(井の頭線通勤快速)
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第1話 虎ノ門

最終章第2話見たので始めていきます

そんなに長くならない予定


 

 

2012年

 

水戸から2時間近く、特急を使ったとはいえそこそこ長い旅だった。

正月休みも早々に打ち切り、三が日を除いた残りの数日のうちのいくらかを、こうして冷たい風の吹きすさぶ中で仕事に割かねばならない。面倒だとは思うが、それでも重要かつ私の根本をなす話だ

 

「こんな急に、しかもわざわざ学園艦教育局からの話とは……一体なんでしょう?」

 

お供のかーしまの反応はもっともだ。基本的にお上から話があるときは大概県を通る。ウチの学校県立だからな。そのさらに上、日本中の学園艦を統括する教育局からくるのはせいぜい通達程度だ

それが直接だ、しかも私らを東京まで来させて。ただ事ではない、とは理解しているはず

 

「さぁね〜。まぁいいじゃん、向こう負担で東京来れるんだから」

 

ちなみに特急料金分もくれるそうだから、お言葉に甘えた。なかなかに優雅で気分が良かったが、これも前述の事実を補強しているだろう。ここまで待遇がいいのは何かこちらにとって都合の悪いことを教える代わりだろうと。特に学園の昨今の環境を理解している彼女らなら当然か

 

「しかし……なかなか慣れないですね」

 

出口がどこかも分からずに外に出てきたが、高い高いビルが所狭しと並び、曇りに曇った灰色の空が見えるのは逆さにのぞいた漏斗の如く先の一部のみ

 

「それにしても……こう歩いてて首疲れないのでしょうか」

 

小山がしきりに首を回す

 

「そりゃ私たちがここに住んでないからさ」

 

「学園の建物で見上げるなら艦橋くらいですしね」

 

「街に出てもマリンタワーくらいかな」

 

出口を出てしばらく、Wikipediaで確認した時に見た、白地に鉄道のレールが縦に伸びたえらく高い建物を見つけた。

文部科学省、1府12省庁の一つに数えられるに相応しい大規模なものであった。これからを思うとこの二本の黒帯が門の両脇の柱として立ちふさがって見える

 

「だ……大丈夫なんですか?こんなリッパな建物に」

 

「入るっきゃないじゃん。実際に呼び出されてるんだし」

 

 

二人の前で案内の紙をヒラヒラさせると、半ば観念したように私の半歩後ろからついてきた

因みに一応制服である。即ち学生の正装。一応問題はないはずだ。それとも大洗の町でスーツを買ってきた方が良かったかな。

ニュースで見かける縦に並んだ金の文字を見据えつつ、足を踏み込んだ。向こうが指定した5分前だ

 

 

中で名乗ると、すぐに若手の男性の案内が付いた。単なる地方の下部組織のトップにすぎないとはいえ、それなりの対応はしてくれるらしい。

一応学生証を見せて確認を取られてから、中のカーペットまで引かれたやけにしっかりした通路を辿った先、一つの応接室の前まで連れてこられた

 

「辻局長、茨城県立大洗女子学園生徒会会長、角谷杏様がご到着です」

 

「入りなさい」

 

なかなかに高圧的だが、それもその通り。私たちからしたら上の上にあたる人だし、何より身分的には大臣、事務次官の次に並ぶ一人だ。身分が違うと言って間違いない

 

「失礼いたします」

 

中は結構広い。そして奥の方に男が一人

 

「ようこそ、角谷さん。そちらのお二方も合わせてそちらに腰をおかけください」

 

私たちに示されたのは、彼の正面にあるなかなかに立派な革のソファーだ

 

「おい、彼女らにお茶を」

 

「はっ」

 

案内の男は何処かに消えた

 

「いや、面倒でしたでしょう」

 

お茶が来るまで無言かと思いきや、向こうから話しが始められた

 

「何がでしょう?」

 

「ここまで来ていただくのが、です。そちらはまだまだ冬休み期間ですし、茨城には何度か行ったことがありますが、近いようで遠いですからな」

 

「いえいえ、そんなことはございません」

 

まずは談笑でその場を緩めるか。ありがたいな、横の二人が肩が張り詰めてて見てられんし

 

「しかし2年後ぐらいに東海道線と繋がるかも、という話は聞いてますが」

 

「その件ですか。それが実現すれば丸の内方向との接続が変わる。通勤などで大きな変化がありそうですね」

 

「学園都市としても注目に値しますか」

 

「そうですね。卒業生には都内へ通勤する人もいますし、物流面が変われば大洗へ持ち込める物資の量も変わり得ます」

 

「物流といえば……大洗港は厳しそうですね」

 

「……はい。土砂の取り除きが出来なければ入港は厳しいとのこと」

 

「参りましたね……大洗は首都近辺で数少ない学園艦の入港可能な場の一つです。早期に復旧したいところ。しかし復興のメインは東北と福島に当てられてますからね……」

 

「ですよね。メディアの報道もそちらが主軸になっていますし」

 

「そうなると予算が回ってこないんですよ。ただでさえお上が必死こいて引き締めやっているもので」

 

「ですがこちらとしては大洗は母港。早期の復旧、少なくとも我々クラスは入港可能になるよう願います」

 

「……まぁ……はい、努力はしましょうか。どちらかというと国交省に持ち込む案件ですが、ウチも絡みますので」

 

「失礼します」

 

話しているうちに茶が我々の前に運ばれてきた。口をつけたがそこそこ温かく、美味い。客としての待遇ではある。

まだ雑談か?私は構わないが、これ以上引き延ばされると緊張で精神的に追い詰められたかーしまが動き出しそうで困るのだが

 

「なかなか……いいお茶ですね」

 

「そうですかね?正直安物なのですが」

 

「なら、あの方の淹れ方がよろしいのかと」

 

「なら後で彼に伝えておきましょう」

 

もう一口飲んだが、やはり結構飲みやすい上に美味い。

まぁ横の二人はそれどころではないらしい。この先への不安が募りに募って山積みになっている。結局雑談に入ってこなければ、ほぐれるものもほぐれないだろうに

 

「……そら、二人もなんか尋ねてみなよ。こんなお偉いさん、社会科見学に来ても会えるもんじゃないよ?」

 

「いえ……」

 

「そのようなことは……」

 

「つれないねぇ」

 

全く、固くなってばかりじゃ何もできん。ちぃとは気を楽に持って生きりゃいいのに、とは思うが、きっと二人には無理な話だ。ただ本題が何か、そこに全ての神経が結わえつけられている。そんなに固くなってたら、できる交渉もできなくなっちまうよ

 

「ということであと2杯くらいお茶を飲みたかったところですけど、申し訳ありませんが本題に入って頂けませんか」

 

「せっかちですねぇ……」

 

「そちらもお暇ではないと思いまして」

 

「私としてはもうちょいと『仕事』したかったのですが……淑女の願いを無碍にする趣味はないですから」

 

私は実は、この学園艦教育局長と面会するのは2度目である。こうやって余裕を持って話せる要因の一つはそこにある。

だがもう一つ、私はこの場にある中でこの落ち着きを、他の二人と比べ格段に保てる理由がある

 

私は、彼がこれから私たちに告げること、それとそれに対してどうするべきか、もうすでに知っている

 



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第2話 私と学園

 

私が大洗女子学園に入ったのは5年前のこと。大洗で生まれ大洗で育ち、大洗の海と海産物、商店街と磯前神社の恩恵を受けながら育った私にとって、脳みそ云々はともかく小学校を卒業したらそのまま大洗女子学園に入学するのは至極当然のことであった

 

小学校時代に生徒会らしきものに在籍していたこともあり、顔見知りの先輩に流されるままに、干し芋片手に生徒会に所属することになったのである

 

もう最初の1年は慣れぬ一人暮らしと仕事に忙殺されていた気がする。書類、書類、書類の山。それに加わるは来客対応。特に地元の建築業者、大洗のショッピングモール、艦上の商店街組合、そしてコンビニのオーナーに至るまで。その際にさっきの男のようなお茶出しとかをしていたのだ

 

そしてその後も事務処理などをし、課とその下の局へと細分化された中でもそこそこの職に就くようになったのは高1に上がってすぐの頃。職は学園課の総合局の局長であった。

他にも学園課には校内環境局や備品整備局、行事遂行局に運動部管理局、文化部管理局などと名前で何をしているか分かりやすい局名が付けられている中で、この局は実に分かりづらい名を受けていた。

総合って何の総合だよ。小学校の社会の代わりか。

だがその分かりづらい名の中で、私はこの学園の実態、そして構造的難題についての一層の理解を含めていくこととなる。

 

この総合局、その名前からの仕事の分かりにくさは、その本来の意味を覆い被せようとする。生徒会の会報に私の名前はあまり乗らないし、乗らない方が良い。そういう立場だった

 

簡単に言えば議会調整。そう、生徒会長と一院制の生徒議会が個別に選出される、という大統領制に近い体制をとる大洗女子学園において、議会与党とはもちろん、場合によっては議会野党、無所属議員と生徒会の中継を担うのがこの総合局だったのだ。

あと学園長の許可絡みもあるが、だいたいYESが来るのでここでは省略

 

議会与党、すなわち生徒議会で最大議席を確保する政党は大洗学園フォーラム。私が局長に就いた時には生徒議会議員総数の750人のうち241人と1/3にすら満たなかったが、それでも立派な政権与党である。

他にも新大洗クラブ、公正会、海の民、職人連合組合、学生自治権党、人民による大洗、そして多くの無所属議員が所属している。

これらの調整により味方を作り、予算や条例案、校内法案など他の局、課からあげられる代物を通過させるのが仕事であった。

よって各課の仕事とそれに絡む内容も、私のところには目を通じて入ってきていたわけである

 

 

この学園、学園都市、学園艦には多種多様な問題が転がっている。

まずは学園の問題。メインは入学試験倍率の低下だ。要するに昨今の少子化を受けて、公立中堅ラインのウチは思いっきり影響を受けているわけだ。

そうなると選抜の意味も薄れてくるし、将来的には最悪倍率が1を割ることも想定される。

生徒数の減少は学費収入に留まらず、家庭の収入レベルの低下による市場規模の縮小、街の縮小に繋がりかねない事態であった

 

そして市場規模の縮小は、入港できる港が限られてしまう、ということとも絡む。

受け入れ先としても一度に入港できる学園艦の数が限られる以上、利益がデカイ方により長く、より頻繁に入港してほしいからね。ウチはすでに大洗を除くどこの港でも順位が低い

 

そして家庭の質の低下は生徒全体の質の低下をもたらしている。その影響が大きいのが船舶科だ。

この船舶科、学費を学園艦の航行で稼ぐという形で免除されているが、それを求める層というのは必ずしも多くはない。8時間労働と引き換えだからね。

それを希望する層はせめて学費がタダになるなら、と私立や公立上位校を希望してくる。

そうなるとウチに来るのは出身地の問題か能力的な問題か、どちらかを抱えたものしかいない。

幹部層はともかく、船の底の方に仕事も割り当てられずに屯する奴らは、次第に派閥を形成して武装し、収入源を巡って抗争を繰り返すようになっていた。

大洗のヨハネスブルグと呼ばれる学生のくせにヤクや酒、売春も絡む凶悪地帯が誕生していたのである。

 

これだけで済むならまだ良いのだが、そうもいかない。続いて学園都市の問題だ。

先ほどの市場規模の縮小もあるし、インフラ網の不足が指摘されている。

艦上の1万8千の学生が毎朝学園という一つの敷地に集結するのだが、生徒の足は徒歩だのみであることが多い。というのも朝の需要には参入しているバス会社では対応しきれないのである。

これは小型とはいえ全長7kmはある学園都市にとって、最大で生徒に徒歩40分以上を強いていることになる。時間と学生の体力を考慮すると由々しき事態だ。

かといって昼間は大した需要がないし、バスを増量しても置ける敷地もそうそうない。そのうえ置くための敷地や施設の負担がバス会社側になるとなれば、こちらからは強くは言い出せないし、向こうはほぼ受けない。

プラウダみたいに市内鉄道を通せるところは話が違うのだが、人口3万じゃそんな需要は流石にない。その他のインフラ改修も考えると手を出せないのが実情であった。

 

そしてインフラ整備が学園に絡むものに集中せざるを得ない関係上、なかなかそれ以外、すなわち地場産業の育成に繋がらない。産業といえば生徒を目当てにしたサービス業くらいだ。

それは艦上の職の不安定性と卒業後の人材流出に繋がっている。

生徒がメインの市場規模が縮小すれば、きっと簡単に学園都市は立ち行かなくなる。

 

そしてもう一つが学園都市の政治的発言力の弱さだ。選挙権はこの先改正があるとしても今は20歳以上である。そしてこの学園都市の人口の6割が高校生以下。そして小学生もいる関係で、有権者は1万人いるかも怪しい。投票率を考えれば大きな票田ではない。

一応今の所は日本政府が学園都市自治保証条約に加盟し、県と町から自治権を認められているからこうして生徒会が学園都市政治に携わっているが、万一それが止められたら物資搬入の関係もあり反抗は難しい。

大洗町の飛び地である関係上、大洗町の政治には絡めるが、せいぜいその程度。県政に食い込めるかすら危ういのである。というか実際無理

 

 

そして最後が学園艦の問題。単純にいえば老朽化だ。完成から50年近く経つこの大洗女子学園学園艦。石油ショックや円高不況、それ以外の数多の影響で、大規模な改修が行われていないのだ。

私立なら自費で小規模な改修を繰り返していけるが、ただでさえ戦車を売り払わなければ財政の成り立たぬほどの公立校にそんな予算を捻出できるはずもなく、対処療法すら満足にできぬままでいるのだ。

それもまた新入生を減らす一つの要因になっている。

まぁ新入生からしてもその親からしても、仮に何かあったら一連托生の学園艦。より安全性の高いものを選ぼうとするのもごく自然のことだしね

 

そして最後は直近のとある事案が原因のものだ

 

東日本大震災

 

日本の東北、北関東沿岸を中心に未曾有の被害をもたらしたM9.0の巨大地震とそれに付随する災害群である

 

これにより大洗女子学園には二つの大きな逆風が襲ってきた。

一つは大洗港を学園艦が使用不可になったことである。

地震により発生した大津波は大洗をも襲い、沿岸施設を破砕。さらに引き上げた際に多くの土砂が港に流れ込んだのである。

復帰には底の土砂を浚っていかねばならないのだが、水深300mのところで作業できる業者がそんなにいるわけもなく、おまけに東北復興がより目立つ以上仕回される事も向こうが中心。

事業者としてもどっちも困難なら社会的にネームバリューをあげられる仕事を優先する。

結果としてこちらは震災からしばらくしても復旧の目処が立たないのだ。普通の輸送船とかフェリーの寄港ならそこまで必要ないしね

 

 

もう一つはこの巨大な学園艦を動かすエネルギー源である。

原子力。船の中にある鋼鉄で覆われた区画の一つにある巨大な発電機が、この学園艦を動かすエネルギーのほとんどを占めるものである。

だがその原子力発電所の一つ、福島第一原発。それが震災により水素爆発を起こしたのは記憶に新しいだろう。そう、それに近いもの足元にある学園艦なのだ。一応潮力とか人の移動とか他のエネルギー源も使っているけど、ハッキリ言ってこの学園艦を動かすにゃ微々たるものでしかない

 

他の学園艦では私立を中心に自然エネルギーへの転換による代替計画を発表するなどしている。黒森峰は左派の主張で原子力エンジンの2022年までの完全停止を掲げたし、プラウダも環境5カ年計画を発表。サンダースはその財力で艦内一掃計画を立てているという話だ。羨ましい

しかしそんな艦内を総入れ替えするような金は、大洗には学園艦をひっくり返して振っても出てこない。

 

 

さてこんな風に問題が両の手にも余るほど転がる大洗女子学園だが、救いと言える部分もある。実績が県内でもそこそこの部活たちと学力。あとは水産科などの養殖技術研究や必修選択科目による伝統文化の継承協力など、売り込める部分はないわけではない。いくらなんでも弱いけど

 



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第3話 政党

 

 

まぁここまでさんざん悪口を言ってきたわけだが、本来ならば都市内条例や予算などで問題改善に向けて働きかけていくのが基本だ。だがそうも上手くいかない。その要因が私のいる総合局のお相手、生徒議会である

 

私がまだ総合局に配属されて間もない頃、ある法案を通す際に当時の上司の3つ上の先輩に一度尋ねたことがある。

「なぜこの法案を通してしまわないのですか?」

と。返事は簡単だった。

「無理だからだ」

 

そこから先に聞いた話は私の耳にこびりついて離れない

 

まずそれぞれの政党の特徴から掴んでおこう。

先ほど述べた大洗フォーラムは普通科を支持基盤とする中道左派政党だ。

大洗女子学園でも有数の歴史を持ち、その支持基盤の大きさから長らく議会第1党にして政権与党を務めている。

最大政党だけあって、生徒会会長もこの党に近いものから公認を受けて出ることがほとんどだ。ここ10年以上変わらない

基本路線は相応予算と部分介入経済。身の丈にあった予算を組み、また負担は生徒が学習に必要なものの総計に応じて負担すべきとの立場をとり、議会や行政の都市経済への一定の介入を認めている。

実際学習必需品への援助金を予算に組み込んでいたりもするし、そんな予算を通してきた

 

続いて新大洗クラブ。

開放経済と拡大予算を主張する中道右派の議会第2党。議席数はだいたい140〜150といったところだ。地方債を発行してまでもの財政拡大を主張する。担保は学園都市そのものだそうだ

2000年代に入ってから結成され、あまり科などに左右されず一定の支持を得る。だから支持層も幅広く、切り崩しは厄介だ

その主張からサンダースとの繋がりがある

 

それと海の民と職人連合組合。ここを一纏めにしているのはその主張が似通っており、結構行動を共にするからである。

主張の軸は専門科への支援の拡大による普通科との学費格差の縮小。それぞれの科ごとの詳細で違いがあるが、大筋では変わらない

議席数はだいたい40〜50で、足して90くらい

 

あとは人民による大洗。名前の通りプラウダ寄りの左派政党。党首が変わるとプラウダに挨拶に行くという習慣がある。

船舶科の労働条件の改善が基本だが、その革新方法をめぐり議会路線と一党独裁移行路線が対立している。

議席数は30弱。とっとと分裂しろ、暴力行為の予備罪とかで風紀委員投入するぞ。流石にプラウダと関係を拗らせたくないからしたくないけど

 

他の公正会と学生自治権党は基本中道路線だ。

公正会が教員、都市民を含めた複合的議会の開催。学生自治権党はクラス、学科ごとの裁量拡大を主張している。

議席はそれぞれ20ほど、大した勢力ではない

 

そして残りの約200人。これが無所属議員である。

その場その場で対応を変えてくる厄介な存在。どう動くか読めないため、ここの数を計算せずに案を通過させるのが理想だ。

しかしそうもいかない。重要議案でさえ与党以外の無所属も全員賛成したら通ってしまう程なのだ。

要するにこの与党、拒否権すらまともにない。こんな与党が力を十分に発揮できる訳がなかった。それを仲裁しなんとか案をまとめるのが総合局の大きな仕事だったわけ

 

なぜこのような事態になるのか。それはクラスから2人ずつ選出する生徒議会の仕組みにある。

クラスから2人、となれば、同一政党の2人を選出することはほぼない。それはクラスの総意がその政党支持、と言っているようなものだからだ。流石に心理的に避けてくる。

普通科ならフォーラムとその他どこかの政党の候補が一人ずつ選出されているクラスが多い。普通科の中でフォーラムで独占できているクラスなど、クラス数は200以上あるのに片手の指でも余るほどだ

 

それに選挙が行われるのは4月の頭、入学したての中学一年生からも選出される。政治の話も通じるか怪しいのに、各党がその学年に地盤を有せるはずもない。ここからは小学校時代の人気者などの無所属議員が当選しやすくなるのだ。彼らをいかにフォーラムに引き込むかも腕の見せどころだが

 

結果無所属議員の拡大と少数野党の乱立を防げないし、与党も最大学科普通科の支持を固めるのが精一杯。

新大洗クラブのせいでそれすら危ういのが現状なのに、他の学科に支持を広げる余裕なぞない。やはり専門科はそこ地盤のとこが強いしね

 

 

なら主張を取り込んで連立政権でも作って仕舞えば、と言いたくなるが、それもまた難しい。理由は連立政権となっても行政と立法が分裂している体制下では、与党と連立を組むメリットが少ないからである。

現在の日本のように議院内閣制を取っていれば、連立を組んだ党も大臣を出したりして影響力を示せる。しかし行政が別ではそうもいかない

 

一応生徒会の者は政党所属が禁止されているが、心の内では大半は親大洗フォーラムだ。政権交代はそうそう望んでない。何より仕事の勝手もわからない奴らが、政党の主張を実行するためとか理由をつけて毎年交代でぶち込まれては、回る仕事も回らない。

昔アメリカにそういう制度あったらしいけど、ウチらで導入する予定はないし、それをフォーラムはわかってくれている

 

とにかくこうしてフォーラムしか絶対的な与党がいない以上、何か法案や案件などを通過させるには無所属議員や他の党の賛成を得なければならない。そうなると必然的にその党の主張などを盛り込まなければならなくなる

 

結果的に大規模な改革は進まず、予算も各党の意見を反映するものとなる。

だから各学科にも予算を分けるし、さらに無所属議員に影響力のある甲板上の町内会の意図を反映する形になる。

さらに体育会部活も文化系部活の予算も、さらなる躍進、ネームバリューの獲得を名目に要求を受ける形になる。

反対されたらクラスの支持が落ちて政権が転ばざるをえん。クラス選挙区というのはたった数人の反対で当選者が変わり得る世界なのだ

 

この配慮に配慮を重ね、吐き出しに吐き出した挙句に残る金など僅かだ。この妥協に妥協を重ね緩みきった関係がずっと、そうそれは戦車を売っぱらうよりも前からズルズルと続いていた。

そして各団体が強力な後援を受けている以上、どうあがいても無碍にできない

 

誰もこれを変えられなかった

 



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第4話 挙市

 

私には古くからの友人がいた。地元が同じ小山とかーしまだ。二人とも私と同期で生徒会に入り、小山は中3の時点で都市開発課インフラ整備局の局長補佐に付いて、かーしまは校外交流課の対他校局の一人だった。二人とも人の貸し借りの中で学園のこともやってたりしたけどね

結局かーしまが初めて役職らしい職に就いたのは高2の夏。よーするに仕事はできるが上には立てなかったのだ。実際そうだと思う

 

だがその二人には色々と助けられてきた。私が疎かった学園都市の内政状況を把握して、他との交渉材料に使えるようになったのは、間違いなく小山のおかげだ。そして時に、私の隣で力強く押してくれた。それは相手の心の芯であり、私の心の核でもある

 

かーしまは弱い奴だが強い奴だ。すぐに心折れて泣き出すくせに、次の日には変わらずに仕事に戻る。そして、船舶科の状況が改善に向かっているのは、迷い込んだかーしまの功績だ。

半ば犬になる勢いの忠誠心は受ける身としても悪くないしね。生徒会にいるだけで雰囲気が変わる、そんな力があった。

もちろん生徒会の企画の中でもふざけあえる仲間だったね

 

 

私が学園課の課長に就いていた高校2年の夏、もうすぐ夏休みに入ろうとしていた頃、当時の生徒会長の山崎さんから一つの話を打診された

 

「角谷いるか?」

 

「はい」

 

課長といっても部下より書類仕事は減るし、だいたいその少ない書類を元手に下に指示出すだけだ。その時も干し芋片手にお茶を飲んでた時だった

 

「突然で悪いが、お前都市開発副の小山と組んで私の後を継いでもらえんか?」

 

「はあ」

 

「フォーラムがお前なら推薦を出す、と言っている。私としてもお前の指導力なら後を任せられる。お願いできないか?」

 

「構いませんが」

 

「やけにあっさりだな……」

 

「そりゃ、私以外にできるとも思えませんしね」

 

「……はっきり言うな」

 

残念ながら他の課長級と比べても、誰が訊いても私になってしまう。仕事量、実務貢献、統制指揮、その全てにおいてね。自分で言うのもなんだけどさ。ま、今は指揮一辺倒だけど

 

「5割がたその通りだけどさ。じゃ、受けたってことで話進めとくぞ。公約とか考えておけよ」

 

私の公約。まぁ、学園を変える、とか栄光を再び、とかがよくある話だが、どうにもできそうな話ではない。どうにかするための予算が組めないのだから致し方ないのだ

はてさて、どうしたもんかね

 

「と、そうだ。角谷」

 

また山崎さんに呼び止められるまで、そんなに時間はなかった。

 

「健闘を祈願するには早いかもしれんが、飯食いに来ないか?」

 

断る理由はない

 

「……構いませんが」

 

「よし決まりだ。それじゃ、私は小山を呼んでくる」

 

一人暮らしの私にとって、先輩方と食事に行くのは実に合理的だ。要するに向こうがもっと出してくれる可能性がある

 

 

 

呼び出されたのは甲板上の公園、そこには私しかいなかった。

時間を確かめたが、予定の5分前である。他に一人くらいくるのかと思っていたが、誰もこなさそうだ。まだ少々日も高いしな。

さて、生徒会長か。こうして学園のために、と働いてきた。そして変えるための手は打てる限り打った。たとえ人から後ろ指を指されそうなことでもやってきた。それが愛する大洗と学園のために必要だと知っていたから

だがこれ以上、これ以上何ができる……

 

「おお、角谷。きてくれてたか」

 

「山崎さん」

 

「そら、行くぞ」

 

連れられるままについて行ったが、行き先はある一軒家というか、山崎さんの住む家である。そのくらいデカイ。私のアパートとは訳が違う

 

「そら、上がれ上がれ」

 

「お邪魔します」

 

鍵を閉めて上り込んだ先の家は、玄関もかなり広かった。足元には小学生のものと思われる靴などが並んでいる。この学園艦に住んでいる人が、やはり生徒会には多い

比率的に高いのは親も住む地のために働こうとするからだろうか。その点では私は当てはまらない

 

「で、だ。早速で悪いが、料理を手伝ってくれんか?」

 

「料理、ですか?」

 

「そうだ。今日は結構人をたくさん呼んだのだが、私だけじゃ料理を作る手が足りん。妹たちも部活やら友達と遊んでくるやらで帰ってくるのが遅いし、親は陸に行っている。

ということで料理が得意らしい、という角谷。お前に手伝って欲しい」

 

「いや、健闘を祈られる人間が祈る料理を作るんですか?」

 

「まぁいいだろ、細かい話は。美味けりゃなんでもいいじゃないか。15人分くらい作るからな。早速始めようか。荷物はそこの和室にでも置いておいてくれ」

 

「15人、ですか」

 

「そうだ。多いだろ?」

 

私が和室の隅に荷物を置いている間に、山崎さんが手を洗ってエプロンをちゃっちゃと付けていた。

 

「まぁ、ちょっとしたパーティーみたいになるのかもな、アハハハハハ」

 

「はぁ……」

 

課長を掻き集めても10人にすらならない。となると、他の客がいることになる。誰だ?フォーラムの幹部層か?

まぁ家でやるのは賛成だ。店でやって何らかの話が漏れる可能性があるのは非常にやりづらい

 

「ということで、冷蔵庫にだいたい材料ぶち込んであるから、使ってくれ」

 

「は、はい」

 

「そうだな……時間のかかりそうなオーブンで焼きそうなやつから始めるか……」

 

その後は一心不乱に料理に没頭していた。他の人がぼちぼち集まってきたのは夕方7時ごろ。その頃になって2時間ほど続いた料理はひと段落を迎えた。流石の私も腕がキツくなっていた

 

 

 

「角谷杏の生徒会長選挙出馬に感謝し、その勝利を祈願して、乾杯」

 

山崎さんが音頭をとり、ジュースの波が正面でぶつかる。

 

「そうかぁ、杏ちゃんかぁ」

 

「まぁ、だろうなぁとは思ってたけど」

 

「いやぁ、これでフォーラムも政権も一安心だな!よろしく頼むぞ、新会長!」

 

「まだまだ私の時代だよ」

 

「そうだったそうだった。会長もこれからもよろしくな!」

 

集まっていたのはそうそうたるメンバーだ。

 

生徒会長、山崎

副会長、玉丘

学園課長、角谷

校外交流課長、峰口

都市開発課長、山縣

保健衛生課長、三森

税務管理課長、藤峰

住民福祉課長、牧野

産業振興課長、林田

 

以上生徒会課長級以上9人。

 

大洗フォーラム代表、青嶋

大洗フォーラム副代表、白石

公正会会長、赤城

生徒議会議長、真崎

風紀委員長、志津川

風紀副委員長、園

 

大洗学園都市の有力者6人

 

計15人

 

このメンバーが、ここに集った。大洗女子学園の政治の根幹を成し得るメンバーである

 

最初は学園の政治がらみの話も、半ば笑い話として話題に乗った。議会など政治の場でさえなければ、別にそこまで対立する必要もないし、していないのである

 

「この前の議題の時のそちらの今田の質疑、イヤーなところ突いてきよりましたね」

 

「でしょ〜。アイツが現状ウチの若手のホープよ!これからアイツの時代が来たら……覚悟してくださいよ」

 

「うっわ〜。党首討論持ち込まれたらキツイわ〜」

 

「だからって逃げないでくださいよ!」

 

「わーってるよ」

 

和気藹々……かね?

