態を変化させ、薄く、薄く伸びギザギザとした円盤状に変形する。

 

 そのチャクラで出来た円盤は高速で回転し、空気を裂くような音が静かに鳴る。

 

 スィィィィン……

 

 その音に対象が気がついたのか、警戒のために頭を上げる。

 

(今だっ!!)

 

 ハナビは腕を振り、その円盤を投擲する。

 

(八卦・鉄鋸輪虞(てっきょりんぐ)っ!)

 

 手から放った円盤と共に駆けるハナビ。 木の枝の上の生物はハナビの接近に気がつき跳躍のために屈む、が

 

 足を延ばしたと同時に木の枝が鉄鋸輪虞に切り裂かれ、跳躍に失敗し垂直に落下する。

 

 対象の様子を確認したハナビは腰布を外し、両手で持ち広げる。

 

「捕らえた!!」

 

 そのまま木の枝から落下した対象をハナビは腰布で包みこむように確保する。

 

 腰布にくるまれた対象は中でもごもごと暴れ狂う。

 

「二゛ャア゛~~~~~っ!!!」

 

「あなたの嫌がる気持ちもわかる……気の毒だけど……任務だから」

 

 〈猫〉を確保したハナビはその悲痛なまでの叫び声を聴き、申し訳なさそうにしながらも任務受付場へと向かったのであった。

 

 

~~~~~~

 

「トラちゃん、お帰りなさいでザマスぅ~~~~っ!!!」

 

 任務受付場で、ハナビが捕まえた猫を受け取った豪華な身なりをした依頼人はその猫に頬ずりをしながら感謝の意を述べその場を後にした。

 

(……南無三)

 

 その様子を見て申し訳なさそうにするハナビの微妙な表情に、任務の采配をしていた五代目火影・綱手が声をかける。

 

「どうしたそんな浮かない顔して、任務は順調に終えたそうじゃないか」

 

「いえ……忍者は時に非情になる必要があると、痛感してました……っ」

 

 手を合わせ拝むようにするハナビに綱手は大きく笑い声を上げる。

 

「アッハッハッハっ! そうかいそうかい、そりゃそうだろうだねぇwww」

 

 その綱手の様子に、ハナビは少しムッとした表情をするがすぐに気持ちを切り替える。

 

「……さて綱手様、では私に次の任務をくださいっ!」

 

 前に乗り出すように次の任務の催促をするハナビを尻目に綱手がペラペラと紙束をめくる。

 

「……ん~、もうお前に任せられそうな任務は一通り消化したからねぇ……今日はもう(うち)に帰りな」

 

 少しめんどくさそうにしている綱手の態度に、ハナビは抗議の意を示す。

 

「私に任せられそうって……さっき見たいなお使い染みたものじゃなくて、忍者やならず者と戦闘できるようなそんな任務が受けたいんですよォ!」

 

 やいのやいのと文句を垂れるハナビの様子に綱手はため息をつく。

 

(まるでナルトと悟を混ぜたようなめんどくささだなぁ……全く……)

 

「任務! 任務ぅ!!」

 

 抗議を続けるハナビの様子に、かつての悟を知る綱手以外の任務采配係が懐かしむような感情を覚え苦笑いを浮かべる。

 

 ハナビの口撃に綱手は青筋を浮かべ怒鳴る。

 

「だぁ~うるさいうるさいっ!! お前の父上との約束で、危険性のある里外に出る任務は受けさせない方針になってるのはお前も知ってるだろう?! ただでさえ、日向の跡目がアカデミーを飛び級で卒業して下忍になったこと自体異例なのに……あまりワガママを言うなっ」

 

 その綱手の言葉に、ハナビはぶつくさと文句を垂れる。

 

「折角悟さんと同じ経験がしたいって、父様にお願いして下忍になったのに……これじゃあ意味ないじゃない……っ!」

 

 不貞腐れるような態度のハナビはそのまま受付場を後にした。

 

 ハナビの様子を見届けた綱手はため息をつく。

 

「やっとこさ、私がこちら(任務受付場)での采配を出来るようになった途端にこれだ……(三代目)が悟の任務への姿勢に対してだけの注意事項を指南書に残しただけはある。 奴の影響を受けたハナビだけでこれだ……いや、任務に五月蠅いのは二代目ナルト(猿飛木ノ葉丸)もいたな。 里に居ない癖に影響力が強すぎだあの二人は……」

 

 綱手はため息をだし、他の受付係は気の毒そうな苦笑いだけを浮かべていた。

 

 すると暗部の仮面を着けた忍びが一瞬で綱手の元に姿を現し耳打ちをする。

 

「……」

 

 暗部はその後すぐに姿を消し、耳打ちの内容に綱手はさらに大きなため息とほくそ笑むような表情を作る。

 

「全く……噂をすれば、か……()()()どもめ……一応サクラにも知らせておいてやろうかねェ」

 

 綱手は手持ちの資料を受付係に渡してそそくさとその場を後にする。

 

 その場に残った受付係の苦笑いは綱手への心配から、自身の仕事が増えた自分への心配へと変わっていた。

 

 

~~~~~~

 

 受付場を後にしたハナビは木ノ葉の里の大通りを歩く。

 

 ふと目の前から見慣れた三人組が来るのを見つけハナビはその顔を引くつかせる。

 

「あっ……ハナビちゃんだ!! こんにちわ」

 

 三人組の紅一点、風祭モエギはハナビを見つけ挨拶をする。

 

「……どうも」

 

 ぶっきらぼうに返事をするハナビだがモエギはそのことを気にすることなく笑顔でいる。

 

 ハナビは三人組の様子を観察する。

 

(随分とボロボロ……木ノ葉丸が持ってる麻袋の中には……猫……どんだけこの里は迷い猫がいるのよ)

 

 一瞬白眼を使い彼女らの観察を行ったハナビの様子に三人組の真ん中に位置する猿飛木ノ葉丸は顔をしかめる。

 

「おうおうおうっ! 何だコレっ?! 俺たちに因縁でも着けるってのかァ?!」

 

 足を前に踏み込み怒鳴る木ノ葉丸に、脇にいる伊勢ウドンはオロオロと諫めるように「木ノ葉丸君、やめてよ~」と間延びした声を出す。

 

「……別に……木ノ葉丸先輩(せ・ん・ぱ・い)は随分と迷い猫相手に苦戦したみたいですねェ? 私に突っかかる暇があるなら、さっさと任務の報告に行ってきて修行でもしたらどうです?」

 

 先輩と呼んだ部分を強調したハナビの煽るような言葉に木ノ葉丸は顔を赤くして地団駄を踏む。

 

「むきーっ!! バカにすんじゃねぇぞコレっ!! 一歳年下だからって手加減してやんねぇぞ?!」

 

 木ノ葉丸は手に持つ猫入り麻袋をモエギに無理やり押し付け、ハナビを睨みグングンと距離を縮める。

 

「……そんな年下の私にアカデミーで歯が立たなかったのって誰だっけ? ああ、目の前のお猿さんかァ!」

 

 ポンと片手を掌に打ち付けたハナビのわざとらしい物言いに

 

「~~~~~~~っ!!!!」

 

 ついに木ノ葉丸の堪忍袋の緒が切れ、その拳を大きく振りかぶる。

 

「木ノ葉丸ちゃん駄目っ!!」

 

 モエギの制止する声は木ノ葉丸には届かず、放たれた拳に対してハナビは

 

「遅い、白眼を使うまでもないわ」

 

 余裕の表情でそれをいなして、木ノ葉丸の鳩尾に一発掌底を喰らわせる。

 

「うごぉっ!?」

 

 呻き声を上げた木ノ葉丸はその衝撃にその場でうずくまり、ウドンは心配して傍へと歩み寄る。

 

 その様子に麻袋持ったモエギは

 

「……ハナビちゃんには勝てないって言う前に終わっちゃった……」

 

 見慣れた光景だとため息をつき、ウドンと同じく木ノ葉丸の傍へと寄る。

 

 その様子に興味がないとハナビは鼻を鳴らして、彼らの脇を通り過ぎる。 その立ち去り際に

 

「ごめんねハナビちゃん。 任務終わりだろうに木ノ葉丸ちゃんが突っかかって……」

 

 モエギに掛けられた言葉に無言で手を挙げて振って返事をしハナビはその場を後にした。

 

 

~~~~~~

 

 

 ハナビはその足で木ノ葉の里の中央区の一番端にある建造物へと向かう。

 

 暇が出来れば通うようになってたその施設「蒼い鳥」の玄関を開き

 

「こんにちわ~」

 

 間延びしリラックスしたハナビの声が響く。

 

 するとわらわらと子どもたちが集まってきて、ハナビはそのまま手を引かれ中庭へと移動する。

 

 その様子を見ていた鬼頭桃乃太郎(おにがしらもものたろう)もとい桃地再不斬は洗濯籠を複数重ねたエプロン姿で

 

「日向の……相変わらず良く来るな」

 

 と呟く。

 

 ふと彼の背後に人影が忍び寄る。

 

「まあ、子どもたちと遊んでくれているからいいじゃないかしら。 でも下忍になったばかりなのに変わらずに来てくれるのねぇ~」

 

 その人影・蒼鳥マリエの言葉に

 

「……気配を消して背後に立つなマリエ」

 

 不機嫌そうに再不斬が答える。

 

「これも修行よ、修行。 大人の私たちが鈍ってたら白雪ちゃんたち子どもに合わせる顔がないじゃない?」

 

 クスクスと笑いながらマリエはその姿を消した。

 

「……まあいい……にしても……日向の娘……雰囲気が随分と変わったな」

 

 フッと笑いながら再不斬もまた洗濯籠を施設の屋上へと運んでいった。

 

 中庭で子どもたちと遊ぶハナビに対して声をかける人物が現れる。

 

「ハナビちゃんまた(うち)に来たのか。 またナツさんに小言を言われるこっちの身にもなってくれよ~?」

 

 その男性・ウルシの冗談交じりの言葉にハナビは

 

「いいじゃない、ナツも最近は何も言わずに『お帰りなさい』って言ってくれてるから」

 

 と返事をする。

 

 砕けた態度のハナビに(……最初のころの生真面目って感じの印象とは違って、どうもラフというか、気が強いというか……うん)ウルシは苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、いいか。 んじゃぁ遅くなる前には帰れよ?」

 

 ウルシの言葉に

 

「分かってるわよ、()()()()

 

 ハナビは皮肉をいい子どもたちと遊びながら生返事をする。

 

 顔を引くつかせながらも、ウルシは「分かってるならいいさ、ガキンチョ」と呟く。

 

 少しの間を置いて互いに目を合わせたハナビとウルシは互いに舌を出して、互いに顔をそらした。

 

 

~~~~~~

 

 

 時間が経ち日が沈み始めるころ、ハナビは施設を後にする。

 

「それじゃあまた来ます」

 

 玄関で見送りをしてくれているマリエにハナビは頭を下げる。

 

「それは良いんだけど……ハナビちゃん」

 

 玄関の扉に手をかけたハナビにマリエが声をかける。

 

「はい?」

 

「あまり悟ちゃんの影を追いすぎるのは良くないわ……」

 

 心配するマリエの声を聞き、ハナビは少し目を見開くも直ぐに笑顔を作った。

 

「……大丈夫です、私は……私のしたいこと、成したいことをやっているだけです。 確かに悟さんの影響がないとは言えないですけど……私がなりたいのは」

 

 ハナビは真っ直ぐとマリエを見つめる。

 

 

「彼を守れるような存在になることです。 彼自身になることは、いえ他人に成り代わることなんて土台無理な話ですから、私は私にできる精一杯をしたいっていうそれだけです」

 

 

 ニコッと笑みを浮かべマリエを一瞥したハナビはそのまま玄関から出ていった。

 

 マリエはハナビの背を見送り小さく呟く。

 

「……慕われているのね、彼女も私と同じように貴方が生きているって信じている。 貴方が居なくなってから多くの孤児を引き取り、また見送って来た……施設も少し大きくなって職員も増えた。 けどあなたの部屋はちゃんと残してるのよ……だからね」

 

 

 

「いつでも帰ってきて良いのよ……悟ちゃん」

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 ハナビは足早に里を駆ける。

 

 急いで日向の屋敷に戻ってきたハナビは、自室へと戻り道着へと着替える。

 

 その着替えの最中に、襖の先から声をかけられた。

 

「ハナビ様、今よろしいですか?」

 

 道着を頭からかぶっている最中のハナビは

 

「ナツ? 何ぃ?」

 

 と襖の先の人物に返事をする。

 

 襖があいたと同時に、ハナビが「ぷはぁっ」と道着から頭を出す。

 

 姿を見せたナツは従者としての姿勢でハナビへと告げる。

 

()()()()がおよびです」

 

 

 

 

 

 

 道着に着替えたハナビはナツに連れられ、ヒアシの自室へと訪れる。

 

「失礼します」

 

 流石は跡目というべきか、昼間の彼女からは想像もつかないほど綺麗な所作でハナビは部屋へと入る。

 

 中では腕を組み馴染み深い和服に身を包んだ日向ヒアシ……の振りをしている日向ヒザシがいた。

 

 部屋の襖をしめ、部屋内にはハナビ、ヒザシ、ナツの三人だけになる。

 

「およびですか……叔父上」

 

 ハナビの言葉に

 

「……兄上から連絡が入り、予定通りしばらくは雷の国に滞在することになったそうです」

 

 ヒザシは優しい声色をして伝えたい内容を言う。

 

「ってことは白さんも帰りは遅くなるんですね、色々と稽古をつけて貰おうかと思ってたのに……」

 

 聞いた内容にハナビは昼間のような様子で小さく文句を呟く。

 

 それを聞き、ナツは少しだけ顔をしかめる。

 

 ヒザシは瞼を開いてはいないがその様子に気がつき、少しだけ微笑を浮かべ

 

「……ハナビ様、最近は日向での鍛錬を疎かにしているとかなんとか……と、ナツが嘆いていましたよ?」

 

 とハナビをたしなめる様に語る。

 

 ヒザシの言葉にハナビは

 

「……私は、色んな事を経験したいんです。 父上が居ない今のうちに、外の世界を見て回りたいんです」

 

 真剣に答える。

 

 そのハナビの意思にナツはため息をつく。

 

「かつては、真面目に修行を受けてくださっていたのに……最近、特に下忍として第零班に配属希望を出して、受理されてからのハナビ様の行動は宗家の跡目として目に余ります……っ!」

 

 ナツの嘆くような言葉にハナビは頬を膨らませ不愉快だと表情を露わにする。

 

「別に、毎日のノルマはこなしてるじゃないっ! 覚えるべき技術も、伝えられるべき術もちゃんと習得していっているわ、それなのにナツは何が不満なの?!」

 

 ハナビの荒げた声に、ナツもまた感情を煽られ声が大きくなる。

 

「そもそも、日向の跡目というのは下忍などにはならず正式に宗家を継いだ後に『上忍』という扱いを里から一方的に受けるものなのですっ! それをご自身から、下忍になりあまつさえ他所の人間に稽古をつけて貰っているなどと……っ!」

 

「他所じゃないわよっ!! 白さんも、マリエさんも、たまにだけどテンテンさんだって色々教えて貰ってるけど、皆同じ里の仲間よっ!!!」

 

「他所は他所ですっ! プライベートで仲良くすることと、宗家としての立ち振る舞いは別ですっ!!! それだから木ノ葉丸様と合わせて名家の跡取りは気品が足り――」

 

 ヒートアップするする口げんか。

 

 その直後

 

 

 一瞬場を凍てつかせるような緊張感が走る。

 

 

「……二人とも、落ち着いて」

 

 

 ヒザシの調子の変わらない、けれど確実に圧の含まれた一言が場を貫き静寂さを部屋の中に取り戻させる。

 

「「……っ」」

 

 息を呑む二人が黙るとヒザシは普段の柔らかい物腰で口を開く。

 

「ナツ、そのようなことは間違ってもいうものではない。 ハナビ様も、ナツのことをわかってあげてください、貴方のことが心配だからこそ口うるさく言ってしまうものなのです」

 

 ヒザシの言葉に互いに一瞬目を合わせ、直ぐにそらすナツとハナビ。

 

(少し違うが、前のうちのネジみたいにハナビ様も我が強い……兄さんもそうだし、多分俺もそうなんだろうな)

 

 険悪な二人を見て軽く笑ったヒザシに、二人は抗議の目を向ける。

 

「「笑いごとじゃないですっ!!」」

 

「フフフッ……まあ、お互いを理解しているからこそのいさかいもあるものだ。 どうだ、ナツ、ハナビ様……ここは日向らしく組手で白黒つけるというのも――」

 

 ヒザシの提案に

 

「「わかりましたっ!!」」

 

 二人は速攻で乗る。

 

「いい加減私を子ども扱いするのは無理があるってナツに分からせてあげるっ!」

 

「ハナビ様は周りの目を気にしなさすぎなんですっ!! まだまだ実力は子どもなんですから大人しく大人のいう事を聞いてなさいっ!!」

 

 二人は今にもケンカを始めそうな勢いで互いを睨みながらヒアシの自室から襖を勢いよく開け出ていった。

 

「……ふう、やれやれ」

 

 兄が居ないうちに、兄も経験して無さそうな娘の反抗期のような主張の苦労を負いヒザシは苦笑いを浮かべる。

 

 すると開けっ放しの襖から顔を出す人物が一人。

 

 ヒザシは直ぐに気配だけでその人物が誰なのかを言い当てる。

 

「ネジか、どうした?」

 

 ヒザシの問いかけにネジは

 

「いえ、ハナビ様とナツが勢いよく出ていったのでどうしたのかと……」

 

 と首を傾げながらも部屋の中に入り襖を閉める。

 

「……まあ、何というか……少し前のお前と悟君のようにお互いの主張の食い違いというものだ」

 

 ヒザシが悟の名を出すと、ネジは露骨に嫌そうな顔をした。 背も伸び、大人びた雰囲気を纏っていたネジだがその一瞬だけ、子供じみた感情表現をしそれを感じたヒザシは

 

(おっと……存外にまだまだうちの息子も子ども……か)

 

 小さく笑う。

 

「っ父上……今俺を笑いましたね?」

 

 そのヒザシの様子に気がついたネジの不満げな声を聴きヒザシは立ち上がる。

 

「はははっ……まあいいだろう。 最近はお前も自分の班での行動が多くて稽古をつけてやれなかったからな、不満があるなら拳で語れ、ネジ」

 

 意外と物腰の柔らかさに反して何かと拳で語りたがる父の様子にネジは

 

(……父上が意外とガイと似ているところがあると最近気がついたが……俺の周りには熱血漢ばかりだな)

 

 内心自身の境遇を哀れみ、共に班で行動しているテンテンのありがたみをネジは本人の居ないところで噛みしめた。

 

「柄でもないが……たまには労ってやるか……」

 

 ネジはぼそりとそう言い、息子との手合わせを楽しみにして足早に稽古場へと向かった父の背を追った。

 

 

~~~~~~

 

 

 月が暗夜を照らす時刻。 夕食も取らないで組手を行っていたネジとヒザシはお互いの掌底をぶつけ合い、キリをつける。

 

「っはぁ……はぁ……流石俺の息子だ……俺もそろそろ、歳かなぁ……はははっ」

 

 互いに日向の道着を汗まみれにし、ヒザシは片膝をつきネジはその様子を見下ろす。

 

 傍から見ればネジの方が上手に見えるが、ネジ本人は肩で息をしながら

 

(俺は白眼を使ってコレだ……組手で互いに経絡系へのチャクラによる攻撃は禁止しているにしても、父上は視覚なしで俺の動きに対処してくる……我が父ながらに末恐ろしいな)

 

 自身の父の確かな強さを感じ取っていた。

 

 ふとネジは隣の稽古場での音が止んでいることに気がつく。

 

「ハナビ様の方も終わったようですね」

 

 ネジの言葉にヒザシは

 

「そうか、ネジ様子を見て来てくれるか? 俺は先にあがらせてもらおう……」

 

 息を切らした様子で稽古場を後にした。

 

 様子見を任されたネジは軽く自身の汗をタオルで拭き、隣の稽古場へと移動する。

 

 そして現場についてネジが目にしたモノは

 

 

 互いに仰向けになって倒れているハナビとナツであった。

 

 

 その様子を鼻で笑ったネジは持ってきていたタオルを二人の顔に被せる。

 

「理由は詳しくは知らないが……主張の折り合いはついたのか?」

 

 確かめるようなネジの言葉に

 

「「ぜんっぜん……っ!!!」」

 

 二人はかすれた声でそれに答える。

 

(ナツも分家とはいえそれなりに実戦を積んでいる忍び……それに肉薄するハナビ様は流石というべきか)

 

 冷静に二人の組手の様子を考察するネジだが当の本人たちは

 

「はっ……ハナビ様は……足技……柔拳の型にない……ことをするなんて……卑怯ですっ!」

 

「……実戦に……卑怯もラッキョウもない……のよ、はぁ……はぁ……っ」

 

 未だに息を切らしながら互いに対して嫌味を言い合っていた。

 

(……これが女同士のいがみ合いか……いや、そうというより、日向の人間は基本的に頑固なのだろうな……俺も含め)

 

 二人の様子に軽く笑みを浮かべたネジにナツが睨みを効かせる。

 

「……なにっ?!」

 

「いや、何でもない……さていつまでも稽古場に背を預けるわけにも行かないだろう。 ハナビ様は先に汗を流してきてください、後片付けはナツと俺がしておきますので」

 

 ナツの言葉を受け流し、ネジはハナビを起き上がらせ風呂場へと向かわせる。

 

 まだまだ言い足りないが仕方ないと、去り際にナツに対して舌を出したハナビ。

 

 ナツもまたムッとして立ち上がるが

 

「言い歳した大人が何時までもムキになるなっ」

 

 ネジはナツに向け文字通りの白い目を向ける。

 

「誰が年増……ゴホッ……っムキになっていることは自覚しています……だけどっ!!」

 

「……本来宗家の跡目であるハナビ様と分家の俺たちがこうも対等に居られるのも昔の日向からすれば目を疑う状況だ。 心配なのもわかるが、もう少し余裕を持て」

 

 冷めた感じのネジの対応にナツは「~~~っ!」言いたいことがあるのか、口が力むが一瞬思いとどまり肩の力を抜く。

 

「……そう、心配なのよ私は……」

 

 項垂れたナツの様子にネジは仕方ないとため息をつき話を聞いてやることにした。

 

「ナツ、ハナビ様は優しい……お前の気持ちも理解はしているだろうが――」

 

「ハナビ様はだんだんと悟さんに似てきているわ……雰囲気とか、言葉選びとか」

 

 口調が砕けたナツから悟の名が出るとネジは少し黙る。

 

「実際、組手をしてみて痛感した。 未だにハナビ様の中で悟さんは大きな存在でいる……その背を追うハナビ様がいつか――」

 

「悟と同じように自ら危険に飛び込むようになると……お前は言いたいんだな?」

 

「ええ……実際に居なくしまった悟さんの背を追うハナビ様が……同じ目にあってしまうかもしれないと思うと……私は怖い」

 

 うつむいて表情が見えないナツの顔から水滴が落ちる。 それが汗か涙か、ネジには区別がつかないが

 

「確かに……心配になるのもわかる。 だが、それを支えてやるのが先達である俺たちの役目でもあるだろう、あまり簡単な道ばかり歩かせてはいざという時、困難な道を自分で走れなくなる。 ハナビ様は今ご自身の可能性を探っているのだろう、見守ってやれ」

 

 自分たちの役割を自覚するように促し、稽古場にモップ掛けをし始める。

 

 その言葉を受け、ナツは顔を上げ立ち上がる。

 

「……分家でも大問題児だったネジが、こうも大人びたことを言うなんてね」

 

 ぼそっと呟いたナツの言葉に、ネジは固まる。

 

「……俺は別に昔から考え方を変えたつもりはない」

 

 ネジは背を向けたまま語る。

 

「ただ、()()()が示した様に……世界は己だけでは廻ってなどいないと自身の考えに……付け足しただけだ」

 

 そういうネジの様子にナツは

 

(……ここにも悟さんの影響を受けた人が一人……ヒナタ様との婚約の件と良い……彼は日向に影響を及ぼしすぎね)

 

 黙雷悟という存在の、日向での立ち位置を改めて認識し気を持ち直すのであった。

 

 

~~~~~~

 

 ハナビが組手での汗を流し、自室へと戻ると隣の姉の部屋に人の気配を感じるとる。

 

 その部屋の前で

 

「姉様? 帰ってきてるの?」

 

 ハナビが声をかける。

 

「ハナビ?」

 

 部屋の中からヒナタの声が聞こえたことで、ハナビは部屋の中へと踏み込む。

 

「姉様お帰りなさいっ!」

 

「わっ……ちょっとハナビ……っ!」

 

 急に抱き着いてきた妹を受け止めたヒナタ。 ふと正面から抱き着いたハナビはヒナタの腰に回した腕に力を籠め、何かを確かめるようにヒナタの豊満な胸へと顔を(うず)める。

 

「ちょっとハナビ、力入れすぎ……っ」

 

「姉様、何がとは言わないけどまた…………大きくなってない?」

 

「……っ!!!」

 

 顔を胸に押し付けながらフガフガとそう口に出すハナビにヒナタは顔を紅くしてハナビの頭の頂点にチョップを入れる。

 

「いたぁっ!?」

 

「全くこの子はっ!! はしたない事言わないのっ!!」

 

 怒られたハナビは涙目でその場に座り込む。 ヒナタは「もう……」と言いながら少しだけ乱れた衣服を整える。 ふとハナビがヒナタの様子を伺うと、先ほど帰って来たばかりにも関わらず、またすぐに外出しようとしていることに気がつく。

 

「姉様もう行くの?」

 

 少し寂しそうにするハナビの様子に、ヒナタは先ほどチョップを入れた頭に手を置きさする。

 

「ごめんね? 任務が入っちゃって……」

 

 申し訳なさそうにするヒナタだがふと、ハナビは彼女の感情の起伏に違和感を覚える。

 

「……ん?」

 

「どうかした、ハナビ?」

 

 その様子にヒナタが問いかけると

 

「姉様何か良い事でもあった?」

 

 ハナビがヒナタへと逆に問いかける。 するとヒナタは少し顔をニヤつかせて直ぐい腕で顔を隠し顔を逸らす。

 

「……ああわかったわ、懐かしい感じがするけど姉様のその反応、ナルトさん関係でしょ?」

 

「っ……鋭いわねハナビ……」

 

 ハナビのどや顔推理に、ヒナタは隠し事は出来ないと降参するように語り始める。

 

「昼間にナルト君が修行の旅から帰ってきてたみたいなの。 人伝に聞いたからまだ会えてないし、今はサクラさんとカカシ先生と演習をしてるみたいで……それに私は任務で里外に出ちゃうから……」

 

 嬉しいのやら悲しいのやら、複雑な心境のヒナタにハナビは

 

「大丈夫よ姉様!! 二年半も待ったからあと数日ぐらい平気よ!!」

 

 と励ましの言葉を掛ける。

 

「……うん、そうだね。 よし、早く任務を終わらせて帰ってくるねっ!!!」

 

 ハナビの言葉を受けヒナタはそくささと準備を済ませて屋敷から出ていった。

 

 屋敷の外の門までヒナタを手を振って見送ったハナビは自身の掌を見つめ、頭上の月を睨む。

 

 

 

 

「二年半かぁ……大丈夫……私は大丈夫……っ辛くなんて……ない」

 

 

 

 少女の自分に言い聞かせるような呟きは誰の耳にも届くことはなく、夜の静けさへと溶けていった。

 

 

~~~~~~

 

 

 同じ月が照らす夜の砂漠。

 

 風の国の巨大な砂漠を行く2つの影があった。

 

 黒地に赤雲の模様が描かれた外套をはおり、笠をかぶる2つの影は片方は隙間から金髪を覗かせ、もう片方は四肢の獣のように低い姿勢ではいずる様に移動をしていた。

 

「……しっかし、サソリの旦那……あの()()()()()、本当に来んのか? リーダーの話だとノルマのサポートに回る人材だとか何とか……うん」

 

「俺が知るか……だが角都の資金稼ぎでは賞金首しか狙わない一方で、他の仕事をこなして財布役をこなしているそうだからな。 いざ実戦で邪魔になるならそれはそれでその場で始末してしまえば良い」

 

 明るい口調の金髪の男・デイダラと旦那と呼ばれた赤砂のサソリは雑談をしながら夜の砂漠を進行する。

 

「一応オイラは()()()()で影と声は聞いただけだが……何だっけか? 『私は暁の夢の手助けがしたいですっ!!』とか『未来を知る』うんたらかんたらとか何とか言ってたなぁ……リーダーも変わり者を良く連れてくるもんだ……うん」

 

「ほぼ後半に組織に入ったてめぇが知った口を利くな……だが確かに、てめぇみたいなやつを組織に引き入れるぐらいにリーダーは節操がねぇ……今更変人が一人二人増えようが何も変わらん」

 

「旦那ァ……ケンカなら買う、と言いたいが(シリーズ)にも限りがあるからな……うん。 一尾の捕獲の為にも温存しないといけないからな、大人のオイラが我慢してやるぜ……うん」

 

「ほざけ……」

 

「そういや、正式に組織のメンバーになっていない奴と言えばトビの奴もいたな……うん」

 

「やかましいアイツか……」

 

「爆弾を使うあたり、少しは好感を持てるがオイラと違って芸術性が皆無だからなアイツ。 あとうるせぇ……うん」

 

「どちらかと言えば、てめぇもやかましい部類だ……」 

 

 口数の多いデイダラの話にサソリがほぼ相槌を打つだけになってきた辺りで、ふと二人は背後に急に気配が現れたことに気がつき同時に振り返る。

 

 振り返った視線の先、少し見上げた位置に人影が一つある。

 

 その人影は手を振り、デイダラたちの前に舞い降りる。

 

「こんばんは先輩方! リーダーからサポートを承った天音小鳥です、以後お見知りおきを♪」

 

 テンション高めの天音の挨拶に、デイダラとサソリは

 

(やっぱり五月蠅いな……うん)(やかましい……)

 

 同じようなことを考えていた。

 

 しかし、広大な砂漠の中目印もなく自分たちを見つけ、この距離まで悟られることもなく近づいたことは天音の実力をうかがい知るのには十分であった。

 

「おい小娘、何だその外套……滅茶苦茶ダセェぞ……うん」

 

 デイダラはすぐさま天音の羽織る外套に対して言及した。

 

 その言葉を受け、天音は手を広げその外套を良く見えるようにして返事をする。

 

「え~~そうですかぁ? 私暁が好きで、これ手作りなんですけどねぇ……」

 

 少し残念そうにする天音。 その外套はデイダラたちも羽織っているものを真似た黒地だが外套のデザインの肝でもある朱い雲がとても歪んでいた。 

 

「ガキの手作り感満載って感じのデザインだな。 ……その見た目の歳で本気でこれが精一杯なのか?」

 

 サソリの少し心配やら憐れみを含んだ物言いに芸術の分野に明るい二人からの評価は著しく低いことを理解し天音は肩を落として落ち込む。

 

 話が服のデザインについてと話題が明後日の方向に行きはじめたが、直ぐにサソリが軌道修正を行う。

 

「まあ絵やデザインが下手なのは才能がないと思って諦めろ……ところで小娘……てめぇは何が出来る?」

 

 サソリが天音に対して質問をぶつける。 ざっくりとしたものだがほぼ情報を持たない相手には語らせた方が手っ取り早いというサソリの考えがあってのことだった。

 

「私ですか? え~と~……」

 

 顎に手を当て少し考えこんだ天音は口を開く。

 

「私は何でもできます♪ 何でもというのは属性的な意味と覚えている術の量的な意味でですね。 さっき宙に浮いていたのは岩隠れ辺りで覚えた土遁・軽重岩の術でお気に入りの1つです!! そう言えば私自身の特徴と言いますか、私は未来に起きるできごとを知っているんですよ!! びっくりしますよねっ!! でもそれって内容を他の人に言っちゃったら駄目でぇ……だから私は暁の目指す夢にとても共感して何かお手伝い出来ないかと、資金調達をしてました!! それでそれで――」

 

「やかましいわ!! ……うんっ!!」

 

 早口でつらつらと語る天音にデイダラが我慢を切らして話を遮る。

 

「頭が可笑しいことはわかった。 まあ機動力があるなら足を引っ張ることもない……行くぞ」

 

 サソリは会話を続けることが吉ではないと察して天音に背を向けて歩き始める。

 

 その傍らで

 

「それで私はこの世界を平和にするために暁に入ることに決めたんです♪ 最初は地道に〈暁万歳!!〉と叫びながら野盗などを蹴散らして資金を集めてました。あっデイダラ先輩ちゃんと聞いてます? んで、そうしてたら何と!! ゼツ先輩とリーダーが私の目の前に現れて直々に組織に招き入れてくださったんです!! まだ見習いと言う立場なので、先輩方が着けているような通信用兼封印用の指輪も持ってないので、もしあのリモートワークをするときは私も混ぜてくださいね? そう言えば私の得意な術とかも知りたいですよね? 知りたいですよねぇ!! 私はさっきも言った通り土遁・軽重岩の術を移動手段にしてますが、この術は一度発動すれば効果の持続する術なので、他の術との一緒に使うのが容易なんですよね。 あっでも雷遁は使った瞬間術の効果を打ち消しちゃうので落下しながら使うことになりますね♪ それでそれで――」

 

 デイダラが天音に口撃を受けていた。

 

 

 

「やっかましいわ!! ……うんっ!!」

 

 

 

 

 

 



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3:今は、一人で独りの狂人

 風の国の砂漠に日が昇る。

 

 広大な大地を進む三人の人影は歩みを続けていた。

 

「……それで一尾・守鶴はデイダラ先輩とサソリ先輩どちらが狩るんですか?」

 

 天音はフードの合間から笠を被る二人へと問いかける。

 

「オイラだっ! そういやサソリの旦那のノルマはどんな人柱力だったっけか? ……うん」

 

「……人柱力の場所がまだ割れていない以上俺のノルマの事を考えるのは時間の無駄だ。 自分のことだけ考えていろデイダラ」

 

 意気揚々と答えるデイダラと、めんどくさそうに低い声を出すサソリ。

 

「じゃあ、私は今回何をすれば良いです?」

 

 天音はサポーターとして自分の役割を二人に問う。

 

 しかし

 

「しるか……うん」「自分で考えろ」

 

 その問いは一蹴され会話が途切れる。

 

「「「……」」」

 

 砂漠に吹く砂塵の擦れる音が明瞭に聞こえる沈黙が訪れた。

 

 その後天音はため息をつきながら宙へと飛翔する。

 

「おい……勝手なことをするな」

 

 天音の突然の行動にサソリが機嫌を悪くしてすぐに警告を行う。

 

「自分で考えた結果、先に砂隠れに行って斥候してきますね♪」

 

 しかし天音は笑顔でそれに答え砂隠れに向けて飛び立っていった。

 

 その様子を見ていたデイダラは笠を手で少し挙げサソリの方を見る。

 

「オイオイ……間者はサソリの旦那の部下が既にいるんだろ? どうすんだ……うん」

 

「そのことは小娘に話してはいなかったが……まあ下手を打っても俺たちの邪魔にならなければそれでいい……邪魔になれば、その時はその時だ」

 

 少し呆れた表情を見せるデイダラとあまり気にしていないサソリは体力を温存するペースで歩き続けるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 その後、デイダラ・サソリのペアは砂隠れの里の防壁の要となる、里周囲を覆う崖のような壁面が見える位置まで来ていた。

 

 里へと侵入するにはその壁面を越えるか、壁面の間に作られた数少ない道を通るしかない。

 

 当然壁面には守衛の忍びおり、間の道は通ろうとすれば上から一方的に攻撃を受ける構造になっているため並の忍びでは、容易には里へ入ることは叶わないだろう。

 

「……サソリの旦那の間者……洗脳術の影響で俺たちのことを忘れているせいで、色々情報を垂れ流す裏切り者になってるらしいが……うん」

 

「仕方ねえだろうが、俺たちに関する記憶を一部、一時的に忘れさせるからこそ、間者でありながら上役にまで上り詰めたんだ。 それで出来ることの多さに比べれば……必要なリスクだと思え」

 

 歩調は変わることはなく、二人からは緊張を感じられない。 彼らのその落ち着きが、それだけ経験値の高さを物語っている。

 

「デイダラ……結局その(シリーズ)だけで大丈夫か? 相手は一応人柱力だ」

 

「サソリの旦那は神経質だな……うん。 オイラの術は芸術だから問題ないっ! それにちゃんと十八番(オハコ)も持ってきてる……うん」

 

 デイダラが粘土を入れた袋に手を置き、それを軽く撫でる。 その所作から自身の術に対しての絶対的な自信が見て取れた。

 

 サソリはその様子をちらっと見て、正面を向く。

 

「なら、さっさと終わらせろよ……俺は人を待つのが嫌いなんだ」

 

「わーってるよ、旦那。 オイラの芸術、見せてやるぜっ……うん」

 

 そんな彼らが壁面に近づくにつれて、違和感を覚える。

 

 ある程度近づけば、見張りの忍びが顔を見せるかその存在を見て取れるようになるはずだがそうはならず、全く敵意や殺意を感じないからである。

 

 デイダラが眉を少しひそめる。 

 

「静かだな、旦那の間者の仕業か……準備が良いな、うん」

 

「いや……どうも様子が……っ!?」

 

 サソリがデイダラの問いかけに答えようとしたとき、壁面の道から人影が飛んでくる。

 

 サソリたちの前に落ちたその人物は勢いよく地面で跳ね、うつ伏せに倒れる。

 

 サソリが傀儡の尾でその気絶している人物の顔を挙げさせ確認する。

 

「俺の部下……だ」

 

「おいおい、どうなって……うん?!」

 

 壁面のふもとをよく見れば、人影が1つ、手を振っているのが見える。

 

 デイダラたちがその人影に近づけば自ずと、その人物は声をかけてきた。

 

「先輩方、遅いですよ~? 暇だったので、この関所制圧しておきました♪」

 

 敬礼のポーズでデイダラたちを出迎えたのは天音小鳥であった。 サソリが周囲を観察すれば、砂の忍び達が幾人も昏倒していた。様子を伺うと砂の忍び達は壁に叩きつけられたり、地面に倒れ伏しているのがわかる。

 

「おい小娘……今さっき吹き飛ばした男だが……」

 

「はい? ああ、ここの砂の忍びに隊長とか呼ばれてた人ですね♪ 少し歯ごたえがありましたけど、こうやってぶっ飛ばしておきましたよ! 私凄いでしょサソリ先輩!!」

 

 シャドウボクシングをし、アッパーカットをしてちらっとサソリを見る天音。 片眼鏡から覗かせる黒目が、ドヤ顔を演出しさながら褒めて貰おうとねだる子犬のようにも見えた。

 

 が

 

「アイツは俺の間者だ……っ!」

 

 ほんの少し怒気を孕んだサソリの言葉に、「シュッシュッ」と口ずさんでシャドウボクシングをしていた天音の動きがピタッと止まる。

 

 ……静寂がその場を染める。

 

 少しの間を置いて天音が口を開く。

 

「む、向こうから手を出してきたんですっ! 私悪くないっ!!」

 

「ああ……新人のてめぇのことは何も知らせていなかったからな……たくっ……人の年単位の仕込みを台無しにしやがって」

 

 サソリの恨み節に天音は「ひぇ~」と涙目になり、後ずさる。

 

「まあまあ……結局里に入れれば一緒だぜ旦那……うん。 んじゃ、オイラは行ってくる、サソリの旦那と小娘は間者の目でも覚まさしておけばいいぜ……うん」

 

 デイダラはそういうと、自身の持つ起爆粘土を掌に存在する口でこねて吐き出し、形を造形する。

 

 その粘土を放り、デイダラが印を結べば粘土に籠められたチャクラが反応を起こして巨大化、人を乗せるには十分な大きさの粘土製の鷹がその場に現れる。

 

 粘土製の鷹にデイダラは飛び乗り、天音に語りかける。

 

「どうだ小娘? オイラのこの芸術的造形は……うん」

 

 自身の術で出来た鷹を後輩に紹介するように手を広げるデイダラ。

 

 その様子にサソリにグチグチと詰め寄られていた天音は

 

「……えっ!? ……良いんじゃないですか、多分」

 

「クソみたいな反応をありがとよ……うん」

 

 興味なさげに、適当さ加減がにじみ出た返答をする。そのままデイダラはテンションを下げて飛び立っていった。

 

 その様子を眺めた天音は

 

「造形だけは好きですけど、あれを爆発させるのは私、勿体ないと思うんですけどねぇ……」

 

 そう呟く。

 

「……小娘、無駄口叩いてないで俺の間者の介抱をしろ。 取りあえず目を覚まさせてアジトに先に向かわせねぇとならねぇ」

 

「あいあいさー」

 

 サソリの呼びかけに天音は答え、自分が吹き飛ばした斥候の治療にあたった。

 

 その様子をじろっと眺めるサソリ。

 

(この砂の関所を陥落させるほどの実力……警戒度は俺たち暁の情報が出回り、かなりのものだったはず。 それをモノとのもせずに服にすら掠り傷1つ負わないとは……この小娘、()()()じゃなさそうだ……クックックっ……チャンスがあれば俺の人傀儡のコレクションに加えてやっても良さそうだ)

 

 ふと天音は背後から感じる視線に、熱波が吹く砂漠で寒気を感じて身震いをした。

 

 

~~~~~~

 

 

 少し時間が過ぎると、天音の掌仙術が効いたのかサソリの間者は目を覚ます。

 

「っ……俺は……?」

 

「おい、俺が分かるか?」

 

 朦朧としている間者にサソリが語りかける。

 

「……っは、はい……もちろんですサソリ様」

 

「なら、いい……お前は近くのアジトに先に向かえ……ああそれと」

 

 起き上がった間者が、不気味にニコニコしている天音から後ずさって距離を取るとサソリが耳打ちをするために彼に近づく。

 

『小娘がどうやってここを制圧したか教えろ』

 

『……サソリ様のお仲間とは気がつかず、すみません……ええ、彼女は気配もなく隊の中心に現れました。 そのまま、目にも留まらぬ動きで何やら金属性の短い棍棒のようなモノを使い高速で関所の忍びを殴打して吹き飛ばし、しかし周囲の忍びがそれに気がつく様子はなく俺だけがそれを認識できていました。 恐らく幻術の類で認知能力に妨害を駆けていたのかと……なぜ俺だけがかからなかったのはわかりませんが』

 

『それで……お前はどうした?』

 

『一瞬で制圧された後、俺も彼女に戦いを挑みましたが彼女は武器をしまい素手で俺に挑んできました。 俺の風遁の術は歯に掛けることもなく避けられ、接近を許してしまい―』

 

『剛拳で吹き飛ばされて気絶か……』

 

 小さい声で会話をし、サソリは先ほど天音のしていたジェスチャーを思い出し事の顛末を言い当てる。

 

 サソリは関所の周囲を見渡し、違和感を覚える。

 

(なぜ、俺の間者に対してだけ少し違う動きを見せた……? 忍び達は一人も殺害していないようだが……なにか意図でもあるのか)

 

 サソリが、少し離れた位置で里の中に目を向けている天音を見つめる。

 

『……まあいい、お前はもう行け……恐らくゼツの奴がアジトに居る、後の動きはゼツに聞け』

 

『ハッ! かしこまりました』

 

 サソリの間者が指示を受けその場から離れると天音がサソリの方を向き語りかける。

 

「陰口は終わりましたサソリ先輩? どうやらデイダラ先輩が片腕潰されたみたいですけど大丈夫ですかね、相手は相当出来るみたいですが」

 

「何……? この位置から様子が把握できるのか?」

 

 デイダラの術による爆発音が幾つか聞こえるが、サソリは間者の治療のため関所から離れた里の内部が全く見えない位置にいるのにも関わらず、デイダラの様子を言い当てる天音に驚く。

 

「……適当言ってるんじゃねえだろうな?」

 

「酷い言いぐさ……それなりに感知能力もあるんですよ私、ほら砂漠で先輩たちも見つけたじゃないですか……んで何かピンチっぽいんで私加勢に行った方が良いですか?」

 

 親指で里内を指さす天音。 サソリは少し考え

 

「……いいだろう、行ってこい。 俺は待つのが嫌いなんだ、デイダラに加勢してさっさと終わらせて来い」

 

「ラジャです!! ああ、なんならサソリ先輩は先に戻ってもらっててもいいですよ。 サソリ先輩動きがトロイのに里の中まで来られると撤収に影響でそうなんで」

 

「おいっ……!!」

 

 サラッと毒づいた天音は、関所の忍びが落としたクナイの1つを拾い上げサソリから逃げるように宙に浮かび里の中へと向かっていった。

 

「冗談ですよ~~~……」

 

「……下らねぇ…………ヒルコの機動力に改善でも施すか……?」

 

 天音の言葉に一人地味に傷ついたサソリは、自身の傀儡の改良の予定を心に決め仲間が戻ってくるのを待った。

 

 

~~~~~~

 

 

 砂隠れの里上空、風影・砂漠の我愛羅とデイダラは死闘を繰り広げていた。

 

 里の仲間を先頭に巻き込まないために空で戦いを続ける我愛羅。 デイダラは我愛羅の特別にチャクラが練りこまれた背の瓢箪の砂に左腕を潰され血を流していた。

 

「ちぃ……便利な術だなぁ……うん。 砂漠の砂も大量に使ってきやがるし、地の利が悪い……甘く見てたぜ。 サソリの旦那の言う通り、準備不足だったかもな……うん」

 

 自身の打てる手の打ちが僅かであることを危惧し、デイダラは作戦を練る。

 

(残りは攻撃用が1つと、十八番だけ……うん。 こうなったら里を壊すか、下から邪魔されんのも興ざめだ……それに)

 

「いい加減、てめぇのその澄ました(ツラ)を見飽きたところだからな……うん!!」

 

 デイダラの言葉に、我愛羅は不穏な意図を感じ取り、多量の砂をコントロールするため腕をかざす。

 

 印に反応しデイダラの十八番は巨大化し、里へ向け落下を始める。

 

 眼下の忍び達が急な攻撃に慌てふためくさまを眺め、デイダラが印を構えた。

 

 

 

「今更逃げても無駄だ、里ごと吹き飛びなっ!!!」

 

 

 

――喝

 

 

 

 瞬間、デイダラの十八番の起爆粘土が爆発。 その威力と熱量が爆発の周囲の景色を歪ませる。 太陽の光よりも明るく周囲を照らした巨大な爆発は里の一画を覆いつくすほど巨大であった。

 

 宙に浮く砂の球体の中、空いた穴からその様を眺めていた我愛羅は汗を垂らす。

 

 爆炎による熱風が、砂の球体を揺らし同じくデイダラの乗る粘土製の鷹もその煽りを受け態勢を崩していた。

 

砂漠の風が吹き、その爆発による煙を吹き晴らす。

 

 完全に爆発で消し飛んだと思われた箇所にはドームを逆さにしたような砂の塊が空中で留まっていた。

 

 その砂の塊の下に居た忍び達は

 

「すごい……風影様の砂だ!! 俺たちを助けてくれてんだっ!!」

 

 歓喜の声を上げていた。

 

 里が無事であることをその声を聞き把握した我愛羅は安堵の息を漏らす。

 

 

 

「――はい、射程圏」

 

 

 

 その瞬間、我愛羅を覆う砂の球体に空いた穴の前に小型の起爆粘土製の鳥が飛翔し現れる。

 

 ――ボンっ

 

 デイダラ最後の攻撃用の起爆粘土が爆発し、我愛羅の砂の球体を爆発が覆う。

 

 しかし、すぐさまその球体が完全に閉じた様子が伺え、外見からでも爆発が我愛羅に影響を及ぼしていないことを理解させる。

 

 その様子にデイダラは

 

「流石、特別製の砂はガードが速いなぁ……うんっ……だが」

 

 迷いなく印を構える。

 

(さっき腕を砕かれた時に、てめぇの砂の中に起爆粘土を紛れ込ませていたっ! ガードにその砂を使うのは思い通り……少量だが、その密閉空間なら威力も倍増だしな……うん!!)

 

「さあ、これで終わりだァ!!」

 

 

――喝

 

 

 デイダラの叫びに呼応するように、爆発が

 

 

 

 

 起きない。

 

 

 

 

「……何!?」

 

 一瞬動揺を見せたデイダラ。

 

(……印を結んだのに、何で爆発が起きやがらねぇ……いったい――)

 

 ふと、デイダラが我愛羅の砂の球体に目を向けると、僅かに雷が表面を走っているのに気がつく。

 

「ありゃなんd――」

 

 

 

 

 

 

 

 その刹那、デイダラの胸からクナイが飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 瞬間血を吐いたデイダラは、自身の胸を背後から貫かれたことを直感し、力を振り絞り背後に向けて腕を振るう。

 

 その腕は軽く受け止められ、デイダラの背を貫いた張本人が笑顔を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……てめぇ……天音ぇ……っ!!!!」

 

「あ~あ、準備不足で焦ることになるから私程度の接近に近づけないんですよ先輩♪」

 

 天音はそのまま、止めを刺すように手持つクナイを抉る様に深く突き上げる。

 

 デイダラが苦痛に顔を歪ませ、力なく呟く。

 

「なん……の……つもり……だてめぇ……っ!」

 

「フフっ……言ったでしょ? 私は『世界を平和にするために暁に入った』って……心苦しいけど貴方は生かしては置けない」

 

 その笑顔からは想像もできないほど冷たい調子で言い放った言葉と共に天音はデイダラを粘土製の鷹から蹴り落とす。

 

 落下していくデイダラは、落とされる寸前に鷹から千切った僅かな起爆粘土を口に含む。

 

(……せめて最後に……盛大な爆発を……)

 

 自爆を決意し、起爆粘土を取り込んだデイダラの体表に黒い線が走りはじめる。

 

 しかし瞬間、デイダラの体を雷が貫き黒い線の走行を止める。

 

 粘土製の鷹の上、それをチャクラ糸で操る天音がデイダラに向け指を銃の形にして向けていた。

 

「雷遁・雷銃(ライガン)……貴方がそういう人 (自爆する人)だって知ってるから……悪いけどそうはさせない」

 

 天音の指先から、再度雷が発しデイダラの体を貫いた。

 

 二度の雷遁がデイダラの土遁に分類される術の効力を失わさせ自爆を止め、デイダラはそのまま地面へと叩きつけられた。

 

 その様子を眼に焼き付ける様に見続けていた天音は、用済みとばかりに自身が乗る粘土製の鷹のコントロールを放棄する。

 

 術者が死に、制御のされない鷹は力なく地面へと落下し主の亡骸の傍らに落ちた。

 

 その後独り宙に浮く天音は視線を変える。

 

「……同じ暁の仲間ではなかったのか?」

 

 その視線の先には、デイダラの十八番を防いだ大量の砂を里外に移動させ、自分を守る砂の球体から一部のぞき穴を開けた状態で天音を見る我愛羅が居た。

 

「……最初は仲間のつもりはなかったけど、ちょっと話しちゃったら情が湧いちゃって今は少し悲しいかもね……」

 

「何がしたい、貴様……こちらの味方なのか……?」

 

 我愛羅はデイダラとの戦闘で莫大なチャクラを消費、肩で息をしている。 少しでもチャクラを練る時間が欲しいのか、時間稼ぎに会話を試みると天音もその対応を見透かすように語り始める。

 

「う~ん……ショックだなぁ……()()()()()()()って言ったのに私のこと覚えていないなんて、アレかな。 風影にもなると忙しくて人の顔なんて覚えていないのかな?」

 

 天音はそう言いながらフードを取って自分の顔を見せる。その顔の表情は不満そうにも見える。

 

「……いや、その顔には見覚えがないな」

 

 我愛羅は真面目にそう答える。

 

「ん? ……前に顔見せなかったっけ? 仕方ない……じゃあ、名乗るからちゃんと聞いててね♪」

 

 そう言って天音は仰々しく手を広げて名乗る。

 

「私の名前は天音小鳥。 聞かれなくても今回は目的を教えてあげよう! ……貴方を捕まえること、それが今の私の目的だ」

 

 天音は印を構え、指を銃の形に我愛羅に向ける。

 

「天音……小鳥、あの時のくノ一か……貴様さえいなければ……」

 

 我愛羅は、疲労による汗を拭い特別性の砂を足場を残して、霧散させる。

 

「何? 私さえいなければって何かあったの?」

 

「うずまきナルトが、友を二人も失うことはなかったっ!!」

 

 我愛羅が腕を振るうと天音に向け、砂が高速でうねり接近する。 天音はその場から急上昇、直ぐに止まり旋回をして砂の追尾から逃げ続ける。

 

「心外ね!! 私がいなくてもうちはサスケは里を抜けてたし……って二人って言われても、もう一人は誰のことか心当たりがないんだけどねぇ!!」

 

 天音は砂から逃げながら、指先から勢いよく水の球を打ち出す。

 

 我愛羅は最低限の砂の盾を展開してそれを防ぐ。

 

「……いや貴様が邪魔をしなければ、俺とリーとでナルトを援護しサスケを連れ戻せた……それに貴様は俺たちを気絶させ、その後黙雷悟を襲った……そうだろう?!」

 

「あはは……何、そっちの解釈だとそういうことになってるのね……」

 

 天音は興味ぶかそうにしながら、我愛羅に聞こえないように一人呟く。

 

 我愛羅の攻撃は、苛烈さを増し天音も軽重岩の術の効果を高めスピード増して飛ぶ。

 

「さっきまで冷静そうだったのに、友達の事になると熱くなるの嫌いじゃないよ!!」

 

 天音は再び印を結び、両手を銃の形にして構える。

 

「バンッバンッ♪」

 

 軽快な声からはかけ離れた威力とスピードの水の球の雨に我愛羅は防御に徹する。

 

「……っ貴様は何がしたいっ?! 守鶴が欲しければ二年前のアノ時に俺を攫えばよかっただろうっ!」

 

「そん時は暁に入ってなかったからね♪」

 

「なら今俺を捕まえるのに、なぜ仲間をわざわざ殺したっ……」

 

「私の……()()()()ために、デイダラ先輩が生きてると都合が悪いんでね……謀殺させてもらったのよ」

 

「その真の目的とはなんだ?!」

 

「……」

 

 黙り込んだ天音の攻撃の手は止み、我愛羅は砂の盾の隙間から天音の様子を伺う。

 

 すると天音は仰々しい態度で語り始める。

 

「私は……()()()()()()()()()()()()()()()、けれどわかっていることはごく一部……それでも私はこの世界の滅亡を防ぐために動く。 ……今この世界は……暗い夜の中、混沌として不安定……だからこそ……だからこそ私がこの手でこの世界の夜明けを……より良い〈暁〉を迎えさせるっ!!」

 

「……っ迎えさせるとは御大層だな」

 

 我愛羅の皮肉に天音は笑顔を見せる。

 

「……別にそれが私の全てだとは言ってないしね、それと――」

 

 天音は上空を指さし、呟く。

 

「貴方の負け」

 

 我愛羅がその呟きに反応して上を見ると、寸前に迫る天音の拳が視界を埋める。

 

「っ!!!!」

 

 我愛羅が咄嗟に出来る限りの砂で天音の腕を捕えて止めようとするが

 

「――土遁・加重岩の術」

 

 術の効果により、その拳は一瞬で途轍もなく威力を増し、砂の制止を振り切り我愛羅の顔面を穿つ。

 

 重く鈍い音を響かせ、我愛羅ごと天音は地面へと衝突する。

 

 その様子を先ほどまで仰々しく弁舌に語っていた方の天音が見て呟く。

 

「時間稼ぎをしたかったのはこちらも同じ……影分身の特攻を成功させるためにね……()()()不意打ちが決まって良かった、良かった」

 

 天音は地面へと叩きつけられた我愛羅の元へと降り立つ。

 

 土煙が舞う中、我愛羅の様子を確認する。

 

(よし、死んではないか……砂の鎧のおかげで多少威力強めでも死にはしないだろうけど少し心配だった)

 

 我愛羅を肩に担ぎ、天音がそこから飛び立とうする……その瞬間。

 

「逃がすかぁ!!」

 

 傀儡が刃を向け砂煙の中の天音を切りつける。

 

 天音はその攻撃を腕でガードし受け止める。 当然の如く刃は腕に食い込み血が流れる。

 

「……ッ流石に痛い……」

 

 ボソッとそう呟いた天音はカラクリを蹴り飛ばしその場から急上昇する。

 

 天音の眼下には黒子のような衣装を身に纏った男が一人、天音を捕えようと傀儡を宙へと回せていた。

 

「残念、ここまでは届かない」

 

 傀儡の刃はすんでのところで届かず、天音はその攻撃範囲から逃れる。

 

 天音はその傀儡使い・カンクロウが悲痛な顔をしながら自分と我愛羅を見ている様子を尻目にそのまま宙を翔けサソリの元へと向かった。

 

「我愛羅を……弟を返しやがれっ!!」

 

 カンクロウは叫び、天音を追従した。

 

 

~~~~~~

 

 

 砂隠の里から少し離れた位置でアジトへと向かって移動していたサソリに我愛羅を担いだ天音は追いつき空中から傍へと降り立つ。

 

「サソリ先輩、何で先に移動してるんですか?!」

 

 肩で息をして必死感をアピールしながら話しかけてきた天音にサソリは問いかける。

 

「てめぇが俺はトロイというから先んじて移動してただけだ……それよりもデイダラはどうした?」

 

 その問いかけに天音は

 

「それが……鷹の高度を落とした際に、敵に投げつけられたクナイが命中したみたいで……そのまま地面に落下した後は地上の忍び達に囲まれて詳細はわかりませんでした……私もデイダラ先輩と交戦して弱ってたこの風影を連れてくるのが精一杯で……」

 

 悲痛そうな表情を見せ俯く。

 

「チィっ……そうか」

 

 サソリはその報告を聞き、そのまま歩みを進める。

 

 ただその返事はわずかだが普段よりも幾分か低い声で返された。

 

 そのサソリの傍を腕の怪我を見せつける様にしながら項垂れる天音が歩く。

 

 すると

 

「待てっ!!」

 

 聞こえた制止の声にサソリと天音が振り向く。

 

「我愛羅は返してもらうぜ……っ!」

 

 天音を追ってついてきたカンクロウの言葉を受け、サソリが一歩カンクロウへと近づく。

 

「……小娘、お前は先に行け」

 

「分かりました、先に行きますねサソリ先輩」

 

 天音が飛び立とうとした瞬間。 先ほどと同じくカンクロウの叫びと共に傀儡が天音に迫る。

 

「行かせるかっ!」

 

 しかし

 

「傀儡の術か……面白い、俺は人を待つのも待たせるのも好きじゃねーからな……すぐに終わらせる」

 

 サソリは呟きながら尻尾のような傀儡でカンクロウの人型の傀儡・カラスを巻き取り、天音をその刃から守る。

 

 傀儡使い同士の接敵の様子を確認し天音は空へと飛び立っていった。

 

「……あのくノ一を先に行かせたのは間違いじゃん……じきに奴は――」

 

「毒で動けなくなる……か? それならそれで都合がいい……」

 

 サソリの指摘にカンクロウが訝しむ。

 

「てめぇ……何で傀儡に仕込んだ毒の事を知っている……っ?!」

 

「何故だと思う? ……まあわざわざ口で言う必要はない……なぜなら直ぐにその身で思い知ることになるからな」

 

 サソリが傀儡・カラスを尾でバラバラに絞め砕くと同時にカンクロウは手持ちの残りの傀儡・クロアリ、サンショウウオを巻物から呼び出した。

 

 そしてその瞬間傀儡使い同士の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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4:珍獣の群れ来たり

週一更新のペースを維持したい……


 

 天音はサソリとカンクロウとの戦闘を尻目に先に木ノ葉と砂の間にある川の国へと向かう。

 

 その道中木陰に降り立った天音は我愛羅の体を縄で縛り上げ胸の位置に手を置く。

 

「…………よし…………っ」

 

 何かを仕込んだ様子の天音は、ふらふらと急に額に汗を浮かべ木へともたれ掛かる。

 

「クッ……仕込みはすんだ、何か思ってたより少しばかりキツイけど……後はサソリ先輩が来るまで、十分に休めるでしょ……」

 

 そう言って天音は目を閉じ、小さな寝息をかきはじめた。

 

 

~~~~~~

 

 

 サソリはカンクロウを退け、一人川の国へと進む。

 

「既に一日は移動したが……あの小娘、どこまで進んでやがる……」

 

 独り愚痴を言うサソリは進む森の中で、人影を見つける。

 

 そこには地面に倒れ伏している天音と、縛り上げられ気を失ったままの我愛羅が居た。

 

「あのカンクロウとかいう傀儡使いの毒が効いたか……? くたばっちまったなら仕方ない、俺の人傀儡のコレクションにしてやるか……」

 

 サソリが傀儡の尻尾で天音に触れようとした瞬間、尻尾が強い力で捕まれる。

 

「っ……!」

 

 気づけば天音がその尻尾の先をしっかりと掴み、目を開けているのが分かる。

 

「……寝込みを襲うなんて、サソリ先輩さいて~~~っ」

 

 ジト目になりながら起き上がる天音にサソリは

 

「てっきり傀儡の毒で死んだかと思ったが……小僧の毒も俺のほどではないが十分強力だったはず」

 

 少し驚きながら声をかける。

 

「毒……? ………………解毒しましたよ、ええ」

 

「オイ、何だその間は……っ?」

 

「そんなことより、早く移動しましょうよ……私一人ならとっくにアジトについてるのに、先輩を待っててつい寝ちゃいましたし……」

 

 話を逸らす天音にサソリは軽く睨みつけるが

 

「……まあいい……そんなに急ぎたいなら俺にも軽重岩の術を掛ければいいだろう」

 

 そう提案を出す。

 

 すると天音は目を逸らし自身の胸の前で人差し指同士で突き合い

 

「定員は私含めて二人までです……っ」

 

 申し訳なさそうにそうか弱く呟く。

 

「……つくづく面倒な小娘だな……」

 

「すみません……見習いの私じゃアジトの入り口をまだ一人で開けられないのでサソリ先輩と同行しないといけないですし、かと言って風影の身柄を置いていくわけには……」

 

「……俺と風影を軽くしろ、それでお前は歩いてこい」

 

「酷いっ!? 嫌ですよ!! それに軽重岩の術は随時かけ直さないと使ったチャクラが切れて落ちちゃいます。 術者の私無しで長距離の移動は……それに飛べない私が追手に追いつかれたらと思うと」

 

「……っはぁ……なら行くぞ」

 

 駄々をこねる天音に呆れサソリは尻尾で我愛羅を巻き取り、歩き始める。

 

「はぁい♪ 行きましょう!」

 

 テンションを元に戻した天音は、そのサソリの後をついて歩き始めた。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉から砂の国に向けての道中。 その道すがら、木々の上を飛ぶ影が四つ。

 

「ぜってぇ……許さねぇ」

 

 金髪の少年は、歯ぎしりをして木の枝を踏み抜きながら跳ぶ。

 

「ナルト……」

 

 ピンク色の髪をした少女・春野サクラは、そんな怒りを滲ませている少年・うすまきナルトの心配をする。

 

 同じ人柱力として、自分たちをただの兵器としてしか見ていない存在にナルトは怒りを募らせていた。

 

 白髪の忍者・はたけカカシはそんなナルトの様子を見て

 

(境遇の似た我愛羅君に対するナルトの思いは、並々ならぬものだろう……少なくとも俺たちが計り知れるものではない)

 

 カカシは一日前の里での演習を思い出す。

 

 ナルトもサクラもカカシの想像を超える程、たくましく成長していた。

 

 ナルトは自来也に、サクラは綱手に修行をつけられその力は並の上忍を凌ぐほどと言っても過言ではないぐらいであった。

 

 しかし、ナルトに関してカカシは心配を胸中に抱える。

 

(演習でも感じた違和感……ナルトは、以前よりも感情の制御が危うくなっている)

 

 里を出る際の自来也との会話をカカシは思い出す。

 

(『ナルトは力への執着心が増している』っか……サスケと悟……二人がいなくなったのは自分のせいだと思い込み、修行に旅立つ前も少し荒れていたのは覚えてはいるが……)

 

 危ういナルトを良く見ているようにと自来也が自分に託したことを思い、カカシも決意を固める。

 

 そんな木ノ葉の三人と共に、砂の忍び・テマリは弟たちの心配に心中は穏やかではなかった。

 

(我愛羅……無事でいてくれ……っカンクロウも……我愛羅のために無茶をしていないといいけど……)

 

 不安をそれぞれ抱え、四人は砂へと急ぐのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 風影・我愛羅誘拐から約三日の時間が過ぎ、サソリと天音はアジト前の鳥居の下に立っていた。

 

「やっとついた……」

 

 愚痴を漏らす天音にサソリは一瞥もくれずに札の張られた大岩に触れる。

 

 すると大岩が上方にずれ込み、洞窟への入り口が出来た。

 

「行くぞ」

 

 サソリの言葉を受け天音はサソリについていき洞窟の中へと入る。

 

 中に入れば直ぐに大岩が閉じ、洞窟は明かりもない状態になる。 それでもサソリも天音もお構いなく歩みを進められるのは、それだけ熟達した忍びだからであろう。

 

 ふと二人の前に幻影またはホログラムと呼称できる人影が現れる。

 

『遅かったな……デイダラはどうした?』

 

 その人影はデイダラの姿が見えないことに気がつき問う。

 

「調子に乗ってヘマをやらかした……生死不明だが、恐らく死んでるだろう」

 

 サソリの報告にその人影は目を伏し

 

『そうか……惜しい男を亡くした』

 

 僅かに祈るかのように顔も伏せた。しかし直ぐに目を開ける。

 

 そのままその人影が手を着くと洞窟内に煙が充満し、巨大な人型のような石像が現れる。

 

「……うへぇ……気味悪い」

 

 天音の感想に反応する者はなく、その人影が印を結ぶ。

 

『集合しろ』

 

 その一言で、石像の上に向けられた指先に次々と幻影が現れる。

 

 そしてのままサソリも所定の指の位置に着き、その様子を天音は眺めていた。

 

『これから三日三晩はかかる。 皆本体の方にも気を配っておけ……それとゼツ、本体で一応外の見張りをしろ、天音も共に行け』

 

『ワカッテル』

 

 そのやり取りの後、洞窟の地面から顔が白と黒色、丁度真ん中半分に分かれている()()と呼ばれる忍びが同化しながら姿を見せる。

 

「ほら新入りちゃんいくよ」「オ前モアジトノ出入り口ヲ開ケラレルヨウニシテヤル」

 

 調子の違う声色が天音に語りかける。

 

「イエッサーっ! ゼツ先輩よろしくです♪」

 

 そんなやり取りの裏で「封印術・幻龍九封尽」が発動し石像の口元からあふれ出たチャクラの触手が我愛羅の体を包み込み、その内に秘めた守鶴を取り込み始める。

 

「大蛇丸も抜けて、デイダラも死んじゃったから少し時間がかかるかも……僕たちでその間の警戒をするよ」

 

「気ヲ抜クナヨ、新入リ」

 

 天音がゼツの誘導でアジトの大岩に触れるとそれが開く。

 

「おお、開いた♪」

 

 そのことに喜んでいる様子の天音を見て、ゼツは鼻で笑い二人してアジトの外に出る。

 

 背後で大岩が閉じると、天音は振り返り再度大岩に触れようとする。

 

「こらこら、何しようとしてるの?」「ツマランコトハスルナヨ小娘」

 

「いや……ちょっと自動ドアに感激しちゃって……ちゃんと仕事するんでそう睨まないでくださいよゼツ先輩」

 

 ゼツに叱られ、頭をポリポリとかいた天音は誤魔化すように舌を出す。

 

「しっかりしてよ? それじゃあ僕たちとは別の方角の警戒を頼んだよ」「オママゴトジャナイカラナ、暁二入レテヤッタ分シッカリト動ケ」

 

「了解です!! それじゃあ……散!」

 

 解散の合図を言い放ち天音は空へと飛び立ってアジトから離れる。

 

「……何気二今、奴ガ仕切ラナカッタカ?」「彼女は色々と読めないからね~気にしたら負けだよ」

 

 残されたゼツは少し歩きアジト前の水面から土の上へと移動する。そしてそのまま地面へと同化してその場から姿を消した。

 

 

~~~~~~

 

 

 それからさらに二日ほど時間が過ぎ…… 

 

 広範囲で感知を行うゼツはアジトに向けて進行する小隊の存在を見つける。

 

「見ツケタ」「リーダーに報告しよう……」

 

 ゼツが目を瞑ると、意識が岩穴のアジトの幻影へと移る。

 

『アジトに向けて敵が来てるみたいだよ~相当の手練れみたいだねぇ』

 

 ゼツの報告に暁のリーダーが興味を示す。

 

『……誰だそいつは?』

 

『名前はマイト・ガイっていうみたい。 暑苦しそうで近づきたくないね』

 

 ゼツのもたらした名前に、幻影の一つうちはイタチが口を開く。

 

『木ノ葉の上忍で剛拳の体術使いだ、甘く見ると……痛い目をみるぞ』

 

 鬼鮫もまた、ため息をつき

 

『ああ……あの珍獣ですか……それは厄介ですねェ』

 

 少し嫌悪感を示しながら呟く。

 

 二人からの評価の高さに思案したリーダーは提案をする。

 

『……あの術……象転の術を行う』

 

 その言葉を聞き、鬼鮫が名乗り出る。

 

『では、私が行きましょうか……その人には個人的にちょっと因縁がありましてねぇ……』

 

『いいだろう……ただし、チャクラを幾分か分けてもらう。 ゼツ、術の準備を……それと天音も共に向かわせろ』

 

 リーダーの指示にゼツは了解をし、本体が動き始める。

 

『……あのうるさい小娘ですか……まあ邪魔にならなければどうでもいいです……これでやっと』

 

 幻影の鬼鮫が目を閉じ

 

「あの時の蹴りの借りが返せそうですね」

 

 本体の鬼鮫が目を開け、少し高揚した声を発した。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の小隊の一つ、ガイ班が岩場の間を駆けている。

 

 砂からの要請で先に砂に向かったカカシ班よりも、木ノ葉と砂の合間にいたガイ班はより暁のアジトに近づいていた。

 

 彼らを先導するカカシの口寄せ動物忍犬・パックンはふと感ずく。

 

「っ!! ガイ誰か来るぞ」

 

 パックンの忠告を聞き、ガイ班所属の日向ネジが白眼を発動し敵の正確な位置を感知する。

 

「後ろだ!」

 

 ネジの忠告を聞き、ガイ班は後ろから迫りくるサメの背びれのように地面から突出した大刀鮫肌の突撃を避ける。

 

 鮫肌が岩場に衝突し、粉々に砕け散るとその土煙の中から大男が姿を現す。

 

 その姿にマイト・ガイが驚きを露わにする。

 

「お前は……っ!!」

 

「知っているんですか、ガイ先生!!」

 

 ガイの反応に弟子のロック・リーが確認を取ると

 

「いや、知らん!! 誰だ貴様ァ?!」

 

 ガイはそれを強く否定した。

 

「いや、その流れは知ってるって反応でしょォっ!!」

 

 班員のテンテンの突っ込みに、ネジも無言で額を手で押さえ頭を振る。

 

 会話の流れに、イラつきを見せた鬼鮫が鮫肌を地面に突き刺す。

 

「珍獣は、頭の方も獣レベルのようですねぇ……いいでしょう、獣らしく本能で思い出させてあげましょう!!」

 

 鬼鮫の言葉を合図に戦闘が始まろうとした瞬間

 

「……もう一人来るぞ!」

 

 パックンのその声と主に、鬼鮫のそばに人影が宙から降り立つ。

 

「寝てたら、ゼツ先輩にドヤされちゃったよ……ふぁ~あ……眠い……」

 

 姿を現した天音に鬼鮫がため息をつく。

 

「先輩が寝ずの封印術を行使している中で居眠りとはいい度胸ですねぇ?」

 

「……ちっ違いますって鬼鮫先輩……警戒を怠らないためにですねぇ……えへへ」

 

「結局敵を見つけたのもゼツじゃないですか、全く。 ……言い訳している暇が在ったら、あの緑のタイツ以外の三人のお相手をお願いしますよ」

 

 そういうと鬼鮫が鮫肌を地面を抉る様に引きずりながらガイ目掛けて駆けだす。

 

「私の方が人数多いし、それに緑色の奴二人いるんですけどって屁理屈は聞いてくれませんよねっ!!」

 

 同時に天音は飛び立ち、ガイと他の班員との間に降り立つ。

 

 ちょうど背後に降り立った天音に裏拳を放とうとするガイだが

 

「相手は私ですよォ!!」

 

 鬼鮫の振るう鮫肌がガイを大きく弾き飛ばし、二人はその場から離れていく。

 

 ネジ、テンテン、リーの前に降り立った天音は彼らに目線を向ける。

 

「それじゃあ、アナタたちの相手は私天音小鳥が務めさせて頂きま~す♪」

 

 わざとらしいお辞儀をする天音に、クナイを巻物から取り出したテンテンが眉をひそめる。

 

「天音小鳥……? アンタが悟を……っ!」

 

 一人駆けだそうとするテンテンの肩をリーが掴み止める。

 

「気持ちは分かります……ですが彼女があの天音小鳥であるなら、かなりの手練れのはずです。 かつてはサスケ君の奪還を邪魔し、そして今あまつさえ我愛羅君までを攫うなんて……木ノ葉の忍びとして絶対にゆるせません……だからこそチームで戦いましょう!」

 

 リーの睨みつけるような瞳に、天音はおどけるような仕草で後退する。

 

「リーに諭されるなんてね……わかったわ」

 

 深呼吸をするテンテン。

 

 その傍ら天音を白眼で観察するネジは呟く。

 

「このくノ一……先ほどの莫大なチャクラを持つ大男と違い、白眼での透視が出来ない」

 

「それってどういう……」

 

 テンテンの問いにネジは柔拳を構え答える。

 

「恐らくアノ外套にそうとう高度な結界忍術の印を仕込んでいるのだろう……白眼のピンポイントの対策の為か偶々か……とにかくやっかいな相手だ、慎重に行くぞ」

 

 ネジは合図を出すとともに、八卦空掌を天音に向け放つ。

 

「そんな牽制にあたる訳――」

 

 それを軽く避ける天音にテンテンとリーが左右から接撃する。

 

「木ノ葉旋風っ!」

 

 リーの大振りの上段蹴りをしゃがんで躱した天音にテンテン巻物から取り出した大槌を掛け声とともに振りぬく。

 

「どりゃあぁ!!」

 

 その槌と同時にリーの下段蹴りが天音にヒットし、その体を軽々と吹き飛ばし突出した岩場に叩きつける。

 

「やったか……?」

 

 その様子を見ていたネジの呟きに呼応するように、舞った土埃を手の一振りで吹き飛ばしながら天音が姿を見せる。

 

「……思ってたよりも、動きも早いし威力もデカい……やるねぇ……」

 

 ブツブツと呟く様子の天音に、三人はそれぞれの構えを取る。

 

「今のでのダメージは期待出来なさそうな様子ね……」

 

「油断しては駄目です。 彼女には幻術もあります!」

 

「それなら俺の白眼で瞬時に対処できる。 ……行け二人とも」

 

 ネジの号令に合わせ、テンテンとリーが再度駆けだす。

 

 天音はそれを確認すると、袖から金属の短い棒を取り出す。

 

「棍棒……でもリーチなら負けてないっ!」

 

 大槌を振りかぶり天音に叩きつけるテンテン。 しかし天音はその手にもつ棒を使い、大槌を逸らす。

 

 天音のすぐ隣の地面を叩きつけてしまい隙を晒したテンテンに天音が片手で掴みかかるが

 

「そうはさせませんっ!!」

 

 その行動を防ぐ様に横からリーが天音の顔面目掛け拳を放つ。 しかし

 

「そうくるってわかってるよ!!」

 

 天音はその叫びと共に、手に持つ棒の先端をリーに向け……()()させる。

 

「グっ……!?」

 

 突然の明るい光による目つぶしに怯んだリーに向けて天音が体を振り向かせる。

 

 そして突き出された拳の腕を巻き取る様に引き寄せ、膝蹴りで鳩尾を捕え怯んだリーの体を投げ捨てる。

 

 その後すぐにテンテンがクナイで切りかかるも天音は手に持つその棒で斬撃を受け止める。

 

「……何それ……()()()()っ? ……舐めてるわね」

 

 クナイを押し付けるようにギリギリと詰め寄るテンテンのその言葉に

 

「物は使いよう……ってね♪ それに懐中電灯は海外では警棒の代わりに成ったりもするし……それに私のは特別製、チャクラで――」

 

 返事をする天音。 しかしその返事の最中に、天音の顔面にテンテンの後方から打ち出されたネジの空掌が当たり大きく仰け反らせる。

 

 だが空掌は天音が腕でガードし防ぎきっていた。

 

「痛ぁい……♪」

 

 にやけながらそう呟く天音に、ネジは顔で嫌悪感を示す。

 

 その隙にテンテンは投げ飛ばされたリーの元へと向かう。

 

 ネジと相対し天音が駆けだす。

 

「ほらほらァ、貴方はそんな後方支援が好きなタイプじゃないでしょォ!?」

 

 その言葉と共にネジに接近戦を仕掛ける天音。

 

 懐中電灯を振るい、直接ネジの手に触れないように立ち回り、隙あらば目に向かって光を照らす天音の様子に

 

(このくノ一……間違いなく日向の柔拳と白眼の対策を練っている……っ!)

 

 そう勘付き、八卦掌・回天で天音を弾き飛ばし距離を取らせる。

 

 態勢を立て直したガイ班の三人は小声で対策を練る。

 

「……温存して勝てる相手ではなさそうだな」

 

 ネジの言葉に残りの二人も頷く。

 

「ガイ先生の方も戦いがどうなっているかわかりませんっ……足止めが相手の思惑なら、突き破るまでです」

 

「今回ばかりは私もリーに賛成。 あの小娘の顔面に拳叩きつけてやるわっ!」

 

 息巻く二人の様子にネジが目を閉じ、少しの沈黙の後目を見開く。

 

「……行くぞ、作戦名〈後先考えない馬鹿〉だ」

 

 ネジの真面目に発したその言葉に

 

「……何それ、に合わないね。 本当にそんな――」

 

 呆れた感じで天音が鼻で笑った瞬間

 

 その体が吹き飛び、岩肌を跳ねる。

 

 咄嗟に腕をクロスしてガードしていた天音が吹き飛びながらも態勢を整え着地する。

 

「……痛てて……まさか、リーの八門!?」

 

 こんなところでと言わんばかりの天音の言葉が言い終わった瞬間、目の前を緑色のオーラがチラつく。

  

「木ノ葉・大・旋・風!!」

 

 下段蹴りで足元をすくわれた天音の身体が宙に浮き、無防備な天音に痛烈な上段蹴りが迫る。

 

「っ軽重岩の術!」

 

 咄嗟に印を結び自分にかかる重力の影響を軽くした天音はそのまま浮上し、リーの上段蹴りの範囲から風圧で吹き飛ばされた。

 

(あの様子は第三・生門か……やっかいっいいいいいいいいィ!?)

 

 浮上した天音がリーの様子を観察していると、その身体を鎖が絞めそのまま大きく振りまわされる。

 

 その回転の中心で鎖を振り回すテンテンは常人離れした速度で腕を振るっていた。

 

(まさか……テンテンも八門を……っ!?!?)

 

 竜巻を発生させるほどのスピードで振り回された天音。 テンテンは腕に力を籠めそれ地面へと叩きつける。

 

「よいっっっっしょおおおォ!!」

 

 テンテンの掛け声とともに、地面に大きなクレーターが出来るが鎖の先には粉々に砕けた木片が散っていた。

 

「ネジっ!!」

 

 変わり身を察知したテンテンの掛け声とともにネジが走り出している。

 

 そこには地面に着地した天音がおり

 

「っオエ……無茶するねぇって!?」

 

 そこへと駆けるネジのスピードは天音の予想を超えていた。

 

「柔拳っ!!」

 

 と言いつつ、柔拳に似つかわしくない明らかに人を殺せるような速度の突きを繰り出すネジに天音は苦しそうにそれを捌く。

 

「……まさかアンタも八門使ってんの!? ……さっきの作戦名に納得いったわ、この珍獣どもめ!!」

 

「フッ……どうやら八門に詳しいようだな……だが既に貴様は俺たちの籠の中、終わりだ」

 

 そういうとネジは突然後ろに飛び退きながら空掌を放つ。 急な動きの変化を合わせたその空掌は天音の足元に着弾し、足場を崩し態勢を崩させる。

 

 直後天音がハッとして背後を向けば

 

「一人表蓮華!!」

 

 緑の旋回する弾が天音へと高速で向かっていた。 その凄まじい回転量の体当たりを放つのはリーであり

 

「さらにおまけもどうぞー!!」

 

 そのリーにテンテンが呼び出したロープ着きの忍具を絡ませ、より体当たりの威力が増す。

 

 態勢を崩した天音はそれを避けることは叶わない。

 

「土遁・拳岩の術っ!!」

 

 咄嗟に左手を岩に変え、巨大な岩の掌でその体当たりを受け止める天音。しかし

 

 そのリーの表面にある忍具が容易く岩を削り、容易にその岩の掌を貫通。

 

「っ!!!!」

 

 体当たりが着弾し、天音は大きく吹き飛ばされた。

 

 体当たりの着弾先には先ほどテンテンの作ったクレーターよりもさらに巨大なクレーター出来る。

 

 吹き飛ばされた天音は受け身も取れずに地面を跳ね、うつ伏せに地面を滑り止まった。

 

「……っ今度こそやったな」

 

 ネジは深く息を吐きながらそう呟く。

 

「ええ、やりましたねネジ!!」

 

 元気よくネジに返事するリーの様子にテンテンは八門を閉じながら

 

「……ああ~第二休門までとはいえ、私とネジにはキッツイわぁ……良く生門開いてそんなに元気そうね、リー……」

 

 だるそうに肩を回して答える。 八門の反動で筋肉痛のような痛みが彼女と、ネジを襲っているのか顔は少し引きつっている様子だ。

 

「僕は二人よりも鍛えてますからねっ!! ではガイ先生の援護に……」

 

 そがリー言って駆けだそうとした瞬間

 

 ネジが吹き飛ぶ。

 

「……え?」

 

 テンテンが驚きの声を上げた瞬間、その眼前に人影が通り過ぎテンテンもネジと同じく吹き飛ばされる。

 

 その展開を見て瞬時に第三生門を開いたリーが構える。 瞬間目の前に拳が現れてそれを受け止める。

 

「っ……あの攻撃を受けて、こんなに動けるなんて……」

 

 拳を押し付けてくるその相手、天音にリーは語りかける。

 

「いや、十分痛かった……具体的に言えば左腕が折れちゃったしねぇ……まあ、今からはちょっとだけ本気で相手してあげるよ」

 

 少し態勢を引いた天音が上段回し蹴りを繰り出す。

 

 それをしゃがんで避けたリーだが……

 

「木ノ葉旋風!!」

 

 天音の下段蹴りがリーに迫る。

 

「っ!」

 

 咄嗟に腕でガードするリーだが、その体術の威力は先ほどまでとは数段の違いを見せ軽々とリーを弾き飛ばす。

 

 その様子を起き上がりながら見ていたネジは

 

「なるほどな……白眼を透さない結界忍術はチャクラの変動で自身の術の発動を悟らせないために……そして恐らくあの金属製の腕輪と足輪、そして片目の眼鏡はチャクラによる身体強化による()()を体表に出さないための忍具……忍術・体術の兆しやタイミングを相手に悟らせないためのモノか」

 

 冷静に今までの天音の戦闘から今の動きを踏まえ分析、考察する。

 

 その言葉を受け天音は拍手をしようとするも、明後日の方に曲がっている左腕では出来ないことに気がつき大人しくしゃべり始める。

 

「大正解!! そう、だから私は体術も得意だし動体視力も相応に強化できる。 例えば雷遁を纏っても雷は表に出ないようにしてあるのよ……緩急をつけるためにね♪」

 

 瞬間、ネジの目の前まで高速移動してきた天音が手刀を繰り出す。

 

「っ甘いな、俺には白眼がある! そう不意打ちなんて……っ!」

 

 その動きに対してネジが腕でのガードを試みる。 すると天音は手刀の動きの最中に外套の袖から先ほどの懐中電灯を滑らせて出し、ネジのガードの上から思いっきり叩きつける。

 

 想像を超えた衝撃にネジが怯むと、天音は直線の蹴りを放ちネジを吹き飛ばす。

 

「……さて……じゃあここまで頑張ったご褒美に、面白いものを見せてあげる……♪」

 

 リーとネジを吹き飛ばした天音は折れた左腕をゴソゴソと袖の中に隠し、逆に右手に持った懐中電灯を上に掲げる。

 

 その様子を怪しみつつも、気配を消し、背後を取っていたテンテンが長い棒を構え突きを繰り出す。

 

「……よしっ!」

 

 第二休門を解放したテンテンは一足飛びで天音との距離を詰め、その背骨を突き折りにかかる。

 

 豪速の突きが天音の背に届く瞬間、その棒の先端が()()()()()()

 

 その意味をテンテンが理解する前に、光の束のようなモノがテンテンの頭上から振り下ろされる。

 

 ――ブォオンッ

 

 と正に何の捻りもないそんな気味の悪い音聞こえたかと思えば、テンテンが居たはずの地面が裂けていた。

 

「……外したか」

 

 天音のその呟きにテンテンを抱え、転がる様に回避行動をしていたリーが疑問を口にする。

 

「……何ですかそれは!?」

 

 天音の右手に握られた懐中電灯の光が出る頭の部分からは、緑色のチャクラで出来た刀身が伸びていた。

 

 その切っ先を天音はリーへと向ける。

 

「どう、カッコいいでしょ? かつて二代目火影が使っていたとされる雷神の剣とやらを参考に作った、名付けて尾異夢・叉辺流(びーむさーべる)。 私のお気に入りだ♪」

 

 天音がリーへと一歩踏み込むと、そのチャクラで出来た光の剣を孫の手のように後ろに回す。 すると

 

 バチンッと弾けるような音が響く。

 

「っ……背後からの八卦空掌を見ずに弾いた……!?」

 

 天音の背後から空掌を放っていたネジが驚きの声を挙げるも、牽制の意味を込めて数発さらに打ち込む。

 

「無駄無駄♪」

 

 天音は右手に持つ光の剣を、その辿る軌跡が優美に映る様振り回し空掌を難なく弾く。

 

 その様子を観察していたネジは、額に汗を浮かべある事実に気がつく。

 

「……目を閉じた状態で……全てさばいただと……っ!?」

 

 そう、天音は両目を閉じた状態で立ち回っていたのだ。 視覚の無い者が似たような動きをする例を知っているネジだが、しかし

 

「死角と思われる位置からの奇襲を察知できるなら目を閉じる必要はないはず……集中しないと周囲を感知できないのか、或いはあの忍具の使用にはわざわざ目を閉じなければいけないのか?」

 

 と天音の動きに疑問を呈する。

 

 眼を閉じたままの、天音は

 

「いや別に尾異夢・叉辺流を使うのに、目を閉じる必要はないよ?」

 

 と素直に答える。

 

「単純に……そう、大体360°見ているだけだ」

 

 不敵にそう付け足した天音。 テンテンとリーがネジの元へと戻り、睨み合う両者。 ……片方は目を閉じているが。

 

「大体360°見ているって……まさか白眼?」

 

 テンテンのその発想に

 

「しかし、相手の眼はそのような兆候は見られません。 それに白眼は木ノ葉の血継限界、日向でもない彼女は嘘を言っている可能性も……」

 

 リーは信じられないと否定する。しかし

 

「……なるほど……つまりは貴様が……」

 

 そう小さく怒気を孕み呟くネジ。

 

 その様子の変化にテンテンが訝しむ。

 

「どうしたのネジ?」

 

「ヒアシ様からの報告……天音小鳥と言う名……()()()()()()()()()()、今は手に持っていないと思い考えないようにしていたが……」

 

 地面を踏み抜いたネジ、その白眼の周囲の血管の隆起が激しくうねる。

 

「なるほど今……貴様が()()()()()()? そして、理屈は分からないがそれを使()()()()()……そうだな?!」

 

 ネジの責め立てるような質問に天音は

 

「……いやぁ……感が良い……()()()()()だから、熱くなるのも仕方ないのかもね♪」

 

 目を閉じたまま、舌を出す。

 

 その瞬間ネジは大きく踏み込み、天音の懐へと移動する。

 

(速い、第二休門を開けたか……)

 

 天音は手に持つチャクラの剣で切りかかるが、ネジがそれを白刃取りで受け止める。

 

「うっそォ……風遁チャクラで作った刃を受け止めるなんて……」

 

 天音の驚き出たその呟きに

 

「外套の外までは結界忍術は及ばないみたいだな。貴様のその剣のチャクラの流れ、質は見えている。 その流れを受け流すチャクラを手に纏えば受け止めるのも容易い」

 

「でもここからアンタに攻撃の手段は……」

 

「俺に出来ないことがあるなら、仲間が代わりにするまでだ」

 

 ネジは言葉を発した瞬間、頭を下げる。そのネジの頭上を、テンテンが振るう薙刀が通過し天音の顔面に迫る。

 

「まあ、そうだろうねぇ。 成長しているようで何よりだよっ!」

 

 天音はチャクラの刀身を一度しまいこみ、後方に飛び退いて薙刀を避ける。

 

「ちょっとネジ!! 一人で突っ込まないでよっ!!」

 

「突っ込みはお前の役割だからか? フッ問題ない、()()()()()()俺の動きについてこられる……そうだろう?」

 

 テンテンの抗議の言葉に、ネジは冗談を言って返す。

 

「つまり、ネジのお父さんの目を彼女が持って使用しているという訳ですね!?!? 許せません、全力で取り返しましょう!!」

 

 二人に並び立ったリーは憤慨し、気合を込める。

 

「という訳だ、天音小鳥。 今から俺たちは全力で貴様を倒しにかかる」

 

 ネジのその言葉を聞き、天音は笑顔を浮かべる。

 

「……いいねぇ……それじゃあ……」

 

 小さく呟きそして

 

「来いっ!!!」

 

 叫ぶ。

 

 瞬間駆けだすガイ班。

 

「第五杜門……開!!」

 

 真っ先に駆けだしたリーが八門を解放し、高速で殴り抜ける。

 

「見えてるよ!!」

 

 しかし天音はその拳打を水遁のチャクラで出来た濃い青の刀身の尾異夢・叉辺流で受け流す。

 

 繰り返されるリーの殴り抜ける高速の動きを全てさばききる天音。

 

 天音の頭上に跳躍したリーが腕の包帯をチャクラでコントロールして天音に向けるが、天音は火遁の赤い刀身に変えた尾異夢・叉辺流でそれを焼き切る。

 

「裏蓮華の動きを適切に対処されるとは……!?」

 

 リーは驚きを露わにしながらも、天音から離れた位置から投石を始める。

 

「リーがそんな小賢しいことするなんてねぇ!」

 

 天音はその投石を性質変化のないチャクラの水色の刀身で叩き落とす。

 

 瞬間、休門を開いたテンテンとネジが背後から天音に迫る。

 

 テンテンはチャクラを流したクナイの斬撃を、ネジは掌にチャクラを纏わせ柔拳をそれぞれ繰り出す。

 

 天音はそれに対処するために、身体活性の段階を引き上げ尾異夢・叉辺流で三方向からの攻撃を受け止め続ける。

 

 リーは杜門の能力をなるべく負担なく使う投石に集中。 三方向からの攻撃に天音は捌き切れず攻撃が掠り始める。

 

 逃げ場のない状況に天音は

 

(……あああああああああ、キッツイぃ~~~)

 

 内心焦りに焦っていたが、顔には出さないように努めていた。

 

「クッ!!」

 

 テンテンやネジ、リーもお互いの攻撃が邪魔にならないようベストの位置に攻撃を仕掛けているのにもかかわらず、完全に天音を押し切れない状況に焦りを見せ始める。

 

(一人でこの連携捌くとか、全く普通じゃないわね!!)

 

(だが僅かに押し始めている。このまま行けば)

 

(僕たちの勝利は目の前です!!)

 

 三人の息が完全にあった瞬間、天音はたまらず上に跳躍しその場から逃れる。

 

 そして

 

「印も結べないうえに上空では回避手段はない……っ! 止めだっ八卦……破山撃っ!!!」

 

 それを待っていたとばかりにネジの掌から、レーザーのごときチャクラ砲が放たれる。

 

 その攻撃は天音の持つ尾異夢・叉辺流をその手ごと大きく弾き飛ばす。

 

「痛っ……!」

 

 さらに

 

「何時だって心に……ダイナミック・エントリーィ!!!」

 

 一足、リーが落下する天音に向け渾身の飛び蹴りを放つ。

 

 杜門状態のリーの蹴りが天音の腹を穿ち、骨が砕ける鈍い音と共に大きく弾く音が響き天音を岩場へと叩きつける。

 

 天音の血を吐いた軌跡が地面へと大量にこびりつく。

 

「やりました!!」

 

 歓喜の声を挙げるリー。

 

 しかしネジは未だ警戒を解かず

 

「油断するな……っ」

 

 と柔拳を構えたままがっくりと項垂れている天音の傍まで歩み寄る。

 

 その様子をテンテンも唾を飲み見守る。

 

 天音の直ぐそばまで来たネジは、その外套をめくる。

 

「これか……」

 

 天音の腰には、機械の蓋が着いた緑色の液体に満ちたガラス瓶があり……その中には眼球が二つ浮かんでいた。

 

 ネジがその瓶に向けて手を伸ばす。 ふとその瓶の蓋に青い糸のようなモノが繋がっているのをネジは見つける。

 

 

 

 

 それがチャクラ糸であることにネジが気がつく。 それはつまり天音が意識を失くしていないことを示していた。

 

 

 

 

「土遁・心中斬首」

 

 瞬間ネジが天音の影分身に地中へと引きずり込まれ、リーがそれに反応し駆けだす。

 

「まだ生きていましたか!!」

 

 倒れていたふりをした天音は片手で印を結ぶ。

 

「雷遁・地走り!」

 

 接近するリーと地中のネジがその雷遁をまともにくらってしまい動きが鈍る。

 

 血を吐き出しながら、天音はよろよろと立ち上がる。

 

「ゴフッ……あ゛あ゛…… 私じゃなったら死んでた……よ♪」

 

 血を腕で拭いながら痺れて動けないリーへと迫る天音。

 

 咄嗟に離れた位置にいるテンテンがクナイを天音に投げつける。

 

 しかし天音は眼鏡を着けた方の眼だけを見開きそれをキャッチする。

 

「白眼も……このダメージじゃうまく使えないみたいだし……試運転であなたたちの相手をするのは間違いだったかも……最終的に信じられるのは自分の眼かな」

 

 天音はそのキャッチしたクナイを振りかぶり、四つん這いになっているリーの首元へと振り下ろす。

 

 

 しかし瞬間、天音が前方に吹き飛び地面を転がる。

 

「ガっ!?!?!」

 

 天音がうつ伏せのまま、リーの元、自分が居た位置に目を向けるとそこにはテンテンが立っていた。

 

 瞬間移動の如く後ろを取られ、思いっきり蹴り飛ばされたことに気がついた天音は地面に顔を俯かせたまま笑い声を挙げる。

 

「クックック……ああ、なるほどォ……正直あなたの事は一番舐めてたけど……フフフッ……アハハ!」

 

 不気味なその様子にテンテンはクナイを構えながら顔を引きつらせる。

 

(何コイツ……気持ち悪い……っ)

 

 すると天音は右手で支えながら体を起こす。

 

「まさか貴方が()()()()()を使えるとはねぇ……思ってもみなかった……ああ、だけど残念、そろそろ時間みたい」

 

「……なんで私の術の正体を……それに時間?」

 

 訝しむテンテン。 その瞬間少し離れた位置で爆発音のようなモノが響くのが聞こえる。

 

「鬼鮫先輩もやられたみたいだし、私も撤収しますかね……それじゃあ、また会いましょう……テンテン」

 

 天音はいつの間にか回収していた尾異夢・叉辺流を袖にしまい、片手で印を結び宙に浮く。

 

「……っ逃がすわけ……!」

 

 天音は口元に人差し指を立て「シーッ」と言う。 テンテンがクナイの投擲をしようとした瞬間、チリチリと小さな火花が散るような音が聞こえた。

 

 ふとテンテンが振り向けば足元に小型の爆弾があり、テンテンは咄嗟に手に持つクナイをその爆弾の導線を切るために投擲する。

 

 事なきを得たテンテンが天音の方を振り向き直せば、既に天音の姿は消えていた。

 

「……何だったのアイツ……ってネジが地中に埋まったままじゃん!!」

 

 ふと緊張を解いたテンテンだが、すぐ地中と地表で雷遁の影響で痺れている班員の介抱の仕事に追われた。

 

 

 

 その様子を遥か上空から見下ろす天音は満足そうな笑みを浮かべ、暁のアジトへと飛び立っていった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 日が落ちるころアジトの大岩が開き、外からボロボロの天音が入ってくる。

 

「随分とボロボロだねぇ」「小娘ニハ荷ガ重カッタカ?」

 

 その様子をはやし立ててくるゼツに天音は

 

「暁最ザコのゼツ先輩なら100人居ても勝てない相手三人を相手に時間稼ぎしたんですから誉めてくださいよォ」

 

 と皮肉を込めて言い返す。

 

「……言うねぇ」

 

 ゼツが眉を引くつかせる。すると

 

『まあ確かに……闘いながら少しは天音さんのことも気にしていましたがお相手は大概やるようでしたよォ……私も三割程度の力では、あの珍獣には勝てませんでしたしお互いさまということで』

 

 鬼鮫が話に割って入ってくる。

 

「さっすが鬼鮫先輩話が分かる!! 好きっ!!」

 

『遠慮します』

 

 二人の掛け合いをぶつ切りにする様にリーダーが口を開く。

 

『鬼鮫と天音が戦っている間に、別の小隊がアジトに近づいて来ていた。 ……そちらの対処はイタチに任せてある。 イタチの方が終わり次第小隊の情報を集め、封印術の仕上げにかかるぞ』

 

 話を終えたリーダーはゼツに対して

 

『象転の術に使った体の処分を任せる……恐らくイタチの方もやられるだろう……二体分残すなよ』

 

 指示を出す。

 

「了解っと……二体分消化しようと思うと時間がかかりそうだね」

 

 そういうとゼツはアジトの外へと出ていった。

 

 一人残された天音はアジトの隅へと行き、土遁で簡易的なスペースを作る。

 

「オイ……何のつもりだ」

 

 サソリがその行動に気がつき疑問を投げかける。

 

「腕とか折れちゃったんで治すんですよ……まあ、あまり治療姿とか見られたくないので目隠しのスペースです♪」

 

 そして土遁の壁に身を隠した天音。

 

「……はぁ」

 

 呆れた感じのサソリため息をつく。そしてその態度に

 

「ああ、いくら私が可愛いからって覗かないでくださいね~サソリ先輩、前に私の寝込みとか襲ってきてたし、私こわ~~いぃ~~♪」

 

 天音がうざったい声で再度声をかける。

 

「ホントうぜぇ……まさかデイダラの奴が恋しくなるなんてな」

 

『ホント五月蠅いガキだなァ殺したくなるぜ!』

 

『気の毒だなサソリ……俺なら賞金首とか関係なしに、飛弾と同じくうっかりと殺してしまいそうだ……』

 

『先ほどの私の評価を返していただきたいですねぇ』

 

『……サソリ、女性の寝込みを襲うのは感心しない』

 

『……ペイン、貴方は少し黙ってなさい……』

 

 サソリを始め、幻影に意識を持ってきている暁のメンバーから酷評を貰った天音は数時間後、アジトの中に寝息を響かせさらに顰蹙を買うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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5:暗暗・明明

  

 アジトの洞窟内で天音が寝息を響かせてから日が昇り……

 

『そろそろ仕上げだ』

 

 暁のリーダーの声が沈黙の続いた洞窟に響く。

 

 封印の様子を石像の手首のあたりにもたれ掛かって見ていた天音は、既に前日に負った骨折などの怪我はなかったかのように振舞っている。

 

 そんな天音は洞窟の扉になっている大岩へと目線だけを向ける。

 

(木ノ葉の……ガイ班が来たか……カカシ班も直ぐに着きそうだ)

 

 内心で何かの来訪に気がついた天音だが、外の方には注意を向けずに宙で守鶴を抜き取られている我愛羅に目線を向けた。

 

 そして……

 

 

 

 我愛羅の体内から尾獣のチャクラが全て抜かれ、石像の口から出ていた封印のチャクラの触手がその口腔へと消え去る。

 

 

 

 封印術が終わり、我愛羅の体は地面へと無防備に叩きつけられた。

 

 天音はそんな我愛羅に向け、ゆっくりと歩みより近くにしゃがみこむ。そしてそのまま我愛羅の胸に手を当てた。

 

「オイ、何をしている?」

 

 その様子を見ていたサソリが像の指先から天音を見下ろし問いかける。

 

 その問いかけに天音は

 

「……人柱力が尾獣を抜かれたら本当に死ぬのか気になって……どうやら本当みたいですね♪」

 

 興味を引かれる事柄を説明するかのように、目を輝かせて答える。

 

「下手なことをするなよ、そいつは俺の人傀儡のコレクションに加え――」

 

 サソリの言葉の最中、アジトに振動が走る。

 

 何者かが、洞窟の大岩を攻撃していることに暁全員が気がつく。

 

「そういや、イタチ……お前が象転の術で相手したとかいう()()()()()が来ているらしいな……なら俺が相手してやろう、クックック……」

 

 サソリのその言葉に天音が

 

「でも外の五封結界って破り方的に九尾の人柱力がここまで来るかどうかわからなくないですか?」

 

 と問いかける。

 

「確かにな、結界を解いたとして踏み込んできた奴らのその中に人柱力がいるとも限らない……イタチ九尾の人柱力はどんなヤローだ?」

 

『……』

 

 イタチはサソリの言葉を無視するかのように目を閉じ黙り込む。

 

 ノルマの関係か、既に居場所や人物を特定できている人柱力の情報を教えたくないのかとサソリが訝しむが

 

『教えてやれ』

 

 リーダの一言でイタチは目を開け

 

『一番最初に……大声で怒鳴ってくる奴がそうだ』

 

 そう言って幻影による通信を切り姿を消した。

 

「もう少し具体的な情報を教えやがれ……」

 

 サソリは舌打ちをして像の手首から降りる。

 

 それと同時にリーダーの幻影が印を結ぶことで石像は煙に包まれその姿を消し、また暁のメンバーの幻影も居なくなる。

 

「さて……どうやら外では、五封結界の札を既に剥がしにかかっているみたいですよ。 準備をしないとですね」

 

 そう言いながら天音は我愛羅を担ぐ。

 

「お前は感知能力があったな……オイ、なぜその遺体を担ぐ?」

 

 サソリは天音が外の様子を分かっているかのように振舞うことに納得はしたが、その行動には怪訝な声色になる。

 

「準備ですよ、準備♪」

 

「あん?」

 

 そう言う天音が印を結ぶと同時に、洞窟の大岩が大きな衝撃音の後に崩れ去る。

 

 それと同時に、洞窟内の中が外の光に照らされその光を背に四人の忍びが姿を現す。

 

「遅かったか……」

 

 四人のうちの一人・はたけかかしがそう呟くと、うずまきナルトが目の色を朱色に変え怒鳴る。

 

「てめぇーーーらァ!! ぶっ殺してやるっ!!!!」

 

「フッなるほど……あいつか……」

 

 サソリが納得したかのような声を挙げる。

 

 

 

 ――とその直後に天音は我愛羅を担いだまま、高速で飛び立ちナルト達の頭上を通過しアジトの外へと出る。

 

  

 

 あまりに突然の出来事に、サソリすらも反応できずにいると感情を怒りで染めているナルトが地面を踏む抜き怒涛の速さ天音を追いかけ始める。

 

「我愛羅を返せ!! このヤローがぁ!!!」

 

「おいナルトっ!? ックソ、サクラ、チヨ婆様ここは任せます、ガイ班が戻ってくるまで無茶はしないように」

 

 ナルトを追いかけるべくカカシも居なくなり、洞窟内はサソリとサクラ、そしてチヨ婆のみとなった。

 

 流れるような展開に、サソリはため息をつく。

 

「ハア、あの小娘……何考えてやがる……仕方ねえ、こっちを片付けて追いかけるとするか」

 

 言葉を発したサソリが二人を睨む。

 

 その一瞬の殺意により、サクラは自身とサソリとの差を感じ取り額から汗を垂らす。

 

(対峙しただけで……経験の差……他者を殺してきた数の違いを感じる……だけど)

 

「サクラ……恐れるな」

 

 チヨ婆がサクラの様子を気に掛ける様に言葉を掛けるが、直ぐにサクラは自身の両頬を叩き前を見据えて構える。

 

「大丈夫です、チヨ婆さま。 ……私、格上と対峙するのには慣れてますから!!」

 

「! ……ほほほ、そうか頼もしいの……だがお前は後ろに下がっておれ。 格上と戦うときは、その動きを観察することが大事だからな」

 

 一歩サクラの前に踏み込んだチヨ婆はチャクラ糸につないだクナイを十数本投擲し、サソリの体を狙う。

 

 その攻撃をものともしないサソリは全て傀儡の尻尾で弾き、自身の羽織る外套を破いてその姿をさらす。

 

「なんなの……アレ!?」

 

 サソリのその姿を見てサクラが思わず口にしたその言葉にチヨ婆が答える。

 

「あれは傀儡……ヒルコ……サソリの本体はあの中じゃ……しかしどうもワシが知る頃より、改造が進んでおる様での……背中の甲羅に左手の仕込み……どうやらワシでは荷が重いようだ」

 

「クックック……老いぼれが一人で俺相手を出来るとでも思っていたか? とんだ思い上がりだなぁ?」

 

 チヨ婆の言葉にサソリは自身の優位性を感じほくそ笑む。

 

 しかしチヨ婆はサクラに目線を向け

 

「ワシ一人で、ならな……サクラ、お前の綱手姫直伝の怪力、当てにさせて貰おうか」

 

 声をかける。 その様子にサソリは

 

「他里を拒んできたあのチヨ婆がどういう風の吹き回しだ……?」

 

 怪訝そうに問いかける。 サクラとチヨ婆が戦闘へ入る体勢になると、チヨ婆がその問いかけに答える。

 

「なあに……年寄りが頑固なのも、他人の前だけ……孫の手前、先達として良いカッコがしたいだけじゃ……さてサソリ……老いぼれの未練よ、ここで貴様を殺してそれを晴らそうか」

 

「……今更よくそんな事を言える、ガキの頃の子守唄よりも耳障りに感じるな……老害は大人しく死んでな……っ!!」

 

 そのサソリ言葉を火口に、戦いの幕が切って落とされた。

 

 

~~~~~~

 

 

 アジトの外に文字通り飛び出た天音を追いナルトとカカシが駆ける。

 

「おい、ナルト!! 冷静になれっ!!!」

 

 カカシが天音を追うナルトを追うが、その身体能力は怒りにより湧き出る九尾のチャクラによって底上げされており着実に距離を離される。

 

「我愛羅をモノみてーに扱うんじゃねェ!!」

 

 感情の振り切れているナルトが右手に力を込めているようすに天音は上空から危機感を感じる。

 

(……あれは!?)

 

 天音が後方に体を向けると、朱いチャクラで出来た腕のようなモノが迫りくる。 天音はそれを高度を挙げることでギリギリ避けた。

 

「おわっと……ナニあれ、もう若干九尾のチャクラコントロールしてんじゃん……」

 

 ナルトが右手の身に朱いチャクラの衣を纏っている様子に天音は引き気味に顔を引きつらせ、逃げるスピードを増す。

 

 その様子を後ろから伺うカカシは焦りにより額に汗を浮かべる。

 

(不味い……自来也様が言っていたように、ナルトの怒りが九尾のチャクラを引き出し始めている……尾が出始めてしまえば、容易に抑えることができないぞ……っ!)

 

 カカシは、手にチャクラを押さえる封印札を用意しながら駆ける。

 

 天音の狙いは間違いなく自分たちをあの洞窟から遠ざけることだとカカシは思っており、正にそうなっている現状はカカシにとって予期していない状況だった。

 

「ナルト!! 戻れ、このままサクラ達から距離を離されると二人に危険が……っ!」

 

 カカシがナルトに声をかけるも

 

「オイ、我愛羅ぁ!! 何時までも寝てねーで、早く起きろォ!! 我愛羅ァ!!!」

 

 ナルトには届かず、ナルト本人は天音に担がれ意識のない我愛羅に叫び続ける。

 

「なんで……なんでだっ……なんで我愛羅がっ……!!!」

 

 ナルトの悲痛な呟き。 既に我愛羅の中に尾獣・守鶴が居ないこと、それにより人柱力であった我愛羅がどうなっているかもナルトは理解していた。

 

 しかし、それでも彼は自身の感情を抑えられない。 望まずに手に入れた力のせいで受けた理不尽を、周囲からの冷たい視線を、そして……

 

 自分が我愛羅よりも恵まれていると理解してしまっているからこそ、ナルトは我愛羅が受けた理不尽を許せないでいた。

 

 自分には寄り添ってくれる仲間が、恩人が居た。 暗い世界から導いてくれた友がいた。

 

 そんな自分より辛い思いをした我愛羅が、それでもなお頑張って風影となったことはとても誇らしく思えた。

 

 そして自分も頑張って対等な……火影としていつか共に――

 

 

 ナルトは目を見開く。

 

「てめーら暁全員、ぶっ殺してやるっ!!!!!!!!!」

 

 

 

 そんな明るい未来を潰した相手をナルトは許しはしない。

 

 ナルトの中に居る九喇嘛がナルトに語りかける。

 

『サスケも、悟も……貴様が弱いから、力がないからこそ居なくなった……ナルトよ、力に酔いしれるがいい』

 

「……邪魔する奴は、全部俺が……潰す……っ!!!」

 

 

 ナルトからあふれ出る朱いチャクラが、その身を包み小さな九尾の形を模る。

 

 一本あるチャクラで出来た尾が唸り伸びて天音に迫る。

 

「っ!!!」

 

 すんでのところで天音は避けるが、四肢で駆けるナルトは口にチャクラを溜めこみ、それを撃ち放つ。

 

「ガぁ!!」

 

 たまらず天音は移動を止め、回避に専念する。

 

「何か、展開早くない?!」

 

 文句を言いながらも、天音はナルトの放つ直線的なチャクラ弾を冷静に避ける。

 

 移動が止まったことでカカシが二人に追い付いた。

 

「っ……! 既に尾が一本、だが今封印札を使えばナルトの意識がなくなる。 そうなれば、ナルトを庇いながらあの暁と戦わなければならない……まったく……少しは成長したと思ったけど、まだまだ目が離せないね……これは」

 

 カカシは覚悟を決め、ナルトに向け接近する。 その様子を確認した天音は、小さく笑みを浮かべた。

 

 

 パシンッ

 

 

 ナルトの額に封印札が張られる。 その瞬間、ナルトの表面を覆う朱いチャクラの衣は鳴りを潜めナルトはそのまま意識を失い倒れこむ。

 

 その瞬間を待っていたかのように天音がナルトに向け、接近する。

 

(っやはり、このタイミングを狙ってくるか……っ!!)

 

 カカシは急いでナルトと天音の間に割って入り、写輪眼を発動させる。

 

「はたけカカシっ!! 覚悟しろ!!!」

 

 天音はそう叫び、更に加速する。

 

「……っ!」

 

 カカシは写輪眼の観察眼をもって天音の動きを観察する。

 

 まず、天音は肩に乗せていた我愛羅を両手で持つ。 そしてそのまま大きく振りかぶり……

 

「なっ……!?」

 

「どっせい!!!」

 

 叩きつける様に我愛羅の体をカカシに向け、投げる天音。

 

 勢いよく投げられた我愛羅をカカシは受け止めるが、その勢いのまま大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

(しまった、ナルトと距離を離されて――)

 

 瞬時に状況の不味さを判断したカカシが我愛羅の体を優しく、素早く降ろし天音に目を向ける。

 

「神……威……?」

 

 ――ボフンッ

 

 万華鏡写輪眼に変化した目でカカシは煙をあげ姿を消した天音を見届ける、自身がまだ何もしていないにもかかわらず。

 

「……はぁ……はぁ……っ?」

 

 我愛羅と入れ替わりで、ナルトが攫われるかとカカシは危惧したが何もせずに消えた天音の行動にカカシは肩で息をしながら混乱した。

 

「っ……いや、少なくともサクラ達からはかなりの距離を離されたか……急いで戻らないと……っ」

 

 それでも瞬時に状況を判断しカカシはナルトと我愛羅を抱え、かなり離れた位置にある暁のアジト目指して駆けだした。

 

 

~~~~~~

 

 

 カカシが天音の姿が消えるのを確認した一方。

 

 暁のアジトが大きな地響きを伴って崩れる。

 

 その振動で天井に穴が開き、アジトの中は瓦礫で埋もれていた。

 

 そんな瓦礫の上で、サクラは傷ついた自分とチヨ婆に最低限の掌仙術を施す。

 

「このガキも医療忍者か……」

 

 既にヒルコは壊され、その中にいた本体のサソリはその様子を眺め忌々しそうに呟く。

 

 態勢を整えたくノ一二人が、共に並び立つ。

 

「行けるな……サクラ」

 

「ハイ!」

 

 自身の自信作であった三代目風影の人傀儡もばらばらにされ、サソリはため息を付きながら身に纏う外套を脱ぎ捨てる。

 

「全く……いつだったか、暁に入った時のいざこざ以来だな……」

 

 その様子を見たサクラが驚きの声を挙げる。

 

「ア……アレは……!?」

 

 チヨ婆は既に戦闘の最中にその()()()に気がついていた。

 

「あやつはワシの手元を離れた時から見た目の歳が経っておらぬ……昔のまま……その理由がアレじゃ」

 

 外套を投げ捨てたサソリが首を鳴らす。

 

「本当に久しぶりだ、()()を使うのは……」

 

 晒されたサソリの体は既に人のモノでなく、空いた腹部には腸ではなく自在に動くワイヤーが詰め込まれ、背には刃の羽が生えていた。

 

「自分を人傀儡に……っ!」

 

 サクラの驚きの声に、反応するようにサソリが構える。

 

「さてここからが――」

 

「本番ですか? サソリ先輩」

 

 明るい声だけが聞こえ、サソリが横をみればいつの間にか天音がそこに立っていた。

 

「……てめぇ……何処から」

 

「上ですよ、上。 見事に天井に穴が開いてたのでそこから入りました、元の入り口は瓦礫に埋まってますしね♪」

 

 気配もなく降り立っていた天音に顔をしかめるサソリ。

 

「アイツ……っ!」

 

 サクラは天音の姿を見て、感情を昂らせる。

 

「アヤツがあのマイト・ガイとやらの班と交戦したという天音小鳥か……先ほど我愛羅の体を運んで逃げたかと思えば……なるほど、白い牙の息子とナルト、二人を引き離すための罠だったか」

 

 チヨ婆の納得したかのような口ぶりに天音は拍手をした。

 

「ご明察!! あの2人がいると、目的が達せないんでね。 ここから随分と距離を離した場所まで誘導したから後はじっくりと……」

 

 天音は獲物を狙うかの如く鋭い眼光をサクラへと向ける。

 

「おい、小娘……好き勝手やるのは構わんが、あまり俺を怒らせるなよ?」

 

 怒りを滲ませたサソリの言葉に天音は

 

「おっと……イケメンにイメチェンしたサソリ先輩そう睨まないで下さいよ~、あのピンクのくノ一は私が相手してあげるんで、どうぞどうぞ! 傀儡使い同士で楽しんでください!!」

 

 あたふたとしながらご機嫌取りを取る口調でサソリをなだめる。

 

 二人のやり取りを見ていたチヨ婆は腰のポーチから巻物を一つ取り出す。

 

「己で禁じた術だが……サソリともう一人、手練れを相手にするには使わないわけには行かんようじゃ」

 

 チヨ婆が巻物を広げると、そこに描かれた印から幽鬼の如く幾つもの傀儡が飛び出る。

 

 その術にサソリは顔をニヤつかせる。

 

「傀儡使いの極意『一指一体』十の傀儡で城一つを落とすと言われる『白秘儀・十機近松の集』……大した傀儡集だ……だがな……っ」

 

 サソリはチヨ婆の実力を称えながらも、己の背に付けられた巻物を無造作に空に投げ、自身の胸に付けられた小窓を開け無数のチャクラ糸を放出する。

 

「俺は……これで一国を落とした」

 

 無数の傀儡に無数のチャクラ糸。 サソリの頭上に百にも及ぶ傀儡の集まりがひしめき、その傀儡の纏う赤い外套が洞窟から覗ける空を赤く染める。

 

「こやつ……ここまで……」「すごい数……アノ全部に毒が仕込まれて……っ!」

 

 驚愕するチヨ婆とサクラ。

 

「赤秘儀・百機の操演……とくと見せてやる」

 

 サソリが操る傀儡集が、チヨ婆とサクラを狙い襲い掛かる。

 

 瞬間、天音も駆け出し、素早く傀儡集を追い抜くとサクラに向け接近する。

 

「ピンク髪、アンタの相手は私がしてあげる!!」

 

「チヨ婆、サソリの方をお願いします。 直ぐに援護に行きますので!!」

 

「サクラっ!」

 

 チヨ婆が心配し叫ぶも、サクラと天音は格闘戦をしながら傀儡集の群れから離れた位置で戦闘を開始する。

 

「ワシの相手はサソリのみか……分かりやすくて逆に助かるの……これで終劇にしてみせようぞ!」

 

 チヨ婆もまた、白い外套に身を包んだ十機の傀儡を操り、サソリの繰り出す傀儡の赤い波を裂くように突撃をしていった。

 

 

 

 

「っ……アンタが天音小鳥ね……っ!」

 

「私のことを知ってくれてるようで何より……って木ノ葉だと意外に私は有名人なのかな?」

 

 互いの手が組み合った状態で語り合う天音とサクラ。

 

 サクラがチャクラコントロールにより馬鹿力を発揮し天音の手を握りつぶそうとするも、スルリと天音は手を離し距離を取る。

 

「アンタが二年前、サスケ君の里抜けを手伝ってた事は知っているわ……目的は何?! ……アンタは大蛇丸と繋がりがあるの?!?!」

 

 サクラの問いかけに、天音は肩をすくめる。 ……大蛇丸の名が出たことで、離れた位置にいるサソリが少し反応を示す。

 

「私は別に大蛇丸とは繋がりはないよ。 前に我愛羅とリーを襲ったのも色々と意図があってのこと……だけどそれを明かすほど私は甘くはないねぇ」

 

 天音は印を結び口を膨らませる。

 

「火遁・豪火球!!」

 

 吐き出された炎弾に対してサクラは

 

「桜花衝!!」

 

 体内で溜めこんだチャクラを微細なチャクラコントロールで一気に点で放出し地面を殴りつけることで、花弁の散る如く地面を隆起させ壁にすることで炎を防ぐ。

 

 豪火球の威力は凄まじく、壁にした岩が熱で溶ける程の熱量を有していた。

 

(……ここまで熱風が……っ)

 

 サクラが腕で熱風を防いでいると、小さく音が聞こえた。

 

 ――チチチチチチチッ

 

 瞬間、壁の横から目を閉じた天音が右手に雷光を纏わせ現れる。

 

「っ!?」

 

 サクラの喉元目掛け繰り出された高速の突きは、間一髪サクラが天音の手首を握ることで抑えられた。

 

()()()……それにさっきの豪火球も……サスケ君の真似でもしてるの……っ!」

 

「さあね? 単純に白眼の試運転に()()は最適ってだけ……あと貴方が動揺すると思って♪」

 

「っ!!」

 

 天音は右手から迸る雷光を引っ込め、その右手で印を結ぶ。

 

「片手で印をっ――」

 

「土遁・岩脚の術」

 

 腕からの攻撃に気を反らされてサクラの腹部に、天音の岩を纏った蹴りが炸裂する。

 

「っうぐっ……っ!」

 

 そのまま吹き飛ばされたサクラ。 彼女を心配しチヨ婆が心配の声を挙げる。

 

「サクラぁ!!」

 

「手元が狂ったなチヨ婆……終劇だ!!」

 

 思わず気が逸れてしまったチヨ婆の傀儡が、攻防をサソリの数の暴力で押し切られてしまい無数の刃がチヨ婆へと迫る。

 

「しまっ――」

 

「……チヨ婆様!!」

 

 腹部の痛みに立ち上がれないサクラの叫び声。 チヨ婆が刃に埋もれる寸前

 

 バキンッ――と音が響き、サソリの傀儡が動きを止める。

 

 一瞬静けさに染まった洞窟内。

 

 サソリがその首を後方に向ける。

 

「がっ……小娘……てめぇ……なん……でっ!!」

 

 サソリの視界には、俯きサソリの心臓部の部品を尾異夢・叉辺流の青いチャクラの刀身で貫いている天音が映っていた。

 

「ゴメンナサイ……サソリ先輩」

 

 そうボソッと呟いた天音が刀身を引き抜き煙を上げ消えると、サソリの体も崩れ落ち百機の傀儡は動きを止める。

 

「……何が……」

 

 サクラの疑問の声に、サクラの前に立っていた天音が語る。

 

「……洞窟に入る前に、私の影分身にアノ剣を持たせて潜ませていただけ」

 

「違うそんなことじゃない……っ! あのサソリはアンタの仲間じゃないの!? 何でだっ!!」

 

「そう、怒らないでよ……私だって好きでやってるわけじゃないの……っ」

 

 顔を曇らせた天音は、突然の孫の死に立ち尽くすチヨ婆に目線を向ける。

 

「そう……これで、未来は…………より良く――グっ!?!?」

 

 

 

 

 

 呟く天音の腹部から突然刀が突出する。

 

「「っ!?」」

 

 サクラとチヨ婆が驚き見ると、天音の背後には赤い外套を身に纏い百機に紛れていたサソリが毒付きの刀で天音の腹部を貫いていた。

 

「……さ、サソリ先輩……? ああ、してやらてたっ……核の身代わりも用意しているとか……グっ……」

 

「嘘と偽り……俺相手に謀略を試みるのは愚かだったな、天音……だが寸前で急所から逸らしたのは見事だと褒めてやろう」

 

 サソリは刀の刃を上に向け、天音の心臓に向けその体を切りこもうとするが天音がその腹部から出た刀身を両手で掴むことでそれを抑え込む。

 

「……ま、まさかバレてたなんて……っ」

 

 天音の信じられないという呟きにサソリが笑顔で答える。

 

「お前の行動は、ひょうきんな言動で覆われているがその芯は妙に何かの意図を感じさせていた……まあ、その違和に勘付けるのは直接のやり取りをしばらくした俺ぐらいだろうがな……まあ、何よりもお前を疑う一番の切欠になったのは…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っつう所だけどな」

 

「ハ、ハハっ……デイダラ先輩の自爆を防いだのは、っ間違いだった……か」

 

 天音は苦痛に顔を歪ませるが、勢いよく後ろ蹴りを放ちサソリを突き飛ばす。

 

「っ……その傷と俺の毒を喰らっても随分と動けるようだな」

 

「流石にキツイ……ですけどねっ」

 

 天音は腹部に残った刀を抜き取ると、腹部と口から血を流しその場に座り込む。

 

 混乱し、動きを止めていたサクラとチヨ婆だがサソリが再度傀儡集にチャクラ糸を付けるとすぐさま戦闘態勢に入る。

 

 再度洞窟内が戦場へと変わりチヨ婆は残り一体、最後の傀儡を使い、サクラもまたサソリの傀儡の毒に侵されないように必死で戦う。

 

 天音もサソリの傀儡集の攻撃の対象になっていたが、尾異夢・叉辺流の風遁の刀身が傀儡を容易に裂くためフラフラな状態でも何とか抗えていた。

 

 しかしサクラもチヨ婆もここまでの戦いで既に限界に達しており、その動きは芳しくない。

 

 次第に押され始め、チヨ婆の残りの傀儡がめった刺しにされることで活動を停めてしまう。

 

「クッしまった……っ!!」

 

「チヨ婆様、逃げて!!」

 

 サクラがチヨ婆の援護に向かうも複数の傀儡がそれを邪魔し、チヨ婆が辺りに散らばる傀儡の腕や足をチャクラ糸でぶつけるも迫りくる傀儡集を止めることは出来ない。

 

 再度凶刃がチヨ婆へと迫る。

 

 

 洞窟内に無数の刃が肉を刺す音が響く。

 

「……っ!!!」

 

 サクラの声にならない悲鳴。

 

 彼女の視線の先には、無数の刃に貫かれた

 

 

 

 ――天音小鳥が立っていた。

 

 

 

「つくづく……何がしたいのか分からねぇ奴だな」

 

「何で……っ!?」

 

「何故じゃ……っ!?」

 

 自分を守るように、庇う天音に向けチヨ婆が疑問をこぼす。

 

 天音はチヨ婆と向き合った状態で、苦しそうに血を吐きながら笑顔で答える。

 

「ゴフッ…………え、……が……の……た……っ」

 

 小さく呟いていた天音は瞬間目線を鋭くし指鉄砲の指先をサソリに向ける。

 

「……雷銃!!」

 

 不意打ちの高速の雷遁弾がサソリに当たる。

 

「しまっ――!?」

 

 サソリの驚きの声。 雷遁の影響で自身の人傀儡の体を動かすチャクラ系統がマヒし動きを鈍らせたサソリに影が落ちる。

 

「今だ、桜花衝……オリャあああああっ!」

 

 サクラがその隙を見逃さまいと最後の力、チャクラを振り絞り、跳躍し殴りかかる。

 

 瞬間、地面が砕ける音が響く。

 

「っ……避け――!?」

 

 サソリはその攻撃を寸前で避けた。 天音の雷遁が、威力不足だったのであろう。 動きの繊細さを取り戻したサソリは手にした刀で隙を晒したサクラに切りかかる。

 

 

 

――グサッ

 

 

 

 刺突音と共にカランッと金属が落ちる音が洞窟に響いた。

 

「ちっ……まさ、か……俺が、こんな型落ちの傀儡に……」

 

 サクラの眼前まで迫った刀は既に地へと落ち、サソリはその胸の核を二体の傀儡によって貫かれていた。 サクラの桜花衝を避けたことで、丁度その傀儡に挟まれる位置に移動してしまっていたサソリは自嘲気味の笑みを浮かべる。

 

「サソリよ……()()()に抱かれて眠るがいい……」

 

 チヨ婆がめった刺しになっている天音の脇から手を出し動かすことで、かつてサソリが作った傀儡・父と母はサソリに愛を注ぐが如く、強く抱擁しその動きを封じる。

 

「本当に……っ下らねぇな……女どもはこうも感情に……実直に動き無駄なことを好む……こんな出来損ないの傀儡どもを残すチヨ婆も……わざわざ抜け忍のために大蛇丸なんてゲスを探るサクラ、お前も……そして……」

 

 サソリが天音に目線を向ける。 天音は身体に刺さった凶器を何とか抜き去っている最中だがサソリの目線に気づき目を合わせる。

 

「……クククッ……てめぇら、ホントに忍びか……?」

 

 乾いた笑いをするサソリに、肩で息をしているサクラが目の前に立ち答える。

 

「……確かに、忍びは道具としての在り方を求められるわ……でも、だからってその忍びが人としての心を完全になくせる訳がない……私はそう思ってる。 だからこそ、私たち(忍び)は……必死に人としての在り方を求めるのよ」

 

 サクラの真っ直ぐな目線に、サソリが目を伏せる。

 

「そうか……なら完璧な傀儡になり切れず、人でもない俺は……傀儡としての戦いに負けた以上、最後に人の在り方とやらの……無駄なことを一つだけしてやろう……」

 

 サソリは今にも動きを止めようとしている、傀儡の体から声を絞り出す。

 

「草隠れの……天地橋……十日後の真昼に……大蛇丸の元に仕込んだ俺のスパイが来る……そ……こ、に――」

 

「……!」

 

 サソリの意図をくみ取ったサクラ。 そしてチヨ婆がサソリが本当の父と母に抱かれる様子を幻視した瞬間

 

 ……サソリは音を立てて崩れ去った。

 

「終わりましたね……チヨ婆様……」

 

 サクラの言葉にチヨ婆が頷く。

 

「ああ、しかし……最後の攻撃、サソリは見切っていたはず……じゃが……」

 

「……それって……」

 

 最後に僅かに垣間見た人としてのサソリに、サクラは改めて忍びの人としての在り方の尊さを感じ取る。

 

 ふと、サクラは動く気配に目を向けると天音が全身から血を流しながら立ち上がっていた。

 

 およそ、動けるような傷でもなくそれにサソリの毒も合わせれば生きているのも不思議なくらいな天音。

 

 尚更サクラはその毒を一度受け、僅かの間だがその苦痛を自身で体験している他3日毒に侵されたカンクロウも診ているためその異常さを理解する。

 

「……貴方……結局何がしたかったの? ……貴方はサスケ君の何?」

 

 気の毒そうにそう語りかけてくるサクラに天音は肩で息をしながら答える。

 

「私がしたかったことは……達成できた……っはぁ……後は……信じるだけ……それだけ……っ」

 

 そう小さな声でうわごとの様に言った天音は大きく手を振り、洞窟のあちこちに何かを複数投擲する。

 

「「っ!?」」

 

 その投擲物は起爆札付きのクナイであることに気がついたサクラが天音に詰め寄ろうとするも

 

「しーっ……()()はここ……まで」

 

 天音は口元に人差し指を付けるジェスチャーをした瞬間に急加速し動きだし、サクラとチヨ婆を両手で抱え洞窟の天井目掛け乱暴にぶん投げる。

 

 サソリとの戦闘で疲弊していた二人は予想外の天音の高速移動に反応が遅れ、されるがままに投げられてしまった。

 

「きゃぁ!?」「っのあ!?」

 

 二人が驚きの声を挙げ、洞窟の天井の外に投げ出された瞬間、複数の起爆札が爆発し洞窟は崩落を始める。

 

 自身に降り注ぐ岩の瓦礫を気にする様子もなく天音は誰にも聞こえない声で呟く。

 

「デイダラ先輩……サソリ先輩……すみませんでした」

 

 その後祈るような動きを見せた天音の姿が岩に埋もれると、一際大きな崩落音が辺りに響く。

 

 投げ出され地面をころがったサクラが受け身を取り、すぐさま洞窟の穴を確認するが目に入るのはただの岩だけであった。

 

「…………っ」

 

 何が起きたのか、訳の分からないまま立ち尽くすサクラ。

 

 そこに聞きなれた声がかけられる。

 

「無事でよかった、サクラ、それにチヨ婆様も」

 

 その声にサクラとチヨ婆が振り向けば、我愛羅を背負いナルトを抱えたカカシの姿があった。

 

「カカシ先生!」

 

「やったんだな……流石だサクラ、チヨ婆様もサクラをありがとうございます」

 

 カカシが頭を下げるとチヨ婆はそっぽを向き歩き始める。

 

「お前さんに頭など下げられたくない……それよりも場所を変えるぞ……我愛羅を……生き返らせる」

 

「!?っ……そんなことが……いえ分かりました。 ガイたちも罠を切り抜け何とかなったと無線が入ったので今すぐ合流するよう伝えます」

 

 カカシは抱えていたナルトを降ろすとサクラに向け

 

「サクラ……ナルトの目を覚まさしてやってくれ。 ……我愛羅君のことを一番に気にかけてる奴が気絶しっぱなしはよくないだろ?」

 

 そう語りかけ、無線でガイ班に状況の報告を行う。

 

 サクラは医療忍術による意識回復をナルトに試みながらも、チヨ婆の背を見る。

 

(我愛羅くんを生き返らせる……死んだ人間を生き返らせるなんて医療忍術には不可能だってことは私だけでなく、チヨ婆様もご存じのはず……一体何をなさるつもりなんだろうか……)

 

 チヨ婆の覚悟を決めた顔つきに少しの不安を感じたサクラはそのままナルトを起こし、少し離れた草原へと皆で移動したのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 黄昏時、草原に横たわった我愛羅の傍で目を覚ましたナルトは涙をボロボロと流していた。

 

「何で……何で我愛羅ばっかりが……っ!」

 

 悔しさに拳を握りしめるナルトにチヨ婆が声をかける。

 

「少し落ち着け……うずまきナルト」

 

 チヨ婆の冷静さは逆にナルトの感情を逆なでする。

 

「っうるせぇエ!! お前ら、砂の忍びは我愛羅の気持ちを考えたことあんのか?! 我愛羅の中に()()――っ」

 

「ナルト……?」

 

 叫ぶナルトだが、途中で言葉に詰まりサクラが不審がる。

 

「……俺たちのことを人柱力とか偉そうに言葉作って呼びやがって……俺たちだって……俺たちだって……っうっ……うう」

 

 行き場のない怒り、悲しみにナルトが人目もはばからずに嗚咽を漏らす。

 

「必死に修行したのに……我愛羅を助けられなかった……俺は、サスケも……悟も……」

 

 自分の無力さに嘆くナルト。 そんな他の里のために本気で泣くナルトの様子にチヨ婆は覚悟を決め、我愛羅の傍へと寄る。

 

「うずまきナルト……お前は優しい……お前のような忍びが、我愛羅の友としているのであれば……ワシも安心し後世に託せるというもの」

 

「チヨ婆様……何を?」

 

 チヨ婆は掌仙術に似た術を我愛羅へとかける。 しかし医療忍術に長けているサクラでさえ知らないその術は

 

()()()()……ワシが開発した死者を生き返らせる術だ」

 

 チヨ婆の説明に周囲がどよめく。

 

「……婆ちゃんっ!」

 

 その言葉を聞きナルトは涙で腫れた目をこすりながら声色を明るくする。しかし

 

(……そんな都合の良い術があるの……っ?)

 

(チャクラの流れからして……いや?)

 

 サクラは疑問視し、白眼で様子を観察するネジは違和感を覚える。

 

 そのままチヨ婆が術をかけ続けるが、しかしふとチヨ婆は息を切らし地面に手を着いてしまう。

 

「婆ちゃん大丈夫か!?」

 

「っハァ……ハァ……どうも、様子がおかしい……術の手ごたえが薄い……これではまるで……」

 

 

 

 

「風影は死んでいない」

 

「!」

 

 不意に呟かれたネジの言葉に周囲が驚きを示す。

 

「ネジ、アンタ何言ってんの?」

 

 テンテンが疑問の言葉をネジに投げかけるとネジは

 

「……正確に言えば仮死状態に近いモノとでも言えばいいか……白眼で観察して分かったが、何やら規模は小さいが強力な封印術が風影の体に施されている。 先ほどのチヨ婆様の術のチャクラがその封印術に吸われているのを見つけた……恐らくだが、先ほどの転生忍術とやらでより多くのチャクラを注げば……」

 

 自身の推察を述べる。

 

 ネジの推察を聞いたナルトは、チヨ婆の手を取り問う。

 

「婆ちゃん! 俺のチャクラを使ってくれってばよ……それって出来るか?」

 

「……」

 

 チヨ婆はナルトの瞳を見つめる。

 

 人柱力として……そうでなくともこの少年は、里という忍びの境界線を越え友のために迷わずに一歩踏み込める。 そんな少年の真剣な眼差しはチヨ婆に希望を見出す。

 

「……ワシの手の上にお前の手を重ねろ……」

 

 そういうとチヨ婆は再度転生忍術を試みる。

 

「……ああ!!」

 

 ナルトが掌を重ねるとその転生忍術の淡い色が広がりを見せる。すると

 

「チヨ婆様……残り少ないですけど、私のチャクラも使ってください!!」

 

 サクラもまたその手の上に手を重ねる。そして

 

「ま、人手は大いに越したことがないってね」

 

「チャクラは多ければ多いほど良いだろう……俺も手を貸そう」

 

「こうなったら私たちもやるわよ、リー、ガイ先生!!」

 

「もちろんです!! 我愛羅君とはまだまだこれからも高めあえる友達でいたいですからっ!!!」

 

「若葉の為に出来ることがあるのなら、当然俺も手伝わせてもらおうっ!!!」

 

 その場に居る全員が手を重ね、転生忍術の光が我愛羅の全身を包み込む。

 

「っ皆ァ!!」

 

 ナルトが歓喜に声を漏らす。

 

 その様子にチヨ婆は目を見開き、優しい笑顔を見せる。

 

「……ワシら下らぬ年寄りたちが作り上げた忍界も……お前たちのような者が居ればいずれはより良いものとなろう……砂と木ノ葉……これからの未来はワシらの時とは違ったものになる……そう確信できる……ナルトよ」

 

「ん?」

 

「これからも我愛羅を……よろしく頼む」

 

「あたりまえだってばよ!!」

 

 そして……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『誰だ……? ……誰かが……俺を呼んでいる?』

 

『――我』

 

『俺は……俺とは……?』

 

『――我――羅っ!』

 

『……駄目だ……眠い……俺は、もう――』

 

 

 精神の世界、その中で砂の中に埋まっていく我愛羅、しかし

 

 

「何時まで狸寝入りをするきだ、さっさと起きたらどうだァ我愛羅」

 

 聞こえるはずのない特徴的な甲高い声が我愛羅の耳に届く。

 

「まあ、あの()()との賭けに負けちまったからな……この()()()の機嫌が変わらないうちにさっさとここ(精神世界)から出ていきな!!」

 

 すると我愛羅を埋めていた砂が蠢き、突発的に我愛羅を空へと打ち上げる。

 

『……っ!』

 

 空高く舞い上がった我愛羅は、地面のない宙を落下し続ける。

 

 そして、目の前に突如誰かの手だけが現れる。まるでその手は我愛羅に向けて差し向けられているようで

 

『俺が……化け物と呼ばれた俺に誰かの手を取ることが……』

 

 その手を掴むことを迷う我愛羅。 しかしその手は諦めずに精一杯掌を広げ我愛羅へと手を突き出す。

 

 その手の迷いのない様子に、我愛羅は思わず涙を零す。

 

『なぜ……俺は泣いて……ああそうか、嬉しいんだ……』

 

 そして

 

『俺は……誰かと繋がりたかったのか……心から』

 

 我愛羅は心から繋がれる……そんな予感を胸にその手を取る。

 

 

「我愛羅っ!!」

 

 

 刹那我愛羅の耳元で大きな声が響き、手を引かれかなり強めの力で抱擁される。

 

 何が起きたのか分からない我愛羅は、目に入る夕日の眩しさにくらくらしながらも現状を把握しようと声を絞り出す。

 

「何が……起きている?」

 

「良かった……良かったってばよォ!!」

 

「……これは……それにお前はナルトか?」

 

 自分を締め付ける勢いで抱く人物がうずまきナルトであることに気がついた我愛羅。あまりの力強さに我愛羅が呻き声を挙げるとナルトが後頭部を殴られ崩れ落ちた。

 

「バカナルト!! 起きたばかりの我愛羅君に何してんのよ!!」

 

「いてぇ!! 何すんだよサクラちゃん!?」

 

 活発なその声が、春野サクラであることにも気がついた我愛羅は上手く動かせない体を起こして辺りを見回す。

 

「これは……っ!」

 

「……みんな……お前を助けるために走って来てくれてたんだ」

 

 我愛羅の驚きの声に、ナルトが答える。 草原に居る我愛羅の周囲には砂の里の忍びがほぼ全ていたのだ。

 

 恐らく里に最低限の人員を残して、砂の忍びが集まっている事実に我愛羅の胸が何故だか熱くなる。

 

 未だ状況を飲み込めずに呆けた表情をする我愛羅の頭を後ろから誰かが小突いた。

 

「全く……心配かけやがる弟じゃんよ」

 

「ああ本当に、全くだこの手のかかる弟どもめ……我愛羅、気分はどうだ?」

 

 笑顔のカンクロウとテマリが我愛羅の傍に来ていた。テマリの言葉にカンクロウが顔を引きつらせ後退するともに、我愛羅が立ち上がろうとするも体が上手く動かずによろめくとナルトが肩を貸す。

 

「無理すんなってばよ……まだ起きたばっかだからフラフラしてんだろ?」

 

「ああ、だがしかし俺は……何故……?」

 

「こまけぇことは良いんだよ!!」

 

 ナルトの心底嬉しそうな笑顔に、思わず我愛羅も微笑む。 その我愛羅の笑顔に一部の砂隠のくノ一が黄色い悲鳴を上げ、自分が我愛羅を支えると突進しナルトを突き飛ばす。

 

「だぁ!? 何すんだぁ!?!?」

 

 不満の声を挙げるナルト、そんな彼にカンクロウが声をかける。

 

「ナルト……ありがとよ」

 

「……それを言うなら婆ちゃんにだ。 我愛羅が助かったのは婆ちゃんがスゴイ医療忍術で助けてくれたから……」

 

 ナルトはチヨ婆へと目線を向ける。

 

 その先では……

 

 

 

 静かに眠る様に目を閉じて草原に横たわっているチヨ婆が居た。   

 

 

 

「今は疲れて寝ちゃったけど婆ちゃんも里に帰って休んだら――」

 

「違う……」

 

 ナルトの言葉を遮る様にカンクロウが呟く。

 

「違うって……どういうことだってばよ……?」

 

「医療忍術なんかじゃない……チヨ婆が使ったのは……自身の命を引き換えに死者を生き返らせる、転生――」

 

「な~~~んてな死んだフリ~~~ギャハ、ギャハ、ギャハ!」

 

 今度はカンクロウの言葉を遮るようにチヨ婆が跳ね起き、無邪気に笑ってみせる。

 

「そういうリアルなボケするない……姉ちゃんよ~……」

 

 チヨ婆の弟、エビゾウが呆れた様子でその笑えないボケに突っ込みを入れる。

 

 その様子に真剣な顔つきのまま硬直しているカンクロウに困惑しているナルトが声をかける。

 

「……つまりどういうことだってばよ?」

 

「……クソババぁがァ紛らわしいことしやがって……!」

 

 カンクロウの呟きにチヨ婆が反応し、カンクロウが蹴られている様子をテマリと我愛羅が見ながら会話を行う。

 

「死者をも生き返らせる転生忍術『己生転生』……死者相手でなければ、高度な医療忍術として使え、術者が命を落とすリスクも抑えられる……我愛羅、お前は仮死状態だったと聞いたが良く死なずにいてくれたな」

 

「俺にもよくわからない……俺たち人柱力は己の内の尾獣を抜かれれば死ぬ運命のはずなのだが……何故だかほんの僅かに、まだ守鶴の存在を感じられるのだ……そのおかげだろう」

 

 我愛羅が胸に手を当てる仕草をする。 その様子を見守るテマリは周囲に見られる笑顔を見て満足そうに呟く。

 

「まあ、何だっていいさ……みんな笑顔だからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは無理そうっすねぇ……」

 

 場面が代わり、暁のアジトがあった場所。

 

 その瓦礫に埋もれた天井の位置からオレンジの仮面を着けた男がそう呟く、近くにいたゼツがその呟きに答える。

 

「全く……デイダラにサソリ……二人もやられるなんてね」「面倒クサクヤラレタオカゲデ指輪ノ回収ガ出来ネェ……迷惑ナヤツラダ」

 

 ため息をつくゼツに、仮面の男が語りかける。

 

「そういえば天音小鳥っていうボクの後輩もいたらしいすっけどどこいったのかな~?」

 

「さあね……僕たちは死体処理に回ってたから詳しくは知らないって……ん?」

 

 ふとゼツが何かに気がつき、仮面の男にその場から下がる様に手で合図を送る。

 

 瞬間、瓦礫を吹き飛ばし中から何かが飛び出してきた。

 

「あれは?」

 

 仮面の男が疑問を口にすると、その何かが着地し手に抱えた傀儡を三体地面に転がす。

 

「……全く……見つけるのに苦労したなぁ」

 

 そう呟く人物は死にかけ血みどろの様子に見えるが、しかし外見よりは元気そうにしゼツを見つけると声をかけてくる。

 

「ゼツ先輩!! 救けに来るなら遅いですよっ!! 全く、私普通に死にかけちゃったんですからね!!!」

 

 天音小鳥だった。 余りの様子にゼツは引き気味に問う。

 

「……その様子で良く生きてたねぇ……ていうかそれって」

 

 ゼツが天音に三体の傀儡を指さして説明を求めると

 

「ああ、サソリ先輩の本体とそれを刺してた男女の傀儡のセットですよ……木ノ葉のピンクの忍びとチヨ婆とかいう傀儡使いに私たちが負けた後、何とか遺体だけでも回収しようとしたんですけど……アジトを爆破されてこの様ですよォ……サソリ先輩の核も見つからなかったので、瓦礫に埋まってしまって探し出すのは骨が折れそうですねぇ」

 

 つらつらと説明し大きなため息をする。 

 

「その刺し傷とかはサソリの得物によるものだと思うけど……」

 

 ゼツが疑問を口にするが

 

「戦闘中にサソリ先輩の傀儡が相手にコントロールされて私を不意打ちでめった刺しにしてきたんですよ……ホント、相手の医療忍者が解毒薬を用意してくれていたおかげで助かりましたけど」

 

 天音はそういい、小さな空の注射器を懐から取り出すと投げ捨てて壊す。

 

「隙を見て掏れて良かったですよホント……味方の毒なのに敵の治療薬に頼らないといけなくて……それで死にかけるとか、ホント笑えない」

 

 乾いた笑いを浮かべる天音。 そんな彼女を無視して仮面の男はサソリの本体から指を抜き取る。

 

「よっしゃー! これでボクも暁のメンバーだぁ!」

 

 指を手に取り喜ぶ仮面の男に天音は

 

「ちょっとォ!? 私が回収したんだから私のモノだけどォ!? てかアンタだれ!?」

 

 抗議をする。 天音をなだめるようにゼツが二人の間に割って入り説明をする。

 

「彼は『トビ』だ。 一応組織に入ったのは君よりも早いから、こんなのでも先輩だよ」

 

「……ハァ!? こんなのが……先輩ィ?」

 

 胡散臭そうなものを見る目の天音に仮面の男・トビは

 

「そうそう! ボクの方が年上なんだから年功序列てきに僕が次の暁のメンバーってこと! 分かったかなお嬢ーちゃんっ? あはははは!!」

 

 テンション高めに天音を煽る様に彼女の周囲を跳び回る。 その煽りに天音は拳を握りしめるが、何とか抑えゼツに顔を向ける。

 

「……っはぁ……まあ、しょうがないか。 ゼツ先輩、デイダラ先輩の分が回収出来たら私に下さいね!!」

 

「出来たらね……遺体が砂に回収されてると思うから、そう易々とは取り返せないと思うけどね」

 

 ゼツの良くない内容の返事に天音は頬を膨らませ不満を現すが、仕方ないとため息をつき三つの傀儡を抱え宙に浮く。

 

「そんなの持ってどこ行くんだい?」

 

「私の拠点に帰ります……お手製の外套もボロボロですし、何より疲れたので……これは戦利品ということで持って帰ります。 んで私が復活したらまた適当に暴れてるんで連絡があったらお得意の感知能力で私を見つけて教えに来てくださいね、それじゃあ」

 

 言いたいことを言い残し、天音は夕日でオレンジ色に染まる雲よりも高い高度へと飛び立っていった。

 

「いや~~~頭の可笑しそうなお嬢ちゃんでしたねゼツさん」

 

「……しれっと僕たちをパシリにしてるしね」「トビ、オ前モ大概ダ」

 

 そのままトビとゼツはその場から姿を消した。

 

 

 



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6 :辺境の集落

オリキャラ多数投入。


「じゃあな、今度何かあった時は俺たちが助けに行くじゃん」

 

「今回は本当に助かった……我愛羅を助けてくれてありがとう」

 

「……改めて礼を言わせてもらおう……ありがとう、うずまきナルト」

 

 激闘から一夜明け、忍び装束を身に纏わず、黒い普段着に身を包んだ砂の三姉弟たちが砂隠れの里の防壁の外まで木ノ葉の一行を見送りに来ていた。

 

「……って言っても今回俺は殆ど何もしてねぇからなぁ……礼を言われても困るってばよ」

 

「そうだな……ま、今回はサクラが特に頑張ってたようだからな」

 

 ナルトが我愛羅からの礼に顔を赤くし、頭を掻く。 その言葉をその通りだと肯定したカカシの言葉にナルトは肩を落とす。

 

 しかしカカシは成長した二人に対してそれなりに思うところがある様だった。 苦難はあれど、生きて大きくなってくれたナルトとサクラをカカシは見守る保護者としての目線で見る。

 

「本当に良く成長したな。 もちろん、ナルトもだが……俺は二人の先生として嬉しい……といいたいんだが、お前らの師匠は実質五代目様と自来也様だし……俺って……っ」

 

 暖かな目線は自虐的なモノと変わり、ナルトと同じくカカシもやや肩を落とす。

 

「二人とも、お別れの時にそんなにテンション下げないでよ……ほらナルトもカカシ先生もしゃんとしてください」

 

 励ますサクラの様子をガイ班が後ろから眺めていた。

 

「サクラも面倒な班員の御守で大変そうね、意外にカカシ先生ってクールに思わせてナイーブな面があるみたいだし」

 

「……テンテン、俺を面倒の内には入れてくれるなよ?」

 

 テンテンの呟きに、腕を組み少し不安そうに反応したネジ。 テンテンはそんなネジの様子にクスクス笑いながらも「心配しなくてもアンタは頼りにしてるわよ、ネジっ!」と言って肩を叩く。

 

 その2人の隣でリーとガイが会話を交えていた。

 

「いやぁしかし、こうして砂と木ノ葉、熱い友情が育まれて互いに助け合えるようになるなんて感激ですっ!!」

 

「そうだなぁリーよ。 これからも俺たちは自己研鑽を重ねぇっ!! さらに里同士高めあえると思えば、何と素晴らしい青春かっ」

 

 緑の師弟コンビが何やら感激に涙を流す様子を引き気味で見守るテンテンとネジ。

 

 そんな傍らで、我愛羅が一歩ナルトへと近づき片手を差し出す。

 

「ナルト……何を成したかと振り返るのはよせ。 お前は他里を拒むチヨ婆の心を溶かし、そして俺を友として助けてくれた……十分すぎるくらいお前は良くしてくれたさ」

 

「っ……こういうの面と言われるのは照れるってばよ……」

 

 照れるナルトは差し出された手を取るのを躊躇する。しかしナルトの手を我愛羅は少量の砂を操り手を引き、互いに手を取り合い強く握手が行われる。

 

「……それに俺たちの内に居る()()についても。 人柱力として、互い歩みを寄せる必要があるようだ」

 

「……それって……」

 

 ナルトが察した我愛羅の言葉。我愛羅は目を閉じ昨晩の事を思い出す。

 

 

~~~~~~

 

 

 里へと帰還し自室で休息を取る我愛羅に、何と守鶴から声をかけられたのである。

 

 我愛羅の精神世界で互いにむきあう二人。 守鶴のサイズはぬいぐるみサイズになり随分と愛らしい感じになってはいるが……

 

「よう、我愛羅……」

 

「お前からコンタクトをしてくるとはな……珍しいこともあるものだな守鶴よ」

 

 守鶴は小さくなった腕を組みふんぞり返る。

 

「……一時は俺様が居なくなったと思って清々したか?」

 

 試すかのような口ぶりの守鶴に我愛羅は落ち着きを孕んだ態度で接する。

 

「ふっ……馬鹿を言え。 お前が居なくなったらそれすなわち俺の死だ……居なくなられるとこちらが困る。 確かに昔はお前の存在を憎んだこともあるが……今はそんなことはない」

 

 素直な我愛羅の態度に守鶴は面を喰らったかのように驚きの表情を見せ、その後安心したかのような表情になる。

 

「……数年前の荒れたガキの頃からえらく成長したものだなぁ? まあ、俺様も今は()()()姿()でしかいられねぇし前みたいにお前に嫌がらせもできねぇ……俺の力の殆どが封印されちまったからなぁ」

 

「……ッ! そのことだが、守鶴よ。 お前は何故俺の中に残れたのだ? 朧気だが俺の感覚では、一度お前の存在を感じられなくなったはずだが……眼を覚ます直前に再度お前が現われ俺に語りかけてくれたことで俺は仮死状態から戻れた。 ……お前が言っていた()()とは誰の事だ? そして賭けとは一体?」

 

 封印されたはずの守鶴が僅かだが己の中にいることに疑問を感じていた我愛羅は本人にそれを確認する。 しかし

 

「悪いが、そのことについては何も言えねぇ……別に契約やらなんやらをしたわけでもねぇんだが、俺のプライドが許さねぇーんだよぅ」

 

 ばつの悪そうにする守鶴。 ぬいぐるみサイズで俯く守鶴は愛らしく見えるが我愛羅はそう言うのには疎く、真面目に目線を合わせる様にしてしゃがみ守鶴へと語りかける。

 

「……そうか……それは絶対に言いたくないことなのか?」

 

「ああ……まあ、時がくれば……と言う奴だ。 然るべきときにネタ晴らしはして良いとは言われている」

 

「ならその然るべき時まで待とう」

 

 素直に待つと即答した我愛羅に守鶴は目を丸くする。

 

「良いのか……?」

 

「仕方があるまい。 俺もお前に強要はしたくない……何故なら……」

 

「何故なら……?」

 

 守鶴のオウム返しに我愛羅は小さく笑みを浮かべ答える。

 

「お前には感謝している……俗に言えば恩を感じているからだ、そんな相手を無下に扱いたくない」

 

 その我愛羅の言葉に守鶴は気味悪そうに後ずさりをして距離を取る。

 

「……バッカじゃねぇのか!? 俺たち尾獣にそんな感情を持つなんて……」

 

「……これが俺の本心だ。 確かに最初こそ恨み、憎み……それらの感情を向けはしたが……しばらくしてお前にも俺達と同じく感情があることを知り、何よりもお前のおかげでかけがえのない友と出会うことが出来たからな」

 

 落ち着いた様子の我愛羅の言葉が嘘偽りがないことに守鶴は気づき、ため息をつく。

 

「……参ったぜ……こんな事ならもっと早くからお前への嫌がらせをやめときゃ、あの爆弾魔にも手こずらずに力の殆ども封印されずに済んだのかもな」

 

 観念した様子で守鶴は両手を挙げる。

 

 その様子に満足したのか我愛羅は立ち上がる。

 

「……さて俺はもう寝よう。 お前からの嫌がらせがないと、夜が随分と静かに感じられてな……疲れも相まって初めてぐっすりと眠れそうだ」

 

 冗談を交えた我愛羅の言葉に守鶴は

 

「けっ……そんじゃまぁ……これからもよろしく頼むぜ、我愛羅」

 

 そう言い背を向ける。

 

「ああ……友よ、お休み」

 

 我愛羅が精神世界から姿を消す直前の最後の言葉に守鶴は目を見開き、鼻で笑いまんざらでもないと上を見上げる。

 

「フンッ……分福……まさかアンタのような奴がいるとは……アンタの言う通り人間も捨てたもんじゃねぇってことか……」

 

 小さく呟いた守鶴は目を閉じ、眠るために小さく身を丸めた。

 

 

~~~~~~

 

 

「ナルトよ、お前ならいつか……その内なる存在と分かり合える時が来るはずだ」

 

 我愛羅の言葉にナルトが拗ねる様に目線をそらす。

 

「そんなこと……出来っかな……」

 

「お前なら出来る。 お前自身も分かっているはずだ……繋がりの大切さを……それを俺に教えてくれたお前が出来ない道理がない」

 

「でも、俺ってば九喇嘛に嫌われてるっぽいし……」

 

 歯切れの悪いナルトに、我愛羅は握手をしている手を引き、ナルトを抱擁する。

 

「安心しろ。 ……今すぐとは行かなくとも、時が経てば変わることもある。 ただお前はお前のやり方で行け……真っすぐとな」

 

 ナルトの背を強く叩いた我愛羅が抱擁を解く。

 

「……っ……ああ、わかったってばよ……俺は俺の忍道を行ってやる、それはそもそも変えるつもりなんてさらさらねぇしなっ!!」

 

 元気を取り戻したナルトの様子に満足した我愛羅は笑みを浮かべる。

 

 

 そして木ノ葉の一同は自里へ向け駆けだす。 見送る砂の三人は彼らの姿が見せなくなるまで、手を振り見送ったのであった。

 

 砂と木ノ葉、2つの隠里は確かな繋がりを今回の件で築き上げたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 それから一日後の早朝…… 

 

 とある北の大地、赤茶色の岩肌が露出している谷が複雑に絡み合うその土地にポツンと切り開かれたかのように広い空間がある。

 

 そこには木造の建物が幾つか立ち並んでいた。 そしてその集落を城下町の様に思わせるように、岩山と石造りの建造物が入り混じった巨大な建物がそびえ立っていた。

 

 建物の外見は殆どが赤茶色の岩肌のため、遠目から見てもそれが建物だとは分からないがその建物の最上階に位置する場所にはベランダのような場所が設けられていた。

 

 そこのベランダからガラスの引き戸を介してみることが出来る部屋の中には、外見からは似合わない様なごく一般的な普通の寝室のような作りの部屋がある。

 

 その寝室のベッドから起き上がる様を見せる影が1つ。

 

「う゛……うううん…………ふぁ~あ……う~ん、良く寝たぁ……」

 

 目をこすりながら起きたその人物は、ゆったりとした寝巻に身を包んだまま自身の黒髪を少し掻き、ベッドから足を降ろして立ち上がる。

 

「…………どうぞ~」

 

 部屋の中に一人いるその黒髪の人物は不意にそう呟き、部屋に置かれたタオルに対して印を結んで掌に集めた水を含ませる。

 

 濡らしたタオルで顔を拭くその人物の背後に位置する扉の前には、いつの間にやら男が片膝を着いて姿を現していた。

 

「おはようございます()()()様……朝食の準備が出来ました」

 

 かしこまった様子の人物は特に忍びのような装束は身に纏ってはおらず、平服のままの姿であった。

 

 その人物の物言いに不満があるのか、サトリと呼ばれた人物はタオルを机に置くと現れた男に向け横目で見て注意をする。

 

()()()……様は要らないっていつも言ってるでしょ~? アンタがそんな調子だから皆も真似して――」

 

 忽然と現れたそのアガリと呼ばれた男性は暗い青色の髪で片目を隠し、白い肌の見た目をしていた。サトリの注意するような口調での文句にアガリは取り繕うように言葉を重ねる。

 

「しかし……サトリ様は我々にとっての救世主の様なお方……っいえ、まさに救世主そのものと言っても過言ではない――」

 

「ストップっ! 全くアンタは……まあ、いいや……朝食あるなら食べにいくよ。 化粧していくから先行ってて」

 

 オロオロとした様子のアガリにサトリはいつもの事だと慣れた様子で手で払うような仕草をすると、アガリはそのまま礼をし扉から素早く出ていった。

 

「……いわゆる副官としては優秀だけど、堅物すぎるのがなぁ……」

 

 ブツブツと呟いたサトリは、寝室に備えられた化粧台の椅子に座り身支度を整え始めた。

 

 

~~~~~

 

 

 数分後、建物内の石造りで出来た廊下を歩くサトリ。 冷たい印象を感じさせる造りの廊下だが、壁には観葉植物の植木鉢などが着けられたりして和やかさを出そうとした形跡が見られる。

 

 そんな廊下を歩き、とある部屋にサトリが入る。その中にはキッチンのような施設と食事をとれるような簡易的な木造の家具が備えられていた。

 

 そのキッチンで皿洗いをしていた大柄で黒い肌に金髪の男性はサトリの来訪に気がつくと、片手をあげにこやかに挨拶をする。

 

「おお、サトリ様!! おはよーごぜぇます!! うちのビニールハウスで今朝取れた野菜でこしらえた朝食でせぁ!! 食べてってくだせい!!」

 

「ああ、おはよう……()()()()は相変わらず元気だねぇ……おお、野菜も二年も作れば見栄えも安定して良い感じになって来てるね……美味しそうだ」

 

 寝起きでテンションが低い様子のサトリだが、ゼンゾウと呼ばれたごつい男性の元気のいい声に目を覚まし、朝食に出されたパンやサラダを口に含む。

 

 もしゃもしゃとその朝食の味を堪能するサトリは目を細め食の幸せを享受し、ゼンゾウもその様子を嬉しそうに見ていた。

 

「美味いなぁ……ゼンゾウホントいい仕事するねぇ……だけど様は要らないって毎回行ってるんだけどなぁ……」

 

「ありがとうごぜぇますサトリ様!! 様付けは癖みたいなもんでさぁ!! 気になさらんでくだせぇ!!」

 

 サトリの文句にゼンゾウはどこ吹く風と言った様子で元気に答える。

 

 小さくため息をついたサトリは、先に朝食を済ませて部屋の隅で待機しているアガリに冷たい目線を向けた。

 

「……誰かさんが癖になる様に様付けを広めるからなぁ~……ねぇアガリ?」

 

「サトリ様は、サトリ様です!! 俺は譲りませんよ!!

 

「はっはっはっ!! アガリがクソ真面目なのは今に始まったことじゃあねぇですからね!! サトリ様も観念してくだせぇ!!」

 

 アガリとゼンゾウの物言いに、サトリはため息をつき、朝食を終えゼンゾウに挨拶を済ませその部屋を後にした。

 

 

~~~~~~

 

 

 朝食を済ませたサトリはまた別の部屋へと移り、紙の資料が束ねて置かれた机に向き合っていた。

 

「畑やビニールハウスの管理は順調みたいだね、ゼンゾウは本当によくやってくれてるよ」

 

「ええ、ヤマジ殿の協力もあり既に幾つかの集落との取引や商売にも行かせるほどです。 誇らしい限りです」

 

 サトリが資料に書かれた作物の収穫量の報告書に目を通して呟いた言葉に、アガリは自分のことのように胸を張る。

 

 仲間思いのアガリの様子にサトリも良いことだと顔をほころばせ、また別の資料を手にしてアガリへと語りかける。

 

「……で、ヤマジさんが斡旋してくれてる任務の方は? 今誰か行ってる?」

 

「ええ、只今山賊退治と、他の集落の用心棒、農業地域への出稼ぎに数名出ています」

 

「OK~皆良くやってくれてるよ~……ん? っこの依頼書は保留の印が押されてるけど……」

 

 サトリが手に取った一枚の紙の中身に目を通す。

 

「くノ一のみで1人から数名を所望……で湯の国での護衛任務……ランク指定はAか。 ……どう思う?」

 

 サトリが資料から片目を覗かせアガリに意見を問う。

 

 アガリは真面目な目つきでサトリからの問いに答える。

 

「怪しいですね。 報酬金が相場より異常に高いうえに、場所が湯の国にある()()()……それにわざわざくノ一を指定している点が尚更……それに」

 

「依頼人が大名ねぇ……怪しさプンプンだわ……アガリ、今出れるくノ一って誰が居る?」

 

 アガリと同意見だというサトリは待機している仲間を確認する。

 

 アガリはまた別の紙を見て確認を取ると

 

「待機しているのは()()()だけ……ですね…………っ無理でしょう」

 

 苦虫を嚙み潰したように渋い表情をし適任ではないと断言する。

 

「無理だな……仕方ない、私が出るよ」

 

 アガリの様子に同意を示し資料を折りたたみ懐にしまったサトリは椅子から立ち上がり背伸びをする。

 

「良いのですか? わざわざサトリ様が出る程では……他のくノ一の帰りを待ってもよいですし、それにサトリ様には()()()()としての動きもあるのでは?」

 

 心配をするアガリの様子にサトリはどこ吹く風かといった様子で答える。

 

「そっちの件は問題なし……ある程度お金さえ積めば自由に動けるし、ここのこともバレないように気を付けてるからね」

 

「そうですか……サトリ様の結界忍術のおかげでここの集落も外部に下手に干渉されずに済んでいます。 本当にサトリ様のおかげで――」

 

「やめやめっ!……アガリは気を抜くとヨイショしてくるからこっちが気恥ずかしくてかなわないわよ……」

 

 赤くなった自身の顔を手で扇ぐサトリは改めてアガリへと視線を向ける。

 

「さて……それじゃあ()の様子を見たら出るとするよ。 忍具の用意頼める?」

 

「勿論です、では急いで支度を済ませますねっ!!」

 

 サトリの言葉にアガリは興奮気味に返事しその場から姿を消す。

 

「イヤ……別にそんなに急がなくてもいいんだけど……ま、いいか」

 

 そしてそのままサトリもその部屋から退出した。

 

 

~~~~~~

 

 

 建物1階に造られた出入り口には岩山に同化するように瓦の屋根があり、その下を通りサトリは外へと出る。

 

 階段を下り地面に足を付けたサトリの眼前には、木造の家屋やそれなりに整備された道が広がっていた。

 

「……改めてこう見ると、頑張ったなぁ」

 

 感慨深くそう呟いたサトリはその集落の様子を歩いて見て回った。

 

 通りすがる人々や家屋に住んでいる住人たちに、サトリが顔を見せると

 

「サトリ様、お帰りなさい!」

 

 とそこに人々は口をそろえて言い、サトリは

 

「様は要らないって」

 

 と訂正をして回った。

 

 集落の人々からの信頼されているのか、サトリは皆を家族の様に接し世間話をする。

 

 そしてしばらく歩き回ったサトリは、とある家屋の前で足を止める。

 

「キョウコ居るかぁー?」

 

 家屋の前で中に向け発したサトリのその言葉に反応するように、玄関の引き戸が開く。

 

 中からは白髪の年老いた男性が姿を現した。

 

「おやおや、サトリ様……お帰りなさいませ。 外套の件ですな?」

 

「ああ、()()()さん……今日はいらしてたんですね、まあそれもあるけどどうせアガリが先に受け取りに来てるだろうし、キョウコに顔だけでも見せとかないとってね……あと言っときますけど貴方は一応外の人なんですから様は本当に付けないでくださいよ……」

 

 サトリがヤマジと呼んだ老人は、サトリの言葉に「カッカッカッ!」と笑って見せる。

 

「この老いぼれにも役割をくださっているのですから、上等な取引相手として真っ当な姿勢でございますよ」

 

「だとしてもなぁ……」

 

「貴方はそれほどの人だということです」

 

 ヤマジの言葉にサトリが顔を歪ませ、納得できないと表情で訴えるが無残にもそれは無視され家の中へと案内される。

 

 先導するようにヤマジが歩き、とある部屋の襖を開ける。

 

 その中には茶髪で小柄の少女が一人手に針を持ち裁縫をしていた。

 

 その少女は来訪者の気配に気づき瞼を閉じたまま、サトリの方へと顔を向ける。

 

「……サトリさま……? お帰りなさい! 外套ならさっきアガリさんが受け取りに来て持っていきました」

 

「ただいまぁキョウコ。 悪いねいつも外套の修理頼んで……あと様はいらないよー?」

 

 サトリは笑顔でキョウコに近づき、隣に正座すると彼女の両手を自身の両手で握る。

 

 サトリの手のぬくもりに安心したのかキョウコと呼ばれた少女は口元を緩ませ、笑顔を見せる。

 

「今日はヤマジさんが色々お話してくれてたの! 他の国の話なんだけどね!」

 

 目を閉じたままのキョウコは年相応に明るく話をし始め、ヤマジはその様子に安心し席を外し、手をつないだままのサトリは優しく相槌を打ちキョウコの話を聞き続けた。

 

 

~~~~~~

 

 

「それでね、アカネさんがアガリさんに『だからお前は背が低い』……っあ、ゴメンナサイ……サトリさま、私ばかり喋っちゃって……」

 

 数十分ぐらい話し込んだ二人だが、キョウコが我に返るとサトリは微笑みながら

 

「全然いいよー? 私もキョウコと話すの大好きだしね……だけど名残惜しいけどそろそろアガリを待たせるのも悪いから行かないとね」

 

 と告げ、キョウコの手を離し頭を撫でる。

 

「……サトリさま……次はいつぐらいに帰ってきますか?」

 

 サトリと離れるのが寂しいのか少し泣きそうな声色になっているキョウコの様子に、天音は彼女の頭を撫でなだめるように優しい口調で語りかける。

 

「ごめんね……次もいつ帰って来れるか分からないかも……今度帰ってきたら直ぐにキョウコの所に顔を出すから、ここの皆と待っててくれる?」

 

「……うん……待ってる……っ」

 

 キョウコはわがままを言わないようにと我慢をする様に唇を小さく噛みしめる。 その様子にサトリは彼女をそっと抱きしめ、落ち着かせるように背中をさする。

 

「……えらい、えらい……キョウコはえらい……ほら、笑顔になって? そうしたら私も嬉しいから!」

 

 瞼を閉じたままのキョウコには見えないにもかかわらず、サトリは笑顔でそう語りかける。

 

「うん……笑顔で待ってるね!」

 

 サトリの言葉にキョウコが笑顔を作るとタイミングを計っていたかのように襖があき、ヤマジが湯飲みを持って現れる。

 

「キョウコちゃん、サトリ様と沢山話して疲れただろう? 私が火の国から持ってきたこのお茶を飲んで少し休憩すると良い」

 

 ヤマジは湯飲みをキョウコに渡すと、サトリと共に家の外へと出ていった。

 

 外に出たヤマジはサトリへと語りかける。

 

「……サトリ様本当にあなたはすごい……尊敬しますよ……」

 

「……やめてください、私は私のしたいことをしてるだけです。 それに私一人じゃ出来ることも限られる。 ヤマジさんが商人や依頼の仲介人として外とのパイプになってくれてるからこそやれていることも沢山あります」

 

「カッカッカッ! ご謙遜を……貴方のおかげで救われた人は数知れず……私めもその一人です」

 

 深々と頭を下げるヤマジにサトリは慌てて顔を挙げさせる。

 

「やめてくださいって……もうっ……それじゃあ私はそろそろ行きます、居る間だけでもいいのでキョウコや皆のことよろしく頼みますね」

 

「ええ、もちろんですとも……」

 

 サトリは照れて赤くした顔を隠すし逃げるようにヤマジに手を振りその場から駆けだした。

 

 ヤマジは再度サトリに向け頭を下げ、キョウコの待つ家へと入っていった。

 

 

~~~~~~

 

 

 岩山の建物の出入り口前までサトリが駆け足で来ると、その足元にクナイが1つ飛来し突き刺さる。

 

 サトリは分かっていたかのように足を止め、出入り口の屋根に腰かけている赤い髪のくノ一に目を向ける。

 

「アカネ、悪いけどそろそろ私出かけるんだけど?」

 

「うるせぇ!! 勝負だサトリ!!」

 

 屋根からそのアカネと呼ばれたくノ一が跳躍し、サトリに向け飛び蹴りを放つ。

 

 サトリはそれを悠々にと躱し、アカネが続いて繰り出す拳打を捌き続ける。

 

「今、上でアガリ待たせてるんだけど――」

 

「フッ! ハァっ!! あんなチビはほっといてちゃんとアタシの相手しやがれ!!」

 

 サトリの事情などお構いなしに殴りぬこうとするアカネの様子に、サトリはため息をつく。

 

「……しょうがないなぁ」

 

 刹那、サトリは体を翻して後ろ蹴りをアカネに放つ。 その蹴りをガードしたアカネは大きく後ずさりをする。

 

「――痛っ……へへ、やりやがるな」

 

 ガードした腕の痺れに、サトリの実力を感じ取りアカネは笑みを浮かべる。

 

「やっぱ、お前に任務を任命しなくて正解だと確信したね……今」

 

 サトリは血の気の多いアカネの様子を再確認しながら、蹴り上げた脚をゆっくりと降ろす。

 

 すると気がつけばサトリとアカネを取り囲むように住人たちが集まり人だかりで輪ができていた。

 

「よっしゃぁあ!! 行くぜぇおい!!!」

 

 群衆のはやし立てる声にアカネは調子を上げ、サトリへと再度殴りかかる。

 

「なんやかんや、皆血の気の多い事で……まあそれは仕方ないとして、ホントお前謀略とか一切無縁そうで何よりだよ」

 

 サトリは突き出された拳を巻き取る様に動き、素早くアカネの腕を背に回して動きを拘束する。

 

 群衆からは「行けェサトリ様ぁ!」「今回は一発ぐらい当てろよアカネぇ!!」などと声がかかる。

 

 声援に気を良くしたのかアカネはチャクラコントロールで全身に力を籠める。

 

「オウラっ!!」

 

 掛け声とともにアカネは後ろに回り込んでいるサトリに腕で肘鉄を繰り出すも余裕で受けられる。 一応衝撃で拘束を解いたがアカネは気に食わない様子でサトリに文句をぶつける。

 

「チィッ……手ぇ抜くんじゃねぇ!! ()()()みたいに本気で来やがれっ!!」

 

 煽るアカネの言葉に、サトリはめんどくさそうに再度大きくため息をつく。

 

「ここは演習場じゃないからね? ……私よりも年上の癖にあまり駄々こねないでよ」

 

 その態度にアカネがこめかみ引くつかせる。 瞬間場の空気が数段重くなった。

 

 瞬間、サトリは何かを察知したのか、その黒い目を鋭くしアカネを睨む。

 

 一瞬群衆が何かを感じ取り歓声が止んだ瞬間

 

「……それは駄目だって言ってるでしょ……」

 

 サトリは小さく呟くと、全身に雷光を纏い身体活性を行う。

 

 刹那アカネはサトリに顔面を勢いよく殴り抜けられ空中を優に数十回転しそのまま地面に叩きつけられた。

 

 シーンと場が静まり返るとサトリが一回大きな拍手をして注目を集める。

 

「はい、おしまい解散!! 皆()()()は守るようにね、破ろうとすればこうなるからぁ!!」

 

 サトリが大きな声で忠告し気絶したアカネを親指で示すと群衆はオズオズと解散していった。

 

「全く……さて連れてくか……」

 

 仕方ないと言った様子のサトリが気絶したアカネを抱えると再度散り行く群衆に向けにっこりと笑顔を作り言葉を放つ。

 

「後、皆様は付けないでよ」

 

 そうしてサトリは建物中に入っていった。

 

 

~~~~~~~

 

 

 アカネを抱えたままのサトリは建物内の1階のとある部屋へと向かう。

 

 その部屋の扉を開けると、外の大きな庭と繋がった大き目の空間が現れる。

 

 その空間では怪我を治療した様子の鳥や、山犬などと言った幾多の動物が思い思い自由に過ごしていた。

 

 サトリの訪問に動物たちは一瞬ざわつくも、サトリは慣れた様子でその空間に置かれたベッドにアカネを寝かせ、部屋主に向けての書置きを残してさっさと出ていった。

 

 サトリが部屋からいなくなると動物たちは、落ち着きを取り戻しまたそれぞれ自由に寝たり遊んだり過ごすようになる。

 

 その部屋から出たサトリは急いで最上階の自室兼寝室へと向かった。

 

 小走りで自室前まで来たサトリが扉を開けると、中ではゼンゾウとアガリが世間話をしていた。

 

 サトリの来訪に気づき、アガリが頭を下げゼンゾウが手を挙げ挨拶をする。

 

「ごめんねアガリ、結構待たしちゃったかな?」

 

 サトリの謝罪にアガリは慌てふためいて反応する。

 

「おやめください!! 私めがサトリ様に謝罪させようなど……!!