 

 

 

飯がだいぶ進んできたころ、誰かが言った

 

「それで……会長。このメンバーを集めて、何を話される気でしょうか?」

 

場の空気がさっと冷める。きっと冷めねばならなかったのだ。

 

「……まぁ、非常に良くない知らせだね」

 

山崎さんの声も低くなった

 

「……というと?」

 

「……最近、お上が学園艦縮小に舵を切り始めている。歳出縮小を掲げる中で、学園艦への援助金の規模が問題視されているらしい」

 

「で、大洗がその『縮小』の候補に入ったってところか?」

 

「おおかたその通りだ。正式じゃないがな。おっとそうだ、これはまだ内密に頼むぞ。情報元が知れると厄介だ。特に風紀委員、この件に関してはこの先も隠匿したい。協力して欲しい」

 

「漏れたらそれだけで新入生を減らしかねません。学園の未来に関わりますね。分かりました、全力を尽くします。いいな、そど子」

 

「はい」

 

「それで何をなさろうと?」

 

「……昨今の志願者数、学園艦人口の縮小。開発の不振。余剰資金の少なさも不名誉なことに学園艦トップクラス。

どうにも上手くまとまらないのは、この政党乱立っぷりとそれをまとめきれない体制にある。が、これまで誰も止められなかった。正直このまま進めたところで、この先の滅亡を回避できるとも思えん。

ということで、私は『挙市一致政府』の設立を目指したい」

 

挙市一致政府。名前がやるべきことを示しているね



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第5話 生徒会長

投票には行きましたか……(もう遅い


 

 

「挙市一致政府、ですか」

 

「もはや生徒の自立のための自治の維持やら市民民主主義育成のための少数意見の吸い上げやらにこだわる段階ではない。学園艦がなくなるとなれば、それどころではないんだ。地面がなくなりかねんのだ、文字通りな

全てを巻き込んだ革新。それを起こさねば、これをしのげたとしても我々はこの少子高齢化を含めた荒波を生き残れん」

 

話に耳を傾けていた面々は複雑に頭を傾け、唸り始めた

 

「……題目は分かりましたが、どうするというのです?」

 

「議会に市民議員を入れる。その結果議員数拡大に繋がってもいい」

 

「ほう……公正会としては支持するのもやぶさかではないですね」

 

「しかし議長として厳しい面もありますね。市民議員を入れるとはいえ専門職とするわけにはいきません。そんな給料は捻り出せません。兼業を許可するとなると、議事の時間に制限がかかりますよ?」

 

「夕方以降にならざるを得ませんね」

 

「もう一つ。こちらフォーラムとしては議会規模の拡大による党の影響力低下を懸念します。フォーラムが与党として居続けるには、市民からの支持層確保の確実性が必要です」

 

「そこでだ。公正会、ウチと組まんか?正直これが成されたらウチと対立する理由はないだろう?こちらとしては市民支持のために、経験のあるそちらの支持を受けたい」

 

大丈夫なのかそれは……連立は無理だぞ?合併しかないが……それまで争っていたものたちの合併には問題がつきまとう

 

「……それには懸念が。まず、公正会内部の合意が得られるか、です。残念ながら、造反が出る可能性は否定できません

恥ずかしいことですが、我が党は都市民の政治参加を求める、その一本のみで集まっているようなところです。他の思想では党員の間でも溝がありますし、結構自主投票も指示してます。それゆえ、フォーラムと完全に統合となると……厳しいかと」

 

「だろうな……多少はやむを得ないが、できるだけ説得してまとめるしかないか。いや、そうせねばならん」

 

「もう一つがこの改革案が議会を通過するかどうか。少なくともフォーラムとしてこれを出すならクラブの合意はどう考えても得られませんし、他も影響力低下を恐れるでしょうから、そうこちらには靡きますまい」

 

「町内会の支持を得て無所属を取り込む。町内会支持層もフォーラムと公正会の連合に取り込んで行くしかないだろう。それでな、角谷」

 

「は、はい」

 

「これ、お前がまとめろ」

 

突然振られた話だが、思ったよりか混乱はしていない

 

「は」

 

「次の生徒会長は都市を纏め、全てを纏めることになる。お前は基本今まで裏方だったから、ここではっきりした箔を付けとけ」

 

箔、か。新たな選挙民とする市民相手だと、そういうのも必要か。それ抜きでもメディアなどに顔を出す機会は欲しい

 

「小山と河嶋、二人を使え。都市関係の調整と他学科の巻き込みには二人がちょうどいいし、友人たちで指導層を固めとけば気兼ねいらんだろう」

 

「……わかりました。なんとかしましょう」

 

「そう言ってくれると助かる。しないと思うが、癒着と疑われそうな行為に注意しろよ」

 

受け入れた。むしろ拒否する理由はない。やっておくべきか

 

「しかし……学園もここまできてしまったか」

 

「逆にここまでされねば動けなかった、ともいえますけどね」

 

「単に党利党略で動くモノにはその足場を把握する余裕なんてない、ってことじゃないの?」

 

「違いない」

 

「あとは議会を拡大するなら、夕方開催に関する議論ですね。必修選択科目が夕方までやる可能性がある以上、それ以降という形になりますが」

 

「そうだな。そっちの方が市民側も都合つけやすいだろ」

 

「それと……市民向けの公約ですね。それも実現可能と思わせられる」

 

「そこらへんは都市開発とかが軸で組んでくれ。インフラや商業支援が核だろうが」

 

「市民の投票に関してはどうしましょう。生徒はもはや投票はオリエンテーションに組み込まれて義務のようなものですが、市民相手にはそうはいきません」

 

「学園の変革を見せるには、やはり投票率が高くないといけないわけか……」

 

「そちらが高まらないと今後の議席数の参考にもされかねませんからね。議会の大勢を変えるにもやはり必要になりますね」

 

「時間もないですね……」

 

「まあ、やるしかないよ」

 

 

 

 

その後の奔走は本当に地獄のようであった。町内会を通じてその影響下にある無所属議員を法案支持に取り込み、そしてかーしまを通じて艦底から船舶科を切り崩しにかかった

 

そもそも風紀委員による度重なる排除作戦も地の利を生かした頑強な抵抗で失敗していた中で、かーしまから作ったお銀系へのツテを利用し、そこに支援をする事で一強状態にして間接的に艦底影響力を持つのが、生徒会の基本政策だったのだ。私はその綱を登っていったに過ぎない

 

お銀系は艦底のバー『どん底』を基点に勢力を持っていた、そのバーの仕入れ先となる物流拠点の一つを握っていた中堅勢力だった

 

かーしまを受け入れ連絡相手として支援を行った結果、その勢力は艦底のトップ勢力となった。かーしまに連絡を集中させたのは、向こうがこちらの意向に従わなくなり万が一手を切らざるを得ないときは、そこを区切りさえすれはよくなったからである

 

親友の交友関係相手にそんなことはしたくないし、現状しなくても大丈夫だろうけど。向こうは生徒会による援助漬けにしておけばいいし、報告によるとそうなってきている。あげた金は武装とノンアルに消えているらしいが、そんな非生産的なものに消えていても安定するならこちらの勝ちだ

実際それで上手くいっていたし、下からの切り崩しはこれで進んだ

 

それと艦長らトップ層への仕事の話、要するに彼らの職場がなくなる危険性を説いて団結する必要とかを言い続けたのだ。支持層から海の民を揺るがしにかかり、そしてそれは功を奏した

 

 

「今後の町内会のためにも必要では?」

 

「ではそれでそちらになんのメリットがあるというのだね?」

 

「町内会は我が学園艦を支える一員。その力あって学園都市は初めて一つにまとまります。少子化、震災、状況がめまぐるしく変わる今日、もはや情勢は急を要するのです」

 

などといった有力者との対談に夏休みを完全に塗りつぶされ、夏休みが終わってからもナポレオンのような実務生活を送って、小山と一緒に人という人に会いまくってなんとか成し遂げたのが、9月末の『生徒議会基本条例改正案』の可決であった

 

9月の頭から始まった議会では、その開催方針や市民に割り当てる議席数、そしてもともとこの法案への反対が渦巻いていた。私からしたら裏で手を回しつつ、表向きは話を聞いて受け流したりさばいたりする他なかった

 

大洗フォーラムを中心に公正会、海の民の一部に無所属議員、その他にも都市民に近い新大洗クラブの一部も造反させ、結果は賛成381。棄権もいるのを考えても、なんとか形作った過半数であった

 

前段階がそれだからもちろん採決は荒れた。職人連合組合、学生自治権党、新大洗クラブが強硬に反対し、公正会からも反対に流れる者がいた

無論海の民や町内会系の無所属議員からも離反者はいた。各党、そして議員一人当たりの影響力の低下を懸念したのである。特に支持基盤が強固な職人連合とかは造反になびこうとする気配すらなかった

 

だがともかくもこの学園内での合意は果たされた。そしてその話は学園新聞を通じて皆の目と耳に触れることとなった。

新聞記者は度々私を取材し、『大改革をとんでもない速さで成し遂げた女傑』と書きたてた。どっかの運動部が関東大会に出場したのとかを搔き消す勢いだった。それも初戦負けだったしね

私は話しかけてくる奴は存分に利用してやった。そして向こうはこちらの2割くらいホラの混じった話でさえ嬉々として書き留めて、ばら撒いていった

 

こうして私には議会と箔が付いてきたわけだ。そしてまもなく始まった大洗女子学園生徒会長選挙。大洗フォーラムと公正会の推薦を受けた私も小山と遊説に回ったが、もう勝ちは目に見えていた。始まってすぐの世論調査でも圧勝だ

 

スローガンは『あれに見ゆる都市へ』

 

そう、大洗がかつて戦車道の名門と称された時代の繁栄を、ここに取り戻さんと言わんばかりのものだった。

古今東西を問わず、『〜を再び』や『〜を取り戻す』というのはそれだけでメッセージになる。かつて栄光ある時代あった事実すら曖昧でいい。実際大洗に住んでた私の記憶にすらあるわけじゃないしね

私もそれに乗っかった。そしてそのメッセージは学園艦を巻き込む動き……とまではならなかった。残念。ま、全部上手くはいかないね

甲板の上のあちこちで私はマイクを握った

 

「大洗は改革の時を迎えているのです!ありとあらゆる問題が山積しているのです!その問題に生徒会の一員として向き合ってきて、なおかつそれを変えられる力がある!大洗フォーラム公認の角谷杏、角谷杏をどうぞよろしくお願い致します!」

 

 

 

いずれにしてもその2週間後、私は次期生徒会長になることが、クラブや人民の候補者に対する圧倒的勝利によって決定された。開票速報が始まってすぐ、開票率0%の段階で当選確実となっていた

一応万歳三唱こそして支持への感謝やら今後奮闘する所存やらを述べたが、すでにこれからのことを考え続けていたのだ。感傷に浸る暇はない

 

私の双肩に、学園の未来がのしかかってきているのだ



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第6話 町長

 

 

さて将来は決まったが、今はまだ課長である。そして何より、先ほどの案件はまだ実行できるわけではなく、二つの条件を乗り越える必要がある。一つは非常に容易いが、もう一つはなんとも言えない。

それは、前者が全町内会の許可、後者が大洗町、町議会の承認であったからである

 

当然と言えば当然だ。自治権を認められているとはいえここは大洗町の飛び地。飛び地単独でこのような議案に完全な結論を出せるはずもない。結果的には上が判断を下す立場となる

 

私はその案件を認めてもらうべく、新会長としての挨拶も兼ねて大洗へと上った。風の冷たさが頰から沁みてくる11月のある祝日のことだった。私も学校があるから、向こうが配慮してくれるらしい、と山崎さんから聞いた

 

大洗の町役場は松並木の並ぶ海辺から一歩入ったところにある。こうして向かいやすいのは今後も考えると非常にありがたいのだろう。だが海岸では未だ先の震災の傷跡が各地に残る。

荒れたままの海岸近くの並木の下に土の見えたままの花壇。奥に進めば未だ崩れたままのブロック塀などかある。復旧が進むのは港が中心だ。それだけでもかつての車がとっちらかり、船が乗っかった埠頭とかがあるよりはマシになった

 

だが震災前から続く人口減少は止まらず、高齢化率も30%を超えるところまで迫ってきた。

私が生まれたこの街には何かが必要だった。街の誇りとなり、その名を轟かせられる何かが。母港の衰退は学園都市への物流の縮小、そして学園都市の魅力の低下に繋がる。新会長として何かしら手を打つ必要があった

 

 

雨よけを抜けて門をくぐり、たちまち私は会議室へと誘導された。私たちの持つ会議室とそこまで差はないようである

 

 

話すべき人は私が座って正面を見つめる中、少し遅れて入ってきた

 

「すまないね。君が角谷くんかね?」

 

白髪で頭が覆われた老人であった。そこそこの歳だろう。立ち上がり挨拶に応じる

 

「はい。私が来年度生徒会長として県立大洗女子学園学園都市を管轄致します、角谷です」

 

「ふむ、噂はかねがね聴いておるが、君が『大洗の女傑』か」

 

「いえいえ、そんなご大層な者ではございません」

 

「ふむ、そうかね。おっと挨拶が遅れたな。大洗町長の竹谷という。まずは次の一年間、大洗女子学園をよろしく頼む」

 

「お任せください」

 

差し出された手を握り返す。シワがあって乾燥していたが、私からしたら指先すら覆えない

 

「とは言いたいところだが、お互い状況は楽ではない、か」

 

「……ですね。昨今の学園艦縮小を目指す動きとも絡んでいるでしょうが」

 

「こちらも何もできん。水戸へ、そして東京へと若者は学園艦を経由して吸い取られるしかない」

 

「学園都市か大洗の残留に対する支援は考えておりますが、なにぶん学園都市の産業基盤が弱いもので……」

 

「そこは今更言っても始まらん。やるとしても10年20年はかかる話だ。その点君がやってくれたという議会改革はそこそこ即効性があるし有効だろう、と思っている」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「学生以外の市民に都市民としての意識を持たせる、という点では良い手だろうし、今後の学園艦はそうせざるを得ないだろうな」

 

「誠にその通りです。そして、その改革案は……」

 

「問題ないだろう」

 

大きな息の塊が口から噴き出した。

 

「町議会議員の動向に即座に関わるものでもないしな。それに学園都市改革は内部から求められてはいたが、自治を認めている以上こちらからおおっぴらに指示できないからな。そっちからやってくれるんだ。実現不可能であったり内容に問題があったりするのでないならば、ノーと言う奴はいない」

 

「な、なるほど……」

 

「その点に関しては安心してくれ。あちらに確認も取ったしな」

 

「学園艦教育局、ですか」

 

「その通りだ。だから施行に関しては大丈夫だ。とはいえ根本的ではないしさらに何かすぐにできるわけでもないがな」

 

「……おっしゃる通りで」

 

「ところで、新会長に就任するにあたって公約は出していただろうが、実際にやる気があるものはあるのかね?」

 

「真っ先にOG組織の体系化、ですね。もうアヒル大統領よりも崩壊しそうなくらいてんでバラバラなので、ここを組織し直して学園の尊厳の継承を掲げます」

 

「で、実は金か」

 

流石はこの町で私が幼稚園児の頃から町長を務めた方。洞察は流石のものだ

 

「寄付金の上納体制を簡略化する、というのはあります。いざという時にOG組織があると便利ですしね」

 

「賛成だ。そこに所属する人に町に帰ってくることへの支援金などは考慮してもいいかも知れん。市場の規模拡大を狙っても共有できる点があれば団結できるしな」

 

「その周知にもあって損はないかと」

 

 

その後も私の政策案に関する話が来た。否定も来たが、口振りとしては私が政治の真髄を理解していない、というかのようなものだった

当然だ。もともとどちらかといえば私は官僚側の人間だ。政治力など限界がある。だが同時にこの先道を変える以上は先達の話を聞くに損はない。かの方曰く、政治とは世論と喧伝、そして慣れだそうだ

 

全く耳に入れたくないし受け入れたくもない話だが、正解だなぁ。そうするのが最善だ。最後だけはどうしようもないだろうが

 

「まぁ、ここら辺にしよう。そもそもの話が通じる人間で助かるよ」

 

お茶が運ばれてきて少ししてから、向こうがダメ出しを辞めた。これしきで終わるほど精神的に脆いわけじゃないが、ない方が気分がいい

 

「正式な任命は正月前になるし、私からはここまでなんだが、この後は空いてるか?」

 

「は、はぁ……時間自体はありますが、一体……」

 

天地がひっくり返ってもこんなチビで貧相でちんちくりんの身体を求めてくるわけじゃあるまいし

 

「君にも引き合わせたい客人がいる。この店だ。行けば会える」

 

町長は鉛筆でのメモ書きを一枚私に手渡した。見かけたことがある街の中の店である。ここからそこまで遠くはない

 

「宜しいかな?」

 

「……はい」

 

晩飯を奢ってくれるなら乗ってもいい。というかこちらは高校生だ。流石に自腹は切らせないだろう

 

 



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第7話 パーカーの男

 

 

示された店はお高い店として町民に知られているところだった。実を言うと私の実家からもそう遠くないし、近所付き合いが無いわけじゃないのだが、本当に入ったことはない。

日も暮れて数少ない街灯がその店の少し手前を照らす中、私は渡された紙と店を三度ほど確認してから、中を覗きながらゆっくりと戸を開けた

 

予約済みらしく、店員に町長の名字を伝えると奥まった座敷に案内された。内装は木を主体としている明るめな高級懐石店

本当に奢ってもらえねば財布の中身はおろか財布ごと売り払わねばならないだろう。思わず壁にある絵なども眺めてしまう

 

何事だろうかと待ちながら渡された温かい茶を喉にゆっくり流す。飯を食おうにも相手も誰もいない4人がけの座敷。何もできるはずがない

待つこと20分。ただひたすらに暇であった私の前に、やっと二人の男が現れた。一人は先ほどまで顔を見合わせていた男、町長の竹谷氏だった

 

「待たせたね」

 

「こんばんは。いえいえ、お気遣いなく」

 

しかし一人ではなかった。もう一人灰色のパーカー姿の、少しは若いと思われる男も後ろにいた

 

「さ、どうぞどうぞ」

 

何処にでもいそうな身なりだし、こちらの方がよくよく見ても若いようだが、その割に竹谷氏が気を使う方のようだ。偉いのか?

 

「そちらの方は?」

 

返事を返される間も無く、その人は奥に腰掛け、手を拭いてじっとこちらを見据えていた

 

「……彼女が、ですか」

 

「はい?」

 

「いえ、失礼。ここは問題ない場所なのですか?」

 

見据えていた割には私の返事には興味がないようだ

 

「はい。私どもと縁のある店ですゆえ。味も、特に大洗の海鮮は保証しますよ」

 

「なるほど、ではまずはそれから頂きましょう」

 

誰かもわからずに同じ部屋にいる男とともに多様な小皿に盛られた先付けを摘む。眼鏡の奥の目がなかなか見通せない

箸だけ飯を口に運ぶ。味がしない。向こうには味がわかるようで舌鼓を打っているが、向こうも食事の話しかせず、こちらに話を振ろうとしない

 

そのまま人参と茸の煮物、鯛や鮪に鮃といった刺身と何も話のないまま、酒のない懐石というのも合わさって、この奇妙な食事会は続いた。私たち以外に店に入る人もなく、食べ終わると皿はすぐに取り替えられ、蓮根などの炊き合わせがやってきていた

 

「本当に……問題ないようですね」

 

「言った通りでございましょう。私たちからしたらその話に乗らない手はないのですから」

 

「……少し疑いすぎましたかね」

 

「それに今日は祝日。貴方がどこへ行こうと問題ではありますまい。私も仕事時間外ですし、ここの店も町の経済に左右される所の一つですからね。話は付けてあります」

 

「それもそうですか」

 

「それに自分で言うのもなんですが、選挙もないのにこの田舎町までわざわざ探りに来る人間はいないでしょう。いたとしても私と貴方なら学園艦の寄港なんたらで済みますし」

 

「……では、話を始めましょうか。申し遅れました、角谷さん。私、学園艦教育局の辻と申します」

 

一瞬思考が止まった。それが事実だと判別できたのは、彼が直後に名刺を差し出してきたからである

 

辻廉太

 

文部科学省学園艦教育局局長

 

そこにはまさしくそう書かれていた

 

「は、あ、ありがとうございます。お初にお目にかかります。私、大洗女子学園生徒会学生課課長の角谷と申します」

 

カバンの中から新品の名刺入れを取り出し、かーしまの実家で作った名刺を手渡そうとした。しかし印字がすでに生徒会長だったのでそのまま引っ込めようとした

 

「えーと、課長の……」

 

「その名刺で構いません」

 

カバンを半ば開けっ放しにしたまま手を止めた

 

「私は『大洗女子学園生徒会長の』角谷杏氏と話しに来たのですから」

 

何だ。とうとう直々に候補に入った話か?だとしたら何故こんな直接このお偉いさんが私服で足を運んでくる?

 

「……そんなお偉い方がウチのような小規模学園艦に何の御用でしょうか」

 

カバンを締め、名刺を手渡してから本題を促した。こんなに楽しくない食事というのも久方ぶりだ。終わらせるに限る

それに上に立つ存在だからこそ、下手にへりくだっては向こうの思う壺だ。私を学園都市の主人と見ている以上、隙を突かれては市民の不利益になる

 

「こ、これ、角谷くん……」

 

「そんなに気を張らなくていい。私もこの身なりです。たまたま同じ店で相席になった程度、それで構いません」

 

自己紹介しておいてそれはない。しかしこの格好ということは、この訪問は公式のものではない、ということだ。こんな人物から非公式に伝えられるもの……そんなもの、あるだろうか

 

「今日は角谷さん、貴女に悪い話と良い話をお伝えしに参りました」

 

 

 

「悪い話と……良い話ですか。悪い話というと…….自動車部の免許関係ですか?」

 

多分違うが、とりあえず振っておく。聞きたくない話を先延ばしにしているだけだが

 

「いやいや。むしろそこは県外から生徒も呼べてますし、事故でも起こさない限りこちらも気にしませんよ。現在は気にする余裕もない、という方が近いですがね」

 

「それは何よりです」

 

「ま、それを支える母体が怪しくなるのですが……」

 

「それは……つまり……」

 

「……そこは私からにしようか」

 

話をやめていた竹谷氏がここに加わった

 

「そうですね。それはそちらでお願いしましょう」

 

「わかりました。角谷くん、恐らく君も察しているのだろう?」

 

無言はYESの代替えだろうが、それをもって私は返事とした

 

「大洗女子学園学園艦は……このままでは廃艦となる可能性が高い……そうだ。期限は来年度末」

 

「そう……ですか」

 

予想より期限が早いが、わかっていたことであった。抑えているものもあるとはいえ、問題だらけの学園都市だ。統廃合を進めるという国の主張に則るなら、ウチは廃の字が一番適しているだろう

 

「そうですかではないぞ!学園そのものも無くなるのだぞ!」

 

「かといってですね、金銭面や産業面、そして政治面。実務を遂行してきた者として問題は山積しているのを見てきております。そしてそれを解決する金はない

この学園都市の規模から見ても、条件的に廃校候補には入り得るかと存じます」

 

「し、しかしだな……」

 

「それでは良くないのです」

 

今度は辻氏だ

 

「大洗はこの流れを乗り切ってもらわねばならないのです。角谷さん、貴女には……これを阻止して欲しい」

 

「はい?」

 

思わず変な返しになってしまった。私単独で国に抗えというのか?

 

「貴校の水産技術は、特に深海魚の養殖産業に関しては世界にも並べるクラスです。廃艦によりこの技術者層が各地に分散するのは非常にいただけません。

深海産業の関連技術は我が国が将来的に資源開発を進める中でその良きサンプルとなり得ます。その環境もある中で放棄するのはよろしくない」

 

メタンハイドレートとかその辺りか。私も詳しくないが、日本のその広大な排他的経済水域を考えれば方針としてはアリ……か

 

「他にも自動車部や選択必修科目、また生徒の学業成績を見ても、決して存在価値が薄いわけではありません。さらに昨今は治安や体制などを改革する節も見られます。実際公立校の中では現状だとマシになっている部類ですね」

 

「この先を生き残る気概が見られる、といったところですかな」

 

「生徒感情から見ても全面編入ではなく分割編入、学園解体となるのは良いものではありませんしね。現状全面編入を認める学園都市はおりませんから、半ば無理やり進める形になります」

 

学園を褒められるのは悪くないが、それでも前提と世論が厳しいことには変わりないはず

 

「……とはいえ阻止すると申されましても、国という組織に対して我々に何ができましょう。我々がなんとか茨城県議会でも動かして非難決議を出させたとて、それで動く代物ではございますまい」

 

「ええ、その通りでしょう」

 

茨城県は現在でも野党が衆議院で議席取ってるしね。ウチのところは与党が当選したけど、人口比率的に気にしなくてもいい、との目論見だろう。原子力対策といえばここら辺だと耳触りいいしね

 

「それに何より、貴方はそれを官僚側として執行する側のはず。それでなぜ貴方がそれを阻止しようとなさるのです?そこに大きな矛盾を感じざるを得ません」

 

きっと裏がある。私にだけ都合のいい話などそうそう転がっているわけがあるまい。きっと誰かがもっと利を得るためのものだ

 

「だ、だがな角谷くん。これが真に執行されるとなれば、我が町としても損失が痛すぎるのだ

県内では我々の他にも日立や北茨城、神栖などが飛び地として学園艦を有しているが、我が町の飛び地として所属する学園艦は君たちだけだ。つまり学園都市が解体となれば、君たちは他の町や市の民になる」

 

なぜ受け入れたのが女子校だったのか。町の男女比率が狂っているのもこのせいだ。ま、これのおかげで不純異性交遊の取り締まりは楽らしいんだが……そこと運命共同体になったのは先人のミスだろう

 

「我が町の本土はもうすでにボロボロだ。こっちだけなら高齢化率が50%近いし、観光需要もアクアワールドで保っているようなもの。海水浴は安定した収入にならんし、そもそも観光は雇用にならん。

漁業も放射能関連で輸出が詰んでるし、企業は明太子屋がいるのみ。そこに先の震災だ。そのせいで内陸所属の学園艦も千葉や神奈川に母校を移し始めている

地上に中学、高校がない以上、もはや学園艦は旺盛な若者の場所は町を保つ最後の砦なのだよ。産業面、税収面共にな」

 

若者は……ここでは学園艦、他の学園艦を含む場所を経て都市へと向かっていく

 

「それはこちらとしても把握しております。しかし期限が来年度末である以上、根本的な解決は不可能です。チマチマしたもので国を変えられるわけがありません。

それに何より、私が先ほど提示された疑問は解決されておりません。これが進まない限り私は易々と首を縦に振るわけにはまいりません」

 

「……私が真に君たちを廃校にするつもりなら、この格好で訪れたり、こんなことを言ったりはしません」

 

「真意は何です?私も学園都市の民から選ばれた者です。それが解決可能なら可能な限り手を打ちます。しかし大規模な財源の確保も困難な状況で、問題を改善させる手立てを見つけるのは厳しいかと……」

 

「……その答えなら、もう貴女が使っているではないですか。それが良い話です」

 

「使っている?」

 

「貴女の選挙を見て、答えがありましたからね」

 

私の選挙?圧勝したという支持か?確かにそれがあるのは大きいが、過半数を占められていない議会がいる以上根本は変わらない。別にそれを元に強引に政治ができるようになったわけでもないしね

 

「私の……選挙?」

 

だとしたら何?何もないし、何も特にしていないんだよ?