 

「がハハっ! サトリ様のことでぃ、アカネにまた絡まれていたんだろうよォ!!」

 

 ゼンゾウの予想した言葉にサトリは

 

「ゼンゾウ正解、お仕置きのために()の部屋に置いてきた」

 

 指をさし同意を示す。 ゼンゾウが褒められたことにニコッとしてアガリに目線を向けると

 

「……やはりアカネはいう事を聞きませんか」

 

 額に手を当てため息をつく。

 

「仕方ないよ、むしろ他の皆が私のことを受け入れすぎだって思うぐらいだし」

 

 悩む様子のアガリの肩をポンポンとサトリが励ますように叩く。

 

 そのままサトリはゼンゾウへと目を向ける。

 

「んで、ゼンゾウは何でここに?」

 

 話を切り替えサトリがゼンゾウへと問うとゼンゾウ懐から折りたたんだ紙を取り出す。

 

「その1階の連絡鳥の区間に例の()()()()からの文が届いていたんでぃ、報告しようと待ってたんでぃ!!」

 

「ああ、別に紙だけ置いといてくれたら良いのに……わざわざありがとうね、下がって良いよ」

 

 サトリのねぎらいの言葉を受け文を受け渡したゼンゾウは頭を下げ、部屋から退出していった。

 

 受け取った文を広げ内容を確認するサトリ。

 

「例の協力者、仮面の忍びから……ですね……どういった内容ですか?」

 

 その様子を見ていたアガリが文の中身を問うとサトリは少し嫌そうな顔をして答える。

 

「……木ノ葉の銀狼(ぎんろう)・白と日向ヒアシが雷の国から里に戻ったって報告みたい……木ノ葉って割と任務先の湯の国に近いからなぁ……まあ一応遭遇しないと思うけど」

 

「それは、私には大変さが分かりかねる内容ですね……それほど厄介なのですか? その白という者と日向は」

 

「厄介というか今、私が出来れば会いたくない人間が白だからねぇ……まあ最悪大丈夫でしょ……っうん」

 

 サトリは覚悟を決め、アガリが用意していた暗い色をベースにした忍び装束を着込み始める。

 

 腰にポーチをつけ、腕と脚にそれぞれ黒い鉄輪を付ける。

 

 そしてアガリがサトリに掲げた小さな箱を開け、中身の片眼鏡を装着する。

 

「よしっと……後外套は――」

 

「こちらです」

 

 丁寧にたたまれた外套をアガリが広げそこにサトリが腕を通す。 外套を身に纏ったサトリを見てアガリは呟く。

 

「……やはり随分とボロボロですね、毎度思いますが新調しなくて良いのですか?」

 

「いいよ、折角キョウコが仕立ててくれた一点ものだからね。 ついでに中に仕込んだ結界忍術の件もあるし、使えるうちは修理してもらって私が使いたいの……かなり気に入ってるしね」

 

 笑顔を見せたサトリは、部屋の金庫の中にしまった緑色の液体が入ったガラス瓶を取り出し腰の帯へとつける。

 

 そして身支度を済ませたサトリが姿見で容姿を確認するとそのままガラス戸を開けベランダに出る。

 

ここ(集落)の結界忍術もかけ直しておくよ、また帰りが何時になるか分からないし」

 

 サトリが印を結ぶと、サトリが居る建物の頂点を軸にドーム状の透明な膜がうっすらと広がり数秒後にその膜は見えなくなる。

 

「よしっと……それじゃあ、行ってくるよアガリ。 皆の事よろしく頼んだ!」

 

 サトリがアガリに手を挙げ挨拶をすませると、そのまま駆け出しベランダの縁を飛び越え姿を消す。

 

 

 

「行ってらっしゃいませ、サトリ様……いえ……()()()()()

 

 

 

 アガリが頭を下げそう呟いた瞬間に、歪んだ朱い雲の模様が描かれた外套を身に纏った人間が、空へと向かい雲の合間へと姿を消したのであった。

 

 

 




今回出たオリキャラのまとめ

アガリ25歳(主に副官業)真面目な性格、暗い青色の髪で片目を隠し、白い肌をした男性、身長は女性のアカネより低い

ゼンゾウ40歳(畑の管理、調理担当など)金髪 ごつく大柄で黒い肌に金髪の男性 義理堅い

アカネ22歳(くノ一)赤い髪 男勝り 集落内で唯一サトリを様付けしない

キョウコ6歳(子ども)茶髪 盲目 集落での裁縫、仕立ての仕事を手伝っている。 

ヤマジ70歳(商人) 白髪、普通に老人の風貌。 他里にも出されている任務や依頼などをサトリたちの元へ横流しし斡旋している人物


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7:ドキドキ♥ ほぼくノ一だらけの湯の国大騒乱~前編~

 ナルト達が木ノ葉の里に帰還したその日。

 

 暁のサソリから得た情報をサクラが綱手へと報告し、カカシ班は一旦解散することとなった。

 

「……俺はナルトとサクラとは別の任務ですか」

 

 一人火影室に残ったカカシは若干不服そうにそう綱手へと告げる。

 

 大きなため息をついた綱手は手持ちの資料をバシバシ叩きながらこちらも不満そうに声を荒げる。

 

「私も好きでこんな采配をしているんじゃない……上のご意見番の意見も取り入れながらなこっちも譲歩して――」

 

「その割にはそのご意見番の二人相手にナルトの事で、声を荒げていた様子でしたが……」

 

「チッ……聞いていたか。 ナルトには人柱力としてでなく、あいつ本人に不思議な力があるように私は感じている。 暁との接触にリスクが伴おうとも、あいつはそれを乗り越え成長すると私は信じている」

 

 綱手の目線は窓の外に向けられる。 綱手のナルトに誰かの面影を重ねる様子に、自身にも心当たりがあるのかカカシは仕方ないと肩をすくめる。

 

「ま、火影様の命令ですからね……だとしても俺の代わりに誰に二人の面倒を見させるおつもりで?」

 

「……先の任務で兆しを見せた九尾の暴走を抑えることができ、なおかつカカシ、お前に匹敵するほどの奴と言えば木ノ葉でも一人しかいないだろう?」

 

「ああ……なるほど……」

 

 納得した様子のカカシは、自身の任務について綱手に確認を取り部屋を後にしようとする。その時カカシの背後で待機していた暗部の忍びに対してカカシは肩を叩き呟く。

 

「任せたぞ……テンゾウ」

 

「……ええ……上手くやって見せますよ先輩」

 

 カカシが退室すると、その暗部の忍びが綱手の前へと出る。 その暗部の忍びに向け綱手は告げる。

 

「話は聞いていた通りだ、お前にはカカシの代行をやってもらう。 これは暗部としてでなく通常の任務のために、お前には新たにコードネームを与える……『ヤマト』……三代目在来時からの優秀な使い手との噂の通り、その働きに期待しているぞ」

 

「ご期待に応えて見せますよ、カカシ先輩の代わりという光栄な役回りですからね」

 

 綱手の言葉に、面を外したヤマトはにっこりと笑顔を見せて了承の意を示した。

 

「後の件についてはこの資料にまとめてある。 くれぐれもナルトのことを頼んだぞ」

 

「了解しました」

 

 綱手の申し訳なさそうな顔に、ヤマトも火影の忙しさを思い素直に部屋を出ていった。

 

 その後、綱手と資料の束とのにらみ合いが始まり……

 

 数分後、綱手はとある依頼書の内容に目を留める。

 

「……湯の国で大名の所有する宝が盗まれただと……? 遊郭街での活動……とくノ一を推奨……ふむ……例の件もある……よし」

 

 綱手は任務受付場へ回す資料からその一枚だけを抜き出す。

 

 そして紙に何かを書き込んだ綱手だが、部下のシズネが全然帰ってこないことに苛立ちを覚え

 

「シズネぇっ!! まだ戻ってこないのかぁ!?」

 

 火影屋敷に響くほどの大声を挙げる。 すると数秒後すぐにシズネが部屋の中へと慌てて入ってくる。

 

 その様子は身だしなみが崩れ、頬には墨のような跡。 口元は何かで濡れていたのかほんの僅かに光沢を帯びていた。

 

 いそいそと身だしなみを整えるシズネに対して綱手はこめかみをヒクつかせる。

 

「……火影を差し置いて資料室でお眠とはいい度胸じゃないか……なぁシズネ?」

 

「あひィー!!! いいいいいいいえっ!!!! そんなことは滅相もありmっませんっ!!!」

 

「っブー!」

 

 口調はとても優しいものだが視線だけで並みの忍びを卒倒させるような圧を発する綱手の様子に、シズネは足元の豚のトントンと共に敬礼をする。

 

「はぁ……まぁいい。 このまとめた任務資料を受付場の係の所まで運んでくれ、後この紙に書いた忍びを正午にここに集めろ」

 

 綱手がピッと弾くように投げ飛ばした紙をシズネは拍手の形で受け取り、反省の意味を込めそのまま深々と頭を下げる。

 

 シズネはそのまま、資料を両手で持ち上げトントンが扉を開け部屋から出ていった。

 

「さて……しばらくは邪魔が入らんだろう……正午まで私も目を閉じて休憩を取ろう……なに決して……ねむる……わけ……じゃ……」

 

 独りになった綱手は、椅子に深く腰掛け誰かに言い訳をするように小さく呟きながら重いまぶたの誘惑に抗わずに意識を手放したのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 ところ変わって木ノ葉の演習場の一つ。

 

 そこには組手を交わす二人のくノ一が居た。

 

「ふっ!! はっ!!」

 

 片方のくノ一が鋭く放つ掌底は、その相手には効かないのか悠々と避けられてしまっている。

 

「動きが鈍って来てますよ。 ほら、防御が疎かです」

 

 余裕があるくノ一は軽く払うような手の動作で、相手のくノ一の顔を軽くはたく。 攻めっけばかりだった方のくノ一はそれをまともにくらい仰け反ってしまう。

 

「白眼を使っててその程度ですか? 足が止まっていますよ」

 

 そのまま放たれた軽い足払いで、仰け反った側のくノ一は地面と熱い接吻を交わす。

 

 その様子を木陰で見ていたくノ一が少し引き気味に呟く。

 

「……任務帰りに、二人が修行してるからって見に来たけど……白ってハナビちゃんに対してスパルタ過ぎじゃない?」

 

 その呟きに反応するように汗一つ掻いていない白は、呟いたテンテンに目線を向けた。

 

「いえ、これでもまだまだですよ。 部下の実力不足は上司の失態、僕はハナビなら出来ると信じていますので。 ……いつまでも寝ころんでいては敵に頭を踏みつぶされてしまいますよ?」

 

 目線はテンテンに向けたまま、白はうつ伏せのハナビの頭に向け足を踏み込む。

 

 慌てて跳ね起きて踏みつけを避けたハナビは荒い呼吸で虚ろな表情のまま、柔拳の構えを取り白と相対する。 ハナビの様子はどうみてもフラフラで限界の様子である。

 

 ……上忍ベストに身を包み木ノ葉の上忍となった白は、時間がある時に第零班の部下である日向ハナビに対して修行をつけている。

 

 日向の跡目であるハナビが、上忍とはいえ日向と関係の無い白の修行を受けることに日向の年老いた上役たちは顔をしかめるが、ハナビの知らないところで日向ヒアシがそれらの不満を受け止めていた。

 

 そんなヒアシの一族としての葛藤を思い、白は生半可な鍛え方を良しとしていなかったのだ。

 

 事情を知らないテンテンからしたら肝が冷えるほどスパルタになってしまっているのだが。

 

「流石に体力の限界ですか? もうやめますか? 良いんですよ休んでも、ですが貴方が止まっても()が居たら貴方を待ってはくれないと思いますよ?」

 

 白は拍手をしてハナビの意識を自身へと向けさせ、言葉で煽る。

 

「……っ!!  ぜぇ……ぜぇ……ぉえ……ま、まだまだぁ……まだまだぁあああっ!!」

 

 その言葉で瞳に小さく光を灯したハナビは、がむしゃらに叫び白へと突進する。

 

 瞬間白は所謂猫だましをハナビの眼前へと高速で詰め寄り行いハナビの意識を削る。

 

「っ!! あぅ……っ」

 

 意識がもうろうとする中での、意識外からの衝撃にハナビが崩れ落ちると白はその体を抱え抱き上げる。

 

「うん上出来です。 ここ一番で大切なのは意志の強さ、その点ハナビは悟君の話題を出せば限界を越えられるのでいい子ですね」

 

「えげつな……っ」

 

 意識が飛んだハナビを木陰に移動させ寝かせる白へテンテンは再度引き気味に呟く。

 

「テンテンさん、任務帰りとはいえ余裕そうですね。 僕と手合わせでもしませんか?」

 

「おっと……余計なこと言っちゃったかな……まあ、いいや。 やってやろうじゃない!!」

 

 白の提案に、テンテンは袖をまくり立ち上がる。

 

 お互い向かい合うと、組手の合図として対立の印を結ぶ。

 

 そのまま、小さな風が運ぶ木の葉が落ちる音を合図に互いに距離を詰め腕をぶつけ押し合う。

 

「っアンタもこの前雷の国から帰ったばっかりなのに元気そうね!」

 

「あちらでは書類仕事ばかりで身体がなまってしまって……僕も風影奪還任務に行きたかったですね」

 

 テンテンが距離を少し開け放った回し蹴りを白は前進しながらしゃがみ込んで避け、軸足を掴んで引き倒す。

 

「おっと……なんの!」

 

 テンテンは空中で身体を回転させ、地面を弾くようにして手で押し返し跳ねて白と距離を取る。

 

「あの天音小鳥と会ったそうで、悟君について何か手掛かりは得られたんですか?」

 

「全然! っリーがあばらを砕いたのに、少ししたらピンピンしてたってサクラが言ってたし……その後死にそうな状況になってたみたいだけど、多分生きてるんじゃないかしら。 暁は化け物揃いみたいだしねっ!」

 

 テンテンと白が子気味の良い音を弾かせながら、互いの拳を撃ち落しつつ攻防を続ける。

 

「っそう言えば、天音小鳥……と戦ってみて感じたことがあるんだけど……っ」

 

「それはなんですか?」

 

 白の鋭く放った左右の拳の三段突きにテンテンが防御の姿勢を崩されると互いに両手を掴み合って押し合いの形になる。 テンテンの方が姿勢を低くしたまま会話は続く。

 

「うぐぐっ……何か変な違和感というか……始めてあった気がしない……既視感みたいなのがあって……帰りにネジも同じことを言ってた……っ」

 

「そうですか、具体的な例はありますか?」

 

 淡々とした白の様子に、テンテンも負けん気で八門遁甲第一開門を開き押し返す。

 

「アイツ、リーの体術、木ノ葉旋風を真似したりサクラの話だとあのサスケの術とかも真似してたみたいで……もしかしたら」

 

「っなるほど、相手の強みを真似するコピー忍者タイプ……カカシさんみたいなものですね。 ならばかつて悟君と交戦した彼女がその動きを取り入れているから既視感を感じたという可能性も十分ある……」

 

「そうかもねっ!!」

 

 テンテンの力押しに押され気味なった白は、押し合いから逃れテンテンから距離を取る。

 

「直接悟君と会っている可能性がありそれを考慮するとやはり、一度生け捕りにして本人の口から所在を吐かせてみるしか手がないようですね……生きていればですが」

 

「だけど強かったわ……三人がかりでも、何だかまだ隠し手を忍ばせてそうだったし」

 

 二人は再度接近し、拳打を交える。 身体能力を向上させているテンテンだが、素の技量は白の方が上手のため力押しがあまり効かず攻撃が受け流されていく。

 

 白の隙を作るための早く軽い拳がテンテンの鳩尾にあたり、テンテンが一瞬仰け反ると白はテンテンの脇と首を両腕で囲むようにして締め押し倒す。

 

「うぐっ……ちょっ……極まってる……ギブギブっ!」

 

「……もう少し頑張って抵抗してみるのも――」

 

「無理無理無理っ!!」

 

 勢いよくタップするテンテンの様子に仕方なさそうに絞め技を解いた白は、組手の終了を告げる和解の印を作りながら腰を落としているテンテンを引き上げ立たせる。

 

 ぜえぜえと息を整えるテンテンの様子に白が少し笑みを浮かべる。

 

「テンテンさんも強くなりましたね」

 

「……もしかして今の組手の感想? 嫌味にしか聞こえないんだけど」

 

「いえいえ、かつてはもう少し楽に勝てていたので成長したなぁ……という感想です」

 

 悪気もなくにっこりとそう告げる白に対してテンテンは苦笑いを浮かべた。

 

「はぁ……あの施設は天才を集る集会場なのかねぇ……」

 

 テンテンが呟いた冗談は悟と白を含めたものだが、実際再不斬とマリエも居るのであながち間違いでもない。

 

 そんなこととはつゆ知らずテンテンが気絶しているハナビの近くに腰かけると、ふと新たな人影が演習場に現れる。

 

「ここに居ましたか探しましたよ、白、テンテン」

 

「シズネさんでしたか、何か御用ですか?」

 

「えっ? ……私も?」

 

 姿を現したシズネに驚くテンテンと目線だけを向けながら水筒から水を飲む白。 シズネは簡潔に連絡を告げる。

 

「綱手様から正午に火影屋敷まで来るようにと……私は他に紅班も集める様に言われていますので。 では」

  

 シズネは連絡を済ませると素早くその場から去っていった。

 

「……休む暇もありゃしないってね」

 

 テンテンが肩をすくめる。

 

「いいじゃないですか、任務も修行の一環ですよ」

 

「ハハッ……任務のために修行して……その任務は修行でもある……って悟みたいなこと言ってるわね白」

 

 ケロッとした白の様子に、テンテンは乾いた笑いを浮かべたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 正午、火影の屋敷前に集まったテンテンと白。

 

「ガイ班でなんで私だけが呼ばれたんだろう?」

 

「さあ……僕にも見当がつかないですね」

 

 雑談を交えながら二人が綱手の部屋の前まで来る。

 

 白が扉をノックをすると、部屋の中から物音が少しして

 

「は、入れ!」

 

 綱手のぎこちない返事が返ってくる。

 

(寝てましたね)

 

 白が小さく笑みを浮かべながら扉を開け中に入ると、片頬を赤くした綱手が机でどっしりと構えていた。

 

(綱手様、寝てたわね)

 

 テンテンも白と同じ感想を浮かべながら二人は平行に並び立つ。

 

「……後は紅班の班員も呼んでいるはずだが……」

 

 綱手がそう呟くと、開けっ放しの扉からシズネが姿を現す。

 

「紅班、連れてきました……てっあー綱手様! その顔寝てましたね!!?? 私の居眠りをあれだけ叱っておきながらぁ!」

 

「うるっさい! そんな事よりさっさと中に全員入れて扉を閉めろ!!」

 

 シズネの指摘に綱手が有無を言わさず、言葉を重ね黙らせ話を進める。その様子を見慣れたの光景だとその場の木ノ葉の忍びは皆心を一つにしていた。

 

 そして綱手の前に白、テンテン、日向ヒナタ、犬塚キバ、油女シノが並び立ちシズネは綱手の側へと移動した。

 

「おっほん……ではお前たちにはとある任務を受けて貰う、シズネ」

 

 綱手が資料をシズネに渡し、それが各員に配られる。

 

「えーとナニナニ……湯の国の遊郭街!? っ……おっほん……で大名の宝の奪還が目的ねぇふんふん」

 

 遊郭街の単語に一際強く反応を示したキバだが女性陣の冷めた目線で冷静さを取り戻しクールさを取り繕う。

 

「遊郭街での活動を円滑に進めるために、依頼書ではくノ一での活動を進めている。 俺とキバは恐らく外でのバックアップと言ったところだろう」

 

 冷静に内容を分析するシノの言葉にキバは落胆の色を見せる。

 

 シノの言葉に綱手は満足そうにする。

 

「話が早くて助かる。 キバとシノは遊郭街の外で、残り三名の補助を遂行してもらうつもりだ……言っとくが中には絶対に入るなよ?」

 

 後半の綱手の指摘に、キバは息を呑む。

 

 するとヒナタが手を挙げ発言をする。

 

「あの……とこで、どうしてくノ一は私と白さんとテンテンさんなんですか? こういう所はえっと……その……もう少し大人の方が行った方が適任なんじゃないかと……」

 

 少し照れながらのヒナタの発言に綱手は深刻な顔を見せる。

 

 一同は息を呑み、綱手が口を開くのを待つ。

 

「……白……先日お前が雲の隠れ里近くで任務にあたっていた時、失踪者についての話を聞いたはずだ」

 

「……ええ、そうですね。 詳しい内容までは分かりませんでしたが確か湯の国での任務に当たった数名が戻ってきていないとか……今回の件とそれが関りがあるということですか?」

 

 白の返事に綱手は大きく頷き肯定する。

 

「……各隠れ里でそういった話があるらしい……それで探りを入れるために一人、木ノ葉からも先日から優秀なくノ一の暗部をその遊郭街に忍び込ませたのだが……っ」

 

 悔しそうにしながら話す綱手の様子にテンテンが口を挟む。

 

「まさか……帰ってきていないんですか?」

 

「ああ……そのまさかだ……だがそいつは消息を断つ前に、1つの文をこちらに送っていた……これがそれだ」

 

 そうして綱手が広げて見せた文には……

 

 ただひたすらに『愛』という字が書き連ねられていた。

 

 血気迫る狂気的なその愛という字の群に、キバとヒナタ、テンテンが軽く悲鳴を上げる。

 

「……おや、どうやら一部読み取れる文章がありますね」

 

 白がまじまじとその文を観察すると目に付いた文章を読み上げ始める。

 

「『私は愛を知らなかった』『愛の深さ』……『今、とても幸せ』……っ忍びの文で目にすることが一生無さそうな文章ばかりですね」

 

 流石の白も少し引き気味になったその文を綱手はしまい込み、話を続ける。

 

「……そのくノ一はとても優秀であった……かなりストイックな性格で実力も上位のものだ。 そして自身の感情を抑えこむことを当たり前としていた」

 

 綱手の言葉にシズネが反応を示す。

 

「そんな暗部の彼女が……このような文を……っ?」

 

 信じられないといった様子のシズネ。 綱手は真剣な目をして口を開く。

 

「恐らく、精神を犯すタイプの幻術か何かだろう……それも暗部が対応できないほどに恐ろしく高度な……対抗手段のカギは文に書かれた……」

 

「愛の深さ……?」

 

 シノの疑問形の呟きに綱手が頷く。

 

「恐らくそうだろう、そこで私の偏見で愛の深さを基準に三名……選出した」

 

「それが私とヒナタと白ってことですか……? 偏見を理由にって……」

 

 テンテンがあまり納得いっていない様子を見せるが綱手は構わず話続ける。

 

「大きな愛は白、中ぐらいの愛はヒナタ……小さな愛をテンテン……そう言う風に位置づけ、各自の反応を元に遊郭街での調査に当たれ」

 

 真面目にとんちんかんなことを言い始めた綱手に、テンテンが抗議する。

 

「なんで愛に大中小を着けてるんですか!? ていうか基準とかは!? なんで私が小なんですか、胸ですか!?」

 

 テンテンの抗議の最中、白だけは小さく「あ~なるほど~」と納得した様子で呟いていた。

 

 ツッコミに対して綱手は

 

「言っただろ、私の偏見だと。 愛が深ければ術にかかりやすいのか、浅ければかかりにくいのか……はたまたその逆か。 それらの調査も兼ねてお前らを任命したのだ。 あと胸の大きさなら白が中になるだろうな」

 

 冷静に答える。 地味に精神的にダメージを負うテンテン。

 

「クッ……サクラ……サクラには負けていないハズ……」

 

 そう何やら虚ろに呟くテンテンを他所に綱手は話を続ける。

 

「可能であれば暗部のくノ一の回収も頼む。 何事もなければ素直に依頼書どうりに事を進めればいい。 だが必要であれば任務を破棄して帰還しても構わない、無事に情報を持ち帰ることが最優先だ……以上」

 

 綱手は「質問はあるか?」という表情を見せる。

 

 キバが手を挙げる。

 

「つまり……俺たちは何かあったときに三人を回収する係ってことっすね」

 

「そうだ……だが、愛とかの事情に関係なく男であるお前たちがその精神攻撃に耐性がある場合もある。 三人の様子見次第では、シノと共に内部に踏み込め」

 

 綱手の指示に、キバは小さくガッツポーズをする。 ……年頃の男子なので仕方がない。

 

 少しの沈黙が続き、綱手が話を終えようとすると……

 

 考える素振りをしていた白が手を挙げる。

 

「……綱手様、一人同行をお願いしたい忍びがいるのですが……よろしいでしょうか?」

 

「……そいつは誰だ?」

 

 綱手の言葉を受け、白は部屋の扉に向け声をかける。

 

「入ってきたらどうですか」

 

 すると扉が開けられ…… 

 

 

 

 

 

「ハナビ!?」

 

 

 

 

 ヒナタがその人物に驚き、声をあげる。

 

 綱手は信じられないといった様子で白へと顔を向けると、白は綱手へと近づき耳打ちをする。

 

「僕の予想が正しければ恐らくですが彼女の存在が必要となる可能性があります……どうか許可を」

 

「だが……里外に日向の跡目であるハナビを出すわけにはいかない……そもそもまだ幼すぎるだろう」

 

「……彼女については僕が責任を取ります。 大丈夫です、彼女は強い」

 

 ひそひそと会話を続ける綱手と白。 傍らでハナビと紅班の班員も話をしていた。

 

「ハナビ、盗み聞きなんて……っ!」

 

「姉様、私も任務に連れていって下さい! 外で経験を積んで少しでも強くなりたいんです!」

 

「オイオイ、ヒナタの妹ちゃんよぉ……下忍には荷が重いぜ? 何てったってAランク指定の――」

 

「うっさい変態犬っころ! 遊郭街って単語にいちいち反応してるの気持ち悪いのよっ!! 姉様の事も普段からそういう目で見てるんじゃないでしょうね!?!?」

 

「なるほど、一理あるな。 キバは自身の情緒の制御が拙い。 それを見抜くとは中々に見どころがあるくノ一のようだ」

 

「おいシノ!! 何てめぇもこのガキンチョに同調してんだっ!?」

 

「ハナビ、言葉遣いが悪いわよ!!」

 

「シノさんは冷静そうで犬っころ忍者よりは信頼できそうね」

 

 ワイワイ騒ぐ四人の様子を見た綱手の苦虫を噛み潰したような表情に白は説得するために肩に手を置いて呟く。

 

「ヒアシさんには僕から話を通して起きますので……彼女の力が必要なんです」

 

 真剣に諭してくる白の剣幕に綱手の大きなため息をつく。

 

「わかった……わかった!! 良いだろう、日向ハナビの同行を認める! だがあの悟に憧れているハナビの事だ、無茶は絶対にさせるなよ?」

 

「ええ、任せてください」

 

 綱手が折れて許可を出した事でハナビは無邪気に喜び、姉であるヒナタは白に抗議の目線を向けるが、さらりとスルーされてしまう。

 

 結局その後、湯の国に向かう前に白とハナビ、そしてヒナタは事情を説明するために日向の屋敷に向かう事となった。

 

 

~~~~~~

 

 

「――という訳で、ハナビさんを任務に同行させようと思うのですが」

 

 ヒアシの自室で白はヒアシと向き合い事情を説明する。

 

 ただその説明した内容は単純に「経験を積ませるため」と言った内容を仰々しく語っただけであり、到底父を説得できるものではないと傍から聞いていたヒナタは思う。

 

 白の話を腕を組み黙って聞いていたヒアシは、伏せた目を開けハナビを見る。

 

「……ハナビ、お前の言葉で俺を説得して見せろ」

 

 ヒアシの視線がハナビに注がれ、ハナビは息を吞みながらも自分の言葉を口にする。

 

「……私は、強くなりたい……力だけじゃなく、確かな経験を持って多くを守れる忍びになりたいのですっ! ……父様が立場上、跡目である私が無茶をするのは良しとしないのも分かります……でも……私も、我儘を言ってても日向が、皆が大好きなんです! 跡目として、この手の届く範囲、この家を守れるだけの力を得るために……だから……お願いします、父様。 任務に行く許可を下さい!!」  

 

 勢いよく土下座をして懇願するハナビ。 ヒアシは娘のその態度に小さく息を漏らし口を開こうとする。

 

 ――瞬間襖が開き、日向ナツが姿を見せる。

 

 部屋の中の4人の視線がナツに向くと、ナツが涙をボロボロと零しているのが見て取れる。

 

「……イヤですよ……ハナビ様……ハナビ様じゃなくても、私が……他の皆がハナビ様を守ります! だからっ……」

 

 ナツはハナビにすがる様にして目線を合わせる。 ナツは覚悟を決めた表情で言葉を紡ぐ。

 

「無茶は……させません、例えヒアシ様が許可を出そうとも……誰が敵に回ろうとも……私は……私はハナビ様を危険な目には会わせないためなら何でもしてみせます……っ!」

 

 ナツは言葉を述べた瞬間に、ハナビを連れ去る様に手を引き部屋の外へと出ていく。

 

 白とヒナタがそれを追おうとするも

 

「……行かせてやってはくれないか」

 

 ヒアシがそれを制止する。

 

「ですがお父様……」

 

「……ヒアシさんがそういうなら僕は待っていましょうか……」

 

 心配するヒナタを他所に白は出されていた茶を飲むために、落ち着いて座る。

 

「白さんっ!」

 

「ヒナタよ、よい……そうだな、お前にも話しておいた方が良さそうだな……ナツの事を」

 

 慌てるヒナタを落ち着かせるように、ヒザシはゆっくりとした口調で語り始める。

 

「ナツさんの事ですか……?」

 

「ああ、ナツがああも過保護なのは……私の妻との約束があるからだ、そして私のせいでもある」

 

「お母様とお父様が……?」

 

「お前も良く知る通り、お前たちの母は余り身体が丈夫ではなかった……その世話係として、若きころのナツが身の回りの手伝いをしていたのだ。 その時に――」

 

 昔を振り返る様にヒアシは言葉を続けた。

 

 

~~~~~~

 

 

 ……十数年前

 

「奥様……あまり無茶をなさらないでください……っ」

 

「これぐらい平気よ! っゴホゴホ」

 

「お母様……っ!」

 

 日向の屋敷の庭、ヒナタの母は幼きヒナタと遊ぶために蹴鞠をしようとするもせき込んでしまい態勢を崩す。

 

 心配するナツが肩を貸して縁側に座らせると、ヒナタも心配して座る母の膝に寄り縋る。

 

「ごめんなさいお母様……私がお母様と遊びたいなんて言ったから……っ」

 

「いいのよ、ヒナタ。 私は……我慢するのが嫌いなの……堅物なあの人(ヒアシ)とは違ってね!」

 

 ヒナタを安心させようと、ヒナタを大きくしたような容姿の母のウインクが炸裂するが

 

「奥様、無茶は駄目です。 ヒナタ様のことは私にお任せください」

 

 ナツは問答無用でヒナタの母を抱えて部屋の中へと連れ戻す。

 

「あら、ちょっとナツ……! 降ろしなさい、降ろしなさーい!」

 

 暴れる奥方だが、体力の無さが幸いして現役バリバリのナツには何の影響もなくそのまま部屋へと連れ戻されてしまう。

 

(お母様……やっぱり……無茶しちゃうんだ……っ)

 

 その様子を見ていたヒナタは自身が母親に迷惑をかけていると錯覚してしまう。

 

 母と遊べない……父はつらい修行を課してくる……途端にヒナタは子どもながらに息苦しさを感じて、衝動的に屋敷から飛び出してしまった。

 

 戻ってきたナツは庭にヒナタが居ないことにすぐに気がつく。

 

「ヒナタ様……? ヒナタ様っ!」

 

 慌てたナツは、小さなヒナタの痕跡を白眼で追い屋敷から駆けだす。

 

(なんてことだ……私が目を離したりしたから……っ!)

 

 ナツは自責の念に駆られながら全力で周囲の捜索に赴く。

 

 一方ヒナタは小さいながらに混乱しつつも、自身の衝動に従い小さな公園へとたどり着いていた。

 

(前にナツさんと来た公園……お母様が無茶しないように、私にお友達が出来れば……っ)

 

 自分との関わり合いが母を傷つけるなら、自分が変わればいいとヒナタは行動を起こす……

 

 その行動が必ずしも良いものになるとは限らないが。

 

 

………………

…………

……

 

 

 ナツが息を切らし、ヒナタの足跡を追い公園へとたどり着く。

 

 白眼により、公園に踏み入りながらヒナタの姿を確認したナツは顔を青くする。

 

「ヒナタ様!! ……ご無事で……!?」

 

 怪我を負い土にまみれたヒナタは、里でも忌み嫌われるうずまきナルトと狐のお面を付けた不気味な子どもに囲われていたのだ。

 

 ヒナタの目元は赤くなっており涙を流した後も確認して、ナツは怒りに支配される。

 

 ヒナタがナツの姿を確認し何かを言おうとしているが、ナツの耳は届かずその柔拳が子ども二人に炸裂。

 

 公園の植え込みに叩き込み、ナツは問答無用でヒナタを抱え公園から飛び出したのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

「申し訳ございませんでした!!!!!」

 

 床に額を押し付けナツは布団から上半身を起こしたヒナタの母親に謝罪をする。

 

「……」

 

 ヒナタの母親は自身の布団の傍らで疲れから眠ってしまっていたヒナタの頭を撫でながらナツに目線を向ける。

 

「貴方を攻めはしないわ……この子なりの考えがあってのことでしょうし……何より屋敷から出ただけで、そこまで切羽詰まったりしなくても」

 

「いいえ!! 私が目を離したことで宗家のヒナタ様が怪我を負ってしまい……九尾の妖狐とも接触してしまいました……腹を切ってでも――!!

 

「いい加減になさい!!」

 

 奥方からの 責でナツは顔を挙げる。

 

「ナツ……貴方はその額の呪印があるから……この子を仕方なく守っているの?」

 

「そんなことは滅相もありません……っ! 体が強くない奥様がやっとのことで授かったお命なのです、宗家とか分家など関係なく私が守らなければいけないと、私が……心に強く思っているんです!」

 

 涙を流して必死に話すナツに優しい声色で言葉がかけられる。

 

「……確かに私もヒナタが大事よ……? だけど、何でもかんでも大人が代わりにすれば良いという訳でもないのよ。 日向の一族のものだからこそ……いえお家など関係なしに子どもというものは強く、自立しようとするものなの……そのチャンスを奪っては行けないわ」

 

「ですが……っ!」

 

「それに……屋敷の外でも里の中……そこは敵が居るわけでもなく、同じ里の『家族』がいるのよ。 妖狐の子相手だろうとも、この子はその出会いを成長に繋げられると信じているの」

 

 言葉を失ったナツをヒナタの母親は優しく抱きしめてあげて、頭を撫でる。

 

「貴方は少し……真面目過ぎるのよ、肩の力を抜いてごらんなさい」

 

「奥様……っ」

 

 まだ若き頃のナツは、自身の感情に飲まれるままに大声で泣いてしまう。

 

 感情の渦はナツの心を埋め、この時の奥方の言葉を芯で理解することは出来なかった……

 

 そして

 

 

 

 

 

 

「お二人目……ですか、そんないつの間に……奥様の体の調子は未だ良くは……っ」

 

「この子はね……私みたいに……活発で、そして綺麗で笑顔の似合う丈夫で元気な子に育って欲しい……ふふふ、そうナツ、堅物な貴方さえも笑顔に出来るそんな子に。 ……誰かを安心させてあげられる『ヒナタ』……そしてこの子は皆の笑顔を咲かせる『   』」

 

 

 

 

 

 

 

「駄目です奥様……っ息をしてください、深呼吸を……駄目です駄目、駄目ぇ……イヤぁっ!!!」

 

「っ娘……たち、を……おね……がいね……ナツぅ……」

 

 

 

 

 

 

 

「……ヒアシ様……っ!!! 貴方が無茶をさせなければ、奥様はっ!!!」

 

「……っ分家の者が口出しをするな!!!!」

 

「っうぐ……がぁっ!! 頭が……っ!」

 

 

 

 

 

「ヒナタ様を下忍に!?」

 

「……決定事項だ。 ナツ、お前もヒナタの面倒はもう見なくて良い、ハナビだけを見ろ」

 

「……っ」

 

 

 

 

 

(奥様の願い……大丈夫、ヒナタ様には優秀な上忍がついている……私は……せめてハナビ様を……お守りしないとっ)

 

 

 

 

 

 

『運命に叛逆の意を示す? 笑わせるな!! 弱者を駆逐? バカにするな!!! ネジ、お前が自分に繋がりがないと言い自分だけの力だけしか見えていないのなら、その力の内の毒だろうが術だろうが何だろうが全部受け止めてやる、そのうえではっきりとそのメンタマに見せつけてやるよ!! お前が一切の言い訳ができないようにな!!!』

 

「悟さん……頑張ってっ」

 

 ネジと悟との戦いを見ているハナビを見つめナツは思う。

 

(ヒナタ様と婚約をし、ハナビ様をもこうも引き付ける黙雷悟……なぜ彼はボロボロになってまで、まるでネジを心配するかのような……ハナビ様は彼を……)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 そして現在

 

「ナツ、手を離して!!」

 

 ナツの手を弾くように振り払ったハナビに、ナツは涙で潤んだ目で見つめる。

 

「どうしたのよ、こんなの……ナツらしくないわよ」

 

 怪訝な目で見るハナビに、ナツは目線を縁側から見えるとある部屋へと向ける。

 

「……私は……大切なモノを傷つけたくないの」

 

「ナツ……?」

 

「あの部屋で……ハナビ様のお母様に私は託された……『娘たちを頼む』と……なのにお二人はどんどん……私の存在などお構いなしに成長して……強くなる」

 

 吹っ切れた表情のナツは涙を零しながらも自身の胸の内をさらけ出す。

 

「九尾の妖狐であり、危険な存在だと言われていたうずまきナルトにひかれるヒナタ様に……無茶という言葉を絵に描いたかのように体現する悟さんに憧れるハナビ様……私はもう……心配で心配でどうにかなってしまいそうなのよっ!!」

 

 頭を掻きむしりながらナツの独白は続く。

 

「わざわざ危険に身を置かなくてもいいじゃないっ!! 宗家の人間として、ふんぞりかえって分家の私を使って楽にしてくれてれば良いのに……なんで何でっ!?!?」

 

 感情を爆発させ頭を抱えうずくまるナツ。

 

「うううう……ううううううっ!!」

 

 泣きじゃくる様子の彼女の様子を見てハナビは……

 

「フンッ!!」

 

 思いっきりナツの後頭部を叩く。

 

「っ!?!?!?!」

 

「バカにしないでよねっ!! 私は今までの日向みたいに分家の人間をおざなりにするつもりもないし、危険に対して無力なただの子どもでもない!! ナツ、貴方は私たちの心配をしているつもりかもしれないけどねぇ!! それは貴方自身が傷つきたくないだけの、只の詭弁よ!!」

 

 叫ぶハナビの剣幕にナツはボロボロの表情をキョトンとさせ叩かれた頭を押さえて話を呆然と聞く。

 

「私も、姉様も……いつまでも守られる側に居るわけにはいかないのっ!! 貴方を犠牲にして自分たちだけがノウノウと生きていればいいなんて私も姉様も絶対、絶対思わないっ!! 私は、ナツ!! 貴方と対等になりたいのっ!!!」

 

 必死に叫ぶハナビも感情の起伏に目に涙を浮かべる。

 

「昔から……記憶にない母様の事を貴方は教えてくれた……『ハナビ様は奥様にとても似ていらっしゃる』って言われて嬉しかった!! 母様が亡くなる直前に貴方に私たちを『頼む』と言ったかもしれない……でもそれは、私たちを一方的に守れなんて言う命令なんかじゃ絶対にないってわかる!!! それは――」

 

 二人の大声に、ヒナタとヒアシもすぐ傍まで着てその様子を見守る。

 

「『見守って、そして一緒に成長して欲しい』ってことだって……母様なら絶対にそう言うわ」

 

 ハナビの言葉にナツは目を見開き、ヒアシもまたそのハナビの様子を見て懐かしむような表情を見せる。

 

「ハナビ様っ……私は……私は……っ!」

 

 言葉を失くし、うわ言を呟くナツ。

 

 そんなナツをハナビは優しく抱き寄せ言葉を掛ける。

 

 

 

 

 

「貴方は少し……真面目過ぎるのよ、肩の力を抜いてみなさい。 私も姉様も……貴方の事を一人に何かしないから」

 

「っ!! ……ううううう……っ~~~~~っ!!」

 

 

 

 

 そしてそんな二人をヒナタがさらに上から重ねて抱擁する。

 

「ごめんなさい、ナツ。 あなたの気持ちをちゃんと理解してあげれてなくて……っ」

 

「ヒ……ナタ様……っ」

 

 さらに、ナツへと声をかける人物が一人。

 

「ナツ、お前には……辛い思いをさせたな。 妻を亡くした時に、お前に酷く当たってしまい……すまなかった」

 

 日向ヒアシが、ナツへと向け頭を下げる。

 

 感情が高まりすぎたナツはハナビとヒナタに抱き着き、しばらく大泣きした後に……眠る様に気を失った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「貴方は良い父親ですね、ヒアシさん」

 

 ナツをヒナタとハナビが彼女の部屋へと連れていっているときに、気配を消していた白がふと現れヒアシへと語りかける。

 

「……そんなことはない、振り返れば後悔ばかりだ。 娘たちにも辛い思いをさせてきた、そしてそれは分家の者にも」

 

「後悔が出来るということは恵まれているし、次への改善へと繋がるので悪い事ばかりではありません。 ……僕は既に両親が居ない身ですからね、父とも分かり合えず、そして母も亡くした。 けれど、貴方はまだ先がある。 そして今を変えようともがく貴方はそんな僕の眼から見たら間違いなく良い父親です」

 

 ニコッと笑って見せる白に、ヒアシは苦笑を浮かべる。

 

「フッ……敵わないな。 ……ハナビとヒナタの事、よろしく頼む」

 

「ええ、もちろん。 むしろ僕がお世話になるくらいの気持ちですよ」

 

 白の言葉にヒアシは安心の表情を見せる。 

 

「どうして中々……黙雷悟の影響力と言うのは……」

 

「ん? 何か言いましたか?」

 

「いや、何でもない。 では健闘を祈る」

 

「はい!」

 

 ヒアシの言葉を受け、白は二人を迎えにナツの部屋へと向かう。

 

 ふとヒアシの傍らに並び立つヒザシ。

 

「……中々の大騒ぎでしたね兄上。 ネジと2人で周りの者を治めるのに苦労しましたよ」

 

 ヒザシの苦笑をヒアシが見ると

 

 

 

 ガシッとヒアシがヒザシを抱擁する。

 

「うおっちょっ!? 兄さん!?!?」

 

「お前にもいつも苦労を掛けるな……っ」

 

 突然のことに珍しく狼狽えるヒザシ。

 

「全くいい年してナツめ……父上、口留め終わりまし……はぁっ!? ど……どうなってっ!!??」

 

 その様子を後から来たネジが見てしまい、これまた普段の彼から考えられような素っ頓狂な声が出る。

 

 ネジの存在に気がついたヒアシはヒザシの抱擁を解く。 ヒザシは固まったまま立ち尽くしている。

 

「ネジ……お前にも、弟の事で迷惑をかけている……それなのにお前は本当に良くやってくれているな……っ!」

 

 明らかにヒザシに続いて自分を抱擁しようとする動きで近づいて来るヒアシに後ずさりするネジ。

 

「いいいいいえっ! 俺は大丈夫ですっ! 俺は大丈夫ですのでっ!! っ~~~~!!!」

 

 白眼使いが背後に壁があることも気づかないほど動揺し、狼狽える姿を夕日が窓から眺めて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ネジの叫び声が聞こえた気が……まあ、気のせいね。 よし任務の準備も済ませたし、そろそろ大門に向かおうかな」

 

 テンテンは班員の心の叫びを察知しつつも、気にせず任務に向けて自宅を出発した。

 



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8:ドキドキ♥ ほぼくノ一だらけの湯の国大騒乱~後編~

そろそろ更新ペースが落ち始める頃合いです……


 湯の国の北西、比較的自然資源に恵まれている湯の国では珍しく荒れ地になっている地帯。

 

 そんな只々途方もなく荒れ地が続く場所には似つかわしくないようにポツンとある繁華街が暗がりに明かりを灯している。

 

 そこは街としてみれば、周囲が荒れ地でありながらも湯の国独特の硫黄の匂いをほのかに漂わせ、ちょっとした観光地としてそこそこの賑わいを見せていた。

 

 しかし外観を見れば、観光地として不相応なモノが嫌でも目に入る歪な場所でもあった。

 

「……でっけー壁だなぁ」

 

 繁華街の路地裏から高壁を眺めている、白地に赤いラインの入った外套に身を包んだキバが呆けた感じで呟く。

 

 そのキバの呟きの反応を示すものが一人。

 

「……あの先が任務予定地……遊郭街がある場所だ。 周囲の観光を目的とした繁華街とは縁系の高壁で隔絶され、来る人を堕落させるという魅惑の巣窟……中には湯の国の大名の一人が居ると言われているが、しかしここ最近その大名の目撃情報は極端に少なくなり噂では――」

 

 キバと同じ装いのシノがブツブツと情報を呟き始める。 キバとヒナタはいつもの事で慣れているので気にも留めないが、外套に身を包んだ集団の中で一人シルエットの小さいハナビはその様子に若干引いていた。

 

「……何か質問したわけじゃないのに、次々と呟いてる……シノさんてちょっと不気味かもっ」

 

「彼はそういう人なんですよ、ハナビ。 零班として、様々な忍びとチームアップをするためにも苦手は失くしましょうね」

 

「……は~い、わかりました」

 

 上司である白からの指導に、正論だと思いハナビは真面目に受け取り、取りあえずシノの呟きに耳を傾けることにした。

 

 そんなやり取りの傍では、テンテンとヒナタが任務の段取りの確認をしている。

 

「……白とヒナタと私、三人が木ノ葉からの忍びとして高壁の門番に依頼書を見せて中に入って……。 これねぇ……依頼書によれば、高壁内中央の大名の居る建物で事情を説明してくれる人がいるらしいけど……」

 

「うん……その道中で何かが起きる可能性が高いってことだよね……暗部の人がおかしくなっちゃうような幻術の類……気を付けないと」

 

「そうよねぇ言っちゃえば、ここの人間は皆敵かもしれないってことだしね……ちょっと久しぶりに緊迫感のある任務……ガイ班だと、正面突破がほとんどだし……ホントネジが居なかったらやってけてない自信があるわ……」

 

「あはは……私もネジ兄さんからよく聴いています。 いつもテンテンさんが居てくれてとても助かっていると言ってました」

 

「っそ、そう? ……まあ、私もネジには班の清涼剤として助けて貰ってるからお互い様ってやつよねぇ」

 

 ヒナタから聞いた自分へのネジからの印象に、少し顔を赤らめ顔をニヤつかせるテンテン。 ……その様子を意味深に眺めていた白は不意に視線を切り、手で合図を出して班全員の注目を集める。

 

「……では一応今回隊長の僕から最終確認をしますね。 僕たちの歓楽街突入から半日経っても無線や何らかのアプローチが何もなければ外の歓楽街で待機するキバ君とシノ君、ハナビは高壁を昇り遊郭街に侵入してください。 そこで様子を見て撤退か、更なる情報を得るために中に踏み入るかの判断をお願いします。 踏み入る時は恐らく行動不能になっている僕たちの救出もお願いしますね。 撤退を選択した場合は――」

 

「安心してくれよ白隊長、俺たち木ノ葉流忍者は仲間を見捨てたりなんかしねぇぜ!!」

 

「……だと良いですが、選択肢としては一応頭に入れておいてください。 撤退を選択した場合は綱手様へ情報を報告、後日別部隊を編成した後、強硬手段での救出をお願いします。 ……その時に僕たちが正気で居るのかは定かではありませんが」

 

 キバは大人しく撤退するつもりはないと豪語するも白は忍びとして、段取りはしっかりと行う。 

 

 白としても木ノ葉が他の隠里よりも仲間意識が強いのを実感しているが、だからと言ってそれを頼りにしすぎるのは良くないと分かっているからだ。

 

 白の言葉に少し緊張を見せるテンテンとヒナタ。 遊郭街に女性だけで行くのだから、精神的に怯んでしまうのも無理はないのだろう。

 

 白はその様子に気がつくと、二人の手を取り言葉を掛ける。

 

「……安心してください。 例の精神攻撃とやらが依頼を装って、任務に来たくノ一を陥れるためのものであると分かれば即座に撤退しても良いのですから。 そうなれば後は外部からの実力行使で済みます。 幸い他里も行方不明者を出している以上、内情が分かれば協力してくれるでしょう。 ですので僕たちは全滅さえせずに情報を持ち帰ることを第一に安全策で行きましょう……大丈夫です、いざとなれば僕が――」

 

 白の励ましの言葉に、テンテンが言葉を重ねる。

 

「白にだけ無茶はさせないわよ……っ! 綱手様曰く『小』らしい私でも、やれるって所みせてやるからっ!」

 

「そうです、私もテンテンさんも居ます。 一緒に頑張りましょう、白さん!」

 

「……っフ、その通りですね。 僕たちで事の真相を暴きましょう」

 

 女性陣が結束を固める中

 

「……でよぉ、結局綱手様が言ってた大中小ってどういう基準何だろうな?」

 

「それは未だに俺にも見当がつかない。 ここまでの道中考えていたが、恐らく火影として知ることが出来る情報にその判断の理由があるのだろう。 外見での判断ではないと加味すれば、やはり精神的な部分。 経験や体験を軸に――」

 

「赤丸ぅ……今回私もアンタも外組で待機だし暇になりそうね……里の外での任務に来れて良い経験なんだけどさぁ……」

 

「くぅ~ん……」

 

 キバとシノは綱手の言っていた『偏見』について語り、少し退屈そうにしているハナビは赤丸に語りかけながら顔周りの毛並み撫でまわしていた。

 

 そして女性陣が中に入る前の無線や忍具の確認をしているタイミングで、いつの間にか赤丸に跨っていたハナビに対して白はこそっと耳打ちをする。

 

「どうしたんですか、白さん?」

 

「いえ、一応念の為に……もし赤い煙での合図を確認したら、ハナビ。 貴方だけが強行突破で繫華街に来て白眼で僕たちを探してください……赤丸さんも出来ればでいいのでその時はキバくんには内緒でハナビのサポートをお願いします」

 

 白の言葉にハナビは顔を強張らせ、赤丸も少し困惑の表情をしている。

 

「良いんですかそんな事勝手に決めて……」

 

「確信があるわけではないのですが……もしも僕の予想通りに、最悪の場合になったときにそうするのが最善だ……というだけの話です。 赤丸さん、どうかキバ君には内密にお願いします」

 

 赤丸に頭を下げる白。 困惑していた赤丸だが、そうなる可能性は限りなく低いと説明を受けそれ理解したため

 

「ボフッ……!」

 

 小さく了承を示す声を出す。 赤丸の表情からしても納得してもらえたことを確認した白はハナビにウインクをしてヒナタとテンテンと共に高壁の中へと続く門へと歩んで行った。

 

 三人を見送った待機組、キバは赤丸に跨る白に近づき声をかける。

 

「でだ、ちびっ子。 俺たちは門の見える場所で待機するが、どこで時間を潰すかはお前に決めさせてやる」

 

「ムカッ! 偉そうにちびっ子言うな!」

 

「キバ、幾ら五歳年下だとは言え女性に対してその口の利き方は感心しない。 なぜなら――」

 

 小さく揉めた三人だが結局近くの売店を見て回って時間を潰すこととなった。 ……キバの奢りで。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 女性陣は白を先頭に堂々とした歩みで門へと近づく。 門の脇に居る一人の門番も三人の姿を確認しても手に持った槍はそのまま天を刺したまま微動だにしない。

 

(……僕らの木ノ葉の額当てを確認しての警戒はナシ。 一応歓迎されているということですね)

 

 白は悟られることなく門番の様子を観察するが、万が一の場合力押しが可能であることが分かっただけであった。

 

 大した手練れでもない門番は飾りのようなモノだと推察をした白は懐から依頼書を取り出し、その門番へと見せる。

 

「木ノ葉から、大名からの依頼を受けに来たくノ一です。 通ってもいいですか?」

 

「……ふむふむ。 話は聞いております、どうぞどうぞ、中へ」

 

 依頼書を確認した門番はフレンドリーな様子で門を開け三人を中へと通す。

 

 中へと入った三人は目の前の光景にそれぞれ口に出さずとも同じ感想を抱く。

 

(((ピンク一色……)))

 

 高壁の中はピンクのネオンの看板が立ち並び、大人が夜を楽しむための店が通りの脇を大量に占めていた。

 

 飲食や売店、宿と行った一般的な類の店は一切見当たらず、只々性を感じさせるピンク一色の視界に

 

「……ゴクッ」

 

 ヒナタは唾を飲み、無意識に白の外套の袖を摘まむ。

 

 彼女らが歩みを進め中央、大名が居るとされる高い建物へと続く通りを行けば、左右の店からは男性や女性の溺れるような淫声が微かに聞こえ

 

「……っひえ」

 

 青ざめた表情でテンテンが小さく悲鳴を上げ、ヒナタと同じく白の外套の袖を摘まむ。

 

 左右の袖をそれぞれ摘ままれ、若干の身動きのしづらさに白は苦笑いを浮かべた。

 

 そんな中、白は首元に隠した無線で高壁内に侵入したことを待機組に知らせようとするが、無線からはノイズが聞こえるのみであり

 

(……なるほど、距離的には問題なさそうですが外と連絡を取るのは無理……と。 まあ、これだけで黒とは言えないのは遊郭街というモノのデリケートさを感じますね)

 

 待機組との細かい連絡を諦め、ピンクの道を行く白たち。 

 

 ふと、白が周囲に気を配ると幾つかの怪しい気配を感じ取る。

 

(さて……ヒナタさんに白眼を使わせては相手に『警戒してます』と教えるようなものなので、拙いながら僕がチャクラ感知をしていますが……それなりの手練れがいますね)

 

 自身らが監視されていることに気がついた白が、二人に合図を送ろうとすると……

 

 テンテンが何かを呟いていることに白とヒナタが気づく。

 

「何だろう……ふわふわする……でも、気持ちいい感じがして……えへへ……うふふ……うふふふふふふふッ――」

 

 明らかに正気ではなく、目が虚ろになっているテンテンの様子に気がつき白が小さく名を呼び肩を揺するも。

 

「えへへ……この気持ちは何だろう……うへへッ……ああ、これが愛……ああ、愛……愛愛……」

 

 テンテンは正気を失くしたようなうわ言を呟く。

 

「……これって……っ」

 

 ヒナタもことの重大さに気がついて声を漏らした瞬間

 

「お連れ様は大丈夫ですか? お疲れならうちの店でご休憩をしていかれたらどうです? 安くしておきますよ!!」

 

 見計らったかのようなタイミングで道の脇の淫声の聞こえる店から、店員とみられる男性が出てきて三人に声をかけてくる。

 

 呼び込みの店員だと思われる男性の言葉に白は

 

「結構です、僕たちはこれから中央の建物に用があるので」

 

(この男……?)

 

 違和感を覚えながらも仮面の下を営業スマイルにしてキッパリと断る。

 

 しかしテンテンが完全に足を止めている現状、置いていくわけにもいかないためその場から動けない。

 

「白さん……どうしましょう……幻術の解術を試みてはいるのですが効果はないようで……」

 

 小声で白へと指示を仰ぐヒナタはテンテンの肩に触れながらもその場の雰囲気もあり心細そうにしている。

 

 白は一旦落ち着きこの状況を冷静に分析する。

 

(いきなりテンテンさんの様子がおかしくなった……というより恐らく高壁内部に入ってからずっと『何か』をされていたと想定するべきか……僕たちへの監視と言い、店員の呼び込みのタイミングと言い……それにテンテンさんと店員の眼の様子が似ているようにも感じられる……はぁ……こうなれば仕方ないですが、もしもで考えていた『対処』を試みてみましょう。 僕の予想が正しければ嬉しいのが半分……テンテンさんへの申し訳なさが半分ですが)

 

 白は自身の想定の内から幾つか用意していた対処の方法の一つを試すことにする。

 

「ヒナタさん、どうなるか分からないので少しテンテンさんから離れていて貰ってもいいですか?」

 

「えっと……はい、わかりました」

 

「愛……愛……愛……うへへへ」

 

 白は恍惚とした表情でうわごとを呟くテンテンを座らせその耳元に口元を近づけ

 

(ごめんなさい、テンテンさん……でも現状のテンテンさんはかなり絵面がヤバいので対処するだけ許してください……っ!)

 

 心の中で謝罪をしながら囁く。

 

「……テンテンさん、貴方は

 

 

 

 日向ネジさんのことが好きですね?

 

 

 

 

「愛……愛…………あ……ッ?」

 

 白のささやきを聞いたテンテンは頭をぴくっと動かして反応を見せる。 その白のささやきが聞こえない位置にいるヒナタは何をしているのか分からずに疑問符を浮かべている。

 

「テンテンさんはネジさんが好き、テンテンさん、貴方はネジさんに好意を抱いている。 普段からネジさんを自然と目で追い、知らず知らずのうちに会話の内容にネジさんを捻じ込むほどあなたはネジさんのことを好いている――」

 

 呪文を詠唱するかのように、催眠術にかけるかのように、白は言葉巧みにテンテンがネジに好意を抱いているという内容の言葉を間髪入れずに呟き続ける。

 

「あが……っううううっ……あがが」

 

 白目を向きだしたテンテンの様子にヒナタは小さく悲鳴を上げる。

 

「だ、大丈夫なんですか、テンテンさん!?」

 

「よし、流石に僕もこっぱずかしいですがこれで最後です」

 

 もう一押しだと白は顔を赤らめながらも、キリっとした表情をして最後の一言を囁く。

 

 

 

 

 

テンテン、俺と一緒に日向を繫栄させよう(迫真のイケボ)」

 

 

 

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp――ッオンドリャーっ!?!?!?!」

 

 瞬間テンテンが叫び声を挙げながら鉄拳を繰り出す。 白はそれをガシっと受け止めるとニコやかな声で

 

「おかえり、テンテンさん。 あとごめんね」

 

 謝罪をしたのであった。

 

 テンテンの叫び声が響くと周囲の淫声が一瞬止む。 その狂気じみた絵面にヒナタもさらに後ずさりしてしまう。

 

「どあッだ、ダレ、誰がネjねねネじ……ネジの、ネジのッ!!!!!!!!」

 

 言葉を詰まらせ顔面を紅潮させ目をグルグルと回しているテンテンは腰を地面に下ろしたまま、白へとポカポカ殴りかかる。

 

「ね、ネジ兄さんがどうしたんですか!? っ白さんこれはどうなって……!?」

 

 混乱するテンテンとヒナタ。 ヒナタの質問に白はテンテンからのか弱い暴力を受けながら

 

「あははっ……取りあえず、深くは追及しないでそっとしておいてあげましょうか」

 

 小さく微笑み返したのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 正気を取りもどしたテンテンを連れ、一同は再度中央の建物へと向かう。

 

「……ッ……ッ……!」

 

「……」

 

「ふふ、気まずくなっちゃいましたね」

 

 顔を赤らめたヒナタとテンテンがそわそわしているのをよそに白は小さく笑いをこぼす。

 

 先ほどの事象の解説を白は、自分なりの予想という形でヒナタとテンテンそれぞれ説明していた。

 

 

『つまり、ブリーフィングでの読み通り暗部のくノ一が残した文の内容「私は愛を知らなかった」「愛の深さ」「今、とても幸せ」の三つの文章は精神攻撃への対処のヒントを示していたんです。 綱手様が偏見で設けたという基準も当たっていて、テンテンは愛、恋心を自覚せずにいた……つまり小。 愛の深さで言えば浅いところにいたってことですね』

 

『そしてヒナタさんはナルト君への気持ちを自覚していた……つまりは中ぐらい。 恐らく暗部のくノ一はストイックな方で恋愛なんて興味が一切なかったでしょうから愛の深さ的に最も浅い所に居たところにいたと。 そんな精神攻撃への耐性が弱い暗部のくノ一が恐らくテンテンさんが感じた()()()()ほどの幸福感を植え付けられたんだと思うと……あの手紙の用に発狂してても可笑しくはないですね』

 

 

 つまりは()()()()()()で敵は恋愛に対して免疫のない忍びを、その恋愛で生じるであろう幸福感を植え付けることで狂わせていたと白は語った。

 

「クソッ……クソぉッ……っ///」

 

「……ナルト君……ッ///」

 

 結界忍術か、幻術か。 原理は分からないが仕組みは理解できたため、白は二人に想い人を思い続けることが精神攻撃への対処になるはずだと伝えた。

 

 顔を紅く染める二人。 テンテンは自身すら自覚して無かった恋心を突きつけられやけっぱちになり、ヒナタも想い人としてナルトを思うことに言い表せない背徳感を覚え悶々としていた。

 

(テンテンさんがネジさんを好いているのは……日常的な会話をしていた僕は何となく気づけていた……気の毒な事をしました……恐らく綱手様も普段のガイ班の様子からそれを予想したんでしょう。 小と中……そして大か……さて、ここまで人の恋心を弄ぶような輩は――)

 

 

(私がネジを好き!? ……確かにそうかもしれなッいやそうなんだけど……ああクッソォ!! 確かに気がついたら目で追ってたりしてたけど全然自覚して無かったぁ……ッでも自分でもすんなり納得できるほど……あ゛あ゛あ゛っ! っこんな辱めを受けるだなんて連中――)

 

 

(そう言えば、テンテンさん。 よく話をするときにはネジ兄さんがどうしたとか、どう話してたとか良く言ってたような……私関係ないのに帰ったらネジ兄さんと接するのに緊張しちゃいそう……ああもう、でも人を好きだと思う気持ちを利用するなんて――)

 

(絶対に許しません)(絶対に許さないんだからッ)(絶対に許せないッ)

 

 三人の気持ちが一致し、黒幕に対しての怒りに滾る。

 

 しかしふと顔は紅潮しつつも一旦冷静になったテンテンは

 

「……白、冷静になればこれだけ情報がそろえば一旦木ノ葉に戻ってから隊を編成して行くのも手じゃない?」

 

 と白へと提案する。 白はテンテンの提案を聞き肯定を示しながらも渋い顔をする。

 

「事前に伝えたようにそれでも良いんですが、先ほどのテンテンさんの様子から精神攻撃の影響力は恐ろしく高いことがうかがい知れます。 それに途中、呼び込みをしてきた男性はテンテンさんと同じような状態だったのではと思うのですが会話はハッキリと出来ていたんです」

 

「白さん、それってつまり……ッ」

 

 白の言葉にヒナタがあることに気がつき、その様子に白も頷く。

 

「ええ、つまり先ほどのテンテンさんの状態からさらに洗脳を施されている可能性がありますね。 ……となれば各里の行方不明者は全員、あの男のように()()の手先になっていることでしょう。 当然木ノ葉から失踪した例の暗部のくノ一も含めて……」

 

 白はちらっと周囲を見て先ほどまで自分たちを監視していた気配が居ないことを確認する。

 

「……相手も対処されるとは思ってもいなかったようですね、慌てて本拠地へと報告に戻ったようです……こうなればもう遠慮はいらないでしょう」

 

 白の言葉にテンテンとヒナタが頷く。

 

「これ以上ここの惨状を放置したら、とんでもない戦力を持った集団になるってことよねっ!」

 

「そうですね……私たち以外にそのぉ……こ、恋心を自覚している忍びを集めるのも簡単ではなさそうだし、皆のプライベートにも関わります。 チャンスは敵がこれ以上増大してしまう前の今しかない……っ!」

 

 三人は顔を見合わせ、外套を脱ぎ捨て駆けだす。

 

「中央の建物の最上階を目標に進行っ!」

 

 白の掛け声で、加速した三人。

 

 それと同時に遊郭の施設から、ぞろぞろと人が飛び出し彼女らの行く手を阻む。

 

「動きからして彼らは一般人です、なるべく危害を加えないように屋根を伝って行きましょう」

 

「ちょっ!? 皆ほとんど裸なんだけどっ……っ目に毒ぅ、やめてよねぇ!!」

 

 テンテンが敵に苦情を入れるもの、人々は虚ろな目で三人を追いかけるのみで羞恥など感じている様子もなく聞く耳など持たない状態であった。

 

 屋根を伝って移動するも、道の途中で様々な額当てをしたくノ一が姿を現し立ちはだかる。

 

 ヒナタは咄嗟に前に出て白眼を用いて彼女らの分析を行う。

 

「……やっぱりチャクラの乱れからして、彼女たちは皆幻術にかかっているようです。 だけど……」

 

「あんな恍惚な状態でかかった幻術なんてちょっとやそっとじゃ解除できない、てことですね。 流石に忍び相手には、手荒に行きましょうか」

 

 白は印を結び、手の先から生じた白霧を撫でる様にくノ一たちに仕向ける。

 

「氷遁・氷鎖縛(ひょうさばく)!」

 

 帯となった白霧がくノ一たちを取り囲むと、腕や足に氷を生じさせその身動きを封じ始める。

 

「八卦空掌!」

 

 動きの鈍った相手の頭や点穴をヒナタが的確に空掌で打ち抜き昏倒させ

 

「おりゃおりゃおりゃぁ! どきなさいよっ!」

 

 テンテンは棒術で妨害しようとするくノ一達を払いのける。そして足を止めることなく彼女たちは敵の本拠地と思われる中央にそびえたつ建物へと向かっていった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 遊郭街中央の数十階はあるほどの巨大な建物の最上階。

 

 ホールの様に広く煌びやかな部屋の奥にある、玉座ともいえるような椅子に座る豪華な身なりの男が一人。

 

 紫色のスーツに豪華な宝石の指輪を始めとしたこれでもかというほどの量のアクセサリーが目に付くその男は椅子の両脇にいる二人の女性の頭を撫でながら満足そうにくつろいでいた。

 

「……俺の計画もあと少し……か。 ここ数年は我慢の年だったがようやく苦労が身を結ぶ……くふふ」

 

 男は片手で女性の乳房を弄びながら、下品な笑みと息を漏らし手に持つワイングラスを揺すりその中身をテイスティングしようとした……瞬間。

 

 その眼の前に木ノ葉の暗部のくノ一が跪いて姿を現す。 暗部でありながらもその仮面をつけていない彼女の表情は虚ろであることが筒抜けであった。

 

「主……様。 報告です、木ノ葉のくノ一が三名侵入……愛染(あいぞめ)様の術の効果をものともせずに真っ直ぐにこちらに向かっています……」

 

 くノ一の報告に男は、怪訝な表情を浮かべ背後に目線を向ける。

 

 その目線の見上げる先は、配線が繋がれた場違いな機械の台座の上に向けられていた。 そこには人ひとり分ぐらいを収容できる機械式の箱が設置されていた。

 

 箱に備え付けられた小窓からは、白髪の女性の顔が辛うじて見え中身を液体で満たしている様子が確認できる。

 

「ちっ……愛染の術が効かないだと……? まさかこの忍の連中でそんな奴らが大名からの依頼で来るとは……」

 

 男がいらだちを露わにして椅子から立ち上がると両脇の女性を叩くことで気分をスッキリさせる。 叩かれた女性らもまた虚ろな目をしていた。

 

「仕方ねぇ……男はむさ苦しくて使いたくはなかったが……」

 

 呟きの後に男が印を結ぶと、その部屋の両脇の扉から十数名の男の忍びがぞろぞろと姿を見せる。

 

 彼らの額当ては種類がバラバラで元々所属していた隠里が違うことを物語っていた。

 

「俺の手ごまである()()()()の中でも貴重な戦力のお前らを使ってやるッ! 侵入者を生きたまま捕えろ、もし捕まえたら俺の後でいくらでも好きに使()()()()()()っ!」

 

「愛……」「愛……」「愛……」

 

 ブツブツと呟く虚ろな目の忍び達の眼の前で、男が再度印を結ぶことで忍び達が動き始めた……瞬間。

 

 男の正面、その部屋の天井から床までがガラス張りになって、下の街を一望できる巨大なはきだし窓の外に異物が現れる。

 

「ん、あれは……?」

 

 男が夜空に浮かぶ()()を注視すると、それは……

 

 ()()()()であることが分かる。

 

 男がそう認識した瞬間、鏡から三つの影が飛び出し

 

 

 ガラスを砕き、転がりながらその部屋の中に侵入する。

 

 

 着地を決めた三人はガラスを払いながら、その侵入者らに警戒する愛ゾンビたちを一瞥する。

 

「白の時空間忍術、結構便利ねぇ……私の奴は制御が難しくてねぇ……」

 

「いえ、それほどでも……距離があると魔鏡の生成に手こずるのが難ですが、お二人が時間を稼いでくれたので問題がなかっただけですよ」

 

「目が虚ろな忍びの人たち……っ! 木ノ葉の暗部の方もいます、ここで間違いないようです」

 

 白とヒナタ、テンテンは戦闘態勢を取る。 そして白は集団の中玉座のようなモノの前で狼狽える人物を見据え声をかける。

 

「一人だけハッキリとした表情のそこの貴方、今回の失踪事件の犯人は貴方ですね……後ろの大掛かりなカラクリが例の精神攻撃に関りがあるのは間違いないでしょう……一応観念して投降するなら手荒な真似はしませんよ?」

 

 白が千本を指の間に構えて見せると、男は忍びの一人の体を盾にして隠れながら声を荒げる。

 

「てめぇらなんで正気で居られる……それでも忍びか!?」

 

 唐突なその言葉に

 

「いきなり失礼ねっ!? こちとら立派な木ノ葉の忍びよ!!」

 

 テンテンが言い返す。 男はその言葉を受け

 

「ありえねぇ……てめぇらみたいな不純な忍びは……俺が抱くまでもねぇ! お前ら、こいつらを好きしろ!」

 

 号令を出す。 その男の言葉を受け洗脳された愛ゾンビたちが一斉に三人に襲い掛かり始める。

 

「流石に数が多いですね、先ずは数を減らしましょう」

 

「了ー解っと! 第二休門……開!」

 

「白眼っ……!」

 

 広い部屋を十分に使った戦闘が始まる。

 

 大勢が一度に術や技を繰り出し、火遁や雷遁などが飛び交い部屋の中は混沌とかした。

 

 余りの混線具合と敵の数に白は仮面の下で口を歪ませる。

 

(いやぁこれは……思ったより厄介みたいですね……相手に怪我無く事を済ませることは出来なさそうでしょうか)

 

「氷遁・燕吹雪の術」

 

 白が高速で印を結ぶと、掲げた手のひらから幾多の燕状の氷弾が舞う。 着弾したそれは多数の敵を一度に凍らせるも敵の数が多いため、互いに凍った部分を砕いたり火遁で溶かされたりとフォローされてしまう。

 

「あわわわ、ちょっとォこの暗部の人強すぎないッ!?」

 

 テンテンが相手取る木の葉の暗部のくノ一は暗器使いで、多彩な殺傷武器をテンテン相手に差し向ける。

 

 クナイ、手鎌、鎖分銅etc.

 

 そんな相手でも殺すわけには行かないと棒術で応戦するテンテンは相手がかなりの手練れであることも幸いし苦戦を強いられていた。

 

 一方でヒナタは愛ゾンビとなった忍び達を的確に点穴を突くことでダウンさせていく。

 

(傀儡の術みたいに体を無理やり動かしているわけじゃないから柔拳が有効……なん……だけど、何だか私に対する視線が多い気がする……~~ッ!)

 

 ヒナタの豊満な体は、ほとんど意識のない彼らでも惹かれるものがあるのか3人のうちで一番数多くの敵を相手取ることとなってしまっていた。

 

 こうして苦戦はしつつも、木ノ葉の忍びらが健闘する中黒幕である男はこっそり機械式の箱の裏へと隠れていた。

 

(……なんて奴らだ……忍びなんて連中は色恋なんて無駄だと吐き捨ててるような奴ばかりだと思っていたのに……生ぬるいと噂の木ノ葉なんかにも依頼書を送ったのは間違いだったか……ッ)

 

 男が自分の行動を後悔する中、戦況は着実に白らに傾いていく。

 

(何故だ、クソクソッ!! ……もうこうなったら……リスクがでかいが最終手段を取るしかない……ッ)

 

 脂汗を掻きながらも男は目立たないように箱の正面へ這いずるようにと移動する。 混戦の中、玉座の脇に居た女性二人を壁にして男は箱の置かれた機械式の台座のパネルを操作し始める。

 

 その一方で白は戦闘の最中、愛ゾンビらの対処に手こずり、意識を元凶だと思われる機械式の箱の排除に向ける。

 

 瞬間一人の忍びに組み付かれながらも白が混線の中、箱を視界に捉える。

 

(……あの男……この状況で何を……? まさか……っ!?)

 

 その男の不穏な動きと、その動きから予想される事態を重く見た白は

 

「やめろぉ!!」

 

 男に向け叫ぶ。 瞬間、男は白の声に反応し、幾多の忍びの体の隙間からニヤつき下卑た顔を覗かせ……

 

「俺様の勝ちだ!!」

 

 勝利宣言をして、パネルのボタンを押す。

 

 瞬間箱の中に電流が走り、中の液体に浸っている女性がもがき苦しみ始め……

 

 

 

 

 

 

 

 感情の波が辺りを埋め尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、本当にお前は便利な道具だぁ……愛染」

 

 男が小窓越しに中にいる女性の名を呼び、振り向けば。

 

 

 

 

 部屋の中にいる人間はその男と白を覗き全員が床に倒れ伏していた。

 

「……ッ……ッ……///」

 

「ハッ……ウッ……ッ///」

 

 愛ゾンビらとなっていた忍び達と同じように床に倒れ、苦しそうにもがくテンテンとヒナタ。

 

 顔は紅潮し苦しそうだが、どこか恍惚としたその二人の表情を見て、白は仮面を落としてしまいながらも、何とか足を震わせつつ二本足で立ち男を睨む。

 

「……っう……ぐ……貴様……っ!」

 

「あ……あはははっ……仮面の下がこんな美人だったとは……それにまだ正気を保って居られるとは驚きだが……大人しく投降しろなんて余裕ぶってた美人の顔が苦しそうに歪むのは見ているだけで心地が良いなぁ!! まさにこれぞ、愛の勝利だァ!!!」

 

 男の言葉に白は自身を襲うどうしようもない幸福感に抗いながら口を開く。

 

「あ、愛の勝利だと……こんな有様のどこがだ……っ!!」

 

 白は床に転がる忍び達を示して声を荒げる。 しかし男は勝利を確信したのか

 

「その様子だと立つのもやっとだろう……良いだろう、貴様を俺の一番の奴隷として心と体を支配して、俺の全てを教えてやろう」

 

 余裕の表情を浮かべ白へと近づく。 

 

「っ! 近寄るな!!」

 

 白はそう叫び、腰のポーチから筒状の忍具を取り出すが、途端にガクッと体を揺らして床に転がる忍び達の海に手を着く。

 

「おっと……まだそこまで抵抗できるとはな……ならば近づくのは止しておこうか。 屈服するまでじっくりと俺の話を聞かせてやろう……」

 

 白の様子に男は地べたの忍びの体に腰かけ、口を開く。

 

「自己紹介がまだだったな? 俺様の名はダンビ……この湯の国の湯隠れの下忍だった者だ。 そう、昔の俺は力も術も弱く……虐げられてきた」

 

 ダンビと名乗った男は腰かけている忍びの顔を力任せに殴りつける。

 

「こう言った強い忍びの連中は……総じて俺のことをバカにしやがった……だがなぁ? 運は俺に味方したのさッ!」

 

 ダンビは掌で箱の中身の女性を示す。 白も釣られてその愛染と呼ばれていた女性に目を抜ければ、未だに電流により顔を苦痛に歪ませていた。

 

「……っ! これ以上悪戯に人を傷つけるな……ッ」

 

「お節介はよしてくれよ、これは俺の“愛”なのさ……ほら愛染も喜んでくれている」

 

 ダンビは立ち上がり、愛染の顔が見える小窓の前まで移動する。

 

「愛染は特別な血継限界を遺伝した……子供だった。 心に抱いた自身の感情を増幅させ周囲へばらまく……ゆえに彼女の周りには人が寄り付かなかった……一方的に感情を押し付け人格を粉々にしてくるこいつに好き好んで近づく奴なんていなかったのさ……俺以外はな」

 

 悠々と語る様子のダンビ。 白は何とか体を動かそうとするも、すでに身体には力が入らず、動悸や感情のコントロールがぶれてしまいチャクラをうまく練ることすら怪しい。

 

(……()()()()……を取るには、まだ早計か……ッだがこんな状態では最悪ヒナタさんやテンテンさんを巻き込んでしまう……今僕に出来ることは――)

 

 白は狂うほどの幸福感に正気を蝕まれながらも、耐えて黙ってダンビの話を聞く。

 

 勝ち誇っているダンビは、心底嬉しそうに語り続けた。

 

「俺は愛染を利用する算段を付けた……幸い血継限界を持って迫害される奴らは皆等しく人肌が恋しい存在……最初は愛染の自己嫌悪の感情を向けられ気が狂いそうだったが……まあ、色々甘い言葉をささやいて色々ヤッてやることでこいつの心を開いてやったのさ」

 

 ダンビが指を動かすジェスチャーをすることで、白は歯ぎしりをして彼を睨みつける。

 

「……ゲスがッ……!」

 

「何とでもいえ……そして愛染は俺に対しての“愛”という感情を周囲に振りまくようになった……愛染の力は感情を向けている本人には効果がなく、類似した感情を有する者には効能は薄くなる……だが問題はなかった……まさにこの現状がそれを証明している」

 

 ダンビが手を広げ、忍び達を見下ろす。

 

「こいつら強い忍びは、やれ任務だ、やれ修行だ……力を押し付けることばかりで、他者への愛情なんてものに見向きもしてこなった連中だ。 ……弱者の俺がこいつらに反旗を翻すには、見向きもされなかった愛情の力でこいつらを蹂躙するのが一番だと思った」

 

「ッそれで……彼女の、力に目を付けて……」

 

「その通りだ、そう言えばお前さんも血継限界を使ってたな? 類まれなる力を周囲に疎まれ迫害されて寂しかっただろう? これからは俺がそんなことを忘れさせてやるぐらいに愛してやるよ!」

 

「……お生憎さま……僕には……大切な人たちが居る……自分のことしか考えないお前と違って!! 他者を思いやることができる……そんな人たちが……ッ」

 

「だろうな、だからお前さんだけが愛染の力に対抗出来ている……何か特別な感情を持って抗って……だがそれももう直ぐ終わる」

 

 下卑た表情で白やテンテン、ヒナタを嘗め回すように見つめる。

 

「彼女は……何故お前なんかに協力し続けている!? ……こんな仕打ちを受けてまで……ッ」

 

 白の疑問にダンビは指をさして答える。

 

「いい質問だ! 答えは簡単……俺が彼女にとって……()()だからだ……薬を使い彼女の視覚、嗅覚、味覚、聴覚をじわじわと奪った……手足も奪い、それでもだが愛に盲目な愛染は俺を疑いもせずに愛し続けてくれたよwww ……そして聴覚が完全になくなる前に……こう甘く囁いたのさ」

 

 

 

 

「痛みを感じたらそれは俺からの最高の愛情表現だと思え……ってな」

 

 

 

 

「……そんな……ことを……っ!?」

 

 

 白は電流を受け続けている愛染を見て、顔を曇らせる。

 

「何もない暗闇の中で、痛みを感じた瞬間()()このメスガキは外と……俺との繋がりを確認できる……後は簡単だ。 生命維持装置に漬け込み、痛みを与える仕組みさえ用意すればこいつは……俺にとっての、最高の()()となる!!!!!!」

 

 恍惚とした表情を浮かべたダンビは仰々しく腕を広げポーズを決める。

 

(……僕は再不斬さんと出会い……っそして悟君に救われた……ッ。 今でも夢に見る……あの橋の上での戦いの後、僕が目を覚ました時に見た……傷だらけの再不斬さんに食事をスプーンで運んでくれていた悟君やナルト君達のとの和気あいあいとした雰囲気……あの時再不斬さんが完全に警戒を解いていた姿を見て……その瞬間、僕は救われたんだ……っ! なのに彼女は……ッ)

 

「ふざ……けるな、彼女は……()()なんかじゃない……絶対に……許さない……っ! 貴様の企みは……必ず……忍びとして……僕たちが……ッ」

 

 白は涙を流して、ダンビを睨みつける。

 

「無駄だ……幻術の基礎その一つ、相手が精神的に構えていない状態であること、又は抵抗力が低い状態でないといけないこと……愛染のおかげでいとも簡単にお前も、俺の拙い幻術で奴隷堕ちだ!」

 

 舌なめずりしながら近づいて来るダンビ。 白は目を閉じ集中する。

 

(ごめんなさい、テンテンさん、ヒナタさん……でもここでコイツを止めないとッ!!!!)

 

 周囲を巻き込んででもダンビを始末することを決心した白。 

 

 瞬間

 

「ガッハッ!?!?!?!?」

 

 ダンビが叫び声を挙げ吹き飛び、愛染を収めている箱へと叩きつけられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかっ!?」

  

 その状況に驚き困惑した白。 彼女が後ろを振り向けば

 

 

 

 

 

 

「――どんな状況か分からないけど、アイツが悪い奴ってことは簡単にわかるわ。 ね、赤丸」

 

「ワッフ!!」

 

 赤丸に跨る日向ハナビが掌底を構えそこにいた。

 

「ハナビ……っ!」

 

「白さん、何が起きてるんですか? 待機してたら歓楽街の一部の人たちが急に悶え始めて……キバさんとシノさんも同じく倒れ伏しちゃって……そしたらこの建物の屋根から赤い煙が出てるの見つけてから赤丸にここまで連れてきてもらったんだけど……」

 

 白は霞む意識に鞭打ち、ハナビに最低限の情報を伝える。

 

「あの……機械の箱を壊して……っ」

 

「っ! ……わかりました、行くよ赤丸!!」

 

「ワンっ!!!」

 

 ハナビの了承と共に赤丸が吠え、跳躍。 一飛びで箱の眼の前まで来た赤丸に跨るハナビが手に回転する円盤状のチャクラの鋸『八卦・鉄鋸輪虞(てっきょりんぐ)』を携え着地と共に切りかかろうとしたとき。

 

「させたまるかぁあああああっ!!」

 

 ダンビが決死の思いで宙に居るハナビと赤丸に体当たりをし体勢を崩させる。

 

「っキャッ!」

 

 赤丸から落ちたハナビだが、体勢を立て直し再度切りかかろうとしたときに異変が起きる。

 

 

 

 ダンビが呻き声を挙げ、悶え始めたのだ。

 

 

 

「はっ……? 一体どうなって……」

 

 ハナビが困惑した瞬間、辺りに倒れ伏していた忍び達が一斉に勢いよく立ち上がる。

 

「えっ……えっ……ホントどうなってるの!?」

 

 

 

 

 

 困惑するハナビが目前の箱の小窓を見ると

 

 

 

 

 

 中の液体は赤く変色し始め、少女は口元に笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

『私は……化け物……知りたくもない人の感情に気づいてしまい……自分の負の感情をばら撒く不運の一族最後の末裔……』

 

『私の力は自身の感情をばら撒くだけじゃない、周囲の人間の感情を読み取ることも出来る』

 

『だからあの人が私を……本当は愛していなかったことも知っていた……でも体に与えられた快楽が些細なことを忘れさせてくれた』

 

『だからただの道具でもいい……ただ自分を必要としてくれる人がいる……どんなに他人から見て醜くてもその繋がりが私の唯一だから』

 

『なのに……』

 

 

 

 

 

『外を感じられない私に流れるこの感じたこともない暖かい感情は……何?』

 

『私に境遇を重ね同情している人がいる? ……あり得ない』

 

『でも……彼女の心の芯は……とても晴れやかで……明るくて笑顔に満ちている……雲が晴れた後の快晴の様に……』

 

『私のために怒り……悲しんでくれている……』

 

『私は……』

 

 

 

 

『誰かが近づいて来る』

 

『遠くからでも分かるほど……純粋で……濁りのない……これは?』

 

『これほどまでに透き通った……感情は感じたことがない……』

 

『周囲を辛さや悲しみに覆われていても……その芯は一切の曇りも見せない暖かな……』

  

 

 

『ああ、ああああ……これが……これが…………本当の……純粋で……純心な』

 

 

 

 “愛情”

 

 

 

『こんなにも誰かを思う素敵な心を感じたことは……一度もなかった……もっと……もっと早くに触れられていたら……』

 

『ううん……私は人を傷つけると分かっていたのに……自らその道具となった……救われてはいけない……』

 

『でも、もう力を制御できない……こんな素晴らしい感情を持つ彼女に迷惑をかけてしまう……それは嫌だ……』

 

『……ああでも……大丈夫そうね……だって』

 

 

 

『彼女には――――から……』

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 ハナビの目線の先の少女が最後に小さく口を動かすと、赤に染まった液体に覆われその姿は見えなくなる。 直後機械が稼働を止めたことに気がついたハナビは読唇術で知った少女の先ほどの言葉を思う。

 

(あ……り……がとう? 何が……というか)

 

 ふと冷静に周囲の状況を見てハナビは愕然とする。

 

 周囲の忍び達はまるでゾンビの様に立ち上がり、ハナビに目掛けゆっくりと歩みを進めていたからだ。

 

「姉様もテンテンさんも変になって……白さんこれってどうなって……って白さんも!?」

 

 ハナビの視線の先では、先ほどまで正気を保っていた白でさえ周囲の忍び達と同じように虚ろで恍惚とした表情を浮かべて歩んでいた。

 

 赤丸も気を失ってしまい倒れている中、一人……訳も分からず愛ゾンビたちの収束地点となったハナビ。

 

 

「~~~~っ! ……っ訳わかんないけど……やってやる……やってやるわよ……っ!」

 

 

 ハナビは白眼を発動し柔拳を構える。

 

「がぁあああああああああッ!!!!」

 

 瞬間、愛ゾンビたちが猛烈に駆け出しハナビを取って喰らおうとせんがごとく詰め寄り始める。

 

(ひいいいいいいいぃっ!?!?!?!?!)

 

 あまりにも衝撃的な光景に怯えるハナビが、真っ先に近づいてきたダンビに掌底を繰り出そうとしたその瞬間。

 

 その頭上の天井が抜け落ち、落下物がダンビを踏みつけ叩き潰す。

 

「ゴホッゴホッ……次から次へとなんなの……キャッ!?」

 

 腰辺りを何かが触れた感触にハナビが驚くと舞う埃による煙の中、目の前に人影が立つ。

 

「……っ誰……っ?」

 

 その人影が何者か確認できないハナビは困惑した。 しかし唸る愛ゾンビたちの声が響いたその時。

 

 煙が舞い、近づいて来ていた愛ゾンビたちが吹き飛ぶ。

 

 煙の中心にいた者の体術がそれを成し、煙を晴らしたことでその姿を晒す。

 

「貴方は……っ!?」

 

 その人物の姿にハナビは驚愕し腰に付けていたはずの蒼鳥マリエの……そして黙雷悟の仮面が無いことを確認する。

 

 歪んだ朱い雲の描かれた外套を纏い黒い髪をなびかせるその人物は

 

 

 

 

 

 何故かハナビの腰に付けていた仮面を被り、ハナビへ向け仮面の奥からその朱い両目の写輪眼を覗かせていたのであった……

 

 

 

 

 

 

 



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9:異物たちの苦悩

 (歪んだ朱い雲が描かれた外套を着た忍び……確か暁とかいう組織の一員の天音小鳥……っ!? 暁がなんでこんなところに……っ)

 

 ハナビは目の前に現れた人物に驚愕しつつも、柔拳を構え白眼での観察を怠らないでいた。

 

 仮面を着けた天音小鳥はハナビを一瞥した後に目線をそらし、そのまま愛ゾンビたちの進行上に立ちふさがって尾異夢・叉辺流を構える。

 

「……」

 

 無言の天音は、片手で印を結び指鉄砲で雷を連射し走り寄る愛ゾンビたちを次々と痺れさせて行く。

 

 接近を許した愛ゾンビには刃を出していない尾異夢・叉辺流の先を押し付ける。 その刹那一際強い雷光が走るとその対象は膝から崩れ落ちる。

 

(どういうつもりかわからないけど……必要以上に相手を傷つけないようにしてる……? って数人は取りこぼして私の方に来てるじゃん……っ)

 

 闘う天音を観察していたハナビだが、愛ゾンビが詰め寄る対象は自分であることには気がついているため、近寄ってくる対象は自身の柔拳で対処していく。

 

 相手を必要以上に傷つけないように休止の点穴を突こうと試みるハナビ、しかし不規則に揺れ動く対象と集団で迫ってくる様子に焦りが生じて浅い打撃を繰り出してしまう。

 

「しまっ――っ!?」

 

 勢いよく愛ゾンビに覆い被さられそうになったハナビ。 しかし天音の雷銃がその取りこぼしを射抜き、昏倒させる。

 

(た、助けてくれてる……の? って)

 

 天音に助けられ安心したハナビだが、ふと白眼で現在いるホールのような広さの大部屋の出入り口の扉を注視すると、扉の外側から多数の人間が押し寄せていることが見て取れる。

 

「そんなぁ!? どれだけここに集まってくるつもりっ!?!?」

 

 ハナビのその叫びに天音が気づき、同じく外から揺さぶられている扉を見て

 

「チッ……」

 

 小さく舌打ちをする。 その瞬間扉は破られ、くノ一や下の歓楽街に居たと思われる人物たちが一斉に部屋に乗り込んでくる。

 

「っ!」

 

 天音は、印を結び床に手を着き雷遁・地走りを発動させる。 しかし余りにも術の範囲に対象が多いためか発生させた電流は分散してしまい、効果が薄れてしまい愛ゾンビたちを留めることは出来なかった。

 

 そのまま物量に押し切られ人の波に埋もれる天音を見てハナビは顔を引きつらせながらも大きく息を吸う。

 

(手荒になっちゃうけど、もうやるしか……ないっ!)

 

「八卦掌……回天っ!!!」

 

 ハナビが体を回転させ、ドーム状の回転するチャクラの膜につつまれると押し寄せる愛ゾンビたちを次々と部屋の隅に向け吹き飛ばし始める。 しかし

 

(余りにも人が多すぎる……っ! このままじゃ押し切られ――)

 

 ハナビが物量に圧倒され始めたその時、人波に呑まれていた天音がハナビと同等の動きを見せ、回天をして愛ゾンビたちを吹き飛ばし退け始めた。

 

(あれは!? 日向の回天をも真似するなんて……あれが噂に聞く相手の動きをコピーする写輪眼の力……?)

 

 大部屋に生じた2つのチャクラのドーム。 天音とハナビの回天が接触すると互いに回転力を高めあい、より強烈な圧力が生じ愛ゾンビたちを制圧していった。

 

………………

………… 

…… 

 

 

 

 そしてそのまま5分ほど過ぎたのちに、部屋に押し寄せていた愛ゾンビの進行は何らかの影響力から解放されたように次第に止まり次々と倒れ伏していく。

 

 ドタドタという音に気がつき回天を止めたハナビは、脚をふらつかせながらも何とか自身は倒れることはなかった。

 

「うっく……はぁっ……はぁ……っ」

 

 回天を維持し続けたことで、ほとんどの体力を消耗し滝の様に汗を流しているハナビは白眼が途切れ、膝に手を着きながらも目線を天音に向ける。

 

(っ……全く疲れている様子がない……これが……暁……っ)

 

 落ち着きをみせる佇まいの天音は、そのまま大部屋にひしめく人の絨毯を踏まないように歩き始める。

 

「……はぁ……白さんや姉様、テンテンさんたちも途中で勢いに任せて吹き飛ばしちゃってたと思うけど、どこに……ってその仮面は返してぇっ!?」

 

 天音が白たちが乗り込んできた割れた窓に近づいていることに気がついたハナビは咄嗟に声をあげる。

 

 ピクッと反応を示した天音はハナビへと体を向けその写輪眼を向ける。

 

「っ……ど、どういうつもりで貴方がその仮面を盗ったのかは知らないけどそれは……私にとって……それは大切なモノなの……返してっ!」

 

 体力も尽き、ただ相手に懇願することしかできないハナビ。 けれど仮面の為なら敵対も辞さない姿勢を見せる。

 

 そんなハナビを無言でただじっと見つめる天音は、降ろしていた右手をゆっくり……ゆっくりと挙げる動作をして見せる。

 

(何考えてるか分からないけど……良かった、一応返してくれるんだ)

 

 ハナビが内心ほっとして天音に向け足を向け歩み始めようとした瞬間。

 

 天音は仮面を外そうと触れさせていた右手を、瞬時にハナビに向け指鉄砲の形に変える。

 

「――え」

 

 

 バチンッ

 

 

 と鋭く雷の走る音が、部屋に響く。

 

 雷光に対して咄嗟に目を閉じていたハナビは自身の体に何も影響が無いことを不思議に思い目を開ける。

 

 すると

 

「……流石に油断しすぎですよ、ハナビさん」

 

「白さんっ!」

 

 氷で腕全体を覆い、天音の雷銃を防いだ白がハナビの前に立っていた。

 

 表情は先の影響で若干辛そうにしているが、白はそのまま笑顔のまま空いた手でハナビの頭を撫でる。

 

「ですが良くやりましたね……見事状況を打開し、生き延びてくれていて本当に良かった……ハハハッ僕の隊長としての面目は丸つぶれですね……ですので」

 

 そのまま、白が凍らせた腕を振るうと氷が霧散し白の周囲を漂う。

 

 白が天音をきつく睨みつけ、互いの視線がぶつかる。

 

「――彼女の相手をして汚名返上とさせてもらいます」

 

 刹那、白が高速で印を結ぶと霧散していた氷が再結集して、円柱となり天音に向け突き出される。

 

「っ……!」

 

 天音がその攻撃を咄嗟に腕でガードし、反動で窓の外に身を投げ出される同時に白も駆けだす。 

 

「ハナビさん、派手な服装の犯人の拘束と二人(テンテン・ヒナタ)の介抱よろしくお願いします」

 

 天音を追い窓から飛び出た白は夜空の闇へとハナビの視界からその姿を消した。

 

 口を開く暇もなく一人残されたハナビは、流れる様な一連の出来事に困惑しつつもダンビの拘束と姉とテンテンを倒れ伏す人の海の中から見つけ出すことを最優先に動き始める。

 

「天音小鳥……あの人はなんで私を守ってくれたんだろう……それに何だか……初めて会った気がしない……ような?」

 

 

~~~~~~

 

 

 天音の身体が空中に投げ出され、軽重岩の術で態勢を整えようとしている様子を確認し窓から飛び出た白はそのままの勢いで天音に組み付く。

 

「っ……」

 

「貴様が天音小鳥……悟君に……黙雷悟について知っていることを答えろォ!!」

 

 空中をグルグルと回転し、互いに揉みあいながら落下する二人。

 

 そのまま二人は加速し、先ほど居た建物の下に広がる遊郭の屋根を突き破る様に落下。 けたたましい衝突音を立てて煙を巻き上げる。

 

 人の気配が消えた遊郭街で瓦礫の崩れる音が木霊した後、その屋根に空いた穴から天音が飛び出しそのまま近くの屋根に着地する。

 

「……」

 

 天音は自身が飛び出た穴を警戒し注視すると、同じく人影が飛び出て来て目の前に着地する。

 

 屋根に着地した白は、明らかに憎悪に近い感情を表情に浮かばせ天音を睨む。

 

「……お前が……()()()悟君の近くにいたことは分かっている。 答えろ、その時お前は彼に何をした……お前はなぜ暁に入った……っ」

 

 周囲の空気を凍らせるようなプレッシャーを放ちながら白は天音の写輪眼に怯むことなく視線をぶつける。

 

「……ふうッ」

 

 凄まじい圧を受けながらも、天音は落ち着いた様子で一息ため息をついて自身の体に着いたごみを払う仕草をする。

 

「答える気が無いのなら、力づくで」

 

「――悟、悟ってうるさいなぁ……木ノ葉の忍びは皆そんなに黙雷悟のことが好きなの?」

 

 先ほどまで無言を貫いていた天音は突然心底めんどくさそうな口調で言葉を発する。

 

「当たり前だ……っ! 彼がどれだけ周囲の支えになっていたのか……それは彼に救われた僕がもっとも痛感している」

 

 白の回答に、天音は目を細め白へと語る。

 

「まあ、知ってるよ? ……アイツは木ノ葉を()()()()ってことをね」

 

 肩をすくませながら、悟が木ノ葉を裏切ったという言葉を発した天音。 白はその言葉を受け、目を見開く。

 

「悟君が木ノ葉を……っ?! あり得ないっ!! 彼は……誰かを傷つけることを望んでする人じゃない……出鱈目を――っ!」

 

 白の言葉に天音がため息を被せる。

 

「ハア……実際そうなんだから仕方ないんじゃない……? つまりはそういう薄情な奴だったってことだよ。 あんた達木ノ葉もいい加減裏切者の悟のことなんかほっといて、他のやるべきことでもしてなさいな」

 

 うっとおしそうに手を払う仕草をする天音の態度は、白の逆鱗に触れる。

 

 白は無表情となり、目を伏せる。

 

「……貴様が本当のことを言う気が無いのは分かりました。 もうその口は閉じてくださっていいですよ……後は木ノ葉でゆっくり尋問して聞き出すので」

 

 白が張り付けたような笑顔になると、天音は不貞腐れたような仕草をして呟くことで反応を返す。 

 

「本当のことなんだけどなぁ……」

 

 そして両者の放つチャクラの圧がぶつかり合い、周囲の空気を震わせる。

 

「丁度胸糞悪い話を聞いた後で、イライラしてたんですよ……なので出し惜しみ無しで僕の八つ当たりを受けてくださいね♪」

 

「へぇ~……そのイライラしてるって所だけは共感してあげる♪」

 

 瞬間、屋根が二箇所弾け飛びその中間地点で両者がぶつかる。

 

 ぶつかった衝撃の余りの強さに周囲の屋根の瓦が円状に吹き飛ぶ。

 

「っ!」

 

 天音は写輪眼で白の動きを見切り、突き出された拳をガードしてカウンターを狙う。

 

 が、白の拳を受け止めた天音は想像を超える膂力を受け吹き飛び屋根の上から別の遊郭の店へと叩きつけられる。

 

 拳を振りぬいた白は印を結びながら、呟く。

 

(遊郭街の人間は全て、中央のあの建物内にいる……つまり)

 

「どうか、死なないでくださいよ? ……天音さん」

 

 白が印を結び終えると、大気が震え天音が突っ込んだ店の上空に白い煙が渦巻く。

 

 パキパキッと音を鳴らしながら空中に氷が形成され、その規模を拡大させながら動物の様を模る。

 

「氷遁……一角白鯨っ!」

 

 空に出現した一角を持つ氷の鯨は、その巨体で体躯の下を無残に吹き飛ばす。

 

 術が地面に落ちた衝撃で、周囲の遊郭の建物がゴソッと吹き飛ぶ。

 

 安置に避難していた白が地面に横たわる巨大な氷の鯨の様子を伺うと、瞬間その巨躯を突き抜けるように上空に向けて炎の柱が出現。

 

 その頂点で天音が姿を現す。

 

「おかしい……妙に強いね……っこの感覚はまさか――ッ」

 

 空中で何か白の様子を思案している天音。 その隣に、氷で出来た鏡が瞬時に出現する。

 

「っ早……っ!?」

 

 鏡から飛び出た白は手刀を氷の刃で被っており、天音に対して思いっきり切りつける。 天音も写輪眼でその高速の攻撃に反応し、とっさに尾異夢・叉辺流に火遁の刃を出現させ刃を受け止める。

 

 しかし火遁のチャクラを圧縮した高熱の刃を物ともせず、露すら発生させない白の氷の刃はそのまま天音を地面へ向け叩きつけるように弾く。

 

 白はそのまま地面へと叩きつけられ仰向けに倒れ伏す天音に切りかかると、天音も地面を背にしてその攻撃を尾異夢・叉辺流で受け止める。

 

「……先ほどから僕に写輪眼で幻術を掛けようとしているようですが、無駄ですよ。 僕に生半可な幻術の類は利きませんので」

 

「生半可とは言ってくれるねぇッ……土遁!」

 

 天音は片手を空け、印を結んで地面を叩く。 土遁の術が発動して周囲の地面が突出して隆起し白を押しつぶそうとするも白は後ろに跳びそれを避ける。

 

 天音は息を整えながらも、白の様子を観察する。 すると白は白い息を吐き、彼女の髪が先端から白く変色していっていることに気がつく。

 

 そして写輪眼で改めて白のチャクラの色を確認することで、天音はとある事実を確信する。

 

「……少し前にも()()()()()()と戦ったけど……」

 

「ああ、それは風影の我愛羅君のことですね。 ですが、今の僕は彼とは違い周囲を気にする必要もつもりもない……卑怯な手は通じませんよ?」

 

 白は天音の問答に付き合う素振りを見せず、印を結ぶ。

 

「氷遁・燕吹雪」

 

 構えた白の掌から飛ばされた氷の燕の大群。 それに反応した天音が駆け、その燕の体当たりを避けると着弾地点の地面が爆ぜ、逃げた先の家屋を問答無用で吹き飛ばしていく。

 

 桁違いの威力の氷遁に天音は、印を結び対抗しようと試みる。

 

「火遁・豪火球!!」

 

 仮面を少し上にずらして口元から放たれた巨大な火球は燕の大群を覆いその姿を見えなくする。

 

 しかし、天音が気がつくと白の術は豪火球で溶けることなく突き進んでおりその凶弾の数々が天音をミンチに変えるが如く押しつぶしていった。

 

()()……僕の氷は僕の意思の如く、絶対に溶けることはない……只の火ではもはや防ぐ手立てはないですよ」

 

 白の言葉に返事をするようにその頭上から天音の言葉が響く。

 

「火遁……豪火滅失っ!!!!!」

 

 影分身を囮に変わり身で白の頭上に移動していた天音の口から途方もないほどの巨大な炎の海が溢れ出す。

 

 空中に浮く天音の眼下が火の海で染まり、白の姿を消し歓楽街の一画が完全に炎に包まれた。

 

 しかし、途端にその炎の海は一点を中心にして次第に消え去っていく。

 

 その様子に天音は冷や汗を仮面の下で垂らし苦言を呈す。

 

「只の炎じゃなければ通じるかと思ったけど……っそういう次元じゃなさそうだ……っ」

 

 天音の呟きと同時に炎の海が消えさってしまう。 天音の目線の先に立つ無傷の白を中心に周囲の気温は一気に下がり、天音が吐く仮面の横の隙間からでる息も白く変わる。

 

「フフッ……今の火遁には驚きましたよ……まあ……驚いただけですが」

 

 その髪を完全に白色へと変色させた白の吐いた息はもはや白くなることはなく、その体を中心に霧が発生し辺りの瓦礫がパキパキと音を立てて凍り始める。

 

 余りの超常現象ぷりに呆れた様子の天音は心底めんどくさそうにして空中で口を開いた。

 

「……その力……間違いなく尾獣の類か……それも阿保みたいに研ぎ澄まされた力。 でも――」

 

「まあ貴方が知る由もない力でしょう……言えることがあるとすれば、疎まれていた存在の僕と歪んだ存在は相性がいいのかもしれないってことだけですね」

 

 白のまつ毛や眉毛まで白く変色し、思わず見とれてしまうほどの姿に天音は一種の恐怖を感じ身震いをする。

 

 白は瞳を閉じて、小さく息を整えるとゆっくりと目を開く。

 

「さて、準備運動もここまでです。 いい具合に身体が冷えましたので…… 

 

 

 

 

 

 本気で行きますね」

 

 

 

 

 白がそう笑顔で宣言した瞬間、白の体を中心に吹雪が発生する。 渦巻く巨大な吹雪が白を隠すと辺り一帯にとてつもないチャクラの圧を生じさせる。

 

 そのプレッシャーに息を呑んだ天音はこの先のことを思い悩む。

 

(ここまでとは……なるほど……どうしたものかな。 ()()()()……雪羅の力を相手にはこちらも出し惜しみをするわけには行かなくなったか……あ~あ、まだまだ隠し通すつもりでいたのになぁ……まさかこんな所で……)

 

 天音の写輪眼はその吹雪の先のチャクラの変化を見通す。

 

「まあ、この状況……四の五のは言ってられないか」

 

 天音がそう呟くと手の平を合わせた状態でチャクラを練り始める。

 

 瞬間巨大な吹雪を裂くように、巨大な何かが出現し天音をはたきおとすように押しつぶした。

 

 その衝撃に地鳴りがし、吹雪が裂けたことで隠されていたその先の光景が目に映るようになる。

 

 

 

 

 人工尾獣・双頭狼雪羅……かつて黙雷悟が雪の国で打倒したそれと同じ姿をした存在……双つの頭を持ち、見たものを凍てつかせてしまうと錯覚させるほどの透き通った白銀の毛並みを持つ狼へと変貌した白。

 

 その巨躯による前足が天音を踏みつぶしていたのだ。

 

 白は念には念と、その前足から先の地面を氷柱で埋め尽す。

 

≪……どうやらお終いのようですね。 

 

 白の声が響く。

 

(相当な手傷を追っても死ななかったと聞いていましたが……少しやり過ぎましたか……まあ、一瞬で凍らせたので蘇生手段は幾らでも――)

 

 そう白が思った瞬間、前足がぐらつきを見せ押し戻される感覚を覚える。

 

 

 

≪まさか……っ!?

 

 

 

 地響き鳴った瞬間と共に、白は自身の巨躯が吹き飛ばされるている事に気がつく。

 

 白の足先から昇る様に生じた巨大な“何か”はそのまま尾獣化した白の体を雲より高く押し上げ、その弧の頂点で推進力を地面へと向け落下を始める。

 

≪っグ……!!??

 

 隕石の如くその白と“何か”は遊郭街の外の歓楽街よりさらに外、何もない広大な荒れ地へと墜落し途轍もない地響きを発生させた。

 

 その衝突で生じた巨大なクレーターの中心に横たわる尾獣化した白はその体を地面に押し付ける物体を視認する。

 

 

 

 

(……()()()()……まさかッ!?)

 

 

 

 

 デッサン人形の様なツルツルの頭部以外は精巧に出来た金剛力士像のような姿の巨人は、白の2つの首を絞め地面へと押し付ける。 その力は凄まじく、尾獣化した巨体の白を地面へと沈めていく。

 

≪歪に歪んだ、特別な存在は自分だけだとでも思った? ……残念でした♪

 

 巨人の肩に手を着いている姿の天音の言葉が白へと投げかけられる。

 

 拘束された白は力が抜ける感覚に危機感を覚え、咄嗟に術を発動させる。

 

≪ッ……一角白鯨っ!!

 

 周囲の気温が一気に下がり、巨人の眼前から飛び込むように瞬時に現れた氷の白鯨。 その突き刺すような角に対して巨人は白の首を掴むその手を離し、白鯨の角と頭を押さえるようにして受け止める。

 

 白鯨の質量に任せた体当たりは巨人を押しやり、衝突に踏ん張るその両足に地面を大きく抉らせながら後退させる。

 

 その巨人は、より一層足を踏ん張り地面に足をめり込ませて後退を一瞬止めると掴む白鯨の角を引き寄せるようにして、背負い投げの要領で後方の地面へと叩きつけその巨体を砕く。

 

 周囲の地形を大きく歪ませる攻防。 白が体勢を整え立ち上がると、改めてその相対する巨人の姿を見つめる。

 

≪本物ではないとはいえ、僕の力(尾獣)を抑える……()()()()()()()()()を使えるなんて……貴方は写輪眼を持つうちは一族とばかり思っていましたが――

 

≪言ったでしょ? 私は歪んだ存在なのよ……まあさっきまでの余裕の表情はなさそうで良かった。 私に木人の術まで使わせたんだ、後悔させてあげるよ

 

 木霊する互いの声を聞き、四足の獣と二足の木人は腰を屈める。

 

 

 ――刹那、ダイナマイトが炸裂するような足音を互いに響かせながら駆け寄る。

 

 

 木人が大きく振りかぶった右の拳が双頭の片方を殴りつけるが、残った頭がその振り抜いた右腕を噛み砕く。

 

≪おおおおおっ!!

 

≪あああああぁぁっ!!!

 

 轟く両者の叫び声と共に白の頭突きと、木人の左ストレートがぶつかり互いが大きく体勢を仰け反らせ二人の距離が離れる。

 

 一挙手一投足が周囲の地形を変える巨体のぶつかり合いが大きな地響きを呼び、戦闘の規模の大きさを示す。

 

 距離の離れた両者は莫大なチャクラを練り上げると、白は双頭の口を開け、木人は右手を再生させながら両掌を前に構える。

 

 

 

≪氷遁・銀狼氷柱穿孔牙(ぎんろうひょうちゅうせんこうが)っ!!!

 

≪木遁・挿し木の術っ!

 

 

  

 双頭の口から巨大な氷柱が無数に形成され、射出される。 対して木人の掌からは大木が連続で生成し発射され、氷柱と大木が空中でぶつかり合い互いを砕き相殺し合う。

 

 互いの飛び道具が射出されるたびに周囲の空気が震え、互いに相殺することでさらに大きな衝突音が辺りの音をかき消し木霊する。

 

≪クッ!!

 

 拮抗する交戦状況を打開するため、白はさらにチャクラを消費して術を複数発動させる。

 

 一角白鯨が木人の頭上に押し潰さんと現れるが、それに呼応するように更なる地響きが生じて地面が割れるとそこから木龍が顔を出す。

 

 木龍は身体を伸ばし、白鯨の横腹に噛みついてそのまま地面へと叩きつける。

 

 また氷の燕の大群が木人の肩に居る天音を狙う。 しかし白鯨を砕いた木龍が地面に潜って移動し、天音の盾になるように地面から現れその顔で燕の大群を受け止める。

 

 一度木龍の顔が弾け飛ぶがその断面から直ぐに新たな木々が生え、再生を終えるとともに再度地面へと潜航する。

 

(流石伝説の木遁忍術、手ごわいですね……牽制のしあいでは、埒があかないか……僕の力も長くは保てない、こうなっては――)

 

 白は決定打に欠けることを気にして、一気に勝負を決めに掛かる。

 

 氷柱の射出を止め、挿し木の術の射線からそれながら白が木人へと素早く近づく。 木人が左腕を振るい、白を遠ざけようとするが白は真上へ跳躍してその攻撃を避ける。

 

(この術で……終わらせるっ!)

 

≪氷遁・大氷――

 

 白が術を放とうとした瞬間、木人を中心にして四方の地面から木龍が四匹顔を出す。 そのまま勢いよく空中に居る白へと木龍たちが絡みつき、白の四肢を一匹ずつ噛みつく。

 

≪グッ……しまった……

 

 木龍が人工尾獣・雪羅のチャクラを吸い取ることで、白は力が抜けてしまい木龍の拘束から逃れることが出来なくなってしまう。

 

 勝ちを確信した天音は木龍を操作し、白を地面へと押し付けると大きく木人の手を振りかぶらせる。

 

「残念でした、ではサヨウナラ~」

 

 軽快な口調の天音の言葉は白にだけギリギリ聞こえるように囁かれ、それと同時にその木人の手刀が勢いよく白の頭部目掛け振り下ろされた。

 

 

 

「「八卦・空壁掌っ!!!」」

 

 

 

 突然壮絶な衝撃音と共に木人の手刀は横に弾かたことで逸れ、地面へと激突しその場を大きくえぐる。 白はハッとして、声が聞こえた方に目線を向ける。

 

(――ヒナタさんに、ハナビっ!?)

 

 木人と尾獣化した白らの図体と比べれば、とても小さなその二人を見つける。

 

 その二人は再度、大きく腕を引っ込めて同時に掌底を繰り出す。

 

「「空壁掌っ!!!!!」」

 

 規模が通常の空掌より跳ね上がったそれは、木人の胸を穿ち大きくよろめかせる。

 

 そして

 

「いくぜ、赤丸っ!!」

 

「ワッフ!!」

 

 木人の後方から、キバと赤丸が印を結びながら走り寄る姿が映る。

 

「犬塚流・人獣混合変化っ!! 双頭狼!!」

 

 術の効果でキバと赤丸は木人のこぶし大の大きさの双頭の獣となり、激しく回転しながら木人の膝裏に体当たりを仕掛ける。

 

「牙狼牙ぁ!!」

 

 巨大な獣の螺旋回転の体当たりが木人の膝裏を抉り、膝カックンの要領で木人の体勢を崩す。

 

 ドシンッと音を立てて膝を着く木人を尻目に、白の体を締め付けていた木龍が次々と崩れ去っていく。

 

「秘術・腐蝕蟲……事情は分からないが白隊長……後は任せる」

 

 シノの体から解き放たれた蟲たちが木龍を蝕んでいき、白は身体の拘束が緩んだことを確認し木龍の破片をばら撒きながら再度大きく跳躍。

 

 空中で尾獣化が解けてしまい、雪羅の身体が霧の様に消えさり中から白髪の白が現われ木人へと勢いよく降下していく。

 

「……喰らえ――氷遁・大氷界の術っ!!」

 

 印を結び、手をかざした白の掌から途方もないほどの氷が空気を伝わるように現れ、木人の体を荒波の如く飲み込む。

 

 木人を完全に飲みこんだ氷塊の脇に白は着地。 疲労により膝を着くと、髪の変色は解け元の髪色へと戻る。

 

「はあっ……はあっ……やったか……?」

 

 白は息を荒くさせながら、氷に飲まれた木人を見上げる。 ……しかし天音が居たはずの木人の肩に、人影は見当たらず。

 

「っ!?」

 

 白が気がつけば、背後に天音が回り込み尾異夢・叉辺流から青い刃を突出させている。

 

「それは、フラグってやつだよ……」

 

 天音の囁くような言葉と共に振り降ろされる刃。

 

 白がそこから躱そうとするも

 

(っ!? 眩暈が……っ)

 

 愛染の術と尾獣化の影響が重なり、白は立ち上がれずに地面に手を着く。

 

「「白さんっ!!」」

 

 ヒナタとハナビが叫ぶ声が響く。 誰の助けも間に合わないタイミング。 その刹那

 

 ――ほんの一瞬天音の刃の動きが止まる。

 

(……っ!)

 

 その僅かな隙に、尾異夢・叉辺流と白との間にクナイが割り込むように投げ込まれ、一瞬でテンテンが姿を現す。

 

 テンテンはクナイにチャクラを込め、天音の刃を受け止めると両手でもったクナイを持ち上げる。

 

「間に……あった……っおうりゃっ!!」

 

 八門も開き力任せに天音の体を押し返し距離を取ったテンテンは、片手で白の体を引き寄せ立ち上がらせる。

 

「大丈夫、白!?」

 

「……どうやら、あまり大丈夫ではなさそうです……しかしまだ、確かめたいことが……っ」

 

 白はテンテンの支えから離れ印を結ぶ。

 

 天音は周囲に木ノ葉の忍びが集まって来ていることを察して軽重岩の術で飛びあがりその場から離れようとする。

 

 しかし

 

「氷遁秘術・魔鏡氷晶!」

 

 天音は空中に球体状に展開された魔鏡に囚われる。

 

 白は自身の横に展開した一つの鏡の中に姿を消した。

 

 魔鏡の中、術を発動させ突破を試みようとする天音に声がかかる。

 

「貴方は……なんなんですか?」

 

 ふと天音は魔鏡に移った白へと目線を向ける。

 

「尋問は木ノ葉に連れてってからじゃないの? 悪いけど、状況も不利そうだし逃げさせてもらうから」

 

 お構いなしにと天音が再度印を結ぶ。

 

「……何故先ほど、テンテンさんが助けに来るのを一瞬待ったんですか!? 貴方は――」

 

「ハアっ……」

 

 白の言葉を遮る様にため息をついた天音。 印を結ぶのを止め、白が映る鏡へと再度写輪眼を向ける。

 

「やっぱり……手を出すんじゃなかった」

 

 小さく呟かれた天音の心底後悔するような言葉。

 

「えっ?」

 

 白が無意識に言葉を漏らすと同時に天音は白の映る真上の鏡に向け、飛びあがる。

 

「――逃がさないっ」

 

 白がそれを阻止しようと、鏡を時空間に繋げ天音を球体内から逃がさないようにする。 しかし天音はそれにお構いなしに突っ込み、拳で鏡を粉砕し真上から飛び去っていった。

 

「バカなっ!?」

 

 自身の術をいともたやすく破られたことに驚く白。 夜空の雲の上へと逃げ去った天音の姿を球体の中で眺めていた白は悔しさに唇を噛むもふと、中に残された仮面に気がつく。

 

 鏡から出た白はその仮面を手に取り術を解除。 木ノ葉の忍びらが集まっていた地面の付近に出現させた鏡から姿を現す。

 

「白、どうだった!?」

 

 テンテンが白の姿を確認すると同時に言葉を掛ける。 白は目を閉じ首を振るも、手に持つ仮面をハナビへと手渡す。

 

「……っ! 白さん、ありがとうございます!!」

 

「いえ、皆さんの助力が無ければ僕はやられていたでしょう……ご迷惑をお掛けしました」

 

 頭を下げる白。 だがそんな気落ちしている白に

 

「しっかし、白隊長も俺と同じで獣人変化ができるとはなぁ! それも滅茶苦茶デカかったしっ!」

 

 キバは明るく声をかける。

 

「……あれはキバの術とは類が違うような気もするが……何故なら遠目からでも規模の大きな氷遁が確認できた。 キバの術は飽くまで変化の一種であり――」

 

「そんなことりも白さん、無事で良かったです。 遊郭街の犯人もハナビが取り押さえてくれていたので、戻って後処理をしないとですね」

 

 シノとヒナタの言葉が雰囲気を明るく戻す。

 

 そしてテンテンが白の後ろから勢いよく肩を組み、声をかける。

 

「……こういう時は、そんなしょげた顔をするもんじゃないんじゃない? それに謝るよりも先に、言う言葉があるでしょ?」

 

「……っ! そうでしたね、皆さんありがとうございました」

 

 白の仮面の無い笑顔に、周囲の雰囲気はさらに良くなる。

 

「っ……仮面の下始めて見るけどよォ……白隊長って滅茶苦茶美人だな」

 

「キバ……それは俺も同意しよう」

 

 キバとシノの言葉に、女性陣が苦笑いを浮かべる。 

 

「取りあえず遊郭街に戻りましょうか。 ヒナタさんの言う通り、主犯のダンビへの事の尋問とその他の処理をしなければいけません」

 

「りょーかいっ! 今回の任務、私正気を失ってた時間のが長いような気がするなぁ……」

 

 白の言葉をテンテンが受け、一同は遊郭街へと戻るために移動をし始めた。

 

「……」

 

 ふと白は振り返り、天音が姿を消した空を見上げる。

 

「白さーん、早く行きましょうよ~」

 

 ハナビの言葉にせかされ、白は木ノ葉の小隊の中へと戻っていった。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の一同が遊郭街に戻ると、気絶していた一部の忍び達は目を覚まして混乱している様子であった。

 

 ヒナタとテンテンが混乱する忍びや一般人らに傷を与えないように事情を説明する。

 

 また建物最上階で縄で柱に拘束されていたダンビの身柄を木ノ葉に連れていくため、シノが先に歓楽街に忍ばされていた協力者に引き渡した。

 

 キバは嗅覚を頼りに、建物の一室に監禁されていた湯の国の大名を見つけ出し身柄を解放。

 

 そして白とハナビは人の居なくなった最上階の部屋で愛染の入れられていた箱を開ける。 赤く染まった水が流れ出し、中から出てきた愛染の体を白は受け止める。

 

 笑顔で固まった愛染の表情、ハナビはその顔を見つめ呟く。

 

「この人……最後にありがとうと……言ってました。 私には事情は分かりませんが……」

 

「僕にも……分かりません……彼女が血継限界を持ち、利用されていたこと以外は。 ……彼女のような被害を出さないためにも、僕たちはもっと強くならないとですね、ハナビ」

 

「はい……」

 

 仮面を着けた白は、悲しそうな声を出すも決心を胸に抱き立ち上がる。 ハナビもまた、忍界における悲劇を知り……決意を新たにする。

 

 白は愛染の体を布でくるみ、抱えその部屋を後にする。

 

 ハナビがその後を追おうとするも、ふと天音が落ちてきた天井が気になり目線を向ける。

 

(……あの人は……何故ここに居たんだろう……?)

 

「ハナビ? 行きますよ」

 

「あっは~い。 今行きます」

 

 白に声をかけられ、ハナビもその部屋を後にする。

 

 そして……

 

 

 

 

 

「それぞれ別の地域から来ていた洗脳を受けていた方たちには、事情を説明して納得して帰って頂きました」

 

 歓楽街で集まった一同は個室で食事の席を共にし報告を行う。

 

 ヒナタの報告にテンテンが情報を付けたす。

 

「後、一部の一般人の人たちは木ノ葉の里を経由して安全に帰ってもらうことになったから里に幾つか馬車の手配をしたわ。 ……後処理のことを考えると私たちは直ぐには帰れなさそうね」

 

 めんどくさそうにため息をつくテンテン。 キバも自身の得た情報を共有する。

 

「そういや拘束されてた大名だけどよ。 元々あの遊郭街の範囲は大名の土地だったらしくて、遊郭街でもなんでもなかったらしいぜ。 あの壁も、遊郭街も取り払って元に戻すってよ」

 

「そうか……あのダンビという忍びは既に木ノ葉に身柄を送った。 今回の事件、多くの里が被害を受けた以上奴の罰は鉄の国で決められることになるだろう」

 

 シノの報告も済み、一同が湯の国の美味な食事に舌鼓を打つ中、ふとテンテンが白へとジーっと目線を向けてる。

 

 テンテンの視線に気がついた白は、心当たりがないため少し微笑を浮かべながら

 

「どうかしましたか、テンテンさん?」

 

 テンテンへと疑問を投げかける。 テンテンは眉をしかめながら口を開く。

 

「……結局、ダンビって奴が愛染って子の力を悪用して精神攻撃を仕掛けて来てたってことは分かったんだけどさ……何で白は最後まで意識を保ててたのかなって……気になって」

 

 テンテンの疑問に白は困ったかのような笑顔を見せ、少し考えこむ。 テンテンの言葉にキバが反応を示す。

 

「最後は壁の外に居た俺たちもヤラれたからな。 気がついたら、地面に俺とシノが倒れてて赤丸もハナビも居なくなっていたから何事かと焦ったぜ」

 

 キバがシノに「な?」と問いかける。

 

「……確かに。 歓楽街においても一部の人間が昏倒していたと情報がある。 その精神攻撃がテンテンらが解明した通りならば……大中小という綱手様の基準における大とはどういったものだったのか、白隊長に当てはめて考えても見当がつかない」 

 

 シノが食事の手を止め考察を始める。 白は観念したように口を開く。

 

「……小は恋を知らない人間、中は恋を自覚している人間……そして大は――ッ」

 

 白は首元に手を入れ、何かを引っ張り出す。 全員が箸を止めその動きに注目し、ハナビも赤丸に味付けされていないササミをあげながら目線を白へと向ける。

 

 ゴソゴソと白は首元のネックレスを胸元から引き出すと、そのネックレスに付いている指輪を見せながら口を開く。

 

「恋を実らせた人間……つまりは()()()……とでも言えばいいですかね……」

 

 

 

 照れて顔を紅くした白の言葉の直後、沈黙が訪れ

 

 

「……ワフっ?」

 

 

 その様子に赤丸が疑問符を浮かべた瞬間

 

 

 

 

「「「「ええええええぇえええぇぇっっ!!!???」」」」

 

  

 

 

 食事処いっぱいに響く、数人の叫び声が木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと!? 何今の叫び声……?」

 

 歓楽街、白たちが食事をしている店と接する路地裏。 継ぎ接ぎの黒い外套を身に纏った人物は叫び声のした方に目を向ける。

 

 そしてもう一人、その人物よりも背が高く外套を身に纏い黒い仮面を着けた人物が口を開く。

 

「なるほど、木ノ葉の忍び達が此処で英気を養っている様だ……本当に奇遇だったな」

 

 仮面を着けた人物は、口調を明るくしながら同じく目線を店へと向ける。 継ぎ接ぎの外套の人物は

 

「……ホンっっっトね!? まさか白たちがここに来てるなんて思っても見なかったわ……アンタの報告聞いて、油断してた……っ」

 

 不満を漏らすように仮面の人物へ文句を言う。 仮面の人物は仮面の下から顎を掻きながら

 

「いや、悪かった。 俺も集落に報告を出した後、こちらに潜伏していて木ノ葉から一度目を離していたからな……本当にすまなかったな、天音」

 

 外套を羽織った人物・天音小鳥に謝罪を行う。

 

「まあ、いいよ。 ……まさかアンタの元仲間がここに囚われてたなんてね、そりゃ気になるでしょうよ」

 

 気にしていないといった様子の天音はその黒い目を細めさせて、白たちの居る店を見つめる。

 

「……ねえ……アンタ、里を抜けたこと……後悔してる?」

 

「ん?」

 

 天音の問いかけに仮面の人物は目線を向ける。

 

「裏切者……になったわけじゃない? 私のせいで……」

 

「……」

 

 申し訳なさそうにする天音に仮面の人物は

 

「別に問題ないと思っている。 確かに立場としては抜け忍だが……俺には常に火の意思がある。 例え里の仲間達から裏切者と後ろ指を刺されようとも、俺は俺の成すべきことを成すために……自身の選択を後悔することはない」

 

 ハッキリとした口調で答える。 その言葉に天音は緊張した表情を緩ませ口を開く。

 

「そっか……ちょっと安心したかも」

 

「逆に言えば、俺も気になっている。 君こそどうなんだ? 天音小鳥と言う偽名を名乗りあの暁に属すること。 ……あまり精神的に良いとは言えないだろう」

 

「……ふふ、それこそ成すべきことを成すためにって奴かな。 私は私のやりたいことをやってるだけ。 ()()()とか()()とか……幾ら名を騙っても、私の本質は……変わらない」

 

「そうか……こちらも少し安心した」

 

 

 互いに気を許した同士のような雰囲気の二人。

 

 天音は再度口を開く。

 

「あの元仲間とやらの木ノ葉の暗部のくノ一、貴方とどういう関係だったの?」

 

「そうだな……三代目の――イヤ、あまり人に話す内容でもないだろう。 お互いに秘密にしておきたいこともあるだろう?」 

 

 仮面の男は、僅かに覗かせる目をウインクして天音の質問に答えない。 

 

 天音は苦笑いをし、しょうがないといった表情を浮かべる。

 

「……ハハッ、そういうことね。 さて、そろそろ私もここを発つとするよ。 今回は偶々ここで会えたけど、集落にも顔を見せにいってよね」

 

「……気をつけるようにしよう。 だがあそこに行く理由があまり――」

 

「ほら」

 

 天音は仮面の男に小さな袋を投げつける。

 

「これは?」

 

「あのダンビとかいう男の持ってた貴金属、宝石と言った類のモン盗んできた。 集落に持ってってヤマジさんに換金してもらってきてよ、私はこの後も用事があるから私の代わりにね♪」

 

 天音は有無も言わさないように、羽織っていた外套を脱いで裏返し、歪んだ朱い雲の模様を表にして羽織ると素早くその場から飛び去って行った。

 

 そんな天音の姿を見届けた仮面の男は、頭をポリポリと掻いて呟いた。

 

「フッ……敵わないな」

 

 

 




「二代目火影千手扉間による血継限界を持つ忍びの一族についてまとめられた資料の一部抜粋」


 愛染一族と呼ばれるものたちは自身の感情を他者へと伝える術を持っている。

 幼いころは力の制御が上手く行かずに、イタズラに他者に感情を伝えてしまうが成長することでそれらの制御が可能となるようだ。

 ……マダラを始めとしたうちは一族と同じく感情を力と変えるすべを持つ一族だが、物理的な脅威度は無いと言っても過言ではないだろう。

 ただ精神的に見ればかなりの脅威ともなろう。 広範囲の「感情を持つ者」の位置を正確に特定する感知能力、言葉を発しずとも情報を伝達し、いざとなれば他者の精神的壁を強制的に取り除くこともできる。

 それらの能力も、力を制御したモノだけが発現できるものだが。

 力の制御には健全な恋愛関係を観測することを続けることなぞと……ふざけているようにも思えるが、人の心などといった不完全で固定されないものを扱うのだ。 俺の憶測などあまり意味をなさないのだろう。

 他者に感情や情報を伝える「以心伝心の術」 同名の術を山中一族が扱うが、より感情を伝える能力が高いようだ。

 「出恋の術」……愛染一族唯一の幻術。 他者の感情を一人に向けさせ、その人物を求めさせる。 発動条件などは不明だが、そもそも扱える人物が殆ど残されていないそうで、詳細は不明だ。

 ……ともあれ忍界大戦を経て、邪魔とみなされた愛染一族の生き残りは殆ど残されてはいない。 兄者が里に招き入れたいとのたまっていたが……奴らも世界を恨み、もはや愛を語れる余裕のある一族でもない。

 ワシら強者の言葉なぞ、慰めにもならないだろう……こちらの本心が読めるはずなのに憎しみに囚われ自身らの力すらも見誤る。

 手を差し伸べるには時期が遅すぎたか……

 心の残りがあるとすれば一族の童たちのことだろう。

 愛を忘れた一族に生まれ、健全に力を制御するなど到底不可能なこと……流石の俺でもそれぐらいは分かる。

 願わくば、純粋な恋心とやらに触れ愛を思い出せることを……勝手に願わせてもらおうか。





 


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10:誰もが大切な人の傍にいたい

 湯の国での騒動から数日後……

 

「──失礼します」

 

 朗らかな雰囲気が流れる木ノ葉の里。 その火影室のドアがノックされる。

 

「入れ」

 

 部屋の中で作業していた綱手は、そのノックに反応し入室を許可しつつ扉へと目線を向ける。 許可を受け開かれた扉からは白が姿を見せ、その彼女に対して綱手はにこやかな表情を見せる。

 

「白か、今回の任務ごくろうだったな。 湯の国の大名の一人に恩を売れたのは大きい、それに結果的にだが行方不明になっていた他里の忍び達の救出にも繋がった。 今回の件は大きく評価されるだろう」

 

 任務の成果が予想よりも著しく良いものとなったことを綱手は白を褒めて伝える。 白は軽く頭を下げながら答える。

 

「いえ、綱手様の予想が正しかったので何とかなったと言ったところですよ。 あの基準を設けてくださってなかったら、もう少し怪我人が出ていることになっていましたから」

 

「そうか……お前からの手紙での報告であった愛染という名の少女……前に少し読んだ二代目様のまとめた資料に愛染一族についての記述があったが、もしやと思い対策を建てられてよかった。 これも暗部の彼女からの手紙のおかげでもあるが、白……お前の存在も大きかったな」

 

 何やらニヤニヤとし出した綱手の様子に白は、若干の鬱陶しいさをその綺麗な顔立ちに表情を浮かべて見せる。

 

「いや~? 極秘だが、マリエからお前と()()()の話を聞かされた時は……胸に来るものがあったね~?」

 

「……わざわざこの話をするために今、この部屋に(護衛)を寄せ付けてないんですか? ……悪趣味ですね」

 

 珍しく嫌そうな表情を露骨に見せている白に綱手は笑みに涙を浮かべながら謝罪をする。

 

「悪い悪い……だが、お前たちの話は私にとっても重要なことだったからな。 今でも思うがまさかあの鬼人がねぇ……」

 

「再不斬さんも感情を持った人間ですから……そしてそれは僕も同じく。 今、この瞬間の幸せを噛みしめる最優の選択をしたまでです」

 

「そうかい……ホント、施設でのアンタらの結婚に出席して欲しいと言われた時は……流石の私も色々な意味で肝が冷えたねぇ……ま、内密での出来事だ、特に()()()()には知られるわけにもいかないという事情を思えば私が呼ばれたこと自体光栄なことかな」

 

「根の組織……ですね。 一応僕の正体は公には伏せられているのも血継限界を持つ者として、マリエさんがそこのところ配慮をしてくれてのことで……綱手様が手配してくださっている()()()の件も助かっています」

 

「良いんだよ……最近ダンゾウが色々動いているらしい話もある。 白、お前が狙われた場合に標的になるのは間違いなく『蒼い鳥』だ。 白雪としてのお前と、忍びとしてのお前の繋がりは伏せていた方が良い……さて」

 

 綱手は話を区切り、1つの紙を取り出して机の上に置く。

 

「本題と行こうか……知らせにあったお前が接触したという天音小鳥について」

 

「はい……ただ僕も彼女について綱手様に聞きたいことが幾つかあります」

 

 白の切り返しに綱手は

 

「聞きたいこと……?」

 

 疑問を口にする。 白は自信のある口調で天音小鳥について振り返りながら話を続ける。

 

「天音小鳥……暁のメンバーの一人で、先日の風影襲撃事件……また雷の国でも日向ヒアシさんの前に姿を見せました。 彼女が最初に確認されたのは数年前のサスケ君の里抜け騒動の時、この時は我愛羅君とリー君の前にも姿を見せています。 ある程度の人間は彼女が写輪眼を有している稀な人物であるということを知らされていますが……今回僕は新たに彼女が木遁も有していることを確認しました」

 

 白の言葉に綱手は机に乗り出して驚きを露わにする。

 

「木遁だと……!? まさか……ッ」

 

「……僕の中にいる人工の尾獣、雪羅の力を抑える能力を見せたので間違いないかと……まあ、その規模は僕の想像を優に超えていましたが」

 

 白が見せる少し悔しそうな表情から綱手もその言葉が出鱈目でないことを悟る。

 

「木遁か……扱える奴を一人は知っているがまさか、それが暁にいるとはね……そうなると大蛇丸が絡んできてそうだが……っ」

 

 綱手が手を組み、深刻そうな顔でブツブツと呟き事態の黒幕に居そうな人物について考える。 実際、現代で木遁に対してもっとも知識を持っているのがそれを研究していた大蛇丸であることは綱手も知るところである。

 

「写輪眼と共に木遁をも有するとはな……暁が規格外な連中ばかりなのは有名だが、それにしたって度が過ぎているぞ…………ん、それで白、私に聞きたいこととはなんだ?」

 

「はい、天音小鳥のこれまでの行動についてですが……サクラさんのことを信頼していないわけではないのですが傀儡使いのチヨさんと共にいたとしても、彼女が赤砂のサソリ、天音小鳥両名と相対し、サソリを打倒しつつ無事で居られたことは中々に信じがたく……そこで僕はこう考えました。 ……天音小鳥がサクラさん達に何かしらの手を貸したんじゃないかと」

 

「……」

 

 白の言葉に綱手は口を閉じる。 沈黙が答えとばかりに白は納得の行った表情を見せる。

 

「ふふ……恐らくサクラさんも混乱を避けるために信頼のおける綱手様だけにそのことを報告していると思いました。 そこで綱手様は天音小鳥が本当は味方なのかどうか、さぞ悩まれていると思い僕の考えを伝えに来ました」

 

「面白い……お前の意見を聞こうじゃないか、白」

 

 綱手の浮かべた笑みに合わせる様に白は言葉を連ねる。

 

「今回の事件での天音小鳥の行動は……突如姿を現し、ハナビと共闘。 その後僕との交戦……その時天音小鳥は僕に止めをさせる場面で不自然に手を抜き、その隙をついたヒナタさん達の連携に追い込まれ撤退していきました。 ハナビに対して彼女は雷遁を一度放っていますが、恐らく僕がそれを防ぐことも見越しての攻撃……何より不自然なのは今回天音小鳥は一度も素顔を見せず、あえてハナビの持っていた悟君の仮面で顔を隠していたこと……木ノ葉のビンゴブックに彼女の人相書きはあるので僕も目は通していましたが、何か顔を隠す理由があったのか……ともより、天音小鳥自身の目的は最後まで不明でしたが興味深いことを言っていました。 黙雷悟は木ノ葉を裏切った……と」

 

 白が口にした天音の言葉に綱手は目を見開き反応を示す。

 

「っ……それが事実だと信じたくはないが、少なくともその証言は──」

 

「はい、悟君がどこかで生きていることを示しています、そして天音小鳥が悟君の現在の身辺の情報を持っている可能性も。 ……テンテンさんから聞いていたよりも彼女の態度にあまり余裕を感じられなかったことを思えば、彼女にとっての失言だったかもしれませんね」

 

 白の述べる言葉に綱手も複雑そうな表情を見せる。 ごく短い間だが、黙雷悟はその異名を轟かせ木ノ葉の有力な戦力として存在していた。 時が経ち、存在を世間から忘れられようと、彼と出会った者たちは彼を忘れることはないだろう。 そんな黙雷悟の生存と木ノ葉を裏切ったという情報は……

 

「無暗には広めるわけにはいかない情報……か。 ……嘘か真か、どっちにせよあいつを知る人物は混乱するだろう」

 

「僕もそう思います。 事実情けないですが、僕も聞かされた当初は激昂してしまったので…………ただ、今の僕はこの情報をとても前向きに捉えています」

 

「ほう、というと?」

 

「……今は木ノ葉の忍びの僕が言うのもなんですが……悟君は元々組織の立ち位置にあまりこだわりを見せていませんでした、『自分のやりたいことをやる』……彼の忍道は昔は敵であった僕を助け、里に招き入れるという……組織に属する忍びのモノとは到底いえないものです。 それでも、今の僕があるの──」

 

「つまり白、アンタ……悟は()()()()()()()()()()……何かを成そうとしているとでも言いたいのか?」

 

「……ええ、彼ならそういうことをしても不思議ではありません。 ……いずれにせよ、天音小鳥の言葉が真実だという確証はないのでただの僕の希望的な推測なだけですが」

 

 白は小さくため息をつき、微笑を浮かべる。 やるせなさ、何かを信じたい気持ち。 友を思う白の人間としての感情を見て綱手は目を伏せる。

 

(……火影の私も、あの小僧がそう易々と自分の信念を捨てるとは信じられない、というある種の()()を元に考えてしまっている……属する組織が本質を表すわけではない……か)

 

 綱手も小さく口元を緩ませ、目を開ける。

 

「……取りあえずの決定として木ノ葉は天音小鳥への態勢に変化は加えない。 奴がこちらに大きな危害を加える意思が見られなくとも、それすなわち味方とも限らないからな。 不安定な状態だからこそ、サクラと白、お前の意見を聞き入れ、更なる経過観察を行ってから改めてビンゴブックでの危険度を設定する。 天音小鳥が黙雷悟の仲間であり、暁を敵視する存在だと仮定するなら不自然に我々が警戒を解くのも、逆に警戒を強めすぎるのも奴らには損になるだろうからな。 ……ごくろうだったな白」

 

 綱手からのねぎらいの言葉に白は小さく頭を下げて応える。

 

「いえ……それでは僕は失礼しますね」

 

 白が改めて頭を下げ退室しようとしたとき、綱手から最後に声がかかる。

 

()()()()()()()()()()()

 

 何やら意味を含ませた少しニヤついた綱手のその言葉に、扉を閉めようとする白は最後に鋭い目つきを見せ部屋から退室していった。

 

 残された綱手は小さく独り言を呟く。

 

「結婚ねぇ……」

 

 

~~~~~~

 

 

 施設『蒼い鳥』には外から見えない中庭が存在する。 中央に一本の木が植えられて、子どもたちが遊ぶには十分なスペースのそこでとある女性と子どもたちが児戯にいそしんでいた。 

 

「白雪おねえちゃん、おままごとしよ~」

 

「今日は俺たちとドッジボールしようぜぇ!」

 

 男子と女子、双方のグループから引っ張りだこの女性は、その両手を引かれ困り果てていた。 ふとそこに再不斬が既に周囲に違和感覚えさせないほど馴染んだエプロン姿で現れる。

 

「小僧ども、菓子を作ってやった。 喰いたい奴は手を洗って食堂まで来い!」

 

 妙にハキハキした再不斬のその言葉に白雪に群がっていた子どもたちは一斉に駆けだす。

 

「やったぜ桃さんのおやつだっ!!」

 

「私が先に食べたい!!」

 

 はしゃぐ子どもたちを追い立てるようにその後ろをついて行く再不斬は

 

「先も後もねぇ、一人一個ずつだ! 手洗いを忘れる奴にはやらんぞ」

 

 白雪にほんのわずかの目配せをしてその場を後にした。

 

 一人中には残された白雪は中庭の木の根元に近寄りその地面を小さくノックする。

 

 瞬間、地面が何かの仕掛けで僅かにズレその隙間から()()()()()()()が素早く姿を現す。

 

 現れた白は白雪に相対し言葉を掛ける。

 

「ご苦労様です。 留守の間変わりはなかったですか?」

 

 白のその言葉に、白雪は表情をほころばせながら答える。

 

「いえ大丈夫でしたよ、子どもたちも素直でいい子ばかりです」

 

「それは良かった……僕の代わりにいつもありがとうございます」

 

「気にしないでください。 ……何より命を張る()()()()()よりも子供たちの相手をするこの()()()()()()任務の方が私としては普段より数段楽しめていますから」

 

 朗らかに笑う白雪に仮面を取った白はその仮面を白雪に渡す。 仮面を受け取った白雪は白の現れた地面の隙間に身を投じるとその隙間は次第に狭まる。

 

 地面に消えた白雪は最後まで名残惜しそうに手を振っていた。

 

()()()()()……まあ、ここの生活を知ると名残惜しくなるのも分かりますが──)

 

 施設の白雪と、木ノ葉の忍びとしての白。 それらを両立するために、白が任務で里外に出向く際に必要に応じて替え玉が綱手によって用意されていた。 よっぽど強い衝撃を受けることもない施設での日常生活であれば、変化の術で替え玉を用意するのも容易であるのだ。

 

 白雪として施設に戻った白は、早速鼻歌まじりで愛する人物の待つ食堂へと足早に歩いて行った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 大陸の北に位置する場所にある、結界忍術で隠された集落。

 

 家屋が幾つか並ぶそこを歩く黒い仮面の男性は、道行く周囲の人物にチラチラと目線を向けられながらも気にせず一際高い建物の中へと入っていった。

 

 中に入ればさっそくとばかりに暗い青色の髪で片目を隠したアガリがその仮面の男性へと声をかける。

 

「帰ってましたか。 貴方がここ(集落)に戻るのも珍しいですね」

 

「アガリか……ああ、サトリが少しは顔を出せとうるさいからな……仕方なくだ」

 

 仮面の男の言葉にアガリは目を見開き彼に身を寄せ詰め寄る。

 

「サトリ様とお会いしたのですか!? サトリ様のご様子はどうでした、任務のほうは!?」

 

 怒涛のアガリからの質問に仮面の男は心底うっとおしそうにしながらも小袋を押し付けながらアガリの体を押しのける。

 

「うるさい奴め、それが答えだ。ったく、ヤマジの商人に換金してもらってこい」

 

 用事はすんだとばかりに踵を返し建物から出ようとする男にアガリは

 

「もう行くんですか? もう少し休んでいってはどうです?」

 

 袋の中身を探り、貴金属類を幾つか手に取っているアガリのその言葉に仮面の男は答える。

 

「……俺はサトリの様に高速移動の手段がないんでな。 そう悠長にしていられな──」

 

 男の言葉を遮るようにアガリは袋の中から折りたたまれた紙を取り出し広げて見せる。

 

 その紙には『アガリへ。 仮面野郎をもてなせ byサトリ』と書かれており……

 

「っ……アイツめ……」

 

 恨むような言葉を呟く仮面の男にアガリは詰め寄る。

 

「サトリ様からのご指示です。 大人しく我が集落のもてなし、存分に堪能するといい!」

 

 仮面の男は大きなため息を付きながらもアガリに手を引かれ建物の奥へと引きずられていった……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 黒い肌で筋骨隆々のゼンゾウはその長めの金髪を縛り白い調理帽子を被ったあまり似つかわしくない姿で皿を洗う。

 

 集落にある家屋は全て特別な施設などではなく人が住むための住居であり、食事処などもあるわけではない。 ヤマジに与えられた1つの建物は集落で使う日用品などをしまう倉庫となっているが、娯楽などとは縁のない場所である。 唯一この石造りの建物内に設けられたゼンゾウの食事処……のようなスペースは、彼が栽培する野菜などが使われ味の評判もかなりいい場所である。

 

 前回サトリからも好評をもらい、品目を増やして張り切っているゼンゾウの提供する品をフォークで乱雑に差し仮面の隙間から口に含む男は同じく席を共にするアガリに声をかける。

 

「美味い……ことは認めるが、ゼンゾウの奴は他の奴らみたいに何故前線に立たない? ここの奴らが好戦的で皆強いのは一応俺も知るところだが奴はさらにその上を行くのだろう?」

 

「……サトリ様が仰っていました。 『私のいう事に縛られず自分の好きなことをやれ』……と、皆その言葉に従って……いえ自主的に感銘を受け行動しているのです。 向き不向きも当然ありますが、好きこそ物の上手なれという言葉もあります。 ゼンゾウも昔に比べ笑顔の似合う顔立ちになりました……うんうん」

 

 しみじみとそういうアガリの様子に

 

(……まあ、不幸そうな顔を見るよりは全然いいんだろうか……)

 

 仮面の男も納得の行った様子でゼンゾウの作った品をたいらげるのであった。

 

 食事を終えた仮面の男にゼンゾウが近寄ってくる。

 

「ハハハっ仮面さん、どうでい俺の作るメシは?」

 

「……悪くはない……」

 

「そうかいそうかい! なら次はもっと唸らせてやるから覚悟してくだせぇ!!」

 

 仮面の男は満更でもない雰囲気を醸し出しながらゼンゾウが話す調理過程の工夫などの話を黙って聞くのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 ゼンゾウに別れを告げ、アガリと共に建物一階にある吹き抜けとなっている大部屋へと移動した仮面の男。

 

 中にいる動物たちは人なれした様子でアガリと仮面の男にすり寄ってくる。

 

「……こいつら、怪我や病気の治療が済んだら元の生息域に返すのだろう? いいのかここまで人慣れしてて……」

 

 心配するような口調の男の言葉に、アガリは落ち着いた様子で返事をする。

 

「問題ありませんよ。 俺たちに対して警戒度が低いのは、〈彼〉が言い聞かせている成果でもあるので、人間すべてに心を開いているわけではないのです」

 

 アガリが壁際に置かれた机の引き出しから動物たちの餌を取り出しそれ配り始める。

 

「……そう言えばアカネの奴を見かけないな、毎度俺かサトリが帰ってくるとうるさく手合わせを迫ってくるが……」

 

 仮面の男がアガリが動物たちに群がられている様子を椅子に腰かけ眺めて言うその言葉に、アガリは微妙そうな顔をする。

 

「アカネはその……サトリ様相手にルールを破ろうとしたので、〈彼〉の折檻を受けています……下で」

 

 アガリが地面を指さすと、それが地下での出来事だと悟った仮面の男は仮面に手を当てる首を振る。

 

「……まあ、アイツの態度が本来、ここでの振る舞いとしては正しい部類なのだろう……と思うがそうか。 どれぐらいになる?」

 

「もう数日は経っていますね……そろそろ切りの良い所だと思うので様子を見に行こうと思っています」

 

「そうか……なら俺も同行しよう。 ……万が一がないとも限らない」

 

 そういい仮面の男が立ち上がると、アガリも手に持つ餌袋を机にしまい彼について行くことにしたのであった。

 

 動物たちに見送られ部屋を出た二人は建物の地下へと続く階段へと移動しそこを降りていく。

 

「……サトリは()()()を使うことを良しとしていないのか?」

 

 仮面の男が薄暗い階段を降りながらそうアガリへと問いかける。

 

「いえ……サトリ様が禁止しているのは仲間に対して……のみです。 あとは無暗に他者の命を奪わないこと、この2つが唯一サトリ様がここに住む者たちに設けているルールです」

 

「アカネは好戦的で血の気の多い奴だからな……むしろ折檻上等なんて思っているんじゃないのか?」

 

「ははは……否定できないのは否めないですね……」

 

 アガリが苦笑いを受けべると、地下の奥の方から地響きのような衝撃が走り二人は顔を見合わせる。

 

「まだやりあっているのか……数日になるんだろう? どんなスタミナだ……」

 

 呆れる仮面の男が階段を降り終え、目の前にある両扉を開ける。 すると……

 

 

 

 

「アハハハハハハ!! もっともっとだぁ!!」

 

「……ッ」

 

 

 

 

 赤い髪をなびかせ浅黒い皮膚をし、イルカのような尻尾を生やした人影が大柄なオレンジ髪の男に飛びかかっている様子が目に映る。

 

 

「オウラぁあ!!」

 

 高らかに叫びながら繰り出された女性の尻尾を叩きつける重い一撃を大柄な男性はその場を動かずに受け止める。 部屋全体を揺らすような振動を起こしながらも、男は一瞬アガリらを見てその姿を確認すると受け止めた手と反対の右腕を大きく変容させ一歩踏み込む。

 

「そろそろ終わりにするか」

 

 男のその呟きと共に、腕から杭のように変化した一部分がチャクラの破裂音と共に打ち出され、女性を穿ち大きく吹き飛ばす。

 

「ッグ!!! うげおrrrrrrrrrッ」

 

 女性とは思えない豪快な叫び声と共に吹き飛ばされた赤髪の女性がその大きな空間の壁に叩きつけられると、オレンジ髪の男はアガリ達に声をかける。

 

「どうかしたのか?」

 

 先ほど見せた痛烈な一撃とはかけ離れた印象を思わせる優しい声色のギャップに仮面の男は、仮面の下の表情をヒクつかせながらもその言葉に答える。

 

「いや……そろそろ折檻が終わっていると思って様子を見に来ただけだ。 それにしても凄い一撃だな……生きてるのか……アカネは」

 

 壁に叩きつけられた女性をアカネと呼ぶ仮面の男。 アガリが彼女に駆け寄れば、その姿は先ほどまでの異様な姿から一変。 通常時のアカネのモノとなっていた。

 

「問題ない。 ()()()()は伊達ではない、それに彼女の適応力は一際高いみたいだからな、頑丈だ」

 

 男の言葉に仮面の男は、姿を変容させ額から角を生やしたアガリがアカネに触れている様子を見る。

 

「……アガリが治療すること前提じゃないのか?」

 

「心配するな、俺もアガリと同じことが出来る。 だからこそ折檻役を任されているんだ、サトリにな」

 

 アガリは体の一部をアカネに溶かし混ぜ合わせるようにしてその傷口を塞ぐ。 気を失っているアカネをアガリが姿を元に戻しながら背負うと話をする二人の元へと駆け寄ってくる。

 

「どうやらアカネが反省する様子はなかったようですね」

 

 アガリの苦笑いに男が答える。

 

「彼女はそういう性分なんだろう、俺も似たようなモノだから良く分かる」

 

「似たようなモノねぇ……お前のはアカネの戦闘狂とは訳が違うだろ……なあ

 

 

 

 “天秤”の重吾」

 

 

 仮面の男の指摘に、重吾は困ったような笑顔を作る。

 

「……そう思われても仕方がないと、俺も思っている……こうして誰かと定期的に戦って発散しなければ()()()()は抑えられないのが現状だ」

 

「ですが、重吾の癇癪も昔に比べれば良くなった方です。 これも全てサトリ様のおかげ……!」

 

 アカネを背負ったままのアガリが拳を顔の横で強く握りサトリのしたことを称えるように、噛みしめるようにどや顔を見せる。

 

(…………本当にコイツ、心底サトリに心酔してるな。 ……若干鬱陶しい)

 

(フフッアガリは相も変わらずだな)

 

 仮面の男と重吾の微妙な目線に気がつかないアガリが一人サトリを称える言葉を連なり続ける。

 

「そもそもサトリ様がここに来てくださったからこそ、今の我々は豊かに暮らして行けているのです! あの日、この元大蛇丸のアジトに踏み込んできたサトリ様の後光の射すお姿は今でも忘れることはなく──」

 

「……そん時に一応俺も居たこと忘れるなよアガリ」

 

「仮面、今のアガリに言葉は通じない。 ここではあれだ、上に移動してゆっくり話そう」

 

 サトリの武勇伝を語るアガリに仮面の男が一言付け足すも重吾にたしなめられ彼らは一階、重吾のために設けられた動物たちのいる吹き抜けの大部屋へと移動したのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「そうしてサトリ様は仰ってくださいました、『アガリ、お前なら私の副官として信頼における。 さあ、私と共に暗き忍界に暁をもたらそうぞ』……と」

 

 動物たちに囲まれ、一人だけ椅子に座らずその上に立ち雄弁に身振り手振りを合わせ語るアガリ。 身長の低いアガリなりの姿勢だが大柄な重吾が椅子に座って動物たちと戯れている姿勢と高さの差はあまりない。

 

 流暢に語るその内容に、茶をすすりながら仮面の男が重吾に顔を突き合わせヒソヒソと語る。

 

「俺が知る限り、サトリの奴はああいう事言わない性格だと思うが……」

 

「アガリの語る内容は毎回、内容が少しずつ変化している。 恐らく自分の主観が大いに含まれ、時がたつにつれそれも美化されていってるんだろう」

 

「なるほど……可哀そうな奴だな」

 

「事実だがそういってやるな……」

 

「……何気にお前も容赦ないな、重吾」

 

 ヒソヒソと話している二人に気がつかず、なおも動物たちに対して独り気持ちよくサトリとの思い出(?)を語っているアガリ。

 

 その刹那アガリが何者かに突き飛ばされ椅子から転げ落ち、周囲の動物たちは一目散にそれぞれの檻に戻っていった。

 

「うっせーわ、ヒョロヒョロもやし!! 人が寝てんだからその鬱陶しい語り控えろや!!!」

 

 アガリを背後から蹴り飛ばしたイライラしている様子のアカネの姿に、仮面の男が動じずに手を挙げ挨拶を交わす。

 

「(ナイスだアカネ)……起きたか、お前は相変わらずのようだな」

 

 苦笑交じりの声を聞き、黒い仮面を視認したアカネはギザギザに見える歯を露出し上機嫌になる。

 

「仮面!! 久しぶりだなァ! お前とも戦いたかったんだよ、ほら下でやり合おうぜ!!」

 

「……本当に相変わらずだな……遠慮しておこう、お前も数日単位で重吾と戦って疲れてるだろ?」

 

 たしなめる言葉を受け、アカネは呪印による形態変化や重吾との戦闘でボロボロになっている自分の身なりを一瞥する。 が……

 

「いや、そうでもない。 ほら()ろうぜ!!」

 

 目をらんらんと輝かせ、何ともない様子で仮面の男へと詰め寄るアカネ。 蹴りとばされたアガリは既に起き上がりながら、何やら重吾に耳打ちをしている。

 

 仮面の男は表情に見えないまでも、明らかにめんどくさそうな感情を雰囲気に醸し出している。

 

「ほらほらほら!!」

 

「アカネ……お前少し匂うぞ、せめて風呂に入ってから──」

 

 仮面の男に詰め寄るアカネだが、その体が不意に浮かび上がる。 気がつけば重吾がアカネの背後から彼女の服の襟を掴み上げていた。

 

 急に持ち上げられたアカネは不満そうに抗議の意味を兼ねて手足をジタバタと振り回す。

 

「オイ、重吾!! 何すんだ離せよ、アタシは仮面と勝負を──」

 

「呪印頼りの戦闘は身体に負担が出る。 ゼンゾウの所で腹ごしらえをしてから改めて仮面に勝負を挑め」

 

 重吾の言葉に、アカネは相貌な振る舞いとは対照的な可愛らしい自信の腹の鳴る音を聞き

 

「……チッ……確かにな、腹が減ってはなんとやらだ! オシ、重吾一緒にメシだ!!」

 

「ああ、分かった」

 

 重吾は了承の言葉と共に、アカネを掴んだままその部屋を後にする。 去り際に仮面の男に向け重吾が目くばせをする。

 

(時間を稼いでくれるようだな……)

 

 仮面の男がその意図に気がつき、重吾らの気配が離れるのを待っているとアガリが声をかけてくる。

 

「……重吾もアカネも、素直でいい人たちでしょう?」

 

「今のやり取りでお前は何を言っている? アカネに蹴り飛ばされてただろ……」

 

 ふと仮面の男がアガリを見るとしんみりと、少し影を落とすような表情をしてアガリは話を続けた。

 

「重吾は貴方も知るように、自身の抑えられない殺人衝動に苦しんでいた。 アカネも持ち前の体力と回復力を買われ実験と称して弄りまわされていた。 ここの皆、貴方とサトリ様が来る前に比べて笑顔を見せるようになりました……前はそんな感情とは無縁の環境でしたから」

 

 今の幸せを嚙みしめるようにそう語るアガリに、仮面の男はそっぽを向きながらも彼の肩に手を置く。

 

「……俺も……忍びだが、苦しい事よりは楽な方が好きだ。 だがサトリ……奴が何を持って此処を作ったかは……お前も知っているだろ?」

 

 仮面の男の言葉にアガリは、目を見開くが

 

「ええ……サトリ様は、俺に色々教えてくださいました。 ご自身の秘密を、この集落の目的を……ですがそれでも俺はサトリ様を敬愛しますよ」

 

「ハハ、そうか……まあそれでもいいんじゃないか。  サトリの奴も幸せものだなwww」

 

 気分が良いのか、軽快に笑う仮面の男にアガリは少し照れた表情を浮かべる。  

 

「アガリ……天音を……アイツのことを頼む。 アイツの事は良く知っているが何かと一人で無茶をやりたがる奴だ……ここの存在はアイツが思っている以上にアイツにとって大きいものになっているだろう」

 

 励ましのような言葉にアガリは小さく返事をし、立ち上がる。

 

「任せてください!! 俺はサトリ様の副官ですから!! では俺は経理の仕事を片付けてきます、貴方は()()()に寄っていかれるのでしょう? 自分から言っておいてあまりおもてなしできなくてすみませんでした」

 

「フッ……充分もてなしは受けたさ、ここの内情に今まで目を向けて来てなかったからちょうどいい機会だった……頑張れよアガリ」

 

「……はい! ……では」

 

 アガリは笑顔を浮かべ、部屋を後にする。 一人の残された仮面の男は椅子に背を預け、目を閉じ深呼吸をする。

 

「…………さて、アカネが戻ってくる前に行くか」

 

 男は目を開け、静かに立ち上がり部屋から続く庭から音もなく跳躍してその場を立ち去った。

 

 

~~~~~~

 

 

 雲の上、太陽が遮るものなくぎらぎら青空で輝き日が照りつける上空を体育すわりの態勢で奇妙に水平移動する人影が一つ。

 

「ハァ~やらかしたな……白相手にペラペラと喋りすぎた……」

 

 落ち込んだ様子のその人影、天音小鳥はブツブツと誰に聞こえるわけでもない独り言を愚痴る。

 

「そもそも木遁を見せたのも迂闊だった、アイツは私が試すまでもなく強いのなんて知ってるのに……つい熱くなってしまった……木人は後でコッソリ消しといたからゼツとかに私の仕業だとバレないとは思うけど木ノ葉側が何らかの対応してきたら困るなぁ……」

 

 大きなため息を吐いたアカネをふと後悔だらけの当時のことを振り返った……

 

 

………………

…………

……

 

 

 

 湯の国の遊郭街。 その上空から闇夜に紛れ、天音小鳥は一番高い建物へと降り立つ。

 

(周囲の情報収集の結果、任務内容がガセなのは明らかだ。 私の集落に変な任務出しやがって、ちょっとおいたが過ぎたこと思い知らせてやろうか)

 

 内心イラついた様子の天音は屋根から建物の内部に侵入し、天井裏のスペースに潜り込む。 

 

 一切光が無い暗闇の中、天音は瞳を閉じ左手から出したチャクラ糸を腰に下げたヒザシの白眼が入った筒の蓋へと繋げる。

 

(視力情報接続……白眼!)

 

 チャクラ糸から流れるチャクラが筒の中の白眼を刺激しその効力を発揮。 チャクラ糸を通してその白眼が捉える情報を天音へと伝達する。

 

 建物を透過し、中の様子を完全に見通す天音。 ふと最上階、天井裏の下の部屋にある箱が気になりそこを注視する。

 

(……なんだコレ……ッて四肢が……ッ)

 

 その中に漂う愛染の存在に気がついた天音は息を呑む。 凄惨な彼女の様子に、天音は音を立てないように握りこぶしに力を籠める。

 

(事情はさっぱりだけど、こんな年の子が……余りにもあんまりだ。 何とか助けないと……)

 

 何とか出来ないかと、周囲を観察する天音。 すると部屋にジャラジャラとアクセサリーを付けた男が女性を引き連れ現れる。

 

 いかにも成金な様子の男を注視する天音はその男・ダンビが尊大な態度を取ることで嫌悪感を表情に浮かべる。

 

(黒幕……といったところか、周囲にはそれなりに忍びがいるが正気じゃなさそうだし……踏み込むか)

 

 天井を突き破り、攻撃を仕掛けようとする天音だがその瞬間

 

『ダメ……』

 

 ふいに頭に声が響き、咄嗟に踏みとどまる。

 

(っ!?)

 

 驚愕する天音だが頭に響く声は続けて彼女に語りかけるてくる。

 

『彼は私の全てなの……邪魔しないで……』

 

 懇願するような少女の声に天音は臨戦態勢のまま、白眼で箱の中の少女を注視する。

 

(……君……なのね? 私の思考が読み取れるの?)

 

『うん……私の力が効かない貴方には大切な人がいるんでしょ? その“愛”が分かるんだったら、放っておいて……!』

 

 拒絶する少女の言葉に天音は、その場に正座し彼女との会話に集中する。

 

(貴女の力がどんなものかは知らないけど、私が愛の分かる人間だとするなら尚更貴女のことは放っておけない)

 

 真っ直ぐな天音の感情。 天音に語りかける愛染は困惑した様子で言葉を紡ぐ。

 

『……私は化け物、そんな私に彼は生きる意味を……必要とされる嬉しさを教えてくれたの……お願い……っ!』

 

(……悪いけど、傍から見たらそうは見えない。 貴女の体の傷も、その扱いも到底まともじゃない。 貴女にもわかるでしょ? 欲に塗れ今まさに連れている正気じゃない女性らを嬲っているその男の様子が。 私には到底愛を語る人間には見えないね)

 

『…………ッ』

 

(……私に大切な人が居るって貴女言ったでしょ? その通り、私には……命に代えても守りたい人たちが居る。 そんな皆が貴方と同じ状況なら絶っっっ対に放ってはおかない)

 

『私はあなたにとっての大切な人じゃない……ッ』

 

(そうね……だけど、それを決めるのは私だ。 今はそうでも、この先どうなるかは分からない。 未来は誰にも……分からないはずなんだ、だから貴女を私の仲間の元に連れていく……っ!)

 

『ヤメ──』

 

 天音が再度天井を突き破ろうとした瞬間、下の部屋で異変が起きる。 慌ただしくなった部屋からガラスが割れる大きな音が響く。

 

(──まさかっ!?)

 

 天音がその騒音の主、部屋へと踏み込んだ白らに気がつく。

 

 戦闘が始まった様子に天音が困惑する。

 

(白にテンテン、それにヒナタも……オイオイ白が居るなんて仮面の野郎……イヤ、アイツの情報の時期的にここに来ててもおかしくないのか……ックソ)

 

 天音は白らの登場に怯み、その場に踏みとどまる。

 

『……?』

 

 愛染がその行動に疑問を感じるが、歯がゆそうにする天音が行動を起こさないことに安堵する。 しかし

 

『この人たちにも私の力が……効かない……何で!? これじゃあダンビ様は私を必要としてくれない……ッ』

 

 混乱するような声が続いて天音の頭に響く。

 

(……どうする……白がいるとなるとそう簡単には行かない……しかも声はともかくアイツに()()()()()()()()()()()()()。 三人がどうにかしてくれるのを待つか……?)

 

 場を静観することにした天音だが、相変わらず頭には混乱している愛染の言葉が聞こえていた。

 

『嫌だ……イヤだ!! 一人にはなりたくない、ダンビ様一人にしないで……っ!』

 

 その悲痛な声に、自分が行動を起こせないことにもどかしさを感じる天音。 部屋での戦闘を観察する天音はふとダンビが愛染の入っている箱のパネルを弄っている様子に気がつく。

 

 瞬間

 

『ヅッ!!! あああああああああああ──!!!』

 

 頭に響いていた愛染の叫びが聞こえたと同時にブツ切りのようにその声が聞こえなくなる。 

 

(オイ!? って電流を流されて──)

 

 驚く天音は部屋の中で白とダンビ以外が倒れ伏す凄惨な様子に、思わず歯ぎしりをする。

 

(……こんな事をさせることが……愛だと……!? ふざけるなよッ……)

 

 しかし途切れたはずの愛染の声が再び天音の頭に響く。

 

『ダンビ様が私を必要としてくれてる……っ! この痛みも……全部ダンビ様の愛ッ……』

 

 苦痛に叫ぶ声と、ダンビに必要とされることへの歓喜が混ざる感情の渦。 それが天音の感情をも刺激する。

 

(っそんなのは愛なんかじゃない! 今の貴女の体はそんな電流に耐えられるほど体力はないハズ、このままじゃ死ぬぞ!!)

 

『死んでも……ッ……構わない、私は……化け物……必要としてくれる人のために……ッ命をかける……』

 

 自分に言い聞かせるような愛染の言葉に埒が明かないと天音は下の白とダンビのやり取りに仲裁に入ろうとするも、再々度驚愕することになる。

 

 突然ダンビは吹き飛ばされ、新たなくノ一が姿を現す。

 

(ッ…………!?)

 

 そのくノ一の存在を認知した天音は驚愕に思考が一瞬止まるほど動揺する。

 

 その瞬間、聞こえていた愛染の声に変化が訪れる。

 

『……なにこれ……? こんな感情……ッ』

 

 驚くような声、そして

 

『これが……本当の……ッ互いに思いやる純粋な……ッ』

 

 動揺する愛染。

 

 天音もそのくノ一の存在に動揺を隠せないでいる。

 

(何でこんな……里の外に……っ!?)

 

 部屋ではダンビとそのくノ一との攻防が終わり、ふとダンビが悶え始める。

 

『駄目駄目駄目駄目駄目駄目っ!!!! このままじゃ……ッ』

 

 様子の激変した愛染が、天音へとすがるように語りかける。

 

『ねぇ!! お願い、あの子を守って……! 私にはもう力を制御できない、出恋の術が発動してしまったのお願い、あの子を……っ!』

 

(何を言って……っ?)

 

『貴方が彼女と会いたくないのは感情でわかる! けど彼女を……お願い私はもう間に合わない、だけどっアナタなら!!』

 

 愛染の語りかけてくる様子に、天音は瞳を開け答える。

 

(そんな……ッお前……自分の事よりも……ッ助けられなくてゴメン……ッ!)

 

 何らかの術の発動が、愛染の身体から最後の生きる力を消耗させたことに気がついた天音。 それでもそのくノ一を守るよう懇願する消えゆく彼女の言葉に天音は

 

(……任せてッ)

 

 精一杯の気持ちを込めて返事をする。

 

『……ありがとう、最後に貴方たちに……会えて…………本当……あり……う』

 

 何かを悟ったかのような様子の愛染の声。 そしてその愛染の声が聞こえなくなると同時に、天音は部屋のくノ一が愛染の発していた力の数倍上の力をその身から拡散していることに体感して気がつく。

 

「っクソ……!」

 

 助けられたかもしれない命に手が届かなかった悔しさを胸中に膨らませながらも、今まさに襲われようとしているくノ一を助けるために天音は決心を固める。

 

 瞬間天音は思いっきり天井を踏み抜き、階下へでくノ一を襲おうとするダンビを踏みつけるように埃と共に降り立つ。

 

 ダンビの肩を思いっきり踏み抜き加速し、天音はくノ一の腰に下げられていた仮面を手にしてその背を見せる。

 

「ゴホッゴホッ……次から次へとなんなの……キャッ!?」

 

 腰の仮面を取られたくノ一の言葉を聞き、天音は自身に湧き上がる様々な感情を抑えるように努めた……

 

 

………………

…………

……

 

 

「全っっっ然感情抑えられてなかったよ……ハア……」

 

 上空で再度大きなため息を付いた天音。 湯の国での出来事が相当堪えたのか、悶々とした感情は天音から消えることはない。

 

(白から逃げた後、コッソリ遊郭街の外の繫華街に忍び込んだけどそこに仮面がいるとは……ね。 知ってたら協力して……いや途中から()()()の力で動けなくなってたらしいし、結局私の判断ミスか……)

 

 どうにかすれば、もっと早く来ていれば……そんな後悔に苛まれながらも天音はふと地上の様子に気がつく。

 

 何かが崩れるような大きな音を聞き天音は雲の下の地上に注意を向ける。

 

「……時間は待っちゃくれないってね。 後悔は全て私の中に取っておこう、今は……

 

 

 

()()()()()に挨拶に行くとしようかな」

 

 

 天音は体育座りの態勢から身体を垂直にし、自由落下を始め雲を突き抜ける。

 

 

 目指すは────



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11:邂逅せし、今は運命の呪縛者たち

「サスケ……」

 

 地面が大きく陥没し、現れた大穴。

 

 特徴的な紋様の床が崩れた天井の瓦礫で覆われそこには三人の人影が立っていた。 その三人を見下ろす人影。

 

 見下ろす人影に向け思わず漏れ出た名を呼ぶ声に、名を呼ばれた男は極めて冷静に反応を示す。

 

「ナルトか……お前までいたのか」

 

 数年ぶりの再会。 そのことに微塵も心を揺れ動かさないサスケ。 一方ナルトとサクラはかつての班員の姿を見て動悸が激しくなる。

 

 二人と共にいる根の暗部の忍び、サイには目もくれずサスケは軽く周囲を見回す。

 

「お前らが居るということはカカシも……いや」

 

「カカシさんじゃなくて残念だったね、僕が代理だ。 これからカカシ班は君を木ノ葉に連れ帰る」

 

 サスケの言葉に一歩遅れて姿を見せたヤマトが返事をする。

 

「カカシ班……か……フッ」

 

 サスケは、自分の代わりのようなサイの存在、カカシの代わりのヤマトを一瞥して鼻で笑う。

 

「そいつが俺の穴埋めか? ……そいつは俺とナルトとの繋がりを守りたいだのと言っていたが、また随分とぬるい奴をいれたもんだな」

 

 サスケのその言葉に、サイ以外の新生カカシ班の面々は驚きを露わにする。

 

「サイ……アンタ……っ!」

 

 サイは『根』の命により、木ノ葉の障害となり得るであろううちはサスケの暗殺を企てていたと思っていたサクラ達。

 

 サイは驚きの視線を受けながらも真っすぐとサスケを見つめ自分の考えを述べる。

 

「確かに僕はサスケ君の暗殺を命じられた……けど命令はもういい、今は自分の考えで動きたい。 自分の中の大切なモノを思い出すためにっ!」

 

 サイの決意を固めた目を見て、サスケは目を伏せる。

 

「フンッ……自分の中の大切なモノ、か……それはそれは……思い出せるといいな」

 

 サスケの思いがけないその言葉に、サイの眼が一瞬見開き──

 

 

「だが俺がそれに協力する理由は微塵もないがな」

 

 

 刹那サイの真隣に現れたサスケの鋭い拳が、サイの腹部を抉り昏倒させる。

 

 あまりにも一瞬の出来事に、ナルトとサクラ、ヤマトは小さく呻いたサイの声を聞くまでサスケの移動に気が付けないでいた。 倒れるサイの音を合図にするように三人はサスケを取り囲むように咄嗟に距離を取る。

 

「サイ……!」

 

 ヤマトの心配する言葉にサスケは、顔を伏せ細目でサイを見つめたまま反応を示す。

 

「こいつは暗部の根の者だろう? さっきの言葉から、お前たちとは別の目的を持って動いていた……今更心配する必要もない」

 

 サスケは腰に下げていた刀を素早く抜き空へと掲げる。

 

「……」

 

「サスケェやめろォ!」

 

 無言でその刀を振り下ろそうとするサスケに、ナルトが叫びそれを合図に三人は一斉に駆けだす。

 

 チャクラコントロールの怪力による瞬発力がサクラを一番にサスケの元へと届ける。

 

 一切の迷いのないサクラの拳によるストレートがサスケの残像をかすめる。

 

「っ!?」

 

 その瞬間僅かに電気の走る特徴的な音が鳴る。

 

「サクラ、後ろだ!!」

 

 ヤマトはそう叫びながら印を結び木遁を掌から伸ばしてサスケへと仕向ける。 しかしサスケはその黒い眼による眼差しをヤマトへと向けると、サクラの背を蹴り態勢を崩させながら木遁の攻撃目掛けて駆けだす。

 

 手に持った刀を逆手に持ち直し、その斬撃で木遁の柱を一直線に裂きながらヤマトに接近するサスケ。 ヤマトは豆腐の様に斬られる木の柱を確認すると、咄嗟に空いた手でクナイを構える。

 

「ッ!」

 

 ヤマトのクナイとサスケの刀が接触した瞬間、鋭い金属音が鳴り響く。 斬撃を受け止めたかのように見えるヤマトのクナイだがよく見れば、その金属でできた刃に僅かに切れ込みが走る。 ギチギチと鳴る刃での押し合い、余裕そうに見えるサスケと打って変わってヤマトは額に汗を流す。

 

「……俺の刃が雷遁で強化されていることに気が付けたのは褒めてやろう……だが、ただチャクラを纏わせただけのクナイなど──」

 

 サスケがさらに力を込めようとした瞬間、その体に影がかかる。

 

「……」

 

「螺旋丸!!」

 

 ナルトの頭上からの奇襲、しかしサスケは冷静にチャクラをコントロールし刀の雷遁チャクラを身体へと還元、そのまま新たな術を行使する。

 

「千鳥流し!」

 

 サスケの体を中心に空間を稲妻が走る。 特徴的な鳥の鳴くような音を響かせ、ヤマトとナルトはその術の範囲に居たことでそれをくらい痺れて態勢を崩してしまう。

 

「ぐっ!」

 

「ぐあっ!」

 

 接近を試みていたサクラもその術に驚き咄嗟に後方へと距離を取る。 

 

「全身から千鳥を……っ!」

 

 サクラはそう呟きながらも、サスケの身体から迸る千鳥が収まりを見せると身を屈めて素早く再度接近する。

 

(サスケ君を……止めるっ!!)

 

 そのサクラの加速を確認したサスケは瞳を朱く染める。

 

「まさか、お前を一番厄介に思う日が来るとはな……サクラ」

 

 サクラはサスケの顔面目掛け、鋭い拳を放つもサスケはその動きを完全に見切り拳に触れる寸前で躱す。

 

 反撃とばかりに振りかぶられた刀、しかしサクラはさらに一歩踏み込みサスケが刀を持つ左腕を右手で鷲掴みにして止める。

 

「もう、逃がさないっ!」

 

 ギリギリとサスケの腕をへし折らんばかりの力で握るサクラ、サスケは右手で新たにクナイを構えサクラへと突きを繰り出すも

 

 

 

 サクラの身体が霧のように霧散しその攻撃は空を切る。

 

 

「……ッフン……」

 

 面白いモノでも見たかのように鼻で笑ったサスケは写輪眼を解き、おもむろに体を前に倒し地面に手を着くことで後ろ上方に向け蹴りを放つ。

 

 何もない空間目掛けて繰り出された蹴りは、しかし何かを捕えたかのように大きな衝撃音を出す。

 

 態勢を戻したサスケは、そのまま後方の地面を見下ろす。

 

「うちは一族の俺相手に幻術を狙うとはな……舐められたものだ」

 

 するとその地面には鼻から血を流して地面に手を着いているサクラが揺らめくように姿を見せる。

 

「っ……」

 

「大方、俺が攻撃をかすめるように避けることを想定して手袋に幻術用の匂いでも付けていたのか……俺相手でなければ十分有効だろうが相手が悪かったな……サクラ」

 

 サスケの言葉にサクラは蹴られたことで揺れた脳の影響にふらつきながらも立ち上がり拳を構える。

 

「っ私に出来ることなら……小細工でも何でもするわ……サスケ君」

 

 視線をぶつけ合う二人、その刹那

 

 サクラが崩れ落ちる。

 

「ガハッ!?」

 

 腹部への唐突な衝撃に前のめりで倒れこむサクラ。 気がつけばいつの間にかサスケがその傍らに立っていた。

 

「逆に自分が幻術に掛けられていることも用心すると良い……その機会があればだがな」

 

 呻くサクラは自分がどのタイミングで幻術に掛けられたかも分からず、どうにか起き上がろうと手に力を籠める。

 

(ッ写輪眼を見ないようにしていたのに……まさか何かしらの動作の機微だけで……っ?! ……早く起きないと!!)

 

 もがくサクラにサスケはその背を踏みつけ動きを制限する。

 

 小さく呻くサクラの様子にナルトが雷遁の痺れが残ったままだが駆け出し、サスケへと拳を突き出す。

 

 しかしそのキレのない拳は悠々とサスケに手首を掴まれることで止められる。

 

「何で……何でだサスケェ!? 何でお前は里を……ッ」

 

「今更、その問答をしたことで意味がない……フッお前は成長していないようだなナルト」

 

 見下すようなサスケの言葉と視線。

 

「何だと……っ!?」

 

「お前には火影になるとか言う……夢があるんじゃないのか? 俺を追い回す暇があったら修行の一つでもしてりゃ良かったのになぁ……」

 

「っ仲間一人救えねぇ奴が火影になんてなれるかよ、サスケェ!」

 

 ナルトが開いた左手で拳を放つもそれもサスケに掌で受け止められる。

 

 瞬間、ナルト後方の瓦礫が煙を上げナルトへ数人姿を現す。

 

(影分身を変化させて仕込んでいたか……だが)

 

 サスケはそのナルトの一連の動きを読んでいたかのように淀みなく次の一手を打つ。

 

「っ!?」

 

 まず、右手で受け止めたナルトの左手をチャクラを流し込み強制的に動かすことで術の印を組む。

 

 大きく息を吸い、サスケは口から火球を複数繰り出した。

 

「鳳仙花!」

 

 ナルトの後方から迫っていた影分身はその本体が影となっていたため、サスケから繰り出された曲がる軌道を見せる火球に全て打ち抜かれ姿を消す。

 

 自身に放たれると空いた左手で顔を防いでいた本体のナルトは雷遁を纏ったサスケの突然の蹴りに対応できずに蹴り飛ばされてしまう。

 

 瓦礫の山に背を埋めるようにぶつかったナルト。 そのナルトに対してサスケは言葉を向ける。

 

「仲間一人……か……フン。 差し詰め俺はお前が火影になるための功績の一つにでも数えられているのか……それとも、ただ抜け忍の俺を里に引き戻す身勝手を通すために火影の名を利用しているだけか……」

 

「ッ!? ……っ」

 

 サスケの言葉にナルトは図星を付かれたかのように顔をそむける。

 

「……どちらにせよ、俺は誰かに救われる覚えはない。 俺は俺の成したいことを成すために、里を抜けた……ナルト、俺からすれば今のお前は見るに堪えないな。 かつて我愛羅の暴走を止めたお前の面影などまるでない……迷い、躊躇し、そのうえ力も弱い……そんな無様な姿では俺など関係なく火影なんてなれはしないだろうな」

 

 サスケは冷たい表情をナルトからそらし、足元で呻くサクラに目線を向ける。

 

「……力とは目的を成す手段だ……その力自体に、善も悪もない。 その己の内なる妖狐の力も御せないのではまるで話にならない。 ……お前も繋がりを亡くせば、決意でも固まるか?」

 

 そう言うとサスケは手に持つ刀を振り上げる。

 

「っやめろォ……サスケェ!!!」

 

 未だ蹴りの雷遁の影響で痺れるナルトの叫びを無視するかのようにその刀は振り下ろされた──

 

 

 

 

 

 そして一際大きな雷鳴がバチッと鳴り響く。

 

 

 

 

「ッ……何が……?」

 

 頭上できらめく光に疑問を覚えたサクラが顔を挙げるとそこには……

 

 

 

 

「随分と荒っぽいじゃない♪ ……うちはサスケちゃん!」

 

 雷遁のチャクラで出来た刀身を生やした尾異夢・叉辺流でサスケの刀を受け止めている天音小鳥の姿があった。

 

 雷遁の刃の交わりは接触部位から青白いスパークをバチバチと発生させている。

 

「……天音、小鳥……!」

 

 その名を呟き驚きを露わにするサクラ。 サスケは突然の乱入者に驚く様子もなく、そのまま斬撃を繰り返す。

 

 二三度切り合い刀身をぶつけ合って火花を散らしたが、最後に天音の横ぶりを避けるようにサスケがサクラの上から飛び退く。

 

「……どこからか見ている奴がいるとは思ってはいたが……その外套の模様………………暁か?」

 

 いささかハッキリと暁かどうか断定できない様子のサスケの問いに天音は胸を張りドヤ顔で答える。

 

「YES!! いかにもタコにも、私は暁の構成員見習い……天音小鳥!! 以下よろしくってね!!!!」

 

 バカでかい声での名乗りに、起き上がったサクラは顔をゲンナリとさせ

 

「アンタ……生きてたのね……」

 

 天音へと声をかける。 サクラ自身、天音と一度会っておりその時の行動から完全な敵だとは思えず、取りあえず自身の驚きを口にした。

 

 ……のだがその言葉に顔に『心外』といった表情を浮かべた天音は

 

「何!? 一度会ったことがあるからって、その馴れ馴れしい態度!! ナニ、彼女面!? 彼女面なの!!??」

 

 ヒステリックに喚き散らし始めた。

 

 

「「「……」」」

 

 

 あまりにも場違いなテンションの天音に周囲に微妙な雰囲気が漂う。

 

「あ~あ、た・ま・た・ま利害の一致で一度助けたことがあるからってすぐその気になられても私困っちゃうわ~~!!! でぇも私安い女じゃないからぁ、残念だけどお断り。 後方支援の医療忍者だからって後方彼女面しないでよねぇ~~!!!!」

 

「誰が彼女面だぁ!!?? 私はくノ一よっ!!」

 

 切れたサクラが放った拳を天音は悠々と受け止め、喚き散らし続ける。

 

「くノ一だからってくノ一と恋愛しないとは限らないでしょ!?!?! 何、差別なの!?!?! 今どきの風潮知らないの、LGBT!!」

 

「さべっ……えるじー……??? ッアンタなに訳わかんないことを──」

 

「しかもこうやって直ぐに手を出すぅ……DVよDV!!」

 

「っ~~~~~~!!!!!!!」

 

 阿保みたいに喚き散らす天音に、自身がサスケの凶刃から救われたことが抜け落ちたサクラは空いた手を大きく振りかぶる。

 

 瞬間、天音は受け止めていたサクラの拳を引きその態勢を崩し転ばせながら尾異夢・叉辺流を自身の後方へと振るう。

 

 いつの間にかサスケが切りつけてきていた刃と交わった刀身から、互いの顔を覗き合う天音とサスケ。

 

「……女子同士の会話にチャチャ入れるんじゃないわよ、男ならねぇ?」

 

「馬鹿みたいな茶番に付き合うほど俺も暇じゃない」

 

()()()()って~気が早──」

 

 天音に下らない言葉を言わせないようにか、サスケが怒涛の連撃で天音を押し込んでいく。

 

「ちょ……まっ……何? 怒ってんの?」

 

 軽口を叩きながらもサスケの草薙の剣の斬撃を全て尾異夢・叉辺流の刀身で受け流す天音。 そんな二人の動きは通常の忍びのそれを優に置き去りにするスピードであった。

 

 一秒にも満たない瞬間に幾度のスパークが二人の間で煌めき、互いの大振りの一閃の衝撃で僅かに距離が離れる。

 

 天音は楽しそうに笑みを浮かべるとその場に残影を残すほどのスピードで駆けだす。

 

 いつの間にか写輪眼を発動していたサスケは、眼をぎょろぎょろと動かし周囲を翻弄する天音の動きを正確に追う。

 

「……」

 

 天音の動きを観察するサスケは、印を結び術を行使する。

 

「火遁──」

 

「火遁・豪火球!」

 

 瞬間、天音も同じ印を結び宙に舞いながらサスケ目掛け豪火球を放つ。

 

 同時に同じ術を使い、空中で衝突した豪火球は爆炎を散らしながら弾けた。

 

 術の反動で翻りながら、地面へと悠々と着地をして見せた天音にサスケはその写輪眼を向ける。

 

 瞬間サスケが複数のチャクラ糸で身体を拘束される。

 

「豪火球に紛れ込ませていたか……」

 

 天音の動きを読み解いたサスケの言葉を肯定するかの如く、左手の五指から伸ばしたチャクラ糸を締め上げ天音は印を結ぶ。

 

「火遁・龍火の術!」

 

 天音のチャクラ糸をたどり、炎がサスケへと進行するがその瞬間サスケの身体を拘束しているチャクラ糸からも天音に向かい炎が走る。

 

 互いの炎がぶつかった瞬間に小さくはない爆発が起き、チャクラ糸が弾け飛ぶ。

 

「拘束される前に龍火の印を結んでいたか……やるねぇ♪」

 

「……フン」

 

 互いに余裕があるかのようなやり取り、睨み合いに移行し場が拮抗した今、サスケはこれまでの戦闘と観察の結果から天音を分析する。

 

(なるほどな……奴の体内のチャクラの動きを写輪眼で見切ることができないのは、どこかに結界忍術を仕込んでいるからか。 左眼に着けた片眼鏡、両手首両足首に付けている鉄輪はチャクラ刀などにも使われるチャクラを良く吸収する金属に類するモノ……体外へのチャクラの漏れを防ぐ目的だろうが同時にそれは放出系の術の威力を弱めることにもなるはずだ。 それでも先ほどの術の威力を見るに……ワザと手を抜くための拘束具と考えるのが妥当か。 身体強化、忍術……どれも俺と同等……に合わせに来ているとなると……)

 

「なるほどな、これが暁の実力か……面白い」

 

 サスケがそう呟きニッと口角を上げる。

 

 僅かな戦闘でも二人の実力の高さが窺い知れるために、気を失っているサイを除いたカカシ班は動きあぐねていた。

 

 ヤマトも既にサスケの拘束は諦め、まずはこの場から如何にして全員で撤退するかを考え始めていた。 そんな時

 

「サスケ君!」

 

 起き上がっていたサクラが天音と睨み合い隙を伺いあうサスケに声をかける。

 

「……」

 

 返事をする気のないサスケに、サクラはお構いなく言葉を続ける。

 

「その暁は、悟の所在を知っているかもしれないの! それに──」

 

「悟の所在……だと? あいつは今木ノ葉にいないのか?」

 

 悟の名が出ることでサスケの視線が僅かにサクラに逸れた瞬間、天音が駆けだす。 と同時に

 

「サスケに手ェだすんじゃねぇ!!」

 

 ナルトが螺旋丸を天音に向け繰り出す。 不意打ちにも関わらず天音は視線をサスケに向けたまま、ナルトの螺旋丸を構えている手首を掴み強引に後方へと投げ飛ばす。

 

 しかし

 

「行けナルト!」

 

 ヤマトが咄嗟に木遁で作った足場を使いナルトは天音の後方で再度跳躍。

 

「喰らいやがれ!」

 

「チッしつこいなぁ!」

 

 螺旋丸を押し付けようとするナルトに対し、今度は天音もナルトへと向き合いその掌をナルトの螺旋丸へと押し付けるように繰り出す。 瞬間チャクラがぶつかり合い拮抗する音が周囲を占めた。

 

 天音もまた瞬時に片手で螺旋丸を形成し、ナルトのそれとぶつけていたのだ。

 

「何でてめぇが螺旋丸を……!?」

 

「チャクラコントロールさえできれば、印も無しに発動できる強力なこの術を覚えないのは効率的じゃないからねぇ!」

 

 ナルトの驚愕する言葉に返す天音の返答。 ぶつかり合う螺旋丸が放つ衝撃波が近くにいたヤマトを吹き飛ばし、サスケとサクラもまたその場から離れその様子を伺いながら話を続ける。

 

「悟は……サスケ君が里を抜けたあの日に、消息不明になってるの。 サスケ君奪還任務に途中から参加していたって痕跡と証言はあるけど……額当てやあの仮面を残して、姿を消した……その悟の手がかりをあの暁のくノ一、天音小鳥が持っているかもしれない!」

 

「なるほどな……それを俺が知れば、あいつを倒すのに俺と協力できるかもしれないとサクラ……お前は思っているわけだ」

 

 サスケの指摘にサクラは額に汗を浮かべながら黙って首を頷く。 上手い事暁を排除し、あわよくばサスケとも協力関係を築ければあの頃に戻れる手掛かりに……そんなサクラの思惑払拭するようにサスケは鼻で笑った。

 

「フッ……悟の奴が今どうしてようと俺の知ったことじゃない。 俺の邪魔立てをしなければそれはどうでもいいことだ……だがイタチに近づくためにあの暁は邪魔かもしれないな。 ──いいだろう」

 

 サスケの思わぬ返事に、サクラが希望を見出した瞬間。 サスケは瞬神の術でナルト達を見下ろせる元居た位置へと移動する。

 

 その場から写輪眼でカカシ班と天音小鳥を見下ろすサスケ。 その様子に気がついた天音はわずかだが視線を向けていた。

 

 小さく息を吸い、サスケは言葉を放つ。

 

 

 

「全員、ここで潰れろ」

 

 

 

 サスケが印を構え、左手を天へと掲げる──

 

 

 

「その術は止めておきなさい……サスケ君」

 

 その瞬間気配もなく、まるでその場に初めからいたかのように自然な動きでサスケの左手を抑える大蛇丸が居た。 

 

 大蛇丸に目線を向けたサスケは

 

「放せ」

 

 簡潔にそう言い放つ。 

 

「あらあら口が悪いわねェ……」

 

 大蛇丸が仕方ないといった口調で返すもその掲げたサスケの左手を抑える手の力は少しも緩まることはなかった。

 

 サスケや大蛇丸の眼下で螺旋丸をぶつけ合っていたナルトと天音だが、ナルトが大蛇丸の出現に気を取られた隙に天音が体を側面に滑り込ませナルトの肘を空いた腕による肘打ちで叩き怯ませ、ヤマトに向け投げ飛ばした。

 

 そのまま天音は黙ってサスケと大蛇丸を見上げ、ナルトもヤマトに受け止められつつもその二人を見上げる。

 

「っサスケェ! こっちに来い!! 大蛇丸はお前の体をとっちまおうとしてんだぞ!!」

 

 ナルトの叫びに、サスケは舌打ちをしながら左手を降ろしナルトへと目線を向け言葉を返す。

 

「……それがどうした?」

 

「なっ!? そうれがどうしたって……そうなっちまったらお前は──」

 

「子どものままだな……ナルト」

 

 憐れむかのようなサスケの目線に、ナルトは汗を垂らし黙り込む。

 

「俺の目的のためには……力が必要だ。 イタチを相手に今の俺も、大蛇丸も勝つことは難しいだろう……大蛇丸が俺の身体を狙っていることは知っている、だが逆に俺が大蛇丸から戦いの経験、術、知識を得ようとしていることもこいつは知っている。 俺たちは互いに目的のために利用し合う関係だ、自分の目的への意思もあやふやで弱いままのお前と仲良しごっこをしている暇は俺にはない」

 

 吐き捨てるようなサスケの言葉に、言葉を詰まらせるナルト。 天音は、目線をナルトへと向ける。

 

(反論なし……か、そんな気はしてたけど……()()()()()うじうじしてるねぇ、このナルトは)

 

 そんな天音の視線にナルトは気がつくこともなく、歯を食いしばるだけであった。

 

 しかし

 

「サスケ君の目的がうちはイタチなら私たちも協力できる! 里の皆だって、事情を知れば──」

 

 ならばとサクラがサスケの説得に掛かる。 が

 

「笑わせるな、今の木ノ葉の里の奴らに何ができる? 精々イタチの写輪眼の前に幻術に堕ちて邪魔になるだけだ」

 

 サスケの指摘にサクラは目線を逸らす。 実際、我愛羅奪還任務中、本気ではないであろうイタチの分身体に指の動きだけで幻術に掛けられたナルトを見ていたサクラはその可能性を否定できない。 それほどまでにうちはイタチとは強大な存在である。

 

 言葉を詰まらせるナルトとサクラの様子に呆れ、サスケが目線を天音に向ける。

 

「おいそこの暁、天音とか言ったか、一応聞くがうちはイタチについて知っていることがあれば吐け」

 

 突然睨まれ質問を投げつけられた天音は口笛を吹く素振りで顔を逸らす。

 

「お~怖い怖い、悪いけど私はイタチ先輩と直接会ったことはないので何も教えれませーん♪」

 

 とぼける天音に、サスケの脇に立つ大蛇丸が興味深いモノでも見る目を向ける。

 

「あら……っ! そこの粗末な外套を羽織る子、暁なの……随分とユニークな柄をしてまぁ……芸術好きのあの2人が嫌いそうな出来栄えねェ……思えば組織に属してた頃が随分と懐かしいわァ……」

 

「……ひっど~い、初対面の人の外套を粗末というのは奇人変人関係なく失礼じゃない?」

 

「フフフ、例え初対面でなくとも人を奇人変人呼ばわりするのは失礼よ」

 

 大蛇丸と軽口でやり取りする天音。 大蛇丸の隣にいるサスケは(奇人変人は比喩でも何でもなく紛うことなき事実だと思うがな)と敵である天音に内心同意を示していた。

 

「アンタ、ゲロゲロと色々口から吐くじゃない……紛うことなき奇人変人よ」

 

「!……フッ……」

 

「……サスケ君、今貴方……」

 

「……黙れ何でもないッ」

 

 突然天音がサスケの同意をくみ取るかのような返しをしたため、思わず口元を緩ませたサスケに対して大蛇丸はジト目を向ける。

 

 するとそこに

 

「こらこら……大蛇丸様に向かってまたそんな口の利き方を──」

 

「カブトか……相変わらず口うるさい奴だ」

 

「っ……僕の方が兄弟子だというのに……まあいいや、大蛇丸様そろそろ……」

 

 カブトが現われ、撤退を大蛇丸に進言する。

 

「ええそうねぇ……ここのアジトももう用済みだし、そろそろお暇するとしましょうか……」

 

 この場に留まることがめんどくさそうだという雰囲気を醸し出し始めた大蛇丸。 天音は

 

「あ~あ裏切者の首でも持って帰れば、リーダーが喜んでくれると思ってここまで来てみたけど無駄足だったかぁ……」

 

 ワザとらしくそう告げると撤退する大蛇丸たちに見切りをつけ、一足先にその場から飛び去っていった。

 

 それと同時に、大蛇丸、サスケ、カブトは自身を炎で焼くような忍術で姿を消し始める。

 

 揺らめき姿を消すサスケ。 ナルトが揺らぐ瞳でサスケを見つめると、サスケは最後に鼻で笑い

 

「精々足掻くんだな、ウスラトンカチ」

 

 そう言葉を残し、その場から姿を消したのであった。

 

 残された新生カカシ班には、己らの力の足りなさが心へと刻まれていた……。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 雲の上へと移動し、空を飛ぶ天音。 独り彼女は今後の展開を予想する。

 

(……サスケの様子も確認できたしここでの目的も達成……となるとそろそろ雲隠れの二位ユギトの二尾・猫又、三尾の磯撫が暁に捕まる時期か……一応ユギトには()()()()()けど……多分逃げないだろうし、どうしようもない……か。 となると次の()()の為にも暁側と早くに合流した方が良さそうだ。 どっかで適当に騒ぎでも起こしてゼツ先輩に見つけて貰うとしようかな)

 

「……やれやれ忙しくなりそうだ」

 

 自身の予想で、多忙になることを予期した天音はため息を付きながら空を高速で翔けた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「天音小鳥……ねぇ……随分と面白いことになっているじゃない……サスケ君が居なければあの子を手に入れておいても良かったかもしれないわ」

 

「大蛇丸様、どうかしましたか?」

 

 ナルト達の前から姿を消し、次のアジトへと向かう大蛇丸一行。 ふと天音小鳥の存在を思い漏らした独り言にカブトが反応を示す。

 

「フフフ、カブト……あの天音とかいう子とはお前は戦わない方が良いかもしれないわねぇ……色々な意味で、貴方の嫌いなタイプよあの子」

 

「はぁ……? そうですか……(なんで大蛇丸様はそんなことわざわざ言うんだ……?)」

 

 大蛇丸の唐突な指示に疑問符を浮かべるカブト。 その様子を見ていたサスケは

 

「オイ、カブト無駄口叩いてないでサッサと次のアジトまで案内しろ」

 

 只の移動時間にイライラを募り始めていた。

 

「無駄ッ……てサスケ君、君ィ……ホント気に食わないなぁ、ハァ……僕としては断然サスケ君の方が嫌いですよ大蛇丸様」

 

「ホントにそうかしら……?」

 

「……んん?」

 

 含みのある大蛇丸の物言いに、疑問を感じつつもカブトは弟弟子に急かされ次なるアジトへと急ぐのであった。 

 

 



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12:捻じ曲がる運命

 木ノ葉の里、墓地の最奥に置かれた歴代火影を祀る火の像。

 

 その眼の前に、煙草をくわえた上忍が一人。

 

「……今ならアンタの言ってたことも少しわかる気がするよ、木ノ葉を離れたり……好き勝手なことばかりして悪かったな……」

 

 その上忍は一人、懺悔かそれとも心情の吐露か、呟きをその火の像へとくべる。

 

「後悔はしてねーが今は……猿飛一族に生まれたのも悪くねーと思えるぜ、アンタはちゃんと里長としての役目を果たした……」

 

 男は煙草を像へと備え、遠目に見える三代目火影の顔岩を見つめる。

 

「かっこいい……親父だったよ……」

 

 

~~~~~~

 

 

「守護忍十二士であっても……火ノ寺が壊滅……か。 なるほど天音の属する暁は化け物揃いとは比喩でもなんでもなかったか……」

 