 

「……西の黒森」

 

竹谷氏の口からポロリと溢れた言葉。それが全てだった

 

「……東の知波単」

 

続けた。私も知っている言葉だ。いや、使おうとしたものだ

 

「あれに見ゆるは大洗」

 

そう。それはかつての大洗の誇り

 

「……戦車道、ですか」

 

箸をつける余裕もない炊き合わせが、未だに机の上にはあった

 

 

 



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第8話 虫と少女と大統領

 

「もしや……戦車道を復活させよ、と仰るつもりですか?」

 

「端的に言えばその通りです」

 

何をバカなことを。戦車道があったのは20年近くも前だ。私自身そんなに詳しくないが、戦車道が金食い虫だってことはわかる

 

「無理を仰らないでください。今の我が校にそんな代物を運用する金はありません」

 

「昨今、戦車道連盟は新規参加校への間口を広げてましてね。するとなれば補助金が出ますよ」

 

「ならばその前段階です。戦車もない、人材もない。そしてそれを支えられる金は補助金とサービス業収入のみ。それでかのプラウダや黒森峰のような大戦車部隊を持てと?実に滑稽な話です」

 

「……あるのでしょう?戦車は」

 

辻氏の言葉に少し詰まった。あるにはあるのだ、多分

 

「書類上すでに全車輌廃棄となってます」

 

「誤魔化すのにこんな時期に汗をかくのは感心しませんね」

 

「すみません。最近忙しくて体調が万全じゃないもので」

 

我ながら誤魔化し方は下手だと思う

 

「……そちらの書類は確かにこちらに来ましたが、その時に処理されたとされる業者が、同時期に他の学園艦の戦車を処分していることが判明したのです。おそらく口裏合わせた偽造でしょう

そして部品の移転先も一切不明。明細も来ていません。いくら損傷が激しくとも、車輌の部品一つすら売却していないのは不自然でしょう。金が必要なはずの大洗なら尚更ね」

 

無理だよな。だがこちらだって無理だ

 

「……確かに学園艦内に存在する可能性はあります。しかしそれらは売り手がつかなかったもの。付いたものは全て売却されています

そちらからしたら残念でしょうが、それだけは確実です。そのようなオンボロしかない状況で戦車道をやれと?」

 

「そこで名を残せれば、廃校回避を考えうる要素にはなるでしょうね。さらに知名度が高まれば志願者数を増やせるでしょう」

 

「ハッ。仮に戦車があるとしても、それらはオンボロでしかない上に、人材もいなければ練習もまともにできない。そんな状況で名を残せる成績は残らないでしょうね。黒森峰かプラウダ辺りにボッコボコにされて終いです。名前なんて世の中に知られようがないでしょうね」

 

「そこで私が少し協力しよう、と考えているのですが……」

 

真意は聞けていないが、というより向こうが言うつもりがないようだが、この辻氏はなぜか我々を助けようとしてくる

本当に味方かを考えるのはやめた。果たして本当に学園の未来に役立つかどうか。判断基準はそこでいい。話だけは……

 

「何です?」

 

と私はこの先へ一歩進んでいた

 

「丁度いい人材を一人ですが紹介できましてね。要するに転校させてもいいということです。腕の方は保証しますよ?むしろ高校生最高クラスの方です」

 

「……どれほどなのですか?学年は?」

 

「現一年生。新学期からなら二年生になりますね。一年生にして主力に加わる以上のことをやってのける逸材です」

 

2年間居られるわけか……

 

「それほどの方がなぜウチに来るんですか?わざわざ戦車道が現状ないウチに」

 

「事情がありましてね、学校の方針的に置いておきたくないそうです。で、親御さんからも転校に関する話は伺っておりましてね、あなた方を勧めることも可能です」

 

複雑そうだな。立場によっては最悪その前の学校との関係が悪化することも考えられなくはない。亡命を認めるようなものだしね

 

「ふむ……となると、彼女をウチに呼んでも戦車道をやらないのでは?」

 

「やらせるしかないでしょうね」

 

「……ちなみに名前をお伺いしても?」

 

「西住みほ」

 

「西住、となると……西住流ですか」

 

名前くらいしか知らないが、戦車道の中では有数のものだったと記憶している

 

「その次女ですね。後継者ではない方の。姉のまほが隊長で、今年の夏まで彼女は副隊長でした。西住流といえば黒森峰ですが、今年の黒森峰がどうなったかはご存知ですね?」

 

「確か……夏の大会で10連覇を逃したとは伺ってますが」

 

「その時決勝で負けた際に、そのみほさんが川に落ちた戦車道の仲間を助けに行き、その最中に自車輌が撃破されて終了したそうなんですよ。そのせいで敗北の原因が彼女にあるとされてしまったようでして。

西住流というのは勝利を重んじる流派である上に、内部の、特に3年生からの反発が大きいらしくてですね、西住流としても扱いに困っているそうです。さらに学園の体面を保つためにも、黒森峰側もあまり置いときたくないそうで」

 

一回の負けでここまで追い込むとは……大人の身勝手というのも嫌なものだ。実際の3年生からしたら負けたせいで自分たちの推薦も危かったりするだろうから、そうも言ってられないのかもしれんが

 

「それで……ウチに来るという話になると。確かに黒森峰の副隊長ともなれば技術は相当なものでしょうね。一つ疑問なのは、黒森峰がそこまで毛嫌いする存在を受け入れても問題ないのか、という点ですね」

 

「厄介者を受け入れてくれた、とのことで収まると思いますよ」

 

「それと……やはりそれだけのことがあるのなら、ウチに来ても彼女は戦車道をやらないのでは……」

 

「もう一度言います。やらせなければあなたの学園に未来はない」

 

やらせる?生徒の自主性を重んずるべき学園都市で、選択の名がつくものを強いるだと?

 

「今から、しかも来年までに他の部活動で優秀な成績を残せるならば考えますが、そうなると資金面の優遇はできないですね」

 

確かに他に道はない……気がしてしまう

 

「我々としても戦車道を導入してもらうことにはメリットがある」

 

ここで竹谷氏が口を挟んだ

 

「戦車道で破壊されたものは連盟からの補助金により修復可能だ。先の震災での復興が万全でない今なら、大洗で市街戦をしても連盟からさほど嫌な顔はされないし、町としてもその資金で区画整理を実行できる。

ちょうどマリンタワーから大洗駅までを直接結ぶ道の建設計画があってね、それのために一掃しておけば建設が楽になる。場所は多少移れど、ほぼ無償で建て直されるなら町民からの反発も少ないしな」

 

観光面を再興するためにも必要、か

 

「それに戦車道の試合による観光収入も僅かではあるが無視できない。そこを起点に大洗をアピールすることもできる。同じレベルのものが開けるなら話は別だが、流石に無理があろう」

 

「確かにそうですが……」

 

だがこの決定は一人の見知らぬ少女の運命を決めてしまうことになる。しかも自主独立のための学園都市で。良心が足を引っ張る

 

「角谷さん」

 

思考の中に入ろうとするのを、辻氏の声が止めた

 

「彼女に対する良心の呵責で悩んでいるなら、それは素晴らしい。人間ならどこかで持っていてほしいものです」

 

そりゃそうだろう。人間なんだから

 

「だがそれを持ち出すのは今ではない。君は選挙で一年間大洗女子学園学園都市の民を代表する者とされたのだ。その責務を果たす義務が君にはある」

 

「それもまた政治の真髄の一部なのだよ、角谷くん

当選した以上、支持層の求めには応じなければならないし、自分を支えているのは世論であることを理解しなければならない。世論、いや組織そのものと少女一人、天秤にかけるまでもないだろう?」

 

「天秤に……」

 

人の運命、それを天秤に乗せる。その言い方に憤りはあった。だが可能な限り学園は残さねばならない。それは大洗女子学園に通い、その地に住み、その母港に実家を持つ者としても当然の帰結だった

 

「そして今、我々3人にはそれぞれメリットがあるのです。私は戦車道の普及を一歩進められ、深海産業に関わる知的財産を、国益を守ることができる。竹谷氏から見れば、戦車道導入は大洗再開発の支柱になるし、学園存続は町に必要なものだ」

 

そうなのだ、話に乗るのが早い。が、どうも乗せられている気がするのだ。少女の運命を変える云々を抜きにしても

 

「そして君は、その実績如何では危機に瀕している学園を守ることができる。名が知られて大洗港の修復に世論の支持が傾けば、君らにも大洗町にもメリットは大きい。

この三方よしの状況で、君が断る合理的な理由は無いはずだ」

 

そうだ……私は政治家になったのだ。あの干し芋片手の気軽な返事からその道に踏み込むことを決めてしまったのだ。そして何より、そこにしか実際可能性はない

 

部活には良くも悪くも受け継がれたものがある。彼らにこれまでとは桁違いの実績を求めるのは酷だろう。むしろ無理やりすれば反発を受けるし、急にどこかを贔屓したら他から総スカンを食らう

 

ある意味これまでなんの継承もなく、かつ生徒会が直接下部におけるもの。それがかつての栄光の時代、いや、新たな時代を生きる大洗女子学園の未来に繋がるなら……そしてその学園で……生徒が笑える時代を護れるのなら

 

「認めざるを得ないのでしょう。これまで何代と受け継がれた学園の伝統と気概を守る。それもまた……役目である、と」

 

運命を変えるとしても、変え方というのもあるだろう。決して悪い方向に一方通行ということもないはずだ。廃校まで時を刻みながら泣いて過ごす未来が良いはずがない

 

「分かりました。何としても導入してみましょう」

 

しぶとく粘り続けてやろう

 

「その通りです。これで大洗女子学園の戦車道導入に関してこの3人で合意ができました」

 

辻氏が不敵に笑う。やはり何かしらの裏がありそうだが、裏があったとしても乗るのが得策なのだ。逆に裏の目的があって向こうが実行しなければならない、という方が助かる

 

「その通りです。互いに事がなされるまではこの内容を話さないこと。各自各々の目的を果たすこと。これに関しては約束しても良いですかな?」

 

今度は竹谷氏が信用に関する取り決めを示した。私としても問題ないし、むしろやって欲しい

 

「私としてはその取り決めで問題ありません」

 

「私も、ですね。では角谷さん、西住さんに安心してきてもらうために、戦車道導入の正式発表はできるだけ遅くしてくださいね。学園に関してはこちらからオススメした後、関係者に説明しに熊本まで来ていただければ問題ないかと」

 

遠いな……だが必要な人材を確保するためなら安いか。機密費から出せばいい

 

「彼女がいなければ話になりませんからね。何とか秘匿し、人材を派遣しましょう」

 

「こちらも連盟に試合会場可能な場所として申請を出さねばな」

 

「連盟に関しては私から取り次ぎしましょう。世界大会関連でツテがあるのでね」

 

「辻さん、何かと申し訳ありません」

 

「良いのですよ。皆の利あってのものなのですから」

 

不気味だとしても、乗っかるしかないな。戦車道が無理ならこの道を諦めるしかないが

 

そのあとやっとこさ蓮根の炊き合わせに箸をつけられたが、多少美味しく感じられた

 

 

酒を交わさないとのことで八寸を抜きにして出汁のきいた吸い物をいただき、香の物を摘めば、あとは菓子のみだ

 

めちゃくちゃ美味しいお茶とともに餡の入った和菓子をいくつかいただいている最中、竹谷氏が口を開いた

 

「角谷くん」

 

「……はい」

 

先ほどの件に絡むことだろうか。かといって戦車道をやるまでは大したことはできないはずだが

 

「大洗町は……大洗女子学園により強力な政権が誕生することを認める用意がある」

 

「はい?」

 

だが聞こえたのは本当に関係なさそうな話だった

 

「……君たちの改革が急務なのはわかっただろう。スピードが求められる中、議会だの何だので話が纏まらなかったら意味がない。だから君がより大きな権力を持ってくれた方がこちらとしては有難い」

 

「……およそ民主主義国家の日本で出てくる言葉とは思えませんが」

 

「違うな。君も選挙で選ばれている以上、単に大統領により近づけ、というだけだ

今は事情が事情だろう。こっちの議会も大して反発するまい。戦車道導入とかで揉めたりしないよう、遠慮なくやりたまえ」

 

確かに……現状大きな壁となるのが戦車道の導入そのものと予算の合意が得られるかだ。どちらもクラブや職人連合辺りが強硬に反対してくるのが予想できる。もしそこら辺が抵抗し得なくなるなら、私のやっていた役目をやらなくて良くなるわけだ。手間が減る

 

だがそれは同時にこの前改革した議会の意味を薄れさせる、ということだ。一度手放した議会がどうなるか、将来に不安を残す形になりかねん

定期的に、それも頻繁に指導者を入れ替えざるを得ない学園都市においては、継承に正統性がある民主主義の方が吉なはずなのだ

 

「それ抜きでもこちらとのねじれや体制的に揺れることは避けて欲しいのだ。生徒会長が主導権を握ったとしても、生徒の自治という面は決して変わらないしな」

 

「……考えておきましょう」

 

それが精一杯の返事だ。直近の情勢は下に確認を取る必要がある。この先のことも含めてね

 

それ以降は深入りした話はなかった。私の財布から金がなくなることもなかった

 

「今後はよろしく頼むよ」

 

辻氏、竹谷氏から電話番号を貰って告げられた言葉も、かなり簡単なものだった。バラバラに帰ったまま、連絡一本入れてこの日は実家に帰ることにした

 



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第9話 力で

 

 

私は実に運のいい人生を送ってきたと思う。別にさっき飯を奢ってもらえたとかそういう意味ではなく、これまで特に人間関係とか学業で苦労した記憶もないし、こうしていつのまにか学園都市のトップまで登りつめていた。じゃんけんに負けたことがないことよりもそっちの方が大きいだろうな

 

今回も運がいい部類に入るのだろう。廃校一直線から外れる道を、それを本来執行すべき官僚から提示されているのだから。同じように候補に入っているであろう他校に対しても同じようにやっているのかもしれないが、ウチがそうであるだけでもプラスだ

 

だがこれを一人で背負うには重すぎた。私だって人だ。高校生だ。そして背負うのは学園都市3万の民の未来だ。秘密にしろと言われても、誰かと共有せねば私が潰れる

 

たまらず久々に寝転がったベッドの上で電話を取り出した。掛ける先は小山だ。ただ、幼い時からの付き合いがあり、私のことをよく知っていて、それでいて客観的に評価できる彼女に確認が取りたかった

 

「もしもし。杏、どうしたの?」

 

向こうはこちらの夜遅くの電話に多少困惑しているようだ。そもそも私自身今日は単に町長に挨拶するだけの予定だったのだ。それでいて電話。何かあるのかと考えたのだろう

 

「あぁ、小山。そっちは大丈夫か?」

 

努めていつも通りに話しかけた

 

「大丈夫かって……別にそんな大した案件どっちにもなかったでしょ?インフラなんて北部の道路修復工事くらいだし、学園課だって予算まで目立った案件無いじゃない」

 

「そうだけど、今日一晩そっち空けることになるしさ、確認だよ確認」

 

「ふぅん……で、何かあったの?予定だったら帰って来るって言ってなかった?」

 

「いやそれがさ、話をした後に食事に呼び出されちゃってさ。しかも町長直々にだよ……断りにくいじゃん」

 

「あぁ……確かにね。でもそれは、杏が信頼されていることの証明じゃないの?」

 

「それならそれでいいんだけどね……」

 

しかし……どう切り出したものか。廃校の話はできない。リークされた情報を伝えるには環境に不備がありすぎるし、信用の観点から見て公開されるまで出来るだけ留めねばなるまい

じゃあ戦車道か?それは学園課に問い合わせるしかない。そもそも戦車がまともに残っているのかも分かっていない

そうしたら、訊くこと、共に持ってもらうべきものは一つに絞られた

 

「なぁ……小山」

 

「どうしたの?」

 

「私は……独裁者になれると思うか?」

 

言い方は違うかもしれない。だが学園艦の政治情勢を考えれば、そう捉えられてもおかしくないことをやらねば達成はできないはず

 

「……どういうこと?」

 

「町長から……生徒会長の権限を拡大するのを容認する用意がある、と言われたんだ。この先生き残るには改革を進めていかないかんだろう、とね。実際その通りなはずだ

だけどさ、現状を考えると私がさらに権限を握るには、もはや独裁まがいのことでもしていかなくちゃいけなくなるだろ?」

 

「……そう……ね」

 

「小山、率直に言って欲しい。私にこれが出来ると思うか?」

 

向こうはしばらく沈黙し続けた。こんな話をいきなり振られてどう答えるべきか迷っているのだろうか

 

「……人としてなら、できる」

 

「前置きはともかく、その心は?」

 

「杏は相手がどれだけ上でも臆せず対応できる。今の大洗で学園外とも張り合える人だから、権力を握っても外部の協力を得ていけるはず、というのが一つ

そして……私は杏がやるなら、どこまでも支えたい」

 

強いね、やっぱり小山は。人に対してそんなことを簡単に言える人間はそうそういないよ

 

「……ありがとね。それで、前置きをしたのは?」

 

「その議会をまるごと敵に回しかねないのは、厳しいものがあるんじゃない?」

 

「……そこか、やっぱり」

 

「だね。生徒会はフォーラムと組んでるからやっていけてる。けど、いくらフォーラムといえど、私たちが議会権限を縮小する、とかし始めたら流石に無理があるよ」

 

「今から新党立ち上げとかは?」

 

「今から切り崩しはいくらなんでも無理でしょ。それにそこにリソース取られたら改革も進まないよ」

 

「そりゃそうだ。まずはOG会関連からやらないといけないしね。だとしたらできるのは……」

 

「フォーラムを……生徒会に従わせる。やれるとしたらこれくらいかな」

 

あの大与党を私の下に……か

 

「……かなり無理じゃない?すでに支持層もあり、支持基盤もあるからできたら強いけどさ。向こうも選挙対策とか幹事長クラスには2年生使ってるし、下から上がってくる奴もいるってことでしょ?」

 

「でもフォーラムだって今後も議会過半数は自力じゃ取れないだろうから、それに近づけるなら杏と組み続けるメリットは大きいはずでしょ

やはり都市内で杏の人気が高さがものをいうよ。投票率が80%以上という中で得票率7割近く。他に候補がほぼいなくて、という消極的要素はあったとしても、そこまでの大勝利なら自身の権限強化しても都市民からは大きな反発は起きないと思う

都市民の反発がないなら、フォーラムだってその世論にはそうそう逆らえないよ。議会の範囲を市民にまで広げた今なら尚更ね」

 

「だからといって私の命令に従うようになるかは別じゃないかい?」

 

「そこなんだよね。現状実際に議会に影響力持っているのはフォーラムなわけだし、かといってフォーラムの力を落としてクラブとかが躍進されても困るし……」

 

「……ま、いろいろ考えてみるよ」

 

だが向こうは電話を切ろうとしない

 

「ねぇ杏」

 

「どうしたのさ?」

 

「……その力で、何をする気なの?」

 

「え?」

 

「だって直近でそんなに大規模な改革、少なくとも議会で調整できそうにないものってないじゃない。OG会の統合だって予算の増加を考えたらどこも反対なんてどこもするわけないし、この前の議会改革以上に敵を作りそうな案件なんてそうそう無いでしょ」

 

そう来たか……来てしまったか……

 

「……これからきっと、大規模な改革が必要になるからさ」

 

これで……誤魔化せてくれ。戦車道のことを言いだすには早すぎる

 

「ふーん……そう。じゃ、また明日」

 

「あ、ああ……」

 

まぁいい、確認取るまでだ。しかしなぁ、小山にもかーしまにもいえぬ秘密を抱えるとは……あんまり気分いいもんじゃないね。流石にちょいと話したから潰れはしないけど

 

しかし……今まで学園の道を決めてきた議会、その力を奪うのはやはり厳しいものがあるね。そもそもの選挙区からの選び方も絡むし、組織力と支持基盤もある。そこら辺をうまく削りつつ、野党も封じ込めていくしかないか……

 

クラブ……かねぇ。あとは職人辺りをなんとか切り崩すか……今日得たツテも使って考えてみるか

 

さて、次だ。今度は別の番号にかける

 

「はい」

 

相手は学園課の副課長の田川。年は一個下だ

 

「あー、田川ちゃん。私私」

 

「課長。こんな時間にいかがなさいましたか?」

 

「急で悪いんだけど、ちょっと一つだけ確認取って欲しいものがあるんだけど、明日私が帰る前にお願いできる?」

 

「……確認ですか?」

 

「そーそー。書類があるかってくらいでいいから」

 

「その程度なら構いませんが、何の書類ですか?」

 

 

「昔やってた戦車道の書類、集めといてくれない?」

 



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第10話 再びの

 

帰った私は田川ちゃんから貰った資料を読み込んでいく。時折最終決定を求められることもあるが、だいたい内容の予測はついてるうえ、ほぼ問題なく通過するから、さほど時間は取られない

 

さて、貰った資料を漁ってみる限り、戦車はあるにはありそうだ。売れなかった戦車や一部は意図的に売らせなかった戦車を学園艦のあちこちに隠しているらしい。向こうの辻氏の予想していた通りだったわけだ

しかしその数はほとんどない。隠す手間かけるだけ数は増やせなかったのだろう。おまけに資料には件の売却したことにしてある会社と戦車の名前しかなく、倉庫に1輌ある他は場所すらわからない

 

とにかく今回の資料で目算がついただけでも7輌。資料に残さなかったものを含んだとしても、10輌いけば御の字だろう

 

つまり無理だ

 

ハハハ、この状況で戦車道で名を残せだと?nice jokeにも程があろうに

 

調べたところこの高校生の戦車道の全国大会、テレビ中継されるのは決勝のみ。つまり決勝戦まで行かなければ我が校は全国区にはならない

で、その手前の準決勝の最大車輌数は15。決勝だと20になる。対してウチは多くて10。しかも早くても4月から掻き集めただけの素人たち。どう考えても幼い頃から鍛え上げているメンツの集まる黒森峰、プラウダの精鋭には勝てん……でしょ、実際問題

 

いやだってさ、今から弱小校を来年の甲子園で優勝させるとかさ、考えてごらんよ。無理

 

そしてかつての財政状況も確認しているが、戦車道が財政を圧迫していたのは事実のようだ。もっとも成績が良かった時代は多少の使いすぎも黙認されていたようだが、バブルがはじけて金が足りなくなってそこを追求され、あっという間に廃止となったらしい

 

だろうな、当時の私が同じ立場だったとしたら、これは多分切る。理念や題目のためにも学園は存続させねば話にならないし、当時は湾岸ジュリアナの覇権の後で戦車道は退潮気味だったんだからなおさらね

 

戦車道は一にも二にも十にも百にも金がかかる。練習するだけでも練習用弾薬、燃料、車輌整備費用。そして戦車は大概燃費がクソ悪い。それを何輌も動かしたらあっという間に何十Lものガソリンが排気ガスに変わってしまうようだ。試合になったら何だ。学園艦動かして試合会場まで自前で運んで来いだ

 

で、それでいて本来そこまで都市にメリットはない。軍隊に生産性を求めないのと同じで、別に都市の経済状況を好転させるわけじゃない。金食い虫にもかかわらずね。ま、試合開催での観光くらいか?

だからこそ今戦車道ができるのは金がある私立ばっかりだし、大金を握っている有力な学校が毎回ベスト4以内を占めるということになっている。権威の象徴といったところか

 

これが学園都市の治安維持に役立つとかならまだ多少の支出も目を瞑れるが、ウチにはそれはいらん。その点は風紀委員で何とかなる

 

つまり大洗に戦車道を導入するメリットは、学園の廃校回避さえなければ正直ないのである

 

さて参った参った。ああ言ってしまった以上できる限りはやらねばならないが、ハッキリ言ってフォーラムすらこの話に乗ってくるかは疑問符がつく。他の党なら尚更だ。こうなっては予算が通らなくなる

いやそれ以前だな。生徒会内部すら纏められるか……

 

だが好材料もないわけじゃない。件の西住みほ、という少女に関してだ

この少女、日本の高校生の中でも5本の指に入る逸材なのは間違いないらしい。本屋で見つけたちょいと古めの戦車道雑誌にも、彼女のことは結構しっかりと書かれていた。で、辻氏が話していた西住流や黒森峰の対応もその通りのようだ

正直気分のいい話じゃないが、きっと元老層の反発を考えると流派としてはそうせざるを得ない、って感じかな

 

確かに彼女を引き込めれば大きい。だがそれだけだ。彼女一人で勝ち進めるほど甘くはない

なにせ彼女の姉、高校生最優秀選手の西住まほが黒森峰の精鋭を率い、今年その黒森峰を破った立役者のカチューシャがプラウダを率い、そして物量のサンダースに古豪聖グロリアーナ。だいたいここら辺に5本の指の残り4本はいる。このうち最低一つを破っていかねばならないし、しかも他の学園もある

 

やっぱり無理じゃん

 

有用な点もなければ道も全て塞がってるよこれ

 

はぁ……しかし約束は約束だし、他に学園を残せる道があるわけじゃないんだよね。他で実績を残すのは無理だし、学園艦で籠城戦するわけにもいかん。今から急に来年の志願者数が倍増するとも思えないし、釣る餌を準備できるわけでもない

やるしかないとなれば……どうにかして戦車道の有用な点を示すか……いや、それともフォーラムをこの案に取り込むか……

 

フォーラムにこの案を呑ませる。それはかなり厳しいだろう。支持基盤が普通科とか情報科、商業科だけに、一般生徒が所属している部活動の援助額に響きうるこの話は、易々と受け入れられる話じゃないはずだ

戦車道に大金を割くのは彼らの党是である相応予算とも合わないし、私と完全にべったりと示すのも有権者受けが悪い

 

かといってフォーラムと手を切るのも少なくとも今じゃない。生徒会内部にも隠れた支持者がいるから、そこら辺が面と向かって手切れされるのも痛いし、野党第一党のクラブはあまり信頼できない。向こうもこれには流石に乗ってこないだろう

 

それに何といってもフォーラムは総議員数281人とでかくなったとはいえ、未だ過半数を取っていない。前に通せたのは海の民やクラブからも造反がいたからだし、何より町内会系の無所属をほぼまるっと取り込めたのが大きい。

しかし今回ばかりは町内会系も全員OKとはなるまいし、そんなに造反させられまい。そうじゃなきゃ野党が廃るとか言い出すだろう。さてどうしたものか

 

「……またどっか取り込めないかねぇ〜」

 

「どうしたんですか?課長」

 

悶々としていると、近くを通りかかった一個下の部下に独り言を聞かれたらしい

 

「ん?あぁ、いや。ちょっと考え事」

 

「なんか問題ですか?だーいじょぶですって。課長が生徒会長なら大概の問題は市民の支持得られますって」

 

「そうかね?」

 

「そりゃそーですよ。それじゃなきゃあんな得票率来ないですよ」

 

「それもまぁそーかもしれないけどさぁ」

 

「それに私みたいに4年も5年も側にいる人間からしたら、課長なんてなんでもサラッと干し芋食べながらやっちゃってる人に見えますから、きっとそのまま会長に就任されて、そして退任されますよ」

 

「そうだといいねぇ……」

 

「なんですか。課長らしくないですねぇ」

 

「いやさ、この立場になっちゃうと学園のお先が見えてるから怖いんだよ」

 

「こりゃ驚きましたね。課長ほどの方にも怖いものがあったんですねぇ」

 

「フォーラムがもうちょい強ければこうも悩まなくて済むんだけどさ……なんかできない?」

 

「フォーラムをですか?いやぁ、きついんじゃないですか?会長の選挙制度改革で取り込めた無所属が精一杯かと思いますよ。それ以外のところは支持基盤あるところだらけですからねぇ……」

 

支持基盤か。無党派層が流れがちなのはクラブぐらいだが、それはクラブもそこそこ大きいから惹きつけられるわけだ。他の支持基盤はその党に自分たちの願いを託しているから、その本質には切り込みづらい

 

「支持基盤……ねぇ」

 

私の中に一筋の光が宿った。かなりの技だ。だが、これができれば……やれる……かもしれない

 

だがこれにより第1党が確立されれば、そこの権力も自動的に強まる。敵対したら私を阻む議員条例案、という形のフリーハンドを渡すこともできてしまう

 

それでも、やるしかなさそうだ。まずは年度中に勝負を決めるしかないんだから。冬休みをまた亡き者としてまでも

 

「……やるか」

 

「何をです?」

 

「今再びの大改革さ」

 

 



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第11話 ローテーション

 

 

まずは直近の休みの日、標的に近い備品管理局長と小山を呼んで考えを伝えてみた。備品管理局長の三崎ちゃんによると、まずこの方針を支持基盤に呑ませるのがかなりの難題だろうとのことだった

 

被服科、農業科のローテーション実習システム導入による学費格差の是正

 

すなわち設備などの理由から学費が普通科より高めのそれらの学科の学費を、彼らの短期研修名目の実習による生産と引き換えに取り消すというものだ

 

これにより表面上の学費が対等になれば、職人連合はフォーラムへの抵抗の意義を失う。結果としてそれを実現したフォーラムに接近する、公正会の時に近い技だ

 

だがハッキリ言って裏は見えているようなものだ。それに何より……

 

「被服科の教員陣がこれに同意するか見通せません。ローテーションということは授業時期にも時間差が出ることになりますので」

 

「各期間の教員の負担はクラスが減るから減る、それでなんとかならないかい?」

 

「そうなると現状組んでる授業スケジュールを大幅に組み替えることになります。被服科だけでも教員が100人以上いるんですよ?その全員の合意を得て進めるのは、しかも今年中は……」

 

「それに杏、これだと研修で利益出さなきゃいけないでしょ?農業科は農協に卸せばいいけど、被服科は企業呼び込んでやるなんて可能なの?」

 

「そこに関して、またその相手企業も信頼できるところでないと、説得はできないでしょうね。さらに農業科は既に実習を行ってますから、そこからさらに拡大することへの反発も避けられません」

 

「被服科ならまだその点は進められるかもしれないけど……それ抜きでも今年中は厳しすぎるよ」

 

時間がない

 

今はもう11月下旬。ここから4月の開始は教員陣の説得で精一杯、というのが2人の見解だ。来年のスケジュールは結構埋まっている。これを学科一つ分ひっくり返すのだから無理もない

 

「……時間ね」

 

「少なくとも来年度から導入は避けるべきでしょう。それとこの人員ローテーションを呑んでくれる企業の確保。そこ次第かと。それ抜きでもかなり厳しいでしょうが」

 

「……分かった。話が聞けてよかったよ」

 

「……はい」

 

だが……

 

「企業はアテを探ってみるよ。あとは学科への持ち込みも」

 

「は」

 

「え?やるの?」

 

「……他に……職人連合をフォーラムに取り込む上で有効な策があったら聞くけど」

 

「職人連合を……ですか?」

 

「杏……」

 

「そうだ。私の代で、学園の闇には霧散していただくしかない。その為にも……フォーラムを強くさせつつ、恩を売る

これさえ通れば普通科と農業科、被服科の学費の差はほとんど無くなる。そしたら職人連合がフォーラムと対立する理由は無くなるさ

その為に他にできることがあれば聞くよ?」

 

「た、確かにこれができれば大きな恩を売れるかもしれません。しかし……できなければ意味がありません!」

 

「……杏」

 