 黒い仮面を着けた忍びは一人小高い山から、崩れ去った寺の跡地を双眼鏡で覗き呟く。

 

「確かアスマが昔……ここの奴に世話になっていたはずだが……今は九尾の人柱力を狙っているのか? ……だが奇妙なものだな」

 

 仮面の忍びは寺の跡地で血で書かれた紋様の上で腹に棒を突き刺し流血しながら何やら祈りをささげている様子の人物を眺め、仮面の下の顔を引きつらせる。

 

「連れのマスクを着けた忍びも只ものではないが、あの灰色の髪の忍びも不死の如く……天音が言っていた通りのメンバーだな。 恐らく木ノ葉には既に連絡係が走っているはず、俺も集落へと……ん?」

 

 独り言を呟く仮面の男はふと自分の肩に小鳥が乗ったことに気がつく。

 

「……重吾からの知らせか?」

 

 男は小鳥の足に結ばれた紙を回収すると、小鳥に礼を言い空へと飛ばす。

 

「………………ッ」

 

 その紙に書かれた内容に、男は仮面の下の表情を曇らせる。

 

「俺は……っ……三代目……俺に出来ることは少ないかもしれないが……」

 

 男は立ち上がりその場を去る。

 

 

 

 

「俺に出来る最善を尽くす……三代目、それが貴方を看取った俺の責務だ……っ!」

 

 

 

~~~~~~

 

 

「話はここまでだ、何か質問がある者は?」

 

 火影屋敷の屋上に多数の忍びが集まり、彼らを前に綱手が最終確認を促す。

 

 集められた忍びの一人、猿飛アスマが手を挙げ口を開く。

 

「あそこには元守護忍十二士の地陸がいるはずです、彼はどうなったんです?」

 

 アスマは綱手の傍にいる、暁により壊滅させられた火ノ寺の生き残りの伝令に質問を投げかける。

 

「……地陸様はそやつらのてにかかり……っ!」

 

 アスマの言葉に辛そうに言葉を連ねる僧侶。 アスマは信じられないといった表情を浮かべる。

 

 そのやり取りを見届けた綱手は火影として集まった部隊全体へと指令を出す。

 

「奴らの目的は……恐らくナルトだ。 知っての通り暁はかなりの手練れが集う集団、身柄の拘束が不可能であれば迷わずに抹殺しろ! 火の国へとあだなす奴らを……絶対に逃がすな…………散!!!」

 

 綱手の合図に、忍び達は各自暁の捜索のために木ノ葉の里を後にするのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 少し騒がしくなっている木ノ葉の里の中、平穏な時が流れる日向の屋敷。 日向ハナビは任務が無いため自室で忍具の手入れをして過ごしていた。

 

「~~~♪ ~~~~~♪」

 

 鼻歌まじりで、クナイや手裏剣の手入れを行うハナビ。 テンテンと知り合いであるためか、忍具の扱いに関しハナビはそれなりの知識を有し丁寧にそれらを扱っていた。

 

「……よしっと」

 

 手に持ったクナイを置き、ハナビは自身が普段巻いている腰布を広げる。

 

「……流石に傷が目立ってくるなぁ……結構年季が……」

 

 独り言をブツブツと呟くハナビは腰布に着けられた二つの額当ての内、傷が目立ち歪んでいる額当てを丁寧に拭き始める。

 

「姉様は任務で居ないし……父様も別の国に外交しに行ってるし、白さんは……施設が忙しそうだし……ハァ……ナツも居ない……今日何しよう……」

 

 独り言に対して手の動きは少しも鈍らず、丁寧に整備を終えたハナビが目の前の机に置いた仮面に視線を落とす。

 

「…………あの天音って人…………やっぱり……」

 

 ふとハナビは湯の国での出来事を思い出していた。

 

「思えば、あの人が回天を使った時に私のことは見えてなかったはずなのに……回天を使ってた……写輪眼でのコピーって流石に視界に入れないとできないハズだよね……」

 

 それはつまり

 

「……あの人は元々回天を知っていた……てことなのかな? 私の未熟な回天を支えるぐらいに……」

 

 ハナビは自身の掌を見つめる。

 

「あそこでの戦いで、あの天音って人の動きはとても参考になった……体の動かし方、術のタイミング……そして回天……まるで私の教師にでもなったかのような……」

 

 暁の構成員を憎からず思う自身に、思わず不純だと思いつつもハナビは再度仮面を見つめる。

 

「声も聴けず……顔も見れなかったけど……まるで……まるで……ッ」

 

 そこまでを口にしてハナビは邪念を払うかのように頭を左右に振る。

 

「ああ……いけない……()()()()()の時と同じ勘違いをしちゃ……っああ駄目だ私……ちょっと優しくされたら誰でも実は悟さんが変化してるんじゃって勘違いしたくなっちゃうなぁ……アハハ……」

 

 左右の眼に涙を浮かべたハナビは誰にも聞かれない独り言を呟く。

 

 

 

「会いたいよ、悟さん……ッ」

 

 

 

 彼女は悟の生存を信じている。 だからこそ、会えない寂しさに身を震わせるのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「あああ、くっせーなぁマジで……角都のやろー良くあんな場所でベラベラと話ができるもんだ……死ななくても嫌気がさすぜ、全く」

 

 とある廃墟の前、階段で1人愚痴を漏らす男は自身の外套に着いた死体の匂いを払う仕草をする。

 

 ふと彼の背後に人影が現われた。 男は振り向きざまにその人影へと声をかける。

 

「角都、遅かったな……っ!?」

 

 男は背後にいた人影が仲間でないことに気がつく。 瞬間眼前へと迫っていた手裏剣を手もち大鎌を器用に振り回し弾くとその流れで反撃を試みるも…… 

 

「っ!?」

 

 不意に身体の制御が出来なくなり、動きが止まる。 そして

 

「遅せーよ」

 

 そんな言葉を耳にしながら大鎌を構えた男は両脇から現れた忍びに両脇腹を刺されるのであった。

 

「……」

 

 しかし

 

「ハァ……痛ってぇ……何だてめーら?」

 

 致命傷を負ったはずの男は気怠そうに、自身を襲った4人にたいしてそう言葉を投げかけるのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「もう少し急げないのか、天音!!」

 

 雲より上の上空、天音小鳥は空を飛びながらも背に背負う黒い仮面の忍びに急かされていた。

 

「私だって全力で飛ばしてるよ! 全くゼツの野郎、私が暴れまわっても全然姿を見せないから初動が遅れちゃったじゃない……っ!」

 

 ゼツに対して恨みつらみを言う天音。 その背に乗る仮面の忍びは

 

「早く……早くっ」

 

 焦りの言葉を漏らす。

 

 その背の忍びの様子に天音は神妙な面持ちで語りかける。

 

「……地陸って奴の死体が運ばれる換金所の候補は4つ……そのうちの一つに飛段と角都がいる。 そこで……猿飛アスマは殺される……」

 

「ああ、何度も聴いて分かってる!! だからっ──」

 

「落ち着いてっ! ……最悪プランA……無傷で助けられないかもしれない、そうなったらプランBになる……そうなった場合……少なくともアンタか私の()()()()()をアスマに話すことになる……かもしれない……そのリスクはわかってるよね?」

 

「……ああ、そうなった時は()()どうにかする。 それが俺の……責務だ」

 

 仮面の忍びの覚悟を決めた声に天音を、心配するような顔を止めて正面を向く。

 

「……影分身に向かわせた三か所の換金所と今向かっている四か所目……どうでるか……ッ」

 

 天音は焦りに額に汗を浮かべるも高速での飛行がその汗を直ぐに吹き飛ばす。 汗が乾き体が冷える感覚をよそに天音は目的地へと急ぐのであった。

 

 

~~~~~~

 

  

 木ノ葉の里のとある民家。 長い黒髪をなびかせ、赤目の女性はベランダの花へと水を与える。

 

 手に持つジョウロから出る水の流れを注視しているその女性は自身のお腹をさする。

 

「……アスマ」

 

 

~~~~~~

 

 

 例えどんなに卓越した忍びでもいずれ死ぬ。 かつて三代目火影猿飛ヒルゼンは息子たちにそう語った。

 

 忍びの神と呼ばれた初代火影も、その弟である二代目火影もその命を散らしている。 その事実を体験しているヒルゼンの言葉は重く、アスマへと深く突き刺さった。

 

 死とは皆平等に訪れるものである、だからこそ限りある命を……里のために家族のために、燃やしささげる。

 

 次代を繋ぐ火の意思……その考え方をアスマは始めから受け入れていたわけではない。

 

 次世代をより良くするならば、今さえ良ければ自然と未来は明るいものとなる。 その考えの元、アスマは一度猿飛の名を捨てた。 

 

 自分さえ強ければ……そんなエゴの元アスマは自らの力を磨いた。 かつての友であったうちはオビトや野原リンは命を落とし、彼らを失くし心を壊したカカシとマリエを見てアスマは……言い表せない恐怖を抱いた。

 

 死へと向かう恐怖。 自分が死ぬことで周りはどうおもうのか? 自分は何を残せるのか? 力さえあれば自分だけでも死なずに…… 

 

 

 そんな思いを抱えたアスマだがそれでも、友は歩みを止めなかった。 カカシは暗部としてひたすらに任務をこなし、マリエは孤児院を営み、それぞれの道を……傷ついた心を引きずりながら前へともがき進む。

 

 

 何故彼らは前に進むのか……アスマはそれを理解していた。 それこそ次世代に希望を繋ぐ火の意思を体現するかの如く、アスマは彼らを心から尊敬していた。

 

『カカシの正規部隊配属嘆願書? それに俺もサインしろってのか? そんなことアイツが望んでいるわけでも……』

 

『お願いアスマ君……』

 

『頼むアスマ!』

 

 

 マリエも前へと進み……ガイも前へと進む……

 

 

『ねぇ……アスマ』

 

『どうした紅?』

 

『私たちも前に……そろそろ未来に進むべきじゃないかしら……確かに仲間の死は辛い……だからこそ、それをこれから忍びになり行く子たちに、その辛さをなるべく与えないためにも……』

 

『……ああ、そうなの……かもな』

 

 紅も…… 

 

 

 

 

 

 

 緊張しながらも、猿飛アスマはとある扉をノックする。 扉の先からは、あまり好きではない声が許可を出しアスマの胃を絞める。

 

 それでも自身の歩みを……進めるために。 

 

 扉の先には、自分が嫌う人物が二人いた。 それでも二人をアスマは心から尊敬していた。

 

『……親父……いや三代目、頼みがあってきた』

 

 アスマの言葉にパイプを咥えた人物は、その象徴的な赤色の笠から威厳を感じさせる瞳を覗かせる。 また静かに見守るような、暖かな瞳もアスマを黙って見つめる。

 

『……言ってみなさい』

 

 優しい声色のその言葉にアスマは……火の意思を心に宿す。

 

『俺に……カカシと同じ、担当上忍をやらせてくれ……っ!』

 

 

………………

……………

…… 

 

 

 

「やめろォ!!!!!!」

 

 悲痛な叫び声が、薄れ行くアスマの耳に届く。

 

 自身の霞む視界、死神のような大鎌を自身の腹部へと突き刺している忍びの後方、コテツとイズモがマスクをした暁の忍びの触腕に拘束されている位置からさらに離れた場所から、顔に似合わない悲痛な表情を見つけてしまうアスマ。

 

 走馬灯のように何かを思い出したアスマは……シカマルへと目線を向ける。

 

(……ああ、アイツ……あんな必死な顔で……)

 

 

 目の前の不死者は自身の腹部に向け、突き刺すように杭を振り上げる。

 

 その事象の意味を理解しているアスマは、静かに瞳を閉じた。

 

 

 

 

(俺も……何か残せたかな……親父)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水遁・大瀑布の術!!!!!」

 

 

 瞬間、周囲の空間に上方から大量の水が降り注ぐ。

 

 バケツ……風呂……いやまるでプールをひっくり返したかのようなその大量の水は、その場にいた全てを洗い流すが如く周囲を薙ぎ払う。

 

 轟音を響かせ、戦場近くの換金所すらも巻き込み崩壊させたその大量の水が引くと、木ノ葉の忍びのイズモ、コテツ、シカマルはあまりの衝撃に地面へと横たわり呻き声をあげる。

 

「っあ……ぐっ……な、何が……?」

 

 朦朧とする意識のなか、シカマルが目を開けると目前では転がるアスマの身体に医療忍術を施す何者かの姿が見えた。

 

 対して暁の二人、飛段と角都も突然の水遁に流され大きく位置をずらしたが頑丈な彼らは直ぐに地面から立ち上がり目の前の光景の意味を理解する。

 

「オイオイオイオイオイオイ!!! てめぇ……何したかわかってんのか!!?? 俺の儀式の邪魔をしやがってっっっ~~~~おいおおいおいおいおい!!!!」

 

「……っ喚くな飛段……だが確かに、何をしたのか……今何をしているのか俺たちが納得できる答えがあるんだろうな?」

 

 角都はアスマを治療するその忍びに鋭い殺気を飛ばす。

 

 

 

 

「小娘……いや、天音小鳥」

 

「……」

 

 

 

 

 角都が呼ぶ名に……天音はゆっくりと視線を向ける。

 

 

「…………ブツブツ

 

 小さく何かを呟いた様子の天音に、角都が腕を構える。

 

 

 

 

 

「先輩方、ホントばっかじゃないっすかぁああああ!!!????」

 

 天音の叫びに、飛段がビクッと驚いた表情を浮かべる。

 

「何でこの忍び殺そうとしてんのかマジ意味不明なんですけど!? こいつが何者かしってますぅ? 知ってますよねェ!!!??? 元守護忍十二士で歴代最強と呼ばれた三代目火影猿飛ヒルゼンの息子の猿飛アスマですよぉ!? ホっっント、マジでぇ!! こいつ殺して遺体にしたら3千5百万両しか!!!!  3千5百万両しかですよ!?!?!?! 換金できないんですよ!!?? 優秀な猿飛の血に、覚えている術、性質変化!!! 殺したらそれらを活かせなくなるし、バラシて売りさばけなくなる!!! やり様によっては倍にも金を手に入れられるのにっっっ!!! はぁ~~~つっかえね~~~マジ先輩方使えね~~~っすよぉ~~~!?!?!?」

 

 怒涛の天音の叫びに、ひるむ飛段。 しかし

 

「……そんな相場の倍などと法外な金額で取引できる換金所など、俺は知らん。 出まかせで──」

 

 角都は信用できないと、敵意を天音に向ける。

 

「ハァ……これだから人殺しでしか稼ぎ方の知らない脳筋は……あのですねぇ!! ──」

 

 呆れた様子の天音は、如何に自分が創意工夫をして金を稼ぎそれらを暁に納めているかの解説を始める。

 

 怒涛の展開にシカマルたちは、水遁で受けたダメージにふらつきながらも何とか立ち上がる。

 

(どうなってやがる……!?)

 

 内心何が起きているか、何も分からず混乱するシカマルだが

 

 不意にふらつく身体を誰かが支える。

 

「大丈夫、シカマル!!」

 

「っ!? ……いの!」

 

 自身の身体を支えるのが増援で駆けつけたいのであることにシカマルは僅かにだが感情を緩ませる。

 

「なぁ……向こうの雑魚に増援きてんだけどもよォ角都ぅ……」

 

「……ちぃっ……小娘、お前の言い分はわかった!! その男の身柄は譲ってやる、だからそこの羽虫たちを退けるのに協力しろ」

 

「つまり、先輩方の金使いの粗さが──ってああ、木ノ葉側に増援来てたんですか……まあ、どうとでもなりそうなんでちゃっちゃと片付けて換金の準備を──」

 

 飛段と角都の言葉に、天音が集う木ノ葉の忍びらに目を向ける。 その瞬間

 

 飛段と角都が同時に小さく舌打ちをする。

 

「……もう少し待ってくんね―かなァ……これから大虐殺ってとこなんだホント」

 

 虚空に向かってしゃべり始めた飛段。

 

「ッ! だから言ってんだろもう少し──」

 

「飛段やめろ……小娘、俺たちは一旦引く。 お前は()()()を金に換えて……そうだなお前とは連絡が取りずらい、金は()()に持ってこい」

 

 角都は苛立ちを抑えきれない様子の飛段を抑え、撤退の素振りを見せる。

 

「……小娘、もしお前が金を組織に落とさなかった場合……それがどういう意味になるか、肝に銘じておけ」

 

 その言葉を残し、角都と飛段はその場から姿を消した。

 

 残された天音は、木ノ葉の様々な部隊がそろいつつある状況に一人置いて行かれる。

 

 少なくない木ノ葉の忍びを前に、天音はアスマを肩に抱え立ち上がる。

 

「アンタ! アスマ先生を返しなさいよ!!」

 

 いののがそう叫ぶと天音は笑顔を浮かべる。 

 

「イヤだ♪」

 

 その天音が返事をすると同時に

 

 木ノ葉の忍びらの視界が暗黒に染まる。

 

「「「「!?」」」」

 

 音も、気配も、全ての感覚が突然黒に染まってしまいシカマルたちに動揺の声が走る。 しかし突然の事象になす術もなく、慌てふためくしかできない木ノ葉の忍び達。 

 

 完全に無防備となった彼らに──

 

 

 攻撃が訪れることはなかった。

 

 

 暫くし突如として視界が晴れ、全ての感覚が戻った時既に……シカマルらの前から天音小鳥と、猿飛アスマは姿を消していたのであった。

 

「おい……おい……クソっ……どうなって……やがる!? ……アスマっ……!」

 

 動揺するシカマルの呟き。 それは当然のことで、天音小鳥の先ほど述べた言葉が正しければ……アスマはその体をバラされ換金されることが決まっているからである。

 

 そして残された混乱と絶望を抱いた木ノ葉の忍びらは撤退するまでに、およそ考えれらないほどの時間を要して木ノ葉の里へと帰還を果たすことになった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

  

 ごくわずかな意識がアスマに戻る。

 

 目を開ける力もなく、ただ耳に入る音が何となく聞こえる、そんなギリギリの状態。

 

「おとう──アス──どう──傷は──命──助か──」

 

 焦っているような男の声。 ごうごうと唸る風の音がただでさえ朦朧としているアスマの認識を阻害する。

 

 しかし僅かに聞こえたその声にアスマは

 

 

 

 

 何故かとてつもない安心感を感じ、意識を手放すのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 とある洞窟。 尾獣を封印する像の指先に集う幻影たち。

 

「オイ……三尾の封印の前にリーダー、話がある」

 

 角都の幻影が放つ言葉に、リーダーと呼ばれた男の幻影が顔を向ける。

 

「あの天音小鳥という小娘……奴は恐らく組織の裏切り者だ」

 

「……」

 

 他のメンバーはその角都の言葉に耳を傾ける。

 

「理由を話せ」

 

 リーダーの催促に角都は口を開く。

 

「奴は俺たちの行動を邪魔した。 それも恐らく木ノ葉の忍びを助けるためだろう……」

 

「オイオイ角都! あのクソ生意気な小娘はムカつくが一応金のためだと──」

 

 珍しく飛段が角都の言葉に異議を申し立てるが

 

「……あの小娘が姿を現してから……火の国の火ノ寺で俺たちを遠くから監視していた奴の気配が現れた。 俺のストックを一つ監視に宛てていたからこそ気が付けたが、奴は独自の換金方法があるなどと大層なことをのたまったが……そんな方法があるならもっと早くに俺のやり方に異議を出すはずだ」

 

「……」

 

 角都は静かな怒りを滲ませた口調で話を続ける。

 

「だがまぁ……万が一もある。 約7千万両もの大金をあの小娘が本当に用意する場合もな」

 

「……天音小鳥はこの中で一番多くの活動資金を集めている。 有り得ない話ではない」

 

 リーダーの天音をフォローするかのような言葉に角都は幻影でも分かるぐらいに顔を歪ませて笑みを作る。

 

「ああだからだ、もしあの小娘が金を持ってきた場合は──」

 

 



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13:NEWボス

 ひどい頭痛に眩暈。 目を覚ました猿飛アスマは、あまりの自分の体調の悪さに一瞬で心が折れそうになるも覚醒した意識を失わないように精神的に何とか踏みとどまり意識を保つよう努める。

 

(ッここは……俺は一体どうなって……確か)

 

 身体にむち打ち、何とか周囲を見渡すと自身がベッドに寝かされ、急ごしらえで場違いのような点滴が腕に着けられているのがわかる。 点滴が似合わない部屋の内装はごく一般的な「普通の家」といった感じで逆に今の何も分からないアスマにとっては不気味な場所にも映る。 現状に心当たりのないアスマは自身の割れそうな痛みを主張する頭を使い、自身の記憶を何とか掘り起こす。 

 

 ──思い出されるのは教え子の悲痛な表情であった。

 

「ッシカマル……!」

 

 居ても立っても居られずベッドから起き上ろうとするアスマだが、途端に体の違和感に気がつく。

 

 頭から腰付近までの腕やら背中やらが、激痛に苛まれている中……両脚には一切の痛みが無いことに。

 

(……っ! まさか……ッ)

 

 朧気ながらに誰かが自身を治療しているような、逆に体をバラすなどと不穏な言葉をのたまうような狂気的な会話を僅かに思い出したアスマ。

 

 彼は嫌な予感に脂汗を浮かべ、恐る恐る自身に掛けられた薄い白い掛け布団をめくり下半身の存在を確認する。

 

「っ……在る……か」

 

 アスマの視界には確かに自身の脚が映っていた。 まさか切断して体の一部が売りさばかれるなどと狂気的な──

 

 しかしふと違和感がアスマの意識に語りかけてくる……自身の身体の異常を。

 

 確かにそこの在るはずの両脚、しかしその脚はアスマの意思を微塵も反映することなく、逆に何か反応を返すこともないこと……。

 

「……~~~~ッッッ」

 

 忍びとして、あってはならない重症……顔に脂汗が浮かび、表情も冷静さを保てず、その事実はアスマの精神を折りに掛かる。 ふとその時──

 

 

 

「目覚めたか」

 

 

 

 視線を下げていたアスマに不意に声がかかる。

 

 驚き、声のした方に顔を向ければそこには黒い仮面を着けた忍びが部屋の扉にもたれ掛かり立っていた。

 

「……お前は……誰だ……っ?」

 

 酷い痛みと、逆に痛みが一切ないという事実に打ちのめされそうなアスマにその忍びは語りかける。

 

「俺は……いや俺のことは後回しだ。 猿飛アスマ、お前にはこれからの身の振り方を教えよう」

 

「身の振り方だと……? 俺は……俺は木ノ葉の忍びだっ!! 例え、どんなことが在ろうと木ノ葉を裏切るつもりなど──」

 

「早とちりするな、これはお前にとっても悪くない話だ。 ……本来であればお前は既に死んでいる身なのだからな」

 

 その忍びの言葉に、アスマは自身が飛段の呪術により重傷を負っていたことをフラッシュバックのように思い出す。

 

 腹部に刺さった巨大な鎌は背まで貫通していた。 それだけでも十分致命傷だが、その上追い打ちの如く心臓への刺突が待っていたはずのアスマの身体。

 

「……自身がどれだけの窮地から生還したのかを自覚したか? であればまずは大人しく俺の話を聞いてもらおう」

 

 どんな形であれ、自分は治療されここにいる。 その事実にアスマは、男の話を聞いてからでも遅くないと深呼吸をして何とか気を落ち着かせる。

 

「……わかった……わかったよ、お前が俺を殺す気ならそれがとうになされていることもな……話を……聞かせてくれ」

 

 アスマの言葉に、仮面の男はその瞳を一度伏せ再度開きながら語り始める。

 

「最初に言うが、お前を実質助けたのはお前も知っているであろう、現在暁に潜入している俺の仲間の天音小鳥だ。 お前達……というより忍界にとってテロリストであり敵でもある暁に、天音は目的を持って潜入している……しかしだ、アスマ、お前を無理に助けたことで天音は間違いなく組織から疑惑の目を向けられた。 今奴はお前を換金するという嘘を通すために、仲間と共に必死にお前の裏の懸賞金の倍の額、7千万両をかき集めている……」

 

「天音小鳥が……そんなことを……?」

 

「敵だと思っていた奴の話をすんなりと信じろとは言わない、だがお前を助けるためにそれなりの苦労を背負ったことも知って欲しい……そしてその代償という訳ではないがお前には()()()()を遂行してもらおうと思っている」

 

「……どんな役割だ?」

 

 突然男はアスマに近寄り、その体を抱きかかえる。 流石にアスマもその行動を拒否したくなるが、身体が自由に動かせない以上なされるがまま、男に部屋のベランダまで移動させられる。

 

 そうとう高い位置の部屋のベランダから階下をアスマが望めば、木製の家屋が幾つか立ち並びそこに暮らす人々の様子が見て取れた。

 

「ここはどこなんだ……? 俺に一体何をさせようと──」

 

「ここはまだ、ただの集落だ。 アスマ、お前はここに属する忍び……未満の者たちの教育係となって欲しい」

 

 男の提案にアスマは目を見開く。

 

「教育係だと……? 俺がわざわざ訳も分からねぇとこの組織だかの戦力をわざわざ向上させる真似をするとでも思うのか?」

 

 アスマの必死に強がる口調の言葉に、男は仕方ないといった様子で小さく息を吐き、アスマの身体をベッドへと戻す。

 

「……ならこの集落についてお前に知ってもらおう」

 

 男は説明口調で話を続けた。

 

「ここは大蛇丸のアジトの一つだった場所だ。 人体実験を主に行い、呪印……と呼ばれるモノの研究が行われていた。 ……2年以上前、俺と天音はうちはサスケが大蛇丸の元に行ったことで殆ど放置同然となっていたこのアジトに目をつけ……ここを力づくで奪い取り、今の集落の形にした」

 

「……随分と情報量の多いことで」

 

「ふふ、そうだろうな。 ……まあ、つまりここにいる者たちは元大蛇丸たちの実験台、または周囲の集落や村に居られなくなった爪弾き者たちばかりだということだ。 そして天音は、ここの者たちで特に戦える能力を持つ者に他里の任務や担い手の居ない任務を与え、力をつけさせている。 その理由は……」

 

「……」

 

 

 

 

「今後起こる、()()()()()()()……そこでの忍び連合軍側に少しでも助力するためだ」

 

 

 

 

「……オイオイ、寝ぼけたことを言うな。 第四次忍界大戦だと? 忍び連合軍? そんな──」

 

「今は信じられなくてもいい、何故ならこれは未来の話だ。 そこでは五影が協力し、多くの忍びがとある戦力と戦うことになる。 その時、出来る限り被害を抑えるために天音はここを作った」

 

「へっ……未来が分かるとでもいうのか? 到底信じられるものでもないッ馬鹿にするなら──」

 

「少なくとも俺はアイツが未来を知っているということを信じられる事象を目の当たりにしてきた……先にも言ったがお前もすぐに信じる必要はない、だが少なくとも天音が金を暁に渡すまであと3日はある。 それまでにはお前にもあらかたの覚悟を決めて貰おうとは思っている」

 

 ここまで男はアスマに有無を言わさずに情報を与え続けた。 そんな彼の真剣な様子にアスマも口を閉じる。

 

 男は小さくため息をして話題を変える。

 

「……木ノ葉の里で天音は、お前を連れ去り実質殺したことになっている。 既にビンゴブックでも一等級の扱いだそうだ。 ……まあ、逆にお前の生存が世間にバレれば問答無用で暁と敵対することになるだろう……つまり天音の目的が達成できなくなり……ひいては夕日紅の身の保証もできなくなる」

 

 男の口から出た名前にアスマは血相を変える。 しかし男はそうなることも分かっているように問答無用で言葉を続ける。

 

「別に人質とかそういう話じゃない。 天音は今木ノ葉に降りかかる、()()()()()をも退受けようと奮闘しているがその時に守れなくなる可能性が出るという話だ……しかし起きることを分かっていても奴曰く『正確な時期』までは分からないそうだが……だからこそ──」

 

「奴は暁に潜入しその時期とやらを特定しようとしている……てことか?」

 

「……そのとおりだ察しが良くて助かる。 その事件が木ノ葉で起きる都合上、ここで動けるのは少なくとも俺と天音だけとなる……お前には歯がゆい思いをさせるがここで待っていて欲しい」

 

 妙に親身になって話をする男の様子にアスマは疑問を抱く。

 

「てめぇは何故それだけの情報を持っている……? 天音って奴は何故未来とやらを知り行動できる? お前たちは一体何なんだっ……?」

 

 情報量に混乱するアスマの口から率直な疑問が漏れ出る。 男は組んでいてた手を解きその疑問に答える。

 

「天音については何も言えない。 アイツが何者であるかは、ここの集落でも俺ともう一人しか知らないが……と言っても俺たちも全てを知っているわけでもないのだろう……だが俺については教えてやろう、猿飛アスマ。 俺がお前の説得役に選ばれている意味も理解できるだろうからな」

 

 男はアスマの正面へと立ちその身に着けている黒い仮面に手を掛ける。

 

「……本来であればお前を助けること、その行動はあまりにも俺たちにとってリスクが高いことだ。 それでも天音が必死になってお前を助けたのは……アイツの性分もあるだろうがもう一つ、大きな理由がある……」

 

 男は自身の被る黒い仮面を外し、その顔を晒す。

 

 

 

 

 

「なによりも……俺が……()()()()だからだ」

 

 

 

 

 

 男のその言葉に、その顔に、アスマは顔を驚愕の表情染める。 口が半開きになったアスマは

 

「キョウ……マ……っ?」

 

 思わずその男の名を口から漏らす。 名を呼ばれた男は懐からもう一つの仮面……木ノ葉の暗部の仮面を取り出し、アスマに見せる。

 

「そうだ、俺は()()()()()()……三代目火影猿飛ヒルゼン……親父の『二本の右腕』と称された忍びの一人……お前も良く知っていることだろうがな」

 

「なっ……なんでッ……どうしてだっ……!?」

 

 キョウマと名乗った男の顔はアスマに似ており、傍から見ても親族であることは一目瞭然の顔立ちをしていた。

 

 キョウマは暗部の仮面に視線を落とし自身の思いを語り始める。

 

「木ノ葉崩しのあの日……親父を看取ったあの瞬間から、俺は木ノ葉の暗部としてではなく一人の人間として動くことを心に誓ったんだ……そして()()1()()()()()……俺の妻は情報提供者として暗部に留まってくれている」

 

 口をパクパクさせ、驚きで言葉が出ない様子のアスマにキョウマはそのそっくりな顔で苦笑いを浮かべる。

 

「妻の部下のクソ真面目なくノ一が以前、湯の国で消息を断った時は俺も個人的に動いたりして互いに助け合っている。 win-winな関係という奴だが……まあ唯一心残りがあるとすれば、木ノ葉丸のことだ……俺と妻はお前も知っての通り書類上は死んでいる扱いだ……だからこそ、直接会えずさらに見守れない以上親として俺は外から里を守ることを選んだ」

 

 キョウマの言葉にアスマはしみじみと言葉を口から漏らし始める。

 

「兄貴……アンタとは……俺が担当上忍になることを決めたあの日に目を合わせた以来……だったか。 俺はアンタの事が嫌いだったよ……アンタは親父の言うことを何でも素直に聞いてまるで自分の意思がないように見えた……だからこそ、まさかこんなことになっているとは……な」

 

「ふふ、それはお互い様と言う奴だろう……俺としては逆に親父に反抗的だったお前が嫌いだったが……だがまあ……お前が『火の意志』を教え子たちにしっかりと伝えらている様はお前を助けた時にこの眼で見て、教え子たちから確かに感じ取った……まあ、彼らに不意打ちで()()()()()を掛けたのは少し申し訳なく思うが……」

 

 頬をぽりぽりかくキョウマ。 アスマは乾いた笑いを部屋に響かせる。

 

「なんつーことだ……本当に。 まさか自分の兄貴が里を抜けて……あまつさえこんなことをしているなんて……」

 

「だがそのおかげでお前を死の運命から助けることが出来た……それだけで十分おつりがくるさ」

 

 そこで会話が途切れ、互いになんとも言えない雰囲気が広がり始めた瞬間。

 

 

 部屋の扉が大きな音を立てて開いた。

 

 

「つっかれた~~~~~!!!!」

 

 扉から飛び出てきた天音は部屋の床へとうつ伏せに飛び込んで倒れこむ。

 

 バタンと音がし、扉が開かれた反動で音を軋ませつつ自動で閉じる音が部屋に響く。

 

「……お帰り、天音」

 

 何とも言えない様子のキョウマの言葉に、天音がハッと顔を挙げる。

 

「おう、ただい……って仮面取ってる!? ってアスマさんも何でここに、っていつの間にか起きてるじゃん!? ってそっか私の部屋で寝かせるってアガリが言ってたっけか……」

 

 びっくり、さらにびっくり、そして落ち着く。 三段の感情の変化を見せた天音にアスマは思わず笑いをこらえられずに漏らす。

 

 その様子に天音は

 

「……あ~……なるほど、キョウマさんちゃんと話したんですね」

 

 ある程度宇野状況を察して立ち上がり膝についた埃を払いながらキョウマと向き合う。

 

「ああ、お陰様でな」

 

 キョウマの言葉に天音は笑顔を見せる。 その様子を見ていたアスマは

 

「お前が天音小鳥か……直接会うのは初めてか、どうやら……色々と世話になったらしいな」

 

 素直に感謝の言葉を述べる。 天音はその様子に驚き

 

「ええ、思ったよりも友好的……え~と……キョウマさん、どこまで事情話しました?」

 

 キョウマに恐る恐る確認を取る。

 

「一応一通り俺のことは話した。 教育係の件もな」

 

 キョウマの言葉に、天音は「そうですか」と嬉しそうな、優しい表情を浮かべる。

 

 その様子を見ていたアスマはキョウマに声をかける。

 

「キョウマ、その件だが……引き受けよう。 どうやら里に戻れない俺が今、出来ることはそれぐらいしかなさそうだからな」

 

 アスマのその言葉に、天音は二人の間に体を入れアスマの顔を見つめる。

 

「……少なくとも暫くは木ノ葉の里にも帰れないし、貴方の生存を紅さんに報告することも出来ませんが……良いですか?」

 

 心配するような天音の言葉に

 

「ああ……あの兄貴がお前を信用しているんだ……悪い話でもなさそうだしな……それに脚の動かなくなった俺にはそれぐらいしかできない」

 

 アスマは自身の脚をさすりながら答える。 そのアスマの動作に天音は

 

「すみません、もう少し早く助けに入れていればそこまでの重傷を負わずに済んだのに……」

 

 落ち込んだ様子を見せる。

 

「……生きているだけでも儲けもんさ……少なくともまた生きて紅に会える可能性が僅かにでもあるんだ、それこそお前は見ず知らずの俺を助けたことで色々と立場が危うくなっているんだろう? それは大丈夫なのか?」

 

 若い天音が奮闘しているという事実にアスマは、先日まで敵だと思っていた彼女に心配の眼を向ける。

 

 天音はアスマが自分を心配する様子のアスマに、笑顔を見せ答える。

 

「……流石に木ノ葉からは指名手配されましたが、まあ何とかなりそうです。 キョウマさんの奥さんから一部の忍びのみが今回の件を共有していることは聞いたので、事実が判明しないうちは私は生け捕りか情報を吐かせる扱いでしょうし……暁の方も後3日ぐらいは猶予があるんでそれもなんとか」

 

 それなりに苦労をしているのだろう、天音は隠しきれない疲れを隠そうとしている。 それに気がついてしまうアスマがなんとも言えない表情を浮かべると天音は

 

「っと……折角兄弟そろってるんです。 積もる話もあるでしょうし、私はもう行きますね。 詳しい話は後でアガリ……私の仲間がしてくれますから、今は体調を回復させることに専念してくださいね……では」

 

 丁寧に頭を下げ、部屋から退出していった。

 

 天音の様子にアスマは

 

「……里で聞いていたよりも、随分と大人しい印象を受けるな……もっとうるさい奴だと情報が出回っていたが……」

 

 天音に対しての印象の齟齬に微妙な表情を作る。 キョウマは仕方ないといった様子で

 

「アイツは、本人曰く元来心配性らしい……16歳ばかりの子どもが良くやっていると俺は思うよ」

 

 大人として天音を気遣う素振りを見せる。

 

「……シカマルたちと同い年って奴か……本当に忍界には色々な奴がいると痛感させられるぜ……」

 

 アスマは奇妙なことになった自身の待遇も踏まえて、現状の異質さになれるように努めようと思う。

 

 ……その後数年ぶりに顔を見合わせ再開した兄弟は、夜が更けるまで互いの胸の内を話し合うのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 天音はアスマたちの居る部屋から退室するとそのまま、アガリが居るであろう資料室まで移動する。

 

「アガリ、居る?」

 

 扉を開けながらそう呼びかけた天音は部屋の中で机に突っ伏し資料に顔を埋めるアガリを見つけた。

 

「……大変そうだね……」

 

 天音の心配するような声に、アガリは飛びあがりながら答える。

 

「さ、サトリ様!? すみません、つい……」

 

「いいよいいよ……ここ数日皆動きっぱなしだしね……それでアガリ、アンタだけに伝えておきたいことがあるんだけど……今良い?」

 

 天音の真剣な様子に、口元の涎を拭いたアガリは姿勢を正す。

 

「大丈夫です、なんなりと!」

 

「ははは……そう、じゃあ今後の事についてだけど……」

 

 相変わらずのアガリの様子に、仕方ないと天音は苦笑いを浮かべつつも話をし始めた。

 

「恐らくだけど、あと3日後ぐらいかな……暁の動き次第だけど私はここには(集落には)簡単に戻って来れなくなると思う。 見習い扱いでほっとかれることももうないだろうからね……そうなった時は、()()()……頼んだよ」

 

「っ……そ、そのことですか……俺にはやはり……荷が……ッ」

 

「心配しないで、アガリの事はちゃんと皆が認めている。 それにどうやらアスマさんも協力的みたいだし、何とかなるよ……大丈夫、上手く行くから」

 

 何かにプレッシャーを感じているのか青ざめた表情をするアガリの肩に手を置きサトリは会話を続ける。

 

「しばらくしたら、私は……天音小鳥は世界の敵になる……そうなった時……迷惑をかけないようにここでは初めから『サトリ』と名乗ってきたんだ。 ……まあ、今回の件が何とかなったら私も一度は顔は出すつもりだし、その時に改めて皆には挨拶するつもり……皆の事頼んだよ」

 

「っ……ハイ……サトリ様……グスッ……任せてくださいっ! 俺は必ずやサトリ様の……ごきたいにぃ……グス」

 

「もう……泣かないでよ、年上の男を励ます趣味は私にはないぞ?」

 

「はいぃ……」

 

 書類室から聞こえる泣き声と、困った様子の笑い声。 扉の外にいたゼンゾウは小さく微笑み、静かに扉のドアノブに調理した間食をぶら下げその場から去っていった。

 

 ……その日、天音は集落に必要な金を残して一人で出発した。 その後天音のために集落の外に出稼ぎに出ていた者も、帰還するよう連絡が周り皆が集落へと集う。

 

 それから3日ほど、集落では皆が慌ただしかった数日の疲れを癒すかのように過ごしたのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

(二年半か……アガリ達とも、長い付き合いになったもんだ)

 

 天音は麻袋を抱え、空を翔ける。

 

 その中には約7日でかき集めた金と自身が貯蓄していた金、集落から持ち出せる限りの貯蓄を合わせた約7千万両にもなる金額が収められていた。

 

 集落の仲間たちが何も言わず自分のために金を集めてくれたことに天音は、僅かにその瞳に涙を浮かべた。

 

(……そろそろ又旅と磯撫の封印が終わってしまうころか……そうなれば角都と飛段も動き始める、先に私の方から見つけた方が何かと都合が良いな……)

 

 天音は木ノ葉の国境沿いにある、枯れた大木が立ち並ぶ地域の上空へと来る。

 

 天音が瞳を閉じ、ヒザシの白眼を使い周囲を感知するととある2人組を見つける。

 

「ビンゴ……」

 

 そう呟いた天音は空からその2人目掛けて近づいていく。

 

 少し気がつけば、その2人、飛段と角都は天音に気がつき顔を向け振り向く。

 

「おう、鬱陶しい嬢ちゃんそっちから来るたぁ殊勝な心掛けだな」

 

 ニヤニヤした様子の飛段は軽く手を振りながら天音に言葉をかける。

 

「いやぁ~~飛段先輩、見てくださいよこのお金!! 随分と高く換金できましたぁ♪」

 

 テンション高めに、地面へと降りたった天音は自身が持つ麻袋を飛段へと渡そうとする。

 

 すると横から角都が乱暴にその袋を奪い去り、中身を覗く。

 

「ちょっ……酷い! 丁寧に扱ってくださいよ! 大金ですよ、大金!!」

 

「黙れ……ふむ、どうやら本当に約7千万両を持ってきたようだな、褒めてやる」

 

 角都は袋の中身が、少なくとも天音が豪語した金額に近い量があることを確認しその袋を地面へと置く。

 

「どうです? 私の働きに感謝してくださいよぉ?」

 

 どや顔をする天音に、角都は小さく笑いながら口を開く。

 

「クックック……小娘、どうやらお前は噓を付かなかったようだが……俺のプライドを傷つけてしまったな」

 

「は? プライド?」

 

 天音が「何言ってんだこいつ」って様子の顔をして飛段に説明を求めようとすると既に飛段は少し離れた木の根元に移動し腰を下ろし始めていた。

 

「せいぜい頑張れよォ嬢ちゃんよォ……俺は興味がねぇから寝てるわ、済んだら起こせよ角都」

 

 テンション低めの飛段が木の陰から手だけ振り、木の根元に体を預け寝息を立てはじめる。

 

「……一体どう──グッ!?」

 

 疑問を口にした天音は瞬間、途轍もない力で首を絞められた。

 

 気がつけば、地面から足が離れ宙に浮いている。 天音は角都の触手のように伸びた右腕に首を掴まれて持ち上げられていたのだ。

 

 足をパタパタと振る天音に角都は

 

「……お前は俺の機嫌を損ねた。 だから殺す。 既にリーダーからもお前を殺して良いと許可は出ている……まあ、正確には私闘の許可だが変わりない……金が無ければ裏切り者として殺し、そうでなければ俺をイラつかせた罪で殺す。 お前の運命はどうあがいてもここで俺に殺されることだと決まっていたのだ」

 

 覆面の下の口を歪ませそう言葉を投げかける。

 

「……っ!」

 

 天音は自身の首を絞める腕を振りほどこうと両手で掴む。 しかしその首を絞める腕の強さは凄まじく、次第に天音の首へと指がめり込み始める。

 

「ガっ……!」

 

「喜べ、お前はそれになりに強いことは一応知っているからな……だからこそお前の体は俺が有効活用してやろう」

 

 角都がそう言うと、手により一層強い力を籠め──

 

 

 

 

 何かが砕ける音が辺りに響いた。

 

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「ガー……スピーッ……うが?」

 

「おい起きろ飛段」

 

 寝息を立てていた飛段は低い声にどやされ目を覚ます。

 

「うお……? 角都かぁ……終わったか、ふあぁぁあ……クッ~」

 

 大きな欠伸をして飛段が目を見開き辺りの光景を見渡す。

 

 辺りには地面が濡れた様子、燃える木々、焦げ付いた岩肌、散乱する瓦礫、辺りに広がる切り傷のような跡が散見していた。

 

「随分とハデにやったなぁ角都よ……んで阿保馬鹿嬢ちゃんはどんな死に様だったんだ?」

 

 目じりに浮かべた涙を外套の袖で拭く飛段が背を向けていた角都に体を向けると

 

 

 角都は煙を上げ姿を消す。

 

 

「ハ?」

 

 思わず素っ頓狂な声を挙げた飛段。 その彼の肩にポンポンと軽い衝撃が走り、飛段が驚きそちらに振り向くと──

 

 その頬に人差し指が突き刺さる。

 

「誰が阿保馬鹿嬢ちゃんですか? 私に対して少し口が悪いですよ♪」

 

 天音が飛び切りの笑顔で飛段に抗議を申し立てていた。

 

 一瞬、飛段が思考を巡らせ沈黙が走り彼の口が開く。

 

「オイオイ……まさかァ……」

 

 彼にとって予想外の出来事であろうその光景に、天音は何かの印を結び飛段に周囲を見るように手を広げるジェスチャーをして見せる。

 

 飛段が天音から視線を外せば、さっきまでの荒れていた周囲の地形に、モズクの様な見た目の触手がバラバラになっている光景が目に入ってしまった。

 

 さっきまでなかった触手の残骸は、天音が幻術で飛段に見せないようにしていたのだろう。 そのことに気がついた飛段は顔を引きつらせる。

 

 飛段のリアクションが面白いのか、天音はニヤニヤしながら手に持っていた切り取られた角都の手から『北』の漢字一文字が刻まれた指輪を抜き取って見せる。

 

「こんな結果に成るとは私も予想外でしたけど、これで……私も念願の暁の正式なメンバーですね♪ 許可の出ていた私闘で勝ち取ったんですから……これからもよろしくお願いしますね、飛段先輩……♪」

 

(まあ……後一時間も一緒にはいられないだろうけど)

 

 指をピンッと親指で上へ弾き、落ちてきたそれをキャッチ。 その指輪を飛段へと見せつけた天音はクスクスと笑っていた。

 

 呆ける飛段に対して、天音が目の前で指輪を左手の中指に付けて見せるとその瞬間──

 

 

 

 

 

 天音の意識は飛び、どこかの洞窟の内部と思われる光景が視界に広がる。

 

「……へ~こういう感じかぁ……」

 

 幻影となった天音の感心する様子に、声がかかる。

 

「お前が勝ったか……」

 

 暁のリーダーは幻影でありながらもその特徴的な目で天音の幻影を見つめる。

 

「どうも、リーダー! あっちから仕掛けてきた戦いに勝ってこれ(指輪)を得たんですから、私がメンバーに加わってもいいですよね?」

 

「……構わない……だが、こんな些細な事で角都を失うことになるとはな」

 

「短気は損気って奴ですねぇ……ま、私は被害者ですからね? 長生きの癖に、時代の変化に疎いからこうなるんですよ♪」

 

 ケラケラと笑って見せる天音にリーダーは鋭い視線を向ける。

 

「……あまり死者を冒涜するな」

 

「おっと……そうですね、ちょっと調子に乗りすぎました……って誰か私たちに近づいて来てるみたいですね。 多分木ノ葉の部隊だろうと思うんで、逃げ切ったらちゃんとお金持っていきますね、リーダー♪」

 

 軽く反省して見せた天音は、プツンッと洞窟から姿を消した。

 

「……」

 

 暁のリーダーは黙とうをささげるかのように、少しの間だけその洞窟に留まっていたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 目を開けた天音は辺りを見回す。

 

(想定外のことが起きたけどまあ……飛段先輩を幻術で眠らせ続けたおかげで時間調整はバッチリ……後は居なくなってしまった角都先輩に変わり──)

 

 チャクラを感知し、足元から這い寄る術の気配に気がついた天音は小さく呟く。

 

「ボスの役割、果たしてやろうじゃない……っ!」

 

 




・追加?設定

 暁の指輪は封印術『幻龍九封尽』に使われるものですが、テレワーク機能も指輪に備わっていることにしました。

・猿飛キョウマについて

 原作でも木ノ葉丸の親の存在は一応在るみたいだったので、設定を追加して登場させました。

 原作では名前も生死も不明な(ハズの)キャラなので(ファンブックに何か情報があるかも? 私は持ってないので分かんないです……)オリ設定満載です。

 名前は由来の分からない『アスマ』という名前が、漢字にすれば「明日間」となってヒルゼンの柱間、扉間リスペクトかな~と勝手に想像したのでそこから兄として「明日の前は今日!」ってことで「今日間」……「キョウマ」という名前にしました。

 一応腕利きの暗部ですが、設定では直接的な戦闘より幻術、封印術などによるサポートメインの忍びとして位置付けています。

 奥さんの設定はまだ何も考えてないですが、多分ゴリゴリの戦闘はでしょう……多分……その内生えてくると思います、設定。


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14:過去の片鱗

(奴らこれだけ見晴らしのいい場所にいやがるとは……警戒心が薄いのか……イヤ、それだけ自信があると見ていいな)

 

 奈良シカマルはアスマが連れ去られた時の天音たちの会話を元に、火の国の国境周辺に暁の対しての捜索網を展開していた。

 

 いのが心転身の術で、野生の鷹の眼を借りることで何かしらの戦闘跡の残る目立つ場所に、天音小鳥と飛段が居ることを突き詰めた。

 

 瞑想しているのか目を閉じたままの天音と何かしら狼狽えている様子の飛段に、シカマルたち猪鹿蝶とはたけカカシの隊は迅速なハンドサインによる連携で周囲を取り囲む。

 

(角都とか言う奴が見当たらないが、いのの感知に引っかかってねぇところを見るに別行動か……先にこいつらをやるのが得策だな。 ……)

 

 シカマルは木の陰や岩陰に隠れている班員にハンドサインで自分が先に仕掛ける意思を示し、印を結ぶ。

 

(影真似の術……っ!)

 

 シカマルの影から地面を伝い影が生き物のようにうねり這ずって天音と飛段へと伸びる。 牽制の意味も込められた術だが、飛段・天音の順にシカマルから見て並んでいるため先ずは飛段の影に向けて術を伸ばす。

 

 ……

 

 不意に目を開けた天音は飛段に対して蹴りを放ち、シカマルが伸ばす影に向け吹き飛ばす。

 

「なっ!?」

 

 驚く飛段の声と共に、天音はその場から飛び退き枯れた大樹の側面に着地する。

 

 シカマルも想定外の展開に驚くも、()()()()()を遂行するべくそのまま影真似の術を飛段へとかける。

 

「こいつはぁ……あの切れ目のガキの術か!? 嬢ちゃん、てめぇ何しやがる!!!」

 

 蹴られ態勢を崩し、さらに敵の術にかけられたことで飛段の怒りのゲージは直ぐにMaxになる。

 

 その様子をクスクスと笑っている天音は、樹木の側面で身体を地面に平行に向けた態勢で肩をすくめる。

 

「どんくさい先輩が悪いんですよ? まあ、()()()私が相手しますから、そこの奈良家の忍者はサッサと飛段先輩連れてってもいいよ~♪」

 

 隠れているはずのシカマルに向け、声をかける天音は周囲に睨みを効かせる。

 

 カカシ、いの、チョウジが隠れている場所にピンポイントで圧を放った天音に、シカマルは声を挙げる。

 

「っこの不死身野郎は俺が引き受ける!! カカシ先生たちは、その糞女の相手を!!」

 

 シカマルの言葉を受け、三人は天音の眼下の地面へと姿を現す。 その様子を見ていた天音は、シカマルの方へと目線を向け口を開く。

 

「糞女とかひっど~……じゃあこいつらが次の換金対象かなぁ~? 奈良家のキミぃ!! 早く飛段先輩片付けないと、こいつらもヤッちゃうよ~?」

 

 煽る天音の言葉に、シカマルは歯ぎしりをしながらも影真似の術によって飛段と共にその場から離れるかのように駆けだしていった。

 

「あんたぁ……舐めたこと言ってんじゃないわよォ!!!」

 

 シカマルへの煽りに怒り、いのは声を荒げる。 そんないのに対して天音は冷ややかな目線を向け呆れるようなジェスチャーをして言葉を口にする。

 

「へ~? ここに来てるあんた達三人じゃいささか力不足じゃないかって教えてあげてるんだけど……あと倍の人数は欲しいかなぁ? フフフ……貴女達のせ・ん・せ・いみたいにぃ……雑魚の相手は数だけいても面倒なだけなんだけどねぇ~~~~!!! あははははははwwwwww」

 

 ゲラゲラと笑い声をあげる天音に、いのこめかみに青筋を浮かべ大きく一歩を踏み込む。 しかしその瞬間駆けだそうとするいのに対して、チョウジが腕で制止をかける。

 

「チョウジ!! アンタアスマ先生のことああ言われて悔しくないの!?」

 

 完全にキレているいのに対して、チョウジは静かに地面に顔を伏せたままいのの身体を制止し続ける。

 

「……へぇ……そこの雑魚で……只のデブで隊の足を引っ張りそうな君は随分と冷静だねぇ~~? それともビビッてるだけかなぁ? wwwww」

 

 アハハハハ!! と天音の笑い声が閑散とする周囲に広がる。

 

「…………」

 

 沈黙を貫くチョウジはゆっくりと顔を挙げ、その視線を天音に向ける。

 

「いの、僕たちは……アスマ先生の復讐のために来ているんじゃない……っ! あの暁が……これ以上人を傷つけるのを止めるために来たんだっ!!!」

 

 阿修羅像を思わせるかのような形相のチョウジの気迫の表情と雰囲気が辺りに蔓延る。

 

 その様子を見ていた天音は面白そうな表情を浮かべる。

 

(……随分と予想以上の成長っぷりってやつだなぁ……まあでも)

 

「復讐のつもりでもいいんだよ? 私は復讐に対して肯定的だから、される分にも文句は言わない……だから」

 

 天音は印を結びながら、言葉を続けた。

 

「全力で来な!!」

 

 瞬間天音の上方から雷光が走る。 天音は半歩横にズレるとカカシの雷切が天音の頬をかすめて地面へと突き刺さる。

 

(クソ、不意打ちは効かないか……っ)

 

 影分身を木に登らせていたカカシは地面に激突した分身が消えた様子に、天音が見て目と言動とは裏腹に隙のない人物だと再認識する。

 

(川の国での行動と言い……このくノ一は油断ならないな……っ)

 

 印を結び終えた天音は大きく息を吸い込み炎を吐き出す。

 

「龍炎放歌の術!!」

 

 龍の形を模した炎が幾数にも現れて頭上からチョウジたちを襲う。

 

 着弾した炎により火の海になった眼下の地面を天音が見ろしていると瞬間、()()()が風を巻き上げ炎をかき消す。

 

「へぇ……っ!」

 

 感心する天音の声と共に、突然天音の居た場所から樹木が真っ二つにへし折れた。

 

 いつのまにか素早やく軽岩の術で宙へとその場から避難していた天音は、樹木がへし折れた地点で拳を固めている、背からチャクラの羽を生やしたチョウジを嬉しそうに見つめる。

 

「前言撤回するよ……今のアンタなら戦いを楽しめそうだ!!」

 

「っ僕たちが……お前を倒す!!」

 

 空を飛ぶ二人は空中で互いの腕をぶつけ合うように正面衝突し、周囲に激しい衝撃波を響かせた──

 

 

~~~~~~

 

チョウジ達と天音が空中での戦いを繰り広げている中、シカマルは影真似の術によって飛段を少し離れた火の国のとある森の中まで引きずり込んでいっていた。

 

「オイ! 影野郎、てめー俺様を孤立させて勝った気で居やがるのかもしれねぇが一対一はこっちにも好都合ってことわかってるかぁ!?」

 

「……」

 

 木々に囲まれた場所で、動きを封じている飛段を中心に起爆札を吊るしたワイヤーを辺りに張り巡らせるシカマル。

 

 飛段が喚く内容に一切耳を貸す素振りを見せずに、シカマルは黙々とプロレスのリングのように飛段を囲う包囲網を完成させた。

 

「っチ……こっちは相棒がヤラれて驚いてるっつーのに、こんなガキの相手してる暇はねーぞ……」

 

 僅かに焦ってる様子で、天音たちが戦っている戦場の方角へと目を向けそう呟いた飛段の言葉に、ここにきて沈黙を通していたシカマルが興味ありげに口を開く。

 

「相棒がやられただと……? 角都とか言う触手のヤローは死んでんのか?」

 

「ケッ! いちいちてめーに説明してやる義理もねーよ、この影の術の効力は五分程度が精々……それが切れたらてめーを殺してメスガキに口を割らしてやるだけだ」

 

 暁側で何か揉め事があったのだと察したシカマルは、あえて効果時間ギリギリの影真似の術での拘束を解く。 

 

「……面倒くせー術も解けたか、二人きりでなら勝てると思って俺をバカにしたのが運のつきだと思い知らせてやるよ!!」

 

 体の自由が戻ったと、首を鳴らして息巻く飛段は懐から儀式に用いる杭を取り出し構える。 その様子を冷静に見ていたシカマルは深呼吸をしてクナイを構える。

 

「オイオイ、インテリ気取りの後衛が俺とサシでやり合おうってのか? クナイ一つで俺と渡り合おうなんざ舐められたもんだぜ!!」

 

「……別にそんなこと、最初っから考えちゃいねーよ。 まっ……()()()()()()()()()()への対応策は……前から考えてあるんでな」

 

「そうかい……俺に殺され、ジャシン様の元で無駄に講釈たれてバチでも当たってやがれっ!」

 

 一気に近距離まで詰め寄り杭を振りかぶった飛段。 シカマルはその杭に対してクナイを構え、その一撃を受け止める。

 

「ハッ!! 力が弱えーなてめーっ! 終わりだぁ!!」

 

 シカマルに対して力比べで圧勝している飛段はガードの上から無理やり押し込もうと杭を両手で持ち力を籠める。

 

 シカマルはその圧に押し込まれ、膝を突き杭の先端が眼前へと迫ったその瞬間。

 

 飛段の頭上から木の枝が落ちてくる。

 

「っ!?」

 

 葉っぱが多くついた木の枝が飛段の顔を覆い、怯んだ隙にシカマルが杭を逸らして飛段へ向け踏み込みその胸へとクナイを突き立てる。

 

「っグ……!? 痛ってぇーなぁ……てめーっ!!」

 

 飛段が頭上を見れば、木の枝が木の幹を通って伸ばされたシカマルの影によって切り落とされているのが確認できた。 胸に突き立てられたクナイの痛みにキレながらも飛段は密着しているシカマルを片腕で抱きかかえるように拘束し、杭を逆手に持ち直す。

 

「小細工で心臓狙えば殺せるとでも思ったか、阿保が!! 取り敢えず一発喰らえ!」

 

 飛段は拘束しているシカマルを自身の身体も貫通させる勢いで杭で貫く。

 

「ギャハハハハっ!! 儀式で殺してやるから、死なねー程度に俺と同じ痛みを味わいやがれっ!!」

 

 夢中で急所を外した位置を何度も自身ごと貫く飛段。 その狂った笑い声に対して、シカマルの声が

 

 

 飛段の後方から答える。

 

 

「阿保はお前だ。 笑いながら自傷するM野郎……」

 

 その声にハッとして飛段が振り向くと、手を構えているシカマルがそこにいた。

 

「てめ──」

 

「影寄せの術っ!!」

 

 飛段の言葉を遮るように、飛段が抱えていた方のシカマルの身体は影へと変化し周囲にその影の針を爆発するように無数に伸ばす。

 

 近距離で突き刺した飛段を中心に、伸びた影は周囲のワイヤーを絡めとり一瞬で飛段の身体へと収縮、飛段を空中で雁字搦めにして浮かせるほどの強度で繭のようになる。

 

「っ動けねぇ……てめーいつの間にッ」

 

 もがく飛段だが、拘束の強度が高すぎてびくともせず首だけを後方に向けシカマルへの疑問を口にする。

 

「いつの間にと言われてもな……言っただろ、対応策を考えてあるってな。 ……端からてめぇに近づく気なんてこっちにはなかったってことだ。 ご丁寧に俺から何度も視線を逸らしてくれたおかげで、俺の影で出来た分身……文字通りの()()()と入れ替わるの簡単だった……後はてきとーでもどうにかなる……昔の()()()相手の方が今でもまだめんどくせーと思うぜ」

 

「ああ!?!?」

 

「こっちの話だ……相手はお前だけじゃない……サッサとお前を片付けて、仲間達の所へ戻らせてもらう」

 

 シカマルは取り出したクナイを、印の付いた地面へと投げつけると地面へひびが入り崩れ、拘束された飛段の真下に大きな落とし穴が出現する。

 

「これは……いつの間に……ッ」

 

「てめーが簡単に死なないことは……アスマが教えてくれた。 死なないのなら、動きを……永遠に封じれば同義だ……っ!」

 

 屈んで印を結んだシカマルは両手を突き出す。 シカマルはから伸びた影が、底の深い落とし穴へと進んでいき……

 

「何するつもりだァ……っ!!」

 

「……安心しろ、そのワイヤーに着いた起爆札はブラフだ。 身体を爆散させる手も考えたが、身体の一部でも取り逃したらどう復活してくるかわかったもんじゃねーからな……確実に……沈めるっ!」

 

 シカマルが両こぶしを握ると、落とし穴から巨大な影の手が伸びて来て飛段の身体を鷲掴みにする。

 

「っ!? なんだっこりゃぁッ」

 

「俺が持つ、唯一多量の影を使って行使する力技ってやつだ…………昔全く俺の影真似が効かなかった仮面野郎相手の拘束手段のつもりで開発した術だが……へッ……アイツにはこれでも足りないかもな」

 

 巨大な影の腕が飛段を落とし穴へとワイヤーごと引きずり込み、暫くしてシカマルが腕を絞るように動かすと、何かが砕けるようなバキゴキッといった音が落とし穴から響く。

 

 何かを喚いている飛段の声にシカマルは興味なさげな表情をして立ち上がる。

 

「ジャシン様だとか……神を信じるのは個人の自由だがそれを他人に押し付けんのは御法度だぜ……まあ、今まさに地獄の閻魔の手に引きずり込まれようなもんだ。 もうお前を救う神なんて、どこにもありはしねーだろうがな……」

 

 シカマルは仕上げとばかりに落とし穴の壁に複数の起爆札付きクナイを投げつけ、落とし穴の壁を爆破。 落とし穴を完全に埋め立ててしまった。

 

「……骨も砕け、筋肉も裂け……おまけにこの瓦礫の重み……死にはしなくても一生……出てくることはねーだろ。 そう不死身だろうと、一生な」

 

 シカマルは一仕事を終えた様子でため息をつくと、直ぐにその場から走り出す。

 

 別の所で戦う仲間の元へと──

 

 

~~~~~~

 

 

「火遁・豪火球!」

 

「超・拍手(かしわで)!」

 

 空中で放たれた天音の火球を、チョウジは拍手で生じた風圧で消し飛ばす。

 

 術を放った天音に対して、地上からいのが無数の花を放つ。

 

 茎を天音に向け向かう花はコントロールされているかの如く、それぞれがうねる様な軌道で飛び天音を取り囲むように飛び

 

「喰らえっ!!」

 

 いのが印を結ぶことで、毒が混じった紫色の爆炎を生じさせる。

 

 天音の身体を見えなくするほどの爆炎。 その炎から、突っ切るように飛び出た天音に対してその動きを見切って両手に雷切を構えたカカシが突っ込む。

 

「クっ!?」

 

 雷切を当てたカカシはそのまま周囲の木々の間を青白い雷の軌跡を残して直線で跳び回り、その都度木々の幹へと天音の身体を叩きつけ続ける。

 

(天音小鳥は軽岩の術で、自身を軽くすることで攻撃から受ける衝撃を推進力に変え直撃を避けている……だが土遁の軽岩の術なら俺の雷切でその効果を打ち消すことでダメージを軽減させられないハズだっ!)

 

 腹部にカカシの両手での雷切を受けた天音は、チャクラを集中させることでその貫通を防ぐ。 しかしカカシはそのまま何度もその体を叩きつけ──

 

「チョウジっ!!」

 

 空中で待機してチャクラを練っているチョウジ目掛け、天音の身体を投げつける。

 

 飛んできた天音に向かってチョウジは右手にチャクラを込め大きく腕を振りかぶる。

 

「……蝶弾爆撃っ!!!!」

 

 天音にその拳が触れた瞬間、多大なチョウジの圧縮されたチャクラが解放され爆発音と共に天音を地面へと叩きつける。

 

 天音の身体が巨大なクレーターを作ったの同時に

 

「カカシ先生っ!!」

 

 チョウジの掛け声とともに、カカシがチョウジに向かって跳び、空中のチョウジは両手でのアームハンマーを構える。

 

「っ……!」

 

「オリャぁあああ!!!」

 

 頭を地面に向けたカカシの足にチョウジが打撃を加えて、その体を加速させた。

 

「止めだっ雷切双雷震っ!!!」

 

 カカシの両手に構えた雷切が天音ごと地を穿ち大きく震わせ、クレーターをもう一段階大きく形成する……

 

 衝撃音が止むと共に、静けさの中で地面が軋む音が辺りに響く。

 

「やったの……?」

 

 いのが思わずそう言葉を漏らして、クレーターを覗くと……

 

 ──チチチチチチッ

 

 カカシの雷切を、同じく両手に千鳥を纏った天音が受け止めている様子が目に入った。

 

 手を組合い、押し合うカカシと天音。 雷遁の光が迸る中──

 

「チョウジっ!」「いのっ!」

 

 二人は互いの名を呼び合い、カカシの援護へと向かい急ぐ。

 

 瞬間

 

「フンッ!」

 

 天音が頭を振るい、カカシの鼻っ面に頭突きをかまして怯ませその体を宙へと蹴り飛ばす。

 

「っグ……!」

 

 空から向かっていたチョウジは飛んできたカカシの身体を受け止めるが、その次の瞬間

 

 天音が地面を踏み切る轟音が聞こえたのと同時に、天音の繰り出した蹴りでカカシごとさらに空高く蹴り飛ばされる。

 

 天音はチョウジらを蹴とばした反動で、地面へとぶつかるように着地。 地面にヒビを入れながらいのにその鋭い視線を向ける。

 

「っ!」

 

 いのが天音の接近を予想して構えた瞬間。

 

 既にいのの身体を追い越すように天音は移動を終え、いのの視界に天音の拳が映る。

 

(死ッ──!?)

 

 速すぎる天音の動きにいのは反応することができず、眼前の拳が持つ威力を身体が直感で感じ取り自身の頭が弾け飛ぶイメージがいのの頭を一瞬で埋める。

 

 しかしその拳は形を変え……

 

 

 ──パンッ

 

 

 破裂音と共に、いのは吹き飛び地面を転がる。

 

「っいのォ!!!」

 

 空中で態勢を立て直したチョウジは頭を殴られて吹き飛んだように見えたいのの様子に叫ぶ。

 

 カカシはチョウジの身体を踏み台にして地面へ向け跳躍。

 

(……チャクラ量を気にして出し惜しみをしている場合じゃないっ!)

 

 カカシは左眼の写輪眼にチャクラを込め、その紋様を変化させる。

 

「……神威っ!」

 

 天音の身体の中心をその万華鏡写輪眼で睨みつけ、空間を歪ませる。 その時空間忍術の歪は天音を捕え

 

 

 

 

 しかし天音はスルリと神威の範囲から抜ける。

 

 

 

 

「馬鹿なっ!?」

 

 驚愕するカカシ。

 

 普通なら時空間へと体を引きずり込まれ引っ張られることで脱出が困難なはずの神威によるその攻撃を天音は、何もされていないかのごとく容易に一歩横にズレて躱す。

 

 一気にチャクラを消費したカカシに、天音は

 

「止めておけカカシ そんな術私には効かない……なんてね♪」

 

 そう笑顔で呟いて、飛びかかる。 神威の使用でチャクラが乱れたカカシを、空中で回し蹴りを当て天音はいのの居る方へと蹴り飛ばした。

 

「……さて最後だ」

 

 天音が空中に留まり上を見上げれば、拳を構えて飛び込んでくるチョウジの姿が目に映る。

 

「おおおおおおっ!!」

 

「いやぁ……随分と楽しめたよ…………まあ、私を倒すにはまだ足りないけどね」

 

 チョウジの拳を柔拳のようにしていなすように天音は受け流す。 受け流されたチョウジが地面を殴りつけるとともに地面が砕け、チョウジの背に生えていたチャクラの羽が消失する。

 

「っ……はぁ……はぁ……ッ」

 

 顔から滝のように汗を掻き、息の荒いチョウジの正面に天音が降り立つ。

 

「その蝶のようになるモードは随分と消耗が激しいようだね? 体つきも随分とスリムになっちゃってまあ……へ~こう見ると結構イケメンだね、アンタ」

 

 ふむふむと顎に手を当て、チョウジの身体をまじまじと見つめる天音。 まだ余裕を感じさせるその態度に、チョウジは歯ぎしりをする。

 

「いやでも、私相手によく頑張った方だよ……うん。 アンタの事は気に入ったし、そっちで倒れてる仲間を置いてってくれるならアンタは見逃してあげようかなぁ……?」

 

 ニタニタとした笑顔でチョウジに提案を持ちかける天音。 

 

 しかしチョウジは右手を構え、拳を握る。

 

「……例え死ぬことになろうと……僕は逃げない……ッ!!!」

 

「……フフッ」

 

 チョウジの言葉を受け、天音は笑みを浮かべながら印を結ぶ。

 

 そして、互いに同時にその場を踏み切る。

 

 叫ぶチョウジ、笑みを浮かべた天音の距離が縮まる。

 

「ウオオオオオオオっ!! 部分倍化の術っ!!」

 

「土遁……拳岩の術」

 

 チョウジは片腕を巨大化させ、天音は土遁で巨大な拳形成する。

 

 巨大な拳同士がぶつかり、力での押し合いになるが……

 

 瞬間不意に天音は術を解除して、チョウジの腕をすり抜けつつ再度印を結ぶ。

 

「雷遁・地走りっ!」

 

 接近した天音の身体から放たれた雷遁がチョウジへと直撃。

 

「ぐああああああっ!?!?! っあ──」

 

 雷撃が止むのと同時に、天音の口から炎弾が放たれ爆発。 チョウジの体をカカシといのが倒れている場所まで吹き飛ばす。

 

 ドンッ……と身体が地面にぶつかる音を聞き天音はゆっくりとその場から上昇する。

 

「……っ……いのォ……」

 

 意識の落ちかけているチョウジが倒れているいのの様子を見る。 傍から見て異常な力で殴られたはずの額からは血が僅かに流れているのみで気を失っている様子のいのは息をしていた。

 

 ふらつく様子で何とか立ち上がるカカシだが、宙に飛びあがった天音は影分身で二人に増え同時に別の印を結ぶ。

 

「うん……そろそろ頃合いだ。 それじゃあ、一発大きいのをかますかね」

 

「りょっ!!」

 

 自身の影分身と言葉を交わして、それぞれが術を放つ。

 

 

「火遁・豪火球の術!」「風遁・大突破っ!」

 

 

 別々に放たれた炎と風が混じり、超高温の広範囲の炎がカカシたちに目掛けて降り注ぐ。

 

滅風焔(めっぷうほむら)の術……この術を止められるのは──」

 

 そう呟いた天音。 カカシは、ふらつきながらも再度神威を使おうと試みるも

 

(……ッあまりにも術の範囲が広すぎる……神威ではこの術の全てを飛ばしきれないっ……)

 

 時空間へと飛ばすのに、不定形の炎は適していない。 それでも僅かに術の威力が下がり、生還する可能性を賭けてカカシは左眼にチャクラを集中させた……

 

 その瞬間、カカシの前に人影が二つ現れる。

 

 

「水遁・破本流」「風遁・螺旋丸っ!」

 

 

 二つの人影は、それぞれが水遁と風遁を放ち水遁を巻き上げ風遁が巨大な竜巻を作る。

 

「「颶風水渦の術(ぐふうすいか)!」」

 

 その竜巻は天音の滅風焔の炎を巻き上げ、螺旋回転で発生した多量の水蒸気が全ての炎を消し去る。

 

 多量の水が熱されたことで発生した霧を晴らすように、天音は風遁を使う。 そして現れた人影の片方に対して、視線を向ける。

 

「来たね、九尾の人柱力……うずまきナルト」

 

 晴れた霧から、その瞳を覗かせたナルトは天音を見上げる。

 

「てめぇ……カカシ先生たちを傷つけやがって……っ!」

 

 怒りをあらわにして天音を睨みつけるナルト、そんなナルトに対して隣に立つヤマトは

 

「ナルト、冷静に……相手はあの時と同じ天音小鳥だ……そう簡単にはいかないよ」

 

 落ち着かせるように落ち着いたトーンで声をかける。

 

 駆けつけてきた二人の様子に、カカシは安堵し息をつく。

 

「フ―――……いいタイミングで来てくれた、ヤマト、それにナルト……例の件は……」

 

「まあ……期待してください。 以前のナルトとはまた一段違いますよ」

 

 カカシの問いかけにヤマトが自信ありげに答える。 そんな三人の後方

 

 振り返ればサクラがいのに対して医療忍術を施していた。

 

「いのっ! 大丈夫っ!?」

 

「……うっ……ぅぅ……ッ」

 

 サクラの呼びかけに呻くいのの様子に、サクラは命に別状はないと判断し安心する。

 

「やあ……デ……おっと今はそうじゃないようだね、まあ無事で何よりだよチョウジ、君とは何かと会う回数が多いからね少しは気にかけていたんだ……それに美人さんも無事なようで良かった」

 

 一方で肩を貸して起き上がらせながら笑顔でそう言うサイに、チョウジは疲労で僅かに絞り出した笑顔を向ける。

 

「だけど……シカマルが一人で……ッ」

 

 そんなチョウジから漏れ出るように呟かれた言葉に、サクラは反応する。

 

「……サイ、命に別状はないけどこの様子じゃ二人とも直ぐに治療しないと危険よ……ヤマト隊長」

 

 そのサクラの呼びかけにヤマトは指示を出した。

 

「ああ、サクラとサイは二人を安全な場所に連れて行き、その後別の場所で戦っているらしいシカマルの援護に向かってくれ。」

 

 その時

 

 

 

「俺への援護ならもういらねーすよ、もう終わってるんで……サクラ、今は安全な場所でのチョウジといのの治療を優先してくれ」

 

 

 

 シカマルが姿を現した。 その姿を見て、チョウジは安心からか気を失い、サクラとサイはチョウジといのを連れて戦線を離れた。

 

 カカシは戻ってきたシカマルにねぎらいの言葉を掛ける。

 

「シカマル……良くやった」

 

「大したことじゃねーす……飛段の相手は種が割れりゃあやり様は幾らでもあっただけ……だが」

 

 シカマルは宙で未だに木ノ葉側を見定めるように見ている天音に視線を向ける。

 

「天音小鳥、アイツには小細工が効かないぜ……」

 

 シカマルの視線に、天音はジト目でその眼を見返しシカマルに声をかける。

 

「へ~……飛段先輩は負けたか~っあ~あ、惜しい人を亡くしたっ!!」

 

「ケッ……てめぇ……俺が勝つこと分かってて、飛段と一対一にしただろ……どういうつもりだ?」

 

「さぁ? それよりも、こうも連戦が続くと私も流石に疲れるなぁ……だから──」

 

 シカマルとの会話を無理やり切り、天音は印を結ぶ。

 

「そろそろ終いにしよう」

 

 そんな天音の言葉に、ナルトが隊から一歩前に出て影分身を二体出す。

 

「……俺がやるってばよ……皆は──」

 

 そんなナルトの言葉を遮るように、カカシ、ヤマト、シカマルはナルトの直ぐ後ろの位置に着く。

 

「ナルト、相手はあの我愛羅すら倒した相手だ……1人では無茶だ」

 

「カカシ先輩、ですがナルトの新術は周囲への影響も大きいので傍で戦えば僕たちにも被害が出かねない代物──」

 

「なら俺たちは後ろからバックアップするだけっすよ……ナルトを信じて。 ……頼んだぞっナルト!」

 

 三人からの後押しを受け、ナルトは頷き前を向く。

 

 中央のナルトの掌に、左右の影分身がチャクラをそれぞれ送り込み、本体がチャクラに螺旋回転を加えチャクラが圧縮されることで、安定の形を見せる。

 

 ──周囲に響く聴覚を貫くような高音、ナルトは完成させた新たな術を掲げた。

 

「風遁・螺旋手裏剣……この術でお前を倒すっ!」

 

 大玉螺旋丸を中心に円盤状に見える薄い風の刃が生じたそれは、掲げられただけで舞う塵や砂を霧散させろ程の()()を誇っていた。

 

 そのナルトの新術が披露されと同時に、天音も影分身で五人に増えさらに印を結んでいた。

 

「生で見ると強そーー……流石にその術には当たってあげる気は起きないかなっ!」

 

 天音がそういうと印を結び終わり、影分身を含めた五人が大きく息を吸い込む。 その動作と同時に、カカシは写輪眼で天音の使う術を先読みしヤマトに声をかける。

 

「っヤマト、とんでもないのが来るぞ! 全力で防御しろっ!」

 

「っ了解しましたっ!」

 

 カカシの指示からヤマトが印を結び始めた瞬間、五人の天音が同時に術を放つ。

 

 

 

 

「「「「「五遁・大龍連弾の術っ!」」」」」

 

 

 

 

 火遁、風遁、雷遁、土遁、水遁……五大性質変化によって放たれた五つの巨大な龍がそれぞれ交わるように螺旋軌道を描いてナルト達に迫る。

  

「出鱈目なっ……!」

 

 天音の放つあまりの術の規模に、ヤマトが苦言を漏らすも言葉とは裏腹にしっかりと印を結び終わり既に地面に手を着いて術を行使していた。

 

「木遁・木陣城壁の術っ」

 

 天音の術がナルト達を飲み込もうとする瞬間、地面が大きく横に裂けそこから二メートルほどの厚みのある木の壁が五体の龍をギリギリのところで遮りその半円状の形が威力を分散させる。

 

 しかし、幾ら分散させようとも術の威力の桁が文字通り違うため数秒持ちこたえた直後、天音の術の引き起こした爆発によりその強大な城壁は跡形もなく吹き飛んだ。

 

「…………ふう、爽快♪」

 

 地形が変わるほどの一撃にそう天音が呟いた瞬間、宙に浮く天音の内二人が獣を模した雷に穿たれ姿を消す。

 

「雷獣追牙の術か……っ!」

 

 天音らが後ろを振り向けば、土遁で地中を移動して回り込んでいたカカシが術を放った状態でいるのが目に入る。

 

 残り三人になった天音が再度印を結ぼうとした瞬間

 

「っ!」

 

 中央の天音を除いて残り二人の天音の影分身が消える。

 

 その様子に残った天音が警戒してより高く飛びあがると、影分身は真下の地面にいつの間にか空いていた穴から伸びた影に貫かれて消えたことが分かった。

 

 天音からは生えている木で死角になる位置にいるシカマルが呟く。

 

「残るは一人……本体か」

 

 シカマルを土遁で地中を運んだヤマトは、シカマルの様子を見届け再度地中に潜伏。

 

 一方相対するカカシと天音。 カカシは雷切を構えていた。

 

「……随分と術を放ったんじゃないですか、はたけカカシさん? あなたのチャクラ量じゃあ、その雷切が最後だ」

 

「へぇ……俺のことを理解してくれてるとはお目が高い。 だが、余裕で居られるのも今の内だっ!」

 

 カカシが写輪眼の洞察力を持ってしないと見切れないほどのスピードで駆けだす。 天音に対し直線で跳躍したカカシに対して天音が迎撃用に豪火球を放つも

 

「木遁……先輩足場です!」

 

 地中から幾数の木柱が天音の周囲を取り囲むように生え、カカシはその木柱を蹴ることで空中で軌道を変え上空に居る天音へと差し迫る。

 

「おお、速……」

 

 天音はそう呟きつつも別の術を使おうとしたとき

 

「木遁・黙殺縛りの術」

 

 いきなり細い木々が体を締め上げるように拘束する。 天音が振り向けば、木柱と下半身を一体化させたヤマトが上半身だけ生やしている様子が見えた。

 

「油断したね」

 

 ヤマトのその言葉を聞き、天音が首を正面へ向けると既に眼前にはカカシが迫っていた。

 

「終わりだっ!」

 

「終わりませんよォ!」

 

 カカシの叫びを遮った天音の言葉の直後、カカシは吹き飛び木柱へと叩きつけられる。

 

「ウグッ!?」

 

 カカシを吹き飛ばしたモノは粘土状の土のような物体であり、それは寸前に天音が吐きだしたモノであった。 その土はカカシを木柱に叩きつけて貼り付けにすることで動きを止める。

 

 カカシの手に光る雷切に目線を向けた天音は勝ちを確信したように体に力を籠める。

 

 体を拘束する木遁を破ろうとした瞬間にカカシが叫ぶ。

 

「テンゾウっ!!」

 

「っお手柔らかにお願いしますよ、先輩!」

 

 カカシの合図に、天音を拘束していた木がカカシの手へと向け伸び……雷切を纏う手と繋がる。

 

「──まさk」

 

 その意図に気がついた天音が口にしようとした言葉を断ち切るように、その木を通して雷切の雷が流れ天音とヤマトを痺れさせる。

 

「ッヅ……っ!?」

 

 天音が感電した瞬間に、ヤマトが拘束を解くことで天音は土遁の軽岩の術の効果が切れたことで地面へと向け落ちていく。

 

 身体が痺れつつも、何とか土遁以外の印を結ぼうとする天音。 ……しかし

 

「ッ痛”ッ!?!?」

 

 突然四肢に痛みが走る。 気がつけば四肢それぞれに忍犬が噛みついて、動きを拘束していることが天音にわかる。

 

(気配を隠して、木の柱の陰にそれぞれ忍んでいたのか……ッ)

 

 天音が地面へと視線を向ければ、ガタイの大きな忍犬が掘った穴から出てきたナルトが螺旋手裏剣を構えているのが目に入る。

 

「サンキューだってばよ……!」

 

「オウ!」

 

 ナルトの言葉を受け、そばの忍犬が消えるとナルトは天音に目線を向ける。

 

 このままでは確実に螺旋手裏剣を喰らうことを察知した天音は咄嗟に体を捻り、高速回転を始める。

 

「っ……!?」

 

 四肢に噛みついている忍犬たちはその回転で天音の四肢の肉を裂きながらも周囲に吹き飛ばされ、地面から生えている木の柱へとそれぞれ叩きつけられる。

 

 そしてそのまま天音はナルトへと体を向ける。

 

「ふふ、さあ……勝負だっ!」

 

 窮地にも関わらず、笑みを浮かべた天音は素早くその手に螺旋丸を構える。

 

「ッ……行くってばよ、喰らえ!!!」

 

 

 

 

 螺旋手裏剣と螺旋丸がぶつかり、細かい金属片が激しくぶつかり合うような轟音が辺りに響く。

 

 

 

「オオオオオオォおおッ!!!」

 

 力の限りに押し込もうとするナルト。 螺旋手裏剣が天音の螺旋丸を徐々に飲み込み圧倒し始める。

 

 その様子にシカマルや上空で、撤退しようとしているカカシとヤマトがナルトの勝利を確信した。

 

 

 ──その刹那

 

 

 天音は肉が削がれているもう片方の腕の掌を螺旋丸へと徐に添える。

 

「風遁・螺旋手裏剣……良い術だと思うよ……形態変化を極めた螺旋丸にさらに風遁の性質変化を加えるって……でもねぇ──」

 

 

 

「それが出来るのを、自分だけだと勘違いしてない?」

 

 

 

 天音を飲み込もうとしていたナルトの螺旋手裏剣が、逆に押し込まれるようにナルトを地面へ押し付け始める。

 

 急激な力の増大。 辺りに響いていた螺旋の衝突音はさらに高音を響かせ始めた。

 

「──まさかっ!?」

 

 カカシもヤマトも、その天音の手の内にある螺旋丸の変化に驚愕を示す。

 

「……ックソォ……!!」

 

 急激に押し込まれ膝を着いたナルトは悔しさを口に出す。

 

 数日間ぶっ通しで何とか形にした新術を、ほぼ見ず知らずの忍びがいとも簡単に摸倣しぶつけてくる……その事実にナルトの心がめげそうになった時

 

 

 ナルトの精神世界で声が響く。

 

 

『ナルト……ワシの力を使え……』

 

 檻の向こうに見える巨大な獣の囁き、それにナルトは

 

「ふざけんじゃねぇ……この前の大蛇丸との戦いで……お前の力はサクラちゃんを傷つけた……っ! 俺はもう……そんな危険な力なんか借りねぇぞっ!」

 

 自身の思いを九喇嘛へと口にする。

 

 その拒否を示すナルトに対して九喇嘛は冷ややかな目線を向ける。

 

『……危険な力か……なるほどなァ……なら聞くがナルトよォ……危険ではない力とはなんだ?』

 

「……っ?」

 

()()な力とはそもそも、別の力を無理やり押さえつけることが出来るものや自身へのリスクがあるモノを言うが……この世に何かに傷をつけない力なぞ存在しえないことを忘れていないか……?」

 

「ッ何が言いてぇ……!?」

 

 九喇嘛の話の意図がわからないナルトは疑問を口にする。 しかしその反応に九喇嘛は失望した目を向け、顔を背ける。

 

『フンッ……ここまで言ってその反応では話にならんな……あのうちはの小僧の方がよほど話が分かると見える』

 

「何でここでサスケの話が出てくるんだってばよ!?」

 

『理解できないのであれば、これからも勝手に自分の尺度で世界に力を押し付けるがいい……危険ではないと思っているその力でな……』

 

 九喇嘛が話終えた瞬間、ナルトの視界は眼前に迫る螺旋手裏剣に埋まる。

 

(急に話しかけて来て、どういうつもりだってばよォ!?)

 

 何とか両手で術を支えるナルトだが、天音から押し付けてくる力は勢いを増していた。

 

 しかしどんどんと自身が優勢になっているのにも関わらず天音は小さくため息をついた。

 

 そして──

 

 

 僅かに均衡を保っていた螺旋手裏剣のぶつかり合いは唐突に弾ける。

 

 その生じた力は周囲に生えていたヤマトの木の柱を豆腐の様に細切れにして爆発を起こした。 地形を抉り取るような衝撃が周囲を吹き飛ばしたのであった。

 

 

 辺りのものが吹き飛んだ爆心地で、ナルトはうつ伏せに倒れていた。

 

「クッソぉ……」

 

 小さくそう呻くナルトに天音がゆっくりと歩み寄る。

 

「……互いに頑丈で良かったね……まあ、私が相殺してなかったら今頃、アンタの螺旋手裏剣がアンタ自身をを細切れにしてただろうけどね……」

 

 ふらふらの様子の天音がそう囁くと、ナルトに対して伸ばそうとしたその手の動きがぎこちなく止まる。

 

「……なるほどねぇ……影真似の術か」

 

 辺りを覆っていた土埃が風で払われると、天音の背後にシカマルが姿を現す。

 

「っカカシ先生もあのヤマトとかいう人も柱ごと吹き飛ばされちまって復帰に時間がかかる……ナルト、早く起きろっ!」

 

 シカマルが印を結び、天音の動きを影で止めているが……僅かずつ、天音はナルトへと前進する。

 

「おいナルトっ!」

 

 シカマルの必死の呼びかけにしかし、ナルトは立ち上がれないでいた。

 

 するとふと、天音は後方のシカマルへと僅かに視線を向け声をかける。

 

「……今なら私を殺せるかもしれないのに……わざわざ影真似の術を使うなんてね……影首縛りでもすれば師の仇を討てるチャンスなのに」

 

 囁く天音にシカマルは歯を食いしばりつつも答える。

 

「ああ、てめぇに復讐してやりてぇ気持ちは幾らでもあるがなァ! でもそんな個人的なことに目を眩ませて、仲間を危険に晒してまで俺がやるべきことを見失うわけにはいかねぇ……っ!」

 

 額に汗を滲ませたシカマルの返答に天音は小さく笑みを零すと、途端に全身の力を抜く。

 

「……ッ流石に時間ギリギリか……九尾を手に入れられるチャンスだったけどそろそろ撤退しようかな」

 

「ハッ……それをさせない為の影真似の──」

 

 途端、シカマルが言葉を紡ぐ最中に横に吹っ飛ぶ。 ダメージで動けないナルトはシカマルが、()()()()()()()()()()()()()()()の天音に蹴り飛ばされている光景を視界に納めていた。

 

 影真似に縛られていた天音は拘束が解けると、ナルトの頭上まで来ていたがそのまま歩みの方向を変えもう一人の自分に向ける。

 

 すると、ボロボロになりながらもカカシとヤマトが姿を現し、さらにいのとチョウジを避難させたサクラとサイまでもがその場に駆けつける。

 

「印も結べないその状態のお前をここから逃がすと思うか?」

 

 ヤマトの虚勢を張ったその言葉に天音は自分の影分身に肩をかける。

 

「……そのために影分身を一体最後まで忍ばせていたんだ、いやぁ……流石の私もここまでダメージを負うとしんどいねぇ……」

 

 影分身の天音が印を結ぶ、軽岩の術で本体ごと宙へ浮く。

 

「逃がすか!」

 

 サクラがそう言いかけ出すと同時に、影分身の天音が本体の持つ尾異夢・叉辺流を取り出して構える。

 

 すると尾異夢・叉辺流が目が眩むほどの閃光を放ち周囲を光に染めた。 突然の目くらましに怯む木ノ葉の一行を尻目に天音はその場から飛び立っていった……

 

 閃光が止んだ後に、木ノ葉の忍びらはその場から撤退する。 そのなかでうずまきナルトは自身の無力感と、正体不明の焦燥感に苛まれるのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 暁の幻影が集う洞窟に、天音の幻影が姿を現す。 するとほぼ同時に暁のリーダーの幻影も現れる。

 

「っ……すみません、リーダー……木ノ葉の小隊にこっぴどくやられて空から撤退中です……」

 

 天音の苦しそうな声での報告にリーダーは

 

「……飛段はどうした?」

 

 もう一人連絡が在るはずの人物の名を口にする。

 

「……飛段先輩は奈良家の忍びと一対一で負けてしまいました……そのせいで私がどれだけの忍び相手に闘うことになったか……何とか金は回収したのでこのまま撤退させて頂きます、金はゼツ先輩にでも取りに来させてください……はぁ……」

 

 疲れて声に元気のない様子の天音の言葉に、リーダーは目を伏せ返事をする。

 

「そうか、ご苦労だったな……今は安全な場所で傷を癒すことに集中しろ」

 

「了解です……では」

 

 天音の幻影が姿を消すと、リーダーは一人その場に幻影を残して思案する様子を見せていた。

 

 



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15:誰が為の……

 暁、飛段と天音小鳥との戦闘後木ノ葉の小隊は里へと帰還し事の顛末を綱手へと報告していた。

 

「なるほどな……皆ご苦労だった、一人でも暁の戦力を削れたのは大きい。 それにもう一人の天音小鳥も小さくはない怪我を負ったようだからな、これからも気を抜かず頼むぞ。 今回の事で大きく疲弊しただろう……お前達二班にはしばしの休養を与える、以上だ」

 

 綱手からの休暇の命令に、新カカシ班のメンバーはそれぞれ火影の部屋から退室していく。 その中で明らかに落ち込んだ様子でボロボロになっているナルトを心配するように一人残ったシカマルはその背を見ていたが、扉が閉まると綱手へと向きなおす。

 

「……綱手様……今回、里を出る時に言っていた話ですが」

 

「ああ、()()()()()()()()か……あの時は悪かったな、()()のお前の心境を思えば言うべきではなかったかもしれん……」

 

「いえ……俺も柄にもなく熱くなっていたので……でそのことなんですが俺なりに感じたことを言ってもいいですか?」

 

「かまわん。 我々にとって天音小鳥が特異な存在であると思われる以上、直接会った者の意見は貴重だからな」

 

 綱手の許可を受け、シカマルは顎に手を当て少し考えた後に口を開き始めた。

 

「綱手様から聞かされた、『天音小鳥は黙雷悟と協力関係にある又はどこかの里の暁へのスパイである』という可能性の話ですが……俺個人としては有り得る話だと思いました」

 

「ほう、そう思った根拠は?」

 

「幾つかあるんすけど、先ずは今まで奴との接敵したという全ての報告で死者が出ていないということが気になりました。 奴が本格的に名を広め始めた風影誘拐の件でも、奴と戦闘したという砂隠れの門番たち全員怪我を負ってはいますが誰一人後遺症はないぐらいで気絶させられただけだそうで……」

 

 シカマルの話を聞く中で綱手は少し気になるところをがあるのか口を挟む。

 

「……随分と詳しいな、そこまで繊細な報告はこちらには届いてなかったはずだが……」

 

「いや、まあ……これは今後の中忍試験のことで向こうのテマリとそう言った話になったからたまたま知ってたことで……」

 

 シカマルの少し焦った様子の返答に、綱手は明らかに悪いことを考えている笑顔を作り頬杖をつく。

 

「ほ~~~う?」

 

「……何すか、その顔……たくっ話を戻しますよ。 んで、綱手様から聞かされた悟との繋がり。 今回の件で奴が悟と接触しているかの真偽は分かりませんでしたが、少なくとも奴は手加減して俺たちと戦っているってことは間違いなく実感しました」

 

 そういうとシカマルは自身の脇腹を服をめくり綱手に見せた、部位は最後に天音の影分身に蹴られ、少し青く変色していた。 その怪我の様子を見て綱手が立ち上がる。

 

「どれ、それぐらいの怪我ならパパっと私が直してやろう」

 

「いや、ちょ……綱手様の手を煩わせるほどの……てまあ、治してもらえるならそれはそれでありがたいんすけど……」

 

 問答無用とばかりに近づいてきて掌仙術を自身に行う綱手の様子に、シカマルは仕方ないといった様子でそのまま話を続けた。

 

「まあ、専門家の綱手様ならわかる通り大した怪我じゃないんすよ。 その時俺は奴に完全に不意を突かれたのにも関わらず、クナイや武器で首を狙う訳でもなく只の蹴りで吹き飛ばされただけ……それもチョウジの蝶モードやロックリーの体術にも引けを取らないハズの奴の影分身がです」

 

「確かにな、骨にも異常はないようだ……よし!」

 

 綱手がそう言い終え患部をポンポンと叩く。 このわずかの間にシカマルの脇腹の青あざは完璧に消え去っており、シカマルも僅かに残っていた痛みも消えたことで綱手の有名道理の実力に小さく感嘆の声を挙げる。 

 

「すっげ…………んで、もう一人奴に確実に仕留められそうだったらしい、いのの怪我も帰りの道中綱手様の弟子のサクラに診てもらったら『額の傷は少し皮膚が切れているだけで、脳震盪がメインで気絶していた』と……チョウジの話では高速で移動しつつ殴り抜けられたように見えたそうですが、当のいのに聞いたら『直前で多分……手の形を変えててデコピン……されたのかも』って言ってました」

 

「でこッ……デコピンだと?」

 

「ええ……明らかに殺せるタイミングで殺さず……かと言って要所要所では容赦のない攻撃を──」

 

「今、韻を踏んだか?」

 

「ッ茶化さないでくださいよ……まあ、これらの事実と一応アスマの死を確かにする物的証拠はない……という点で、天音小鳥には暁の組織としての目的とは別の目的があるのではと俺は思います」

 

 シカマルが自分の考えを言い終えると、綱手は椅子を背後の窓に向け回し窓越しに空を見上げる。

 

「なるほどな……大分参考になったが……奴がアスマの消息に直接かかわっている以上、生ぬるい処置は取れないだろう。 少なくともS級の指名手配としてこれからは追うことになるだろうしな……生死を問えない以上──」

 

「向こうから真実を話すか、事情を知らない奴らよりも早く俺たちが奴を捕え無理やり吐かせるか……すね。 ……正直、俺自身奴に対して思うところ……怒りがないわけではないですが、うやむやに復讐して真実が分からなくなるのも困るんで」

 

「……私は忍びとして、感情に囚われず物事を判断する能力は必要なものだとは思っているが……それにも限界があるとも思っている。 あまり根を詰めすぎないようにしろ……いいな?」

 

「……うっす」

 

 綱手が優しい笑顔でそう語りかけるとシカマルは自分が綱手に相当心配されている事実に、少しだけテレを感じそっぽを向いて顔を綱手から背ける。 普段の綱手はシカマルから見ても火影としての厳格さを充分に有しているように見える……怠け癖などの隙がないわけではないが。 そんな火影である綱手からも自分は心配されているという事実に、シカマルは胸が熱くなり同時に責任感も自覚する。

 

「ええ、折角の休暇を貰ったんです。 アスマについて……いのとチョウジの様子も気になるので、二人と一緒に過ごそうかと思います」

 

「そうか二人は今、病院に掛かりに行っているか……ナルトもカカシも同様……となればヨシ!! 私も今から、往診に向かうとするか!!」

 

 綱手がそう言い机に手を着き立ち上がると、姿を消していた火影直属の暗部が一人姿を現す。

 

 その暗部の気配を感じさせない出現にシカマルが内心驚愕していると、暗部の忍びは綱手へと進言する。

 

「綱手様、往診まではまだ時間があるはずです。 この後シズネ様が運んでいる資料に目を通していただく手筈ですが……?」

 

「ちっ……今日のは大したものはないはずだ、シズネに任せてしまえば良いだろう……」

 

 めんどくさそうにそう言い放つ綱手にシカマルは内心(……シズネさんがいつも死にそうな顔してんのも頷けるな)と何とも言えない目を向ける。

 

 綱手の言葉に、暗部の忍びは微動だにせず沈黙するが数秒後に言葉を発する。

 

「……では、(わたくし)めが資料整理についてシズネ様に手を貸してもよろしいですか?」

 

 シカマルはその暗部の忍びの言葉に少し驚く。 暗部が自分の意見を火影に進言するなどといったことは普通は有り得ないからだ。 しかしその暗部の言葉を受け綱手は

顎に手を当て、少し考えたのちに

 

「……確かお前は三代目の頃から右腕の一人として行動していたらしいしな……よし、では任せる!! 一応だが必要事項はシズネに確認を取ってくれ、今日の予定では量だけのもののばかりのはずだがな」

 

 にこやかに業務をその暗部の忍びに押し付けることにして、足早に火影室から出ていった。 その際

 

「おい、シカマルお前も班員の2人の様子を見に来るんだろう? ぼさっとしてないで着いてこい!!」

 

 綱手からそう急かされたシカマルは、目の前で起きた非常識な執務指示に狼狽えながらも暗部の忍びに一言声をかける。

 

「……いいんすか?」

 

 様々な疑問を凝縮したシカマルのその言葉に、暗部の忍びはその仮面の奥から優しい瞳を覗かせ答える。

 

「……綱手様の能力は医療現場でこそ発揮される。 適材適所……これもまた──」

 

 シカマルがその言葉の続きを聞こうとした瞬間

 

「早くしろぉ!!」

 

 綱手の再度の催促に暗部の忍びの言葉がかき消されてしまう。

 

「ちょっ……すみません変なこと聞いて、それじゃあ俺行きますんでっ」

 

 急かされたシカマルが軽く暗部の忍びに会釈して慌てて部屋を退室するとその忍びは誰にも聞こえないように小さく呟く。

 

「玉のため」

 

 その後火影室に資料を運び込んできたシズネは綱手の消えた部屋の中の様子に目の隈を仙人の如く深くしたことは、言うまでもないことなのかもしれない。

 

 唯一業務をこなせる優秀な暗部が付いていたことがシズネにとっては不幸中の幸いであっただろうか。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉病院へと綱手とシカマルは、今回の戦闘で傷ついた者たちの元へとそれぞれ訪れる。

 

 まず、天音に効かなかったにせよ神威の使用と雷切の連発をしてチャクラ切れでダウンしているカカシと、蝶モードによって著しく体力を消費したチョウジは同じ病室のベッドで既に点滴を受けて安静にしていた。

 

「……いやぁ……今回の戦闘はきつかったな……」

 

「俺も、天音小鳥がああも大規模な術を使ってくるとは……カカシ先生やあのヤマトって言う人がいなかったら今頃消し炭ですよ」

 

 手に持つ小説に目を向けながらも、ベッドの傍に訪れたシカマルと会話をするカカシはチラッと寝息を立てているチョウジに目を向ける。

 

「それにしてもチョウジは立派になったな、あまり任務を共にすることもなかったがああも頼りになるようになるとは……数年前の演習を思えば見間違えるようだった」

 

「ああ……あの悟とやり合った演習のことっすね……確かにあの後からチョウジは結構やる気を出して頑張ってたから……俺たち猪鹿蝶の中でも一頭一つ抜けて強くなりましたね」

 

 そんな世間話をする2人。 ふと病室のドアが開くと、花束を持ち頭を包帯でグルグル巻きにしたいのが姿を現す。

 

「おういの、思ってたよりも調子が良さそうだな」

 

「シカマル! まあ、私はチョウジに比べて軽傷だから……サクラにもすぐに応急処置してもらってたし、一端家に戻って見舞いの花でも見繕ってきてたのよ」

 

 明るい笑顔でシカマルの言葉に返事をするいのは、慣れた手つきでカカシとチョウジのベッドわきにある花瓶に花を添えていく。

 

「悪いねぇ……いのも一応怪我人なのに」

 

 ニコニコとそう口にするカカシ。 実際病室に花が添えられると、それだけで気分が良くなるのだろう。 チャクラを消耗し、体調が落ち込んでいるカカシには精神的に和らげるものは思っているよりも効果があるのかもしれない。

 

「いいんですよ、カカシ先生。 今回、私は戦闘面で何もできなかったから……でも次はそうはいかないわっ! ……だってアイツは……ッ」

 

 ギリっと歯を食いしばるいの。 彼女にとって天音小鳥は猿飛アスマを連れ去り殺害した人物と相違ないのだ、その湧いて出る怒りの感情は当然のことだった。

 

 シカマルも、その気持ちがわからないわけでもないが様々な可能性が考慮される忍界では一つの考えに傾倒するのは危うい事であると自覚している。

 

「いの、気持ちもわかるが今はあの天音の事ばかりを考えていられるわけじゃない……暁の奴らが本格的にナルトを狙ってきてることについても──」

 

「わかってるっ!! ……わかってるけど……」

 

 シカマルの言葉にいのが自分の感情の行き先の行方を問うように、一応の同意の言葉を呟く。

 

 そんな2人の様子に、カカシは小さくため息をつき手に持った小説を自身の下半身に掛かっている布団に伏せ口を開く。

 

「……ま、肝心なことは大抵いつもわからないもんだ。 そう言うときは自分のやれることを実直にやることが案外正解の場合もある。 ……取りあえずはそうだな、俺の体調が戻ったらアスマ班に焼肉奢ってあげよう」

 

 ニコッと2人を励ますカカシの言葉に、いのとシカマルは2人してカカシに目線を向ける。

 

「……いいんすか? 俺たちはともかく……」

 

「そうよ、うちにはチョウジが……」

 

 そのまま2人の目線がチョウジへと向くと

 

「……や……やき……にく?」

 

 チョウジがそう寝言を呟く。 そんな様子のチョウジに対して引き気味の2人にカカシは

 

「偶にはいいさ、思えばアスマには結構な頻度で奢らせ──奢ってもらってたからな。 アイツの教え子たちにそれを返すのも悪くはない」

 

 そう言って窓の外に目線を向けたカカシは、窓から見える青空を見上げて呟く。

 

「……もしアイツが生きてたら、何倍にでもして返してもらうだけだからな」

 

 

~~~~~~

 

 

 一方、治療室では右手にサクラの掌仙術を受けるナルトの姿があった。 2人の様子を見るヤマトとサイ、そこに綱手が扉を開け姿を見せる。

 

「ここか。 先ほども様子は見たが随分と無茶したなナルト」

 

「師匠!」

 

「……綱手のばあちゃん……」

 

 綱手の参上に、サクラとナルトが反応を示す。 ヤマトとサイはしっかりと会釈する様子を見ると、互いの距離感が良く表されている場面に見える。

 

 綱手はサクラの治療を受けるナルトの様子をざっくりと視診し、身体にも手を触れ怪我の様子を探る。

 

「ふむ……随分と変わった傷の付き方だな」

 

 そう呟く綱手に、ヤマトが口を開く。

 

「それが……ナルトの新術、風遁・螺旋手裏剣はカカシ先輩も写輪眼で見切れないほどの()()()()といってまして……」

 

 そのヤマトの言葉に綱手は、納得したかのように頷く。

 

「なるほどな、風遁系の傷か……経絡系や細胞が恐ろしく細かく傷ついている……だが右手以外にも似た傷が見受けられるが、どうしてこうなっている?」

 

 綱手は思った疑問を口にすると、気分が落ち込んでいる様子のナルトが呟く。

 

「アイツも……天音の奴も……螺旋手裏剣を使って来やがったんだってばよ……」

 

「なに……?」

 

 その悔しそうなナルトの様子に綱手はその言葉が嘘ではないことを確信した。

 

「……螺旋丸に、性質変化を加えるのはそう易々と出来るものではないはずだ」

 

「ですが綱手様、僕もカカシ先輩もしっかりと見ていました。 ナルトの螺旋手裏剣を相殺する天音小鳥の螺旋手裏剣を……」

 

 ヤマトの追加の言葉で、綱手はその事実に驚きを感じつつも冷静にナルトの身体を見回す。

 

(なるほどな、怪我の様子の大きい術を行使した右手以外にも似たような傷があるのは同じ術で相殺し合ってその余波がきたからだろう……つまりは)

 

「同等の傷を天音も負っていることになるな……そうなるとしばらくは奴も姿を現すことはなさそうだな」

 

 綱手の推察にヤマトが答える。

 

「ええ、それに四肢の筋肉の一部をカカシ先輩の忍犬が食いちぎったりしていますしその他、小さくはないダメージを相手も負っているハズです」

 

「そうか、その肉の一部は回収して既に鑑識に回してあるか?」

 

「はい既に」

 

 スムーズな2人の会話が途切れると、ふとナルトが呟く。

 

「なあ、婆ちゃん……俺ってば、本当に──」

 

 その言葉を遮るようにゴッと鈍い音が室に響く。

 

「~~~~~~っ!?!?!?」

 

 空いた左手で頭に走る痛みを抑えようとするナルト。 治療を続けているサクラやヤマト、サイが驚きに言葉を失っていると綱手は自分が振り下ろした拳でそのままナルトの頭に掌仙術をかける。

 

「……お前は自来也が認めた、アイツの弟子だ。 弱気になんかなるんじゃない」

 

 叱りつけるかのようなその綱手の言葉に、ナルトは痛みに涙目になりながらも俯き口を開く。

 

「……わかってんだってばよ。 俺ってば馬鹿だけど……だけど最近何かが自分に足りねぇーんじゃないかって気がしてならねぇ……」

 

「……」

 

 ナルトの元気のない様子に部屋に沈黙が走る。

 

「サスケや……あの天音も滅茶苦茶に強かった。 新術が出来て、少しは近づけたと思ったのに……全然足りねぇ……アイツらは何であんなにもつえーんだ?」

 

 自信の消えかけたナルトの自問自答のような言葉。 ふとその時サイがナルトに声をかける。

 

「……思うに、目的に対しての執念じゃないかと僕は思うよ」

 

「……サイ?」

 

「僕は、ナルトやサクラと一緒になって初めて自分というモノを俯瞰してみることが出来るようになった。 道具としてじゃなくサイという自分自身を。 そう振り返ると、大蛇丸のアジトでサスケと対峙した時に感じた()()感覚も少しは理解できる……かもしれない」

 

 サイはそのまま言葉を続ける。

 

「言葉にするのは難しいけど、サスケは自信に満ちているというか……揺るぎようのない目的があるからこそ迷いなく力を振るえているんだと思う」

 

「……ハハッ俺ってばサイには目的がないように見えてんのか?」

 

「違うよナルト。 力を振るう意味を彼は分かっているんだと思う」

 

「……力を振るう意味……?」

 

「僕たち忍びは、任務のために術や技術を行使しているけどきっと……その根本が……原点が大切なんだ、力の大小にかかわらずね」

 

 自分も良く分かっていないのかたどたどしくそう語るサイの言葉に、ナルトは自身の左手の掌を見つめ呟く。

 

「原点……か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つめた左手を握りしめ、男は立ち上がる。

 

「あら、全員にとどめはさしていないようね……まだまだ甘い」

 

 そんな立ち上がり夕日を背負う男に大蛇丸はそう語りかけた。

 

 その男、うちはサスケは幾多の忍びを屈服させ地へと這いつくばらせその体の海を音もなく歩く。

 

「こいつらの命を奪うことは俺の目的に掠りもしない。 もとから不必要なことをするつもりは毛頭ない」

 

 大蛇丸の言葉にそう返事をするサスケ。 息一つ乱さず、返り血も一滴も受けずに忍びの群れを蹂躙したサスケは目的は達したとばかりその場から立ち去る。

 

 そんなサスケの様子を見る大蛇丸は内心に芽生えている好奇心を燻ぶらせる。

 

(これがうちは……もうすぐ、その力が私のもの……っ!)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 そして一夜明け、早朝。 とある森の中にある廃墟の中。

 

 そこの中へと足を踏み入れる暁の衣を羽織る人物が一人。

 

「……ここかぁ、天音ちゃんの拠点は。 思ってたよりも数倍ボロッちいね」

 

「指輪ノオカゲデ大体ノ位置ヲ把握シテ来ミレバ、ココマデボロイトハナ」

 

 独りで会話をするその人物、ゼツは廃墟の中に感知できる生体反応のいる部屋に向け足を運ぶ。

 

 扉としての機能を辛うじて保っている扉を開ければ、その先の部屋の中、ボロボロのベットの上に仰向けに倒れている天音の様子が見て取れた。

 

「生きてる?」

 

「死ンダカ?」

 

「……ひどいなぁ……生きてますよゼツ先輩」

 

 軽いやり取りをした2人だが、天音は身体を起き上がらせずに横になったままであった。

 

 部屋の中の荒れ具合を見て回りながら、ゼツが天音に声をかける。

 

「君がそこまでボロボロになるとはねぇ……そんなに大変だったかい?」

 

「ええまあ……九尾の人柱力に猪鹿蝶、それに写輪眼のカカシ……角都先輩にケンカ売られた後でしかも飛段先輩は1人相手にやられる。 そこのお金を回収しただけでも褒めてくださいよォ」

 

 心底疲れているのか、声に元気のない様子の天音は目線だけで金の入った麻袋を示す。

 

 ゼツはその袋の中を確認して感嘆の声を挙げる。

 

「わあ……随分とスゴイ量だね偉い偉い、これだけあればしばらくは金銭面で困ることはなさそうだ」

 

「メンバーモ随分ト減ッタカラナ、配分ヲ気二シナクテイイノハ助カル」

 

「ハハッ……中々に酷い事言いますね、ゼツ先輩のサドイ方さん」

 

 ゼツはその袋を抱えて部屋から退出しようとする。 その時

 

「ゼツ先輩、折角来たんだから少し看病してってくださいよ……今立ち上がるのも滅茶苦茶しんどいんですよォ」

 

 天音が甘えるような声で泣きごとを言った。

 

「ええ~……めんどくさいよ、君回復力あるんだからそれぐらいほっとけば治るでしょ?」

 

「俺ノ手ヲ煩ワセルナ」

 

 嫌々な反応を見せるゼツに天音は再度目線で、ボロボロの戸棚を示す。

 

「ホントひどい……そこに非常食と丸薬をしまってるんで、取ってくれるだけでもいいんでお願いしますよォ~」

 

 ほとんど動けにないのか、仰向けのまま微動だにしない天音。 そんな様子で泣くような声で頼み込んでくる相手に、ゼツはめんどくさそうにため息をつく。

 

「はぁ……めんどくさいけど仕方ないなぁ……死なれるよりはいいか。 まあ、頑張ってくれてるみたいだし取るだけなら良いよ」

 

「さっすがっ! マジ感謝ですっ!!」

 

 ゼツは麻袋を降ろすと、戸棚を開け中にある袋を取り出す。

 

(中身は……乾パンと丸薬、あと水筒もあるね。 本当に非常用って感じの道具入れか)

 

 その袋の中身を除いたゼツに天音は

 

「早く持ってきて下さいよ~、昨日ここまで来てぶっ倒れてから飲まず喰わずなんですよ~」

 

 甘えるような言葉を投げかけ急かす。

 

「今持ッテイクカラ黙ッテロ」

 

 ゼツが袋を閉じ、天音へと歩み寄る。

 

「いっその事近くでア~ンって食べさせてくださいっ!」

 

「……」

 

 近くに来るよう催促する天音、ふとゼツが歩みを止めると

 

「嫌だね」

 

 そういって袋を天音の腹部へと放り投げる。

 

「うぐえっ!? …………酷い」

 

「アマリオレタチヲ舐メルナヨ、オマエノ小間使イ二ナッタツモリハナイ」

 

 呆れた様子でゼツはそのまま金の入った袋を持ち、部屋の扉に手を掛ける。

 

 ふと去り際にゼツは

 

「そう言えば、四尾の居場所が分かったみたいだよ。 今イタチと鬼鮫が向かってる、でも尾獣封印のときに結構体力使うから今の君には無理そうだね」

 

 そう言う。 その言葉に天音は

 

「そうですか残念ですが……できれば、今は少し休暇が欲しいのでありがたく思っておきますね」

 

 疲れた様子の口調で返事をした。

 

「そういうことだからそれじゃあ、お大事にね」

 

 ゼツはそれだけ言ってその廃墟から出ていった。

 

 一人残された天音は暫く仰向けで大人しくしていたがゼツが周囲からいなくなったことを確認すると体を起こし、乾パンや丸薬を無造作に口にし水で喉の奥に流し込む。

 

「うっく……むふ~……生き返る~流石ちょっと張り切り過ぎたなぁ……螺旋手裏剣の傷が治りを妨げているのもあるしそれに……ってやっぱり」

 

 天音は自身の衣の内に構えていた尾異夢・叉辺流に視線を落としてため息をつく。

 

(黒ゼツを仕留める隙はなかったか……警戒されてるのか近づいてこないし、封印参加もさせて貰えないようだし……厳しいなぁ)

 

 そのまま、頬張るように袋の中身を食べつくした天音は再度倒れるようにボロボロのベッドに仰向けに倒れ呟く。

 

「影分身よ~~~早く帰ってきておくれ~~~……」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 サトリの拠点の集落。 現在そこに建っている高層の建物の地下の戦闘場ではアスマによる訓練が行われていた。

 

「お前ら、呪印とかやらで身体能力が高がろうがなぁ頭使ってくる相手にはごり押しは通じねぇぞっ! 考えて動けっ!!」

 

 アスマの気合の入った言葉に、集落の戦闘員たちは渋々返事をして基礎的な動きを反復する。

 

(……思ってたより反抗的ではねーけど、逆にやる気もない……めんどくせぇなぁオイ)

 

 微妙そうな顔でアスマは彼らを見つめる。

 

 元大蛇丸の実験台だけあり、動きの質は高いモノのそれらを計画的に使う事には慣れていないのか『忍び』としては彼らは未熟であった。

 

 元々彼らが行っていた任務も複雑なモノは少なく、力を振るえばどうにかなるか単純な力仕事が主立っており大抵手に負えないモノはサトリが捌いていたのがその原因でもあるのだが。

 

(モチベーションつーものは、俺みたいな新参者がどうこうできるものじゃないしな……アガリとか言う奴も数日引きこもって姿を見せないし、キョウマも暫く集落を出たままで帰ってきてない……)

 

 どうにかできないかと心の中で思うアスマは小さくため息をつくと、戦闘場に1人の集落に暮らす女性が降りて来て叫ぶ。

 

「サトリ様が帰ってきましたっ!!」

 

 その一言で、戦闘場に居た者たちはアスマから与えられた訓練をほっぽりだしてドタドタと地上へと上がっていってしまった。

 

「お……おい……参ったなぁ」

 

 独り粗末なつくりの車いすに乗せられ放置されたアスマが呆れていると、ヒョイっとその車いすごと持ち上げられる。

 

「うおっ!?」

 

「皆行ってしまったな……取りあえず一緒に行こう」

 

 いつの間にか重吾に持ちあげられていたアスマはそのままなすがまま、地上へと連れて行かれるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 アスマが重吾の肩に車いすごと担がれ地上に出ると、人の群れが出来ておりその中心には天音小鳥が居た。 しかし

 

(アイツは……影分身か? 随分と質が低い……)

 

 アスマは一目でその天音が質の低い影分身であることに気がつく。 相当の手練れであるはずの天音のその様子に違和感を覚えたアスマだが、その慕われている様子から彼女が影分身であることは集落の者には気がつかれていないようであった。

 

 囲まれ、対応に四苦八苦していた天音がアスマを見つけると手を振って呼びかけてくる。

 

「! アスマさーん、調子はどうですかぁ?」

 

 そんな砕けた態度の天音の様子にアスマは以前まで敵であったはずの事実とのギャップを感じつつも何とか返事をする。

 

「てんで駄目だ。 やる気も気力も感じられねぇ! つーか話があるなら、場所を変えるぞ!」

 

 そのアスマの言葉を聞き、天音は「ごめんね、通して……皆には後で話をするから」と言いつつ人ごみをかき分け、アスマと重吾の前まで来る。

 

「ふーーっ揉みくちゃにされて影分身が解けるかと思ったぁ」

 

「やっぱり影分身だったか、そんなことより戻ってくるとは何かあったのか?」

 

「いや、集落がどうなってるのか気になったんだけど……アガリは駄目そうか」

 

 やっぱりかと小さくため息をつく天音にアスマは疑問符を浮かべる。 そんなアスマを担いだままの重吾は

 

「サトリ、アガリにはやはり荷が重いのではないか?」

 

 と心配そうに天音に声をかける。

 

 だが天音は

 

「いや、アガリにしかあの役は任せられない……まあ、いきなりは大変そうだし私も力を貸すよ」

 

 そういって平然とした態度で高層の建物に足を向けた。

 

 2人のやり取りにアスマは

 

(新参者の俺にも分かりやすく話をして欲しいもんだが……)

 

 と不満に思いつつも天音について行く重吾ごと建物の中に連れて行かれるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

「天音……これからどうするつもりだ? 俺にあいつらを鍛えろと言ったが、このままじゃあ焼け石に水だぞ?」

 

 建物内部を移動しながらもアスマは天音にそう問かける。

 

 その問いに天音は顔を正面に向けたまま答えた。

 

「私の目的は、ここの皆の力で今後来る戦いの被害を抑えること。 そのために、隠れ里紛いのことを今までさせてきたけどやっぱりそう上手くはいかないようだなぁ……」

 

 その言葉に重吾が反応を示す。

 

「サトリ、目的があるのであれば俺から行ってしまえばお前が皆を導けばいいのではないか? お前の言葉なら皆いう事を聞くだろう」

 

 重吾のその言葉に、天音はぴくっと体を一瞬反応させるが小さく笑い

 

「……私じゃ駄目だ」

 

 そう簡潔に否定して黙り込んでしまった。 少し気まずい雰囲気を感じ取ったアスマはそのまま会話の途切れた状態で重吾に運ばれ、資料室の前まで来る。

 

 丁度資料室の前ではゼンゾウがその巨躯を縮こませた状態で扉の先へ何やら話しかけている様子であった。

 

 そんなゼンゾウが天音を見つけると

 

「サトリ様っ!! 良かったっ帰って来てくだせぇましたか、アガリが──」

 

 泣きそうな顔で、天音に助けを求める。 天音は

 

「わかってる。 もしかしたらって思ってたから……ごめんね」

 

 そうゼンゾウに優しく声をかけながら資料室の前に来る。

 

 何が始まるのかと、アスマは黙って様子を見ることにした。

 

 天音は扉のドアノブに手を掛けるが、鍵がかかっているのかガチャガチャと音が鳴る。

 

「……ふう」

 

 小さくため息をついた天音は扉に手を添え話し始める。

 

「アガリ、居るんでしょ? この前の話の事だけど──」

 

「俺には無理です……サトリ様」

 

 サトリの話を遮るようにすぐに中からアガリの声が聞こえる。

 

「俺はやはりあなたの様には……ぐす……なれないのです……俺には勇気が……ない……」

 

「アガリ……」

 

 泣いているのであろう、震えたアガリの声が聞こえゼンゾウが悲しそうな表情をする。

 

 天音は瞳を閉じ深呼吸をし、そしてその瞳を開け再度話を始める。

 

「アガリ、アンタは私じゃない。 だからこそ任せるって言ってるの……私の期待に応えるんじゃないの?」

 

「……ぐす……俺じゃあダメなんです」

 

 卑屈さを醸しだすアガリの言葉に、天音が握りこぶしを作ったその瞬間。

 

 資料室のドアが弾け飛ぶ。

 

 

 パラパラと埃が舞い、資料室へと人影が乗り込む。

 

 その人影に部屋の隅で固まってアガリが

 

「俺にはっ俺には出来ない、ゴメンナサイ、サトリさ──」

 

 言い訳を言い放つも襟を持ち上げられ無理やり立たせられる。 その人影はアガリの顔を殴りつけると大きな声で叫んだ。

 

「いつまで昔のアンタのままで居るつもりだ、チビっ!! アタシはうじうじしている奴が嫌いだけど……今のお前はもっともっと嫌いだっ!!」

 

 アガリは怒鳴りつけてくる相手が、天音でないことに気がつく。 その人物は真っ赤な髪を震える怒りでなびかせていた。

 

「アカネ……」

 

 資料室の外で天音がその名を呼ぶ。

 

 アガリが目の前の人物がアカネであることを認識すると同時にアカネが口を開く。

 

「アタシは力が強い奴が好きだ……ぶっ倒して私が強いって思えるからな! なのにアンタが()()()、サトリに立ち向かっていったとき……私は足がすくんで動けなかった……っ! でもアンタは動いたっ! ……だからお前なんだろっ!?!?」

 

 アカネは手に力を籠める。

 

 振り返ったアカネは天音に声をかける。

 

「私たちを救って……集落をつくったのも、サトリアンタだ。 皆にちやほやされて、尊敬されてるのもアンタだ。 でもアタシはアンタを認めてないっ! だってアタシは……っ」

 

「アカネ……お前……知ってたのか?」

 

 天音の問いかけに、アカネは頷く。

 

「っ……偶々聞いちまっただけだ、だけど反対する気はないっ! だって……」

 

 その先の言葉を飲み込んだアカネはアガリの襟から手を放し、資料室の外に出る。

 

 そのまま天音に向かい合い

 

「サトリ……あの時の()()で良い。 アガリはそれで動く……」

 

 そう言い残してアカネはその場から立ち去った。

 

 沈黙が流れるなか、天音は腰を落としているアガリに向き合い口を開く。

 

「…………私は本気だ。 次に私に立ち向かってくるものは殺す……その代わりに他の奴らは生かしてやろう……」

 

 天音はそう言い、アガリを見下ろす。

 

「……」

 

 黙っているアガリだが再度天音は口を開く。

 

「そう言った時お前が()()()、私の前に立った。 その時から決めていたんだ……アガリ」

 

 そういって天音は手を差し伸べる。

 

「俺は貴方みたいに強くない……」

 

「知ってる」

 

「俺は貴方みたいに……皆に慕われていないっ!」

 

「それは違う、皆が私を様付けするのはアガリ……アンタがそう言ってるからだ……」

 

「……俺はっ」

 

「……私の期待には応えようとしなくていい……アンタの思うがままにするんだ」

 

 そう言って天音は差し伸べた手のひらをより強く開く。

 

「……貴方はずるい人だ」

 

 アガリはそう言って天音の手を掴んだ。

 

 部屋の外で様子を見ていた重吾とゼンゾウは小さくアガリの名を呼ぶ。

 

 アガリの手を掴んだ天音は彼の身体を引き起こすと、抱きしめるようにして背を叩く。

 

「知ってる、私はずるいんだ。 さあ行こうか、アガリみんなの元に」

 

 一部始終を見ていたアスマは心の中で思う。

 

 

 

 

 

(事情がサッパリわかんねぇ……)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 集落の高層の建物の外で人々がざわつく。

 

 集落に居る全ての人間が集められ、建物の入り口には天音とアガリが並んでいた。

 

 何事かと口々に話し合う人々だが天音が手を挙げると、黙り静かになる。 そして天音が口を開く。

 

「皆に集まってもらったのは……集落のこれからについて話があるからだ」

 

 大きな天音のその言葉に、皆が息を呑む。 そのまま天音は話を続ける。

 

「今この集落は基本的な衣食住を可能とするまでにいたるほど成長を遂げた! だけど、ここにはこれからも人が増えそのために必要となってくることも増えてくる!!  ヤマジさん1人との取引では衣類やその他生活用品にも限界が来ているし、食料も足りない!! ヤマジさんが流してくれる非正規の任務にも限界がある!! ……つまりこの集落は変化の必要がある!!」

 

 小さくざわつき始める皆。 お構いなしにそのまま天音口を開く。

 

「只の集落のままでは、生きてはいけない……二年半ものの月日をかけてここは人体実験の場から人の集まる集落となった!! そして次は……」

 

 天音は大きく息を吸い叫ぶ。

 

「新たな()()()として、成長するときが来たんだ!!」

 

 ざわつく皆の様子に、天音は一呼吸置いて話を続けた。

 

「ここの集落は新たに、〈(くら)隠れの里〉を名乗り運営していく!! 一部の者は既に、他里から招いた猿飛アスマに忍びとしての指導を受けているはずだ。 そして隠里として必要なパイプは既にヤマジさんが幾つか用意してくれている。 後は皆の気持ちを聞きたい」

 

 天音は問う。

 

「……遅かれ早かれここは目をつけられる。 悪意あるモノから攻撃を受ける場合もあるかもしれない、そんな時に……私は皆に自分を、他人を守る力を持っていて欲しんだ。 皆に問う!! 隠れ里を名乗り、リスクを取ってでも成長するか。 現状維持に留まるかをっ!!」

 

 天音の問いに、沈黙が流れる。 しかし、次第に皆が声を挙げ始めた。

 

「俺たち荒くれが、そんな高尚なことできるなんてなぁ願ってもないことだぜぇ!!」

 

「私はもっとオシャレがしたいし、仕事ももっと頑張りたいっみんなの役に立ちたい!!」

 

「俺はもっともっと肉が喰いたいぜっ!!」

 

 それぞれが肯定的な意見を口々に言い始める。 そんな様子に天音は、満足そうな顔をし手を挙げ発言する。

 

「ありがとうっ!! 一部滅茶苦茶個人的な願望言ってるけどそれで良いと思う。 自分たちがやりたいことをやるために成長するんだ……そのためなら人は頑張れるっ!! そして私からもう一つ大切な話があるっ!!」

 

 天音の発言、皆が耳を向ける。

 

「隠れ里として、暗隠れを名乗る以上皆を導く長……暗影を決める必要がある」

 

 天音の言葉に人々は困惑を露わにする。

 

「それってサトリ様じゃないの……?」

 

「今こうしてるのも長っぽいし」

 

 その言葉を聞き、天音は口を開く。

 

「悪いけど、私は影には成れない。 私は確かに強いし、賢いっ!」

 

(自分で言うのか)(……確かにそうだけど)(否定できないのがなぁ)と集落の者が天音の発言にそれぞれ思う。

 

「でも私には他にやるべきことがある。 よってまあ……皆ぁ私が暗影決めてもいいよねぇ!!!!! 大丈夫、だって」

 

 天音はアガリへと視線を向ける。

 

 

 

 

 

「暗影はサトリ様の推薦を受け俺が……アガリが努めさせて頂く……!」

 

 

 

 

 

 天音の言葉を受け、アガリが一歩前に出てそう宣言する。

 

 一気にシーンと静けさが流れ、アガリが唾を飲むがそのまま口を開き話始める。

 

「俺は……俺は弱いっ! ……他の実験体だった皆ほど力も強くないし、サトリ様のように先見の明もないっ! だけど、ここを良くしたいって気持ちは誰にも負けてないって自信を持って言えるっ!!」

 

 アガリは涙を浮かべながら、大きく頭を下げ叫ぶ。

 

「俺に……皆の力を貸してくれっ!!」

 

 アガリの叫びが木霊する。 その木霊が消え去るとざわざわと騒がしくなり始める。 大丈夫なのかといった心配の声が上がる。 しかし

 

「私はアガリさんのお手伝いしたいです!!」

 

 か弱く、しかし透き通るような声が大衆の中から聞こえた。 皆がその声のするほうへと目を向けると、黒い仮面の忍び・キョウマが盲目の少女・キョウコを抱えて立っていた。

 

 キョウコは目を閉じたまま、しかしハッキリとした表情を露わにして言葉を紡ぐ。

 

「アガリさんは目の見えない私のために、いつも家に様子を見に来てくれて、裁縫も一緒に手伝ってくれて……っ!」

 

 いっぱいいっぱいに話すキョウコの言葉に続き、キョウマも語り始める。

 

「紛争孤児のキョウコにだけじゃない、アガリは外から来る者にも優しく接することが出来る良い奴だ。 そして卑屈で、怖がりだがいざという時の勇気がある……少なくとも俺とサトリがここに来たときの事を知っている奴なら、覚えているだろう?」

 

 キョウマの言葉を受け、皆が口々に言葉を漏らし始める。

 

 アガリに相談に乗ってもらったこと。 字が読めない者に、読み書きを教えていること。 資金繰りに頭を悩ませ、血の気の多い者たちの喧嘩を身体を張って止め……

 

 そして

 

「アガリは優しい……きっと皆を良い方に導いて……いや一緒に歩いていってくれる」

 

 天音はアガリの肩を叩き、そう言う。 アガリは涙に濡れた顔を挙げ

 

「サトリ様……っ」

 

 サトリの名を呟いた。

 

「上に立った奴だから皆に認められる訳じゃない。 皆に認めらたからこそ上に立ち、皆の為に尽力する……それが影の名の重みだ。 だったら例え強くなくても、賢くなくても……皆が力を貸したいって思う奴の方がいいじゃない? ……ね?」

 

 天音の言葉を受け、アガリは目線を前に向けると。

 

 人の波が押し寄せていた。

 

「わっ!? ちょっ!?」

 

 動揺するアガリを問答無用に、人々がもみくちゃにして胴上げをする。

 

「お前雑魚だけ、頑張れよー!」

 

「しょうがねぇから力貸してやるよー!」

 

「でも背が低いと威厳ないよなー!」

 

 人々がアガリを認める言葉と共に、胴上げされたアガリは顔を腕で隠したままずっと頷き続けていた。

 

 新たな里、そして長の誕生に人々が歓喜の声を挙げるなかひっそりと天音は建物の中に移動し、中で待機していた重吾とアスマの元に来ていた。

 

「隠れ里の宣言とはなぁ……俺に教育を頼んだのもそのためか……」

 

 アスマの言葉に天音は

 

「まあね、一応それもあるけど私個人としては今後の戦争の時に被害を抑えるための戦力として活躍するのを期待してる方が大きいかな」

 

 サラッとそう言い、重吾に目線を向ける。 重吾がその目線に気づくと

 

「どうかしたか?」

 

 と問う。

 

「……これから忙しくなりそうだなってね。 重吾、お前には前から言ってたけど──」

 

「なるほど、うちはサスケのことか」

 

 重吾がその名を口にすると、アスマが反応を示す。

 

「何故ここでうちはサスケの名が出るんだ? 奴は……今大蛇丸の──」

 

「アスマさんはまあ……気にしなくていいよ。 多分うちはサスケが重吾を求めてくるかもって話だから」

 

 天音は先ほどまでのフレンドリーな雰囲気とは一変し、目的を持った野心家のような表情を見せる。 その雰囲気の変わりようにアスマが息を呑むと天音は再び、砕けた態度になり

 

「いやぁ……やることが多くて大変だなぁ……」

 

 そう天音ははぐらかすようにため息をついた。 何とも言えない状態になったアスマだが、これから自分にのしかかる仕事の事に思考が傾くと

 

「……まさかだとは思うが、ここの運営に俺を関わらせるつもりか?」

 

 嫌な予感を口にした。

 

 その言葉に天音は……ニヤッとした表情をし

 

「ここで正規の忍びとして働いてたのは、アスマさんだけだからねぇ……キョウマさんは暗部だし、私は…………」

 

 そこまで言って口を閉じる。 アスマが不思議に思うと、天音は再度口を開いた。

 

「重吾、アスマさんを外の騒ぎに連れて行ってあげてよ」

 

「はぁ?」

 

「了解した」

 

 話をブツ切りにした天音は、重吾に頼んでその場からアスマを移動させた。 外へと連れ出されたアスマと重吾も人ごみに揉まれたのを確認した天音は廊下の奥に視線を向け声をかける。

 

「アカネ、アンタはアガリとこいかなくていいの?」

 

 声かけに反応するように廊下の曲がり角から、赤髪をゆらしたアカネが姿を現す。 不機嫌そうにしているアカネは天音の目の前までくると

 

「うっせぇ……私はああいうのは苦手だ」

 

 そう言って天音の瞳を見つめる。

 

「……ん?」

 

「サトリ……あんた……もうここには戻ってくる気がないんだろう?」

 

 珍しく暗い調子のアカネに面食らった天音が目を点にすると

 

「っそんな目で見んなっ!! ただ、私はお前ともう戦えないと思うと残念に感じてただけで……」

 

 慌てて誤解を解くようにと弁解を始める。 そんなアカネの様子に天音は小さく微笑むと

 

「そうだね……戻ってくる気というか……多分戻れないかもね、残念だけど」

 

 そういって自身の左胸の位置に握りこぶしをつくる。

 

 そのしんみりとした様子にアカネが疑問をぶつける。

 

「アンタ……まさか……どこか──」

 

 しかしその言葉を天音は、アカネの口元に人差し指を置いて止めさせ

 

「しーーーっ……私の時間もそう長くはない……まあだって影分身だしね?」

 

 そう目くばせをする。 なんだとアカネがため息をつくと

 

「もう術を解除しないとね……アカネ、最後に私の顔殴らせてあげるよ」

 

 そう提案する。 

 

「はあ? ……ってどういうつもりだよ」

 

「別に? ただ術を解除しても良いけど、最後まで私に一撃入れられなかったアカネにお情けでもねぇってね!」

 

 煽るかのようにどや顔を見せる天音。 普段ならその挑発にすぐに乗るアカネだがこれが最後の別れになるかもしれないと思うと

 

「……へっつくづく喰えねぇ奴だなアンタ、精々達者でな」

 

 そう柄にもないことを言い、天音が驚きの表情を見せる。 しかし天音はその言葉を受け

 

「うん、元気でね」

 

 優しい笑顔で返事をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってくる力も残ってなかったか……」

 

 静かな廃墟で1人、横になっていた天音は小さく呟く。

 

「あ~……本当しんど……」

 



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16:三つの写輪眼の思惑

 暗隠れの里の発足から2週間ほどたったころ。

 

 忍界ではとある噂が広まっていた。

 

──大蛇丸が殺された──

 

 そんな噂が各五大隠れ里に広まり始めた頃、三人の人影が暗隠れの里へ向け足を運んでいた。

 

「ねぇ……ちょっと休憩しない……」

 

 白い髪をなびかせた細いの男は、汗を垂らしながら前を行く2人に声をかける。

 

「……てめぇ水月っ! さっきから休憩休憩うるせーぞっ! 北アジトまであとちょっとだから我慢しろっ!」

 

 2人の内、赤髪で眼鏡を付けた女は水月と呼んだ男に向けキツくものを言う。 しかし水月は怯むことなく

 

「てか香燐、君さぁ……目的地別とか言ってなかったっけ? ねぇサスケ?」

 

 前を行くうちはサスケに声をかける。 声をかけられたサスケは

 

「……お前たちの力はこの先、俺の目的の為に必要になる。 最終的に個人の目的が違おうが問題ない」

 

 そういって足を止めた。

 

 水月は

 

「……まあ、僕も僕の目的があるしねぇ……ねぇ香燐!! 君は何の目的があってサスケに着いて来てるんだい? www」

 

 ニヤニヤしながら香燐にそう問いかけた。 あからさまな水月の態度に香燐は

 

「わざわざウチの目的をお前に言う必要はないだろ! つーかサスケ、ホントに北アジトに行くのか?」

 

 切れながらも今後の行動についてサスケに心配そうに問いかける。 その問いにサスケは

 

「そのつもりだ。 天秤の重吾……()()呪印のオリジナル、相当な力の持ち主だろう。 俺とイタチとの戦いを妨げる者の排除に役立つ」

 

 一切ぶれる様子の無い態度で答えた。 そのまま行く先を見つめるサスケ、その横顔を顔を紅くして見つめる香燐、その横顔をニヤニヤしながら見つめる水月。 三人は少しの休憩の後に再度歩みを進めるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 しばらく三人が先に進むと、ふと違和感に気づく。 北アジトがあるとされる場所に続く道があからさまに舗装されているのだ。

 

「……数年前に連れられてきたときはこんなんじゃなかったと思ったけどなぁ?」

 

 水月が疑問符を浮かべる。 同じく疑問を感じていた香燐だが

 

「サスケ、正面に結界忍術が貼られてる。 ……だけどどうも様子が変だ」

 

 自身の感知能力で結界忍術の存在を感知しサスケへと告げる。

 

「……大蛇丸のアジトには一定の結界忍術が張られているはずだ、何か異変でもあるのか?」

 

 サスケは瞳を一瞬写輪眼へと変え、その結界忍術とやらを視る。 すると

 

「なるほどな……術式が違う」

 

 その香燐が感じていた違和感の正体をサスケが口にした。

 

「術式……? 僕は感知できないんだけど、分かりやすく説明してくれる?」

 

「なんで少し偉そうなんだよ、たく……つまり大蛇丸のアジトに使われてる結界式と違うってことは別の誰かが用意したものが使われてるってことだ、わかったかバカ」

 

 香燐の言葉を受け、少し不機嫌になった水月だが

 

「ああ、なるほどね……数年前にサスケが来てから、こっちのアジトは用済みになってたからねぇ……つまり放置されてその間に別の誰かに乗っ取られてるかもってわけか」

 

 話の要領を得て、背に携えた首切り包丁を構える。

 

「ちょっと首切り包丁がさび付いてるし、丁度誰かの血を吸わせたかったんだよねぇ……僕も暴れたかったし」

 

 首を鳴らしながら、正面を突っ切ろうとする水月だが。

 

「止まれ」

 

 サスケのその一言で足を止める。

 

「え、なんで?」

 

 単純に生じた疑問を口にした水月だが、サスケは

 

「殺気はしまっておけ」

 

 簡潔にそれだけ言い、水月よりも先にその結界を越えていってしまった。

 

「ちょ……おいてくなし!」

 

「結構甘ちゃんな所があるよねぇ……サスケって」

 

 サスケの後を追い、香燐と水月もまたその結界を跨いで道の先を進むのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 少し先を行けば3人は直ぐに自分たちが監視されていることに気がつく。

 

 1名、気配を消したつもりの存在が彼らの後を追っているがサスケは気にせずにガンガンと前に進む。

 

「ちょっ……サスケ、気づいてんだろ? 監視をどうにかしないのか?」

 

 香燐が必要以上にサスケに近づき耳打ちをする。 サスケは

 

「無視しろ」

 

 簡潔にそう言い、歩みを進める。 ため息をつく香燐だがサスケの言うことに反論することはなくサスケの後方で妙に荒く鼻で息を吸い込みながら共に歩みを進めた。

 

 その様子に若干水月が気持ち悪そうに引いていると、ふと目の前の景色に違和感を覚える。

 

「ねぇ……あれって……門……かな?」

 

 水月が指をさした先、サスケたちが歩く渓谷の先には木造の簡易的な門が設置されていた。 簡易的だがそれなりの大きさのその門の存在に香燐と水月が顔を見合わせる。

 

「香燐、あんなのってあったっけ?」

 

「ウチは知らねぇ……」

 

 わざわざ門が増設されているだけでは感じえない違和感。 2人は門に書かれたひらがなを口にする。

 

「あ……」

 

「ん……?」

 

 そんな2人にお構いなく、サスケはその開かれている門に若干の懐かしさを感じながらも先に進む。

 

 切り立った崖に挟まれた道の門の先。 何やら木造の家屋が見え始めた時点で、香燐と水月は互いに北アジトの認識が崩れ去っていくのを感じて混乱する。

 

 門の下まで来た三人は、門の先の道にある小さな木造の監視所から声をかけられる。

 

「そこの三人、止まりなさい」

 

 サスケはそのまま慣れた様子でその監視所へと足を運び、呆けている2人は何とかサスケの後について行く。 今の地点からでも、まるで北アジトの前が集落の様になりそこで人々の生活が営まれているのがわかるからだ。

 

 監視所のなかに居る男性は、3人の顔を見て問いかけてくる。

 

「ここにはどういったご用件で?」

 

「……ここは大蛇丸の北アジトがあった場所か?」

 

 サスケがそう問いに問いで返すと、中の男の顔が険しくなる。

 

「大蛇丸が死んだとは噂で聞いたが……残党狩りにでもしに来たか? 悪いがここは数年前から大蛇丸とは無関係の場所だ、争うってなら抵抗はするぜ?」

 

 男がそうサスケを睨むと、その男の皮膚の表面が浅黒く変化を始める。

 

「呪印……!?」

 

 香燐がそう驚きの声を挙げると、水月が先手必勝とばかりに首切り包丁に手を掛ける。 しかしその瞬間、水月の喉元にサスケの持つ草薙の剣の切っ先が向き動きを制止させる。

 

「やめろ水月。 ……俺たちはここにいるはずの天秤の重吾に会いに来ただけだ、無駄に争う気はない」

 

 連れにだけ刀を向け、冷静にそう言い放つサスケの様子に監視の男は呪印を引っ込める。

 

「……脅かして悪かったな、ここがまともに活動を始めて日が浅いもんで悪意のある奴を入れたくないと思ってピリピリしてたんだ……重吾のお客さんってことは……あんたがうちはサスケか、大蛇丸を殺った英雄に無礼な態度を取っちまってすまなかった。 話は聞いてる、案内役をつけるからついて行ってくれ」

 

 男が謝罪しながら手で合図を送ると、簡素な黒い忍び装束めいた衣類を纏った忍びが姿を現す。 額に巻かれた『暗』の文字にサスケが注目していると

 

「事情がわかんねぇと思うんで、詳しくはそいつに話を聞いてくれ」

 

 監視の男のその言葉を聞き、素直にサスケはその忍びの後をついて行くのであった。

 

「サスケ……ッキミ良くこの状況で冷静で居られるね」

 

「戦う必要がなければ無駄に争うな水月。 ……今後あまりにもお前が厄介事を持ち込んでくるなら、お前を邪魔者と見なして斬る」

 

 水月に声を掛けられたサスケは、素月に冷たい目線を向ける。

 

「わ、わかったよ……(向こうから凄んできた癖に、なんで僕がサスケに注意されないと行けないんだ……イライラするなぁ)」

 

(プークスクス……いい気味だぜ水月!)

 

 後ろについて来ている2人の心中に興味がないサスケは案内役の忍びに声をかける。

 

「さっきの奴が言っていた事情とはなんだ?」

 

「ええ、ここ大蛇丸の元北アジトは今は隠れ里……まあまだ規模は小さいのですが『暗隠れの里』として運営を始めましてね」

 

「隠れ里……だと?」

 

「はい、見てくださいこの額当て! これはサトリ様と、仮面さんが各地の紛争地域で集めてくださった他里の額当てを加工したもので……良く出来ているでしょう?」

 

 ニコニコと嬉しそうに額当てを見せる忍びの様子に、またしても香燐と水月は奇妙なモノを見る目をする。 サスケは構わず

 

「そのサトリと仮面とか言う奴は何者だ?」

 

 忍びに話を振る。 忍びはニコニコしながら

 

「サトリ様は……サトリ様ですっ! 黒い仮面をつけた忍び、仮面さんと共に数年前に大蛇丸のアジトだったこの場所を解放し、集落として立て直してくださったお方で……ただ最近はお姿を見てないですねぇ……」

 

 そう答える。 サスケはこれ以上詳しい内容は出てこないとわかり、その後は黙って忍びの案内に従うことにした。

 

 

~~~~~~

 

 

 忍びに案内された建物は、石造りの内装にところどころ花やらこじゃれたランプやら、掛け軸が彩られた空間でありそのままその廊下を進んでいく。

 

(余計なこと言うと情報量増えてウチの頭がパンクしそうだ……)

 

 自身の知るアジトとのイメージの乖離に香燐が考えるのを止めようとすると、案内役の忍びが1つの扉の前で足を止める。

 

「ここが重吾の部屋ですね」

 

 そんな忍びの言葉に、思考を放棄しようとしていた香燐の頭が無理やり動き疑問を口にする。

 

「ここが……!? 普通の扉に部屋って……アイツの殺人衝動が暴走したらひとたまりもないぞ……っ!?」

 

 香燐の以前の重吾を知る人物なら当然の考えに忍びが答えようとするが

 

 ガチャ

 

 サスケは何のためらいもなく、その扉を開けた。

 

(────っ!?!?)

 

 香燐がそのサスケの行為に声にならない悲鳴を心中であげるが、その扉の先の光景に目を奪われる。

 

 

 

 外の空間と繋がる吹き抜けの大部屋の中では、動物たちと戯れている優しい笑顔の重吾がいたのだ。 ……およそ香燐と水月が知る彼ではないほど落ち着き払っている。

 

 

 

 そんな部屋に踏み込んだサスケは

 

「お前が重吾か?」

 

 単刀直入にそう問いかける。 するとサスケに気がついた重吾は動物たち上げていた餌袋を机にしまうとサスケの方を向き

 

「そうだ」

 

 と簡潔に答えた。 水月と香燐があっけに取られているうちに

 

「お前の力が必要だ、着いてこい」

 

「わかった」

 

 2人はそんなやり取りをして、すでに部屋の外に出ようとしていた。

 

 

 

 

 

「待って待って待って!?」「待て待て待て!?」

 

 スムーズに終わった会話に異議を唱える水月と香燐。

 

 そんな2人の様子にお構いなく

 

「ついて行く前に準備が必要だ。 それにここの長にも話をして行く必要がある」

 

 重吾はサスケにそう語りかける。

 

「そうか、ここの長とやらには興味がある、俺もついて行こう」

 

 サスケは重吾の言葉に了承の意を示し、重吾の後について行く。 異議を唱えたハズの2人は完全に無視され、その場に置いてけぼりをくらうのであった。

 

「ぼ、僕たちの反応が間違ってるのかなぁ香燐……?」

 

「ウ、ウチにも訳が分からない……」

 

 そんな2人に

 

「時間があるんでしたら食堂にでも案内しましょうか?」

 

 案内役の忍びは呑気な提案をして、さらに2人の常識を塗りつぶしていくのであった。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 重吾の案内の元、サスケは建物内の1室の前まで来る。

 

(……あからさまに壊れた扉を修理した形跡がある)

 

 サスケはその部屋の扉の様子に注目していると、重吾が扉を開けながら声をかける。

 

「アガリ、うちはサスケが来たぞ」

 

 すると部屋の中でガタガタと音がしたと思うと、笠を慌てて被りながら背の低い男性が出てきた。

 

「おわっ!? すみません!!」

 

 こけるように出てきた男はサスケにぶつかりそうになるが、サスケが難なくその体を支え事なきを得る。

 

(影の文字が刻まれた黒い笠…………あまりに似合っていないな)

 

 サスケがその男の様子に感想を思うが、男はよろよろとして立ち上がりながらサスケに名前を名乗る。

 

「俺は一応ここの影をさせて貰っている、アガリという者です。 貴方が大蛇丸を打倒したうちはサスケさんですね、話は聞いています」

 

 丁寧な様子のアガリに、サスケは

 

「……ここは何故隠れ里を名乗っている……そしてお前がその長だとして……あまり戦闘が得意なようには見えないな」

 

 自身の持つ疑問をアガリに問う。 その問いにアガリは

 

「ええまあ、俺もあまり他里の影と同じようには自分の役職を考えてはいないので……ただここは、様々な人々を受け入れられる里として成長するべく託された場所であり、俺はここを皆と守っていく心積もりです」

 

 そう真摯に答える。

 

「……人々を受け入れる里?」

 

「はい、行ってしまえば規模の大きい孤児院だとでも思っていただければ……一応隠れ里として任務を請け負いますが内容はかなり選んでいく予定ですし、サスケさんが思う里とはかなり違いがあると思います」

 

 アガリの言葉を受け、サスケは少し険しい顔つきで問いかける。

 

「……随分甘い考えのようだが、隠れ里である以上他里から責められる可能性も考えているのか? ここまで見た感じでは容易に攻めを許してしまう」

 

 サスケの持つ疑問はもっとのものであった。しかしアガリは揺るがずに答える。

 

「大丈夫です、こちらから攻め立てるつもりはなく不必要な戦いはしない方針です。 それでもここに手を出してくる者がいるのであれば……」

 

「……」

 

「皆がそれを許さない。 例え俺が弱くても、皆はあなたが思っている以上に強い……まあ、まだ忍びとしては未熟なところが満載なのは否めないですがね……ハハハ」

 

 小さくお道化て笑って見せるアガリだが、サスケはその語る言葉に揺るがない絶対的な自信を感じ取った。

 

「そうか……俺は重吾を連れて行くつもりだがそれは問題はないのか?」

 

「ええ、前からそうなるだろうと話は聞いていたので……それに本人の意思も尊重したいので」

 

「話だと……? 俺が重吾を訪ねてくると、何故……いや門のところの奴もやけに事情を把握したかのようにすんなり俺たちを通したが」

 

「まあ、詳しくは言えないのですがサトリ様という方が事前に話を聞かせてくださっていたので……貴方が重吾の力を必要としてくるかもしれないと」

 

 アガリのその言葉に、サスケはサトリと言う名の人物に言い表せぬ不快感を感じた。

 

(……まるで俺の事情を知り、先回りをしているかのような用意周到さ……ここの人間はサトリとかいう人物を相当信用している様だが、何者だ?)

 

 サスケが黙り込んでしまい、アガリが沈黙にいたたまれなくなっていると重吾がサスケに声をかける。

 

「サスケ、サトリについて気になるだろうがほっといても構わない。 奴は()()()()()()()()()、と言っていた」

 

「……見ず知らずの人間がそこまで自分のことを把握しているというのは気にならないわけないのだが……仕方ない。 あまりここに長居するつもりもないしな……お前アガリとか言ったか?」

 

「はい?」

 

「……精々頑張るといい、この忍界でお前らみたいなのが多数派なら多少居心地もいいかもしれないからな」

 

 サスケはそう言うと踵を返して、その場から立ち去っていく。 

 

「……ありがとうございます! サスケさんも、俺は事情を知りませんがどうかご自身の目的の為に頑張ってくださいっ!」

 

 アガリのその言葉にサスケは振り返らず、手を挙げるだけで返事をした。 そして

 

「では、アガリ行ってくる。 動物たちのせわを任せた」

 

「わかってる、重吾も気をつけて」

 

 重吾はアガリに別れの挨拶をしてサスケの後を追う。

 

 1人残ったアガリは資料室に戻り、届いている依頼書の選別をし始めるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

「ホント気味が悪いねぇ……前来た時にも君を見た気がするけど……滅茶苦茶性格変わってない? ゼンゾウ」

 

 水月は食堂で出された水を飲みながら、奇妙なモノを見る目でゼンゾウを見る。

 

「ウチも、アンタは重吾に次ぐ暴れ馬だと聞いていたんだが……この水炊き鍋美味いな」

 

 香燐もまた、ゼンゾウを警戒しながら見ているが彼の出した料理が思いのほか美味しいのか、眼鏡を曇らせながらいささか顔がほころんでいた。 

 

「いやぁ……俺も色々あったんでさぁ……今はこうしてやりたいことをやらせてもらってんです」

 

 穏やかな口調で返事をするゼンゾウに、水月と香燐が改めて調子の狂う感覚に困っているとサスケが食堂に現れる。

 

「ここに居たか……行くぞ」

 

 簡潔にそういうサスケに、水月が了承して立ち上がる。 しかし香燐は食べている水炊きが熱く、中身を残していくことに抵抗があるのかあたふたしていると

 

「……落ち着いて食え……少しなら待ってやる」

 

 サスケは仕方ないといった様子で食堂の中まで入り、椅子に腰を下ろした。

 

 そんなサスケの様子に水月は

 

「……んだよ、君。 思ってたよりも優しいじゃないか、それとも香燐が女だからかな?」

 

 立ち上がった姿勢から再度椅子に腰かけながらサスケに問いかけた。 サスケは興味なさげに

 

「女だろうが何だろうが、出された食事を残すのは……良くない……それだけだ」

 

 そう返事をした。 (……うちはって名家だからかな、意外にもそういうこと気にするんだ)と水月は意外そうな表情を浮かべて頬杖をつく。

 

 席にはつかないが、食堂まできた重吾はゼンゾウに向け

 

「ゼンゾウ、これから旅に出る。 4人分の弁当を用意してくれないか?」

 

 と頼み、ゼンゾウは良い笑顔とサムズアップで答え作業に取り掛かり始めた。

 

「あふあふ……うま……むぐっ」

 

 待たせるのは良くないと、焦って鍋の具を食べる香燐。 サスケは懐かしむかのように目を細めの様子を見ていた。

 

 そんなサスケに重吾が話しかける。

 

「サスケ、俺について知っておいて欲しいことがある」

 

「……ん、なんだ?」

 

「聞いているだろうが、俺には自分ではどうすることも出来ない殺人衝動が沸いてしまうことがある」

 

 2人のその会話の内容に、水月と香燐は思わず聞き耳を立てる。 場合によっては自分の命にかかわることだからだろう。

 

「ああ……知っている」

 

「その殺人衝動だが、幻術で抑えてくれる者が居れば何とか落ち着かせることが出来る。 その時はお前の写輪眼で俺を止めてくれ」

 

「……それもサトリとか言う奴の助言か? ……わかった、その時は俺が止めよう」

 

「すまないな、頻度は抑えられても完全に消すことは出来ないらしい……」

 

 申し訳なさそうにする重吾に、水月が気づいたことを問いかける。

 

「そう言えば君が呪印のオリジナルなんだろ? 呪印の効果で乱暴になるのは知ってたけど、そこでテキパキ働いてるゼンゾウも確か呪印の影響で乱暴だったはず……ここの人間は妙に普通っぽいのには理由があるのかな?」

 

 水月のその問いに重吾は

 

「それはかつて呪印を刻まれた者の内、適性の無い者の呪印を俺が吸収したからだ」

 

 そういって簡潔に答えた。 その会話を聞いていたゼンゾウが

 

「そうでさぁ! 俺も闘うの好きじゃなかったんでさぁ、でも呪印を無くしてもらったら頭がスッキリして料理がしてぇってなったのをサトリ様が協力してくれて……」

 

 しみじみとそう語り始めた。 語りながらもその巨体でテキパキと弁当を用意する様は妙に非現実的で水月がまたしても微妙な表情をしつつ

 

「そう……なら例えばだけど、サスケの呪印も消すことが出来るのかな?」

 

 水月は会話の内容をサスケの呪印へと移す。 しかし重吾はその問いにも簡潔に答えた。

 

「出来ないな。 サスケと……君麻呂。 2人の呪印は特別製だ、俺にも取り除くことは出来ないだろう」

 

「へぇ……だってサスケ」

 

「興味はない……わざわざ力を手放す理由もないだろう」

 

 そんな会話をしていると、ゼンゾウが4つ分の弁当と竹の水筒をサスケたちが座る前の机に乗せた。

 

「出来やしたでぇ! 重吾のには肉は入れてねぇんで、安心しなぁ!!」

 

「助かる」

 

 結構手の込んだ弁当なのだろう、ズッシリとしたその重量にサスケが若干顔をほころばせると

 

「……いくらだ?」

 

 とゼンゾウに問いかけ懐に手を入れる。

 

「別に金はいらねぇですよ!」

 

「対価は払う、それが礼儀だ……受け取るつもりがないなら、こちらが勝手に置いていく」

 

 料金を受け取るつもりのないゼンゾウの言葉に、サスケは有無にかかわらずそれなりの金額を取り出し机に置く。 その置かれたお金は随分と多く、水月が目を光らせた。

 

「ゼンゾウが要らないって言ってるしそのお金僕に…………ちょっしゃ、写輪眼で睨むことないじゃないかサスケェ……」

 

「フフ、馬鹿だな水月……さてごちそうさま、ゼンゾウ美味かったぞ」

 

「香燐の姉さん、食ってくれてありがとうなぁ! また来たらもっとうまいもん振舞ってやるぞ!!」

 

 そうして一行は、食堂を後にしたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 建物を後にし外に出てきたサスケたちは、そのまま里の門に向かって歩く。

 

「物資は要らないのか? 言えば幾らかは貰えると思うが」

 

 ふと生じた疑問を口にした重吾だが

 

「こんな出来立ての里からわざわざ貰うつもりはない……空区という場所で物資は調達する」

 

 サスケはそう言って、さらに言葉を続ける。

 

「……こうして俺の思い描く小隊のメンバーはそろった……小隊の目的は俺がうちはイタチに至ることの補助だ、それが終われば各々好きにするといい」

 

「へぇ……以外、僕たちはイタチと戦わなくて良いんだ……まあ、僕はイタチと組んでる鬼鮫先輩の鮫肌さえ手に入ればいいしね、それまでは付き合ってあげるよ」

 

「ウ、ウチもサスケの目的の手伝いぐらい訳ナイカラナァ……仕方ないからついていってやるよ///」

 

「俺も構わない、元より君麻呂が認めた男であるサスケ、お前を見極めるつもりでいた。 ことが終われば、俺はここに帰ってくるだけだ」

 

 3人はサスケについて行くことを同意する。 その返事を受けサスケは誰にも見えないよう先頭で小さく笑みをこぼす。

 

「……では我ら小隊は“蛇”と名乗り行動する……目的は先ほども言ったとおりだ」

 

 そう言ってサスケは先を急ぐように歩き始めると、ふと前の方にある家屋から杖を突きながら歩く少女が出てくる。 ふとその少女が気になるのか、サスケが少し視線を向けるとその少女はサスケに向かって手を振り始めた。

 

「……? なんだろう、あの女の子」

 

 香燐が不思議に思っているとその少女はサスケの方に向かって声をかける。

 

「サトリ様、お帰りなさい!」と

 

 周りにいた里の人々がギョッとしてその少女の言葉に反応して、ざわつき始めるが

 

「……びっくりした、居ねぇじゃねぇか」

 

「キョウコちゃんが間違えるなんて初めてじゃない?」

 

 と口々に言って騒ぎは大きくなることなく、落ち着きが戻る。 しかし不自然に感じたサスケがその少女に向かって歩き目の前までくると

 

「……あれ……サトリ様じゃない……?」

 

 と言って悲しそうな表情を見せた。 サスケはその少女が目が見えないことに気がつきながらも目線を合わせるようにしてしゃがみ込み

 

「悪いが俺はそのサトリ様とやらじゃない……だが目が見えないようだがどうして勘違いしたんだ?」

 

 優しい声色でそう話しかける。 キョウコは目の前に来た人物が知らない人だと気がつき、モジモジし始めるが

 

「……私目が見えないけど、チャクラっていうものをね、少しだけわかるみたいなの……お兄さんのねそのチャクラの感じが……サトリ様に似ていて……」

 

 そうサスケの質問に何とか答える。 

 

「俺のチャクラが……?」

 

「うん、でもよく感じて見たらサトリ様みたいにぐちゃぐちゃしてないから違うってわかって……ごめんなさい……」

 

「…………。 気にしなくていい、俺も気にしていない」

 

 そう言ってサスケはキョウコの頭を撫で手、サスケを待つ3人の元に向かう。

 

 ふとサスケが視線を感じると、キョウコの背後の玄関の奥に黒い仮面をつけた忍びが居たことに気がついた。

 

(ここの連中とは気配の消し方が段違いだな……あれが()()()()とやらか。 下手に関わらない方が良いだろう)

 

 サスケはその忍びの放つプレッシャーがキョウコから離れることで解消されたことから、下手なことは出来ないことを悟り大人しくその場を後にする。

 

 その様子を見ていた忍び・猿飛キョウマは玄関から家の中に戻ってきたキョウコを抱きかかえる。

 

「びっくりしたぞ、急に飛び出して」

 

「ごめんなさい、サトリ様が帰ってきたかと思っちゃって……」

 

「……そうだな、アイツはいつもバラバラのタイミングで帰ってくるからな、困った奴だ……さて裁縫の続きだ、アガリの羽織を仕上げないとな」

 

 そう言ってキョウマはキョウコを抱えて家の中へと入っていく。 ふと去り行くサスケに目線を向けたキョウマ。

 

(うちはサスケ……里に居た頃に、親父から気にする様に言われていたが随分と成長したな…………()()()と同じ写輪眼を持つ者……か、もう俺では歯が立たないんだろうな)

  

「キョウマさん、何か可笑しいんですか……? やっぱりサトリ様と間違えたの──」

 

「いやいや違う違うっ! 俺も若くないなって思ってただけだ」

 

 キョウマの誤魔化す笑い声と、羞恥を感じたキョウコの言い合いを背に小隊・蛇は暗隠れの里を後にするのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

「いやぁ……四尾の封印がやっと終わりましたねぇ……飛段と角都も消えて、天音のお嬢さんも不参加とあって随分と長引きましたが……」

 

「……そうだな」

 

 土の国の辺境、暁が外道魔像を呼び出す洞窟の内の一つから干柿鬼鮫とうちはイタチは移動し別の小さな洞穴へと移動する。

 

 外は連日続く土砂降りの雨で、尾獣封印のために数日動かずに体力を消耗している2人は小さな拠点と言えるほどもない、ただ物資の置き場であるその場所にて身体を休める。

 

 手頃の岩に腰を下ろした鬼鮫は鮫肌を脇におき、携帯食料に手をつける。 ふと、イタチが何かを考えている素振りを見せたため鬼鮫はたき火に薪をくべながら話を振る。

 

「何か気になることでも?」

 

「……四尾の人柱力に幻術をかけたとき、気になる記憶をみた」

 

「ほお……どんなです?」

 

「何者かがその人柱力に対して……逃げるように促しているような記憶だった……恐らく俺たちにやられかけて本人がそのことを思い出していたから読み取れたのだろうが……」

 

「その何者かが気になるのですか? まあ確かに嫌われ者の人柱力相手に逃げるよう促す相手は、相当なモノ好きだけでしょうですしね……」

 

 クククと小さく笑う鬼鮫。 イタチはその記憶の内容に集中しているのか、手に持った食料に手を付けないでいた。 そんな中ふと鬼鮫は洞穴の外に気配を感じ取る。

 

「おや……この感じ、お客さんのようですねぇ……」

 

 そう言って鬼鮫が洞穴の入り口に目を向けると、土砂降りの雨の中からボロボロになった羽織を羽織った人物が姿を現す。

 

 その人物の羽織の模様は、歪んだ朱い雲であった。

 

「……見つけましたよ、先輩方」

 

「おやおや、天音さんじゃないですか……随分と酷い怪我をしたそうじゃないですか、それとは別に封印に参加もせずにわざわざここに来るとは何か私たちにようでもあるんですか?」

 

 その黒い髪を濡らして洞穴に入ってきた天音に鬼鮫は問いかける。 その問いかけに天音は、いつもの笑顔で答えた。

 

「いやいや、ちょっ~~~とイタチ先輩と話したいことがあるんですよねぇ私。 できれば鬼鮫先輩は、話の聞こえない外の離れた位置で待っててくれません?」

 

「……アナタ、相変わらず……いきなり来て随分と無礼なこと言いますねぇ……」

 

「鬼鮫先輩、顔とか魚みたいですし雨好きじゃないですか? 焚き火なんて当たってると、干し魚になっちゃいますよ?」

 

「何を“配慮してあげてます”みたいな顔をしてのたまうのか……あまり私を舐めない方が良いですよ?」

 

 そんな不毛な会話をする天音と鬼鮫の間にイタチが割って入る。

 

「鬼鮫……悪いが席を外してくれないか?」

 

「まさかイタチさんも私が魚っぽいからと外に出るように言うのですか? この顔を生まれつきで──」

 

「鬼鮫先輩の眼の横の皺とか鮫のエラっぽいですもんねぇ……イタチ先輩もやっぱりそう思いますよねぇ♪」

 

「そうじゃない……お前も天音のペースに乗せられるな……」

 

 若干呆れたようなイタチの声に、しょうがないといった様子で鬼鮫は立ち上がり背伸びをする。

 

「はいはい、わかりましたよ……では私は軽く体を動かしてくるのでどうぞお二人で何でもお好きに話をしてください……お邪魔で魚っぽい私はどこか近くの川でも泳いできますかねぇ……」

 

「鬼鮫先輩って淡水でも大丈夫なんですか!?!?」

 

「…………いつか一発殴りますねアナタ」

 

 最後にジト目で天音を睨んだ鬼鮫は、めんどくさそうに洞穴の外に出て天音の手を振る様子を背にして姿を消した。

 

 外の鬼鮫に向けて手を振っていた天音はゆっくりとイタチへと振り返る。

 

 

 

 

 

 

 その眼を朱い写輪眼へと変えて

 

 

 

 

 

「……やはりお前か、四尾の人柱力に警告を出していたのは」

 

 納得の行った様子で、そう呟くイタチ。 天音はその朱い瞳を細める。

 

「……まさかとは思いましたが、イタチさんなら記憶を読み取るかもとは思いましたよ……」

 

「ただ尾獣の封印を阻止したいなら、やり様が他にもあったはずだが──」

 

「私が会えた人柱力には皆、逃げるように言っておいたんですけどねぇ……誰もいう事を聞いてくれない……まあ、私もやりたいことがあったりで手が離せないこともあるので忠告だけで済ませたのは悪かったと思いますが……特に今回は体力の回復に手間取っちゃってね」

 

 軽くお道化けて見せる天音だが、その軽口のトーンはいつもよりも低い。

 

「しかし、私が写輪眼を見せても驚かないんですね?」

 

「……もしかしたらとは思っていた」

 

「ええっ……そんなそぶり見せましたっけ私? 直接会うのも初めてですよね……?」

 

()は……いつも前振りが長いからな……」

 

 イタチはそう言うと、まるでかつて里に居た頃のような気の抜けた笑顔を浮かべる。 その表情を見た天音は引いた顔を見せる。

 

「まさかとは思うんですけど──」

 

「ああ、()()()()()()……いや正確には今分かったというべきか、まさにその写輪眼を見てね」

 

「こっわ……たくっ貴方を目の前にするとホント自分が小さく思えてくるなぁ……」

 

 落ち込んだ素振りを見せる天音だが、一息ため息をつくと表情を真剣なモノへと変える。

 

「さて、話があるので来たと言いましたけどズバリサスケについてです」

 

「……人柱力や尾獣についてではないのか」

 

「そっちは別件です、そっちは今後どうにかするので今は目の前のことを……まあ単純に貴方を説得しに来ただけですよ」

 

 そういって天音は鬼鮫の鮫肌近くに置かれたバックパックを漁り携帯食料を取り出し話を続ける。

 

「貴方がサスケにしようとしていることは大体把握しているつもりです。 ただ、だからこそ──」

 

「俺の行動は失敗すると言いたいわけだな」

 

 天音の言葉を遮るようにイタチがそう指摘すると天音は、面をくらったかのように体をビクッと揺らす。

 

「っ……あのどちらかと言えば今は私が未来の話をして驚かせようとしている場面なので、鋭すぎる指摘はやめてくださいよ……」

 

「君が未来を見通すことは、確か暁の集会でもいっていたからな……それにそうではないかと俺自身が昔から予測していたのもある」

 

「……っで私が失敗すると言って貴方ははいそうですかと考えを変えるつもりはないんでしょう?」

 

「そのつもりだが……君の説得次第では別だろう、少なくとも君の言葉なら信用するつもりだ」

 

「…………信用してもらえて何よりです、じゃあ単純に一言」

 

 そういって天音は携帯食料をかじり

 

「サスケを信用してあげてください」

 

 そう言って咀嚼する。

 

「…………ッ」

 

 悩むように眉間に皺を寄せるイタチ、天音はもぐもぐと携帯食料を味わうと一気に手に持った分を口に入れる。

 

 それを飲み込んだ天音は、さらに鬼鮫のバックパックを漁りながら会話を続ける。

 

「貴方からしたら、手のかかる弟で心配なのも分かりますけど……アイツは強い、貴方の予想を上回るほどに……ね」

 

「……」

 

「……子ども扱いはアイツの為にならない」

 

 そういって天音は鬼鮫のバックパックから取り出した干し肉にかじりつきながら、立ち上がる。

 

「それとゼツの監視に注意して欲しいのと、トビは貴方が仕込むつもりの天照じゃ殺せないので死ぬときは別の何かを残してあげてくださいね」

 

 天音はそのまま洞穴の外に出ようとする。 

 

「君は……なぜ、なぜそこまでして、俺たちに干渉する……?」

 

 解せないといった様子のイタチのその言葉。

 

「単純なおせっかいですよ、そして……

 

 

 

 

 

お互い先が長くない者同士のよしみです。 残せるものはお互い有用なモノの方が良いと思いませんか?」

 

 その言葉に寂しそうな笑顔を見せて返事をした天音はそのままドシャ降りの外の風景に溶けて消えていった。

 

 残されたイタチの横顔を、たき火がゆらゆらと照らす。

 

 どれぐらいの時間、イタチは立ち尽くしたのか。 濡れた様子の鬼鮫が戻って来てイタチに声をかける。

 

「……どうしました? 冷徹な貴方にしては随分と動揺したような顔をして、そんなにあの娘との話が面白かったですか?」

 

 そんな鬼鮫に声をかけられてイタチはハッとして、自身の荷物をそばに置いた岩へと腰を下ろし鬼鮫もその向かい側に座る。

 

「やはり、この雨では身体が冷えてしまいますねぇ……天音さんも私を呼びに来て直ぐ行ってしまいましたし……話の内容は私が聞けるものですか?」

 

 鬼鮫がイタチに話を振ると、イタチは小さく笑みを浮かべこう述べた。

 

「……お前の食料を掻っ攫っていったぞ」

 

 その言葉を受け、ハッとして鬼鮫が慌てて自分のバックパックの中身を確認する。

 

「~~~~~~~っ!!!! なんで止めくれないんですかァ!?」

 

「ふふ……どれ、俺のを分けてやろう」

 

 

 

 

 



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17:うちはイタチ

 思えば何時からだろうか、俺が俺自身の感情を押し殺すようになったのは……

 

 暁に属するようになってからか? 里を抜けた時か? 両親を殺したときか? 愛する者を殺めた時か? 同族を手にかけた時か?

 

 ……いや違う

 

 里と一族の二重スパイになったときでも……暗部に所属するようになるよりもさらに前……

 

 サスケが生まれて間もない、あの九尾襲撃事件の日

 

 まだ里でのうちはへの差別は表面化しておらず、警務部隊として一族が誇りを持っていた時期。

 

 そんなある夜の日、生まれたばかりのサスケを抱き風通しのいい屋敷の縁側でくつろいでいた時だ、突然サスケが愚図り始めてしまった。

 

「どうした、サスケ? なぜ泣いているんだ……っ」

 

 俺は訳もなく愚図るサスケをあやしつつも、肌で……何か良くないことが起きるんじゃないかと予感していた。

 

 そして……

 

 

 

「グオオオオオオおおぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 九尾の咆哮が里全土を震わす。 里の中心に出現した九尾が暴れ出したことは、当時まだ外の区画に押しやられていなかったうちはの居住区からは容易に知ることが出来た。

 

 憎しみを振りまくかのように暴れるその巨獣の様に俺は……恐怖した。 泣き出して、全てを投げ出してその場から逃げ出したい、そんな気持ちで心が満たされてしまい……

 

 

 

 思わず手に抱いていたサスケを抱く力を緩ませてしまった。

 

 

 

 だがその瞬間、母さんが俺に声をかけてくれて

 

「イタチ、サスケ!! 一緒にここから離れるわよっ!!!」

 

 普段穏やかで、ニコニコしている母さんとは別人のように必死な形相で俺とサスケを同時に抱え母さんは走り出した。

 

 そんな普段との母さんの様子の乖離がさらに俺の心を締め付けていた。

 

 母さんの腕の中で、サスケと共に泣きじゃくりたいと思った俺だったが…………ふと母さん越しにとある光景を見た。

 

 遠くに見える暴れる九尾に向かい、突如現れた岩の巨人が地響きを響かせながら走り寄っていく様を見た。

 

 知らないはずの誰か、名前も知らない忍びの術……しかしその巨人の背に何か言葉で言い表せない感情を感じ取り俺は

 

 自分を情けなく感じてしまった。

 

 そしてそれと同時に、今隣で泣いているサスケの存在が酷く小さなものに感じ『守らなければならない』

 

 そんな強迫観念に近い決意を胸に抱いた俺は、母さんの腕の中で只管サスケに言い聞かせた。

 

「大丈夫だ、サスケ……俺が守ってやる……ッ」

 

 

 

 

 

 この時から俺はサスケを守りたい一心で……自分の内に秘めた恐怖を抑え、強くなりたいと本気で思うようになった……

 

 

 

 

 

 だが、同時に……サスケが……俺にとって恐怖を呼び起こさせる象徴ともなったのだろう。

 

 

 

 

 サスケが愚図れば、何か俺にとって嫌なことが起きる。 時がたってもそのルーティンへのありもしない恐怖を払しょくすることは出来なかった。

 

 そして常にそんな恐怖にさらされ、俺はサスケから逃げるように下忍の身でありながら暗部の身ならいとしての研修任務に集中するようになった……のだが

 

「イタチ最近調子良くないね、大丈夫か?」

 

「カカシさん……」

 

 暗部の先輩であるかはたけカカシさんが、俺の不調を感じ取り声をかけてきた。 

 

「十にも満たない下忍のお前が、こうして暗部の研修に来て成果を上げてることには現実味を感じないけどね、調子が下がってるのは俺にもよくわかるさ。 何か問題でもあるのか?」 

 

「……いえ、特に……俺に問題はありません」

 

 内心(アナタの方が普段から何かに追われるように生きていて心配になる)などと思ってはいたが、それを口にすることなど出来なかった。

 

「……その言い方、自分以外の事で悩んでいると言っているみたいなもんでしょ……相談ぐらいしてくれてもいいんだぞ?」

 

 ……余計なお世話に感じ、俺の芯に近い所に踏み込んできたカカシさんに……申し訳ないが鬱陶しさを感じ俺は突き放すように

 

「……2歳になる弟のことでちょっと……カカシさんには分からないことですよ」

 

 そう言ってしまった。 今思えば随分と些細なことで感情を揺らめかせたものだと思う。 カカシさんも俺のそんな子供じみた返しに、少し眉をひそめるが……

 

「いや、案外力になれるかもな……残念ながら俺じゃないけど……ね」

 

 そう言って、何とも言えない表情を浮かべた。

 

 

 

 

 それからしばらくすると、カカシさんから夕食を誘われた。

 

「この前の相談の件について、話が出来そうな奴が知り合いに居て……そいつにならイタチも話を聞けるだろうってね」

 

 居酒屋の暖簾を2人でくぐると賑やかな様子の店内に、少し眩暈がした。 酒をあおりはしゃぐ大人たちの様子と、明るい店内の光景が闇を見るようになっていた俺には随分と眩しく見えた。

 

「一応相談事ってことで個室を取ってある……俺もマリエも今日は酒を飲まないから安心しろ」

 

「アナタたちは16ぐらいの年齢で、酒を嗜む年ではないでしょう?」

 

「……マリエはともかく、以外なことに飲んだりすることもあるのよね……これが」

 

 乾いた笑いでお道化るカカシさんに連れられ、個室へと入る。

 

 個室に入れば先ほどまでの喧騒がくぐもって聞こえ、別の空間にきたと実感ができた。 そのままカカシさんは慣れた様子で店員に注文を済ませる。

 

 ……随分と鳥関係の料理が多いように感じた。

 

 しばらくして、鳥串が運ばれてくる頃にその相手と思われる女性が個室の襖を開けた。

 

「ごめんなさい、待たせちゃったかしら……っ!」

 

 栗色の長い髪を揺らしたその人は、どこかの施設で働いているのか随分と様になっているエプロンをつけたまま慌ただしい様子で姿を現した。

 

 俺から見ても容姿が良く、個室に来るまでに男連中から声をかけられていたのか遠くで彼女を誘うような声が聞こえていたがピシャリと襖が絞められ断絶された。

 

 その女性が座敷に座り、俺とカカシさんの正面に来ると机の上に置いてあった鳥串に目を輝かせ即座に口へと運んでいた……面白い人だ。

 

「こいつ後輩のうちはイタチね」

 

 カカシさんが鳥串に舌鼓を打つ彼女に、早速とばかりに話を振る。 その女性がハッとして口の中のものを飲み込もうと咀嚼しているところに俺が自己紹介を重ねた。

 

「……どうも、うちはイタチです」

 

 年上の人間と接するのは慣れてはいるが、ここまで天然な人との会話の経験は無いので少し硬くなってしまったと自分でも思う。

 

 彼女は鳥串を飲み込むと、要領を得ていないのか少し動揺を見せた。

 

「はあ……、よろしくねイタチ君……っえ、どういう意図?」

 

 この集まりを只の食事会とでも思っていたのか、真っ先に料理に手を付けた彼女は自分が場違いな行動をしたことに気がつき顔を紅くしていた。 居酒屋なので何も完全に間違という訳でもないのだが。

 

 普段からやつれた様子をしていたカカシさんだが、あまり見たことのない笑顔になり親指で俺を指し示す。

 

「……ある意味マリエの後輩でもあるでしょ? なんでも弟のことで色々相談があるみたいで……俺じゃあそういう相談は乗れないからよろしく」

 

 事前に彼女の名前だけは聞いていた俺は、努めて礼儀正しくなるように言葉を選ぶ。

 

「……すみません、蒼鳥さんは2歳ぐらいの子ども相手をしているとのことで……少し相談が……」

 

 別に俺から相談に乗って欲しいと話が始まったわけではないが、円滑に話を進めるためだ。

 

 俺の言葉を聞き、彼女は俺には読み取れない感情を一瞬匂わせる……だが

 

「もちろん良いわよ! うちにも悟ちゃんっていうプリティで可愛い、愛らしい子が居てねぇ!!」

 

 一瞬で元気な様子になり、俺の相談に乗ってくれることになった。

 

 ……何を話そうか……取りあえず差し障りのないことから聞き始めようと思った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「2歳ごろだって言うのにシャイで狐のお面ばかり着けてる子なのよね~可愛いんだけど、少し周りの眼もあるからぁ──」

 

 後半ほとんど彼女の所のお子さんの話になり、俺は相談らしい相談を出来ないでいた……カカシさんも少し呆れていて運ばれてくる料理にばかり手をつけひたすらに相槌だけを打っている状態だ。

 

「そうですか、ぜひ一目会ってみたいですね」

 

 俺の社交辞令の言葉に彼女は

 

「そう!! そう思うわよね!? あと一年して3歳になったら1人でお散歩させても良いと思ってるから、そうしたら一緒にうちはの居住区に行かせてもらうわ! 先に何度か私だけでも伺ってもいいかしら?」

 

 物凄い……物凄い食いつきを見せ、早口で喋り机越しにグイグイ寄ってくる。 そのまま俺の両手を包み込むように握って来て離さない……力が見た目以上に強いのか振りほどける予感が微塵もしなかった。

 

「え、ええ……母さんも多分良いと言ってくれると思います……」

 

「良かったわ~今度会いに行くからその時はよろしくね!」

 

 酒は飲んでいないハズだが……そう思いながらも俺が横のカカシさんに助けを求めようと視線を向けると

 

「! ちょっと厠にでも行ってくるかな~……あはは」

 

 流れるような動きで襖を開け個室の外へと出ていった。

 

 ……目上の人間に対して、内心で憤りを感じたのはこの時が初めてだったのかもしれない。

 

 カカシさんが居なくなると、ふと目の前のマリエさんが俺の手を引き顔を接触するくらいに近づけてくる。

 

 流石に俺もギョッとしたがふと彼女は俺の耳元で、先ほどまでと違う声の調子で語りかけてきた。

 

「……今なら、カカシ君に聞かれないから本音で話してもらっても良いわよ」

 

「っ何の──」

 

「貴方からは私と同じ匂いがするの……何となくだけど貴方の抱えている悩みも予想がつくわ」

 

 そんな彼女の様子は、俺に何かの既視感を覚えさせた。 直接会ったのはこれが初めてのはずなのに……

 

 俺が言葉を選んでいると蒼鳥さんは話を切りこんできた。

 

「差し詰め弟さんのことが枷の様に感じてしょうがないってところかしら?」

 

「ッ……!? 俺はそんなこと──」

 

「嘘、両親が健在のあなたの家でわざわざあなたが弟のことを気にするって事はそういうことでしょ? 別にそれ自体珍しい事でもないわ」

 

 その彼女の素の状態は、まるで俺の心の内を見透かしているかのようであった。 俺の反応も合わさって彼女は自分の言葉に確信を得たのは間違いない。

 

「あなたみたいに感情をコントロールすることに長けた子が気にするほどってことは、相当な何かがあるのか……何かトラウマでもあるのでしょうね、深くは聞かないけれど」

 

 ……俺は少し恐怖を感じていたのかもしれない。 誰にも見せていない腹の内をこうも見透かされたことに……だが同時、安堵のようなものも感じていた。

 

「っ……俺はどう……すれば……ッ」

 

 取り留めもなくそう呟く俺に蒼鳥さんは不意に俺の頭を撫でた。

 

 俺が驚き身を引こうとするも、意思に反して身体が動くことはなかった。

 

「……どうしようもないこともあるわ、私も解決策を提示できるわけじゃない……だからこそ言えることは」

 

 彼女は優しい笑顔で俺の瞳を見つめた。

 

「時間をかけて……愛を育み……そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、蒼鳥さんは何度か俺の住む屋敷を訪ねてきた。 母さんともそりが合うのかすぐに仲が良くなり、楽しそうに会話をしていた。

 

 サスケは人見知りで蒼鳥さんが来ると部屋にこもっていたそうだが……俺がいると俺を連れ出し屋敷から離れていたから彼女との面識はあまりないだろう。

 

 それからさらにしばらくすると蒼鳥さんの施設が忙しくなったのか訪れてくる機会が減ったことを母さんは嘆いていた。

 

 ふと思えば、俺も彼女に俺と似た……匂いを感じていた。 天才と呼ばれる俺と似た存在、そして彼女が悟と言う子の話をするときに感じた雰囲気……

 

 

 

 彼女があの九尾に立ち向かった岩の巨人本人であると、何時しか俺は確信をしていた。

 

 

 

 それから一年経った時、俺は()と出会う。 

 

 嫌というほど聞かされた容姿のままの彼は……随分と大人びた様子であったが、纏う雰囲気は凡人のそれであった。

 

 それでも前振りの長い喋り、何かを目的としたその行動。

 

 危うさを感じさせるほどのその瞳に宿した執念……シスイが気にかけるのも俺にはよく分かった。

 

 彼は未来を知っているかの如く不自然な行動言動を見せ、そして……日向のご息女誘拐の事件に介入をして見せた。

 

 ……そこで俺は確信した、彼はこの先の災いを回避することが目的なんだと。

 

 何故それが起きるのか、どうしてそれを知っているのか。

 

 分からないことは多いが、彼はみるみると成長をして見せサスケにもいい影響を与えていた。

 

 そして数年後……俺にとって、もっとも()()()が始まる。

 

 

 

 

 

『あんたもグルなんだろ!あの仮面の奴と!!どうして俺を……助けた!』

 

 

 

 

 彼のその言葉を俺は、思いのほか受け流せていなかったらしい……直前に同族を手にかけそして、その後に両親を殺す……しなければいけないその行動の数々に俺は動揺を隠せていなかった。

 

 ただ、あの夜で彼の正体に関して……少し確信できたことがある。

 

 俺の写輪眼での幻術を破るには……()()()()が必要なはずだ。

 

 そしてあの夜、うちはの居住区に張られた結界忍術を越える条件は「うちは一族」であること。

 

 よほど感知に長けたものでない限り、これを見破りましてや中に入ってくることなど考えられない……そう思えば彼にその自覚があったのか不明だが彼が……

 

 

 うちはの血を引く者であることは、十分に有り得る事実だ。

 

 

 そんな彼が何故孤児であったのか? 色々疑念は尽きないがもう俺には関係のないことだろう……

 

 ……あの夜に俺は幾つもの失敗を重ねた。 彼を殺せなかったこと、サスケを殺せなかったこと……感情に惑わされ、両親を手にかけることを躊躇しサスケに見られていたことに気が付けなかったこと。

 

 どうやら俺は……ダンゾウが求めるような忍びには成れていなかったようだ。

 

 自己犠牲が忍びの本質だと彼は言ったが、それにも限界がある……何故なら……俺たち忍びには殺しようの無い心があるからだ。

 

 だが今思えば、あの夜の忍びとしての失敗は……人として、して良かったのだと心のどこかで思っていた自分がいた。

 

 忍びではなく、ただのイタチとして……だがそう思えば、忍びとしての俺の人生は失敗ばかりだったようにも思えて自分を哀れに思えてくる。

 

 ただ俺が……サスケの存在を信じられずに、無理やり忍びであろうとしたがために……その歪は生じた。

 

 もしかしたら他に手があったのかもしれない、忍びという面目を捨て去りみっともなく彼のように足掻くことが出来れば……

 

 ……父さんの息子として、皆に情で訴えることも出来たハズだ。

 

 それだけで全てが止まらないとしても、彼がいた……彼が里とうちはを繋ぐ架け橋になる可能性もあったのかもしれない。

 

 他にも三代目にもっとすがれば良かったのかもしれないし、俺が父さんに二重スパイであることを打ち明けていれば何か変わったのかもしれない……

 

 あったかもしれない可能性に、俺は思考を向けないようにしていた。

 

 そんな俺は最後に盛大な失敗を重ねるところだったが……

 

 

 

『サスケを信用してあげてください』

 

 

 

──大切な人を信用することね』

 

 皮肉にも、洞穴でそう言われるまで……蒼鳥さんからのアドバイスを忘れていた。

 

 どうすれば良いのかと言う俺の取り留めのない疑問への解答。 そうだ……俺が……最後に……するべきことは……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 うちはのアジト。 火の国にこの葉隠れの里が出来る前に、うちは一族が拠点としていた城。

 

 今は打ち捨てられ、管理する者もなくあちこちにガタが来ているその最奥、一族の長が座るべき玉座にうちはイタチは腰を下ろしていた。

 

「……」

 

 うちはイタチは目を閉じ、静かに待っていた。

 

 自分の今までの人生、そして最後になすべきことを思い。

 

 するとわざと鳴らしているであろう足音が聞こえ、それを合図にイタチはその眼を開ける。

 

「その写輪眼……お前には……どこまで見えている?」

 

 イタチのその問いかけに、訪問者は目を朱く光らせ答える。

 

「今の俺の眼にはまだ……何も見えてはいない……だからこそ、これから“先”を見るために……

 

 

 

 全てを話してもらおうか、うちはイタチ……!」

 

 

 うちはサスケはその眼で真っすぐにイタチを見据えていた。

 

 そのサスケの様子にイタチは再度目を閉じて、息を吐く。

 

「全てか……悪いがそれには答えられそうにないな」

 

「なんだと……?」

 

「俺は……お前が思うほど全てを知らないからだ」

 

 そう言ってイタチは己の写輪眼をサスケへと向ける。

 

「っ……」

 

 僅かに反応を示したサスケが身構えると、ゆっくりとイタチは口を開いた。

 

「ここからは眼で……語るとしようか……うちは一族についてと……そして、忍びになりそこなった哀れな人間についてをな……」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「貴様が言っていた……三人目の写輪眼を有するうちは一族とは……誰の事だ」

 

 かつてのうちはの居住区にあった屋敷の庭……そこに立ち兄弟は向かい合う。

 

「幾らアンタでも一人では警務部隊を暗殺し切るのには無理があるはずだ……先ずはその協力者を教えろ」

 

 尋問するサスケに、イタチは感情の無い異様な表情のまま口を開く。

 

「うちはマダラだ……木ノ葉隠れ創設者の一人、有史の中、万華鏡写輪眼を最初に開眼した男……」

 

「マダラは既に死人のはずだ、何故そいつの名が出てくる!」

 

「……人は誰もが己の知識や認識に頼り……縛られ生きている。 だが現実はその思い込みを遥かに凌駕する時もある……お前にも心当たりがあるだろう」

 

「……マダラは不死だとでもいうのか」

 

 サスケはかつての師匠であった大蛇丸を思い出していた。 大蛇丸がそうであったように、うちはマダラも何らかの術で不死、または不老となっていれば話の都合がつく。

 

「少し昔話をしてやろう」

 

 イタチは屋敷の縁側に腰を下ろして、話を続けその妙に落ち着いた様子にサスケは警戒の色を薄めないでいた。

 

「かつてマダラには弟がいた……2人は互いに万華鏡写輪眼を開眼し、うちは一族の名を知らしめることになる。 だが万華鏡は使えば使うほど、その強大な瞳力と引き換えに光を失う。 光を失ったマダラは……絶望の中、1つの手段により光を取り戻す」

 

 イタチはサスケの眼を指さす。

 

「弟の眼を奪い……己に移植したのだ」

 

 その言葉に、サスケは否が応でもイタチの構想の一つを案じ取る。 警戒する素振りを見せるサスケにイタチはそのまま話を続けた。

 

「その眼は光を失うことのない永遠の万華鏡写輪眼となり……その力があらゆる忍一族を束ねることとなった……そしてその後うちは一族が千手一族と手を組んだことにより木ノ葉隠れが設立した」

 

 次にイタチは己の衣を指さす。

 

「しかしマダラは初代火影、千手のリーダーとの火影を巡る戦いに敗れ、死んだことになったが……暁を組織しそれを隠れ蓑にした」

 

 2人の居る幻術世界が突如揺れ、獣の咆哮が轟く。 驚くサスケだがイタチは立ち上がりその獣の姿を見据える。

 

「そして16年前……その万華鏡写輪眼によってマダラは里へ復讐を成すために九尾を従え姿を現した……だがそれも四代目火影によって阻止されてしまったがな」

 

 幻術世界の九尾は突如現れた岩の巨人に組み伏せられ、そのまま一瞬で姿を消した。 

 

 静けさを取り戻した世界でサスケが口を開く。

 

「……俺に万華鏡を開眼させようとしたのは、アンタの眼のスペアにするためか?」

 

 その問いにイタチは鼻で笑って見せた。

 

「……そうだといったらどうする?」

 

 試すかのようなイタチの問いにサスケは

 

「ただの写輪眼しか持たない俺の眼はアンタの眼の代わりにはならないだろう……それがアンタの目論見の全てなら、それは既に潰えている」

 

 冷静にそう言い返した。 サスケの返答に満足したのかイタチは目を閉じ噛みしめるように俯く。

 

「なるほどな……俺の想像よりも、お前はずっと成長していたのだな……サスケ」

 

「……っ?」

 

 ふと幻術の世界が移ろい、姿を変え夜の光景へ変化する。 月が夜を照らすな中、サスケとイタチはかつて()()()()()()()()()()()()で相対する。

 

「俺のこの万華鏡は、親しい者の死を見たことで開眼した」

 

「うちはシスイか……アンタがシスイを殺したと、そんな話を一族の者がしていたのを覚えている」

 

 イタチは過去を振り返るように遠くを見つめ

 

「シスイの死は……俺の手によるものではない……シスイは……」

 

 そのままイタチはサスケの眼を見つめる。

 

「うちはの木ノ葉へ向けたクーデターを阻止するために動き……それを阻まれ死に至った」

 

「なっ……!? うちはがクーデター……だと!?」

 

「お前は知らないだろうがな。 当時、うちはは九尾襲撃事件の黒幕の疑惑により不当な扱いを受けていた……里の政治から離され、差別される日々。 募り募った些細な怨嗟が、やがて木ノ葉を対象としたクーデターを決起させるまでに至っていた」

 

「……」

 

「知らないなりにお前にも心当たりはあるだろう」

 

「悟が、居住区に来れなくなったことか……」

 

「それも差別に苦しみ、その苦しみが差別をさらに生んだ結果なのだろう……そんな一族の不満がピークに達しようとしたとき、俺の親友であるうちはシスイはその眼に宿った万華鏡の力を持って一族を抑えようとした」

 

「うちはシスイの万華鏡写輪眼……」

 

「その瞳術の名は別天神……対象が幻術にかかったことを認識することすら出来ない完全催眠を可能とする術だ。 その術により、シスイはうちはのトップである……俺たちの父を幻術により操りクーデターを阻止しようとした」

 

「だが……」

 

「シスイは死んだ……木ノ葉の暗部、根の部隊のトップである志村ダンゾウの手にかかり瀕死となったシスイは残された片目を俺に託してな……」

 

「志村……ダンゾウ」

 

「そして俺はそのダンゾウの元、暗部としてうちはと木ノ葉の二重スパイとなりうちはの情報を里に流していた。 俺がもたらした情報がシスイを死に至らしめてしまった……ッ」

 

 後悔するかのようにイタチは瞳を伏せる。

 

「アンタは……スパイだったのか……」

 

「ああ、そしてうちはに残された時間は既に……なかったのだ。 シスイの失踪を期に、暴動へ向かう意思は止める術を失くしていた……そして俺は二つの選択を迫られた……

 

 

 

 

 

木ノ葉を取るか、一族を取るか」

 

 

 

 

 

 イタチの言葉に、サスケも話の先が読めてきたのか額に汗を浮かべていた。

 

「ダンゾウにより、俺は一族抹殺を命じられた。 クーデターが起きれば、疲弊した木ノ葉に他里が攻めてくるのは火を見るよりも明らかだ……俺は」

 

 イタチは己の片手をもう一つの手で握り震わせていた。

 

「一族を見捨て、木ノ葉についた……っ」

 

「……」

 

「そして……()()()に繋がる……」

 

 ふと、イタチとサスケの隣に当時の自分たちの姿が現れる。

 

 血の染まったイタチと、まだ小さく何も知らないサスケ。 そんなかつての像にサスケは目線を向けると一つ確かめるように問いかける。

 

「この時、アンタは己の器を測るために一族を殺したと言っていたが……アンタの眼には涙が流れていたことを、俺は後で思い出すことが出来た。 アンタが語った動機は噓なんだろう……?」

 

 サスケはイタチの隣に立つ、かつてのイタチの眼に流れる涙の後を辛そうに眺めた。

 

「当時の俺は……追い詰められていた。 本当は父さんも母さんも……一族の皆も殺したくなどなかった」

 

 過去の姿のイタチが涙を流しながらそう喋る。 その言葉にサスケは

 

「ならっ……ならどうして俺は生きているっ!?!? 父さんや母さんだけでなく、俺もうちはの一人として殺すべきじゃなかったのか!? あの夜、俺よりも幼い赤子まで手にかけて……ッあの時どうして俺だけを生かしたっ!?!?!?」

 

 何かを確かめるように、涙を流してそう叫びイタチを問いただした。 ……サスケ自身、既にその答えをわかっているのだろう。 

 

 指摘されれば、クーデターを感じさせる張り詰めた大人たちの振る舞いを思い出せ、そして当時兄が語った動機は状況的に嘘であることは明白であった。

 

 永遠の万華鏡写輪眼を得るためだけならば必要のない虐殺、一族抹殺の命に反しサスケを生かした不義理。 己の器を測るなどと言いつつ、マダラという協力者がいたという矛盾。

 

 全ての答えは

 

「俺には……弟であるお前だけは……殺すことが出来なかったからだ」

 

 涙を流す今のイタチから語られた。

 

 その言葉を受けサスケは膝から崩れ落ちる。 そこにふと聞こえる懐かしい声。

 

『イタチ……最後に約束しろ……サスケの事は頼んだぞ』

 

「この声、父さん……?」

 

『恐れるな……それがお前の決めた道だろ……お前に比べれば我らの痛みは一瞬で終わる……考え方は違ってもお前を誇りに思う』

 

 

 

──お前は本当に優しい子だ

 

 

 

「俺は……木ノ葉と己を裏切ったうちはに復讐の機会を伺っていたマダラと、木ノ葉の上層部にお前には手を出さず見守るように約束させた」

 

 呆然とただ涙を流すサスケに、イタチは語り続ける。

 

「三代目がお前を守ると約束し、俺は……マダラを見張るために暁に属した……」

 

 ……

 

 サスケは強く歯ぎしりし、イタチを睨む。

 

「……これが……アンタの……っアンタの真実だとしてだっ!! 今更それを素直に、どうして俺に……ッ」

 

 求めていたはずの真実。 しかしやりきれない、抑えられない感情に振り回されサスケは己の言葉を取り留めもなく口から漏らす。

 

 そんなサスケの様子にイタチは小さく微笑みを返した。

 

「……お前は俺の敷く復讐と言う名のレールを歩かずに……ここまで来た。 俺の予想を超えたお前には……褒美が必要だと思ってな」

 

「褒美だと……? ……ふざけるな……っ!!」

 

「ふざけてなどいない……思えば、お前にはいつも許せと嘘をつき()()()で遠ざけてきた。 お前を巻き込みたくないがために……だが俺がお前を信用し、向き合うことが出来ていれば……お前が父と母を……うちはを変えることができたかもしれないと……」

 

 イタチは一歩ずつサスケへと歩み寄る。

 

「俺が己の恐怖に負けず……人間らしく、心のまま同じ目線でお前と腹の内を語り合っていれば……」

 

 跪いていたサスケの目の前までイタチが来る。

 

「……いや今更過去を嘆いても何も変わらない、だからこそ今からは……

 

 

 

 

 

 

 

本気でお前を殺しにいこう」

 

 

 

 

 

 

 全ての幻術が解け、クナイと草薙の剣が競り合う音がうちはのアジトの内部に響く。

 

「兄……さんっ! どうして……っ?!」

 

 突然のことに、混乱したままのサスケは怒涛の勢いで切りかかってくるイタチの斬撃を辛うじて受け流す。

 

「……サスケェ!! お前は忍びとして、そして人としても俺と並び立つまでになった!! だからこそ、お前のその器……俺が()()()を持って全力で測るっ!!」

 

 イタチの突然の蹴りを、サスケは辛うじて空いた右腕で受け両者の距離が離れた。

 

 イタチの言い放ったその言葉にサスケは……

 

 

 

「わかったよ……兄さん……っ!」

 

 

 

 草薙の剣に雷光を巡らせ切っ先をイタチに向ける。 雷光が覚悟を決めたサスケの顔を照らした。

 

「昔から俺は兄さんの背を追いかけてきた……その兄さんが俺を認めて、向かってくるというのなら……俺はそれに全力で答えてみせるっ!!」

 

 サスケはイタチの意図を正しく汲み取っていた。 己の真実を話した兄が、命をかけて自分の器を測ると言ったその言葉の意味を……

 

 かつてあれほどまでに追い求めて、隣に並び立ちたいと願っていたその背中は今

 

 

──サスケのすぐそばまで来ていた

 

 

~~~~~~

 

 

 ……ずっと考えていたことがある。 大蛇丸の元で修行を重ね、力を得るとともに兄の……イタチのその磨かれた強さが理解でき……それが何によってもたらされているのかを……

 

 ……ずっと考えることをやめないでいた。 ()()()の後、理不尽な暴力を悟に行い……感情に振り回されて力を行使することに恐怖し後悔した俺は力のあるべき姿……その在り方を……

 

 ……ずっと考えてしまっていたことがある。 サクラやナルト、カカシと共に過ごしたあの日々を……いつまでもそんな……仲間たちと共に過ごしていた可能性を……

 

 大蛇丸は修行の最中に言っていた。 忍びとは忍術を扱うものを示すのだと……つまらない揚げ足取りになるが、俺は忍術を使えないロック・リーを認めている。 その時点で大蛇丸とは見ているモノ……見えているモノが違うことに気がついた。

 

 人は……忍びは己の忍道を皆が持っている。 誰もが胸に秘め、その道を外れんとして日々を生きて……

 

 イタチは……兄さんの心の内には何があったのか。

 

 俺たちはいつも選択を迫られて生きている、もしも里を抜けずにいたら……今頃どうなっていたのだろうか。

 

 

 

 そんな取り留めのない考えの中に……悟との日々がいつも俺の心の内に、音もなく静かに、寄り添うように眩く光を放っていた。

 

 

 

 雪の国でアイツが言い、行動した全てが……当時の俺には突き刺さった。

 

『バカが!! 夢は諦めんな!!』

 

 己の命を諦めずに、夢を叶えることが大切なことだとアイツは言った。

 

 ……他者の夢を喰らい、嘲り、潰そうとしたドトウの一味との戦いでアイツはそれを有言実行して見せた。

 

 どれだけ身体が傷つこうが、己の忍道を曲げないその……意思を。

 

 

 

 アイツにどんな思いがあって、あそこまでの力を発揮していたかは知らないが……その原点はきっと以外に些細なことなのかもしれない。

 

 

 

 思えば多分……いや、俺の原点……俺の夢は……物心ついた時から……今の今まで……一度も変わってなどいなかった。

 

 

 

『真実を知りたい』などといった、後から思いついたものではない……純粋で……本当に俺が成したいこと……

 

 

 

──大好きな兄さんに認められたいって

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 写輪眼、火遁、手裏剣術。

 

 うちは一族として、兄弟として持てる全てをぶつけ合う兄弟。

 

 兄は弟を見定め、弟は全力を持ってそれに答える……

 

 初めての兄弟げんかは……着実に終わりへと近づいていた。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……ッ」

 

「……ゴフッ……!」

 

 戦闘の最中、目の前で血を吐くイタチの様子にサスケも兄に起きている異変を感じ取っていた。

 

 うちはのアジトを囲うように燃えている黒炎とサスケが上空へ放った火遁が大気を熱することで積乱雲が生じて2人を雨が濡らす。

 

 アジトの天井で、片目を抑え血を吐きながらも……残こされたチャクラが僅かになりながらも……2人は戦いを止めなかった。

 

「これで……ッ終わり……か、サスケ?」

 

 苦しそうにそう呟くイタチに

 

「兄さんこそ……っ!」

 

 瞳を伝う雨の感触に、気づかないふりをするサスケが返事をする。

 

 それは決して兄弟での殺し合いなどといった悲惨なものではなく……他者には理解できない、特別な何かであった。

 

 荒れ狂う天気、鳴り響く雷鳴。

 

 サスケはアジトの天井に生えている柱に跳び、もっとも高い位置からイタチを見下ろす。

 

「俺は…………ッ!!」

 

 サスケは振り絞るように左手を掲げる。

 

「兄さんを……越えるっ!!!!」

 

 そんなサスケを見上げイタチは呼吸を整えていた。

 

(……戦闘の最中、ゼツの気配を感じなかったが……フッ……上手くやってくれたようだな)

 

 小さく笑みを浮かべたイタチは、サスケが周囲の雷を束ね始める光景を眩しそうに眺める。

 

 雷を従え、サスケの意思の元で雷は獣のような形を模った。

 

 人がちっぽけに感じる程、強大なそれは

 

「この術の名は……麒麟

 

 

──俺の全てを持って……雷鳴よ……穿て……っ!!!!」

 

 

 サスケの手の一振りを合図に、うちはのアジトを消し飛ばしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった……」

 

 建物があった形跡が全て吹き飛んだその地に立ち、サスケは呟く。

 

 術の影響によって周囲の自然エネルギーが消費されたことで、気象変動は収まりを見せていた。

 

 雨もやみかけ、ポツポツと落ちてくる雨粒は、力を出し切り上空を見上げるサスケの顔を優しく濡らすのみであった。

 

 

「……まだだ」

 

 

 しかし全てを出し切ったつもりのサスケに、以前調子の変わらない毅然とした言葉が届く。

 

「……っ!」

 

 瓦礫をかき分けるように、巨大な橙色の何かが姿を現す。

 

「……っ…………ツ!」

 

 驚きと、そうではないかという希望の裏付け。 動揺しながらもサスケはその()()()()()()()()()()をしっかりとした目線で見つめる。

 

「これが……ッなければ俺もやられていたな……本当に、本当に強くなったな……サスケ」

 

 噛みしめるようにその言葉を口にするイタチはその骨体の中で立ち上がる。

 

「言っただろう……本気で相手をすると……これが俺の最後の切り札……須佐能乎だ」

 

「スサノオ……ッ」

 

 イタチの奥の手の存在に、サスケはなりふり構わずに呪印の力を解放して状態2へと至る。

 

「千鳥……っ……クッ!?」

 

 その手に黒い雷光を一瞬纏ったのを合図に、サスケは首を押さえてうずくまってしまった。

 

 サスケの首元から白い体組織のような物が蠢き膨れ上がっていく。

 

「……」

 

 その様子を黙って見つめるイタチは、己の須佐能乎の形を定められるところまで形作り始める。

 

(写輪眼で見えていたサスケのチャクラに混じっていた不純物は……やはり、大蛇丸のモノ……限界を超えた状態での呪印の解放により、取り込んだ化け物が姿を現した……か)

 

「大蛇丸の八岐の術……」

 

 目の前で現れた巨大な八つの頭を持つ白蛇。 イタチの須佐能乎さえ見下ろすほどの大蛇は、その頭を使い牙をむく。

 

「ッ……!」

 

 しかし須佐能乎の右手に顕現した剣がその襲い来る頭を全て薙ぎ払い切り落としていく。

 

 斬撃一つ一つが首を跳ね飛ばし、抵抗し体当たりを試みる大蛇には左手に持った霊器の盾がその行く手を完全に塞ぎ跳ねのける。

 

 そして最後に残った大蛇の口が唐突に大きく開いて見せた。 その光景を見たイタチは

 

「フッ……出るものが……出たな」

 

 歓喜の雄たけびを上げて大蛇の口から姿を現した者に向けそう呟いた。

 

 

 

 

「アハハハハハハっ!! このタイミングを持ってたのよっ!!! サスケ君のチャクラが消耗し、この私が──」

 

──ズッ

 

 その者の雄たけびは最後まで言い切られることはなく、その腹部を霊剣が貫いた。

 

「……悪いが部外者には退場してもらおう」

 

 イタチのその言葉を最後に、僅かに姿を現した大蛇丸は問答無用で十拳の剣によって、須佐能乎の持つ瓢箪状の霊器に大蛇の身体ごと全て吸収されてしまった。

 

「ッさて……サスケ……ゴホッ……ッ次は……どうする?」

 

 サスケから大蛇丸を引きはがしたイタチは、その言葉を投げかける。

 

 大蛇が消えた元には、息を荒げながらもしっかりとその黒い瞳をイタチに向けているサスケがいた。

 

「……ハァ……ハァ……ッ」

 

 写輪眼は維持できず、呪印の力も失ったサスケ。 だが

 

「……ウオオオオオっ!!」

 

 怯むことなく、己に残された忍具を全てイタチの須佐能乎へと投擲する。

 

 起爆札が爆発し、クナイが穿ち……手裏剣が弾かれ、しかし須佐能乎は微塵も引くことはなかった。

 

 文字通り兄の全身全霊、その力を前にサスケは──

 

「まだだっ!!」

 

 丸薬を一つ口へと放り込み噛み砕く。

 

(うちは特製の丸薬……か、空区に残された者を手に入れて来ていたか)

 

 イタチは目の前の弟の最後の抵抗を見届ける。

 

 丸薬はすぐに効果を表し、僅かなチャクラをサスケへともたらす。

 

 強大なイタチの須佐能乎にサスケは恐怖を乗り越え、全身全霊の勇気を振り絞り立ち向かう。

 

 

 

 

「千鳥ッ……!」

 

 

 

 その左手に携えた雷光と共に

 

 

「うおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

 サスケは飛びあがり、草薙の剣を右手で突き立てる。

 

 剣は弾かれ吹き飛ぶものの、怯まずにそれのより生じた須佐能乎の盾の僅かな傷跡に千鳥をぶちかました。

 

 

 

 

──ピシっ

 

 

 

 そんな小さな音を皮切りに、イタチの須佐能乎の盾を中心にヒビが広がり始める。

 

 サスケの気迫に添うように、千鳥の雷鳴は鋭く、大きくなり……そして

 

 須佐能乎を完全に破壊した。

 

 

 その定まった形の内に秘めた骨体ごと崩壊した須佐能乎からイタチは弾かれ後方へと吹き飛ぶ。

 

 最後に僅かに鳥のさえずるような音を鳴らして消えた千鳥。

 

 互いの距離が離れ、互いに立つのもやっとの状態。

 

 すでにお互いの眼に写輪眼はなく、同じ黒い瞳が視線を交わせていた。

 

「! ……ゴフッ……うぐっ!」

 

 イタチは、血を吐き、胸を押さえる。 それでも……それでも視線が外れることはなく

 

 互いが互いにやるべきことを成そうとしていた。

 

 ……その距離は、小川を挟んだくらいの距離であった。

 

 

──()

 

『うちは一族は火遁が使えて初めて一人前と認められる、うちはの家紋は火を操るうちはを持つ者の意』

 

──(ひつじ)

 

『……流石俺の子だ、良くやった。 今からはその背中の家紋に恥じぬよう己を磨き大きく舞い上がれ』

 

──(さる)

 

『許せサスケ……また今度だ……今日はお前に構っている暇がない』

 

──()

 

『俺は、兄さんが、イタチがあの時どう思っていたのか……どうしてあんな事をしたのか、本当の理由を知りたい!!いや、知らなければいけない!!!』

 

──(うま)

 

『だからこそ、お前のその器……俺が()()()を持って全力で測るっ!!』

 

──(とら)

 

 

 

 

「大きくなったな……サスケ」

 

 

 

「「火遁・豪火球の術!!!!」」

 

 

 2つの爆炎が衝突を見せる。

 

 意思を持ったかのように、うねり膨らむその火球の衝突は混じり合うかのようにその火力を増し

 

 拮抗しているかのように見えるその炎上は……

 

 僅かな綻びと共に一気に片方へと形勢が傾く。

 

 その瞬間、融合した2つ豪火球は爆発を起こして

 

 

 消滅した。

 

 

 爆発の余韻も消え、静けさが残る瓦礫の山々。

 

 足を引きずるような音が小さく環境音に鳴り響く。

 

 周囲で燃えていた天照の黒炎は未だに遠くで轟々と炎上していた。

 

 立つ者が、天を見上げるものを見下ろす。

 

 そんな2人を、雲の切れ目から差し込む日光が眩いほどに照らしていた。

 

「──」

 

 僅かに声が聞こえ……サスケはそれを聞くために屈みこむ。

 

「流石は……俺の弟だ」

 

「……兄……さん」

 

 サスケはイタチの頭を抱えて視線を合わせる。

 

「これを……お前に……」

 

 イタチがそういうと、何処から現れたのか分からない一羽のカラスが突如サスケの口の中へと侵入していく。

 

「……シスイの眼を持った口寄せカラスを……蔵入りさせた……お前が……その眼を有効に使えると信じている……」

 

 死の間際でありながら、イタチの言葉は自然と穏やかなものとなっていた。

 

「ゴホッ……ゴホッ……ッ」

 

 カラスを飲み込んだことでせき込んだサスケは、そのままイタチが絞り出そうとしている最後の言葉を静かに聞くことにし集中する。

 

「……お前は立派な……うちは一族で……俺の弟だ……胸を張って生きろ」

 

「ッ……うん」

 

「後は……そうだな、悟君と蒼鳥さんに会ったら……『感謝している』……と伝えてくれ」

 

「……うんッ!」

 

「フッ……最初で最後の……兄弟げんかは……悔しいが……お前の勝ちだ……」

 

「う゛ん……っ!」

 

「お前は……この先色々な思いを抱えて生きていくだろう……だがこの俺を乗り越えたんだ……出来ないことは……ない」

 

「っ~~~!!」

 

「……ハハッ……泣いている……愚図っているお前を……見ているのに……何だか満ち足りた気分だ……俺は……」

 

「兄さんっ!!!」

 

 サスケはイタチの手を握る。

 

「俺は……失敗を重ねた……兄として、お前に許せと言い続けてきたが……さい……ごに……ひとつ……だけ」

 

 

 

 イタチは空いた手を伸ばし、サスケの頭を引き寄せ……視線を逸らさずに額を合わせた。

 

 

 

「おまえは……もう俺を……許さなくても、良い……だがお前がこの先どうなろう……と、俺はお前をずっと……

 

 

 

 

──愛している

 

 

 

 

 嘘偽りのない笑顔を浮かべ、イタチの身体から力が抜ける。

 

 そして顔を伏せたままのサスケはひとしきり静かに涙を流し続け……

 

 

 

 その後、意識を手放したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 快晴の空の下、空間の歪が現われそこから仮面を着けた男が姿を現す。

 

「……終わったか」

 

 男はそう呟くと、寄り添うように倒れている兄弟の元へとゆっくり歩み寄る。

 

「……勝負はサスケの勝ち……しかし」

 

 男は天を仰いで瞳を閉じた男の顔を見つめる。

 

「同族殺し……犯罪者……多くの悪名を轟かせた男の死に様が

 

 

 

 

 

 

こうも満ち足りた表情で締めくくられるとは……な

 

 

 

 

 

 

うちはイタチ」

 

  



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18:幼年期の約束

「侵入者だぁ!!」

 

「手の空いてるものは現場へ急げェ!!」

 

 木ノ葉の里に響く爆音と悲鳴。

 

 伝説の三忍の一人自来也の死去の知らせから、うずまきナルトが妙木山へと修行に出て少し経った頃……

 

 その日は突然やってきた。

 

 

 巨大なムカデのような口寄せ動物が暴れ出し、妙なカラクリの弾頭が里を爆撃する。

 

 そんなあまりにも突然の出来事であったが……

 

「リーと俺は敵の撃退と、あのカラクリを撃ち落しに行く。 テンテン、お前は大門から新たな侵入者が来ないよう、別の隊と共に警戒をしてくれ」

 

「オッス!! 行きましょう、ネジ! 犠牲者は一人も出させませんっ!!」

 

「オッケー! 何かあったら合図してよねぇ……飛雷神で駆けつけるからっ!」

 

 

 

 

「敵の情報が不足している以上……俺の蟲による牽制が有効のはずだ……なぜなら暁は侮れない能力を持つ者ばかりだと聞いているからな」

 

「敵の匂いは7人……俺たちから一番近い方角の奴は……こっちだっ! 行くぜェ赤丸、シノ、ヒナタっ!!」

 

「ウォンっ!!」

 

「うん……ナルト君が帰ってくるまで……絶対に誰も死なせない……っ!!!」

 

 

 

 

「チッ……まさか本当に……あちらさんから攻めてくるとはめんどくせぇ……だが」

 

「シカマルっ! 近くに敵が来てるわっ!!」

 

「行こう2人とも……アスマ先生が大好きだったこの里を……未来を守り抜くんだっ!!」

 

 

 

 

「うちはイタチが死んで……サスケ君は帰ってきていない……ナルトも修行で居ない……そんな間に……この里を壊させはしないわよっ! しゃんなろォ……っ!!」

 

「サクラ、行こう……僕たちで少しでも時間を稼げれば……必ずナルトが帰って来てくれるはずだ」

 

「そうだね……カカシ先輩も既に戦いに出ているみたいだし……新生カカシ班の腕の見せ所だ」

 

 

 

 

 木ノ葉の忍び達は、その力を持って侵入者へと立ち向かう。 誰一人殺させはしないという、共通の認識のもとに。

 

 襲撃が始まってから迅速に対応がなされ、7人の侵入者の内6人までが既に木ノ葉相手に攻めあぐねる状況となっていた。

 

 そして混乱の渦中、静かに行動する6人目・ペイン天道は現在の状況を冷静に判断していた。

 

(里上空から、畜生道を投げ込み……口寄せによる侵入で完璧な奇襲を仕掛けたにも関わらず……こうもペイン六道が押される結果になるとはな……流石は五大国最強と謳われる木ノ葉の里……そして我が師の故郷……フッ……さらに)

 

「こうも早く、俺すら見つかるとはな……見事だと褒めてやろう、写輪眼の……はたけカカシよ」

 

 天道は眼前に立ちふさがる2人の内の1人へと目線を向ける。

 

 左眼の写輪眼を見開き、完全に戦闘態勢に入ったはたけカカシは隣に並び立つエプロン姿の人物にクナイを放る。

 

「まさかお前と並び立つ日が来るとはね……良いのか?」

 

 カカシの心配するような言葉に、クナイを受け取った人物は口元に巻いた包帯を持ち上げ、首を鳴らす。

 

「良いのかもクソもあるか……この先の……うち(施設)のガキどもが避難を終えるまではなりふり構ってられるかよ……ッ」

 

 並び立つ両雄に天道は右手の掌を向け口を開く。

 

「死んだとされていたかつての鬼人がまさか生きて、木ノ葉で俺の前に立ちはだかるとはな……鬼鮫に面白い土産話が出来た」

 

「土産に出来ると思われるとはね……再不斬、ブランクがあるだろうから俺のサポートに回ってくれ」

 

「舐めるなよカカシ、生憎俺は鈍らになるほど……生易しい環境に居た訳じゃねェてとこ……見せてやるぜっ!」

 

 カカシと再不斬は、同時に同じ印を結ぶ……

 

「「水遁・水龍連弾の術っ!」」

 

 

 巨大な荒れ狂う二匹の水龍。 その様子に

 

 

「なるほど……思っていたよりも骨が折れそうだな……」

 

 天道は掲げた右手から斥力を発生させた。

 

 

 

「神羅天征……!」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 一際大きな揺れが生じ、パラパラと埃が落ちる施設「蒼い鳥」の中で、蒼鳥マリエは黙雷悟の自室から姿を現す。

 

 そんな彼女に、日向ハナビが庭から声をかけた。

 

「マリエさんっ! 施設の子どもたちはみんな外に出ました、残っている子もいないようなので私たちも避難しましょうっ!!」

 

 白眼で取り残された子供がいないことを把握したハナビのその言葉に、マリエは

 

「……ハナビちゃんは先に行って頂戴……私はここに残るわ」

 

 そう言って庭へと降り立つ。

 

 当然そんなことを言われれば

 

「駄目ですよ……っ! 確かにここはマリエさんにとって大切な場所だとは思いますが……今は命を大切にしないと……っ!」

 

 ハナビは心配のあまり大きな声を出し、マリエの手を引く。 しかし手を引かれたマリエの身体は微動だにせず、逆にハナビがマリエに引かれ抱き着かれる形となった。

 

「ッ! ……マリエさんッ」

 

「大丈夫……死ぬ気なんてさらさらないもの……でも一人……一人だけここに帰ってくるかもしれない子がいるからね? ……私は此処に残るわ」

 

 マリエがそう言うと突き放すようにハナビを押す。

 

「ハナビちゃん……子どもたちの避難をお願いっ! ……私も後で必ず行くから」

 

「っ……絶対ですよ……っ!」

 

 ハナビは押された反動のまま振り返り、外へ向け走り出す。

 

「木ノ葉丸、待たせた!! 避難を開始するわよっ!」

 

「おお、急ぐんだコレっ!!」

 

 外で聞こえるそんなやり取りと、遠くで聞こえる戦闘音を聞きながらマリエは両手を組み祈るように瞳を閉じた。

 

 

 

 

「信じてるもの……必ずあなたは帰って来るわ……」

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 木ノ葉が襲撃を受ける光景……しかし木ノ葉の忍び達は希望を失わず抗い続ける。

 

 濃霧に囲われた天道は抗う、2人の忍びに手をこまねく。

 

(……まさかここまでとはな……まともに攻め入ることも出来ず……そして怪我人も迅速に火影の蛞蝓が治療と安全圏への離脱を行い、九尾の情報を得るどころではないか)

 

「こうなっては仕方あるまい……」

 

 天道の呟きに

 

「雷切っ!」

 

 カカシが素早く後方から奇襲をかける。 しかし

 

「ッ神羅天征!」

 

 天道を中心に発生した斥力が、カカシを吹き飛ばす。

 

「ッがァ……!」

 

 家屋に叩きつけられたカカシだが、瞬時に天道の背後には……

 

「──っ!」

 

 鬼人の必殺の一撃が迫っていた。

 

 再不斬のクナイが天道の首をつらぬこうとしたその瞬間、突如として爆発が発生しの濃霧を晴らしながら再不斬を吹き飛ばす。

 

「グッ……チッ新手かァ!?」

 

 再不斬が地面を転がりながら態勢を整え、上空を見上げると天使のように白い紙で出来た羽根を広げたくノ一が天道の傍へと舞い降りていた。

 

「ペイン、木ノ葉の連中……孤立している部隊が少ない……これじゃあまるで──」

 

 そのくノ一・小南は焦った様子で天道へと語りかける。 天道はその言葉に予想していた言葉を重ねた。

 

「間違いなくあの()()()の仕業だろう……自来也を助けようとしたときに、蹂躙したはずだが生きていたという事か……それはつまり、間違いなく──」

 

 そして天道は、何かを感じ取り瞼を閉じた。

 

「話をすればという所か……小南、()()をやる」

 

「っ! でもそれじゃあ貴方の負担が──」

 

 天道の言葉に、反応をした小南は言葉の最中に煙を巻き上げ姿を消す。

 

「これ以上、分散した力では事が進まない……全ては平和のため──」

 

「ごちゃごちゃとうるせぇっ!」

 

 天道へ再度切りかかった再不斬だがその斬撃は空を切る。 天道は素早く上空に向けて飛び去っていた。

 

「……おいカカシ、奴さんは一先ず撤退してったぞ」

 

 再不斬のその言葉に、家屋から這い出てきたカカシは再不斬に手を引かれて起き上がりながらも疑問符を浮かべる。

 

「おかしい……奴らにもなにか目的があって里へ襲撃を仕掛けてきたはずだ……」

 

 カカシが考える素振りをして固まったが、再不斬は構わず走り出す。

 

「俺はガキたちの様子を見てくる……てめぇも怪我人の避難誘導をサッサとしやがれ」

 

 再不斬がそう言い残すと、カカシは微妙な表情を浮かべた。

 

「……鬼人のあんな姿と言動を見ることになるとはね……」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 木ノ葉の里の大門で、複数人の木ノ葉の忍びに囲まれている人影がいた。

 

 黒い髪、ボロボロで既に外套としての機能など微塵も感じさせないほど血に染まったぼろきれを纏い、その人物は正面に立つ尽つに目線を向けていた。

 

「アンタと会うのはこれで3回目になるかしら……前みたいに白は居ないけど……里には手出しはさせないっ!」

 

 目線を向けられている人物はテンテン。 他の忍びと共に取り囲んだその人物は、不気味なまでにテンテンに視線を向け続けていた。

 

 すると、伝令の忍びがテンテンの元へと駆け寄り耳打ちをする。

 

「……敵が皆撤退した? じゃあ、残るはあんただけのようね……()()()()っ!」

 

 テンテンは手に構えたクナイを持ち直し、構えを取る。 周囲を取り囲んでいる忍びらもテンテンの構えに乗っ取りそれぞれが印を結び、クナイや手裏剣を構えた。

 

 明らかにボロボロの様子で、肩で息する天音小鳥はブツブツ何かを呟いている。

 

「……ペインが引いた……このままじゃあ……でも……気絶させたら避難が……っ!」

 

 その不自然な様子で焦りの表情を見せる天音に、今までとのギャップを感じていたテンテンは口を開く。

 

「アンタたちの目的はナルトなんでしょ……っ! ブツブツ言ってないで、はっきり何か言いなさいよっ!!」

 

「……ッ」

 

 そのテンテンの言葉を受け、天音小鳥はすがるような瞳で……テンテンを再度見つめた。

 

 そして覚悟を決めた表情になった天音は……ゆっくりと右手を上げ始める。

 

 天音の行動で周囲に緊張感が走った。

 

(相手は暁だ……印を結ばせては行けないっ)

 

(強さは並大抵じゃない……タイミングを仲間と合わせて……っ!)

 

 忍び達はその天音のゆっくりと挙げている右手に視線を合わせ集中する。

 

 奴は既に迎撃できる手段があるのか? 片手を上げて何をしてくるのか……? 何かをさせる暇もなく、全員でかかれば……っ!

 

 そんな忍び達の思惑を受け、天音は人差し指と中指を建てた状態で右手を構える。 

 

 

 

 忍びならだれもが知っているその印の名は……『対立の印』

 

 

 

 神聖で伝統となっている忍び組手の始まりの合図を示すその印を天音は胸の前で構えた。

 

 それはその場にいる全員に向けて対立を示してるかのように思われ、忍び達の緊張感がさらにます。

 

 

 そんな緊迫した場面の中

 

 

 しかし天音はそのまま

 

 

 その印を口の前まで持っていき、中指を折りたたみ

 

 

 そっと

 

 

 息を吐いた。

 

 

「シーー……」

 

 

 何の意味があるのか、どういう意図があるのか、天音のその行動に忍び達は困惑の色を示す。

 

 緊迫感がピークに達し、一人の忍びが手裏剣を振りかぶった瞬間

 

「待ってっ!!!」

 

 テンテンが大声で制止をかける。

 

 突然のテンテンの声に、忍び達は怯み視線をテンテンへと集める。

 

 そのテンテンは、眼が泳ぎ、額から大量の汗を流して何かを呟いていた。

 

「……そんな……噓……だって……っ!」

 

 明らかに動揺しているテンテン。 そんなテンテンに向け天音は一言声をかけた。

 

「眼を……見てくれ」

 

 その言葉の意味をテンテンは直ぐに理解できなかった。 

 

 天音小鳥は何を言っているんだ? 対峙した時から、自分は目を逸らしていなんかいないハズだと。

 

 そう思い、動揺しているテンテンが再度しっかりと天音の眼を見た。

 

 

 

 

 そして先ほどまで、テンテンは自分が認識できていなかったことに気がつく。

 

(天音小鳥の眼の色は……()()()()()()()……なのに……何で……っ……)

 

 敵の眼の色彩など、些細なことかもしれない。 だがテンテンはその瞳の色に驚き、混乱し……

 

 そして一つの答えを理解した。

 

 

 

 

 

──それじゃあこれは『ケンカをしない印』だね

 

 

 

 

 天音の緑色の瞳に宿る『翠色(すいしょく)の雷光』が僅かに煌めく。

 

 

 

 

「……私の合図で攻撃を仕掛けるわ」

 

 突如テンテンはそう言い、クナイをしまって巻物を広げる。

 

 その言葉に周囲の忍び達は、天音に向ける敵意を鋭く研ぎ澄ませていく。

 

 全てを悟り、テンテンは睨みつけるように天音に視線を飛ばす。

 

 それは未だに人差し指を立てたままの天音の視線とぶつかり……そして

 

 

 

 テンテンの巻物から、多量の煙が溢れ出す。

 

 

 

「行けェ!!!!!」

 

 

 

 テンテンの叫びと共に、巻物からあふれた煙は瞬時に周囲を覆いつくし周りの忍びたちの視界を潰すそして

 

「ありがとう」

 

 混乱する忍び達の声が響く煙の中、過ぎ去る人影のその呟きと共にテンテンは何かを手に受け取った。

 

 後方に雷光が走り去っていく音を聞きながら、テンテンは手の内にある筒状のそれを確認し……

 

 

 涙を流していた。

 

 

~~~~~~

 

 

 その忍びは走る……この時、この瞬間、被害を出さないためにと。

 

 数年間か、それ以上か……重ねた努力は今この時を乗り越えるために。

 

 類まれなる感知能力が、怪我人が出てはいても死者が出ていないことを知らせ、歓喜の思いを湧き上がらせる。

 

 だが、今から起きる惨事を見過ごせば確実に死人が出てしまう。

 

 それを防ぐため、忍びは木ノ葉の里を中心目掛け走る。

 

 

 途中、夕日紅を抱え走る暗部の忍びとすれ違う。 目が合い、お互いに頷き刹那のやり取りを交わしその距離は直ぐに離れていく。

 

 

 自身の身体が既にボロボロであっても、例え限界が近かろうとも。

 

 その忍びの目的はただ1つであった。

 

 

 

 木ノ葉の里の上空で天道は両手を構える。

 

「痛みなくして……人は平和を理解できない……神の裁きにより──」

 

 一部の忍びであれば、その遥か上空に佇む天道の異様なまでに高まったチャクラに気がつき始めた頃、その忍びは天道の真下まで来る。

 

 その忍びは少し離れた視線の先にある火影屋敷の上にいる人物に向け声を張り上げた。

 

「綱手さんっ全員を避難させてくださいっ!」

 

 その大声は……火影へと伝わる。

 

 そして……

 

 

 

「ここより世界に痛みを」

 

 

 

 

「絶対に……誰も……死なせないっ!!!」

 

 

 

 

神  羅  天  征

 

 

 

 音が圧縮されたかのような刹那の静けさ、世界が音を忘れたかのような時間が訪れた。

 

「土遁・岩状鎧武っ!!!!」

 

 地面から岩の巨人が天目掛け両手を突き出し這い出てくる。

 

 

 その次の瞬間、圧倒的なチャクラによって生じた力場が巨人の手とぶつかり世界は音を取りもどす。

 

 

 地面は揺れ、あり得ないほどの衝撃波が巨人の足元を伝わりそこを中心に地面が陥没し始める。

 

 

 その瞬間、木ノ葉に声が響く。

 

「全員、里の外へ避難しろォっ!!!!」

 

 到底人間が出せる声量ではないそれは、確実に木ノ葉全域へと響き渡る。

 

 岩の巨人の肩でその声を聞いたその忍びは、火影屋敷からあふれ出る蛞蝓の大群を目にしそして

 

 口から血を吐く綱手と視線が合い、お互いに頷き合った。

 

 

 

 目に見えない力場を支える岩の巨人の身体に亀裂が走る。

 

「ッ八門遁甲……第一開門・開っ!!」

 

 即座にその忍びは大量のチャクラを解放し、巨人をより強固なモノへと変貌させる。

 

 

 

 しかし力場の及ぼす斥力は急激に増大して見せ、全てを押しつぶさんとした。

 

 

 

「ッ第二……ッ第三……」

 

 忍びからあふれ出るチャクラは、全て岩の巨人へと注がれその力場を押し返そうと腕を突き上げ続ける。

 

 斥力と押し合う力巨人。 その二つが生じさせる衝撃波が周囲の建物を薙ぎ払い倒壊させ、地面に無数の亀裂を走らせる。

 

 

 ……木ノ葉病院から逃げ出し、運び出される人々。

 

 

 まだ、里には多くの人が残っていた。

 

 

 斥力は容赦なくその力を増していく。

 

「第四……第五ォ……第六っ!!」

 

 応えるように巨人もその力を増し、押し返さんとする。

 

 

 斥力の中心にいる天道……それ操る大元、暁のリーダー長門は隠れている大樹の中で焦りを感じていた。

 

「この神羅天征にここまで抗うとはな……()()()、念入りに殺しておくべきだったか……っ!」

 

 その呟きの後、長門は両掌を合わせた印にさらに力を籠める。

 

 

 増大する斥力はとどまることを知らないかのように岩の巨人を押しつぶそうとする。 たまらず岩の巨人を支える片足が膝から砕け一気に態勢を崩すが

 

「ッ!! 第七……驚門……開っ!!!」

 

 その忍びは青い蒸気を纏い、岩の巨人へ莫大なチャクラを送り瞬時にその膝を再生して見せ大地を踏みしめる。

 

 

 忍びは周囲を気にかける。 

 

(まだ……まだ、避難は済んでいない……っここで俺が折れるわけには行かないんだっ!!)

 

 

 

 長門もその忍びも……口から血を吐きながらも互いに譲れないモノのためにその力の全てを注ぐ。

 

 

「「うおおおおおおっ!!!」」

 

 

 互いの全力は人知を超えた衝突を生んでいた。

 

 その光景を目にした誰もが、その力のぶつかり合いの途方の無さに絶望し逃げ惑う。

 

 大蛞蝓が里中をはい回り片っ端から人々を避難させ、里の外周に向け散らばるように避難を続ける中……

 

 一つの人影がその衝突の最中、里の中心へと駆けていた。

 

 

 

 里の外周へと避難を終えた人々は巨人と斥力とのぶつかり合いを眺め……里の壊滅を悟る。

 

「これが……忍び同士の……戦いだとでも言うのか……っ」

 

 里の中で未だに忍犬と共に、民間人の避難を行っていたカカシは思わずそう呟く。

 

 

 

 そしてその衝突の……勝敗の結果が出ようとしていた。

 

 僅かに、巨人の身体にヒビが入り始めていたのだ。

 

「っ~~~~~!!!」

 

 声にならない叫びと共に、忍びは力を籠め続ける。

 

 しかし

 

 無情にも、巨人の身体は崩れていく。

 

「……あと少しィ……あと少しなんだァ……!!」

 

 巨人は態勢を崩し、膝を地面に突き……今にも押しつぶされようとしていた。

 

 

 

 

「クっ──!」

 

 

 

 

 斥力に抗えなくなったとその忍びが悟った瞬間

 

 

 

 

「土遁・岩状鎧武っ」

 

 

 

 更なる衝突音が、里中に響く。

 

 里の中心で抗う岩の巨人の隣に……新たな巨人が姿を現していた。

 

 

 

 

 2人の巨人が、斥力に最後の抵抗を見せる。

 

「……ずっと信じてた」

 

 新たに現れた岩の巨人の肩に乗る、蒼鳥マリエはそう呟く。

 

「一度も疑わなかったわ……アナタは必ず……生きて……帰ってくるってことを!」

 

 涙を零しながらも、マリエは隣に立つ岩の巨人の肩の上へと目線を向けた。 そこにいる……その忍びもまたマリエを見つめる。

 

 窮地でありながら、見つめあう2人の顔には穏やかな笑顔と涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「おかえり悟ちゃん……っ!」

 

「ただいま……マリエさん」

 

 

 

 

 

 その忍び……黙雷悟は、今再び木ノ葉の地を踏みしめていた。

 

 かつて幼年期に建てた3つの目標の内の1つである『ペイン=長門による神羅天征からの里の損害の軽減』のために……

 

 

 

 

 

 

 




連続更新はここまでです。

次回更新は時間がかかりそうです。


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19:ライジング

ペイン六道襲来より、約1週間前……

 

 

 

 

 

 

(くそ! ……これでは……!!)

 

 雨隠れの里、その最奥から続いていた激しい戦闘は入り組んだ里内から外へと移動し終結しようとしていた。

 

 伝説の三忍の1人、自来也は単身暁のリーダーペインの潜む雨隠れの里へと潜入。 山椒魚の半蔵の統治から、密かに解放され新たにペインによる外敵に対して容赦のない統治が成されていた雨隠れ。 そんな中で、情報を集めていた自来也は暁のペインと小南に見つかり戦闘が勃発、そして窮地へと立たされていた。

 

 ペイン六道の秘密に苦戦し、その正体に気がついた自来也はしかし、あと一歩のところで黒い金属状の棒によって体の五ヵ所を貫かれ瓦礫の上にうつ伏せで倒れ込んだ。

 

(ペインの正体を……伝えなければ……っ!)

 

 苦し紛れにそう思考を働かせようとも、すでに自来也は急所を幾つも貫かれ喉も潰されている。 フカサクが叫び、自来也の薄れ行く意識を引き戻そうとしても既にその言葉は彼の意識に届いてはいなかった。

 

「────っ!」

 

 遠くに雑音のように聞こえるフカサクの声。 全ての感覚が黒く塗りつぶされていく中、自来也は無意識に己の半生を思い出していた…… 

 

 

 

 

 忍びは生き様ではなく、死に様の世界……思い返せばワシの物語は失敗ばかりだった。

 

 綱手に振られ、大蛇丸を止められず……弟子と師を守ることも出来なかった。

 

 ワシも……歴代火影の様に死にたかった……

 

 物語の結び……終わり良ければとは言うが……この様ではな。

 

 大ガマ仙人はワシを“変革者を導く者”と予言し、忍び世界の安寧と破滅を握る選択を迫られると仰った。

 

 しかし……ワシがペインを倒せず……暁も止められず、ここで死んでしまうということは……仙人の予言で世界は破滅へと向かってしまう…… 

 

 ……これが自来也豪傑物語結びだとはな……情けない……情けない……

 

………………

…………

…… 

 

 

~~~~~~

 

 

「自来也ちゃん!!」

 

 フカサクの必死の呼びかけに、自来也は反応を示さない。 既に心臓の鼓動は止まり、死者の様に体はその温かみを失いつつあった。

 

 フカサクが叫ぶ中、自来也の身体から離れたペインらは高所からその様子を見下ろす。

 

「……あの蛙の息の根も止めておく必要があるな」

 

 ペインの内の1人、ガタイの良い修羅道が天道の言葉に添うようにその右腕を構える。

 

 その時ふと気がつけばいつの間にか、死んだと思われていた自来也が息をして右手を僅かに動かしていた。

 

「心の蔵は止まっていたはず……あそこから吹き返すとは、流石は我々の師匠(せんせい)と言ったところか」

 

 天道の、混じりけのない尊敬の念。 しかし自来也がダイイングメッセージをフカサクの背に刻もうとしていることに気がつけば、容赦なくペインの修羅道が改造された右腕は撃ち放つ。

 

 所謂ロケットパンチがフカサクを穿とうと迫る。 フカサクもそれに気がつき、自身の背にメッセージを刻む指の動きが止まったのを確認して手を合わせた。

 

「暗号化したか」

 

 ペインがそう呟き、ロケットパンチがフカサクごと、足場を砕こうとした瞬間

 

 

 その右腕はその間に割り込んだ何者かのサッカーボールキックで、弾丸のごとく蹴り飛ばされ雨隠れの外壁の一部を吹き飛ばす。

 

 

 一瞬フカサクがその腕を蹴り飛ばした人物と目が合うと、その人物はフカサクの背に紙を張り付け……その瞬間フカサクは逆口寄せの術によりその場から煙を残して消え去った。

 

「……どういうつもりなのか……この状況、もはや聞くまでもないか」

 

 ペインのその呟きに、自来也の傍らに立つ人物はペインらを見上げ口を開いた。

 

「……今回ばかりは言い訳は通用しなさそうですねっと……まあ、するつもりも毛頭ないんですけど」

 

「まさかとは思ってはいたが……貴様が裏切るとはな()()()()……なるほど暁の夢に賛同したなどと、噓をついていたわけか……面白い」

 

「い~え? 私はその点については噓をついていませんよ……まあ」

 

 その瞬間、徐に天音小鳥は自身の両目に瞳に指をあてがう。 そしてそのまま黒いカラーコンタクトを取り去り、海面へと捨てた。

 

 その様子にペインらが疑問符を浮かべると、一瞬緑色に見えた天音の瞳が回転するかのように模様を浮かべ、その色を朱く変える。

 

 そして

 

「うぐ……っ!」

 

 ペインらの背後の壁で小さく呻き声が鳴る。 ペインらが振り向けば、壁から体を生やしたゼツがうなだれるように体をだらけさせ少しずつ壁の中へと埋まっていく様子が見て取れた。

 

「ホントは殺したいんだけど、今はせめてもの足止めを……()()()に余計な邪魔を入れられたくないしね」

 

 壁に埋まっていったゼツから視線を外したペイン天道は、天音を見下ろし口を開く。

 

「……写輪眼か……なるほど、お前はつくづく噓をつくのが好きなようだな……」

 

「好きじゃないですよ、リーダー。 聞かれなかったから答えなかっただけですぅ♪」

 

「減らず口を……それでどうする? ゼツに幻術をかけようとも、じきにそれも解け……自来也を助けに来たのであれば、それも既に死に体だ……今更貴様に何ができる? 別に目的があるのであれば、大人しく忍んでいればよいものを」

 

「聞かれたから答えますけど、自来也さんを助けに来ました……本当はもっと早く来るつもりだったんですけど、なかなか体調がすぐれなくてね……」

 

 天音は印を結び、出した影分身3人分で自来也の治療にあたる。 しかしペイン修羅道が体から幾つもの機械的な射出口をむき出しにして口を開く。

 

「我々がそれを許すとでも思ったか?」

 

 次の瞬間、修羅道から放たれる無数のミサイル。 天音は尾異夢・叉辺流を構え、迫りくるミサイルを刀身を一瞬だけ伸ばしたその斬撃で一歩も動くことなく切り落としていく。

 

 天音と自来也を乗せている足場から外れた位置で爆発が起き、海面の波を荒立たせた。

 

「……さて、我々を前にして調子のすぐれないお前がどれほど持ち堪えるか見せてもらおうか」

 

「さてと……勝負っ!」

 

 天音小鳥は足場から飛び出し、自来也に倒された畜生道を除いた五人のペインらに戦いを挑んだ。

 

 

~~~~~~

 

 

 爆発や建物群を揺らす衝撃。 天音とペインらの戦闘は既に並の忍びの領域を遥かに超越したものとなっていた。

 

 巨大なパイプで出来た壁の側面に立つ長髪細身の人間道と術を無効化にしてチャクラを奪う餓鬼道を蹴り飛ばしていく天音を天道は観察するように見つめる。

 

(自来也の延命と怪我の治療に3人分の高精度の影分身を出し、そのまま俺たち相手にもここまでやるとはな。 ……更に餓鬼道の忍術の吸収と人間道からの接触を避けて動くなど、六道の術に対しても知っているかのように動く……厄介なことこの上ないが)

 

「同時に限界も近いと見える」

 

 修羅道のカラクリによるミサイルや銃撃が、自来也を狙って放たれるがそれを察知した本体の天音が瞬時に足場へと戻りそれらを尾異夢・叉辺流で叩き落とす。 しかし

 

「……ぐっ!」

 

 弾き切れない細かい銃弾が天音の太ももや二の腕を穿ち、穴を開ける。 膝をつく天音だが、瞬時に立ち上がり修羅道に向かって切りかかっていく。

 

(守るモノ……それが奴の弱点となりダメージを蓄積させている要因となっている。 調子が良くないとは言っていたが、もはや限界も近いのだろう……)

 

 ペインらは深く踏み込むことなく、天音から致命的な攻撃を受けないよう受けの姿勢で戦いを続ける。 遠距離手段を持つ修羅道を守りながら、他のペインらが天音本体に牽制をしかけ着実に天音にダメージを負わせていった。

 

 ほぼ勝利の見える展開に天道が口を開く。

 

「もはや結果の見えた戦いだ……天音小鳥。 これ以上貴様が戦う理由などありもしないだろう、自来也を見捨て逃げることも出来るはずだ……なぜお前は戦う?」

 

 その問いかけに天音は叫ぶ。

 

「私がそうしたいからする!! それ以上も、それ以下もないっ!!!」

 

 既に助かるかどうかも分からない自来也の為にそこまでする天音に、ペインは

 

「無駄なことを……」

 

 そう呟き、そのままじわじわと天音を追い詰めていく。

 

 やがて修羅道の攻撃が自来也の治療にあたっている天音の影分身の1人を穿ち消し去ってしまう。

 

 自来也の身体から黒い棒が抜かれ、止血が済んだところだがもはや自来也にこの先を生き抜く力は残されてはいないだろうと傍から見ても分かってしまう。

 

「あきらめろ」

 

 天道からその言葉を投げかけられ、天音の本体は自来也を守るために立つその足場からその朱い瞳で睨みを効かせる。

 

「……私は後悔しないために動く、願望を諦めるなんて言葉は既に私の中にはないっ!」

 

「……そうか」

 

 天音の返事に、天道が右手を構える。 すると

 

 飛来する白い何かが、天音に迫りそれは尾異夢・叉辺流によって弾かれる。

 

 天道に寄り添うように、白い天使の羽のような物を生やした女性が舞い降りた。

 

「小南か……」

 

「ペイン、時間をかけすぎよ……裏切り者には早急に死を」

 

 天道と状況を把握している小南が言葉を交え

 

 そして…… 

 

 

 

 

「ゼツがいつまでも来ないと思えば、ここに居たか……それにどうやら奇妙なことにもなっているな」

 

 

 

 

 空間の歪から橙色の仮面をつけた忍びが姿を現す。

 

 その姿を見て、天音は顔を引きつらせた。

 

「……思ってたよりも大ピンチって奴かも……っ!」

 

 天音の様子を見てその仮面の忍びは

 

「あれれ~~? 天音小鳥後輩じゃないっすかーっ!」

 

 一瞬わざとらしく、明るい声を上げ天音に向け手を振る。 そして

 

「火遁・豪火球」

 

 刹那、凍えるような声と共に巨大な火球が天音を飲み込むように迫った。

 

「っ……! なりふり構ってられないかっ」

 

 天音がそういうと、手足に着けていた黒い輪の装飾を無造作に外し投げ捨てると全身に雷光を巡らせ、足場から飛び出す。

 

「八門八卦・剛天っ!」

 

 体を回転させながら、豪火球に突っ込む天音。 回転エネルギーで火球を爆散させるとともに、その勢いのまま超高速で跳び蹴りを放つ。

 

「死ね、トビっ!」

 

 しかし

 

「神羅天征」

 

 間に割り込んだ天道のその術が発生させた斥力が天音の蹴りを弾き、海面へと叩きつけた。

 

「……ふん、俺への攻撃は効かないと知っているだろう。 助けたつもりか?」

 

 いささか不満そうに低い声で言うトビのその言葉に天道は

 

「ペイン六道の正体を知っている節を見せる奴が、名指しで蹴りを放つ以上もしもがないとは限らない……お前の正体に気づいていると見て行動したまでだ」

 

 そう答えた。 トビはその返答に鼻で笑う、よほど自身の術に自信があるのだろう。

 

 その傍らで小南が無言で紙手裏剣を幾つも精製し自来也へと向け放つ。

 

 瞬間、海面から水柱が上がりその紙手裏剣を叩き落とした。

 

 その様子を見ていた小南は呆れたように呟く。

 

「水陣壁か……随分と頑丈なようね、あの子」

 

「ああ、だから俺も手を焼いた。 だがそれもここまでだ」

 

 小南と天道のその会話の中、水柱から海面の上に立つ天音が姿を現す。

 

 ダメージを負い肩で息をする天音は、背後の自来也に目を向ける。

 

(このままじゃ……っ)

 

 苦しそうな表情を浮かべる天音に、トビは声をかける。

 

「なぜお前が写輪眼を有しているのか一応気にはなるが……暁に楯突いたのだ、死んでもらおう」

 

 そのまま、再度超高速での印が組まれトビの眼前の空間が歪みを見せる。

 

 危機を察知した天音はその瞬間、背後の自来也に向け走りだす。

 

「火遁・爆風乱舞っ!」

 

 空間の歪から、爆炎が渦を描くように飛び出し周囲の空気を巻き込みながらその規模を瞬間的に増し

 

 海面と接触して大規模な爆発を発生させた。

 

 

 海面から水が巻き上がり、爆発の衝撃で周囲の建造物にヒビが走る。

 

 

 爆炎と、水蒸気による目隠しが消えればトビやペインらの眼下は爆発で荒立った海面の身しか映らず足場は消え失せていた。

 

 その様子に天道が無言のまま、海へと降り立ち海面へと手を添える。

 

 小南はそんな天道に声をかけた。

 

「どう……? 死んだかしら」

 

 その問いかけに天道はしばらく何かを探るように黙っていたが不意に

 

「……海中に目だった動きは見られない……時空間忍術でも使われていない限り、底へ沈んだとみて良いだろう」

 

 そう返答をした天道は小南とトビの元へと跳躍した。

 

 海面をしばらく見つめていたトビは

 

「……さて、では俺は戻らせてもらおう……やれやれゼツが暫く行動不能であれば、俺一人で動くしかないか……」

 

 そう文句を言うようにして、空間の歪へと吸いこまれるようにして姿を消した。

 

 小南は、トビに警戒していたかのように姿を消した瞬間に天道へと寄り添うように近づき耳打ちをする。

 

「本当に殺せたの?」

 

 再度天音小鳥と自来也の生死を確認する小南に天道は瞳を閉じて応える。

 

「……身体能力活性での海中移動であればその痕跡は大きく残るだろう。 痕跡が感じられず、時空間忍術に長けているであろうマダラが反応を示さないことを見るに状況的には死んだと見て良いが……」

 

「……確信が持てないのね」

 

「奴は……嘘つきだからな、どんな手を隠し持っているか想像がつかない。 生きて再度俺たちの前に立ちはだかる可能性も視野に入れて動いた方が良いだろう」

 

 消化不良のような感覚に苛まれながらも、ペインらと小南はそのまま引き上げていった。

 

 

~~~~~~

 

 

 雨隠れの里を覆う海に隣接するとある浜辺。 そこで一つの人影が仰向けの状態から勢い良く起き上がり、辺りを見回す。

 

「……何か助かってる……それに」

 

 ブツブツとその人影の正体である天音は隣に流れ着いている自来也に目を向けると、素早く状態の確認を行う。

 

「辛うじて息をしてる……あの状況からどうやって……もしかして」

 

 自分たちが助かったことに疑問を感じているかのように、天音は自来也へ掌仙術をかけながら心当たりを探る。

 

(多分起きてると思うけど……あーあー、()……聞こえる?)

 

 正しく自分の知らない間にどうにかできそうである人物にそう語りかける天音。 心の中への語りかけには反応があり

 

(──君、心中でも女の子みたいな声になってるから正直話したくないんだよね……何のようだい?)

 

 気怠そうな声が返ってきた。 その返答に天音は

 

(何かピンチの状態から助かってたんだけど、黙の仕業かなって……)

 

 話したくないと言われ、若干傷つきながらも自来也へ施す治療の手を緩めることなく話を続ける。

 

(仕業と言われてもねぇ……僕は何もしてないよ、眼を覚ましたのもついさっきさ。 それよりも、()……わかってるとは思うけど今の自来也様の容体だと、そう長くは生きられない。 しばらくすればペインがナルト君を狙って木ノ葉に襲撃をかけるはずだけど、現状自来也様の治療と火の国への移動を両立するのは厳しいってことはわかっているかい?)

 

 確認するかのような口調の黙の言葉に天音は、掌仙術を発動したまま自来也の身体を抱きかかえる。

 

(どっちもして見せるよ……どちらも私のしたいことだからねっ!)

 

 黙の言葉に、自信満々に答えを返した天音はそのまま隣接する森の中へと歩き姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

(ねぇ……せめて僕との会話の時くらい口調を直したらどうだい?)

 

(ほら……小雪からもらったアドバイスで、心の中でも役になり切れって言われてたから)

 

(ああ、そんなこと……確かに君が彼女から食事を食べさせてもらってるときに話してたような気が……僕と同じ声で、女性らしいトーンと口調をされると本当に気味が悪くて仕方がないよ)

 

(ごめんごめん……多分あと少しの辛抱だからね?)

 

(ハァ……しばらくは起こさないでくれよ?)

 

 

~~~~~~

 

 

 翌日早朝。 木ノ葉の里のとある居住区の一室でうずまきナルトはベッドにうつ伏せでうずくまった目を覚ます。

 

 前日にサスケと暁であるイタチを捜索する隊を編成し、その後トビと遭遇。 トビがサスケの存在を示唆するかのような言葉をちらつかせたが、イタチとサスケの戦闘の跡にたどり着いた木ノ葉の小隊らは、しかしサスケの存在を捕えることは叶わなかった。

 

 そんな中トビと遭遇する前にナルトはうちはイタチの分身と一対一で遭遇しており、その時交わした会話を振り返っているうちにいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 

 ナルトは自身が目を覚ますきっかけとなった物音に聞こえる方へと目線を向ける。 するとそこには窓を叩くはたけカカシの姿があった。

 

「なんだ……カカシ先生か……」

 

 寝起きで調子の出ないナルトの言葉にカカシは

 

「五代目がお呼びだ、すぐに支度しろ」

 

 妙に落ち着き払った感情の起伏の無い言葉でそう告げた。 カカシの様子に違和感を覚えたナルトだが、仕方なく取りあえずの支度だけして自身の部屋を出るのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 ナルトが火影屋敷に近づくと、直ぐに違和感に気がつく。 それもそのはず、普段里では見ない図体の大きいガマブン太の姿が目に入ったからだ。

 

 屋敷の傍の彼には狭い空間に佇むガマブン太にナルトは声をかける。

 

「アレ……ガマオヤビンに……ガマ吉か? どうしたんだってばよ?」

 

 ガマブン太の頭の上にいる息子のガマ吉の存在に気がついたナルトの声掛けにひょこっと顔を出したガマ吉が深刻そうな顔で答える。

 

「実はのう──」

 

 しかし

 

ガマ吉! おめーはいらんこと言わんでええ! (かしら)と綱手に任しとったらえーんじゃ!

 

 ガマブン太の図体通りの大きな声がガマ吉を制止し、その様子にナルトはただ疑問符を浮かべるのみであった。

 

「一体なんだってばよ?」

 

「いいから行くぞ」

 

 そんなナルトに、カカシは先を急ぐように足を進めたのであった。

 

 そのまま2人が火影室へと前へと着き、中に入ると既にサクラとサイがおり綱手の隣にはシズネと、ナルトの見慣れないガマたちがナルトへと目線を向けた。

 

「…………?」

 

 現状を把握できないナルトが戸惑っていると、ガマたちの中で一際体格の小さいフカサクが口を開く。

 

「この子が自来也ちゃんの弟子か?」

 

 その問いかけに綱手が答える。

 

「はい……これがうずまきナルト……その話の予言の子でしょう」

 

 そんなやり取りにナルトは

 

「じじいの蛙……? 予言って……」

 

 何も考えずに思ったままの言葉を口にすると綱手が語気を荒げる。

 

「コラ! 口を慎めナルト! こちらは妙木山の二大仙人の1人フカサク様だ。 お前に用があってわざわざお越しになったのだ!」

 

 妙に様子が変な綱手の言葉に、ナルトは何時もの調子で返答をする。

 

「こんなのが仙人……? エロ仙人のこと自来也ちゃんって言って子ども扱いだし、綱手の婆ちゃん冗談も──」

 

「口を慎めと言っている! ……この方は自来也の仙忍術の師だ」

 

 しかし綱手からのその言葉で、ナルトは驚き目線をフカサクへと向ける。

 

 そんなフカサクはナルトの言葉に

 

「ハハハ! エロ仙人とは自来也ちゃんらしい慕われ方じゃ」

 

 軽く笑って見せた。 そんな蛙から、何か用があると言わんばかりの様子にナルトが己の中の疑問を口に出した。

 

「……んでそのエロ仙人の師のじじい仙人が、一体俺に何の用だってばよ?」

 

「どこから話せばええのか……そうじゃの取りあえず言っておくが……」

 

 少し困った様子のフカサクは、考えた後の言葉を放つ。

 

 

 

 

「自来也ちゃんが戦死した」

 

 

 

「……………………は?」

 

 その言葉が持つ意味を直ぐに理解できなかったナルトは、思わず口から一言だけ言葉が漏れる。 そして、その言葉を聞いた周囲の人間の様子を確認しようと見渡すと……皆がナルトへとその眼を向けていた。

 

「な、なに……何いってんだよ……」

 

 じわじわと言葉の意味がナルトの中へと染みわたり、その拒否反応がナルトを苛む口から漏れ出る。 

 

 しかしそんなナルトにお構いなくフカサクは自来也が雨隠れへと潜入したあらましから喋りはじめ、ナルトはただその言葉の中身が通り過ぎるのをただじっと眺めていることしか出来なかった。

 

 

~~~~~~

 

 

 フカサクが己の背に刻まれた暗号を見せ、言葉を繋ぐ。

 

「……以上が自来也ちゃんの全てじゃ」

 

 フカサクの話が終わると、少しの沈黙の後虚空を見つめるように床に目線を落としたままのナルトが小さく呟く。

 

「……バアちゃんが行かせたんだな……」

 

 その言葉に綱手は

 

「…………そうだ」

 

 少しの間を置いて答えた。 

 

 その返答にナルトは一瞬綱手を睨み、拳を強く握る。

 

 が、開きかけた口を閉じその場から踵を返す。

 

「ナルト」

 

「ナルト、どこに……!?」

 

 心配するかのようなサイト、サクラの問いかけにナルトは振り返ることなく

 

「……放っておいてくれ」

 

 震える声でそういって、火影室から静かに出ていった。

 

 そんなナルトを追いかけようとするサクラだが

 

「サクラ、いい……少しそっとしておいてやれ」

 

 綱手の制止の言葉に「でも……」と言いながらも、引き留められた。

 

 ナルトの様子を見ていたフカサクは

 

「自来也ちゃんを慕い、それでいて綱手ちゃんの気持ちにも気づいておる。 優しい子じゃ……」

 

 そういい静かに目を瞑る。 カカシはそんなフカサクに

 

「すみませんフカサク様、ナルトとはいずれまた」

 

 そう言い

 

「ああ……それでええ」

 

 フカサクも納得した様子を見せた。

 

「自来也ちゃんが導くべき予言の子……それがあの子であって欲しいとそう願わずにはおれんの」

 

 フカサクがそう言うと綱手も静かに頷き、しかし

 

「……さて、フカサク様……例の手紙の件についてですが」

 

 切り替えるように話を切り出すとフカサクが懐から一枚の紙を取り出す。

 

 カカシやシズネもその紙の存在を知らず、目線を向けるとフカサクがその紙に書かれた文字を部屋の者に見えるように向ける。

 

 その文字をサクラが読み上げた。

 

「ナルト、妙木山、間、敵、里襲来、警備セヨ……他には、孤立スルナ……近ヅクナって警告みたいな言葉の羅列ばかり……師匠これって……」

 

 サクラの問いかけに綱手が頷く。

 

「……フカサク様にはナルトのために妙木山で修行をつけていただく手筈になったのだがな……その話の後にフカサク様が私にその紙をお見せになった」

 

 綱手に続きフカサクが、口を開く。

 

「自来也ちゃんから暗号を受け取り、逆口寄せで戦場を離れる瞬間……何者かにそれを背に張り付けられての」

 

 そう言って手に持つ紙をシズネに手渡す。 そのまま綱手へと紙が渡ると、綱手はその紙をまじまじと見つめる。

 

「……その何者かについて、フカサク様はご存じないのですか?」

 

 カカシがそう尋ねると、フカサクは困ったように首を捻る。

 

「如何せん一瞬のことじゃったからの……一瞬目が合ったが、瞬間口寄せが発動したせいでほぼ姿を見ておらん……強いていうなら」

 

「強いていうなら……?」

 

 綱手の相槌の後にフカサクが思い当たる節を口にした。

 

「ペインらと同じような衣を羽織っておったようにも思えなくはない……しかし模様がひどく歪んで見えたからのぉ……」

 

 自分の見た物に自身がないのかフカサクは、酷く言い淀んでいた。 ……自身の年が原因で老眼だとか、付き添いのガマたちに言われたくはないのだろう。

 

 しかし、その言葉に心当たりがあるのかシズネ以外がハッとして顔を見合わせる。

 

「……え、どうしたんですか皆さん……!?」

 

 急な場の変化にシズネがあひーっといつもの焦りを見せると、綱手はキッと目線を鋭くしてシズネに命令を出す。

 

「シズネ、今すぐにシカマルを呼んできな……フカサク様も闘ったペインらの動きについてもう少し詳しくお聞きしてよろしいですか?」

 

 綱手の変わりようにシズネも迅速に動き、フカサクも小さく驚きながら了承を出す。

 

「……その紙の内容を信じるんですか?」

 

 カカシの確かめるような言葉に、綱手は小さく鼻で笑う。

 

「……()()()がその紙をわざわざ貼るためだけにその場に現れたとすればその行動自体が暁側からしても不自然だと考えて妥当だろう? それほどのリスクを冒してもたらされた情報だ、問題の出ない範囲で善処する価値はある」

 

 綱手の眼は勝負師の炎を灯していた。

 

(いいようにやられるだけが、木ノ葉じゃない……自来也、アンタの仇絶対に取って見せる……っ!!)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 一方、火影屋敷を後にしたナルトはフラフラと覚束ない足取りで行く当てもなく足を動かす。

 

 まるで世界が白黒に染まったかのような喪失感を抱きながらナルトは、自来也とのかつての思い出を振り返っていた。

 

 口寄せを教えてもらったこと、一緒に綱手を探しに行った旅の事、螺旋丸の修行やサスケを連れ戻すために強くなると誓った病院でのやり取り。

 

 力を求める自分をたしなめる様に、自分の子どもと接するように温かく接してくれた数年間の旅の思い出。

 

 それらがナルトの心を、酷く締め付けた。

 

 そんな自分の苦しみに息を忘れそうになり、呆然としながらもナルトは

 

(……俺でこんなに苦しいのに……バアちゃんは……ッ)

 

 綱手の胸中を推し量り、更に言葉に出来ないモヤモヤが心を曇らせる。

 

 ふとそんな時

 

 

「よっナルト!」

 

 

 懐かしい声がナルトへとかかる。

 

 ゆっくりとナルトが目線を上げると、そこにはうみのイルカが立っていた。

 

 イルカはナルトの様子がおかしいことに気がつきながらも、歩み寄り肩を叩く。

 

「最近、活躍してるって噂聞いてるぞ? 久しぶりに一楽でラーメン食いながら話でもしないか?」

 

 そんな励ますような明るいイルカの言葉にナルトは目線を合わせずに

 

「やめとく……」

 

 そう一言だけ返事をして、そのまま歩み去っていった。

 

 イルカは、そんなナルトの背を見つめることしかできず……ナルトはその日、当てもなく里を練り歩くことしかできなかった。 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 日が沈み、ナルトは用意したカップラーメンやお茶に手を付ける気にもならず自室を後にする。

 

 当てもなく、押し寄せる感情の渦にがむしゃらになる気持ちもわかないナルトは夜の里を日中と同じくただ歩きまわる。

 

 ふと目に入った24時間営業の商店の中に、ナルトの目を引くものがあった。

 

 自来也との修行の日々の中で、ふと彼に分け渡された冷たい氷菓子。

 

 一つの氷菓子に二本の木の棒が差され、誰かと分け合うことが前提となったその商品をナルトはかつて自来也に中身を消費された過去を持つボロボロのがま口財布からお金を出して購入した。

 

 

 

 商店を後にして、ナルトは街灯が照らすベンチへと腰を掛ける。

 

 静かな夜の里で、音もなくナルトはそのアイスをただ剝き出しにして手に持ち思い出に浸る。

 

 アイスから滴る水滴と、ナルトの目から落ちた涙が地面に後を作った。

 

 そんなとき、不意にナルトに声がかかる。

 

「ナルト」

 

 日中と同じ、イルカの呼びかけにナルトは目線だけイルカへと無言で向けた。

 

 黒い普段着の装いのイルカはそのままナルトの隣へと座る。

 

「……自来也様のことは聞いたよ」

 

 イルカのその言葉にナルトは、眼がより熱くなる感覚を感じながらもつらつらと言葉を口にし始めた。

 

「……俺のこと、ずっと見てて欲しかった……俺が火影になるとこ見ててもらいたかったのに……エロ仙人には、かっこわりーとこばっかしか見せられなくて……」

 

 悔しさからか顔が歪み、ナルトの頬を伝う涙の線はその起伏が激しく波打っていた。

 

 そんなナルトにイルカは

 

「……自来也様はお前のことをいつも褒めてたよ」

 

 そう語りかけた。

 

「……いつのまに……?」

 

 イルカの言葉に疑問を感じたナルトだがイルカはそのまま口を開いた。

 

「お前がサスケを連れ戻せなくて、病院に居た時や……それから修行の旅に出るまで……そして帰ってきてからも、俺にお前の事を良く話しに来てくださってたんだ……最初は俺からお前の事を話すことも多かったんだが……次第に自来也様からお前を褒める話ばかりになってな」

 

 軽く困ったかのように笑って見せたイルカに、ナルトは鼻をすすりながらも照れるようにして「……へへ」と小さく笑顔を作る。

 

「自分の孫の成長を見守るように……いつも鼻高々に話していて……お前が自分の意志を継ぐ存在だと信じて疑わなかった。 ……必ず火影になって世の中を良くしてくれるってな」

 

 そう言いながらイルカはベンチから立ちあがりナルトの間に立ち、屈む。

 

「自来也様はお前をずっと見ているさ、これからも。 ……だからこそ、今まで通り……いや今まで以上にお前はお前らしくいればいいんだナルト」

 

 イルカはそっとナルトの手から氷菓子を手に取りそれを二つに割って見せた。

 

「なんせお前はあの自来也様が認めた優秀な弟子なんだからな」

 

 イルカは氷菓子の一つをナルトへと差し出し、ナルトは涙を拭きながらそれを受け取る。

 

「……ありがと、イルカ先生」

 

 涙に目を腫らしながらも、ナルトは歯を見せるようにはにかんで見せた。

 

 そのナルトの笑顔にイルカは満足したかのように立ち上がった。

 

「大丈夫だ、それになんたってお前は俺の生徒でもあるんだからな! ヨシ、それじゃあ早く寝ろよ! 寝る時は暖かくして──」

 

「だぁもう! 分かったってばよ、イルカ先生!」

 

 イルカのお節介にナルトが困り気味に制止をかけるとイルカは氷菓子を一口かじって、手を振りながら夜の里に姿を消していった。

 

 笑顔を見せながらいなくなったイルカの姿を見送るとナルトも、氷菓子を一気に頬張って自身の頬を叩いた。

 

 自来也が褒めてくれていた明るい自分を見失わないようにと。

 

「……ヨシっ!」

 

 そうナルトが気合を入れた瞬間

 

 

 

「ナルト君……?」

 

 

 

 

 不意に背後から声がかかり、ナルトが驚いて振り向くと

 

 

 日向ヒナタが立っていた。

 

 

「ひ、ヒナタか……急に声かけてくるからビビッたってばよぉ……」

 

 ナルトが胸をなでおろす仕草をしてヒナタに目線を向けると、白い薄着の寝巻の姿のヒナタに一瞬目を奪われる。

 

「ッ……」

 

「大丈夫? ナルト君……その」

 

 感情の角が取れようとも、それが直ぐに平気な状態になるわけでもなく、混乱してしどろもどろになるナルトにヒナタは心配そうに駆け寄る。

 

 しかしナルトは自身の中に渦巻く感情の中に芽生えそうな別の感情に気づかないように、ヒナタに制止するよう掌を向ける。

 

「ま、待ってくれってばよ……ヒナタは何でこんな時間に出歩いてんだ?」

 

 苦し紛れのナルトの質問にヒナタは

 

「ナルト君の様子がおかしいって、人伝に聞いて……もしかしたらって思って」

 

 素直にそう答えた。 自分を心配してくれることに感謝をしつつもナルトは

 

「あー……まあ、辛いことがあっただけでヒナタがそう心配することでも──」

 

 何とか穏便に済ませられないかとヒナタに心配はないと伝えようとする。

 

 しかし

 

 ふいにヒナタが近づき、ナルトを抱擁する。

 

 あまりにも流れるかのようなヒナタの動きにナルトが自身に抱き着かれていることを認識するのに一瞬時間がかかりその間にヒナタはナルトの頭を撫でる。

 

「……無茶はだめ。 辛いことがあったってわかるから……ちゃんと見てるから……ね」

 

 落ち着かせるようにゆっくりとそう語りかけるヒナタにナルトは

 

(ああ……あったけぇ……何だろう……今まで感じたことのない……この落ち着く感じ……)

 

 先ほどまで慌てていたことも忘れ、ただヒナタの抱擁を受け入れその心地よさに身を委ねていた。

 

 少しの間、ヒナタの腕に抱かれていたナルトがだ不意に

 

 

 ぎゅるぎゅる~~~~ッ

 

 

 とお腹の鳴る音が響き、我に返る。

 

「っ~~だぁー! ダメ、駄目だってばよ!」

 

 暴れるようにして抱擁から抜け出したナルトにヒナタが目を丸くする。

 

「だ、大丈夫ナルト君? そんなに慌てなくても……」

 

「ヒナタ、お前悟と婚約してること忘れてねぇか!? 俺、昔は婚約とか意味わかんなかったけど今はこういうのしちゃダメだってことぐらいわかるってばよォ!?」

 

 ワタワタとヒナタから距離をとるナルトに、ポカンとした様子のヒナタ。 そのままナルトは言葉を連ねる。

 

「悟が生きてるかどうか分からないってのは確かに辛ぇーかもしれねぇけど、そういう……自暴自棄ィ? みたいなことは良くないと俺は思うってばよ、うん!!」

 

 早口でそう語るナルトに、ヒナタは納得の行った表情を浮かべる。 そして

 

「ナルト君に、少し話したいことがあるの……ちょっとだけ(うち)に来てくれる?」

 

 そうナルトを誘った。

 

「へ?」

 

 

~~~~~~

 

 

「へ?」

 

 再度放たれたナルトのそのマヌケな言葉にお構いなく、ヒナタは日向の屋敷の自身の部屋である巻物を広げる。

 

 あまりの展開っぷりに正座のナルトが呆然としているとヒナタは巻物のに押されている血印の一つを指さして口を開く。

 

「これが、私と悟君の婚約の指印なんだけどね」

 

(俺ってば、何見せられてんだ……????)

 

 ヒナタの言葉に、ナルトは意味も分からず内心何故か泣きそうになりながら、言われるがままその血印を見る。 そこには2つの小さな親指で押された血印があり

 

(……本当にあの頃の……むかしのやつなんだな……)

 

 とナルトがそんなことをしみじみ思っていると

 

「この婚約の指印は契約者がどちらかでも死ぬと、破棄されるようになってるの」

 

 そうヒナタはナルトの目を見て話す。 その言葉が表すことはつまり

 

「えっと……じゃあ悟は生きてるってことか……!」

 

 驚きの展開ばかりだったナルトだか、それ故に驚きの事実を以外にもすんなり受け入れることが出来た。

 

「そう、だから……だから……?」

 

 するとここまでするすると話を進めていたヒナタの言葉に乱れが生じ始めた。 おおよそ自分のしでかしてきた行動言動の意味を落ち着いて把握し始めたのだろう。

 

「お、オウッ……だから……?」

 

「うん……だから……?」

 

「……?」

 

「……?」

 

 お互いに目を合わせて、お互いに顔を傾け疑問符を浮かべる2人。

 

 

 瞬間スパーンとヒナタの自室の襖が開く音が響いた。

 

「姉様!! ナルトさん!! 今日は取りあえず、夜食を食べてお開きにしましょう!!」

 

 不意にそう言いながら現れたのは日向ハナビであった。

 

「ハナビ!?」

 

「おお!?」

 

 突然の来訪者に体をビクつかせる2人だが、ずかずかと入り込んできたハナビに手を引かれナルトとヒナタは別室に連れられそこに用意された軽めの食事の前に座らされる。

 

「?」

 

「?」

 

「私お手製です! マリエさんの所に出入りしているので、味の方は保証しますよ。 それを食べたらナルトさんは帰ってくださいね!」

 

 展開の凄まじさに混乱しながらも、ナルトとヒナタは合わせて手を合わせる。

 

「「いただきます……?」」

 

 もはや通常の思考をしていない2人は、大人しくその出された食事を口に運ぶのであった。

 

 

 

 

 

「全く……あのベンチのあった所から屋敷まで、姉様ったら一緒に居た私の存在忘れて突っ走るんだから……世話が焼けるなぁ……フフフ」

 

 

 

 

 



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20:信頼と感情とトラウマ

「まさかここまで……とはなっ」

 

 細くやせ細り、アバラの浮き出た体で手に力を籠める長門は1人そう苦しそうに呟く。

 

 木ノ葉の里から少し離れた場所で、ペイン六道を操る本体である彼は輪廻眼の能力で天道の視界に映る光景に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。

 

 全てのチャクラを天道に集中して放った神羅天征はあろうことか、二体の岩の巨人に押しとどめられてしまっている。 そんな状況は長門にとっては想定外のモノであった。

 

(九尾の人柱力、うずまきナルトの情報を得るために仕掛けた此度の襲撃は先読みされていたかの如く木ノ葉の里の忍びどもに躱され、あろうことか一掃するための俺の術すらも裏切り者に止められている……っ。 ここで押し切れたとしても、少しの間ペインを動かすことは叶わないだろう……最悪撤退も視野にいれるべきか?)

 

 先の見えない、神羅天征と岩状鎧武との押し合い。 長門が一度引くことも視野に入れ始めた時、天道の視界にある光景が映った。

 

 それは片方の鎧武の肩にのる天音小鳥が口から血を流し始め、そしてその黒髪が根元から段々と白く変色し始めている光景であった。

 

 途端に、神羅天征に反発する力が弱まるのを感じ長門はそれを好機ととらえより一層の力を籠める。

 

「知れ……っ! 絶対的な力による抑止力を……っ痛みによる世界の救済を……っ!」

 

 

~~~~~~

 

 

「ぐふッ……!」

 

 天音小鳥……もとい黙雷悟は、口から血を吐き態勢をよろめかせる。 鎧武を操る彼のチャクラが乱れていることは、隣の鎧武の肩に乗る蒼鳥マリエにはすぐにわかることで

 

「悟ちゃんっ! 大丈夫!?」

 

 直ぐに彼を心配する声が聞こえた。 その言葉に返事をするように悟はマリエに目線を向け、ニコッと笑顔を見せた。

 

「……あと少しです、俺の感知範囲に捉えられる生体反応は残り僅か……綱手さんと、カツユさんが避難を優先してくれてる……あとホンの1、2分耐えれば良いんです!」

 

 希望を失ってはいないと、震える鎧武の姿勢を固定させるようにチャクラを送り込む悟。 実際彼は八門遁甲、第七驚門まで開けその莫大なチャクラを使って鎧武を作成している。

 

 その頑強さは、マリエのと比べても数倍のものでありそんな出鱈目な出力を持ってしないとせき止められない神羅天征はとてつもない威力を誇っていることが良く分かる。

 

 マリエも自身の力添えが、僅かなものでしかないと理解していた。 しかし、それが無かればとっくにこの押し合いが終わってしまっていたというシビアな状況をも同じく理解し己の全力を持って術を行使している。

 

 そんなマリエは、自身も全力による術の行使の苦しさに耐えながらも笑顔を見せ、口を開いた。

 

「悟ちゃん……随分と可愛らしい声になったわね……昔も中性的だったけど、今はより女の子みたいよ……っ」

 

 そんな場違いにも思えるマリエの言葉に悟は顔を紅くして答える。

 

「……数年間、ずっと女性の話し方とか声のトーンを意識してたせいで、ちょっとやそっとじゃ治らないんですよ……っ!」

 

 恥ずかしそうにしながらそう答えつつも、その鎧武の力は更に増していた。

 

「髪も……黒く染めたの? 今も段々と昔みたいに白く変わっていっているけど、その……頭皮にダメージとかいってない? 大丈夫?」

 

「もしかして禿げるとか心配してます!?!? 大丈夫ですよ!!! ……多分。 髪色が変わるのは、色々事情があってそうなってるだけですっ!!」

 

 場に似つかわしくないような、そんな気楽さを感じさせる会話の内容。 しかしそれでも、その何気ない会話が2人に更なる力を振り絞らせる。

 

「……俺の声が意識して治らないのとか、まるで前の……1人に戻ったばかりで口調が乱れていた頃のマリエさんみたいですよね。 ……今なら当時のマリエさんの気持ちがよく分かりますよっ! ていうか、いつの間にか忍術使えるようになってたんですね!」

 

「施設の地下に、空間を作ってそこで鍛え直してたのよ……! 鬼さんや白ちゃんとか、たまにカカシ君も手伝ってくれたわ……っ! これでも全盛期の私には遠く及ばないんだけどね!」

 

 会話を続ける2人は、気力を絞り出し何とか神羅天征を押さえ続け……二体の鎧武が威力の増した神羅天征に押され両方ともが片膝を着いた瞬間、悟は何かに気がつきその瞳を僅かに輝かせた。

 

「……っ! 里の内部から、人の気配が消えた……避難が終わったんだっ……マリエさんっ!!」

 

「なあにっ?!」

 

 悟の歓喜の声とその呼びかけに、マリエは耳を傾ける。

 

「里の皆の避難が完了したようです!! もう、この術を押さえる必要はありません!! 俺に構わず先に避難してください!!」

 

 必死にそう叫ぶ悟。 しかしマリエにはその要求は飲めるものでなかった。

 

「……駄目よ! 私が今この場を離れたら、貴方がもろにこの術を喰らってしまうわ!」

 

 悟を残して逃げるという選択肢などないマリエは、更に踏ん張ろうと力を籠める。

 

 そんなマリエを見て、悟は彼女のその意思が容易く折れることはないと直ぐに理解してしまった……それは悟がそれだけマリエの事を理解していることの証明でもあるのだが。

 

(いくら俺に直撃喰らっても死なない算段があると伝えても、マリエさんは少しでも俺への負担を減らそうと最後まで残り続けるはずだ……っ! ……こうなったら……!!!)

 

 マリエの避難が遅れれば、遅れる程彼女へかかる負担はより大きくなる。 もし限界が来て鎧武が崩れた時に彼女が神羅天征の直撃を喰らえば、ひとたまりもないと悟は考えとある行動を起こすことを決めたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の里の外周では、前代未聞の襲撃とのぶつかり合いを固唾を呑んで見守る人達で溢れていた。

 

 そんな中、里の出入り口である大門付近で言い争いの光景があった。

 

「どうして奴を通した!」

 

 1人の中忍がテンテンの胸倉を掴み上げ、必死の形相で怒鳴り散らしていた。

 

 そんな相手にテンテンも、相手の腕を抑えるようにして自分の考えを伝えようとしている。

 

「天音小鳥は……黙雷悟なのよっ! 私たちの味方なのっ!」

 

「そんなこと、分からないじゃないかっ!? 暁に加担してアスマさんを殺した奴が今更帰って来て何をするってんだっ!!」

 

 そんな風に言い合う中忍とテンテン。 2人を囲む忍びらも、互いに意見が食い違い言い合いになっていた。

 

 かつての黙雷悟を知る者。 暁として風影誘拐や、猿飛アスマ殺害の容疑がかかっていることを知る者。

 

 様々な側面をそれぞれ知る者同士が、己の胸中をさらけ出していた。

 

 そんな中

 

「っ! 何をしているこんな時に、仲間同士で争うなっ」

 

 日向ネジが言い争う二人の間に割って入り、仲裁を図る。 周囲での争いも、リーが仲裁に努めていた。

 

「ネジっ!」

 

 テンテンはネジの存在を確認すると、駆け寄り手に持ったその筒を手渡す。

 

「っ……これはっ!?」

 

 ネジの手に渡されたその筒には……2つの眼球が収められていた。

 

「天音小鳥が持っていた、父上の白眼か……っ! 何故これをテンテンが……」

 

「悟だったのよ……っ! 今も里の中心で必死に戦ってくれている!」

 

「……なに?」

 

 テンテンの必死に語る姿。 そしてネジ自身が己の白眼で、里の中心で抗う二体の岩状鎧武を確認する。

 

「……っ」

 

 何か思うところがあるのか、ネジが歯を食いしばるとネジの目の前の中忍が叫ぶ。

 

「悟だか何だが知らないが、暁のせいで里がこんなことになってるんだぞ!? 俺はアイツを……許せないっ!!」

 

 中忍のその言葉に、テンテンが苛まれ顔を曇らせる。 天音小鳥が黙雷悟であったなら、少なくない犯罪行為を働いていたことは事実であるからだ。

 

 悟への不信感が積もり、その勢いが増していく。 そんなとき

 

 

 

 

「黙雷悟は……暁へ送った木ノ葉からのスパイだ……火影である私の命令でな」

 

 

 

 

 確かな足音を響かせ、五代目火影綱手が姿を現す。 その様子は、額に汗を滲ませあまり余裕の見られない姿であったが火影としての毅然とした態度は周囲の者の不安を一瞬で打ち消す。

 

 綱手の言葉に、ネジが問いかける。

 

「その言葉……本当なんですか?」

 

「ああ、隠していてすまなかったな……木ノ葉からの抜け忍であるうちはイタチの監視の為に私が命じたことだ」

 

 綱手はシッカリとネジの目を見てそう答えた。

 

 綱手に付き添って来ていたシズネは(まあ、噓なんですけどね……綱手様も天音小鳥が悟君であったということは先ほど気がついたばかりのことなので……)とその綱手が自信満々についている噓にひやひやしながらも、周囲にいる怪我人を素早く見て回っていた。

 

 綱手はそのまま言葉を続ける。

 

「……あの規模の術のぶつかり合いだ。 決着がどうであれ木ノ葉の殆どが壊滅すると見て良い……だからこそ、ここから立ち上がるために仲間を信じるんだっ!!」

 

 綱手の呼びかけにバラバラになっていた里の者たちの心が一つへと纏まっていく。

 

「綱手様……っ!」

 

 その確固たる姿に、綱手に憧れるテンテンが尊敬の眼差しを向けるとその瞬間

 

 

 

 

「テンテン助けてくれぇっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 里の中心から、先ほど綱手が発した避難勧告と同等の声量で助けを求める声が響いてきた。

 

 若干の情けなさも含まれたその言葉が、誰が、どこで発したかなどは一目瞭然というものでありすぐさまにテンテンが大門から、遠くに見える鎧武の背へと目線を向ける。

 

「悟……っ!」

 

 テンテンがその名を口にすると、綱手はテンテンの背を叩き

 

「行ってやれ……」

 

 そう言って背を押した。 綱手の言葉に

 

「はいっ!」

 

 テンテンは勢いよく答え、大門の間に立つのであった。

 

 そしてそんなテンテンの脇に、班員であるネジとリーも並び立つ。

 

「行くとは言うが……あの岩の巨人の背に位置する場所以外は衝撃波で建物も殆ど吹き飛ばされているぞ……容易に近づけるものではない」

 

 ネジが危険な行為をしようとしているテンテンを心配するように声をかける。 同じくリーも

 

「ええ、かなり離れているこの位置でも伝わってくる凄まじい振動と衝撃……僕ですら、真っ直ぐとあそこに近づくのは無理でしょう……どうするつもりですか、テンテン」

 

 その行動の危険さを考えテンテンに確認を取る。

 

 2人からの心配に、テンテンは恐怖で震える両手に持った2つのクナイを見つめ握りしめる。 覚悟を持ちその恐怖を勇気へと変え…… 

 

「飛雷神の術で……あの岩の巨人の背に移動すれば、衝撃波は直接ぶつからずに済むはずよ……」

 

 自身の作戦を伝えた。 しかしその言葉に、ネジは難色を示す。

 

「お前の飛雷神の術はまだ遠距離の転送が上手くできない未完成であることは俺も知っている……っ! 時空間忍術の類で失敗すれば、下手をすればそのまま無駄死にになるぞ。 俺はお前にそんな無茶をさせたくはない……それにあそこに飛ぶためのマーキングもないだろう?」

 

 そう諭すかのように語りかけるネジだが…… 

 

 

 テンテンの目に宿る光は、一歩も引くことを感じさせないものであった。

 

 

「あいつが……悟が、私の名前を呼んで助けを求めたってことは……それだけ私を信じてくれてるってことなんだ……意味もなく……勝算もなくそんな事はしないっ! あいつは私が()()()()()を信じてくれている、なら私もそれに答えないと……ねっ!」

 

 その声の震えは、武者震いと恐怖が混じり合ったものなのだろう。 それでもテンテンは覚悟を決め、クナイをそれぞれネジとリーに一本ずつ手渡す。

 

「リー、アンタならこの距離でもあの巨人の背に向けてクナイを投げ飛ばせるでしょ?」

 

「なるほど……ええ、分かりましたよテンテン。 悟君がテンテンを信じ、そのテンテンが僕を信じてくれるなら絶対にやりきってみせます!」

 

 テンテンから託されたクナイをしっかりと握りしめたリーは腰を低く構え、息を小さく、長く吐き始める。

 

 そんな様子にまだ納得の行っていないネジだったが、テンテンが彼に手渡したクナイを持つ手を両手で包み静かに話しかけた。

 

「テンテン……」

 

「ネジ、心配してくれてありがとね……昔のアンタだったらそんな事してくれなかったんだろうけど、今のアンタはホントに良い奴よ。 私もアンタとこれからも一緒に居たい、だから絶対に戻ってくるわ……信じて待っててよ」

 

 テンテンの振り絞るかのような笑顔。 それを見たネジは

 

「……絶対に戻ってこい」

 

 そう一言言って、テンテンを抱きしめた。

 

 ネジの強くしっかりとした手の力が、テンテンに伝わりテンテンは小さく声を挙げた。

 

 そして

 

「行け、テンテン」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

「八門遁甲・第六景門開っ!!! 届けてみせます、この一投、全力でっ!!!! うおおおおおおっ!!!」

 

 リーが大門の塀の上に立ち、自身の限界まで八門を解放し大きく振りかぶり、

 

 1つのクナイを空気の壁を貫くような勢いで爆発音と聞き違うような音を轟かせながら投擲した。

 

 

 そのクナイは音を裂き、衝撃波をかき分け真っ直ぐ悟の鎧武の背に目掛け直進する。

 

 

 白眼でクナイの行く末を見届けるネジ。

 

 そのネジの腕の中で、静かに瞳を閉じて集中しているテンテン。

 

(飛雷神の術……昔、悟に渡された巻物に書かれていた禁術。 会得難度はS級で到底私なんかが使えるような術じゃない、だけど悟は私に出来ると思ってそれを託してくれたんだとわかってた。 綱手様やサクラのような繊細なチャクラコントロールが出来ないと本来使用すらできない術だけど、忍具の知識と封入・開封術に関する時空間忍術の練度は私は誰にも負けない自信があるっ! そして……)

 

 その飛雷神の術においてもっとも重要な「飛ぶ場所へのイメージ」。 本来であれば視認できる場所に()()だけならば、イメージの必要すらない。 しかし目の届かない場所のマーキングとなればその難易度は途端に跳ね上がってしまう。 けれど今回、テンテンにおいてはその()()場所のイメージに事欠かないであろう、なぜなら。

 

 

 自分を信じる世話の焼ける幼馴染と、しっかりしているようで目の離せない大好きな相手が待ってくれているのだから。

 

 

「……届いたっ」

 

 ネジのその言葉を、テンテンは受け止めそして

 

 その抱擁の中から、一瞬にして姿を消した。

 

 残されたネジは手に持つクナイを強く、強く握りしめる。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 一瞬、ほんの一瞬の間もなくテンテンを衝撃波が発する爆音が襲いその知覚の世界を埋める。

 

 何が起きたのか、どうなっているのか、思考を刹那で吹き飛ばすほどの衝撃に宙に浮いたテンテンの身体が落下し始めようとしたその瞬間。

 

 

 誰かがしっかりとその手を握り、掴まえた。

 

 

 テンテンが上を見上げれば、そこには

 

 

 『テンテンちゃん!』

 

 

──テンテン、ありがとう

 

 

 かつて見たのと変わらない、その笑顔を浮かべ自身の名を呼ぶ幼馴染がいた。

 

 

 『さとる君!』

 

 

「ホントに……世話が焼けるんだから、悟」

 

 

 互いに心の底から信頼のおける存在との本当の再会に、思わず目には涙が浮かんでいた。

 

 しかし、悟は衝撃に身を揺らし一刻の猶予もないことを思い出すとそのテンテンの手を引き鎧武の肩へと引きあげるそして。

 

「テンテン、時間が無い。 マリエさんを連れてここから避難して欲しい」

 

 簡潔にテンテンへその要求を伝える。

 

 その真剣な眼差しに、テンテンが隣の鎧武の肩にのるマリエに視線を向けると

 

「……親子そろって……ホンっっっトに、まあ……マリエさんが只者ではないとは思ってたけどまさか、こんな……ねぇ……?」

 

 心底呆れるようにそう呟く。 悟もテンテンの内心をくみ取れるのか微妙そうな顔を浮かべていた。 けれど

 

「頼んだ」

 

 悟はテンテンへとそう伝え、鎧武に最後の力を振り絞り神羅天征を抑え込ませに行く。

 

 有無も言わせない悟の要求にテンテンは意を決してマリエの元へと飛び乗る。 直ぐにマリエもテンテンに気がつくがその顔に余裕などかけらも残ってはおらず、テンテンが姿を現したことに対してリアクションを取る暇もなかった。

 

(マリエさんのことだから、悟のために意地になって残ろうとしてるってことかな……実際、マリエさんを逃がしたら悟がどうなるかなんて想像も容易いし……何かしらの手段があるにせよ無傷じゃ済ませられないだろうしね。 でも、悟はマリエさんに傷ついて欲しくないから私を呼んだ……なら)

 

 テンテンはマリエに近寄りその体を抱きしめる。

 

「テンテンちゃん……っ!?」

 

「すみません、マリエさん。 ……跳びますよっ!」

 

 謝罪をしながらテンテンは、跳ぶべき自身のマーキングを施したクナイの位置を探る。 距離も離れ、場所も見えない()()。 だが

 

 僅かに感じられたのは、暑苦しいまでのチャクラと静かだが熱のこもったチャクラ。

 

 ……テンテンにとって跳ぶべき場所はもはや明確であった。

 

 

 

 

 瞬間、長く続いたその拮抗が崩れ去る。

 

 二体の岩の巨人は瓦礫と化し、斥力の暴力が木ノ葉の里を覆いつくさんと瞬時に広がり

 

 建物を、その土地をえぐる。

 

 まるで巨大な隕石の衝突を思わせるその衝撃波の音は避難を終えた全ての人間の耳に届き、同時に里の壊滅を悟らせるには十分すぎるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──」

 

 暗い視界を知覚し、テンテンは遠くの方から聞こえる音に意識をゆっくりと覚醒させる。

 

「──っ!」

 

 遠くから聞こえていたと思ったその声は、段々と近づいているように感じその声は耳元で発せられていることに気がつく。

 

「テンテンっ!」

 

 ハッとして体を起き上がらせたテンテンは、眼を開け辺りを見回す。

 

 大門の外側で、ネジに抱きかかえられた状態であることを認識し大門から里の内部に目を向けると

 

 そこから里の中を見ることは叶わず、ただ押し寄せられた瓦礫の山が大門の入り口を埋めていた。

 

「っ……」

 

 呆然としているテンテンに、ネジが肩を掴み目を見て呼びかける。

 

「テンテン、無事かっ!?」

 

 普段の彼からは想像もつかないようなその焦った様子の表情に、テンテンは自身の身体に何か以上でもあるのかと焦り、立ち上がって自分の体を見渡す。

 

「えっと……えっと……っ!? ……無事みたいです、ハイ」

 

 体に異常が無いことを確認したテンテンが間の抜けた声を出すとネジが大きなため息をついた。 安堵と、呆れからそのため息。 そして次の瞬間にはネジがテンテンを抱き寄せていた。

 

 冷静さを取り戻してきていたテンテンが、顔を紅くしながらも手をワタワタと振りネジへと問いかける。

 

「ええええと、ネジ?! 里はどうなったの~とか、マリエさんは無事なのかな~なんて///」

 

「……っ」

 

 無言で強く抱きしめてくるネジ。 テンテンはその抱擁が解けるものではないと悟り、その状態のまま周囲を見渡した。

 

 里を覆う外壁は健在だが、その上に立つ里の忍びらは中に踏み入ってはおらず中の様子を見て顔を青ざめさせていた。

 

 近くの木にはマリエが意識を亡くした状態でよりかかっており、リーが近くでようすを看ていることが確認できる。

 

 ふとテンテンが悟の無事を心配した瞬間

 

 

 急に爆発音が轟き始めた。

 

 

 何事かと、ネジやリー、テンテンが里へと目線を向けると空から里の外壁内を覆うように紙が巨大なドーム状に広がりそれが爆発している様子が見て取れる。

 

「次から次へと……っ!」

 

 ネジのその言葉を聞き、テンテンが立ち上がろうとした瞬間、普段以上の集中力とチャクラを使用したことの反動からか身体から力が抜けたテンテンはその意識を手放してしまうのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 里の内部、巨大なクレーターが里のあった場所にとって代わって出現しその周囲には押し寄せられた建物の瓦礫などが散乱していた。

 

 そんなクレーターの一点、地面がひび割れそこから黙雷悟が這い出てくる。

 

「っはぁ……はぁ……」

 

 満身創痍といったところか、余裕を感じさせずに息をする悟は全身が這い出ると仰向けになり天を仰ぐように体を大の字にする。

 

(咄嗟に木遁で全身を覆ってみたけど……全然衝撃を緩和しきれなかった……っ生きてるだけでも儲けものってやつだけど……)

 

 揺れる視界と、幾つもの箇所の骨折。 押し寄せる痛覚と、チャクラ切れによる疲労感が悟の身体を地面へと縫い付けていた。

 

 そんな時、爆撃音が悟の耳に入る。

 

 ふと周囲を見渡せば、神羅天征により出来たクレーターの外周を覆うように起爆札による爆撃が連続で起きていることが確認できた。

 

 その爆撃がクレーターの内部に他の忍びを入れさせないためのものであることを察知して、視界に映っていた太陽を遮るように現れた翼をはためかせる存在に苦笑いを浮かべる。

 

「……へへっ……そんな睨み付けるような表情、綺麗な顔が台無しですよ小南先輩?」

 

「減らず口を……っ! 長門の神羅天征を防ぎ、まさか里の住民を全て逃がすとは驚いたわ……アナタは生かしておいてはこの先大きな障害となるでしょう……今ここで止めを刺すっ!!」

 

 悟に止めを刺す邪魔をさせないため、クレーターの中心にいる術の反動で動けないペイン天道を守るため、小南は巨大な規模で起爆札を爆発させ続けていたのだ。

 

 悟の頭上の空で身体の一部が紙のように剥がれ、折りたたまれ幾つもの紙手裏剣を形成する。

 

「近づきはしない……もしもがあるから……さあ、死になさいっ!」

 

 計画を邪魔する障害に対して向けられた怒りの感情を乗せ紙手裏剣が、悟めがけ回転し飛来する。

 

(……ッ術を使うチャクラもない……っ! 紙手裏剣での追いうちに死なずに耐えられるかっ……?)

 

 もはやその攻撃を防ぐ手立てがない悟は、攻撃を耐えきりチャクラの回復を待つしか手段が残されていなかった。

 

 悟へ迫る紙手裏剣がその胸を穿つその瞬間

 

 

 

 ──空気を裂くような音が聞こえた。

 

 

 

 痛みに耐えるように目を閉じていた悟の視界に、小さな背中が映る。

 

「……まさか、こんな子供が此処まで来るとは……っ!」

 

 小南の信じられないといった様子の声。 悟を穿つ寸前であった紙手裏剣が、その傍らに真っ二つに裂け落ちていた。

 

「ずっともしもを思い描いていました」

 

 その小さな背中は語る。

 

「貴方はどこかで健在で、誰かの笑顔のためにずっと戦い続けているんじゃないかって」

 

 その姿は長い髪を一つにまとめ、かつての悟を思い起こさせるような腰布を身に着けていた。

 

「……そしてそんな貴方が助けを必要としたときに、私はその力になりたいと……なるんだと思い今日まで修行を続けていました」

 

「……っ」

 

 小南が追加で放った紙手裏剣が幾つも飛来するが、その白き眼が全てを捕え、その手に携えた八卦・鉄鋸輪虞(てっきょりんぐ)が全てを切り裂く。

 

「大切なモノを……貴方を守る……それが私の忍道っ!!」

 

 日向ハナビのその叫びが轟く。

 

「──おかえりなさい、悟さん」

 

「……ただいまハナビ」

 

 心底疲れた様子の悟に、ハナビはとびきりの笑顔を見せていた。

 

 その隙に何度も紙手裏剣が飛来するも全てをハナビが切り裂き、撃墜する。

 

(あの目……日向の……? 周囲の起爆札の生成に力の大半を割いている以上、私にこれ以上の攻撃手段はない……っ)

 

 小南が姿を現したハナビに驚愕していると、ハナビが回天の要領で身体を回しその勢いで鉄鋸輪虞を小南へと投擲する。

 

「っ……!」

 

 小南はハナビの防御を崩す手段が今はないことを悟るとその鉄鋸輪虞の投擲が届かない位置まで飛び去っていった。

 

 一先ずの脅威を退けたハナビが再度悟に顔を向ける。

 

「……本当に……帰って来たんですね」

 

 噛みしめるようなハナビのその言葉に、悟が気まずそうな表情を浮かべる。

 

「まあね……帰ってきましたとも」

 

 悟の返事を聞き、ハナビは泣きつくように仰向けに倒れる悟に抱きついた。

 

「うぐっ!?」

 

「ずっと……ずっと心配してたんですよ!?  私だけじゃなくてマリエさんも姉様もテンテンさんも、白さんも!!! 勝手に出てって……心配かけて……っ!!」

 

「ハハハ……ホントごめん……」

 

「許さないっ!! こんな……っうぅ……ひっぐ……許さないですよ……っ」

 

 泣きじゃくるハナビに、悟は辛うじて腕を動かしその体を包み込んでその背をポンポンと優しく叩く。 ふとその時悟の視界に顔が入り込んだ。

 

「ハナビが急に飛び出したから追いかけて見たら……本当に悟君?」

 

 その人物は困ったかのような表情を浮かべたヒナタであった。

 

「ああ、ヒナタ……こんな声してるけど黙雷悟です、ハイ」

 

 女性のような声を気にしている悟に、ヒナタは少し笑顔を見せながらも

 

「……生きてるって知ってても、無事かどうかはわからないから不安だった……皆に心配かけたんだから悟君。 ……怒られる覚悟はしっかりしてね?」

 

 怒っているのだろう、笑顔の裏に混じる真剣な瞳が悟を貫く。

 

「……重々承知しております」

 

 悟は心底反省しているかのような声で謝罪をするのであった。

 

 泣きじゃくるハナビをあやす悟の様子を眺めたヒナタは目を細める。

 

(岩の巨人をマリエさんが術で出せるってハナビは知ってて……それが2体現れたから片方が悟君だとハナビは瞬時に結び付けた。 だからこそ、衝撃波が止んだ瞬間に誰よりも早く駆けだして起爆札の雨をすり抜けられたのはいいんだけど……)

 

 ヒナタはその白眼で、クレーターの中心に居る人影に注意を払う。

 

「悟君……あの人があの衝撃波を出した張本人なんだよね?」

 

 ヒナタの確認に悟は答える。

 

「そうだ……だけど、向こうも術の反動で暫くは動けないはず……あと少し……俺の力が戻れば、幾らでも対抗できるっ!」

 

「……じゃあ今……私が、攻め込めば……っ!」

 

「っ駄目だヒナタ!」

 

 悟が駆けだそうとするヒナタに制止の声をかけたその瞬間。

 

 天道と悟の間に、人影が幾つか降り立つ。

 

 天道の近くには、残りのペイン六道が。 悟の近くには

 

 

「全く、とんだガキだよお前は……まあでも安心しなここからは」

 

 

 パシンと掌と拳を合わせた音が響く。

 

「火影の役目だっ!」

 

 起爆札の壁を強引に通り抜けてきた再生力の持ち主、綱手が声高々にそう宣言した。

 

「火影か……だが、既に消耗しているようだな」

 

 ペインの内小柄な畜生道がそう呟くとそれを聞いた綱手もまた

 

「そちらも随分と規模の大きな術で消耗している様だが……影を舐めるなよ?」

 

 そう言い返して、悟に目線を向ける。

 

 そして

 

「私が時間を稼ぐ、その間に体力を回復させろ」

 

 綱手はそう小さなか声で悟に語りかけ、駆けだした。

 

「綱手さんっ!」

 

「綱手様っ!」

 

 悟とヒナタの呼び声を背に、綱手はペイン六道らに向かって攻撃を仕掛けるのであった。

 

 そして残された悟たちの後方から声がかかる。

 

「あの~」

 

 その可愛らしく、か細い声に……

 

 悟の顔は一瞬で青ざめた。

 

 嬉しくて泣きついていた悟のその変化にハナビが気がつき、不思議に思いその声の主に目線を向ける。

 

「綱手様からの指示で体力の回復をしたいんですけど~前に急に近づかないでとは言われているので……あの~近づいて触れても大丈夫ですか、悟さん?」

 

 声の主のその言葉に悟は、仰向けのまま呼吸を荒くし、脂汗を流す。

 

 明らかに尋常ではない様子に流石に心配になったハナビは

 

「大丈夫悟さん? 綱手様の口寄せ動物の()()()()ですよ?」

 

 そう確認するように問いかけた。

 

 そして

 

 

 

 

「だ、だ、だだ大丈夫……じゃ、ない……かも」

 

 

 

 

 悟は明らかに動揺した口調でそう答える。 そう、黙雷悟は蛞蝓がピンポイントで大の苦手であるのだ。 前世でのトラウマが原因で蛞蝓を苦手とする悟の背後には今、そんな前世でお目に掛かれないほど巨大なナメクジが意志を持って悟に触れようとしていた。

 

「ちょっ、ちょっと一旦待ってマジでっ!! しんこ、深呼吸……スー―……ハーー……イヤ駄目だ待ってっ!! 待ってカツユ様ァ!!!」

 

 まるで注射や歯医者を嫌がり駄々をこねる子どもの様に豹変した悟の様子に、ハナビもヒナタもその理由に嫌でも察しがついてしまった。

 

 既にボロボロと涙を流して首を横に振り続ける悟にハナビが優しい口調で語りかける。

 

「敵を倒すためには、悟さんが回復しないとダメなんですよね? カツユ様の治療を受けないと……」

 

「い、嫌だ!! 無理だっ!! 無理無理無理っ!!! ああああああああああっ嫌だ~~~っ!!」

 

「さ、悟君……っ」

 

 その豹変ぶりに、2人と一匹はなんとも言えない雰囲気となる。

 

「悟さん、流石にそんなに嫌ったらカツユ様が可哀想ですよっ?!」

 

「わかっ……ううううう、分かってるけどォ……グスッ……ごめ゛ん゛っ無理だっあああ!!」

 

 先ほどまで泣きついていたハナビと立場が逆転し、そのハナビに抱き着き泣きじゃくる悟。

 

 かっこよく体力を回復しろと伝えた綱手の不憫さが際立ち始め、埒が明かないとハナビは意を決してカツユに声をかける。

 

「カツユ様! 悟さんは今動けないので、問答無用で治療してもらって構いません!」

 

「バナ゛ビィぃい!?!?!?!」

 

 親に見捨てられたかのような悲惨な表情を浮かべる悟。

 

「大丈夫です悟さん、私がついています!」

 

 そんな悟の両手を握り、子をあやすかのように元気づけるハナビ。 そして

 

「い、良いんですね? 行きますよぉ?」

 

 カツユがその軟体な体を座る体勢になっている悟の背に押し付けた。

 

「~~~~~~~~~~っ!?!?!?!?!?!?」

 

 悟の声にならない悲鳴が響く。 その悟の様子に、何とも言えない表情を浮かべたヒナタは白眼で上空の小南とペインらと綱手の戦いに注視することにして気を反らす……身近に感じていた頼りになる人間のある意味痛々しい光景に流石の白眼でも目を逸らしていたのだ。

 

「すごい……鳥肌が……」

 

 カツユはその自身の身体を、悟の殆ど破けて意味を成していない衣服の上から滑り込ませ次第に包み込んでいく。 だからこそ、直接素肌に触れそこからくる拒否反応の凄まじさも分かってしまい思わずそう呟いていた。

 

 上半身を殆どカツユに覆われ、顔を青ざめガクガクとバイブレーション機能のように震える悟の手を握りハナビは声をかける。

 

「……大丈夫です、大丈夫ですよ悟さん。 私がついています」

 

「ううう……ハナビぃ……っ!」

 

 優しく我が子を心配する母の様にそう語りかけるハナビ。 何度も何度もハナビが悟を安心させるように語りかけているとふと違和感にヒナタが気がつく。

 

「大丈夫……ええ、私がいますから安心してください……大丈夫……フフフ」

 

(…………は、ハナビ?)

 

 

 何だかハナビの……妹の声に愉悦の感情が混じり始めてるような……何てヒナタは思い始めた。 

 

 

「悟さん、今辛いですよね? 苦しいですよね? ……私もずっと同じ気持ちだったんですよ?」

 

「ごめん……ごめ゛ん゛ぅ~……っ!」

 

「良いんですよ……許してあげますから……そういえば、昔マリサって女性に会ったんですけど、あれって本当は悟さんだったんですよね?」

 

 ハナビのその問いかけに悟は、大きく頷き肯定の意を示す。

 

「アハッ……やっぱりそうだったんだ……あれですよねその偽名、マリエさんの名前と悟さんの頭文字を組み合わせたんですよね?」

 

 余裕のない悟は再度頷く。 ……酷い尋問を見ているかのようにカツユとヒナタは感じ始めていた。 好きな人が心の底から自分に助けを求めている状況がハナビを狂わしているんだとヒナタは怪しい雰囲気を醸し出すハナビの様子に辺りを付けた。

 

「……何度も悟さんの気配を感じました。 マリサさんとして商店街で会った時も……湯の国で天音小鳥として貴方が助けてくれた時も……フフフ」

 

「ううゴメンナサイ、ゴメンナサイ……」

 

 痛々しく謝り続ける悟。 ふとハナビが言葉を続けた。

 

「そう……天音小鳥という名前は……

 

 

 

 

 

 

 

──悟さんの想い人、もう会えないと言っていた方のお名前ですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

「──ヒュゴっ!?!?!?!?!」

 

 突然の斜め上方向からのハナビの問いかけに悟が変に喉を鳴らし息を止める。

 

(あ、抵抗が弱くなりました。 今のうちに治療を進めなくちゃ、えいっ)

 

 悟の意識が逸れたことでカツユの治療が円滑に進み始める。 一方悟は先ほどまで感じていた恐怖とは別のモノを感じながらも何とか口を開く。

 

「どどどど……どう、して──」

 

「どうしてわかったのか……ですか? 悟さんって色々センスが残念な所あるじゃないですか……たまにちょっとしたギャグを自分で思いつたり、韻を踏んでいる言葉を聞いてニヤニヤしたりしてたの私は知ってましたよ? そんな悟さんだからこそ、マリサって偽名の由来もすぐにわかって今確認を取ったんです。 そう……貴方が性別を偽るときに名乗る偽名に何かしらの意味を持たせたがるのは容易に想像がつきます。 そして今、ふと気づいたんですよね……天音小鳥という名前だけ、由来に心当たりがないんですから……マリエさんの苗字から一文字取ったにしては要素が少なすぎますし……そこでああ、そうだと思い出しました。 私の告白を断った時におっしゃっていた()()()()がいるって……フフフ。 世間に大体的に知れ渡る偽名に貴方が何も思い入れの無いものを選ぶとは思わないですからね……」

 

「~~っ!?」

 

 斜め上からの理解と、常軌を逸した考察からの断定。 ヒナタは自分の妹が何を言っているのか理解したくないと初めて感じていた。

 

 悟もまた、狂気的なハナビの様子に己の表情に若干の恐怖を滲ませていた。

 

 唯一カツユだけは治療に専念していたので会話の内容にはあまり思考がとらわれずにいた。

 

「……と、言ったところで悟さん。 気はまぎれましたか?」

 

「へ……?」

 

 悟のマヌケな声。 ふとハナビの様子が戻り優しい声色になると、カツユが悟の身体から離れ始める。

 

「怖いこと……苦手なことから気を反らさせてあげようと思ったんですよ、効果があったみたいで良かった」

 

 そんなハナビの様子に悟が一瞬ほっとすると、ハナビが悟の耳元で小さく呟く。

 

 

「ちゃんと、この数年何をしていたか……後で教えてくださいね」

 

 

 先ほどの怪しい雰囲気に一瞬戻ったハナビのその言葉に悟は

 

「は……はい」

 

 ただただ慄き、了承する言葉を漏らすことしかできなかった。

 

 そしてそんな状況を一変させるかのように

 

「悟君、綱手様の様子がっ!!」

 

 ヒナタが叫ぶ。

 

 その言葉に一瞬で思考を切り替えた悟は、動かせるようになった体を跳ね起こさせて駆けだす。

 

「取りあえず、2人はなるべく戦闘から離れて様子を見ていてくれっ!!」

 

 ヒナタとハナビにそう告げた悟は調子を取り戻し、雷光の轍を残してその場から跳び去った。

 

 残されたハナビとヒナタはカツユと共に、移動を始めた。

 

 

「ハナビ……悟君の事──」

 

「姉様、今はこの場を離れるのが先決です」

 

「は、はい……」

 

 

~~~~~~

 

 一方でペイン六道と戦いを繰り広げていた綱手は苦戦を強いられていた。

 

 カツユを口寄せし、里の住民の避難に全力を注いだために既に彼女自身に残されたチャクラの残量は僅かであった。

 

 それでも火影の維持で、複数回はペインらを殴りつけ再起不能のダメージを与えていたが…… 

 

「何度も何度もキリがない……アイツを倒すことが先決か……」

 

 厳つい顔をした地獄道のペインが倒された他のペインを蘇生させ何度も立ちふさがっていた。

 

 そんな時修羅道から放たれたミサイルを撃ち落すように緑色の雷光が戦場を走った。

 

「来たか……随分と治療に時間がかかったようだが……どれぐらい回復した、小僧」

 

 綱手のその待っていたとばかりの言葉に、ミサイルを撃ち落した雷光が直ぐそばに着地した。

 

「酷い目にあって、一割も回復してないですけどそれでも十分ですよ……ナルトが帰ってくるまで凌げばいいはずなので」

 

 姿を現した悟に綱手は

 

「酷い目……? ともより今のカツユの治療では限界があるか……悟よ、踏ん張るぞっ!」

 

 体力は回復したはずの悟のゲッソリとした表情に疑問符を浮かべつつも、最後の気合を入れる。

 

「了解ですっ!」

 

 その綱手の気合に呼応するように悟も雷光を迸らせた。

 

 しかし悟は綱手の額に目を向け心配する。

 

(額のマークは既に消えかけている……ここまできたら原作同様に、この後綱手さんは寝込んでしまうかも……いや、それよりも今は目の前の──)

 

 悟は目の前の事に集中するように瞬時に駆けだした。

 

 ペインらの輪廻眼が悟の動きを捕え、、まるで奇襲の如く繰り出される体術をそれぞれが交わしていく。

 

 しかしそのまま駆けだした悟は本命である天道に向け、鋭い跳び蹴りを放った。

 

「飛雷脚っ!!」

 

 速さを極めたその蹴りは、彼が消耗していようともただ避けることが困難なほど高速であり天道も、輪廻眼で捕えた動きに体の動きが対応できずにそのまま顔面に蹴りが直撃

 

 

 したように見えたが、天道は煙を巻き上げその場から消え去った。

 

「ッ!?」

 

 着地をした悟は、蹴りを躱された事実に驚き後方を向けば畜生道の近くに天道の姿を見ることが出来た。

 

(口寄せで天道を攻撃から守ったか……神羅天征のインターバルがどれだけあるか分からないが……守りの姿勢か、崩すのは容易じゃないなっ!)

 

 天道を中心に展開されたペイン六道のフォーメーションに悟と綱手は苦戦を強いられることになる。

 

 そして…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──神羅天征

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここはどこだってばよ」

 

 巻き上げられた大量の煙の中からそう呟くうずまナルト。

 

 足元のガマ吉も

 

「敵はどこにおるんらや!?」

 

 状況をうまく呑み込めていな様子であった。

 

 しかし、巻き上がる砂埃りと遠くに聞こえる無数の爆発の音。

 

 フカサクが口寄せしたはずの自信の妻であるシマの姿が近くに居ないことに懸念を感じ、事態の予想を付ける。

 

「まさか母ちゃん……遠隔口寄せでワシらを呼び寄せたんか……となると、ナルトちゃんよ。 ここは戦地の待った中……つまり」

 

 煙が晴れ始め、周囲の状況が確認できるようになりナルトの視界に火影の顔岩が映る。 しかし周囲はまっさらなクレーターとなり、複数の人物の姿を捉えられる。

 

 崩壊した木ノ葉の里のクレーター外周は爆撃が続いており、その中心では

 

 

 綱手を庇い、修羅道の生やしたチェーンソーに腹部を貫かれている黙雷悟の姿があった。

 

 

 神羅天征で場を崩され、万象天引の術で引き寄せられた綱手を庇い致命傷を負った悟。

 

 ナルトはその光景に、咄嗟に体を動かし

 

 瞬時に修羅道の上から殴りつけその体をバラバラに砕いて見せた。

 

「……てめぇら暁の仲間じゃなかったのかっ!」

 

 天音小鳥が黙雷悟であることを理解していないナルトはこめかみに青筋を浮かべた表情で天道に問いかける。

 

「そいつは裏切り者だ、どうなろうと知った話ではない……それよりも探す手間が省けたな九尾よ」

 

 そんなナルトの言葉には興味が無いペインらは、修羅道を除いて集まりナルトの前に立ちはだかる。

 

 既に体力の限界が来ている綱手は辛うじて息をしている悟の身体を抱えナルトに声をかけた。

 

「ナルト……頼んだ」

 

 その言葉によって預けられた意志を抱くようにナルトは目を閉じ、胸に手を当てる。

 

 綱手がその場から悟を連れ離れると

 

「さて、邪魔も者もいなくなった……尾獣狩りの時間だ」

 

「木ノ葉を滅茶苦茶にしやがって……決着(ケリ)つけてやる!!!!!」

 

 ついにうずまきナルトとペインとの戦闘が始まった。

 

 

  

 

 

 

 

 



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21:うずまきナルト

「ガマ吉、綱手の婆ちゃんとあの天音っつー奴が離れるのを手伝ってやって欲しいってばよ」

 

「オッス!!」

 

 朱い羽織をひらひらとはためかせるナルトのその言葉に応じるように、撤退しようとする悟と綱手を庇う様にガマ吉が跳び、ナルトの背負う大巻物にフカサクが飛び乗る。

 

 するとナルトの足元から細く可愛らしい声が聞こえる。

 

「あの~ナルト君。 私も連れて行ってください、先ほどまで綱手様が戦っていたペインらの情報をお伝えすることが出来ます」

 

「蛞蝓のカツユちゃんかいのォ……それならナルトちゃんの懐に隠れておきんさい」

 

 這い寄るカツユにフカサクが提案すると、ナルトも頷きカツユを拾い上げ懐に入れる。

 

 そしてナルトは、静かに怒りを滲ませた瞳をペインに向けた。

 

「……許さねぇ」

 

 そんなナルトの言葉にペインは小さく鼻で笑う。

 

「許さないか……裏切り者に邪魔はされたが、この惨状に木ノ葉も少しは痛みを理解したことだろう……絶対的な力の存在により、自身らが築いてきたものが一瞬で無に帰す無情さをな」

 

(天道の力が戻っている以上、不用意に戦闘を長引かせれば小南の足止めに限界が来る……短期決戦と行くか)

 

「口寄せの術」

 

 長門の思惑を遂行するために畜生道は口寄せにより、一気に巨大なサイ、犬、牛のような口寄せ動物を呼び寄せナルトへと地面を抉りながら突進させる。

 

「ブンちゃん!! ケンちゃん!! ヒロちゃん!!」

 

 巨大な口寄せ動物たちに対抗するようにフカサクの掛け声とともに、三匹の大ガマたちがナルトの前へと着地する。

 

「オッシャァ!!」

 

「自分……不器用なもんで……っ」

 

「こ奴らは任せろ」

 

 ガマたちが口寄せ動物たちの突進を受け止めると、それぞれを抱きかかえるようにして里の外に向け小南の爆壁を飛び越えるような大跳躍で姿を消した。

 

 残されたペインたちに向け、既にナルトは駆けだしていた。

 

 そんなナルトに立ちはだかるように餓鬼道が正面へと立つ。

 

「ナルト君、目の前のペインに忍術は利きません!」

 

 肩からそう助言を出すカツユの言葉にナルトは

 

「ちょっと違うけど雪の国で戦ったチャクラの鎧みてぇなもんか……なら蛙組手だ!」

 

 すぐさま理解を示し、拳を握り振り上げる。

 

 そして放たれた拳は残されたペインらの視界の繋がった輪廻眼が捉えており、的確にカウンターを放つ餓鬼道の拳もまたナルトへと迫っていた。

 

 しかし一方で仙人モードとなったナルトもそのカウンターを容易く避け、互いの拳は相手の顔面の横をすり抜ける形となる。

 

 が、ナルトの拳が餓鬼道をすり抜けた瞬間に餓鬼道は顔面を大きくひしゃげさせてきりもみ回転で吹き飛んでゆく。

 

 吹き飛んだ餓鬼道が微動だにしない天道の脇をすり抜けた。

 

 (餓鬼道は確かにかわしたはずがコレか……仙人……先生と同じ力か、驚異的な力と効果範囲といったところか)

 

 その天道の隣で畜生道が新たな口寄せを行うためにと地面に手を着こうとしていた。 その隙を見流さないようにナルトが影分身を自身の両脇に出す。

 

(術を吸収する奴をぶっ飛ばした……今ならっ!)

 

「新術で一気に終わらせてやる!!」

 

 そう意気込み、術を形作り始めたナルトに天道が語りかける。

 

「貴様は自来也先生と同じ術を身に着けたようだな……」

 

「自来也……先生だと?」

 

「……俺も自来也から術を学んだ、自来也は俺のかつての師だ。 お前にとって俺は兄弟子、同じ師を仰いだ者同士理解しあえるはずだが……師は平和を望んでいた」

 

 天道の発したその言葉は的確にナルトの感情を逆なでする。

 

「ふざけんなッ!!!!」

 

 怒りをあらわにしたナルトは螺旋手裏剣を掲げ叫んだ。

 

「これの……これのどこに平和があんだってばよォ!!!?」

 

 ナルトにとって今の壊滅した木ノ葉の里を目前に平和などという言葉が出るはずもなく、しかし天道はたしなめる様にして口を開く。

 

「木を見て森を見ていない。 お前には()()()()()が理解できていないだけだ、大人しく捕まれ……お前の死が平和へと繋がる」

 

 天道のその言葉にナルトは歯ぎしりをしギリっと音を響かせながらも、大きく腕を振りかぶった。

 

「ふざけんなって……

 

言ってんだろーがァ!!!」

 

 その言葉と共に螺旋手裏剣がナルトの手を離れペインら目掛け飛翔。

 

 高回転・高密度の風の性質変化を伴ったチャクラの塊は独特な高音を響かせ、畜生道の眼前に迫る。

 

 しかし接近戦に優れた今のナルト相手に分が悪い人間道がその身を呈して畜生道の小柄な体を放り投げた。

 

 瞬間、螺旋手裏剣が拡大し人間道はその風の刃に胴体を寸断され機能を停止する。

 

 畜生道が地面に着地したとともに口寄せによって呼び寄せた巨大な鳥が、そのくちばしによってナルトを貫こうとするもナルトは大きく跳躍してそれを避けた。

 

「……いくら弟弟子と言えど、九尾の人柱力は話を聞くような奴ではないようだな」

 

 天道はナルトの性格を分析した結果を口にし、話し合いを無駄なものだと切り捨てることにした。

 

 一方でナルトは口寄せされた鳥のくちばしを掴み、そのまま大きく回転させ地面へと叩きつけていた。

 

 その怪力に仙人モードの強さを感じつつも

 

(先ほどよりも力は落ちている様だな、あの投擲する術は消耗が激しいと見える)

 

 隙を感じた天道が駆けだす。

 

 一方でナルトも、解けかけている仙人モードでは対処が難しいと距離を離しながら腰に下げた巻物を取り出す。

 

「ナルトちゃん、ワシがやる!」

 

「オッス、頼んだってばよっ!」

 

 巻物をフカサクに託すと、ナルトはそのまま近づいてきた天道と体術でのぶつかり合いに移行した。

 

 体術での戦闘は、僅かに天道が優位に立っていた。

 

「こうなったら……多重影分身の術っ!!」

 

 ナルトが残りの仙術チャクラを使い数百もの数の分身を作り出す。 仙人の証である隈取りが消えたがそのまま畜生道、地獄道、天道を押しつぶさんと影分身が襲い掛かる。 

 

 しかし

 

 

 

「神羅天征」

 

 

 

 天道を中心に発生した斥力はナルトの影分身らをほぼ全て吹き飛ばし、蹂躙した。 

 

 影分身が解け、煙とボンッという音が鳴り響く中

 

 

 

 

「螺旋手裏剣っ!!」

 

 

 

 天道の神羅天征に巻き込まれないように離れていた地獄道、畜生道が突然発生した螺旋手裏剣の風遁チャクラの爆発に巻き込まれ機能を停止した。

 

「なに!? ……奴の仙術は影分身で解けたはずだが」

 

 驚く天道は消えた影分身の目くらましの奥にいる目の周りに隈取りが出来ているナルトを目にし、視線をその背後のフカサクに向ける。

 

(口寄せの巻物……安全圏で影分身にでも仙術の力を練らせストックでもしていたか、小賢しいことをッ!)

 

 天道が一連の出来事を推測している中

 

「やりましたねナルト君、これで口寄せとペインらを復活させる術を防げます。 あとは残り1人です!」

 

「あんがと、カツユっ! コソコソと色々教えてくれてて助かるってばよ」

 

「いえ、私は先ほど綱手様と悟君が戦って得た情報を教えているだけなのでお礼を言われるほど──」

 

「ハァっ!? 悟がいんのか!?」

 

「ええ、暁の天音小鳥が悟君だったんです」

 

「……ちょっ………………一旦そのことについて考えるのはナシィッ!! 目の前の最後のペインに集中するってばよっ!!」

 

「分かりました。 あのペインの使う吹き飛ばす術は、5秒のインターバルがあるそうですよ。 ナルト君頑張ってください!」

 

 ナルトとカツユが空いた僅かな時間で情報交換を済ませる。

 

 天道と視線をぶつからせたナルトは構える。

 

(影分身のストックは残り一つ。 今の仙人モードで出来る螺旋手裏剣は一発が限界か……)

 

「……あの吹き飛ばす術が厄介だってばよ、蛙の爺ちゃん何とか出来ねぇか?」

 

「母ちゃんがおらんとコンビ幻術は使えんけんのぉ……」

 

 小南が張り巡らせた起爆札の爆発の壁はいまだ健在であり、その影響ででフカサクの妻であるシマが中へと来れないでいた。

 

「……あの幻術にはこりている」

 

 突然天道がそう呟き手を掲げ、その動作に反応したカツユが焦り叫ぶ。

 

「引き込む術が来ますっ! ナルト君踏ん張ってくださいっ!!」

 

「っ!?」

 

 天道の万象天引を察知したカツユの言葉に、ナルトが地面に足をめり込ませるようにして踏ん張りを効かせる。 

 

 が

 

「うオッ!?」

 

 引き込まれたのは僅かにナルトからそれた位置にいたフカサクであった。

 

「爺ちゃんっ!!」

 

 ナルトが叫ぶが既に天道の手には六道の黒い棒が携わっており引き込まれ無防備なフカサクに向けその鋭い切っ先が向けられていた。

 

 フカサクに迫る危険。 しかしそれを察知したかのように突如として天道に大きな影がかかる。

 

「頭ァッ!! 今行くぜっ!!」

 

 口寄せ動物たちを退けたガマブン太、ガマケン、ガマヒロが空から落下しながらそれぞれが持つ武器を天道目掛け突き出す。

 

「……面倒だな」

 

 ボソッとそう言った天道は黒い棒を手放し、掌を開いた。

 

 

 

「神羅……天征っ!!」

 

 

 

 残った天道に集中したチャクラにより放たれた神羅天征は引き寄せられていたフカサク。 天道目掛け攻撃を仕掛けていた三匹のガマたちをまとめて途轍もない力で吹き飛ばした。

 

 小南の爆破の壁を突き破りながら高速で戦場から里外まで吹き飛ばされたガマたち。

 

 それぞれが里の外まで飛ばされた勢いとダメージにより、各自骨折などで戦闘不能に追い込まれる。

 

「ってめぇ!!」

 

 仲間のガマたちを攻撃され怒ったナルトが神羅天征の五秒のインターバルの隙をつこうと駆けだすが

 

「風遁・風残波」

 

 天道が口から風遁の刃を吹き出しナルトに牽制を行う。

 

「っ……効くか!」

 

 仙人モードで感知能力が向上しているナルトが跳躍してそれを躱す。 そのまま近づこうとするナルトだがその視界に映った天道は

 

 明後日の方向を見ていた。

 

(何を……っ?!)

 

 疑問に感じたナルトが地面に足がつく僅かな間に天道の視線の先を見る。

 

「っ!?」

 

 その先には距離が離れているが戦場から出来る限り離れていた、悟、ヒナタ、ハナビ、綱手がいた。

 

 先の神羅天征から5秒にも満たない内に天道は掌から生やした黒い棒を振りかぶり…… 

 

 目線の先の人物らに向け人外の力で投擲をした。

 

 

 

 

 ザクッ──!

 

 ……と肉を貫く音が戦場に響く。

 

 

 

「うぐっ……!」

 

 呻き声を上げ、地面に倒れ伏したのはナルトであった。

 

 ギリギリ寸前のところで地面に足を付けたナルトがそのまま全力で跳躍し天道と悟らの間に割って入り黒い棒を右の掌で受け止めたのだ。

 

 しかしその勢いのまま転がるナルト。

 

 そして

 

 5秒のインターバルが過ぎてしまう。

 

「っ……!」

 

 咄嗟に立ち上がり、ナルトが左手に螺旋丸を自力で作るも

 

 黒い棒から流れ込んでくるチャクラに、自身のチャクラの流れが乱され螺旋丸は儚く消える。 そして

 

「万象天引」

 

「うおっ!?」

 

 息もつかせぬように天道の術がナルトの身体を引き寄せる。

 

 宙に浮き体の制御もままならないナルトだが、反撃の為に引き寄せられる勢いのまま蛙組手による拳打を天道に向け放つ。

 

 しかし天道はその場で垂直に跳躍し、そのナルトを拳を避けそのまま

 

「神羅天征」

 

 強力な斥力により、ナルトを上から地面へと押しつぶした。

 

「がハッ!?」

 

 地面にうつ伏せの状態で叩きつけられたナルトはそのまま周囲の地面が陥没するのに合わせ地面に埋まっていった。

 

 術が終わり天道が着地するとその足元からナルトの呻き声が聞こえる。

 

「……流石九尾の人柱力、これだけやって意識を失うことが無いとはな」

 

 そういうと天道はナルトの身体を地面から持ち上げ、首を片手で絞め挙げる。

 

「うっぐ……っ!」

 

 仙人モードが既に切れているのか隈取が消えたナルトは、天道の腕を殴り僅かな抵抗を試みるがその相手はリアクションもなく首を絞め挙げる力を増す。

 

 しかし

 

「……」

 

 天道はふとその首を絞めていた手を引きながら話ナルトをうつ伏せに再度倒すと、ナルトの右手の下に左手を置かせ黒棒足で地面へ踏みつけ両掌を地面へと固定させる。

 

 痛みに苦悶の表情を浮かべるナルトだが、その瞳は天道を睨みつけたまますぐにでも拘束から抜け出そうと掌を動かそうとする。

 

「これで少しは大人しくなると思ったのだがな、九尾」

 

「っ……てめぇは何なんだ……いったい何だってんだ!! 何でこんなことしやがる!?」

 

 動けないナルトのその叫び。 天道はふと周囲を見渡す。

 

(小南の術の時間も残り僅かだが、天音小鳥も火影も戦闘続行は不可能……脇にいる日向も相手にはなるまい)

 

 戦況が安定したことを察知した天道はナルトの正面に屈み、喚く成ナルトに声をかける。

 

「何で……か、出来事というものはいつも突然だ。 理由があるとしても、理解できるのは大抵が全てが過ぎ去った後のこと……」

 

「何が言いてぇ……っ!」

 

「この状況……いいだろう、少し話をしよう」

 

 そういった天道はゆっくりと諭すような口調で話をし始めた。

 

「お前は俺に“何故”と問うたが、俺の目的は自来也先生も成しえなかった平和を生み出し、正義を成すことだ」

 

「平和……? 正義……だと?」

 

 ナルトは天道の言葉に、心底信じられないといった表情を浮かべ歯ぎしりをする。

 

「俺の師匠を殺して、里もこんなに滅茶苦茶にしてっ!!! そんな偉そうなことほざいてんじゃねぇぞ!!?」

 

 激昂するナルトに天道は一度目を伏せ、目をゆっくりと開けながら口を開いた。

 

「では、お前の目的はなんだ?」

 

「てめぇをぶっ倒して! 俺がこの世界を平和にしてやるっ!」

 

「そうか……それは立派なことだな。 それこそ正義と言えよう、だがな」

 

 天道は立ち上がり、周囲を見渡しながら

 

「俺の家族、仲間、里……それらを先に蹂躙した貴様ら木ノ葉の忍びだけが、平和と正義を口にして許される世の中は間違っていないと言えるか?」

 

「!?……どういう……ことだってばよ!?」

 

「そのままの意味だ。 火の国……木ノ葉の里は国益を守るために他の大国との戦争により利益を得ていた……でなければ里の民が飢えることになるからな。 だがそれらの国同士の戦いの戦場は決まって俺たちの小さな国と里だった。 幾たびの戦争が大国を安定へと導き……我ら小国に多くの痛みを強いてきたのだ」

 

「っ……」

 

「お前も……俺も、目指すものは同じだ。 自来也先生を師事し、その願いを成就させようとしている……お前も俺も何も変わらない、互いの正義のために動く。 俺が木ノ葉にしたことは、お前が俺にしようとしていることと同義。 大切なものを失う痛みに貴賤はない……俺たちは正義と言う名の報復に駆り立てられた只の人間だ。 だが……その正義の報復は、更なる復讐の連鎖へと繋がり決して途切れることはない」

 

 天道の言葉にナルトは言葉を失う。 ナルトには天道の言葉を否定するだけのモノが見つけられていなかったからだ。

 

 天道は空を見上げて話を続ける。

 

「今、忍びの世界は過去も未来も憎しみに支配されている。 その事実は人は決して理解し合うことのできない生き物だと否が応でも悟らせて来る……」

 

 天道の言葉はナルトに、かつての自来也との会話の内容を想起させた。

 

 ──憎しみの蔓延るのこの世界で、いつか人が本当の意味で理解し合える時代が来ることを信じる自来也。

 

 その方法、答えが見つからないときにそれを探求することを託すと言ってくれた師匠のその言葉の意味を……ナルトは深くは理解できていなかった。

 

 そして

 

「お前なら平和をつくるために忍界の憎しみとどう向き合う? ……お前の答えを聞こう」

 

 天道はその答えをナルトに求める。 

 

 その問いにナルトは──

 

 

 

 

 

「分かんねェ……」

 

 

 

 

 力なく、そう呟いた。

 

 天道はその返答に何の感情の揺らぎも感じさせず当然のことのように受け止め再度口を開く。

 

「俺はその憎しみの連鎖を止めるために……“暁”を立ち上げた……俺はそれが出来る、答えを持っている。 全ての尾獣の力を集め、俺のもたらしたこの里の損害を優に超える力を持つ尾獣兵器を作り、そして……本当の痛みを世界へと知らしめるのだ」

 

「!?」

 

「その痛みが恐怖を生み戦いは抑止されるだろう……世界は安定し平和となる」

 

「っ……だからってそんなの!! 噓っぱちじゃねぇかよ!!」

 

「人間とはそんなに賢い生物ではない……こうでもしなければ平和など到底作れなどしない。 だがそれも一時だがな……」

 

 天道の言葉に、僅かな哀愁が混じる。

 

「人は痛みを忘れ抑止力は低下するだろう……そうして尾獣兵器は再度使用されることで世界は痛みを思い出す」

 

「……」

 

「憎しみの連鎖の間の僅かな……一時の平和、この終わりなき連鎖の合間に俺の足掻きとしてそれを実現させること……それが

 

 

 

 

──俺の夢だ」

 

 言い切った天道のその言葉の説得力は確かな経験と価値観によるものであり

 

 ナルトはそれに反論するほどの言葉を己の内に見つけることが出来なかった。

 

 ナルト自身、言いたいことや考えも全くないわけではない……しかし天道の言葉の前に、それを言葉にすることが出来なかったのだ。

 

「俺の平和を噓っぱちだというが、この呪われた忍界に人と人が理解し合うなどと言った平和ほど虚構なものはない」

 

「だけど……それはエロ仙人が言ってた平和とちげぇはずだ……っ!!」

 

「だからこそ、先生も道半ばで散ったのだ。 無い物など追い求めても無駄だ、そして答えを示せないお前も同様にな……お前に出来ることは平和のために犠牲になることだけだ」

 

 話は終わったとばかりに天道は身体から精製した黒棒を構えた…… 

 

 

 

~~~~~~

 

 

  

 ナルトらから少し離れた位置でヒナタはその様子を伺っていた。

 

 背後では老いたように衰弱した綱手と、未だに腹部にチェーンソーで開けられた傷の出血に苦しむ悟。

 

 ハナビも必死に悟の傷を押さえるが、彼自身の回復力が落ちているのか回復の兆しは見えない。

 

 カツユも綱手から与えられたチャクラを殆ど使い切ったことで、治療を行うことが出来ずにただ綱手の傍に寄り添うのみであった。

 

 そんな中ナルトの身体に次々と黒い棒が突き刺さられていく様子を見てヒナタは己の唇を噛みしめる。

 

 さらなら救援は期待できない、そんな思いがヒナタに募り

 

 そして──

 

「っ!」

 

 我慢の限界を迎えたヒナタが駆けだそうとしたとき

 

──グッ

 

 足を引っ張る感覚が彼女に伝わる。

 

 振り返るまでもなく彼女の白眼が、自身のズボンの裾を地面にへばりつきながらも掴む悟をうつしていた。

 

「……悟君っ」

 

「悟さんっ!? 安静にして──」

 

 腹部から垂れ流す血を地面に零しながらも、悟は光の失っていないその緑色の瞳でヒナタを見上げる。

 

「ヒナ……タ」

 

 その弱々しく呼ぶ声に、ヒナタがかかんで顔を近づけると

 

「自分を……信じろ、負けるつもりで行くな……っ!」

 

 悟がそうヒナタに告げる。

 

 その言葉にハッとしたヒナタは静かに瞳を閉じた。

 

(……凄く強くなったナルト君でも敵わない相手に私は、犠牲になってでもって駆けだそうとしていた。 でもそんな心づもりじゃ……いけないよね)

 

「うん……ありがとう、悟君。 ──行ってきます」

 

「頑張れ……っ」

 

 そしてヒナタは悟の言葉を背に駆けだした。

 

「姉様っ! ……っあんな化け物みたいな相手に1人で……っ!」

 

 姉の危機にしかし、ハナビは自分の無力さを知るがゆえに何もできないでいる。 止めることも、励ますことも出来なかった自分を不甲斐なく思い顔をしかめる。

 

 しかし

 

「ハナビ……お願いがある」

 

 悟の言葉がハナビへと届く。

 

「悟さん、お願いって……」

 

「……寿命が縮むかもだけど、僅かに俺に動くだけの力を回復させる方法があるんだ……ハナビのチャクラを殆ど貰うことになるが……それ以外に方法が無い」

 

 苦渋の選択の如く、そう提案した悟の言葉にハナビは──

 

「大丈夫です、私の寿命ぐらい幾らでも……っ! どうすればいいですか?!」

 

 そう迷うことなく悟の傍へと膝を降ろす。 その光景に悟が小さく笑みを零すと

 

「俺の……腹部に両手を当ててくれ……あとはまかせてくれ」

 

 そうハナビへと指示を出した。 ハナビはその言葉に躊躇なく従いそして、そのハナビを掌を包むように悟が両手を被せた。

 

「仙法秘術……己然転成(いぜんてんせい)

 

 濃い緑色のチャクラに包まれる2人の掌。 次第に悟の腹部の傷が塞がっていくがそれと同時に

 

(クッ……チャクラが……っ!!)

 

 ハナビの身体から急速にチャクラが消費され、その喪失感をハナビを襲う。

 

 急激なその変化はハナビにとてつもない疲労感を味合わせていた。

 

 そんな中悟は胸中で思う。

 

(俺自身のチャクラが少ないから仙法の為の仙術チャクラを練れない……だからこそ、ハナビのチャクラを借りるしかないんだが……良かった。 勘違いしてくれて)

 

 悟は必死に汗を掻きながらも傷に集中しているハナビの顔を見つめ、小さく微笑んだ。

 

(この術で寿命が減るのは俺なんだよなぁ……知ってたら協力してくれなさそうだし……まあ、俺にとっては今更って奴だからいいんだけど……ハハハ)

 

 そしてそんな悟の思いを一方的に知ることが出来る人物もまた

 

(……雷、君はホント……ハナビちゃんの事を分かっていないようだね)  

 

 何か思うことがあるのか、肩をすくめながら精神世界からその様子を眺めていた。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

──バキッ

 

 何本目かの黒い棒がナルトの身体に突き刺され、手折られる。

 

「ぐっ……」

 

 黒い棒により、ペインのチャクラがナルトを蝕み完全に体の自由が奪われてしまう。

 

「急所は外して浅くしてある。 これでお前は自分の意志では動けまい」

 

 天道がそう告げると

 

「ではそろそろお前を連れていく──」

 

 その言葉と共に

 

 衝撃音が響く。

 

 既に俯いていたナルトがその音に驚き顔を挙げると、天道が掌を明後日の方に向けその方向には

 

 腕をクロスに構え衝撃に耐えた様子の日向ヒナタが居た。

 

「っ!? 何で、何で出てきたんだってばよ!!」

 

 ナルトの驚きの言葉。 しかしヒナタは柔拳の構えを取りその白き眼で天道を睨みつけた。

 

「増援か……俺たちの戦いの様子を知りながらも来るとは無謀な事を」

 

「ナルト君には……もう手を出させない!!!」

 

 新たな戦闘の予感にナルトが叫ぶ。

 

「早く逃げろ!! お前じゃそいつは──」

 

「違うよ、ナルト君」

 

 その叫びは、ヒナタの芯のこもった言葉が遮った。

 

「最初から諦めたりするのは……違うの……それじゃあナルト君らしくない」

 

「何言ってんだ……そんな──」

 

「私は……自分の意志でここに居る。 間違えても、苦悩しても……今までのナルト君はそれでも足を前に出し続けていた! そしてそんなナルト君を追いかけ、一緒に並び立ちたくて私も歩んできたっ! ……例え今は勝てない相手でも、絶対に諦めずに……っ私は……負けないっ!!」

 

 ヒナタは叫び、駆ける。 天道に対して繰り出される柔拳は、容易く手でいなされるが同時に

 

「こちらの体術も捌くか……防御に長けている様だが……」

 

 天道の拳もヒナタは寸前で逸らすことで戦況が拮抗したかのように見えたが

 

 

「神羅天征」

 

 

 その一言で、ヒナタの身体が激しく吹き飛び地面へと叩きつけられる。

 

 

「ヒナタぁ!!!」

 

 ナルトの叫びに呼応するように、ヒナタは頭から血を流しながらも震える足で立ち上がる。

 

「やめろ、もう立つなっ!! 諦め──

 

「ナルト君っ!!!!!」

 

  

 

 

 

 

「っ私は……ハァ……ナルト君が大好き……だけど、それは今のナルト君じゃないっ!! そんなふうに俯いてるのは貴方じゃないっ!! そんな諦めろなんて言葉を口にしたりなんかしないっ!! ……貴方の様に私は真っすぐ自分の言葉は曲げないっ!! それが──」

 

 

 

──柔歩双獅拳

 

 

「私の忍道だからっ!!!!!」

 

 叫び走る彼女に対応するように天道は再度掌を構える。

 

「神羅天征」

 

 しかし

 

「八卦掌・獣空天っ!!」

 

 跳躍したヒナタが体を回転させることでその斥力の暴力を受け流し、最小限のダメージに抑え殆ど吹き飛ばされることなく地面へと降り立つ。

 

「なに……?」

 

 まさかの結果に天道が顔をしかめると、すぐ目の前にヒナタが迫りくる。

 

 その両手に纏う獣を模ったチャクラの塊は、空間を削ぐように天道へと迫った。

 

「っ……」

 

 ヒナタのその柔拳を捌いた天道の腕の動きが、次第に鈍り始める。

 

(相手のチャクラを削る術か……生身であれば経絡系への深刻なダメージになるろうが、ペインにもここまで効果があるとはな)

 

 腕の麻痺を見つめて確認した天道がたまらず距離を大きく離した隙にヒナタが腰を落としてその場で構える。

 

「八卦・獣崩撃っ!!」

 

 突き出された両手から、二体の獣のチャクラの塊が解き放たれ天道へと迫る。

 

(時間差攻撃、俺の神羅天征を警戒し同時ではなく一体ずつ着弾するように術を放ったか……しかし)

 

「神羅天征」 

 

 斥力が一方的に獣を無へと還すが、その隙をついて二体目の獣がそのキバを向く。

 

 天道はその攻撃を…… 

 

 己の右腕を犠牲にして強引に後方へと逸らした。

 

 獣に腕を噛まれたかのように体を仰け反らせつつも右腕を脱力したようにぶら下げるようになった天道に、ヒナタが駆け寄る。

 

(柔歩双獅拳は繊細な術……すぐにもう一度使うことは出来ない……でもっ!!)

 

 天道は駆け寄るヒナタに対して左腕を突き出し構える。

 

「動きが制限されようとも、小娘一人御するのには何の影響もない……」

 

 柔拳を捌くことに関して天道は余裕を持っていた。 何より経絡系へのダメージに特化した柔拳は

 

(ペインの身体は、全身の受信機によって俺のチャクラを受信させ操作している。 経絡系そのものが無い以上、一時的にチャクラが弾かれ動きが鈍るのみで決定的なダメージには成りえない)

 

 天道への有効打になりえないことが、長門にその余裕をもたらしていた。

 

 神羅天征を放ってから五秒経つ前にヒナタが天道の正面へと来る。

 

(あと二秒……) 

 

 ヒナタが大きく腕を引く。

 

(あと一秒……一撃では俺に勝てない)

 

 その攻撃を捌くまでもないと、天道が勝ちを確信した瞬間。

 

 

 

──ガチンッ!!

 

 

 

 強く歯を食いしばって

 

 

 

──ギィッ!!!

 

 

 強く拳を握りしめる音が届く。

 

 

 日向ヒナタはその全力の拳を天道の顔面目掛け解き放つ。

 

(柔拳ではないだとっ!?)

 

 咄嗟に天道が左手を使いヒナタの拳を逸らそうとする──が

 

 その左手は大きな力が働いたかのようにバチンと音を響かせ弾かれた。

 

「っ!?」

 

 そして……その拳が天道の顔面を射抜く。

 

 

「螺旋拳っ!!!!」

 

 

 ヒナタの拳に纏われていたチャクラの渦は、薄く高速で回転し柔拳では実現できない破壊力を持って天道を吹き飛ばした。

 

 チャクラの渦が天道の手を弾き、そしてその体に物理的なダメージ残したのだ。

 

 そして天道が土煙を巻いて地面を転がっている隙にヒナタはナルトの元へと駆け寄る。

 

 頭からの出血でフラフラになりながらも、ナルトを拘束している黒い棒を抜こうとするヒナタ。

 

「ナルト君、今助けるからっ!」

 

「……ヒナタっ!」

 

 一本……二本とその拘束が解かれ、そして

 

 

 

 ヒナタの口から血があふれる。

 

 

 

「……なっ!?」

 

 その事象にナルトが、声にならない声を挙げる。 ヒナタはそのまま虚ろな目となり地面へと横たわってしまう。

 

 

「……ここまでやるとはな……予想外ではあったがしかし」

 

 

 土煙の中から、左手を突き出した天道が姿を現す。

 

 

「焦ったな、止めを確認せずとは随分と甘いものだ」

 

 ナルトの顔の直ぐそばに、倒れたヒナタの顔が来る。 口から血を流している彼女の腹部にはナルトと同じ黒い棒が突き刺さっていた。

 

「あ……っ……あっ……」

 

 ナルトのその様子に、天道が語りかける。

 

「愛情があるからこそ犠牲が生まれ……憎しみが生まれる……そして」

 

 

「うォアアア゛ア゛ア゛!!!」

 

 

「──痛みを知ることが出来る」

 

 憎しみが力を呼び覚まさせる。 ナルトの周囲は赤黒く染まり、その体からあふれるエネルギーが地形を高熱で溶かし始めていた。

 

(九尾の力か、怒りで奴と呼応するようだな……ん?)

 

 天道の視界の端に僅かにチラつく影、ふと目線を向ければ

 

 ヒナタを抱えた悟が居た。 

 

 ナルトの九尾化の余波からヒナタをギリギリ助け出した悟は、そのナルトから放たれている衝撃波に手をかざす。

 

(こうなったか……っ!! 今はヒナタを治療するのが先決か……)

 

 その場から離れようとする悟を見逃すように天道はナルトへと目を向ける。

 

 一気に六本の尾を顕現させたナルトの体格に添うように獣の骨のような物が形成され始めていた。

 

 そんな正気を無くしたナルトに天道は語りかけた。

 

「俺が憎いか? これでも人は本当の意味で理解し合えると言えるか?」

 

「グオオオオオォォォッ!!!」

 

 明らかに敵意を向きだしたナルトの咆哮に、天道は

 

「それでいい、だがな……俺の痛みはお前以上だ」

 

 その輪廻眼の鋭い視線を向けた。

 