小山が一際低い声で私を呼んだ

 

「本当に……何を……考えているの?」

 

「簡単な話さ。私たち生徒会が予算の主導権を握る。部活とか学科とか、そういう枠があるから議会だと妥協した代物しかできない。

真に改革を成すには、私たちが決められる状況を整えるしかない。その為には……フォーラムを強くした上で貸しを作るのが早い。

結局のところ政治はゼニさ。何をやるにしてもその為の金がなきゃ始まらない」

 

「それができたら確かに大きいよ。でもそもそもの改革は何をするの?」

 

早いが……小山相手だったら潮時か

 

「三崎ちゃん、話をありがとう。すまないけど、戻っていてくれるかな?」

 

「……分かりました。しかし私からその案がかなり不可能に近いものである、とお伝えしたことはお忘れなく」

 

手厳しいね。流石は生徒会の部下だ。官僚として現実主義じゃなきゃやっていけまい

だが政治は半ば理想主義だ。まず一度理想を立てて、その後にそれを現実と調整する。そうしなくちゃその組織は現状維持、そして衰退しかできない

 

「で、杏。何をする気?」

 

「……何を言っても驚かないかい?」

 

「……杏が私にさえ言いたがらないってことは、よっぽどのことだろう、とは思うけど……」

 

「よっぽどのことさ。なにせ戦車道を復活させようっていうんだから」

 

「戦車道?」

 

「そう」

 

とりあえず一回理解の追いついてない小山は置いておこう。本題はここからだ

 

「……何のために?」

 

「学園の威信と象徴的存在の確保。そしてそれを生徒会直轄にすることによる生徒会の影響力拡大」

 

これらが欲しいのも嘘ではない。風紀委員会は治安維持には必要だが、反発されたら抑えられないのも事実だしね

 

「それだけ?」

 

「戦車道やると戦車道連盟から補助金が出るし、寄付金回収の名目としても大きいね。大洗の住民にせよOGにせよ、戦車道の栄光の時代は輝かしい記憶だろうし」

 

だとしても苦しいね。そんなのがあっても戦車道やる事と比べたら微々たる利でしかない

 

「やるとしても……人材は?」

 

「選択必修科目で」

 

「……戦車そのものは?」

 

「廃止される時に隠された車輌がある。書面上そうなってるし、倉庫にあるのは私が確認済み」

 

「……確かに戦車道をやろうとするなら、フォーラムの拡大は必須になるね。だけどこれを取引の材料にするのは……」

 

「だけどさ、小山」

 

「はい」

 

「現行の部活の中でいきなり名を残せるところってある。いや、部活だけじゃなくていい。学園の諸々の中で広く名を売れるものって、ある?」

 

「ないね」

 

即答するなよ。悲しくなってくるだろう

 

「はっきり言ってウチの一番の問題は知名度と強みがないことだ。そして無理に作れるだけの権限も今はない。だとしたら、その二つを同時に捌く策がいる。というわけで考えたのが今回のやつってわけ」

 

「そういう事だったのね」

 

「あとは戦車道をやってるところってだいたい有力校だから、ウチみたいな弱小がそこらと外交的な繋がりを作れるのも利点かな。というか、作らざるを得なくさせるんだけど」

 

「でも……どちらも実現性低いよね」

 

「そりゃそうさ。だがそうしてでも私は、この学園をより長く生き延びさせる道を作りたい」

 

「そこはそうだけどさ……」

 

出まかせばっかりだ。半分以上はそうだと言っていい。こんなもので小山を説得できるかは疑問だが、新副会長という立場もそうだし、友人としてどうしても味方に引き入れたい

 

「戦車道に関して話は分かったけど、それでもやはり被服科と農業科は急には厳しいと思う」

 

そこは厳しいんだが……

 

「だったら他を切り崩したり、将来的な補償にしたりした方がいいんじゃない?」

 

「小山……」

 

「杏が考えなしにこんなことするとは思えないし、なら私は……言った通りどこまでも協力するよ」

 

「こんなことって……」

 

「勝算、あるんでしょ?」

 

あんまりないんだなこれが

 

「……多少はね」

 

「それにしても、杏の方針自体は悪くないはず。支持基盤を切り崩してフォーラムに合流させ恩を売るっていうのは、生徒会の議会に対する発言力を高めていくならいい案だと思う」

 

「というかそれくらいしないと脆弱な与党は変わんないよ」

 

「それはそう。だから、被服科と農業科も見据えつつだけど、まだあるでしょ。専門科」

 

「あとは……船舶科と商業科、情報科、栄養科、水産科くらいかい?でも商業科、情報科は学費格差ほぼないし、栄養科は農業科に近いし……」

 

「だとしたら……船舶科だね」

 

「船舶科……ね」

 



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第12話 下から上

 

 

船舶科

 

大洗のヨハネスブルグとか呼ばれる艦底から艦橋の上まで、という上下に幅広く住む者たちである。そしてその位置はそのまま、彼らの立ち位置と話の通じやすさを物語る

 

艦底側は自分たちで金を稼いで、さらにその金を奪うべく抗争している。一方で艦橋側は既にあるローテーションの下、日々8時間働いて6時間学校行って学費をチャラにしている

 

学園艦がなくなることで一番被害を受けるのもここである。学費がタダな分船舶科はどこも定員近いし、そもそも定員多くしてないから廃校になったとして彼らがそのまま転校先の船舶科に転がり込める保証はない

 

てな訳で廃校がらみになれば話を通しやすいところだ。だがそれを伝えていない現状で丸め込むとなると……

 

「労働時間短縮だよな」

 

「そうね。それが早いはず」

 

「けど今までできてない」

 

その理由は単純だ。頭の数が足りないのだ。頭数はいるんだがな

 

船舶科は8時間3ローテで働いている。これを6時間4ローテにすると、艦長や航海士、通信士、機関長、機関士など専門職ももう1ローテ分用意する必要があるが、はっきり言ってそこら辺は中学の頃から勉強しまくって資格試験を突破した者達しかいない。一朝一夕で増やせるものではないし、数を増やそうとしたって応募者数が増えるものでもない

 

というより本当にそれがやすやすと出来る船舶科に来るような人は、だいたい他の私立や名門校に行く。大洗に来ている時点である程度は察せるレベルなのだ

 

艦底が出来てしまうのも、船舶科に多く必要なのが海技士資格を持った専門職であるのが大きい。専門職を配置した上で部員としてその部下を配置している

が、かといってそんなに部下を増やしすぎると管理不能になる。残りは職なしのあぶれ者にならざるを得ないから、というのがある

かといってそこの枠を不用意に縮小すると、学園の退潮を見せつけることになってしまう。技術的な省力化などを提示できれば別なのだが、もともと教育局からも船舶科削減は避けるようにとある

候補に入っている中で、表向きはそれに逆らうわけにはいかない

 

「……将来的な改革案の実行で呑ませられないかな?」

 

「厳しいんじゃない?今の生徒にはメリットがなくなるんだし」

 

「そこだよね……」

 

有権者は利己的だ。結局自分たちに利益がなければ、こちらの求めるようには動かない

 

「……艦底にいるメンツの中で技能ある奴とか混じってたりしないかな?」

 

「いないんじゃない?じゃなかったら上で雇われてるでしょ」

 

「それも……そうか」

 

……まぁ、薄く期待するか

 

「なんだったら桃ちゃんに行かせたら?」

 

「かーしまにか……そうだな。可能性が僅かだとしても、探りを入れるだけなら悪くはない」

 

「それにしても、私のあの被服科の案は、将来的なら通るかね?」

 

「向こうが対応可能ならね。現場経験つけさせる、とか言えば悪い話にはならないと思うけど。学費も休み期間だけなら普通科より少し安くしたくらいにはできるだろうし。それが労働の対価として、となるなら、船舶科の先例もあるから普通科の反発もほぼないよ」

 

「あとは……企業次第で航路が決められる可能性か……」

 

「そこら辺は割り切らないと金が手に入らないよ」

 

「そうだねぇ……」

 

こうしてみると地場産業に政治が左右されるのがよくわかるものだ。叛かれて町から出て行かれる方が損害がでかい

 

「難しいけど……私たちの後に、禍根は残したくない」

 

「それはそうだね」

 

そこに同意が得られるなら、もう心配や不安はない

 

「だから……やるか、小山」

 

「やろうよ、杏」

 

突き進もう

 

 

 

ということでまず艦底の確認だ。かーしまを呼び出してお銀のところに行かせる。地下に資格持っている奴が転がっているのかの確認だ。かーしまの家の事情も考えて、使う金は仕事だからと機密費扱いにした

機密費の中身は公開する義務はしばらくないし、公開されても痛くも痒くも無い。必要なことだし、艦底に関してはもう風紀委員が喧伝してるから、そのこと絡みだなんだと言えば反論できまい

 

かーしまなら向こうでも顔なじみだから、護衛なしでも何とかなる。逆にかーしまが襲われるとかなれば、お銀派相手なら手を切るような事態だし、お銀派以外ならその派ごと壊滅させる

もっとも前者を取ると艦底は乱世に逆戻りだから、できればやりたく無いがね。そしたらお銀派が厳しくなるのも向こうは知ってるはずだし

 

なんだか金王朝を思い出すが、向こうは束になってもモンゴルみたいに甲板には侵攻できない。流石に人口比と風紀委員を舐めてもらっちゃ困る。なんなら自警団を編成してもいい。向こうの陣地の艦底だとキツかったけど、こちらの陣地なら負ける道理はない

 

 

そんなこんなでかーしまを送り込んだ結果、いるにはいる、となった。資格持ちでも3ローテの枠的にあぶれているものがちらほらいるようで、そういうのは派閥の参謀役とかを担っていることが多いらしい

ただ、もう1ローテ組める分の資格保有者がいるかは分からない、とのことだった。上もいざという時の代役で補佐役付けてたりするしね。そこを取ってくるわけにはいかないし

 

となると、各派閥に分かれていることになる。あとは上にいる余りも取り込めはするだろう。問題は……

 

「その参謀を各派が放出することに応じるか、だね」

 

「はい。壁はそこになるかと」

 

既に艦底ではそれなりに良い暮らしをしているであろう彼らが、果たして上で働くのに応じるか、もあるが、何よりそれを派閥に認めさせる必要があった。参謀とかなったらトップの腹心だったりするだろうしね

 

「……かーしま」

 

「はい」

 

「お銀は動かせそう?」

 

「……断固反対、までとはいかないでしょうが、厳しいかと思います。それなりに艦底側にメリットがないと……」

 

「艦底に……メリット、ねぇ」

 

そもそも存在しないに越したことはない艦底だ。我々にはメリットがない。なのに向こうに利を与えねばならないとなると……

 

「風紀委員か」

 

「ですね。やはり下手に妥協して反発するとしたらそこかと」

 

風紀委員会にとって艦底は何度も鎮圧しようとした仇敵。それによって損害も受けてる。仮に艦底にメリット、例えば各派を公認しようとするとかなれば、何かしら反発してくるのは想像に難くない

 

「……そういえば、お銀派の参謀役って誰だっけ?」

 

「は、壊血病のロイヤル、とかいう奴です」

 

「壊血病ねぇ……なかなか海賊にしちゃ縁起の悪い」

 

「他も竜巻とかサルガッソーとかなので負けず劣らずかと」

 

「そうかい。で、どんな奴なの?」

 

「はい、それがですね、こいつなかなかの荒くれ者ですよ。参謀役なのに他派との抗争に自分から突入したりとかは聞きますし。頭はキレますが、何より見た目からして……」

 

「ふぅん……」

 

見た目は大した問題じゃない。だが現状に不満が溜まってそうな感じかな

 

「そういえばお銀派って他に頭のいい奴っているの?」

 

「下の学年には何人かいるみたいですね。そのロイヤルが目をつけて引っ張ってきた奴らで派閥内の雑務等を回しているようです。今のお銀派を支えているのは間違いなく彼女らでしょうね」

 

なかなか官僚肌みたいだね。ということは、お銀派の実情についてもよく知っていそうだ

 

「……いけるね。そこからだ。そこからならきっと艦底側はいける」

 

「は、はぁ……」

 

「かーしま、このロイヤルって奴と話せる場所、とれるな?お銀派の幹部に知れないような場所で」

 

「お銀派の幹部にも、ですか……厳しいでしょうが、やってみます。ですが流石に向こうも上には出てこないでしょうから、艦底のどこかで私が同席する形になるかと……」

 

「オッケー。それでよろしく!あ、干し芋あげる」

 

「いりません」

 

いっちゃったか。貰えるものは貰っときゃいいのに、変に気を使う節があるんだよな。かーしま

 

 



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第13話 ロイヤル

やりますよー


 

そんなこんなでかーしまのおかげで手配は済んだ。結構気軽に応じたらしい。やはり機会はあるようだ

 

艦底の一角に、私もかーしまの案内で向かった。あいも変わらず治安が悪いというのは間違いないらしい。煙臭いし足元はゴミだらけ。これでもマシになったというのだから驚きだ

 

着いたのは薄暗く裸電球ひとつ照らす部屋。椅子がいくつか置かれているだけで他には何もなく、鉄板がそのまま光を反射している

 

「ここかい?」

 

「はい、ここなら色々と気づかれにくいだろう、とのことで……」

 

「ふーん」

 

確かにここの廊下は同じような部屋がいくつも並んでいる。ここだけに目を向ける人はいないだろう

 

「済まないね。桃さん」

 

少しして、ノックして扉が重く開いた。お相手の到着のようだ

 

「案内するつもりだったんだがこの前の処理が遅れてね。悪い悪い」

 

小柄な少女が、その身に会わず低めな声でかーしまに近づく

 

「そうか、私がここ知ってたから大丈夫だったぞ」

 

「ありがとね。んで」

 

やっと顔がこちらを向いた。左目に眼帯をして頰に縦長の傷が入っている。なるほど、見た目が厳ついのは事実なようだ

 

「こちらが次期会長様かい?」

 

「そ、そうだ。余り下手なことは……」

 

「しないよ」

 

そう言って私の向かいに椅子を置いて、座面を手で確かめてからドカッと腰掛けた

 

「で、角谷さんだっけ?よろしく」

 

「そう。そちらはロイヤルとでも呼べばいいかな?」

 

「なんとでも呼べばいいさ。んで、貴女が直々に出張ってきて、そして私にだけ……とはどのような要件かな?」

 

「君、何か資格持ってる?」

 

直球で攻める。通じるところはあるはずだ

 

「……一級海技士の通信」

 

「一級……ってことは、この学園艦でも働き口はあるわけだ」

 

「……一応な。こんな事を訊いてくるとは、あれか。あんさん、もうひと枠船舶科のローテでも作る気か?」

 

頭の回転が速い、というのも嘘ではないらしい

 

「よく分かったね」

 

「ここでそんなの気にすんのは参謀にするか否か考える時しかないからな。生徒会に参謀役はいらんだろ?だとしたらこの資格がいるのは、私をまた上で働かせよう、という人間くらいだ。そして直近、上で人が欠けたって話はない」

 

「なるほど。それが分かるなら話は早い。君、上に戻る気はないか?」

 

「無理だね」

 

早いな

 

「……私は無理だ」

 

「どうしてだい?資格はあるんだろう?」

 

「もう切れてるよ。それにまた受けたって受かるわけがないんだ」

 

受かるわけがない……そこが重く来ている

 

「受かるわけがないって……」

 

「身体検査」

 

かなりぶっきらぼうに言い放たれ、私の言葉は遮られた

 

「現役でもこれに引っかかったら仕事ができない。そして私はこの目だ。見るかい?」

 

そして彼女は、ロイヤルはその眼帯を外した。まさに紫に染め上がり、皺くちゃに閉じられた瞼。明らかに、光は入っていない

 

「これさ。通信士とはいえ、この目じゃどんな身体検査も通りやしない。私に上に戻る資格はないんだよ。

上で一緒に勉強して、そして私より出来の悪い奴らの下についてペコペコする部員になるくらいなら、こっちの方がまだマシだ。乱闘騒ぎも悪くないぞ、会長さんよ」

 

「ロイヤル……そういえばお前また出張ったそうだな」

 

「これだけは桃さんの頼みでも止めねぇですよ。安心してくださいや。私が飛び込むのは絶対勝てるから起こした騒ぎのみ。時々前線行かないと参謀は見放されちまうんでね」

 

なるほど、確かにこの怪我は直せる代物ではあるまい。かといってここで切るわけにはいかない

 

 

「私はこうだが……」

 

と思っていたら、向こうから話し始めてきた

 

「他にやると言い出しそうなやつは、いるかもしんねぇなぁ」

 

「え、それは艦橋で働ける人?」

 

「そう。例えば西北会の向井。あいつは元々艦長候補だったやつだったな」

 

「西北会か……余り聞かないな」

 

「そりゃ、十数人のちっちゃい派閥のトップでしかねえっすから。でも相当の切れ者ですぜ」

 

艦長候補……そんな人が

 

「どうして……艦底に?」

 

「他の艦長候補の奴と大喧嘩して辞めてきたらしい。その後その西北会を作って、こうしてウチが他を押し込んでる中でも、のらりくらりと交わして上手くやってやがる

あいつがもうちょいデカい派閥にいたら、ウチらは結構ヤバかったな。頭の良さなら私より上だ」

 

使えるかな……

 

「あいつは言動のせいで艦長になれなくて、他の艦長の下につきたくねぇ、って辞めてきたからな。他の艦長として肩を並べる、これなら妥協できるんじゃねぇか?

あとはそうだな……ほら、青森連合の鮫沼。桃さんも知ってるだろ?」

 

「ああ、あそこのか」

 

「あいつ機関の一級持ってたはずでっせ」

 

しかし……よく話すな。この人

 

「あとは通信の二級ならちらほらいたはず」

 

「君、よくそんなに話すね」

 

「そりゃ、ある意味商売敵だからな。上が吸い取ってくれるなら悪い話じゃない」

 

「で、君たちには?」

 

「ん?」

 

「この艦底のかなりを占めるお銀派だ。そういう人材もいるんだろ?」

 

「……私がこんな地位にいるんだぞ?」

 

「だが、いるんだろ?」

 

いないわけがない。ここまでデカくさせたのだ。頼る奴も増えてくるさ。向こうとしては他派の資格持ちに目を向けさせる気だったらしいが、その分お銀派にもいると示す結果になる

 

「……そう言われちゃ、こっちは何も言えないね。きっと上のデータ調べりゃ出てくる話なわけだし」

 

「それを出せないかい?」

 

「引き換えに何をくれる?流石にタダじゃ他が納得しねぇ」

 

やはり、これくらいしかない

 

「各派の生徒会による公認」

 

「各派の、ねぇ」

 

「すなわち現状維持の承認だ。お銀派としちゃ現状最大勢力だし、そんなに悪い話じゃないと思うけどね」

 

「足りんな。もう一つだ」

 

「ほう……」

 

「各派人数は同じ、これでどうだ?」

 

「相対的にお銀派の負担を軽くしろ、と」

 

なかなか図々しいな

 

「抗争を防ぐならこれが大きいぞ?それに生徒会に近いところが相対的に強くなるなら、一番いいのは艦底管理したいあんたらじゃねぇか」

 

お銀派以外との関係は現状ほぼない。そうなるとこれも理屈として成り立ってしまう

 

「こっちとしてもお銀とかを説得せにゃならんのでね。あいつらは理屈より利益の方が早いぞ」

 

「ええい、わかった。それでいい!」

 

「会長!宜しいのですか?」

 

「希望者募集はかけるけど、それ以外は各派から同数集める形で進める!」

 

「なら乗った。それにしても……風紀委員はどうすんだい?」

 

「こっちで説得する」

 

「できんのかい?言っちゃなんだが、ウチらを最も毛嫌いしているところだぞ?」

 

「だからこそ、できる」

 

「……まぁいいか」

 

ここまでトントン拍子に話が進んだところで、私は一つの疑問をぶつけてみた

 

「それにしても……」

 

「ん?」

 

「君さ、よく話に乗ってきたよね。そんなに艦底にとって都合のいい話じゃないのに」

 

「あんさんが言うか。まぁそうだろうけどさぁ……」

 

赤毛のウエーブをかけた髪を撫でながら、バツが悪そうに話しを続けた

 

「ウチらは、もうはっきり言って上に抵抗できる力は削られてきてんのさ。撃退こそしているが、風紀委員の鎮圧作戦もこっちにダメージがないわけじゃない。言いたかねぇが、あんたらからの援助金がなければ首が回らない、というのが実情だ。お銀すら話してもなかなか分かっちゃくんねぇがな」

 

艦底のこの地位の者が話しているところを見ても、やはり事実らしい。ありがたい話だ

 

「補給能力から考えて、総力戦でジリ貧になるのはこっちだ。そんな中で生徒会との関係悪化はあっちゃならんだろう?」

 

「それはその通りだ。まぁこちらとしても下手に関係悪くしたくはないけどね」

 

「それは助かる。私も今でこそこの地位だが、元は自棄っぱちになってこの艦底でお銀に助けられた身だからね。多少はこの場とお銀に恩返しせにゃならん」

 

「そのためにお銀派に少しでも有利な状況を、って感じかい」

 

「そういうこった。その為の案をあんさんが呑んだし、その件に関してはこっちも協力する。私が隗となってもいい」

 

「かい?」

 

「お銀派の参謀として名が知られてる私が率先して賛成して参加すれば、他派も容易く拒否はできまいよ」

 

「ああ、まずは隗より始めよ、と」

 

「そういうこと。艦底の奴が艦長になるなら、私は部員にでもなってやろう」

 

「いいのかい?それを嫌ってるんじゃ……」

 

「ここでの苦しみを知ってる奴なら、まだ上手く付き合えるさ。艦長になるであろう向井の野郎の下なら、上の井上とかいう奴よりは百倍マシだ。それに……いつかはこんな場所、無くなった方がいい」

 

「そりゃそうだ。学生の本分を果たした方がいいさ」

 

「……ちげぇねぇ。折角こんな土地に故郷を捨てて住んでんだしな」

 

 



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第14話 一人の少女と反発

 

 

そしてそれと同時に、我が校はある一人の少女に触手を伸ばした。とはいえ案内書を黒森峰経由で送っただけだが。黒森峰ほどの有力校なら我々みたいなちっこいとこは気にも留めているまい。心付けとともに手紙と一緒にお送りしておいたし

 

ウチは今のところは戦車道をやると公表するどころか、やることすら決まってないからな

 

このことを辻氏に伝えたら、

『私からも伝えておきましょう』

とのことだ。きっとうまく行くだろう

 

 

西住みほ。今の所彼女を呼ぶのは学園内で孤立していると掴んでいる戦車道をやっているところぐらいだろう。それを彼女は断るはずだ。状況を考えれば当たり前だな

だから戦車道をやってない私たちからの誘いは目立つはず。普通戦車道をやってないところからしたら、本来わざわざ個別で誘う価値はないんだから

仮に彼女が来たとしても、彼女の思いとは裏腹にその才能は逃さないがな。なんとも言えない話しだが、我々としても政治家としてやるべきことをやっていかねばならないからね

 

やむを得ないさ

 

 

そんな話もあったが、ともかくメインの話は結構トントン拍子に進んでくれた。ロイヤルがお銀やその側近を相対的にはむしろ勢力の拡大になる、と説得し、まずはお銀派がこの案を呑んだ。そしてロイヤルと他一級資格持ち1名を指名してきた

そうとなれば各派も人員を出すことを拒否することがそう簡単にできなくなる。お銀派に近い派はこれに同調せざるを得ないし、反発しているところも強制的にやられるのは嫌がる。そして強制的にやられたら実力的に勝ち目はない、というわけだ

 

そしてロイヤルが話していたように、思ったより資格持ちは多く、なんとか1級資格を持つ人は必要最低限揃うことが判明した。もっとも長きに渡る艦底暮らしで資格を取り消されている人が多く、その人たち再度試験を受けないとならない上に、次の代になれば人員そのものがかなりカツカツだ

だがともかくも4ローテ制にする下地は整った。だがここで思わぬところから反対が来た

 

「何で向井の奴を艦長に加えなきゃいけないんですか!」

 

「あの艦底の奴らでローテを組む?船舶科は学園艦の運行を通じて、この都市の全ての民の命を預かる存在ですよ!あんな奴らに任せられるわけないじゃないですか!」

 

他の艦長を中心とした船舶科そのものである

前に4ローテ制にしないか、という話を流した時の感触は悪くなかったのだが、そのメンバーが艦底出身で揃えるとなった途端、他3ローテの艦長がまず生徒会室に駆け込んできた

 

「向井の性格をご存知なのですか!あいつ勝手に学園艦の運行方針改竄するわ、私たちの同意もなしに重要データ放棄するわ、迷惑が人間の皮を被ったような人間ですよ!あんな奴そもそも艦長の一員にしたくはありません!」

 

「というか艦底で酒ざんまいタバコざんまい暴力ざんまいの奴らを上にあげる!冗談じゃないです!」

 

こんな感じで結局一緒に働きたくないんだ、という感情論が強かったが、

 

「艦底の者たちで組を編成したとして、彼らが真っ当に仕事を完遂するかは、私共としても保証しかねるところです」

 

艦長代表の大橋ちゃんのこの発言から、私たちもしても断る、彼らを何としても受け入れろ、とは言えなくなってしまった

 

「角谷課長が遂行されていることが我々に大きな利をもたらす事は承知しております。がしかし、彼女らは能力面のみならず、性格面も考慮して船員から外されているのです

能力面では十分だとしても、性格的に職務の遂行に適切とされていない者が、拗ねて艦底に向かう場合もあるのです。残念ながら彼女らだけで現行の我々と同等の仕事ができるとは思えませんね」

 

「そうかい……艦底メンバーだけじゃ無理と」

 

まぁ、上で雇われてないということはそういうこともあるってことだよな

 

「じゃあさ、君たちの休憩時間を2時間に伸ばすからさ、その隙間を埋める人材を下から確保して混ぜるのはどうだい?下の奴らにもある程度能力のある人材がいるのは疑いないんだからさ」

 

「ふむ……」

 

仕事しながら勉強だ。休憩は長いに越したことはなかろう。それを長きにわたって経験してきている艦長なら尚更だ

 

「それにさ、就労時間が良くなれば、募集できる人材の質も高まる。おまけに就労短くした分勉強や休息に回せる時間が増えた方がさ、成績上がって大洗女子学園そのものの質を高められる、ってなったら、学園艦、学園都市の存続に繋がるだろ?上につくものとして基盤は整えてもいいんじゃないかい?」

 

「……部員までなら、考えましょう」

 

「そこより上は無理かい」

 

「船員としての登用は、私がここで首を縦に振っても、他のメンバーが納得しますまい」

 

「じゃあさ、今回はそれでいいから、今後4ローテ制移行に向けて準備を進めることは了承してもらえるかい?」

 

「わかりました。今の高校生で艦底にいる者が上がってくるのは厳しいでしょうが、その後の体制変更に向けての協力はしましょう」

 

その内容なら何とか合意を取り付けた。結局艦底から出てくる者たちは部員になったし、彼らからの反発もあった。だが結局全員働くわけじゃなく一部は予備に回ったりすることや、もともと再度資格を取り直すことから時間が必要であること。そして今後艦底からの段階的な重要ポジションへの抜擢を認めさせ、事なきを得ようとしていたところだった

 

 

最後の関門の一つ、そのための話し相手がおかっぱのこの人である

 

「艦底の各派を公認する?冗談よね?」

 

「マジメな話さ」

 

園みどり子。次期風紀委員長が内定している者である。実際に艦底への鎮圧作戦にも同行したことがあるだけに、なかなか厄介そうだ

 

「あのね。授業はサボる、酒は飲む、タバコは吸う、環境を悪化させる、それで挙げ句の果てに暴行騒ぎ。ウチの学校がこんな状況にあるのを認めろっていうの?」

 

「そこまでじゃないさ。単に派閥の勢力図に関して現状維持を認めるだけさ。そこら辺の規制は風紀委員がやりたきゃやればいい」

 

「でもその極悪非道の根源は派閥そのものなわけでしょ?あそこからアイツらを追い出さない限り、止められないわよ?」

 

「かといって今まで追い出せてないわけだろう?しかも風紀委員も毎回10人単位の負傷者を出しながら、だ。果たして次また鎮圧作戦を行うとして、どのくらいの士気で取り組めるのかな〜?」

 

これに対してそんな訳ない、とは言えないよなぁ。何せ彼女らはその名前上武装には限界があるけど、向こうは瓶や鉄パイプ、ガラの悪いところだと糞尿の入った袋とかで抵抗してくるんだ。そしてそれは風紀委員内には出回っている話だ。そんな地獄に誰が好き好んで行くよ?

 

「艦底での風紀委員の行動は認める。でも、艦底運営は基本各派の協力のもと行うよ」

 

「……武装強化を要求しても議会だ議会だで通らないんでしょうし……」

 

「まず間違いなくフォーラムが反対するね。そもそも甲板の人間にしちゃ艦底はそこまで身近じゃないさ。これ以上ははっきり言って無理だよ」

 

「はぁ……」

 

ここらがきっと限界なんだ

 

「それにさ、ソド子は知ってるか」

 

「園みどり子よ。何をよ?」

 

「山崎さん家での話」

 

顔色変わったね。覚えてたか

 

「ああ、あの話ね。覚えてるわ」

 

「あの話に関してなんだけどさ、まだ正式通知が来た訳じゃないけど、ほぼ確実にタイムリミットが迫ってる」

 

「まぁ、昨今の事情を見る限り全く有り得ない話じゃないとは思ってたけど、本当……なのね」

 

「私としては、できるだけ回避を狙っていくつもり。だけどその為の交渉とかの時に艦底は問題になりかねない」

 

「だとしたらガツンと抑え込んだ方がいいんじゃないの?」

 

「いや、そこには不必要な労力を割きたくない。変な行動を起こさないように安定化させるのが吉だろうね。やむを得ないけど、それが最善かつ問題をこれ以上大きくしない道だよ」

 

「……生徒会の方針は理解したわ。艦底に関しては監視は続けるけど、基本その方針に乗っかりましょう」

 

「助かるよ」

 

公認した結果調子に乗らないよう、監視の継続はプラスか。呑んでくれてありがたい

 

「それとさ」

 

「どうしたのかしら?」

 

「このさ、山崎さんの話、今後正式通知が来た時も隠匿ってできる?」

 

「隠匿……って、誰相手によ」

 

「市民全員」

 

「は?」

 

ですよねー

 

「無理に決まってんでしょ?新聞やテレビは私たちに介入できる余地はないし、何より学園艦の外に出られたらそこからの情報の統制なんて不可能よ。要するに国から正式に告知されたら、止めようがないってこと」

 

「まぁ、そりゃそうか」

 

「だからハッキリ言えば、そのもの自体の隠匿は不可能ね。それの交渉する気で、その内容を伏せるくらいならなんとかなるかもしれないけど……3万人全員を監視する訳にはいかないし、なんらかの原因で漏れたとしても責任は取れないわ」

 

「じゃ、そこら辺のことまでなら協力してもらえると」

 

「理由は?」

 

「内部の不必要な混乱の回避、だね。退艦の準備を進められてて、仮に回避できた時の責任は背負うつもりさ」

 

実際にそうだ。今回の話は結局無理で来年度末で廃校、というのが一番よくある話だ。避けたいが可能性の話としては逃れられないし、それを非難できる筋合いじゃない。都市の民だって生活しているのだ

 

「回避って……何かするの?」

 

「条件を取り付けてもらうとか、かね。交渉して」

 

もっとも条件も知ってるんだけどね

 

「……まぁわかったわ。こちらで協力できる内容なら、手を携えていきましょう。私たち風紀委員会が風紀を維持する場所を守るために」

 

その存在意義を向こうが信じている限り、私は彼女らより優位に立てる

 

「今後ともよろしく頼むよ」

 

それを使ってでも、彼女らの手綱は握っておかねばならない。学園都市の治安、艦底に対する存在感、そしていざ反抗されたら生徒会で対処できない唯一の存在

もっとも最後に関しては向こうは分かってないのが救いだが、この関係もまた今の所崩すべきじゃないのだ

 



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第15話 不成

 

 

そして時期は冬休みまで秒読みに入っていた。学園艦も北上し、大洗の港の近くまで帰ろうとしている。だが今年の私にまともな冬休みは訪れないらしい

 

「そんなわけで君たちさ、フォーラムを手を組まない?」

 

「うーん……」

 

この会議室には私と田川ちゃん。そして3党の党首が集っていた

 

一人目はこの冬から正式に代表になった、大洗学園フォーラム代表、白石。二人目は海の民党首の小沢。そして最後は職人連合組合代表の明石。つまり私は、この3党に合同を持ちかけているのだ

 

「船舶科には今後の4ローテ制導入に協力させたから、今後法整備して進めるなら、手を組んだ方が得じゃない?労働時間削減は君らの宿願でしょ?」

 

「それはそうですが……」

 

フォーラムとしては願っても無いチャンスだろう。ここの二つを正式に取り込めれば議席総数は370近くなる。あとの数名取り込めば念願の議会過半数だ

 

「職人連合も船舶科ほど重くないですが、この就労システムを認めたら学費も普通科より下になりますし、そうなったら反発する理屈はないのでは?」

 

田川ちゃんは職人連合に調整を仕掛ける

 

「うーむ……」

 

職人連合はまだ案件が確定してないからわかる。だが艦長代表から合意を得ている中で海の民はなぜ呑まないのか

 

「まぁ、そこのお二方が首を縦に振られないのは、我が党がこの案に賛成するか分からないから、でしょうね」

 

「珍しいね。フォーラムもこの二つはすり合わせた方がいいかい?」

 

「被服科の方はおそらく党内でも反発はないと思います。もっともこちらは被服科教員陣との調整が必要でしょうし、相手企業との合意が成り立たなければ動きようがありませんが。しかし……船舶科のものに関しましては、なんとも言えません」

 

「……労働時間短縮で学費相応の業務をしているのかの疑問かい?」

 

「そうですね……現行この制度で成立させてきた以上、労働時間削減で同等の価値があるのか。一部の者は総計負担を元手に反対するかと」

 

「何を馬鹿な。既に8時間業務をほぼこなしているのですぞ!休日なども考慮すればむしろ地上の正規労働者より労働時間が長いと言われているのに、何をためらうことがあるですか!」

 

とりあえず小沢ちゃんはこっちに付いてくれるようだ

 

「勉強とか休息を増やして欲しいから、私としても賛成してくれるようお願いするけどね」

 

「それと、船舶科教員陣はこれを受けて拡充するので?」

 

「4ローテにするし拡充はするよ。14〜15名の追加を見込んでるけど」

 

「……現状のウチで人数維持はともかく、その数の新規教員を引っ張ってこれますかな?タダでさえ副担任導入で教員需要が増し、一方でその給与と残業から資格試験は前年割れ続きと聞きますよ?」

 

「その教員陣からも授業寝る奴サボる奴が多すぎるって苦情来てんだよね。ハッキリ言って休ませた方が生産性は高まりそうだけど

艦底も何とか今は鎮めているけど、今後も維持できるかは保証できないし、そこの奴らを引き上げて力を弱めるためにも、少なくとも将来的な方針にはした方がいいでしょ」

 

「人員を拡大したとして、給与は?」

 

「最悪債券発行も視野に入れてるよ。人が足りないなら給与を上げるしかない」

 

「……すみません。一度持ち帰らせてもらえませんか?」

 

ぐぬぬ。面倒な

これはあれか。党の内部に反発はあるし、私とあまりべったりしたくない気持ちが働くがゆえか

 

「……今年中に返事を頼むよ」

 

「分かりました。何らかの返事は致しましょう」

 

「じゃ、資料渡しとくからよろしく」

 

はぁ、めんどくさい。が、そもそもの仕事がこんなことばっかりだったから、別に疲れるわけじゃない

 

「いやぁ、すまんねお二方。わざわざ来てもらったのに」

 

「いえ、我々としては船舶科の幹部層も一定の支持をしている以上、その案件に賛成しましょう。しかし……フォーラムとの完全なる合流となりますと、反発するものが出るのは必至かと、というのが正直なところです」

 

ここもか。今後も公正会みたいなパターンは出てくるわけね

 

「じゃあさ、合流までとはいかなくても、この案件を他と調整して通すからさ、そしたら今年の予算案認めてくんない?」

 

「……すみませんが持ち帰ります」

 

「また今年中ね」

 

感触は悪くない。とりあえず戦車道やる目処を立てるのが優先だ

 

「んで、被服科の件だけどさ、はっきり言ってどう見てる?」

 

最後は明石ちゃん

 

「……ウチがCやDランクだったらまだやりようはあるんだが……」

 

「ランク?」

 

「最低賃金のさ」

 

「そう。ここは大洗町の飛び地だから、最低賃金もBランクになる。だからもっと安い他の地方所属の学園都市より賃金競争で不利だ。被服科を働かせるならそこの分は保証せにゃ無理だぞ」

 

「うーん…だろうね。もちろんその分現状からの学費から引くよ。東京周辺への回航も増やしてそこへの売り込みの優位性をメリットにするとかもあるしね。母港が大洗だからそこまで手間じゃないし。その点でなら他には静岡の学園都市くらいしかか張り合うところはないよ」

 

「相手企業は?」

 

「国経由で信用あるとこにするつもり。もっともどこが来るかはわかんないけどね」

 

「……なら妥協の余地はありそうだが、この案件は被服科のみだ。農業科、栄養科、水産科出身議員相手は何とも言えんな。さらに来年度予算への完全同調はかなり難しいと言っていい」

 

「まぁ、補助金増額は厳しいしね……減額はしないとは思うけど」

 

「棄権か賛成か、なら可能性ありかね。こればっかりは党で方針決めても実際は反対する、なんてのもあり得るから断定はできん」

 

「まぁ、基本方針は賛同してもらえるでいいかい?」

 

「フォーラムを取り込んで学費負担削減に動くなら、ここら辺が妥協案になるだろう……とは考えている。だが党内にも完全対等を騙る強硬派がいるからな……全員賛成は無理と考えて欲しい」

 

難しいが、難しいということはやればできないこともない、ということだ。ならばやっていくしかない

 

 

 

そして新学期の始まる直前、件の少女の転入依頼が来た。辻氏から聞いたところだと、辻氏からも口添えをしたらしい。黒森峰からも内々に感謝された

だが黒森峰ほどの学園が我が校が廃校候補になっていることを知らないということもないだろう。だから西住ちゃんも完全に手放す気は無いはずだ。ウチが廃校になった時期を目処に呼び戻す気だろう

一度放出せざるを得ないが、校内の雰囲気が落ち着くのを待ち次第取り返したいのが本音のはずだ

 

返さないがな

 

ともかくも土台はできた。あとは上を建物を誘導するだけだ

 

 

私は東京への出発準備をしつつ年末を迎えたのだが、白石ちゃんに

 

『もちろんだけどさ、春の議会選挙は全面協力するよ。校外の演説とかもどんどんやるよ!予定があったら教えてね』

 

と伝えると、年末ギリギリにだけどOKサインが出た。やはり小山とかが言っている通り私が支持率高いのは結構使えるようだ

だがこの支持率も秋の空。簡単に移ろいゆくもの。繫ぎ止めるにはカバン、カンバン、ジバン除けば実績しかないのが政治だ。そして私はこの都市出身というわけでもないし、実家はただのペンキ屋だ。そのどれもない

 

予算に関しては幹部層との話をせねばならないだろうが、海の民が賛成に回れば改選後の議会でフォーラムから造反が出ても過半数を狙えると踏んでる

 

しかし来年からは市民議員も登場する。議員定数は50と全体の800からしたらそこまでの割合ではないが、そこは元公正会ルートと町内会支持でフォーラムがかなり固めている。学園都市を10地区に分けて各5人選出の大選挙区制だが、それでも35は取れるというのがフォーラムの選挙対策委員会の読みだ。私もどんどん春は出張るべきだろう

 

実を言えば今回の二つはこれを糧に2党を取り込めれば最善だったけど、議案を出すことそのものも大きな目的だった

この二つの方針を記した法案が可決されれば、少なくとも海の民は存在意義を失う。一方で否決されれば、海の民の実行力のなさを示すようなもの。彼らの宿願だしね。職人連合も響くかな

 

そうなれば支持は実行力のあるところにまとまる。学園でなら圧倒的支持のある私と、私を推薦したフォーラム。こうして確実に『挙市一致』への体制を固めていく。学園内では過半数は取れずとも、何とか今以上の優位を確保したいところだね

 

もっともこれが出されてフォーラムが明確に反対するのは、船舶科支持層から総スカンを食らうし、普通科でも船舶科働き過ぎ問題は何かと騒がれてたから、なかなか厳しいものだと思うけどね。というかクラブも賛成するかもしれん。ま、そうなったらそうなったで

 

……ちょいと予算規模追加してクラブ誘う、って無理か。流石に現状の予算から拡大する力はない。だって私たちはこの冬休み終わったら

 

 

廃校を正式に通告されてるんだから

 

 



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第16話 憤り

 

 

3学期始まってすぐの、私が正式に生徒会長に就任してから初めての生徒議会は憤りに震えていた

 

「事前通達なしに来年度廃校は急すぎるではないか!」

 

「もう今年度の受験の願書を受け取っているんだぞ!来年廃校にしろと言いつつ、試験だけはやれというのか!今年の受験生に再来年度以降に関してはどう説明すればいい!」

 

「なぜ我々なのだ!そして正式な理由の説明も我が校独特のものではない!艦内治安は最近安定させたし、運営状況だって決して悪いわけじゃない!」

 

「この場がなくなって、町の住民にはどうしろというのか!勝手に出て行けというつもりか!」

 

「誰がどのような権限でそんなことを決められるというのだ!こちらで住宅の手配などあと1年で足りると思っているのか!」

 

最初の議会で出した廃校準備校への指定への非難決議は全会一致で可決。廃校阻止方針およびその際の大洗町、茨城県への協力要請も難なく通過した

 

大洗町からは即座に協力するとの返書が届いた。だがこれで何かしら効果があるわけではない。何もない。生き残りたいなら、我々が具体的な策を打ち出していくだけだ

 

 

そしてこの危機は好機だ。学園の危機、これは挙市一致を創り出すにはこれ以上の機会はない。私は再度白石、小沢、明石に来てもらった

 

「……やはり組めないかい?」

 

「我が党としてもここまで危機的である以上、今後も存続するべく改革の意志は示さねばならない、と今回提出された改革案の双方に賛成する動きが加速しています。我が党の全面的な賛成は確実です」

 

白石ちゃんもサポートに回ってくれるが、やはり二人がなかなか縦に首を振らない

 

「我が党は相応予算の上での軽減なら結構賛同できるんですが、やはり強硬派の存在を抜きには語れません。それともう一つ、部分介入経済に関しては懐疑的な議員がそこそこいるんですよ」

 

部分介入経済。生徒に必要なもの、たとえば教科書、本、筆記用具、ノートなどには販売しているところに学園予算から補助金を出している。その分生徒には安く手に入るという算法だ

 

「被服科、農業科にも生徒会から援助はされていますが、普通科がメインにされているとの論調は根強く残っています。そうなると自分たちが普通科より多く払っている学費が、結局普通科のための援助に回っているという話になってしまいます

これは研修制度とは関係ないところです。この案で手を打つようなものでもありません」

 

「その系統の主張をしている議員は、仮にフォーラムと合流とかなったら……」

 

「まず間違いなく反発してクラブに流れますね。合わせたら恐らく……1/3は覚悟したほうがよろしいかと」

 

「ま、検討だけでもしておいてくれよ」

 

職人連合はそこそこ数に含めないほうがよさそうだ。それだけ離脱が出れば他もそう易々とは来るまい。全体的な流れというのはそれだけ恐ろしいのだ

 

「海の民としてはほぼ問題ないと思います。やはり将来的とはいえ労働時間の削減に生徒会が務めるを示している。これだけでも大きいです」

 

「艦底の人材あってだけどね。何より教員募集の関係上来年も無理だ。早くて再来年からだね。しかも船員は後回しだ」

 

「それでもそこに手を繋げたのは大きいです。我々だけではどうにもならないので。部分介入経済に関しても、自分たちは学費をタダにしてもらった上で物価が安くなっているので、現状でも大きな反発はありませんね

我々としても職場が、それと引き換えとはいえ無償で学べる場がなくなっては困るので、ここを残せるなら可能な限り手は打ちたいと思います」

 

「法整備に関して通過すれば参加してくれるとのことでいいかな?」

 

「はい。我が海の民はこの学園廃校の危機に対し、角谷さんがその回避を願うなら大洗学園フォーラムとともに協力していきましょう」

 

「当たり前じゃん。私は学園都市の民に選ばれたんだよ?その母体を無くそうとするわけないじゃないか」

 

「もちろん、党の中からそちらの行動に関しては監視を続けますよ。結果が伴って欲しいですからね、こちらからしても」

 

「そこまで話が分かってくれれば十分だよ。じゃ、それぞれよろしくね」

 

 

 

さて、これで次の選挙大勝すれば、私の議会での地盤はかなり固まってくる。街での選挙活動と称して小学校6年生も狙っておきたいところだが、果たしてうまくいくかな?

この危機を前にフォーラムも私とべったりしすぎるのは危険だ、とは言いづらくなってきているだろうな。私のやった改革という実績がある限り

 

「小山ー」

 

「な……どうしました?会長」

 

小山は私の正式な就任を機に呼び方と喋り方をまるっきり変えた。別にそれまで支え合ってきたんだからそんなに囚われなくても、とは伝えたのだが、上の者がより上の者に敬意を払わねば下の者は敬意を表しない、と突っぱねてきた。なかなか頑固だよね、かーしまもそうだけどさ

 

「ちょっと業務の終わりで悪いけどさ、みんな集めてくんない?」

 

「かしこまりました」

 

小山にはもう伝えてある。もう、それ以外ないのだ。ここのメンバーとして最低一年近く勤め上げてきている者なら、そのことはよーく理解できているはずだ

前々からグダグダ思っているように、ウチには強みがないのだ。他校に勝てる武器がないのだ。ならば一縷の望みをかけて武装する他ない

 

流石に急に呼んだからね。艦橋だから易々とブンヤは近寄ってこないだろうし、盗聴関係は対策済みだから問題ないだろうが、話が話だ。予測させない形にしたい。集まるまで10分以上かかることだって、それを考えれば致し方のないことだ

 

さて私が正式に生徒会長になった中で、こうして全員の前で訓示を行うのは初めてだ。就任挨拶はしたが、仲間は全くもって変わらないので流れ作業だったしね

 

「みんな、仕事している間に手を止めてしまってすまない。だが先日学園艦教育局より伝えられた廃校準備校への指定は皆存じていると思う。私もこの乱暴な決定に怒りに震えているよ

私はこの都市の市民に、この学園の学生に支持されて選ばれたこの都市の代表だ。その仕事を全うするのが当然であり、その場であるこの大洗女子学園学園艦を残すためなら、手段を選ぶつもりはないさ」

 

「おおっ!」

 

ここで働く者たちからなら、同意を得ることなんて容易い

 

「そして私はこの学園都市を残すための、僅かだけどれっきとした可能性をつかむことに成功した!」

 

「おおおっ!」

 

国に抵抗する。それもそこに支えられている学園都市が。ある意味一種の絶望であったはずだ。親から放棄された赤子でしかなかった

 

だからこそ、これは何にも勝る、辿るべき道だ

 

「か、会長!そ、そんな方法が本当にあるのですか!」

 

「ある!」

 

「それはいったい……」

 

「戦車道だ!我が校にかつて繁栄をもたらしたあの戦車道で、勝つんだ。優勝するんだ」

 

戦車道。急だろう。そうだろう

 

だがこれしかないのだ!

 

「し、しかし……現状我が校に戦車道はありません。それで期限は来年。おまけに我が校に戦車を揃える金などありません。如何なさるおつもりでしょうか?」

 

「この学園艦に戦車はあるからそれで戦う!そして今年は伝で助っ人を呼んだ!それらで勝つ!そして我が校の全てを、今年は戦車道に注ぎ込むんだ、私自身を含めて

ここまでしてもかなり厳しいことはわかっている。相手になるのはあのサンダースとか黒森峰、プラウダだ。それらを撃破するのは至難の業に違いない」

 

なんども言うが、本当にその通りだ。財力、人材、その全てを鑑みても大洗は勝てん。こうして廃校回避の道ででもない限り、やらないでおくべきなのだ

 

「だけどこれしかないんだ!他に全国に名を広げて勝てるものは、そして期限の来年に間に合うものは、我が校にはない。今あるもののどれかに注ぎ込んだら、逆に他から総スカンをくらう。だったら、私たちの手で握れるものを作ったほうがいい」

 

「ううむ……」

 

「そしてこれは、ただ戦車道の大会で勝つためだけじゃない。必要とあらば……」

 

間を置いた。私もあまりやりたくはない。が、やる意志は持たねばならないだろう

 

「……戦車道、風紀委員とともに、学園艦に籠城し、たとえ公認が得られずとも学園存続に全力を尽くす」

 

「なっ……」

 

要するに、国相手に戦争だ。ハナから勝ち目はないし、だったらやる意味もあるまい。それによって相手に損害が出ないならね

 

「我が校は守り抜く、なんとしても。それがこの伝統とともに、幾多の関係の中で繋がってきた大洗女子学園を受け継いだものの責任だ。そう信じている。戦車の砲火力は大きな抑止力になり得るはず

ただしこれは本当の本当に最終手段だ。そうならないようにしたい。だから……頼む!今年一年だけでいい!学園の持つものを戦車道に注ぎ込んで欲しい!」

 

「それしかなさそうですね」

 

即座に同調したのは学園課の私の後任、田川ちゃんだ。雰囲気的に纏まるか読めないときは同調して話を持っていきやすくしたい、と伝えてある

 

「学園課で部活動の状況は監視していますが、これから来年までに全国区での名を残せるものはございません。その上で予算についてはがめついとこばかり。選挙対策の上でもあまり敵に回したくないのが実情です

ですがこの戦車道、選択必修科目になるとの理解でよろしいですか?」

 

「そうなるね」

 

「授業が相手なら部活の予算なぞ恐るるに足りません」

 

「しかし、それ抜きにしても財源は如何なさいますので?他の学科の補助金は削れませんし、この廃校が傍目からは不可避になっている中で金を貸す阿呆はいないでしょう」

 

「戦車道を始めれば、戦車道連盟から補助金が出る。あとはもう一つ、去年のうちに成立したのがあっただろう?」

 

これらを足したところでそうそう成り立つものではない。が、多少は心の安定を保つ材料になるだろう

 

「……OG会の組織化と寄付金上納、ですか」

 

「そうだ。学園の危機の中でかつての誇りを持ち上げる。それだけでも金を集める理由になる!そして……あとは実績待ちだね」

 

「いきなり自転車操業になりそうですね……こりゃ大変だ」

 

「だが今年中に最大の実績を出さなきゃならないんだ。途中でも勝たなきゃやっていけないさ。最後になるけど、そもそも戦車道が始められるようにならなきゃ話にならない

そこから苦労をかけるけど、学園を守るため、そして次代に繋いでいくためだ。頼む、協力して欲しい……」

 

命令で動かすこともできよう。しかしそれではいけないのだ。真に皆の心が一つの方向を向かねば、成り立たぬ

 

「廃校となれば……どうなるんでしょうか」

 

「皆バラバラになるだろうね。ウチが小規模な方とはいえ、今からこれまで過ごした環境が違う3万人まるっと受け入れるとこなんてあるわけない。いくつかの学園都市に分散させる形になる。おまけに期間も1年だ。最悪受け入れ準備が整うまで地上で滞留かもね」

 

「そんなのお断りだ!この学園都市を放棄なぞ考えられない!」

 

「ウチらにも自治権がある!国にここまで命令されて、学生の運命を左右されて黙っていられますか!」

 

「やりましょう、会長!」

 

「大洗女子学園万歳!」

 

「角谷会長万歳!」

 

「大洗に自由を!」

 

動いた。生徒会の流れがきた

 

「ありがとう!私は諦めない、私は挫けない、私は立ち止まらない!大洗女子学園で選ばれた者として、最後まで戦おう!」

 

「おおーっ!」

 

これでやっと基盤である。4月に西住ちゃんが来たタイミングで始められなければ、なんら意味がないし、そこが始め得るタイムリミットだろう。なにせ大会は7月だ。これ以上遅くはできない



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第17話 モザイク

 

 

「はぁ?戦車道設置のための予算?」

 

白石ちゃんを中心としたフォーラム幹部層の前でその事実を伝えたが、予想通りそんなすぐに首を縦に降る気配はなかった

 

「戦車の新規調達はなしとかこれでも妥協した上での予算案なんだけどね」

 

「いやいや、廃校が来年までなのは存じてますけど、それで戦車道をやるかはまた別問題でしょう。ただでさえOG会の組織化から各派ともに予算の拡大を見込んでいるんですから」

 

「んなことするわけないじゃん。大幅に削りはしないけど、増やしもしないよ」

 

当たり前だ。予算の総規模が増えただけで、なにもしてない奴らの予算を増やしてやらねばならぬ道理はない

 

「しかし……これで纏められるかはなんとも言えませんな。いくら角谷会長の案とはいえこれほどの額を一つのもの、戦車道に投入するとなれば、市民の不満に繋がりますよ

フォーラムとしましても角谷会長と手を結んでいる以上、その人気低下はこっちの支持にも直結します。いくら角谷会長の案とはいえ、そのようなことに手を出したくないのも事実なのです」

 

「……これが廃校回避のための唯一の手段だとしても?」

 

「それを説明できますか?我々相手ではなく、市民相手に」

 

説明ね……戦車道やっていると告知したら、西住ちゃんが敬遠する可能性もある。4月に大々的に発表するまで、校外には漏れぬように進めたい

おまけにこれで廃校回避を決めているとなれば、もっと良い条件をつけろ、現状あるもので話を進めろ、などと反発が起きるのは必至。この学園艦で焼き討ちされたらたまらないし、単なる学園の誇りの再興の程で進めねばならない。治安悪化は文科省に十分なほどの隙を与えるしね

 

「それと引き換えとなりますと、議員の中に造反しようとする者も出てきましょう。会長のおかげもあり我が党は現在党勢の拡大が進みましたが、それはあまりにも急に、です。内実はモザイクもびっくりの寄せ集め。崩壊の動きが出れば、簡単に元どおりになってしまうでしょう」

 

「だけどこれを通さず、去年と同様の予算案を可決したところで、我が校はジリ貧だよ?なんなら君達の存在意義だってなくなる。そもそもの議会はおろか、学園すら無くなるんだからね」

 

「かといってこの船に乗っかるかは話が別です。船舶科絡みは普通科でも関心ある内容でしたし、からそこまで纏めるのに苦労はしませんでしたが、これほどのものとなりますと」

 

「だったらさ、議会は回避のための実効的な策を立ててくれるのかい?廃校回避の方針は議会で決まったろ?その換えがない限り、生徒会が立てたこれを使うしかないと思うけどね

予算がなきゃやれるもんもやれないし、来年度予算は今年度中に成立させなきゃならんでしょ?来年度末までだ。今決めなきゃいつ決めるっていうのさ」

 

そんなものあるわけない。お上の命令だ。お上に直接会って交渉し、譲歩を引き出してくるような奇跡を起こせる人間でもない限り無理だろう。私ですらレールに乗ってやっとここまで来ているのに

 

「……仮にこの方針が認められたとして、実際に廃校回避できるのはどのくらいの確率だとお考えで?」

 

「……10%」

 

「ですよね」

 

「もないね」

 

そんなにあるもんでもない

 

「だって相手になるのがプラウダとか黒森峰とかだよ。そしてベスト4は固定化されているような世界だ。そのまんまじゃ勝ち目ないよ」

 

「……貴女ならこの案件を出してくる以上、そのまんまで挑むつもりはないのでは?」

 

まだ分かってるか

 

「一人助っ人呼んでる。彼女は半ば強制的にやらせるつもりだけど、そこの訴えが来ても無視するよう風紀委員に手配済み」

 

「……戦車道の大会っていつでしたっけ?」

 

「7月から8月だね。場所もコロコロ変えるから移動がめんどくさいんだよね〜。もういつもおんなじ場所でやってくれれば良いのに」

 

「なるほど。結構早いですし、決断するなら今でも遅いということは分かりました。確かに他に考えづらいのも事実ですが、一旦のタイムリミットは5月末……でしょうね」

 

「ほう」

 

「そこまでに強豪を撃破し得る力を得ているか証明しなければ、その先の優勝など夢物語でしかなくなってしまいます。そこまでにこちらでもより確率の高い方策はなんとか立ててきますので、その段階で戦車道が使えなければ乗り換える。それなら多少は譲歩の余地がありましょう。この案だと夏に負けたらそのまま廃校以外の道も無くなりますしね」

 

「ということは……練習試合かな」

 

「それを少なくとも強豪の一角とは言えるところを相手に、です」

 

作ってたった一月強で張り合え。なかなか無茶な注文だが、向こうの言う通りそうでもしないと優勝なんて狙いようもないというのもその通り

 

「それでも予算案を作らざるを得ない以上、交渉は難航しますね。予算委員会でも立ち上げて野党と話を通しておくにしても、そもそもの戦車道を曲げられない以上妥協は困難かと」

 

「党内も厳しい?」

 

「さきほどの代案提示で当面は凌げます、多分。角谷会長に抵抗しながら話を進めるなんてのも事ここに至っては意味を成しません、と言えれば私も気が楽なのですが……件のモザイク状況ですからね

この先を巡る党内の議論は未だ紛糾したままです。挙げ句の果てにはもはや大規模な抵抗は起こさず、むしろ国の廃校作業に積極的に協力して廃校後の混乱をできる限り抑え込もうとする輩もいるほどで……

まだ元々海の民だった者が角谷会長に協力する意志を見せているのが救いですかね」

 

「……その国に協力しようなんて輩はどのくらいいるのさ?」

 

「議員の中でもある程度の数です。が、私がこうして幹部の前で話せているように、私の代の人事の際に主だった役職からは外してあります」

 

「ふーん……」

 

どこかでそこらへんを切っておきたいね。学園存続のための挙市一致を成り立たせるためにも。最悪野党も取り込んでの大連立とかでもいい。とにかくその面々がいながら現状の議会で議案を通さなきゃいけないのか……

 

「備品は艦上の戦車ショップを使ってそこ経由にしておきたいんだよね……地場産業育成を名目にさ」

 

「……それって値段向こうに釣り上げられません?窓口を絞らせるとこちらから文句は言えなくなります。それに一業種優遇となると他の反発は避けられませんよ?」

 