 

~~~~~~

 

 

──何でだ!? 何でこうなっちまう!?

 

 何もわからねぇ……アイツが言っていた憎しみとの向き合い方も……その答えも……っ!!

 

 苦しい……嫌だっ……もう…… 

 

「ナルト……」

 

 分からねぇ!! 俺ってばどうすりゃいい!? もう何も分かんねぇよ、誰か助けてくれっ!! 答えを教えてくれっ!!!──

 

「ならばその答え、教えてやろう」

 

「……!」

 

「そしてそのための力をお前にやろう。 苦しむもの、全てを灰塵へと帰す力をなぁ……なぁナルト?」

 

 ナルトの精神世界。 鉄格子の奥の闇の中から轟く低い声。

 

「お前の心を全てワシに預けろ、そうすれば苦しみからお前を救ってやる……」

 

 瞬間、ナルトの衣服の前面が弾け腹部の封印術の印が露わになる。 そしてそのまま封印術の印から、ナルトの憎しみをこぼすかのように黒い感情が目に見える形であふれだす。

 

「……」

 

 その瞬間正気を失ったかのようにナルトは檻へと向け覚束ない足取りで進む。

 

「力そのものに善悪などない……がそれが及ぼす結果に愛憎は必ず付きまとう。 憎しみで力を振るえば憎しみが増す……さてナルトよ」

 

 檻の合間に張られた封と刻まれた封印の札に手を掛けるナルト。

 

「お前も……所詮は憎しみに支配され力だけを欲する人間だったという訳だな……」

 

 何かがっかりするような調子の九喇嘛の声が発せられた瞬間

 

 

 ナルトの腕を何者かが掴みその動きを止める。

 

 

「っお前は……っ!!」

 

 驚く九喇嘛。 そして

 

「四代目……火影……?」

 

 虚ろになりながらもナルトがそう呟く。

 

 突如として現れた金髪碧眼、その火影の羽織を纏いし男性はナルトの身体を封印の札から引きはがし口を開く。

 

「八本目の尾まで封印が解放されると俺がそれ以上の事態を防ぐために封印式に細工をしておいたのさ。 なるべくはそうなってほしくはなかったが……あまりお前に会うのも気まずいからね九喇嘛」

 

 少し苦笑するその人物は言葉を続ける。

 

「でも……成長した息子に会えるんだ、イーブンと思ってもいいかな」

 

「四代目火影……貴様っ!!」

 

「少しうるさくなりそうだから、場所を移そう」

 

 九喇嘛に四代目火影と明言されたその人物が指を鳴らすと、ナルトの精神世界が一瞬で光に包まれナルトとその人物だけの空間になる。

 

「さて……ナルト」

 

「ナルト……って俺の名前をどうして……?」

 

 話を切り出そうとした四代目火影はナルトの疑問に当然のことのように答える。

 

「ん……どうしても何も、だって俺がその名を選んだんだから、せがれだしね」

 

「せがれって……じゃあ俺ってば」

 

「さっきもいったろ、俺の息子だよ」

 

 その四代目の言葉に、ナルトは何かを噛みしめるようにして涙を浮かべ小さく笑う。

 

 そんな様子のナルトに四代目は

 

「三代目、ヒルゼン様は九尾に関わる情報をなるべく伏せておきたかったんだろうね。 息子と分かればお前に色々と危険が降りかかるから……すまなかったナルト」

 

 申し訳なさそうに謝罪をする。 ナルトはその言葉に涙を腕で拭きながら

 

「父ちゃん……」

 

 そう呟き

 

 四代目の腹部を殴りつけ叫ぶ。

 

「何で息子の俺に九喇嘛を封印したんだってばよ……っ!! おかげで色々すっげー大変だったし……うれしいんだか腹立つんだかごちゃごちゃでもう分けわかんねーってばよ!!」

 

 その泣きながら自身の苦悩を吐露するようなナルトに、四代目は自身の腹をさすりながらも優しく語りかける。

 

「ナルト……何歳になった?」

 

「うぅ……うっ……16歳……グスッ」

 

「そうだな、もう16歳だ……色々大変だったよなナルト、すまなかった。 息子のお前に辛い思いばかりさせてしまった俺が父親面するのも違うかもだけど……」

 

「……いいよ……もう……四代目の息子なんだから……我慢する」

 

 震える声で、しかし涙を抑えたナルトの気丈に振舞う姿に四代目は申し訳なさそうな表情をして口を開く。

 

「お前に九尾の……九喇嘛のチャクラを半分残して封印したのはこの力を使いこなすと信じていたからだ……俺の息子ならとね」

 

 そして

 

「何故そんなことをしたかについては理由があってね……」

 

 四代目火影・波風ミナトは昔を振り返るように語る。

 

「今から16年もの前に九喇嘛が里を襲った時に分かったことがある」

 

「……?」

 

「あの時九喇嘛を操り里を襲わせた黒幕がいること……それはお前も既に会っている暁のメンバー」

 

「……ペインじゃないのかってばよ?」

 

「面をしている男、俺の全ての動きを見切るほどの実力者だ。 そいつと戦って俺は九喇嘛の力が必要になると確信したんだ」

 

 ミナトの言う暁の面の男、それはナルトが以前サスケを捜索していた時に会い妨害にあった忍びの事であった。 その男の存在を思いつつもナルトは自身の思いを口にする。

 

「でもペインは木ノ葉に恨みがあって、昔も自分たちの里もやられたって言ってた……」

 

「その復讐心を仮面の男に利用されたんだろう」

 

「利用って……何でこんなに木ノ葉は狙われちまうんだ!?」

 

「……この世に忍びのシステムそのものがある限り、平和な秩序はないのかもしれない。 お前の中から聞いていたが、ペインがお前に問うた答えは……見つけるのはとてもじゃないが容易じゃない。 大切なモノを守る戦いで憎しみが生まれる……愛が憎しみを生み、その憎しみに忍びが利用され留まることを知らない。 ペインはその時代が生み出した産物であり、自来也先生は時代に殺されたと同然なのだろうね……」

 

「だからって……俺はペインを許せねぇってばよ……っ!」

 

 時代に、大きな流れに沿った出来事だとしてもナルトは自来也の命を奪ったと思われるペインに対しての怒りの感情を覚えずにはいられなかった。 そんな様子のナルトにミナトは一つの考え方を提示することにした。

 

「先生がお前に、その憎しみを終わらせる答えを託した……それは──」

 

「四代目なら……父ちゃんならその答えがわかるのか……?」

 

 ナルトの懇願するのその言葉にミナトは

 

「……答えは自分で見つけるしかない……俺にも絶対的な答えというものはわからない」

 

 厳しく、そして優しくそう告げる。

 

「ッエロ仙人や四代目すらわかんなかったことが俺に出来るわけねーだろっ!! 皆勝手すぎるんだってばよっ!!」

 

 苛立ちを露わにしたナルトは言葉を続ける。

 

「俺ってば頭わりーし、そんなにすげー忍者でもねーしっ!! それに……皆から覚悟が足りないとか、力が何なのかわかってないってめっちゃ言われるしっ!! 俺は──」

 

 

 

 

「俺はお前を信じているよ」

 

 

 

 

 喚くナルトを落ち着かせるように、ミナトはナルトの頭に手を置きそう語り始める。

 

「確かにお前はまだまだ未熟だ。 先を行く者も少なくないだろうし、出来ることも多くはないかもしれない。 だけどそれでも俺は信じている、お前なら答えを見つけることが出来るってね」

 

「何で……そんなに……」

 

「息子だからってのも確かにあるけど、今までのお前を見ていて心底そう思うんだ。 大丈夫だ、ナルト心配することはないよ……既にお前自身の中に答えはあるはずだからね」

 

「俺の……中に……?」

 

 ナルトは腹部の解放された状態の封印式に目を落とす。 その様子にミナトは苦笑いを浮かべた。

 

「中ってのそういうのじゃなくてね……人生の経験の中にってことさ。 まあ、あまり教えすぎるのも良くないけど、俺から一言いうなら…」

 

「言うなら?」

 

「お前は()()()()()()()だってことだ」

 

 そのミナトの言葉にナルトは疑問符を浮かべた。 しかし次の瞬間

 

『あいつは…あいつはこのオレが認めた優秀な生徒だ』

 

『……努力家で一途で……誰からも認めてもらえなくて……そのくせ不器用で……あいつはもう人の心の苦しみを知っている……』

 

『今はもうバケ狐じゃない、あいつは木ノ葉隠れの里の……()()()()()()()だ』

 

 ふとそんな声が精神世界に響く。

 

 その状況にミナトは安心したように笑顔を浮かべた。

 

「そう、()()()()()()だよナルト……さてと俺もそろそろチャクラが薄れて消えそうだ。 最後に封印を組み──」

 

「父ちゃん」

 

 ふとナルトに呼び止められたミナトは口を止め、その息子の言葉を聞く姿勢になる。

 

「……母ちゃんってどんな人だった?」

 

「ん……明るくて、時々厳しいけど笑顔の素敵な人だったよ」

 

「……母ちゃんは俺のことどう思ってたかな?」

 

「……もちろん愛していたさ、とびきりね」

 

「へへ……ありがとうってばよ……そんだけ確認できたら十分だ」

 

 そういうとナルトはミナトに抱き着いた。

 

「っ! ……良いのかい、封印を組み直さなくて」

 

「ああ、俺に考えがある」

 

「そうか……それじゃあ俺は息子を信じるだけだ。 大丈夫、木ノ葉はまだやり直せる……頼んだよナルト」

 

 優しく、けれど甘やかさない厳しさを含んだその言葉には信頼が込められておりミナトはナルトの背を叩き、薄すれその場から消え去った。

 

 そして

 

 ナルトの目には確かな光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってきたか……ナルトよ」

 

 精神世界の檻の目の前に立つナルト。 その姿を捕らえた九喇嘛がその名を呼ぶとナルトは顔を挙げる。

 

「その眼……お前、何を考えている?」

 

 不信がる九喇嘛にナルトは無言で見つめ返し……そして

 

 大きく跳躍し

 

 

 

──封印の札を引っぺがした。

 

 

 

「っ!?!?」

 

 一瞬あっけに取られたが封印が開けられたことで、檻が開き九喇嘛の咆哮が轟く。

 

 咆哮が水面を荒立たさせ、着地したナルトをその風圧が襲う。

 

「四代目と何を話したがは知らんが貴様、ワシを解放したな? いいだろう、力を──」

 

「要らねぇ」

 

 意気揚々よ話す九喇嘛に、ナルトは一言簡潔に述べた。

 

「……ハァ?」

 

「……俺に力を貸さなくても良いんだって言ってんだ」

 

 そしてナルトのその言葉に九喇嘛が声を大にして疑問を口にする。

 

「ならなぜ封印を解放した?! 貴様は何がしたい、ワシに何を求める?」

 

 九喇嘛のその疑問にナルトはゆっくりと自身の右腕を挙げ

 

 親指で自分を指示した。

 

 

「俺を見ていてくれ」

 

 

 シンプルなその言葉に、しかし九喇嘛は意図が読めずに困惑する。

 

「……俺ってば馬鹿だから、直ぐに自分が言ってたことも忘れちまう……だから俺が二度と自分の言葉を曲げねぇように……九喇嘛、お前に見ていて欲しいんだ」

 

「……貴様」

 

 九喇嘛はナルトが持つ考えを察して口を閉じた、

 

「答えって奴は……悔しいけどすぐには出ねぇ。 でも大切なことに気づくことは出来た……俺はうずまきナルトだ! 確かに俺はまだまだなひよっこで、世界の憎しみをどうにかできる程の忍者でもねぇ……でも、俺には沢山の繋がりが……俺を、うずまきナルトを信頼してくれている人たちがいたって気づけた! カカシ先生もサクラちゃんも、サイもヤマト隊長も、綱手の婆ちゃんも里の皆も、エロ仙人に多分悟と……サスケも……そして俺をちゃんと、ずっと見てくれていた奴がいてくれることにも気がついて……皆が俺のことを信じくれている、うずまきナルトを見てその先を期待してくれてるんだってな」

 

 自信を取り戻したナルトに九喇嘛が問う。

 

「ナルト、力とはなんだ?」

 

「力ッつーのは、影分身でも、螺旋丸でも、仙術のことでも……ましてや九喇嘛の貸してくれてたチャクラの事でもねぇ!! 

 

 

 

──俺自身の心だっ!!」 

 

 

 

「……ほう?」

 

「俺はそれが中途半端になっちまってた……何でも出来て強い悟が直ぐそばに居て、あの時サスケに負けて……そんで俺に力が足りないからダメなんだって心のどこかで勘違いしちまった。 我愛羅が風影になったって聞いた時も焦って……でも、そういうので自分を見失ってたのがダメなんだ。 そんな状態でも、前に進み続けることが大事で……今を認めて先を諦めないことが大切なんだ」

 

 檻を挟まずに、ナルトと九喇嘛は互いの正面で語り合う。

 

「ペインの言ってたことを俺が全部解決できるかわかんねぇけど……俺なりの言葉は用意できた。 後はそれを、本当のアイツと正面に立って伝えてぇ!! んで、その様子を九喇嘛!! お前に見ていて欲しいんだ!」

 

「……それで封印を解放したのはどういう了見だ?」

 

「もし、俺の言葉や行動に不満があったら遠慮なく俺の体から出て行っても構わねぇつーことだ」

 

「その言葉の意味分かって言ってんのか? ワシが今すぐにでも木の葉の忍びを襲うかもしれんのだぞ?」

 

「……九喇嘛、お前はそんなことしねぇーよ」

 

「……」

 

「小さい頃から、お前を見てきたからな。 俺は本当は知ってんだ、お前はただイタズラに暴れるだけの化け狐なんかじゃねぇってな……何時も誰かの所為で暴れちまってただけだ。 仮面の忍びって奴のせいと……それと俺の憎しみや怒りの感情が暴走してただけで、お前自身が本当は誰かを傷つけることを望んでねぇってのは……わかるってばよ」

 

 ナルトは頭を下げる。

 

「本当にごめん!! 産まれてから一緒にいたお前を、俺は都合の良い道具のように扱っちまってた!! 昔にそうするなってお前に言ってたのに、ダッセーよな……だけど九喇嘛、俺は」

 

 その瞬間、九喇嘛の前足がナルトを踏み潰さんと襲いかかる。

 

 そして精神世界に振動が響いた。

 

 水飛沫が上がり揺れる世界で、九喇嘛の前足の指の間で怯むことなく真っ直ぐとした目をしたナルトに九喇嘛が話しかける。

 

「(今更この程度では怯まんか)ぜってーあきらめねぇ……だろ? 昔にナルト、お前が言っていた言葉だ」

 

「っ!……ああ、俺に悪いところがあったのは謝るし直す! んで、お前にも……誰よりも俺を知ってくれているお前にも俺のこの先を見ていて欲しいんだ!」

 

 真剣で迷いのないナルトの目を見つめる九喇嘛。

 

 身を細めた彼は、遥か遠くを見るような表情を浮かべ……そして鼻で笑う。

 

「フンッ……良いだろうナルトォ! お前のその願い、聞いてやろう。 つまり今回の戦いにワシは手を一切貸さん! 貴様だけの実力であのペインとか言う輪廻眼の野郎をとっちめてこい、そうしたらお前の今後を見極めると言う話にも乗ってやろう」

 

「っ……! ありがとうだってばよ、九喇嘛! 大丈夫だ、俺はぜってーに負けるつもりもねぇし、お前を兵器か何かにもさせやしねぇ!」

 

 意気揚々とはしゃぐように喜ぶナルトは、手を振りながら精神世界から消えていった。

 

 

 

 

 

 独りになった九喇嘛がため息を吐き、体勢を整え前脚を組んで座り込むとふとその顔の横で声が聞こえた。

 

「これが俺の息子の選択か、九喇嘛……君はどう思った?」

 

「四代目貴様……まだ残ってやがったかっ」

 

 明らかに不機嫌そうな九喇嘛の態度にミナトは自身の頬をポリポリと掻く。

 

「僕もナルトの中から君の様子を見ていたからね。 君が伝承に聞くような奴じゃないとは直ぐに気がつけたけど……僕はまだ君とは信頼関係がないから万が一を想定して残っていたんだ。 だけどやっぱり……その必要はなかったみたいだ」

 

 そう言うミナトの体はすでに透け始めていた。 それは彼の話が嘘ではないことを示している。

 

「……てめぇを殺した相手に随分と甘い態度だな」

 

「それを言うなら、君をただの力として扱いナルトに封印した僕に対して君も甘いと思うよ」

 

「フン……ほざけ」

 

「ハハハ……それじゃあ九喇嘛、息子を……ナルトを頼んだよ」

 

 その言葉を残して四代目火影・波風ミナトの残留チャクラはその形を失い、完全にナルトの精神世界から消え去って行った。

 

「親子そろって……つくづく甘い奴らだな……フンッ」

 

 せいせいしたと九喇嘛は足を組みなおし外の様子を伺う。 彼なりにナルトを見極めるつもりのその瞳には、かつてのやり取りがまばらに思い出されていた。

 

「……フンッ!」

 

 

────

 

 

(……なんだ九尾つっても賢くねーんだな、俺とおんなじだってばよ)

 

(あぁ?! 貴様と一緒にするなぁ!! ……どれ問題とやらを見せてm………………ワシは寝るっ!)

 

 

 

  

(無駄だ、そんなことしてもチャクラの無駄にしかならん)

 

(うっせー! 俺は諦めねぇ……諦めねーぞお!!)

 

(……ふんっ)

 

 

 

 

「俺ってばお前のつごーの良い道具じゃねーんだってばよォ!!」 

 

「……なら交換条件だナルトぉ。ワシのチャクラを少し分けてやる。その分は口寄せだのなんだの好きに使え。その見返りにお前は悟に挑め、そして無様な姿をさらさせろ! これでどうだ……?」

 

「……別に俺は悟のこと嫌いじゃねーしな」

 

 

 

 

 

 

(ナルトも貴様も、慣れ慣れしいィ! どうしてワシのことを恐れんのだ……)

 

 

 

────

 

 

 

 現実世界、少し時間が戻りナルトが暴走し天道と里を離れた時。

 

 上空で空爆を続けていた小南は九尾化したナルトと天道が既に爆破の防壁を軽く越え、里の外で戦闘を開始したことを察して空を羽ばたき移動していた。

 

「既に長門の体力は限界が近いハズ……木ノ葉の連中も周囲の捜索を始めたようだし、私は長門の元に戻る方が良さそうね……」

 

 小南がそうして撤退したことで、木ノ葉の爆撃が止みその中のクレーターにいる悟たちに忍び達が駆け寄っていた。

 

 そんな中、悟はいの一番で春野サクラを呼ぶ。

 

「サクラっ!!! 力を貸してくれっ!!」

 

 そんな大声に釣られれば、悟が腹部から出血しているヒナタに掌仙術をかけている様子が目に入りサクラが急いで駆け寄る。

 

「ちょっ……! ヒナタ大丈夫!? 一体どうなってんのよっ!」

 

 声を荒げながらも、医療忍術の専門家であるサクラは悟よりも遥かに高い技術によりそのヒナタの傷の治療を迅速に行い始めた。

 

 脇で泣いていたハナビに、治療の手を変わってもらった悟が近づき頭を撫でて落ち着かせようとすると焦ったような声が聞こえた。

 

「綱手様っ!!」

 

 シズネがチャクラを消費し老化した見た目の綱手を様子を見ているのだろう、取りあえず命を落とす心配がある者が居ないことに安堵した悟だがその周囲を木ノ葉の忍び達が囲う。

 

 明らかに敵意のあるその様子に悟が両手を挙げて危険性が無いことを示そうとするがその瞬間

 

 

「悪いがこいつに手は出させない」

 

 

 そんな声が聞こえた瞬間、悟の目の前に長髪の男性が庇う様に姿を現した。

 

「ネジ……!?」

 

「本当に……本当に随分とややこしいことをしでかしてきたな悟。 だが話を聞くのは後だ」

 

 名を呼ぶ悟に、ネジは周囲の忍びに向け声を張り上げる。

 

「こいつが暁に所属していたのは綱手様の指示だっ! 思う所がある者も多いだろうが実際こいつは綱手様と共に暁相手に先ほどまで戦っていたっ!! 今はこいつのことよりも状況の修復に努めろっ!!」

 

 ネジの要点を絞ったのその言葉に感情的になっていた忍び達は顔を見合わせ散開していく。

 

 危機が去ったことに安心し悟が一息つくと、ネジが振り返り軽く悟の頭を小突いた。

 

「いてッ……何すんだよ?」

 

「言いたいこと、聞きたいことが山ほどあるがそれは後でだ……お前にはまだやろうとしていることがあるんだろう? ここは任せてサッサと行け」

 

「……よくわかったな」

 

「感情が表情に出るのは相変わらずだからな、お前は。 なのに女装程度でお前だと気づけなかったのは一生の不覚だな……っ」

 

「……ハハハッバレないように色々工夫したからな、それじゃあ頼んだネジ」

 

 そう言って悟はネジに手を振るとゆっくりとだが浮かび上がり、里の外に向け飛び去って行った。

 

 呆れたようにその背を見ていたネジだが、直ぐに近くのハナビに向き直る。

 

「ハナビ様、ご無事で何よりです」

 

「……悟さんっ」

 

 ああ、自分は眼中にないんだと察したネジは後から来たテンテンやリーらと協力し、綱手とヒナタとハナビを里の外に避難させるのであった。

 

 

 そして

 

 

 

 

 空に巨大な球体が浮かぶ。

 

 それは小さな月の如く、重力に反して天体のように宙に佇みしかし大きな振動と衝撃を伴って中から崩れ去ろうとしていた。

 

 球体から顔を出す皮膚を剝がしたような肉がむき出しの巨大な獣の咆哮が轟く中、その八本の尾が球体から突き出していた。

 

 そんな光景をボロボロになった天道が見上げていると

 

 

 瞬間的にその悍ましい姿の獣は姿を消しさり、球体にその分の穴を開ける。

 

(地爆天星が破られたか……それに)

 

「九尾が消えた……?」

 

 獣が消えた球体の跡地に天道は人影を見つける。

 

 目の周りに仙人の隈取りをつけ、その少年は地上にいる天道を真っすぐな目で見つめていた。

 

(迷いが消えたか……何があった? それとも既に九尾を制することが出来るとでもいうのか……)

 

 一連の出来事に、疑問を感じつつも天道は崩れ始めた地爆天星から瓦礫を伝って地上へと着地したその少年に目を向ける。

 

 

……ナルトと長門の戦いの最終決戦が始まろうとしていた。



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22:道の歩き方

 うずまきナルトと、ペイン・天道が視線をぶつけ睨み合いの硬直が続く。

 

 頭上から地爆天星の瓦礫が降り注ぐ中、胸元からナルトの肩にかけてもぞもぞと移動する小さな影が一つ。

 

「ぷはぁッ……死ぬかと思いました~」

 

「カツユ! そういやぁいたんだったな……大丈夫だったか?」

 

 ナルトはカツユの存在に気がつくと、天道から視線はそらさずにその安否を聞く。

 

「ええ、なんとか……どうやら里の方では、既に避難が進み皆さま近くの避難用区域まで移動しています。 ペインの本体の位置についても、里の忍びの方たちが既に特定に向けて勤しんでいるようです、ナルト君が正気を取り戻したことも皆さんに報告しておきますね」

 

「ああ、皆も色々動いてくれてるんだな……俺が暴れたせいで誰も傷つかなかったのは良かったってばよ……さて……」

 

 カツユからの報告を聞いたナルトは、目を瞑り感知能力で里の皆の無事を自分で確認する。

 

(良かった、ヒナタも無事みたいだってばよ……だけど()()()()()()……そいつには俺が直接確認したいことがあんだ、早いとこいつをぶっ飛ばして行かねぇと手遅れになっちまう……)

 

 そこで目を開けたナルトに天道は語りかける。

 

「……少しは痛みを理解できたか? まあ、理解したところで分かり合える道理でもないのだがな……」

 

「そう言う話は……直接、お前自身としてやるってばよ!」

 

「ほう、本体に気づいたか……だが話は先に終わっている。 答えの無いお前が今更何を語ったところで何も変わりなどしない」

 

「……やっぱ戦うしかねーみてーだな」

 

 会話を終え互いに少しずつ歩み始める。 その歩みが早くなり、駆けるようになった瞬間2人の距離は零となりその腕がぶつかり合う。

 

 既に仙人モードになっていナルトと天道の接近戦はナルトに分があり、交差する格闘戦でナルトは天道を蹴り飛ばして距離を空ける。

 

 だが、そのナルトの蛙組手も彼の疲労とチャクラの消費、九尾化による体力の消耗が合わさることで有効打には成りえないことがその一度の交戦でわかる。

 

(奴の仙人モード自体は、決め手であろうあのチャクラの手裏剣を二発ほど撃たせれば切れる……仙術チャクラを消費させれば、奴自身を捕えることなど容易い)

 

 長門の思惑に添うように、ナルトは既に影分身を出して螺旋手裏剣を構えていた。

 

 ナルトの脇の影分身が煙球を用いてその身を隠すと、直ぐに煙の中から螺旋手裏剣が天道目掛け飛来する。

 

(まずは一発目……だが、奴も同じ目くらましによる手を乱用するとも限らないっ)

 

 天道はナルトの行動を読み、隙を晒す神羅天征を温存するため様子見に万象天引で後方の瓦礫を引き寄せそのまま正面から向かい来る螺旋手裏剣へと放つ。

 

 瓦礫と螺旋手裏剣がぶつかった瞬間、螺旋手裏剣が煙を挙げ一瞬ナルトの姿になり消え去る。 その時点で螺旋手裏剣へ変化した影分身だったのだと天道が把握した瞬間、後方から更に影手裏剣の要領で新たな螺旋手裏剣が迫って来ていた。

 

「っ……!」

 

 天道が螺旋手裏剣が爆発しその効果範囲を広げる効果があることを思い出し、恐らく本命であろうその術の対処の為に右手を構える。

 

「神羅天……征!?」

 

 

 

 

──天道を中心に斥力が働く瞬間、天道の周囲に散らばっていた瓦礫が次々と煙を挙げそこから幾多のナルトが姿を現す。

 

 

 

 

 仙人モードによる多重影分身が地爆天星の瓦礫に変化して既に大量に潜んでいたのだ。

 

 そして神羅天征が螺旋手裏剣を弾き消し飛ばした瞬間に、影分身たちは一気に跳躍しそれぞれがその手に大玉の螺旋丸を携えていた。

 

 決め手であろう螺旋手裏剣を最大限囮に使い、ナルト得意の物量で攻めるその攻撃は完全に神羅天征のインターバルと思われる五秒の隙をつく。

 

「これで終いだっってばよォ! 仙法・超大玉螺旋多連丸っ!!」

 

 幾多の掛け声が、天道を取り巻き唸りあがる。 しかし周囲を螺旋丸特有の水色の光に覆われた天道は……ゆっくりと両手を挙げていた。

 

 

 

 

 

──神羅天征

 

 

 

 

 

 既に撃ち終えインターバルに入っていたはずの神羅天征を天道は再度放つ。

 

 ナルトの螺旋丸らがその神羅天征の斥力に打ち消され、押し返され始める光景が広がった。

 

(神羅天征の出力を一度極限まで下げ、撃ち切ったと誤解させ再度出力を上げる……変化の分、負担も大きいがこれで奴の攻撃を受けきりさえすればば……ッ)

 

 天道は……長門は渾身のチャクラを込め神羅天征の規模を拡大させていく。 周囲に更にナルトの影分身が潜んでいるリスクもケアして完全な勝利を手にするために。 その一撃で全てを決するために。

 

 そしてナルトの超大玉螺旋多連丸は撃ち尽くされ神羅天征が周囲を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 ……瓦礫の崩れる音が静けさに響く中、天道は片膝を突いた態勢からよろよろと立ち上がる。

 

「これで……っ俺の──

 

 

 

 その刹那、天道の顔面は顎からの衝撃を受け大きく歪む。 その衝撃に吹き飛んだ天道が空中で機能停止に陥りかけながらも、なんとか体を翻して地面へと着地する。

 

「っ!!」

 

 先ほどまで天道自身が居た位置には地面に穴を開けそこから飛び出してアッパーカットを決めていた荒い呼吸をするナルトの姿があった。 ダメージの許容量に限界を迎えつつ天道はふらつきながらも右手を構え語りかける。

 

「少々驚いたが仙術も切れ、どうやら最後のチャクラを使い果たしたか……諦めろ、この勝負……俺の勝ちだっ!」

 

 天道は輪廻眼を見開き万象天引によってナルトを引き寄せる。

 

 宙に身体が浮き天道に引き寄せられながらもナルトは腰のポーチに手を突っ込んだ。

 

「……チャクラがなくなってもなァ!!」

 

 そう叫んだナルトは取り出したクナイを天道に向け引き寄せられながらも突きつけた。

 

 しかし天道はその突きをナルトの手首を掴むことで防ぐ。

 

「今更クナイなどの──」

 

 瞬間、ナルトを制したと思い込んだ天道の眼前に……クナイの尾に紐づいた起爆札がチラつく。

 

「ナニっ!?」

 

 自爆ともとれる超至近距離での起爆札の爆発。

 

 天道は咄嗟にナルトの手のを離し、距離を取るために跳躍するも起爆札の爆発に巻き込まれ態勢を崩しながら後方に吹き飛ぶ。

 

 尻もちを付くような態勢で爆発の煙に目を向けた天道の視界には

 

 

 

 

──その爆炎の中、火傷を負いつつも自身へと迫りくるナルトの姿が目に映っていた。

 

 

 

 爆発に怯むことなく更に踏み込んできたナルトは

 

 

 

──ガチンッ!!

 

 

 

 強く歯を食いしばって

 

 

 

──ギィッ!!!

 

 

 強く拳を握りしめその腕を振りかぶる。

 

 

 

「今の俺の拳にはっ!! 色んな奴のっ!!! 色んな想いがいっっっっぱいに詰まってっからっ!!!!

 

 

 

──痛ェぞぉッ!!!!!」

 

 

 

 鈍く重い、重低音が短く轟き天道の顔面が鼻からゆっくりと潰れる。

 

 どちらの骨の音か、ミシミシと軋む音が鳴り響く。

 

 既に数秒経ったかのように感じられるほど、しかしナルトの拳は未だに天道の顔面を捉えて突き進む。

 

 踏み込んだ地面に亀裂が広がり、その拳は直下に叩きつけられようとその軌道を地面へと向ける。

 

 空気を押しのけ天道の後頭部が地面へと接触しさらにヒビを入れ始めゆっくりと陥没していく。

 

 そして

 

 

「だぁらあああああああああっ!!!

 

 

 忍術でも、特別な体術でもない、チャクラを用いないその拳は

 

 叫び声と共に大きく地面を割り揺らし、膨大な土煙を巻き上げた。

 

 

 拳を放ったナルトがその勢いのままにその身を放り出されると、地面を数度跳ねてうつ伏せに倒れこむ。

 

「っ……へへ、どうだ……っ!」

 

 疲れ果てたナルトの呟くその視線の先には……地面へと埋まり動きを完全に止めた天道がいた。

 

 戦闘の決着はつき、そして──

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の里近くの山の上、そこに生える多数の木々の中1つの根元に仙人モードになったうずまきナルトは立つ。

 

 ふいにその木に手を差し込めばその表皮は紙で出来ており、容易く裂かれ入り口が出来る。

 

 中に踏み込んだナルトの視界には、暁の小南と……口から血を垂れ流し今にも死にそうなやせ細った赤髪の人物が映った。

 

 小南がその人物・長門を庇う様に前に立つが

 

「……小南、下がれ」

 

「長門……っ」

 

 長門が手出しをさせないように指示を出し、力のない視線をナルトへ向ける。

 

「平和が……ノコノコとやってきたな」

 

「アンタがペインの本体だな……」

 

 長門の皮肉にナルトはその人物がペインの本体であることを確信する。

 

 仙人モードによる感知によってこの場所を突き止めたナルト。 一度拘束された際に流れ込んできていたチャクラの元がどこから来ていたのか探り当てたナルトは目の前に立つ人物を認識すると、その眼つきを鋭くする。

 

 そんなナルトの様子に長門が口を開く。

 

「俺が憎いか? 師の仇を目の前にし……復讐を成し遂げたいだろう?」

 

 その言葉に合わせるように小南も口を開いた。

 

「長門を今ここで殺し復讐をしたところで忍界の世は何も変わらない……それはお前の自己満足で終わるだけだ」

 

「……」

 

 そんな2人からの言葉に、ナルトは目に涙を浮かべ睨みつける。

 

「答えを持たないお前に出来ることなどない……お前の役目は──」

 

 長門の言葉を遮るように、身の毛もよだつようなチャクラがその空間を埋める。

 

「っ……!?」

 

 小南がその現象に驚きナルトに目を向けるとその眼は仙人モード特有の一の字に、九尾化による眼の変化が合わさり

 

 十字となり小南と長門の動きを睨みだけで縛りつけた。

 

 九尾の存在感を後ろに感じた二人が黙り込むとナルトはゆっくりと口を開く。

 

「お前とは……話をするつもりでここに来た。 途中で里の皆とも会ったけど、無理言って引き返してもらったのは……確かめたいことがあったからだ」

 

「確かめたい……ことだと?」

 

「自分の本当の気持ちを確かめたかった……師匠の仇を目の前にしたら、俺が……自分がどうなるのか知りたかった……」

 

「…………それで、どうだ?」

 

 長門の問いにナルトは

 

 

 

「許せねぇ……!! 今にも殺したくて……震えが止まらねぇっ!!

 

 

 

 

──だけどエロ仙人は本当の意味で理解し合える時代が来るって……信じてるって言ったんだ」

 

 

 感情を露わにしながらもその場を踏みしめ、言葉を続ける。

 

「その話をしてくれた時、俺は適当にしか聞いてなくて……俺にそのやり方を託すって言ってくれたのが……ただ弟子として認められたみたいで嬉しかっただけだった」

 

 ナルトは歯ぎしりをして視線を落とす。

 

「……今になってやっと言ってた意味を理解してそんな簡単なことじゃねって分かった……っ」

 

「だが、俺を許せないことに変わりはないはずだ……キレイ事を並べたところで心の内が変わるほど人の愛は軽く、安くなどはない」

 

「ああ……確かにその通りだってばよ」

 

 自来也という存在が大きければ大きいほど、ナルトはその言葉に背を押され同時にその仇に向ける感情も大きくなる。

 

「自来也先生の言っていたことは時代遅れの理想主義だ。 それには決して現実を変える力などない……お前は先ほど、俺を倒しこの世界を平和にすると言っていたはずだ。 それが自己満足の復讐であったとしてもそれが自身にとっての正義であるならそれでいいだろう……人は皆、その連鎖の中にいるのだからな」

 

 長門の語りにナルトは仙人モードを解き耳を傾けていた。

 

「……そんな現実を正に痛感しているお前は……今更一体何を成すつもりだ?」

 

 長門のその問いにナルトは

 

「アンタがエロ仙人の弟子だったとして……どうしてこうなっちまったのか……俺が戦ってきた今までの奴の中でも、アンタらがただ殺戮を楽しんでる訳じゃないの分かった。 だから、そうなっちまった理由の話を聞いて……それから俺の……俺なりの答えを出したい」

 

 自身の要望を素直に伝え、真っ直ぐと長門の目を見つめた。

 

 少し思案した長門は口を開く。

 

「いいだろう……俺たちの痛みを教えてやる」

 

「長門……っ!?」

 

「小南、俺はコイツの出す答えを知りたい。 話をさせてくれ」

 

 制止する小南をなだめた長門は振り返るように話をし始めた。

 

 

 

 

 

──まず、かつて大国の戦場となった雨隠れの里で両親を失ったこと。 木ノ葉の忍びに殺された両親、その時感じた痛みは忘れることなく長門の中で響き続けていた。

 

  そしてその後の出会い……両親を亡くし飢えた彼を助けた2人の人物、小南と弥彦。

 

  戦争孤児の2人は日々を必死に生き抜いておりその最中、長門に手を差し伸べる優しさも持ち合わせていた。

 

  だがキレイ事で生きていける程雨隠れは豊かではなく、恵みを分け与えれるのを待てば飢えが待っているのは必然であり彼ら3人は盗みを行った。

 

  乱れた小国に、木ノ葉のような孤児院などの施設は皆無であり身寄りのない彼らの生きる手段は限られていた。

 

  そんな中、弥彦は希望を持ち続けた。

 

『世界の天辺を取れば、世界を征服すればなにもが思いのまま』

 

  ……自身らを追いこむこの戦いを無くすことさえも。 神様になって世界を変える、弥彦の夢が長門の夢ともなった。

 

  そして彼らは出会う。

 

  

  かつての伝説の三忍と呼ばれる以前の……自来也に。

 

 

  木ノ葉の忍びである自来也に師事し、力を得る。

 

  そんな目的の最中、長門は自来也に木ノ葉の忍びというだけの枠に収まらない何かを感じていた。

 

  そして3人が自来也の下で修行を始めた中で長門はとある恐怖を抱えていた。

 

 

  自信に巣食う憎しみが己を暴走させる、そのことに。 しかし

 

『友達を守った……お前は正しい事をしたはずだ。 それが憎しみによるものでも……誰もお前を責められはしないのォ……』

 

  自来也のその言葉が長門を救い、いつしか長門は自来也を認めていた。

 

  “傷つけられれば憎しみを覚える”“人を傷つければ恨まれ罪悪感にも苛まれる”

 

  そんな痛みを知るからこそ、人は他者に優しくなれ……成長することが出来る。

 

  成長とは、痛みを知り、考え、どうするのか答えを導き出すこと──自来也もそのことを自身に言い聞かせ答えを探っていた。

 

  その答えは、長門の輪廻眼に託されていると自来也は口を開いた。

 

『遥か昔の戦乱の中、始めてチャクラを真理を解き明かし世界を平和へと導こうとした僧侶が居た。 忍宗という教えを説き、この世の救世主とも呼ばれたその僧は六道仙人と呼ばれ長門、お前と同じ輪廻眼を持っていた』

 

  “我、安寧秩序を成すもの” 六道仙人のその言葉と共に自来也は長門がそれを成すものだと信じ託し、彼らの前から去っていった。

 

  そして弥彦をリーダーとして、3人は“暁”を立ち上げた。

 

  極力武力に頼らない平和を構築しようとする3人の考えに賛同する者も多く、暁は勢力を増し……そして

 

 

──彼らに災いが迫り寄った。

 

 

  岩・木ノ葉・砂……三大国の戦争を止めるために暁が平和交渉を持ちかけようと動き始めた時、雨隠れの長・半蔵が力を貸すと言い近寄ってきた。

 

  そして弥彦が命を落とす。

 

  力を増す暁に主権を取られることを恐れた半蔵は暁をハメて壊滅へと追いやったのだ。

 

  そして

 

  長門は自身が出した答えに絶望した。 ……世界はクソ以下であり、平和など……夢幻であると。

 

 

 

  弥彦が死んだことで……長門が暁のリーダーとなった。

 

  そして……

 

「平和ボケしたお前達火の国の民は……戦争に加担している事実に目を背け偽善の平和を口にする。 人は生きているだけで気づかぬうちに他人を傷つける。 人が存在することは憎しみと隣り合わせであり、この呪われた世界に本当の平和など存在しない、自来也先生の言っていたことは全て虚構でしかない……さあ……俺の話は以上だ、お前の答えを聞こう」

 

 長門はナルトを見つめ問う。

 

 ナルトは……懐から一冊の本を取り出し、見つめる。

 

「……アンタの言うことは……その通りだと思う。 アンタたちの話を聞いても、やっぱり憎いし許せねぇ気持ちはある」

 

「ならば──」

 

「でも、俺は師匠の言葉を……俺を信じてくれたエロ仙人の信じたことを信じてみる……それが俺の答えで……だから俺はお前たちを殺さねぇ」

 

 そのナルトの言葉に長門がひりつく。

 

「今更自来也の言ったことなど何になる!? 平和などありはしないのだっ!! 俺たちが呪われた世界に生きている限り──」

 

「なら……俺がその呪いを解いてやる、平和ってのがあるなら俺がそれを掴みとってやる……俺は諦めねぇ」

 

 長門の言葉を遮ったそのナルトの言葉に長門が呆然としその様子に小南が困惑する。

 

「そうだってばよ、今のは全部()()()()()()()()()だ。 ……エロ仙人は本気でこの本で世界を変えようとしてた、んで本の最後に……長門、アンタが……かつての弟子が本を書くヒントをくれたと書いてある」

 

「そんな……まさか」

 

「そして……この本の主人公の名前……それが()()()だっ!!」

 

「!」

 

「俺の名前は師匠からの形見で、兄弟子であるかつてのアンタの信じた夢から貰ったもんだっ!! 俺は火影になる、そんでもって雨隠れだけじゃなくてこの忍界を平和にして見せるっ!! 確かに、この世界は呪われてて辛い事ばかりだっ!! だけど、エロ仙人が俺を信じてくれたように俺もこの世界が変われることを信じるっ!!」

 

「……っ!」

 

「そんでもって、諦めねぇっ!! どんだけ痛ェ思いしても……どんだけ辛いことがあっても、諦めねぇど根性で一歩ずつ前に進むっ!! んで、俺一人じゃ出来ないことがあんなら、皆の力を借りれば良いんだってばよっ!! 同じ思いを信じてくれる奴が、他の誰かを信じて……それの繰り返しだっ! 長門、アンタが言ってたみたいに尾獣兵器とか神だとか……力で、1人でどうにかしようとすんのはその連鎖の中の出来事だ、そっから外れるためにはちょっとずつでも世界を変えるしかねぇんだっ!!」

 

「……」

 

()()()っつーエロ仙人の……師匠の残した物語を繋げるために……本は書けねー俺が出来んのは、生き様を見せることだけだ……それが()()()()()()()だっ……俺を信じてくれっ!!」

 

 ひとしきり言い終えたナルトは息を整る。 途中から話を聞き入っていた長門は静かに目を伏せ口を開く。

 

「世界を変えるか……どれだけの時間がかかると思う? お前の考えに賛同する者だけでなく世界には、それを拒むものも居る」

 

「世界は俺たちの後もずっと続いてくんだ……エロ仙人が俺を信じてくれたように、俺も後の誰かを信じて託していくだけだってばよ。 木ノ葉だけじゃねぇ……色んな国で色んな奴らがそうやって平和になりますようにって託して、託されて、だから今の世界があるはずだ。 皆が認め合って信じあえる世界が理想だとして、それを目指すことが悪い事のはずがねぇんだ」

 

「……まるで昔の……俺みたいだな。 なるほど、俺は……何も信じられてなどいなかったという訳か」

 

「長門……」

 

 自嘲気味に笑う長門に小南が寄り添う。

 

「……戦争を知らないお前らの世代は知らないだろう……意味の無いゴミのような死と永久に続く憎しみと言えない痛み……そんな戦争をナルト、お前は変えられるというのか?」

 

「俺一人じゃ無理だけど……皆が居てくれる。 火影になった奴が認められるわけじゃねぇんだ、皆を信じられる奴が火影になる……そんなことをイタチに言われてたっけな……今ならその言葉の意味が分かるってばよ」

 

 ナルトの答えを聞いた長門は小さくため息をつき、そして

 

「理想論にすがっていたのは俺の方だったか……」

 

 そう呟いた。

 

「出来るはずがないと決めつけ……力で全てが叶うと短絡的に思い込み……なるほど、俺の出した答えは……答えにすらなっていなかったのだな」

 

「……全部が全部間違ってるわけじゃないはずだってばよ。 アンタだって平和を目指してたんだからな」

 

「だが、俺は弥彦の死に折れ己を捨てた。 痛みに怯え、道を見失っていたのか……なるほどな。 しかしナルト、お前の言うその答えは困難極まる道だ……それは分かっているな?」

 

「ああ、だけど俺は簡単な道を1人で歩きたいわけじゃねぇ……困難な道を皆と歩きてぇんだ」

 

 ナルトのその返事に長門は寄り添う小南の頭に手を置き、唇を噛みしめた。

 

「いいだろう……お前を……信じてみよう、うずまきナルト」

 

「長門……!」

 

 長門のその返事にナルトが顔をほころばせる。

 

「……結局は俺はお前に戦いで破れ、この先長くも生きれまい……世界が平和へと向かうのであれば、信じてみるのも一興だろう」

 

「大丈夫だってばよ、木ノ葉じゃ誰死んでねぇし、俺たちが悪いこともあんのは分かったから無理にお前らに手を出すなんて奴──

 

 

 

 

 

 

 

「誰も死んでいないわけではないだろうのォ?」

 

 

 

 

 

 

 ふとナルトの背後から誰かの声が聞こえた。 ナルトがその声に振り返り、長門と小南も目を向ける。

 

 暗い髪で出来た木の幹の中、後光を背負い立つその人物は更に言葉を連ねる。

 

「イヤっ! 忘れて貰っては困るなぁっ!! 幾重の死線を潜り、エンマ大王の御前を抜け出し一度死して舞い戻ったこの大仙人、自──

 

「そう言う戯言は今は良いんで、シャンとしてくださいよ……()()()()()

 

「……たくっお前は相変わらずノリが悪いのォ……()よ」

 

 

 その漫才のようなやり取りをする声は、中の3人が聞き馴染んだものであった。

 

 1人は師匠として、もう1人は敵と、暁の味方として。

 

 その姿に驚き、言葉を失う長門と小南。 そしてナルトは震える手を持ち上げ指さす。

 

「ゆ……ゆうれい……かっ?」

 

 振るえるナルトのその言葉に不服そうに、白髪の男性は悟に肩を貸された状態で顔をしかめる。

 

「だーれが幽霊じゃっ!! 仙人じゃ、せ・ん・に・んっ!!」

 

 そんなテンションの高い様子に、ナルトの後方の長門と小南は

 

「馬鹿な……そんなまさか」

 

「先生……?」

 

 口からそう言葉を漏らす。

 

「たくのォ!! かつての教え子に殺されかけるとは、ワシも衰えたもんだのォ!! だがこうして弟子たちが互いに意志を語り合い、話しに落ちが着いたのだ。 一度死んだのも儲けもんというもんだァっ!!」

 

 豪快にそう言い切った伝説三忍が一人自来也に、彼を支える黙雷悟が不服そうに小さくそのわき腹を小突く。

 

「一度も死んでませんよ、貴方はッ!! 誰が必死で治したと思ってるんですかッ!?」

 

「お、おおすまんのォ……あまり怒るな……」

 

「俺の苦労も考えてモノ言ってくださいよ? ……たくっ」

 

 しょんぼりした自来也がふと目線を上げると

 

 

 直ぐ眼前にナルトが迫り、次の瞬間には抱き着いていた。

 

 

 態勢を崩して尻もちを付く自来也が泣きわめくナルトに押される中、ひっそりと移動した悟が長門と小南の目の前まで移動していた。

 

「お前の仕業なのか? ……天音小鳥」

 

 長門のその当然の疑問に悟は

 

「それは偽名ですよ、リーダー……俺の本当の名前は黙雷悟。 まあ、仕業と言えばその通りですけど」

 

 かなり軽い態度で返事をした。 

 

「貴方……でもいくら何でもあれ程の致命傷を負った先生を助ける方法なんて──」

 

 小南のその疑問に悟は声を小さくして答える。

 

「自来也さんの寿命を前借して治したんですよ……そういう少し特殊な仙術を会得してるんでね。 まあ、相当な傷だったんで……

 

 

 

今の自来也さんの残りの寿命は持って2・3年が限度だと思いますけどね」

 

「「……っ」」

 

 ナルトに聞こえないようにそう2人に伝えた悟はそのままナルトと自来也の元に行き2人を引きはがす。

 

「ナルト、自来也さんかなりの重傷だから負担かけんなよ?」

 

「ううううう……そういや……お前、悟だったんだなぁ……滅茶苦茶女っぽい声してるから分かり辛いってばよぉ……カツユに聞いてなかったr──」

 

 涙を拭くナルトが懐に手を入れると悟は必死の形相でその手を掴み動きを止める。

 

「カツユ様は出さなくていいぞナルトっ??!! 声も聞こえてるだろうし、無理に出さなくていいぞっ!!」

 

(こ奴……相変わらずナメクジが苦手なのかのォ……難儀な奴だ)

 

 焦った様子の悟を自来也が可愛そうなものを見る目で見ていると、そんな彼に引き起こされ自来也も長門と小南の前に立つ。

 

「先生……俺は」「先生……」

 

「あいや、何も言うな二人共。 お前たちの主張も、先のナルトのいったように間違いだという訳でもない。 ワシもこうして生きておる、全てが全部丸く収まるわけではないが新たな選択肢を取るのだ、あまり辛気臭い顔はするでないのォ」

 

 殺しかけた相手に許されるという罪悪感に苛まれながらも2人はその苦痛に黙って耐える。

 

 そして

 

「ナルトよ」

 

「っ……何だってばよエロ仙人」

 

「よくやった」

 

「……っ! ……へへ」

 

 そんな短いやり取りに、しかしナルトは心底幸福な気持ちになる。 もうできないと思っていたそのやりとりを噛みしめつつナルトは再度涙を零して声を震わせていた。

 

 その様子に自来也は悟の手を離れ、ふらつきながらもナルトの肩に手を置き慰めるように頭を豪快に撫でる。

 

 悟がその様子を満足そうに、眼を細めて見ていると彼に小南が話しかけた。

 

「……私たちがいうのも、居所が悪いけど……ありがとう……天音、いや黙雷悟」

 

「どういたしまして……小南先輩」

 

「……貴方は私たちを殺す気はないのかしら?」

 

「俺が信じるナルトがそう決断したならそれに付き合うのも悪くないってことで……まあ、場合によってはそうしてたかもしれないけど。 只お節介なりに2人に忠告しますけど」

 

 そういうと悟は再度声量を押さえて小南と長門に話かける。

 

「貴方たちの選択は、仮面の男、トビまたはうちはマダラを裏切るものとなるってことで彼にその命を狙われる可能性がある」

 

「貴様……そこまでの事情を知っていたとはな」

 

 少し呆れた口調になった長門に悟は言葉を続ける。

 

「こうなった以上、俺のおすすめはその輪廻眼を破棄し──

 

 

 

 

 

 

「いいや、その輪廻眼は返してもらおうか」

 

 悟のその言葉を遮るように聞こえたその言葉と共に風遁が悟と小南、長門を襲い態勢を崩す。

 

 その瞬間、長門の苦悶の声が響いた。

 

 悟や自来也、ナルトがその声に視線を合わせるとその先にはオレンジ色の仮面と暁の外套を羽織った人物が、2()()()()()を液体に満ちた筒状の者に入れる様子が確認できた。

 

 咄嗟に小南と悟がその人物にそれぞれ攻撃を繰り出すも紙手裏剣はその体を貫通しすり抜け、悟の消耗した状態の蹴りは普通に躱されその人物は飛びあがる。

 

「まさかと思って様子を見ていたが……まあいい、この眼さえ返してもらえば貴様らの命などどうでもいい」

 

 その人物はそう告げそのまま空間の歪の中へと姿を消した。

 

 一瞬の出来事の内、先ほどまでとは違い緊張感走った一同。 悟は眼窩から血を流す長門に掌仙術をかけつつ、未来の不安を案じるのであった。

 

 

 



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23:それぞれの戦い・思惑を越えて

 ……数日前

 

 

「これが()()か……」

 

 黒髪の青年・うちはサスケはその瞳を朱く光らせ目の前で八本足の牛のような存在へと変貌した存在を鋭く睨む。

 

「俺たちの……()()()()()の前では、何人たりとも敵わないと知れ」

 

 サスケの眼光が捉える巨大な図体のそれは高らかに叫び腕を振り上げる。

 

「ウィイイイイイイイッ!!! 八尾でちびれおチビ共ォ♪」

 

 その存在の強大さはサスケの後ろでそれぞれ構えている水月、香燐、重吾にも肌で感じるものであり、尾獣という存在のイレギュラーさ加減を体感させられる。

 

「さっきまでのおっさんの姿でも十分強かったのに、まだこんなんになるなんてあり?! ……マジでやばそう」

 

 水月のその弱気の呟きに、ふとサスケが無表情で振り向くと再度前方の八尾へと目を向け呟く。

 

「……ここからは俺一人でやる。 お前らはバックアップ……いや周囲に雲の忍びが居ないか監視を頼む」

 

「本気で言ってんのかサスケ!? うちたちのサポートもなしあんな化け物──」

 

「行けるのか?」

 

 無謀にも思えるサスケのその提案に戸惑う香燐だが、彼女の言葉を遮り重吾が短く問う。 目の前の敵は、重吾を持ってしても勝てる見込みが感じられないモノであった。 尚更、うちはイタチとの戦いを経て未だ間もないサスケの心配をするというもの……しかし

 

「フッ問題ない……さあ、ここからが俺の……うちはの本領だ……っ!」

 

 軽く笑いサスケはその朱き瞳を、更なる段階へと変化させた……

 

 

 

──万華鏡写輪眼っ!

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 そして現在、木ノ葉近辺のペイン・天道とナルトとの激闘の跡地にて小南と黙雷悟はその天道の身体の前で会話をしていた。

 

「先生とナルトを追って貴方は戻らなくてもいいのかしら……? それとも私たちをひっそりと殺すつもり?」

 

「今更そんなこと、する訳ないでしょ……小南先輩。 一応安全にここから離れられるように警戒してあげてるだけです」

 

 天道の身体を己の紙を操る術で回収作業している小南は背後に立つ悟に向け苦い表情を浮かべていた。

 

「……この後はどうするつもりなんですか?」

 

 ふと呟くようにそう聞く悟に小南は

 

「……雨隠れに戻るわ。 紛いなりにも、長門と私はあそこのトップだから……慕う者たちを裏切ることは出来ない」

 

 そう自身の心積もりを話す。

 

「律儀ですねぇ~……暁に居た時も思ってましたけど、お二方は他の忍びと違って一応義理堅いですよね。 まあ、それはそれとして……さっきのようにマダラに命を狙われる可能性は考えないんですか?」

 

「そうなったら、そうなったときよ。 長門が輪廻眼を失った以上その時は私が命を賭して戦うしかない」

 

「……」

 

「なに? 私が負けるとでも思っているのかしら?」

 

「さぁ? 私には何とも……まあ、輪廻眼がない以上マダラも無理には命を狙ってはこないでしょうしね」

 

 悟のその返事に、小南はふと悟の身体へと目線を向ける。

 

「……そういえば貴方に言っておきたいことがあったのよ」

 

 そして会話の内容を遮るように小南は悟に顔をずいっと近づける。 小南の整った顔がいきなり近づいてきたため悟が顔を赤らめながら体を引くと、小南はふと鼻で笑って

 

「……貴方が男で、本当に残念」

 

 そう言って悟の纏う衣服がボロボロになり素肌が露わになっている胸元に手をそっと触れる。 挙動不審気味になりながらも悟は小南へと問い返す。

 

「っと……言うと?」

 

「私暁に女性のメンバーが他に居ないこと、気にしてたのよ。 だから貴方が来た時内心では少し嬉しかったのだけれど……見事に裏切られたわ」

 

「あ~~……すみません」

 

 頭の後ろに手を回して気まずそうにする悟に小南は小さくため息をついて悟の口元を指で指し示す。

 

「あと気づいてなさそうだから教えるけど……今貴方、喋り方が女性になっているわよ」

 

「っ! マジか……」

 

 その小南の指摘に悟が自身の口を押さえる動きをする。

 

「フフフ、あまり本当の自分をぞんざいにしないことね」

 

 その様子を微笑ましく見ていた小南は不意に、自身が纏う暁の衣を脱ぎそれを悟へと羽織らせる。

 

「っちょっと……!?」

 

「良いから羽織っておきなさい…………私たちは弥彦の立ち上げた志を一度亡くした。 けれど、貴方はそれを理解し今も胸に秘めている……貴方こそ本当の暁のメンバーの1人よ。 この衣は貴方にこそふさわしい」

 

 そう言った小南は割とセクシーな装いの状態で、紙の翼でその場から弥彦の身体を包んだ紙の棺桶ごと舞い上がる。

 

 自身の顔にかかる風に手をかざしながら、その小南を見上げた悟は別れの言葉を口にする。

 

「それじゃあ、お元気で! また会えたらその時は──」

 

「お化粧の話でもしましょう、平和に……ね?」

 

 戦いのことではなく、ただ一人の人間として。 小南はそんなありふれた会話を出来る世の中を願いその場から飛び去っていった。

 

 1人瓦礫の山の上に立つ悟は渡された暁の衣に袖を通して、気を引き締める。

 

「よし……行くか、皆の所にっ!」

 

 そうして悟は木ノ葉に向けて歩みを向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「この外套……何かいい匂いがして落ち着かない…………」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 里近くの岩場の避難所に悟が向かうとそこは歓声で包まれていた。

 

 その様子を遠巻きで眺める悟は目に映る光景に目を細める。

 

 英雄と呼ばれ胴上げされるナルト、仲間だけでなくその他の人からも受け入れられたその様子に悟は自然と頬を緩めていた。

 

 木々の間にいる悟にふと近づく者が居た。 悟もその存在には気がついており、もはや隠れる気もないとその人物に目を向ける。

 

「ネジか……さっきは庇ってくれてどうも」

 

「容易い事だ……お前もあそこに行かなくていいのか?」

 

 わざわざ白眼を使ってまで自身を探しに来たネジに悟は口調が女性にならないように気をつけながら言葉を選ぶ。

 

「あ~俺は目立つの好きじゃないからなぁ……」

 

「だろうな、だが今のお前なら白眼で容易に見つけられる」

 

「む? 本気になればいくらでも隠れられるぞ?!」

 

「……妙なところで張り合うな、ガキかお前は」

 

「まだ16そこらのガキだよ…………あっ割とそうでもなかったな

 

「ん?」

 

「いやなんでもない……取りあえず俺には()()()は場違いだ。 俺は裏切り者の面も持ち合わせているからな、しばらくは身体を休めるさ」

 

「面……か。 お前はいい加減、面を被ることにこだわるのもやめ──」

 

 ふとネジが悟の様子に気を向けると、悟はしゃがんだ状態で木の幹に体を預け寝息を立てていた。

 

「……流石の『翠色(すいしょく)の雷光』殿もお疲れか……しょうがない、運んでやるとするか」

 

 かつて死闘を繰り広げた友、その心底疲れた様子に元来世話焼きなネジは小さくため息をつきながらその背に悟を乗せるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 そしてそれから2つの夜を越えた日。 ふと黙雷悟はテントの中で目を覚ました。

 

 あまりにも長い睡眠を取っていた自覚もあり、何か予期せぬことでも起きていないかと慌てて周囲を見渡す悟。

 

 広めのテントの中にはボロボロになってはいるが機能に問題の無いタンスなどの家具が持ち運ばれており、ちょっとした大部屋の様になっていた。

 

 テントの外では多くの人の駆ける気配があり、自身の装いが一般人とそん色ないものになっていることに気がついた悟はふと背後に立つ気配に目を向けることなく小声で語りかける。

 

「……今、どうなってますか?」

 

「──」

 

 その背後の忍びは悟に軽く耳打ちをするとその場からフッといなくなり直ぐに気配が探れなくなる。

 

 忍びから情報を聞いた悟は腕を回したりして自身の身体の調子を確認する。

 

(……どれだけ寝てたかはわからないけど、随分と体力が回復しているな……ナルトの螺旋手裏剣を受けた毒みたいなダメージも回復し切ってるいるし何より()()()も雨隠れでの戦いで捨て去ったから、自然治癒も早い……そして)

 

 悟がテントの暖簾のような出入り口に目を向けると桃色の髪をした女性が手荷物を持ってテントの中に入ってくる。

 

 その人物は起きている様子の悟に目を向けると驚きの声をあげそうになりながらも、何とか声を抑え悟に近づく。

 

「アンタ、やっと起きたわね……心配したわよ」

 

「ああ、妙に怪我の治りが早いと思ったらサクラが治療してくれてたのか……納得」

 

 呆れた様子の春野サクラに悟は緊張感を感じさせない笑顔でそう語りかける。

 

「納得って……アンタの自然治癒力がナルト以上に凄いから私はあまり手を出してないわよ……ホントナルトと言いアンタたちは医療忍者いらずねぇ」

 

「そうでもないさ、掌仙術をかけてくれるだけで色々段違いって奴で……って」

 

 ふと悟はサクラの瞳に涙が溜まっていることに気づきワタワタと慌てふためく。

 

「ど、どうした? 何かあったのか?」

 

「……いや……こうして悟と何気なく話をしていると何となく昔を思い出して……サスケ君ともこうなったらって思ったらつい……」

 

 涙を拭うサクラに悟が気まずそうな表情で顔を逸らすと

 

「……痛いっ!?!?!」

 

 その頭頂に拳骨が炸裂した。

 

 混乱しながら頭を押さえる悟にサクラは拳骨をした手でそのまま掌仙術をかける。

 

「色々私たちを騙してた分のお返しよっ! 全く……」

 

「っ……ゴメンナサイ」

 

 涙目になった悟は反省するかのように布団の上で座った態勢で大人しくサクラからの診察を受けるのであった。

 

 

~~~~~

 

 

 サクラがテントを出ていく様子を見ながら悟は今後の方針に頭を悩ませる。

 

「それじゃあ、他の皆の前にも顔出しなさいよ!」

 

 そう言って忙しそうにテントから出ていったサクラから教えられた情報と、忍びから提供された情報を整理すると……

 

・五代目火影・綱手が行動不能になっていることと、その代理又は次の火影はまだ決まっていないこと

 

・うちはサスケが八尾の人柱力、キラー・ビーを襲撃した件での使者はまだ木ノ葉に来ていないこと

 

・天音小鳥=黙雷悟であることは伏せられているが、その噂は次第に広がりを見せていること

 

 が分かっている。

 

 そして自分が黙雷悟であることは隠されてここのテントで治療を受けていたこと。 

 

 それらの事実を元に悟は身体を起こして置かれている忍び用のサンダルを履き、テントの外へと繰り出した。

 

 太陽はそれなりに高く、正午前だと思われる。

 

 そんな空を一瞥した悟は一般人の気配に潜り溶け込みながら移動をし始めた。

 

 

 

 まず悟は何げなく周囲の一般人から情勢を聞き出す。

 

 曰く、今回の里の襲撃は大国としての罪を受けたことだと理解している人物は少なからずいること。

 

 カツユが長門の話をそのまま、里の人間に伝えていたことで暁・長門らにも正義があったことが認識されている。

 

 そして黙雷悟は、英雄でもあり……裏切者でもあった。

 

 人々を逃がすために神羅天征に立ち向かったこと、伝説の三忍自来也を救ったこと、そして暁としての行動。

 

 それらが人により知っていたり知らなかったりで人々からの評価は定まりを見せてはいなかった。

 

 そして悟が木ノ葉の里の大門まで足を運ぶとそこはまさに復興作業でせわしなくごった返していた。

 

「……うへぇ」

 

 人ごみをあまり好まない悟がその様子に、ある種の申し訳なさを感じているとふとそこでへたり込んでいる1人の忍びの存在に気がつく。

 

 整った大量の木材の前でへたり込んでいたのは新第七班隊長のヤマトであった。

 

 そんなヤマトに悟は何げなく声をかける。

 

「あの~大丈夫ですか?」

 

「……お構いなく」

 

 悟の言葉に顔を挙げる余裕もないヤマトは明らかに弱った様子で地面を涙で濡らしていた。

 

(こういう状況で木遁使いだから……相当酷使されてるんだろう……南無)

 

 ヤマトの背後には木材置き場が広がっており、そこから大工の人々が木材を運び出している様子が確認出来る。

 

 ただその木材置き場として切り開かれた場所の規模は相当大きく、そして木材もみるみるうちに消費されていく。

 

 そのペースに流石の悟も、その木材を生成しているヤマトを気の毒に思い

 

「ちょっと失礼」

 

 そう言ってヤマトを指の動作だけで堕とす軽い幻術に掛けて林の中に隠れさせると、悟は誰にも見られていないことを確認してヤマトへと変化する。

 

(……軽い幻術にかかるほど疲労困憊とは……あまり直接話したことはないけど手伝ってあげよう)

 

 ヤマトに変化した悟に1人の大工が声をかける。

 

「木の忍びさん、木材足りなさそうだけど……まだ大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だよ……って」

 

「……? 何、俺の顔に何かついてる?」

 

「いや、何でもない。 それじゃあじゃんじゃんやっていこうか、イナリ」

 

「あれ……アンタ、そんなテンションだったっけ……あと俺の名前教えたっけ?」

 

「細かいことは気にしない!」

 

 そうして悟は自身が扱える木遁で、木材置き場に果てしない量の木材を積み上げていった。

 

 明らかにペースが尋常ではないそのヤマトの活躍っぷりに大工の人々も歓声をあげて喜ぶ。

 

「良いぞ兄ちゃん!!」

 

「すげぇーぜっ! これなら木ノ葉の復興もあっというまだなっ!!」

 

 そうして木材の置き場がなくなるほどの状況になると悟は休憩する振りをしてその場から姿を消した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 里の中に入ってみればそこの光景はまるで悟がサトリとして作った集落を思わせるほど簡素な家々が並んでいた。

 

 神羅天征で抉れた地面は土遁で戻されたのか平地にはなっていたが、里の外壁の内側には未だに多くの瓦礫が積みあがっており里として元に戻るまでにはまだまだ時間が要することは必然であった。

 

 そんな光景に悟が目を奪われていると、ふと背後から肩を組まれる。

 

「テンテンか」

 

「ちょっと……本気で気配消してたのに気づかないでよぉ」

 

「まだまだだね。 何、暇なの?」

 

「酷くない? 幼馴染が目を覚ましたってサクラから聞いたからこうして見に来てあげたのにぃっ!」

 

「なら、もう少し普通に顔を出してくれよ……」

 

 呆れるジェスチャーをする悟に、肩を組んでいたテンテンは彼の横にたち互いに前へと足を進める。

 

 何気なく並んで歩く二人は復興真っ只中の木ノ葉の中を歩く。

 

「マリエさん達は里の中にいるのか?」

 

 ふと悟がそう聞くとテンテンは

 

「そうね、孤児院に居た子たちと一緒にあの……ヤマト隊長って人が木遁で家を建てて場所を提供したみたいでそこにいるわよ」

 

 と素直に答えて会話が進む。

 

「顔出しに行かないとな……」

 

「何めんどくさそうに言ってんのよっ! 案内してあげるからサッサと行くわよ」

 

「……どの面下げていくか……」

 

 気まずそうにする悟にテンテンは彼の手を引き歩みを速める。

 

「あと言っておくけど、任務で里外に出てた白も帰ってきてるから」

 

「…………やっぱやめ──」

 

「問答無用っ!」

 

 テンテンは八門遁甲を発揮して悟の手を引き彼の身体が浮かび上がるほどの速さでその場から駆けて行った。

 

 情けない悟の悲鳴が小さく木霊した。

 

 

~~~~~~

 

 

 施設「蒼い鳥」のあった区画にはまとまった家屋が立っておりその付近に来た悟はお腹を刺激するような匂いに気がつく。

 

「……炊き出しやってるのか」

 

「まあ、こんな状況だしね。 食材とか管理するにはそれが良いだろうって」

 

 悟の言葉にテンテンが答えると悟はその炊き出しの現場に目を向ける。

 

 そこには……

 

「オラぁ! そこ列を乱すなっ!!! 食材は全員分ある、落ち着いて並べェっ!!」

 

「大丈夫ですよ、皆さんの分はありますので落ち着いて下さい」

 

 簡易的な小屋の前で長蛇の列に弁当を配っている再不斬と白の姿があった。

 

 思わず隠遁で気配を消す悟にテンテンが顔を引きつらせる。

 

「気配消すのウマ……ってそんなに会いたくないの?」

 

「……湯の国でアイツが強いのは確認してるからな……何をされるか、何を言われるのか心底怖い」

 

 顔を青ざめたままススーッと横スライドしながら家屋の影に入り込もうとする悟をテンテンは腕をひっぱり引き戻す。

 

「ほら、少なくとも2日はアンタ食事してないでしょ? 一緒に並びましょう♪」

 

「……ああ~~~~」

 

 目立つために派手な抵抗が出来ないと、悟は嘆きの声を上げながらテンテンに引きずられる態勢でその長蛇の列に並ぶこととなった。

 

 ふと堪忍したように顔を引きつらせた悟とテンテンに声をかける人物が現れる。

 

「随分と楽しそうだな、悟」

 

「……そう見えるなら、お前の眼は濁り切ってるよ……」

 

「あらネジ、アンタも並びに来たの?」

 

 少し面白い物でも見るような表情で話しかけてきたネジに悟は恨めしそうな顔で返事をする。

 

「いや、俺は日向の集まりがある……ヒアシ様と父様が里に戻って来たそうだから顔を出そうと思ってな」

 

 そうテンテンの言葉に返事をしたネジは袋に入った物体を悟に見せつけるように取り出す。

 

「……」

 

「まさかこんな日が来るとはな……悟、お前には何と感謝を述べればいいのか……」

 

 そんなネジの言葉に悟は手で払いのけるような仕草をした。

 

「あのネジに、改まった態度取られるのは君が悪いな……()()が必要だったから取りに行っただけだし、本当ならもっと早く戻ってたもんだ。 俺に感謝とかはいらないからサッサと行け」

 

「……フン、ならそうさせてもらおうか。 じゃあな……それとテンテン、ガイも里外から戻っている。 あとで一度集まるぞ」

 

「はいはーい」

 

 その場から離れていくネジに悟は手を振りながらその背を見送った。

 

 そして

 

「次の方どうぞー」

 

 そのまましばらく列を並び、白の綺麗な声が悟とテンテンへとかけられる。

 

 白がテンテンに気がつくとその整った美形の顔に笑顔が浮かぶ。

 

「テンテンっ! 良かった、こうしてアナタの顔が見れて安心しました」

 

「白雪は里外に居たから、戻って来て困惑してるでしょ? 落ち着いたら色々話してあげるわ」

 

「一応、大まかなことは鬼さんに聞いたんですけど……それじゃあ後で」

 

 列が並んでいることもあり手早く会話を済ませ白から弁当を受け取ったテンテンはその隣の再不斬がよそった味噌汁を受け取りその場から離れる。

 

 テンテンと会話をして嬉しそうに笑顔を浮かべていた白の前に、悟が立つ。

 

(大丈夫だ、バレるわけない……天音小鳥として活動してた時に俺の顔を見られてはいないし、白もまだ事情をあまり把握して無さそうだからバレるわけ)

 

 悟が極めて普通な一般人を装い白の前に立つと白はその笑顔のまま悟に弁当を手渡す。

 

「はい、どうぞ!」

 

「ありがとうございます」

 

 そんなやり取りをして悟は隣の再不斬からお椀を受け取る。

 

(良かった……バレてない……)

 

 いたって普通のやり取りに悟が内心安堵してその場から離れようとしたとき

 

 

 

 

 

「逃げないでくださいね」

 

 

 

 

 ボソッと背後からそう声が聞こえた。

 

 背後へ振り向くことが出来ない悟はそくささとその場から離れてテンテンが座っている瓦礫の傍まで来ると

 

「っ~~~~~!」

 

 弁当とみそ汁を水平に持ったまま顔だけを項垂れるようにして頭を垂らし声にならない声をだす。

 

 その様子にケラケラと笑い転げるテンテンに悟は睨みつけながら炊き出しを平らげるのであった。

 

 

 

~~~~~

 

 

 食事を終えた悟とテンテン。

 

「じゃあ、私リーと合流してガイ先生の所に行くから……じゃあぁねぇ♪」

 

 ニタニタとした笑顔を浮かべたテンテンが、ねっとりとしたイントネーションで別れを告げると悟は1人その場に項垂れる。

 

「…………マジでか」

 

 酷く現実を受け止められない悟は遠巻きに炊き出しの様子を見るために立ち上がり家屋の壁の影に立つ。

 

 炊き出しも終わりに近づいているのか、先ほどまで並んでいた長蛇の列も終息の様子を見せていた。

 

 そんな中、白の表情に目を向ければ

 

「うわぁ……めっちゃ作り笑顔……」

 

 悟はそんな小言を呟く。

 

 ……明らかに目が笑っていない。

 

 自身の今後を憂う悟が炊き出しの列の最後の人が再不斬からみそ汁を受け取ったのを確認すると、その場から逃げ出そうと足を一歩踏みだす。

 

 瞬間

 

──パシッ

 

 悟の眼前に千本が迫り悟はそれを手で掴み受け止める。

 

 目にも留まらない動きで白が炊き出しの撤収作業をしながら投擲したそれは悟から逃げ出す気を奪うのには充分であった。

 

「……はぁ」

 

 小さくため息をついた悟は周囲から人の気配が少なくなるのを待ってから白の元へと行くことにした。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 孤児院にいた人間が仮に住まうその家屋の並びで、炊き出しを終えた再不斬と白、そしてその手伝いをしていた孤児たちは共に歩いていた、

 

 自身らの遅めの昼食を取るためにそれぞれが弁当片手に散らばっていき、残された白と再不斬。

 

「もういいぞ」

 

 そういう再不斬の声に反応するように、悟がひょこっと顔を出す。

 

 呆れたような表情を浮かべる再不斬がふと隣の白の顔に目を向けると

 

「……」

 

 再不斬でも戦慄するほどの覇気を内に秘めた笑顔の表情で白は悟へと目線を向ける。

 

 そして悟に目を向ければ明らかに怯えた様子になっており少し不憫に思う。

 

 しかし

 

(まあ、自業自得だしな)

 

 そう思った再不斬は

 

「それじゃあ俺は先行くぜ」

 

 そくささとその場から姿を消した。

 

 距離を離して向かい合う白と悟。 白は

 

「……」

 

 無言のまま笑顔の表情を張り付けた顔の動きだけでついてくるように促すと、瞬身の術でその場から姿を消した。

 

「……っ」

 

 そんな白に逆らうことも出来ない悟は涙目になりながらも同じくその場から離れるのであった。

 

 

 

 

 そして瓦礫に囲われ人目がない場所まで移動した白と悟。

 

 背を向ける白に、着地した悟が小声で声をかける。

 

「あの~え~と~その~……何といいます………………怒ってる?」

 

 おずおずとした悟の問いかけに白が振り返る満面の笑みで

 

「ハイ♪」

 

 と答えた。

 

「ですよねぇ……ハハハ」

 

「逆に、貴方は自分がしでかしたことを振り返り僕が怒らないとでも思いましたか? 思い……ましたか?」

 

 笑顔のまま尋問するように語る白の威勢に、悟は自然とその場に正座になり

 

「思いません……本当に申し訳ないです……はい」

 

 そう呟くことしかできなかった。

 

 そしてついに笑顔が崩れ呆れた表情になった白は一際大きなため息をつく。 そんな白の様子に悟がビクついていると

 

「全く……っ本当に……っ! 貴方という人は……っ!!」

 

 語気の強まる白に一発重いのが来ると思った悟が覚悟を決め目を瞑る。

 

 そして

 

 

 柔らかな抱擁が悟を包んだ。

 

 

「へっ……?!」

 

 

 マヌケな声をあげる悟。 そしてそんな彼を抱擁する白は優しい口調で

 

「本当に……お疲れ様です、大変だったでしょう?」

 

 そう悟へと語りかける。

 

「えっと……その……」

 

 しどろもどろになっている悟に白は更に声をかける。

 

「……貴方が何を思って里を離れていたかは存じませんが……それが皆を思っての事だってことぐらい僕にはわかります。 湯の国での戦いも、天音小鳥が貴方……君であったなら納得のいくことばかりだ……」

 

「……」

 

「きっと君は、いや絶対にマリエさんやハナビの前で弱音を吐かない。 誰の前でもそうでしょう、だから……」

 

「……」

 

「少しだけ……ほんの少しだけでいいので、ここで足を止めてください」

 

「……っ」

 

 静かに、抱擁した悟の背をさする白。

 

 そんな白の腕の中で悟は……

 

 

 

 小さな水滴を地面へと一粒落とした。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 しばらくして家屋の並ぶ区画に戻った悟と白。

 

「しかし、そんなに僕たちが信用できなかったんですか? 色々と情報を残す手段はあったのでしょうに」

 

「いや、皆を信用してたからこそ何も残さないことにしたんだ。 敵を欺くにはまずっ……て奴だな」

 

 何気なく会話をする2人は一つの家屋の前で足を止める。

 

「ここです。 ここにマリエさんが居ます、ちゃんと話をしてあげてくださいね」

 

 そう言って白はその場から歩いて離れようとする。

 

 そんな離れ行く白の背中に

 

「白雪っ! 結婚おめでとう」

 

 悟はそう声をかけて手を振る。

 

「……ありがとうございます」

 

 照れたような表情を浮かべた白は、指輪を着けている手で手を振り返すとその場から立ち去っていった。

 

「さてと……」

 

 ひと段落ついたと悟は正面の玄関に目を向ける。

 

 場所も、建物も、風景も違う。

 

 しかし

 

「ただいま」

 

 悟はそういってその玄関の戸を引くのであった。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 どこかの洞窟を利用したアジトの中。

 

 簡素なベッドに身を預けるうちはサスケはふと部屋の隅に目を向ける。

 

「何のようだ」

 

 簡潔なその言葉に、何もない空間にいつの間にか立っていた仮面の男・トビがサスケに声をかける。

 

「尾獣狩りの件だ、しくじったなサスケ」

 

「……何のことだ」

 

 トビの言葉に疑問符を浮かべたサスケにトビはやれやれと仕草をして話を始める。

 

「……アレは変わり身だった……お前らは八尾に一杯食わされたのさ、正直……がっかりしたぞ」

 

「……」

 

「まあ、そのことはまあいい。 どちらにせよ、今後の動きはまだこちらの指示に従ってもらうぞ。 暁に入った以上裏切りは許さない……分かっているな?」

 

「いいだろう……どうなろうと俺は……

 

 

 

──木ノ葉に復讐さえできればそれで問題がないからな」

 

「その木ノ葉だが、ペイン六道の手によって壊滅した」

 

「……何?」

 

 トビのもたらした情報にサスケは身体を起こして反応を示す。

 

「まあ、里自体が吹き飛んだが人は未だに健在だ。 お前の復讐がからぶることもないだろう」

 

「里が吹き飛んだのに、死人が出ていないとでも言うのか?」

 

「……天音小鳥を知っているか?」

 

「ああ、一度会ったことがある。 小うるさい奴だ」

 

「奴が裏切った……そしてペインをうずまきナルトと共に妨害し……そのペインすら暁を裏切った」

 

「フン……随分と面白い事だな、お前も余裕がなくなって来たか?」

 

「……別に俺の計画に支障はない。 裏切者たちにはその内手を下すつもりだが、それは今じゃあない。 近いうちに八尾を失ったと気づき思いこむ雲が動きを見せるだろう……そうなった時サスケ。 お前にはある役割を担ってもらう」

 

「……いいだろう……話はそれだけか?」

 

 サスケの了承を得るとトビはそのまま空間を歪ませその場から消え去る。

 

 一人残されたサスケは再度ベッドに仰向けになり目を瞑る。

 

(……復讐か……俺の成そうとすることに必ず奴らは立ちはだかるだろう……大きな障害になるのは……1人はナルト……そして……)

 

 小さく息を吐いたサスケは態勢を横にする。

 

「……」

 

『おまえは……もう俺を……許さなくても、良い……だがお前がこの先どうなろう……と、俺はお前をずっと……愛している』

 

「兄さん……」

 

 兄の言葉を想起してサスケは一筋の涙を頬を伝わらせ、意識を閉じた。

 

 

~~~~~~

 

 

 夜、木ノ葉の里の顔岩がそびえる崖の上に黙雷悟は立つ。

 

 月に照らされながら誰かを待つように立っていた悟はふと現れた気配に目線を向ける。

 

「おお、やっと来たか」

 

 そういう悟にその人物・日向ハナビは少し乱れた息を整えつつ近づく。

 

「どうしてこんな場所に呼び出したんですか、悟さん」

 

「ほら、俺が何をしていたか話す約束だっただろ? それをちゃんと話しておこうかと思ってな」

 

「そうですか……」

 

 そういってハナビは悟に向かって突然柔拳を構えた。

 

「……どうした、ハナビ?」

 

 少し困惑した表情を浮かべる悟にハナビは白眼を使い睨む。

 

「……貴方は誰ですか?」

 

 そのハナビの問いかけに黙雷悟は、笑みを浮かべる。

 

「俺は黙雷悟だ、良く知ってるだろ?」

 

 そういって手を広げるジェスチャーをする悟にハナビは警戒して構えを解かない。

 

「……」

 

「なるほど……」

 

 納得の言ったというふうに、広げた手を戻した悟は不敵な笑みを浮かべ口を開く。

 

「フフフ、それじゃあ……どこから話そうか?」

 

 

 

 

 

──2人を照らす月は雲に隠れ、その姿を影に落として曖昧にした

 

 

 

 

 

 



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24:問1・黙雷悟とは何者?

「もう一度聞きます、貴方は誰ですか……?」

 

 日向ハナビは構えた柔拳の矛先を黙雷悟と語る人物へと向けていた。

 

 月が隠れ影が2人を染めると小さく笑う黙雷悟は

 

「もう一度言おうか、俺は黙雷悟だ……疑う理由でも何かあるのか?」

 

 そうハナビへと問う。

 

 その悟からの問いにハナビは自分でも上手く表現できない感覚を言葉にしようと、探り探りで口を開いた。

 

「……悟さんと貴方とでは……雰囲気や……チャクラの質が僅かに、けれど大きく違うような……気がします。 確信はありませんが、確信できます」

 

 ハナビからの返答に悟はあっけに取られたような表情をした。

 

「中々にこの短時間で矛盾することを言うな……中々に無茶苦茶だが……いいね、益々気に入った」

 

 影の中に立つ黙雷悟は構えを取る。 その構えにハナビはすぐに違和感を覚えた。

 

(木ノ葉流の柔拳でも……剛拳でもない……? 見たことも聴いたこともない流派の──)

 

「ボーっとしている暇はないぞ?」

 

 瞬間朱い2つの閃光がハナビの視界に揺れ、直後に乾いた破裂音のような音が響く。

 

「ッ!?」

 

「小手調べって奴だ……だぁ……あ~……いい加減彼の振りをするのもめんどくさく感じるから素で行こうか」

 

 手掌による只の突き、しかしそれはハナビの意識の外から繰り出されるかのように自然に、流れるような動作でハナビは当たる直前まで自身の身体を反応させることが出来なかった。

 それでも

 

「良いね、勘がいいのもあるようだしよく鍛えられている。 忍びとしても君のことは気に入ったよ」

 

「ッ……クっ!!」

 

 殆どチャクラによる強化の施されていない悟の攻撃をハナビは全力で捌くことに集中して何とかしのぎ切る。

 

 悟と同じ姿、声で繰り出される全く違ったその技術はハナビを追い詰めそして

 

「ほら、もう踊れないかい?」

 

「っはぁ……はぁ……!!」

 

 寸止めもない容赦のない打撃がいくつかハナビの腹や顔、太ももなどに打ち込まれ息が上がる。

 

「……おっと……つい熱中してしまった」

 

 ハナビが鼻から血を垂らす様子に悟が気がつくと慌てて彼の構えが解かれる。

 

 訳も分からず、信頼している悟から攻撃を受けて軽いショックを受けているハナビだがその眼は相変わらず悟の身体を探り観察を怠らないでいた。

 

 肩で息をし、受けたダメージを回復させるよう落ち着くようにしながらもハナビは悟へと問う。

 

「……技術が……戦闘技能が桁違いっ……先日や湯の国でみた悟さんとのスタイルとは違ったただ、戦うためだけの洗練された動き……一体あなたは……ッ」

 

 ハナビはそう言いつつ悟の瞳を見る。

 

 その眼に宿る写輪眼は闇夜に映え、赤く光っていた。

 

 そんなハナビの姿勢に悟は満足そうな笑みを浮かべる。 

 

「未知な存在である僕と対峙しても、そこから学ぼうとする姿勢は好感が持てるよ。 さて、既にやりすぎてしまった感じがあるけどこれぐらい忍びなら日常茶飯事って奴だから許して欲しい、代わりにちゃんと僕の事について話すから」

 

 構えを解いた悟はその写輪眼を抑え、瞳を元に戻す。 

 

 そうして無害をアピールするように両手を挙げた悟だが、そんな話をすぐさま信じる愚か者はいるはずもなく

 

「……」

 

「……そう睨まないでよ……わかった、先ずは自己紹介から行こう」

 

 悟は自分の不備を認めるように両手を挙げたまま話をし始めた。

 

「僕の名前は黙雷悟、これには間違いはないよ。 誓って嘘じゃない」

 

「……」

 

「……まあ、君が知りたいのはそこじゃないよね。 そう僕は君の知る黙雷悟とはある意味で別人だし、同一人物でもある」

 

「……」

 

「分かりやすく言えば、二重人格って奴だよ。 二重人格って言葉は聞いたことあるよね?」

 

「……」

 

 悟の話す内容にハナビは姿勢を全く変えずに警戒を解かない。

 

「疑ってる?」

 

「……当然です。 二重人格であるのなら、私の知っている悟さんを出してください」

 

「あ~……今彼は寝ているんだよね~」

 

 ハナビの提案にばつの悪そうな態度を取る悟。 当然ハナビの警戒度は上昇した。

 

「困ったな……つい体を動かしたくってやりすぎたのが悪かったかな……」

 

 どうしたものかと悟は頭を掻く。 ハナビから見れば、声や姿は間違いなく悟なのだが彼女の知る彼とは仕草や声のイントネーションと言った細かい所に齟齬があり気味が悪い。 警戒して当然である。

 

 めんどくさそうにする悟は「仕方ない」と言って瞳を閉じる。

 

 そして

 

「やっぱり僕は僕なりのやり方でやるとしよう」

 

 その瞳が開かれると先ほどとは段違いの鈍く重い朱い光がハナビの視界を埋め……

 

 

 

 

 

 

 気がつくとハナビは草原に立っていた。

 

「……っ!?」

 

 先ほどまでいた夜の崖上ではなく、大きな木が一本生えているだけのどこまでも続く青空の下の草原。

 

 急な場面の変化にハナビが戸惑っていると

 

「おーい、こっちだよ」

 

 その木の根元から、先ほどまで聞いていた声が聞こえる。 その呼ぶ声にハナビは内心恐怖を覚えながらも声に誘われるように歩み寄る。

 

 少し歩いて木の根元までくればそこには地面に仰向けで寝ている黙雷悟と、その傍で座り込んで手を振っている黙雷悟が居た。

 

(幻術……?)

 

 そう疑いながらもハナビが警戒しながらさらに近づくととあることに気がつく。

 

 寝ている方の黙雷悟からハナビは言葉で言い表せない安心感を覚えていたのだ。

 

「この感じ……」

 

 そんなハナビの呟きに、座っている方の黙雷悟が答える。

 

「本当に勘が良いね。 そう、こっちの寝ている方が君のよく知る黙雷悟。 僕が黙、で彼が雷という風に互いに呼び合っているんだ」

 

 そんな黙からの言葉に反応を示さずハナビは寝ている方の雷に近づき傍に駆け寄る。

 

 理由は単純であり、雷の表情は苦痛に歪んでいたからである。

 

 うなされている様子の雷にハナビが寄り添うとその目線を黙に向け口を開く。

 

「どうして彼は……悟さんは苦しんでいるんですか!?」

 

 心からの心配によるハナビのその言葉に黙は

 

「無茶をしたからさ……物事には色々と制限がある」

 

 そういって立ち上がり何もない空間に手をかざすと、赤い線と青い線の流れがどこからともなく現れる。

 

「赤が身体エネルギー、青が精神エネルギーとでも思ってくれ。 これらが交わると……ホラ、紫色のチャクラになる」

 

 黙が手をスイスイ動かすと、線が混じり合い一つの紫色の線となる。

 

「忍術の基本です……それがどうかしたんですか……っ?」

 

 雷の頭を膝に乗せ座るハナビはそう問いかける。 

 

「で今の雷、彼の状態はこう」

 

 黙がそう言って腕を振るう。 すると青い線が極端に細くなり、チャクラと呼ばれていた紫の線は極端に歪んだ濁った赤い線となった。

 

「身体エネルギーは文字通り身体から作り出される。 そして精神エネルギーは魂から……まあ、分かりやすく言えばこの身体の持つ強大な力に彼の魂が耐え兼ねている状態だってことさ」

 

 黙が拍手を一度すると赤い線と青い線は弾けて霧散し消え去った。

 

「余程極端な力の差が無い限り、エネルギー間で差があっても互いに侵し合うことはない……だけど」

 

「極端な差があって……彼はそれを行使し続けていた……っ?!」

 

「その通りっ! 君も体験して、実際に見ただろう? 木遁と写輪眼を。 千手とうちはの力が眠るこの身体の負荷に彼が耐えきれていないんだ」

 

 黙の説明にハナビは顔を青ざめながら雷の顔を見る。

 

「雷はそれに気がついて、力を抑えていたんだ。 手足にチャクラを抑える鉄輪を巻いていたのは感知をされないようにするためというよりは……自身を守るためだったのさ」

 

 そう言って黙は、黙雷悟の幾つかの記憶の場面を切り取りその映像を流しながら話を続ける。

 

「赤砂のサソリの毒に、ナルト君の螺旋手裏剣。 そして雨隠の里で自来也様を助けるために随分と無茶をして……結局鉄輪を放棄した。 鉄輪を外せばより急速に身体は治る、しかしその分過剰な精神エネルギーを身体が求め、消費され()()()()()()()ってこと」

 

 苦しんでいる雷の表情に黙が指をさす。

 

 ハナビはその事実に驚愕し膝枕をしている雷の表情に視線を落として呟く。

 

「……私に何か、出来ることはあるんですか?」

 

 その問いに

 

「何もないね」

 

 黙は簡潔に答える。

 

「魂の問題だからさ。 まあ、普段魂について忍界で扱われることはほぼないから知られていないことは多くあるんだ。 穢土転生という術が良い例……いや悪い例か、それがあるんだけどその術の解説は話が逸れすぎるからね。 つまり僕の体感で悪いけど、魂にも寿命ってものがあるのさ」

 

「寿命……?」

 

「酷使すれば当然すり減り短くなる。 安静にすれば、ゆっくりと長く保てる。 まあ魂の寿命は身体よりもそれになりに長いはずだから、無理に精神エネルギーを使い過ぎない限りそれで死ぬことはないはずだけど……」

 

 そこまで黙が話すとハナビが何かに気がついたように話を遮った。

 

「待ってください……! 体感で魂の寿命なんてものがわかるんですか!?」

 

「ああそうそう……僕はそうだね……正確な年数は忘れたけど……

 

 

数百年は生きているからね……多分五百年よりは上のはずさ」

 

 ハナビの疑問に答えた黙の答えに、ハナビは言葉を失う。

 

「信じられないだろうけど、真実さ。 さて……ここで改めて自己紹介をしようか」

 

 そう言って黙はハナビの前で軽く手を広げた。

 

 

 

 

 

「我、安寧秩序を求めた時間の超越者、黙雷悟…………分かりやすく言えば未来人だ」

 

 

 

 

 

 その自己紹介にハナビはあっけに取られた。 そして黙はそのまま

 

「そして彼、雷は……僕が他の世界から呼びよせた運命を捻じ曲げる救世主の役割を持つ存在であり……只の人間でもある。 こっちも分かりやすく言えば異世界人……比較的平和な世界から魂だけを呼び寄せられた悲劇のヒーローというやつさ」

 

 雷を呼び指し示して、その正体を語る。

 

 唾を飲み込んだハナビはそのまま瞳を雷に向けていた。

 

「……」

 

「さて、何か質問はあるかい?」

 

 黙から渡された会話のバトンをハナビは受け取りその目線を黙に向け口を開いた。

 

「魂の寿命……それはどれぐらいあるんですか? 貴方が本当に数百年を生きる存在、魂であるのならば悟さんにもまだ猶予は──」

 

「魂の寿命は恐らく長くて120年ぐらいだろうね、雷に残された魂の寿命はこれから大人しくしてて……50年が妥当だろうね」

 

 

 

 

 黙からの言葉にハナビは瞳を揺らがせる。

 

「う、うそ……だってあなたはさっきっ!!??」

 

「僕が数百年分生きられているのには理由があるんだ……考えてみてごらん? 黙雷悟というこの身体に、未来人である僕と異世界人である彼がいる。 さて……

 

 

 

 

違和感は何かないかい?」

 

 

 黙からの言葉の投げかけに、ハナビは精神世界であるはずが脂汗を浮かべ口をパクパクとする。 ……すぐに答えにたどり着いたのだろう。

 

 その様子に黙が瞳を細めるとハナビは震える声で黙の問いへの答えを出す。

 

「……あ、あなたが……っあなたは……過去の自分に……何度も転生して、その度にッ! ……本来の……身体に宿っている赤子の自分の魂を……っ!!!」

 

「……」

 

 ハナビのその答えに黙は無言で頷く。 その瞬間、ハナビは雷の頭を素早く地面に降ろすと黙へ向け殴りかかる。

 

「一体何の目的があってそんな非道なことをっ!!?? 生き長らえるために悟さんの魂も喰らうつもりなのか!!??」

 

 その荒れて乱れた口調で殴りかかってきたハナビを黙はその拳を避けずに頬で受け、後ずさり口にする。

 

「僕の目的は大きく2つだ……それは常に変わらない。 そしてそれももうじき片方は達成できる」

 

「っ~~!!」

 

 激昂したハナビの拳を次は受け止めた黙はその瞳を朱く変え答える。

 

「……だが君をここに呼び、事情を話すのは新たな僕の目的の為に必要なことだからだ」

 

 受け止めた拳を腕ごと捻り雷の傍へとハナビを投げ飛ばした黙は語る。

 

「さて、それじゃあ知ってもらおうか黙雷悟……いや雷が歩んできた道を。 君にはそれを知ってもらう必要がある」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 それは木ノ葉崩しの直ぐあと(具体的には63話と64話の間の出来事)

 

 黙雷悟の影分身が施設のための買い出しに出ているときのことであった。

 

(……誰かにつけられてる?)

 

 悟の影分子は自身を尾行する存在に気がつき、路地裏を利用しその正体を確かめようとした。

 

 しかし

 

「センスは良いが、まだまだこれからだな」

 

「っ!?」

 

 いつの間にか背後を取られた悟は仮面の下で汗を流す。 既に相手が実力者であることは疑いはなく、本体ではない自分では敵わないことは明白であった。

 

 出来る限り敵の正体を突き止めようと影分身である自分が無茶をしてでも振り返ろうと決心し、行動に起こせばそこには

 

 外套を身に纏った木ノ葉の暗部の忍びが居た。

 

「ッ……誰ですか?」

 

 その悟の問いかけに暗部の忍びは少し考えるように唸り

 

「……君とは一度あっている。 正確には以前から俺の方から一方的に監視……見ていたが……そうだな」

 

 そうして暗部の忍びはある言葉を呟いた。

 

()()()()()

 

 その言葉に思い当たる節があるのか悟は驚き、そしてその暗部の忍びがどこであった人物であるのかを把握した。

 

「……その言葉を俺に言ったのは……()()()だ。 それを知っているということは貴方はあの時一緒に三代目を看取った……」

 

「気がついてくれて何よりだ」

 

 悟が察したことで暗部の忍びは面を取り、素顔を露わにした。

 

「っ!?」

 

「俺の名は……猿飛キョウマ、三代目火影・猿飛ヒルゼンの息子であり……君の知る範囲で言うなら猿飛アスマの兄で、木ノ葉丸の父だ」

 

「……あ~……っマジか……ッ」

 

 悟はそのキョウマと名乗った男の顔を見て、アスマや木ノ葉丸との面影を重ねひどく納得し口から感嘆の息を漏らす。

 

……そりゃいるよな、親。 漫画で出てなくても

 

 そうブツブツと呟いた悟にキョウマは少し不審に思うが

 

「さて、わざわざ君に接触を図りに来たのには理由がある」

 

「……というと?」

 

 話を切り出し悟も彼を信頼してその話を聞く体勢になった。

 

「志村ダンゾウという人物は知っているか?」

 

「……まあ、はい。 嫌いですね」

 

「っ! はっはっは俺もだ、気が合うな。 まあ君ほどあちこちで、様々な部隊に零班として編入され行動すれば名ぐらい聞くだろう。 そのダンゾウは君の住んでいる施設の蒼鳥マリエ……(なき)を狙って過去に暗躍したという過去がある」

 

「……それも知ってます」

 

「話が早い。 ……次は君だということだ」

 

「ああ、なるほどねぇ……はぁ」

 

 悟は大きなため息をつきその場でしゃがみ込む。

 

「三代目……親父が生きている頃なら君が有名になることで周囲の人間ともども守りやすくなるのだが、今や違う。 親父が死に、そして君にはあの施設という人質がある……例えばこうだ、君が根に入らなければ施設の人間を一人ずつ殺す……なんてな」

 

「……」

 

 心底嫌そうな顔を仮面の下で浮かべた悟は視線をキョウマに向ける。

 

「そう言うのを加味しての……三代目の御言葉だったってことですか……」

 

「そう言うことだろうな……君を信頼しているからこそ、里を抜けることを提案したのだろう……火影としてではなく、1人の人間として」

 

 少し重い雰囲気になる2人だが悟は立ち上がりキョウマに問う。

 

「俺が里を抜けるとして……貴方はどういう立ち位置につくんですか?」

 

「無論、君を支える。 分かりやすく言えば君の手足となり動こう」

 

「それって一緒に里を抜けるってことですよね? 木ノ葉丸や……奥さんもいるでしょう?」

 

「妻は俺の考えを尊重し、全力で里内からバックアップをしてくれる手筈になっている。 木ノ葉丸も一度も顔を合わせていない俺よりも慕う人間がいるからな。 あとは君次第だということだ」

 

「っ……」

 

 悟はキョウマに迫られた選択にしり込みし、言葉を詰まらせる。

 

 その様子にキョウマは外した仮面を付けなおし悟に背を向ける。

 

「……何も今すぐにという訳じゃない。 ダンゾウが本格的に動きを見せる前にことに当たればいい……具体的な制限の日時はわからないが、妻が根を監視している。 君も里に大切な者たちがいるはずだ、別れになった時の為に悔いを残さないようにな」

 

 そう言ってキョウマは悟の前から姿を消した。

 

 1人残された悟は少し呆然とし

 

「……買い出しの途中だった」

 

 そう呟き路地裏から出ていくのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 それから日時は過ぎる。 五代目火影として綱手を探す旅をし、そして雪の国での戦いを終えて……(具体的には75話の最後)

 

 

「さよならだ」

 

 月を見上げてそう呟いた悟。

 

 サスケの里抜けの瞬間に居合わせた彼は、その言葉に様々な思いを乗せていた。

 

 そんな彼の元に、仮面をつけたキョウマが姿を現す。

 

「……決心はついたのか?」

 

 そう問われ悟は自身の身に着けている仮面をはずしキョウマに素顔を晒す。

 

「……色々と考えてました。 貴方からの、三代目からの提案に対してどうするべきかと……施設の皆やマリエさん、里の仲間たちを置いて逃げ出すような真似をしても良いものかと……」

 

「……」

 

 キョウマは暗部に所属しながらも情に厚い人間であり、悟の葛藤にも共感できる。 

 

 そのままつらつらと月の下で悟は語った。

 

「何度も貴方と影分身を通して会いダンゾウの情報を貰いながらも俺はどこかで躊躇していた……それでも俺は……黙雷悟にはやるべきことがあるんです。 それを成すには……里にはいられない。 もし里に残って、ダンゾウの脅威に立ち向かって何とかなったとしても……俺としての目的が果たせないかもしれない。 そう思うと……」

 

 

 

 

 悟は軽く声を震わせながらキョウマへ告げる。

 

「俺は……里を抜けます」

 

「……そうか、良く決心したな」

 

 キョウマのその言葉に悟は自分の表情を隠すように仮面を被り、話を切り出す。

 

「そうと決まればそれなりの作戦があります。 キョウマさんにも色々手伝って頂くことになりますが……よろしいですか?」

 

「……今更だ。 それにそうかしこまって話すな、気楽に接してくれ」

 

「いや、俺は年上の人にはこういうスタンスなので……」

 

「そうか……まあいい。 で俺は何をすればいい?」

 

「まず、施設にある俺の部屋にある鉱石の塊があるんですけど……それを鉄の国に運んで、加工をお願いしたいんです」

 

「それは構わないんだが、里抜けとは関係ないところか。 そっちは何とかなるのか?」

 

「里抜けに関しては、今会話していたうちはサスケの里抜けに便乗して行おうと思います。 と言っても消息を断つだけで、里からは離れずにしばらくは準備を進めます」

 

「……乗り気じゃない風に見えたが、色々考えているんだな」

 

「ええまあ……()()()を考えるのは大の得意なので」

 

 そういって悟とキョウマはその場から姿を消し、そのまま施設「蒼い鳥」へと移動した。

 

 悟の自室まで忍びこんだ2人は準備を進める。

 

 キョウマは悟に言われた鉱石に入ったバックを見て唸る。

 

「質の良いものだな。 この状態でもチャクラの通りが良いのが分かる」

 

「そういうのわかるんですか?」

 

「俺の弟がチャクラ刀使いでな。 俺は戦闘は得意ではないがまあ、こういう見識は広い自信はある」

 

 バックを背負ったキョウマは辺りを警戒する素振りを見せるが

 

「マリエと言い再不斬と言い……俺たちの気配に気がつかないほど寝入っているな。 何かしたのか?」

 

 あまりの静けさに悟へと問いかける。 悟は自身の机の引き出しの奥に隠していたものをゴソゴソと取り出しながらキョウマの問いに答えた。

 

「睡眠を深くするよう色々細工した夕食を皆に振舞いました。 再不斬さんはこう……白の事でいっぱいいっぱいになっていたので疲れきっていて警戒してなかったようですし、マリエさんも今は忍びとしての勘は鈍っているので……」

 

「……存外にやることはやるんだな、お前」

 

「もしもというやつですよ」

 

 そういって悟は引き出しから出したモノを机に並べる。

 

「化粧品?」

 

「はい、化粧品です」

 

 そういって悟は腰に下げたポーチから血の入った小瓶を飲み干す。

 

 うげぇっと渋い顔をした悟に、キョウマは興味深そうにその様子を観察していた。

 

 悟が瞳を閉じて集中すると

 

 

 悟の身体が二体に分裂をした。

 

 

 その光景にキョウマは

 

「なるほど、話だけは聞いていたがそれが塵遁・分裂の術。 マリエだけでなく、お前も使えるとは……規格外扱いは伊達ではないな」

 

 素直にその術の存在に興味を示し、二人に分かれた悟をじろじろと観察する。

 

 片方の悟は裸であり、何も身に纏っていない状態なので観察されることに拒否感を示してそくささと用意しておいた肌着と黒い外套を羽織る。

 

「デリカシーないんですか?」

 

「正直術への興味の方が勝る」

 

「……そうですか……」

 

 仮面を着けている方の悟は呆れつつ、外套を羽織っている方の自分を椅子に座らせると化粧を施していく。

 

「さて分裂の術で出した分体に化粧をして何をするつもりだ?」

 

 キョウマの興味津々なその問いに化粧を施している側の悟が口を開く。

 

「どうでもいいですけど今回、分裂の術で出来た俺たちに違いはないので分体という表現は間違ってます……俺の魂と体を均等に分裂させているので。 どうするつもりかは……まあ、サスケの里抜けを追いかけるはずの木ノ葉の小隊に紛れて俺も奪還に向けて動いているように見せかけるために普段の俺は動き、こっちの化粧している方の俺にはその俺を襲撃して消息を断たせる役割を担ってもらいます」

 

「随分と手の込んだことをするんだな……」

 

「俺が木ノ葉から離れたと認知されれば、ダンゾウも無意味にここ(蒼い鳥)に手を出さないでしょう……それにその時に入手しておきたい情報もあるので」

 

「情報?」

 

「そこは今は気にしないでください……キョウマさん、貴方が鉄の国についたらそのカバンに入ってるメモの通りの忍具を作ってもらってください。 今後の俺の活動で役立つはずなので」

 

 そういうと悟はキョウマに先に行くよう促す。

 

「わかった、鉄の国に赴き忍具を作るとなるとそれなりに時間がかかるぞ?」

 

「こちらも多分それなりに時間がかかるので待っててください、どうにかして連絡を送るので」

 

「ああ、連絡の件は俺の妻に言え。 俺たちの間だけの少し特別な情報共有の手段がある」

 

「それは便利ですね……よしそれじゃあ頼みました」

 

「了解、そっちもしくじるなよ」

 

 悟の部屋から出ていったキョウマの気配はすぐに探れなくなり、悟は自身の顔と向き合い化粧を施していく。

 

「俺は~ってややこしいな、俺の方は考えていた通り……天音小鳥って名乗るからな?」

 

 化粧を受けている側の悟はそう口を開くと

 

「……この世界じゃ誰もしらない名前だからな。 偽名にぴったりだ」

 

 施している側が仮面の下の表情を乾いた笑いで染める。

 

「「はっはっは……我ながら未練たらたらなんだな……」」

 

 今回は雪の国のようにではなく、雷の魂を分割してそれぞれ入れているため考えることは限りなく一緒であり、同じような自己嫌悪に陥った。

 

 しかし化粧をし終えると最後に装備を整え、互いの段取りを確認する。 一応本人同士だが声に出して確認しないともしもがあると考えての行動だろう。

 

「うっうん……あ~~あ~~テストテスト…………私、天音小鳥は先に木ノ葉と終末の谷を結んだ線上の、終末の谷付近に忍んで待つ。 アンタは君麻呂と一対一の状況を作り大蛇丸の北アジトの場所を聞き出す、私は本来君麻呂と戦うはずだったリーと我愛羅を気絶させる……でOK?」

 

「OKだ……っ正直、女声を出している自分を客観的に見ることになるとはな……変な気分だ」

 

「色々と客観的に見て大丈夫そう?」

 

「この身体は元々中性的だから、前世に比べてクオリティは遥かに高いよ……あとはそうだな2人とも大女優の小雪から頂いたアドバイスをしっかり実行しよう……そうすれば問題ない」

 

「……人を引き込むにはまず、自分では大げさなぐらい過剰に演技をしてみせるって奴ね……了解。 しくじらないでよ?」

 

「お互い様だ、単純に力は半分。 本気を出さないと、お互いにきつい相手だ」

 

 そうして黙雷悟と天音小鳥に分かれた二人は施設の庭に出る。

 

「じゃあ私は土遁で先に地中から目的地に行くから、アンタは黙雷悟らしく悔いのないようにしなさいよ? 私の分も皆と最後に会うんだから」

 

「ああ、分かってる。 1人に戻った時に後悔の無いようにするよ……てかお前」

 

「何?」

 

「頭」

 

「ああ、うっかりしてたわ……フンッ!!」

 

 そう言って天音小鳥は柏手のポーズを取ると、その白い髪の毛が黒く染まる。 安定感はないが、自然エネルギーの活用方法を雪羅との戦いで何となく感じたからこそ、変化も使わずにこういった芸当が出来るようになっていた。 原理は本人らも分かってはいないが天音小鳥はその変化させた黒髪の頭にフードを被ると庭の地面から潜っていき姿を消した。 残された黙雷悟は

 

「……そうだ、一応思い付きだけど……マリエさんにメッセージ残しておくか……あと皆の寝顔もしっかり記憶に刻んでいこう……それから──」

 

 そう言って再度自室へと足を向けたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 そして君麻呂と黙雷悟が対峙する(具体的には76話)。

 

 我愛羅とリーがその場から離れて直ぐに君麻呂との接近戦になった悟は開口一番に問いかける。

 

「アンタには、大蛇丸の北アジト……その場所を教えてもらうと思ってね」

 

「……なぜ木ノ葉の忍びである君にそんなことを教えなければいけない? 阿呆なのか?」

 

 互いに小手調べの体術の牽制を繰り出しながら会話を進める。

 

「アンタ地味に辛口だよね……いや、用があるんだよ……天秤の重吾だっけ? 彼にね」

 

 その名を口にした悟に、君麻呂は解せないといった表情を浮かべる。

 

「……君は不気味だな、なぜそこまで知っておいて今更場所を聞き出そうとする?」

 

「事情があってね……色々と……さて小手調べもここまでだ」

 

「フン、いいだろう」

 

 地の呪印を解放した君麻呂と、雷遁チャクラモードと八門遁甲の同時使用する雷神モードになった悟が向かい合う。

 

「俺の質問に答えてくれるか?」

 

「……君次第と言っておこう」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 またその後すぐ、天音小鳥は我愛羅とリーを気絶させる。

 

「ハ~~~~~っ思ってたよりも何倍もキッツイかも……不意打ちもバレてたし……()()()()()()()()()()()()とはやっぱり我愛羅は強いわねぇ」

 

 自然エネルギーの活用を無理やり行い活性化させた身体能力でのごり押しによって若干の無理をした天音小鳥は少し思案をする。

 

(ていうか私側は黙雷悟と違った戦闘スタイルにしなきゃだから、慣れてない分こっちの方が大変じゃね? ……まあ愚痴は後でいいや、取りあえずの目的は追えたし、悟側が終わるのを待って……いや)

 

 ふと天音小鳥は視線を我愛羅に向ける。

 

 そして何かに気がついたように「そうだ」と手をポンと叩き呟く。

 

「せっかくのチャンスだから〈彼〉にも会っておきましょうか……っ!」

 

 そう言って天音小鳥は写輪眼を発動させ、気絶している我愛羅の閉じている瞼をひん剥き視線を無理やり合わせる。

 

 そして

 

 

「貴様ァ!!! 何者だっ!!??」

 

 乾いた砂ばかりの精神世界で高音の怒鳴り声が響いた。

 

「どうも、私天音小鳥……あ、本名は黙雷悟というものです」

 

 そんな尾獣一尾・守鶴の威圧に動じることもなく天音は頭を下げ自己紹介をする。

 

「いきなり人の領域に踏み込んできておいて、落ち着いて名乗るんじゃねぇよ!! 気味が悪いィ!!」

 

「うっさいな……あ~あ、九尾の九喇嘛はもっと話が分かる奴だったのになぁ~~~~~~?!?!?!」

 

 機嫌の悪そうに怒鳴る守鶴に天音はものすんごく分かりやすい煽りを行う。

 

「やっぱ時代は狸よりだよねぇ~~~?」

 

「てんめぇ~~~っ!!??」

 

「あっまた怒鳴るの??? あ~あ、そうやって怒鳴ってばかりだから知性的な九喇嘛と違って──」

 

「……」

 

(よし、黙ったな)

 

 

 そうして静かになった守鶴に、天音は話しかける。

 

「いきなり来て悪いんだけど、私のお願い聞いてくれない?」

 

「ってm……あんだよ、取りあえず言ってみやがれ」

 

「(ちょろいな)いやぁね? 私九喇嘛さんに実は助けてもらったことがあって~~? 同じ尾獣の守鶴さんも同じように力を貸してもらえないかな~~ってぇ……思ってね?」

 

「何だぁ? チャクラを寄こせってのか?」

 

「いや、分体を寄こして欲しい」

 

「ッ……すがすがしいほどに図々しいなてめぇ……」

 

 天音の無茶苦茶な要求に怒りを通り越して呆れつつある守鶴は天音を見定めるように見つめる。

 

(まあ、よーく見てみれば……僅かにだが六道の香りがする奴だ、それに九喇嘛の野郎のチャクラの痕跡も本当にありやがる……何者だこいつは……)

 

 少し守鶴が天音に不気味さを感じ始めた時、天音は精神世界の外の様子に気がつき焦り始める。

 

「どーせ我愛羅の中に居ても、我愛羅に嫌がらせするだけなんでしょ? 私と一緒に旅をしようよ」

 

「…………」

 

「こっちには時間がないんだけど……聞いてる?」

 

 少しの思案の後守鶴はため息をつく。

 

「……ハァ……仕方ねぇ、確かに我愛羅ん中に居ても暇なだけだ。 分体飛ばして外の様子を見て回るのも悪かねぇか……」

 

「おっ!」

 

 守鶴は天音の提案に乗ると、ポンっとミニサイズの守鶴を生み出す。

 

「俺がついて行くぜ、暇になったらてめぇ安眠出来ねぇと思えよ?」

 

 小さな守鶴のその言葉に天音は反応を示さずに体をプルプルと震わせていた。

 

(おっ今更この守鶴様にビビって来たか?」

 

 と守鶴が都合よく解釈していると

 

「もっふもふやんけ……もっふもふやんけぇ……っ!」

 

 と天音がすごい形相で呟いていることに気がつき

 

「……やっぱこの話はなかったことに──」

 

 と分体守鶴が本体に戻ろうとすると

 

「それじゃあ、この子は預かりますねっ!! お元気でっ!!!」

 

 天音は勢いよく分体守鶴を抱きかかえると逃げるように、それとも逃がさないように我愛羅の精神世界から出ていった。

 

 残された守鶴はポツリと呟いた。

 

 

 

 

「……人間怖……」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 そして現実世界、黙雷悟と君麻呂の戦いに決着がついた。

 

「――――」

 

 小さく何かを呟いたように君麻呂の口元が動き、悟がハッとして彼を見た瞬間には

 

 

 君麻呂は息絶えていた。 その口元の動きを読唇術で読み取った悟はそれが北アジトの座標を示していたことに気がついた。

 

「ありがとう……アンタの意思は無駄にはしない」

 

 悟はそう呟き、君麻呂の身体を地面へとそっと横たわらせる。

 

 彼の目を撫ぜ、瞼を閉じさせた悟だが直ぐにハッとして何かに気がついたように立ち上がる。

 

(この気配……ッ)

 

 チャクラ感知に引っかかった対象に、警戒を示す悟。

 

 

 

 

(俺が弱るのを待っていたのか……ッまあ最初っからそれが狙いだったんだろうな……)

 

 

 

 

 悟の背後に位置する森の中から黒いローブを纏った天音小鳥が姿を現す。

 

「よし、見つけた……♪」

 

 小さく明るい声で呟く天音の手にはクナイが握られている。

 

 天音側も自身の感知に引っかかった対象に狙いを定める。 

 

 そして悟は息を整える。

 

(大丈夫……まだいける……俺は死なない……こんなところで死ねないっ)

 

 自信を狙うその存在に対して、命を奪う覚悟を決める悟。

 

 

「3」

 

 天音は気を強く持つようにワザとらしく明るい声が小さくカウントを取る。

 

「2」

 

 悟は残る力を振り絞り、雷神モードへと移行しその目を写輪眼へと変える。

 

「1」

 

 天音もフードの合間から朱い瞳を覗かせ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零」

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 黙雷悟側に目掛けて1人の影が飛びかかり、それを悟はすれすれで避け距離を取る。

 

 その人物は暗部・根の装束をしており消耗した悟へとクナイで切りかかる。

 

「っ……!! ダンゾウの手先か!」

 

「話が早い……一緒について来て──」

 

 

 

 

「螺旋丸っ!!」

 

 

 

 

 悟と根の忍びが組合いに発展した瞬間に、その根の忍びの頭上から不意に現れた天音が螺旋丸を繰り出しその忍びを地面へと強烈に叩きつける。

 

 収束、爆発。

 

 単純構造の螺旋丸のその威力は、消耗している天音が放ったものでも十分威力は強くそのままその忍びの背骨を粉砕し、絶命へと至らせる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「っ……助かった……って大丈夫か?!」

 

 天音の側は明らかに平静を失ったように肩で息をしている。 悟側もその理由に気づき、自分自身を抱きしめる。

 

 人を殺す。

 

 未だに黙雷悟はその重みに耐えきれずにいた。 どんな相手でも、どうしても心がかき乱される。

 

 特に今は魂も分割され、体力も消耗している。 そしてこれからはかつての仲間達に背を向けていく道を進んでいくことになる。

 

 その重圧が天音をパニックへと陥らせていたのだ。

 

「っ……!!」

 

 呼吸が不規則になり、もがき苦しむ天音の側に悟の方もたまらずに分裂の術を解除し元の1人の黙雷悟へと戻る。

 

 しかしその体のベースは天音の側のものであり、1人に戻った瞬間に大きく息を吐き深呼吸をする。

 

 

「スー……ハー……はぁ……落ち着けた……」

 

 

 最悪な気分になっている悟はそれでも身に着けていた仮面や腰布や額当てを辺りにバラまき、自身が消息を断つための準備を行う。

 

 様々な罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、仕込みを終わらせた悟が根の忍びの遺体に目をむけると

 

 今まさに仕込まれていた呪印が発動したのか、その忍びの遺体は見る見る内に霧散し消え去っていった。

 

「……生きていた証も残させない……なんて。 ……殺した俺が言うのもなんだけど、酷いもんだ」

 

 そしてその後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黙雷悟という忍びは消息を断つことに成功した。



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25:問2・偽名を名乗る前に何をしていたのか? 

「ここまでで、何か質問とかあるかい?」

 

 手ごろな岩に腰を掛け話を続けていた黙は一息つくとハナビへと話題を振る。

 

「当たり前のように塵遁? ……や、木ノ葉丸のお父さんの話が出てきて上手く話が飲み込めてないです……っ!」

 

 黙との一方的な組手で体力を消費しているハナビも地べたに座り込んでいるが、黙の話す内容に常識がついてきておらずに混乱しているように眉間に皺を寄せる。

 

 そのハナビの様子を見た黙はニコッとした笑顔を浮かべ数秒の沈黙のうちに

 

「…………まあ、細かい事説明してたらキリがないし理解はしなくてもいいよ、うん。 ()に対する理解さえ深めてくれればいいから」

 

 そう残念そうな雰囲気を醸し出しながらハナビに励ますように声をかける。

 

(……納得いかないっ!! こんな話をいきなり聞かされて理解できる人なんているわけないでしょっ!?)

 

 ハナビは黙の態度に少し不満を感じたが、そんなハナビにお構いなしに黙は黙雷悟の話を再度話始めた……。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 うちはサスケおよび黙雷悟が里から消息をたった次の日の朝。

 

 木ノ葉の里の中央区より外れた少し寂れた区域のとある二階建ての建物の一階の土で出来た地面がひび割れ腕が飛び出る。

 

 その腕が地面から這い出ると合わせて頭、胴体もどんどんと外に出て地面から1人の人影が生き絶え絶えになりながらその土で出来た床に寝そべり仰向けになる。

 

「はぁ……はぁ……キッツ……」

 

 そう呟く人影は黙雷悟。 彼は終末の谷の近辺から地中を潜りこの建物の中まで移動してきたのである。

 

 しかし、精神的な疲れと肉体的な疲れがピークに達してきておりその上長距離の地中の移動は負担が多く、悟はそのまま気を失ってしまう。

 

 

 

 

 

 そしてふと目を覚ますと悟は布団に寝かされた状態になっていたのである。

 

 畳の上に引かれた少し古い布団と掛け布団。 内装もあまり上等のものではなく、一種の古さを感じさせる粗末な木造建築の一室に悟は見覚えがあった。

 

「ここはアジトの……いつの間に二階に?」

 

 身体を起こした悟の誰に向けた訳でもないその独り言。

 

「ご苦労様です、私が運んでおきました」

 

「ッ!?」

 

 返事など期待してなかったその言葉に、女性の声でしかも背後から声をかけられたことで悟は驚き後ろを振り向く。

 

 するとそこには木ノ葉の暗部の仮面をつけたくノ一が正座をして座っており悟は驚きに体を硬直させつつも、何とか口を開く。

 

「っ……お、あ……さ、()()()()()……さんですか?」

 

「はい、如何にも」

 

 悟の確認するようなおずおずとした言葉にその人物、猿飛キョウマの妻であり猿飛木ノ葉丸の母、猿飛ミノトはハキハキとした口調で答えた。

 

 安心したのか大き目なため息をついた悟にミノトは仮面の奥から鋭い目線を覗かせる。

 

「……何か問題でもありましたか?」

 

 悟のついたため息に対して、自分が何かしらの不備をきたしたのかと確認するように問い詰めるミノト。

 

 悟はあわてて両手をあたふたと振りながらそれを拒否した。

 

「ち、違いますよ?! ただキョウマさんからミノトさんの話は聞いてましたけど、直接会うのも始めてなのと俺が割と致命的な気の失い方をしたのとで色々気が張ってただけです……はい」

 

 弁明する悟に、ミノトは視線を柔らかくして彼へと語る。

 

「……鉄の国に発つ前の夫から、この場所……貴方が以前里内で活動するために買い取ったという空き家で待機していて欲しいと頼まれていたので張り込んでいました。 なので早朝、一階の土間の部分から這い出た貴方に気づき二階まで運び寝かせたまでです」

 

 説明口調のミノトに悟は素直に頭を下げてお礼を述べる。

 

「……ありがとうございます、昨日は俺も色々大変だったので……まあ一階で気を失っても最悪ここには誰も来ないと思うので良かったんですけど……布団で寝たおかげか、気持ちも……スッキリした感じがします……」

 

 幸薄そうにそう言いながら笑顔を浮かべる悟に、ミノトは少し目を細めながら問いかける。

 

「……そうとう精神に負担がかかったようですね。 しばらくは休養をお勧めします」

 

 淡々とした調子でそういうミノトだが不思議と悟はその言葉に温かみのようなものを感じ

 

「……わかりました。 数日は休んでおきますね」

 

 と僅かに気力を吹き返し、笑顔で答えた。

 

 悟の返事に満足したのか瞳を伏せたミノトはその場から立ち上がり、部屋のボロボロの襖に手を掛けながら悟に声をかける。

 

「では、私はこれで。 悟さんが時空間忍術及び口寄せの類による連絡手段を持たない関係上、私は業務の合間を縫ってここにきます。 必要な物、情報などがあればその時お申し付けください……それでは」

 

 そう言うとミノトは静かに開けた襖から姿を消し、気配も読み取れなくなる。

 

 ミノトが居なくなったことを把握した悟はそのまま布団に仰向けに倒れため息をついた。

 

 予想以上に体力を消費し、なおかつ精神的な疲労も蓄積していることに悟は理由を考える。

 

(といっても……ここまで消耗した理由なんて()()()()しか考えられないよな。  術で分かれた二人の俺は明らかに体力の消耗が激しかったし何より……精神の揺らぎが大きかった。 ……分裂の術で魂を二分するとその分、メンタル的な耐性も半分になってしまうのかも)

 

 そう考察した悟は影分身よりも分裂の術の方が何かとリスクが大きい事に注意して運用しないといけないことを心に留め、ミノトの進言の通りにしばらくは休養を優先するとことにしたのであった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 その日の午後、日が落ちた時間帯に悟は布団から目を覚まして空腹になる腹をさすりながら建物の一階へと降りる。

 

(以前、分裂の術を使った時は魂は二分せずに俺と黙が分かれただけだったし……体力も九喇嘛がチャクラ貸してくれたから何とかなってただけで分裂の術って心身ともに消耗が激しいんだな……注意しよう)

 

 寝る前の考察を追考し反省しながら悟は一階の荒れた様子の空間に目を向ける。

 

(ここ……この建物自体は元はある夫婦の居酒屋経営のため建てられたものらしいけど……夫の不倫がどうとかで妻が出て行って、経営と管理が出来なくなって安く売りだされてたの俺が引き取ったんだが……何と言っても何もないし、ボロイ)

 

 一階のスペースは居酒屋経営のためにお客さんを入れるスペースと台所があるのみのよくある飲み屋のようであったが、管理が放棄されているため放置された木製の椅子や机が無造作に置かれ台所にもコンロとシンクがあるのみで調理器具や冷蔵庫などの器具は一つも置かれてはいなかった。

 

(……不倫した夫が、質に出せるもの全部出して残った家屋を俺が買い取っただけだからなんもないのは当然か……夕飯どうしよ)

 

 金欲しさに名義など不問で振り出されたこの家は悟に取ってとても都合の良いものだったが、管理するほどの時間はとれなかったために結局は放置され内装も外装もボロボロのままになっていた。

 

 下忍として、馬鹿みたいな数の依頼をこなしていた悟は下手な上忍よりも金を稼いでいた。 「蒼い鳥」にも給料の一部を収めていたがマリエが度を越える額は頑固として受け取らなかったために悟の貯蓄は膨れ上がっていた。

 

 そんな金の量にモノを言わせこの建物を購入し、この家に金庫ごと移動させていたが……

 

(今は呑気に買い物行ける状態じゃないしな……それこそ日向の人間に白眼で見られたら一発で正体ばれかねないし、変化の術も忍び連中に見破られたらめんどくさいことになるのは必須……)

 

 金だけしかない現状に悟は一種の虚しさを感じた。

 

 すると

 

 突然、土間の床にひびが入る。 悟がそれに気がつくと

 

「猿飛ミノトです」

 

 ヒビの間からそんな声が漏れた。

 

「(なんて返事返せばいいんだ?)……は、はーい、いいですよ(?)」

 

 悟がその声にぎこちなく返事をすると、ミノトが土間を破り姿を現した。

 

「本日の業務が終了したため、様子を見に来ました」

 

 凛とした佇まいのミノトに悟はその場違いな丁寧さに違和感を覚えながらも思ったことを口にする。

 

「どうもこんばんわ……あの……失礼ですけど、来るの早くないですか?」

 

 そんな悟の疑問に

 

「……私が暇だと言いたいんですか?」

 

 ミノトは少し凄ませた口調で答えた。

 

「そ、そう言う訳じゃ……ミノトさんは暗部なので俺のところに来れる頻度はそう多くないんじゃないかと思って……っ!」

 

「……私の心配は無用です。 五代目様がまだ暗部の運用になれていないために個人的な時間を作りやすいだけですので……それよりも」

 

 ふとミノトが小さな巻物を広げると、ボンと小さな音と煙を上げ小箱が現れる。

 

 その小箱を手に取ったミノトはそれを悟へと差し出す。

 

「これは……?」

 

「夕食です。 この家の様子では貴方が夕食を取れることはないと判断したのでこちらで用意させていただきました」

 

 ミノトは小箱を悟へと手渡すと、無造作に置かれていた机と椅子2つを並べその一つに座る。

 

 ミノトの座った向かいに用意された椅子に促されるままに悟も座るとミノトは暗部の仮面を取り自身の分の弁当箱も巻物から取り出す。

 

 ミノトの素顔を見た悟は

 

(……若干雰囲気は木ノ葉丸に通ずるものがあるように見えるけど……綺麗な人だ)

 

 その容姿に思わず一瞬見とれた。

 

 怒った時の木ノ葉丸を思わせる切れ長の目はその悟の反応に表情は変化させずに、眼だけで不信感をあらわにする。

 

「私の顔になにか? それとも食事の内容に何か不満でも?」

 

「とくにそう言うわけでは……木ノ葉丸に似てるなって思っただけです」

 

 若干ミノトの態度に慣れた悟は素直な気持ちを述べ、そのまま弁当箱を開ける。

 

 中身は焼肉弁当で、冷めてもおらず湯気が立つ。

 

「……封入の術って便利ですね」

 

 悟の素直に感想を述べるとミノトは

 

「ええ、単純かつ効率的な術です。 強力とは言えませんがそれも使い方次第でしょう、このように物資を運べること自体戦略的には有効なためにこの術を使えるのは忍びとして最低限のラインと考えて後輩の育成に勤しんでいます」

 

 饒舌に語り始め、悟は焼肉を口に運ぼうとした箸の動きを止める。

 

「……何か?」

 

 キョトンとしたミノトの表情に悟は小さく微笑み

 

「……いえ……頂きます」

 

(キョウマさんは忍術に、ミノトさんは戦略的なことに熱中しやすいのか? 中々個性の強い夫婦なことで……流石は木ノ葉丸の両親)

 

 心に余裕を取り戻しながら焼肉弁当に舌鼓を打った。

 

 

~~~~~~

 

 

 食事を終えた悟が充足感に浸り椅子に体重を預けていると、ミノトが口元を布巾で拭きながら口を開く。

 

「今後の予定はどのような形で? 夫からは特に何も聞かされていないので良ければ参考までに話を聞いておきたいのですが」

 

 切れかけの電球が不安定に照らす部屋の中でそう切り出したミノトの言葉に、悟は顔つきを真面目なものにし体勢も正して答える。

 

「取りあえず、数か月は木ノ葉に滞在をして里外に出る準備をします。 大まかに内容を言えば1つは……俺が変装に慣れること、2つはとある結界忍術を手に入れることですね」

 

「変装と結界忍術……ですか?」

 

「はい、今は俺こと黙雷悟が生死不明で消息を断っているため、根の忍びらがマリエさん達に手を出す可能性を封じ込めてますが生存がバレてしまえばどうなるか分かりません。 なので、出来る限り黙雷悟からイメージを離した人物に成り切れるように練習すること。 そして中性的な声と顔つきを利用して女性に変装つもりなので、白眼持ちに体を透かされて正体がバレないよう特殊な結界忍術を習得したいとも思っています」

 

「なるほど……確かにこうして面と向かって顔を観察しますと幼さを加味しなくても整った顔をしていますね。 声も訓練すればより女性的になることでしょう……そしてその結界忍術とはどういったものでしょうか?」

 

 ミノトに顔をジロジロと見られた悟は気まずそうな笑顔を浮かべつつ、指を回しながら結界忍術についての話をする。

 

「ほら、木ノ葉の商店街にたまに抽選会してる雑貨屋さんあるじゃないですか……どこのことか分かりますか?」

 

 悟が指で宙に絵を描くようにしてその雑貨屋の位置をミノトに想像させる。

 

 「角の突き当りの……」のように悟が説明しているとミノトは顔をハッとさせて

 

「……心当たりがあります。 何度か私も過去に訪問したことがあった場所ですね」

 

 そう悟へと告げる。 

 

「へぇ……失礼ですが、ミノトさんってあまりああいった場所には行かなそうに感じますけど……過去にってことは今は行ってないんですか?」

 

 悟が若干の興味を持った表情でそう質問するとミノトは少し考える素振りをした後に口を開いた。

 

「……四代目火影波風ミナト様の奥方であらせられた、うずまきクシナ様が良く訪問していらした場所なので……暗部として見まわりに行っていました。 思えば貴方の保護者であり私の後輩でもある蒼鳥マリエも何度かそこで姿を見た覚えがあります」

 

 昔を思い出すかのようにミノトがそう告げると、悟は驚いた表情を浮かべ

 

「……ッそう言えばマリエさんは元暗部でしたもんね……それにクシナさんか……マリエさんがクシナさんに追いかけられた話を聞いたことがありますが……あの場所が……そうだったんだ」

 

 直ぐに少ししんみりとした表情になって顔を俯かせる。

 

「……家族が恋しいですか?」

 

 悟の表情を見てミノトはそう告げる。 その言葉にハッとした悟は

 

「いえ……ただ何というか……歴史を感じて感傷に浸ってました……と、取りあえずその雑貨屋が何故か使用している結構高度な結界忍術の術式を手に入れたいと思っているんです」

 

 話の内容を引き戻す。 ミノトは少し無理している悟の様子に気の毒そうな表情を一瞬浮かべ直ぐに

 

「……確かクシナ様が生前ひいきにされていた店だったと記憶しています。 品ぞろえも豊富でそれ故に盗難被害が酷かったそうで……その貴方が求める結界忍術も恐らくクシナ様が店を助けるために施した……うずまき一族に伝わる術の一つなのでしょう……なるほど、それであるなら白眼の透視能力を防げるということですね」

 

 悟の意志をくみ取り話の解釈を述べる。

 

「はい……なので里では外に出る準備を進めていこうかと思っています。 国外を回るつもりなので他にもいろいろと知らべないといけなさそうですね」

 

 やることの膨大さに大変そうだと悟が小さくため息をつく。 ミノトはそんな悟に

 

「……私にできることがあれば協力は惜しみません。 何でも気軽に相談してください」

 

 そういって弁当箱を片付け始める。 妙に親切なミノトの態度に悟が疑問を感じる。

 

(何故ミノトさんは…………)

 

「何故ミノトさんはそこまで俺にしてくれるんですか……?」

 

 そしてその疑問を口にした。 決して精神的に安定していない悟は少しだけ、ミノトとキョウマの献身的なサポートと態度に違和感を覚えていたのだ。

 

 丁度巻物に弁当箱を収納したミノトはそんな悟の言葉に、ポーチに巻物をしまいこんだ後に悟へと向きなおり真剣な表情を浮かべて返答する。

 

「……それが私たちにとって忠を尽くすということだからです」

 

「…………忠?」

 

「我々忍びは平和とは真逆の道を生き、それでも平和を夢見る……忍び耐える者として私は考えています。 この考え方は受け売りなんですけどね……なのでせめて、後に発つ者たちであるあなた方の道となるために私と夫は火の意志に忠誠を誓い、後世を助けることに尽力しようと考えているのです……己の意志を持って」

 

 そう述べたミノトの言葉に悟はその表情と雰囲気から、タダならぬ意志を感じて思わず息を呑む。

 

 忍界に生き、その実情知るにもかかわらずミノトのその言葉には平和に向けた希望が満ちていたのだ。 そして少しの沈黙の後ミノトは鼻で笑い

 

「……無理に一忍びである私の考え方に理解を示さなくてもいいです。 まあ、個人的に言うなら蒼鳥マリエを守れなかった申し訳なさと……君が木ノ葉崩しの時に病院で発した言葉を聞き、好感があるから協力していると思ってくれて構いません」

 

 そういって話を終えた。 悟はそんなミノトの言葉に

 

「……ありがとう……ございます」

 

 少し涙ぐんだ声での小さな謝罪を述べるのに精一杯となっていた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 ……それから二か月ほどの期間を使い悟は準備を行った。

 

 ミノトの見繕った女性物の服装に袖を通したり、化粧の勉強をしたり……また他国の地理関係を覚えたりと地味ながらも下地を丁寧に形成していった。

 

 そんな日が続く中で様々な話を聞いた。

 

 うずまきナルトが日向ネジと決闘を行ったことや、マリエたちの施設が若干ながら運営に日が差し始めていたことなど……そして

 

「白が……零班隊長に……?」

 

「はい、悟さんが居なくなった穴を埋めるためにより忍びとしての任務に励むそうです……施設に余裕が生まれたのも要因でしょう」

 

「それは……そうか、私の代わりにねぇ……ちょっと心配かな……」

 

 掃除がなされ小ぎれいになったアジトの一階でミノトと会話を行う悟。 悟の容姿は髪の毛も伸びセミロングとなり、顔も化粧が施され容姿は完全に女性のものとなっていた。

 

 口調もトーンも女性と疑われないほどとなっており普段から女性を演じているためにその練度はかなりのものであった。

 

 少し考える素振りを見せた悟は

 

「ミノトさん、出来ればでいいんですが……白が施設と忍びとしての活動の行き来をしやすくなるように何か手を打ってもらえませんか? 白雪としてのアイツと忍びとしてのアイツが結び付けられたら血継限界を狙ってダンゾウが何か仕掛けるかもしれないので」

 

 ミノトへそう頼み込む。 そんな悟からの要望に

 

「わかりました、綱手様にそれとなく提案を出しておきます」

 

 了承の意を示す。 悟も懸念点が一つ払拭されたことで、安心した表情となった。

 

「それで、今日は例の雑貨屋に行こうかと思います……そろそろ結界忍術を手に入れておきたいので……」

 

 悟のその言葉にミノトは

 

「……私が行くことも出来ますが、よろしいんですか?」

 

 と確認をする。 悟には、自分の変装の出来栄えの確認と最近ミノトの暗部としての仕事量が増えてきていることへの配慮の意味があるためその申し出を断る。

 

 悟の気づかいにミノトは気づいていながらも、彼の譲らない性格に慣れて来たために小さくため息をついて注意を促す。

 

「でしたら、譛€霑大ヲ吶↑莠コ迚ゥ縺ョ蝎ゅr閨槭>縺ヲ縺�∪縺�

 

………………

…………

……

 

~~~~~~~~

 

 

 ハナビに話を続けていた黙は、いきなり口をポカーンと開けて無言になった。

 

 調子よく過去の話をしていた黙がフリーズしたことにハナビは怪訝な表情を浮かべながらも声をかける。

 

「どうしたんですか……? 多分話の流れ的に、その日は悟さんは『マリサ』に変装しその雑貨屋に向かうんですよね? ……そしてそこで私と出会ってしまう」

 

 ハナビが過去に出会ったマリサという人物が悟の変装であることは既に気がついているので、黙が黙った後の話に予想を付けて問う。

 

 しかし黙は口を閉じると腕を組み、頭を捻り何かを思い出そうとしているのか唸りながら表情をしかめさせていた。

 

 一向に口を開かない黙にハナビはそう言えばと疑問を口にする。

 

「……そう言えば、あの時一緒にいた悟さんがパパと呼んでいた男性と悟さんを姉ちゃんと呼んでいた男の子たちは一体誰なんですか?」

 

 ハナビが何気なくそう口にした疑問に黙は

 

……男性……? ……男の子……?

 

 小声で何やらぶつぶつと呟くとハナビに対して

 

「……覚えていない」

 

 そう観念したように告げた。

 

「……はい?」

 

 不信感をあらわにしているハナビは突然の黙の言葉に呆れた表情を浮かべた。

 

 納得の行っていない黙はモヤモヤした感覚を覚えながら言葉を重ねる。

 

「そう覚えていないんだ……正確には、何故かその近辺の記憶が曖昧になっている……っ」

 

「……数百年生きているのでボケてるんじゃないんですか?」

 

「ハハッ……中々辛辣な事いうね、君」

 

 ハナビからのツッコミに頬をヒクつかせた黙は、そのまま暫く唸るが

 

「……駄目だ、やっぱり思い出せない。 話の内容が跳ぶことになるけど勘弁してくれ」

 

 諦めたのか大きなため息をついて、再度過去の話を話し始める。

 

(勘弁してくれって……自分から無理やり話しておいて中々に傲慢な人ね)

 

 ハナビは黙に対する評価を再度下げながらも、仕方がないと話を聞く体勢へとなった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 そして里から離れた黙雷悟が天音小鳥として活動を始める。

 

 ミノトを経てキョウマから忍具作りが終わっていないことを聞いた悟は

 

『なら鉄の国で合流するのでそのまま暫く待機しててください』

 

 とミノトに連絡を託していた。

 

 1人里外で出て活動し始めた悟は始めのうちは大き目なバックパックを背負い旅をする白髪の少女という身なりでいた。

 

 本格的に行動するつもりである天音小鳥として動くときは、自然エネルギーの活用で黒髪になるつもりであった。

 

 そんな悟は始めに土の国、岩隠れの里を目指した。

 

 火の国と風の国と同じくらいの距離がある土の国に赴く悟の目的は決まっていた。

 

(今後各地を回るのに口寄せが出来ない私がすべきことは移動手段の確保……つまり土遁・軽岩の術の習得)

 

 自身の思惑の1つである各尾獣らとの接触を思うと悟は移動手段を必要としていた。

 

 雷遁チャクラモードでの移動は目立つ上に長時間の使用でのチャクラ消費量も決して少なくはない。

 

 そのため軽岩の術を会得するために、手始めに悟は謎の不審者として岩隠れに向け防がれることを見越して見せかけだけの威力の低い大きな火遁を打ち込んだ。

 

 当然のように火遁は防がれ、赤い装束が特徴的な岩隠れの忍びらが警戒を強め辺りに散らばる。

 

 そして

 

「急な襲撃か……だとしても一体どこの誰が──」

 

「私でーすっ! 写輪眼っ!!」

 

 孤立した忍びの不意を突き、いきなり眼前に現れ写輪眼による幻術を行使。

 

 そのまま軽岩の術の使用者を聞き出していき、特定。

 

 芋づる式に特定した忍びに幻術をかけて拉致し、離れた洞窟で術を目の前で披露させた。

 

「ふむふむ……やっぱり岩隠れは土遁系の術が豊富だなぁ……加重岩の術も覚える気はなかったけど便利そうだなぁ」

 

 呑気にそう呟く悟は一通りの術を披露させ、写輪眼でその動きを見切りコピーすると幻術で相手の記憶を封じ里の近くに放置。

 

 その後は

 

「土遁・軽重岩の術……あっ出来た……浮いた……なんか違和感凄いけど、飛べるなんて感動的だなぁ……そう言えば雪の国でチャクラの鎧で飛んでたっけ……」

 

 軽重岩の術により空の上という移動経路を確保した悟は鉄の国へと赴き猿飛キョウマと合流を果たす。

 

 ミノトからの連絡を受けていたが、余りに早い悟の到着と容姿の変化にキョウマは一目見て微妙そうな表情を浮かべた。

 

「……やはりお前は色々と規格外だな……っとそんな再会の感想よりもお前に頼まれていた忍具、細部に問題があって職人が手を焼いている。 お前自身が自分の口で要望を伝えた方が出来が良くなるはずだ」

 

 キョウマの言葉に悟は、鉄の国の武具職人に自身の要望を伝えその完成形を語る。

 

 チャクラを吸収する鉱石の性質を利用した二代目火影の雷神の剣と呼ばれた剣と、逆にその性質を反転させて利用する拘束具に近いような4つの鉄輪。

 

 剣はかつてナルトが盗んだ封印の巻物に記されていた物であり、悟はその内容を書き写した巻物を職人に直接見せる。

 

 そして鉄輪はかつて見た雪羅の拘束具をイメージし要望と意見を出したことで、それぞれの忍具は完成した。

 

「名付けて尾異夢・叉辺流……うん、中々にカッコイイんじゃないかなっ!!」

 

「……センスが雷の国だな」

 

 悟の命名にキョウマが呆れつつも、鉄の国での用事が済んだ悟はバックパックをキョウマに預け封入の術で巻物にしまってもらうと次の目的地を告げた。

 

「移動手段も確保して継続使用ができる忍具も出来た。 次は……私が強くなるために、修行の地として選んだ大蛇丸の北アジトに向かいますっ!」

 

「……っ無茶苦茶なことを言っている自覚はあるか?」

 

「あるっ! でもそこじゃないといけない理由があるのでねぇ……キョウマさんは着いて来てくださいっ!」

 

 そういうとキョウマを軽重岩の術で浮かせた悟は有無も言わさずに彼を引っ張り鉄の国を出るのであった。

 

 

 



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26 :問3・マリサとサトリと天音小鳥とキョウマと……

「あの大蛇丸のアジトまで行ってたんですか……悟さん」

 

 黙の話を聞き続けすっかり話の内容に興味を示すようになったハナビの呆れた様子のその言葉に黙は

 

「……実は今そこは(くら)隠れの里と名乗って小規模ながら隠里として運営を始めているんだ。 君にここに来るようにと伝言を頼んだミノトさんから暗隠れから木ノ葉の復興支援のために何人か向かっているそうだとも教えられたね……」

 

 少しだけ先の話を面白そうに語る。 その内容は到底思い至るはずもないものでありハナビはまたしても呆気に取られるが直ぐに小さく笑って見せる。

 

「ふふふ……突拍子もない話ですが、でも何となくですけど悟さんらしいですよね。 本当に無茶苦茶な人ですけど、自分には厳しく人には優しく……だからこそ皆悟さんを心配して信じてくれる」

 

 そんなハナビの言葉に

 

「……そうだね、()じゃなきゃ()()はなってない」

 

 しみじみとした表情を浮かべ黙も同意を示した。 そしてここに来て初めてハナビは思い至る。

 

(……この黙って人も悟さんを信用している人のひとりなんだ……そうだよね、同じ体を共有しているってことはそれだけ……)

 

 ハナビの暖かい視線に気がついた黙は、一回咳ばらいをして見せ話の続きをし始めるのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 軽重岩の術での移動の最中に悟とキョウマは小さな村に立ち寄る。

 

 直接大蛇丸のアジトに向かう前にある程度の準備をするために村の商店で色々と買い出しをする悟。

 

 宿屋で待機していたキョウマは慣れない空の移動に、若干気分を悪くしながらも何やら巻物に一筆したためていた。

 

 そこに悟が戻ってくると、何かをキョウマに向け放り投げ自分は床の座布団に腰かけ購入したパンにかじりつく。

 

「……これは……仮面か?」

 

「ほう、はふがにひょうははんは──」

 

「行儀が悪いぞ」

 

「……むごむぐ……ゴクンッ……流石にキョウマさんが素顔で動き回るのもアレかなって思って……シンプルなやつですけど買っておきました」

 

 キョウマは手渡された黒一色の仮面に目を落とすとそのまま着けて悟に見せる。

 

「どうだ、似合うか?」

 

「……似合うも何もないでしょうに……取りあえず貴方が仮面着けている間は互いに偽名で呼び合いましょう……私は……『サトリ』とでも呼んでください」

 

「天音小鳥じゃないのか? それにサトリって……ひねりが無い、里で使ってたというマリサとかいう偽名も、マリエとお前の名前の頭文字を取っただけだろ? 意味を込めろよ、意味を」

 

「むっ? ひねり何て要らないんですよ、世に知らし示すメインは天音小鳥の方なんでそれ以外の偽名は適当でもバレなきゃいいんです……それじゃあ貴方は『仮面』とでも呼びましょうか」

 

「ひねりが無い所か、そのまんまじゃねぇか……もう少しなあ──」

 

「今後のことで私に決定権をゆだねるといったのは貴方ですよ? 異議は受け付けませ~ん」

 

 腕でバツ印を作ってキョウマの意見を跳ねのけた悟はそのまま自身の手首と足首に、鉄の国で作成した鉄輪をはめ始める。

 

 子供みたいな悟の態度にキョウマは微妙な表情を浮かべるも、その鉄輪の存在に注意が向き質問をする。

 

「で、それは何のための鉄輪だ? わざわざ自身のチャクラを抑えるためにそんなものを装備する理由があまり思い至らないんだが……」

 

「単純に隠密行動するためですよ。 私のチャクラの特徴を知っている人間に正体がばれるのを防ぐ役割です」

 

「って言ってもそんな鉄輪、着けているだけで動きに制限がかかるだけだろう……本当に必要なのか?」

 

「まあ、動きはかなり鈍りますけどそのための()()()……尾異夢・叉辺流です。 チャクラを溜めておけるので、ある程度の融通が利いて──」

 

 悟が尾異夢・叉辺流を構えるとチャクラの刀身が伸びる。 その様子にキョウマが興味を持った眼になると、悟が小さな掛け声をもらしたことで尾異夢・叉辺流の刀身が赤く染まる。

 

「こうしてチャクラコントロール、性質変化のみで幅広い戦闘を可能にします。 便利でしょ?」

 

 尾異夢・叉辺流の刀身に火遁のチャクラが流れていることで、離れているキョウマにも若干の熱が感じられ感嘆の声をもらす。

 

「確かに……便利なもんだ、五遁を扱えるお前なら様々な場面に対応できるだろうな」

 

「でしょ?」

 

 二へへと笑って見せた悟はその刀身の熱で、パンを炙ってみせ短めに生成した風の性質の緑の刀身を使ってパンを切り分けて見せた。

 

「調理に便利!!」

 

「…………それでいいのか?」

 

 自信満々のどや顔の悟に、キョウマは悟が性格に若干の天然を含んでいることを認識して小さなため息をつくのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 そして再度、軽重岩の術での雲の上での移動が始まる。

 

 黒いシンプルな外套に身を包んだ二人はしばらくの移動の途中、何かに気がついたように移動を止めた。

 

「……地上で何か起きているな、関わるのか?」

 

 察した様子のキョウマの様子に、悟はキョウマに向き直ることもせずに地面に向け飛ぶ。

 

「アンタも私の考え方に早く慣れた方がいいよ!! 仮面!!」

 

 先に1人雲の下に行った悟に呆れつつもキョウマもその後を追った。

 

「名前だけじゃなく、態度も変えるとはな……まあ変にかしこまった態度を取られ続けるより、俺的にはいいか」

 

 

 

 そしてキョウマが地上近くに来ることで、その感じた異変の正体を確信する。

 

(焼けた集落……盗賊の類による襲撃かなにかか)

 

 キョウマの見た光景は木と藁で出来たシンプルな家々が燃え逃げ惑う人々。 そして……

 

「暁万歳っ!!!! あぁかつっき、ばあぁんっざぁいい!!!!」

 

 奇妙な言葉を叫びながら、火事の元凶である盗賊らを尾異夢・叉辺流で切りつける悟の姿であった。

 

 迅速に動き、盗賊らを切り伏せ行動不能にしていく悟のその奇妙な行動にキョウマは

 

(……関係者だと思われたくねぇなぁ……)

 

 と思い人に見られないように静かに地上に降り立つと隠密行動で悟の様子を観察するのであった。

 

 

 

 

 数分もしないうちに十数名いた盗賊らは、尾異夢・叉辺流の餌食となり足やら腕を負傷させられ文字通りお縄についた。

 

 悟は盗賊らを襲う中でただひたすらに、暁万歳と唱え続けそこにいた住民たちすら盗賊を撃退したその悟に近づくのを躊躇していた。

 

 消火活動も尾異夢・叉辺流の水遁性質の刀身による薙ぎ払いで終えた悟は住民たちの様子を見るとそのまま何も言わずに駆け出し隠れていたキョウマの元へと行く。

 

「おまたせ、じゃあ行こうか」

 

「もういいのか?」

 

 何かしらお礼でも貰ったほうがいいと暗に言うキョウマに悟は軽重岩の術を発動しながらウインクをしながら答えた。

 

「大変な目にあった人たちに、何かを求めることはしないよ。 それじゃあ出発っ!!」

 

 そしてそのまま、二人は雲の上へと消えた。

 

 

 

 その日から各地で噂が広がり始める。

 

『暁万歳と唱える、謎の少女が突如現れ悪者を成敗する』  

 

 そんな噂が……

 

 

 そんなこんなで移動を続けていた悟とキョウマだが、大蛇丸の北アジトまであと一歩のところで降り立った場所である光景を目の当たりにした。

 

 

 ボロボロに崩壊した集落。 そしてそこにある痕跡で二人は直ぐに気がつく。

 

「忍びの仕業か……」

 

「土遁の形跡がある……土の国が近いし岩隠れの連中の可能性もあるね。 ……どうしてこんなことを」

 

 心底信じられないといった様子で歩き、ぐちゃぐちゃになった地形をあるく悟にキョウマが語る。

 

「残念だが別に珍しいことじゃない……この様子だと岩隠れと他里の忍びの戦闘に巻き込まれたんだろう。 言っておくが俺たち木ノ葉の忍びにだってこういう戦闘を良しとする者は少なくない、敵さえ打倒できればいいとな」

 

 キョウマのその言葉に小さく歯ぎしりの音を響かせた悟は、道端に転がっていたここに住んでいたであろう男性の亡骸を抱えて歩き始める。

 

「……どうするつもりだ?」

 

「……燃やして土に埋める。 野ざらしにしておくよりはっていう……只の私の自己満足」

 

「……俺も手伝おう」

 

 こういう戦闘の跡地には、後から来た敵を始末するためのトラップなども多い。 キョウマからそう教えられた悟は、彼と共に転がる死体を出来る限り集め埋葬を行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 警戒しながらの埋葬に思ったよりも手こずった2人は日が落ち始めていることに気がつき、崩壊して家の体を成していない建物に入り腰を下ろす。

 

 ため息をつき疲れた表情をしている悟にキョウマが声をかける。

 

「……疲れたか?」

 

 その言葉に悟は、無理した作り笑いをして答えた。

 

「……流石に……ね?」

 

 壊れた屋根からさす月明りのしたで悟は無言になり、体を横にする。

 

「キョウマさんは……こういうのに慣れてるんですか?」

 

 そっぽを向いた状態でそう語りかけてきた悟にキョウマは

 

「暗殺戦術特殊部隊だったからな……正規部隊よりもさらに、おぞましい人の死には近かったと思う。 だが……慣れてはいないし慣れる必要もないと思う。 ただ……表に出さなくなるだけだ」

 

 感情的にはならずとも少し悲しそうな声色でそう述べた。 「そうですね」と同意を示した悟にキョウマは

 

「見ててやるから、少し寝ろ。 気休めだが気分がマシになる」

 

 そういって建物の外へと出ていった。

 

 1人になった悟は、小さくすすり泣くような音を響かせながらそのまま眠りへとついた。

 

 

 

 

 

「案外脆いもんだな、お前さん」

 

 精神世界で話しかけてきた守鶴に気分が悪そうに悟が答える。

 

「脆かろうと、私は目的を成す……傷を負っても、誰を前にしても……最終的にやることはやるつもり」

 

「へへ、そうかい……」

 

「何? 我愛羅みたいに私の睡眠の邪魔でもするつもり?」

 

「分体の俺様じゃ、てめぇ相手には嫌がらせは意味が無さそうだからなぁ……無駄なことはしねぇよ」

 

「……」

 

「嫌がらせは意味無さそうだから、話かけて寝かせねぇことにした。 そうだなぁ……てめぇが俺様を求めた理由でも聞かせな」

 

 悟はミニサイズの守鶴がどういう意図で自分に話しかけてきたのかを察して不貞腐れたようになりながらも口を開く。

 

「……アンタの本体は未来で、我愛羅の中から抜かれる。 それで人柱力である我愛羅は死ぬんだけどその時に分体でもアンタを我愛羅の中に戻せば、生き長らえさせることが出来るかもって……分裂体の時の私が思いついたんだ。 ……1人に戻った時はアンタが居ることに驚いた感情と、納得している感情が入り乱れて混乱したっけな」

 

 そんな悟の言葉に守鶴は

 

「…………マジかよ」

 

 とその言葉に驚きつつも

 

「だが、そんなこと本当に起きんのかァ? 言っちゃあアレだが、我愛羅の奴は俺様が嫌がらせしててあの強さだぜ? 分裂しているお前にノされたのは気に喰わねぇがその内もっと強くなるだろうよ」

 

 と我愛羅が自分の本体を抜かれる場面になるとは信じられないと口にした。 その様子に悟は

 

「……何だかんだで我愛羅のこと信用してんだね」

 

 と小さく笑って口にした。

 

「ちっげぇーよっ!! 客観的に見てモノ言ってんだ、俺様に舐めたこと言うんじゃねぇぞコラぁ!!??」

 

 守鶴が心外だと怒り、ジタバタするとその動きの愛らしさに悟が笑いその様子に守鶴はさらに機嫌を悪くした。

 

 そんなやり取りの末に、守鶴はゼーゼー息を整えながら投げやりに悟へと語りかける。

 

「まあ、んなことはどうでもいい……それよりも俺様とあのバカ狐の力に親和性を示すたぁてめぇは珍しい存在だなぁ? まあ千手とうちはのチャクラを感じる時点で異常なのはわかりきってることだが……」

 

 そんな守鶴の言葉に悟も興味を示し質問をする。

 

「そういえば、九喇嘛にも千手柱間とうちはマダラのチャクラがどうのこうのって言われてたっけな。 バカ狸は気づけない的なことを言ってたけど、やっぱりわかるもんなんだ……実際どんな感じなの?」

 

「ああ!? 気づくわ!そんなもんっ余裕じゃ!! 何か隠そうとしている術式の反応も分かるがもう4割ぐらいしか機能してねぇからな、てめぇが歪な存在だってのは容易に感じられる……つーか中忍試験だか何だかの時と比べて、チャクラの質が変化しすぎててあん時のガキと同一人物かどうかのほうが最初はわからなかったぜ」

 

「チャクラの質……? そう言えば九喇嘛にもそんなことを言われてた気が……」

 

「つーかあの野郎、しれっと俺様の事バカ狸とかぬかしてやがったのか!? 俺様がいねぇとこで勝手言いやがって!!!!」

 

「……守鶴もさっきバカ狐って言ってたじゃん、お互い様ジャン」

 

「アノ傀儡使いのガキのモノマネ止めろォ!! 俺様は良いだよ俺様はっ!! 九喇嘛の野郎よりは頭がいい自信があんだよっ!!」

 

「……じゃあ、アカデミーで出た問題でも解いてみる? 九喇嘛が出来るかは知らないけど、もし今度会った時に比較できるし」

 

「オウオウ、やってやろうじゃねぇかヨォ!!」

 

 そうして悟と守鶴は忍者アカデミーでの問題を出し、それを解くといった流れになり時間を潰すのであった。

 

 

 

 

 

「ねぇちょっと……難しい問題になると文字通り狸寝入りするのやめてよ、先に進めないじゃん」

 

「ぐ、ぐおー……ぐおー……」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 こうしてキョウマと悟は互いに後退しながら睡眠を取り合い、朝を迎える。

 

 気力を吹き返した悟は家屋の外に出ると、ある1つの気配に気がつく。

 

「……ここに向けて誰か近づいて来てるみたい」

 

「様子はわかるか?」

 

 同じく出発の準備を進め仮面をつけたキョウマのその問いに悟は感知をしつつ答える。

 

「動きも遅いし……チャクラもほとんど感じられない。 一般人みたいです」

 

「逃げていた村の生き残りか?」

 

 立ち上がったキョウマと共に悟はその気配の元へと向かうことにした。

 

 そうして気配の元へと来ると、二人は子どもを抱えた1人の女性を目の当たりにする。

 

 女性はやせ細りやつれた様子でフラフラと歩いていたが2人を見つけると目つきを鋭いモノへと変え叫ぶ。

 

「っ……貴様ら、あの忍び達の残りかっ!?!? 許せない……っ」

 

「……ママ?」

 

 憎しみのこもったその叫びに、腕に抱かれた子供が小さく呟く。 悟は焦り、それでも両手を挙げ無害なのをアピールする。

 

「事情は分かりませんが、私たちに敵意はありません!! 落ち着いてくださいっ!!」

 

「だまれっ!! アンタたちは何者よォ!?」

 

 警戒心を緩めない女性が狂ったように叫び、悟たちの正体を問う。 どうにか出来ないかと悟が困っているとふと隣にいるキョウマは微動だにしていないことに気がつく。

 

「ボーとしてないで仮面、アンタも手を挙げて彼女を落ち着かせないと……っ」

 

 そう言う悟の言葉に、キョウマは仮面の奥の瞳を鋭いモノに変えて一言発した。

 

 

 

「猿芝居は止せ」

 

 

 低く圧のこもったその一言。 キョウマがそう発した瞬間にその女性は手に抱いていた子どもを投げ捨て、一般人とは思えない跳躍を見せ悟めがけ隠していたクナイを突き刺そうとする。 しかし

 

「甘いな」

 

 悟を庇う様に前に出たキョウマはそのクナイを受け流すように手首で逸らし、弾いて女性の手から落とすとそのまま手を捻り上げ女性を拘束する。

 

「サトリ、子どもを保護してくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 呆気に取られつつも、悟は投げ捨てられうずくまっている子どもの元へと向かう。 その間にキョウマが拘束する手に力を籠めると、女性は煙を上げその姿を忍び装束へと変えた。

 

「ちっ……何故……!?」

 

 女性のその言葉にキョウマは

 

「てめぇらのやり口を良く知ってるもんでねぇ……悪いが容赦はしない」

 

 拘束した女性の首を彼女が持っていたクナイを用いて切りつけ、瞬時に絶命させた。

 

 子供を抱きかかえた悟はその光景に苦虫を嚙み潰したように表情を曇らせる。

 

 そんな悟の様子に気がつき、キョウマは女性の身体を解放し地面へと横たわらせると口を開く。

 

「こいつの装束は岩隠れのもんだが……これは偽装だ」

 

 そういってキョウマは女性から離れるように悟へと近づく。 すると女性の遺体は霧散するように消え去っていった。

 

「これって……っ!?」

 

 思い当たる節のある悟の呟きにキョウマが同意を示して話す。

 

「木ノ葉の根の忍びだろう……恐らく岩隠れに潜入中の1人だ。 その子供を村から攫い、母親の振りをして懐柔し……敵の油断をさそうって方法だ。 遭遇したのが俺たち以外だったら、相手を不意打ちで拘束でもして情報源でも得られただろうが……相手が悪かったな」

 

 そういってバツの悪そうにするキョウマに悟が彼が暗部として得てきた経験の厚さを感じ取り、何とも言えない沈黙が流れる。 しかし

 

「ママぁ……」

 

 悟の腕に抱かれた子供はむなしくも母を呼び続けていた。

 

「その子の本当の母親は既に……俺たちが埋葬した中にいたんだろうな……その子はどうする?」

 

 キョウマの気の毒そうな言葉はその子どもには届いてはおらず、先ほどまで自分を抱えていたはずの母を求めるような言葉を発していた。

 

 しかし

 

「この子……目が……」

 

 悟のその言葉に、キョウマも気がつく。 子どもは濁った瞳を見開き、斜視の状態で空を見ていた。 悟の腕に抱かれつつも、何も事態を把握できていないその子は何度も母を呼ぶ。

 

 悟が表情を曇らせると、キョウマは悟からその子供を奪い取りクナイを構える。

 

「キョウマさんっ!!??」

 

 いきなりの事に驚き叫ぶ悟に、キョウマは目線を子どもに向けたまま語りかける。

 

「……親を亡くし、眼も見えない。 身寄りもない以上この子に未来は……それどころか明日もない、ここで終わらせてやるのがせめてもの救いになるだろう」

 

「ッ……」

 

 反論が出来ない悟は悲痛な表情で地面に視線を落とす。 キョウマは悟の優しさに共感はしつつも、この事態は仕方が無いことだと割り切り一呼吸の後に

 

「痛みはないようにする……」

 

 クナイを振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……」

 

 しかしそのクナイは子どもに刺さることはなく、代わりにその刃を悟が握りしめ止めていた。

 

「……悟」

 

 キョウマがどういうつもりだと名を口にすると、悟は涙を流しつつも口を開いた……震えた声のまま。

 

「駄目です……例えそれが最善だったとしても……俺には見過ごせません……っ!!」

 

「だが、どうする? わざわざこの子のために里親でも探すか……? 目が見えない、衰弱しているっこんな子供を好んで引き取る者を探すのは……時間の無駄だっ!!」

 

 口調が強くなったキョウマのその言葉に、悟は

 

「……それでも、貴方にこんなことはさせません……だって

 

 

 

 

手が震えてますよ……キョウマさん」

 

「ッ……!?」

 

 悟の刺激に驚いたようにクナイから手を離したキョウマは驚き自身の手を見つめ……震えを確認する。

 

「……ッ」

 

「最善手だからといって……それをやる必要はないんです。 時には甘えた選択肢だって取ったっていいじゃないですか……」

 

「だが……どうすることが出来る? 少なくとも今は根無し草の俺たちが子どもの面倒を見続けることは出来ないぞ……っ!」

 

 現実的な観点で見れば、キョウマが正しいのは悟も理解している。 しかし悟はキョウマにも木ノ葉丸という息子がいる以上、子どもを殺すことに何の抵抗もないとは思ってもいない。 ただ行動を決行することが出来るだけで、心は傷ついてしまう。

 

 悟は手を放しクナイを地面に落とすと、適当な野草を千切り口に当てる。

 

「──♪」

 

「ッ……おま──ッ」

 

 『魔幻・草笛の音』その術によりキョウマとその腕に抱かれた子供は意識を落とす。 そんな2人を抱えた悟は無言で先ほどまでいた村の跡地へと引き返すのであった。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 キョウマが目を覚ますと、何やら会話をする声が聞こえる。

 

「サ~ト~リ、私の名前はサトリっ!」

 

「サ……ト……リ?」

 

「そうそう、良く言えましたっ!!」

 

 先ほどの子ども相手に名前を教え込んでいる悟の様子にキョウマは納得のいかない表情を浮かべながら声をかける。

 

「で……どうするつもりだ?」

 

 幻術を不意にかけられたことで機嫌の悪くなっているキョウマに悟は子どもから距離を取り小声で話しかける。

 

「この子、どうやら先ほどまでのやり取りは記憶していないみたいです。 投げ捨てられた衝撃で意識と記憶がおぼろげになってたようで……なのでこの子には私たちはお母さんに頼まれて預かることになった人間だと幻術で刷り込んでおきました」

 

「……連れて行くのか?」

 

「はい……まあ、色々考えが無いわけではないですので……責任を持って連れて行きます」

 

 悟の決意を固めた表情に、キョウマは頭をかきつつ

 

「……了解した。 お前の意見に従うって言ったからな……たくっ……」

 

 そう言って悟の意見に同意した。 不満があるように見えるが、しかし悟は彼が若干ながら安心している様子にも気がつきつつも視線をその子どもへと向けた。

 

「さて、君の名前を聞かせてくれるかな~?」

 

 あやすかのような声に子どもは気がつきつつも、首を傾げる。

 

「……?」

 

「あれ……?」

 

「まさかだが……名前を覚えていないのか?」

 

 キョウマのその言葉に悟はハッとし、子どももゆっくりと頷く。

 

「「……」」

 

 早速気まずい雰囲気になった悟とキョウマだが

 

「じゃあ、私たちが名前をつけてあげようっ!!」

 

 悟がそう切り出すと、子どもは僅かながらに顔を綻ばせる。

 

「それじゃあ──」

 

「待てっ!! お前のセンスは当てにならないっ!! 俺が決めるっ!!」

 

 悟の言葉を遮ったキョウマ。 そんなキョウマの発言に異議を出そうとガヤガヤ文句を言う悟だが、キョウマはそんな悟を無視して考え腕を組む。

 

 そして

 

「よし決めた、お前は俺たちの……いやサトリには任せられないから俺の子どもとしてこれから育てる……つまり俺の子どもだから

 

 

 

 

 

 

()()()()だっ!!!」

 

 

 自信満々にそう宣言したキョウマ。 口をポカーンと開けた悟は

 

「………………良いっ!!」

 

 そう呟いた。

 

「だろう?! っお前とは違って俺の子どもだという意味をちゃんと込めて考えたんだ、良いに決まっているっ!!」

 

 ワヤワヤ盛り上がる悟とキョウマ。 そんな2人の雰囲気にその子供キョウコは笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りを悟の精神世界から見ていた守鶴は内心

 

「ケッ……似た者同士だな……」

 

 と思っていたが悟に余計なことを言うと後が怖いため、黙っていることにしたのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

  

 そしてキョウコを連れて、悟たちは移動を再開させた。

 

 大蛇丸の北アジトが近い事とキョウコの負担も考え雲の上の移動を止め、地道に歩くことを選択した2人は道中キョウコとの会話を続けていた。

 

 しかしそれで分かったことは……何もなかった。

 

 両親や村での生活のこと、そう言った記憶はキョウコからは抜け落ちており困った表情を浮かべるキョウマだが悟は明るい声でキョウコに語りかける。

 

「なら新しいことを覚えればいいさ、私の名前は~?」

 

「サトリっ!」

 

「そうそうっキョウコは物覚えがいいね! キョウコをおんぶしているのはキョウマって名前のおじさんだよ~?」

 

「っ誰がおじ──っ! いや、おじさんか……それでもいいが俺の名前を呼ばれるのは困るな……」

 

「こまるの?」

 

「っ……仕方ない、俺のことは『かめん』と呼んでくれ、わかるか?」

 

「キョウマはかめん……?」

 

「そうだ、そうだっ!! 木ノ葉丸より覚えがイイんじゃないかっ!?」

 

「……オイ、それ木ノ葉丸が聞いたら泣くよ親父殿」

 

 なんやかんやで3人は和気あいあいと和やかに雰囲気で道中を行った。 悟もキョウマも……この世界が辛いものだと知っているからこそ、優しい選択を取ったことに心が癒されていたのだ。

 

 そして……

 

 岩肌が山のように突起している地形へと入りこむと悟が懐かしい光景を見るような眼で感嘆の声をもらす。

 

「漫画で見たのととても似た地形だ……」

 

「何だって?」

 

「いや何でもないよ……それより仮面、そろそろアジトが近いと思うからここらへんで待機しててくれない?」

 

 悟の言葉にキョウマは心配そうに声をかける。

 

「良いのか? お前1人で何て……」

 

「逆にキョウコをあそこには連れて行けないから……仮面に見ていて欲しいのよ。 別に戦闘面では、私一人いればいいつもりだし何よりも……

 

 

 

 

此処に来たのは私の修行の為でもあるんだから」

 

 そう言って悟は軽重岩の術でその場から飛び去ってしまった。

 

 残されたキョウマとキョウコ。 仕方ないと呟いたキョウマは開封の術で巻物から野宿セットを取り出すと取りあえずキョウコと昼飯を済ませることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、大蛇丸の北アジトの最上階の牢の隅にて1人の男がブツブツと呟いていた。

 

「そうだ……次に扉を開けた奴が男なら……いや女……女なら……ぶっ殺す……キヒヒッ」

 

 



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27:問4・空駆ける忍びが出会った者たちとは?

連続投稿はここまで。

次回更新は遅れる予定です。


 悟は大蛇丸の北アジト周辺に張られた結界忍術の存在に気がつくも、それがあまり警戒網としての意味を成していないことに気がつき結界内へと踏み込む。

 

 大胆な行動をしつつも、装着している鉄輪の効果と類まれなるセンスによる隠遁術が合わさりよほどの実力者でもない限り悟の存在を知覚することが難しい状態のため悟は容易にアジトとなっている岩山の中に建てられた高層の建物の前まで歩みを進めることが出来た。

 

 岩肌に身を潜めアジトの様子を伺う悟は奇妙なことに気がつく。

 

 建物前方の開けた場所に様々な物資がアジトから運び出されて積まれている光景を目にしたのだ。

 

(何でわざわざこんなことを……?)

 

 疑問に思いながらも悟はそれぞれに積まれた物資の隙間に隠れつつ低い姿勢でアジトへと近づく。

 

(やったことないけど、ステルスアクションのゲームってこんな感じなのかな……まあ私は感知能力ずば抜けてるから所謂チートで並の敵の動きなら筒抜けのヌルゲーになってるんだけど)

 

 悟はまばらに感じる人の気配に気を付けながら外に設置されている仮設テントの傍まで来るとその中には気配が1つしかないことを確認して中を確認する。

 

 テントの裏側から地べたすれすれで覗き込むと中では女性が1人着替えを行っている最中だった。

 

(ッ……ああ、私って最低だ……)

 

 自己嫌悪と誰に届くこともない謝罪を念入りにした悟は意を決したようにテントの布地を尾異夢・叉辺流で素早く切りつけ中へと手際よく潜入し、女性を背後から拘束する。

 

「っむぐ──!?!?」

 

 叫ぼうとする下着姿の女性に悟は己の手を口に当てることで黙らせ耳元で囁く。

 

「手荒なことはしないので色々と情報を教えてもらいます、静かにしてください」

 

 と言ってもそんな口だけの保証は何の意味もないため、女性は問答無用で暴れようとする。

 

 その女性は戦闘員ではないのかその力は非力なもので、それがより一層悟の罪悪感を持たさせていた。

 

「はぁ……手段は選んでいられないか……ッ」

 

 小さくため息をついた悟はその女性を無理やり振り向かせると、写輪眼を見せることで幻術に墜としこみ彼女の持っている情報を吐かせる。

 

 曰く、うちはサスケという大蛇丸の器となる存在が彼の手元に来たことで呪印研究の最前線に立っていた北アジトはほぼ完全な放置状態となり、ここで働いていた人材は日々暴れ檻を破ろうとする実験体たちに恐怖しながら過ごしていると言う。

 

 大蛇丸からの命令が届かなくなっているだけで、実験体たちを放置して餓死させるわけにも行かないため万が一檻が破られ反乱がおきた時に備え物資を建物内から持ち出していたそうであった。

 

「そりゃ呪印を使いこなしているサスケの身体が手に入るんだから、ここも用済みなんだろうな……それを想定してきたから私にとっては良い事なんだけど、不憫だなぁ」

 

 1人そう呟いた悟は女性を昏倒させ横にすると手足を縄で拘束すると手近にあった布をかぶせてその体を隠し、変化の術でその女性に化ける。

 

(……ここの研究員か……白衣を借りていこう)

 

 着替えていた最中の女性の上着である白衣を失敬すると、悟は堂々とテントの出入り口から外に出て散策に出る。

 

 途中すれ違う人間もやつれた様子が見られ、軽く笑顔で挨拶する悟に対して生返事しかする気力が残っていない様子の者ばかりであった。

 

(……まあ、研究の必要が無い実験場に必要以上に人員は残さないでしょうから……ここの人たちの苦労も共感できるかもね)

 

 悟は感知能力とここの職員である変化した女性の立場を利用し、外に出ていた人員を全て各個撃破で気絶させていき一か所のテントへと拘束して纏める。

 

 あまりのあっけなさに手をパンパンと払った悟は

 

(写輪眼と感知能力っていうチートがあるからだけど、容易に制圧できてしまった……)

 

 気絶させ並べた職員らに通じるはずもない謝罪の会釈をしてテントから離れ、変化を解く。

 

 そしてついに建物の内部へと踏み込むのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「悟さん……」

 

 ここまでの話を聞きハナビは複雑な気持ちを抱く。

 

「下着姿の女性を拘束するなんて何て破廉恥なことを……っ!!」

 

「そこかい? 本当にそこなのかい? 君が憤るところは……」

 

 ハナビの言葉に突っ込みを入れる黙だが、ハナビは

 

「ただ話の通りでは、罪悪感は感じているんですよね? 私も昔は不審者と罵ってしまってましたが変に欲情していなくて一安心ですね」

 

 1人で勝手に安心して胸を撫で下ろしていた。

 

 そんなハナビに対して黙はそう言えばという風に思い出したことを口にする。

 

「……変化した女性は雷の好きな、黒髪ロングの所謂出るとこ出ている女性だったみたいだったから本当の彼の内心は──」

 

「そんなことよりも、何故悟さんはそこを修行場所に選んだんですか?」

 

「……本当は──」

 

「そんなことよりも、何故悟さんはそこを修行場所に選んだんですか?」

 

「ほ──」

 

「そ・ん・な・ことよりも、何故悟さんはそこを修行場所に選んだんですか?」

 

「…………悪かったよ、ちょっとしたおふざけさ。 許してくれ」

 

 一連のやり取りで迫真の表情になっているハナビに黙は参ったと両手を挙げてハナビからの質問に大人しく答える。

 

「当時この身体はまだ、千手柱間の力を使いこなせていなかったんだ。 だからこそ彼は今後の為にうちはだけでなく千手の力も扱えるように成ろうと自然エネルギーを利用している呪印の源と言える人物と戦おうと考えたんだ。 それがそのアジトに居た天秤の重吾と呼ばれた男だ」

 

「千手の力……」

 

「鉄輪によってチャクラを抑えているため、外部から取り込める自然エネルギーに集中するのにも適した状況だったしね。 ただそんな力を抑制した状態で、アレと戦ったのは無茶極まりないとしか言えないんだけど……」

 

 呆れたようにため息をついて黙は、話の続きを話し始めた。

 

 

~~~~~~

 

 

「ここから出せーーーっ!!!」

 

「てめぇ何もんだァ!!??」

 

「女のガキか? 俺が抱いてやってもいいぜェ!! ひゃははははははっ!!!」

 

 悟が建物内に入ると、実験体たちが彼を見つけ思い思いに叫び倒す。

 

(うるさ……)

 

 内心めんどくささを感じつつも悟は仕方ないっといった様子で1つの檻に近づいて実験体たちに声をかけた。

 

「あーどうも、サトリって言うもんなんだけど天秤の重吾が何処にいるか知ってるっ?」

 

 その言葉に檻の中の実験体の1人が中指を立てて悟に唾を吐きつける。

 

「ガキがぁ観光目当てで来てんじゃねぇぞっ……殺されてぇのかっ!!!」

 

 その様子を見ていた他の実験体たちがゲラゲラと笑い、悟はそのまま硬直してその場に佇む。

 

 ビビったのかとか、調子に乗んなとか……小汚い罵倒に晒された悟は小さく

 

「……ふーっ」

 

 とため息をつき

 

──ガンっ!!!!

 

 牢を形成していた柵を蹴り飛ばして外し、中の実験体たちをその柵ごと壁際へと押し付けた。

 

 一瞬かつ余りの音の大きさに建物内に静けさが訪れると悟は土遁でその柵を更に強烈に押し付け実験体たちを押しつぶそうとする。

 

「重吾はどこだ?」

 

 感情の起伏も感じられない二度目の悟の言葉にその光景を見ていた実験体たちが息を呑む。

 

 鉄輪による制限が在れど、既に悟はここに居る実験体たちを余裕でなぎ倒せる実力は持っていたのだ。

 

 ミシミシと壁に何かがめり込む音を響かせ、悟が更に力を込めようとしたその瞬間

 

 

 

「重吾なら最上階だっ!!」

 

 

 

 悟の後方の檻から重吾の場所を伝えれられたことで、土遁は解除され潰されそうになっていた者たちは地面へと這いつくばって安堵する。

 

「……」

 

 無言で圧を振りまく悟は、柵を土遁で無理やり固定し直すと声を発した主が居る檻に向け歩き近づく。

 

「誰だ?」

 

 簡潔なその言葉は、さっきの発言の主に向けられていることに実験体たちが気づきそくささと悟の正面から掃けると1人のボロボロな小柄の男性が姿を現す。

 

「……お前か?」

 

「……ッそうです」

 

 確認を取る悟の言葉にその男性が頷くと

 

「ありがと」

 

 悟は笑顔でそう述べるとその場を後にした。

 

 静かになった実験体たちはその後、何が起きるのか全くの予想が出来ずにただ嵐のように過ぎ去った謎の女性と思われる存在の行く末を探ろうと聞き耳を立て続けたのであった。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

「女だ……女なら殺す……コロスっ!!」

 

 とある一室でブツブツそう呟く男性。 オレンジの髪をした大柄なその男性はふと何かに気がつき、その部屋唯一の扉を注視する。

 

 すると誰かが階段を昇る音が聞こえ、表情を飛び切りの笑顔で染めた。

 

「来たな……来たぞ……来た……っ!! 女だっ……女ァ……っ!!!」

 

 興奮気味のその男は我慢の出来ない様子で口から涎をこぼす。

 

 

 

 次の瞬間、扉の隙間に一瞬緑色の閃光が走ると……扉に施されていた施錠が全て切られてその機能を失う。

 

 そのままその重く大きな扉がゆっくりと開き部屋の中に居た重吾は立ち上がり、その全身に呪印を巡らせ状態2へと至る。

 

 そして

 

 

 

「やっぱり男だ……男ならミンチにして──」

 

「うっわ、思ったより見た目怖っ!!」

 

 

 黙雷悟と重吾はお互いの顔を見合わせ……

 

 

 

 

 

 数秒の沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

「……どうかしたの?」

 

「……ドッチだ……っ!?!?」

 

「何が? ……ていいやその状態なら戦う気はあるんでしょっ!!」

 

 混乱した様子の重吾に、悟は笑顔を浮かべつつ問答無用で飛びつき術を発動させる。

 

「土遁・超加重岩の術っ!!!」

 

「っヅ!?」

 

 術の効果で体重が何倍にも増加した2人の重さに床が耐えきれずに罅が入り、悟が重吾に組み付きながら床目掛けて尾異夢・叉辺流を構える。

 

「発射っ!!」

 

 風遁チャクラの刀身が伸びることで床をバターの様に裂き、二人は落下を始める。

 

 最上階から、途轍もない重量となった2人は最下層の闘技場まで真っ逆さまに落ちていくのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

──ズシンッ

 

 建物に響く謎の瓦礫音が最後の一際大きな衝撃と共に鳴りやむと、地下の闘技場では天井から落ちて来ていた2つの影が正面を向き合って構えていた。

 

「さて……修行だから写輪眼は当然、術も使わないし性質変化も忍具もなしだ……鉄輪付きで八門も本領発揮をしない……頼れるのは自然エネルギーだけ」

 

 煙を突き抜け、自身を敵とみなしたロケットのような重吾の拳を間一髪で避けた悟は剛拳の構えを取る。

 

「……カマ野郎が、二倍ぶっ殺してやるっ!!!!」

 

「二倍か、良いねお得なのは私も嫌いじゃないさ……さあ、仙術・自然エネルギーを扱う呪印の力とやらを見せて貰おうかっ!!!」

 

 

 

 その後2日間の間、その北アジトに響く地鳴りは止むことが無かった。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 そして

 

 

「地鳴りが……止んだ?」

 

 アジト内の実験体たちがその振動と音が止んだことに気がつくと同時に

 

 さらなる異変を感じ取る。

 

「何だっ!? 木がっ!!??」

 

 誰かのその叫びを皮切りに、地下から伸び出た太い木の枝はその施設のありとあらゆる外との繋がりである窓やエントランスを塞ぎ、そして

 

 

 

「木遁・木龍の術」

 

 

 木の根の一部が龍の形を成して、天井へと着き抜け高層の建物の一階から最上階までを繋ぎ空を覗かせた。

 

 あまりの地殻変動のような出来事に、実験体たちが呆気に取られていると地下から伸びた木の枝を伝って人影が姿を現す。

 

 その人影は肩に乗せていた自身の倍ぐらい大きな重吾を床に置くと、首をコキコキ鳴らしながらその姿を晒す。

 

「「「……っ!?!?!?」」」

 

 実験体たちがその姿を見て慄いた。

 

 重吾との戦闘でボロボロになった外套の代わりに拝借していた白衣に身を包み、その顔面には濃緑色の隈取りが浮かび上がらせ口についていた血を拭う……黙雷悟がいた。

 

 

「さてと……」

 

 

 そう呟いた悟は周囲を見回す。 実験体たちが悟に視線を向ける中、悟もまた観察するように実験体たちの顔を見て何かを確かめる。

 

 すると

 

「重吾の場所教えてくれた奴、居る?」

 

 そう大きな声で問う悟に、2日前にその情報を与えた小柄の男性は同じ檻の中から返事をした。

 

「い、います……これは……貴方の仕業なんですか!?」

 

 その男性の問いに悟は興味なさげに

 

「この2日間、ちゃんと職員の人たちから食事は提供されてた?」

 

 質問に答える気を見せずに質問で返す。

 

 そのあまりの存在感にその男性は恐れ慄き

 

「さ、されて……ました……ッ」

 

 聞かれたことを大人しく口に出した。 その返事に悟は

 

「写輪眼でのルーチン管理は出来てたか……どれぐらいかかるか分からなかったけど、試しておいて良かったかな」

 

 そう呟いたとたんに柏手の構えをする。

 

 途端に巨大な木の枝、木の根はうねり動き建物内の牢の檻を次々と破壊していく。

 

「!?!?」

 

 何事かと実験体たちが驚くと悟は声を張り上げ建物内に響かせる。

 

「私はサトリ、お前達に選択肢をやる。 私はここに……このアジトに拠点として人が住める環境を整える気になった。 それでここに居る奴ら全員を助けてやってもいいと考えたんだけど……中には人殺しも厭わないクズやら悪党も居ることだろうし、選別することにした」

 

 そうして悟は重吾を指さし叫ぶ。

 

「戦いが出来ないのに呪印を刻まれた奴はこの後起こす重吾に呪印を消してもらう。 それで残った戦える奴らは全員で……私一人を殺しに来いっ!!! 全力で良いよっ!! 私を殺せばアンタらはあの天井から逃げ出して晴れて自由だ。 だけど、私が全員を屈服させた場合は……」

 

 

 ……溜を作った悟はニコニコしながら口を開いた。

 

 

「要る奴と要らない奴を選別して、要らない奴……気に入らない奴は殺す」

 

 

「「「「!!??」」」」

 

 ざわつき始めた実験体たちに悟は大きな柏手1つで黙らせ

 

 

「さて重吾を起こそうか?」

 

 

 淡々と作業を開始し始めた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 重吾を完全に叩きのめし、木をも操る悟の存在に実験体たちもそれぞれがその存在としての異常さを感じていた。

 

 そして

 

「これで……最後か?」

 

 そう呟いた重吾の手から離れた子どもが怯えた様子で、呪印を吸収された集団へと逃げ込む。

 

 そんな重吾に対して悟は

 

「協力ありがとう、アンタも参加して横やり入れても良いけどどうする?」

 

 にこやかにそう問う。 しかし重吾は

 

「……俺は戦いたくない……」

 

 そう言うと静かに落ちているボロ布で身体を覆い、戦わない組の中へと向かい壁の隅へと座る。

 

 

 重吾の様子を見届けた悟はわざとらしく手を広げ叫ぶ。

 

 

「よしっ!! それじゃあこれだけ残ったアンタたちが私の相手だ。 ルールは簡単っ!! 私は体術しか使わないから、アンタらは呪印でも何でも使って私を殺すっ!! OK?」

 

 

 

 

 

「OKェだぜぇっ!!!」

 

 

 悟の言葉に重ねるように、全身浅黒く変色し二本の角を生やした巨漢が返事を叫びながら悟の頭上から拳を振り下ろした。

 

 衝撃に床がひび割れ、壁までもそれが伝う。

 

 その巨漢の一撃に、実験体の1人が口を開く。

 

「牛鬼・ゼンゾウ……暴れ屋のアイツの状態2の攻撃を正面から受けて助かる奴は──」

 

 

 

 

「居ない? そういう説明って所謂フラグって言うか前振りって言うよね♪」

 

 瞬間、ゼンゾウの巨躯に衝撃が走り一瞬浮き上がると悟の回し蹴りがそのゼンゾウを牢の1つであった横穴へと叩き込む。

 

 そのまま白衣についた埃を払う仕草をした悟は呆気に取られて黙り込んだ実験体たちの意識を戻すように拍手をして注目を集める。

 

「ほら始まってるよっ!! 死ぬ気で来なっ!!!!」

 

 そう叫んだ悟の言葉を皮切りに、アジトの中は凄まじい戦場へと変わっていったのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 そして半日も過ぎない内に

 

「ハイ最後かな♪」

 

 悟の掌底で吹き飛んだ人影はしかし、床を剥がすほどの踏ん張りを見せて姿勢を持ち直す。

 

「おお、やるねぇ……っ!」

 

 想定外だと余裕そうに拍手する悟にその攻撃を受けた人物、赤い髪にイルカのような尻尾が生えた呪印の形態変化を見せている女性は口から血を垂らしながら感情を荒立たせて叫ぶ。

 

「何だっ!! 何なんだてめぇはっ!!?? どうしてアタシの攻撃が……通用しねぇっ!!」

 

「単調だからかな~♪」

 

「っ死ねぇっ!!!!!」

 

 その女性の渾身の尾による一撃は悟の掌で払いのけるような動きでいなされ、何もない地面を叩きつける。

 

「っ……!!」

 

「結構もった方だけど、残念っこれでお終いっ!」

 

 隙の出来たそのわき腹に回し蹴りを繰り出した悟の一撃にその女性は吐しゃ物をまき散らしながら、壁に向かって吹き飛んでいった。

 

「ふう……良い感じに仙人モードの動きにもなれてきたかな……♪」

 

 そう呟いた悟は辺りを見回し、戦意が残っている者がいないことを確認すると再度手を叩いて音を鳴らして叫ぶ。

 

「どうやら、勝負は私の勝ちみたいなので~選別を始めようかな~?」

 

 そう意気揚々と叫んだ悟は、手始めとばかりに最後に吹き飛ばした女性に向かって歩みを進める。

 

 そして意識を失っているその女性の赤い髪を引っ張り、目立つところに向け投げ飛ばすと

 

「こういう反抗的な奴は、後で輪を乱すから殺すかな~?」

 

 そう、まるで玩具を選ぶ子供のような様子で次々と意識を無くした者や、辛うじて意識を保っている者らをフロアの中央に集める。

 

「いやだ……やめぇ……やめてくれぇ…………っ!」

 

「ほうら♪」

 

 懇願する者もお構いなく投げ飛ばした悟は、わざとらしく驚いた振りをして声を大にする。

 

「あれれ~~~!!?? 戦いを挑んできた奴全員真ん中に集めちゃった~~~♪ ……それじゃあ」

 

 そういって笑顔の悟は

 

 

 

 

「お前らもそこに行け」

 

 

 

 

 待機していた呪印を抜かれた者たちにも()()に集まるように顎だけで指示を出す。

 

 自分たちは助かると思っていたそのもの達も、一瞬にして恐怖が走り泣きわめくもの達で溢れた。

 

 しかし

 

「早く」

 

 淡々とそう告げた悟の迫力に押され、その者たちもフロアの中央へと集まる。 その中に重吾も混ざっていたが

 

 諦めたかのような、望んでいるかのような表情を浮かべるのみで黙っていた。

 

 

 全員を一か所に集めた悟が印を結ぶと、その集団を囲う檻の様に辺りに蔓延っていた木の枝や根が動く。

 

 そして形成された鳥かごのような木の檻の中に向け、悟が笑顔を振りまく。

 

「そうだ、良い事思いついたっ!! 全員皆殺しでも良いんだけど……チャンスをあげようっ!!」

 

 悟の実力、その格の違いに暴力的で粗暴だと言われていたゼンゾウすらも虚ろな表情を浮かべ、悟を刺激しないよう小さくすすり泣く音だけが響いていたその空間に緊張が走る。

 

「この中から1人っ!! 1人だけ私の前まで来て、立ち向かってこい、勝負をしよう!  そしてその勝負の勝ち負けにかかわらず全員解放してあげるっ!!」

 

「!!!」

 

 その悟の言葉に一瞬集団が沸き上がるも、即座に放たれた悟の圧で全員が口を閉じる。

 

「だけど条件がある。 その1人は私の本気を持って殺す、そして今からアンタたちには目を開けることと喋ることを禁じる」

 

 そう述べた悟はパンッと手を叩き「ハイ、眼を閉じて喋らない」と言う。 そして即座に従う実験体たち。

 

「ハイ、それじゃあ後五分後に誰かその1()()になる奴が名乗り出なかったら皆殺しね♪」

 

 余りにも短いタイムリミットに集団に緊張が走ると、悟は女声のまま声を低くして

 

「私は本気だ。 次に私に立ち向かってくるものは殺す……その代わりに他の奴らは生かしてやろう……」

 

 そう述べて、適度な瓦礫に腰かけそして

 

「はいそれじゃあ、よーいドンっ!!」

 

 声の調子を明るくして時間を計り始めた

 

 

 

 瞬間

 

 

「俺が相手だっ!!!!!」

 

 一秒も満たない内に声が上がる。

 

「へぇー……」

 

 その声に悟は、興味ありげに立ち上がりその声の主に目を向ける。

 

「ああ、お前か……最初に私に重吾の場所を教えてくれて……さっきまでの戦いに呪印を消していなかったのにも関わらず参加しなかった、お前ね」

 

 悟は木の檻に近づいてその声をあげた男性に質問をする。

 

「何? アンタ見た感じ戦闘出来なさそうなのに名乗り出るなんて……それに私が手を出していないのに既に傷だらけ、ここの連中にやられてたんでしょそれ? そんな奴らの為に、命を賭ける……いや投げ捨てるって言うの?」

 

 試すかのような悟の問い賭けにその男は瞳を開けて、震える声を制そうとしながらも視線は悟の眼を見ていた。

 

「お、俺は……つ、強くはないし落ちこぼれだ……だけど、アンタみたいな奴に皆を殺させるわけにはいかないっ!!」

 

「へぇ~~? …………じゃあ、こうしよう。 お前が気に入らない奴を選べ、お前にその傷をつけてきた連中を差し出したらお前を助け──」

 

 

 

「俺は誰も差し出さないっ!!!!!」

 

「っ!?」

 

 その男の叫びに、悟は驚く。

 

「確かに俺が弱くて、小さいからって理由で暇つぶしに俺をのけ者にしたり無意味に痛めつけてきた奴らはここに居る……ッ! だけどそんな奴らだってこんな理不尽に殺されていいはずがないんだ……俺を嬲ったのだって一時の気の迷いかも知れないっ!!」

 

「そんな馬鹿なこと……」

 

「だとしても……俺はこんな理不尽を見過ごせない……っ!」

 

 泣きながらそう叫ぶその男に悟は面白いものを見る目になる。 すると

 

 

「待て……()()()っ……っ!」

 

 

 その男の名を呼ぶ女性の声が響く。

 

「発言は許可していないんだけど──」

 

「そいつを痛めつけてたのは私だっ!! 私を殺せっ!!!」

 

 その女性は先ほど最後まで悟に抗って見せていた赤髪の女性であった。

 

()()()さん……っ!? 違うこの人じゃ──」

 

「少し黙ってて」

 

 アカネと呼ばれた女性の発言を遮ろうとしたそのアガリと言う男性は、悟の操る細い木に口を塞がれてしまう。

 

 そしてアカネに対して悟は目線を向けると顎で指し示し発言を促す。

 

「……っそこのアガリっていう名前のナヨナヨした男を痛めつけてたのはアタシだっ!! このストレスのたまる実験施設で、少しでも娯楽を見出そうとして弱い奴を嬲っていたっ!!」

 

「……まあ、アンタが重吾の次に強かったからねぇ……ここで退屈凌ぎに王様気分にでもなってたんだ」

 

「っそうだ! 私は重吾よりも……強いつもりでいた。 だからこそ、ここの奴らの上に立ち大蛇丸にも認められて外に出られると思ってたんだ……だけど」

 

 アカネは悔しそうに瞳に涙を溜め震える。

 

「……うちはサスケとか言う奴が、その可能性を消した。 結局……音の五人衆にも加われず……アタシの強さは……誰にも認められなかった。 だからこそ弱いくせにヘラヘラとしているアガリが気に入らなかったんだ……っ!!」

 

 無言で話を聞く悟に、アカネはそのまま思いの内を語る。

 

「アタシは強い……そのはずなのに……いきなり来たお前に手も足も出ず……さっきまで情けなく他の誰かが犠牲になればいいと、震えて目を閉じてたっ!! だけど、アガリだけには……っ!! アタシが弱いと軽んじてきた奴に助けられるのだけは、アタシの魂が許さねぇ!!!」

 

 そう叫んだアカネに悟は

 

「そう……魂ねぇ……」

 

 そう呟き、アガリに目を向けその顔を覆っていた木の拘束を取る。

 

「さて、アガリとやら。 お前はこのアカネとか言う奴を犠牲に──」

 

「しませんっ!!」

 

「そう……返答早」

 

 アガリとアカネの意志を確認した悟は

 

 

 

 

「ごーかっく♡」

 

 

 

 

 そうキャピッとした声を出してピースをして見せた。

 

「な!?」

 

 驚きを口にしたアカネに悟は手で拍手を鳴らしつつ語り始める。

 

「いや~~場合によっては本当に殺すつもりだったけど、最初に言った通りここを人を住める環境にしたいんだよねぇ? だからこそアンタらを試してたんだけど……良いんじゃない? 本当ーに最低限だけど、嫌いじゃないよ」

 

 そう言って悟の顔に浮かんでいた隈取りは消え、辺りに蔓延っていた木も縮小していき木の檻も消え去る。

 

「さて、やることは多いけど……まずルールを決めようっ!!」

 

 そう言って悟は語り続けた。

 

「1つ!! 道徳に反する行いは駄目絶対!! 私を怒らせたら即死刑っ!!

 

 2つ!! これから皆は同じ場所に住まう家族だ、なので呪印を使っての戦闘は禁止っ!!

 

 3つ!! 働けぇっ!! ……取りあえずは以上っ!!」

 

 そう言って悟は天井から見せる月を指さし宣言する。

 

「私はサトリっ!! 以後よろしくっ!!!!」

 

 呆気に取られてる元実験体たちに対して高笑いをする悟の声が建物に木霊した。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

「とまあ、こんな感じで雷は集落のはじめを形作って──」

 

「いくら何でもやりすぎじゃないっ!? 悟さんが本当にそんなことを!?」

 

「まあ、彼なりに人命を無駄にしたくないからこそ自分の圧倒的な力を見せつけて最初の内は荒くれ者たちを制御していたみたいだよ。 重吾との戦いで覚醒させた千手の力による木遁で適当にすみやすい家屋を提供し、近くの集落に労働力として向かわせ対価を稼ぐ。 施設の整備や、畑の作成など労働を提供することで次第に元実験体たちも大人しくなり、さらに呪印を手放す選択をする者も増えた。 落ち着いた環境と認め合える仲間の存在により彼らは実験体から人に戻り……いっぱしの生活を手にしたという訳さ」

 

 めでたしめでたしと手を叩く黙はハナビの呆気に取られている表情に笑みを浮かべると

 

「そしてこれからはその集落の発展に合わせて雷は各地を巡ることとなった」

 

「……各地をっ?」

 

「そう……と言うのも最終的に尾獣と呼ばれる存在の力が今後必要になると考えた雷は各地を巡り、一尾・守鶴の様にその分体を取り込もうとしたのさ。 まあでも人柱力を見つけること自体大変だったし、暁の目に留まるための宣伝活動もしていたから、色々と大変だった……いや僕は少ししか働いてないからこういうのはおこがましいかな」

 

 そう言って黙は精神世界の草原の木の下で今までイメージ映像を見せていた板のような物を消し去ると指を鳴らす。

 

 すると

 

 小さな獣たちがハナビを取り囲むように姿を現し名を名乗る。

 

「私は二尾・又旅(またたび)

 

「僕は三尾・磯撫(いそぶ)……」

 

「俺ァ四尾……孫悟空で良い」

 

「私は五尾・穆王(こくおう)

 

「俺やよォ六尾の犀犬(さいけん)ってんだァ」

 

「俺は重明(ちょうめい)……七尾だ」

 

 急に現れたぬいぐるみサイズの尾獣たちの存在にハナビは驚き、そして

 

「……可愛いっ!!」

 

 目を輝かせる。

 

「……君も雷と同じ反応すると思ってたよ」

 

 と黙がため息をつくと

 

「いや、犀犬だけはそうでもなかったっけな……彼もその時は僕を叩き起こして人柱力のウタカタと話をさせられたっけ……」

 

 そう思い出すように呟く。 そんな黙の言葉に犀犬は

 

「俺……尾獣としてでなくって、見た目で怖がられるのは慣れてなくってなぁ……///」

 

 何故か妙に照れた様子で頭を前足のような部位で掻いて見せていた。

 

「そこで照れる君には僕も少しは愛らしさを感じるよ」

 

 黙の言葉に犀犬が照れたように赤くなって顔をフリフリと振るう。

 

 そんな光景に呆けてたハナビだがふと冷静になった彼女は、又旅を膝に乗せながらも黙に質問をする。

 

「しかし、これほどまでの尾獣さんたちを集めるなんて相当大変だったんじゃ……」

 

 その質問に黙は

 

「(尾獣さん?)……そうでもなかったよ。 人柱力の場所の特定だけは大変だったけど、この身体は()()()()の力も秘めている様だしね。 あとは人柱力たちに暁に警戒をするよう忠告する裏で尾獣たちに分体だけ来てもらうよう説得しただけさ」

 

 さらっと返答する。

 

「り、六道仙人っ……!? 真面目な話ですか!!??」

 

 驚くハナビだが孫悟空がため息をつきながら答える。

 

「マジな話だぜ嬢ちゃん。 こいつの身体からは六道仙人の爺さんの気配を感じる。 じゃなきゃさっきの話でも守鶴の野郎が付いてくることもなかっただろうよ」

 

 そんな孫悟空の言葉に磯撫が

 

「僕は独りだったから本体ごと来ても良かったんだけど……断られちゃった……」

 

 と拗ねた様子を見せた。

 

 黙は

 

「幾ら何でも君たちの本体を受け入れる容量は無いはずだからね……」

 

 と勘弁してほしそうにそう言う。

 

「賑やかなものですね」

 

 ハナビはワイワイと賑わいを見せている光景に微笑むと黙は

 

「普段はもう少し奥の精神世界で過ごしてもらっているから雷との会話とかは彼が意識して呼び出さないと出来ないんだけどね……けど普段僕のいるところに住人が増えて僕は落ち着いて眠れないのが悩みかな」

 

 と羽ばたいたり、脚を鳴らす重明・穆王に目を向けると二匹ともバツが悪そうに眼を逸らした。

 

「さて……話が逸れてたけどここからは雷が暁に入るころ……ヒザシさんの眼を手に入れるところから話をしよう。 そしてその後に、君にどうしても協力して欲しいことを頼むつもりだ」

 

「協力……?」

 

 不敵な笑みを浮かべた黙は(2章第一話)からの悟の体験をハナビへと伝えるのであった。

 

 



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28:変わらない本質

 次の日の朝、布団で目を覚ました悟は身体を布団から起こして朧気ながらに言葉を発する。

 

「わた……し、じゃなくておれ……?……アガリ、きょうのよていは……あれ、わたしいまどこにいるんだっけ……?」

 

 寝ぼけている様子の悟が窓から差し込む朝日に眼を向けると、そんな彼に声がかかる。

 

「悟ちゃん、おはようっ!! 朝ご飯できてるわよ!!」

 

 ハツラツとして声に活力がみなぎっているマリエが一声だけかけそのまま忙しそうに何処かに行ってしまう。

 

(あれ……施設に帰って来て……違うな……ここは──)

 

 段々と思考が平常時に戻ってきた悟は、ウトウトしながらも用意されていた普段着に身を包むと簡易的な台所とダイニングが合わさった部屋へと向かう。

 

 そこでは小さなちゃぶ台の上に2人分の食事が用意されており、既にマリエが座ってご飯をよそっていた。

 

 そんな光景を目の当たりにした悟は一瞬目がしらが熱くなるのを感じつつも、それをこらえてマリエに声をかける。

 

「おはよう、マリエさん……美味しそうですね」

 

「おはよう、悟ちゃん……まだ眠そうね、フフフ……久しぶりに悟ちゃんにご飯を振舞うから奮発しちゃって……///」

 

 朝食とは思えない量の多さに悟は床に引かれた座布団に腰を下ろしながらマリエに質問をする。

 

「今の木ノ葉でここまで贅沢な食材の量をどうやって集めたんですか……?」

 

「食料の保管庫がほぼ全て吹き飛んだから、期限が切れそうなものから優先して配分されてるのよ。 腐らせてしまうなんて勿体無いじゃない?」

 

「なるほど……」

 

 事情を把握した悟は手を合わせながら、頂きますと呟く。

 

 そうして食事を口に運ぶと

 

「悟ちゃん……?」

 

 マリエが心配する声を出すように、悟は涙を零していた。

 

「っ……ハハハ、久しぶりのマリエさんのご飯に感動しちゃったかな? 覚えてた奴よりも、うんと美味しくって……つい……」

 

 少しお道化て見せる悟に、マリエもまた食事に手を付け涙を零す。

 

「……マリエさん?」

 

「別に変なことじゃないわ。 昨日の夜、寝る前に貴方から聞かされたこれまでの数年間の話はとっても大変だったって想像がつくもの。 こうやって落ち着いて……安心して誰かと食事をとる機会なんて少なかったはず……私も貴方とこうしてご飯を食べることが出来て……安心して涙が出ちゃうわ」

 

 こうしてお互いに笑顔でボロボロと涙を流しながら、二人は多めの朝食を食べきったのであった。

 

 

 

 食事を終え、二人で皿を洗っていると簡易的な家の玄関の戸がノックされる音が聞こえる。

 

「すみません、火影補佐のシズネという者ですが……蒼鳥マリエさんはこちらにいらっしゃいますか?」

 

 その声の主に気がついた悟が手早く手を拭き戸を開けると外に立っていたシズネは露骨に驚いた表情を浮かべて後ずさる。

 

「おわっ……!? あ、そうか悟さんでしたね失礼しました……つい」

 

「ハハハ、天音小鳥って勘違いしました? まあ、前まで警戒対象だった人物の顔が出てきたらびっくりしますよね、分かりますよ」

 

 シズネが申し訳なさそうにブンブンと頭を下げると、悟も困った表情でそれを止めようとする。

 

「それよりも、マリエさんに何か用ですか?」

 

 埒が明かないと悟が話を切り出すと、ハッとしたシズネが慌てて口を開く。

 

「あ、そうでした。 ある程度の人員と食糧庫の設備が仮ですが用意できたので炊き出しも今日で最後にしていただいて構わないという連絡に来ました」

 

「ああ、なるほど」

 

 シズネの話の内容に悟が納得し(やることなすこと、対応が早いな……流石木ノ葉)と関心を示すと、彼の背後からマリエが顔を覗かせて

 

「了解しました~。 それじゃあ渡された食料は今日中に使い切ってもいいんですね?」

 

 と確認を取る。

 

「問題ありません、それでは私は失礼します!!」

 

 シズネがビシッと敬礼してその場を去っていった。

 

 その一瞬で態度の変わったシズネの様子に疑問を持った悟がマリエに振り返り問う。

 

「……何かマリエさんに対して妙な態度じゃなかったですか、シズネさん」

 

 その問いにマリエは恥ずかしそうに答える。

 

「……昔その……叩きのめしたことがあって……」

 

「叩き……のめした……?」

 

(年上のシズネさんを……? なんで……?)

 

 

 気になるからと話を続けていたら埒が明かないことを悟った悟は好奇心をグッと抑えて朝の身支度は終わらせるのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

『施設の関係者と話があるから、悟ちゃんは自由にしててね~』

 

 と言われた悟は火影岩の崖の上に来て里を見下ろしていた。

 

 崖上の場所のため吹く風が強く、しかし逆にそれが今の悟には心地よく感じられる。

 

 今の悟の立場が立場なだけに、大人しく過ごそうと人の少ない所を選んで時間を潰すことにしたのだが……

 

(そろそろ……原作だとサスケがキラー・ビーを襲ったの何だので雲の忍びがサスケの情報を求めて木ノ葉に来るはずなんだけど……まだ来た様子はないし……気にしても無駄かな……今は大人しく体力の回復に努めるか……)

 

 そう思い、地べたに寝転がり瞳を閉じた悟。

 

 それから少し時間が経つと人の気配を感じて目を開けた悟は、姿を見られないようにと身近な木々の上に飛び乗って様子を伺う。

 

 すると……

 

「さあ、ここでいいでしょう!! ではゴールの設置をして行きますよォ!!」

 

「ゲジマユの兄ちゃん、ホントにここで良いのかコレっ?」

 

「何で私まで……昨日夜更かししたから寝不足なのに……クァ……あふぅ……」

 

 張り切った様子のロック・リーと、布地を運ぶ猿飛木ノ葉丸と日向ハナビが姿を現した。

 

 そんな三人を目にした悟は(珍しい組み合わせだな……)と思い暫く様子を伺うことにした。

 

 何やら徒競走のゴールのような物を設置し始めている三人は悟に見られているとも気がつかずに設営していく。

 

「ガイ先生とカカシ先生、ライバルであるお二人が速さで勝負するとおっしゃってここを指定しましたっ!! お二人の走る姿はきっと下忍のお二人にも得るものが在るはずですっ!!」

 

「俺はナルト兄ちゃんに修行見て貰いたかったのになぁ……コレ」

 

「私は白さんに稽古を……」

 

 テンション高めのリーとは対照的に、木ノ葉丸とハナビはため息を多めについていた。

 

 しかし

 

「あれ、おかしいですね……上手く地面に固定できませんよぉ?」

 

 リーが首を捻って持ち込んだ鉄棒と睨めっこを始める。

 

「ゲジマユ兄ちゃん、使い方聞いてなかったのかぁコレェ!?」

 

「……呆れた」

 

 下忍二人に呆れられた表情で見られるリー。 流石の本人も申し訳なさそうに年下に頭を下げているその様子に悟は

 

「……はぁ……全く、何やってんだか……」

 

 見ても立ってもいられずに、変化の術を使い前世の自分の姿になって三人に声をかける。

 

「どうかしました?」

 

 不意に声をかけられた三人が驚きながら振り向くと、そこには黒髪癖っ毛で、目元が前髪で殆ど隠れた少し細身の男性が立っていた。

 

「実はここにこの設備を設営したいのですが……面目ないのですが使い方を聞き忘れてしまいまして……」

 

 落ち込んだ表情でそう答えたリーに変化した悟は

 

「ああ、僕はこのタイプのモノなら設置したことありますねぇ……手伝いますよ」

 

 と丁寧に助力を申し出る。

 

 その申し出に嬉しそうにするリーだが下忍2人は

 

「兄ちゃん、木ノ葉の人間か? 見た覚えないぞコレ」

 

「……………………」

 

 不審感を隠さずに悟へと目線を向ける。

 

 悟は(忍び的には有望な嗅覚だな……)と内心思いながらも

 

「僕は各里を回っている劇団員の1人さ、偶々プライベートで来てるだけで……演劇に携わる者としてこういう設備の設営もお手のモノなんだ」

 

 そういって悟はリーの手に持ったパーツをさっと受け取ると手際よく地面に固定していく。

 

 その様子にリーが叫び感動した声を挙げ五月蠅くしたが、木ノ葉丸もその手際の良さに悟の言葉を信じこんだのか興味を持った眼付きでその様子を観察し始める。

 

 終始無言のハナビも混ぜて、ゴールの設営を済ませると悟は

 

「貴方も良ければここで見ていかれたらどうですか?」

 

 とリーからのお誘いを受ける。

 

(あんまり関わるのもなぁ……)

 

 と内心乗り気ではなかった悟だがリーは問答無用で設営終了の合図とみられる発煙筒を焚く。

 

 すると木ノ葉の大門付近で煙が上がる同時にスゴイスピードで賭けだず2つの人影を悟は視界に捉える。

 

「おおおォ、はえーぞコレっ!!」

 

「流石ガイ先生っ!! そしてカカシ先生もお互い劣ることのないスピード、流石ですっ!!」

 

「……」

 

 はしゃぐ男二人に白眼で様子を観察しながら無言のハナビ。 悟はどう反応していいのか分からず、めんどくさくなり無言のままその場を去ろうとするが

 

 ガっと服の裾をハナビに掴まれて引き留められる。

 

「ハハッ……やっぱりハナビなら気づくよな」

 

 観念したような悟の小声のその言葉にハナビは

 

「……っ」

 

 何かを言いたげな表情にはなってはいるが切り出せないでいた。 その煮え切らないハナビらしからぬ態度に悟は疑問符を浮かべる。

 

 そして

 

 ハナビは何も言わずにその場から逃げ出すように姿を消してしまった。

 

 突然のことに呆ける悟、そしてそのことにガイとカカシのかけっこに夢中で気づかないリーと木ノ葉丸。

 

 こちらに注意が向いていないことを確認した悟はその場からハナビを追いかけるように跳躍

 

 

 

 ……しなかった。

 

(……追いかけないのかい?)

 

 あまりにらしくない行動に黙が精神世界から悟へと語りかける。 その問いに悟は

 

(……まあ理由に心当たりはないんだけど……これ以上ハナビと関わってもな……ハナビが俺から離れるなら、それはそれで……()()()()()

 

 気にしていないような素振りで答える。 そんな悟に対して黙は

 

(……そうかい、僕には心当たりがあるんだけどね)

 

 と何気なしに言って見せた。

 

 その言葉に悟は一瞬体を強張らせ硬直し……数秒悩み

 

(教えてくれよ)

 

 とぶっきらぼうに黙へと問いかける。 その悟からの質問に黙はさらりと何ともないような口調で答える。

 

(昨日の夜、君が寝ている間に君の数年間の行動を僕が彼女に教えたのさ……ペインとの戦闘の時に約束してただろ? 早い方が良いと思ってね)

 

(おまっ……何勝手に……イヤ、それよりもっ!! ()()()()()寿()()()()とか尾獣たちのこととかまさか言ってないだろうなっ?!)

 

 黙のカミングアウトに悟は珍しく怒り気味な口調で問いただした。

 

(大丈夫、大丈夫。 ちゃんと君がマリエさんに伝えた内容と()()()()()心配かけるような部分は言わずに伏せたから……でも)

 

(でも? ……なんだよ?)

 

(…………君の性癖はバラしたね、黒髪ロング、ボンキュッボン)

 

(……ッ!?!?!?!?)