「ウチの生徒会の交渉術をなめてもらっちゃ困るよ。少なくとも定価にはするさ。じゃなきゃこの予算の範囲内にならないよ」

 

「それと……戦車の数ですが、現状では概算でしかありません。正式な数はわからないのですか?」

 

「最低1輌しか今は分からないけど、資料を遡れば5輌は確実。多くあれば12輌は掻き集められそうだね」

 

「20輌には満たないと」

 

「残念ながらね。それだけあればまだマシだったろうになぁ。数だけでも決勝で対等に戦えるし」

 

「……幹部会議で持ち込むだけ持ち込んでみましょう」

 

つれないねぇ。決算はちょっと詰めてきても良いんだけどさ、予算はこれで通してもらわないと

何か秘策ないもんかね……

 

 

 

「どうしたもんだと思う?」

 

「いや、それを私どもに尋ねてきます?」

 

こうして人と会うことぐらいしかできることがないのだ

 

「干し芋食べる?」

 

「あ、いただきます。けど……それを頼みに来ますか……」

 

お茶はこの前辻氏から送ってもらった淹れ方を参考に、クラブの党本部の給湯室を借りた。干し芋にも合うので私も時々やってみている

 

「だってさー、この先考えるに言っといても良いじゃん。それでさ、上手く行かなそうなら頼れるものは頼ってみるもんでしょ」

 

「それで直接貴女が尋ねてきます?貴女と組むフォーラムとは不倶戴天の敵であるウチに」

 

鴨崎新大洗クラブ党首、目の前にいる彼女の名前と肩書きだ

 

 



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第18話 一歩の権利

 

「貴女に党勢は押されてはいますが、いくらなんでも野党としてフォーラムと共同歩調は取れませんよ?貴女がたの予算案にだって同意するのは無理でしょうし」

 

「それは君たちはここの廃校を目前にしてその存在意義を失ってもいい、ということかい?」

 

「いや、そこまでは申しておりませんが……」

 

「だったらここで提示した戦車道再興、そしてそれで優勝以外の条件を文科省から取り付けられるのかい?」

 

このことは一応伝えた。流石にこの基盤なしに交渉は無理だしね。さて、クラブが文科省を動かすなんてのは無理だろう。そこで動くのなら私の仕事は必要なかった

 

「仮にそうでも我々としては賛成できません。今回の予算案は都市内のインフラ整備などへの増資などもせず、あいも変わらず補助金漬け政策を支持するものです。これに賛成してクラブなし、それが我々の意志です」

 

「だーかーら、学園を残す策があるのって話よ。こっちも削るだけ削ったし、それでもカネがある程度なきゃできないしさ」

 

「戦車道しかないとしてもこの予算案は飲めません」

 

戦車道をやること自体はそこまで問題でもない、ということか

 

「……私が思うにね、戦車道は始めたとしてもそう長くは保たない」

 

「何を仰りたいのです?」

 

「学園が存続した後の話。今回ね、計画としてはある意味カンフル剤みたいなのを投入するつもりなのよ。私としても何としても優勝したいからさ」

 

「カンフル剤、ですか……」

 

「でもそんなのに頼れるのはそんなに長い期間じゃない。直接で2年、影響を受けても4年間だ。そこから先は恐らくどうにもならないだろうね」

 

要するに西住ちゃんが直接いる時期と、その姿を間近で見た者が継承する時期、そこまでだ。それ以降は西住ちゃんは雲の上の存在みたいになってしまうだろう

ウチを優勝させたならさせたでその活躍から引っ張りだこになるだろうしね。戦車道連盟もメディアもこんな金づる放っておくわけがない

 

「ということは……戦車道再興は本当に廃校回避の手段以上のものではない、と」

 

「そうならざるを得ないと思うよ。今回優勝狙うといっても、それは有力校の隙を突いてなんぼだ。ウチが強豪校の枠に入ったら、金銭面で張り合えなくなるだろ」

 

「まぁ、ウチ公立ですから私立みたいに学費上げたりとかは無理ですからね。OG会からといったって卒業生的にそんなにバンバン金を出してくれる人ばかりじゃありませんし」

 

「あとブレが大きいだろうしね。広告収入とかを狙ってもそれは他所もやっていることだ。この前とかスポーツドリンクのCMに黒森峰の隊長さん起用されてたし」

 

「ああ、そんなのもありましたね。ではまた件のカンフル剤と同様なものを引っ張ってこさせるようにしたら……」

 

「……そんなに毎年のようにカンフル剤が出てくる業界なら、尚更お断りだね」

 

感謝もすれ、軽蔑もする。とはいえこれは私の感情だ。仕事人としてやるべきはその軽蔑する道しかない

 

「問題はその学園が残った後、その猶予で何ができるかさ。結局のところウチが廃校候補に入っているのはなによりもこの少子化社会で将来性がない、と見られたことに尽きる」

 

「そこは同意ですね。政府の方針もあるでしょうが、留学生誘致でもしない限りいずれは選別の時が来る。それは間違いないとこちらも考えています。そして現状海外留学生受け入れなんて環境はウチでは作れません」

 

「そうなると道は二つ。一つが学園の教育的魅力を高めること。もう一つが都市の経済基盤を整えて自活できるようになること」

 

「いずれにせよ、現状維持を打破するには金がかかるというのは間違いありませんな。だからこそ民間を引き込み、その活力を引き出さねば……」

 

「まぁそこはおいおいだ。そう、君が言う通り金がいる。そして金は、戦車道に勝った時はそりゃ来るだろうさ」

 

「志望学生増による偏差値レベルの上昇。それだけ見てもメリットは大きいですね。もっともその時は時流か戦車道の拡大に動きかねないでしょうが」

 

「させないね。うちの経済力で続けられるとは思えないし」

 

「それで4年で区切る、と」

 

「そう。長くても5〜6年。それで余裕ができた資金は都市の経済基盤に投資するなり、教育設備を整えるなりに投入すればいい

まずはそもそもの財源確保。戦車道はそのためさ。そして被服科での企業誘致もしてさらに金を膨らます。その際に債権発行は場合によっては認めるけどね」

 

「債権発行……」

 

そう、それはフォーラムの相応経済の放棄と同じだ。まさかの一言だろう

 

「学園存続の信用さえ得られれば、私は学園都市を担保に借金するのは、制限付きで許されて良いと考えているよ。企業誘致の基盤整備には大金がいるだろうしね」

 

「輸出入用の港湾設備の改修と工場との接続の改善に設備投資の支援と、あとは通勤通学ラッシュの解消と、ウチに金があって困ることはありません。借金はそこの固定資産税と社員の町民税で利子くらいは埋め合わせが効きますし、波及効果を考えればプラスなはずなのです」

 

経済面ではこっちの方がある程度分かっているか……使っていくしかない

 

「ウチの生徒会と生徒議会は大きく二つの役割を握っていると思うんだ」

 

「また藪から棒になんです?」

 

「なんだと思う?」

 

「……学園と都市、二つの行政を握っているということですか?」

 

「だいたいそう。そしてそこが分かれていることが、フォーラムが勝ててクラブが勝てない要因」

 

「なっ……」

 

まずは怒らせる。気を高ぶらせて合理的判断をする力を弱める

 

「だって考えてごらんよ。フォーラムは基本学園をメインの政策に据えてる。部活の予算支援とか学生向けの物品への補助金政策。結局学生向けだ。一方でクラブの政策は都市メインだ。都市の経済発展のためのインフラ拡充とかね

じゃあここで都市民の比率を考えよう。知っている通りここでは学生の数が多い。なにより生徒議会の議員、そして有権者は生徒だ

確かに親と一緒にこの年に暮らしていて都市経済の発展を望む親の意見を汲む親孝行な子供もいるさ。でも勝てない。親の幅広さだけ支持層は広範囲になるけど、やはり数では負ける」

 

「うぬぬ……」

 

「そしたら君達が取るべきだった手は一つ。その都市経済発展を支持する層を議会に取り込むことだった。だから私も町内会系対策に苦労してきたわけだけどね

だけど君達はこの前の市民議員設置に反対した。自分たちが生きる道を潰したんだ。もっとも先んじて公正会が市民系に食い込んでたこともあったんだろうけど

だけどそうしなかった。だから君達は次も負けるのさ」

 

何も言い返せまい。むしろ党の運営に関してあれだけの議員がいながら適切な方針を決定できていなかったのか。そこの点に関してはフォーラムに頼ってて正解だった

 

「じゃあこの市民議会となってどうするか。話を元に戻すけど、私は学園都市を学園都市として残すには、経済発展をしつつ学園の魅力を高める、それを同時並行で進めるしかないと思う

学園一方だけ進めた結果はこれだ。部活や学校の学科の発言力が嫌なほど高まり、何も決まらなくなった。だが都市だけ進めたら結果は単純だ。地上の都市に負ける」

 

「……そこは分かります。学園都市は物資搬入などの点で明らかに不利ですし」

 

「その通り。ならば学園だけでも都市だけでも学園艦は保てない。だからこれからは都市に対しても一定の施策はとる。だがそれ以前に」

 

「学園都市は廃校を回避しなければ意味がない、と……」

 

「そういうことだ。他に移って党を立ち上げて生きていける自信があるなら構わないけどね」

 

プレッシャーはかけた。あとは向こう次第だろう。鴨崎ちゃんはなかなかに頭を悩ましてからこう告げた

 

「……我が党として賛成は無理でしょう。私が首を縦に振ったところで党内の幹部が賛成いたしますまい」

 

なら何も変わらない、か……流石に

 

「しかし我が党としては、です。私はそれ以外は断言しませんし、貴女をその点以外で妨害するつもりもありません」

 

何?

 

「ということは、こちらがそっちの内部に介入してもいいと?」

 

「……我が党があるのは、学園に依ります。そして事ここに至って学園を残すすべをお持ちなのは……」

 

「それ以上はいいよ」

 

……流石に酷すぎるというものだろう。自分の身と政党の未来を半ば犠牲にすることを認め、それを反芻させるというのは

 

「……ただし一つ条件が」

 

「なにさ」

 

それと引き換えならある程度の要求はしてくるだろう

 

「先ほどの件をフォーラムと生徒会の次期幹部と合意しておきたいのです。それを文章化して各党に代表のサインをした上で保管してもらいたく思います」

 

「ふむ……」

 

確約を得たい、と。フォーラムが党勢を強めた際に拒否されないように、か。そこに生徒会を巻き込むことで安定性も高めたい、と

 

「良いよ。なんとか引きずり込んでくるし、生徒会の次期幹部なら一言で集められるさ。本来、私自身は無所属だ。単に生徒会がフォーラムと提携しているだけに過ぎない。各党の今後の活躍に期待するよ」

 

「はい……」

 

うなだれる彼女の肩を叩いて礼を述べてから、私はその場を去った。そしてすぐにケータイを取り出す

 

「田川ちゃん」

 

「会長、どうなさいましたか?」

 

「クラブの議員の懐柔を進めて。予算案を通せるようにするよ」

 

「はい?よりによってクラブですか?乗ってくるとは思えませんが……よろしいので?」

 

「やっちゃって!戦車道をやること自体は大きな反発はなさそうだしね!それと次期幹部クラスを集められるように!」

 

「え、この時期に次期幹部ですか?役職もなにもありませんよ?」

 

「候補生だけで良い!あとはフォーラムにも同様の要望出しといて!」

 

「は、はい!」

 

 

 

その先に開かれた生徒会、フォーラム、クラブの次期幹部層による秘密会談で、来年度以降の運営における3派合意が交わされた。基本的な内容はそう変わるものではない

 

・戦車道は設立すれども必要以上の延命はしない

 

・戦車道勝利に伴い将来的な学園の存続に信用を得られる場合は、翌年度より都市債を発行し、それは都市開発にのみ充てる

 

・都市の経済発展、地場産業の育成により学生の都市残留を支援する

 

が内容だ。補助金面での支援はこれまでと同様の水準なら黙認する、もしくは反対はするがそれ以上の妨害はしない、ということを承認した。これでやっとこさ予算が通る道ができた

 

 

これでやっと一つ報告ができる。二人には時間がかかったがやっとこさ前提条件は満たせたとの一報を入れた。反応は辻氏の方は了解の一言と単純なものだったが、竹谷氏はもう少し細かかった

 

「こちらは言い方は悪いが君たちよりは苦労せずにすんだよ。練習試合するなら言ってくれ。連盟への登録作業は済ませてある」

 

とのことだった。練習試合の舞台は大洗になるかな。開発のためにも早期にやったほうがいいだろう

 

 

時間はもうあまりない。4月には始めねばはならないのに、すでに3月の頭に入ろうとしたとき、2012年度予算案は賛成多数で議会を通過した。賛成370、反対342、棄権38。クラブの一部を棄権させてなんとか賛成多数を占めることができた

来年度の予算に関する合意と、クラブが廃校回避の対抗案を出せず、フォーラムと同じく廃校受け入れに賛同するものが現れる状況に一部が見切りをつけてくれた。離党までしたのは殆どいないけどね

 

これで来年度の予算のめどは立った。あとはこれを元手に勝ちを得るしかない

 

これによって得たものは三つ。一つはさっきからずっと示しているように戦車道の設立の目処が立ったことだ。これだけが学園を生かす道。その茨の細い道のまず一歩を踏み出す権利を得た

もう一つは政党の形骸化を示せたことだ。フォーラム議員の一部造反こそあったが、一方でクラブの議員の離反と棄権が相次ぎ、他の職人連合、学生自治権党などからも賛成が出た。もはや政党の枠が大した意味を持たないとありありと伝えたのである

そして最後は、これで完全に学園の存続が方針として効力を持つ程度に固まったことだ。まだ廃校回避の件は公にはしてないし、戦車道設立も名目は学園の威信の再興だ。だがこれで、学園は存続されるべきであるということが、大洗の未来の指針となった

 

そして数で過半数を占めることならどんな手を取ることにも躊躇いがない、そうメディアの目に映ったせいか、私は大洗の女傑というよりも強引な指導者というイメージが付いてきているらしい。私が今回の件に関して、戦車道があまり話題になりすぎないよう予算案に関する取材を控えたせいもあるだろう

彼らの書いていることは間違いないね。これからもっとその印象を強めることになりそうだし

 

 



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第19話 謎の書類

 

そしてその時期は、別れの季節でもある。大学進学を決めた山崎さんたちの卒業式が開催された。私が在校生代表として話をしたが、やることは大して違いはない。ただみなさんが卒業されるこの学園を、残さないという選択肢はない、その発表の場でしかない

 

帰り際、山崎さんは正装して私の前に来た

 

「角谷。お前色々と手を尽くしてくれているようだな。最近は何もしてないが、話だけでもよく聞くぞ」

 

「私ができることなんてそんな大したことでは……」

 

「いや、これで学園はいやが応にも挙市一致へ向けて進んでいけるはずだ。それに進むしかないと私も思っている。もっとも賭けるものが重すぎるけどね」

 

「ごもっともで」

 

「角谷。お前ならやれる。お前も来年にはこっちに回っているだろうが、その時に笑って終われるように頼んだぞ」

 

「……はい」

 

「お前が泣いて卒業する姿なんて見たくはないからな。お前にとって一番似合わない姿だ

笑え。笑って卒業しろ。そしてみんなと、仲間と笑ってから来い

これがこんな何も変えられない頼りない先輩からのたった一つの頼みごとだ」

 

黙ってただ差し出された手を握り返す。ずっと握って、握って、離さない。それが互いにとって最大限返せる返事だった

しかし笑って卒業しろ、か。確かに泣いて卒業なんてしたくはない。きっとその涙は廃校をどうしようもできなかった悲しみの末のものだろうからね

 

「角谷」

 

「はい」

 

「その戦車道で使う戦車、一緒に見てきてもらってもいいか?」

 

 

そんな希望をうけ、普段はあまり人の立ち入らないグラウンドの奥も奥の煉瓦造りの建物にやってきた。もうここは卒業式の喧騒とは縁もなく、ただ向こうの木々が風に揺れているのみだ

 

「ここか……もう滅多に人が来ないところだな。私もここの中に入るのは初めてだ」

 

「私は視察の際に一度だけです」

 

重い緑の金属の扉に付けられた南京錠を開け、ギィと力を入れて片側を開ける。その奥で明かりを灯すと、中に鎮座する金属の塊が照らし出された

 

「……これが戦車か」

 

「はい。我が校の未来を決めるものです。調べたところ、ドイツのIV号戦車なるものだとか」

 

「ドイツか。敗戦国の、か。そして今のドイツを鑑みれば、這い上がらんとする我が校にとって縁起の悪いものではないな」

 

這い上がる、ねぇ。できれば勝ち組のままにこの先も生きていきたかったが、しょうがないものはしょうがないよね

 

「これが……ねぇ……うぇっ!」

 

山崎さんが車体に触れてすぐに手を離した。指先には真っ黒な汚れがこびりついている。ちょっと触れただけでこれだ。車輌全体なんて推して知るべしだ

 

「……洗ってないのか?」

 

「本来廃棄されているはずの車輌ですからね。堂々と表立って清掃するわけにもいきませんし」

 

「そ、それもそうか……」

 

乙女の道、ねぇ。これに護られるから女性の方が相応しいというが、ねぇ。試合などの映像も見てみたが、何時間も鉄の棺桶の中で重い砲弾を抱えて駆け回る。下手な男にすらしんどい作業に見えなくもない。無論伏せるけどね

 

「これ以外はどうするんだ?1輌では紅白戦すらできないじゃないか」

 

「学園艦内に10輌くらい隠されているようなので、発掘させます」

 

「誰に?」

 

「履修生に」

 

公にしたくない以上、これより前は人員確保すら覚束まい

 

「まずは教材を集めて来なきゃならんのか。あまり受けたくない授業だな」

 

「逆に教職員連盟は丸め込んで単位数とか嵩増ししたんで、それでも人が来なきゃどうにもなりません。ウチの学生の愛校精神が足らなかっただけの話です。あとは機密費から食堂優待券を作らせました」

 

これを履修人数分だが、それでも額は10万くらい。値引きだけだからね

 

「それと学園の誇りとして能力高い人間集めなきゃならないので、一人有能な奴に目を付けてます。それ用の秘策も一応」

 

一個下に面白い奴がいた。家計的にも飯の話と絡めれば釣れる、と思う

 

「やるねぇ……」

 

「極め付けはこれです」

 

ちっちゃな鞄から透明なクリアファイルに入れた一枚の紙をそのまま差し出す

 

「ん?これは……必修選択科目の申し込み用紙か……こりゃまた大胆な」

 

「まぁ、見習ったところが見習ったところなんで、褒められるものではないですが」

 

「この戦車の故郷、からか」

 

「単に選択ですし、中身も国家併合ほどのものでもないですから」

 

戦車道の選択欄のみ他の欄よりめっちゃくちゃでっかくした記入用紙だ。これに西住ちゃんがチェックしてくれれば楽なんだけど

目は……笑えないですよね。なんかやばい代物を目覚めさせちゃったな、そんな感じだろうか

 

「角谷」

 

クリアファイルをこちらに返しながらその目を緩めた

 

「なんども言うが、お前に任せてよかった。私にはここまでは無理だ」

 

「ありがとうございます」

 

「ここまでやるんだ。後任には慎重になっとけよ」

 

「後任を設けられればの話ですがね」

 

 

 

「あれ、人がいる」

 

「ここに?」

 

奥の扉から二人の少女が私たちを見つけた

 

「しかも角谷会長ですか」

 

「ナカジマちゃん?」

 

自動車部の人だ。黄色いツナギを着ているから薄暗いこの倉庫でも結構目立つ。もう一人はホシノちゃん。結構焼けてるよね

 

「卒業する人への挨拶とかはいいのかい?」

 

「ウチらの先輩、一人しかいらっしゃいませんから」

 

「すぐに終わったと……」

 

私も他の人に挨拶しなきゃな……

 

「そうなれば下手に感傷に浸るより私たちは車いじってる方が性に合ってますから」

 

「なるほどねぇ……それで、ここには何の用?」

 

「あれ?あの連絡は会長からじゃなかったんですか?」

 

「へ?」

 

「ほら、IV号の整備の案内書類置いとくから、整備してくれっていう話。これ置いてってくださったじゃないですか」

 

こちらに近づいてナカジマちゃんが見せてくれたのは、表紙に女性の顔が書かれた説明書だ。中身をチラッとみてみると、内容の詳細はわからないが、図面から見るに整備のための本のようだ

 

「これ以外にも何冊か別の戦車の整備書類置いててくださいましたけど、あれらも違うんですか?」

 

「私は知らないよ?」

 

「そしたら誰が……」

 

どういうことだ?

 

「戦車の整備は初回の授業の時に履修生に混じって手伝ってもらうから今日は大丈夫。それでさ、ちょっと他のも見せてもらえる?」

 

「今部室に残り置いてあるんですよ」

 

「じゃ、部室にお邪魔してもいい?」

 

「わ、私は少し手を洗ってくるとするよ」

 

 

こうして手をしっかり洗った山崎先輩とともに、よくわからない工具が大量に転がった部屋だった。部室で待ってたスズキちゃんに踏まないように気をつけて、と言われても、慣れてない人にはなかなか厳しいものがある

そしてその奥の机の上の書類の束、それが件の案内書のようだった

 

「朝方にこれとこの紙が入った紙袋がドアノブに掛かってたんですよ」

 

「ふーん……」

 

ホチキス留めされた書類を一つ一つ見てみると、残りはフランスのB1bis、ドイツのポルシェティーガー、日本の三式中戦車のものだった。これらは……我が校が書類をごまかしてまで残そうとしている戦車の一部だ

ウチが書類をごまかしてまで戦車を残していると知っている人の中で、その車輌まで把握しており、かつそれでいてウチの助けになるものをくれる人……

 

「しかしこのポルシェティーガーっていう奴、案内書見ただけでも骨が折れそうですよ。これ本当に70年前の車輌なんですか?」

 

「トーションバーが短いから構造的に足回りめちゃくちゃ弱そうだし、本当に乗ろうとするなら根本から改造しなきゃダメないんじゃない?」

 

「見る限りこの中だとIV号が一番乗りやすいんじゃないかな。このB1bisってやつは砲塔に一人しか乗れたいみたいだしね」

 

「は、はぁ……」

 

戦車の構造について話に花を咲かせる3人とそれに全くついていけない山崎さんの横で、私は一つの結論に辿り着いた

 

「多分ウチの戦車ショップの人が適当にくれたんじゃないかな?お礼は私の方から言っとくよ

それで整備に関しては前に話した通り、後日で頼むよ。この先も世話になるだろうしね」

 

「ウチらとしちゃエンジン付いてるものをいじれるのでむしろ喜ばしいんですが、そしたら代わりに予算増やしてくださいよ」

 

「ダメダメ。もう予算通しちゃったんだから、恩恵受けたきゃ戦車道履修しな」

 

「えぇ〜……」

 

「功績次第で来年は考えるからさ」

 

その書類は自動車部に預けて、私は同封された紙だけ貰っていった

 

その書面には一言

 

『大洗女子学園のさらなる奮闘に期待する』

 

とだけあった

 

「角谷。何とかなるかもしれんな」

 

山崎さんのその言葉は、私が心の中に浮かんだ言葉と同じだった

 

 



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第20話 刺客

 

 

そして春休み。宿題も特にないので、私が当たるべきは一つ

 

選挙対策である

 

今回から私が通した選挙改革案、『生徒議会基本条例改正案』に基づき、生徒議会が市民議会へと名を改め、学園内部のみならず都市でも選挙戦が展開される。選挙管理委員会も慣れぬ仕事に追われている。この選挙の成功如何も私の実績に含まれる

 

ルールとしては日本の選挙法と同様だ。だが何せいわゆる市民議員の数が数だ。これまで都市全体で行っていた選挙での候補者は、多くても15人、つまり大洗町議会選挙だ

それが今回選挙区は分けられているとはいえ定数は50人、立候補者は100人近い。議会を金曜日の夜にするとかしたのが功を奏している

 

もっとも今は町内会がバックについた議員が多い。町内会は無理矢理な廃校回避には若干懐疑的な節がある。廃校、退艦となるなら早めに話を決めておいてほしい、それが本音のようだ。要するに廃校を回避して仕舞えば問題ない

 

これだけの数のポスター、パネル、幟、拡声器。準備するだけでも大変だ。そしてこの宣伝、政党をバックにした議員が政党名を呼ぶことは、結果として各教室を選挙区とした選挙にも影響する。学生は学園艦に住んでるわけだしね

 

すなわち各党この都市での選挙活動に手を抜くわけにはいかない。そしてその時有利なのは、元々都市民との関係の強い公正会を取り込み、開校以来の歴史の中で選挙戦の経験を積み、議会第一党で資金力のある大洗フォーラムなのである

 

私も入学式、始業式以降3日間に渡る選挙戦では遊説にも行くし、応援演説にも入る。その間に別の仕事もあるけどね

 

そしてこの選挙戦にて、私は禁じ手の一つを発動しようとしていた

 

「ということで竹谷町長。市民議会選にて私と大洗フォーラムへの公認をいただきたい」

 

「我が党としても長年にわたり大洗町政を支えてこられた竹谷町長の公認を頂ければ、都市内での影響は計り知れません。こちらとしても都市内での町長及び近い町議会議員への支援はお約束します」

 

大洗町政と大洗女子学園市民議会の結託。これまで都市の自治の独立を宣言してきている以上、飛び地扱いとはいえ町政とは距離を取るのがしきたりだった。しかし学園存続は学園都市、大洗町ともに必要なことだ。そしてその方針を決めたのは生徒による政党。生徒の自治は乱していない

 

「悪くない」

 

皮の椅子に深く腰掛け、足を組んで話を聞いていた竹谷町長から聞けたのは、まずはそれだけだ

 

「角谷くんが色々と改革を進めているのは聞いているし、学園存続の為にも角谷くんと私たちは手を組むべきだ。戦車道再興も支持しているし、その試合会場としてこの大洗の町の登録を進めている」

 

「なら……」

 

「だが、フォーラムと組むメリットはあるのか?予算案の時に造反が出てガタガタに見えるのだが。そんな不安定なところに私を支持している議員を支持されると、逆にその不安定性が移って来かねん」

 

つまり自分の力だけで通せる。必要以上の繋がりはいらない、と

 

「それに必需品への補助金政策。あれも必要とは思えん。必要だから既に文房具屋とコンビニは進出しているし、そこらの間の競争で値段も本来は地上と大して変わらん。そこに補助金を出してさらに押し下げることに意味はあるのか?」

 

「ですから、この学園に来る学生の出自、生活環境は多様です。それらを問わず勉学を続けられる環境を提供する。それはこの都市が公立の学園都市であり、その与党である限り取るべき日本共通の善であると思案します」

 

白石ちゃんがハッキリと言い切った

 

「補助金額相当の引き下げをせず、差額分を取り込んで経営を保っている零細もあるという。そういうところはむしろ市民の学費、税金を恣意的に使っているとは言えんか?そういう店があるというのはこちらは把握済みだ。ただそちらの自治の意向を受けてこうして勧告だけに留めているがね」

 

「もちろん販売状況に関する精査は入れております。仮にそのようなことをしている店があるとしても、彼らもこの都市に住む住民です。そのような利用を止めるなら我が校としてこれ以上口を出すことではないかと」

 

あまり触れて深掘りして欲しくないんだよな、そこは。うん……

 

「こちらもそれを認めている政党だから不安だ、という意見もあるし、何より最近まで議会の1/3すら取れていなかった。それを市民の代表として町長の私が公認するのは無理がないか?」

 

「現在は1/3を超えております。そして得票率そのものは決して低くありません。今回の角谷会長と組むことにより、得票率の増加も見込めますし、市民議員は此方に近いものもいます。今よりは格段に議席数を増やせると見込んでおりますが」

 

「それはそちらの想定でしかないだろう?選挙は水物だ。結局開票結果が出るまで誰も結果は知らない。君たちだって選挙速報とかのニュースとかを見てる時に、当初の予想と違う議員が当選してるのを見るだろう」

 

フォーラムは都市の自治の独立を主張し、時に町からの要請にも反して政策を実行してきた。その距離感は私がいたところで拭えるものでもない。つまるところフォーラムが信頼されてないわけだ

私との関係だけなら一年だけだ。来年以降万が一政権与党が変わる事態になっても、政党と繋がってなければ新しい生徒会長支持に簡単に乗り換えられる

 

めんどいなら、妥協するだけだ

 

「それなら、この形ならどうです?」

 

一枚のメモ用紙を我々の間にある机に置いて、簡単に大きく四角形を描いた

 

「これを選挙ポスターだと思ってください。まず候補者の写真を載せて……その右下に私の写真と私が推薦していることを書きます」

 

「ふむ、普通だな」

 

「そして『私の写真の下に』竹谷町長推薦を書きます。つまり竹谷町長が推薦しているのは私、その体裁を取るならいかがです?」

 

来年以降万が一があるなら、向こうは生徒会長の写真と政党名を変えて別で作ればいい。フォーラムと町長の仲立ちが私、となれば向こうにも受け入れやすいと思う

 

「……だめだ。今回の選挙でそれは認めん」

 

ううむ、手厳しいな。やはりフォーラムを絡めるのは厳しくなるのか……

その後も交渉は進めてみたが、先ほどの案が拒絶された以上、フォーラムのポスターに町長の名前を載せるのは許されない。そうじゃないなら、この選挙での意味はない

 

それなら、もう一つの禁じ手を使って勝ち筋を作るのみだ

 

 

 

4月5日、始業式及び入学式。午前に始業式、午後に入学式の日程が取られる。今年度も無事倍率は1.03と辛うじて1を超えていた。正式に不合格を出した人数は全学科合わせて92人しかいない。もともとは1.4くらいあったのだが、廃校の話を受けて結局辞めるという人が多く出たのだ

そして今回入学している人の中にも、一年生のうちでより良い成績を取ることで廃校後の割り当てでさらに上を目指そうとしている者もいるだろう

 

だがその願いは挫かねばなるまい。私は彼女らに6年間で多くのことを学び、感じ、そして表現していってください、と挨拶した。親御さんもいる前でだ。彼らも巻き込んでやるしかない

私も今日から高校3年生。泣いても笑っても最後の一年になる。そしてそれは猛烈な誹謗中傷から幕を開けた

 

 

「この戦いは大洗女子学園、この足元にある学園艦を守るのか、捨てるのか、それを本当に選ぶものでございます!あちらの〇〇は学園の誇りを取り戻すことに反対し、廃校準備校指定についても、受け入れ及び退艦へ準備せよと言ってやがるのでございます!

この愛校精神への反逆!設立以降の伝統の放棄を堂々と宣う者に、学園都市の未来を託してはなりません!廃校回避学園都市の維持はなされるべきであり、この危機を目の前にして、我々は都市を挙げて団結して立ち向かわねばならないのです!それが廃校準備校指定に対する非難決議を真に実行することなのです!

口では最早止まらない。やらねば、やらねばならないのです!

どうか大洗学園フォーラムの◻︎◻︎!◻︎◻︎に清き一票をお願いいたします!」

 

「皆さんも考えてみてください!期限は来年なのです!一年後には国からここから出ねばならないと通達を受けているのです!最早それは眼前の事実であります!

角谷会長は廃校回避廃校回避と壊れたレコードのように繰り返しておりますが、果たしてそんなことをひっくり返せるのですか!

国と争い、戦車道とやらに誇りだからなんだと金を注ぎ込み、そして乱して乱しまくった挙句のうのうと来年卒業しようとしてる!あの軽々しい口に騙されてはなりません!

無所属の〇〇、〇〇に清きでも汚なきでも構いません!あなたの一票をよろしくお願い致します!」

 

「事ここに至って頼るべきはどこか!それは偉大なる同志のいるプラウダ学園にございます!我が校が生き残るには、国との対立は避けられぬことは皆さんも承知のはずです!ならばこの国の暴虐には学園都市で力を合わせ対峙するほかありません!

ならばその盟主たるのは、学園都市最大規模にして国への抵抗を主張するプラウダ学園以外にないのでございます!そしてその各都市共和発展の指針に向け、我々も足並みを揃える時が来たのでございます!

どうか人民による大洗の議員候補に投票をよろしくお願いします!」

 

「民主主義は堅持されるべきでございます!このままフォーラムに安定議席を渡してしまっては、その先は角谷政権独裁の道でございます!そしてその先にあるのは学園都市の経済拡大に目を向けないフォーラムの方針の完全な履行です

仮に廃校を回避できても、それではまた同じことの繰り返しでしかありません!必ずや、その不安定性によってトドメを刺されるでしょう!

それは止めねばならない!企業を呼び、産業育成を為して始めて、この大洗女子学園学園都市は未来まで安定するのでございます!

どうか新大洗クラブ、新大洗クラブに清き一票をお願いします!」

 

「こんな選挙は無駄だ!こんな選挙は滅ぼせ!政治に頼ったってなんっにも変わりはしないんだよ!」

 

「え〜、全世界学園都市経済共同体とは……唯一神△△の名において……その威光の下に全ての学園都市を参画させ……」

 

後半はどうだっていい。ここで出てきた無所属議員、ついこの前まではフォーラムの議員だったのだ。ならばその彼女を非難している彼女は?

 

 

 

 

私が送り込んだ刺客だ

 

白石ちゃんに近い人が要職を、それも選挙対策課を抑えていたのが効いた。党に対する造反を理由に、予算案に反対した議員の公認を取り消したのだ。そして党員からアンケートを取って刺客となる候補を決めていった

内部分裂そのものだが、今なら勝てる。これで勝つのだ。学園都市は廃校回避に向けて一枚岩にならねばならない

 

 



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第21話 批判的精神

私も遊説に立ったりする日々が続く。朝は学校に先に来てから荷物を置いて学校の前で演説。授業を受け終礼をダッシュで抜け出してタスキをかけ、通学路の帰り道に立つ。それが終わったら今度は自転車に乗って町巡りだ

車は一台借りるのが精一杯だったようで、日中から選挙活動ができる市民議員の支援を優先する。私も合流したら車の上に立ってまたまた演説だ。それを夜8時、制限時間のギリギリまで続けるのだ

 

市民からの反応は悪くない。そこは市民議員の創設がいい感じに働いているのだろう。ここで働いている人たちからの支持はほぼ完璧に近い

そして帰りがけの生徒の反応は、市民ほどではないがある程度ある。もっとも私の演説なんて式典関連で見飽きて聞き飽きている、といった風に通り過ぎる生徒も多いけどね

 

 

そしてそんな最中、2日目の放課後では必修選択科目の追加科目、戦車道のガイダンスが行われた。読み上げ担当は小山だから、私は生徒の反応を見ながら干し芋をつまむ

 

「戦車道……それは健全な婦女子を育成し、世に役立つ人物を送り出す為の、伝統的なスポーツです。乙女の目指すべきは自己鍛錬と相手への敬意、そして照準器の先に見据えた己の心なのです……」

 

この資料は生徒会で作ったもので、戦車道連盟にも協力してもらったものだ。なんか参考になるものはないか、とお願いしたところ、ちょっと前に作った宣伝用のビデオを送ってきたので、内容を削って初心者が見たらめっちゃくっちゃ伝統のあるまともなスポーツに見えるようにした

現実?西住流と島田流って名前が付いてて、かつ西住ちゃんみたいな存在が生まれる世界だ

 

なぁに、嘘はついてないよ、嘘は。仮にそんなスポーツなんだと思ったら、君たちの知識不足と騙されるだけの解釈する力の無さを恨むがいい。むしろ批判的精神を養った方がいいんじゃないかい?

現実を知ったところで単位と引き換えなら手を切るのはそうやすやすとはいかないさ。戦車道を履修している人を減らすわけにはいかないからね

そしておまけに小山からは遅刻見逃しとか食堂優待券、単位数爆高を含む戦車道履修のボーナスを通達した。そしたら本当に分かりやすいね。場の空気がパアッとこちらに傾いた。一人暮らしの人も多いから、その人たちにとっちゃ食費が抑えられるだけでもメリットは大きいしね。そしてこっちに流れてくるのさ

 

 

その後必修選択科目の紙が高校の各クラスに配られた。無論戦車道だけ一番でっかくしてある。いかにもこれにチェックを入れろ、といった感じだ

そして次の日の休み時間、まだ期限は来てないからおそらく科目を決めてはいるまい。そこら辺は優柔不断なところがあると黒森峰からの説明にもあったしね。西住ちゃんのいる普通科2年の教室に小山とかーしまを連れて向かう

 

「なぁ、かーしま」

 

「どうしました?」

 

「抜かるなよ」

 

「は、はい」

 

役割は分担済み。かーしまはその見た目と背の高さ、そして口調で西住ちゃんを直接威圧する役目だ。それを実行する場に立ち入る。中には生徒が多くおり、私を見て口々に小声で話している。誰に、何の用か。主にそんなことのようだ

そして目的の人は、2人ほどの他の少女と話しながら、その真ん中にいた

 

「やぁ、西住ちゃ〜ん」

 

「は、はい!」

 

「ちょっと廊下に来てもらおうか」

 

 

「あ、あの、一体何の……」

 

「必修選択科目なんだけどさ、戦車道、やってくんない?」

 

 

 

念押しはそれで済ませて2日後の4月8日、選挙の投開票日だ。だが学生も午前中だけ学校に来てクラスごとに投票を行っていく

 

そして一般投票も並行して行われ、体育館には朝から箱の中身を覗こうとする人たちが並び、投票が行われていった。私もクラスで投票を済ませた

 

 

19時50分、私は白石ちゃんらフォーラムの政権幹部、そして公認候補者らとともに、校内の大教室を借りてテレビをつけていた。茨城には県営放送はないのだが、代わりにNHK水戸放送局が開票結果を速報してくれる。何かしらの動物番組が流れているが、明日になって何の動物についてやっていたかを覚えているものはいるまい

 

「……どう見てる?」

 

「感触は悪くありません。他の党が地盤とするところでも、2番手には結構食い込めている印象です」

 

隣にいるのは選挙対策課の松本ちゃんだ。今回の刺客の選抜、擁立に協力してくれている白石ちゃんの腹心だ。こういうところを廃校回避派で占められているのは大きなプラスだ

 

「あとは……クラス両議席確保がどれだけできるかと、市民議員の数次第だね……」

 

「クラブの戦車道支持派と合わされば過半数は容易でしょう。しかし問題は……」

 

「フォーラムの単独過半数」

 

「そこに関しては何とも言えない状況です。複数擁立したばかりに、そこに割ってクラブや人民とかが入ってくる可能性もあります。話は分かっていますが、その弊害だけはどうにも……」

 

「人民ねぇ……」

 

革命派が党の議会での躍進により勢いを失ってくれればまだマシかな

 

単独過半数。それがあればこの先かなり楽になるし、総合局は生徒会一の閑職になるだろう

 

「プラウダがウチに手を伸ばしてくるとは思えませんし、そこまで気にしなくてよろしいのでは?」

 

「でも一応ね……国との争いが消耗戦と化してきそうなら、ちょっと警戒がいるかもね」

 

「なるほど。クラブを通じてサンダースがなんたらという話も聞きませんし、大丈夫だとは思いますけどね」

 

「角谷会長!」

 

そんな話の最中、奥の扉を開けるが早いがこちらにダッシュで駆け寄りつつ口を挟んで来たのは、新聞部の王とかいった子である

 

「新聞部の王大河です。間も無く開票開始となりますが、ご自身としてこの選挙、どのように考えていらっしゃいますか?」

 

「私の生徒会長としての行政の1/4における評価であるも考えております。アメリカの大統領の評価も最初の一年が肝と申しますし

この結果が廃校回避を志向することへの市民、学生の皆様方の判断だと受け止める所存です」

 

「ありがとうございます。松本選挙対策課課長。この選挙における目標などは設定なさっておられるのですか?」

 

「そうですね。フォーラムは廃校回避を目標にされる角谷会長をサポートする立場におりますゆえ、それを支えられるメンバーにて過半数を目指しております。その後は学園都市行政の改革および適切な遂行に力を尽くしてまいります」

 

「ありがとうございます。以上、大洗学園フォーラムの幹部の皆様のおられる505教室よりお伝えいたしました!」

 

そしてサッと後ろに下がっていった。待つのは彼女らも同じ、20時である

 

 

「30秒前……」

 

時間が近づいてくると、どこからかカウントダウンが始まる。楽しみであり、不安である時が徐々に近づいてくる

 

「20秒前……」

 

私の道が正義となるか。それが市民によって示される時だ。やるべきことはやった。だがそれでも不安と恐怖は拭いきれない

 

「10秒前、9、8、7、6、」

 

むしろ早く来て欲しい気持ちすらある

 

「5、4、3、2、」

 

私の頬を、汗がつたう

 

「1、0!」

 

『NHKニュース速報』

 

まずはそれの存在を伝える音と点滅からだ。唾を飲み込む

 

 



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第22話 確実に

 

『大洗女子学園学園都市、市民議会選挙速報

大洗学園フォーラム、過半数獲得か。角谷会長の送った「刺客」も多数当選確実』

 

「おおおおおおおお!」

 

「いよっしゃぁぁぁ!」

 

画面の一番上に現れた文字に、歓喜が応じた

 

そしてネット上にはすぐに開票状況および当選確実の情報が出ていた

 

大洗学園フォーラム 347

新大洗クラブ 129

職人連合組合 40

人民による大洗 39

学生自治権党 18

無所属 102

 

未確定 125

 

「よーしよしよし」

 

その画面を覗き込んだ松本ちゃんも満足げだ。この議席獲得数で未確定が分け与えられれば、フォーラムは過半数獲得だ。旧町内会系の離反しそうな奴も切ったから、ちょいと無所属が思ったよりかは増えそうだが、何よりクラブが退潮しているのが効いたな

 

「まだ未確定があるから確定じゃないぞ」

 

まだ慢心を避ける言葉は出るが、黒板に貼り付けた候補者一覧にはどんどん名前の上に赤丸が付けられていく。そしてそれが10人くらいまとまって壇上に上がり、周りからの万歳三唱に合わせて頭を下げる

 

「普通一科高校2年12組組高林町江さん、当選確実!」

 

「水産科高校1年2組大船渡霞さん、当選確実!」

 

「普通一科中学3年7組永田咲希さん、当選確実!」

 

「ばんざーい!ばんざーい!ばんざーい!」

 

クラスによっては刺客と旧フォーラムの無所属が張り合う形になっているようだ。二番手に食い込む形もしっかりできているし、二番手や落選だと予想していたところで優勢なところもあるようだ

 

「中一の情勢はどう?」

 

「無所属が他学年より多めなのは避けられませんでした。しかし小学校の伝手を使わせて中一を少々取り込んだだけあり、例年より政党への得票が多く、フォーラムが議席を多く獲得できそうです」

 

学園の危機を知りながら入ったもの達。即座に廃校からの放逐とはなりたくないか

 

「市民議員の方は?」

 

「公正会を取り込んだのが功を奏しましたね。確定で10議席です。残り30議席以上未確定ですからいい感じですが、情勢についてはそれ以上はなんとも……」

 

よしよし

 

「市民議員の方の混乱は?」

 

「町議会の延長として選管も同様の処置で処理したようです。開票開始も3ヶ所全てで開始されてます!」

 

大成功、だろうね。今のところは

 

 

 

 

翌日早朝、ついに全ての確認作業が終了した。各クラス、各選挙区での各候補の得票数が決定され、選挙管理委員会より正式な当選者、落選者の発表がなされた

 

 

無所属 123

 

人民による大洗 51

 

職人連合組合 46

 

学生自治権党 29

 

新大洗クラブ 149

 

 

 

そして

 

大洗学園フォーラム 402

 

 

思ったよりギリギリであったが、大洗学園フォーラム、単独過半数獲得である

 

「やりましたね、角谷会長」

 

一晩をここの教室で過ごしていて、片付けを急ピッチで進める中、白石ちゃんが話を向けてきた

 

「一応、ね。問題はこの402人が完全に一致しているか」

 

「大丈夫だとは思いますよ。こうして結果としても出てきたわけですし。刺客の対戦成績も15勝3敗13分。少なくとも角谷会長の方針が妨害されることはないかと」

 

「だけど数人離反されたら単独過半数はあっという間におしまいだ。動きは注視してよ」

 

「了解です」

 

私の指示に了解です、か。本当にできるとは思っていなかったが、やっと……フォーラムは私に従った

 

 

だが世の中そうもうまく回らないもので、良いことがあれば悪いこともある。寝不足のせいかあまり食欲もないので眠気覚ましに栄養ドリンクを流し込みながら、昼休みも生徒会長室でここ一週間のちょっと溜まった書類に印鑑を押していた。それを初めて間も無く、かーしまがいきなり飛び込んできた

 

「会長!」

 

「なんだかーしま、そんな大声で。一旦落ち着け」

 

こーいう時、かーしまはまず一度落ち着かせればだいたいまともに話してくれる

 

「は、はい。申し訳ありません。とりあえずこちらをご覧いただければお分かりになるかと……」

 

そう言って手持ちの紙を書類を避けて机の上に置いた

 

「ん?これは……」

 

 

「これはどういうことだ?」

 

「どうしてこうなるかねぇ……」

 

昼休み。今日が月曜日なんで必修選択科目の希望の提出は今日だ。そして彼女はその日の朝、ちゃんと提出してきた

 

ハッキリ言って西住ちゃんがこの内容を提出するのは想定済みだ。経緯を考えればある意味当然とすら言える。だが問題は彼女にオマケが二人ついてきたことだ

入り口で呼び出したのは西住ちゃんだけだから二人の立ち入りは認めない、と言ったようだが、その制止も聞かずズカズカと踏み入ってきたらしい

 

名前は五十鈴華と武部沙織。普通科の高校二年生で、西住ちゃんと同じクラスだ。五十鈴という子が黒髪、武部という子は茶髪だ。入ってきて顔を見て思い出したが、私たちが教室に入った時に西住ちゃんの両脇にいたな、そういえば

 

「すみません……私、戦車道はできません……」

 

出来る出来ないではない。やってもらわねばならないのだ

 

「貴様は私たちからの話は聞いていなかったのか?できないわけがないだろう」

 

「みほはやらないって言ってるのよ!」

 

「強制するのが生徒会のやり方なのですか!」

 

ウザいね、この二人。私たちの邪魔をするか

 

「そんなこと言っていいのかな〜。そんなこと言っていると、三人ともこの学校にいられなくなっちゃうよ〜」

 

間違いない。西住ちゃんがいないということは、戦車道は烏合の集だ。優勝なんて夢のまた夢。そしたら学園は廃校だ。三人ともこの学園には通えなくなる

もっとも、その意味でこの三人は捉えていないだろうけど

 

「脅しですか……」

 

「脅しではない。会長は常に最善の方法を言っていらっしゃるだけだ」

 

「ねね、やった方がいいと思うよ。会長もやるならそんなこと言わないからさ。これ以上面倒なことにならないうちに……」

 

物腰柔らかく小山が加勢する。さて、木刀の後に洗濯バサミだ。キツイがマシに思えてくるだろう?

 

「やらせること自体が間違いなのよ!」

 

「そこに生徒会が介入する道理はありません!」

 

抵抗しているのは周り二人だね。核心部は揺らいでいるな。さて、どうするか。もう一押し何かあればいいな

廃校の事情は……伝えたら尚更やらないね。だからパス。今から風紀委員を呼んで二人を追い出すか

それだね。私の言っていることが勘違いのまま進むようにしようか。彼女らには悪いが、これが私の役割なんでね

 

取り巻きの対応は二人に任せ、私は机の下のケータイから園ちゃんにブラインドタッチでメールを送る。内容はそのまま生徒会長室の不届き者を追い出せだ

 

そのメールの送信ボタンに指をかけた

 

 

その時だった

 

「あのっ!」

 

奥のこの問題の中心が、取り巻きの手を両手それぞれで繋ぎながら、久しぶりに声をあげた

 

何だろうか。結果それでもやらないと言い出すんだろ

 

そう思っていたし、もう親指に力を入れていた

 

「私、戦車道、やります!」

 

だからこの言葉が耳に入った途端、私を含め周りの全員が一瞬呆気にとられた

 

「ええええっ!」

 

その中でも反応が早かったのが武部という子である。私もそれでことの進展を理解し、笑顔でうなづいた

 

こうして、道はできた。やると決まれば話は早い。頼むよと一言と紙の書き直しと前の紙をシュレッダーにかければ全て済むし、普通に返した。そしてついでと取り巻きの二人も希望を戦車道に変えていった。人はいるだけ損はない

 

 

三人を返して少しして、園ちゃんに続いておかっぱ数人が生徒会長室に突入してきた

 

「……あれ?」

 

だがこの部屋にいるのは、干し芋を食べている私だけだ。かーしまも小山もそれぞれの仕事に当たっている

 

「角谷会長……これはどういうことかしら?」

 

「いや〜ごめんね。さっきまで不届き者は居たんだけどさ、もうそうなくなっちゃったから返しちゃったんだよね」

 

「……はぁ」

 

その通りなのだから致し方ない

 

「でもここにそのまま来てもらったからには要件が一つあってね。ちょっといいかい?」

 

「……何かしら」

 

相手がいなければ連れ出す仕事はない。捕獲用の棒を置いて園ちゃんはこっちに来た

 

彼女に二枚の紙を手渡す

 

「二人……ウチの学生ね」

 

「その二人の背後関係、漁ってくれない?」

 

「……理由は?」

 

「……可能性の話だけど、国、文科省とつながっているかもしれない」

 

自分の学園の生徒を疑う真似だ。だが……疑って何もないなら良し、何かあったら見つけた方が良しだ

 

「文科省と……廃校を進めようとしているところね」

 

「そう。彼らからしたら私たちが戦車道で何かしら実績を残したら問題になるだろう?」

 

「そうね。実績の度合いにもよるけど、本格的に廃校にしようとするなら問題になるでしょうね。実績を出したのに何でだ、と」

 

「世論が動く。私だって戦車道を誇りだけのために立ち上げたわけじゃない」

 

「実績の可能性を広げるためね。あれだけ廃校回避というなら、理由はそれしかないわ」

 

「その実績のためには、彼女が必要だった」

 

ここで紙をもう一枚

 

「西住みほ……黒森峰からの転校生で、現在普通一科の高二……私立から公立だし、時期も時期とは変な転入生ね」

 

「私が呼んだんだよ。戦車道の強化のためにね。だけど彼女は戦車道をやりたがらないだろうとは思ってた」

 

「……あの話の不届き者って彼女らのことかしら?」

 

「結論を言えばそう。西住ちゃんに加勢して戦車道をやらせないように言って、ついさっきまでここに来てた」

 

「……その二人と西住ちゃんの個人的な繋がりの線は?」

 

「クラスが一緒とはいえ、西住ちゃんがその二人と会ってから学校に来る日は何回あった?」

 

「始業式にレクリエーション、そして金曜日と今日……多く見ても4回ね」

 

「それだけで来る?」

 

可能性はある。だがそれがない可能性もまた然り

 

「……あの二人が西住さんの背中を押してやらせないように仕向けた、と」

 

「そう見てる。もともとやりたくなかった西住ちゃんはその二人によって一旦は戦車道をやらないと決めた。だけど生徒会としてはそれは困る。だから呼び出して何とか説得したよ。その二人は邪魔ばっかしてきたけど」

 

「そういうことね……」

 

「西住ちゃんが戦車道をやらないことでメリットがあるのは誰か。一つは西住流だ」

 

「西住流……戦車道の流派で、この紙によるとその次期家元が彼女の母、と」

 

「そう。西住ちゃんの姉が今西住流の後継者だ。西住流がその姉ちゃんの地位を絶対のものにするために西住ちゃんの経験値を削ごうとする。考えられない話じゃない」

 

「ふむ……探るだけ探ってみるかしら」

 

「その五十鈴って子は今度は華道の五十鈴流の後継者だ。華道と戦車道。伝統ある流派の家元同士、伝手があってもおかしくない。でも私はこちらの可能性は弱いと思うけどね」

 

ま、去年の夏の西住ちゃんのやった事とそれに対する西住流と黒森峰の対応を考えればね

 

「それを調べるならその線ね。もう一つは文科省が彼女らを使っていると」

 

「そう。西住ちゃんに戦車道履修を拒否させて、それをサポートしてウチらに拒否を認めさせる。現にその直前までわざわざ西住ちゃんの手を繋いで来てるわけだしね」

 

「考えられなくはないわね」

 

「そして気になるのが、西住ちゃんが履修を決めた後、二人も戦車道履修に変えた事なんだ。どういうことか推測つくかい?」

 

「……最悪の場合だと、戦車道の授業を荒らす、または試合の本番で味方を混乱させるような事をする。そこら辺が目的の可能性もあると」

 

「仮に文科省の策ならね。人数はいるだけ損はないし、来る人を拒否する表向きの理由が今はないから受け入れたけど、監視と背後は洗っといて」

 

「わかったわ。でも、もう二度とこんな煩わしい手段は使わないでちょうだい」

 

「わかってるって」

 

さて、黒と出るか白と出るか。それは分からない。疑って調べさせるなら、私も私でちょっと声だけかけてみようか

 

 

その日の夜、私は辻氏に一本のメールを入れた

 

『あなたの敵に警戒されたし』

 

と一言だけだけど。もっとも向こうにとっちゃ余計なお世話かもしれないが

 

 



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第23話 練習と外交

戦車道最初の授業。件の奥の奥の倉庫だ。隣の草地は調べてみると昔戦車道の練習場だったらしい。戦車道が廃止されてもこの立地のせいで他のどこも使う気にならなかったらしい。農業科の敷地とも離れてるしね

それにしても、あれだけ丸をでっかくしても履修者はそんなに多くなかった。総員21名。この学園都市の高校生が9000人いるのを思えばかなり少ない

 

もっとも途中での履修の変更は可能だし、大会で二勝すれば途中からの履修だろうと単位が出るようにしてある。もっともこのことは伝えてないけどね

一応教職員連盟にはそう言ったが、まぁまともに見られるはずがないよねぇ。要するにベスト4狙いだもの。OKはくれたが教師の一部は鼻で笑っていた

 

だがそれにしても、この倉庫の前にいるのはなんともまとまりのない集団である。一部に至ってはまともに制服を着こなしているのか怪しいし、話を聞く気があるのかすら怪しい人もちらほら

ちなみにバレー部の磯辺ちゃんはウチに直接乗り込んできて、戦車道やるから単位とかの代わりにバレー部復活させてと注文してきたから、だいたいOKを出した

その行動力を気に入ったというのもあるけど、やってくれる数の水増しだね。運動部だから体力もあるだろうし

 

というか本当に体力使いそうなんだよね、この競技。砲弾は重いやつだと10kgとかあるし、何時間も狭い空間で行動したりするわけだ。精神力と体力はいるよ。だから最近ちょっと密かに鍛え始めてる

 

さて、またこの南京錠を開けて扉を開くと、前と同じく汚れに汚れたIV号戦車が現れた

 

「汚〜い」

 

「ボロボロ〜」

 

うーむ、その通りな反応がちらほら湧いてくる。実際山崎さんが触って手を真っ黒にしているしな。だがその中で一人、そのIV号に向けて歩き出したものがいた

 

「見た目はこれだけど、足回りは問題なし。装備品も揃っているし、計器の類も異常なし」

 

その子はためらわずに車輌に触れた。呟きながらも視線は本物、なのか?

 

「これならやれるかも」

 

「おぉ〜」

 

西住ちゃんの一言だった。専門家の見る限り見た目より状態は良いようだ。周囲の表情も少し明るくなる

 

幸先は良し

 

「しかし、戦車はこれだけか?」

 

そしたら当然の疑問が

 

「今はね〜」

 

「え、じゃあどうするの?これじゃ紅白戦どころかまともに乗って練習もできないんじゃ……」

 

「探す」

 

それしかない

 

「生徒会の資料によると、学園艦には他にも放置された戦車があるとのことだ。現状場所は分からないが、それを発見し、洗車、修復の上で授業に用いる」

 

「えぇ〜めんどくさい」

 

「なんでそんなことするの〜」

 

「まーまー、私らだってこれ見つけてるわけだしさ」

 

「発見次第私に連絡するように。自動車部を通じて持ち出し、運搬等を行ってもらうからな。それでは全員捜索開始だ。解散!」

 

 

だいたい授業はかーしまに仕切らせている。私はできるだけ戦車道に関しては遠巻きに見るようにしている

 

理由はいくつかあるが、一つは威圧感を与えないためだ。私の存在はメディアの手伝いもあって、なかなか強引な指導者という位置付けにされている

私個人としてはむしろ人の話を聞きに赴いて妥協することを目指しているのだが、そう思われている以上思いっきり前に出れば履修者は萎縮してしまう。履修者が戦車道に対して活発にならねばこの計画も終わりだ

 

もう一つは生徒会の本格的な肝いりとの話を避けるためである。それがあると来年以降生徒会と戦車道は切り離せなくなる。生徒会がなくならないなら、戦車道を自然消滅させる計画は上手く進まなくなる。金が必要以上に注ぎ込まれる未来は避けたいね

 

そして最後は、私の隙を作らないためだ。見るからに手を抜いていれば、そりゃできないだろ、となる。上手くなくても文句は出ない

しかし見るからに真面目にやっててもし私に才能が無ければ、私の隙だ。引き摺り降ろそうとする奴らに丁度いい材料を与えかねん

 

というわけで私は干し芋片手にこの授業に参加しているというわけだ

 

 

発見の報告は思ったよりポンポンきた。西住ちゃんのところとかバレー部のところとか、授業前に固まってたグループごとに1輌ずつ見つけていた

 

しかしまぁ問題はここから。山の中の38tとかはそのまま木々の合間から運び出せばいいだけだったのでマシな部類

だが他である。池に入っていたIII号突撃砲は池から大型トラックで引っ張り上げて水抜きして電気系統まるっと錆びついていたから錆抜きから

ガケにあった89式中戦車とかはクレーンで車体ごと持ち上げる必要があった。もー業者を呼ばなきゃどうしようもできない状況だった

挙げ句の果てにウサギ小屋の中にあったM3Leeはウサギを避難させてからウサギ小屋を解体。そして運搬してウサギ小屋を組み直してウサギを戻す一大作業だった

 

20年くらい前の先輩の必死すぎる隠匿作業のお陰で、その日は我々生徒会の面々も荷物運びに動員されるわ、生徒会室を飛び出してした肉体仕事は深夜日付を超えるまで続くわ、と散々だった挙句、

 

「今日は中々刺激的な作業をありがとうございます!しかし我々だけではこのような規模だと手が回りきらず、またこうして皆さんにも苦労をかけしてしまうかもしれません」

 

とナカジマちゃんからススのついた顔で言われた。オモテは柔かだがウラは簡単で

 

「こんな面倒な仕事を押し付けんなボケ。こんなの流石に何度もできないし、もし次やるなら人増やすなりしろや。あと資金よこせ」

 

だろう。うん……燃料と車輌整備費ぐらいは出せる……かな?