 

 黙の反省しているフリにしか見えない形だけの手を合わせた謝罪に精神世界の中で悟は黙の胸倉を掴み怒鳴る。

 

(何言ってんのマジでっ!? しんじ……信じられんぞ、お前っ!!! つーかそのことお前に話したことないだろ俺ッ!? 何で知って──)

 

(フッ君と僕は二心同体……心当たりは幾らでもあると思うけど……おやおや、そこまで怒らないでくれよ……ちょっと? 顔が怖いよ)

 

 黙の胸倉を掴む力がギリギリと殺意混じりになりかけ黙も少し汗をかき焦りを見せ始めるが、ふと悟の絞める力が弱まる。

 

(……はぁ……っまあ、いいか……もうそれで嫌われたならそれはそれでいいよ、どうせ──)

 

 悟は諦めたかのような表情で黙の胸倉を解放すると精神世界から注意を現実世界へと戻して再度リーと木ノ葉丸の様子を伺うと

 

 バレないようにすぐさまその場を後にした。

 

 1人精神世界に残された黙はポツリと呟く。

 

 

(そんな程度の事で彼女が君を嫌う訳ないんだろうと……ま、渦中の人間は気がつかないものだね)

 

 

~~~~~~

 

 

 顔岩の崖から離れた悟は行く当ても特にないため、変化の術を別の成人男性の見た目にして解かないまま里の復興を手伝うことにした。

 

 ただ内心では今後の方針を考え、頭を悩ませる。

 

(……暗隠れの皆が近いうちに木ノ葉に復興支援のために来るだろうし……サスケは……どうだろうか、暁……というかオビトにそそのかされているのかどうかわからんけど、雲の連中にも俺は色々ちょっかいかけたしなぁ……)

 

 心ここにあらずだが悟はテキパキと瓦礫の撤去を手伝い荷車を押す。

 

 しかし

 

「あんたぁ……ちょっとええかい?」

 

 ふと悟はお年寄りの女性に声をかけられたことで、意識を現実へと引き戻す。

 

「えっと、はいどうかされましたか?」

 

 呼び止めてきた女性に笑顔で応対した悟。 その女性は申し訳なさそうに口を開く。

 

「申し訳ねぇんだが……オラの家の瓦礫の中に……爺様の形見があってのォ……取り出したいんだが、如何せん──」

 

 オズオズとしたその女性の態度に、悟は女性が言葉を言い切る前に笑顔で答える。

 

「それは大変ですね、俺で良ければ取ってきますよ」

 

「ええんかいの……?」

 

 女性の妙に低い態度が何度も周囲に頼み込んで、後回しにされていたことを物語っていることに気がついた悟はそのまま女性の案内で彼女の家の瓦礫があるとされている場所まで移動する。

 

「あの屋根の色が赤い所が家なんだが……1人じゃ大変じゃろぉ?」

 

「……まあまあ、俺に任せて見ててください」

 

 悟は口元に指を当て「シーっ」と言うと印を結ぶ。

 

 そして

 

「形見ってのはどういった物ですか? 家のどこら辺にあったかもわかると良いんですけど」

 

 何ともなしに悟が女性に問うと

 

「一階の押し入れのなかにあったはずだぁ……小さな木の箱に入れてたが壊れてしまっているかもなぁ」

 

 と返事がありすると悟はそのまま手を合唱の形のまま、少しチャクラを込める……そして

 

──ズンッ

 

 瓦礫の中から、大きな木の根がうねり出て悟と女性の前までその根の先を伸ばすと、根の先が開き木の箱が現れる。

 

「あらまぁ……!」

 

 木の根に驚きつつも、その女性は木の箱を手に取ると涙を流しつつそれを胸に抱えた。

 

 オイオイと嗚咽をもらすその女性の姿に悟は……申し訳なさを感じていた。

 

(神羅天征を俺が防ぎきっていれば……こんな……)

 

 女性が泣いている姿に自己嫌悪を助長された悟だが、静かにその場を去ろうとするとふとその女性が

 

「あんた、本当にありがとうなぁ……アンタもしかして……」

 

 そう言いながら振り返って来たことで動きを止める。

 

「どうかしましたか?」

 

 何を言われるか、少し不安を感じた悟にその女性は口を開いた。

 

 

 

「黙雷悟さんじゃ、ないか?」

 

 

 

「っ!?」

 

 一般人であるはずのその女性から、決して手を抜いていない変化の術を看破され名を尋ねられたことに悟が驚き言葉を詰まらせると続けさまに女性を口を開く。

 

「数年前……まだ爺様が生きてた頃……畑仕事に手を焼いていると、仮面を着けた下忍の忍びが何も言わずに手伝ってくれたと嬉しそうに話しててなぁ……任務でもないのに申し訳ないと爺様が断っても『黙雷悟宛てに任務を指名するように周囲に宣伝してくれたらそれで良い』とだけ言ってそのまま何も受け取らずに姿を消したって聞いただ。 ……多分、お主なんじゃろ?」

 

 殆ど確信しているかのようなその女性の口ぶり。 人から聞いた人物像だけでピンポイントに悟を言い当てたその女性の言葉に悟は戸惑う。

 

 その女性は戸惑う悟に対して深々と頭を下げ

 

「本当に……ありがとうございます」

 

 そう心からの感謝を込めた言葉を悟へと送る。

 

(……っ)

 

 観念したかのような、諦めの表情を浮かべた悟は女性の肩に手を置いて呟く。

 

「こちらこそ……覚えて頂いて光栄です、ありがとうございます」

 

 その呟きに女性が頭を上げると

 

 

 その場には既に悟の姿はなかった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 復興に向けて人通りの多い道の人ごみに紛れて、悟は歩く。

 

 そんな彼に精神世界から黙が語りかける。

 

(不思議なものだね、人との繋がりというモノは……目に見えないハズなのにこうして巡り巡って現実に干渉してくる)

 

(……何が言いたい?)

 

(僕……そして君がやろうとしていること、そしてやって来たこと。 人を傷つけることも少なくはないけど、けれど……逆に誰かの助けになることもある。 それを分かってくれる人は案外何処かにいるものなんだなってことさ)

 

(……)

 

(君は充分よくやっている。 僕からしたら雷……君はとても良い奴だ、自分の好きにしたらいいよ)

 

 励ますかのような黙の言葉に悟は

 

(……ああ)

 

 そう短く返事を返してそのまま人ごみの中へと消えた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 その夜、マリエの元へと戻った悟は同じ部屋で布団を引いて横になっていた。

 

「……」

 

 悟から一緒に寝ようと提案されたマリエは、何かを感じ取っているのか無言のままでいた。

 

 そんなマリエに対して悟は布団を被り、顔を逸らしながらも小さく言葉を呟く。

 

「……もしも、俺が……」

 

 そこまで呟いた悟言葉に、重ねるようにマリエが口を開いた。

 

()()

 

「っ?」

 

「貴方は優しいわ。 昔から演技が下手で、感情を取り繕うのが苦手で……とても正直だった。 嘘をつくのを嫌がって、それでも誰かの笑顔のために頑張れる。 とてもとても素直でいい子……きっと

 

 

 

 

貴方の御両親は……周囲の人はとても優しい人達だったのね」

 

 

 

 

「……」

 

 悟はマリエの言葉を黙って聞く。

 

「異世界というのは……ちょっと私には測りかねないお話だけど、そこで過ごしていた時間はきっと貴方の中でとても大切なもので……素晴らしいモノでしょう」

 

「……」

 

「そんな貴方はきっと……この忍界での出来事に心をすり減らして……きっとこれからも傷ついていく」

 

「……ッ」

 

「私は貴方に傷ついて欲しくないと思っているわ。 けれど……同時に、貴方を応援している自分も居るの」

 

 そう言ってマリエは悟に顔を向ける。

 

「私は……かつて、様々なものを失い……後悔した。 こんな世界は……無い方が良いと本気で思ったこともある。 だけど……そんな苦しみの先に貴方に出会えた。 人が死に……痛みを感じて……それでも私は生きて、生かされてきた」

 

 マリエに向け悟も顔を向けた。

 

「マリエさん……」

 

「……雷君……そして中にいる黙ちゃん……貴方たちが生かしてきた命、奪ってきた命……全てが今の貴方たちを形作っている。 きっと……1つでもなくして忘れてしまえば今の自分ではなくなるわ。 忘れちゃダメよ、今までのこと……そしてこれからの事を」

 

 まるで餞別のようなマリエからの言葉に悟は

 

「……忘れません」

 

 そう呟き返事をした。

 

(……奪ってきた命……か)

 

 精神世界の黙も、マリエからの言葉に考えるように瞳を伏せる。 そして

 

(……)

 

「……」

 

「……」

 

 無言の時間がその後を繋ぎ……朝を迎えた時には

 

 

 

 

 マリエの隣の布団に、黙雷悟の姿はなかった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 朝を迎えた木ノ葉の里で、何やら騒がしい様子で人がたむろしていた。

 

 2人の人影を囲む群衆は罵るわけでもなく、しかし憎しみや嫌悪の眼をその中心にいる1人へと向けていた。

 

「はいはい、英雄様が通りますよっと」

 

 その対象となっている黙雷悟は普段着かつ素顔のまま、まさに我が物顔で通りを闊歩し周囲を取り囲む群衆を意にもかけていない。

 

 そしてそんな悟が手に持つ縄の先には、手首を縄で拘束され引っ張られている日向ヒナタがいた。

 

「悟君……こんなこと……やめて、このままじゃ悟君が……っ!」

 

 ヒナタは自身がぞんざいな扱いを受けているにも関わらず、その行為によって悟が嫌悪されることを心から心配していた。

 

 そんなヒナタの様子に悟は周囲に聞こえるように舌打ちをして、掌から木遁によって生じた木の縄をヒナタの口にあてがい猿ぐつわをして黙らせる。

 

 そのまま周囲にいるそんな悟の行動を批難する木ノ葉の住民にむけわざとらしく手を振りながら声を大にした。

 

「俺はっ!! 伝説の三忍の自来也を助け、危険な集団であった暁に潜入して情報を集め木ノ葉をペインの術の脅威から救った男だぞっ? ここにいるお前らの命は俺が助けたも同然だし、この女はそもそも俺の婚約者だ。 どう扱おうが俺の勝手だろう? 感謝されど、批難されるいわれはないねぇ!!」

 

 胸を張り自分の功績をねちねちと語った悟は手を振り

 

「分かったらサッサと俺に感謝して、食料でも何でも貢物持ってこいよ。 そしたら英雄様の俺が、これからも木ノ葉の里を守ってやるからよ」

 

 と行って高笑いをする。

 

 そんな悟の行動に集団はざわつき、その騒ぎを聞きつけ彼を敵対視する一部の木ノ葉の忍びが集まってきた。

 

「ふざけんな!」

 

「ヒナタさんを離しなさいよっ!」

 

「裏切者がっ!!」

 

 そんな罵倒が飛び交う中で悟は平然とした表情で巻物を一つ取り出し口を開く。

 

「全部事実だろ? それに信じられないなら見せてやるよ、これが()()()()()()()()()()()だ。 一日前に日向の屋敷があった場所で見つかったこれを、今朝取りに行ったついでにヒナタも貰ってきたってわけだ。 これも全部日向の上役の望んだことなんだよ、俺と言う英雄の血を日向に向かい入れるためのなぁっ!!」

 

 婚約の巻物を見せびらかす悟はヒナタを繋ぐ縄を引っ張り強引にその体を引き寄せ肩を寄せる。

 

「文句があるなら、日向に言うんだな。 ヒナタを先に私物化したのはあいつらで、俺に文句を言うのはお門違いだ……それとも栄誉ある名家だからってお前らは口を閉じるか? なら英雄である俺のやることにも文句言うんじゃねぇぞっ!!」

 

 悟のその物言いに、取り囲んでいた集団は怯み散らばり始める。 しかしそんな散った群衆の中から1人の男が姿を現し、悟の正面へと立ちふさがる。

 

「何……馬鹿なことやってんだ悟。 今からでも遅くねぇ……大人しく騒ぎを収め──」

 

「これはこれは奈良シカマル。 邪魔だからそこどいてくれない? これからヒナタの身体をじっくりと味わおうと思って里の外に行こうと──」

 

 シカマルの制止にふざけた態度で無視しようとして横を通り過ぎた悟の身体がシカマルの影に捕まり硬直する。

 

 互いの横顔が並んだ状態でシカマルは正面を向いたまま悟にしか聞こえない声で呟く。

 

「……暗部のくノ一から、()()()()()を聞いた。 なのにこんなことっ……どんな考えがあってやろうとしてんのかさっぱりだがめんどくせーことになる前に」

 

「ごめん、シカマル」

 

「っ!?」

 

 互いにしか聞こえないやり取りは、悟が影真似の術を強引に解きシカマルの鳩尾に拳を突き立てて終わる。

 

 小さく唸ったシカマルは気を失いそうになりながらも悟の腕を掴むが、悟はそのシカマルの腕を振り払い再度歩き出す。

 

「ほらほら、邪魔するとこうなるぞ? 言っとくけど先に術かけて来たのはシカマルだからなっ!! 正当防衛、俺悪くねぇから」

 

 騒ぎに人が集まり、見知った気配が周囲を取り囲み始めていることに気がついた悟は足を止めめんどくさそうな態度を取る。

 

「はぁ……何? お前ら、俺たちの大人な行為がそんなに気になるの? ……なら仕方ないなぁっ!!」

 

 そういって悟は下品な笑顔でヒナタに歩み寄り、その服に手を掛ける。

 

「サービスだっ!!! ここでおっぱじめてやるから目ん玉かっぽじって見とけよっ!!」

 

 そのままヒナタの上着のチャックを引きちぎろうとした瞬間。

 

──ガっ

 

 悟の腕を掴み止めるものが現れた。 その金髪の人物に向け悟は心底軽蔑するかのような目線を向ける。

 

「……興ざめだな。 邪魔しないでくれよ、これは家柄の決まり見たいなもんなんだよもう一人の()()()

 

「……っ悟」

 

 姿を現したのはうずまきナルトであった。 ナルトが手に力を籠め、悟の腕を捻りヒナタの服から手を離させる。

 

「ナルト、お前に俺を邪魔する権利はないぞ」

 

「権利とか、そんな話じゃねぇだろっ!」

 

 そのまま悟を突き飛ばすようにヒナタから遠ざけるナルトに周囲の群衆は湧き上がる。

 

 やれ本物の英雄が来た。 ナルト、お前なら止められる。 そんなクソ野郎ぶっ飛ばせなどなど。

 

 そんな光景の最中、ナルトがヒナタの猿ぐつわを外すとその瞬間何かを言おうとしたヒナタに対して

 

「黙れ」

 

 悟がピストルの形をした指先から雷遁・雷銃による電撃を放ち気絶させる。

 

 一瞬の出来事にナルトがヒナタの名を叫びながら倒れこむその体を受け止めると、静かになった周囲に向け悟が声を大にして叫ぶ。

 

「面白いもんだなっ!? かつてはナルトの事を化け物扱いしてきたてめぇらが、自分の気に喰わない俺をとっちめようと祭り上げる様はホント滑稽だぜっ!!」

 

「悟っ!! ヒナタに何すんだっ!?」

 

「余計な事を言おうとするから黙らせただけだ。 それよりもナルト、どうだ周囲の奴らの醜さは? お前に向けて、化け物を見るかのような視線を送り人として扱ってこなかった連中は今度ははやし立てて英雄様だとよ。 ……本当に都合が良いよなぁ?」

 

 悟のその言葉に、少なからず人々は黙りこみ視線を背ける。

 

「ここに居る連中の殆どが、てめぇを化け狐扱いしてきたのは想像に難くないよな? 中には途中で見直した奴らも居ただろうが、それでもごく少数だ」

 

 悟の言葉にナルトはしゃがんだ体制でヒナタの身体を支えながら黙って聞く。

 

「こんな奴らの言うことなんて聞く必要ない、分かったらさっさと──」

 

「確かにそうかもしんねぇ」

 

 払いのけるような仕草の悟に対してナルトは立ち上がりながら口を開く。

 

「昔っから……()()()()()で見られることは多かった。 俺のことが怖いって奴は沢山いた……だけどそれと同時にイルカ先生や仲間の皆の様に俺をちゃんと見ててくれる奴らがいるから俺は諦めねぇでこれた。 ……悟、お前もわかってんだろ?」

 

「……」

 

「俺を嫌う奴だっていたっておかしくねえし、手のひら返す奴だっているかもだ。 だけど……俺ってばそういう奴らにも……()()()()()()()火影になりてぇんだっ!!」

 

 ナルトは目つきを鋭くして悟に語る。

 

「エロ仙人や長門……信じてくれる皆から見た俺と、俺を嫌だって言うやつの俺。 どっちも同じ俺なんだってばよっ! 悟、だからこそ俺は……お前が、友達が馬鹿しようとしてんなら周りにどういわれようと止める……それだけだ」 

 

 ナルトに睨みつけられた悟は、思わず綻びそうになった口元を咳ばらいと共に手で隠してそっぽを向く。

 

「……そうかそうか。 止めるというのは勝手だが、結局ヒナタと俺は婚約の巻物による契約がなされている。 ここで止めようと意味はないぞ?」

 

「……契約?」

 

 悟の言葉にナルトが疑問符を浮かべると、悟は巻物を掲げて説明を始める。

 

「婚約の義……この巻物に血印を記した男女には特殊な呪印が刻まれる。 その呪印の効果は……呪印の刻まれていない者との性行為を禁ずるものだ」

 

「せい……こうい……?」

 

「(自来也さんと旅してたのに……まさかそういうの教えて貰ってないの!?)……あ~……基本的には夫婦が子どもを作るためにする行為のことだ。 詳しくは……オッホン……こんな往来では言えないが自来也さんにでも聞け。 んで呪印が刻まれた者がそれ以外の者と行為におよぼうとした場合」

 

「……場合……どうなるんだってばよ?」

 

「性器……つまり男なら○ン○ンが腐れ落ちる」

 

「ひえっ……!」

 

 自身の股間を抑える仕草をするナルト、そして若干ざわつく周囲の集団の男性たち。 悟はそんな反応を楽しむように笑顔を見せて巻物を空いた手で指さす。

 

「つまりこの巻物が存在する限り、俺とヒナタは他の人間とそういう行為が出来ないってことだ。 今ここでお前が邪魔してもヒナタには俺しかいないってこと……日向が好きそうなモノだよな」

 

 ケタケタ笑う悟にナルトが複雑そうな顔を見せる。 しかしナルトはヒナタを支える手とは逆の手で悟が持つ巻物を指さす。

 

「……ならそれを壊しちまえば、その呪印も無くなるんじゃねぇのか……?」

 

「残念だが、巻物自体がなくなっても呪印は消えない。 呪印を消したければぁ……」

 

「どうすりゃあいいんだ?」

 

 悟はどこからか大き目な判を取り出して手の中で躍らせて、ナルトに見せつける。

 

「契約破棄の手順として、この日向の印と……契約者片方の同意が必要になる。 本来ならこの判子は日向の屋敷に厳重に保管されているんだが……俺に掛かればちょちょいのちょいよ」

 

「……」

 

「もちろん? 俺は破棄するつもりはないし、この判子を誰かに渡す気もない。 ヒナタみたいないい女をわざわざ何処の馬の骨とも分からない奴らに渡す気もない……だが」

 

 悟は判子をくるくると投げ、キャッチを繰り返しながら煽るように声を高らかにして叫ぶ。

 

「余興を開いてやるっ!! 今から、お前らにチャンスをくれてやろうっ!! 俺は今から巻物に契約破棄の印を刻む、つまりこの判子さえ巻物に押せば晴れてヒナタは呪印の束縛から解放されるという訳だ……上手くいけば俺に変わって日向ヒナタと婚姻契約を結べるチャンスかもなぁ? 今日の日が沈むまで、俺から巻物と判子を奪い取れた奴にその権利をやろうっ!!」

 

 そういって悟は巻物の一か所に血印を押す。 ざわめく集団の様子に目もくれずに悟は説明を続ける。

 

「場所は……ナルト、お前がペインと戦った木ノ葉の外れだ。 あそこなら多少暴れても問題なさそうだし、あの場所で俺は挑戦者を待つとしようか。 ああ、心配しなくても手加減してやるよ……俺は印を結ばないし、逆にお前らは好きに挑んでくると良い……じゃあなっ!!」

 

 一通り言い終えると悟はその場から跳躍し、姿を消した。 ざわめきも悟が去り、悟の口車に乗ったもの達が我先にと駆けだすことで落ち着きを見せ残ったナルトは意識を失っているシカマルとヒナタを影分身と共に背負いその場を後にするのであった。

 

「悟……ッ」

 

 

~~~~~~

 

 

 30分もかからないうちに、ペイン天道が地爆天星を行ったクレーターとなった跡地では激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 ……と言っても

 

「遅い遅いっ!」

 

「っ!?」

 

 並の忍びでは悟の相手には成らず、撃ちだされる忍術も忍具も全て躱され瓦礫まみれのその土地を更に削るのみで手傷を負わせることはなかった。

 

 下忍、中忍、上忍……はたまた腕に覚えのある一般人までもが悟に挑むも、体術のみで全員気絶させられクレーターの外へと投げ飛ばされる。

 

 正々堂々と1人で挑むもの、なりふり構わず小隊で挑むもの……しかし皆全て、悟の体術の前に沈んでいった。

 

「なっ!?」

 

 踏み台にされた忍びが驚きの声を挙げるうちに、後方から迫る予定の仲間は蹴り飛ばされ意識を失う。

 

 普段着かつ忍びとしての装備を何一つつけていない悟に……かすり傷を負わせるものはなにも居なかった。

 

 来ている上着のパーカーをなびかせ着地した悟は残された小隊最後の忍びへと向き直る。

 

「あとはお前ひとりだな……ほらかかってこい」

 

 彼らを制しているのはただの体術。 柔拳と剛拳を交えたその技術は数年の経験を経て並の忍術をも凌駕するものになっていた。

 

「っ火遁・豪火球っ!!」

 

 苦し紛れの火遁が悟を狙うがしかし、悟は柔拳の攻撃をいなす要領でその火球を真上へと弾き、手のひらを上に向け残った忍びへと手招きをする。

 

 上空で爆発した豪火球を合図に、忍びが駆けだすも

 

「──っ!」

 

 駆けだすその一歩に合わせ、より早く大きく踏み込んだ悟の掌底によって顔面を打ちぬかれ意識を失う。

 

 1つの集団を降した悟は掌を叩きながら、周囲の待機しているもの達へと声をかける。

 

「はいはい、さっさと気絶した奴運んでくれたまえよっ!! んで次に俺の相手をしたい奴はかかってこーい」

 

 息も切らさず、声を平静に……ただひたすらに悟は向かってくる忍び達を相手にした。

 

  

 

 

 そして一時間が経った頃、1人のくノ一が悟の前へと降り立つ。

 

 その姿を見た悟は楽しそうな笑顔を浮かべ、構えを取る。

 

「そろそろ骨の在る奴を相手したいと思ってたんだよなぁ……ほら、かかってこい……サクラっ!」

 

「……この大バカっ……一発ぶん殴ってやるわよっ!」

 

 目の前に現れた春野サクラに向け悟は足元に転がる小石を蹴り飛ばして牽制する。

 

 サクラがそれを手で弾くと同時に踏み込んできた悟と腕をぶつけ合い、拮抗する。

 

 瞬間、悟とサクラが踏ん張る地面が陥没する。

 

 自慢の怪力を悟に正面から受け止められサクラは舌打ちをした。

 

「何でっ……そんな平気そうに受け止められるのよっ……!」

 

 普段のサクラの馬力なら悟の身体を浮かせ地面へと叩き伏せるのも容易なのだが、実際にはそうならず互いに押し合いが続く。

 

 これでもかと力を籠めるサクラに対して……悟はまだまだ余裕を感じさせる表情を浮かべていた。

 

「何でと聞かれたら答えてやろう……幻術とチャクラコントロールの応用だ」

 

 そういって悟は拮抗した押し合いを一歩引いて解くと、その間合いから拳をサクラの顔面に向け振りかぶる。

 

 サクラは顔の前で腕をクロスしてガードしようとするが、それを見越した悟は拳をフェイントに使い、本命の回し蹴りでサクラのガードの漏れている腹を蹴り飛ばして吹き飛ばす。

 

 腹を蹴られ吹き飛ばされるも、両足で踏ん張りを効かせたサクラは地面に2つの轍を刻みこんで勢いを止める。

 

「サクラ、お前の怪力は綱手さん仕込みのチャクラコントロールによる金剛力だ。 実現させるには繊細なチャクラコントロールとタイミングが重要……それをこう……指の動きだけでかける幻術の予備動作と、身体が触れた瞬間にチャクラを流しむことによる妨害で崩しているんだ。 威力だけなら、仙人モードのナルトと同等だろうが繊細過ぎる上に瞬発的な力しか出せないことが仇となってるってわけ」

 

 講釈を垂れ述べる悟にサクラは腹の痛みをグっと我慢して駆けだす。

 

「ご忠告どうもっ!!」

 

 手裏剣を投擲しながらのサクラの接近に、悟も手裏剣の軌道を読み避ける動作をしながら駆けだす。

 

 避けた動きの分、悟が一歩で遅れるとサクラの拳が放たれ悟の眼前へと迫る。

 

 それを掌で防いだように見えた瞬間、打撃音が3発重なるように連続で鳴る。

 

「っ……あぶねぇ」

 

 防御をした悟の両掌が小さな煙を上げており、悟は思わず後ずさる。

 

 その悟の様子にサクラは口角を上げていた。

 

「ふふ……これを初見で防がれちゃうなんて……アンタってホント滅茶苦茶ね」

 

 呆れるように、しかし笑顔でそう述べたサクラに悟は

 

「妨害されるのを見越して、金剛力を発するチャクラの波を複数回に分けたのか……っ! 威力は下がるが、一度の拳の接触でチャクラによる圧力が数回発生する……こちらもチャクラを流して相殺しなければやばかった……っ!」

 

 同じく心底楽しそうな笑顔を浮かべて、サクラの手の内を解説する。

 

「どう? 前よりも強くなってるでしょ?」

 

「ああ、こっちもちょっと熱くなれそうだ……っ!」

 

「……これでもちょっとなのね、しゃんなろ~……まあいいわっ!! ねぇ悟、アンタがやろうとしていることは……殆どわかってるつもり。 多分同期の皆も、一部の忍びの仲間たちも……もうアンタの三文芝居じゃ騙されない……でも──」

 

「分かってるなら……黙って戦え、サクラ」

 

「っ……ええ、お望みとあればやってあげるわよっ!!」

 

 戦いを要求する悟にサクラも応じ、互いに接近戦にもつれ込む。 互いに拳打を打ち合う殴り合いに発展するが、戦いの行く末は既に見え透いていた。

 

 サクラの扱う金剛力は実際に筋力自体を強化するものではなく、あくまで拳による衝撃をチャクラによって倍増させているものである。 威力は抜群ではあるがそれは同時に単純なチャクラコントロールによる身体強化とは違い、動作自体の速さには殆ど影響が出ない。

 

 遅く重い。 そんな攻撃を前に悟は、極まったチャクラコントロールによる身体強化でスピード重視の拳打を繰り出し続ける。

 

 身体強化は視力も強化するため、単純な打ち合いにもつれ込んだこの展開。 サクラの拳は一度も掠ることなく悟の連打を喰らいダメージを蓄積させる。

 

「っ……クソォ!!」

 

 叫ぶサクラの大振りの拳に、悟は

 

「お前はよくやってるよ、サクラ」

 

 そう呟きながらアッパーカットをカウンターで置く。 サクラの顎を捉えた悟の拳は、捩じりが加えられ掠るような軌道でサクラの頭を揺らした。

 

「──っァ……」

 

 意識を失いながらもすがるようにサクラは手を伸ばし指先が悟の頬に触れた瞬間、倒れこむその体を悟が支え決着がついた。

 

「フッ…………触れられたか」

 

 そんな言葉を呟いた悟は、クレーター外周で待機している忍びの元にサクラを抱えたまま跳躍しその身柄を託す。

 

「サクラならすぐ起きると思うから、俺に負けた奴らの治療でもしてもらおうかな」

 

 そう言って悟は再度クレーターの中心へと跳び、更なる戦いを求めていった。

 

 

~~~~~~

 

 戦いの最中、精神世界でその様子を見ていた黙は表情を変えずに呟く。

 

(この身体の潜在能力……うちはマダラと千手柱間のチャクラ。 そして僕の戦闘経験による雷への感覚的なフィードバック……既に並の……いや五影クラスでも対等に戦える僕らに敵う忍びはこの忍界に多くはない……)

 

 黙は悟が相手をする3人の様子に目を向ける。

 

(日向ネジに、ロック・リー……そしてテンテン。 一度は戦った彼らも、体術のみとはいえ鉄輪による制限のない雷には敵わないだろう……なのに──

 

 

 

何故か楽しそうに見えるのは……僕の見間違いだろうか)

 

 

 現実世界では、日向ネジとリーによる体術の猛攻を捌く悟は楽しそうに笑顔を浮かべていた。

 

「っ……流石に八門かチャクラモードなしだと、きついかなぁ!!」

 

 それでも的確に二人からの拳をいなした悟は正面から戦うのを諦め、距離を取る。

 

 その瞬間、眼前にクナイが迫る。

 

「っ!」

 

 悟の後退を読んだテンテンのクナイによる投擲を片手でキャッチした悟はすぐさま身をよじる。

 

 その瞬間、悟が交わした空間に()()()()()()()()()()()()

 

 クナイに刻まれたマーカーに飛雷神で飛んできたテンテンが振りかざした()()()()()()()は空を切り地面を裂く。

 

 3人からの猛攻に悟は大きく跳躍して距離を取った。

 

 距離が空いたことで、ネジとリーとテンテンは一度集まり話し合う。

 

「……流石に一筋縄では行かないか」

 

「僕達相手に……ここまでとは。 以前天音小鳥として戦った時よりもうんと強いのが分かります……っ!」

 

「……」

 

 1人浮かない顔のテンテンの様子にネジが気がついた。

 

「テンテン、奴のこの蛮行……その意味は分かっているはずだ。 奴は……しがらみを解き……恐らくそのまま里を去るつもりだ」

 

 そう言ってテンテンの持つ尾異夢・叉辺流へと目を向ける。

 

「……それを受け取ったんだ。 奴が……悟がお前を気にかけ……そして信頼している期待に応えるのが、俺たちに出来る最善だ」

 

 そういうネジは目線を悟へと向ける。

 

 リーもまたテンテンの肩を叩くと片手を前に伸ばして構えを取る。

 

「悟君、僕たちは今から本気で行きますっ!! 手加減なんてしていると死にますよォっ!!」

 

「そういうことだ、ここからは容赦しない」

 

 リーとネジの言葉に悟は顔を笑顔にして返事をする。

 

「……じゃあ、叩きのめしてやる……この眼でなっ!」

 

 朱い光を放つ悟の両目、そして全身から青い雷光が迸る。

 

 悟の写輪眼の存在にどよめきが起きるが、ネジらは八門を併用していないただのチャクラモードに、自身らが舐められていると感じ不服そうな表情を作る。

 

 そのことに気がついた悟は申し訳なさそうな笑顔で

 

「八門はちょっと使うの控えようかなって思ってて……健康に悪いし」

 

 と行って軽くその場でぴょんぴょんと跳ね始める。

 

「健康に……悪いっ!?」

 

 悟の言葉に驚愕するリーにネジが呆れた様子で

 

「……まあ、普通良いとは思わないだろう。 俺たちが使っていて体に負担をかけているのは体感しているからな」

 

 そうツッコミを入れる。 その言葉の後に

 

「悟、アンタが八門使わないならリーは置いておいて、私とネジは使わないわよっ!!」

 

 とテンテンが調子を取り戻したかのように声を張り上げた。

 

 その言葉に悟は

 

「別に使っても良いぞっ!! ……使っても勝てないだろうけどな」

 

 煽るような表情で答えた。

 

 そんなやり取りにテンテンは顔を綻ばせて呟く。

 

「あ~あ……ホント負けず嫌いね……アンタも……私も」

 

 観念したようにテンテンは右手に尾異夢・叉辺流、左手にクナイを構える。

 

 準備が整ったとばかりに、互いの間に張り詰めた空気が流れ悟の跳ねる音だけが響く。

 

 

 

 

 周囲で観戦している誰かの唾を飲み込む音が聞こえた瞬間

 

 

 

 

 青い雷光はクレーターを駆け巡った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 戦いに明け暮れ、日も沈み始め……挑戦者が途切れ始めた頃悟は暇そうに地面を見ていた。

 

(テンテン達との戦いの後から露骨に相手が減ったな……取りあえず、あの後はキバとシノを相手して……サイが挑んできたのは意外だったな、まだダンゾウの手の内のはずだけど……)

 

 悟は周囲を見渡す。 人も減り、観戦者もまばらとなりしかし悟の行動に不満がある者が鋭いを視線を向け続けていた。

 

(……白やそれこそガイさんとかも来るかもしれないとは思ったけど……白はそもそも目立てないし、ガイさんも何となくだけど来ないだろうな。 カカシさんも一応の火影候補として下手な動きはできないだろうし……いのとチョウジはいるけど周囲で見ているだけでサクラと一緒に負けた奴の手当てをしてくれてる……シカマルを午前中に気絶させちゃったから猪鹿蝶で来れないのか……)

 

 悪いことをしたなと思いながらも悟は瞳を閉じて、この先の事を案じる。

 

(……予定としてはもう、住人として木ノ葉に足を踏み入れることもないだろう。 今回の騒ぎを期に、俺は天音小鳥としてでなく黙雷悟としても追われる身になる。 そもそも正式(?)に抜け忍になるつもりだからな。 一部今回俺のやろうとしてること見透かしている奴らがいるけど……()()()()()も考えれば俺は本格的に木ノ葉の敵になるわけだ)

 

 後ろ指を刺される道に、しかし悟は既に迷いなく決心は揺らがない。

 

(悪名汚名、何でもござれだ。 俺は俺のやりたいことをやる……だからこそ)

 

 

 

──ザッ

 

 

 

 静けさに響く足音と共に、少なくなっていた観戦者が再び増え始め歓声が上がる。 その光景に鼻を鳴らした悟は、眼を開けクレーターの中心から上を見上げる。

 

 沈む夕日を背に立つ人物に向け悟は口を開く。

 

「随分と遅かったな……俺が体力減らすのでも待ってたか?」

 

 軽口にその人物は答える。

 

「……俺は直ぐにこようとしたけど……皆との時間を作ってやれってシカマルに言われて待ってただけだってばよ」

 

 そのうずまきナルトの言葉に悟は軽く笑い始める。

 

「クックック……シカマルらしいな。 皆本筋が分からなくても俺がやろうとしていることは理解してくれてるわけだ……それじゃあ最後に、立つ鳥跡を濁さずと行こうか」

 

 ナルトを見上げた悟は手招きをした。

 

 

 

 

 

 

「勝負だうずまきナルトっ!」

 

「悟……行くってばよォッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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29:VS主人公

現実が忙しくなりつつあるため、更新頻度が落ちます。 

すみません。


「っグッ!!」

 

 悟の強烈な蹴りを腕でブロックしたナルトは数メートル後ずさる。

 

 印を組まないというルールの下での黙雷悟とうずまきナルトの戦いは、悟が優勢で始まっていた。

 

 柔拳と剛拳の組み合わせにナルトは苦戦を強いられ、何度目かの接敵後に掌底を腹に受けナルトは吹き飛ばされる。

 

 ナルトが劣勢に鳴るたびに、周囲に再度集まり始めたギャラリーたちはざわめく。

 

 単純な試合として、気に喰わない悟を打ち負かして欲しくて、英雄の戦う姿を目に焼き付けたくて。

 

 それぞれの思惑を胸にその試合を見るものはナルトを皆応援していた。

 

 ナルトが体勢を立て直して跳ぶように立ち上がると悟が納得いっていない様子で一旦制止させるように手を突き出す。

 

「待てナルト……何でお前も印を……影分身を使わない? 言っちゃああれだが、忍術を使わないとお前と俺とでは差が──」

 

「うっせぇぞ、グチグチ言ってないで構えろってばよ」

 

 悟の制止に付き合わないようにナルトが駆けだすと、悟はため息をついて防御の構えを取る。

 

(ナルトは何のつもりだ……?)

 

 悟が訝しむ中、ナルトは数刻前のとあるやり取りを思い出して歯を噛みしめていた。

 

 

~~~~~~

 

 

 悟が婚約の巻物を賭けた試合を宣言した直ぐあと、ナルトは気を失ったヒナタとシカマルを影分身と共に抱えて移動していた。

 

 ナルトが医療設備やベッドを集めた簡易的な病院として機能させているテントを目指している間に、里の中では既に広まり始めた悟の話題で喧騒が立ち始めていた。

 

 すれ違う人々はナルトに試合に出るように催促したり、日向ヒナタを悟から解放してあげて欲しいと懇願したり……ナルトはそれに何とも言えない感情を抱きつつも期待を裏切らないようにと返事を返していった。

 

 そんな中、ナルトはガイ班の三人と出会う。

 

「……その様子では……広まっている噂は本当のようだなナルト」

 

 ナルトが背負うヒナタの様子を見たネジは認めたくない現実を直視してしまったかのように顔をしかめる。

 

 ナルトも浮かない表情を作るが

 

「悟が……どんなつもりでこんなことやらかしてんのかわかんねぇ……けど何か理由が在るはずだってばよ」

 

 何とか悟の奇行を理解しようと態度で示す。

 

 そんなナルトの様子に、リーはナルトの影分身が抱えているシカマルを受け取り

 

「彼は……昔から僕たちには見えないものを見ていたように感じます……取りあえず今はヒナタさん達をサクラさんのもとへ運びましょう!」

 

 気を失っている2人を心配し先にサクラに診せることを提案した。

 

 リーの行動に促されるように、ガイ班とナルトはサクラの居るテントへと走る。

 

 そんな中テンテンはより表情を暗くして、黙り込んでいた…… 

 

 

~~~~~

 

 

 ナルトらが医療班らのテントにつくと、サクラが驚いたように声を挙げつつそれでもヒナタとシカマルを簡易的なベッドに寝かせるように指示をする。

 

 横になった2人の様子を診察するサクラにナルトが心配そうに声をかける。

 

「サクラちゃん……2人とも大丈夫だよな?」

 

「……うん、目立った外傷もないし内蔵も傷ついてない……本当に最低限の力で気絶させられたみたいね。 ……悟も器用なもんね、流石は暁に居ただけあるわ」

 

 サクラが2人に危険が無いと判断し悟への皮肉を込めた言葉と共にため息を吐く。 そんなサクラの言葉にナルトが表情を暗くすると、ネジは

 

「……ヒナタ様が無事なら問題ない。 俺はこれから悟を止めに行く……リー、テンテン行くぞ」

 

 班員へと声をかける。 しかしハッキリと返事を返すリーとは対照的に、テンテンは無言で暗い表情を浮かべたままであった。

 

「テンテンさん……」

 

 テンテンの感情を察したサクラが心配の声を小さく挙げると、おもむろにテンテンは一つの巻物を広げて忍具を一つ取り出して見せる。

 

 煙と共にテンテンが取り出したのは……悟が使用していた尾異夢・叉辺流であった。

 

「……テンテン、それは──」

 

「そうなのリー……今朝早い時間に暗部のくノ一の人が私宛にって渡してきて……この忍具を渡してきて……事情も聴けなかったけど……今は何となく意味を理解しちゃって──」

 

「……なるほどな……奴が……悟がこの騒動をきっかけに何をしようとしているのか……俺も少し理解ができた」

 

 テンテンの言葉とその忍具の存在に、ネジもテンテンが浮かない理由を察して視線を落とすがすぐに向きなおし

 

「だからと言って何もしないわけには行かない……俺たちは一度悟と戦っている。 奴を知る俺たちが少しでも奴の体力を削れば他の者たちにもチャンスが生まれるはずだ」

 

 そう言ってテンテンの肩に手を置く。

 

「……テンテン、お前の気持ちもわかる。 だが今は……」

 

「うん……分かってる。 ごめん、行こうか……バカの所に」

 

 ネジの説得に、小さく涙を浮かべた表情で……無理やり笑顔を浮かべたテンテンはそう言うとその場から走り去っていった。

 

「……」

 

 何とも言えない空気にリーとネジも、直ぐにテンテンの後を追いその場を後にする。

 

 残されたナルトは一連のやり取りにあまり理解が追いついておらず首を傾げるが

 

「……つまり悟のヤロ―は、今度こそ本当の意味で里を抜けるつもりかもしれねぇってこった」

 

 意識を取り戻したシカマルのその言葉にナルトは首をシカマルの方へと回し驚愕する。

 

「どういうことだってばよ!?」

 

 ナルトの質問にシカマルは悟に殴られた腹部をさすりながら上体を起こして喋り始める。

 

「いつつ……アイツ雷遁チャクラも流し込みやがったな、身体に痺れが残ってやがる……まあそんなことは今はどうでもいいか。 んでナルト、悟の今の状況を鑑みてアイツの狙いは何だと思う?」

 

「狙い? ……うーん?」

 

「……長くなってめんどくせーけど俺の予想を教えてやるよ。 まず……前までのアイツが天音小鳥と名乗って暁に居たのは暁を見張るためと考えて良いだろう。 そのために恐らくサスケの里抜けに便乗してあの時にアイツも里を抜けていた。 その理由は里との繋がりがある状態だと潜入が上手くいかない可能性があるからだろうな……綱手様に前に聞いたが悟の奴は自来也様とお前と一緒に言っていた旅の道中で暁と接触していたらしいしその時に脅威と感じたからそんな行動に出たんだろうが……でだ、奴は事前に建前を作ったりするタイプの人間だってことだ」

 

 そう言ってシカマルは未だに気を失った状態のヒナタに目を向ける。

 

「……名家の婚約の破棄っつーのはめんどくせーもんでな、少なくとも悟を引き入れた側の日向の娘であるヒナタは自分から申し出ることはできないだろう。 破棄しちまえばそれはお家の者たちの判断を裏切ることになるからだ……だが逆に悟側も破棄を願い出ればそれはつまり日向の名に泥を塗ることになる……そもそも婚約破棄のための印鑑はよほどのことが無い限り表に取り出されないものだ。 それが今、悟の手にあること自体イレギュラーってやつだ。 こんな条件下で……ヒナタにも日向にも泥を塗らないで悟が婚約を破棄する方法は──」

 

「自分がどうしようもなく悪い奴だって知らしめる……ってことね」

 

 シカマルの言葉を繋ぐ様に理解をしめしたサクラが呟く。 シカマルもサクラの言葉にうなずくと

 

「まあ、そんな悪い奴を婚約者に選んだこと自体は言及されるかもしれねぇが、少なくともヒナタも日向も同情の目を向けられて婚約破棄の不名誉さはうやむやになるだろう……そんで汚名を背負った悟も奴にとっては後腐れなく里を去れるって訳だ」

 

 結論とばかりにため息交じりで悟の目指す結果と思われる予想を口にした。

  

 しかしナルトはそんなシカマルの解説に納得の行かない表情を浮かていた。

 

「何でだ……長門との戦いで悟は里の皆を守るために命をかけて戦ってたんだろ? そうやって守ろうとするぐらい大切な里を何で抜けようと……」

 

 理解が追い付かずに混乱する頭を抱えたナルトの様子にシカマルは同情の目を向けつつ自分の考えを話す。

 

「思うに……大切だからなんだろうな。 アイツは強い、だからこそ俺ら以上に何かが見えて……何かを背負っちまってんだろ。 だからこそ偽名や変装で己を隠して木ノ葉への悪評を防いでたんだろうが……それでも奴が今回、こんなことを起こしたってことを考えるに……」

 

 シカマルは苦し気な表情で言葉を繋ぐ。

 

「……木ノ葉に対して何かをするつもりなのかもしれねぇな」

 

「何かって……何だってばよ?」

 

 シカマルのその言葉にナルトは疑問符を浮かべるが、背後のサクラは察しの付いた表情を浮かべ恐る恐る口を開く。

 

「木ノ葉も一枚岩じゃない……私たちに()()()()()()()()()を悟はどうにかしようとしてるかもってこと?」

 

 サクラのその言葉が示すことはつまり

 

「悟の奴は、本格的に里を抜け外部の敵と言う立場になって……木ノ葉に攻撃を仕掛けるつもりなのかもしれねぇ……飽くまでも予想だがな」

 

 悟の意図することは木ノ葉との敵対関係を望むという事であった。 シカマルの言葉にナルトは目を見開き、唇を噛みしめる。

 

「……アイツだって木ノ葉が好きなはずだろ?! マリエの姉ちゃんや白だって悟のことを大切に思ってんのに……っ!」

 

 理解の出来ない事柄に苛立ちを露わにするナルト。 サクラがそんなナルトに心配そうに目を向けるが、ふとナルトは食いしばっていた力を抜き脱力する。

 

「ナルト……」

 

「っわかんねぇけど……多分理由があるんだ。 ムカつくけど俺が知らねぇことなんて世の中幾らでもあって……それで苦しんでる奴もいる。 長門がそうだったみてーに、皆なにか事情があって……そうなっちまうんだろうな……んで悟にはそれが見えてる」

 

 伏し目がちな目を正面へと向けたナルトは決心を固めたかのように立ち上がり、テントを出ようとする。

 

「ナルト、アンタ……」

 

 サクラがそんなナルトを制止しようとするもシカマルがその伸びかけた手をベッドから掴み止める。

 

「行かせてやれよ、めんどくせーけど男同士、殴り合いで分かり合える時もあるってもんだ」

 

 柄にもないことをいうシカマルにサクラは

 

「っ違うわよ、今そのまんま向かっても悟には勝てないかもってことよ」

 

 腕を振り払い、身に着けていた医療用のエプロンを脱ぎ首を鳴らす。

 

「サクラちゃん?」

 

 視線が鋭くなったサクラにナルトが少しビビった声で名を呼ぶと、サクラは気合を入れるように拳を掌に叩きつけ爽快な音を鳴らす。

 

「アンタはギリギリまで待ってなさいっ! ちょっとでも悟の奴の体力が減るのを待って……その間に準備を済ませるのよ」

 

 そう言ってやる気を出したサクラは肩を鳴らしながらナルトに近づき、肩を叩くと代わりとばかりにテントの外へと出ていった。

 

 その光景にシカマルは引きつった表情を浮かべた。

 

「男だけじゃなくて、女にも殴り合いが性分な奴がいたな……さてそう言う訳だナルト。 卑怯でも何でも、悟の奴がどんなつもりなのかは飽くまでも予想に過ぎねー以上勝ちに行かねぇといかねぇ。 ちょっとでも勝つ可能性を上げるために作戦考えるぞ」

 

 指だけでナルトに近くに来るように合図したシカマルに、ナルトはサクラの孕んでいた怒気に少しビビりながらもシカマルと悟の対策を練るのであった。

 

 

 そうして話し合う2人に気がつかれないようにひっそりと目を覚ましていたヒナタ。

 

 

(悟君……)

 

 

 悟の心中を察したヒナタは、自分の存在が悟の枷になっていたかもしれないという事実に1人心を痛めていた。

 

 

~~~~~~

 

「おらぁ!!」

 

 気合のこもった掛け声と共にナルトが拳を繰り出すも、悟の柔拳の技術が難なくそれをいなしてしまい態勢を崩す。

 

 明らかに勝ち目の見えない攻防に、ナルトの勝ちを信じるギャラリーがざわつき始めていた。

 

 しかし優勢に見えている悟は内心あまり余裕を持ってはいなかった。

 

(ナルトの奴がわざわざ自分から影分身を縛って戦うなんて……何を考えてやがる? 余りにも不自然な行動だ……実はこっそり影分身を周囲に岩に変化させて配置しているとかあるかもしれない。 腰に下げた巻物と印鑑を不意を突かれて取られたら俺の負けになるし、油断は出来ないな)

 

 飽くまでも負けてやるつもりのない悟は全身にチャクラを巡らせ雷を迸らせる。

 

 雷遁チャクラモードになった悟は日が沈んで暗くなったその場で煌めくように青白く目立つ。

 

「……行くぞっ!」

 

 クレーターを超速で駆け巡り始めた悟にナルトは落ち着いてその場で腰を落として構える。

 

 次第に翻弄するような悟の動きから、ナルトに対して攻撃が繰り出され始めナルトの防御の上から拳が叩きつけられる。

 

 数度の接触で悟は気がつく。

 

(ガードが結構的確にされるな。 仙人モードですらないのに、俺の動きに少しずつ慣れて来てるのか……?)

 

 ナルトが次第に悟の攻撃に適応していく様に、悟は中忍試験での戦いを思い出していた。

 

 当時どういう訳か悟からの攻撃に的確にカウンターを返してきたナルトのことを思い、悟は警戒を緩めないでいた。

 

 一方的に見える攻防も次第にナルトが悟の攻撃を捌き始めついには

 

──ッ

 

「!?」

 

 頬を掠る感触に驚き思わず悟は歩みを止める。

 

 空に突き出されていたナルトの拳を目にして、悟は一筋の赤い線の出来た顔に笑顔を張り付けた。

 

(……仙人モードになった経験がナルトの地の力を強化しているのかもな……雷遁チャクラモードもそろそろ通用しないか)

 

 ナルトの成長に喜びを感じる悟は全力で足に溜めた力を解放し、直線の稲妻の如くナルトへと駆けだす。

 

 止めのように悟は渾身の力を籠め、最速の飛び蹴りを放つ。

 

 

「飛雷脚っ!!」

 

 

 周囲にいる人物は眩い悟の姿が線となって高速で移動した瞬間彼を見失い、光の軌跡を追うことしかできずに視線を動かす。

 

 しかし唯一ナルトだけが悟のチャクラの高まりを感じ取りその飛び蹴りを予測していた。

 

(ネジとの戦いの時にやった跳び蹴り、それが悟の必殺技……!)

 

 ナルトはシカマルとの相談を考慮して既に手を打っていた。

 

『悟の奴は強い敵や、相手の成長を感じ取ると喜ぶ癖見てぇなもんがあると思う。 実際昔に俺たちが演習で戦った時もそんな雰囲気でチョウジと戦ってたらしい……情けないことに俺はその時の事を直接見てねぇがな。 んなことよりも、つまりは奴が嬉しそうに笑顔を作ってチャクラの練りが濃くなった時、何か決定打を打ってくるはずだ。 天音小鳥と名乗ってた時もそういう傾向が見られたしな、そん時に手痛いカウンターを決められれば文句は無いんだが……』

 

 シカマルが言っていたその言葉を胸にナルトは悟が跳び、姿が見えなくなった瞬間に既に目を閉じ……そして

 

 

 瞬時に目の周囲に隈を縁取らせた。

 

 

 既に飛び蹴りの態勢となった悟の高速の蹴りをまるで観察するが如く、ナルトの見開いた目が捉える。

 

 動体視力だけでなくチャクラに対する感知能力もナルトの感覚を後押しをして悟の動きを予測する。

 

 悟の足裏を掠るようにギリギリで躱したナルトの頬に僅かに雷遁が走りそのままナルトは悟の脇をすり抜け、拳を振りかぶった。

 

「ッッッ!!!」

 

 ナルトの声にならない食いしばった声と共に振り抜かれたその拳は完全に悟の無防備な腹を叩きつけ、地面へと打ち付けた。

 

 

 

 周囲の人間は、輝いた悟の姿を見失った次の瞬間にはナルトの足元で音を響かせて地面に埋まる彼を目にすることになる。

 

 何が起きたのか分からないざわめきが拡がるよりも早く、咄嗟に悟が飛び退きナルトに牽制の蹴りを入れるがその脚を掴まれクレーターの外斜面へと叩きつけられる。

 

 パラパラと衝撃に対して砂利が落ちると共に、煙の中に埋まった悟の存在とナルトの優勢にここでやっと周囲の観客たちは歓声を湧き出し始めた。

 

「っ……はぁ……はぁ……」

 

 仙人モードとなったナルトはそのまま肩で息をしながらも警戒を解かずに構え続け煙の先を見据える。 ナルトは分かっていた、悟がこの程度で倒せる相手ではないことを。

 

 ナルトは警戒したまま手に持った()()()()()をポーチへと入れると、突如悟の声が響く。

 

「……ア―――はっはっはっ!!! イヤぁ……やられたやられた……印を結ばないのは俺を油断させる罠か……既に影分身を何処かで仕込んでて仙術チャクラを多量に練らせていたな? それも俺の感知に引っかからないようにウンと離れた場所……それか誰かに結界忍術か何かで存在を隠してもらっていたのか……しかしまぁ滅茶苦茶に効いたぞ、腹への一撃は……っ」

 

 ガラガラと煙の中から、瓦礫を這い出る悟の音が響く。

 

 ダメージは小さくないハズの悟の元気なその声に、観客たちの歓声は一気に静まりかえり悟の声がより響く。

 

「しかもその後のやり取りの間に隙をつかれて印鑑を取られちまったよ……後は腰につけた巻物まで取られたら勝負は俺の負けだが……さて」

 

 ブンッと悟の腕が振るわれ多量の土煙がその一振りで一気に吹き飛ぶ。 姿を現した悟の姿と、その気配にナルトは息を呑む。

 

「……ホント悟ってばよお前……何でもありなんだな……っ!」

 

 呆れたかのような、うんざりするかのような冷や汗を垂らすナルトのその言葉に緑の隈取りが顔に出来た悟が答える。

 

「俺だって何でも出来るわけじゃないさ……ただ

 

 

 

 

出来ることは遥かに多いがな」

 

 

 

 

 仙人モードとなった悟とナルト。 相対する2人はその感知能力によって、より互いの力量を把握して先の手を考え合う。

 

 そして

 

「行くぞ、ナルト。 喧嘩はこっからが本番だっ!!」

 

「来いってばよ悟っ!! オメェのなに考えてんのわかんねぇ頭ぶっ叩いてやる!!」

 

 

 

 現状木ノ葉の里の最高戦力同士がぶつかり合った。

 

 

~~~~~~

 

 

 黙雷悟は思う。

 

(時々、自分じゃない誰かの感情が流れ込んでくる時がある)

 

 それはいつも……戦いの時に感じていた。

 

(そもそも俺は暴力が好きじゃない、なのに時々感じる戦闘に対する高揚感……)

 

 もう一人の自分である黙の物でもないその感情の根本に悟は心当たりがあった。

 

(高揚し、相手が強ければ強いほど……俺は自分を見失うかのように戦いを楽しみ始める……間違いなく……うちはマダラの影響なんだろう)

 

 力を振るい振るわれ、対処し対処される。 そのやり取りに最高の満足感を得る。 悟はたびたび感じていたその感覚の正体にある意味の不気味さを感じていた。

 

(それはつまり黙が……この身体が本当にうちはマダラの血を受け継いでいるとして、俺の言動がその性質に引っ張れているということか? 実際に息子だからとしてそんなこと有り得るか知らないけど、そもそもそのうえで千手の力も持っている以上……俺たちは到底まともじゃないんだろう)

 

 だが

 

 目の前に現れた自分に近い次元の相手との本気の戦いに、満足感を得ているのは間違いではない。

 

(戦いを通しての腹の奥底の見せあい……嘘も偽りもない純粋な力の見せあいは思っていたよりも楽しく……心地が良い)

 

 同じ仙人モード同士の徒手空拳の攻め合いは、しかし仙人モードの質が上回る悟に戦局が傾く。

 

 空を殴り飛ばす蛙組手も、自然エネルギーを扱える悟には有効打にならず逆に、より仙術チャクラを練り扱える悟の身体能力がナルトの上を行く。

 

 それでも諦めないナルトのその姿に悟は心底心を躍らせていた。

 

(これがうずまきナルト……これが──()()()。 どんな困難も壁も打ち破り、未来を明るく照らす存在……)

 

 仙人モードの戦いは一周回って派手さの無い物になっていた。

 

 しかし当に周囲の領域を置いていった2人の組手は、誰にも割って入る余地を残さない。

 

 卓越した忍び同士の戦いで悟はナルトの心に触れていた。

 

 諦めずに、前を向き続ける意志。 多くの者がナルトの背に集い始め、これからもそれは拡がり続ける。 漫画を読んでの知識などなくとも、悟はナルトの事を信用していた。

 

(俺が……俺たちがなにをしようとも、今のナルトなら……世界を良くすることが出来る。 そんな確信を俺に与えてくれる……ナルトがこの先どうするか、漫画の知識などなくても見通せる気がするよ。 だからこそ……っ!!)

 

 

 

 

 ナルトの拳を捌き掴み捻り上げ、出来たすきに肘鉄をくらわして仰け反らせる。

 

「どうした? ここまでなのかお前の実力は……?」

 

 全力の拳の応酬は、柔拳と剛拳を修めている悟に傾いている。 そうでなくとも千手柱間に匹敵する仙人モードの力はそう容易く打ち破れるものでもなくナルトは苦しそうに汗を拭いながらも……小さく笑みを零していた。

 

「へっ……へへへ……」

 

 そんなナルトの零れるような笑い声に悟は訝しむ。

 

「勝てないと悟って自棄にでもなったか?」

 

 ナルトの様子に悟がそう語りかけると、ナルトは透き通ったような青い目を悟へと向け構える。

 

(既に仙人モードが切れたか……)

 

「俺ってば嬉しいんだってばよ……」

 

「……?」

 

 勝負が決したかのように悟が構えを取らずにいるとナルトはフラフラになりながらも悟へと歩み続ける。

 

「どんなに頑張っても……何考えてんのわかんなくて……背中すら見えなかった悟と……こうしてケンカしてっと……何だか悟の事が分かってくるみたいで……ッ」

 

「……」

 

「悟はいつもそうだ……思わせぶりで変なことやキツイ事言ってても……いつも誰かの為に頑張ってる。 俺は……悟にサスケとは違った変な感じを……感じてる」

 

 ナルトはそういうと、脚を止め拳を自分の胸に突き立てる。

 

「兄弟見てぇって思ったこともあったけど……それよりももっと……近い何かだ」

 

「……ああ、俺も薄っすらと感じてるよ」

 

 ナルトの言葉に……悟から完全に素の状態の言葉での肯定が出る。

 

「へへ……まあ、だからこそ……俺は負けらんねぇだってばよ……っ!!」

 

 ニコッと笑顔を浮かべたナルトに悟も小さくフッと笑うと互いに構え合う。

 

「残念だが()()()……俺の勝ちだっ!!」

 

 そう言った悟が駆けだし、拳をナルトの顔面目掛け繰り出す。

 

 仙人モードでのその攻撃を既にナルトには防ぐ手段がなく、その瞳が攻撃を捕えられていないことに悟は気がついていた。

 

(良くやった、ナルト。 お前は成長して、必ずこの忍界を良くしてくれる……今回も婚約の巻物は元々置いていくつもりだったしな……これで心置きなく──)

 

 

 

 

──パンッ

 

 

 

 

 そんな乾いた音がクレーターに響いた。

 

 

 

 

──ナルト君ッ……負けないで!! 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 黙雷悟は本気で動揺を示した。

 

 自身の繰り出したナルトの意識を刈り取るはずだった拳は……()()()()()()()()()()()()に受け止められ軽快な音を鳴らして終わっていたからだ。

 

 悟は自分が勝てるものだと本気で思いこんでいた。 この時点のナルトの限界は仙人モードで終わるはずだと原作の知識があったからだ。

 

 だからこそ……

 

「一度目は中忍試験とやらで……二度目は仙人の傍の小川で……どちらもさっきのような拳に打ち負かされていたなぁ……」

 

 ナルトの身体から湧き出るそのチャクラは、大きな狐の顔を形作ってそうナルトへと語る。

 

「三度目の正直などと言った言葉があるが……さて、うずまきナルトよ。 貴様はここで勝ちを諦めるのか?」

 

 試すかのようなその狐の問いにナルトは……

 

「んな訳ねぇだろ……俺はぜってぇーにっ!!!」

 

 答えの決まっているかのようにその狐の顔は小さく笑みを浮かべると形作ったチャクラはナルトへと向かいその体へと巡り渡る。

 

 チャクラの奔流が悟を吹き飛ばし、周囲を明るく照らした。

 

 太陽のような輝きに思わず悟が手をかざして、ナルトを見る。

 

 

 

 全身を巡る太陽のような色のチャクラは不完全ながら、ナルトの全身を覆い明るく発光していた。

 

 

()()()()()()()()()……?!」

 

 悟は思わずそう呟く。 原作やアニメで見たその姿は不完全ながらも九尾の……九喇嘛の力を制御したものであった。

 

 時折巡るチャクラが不安定な場所でナルト本来の姿を覗かせるも、その輝きは間違いなく悟の呟いたそれである。

 

 ナルトの身体に走る紋様が悟の知るものとは違い一部欠損しているものの、その姿を得たナルトは真っすぐ悟を見据え足を一歩出して拳を作って信念を込めたその言葉を呟いた。

 

 

「……諦めねぇ」

 

 

 その瞬間、ナルトの身体は消え去り悟が動揺する。 次の瞬間には悟が吹き飛び、地面を抉っていた。

 

 既に周囲の認知の次元を超えた戦闘が始まる。

 

 追い打ちに現れナルトに、悟も本気で拳を繰り出す。

 

「っ!!」

 

 間違いなく本気のその拳は空を切り、しかし残像のように現れたナルトの蹴りに再び悟が吹き飛ぶ。

 

 空中で態勢を立て直した悟が地面に接地するよりも早く、ナルトがその背後へと回り込み裏拳を繰り出す。

 

 仙人モードの感知能力をフルに使いそれを察知した悟のとっさの腕でのガードをナルトは裏拳をわざと外しその反動で空いた腹部へと回し蹴りを放つ。

 

「っグうううっ!!??」

 

 予想を超えた衝撃と痛みに悟はうねりながら地面を擦り吹き飛びクレーターに更なるクレーターを作る。

 

 一連のやり取りを周囲の人物は息をする暇もなく見えてはいないが見届けていた。

 

 

「!」

 

 

 ナルトはより多量の自然エネルギーが悟に集まることを感知しその次の瞬間

 

「八卦・剛掌波!!」

 

 打ち出されたチャクラの気弾に対して、自身の背後から伸ばした尻尾のような腕で弾く。

 

 その間に飛び出した悟の全力の蹴りにナルトはガードを試みるも

 

「っな!?」

 

 纏うチャクラの衣の一部が足元から消えたタイミングであったため踏ん張りが効かずに吹き飛ばされる。

 

 そんなナルトを尻目に口から垂れる血を拭いながらも悟が大きく笑い始めた。 

 

 そして、吹き飛ばされたナルトも起き上がると同時に同じように笑い始め

 

 瞬身の術と見間違う速さで互いに近づくとゼロ距離での殴打の応酬が始まる。

 

 片や完璧に近い仙人モードでの全力。 片や不完全な九尾チャクラモード。

 

 ただ、技術もクソもない身体能力だけでの殴り合いは忍術なしに凄まじいものとなっていた。

 

「クソがっ!! このアホっ!!!」

 

「インケンバカっ!! 口足らずっ!!」

 

 途端に始まった次元の違う格闘と、程度の低い罵り合い。

 

 殆どノーガードの戦いに周囲が唖然とする中、しかし

 

 

 殴り合う両者は笑顔を浮かべていた。

 

 

「もっと周りを頼れってばよッ!!」

 

 ナルトの拳が悟の頬を穿つ。

 

「グッ……俺なりによく考えて行動してんだよっ!!」

 

 悟のアッパーカットがナルトの顎を捕えるが、ナルトはそれを僅かにずらして逸らして再度拳を振りかぶる。

 

「サスケもお前もっ!! 意外にバカな癖にかしこぶりやがってっ!!」

 

 しかしそのナルトの拳に悟はカウンターの如く拳を合わせてそのナルトの顔を殴り抜ける。

 

「馬鹿はお前だけだナルトォっ!! 一緒にすんなっこんのッ──」

 

 態勢を崩したナルトに追い打ちを掛けようとした悟に、ナルトが不意に仰け反った頭を振るい頭突きをかます。

 

「ッヅあぁ!?」

 

「うっせぇ!! この──」

 

 鼻血をだし仰け反りながらも悟は拳を固め、ナルトの突き出す右手とぶつけ合った。

 

 

 

「「ウスラトンカチ野郎がっ!!」」

 

 

 

 叫び、罵り合う2人のその戦いにその様子を見ていたサクラが呆れて唖然として言葉をもらす。

 

「ガキか……あんの2人は……っ!」

 

 その言葉に答えるようにいつの間にか傍に来ていた日向ヒナタは嬉しそうにな笑顔で涙を零して

 

「でもとても……楽しそうだね」

 

 そう呟いた。

 

 

~~~~~~

 

 

 精神世界の平原で、黙は呆れていた。

 

「何をやってるんだろうか……雷は」

 

 しかしその言葉に反応を示すかのように声が精神世界に響き渡る。

 

「互いに馬鹿を抱えると苦労するもんだなァ、黙よ」

 

「九喇嘛か……何のようだい?」

 

 顔だけのチャクラ体の姿で黙の前に現れた九喇嘛に黙はジト目のまま目線を向ける。

 

「ナルトもあっちの悟も……存外に馬鹿で阿呆だ。 思って居ることを普通に口には出せずに、こうやってがむしゃらに発散するしか能のない……な」

 

 そんな九喇嘛の言葉に

 

「……僕のあずかり知らないことだね。 僕にはそんな相手は居たことないしね」

 

 と呆れた様子で返事を返した。

 

 その黙の様子にケッと言って見せた九喇嘛は黙へと問いかける。

 

「黙よ、貴様。 雷……アイツに何か隠しているのだろう?」

 

「へぇ……君が察するとはね?」

 

「意外でも何でもない、この悟の身体の中に守鶴とタコ野郎以外の尾獣のチャクラがあれば嫌でも疑り深くはなる」

 

 その九喇嘛の言葉に黙はバレたと言わんばかりの仕草で首をすくめると、九喇嘛に向けて手を差し向ける。

 

「なら話が早い、九喇嘛。 君にも力を貸してもらいたい……また以前の様に分体を寄こして欲しいんだ」

 

 そんな黙の行動に九喇嘛は少しの沈黙の後に

 

「……取りあえず話を聞かせろ」

 

 そう言って黙に催促した。

 

 

~~~~~~

 

(昔から……始めて会った時から悟は俺の憧れの1人だった)

 

 ナルトは殴り合いの最中、過去を想起していた。

 

(数の多さも……相手の強さも関係ない……いつだって悟は、自分のやりたいことを貫き通してきた……それがコイツの忍道だから……っ)

 

 悟の仙人モードも、ナルトの九尾チャクラモードも限界が近いのか互いの拳のスピードが落ちてくる。

 

 顔を、拳を血塗れにしながらもそれでも2人は拳を握る。

 

(俺ってば……昔から悟のそんな強さが羨ましかった……でも気づいたんだ……悟も本当は、そんなに強くわねぇんだって)

 

 互いの拳が互いの顔面を同時に叩き、よろめき距離が離れる。

 

 2人は息を荒くし片膝を突きながらもその眼は相手の眼を捉え続けていた。

 

(それでも悟がこんなにも強ぇのは……誰かの思いを背負って……それに答えようとしてっからだっ!)

 

「はぁ……はぁ……悟ッ……お前に聞きたいことがあんだっ!!」

 

 よろめきながらも立ち上がるナルトのその言葉に

 

「……ッはぁ……何だっ!!」

 

 悟も態勢を直しながら聞きなおす。

 

 ナルトは息を整えて、静かに言葉を呟いた。

 

 

 

「俺たち……友達だよな?」

 

 

 

 笑顔を作ったそのナルトの問いに

 

 悟は……

 

 

 

 

「……じゃないならわざわざこんなことしねぇよ」

 

 

 

 ぶっきらぼうにそういって腰を低く落とす。

 

 悟の右足に仙術チャクラによって強化された雷が纏わり、明らかに大技の前触れを感じさせる。

 

 それと同時にナルトも、右手にチャクラの奔流を発生させそれを球体に形作る。

 

 印を結ばぬ互いの全力。

 

 

 

 

「「行くぞっ!!」」

 

 

 

 2人は同時に駆け出し、互いの技を繰り出した。

 

「仙法・飛雷脚っ!」「螺旋丸っ!!!」

 

 

 

 技のぶつかり合いは巨大なクレーターの中心で起きたにもかかわらずその余波で、外で見守る者たちを吹き飛ばしそうになるほど強烈であった。

 

 腹のそこからのぶつかり合い、2人の叫びと技の衝突が爆音となり遠くまで響き渡る。

 

 通常の螺旋丸であれど尾獣チャクラを元にした今のナルトのそれはより高密度で高圧縮、高回転を持って悟の蹴りを受け止める。

 

(俺の本気の仙人モードの蹴りが……ッ)

 

 あまりの威力に悟が驚きを露わにするも

 

「負けるのは趣味じゃないんでなっ……!」

 

 そう言って持てるチャクラを足へと集中し、螺旋の軌道を形作る。

 

 悟の後方へと流れるように螺旋状の稲妻が迸ると、勢いの増した悟の蹴りにナルトの踏ん張る足が僅かに押される。

 

「っ負けてたまるかってばよォっ!!」

 

 負けじとより一層のふんばりを効かしたナルトが一歩踏み出し螺旋丸を押し出す。

 

 その瞬間

 

 

──互いの技の限界が来た。

 

 

 破裂音を響かせ、ナルトと悟は技の衝突の生み出した衝撃で吹き飛びクレーターの斜面へとぶつかり埋まりこむ。

 

 壮絶なせめぎ合いが終わり、静寂が場を支配すると直ぐに瓦礫をかき分けて這い出る音が2つ聞こえる。

 

 九尾チャクラモードが消えたナルトが、仙人モードが途切れた悟が、互いに瓦礫を這い出した後にすぐに駆け出し互いに拳を作る。

 

 そして

 

 

 悟が何かに気がついたかのように歩みを止めた。

 

 

「ッ……?!」

 

 ナルトがその悟の戦意を失くした様子に驚き、何事かと立ち止まると悟はナルトの左手を右手で指さして左手で自身の顔を覆う。

 

 そのジェスチャーの意味に気がつかなかったナルトが疑問符を浮かべながらも自身の左手に視線を向けると……

 

 

 その手にはガッシリと婚約の巻物が握られていた。

 

 

 それが示すことはつまり……

 

「ナルトの勝ちだ……」

 

 誰かのその呟きと共に、一瞬遅れて歓声が沸き上がる。

 

 

──ワァーーーーっ!!!

 

 

「……っええ!?」

 

 自身が巻物を持っていることに一番驚愕を示したナルトが何だコレとは言わんばかりにまじまじと巻物を見ていると、悟が大きなため息をつきながら地面へと寝ころび……

 

 地面に対して拳を叩きつけた。

 

「~~~~~っクッソォ!」

 

 滅茶苦茶に悔しがる悟の様子にナルトがビクッと体を跳ねさせるも、何が起きているか気づいていない様子でいると彼の頭の中で声が響く。

 

(……悟と単純な力の競い合いでは埒が明かない……それどころか互いに大きな傷を負いかねん……今回は勝利の条件が在ったのだ、それさえ満たせば……お前の勝ちだ、ナルト)

 

 九喇嘛のその語りかけにナルトは

 

(九喇嘛がやったのか……?)

 

 と確認を取る。 そのナルトの微妙に納得の行っていない様子に九喇嘛は

 

(チャクラで模った腕でチョチョイとな……ワシが手を出したことが不満か? そもそも端から向こうは2()()()()()なのだ、ワシが手を出そうが力を貸そうが寧ろそれでお相子というもの……つまりは)

 

 九喇嘛は一呼吸置いてナルトへと言葉を投げかける。

 

 

(お前の勝ちだ、ナルト)

 

 

 九喇嘛からの言葉にナルトが放心していると

 

 一通り悔しがった悟が跳ね起き、ナルトを指さす。

 

「ナルト、取りあえずっ!! お前の勝ちってことにしてやるよっ!! ……その巻物の俺の血印の上に重ねるように日向の印を押せ……そうすれば契約を破棄できる」

 

 負け惜しみ染みた態度で婚約の破棄の方法を説明する。

 

 悔しさが抜けないのか、怒った様子のその悟のジェスチャーと促しにナルトがたじろぎながらも言われるがまま、日向の印を巻物へと押す。

 

 その瞬間、巻物に記されていた悟とヒナタの契約記がじわじわと薄まりそのまま消え去ってしまった。

 

 その後悟が自身の腹を撫で確認するような動作をした後、チラッとクレーターの外周に訪れていたヒナタへと視線を向ける。

 

 ナルトの勝利に熱狂しヒナタに気がつかないギャラリーの中から、ヒナタは悟の視線に気がつき目が合う。

 

 

 ヒナタは気がついた、その悟の視線が……祝福するような幸せを願うような優しい目をしていたことを。

 

 

 次の瞬間には悟はナルトへと向き直り、言葉を続ける。

 

「よし、それでナルト。 お前がその巻物に名前と血印を──」

 

 悟が契約の方法を解説しようとした瞬間

 

 

──ビリ

 

 

 ナルトは力任せにその巻物を破き始めた。

 

 その行動に周囲の言葉が鳴りを潜め、巻物を破き去る音だけが空間を占める。

 

 次の瞬間

 

「何やってんだバカやろーーーっ!?!?」

 

 どこからかシカマルの心底信じられないと言った心からの罵倒が響き渡る。

 

 巻物を破き切って満足したような表情を浮かべていたナルトはその罵倒にビビり思わず体をビクつかせた。

 

 次の瞬間にはシカマルを皮切りにし、その場に訪れていた同期の面々からナルトに向けての罵倒の嵐が巻き起こる。

 

 主な理由はナルトが破り去った巻物は日向という名家の正式な書類の類であり、個々人がそれを破り去ることは国の公文書を破り去ることと同義であるからだ。

 

 突然のナルトの行動に、罵倒の嵐が跳び始め周囲のギャラリーも唖然として言葉を失う。

 

 仲間からの突然の罵倒にオロオロしながら涙目を浮かべるナルトに悟が笑いながら近づき肩に手を置く。

 

「あっはっはっは何で巻物破ってんだよ!!!」

 

「だ、だってこの巻物があんだからヒナタの奴が変な契約だなんだかをさせられるんだろ!? 俺ってばヒナタの奴を自由にしてやりたいと思ったからこんな巻物無い方が良いと思って……っ!」

 

 必死に自分の意図を説明するナルトに悟は涙を浮かべながら笑い、肩をバシバシと叩く。

 

「いーひっひっひ お前はそういう奴だよな、ナルト ホント……期待を面白く裏切ってくれるよ」

 

「ちょっ……痛てぇてば……叩くんじゃねぇよ悟っ!!」

 

 ナルトが悟の手を振り払うと、笑いながらも涙を拭った悟は突如印を結び宙へと浮かび上がる。

 

 その瞬間、ナルトを途轍もない力が襲いその体を向き直させられた。

 

「アンタっ!! 一族の婚約の巻物破き捨てるなんてどういうつもりよバカナルトっ!!!」

 

「さ、サクラちゃぁんっ!? 俺ってば悟に勝ったし、そんで──」

 

「ホントてめぇ……常識ねぇのかよホント……」

 

 サクラやシカマル、キバやシノ、チョウジやいの、テンテンとリー、ネジと行った面々に囲まれサクラに襟を絞め挙げられるナルト。

 

 ワイワイしているそんな面々に向け、オッホンと注目を集めるように宙に浮いている悟がせき込む。

 

「あーちょっとイイかな? 俺から話があんだけど……」

 

 何故か律儀に確認を取る悟に、その場の全員が一応視線を向ける。

 

「あー……お、俺様の目的も阻止されたし、ヒナタと言う婚約者も取られたッ!! こ、こりゃぁもう里にいる理由もないなぁ!!」

 

 物凄くぎこちなくそう言い放った悟に、ナルトを除いた面々は気の毒そうな視線を向ける。

 

 悟が里抜けを意図していることは同期やテンテンらは薄々気づいていたためナルトの奇行でその流れを断たれた悟はぎこちないながらも言葉を続ける。

 

「悟アンタ……本当に里を抜けるつもり?」

 

 何とかテンテンがシリアスな感じでそう悟へと問いかけることで場の雰囲気が丁度良く重くなり悟も真面目な表情を作れた。

 

「ああ、俺が木ノ葉に居る理由はもうない。 俺は……俺のしたいようにさせてもらおうっ!! 新たな『暁』を名乗り、俺は……自由に生きるっ!!」

 

 そういって更に高度を上げた悟は日が沈んだ夜の空に浮かび高らかに叫ぶ。

 

「俺の名は黙雷悟っ!! 今から俺は木ノ葉の抜け忍だっ!! ……じゃあそういうことで」

 

 宣言を終えた悟は、軽く手を掲げて別れのジェスチャーをするとそそくさとその場から飛びあがり夜空の雲の中へと姿消した。

 

 抜け忍を宣言することは真面目に里にとって犯罪者扱いをする理由になるほど重たいものになるのだが…… 

 

 一行はナルトの奇行にインパクトを持ってかれていたことで、悟の抜け忍宣言に驚愕することなくさらりとそれを流してしまった。

 

 再度問い詰められ始めたナルトとそれを囲む集団。

 

 その傍で空を眺めたヒナタは

 

(悟君……ありがとう……そして気をつけて……)

 

 悟の安否を思い、祈りを込めて手のひらを握るのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 そしてすぐ近くの森に、悟はひっそりと降り立つ。

 

 先ほどの場所からそう離れていない位置のそこで悟は辺りを見回す。

 

 すると

 

「待っていました、悟君」

 

 そう声をかけられ悟は声のする方へと体をゆっくりと向ける。

 

 その視線の先には、仮面をつけた白が暗部のくノ一・ミノトを拘束し立っていた。

 

 その様子に悟は冷や汗を垂らす。

 

「おっと……まさかミノトさんとの待ち合わせ場所に白がいるとは……」

 

「これでも僕は優秀な方の忍びですからね……君が里抜けを企てる場合協力者と落ち合って荷物の受け取りをすると思っていました。 現に君は時空間忍術を扱えない、そんな君の必要とするものを運ぶ係がこの方だったというわけですね」

 

 白の淡々とした物言いに、悟は僅かに警戒の素振りを見せつつも

 

「悪いけどその人を放してくれないか、白。 別に白たちにデメリットになるようなことはしないと誓うから」

 

 そうフランクな感じで白へと頼み込む。 その様子に白は笑い声を仮面からこぼし

 

「別に放しても構いませんよ? でも既に抜け忍である君の言うことを素直に聞くのもしゃくですねぇ……♪」

 

 悟を前に、僅かに楽しんでいるかのようにそういうと視線を悟の後ろへと向ける。

 

 そうすると悟の背後から足音が聞こえ……悟が振り返ると

 

 

 

 悟の荷物を抱えた日向ハナビが立っていた。

 

 

 

「っハナビ……?」

 

 悟の漏らす言葉に、小南から譲り受けた暁の衣を畳みその上にポーチを乗せて持つハナビは決心を固めたように瞳を真っ直ぐと悟へと向ける。

 

「この暗部の方を放して欲しければ、ちゃんとハナビと向き合ってください」

 

 背後に聞こえる白の言葉と共に、ハナビは口を開いた。

 

「悟さん……どうしても……里を出ていくんですか?」

 

 震えるハナビの声に、悟はいたたまれなくなりつつも

 

「ああ、俺は里を抜ける必要がある」

 

 確かな信念を持ってそう答えた。 悟の返答を聞きハナビは唇をきゅっと噛みしめる。

 

「……っ」

 

 泣き出しそうなハナビの表情。 それがただ悟が里を抜けることに向けてのだけの感情ではないことに、悟が気づく。

 

 そんな悟の察した表情にお構いなくハナビは口を開いた。

 

「なら……約束をしてください」

 

「約束……?」

 

 ハナビはついには涙を零しながらも、何とか自身の思いを口にする。

 

「絶対に……帰っ……いや……死なないでください……っ!! 何があっても絶対に……絶対にっ!!」

 

 何やら言葉を選んだ様子のハナビに悟は違和感を僅かに覚えつつも、その言葉もハナビの本心であると理解できるため少し屈んでハナビの目線に高さを合わせ頭に手を乗せる。

 

 そして悟はあやすようにハナビの頭を撫でながら

 

「……約束……ああ、約束しよう。 絶対に生きて帰ってくるよ、何が起きようとも何をしようとも……最後には必ず」

 

 まるで自身にも言い聞かせるようにそう呟やいた。 そして

 

 瞬時にハナビから荷物を奪いさると、悟は軽岩の術で再び空へと舞い上がる。

 

「っ!?」

 

「悟くん!?」

 

 ハナビが驚き白も声を挙げる。 そして悟が宙で暁の衣を羽織ると白へと向けて告げる。

 

「白……ていうかミノトさん、2人ともグルだなっ! どういうつもりかは知らないけどっ!!」

 

 そういうと悟は視線をハナビへと一度向け、そのまま空の彼方へと飛び去っていった。

 

 悟の素早い動きに対応出来なかった白は小さくため息をつくとすぐさまミノトを拘束していた手を放す。

 

「……バレてしまいましたか」

 

「そうですね、僕は結構うまく演技できてたつもりなんですが……悔しいですね、ハハハ」

 

 軽い雰囲気で談笑し始めた白とミノト。 するとハナビが硬直している様子に白が気がつく。

 

「あのアンポンタンの悟君が危険な事をしようとしているのは充分にわかりました。 ハナビ、彼の真意……くみ取れ……ハナビ? どうしました?」

 

 あまりにも動きと反応のないハナビの様子に白がハナビを顔を覗き込む。

 

 ハナビは額を両手で押さえたまま、赤面させ体を硬直させていた。

 

 その様子におやおやと白は仮面のしたをニヤニヤさせ顎に手を置く。

 

 ミノトは(若いというのも良いものですね……)と思いつつも野暮なことは言わずにいた。

 

 そして三人はその場から撤収し始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(良く彼女らが結託しているとわかったね?)

 

 上空、雲の上を飛び星空を見ていた悟に黙がそう語りかける。

 

(白が幾ら優秀でも、隠密に長けたミノトさんを捉えるには色々と急すぎるからな……最初は違和感を覚えたけど、ハナビと話をさせる場面を作るための演出だったわけだろう)

 

 悟の解説に、なるほどと納得を示した黙。 すると

 

(逆に俺も聞くが黙、お前本当にハナビに話した内容はあれだけだったのか?)

 

(君の性癖のことかい?)

 

(グッ……ああ、そうだ。 ハナビの様子が明らかにおかしい……何か俺たちのことを知っているような様子にも見えたんだが……)

 

(気のせいだよ、彼女も大好きな君が里から抜けることに心を痛めていたんだろう。 様子がおかしくなるのも仕方のない事さ)

 

(…………そうか。 つーか話は変わるけど九喇嘛の件は……)

 

(ああ、彼なら無事分体を分けてくれたよ。 これで残るは一尾守鶴、彼ら尾獣の力を借りれば……()()()()()()()()()()()()()()のも有り得ない話じゃない)

 

(ああ……そうだな)

 

 自らのこれからの目的を再確認した悟は決意を新たに空を翔けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(黙よ……貴様)

 

(何だい九喇嘛)

 

(雷はお前の思い通りにはならんぞ)

 

(……)

 



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30:怨嗟の慟哭、黙すること一度も無く

忙しくなる前に、なるべく多く投稿しようと頑張ってます。


 悟の里抜けから一夜明け、木ノ葉の里の情勢は著しく変化を見せた。

 

 雷影の弟である八尾の人柱力、キラー・ビーが暁と視られる者たちの襲撃に合い誘拐されたという知らせが届いたのだ。

 

 監視役の者たちが強い幻術を掛けられ記憶をあいまいにされたことで容疑者は絞られてないが近辺地域で暁の衣の目撃情報があり、犯人は暁の手の内の者だと断定された。

 

 二尾の人柱力・二位ユギトに続き身内に被害が生じたことで痺れを切らした雷影は暁討伐の為の五影会談を招集。

 

 その経緯を雲隠れからの使者から説明された火影補佐のシズネは、五代目火影が現在ペインからの襲撃の件で動けないことを説明した。

 

 その話を傍で聞いていた自来也が代わりの出席を求められるも

 

「悪いがワシも忍びは引退せざるを得ない状態でのぉ……ここで静かに綱手の様子を見させてくれ」

 

 そう言い出席を断った。 そうなったことで木ノ葉は綱手の代役を立てるために大名を交えた代表者の選出を行うこととなった。

 

 はたけカカシや、マイト・ガイなどが名を挙げられるがどれも若さや貫禄の無さを理由に選出を渋られ…… 

 

 自身の立候補を行い、大名を言いくるめた志村ダンゾウが火影代理として五影会談に赴くこととなる。

 

 ダンゾウが火影の代理となったことで、里の姿勢は変化を見せた。

 

 一部抜け忍に対する綱手の頃からの甘い対処を失くし、うちはサスケ、黙雷悟の抹殺を許可。

 

 そうした指示を出しダンゾウは五影会談へと向かった。

 

 うずまきナルトは、はたけカカシとシカマルの考察、自身の直感を信じキラービーを誘拐したのはうちはサスケであると予測を立て雷影が誘拐犯に対してどのような処罰を行おうとしているのかを雲隠れの使者を尾行して探ろうとする。

 

 もしうちはサスケがキラービーを誘拐したということは暁の一員となったことであり、その処罰は木ノ葉でするべきだとシカマルは言った。

 

「……もしそうなったら……俺がやるってばよ……今のサスケと戦えんのは多分……俺だけだ」

 

 ナルトはそう言い、カカシとヤマトの協力を経て雷影の後を追う。

 

 

 そして…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

「志村ダンゾウ……か」

 

 うちはサスケの呟きに仮面の男が答える。

 

「雲が動き、五影会談が開かれる……ダンゾウはお前とイタチにとっての仇敵だろう……存分に暴れてくると良い」

 

「……」

 

 サスケはベッドから立ち上がると、黒い外套を羽織り部屋を出ようとする。

 

 そんなサスケに仮面の男は

 

「暁の外套はどうした?」

 

 そう問いかけた。 只の外套を羽織ったサスケに対してのその言葉にサスケは

 

「……この復讐は俺のモノだ。 暁でも……ましてや鷹のものでもない。 俺自身が成すべきことだ」

 

 そう返答したサスケは静かにアジトの部屋を出る。

 

 1人残った仮面の男は次元の歪に姿を消しつつ

 

「それで良い……復讐こそがうちはの道だ……」

 

 そう呟いた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 様々な思いと、事情を持ち雪の降る鉄の国によって五影会談が開かれる。

 

 会談を進行するミフネは五影がそろったことで会談を始めた。

 

「五影の笠を前へ……雷影殿の呼びかけにより今ここに五影が集った……この場を預かるミフネと申す、これより五影会談を始める」

 

 会談は穏便に進むことなく、暁の存在とその利用されてきた歴史。 傭兵集団として各里の戦力となった暁の是非を問う話から、話題はうちはマダラへと移る。

 

 暁発祥の地と指摘された霧隠れ、五代目水影・照美メイは先代が暁に操られていた可能性を話した。

 

 その流れで暁のリーダーがうちはマダラであるという志村ダンゾウの話で場は驚愕に包まれた。

 

 うちはマダラの存在は各里にも当然の如く伝わっている。

 

 うちは一族……その当主であったマダラは、忍び里が出来る以前の歴史で各一族の計り知れない脅威となっていた。

 

 しかしそのマダラが千手柱間と和平を築くことで、忍び里の概念が生まれた。

 

 ルーツであり、伝説上の脅威。 しかし岩隠れの三代目土影・オオノキはその存在を直に目にしている。

 

「今だ生きて忍界の脅威となるとは……本物の化け物が……っ」

 

 そう呟いたオオノキの言葉は、影たちにマダラの脅威を否応にも感じさせた。

 

 その段階で場の進行を務めていたミフネが切り出す。

 

 

 

──世界初の五大隠れ里での忍び連合軍の結成を

 

 

 

 話がそうなると話題は指揮系統の統率、連合軍のトップを誰にするかという流れになる。

 

 

 そして

 

 

「今や人柱力も木ノ葉の九尾だけ……それをどう導くかがカギとなろう……火影に忍び連合軍の大権を任せてみてはいかがか?」

 

 

 ミフネのその言葉によって再度、場が沸き立つ。

 

 

 納得の行かない者たちによる抗議の中、霧隠れの青が違和感を覚える。

 

 話の性急さと、あまりにもミフネが木ノ葉のダンゾウに寄った話をすることで青は右目に移植した白眼によってミフネを観察し

 

 うちはシスイの幻術に掛けられていると看破した。

 

 そしてその幻術を掛けた主に話が向こうとした瞬間

 

「ハローーーー♪」

 

 会談席の中央に、半身の白ゼツが現われ場に緊張が走った。

 

「次から次へとっ!!」

 

 雷影・エーの言葉と共に白ゼツが口を開く。

 

「ここにうち──

 

 

 

 

 

「天音小鳥こと、黙雷悟が侵入しましたよっと」

 

 

 

 瞬間白ゼツが天井から降り立った黙雷悟の蹴りで絶命し、代わりとばかりに名乗り出ながら悟は手を広げる。

 

「どうも」

 

 エーの次から次へとの言葉の通りに、激しく流れが変わる中影とその護衛たちに囲まれた悟は余裕そうに口を開く。

 

「いやぁ……中々濃いメンツがそろっているね」

 

 悠長にそう言う悟に、瞬間的にエーが拳を繰り出す。

 

 しかし

 

「っなに!?」

 

 悟はその拳を軽く受け止めると周りを見渡しながら話を続ける。

 

「日向を狙ったクソ野郎に、鬼人再不斬の由来となった血霧の者たち……塵遁継承者を粗末に扱った頭の固い老人に、僅かに守鶴を宿したままの若造……そして」

 

 悟の眼は朱き光を宿し1人の人物を捉える。

 

 

 

()()()()()()()……っ! クククッついにここまで……っ」

 

 

 

 狂気を思わせる笑顔とドス黒い殺気。

 

 この場の誰もが悟の放つ途方もない殺意に身を震わせ、慄き足を竦ませる。

 

 

 重なり重なり、重く果てしない怨嗟。

 

 その場の忍としての経験を持つ誰もが、命のやり取りをしたことのある誰もがその悟の殺気に怖気づいてしまう。

 

 唯一エーのみが

 

「写輪眼……暁の衣……貴様がビーをっ!!!」

 

 悟の存在をビーの誘拐の首謀者と思い、心を燃やして再度拳を振りかざす。

 

 しかし

 

「五月蠅い」

 

 突如悟の身体から沸き上がった濃い青色のチャクラが巨大な拳を形作りエーを殴り飛ばして会場の外へと吹き飛ばす。

 

「雷影様っ!!」

 

 突如の出来事に、エーの側近が声を挙げるもその数秒の内に影の側近らは霧隠れの青を除いて失神していく。

 

 重苦しい重圧から放たれる殺意。 その果てしなさに声を挙げたダルイもまた気を失ってしまう。

 

 影とミフネ、青のみが意識を保つ中悟は写輪眼による睨みを効かせながら口を開く。

 

「僕はこの先お前たちの敵となるつもりはない……邪魔をしなければ雷影のように手荒に扱うこともない……黙ってみていろ」

 

 そう言った悟は席から立ち上がり冷や汗を流すダンゾウへと歩み寄る。

 

 しかし

 

「貴様……何者じゃぜっ!?」

 

 オオノキのその一言で悟の視線が逸れるとその瞬間ダンゾウはその場から姿を消す。

 

 オオノキに目線を向けた悟はため息をつき

 

「……邪魔をするなと言ったよな……()()

 

 そういって写輪眼の睨みを効かせ、金縛りの術でオオノキの自由を奪う。

 

(この圧……プレッシャー……まるで……マダラ……っ?!)

 

 悟に目線を向けられ硬直したオオノキに

 

()()が無ければ、真っ先に死んでるのは貴様だオオノキ。 かつての貴様の所業……俺は今ここでその首をネジ切って清算しても構わないんだぞ?」

 

 近づいた悟はオオノキのその頬を掴み顔を挙げさせ瞳を無理やり合わせる。

 

 かつてのトラウマに支配されたオオノキが完全に戦意を失うと、彼を掴む悟の腕に砂が巻き付く。

 

「悟……やめろ、お前はそんな奴では──」

 

 我愛羅の制止に悟は

 

「来い、守鶴」

 

 その一言を呟くとその瞬間我愛羅が膝を突く。 急に自身の力が弱まり、立っていられなくなった我愛羅は動揺の視線を悟へと向ける。

 

 そして写輪眼による幻術により、悟の意志が我愛羅へと流れ込む。

 

(暁に抜かれた代わりの守鶴を入れたのは僕だ。 既にある程度の話は守鶴から聞いていただろうけど、こうしてこの場で君のチャクラごと根こそぎこっちに来るよう予め約束していたのさ……安心すると良いよ。 根こそぎとはいっても死なない程度最低限の尾獣の力は残してあげているから、感謝すると良い)

 

「ッ……! ……」

 

 その意思を聞き終えた我愛羅は悟の幻術に屈服し意識を失う。

 

 残されたメイとミフネ、青は歩き始めた悟に何をすることも出来ずにその姿を見送ることしかできず悟が場を離れたことで、やっとのこと気を失ったものの介抱へと向かうことが出来た。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 五影会談を後にした悟は、ダンゾウの後を追いつつ自身の心の内を眺める。

 

(始まりが実質何年前なのか覚えてはいないけど……原初の怒りは忘れたことは一度もない。 最初の僕の人生での……その怒りを)

 

 まだ世界を知らない子供の時、実質一番初めの『黙雷悟』の物語。 その最初の悲劇。

 

(忍びと言う存在さえ正しく認知していなかった自分が木ノ葉崩しで初めてマリエさんを失った時の喪失感……)

 

 世界の理不尽、残酷さに打ちのめされ、それらを守ることさえ出来なかった己の非力さ。

 

(それから何度重ねた? ……始めはマリエさんが居なくなる場面さえ立ち会えず、時には目の前で根の者どもに殺され……)

 

 悟はその幾たびの光景を想起し、歯を噛みしめる。

 

(何度も世界を繰り返し……その原因を突き止めた時、僕は怒りを通り越し……歓喜に打ち震えると同時に、ある気づきによる妙な喪失感を覚えていた

 

 

 

 

──この荒れる心のままに事を成しても……最初の……()()()()()()()()()()()()()()は絶対に帰ってくることはないってことを)

 

 悟は世界を繰り返すことで気がついていた。

 

 転生し、より良い世界を目指そうとも……そこで出会う人物は全て()()()()()を知りはしない。

 

 過去の自分自身の魂を糧に、生き長らえるとともに……その魂の行きつく可能性を潰している自分の醜さにも気がつく。

 

 自分が……世界にとっての異物であることに。

 

(まあ、僕は自身に忍びの才能……うちはの力が宿っていることに気がついたのも後の方だったし……そう思えば何時だって僕は周回遅れの人間だったと思う。

 

 自身と同名の転生者()がいなければ、未だに力を早期に発言することもかなわず……いたずらに魂の寿命を削っていた。

 

 本当に彼には感謝しかない…… 

 

 

 

 

 

 

「お前……悟か?」

 

 

 

 

 

 ふと木々を渡る悟に声がかかる。

 

 悟が振り返ればそこには後ろをついて来ているうちはサスケが居た。

 

 写輪眼を携えた悟はそのままスピードを緩めることもなく、前を向く。

 

「オイっ……止まれっ!」

 

 若干苛立ちまじりのサスケの制止を促す言葉に悟は

 

「はぁ……ダンゾウはこの先に居る。 君の狙いは彼かい? 僕に用でもあるのかな?」

 

 面倒そうにサスケへと語りかける。 サスケは悟の様子の異変に察して写輪眼を発動し……気がつく。

 

「……天音小鳥が写輪眼を持つ者とは聞いていた……そしてその正体がお前であるとも薄々感付いていた……雪の国での任務の時、お前が役者を好んでいたことを聞いたからな。 あの夜、お前が俺と共に居住区に居たのも必然だったという訳だ……だが」

 

 サスケは確かめるように悟へと語りかけた。

 

()()()()()()

 

 そのサスケの言葉に悟は小さく笑い

 

「ご名答、僕は君の知る黙雷悟じゃない。 ……でもそれは些細なことだよ」

 

 そう言い足を速める。

 

「っ……どういうことだ? その殺気……ダンゾウを殺すつもりだろう、何故お前が──」

 

「君の知る僕なら、復讐なんて考えない……とでも? 悪いけど僕がダンゾウを追うのはうちは一族の敵討ちのためじゃない……個人的な憂さ晴らしさ」

 

「止まれ、話を──」

 

「埒が明かないか……」

 

 うんざりした様子の悟は視線をサスケへと向け互いの写輪眼を交わらせる。

 

 その瞬間、幻術空間での2人の対話が始まった。

 

「これで良いかい? ダンゾウも一応実力者だから悠長にはしてられないんだよ」

 

「……この瞳力、イタチよりもっ……!?」

 

 悟の実力の一端に触れ驚くサスケに対して悟は問答無用とばかりに話を進める。

 

「改めて、僕は君の知る悟じゃない……未来からの転生者って奴だ。 未来を知り過去を知る者……」

 

「……っなら俺の知る悟は……何者なんだ?」

 

 サスケの疑問に、悟の背後から同じ顔をした悟がひょこっと顔を出す。

 

「俺も転生者……です。 はい……黙ってて悪かったよ」

 

 後から顔を出した悟の存在にサスケは混乱しつつも

 

「このチャクラの感じ……精神、魂が2つ……分かれているのか?」

 

 自身の感じている感覚を信じて話を理解しようとする。

 

「その通り、君はナルト君より理解が早そうで良かった。 じゃなきゃこうして話すのも億劫だしね」

 

 先に話していた悟はめんどくさそうに肩をすくめる。 未来から来たという悟=黙に対してサスケは疑問を投げかける。

 

「お前……いやお前たちは何者だ? うちはの生き残りなのか? ……敵討ちではなくどうしてダンゾウを狙う」

 

「さあ? 僕の身体の出生に関しては謎が多くてね、まだ全てを知っているわけじゃないけど……ダンゾウを狙う理由なら教えてあげよう」

 

 そういうと黙は幻術世界の場面を塗り替え、蒼鳥マリエの姿を映す。

 

「彼女を奪われたからさ」

 

「……マリエ……さんは、生きているだろう? 何を──」

 

「(さん付けとは意外だね)言っただろう、僕は未来から来た……と」

 

 黙の言葉にサスケは少し考え納得を示した。

 

「少なくともそっちのお前は……()()()()体験をしてきたという訳か?」

 

「そう、そう言うことだよ。 さて実は僕たちも君に聞きたいことがある。 そっちが質問攻めしてきたんだから答えてくれるよね?」

 

「何だ……っ?」

 

「君の目的さ。 うちはイタチを打倒し、今何を思う? 木ノ葉への復讐かい?」

 

「俺は……全てを知りたいだけだ……うちはだけでなく、他の奴らの事情と言うやつを……復讐をするかどうかはその後に決める」

 

「……生粋の復讐者だと思っていたけど、これは意外だね」

 

「……知るためなら、何でも利用する……それだけだ。 仮面の男、マダラも俺が復讐にしか興味が無いと勘違いしているが飽くまでも俺は……俺の眼で忍界を、世界を知りその先をどうしたいかを決めようとしているだけだ」

 

 サスケの信念の灯った目に黙は面白そうにした。

 

「……で、今はダンゾウ本人にイタチの真実を本当かどうか聞き出そうという訳かい?」

 

「ああ、その通りだ……そのために五影会談に忍び込んだにもかかわらず、急に警備が荒れだして仲間とはぐれちまったが……お前たちのせいだったか」

 

 迷惑そうな表情を浮かべたサスケに黙は

 

「まあ、確かに君があの場に来ていたことも少しは考慮していればよかったね。 ……今の君がどこまで復讐に身を落としているのか、あの場に来るのかどうか分からなかったから少々手荒になってしまったけど、結局あの後マダラが戦争の布告をすることでより荒れることになる。 些細な差だね」

 

 反省の色を若干見せつつ、情報を小出しに伝える。

 

「マダラが……戦争を?」

 

「今、君はマダラと協力関係のあるんだろう? 八尾は……本当は狩っていないんじゃないかい?」

 

「……ああ、八尾の人柱力とは奴をあそこから逃がす代わりに分体を寄こす用要求して交渉した。 ……イタチの目によって今の俺は以前よりも強くなった、力で制することも出来たがマダラの計画を素直に完遂させては面倒なことになりそうだったからな」

 

「逃がすねぇ……まあ、彼の場合退屈しのぎに外に出たいってだけだと思うけど……君が話の分かる人間で良かった」

 

 安堵の表情を見せた黙。 その脇で同じく安心した表情を浮かべている雷に対して、サスケは視線を向ける。

 

「そっちの……俺の知る悟」

 

「呼び方……ま、いいけど。 何かようか?」

 

 雷へと語りかけたサスケは視線を鋭くして

 

「お前は……初めからイタチの真実を知っていたのか?」

 

 問いただすような口調でそう述べた。

 

 その言葉に雷は申し訳なさそうな表情を浮かべ

 

「まあ、概ね。 だからこそ、あの悲劇をどうにか出来ないかと足掻いたし……何も知らないサスケが盲目的にイタチさんを殺すことも避けたかった……出来れば兄弟での殺し合い自体してほしくはなかったけど……俺がそれを望むのとイタチさんに強要するのは違うからな」

 

 サスケが望むであろう答えを返した。

 

「……昔、俺のことを導くのは違うだのうだうだ言っていたのは全てを知っていたからの発言……未来からの転生者という与太話も嘘ではないってことか」

 

「イヤごめん、俺は未来からじゃなくて別の異世界から来たんだ」

 

「っ……ややこしい……お前の由来などそんなことは俺にとってはどうでもいい。 お前たちの言葉からすれば……本来の俺はこのタイミングでダンゾウを殺す……そうなるんだろう? なら何故──」

 

 サスケが自身の抱いた疑問を口にしようとしたとき、黙がさも当然のような調子で話に割り込む。

 

 

「ずるじゃないかい……君だけ」

 

 

「……?」

 

 疑問符を浮かべたサスケに黙はそのまま話を続ける。

 

「僕は数え切れないほど、志村ダンゾウに対して復讐心を募らせ……後悔と無念を抱いて生きてきた。 だけど、どの世界でも、どれだけ繰り返しても必ず君が志村ダンゾウを討っていた……僕にその実力はなかったし、まあ本当に毎回誰が殺してたかなんて確認出来ていたわけじゃないけどね。 ……だからこそこの最後の一回だけ、僕に復讐を譲ってくれてもいいじゃないか」

 

 明るい調子で、笑顔でそんな話を語る黙の様子にサスケは一種の狂気を感じた。

 

 譲ってくれてもと言いつつ、絶対に譲歩する気の無い威圧感。 

 

 邪魔をするなら容赦はしないというプレッシャー。

 

 サスケが冷や汗を垂らしたとき、サスケは雷へと話を振る。

 

「……お前は復讐を是とするのか?」

 

 そのサスケの言葉に雷は決まっていたかのように口を開く。

 

「……俺の、黙雷悟の忍道はあの頃から変わっていない……『成したいことを成す』……もちろんこの忍道には障害が付き物だが──」

 

「俺の判断がどんなものであれ、応援するとかつて言ったあの言葉は噓なのか?」

 

「嘘じゃないさ……ただ一度も……

 

 

 

 

──俺の目的を諦めるとは言っていない」

 

 

 

 

 瞬間、現実世界へと意識が戻ったサスケに2人に分かれた黙雷悟の1人が襲い掛かる。

 

「っ!?」

 

 組み合った悟とサスケは木から落ち、茂みへと身を落とす。

 

 残された悟の1人は真っすぐと朱い目を正面へと向けたまま、目的の為に進み続けていった。

 

 

 

 

 木から落ちた悟とサスケは互いに態勢を整えて向き合う。

 

「お前……っ!」

 

「もう一人の僕は、僕の気持ちを汲んで今回の件を任してくれるつもりだ。 悪いけどサスケ君、君にはここで大人しくしていてもらおうか」

 

 単純にクナイを構えた悟の様子をサスケは写輪眼で観察する。

 

(只の影分身か……こんなもので俺の足止めのつもりに──)

 

 瞬間背後からサスケを羽交い絞めにするもう一人の悟が現われ

 

 

 

 

──封印秘術・黙雷

 

 

 

 サスケの身体の自由が奪われる。

 

 呼吸すら出来ないほど全身が麻痺を起こしたことでサスケは動揺する。

 

 目の前に立つ悟の影分身が申し訳なさそうにして薄れ行くサスケの意識へと語りかける。

 

「恥ずかしながらこの術は未完成なんだ。 周囲の自然エネルギーを自動で取り込みつつ強烈な、けれど静かな無駄のない電流によって敵を確実に拘束する術なんだけど……欠点として一度発動すると僕たちにはもろもろの制御することが出来ない。 具体的に言えば痺れ具合とかも調節できないし、発動した僕自身が自然エネルギーを取り込み過ぎて動けなくなるしで最終的に自爆しちゃう。 それに封印式の準備にも相当な時間がかかる上にゼロ距離じゃないと発動しない。 けれどまあ……準備のための時間は充分稼げたし、影分身が出せる出力程度なら君も死なないだろう……多分」

 

「っ……はじ……め、か……っ!!」

 

「君が着いて来ていると気づいた時から準備していたさ。 ……まあ、君には申し訳ないとは思っているけど……一応僕もうちはの血を引いているみたいだし、それで一族としての敵討ちはなされると納得してくれたまえ」

 

 それじゃあ、とサスケの目の前の悟が姿を消すとサスケは全身を襲う電流に抗おうともがくも

 

(……っ影分身の悟の組んだ封印式が、俺の身体のチャクラさえも利用して電流に変えていやがる……っ!)

 

 八方塞がりの状態、息も出来ぬ状況に手を伸ばすも辛うじて保っていた意識を保てずにサスケは気を失ってしまった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「っここまで追ってくるとはな」

 

 既に鉄の国の国境沿いへと至り雪景色が見ることも出来ない場所でダンゾウは立ち止まる。

 

 川の上に建つ石造りの巨大な橋を跨いで、ダンゾウは追ってである黙雷悟と向かい合う。

 

「どうやら、本当に貴様の狙いはワシだけのようだな……黙雷悟よ」

 

 逃げることを諦めたダンゾウはゆっくりと自身の羽織る着物を一部脱ぎ右手の拘束具を露わにした。

 

「心当たりはいくらでもあるだろう、ダンゾウ。 ……部下すら見捨てて1人逃げ出すお前はとても滑稽で眺めているのも悪くはなかったけど、時間を与えすぎて余計なことされるのも癪だ」

 

 悟の写輪眼による睨みに、ダンゾウは内心その殺気に言い知れぬ恐怖を感じつつ拘束具を外す。

 

「蒼鳥マリエか、あの白とか言う氷遁の忍びについてか……はたまたお前自身についてか。 ヒルゼンの息のかかった者どもに正しい力の使い方を示そうとしたまでだ」

 

「正しい力の使い方……?」

 

「自己犠牲……それが忍びだ。 マリエはその塵遁という力を腐らせ己の持つ恐怖心に負け、忍びとしての心を失っていた。 それを有効活用しようとしたまで」

 

「……っ」

 

「そして木ノ葉崩しでその持て余した力を暴走させ、さらなる危機を煽った。 そんな木ノ葉にとっての足で纏いを始末しようとして何が悪い」

 

 開き直ったダンゾウの態度に悟はその瞳を強く閉じ口を噛みしめる。

 

「只の殺人兵器であった亡が、下らぬ感情を持ったことでとんだ腑抜けになったものだ。 ……だがお前と言う存在を見出したことには感謝せねばなるまい。 まさかうちはの血を引く者があの夜を越え生きていたとはな」

 

 明らかに感情に支配されている悟をダンゾウは煽る。 忍びとは冷静さを欠けばそれが致命的な隙となる場合もある、忍びらしくダンゾウは目の前の敵に対して自身の取れる最善を尽くす。

 

「優秀な写輪眼をこうしてまた補充できる」

 

 嘲笑うかのような表情で、印を結ぶダンゾウ。 その瞬間

 

 

 

 

 ダンゾウは血飛沫を上げ、絶命する。

 

 

 

 

 人の身体からこれほどまでの血が出るのかという疑問を感じさせるほどの血飛沫は、悟の顕現させた須佐能乎が彼を握りつぶすことで周囲にまき散らされる。

 

 目にした写輪眼で、須佐能乎の手の中を見つめる悟は淡々と呟く。

 

「まだ終わりじゃない」

 

 その言葉と共に、肋骨と右腕の骨だけで構成された真っ青な須佐能乎が裏拳を放ち、肉塊を捉えて砕く。

 

「まだだ」

 

 須佐能乎の握りこぶし橋を叩き、三度目の血飛沫を挙げる。

 

「八坂ノ勾玉」

 

 次に須佐能乎の掌から放たれた巨大な勾玉が石橋を架ける崖の一か所を穿ち4度目の血飛沫を挙げる。

 

「……」

 

 それから数度、悟が何もない所を攻撃し血飛沫を挙げること1分ほど。

 

 突如攻撃の手を止めた悟の正面に、息を切らし汗を滝のように流すダンゾウが姿を現す。

 

「……丁度1分……いいね、ほんの少しだけ気が晴れた気がするよ」

 

 血濡れになった悟は目の前で現れたダンゾウへと写輪眼を向ける。

 

「ほら次だ」

 

「っ……?!?!」

 

 何かを催促する悟にダンゾウは、焦りながらも印を結び……結び終えた瞬間。

 

 

──ドッ

 

 

 須佐能乎の手が持つ巨大な刀に腹を貫かれ、ダンゾウは血を吐く。

 

 絶命していないダンゾウに対して悟は

 

「最高の気分だ……っ!」

 

 歪んだ狂気的な笑顔を浮かべ、身を震わせる。

 

「っ……風遁──」

 

 隙を感じたダンゾウが印を結ぼうとするも

 

「臭い口は閉じてろ」

 

 須佐能乎の刀が振るわれダンゾウの半身が分断される。

 

 その遺体が幻のように消え去った瞬間、悟は跳躍し

 

 石橋の下に向かって須佐能乎の拳を放つ。

 

「逃がすわけないだろ」

 

 川の中から魚を生け捕りにしたように須佐能乎に掴まれたダンゾウが姿を現す。

 

「き、貴様……イザナギを……知って……っ!」

 

 ダンゾウのその呟きに答えるように、再度悟は須佐能乎で彼を握り殺す。

 

「今この瞬間、お前は僕の怨嗟をぶつけるためのただの的だ。 自身の死すら書き換え夢のようになかったことにする究極幻術イザナギ……力の差がこうもあるとまるで意味を成さないな」

 

 その言葉を現実にするように、姿を現したダンゾウは印を結ぶ暇すらなく悟の須佐能乎の手によってその命を絶たれる。

 

「……後何回、お前を殺せるだろうか……精々僕を楽しませるよう必死に踊れ」

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 まるで1分間の間にどれだけ殺せるか、それを楽しむように振るわれる悟の暴力にただダンゾウは死を繰り返すのみであった。

 

 彼自身が卓越した忍びであれど、完全に容赦のない悟の須佐能乎の攻撃が驚異的な感知スピードによってイザナギによる死からの復帰に合わせた瞬間に合わせられることで抵抗をする暇もなく幾たびも鏖殺される。

 

 ダンゾウの右腕のストックが半分を切り、イザナギの効果が切れたタイミングで悟の攻撃の手が止まる。

 

 身体的なダメージが零にもかかわらず、ダンゾウは百を超える死の体験に精神を摩耗させていた。

 

 そんな既に息絶えそうなダンゾウに対して悟は

 

「……おい、まだ目のストックがあるだろう」

 

 次のイザナギを発動するようにダンゾウへと威圧を続ける。

 

「っ……貴様のような存在は……世界を……木ノ葉を滅ぼすだけだ……ワシは……こんなところで……っ!」

 

 気力を振り絞るダンゾウが、イザナギとは別の印を結ぼうとする。 が

 

「未だに己の正義を語るか」

 

 呆れたような悟の言葉と、その写輪眼による幻術がダンゾウを襲う。

 

「っ……グッ!?」

 

 腕が石に覆われ、動かすことが出来なくなったダンゾウは自身が幻術に掛けられたことを察知するも気力の低下の影響もあり解術が出来ない。

 

 そんなダンゾウに悟は

 

「お前は改革者でもなんでもない……ただの世界の膿だ」

 

 そう言い放ち歩き距離を詰める。

 

「お前の思想、行動全てが無意味で醜悪……何故お前が生きている? なぜ猿飛ヒルゼンを貶せる?」

 

 問い詰めるような悟の言葉が続く。

 

「自己犠牲など他人に強いるものでも、増してや望むものでもない。 それはお前が一番理解しているハズなのになぁ? 二代目火影の意志を踏みにじるのはそんなにも楽しいか?」

 

「ッ何を……?!」

 

「マリエさんも、他の人間も……お前の下らない夢を叶えるための駒なんじゃない。 なのにお前の……臆病者のお前のせいでどれだけの命が失われ、これからも失っていくのか……考えただけで気分が悪くなる」

 

 ダンゾウを無造作に蹴り倒し、その倒れたダンゾウの瞳を悟は覗き込む。

 

「その右目も、右腕も、右腕に埋まる写輪眼の数々も……本当に木ノ葉だけを守るために必要な物か? 他人の足を引っ張り続けてよくそんな木ノ葉を守るためだと大層な事を言えたものだな。 うちはイタチにシスイ、そして猿飛ヒルゼン。 薬師ノノウに蒼鳥マリエ……長門に小南に……お前が強いてきた犠牲は何時も本当の平和を願う者たちの歩みを邪魔する」

 

「黙れっ……」

 

「犠牲が忍びの本分であるなら、なぜお前は生きている? 根という暗部を自称する存在がなぜ木の葉である者たちを犠牲にして悠々としていられる? ……お前は所詮、囮に志願する勇気もないただの人間だ、忍びを名乗るのもおこがましい」

 

「黙れェっ!!!」

 

 叫ぶダンゾウが幻術を跳ねのけ、イザナギを発動する。

 

 その瞬間幻術の先、現実の悟の姿を目にしてダンゾウは絶望を表情に浮かべる。

 

「今までが僕の本気だったとでも勘違いしてもらっては困るな。 これが……うちはの神髄……〈完全体・須佐能乎〉だ」

 

 石橋の高さに膝を置くほどの高さを誇る、チャクラで出来た濃い青色に染まった鴉天狗の巨人が万華鏡写輪眼を発現させた悟と共にダンゾウを見下ろしていた。

 

「さあ、最後まで踊れ」

 

 その瞬間、須佐能乎は手に持った大太刀を振るい暴れはじめた。

 

 ……まるで赤子の癇癪のように、延々と。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「偉そうに説教したけれど、実は僕もそんなに……いやまともな人間じゃない」

 

 周囲の山々が消え去り、川が辛うじて残る。 そんな先ほどまでの地形を想起させることも困難にするほど、瓦礫と木々の破片で更地になっている場所で石橋の破片に腰かけた悟は口を開く。

 

「……少なくとも、この場所を記した地図は書き直ししなくてはならないだろうから後の人には苦労を掛けるしね」

 

 そんな瓦礫の上から、足元で辛うじて息をしているダンゾウに向け悟は語りかける。

 

「互いにろくでもない人間同士、さっさと死ぬのが世界の為だろう」

 

 そう言って悟は手に構えた須佐能乎の太刀の切っ先をダンゾウに向ける。

 

 その瞬間

 

 悟に目掛け降り注ぐ手裏剣。

 

 しかし悟は造作もなくそれらを太刀で払うと、それらを投擲した主へと目線を向ける。

 

「ああ、もう来たのか自称マダラ……宣戦布告はすんだのかい?」

 

「何故それを……それに貴様……万華鏡写輪眼に須佐能乎……それにこのチャクラの色……」

 

 仮面をつけた男は悟に警戒を持った眼の色で写輪眼を向ける。

 

「悪いけどこの男の始末は僕のモノだ。 シスイの目が欲しいんだろうけど──」

 

 悟は腕を振るいダンゾウの身体を細切れにして行く。

 

「っ……」

 

 その様子を眺めることしかできない仮面の男を尻目に、悟は血だまりだけを残すようにして腕を止めた。

 

「裏四象封印はとっくに解除させてもらったから、これで志村ダンゾウの生は完全にお終い……これで僕の目的も残り2つだ」

 

 血濡れで爽快な笑顔を浮かべている悟に仮面の男は問いかける。

 

「黙雷悟……お前は一体……何者だ?」

 

 その問いかけに悟は

 

「……さあ?」

 

 そう言い残して空へと飛びあがっていった。

 

「……」

 

 釈然としない感情と、正体不明の敵の出現に仮面の男は言い表せぬ不安感を抱えただ立ちすくむ。

 

 その後、その場に意識を取り戻したうちはサスケが現われ……うずまきナルトもまた姿を現す。

 

 そんな後のやり取りに興味が無いとばかりに悟は雲の上へと姿を消した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 黙雷悟の精神世界で、寝息を立てている雷を尻目に黙は8匹の尾獣の分体たちを前に立つ。

 

「随分とハデにやったもんだな……」

 

 九喇嘛の引いた表情と態度に黙は

 

「まあね、雷にはその分かなり負担を肩代わりしてもらったから当分意識を取り戻さないだろう……」

 

 そう答える。 九喇嘛は

 

()()()狙いだったんだろう? 怨嗟を晴らすのを建前に、そっちの悟を弱らせるのも」

 

 いけ好かないといった感じで黙を睨む。

 

「積年の恨みも晴れた……訳じゃないけどかなりスッキリしたよ、復讐をするのも良いものだね。 ……九喇嘛、君が僕のやることが気に喰わなくてもそれでも僕の目的の為には、君たち尾獣の力が必要だし……君たちも()()()に会えるから、僕の呼びかけに応えて力を貸してくれるんだろう?」

 

「……チッ」

 

 納得の行っていない様子の九喇嘛に黙はやれやれと言った様子で肩をすくめる。

 

 しかし表情を真面目な物へと変え宣言する。

 

「さあ、行こうか……目的地は心象世界の奥地へと至る場所……〈真実の滝〉へと」

 

 寝息を立てる雷に、申し訳なさそうな顔を一瞬浮かべた黙はそのまま現実世界へと意識を戻し、目的の地へと向かうのであった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「封印秘術・黙雷」
 
 黙雷悟が蒼鳥マリエの分体を封印していた部屋と、雑貨屋で手に入れた封印術の術式を研究して開発した封印忍術。

 封印術に長けたうずまき一族、うずまきクシナの痕跡から組み立てた封印術式は余りにも制御の困難性を抱えていた。

 術式を自身の身体に展開し、相手に接触するとことで効果が発動。 自分と相手のチャクラを電流に強制的に転換させ互いを強烈に麻痺させ動きを縛る。 さらに動けなくなることを利用し自然エネルギーを強制的に取り込み続ける術式も追加されていることで実質半永久的に相手を縛る。

 術の効果により成功すればどんな相手でもその動きを縛りチャクラを使わせることも出来なくするが、任意での解除は出来ず自然エネルギーを集め続けるため黙雷悟の場合、その内自然エネルギーを制御できず自身の身体をただの樹木へと変えて絶命してしまう可能性を秘めている。

 常用するには発動に時間もかかりチャクラもそれなりに使い、相手が複数であれば術の最中は自分も無防備になるため汎用性の良くない封印術である。

 
 


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0+31:「もしも転生したら現状確認は怠らず」

 黙の記憶を覗いたあの日、あの時から俺は何時しかそういうタイミングを作れるように機会を伺っていた。

 

 俺自身が志村ダンゾウを許せないと思う感情以上に……アイツが抱えている感情の厚みを想像して……いや正直想像もつかなかったのが本音だ。

 

 俺が黙雷悟として、天音小鳥として戦い、行動してきたのは自分の価値観に従ってのこと。 それも全て転生するきっかけとなった少女を助けた時に感じた後悔をもう二度と俺自身が感じないように……俺がしたいことをして……後悔しないように。

 

 だからこそ、黙の提案に俺は何も言わずに協力をした。 それにサスケの代わりにダンゾウを殺せばサスケの罪状も軽くなるはずだ……漫画の最終場面を知らなくても漫画でのサスケがヤバい罪状抱えまくってんのは理解できるし……今はもう人のこと言えない立場だが、()()()()()()()()()()

 

 

 なんせ俺たちの身体はかなりの限界が来ている、黙の最終目標である未来に現れる死んだハズのうちはマダラの打倒のためにはギリギリのラインだとも思う。

 

 

 うちはマダラと千手柱間の力……写輪眼と仙術……強力な力だがその代償はやはり小さくもないようだ。

 

 使えば使うほど、自分が強くなるのを感じるとともに……前世で死んだときに感じた『死にゆく感覚』が色濃く背を伝うのが分かる。

 

 この身体に施された封印術とやらももうほぼ機能していないのだろう。 黙が繰り返した輪廻で力を発現できなかったのもその封印術が機能していたから……それも俺が八門遁甲を使うことで早い時期に無理やり綻びを作って壊してしまったから今の力がある。

 

 明らかに俺たちの力は意図されたもので……制御も試みられている。 黙には悪いけど、俺たちの正体はきっとろくでもないものだと思う。 だけどそんなことは今更気にしないだろう、だって…… 

 

 俺たちには大切な人たちがいる……それだけで十分だと知っているからだ。

 

 …… 

 

 この先出来る限りの命を救うために……この命を燃やすために……未来でマダラが現れるのを待つよりも第四次忍界大戦の時に、確実にマダラを殺す方が良いと思う。

 

 ナルトとサスケによって十尾……カグヤを封印されたマダラは死ぬはずだ……だが何らかの方法で生き残ったのか……それとも三度生き返ったのか……わからない。

 

 けれど、俺の知らないマダラの脅威が……未来を襲う以上何もしないわけには行かない……

 

 必ず……俺たちが…… 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 雷は水の流れる音を聞いて目を覚ます。

 

「ここは……?」

 

 自身の記憶が、志村ダンゾウを蹂躙する黙を支えている時点で途絶えていることに気がついた雷は自分が今何処にいるのか把握しようと辺りを見回す。

 

 正面には滝が流れ、自身はその滝つぼの中州にある円形の草地に横たわっていたことを理解した雷はここがどこだか、直ぐに思い当たる名を口にした。

 

「真実の滝……? 確か原作でナルトが九喇嘛の力を扱うために修行する……」

 

 そう呟いた雷は身体を起こして違和感を覚える。 動作によって生じた違和感とは……自分1人分の物であり、内に黙を感じない……というよりも自身の精神世界に潜れないというイレギュラーであった。

 

 警戒を露わにした雷はふと、滝の中から割って出るように姿を現す人影に気がつき注視する。

 

「……お前は……? ……ッ!?」

 

 その人影とは……自分であった。 滝から現れた黙雷悟の姿をしたその人物は、濡れた髪を乾かすように頭を振るうと…… 

 

 写輪眼を露わにして雷を見つめる。

 

 もう一人の自分の出現に雷は始めこそ動揺を示したが、直ぐに今いる場所の特性を理解し……そこからの発展形を予想する。

 

「……黙か?」

 

 その問いかけに

 

「思っていたよりも目を覚ますのが早かったね……」

 

 黙は仕方がないと言った様子で雷へと声をかけた。

 

「ダンゾウはどうなったんだ? ……あの後ここに寄る予定なんてなかったはずだぞ」

 

 自身の計画との齟齬と状況に、雷は黙に対して警戒の色を見せる。

 

「……さては九喇嘛か……他の尾獣たちの仕業か……?」

 

 黙がブツブツとそう呟く中、雷は薄々感じる得体の知れない存在感を感知し……身構える。

 

 その瞬間、悟の居る中州を取り囲むように滝つぼの水面に9匹のこじんまりとした尾獣たちが姿を現す。

 

 雷の正面に居る黙は姿を現した尾獣たちの中から雷の背後に立つ九喇嘛へと睨みを聞かせた。

 

「君の仕業かい九喇嘛? 雷にチャクラを分け与え、回復を早めたのは……ッ」

 

 計画を邪魔されたと言わんばかりの苛立ちを珍しく見せる黙のその言葉に九喇嘛は

 

「フンッ……筋を通さねぇのが気に喰わんだけだ……それに雷を目覚めさせたのは()()()の総意だ」

 

 そう言って他の尾獣たちに目線を向けた。

 

 何が起きているの1人蚊帳の外の雷が混乱していると、尾獣たちの中から一匹、八尾の牛鬼が彼に声をかけた。

 

「混乱している様だが、お前はアイツの思う壺になるところだったということだ。 ……ああ、今更俺の自己紹介は要らないだろう?」

 

「牛鬼……?! 何で……まだ会いに行く予定じゃないはずだ……それに思う壺って……どういうことだ黙!?」

 

 雷からの問いかけに、黙は苦虫を嚙み潰したように表情を歪ませ唇ギュッと閉じる。 苛立ちを隠す素振りも見せない黙のその様子に雷が一種の不気味さを感じ始めると、観念したように黙は大きなため息をつきながら天を仰いだ。

 

「…………これも、因果応報って奴……だね。 ()()()()()()()()()()のは、君たち尾獣もお好みではなかったってことか……全くッ」

 

 そう言い黙は、ひどく落ち込んだ様子の表情で雷へと目線を向ける。 状況を飲み込めていない雷だが

 

「……何か事情があるんだな? ……ゆっくりでいいから俺に話して──」

 

 黙の動揺具合に心配して手を差し伸べようとするが

 

──バチンッ

 

 黙はそれを払いのけると、涙を流しながら後ずさる。

 

「ッ黙、お前……」

 

「そうやって君が……君が優しいのがいけないんだ……ッ」

 

 恨めしそうに雷を睨みつけた黙は、震える声のまま独白を始める。

 

「始めはただ利用するつもりだっただけなのに……どうして君は……っ!!!!」

 

 黙の叫びに尾獣たちは一度姿を消しさり、その空間には黙と雷だけになる。

 

「黙……」

 

「……ああ、確かにそうだ。 九喇嘛や彼らの主張の通り君は知る権利がある……雷、君がこの世界に来た真実を……」

 

「真実……? 俺は一度前世で事故で死んでそれから──」

 

「僕は……()()()は君に幻術をかけ、記憶に制限を掛けているんだ……こうなった今、その記憶を解放しよう……そして……僕の所業も知ってくれ……」

 

 気を落とした黙が万華鏡写輪眼を発動し、雷と視線を合わせる。

 

 その瞬間……雷は……黙の言う〈真実)を把握した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 黙雷悟が転生を数え切れないほど繰り返す……そんなあるとき。

 

 彼は幾たびの転生の始め、赤子の自分が蒼鳥マリエに引き取られ意識を覚醒させる僅かの期間……とある人物と必ず接触をしていた。

 

 

 

 

 

──我は安寧秩序を為す者……。名をハゴロモと云う。

 

 

 

 

 お決まりの自己紹介……幾百幾千と聞いたその名乗りに……悟は……無表情で答える。

 

「……まただ……僕は何もできない……中途半端な力だけ付けても……どれだけ実戦経験を積んでも……圧倒的な力の前に……何もできない……」

 

 絶望に苛まれるように……魂の揺蕩う世界で黙は弱音を六道仙人・ハゴロモその人へと漏らす。

 

 すると悟から一筋の細い光がハゴロモへ伸び、それを吸収したハゴロモは顔をしかめる。

 

「なるほど、お前の事情を今一度把握した……と言われるのも数え切れぬほどとなれば辟易するだろうな。 此度も世界はうちはマダラの凶行に沈み……お前は転生を果たした……」

 

 気の毒そうな表情を浮かべた六道仙人に悟は酷く頭を掻きむしり、床面へと頭を押し付け苦悩を現す。

 

「何で……僕なんだ……!? 何回も何回も何回も何回も何回もっ!!!! ……うずまきナルトとうちはサスケは何で僕を必ず転生させる!?!?!? ……もういい加減にしてくれぇ……っ」

 

 何度世界を繰り返しても、自分の力は弱く、人並みの忍びになるのもマダラが襲来する僅か前。 当然そんなペースでは木ノ葉崩しの時点で蒼鳥マリエを救うことなど叶わず、黙は同じ結果を幾たびも重ねていた。

 

 悟の途方もない苛立ちはハゴロモへと向けられる。

 

「なぁッッ!?!?! マダラは毎回戦争でナルトとサスケに破れたって言われているのに……どうしてこうなるっ!?!?!? アンタが導くと言って……何回僕はこうしてここに来ているっ!?!?!?! 何なんだ何なんだっ!!! 六道仙人何て大層な名前掲げて……実際は何もしてくれないじゃないかぁっ!!!!!」

 

 泣きわめき、頭を打ち付ける悟。 精神世界であるその場では怪我を負うことはなくとも、その行為は痛々しいものであった。

 

 そんな悟に、何も言えないハゴロモ。 すると悟は突然狂ったように笑い始めて

 

「ハハ……ッアハハハハハハ……ああ、僕が弱いのが行けないんだ……弱い弱い弱い……どんなに場所を変えても……抵抗しても逃げてもっ!! マダラは僕を捕え、木ノ葉へと連れ去り……ナルトとサスケは毎回瀕死になって僕を過去へと転生させる……何でそうなる……僕が何かしたのか!? ああ、僕が悪いんだろ? 僕が……アハハハハハハッ!!!!!!!!!」

 

 自嘲に合わせ自らを殴りつけまくる。

 

 既に精神は崩壊し、正気を保てていない黙に六道仙人は思案の後、黙へと語りかける。

 

「……幾たび、ここでのワシとのやり取りの記憶をお主に託し、こうして時を越えた邂逅を果たしてきたが……悟よ、どうやらお主の魂も限界を迎えようとしておる」

 

「……」

 

 ハゴロモは虚ろな目の黙に優しく口調を崩さないで話し続けた。

 

「二度目の転生の時に、魂を糧にする方法を教え……お前は赤子の自分の魂を喰らい歩み続けてきた。 それでももう、お主の魂は限界を迎えている……これ以上魂を取り込んでもお主の魂の器自体が耐えきれぬのだ、精々後一回の人生を全うするのが関の山だろう」

 

 ハゴロモのその言葉に悟は

 

「……もうどうでもいい……世界がどうなろうと……この輪廻から解放されるなら……」

 

 仰向けに倒れた状態で静かに涙を流す。 自身の生を終わらせたい悟の投げやりな姿、しかし

 

「だが……まだお主は諦めておらぬのだろう……?」

 

 そうハゴロモが問いかけると、悟は突如激昂しハゴロモの着物の胸倉を掴み叫ぶ。

 

「ふざけるなよ……当たり前だっ!!!! 本当に諦め切れるなら、とっくに自分で自分の首を掻っ切ってるさっ!!!!!! 何度ここでどんなに転生を後悔しても、苦しんでもっ……いざ瞳を開けてマリエさんを目にしてしまえば……っ僕が……僕が……やるしかないじゃないか……っっっ!!!」

 

 矛盾を孕んだ感情に苛まれる悟。 どれだけ自分の使命を放棄することを望んでも、蒼鳥マリエを救える可能性が僅かにでもあると提示されれば挑まずには……動かずにはいられない……

 

「すまない……お主にこのような責務を押し付けてしまってな……」

 

 悟の境遇を、自身が招いた因果の結果だと悟っているハゴロモは悟に深く頭を下げる。

 

 しかしそんな謝罪などどうでもよいと、悟は何もない心象空間の天を仰いで嘆く。

 

「本当に僕はどうすればいいんだ……諦めることも……進むこともできない……ッ」

 

 助けを求める悟。 そんな痛ましさを感じさせる彼の姿とその苦悩にハゴロモは

 

「……運命を捻じ曲げる方法が……ないわけではない」

 

 と小さく呟くように口にした。

 

「何……?」

 

 その言葉に悟は目線を向け反応する。

 

「運命というモノは……恐ろしく厄介だ。 お主がどれ程足掻こうが、変わる兆しを一向に見せない……運命とは始めから決まっておるのかもしれぬが……」

 

「何が言いたい……っ!」

 

「この世界の運命が既に決められており……変わらないというのであれば……先に世界を変えることで運命も変わるかもしれぬということだ」

 

「世界を……変える?」

 

 そういい、ハゴロモは水遁で水玉を生成する。

 

「これは只の水だ。 この状態ではどうあがいても水と言う名を変えることは出来ぬ……だが」

 

 ハゴロモは風遁で自らの指を切り、血を一滴水玉へと垂らす。

 

「こうすればこの水玉は……もはや純粋な水とは言えまい」

 

 悟はその光景を見てハゴロモの言わんとすることを察して口にする。

 

「……忍界というこの世界に……何か異物を放り込む……?」

 

「さすれば……蝶の羽ばたきが遠く離れた土地で竜巻を起こすように、予想も出来ない影響力が世界を変えることだろう……しかし……ッ」

 

 ハゴロモはその先の言葉を言い淀む。

 

 忍界と言う水玉に、血と言う不純物を招く。 そうなれば血が水を染め、水という存在自体を変える。 ならば

 

「その〈血〉は、どうやって……この忍界に取り込むんですか?」

 

 変化の兆しに冷静さを若干取り戻した悟の問い、ハゴロモはその問いに対して

 

「……」

 

 その答えを言いたくないのか、表情を暗くする。 

 

(わざわざこの方法を口にするということは、不可能なことではないはずだ……それでも……その手段を取りたくないという事なのか……)

 

 その様子に悟はハゴロモの心中を察っした。 しかし

 

「何だっていい……状況を……この輪廻を変えられるなら何だっていいっ!! ……ハゴロモ様、策があるならやるべきだ……っ! 僕たちにしかそれは出来ないっ!!!」

 

 悟は必死の形相でハゴロモにすがり付くように、彼の肩に手を置いて揺さぶる。

 

「……方法は一つ。 他の平行世界の1つから魂を呼びつけること」

 

 重たい口を開いたハゴロモのその言葉に、悟はいまいち理解が及ばないが

 

「ならさっそくそれをしましょうっ!」

 

 その方法が何であれ、状況が変わるのであればやらない理由が彼にはなかった。 だが

 

 

「この方法には問題が幾つかある……」

 

 

 ハゴロモは悟をたしなめる様に彼の手を掴み、降ろさせる。

 

「何ですか、問題って……もったいつけてないで全部説明してくださいよっ!!」

 

 何でもいい……何でもいい……ただそういう思考に囚われた悟はハゴロモを急かす。

 

 口にしてしまった以上それは自分の落ち度であり仕方がないと諦めを見せたハゴロモは重い口を動かし始めた。

 

「ワシの輪廻眼が持つ〈道〉の力を最大限に有効活用することで、平行世界から魂を呼び寄せ……変革を望むことは不可能なことではないが……問題とは2つある。 1つは〈それ〉を行うには莫大な力、エネルギーが必要な事……そして2つ目は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハゴロモ様のその策の為に、僕は新たに転生した世界で……()()()()()()()

 

 ただ息をして……命を保つサイクルのみを維持する。

 

 まるで植物のような僕だったが……それでもマリエさんは、そんな僕を大切に育ててくれた。

 

 会話もしない、動きもしない……ただ与えられ点滴から栄養を享受し続け……目も開けることなく一生を過ごした。

 

 こんな状態でも、僕は生き続けることが出来た。

 

 それはマリエさんから、ウルシさん……他にも少数だが僕を生かすだけのために人が動いてくれたからだ。

 

 木ノ葉崩しでマリエさんが死んだ後も、マリエさんの意志を引き継ぐためにカカシさんが僕を生かし続けた。

 

 放棄され死んでも可笑しくない僕の存在はそうして、運命をなぞるように逃れられない最後を迎える……転生と言う、最後を。

 

(荒廃…………崩壊した木ノ葉の里……辺りを見渡しても、動く命はない。僕の体も左半身がすでに無く、身体の感覚ももう消えている。

 

 それでも、消えない笑顔の「太陽」が、赤い目の「月」が僕を生かす。そして……繋ぐ。これでいったい何度目だろうか……。

 

 恐らく……次が最後の……最後のチャンスだ。

 

 もう、時間が残されていない僕では……この運命(・・)を変えられないかもしれない……。

 

 ならば……

 

 お願いです、ハゴロモ様。希望を連れてきて欲しいんです……)

 

 

 

~~~~~~

 

 

 新たに過去への転生を果たした悟は、ハゴロモに彼の記憶の残滓を渡す。

 

 有無も言わさずハゴロモに記憶を継承させ……文字通り一生分蓄えた悟自身の魂の精神エネルギーと、彼が今まで取り込んできた()()()()()()()()()()()取り込んだ魂を差し出した。

 

「やりましょう……ハゴロモ様……これで世界を変えるっ!!」

 

 その()()に縋るしかない悟は懇願し、神に願うように掌を組み合わせ頭を下げる。

 

 一生を無為に過ごし力を蓄える。 それが如何に過酷で、狂っていることか……ハゴロモはそれを理解し、悟の願いを聞き入れる。

 

「……お主の覚悟、しかと受け取った……ではゆくぞ……」

 

 差し出された精神エネルギーと魂の塊を抱え得るように掲げ、ハゴロモはその輪廻眼を見開く。

 

 

 

 

 

 ()()()によって魂と精神エネルギーを純粋な〈力〉と変え己へと取り込み、()()()を発動させ心象空間に〈穴〉を開ける。

 

 異世界と繋がる修羅道の力が開けた穴に悟は飛びこんだ。

 

 その〈穴〉は()()の力により、ある世界を引き寄せていた。

 

 〈穴〉に入った黙雷悟と共鳴しうる魂が存在する世界を…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ……緊張するなぁ……もしも小鳥が来なかったらどうしよう……いやメールでちゃんとOK貰ったし来ないなんてこと……うへぇ何でこんな緊張してんだ俺ぇ……」

 

 大学生の黙雷悟は誰も居ない公園の中でうろうろと歩き回り弱音を吐いていた。 幼馴染の天音小鳥とNARUTOの漫画を彼女の家で読むためにいつも待ち合わせ場所にしていたその公園でいつも通り先についた悟は、いつもとは違い緊張に冷や汗を垂らしている。

 

 それは彼が、NARUTOの漫画を読み終えることで昔から好意を寄せていた彼女との繋がりが再び切れるのを恐れ彼女との関係を進めるためにデートに誘ったためである。

 

 天然パーマの黒髪を弄りながら、もしもが起きてしまうことを恐れ悟は気が気でなかった。

 

 待ち合わせ時間までまだ30分近くあるが悟は手に持った小さい包装紙に包まれたプレゼントを握り、頭の中でこの後のシチュエーションを思い描いていた。

 

 すると

 

 

 

 

 

 空間に〈穴〉が開き、水色の光のような物が現れる。

 

「ほぁッ!?!?!?!?!?」

 

 突如の奇々怪々な出来事に奇声を発した悟は一目散に背を向け逃げ出す。

 

 しかし水色の光は一直線に悟の背へと突き進むと、その背から悟の中へと侵入を果たす。

 

「螟ァ莠コ縺励¥縺励m縺」�√€€縺雁燕縺ョ鬲ゅr蟇�%縺帙▲��シ�」

 

 その瞬間悟の頭の中に、理解できない言葉のような音が爆音で響く。

 

「ッグっがぁああああっ!?!?!?!? あ、あたまがぁ……」

 

 突然の出来事に悟は頭を抱え倒れこむ。 手に持っていたプレゼントは地面へと落ち、頭に響く爆音と体を這いまわる得体の知れない感覚が悟の精神を削る。

 

 しかし次の瞬間

 

 悟の身体は何事もなかったかのように立ち上がる。

 

 先ほどまでのもがき苦しむような素振りはなく、立ち上がった悟……しかし

 

(なんだよこれぇっ!?!?!?! 身体が勝手に動いてぇ……っ!?!?!?!)

 

 それは決して悟自身の意志ではなく、別の何かによる動作であった。

 

 すると悟の身体は、酷くゆっくりとだが両腕を前に出し手が動き出す。

 

 その動作に最初こそその意味を理解できていなかった悟だが……繰り返されるその動きに彼は心当たりがあった。

 

(この動きまるで……N()A()R()U()T()O()()()()()()()()()()──)

 

 悟がそのことに気がついた瞬間

 

 

 

「蝨滄=蝨滓オ∝イゥ蠑セ」

 

 

 

 頭に響く声が何かを唱えた。 

 

 その直後上を向いた悟の口から、異物が空へと噴出する。

 

 その異物が空高く舞い上がると、自由落下を始め…… 

 

(何だあれ……まるで巨大な岩──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重いものが地面に落ち肉と骨がつぶれる音が、静かな公園に響いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 天音小鳥はその日、早めに家を出ていた。

 

 思いを密かに寄せていたその人とのいつもと同じ待ち合わせも、今回だけは意味が違う。

 

 髪もキレイにセットし、衣服も気合が入ったもので揃えていた。

 

 しかし鼻歌まじりで公園と向かう道中

 

──ズンッ

 

 耳に届いた明らかな異音とともに地面を伝う振動に足を取られ、転びかける。

 

「おっと!? え、何……今の……?」

 

 異音は直ぐ近くまで来ていた公園から聞こえたように感じた小鳥は、直感か背を伝う悪寒に押されるように駆けだした。

 

 公園へと足を踏み入れると小鳥の視界に

 

 

 

 巨大な岩が否応なしに入ってきた。

 

 

 

「なにこれ……えっ? こんな岩今までなかった……よね?」

 

 イレギュラーな出来事に、思わず思っていることを口にした天音は公園の中央に姿を現した謎の岩に向かって歩み寄る。

 

(隕石? にしては岩の大きさに対してあまり地面が抉れている様子はないし……そういえば悟は……ってまだ待ち合わせまで早いし流石に──)

 

 岩に近づきその地面との境界線に目を向けると小鳥の視界に〈色〉が映る。

 

 

 

──滴るような朱

 

 

 

 小鳥はその色を見て、硬直する。 理解しようとしてもそれが何か、本能が拒否反応を起こし思考が止まる。

 

 それでも

 

 硬直した体は一歩一歩、岩の反対側へと足を進める。

 

「はぁ……はぁ……ッ……はぁっ……ッッッ」

 

 呼吸をするのもぎこちなく、しかし小鳥は歩み……そして

 

 

 

 

 

──半身が潰れた黙雷悟を目にした。

 

 

 

 

 

「っぁ……ああ……ああああああっっっ……」

 

 それを理解した小鳥は動揺で上手く動かない体をのたうち回しながらも、血だまりの中へと踏み込み悟の岩から飛び出ている半身へと寄り添う。

 

「嫌だ、そんな……なんでっ!!??」

 

 理解の出来ない場面、出来事。 小鳥の悲痛な叫びが公園に響く。

 

「こんな、こんなのって……っ」

 

 震え目の前の現実に理解が及ばない小鳥は涙を流し、悟の左手を掴み揺する。

 

「ねえ、嫌だよ……せっかく自分の気持ちに正直になれそうだったのにこんなのってっ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だぁ!!!」

 

 青ずっぱい自分の気持ちに、認めるの恥ずかしいその感情に、素直になりそれを打ち明けるつもりであったその相手は今…… 

 

 楽しかった

 

 嬉しかった

 

 ありがとう

 

 ……そんな些細な、けれど勇気のいるそのことを言うはずだった小鳥は涙を零し手を強く強く握る。

 

 

 

 

 

サ──ラ

 

 ふとそんな彼女に、音が届く。

 

 か弱く今にも消えそうなその音は

 

 

 

サヨ……ナラッ

 

 

 

 決別を意味する言葉であった。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 身体から分離し、浄土へと向かうはずの()()()()()()の力で穢土に留まる。

 

 空間に空いた〈穴〉は()()()の力を帯びることでその魂を呼び込み吸い込む。

 

 また〈畜生道〉の力によって、黙雷悟の身体に入っていたもう一つの魂は〈穴〉へと呼び寄せられ、こうして2つの魂は〈穴〉を通り抜けた。

 

「一度死んだ魂は身体に定着することもないが……()()の法であればそれも可能だ……人の体を成すことができるであろう」

 

 ハゴロモのその呟きに合わせ、2人の人物が心象空間に姿を現す。

 

 それと同時に〈穴〉は完全に塞がれ消えた。

 

 転がるように飛び出た2人の人物は、片方は受け身を取りもう片方はそのまま床を転がった。

 

「成功だ……っ!!!!!」

 

 受け身を取った……黙雷悟は歓喜に打ち震えるようにしてガッツポーズをする。

 

「これで全部……全部……上手くいくはずだ……っ!!!!」

 

 しかし

 

 

──ガっ

 

 

 喜びを露わにしていた黙雷悟は殴り飛ばされ、倒れたすきに馬乗りをされ数発顔面を殴られる。

 

「縺オ縺悶¢繧九↑縺オ縺悶¢繧九↑縺ォ繧偵@縺溘※繧√∞縺��縺悶¢繧九↑」

 

 激昂し悟を殴りつけるその人物……黙雷悟は相手を問い詰めるような言葉を叫びながら必死の形相で悟の首を絞める。

 

「異世界におけるもっとも魂の同調する者を殺し……その魂招くこの所業……罪は深い……」

 

 ハゴロモが手を出そうとしたその瞬間

 

 首を絞めていた悟は気を失ったかのように脱力し倒れこむ。

 

 そんな彼の身体を無造作にどけた悟は立ち上がり、ハゴロモに万華鏡写輪眼を向けた。

 

「彼を強力な催眠導入状態にした……この状況ならコイツを利用するのも造作もないはずだ……ハゴロモ様」

 

 何かを促すようにハゴロモに視線で催促する悟。 

 

「万華鏡を使ったのか……っ!? 今のお主の状態で無理をすれば、下手をすれば消滅することに……ッ」

 

「そんなことはどうでもいい……コイツにさっさと術を……っ!!」

 

 なりふり構っていられないと、ハゴロモに行動を促す悟のその言葉にハゴロモは気圧されうつ伏せに倒れ気を失った悟の頭に手を置く。

 

 ハゴロモは輪廻眼・人間道の力を使い彼から、魂に刻まれた情報を青いオーラのような物で抜き出し

 

「お主も……来い」

 

 もう一人の悟に近くに来るように指示する。 素直に従った悟は倒れている悟と同じ手順で青いオーラを引っ張り出された。

 

「今から2人の記憶を混ぜ合わせ、再度元に戻す。 ……しかしこの方法ではこちらの人間が悟、お主の記憶も見ることが出来るようになってしまうが──」

 

「万華鏡の瞳力で、コイツの記憶に蓋をする。 術の使用者である貴方の存在を正しく認知させなければそれが出来るはずだ……言語や感覚、経験以外の都合の悪い記憶は封じて必要に応じて引き出せるようにします」

 

「……了解した」

 

 ハゴロモは2人のオーラを混ぜ合わせるようにして繋ぐ。

 

「なるほど……偶然か必然かこちらも同じ名、黙雷悟を冠するか……聞こえておらぬだろうが、無理難題だろうともお主が運命を変える……いや、捻じ曲げる最後の望みだ。 そして……悟よ……心せよ、次はないぞ?」

 

 人間道の力で記憶を読み取ったハゴロモは混ぜ合わせたオーラを再び2人の中へと戻す。 しかし繋がったオーラは切れることなく……透明になり繋がり続けていた。

 

「……ああ、すごい……これは……忍界の出来事……についての書物なのか……っ?」

 

 もう一人の悟の記憶を得た悟は、彼の記憶にあるNARUTOの漫画についての知識を探っていた。

 

「異世界の出来事を感知し、書き起こす特殊な者がいるようだな……この世界との繋がりが濃いが故にこのような予言書が描かれているのであろう。 この知識は武器となるが過信してはならぬ、既に〈血〉は混じり世界は形を変え始めているハズなのだからな」

 

 ハゴロモの忠告に悟は

 

「もちろんです……ただ彼の記憶を全て覗ける訳でもない……時間も力も、僕には足りない。 要所要所を見極めて情報を引き出します……さて後は」

 

 悟はもう一人の自分とも言える存在を抱える。

 

「ちょっとした小芝居をしましょう」

 

 そう言って移動しようとするも、急にその場に崩れ落ちてしまう。

 

「っ……クソっ……」

 

「世界を渡り、万華鏡まで使ってはお主の魂が耐えきれぬのだろう……しばらくは精神の奥に潜み休息するしかあるまい」

 

「そんなことしている暇は……っ!」

 

「この者に暗示をかけ、お主の代わりとなる様仕向ける役はワシがやろう。 お主が覚醒ししだい、力を合わせて運命をネジ曲げるのだ」

 

「力を……合わせ……る……ッ?」

 

 意識が保てなくなった悟はそのまま倒れ伏す。 そんな悟たちに近づいたハゴロモはふわりと2人を浮かせ

 

「さて……罪の続きはワシが引き受けるとしよう、まずは悟、お主の精神世界へと浮上するとしようか」

 

 そう呟いて心象空間から悟たちと共に姿を消した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 ハッと誰かの声が聞こえたと思い、俺が目を覚ますと一面きれいな青空で、見渡す限りの草原『しかない』空間にぽつんと立っていた。……何故に?

 

 周りをキョロキョロと見渡しても、特別何もなく……あれ?さっきまで俺は何してたんだっけ? というか俺は誰?

 

 何て混乱していると背後から急に声をかけられる。

 

「ハイ!気分はどうだいぃ? 黙雷ぃ。 頑張れる? 悟ぅ」

 

 微妙にラップを気取っているのか人の名前で馬鹿みたいな話し方をする角が生えた青白い顔のおっさんがいつの間にか背後に胡坐で浮いていた。

 

「どわ!? あんた何もん……というか黙雷悟(もくらいさとる)……なんで俺の名前を知ってるんだ。 さては変質者か!?」

 

「……ふむ、記憶が混乱しているようだな、どれ」

 

 俺の罵倒を気にせず、急に厳格な喋りになった変人が、俺に向かって手をかざす。

 

「何す、うぐっ……」

 

 頭が割れそうだ……、というか体全体が正に割れているような……

 

 そこで意識が飛んだ俺は、次に目を覚ました時不思議なことに事情をある程度把握できていた。

 

 

~~~~~~

 

 

 気を失った悟を前にしてハゴロモは1人呟く。

 

「万華鏡の暗示を使い、新たな記憶を刷り込む……自分は正義感のある人間だと思い込ませることでこ奴は善なる行いをする……はずだ。 しかし人の魂とは記憶だけにあらず……上手くいくとも限らない。 

 

 しかしなんとも……業の深い事……ワシも神がいるのであれば、地獄行きも生ぬるい者に成ってしまったな」

 

 

 

~~~~~~

 

 

「つまりは俺は死んだのか……」

 

 目を覚ました俺はそうつぶやいた。

 

「Yes,you死んじゃった、不安的中しちゃった、でも幼女助かった。OK?」

 

 目の前の胡散臭いおっさんは謎のテンションで俺のつぶやきに答えてくれた。

 

 そう、ついさっきまで俺、黙雷悟(もくらいさとる)は普通の公園にいた。 今いる草原「しか」ない異様な空間には断じて居なかった。

 

 その公園では「女の子」が一人で砂場で遊んでた。友達と遊ぶため待ち合わせ場所にしたその公園にいた俺は最近読んでいた漫画「NARUTO」の影響もあり

 

(もし俺が忍術使えるなら、何使おうかなあ。術と言えるかわからないけど仙人モードは便利そうだよなあ)

 

 と空想にふけっていた。

 

(現実で仙人モードになれたら、超すごそう。例えばトラックとかダンプカーが突っ込んできても片手で止めたりとか……)

 

 そしてふと視界に入った「女の子」を見て

 

(もしもトラック突っ込んで来たら助けてあげなきゃな!ニンニン♪)

 

 なんてふざけてヒーロー的な、ありえもしれない空想にふけっていたのだ。

 

 そしたら突っ込んできた。俺の空想の下らなさに対する漫才の突っ込みとかではなくトラックが。

 

 公園の木々をなぎ倒し俺の近く、「女の子」が遊んでいる砂場まで真っ直ぐ直進。

 

 その時、俺は根が心配性なためか、冗談でも想定していたおかげなのか定かではないが咄嗟に動くことができた。

 

 

 

 そして俺は女の子を突き飛ばし……

 

 

 

「こういうあらましかぁ……マジかよ……」

 

 おぼろげな記憶を頼りに事態を把握した俺は、目の前の不審者に問いかける。

 

「……確かに俺は死んだん……だな。 なああんた、つまりここは死後の世界なのか?」

 

「Ye「普通に喋ってもらえません?」……そうだ、お主は今魂だけの存在となりこの場にとどまっている」

 

 普通に喋れるんじゃねえか……

 

「へえ~魂だけって、うっおぉ?! 手がねえ!? よく見たら体全体が見えねえ! 違和感すっご……はえ~すげ~……」

 

「中々個性的なりあくしょんだな。まあそれはどうでもよいか……時間がないのでなさっそく本題に入るぞ」

 

「本題?」

 

「そう確かにお主は死んだが、こうして魂だけは……そうじゃの、善行によりうんたらかんたらで救われておる」

 

「……雑じゃないですか? もしかして今設定とか考えt」

 

 不審に思う俺の言葉を遮るようにおっさんはまくしたてる。

 

「しかし、しかしなあ。 時間が立てばたゆたう魂は消滅してしまう。 なんと儚いことかぁ……なのでな、お主の魂を別次元へと送り新たな肉体に入れることで魂の消滅を防ごうとワシは思案しておるのだ」

 

 変な演技を挟んだ設定の小出しをジト目で(体がないのでジト目は出来ないが)聞いていた俺は、おっさんについて疑問に思ったことを言う。

 

「魂を別次元にって……転生? 何? 貴方そんな胡散臭いなりで神さまなの?」

 

 俺の失礼な発言に今度はおっさんがジト目になる。 ……失言だったか?

 

 

「……悠長にしておる時間はないぞ?あと1分でお主は消滅する」

 

 

 …………へ?

 

「なので空きのある世界に問答無用で捻じ込む。思案といったがどちらかと言えば強制だ。ではまた会おう少年」

 

 

 

 まくしたてる様に別れの挨拶までを言い切ったおっさんこと恐らく神様?が俺に向かって先ほどのように手を向ける。

 

 すると俺の視界は万華鏡のような変化を見せ暗転した……

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 意識を飛ばした悟の魂に触れ、ハゴロモはその魂に形を与える。

 

「さてお主にはあちらの悟と同等の姿を魂に与えよう、元の魂の姿では()()()()という思い込みが薄れてしまうかもしれぬからな……後は」

 

 悟と同じ魂の姿を模ったその魂は既に一歳ほどの姿に成っていた。 白い髪に緑の眼、少し不健康そうな白い肌。

 

「そろそろワシも限界か……」

 

 現世に干渉する力が薄れてきたことを察したハゴロモは最後に呟く。

 

「この厳しい忍界を生き抜くために……最後にワシからの暗示を1つ授けるとする……黙雷悟よ、お主の気質に合わせ語りかけよう…… 

 

 

──もしも転生したら現状確認を怠らず

 

 

生きよ」

 

 

 



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32:懺悔と償いの果て

 雷はよろめき地面に手を着き項垂れた。

 

 自身が転生したと思っていたこのNARUTOの世界には……不条理で連れてこられただけであったのだ。

 

 そんな事実を肯定するかのように滝の前の水面に立つ黙と、いつの間にか姿を見せていた六道仙人・大筒木ハゴロモはジッとその輪廻眼と万華鏡写輪眼を雷へと向けていた。

 

 そして……ハゴロモの人間道の力によって繋げられた黙と繋がる……胸から伸びる自身らの魂の紐を認知する。

 

「っ……」

 

 ふらふらと……自分が利用されたという事実を黙の記憶から把握し打ちのめされた雷は、焦点が定まらずにただ床を見つめる。

 

 言葉もない雷の様子に、黙はハゴロモに目線を向け口を開く。

 

「今、彼はハゴロモ様、貴方を見ることが出来ている……つまり僕たちの繋がりは完璧な物になった……これから

 

 

 

 

 

 

──僕たちの罪を清算しよう」

 

「っ何を──ウグっ!?」

 

 黙の言葉に反応した雷は、突如床から伸びる白く光る鎖により両手首と両足首を拘束され体を無理やり起き上がらされる。

 

 腕は地面に近い状態に垂れ下げられ、最後に口を鎖が覆い自由を奪われた雷は黙を睨みつける。

 

「……ッ」

 

 何か言葉を発しようとする雷だが口の拘束から言葉は出ずに、ただ自らを拘束する鎖から逃れようと体を身動ぎさせる。

 

「無駄だよ、雷。 その鎖はうずまき一族が扱った金剛封鎖……に近いものだと言えば君にもわかるかな?」

 

 拘束した雷に対して、淡々とそう説明した。 

 

 唸り声をあげ、鎖を引っ張り拘束から逃れようとする雷に黙は説明を続ける。

 

「ここは君も知る通り、真実の滝だ。 雲隠れが保有する巨大亀の背にある神聖な場所の1つ。 この滝の先に行けば尾獣との対話を容易にする更なる空間があるが僕の目的にはそこは必要ない……今回、僕と六道仙人であるハゴロモ様とは転生したときに僅かだけど魂を繋げていた。 丁度今の君と僕みたいに……ね」

 

 そう言った黙は自身の胸から雷へと伸びる光の紐を大切そうに見つめ触れるような素振りを見せる。

 

「~~~ッ」

 

「真実の滝ではその繋がりを元により明確に互いの魂を近づけることができる。 今こうしてハゴロモ様が目に見える状態でいるって言うことはそういうことだ。 おや、僕の目的が知りたいようだね……雷。 いいよ、教えてあげよう。 僕の目的それは

 

 

 

 

 

──君を元の世界に返すことだ」

 

「……」

 

 黙のその言葉に、理解が追い付いていない雷はもがく動きから力が抜け呆然とする。

 

「ハハハ、良い呆け具合だね。 そう君を元の世界に返してあげるんだ、元居た世界に……生きたまま」

 

 黙はそのまま六道仙人と目を合わせるとそれを合図の様にし、手を挙げる。

 

 そうすることで再度雷の周りに尾獣たちが姿を現す。

 

「君も知った通り、世界を越えるには膨大な力と輪廻眼による六道の力が必要なんだ。 そして…………今この場に、その条件は揃っている」

 

 その言葉を合図にハゴロモは輪廻眼の力を使い、流れ落ちる滝に空間の裂け目……〈穴〉を出現させた。

 

「……僕が何度も転生している通り、六道の力は時を超える可能性を秘めている。 この〈穴〉は僕たちが君の魂を攫ったあの後すぐの時間軸に繋がっている……僕の土遁によって君が死んだあの直後だ」

 

 黙は己と雷を繋ぐ魂の紐を掴み、〈穴〉へと目線を向けた。

 

「尾獣たちが協力してくれるのは、ハゴロモ様と僕の……僕らが犯した異世界の人間を殺して魂だけを連れて来た罪を清算するためだ。 尾獣たちにとって僕の事はどうでもよくてもハゴロモ様は特別みたいだね、皆それを承知にこうして分体を寄こしてくれた」

 

 その言葉を証明するように、尾獣たちの分体からチャクラがハゴロモへと送られ彼らは姿を順に消していく。

 

 そうすることで〈穴〉は黄金の輝きを放ち始めた。

 

「繋がったぞ、黙よ……準備は良いな」

 

 ハゴロモのその言葉に黙は

 

「はい、では行ってきます……」

 

 と返事して、穴へと一歩一歩歩み始める。 鎖の拘束で身動きが取れない雷は、掴まれた魂の紐が〈穴〉に触れれば自らもそこに吸い込まれることを予知する。 黙が歩みを続ける中、ふと

 

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

 雷の耳元で、小さく九喇嘛が囁いた。

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああっ!!!!」

 

 

 

 

 

 突如雷を拘束していた鎖が膂力により砕け散り、口を拘束していた鎖もまた噛み砕く。 その異常事態に驚いたハゴロモと黙、次の瞬間に雷は

 

 元の前世……いわゆる本来の自分の姿、二十代の黒髪天然パーマの姿を取り戻し自らの胸から伸びる魂の紐を掴み思いっきり引き寄せる。

 

「っなッ……!?!?!?」

 

 穴に向かっていた黙は、その紐に引っ張られ強烈な力によって宙を舞い……雷の元へと引き寄せられる。

 

 大きく息を吸い込んだ雷は拳を固く握り

 

「ふざけんなっ!」

 

 その一言と共に黙の頬を殴りつけ、拳を振りぬく。

 

 強烈な一撃に黙が滝つぼを跳ね、滝へと突っ込んだ。

 

 …… 

 

 滝の流れる環境音が響く中、再度雷は紐を強く引っ張る。

 

 そうすることで黙が滝から飛び出して雷の下で跪く。

 

「っ金剛封鎖の拘束を無理やり……っ!?」

 

 ゲホゲホとせき込む黙、そんな黙の胸倉を掴み雷が怒鳴りつける。

 

「てめぇ……黙ッ!! 何勝手に話を進めてやがる……俺が納得してそこをはいそうですかと、通るとでも思ってんのかっ?!」

 

「おい……まさか──」

 

 黙は雷の言葉の先を予測し、顔を青ざめさせる。

 

「俺はッッッ──」

 

「何を言うとしてる雷っ!?」

 

 

 

 

「元の世界に戻る気なんてないっ!!!!」

 

 

 

 

 

 胸倉を掴まれたまま、そう宣言された黙は目を泳がせ今までに見せたこともない動揺を見せ始めていた。

 

「オイオイオイ、君……雷っ!! 何馬鹿なことを言っているんだっ!! 滅多なことを言うもんじゃないぞ、このまま行けば君は元の世界に戻れるんだ!? 抵抗するなっ!! 大人しく僕の言うことを──」

 

 口早にそう言う黙を黙らせるかの如く、雷は黙へと頭突きを入れ手を放す。

 

「ッヅ!?」

 

「馬鹿なことを言ってんのはお前だ黙……」

 

 怒りの滲んだ雷のその言葉、黙は素早く態勢を立て直して雷へと戦闘の構えを取る。

 

「馬鹿は君だろうっ!! あれか!? 元の世界に戻った後のことを気にしているんだろ!? 大丈夫だ、僕の身体でイザナギの力を使い〈穴〉を経由して魂の繋がった状態の君が岩に押しつぶされたという現実を幻にするっ!!! そうすれば君はもう一度、元の世界で平和を──」

 

 矢継ぎ早にそう叫ぶように、たしなめる様に、確認するように黙は雷に言葉を投げつける。

 

 ……その姿はまるで雷からの何かを恐れるように。

 

「黙、お前は何か勘違いをしている」

 

「やめろ……やめてくれっ……」

 

「俺は」

 

「やめろっ!! それ以上言うなァ!! そんな言葉聞きたくなんかないっ!!!!」

 

 

 

 

「お前を恨んで何かいない」

 

 

 

 

 その言葉を聞いた黙は絶望を顔に浮かべ膝から崩れ落ちる。

 

「ましてや、この世界を見捨てて1人ノコノコと元の世界に帰るつもりもない」

 

 覚悟の決まっている雷のその言葉に、ハゴロモまた驚愕の表情を浮かべ小さく唸る。

 

「黙。 お前はずっと罪の意識に苛まれて来たんだろ……?」

 

 優しく諭すかのような雷の声掛けに黙は、須佐能乎を顕現させその大きな骨の手で雷を拘束しようとする。 しかし

 

 雷は腕の一振りでその須佐能乎の腕を破壊する。

 

「!?」

 

 精神体、魂の力比べになる真実の滝の空間。 雷は溢れんばかりの精神力と、チャクラを振るい黙の拘束を無効化する。

 

 涙を流しながら何度も須佐能乎を仕向ける黙、しかし雷はそれを悉く砕く。

 

「……まさか……九喇嘛たち自ら……雷へと力を貸しているのか?」

 

 ハゴロモはその光景の裏を察した。 雷は今、全ての尾獣たちの分体から力を分け与えられているのだと…… 

 

 涙を浮かべ、子どもの癇癪の様に雷を連れて行こうとする黙だが雷はそれを退け言葉を交わそうとする。

 

「俺には想像もつかない、こうして魂を繋げても記憶を共有しようとも……お互いの全てを理解できるわけじゃない……それでも俺はお前が優しい奴だって知っている」

 

「ふざけるなよっ!! わがまま言ってないで大人しく──」

 

「本当に……お前は演技が下手だな、黙」

 

 近接での殴り合いも、圧倒的な力の差によって雷が上を制して蹴り飛ばしあしらわれるように距離を開けられ黙は歯が立たない。

 

「ックソォっ!!! 何なんだ君は!?!?!? 僕を恨めよっ!! 罵詈雑言を浴びせてみろっ!!! もっと痛めつけてこいよっ!!!! 何でっ!? 何で僕なんかを恨んでないって……そんなぁ……ッ僕を……許すなよォ……っ!」

 

 泣き崩れる黙に対して雷は複雑な表情を浮かべ、黙へと歩み寄る。

 

「……確かに……俺の、この世界での始まりは噓だらけだった……転生したわけでもないし、事故で死んだわけでもない。 俺の抱いた正義感も、砂場に居た女の子を助けたこと自体を後悔する必要も本当はない、噓の記憶だ……でもな……黙

 

 この世界で過ごした時間も……経験も……それは噓なんかじゃないんだ」

 

「黙れェ……僕は身勝手で君を殺したんだぞ!? 君が愛する女の子と引き裂くようにッ……!! こんな残酷な世界のことなんて知る必要もなかったんだっ!!! 君は……お前は……どうして元の世界に戻ろうとしないっ!?!?!」

 

 感情をむき出しにした黙のその拳を、雷は掌で受け止め黙の腕を引き寄せ…… 

 

 

 抱きとめた。

 

 

「黙、お前は1人でよく頑張った。 世界の運命を変えるために、途方もない時間を1人で過ごしてきた。 でももう、いいんだ。 お前はもう、1人じゃない……

 

 

 俺がいる。 俺たちは2人で1人の黙雷悟なんだ」

 

 

 ギュッと……信頼を寄せるように、優しく、力強く雷は黙の身体を抱きしめる。

 

 

「っああ……あああ……ッ」

 

 

 その抱擁に黙は抵抗する力も無くし、只々泣き崩れる。 わんわんと子どもように泣き始めた黙に対して雷はその抱擁を強く……力強く続ける。

 

「うあぁあああっ! なn……何で……何でぇ……」

 

「何でもクソもないさ……俺は俺のしたいことをする……この世界の残りたいから残る、それだけだ」

 

 そんな雷の様子に、ハゴロモも口を挟まずにはいられなくなった。

 

「本当に良いのか……黙雷悟よ。 お主は元の世界に戻り、安寧と秩序を享受することができるのだぞ?」

 

 ハゴロモのその言葉に雷は黙を抱きしめたまま、目線をハゴロモへと向ける。

 

「……俺は、俺なりにコイツの事を理解しているつもりです。 本当のコイツはきっと……とても優しい奴なんですよ。 ただ自分に愛を注いでくれたマリエさんのために、何とかしようと……1人抗い続けていた。 今、俺が忍びとしての才覚を発揮できているのも、黙の積み重ねてきた結果なんです。 チャクラコントロールも、戦闘技術も、忍術も……全て黙が途方もない年月で積み重ねてきた結晶だ。 俺はそれを魂の繋がりから取り出して使っているに過ぎない。 応用を効かせ、新たな力を扱えるのも黙が足掻いてきた基礎があるからなんだ。 確かに始めは、俺のことを道具の様に扱っていたとは思いますよ、でも……コイツはいつも大切な時には俺の考えを尊重してくれたし……自己犠牲をする覚悟も持っている」

 

 そうして雷は……己の歩んできた忍道を振り返る。

 

「イタチさんを止めようとしたあの夜……黙は俺と一緒になってイタチさんの幻術に抗ってくれた。 九喇嘛のチャクラに悪影響を受けそうになった時も助けてくれたし……俺が波の国で人殺しを躊躇していた時に変わってくれようともした。 中忍試験でヒナタとネジとの戦いに熱くなる心も持っていた。 マリエさんを助けるために2人で岩状鎧武に挑んだ時もそうだ、こいつは自分が消えるかもしれないと分かっていても全力で戦った」

 

「ああ、知っているとも……その時、魂の繋がりをもって、昇天しかかっていた黙に現世に留まれるよう力を僅かだが与えのはワシだ……そして」

 

「その時に……俺を元の世界に戻す方法を教えたんでしょう?」

 

「……気がついていたか」

 

 ハゴロモは再度雷からの指摘に驚きを露わにした。

 

「少なくとも、黙も最初は俺を元の世界に戻す気なんてなかったはずだ。 なのに……こうして尾獣たちの力を集められるよう工作して場所を用意して……自分は片目を失うイザナギを使ってまで俺を帰そうとするのは、途中で心変わりしたからだと思ったんですよ。 俺と言う存在を、連れて来てしまった罪の意識に長い間苛まれて……」

 

 雷は未だに己の胸の中で泣きじゃくる黙に目線を向ける。

 

「それでもこいつは、一緒になって……そう……一緒に闘い続けてくれた。 雪の国でもそうだったな……熱くなっていた俺をたしなめてくれた。 マリエさんを助けてからは……黙は俺の為に闘ってくれてたんだ」

 

 雷はそのままハゴロモへと目線を向ける。

 

「世界を……マリエさんを助けるためなら、ここまでのリスクを冒す必要が無い。 それでも……他人なんて信頼することが無意味に感じる程の輪廻の果ての今、こいつは俺を帰そうとした……下手な演技までしてね……まあ、本当は罪の意識に苛まれて俺が眠っている間に全てを終わらせたかっただろうけど……九喇嘛たちに見透かされて、こうなっちまったって訳だ」

 

 そうして雷は立ち上がり、己の覚悟をハゴロモへと伝える。

 

「……確かに、元の世界には俺を必要としてくれる小鳥がいる……けれど俺はあの時、小鳥との別れを覚悟した。 アイツが俺を想い続けて傷つかないようにって。 

 

 その覚悟は……記憶を取り戻した以上、もう揺るがない。 

 

 ……()()()元の世界に戻ったらなんて……そんな理想は俺にはもう、いらない。

 

 ……俺はこの世界で……ハゴロモ、アンタが望んだ安寧と秩序を取り戻して見せる。

 

 もしもじゃない……絶対にだ」

 

 覚悟の揺るがぬ雷の言葉にハゴロモは…… 

 

 深く頭を下げた。

 

「すまない……お主を巻き込むようなことをし……ましてや世界の命運を背負わせる役目まで負わせ……だがそれでも、ワシは……お主と言う存在に頼らざるを得ない。 ワシを許してくれとは言わぬ、ただ……」

 

「任せてくださいよ……アンタも長い間、世界を想い、見るだけしかできなかった悔しさに苛まれていたはずだ。 この滅びの輪廻はナルトやサスケ……そして俺たちが立ち切って見せます」

 

 ハゴロモからの言葉を受けた雷は、いつの間にか泣きつかれて眠ってしまっていた黙をその場に寝かせる。

 

「……もうお前は1人じゃないんだ、黙。 …………さて九喇嘛に皆、力を貸してくれてありがとう」

 

 そう囁いた雷に応えるように、尾獣たちの分体が再び姿を現した。

 

「ケッ感謝される覚えはないな……ワシらもただ、てめぇと同じく自分の心に従ったまでだ……」

 

 九喇嘛の素直ではない態度に、雷は小さく笑みを浮かべる。 

 

(九喇嘛はきっと、黙の罪の意識もどうにかしてあげたいと思ったから俺に力を貸したんだろう……他の尾獣たちに事情を話して)

 

 尾獣たちを見回す雷。 しかしふと自身の目を塞ぐように両手で目を覆う。

 

「……ッ」

 

「オイ、悟?」

 

 九喇嘛の呼びかけに雷は

 

「油断した……っ!! 犀犬が視界に入りそうだった……あぶねぇ……ッッ」

 

 心底肝が冷えたといった様子で荒れた呼吸をしていた。

 

「やっぱり俺のことぉ、見んのは駄目なのかァ?」

 

 犀犬の独特な声が聞こえ、ねちょねちょと動く気配に

 

「ひィッ!!?? ホントゴメンっ!! 力貸してもらってるけど、マジでダメなんだよォっ!!」

 

 心底怯えた雷は瞳を閉じたまま情けない声を出して、ものすごい後ずさりを見せる。

 

 その雷の様子に犀犬はシュンと落ち込み

 

「じゃあ、俺たち精神の世界の底にいるからなぁ……いつでも呼んでくれよォ」

 

 そう言いながらその場から姿を消した。

 

 他の尾獣たちもやれやれと言った様子で順々に姿を消していく。

 

 そして最後に 

 

「おい雷」

 

「何……?」

 

 未だに怯えている雷へと九喇嘛が声をかける。

 

「…………ッァ…………てめぇが……何だ……残って……そのぉ…………一応少しだけ……ほんのちょっぴりだけ……悪くねぇ気分だ…………そんだけだ」

 

 言葉を詰まらせながらも九喇嘛はそう言い残して姿を消した。

 

「……」

 

 思わぬ言葉に、眼を覆っていた掌を退け呆気に取られた表情を浮かべた雷は既に姿を消した九喇嘛に対して

 

「俺も、九喇嘛たちに会えてよかったよ」

 

 笑顔を見せて呟いた。

 

 九喇嘛の悪態が聞こえた気がした雷が苦笑いを浮かべると、ふと彼の視界に〈穴〉が入る。

 

「……一応の確認なんですが、ハゴロモ……様」

 

「何だ?」

 

「あの〈穴〉って今は、俺が死んだ直後に繋がっているんですよね?」

 

「ああ、その通りだ。 開けるのに随分と力を使ったが……無用であれば開けっ放しにするのも世界に毒だ……今すぐに──

 

 

「あのぉ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サヨナラ……? はぁ? ふざけないでよ……勝手話を終わらせないでよっ!? アンタが……勝手に諦めても私はっ……」

 

 血だまりの中、黙雷悟の遺体の傍で慟哭する小鳥。 

 

 右半身を岩に潰された悟の身体に寄り添う彼女は悟の手を握り続けている。

 

「ひっぐ……私は……私はァ……」

 

 現実を受け入れられない小鳥は涙を流した。 その涙が地面へと吸い込まれた瞬間。

 

 悟の左目が開き

 

 

 朱い眼光を彼女へと見せた。

 

 

 そしてそのまま小鳥は意識を失い……その場で倒れ伏した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 小鳥が目を覚ますとそこは……見慣れた夕暮れの景色、自分と悟が住んでいた街並みを目にする。

 

「あれ……私……」

 

 ふと意識を覚醒させた小鳥は不思議な感覚を覚えながらも……何かに導かれるように、歩みを進めた。

 

 静かで人の気配の無い夕暮れの街に……奇妙に安心感を感じつつも小鳥はとある家の前まで来る。

 

「悟の……家……そう言えば……小学生以来……来てなかったかも」

 

 そう言いつつ、小鳥はその家の玄関を開け中へと入る。

 

 小鳥の記憶の通りの内装に、昔を懐かしみつつ彼女は二階にある悟の部屋へと足を向ける。

 

 自分でも何故そうしているのか、今何が起きているのかも曖昧な彼女は……悟の部屋の扉を開けた。

 

「よっ!!」

 

 その部屋の中では……悟が待っていた。

 

 彼を認識した途端、小鳥は駆け出し…… 

 

「ふざけんなっ!!」

 

「グへぇっ!?」

 

 子気味の良い音を響かせ悟の顔面を殴りつけた。

 

「アンタ……自分が助からないって悟って、サヨナラなんて言ったんでしょ!? ふざけないでよねっ!? 私の気持ちも少しは考えて──」

 

 まくし立てる小鳥。 

 

「ごめん……ただ、俺なりに小鳥のこと考えてな……」

 

 悟は言い訳しようとするも、再度沸点が上昇した小鳥のボディブローを受け床に沈み込む…… 

 

「うぐぉ……ナイスパンチ……」

 

「……っはぁ……なにこれ……夢なの?」

 

 一通りのやり取りの後、我に返った小鳥がそう呟くと悟は

 

「まあ、そんなもんだよ。 俺から小鳥に送る……最後の夢だ」

 

 そう言って立ち上がり小鳥の前に立つ。

 

「……そう……やっぱり……アンタは……ッ」

 

 悟の死を認識し始めた小鳥が涙を流そうとしていると、ふと悟は声を大にして叫ぶ。

 

「俺は今、転生してNARUTOの世界で戦っているんだっ!!」

 

「…………はぁ……ッ?」

 

 突拍子もないその言葉に、思わず呆気に取られた小鳥。 そんな彼女に悟は追い打ちをかけるように話を続ける。

 

「今NARUTOの世界は、未来が不安定の状態になっている。 漫画で見た展開とは違った運命をたどって、滅びへと向かっているんだっ!! 俺は死んだ後、その世界に転生して十数年の時を過ごして……仲間たちの力を借りて、こうして時を越えてお前に語りかけているんだ」

 

「………………」

 

 何を言っているんだお前は……という表情の小鳥。 そんな小鳥に悟は

 

「小鳥、よく聞いてくれ……俺は、お前がっ!!

 

 

 好き()()()……ッ」

 

 

「……なにそれ」

 

 悟のその言葉に、小鳥はぶっきらぼうに答えた。

 

「小学生低学年の時の、遠足で……お前が…おえぇッ……ナメ、蛞蝓を口に入れてしまった俺の傍で寄り添ってくれたあの時から……俺はお前を好きになった」

 

「……思い出して嗚咽を出してんの?」

 

「未だに克服できてないんだよ……ってそんなことよりもっ! 聞いてくれ、俺はその世界で多くの人と出会って繋がりを作った。 俺には色んな大切な人がいて……皆を守れる力がある。 だから小鳥……もう、こっちには帰ってこれない」

 

「……本当だとしてもバカじゃないの……? アンタが……悟が何出来るっていうの?」

 

「世界を救える」

 

 ハッキリと、ゆるぎないその視線。 黄昏時を思わせる暗い山吹色に輝く悟の瞳は確かな意志を小鳥へと伝える。

 

「……」

 

 黙り込んだ小鳥。 自分の言うべきことは言ったとばかりに口を閉じた悟に対して小鳥は大きなため息をつく。

 

「…………はぁ~……俺は俺の道を行く。 お前は俺を忘れてお前の道を行け……そう言いたいんだ」

 

 悟の意志を感じた小鳥のその言葉に……悟はうなずく。

 

「ホントバッカじゃないの? サヨナラの一言でそんなこと分かる訳ないじゃない……」

 

「あの時は余裕がなかったんだよ……」

 

「そう……なら

 

 

 

 絶対に忘れてあげない」

 

 

 

「なっ!?」

 

「この先、別の誰かを好きになって……子どもを産んで……幸せな家庭を築いて……おばあちゃんになって……天寿を全うしても、アンタを忘れない。 黙雷悟っていう底抜けの馬鹿が居たってことは……はぁ……そっちはそっちで好きにしたらいいじゃない。 世界でも何でも救ってきなさい……そして、そっちで幸せになってよ」

 

「小鳥……」

 

「これが私の夢の出来事でも構わない。 本能でアンタを失った痛みを忘れようとしているだけかもしれない。 だとしても、アンタと一緒に過ごした時間は……私にとってかけがえのないもの。 例え……この恋心が届かなくても……アンタは私の大切な幼馴染よ」

 

「っ……」

 

 覚悟を決めていたはずの悟だが、小鳥からの言葉に……僅かに瞳に涙を浮かべる。

 

「……フフ、こんなことで泣いてたらNARUTOの世界でやっていけないわよ?」

 

「……これで最後だ」

 

「あっ今のイタチのセリフでしょ?! そう言えばそっちで十数年過ごしたならイタチとも直接会えたの!?!?」

 

「……一応、小さい頃に背に乗せて貰ったことが……」

 

「は!? 恨めしいっ!!! 私の推し相手になんてことを……何か、アンタが死んだことざまあみろって感じて来たかも」

 

「おい、ふざけんなっ!! こっちはこっちで必死だったんだぞ!?」

 

「こっちもアンタが死んだらおばさんやおじさんが大変な事忘れてない? 私も目の前で血だらけのアンタを見て……トラウマに成っちゃうかも」

 

「っ父さん母さんには確かに悪いけども……と、とりあえず俺の死に際の凄惨さはお前の記憶を弄って緩和させとくから」

 

「なにそれ……しれっと怖い事言うわね」

 

「こう見えてもうちは一族の力引き継いでるから、現に今も写輪眼の力でこうして小鳥と会話しているわけだし」

 

「アンタまるで……転生物の主人公みたいね」

 

 そしてその後、互いの世界のついて……話し合った2人。 

 

 

 

 

 

 

 

 主にNARUTOの世界での体験を語り終えた悟は、ふと立ち上がり

 

「さて……そろそろ限界だ」

 

 そう呟いた。

 

「……そう、アンタ私を心配してこうして来てくれてるんでしょ? ……聞いた限りだとスゴイ修羅場をくぐりぬけて来たみたいだけど……心配性のアンタがホントに忍びとしてやっていけるの?」

 

 最後にと小鳥がそう心配するように問いかける。 

 

「忍びってのは耐え忍ぶ者って自来也が作中で言ってたけど、悟。 アンタは大丈夫?」

 

 その確かめるような言葉に悟は僅かな沈黙の後……口を開いた。

 

 

「俺は耐え忍ぶ気なんてない。 ただよりbetterな、幸せな光景を見ていたいんだ。 だからこそ俺が目指すのは……

 

 

 例え異世界から来た存在で……世界に誤解され正しく認知されなくても、世界の為に……いや皆の為に闘える……そんな影のような……

 

 

 〈忍ぶ忍者〉だ」

 

 悟は自身を持ってそう答えた。 その言葉を聞いた小鳥は小さくため息をついて

 

「じゃあ、行ってきなさいバカっ!! アンタの忍道……貫き通しなさいよ?」

 

 悟に向け、拳を向ける。 そして悟もその小鳥の拳を合わせ

 

「ああ、行ってくる……っ!!」

 

 そう言った直後。

 

 

 天音小鳥は意識を失った。

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 真実の滝の前で、悟は佇む。

 

「これで良かったのか?」

 

 ハゴロモのその問いかけに悟は静かに……確かに答えた

 

「はい」

 

「そうか……」

 

 僅かに安堵の表情を浮かべたハゴロモは身体を薄れさせる。

 

「そろそろ時間だな、黙雷悟よ。 お主はもはや、只の人にはあらず。 

 

 立派な……忍びだ。

 

 例えどのような結果に成ろうとも……ワシはお主と会えたことを、誉として忘れぬ。

 

 さらばだ」

 

 別れの言葉をいうハゴロモに、悟は

 

「ナルトとサスケをよろしく頼みます……六道仙人」

 

 そう呟いて頭を下げた。

 

 1人真実の滝の前に残された悟は

 

「さてと……」

 

 ()()()()

 

 真実の滝とは現実で目を閉じている間に心の中へと至る神聖な場所である。

 

 現実で目を開けた悟は

 

 

 

 

 滝の中から飛び出てくる、鮫肌と一体化した鬼鮫と目が合った。

 

 

 

 

「きもっ!!!????」

 

「天音小鳥!? アナタ以前は良くも私の食料をっ!!」

 

 

 

 

 

 

 



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第四次忍界大戦~黙雷悟最後の戦い~
33:戦火の灯火、宿りし日


次回以降、更新が遅れます、すみません。


 真実の滝の中から飛び出してきた奇妙な姿をした鬼鮫の姿に悟が怯むと同時に、その背後から声が聞こえる。

 

「あれは……珍虫っ!?」

 

「ガイさん、アンタ滝の前にも黙雷悟が居ること忘れないでくださいよっ!?」

 

「暁が二人も島の中に……っ!」

 

 

 マイト・ガイ、サングラスが特徴の山城アオバ、雲隠れの忍びであるモトイらの驚愕する言葉と共に悟は現在の状況を把握する。

 

(ってことは、今滝の奥でナルトとキラービーが人柱力としての修行をしている場面……っとなると……)

 

 悟は雷遁チャクラモードを瞬時に発動し、跳躍する。

 

「っガイさん、攻撃が来るぞ……っ!」

 

 アオバのその叫びに呼応するようにガイも跳躍。

 

「飛雷脚っ!!」「木ノ葉壊岩升ゥ!!」

 

 悟の蹴りとガイの強力な肘鉄が

 

 

 鬼鮫を同時に穿った。

 

 

「グフォッ!?」

 

 

 息の合った同時攻撃に鬼鮫が吹き飛び、滝の流れる脇の崖に叩きつけられ……そのまま悟はガイに対しても攻撃をしかけ、徒手空拳での攻防が始まる。

 

「何だ、黙雷悟と鬼鮫は暁の仲間じゃないのか……?!」

 

 アオバとモトイが困惑する中、互いに攻撃を躱し逸らしながらガイと悟は言葉を交わす。

 

「悟よォ、随分と強くデカくなったなっ!! ……どうして俺を攻撃するんだァ!?」

 

「ガイさん、鬼鮫は俺の仲間じゃないけど……貴方たちに委ねると碌なことにならなそうなんで、俺が預からせて貰いますっ!!」

 

 悟は僅かな隙に雷遁地走りを使い、ガイをけん制する。 ガイもそれを予期して滝の前の水面から飛びあがると同時に、滝の中からキラービーが姿を現した。

 

「鮫は逃がしては駄目ェ、そいつはスパイの暁、逃がせば情報が漏れて赤恥!!」

 

 独特な喋り方をするビーの登場、そんな彼と悟の視線が合った瞬間。

 

 大刀・鮫肌と融合していた鬼鮫はその融合が解かれ、やせ細った姿になって滝つぼの中に逃げ込み身を潜める。

 

 鮫肌も姿を現したビーの存在を確認すると、懐いた犬の様にビーへと飛びかかり彼にかじりついた。

 

「ハハハ……コラコラ! じゃれかたが乱暴♪ 好かれるのは俺の人望♪」

 

「……ギギギ」

 

「ビー気づけ!! チャクラを取られてるぞっ!!」

 

 そんなビーにかじりついた鮫肌を経由し、水中からチャクラを吸い取る鬼鮫。 そのことを指摘するモトイらが鬼鮫に攻勢を仕掛けるも……

 

「水遁・水牢の術っ!!」

 

 悟が発動した術が、ガイ、モトイ、アオバを捕え足止めをする。

 

「ごごっがごぼっ!!(なんのつもりだ悟っ!!)」

 

 水牢の中から問いかけるガイに悟は申し訳なさそうに僅かに頭を下げる。 そんな隙を光明と、力を取り戻した鬼鮫がその場から逃げ出すと悟もそれを追うべく駆けだそうとする。

 

 すると、鬼鮫にチャクラを吸い取られたビーがヘロヘロになりながらも悟を呼び止める。

 

「お前の相棒、聞いたぜ要望……俺の相棒、貸したぜ少々……相棒の横暴、止めたようで殊ッ勝ォ……ゥィ……」

 

 倒れ伏しながら、人差し指と小指を建てたビーんpその言葉の意味を悟が理解し目を丸くすると……

 

「ありがとう、アンタの協力感謝上等……っ!」

 

 拳を突き出してそう言い残し、鬼鮫の後を追った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 大亀でなっている島から、海面へと飛び出し口寄せ鮫を呼び出した鬼鮫。

 

 鮫に巻物を託そうとしたその瞬間。

 

「剛乱脚!!」

 

 空中から飛び出た悟の蹴りから繰り出される衝撃波が鮫を穿ち、その姿を消させる。

 

「チィッ……邪魔をしないで頂きたいっ! その衣、同じ暁でしょうっ!?」

 

「いいや、違うねっ! 俺とマダラとでは……望む未来が違うっ!!」

 

 鬼鮫を逃がさないために、同じく水面に降り立った悟は鬼鮫と向き合う。

 

「全く……天音さん……いや、黙雷悟とかいう宿屋であったあの時のガキですねアナタぁ。 ……つくづく私の邪魔をしますねぇ!」

 

「はん? 俺は俺のしたいことをしているだけ、その道の上にアンタが偶々いるからちょっかい出してるだっけェ」

 

「あの八尾にしょうもない影響受けたようですねェ……その首、あの時の食料の借りとして噛み千切ってあげましょオォ!!」

 

 若干苛立ちを露わにしている鬼鮫は素早く印を結び、海面を唸らせる。

 

「水遁・大千食鮫ォ!!」

 

 海に溢れんばかりある水を水遁で模った、巨大な鮫を数え切れない鮫をけしかける鬼鮫。

 

「おおっと食べ物の恨みは怖いな……だがアンタの倒し方、俺はそれを実践できるんだぜっ!!」

 

 悟は気合を入れ、腰を落とす。

 

「八門遁甲、第七驚門……開っ!!」

 

(あの珍獣と同じ八門を……っここまで扱えるとは……っ!)

 

 鮫の大津波越しに、悟の膨れ上がるチャクラを感じ取った鬼鮫。

 

「かつてとは比べるまでもない実力ですねぇ……ならば、こちらも出し惜しみはなしでいきましょうォ!!」

 

 

 

「水遁・大鮫弾の術っ!!!」

 

 

 

 鬼鮫の怒涛の水遁の連撃。 しかし

 

「スゥ……全身全霊……行くぞ、昼虎ァ!!」

 

 悟が独特の構えから放たれた両手突きから、白虎を模った衝撃波が放たれる。

 

 白虎は千の鮫の津波に穴を開け、その奥から迫る大鮫弾の口へと収まり……収縮する。

 

「なっ!?」

 

 その瞬間、鬼鮫の驚愕とほぼ同時に昼虎が爆ぜ全ての水遁の鮫を巻き込む大爆発を見せる。

 

「チャクラを術ごと飲み込むはずの大鮫弾ごと押し負けるとは……!? まさか今のは──」

 

「只の正拳突きの衝撃波だよっ!!」

 

「っ!?」

 

 海面が爆ぜたことで上がった水しぶきの中を、軽重岩の術で飛び抜け鬼鮫へと接近する。

 

「貴様ァ!!」

 

 飛び込んできた悟めがけ、鬼鮫が拳を放った瞬間。

 

 

 

 悟の身体が大爆発を起こして、再度海面を爆破する。

 

 

 

 爆発に吹き飛ばされ海面を跳ねた鬼鮫は大亀の島へと叩きつけられた。

 

(今のは……イタチさんの分身大爆破の術っ!?)

 

 あまりの衝撃に、上半身の衣を吹き飛ばされ、意識も飛ばしかける鬼鮫。 しかし彼のタフネスがそのダメージに耐えきり、すぐさまその場から離れようとした瞬間。

 

「なっ……!?」

 

 影分身を囮に海中にもぐって居た悟が飛びだし、海面から急上昇。 鬼鮫の身体を大亀の側面の崖に擦り付けながら遥か雲の上へと飛び去る。

 

 

「~~~~っ!!」

 

 

 上空まで鬼鮫を連れ去った悟は彼を一度蹴り上げ宙に舞わし、そのままチャクラを封じる木遁で縛り上げ軽重岩の術で宙に浮かせる。

 

 追撃が来るか、そのまま天から地へと叩き落とされるか、そうふんでいた鬼鮫は拘束されたことに驚き言及する。

 

「っ……なるほど、伊達で暁に入ったわけではないようですねぇ……前から強いとは思ってはいましたが……しかしわざわざ拘束するとは、私の情報でも抜き取るつもりですかぁ……?」

 

「……」

 

 ボロボロで息の上がった鬼鮫の問いかけに悟は無言で彼の身体を直接触れないように、縛った木遁にチャクラ糸をくっつけると彼を牽引して飛び始める。

 

「っ……口を拘束しないのは甘いですねぇ……いざとなれば舌を噛み切ってでも私は覚悟を遂行しますよォ」

 

 無視された鬼鮫のその言葉に悟は一旦移動を止め、鬼鮫の正面へと移動する。

 

「鬼鮫先輩、1つ聞きたいんですけど」

 

「そんな子供じみた聞き方で誰が情報を吐くと思いますか? 交渉の仕方を勉強なさった方が良いのでは?」

 

「貴方は何のために闘ってるんですか?」

 

 鬼鮫の皮肉を無視した悟のその問いかけに、鬼鮫は呆気に取られ口を開ける。

 

「何の……って言う訳ないでしょう」

 

「そういう任務的な事じゃないですよほら、色々あるでしょう? 例えば角都先輩なら金のため、デイダラ先輩なら芸術のため、飛段先輩なら宗教のため……皆俺が殺してしまいましたけど……貴方にもそういうのがあるでしょう?」

 

 若干表情を暗くした悟のその問いかけに……鬼鮫は無言のまま、僅かに瞳を揺らす。 なおも無言の鬼鮫に悟は言葉を続けた。

 

「……イタチさんは弟のサスケのためにその命をかけた……そして俺は、俺の好きな人たちに世界を託せるように……戦っている。 貴方はどうなんです」

 

 試すかのような瞳をする悟の真っ直ぐな問いかけ。 自身の全てを把握されているかのようなその緑色の瞳に、妙な嫌悪感を覚えた鬼鮫は視線をそらす。

 

「何を馬鹿な……言ってしまえば、それこそ情報が──」

 

「無限月読が本当に救いになるとでも思っているんですか?」

 

「っ!?」

 

「言っときますけど、マダラの無限月読はまやかしだ。 奴を信じてもあるのは……裏切られる事実だけ、貴方も結局はマダラの使い捨ての駒だ」

 

「……っ」

 

 悟からのその情報に鬼鮫は若干表情が崩れた。

 

(多分、そうだとは思ったけど……鬼鮫も結局あいつらにとっては使い捨ての駒扱いだ。 最低限の情報共有もなしに、牛鬼を狩らせようとしたり敵の懐に潜入させ……情報を集めさせる。 忍びらしいけど酷いもんだな……)

 

「さらに追加。 無限月読で理想の世界に行けるって言うのも殆ど嘘だ」

 

「……それは貴方がついた嘘でしょう、貴方が全貌を知るはずが……」

 

「嘘かどうか……視てみるか?」

 

「何を──っ!?」

 

 悟はその両眼を変化させる。 その眼光はクルクルと渦巻くように回転し瞳が赤く……三巴の紋様を模り、さらに変化を見せる。

 

 ……親しい者の死を経験するという()()()の開眼条件……それを()は、元の世界への帰還を諦めたこと=元の世界における自身の死を持って満たしていた。

 

 万華鏡写輪眼の瞳力は写輪眼を遥かにしのぎ、例え固有瞳術である「月詠」や「別天神」でなくともその幻術の精度を高いものへと昇華する。

 

 それが例え、相当の手練れである干柿鬼鮫であっても直視すれば逃れられるものではなく……

 

 鬼鮫は悟の幻術へと堕ちるのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 数十分後、ゆっくりと眼を覚ました鬼鮫に悟は問いかける。

 

「ほら、どうでした? 前に言いましたよね、俺は未来を知る人間だと」

 

「…………にわかに信じられません……今のは貴方の妄想だっ!」

 

「まあ、信じるかどうか貴方に託しますよ」

 

「貴方は、一体私に何を求めているんですか……?」

 

「……イタチさんと共に居た貴方は、()()()()()()()()じゃないはずです。 少なくとも命についてその重みを知っている。 だからこそ、過去、同じ忍び同士……仲間を斬ることを是とした霧隠れのやり方に苦悩しこの世界を偽物だと思った……そうでしょう?」

 

「……何故そのことを……それは貴方の言う未来ではなく過去の出来事のはずですが……」

 

「貴方が、マダラのやり方で貴方の本当に望む世界になると心の底で思っているわけではないと俺は思っている」

 

「……っ」

 

 そこまで言うと、高速で飛行していた悟は斜め下に向け進路を向け高度を下げていく。

 

「……俺は信頼もなしに利用したり、されるっていう関係が好きじゃない。 人は自由を謳歌するべきだ……貴方に俺の味方になれとは言わないし強制もしない……ただ」

 

 雲を抜け陸地が見え始めたところで悟は飛びながら体の向きを鬼鮫に向ける。

 

 

「可能性を提示するだけだ」

 

 

 その瞬間、悟は鬼鮫を拘束していた木に繋げていたチャクラ糸を切る。

 

「なぁ!?」

 

「アディオス、鬼鮫先輩っ!! 俺はまた生きて再会できることを望んでますよ~~~~……」

 

 鬼鮫を切り離した悟はそのまま再度雲の上まで高度を上げ飛び去って行く。

 

「ぬおおおおおおォ……っ!!!」

 

 スピードのついた状態で投げ出された鬼鮫はそのまま陸地にぶつかり跳ね、拘束されている木によってまるで樽を転がした様に地面を勢い良く転がる。

 

「~~~~っ!!」

 

 衝撃と回転に耐えながら、周囲の景色を何とか観察する鬼鮫は……

 

 自分が舗装された道を転がり、今まさに開けられた大門をくぐったことを認識したその直後木遁で作られた頑強な拘束は砕け散り鬼鮫は地面へと放り出された。

 

「ヅッ……わ、私でなければ……余裕で死んでましたよぉ……っ」

 

 持ち前の頑強さで一命を取り留めた鬼鮫はうつ伏せの状態から何とか体を起こし周囲の様子を確認する。

 

(ここは……まるで集落のようですが……しかし人の気配が少ないようですねぇ)

 

 立ち並ぶ木製の家屋には人の気配もあるが、その人数は多くはなく……お世辞にも発展しているとは言い難い場所であった。

 

 後方に位置する大門はまるで木ノ葉の物のようにも見え、ちぐはぐなその場所と悟の狙いに対しての推察を続ける鬼鮫。

 

 その時……

 

 一軒の家屋の玄関が開き中から、一人の少女が姿を現す。

 

「……大きな音……皆もう帰ってきたの?」

 

 茶髪のその少女の姿を目にした鬼鮫は

 

(私は世界の敵でお尋ね者……なりふり構ってはいられません。 申し訳ないですが彼女を人質に安全の確保を……)

 

 その少女の身柄を確保しようと体を起き上がらせ、飛びかかろうとしたその時

 

(この娘……目が見えて──)

 

 鬼鮫のその思考を邪魔するように、少女の前に人影が降り立つことで鬼鮫は動きを制止する。

 

 風をなびかせ、大きな羽を生やし額の右側に角のような物を生やしたその人影は少女の前に立つと鬼鮫に向かい戦闘態勢を取る。

 

「結界に触れ里への侵入を感知して来てみれば……お前は暁の……干柿鬼鮫だな?」

 

「っおやおや……何ですかその装束とその姿……()()()()()()()()()()()()が……似合わない五影のような笠と羽織を着ていらっしゃる」

 

「似合わないのは自覚している……っ! それにお前も見た目は大概だろう……ってそんなことよりも何の目的でここに来た!」

 

「さあ……私もそれを知りたいところですよぉ……全く」

 

 鬼鮫はため息をつきながら予想外の展開の多さに辟易する。

 

(しかし、よく見ればあの化け物……大蛇丸の所の実験体、呪印を受けた者の容姿に似ているようなぁ……まあ、それもこれも……こいつに全て吐かせれば片が付きますねぇ!!)

 

 鬼鮫はゆらりとした動作から、急に動きを速めその少女の前に立った人物へと接近する。

 

「っ!?」

 

「貴方大層な格好の割に反応速度が遅すぎますよォ!!!」

 

 鬼鮫の動きに対処できていないその人物の動揺を見透かし、鬼鮫は彼の首元を掴むように手を伸ばす。

 

 しかし

 

「どらぁっせぇえええええっ!!!!」

 

 豪快な掛け声と共に、横からの何者かの奇襲の飛び蹴りが鬼鮫の横腹を捉えて吹き飛ばす。

 

「ッグウっ!? 次から次へとォ……!!」

 

 呻き吹き飛ばされながらも、驚異的な体幹で足を地面へと設置させた鬼鮫はその奇襲者の脚を掴み、蝙蝠男へ目掛け投げつける。

 

「ちょっ!? キョウコ下がって……アカネは俺が受け止め──ブベラっ!?!?!」

 

 キョウコと呼ばれた少女を下がらせ、投げ飛ばされた赤い髪のアカネと呼ばれた人物を受け止めようとする蝙蝠男は……

 

 その勢いに負け、共に地面を転がってしまった。

 

「……いささか膂力も弱すぎませんかねぇ……呪印の力を使ってそれなんですか?」

 

 若干呆れた様子の鬼鮫。 

 

「邪魔だぁアガリぃ!!! アタシ一人でなら受け身取れたわボケぇ!!」

 

 そんな鬼鮫をよそに、もみくちゃになり自身の下敷きになった蝙蝠男をアガリと呼んだアカネは、彼の頭をはたいた後勢いよく態勢を立て直す。

 

「ッ痛いっ! 叩くことないだろ、アカネ!!」

 

「馬鹿が、お前1人で出て来ても戦いになるわけないだろうが……こういうのはアタシに任せとけ」

 

 そう言って一歩前に出た赤髪のアカネに鬼鮫が興味を示す。

 

「お嬢さんは結構なチャクラ量をお持ちで……そちらの蝙蝠男よりかは歯ごたえがありそうですね」

 

「ハン、そりゃ当たり前だこいつはこの里で最弱だからなぁ!! わかったら雑魚はさっさと非戦闘員の避難誘導しとけやカスゥ!!」

 

「口が悪いし酷いぞアカネ……っ取りあえずはこの場を頼んだ。 皆の誘導は任せろっ」

 

 アガリがショックを受けつつも、キョウコを抱えるとそのままふらふらと飛びあがりその場を離れていく。

 

「あの様子、少女一人も抱えてまともに飛べないとは……そこの〈暗〉の額当てをしたお嬢さん、もしかしてアレがここの里の長ですか? にわかに信じられませんねぇ」

 

 小馬鹿にしたような鬼鮫の発言に、アカネはコメカミをピクッと動かす。

 

「あぁん……? 確かに……アイツは雑魚だし、弱ぇえし、非力で、馬鹿だが……

 

 

 ここの長、暗影(くらかげ)なのは認めてんだよ。

 

 

 部外者が知った口聞くなカスが」

 

「口の悪い娘だ……それならそんな里長に代わって……躾をしてあげましょうかねぇ!!」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

(何やらかしてんのさ、雷……)

 

「おっ! 起きたか黙」

 

 空を飛び続けている悟に、精神世界から黙の声が聞こえ返事をした。 未だ若干泣きながら鼻をすする黙の息遣いも聞こえた気がしつつもスピードを緩めることなく飛ぶ悟はそのまま黙との会話を進める。

 

(……鬼鮫を暗隠れに落として……彼ら、殺されてしまうよ?)

 

「そんなことはねぇよ。 アガリとアカネが居ることは感知してたからな……他の皆は戦争の準備か何かで居なかったようだけど」

 

(君が体力を削ったとしても、鬼鮫の力ならアカネからチャクラを奪って回復してしまう……そうなれば──)

 

「そうならない。 アイツらを舐めるなよ、黙」

 

 彼ら暗隠れを誇るように、信頼を寄せている悟の言葉に黙は黙り込む。

 

(……そう言えば、君は僕を恨んでないとは言ったが元の世界に戻らなかった理由は聞いてなかったね……どうしてなんだい?)

 

 話題を変えようと、黙が後ろめたそうに悟へそう問いかけた。 身勝手な理由で殺されたにも関わらず、その相手を恨んでいないと言い未だに世界に関わり続けようとしている。 そんな悟の……雷の真意を黙は知りたかった。

 

 悟はその問いに小さく笑い

 

 

 

「黙は頼りないからなぁ」

 

 

 

 ニコッと笑顔を作って答えを返した。

 

(なっ……!?)

 

「全く……今まで1人でやって来て、散々駄目だったくせに何でまた1人になろうとするのか俺にはわからんよ……」

 

 悟は高速で飛行しつつも、呆れたように肩をすくめる。

 

(っ……今までの世界に比べて、この身体は力を解放できているっ! その力さえあれば、僕一人でも──)

 

「無理だね」

 

(っ!)

 

「……お前ひとりの魂じゃ、最後まで持たないだろ」

 

(……戦争には介入せず……大人しく時を待ち、やがて来るマダラだけを返り討ちにするだけで良かった……)

 

「俺はそれじゃあ納得できない。 戦争には介入するし出来る限り、一人でも誰かを助けたい」

 

(……そんな知りもしない誰かの為に、この世界に残ったとでも言うのか!? 既に犯罪者である僕らが助けたところで感謝などされすはずもない……っ!)

 

「オイオイ……長年連れ添ってきたのに俺のことわかってないのか?」

 

(……ッ…………ああ、そうか……君の()()……全く……本当に……君は馬鹿だな……)

 

 呆れたように言葉を呟く黙に、雷は満足したようにスピードを速める。

 

「逆に言えば、俺一人じゃ助けられる命も限られる。 俺たちは同じ体を共有する運命共同体だ、だから……頼りにしてるぜ

 

 

──相棒」

 

(……っ)

 

 黙はその悟からの言葉に戸惑う。 以前も彼が言った同じ()()という声掛けに……黙は答えなかった。 彼に対する後ろめたさ、その罪の重さ。 それらが雷と黙の繋がりを隔てていた。

 

 しかし

 

(……そうだね、君だけでも……思い付きで行動するから危なっかしくて頼りない)

 

「何ぃ!?」

 

(だから、この命燃え尽きるまで……それまでは……君と一緒に君の望む未来を目指そうか……

 

 

──相棒……」

 

「っ……ああっ!」

 

 黙の心にもう……隔たりはない。 彼から人生を奪った負い目が消えることはない黙だが……雷の本当に望むことを手助けしたいと湧き出る気持ちに、偽りはなかった。

 

 ……この日、黙雷悟は本当の意味で一心同体となった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

  

 一方で鬼鮫とアカネの戦闘は苛烈さを極めていた。

 

「貴方、忍術もなしに良くここまで私に着いてきますねぇ……しかし忍術を使わない忍びにこうも出くわすとは、私も何かしら呪われているのでしょうか……」

 

「チィ……クソつえぇ……サトリ以外にもこんな奴がいんのか……っ」

 

 鬼鮫の水遁と体術による攻撃は辛うじてアカネに致命打を当てていなくとも、少しずつその体力を削っていく。

 

「先ほどまでの勢いはどうしました? そろそろ限界ですか?」

 

 鬼鮫の煽りにアカネのこめかみが大きく動く。

 

「ハッ! アタシは負けねぇ!! あのバカアホマヌケ陰険クソオカマ野郎以外に負ける気は微塵もねぇんだよォっ!!」

 

 アカネの叫びとともに、周囲にから大気が渦巻くようにアカネへと収束し始める。

 

「この……気配……まさk──」

 

 言葉を言い切る前に鬼鮫は、突然の衝撃で吹き飛び家屋に突っ込む。

 

 桁違いのスピードの打撃、その拳を放ったのは……

 

「オイオイ、限界か? アタシの拳が強すぎて悪かったなぁ!!」

 

 長い紅い髪が硬く、魚の尾ひれのような形状へと変化。 仙骨の辺りからも尾びれを生やした全身の皮膚が硬く浅黒く変化したアカネであった。

 

「てめぇは敵だ、遠慮なくこの力使わせてもらうぜっ!!」

 

「……全く……貴方も呪印持ちとは……しかし強さは先ほどの蝙蝠男とは段違いですねぇ」

 

 呆れた鬼鮫の言動に返すように、強烈なかかと落としをするアカネ。 鬼鮫が家屋から素早く飛び出ると、かかと落としの衝撃で家屋の壁と床が吹き飛ぶ。

 

「おやおや、貴方たちの里でしょう……自ら壊してどうするんですか」

 

「後で直しゃあいいんだよ、こんなもんっ!! てめぇをぶっ倒す方が優先だっ!!」

 

 テンションの上がったアカネはそのまま真っすぐ右の拳を鬼鮫目掛け繰り出す。

 

 鬼鮫はその拳を左手で掴むように受け止める。

 

「なに?!」

 

「膂力は私も自信ががありましてねぇ……そして」

 

 鬼鮫はその触れている部分から、アカネのチャクラを奪い取る。

 

「っ力が抜け……っ!?」

 

「私に勝るとも劣らない……良いチャクラをお持ち

 

 

 グホォァ!?」

 

 

 しかしアカネは、鬼鮫に対して頭突きをかまして仰け反らせる。

 

 

「っ!?」

 

「アタシを捕まえたとでも思ったかァ!? アタシがお前を捕まえたんだよォっ!!」

 

 いつの間にアカネの右手と鬼鮫の左手が、癒着し離れなくなっているため仰け反った鬼鮫は倒れることが出来ずにアカネの左手でのラッシュを受ける。

 

「っ貴方、さてはバカですねぇ!? チャクラを吸われながらその相手と手をくっつけるなどとっ!!」

 

「馬鹿じゃねぇよっ!! 先にてめぇをブチ倒せばアタシの勝ちだからなァっ!!」

 

「その考えをバカだと言っているんですよォ!!」

 

 距離を取ることが出来なくなった2人はお互いゼロ距離での殴り合いを始める。

 

 踏ん張る両足は上げれば相手に持ちあげられるため蹴りが出せない。 そのため互いに空いた手での顔面を狙ったノーガードの殴り合いは鮮血で染まっていく。

 

「だはははははっ!! オラァ!! オラァ!!」

 

「っフンっ!!」

 

 互いに鼻から血を流し、唇が切れそこからも血が流れ落ちる。 辺りが2人の血で染まり始めた時

 

「っウグッ……!?」

 

 鬼鮫が放ったボディブローがアカネの動きを止め、そのまま

 

「相手が悪かったですねぇ!! 私!! 相手で!! なければぁ!! 死なずに済んだものをっ!!!」

 

 鬼鮫は容赦なくアカネの腹と顔面を交互に、一方的に殴りつける。

 

 鬼鮫はそのまま数十の打撃を浴びせ、自らの拳の皮膚が剥がれ落ちる頃にはアカネは身体をグッタリとさせ膝を突き項垂れていた。

 

「ハァ……ハァ……妙に上手くチャクラが吸えないせいで……少々手こずりましたが……これで私の勝ちです」

 

 垂らした頭部から血をダラダラと地面に吸わせるアカネ。 その様子に鬼鮫が勝ちを確信するも

 

(……まだ息がありますねぇ……何というタフネス……)

 

 アカネが生きていることに驚く。

 

 悟にやられた際に上半身の衣類事、忍具などを吹き飛ばされた鬼鮫は手っ取り早くアカネを殺すために刃物を用意できないことにため息をつきつつも

 

「言動と態度さえなければ、とてもきれいな顔でしたのに見る影もないでしょうねぇ……さて今殺してあげましょう」

 

 そう言った鬼鮫が膝を突いているアカネの首に手を当てがい首を絞める。

 

 その瞬間

 

 顔を挙げたアカネの表情に鬼鮫が驚愕した。

 

 アカネは中指を立て、ボコボコに歪んだ顔でニヤリと笑っていたのだ。

 

「っ!?」

 

 その瞬間、互いの手を癒着していた皮膚のような組織がボロボロと崩れ不意に鬼鮫の頭が揺れたように意識が薄れる。

 

 その隙にアカネが勢いよく体を翻し、尾と髪で強烈な打撃を繰り出した。

 

 鬼鮫は咄嗟にガードを試みるも、拳よりも数段威力の強いその打撃にガードした腕の骨を折られながら吹き飛ぶ。

 

 吹き飛ばした鬼鮫を尻目にフラフラと立ち上がったアカネは口から血を吐き捨てた。

 

「あ゛~~……痛てぇ……クソが滅茶苦茶殴りやがって……オラ、()()()()()()引きつけておいたぞカスっ!!」

 

 アカネのその言葉に返事をするように、彼女の直ぐそばにアガリが降り立つ。

 

「ありがとう、アカネ」

 

 アガリの感謝の言葉に、へッと突っぱねるような態度を取るアカネ。 アガリが自らの体組織を溶け込ませるようにアカネに吸収させその傷を回復させ始めると鬼鮫が起き上がる。

 

「……ッ()()ですか……小賢しい真似を……」

 

 鬼鮫のその指摘はアガリに対してであった。 アガリが呪印状態2の時、彼は蝙蝠を模したように音波を放てる。 その音波で僅かだが鬼鮫の頭を揺らし怯ませることで、アカネに反撃のチャンスを作ったのだ。

 

「ここからは俺も参戦する…っ!」

 

 真剣な表情のアガリ、しかし

 

「……面倒な奴が増えたな」

 

 ボソッとアカネがそっぽを向いてそう呟いた。

 

「き、聞こえてるぞアカネっ! 味方が来て面倒ってなんだ!? それに俺の聴覚が良いことは知ってるだろ!?」

 

「あ゛~、そうだったかァ? アタシはサシで戦いたかったんだけどなぁ……精々役に立てよ、根暗野郎」

 

 耳を掻きながらとぼけるアカネにアガリが問い詰める。 そんな隙に

 

「水遁・水鮫弾の術っ!」

 

 鬼鮫が鮫型の水弾を飛ばす。 アカネは横に、アガリは上空へ避け2人がいた場所が抉れる。

 

「アイツ……腕が折れたはずだが……っ」

 

 アガリは忍術が飛んできたことに驚きを露わにした。

 

 術を放った鬼鮫は既に腕が折れている様子もなく、平然と次の水鮫弾を放つ。

 

「そこのお嬢さんから頂いたチャクラを回復に使わせていただきました……雑魚が一人増えたところで、戦局はそうは変わりませんよォ!」

 

 水鮫弾は地上にいるアカネをしつこくれ狙い、行動を制限させる。 鬼鮫がアカネしか狙わないため、再度アガリが音波を放ち鬼鮫の感覚を鈍らせようとする……が

 

「なっ……効いてないのか!?」

 

 鬼鮫は平然と術を放ちアカネを追い詰める。

 

「少しだけクラっとしますが、来ると分かっていればこの程度の攻撃……二日酔いの方が手ごわく感じる程ですよォ」

 

 その鬼鮫の言葉通り、彼の動きに鈍った様子はなく所謂我慢できる程度の些細な影響しかないことがうかがえる。

 

「ぜんっぜん役に立たねぇじゃねぇかっ!! カスっ!!」

 

 複数の鮫型の水弾に追い回されるアカネは罵倒をアガリに飛ばす。

 

「雑魚は放っておいて、先にあちらのお嬢さんを──なっ!?」

 

 アカネの処理を優先した鬼鮫だが、不意に激しい振動が体を襲い膝を突く。

 

(頭が割れるような……音波!? しかしあの男にそれほどの力があるようには……っ!)

 

 その鬼鮫が晒した隙につけいるように迫りくる複数の水鮫弾を尻尾で薙ぎ払ったアカネが駆けだす。

 

「よくやったァ、ボケナスっ!!」 

 

 アカネの彼女なりの激励の言葉にアガリが微妙な顔をしつつも

 

「アカネ、行けェ!」

 

 攻撃の指示を出しつつ、音波を放つ。

 

「っ!?」

 

 アガリの音波攻撃が、更に激しさをましたことで鬼鮫の視界が揺らぐとその視界に紅い姿の人影が写る。

 

「さっきのお返しだぁっ!! 鮫野郎ォ!!」

 

 粗暴に振り抜かれる拳。 顔面にそれを受けた鬼鮫は大きく仰け反り後方に倒れ伏す

 

 その前に踏ん張りを効かせ、片足を軸に回り蹴りをアカネに見舞う。

 

「うげぇっ!?」

 

 カウンターに吹き飛んだアカネが崩れた家屋の瓦礫に突っ込むと鬼鮫はアガリに向け術を放つ。

 

「水遁・矢武鮫っ!!」

 

 印を結び、鬼鮫が片腕を豪快に振るうと掌から湧き出た水分が弾丸の様に加速してアガリを襲う。

 

「っ!!」

 

 上空に居るアガリに対してのその水の弾丸は、彼の羽を穿ち飛行能力を奪う。

 

 避けようとしたアガリだが羽が破れたことで地面へと墜落。 その隙を突かれて鬼鮫に首を絞められつつ馬乗りにされる。

 

「ガぁっ……」

 

「先ほどの強烈な音波……彼女が罵倒と共に放ったチャクラの波を貴方が中継して指向性を持たせ増幅させたわけですねぇ? 侮りましたよ貴方を……良い演技だったと褒めてあげます……」

 

 戦いに対する経験が鬼鮫は豊富であり、その経験からアガリの攻撃の秘密はすぐさま看破された。

 

 アカネを行動不能にすればアガリの攻撃も弱体化してしまうのだ。

 

「貴方は蝙蝠、彼女はさしずめイルカですか? 大蛇丸は人を動物にするのが好きだったんですかねぇ……かく言う私も鮫に似ていると言われますがぁ──」

 

 鬼鮫が余裕を見せた瞬間、家屋を吹き飛ばすほどの踏切を見せるアカネ。

 

 しかし

 

「甘いっ!!」

 

 鬼鮫がアガリの首を絞め挙げたまま持ち上げ、アカネの突進に対してカウンターの裏拳を放つ。

 

 咄嗟にガードを試みたアカネだが、自身の突っ込む勢いが足された攻撃の威力に腕を弾かれ大きく仰け反る。

 

 その隙にアガリが抵抗して首を絞める腕を叩くのも気にせず鬼鮫はアガリを地面に叩きつけ足で踏み、印を結ぶ。

 

「水遁・大爆水衝波ァ!!」

 

 術の発動と共に鬼鮫を中心に水があふれ出し、巨大な水球を形成する。

 

 水の流れで、鬼鮫と距離の離れたアカネはアガリが一際濃いチャクラで形成された水で覆われていることに気がつく。

 

「彼に貴方の音波が届かないよう、この水球の中でもより堅牢な水牢を用意しましたよ……さぁイルカのお嬢さん、長を助け出せますかねぇ?」

 

 試すかのような鬼鮫の挑発にアカネは……

 

「そいつの助けなんかなくたって勝てらァ!!」

 

 髪と尾びれを使い、高速で水球内を泳ぎ鬼鮫へと接近する。

 

 しかし

 

「水遁・千食鮫っ!!」

 

 鬼鮫が数え切れないほどのチャクラで形成した鮫を解き放つ。 地上とは違い、水中でのその弾速は速くアカネを執拗に追い回す。

 

「流石イルカ、良く逃げますねぇ……しかし時間を掛ければこの男がおぼれ死にますよォ!」

 

 鬼鮫のその言葉に添うように、苦しそうにもがくアガリ。 胸を押さえつけられたまま水球内の水牢に閉じ込められたことで息は殆どないも同然であった。

 

「チィっ!! うっとおしいっ!!」

 

 鮫を撒こうとするアカネだが、チャクラを鬼鮫に吸われアガリからの治療も充分ではなかったためその動きが段々と鈍り始める。

 

(黙雷悟……奴がどんなつもりでここに落としたのか定かではありませんが……恐らく彼のご期待には応えられそうにないですねぇ)

 

 不敵な笑みを浮かべる鬼鮫。 その瞬間、鮫の一匹がアカネの脚を捕えて噛みつく。

 

「アグッ!?」

 

 動きが止まったアカネに次々と鮫が群がる。 その様子を眺めていた鬼鮫は

 

「さて……後はどうにかしてアジトに戻りますか……」

 

 そう呟いた。

 

 瞬間

 

「どっせぇえいやぁああっ!!」

 

 無数の鮫に群がられてたアカネを中心に、超音波が発生し鮫たちをまとめて薙ぎ払い消滅させる。

 

「何!?」

 

 その光景に驚きを露わにする鬼鮫。 

 

 腕や足などの肉が一部削がれたアカネはそのまま血を流しつつも好機到来と鬼鮫に向かって突進する。

 

「己を餌に攻撃を集めさせてまとめて対処するとは驚きですが、学びませんねぇ貴方もっ!! 単純な力比べでは私には敵いませんよォ!!」

 

 突っ込んでくるアカネに向かい打つように鬼鮫は印を結ぶ。

 

「水遁・水鮫刃」

 

 己の右腕に、鮫状のチャクラを纏い構える鬼鮫。

 

オラぁアアアアア!!!」

 

 アカネはそんな鬼鮫に向かい、右手を振りかぶる。

 

「貴方の腕ごと、噛み千切ってあげましょォ!!」

 

 鬼鮫とアカネが同時に拳を突き出す。

 

 鬼鮫の腕に纏った鮫状のチャクラがアカネの拳を噛み砕こうとする。

 

 

 が

 

 

──パンッ

 

 

「なにっ!?」

 

 鬼鮫の右腕が一部破裂しその腕に纏ったチャクラが吹き飛ぶ。

 

 そして

 

「私たちの勝ちだァ!! 鮫野郎ォォォォオオっ!!

 

 アカネの渾身の拳が鬼鮫の頬を捕える。

 

 メリメリと音を水中に響かせ、擦りつけるように振るわれる拳。

 

 そして再度

 

 

──パンッ!!

 

 

 破裂音が響き、アカネのまるで何かが爆発したような威力の拳に吹き飛ばされ鬼鮫は水球から飛び出る。

 

 水球から飛び出た勢いのまま地面を数度跳ね、暗隠れの高層の建物の軒先にぶつかり大きく瓦を弾け飛ばした。

 

 鬼鮫にダメージが入ったことで、水球と水牢は解除され多大な水が里に流れ出る。

 

 水牢から解放され水に濡れた地面を転がったアガリは大きくせき込みながらもフラフラと立ち上がる。

 

「ガハッ……死ぬかと思った……」

 

 立ち上がったアガリに対してアカネが近寄り背を叩く。

 

「チッ!!」

 

 舌打ちしながら叩いたその威力にアガリが飛びあがるも

 

「あの鮫まだ息してんぞっ!! チンタラしてねぇで止めを刺しに行くぞ」

 

 ボロボロになったアカネは足を引きずりながら鬼鮫の元へと歩く。

 

 そんなアカネにアガリが追い付き、肩をかして軒先から剥がれ落ちた鬼鮫の元へと向かう。

 

 2人が鬼鮫の元へと着くと仰向けで地面に倒れた状態の鬼鮫は身体を動かす様子もなく静かにしていた。

 

 近くに2人が来ると、鬼鮫は小さく笑い始める。

 

「……クックック……まさか……日に二度もこの私が負けることになるとは……屈辱ですねぇ」

 

「……二度……?」

 

 殆ど力が残されていない鬼鮫のか細いその呟きにアガリが問い返した。

 

「黙雷悟……貴方たちの仲間でしょう?」

 

「黙雷悟……誰だそれ?」

 

「……」

 

 その鬼鮫の口から名前が出たことで、アカネは疑問符を浮かべアガリは黙り込む。

 

「最後の攻防……あの破裂は貴方の細胞の仕業ですねぇ……見事でしたよ……」

 

 鬼鮫はアガリに視線を向け彼を称えた。

 

「遠隔でも貴方の細胞は音波を受け増幅させることが出来る……彼女を回復させた時と私に首を絞められた時、互いに細胞を仕込んでいたんですね?」

 

「……ああ、呪印状態2の俺たちは呪印の力を感知することが出来る。 アカネも俺の意図に気づいてくれると踏んでいた」

 

 鬼鮫の言葉に肯定を示したアガリ。 しかし

 

「……てめぇの思い通りになるのは面白くねぇな……っ」

 

 ゲンナリしたアカネが不貞腐れたように呟いた。

 

「勝てたからいいだろう!?」

 

「ハァ……」

 

「あからさまなため息は止めろ!!」

 

 アガリとアカネが騒ぎ始めると、鬼鮫はじれったいとばかりに

 

「コントはそこまでで、サッサと止めを刺すなりしてくれませんかねぇ?」

 

 割り込んで話しかける。

 

 その言葉にアカネが

 

「……そうだな、コイツ暁とかいう今度の戦争の敵だろ? サッサとやっちまおうぜ」

 

 アガリのポーチからクナイを取り出そうとする。

 

 しかし

 

 そのアカネの腕をアガリが掴み、取り出すのをやめさせると彼はそのまましゃがみ込んで鬼鮫へと問いかける。

 

「干柿鬼鮫……お前に聞きたいことがある」

 

「何ですか……情報ならそう簡単に──」

 

 

 

「お前は何で戦っている?」

 

 

 

「っ!? ……またそれですかっ?! 貴方たちは一体私に何を求めているんですか?!」

 

 アガリのその問いかけは悟がしたものと同一のものであった。 その執拗にかけられる問いに鬼鮫は大声で言い返す。

 

「私がどんな理由で戦おうと勝手でしょうっ! いちいち癇に障るっ!!」

 

「……干柿鬼鮫、お前は何を望んでいる?」

 

「っ……貴方も分からず屋ですねぇ!!」

 

「始め、お前の侵入を結界が感知して赴いた時……お前がキョウコを人質に取ろうとしていたのを見た……だが」

 

 アガリは真っすぐ鬼鮫の目を見る。

 

「戦ったから分かるがその時の動きはお前にしてはかなり遅かった……俺が間に割り込めるほどに。 ……キョウコを見て、人質に取ることを僅かに躊躇したんじゃないのか?」

 

「っ……何を」

 

「忍びとして優秀なお前が、人質を取ることに乗り気じゃない……本当に今のお前は、納得して闘っているのか?」

 

「……」

 

 鬼鮫はアガリの見透かしたような言動に黙り込む。

 

(確かに『なりふり構ってはいられない』……『申し訳ない』……そんなことを思う必要などなかった……そんなこと思う必要もなくサッサと動けばよかった……)

 

 鬼鮫は自分が盲目の少女を人質とする手段を躊躇したことを認める。

 

 なぜ自分はあの時、躊躇したのか? 鬼鮫は自問自答を始めようとするが

 

「命を奪うことに抵抗があるんだろ?」

 

 アガリがすぐさまその答えを突きつける。

 

「はぁ? こんな奴がそんな軟弱なわけないだろ?」

 

 アカネの口出しにアガリが答える。

 

「干柿鬼鮫、お前はとても強い。 だからこそ納得できないことだろうとこなせてしまうんだろう。 ……俺は血霧の里でのお前の話を知っている、かつて仲間殺しの任についていたことを」

 

「……私も有名人ですねぇ」

 

「同じ出身だからな。 命を奪うことに抵抗がある自分を偽ってまで、必要に迫られて仲間を殺し続け……そして今もお前は自分を偽っている。 お前は本当は何を望んで戦ってきたんだ?」

 

「…………」

 

 アガリのその問いかけに沈黙した鬼鮫は

 

 

 

「……わかりません……」

 

 

 

 か細くそう呟く。

 

「何で……私は闘ってきたのでしょうか……? 偽りを演じる苦しみから解放してやると言われ……マダラさんに着いていきましたが、結局は暁でも私は自分を偽り続けてきた。 私は今も昔も変わらずにいる。 ……月の眼計画は全ての人間に幻術をかけ、世界を1つにする……しかしその計画の為に死んだ人間はもはや夢を見ない。 私は……一体……」

 

 鬼鮫の自問自答。 本当に……自分が何を望んでいるのかわからない鬼鮫は記憶を振り返りぼそぼそと呟き続ける。

 

 仲間殺しの任で、殺した女性の顔がチラつく。 笑顔で自分に話しかけてくれていた彼女を、鬼鮫は殺した。

 

 そんなことを……したくないと思っていたのに……己を偽って。

 

「マダラの計画それこそ、偽りじゃないのか? 幻術だということはマダラの意志1つで全てがひっくり返るんだ。 そして幻術である以上……その先はない。 今考えられる限りの幸せを夢見たとしても、未知なる未来はないんだ。 人は思わぬ出会いで、成長する……その機会が奪われるのは駄目だ」

 

 アガリは鬼鮫に語りかける。

 

「俺は思いがけない出会いを経て今ここに居る。 鬼鮫、お前にもそう言う人間がいたはずだ……そんな出会いを失くすマダラの計画が本当に正しいと言えるのか?!」

 

(出会い……ですか……)

 

 鬼鮫は……1人の男の事を思い出す。

 

 自分と同じ境遇のその男がかつて鬼鮫に言っていた『霧の中を迷い、自分で行き先も決められないごろつき』という言葉を。

 

「……なるほど、()()は良く私のことを見ていたんですねぇ」

 

「あん?」

 

 誰かに向けたその言葉、アカネが不審そうにするがお構いなく鬼鮫は言葉を続ける。

 

「アガリとか言いましたか、貴方……私にもいましたよ、思いがけない相手……私に殺されることなく、自身の思いを貫き通して死んだ……仲間が」

 

 クククと笑う鬼鮫に、アガリは

 

 

 

「なら次は俺たちの仲間にならないか?」

 

 

 

 そう言葉を投げかける。

 

 アカネと鬼鮫がポカンとするが

 

「つまり暁を裏切り、暁と戦えってことですか? そんなの──」

 

 鬼鮫はその考えを否定しようとする。 しかし

 

「いや、別に戦わなくてもいい。 うちの里に来ないか?」

 

 アガリはその否定を跳ねのけ鬼鮫を誘う。

 

「……私を仲間にしておいて戦わなくてもいいですって?」

 

「無理に戦う必要はない、別に命の奪い合いがこの世界の全てじゃないからな。 畑仕事でも建設作業でも、お前の力は役に立つだろうし……あと」

 

「……あと?」

 

「魚料理とか作れるならなお嬉しい。 実は仲間たちが肉ばかり好む上に調理する者も魚が嫌いで草食だから食が偏ってるんだ……俺は本当は魚介系が好きなんだけど」

 

 アガリのその言葉に鬼鮫は気の抜けた表情を作る。

 

「……私はあまり自炊してこなかったので……料理はからっきしですよ……」

 

「そ、そうか……」

 

「ですが……そうですねぇ

 

 

 

『──干柿さん、こっちへ来て一緒に食事しませんか?』

 

 

 

 時間を頂けるのであれば……料理を覚えてみるの悪くはないと思いましたよ」

 

「つまり……そうか!! ぜひ頼む!!」

 

 鬼鮫の返事にアガリは笑顔を作る。

 

「まさか……霧隠れの怪人の異名を持つ私に炊事を求めるものがいるとは……思いがけないこともありますねぇ」

 

「……鬼鮫、俺とアンタは同じ霧隠れの出身だ、だが同じくその故郷を捨てている。 それでも今、生きているんだ。 

 

 生きる理由なんて、戦い以外にも他に幾らでもある。 一緒に生きていこう」

 

 アガリはそう言うと、鬼鮫の身体を支えて立ち上がらせようとする。

 

 そんな2人を面白くないと言った様子で見ていたアカネに鬼鮫が

 

「しかしお嬢さん……アカネさんと言いましたか? 貴方はこんな甘い考えに賛同するんですか?」

 

 そう問いかける。 アカネは

 

「はぁ……言っただろ? そいつはクソチビバカマヌケクソ貧弱弱虫メソメソチビ野郎だが……長だとは認めているってな、長がそう判断したなら……アタシは口を挟まねぇよ」

 

 そう言ってアガリの反対側から、鬼鮫を支える。

 

「……なるほど、アカネさん、私も貴方の言い分を理解できましたよ」

 

「ちょっとぉ!? 滅茶苦茶な悪口の方を理解したように聞こえるんだが!?」

 

「事実だろ」

 

「うっぐぉ……そ、そう言えばアカネ! お前サトリ様の事もさっき酷い言い様をして──」

 

「ケッこの地獄耳が……騒いでないで、非戦闘員の奴らをサッサと里に呼び戻せよ。 ……全くこの調子じゃ忍び連合軍に召集されてんのに、アタシたちだけ遅れていくことになるなぁ」

 

 呆れた様子のアカネの指摘に、アガリが図星を突かれたように項垂れる。

 

「笠も羽織も戦闘でボロボロだぜ? 只でさえ、それが見つからねぇから仲間だけ先に向かわしてお前と側近のアタシが里に残ってたのによォ? どうすんだ」

 

「………………連合軍に推薦してくださった火影様に遅れると連絡を入れます…………ゴメンナサイ」

 

「……貴方たちも面白いものですねぇ」

 

 干柿鬼鮫は自分を挟んだ2人の言い合いを楽しんで聞く。

 

 自分へと差し出されたその手を掴んだことを後悔しないように

 

 過去に差し伸べられた手を振り払った後悔を忘れないように

 

 自分を理解してくれていた二人一組を組んだ彼に胸を張っていられるように

 

(思いがけない出会い……ですか、なるほど()()が無くなるとはなんとも惜しい……)

 

「フフフ……」

 

 干柿鬼鮫は自身の乾ききっていた願望を少しずつ満たしていこうと思うのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「ああ分かった……暗隠れの長は遅れるか、彼らの忍びはこちらに着いているから大きな問題ないだろう」

 

 忍び連合軍の円卓で綱手は受け取った連絡に了解を示す。

 

「そんな得体の知れない里にも召集をかけるとはな……」

 

 雷影エーのその不満そうな言葉に

 

「彼らはほぼ元大蛇丸の実験体たちで構成されている里だ。 崩壊した木ノ葉にも復興支援を行い、こうして世界の為に闘う意志を示してくれている。 共に戦うのにそれ以上の理由などいらん」

 

 綱手はキッパリとそう言い返し、話し合いを進める。

 

「他にも雪隠れの忍びも、支援物資を届けてくれるそうだ……戦力として直接力になれずとも今、マダラを相手に皆が、世界が力を合わせようとしている。

 

 

 この戦い勝つぞ……!」

 

 綱手のその気合の入れた言葉に、五影たちとその場に居合わせた者たちが戦いの決意を固めるのあった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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34:突起戦力

 はるか上空、地平線が丸みを帯びて見える高度で黙雷悟は宙に胡坐をかいて瞑想をしていた。

 

 規則正しく聞こえる呼吸音と、ブレることのないその姿勢は仙人としての『動くな』の極致に立ち自然エネルギーを体内へと取り込むのに完璧な物であった。

 

「……」

 

 ふと悟は目を開くと眼下に広がる雲の隙間から見える大地を見下ろす。

 

「感知で感じられるチャクラが慌ただしくなってきたな……雲にある忍び連合軍本拠地とオビトのアジトは、陸地を通ると音隠れ湯隠れ霜隠れで繋がっている……既に避難勧告も出ているから忍び以外の気配は他国に散っている……そろそろか」

 

 胡坐を解いた悟は噛みしめるように拳を握り、息を吐く。

 

 転生……いや、この世界に悟が来てから15年余りの時間が経ち、そしてその集大成ともいえる事変が今まさに始まろうとしていた。

 

(緊張……しているのかい?)

 

 胸中の黙の語りかけに悟は、小さく頷く。

 

「……俺は、俺たちは強い。 それでも、この先の戦いで全ての人間を守れる訳じゃない……全力を尽くしても多分、零れ落としてしまう命がある……そう思うと流石に怖いかな」

 

(雷……)

 

「だけど……例えそうだとしても、俺には信じられる仲間たちがいるっ! ……正直、俺自身は世間から見れば超の付く犯罪者だから向こうがどう思ってるかは定かじゃないけどな ……俺1人じゃ無理なことでも皆が居れば救える命は、さらに増える……だからあとは……只俺の出来る……したいことを成すだけだ」

 

(……そうだね、今まさに忍界はターニングポイントに立たされている。 本来介入するはずのない黙雷悟(僕ら)、そして()()()()()()()()()()()()……皆がより良い未来の為に動くんだ、相手が何者であろうと世界は必ずよりいい方向に進むはずさ)

 

「……ああ……」

 

 黙の言葉に悟は噛みしめるように深呼吸を行う。 

 

 そして

 

 

 

「行くぞっ!!!」

 

 

 

 その掛け声と共に、矢の如く黙雷悟は地上へ目掛け加速していった。

 

 

~~~~~~

 

 

 第四次忍界大戦……その火ぶたは切って落とされた。

 

 雷の国、雲隠れから連合軍の大連隊が一斉に駆け出し空から見れば人の波が蠢きそれぞれが統率の取れた動きで規則正しく進行していく。

 

 第五部隊まであるその巨大な集団は、それぞれのルートを通り目標である仮面の男のアジトへと向かう。

 

 そしてその動きを察知しているかの如く、遠方の土地からもいくつかの集団が大連隊を向かい打つべく大地を駆ける。

 

「思ったよりもこちらの駒の質が悪い……この戦争、かなりの不利を強いられるかもねぇ」

 

 暁のアジトから歩み出ながらそう呟くカブト。 紅い外套に身を包み、後方で支援の白蛇を揺らす彼に紫の衣と白い紋様の仮面を着けたトビが声をかける。

 

「本来の目的である八尾と九尾を引きずり出す戦力など、始めからゼツと俺だけで十分だったのだ。 所詮はこの戦争も俺の計画の一部に過ぎない、最終的に月の眼計画さえ完遂されれば戦争の結果などはどうでもいい」

 

「そうは言ってもねぇ……まぁ……やる以上は僕も全力を出そうかな。 ……このなりふり構っていられない状況のおかげか、思わぬ()()もあったし……ね」

 

 そう不敵に笑みを浮かべたカブトに、左目の輪廻眼をチラリと向けたトビは興味の無いような目線で今後の動きの説明に入ったのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 暫くすれば、大地に爆発音が響く。 連合軍の奇襲部隊とカブトの率いる穢土転生体の忍びらとの接敵により戦闘が始まったのだ。

 

 そんな彼らの交戦の最中、その下地中深くを謎の大群が行進していることを忍び連合軍が突き止める。

 

 そして黄ツチ率いる第2部隊はその大群を地中から堀起こすために、印を構える。

 

「「土遁・開土昇掘っ!!」」

 

 優秀な土遁使いである黄ツチと黒ツチによる合同忍術は大地に巨大な山を形成し、その山の噴火口ともいえる位置からおびただしい数の白ゼツを空へと打ち上げた。

 

 かつて悟が同様の術で畑から農作物を掘り起こしたのとは規模の違う量のゼツが噴き出る。

 

 その光景に好機とばかりにかかった掛け声と共に、連合軍の忍びらが攻撃を加えようとした

 

 

 その瞬間

 

 

「GYAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

 まるで怪獣の咆哮なような音と共に、上空の雲をかき分けるよう巨大な岩の巨人が地面目掛け落下をし姿を現す。

 

「「「「!?!?!?!?」」」」

 

 忍びらがその存在に驚き、動きを止めた瞬間

 

「木遁・木龍咆哮砲ォっ!!」

 

 岩の巨人の両腕に備え付けられた木の龍の口から圧縮されたチャクラの砲弾がそれぞれ放たれる。

 

 巨人の着地と共に術が炸裂し、吹き上がっている白ゼツの過半数が消し飛ぶ。

 

 なおも土遁で掘り起こされ続ける白ゼツ、その処理のために繰り返し放たれるチャクラの砲弾。 そんな光景に驚きで動きを止めていた忍びらが自らも攻撃に参加しようとしたとき

 

 声が響く。

 

「あ~こんにちはぁ!! 忍び連合軍の皆さまぁ!!」

 

 チャクラを使った拡声術で周囲に一部の人間が知った声が響く。

 

 その女性に聞こえる声に、部隊に居たキバやシノ、ネジやヒナタがそれぞれ思い思いの表情を浮かべた。

 

「あいつ……っ! こんな形で俺様や赤丸よりも目立ちやがってっ!!」

 

「……ここまでの術を使い、尚且つこの場面で緊張感の無い声を発する人間など俺は1人しかしらん、なぜなら──」

 

「フッ……やはり来たか」

 

「やっぱり……来てくれたんだね……っ!」

 

 岩の巨人の肩から、紅い雲の模様が入った外套をなびかせた黒髪の人物が姿を現す。

 

 

 

 

「私こそ本当の『暁』、黙雷悟だっ!! この戦争、横槍を入れさせてもらうぞォ!!」

 

 

 

 

 そう叫んだ黙雷悟のその言葉によって様々な感情が忍び連合軍を走った……

 

 

~~~~~~~

 

 

 少し離れた位置からその様子を見ていたはたけカカシはため息をつく。

 

「悟……全くアイツは本当に……何してんだかね……」

 

 呆れた様子のカカシに近寄り、声をかける人物が2人。

 

「アイツはアイツのやりてぇことをやってるだけだろうな……少なくとも俺たちの敵になるつもりはねぇみてぇだ」

 

 『忍』の額当てを着けた桃地再不斬のその言葉に

 

「やっぱり来ました彼……この戦争が終わったら色々と説教しないと行けないと思っていたので姿を現してくれて良かったです」

 

 仮面の下で顔に恐らく笑顔を張り付けた白が応える。 明らかに口調とは裏腹に怒っている様子の白の声にカカシが

 

「まあまあ、白くん……再不斬の言う通りでここは一旦あのバカに構うのは止しておこう……全く自分の立場を分かってて()()をやってるなら質が悪いね」

 

 そう言って「どうどう」と怒りを修めるようにたしなめる。

 

「……わかっていますよ、カカシさん。 彼は木ノ葉の火影候補であった志村ダンゾウ殺害の主犯……ですが今は、ええ……」

 

 そのカカシの言葉に白は分かっていると言った様子で目の前に立ちふさがり始めた穢土転生体の忍びらへと目線を向けた。

 

 そして白の言葉を引き継ぐ様に、再不斬が口を開く。

 

「同じ只の忍びだ。 馬鹿はほっといて行くぞカカシぃ、足引っ張るんじゃねぇぞ!!」

 

「……ま、その言葉、ブランク増し増しの鬼人に言われたくはないな……」

 

 写輪眼を披露したカカシの号令の下、穢土転生体の忍びらとの戦いが始まった。

 

 

~~~~~~

 

 

 黙雷悟は岩状鎧武の肩から、様々な情報を叫びまくっていた。

 

 曰く白ゼツには、見えないぐらいの胞子を相手に着けチャクラを吸い取る術があること。

 

 穢土転生体の忍びらは封印するのがベストであること……などなど。

 

 また、すぐに現れ始めた血継限界を持つ穢土転生体に向け悟は木分身の術に岩状鎧武のコントロールを任せ相対する。

 

「アレは名前は忘れたけど爆遁使いに、灼遁使いか……被害が広がる前に処理させてもらうぞっ!!」

 

 原作通り現れた2人の血継限界を持つ忍びのガリとパクラを前にして悟は印を結ぶ。

 

「木遁・木龍の術」

 

 二匹の木龍でその2人の相手をとる悟だが、周囲の光景に小さく舌打ちをする。

 

(知らない穢土転生の忍びが結構いるな……原作に映らなかった奴らか、増えている奴らなのか判断できないが早い所封印していかないと被害が広がる)

 

 そうして片手間でガリとパクラを木龍の口で捕まえ、そのまま木遁で封印を済ませるとどこからか口寄せの音が鳴り響く。

 

 ボボンと音が鳴れば、現れた幾つもの棺桶から新たな穢土転生体が姿を現す。

 

 その姿は……

 

「チィッ……面倒な見たことある奴らばかりだな……全く」

 

 再不斬が呆れそう呟くのも頷ける、霧隠れ忍び刀七人衆の前任者たちであった。

 

 その中で呼び出されたうちの1人・鬼灯満月は巻物を広げ、各々の得物である双刀ヒラメカレイを除いた名刀六つを口寄せし自身は

 

 その中から『断頭・首切り包丁』を担いだ。

 

「おい、鬼灯の小僧……人の刀を担いでんじゃねぇぞ」

 

「……」

 

 自身のかつての得物を持つ鬼灯満月の様子に再不斬が苦情を言うも、感情を抑制された穢土転生体の満月は無言で首切り包丁を構える。

 

 かなりの手練れの登場に戦場の空気に緊張が走り始めた時

 

 

 

「氷遁・一角白鯨っ!!」

 

 

 

 忍び刀たちを押し潰すが如く、巨大な氷の白鯨が地面を揺らした。

 

 突然のその奇襲は、人工尾獣・雪羅の力を解放し髪を白く変化させた白の仕業であり

 

「再不斬さん、こいつらに問答は通じませんよっ!!」

 

 そういうと追い打ちを掛けようと印を結び始める。

 

「お前の嫁さん、容赦ないな……まっ今はそれが正しいんだが、普段のお前の気苦労を察せられるよ」

 

「……余計なこと言うなカカシ」

 

 容赦のないその光景にふと気が緩んだカカシと再不斬。

 

 

 しかし

 

 

 その刹那、その場で唯一はたけカカシと感知能力に突出した黙雷悟のみが

 

 

 言い知れぬ不安感に襲われ、悪寒を感じる。

 

 

 

(っ!?)(この気配は……っ!?)

 

 

 

 

 そして次の瞬間、巨大な氷の白鯨が無数に裂け中から高速で飛ぶ斬撃が周囲を襲った。

 

「ッ……回避だァ!!」

 

 カカシのその叫びと同時に辺りを風の刃が蹂躙した。

 

 

 

 

 木々は豆腐の様に裂かれ、一部の忍びは手や足を切断され呻く。 中には体を両断された者もおりその斬撃の恐ろしさが一瞬で知らしめられた。

 

 

 

 

 白鯨の破片が放つ白い霧の中から、一人の忍びがゆっくりと歩み姿を現す。

 

 その忍びの人影を確認した白が、術を使い攻撃を繰り出そうとした瞬間

 

 彼女の認識の及ばない速度でその眼前にクナイが二本既に放たれていた。

 

 秒にも満たない瞬間に、クナイが白の顔面を穿つその刹那

 

──キンッ

 

 甲高い音を響かせその二本のクナイは白の皮膚に触れる寸前ギリギリで弾かれる。

 

 

 唯一この場で、その高速の攻撃に対応できる動体視力を持つのは…… 

 

 

 黙雷悟とはたけカカシのみであった。

 

 

 白の前に立ち並んだ二人は写輪眼を見開き、その相手を睨みつける。

 

 その間にやっと自分が攻撃に会いそれを2人に守られたことを認識した白は警戒の色を強め2人に問いかける。

 

「今……一体何が……ッ!? 相手は──」

 

 その白の言葉に有無を言わさず、カカシは周囲に叫ぶ。

 

「再不斬、白っ!! 部隊と忍び刀の連中の相手は任せたぞ……っ」

 

 そのカカシの言葉に再不斬が反応を示す。

 

 

「カカシ、何言って──

 

 

 次の瞬間にはカカシと悟はその場から高速で消え去り、その苛烈な攻撃を行う忍びを引き連れその場から遠く離れていた。

 

 カカシと悟が全力で雷遁チャクラを活性化させたその動きを辛うじて認識できた再不斬は小さく舌打ちをし

 

「たくっ……しょうがねぇな……白っ!!」

 

 白へと声をかけると、白鯨の攻撃で塵と成っていた忍び刀衆にむけ駆けだす。

 

「謎の人物の相手はあの2人じゃないと無理ってことですね……ならば彼らに負担をかけないよう、こちらを早々に片付けなければっ!」

 

 白も再不斬の言葉を理解し、内なる力をさらに開放して駆けだすのであった…… 

 

 

~~~~~~

 

 

 木々や岩など何の障害もないように切り裂く斬撃がカカシと悟を追い、2人は写輪眼による見切りと雷遁チャクラによる高速移動で辛うじてそれらを躱しつつ戦場を離れる。

 

 相手があえて二人を狙うのは、二人を独りで抑えることが出来ると加味しての行動なのだろう。 部隊長のカカシと、明らかに突起戦力となる悟。 そんな2人に防戦を強いるその忍びはふたりでも捉えることが出来ないほどの高速で移動し翻弄する。

 

「……明らかに頭一つ抜けた強さの忍び……カカシさん、相手が見えてますかっ?!」

 

 跳ぶ斬撃の猛襲に生傷を作りながらも、悟がカカシへと問いかけるとカカシは

 

「……俺もハッキリと見えてはいないが……相手に心辺りは……ある」

 

 そう言い顔を曇らせた。

 

 そのカカシの様子に悟が疑問を浮かべるも、相手の攻撃が止むことはない。 鋭い斬撃に時折混ざる鋭いクナイの投擲、悟をもってしてもそのシンプルな攻撃はひとつひとつが命取りとなるほどの脅威を孕んでいた。

 

 その対処に苦労する悟は、明らかに原作にはいなかったであろう相手の存在を確かめるために、全力で挑むために手を合わせる。

 

 瞬間、仙人モードとなり千手柱間のような隈取りを宿した悟は手ごろな石を手に持ち高速で移動する敵に目掛け全力で投擲する。

 

「せいっ!!!!」

 

 その投擲は敵の次の着地予定の木を粉々に弾け飛ばし、相手に地面への着地を余儀なくさせた。

 

(石で木を吹き飛ばすとは……悟も大概想定外の強さだが、しかし──)

 

 カカシは着地し動きを止めた忍びの姿を目にして、汗を垂らす。

 

 その姿に顔を若干引きつらせ、眼を細める。 認めたくはない、そんなはずはない、そう思う心の葛藤にしかし忍びとしての理性がその敵の存在を確かに認めている。

 

(穢土転生……死者を使役する術であるなら……当然、居る可能性も……っ)

 

 辛い辛い過去を思い出すかのように、苦虫を嚙み潰したような表情になるカカシ。 悟はその相手の特徴を見極める。

 

 

 木ノ葉のベストと、少し特徴的な白と赤の模様が入った袖。 カカシと似た体格のその人物は、奇しくもカカシと同じ頭髪の色をしていた。

 

 

「……まさか……そんなっ」

 

 

 カカシのその呟きに、悟もその姿を見たことで相手が誰なのかはっきりと認識する。

 

 

「ああ、なるほど……このアホみたいな強さにも納得が行きましたよ……」

 

 悟もその人物の強さに、ある種の諦めを抱く。

 

 何故ならその人物を評する言葉を悟は知っているからだ。

 

()()()()()()()()()……か……少し相対してそれが嘘じゃないと分かるぐらいに納得だ、ホントとんでもない人物呼び覚ましてくれたなカブトめェ……っ」

 

 ゆらりとクナイを構えるその相手にカカシは喉の奥から言葉を絞り出した。

 

 

 

 

 

「父さん…………っ」

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 戦場の様子を駒で把握しているカブトは穢土転生体らを操りながら一人ほくそ笑んでいた。

 

(質の良い穢土転生体の数があまり揃わなかったが……まあ、おかげで僕ががむしゃらに動いた分の見返りもあった……まさか)

 

 カブトは一つの駒を示す碁石に視線を落として笑みを浮かべる。

 

(木ノ葉の白い牙、()()()()()()を穢土転生できるとはねぇ……)

 

 カブトはサクモの制御に集中しながら相手取る悟とカカシの苦戦を感じ取りその笑みを増す。

 

(はたけカカシと、まさに規格外のイレギュラーである黙雷悟相手にここまでとは……しかし反応速度や精度が飛び抜けすぎて僕の制御ではむしろ実力を発揮できていないな……仕方ないね、ここは一度人格を戻してオートで戦わせるか……強い駒な分、僕への負担も大きい)

 

 自分の制御が帰って足かせになっているという事実にプライドを少し傷つけられたカブトは、サクモ制御をオートへと切り替える。

 

 

 その瞬間、戦地で戦っていたサクモは人格を取り戻した。

 

 

 自分の持つクナイがチャクラを纏うとそれを振るい斬撃を飛ばす。 その動きはサクモの慣れ親しんだ動きであり、それを身体が勝手に放っている相手にサクモは目を向けた。

 

 そしてすぐさま、サクモは現状を把握する。

 

「これは……二代目様の穢土転生か? そして今俺の目の前にいるのは……っ」

 

 サクモは自分の意志で辛うじて動かせる口を使いカカシへと声をかける。

 

「カカシっ! ……お前はカカシなのか!?」

 

 猛烈な攻撃の嵐の中、サクモからの問いかけにカカシは一瞬動きを鈍らせる。

 

 その隙を突くような容赦のない斬撃に、岩状手腕で攻撃を受け止めた悟はカカシにアイコンタクトを取る。

 

 まるで盾となり時間を稼ぐと言わんばかりの悟の表情。

 

 悟の意図を察したカカシはサクモの問いに応える。

 

「っ……すまん、悟。 そうだ、父さんっ!! 俺だっ!!」

 

 カカシを認識したサクモは、そのまま容赦のない攻撃を続けながらもカカシへと問いかける。

 

「何がどうなっている!? どうして俺は穢土転生されているんだ……っ?」

 

「戦争だよ、父さんっ! 敵が父さんを穢土転生して戦わせているんだっ」

 

「っ……!?」

 

 息子であるカカシからの言葉にサクモは衝撃を受ける。 自身の息子が戦争に参加し、そして父である自分と戦うことになるなど…… 

 

 

 

「そんな……俺は…………俺の行動は…………誰の為にもっ……!!」

 

 

 

 後悔に苛まれるかのようにそう呟やくサクモ。 味方である木ノ葉からの誹謗中傷で自殺した経緯を持つサクモは世の理不尽に打ちのめされる。

 

 

 しかし

 

 

「聞いてくれ、父さんっ!! 俺は父さんの事を恨んじゃいないっ!!」

 

 カカシのその叫びに、サクモは顔を挙げる。

 

「カカシ……?」

 

「父さんは何時だって誰かの為に闘ってきたっ!! そんな姿に、俺も憧れていたんだ……っ確かに父さんが自殺した時は、里も憎んだし父さんの考え方も否定していた。 だけど……仲間がそんな俺を立ち直らせてくれた、父さんを英雄だと言ってくれたんだっ!!」

 

「……っ」

 

 カカシの言葉に、サクモは衝撃を受ける。 しかしそれでもサクモの動きは感情と切り離され熾烈な攻撃は容赦なく飛んで来ていた。 会話に集中させるために盾となっている悟はその攻撃の質に汗を垂らす。

 

(穢土転生ってのは全盛期そのままの動きが出来るわけじゃないはず、なのにこのチャクラの斬撃に正確なクナイや手裏剣の投擲。 俺の全力もってしても防御に徹しないと……っ)

 

 仙人モードに写輪眼、その二つの力をもってしてもサクモの攻撃を捌くのは容易ではなかった。 その研ぎ澄まされた攻撃一つ一つがサクモの忍びとしての練度を物語っている。

 

(僕たちの力を以てしても、ここまでの苦戦を強いられるとはね雷。 単身で戦えば尾獣にすら勝てるんじゃないのかな、サクモさんは……)

 

(力というよりも、技術……研ぎ澄まされた技術が半端ない……って感じだ。 正面から戦えれば俺たちの力なら勝てるかもだが、速さで上回られている以上、そう容易にはいかないぞっ……)

 

 悟の中の黙もその出鱈目な強さに、若干慄いていた。 

 

 そんな、只のチャクラコントロールと技術による猛襲に耐える悟を気遣いカカシはサクモに言葉を投げかける。

 

「っ父さん、父さんを止めるにはどうしたらいい!? 何か弱点とかないの!?」

 

 必死に情報を手に入れようとするカカシのその言葉にサクモは、少し唸り

 

「……まだ俺は本気を出していないぞカカシ、弱気になるな」

 

 そう呟くと一旦攻撃の手が止み、サクモの気配が途切れる。

 

 サクモからの返答に悟がため息をつく。

 

「あ゛あ゛……マジヤバい……はぁ……これが本当の強者って奴ですか……カカシさんのお父様、これ、強さだけなら余裕で五影越えてません?」

 

「っ俺も父さんの本気を見たことはなかったからな……忍びとして尊敬してたが、まさかここまでの実力とは……」

 

「このままだと防戦一方ですよ、何かお父様の事で覚えていることとかないんですか?」

 

「……父さんはシンプルな戦闘スタイルで、初歩的な術ばかりを好んでいたとはチョウザさん達から聞いたことはあるが……」

 

「術とかじゃなく本人が強いタイプですね、一番どうしようもないな……こりゃ」

 

 サクモの強さに若干の絶望感を覚えた悟、その次の瞬間。

 

 何かを口寄せする音と共に、悟の眼前にクナイが飛来する。

 

 写輪眼を万華鏡へと昇華させた悟はその瞳力を持ってクナイを見切り弾く。

 

 その次の瞬間

 

 悟の眼前に白い閃光が走った。

 

「っ!?」

 

 直後鋭い金属音と共に、とてつもない衝撃が悟を襲い吹き飛ばす。

 

 吹き飛び地面を転がった悟は自分がカカシにクナイで斬撃から守られその衝撃で二人同時に吹き飛ばされたことを認識すると素早く態勢を立て直し次の攻撃に備え構える。

 

「……今の攻撃が、多分木ノ葉の白い牙の異名の由来ですか……てか、よく今の防げましたねカカシさん」

 

 悟の声掛けにカカシも態勢を立て直して攻撃を受け止め損壊したクナイを放り投げながら答える。

 

「っ昔の事を少し思い出したんだが、先生……ミナト先生が言っていた……先生は父さんから修行を受けたことがあったと……つまり」

 

「四代目火影に修行……ってことは今の攻撃の正体は……」

 

 

「「飛雷神の術……っ」」 

 

 

 二人同時にサクモの術を看破する。 悟の感知に引っかからないほどの隠遁術と飛雷神の術による奇襲。 忍びとして研ぎ澄まされたその絶技に悟は大きなため息をついた。

 

「いや……こんな人相手に良く木ノ葉の連中は誹謗中傷できましたね」

 

「逆に、それしか出来なかったんだろう。 父さんは強すぎた、だが人は1人じゃ生きられない……人間として孤立させて排除するのはある意味理には適ってる」

 

「はぁ……確かにそうですね。 まともに戦って勝てる気しないですもん」

 

 悟の愚痴と共に再度、クナイが数本投擲される。 飛来するそれらには飛雷神特有のマーカーが刻まれており

 

(クナイとの同時攻撃で防御させないつもりか)

 

 悟が攻撃の意図を汲みとると、予め印を結んでいた風遁でクナイを撃ち落す。

 

「風遁・大突破っ!!」

 

 マーカーさえ届かせなければ、飛雷神による奇襲はない。 そう思い込んだ悟は背後で地面が蹴られ爆ぜると音が聞こえ、度肝を抜かれた。

 

「っ!?」

 

 悟が振り向くよりも早く、音速とほぼ同速まで加速したサクモは悟に向け手に持った白いチャクラ刀を振りかぶる。

 

 しかし

 

──バチンっ!!

 

 雷の落ちるようなその音と共に、サクモは後退し再度木々の中に身を隠す。

 

 すると地面にドサッと、チャクラ刀を持ったままの手首が落ち塵となって消えていく光景が悟の眼に入る。

 

「っ……何が──」

 

 状況の理解を優先した悟は背後を守ったのはカカシであり、彼が手に持ったクナイで雷切を放ったことを認識する。

 

 サクモがクナイで悟の視線を誘導した瞬間、カカシはサクモの戦略に感づいていた。

 

 誘導した視線の反対側に飛雷神で速やかに移動し、シンプルな身体強化による跳躍で一気に近づき狩りとる。

 

 その動きを予測したカカシは、全集中力を持って雷切によるカウンターを行ったのだ。

 

 地に落ちたチャクラ刀を拾い上げたカカシは、懐かしむような眼でその刀を見る。

 

 刀身の折れたその刀を目にした悟は

 

「凄いです……よくサクモさんの攻撃にカウンターを合わせられましたね。 しかも相手の刀も折るなんて──」

 

 カカシの神業に素直に称賛の声を挙げるがカカシはそれを否定する。

 

「いや……口寄せして呼び出された()()()()()()()()()()()()()。 ……俺は父さんの攻撃の軌道を予測して雷切をほぼ置いていただけのようなもんで……たまたまそれが腕に当たっただけだよ」

 

「そのたまたまに俺は命を救われたわけですが……」

 

 謙遜するカカシに悟が謙遜するなという意図を含んだ目線を向けると、カカシは悟に視線を送り返す。

 

「だが悟、今ので父さんの攻略法は分かった。 ……協力してくれるか?」

 

「是非もなし、です」

 

 目に希望を宿したカカシと共に悟も態勢を立て直し構える。

 

 そんな光景を隠れながら見ていたサクモは胸中に浸る。

 

(……かつての二代目火影に憧れ、三代目にも指導を受けた俺は強く速かった。 かつて仲間の為にと思い行動したことが裏目になり、俺自身の首を絞めカカシを守るためだと言い聞かせ自ら首を吊ったあの瞬間を今でも鮮明に覚えている。 ……俺は、孤独だったのかもしれない。 俺自身が己の強さに奢り、他者を甘く見ていた……その傲慢さが俺を真の意味で孤独にしていた。 誰に対しても……下手に出る俺の態度は、受け取る方にしたら気味が悪かったかもしれない。 俺自身が心の底で他人に期待していなかったからこそ、本当の意味での信頼関係を築いてこなかったからこそ……俺は心が弱かったんだ。 口寄せで呼び寄せたチャクラ刀が折れていた……きっとカカシが俺に変わって振るいどこかで折ってしまっていたのだろう。 それでも……何処かで一度折れようとも……カカシは──)

 

 サクモの視線の先には、折れたチャクラ刀に雷切を流して構えるカカシが居た。

 

 そのカカシと背を合わせるように悟が螺旋丸を構えている。

 

 信頼できるもの同士のその姿にサクモは一種の嫉妬を感じる。 そして同時に誇らしさも…… 

 

「カカシ、お前には苦労を掛けただろうっ!!」

 

 サクモは穢土転生体の死角に潜もうとする意志に逆らうように声を振り絞る。

 

「っ!」

 

 悟がその声を頼りにサクモの位置を感知するがすぐさま飛雷神で場所が変わり見失う。 けれどサクモは声を振り絞り続ける。

 

「俺はかつて仲間を助けるために任務を放棄し、後ろ指を刺された。 そのことで俺はあろうことか、その仲間を助けたことを後悔してしまったっ!!」

 

 サクモのその言葉に、悟が小さく反応を示す。

 

「そして俺は……お前まで巻き込んでしまうと自分に言い訳し、自殺という逃げに走った。 俺は、本当ならそんなことをするべきではなかったのに……っ」

 

「父さん……」

 

「俺は人を信じられていなかったんだ、周りには信頼できる仲間が居たはずなのに……俺はそれが見えなくなってしまっていたっ!! ……お前を独りにする必要なんてなかったんだ」

 

 後悔するようなそのサクモの言葉、その重みをカカシと悟は感じ取る。

 

「だが、カカシ。 お前は……違うようだね。 お前はこんな恨んで当然の俺を英雄と言ってくれた……それに……信頼できる仲間がいるんだろ?」

 

「ああ、俺には……ガイやマリエや紅に……アスマ……それに最近は強面の……友達も出来たよ、父さん。 俺も父さん見たいに折れそうになったことは何度もあったけど……その度に仲間が俺を立ち直らせてくれた……っ!」

 

「その子もその1人か……?」

 

 サクモが悟を示した言葉にカカシは

 

「悟は……手のかかる甥っ子みたいな奴さ」

 

 そう言って小さく笑う。

 

「甥っ子ねぇ……ハハ」

 

 悟も微妙な表情を浮かべ、乾いたように笑う。 すると

 

「悟君」

 

 サクモが悟へと声をかけた。 そして

 

「君とは始めて会った気がしないな……その特別な力と言い、きっと君は何か特別な使命を持っているんだろう……そんな君におこがましいがお願いがある」

 

「……」

 

 サクモは息を吸い、懇願する。

 

 

 

「ついでで構わない、カカシの事を……これからもどうか……よろしく頼む」

 

 

 

 きっとそれはサクモがかつて出来なかったこと。 自分がどうしようもなく手段の絶たれた時にするべきだったこと。

 

 誰かに頼る。 あのどうしようもない時でも、誰かいたはずだ。 薬師ノノウでもマイト・ダイでも、きっと誰か……いたはずだなのだ。

 

 けれど、サクモは……周りが見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

「任せてください」

 

 

 

 

 悟のそのハッキリとした返事にサクモは

 

「ありがとう」

 

 そう言い残し……駆けだした。

 

 超高速かつ飛雷神による瞬間移動によってサクモの位置は特定することすら困難だ。

 

 だからこそカカシと悟が取るべき手段は限られていた……それは

 

「「万華鏡写輪眼っ!!」」

 

 瞳力の底上げ、極まった動体視力によるカウンター。

 

 周囲からランダムに飛んでくるクナイ。 飛雷神で近寄られる可能性を潰すために悟は手に形成した螺旋丸に風遁の性質変化を加え掲げる。

 

「風遁・螺旋丸っ!」

 

 その螺旋丸が巻き起こす風は投擲されたクナイを逸らし弾く。

 

 そして次の瞬間、息子であるカカシだからこそ必ずサクモが攻撃を仕掛けてくるという確信を持って対処をする。

 

 弾かれ地面に落ちたクナイの内、カカシと悟の死角にサクモは飛雷神で飛び、そのまま両手に持ったクナイで二人同時に切りかかる

 

 しかし

 

──ガっ!!

 

 サクモの動きは制限され、その動きを鈍らせた。

 

 サクモは自身の四肢が拘束された事実に驚き目線を右腕に送る。

 

 その視線の先には腕に噛みついた忍犬・パックンがおり…… 

 

「旦那、坊ちゃんはよくやってるぞ……安心して去れ」

 

「……そのようだね、パックン」

 

 笑顔で小さく言葉を交わした瞬間、雷光が煌めいた。

 

 

 

 

 

 

 

──チチチチチチチッ…… 

 

 

 

 

 

 

 胸を貫かれ、四肢を忍犬らに噛みつかれ動きを封じられたサクモはカカシに抱き着くような形でよりかかる。

 

 カカシはサクモを貫いた腕に持っていた折れたチャクラ刀を取り落とすと、それでも震える手を激励するかのように拳を強く握り絞める。

 

「父さん……」

 

「……カカ……シ、お前は……俺と違って……強い……な」

 

「……そんなことないよ……俺は今も多くの人に支えられている……そのうちの1人は……間違いなく父さんだよ」

 

「……ハハ……嬉しいな……もしもあの時の俺がお前だったら……いや……よそう……カカシ、しっかりな」

 

「ああ……父さんもね、母さんによろしく言っといてよ」

 

「……っふふ、ああ……最後にお前とこうして……話せてよかった」

 

「……ッ」

 

 カカシが勢いよく拳を引き抜くと同時に、悟が発動した木遁がサクモの身体を覆っていく。

 

 忍犬らが離れ、最後に顔を覆おうとする木の隙間からサクモが満ち足りた笑顔で呟いた。

 

 

 

 

「今度は……安心して行けるな」

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 サクモの封印を済ませた悟にカカシが声をかける。

 

「ありがとう悟、お前が居なければ……」

 

「今はそういうのなしに行きましょう、カカシさん。 まだ戦いは終わってませんよ」

 

 そう言いながら悟は立ち上がり、サクモを封印した木の塊に目を向ける。

 

(サクモさん自身、極まった身体能力に動体視力が着いて来ていなかった。 生身で本人の思考と工夫のない穢土転生体でなかったら勝てたか怪しいけど……予めカカシさんが忍犬たちを忍ばせた死角の地面にわざとクナイを弾き落として行動を誘導しカウンターを見舞う……上手くいって良かった……)

 

 歴戦の忍びの強さに、敬意を感じた悟は心の中で頭を下げそのまま宙に浮きあがる。

 

「後は忍び刀の連中たちが残ってますけど、どうにか出来ますよね?」

 

「悟、お前はこの後どうするんだ……?」

 

「カブトも俺が木分身を各地に飛ばしてるからこそ、サクモさんで邪魔者の俺の命を取りに来たんでしょうけど……恐らく次にヤバい穢土転生体が現れる場所を把握してるので次は俺からそこ向かいますよ」

 

「そうか……気をつけてな」

 

「カカシさんこそ……気をしっかり持ってくださいね」

 

 悟はそう言い残すと、急ぐ様に空へと飛び立っていった。

 

 そんな悟の背を見送ると、カカシは手に持った折れたチャクラ握りしめ再不斬たちの元へと駆けて行った……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 悟は感じていた。 各地で始まった戦闘の余波を。

 

 多くの忍びが、多くの穢土転生体と戦うその光景。

 

 悟の木分身はそんな戦場に赴き、戦い続ける。

 

 例えば目を取り戻した兄弟、例えば自信を持った猪鹿蝶……

 

 大蛇丸の実験体であった者たちも今は忍界の未来の為に、『忍』を額当てをつけ戦っている……

 

 そして……

 

 

 日が沈む。

 

 

 太陽が消え、戦場に僅かな静けさが訪れる中悟と木分身達は駆けまわる。

 

 白ゼツが成り代わった者たちによって被害が出ないように、白ゼツたちを打ち砕いていく。

 

「俺一人じゃ感知できなかったかもしれないけど……こっちには頼れる仲間がいるからなっ!」

 

(……ケッ)

 

 悟の褒める言葉に、精神世界の小さな九喇嘛はそっぽ向きながらも僅かな気配を感知していた。

 

(そろそろ……ワシの本体が出てくるようだ……悟よ、もう少しの辛抱だな)

 

「……少なくとも夜通しで働くのは確定してるようなもんだな……ナルトが来ないと、ゼツたちの感知できるのは俺だけだし……」

 

(しかし、未だに忍び連中の中にはこうまでしている貴様を敵対視しているものがいるようだが……命を救われておるのに、傲慢な奴らだ)

 

「……人間なんてそんなもんさ、それに俺だって別に正義の味方じゃない……各里に迷惑をかけた事実も、誰かを殺めた事実も……消えないんだ。 俺はそれを背負っていくしかない」

 

(……)

 

 そして夜が明け暁の頃、雷影と綱手を説得し終えたうずまきナルトが戦場へと駆けつけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 



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35:血の繋がった者たち

 日が昇る頃、穢土転生された三代目雷影・先代エー、二代目水影・鬼灯幻月、四代目風影・羅砂、二代目土影・無らが進行する砂漠地帯。

 

 彼らは言葉を交えていた。

 

「ゆっくりと後退して様子見をしていたようだが……どうやら腹を決めたようだな」

 

 感知タイプの無は連合軍の動きを把握し、交戦の兆しを感じ取っていた。

 

 そんな無の言葉に幻月はめんどくさそうに口を開く。

 

「はぁーあっ! 他里の連中ならともかくよ、自里の忍びと戦わされるのは忍びないな。 この穢土転生とかいう術の使用者は大蛇丸とか言う若造だったか? 後で覚えて置きやがれよォ!」

 

「……お前とは気が合わなかったがそれだけは同感だ」

 

「てめぇいちいち、グチグチ余計なこと言わねぇと気がすまねぇのかよ。 てめぇに同感なんてされたくないね、ミイラ野郎っ!!」

 

「……お前こそこう、いちいち突っかかってくるのが煩わしい……」

 

「ああっ!? 何か言ったかァ!!??」

 

 無と幻月の仲はかなり悪いのか、軽い言い合いに発展し始める。 そんな2人にお構いなく、先代エーは口を開く。

 

「しかし、そう悲観することだけでもないだろう。 里の子どもたちも成長し、先代であるワシらを越えてくれるはずだ」

 

 その先代エーの言葉に、羅砂は

 

「…………ならいいがな……」

 

 自身の里の事を思い、重い口を開き呟く。

 

 その直後

 

 

 

「まずは……三人か」

 

 

 

 無の呟きと共に、砂漠を網羅するように砂の大波が先代の影たちを飲み込もうと襲い掛かる。

 

 しかし羅砂が一歩前に出て地面に手を着くと、地中から砂金が集まり砂の大波とぶつかり合う。 砂金と砂の波が混ざり合うことでその動きが鈍り、落ち着きを見せると先代影らの前に三つの人影が宙に現れた。

 

「今のは守鶴ではなく……お前の術だったか、我愛羅」

 

 羅砂のその呟きに、姿を現した我愛羅は砂で影たちを狙いつつも

 

「父さま……」

 

 そう小さく呟く。

 

「かぁー、親子の再会とは泣ける……ってぇ訳もあまりねぇかな、あんま知らねぇ奴らの事だし」

 

「いちいち喚くな……」

 

 幻月と無も我愛羅の砂から逃げようと飛び退くが……

 

「っ!」

 

 無は独特の気配を感じ取り、幻月を蹴り飛ばすと印を結び術を構える。

 

「どあぁっは!? 何すんだァ!?」

 

 

「塵遁──」

 

 

 

「「「原界剥離の術」」」

 

 

 次の瞬間、甲高い音を響かせた三つの不協和音が重なり合い……

 

 

 戦場に一瞬にして大穴を開けた。

 

 白いレーザー光線のような術の余波により幻月は片足を消し飛ばされながらも、その眼に広がる光景に小さな唸り声を上げた。

 

「こりゃあ生き返ってみるのも案外悪かねぇなぁ……まさかこうして塵遁の使い手を一気に

 

 

 

 3()()見ることが出来るんならなぁ……」

 

 幻月のその呟きに応えるように、半身を消し飛ばされた無が呟く。

 

「その様子随分と長生きしたな、オオノキ……そしてそっちの小娘は……新たな継承者か?」

 

「無さま……流石は先代の塵遁使いの力は伊達じゃないんじゃぜ……こちらも()()()()()()()()()、感謝するぞ」

 

 三代目土影・両天秤のオオノキはその先代の実力に息を呑む……が

 

「まさか、私もこうしてアナタと肩を並べる日が来るとは思ってもいなかったわ……それも先代相手に……ね」

 

 栗色の長い髪をなびかせたくノ一は余裕を見せながら、宙に浮かぶ。

 

「新たな土影かぁ姉ちゃん? 随分と若くて別嬪じゃねぇか!」

 

 幻月のその問いかけにそのくノ一は

 

「……五月蠅いのがいるな、私は只の木ノ葉の孤児院の院長だ。 土影などには微塵も興味はない」

 

 バッサリとそう言いのけた。

 

「……ひゅー、気が強いのも俺は嫌いじゃないぜ?」

 

 くノ一の口調の変わりように幻月が感想を述べる。 その一方でオオノキは彼女の発言に遺憾を表すも……

 

「亡よ、土影などと──」

 

「亡じゃない、マリエっ……()()()()()だ。 っいい加減覚えたらどうだ、石頭のオオノキ……次間違えたら、貴様を先に塵遁でかき消すぞ?」

 

 口調の変わったくノ一、マリエの凄みにオオノキは汗を垂らして若干の距離を取る。

 

「す、すまんじゃぜ……」

 

 その様子を見ていた無は

 

「くくく、なるほど……どうやら時代は随分と様変わりしたようだな」

 

 と何故か妙に嬉しそうな口調で呟いた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 一方各地での戦いは白ゼツによる成り代わりの術で混乱を極めていた。 しかし原作とは違い、九喇嘛の力を借りた黙雷悟が僅かながらにその戦略と規模を潰していくことで被害は抑えられていく。

 

 そして今まさに始まった先代の影たちと連合軍の戦いも、蒼鳥マリエという存在が加わっていることで直ぐに決着が着こうとしていた……

 

 そんな様子にカブトは苛立ち、爪をかじりながら呟く。

 

「木ノ葉の白い牙で黙雷悟を落とせなかったのに加え……各地の戦場にうずまきナルトが現れ始めている……このままでは……クソッこうなったら」

 

 カブトは大きなため息をつきながらも、自身のチャクラを練り上げ……

 

 

 

 

 

 

「おいっ! せっかくこっちの弱点教えてやってんのに何チンタラしてやがる!?」

 

 戦場で多くの負傷した忍びの集団の中心で幻月が呆れたようにそう叫ぶ。

 

 彼の口寄せした大蛤による蜃気楼が、幻術を見せ連合軍を翻弄していた。

 

「ったく……アチラさんはもう終わりそうだってのによォ……まあっ俺が強すぎるってのも原因かっ!」

 

 ふざけたようにそう呟く幻月の視線の先では、既に羅砂と無の封印が完了しようとしていた。

 

 父として、我愛羅の成長を目の当たりにした羅砂は後悔を口にする。

 

「我愛羅……結局、加瑠羅が正しかったな。 お前はとっくに風影としても……人としても俺を越えていた……これも全て加瑠羅が残した愛の……力か」

 

 少し前まで後世が上手く成長しているなど思っても見なかった羅砂は、自分が消えた世界で上手く生きている我愛羅の姿を見て己の過去の行いを恥じる。

 

 そんな羅砂に我愛羅は

 

「……父さま。 母さまが残したモノだけで俺や、俺たち姉弟は今を生きているわけじゃない。 貴方が厳しくしたことで得た力が今まさに俺たちを前へと導いてくれている……父さまは少し……そう、厳しすぎただけだ」

 

 目に僅かな涙を浮かべ、慣れない微笑みで砂の封印をされゆく羅砂へと語りかけた。

 

「……守鶴よ……こんな俺の言葉など聞きたくはないだろうが、頼みがある」

 

 戦闘の最中守鶴の存在を僅かに感じていた羅砂は、我愛羅の中の守鶴へと言葉を投げかけた。

 

 すると我愛羅の肩に、砂が集まりミニサイズの守鶴が姿を現す。

 

「んだよ……オレりゃぁ……アンタの事はすこぶる嫌いなんだが──」

 

 ぶっきらぼうにそっぽを向く守鶴に羅砂は

 

 

 

「どうか息子たちを見守ってくれ」

 

 

 

 一度も、誰にも見せたことのない微笑みを見せ頭を下げた。

 

 ……そして羅砂の封印が完了する。

 

 僅かに生じた静寂、静かに砂で自身を覆い隠し手涙を零す我愛羅に守鶴は軽くその手で我愛羅の頭を叩くと

 

「……てめぇと同じでとんだ下手な笑顔だったな、ありゃぁ……流石お前の……親だけはあるな、我愛羅」

 

 軽くからかう様に静かにそう語りかける。

 

「……ああ、俺たちの父さまだ。 最後にはちゃんと……薬をくれた」

 

 守鶴の励ますかのような行動に、我愛羅はすぐさま涙を拭い砂を操り宙を翔ける。

 

 風影として今は守るべきものがある……我愛羅は己を鼓舞し未だ暴れる三代目雷影の元へと向かった。

 

 

 一方で封印が完了しようとしている無に、マリエが語りかける。

 

「……貴方が残した塵遁は、私にとって大きな禍根でした。 けれど、ええ……今ではその存在のおかげで多くの出会いがあったことも理解しています。 ……感謝します、先代様」

 

 戦闘の余波で、腰に違和感を感じているオオノキが少し離れた場所で腰を下ろしてそんなマリエの様子を眺めている。

 

 かつて塵遁の血を継承した無の血縁の者が廻りまわって、本人と相対している。

 

 オオノキは……かつてのマリエに課していた自分の行いを胸中で悔いていた。

 

「感謝などされるいわれはない。 そも、俺は岩隠れの為に己を()にして塵遁を得たのだ。 塵遁をオオノキへ継承させる時も、それなりに苦労があったのを……今では継承者が木ノ葉のベストを身につけているとはな」

 

 無の呆れたと言った物言いに、オオノキは

 

「……無さまの行いは巡り、岩隠れのみならず忍界をも救う……その一手になるのです。 誇ってくだされ……」

 

 しみじみとそう語った。 いがみ合っていた忍び里同士が一丸となるその様。 和解が完全にされていなくとも、オオノキとマリエが共に戦うことは大きな意味を持っていた。

 

「オオノキ、お前が……頑固一徹なお前が、そこまで言うか。 いや、只の頑固爺にはならなかったと喜ぶべきところでもあるか。 ……ククク、まさか俺の方が考えに柔軟さが足りんとは……幻月にあの世で何を言われるかわかったものではないな」

 

 自嘲気味た笑いとともに無はマリエに最後の言葉を残す。

 

「……俺の血を受け継いだ者たちよ……己を失くすなよ」

 

 その言葉を最後に、封印が完了した無は全身を包帯に包まれる。 無からの言葉にマリエは

 

「ええ、もう……()くしはしない……」

 

 そう呟いて、オオノキに振り返る。

 

「さっさと次の相手に向かうぞ、オオノキ。 それとも、もうギブアップか……?」

 

 煽るようなマリエの言葉に

 

「年寄りに鞭打ちよる……だが、改めて己を拾うまでは……ゆっくりはしておけんのォ!!」

 

 オオノキは気合を入れ、宙へと舞う。 そんなオオノキの様子に小さく笑みを浮かべたマリエは同じく軽重岩の術で浮かび上がり……

 

 

 幻月の脇に、1つの棺桶が口寄せされている光景を目にした。

 

 

「あれは…………っ!!??」

 

 次の瞬間、マリエは己の感知能力によってその棺桶から途轍もないチャクラを感じ取り……

 

 危機を叫ぼうとする。

 

 しかし

 

 

 

「火遁・業火滅却」

 

 

 

 棺桶からあふれんばかりの火炎が幻月を取り囲んでいた忍び達を消し炭にせんと渦巻いた。

 

 あまりにも一瞬の出来事に、多くの忍びが火の海に飲まれようとしたその時

 

 

 

「水遁……大爆水衝波ァっ!!」

 

 

 

 さらにその棺桶の上空から、一体の地域を覆いつくすほどの水の塊が降り注ぎ

 

 火遁とぶつかり合うことで、多量の蒸気を発生させその余波で周囲を吹き飛ばした。

 

 

 

 マリエやオオノキ、忍び連合の忍びらがその蒸気で吹き飛ばされ火遁による致命傷を避けた次の瞬間

 

 蒸気の中心に2つの人影を見た。

 

「……穢土転生体とは……アイツ、事をうまく進められていないな?」

 

 1人の影がそう呟くと、幻月を通したカブトの声が響く。

 

「少々訳ありですが、貴方の力をお借りしたい」

 

「貴様が俺を呼び出した術者か……穢土転生体を通して物を語るとは陰険な……何者だ?」

 

「僕はカブトと言います。 貴方の言う()()()の協力者だとでも思っていただいて結構です。 いま、僕たちの相手は各里の忍びの連合です……」

 

「……なるほど、まあ最終的に計画が完遂されればそれで良い。 それにどうやらこの戦場……俺の火遁を単身で打ち消せる水遁使いがいるとは、余興として少しは楽しめそうだな」

 

 水蒸気の先、その光景が風と共に晴れその人物は姿を現した。

 

「どれ、久方ぶりの穢土とやらだ。 俺を楽しませてくれるか?」

 

 紅い甲冑に身を包んだその穢土転生体の忍びに、何が起きたのかとか体を起こしたオオノキがその名を呼んだ。

 

 

 

「うちは……マダラっ……!?」

 

 

 

 その一言で場が騒然とし、うちはマダラはオオノキへと目線を向ける。

 

「……見覚えのある顔があるが、随分と老けたなオオノキ。 時間の流れとは無情だな……俺の身体は随分と弄られ死んだ当時とは様変わりしているが……さて一先ず俺の相手をするのは……()()()だな?」

 

 マダラの言葉と共に、宙から1人の忍びが砂漠の地面へと降り立ち砂煙を巻き起こす。

 

「お前は……っ!」

 

 幻月を通したカブトの驚くその言葉と共に、さらにその忍びの周りに2人の人影が降り立つ。

 

「さっきので俺たちが遅れた分は巻き返せたかな……?」

 

「てめぇはアタシたちを運んだだけだろうが……」

 

「俺の力じゃ、二人を運ぶのも滅茶苦茶キツいんだよ……既に満身創痍だっ!」

 

「誇らしげにいうことか、それ?」

 

 漫才のようなやり取りをする2人に初めに着地した人影がツッコミを入れる。

 

「ある意味での私の初陣なんですが……もう少し静かにしていただけませんかねぇ……」

 

 

 羽を持つ男と、尻尾を持つ女、そして

 

 

 上半身裸の巨体で黒い仮面を着けた男の三人組がマダラの前に現れた。

 

「……見世物で見る分には面白そうな奴らだな」

 

 そう軽く笑いながら三人を嘲笑するマダラ。 そして幻月越しのカブトは

 

「……()()()とはねぇ……死んだとも思ったが、こうも短期間ですんなり寝返るとはプライドがないのかな君は?」

 

 少しイラついているのか煽るようなその口調は三人組の内、大柄な男へと向けられていた。

 

 その言葉を受け男は答える。

 

「はて? 人違いでは。 私はただ、この先の興味深い未来を見るために闘う一介の忍びです。 以後お見知り置きを」

 

 妙な丁寧なその言葉使い、しかしその男の上半身に見える皮膚は青白く特徴的で黒い仮面を着けていようと彼を知る者であれば何者であるかは一目瞭然であった。

 

「ふざけた真似を……っ!」

 

 カブトが怒りをあらわにするも、マダラはその男を指さして言葉を投げかける。

 

「先ほどの水遁は貴様のものか? ……俺の知る限りで、あれほどの水遁を扱えるものは1人しか知らん。 誇れ、そして……その力で俺を楽しませてみろ」

 

 その言葉に、黒い仮面の男は

 

「おほめにあずかり光栄です……しかし、やれやれ()()()()()()第一戦が穢土転生されたあの……いえ、本物のうちはマダラとは……これこそ予想も出来ない未来ですねぇ」

 

 呆れたといった様子で脇にいる羽の生えた男に目を向ける。

 

「さて……アガリさん、アカネさん……私を生かしたこと後悔させないでくださいよォ」

 

「善処するっ!」

 

「……たく、この祭りアタシたちも参加させてもらうぞ!!」

 

 駆ける三人とその後に次ぐ連合軍と共に、うちはマダラとの戦いが繰り広げられようとしていた…… 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 連合軍本部にいる綱手と、四代目雷影エーは事態の急変を聞き焦りを露わにしていた。

 

 突如現れた()()()()()()()()()。 その存在の危険性は見逃せるものではない。

 

「遅れてきた暗隠れのが、馬鹿な断わりを入れて戦場に向かった途端にこれだ……うちはマダラ、面の男はその名を借りて脅威を煽っていたのか」

 

 綱手がマダラの出現に、面の男の意図を探ろうと考えるも

 

「綱手様、余り考えるのは貴方の性に合わないでしょう」

 

「ああ、指揮は俺たちが分割して行う。 貴方は──」

 

 車椅子に乗った猿飛アスマと、それを押す猿飛キョウマが彼女に声をかける。

 

 その2人の言葉を受け、綱手は一瞬考えるように瞳を閉じ…… 

 

「ああ、こうなれば私が行くっ!!」

 

 覚悟を決めた瞳を開けそう宣言した。

 

 そんな綱手に奈良シカクが問う。

 

「しかしここから戦場に向かうのには時間がかかる……ゲンマの小隊を呼び飛雷神で──」

 

 しかしその問いに、問答無用とばかりに綱手は雷影の側近のマブイに声をかける。

 

「その必要はない。 マブイと言ったな、天送の術とやらで私を戦場に送れ」

 

 綱手のその提案にマブイは天送の術の危険性を伝えようとするが

 

「マブイ……天送の術の術を用意しろ、俺と火影、二人分だ!」

 

 エーがそう言うことでマブイは自分の意見を飲み込み素早く天送の術の用意を始める。

 

 綱手とエーが部屋を出たのちに、シカクはアスマへと語りかける。

 

「となるとだ、ゲンマらの飛雷神の術は水影を送るのに使うとしようか」

 

「そうなるな……たく、俺も足が動けば戦場に駆けつけるってのに……」

 

 アスマの無力から来る無念に、キョウマは

 

「アスマ、俺たちは俺たちの出来ることがあるだろう……俺の仮面も、よりふさわしい奴に渡ったんだ。 今の俺たちも何かできるはずだ」

 

 そう言って、励ますように笑顔をアスマへと見せた。

 

「ああ……」

 

 小さく返事をしたアスマは、山中いのいちを通して伝えられる戦況に耳を傾けるのであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 狂熱、発散……とばかりに第四部隊が戦う砂漠地帯は荒れ果てていた。

 

 マダラの強さは文字通り次元を超えている。

 

 その場に居合わせた猛者たちの奮闘も軽く蹴散らすマダラの一途種一投足はまさに戦神と呼ぶに相応しいものであった。

 

 我愛羅の砂や、黒仮面の男の水遁が辛うじてマダラの火遁を抑え被害を最小限に収めではいるが、体術や写輪眼による幻術によるかく乱は部隊をじわじわと追いつめていく。

 

 そして

 

「「塵遁・限界剥離の術っ!!」」

 

 蒼鳥マリエとオオノキの隙をついた塵遁がマダラを捉えるも…… 

 

 

 

 

「数は多いが……まるで及ばんな……かつての奴1人に」

 

 

 

 

 塵遁の光は、マダラへと吸収され何事もなかったかのようにマダラはその場で仁王立ちを決めていた。

 

「な、何が……!?」

 

 驚きを露わにしたマリエ。 そのマダラの両眼は薄い紫色をした波紋の模様を表しており…… 

 

「輪廻眼だとっ!?」

 

 オオノキは更なる驚愕を顔に浮かべる。 伝説の最も崇高にして最強の瞳術、それをあのうちはマダラが携えたことで戦場に暗い影が落ち始める。

 

 ふつりと諦めの言葉が聞こえ始める中…… 

 

 

 

「まだだっ!! まだ負けてはおらんっ諦めるなァ!!!!」

 

 

 オオノキはその言葉と共に、マダラへと拳岩の術で殴りかかる。

 

 小さくため息をついたマダラは

 

「両天秤の小僧が……年を取って諦めは悪くなったようだな」

 

 その岩の拳を、青いオーラで受け止めた。

 

「須佐能乎かっ!?」

 

「まるで腰の入っていない老人の戯れだな」

 

 オオノキをあざ笑うマダラだが

 

「腰はこれからいれるんじゃぜっ!!」

 

 オオノキが土遁・加重岩の術を発動させることで腕だけの須佐能乎に僅かにヒビが入る。

 

「ほう、やるようにはなったが……俺より年下の年寄りが無理をするな」

 

 しかしマダラはそういって、小さく鼻で笑うと

 

 

 

 さらなる須佐能乎の片腕に握らせた刀をオオノキへと突き出した。

 

 

「っオオノキっ!!!」

 

 マリエがその攻撃に気がつき、駆けつけようとするもその一突きはその場の誰の介入よりも早くオオノキの腹部を

 

 

 

 

 

──穿たなかった。

 

 

 

 

 

 途方もないような戦力。 そんなマダラの須佐能乎に匹敵する存在が、オオノキを刺殺さんとするそれを強烈に吹き飛ばし地面を転がす。

 

 それでもマダラは容易に態勢を立て直し余裕を感じさせるが、しかしここに来て初めてその表情を崩した。

 

「やはり来たか……っ!」

 

 その光景を見た幻月を通したカブトの言葉を肯定するように…… 

 

 

 マダラのものと瓜二つの須佐能乎がその手にオオノキを抱え、佇んでいた。

 

 

 その姿にマダラが顔を歪ませる。

 

「俺と同じ……須佐能乎だと……?」

 

 そのマダラの視線の先の須佐能乎は姿を消し、オオノキを柔らかな砂へと降ろしたその人物は、マリエや我愛羅、アガリ達をその朱い目で見渡すと……最後にマダラを鋭く睨みつける。

 

 

()()()は……アンタを確実に消すために……力をつけてきたんだ……」

 

「っ……」

 

 その鬼気迫る気迫に、マリエが言葉を失くす。

 

 その人物が……本当に成すべきことを目の当たりにしているのだと、直感しマリエは……思わずそっと手を伸ばした。

 

「マリエさん」

 

 そしてその人物はマリエの手を取り、安心させるように……優しい声色で語りかける。

 

「……マリエさん、貴方に俺の木分身の欠片を託します。 それがあれば、貴方の感知能力と合わせて……穢土転生を行っている源流、カブトの位置を特定できるはずです。 多分穢土転生されたイタチさんがどうにかしてくれるかもしれないですけど、何が起きるか分からないので保険で貴方にも向かって欲しいんです」

 

「で、でも……っ!」

 

「大丈夫……あれは、()()()が責任を持って葬って見せます。 お願いです」

 

 真摯なその言葉の意味、手の平に木の種のような物を握らされたことに気がついたマリエはその人物の覚悟を受け止め……

 

 小さな涙を一粒、地面へと零した。

 

「…………()()()、貴方が正しいと思うことを……貫きなさいっ!!」

 

 そう言い残したマリエは、その場を離れ飛び去る。

 

「という訳だ。 ここから先は俺が……僕が、お相手しよう……うちはマダラ」

 

 振り返りながらそう語りかける悟に、マダラは怪訝な表情を浮かべたまま顎に手を当てて何かを考える素振りを見せていた。

 

 そして

 

「黙雷悟、お前は僕の計画を──」

 

 幻月越しのカブトが悟に攻撃を仕掛けようと水鉄砲の術を構えるが

 

 

 

「そうはさせねぇってばよっ!!」

 

 

 

 不意打ちで螺旋丸を叩きつけられたことで、幻月の身体が半分以上塵となる。

 

 九喇嘛モードで現れたうずまきナルトに悟が気がつくと

 

「ナルト、悪いけど残りの先代雷影と他の戦場の白ゼツは任せた」

 

 そう声をかける。

 

「指図すんじゃねぇってば、悟っ!! でも……分かったってばよ。 今、九喇嘛のチャクラを借りてるからこそなんとなくわかんだ。 そこのマダラとお前のチャクラの因縁を……おめぇが集中できるように、しかたねぇからバックアップしてやるってばよっ!」

 

 サムズアップするナルトに、悟も小さく微笑みサムズアップを返す。

 

 その瞬間から、各地の戦場に居た悟の分身体たちは消え去り代わりとばかりにナルトの影分身が戦場を駆け巡り始める。

 

 何も気にすることが無くなったとばかりに、悟は深呼吸をする。

 

 周囲の連合軍らも、悟とマダラを置いて先代雷影と戦うようにと距離を取り始める。

 

 ナルトがオオノキを抱えその場から去り、二人きりになることでマダラが印を結ぶ。

 

「っ!」

 

 術が来ると身構えた悟だが、マダラが発動した木遁は

 

 

 

 塵となっている幻月の身体を覆い、封印を為した。

 

 

 

「……どういうつもりだ」

 

 悟の問いにマダラは

 

「小うるさい奴の口は黙らせたままにしておくに限る……特に今の俺の興味は、九尾の人柱力でもなく……連合軍でもない……

 

 貴様だ、小僧」

 

 マダラからのプレッシャーに……悟は怯むことなく、構える。

 

「興味なんてどうでもいい、アンタは未来で厄災を為す存在だ……今こそ、完全にっ!! 俺たちの手で消し去るっ!」

 

 悟が跳躍し、繰り出した拳をマダラは同じように駆け出し拳をぶつけることで相殺する。

 

 競り合う拳の先で、写輪眼が交わった。

 

「小僧、貴様は何者だ? 俺自身と柱間のチャクラを貴様から感じるが……しかし、それも既に混じり合ったように感じる。 それに……」

 

「僕が何者かだって? アンタが一番よく知っているんじゃないのか? 僕が何者かはアンタから教えられたんだからっ!!」

 

 徒手空拳のせめぎ合いは、高レベルの攻防を繰り広げるも互に序の口と言わんばかりに言葉を交わし続ける。

 

「……俺が……だと? ふん、面白いことを言う小僧だ。 ならば言ってみるがいい、貴様が何者であるかを」

 

 互いの蹴りの衝撃で距離が離れ、マダラからの要請に悟は大きく息を吸い……

 

「ならば、僕が何者であるかを教えてやるっ!! 僕は……

 

 

 

──アンタの息子だっ!!!」

 

 

 

 己の知る事実をマダラへと叩きつけた。

 

 その言葉にマダラは……

 

 

 

 

「心辺りがない」

 

 

 

 

 そう小さく呟いた。

 

「……は?」

 

 思わぬ返答に悟は気の抜けた言葉を発した。

 

 そんな悟の態度にマダラは

 

「子を為した覚えがないと言ったのだ。 俺の息子だと? ……ありえん。 もし俺に子がいたとしても、それが柱間のチャクラをも持つなど……」

 

 再度、悟を認知しない主旨を伝えブツブツと自身の心辺りを思い出す素振りを見せる。

 

 なおもその最中も牽制の意味で互いに火遁や体術を繰り出すもほぼ同レベルのそれは互いに相殺しあっていた。

 

「……っ男なら、そういう行為の1つや2つやったことがあるはずだろ!?」

 

 悟からのその言葉にマダラは首を傾げ

 

「ない。 そもそも俺は子種を残すことに興味などなかったのだからな」

 

「一夜の間違いとか……っ!!」

 

「くどい、一度もないと言っているだろう……だが」

 

 ふと、マダラが写輪眼を万華鏡写輪眼へと変えたことで悟も呼応するように己のそれを変化させる。

 

 すると

 

「やはりな、貴様は俺の息子ではない」

 

 納得し確信を得たような態度と共に、マダラは青いオーラを迸らせ須佐能乎を発現させ始める。 それに合わせ、悟も須佐能乎を形成していく。

 

「その眼が貴様が俺の息子ではないことの、何よりの証拠だ!」

 

 形成した瓜二つの須佐能乎が刀で切り結び、動きの硬直に合わせマダラは悟へとそう告げた。

 

 そんな言葉に悟は納得が行かずに聞き返す。

 

「この万華鏡も、須佐能乎もっ! アンタと同じものだっ!! 忌まわしくも、僕はアンタの血を引いて──」

 

 しかしその言葉の最中、黙雷悟の中で雷にはある考えが浮かんでおり表立って戦っている黙の言葉に疑問を呈する。

 

(昔から……いや、始めて黙が須佐能乎を使ったあの木ノ葉崩しの頃から……違和感は感じていた。 そうだ、この身体はマダラと同じ写輪眼と須佐能乎を使える……でもそれは……)

 

 そんな雷の疑問と同じく、マダラも悟の大太刀による斬撃をはじき返しながらそんな黙の主張に言葉を投げつける。

 

「確かに、貴様は俺の血を引いている……いや、()()()()()()()なのだろうな。 ……もし俺の血を引いていると主張するならなぜ──」

 

 マダラの告げる言葉と共に、雷は自分が気づかないように……いや言葉として明確にしてこなかったその事実に目を向ける……

 

 

 

「貴様は俺と同じ眼を持っている?」

 

 

 

 マダラのその言葉と、須佐能乎による斬撃は黙を大きく仰け反らせ動きを硬直させる。

 

「は……? 同じ眼なのは……っ!」

 

 反論しようとする黙の言葉にマダラは言葉を畳みかける。

 

「血を引いているから同じ眼を持つだと? そんなことがあり得ないことは、少し考えれば……いやそうでなくとも気づくことなど容易い」

 

 

 マダラは瞳を閉じ、その己の万華鏡写輪眼への思いを巡らせ再度瞳を開けた。

 

 

「この万華鏡は……イズナの……弟の眼を得たことで永遠のものとなっている。 ……この世に2つも存在しえないのだ」

 

 マダラは須佐能乎の中から悟へと指を指し示す。

 

「もう一度問おう、何故お前は……俺の『永遠の万華鏡写輪眼』と同じ眼を持っている……?」

 

 その指摘に……黙は唾を飲み込む。

 

 

 父と子の繋がりがあれば、同じ写輪眼が継承されるのか? それは否である。

 

 そうであるならうちはフガクの息子である、サスケもイタチも同じ能力を有していただろう。 しかし実際には彼らの生きざまを写すように、能力も須佐能乎もその力は様々である。

 

 マダラの写輪眼も、弟であるイズナの眼を移植した物であり……遺伝するものでは到底ありえない。

 

 しかし黙雷悟の有するそれは、マダラと瓜二つの須佐能乎を宿し……紋様も全く同じものであった。

 

(……本来万華鏡写輪眼の固有能力でなくとも……須佐能乎を扱うことで瞳力は消費され、身体に多大な負担を強いる。 なのに俺たち……いや黙は、その力を当然の様に使いこなしていた。 須佐能乎自体、確かにチャクラの消費は激しいが……視力に影響が無いのは同じ体を共有している俺が一番よく分かっている……)

 

 雷は、マダラの指摘によって己が抱えていた言葉に言い表せてこなかった違和感に納得を得ていた。 

 

 ……『黙雷悟』は、まともな存在ではないという事実を。

 

 当然、マダラの指摘により黙もその不自然な事実に気がつき……汗を垂らす。

 

 そんな事実に動きを止めた悟に、マダラは言葉を続ける。

 

「貴様自身の存在があり得ない者であることは、理解できたか? 永遠であるそれは互いの紋様が、型を織り成す……唯一無二のものだ。 ……さて、では一体貴様は何者なのだろうな?」

 

 疑問を投げかけるとともに、マダラの須佐能乎による一太刀が悟を狙う。

 

 しかし

 

 

 

 

「だから、どうした」

 

 

 

 一気に膨れ上がったチャクラと共に、悟の纏っていた須佐能乎は大きく形を変えマダラの太刀を掴み止める。

 

 完成体・須佐能乎へと変貌した悟の須佐能乎は、その太刀を握り砕き蹴りによってマダラの須佐能乎を吹き飛ばす。

 

「っ……フ……っ!」

 

 大きく仰け反りながらも、僅かに口元に笑みを浮かべたマダラも悟に合わせるように須佐能乎の姿形を変貌させていく。

 

「……今更、僕が何者であるかなんて大したことじゃないんだ。 確かに……かつて聞かされた話との齟齬に、疑問が……ないわけじゃない。 だが……取返しの付かない罪を犯した先である今、そんな自分のルーツが何かなんて些細なことで僕は止まらないっ!」

 

「……中々に面白い、良い狂った瞳をしているな」

 

 完成体となり、戦場にそびえたつ瓜二つの須佐能乎は互いに太刀を二刀手に携え構える。

 

「今、大切なことは……己が思う正しいことを為すこと。 ()()の目的は……ただ貴様をこの世から消し去ることだ、うちはマダラ」

 

「己と同じ須佐能乎と戦うなど到底叶うべくもないことだ……どこまで俺を楽しませることが出来るか見ものだな」

 

 瞬間、互いに連続した太刀筋を残し無数の斬撃を繰り出し始めた。

 

 互いに一太刀一太刀が山をも寸断する威力を持ったそれはぶつかり合うことで轟音と衝撃を戦場へと迸らせる。

 

 けたたましい衝撃音とともに、マダラは印を結びチャクラをため込む。

 

「火遁・豪火球っ!!」

 

 剣戟の最中、須佐能乎の口元から大火球が繰り出され悟を襲う。 しかし

 

「雷遁・雷鼠走り(らいちゅうばしり)の術っ!!」

 

 その火球を太刀で縦に切り裂いた直後、悟は術を放つ。 無数の鼠を模した雷撃がレーザーのように軌跡を残して須佐能乎の頭部にいるマダラを狙う。

 

「その程度の攻撃…………ふん、なるほどっ」

 

 須佐能乎の障壁を貫通しえないその術にマダラはすかさずに悟の意図を悟り、手をかざして眼を閉じる。

 

 瞬間鼠の雷撃が閃光の如く弾け眩い光を放ち、辺りを照らした。

 

 その隙を穿つように、悟は飛びかかり須佐能乎の持つ二刀を振りかざす。

 

 しかし、マダラはそれを視認せずともギリギリで横に躱すと鋭い切り返しを放つ。

 

「っ!!」

 

 しかし咄嗟に振り下ろした太刀を振り上げガードすることで、悟は大きく地面を削り仰け反りながらもダメージを抑える。

 

 閃光が消え去った後に、再度須佐能乎による剣戟が始まる。

 

 一連の動きを踏まえ、マダラは悟の分析をする。

 

(……チャクラも術の精度も、並の忍びのそれを外れてはいる。 少なくとも俺の息子を自称する程度の価値はあるのだろう。 柱間の力も持つのも頷ける馬力を持ち、少なくとも穢土転生された今の俺よりも単純な力では上だな。 そして──)

 

 唐突に悟が須佐能乎の太刀を投擲し、それを弾いたマダラの隙を狙うように飛び膝蹴りを繰り出す。

 

 マダラをその蹴りを躱すと、数発拳を叩きつけてこようとする悟からの攻撃を躱すべく須佐能乎の羽で宙へと距離を取る。

 

(時折見せる奇策のような動きとチャクラの色の僅かな変化。 切り替わるかのように動きを変える様はまるで体に別の魂がいるようにも感じられる……いや、奴の口ぶりからするとそれもあり得ない話でもなかろう。 奴の存在自体が現実離れしている以上、考慮するのもあながち間違いではないな)

 

 そんなマダラを、同じく太刀を形成しつつ飛翔して追いかける悟。 悟たちもまた、マダラに対しての分析を話し合う。

 

(流石うちはマダラ、今まで単純なレベル差的な速さや力押しでどうにか出来てた相手とは格が違うな)

 

(……実際、奴の強さはその力や忍術が全てじゃない。 先のはたけサクモとの戦いでも感じたように、確実に僕たちを越える強者……それ故の経験を裏打ちする研ぎ澄まされた戦闘技術を有している。 幸いなのは、サクモさんとは違い僕らを置き去りにする速さのような、飛び抜けた一点の能力がないことだ。 素直な力比べでなら僕たちに分がある)

 

(逆に言えば、戦いってのは素直な力比べじゃないから楽には勝てないってことだな……まともに戦えばな)

 

 悟が印を結び、木分身を須佐能乎の肩に五体分出現させそれぞれに術を放たせる。

 

「五遁・大連弾の術っ!」

 

 優に地形を変えうるその忍術の矛先に立っているマダラはその攻撃を避ける動作なく直線で悟へと飛び接近。

 

 当然の如く大爆発を起こすかに見えた悟の大連弾の術はそんなマダラの須佐能乎に触れると、何事もなかったかのように消え去りマダラの一太刀が悟を吹き飛ばす。

 

「っ!? クソ、輪廻眼の餓鬼道かっ!!」

 

 術をかき消したかのように見えたそれは、今マダラの変化させた輪廻眼の力の一端である餓鬼道・封術吸印であった。

 

 吹き飛ばされながらも空中で須佐能乎の態勢を立て直し、小さく舌打ちをした悟は

 

「ほらな、素直に力比べをさせてくれない……」

 

 落胆の色を見せながらも追撃に切りかかってくるマダラの須佐能乎の斬撃を太刀で受け止める。

 

 衝撃音を響かせ拮抗する両者。

 

「どうした? この程度か?」

 

 マダラの煽るかのような言葉に悟は

 

「そんなわけあるかよっ!!」

 

 そう言い返して、大きく息を吸う。

 

 瞬間、拮抗したように見えていた太刀での押し合いが一瞬で悟の優勢へと傾きマダラを地面へと向け吹き飛ばす。

 

 落下し地面へと叩きつけられたマダラの須佐能乎が地震を起こし、砂ぼこりを大量に巻き上げた。

 

 そして追撃とばかりに蹴りを見舞いしようとする悟だが、マダラの須佐能乎が咄嗟に転がりその一撃は地面を大きくえぐるだけで終わる。

 

 急激の力の増大、態勢を立て直しながらマダラは己の眼を持ってその正体を確認する。

 

「……仙術チャクラを須佐能乎に加えたか……いや、であればここまでの力を発揮するほどでもないはず……」

 

 須佐能乎の頭部にいる悟の眼の縁には仙人の証である隈取りがあり、そして……青い須佐能乎のオーラよりも更に蒼い雷のようなオーラを身に纏っていた。

 

「本気とならば、この(すべ)しかないっ……仙人モードと、八門遁甲第七・驚門、からの雷神モードの合わせ技っ!! ……正真正銘全力も全力だっ!!!!」

 

 太刀を捨て、背負ってた羽も形を変え付け根からチャクラが噴き出すように姿を変えた悟の須佐能乎は全身に碧い雷光を纏っている。 そんな悟の須佐能乎にマダラが牽制の意味を込めた八坂ノ勾玉を放つ。

 

 がしかし、その瞬間悟の須佐能乎はその巨躯が出していいスピードを越え、ボクシングのダッキングのようなステップで一気にマダラの須佐能乎の懐に飛び込むと、強烈な右フックで相手の脇腹を穿って……いた。

 

「っツォ!?」

 

 思わぬ一撃に呻き、その威力によろめこうとしたマダラの須佐能乎に対して、それを許さないかのように更なる左の拳によるフックが須佐能乎の頭部を穿ちその立ち位置をずらさせない。

 

 その連撃の隙間に反撃を試み振り上げられた太刀を持つ持ち手を目にも止まらぬ正拳突きが穿ち、砕く。

 

 反撃も許さない圧倒的な力と速さ、策を弄させない単純なパワーを押し付け始めた悟はその須佐能乎の拳による連打を繰り返す。

 

 一撃一撃が地面を揺らし、いつの間にか先代エーを封印したナルトやアガリ、我愛羅やオオノキらはその凄まじい光景に息を呑む。

 

 一撃入れるごとに須佐能乎にヒビを入れ、一撃入れるごとに地震のような地響きと衝撃が走る。

 

 圧倒的なその光景、その終着点を示すように一瞬大きくしゃがみ込んだ悟の須佐能乎は地面に足を沈ませ上半身を大きく捻り渾身のアッパーを放つ。

 

 その立ち昇る拳撃はマダラの須佐能乎の腹を穿ち、そのまま上半身を砕き昇りながら頭部に位置するマダラ本体をその拳の先に捉える。

 

 そして

 

 大きく振り上げられた拳はマダラの身体を損壊させ空へと打ち上げた。

 

「勝った……っ!」

 

 戦場の中にいる誰かのそんな呟き。 その言葉に呼応するように、封印するべく悟の須佐能乎の手の先から木遁が伸び落下を始めたマダラの身体を包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、悟の須佐能乎はその姿形を一瞬にして消した。

 

「!?」

 

 勝ちを目の前にした瞬間のその光景に、周囲が驚きを露わにする。

 

 消えた須佐能乎から、力なく落下を始める悟。

 

 何が起きたのかも分からないながらも、咄嗟に我愛羅が操った砂に飛び乗ったナルトが悟の元へと急ぐ。

 

「どうなってんだっ!? 何で急に悟は……っ!」

 

 混乱するナルトの呟き、しかしそんな彼の中にいる九喇嘛は一連の事態の全貌を朧気ながらに把握していた。

 

(当然と言えば、当然だろう……あそこまで人知を超えた動きをして当人が平気なはずがねぇ……だとしても、少し様子が変だとは思うが……)

 

 九喇嘛の疑問を肯定するように、落下する悟を受け止めたナルトの目にはただ気を失っているだけの悟の姿が映っていた。

 

「っ何で急に……!? 身体のどっかが傷ついてるわけでもねぇのに……?」

 

 そんなナルトの考えを遮るように、頭部と上半身の左側だけ残ったマダラは落下しつつも僅かに発現させた骨格だけの須佐能乎の片手から八坂ノ勾玉を放ちナルトを狙う。

 

「っ!」

 

 

 直撃するかに見えた八坂ノ勾玉だが、

 

 

 高速で飛来する物体がそれとぶつかり相殺する。

 

 

 その相殺された衝撃で僅かにナルトが乗る砂が揺れるも、すぐさま我愛羅によってナルトと悟は地面へと降ろされる。

 

 そんなナルトの傍らに、八坂ノ勾玉と相殺した物体……というよりも人物が降り立つ。

 

「状況が随分とわからんが……敵はマダラ、それだけは確かだな小僧」

 

「雷影のオッちゃん!?」

 

 バチバチとオーラを迸らせる雷影エーはほぼ同時に地面に落ち、それでも須佐能乎によって途轍もない威圧感を放つマダラを睨みつける。

 

 そんな雷影に並び立つように……綱手も姿を現し、ナルトの前に立つ。

 

「婆ちゃんっ!! 悟の様子が……っ!!」

 

「ああ、随分とマダラを追い詰めたていたようだが……視た感じ様子が可笑しい、原因は分からないが……急激にチャクラが消耗していっているようだ」

 

 綱手の速やかな診断に困惑するナルト、しかし悠長にさせないようにマダラが放つ勾玉の連撃を砂のガードが凌ぐ。

 

「マダラは大きくダメージを受け、再生にも時間を要するようだ。 今、攻めずに勝利はないだろう」

 

 我愛羅もまた、ナルトの前に発つとオオノキもその直ぐそばに砂で運ばれていた。

 

「会談の時と言い、全く予想の出来んガキじゃてぇ……だがその働きを無にはできんっ!」

 

 そして、最後に水影・照美メイが戦場へと降り立つ。

 

「少し遅れたようですが……何ですかこの戦場の有様、人知を超えた化け物でも暴れまわらない限りこうはならないでしょう……?」

 

 メイが周囲を見渡せば、地形がぐちゃぐちゃになった戦場が目に入る。 しかし

 

「水影、今はそれよりも目の前のマダラが優先だっ……五影がこうして肩を並べたのだ、過去の遺恨を消し去るには絶好の機会だろう」

 

 綱手はメイにそう語りかけ、五影全員が牽制をし続けているマダラへと目線を向ける。

 

 ナルトに背を向けた我愛羅は

 

「悟は後方支援の部隊に任せて引かせろ、ナルト」

 

 そう冷静に支持を出す。 その言葉に動揺を見せていたナルトも小さく頷き、影分身に気を失った悟を任せ前を向く。

 

 

「後は任せてくれ……悟、無事でいてくれってばよ」

 

 

 小さくそう呟いたナルトは五影に並び立つと……満身創痍になっているマダラに向け、一斉に攻勢に出るのであった。

 

 

 

 

 



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36:過去からの贈り物

 軽重岩の術を使い、空を翔ける蒼鳥マリエ。

 

 彼女は今、悟から託された木遁忍術で生み出された木の種を握り絞め感知の先に居る薬師カブトの元へと急いでいた。

 

(この種を握っていると、不思議と私の感知の範囲が広がって……1つのチャクラの流れを感じ取れる……このチャクラの大元に穢土転生の術者、カブトが……っ)

 

 重い気持ちに鞭を打ち、マリエは一度高度を下げ森の中へと進入する。

 

 空を飛び続ければ何時周囲を敵に囲まれるか分からない、そう警戒して慎重にけれど素早く移動するマリエ。

 

 しかし、突如として呻き声のような音が聞こえたことでマリエは動きを止め一度地面に降りて耳を澄ませる。

 

「っ……何の音……?」

 

 十分に警戒しているマリエに届くその音はまるで人の声のようにも聞こえた。

 

「──さん

 

「……?」

 

マリエさんっ!

 

 それは確かに自分の名を呼ぶものであると確信したマリエはハッとして咄嗟に握り絞めていた木の種を注視する。

 

 すると木の種は小さく震えながら、奇妙にも音を発してマリエの名を呼んでいた。

 

「も、もしかして……悟ちゃん?」

 

 想定してもいない状況だが、その種が他でもない黙雷悟から託されたものであることがマリエに非常識な出来事においても柔軟に対応する冷静さを保たせていた。

 

 そんなマリエの呼びかけに応えるように木の種から僅かに声が返ってくる。

 

チャクラ分けてください……少しでいいのでっ!

 

 木の種からチャクラを分けてくれとの要求がされ、マリエは困惑しつつもその要請に応えることにした。

 

 そうして恐る恐るマリエがチャクラを分け与えると、木の種はもごもごと蠢き形を変え人型の形状を形どる。

 

 そうして木の種が掌に乗る程度の黙雷悟へと姿を変えた。

 

「……中々に奇妙な術ね……ってそれよりどうしたの急に?」

 

 ツッコミどころを無視しない時間を惜しみマリエが本題へと切りこむと、小人状態の悟は神妙な面持ちで己の事情を話し始めた。

 

「これは木分身の術の応用でして……それよりも、実はずっと続けていた俺の本体との通信が突然途切れたみたいです……この先何か起きるか分からないので、木分身体の俺も少しは動ける状態にしておいた方が良いかと思ったんです」

 

「通信が……途切れた?! 悟ちゃんに何かあったの!?」

 

「いえ、俺自身もよくわからないんです……取りあえずあっちにはナルトの影分身もいるし、恐らく少しすれば五影が応援に来ると思うのでマリエさんは引き続きカブトの元へと向かってください」

 

「っ全く……貴方になにかあったと聞いて、そっちに駆けつけられないもどかしさを少しは分かって欲しいわ……」

 

「……ごめんなさい、それでも今はカブトを止めないと穢土転生による被害が──

 

 

 

 

 

 

「待て」

 

 

 

 

 

 

 突如マリエの背後から、静かに……そして鋭く何者かの声がかけられる。 木分身の悟とマリエの感知に引っかからないほどの隠遁術の使い手のその言葉にマリエは内心(しまった)と思いながらも、奇襲を仕掛けてこないことに希望を持ち体を少しも動かさずに声だけを発した。

 

「……攻撃を仕掛けてこないってことは……貴方はマダラの一味ではないのかしら?」

 

 そんなマリエの警戒した言葉に、背後に立つ人物は……

 

「もしかして……蒼鳥マリエさんか?」

 

 警戒心を解いたかのように、そうマリエの名を呼んだ。

 

 その言葉にマリエが振り向くとそこには

 

 

 

 

 うちはサスケが刀を向け、立っていた。

 

 

 

 

「サスケ君っ?!」

 

 マリエが驚いたようにその名を呼べば、サスケはハッと気がついたように刀を腰の鞘に納め軽く会釈をする。

 

「すみません、貴方とは気がつかず……今は戦争が起きているようだから何か情報を得られないかと声を……か……っ!?」

 

 丁寧な口調で話し始めたサスケだが、マリエの肩から顔を覗かせた小さな悟の姿を確認すると一瞬顔を紅く染め

 

「なっ……てめっ……悟、お前も居たのかっ!?」

 

 珍しく動揺した様子で僅かに後ずさる。

 

(何か思わぬ貴重なものが見れたな……素のリアクションが昔のままで、ちょっと嬉しいかも)

 

 サスケの普段見られないような口調とリアクションを確認し得した気分になった悟だが、そこを弄ると話が進まないためグッと堪えてサスケへと声をかける。

 

「よっ! サスケ。 お前がここら辺に居るってことはイタチさんも近くにいるんじゃないのか?」

 

 そんな悟からの言葉に、サスケは眉をひそめた。

 

「兄さんが……近くに? どういう意味だっ」

 

「いや、今回の戦争でカブトが穢土転生っていう術で死者をよみがえらせて使役しているから……イタチさんならその支配を脱して逆にカブトを止めるために動いているかなと」

 

 悟の言葉にサスケは少し考える素振りを見せ、納得した様子で口を開く。

 

「それがお前の知る、()()()()()と言う奴か?」

 

「あ~……まあ、つまりそういうこと」

 

「……悟ちゃん、サスケ君にも正体を明かしてたのね」

 

 悟の事情を知るサスケが納得を示し、マリエは自分が唯一だと思っていた悟の秘密を知る存在だというアイデンティティが消失したことを僅かに残念に感じた。

 

「……にもってことはマリエさんも、悟の事情を知っているんだな?」

 

「如何にも、もちろん最初に教えたのはマリエさんだっ!」

 

「……取りあえず世間話はここまでにしましょう、今はその穢土転生を止めるのが何よりも優先よ。 ……サスケ君、ぜひ貴方の力も借りたいわ」

 

 何時までも足を止めて話し込んではいられないため、マリエは先を行くことを提案しサスケにも助力を頼む。 サスケは……

 

「……いいだろう、少なくとも兄さんが本当に穢土転生とやらをされているのであれば術者のカブトに話を聞くのが最善なのに、変わりはない」

 

 了承を示して、マリエとサスケはカブトの元へと急ぎ駆けだした。

 

 

 

 

「おい、悟」

 

 既にカブトの位置を感知し特定し終えているマリエの先導についていくサスケは小さな悟を肩に乗せ、彼に声をかける。

 

「……俺を出し抜き、ダンゾウへの復讐を果たした気分はどうだ?」

 

 サスケからの追及するような声色の質問に、悟はバツの悪そうにしながらも返答をする。

 

「ああその件は悪かったとは思ってるけど……悪いけど、今この木分身体には黙……もう一人の俺の意識は入ってないからその答えには──」

 

「……()()に聞いている。 お前自身、ダンゾウの所業を知って黙っているたまじゃないだろう?」

 

「……」

 

 サスケの見透かしたかのような問いに、悟は少し考え

 

「正直に言えばスカッとしたし……同時に少し残念にも思った」

 

「……どうしてだ? 常々に言っていた()()()()()()を為しただろう」

 

「いや、まぁ……あの時黙の意志を尊重したけど、当然俺もダンゾウを許せないって思いもあった。 そのことに嘘はないしやったことには少しも後悔はない……けど」

 

「けど……なんだ?」

 

「俺が変えた幾つかの運命の様に……ダンゾウにもヒルゼンさん……三代目と共に歩める可能性があったかもしれないと思うと……な」

 

「……それこそ過去の話だ、お前にも俺にもどうにも出来ない。 可能性の話なんてキリがない」

 

「ああ、分かっているからこそ……思うんだよ、思うだけ……」

 

「……」

 

「サスケの言う通り考えてもキリがない事なんだけどな」

 

 悟の言葉を最後に、僅かな沈黙が二人の間に流れる。

 

 復讐を終えても、亡くしたものが戻ってくるわけではない。 けれどそれを理由に復讐を咎めることは……恐らく誰にも出来ない。

 

 その怨嗟に燃える感覚を知る2人だからこそ、サスケも悟も……「復讐の意味」を自らに問い続けているのだろう。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

──ドゴンッ

 

 

 洞穴の奥、その隠蔽された壁をマリエの岩状手腕が打ち砕きその先の開けた空間を露わにする。

 

 そこには……

 

「僕の結界をも通りぬけ……よくここが分かりましたね」

 

 深く外套のフードを被った薬師カブトが居た。 合間から見えるカブトの姿はまるで蛇のようにも見えるものであった。

 

「……悟ちゃんと私の感知能力を合わせれば、出来ないことじゃないわ。 悟ちゃんが戦場を駆けまわりながらも僅かな貴方のチャクラの痕跡をたどり続けていたからこそ、場所の特定も容易だった……」

 

 そんなマリエの言葉にカブトは、露骨にため息をつく。

 

「黙雷悟か……過去に僕の邪魔をし、弄びコケにしてきやがったなぁ……それにサスケ君もいるようだねぇ。 彼も僕の事を随分と舐めてくれてたなぁ……そして

 

 

 

 

 蒼鳥マリエ、アンタこそ……僕が今もっとも殺してやりたい相手だ……っ」

 

 鋭いカブトの殺気が放たれ、マリエとその隣に並び立ったサスケは警戒心を高める。

 

「ホントに……君たち三人は……っホントに目障りだっ!! それが揃いも揃ってノコノコと僕の目の前に来てくれるとはねぇ……! ある意味で僕は運がいいのかもしれないっ!」

 

「!?」

 

 感情を表だって露わにするカブト。 カブトはその荒れた口調のまま、己の思いを吐露する。

 

「ずっと気にいらなかったんだ……ねぇサスケ君。 君は何故そうも自信を持って立ち振舞えるのかなぁ?! ただ一人のうちは一族の生き残りで……君には何も残っていないハズなのに!!」

 

「……自信があるだの、ないだのなどどうでもいい。 俺は……俺には兄さんがついている、兄さんが信じた己の可能性を……信じるまでだ」

 

 サスケのブレない姿勢の返答にカブトは、己のコンプレックスを刺激され問いただす相手を変える。

 

「っ……黙雷悟っ!! お前は孤児として育てられ、その力から周囲に疎まれダンゾウにも狙われ……たった一人、暁と言う世界の敵の名を名乗ってまで……余りにも利に反している、一体君は何がしたいんだっ!」

 

「どう問われても俺は後悔しないように、今に全力をつくしているだけ……としか言えないな」

 

 サスケと悟に己の持つ疑問をぶつけるカブト。 しかし悟の返答は聞くまでもないと、サスケは鼻で小さく笑いマリエも悟の本質がまるで変わっていないことに心の中で喜ぶ。

 

 何故、何故? 自分を見失っているカブトには……己を確立している3人の存在がとても目障りであった。

 

「蒼鳥マリエ……っ! アンタがかつての施設を潰したんだっ!! なのにノウノウと自分は生き延び、新たな孤児院を経営し……分かっているんだろう?! アンタさえいなければマザーが──」

 

「っカブト!! マリエさんは──」

 

 

 

 

 

 

「いつまでも喚くな、クソガキっ!!」

 

 

 

 

 

 マリエに責めの言葉を浴びせようとしたカブト、それを遮るため悟が口を挟もうとした瞬間洞穴に怒号が轟く。

 

「……貴様に言われなくても、私自身が一番理解している。 だがな

 

 

 

 

 自分を見失って、ただでさえ一番ノノウの意志を穢しているのはお前だろう……()()、カブト」

 

「っ……!」

 

「……確かに私も、過ちばかりを犯してきた。 だが……カブト、貴様の八つ当たりに世界を巻き込むな」

 

「黙れ……」

 

「……気づけ、私たちには──

 

 

「黙れェっ!!」

 

 マリエの言葉を遮るように、カブトのローブの中から無数の大蛇が飛び出し勢いよくサスケとマリエを襲う。

 

 荒れ狂う大蛇の群れが洞窟内を削っていく中、サスケは須佐能乎を発動し蛇を押しのけマリエは軽重岩の術で空中で群れを避ける。

 

「ハハハハハハハっ!! これが僕っ!! 大蛇丸様をも越えた、仙人の……僕の力なんだっ!!」

 

 力を行使することで、カブトは自身の存在を世界に押し付け認知している。 それを証明するように、カブトは次々と術を放つ。

 

「仙法・白激の術!!!」

 

 カブトの口から放たれた赤い龍のようなチャクラ体が、一点に収縮し始める。

 

 そして次の瞬間

 

 

──キュイイイイイン

 

 

 骨が軋むほどの高音と、とてつもない光が洞窟ないを埋め尽くした。

 

 さらに空気振動も加わることで感覚をも麻痺させるその術はカブトを覗いた者の知覚を封じる。

 

 そんな世界の中を角膜を閉じ、体内のほとんどを液化させることで自由に動き回るカブトは須佐能乎で防御を固めているサスケではなく

 

 無防備になっている蒼鳥マリエにターゲットを絞る。

 

(死ねぇ!!)

 

 蛇のように大口を開け、噛み殺そうと試みるカブト。

 

 

 

 しかし

 

 

 

──ガキンッ

 

「っ!?」

 

 確かにマリエに噛みついたカブトの得た感触はまるで岩にかじりついているようなものであり……次の瞬間

 

「岩分身っ! 下かっ!」

 

 地面から飛び出た手を避けるようにカブトは飛び退く。

 

(……チッ土遁で地面に潜って白激の術の効果から逃れたかっ)

 

 マリエの心中斬首を避けたカブトは、次第に効力を失っていく白激の術を再度発動しようと印を構える。

 

 

 が

 

 

「っ……!?」

 

 サスケの須佐能乎が放った弩の矢が体を穿とうとしたことに気がつき、咄嗟に大きく飛び退き避ける。

 

(っまだ、僕を視認できるほど光も、位置を特定できるほど音も弱まっていないハズ……どうして僕の位置をっ!?)

 

 驚くカブトだが感知をサスケに集中させるとその理由が直ぐに分かった。

 

 サスケの肩に乗る小さな悟が、微かにチャクラを放っていることに。

 

(奴には僕と同じ仙人の力がある……それで僕を感知して、サスケ君に触れ大まかな感覚の共有をしているのかっ)

 

 まるで自分がどういう手段で戦うのかを見透かされているかのような感覚にカブトは陥る。

 

 それはかつて、カブトが相対した黙雷悟……黙との戦いで感じたものでもあった。

 

(何なんだ……っ! どうして、僕がすることを……何故っ……)

 

 自分が自分のことを理解できていないも関わらず、対峙する相手がそれを見透かしてくるという恐怖感がカブトを襲う。

 

 

 やたらめったら蛇や術を放つカブト、しかしそれらは適切に3人に対処されていく。

 

 

 白激の術の効果が切れたことで、サスケと悟は互いに耳打ちし合いカブトの攻略法を練る。

 

「……少なくとも仙人を自称するだけはあるようだな。 だがどの術も既視感がある、所詮は大蛇丸の紛い物か」

 

「それが今のカブトの心の在りどころだからな。 親同然の存在に認知されなくなった衝撃で、我を見失っているんだ……長い間ずっと」

 

「……どうやら音の忍び達の術も使うようだが……摸倣だけではいずれ限界が来る。 己の糧にせずあるがままを振りかざす、目的なき力がこれか……」

 

「どうするサスケ、蛇博士のお前に言うまでもないが今のカブトには蛇の角膜で瞳術による幻術は効かない。 道中説明したようにカブトを殺しても穢土転生は解除されない……」

 

「蛇博士……? フンッまあいい、お前が困るとはこの状況……なるほどな、本来コレを解決するのは兄さんだったわけか」

 

 イタチの存在の大きさ、悟でも対処に困る状況を覆すことが出来る兄にサスケは誰にも気付かれないようにとそんな兄の弟であることの優越感に浸る。

 

 そんな僅かに頬を緩ませるサスケに、悟は(間接的にイタチさんが褒められて喜んでんなコイツ……)と見透かす。 

 

 悠長にそんなやり取りができる程にサスケにはカブトの攻撃を躱しながらも余裕があった。

 

 一方でカブトの連撃にマリエも少し苦戦しながらも対処を行っていた。

 

 サスケや悟のような瞳術がなくとも、彼女の飛び抜けた戦闘センスが仙人モードへと至ったカブトの致命的な攻撃の数々を適切に対処していく。

 

 最小限の動きと、細かな塵遁による相殺。

 

 洞窟の岩を軽くし飛ばして牽制し、重くして壁とする……あらゆる術でカブトの攻撃を無効化していった。

 

「何故だ……何故死なない……っここまでしているのに……っ!」

 

 焦るカブト。 己が出来ることは全てしてきたはずであった。 師である大蛇丸を取り込み、実験体たちの細胞も取り込み……それでも

 

 何かが足りていなかった。

 

 

 

 

 そんな焦りによって僅かにカブトの攻撃の合間に隙が出来る。

 

 その瞬間、マリエが駆けだした。

 

「っ!?」

 

 そのことに気がついたカブトは、近づいて来るマリエに攻撃を放つ。 しかし、単純な術や、矢……遠距離攻撃はマリエが右腕に纏った岩状手腕で軌道を逸らすように最低限の力で透かされ、大蛇による物量を仕掛けても左手で形成した塵遁を四角形状に留めたまま振るい大蛇の身体に隙間を作り突進する。

 

 勢いづいたマリエがカブトに肉薄した。

 

「歯を食いしばれ、カブトォ!!」

 

「っクソっ!」

 

 マリエが振り上げた右手の拳、しかし単純な身体能力が上のカブトはそれよりも早く手刀を作り彼女の腹を穿とうと突きを繰り出した。

 

 

──その突きは、真横から飛んできた雷を纏った刀が腕を突き刺したことで阻止される。

 

 

(うちはサスケっ!?)

 

 僅かなモーションで草薙の剣を投擲したサスケは、周囲に蔓延る大蛇に向け須佐能乎による攻撃を放つ。 まるでカブト自身はマリエに任せるように。

 

「うおらぁ!!!」

 

 そして振り抜かれた岩拳がカブトを殴りつける。 しかしカブトに素直な攻撃でのダメージは余り効かずに、直ぐに彼は態勢を立て直す。

 

 しかし

 

「まだぁっ!!」

 

 復帰するカブトに合わせるように、左にも纏った岩の拳をマリエは叩きつける。

 

「っづぅ!!」

 

 遥かに身体能力で優る相手に、近距離の格闘戦で後れを取る。 その既視感にカブトは、眩暈がした。

 

(どうして……なんで……)

 

 壊れそうな自我、今の己を否定してくる憎き存在たち……それらを目の前にしてカブトは……

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

『忍びをやるのも施設のための仕事だからだ。カブトも大きくなったら、何かマザーの役に立ってやるといい』

 

 ……かつて、アンタは……蒼鳥マリエはそう言った。 だから、僕は……マザーのためになることをしようとしたんだ。

 

 孤児院のために、働くために医療忍術も少しづつ覚え……マザーの手助けをして……

 

 施設の仲間達よりも「良くできた」と褒められるのに優越感を感じつつも、逆にそんな仲間に頼ることに少しも嫌悪感はなかった。

 

 貧しくても……充実していた。

 

 けれど

 

 

 蒼鳥マリエが帰ってこなくなるとマザー顔から笑顔が減った。

 

 

『あの歩きの巫女と呼ばれたお前が今や子守とはな……久方ぶりにこうしてみると……少しやつれたかノノウ』

 

 

 そして岩隠れの大規模な作戦を探るために、マザーは再び岩隠れへとスパイとして潜り込んだ。

 

 ……ダンゾウの策略通りに。

 

 

 

 そして、僕も忍びとなった。

 

 

 

 

 

 

『誰……なの?』

 

 

 

 

 

 根の策略でマザーと殺し合うために。

 

 僕は誰なんだ……

 

 マザーから貰った名と、眼鏡をもってしても……マザー自身に気づかれないなんて……

 

 何の……

 

 何で……

 

 何の為に……

 

 

 

 僕はただ、誰かに……見て欲しかった……認めてもらいたいだけなのに

 

 

 

~~~~~

 

──ガっ

 

 マリエの連撃を、カブトは仙人による回復能力と瞬発力で強引に抑え込もうと彼女の岩の手を正面から受け止める。

 

「クッ……」

 

 正面からではカブトの膂力に敵わないことを悟っているマリエが岩の外殻を囮に距離を離すと……カブトは印を結ぶ。

 

「……マリエ、アンタに……面白いものを見せてやる」

 

 地面に手をついたカブトは叫んだ。

 

 

 

「アンタの罪をっ!!!!!」

 

 

 

 そうして現れる2つの棺桶……大小の棺桶はゆっくりとその蓋が開き……

 

 

「っ!?」

 

 

 その中身にマリエが動きを止める。

 

「どうしたっ!?」

 

「マリエさんっ!?」

 

 サスケが動揺したように見えるマリエの動きに不信感を覚えるも、周囲の大蛇の妨害にあい棺桶の中身が見えない位置にいた。

 

 棺桶の中身を見たマリエは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リン……マザー……」

 

 

 

 

 

 

 

 そう小さく呟いた。

 

「ただアンタ一人の為にわざわざ用意したんだよ……ハハハ……蒼鳥マリエ、アンタの事は調べ尽くしているっ!! この女の死でアンタは壊れ始め……マザーに売られたとダンゾウに偽の情報を掴まされたことで、己を殺したっ!!

 

 ハハッそんなアンタに、僕を責める権利何て──

 

 

 

 

「塵遁・限界剥離の術」

 

 

 

 

 

──キュイン

 

 一瞬の甲高い音ののち、白い光と共に2つの棺桶は消え去りカブトの頭部に生えていた角が一部欠ける。

 

 

 

 僅かな静寂の後、カブトは何が起きたのか理解し……その瞬間。

 

 正面にはマリエが立っていた。

 

「っ!?」

 

 次の瞬間にはマリエが風遁を纏った手刀を横なぎに放ち、カブトの眼を切り裂く。

 

 その痛みにカブトが仰け反るとマリエは素早く彼の背に回り込み羽交い絞めにして土遁で身体を覆いカブトの身体を岩に埋め込ませ拘束する。

 

 当然カブトは抵抗しようと四肢に力を籠める、しかし

 

 その四肢の腱をさらなら風遁の刃が襲いその膂力を失わさせる。

 

(……っまさか!?)

 

 予備の動作もない一連の動き、カブトはその流れが

 

 

 マリエの分裂の術によるものであったと感ずく。

 

 

 予め、洞穴の外のはるか先に待機していたマリエの分裂体に戦闘が始まったタイミングで塵遁を溜めさせる。

 

 カブトの感知が、洞窟のなかのサスケやマリエに集中したことでカブトの感知範囲外になったそこから……先ほどのマリエの限界剥離の術は放たれたのだ。

 

 

 そして生じたすきに、中にいたマリエがカブトを拘束。 その間に分裂して外に居たマリエが塵遁で空いた直線を駆け、もがこうとしたカブトの抵抗力を奪ったのであった。

 

 

 そして……

 

「サスケ君、眼球が回復する今がチャンスよっ!!」

 

 先の岩状手腕の殴打でカブトの回復力を測っていたことで、角膜の先、その瞳が潰されても再生することを確信しその角膜が生じない隙を作ったのであった。

 

「やめ──

 

 

 

「万華鏡写輪眼っ!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

「余りにも強引すぎる……」

 

 力が抜け項垂れるカブトを前にしたサスケの肩で、悟はそう呟く。

 

 薬師ノノウと野原リン。 本当に彼女らの穢土転生体が棺桶の中にあったのなら、マリエが動揺を見せないのは事情を知る悟には考えられない。 当然カブトも同じ考えであったために、的が外れ致命的な隙が生じた訳だが……

 

 サスケの背後で、塵が集まり穢土転生体が再生しようとしている所でマリエは封印術を施し……塵が人の形になることはなかった。 そんなマリエの様子を悟が見つめていたがサスケから声がかかる。

 

 

「悟、カブトにはお前が言った兄さんが使うはずだった『イザナミ』とかいう術のようなループにハマったかのように錯覚する幻術をかけた。 己を認めた時に解術される条件も同じくな……本当にこれで良かったのか?」

 

「ああ、これでカブトは己を……本当の自分を見つめ直せるはずだ」

 

「……殺しはしないのか?」

 

「穢土転生を解術させても、殺すつもりは俺にはない。 ……コイツもダンゾウの被害者の1人だ。 ここに居る俺たちと同じ……な。 皆、それぞれが罪を犯して……それでも生きてる……カブトだけ仲間外れにしたら可哀想だろ?」

 

「この戦争で少なくない人が死んだはずだ、お前がどれほどそれを軽減したのかは知らないが……その責任は消えはしない」

 

「ああだからこそ、一生をかけて償うしかないな。 カブトならそれが出来る、少なくとも俺が知る数少ないもっと先の未来の情報だ」

 

「フン……勝手にしろ」

 

 そうしてサスケは幻術に堕ちているカブトに、質問を1つする。

 

「……兄さん、うちはイタチはどうしてここに居ない。 穢土転生していないのか?」

 

 その質問に

 

「……イタチは……穢土転生……出来なかった」

 

 そうカブトは答えた。 何故穢土転生を出来なかったのか、詳しい条件を知らないサスケは疑問に感じたが

 

「未練がないから……じゃないか?」

 

 悟がそうサスケに告げた。

 

「未練?」

 

「昔、穢土転生について書かれた巻物を呼んだことがあるんだが……穢土転生は浄土にある魂が持つ未練を繋がりとして穢土……現世に口寄せする原理らしい。 浄土に魂がない者か未練がない者だけが穢土転生されない。 ……まあ、この忍界に生きて未練がないなんて人間はそうそういないだろうが……つまり……」

 

「……」

 

 悟はその後の言葉を口にはしなかった。 サスケも、イタチが穢土転生されなかった理由を理解し……瞳を閉じて小さく笑顔を作った。

 

 

 

「……よし、穢土転生を解除させる」

 

 そうしてサスケがカブトに穢土転生の解除の印を結ばせる中、小さな悟は封印術が発動し布にくるまれた2つの物体を前にへたり込んでいるマリエの元へと向かう。

 

 彼が近づくと、ポツリとマリエは言葉をこぼす。

 

「……『あなたには青い空に羽ばたく鳥のように自由に生きて欲しい』……そして取りあえず性格がキツイからと優しく聞こえるような響き……私の名の由来はそうであった。 ノノウと言う名も、彼女のマザーから貰い……そしてノノウがかつて捨てたものだ。 岩隠れでナニガシを名乗るにあたって、過去の名は邪魔でしかないからな」

 

「……」

 

「だが、彼女も私も……貰った名を誇りに思い……人生を生きた。 それは嘘偽りのない事実で……何事にも代えがたい己自身の記憶だ。 カブトも……いずれそのことに気がつくだろうな」

 

「ええ……そうですね、俺もそう思います」

 

()()()……貴方の名前の由来を……聞かせてくれないか?」

 

 悟に背を向けたままのマリエのその言葉に悟は……

 

「俺の世界で苗字である()()は……人に様々なこと、山火事から火などを学ばせた雷が音のないさま……つまり雷の音が聞こえないほどより遠くの恵みを得ようとした者にかつて授けられたものであり……()は、心配性の両親が『今その時がどうしようもないと悟っても、必ず苗字の由来のようにどこかにある恵みを見つけられるように』と苗字と意味を合わせて名付けてくれました」

 

 懐かしむようなその声色でしみじみとそう語った。

 

「あえて名の方にネガティブな意味があるのか……少し、何というか……」

 

「変わった両親ですよね、まあ本当に心配性でしたから……あまりポジティブな名前にするのが逆に気が引けたのかもしれないです。 でも、俺は気に入ってますよ。 俺自身本来心配性なので、色々なことに気を取られて気づけないことも少なくはないです……それでも、黙雷悟の名前に籠められたよう……俺は()()()()

 

 そう硬い決意を抱く悟の様子に……マリエは……この先の出来事を悟る。

 

 彼が何を思い、何をしようとしているのか。 そしてその結果、どうなってしまうのか。

 

 悟自身が覚悟しているその様子にマリエは

 

「過去を縛りとして見ず、己の糧にする……リンもノノウも、未来に希望を託してきたもの達全てが私たちにそう望んでいるはずだ。 それを貴方も忘れないでね、悟ちゃん」

 

 そう言って、いつものようにマリエは優しい笑顔で悟に振り向いた。

 

「はい、勿論ですっ!」

 

 

 そして

 

 

 穢土転生は解術された。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 穢土転生が解かれたことで、戦地に影響が出ることは明白であった。 しかし

 

「……悟ちゃんの本体はまだ目を覚まさないの?」

 

 マリエの心配に小さな悟は首を傾げる。

 

「はい、まだみたいで……俺の再生能力ならそれなりに時間がたった今、起きてもおかしくないのになぁ……?」

 

 そう呟く悟を尻目に、サスケは洞穴の外へ出ようとカブトの前から離れる。

 

「サスケどこ行くつもりだ?」

 

「……ここでやることはもう何もない。 戦地とやらに向かい、世界を見定めにいく」

 

 サスケのその言葉に悟は

 

「ちょっと待て……確かに穢土転生を解除しても戦争は終わらないけど……お前はここに居るべきだ」

 

 足早に去ろうとするサスケを引き留める。 その様子に、サスケは小さくため息をし

 

「……ならそうさせてもらう」

 

 そう言って手ごろな岩に腰を下ろした。 素直なサスケに悟が安堵のため息をつくが

 

「戦争は終わらないの……? 悟ちゃん」

 

 先ほどの悟の言葉に、マリエは危機感をあらわにする。

 

「ええ、マダラも穢土転生の縛りを自分で解けるのでアイツだけ現世に残るハズですので……まあ影たちとナルトが封印してくれてれば、あとは仮面の男だけで話はそれで終わりなんですが……」

 

「っ……そんな状況、私貴方の身体が心配すぎていても立っても居られないっ!! 私は戻るからね、悟ちゃんっ!! 良いわよね?!」

 

 焦りを見せ始めたマリエは軽重岩の術で浮き上がる。 すると

 

 

「マリエさん……それと悟」

 

 静かに座っていたサスケから、二人に声がかかる。

 

「?」

 

 2人が同時に反応し、視線をサスケに向けるとサスケは少しそっぽを向いたまま

 

「兄さんからの伝言がある……2人に『感謝している』だそうだ」

 

 そう呟いた。

 

 その言葉に

 

「……ええ、私もイタチ君と会えてよかったわ……」

 

「……俺こそ、イタチさんには恩しかないよ」

 

 思い思いの言葉を残し……マリエは飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、そのこと鉄の国の時に言ってくれなかったんだ?」

 

 何気なく、小さな悟はそうサスケに語りかけた。

 

「っ……今の流れでお前はマリエさんについて行かないのかよ……」

 

「イヤ、俺はサスケについて行くことにしたよ。 この身体じゃやれることが限られているから……()()()()()()()を確かめに行くことの方が大事だと思った……で、何で鉄の国で──」

 

「しつけぇな……あん時はお前が暴れまわったせいでそれどころじゃなかったからだッ。 おかげで組んでいた小隊の仲間ともはぐれる結果になっちまって──」

 

 その瞬間、洞窟の天井が崩れ人影が二人分降りてくる。

 

「見ーつけた!」

 

 その二人の姿に、サスケと悟は口をそろえてその名を呼んだ。

 

「「水月と重吾か」」

 

 着地した水月はニコニコした笑顔を浮かべてサスケに語りかける。

 

「いやぁー探したよサスケ、会談の時に僕たちを置いてサッサと君だけが駆けだしたせいで捕まった僕らを助けに来ない薄情者のサスケェ!! ──てうわ、何コイツカブト?! キモ、腹から蛇みたいなうんk──」

 

「サト……ではなく、悟だったな。 俺も体を分け与えれば小さくなることもあるが、そこまでにはならないな」

 

 水月の言葉を遮り、悟を見つけた重吾はサスケの傍にいた彼を掌に乗せる。

 

「重吾、元気そうでなによりだよ。 で、あっちが水月か……こう、生で見ると五月蠅いな」

 

「何そいつ、小生意気なチビっていうかミジンコっ!! 見て五月蠅いとか矛盾してるだろってか初対面で失礼だっ!!」

 

「うるさいぞ水月」

 

 サスケの指摘に水月が怯む。 しかし水月は外套の素手から巻物を取り出すと

 

「いいのかなぁサスケェ? 大蛇丸のアジトで見つけたこの巻物に書かれたとびきりの情報……教えてあげないこともないのにそんな態度で──」

 

 煽るかのようにこれ見よがしに振る水月──だが

 

「よこせ」

 

 サスケの雷遁で強化された身体機能による移動になす術もなく、巻物を取り上げられる。

 

「あ゛~~~っ!!」

 

 叫ぶ水月に、うるさくて敵わないと重吾は悟の指示のもとに近くにいるはずのみたらしアンコの身柄の安全を確かめに行く。

 

 返せ返せと巻物を取り返そうとする水月から、雷を迸らせ巻物を読みながら背走で逃げるサスケ。

 

 

 コントのようなやり取りの後……一行はアンコの身体に刻まれた呪印と、カブトの細胞と重吾の力を使い大蛇丸を復活させ……

 

 

 

 

 

 木ノ葉隠れの里へと向かった。 

 

 

 

 

 



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37:『正体』

あと少し


 

 ずっと気にはしていた。

 

 俺……いや、黙雷悟。 そうこの忍界における黙雷悟とは一体何者なのかを。

 

 この世界に転生もとい魂だけ転移してきてから十数年余り、俺はずっと原作のNARUTOの知識を頼りにしてきた。

 

 だが、直ぐに俺は理解した。 この世界はNARUTOの世界にあってそうでない、所謂平行世界・パラレルワールド見たいなものであると。

 

 俺の知識と、体験してきた今までの出来事の相違は恐らく……『黙雷悟』という存在が居ることで起きている。

 

 俺自身、様々なことを見過ごせずに介入してきたこともこの世界が平行世界である理由の一つだとは思うが……

 

 その前提として……黙が居なければ始まらない、そう黙が居なければ俺がこの世界に来ることはなかった。

 

 なら……『黙雷悟』とは一体何者なんだ?

 

 何故うちはマダラと千手柱間の力を引き継いでいる? 彼らの子孫だとすると、そんな血を引く存在が野放しにされあまつさえ交わることなど到底あり得ない。

 

 そして分からないのはうちは由来とされる封印術が身体に仕込まれている理由……八門を使うごとに……俺の……いや『黙雷悟』の本質が漏れ出しその封印術が劣化していくと、かつて忍猫に言われたことがある。

 

 さらに……うちはマダラの存在。

 

 俺が知る原作知識の最後、ナルトとサスケが戦ったあの終末の谷での戦いの先の未来の出来事。

 

 かつて一度だけ夢で見た黙の記憶……それを六道仙人と真実の滝で会ったことで俺はその内容を思い出していた。

 

 その中で、今回の戦争で死んだはずのうちはマダラは大人になった黙を襲いその血を啜っていた。

 

 そして……『完全に……柱間と一つに』と言った。

 

 ……

 

 きっと俺がもつ疑問を……2()()にぶつければ……きっと…… 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「気になることが多いのねェ、貴方」

 

 己の思考に気を取られていた小さな悟に大蛇丸が声をかける。

 

 サスケと悟の一行はとある目的の為に、木ノ葉隠れの里へと向かっていた。

 

 そんな中大蛇丸の肩に乗る悟は不意に大蛇丸から声をかけられたことで、少し焦りつつも

 

「そりゃな……俺の本体が気絶している間も、戦争は続いている。 下手したら、動きたいタイミングで動けないかもしれないと思うと──」

 

 そう大蛇丸に返答をする。 しかし大蛇丸は見透かしたかのような瞳で悟を見つめ

 

「今の貴方が、私相手に嘘をつけるとでも思ったのかしらァ? 木分身体である貴方を少しでも長く動かすためにチャクラを提供している私なら、貴方の感情の起伏も読み取れるのよ」

 

「っ……」

 

 悟に対して嘘をつくなと脅すように語りかける。 その大蛇丸からの追及に観念した悟は仕方なしに彼?からの質問に答える。

 

 

 

 

 

 

「……()()()()とアンタが揃ったら、聞きたいことがある」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

  

 

 戦争は続き、十尾の復活は間違いなく果たされてしまうだろう。 そう理解しつつも悟は己が動けないことに、もどかしさを感じているのは本当の事である。

 

 しかし

 

 彼は忍界の、仲間の事を信じている。

 

 本来ならば死の運命にある者たちも……もしも自分が()()()()()介入しなくてもきっと生き延びてくれると信じている。

 

 だからこそ

 

 彼が今もっとも心配していることは……

 

 相棒の真実についてであった。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の里に近づくと、一行は不意にとてつもないチャクラを感じ取った。

 

「……ナルトか」

 

 ()()()()()()()()()()と一度戦ったサスケには感じたそのチャクラに覚えがあった。

 

 そして

 

「これが十尾のチャクラか」

 

 それと同時に高まる禍々しいチャクラを悟は感じていた。

 

 尾獣たちに連なる圧倒的なチャクラ……戦地から遠く離れたこの地でも感じられるその二つのチャクラはぶつかり合っていた。

 

「……時間が惜しい、急いでくれ」

 

「人使いが荒いわねぇ……」

 

 一刻を争うと思い急かす悟に大蛇丸はしょうがないと言った態度でその申し出を受け、里の外れにあるとある建物へと駆けだした。

 

 

 

 

 

(人使いが荒いなんてよくアンタが言えるなっ!!)

 

 そんな水月の心中のツッコミは言葉にされることはなかった。

 

 

~~~~~~

 

 

 その後うずまき一族の能面堂、そこにある死神の面を携え一行はかつてのうちは居住区にある南加ノ神社へと向かう。

 

 道中、サスケは里の電柱に昇り夜の木ノ葉の里を一望する。

 

 ペインの襲撃で壊滅し、そして復興を果たした木ノ葉の里。 今から向かう元うちはの居住区を始め未だに手がついていない場所もあるが、概ね外見を取り繕うことを終えた里にサスケは

 

「ここも……ずいぶんと変わったな」

 

 そう、呟いた。

 

 そんなサスケの行動に疑問を呈する水月だが

 

「感傷に浸り過去をなぞることで己の決意を再確認する時間が必要なのよ……」

 

 過去に同じことを木ノ葉崩しの前にした大蛇丸はサスケの行動に共感を示した。

 

 そんな彼の肩で、悟は……決意を固めていた。 

 

 真実を知る決意を。

 

 

~~~~~

 

 

 かつてうちはの南加ノ神社が在った場所まで来ると、一度だけサスケと悟の視線が自然に合う。

 

 子供のころ、無邪気に……共に手裏剣の的当てなどをしていた場所の面影など感じられないほど瓦礫に埋もれたうちはの居住区。

 

 それぞれが互いに思うところがあるのか、合った視線が一秒近く続き不意にサスケが視線を切ることで互いは過去の感傷に浸ることをやめた。

 

(俺も……サスケも大きくなったもんだな……俺は今小さいんだが)

 

 南加ノ神社跡地の瓦礫をどかすことでうちは一族の集会所となっていた地下へと繋がる封印石が表れた。

 

 サスケが印を結ぶことでその封印石が退き、地下への階段を一行は進む。

 

 そして地下のうちはの石碑が置かれた空間まで来ると、大蛇丸は義気の準備を始める。

 

 すると

 

「今……思えば、あの時一族はお前を余所者扱いする必要なんてなかったわけだ。 結果的にな」

 

 サスケが不意に、大蛇丸の肩から重吾の掌に移動した悟へと目を向けずに語りかける。

 

 その言葉に悟は少し悩んだ後に

 

 

「そうでもないかもな」

 

 

 なんともないようなふうにそう返事をし、サスケらは大蛇丸の様子を見守る姿勢になった。

 

 

 

 石碑脇の燭台に火を灯し、大蛇丸が死神の面を被る。

 

 そうすると屍鬼封尽の死神が大蛇丸に憑依し彼にのみその姿が視認できるようになる。

 

 悟たちからは何も見えていないが、不意に大蛇丸の腹が裂けそして彼から忍びとしての気配を感じ取った。

 

(『大蛇丸』という存在に忍びとしての能力が戻った……)

 

 悟はその後の流れをうちはの石碑の上に移動して見守る。

 

 屍鬼封尽の死神との取引の代償に肉体が死にかけている大蛇丸は重吾にサスケの監視で付着していたゼツを複数引きずり出させる。

 

 そして……

 

 

 そのゼツらを生贄に、穢土転生の術が行使された。

 

 

 目の前で苦しむ四人のゼツに塵芥が集まり始める。

 

 

 肉体の限界が来ている大蛇丸は拘束していた残りのゼツの身体を乗っ取り、一息ついて呟く。

 

「さぁ……来るわよ、全てを知る者たちが」

 

 

 

 

 そして並びたるは四人の忍び。

 

 忍界最強と謳われた火の国木ノ葉隠れの里の歴代の長

 

 

「先代の火影たちが」

 

 

 四代目・波風ミナト

 

 三代目・猿飛ヒルゼン

 

 二代目・千手扉間

 

 そして

 

 

「なるほど、こうして比べることが出来れば似たチャクラをしているとはっきりとわかるのねェ」

 

 

 初代・千手柱間

 

 

 大蛇丸の言葉通り、この場に居るものは悟と柱間のチャクラが似ていることに気づく。

 

 そして

 

「また大蛇丸とかいう忍びの仕業か……!」

 

 魂が定着し、意識を露わにした扉間が苛立ちを露わにしながら呟く。

 

「うぬ、どういうことだ?」

 

 柱間がその言葉に説明を求めるとヒルゼンが代わりにそれに答える。

 

「我々の魂を封印していた屍鬼封尽の術を解いたのでしょう……そしてその後穢土転生を……しかしこの場に……

 

 

 お主も居ようとはな、悟」

 

 うちはの石碑の上に立つ、小さな悟にヒルゼンは何とも言えない目線を送る。

 

「お久しぶりです、三代目……」

 

 小さな悟が頭を下げる。 その姿はオリジナルと同じく小さくなれど暁の衣を羽織っている姿であるため、自分が死んでから紆余曲折があったことはヒルゼンには容易に知りえることが出来た。

 

 そんな2人をよそに柱間は四代目を名乗るミナトに興味を持ち、幾つかの質問を浴びせる。

 

 そして

 

「して五代目火影は誰ぞ!?」

 

 四代目が死んでいて木ノ葉が存続しているのであれば必然、五代目の存在が気になるというもの。

 

「お孫様の綱手姫ですよ」

 

 

 

 

「ぉぉッ………………綱か……今里は大丈夫ぞ?」

 

 

 

 

 大蛇丸からのその情報に柱間は里を憂う。

 

「意外でしょうけど、立派に火影を務めていると俺は思いますよ……柱間様」

 

「おお、お主小さいが木分身か……俺と同じ木遁使いがいるとは、未来とは実に読めぬものだな!」

 

 悟が綱手のフォローを入れることで柱間と扉間、ミナトの視線が悟へと向く。

 

 一際扉間からの鋭い視線に悟は彼の心中の予想がついているのか、特に気にせずに話を進める。

 

 再度穢土転生されたことを扉間が文句を言うが大蛇丸に扉間が後の世に残した影響を指摘され

 

「扉間よ……だからあの時俺が言ったように……」

 

 兄である柱間から苦言を呈される。

 

「っ兄者は黙っていろ。 ワシはこの蛇みたいな若僧と話を──」

 

「しかしだの……」

 

 

黙れ

 

 

 しかし扉間はその苦言を一蹴、兄への容赦のない一喝で無理矢理黙らせる。

 

((忍びの神、貫禄ねぇ……))

 

 そんな黙らされ落ち込む柱間に水月と悟が同じ感想を抱く。

 

 そうこうしていると話題はサスケの話へと移った。

 

 

 サスケはまず、ヒルゼンにイタチの真実の確認をする。

 

 当時のヒルゼンの思いと共にそのことを真実であると認めたヒルゼン。

 

 ヒルゼンの語った内容にサスケは……顔を僅かに曇らせ

 

「そうか……」

 

 その一言だけ呟いた。

 

(サスケなりに三代目を尊敬している部分はあったはずだ。 しかしある意味でその尊敬を本人に否定される形になった……そういう意味で忍びと言うのは裏の裏を読むのが必要だと改めて思い知らされるな。 誰しも優しい一面だけが全てじゃない……)

 

 悟はサスケの心情に共感を示す。 しかし

 

「うちはの呪われた運命という奴よ。 今や壊滅状態だとはな……クーデターまで企てるに至ったか」

 

 話を聞いていた扉間が無神経なことを言い、サスケと悟の僅かな敵意を受ける。

 

「そういうふうに……うちはを追いこんだのはアナタの作った警務部隊が端を発しているとも言えるのだけど……無責任なものね」

 

「……何だと?」

 

 その二人の苛立ちを察したのか大蛇丸が扉間の政策の落とし穴を指摘し批判を始める。

 

 その内容に柱間が扉間に「うちはをないがしろにするなと言ったはずだ」と問い詰めるも

 

「兄者も知っているだろう……奴ら……うちはは

 

 

 

──悪に憑かれた一族であると」

 

 扉間はそう言い、第二のマダラが出ないためには仕方がなかったと弁明をする。

 

 うちは一族を知り尽くしているような言動の扉間にサスケが問う。

 

「うちは一族とはなんだ?」と。

 

 

 

 

 愛が深い故、その暴走を抑えるために術の強さに固執した一族。

 

 扉間はうちはをそう言い表した。

 

 “心を写す瞳”写輪眼は愛の喪失……己の失意にもがくそんなうちは一族に現れる、ある種の病である。

 

「ワシはそんなうちはの力を里の為に貢献できるよう形を整え導いたつもりだ……だが、里の為に自滅の道を自ら歩んだのであればそれも仕方のないこと。 ある意味では木ノ葉の里の役に立ったということだ」

 

 愛深き一族、そう言いつつも扉間のその情を切り捨てた物言いに柱間が苦言を呈する。

 

「扉間そういう言い方はよさぬか! 話を聞いているのは純粋なうちはの子どもだ!」

 

 しかし扉間はそんな柱間の言葉に揺らぐことなく自分を貫き通す。

 

「大事なのは里だ、里が要よ。 兄者もそれは分かっていよう」

 

 そんな言葉に、サスケが万華鏡写輪眼に変化した目で2人を睨みつけ告げる。

 

「悪いが……既に純粋ではない。 俺は知りたいだけだ、過去と……そこからなる現在(いま)の真実を。 二代目火影、アンタは里が要と言ったな? なら里とはなんだ? そしてその里を作る……忍びとは何なんだ?」

 

 サスケのその言葉に扉間は自分の考えを話そうとする、しかし

 

「里……忍びとはなんぞ? ……か、中々に難しいな」

 

 柱間が間に割って入り扉間の口を塞ぐ。

 

「兄者、奴は俺に──」

 

 

 

 

扉間

 

 ほんの少しだけ呟いた柱間のその一言はその場にいる全員を戦慄させる。

 

 

 

 どれぐらいの思いと意思を乗せた言葉か推し量れないものの、少なくともその言葉と共に漏れた僅かな柱間のチャクラが集会所の壁にヒビを入れ周囲の忍びはその力の片鱗を感じた。

 

 恐らく扉間のサスケに対するあまりに不遜な態度に、温厚な彼も少しイラついたのだろう。 柱間の威嚇で扉間が黙ると、ニコッと笑顔を作り

 

「弟が何度もすまない、こ奴も悪い奴ではないのだが如何せん人の身になるのが苦手なものでな。 許してやってくれ」

 

 その謝罪は一見うちはサスケに向けられたものであったが……その実、サスケの背後の石碑に立つ悟に向けてのものである。

 

 里が要と扉が言った際に、ダンゾウの所業と物言いを想起した悟から漏れ出た僅かな、けれど濃い殺気に気がついた柱間が気を利かせて場を仕切り直したのであった。

 

 柱間の凄みでパラパラと瓦礫が空間に堕ちる音が聞こえる中、話を戻した柱間は

 

「里について話してやってもいいが、ちと長くなるぞ」

 

 とサスケに話しかける。

 

 すると

 

「出来れば早急にこの子の聞きたいことを話してあげてください……あまり時間がないものですから」

 

 大蛇丸がそう柱間に進言し、印を結ぶと穢土転生体である火影たちを縛る枷を僅かに外し彼らの感知能力を元に戻す。

 

 そうすれば、火影たちはうちはマダラや十尾の存在を感知し忍界の危機を察知した。

 

 そんな火影たちに大蛇丸が戦争の説明をする中、重吾が小声で悟に話しかける。

 

「大丈夫か? その木分身体の維持もそう長くは出来ないのだろう?」

 

「重吾……ああ、そうだ。 本体が気絶している以上、制御が段々と疎かになっていくんだよ……チャクラを供給されても術が……身体が先に朽ちてしまう」

 

 若干辛そうにしている悟を重吾が手に乗せる。

 

 するとその様子に気がついた大蛇丸は

 

「……戦争に行きたいのであれば、話を進めるために分担をお願いします。 柱間様はサスケ君に話を聞かせてあげてください……そして

 

 

 扉間様は私と共に、この木分身体の黙雷悟の質問に答えてあげましょう」

 

 そう言い場を仕切る。 その言葉の意味を理解できないヒルゼンが大蛇丸に意図を問おうとするが

 

「問答するのも面倒です、先生。 サスケ君は外で一対一で話を聞いてきなさい」

 

 大蛇丸は彼を無視し、サスケにそう言うと柱間は大蛇丸の言葉に従いサスケをつれて地上への階段を昇っていった。

 

 そして……

 

「大蛇丸……あんた」

 

「勘違いしないで欲しいのだけど、私は貴方が抱いている疑問とやらに興味があるだけよ。 ほら、場は作ったからサッサと聞きなさい」

 

 悟の為に場を整えた大蛇丸に、悟は軽く頭を下げ……その口を開く。

 

 

「二代目火影、千手扉間…………俺は……いやこの身体の本体はうちはマダラと柱間様の力を……血を受け継いでいる。 アンタなら多分、その意味を理解できるはずだ」

 

 

 悟のその言葉に、扉間は眉間に皺を寄せ……唸る。

 

「薄々……まさかとは思っていたが……その様だな。 木分身体でありながら、マダラのチャクラを僅かに感じる……それも兄者のチャクラと溶けあい変容しているのか俺が知るそれとは随分と様変わりしているが。 お前が言うその意味……それはつまり──

 

 

 

 

 

 お前が人の子ではないという事実だな?」

 

 

 

 

 扉間のその言葉に、場に居たヒルゼンは顔を歪ませる。

 

「悟が人の子ではないとはどういう意味ですか!? 二代目様っ!」

 

 悟を可愛がっていたヒルゼンが動揺する様に、大蛇丸は納得したようにうなずく。

 

「なるほど……そう言うことねェ……二代目の研究を幾つか知る私なら幾らか推察して理解できることだけど、つまりはそう」

 

 大蛇丸の言葉に被せるように悟は口を開く。

 

 

()()()()……マダラと柱間の遺伝子を使い人の手によって造られた命、それが『黙雷悟』ってことですよ。 三代目……俺には()()()()()で血の繋がった人間はいないってことです」

 

 

 僅かに悲しそうにそういう悟の言葉に、ヒルゼンは言葉を失う。

 

「意図しなければ……あり得ないんだ。 俺は日向の婚約のアレこれを経験しているから、今の忍界で一族の血の存続について忍びがどれほど敏感なのか実感している。 だからこそ、自然にマダラと柱間様の血が混じるようなことは100年余りでは殆どあり得ないと思ってる。 となれば、考えられるのは……人工的に遺伝子を混ぜられる、人の手によるクローンだけだ」

 

 そこまで悟が言えば、周囲の忍びは先の話を推察できる。 しかし扉間は

 

「だが……それは有り得ん。 確かに俺は……かつて兄者とマダラの力を持つ存在を造ろうとしたこともあるのは事実だ」

 

 己の所業を認めつつも、悟の言葉を否定する。

 

「しかし、俺のその研究は失敗に終わり……故に研究に関する情報は完全に葬り去ったのだ。 ()()()……倫理の観点からも許されるものではないことを兄者に……本気で叱られたことを覚えているからこそ、それは間違いない」

 

 扉間のその言葉に大蛇丸が興味を示す。

 

「貴方ほどの忍びが、失敗だけで終わるとは珍しいんじゃないんですか……? 何か理由でも?」

 

 実験から何かしらの利点や発展を得ているのではと大蛇丸が問うと扉間は渋々応える。

 

「大蛇丸、貴様は兄者の細胞を扱っている様だからわかるだろうが……それは生半可なものではない。 ただでさえ命を人工的に造る人造人間の実験は成果も上がらず、不安定なものであった……その上兄者とマダラの細胞を使えば、人造人間を作るために用いた『胚』がその力に耐えきれずに自壊してしまうのだ……」

 

 扉間のその言葉は説得力のあるものであった。 生きた人間でさえ、柱間細胞は適合しなければ毒となり体を蝕む……ダンゾウやヤマトと共にあったかつての大蛇丸の実験体の様に。 そんな力を存在が不安定な人造人間に初めから与えれば……どうなるか自明の理であり、その上にマダラのものも足せば実現がより不可能になることは当たり前のことであった。

 

「俺がかつて造った人造人間の元となる『胚』も所詮人の細胞から培養したもの。 赤子以下の存在に力を植え付けるのなど土台無理なことだったのだ……そんないたずらに命を持て遊ぶ所業、幾ら千手とうちはを統治できる存在による平和を願えど、やるべきではなかったと……俺は後悔し完全に研究を消し去った」

 

 己の行いに後悔を感じているのか、珍しい弱気な顔を一瞬見せた扉間は悟へと目を向ける。

 

「だからこそ、俺は貴様の存在がわからん。 何故貴様は一つの命として形を成しているのか……」

 

 扉間からのその言葉に悟は

 

「俺なりに答えを知っているわけではないんですが……1つ気になるワードがあります」

 

 そう言って、人差し指を立てそのワードを口にする。

 

 

 

 

「扉間様……そして大蛇丸、どちらか『シン』……という存在か、団体……又は名を知りませんか?」

 

 

 

 

 そんな悟の言葉に、扉間は思い当たる節がないのか小さく唸るが大蛇丸はハッとしたかのような表情を浮かべる。

 

 大蛇丸の反応に、重吾の手に乗る悟の目線は彼へと向けられる。

 

「貴方……その名をどこで?」

 

 大蛇丸からの問いに悟は

 

「詳しく話すと長くなるんだけど、ざっくり言えば俺は『黙雷悟』本人じゃない。 元は異世界の人間で、この身体の本体には元々の『黙雷悟』の魂が別にいるんだ」

 

 己の身の上を語り始める。 初めから突拍子のない内容ではあるが扉間とミナトだけは思い当たる節があるのか

 

「異世界からの存在か……楼蘭の地で確かその様な報告があったな……」

 

 と呟く扉間にミナトが

 

「俺は楼蘭に一度三代目の命で任務に赴きましたが……当時の記憶に抜け落ちている点があるんです。 その後二代目様のまとめた調査報告書で時空間の歪と異世界との繋がりが龍脈によって引き起こされているとあったので……俺の記憶の抜けもその影響かと思っていました。 つまり彼……悟君の言うこともないことではないのでしょう」

 

 己の体験を話し、その知識から悟の身の上の話をないことではないと素直に聞き入る。

 

「その俺とは別の魂の『悟』……俺は黙って読んでるけども、そいつも実は未来から来てて……一度だけそいつの記憶を夢として見た時、『シン』と言う名の外見がそっくりな大人数の子どもたちを見たんだ」

 

 そこまで話した悟は、大蛇丸に再度目線を向けた。

 

「その『シン』たちは……黙だけを『父さん』と呼び……恐らく万華鏡写輪眼を使って戦っていた。 もしかして、そのシンたちもクローンで、黙雷悟はその『先駆け』的な存在じゃないのかと思ってる。 だから彼らは黙を父さんと呼んでいた……なあ、大蛇丸……『シン』とは一体何なんだ?」

 

 悟からのその問いに大蛇丸は合点のいった様子で口を開いた。

 

「なるほどねェ……ええ、私は『シン』を知っているわ……彼は私の実験体の1人であり協力者……特異的な体質を持っていた」

 

 大蛇丸は目線を扉間に向ける。

 

「シンは移植された組織に拒絶反応を全く示さないという特異体質の持ち主なのよ……当然私はその力に目をつけ……彼と共に研究をしたわァ……

 

 

──偶然にも扉間様と同じ、クローンの研究を」

 

 その言葉に、ヒルゼンは顔を歪ませる。 二代目も教え子も、人の道を外れるような研究をしていたという事実はヒルゼンには酷な物であり……それは彼がサスケに味合わせた感覚でもあった。

 

「シンの体細胞組織を使えば、実現できるかもしれないわねェ……千手柱間とうちはマダラの遺伝子を持ったクローンも……それでも拒絶反応がないだけで強大な力に不完全な体が耐えられるとは思わないけど」

 

 大蛇丸は『黙雷悟』の存在の可能性を認めつつも、最後の一押しが必要であると分かっていた。

 

 遺伝子を引き継いだ子どもではなく、そのまま本人の力を発現させるということは負担が想像を絶するものである。

 

 マダラと柱間が研ぎ澄ませた力の結晶を果たして、クローンの赤子が耐えられるであろうか?

 

 その問いへの答えは

 

「うちは一族由来の封印術……それが俺に刻まれていると、かつて忍猫に言われたことがある。 それが俺が今ここに居られる理由って……ことか」

 

 既に悟の中にあった。

 

 

 マダラと柱間の強大な力を持たせたクローンを生成するために、拒絶反応を起こさない『シン』の細胞を使い……己を自壊させるほどのその力をうちはの封印術で抑え込む。

 

 

 こうして忍界の『黙雷悟』は生まれたのだろう。

 

「だが、それほどの事を一体……誰がやったのだというのだ」

 

 扉間は自身が抱いた疑問を口にする。

 

「さあ……それは俺にも。 一番怪しいと思ってたマダラも俺のことを知らない様子でしたし……なんとも言えないです」

 

 先に穢土転生されたマダラと戦った時のリアクションからすれば、マダラ本人によって悟が生み出されたとも考えにくく……もう一人の遺伝子の持ち主、柱間も本人が人造人間という存在に否定的であったことを考慮すれば関与は考えられないであろう。

 

──誰が『黙雷悟』を生み出したのか?

 

 そんな疑問が残りつつも、大蛇丸は口を挟むようにして話題を切り替える。

 

「けれど、貴方……随分とその体で無茶をしているじゃない。 それも2人の力も存分に引き出して……その封印術とやらが貴方の存在を保つためのものであるなら、今の貴方の状態はかなり危険なものであると、自覚しているのかしら?」

 

 大蛇丸からのその指摘は当然のものであった。 現状悟は本来黙が30代の大人になるまでわずかしか引き出せなかったその忍びとしての力を八門遁甲を使い、封印術を綻ばせて無理やり引き出している状態と言ってもいい。 となれば当然……

 

「魂だけじゃなく、身体の寿命も……思っていたよりも残り僅かなんだろうな」

 

 そう呟いた悟の言葉通りであった。

 

 現に悟の本体は、仙法と万華鏡写輪眼を使い八門遁甲第七門まで開放した後で気を失っている。

 

 もはや、封印術もその効果をほとんど為してはおらず悟の身体はマダラと柱間の力に耐えかねている状態なのであろう。

 

「悟よ……お主はそこまでして……今何をしようとしておるのだ?」

 

 自分の掌を見つめる悟に、心配そうにヒルゼンが問う。 その問いに悟は……

 

 

「……うちはマダラを討つ……そのつもりでした。 未来では何故かこの戦争で敗れたはずのマダラが復活し、世界を破滅へと追いやっていた。 だからこの戦争で完全にマダラを消し去るなりすれば、世界の危機を回避できると思っていた。 けれど、このままじゃあ──」

 

 

 自身の目的を口にした。 しかし、本来の歴史であればマダラはこの戦争で確実に死んでおり……復活するなど到底考えられないものである。 出来ることと言えばマダラを封印してそれをずっと見張るなどだが……もはやそれも悟には厳しいことであった。

 

 

 項垂れる悟。 薄々感付いていた黙雷悟の正体と……そこから予想される自分たちの寿命。 その情報の衝撃に落ち込む悟であったが……

 

 

 

「なら、何もしなければいいじゃない」

 

 

 

 大蛇丸のその言葉に悟は顔を挙げた。

 

「大人しくしていれば、これ以上貴方の寿命が悪戯に減ることもないわ。 この戦争からはここで手を引いて、その未来の惨劇とやらに備えればいい……そうじゃない?」

 

 大蛇丸はさも答えは決まっているとばかりに、簡単にそう言いのける。 

 

「駄目だ、この先……俺は何が起きるかを知っているっ! それを放っておくことなんて──」

 

 

 

「ならば、我々を頼ってくれ……悟」

 

 

 

 悟の言葉を遮るようにヒルゼンは強くそう訴えかける。

 

「お主はまだ生きているのだ。 誰も……お主の仲間も、マリエも……お主の死を望んではおらぬだろう」

 

 ヒルゼンのその言葉に、ミナトが反応を示した。

 

「マリエ……!? 三代目、マリエは今──」

 

「蒼鳥マリエならば、今まさに戦地で戦っているわよ……はたけカカシやマイト・ガイと共に」

 

 ミナトの言葉に大蛇丸が返答をする。

 

「マリエは悟の存在を糧にあの状態から気を吹き替えしたのだ……ミナト、お前が死んだ後でな」

 

 ヒルゼンはマリエの事をミナトに伝える。 心を壊し……それでも九尾から里を守るため、あのナルトが生まれた日に岩状鎧武を振り絞ったマリエのその後を。

 

 その内容にミナトは

 

「……ならなおさら、君を無茶させて死なせる訳には行かないってことだね悟君。 君はマリエを救い……それはきっと彼女以外にもカカシやガイの救いにもなったはずだ」

 

 そう言いつつ、重吾の掌に乗る小さな悟の頭に人差し指を乗せて撫でる。

 

「話が突拍子しなさ過ぎて半分以上わかんなかったけど……要は今回の戦争で勝って、この先またしつこく復活するマダラも返り討ちにすればいいってことでしょ? 単純じゃないか」

 

 水月はそういいつつ重吾と肩を組む。

 

「……ああ、悟。 話は単純だ……誰も世界の命運をお前1人に背負わせはしない。 もちろん俺もだ」

 

 重吾はそう言って優しい目で悟を見下ろす。

 

「……皆」

 

 『自分がどうにかしなければ』そんな思いに駆られていた悟に差す、1つの答え。

 

 

──今は味方に託して逃げてもいい

 

 

 そんな彼にはなかった選択肢、可能性は……とても眩く感じられた。

 

「知っている情報を渡して、貴方は大人しくしていなさい」

 

 大蛇丸からすらもそう言われ悟は小さくため息をついて、降参したように両手を挙げた。

 

 

 

 

 

「分かったよ……俺の知ることを教えるから……皆を……世界を救ってくれ」

 

 頑固な気持ちを解きほぐされた悟は……己の知るこの先の展開を喋った。

 

 

 

 きっとその情報が……少しでも誰かの命を救うと信じて。

 

 もし自分が目を覚ましても、寿命を削らないように逃げ出すことも考慮して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黙雷悟』は(無限月読)へと堕ちた。



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38:夢の跡地

「ねぇ悟、誕生日何が欲しい?」

 

「……え? ……小鳥……?」

 

「何呆けて人の名前呼んでんの? ……話聞いてた?」

 

「っ……えっとごめん……ボーっとしてた」

 

「最近大学のレポート忙しそうだもんね~……まあ、せっかくの休日に私の部屋でゴロゴロしてんだからもうちょっとボーっとしててもいいよ」

 

「いや……大丈夫。 あ~それで俺の誕生日の話だっけか……お前はサプライズ的な何かをするつもりはないのな」

 

「まあね、私そういうの好きじゃないからさ。 サプライズって結局やる側の自己満足じゃない?」

 

「小鳥さんはかなり偏った偏見をお持ちで……」

 

「別に他人にするなとは言わないけどさ……何か『喜んで当然』を押し付けてるみたいで嫌いなのよねぇ」

 

「まぁ……わからんでもないかも。 俺もいつも『もしも』って考えてるタイプだからな尚更なぁ……」

 

「だからほら、フラッシュモブとかも私は苦手! その後にプロポーズとかはもう最悪も最悪!」

 

「へぇ~~なら小鳥はどんなプロポーズをご所望で?」

 

「そりゃねぇ~……って言わせんなバカ!! もう……外でよ、昼頃だし何か食べに行こうよ」

 

「へいへい……今日は夏って感じの気温であんまり外行くの気が進まないんだけど……まぁ行くか」

 

「演劇サークルで体力作りとかしてないの? バテてたら演劇どころじゃないぞ、ロミオ」

 

「誰がロミオじゃい! んで誰目線のご指摘だよそれ」

 

「そりゃぁもちろん……

 

 

 

 

 悟の彼女様からのご指摘……かな」

 

 

 

 

~~~~~~

 

「悟ちゃん、誕生日は何か食べたいものとかあるかしら?」

 

「……マリエさん?」

 

「……? どうしたの、ボーとして」

 

「……いや、何でもないです。 僕はマリエさんの作る料理なら何でも好きですよ」

 

「ふふふ、嬉しい事言ってくれるわねぇこの子は……なら、腕によりをかけてつくるから期待しててっ!」

 

「ええ、もちろんです……ところで今日は孤児院の様子が随分静かなようですけど……」

 

「悟ちゃんやっぱり寝起きでしっかりしてないのね……今日は皆マザーの方の孤児院に遊びに行ってるから、こっちには最低限私と貴方だけで残るって話だったじゃない」

 

「……ああ、そうでしたね。 それじゃあ今日は随分と暇になりますね……」

 

「偶には良いんじゃないかしら? いつも二人して忙しそうだからってみんなが作ってくれたお休みなんだから満喫しないと!」

 

「……ええ……それじゃあ折角ですし、外に出かけませんか?」

 

「そうね!! 私も悟ちゃんと一緒にピクニックしたいと思って丁度準備してたところなのよ!!!」

 

「うわ……凄い弁当の品数……何時から準備してたんですか……っ」

 

「えへへ……ちょっ~~~~~とだけ早起きしただけよ……眉間に皺寄せないでよ悟ちゃん……っ」

 

「休みだというのにあなたは……全く」

 

「悟ちゃんに喜んで欲しかっただけなのよ~」

 

「……次は僕も一緒に作るので、声……かけてください」

 

「……! そうね!! 悟ちゃんと一緒に料理作るのも次のお休みの予定に入れておきましょう!!」

 

「ふふふ、マリエさんったら……そんなにはしゃがないでください……ほら、準備して行きましょうか」

 

「ふふふ、悟ちゃんとこうしてピクニックに行けるなんて……私嬉しいわ……これも

 

 

 

 世界が平和だからこそね!!」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「それで、やっぱりイタチの自己犠牲の精神と完璧だと思うほどの実力持ちなのに奢らずカブトを自分の失敗も踏まえて諭す姿がとてもとてもカッコイイってのがなんだか──」

 

「……食事中にペラペラ喋りすぎ、行儀悪いぞ」

 

「っ……つ、つい……ごめんね?」

 

「全く……NARUTOオタクッぶりは相変わらずだな……」

 

「えへへ……面目ない……」

 

「……フフ、俺は別に構わないけど……逆に妬けるなあ……イタチさんに」

 

「え……?」

 

「自分の彼女がこうも、別のイケメン相手の話をのろけたらそりゃなぁ……俺も──」

 

「ちょっ!? ごめんごめん! ね? 機嫌直してよ~~~、ごめん~~~~」

 

「……冗談だから! そんな大げさに謝らなくてもいいよ……お前がNARUTO好きなのも理解してるから、NARUTOの話をしてる小鳥の顔を見るの……俺は好きだし」

 

「………………バカ」

 

「……っちょっと今のはハズイセリフだったかも……」

 

「……」

 

「……」

 

「ねぇこのあと、映画見に行こうよ……」

 

「っえ、映画……? 今の時期、何か良いのやってたっけか……」

 

「別に……アンタとデー……デー……デート……行きたいなぁ……なんつって……

 

「……! ふふふ、ああ……行こうか」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「ホント今日はいい天気!! まさにピクニック日和ね!!」

 

「テンション高いですね……マリエさん」

 

「悟ちゃんこそっ! こんないい天気なのにどうしてそうも物静かなの? パァっと楽しまないと!!」

 

「……ほら、僕は元々こういう性格なので……マリエさんが楽しそうにしてくれればそれで十分ですよ」

 

「む~~~……まぁしょうがないわよね。 人それぞれっていうもの、でも私も悟ちゃんが楽しそうにしてくれていると……私嬉しいわ」

 

「……。 こう見えても内心は楽しんでいますよ……今は」

 

「そう? それじゃあ、あの丘の上でシートを広げてお昼ご飯ね!! 腕によりをかけた弁当、期待しててね!!」

 

「……テンション高いなぁ……マリエさん……ははは」

 

「ほらほら、早くこっちに来て!!」

 

「よっこいしょ……実際にこう、日の下でシートを引いて腰を下ろすと……なんだかいい気分になりますね。 平和というものを実感できます」

 

「でしょ? たまにはこうしてのんびりするのも悪くないのよ。 悟ちゃんはいつもしかめっ面で、もう少し明るくしてくれても──」

 

「……」

 

「悟ちゃん?」

 

「……いえ、そうですね。 少しだけ……少しの間だけ……」

 

 

 

~~~~~~

 

 

「で、映画は何見る?」

 

「自分で見たいって言っておいて何も決めてないのかよ……」

 

「……しょうがないじゃん、だってぇ~」

 

「はいはい、一緒に見て考えていこうな。 ほら、ここにパンフレットがあるし何かしら気にいるのがあるかも」

 

「そうそう、よくわかってる~こうやって彼氏と何見るのかも醍醐味って奴じゃない~?」

 

「何を偉そうに……。 ……っ」

 

「ん、どうかした?」

 

「……なあ、小鳥」

 

「なあに急に?」

 

「そういえば小鳥の家に、確かブルーレイあったよな。 NARUTOの映画のやつ」

 

「うんあるけど……」

 

「せっかくなら、それが見たいな」

 

「ええ~~映画館まで来て今更家に行くの? めんどくさない? 今日はここで何か見てそれからでも──」

 

「頼む」

 

「……っ何でそんな真剣な顔して……別にいいけど……変な悟」

 

「……ありがとうな我儘を聞いてくれて」

 

 

~~~~~~

 

 

「どう、お弁当美味しい? 悟ちゃん鶏肉料理が好きって言ってたものね、私も好きだからうんと用意したの!」

 

「はい……とてもとても美味しいです」

 

「ふふ~そうやって言ってもらえると私嬉しいわ~っ!」

 

「……」

 

「……? 悟ちゃんどうしたのさっきから……度々どこか遠くを見ている様だけど……」

 

「マリエさん、楽しかったですよ。 この気持ちに嘘はありません、貴方と始めからこうやって平和に過ごせていたらと思うと……胸が張り裂けそうになる」

 

「悟ちゃん……?」

 

「でも、違う。 貴方は本当の僕が望むマリエさんじゃない……ごめんなさい、始めからこんな平和な世界を築けなくて」

 

「……どうしたの急に……何か私変なことしたかしら?」

 

「……僕は全て……覚えているんです。 全ての、今まで経験した無限の夢の内容を。 きっとそれは僕が……

 

 

 

 

 うちはマダラの血を引き継いでいるから」

 

 

 

 僕のその一言で、世界から色が消えた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「ねぇ……やっぱり、家に行くの止めない? 私悟の部屋に行ってみたいな~なんて」

 

「……」

 

「……どうしたの悟、顔が怖いよ」

 

「っ……悪い。 ちょっとだけでいいんだ、小鳥の部屋で確認したいことがある」

 

「確認って……そんな凄い何かがあるみたいな言い方、変だよ」

 

「……いや、そうだな。 やっぱりわざわざお前の家に行く必要はないか」

 

「っ! そうそう何時でも行けるところよりも今はデートの続けでも──」

 

「小鳥、聞きたいことがあるんだけど」

 

「もう、さっきからなあに? まあ何でも聞いてくれていいよ」

 

「大丈夫、小鳥なら即答できる内容だから……」

 

「……?」

 

 

 

 

「──NARUTOの次回作ってどんなタイトルだ?」

 

 

 

 

 俺のその一言で、世界から色が消えた。

 

 

~~~~~~~

 

 

 僕が今まで見てきた無限の夢、その内容は……いつも変わらなかった。

 

 世界を力で支配し、僕の思うがままの世界……僕は誰よりも強く僕が世界のルールだった。

 

 けれど、必ず夢の終わりが来てしまうと彼女が現われ問いかけてきた。

 

 『貴方は誰?』……と。

 

 そんな内容を僕は……忘れていなかった。 いや正確には途中で思い出したというだけのことだ。

 

 何度も同じ夢を見ることで……まるで明晰夢のように夢の中で夢だと自覚できるようになり……そして夢の内容を思い出し、忘れなくなった。

 

 けれど今回の夢の内容は違った。

 

 平和で……平和で……ひたすらに平和だ。

 

 誰もが願うほどの平和……普通の人が思い描く、絵に描いたような……

 

 こんな理想、僕にはもう思い描けない。

 

 だからこそ、直ぐに気がついたよ。 マリエさんとの日々、きっとこう言う風に過ごして欲しいと思っている人物の心当たりは僕には1人しかいない。

 

 そう、この夢は……この願いが──

 

 

~~~~~~

 

 

 違和感を感じつつも、小鳥と居ることに安心し……この世界に浸っていた。

 

 本当ならそんな違和感もないのだろうけど、俺は違った。

 

 自分の口から出る言葉の違和感、小鳥との会話の違和感……

 

 

 そして、映画のパンフレットの数々が俺にこれが現実ではないと……教えてくれた。

 

 

──この世界は俺の知る範囲の世界しか構築されていないことに

 

 

 映画館に置かれたパンフレットの種類は、俺が知っている映画のものしかなかったのだ。

 

 

 そう気がつくと、段々と頭が冴えていく感覚に背を押され……確認しなければいけないことが分かる。

 

 俺の知らないことを確かめる必要があった。

 

 ……そしてそれを教えてくれるのは……一番近くにいた小鳥だ。

 

 

 もう、俺は覚悟したんだ。 元の世界には戻らないと。

 

 そうすることで忍界を少しでも良くできるならと覚悟した。

 

 小鳥との日々を捨て、彼女と別れを告げた俺に……後悔はない。

 

 けれど、こんな夢を見るのはきっと……この夢が俺のものじゃないからだろう。

 

 黙雷悟が願った世界なのは間違いない……けれど、俺が小鳥と平和に過ごすことを誰よりも願ったのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと目の前に広がる景色に変化が訪れた。

 

 色褪せた世界がボロボロと朽ちていくのと同時に、黄昏時の町が姿を現す。

 

 雰囲気はどこか物悲しく……けれど、何かを予感させる俺の故郷の雰囲気に少し感嘆の息を漏らして……俺は歩き始めた。

 

 ここは俺の精神世界なんだろう、黙の世界が明るい草原のように……この景色が俺の原点なんだ。

 

 そう思い、何かの予感に誘われるように自分の実家へと足を運ぶ。

 

 もう帰ることはない景色を見て回りながら家まで着くと……玄関のドアノブに手を掛ける。

 

「……よし」

 

 覚悟を決め、玄関の扉を引くと……扉は普通に開いた。 懐かしい我が家の間取り、そのうち誘われるようにして俺は自室の扉の前へと至る。

 

 何かの気配を感じつつも、意を決して扉を開いた。

 

 目の前に広がる光景は、俺は想像していたものよりも……()()()()

 

 大学入学を経て、大学近くのアパートに引っ越し……1人暮らしをしていた俺の実家の部屋は確か、綺麗に片付けたはずであった。

 

 高校卒業してからは、小鳥とも会うことがほとんどなく……こっちの部屋に来ることも少なかった。

 

 実際、小鳥と会うようになってからも……過ごしていたのはずっと小鳥の部屋だ。

 

 ……目の前に広がる自分の部屋は……多分小学生ぐらいの頃のものだろう、色々なおもちゃが床に転がっており壁には特撮物のポスターが張られた……どこにでもありそうな普通の子供の部屋だった。

 

 無造作に置かれた小型のブラウン管の箱型のテレビには、昔好きで何度も見ていたヒーローの映画が映っており……

 

 そのテレビを見るように、俺のベッドには……()()()が腰かけていた。

 

「……面白いか?」

 

 そういって俺がハナビの隣に腰かけると、眼が輪廻眼の模様になっているハナビは静かにこちらを向いた。

 

「……悟さん?」

 

 多分、このハナビは……精神エネルギーか何かなのだろう。

 

 無限月読、この幻術は……恐らく術にかかった対象の精神を深い所で繋げる効果がある。

 

 そして、術にかかった人間が望む夢を見せるために必要な情報を……他者の記憶から選別して取り寄せ……都合の良い世界を見せるのだ。

 

 こうして精神の繋がった人間は、都合の良い夢を見る。 自分の知らない情報も補うことが出来る幻術で……

 

 けれど、俺の場合話が違ったのだろう。

 

 俺の前世の情報は……この忍界で俺しか知りえない。 そして、その夢を構築するには……どう考えても俺一人の記憶じゃ足りなすぎるんだ。

 

 俺は……NARUTOの次回作があることは知っていてもタイトルまでは知らなかった。

 

 その矛盾点を突けば、世界に綻びが生じる。

 

 別に適当に俺がタイトルでも思い着いてでっち上げれるなら幻術は壊れないんだろうが……問題は俺の考えたセンスのタイトルを、小鳥が口にしなければいけなくなるっていうこと。

 

 どうあがいても、俺が見ていた夢は……終着点が決まっていてその道も短かったのだ。

 

「……この映像機に映る映画に出てくる人たちは……どうしてこんなにも苦しんでいるのに……戦うのでしょうか」

 

 ハナビは不思議そうにそう問いかけてくる。 このハナビは精神体で、俺の精神から……記憶から自分が見る夢を構築しようとしているのだろう。

 

「……曰く自由のため……らしい。 正義の味方って言われているけど……実際は、何かの自由の為に……苦しくても闘っているんだ」

 

「正義……のためじゃないんですか?」

 

「こういう特撮物には珍しいけど、意外に皆自分勝手で……自分の目的の為に闘っていることの方が多いんだよ。 中には本当に正義の為に奮闘してる作品もあるけど……」

 

 俺が早口でそういうとハナビは納得したように、ゆっくりとテレビへと目線を向け呟く。

 

「……悟さんみたいですね」

 

 そんな少し悲しそうにつぶやいたハナビの言葉に……ハッとさせられた。

 

 

 

 俺は……きっと……ずっとこんなヒーローたちのようになることを夢見ていたんだ。

 

 

 

 誰かの為に、何かの為に……何の躊躇もなく自分の命を、存在を賭けられるようなそんな……

 

 

──主人公に。

 

 

 けれど、その思いも成長と共に……忘れていった。 

 

 

 そんな思いを再燃させるきっかけになったのは間違いなく、あの幻術の内容だ。

 

 六道仙人がこの世界に来た俺の魂に見せたあの、()()()()

 

 確かにアレは噓の内容だったが……あの記憶の中で感じた思いは噓ではなかった。

 

 少女を助けたことを二度と後悔しないように……その思いが俺を突き動かした。

 

 そして……

 

 

「ああ……あの時助けられたのハナビじゃなくて、俺だったんだ」

 

 そう呟いた俺の言葉にハナビは首を傾げた。

 

「あの森での出来事だ。 ……それまでの俺はこの忍界の厳しさに打ちのめされていた。 ヒナタを助けようにも出来ることは時間稼ぎだけで、それも僅かな一瞬。 イタチさんを止めることも出来ず、結局あのときマリエさんが無理して助けに来なかったら俺は根に殺されるか拉致されていた。

 

 

 ……俺が、俺の意志で……ちゃんと『自由』を守れたのは……あの時のハナビが初めてだったんだ」

 

 そういってハナビの頭に手を置く。 するとハナビは成長していた現在の姿から、あの焼けた森での姿に変わる。

 

「俺自身の根幹にある夢を始めて叶えたのは……あの戦いでの出来事だった。 そう思えば、不謹慎だがハナビには感謝しないとな……」

 

「……」

 

「あの時、ハナビを助けられたからこそ……俺は忍びの道を……俺の忍道を貫き通すことが出来た」

 

「……今もその思いは変わらないんですね」

 

 優しい微笑みを浮かべたハナビからの問いに……俺は迷うことはなかった。

 

「当然だ、俺に出来ることが誰かの自由に繋がるなら……俺は……全てを賭けて戦う覚悟がある」

 

 俺が覚悟の言葉を言うと……次第に周りの光景に変化が訪れていく。

 

 夕日が差し込んでいたはずの窓や部屋の天井が、水に沈めたミニチュアの模型の様に崩れ浮き上がっていく。 それと同時に俺の身体がふわりと浮き上がる。

 

 そんな俺に……ベッドに腰かけたままのハナビは輪廻眼模様の眼で目線を向け……涙を浮かべていた。

 

「もう……行くんですね」

 

「ああ、何となくだけど……〈外〉で何かが起きて居るこが分かるんだ。 そういう予感がする以上……目を覚まさないとな」

 

 笑顔を浮かべてそういう俺にハナビは……笑顔を振り絞って……最後に声をかけてくれた。

 

 

 

 

「ずっと……貴方を待ってます」

 

 

 

 

 その言葉を聞くと同時に……俺の身体は急上昇していく。 夕焼けの空へと飛ばされたと思えば……次第に空の色が明るくなり、晴天の中へと身を投じていた。

 

 

 そんな空を落ちているのか、飛んでいるのか分からない状態になっていると……ふと気配を感じた。

 

 すると……目の前に、白髪で色白の……良く知る人物が俺と同じような体勢でそこにいた。

 

「おや、黒髪天パでそこそこの身長の君は……もしかして黙雷悟って名前じゃないかな?」

 

 俺に気がついたそいつの小芝居めいた言葉に

 

「そちらこそ、身長で言えばかなり低い方だろ……黙雷悟殿?」

 

 皮肉を込めて返答する。

 

「いや、僕は最終的にその君の姿よりも身長は伸びるはずだからね。 ……ってそんなことよりも、目を覚ますのかい?」

 

 何か言い訳をしようとした黙だが、ふと俺に確認を取ってくる。 ……言いたいことは分からなくはないが……俺の返答は決まっている。

 

「俺は……俺のしたいことをする。 ……何度も言ってるだろ?」

 

 そんな言葉に黙は呆れたようにやれやれとジェスチャーをして俺の瞳の奥を見つめる。

 

「だろうね。 元の世界に帰ることを拒否する君には、今更すぎる質問だったようだ……っおっと?」

 

 ふとそんなことを言う黙の視線がブレると……いつの間にか、空を浮いている俺と黙の2人を囲むように……尾獣たちが小型の姿で現れていた。

 

「九喇嘛……それに他の皆もっ!」

 

「よう、悟……意識を取り戻さないからどうなるかと思ったが……随分と外の世界ではことが進んだようだな」

 

 九喇嘛のやれやれといった様子に……俺は少し安心した感覚を覚えた。

 

 すると九喇嘛が俺と黙に目掛け指を向ける。

 

「貴様らの身体が限界を迎えつつあるのは自覚しているだろう? ……ワシたちのチャクラを全て生命エネルギーにしてそれを今から補ってやる」

 

「……そんなことをすれば分体とは言え君たちの存在は消えることになるけどいいのかい?」

 

「今更そんな野暮なことは聞くんじゃねぇっ! 黙、例え記憶を引き継げなくても俺たちはてめぇらのことを忘れねぇよ」

 

 ケッと笑顔を浮かべた九喇嘛は握りこぶしを黙へと向けた。

 

「……君たちの本体に僕たちと過ごした記憶が行かないけど……そういうのが野暮ってことだね。 まあ、ある意味貴重な二度目の君からの好意だ……喜んで受けよう」

 

 そう言い黙は九喇嘛と拳を合わせる。 すると尾獣らの身体が段々と透け始めた。

 

 彼らも、天音小鳥と名乗った数年の付き合いで……良き仲間だった。 内から俺たちの事を見ていたからこそ……こうして最後に力を貸してくれるのだろう。

 

 守鶴 又旅 磯撫 孫悟空 穆王 さ、犀犬 重明 牛鬼 そして九喇嘛……

 

 皆としっかりと目線を合わせると……彼らの姿は光の粒子となって……精神世界の空へと溶け込んでいった。

 

 すると……俺と黙の身体の浮き上がる感覚が早くなったのを自覚する。

 

「目を覚ますのも、もうすぐってことか」

 

 俺のその言葉に黙は

 

「ねぇ……雷」

 

 ふと声をかけてきた。

 

「どうした、黙」

 

「……何も言わなくても、外で何かが起きているのか分かっているはずだ。 多分、これが最後の戦いになる」

 

「……ああ、わかってるさ」

 

 俺が笑顔を浮かべ、サムズアップを見せると……黙は安心したように……俺の真似をしてくれた。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

──ドンッ!!!

 

 

 衝撃音と共に、繭のような木造物から雷光が天に向かい飛び出る。

 

 そして光が収まり空中で体を地面に向け着地できるように整えた悟の眼にはとある光景が映った。

 

 

 

「うちは……マダラ」

 

 

 

 再びの衝撃音と共に悟が着地すると……夜の闇に……その朱い瞳の閃光が揺らいでいた。

 

 その手には四肢が砕け塵となった柱間の首を持ち、足元には扉間や波風ミナトが身体の大半を塵にしつつも唸り、蠢いていた。

 

「……ほう、無限月読を自力で解くとはな……いや有り得ん話ではない。 なぜなら()()()()()()()()()()()()()()()のだからな、半分は俺である貴様に掛かりが浅くとも不思議な事ではないのだろう」

 

 全てを見透かしているかのように、影たちを蹂躙していたマダラは手にしていた柱間を投げ捨てると歓迎するかのように悟に向け手を開く。

 

「少々準備運動には飽きて来ていてな……この力……試すには貴様が最適だと思うのだが──」

 

 マダラのその言葉を遮るように……突如として悟の背後から、影が2つ飛び出る。

 

「忍法・手裏剣影分身っ!!」

 

「風遁・真空波っ!!」

 

 放たれた無数の手裏剣と、その手裏剣すべてに纏わされた真空の刃がマダラを襲う。

 

 その無数の術に襲われたマダラは動く素振りも見せずに、舞い上がった土煙の中へと姿を消した。

 

 姿を現した2つの影は悟の前へと降り立つと彼へと振り返る。

 

「三代目……とダンゾウっ!?」

 

 1人は三代目火影猿飛ヒルゼン、そしてもう1人は……穢土転生体の志村ダンゾウであった。

 

「まさか目を覚ますとはな悟よ……して、状況は良くないのは見ての通りだ」

 

「……奴は今の術でくたばる存在じゃない俺が時間を稼ぐ間に……黙雷悟に事情を説明しておけ、ヒルゼン」

 

 ダンゾウは悟に目線を向けることなく、土煙の中へと突撃していく。

 

 そんな姿に呆気に取られつつも、悟はヒルゼンに問う。

 

「あのうちはマダラは一体……ナルト達は?」

 

「うむ……あのマダラは……よくわからぬ。 無限月読によって皆が幻術に堕ち……樹海降誕の術で術に掛けられた者が拘束された中……お主の包まれた繭だけを背負い、移動する者が居たのだ、ワシはそれを偶然見つけた」

 

「……それは有り得ないはずです。 だって無限月読が発動して、直ぐにマダラは……カグヤにっ!」

 

「……ああ、それはマダラの下半身から現れた六道仙人によって我々も教えられた」

 

「……じゃあ、今あそこにいたマダラは一体……っ!」

 

「分からぬ、分かるのは奴が貴様の血肉を喰らっていたということのみ。 口元を血で汚しお前の繭を運ぶあやつを見つけ、穢土転生体である我らが挑んだものの……まるで歯が立たぬ。 それもあやつは未だに加速的に強さを増していっておる」

 

「……っまるで黙が体験した未来での光景みたいだ」

 

「悟よ、お主の助言で……この戦争で失われるはずであった多くの命は救われたはずだ。 大蛇丸が新たにゼツを拾い穢土転生したダンゾウと共にワシらも粉骨砕身の思いで奮闘した……しかし……」

 

 ヒルゼンの言わんとすることは……悟に伝わっていた。

 

 その瞬間、ダンゾウの頭だけが土煙の向こうから見せつけるように2人の間に転がってくる。  

 

 穢土転生とはいえ再生にはかなりの時間がかかるであろうそのダメージを……ものの一瞬でマダラはダンゾウに食らわせていた。

 

 喋ることも出来なくなったダンゾウの頭を悟が持ちあげる。

 

「三代目……いや、ヒルゼンさん。 影たちとダンゾウを……六道仙人の元へと連れて行ってください」

 

「何を言っておる悟よ!? ワシらで力を合わせるのだっ! そうすればあのマダラでさえもどうにか──」

 

 そんなヒルゼンの言葉を遮るように悟はダンゾウの頭をヒルゼンに渡し、すれ違い様に彼の肩に手を置いた。

 

「ナルトやサスケ達を呼び戻すには……貴方たちが欠けてはいけないんです。 マダラがこれほどまでの力量差がある貴方たちを封印しないのは気まぐれにすぎないと思う……行ってください」

 

 そう言葉を残した悟は土煙の奥へと跳躍していった。

 

 そんな悟を追いかけようと、振り向くヒルゼンであったが……土煙の晴れた先に既にマダラと悟の姿はなかった。

 

「……何が歴代最強の火影だ……ワシは……アヤツの為に……この魂をかけることも出来んのか……」

 

 火影という立場にあった彼らの中に……無力感が漂う中……ヒルゼンはバラバラになった火影たちの身体を集め背負い……マダラの下半身の傍にいる六道仙人の元へと急いだ。

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

──シュッ

 

 

 そんな僅かな音が聞こえたと思えば、戦争で傷ついた戦地のど真ん中に2つの人影が姿を現す。

 

「ここまで来れば、近くに樹海降誕の繭もなく……貴様も気兼ねなく戦えるだろう……()()()()が暴れてくれたおかげでここまで広い遊び場が出来たのだ。 感謝せねばな」

 

 軽口と高めのテンションでそういうマダラに悟は問う。

 

「……アンタは何者だ。 うちはマダラは……今はカグヤの依り代となっているはずだ。 それに六道仙人もアンタの下半身を元に現世に姿を現している……お前は一体──」

 

 悟の問いに、食い気味にマダラは答える。

 

「俺は俺だ。 うちはマダラ……それ以上でもそれ以外でもない……だが、強いて言うなら……かつてマダラから分かたれた一部……とでも言おうか」

 

「かつて……分かたれた?」

 

「ふむ、折角全てを無に帰すのだ冥土の土産に貴様には俺の全てを話してやっても良い…… 

 

 

 ──我が息子よ」

 

「っ!?」

 

 その瞬間マダラの万華鏡写輪眼を通して……彼の記憶が悟へとなだれ込んでいった。

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 始まりはそう……岩隠れが木ノ葉隠れの里との同盟締結をするための話し合いに来たあの時……オオノキの小僧と土影を俺が叩きのめしたあの時だ。

 

『クソ……』

 

 オオノキを気絶させ、土影を絞め挙げた俺は奴を写輪眼によって幻術へと落とす。

 

『敗者は敗者らしく……何か有益な情報でも差し出すんだな』

 

 俺はその写輪眼によって……血継淘汰の秘密を土影から得ることが出来た。

 

『血肉を喰らい……それが馴染むことで得られる力か……ふむ』

 

 

 俺は物は試しと、土影の腕を切りつけ……そこから血を啜った。

 

 

 そして……その後……

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 黙雷悟よ、貴様も良く知っているだろう……塵遁の術の1つ……分裂の術を。

 

 そう俺はかつてのうちはマダラが僅かに得た塵遁の力で生み出した……分裂体だ。

 

 しかし……塵遁の力は、適応しようとも定期的に血を摂取し続けなければ……その効力を失う。

 

 僅かな塵遁の力で……最低限のリソースしか割かれずに生み出された俺は……

 

『……つまらん術だ。 元に戻すだけの塵遁の力も残らんとはな……さっさと俺の前から失せろ』

 

 そう本体にその場から追い出され……彷徨うこととなった。

 

 力も、チャクラも持った本体は数か月もすれば……俺を生み出すのに使った力を取りもどすことが出来るが……俺は違う。

 

 『うちはマダラ』というの素質を持ちつつも……器も……中身もない俺は……半端な忍びにすら劣る存在であったのだ。

 

 

 

 

 屈辱と憤怒に……俺は侵食された。

 

 

 だからこそ、本体の俺とは違う別の道を進む決意を抱くことになる。

 

 

 足りないのであれば……補えばいいのだと。

 

 

 当時、扉間がクローンの技術を研究していたことは……元々俺の耳にも入っていた。 俺はそれを利用しようと考えたのだ。

 

 俺はマダラでありつつも、そのチャクラは希薄で幸いにも感知に引っかかることもない。

 

 扉間が柱間に呼び出され、研究の是非を問われている隙を突き……俺はその技術を盗み出した。

 

 

 俺の遺伝子と……柱間の遺伝子を掛け合わせた存在。 その存在であれば……俺に力を取り戻させることが出来ると確信していた。

 

 

 本体の俺も……どうやら柱間の細胞を己の身体に植え付けたようだが……所詮は他人の物、完全に溶け合い融合することはない。

 

 だからこそ、俺は柱間と俺の(かすがい)になる存在を生み出すことを決心したのだ。

 

 

 だが問題が発生した。 俺と柱間の遺伝子を掛け合わせた存在は……普通には生誕することはなかったのだ。

 

 

 そしてその問題が短い期間で直ぐには解決しないことも……俺には理解できた。

 

 

 であれば、躊躇などない。 この眼に宿る写輪眼は瞳力は弱まりこそすれど、その力に偽りなどなかった。

 

 その催眠眼の力で……適当な木ノ葉の忍びを捕まえ、俺自身を殺させた後に……さらに用意しておいた贄を使い俺を穢土転生させたのだ。

 

 印を結べば、直ぐに術者から俺は解放され……無限チャクラと不老不死が約束された。

 

 本来であれば、俺がこうも扉間の術に頼るなどといったことをするはずもないが……俺にはそんなプライドなど既になかった。

 

 

 魂さえ穢土にあれば、こだわらなければ生き返る手段を用意する方法も幾らでもある。 何より……万華鏡写輪眼で読めるうちはの石碑に刻まれた六道の術の内、輪廻転生の術の存在が俺を後押しした。

 

 

 生み出したクローンは俺と柱間……千手とうちはの力を持つのだ。 輪廻眼を開眼する可能性もあるはずだったからな。

 

 そして穢土転生体になった俺は只管研究を続けた。

 

 下手に人を殺せば、目立ち後を追われるのは目に見えていた。 穢土転生体とはいえ、俺の弱まった力では忍びを相手にすることなど到底かなわない……細胞のサンプルを静かに人知れずかき集め……

 

 

 俺は忍界に忍び続けたのだ。

 

 

 そうして数十年の時が経ち……とある存在と偶然、巡り合うこととなる。

 

 とある集落の名もない小僧が俺の光明となった。

 

 当時俺は素性と肌を隠し……放浪する医者を名乗って各地を転々としていた。

 

 扉間の研究を経て俺も人体に関する知識が多かったかことも幸いし、細胞を集めるのに医者は適していた。

 

 そんな中……パッチテストで一切の反応を示さない小僧を見つけた。

 

 名もないその小僧に『シン』と名を与え俺はそいつから細胞を集めるために……その集落に根付いた。

 

 誤算が会ったとすれば、十分な細胞を集める前に……その集落が忍びの襲撃に合い『シン』を連れ去られたことだろう。

 

 

 手元に残されたのは僅かな細胞。 

 

 

 その細胞で作れる『胚』は恐らく1人分が精々であった。

 

 

 失敗できない実験を前に、俺は細心の注意を払い実験へと望んだ。

 

 最悪どれだけ時間が経とうと生まれた存在が俺と柱間の力を持ち生き延びれさえすればいい。

 

 俺はうちはに伝わる封印術『(さとり)』を生み出した胚へと組み込み……俺と柱間の遺伝子を徐々に体に馴染ませていくように設計した。

 

 

 そして……お前が生まれたのだ。

 

 

 音の無い雷というものは存在しない、どれだけ離れ音が無いように錯覚しようとも……その事実は変わらない。

 

 つまり黙する雷は『有り得ない存在』という意味がある……まさにお前の名に相応しいと思わないか?

 

 

 黙雷……悟……お前を成長させるために俺にはうってつけの場所があった。

 

 

 木の葉が暮れの里がそうだ。 九尾の襲撃の後、里の警戒は高まりつつも……その内容は疎かになっていることを俺は見逃さなかった。

 

 

 赤子まで成長したお前を……里に送りつけても、封印術を見抜けるものなどおらず、碌に時間もかける余裕が無いことも予見できた。

 

 

 だからこそ、あの雨の日悲しみの感情に堕ちていた子どもにお前を見つけさせれば……甘い木ノ葉に根付かせることが容易であると思い、それは成功した。

 

 

 そして俺は貴様を見守り続けた。

 

 ただ只管に影に忍び……お前の成長をな。

 

 

 そして、今日……突如として運命が俺へと味方したのだっ!!

 

 

~~~~~~

 

 

「……」

 

 黙って話を聞いていた悟は、テンションが高くなっていくマダラから視線を逸らさずに警戒をし続けていた。

 

「力を解放し続ける貴様の情報を各地で得ると共に……野垂れ字ぬことを恐れていたが、この戦争の最中に気を失ったことを利用して……医療忍者と身分を偽りお前の体を確保した。 その瞬間に……俺は蘇ることが出来たのだっ!!!!」

 

 これ以上可笑しなことはないと、腹を抱えて狂気的に笑うマダラ。

 

「まさか、本体の……いや()()()()()()を対象とした輪廻転生の術が行使されようとはなっ!! ……おかげこの通り、俺は今一度生を得たっ!!! 後は貴様の血肉を喰らい……影で身体に馴染むのを待てば良かった……が、樹海降誕の術で貴様の身体を奪われた後確保しようとしたら……まさか歴代火影の穢土転生体と戦うことになるとはな……まあ、おかげで力がより馴染む良い準備運動になった」

 

 そういって掌をグッパーと握って開いて感覚を確かめるマダラ。 悟は……

 

「無限月読にかからないのも……アンタがマダラの分裂体だからってことか。 そしてそんなアンタのクローンである俺も……かかりが浅い」

 

 ことの流れを把握し呟く。

 

「その通りだろう。 そして俺の本体……いや、今では奴が分裂体であったとも言っても過言ではない。 奴は既に死んだも同然、この俺こそが真なるうちはマダラとして……目的を果たさせてもらおう」

 

「目的……だと?」

 

「無限月読も所詮は幻術……いくら夢見ようとも……何時か終わりが来ることも明白だ。 呪いも……凄惨な戦争も……怨嗟の積もりも全てを解決するのは夢を見ることではない……

 

 

 

 

 

──全てが終われば良いのだ」

 

 

 

「っ……!」

 

 

「愛も……憎しみも……復讐も……全て生まれる前に、消し去ってしまえば良い……そんな俺の夢の果てを、この俺に祝福を与えてくれたお前に見せてやろうと思ったのだが……フっ……息子よ」

 

 小さく笑ったマダラの目の前にはいつの間にか……2人の黙雷悟が居た。

 

 片や白髪で万華鏡写輪眼を携え……片や黒髪で仙人の証である隈取りを携えている。

 

「因果なものだな、分裂の術をお前も使うとは……しかしその様子……俺に盾突くつもりなのは明白か」

 

 

「「当然だ、クソ野郎っ!! てめぇをぶっ倒して……全てを終わらせるっ!!」」

 

 溢れる悟たちからのチャクラを肌に感じたマダラは……ほくそ笑む。

 

「良いだろうかかってくるがいい……聞き分けのない子供に必要な躾をくれてやる」

 

 

 

 

 今……黙雷悟の最後の戦いの火蓋が

 

 

 

  

──切られた。

 

 

 

 

 

 



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39:とある輪廻の終わり

次回最終回


「「「火遁・豪火球」」」

 

 

 分裂した黙雷悟とマダラが放った豪火球が闇夜に爆炎を上げ、その戦闘の開始を轟かせる。

 

 仙法、柱間の力を軸に分裂した雷の魂を持った黒髪の悟はその手に大玉・螺旋丸を携え跳躍する。

 

「大振りだな」

 

 その光景にマダラは写輪眼を向け撃ち落そうと印を構えるが

 

「千鳥っ!」

 

 印を構えた瞬間を狙った、マダラの力を軸に分裂した黙の魂を持った白髪の悟がマダラの懐へと飛び込む。

 

 既にマダラの腹部へと届こうとしている雷を伴った突きはしかし、その寸前で手首を掴まれ制止される。

 

 そしてマダラは強引に腕を掴まれた黙を回転の勢いをのせ雷へと投げ飛ばす。

 

 その飛んできた黙の身体を空いた左手で雷が掴むと、黙の身体を重りにして体をうねらせ螺旋丸をマダラの頭上から叩きつける。

 

 マダラは既に螺旋丸の影響の範囲外に佇み、その一連の技の評価を口にする。

 

「うちはサスケと、うずまきナルトの技か……どちらも手首より先に術を発生させる過程で対処も容易い……俺の眼をもってすればの話なのだろうが」

 

 あまりにも悟たちの技に対しての対処に余裕を感じさせるマダラの態度に雷は苦言を漏らす。

 

「今の攻防の流れだけでエドテンマダラより強いのは実感できたぞ……黙、どうする?」

 

「どうするって? 僕らの細胞を取り込み柱間の力を我がものとしているらしいから、分が悪いのは明らかだ。 つまりとにかく攻め続けるしかないよ雷っ!」

 

 マダラの見た目は、ただの黒い衣装に身を包んだ所謂象徴的な赤い鎧を着けていないだけのマダラっと言った感じだがその放つチャクラの圧は途方もないものになっている。

 

 そのうえ先ほどまで穢土転生された歴代火影たちを相手していたにも関わらず、その疲労を一切感じさせない佇まいから分かる再生力とスタミナ。

 

 チャクラの出力、持久力……そしてかつての戦争を戦い抜いたマダラ自身が持つ戦闘技術。 ほぼ全ての面において悟らを凌駕しているのは明らかであった。

 

「分裂の術で力を分散させてどうする? ただでさえ俺とお前とでは天と地との差があるというのに」

 

 煽るかのようなマダラの言葉に雷が印を結びながら言葉を返す。

 

「知らないのか? 世の中には足し算だけじゃなく、掛け算もあるってよっ!!」

 

 その言葉に合わせるように、黙と共に術が放たれる。

 

「「滅風焔(めっぷうほむら)の術!!」」

 

 火遁と風遁を合わせた、コンビ忍術。 その威力は相乗作用により、辺り一帯を焼き尽くす業火と成りマダラを襲う。

 

「フン……威力は悪くないが……それも今の俺を基準にしてしまえば、児戯に等しい」

 

 マダラがそう言うと地面に手を着き、煙を発生させ……その内から大きな団扇を取り出し構える。

 

 それは正に六道仙人の忍具の1つである大団扇であり、それを手にしたマダラのチャクラを込めたひとなぎによる風圧が悟らの火炎を押しとどめ勢いを殺していく。

 

「うちはの頂点に位置する今の俺に、火での攻撃など効くはずが無かろう」

 

 そして二振り目で完全に火炎を打ち消したマダラは悟らに余裕の笑みを見せる。

 

「ふふふ、温い……あまりにも温い」

 

 そんなマダラの態度に雷は冷や汗を浮かべた。

 

「っ……オイオイオイ、こんなの滅茶苦茶だぞ……」

 

「掛け算は僕たちだけじゃなく、向こうも同じってことみたいだね……本当の意味でマダラと柱間の力が1つになるということの恐ろしさが良くわかるよ。 僕たちが分裂の術を出来る回数も……残り一回が精々だろう。 悠長にはしてられないよ」

 

 口ではマダラの脅威を言いながらも、それでも悟らの瞳から闘志が消えることはない。

 

 自分たちが早々に負けてしまえばナルト達が例え無事にカグヤを封印しようともその異世界からの帰還をマダラに妨害される危険がある。

 

 そして……彼らには懸念点がもう1つあった。

 

「お前らの寿命が残り僅かなのは分かっている、だが出し惜しみをしていて俺に届くとでも思っているのか?」

 

 マダラが彼らの懸念点を言い当て指摘する。 その言葉の通り、ここで戦うことを決めた以上……文字通り悟らの全身全霊を持って挑まなければマダラにはその矛先が掠ることもないだろう。

 

 つまり……ナルト達が帰還してからの援護を期待できるだけの時間すら……黙雷悟には残されていないことを彼らは自覚していた。

 

「マダラに施されたうちはの封印術『悟』が既に機能を失っている以上……僕らの持つ力自体が僕らの身体を蝕み続けている……」

 

「それで相手さんはその力の上を行く力を使いこなしているってか? ……はは、燃えるねぇ」

 

 戦況は絶望的だ。 ……それでも勝たなければいけない。

 

 

──勝たなければ、これまでの全てが無駄になってしまう。

 

 

「さて……大人の威厳でも見せてみようか」

 

 そう呟いたマダラが印を結ぶと……地響きが始まった。

 

 

 

 

 

「仙法・木遁真数千手」

 

 

 

 

 

 地割れと共に地中から大木があふれだし、それらが徐々に絡まり形を成していく。

 

 そして完成せしは木造の千手観音。 それもその巨大さは高さだけでかのチャクラの神樹にならぶほどであり、背負う腕の一本一本がその神樹に幹に相当するほどの太さを併せ持っていた。

 

 かつての柱間が行使したそれよりもはるかに巨大なそれが放つ圧は、神を相手にしているかの如き絶望感を煽る。

 

「少々張り切り過ぎたか……? 思ったよりも消耗したが……なに、少しすればこの程度今の俺なら直ぐに回復するだろう。 さて息子よ

 

 

──生き残れるかな?」

 

 

 

 

 雲の上の仏像の額から地上を一望したマダラの腕の軽いひと振りで、その千手観音の腕が地面へ向け無数に降り注ぎ始める。

 

頂上化仏

 

 殴打1つの威力が、かつてのマダラが輪廻眼によって発動した隕石を落とす術である天蓋新星と並ぶことが容易に想像がつく。

 

 そんな中悟らは……

 

 

 

 

仙法木遁・木人の術っ!!

 

威装・須佐能乎っ!!

 

 

 

 雷の召喚する木人に、完成体須佐能乎の鎧を纏わせ迎撃の意志を見せる。 そして

 

 

「仙法土遁・国崩の断剣っ!」

 

 

 地面に手を着いた木人の目の前に、その木人の背丈と同一の高さを持つ幅広の岩の剣が姿を現した。

 

 その剣を手にし、両手で握り腰深く構える木人。 見上げるは空を覆いつくす千手観音の拳。

 

「行けると思うか? ……て聞くのも野暮だな、黙」

 

「ああ……行くよっ!!」

 

 そして木人は完成体須佐能乎の羽を広げ、空へと舞う。

 

 まさに通常の人間と完成体須佐能乎とのサイズ差のよう差が今、マダラと彼らにはある。

 

 かなりの遠巻きで見れば悟らの木人・須佐能乎が小人に見える感覚を狂わせるその光景。 そして木人が振りかぶった岩剣が木の拳に衝突したことで周囲に爆音を響かせた。

 

「ん……?」

 

 上空に立つマダラは術の感触に違和感を覚え疑問に息を漏らす。 一撃でも十分に悟らを葬り去れると思っていた、その拳が

 

 

 

 真っ二つ裂かれていく感覚に。

 

 

 

「「ハアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!!」」

 

 

 

 金属すら優に凌駕するであろうマダラの千手観音の拳を、断面を摩擦による熱で明るく照らしながら切り裂く悟たちの雄たけびが響き轟く。

 

 ……彼らの木人が持つ岩剣は雷遁を纏っていたのだ。

 

 襲い掛かる巨大な拳をその都度その岩剣で切り裂き、進む道を文字通り切り開きながら飛翔する悟ら。

 

「……土遁に流れやすい雷遁を流して巨大な岩の剣を高速振動させその切れ味を増幅させたか……しかし本来土遁の効力は雷遁で失られる。 その属性のバランスを2人に分かれたことで取っているのなら……なるほどあえて2人に分かれたことは意味のあることだと言えるな」

 

 悟らの所業を冷静に分析し純粋に感心するマダラ。

 

 しかし

 

「だが、これならどうだ?」

 

 マダラが気まぐれの様に動かした指先に添うように頂上化仏の拳が一つ一つ拡散するような広がる動きを見せる。

 

「っ!?」

 

 自身らを直接狙っていた拳の群は目の前から失せたが、その直後悟らはすぐにマダラの狙っている意図を見抜く。

 

「360度……全方位から取り囲むように拳を叩きつけて僕らを圧殺するつもりかっ!!」

 

 異様な形に伸びた千手観音の手が悟らを既に包囲している。

 

 そして

 

「潰れろ」

 

 マダラの呟く小さな号令と共に、その拳が急速に悟らの木人を襲った。

 

 

 

──ドンッ

 

 

 

 地上よりはるか上で生じた拳による繭。 その生じたさいの衝撃が空気を伝わり、地上の木々を大きく揺らす。

 

 遠くに見える森から衝撃によって驚いた鳥たちが飛び去る光景を千手観音の上からチラリと眺めるマダラ。

 

「……流石に死んだか……?」

 

 期待外れと思いそう呟いた後、小さなため息を漏らす。

 

 その次の瞬間……マダラの眼前を大きな物体が通り過ぎた。

 

「奴らの岩の剣……か? 苦し紛れに俺に向かって投擲したのだろうが……狙いは外れたよう──」

 

「飛雷脚っ!!!」

 

 

 完全に油断していたマダラに下方向からの悟の雷を纏った飛び蹴りが腹部へと炸裂した。

 

「っ……」

 

 小さく呻くマダラだが、吹き飛ぶこともなく衝撃に耐えた彼は自身の腹を抉っている足を掴むと宙に向け投げ飛ばす。

 

 軽重岩の術で宙で態勢を立て直した悟がマダラへと向き直った。

 

 自身に蹴りを入れたことに僅かに感心したマダラは小さく拍手をして悟を褒める。

 

「クックック……なるほど、拳を切り裂く岩剣を投げ僅かに道を作り……さらに1人に戻り木人に己も投げ飛ばさせたか。 中々に突拍子もない発想だが……この俺に一撃入れられたのだ。 素直に褒めてやろう」

 

「……クっ」

 

 あまりにも余裕なマダラの様子。 分裂の術から1人に戻った悟は厳しい表情を浮かべつつもそこから更に上へと飛び、落下をし始めていた巨大な岩剣の柄を掴む。

 

「ならこれでも喰らいやがれっ!!!」

 

 そう叫びながら悟は術を土遁・超加重岩の術で岩剣を何十倍にも重くし、千手観音の脳天へと振るう。

 

──ドッ!!!!

 

 その衝撃力の大きさに岩剣は耐えきれず崩壊……しかしその一撃は千手観音を真っ二つに裂き、その巨大さも相まって強烈な地響きと共に地面へと沈む。

 

 

 

 当然、尋常ではない土煙と砂塵によって周囲は視界を失うが……真っ二つに裂けた千手観音の足元の地面に青いオーラを纏う()()がいることを悟は地上に降り立ちながらも確認出来ていた。

 

 

「あれだけの質量と……威力を以てしても…………っ」

 

 苦悶の表情を浮かべ……悟は……風が攫う土煙の先の光景を睨みつける。

 

 そこに立つは須佐能乎の鎧を纏ったマダラ。 彼は軽く肩を叩いて土埃を払い、悟へとその万華鏡写輪眼を向ける。

 

「今のも中々の威力だったと褒めてやる。 この俺から幾度も感心を引き出せるだけ五影などよりもお前は強いのだ誇ると良い……始めて防御を試させてもらったぞ」

 

 面白い玩具で遊ぶような笑みを浮かべるマダラ。 彼の纏っている須佐能乎の鎧はチャクラが揺らめくこともなく、青黒く月光を反射していた。

 

「須佐能乎をより固く凝縮させ己に纏う……これこそが本当の意味での完全な須佐能乎と言っても良い……俺から引きはがすことも、須佐能乎の内から狙うといった小細工も通用せん」

 

 マダラの周囲に漂うチャクラの圧は真数千手を扱っていた時よりも濃く、悟に絶望感を押し付ける。

 

「っ須佐能乎ォっ!!!」

 

 万華鏡写輪眼を使い、自身も完成体須佐能乎を顕現させその巨大な二刀の太刀でマダラを切り伏せようとする悟。

 

 しかし

 

──ギンッ……!

 

 鈍く鋭い音が響くとともに悟の須佐能乎の太刀は2つとも斬撃を当てたマダラを支点にして折れてしまう。

 

「ッ……!!」

 

 軽く両腕を上げ手甲で悟の斬撃を防いで見せたマダラはかぜがそよいだかの如く表情に変化を見せない。

 

「オオオオオオォっ!!!」

 

 なりふり構わず須佐能乎の拳を叩きつける悟。 しかし数度放てば逆に悟の須佐能乎の拳にヒビが入り手の先から崩壊していく。

 

 余りにも大きな力の差……悟の心に影が入ると同時にマダラの瞬間移動の如く素早い跳躍とそれに合わせた只の拳が須佐能乎の外殻を泡の如く弾けさせ……

 

 その衝撃で悟は地面へと叩きつけられた。

 

 まともに受け身も取れず地面を転がり……うつ伏せのまま辛うじて上げた顔から望む視界は自身の須佐能乎の崩壊を背にこちらへとゆっくりと歩み寄るマダラを写す。

 

「っグ……はぁ……はぁっ……!」

 

 呻きながらも力の入らない体に鞭打ちなんとか立ち上がる悟。 僅か先に立たずむマダラはそんな悟に対して……憐れむような眼を見せた。

 

「……何故抗う? もはや火を見るよりも明らかな力の差だ。 ……何故立ち上がる? 誰がお前に俺と戦うことを望んでいるというのだ、ここで例えお前が俺を打倒しようとも……寿命でお前は確実に死ぬというのに。 ……何故だ?」

 

 マダラは何とか息を整える悟に向け言葉を連ねる。

 

「……先にも言ったが今の俺の目的は、世界を完全に崩壊させることだ。 この地上……いや星というべきか……全てを完全に滅ぼすことで……誰もが不幸に成りえない世界を実現する」

 

「……っはぁ……はぁ……っ」

 

「血による差別も……能力による力の差も……運による貧富も……弱者も強者も……そして愛も憎しみも……全てを平等にするなど不可能だ。 無限月読を以てしても……それを行使する存在がいる以上、真に永遠などということは有り得ない。 ならばもう……平等に全てを無に帰すのが正しい事だと思わないか……息子よ」

 

 まるで諭すかのようなマダラの物言いに悟はよろめき自身の左肩を手で抑えながらも聞き入る。

 

「……当然お前も最後には平等に殺すことにはなるが、実は言うと俺はお前に情が沸いている。 このうちはマダラとあろうものがここまでの力を得るに至った要因であるお前に素直な感謝を抱いているのだ。 ……息子よ、世界が完全に壊れる僅かな間だけでも良い……父である俺と共に道を歩む気はないか?」

 

 

 

「はっ……?」

 

 

 

 マダラの口から飛び出た突拍子もない言葉。 あまりにもなその内容に悟の口から思わず驚きの声が漏れた。

 

 しかしマダラは右手を差し出し……悟へと向ける。

 

「これ以上、お前が俺と戦って何になる? これ以上苦しんでまで俺たちが戦う理由などないだろう、息子よ。 俺の手を取れ……」

 

 マダラの表情に……嘘は感じられなかった。 先ほどまでの戦いは彼の言葉通り……躾同然のものだったのだ。

 

 マダラは本気で悟に同情している。 僅かな寿命に鞭打ち戦う悟の姿に悲痛さを感じているのだ。

 

 彼の本気のその感情に悟は……

 

 

 

「……僕は……あなたを只悪戯に力を振りまく存在だと誤解していたようだ」

 

 

 

「!」

 

 よろめきながらも……マダラへと一歩歩み寄る。 悟からの言葉に、マダラの眉が僅かに上がる。

 

「……俺のこの理想を分かってくれるか」

 

 親と子の利害の一致。 それを感じたマダラが差し出した右手に力を籠める。 

 

「ああ、良く……分かったよ……父さん」

 

 そして悟もマダラの差し出した右手に……力強く右手を出し熱い握手を交わす。

 

 親子の熱い握手から、悟が寄りかかる様にマダラへと体を預け……抱擁をする。

 

 悟に自身の理想が受け入れられたことにマダラが満足気に悟の背を叩くと……

 

 

 

「貴様が信念のある自己中心的なクソ野郎だってことがなぁ!!!」

 

 

 

「なっ!?」

 

 瞬間悟は驚門・雷神モードになりマダラの腕を捻り上げ、背負い投げで思いっきり地面へと叩きつける。

 

 マダラは叩きつけられた衝撃で数度地面を跳ね地面に亀裂を入れながらも素早く態勢を立て直す。

 

「貴様ぁ……っ!」

 

 期待を裏切られたショックか、マダラが呻くと悟は仙人モードの隈取りを発現させながら叫ぶ。

 

「何が父と歩む気がないか、だとッ!? ふざけるなよっ!! アンタはそういう感情を抱きながらも……世界を壊すことに躊躇が無いっ!! 僕たちが知りえない他の誰かが抱くはずのその感情を無視して壊そうとするくせに……自分だけが気持ちよく終わろうとするクズだっ!!!」

 

 そう叫びながら放つ全力の状態になった悟の拳はマダラのガードを貫き、よろめかせる。

 

「平等という大義名分と……っ!! 己の理想に酔って……っ!!! 他者の人生を何とも思わないクズ野郎っ!!!!」

 

 一言一言に、全力の拳を乗せマダラを殴りつける悟。 その威力は一撃ごとにさらに増し、マダラの態勢を崩していく。

 

 

 

 

「……かつての僕と同じだっ!! 虫唾が走るっ!!!!!」

 

 

 

  

 型も何もないなりふり構わない拳をマダラに叩きつけ大きく仰け反らせる。 穢土転生されたマダラを大きく突き放した、驚門雷神仙人モード……その状態の拳を受けたマダラは……

 

「……少しばかり甘く見ていたようだが、それでもこの父には届かない。 ガッカリだ息子よ……道の始めにこの手にかけるのが、俺の理想を現実に導いた存在だとはな」

 

 小さなため息と共に……戦闘態勢へと入る。

 

 瞬間……マダラと悟の腕がぶつかり合い、拮抗する。 常人の感覚など当に逸脱した超人同士の肉弾戦は周囲の地形を無造作に変えていく。

 

 拳の衝突が、蹴りの風圧が……周囲を荒く削っていった。

 

 

~~~~~~

 

 

「そうだ、世界を救う。 その大義名分を元に……僕はかつて君をこの世界に連れて来た」

 

 黙の精神世界の木の前で……黙と雷は向き合う。

 

「……」

 

 黙の独白を、雷は黙って聞く。

 

「何度でも繰り返す世界の崩壊とマダラの狂気を受け……僕は君の人生を台無しにしてしまった。 いや君だけじゃない……君と共に歩むはずだった幾つもの人の感情すらないがしろにしたんだ」

 

「……」

 

「そして君を元の世界に戻すことで……己の罪からすらも目を逸らそうとした。 けれど、君はそれを受け入れてはくれなかったね」

 

 悲しそうに笑う黙に……雷が言葉を掛ける。

 

「……黙、俺はお前を見捨てることなんて出来ない。

 

 この忍界の厳しさを……生きていく辛さを俺はこの世界の黙雷悟として生きて実感した。

 

 全ての命を救うことなんて不可能だし理想にすぎないこともわかっている。

 

 でも……俺は同じ黙雷悟としてお前の感じてきた感情に共感したんだ。

 

 確かにお前が俺にしたことは……到底許されることじゃないかもしれない。 でも俺は……俺がお前の立場だったら……そう思うと、不思議と怒りは湧いてこなかったよ」

 

 雷のその言葉に黙は涙を流して……首を振る。

 

「ははは……君は本当にお人好しが過ぎるよ。 ……世界を確実に救うだけなら……今からでもこの場から逃げ出して六道仙人に協力を頼んでもう一度過去に転生するなりして……僕が自殺すればマダラの計画は破綻するだろう」

 

「……」

 

「でも、そうすれば……マリエさんだけでなく君が助けたはずのこの世界の人間を……見殺しにすることになる。 そんなことは君が……いや今や僕も許容できない」

 

 黙のその言葉の意味することを……雷は既に理解し覚悟をしていた。

 

 

 

「もう引き返せないよ」

 

 冷たく……覚悟の籠った黙の言葉に雷は

 

 

 

「ああ」

 

 熱く、信念を込めて返事をする。

 

 2人の魂は今、最高潮の共鳴を見せ……その姿が重なった。

 

 

~~~~~~~

 

うおああああっ!!

 

「っ……力が増しているのか……?」

 

 

 悟の強烈な打撃の猛襲はその命を燃やすかの如く、激しく高まりマダラのいなしを退けその体に傷をつけていく。

 

 

絶対に……お前を……ここでぇっ!!

 

「っ!?」

 

 

 大きく振りかぶった悟の拳が叩きつけるように振るわれマダラはそれを己に纏った須佐能乎の両手の手甲で受け止めようとするが

 

ぶっ倒すっ!!!!

 

 その勢いを殺し切ることは出来ずに、手甲にヒビを入れられ大きく吹き飛ばされる。

 

「っここまで俺に差し迫るとは……流石は『黙雷悟』と言ったところか……っ! だが」

 

 地面に数度叩きつけられつつも直ぐに態勢を整えたマダラは叫ぶ。

 

「貴様が命を削ろうとも……それも残り僅かだっ!!」

 

 しかし、知ったことかと万華鏡の朱い眼光を滾らせ悟も叫び返す。

 

「アンタを消すのには……十分だっ!!」

 

 そして悟は印を構える。

 

 

 

「影分身の術っ!!」

 

 

 

 万華鏡写輪眼を使い、驚門雷神仙人モードとなった悟の数体の影分身がマダラを狙う。

 

 

「「「うおおおおっ!!」」」

 

 

「フン、その状態で忍術を使うとは驚異的なチャクラコントロールだが……チャクラ量を見れば明らかに奥にいる1人が本体なのは明白。 わざわざ陽動に隙を作る容赦など……俺はせん」

 

 そう言ってのけたマダラは須佐能乎の太刀を掌に生じさせると、その一太刀を戦闘の悟へと振りぬく。

 

 

 その瞬間、先頭の悟の右肩から先が一瞬で分かたれ煙を上げ姿を消す。

 

 その後一瞬で体術を仕掛けようとひっきりなしに飛びかかってくる悟の影分身をマダラは太刀で一太刀一太刀消し去っていく。

 

 余りにも鋭い斬撃は当然の如く飛び、奥にいる悟の脇を取りすぎ様に鎌鼬を起こし悟の頬に傷をつけ血を流させる。

 

(やはり、チャクラを溜める目的での陽動……俺には不意打ちは通用しないと悟っている以上正面から来るか)

 

 生半可な攻撃ではマダラには通じないと悟は思っているのか、彼の掌には高圧縮されたチャクラの塊が高速で乱回転している様が見受けられる。

 

()達がマダラ、アンタに勝る強みはチャクラコントロールだっ!! その体を消し飛ばしてやるっ!!」

 

 黙と雷の魂が共鳴しているのか、彼らの声は二重に聞こえていた。 極まったチャクラコントロールによって、その膨大なチャクラをビー玉ほどの大きさの螺旋丸へと形態変化させ……悟は駆けだした。

 

 

超・超圧縮・螺旋丸っ!!!

 

 

 限界まで圧縮された螺旋丸を携え悟は雷の軌跡を残して駆ける。 当然マダラもその攻撃を避け

 

──ようとはしなかった。

 

喰らえェ!!

 

 

 悟の振りかざした腕からその螺旋丸はマダラの上半身を捕え……

 

 一瞬周囲を閃光の如く照らした後、地形を丸く切れにえぐり取るような青白い爆発を伴い爆音を響かせた。

 

 その威力の高さに悟自身の右手の掌も焦げ付き、黒く変色してしまったが確実にその一撃を入れたことに歓喜の声を挙げつつも吹き飛ぶ。

 

 吹き飛びつつも素早く態勢を立て直し、爆炎の先にいるマダラを凝視した悟は……

 

 

 顔を引きつらせた。

 

 

「フハハハハハっ!! 死ぬかと思ったぞ、こ奴めっ!!! ……だが、生憎だが今や俺は柱間の全盛期を越える再生力を身に着けているようだな……半身が吹き飛ぶ程度では……もはや死ねないらしい」

 

 確かに左半身を大きくえぐられたようなシルエットのマダラは、狂気の笑い声とともにその失った半身を内から生じる肉が埋め……爆炎の晴れた先に健康的な半身を覗かせていた。

 

 消し飛ばしたはずの半身をものの一瞬で再生して見せたマダラの様子に悟は……

 

やっぱり……もう……

 

 肩を落として、項垂れる。

 

 

 渾身の一撃を当てたにも関わらず、マダラは健在っぷりをアピールするかの如く消え去った半身の服に合わせるように残っていた衣服も破り去る。

 

 余裕を見せるマダラは、その一瞬後

 

 

 悟を蹴り飛ばす。

 

「ッヅゥ!?」

 

「さて、俺の再生力は試させてもらった……ではそろそろこちらからも攻めさせてもらおうか」

 

 

 今まで手を抜いていたのか如く繰り出されるマダラからの打撃。 須佐能乎の堅牢な鎧を纏ったマダラの拳や蹴りは、悟の認識スピードを越え幾多も打撃を浴びせる。

 

 

 さらに

 

 

 吹き飛ばされ距離が空いたことで悟が咄嗟に印を構えるも……ある光景を目にして、印を結ぶのをやめてしまう。

 

 悟の目に映ったもの……それは

 

「貴様との戦いはやはり俺自身をより高みへと成長させてくれる……先ほどの攻撃を受けたことで……さらなら力が覚醒したようだ」

 

 闇に光る薄紫の眼光。 マダラの両目は輪廻眼へと変化していた。

 

「柱間と俺の細胞の融合は当然っ!! 輪廻眼の開眼へと繋がる予想出来ていた……感謝するぞ息子よ。 もはや誰も俺を止めることなど出来ん」

 

 輪廻眼を携えた以上、マダラには通常の忍術は封術吸印で無効化されてしまう。 木遁などの物質を伴った術では、マダラの須佐能乎の硬さを突破できない。

 

「さて息子よ。 もはや貴様が取れる足掻きも残り1つだろう、遠慮せずに使うがいい」

 

 全てを見透かしたかのようなマダラの言葉に、俯きながらも悟はなんとか立ち上がり……サムズアップをして見せる。

 

 

 そして

 

 

「ごめん……皆……ハナビ……やっぱりもう……これしか……方法が思いつかなかった」

 

 

 懺悔するかのようにそう呟き……サムズアップした親指自身の左胸に深く突き立てる。

 

 その瞬間悟の身体から沸き上がっていた青いオーラはなりを潜め、代わりとばかりに段々と朱い血潮のオーラが彼の身体を渦巻き取り囲み始める。

 

 その様子を見ているマダラは軽く首を鳴らして笑みを浮かべる。

 

「やはり、八門遁甲を使う貴様が()()()()に至っていないはずがないっ!! さあ見せてみろっ!! そして散るがいい、紅葉の如くっ!!」

 

 マダラの言葉を受け悟の身体を取り巻く朱いオーラは激しく燃える火の如く揺らめき、身に纏っていたボロボロの暁の衣を宙へと舞わせる。

 

 

 

 

「第八・死門開…………

 

 

 

 

──八門遁甲の陣……ッ」

 

 

 

 悟が静かにその術の名を呟いた瞬間

 

 マダラと悟は今一度、正面からぶつかり拳を叩きつけ合う。 その衝撃は周囲の地形にヒビを入れその壮絶さを物語る。

 

「っ……っ!?」

 

「死門を開けば俺を越え、殺せるとでも思ったかァ?! もはや八門遁甲の陣ですら俺を抜き去ることは出来んっ!! 精々踊れェっ!!!」

 

 死門を開いたことで荒れ狂う莫大なチャクラと引き換えに仙人モードも雷神モードも写輪眼も使えなくなった悟は、確かに先ほどよりも数段階上の力を発揮している。

 

 しかしそれでもマダラを相手にやっと肩を並べる程度にしか至っていなかった。

 

「だが流石に気を抜けば俺もやられかねん。 もはや手を抜くことはせんぞっ!!」

 

 そう言うマダラの言葉通り、先ほどとは段違いの拳と太刀の応酬が繰り広げられる。

 

 真っ赤なオーラに包まれた悟の拳と青黒いマダラの須佐能乎の手甲がぶつかり合うたびに天変地異の如く、空気を揺らし痺れさえ大地を揺らす。

 

 互いの一撃一撃が尾獣たちの尾獣玉に匹敵する威力を併せ持ち、それを撃ちあうことで命を削り合う。

 

 しかしその体術の応酬は遥かに悟が不利であった。

 

 再生能力差が顕著であり、徐々に悟が押され始める。

 

 だが

 

「っ朝孔雀(あさくじゃく)っ!!」

 

 拳をわざと捻り空気との摩擦を生じさせ、火炎を纏った悟の連打がマダラの攻撃を押し返す。

 

 その瞬間僅かに生じたマダラの隙を突き、悟は両手を合わせたアッパーカットでマダラを上空へと吹き飛ばす。

 

昼虎(ひるどら)ァっ!!」

 

 そのアッパーカットによって生じた虎の形を模した衝撃波がマダラの須佐能乎の鎧にヒビを入れ

 

 

 驚異的な身体能力となっている悟は衝撃波に押され身動きが取れないマダラの上へと跳躍で回り込み、渾身の背面からの体当たりである鉄山靠でマダラを地面へと打ち下ろす。

 

夕亀(ゆうき)っ!!」

 

 

 昼虎の衝撃波の中を、貫くように叩き落とされたマダラの鎧は既に剥げている。 そして空を蹴り悟は両足を揃えた飛び蹴りを地面につく瞬間のマダラへと繰り出す。

 

夜龍(やりゅう)っ!!!」

 

 

 その渾身の悟の蹴りに空気が振動する。

 

 しかし

 

 

「流石の猛攻だが……防がせてもらったぞ」

 

 

 地面にヒビを入れ立つマダラの輪廻眼の眼光の先で悟の蹴りはマダラの顔先ギリギリの所、宙で止まっていた。

 

「っ!?」

 

 驚きを露わにする悟が突如見えない何かによって吹き飛ばされ地面を抉り滑る。

 

「俺の輪廻眼には固有の瞳術がある……『輪墓・辺獄』、これにより俺は見えざる世界に……()()もの分身を召喚し使役することが出来る。 大人気なく本気を出して悪いが……もはやお前に勝ち目はない」

 

 見えない輪墓の世界に現れたマダラと同等の力を持つ分身によって、悟の飛び蹴りは受け止められ反撃を受けてしまっていた。

 

 マダラも流石に余裕はなくなってきているのか顔から笑みは消えている。 それでも自身の勝ちは揺らぐことはないと思う尊大な態度は変わらなかった。

 

 土煙を巻き上げ、地面に転がる悟にマダラは目線を向ける。

 

「最後の攻撃は悪くはなかった。 再生力を持ち合わせていなければ数度は死んでいただろう。 だが、もはやこれまでだ

 

 

 

──諦めろ」

 

 マダラの宣告を受け、悟は立ち上がれないでいた。

 

 八門遁甲の陣による副作用による痛みか、それとも残り僅かな寿命が尽きかけているのか。

 

 呻き声すらも聞こえないその様子にマダラは静かに太刀を顕現させ振りかぶる。

 

「貴様は良くやった。 この俺を除けば忍界最強の忍びは間違いなくお前だ、誇れ。 そして安心しろ、直ぐに全ての命がお前の後を追うことになるだろう……そして最後にはこの俺も……」

 

 僅かに感傷に浸ったマダラは、それでも揺らぎなくその太刀を振るい止めとばかりに飛ぶ斬撃を悟に向け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()は諦めない」

 

 しかしその言葉が聞こえた瞬間、マダラが放った斬撃を何かが弾き消し飛ばす。

 

「何……?」

 

 あり得ないと疑問を口からこぼしたマダラの視界には……朱い光が映っていた。

 

 先ほどまでの八門遁甲の陣による血潮の朱いオーラとは別の、ハッキリとした朱い透明な衣のような光。

 

 夜の闇を太陽の如く照らすそれは、光が収まりを見せることで姿を明確にする。

 

 そこに立つ悟は先ほどまでとは別次元の様相を呈していた。

 

 

 マダラの青黒い須佐能乎を纏った姿と対を為すような、只管濃く明るい朱い外套のようなチャクラを身に纏って悟は瞳を閉じて立っていた。

 

 纏う外套には、仙人の証である隈取りと同等の黒い線が走り雲の模様を縁取る。

 

 明らかに異様なその光景、自分の知りえない何かが起きていることにマダラは僅かな危機感を覚え輪墓の分身を一体悟へとけしかける。

 

 

 しかし、悟へと殴りかかったマダラの常人には見えぬはずの分身体は……彼に近づいたとたんに消え去る。

 

「っ!? 一体何が……ッ」

 

 想定を超えた現象にマダラがそう呟くと……静かに悟が口を開く。

 

「貴様と同じだ、うちはマダラ。 死門を開けたことで……俺たち……いや黙雷悟の内に秘めた封印術は完全に消え去り、枷が外れ今この僅かな間だけお前と同列の力を発揮できるようになった……そして生命エネルギーが僅かな黙雷悟の身体ではマイト・ガイと同じ八門遁甲の陣では彼にすら及ばないことは明白だ。 だからこそ……全てをコントロール下に置き……2つの魂による完全な共鳴が必要だった。 ……魂の共鳴は核融合の如く、新たなチャクラを生み出す」

 

 その言葉の最中に、マダラが更なる分身体を悟に向かわせようと己の身体から分離しようとした瞬間。

 

 その分身体のみを射抜く、目にも止まらぬ悟の拳打による衝撃波が繰り出され分身体のみを一瞬で消滅させる。

 

「ッ……」

 

「全ては賭けだ。 黙雷悟も貴様と同じ遺伝子を持っている……ならば、死へと向かう最中で……覚醒する可能性は少なくないはずだ」

 

 悟の揺らめく髪は朱く染まり、その顔には隈取りが生じ……ゆっくりと開けられた瞼の先には薄紫の瞳があった。

 

「……これで運命が変わる」

 

 そう悟が呟いた瞬間、マダラと悟の距離感が一瞬で零となる。

 

「っ──」

 

 マダラは反応が遅れたにも関わらず、咄嗟に腕をクロスにすることで未確認の攻撃を辛うじて防ぎそのまま大きく地面に後を残して滑り下がる。

 

「こんな力を得る術が……存在するなど──っ!?」

 

 この瞬間の二人の力に差は殆どなかった。

 

 互いに輪廻眼を有し、片や六道仙人の力を……インドラとアシュラのチャクラを完璧に近い形で取り込んだマダラ。 そして八門遁甲の陣のさらに先の領域へと踏み込んだ悟。

 

 その力のぶつかり合いははるか離れた位置にいる六道仙人らにも容易に感じられるものであった。

 

「この異様に重い圧は……チャクラの気配だとでも言うのか……」

 

 六道仙人の下でナルト達をカグヤの異空間から口寄せする準備をしている最中の扉間は、全身に感じるチャクラの重圧に思わず呆けたようにその言葉を呟いた。

 

「俺とマダラの力が混ざり合うとここまでのものとなるとはな……正直俺が生身でも介入することは不可能ぞ」

 

 悟とマダラの力の気配に柱間も息を呑む。 この力の一片でもこちらに向けられれば、もはやひとたまりもないだろう。

 

 そんな気配の下六道仙人、ハゴロモは浮かない表情を浮かべてた。

 

 その様子に気がついたヒルゼンはハゴロモに問う。

 

「あのマダラと同等の力を悟が発揮する方法など……八門遁甲の陣を除いてありはしないとワシは思いますが……仙人様のご様子では、悟がしている無茶はそれだけではないのですな?」

 

 ヒルゼンからの何かを知っている様子のハゴロモは問いかけに重い口を開いた。

 

「うむ……恐らく八門遁甲の陣の使用だけではここまでの、環境を覆いつくすほどのチャクラを生み出すことは不可能であろう……恐らく悟たちは……互いに尾獣と人柱力のような深い繋がりを持ち……共鳴をもって新たなるチャクラを生み出している……」

 

 ハゴロモの言葉にミナトが口を開く。

 

「ハゴロモ様、魂の繋がりや共鳴が……新たな力を生み出すことがあるんですか?」

 

「お主も陰の九喇嘛と繋がりを持ち、恐らく体感しているはずだ。 チャクラとは繋ぐ力である……自然と繋がり、空間と繋がり、肉体と繋がり忍術はその効果を発揮させる。 そして魂はそれぞれが固有の唯一無二の精神エネルギーもち、それはチャクラによって繋がることで力を増すのだ」

 

 ハゴロモは悟が戦っている方角に目を向け……その瞳を伏せる。

 

 遠くに居てもわかる、拳と拳が、蹴りと蹴りがぶつかるその戦闘の激しさと密度。 

 

「かつて悟にも長すぎる輪廻の短い邂逅の合間に伝えたことがある。 八門遁甲の陣のが身体エネルギーを限界を超え増幅させるものであるならば……その反対に精神エネルギーを増幅させる術があるとな。 その名も……

 

 

 

重粒子(バリオン)モード」

 

 

「バリオン……モード……」

 

 ミナトはその形態が……八門遁甲の陣と並ぶとハゴロモが称したことでそのリスクを推し量る。 

 

 現に、穢土転生体とはいえ歴代火影達相手に余裕を見せていたマダラの本気と互角の戦いをする術なのだ……誰もがその術の存在の危うさを説明される前に気がついていた。

 

「もはやあやつでさえ……悟自身でさえ……己が生き残ることは考えにないのだろう……」

 

 力なくそう微かに呟いたハゴロモの様子。 それは己の不甲斐なさか、それとも悟たちを忍界の運命に巻き込んでしまったことへの罪悪感か……ハゴロモの胸中は晴れることはなかった。

 

 

 互いに輪廻眼を持ち、超越した身体能力を持つ悟とマダラはもはや忍術を使う素振りも見せずに体術で互いの命を削り合っていた。

 

(……この俺に匹敵する……いや越えんとするこの力。 そして俺の動きを鈍らせるこの周囲に漂う重い粒子のようなチャクラ……ここまでの力を、そう長い事発揮するなど──)

 

 必死に悟の攻撃を凌ぐマダラは、悟の先が長くないことを察知してなるべく防御に専念していた。 すると

 

「……ゴホッ!?」

 

 一瞬、悟が血を吐き動きを鈍らせる。 マダラがその隙を突いて一瞬で生成した太刀で突くも、直ぐに勢いを吹き返した悟は太刀を裏拳で砕き再度マダラへと肉薄する。

 

「その状態、長く続けることなど不可能なのだろうっ!!」

 

 マダラは勝機を見出し、嬉々として悟への攻めへと転じる。

 

 

「──ゴほッ!!??」

 

 

 その瞬間、先ほどの悟を真似るかのように……マダラも口から血を垂れ流し吹きだした。

 

 己の身体に生じた違和感と不調。 柱間の力すらも完全に手中に収めたはずの自分の身体の、不調にマダラは今まで気づいていなかったことに気がついてしまう。

 

(……奴との格闘戦でついた傷が……再生していな──)

 

 その思考を刈り取るような悟の掌底がマダラの顔面を穿ち吹き飛ばす。

 

 肩で息をし苦しそうに見える悟は、呼吸を整えながら口を開いた。

 

「当然だ……忘れたのか? アンタ自身、その肉体も魂も……うちはマダラの僅かな分裂体であるという事実は変わりない。 ()達と同じで……普通より寿命は長くないってことだ。

 

 いくら生命エネルギーに富んだ柱間の細胞を取り込んでも……根本的なそれは短い。 今の ()の力はチャクラで繋がった……そのお前の寿命を削り……蝕むことが出来るんだ」

 

「な、なんだと……?」

 

 周囲に漂う粒子のような悟のチャクラは、拳打に練り込まれ打ち込まれるチャクラは……マダラの寿命すらも削っていた。

 

 その事実に気がついたマダラは一気に焦りを見せる。 悟を倒した後にも……世界を完全に無に帰すためには少しは時間を要するかもしれない。

 

 その僅かな時間さえ……目の前の敵に奪い去ろうとされているのだ。

 

 ……焦りからマダラが印を結んだ瞬間、悟の瞳に鋭い光が宿る。

 

 極まった領域での臆したマダラの印を結ぶという行動は……只の隙でしかなかった。

 

 その瞬間、悟の肉体から4体の……()()()()()()()()()()()

 

「輪墓・辺獄だと!?!?」

 

「当然だ、()()()だからな」

 

 マダラは驚愕しつつも、自身の残りの輪墓の分身体を対処に出す。 そのまま自身は結んだ印の術を発動しようとするが……

 

 地面に手を着いたマダラの近辺で何かが変わることはなかった。

 

 不発……その瞬間、悟は朱い光をに見纏い上空へと飛び去っていく。

 

「っ……口寄せによる時空間移動が不発しただと……!? それにあいつは一体……何を考えている……」

 

 マダラは残された悟の輪墓の分身体を己の分身体と共に駆逐していくが……逃走用の術の失敗と、逆に空へと昇っていく悟の意図を読み取れずにいた。

 

 

 

──闇夜を縦に裂くよう、朱い流星が空へと昇る。

 

 

 どんな飛翔体よりも早く、速く……それは雲を越え、星と宇宙との狭間へとたどり着いた。

 

 輝いていた朱い光が一度収まり……その狭間は闇の様に暗闇を抱く。

 

 

 

(そろそろ夜明けが……〈暁〉が近い……)

 

 

 

 動きを止め宙に漂い瞳を閉じていた悟は視線を地平線の先へと向ける。

 

 そこには後数分後には地表を照らす……太陽が光を伸ばし始めていた。

 

 その光を浴びた悟は……今一度、より明るく濃い朱い光を身に纏い

 

 地表に向け加速を始めた。

 

 

 地表では数の有利によって、マダラが何とか悟の輪墓の分身体を消し去るもより一層重いチャクラの重圧がのしかかることで

 

 己の危機を悟った。

 

 その肌に感じる重圧にマダラは冷や汗を垂らし……悟の動きの意図を汲みとった。

 

「なるほど……奴の振りまくチャクラの粒子が、時空間への繋がりを断ち……そして己の限界の速さによって俺に回避する選択肢を取らせないといったところか……」

 

 そう、悟の狙いは柱間の再生力を持つマダラを消し飛ばすほどの一撃。 時空間忍術に全く適性の無い悟のチャクラが周囲を漂うことで口寄せの類を防ぎ……そして空からの一撃はは速く、早い。 下手に回避の行動を取れば、無防備なその行動の隙をついて必滅の一撃が繰り出されることは明白であった。

 

「同じ眼を……いや、今や死門によって動体視力は奴の方が上だろう……躱すことも不可能か……であれば」

 

 

 マダラは手を空で朱く輝き己に向け飛翔する悟に向け掌をかざし、4体の輪墓の分身体を差し向ける。

 

 

 それぞれが完成体須佐能乎を展開して、悟に向け突撃する。

 

「向かい打つしかあるまい」

 

 

………………

…………

……

 

 

 それは朱い流れ星。

 

 閉じられた運命を開く、新たな兆しの暁。

 

 数百の世界を経た先の……たった一度だけ落ちる希望の雷。

 

 

 一度の衝撃波ではその落下の速度を緩めることはなく、二度三度の輝きと衝撃で遠くにいる地表の観測者から辛うじてその鈍りを感じ取れる程度。

 

 

 

 四度目の衝撃を経て、雷は縦へと回る。

 

 

 

 最後の衝撃に備え、向かい打たんと同じ空へと飛び立ってきているその仇敵……その敵を穿つための渾身の踵落としが放たれた。

 

「「八門遁甲の陣・六道暁ノ天雷っ!」」

 

 その踵落としは、構えられていた完成体須佐能乎の二刀の大太刀を優に砕きそのままその頭上から股先までを一直線に光の如く貫く。

 

 悟と共に青黒い須佐能乎を纏ったマダラが、完成体須佐能乎の身体から飛び出し地表に向けグングンと落ちていく。

 

 

「ウオオオオオオオっ!!!!」

 

「ヌオオオオオっ!!!」

 

 

 渾身の力を振り絞る2人。 その叫び声は互いに譲る気など微塵もないことを物語り、片や確実に殺すため、片や確実に死なないため……世界に轟く。

 

 

 マダラが直接持っていた顕現された太刀もヒビが入り砕け散る……そして悟の踵がマダラのクロスする両腕に接触した瞬間。

 

 

 

 その流れ星は地面へと衝突した。

 

 

 

──類を見ない衝撃と共に、地面が大きく陥没する。

 

 

 

 音も振動も……まるで星そのものが揺れていると錯覚させるほどであり、その中心に位置する部分は段を経て陥没を続ける。

 

 命の叫びが木霊し、吠える。 もはや並大抵の隕石の落下をも越えるクレーターの形成に携わる2人は……互いに血を流していた。

 

 悟の蹴りが段々とマダラの手甲を砕き、その肉に到達し、そして骨へと至る。

 

 あと僅か、あと少し

 

 そんな中

 

 

 

 朱い光は急速に光を失っていく。

 

 

 

「クックククク……貴様の負けだ、黙雷悟ゥっ!!!!」

 

 その一撃によってマダラの右腕が砕かれ、左腕へとその矛先が到達した瞬間。 マダラは勝ちを確信して叫ぶ。

 

 腕にかかる負荷も、漂うチャクラも……全てが急速にその色と力を失っていくその様子は

 

 

──悟の限界を示していた。

 

 

 まだ左腕という余力を残した状態のマダラは、己の全チャクラを以て悟を押し返していく。

 

「俺の勝ちだっ!! 貴様の足掻きもここまでだっ!! もはや貴様の攻撃は俺の命には届かんッ!! 精々……残りの力で俺の寿命を削って見せると良いっ!!! だがな……その報復に貴様の近しい者から順に葬り去ってやろうっ!! 例え世界を滅することが出来なくともっ!! この俺に泥をつけた貴様の尊厳全てを踏みにじってっ!! お前を信じた愚か者共に、絶望を送ってやろうっ!!!!!」

 

 心からの歓喜を表すように、血反吐を吐きながら悟への思いを叫ぶマダラ。

 

 その醜態は既に、かつてのうちはマダラからは遠く離れたものと成っていた。

 

 

 次第に力が弱まる悟。 もはや手段など残されていないであろう彼の悔しがっていると思われるその表情をマダラが覗いた瞬間

 

 先ほどまでのどこか神秘めいていた悟の表情は……従来の笑顔を浮かべていた。

 

 目や鼻や口から血を流しつつも、その明るい笑顔。 そして彼がいつの間にか手にしていたクナイ。

 

 もはや己も限界に達し輪廻眼が解除され黒目に戻ったマダラはその光景に、理解をしめすことなど出来なかった。

 

 まるでその瞬間、時間の流れが遅くなるような感覚に襲われマダラは思わず言葉を漏らす。

 

「何を考えている……今更クナイ一つで何が出来るというのだ……っ!」

 

 マダラの問いかけに、悟は飛びきり馬鹿にしたような笑顔を浮かべ

 

「……へっ! 忍びは裏の裏を読めって知らないのか?」

 

 そう言い放ち、おもむろにそのクナイを己の腹部へと突き立てた。

 

 その瞬間、マダラの眼前の悟は

 

──煙となって消え失せてしまった。

 

 

 

 

 悟が居なくなったことで、大きく腕を空振り態勢を崩すマダラ。

 

 まるで()()()のように消え失せた悟の存在に、マダラは完全に呆然とし呆ける。

 

 八門遁甲の陣まで使った先ほどまでの悟が、分身であった可能性など考慮していなかったマダラが精神的に虚を突かれたその瞬間。

 

 

 

──マダラの背後、クレーターとなった瓦礫の一部が煙をあげる。

 

 

 ボフンッと音を立てたその気配に、マダラが振り向けば──

 

 クレーターの斜面を沿うように黙雷悟がマダラ目掛け飛び込んできていた。

 

「何……だとっ!?!?」

 

 変化の術で岩に隠れていたであろう悟。 彼の完全な不意を突くその行動は、マダラでさえその戦闘思考の流れを止める。

 

 

 悟の右手には、黒い球体のような物が携えられており……その螺旋丸のような忍術が放つプレッシャーは先ほどの悟が放っていたそれと同等のものであった。

 

 

 しかし

 

 

 ここまで来てマダラは、なおもその思考を完全に放棄することはなかった。

 

 完全な不意を突かれ、もはや悟の攻撃を避ける力も残されてはいない。 しかしマダラには彼に蓄積された経験と言う名の知識の結晶があり、それは彼を突き動かす。

 

(まだだっ!! 先ほどまでのアイツは影分身なのだと無理やりにも納得すればいい。 だとすれば、今の奴が放とうとしている術も影分身を解除したことによるチャクラの還元によるものっ!! 八門遁甲の陣とあの特殊な状態のチャクラを引き継いでいる以上、奴本体もあの一撃を最後に……身体が還元に耐えきれずに崩壊するはずだ。 あの術がどれ程強力なのかは写輪眼を発動できなくとも、肌に感じるチャクラで察せられる。 もはや、完全に避けることは不可能だが……)

 

 マダラは何とか体のダメージを無視して飛び込んでくる悟へと体を向ける。

 

 右腕は先の攻撃で砕かれ使い物にならないが、左腕はまだ動く。

 

 悟の攻撃は、ほぼ落下に合わせた螺旋丸のようなものでありマダラに取って軌道を読むこと自体は容易であった。

 

(死に行く奴に下手に本体を狙ったカウンターをする必要などない……っ! 直撃さえしなければ、俺の身体全てが吹き飛ぶことなどないっ!! 例え余波で半身が吹き飛ぼうととも……死にさえしなければ、時間さえかければ、俺の再生力で幾らでも回復して見せるっ!!)

 

 マダラは、悟の様子にも目が行っていた。

 

 その眼から、口からは血が垂れている。 間違いなく、この一撃が最後なのだとマダラは確信する。

 

 

 そして

 

 

 マダラの左腕が、その掌が……眼前へと迫る悟の黒い忍術を支える右手首を捉え……

 

 

 

 

 

──空を切った。

 

 

 

 

 

「ハッ?」

 

 悟の手首を引き、術を地面に激突させ空振りさせるマダラの作戦は……その右手が、()()()()()()()()無に帰す。

 

 

 再度虚を突かれたマダラは、飛び込んできた悟に押し倒され馬乗りにされる。

 

 そして

 

「本命はこっちだ」

 

 悟の振りかざした左手には

 

 

 

 

『八卦・鉄鋸輪虞(てっきょりんぐ)

 

 が携えられていた。

 

 

 瞬間振り下ろされた悟の左手はマダラの腹部を裂き、その腕をマダラの体内へと侵入させる。

 

「っグォっ!? っ……今更体を貫いた程度で、この俺が──」

 

 もはや身体が消し飛ぶこともないと思ったマダラの言葉は……

 

 途中で寸断された。

 

 

 

「封印秘術…………黙雷(もくらい)

 

 

 

「ッ~~~~っ!?」

 

 

 途端、マダラの全身を激しい電流が襲いその動きを完全に縛る。 声すら上げる余地もなく、呼吸すら出来ないマダラが口を麻痺させ大きく開けた状態で……辛うじて動く眼球は……悟の右肩から先が既に無く、肩口から血を垂れ流している様子を写した。

 

 そして悟は、仰向けになったマダラの上で力なく前のめりに倒れ

 

 

 

 

 父に抱き着くような形でその意識を失った……

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 心地の良い風が吹く草原。

 

 黙の精神世界には、黙と本来の姿をした雷の姿があった。

 

 

 草原の中心に、その葉を青く茂らせた木の下で……その幹に寄りそうに2人は並んで座っていた。

 

 ふと周囲に目を向ければ、その陽気な空間とは一線を画すように……空間に黒い穴が点々と広がっていっている。

 

 異様なその光景を視界に納めつつも……2人の悟は落ち着いていた。

 

「これで……全部終わったんだ。 ……本当にありがとう、雷」

 

「ああ、お疲れ様……黙」

 

 感傷に浸るように、互いに労いの言葉を掛け合う。

 

 すると……

 

 

 

 黒い空間の裂け目から……上半身だけのマダラの精神体が乗り込んできた。

 

 もはや何をすることも出来ないそのマダラの来訪に2人は驚くこともなく立ち上がる。

 

「……何故だ……何が……」

 

 自分の状態を把握できていないのか、マダラはブツブツと疑問を口にしていた。

 

 そんな彼の精神体に近づいた2人は彼に声をかける。

 

「確かに……父さん、貴方は僕たちよりも上位の存在だったかもしれない。 力も経験も……戦闘技術も。 けれどね、逆に僕たちだけにしかないものだって幾らでもあるんだ」

 

「アンタを()()()()()()()に……本体と影分身は既に入れ替わっていた。 まあ、全力でほぼ全てを割り振った影分身だが……そいつにこれで傷をつけておいたんだよ」

 

 そう言って雷は……現実で使っていたクナイを精神世界で再現して召喚しマダラに見せつける。

 

「このクナイには()()()()を記してある。 影分身の制限の解除……封印の書に記された、二代目火影の術の一つをな……」

 

「どれだけ影分身が傷ついても……もう一度そのクナイで傷をつけるまで解除されることがなくなる印さ。 そして勿論、ほぼすべてのチャクラを使った影分身だから……本体と同等の力と可能性を秘めていた。 追い詰められれば、覚醒もするし……傷もつく。 そして……僕たち本体は陽動の影分身に紛れることで完全に貴方の感知の、意識の外へと逃れ手ごろな岩に変化することが出来た。 戦闘が激しかったおかげで違和感なく岩に変化できたよ」

 

「ま、右肩バッサリとやられた状態で岩に変化して忍ぶのは……かなりきつかったけどな。 おかげで、忍びの神と同等のアンタを騙せたんだ……やる価値はあった」

 

「そして最後、僕たちは貴方に深く接近しさえすれば良かった。 封印秘術・黙雷(もくらい)は……僕らが生み出した、僕らだけの術だ。 自分の身体を触媒に、貴方の身体に術式を刻み込んだ。 体内のチャクラを強制的に電流へと変換し……そして自然エネルギーを際限なく集め続ける術だ。 それを互いの身体に刻んだんだ、幾ら柱間細胞に完全に馴染んでいる僕ら親子でも……いずれ許容量を超える。 この使い方なら封印術の制御はもう必要ない……」

 

「そして輪廻眼……写輪眼すら使えなくなったアンタ相手でも油断は出来ない。 だからこそ、最後の隙を作る為に影分身から還元された莫大なチャクラを使って()()()()で右腕を再現して見せたのさ。 ……世界一贅沢な分身の術だと思わないか?」

 

 クックックと笑って見せた雷の様子に黙は少し呆れた様子を見せた。

 

 もはや封印術を止める術もなく、現実世界ではマダラと悟の身体は自然エネルギーの超過によって樹木へと変貌してしまうだろう。

 

 そんな結末を前に……マダラは小さく笑って見せた。

 

「フフ…………子ども騙しに……してやられるとはな」

 

 気の抜けたような表情を浮かべるマダラに、黙はしゃがみ込んで顔を近づけ声をかける。

 

「……貴方は……貴方の魂は既に限界に近かった。 例え穢土転生体とはいえ……無限のチャクラを得るには何か代償が必要なはず。 きっとそれは……『魂』だったんだ。 肉体よりも寿命の長い魂を糧に……穢土転生体はチャクラを得ていた。 つまり、マダラの分裂体で長く穢土転生体で居た貴方の魂の寿命は……既に尽きかけている」

 

「……何故それを……」

 

「今の貴方よりも、幽鬼のように狂った貴方を知っているからさ。 ……未来、輪廻転生で生身の身体を得ても黙雷悟()を見つけられなかった貴方は、自分が木の葉に僕を預けたことさえも忘れ……亡霊の様に漂い……そしてただ血の繋がりだけを感じて、僕の元に来ていたんだろうね。 でもそんな数百と繰り返された悲劇も終わりさ」

 

 黙はそういうと……マダラの身体を抱え……強く抱きしめた。

 

「もう終わりにしよう。 貴方も……黙雷悟ももうじきに終わりを迎えるんだ、全ての運命が……元へと戻る」

 

「…………」

 

「さよなら……父さん」

 

 黙の言葉を最後に、マダラはその姿を霧のように鈍らせ……黙の精神世界から姿を消した。

 

 その霧を最後まで見つめ、空を見上げた黙の頬を一筋の涙が伝っていた。

 

「……さて、マダラと俺たちの身体が完全に樹木になるまで……もう少し時間があるな……どうする?」

 

 少し間を開けて黙へと語りかけた雷。 黙は涙を拭いながら……笑顔を雷へと向けた。

 

「もう……運命も、使命も……何もないんだ。 最後くらい素直に()()と楽しく話していたいな」

 

「おうっ!! もちろんだ、話したいことも……聞きたいことも沢山あるんだ」

 

 そう言って……2人は互いに歩み寄る。

 

「ありがとう、黙雷悟。 君のおかげで……僕の輪廻は終わりを迎えた」

 

「ありがとう、黙雷悟。 お前のおかげで俺は、誰かの役に立てた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして互いに握手をして2人は──

 

 

 

 

 

 



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最終話:まだ見ぬ明日が続く未来

──口寄せの術!!!

 

 突如として忍界大戦の爪痕残るクレーターに巨大な術式が展開され、複数のボフンという効果音が響き複数の人影が異世界から呼び戻される。

 

「あ゛ぁ~~~っ!! ……ってあれ、ここってば……?」

 

 何やら叫びながら召喚されたうずまきナルトだが自、身が見ていた景色が一変したことで状況を確認するために慌てて周囲を見渡す。

 

 するとクレーターに展開された術式の円の外周に沿うように、穢土転生体の歴代火影たちと魂だけ呼び出された各隠れ里の歴代の影たちが地面に手を着いている様子が見て取れた。

 

 そんな彼らの姿の中からナルトは自身によく似た金髪の人影にカグヤとの死闘を経た緊張感を和らげる。

 

「父ちゃんっ! まさか父ちゃんたちが俺たちを……っ!」

 

「お帰り……ナルト、よく頑張ったね」

 

 ナルトの様子にミナトもまた安心感を示すかのように柔らかな笑顔を浮かべていた。

 

 そんな再び父とまみえることが出来たことにナルトだが、ふとナルトは何かに気がついたように周囲を再度見回した。

 

 それと同時にナルトと同じく帰還を果たして自身らが口寄せの術でカグヤの異世界から呼び戻されたことを把握していたサスケも、何かに気がついたのか周囲を気にする様子を見せていた。

 

「どうかしたの……サスケ君?」

 

 激闘を経て身なりもボロボロになっている春野サクラはそんなサスケの僅かな様子の変化に気がつき心配そうに声をかけると

 

「…………いや、今……気にすることではないようだ」

 

 サクラからの言葉にそうサスケは素っ気なく返事をし、話を進めるためか宙に浮かんでいる六道仙人・ハゴロモへと目線を向けた。 そんなサスケの動きに釣られ、サクラとはたけカカシもまた六道仙人を視界に捉えると眉をひそめた。

 

 周囲の歴代の影たちよりもより珍妙な姿の人物が胡坐をかいて宙に浮いているのだ、しかし

 

「カカシ先生……私、余りにも激動の連続でちょっとやそっとのことで驚かなくなったみたいです……」

 

「サクラ…………俺もだよ」

 

 平時であればツッコミや驚きの1つでも上げているであろう2人だが既にそんな体力もないサクラらは一応()()が周囲の仲間にも見えていることを確認するだけに留める。

 

 然しものカカシも大戦を戦い抜いた戦闘の疲れが押し寄せたのかとびきり大きなため息をつきつつも、その手に持っていた戦闘で使用したであろう折れたチャクラ刀を簡易的に背に掛けた鞘へと戻して肩の力を抜く。

 

 すると宙に浮くハゴロモはそんな彼らを満足気に一瞥すると、落ち着いた声で感謝の言葉を述べ始めた。

 

「良くぞ生きて戻って来たな。 見てわかる通りお前たちを呼び戻すために、浄土から呼び寄せた歴代の五影の皆で口寄せの術をしたのだ。 ……ナルト、サスケ、サクラにカカシよ(みな)……よくぞ世界を救ってくれた」

 

 そんなハゴロモからの言葉に、サスケやサクラ、カカシが自分たちが成し遂げたことの実感を得て思い思いの反応を示す。

 

 先程まで現実離れしたカグヤとの戦闘が夢ではなく、その戦いに勝利したのであると。

 

 しかしそんな中でナルトは相変わらず周囲を気にする様子を見せ続けていた。

 

「ナルトよ……」

 

 脅威は全て去ったと理解しているハゴロモがそんなナルトの名を呼ぶと、ナルトは自身の中の疑問を確認するためにハゴロモへと目を向ける。

 

「六道の大じいちゃん……ちょっち聞きてーことがあんだけど……」

 

 ナルトは未だ不安そうな表情のまま、彼が納得の行っていない様子である()()()事情を知っているであろうハゴロモへと問いかけようとしたが、しかし

 

「ナルト、()()()()は今は黙っていろ」

 

 そんなナルトに対して、サスケは咄嗟に彼の肩を掴みその発言を止めさせた。

 

「っ…………分かったってばよ」

 

 サスケの行動にナルトが何でだと喰いかかろうとするも先ほどのサクラとカカシのように認識を共有させたように、つまりナルトの感じる()()をサスケも分かっている素振りを見せたということの意味は……ナルトの中でその疑問を解消させるのには充分すぎる情報量であった。

 

「……?」

 

 サクラとカカシがそんな2人のやり取りに疑問符を浮かべるが、二人のやり取りを見たハゴロモはサスケの意思を汲んでか話題を変えるために目線をカカシへ向け言葉を投げかけた。

 

「お前がはたけカカシだな……よくぞ己が父を越え、その意志を引き継ぎ……皆を導いた。 忍びの祖と謳われたワシが言うのもあれだが、我が母を封印するに至ったお前の功績は正に神の御業よのう」

 

 突然のハゴロモからの言葉にカカシは、ナルトとの会話からも推測しその人物が『六道仙人』であることを理解し少し姿勢を正しながらも返事をする。

 

「えっと……いえ、私はほとんど何もして……いや、そうじゃないな。 ……はい、皆が居たからこそこの結果に至ることが出来たのだと思います。 当然俺一人の貢献なんて微々たるものですが……そんな微々たる俺を支えてくれる、支えてくれた仲間の存在は欠かせないものでした」

 

 カカシはハゴロモからの労う言葉に、謙虚にしつつもその功績に関わった全ての存在に感謝の意志を表明した。

 

 自分たちだけでなく、連合の忍び……尾獣……多くの存在の繋がりが無ければ忍界は崩壊していたことは間違いないのだから。

 

 そんなやり取りをしている傍で、サスケに発言を止められたナルトは彼の考えを汲み取った後、表情を明るくして見せて傍に並び立っていた尾獣たちに手を振り声をかける。

 

「おーいっ!! 皆ァ!! 九喇嘛ァ!! 無事でよかったってばよ~~~っ!!」

 

 大声で叫び無邪気に九喇嘛の前足の指に飛びつくナルトに九喇嘛は照れ隠しで叫ぶ。 

 

「でけー声ですり寄ってくんじゃねぇっ!! ワシの半分はそっちに入ってんだからいちいちくっつくなァっ!!」

 

 溢れんばかりのうれしそうな声と照れ隠しに大きくなる声がクレーターに木霊する。

 

 そんな鬱陶しそうに前足を軽く振りながらナルトを引きはがそうとする九喇嘛に、彼らを眺め微笑ましく笑みを浮かべる尾獣たち。

 

 一部の尾獣からからかわれる九喇嘛が威嚇するように歯茎を向きだすも、そこから感じられる覇気には復讐の権化たる彼の威光など微塵も感じられはしなかった。

 

 そんな和気あいあいと先ほどまで彼らが成していた死闘を忘れさせる雰囲気になりつつも、その疲れは現実のものであり限界を迎えたようにカカシは大きくふらつきサクラに支えられる。

 

「っ! 大丈夫ですかカカシ先生!? 突然ボーとしてっ……」

 

「っ……ああ、サクラすまない。 ちょっと友人と()()()()()()()ところだ」

 

 元七班の中でも、一番疲労困憊の様子のカカシはその瞳を既に扱うことが出来ないハズの写輪眼から彼本来のモノへと変化させつつ笑みを浮かべて見せた。

 

 カカシの様子にサクラも何かを感じたのか意図を汲んだかのように口を閉じる。

 

 サクラに支えられながらもカカシは地面へと腰かけ、明るくなりかけている東の空に目線を向け……新たな決意を胸に抱いた。

 

(ありがとうオビト……お前が、昔のお前を取り戻してくれたことで……俺はこの先も光を見失わずに済みそうだ。 もう心配する必要はない……リンと2人で……暫く待っててくれ。 俺はもう少し……皆とこの世界を良くしていけるよう頑張ってみるよ)

 

 瞳に僅かな涙を浮かべ……カカシは明け方の空を眩しそうに眺めていた。

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 

「柱間……か」

 

「……うむ」

 

 

 彼らから少し離れた位置で横たわる、うちはマダラと千手柱間が静かに言葉を交わす。

 

 カグヤに取り込まれていたマダラもまた口寄せで異世界より戻ってきており……十尾の人柱力となったその力の源が既に内にない状態で口を動かすのもやっとの様子であった

 

「お前も俺も……結局望みを叶えることは……出来ないものだな」

 

 そんな自嘲気味な乾いた笑みを薄っすらと浮かべるマダラ。 彼の夢の到達点は自分が他者に強いたように、利用されて終わるという幕切れでありそのことを一番みじめに感じているのもマダラ自身である。

 

 柱間はそんな彼の傍に胡坐衣をかいて座り込む。

 

「当然だ、俺たちが一生に出来ることなどしれている。 だからこそ、託していかねばならぬのだ。 それなのに全く……お前と言う奴は……」

 

「ふっ……相変わらず……だな柱間。 相変わらずだが……その考え……は楽観的なだけでは……案外……ないのかもな」

 

「……世に絶対などない、だがなマダラ。 己1人で行くのではなく、後ろをついて行く者を育てることこそ……未来を作る方法だと俺は思うぞ。 お前にもそういう選択肢があったはずであるのに……」

 

「……俺には無理だ。 昔から後ろに立たれるのは嫌い……だったから……な」

 

「呆れた奴め……なら、傍に立つのなら良いだろう。 今や、お前も……俺ももう互いに死ぬのだ……ただの友として……共に居ようぞ」

 

「……フフ、友か……そう……それ……ならな。 共に……夢……」

 

 十尾の人柱力と成り、その十尾が消えた今マダラのその命の灯は消え去る。

 

 傍で最後までそんな彼を友として扱い、看取った柱間は静かにマダラの顔を見て顔を伏せていた。

 

 穢土転生体は涙を流しはしない。 柱間もまた涙を流す姿など見せる男ではない。

 

 だが確かに、その背にはただ友との別れを悲しみ涙する1人の男のものであった。

 

 

 

 

「……友」

 

 そんな2人のやり取りを遠目で見ていたサスケは思うところがあるのか小さく呟く。

 

 するとハゴロモが

 

「それでは皆の衆……全ての穢土転生の解術を今からワシが行う。 ……最後の言葉を交わすと良い」

 

 そう言い……ゆっくりと印を結び始めた。

 

 

 

 ハゴロモの言葉にナルトはハッとし、じゃれていた九喇嘛から離れ尾獣たちから見送られながら……父、ミナトの元へと急いで駆け寄る。

 

 傍に駆け寄ってきたナルトに対して、ミナトは陽のように優しい笑顔を、父としての顔を見せ迎える。

 

「父ちゃん!……俺ッ」

 

 どうにか話を切り出そうとするナルトだが、慌てる彼に対してミナトはゆっくりと落ち着かせるように、この時間を噛みしめるように口を開く。

 

「ナルト……君に言わないといけないことは山ほどあるが……そうだね、まずは

 

 

 

──誕生日、おめでとう」

 

 

 

 ミナトの言葉と共にゆっくりと朝日が顔を出し、まるで祝福するかのように親子を照らす。 親であるミナトから、生まれて初めての誕生日の祝いの言葉をかけられ……ナルトは……

 

「うん……サンキュー……」

 

 寂しさを隠すように、表情を引き締めていた。 内にうずまく感情に大げさなナルト自身も、その表現の仕方を分からないでいた。

 

「……俺たちは外法の存在だ、何時までも穢土にはいられない。 だからこそ……親である俺から……もう1つお前にこの言葉を送らせてくれ

 

 

──生まれて来てくれてありがとう」

 

「ッ゛……!」

 

 ミナトからのその言葉にナルトの感情は螺旋の如くあふれ出そうになる、

 

 母クシナのチャクラとの邂逅を果たしたときにも言われた()()()()に……ナルトはついに我慢が出来ずに顔をクシャクシャにしつつも、涙だけは零さないように咄嗟に上を向く。

 

「俺ばかりこうやって言葉を伝えてクシナに悪いかな……でも土産に……ナルトの事色々伝えておくよ」

 

 ミナトのその言葉の意味を理解したナルトはあふれ出る感情と言葉を抑えようと、嗚咽を交えながらもなんとか言葉を紡ぎ始める。 

 

「っ! そうだ、父ちゃんっ! 俺ってばちゃんと好き嫌いせずにメシ食ってるから安心してくれっ! もちろんラーメンばっかじゃねーよ、友達のおかげで色々なメシが上手いって知れて……以外かもしんねぇけどtちゃんと自分でメシも作ってってし……それからそれから……めんどーだけど身だしなみも気を付けて風呂もほぼ毎日入ってるし、エロ仙人と修行した銭湯にもたまに行ってんだっ! 皆にはカラスのギョウズイとかなんとか言われてっけどっ!!」

 

 ミナトの身体の変化を見て、長くない時間を悟り……ナルトからあふれ出る言葉と涙。

 

「えっとえっと……まだまだ言いてぇーことがあんだけど……勉強とか上手くいかなくても教えてくれる奴がいたし……カカシ先生やイルカ先生……三代目の言うこともちゃんと聞いてたぞ!! 俺ってば皆のこと心から尊敬してんだっ!! んでんで、忍びの三禁ってやつは母ちゃんにエロ仙人と一緒に気をつけろって言われたっけか……エロ仙人は三禁についてダメダメっぽいけど、それでも師匠としても……名前をくれたことについても感謝してるんだってばよっ!! 帰ったら、気をつけながらそこんところエロ仙人に聞かねーとなっ!!

 

 

 とにかく……かーちゃんの言いつけ全部を上手くできてるわけじゃねーけど……

 

 

 最っ高の友達がいっぱいいるんだっ!!」

 

 感情の渦を、言葉として吐き出す中……ナルトの言葉にミナトは

 

「ああ、知ってる……お前の友達は……最高だよ」

 

 ……少しだけ悲しそうな顔を見せた。

 

「っ……やっぱ……いやっ!! そんで夢だってちゃんとあるんだっ!! 父ちゃんたちを超す火影になる!! ぜってーなるからよっ!!!」

 

 既に穢土転生体たちのその姿は魂だけで体は塵となり……朧気に漂っていた。

 

 まだまだ、まだまだ……言いたいことは山の如く、川が溢れるが如くある。 それでもナルトはついに涙地面にボロボロと零しながらも……最後の言葉を精一杯選び伝える。

 

「あっちで母ちゃんにも伝えてくれ……俺のこと心配しなくても全然大丈夫って……そんで

 

 

 父ちゃん、母ちゃん……俺を産んでくれてくれて……俺を、皆と……合わせてくれてぇ……

 

 

──あ、ありがとうっ……う゛ぅ……ッ」

 

 見送る父に情けない姿を見せたくないと思いつつも……溢れる涙はもはや止まらことを知らず、ナルトは肩をすくめつつも必死に拳を握り父を見据える。

 

『全部全部……クシナに伝えておくよ……ありがとう…………ナルト』

 

 ミナトからの優しい声色の声に……ナルトは最後に目を大きく開けその魂が天に昇って行く様を見つめ大きく手を振る。 涙も鼻水も、洪水のように垂れながらも……それでも両手で大きく、ひたすらに。

 

 天へと昇っていく穢土の者たちの魂たち……その中からサスケは志村ダンゾウへ目を向けた。

 

 言葉を交わすことがなくとも、戦争の途中からダンゾウは己の意志でマダラたちと戦っていたことをサスケは知っている。 兄の最大の仇と言えるダンゾウに対し、サスケは……ほんの少しだけ軽く会釈をして背を向けた。

 

 サスケの行動にダンゾウは大きく目を見開きつつ、隣にいる猿飛ヒルゼンに砕けた口調で語りかける。

 

 

『……ヒルゼン』

 

『……どうした、ダンゾウ』

 

 天に昇りつつサスケの背に目線を送るダンゾウに、ヒルゼンは彼の胸中を察した。

 

『俺は…………間違っていたんだな』

 

『何を今更……だがそう言うならワシら……いや()()()()()()()()()()、だろう?』

 

『……ヒルゼン』

 

 ヒルゼンもまた昔の口調でダンゾウへと語りかける。 

 

『生きているうちに友として……話すことは出来なかったが……あちらで存分に語ろうじゃないか』

 

『……ああ』

 

 

 そして全ての穢土転生体の火影たちは……その魂が穢土から消えたことで、その体を構成していた塵芥からゼツがはい出し……その体を樹木へと変えた。

 

 

 ……周囲が明るく陽に照らされ始めたところ、尾獣たちは思い思いに今後の事を語り合う。

 

 自然に戻る者、故郷へ戻る者、そして……離れた相棒の元へ戻る意思を示すもの。

 

「守鶴、オメェーが素直に人柱力の元に戻ることを選ぶとはな」

 

 守鶴のひょんな宣言に驚きを露わにする尾獣たち。 彼を知りものならそのプライドの高さから、その選択をすることの重さが感じ取ることが出来る。

 

 そんな言葉に驚きを露わにし思わず思っていたことを口にした牛鬼に対して守鶴は、照れ隠しのようにその鋭い視線を向けた。

 

「黙ってろ牛鬼ィ……っ! 早く我愛羅んとこに戻ってやんねーとアイツがおっちんじまうから仕方なくだな──」

 

「ケッこれだから狸は、何かと理由をつけてうだうだと……」

 

「うっせーぞォクソ狐がっ!! 陰陽分かれてまで人柱力と繋がってるてめぇと大差ねぇーだろーがよォっ!!」

 

 がやがやと言い合う彼らの様子を眺めるハゴロモはそんな自然体である昔と変わらない尾獣たちの様子に笑みを浮かべた。

 

「なに、皆のチャクラを持つナルトを介せば……いつでも繋がり意思疎通ができるはずだ。 九喇嘛よ、寄り合い所の管理役としてナルトの中にこれからも居てやってくれないか」

 

「……ま、じじいがそう言うならしかたねーけどな」

 

 ハゴロモからの言葉にすんなりしたがい、いそいそとナルトの中に戻ろうとする九喇嘛。 その様子に守鶴が口から小さく風遁を飛ばして吠える。

 

「てめぇも何かと理由づけてんじゃねぇかっ!! じじいからの言葉だからって素直に聞きやがってっ!!!」

 

「ッ黙ってろクソ狸っ!!!」

 

 中指を立て罵り合うそんな彼らの様子を見て、父との別れを済ませたナルトは落ち着き涙を拭き、笑顔を見せる。 

 

 ナルトが落ち着いたことでハゴロモはサスケとナルトを視界に入れてかねてからの思いを口にする。

 

「ナルトとサスケよ……我が母との戦いを経て……己の出した答えに変化はあったか……?」

 

 ハゴロモはナルトとサスケに問いかける。 その言葉の意味についてサクラもカカシも何のことかわからずに仕方なく聞く立場に甘んじる。 そしてナルトとサスケ、2人は真剣な表情を浮かべ

 

「答えは変わんねーよ、大じいちゃん」

 

「……俺もだ」

 

 はっきりとそう述べた。

 

 その返答に……ハゴロモは知っていたかのような表情で目を閉じ

 

「そうか」

 

 一言呟いた。 そして仕切り直すかのようにハゴロモはこの先するべきことの確認をし始める。

 

「さて……では残るは無限月読の解術のみだな。 ナルト、サスケよ……後は尾獣全てのチャクラを持ち、輪廻眼を有するお前たちが互いに子の印を結びさすれば術は完全に解ける。 ……それで最後だ」

 

 そうハゴロモが述べると、サスケは彼らに背を向けおもむろに歩き始めた。

 

「サスケ君……?」

 

 サスケの行動を不審に思ったサクラは彼の名を呼び、カカシもそのことに気がつくが…… 

 

 その彼の背に続くようにナルトも歩き始めていた。

 

「……どうした、2人とも……無限月読の解術は……っ」

 

 すぐにでも解術が行われるとふんでいたカカシが困惑する中、ナルトが振り向き……サムズアップをして見せる。

 

「……まだやることと……確かめたいことがあんだ、カカシ先生。 少し時間がかかるっけどもちゃんと全部やっから……2人はゆっくりここで待っててくれねぇーかな」

 

 そう言って見せたナルトは目線をハゴロモへと移す。

 

「大じいちゃんも。 兄弟げんか……終わらせてくっから安心してくれ」

 

 ナルトからのその言葉にハゴロモは…… 

 

「ああ、親であったワシからは……もはや何も言えぬ……もうじき消えゆくが、それでも不思議と……安心感を覚えている己がいる。 2人とも……どうなろうとも……達者でな」

 

 そういい彼らを見送る。

 

 彼らの行く末がどうなるか……ハゴロモには分からない。 例え……幾多の輪廻の記憶の一部を持とうとも……ここにいる2人はそのどの記憶からも大きく違っているのだから。

 

 訳も分からずにこの場から去ろうとするサスケとナルトにサクラは

 

「ねぇっ!  ちょっと……置いてかないでよ……何かわけがあるならちゃんと……っ!」

 

 2人が止まらいことを心で理解しつつも……なんとか声をかけ駆け寄ろうとする。 すると

 

 

「……サクラ。 待っていてくれ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 サスケは……優しい表情を浮かべそうサクラへと語りかけ

 

 写輪眼による幻術で彼女を眠らせた。 勢いそのままで倒れそうになるサクラの身体をサスケが支え地面に座っているカカシのすぐ傍に寝かせる。 そのカカシにはもはやナルト達を追いかける体力は残ってはいないため、彼らを信じ……黙って見送る。

 

 一連のサスケの行動にナルトが思わず口を開きそうになるが

 

「……サスケお前──」

 

「黙ってろナルト。 それよりも、お前は尾獣たちは連れて行く気はないのか? 俺は別に構わないぞ」

 

 問いかけに応える気はないと背を向けサスケは話を進めようとする。

 

「……ああ、皆を巻き込むのは──」

 

「オイ、ナルト……ワシはお前の中に戻るぞ。 じじいに言われたんだ、問題ないだろうサスケ?」

 

 九喇嘛は何となくこの先の2人の行動の意図を汲み取り……ナルトについて行くことを宣言する。 

 

「ああ、構わないといったはずだ……さっさと行くぞ」

 

 九喇嘛の同行を許したサスケは時間を惜しむが如く、その場から駆けだした。

 

 そして九喇嘛とナルトが拳を合わせることで、九喇嘛は煙を上げ姿を消し……彼もまたサスケの後を追い姿を消す。

 

 残されたカカシとハゴロモは互いに言葉を交わす。

 

「2人のやり取りを見て……何となくだけど分かりましたよハゴロモ様。 初代様とマダラ、三代目とダンゾウ、そして俺とオビトのように……アイツらにはアイツらだけの繋がりがある。 きっとそれを今から確認しに行くのですね……」

 

「うむ……この先の出来事は彼らにとっても重要な事であり……世界にとっても行く先を決める分岐点ともなるだろう。 ワシは個人的にはナルトの考えに賛同を示すがしかし……今のサスケの考えを否定することもできぬ。 あとは……彼ら自身が決着をつけるしかあるまい」

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 ハゴロモやカカシのいる場所から離れた位置、そこには……一際地形が大きく歪んだ場所があった。

 

 地面が隆起し、岩が転がり地面が剥がされたように裏がっている。

 

 そして……一際目を引く、はるかに巨大なクレーターのその縁でナルトとサスケは言葉を交わす。

 

「……滅茶苦茶に、スゴイ自然エネルギーを感じるってばよ……段々薄れてってるけど、こっちに戻って来て直ぐに気がつくほどに……」

 

「……俺の眼を通して見ずとも……異様なチャクラのぶつかり合いがあったのは明白だ」

 

 2人の視線は、自然とクレーターの中央にそびえる大樹に向けられていた。 異質な雰囲気を醸し出す場違いな大樹はクレーターの中心で悠然と立ちその葉を風に揺らしていた。

 

「…………父ちゃんたちは、ここで何があったか知ってたはずだよな」

 

「当然だ、俺たちがカグヤと戦う以前にこんな痕跡などなかった。 世界が無限月読に堕ちているいま、穢土転生されていた火影たちと六道仙人がここまでの事に気がつかないはずがない」

 

 何があったのか、どんな戦闘が繰り広げられたのか。 卓越した忍びとなった2人には、その現場に立つことで容易にその内容を推察することが出来た。

 

 

 

 

 

「悟か……」「悟だな」

 

 

 

 

 

 同時に一人の名を呼ぶ。

 

「ここには何故かマダラのチャクラも感じるし……悟の奴のチャクラも感じる。 何がどうなってこうなったかなんて全然わかんねーけどよ……悟の存在は近くに感知できねーんだ」

 

「……」

 

「なあ、サスケ……」

 

「ナルト、御託はいい……もう確認は取れた」

 

 サスケは何か言いたげなナルトの言葉を遮ると、その場から背を向け立ち去ろうとする。

 

「オイ! サスケ……」

 

「……これからどこに向かうかは……言わずともわかるだろ」

 

 その言葉を残してサスケはナルトを1人にしてその場から姿を消した。

 

 残されたナルトは再度大樹へと目を向ける。 仙人の修行を経たナルトだからこそ、何となく感じられる感覚がある。

 

 あの大樹は普通ではないことを。 まるで……

 

「……ッ」

 

 ナルトは口を歪ませ、拳を握る。

 

 

(オイ、ナルト……何時までもそうしてるわけにはいかないぞ)

 

 心配そうに、しかし背を押すような言葉を投げかける九喇嘛の言葉にナルトはハッとしたように頭を挙げその顔をごしごしと袖で拭く。

 

「ワリィ九喇嘛……そんじゃ……行くか」

 

 名残惜しそうに……大樹を一瞥したナルトもまた、その場から姿を消すのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 滝から水が落ちる音が大きく響く峡谷、そこに立つ2つの巨大な像の片方の頭上にサスケは目を閉じ立っていた。

 

 すると遅れてナルトが反対側の像の上へと降り立ちサスケが瞳を開ける。

 

「やっぱここかよ、懐かしいな……サスケ。 昔ここでやり合ったな……そういやよ」

 

 感慨深そうに周囲を見渡すナルト。 サスケは遠くを見るような表情のまま口を開く。

 

「あの時とは……俺も、そしてお前も違う。 今は互いにそれぞれ答えを持ち、それを成しえることが出来る力も……互いの掌の内だ」

 

「サスケ……おめぇは……何がしてーんだよ」

 

 ナルトからの問いに……サスケは静かに答える。

 

 

 

 

 

「……革命だ」

 

 

 

 

「っ? 革命……?」

 

「お前も見て来ただろうナルト、今回の戦争でいがみ合っていた五大国は力を合わせ……マダラと戦った。 そして……俺とお前も、カグヤを前に力を合わせる結果となった。 そして……その力は脅威を討ち取ることを可能とした。 俺は今までずっと……平和とは……何か考えてきた。 兄さんが犯罪者と罵られようとも、国と里の為に汚名を背負ったのも……悟が暁に入り天音小鳥を名乗って活動して居たのも。 全ては……誰かに取っての試練となり成長を促す為だったのでないかと。 つまりだ……俺は……

 

 

──革命を起こし、俺自身が世界にとっての()()()()()になり続けることを望む」

 

 サスケから聞かされたその言葉の意味をナルトは受け入れられはずもなく、思わず言葉が漏れる。

 

「っ何言ってんだサスケ……ッ」

 

「俺には兄さんから託されたうちはシスイの眼がある。 それを使い全世界の人間に……潜在的に『うちはサスケは世界の敵』であることを刷り込めば……世界は俺を討つために、1つとなるだろう。 そんな世界を1つにするための革命こそ俺の願いだ」

 

「っ!!! そんなこと……出来るかわかんねぇしっ!! 出来ても俺がさせる訳ねぇだろっ!!」

 

「可能だ。 最強幻術「別天神」は、術がかかったという違和感を覚えさせずに……その者の常識を、認識を書き換えることが出来る。 六道仙人が言っていたような手順で無限月読が解術出来るのであれば、その瞬間俺たちは世界の人間すべてとチャクラで()()()ことになることは間違いない。 その瞬間、ナルト……お前を通して全ての人間に別天神をかけることで……俺の革命は達成される」

 

「……ッふざけんじゃねぇぞっ!!」

 

「……分かっている……お前がこれを許さないこともな。 だがこれが俺の導き出した()()だ。 マダラのように、俺は世界を1つにする脅威となり続ける。 俺という存在を前に些細な争いは消え……人々は共通の認識を持つことで互いを理解し合うことができるようになる。 生まれも、国も、環境も……その認識を前にしては些細なものとなるだろう。」

 

「……そんなことをサクラちゃんにもすんのかよ!? サクラちゃんがどれだけお前のことを──」

 

「サクラには──幻術をかけるつもりはない」

 

「!?」

 

「そして、カカシとお前……尾獣たちも例外に幻術にかけることはしない。 尾獣たちはその力を兵器として利用される恐れがある以上……人々には近づけさせない、そして……唯一お前たちは俺の存在を揺るがすものとして……あえて放置する。 互いに寿命を終える前に俺の革命を覆すことが出来る可能性を持つ存在を許し……それを越えた時、俺が理想とする平和が本当の意味で構築される。 常世の火を影から見守り……闇として火の熱に焼かれながらも世界に有り続ける存在……それが俺が成る

 

 

──火影だ」

 

 自らの思いを言い切ったサスケ。 そして

 

「サクラは……アイツはどうあがいても俺の傍にあろうとするだろう。 ならば、近くで看取ってやるのも……俺の役目だ」

 

 僅かに暗い表情となったサスケに……ナルトが語りかける。

 

「それが……お前の目指す火影なのかよ……サスケ。 自分を犠牲にして、そんで……他の皆が笑ってればそれで良いっていうのかよっ!」

 

「……俺だけじゃない。 同じような事はかつての忍び達が通って来たものだ。 遥か昔から……そして兄さんや悟のようにな……俺はそれを完全に、完璧に成し遂げるまで。 それにだ、ナルト。 お前も俺の考えを完全には否定できないだろう……?  目の前で傷ついている者を、お前は己が傷つこうとも守ろうとするはずだ……それと何が違う?」

 

 サスケからのその指摘に……ナルトは怯むことなく答えを返す。

 

「全ッ然ちげぇよバカっ!! 誰かを犠牲にして……そんで笑ってようなんて誰もおもわねぇよっ!!! 悟だってそうだっ!!! 皆最初っから犠牲になるつもりがあってたまるかってんだ……皆、平和の為に頑張って……そんでも……上手くいかねぇことがある……だからって最初っから犠牲になろうとすんのは間違ってるっ!!」

 

「フッ……かもな」

 

「ッ……! 俺は誰かが犠牲になる世界なんて嫌だっ!! そんでも……この先も、きっとそういう辛いことは無くならねぇかもしれねぇ……でも俺は諦めねぇっ!!

 

 火影になってそんでぇっ!! ちょっとずつでも……皆の思いを繋いで世界を一歩一歩良くしていきてーんだァっ!!」

 

「…………俺とお前の答えは……行き着く先は同じだナルト。 だがお前の方法では遅すぎる」

 

「先も違うってばよっバカ野郎! 俺は、俺も笑っていたいし……皆にも、お前にも笑っていて欲しいっ!! ……今のお前みたいに俺は俺のことも諦めねぇっ!! 父ちゃんと母ちゃんが見守っててくれんのに自分を蔑ろにしちまったら……それは託してくれたみんなの思いを踏みにじっちまうだけだっ!! 1人でやろうとしてもマダラ見てぇになっちまうだけだッ」

 

「だからこそ、お前らを残す。 俺の理想とする世界の……その先の可能性を見出す者の存在を消しはしない。 フン……口で幾ら問答しようとも……やはり時間の無駄のようだな」

 

「っ……ああ、分からず屋の友達は一発殴って目ェ覚まさしてやるってばよっ!!」

 

 ナルトとサスケは互いに……戦闘に入る体勢になる。 互いに己の譲れない信念を抱えていることが分かっている……だからこそ……原始的な方法で白黒つけるのが彼らなりの答えなのだろう。

 

 ふとサスケは互いの境遇の共通点を思い、口を開く。

 

「……俺たちは昔、互いに同じ悟の背を見てきたはず……だが、どうやらお互いにアイツに見出していたものは違うようだな……ナルト」

 

「ああ……そうだな、サスケ。 んでもよ……俺たちは……やりてぇことと、経験してきたこと……色んなもんがちげぇ……全部が全部一緒なわけねぇんだ」

 

 サスケは悟の己の目的に実直で手段を択ばず、そして自己犠牲的な側面を見てきた。

 

 ナルトは悟の仲間を大切にし繋がりを大事にする、そんな博愛的な側面を見てきた。

 

 ……この場に悟が居ればどちらの味方をしたのだろうか

 

 そんな思いが二人同時に過り、そして例え彼がいたとしても自分たちの考え方を変えるつもりは最初からないと二人そろって鼻で笑った。

 

「行くぞウスラトンカチ……これで最後だ」

 

「へっ……ウスラトンカチはそっちだろ……こっから始めんだよ、皆の……思いを引き継いでなっ」

 

 対立の印を同時に結び……

 

 

 片や須佐能乎を纏い、片や六道仙術モードに入る。

 

 

 そして

 

 

 互いの名が終末の谷に木霊した。

 

~~~~~~

 

 

 

 もはやこの忍界は二人の黙雷悟が知っていた知識を越え……ある意味で運命の暁を迎えた。

 

 固定されていたかのように見えた未来に待ち受けていた、マダラによる理不尽な荒廃は阻止され……そして多くの者が生き残り世界を生きていくこととなる。

 

 しかし望みも、願いも……平和も全てが理想通りに続いて行くわけではない。

 

 

 

 それでも……誰かを思う意志は引き継がれ……きっと絶えることはないのだろう。

 

 

 

 黄昏時……クレーターの中心に葉を生い茂らせた大樹から一枚の木の葉が舞い落ちる。

 

 ゆらり……ゆらりと舞い落ちた木の葉が地面へと静かに落ちるのと同時に……

 

 

 

──忍界大戦、最後の衝撃が大地を揺らした。

 

 

 

 そして……

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んがッ……イケない……寝落ちしちゃってた……ふぁ~あ」

 

 木ノ葉の里の日の当たる陽気な公園の景色の中、一人の長髪の女性がベンチでしていたうたた寝から目を覚ます。

 

 ふと気がつけば、豪快に寝落ちし上を向いていた額に木の葉が落ちてきていたようでその感覚が彼女を起こしたのだろう。

 

 そんな彼女は夕焼けを思わせる色合いの簡素な着物に身を包み、しかしその優美な見た目にはそぐわない豪快な背伸びと欠伸をして未だに残る眠気の誘惑を打ち消す。

 

「久しぶりの休みに……陽気な天気だし……ま、寝ちゃうのも仕方ないか~と」

 

 疲れがたまっているのか、その場で軽く柔軟を済ませた彼女は言い訳がましい口ぶりの後、

 

 

 瞬く間にしてその場から跳躍し姿を消した。

 

 

 そして次の瞬間にはその女性の姿は里の孤児院の前に現れていた。

 

 

 

 立て直された跡を見せる小ぎれいな外観からは似つかわしくない古そうな引き戸を開け、彼女は声をかける。

 

「すみませーん。 あの──」

 

 しかしのその声は不意に目の前に現れた、中忍ベストに身を包んだ短い黒い髪を携えた少年の一声で遮られことになる。

 

「母さんなら、今日はこっちにいませんよ……()()()()()

 

「あらっ!! (ハク)君っ!! 久しぶり~っ!! 元気にしてたぁ!?」

 

 着物の女性、日向ハナビは白と呼んだ少年に気がつくといきなり抱き着きその頭をガシガシと撫で繰り回す。

 

 白は突然のハナビからの抱擁に逃れることが出来ず捕まってしまう。

 

「ちょっ! うわッ……っ?! 急に何をするんですか?!」

 

「ほらぁ美少年にあったらこうする礼儀があるってしらないのぉ?」

 

 ロングの髪の頭頂部をわしゃわしゃとされる白が髪型を乱されながらもうっとおしそうに声を挙げる。

 

「どこの常識ですか知りませんよッ!! 父さんも、母さんも今は新しく出来た方の施設に視察に行ってるんで……ッてああ、もうしつこいっ!!!」

 

 白がしつこいと言った瞬間、ハナビに抱きつかれていた白だけが地面に現れた氷の鏡に身を落とすと、少し離れた道路の氷の鏡から姿を現す。

 

 腕の中から白の感触が消えたハナビは残念そうに手を振りながらも、乱れた装いを整える白の方へと振り向き声をかける。

 

「さっすが()()()()()()()ねぇ……あんまり任務で一緒にならないから良く見たことないけど見事な氷遁。 そしてあの強面お父さん仕込みの身のこなしねぇ……貴方が部下に居るなんてミライが羨ましいわぁ~」

 

 一連の動きの感想をしみじみ垂れるハナビに白は髪を整えつつ、鋭い目線を向ける。

 

「貴方がこうやって絡んでくるからミライ先輩の班に入れて貰ったのに……ホントウザい

 

「ちょっ!? ……白雪さんに似た顔でそういう罵倒はやめてよぉ」

 

 本気で鬱陶しそうにする白とその態度にショックを受け若干涙目になるハナビ。 まあ、そう言われても仕方がない絡みをしている自覚があるのか反省する素振りだけを見せるハナビ。

 

 このままでは延々とつき纏われそうな雰囲気を感じた白は話を切り替えるために自ら話題を切り出す。

 

「そ・れ・でっ! 話が進んでないんですけど、母さんに何か用ですか?」

 

 飄々としたハナビの態度に若干こめかみをヒクつかせている白。 流石にからかい過ぎたと感じたのか白は「ごめんごめん」と手に頭を乗せながら軽く謝りつつ用件を話し始めた。

 

「ほら、今日五影会談があるじゃない? それで今日は久しぶりに私も休みだしテンテンさんたちとみんなで夜に会食でもしない~? って誘おうかとねぇ」

 

 ハナビから持ち出された本題の内容に白は考える素振りを見せた。

 

「ふむ……なら今日は諦めてください。 母さんは別の施設の視察に忙しいそうですし、父さんはこの後一日は僕の修行を見てくれる予定って……もう居ない……はぁ……ホント騒がしいフィジカルお化けめ……ミライ先輩はご家族で旅行に行かれているしそうだし……父さんが来るまでは施設の掃除でもしてようか」

 

 話の最中、目的が達せられないと気がついた途端に忽然と姿を消したハナビに、悪態を口にし大きなため息をついた白は玄関の戸を閉めながら今日の予定をボソボソと呟き施設「蒼い鳥」の中へと消えていった。

 

 しかし白のその態度の割には彼の背から悪感情の類は見受けられず、似たようなやり取りを毎日のように繰り返しているかのような慣れか白の表情には僅かな笑みが浮かんでいた。

 

 

~~~~~

 

 

 一方そのころ

 

「青っ!! 春!!! 爆速だあああああっ!!!」

 

 奇妙な掛け声が轟くとある山道。 湯の国へと向かう道中で片足にギプスをつけた見た目の濃い男が逆立ちをしながらその山道を駆けていた。

 

「なぁ大人しく車椅子に座っててくれよ……いい加減自分の歳と周りの目を考えてくれないかなぁ……ガイ」

 

 そんな男の後方で、はたけカカシはため息をつく。 忍び装束とは無縁の装いで旅行客のような服を纏っている集団の中、彼らと同じくカカシの隣で印を構え終えた女性が一言呟く。

 

「何を今更……ガイに口で言っても無駄なのは今に始まったことではないだろう? カカシ」

 

 瞬間、地面から伸びる大きな土の手が逆立ちするガイの胴体を捉え逆さの状態で浮かせた。

 

「ぬぉおおおおお!?」

 

 突然の拘束に驚きの声を挙げるガイを尻目に術を行使した女性の容赦のなさにカカシが若干引き気味になる中

 

「流石見事なお手際ですっ!! マリエさんっ!! あの五月蠅いガイさんを一発で黙らせて捕らえるなんてっ!!」

 

 さらに彼らの後方にいる車椅子を押す朱い目をした女性が口から唾を飛ばしながら目を輝かせる。

 

 興奮気味のその女性が押す車椅子に乗る男性は、そんな彼女の様子に顔に手を当て唸る。

 

「オイ、()()()……あまりマリエのやつを見習うなよ。 アイツは何でもかんでも強引に解決しようとする悪癖が──」

 

 娘の見せるマリエへの羨望の眼差しに猿飛アスマは勘弁してくれとばかりに露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 

「アスマ、お前今回の旅行の代金を立て替えてくれるというのか……そういうなら仕方ないなぁ──」

 

「……っす……感謝してます……マリエ様……」

 

 アスマからの小言に、顔に笑顔を張り付けたまま圧を飛ばすマリエ。 その圧に屈したアスマは車椅子の上で両手を挙げ降参の意を示してシュンとなって項垂れた。

 

 彼らは今、慰安旅行として湯の国を目指して旅路を歩んでいた。 その代金はもろもろ、マリエの懐から出ているものであり……アスマの頭が上がらない理由の一つでもあった。

 

「ウチの旦那は情けないわねぇ……全く……フフフ」

 

 そんなやり取りを優しい笑みで見守る猿飛紅は口元に手を当て笑みを浮かべる。

 

「それにしてもマリエ、ホントに良かったの? こんなにも大人数で……」

 

 さておきと紅はマリエに声をかける。 彼女らの後ろに続く人影もまたこの旅行の参加者であり、マリエの負担が大きいのは見て取れるからだろう。

 

 しかし、マリエは肩まで短くした自身の髪が術の行使で乱れたことを気にする素振りを見せつつも笑顔で答えて見せる。

 

「気にするな……後進が育ってきている以上、私もカカシも……一度ゆっくりとしたいと思っていたんだ。 まさに有意義な金の使い方だと思っているぞ」

 

 マリエがそう言いながら集団の後方に続く人影に目を向ける。

 

 少し離れた位置にいる三人の様子に彼女は笑みを見せ、満足そうにした。

 

「なぁ父さん……ホントに今回の旅行に俺もついて来て良かったのか……後いくら何でも土産物買うの早すぎるぞこれ……まだ行きの道なのに」

 

「なぁに久しぶりの家族のだんらんだ、遠慮することもないだろう()()()()。  こうやって大人数で旅行に行くのも悪くないってもんだっ!」

 

 豪快に笑い既に行の道にも関わらず手土産に両手を塞いだ猿飛キョウマと、その様子に若干呆れつつ……木ノ葉丸はそんな浮かれたキョウマの買った土産物を抱えうんざりしている様子を見せていた。

 

「……フフ、本当は木ノ葉丸は暗隠れのキョウコちゃんとデートに行きたかったんだろうけど……わざわざ着いて来てくれたのだから貴方、はしゃぎ過ぎないようにしてください」

 

 そんな2人のすぐ後ろで……前髪で顔を隠した女性、猿飛ミノトは口元に手を当て小さく微笑んでいた。

 

 ミノトのその言葉に木ノ葉丸は図星を突かれたかのように体を強張り顔を赤らめ、その反応によりキョウマは先ほど浮かべていた笑顔をスンッと真顔に変えた。

 

「……おいミノト。 その話はなんだ……っ俺は聞いてないぞ!?」

 

「あら、木ノ葉丸はキョウコちゃんと──」

 

「母さんっ!? そのことは黙ってていっただろっ!? 元暗部なのに口が軽すぎだぞ──」

 

「許さんぞっ木ノ葉丸っ!!!! キョウコは俺の娘だっ!!!! 絶対に嫁にはやらんっ!!!」

 

「ッ……父さんに否定されても、俺は──」

 

「お前に義父(とう)さんと呼ばれる筋合いはなぁいっ!!!!」

 

「オイ俺も一応アンタの息子だぞコレェっ!?」

 

 

 

 

 

 

「何やってんだか……」

 

「弟として恥ずかしい……」

 

 バカ騒ぎをしてる猿飛親子のやり取りにカカシとアスマは額に手を当て首を振る。

 

 今にも取っ組みを始めようとする父子だが、瞬間ミノトがクナイを彼らの喉元に突きつけ

 

「せっかくの土産物が汚れるわ。 喧嘩なら帰ってからしてください」

 

「「はい……」」

 

 そんなバカ騒ぎも一瞬にして鎮火した。

 

 

 

 そんな集団がガヤガヤ楽しく騒ぎながら道を行く中……ふと僅かな風が吹く。

 

 そんな風に頬を撫でられたマリエは車椅子に乗せたガイの耳を引っ張る最中にその風の吹いた先を見つめた。

 

「マリエ……どうかしたのか?」

 

 彼女のそんな様子にカカシが声をかけると、マリエは優しい笑みを浮かべ

 

「いえ……フフ……なんでもないわ。 ふとこうしていられるなんて……何て幸せなのかって思っただけよ」

 

「……ああ、それもそうだな……ま、俺も火影という任を解かれて肩の荷も降りたし……思うがままに平和を享受しようと思うよ……()()()()の分もね」

 

「ええ、そうね。 皆の思いを経て……今の平和がある……きっとオビトもリンも……そして

 

 

 

──彼も、一時でもこんな平和を夢見ていたはずだから」

 

 幾らでも思い出せる困難な出来事の数々、しかしそれらも今を作るための道の一筋であるならば……

 

 蒼鳥マリエは亡き者たちの意思を忘れぬように、平和を受け入れていた。

 

 優しく吹いた風はそんな何気ない平和を実感させ、カカシやマリエに安心感をもたらした。

 

 後任に託し一応の激務から解放された彼らだが、きっと里に戻ればまた何かと忙しくなるだろう。

 

 そう思えば頬を撫でる一時の風さえも過去からの贈り物のように感じられ心は満たされていった。 

 

 

~~~~~~~

 

 

「マリエさんは今頃カカシさん達と旅行の真っ最中でしょうか……羨ましい限りですね」

 

「そう言っている割にはキビキビと働くじゃないか……今は愛しの旦那様と一緒に居られて満更でも──おっと笑顔で雪羅のチャクラを滲ませないでくれよ」

 

 里から少し離れた位置にある孤児院の施設の中で、()()()()と薬師カブトは雑談を交えていた。

 

「マリエさんも今までマザーという立場を担ってくれていましたので……その後継として張り切っているだけです。 まぁ……再不斬さんと2人っきりの時間が取り難いのはいささか不満ではありますが……マリエさんの今までの頑張りを思えばなんてことはないでしょう」

 

 再不斬と正式に籍を入れた白は、名を白雪とし苗字も桃地と名乗るようになっていた。 忍界大戦を経て再不斬と合わせてその功績が認められ、移住などの問題が一気に解決したのがきっかけであった。

 

 マリエから孤児院経営のオーナーとしてその役割を継いだ彼女は、現場で子どもたちの面倒を見続けている再不斬と2人で火の国の孤児たちを救うための活動を行っている。

 

 その一環で本日、カブトとウルシが運営している孤児院にも視察として訪れているのだが……

 

「はぁ……あまりそういう甘い会話をここでしないでくれ。 独り身のウルシに効くだろ?」

 

「おい、お前らっ!! さっきから雑談ばかりかと思えば何で俺への弄りになってんだっ!!」

 

 落ち着いた2人の会話を書類を運び通り過ぎながらも聴いていたウルシのツッコミで、カブトは肩をすくめる。

 

 白雪もカブトとも必要な手続きや情報のやり取りは既に終えており白雪が次に向かう施設の訪問時間まで、呑気に雑談で時間を潰しているのが現状であった。

 

「やれやれ、親友がああいう以上そろそろ働き始めないとね……まあ、そういう訳だからもう少しだけ実務の視察の方よろしく頼むよ、()()()

 

「……いざ自分がそう言われるのは変な気分になりますね。 しかしこれもマリエさんから引き継いだ任です、しっかりこなしていくためにも……カブトさん、ウルシさん、これからも協力お願いしますね」

 

 白雪からの真っ直ぐな言葉に、カブトは小さく笑みを浮かべながら

 

「だってウルシ、頑張ってくれよ」

 

「だからっ!! カブトお前も頑張んだよっ!! お前の方が俺よか遥かに動けんだろがっ!!」

 

 ウルシと子気味良く会話を重ねた。

 

 そんな施設から少し離れた位置に居た桃地再不斬は

 

「アイツら……俺が抜けた途端に気を緩ませやがって……たく。 白の組手の相手を早くするためにも、里に戻って面倒な手続き進める俺の身にもなって欲しいもんだぜ……」

 

 小さく愚痴をこぼしつつも小さく笑みを浮かべ、その場から姿を消すのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の里のとある忍具売り場のカウンター。 そこで頬杖を突きぼやく一人の女性。

 

「はぁ~~全っ然お客来ないわねぇ……平和ってやつねぇ……」

 

 だらんと砕けた態度でおおよそ店番の体を成していないその女性はふと店の扉が開かれたことで背筋を伸ばした。

 

「っ! いらっしゃ……ってなんだハナビじゃない」

 

「なんだってなんですか、テンテンさん。 こうやって休みの日に会うのも久しぶりじゃないですか~」

 

「いやぁお客さんかと思ってねぇ……()()()()()と一緒でアンタあんまり忍具使うタイプじゃないから一目見てガッカリするのよ」

 

「っお店にお金落とさなくて悪かったですね……」

 

 仲の良さを感じさせる互いにフランクな雰囲気を漂わせる二人の会話に混ざるように、店の奥の扉から着物を着た一人の男性が姿を現す。

 

「っお、ハナビ様じゃないですか。 お久しぶりです」

 

 そうハナビに挨拶をするのは日向ネジであった。 

 

「直接ここに来るのは珍しいですね……」

 

「やっほーネジ兄さんっ!! せっかくの休日に誰かとご飯食べに行きたいと思って、誘って周ってるんだけど皆用事あるみたいで……テンテンさん達とどうかなーって……」

 

 ネジに来訪の目的を告げたハナビは休日のネジの装いがますます親であるヒザシに似てきていると思い、少し口元を緩める。

 

 喋り方や纏う雰囲気がかつてのヒザシを思わせるネジはそんなハナビからの提案に気まずそうな表情を浮かべつつテンテンにアイコンタクトをとる。

 

「あー悪いんだけどハナビ、今日は元三班の家族で出かける予定があるのよ~ごめんね~」

 

 ネジから説明のバトンを受けたテンテンは申し訳なさそうに手を合わせ舌を出しウインクをする。 彼女からの断りにハナビは肩を落として露骨に残念がった。

 

「えーーーっ……そんなぁ……」

 

「すみませんハナビ様……リーの方との擦り合わせで今日しか空いてなく、以前から予定していたことなので……」

 

 申し訳なさそうにするネジ、ふとそんな彼の身体が後ろから軽く押されたように揺れた。

 

「っと……()()()、せっかくだからハナビ様にご挨拶をしたらどうだ?」

 

 ネジは自身の脚元の袴にしがみつき、ハナビを警戒している素振りをしているどこか昔のヒナタを思わせる少女の頭を優しく撫でながらそう告げた。

 

 するとその少女はオズオズとしながらもネジを盾にハナビを見つめ……

 

「こんにち……わ」

 

 たどたどしく挨拶をした。

 

「こ、こんにちわ~ウルミちゃん……ハナビお姉さんだよ~っ?」

 

 そんな少女・日向ウルミに対してハナビはガッカリしていた態度を隠し、驚かせないようにか優しい声色に成るよう努めて手を振る。

 

 しかしハナビの事が怖いのか小さく悲鳴を上げたウルミはネジの背に隠れてしまった。

 

「……たはは、ごめんね~ハナビ。 ウチの娘、相変わらず日向の人が怖いみたいで……」

 

 そんな光景を微笑ましく見ていたテンテンからの言葉にハナビは頭を掻きながら

 

「いやぁ……しょうがないですよ。 父様とヒザシさんがどっちの孫が可愛いかどうかで、顔合わせるたびに喧嘩しているの見て来てますからねぇ……事あるごとに。 ホントにやめろって言ってるのに父様たちが性懲りもなく続けるから私もウルミちゃんから警戒されるように……トホホ」

 

 そう弁明を述べる。 しかし

 

「いや、ウルミに警戒されるのはハナビ様の距離の詰め方が強引──」

 

何か言いましたかネジ兄さん?

 

「あ、いえ……しかし昔は父上もヒアシ様も仲が良かったのに、今では顔を合わせては罵り合って……まあ、それもある意味で平和であることの象徴でもあるように感じるので俺は微笑ましく思っていますが」

 

「そういうものかなぁ……まあ、そうなのかな」

 

 身内の恥のような光景も、見方を変えれば平和の証でもある。 

 

 かつて十尾の巨体を二人息を合わせた術で揺るがし、その攻撃を逸らし続けた彼らが今や孫自慢で喧嘩をしているなどとは誰も想像がつかないであろう。

 

 今はそれほどまでに、昔と比べて平和なのだとも考えられる。

 

 そう無理やり納得の姿勢を見せるハナビにテンテンがニヤニヤしながら

 

「孫と言えば……ハナビは()()()()()、まだ居ないのぉ?」

 

 ハナビの交際の有無に探りを入れた。 彼女と長年の付き合いをもつテンテンだからこそ出来る軽いノリでの決まりきった返事のある弄り。

 

 しかし

 

 

 

 

「近々父様に紹介したい人は居るんですけどねぇ……」

 

 

 

 

 想定とは違う普段とは違ったその回答にテンテンは思わず頬杖から頭を落とし、ネジも驚きのあまり手に持っていた扇子を床へと落とす。

 

「えっ……いや……マジ? 本気と書いてマジっ!? アンタアイツの事──」

 

 何かを言おうとするテンテン。 だが

 

「テンテン」

 

 ネジが名を呼びその言葉を制止する。 そしてハナビに向け

 

「……おめでとうございます。 ハナビ様の選んだお方ならきっと間違いなんてないでしょう。 まあ報告するのであれば……ヒナタ様に先に話をつけておいた方が無難かと思いますよ。 ヒアシ様もナツも……貴方の事になると見境がなくなると思いますので」

 

 信頼があるからこその賛辞を送り、アドバイスもする。 お家柄そういう話はややこしくなることは間違いないからこその気づかいなのだろう。

 

「ありがとう、ネジ兄さん。 ま、実際どうなるか分からないけど……このあと姉様のとこに寄ってくつもりだからそこで話すつもりなの。 それじゃあ、今日はお暇させていただきますっ!」

 

 感謝を述べたハナビは、妙によそよそしい態度のままテンテンの店を後にした。

 

 思ってもみない情報が舞い込み、騒然とするテンテンは呆けた顔のままであった。

 

 こんな時が来たかと落とした扇子を拾い上げるネジ。

 

「ハナビさん……は誰か好きな人が……居るの?」

 

 そんなネジの影から出てきたウルミの疑問に、テンテンは

 

「居るというか……居たというか……難しいけど、今はほらお義父さんとヒアシさんもハナビのそういう相手に五月蠅いし、あの子もその気がないと思ってたからこのまま行き遅れるのかと……」

 

 何とも言えないともごもごと言い淀む。 要領を得ないテンテンの言葉にウルミが首を傾げると、屈んだネジが彼女の肩に手を置き店に飾ってある1つのボロボロで歪んだ棒状の忍具を指さして語りかける。

 

「……あの俺を救ってくれた忍具を母さんに譲った人が居たというのは前に話したことがあるな?」

 

「うん……父様が火影様を守った時に……母様も一緒になってあの忍具を使って父様と火影様を守ったって……その時に壊れちゃったんだよね? 何回も聞いてる」

 

「……ハナビ様は、あの忍具の元の持ち主の事を……今でも愛している……と思っているからこそ……母さんも俺も少し驚いたんだ」

 

「……その人のことじゃないの?」

 

 ウルミが抱えたもっともな疑問に……

 

「そう言えばウルミ、今日はボルト君とこの後遊ぶ予定があったんじゃない?」

 

 テンテンが話題を変えるようにしてウルミへと語りかけた。

 

「! そうだった。 アカデミーが早く終わったから一緒に『激・忍絵巻』買いに行くって約束してた!」

 

 テンテンの言葉で自身の予定を思い出したウルミはテンションを上げいそいそと出かけるための小さなカバンを抱え急ぎ足で店を出ていく。

 

「母様、父様、行ってきまーすっ!」

 

 か細い声ながらも、大好きな両親に元気よくそう告げたウルミはそのまま日の当たる通りを駆けて行った。

 

 残されたネジとテンテンは二人して大きなため息を着いた。

 

「……如何せんアイツの事を説明するのは難しいな、テンテン」

 

「ええ、大きな影響を私たちに与えた癖に……パッといなくなって……未だに消息不明で……ハナビも遂に愛想を尽かしちゃったのかなぁ……」

 

「……そういう事ではないと思いたいが……人の気持ちを縛ることなど誰に許されることでもない。 他でもないハナビ様自身が決意したことであるなら俺たちがとやかく言うことでもないだろうな

 

 気分が落ち込んだ2人だが、ふとお店に珍しく客が入って来たことで気持ちを切り替える。

 

 時代の移り変わりの、無情さを噛みしめながら。

 

 

~~~~~~

 

 

 

「だーっ!! また父ちゃんかよっ!?」

 

 木ノ葉の里の小さなお店の店先で幾つかのカードを手にそう叫ぶ金髪の少年。

 

「物凄い運だな……ある意味で」

 

「俺ってば、父ちゃんなんかよりも今限定の奴が欲しんだってばさぁっ!! それなのにさぁっ!!」

 

 その様子を呆れた様子で見ていた奈良シカダイの言葉にその少年・うずまきボルトは頭を掻きむしる。

 

「クッソーーっ!! 今月は仮面ニンジャーのグッズも買っちまったからパックそんなに買えね―のによォ!!」

 

「それはお前の自業自得ってやつだろ……まぁ期間限定で特別なゲマキがあるっつーなら欲しくなるのも分かるが……今月だけだろ? 収録されるの」

 

 シカダイのその言葉にボルトは……

 

「なぁシカダイ? ちょっとだけで良いから金貸してくんねーかぁ?」

 

 猫なで声ですり寄る。

 

「言い訳ねーだろ。 ウチも母ちゃんが小遣いの管理うるせーから必死にやりくりしてんだ……流石に何か見返りがねぇとな」

 

「なっ!? 良いだろ良いだろっ? 俺たちの仲じゃんかよ~~~」

 

「ちっ……めんどくせー……ってアイツは……」

 

 そんなやり取りの中、シカダイは駆け寄ってくる一人の少女の姿に気がつき手を振る。 するとボルトも振り返りその少女の姿を目に映した。

 

「ウルミ、おっせーてばさぁっ!! 俺とシカダイのパック開けちまって限定カード出なかったからもうお前だけが頼りなんだっ!!」

 

「必死かよ……ウルミ、ボルトの言う通りにして金貸したり甘やかすのは良くないぞ」

 

 2人に声をかけられたウルミは走って荒れた呼吸を整えながら返事をする。

 

「う、うん大丈夫だよシカダイ君……この前からボルト君にお金を貸すときは、母様を通してボルト君のお母さんにどれだけ貸したか報告することに……なってるから大丈夫。 ゲマキは私も欲しいから買うんだよ」

 

 えへへと笑って見せるウルミの純粋な様子にシカダイはため息つきつつ

 

「だってよボルト。 限定の奴が出ても、ウルミ様次第だな」

 

 ボルトにニヤついた笑みを見せる。

 

「っ……クソォっ!! ……母ちゃんからの手がウルミにも回ってんのかよ……もうこの際、俺が手に入んなくても良いッ!! どんなやつかだけでも見てぇーから当ててくれぇウルミっ!」

 

 もう打つ手はないとせめてどういうものかを拝みたいと手を合わせ、ウルミに頭を下げるボルト。 そんな様子に「えへへ……じゃあ、買って……くるね」とウルミは店の中で店主に向け幾つかゲマキのパックを持っていく。

 

 そんなウルミの様子を見ながら、ボルトとシカダイは限定カードについて話を膨らませる。

 

「つーかよ……なんで今月限定なんだよ。 おかげで俺ってば日課の悪戯をしてる余裕もねぇしよぉ……」

 

「さあな。 何でも開発部の1人が昔、その忍びに両親が世話になったがどうのこうので実装したがってたらしいんだが……開発部の中でも意見が割れて、尚且つ情報が少ないからか期間限定での実装らしい……名前も容姿も非公開でのパック収録何て珍しいもんだ」

 

「あ~もう何でも良いからこの眼で見てみてぇ~」

 

 うだうだと会話を続ける中、ウルミがゲマキのカードの入ったパックを開けながら二人の元へと歩み寄ってくる。

 

「……あ、あんまり良い奴入ってないみたい。 残りのパックも……あと一袋になっちゃった……」

 

 手に持つカードの群は光るものがなく、3人のお眼鏡にかなうものはないようであった。 そしてウルミが最後のパックを開封する。

 

 その様子を喉を鳴らし見守るボルトとどうせ当たらないと澄ました態度でいるシカダイ。

 

 そしてウルミがカードを取り出すと……

 

「おっ……? なんだそりゃ」

 

 そんな中から一枚、様子の違うものに気がついたシカダイが指をさすとウルミがそのカードを取り出す。 3人でその妙に黒いカードを囲んで見てみると……

 

「……明らかに普通のとは違った感じだけど……なんだこりゃ。 名前も説明も……なんも書いてないってばさ」

 

「ああ、多分例の限定カード……なんだろうが、幾らなんで地味すぎねぇか? それに効果の説明書きもねぇから対戦でも使えねぇし、完全にコレクションようだなこれは」

 

「へ、変なカードだね……」

 

 地味なそのカードの外観にあからさまに落胆を見せる。

 

「描いてある忍者も……地味な面に……地味な格好で……棒立ち……こんなのが限定カードかよ、期待して損したァっ!!」

 

 証明写真のような地味な絵柄に自分の注ぎ込んできた労力を惜しんだボルトはその場に崩れこむ。 シカダイも流石にフォローするきもないのか

 

「ま、コレクション用ってことだろーけど……流石にこれは俺もいらねぇな。 どうするウルミ?」

 

 サッサと話題を終わらせたいのかウルミにカードの処遇を尋ねる。 ウルミは……

 

「いらないからボルト君にあげる」

 

 そう言って、項垂れているボルトにカードを差し出す。

 

「え……いや、俺もこんなカードは要らねぇてばさ……」

 

「あげるね」

 

「ちょっ……ウルミ……さん?」

 

 妙な圧を感じるウルミの様子に否応なしにそのカードを手に取ったボルト。 

 

「コレクション用なら……だ、誰か高く買い取ってくれるかもしれないから。 ボルト君にあげる。 これなら……母様に報告しなくてもいいから……ね」

 

「な、なるほどだってばさっ!! さっすがウルミっ!!」

 

 ウルミの説明に納得し無邪気に飛び跳ねるボルト。 シカダイは

 

「流石忍具屋の一人娘、商売の考え方が根にあるって言うか……まあつーか、正直本音だと使えねぇから要らねぇんだよなウルミ?」

 

 そうウルミへと自分の考えを述べた。 そのシカダイの言葉に

 

「う、うん。 実用性のないカードは……私は要らないから」

 

 とハッキリと笑顔でそう答えたのであった。

 

 取りあえずお金を工面する方法を得たボルトがカードを手にはしゃいでいる中、ウルミの少し黒い面を前にシカダイが苦笑いを浮かべていると……

 

 

 

「ボルトォ!!」

 

 

 ボルトの名を呼ぶ声が響いた。

 

 驚いた3人がその声のする方へ顔を向けると……

 

「ゲぇっ!? イルカ先生っ!?」

 

 その人物の名を呼びボルトは露骨にバツの悪そうな表情を浮かべその場から後ずさる。

 

「……ボルト、お前暇がないって言っておきながらまたしょうもない悪戯でもしたのか?」

 

 呆れた様子を見せるシカダイにウルミがシカダイの袖口を引き

 

「今日は一応五影会談……の日だから、アカデミーの中で収まる手ごろな悪戯で済ませたってボルト君言ってた……よ」

 

 事情を説明した。 熱血教師ぶりの衰えていない様子のイルカがズンズンと近づいてくることに怯えたボルトは咄嗟に手に持っているカードをしまうとそのまま2人に手を振りながらその場を後にする。

 

「ちょっ……ワリィ―けど二人とも今日は解散だってばさっ!! また今度なっ!!」

 

「おー、また今度な」

 

「うん、また……ね」

 

 別れの挨拶をしながら逃げ出したボルト、イルカがシカダイとウルミの元まで来るとシカダイはイルカに質問を投げかける。

 

「またアイツ何かしでかしたんですか、校長先生」

 

「ああ、シカダイとウルミか……そうだな。 妙に手の込んでると言うか……クラス名簿の入れ替え何て悪戯をほぼすべてのクラスでされてて午後休みとは言え、教員が元に戻す作業に追われてな。 これならまだ──」

 

「これなら……まだ?」

 

 ウルミがイルカの言いかけた言葉に疑問を浮かべると、イルカは……妙に笑顔になりつつ、それでも困った表情で

 

 

「ナルトの悪戯の方が派手な分、可愛げもあったなって……な」

 

 

 そう2人に内緒話をする様に口に指を当て教えた。

 

 

~~~~~~

 

 

「ぶえっくしょーんっ!!」

 

「っオイ、ナルト……」

 

「んん、悪い……誰か噂してんのかな……」

 

 五影会談の最中、突然大きなくしゃみをかましたナルトが静かになった会議室で注目を浴びる。 側近のシカマルから小声で注意を促され申し訳なさそうに机の資料を整える動作で誤魔化すナルト。 そんな中

 

「さて火影殿もお疲れのようだし、さっさと最後の議題に移ろうか」

 

 五代目雷影・ダルイが進行を促し話題を変える。

 

 五代目風影・我愛羅は配られた資料に目を落としながら

 

「いつも通り最後は()()()の話題か……砂隠れはあまり被害を受けていない以上あまり言えることはないが……」

 

 そう呟くと四代目土影・黒ツチが軽く机を叩き不満そうな声を挙げる。

 

「へー、随分と気楽そうでなにより……火の国と風の国以外では結構な働きぶりで取り締まりに苦労してるってのに……」

 

 辟易した様子の黒ツチがバサッと無造作に机の資料を広げる。 その資料に添付されている画像には人影のような物が写っており

 

「僕の所でも、活動の痕跡が数年前から確認されていますが……いい加減一体どこの誰なのかぐらい、ハッキリとさせたいところですね」

 

 その人影を示して六代目水影・長十郎もまたうんざりした様子を見せた。

 

 長十郎の言葉からは暗に『情報の開示』を迫る意図を感じられたが、五影は全員が悩むように唸りを上げることしかできなかった。

 

 つまり誰も情報を出し惜しみしている様子ではなかったのだ。

 

 ダルイはめんどくさそうに資料を机に置きながら口を開く。

 

「黄昏時の忍び……単純に幽霊……忍界大戦の怨霊……異名は数知れないが、こうしてカメラで画像を収められている以上()()のは間違いはないはずだ。 活動の広さから集団とも考えられるがにしてはあまりにも尻尾がつかめない……個人だとしてもどの里にも属していない非正規の忍びにしては手が広すぎるぜ」

 

 ダルイの言葉に、シカマルが

 

「今は暗隠れが付近で大規模な人身売買組織の掃討に打って出ているらしいですが……そこで目撃情報が出ているそうです。 もしかしたら彼らから新たな情報が得られるかもしれない」

 

 そう現時点の情報を伝えると、ボソッとナルトが呟く。

 

「悪い奴じゃないみたいだけどな……」

 

 その呟きに、ナルト以外の影が顔をしかめた。

 

 その反応にナルトが気づき、やべっと言った感じの表情を浮かべるとシカマルが彼の頭を小突く。

 

「悪い悪くない以前に、どこの誰かもわからない忍びが様々な工作活動をしている時点で対処するべき案件だ。 死人は一度も出ていないらしいが中では施設の稼働を停止させる活動もしているようだし──」

 

「だが、そこは麻薬密売の温床だったんだろ? 結果的に良かっただろ」

 

 シカマルからの言葉にナルトは物怖じすることなく自身の意見を述べる。 その施設があった雷の国の人間であるダルイは

 

「……そういうのを俺たちよりも先に対処されちまうと、里の忍びの信用に関わるんだよ」

 

 呆れながらもナルトにそう告げた。

 

 謎の忍びの義賊的活動に頭を悩ませた五影たち。

 

 それぞれが未来に向けて歩みを進めている。

 

 その事実に変わりはなく今回の五影会談はまた、最後の議題を除き有用な結果をもたらして締めくくられることとなった……

 

 

~~~~~~

 

 

 土の国某所。

 

 とある広めの宴会場のような場所に置かれたベッドの上でプルプルと震える老人を取り囲む人の姿が複数あった。

 

「旧五影会談……ワシが動けんばかりに……集まってもらって悪いのう」

 

 その老人、オオノキの言葉に

 

「えらく弱ったなオオノキのじいさんよ」

 

 と元雷影・エーが僅かに気の毒そうにそう告げた。

 

 忍界大戦で見せた血気盛んな様子はその場にいる誰からも感じられず……

 

「のう、オオノキの爺がここまで老いぼれるとは驚きだ」

 

「先生……失礼ですよ」

 

 車椅子を押され部屋に入ってきた白髪の男性と彼の言動を注意する長髪赤髪の男性に既に部屋に来ていた綱手が目を向ける。

 

「来たか……私からすればお前も随分と老けたように見えるぞ、()()()

 

「お前は相変らずかわらんのう、綱手……と

 

 

 大蛇丸よ」

 

 

 綱手からの言葉に嫌そうに応えた自来也はその流れでオオノキの腕に触れて体調を見ている大蛇丸に目を向ける。

 

「酒のみの為とは言え、一度に旧五影と伝説の三忍が揃うとは……時代とはわからないものね」

 

 場に集まっているメンツの濃さに照美メイが呟く。 その言葉を受け大蛇丸はオオノキの脈を計りつつも視線だけをメイに向けた。

 

「あら、それを言うなら旧暁のメンバーも一部揃っているわよ……?」

 

 小さく不気味な笑みを浮かべる大蛇丸のその言葉に綱手の付き人で来ていた女性と、自来也の車椅子を押す男性が気まずそうに目線を逸らす。

 

「貴様ら……大戦での功績が無かったらこうはなっていないことを忘れるなよ?」

 

 大蛇丸の冗談にエーは面白くないと、珍しく表情を歪ませた。

 

 忍界大戦の終盤、十尾の猛攻を防ぐ一因として大蛇丸たちが貢献したことは紛れもない事実であり大蛇丸は監視と火影の許可制ではあるがこうして里外まで出ることが許されるまでになっていた。 

 

「暗い話はやめだやめだ。 さっさと酒でも飯でも嗜んで、馬鹿みたいに明日の話をするに限る」

 

 そう綱手が話を切ると、綱手の付き人の女性が一枚の紙を窓の外へと飛ばす。

 

 その様子を確認した綱手は

 

「注文も下の厨房に行ったことだ、自来也。 世界を見て回ってる土産話でも聞かせろ」

 

 と自来也に話を振った。 全員の視線が自来也に注がれると自来也は、皺の増えた顔で決め顔をし

 

「……ふふ、では……とっておきの土産話を1つ余興に話して御覧じよう!! あれは別の大陸で騎士と名乗る奴らにワシらが拘束された時のこと──」

 

 気分上々と自分語りを始める。

 

 そんな様子をオオノキと共に少し離れた位置で見ていた大蛇丸は自来也の顔を見つめていた。

 

「……心配か?」

 

 大蛇丸に小さくオオノキが語りかける。 大蛇丸は視線を自来也から外すことなく

 

「元より瀕死の重傷の上にリスクがある術での蘇生行為……貴方よりは先にくたばると思っていましたが……相変わらずの調子で。 さて、私は少し仕事の連絡があるので席を外します、貴方も酒を飲み過ぎると寿命が直ぐに尽きますよ」

 

 オオノキに注意を促しつつ、その場を後にした。

 

 そんな大蛇丸を追う監視の忍びの気配を感じながら、あの大蛇丸に体調を心配されたオオノキは

 

「カッカッカッ……」

 

 小さくその昔では考えられない様を微笑み満喫するのであった。

 

 

~~~~~~

 

 

 

 暗隠れ近辺の某所。

 

 荒れ地に凸凹とした地形が混じり、見通しの悪いそこで一際大きな水柱が天を穿つ。

 

 その柱が崩れ地面に落ちた場所では2人の人影が立っていた。

 

「っかぁ~~~手ごたえの無いカスばかりだな……鬼鮫、帰ったら組手しようぜ」

 

「アカネさん……相変わらずですねぇ……敵組織のアジトの前でする会話とは到底思えませんが……しかし手ごたえが無いのは事実」

 

 暗の額当てを着けたアカネと干柿鬼鮫のコンビが、周囲に突っ伏す人身売買を行っている組織の一員を拘束している中、ふと目の前の建物のアジトの中から妙な喧騒が聞こえる。

 

「――――っ!!」

 

「あん? 中はすでにアタシたちが制圧済みのハズだが……」

 

「もしかしたら見落としがあったのかもしれませんねぇ……」

 

 既に組織は壊滅状態、組織の構成員も外に逃げ出した連中もこうしてシバき拘束し終えた以上建物中から物音が聞こえるはずはなく……

 

 若干の警戒をしつつ2人が身構えると、建物の扉が勢いよく開きそこから

 

「クソがぁっ!!」

 

 小さな子供を1人抱きかかえながら、悪態をつきつつ人相の悪そうな大柄な男が1人姿を現す。

 

 怯えた様子の男は子どもの首にクナイを当てがいながら目の前にいるアカネと鬼鮫に怒鳴りつける。

 

「そこをどきやがれぇっ!!」

 

 その男の顔を見て鬼鮫はため息をついた。

 

「既に組織のリーダーは捕まえたと思っていましたがなるほど、()()でしたか。 どちらにせよ面倒ですねェ……」

 

 組織のリーダーと思われる男は既に牢の中にいるはずが、同じ顔を持つ男がこうして目の前に現れた。

 

 恐らく建物内に隠された部屋に忍んでいた男がやけになり人質事外に飛び出してきたのだろう。

 

 錯乱した様子の男に不信感を覚えたアカネは

 

「子どもには危害が及ばないようにしねぇとな……」

 

 と慎重にことに当たろうとした瞬間。

 

 

 

 

 

 男の身体が、黒い炎に包まれる。

 

 

 

 

「まさか、天照っ!?」

 

 その炎に見覚えのある鬼鮫がそう驚きの声をあげるが、しかしその炎は黒い色を持ちつつまるで夕日を思い出させるような橙色をも交わせていた。

 

 男とともに炎の内に居る人質の少女の安否を気遣いアカネが捨て身で駆けだそうとするとふと、二人の前に人影が現われる。

 

 その人物にまたしても見覚えがある鬼鮫が再度驚きの声を挙げた。

 

「サスケ君ではないですか……っ」

 

 黒い外套に身をつつむうちはサスケ。 その姿を確認したアカネは構わず少女を助けるために行動しようとするがサスケが左手を突き出して制止させる。

 

「オイてめえっ邪魔すんじゃ──」

 

「見ていろ」

 

 抗議するアカネに一言そう呟いたサスケ。 その直後火だるまになっていた男が倒れた瞬間にその炎は綺麗に消え去り、そして……

 

 

 少女の泣き声だけがその場に響いた。

 

 

 火に焼かれたはずなのにも関わらず響く泣き声にアカネが驚愕していると、素早く鬼鮫が男の元に駆け寄る。

 

「オヤオヤ……女の子にももちろん……男にも火傷どころか外傷の後がない……どんな手品を──」

 

 男と少女の様子に不思議がる鬼鮫にサスケがふと男が飛び出してきた建物の入り口を指さして示す。

 

 すると

 

 

 

 狐の面をつけ黒いコートを羽織った人物がゆらりとそこに立っていた。

 

 

 

「っ!?」

 

 あまりの気配の無さに鬼鮫もアカネも警戒を露わにして構えるが

 

 ふと気がつけば……

 

 

 その人物はすでにその場には跡形もなく居なくなっていた。

 

「……鬼鮫、今目ェ離したか?」

 

「いえ……ですが……文字通り消えましたね……口寄せの様子もなく」

 

 あまりに荒唐無稽な出来事に若干の肩透かしをくらいアカネが戸惑いつつも子どもの保護作業をするなか、鬼鮫はふと現れたサスケへと声をかける。

 

「随分とお久しぶりですねぇ……あまり里にも帰っていない様子ですが、何故このような場所に?」

 

「……今の奴の痕跡を追っていた」

 

「それはそれは……あれが例の幽霊などと噂されている……それは火影からの任務ですか?」

 

「それもあるが……個人的な関心もある。 奴が何者なのか……俺自身が知りたいと思っている」

 

 会話を続けるサスケと鬼鮫。 ふと鬼鮫が気になったことを呟く。

 

「以前、木ノ葉に行きましたが貴方の娘さんに貴方の話をして欲しいと頼まれましてねぇ……それで」

 

「余計な事を言ってないだろうな?」

 

 鬼鮫からのカミングアウトにサスケがジト目に成りつつその輪廻写輪眼を向ける。

 

「いえいえ……サクラさんに今の貴方と同じような目で暗に『やめてくれ』と言われたのでその場は誤魔化しておきましたよ。 しかし、こんな私みたいな男にも尋ねるほど貴方の事に飢えている様子です。 ……もう少し家族の時間とやらを大事にしたらどうですか?」

 

 鬼鮫からの真っ当な人間のようなアドバイスを送られサスケは豆鉄砲を喰らったような表情を一瞬浮かべ……

 

「……また今度だ」

 

 ばつの悪そうな様子を見せその場を後にして行った。

 

「他の地点でも制圧は終わったようだぜ……あの変な奴についてもアガリに報告しないとな……めんどくせ」

 

 アカネが少女を優しく抱きかかえ、サスケとの会話を終えた鬼鮫に語りかけると

 

「ええ、では帰りましょうか……我が里に」

 

 ひと段落ついたと、一息つき……撤収作業に入っていった。

 

 

 

 

 少し離れ位置でサスケはふと自身の左手に目を落とす。

 

 それは本来ならば既に失くしたはずの物。 しかしサスケはその包帯に巻かれた左腕を右手で握ると

 

「…………仕方がない。 偶には里に戻るか……でないと五月蠅い奴らが多そうだしな」

 

 そう小さく呟き再度瞬身の術でその場を後にした。

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

「という訳だから姉様……もしもの時はよろしくっ!」

 

「…………はぁ……お父さん、驚くでしょうね……」

 

 うずまき家のリビングで相談をしていた日向の姉妹、ハナビとヒナタはそろそろ解散しようかという雰囲気を滲ませていた。

 

 テレビからは『幽霊は実在するっ!!』と言った眉唾ものの情報番組の音声が流れ彼女らの耳を通り過ぎ、ハナビは出されていた紅茶を飲み干す。

 

「でも良かったのハナビ……」

 

 言い淀むヒナタの言葉にハナビはニカッと笑顔を浮かべ答える。

 

「私も二十代後半に入って流石に焦ってたしねぇ……まあきっと彼なら父様も姉様も気にいってくれると思うわ。 ……ほらボルトとかヒマちゃん見てると私も早く子ども欲しいなぁて思う訳で」

 

「……そう……貴方がそこまで言うなら私が言えることはないわね。 おめでとう、ハナビ。 お父さんはしばらく口うるさくなるでしょうけど……姉として嬉しく思うわ」

 

 そう話を終えたハナビは背伸びをするとテレビの前に釘付けになっているうずまきヒマワリを後ろから抱きかかえる。

 

「それじゃぁヒマ~、私帰るねっ!! また今度遊びましょう」

 

「わぁ!! うん、お姉ちゃんまたねっ!!」

 

 少しの間じゃれついたハナビはそのまま名残惜しそうにうずまき家を後にした。

 

 

 

 

「はぁ…………」

 

 

 

 その後休日を持て余したハナビが繁華街をぶらぶらとうろついているとふと

 

 目の前から見知った少年が駆けてくることに気がつく。

 

「あら……ボルトじゃない」

 

「っはぁ……はぁ……ハナビ姉ちゃんか……いやぁイルカ先生に追い回されててやっと撒いたところだってばさ」

 

 息を切らすボルトの様子に

 

「また何かやらかしたの? イルカ先生を困らせるのも大概にしときなさいよ、一応私もイルカ先生にお世話になったことがあるから余りに目立つようなら私からも鉄拳が飛ぶって思っておきなさい」

 

 ハナビが拳をちらつかせるとボルトは「ゲッ……」と口にしながらも

 

「分かったってばさ……流石にハナビ姉ちゃんの白眼に睨まれたら逃げられる気がしねえし、しばらくは大人しくするか……」

 

 と反省の色を見せる。

 

「よろしい」

 

 その反応に満足げな様子を見せるハナビはふとボルトの手に握られたカードに気がついた。

 

「それゲマキって奴じゃない? あんたニンジャーのグッズも買ってて小遣い足りてるの?」

 

「もちろん足りてないってばさっ! つーか仮面ニンジャーにハマったのは姉ちゃんが勧めたからだろ? そういうよしみで母ちゃんお小遣い増やすように言ってくれねぇかなぁ?」

 

「さっきあんたんちに行って来たけど、あまりに悪戯が多いようなら小遣い減らすって言ってたわ」

 

「ゲゲッ!? 勘弁してくれよ~……ってそうだ姉ちゃん、このカード要らね? 限定の奴なんだけど高く売れるかも知んねぇぜ!」

 

 ボルトはそう言いつつハナビにそのカードを手渡したその瞬間

 

 

「全く……またしょーもないことしてたみたいね、ボルト。 アカデミーで自習してたら先生たちがアンタの事で騒いでたわよ」

 

「なっサラダ!? んだよお前には関係ねぇーだろっ!」

 

 急に姿を現したうちはサラダが横から顔を覗かせボルトにジト目で睨みつける。

 

「いい加減にしてよね……アンタの悪戯でこっちが迷惑することもあるんだから」

 

「良いだろ、大したことはしてねぇーんだから……今は姉ちゃんと小遣いの交渉中だからちょっと黙っててくれってばさっ!」

 

 うっとうしそうにサラダを扱うボルト。 サラダは「ふーん?」と言いながら、カードを見ているハナビの様子を見てみると

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 そのハナビの表情に目を奪われた。

 

 それが何の感情なのか、どういう思いが込められていたのか。

 

 そこまでの理解はできなかったサラダはしかし、ハナビの浮かべた()()()()()に見惚れると

 

 

「サラダ……? 姉ちゃんの顔になんかついてんのか?」

 

 

 ボルトがその様子を不審に思い彼女の前で手を振ることで意識を現実に引き戻される。

 

「っしゃんなろ~よ全く……ハナビさん、何見てるんですか?」

 

「……えっ……ああ、そうね……このカード限定らしいし、買い取ってあげても良いかも」

 

「マジか!! 姉ちゃん最高っ!! で、幾らで──」

 

 ハナビからの提案にボルトが歓喜の声を挙げる。 しかしハナビは静かにある方向に指を刺し……

 

「先生にボルトの事黙っててあげる……ていうお小遣いはどう?」

 

 笑顔でそう呟くとハナビの指の先にいる油女シノの存在に気がついたボルトが顔を青ざめさせる。

 

「っはぁ!? そんなずりィっ……ックソ、シノ先生相手だと逃げられるか分かんね──」

 

 ふとボルトのつく悪態が止まったことに気がついたハナビとサラダ。 目線をシノからボルトに移すとボルトは右目を抑えうずくまっていた。

 

「「っボルト、大丈夫!?」」

 

 どうしたのかとハナビとサラダがボルトの様子を見ようとすると……ボルトは何かしらの症状が治まったのか汗を垂らしつつも普段の表情で

 

「いや、あの火影岩の上がチカッと光ったかのように見えて目が痛くなったんだが……もう大丈夫みたいだ……」

 

 右目をパチパチさせる。 サラダは心配する素振りを見せながら彼の右目を覗き込む。

 

「……何とも無さそうね、ゴミでも入ったのを大げさにしてんじゃないの?」

 

「顔ちけーよ……痛かったもんはいてーんだよ、大げさもクソも……姉ちゃん?」

 

 サラダが至近距離に顔を近づけてくることにうっとおしそうにするボルトだがふと、ハナビが白眼を発動させ火影岩の方へと視線を向けていることに気がつき声をかける。

 

 すると

 

「ん、いや何か異変でも起きてるのかと思って一応の確認をしてみただけよ」

 

 ハナビは白眼を収めると落ち着いた様子でそう告げる。 ふと

 

(……ハナビさん、何か機嫌良くなってる?)

 

 そんなハナビの細かな様子の変化に気がついたサラダが確認を取ろうとすると

 

「ほら、ボルトは体調悪いかもしんないしサラダちゃんに家まで送ってもらいなさい。 シノさんのことは誤魔化しておくし、ちゃんと後でカードの分のお金もあげるから」

 

 ハナビは急かすように2人を人ごみの中まで押しやると、ボルトを探すシノの元へと駆け寄っていったのであった。

 

 人ごみに紛れた2人は

 

「姉ちゃん急にどうしたんだってばさ……ま、ちゃんと金くれるみてーだし良かった良かったっ!」

 

「呑気ねぇ……ほら、取りあえず家までは送ってあげるからちゃんと着いてきてよね」

 

「へいへい……はぁ~これで今月は乗り切れそうだぜ~」

 

 街道の巨大なモニターが映す番組が次のコーナーに移る音声を聞きながら、その場を後にするのであった。

 

 

『それでは次のコーナーのゲストは、あの初代仮面ニンジャーの主演を務めた──』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 それから数分後、木ノ葉にあるとある花屋にハナビの姿があった。

 

「いのさーん、いつもの花お願いしまーすっ!!」

 

「わっ……どうしたのハナビ、そんなテンション高めで」

 

 先ほどまでの目的なくうろついていたテンション低めの姿はどこへやら、ハナビは声高々に花の注文をいのにするとあからさまに目を輝かせ

 

「そう言えば、私と同じ花を注文した人来ましたよね!」

 

 といのへと詰め寄る。

 

「え、ええ……まあ、ちょっと前に来たけど……それが何なの?」

 

 いのは困惑したまま、花の支度を済ませるとハナビはお金を手渡しながら素早く置け取り

 

「それが分かれば十分です、ありがとうございまーすっ!」

 

 そそくさと花屋を後にするのであった。

 

「変なの…………いのじん、何か知ってる?」

 

「さぁ? 同じ花の注文をした人ねぇ……どこかで顔見たことある気がするけど……」

 

 ハナビの様子を怪訝に思いながら親子で話を進める。

 

「何、気になるじゃない……デコピンしたら思い出すかしら?」

 

「ちょっ悪いことしてないのにデコピンは理不尽じゃない!?」

 

 

~~~~~~

 

 

 木ノ葉の記念公園。 そこはかつての忍界大戦を経て、平和を願い立てられた特別な公園であった。

 

 休日になるとハナビは必ずそこへ行き……植えられた大樹の元のベンチで寝息を立てていた。

 

 特別な公園であろうとも、十数年経った今ではそんな特別な思いを胸に訪れる人も少なく子どもたちが遊具で遊ばれる普通の公園になっている。

 

 そんな光景こそハナビは目に納めたいと思い、常日ごろから訪れているのであろう。

 

 大樹の下には小さな石碑が1つ、弔うように建てられていた。

 

『平和を願った者』

 

 そう刻まれた石碑には花を供えるための花瓶が置かれており……

 

「……」

 

 ハナビは既にその花瓶に入れられていたものと同じ花を一輪新たに差し込み……手を合わせる。

 

 周囲ではまだ、日も落ちておらず公園で訪れる人の声で溢れていたがハナビは自分だけの世界に集中し……静かな心の中で呟く。

 

『……報告が遅れました、けど……貴方なら喜んでくれる……かはきっと五分五分ですね。

 

 貴方の性格を考えればきっと相応しくないとか何て文句を言っている姿も容易に想像つきます。

 

 それでも決して、私たちは安易な覚悟で結婚をしようなんて思っていません。

 

 ……貴方との約束も……忘れた訳じゃないんです。

 

 ずっと待っている……って約束はしましたけど……私が待ってるだけで終わらないのはきっと貴方も薄々分かっていたんじゃないですか?

 

 ……ふふ、他にもきっと貴方の思い通りに成っていないことの方が多いでしょうけど……心配する必要はないですから。

 

 マリエさんも、皆も……今を生きています。

 

 貴方たちの知らなかった未来という今を必死に……

 

 今でも偶に、貴方がいてくれたらと思うことはあります。

 

 ですが貴方が身を呈したからこそ今があり……これからがある。

 

 我儘を言ってしまえば、覚悟を通した貴方からどんな苦言をネチネチ言われるか分かったものじゃないですからね……

 

 ……何時までも……何度でも……貴方を誇りに思い……私たちは先を進み道を作っていきます』

 

 

 ふと、ハナビが閉じていた目を開けるとふと

 

 

 大樹の麓に仮面をつけた幼い忍びの姿が視……

 

 

 えたような気がしたが、周囲の喧騒がハナビの耳に届くようになるとそれが幻視であったことは直ぐに理解できた。

 

「……仮面付けてたのに、笑顔に見えるわけないもんね」

 

 ふとそう呟いたハナビは屈んだ状態から、足を延ばし立ち上がると大樹を見上げる。

 

「……」

 

 大樹に触れ、ハナビはじっと瞳を閉じて……しばらくその場から動くことはなかった。

 

 

 そして黄昏時、公園の人も少なくなるころふとハナビは目を開ける。

 

「さてと、そろそろ行きますか……久しぶりに」

 

 その呟きと共にハナビは、まるで事前から予定を決めていたかのように駆け出し

 

 

 里の隅にあるとある飲食店へと向かう。

 

 お店の中が電気で明るい事と、扉の前に「貸し切り」の札が出ていることを確認したハナビは

 

 鼻歌まじりでそのお店の中へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 ……

 

 

 今日もまた時間が過ぎていく。

 

 きっとそれは楽しいだけじゃなく、辛く悲しい時間の時だってある。

 

 理不尽に、怒りを募らせることだってあるだろう。

 

 先に希望があるなんて誰にも分らない。

 

 けれどだからこそ人は前を向き……心配を胸に抱きながらも歩みを進める。

 

 過去から学び、今を生き、よりよい未来を作る。

 

 それこそ人の成す何よりも尊いことなのだろう。

 

 道が途絶えたなら振り返ることも時には必要だ。

 

 周囲全てが信用できるわけでもない。

 

 だからこそ目標だけは見失ってはいけない。

 

 無駄と思えることも、時には自分の糧となることもある。

 

 全ては自分次第なのだ。

 

 全ては何を目指すのか……

 

 

──少なくとも忍ぶ忍者を目指した少年の築いたこの世界は未だに平和だとは言い切れない……が

 

 

 それでも確実に……変わっていることには違いないはずだ。

 

 よりbetterな方へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡ること昼頃。

 

 火影岩の並ぶ崖の上に、人影が前触れなく立っていた。

 

 後方に並ぶ街並みを背にその狐の仮面をつけた人影は崖の上から里の様子を見渡している。

 

 ふとその人物は何かに反応するかのように体を揺らすと耳元の装置に手を当て、1人で話し始めた。

 

「ああ、お疲れ様。 こっちは上手く済んだよ……ああ、ターゲットも確保できたようだし捕虜も傷ついてはない。 

 

 まあ殆ど暗隠れの皆が処理してくれたみたいだけど……と言うかサスケの奴が僕を狙ってきてたぞ。

 

 アンタの情報だとそんな事一ミリも聞いて……あ? 水月? ああ、サボってたのか……

 

 全く、輪廻眼相手だと逃げ切れるかどうかで冷や冷やしたよ。 今後はこういうことないようにして欲しいね……

 

 僕の術を半分見切って睨んできてたよ、次は逃げきれなさそうだ。 ……ホント頼むよ?

 

 え? 今は木ノ葉まで戻って来てるよ、暫く大きな件も無さそうだし僕も僕で他にやることがあるから……

 

 アカデミーの講師? 僕が? 話は通してあるって……こっちの都合も考えてくれよ。

 

 一応木ノ葉での目的は……取りあえず1つは済ませてあるよ、時間はそうかからないし……それでもう1つは……」 

 

 ふとその人物は眼下の里に目を向けると……しばらくの無言の後

 

「ああ、今もう1つの用事の目途もたったから。 取りあえずこのあともう一仕事終えたら……うん、それじゃあ終わったらそっちの件も考えておくよ……」

 

 何かを確認したかのように頷き、会話を止める。 耳元の装置での連絡を終え一息ついたと思った瞬間。

 

 再度の通信でその人物は仮面のしたの表情をしかめる。

 

「はいもしもし……はい、もうすぐ近くまで来てます。 ええ……え!? あと十数秒!? 何で!! 予定だとまだ……ああ、もう行きます行きますっ!!」

 

 会話の内容に慌てふためいたその人物は通信を切ると、忍術の印を結び

 

 

「忍ぶ忍びも楽じゃないな……まあ……俺が好きでやってることだけども」

 

 

 そう呟くと一瞬にしてその場から消え去ってた。

 

 

 静寂が流れるその場に、里のモニターからの音声が響いていた。

 

 『それでは次のコーナーのゲストは、あの初代仮面ニンジャーの主演を務めた雪の国の有名人のあの方ですっ!! それではお呼びいたしましょうっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 これにて目指すは忍ぶ忍者は終了とさせて頂きます。

 ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
 
 長い間……ホントに長かったな。 私が現実逃避の為に右左も分からずに書き始めたこの小説も一先ず始めから決めていた終わりまで行きつくことが出来ました。

 一応この先も話を考えていはいますが、現実的な話で執筆に時間をかけられなくなっているのが現状のため今回を最終回として区切らせてもらいます。

 
 私自身、物語は終えることにこそ意義があるという思いがあります。 ですので中途半端に更新して、人知れず失踪します。 なんてことはしたくはないので今後更新する場合は書きたい章をひとまとめにして更新すると思います。 次の更新に時間がどれだけかかるかは未知数です、申し訳ないです。

 何度も言いたいですがここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
 
 感想やお気に入り、あと今年に入るまで気づいてませんでしたが評価につけられる一言の感想など多くの皆様からの反応があったからこそここまで来ることが出来ました。

 作品自体の出来は残念ながら丁寧でも、優秀でもないと私自身一番分かっています。 しかしそれでもそんな皆様からの反応に一喜一憂しながら作成したこの「目指すは忍ぶ忍者」は私にとってはかけがえのないものであることは変わりません。

 ここまでこの作品を読んでいただき……本当に本当にありがとうございました。

 それでは……最後に

 皆様により良い明日が来ることを心から願っています。


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