 

結局そんな苦労をしたにも関わらず洗車も整備も出来ず、ただ倉庫にオンボロが4輌加わっただけとなった。そして車輌の割り当ては人数の都合上38tとIV号を逆にした以外は発見した集団に車輌を任せることにした。今ならピッタリだが、今後車輌が追加されれば増員も視野に入れないとな

 

 

そして戦車を洗車する日を作って、水着姿の小山に水をぶっかけたり皆が体操着を真っ黒にする中で、私は別の案件を進めなくてはならなかった

 

学園都市行政の改革に関する条例をかなりのスピードで施行していくことにしたのである

 

理由としては色々あるが、まずは戦車道の優勝が廃校回避の条件だと公表していないことがある。つまりこのまま戦車道に頼りっぱなしだと、私はスポーツにうつつを抜かして本質的なことは何もしていない奴、となる

その悪評は避けねばならない

そして何より、私がもともといた総合局の仕事が思いっきり減らせたことがある。与党単独過半数はそれだけでも大きなボーナスだ

もっと二人だけっちゃ二人だけなんだけどさ

だから話を進めるのは今を置いて他にない。次がどうなるかどころか、次があるのかすら分からないしね

 

そして改革の姿勢を見せることで学園の廃校を阻止しようとしているという体裁を取れば、話としては納得してもらえる。それで戦車道の存在をある意味で誤魔化すのだ

 

4/27。第3回議会にて『被覆科研修及び誘致支援条例』、大洗学園フォーラムと新大洗クラブの賛成により可決。職人連合は反対したが、教職員連盟も支持の意向を示し、3年後の開始を目指して可決された

内容は前と話したのと大きく変わらない。企業の誘致と研修という名の労働、そしてその分の学費の軽減だ。学費の低減及び企業誘致による都市経済の活性化を狙った策だが、今は何も進められない。来年に廃校になるって学園都市に来る企業はないからね

 

 

そしてその最中、他にも話を進めねばならない。一つはどうやら連盟から紹介された教官が派遣されるらしい

 

『大洗女子学園の戦車道連盟加盟は戦車道隆盛の道において誠に喜ばしいことである。大洗の戦車道の発展が高校戦車道全体の技術向上に繋がることを期待する』

 

という仰々しい児玉会長のお礼の文章とともに、現役自衛官が教官として派遣されることになった。名前は蝶野亜美、階級は一等陸尉。軍隊には詳しくないからどのくらいの階級かは分からないが、上に佐官と将官がいるんだしそこまででもないのかな?

 

と思っていた時期がありました。調べたらタダモンじゃないわこの人

 

なんか高校時代に15輌抜きとか12時間の激闘一騎討ちとかやってるヤバイ人なんだけど。なんでこんな人が戦車道始めたばっかりのウチに来るの?

 

階級はともかく、戦車道においては一級品の人材だろう。なんで来るのかは知らないけど、貰えるものは貰っておこう。もしかしたら私たちみたいなガチ新参に送るだけの理由があるのかもしれないけど

 

 

あとは外交だ。ウチ単独で国と張り合う以上、いざという時にこちらについてくれるバックグラウンドは欲しいところ

候補は戦車道の強豪4つだけど、黒森峰とサンダースは本拠地が九州だから遠すぎて提携しづらい。学園艦だとはいえこの大海原、そんなに簡単に近づけるものでもないし

プラウダはウチが人民と敵対しているから厳しい。となると、答えは自ずと一つに絞られる

 

聖グロリアーナ女学院

 

横浜に母校がある←同じ関東圏であり協力が容易

民主主義←ウチと同じで思想的な隔絶がない

議院内閣制で保守党政権が安定←協約を結べればそうそうひっくり返されない

 

お嬢様学校と公立校という違いを除けば、関東にいる上で手を結んでおくに越したところはないところだ。もちろん体面と誇りを守ろうとするところも、協約結んでひっくり返されないようにする理由の一つだけどね

 

そして今の隊長のダージリンとやらは保守党に近いチャーチル会に所属しているから、戦車道から政府系の伝手に広げやすいのも理由の一つだ

 

かといって外交とはこちらだけが求めて成り立つものでもない。何が与えられるか……練習試合の場所確保とか向こうからしたらすぐできることだし、港湾利用優先の保証だってそもそも関東の港からしたら絶対グロリアーナ優先だ。経済規模的にね

 

グロリアーナも国の自治権への介入には苦慮しているみたいだし、そこで手を繋ぐ道を探すしかないかなぁ

 

 

そんな訳で挨拶を兼ねて校外交流担当局の者を付けて、広報の肩書を持ったかーしまを使者として送った。ちょうど近場に停泊してたしね

正直上手くいくとは考えづらかった。向こうにこちらと手を組む利益が見えなかったからね。国相手にするっていったってウチがいる程度じゃいないも同義。なら何のために?となってしまう

そして試合を組もうにも5月や6月は大会を見据え戦力を図るための練習試合が多く組まれる時期。強豪グロリアーナだったら他との予定も有るだろう。一月前の今からウチらが食い込む余裕なんてあるのか?

 

ところがどっこいそんな不安とは裏腹に、かーしまはスコーンで腹一杯となった体と共に、練習試合の予定をとりつけてきた。しっかりと5月末にね

なんでも向こうは話を切り出すや笑顔で了承してくださったそうだ。面白い試合になることを期待します、という言葉も添えて。幸いこの時期に他の学園との練習試合もなかったとのこと。おまけに大洗の近くまで来ることすらOKだという

あとは場所の受け入れの確認、日程の最終調整、ルールの詳細を詰めた上で向こうに確認を取るらしい

 

また理由は分からないが助けられたな、こちらに取って都合良すぎるくらい。西住ちゃんを呼んだのがある意味評価されてんのかもしれないね。そんくらいのことならGI6経由で把握しているだろうし

ま、こちらの利はこちらの利だ。進むっきゃないか。こちらも大忙しになるしね

 

そんなこんなで私は竹谷氏と連絡を取り、住民の誘導と配置、屋台企画の範囲と出店業者の安全確認と身元調査、パブリックビューイングの会場整備及び警備のための人員派遣などを詰めねばならない。それに生徒会とか風紀委員とかを山ほど動員する必要も出てきた

 

結果としてパブリックビューイングの場所は、試合会場予定が西部の台地と中心街としたため、市街地から多少離れた北側の大洗公園に設定した。町を言葉の意味でも物理的意味でも巻き込む一大イベント。こんなのを練習試合のたびに組まされるとは……

戦車道をやるには金も勿論だが行政処理能力も必要になるな。生徒会全面協力させてよかった……それなきゃ無理だこんなの

会場側からしたら連盟からの補助金とかも含め、このイベントそのものもやりたい理由の一つになるのだろう。早速町のホームページと県のホームページのトップ画面で宣伝され始めた

……いつか学園艦巻き込もうかな

 

あと園ちゃんに依頼していた調査は、全く繋がりの見込みなし、の一言だけ書かれた紙を渡されて終わりになった。実際数度の練習の中であの2人妨害してくることはおろかマジメにやってるし、西住ちゃんのサポートを良くしている。尾行などの結果を見ても、単なる友人関係だったようだ

いやー、よかったよかった。やらなきゃいけないとはわかっていても、ウチの生徒を長い間疑いたくはないからね

 

 



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第24話 10式バタフライ

 

そして蝶野氏が来る時が来た。皆も自動車部経由で追加で貰った説明書を元に、少しずつ乗り方、撃ち方などを見様見真似で進められる程度にはなってきた頃だった。流石に先生呼んでんのに戦車に乗れない、砲弾撃てないじゃ話にならないしね

私は干し芋食べるだけで何もしていないけど

で、件の彼女なのだが、なんでも空から直接来るとか言ってきた。ウチの校舎の近くに大型のヘリポートはないですよ、とは伝えたのだが、問題ないわとの一言だった

 

結論、問題あった

 

普通に問題あった

 

空から降ってきた自衛隊の10式は、学園長の宝物のフェラーリを粉砕しながら駐車場に着陸してきたのだ。しかも跳ね飛ばした後にご丁寧に轢き潰してまで

その時は豪快だねぇ、で済ませた私だが、流石に後で自衛隊に賠償請求しておいた

 

そしてまぁ連盟が彼女を送ってきたのもよくわかる。だってみんなに指導した事っていったらドーンと撃ってバーンと撃破すればいい、それだけだ。何言ってんだ?分かるわけないじゃん

それに撃破率120%って何だよ。残り20%何を撃破したんだよ……審判車輌か?という、豪快すぎてネジが数本飛んでる人間だったのだ。ただものではない、というのに間違いはないんだけどさ

 

で、やったのは紅白戦。というか全員敵、生き残った者が勝ちというバトルロワイヤルだったのだ。わかりやすいし、車輌も奇数だから単純な紅白戦にはできないので妥当ではある

弾薬消費が気になるが、せっかく教官もいるしまぁいいか。金を恐れて学園がなくなるんじゃ意味がないし

 

会場は隣の練習場。蝶野氏は上の見張り台から観戦なさるようだ

彼女の合図とともにグラウンドに向かわされて、訳もわからぬままに試合開始となった

試合は試合だが、これで勝つためにやることは一つだろう

 

西住ちゃんをぶっ潰す

 

残り4輌で手を組んでIV号を袋叩きにする。私は西住ちゃんの強さを聞きまくっていたからそう他に提案すると、蝶野さんが挨拶の時に西住ちゃんを持ち上げてたからか残り3輌も二つ返事で乗ってきた

個人では勝てない、ならば包囲網で叩くのみよ

私は正直楽観的だった。西住ちゃんがいるとはいえ、4人中1人だけだ。残り3人は素人同然。平均を考えれば勝てない戦ではない、そう踏んでいた

 

しかし森で仕掛けた同時奇襲は突破され、橋の上でIII突が命中させて足止めしたはいいものの、そこから体勢を戻されてからの4輌での突撃はぜーんぶあっという間に撃破された。かーしまにも撃たせたけど外したね

 

西住ちゃんは装填手だって聞いてたんだけど、これは車長変わったかな。だとしたら砲手は誰だ?あの橋の上で動いてないとはいえ、一発も外さずに4連発当てるとはなかなかの腕だ

それと当てられた後の復帰も見事だったな。あのIV号に乗っているメンバー、思ったよりもヤバいんじゃないの……

 

その練習で西住ちゃんの腕を目の当たりにした私たちだが、蝶野氏は練習の最後に単にグッジョブベリーナイスとかいう訳のわかんないことを言って帰っていった。やはり面倒な人間に適当に押し付けてった仕事だったというのはそんなに間違った理解でもなさそうだ

 

 

さてその日の燃料消費量と砲弾消費量を計算している中で、かーしまが蝶野氏から戦車道の指導法について学んだと知った

直談判したらウチの現状についてなども結構正直に話してくれたらしい。1輌1輌の問題点なども結構詳細に纏められてた。私はさらっとだけ読んで二人に渡したけど

正直も何もまずは動かし方と撃ち方の基本とかからで、そこからどのようにレベルアップし、そのレベルアップの段階に合わせてどのように練習も質を高めていくべきか。そんな将来像に関しても教えてくださったそうな

 

一応あの教官からだから、試しにメモった紙をコピーして西住ちゃんに見せてみた。要するに本当に合っているのか現場を経験した人に教えてもらいに行ったのだ

そしたらほぼそのままでいいだろう、とのことだった。黒森峰で取り入れているものと同様なものも実際にあるらしい。あの黒森峰もやっているなら、と私はこの先も練習はかーしまに一任すると決めた

あの教官、見ているところは見ているんだな。我々も戦車道を利用する以上、そっちに伝手はあるに越したことはない。今後も連絡取れたら取ってみるか

 

そこから仲間も一人増えた中で、皆の多少なりとも練習への対応は変わった。西住ちゃんの強さを目の当たりにしたがゆえに、自分たちも横に並ぶに不足のないようにしなくてはならない。そういうムードをかーしまが他の車長に伝えて説得していった

西住ちゃんは転校生だったけど、この場じゃ車輌の垣根さえ越えればほぼ初対面。その中で西住ちゃんが受け入れられていたのがここで効いていた

 

戦車道の視界はまだマシになってきた。このまま全体が引き上げられれば、聖グロとも少しはまともに戦えるだろう

 

 

5月11日、『学内情報教育環境整備条例』を大洗学園フォーラム、学生自治権党の賛成により可決。また改革の意志を示すものの一つだ

将来的にウチらも電子機器を使って授業するとか、プログラミングとかを授業に取り入れるとかは可能性あるからね。その下準備を早めに進めることを取り決めた条例だ。もっとも環境整備する金もないけど

 

その翌々週の5月25日には『教員学生連携研究支援条例』をフォーラムと一部無所属の賛成多数で可決。今度は辻さんから聞いた深海魚養殖研究の拡充をサンプルに、今後も教員と生徒の連携による学術研究に対する生徒会からの支援を決めたものだ。これはウチの金の割り当てだけでできるから、今からでも何とかならなくもないしね

 

こうして法案をバンバン市民議会に提出できているのは、総合局の人数減らせた分を学園課学園事務局の人員に回せたのが大きい。だいたいフォーラムとのやり取りは私が付けば通せるしね。これが選挙の力

 

そしてこの内容も市民向けに校内宣伝局から流している。それで仕事をしている様を見せることが市民を一番安心させるのだ

 

 

 

 

それと今後競合と当たる中で、外交面から探りを入れていきたいね。こちらはバックグラウンドとかそういう立派なものではなく、単にお茶友達の延長くらいでいいのだが

伝手があるとすればクラブからサンダースと人民からプラウダ、か。黒森峰は元々いた西住ちゃんがいるからいいとして、あと他は……当たったら考えればいいか

 

ということでクラブの鴨崎ちゃん、ではなくその後を継いだ丘珠ちゃんを呼び出した。内部から造反を生んだだけでなく選挙で惨敗したから、党内から弾劾くらったんだってさ

 

一応合意の継承は済んでるから、戦車道についてや将来的な指針に関しては問題ない。だが私に協力するかは別だ

 

「ということでさ、サンダースのどっかと伝手ない?」

 

「表立って協力できるわけないですよ」

 

「いやいや、別に誰かに引き合わせてくれればいいさ。戦車道での繋がりをちょいと作りたいだけだし

そこに繋がりがあった方が今後の外交有利になるし、直近なら試合で相手の思考を読みやすくなる」

 

「だとしたら……それは貴女も同様では?」

 

「私は戦車道の実務にはほとんど関与してないからね。私からわかることなんてないさ。名目も学園都市同士の交流。そこで向こうが漏らせばメリットは大きいさ」

 

「ふむ。我々としても我が校とサンダースの関係が親密になるのは悪い話ではありませんし、最近の我が党との関係を見れば我々から話を斡旋するというのも的外れではありませんね……

現地に行くことなく連絡の仲介なら持ちましょう。生徒会長と学園長の近くならなんとかなります。それで戦車道……となると、ケイ氏ですか」

 

「ケイ?」

 

「戦車道の隊長さんですね。あまり詳しくは存じませんが、快活な方というのは間違いないようです」

 

「ふーん……じゃあその生徒会長と学園長に私から出向いて会えるようにしてもらっていい?」

 

「承知です」

 

 

戦車道の練習も進み、何とか質を少しずつ高めていっている中で、各車輌のチーム名が付いた。私たちはカメさんチームだそうな。ま、私がグータラしている様からってのもあるのかな?

他のチームもアヒルさんだのウサギさんだの名前がついていったので、車輌の名前で呼び合ってた時よりも少し車輌間の壁が低くなった気もするね

 

 

そして月末、5月27日,学園艦は少々の航海を経て、再び母港の大洗の近くまで来た。もっともまだ接岸はできないんだけど

そしてその脇にはウチよりも数倍大きな学園艦がピッタリとつけていた

 

聖グロリアーナ女学院だ

 

大きさも人口も比べ物にならない。おまけにその生徒の学力面での質と文化面から経済力も段違いだ。私立のお嬢様学校故に学費を高めにしても文句でないし、その分戦車道にも金を割ける。近年ベスト4に入っているのは、単に戦車道が強いからだけではないのだ

だからウチは将来的には無理なのだ。戦車道キチの黒森峰みたいになってでも勝ち続けるのは不可能だろう

 

私は戦車の運搬や審判団の招待などの手続きをかーしまと小山などの生徒会の者に任せ、私は先に朝早くから町役場へと赴いた

竹谷氏も試合会場に近いこの町役場を離れて北の方に向かうので、その車に同乗する形となる。名目上は場所を借りたことへの感謝だ

 

試合開始は午前10時。終わり時間に制限はないが、互いに5輌同士で戦うので殲滅戦とはいえそこまで長期戦にはならないだろう。こちらは体力強化の面ではまだまだだ。夏に向けてやらねばならないだろうが、現状では太刀打ちできない

 

「朝早くからすまないね、角谷くん」

 

「いえ、そのお言葉は私の方からお伝えするべきかと」

 

「なぁにこの町を試合会場になるのは考えていた通りじゃないか。これで区画整理もやりやするなるぞ。観光需要も湧くし」

 

「その需要はどんなものなんですか?」

 

「東京からも多少はあるだろうが、水戸からの観光が大きいだろうな。町民を連れて来れるからこちら次第で動員人数も水増しできるし、そしたれその人数を徹底的に喧伝できる。首都圏で沿岸でできる試合会場として今後売り込んでもいいな」

 

「房総地域との競争になりますが、北から来る船相手なら悪くないかもしれませんね。だとすれば私たちは市街地を巻き込むようにすればいいわけですね」

 

「そうしてくれた方がいい。なぁに試合会場内だ。遠慮はいらんよ。しかし市街戦は連盟嫌うようだな。今回も5対5だから許してくださったという面があるし」

 

「連盟としても補償金もタダではすまないでしょうしね」

 

そう。私たちは市街地に向かい、そしてそこで試合をしなくてはならない。そうした方が町にとって利益なのだからやるしかない

だから私はかーしまがだした作戦案を認める方向に会議で話を進めた。西住ちゃんが言ってきたことに関しては話の流れの中で有耶無耶にした。一応言わせたのは私だけど。ただしかーしまがそこでブチ切れたのはあれはかーしまの素だ

ま、お陰で西住ちゃんが萎縮して話を進めやすくなったのはその通りだ。そしてあとは、かーしまの作戦が失敗した後、市街地に誘導できるかどうか……そこで対外的な西住ちゃんの腕を見せてもらおうか

 

「しかしまぁ、君らにとっても重要なんだろう?この試合は」

 

「……この段階で命運がかかっていると言われても過言ではない程度には、ですが」

 

「はっはっは、結構重大じゃないか。だったら私たちも本腰入れて応援せねばならんよなぁ」

 

「こちらとしてもありがたい限りです」

 

試合会場をここにしたのには、我々としても大きなメリットがある。我々には私みたいな大洗の町出身の者が多いし、寄港できないとはいえ結構な頻度で大洗の沖合には乗り付ける。町の中を知る者が多いのだ

市街戦ならその効果は高い。だから竹谷氏との取引抜きにしても、市街戦に持ち込むメリットは大きいのだ

 

そしてこの試合は結果を残さねばならない。フォーラムが戦車道を支持してくれているのは、それが学園を残す最善の道だと理解したからだ。だがここで惨敗なんて喫すれば最善とは思わなくなってしまう

完全に私から離反するとは思えないが、少なくとも他の案を出してきたりするだろう。私はそちらにも時間を割かれることになってしまう

 

会場にはすでに一部町民が避難を開始しており、パブリックビューイング用のでっかい電光掲示板も用意されて、連盟の人が接続と表示をしきりに確認していた

 

誘導する風紀委員の姿を確認したら私の案内は終わりだ。私は一つ目の戦場に赴かねばならない

竹谷氏に奮闘を祈願された後、先程の車に乗り中心街の西部にある台地に向かう。そこから試合が始まるのだ

 

だが救いなのはこの試合は戦いぶり次第というところか。まだ負けてもセーフなんだよね

 

勝つのは厳しいだろうけど、負けるために戦う気はないよ

 

 



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第25話 練習試合

 

午前10時

審判の合図とともに、私たちはかーしまが見定めた決戦の地へと砂嵐を巻き起こしながら車輌を進める。途中でIV号ことあんこうチームを残して、他車輌は予定地点へ向けて離脱。ウサギさんチームが少々対応が遅れたが、予定通り私たちは台地の中でもちょっと高めのところへ赴いた

 

ここは前から一本道、後ろにも一本道。そしてどちらの道の両側も灰色で高くそり立っている。ここにIV号を囮にして誘い込み、上から撃ちかければ全部撃破して勝てる、というのがかーしまの見立てだ

戦車は上から殴れば弱い。だから高所に陣取って下に誘い込む。話の流れとしてはいい。実現不可能なことに目を瞑れば

 

西住ちゃんが言っていたように、この作戦は失敗するだろう。作戦としては悪くないんだろうけど、こっちの作戦に大人しく乗っかる聖グロとは思えないしね

 

だがいずれにせよ、こちらは西住ちゃんがここに敵を引っ張ってくるまで暇だ。こんな暑苦しい車内に敵がいつ来るかもわからない状況で待ち続けられる精神力は、まだ私たちにはない

だからアヒルさんチームがバレーボールのパス回しを始めたり、カバさんチームがなんかゲームし始めたり、ウサギさんチームが戦車の上でカードゲームを始めても、私たちには止める理由もなかった

むしろ仮にここを狙ってくる敵車輌がいても外に人がいては、人には当たらない仕様になっているとはいえ攻撃するのは躊躇われるはず。それならこっちの方が都合がいい

 

こうして西住ちゃんが敵5輌を引き連れてこちらに向かっているとの連絡が入るまで、丘の上では非常に穏やかな時間が流れていた

 

 

砲撃が近づいてくる。西住ちゃんがこっちに連れてきている

とはいえ私はちょいっと装填を手伝うほかは何もしない。しない方がいい

が、IV号が予定地点を通りかかるやいなや、かーしまは自ら発砲した上で攻撃開始を宣言した

 

オワタ

 

こうして各車輌の存在と各車輌の位置まで自分から露出狂と化した私たちが、動き回る聖グロの車輌相手に予定地点で全滅させられる訳もなく、かくして聖グロの戦車隊は集中射撃を突破し、ウチらの両翼に回り込んできたのである

 

「撃て撃て!撃ちまくれ!」

 

そして隊長のかーしまは以前このままである。実戦で砲撃を外してから変な高揚に呑まれてしまった

 

幸い現状向こうも狙いを絞り切れていない。が、近くに砲弾を当てるくらいなら造作もなかった

 

「あれっ?あれっ!」

 

近くに落ちた砲弾で履帯が外れたか、小山がしきりにレバーを引いても車輌は動かない

こうしてここに動けなくなった車輌が置き去りにされた

そして初めて砲弾に晒されたウサギさんチームはあまりの火力を前に全員車輌から脱走。ウチらでまともに動く車輌はあっという間に3輌だけになってしまった

 

動けぬ中で指揮は取れない。かーしまにも諦めさせ、この場については西住ちゃんに一任した。幸い向こうは動けなくなった我々にとどめを刺すことなく、その場をカメさんとアヒルさんとともに撤退したウチらを追撃し始めた

 

追撃戦だ。そっちの方が明らかに相手に損害を与えやすい。それくらいは分かる。それで潰した後に私らをのんびり潰す気なのだろう

ともかくも時間ができた。だがここから動くには履帯を直さねばならない

 

「かーしま、小山。履帯直すぞ」

 

「やるんですか……会長」

 

「やるしかないでしょ」

 

時間的には余裕はないしね。早く合流した方がいいのは間違いないだろう。そう言いつつも私にもなかなか乗り気になれない仕事だ。一応練習の中でもやるだけやったから、やり方は知ってるけどね

 

まず小山を車輌に残したまま履帯を戦車の後ろに一列に敷く。もちろん何十枚の履帯を持ち運べるわけもなく、かーしまとなんとか引きずって寄せる

ここが草地じゃなくてよかった。草を引っこ抜きながら、そしてそれを取り除きながらの作業になれば、面倒なことこの上ない

そしてその端をワイヤーに括り付け、履帯の上へ。そして無理矢理折り畳みながら車輪の上に載せる

あとは小山がゆっくりと車輌をバックさせながら私とかーしまで全力でワイヤーを引っ張り続けるのだ。これがt38だからなんとかなってるけど、もっと車輌がデカかったらこんな人数じゃ動きやしないだろうし

 

「かーしま。噛み合ってるか確認してこい」

 

「はい、会長」

 

時折車輌を止め、しっかり履帯と車輪が噛み合ってるかを見る。そこがズレてたら動いた瞬間この仕事はチャラだ

そして持ってきたら端と端を固定する。最後に全体的に緩みがないか確かめたら終わりだ。もともと緩んでる感じはするけど。車輪には主だった歪みがなかったから、まだ早く済んだけどね

 

何十分という時間をかけて、ウチらはなんとかこの作業を終わらせた。ピーカンの中だ。ウチらも水を飲みながら少し休む

 

「西住さんの方は大丈夫なんですかね?」

 

「さぁね。向こうに行ったらもう終わってるかもしんないよ?」

 

さて、どこまでやってくれてるかな?

 

「……ま、少なくとも試合がまだ終わってないのと、ウチらが急いだほうがいいのは確かだろうね。かーしま!」

 

「はい、会長」

 

背中を経由して、ウチらも追うことにした

 

 

音からしてウチらは市街地に向かわなきゃならないらしい。幸いその途中は結構コンクリートで塗装されてるから、時間はそこまでかからない。この途中に敵がいたらおしまいだが、そんな事してくるならウチらの負けだ

 

んで、大洗での場所なんて目を瞑っていてもわかる。山から降りて探っていくと商店街の道中だと目算がついた

 

「小山、多分ちゅう心の辺りだよね?」

 

「大進の辺りじゃありません?音移動してますし」

 

「そっちか。んじゃ、突撃ぃ〜」

 

「でもあそこらへんって確か……」

 

そうして選んだのは福本楼の脇の道。そこに入ろうとすると、一本道の奥の奥を通り過ぎるものがあった

 

IV号、あんこうチーム。車輌の色や外観からして間違いないだろう

そして他の車輌は続いてない。となれば、砲撃音からしても追撃を喰らっていると踏む。となれば、それを遅らせられれば儲け物だ。この車輌で正面から撃破は難しくても、履帯切って足止めとかもワンチャンあるしね

 

「小山、次来たら右、来なかったら左に曲がって!かーしま、砲撃用意!」

 

「は、はいっ!会長」

 

そしてその間に敵は通り過ぎず。されば……左!

 

「参っ上〜」

 

ウチらが飛び込んだのはIV号と聖グロのチャーチルとマチルダ2輌の間。そして小山は確実に敵3輌の方へ曲がり切り、停止した

 

「発射!」

 

距離は10mもないだろう。視界にも確実に捉えている

 

だがかーしまの放った砲弾は前3輌のいずれにも当たる事なく、風切音のみ残して虚空の彼方へと飛び去っていった

 

「桃ちゃんここで外す〜」

 

「桃ちゃん言うな!」

 

そんなウチらを見逃すわけがない。そもそも敵の砲塔はこちらを向いていたのだ。3車輌同時に放たれた砲弾によってt38に白旗が昇ったのは、それから間も無くだった

 

そしていくら西住ちゃんをもってしても1vs3で完全勝ちは難しかった。それでも福本楼の前でウチを撃ってきた相手の1輌を撃破し、一本脇の道に逃げた後並走で逃げて角でもう1輌撃破。そしてチャーチルとの一騎討ちには持ち込んだ

 

だが元の戦車の質が違う。周りの装甲ガッチガチのチャーチルに対し持久戦が不利と判断した西住ちゃんは突撃を仕掛け、失敗した

 

「大洗女子学園、残り車輌0輌!よって聖グロリアーナ女学院の勝利!」

 

笛とアナウンスはたいして気にするものでもなかった

 

「小山……かーしま」

 

車輌撤収の最中、車内で声を掛けた。エンジンの切れた車輌の中はそのギャップもあってか静かだ

 

「やれるよ」

 

「ですね」

 

 

試合こそ負けたが、まだ祭りは続く。昼過ぎなのだから、今から夕方くらいまでやらねば元が取れん。目玉は無くなったとはいえ、他にも企画は準備してくださってるしね

 

んで、ついでだ。私たちからも企画をぶつけようと思う

 

「いやー、お疲れ」

 

目の前を流れる撃破された車輌を前に茫然としていたあんこうチームのメンバーの中に、私はいつも通り割って入った

 

「会長さん……」

 

不安げだなぁ、揃いも揃って。当然っちゃ当然だけど

 

「健闘には感謝する。が、約束は約束だ」

 

そう。負けたらあんこう踊り、そんな約束をとりつけていたのだ。んで、実際に負けた

 

「にっひひ〜」

 

もってきたのはピンク色の全身用タイツ。実を言うとこれが正式と問われると違うのだが、元から恥ずかしい格好で踊るものだし、罰ゲームなんだから十分でしょ

 

「んじゃ、ここの8人全員やってもらうよ」

 

「ええっ!」

 

私の手元にあるタイツは8枚。もともとそういうつもりだ

 

「隊長車がやらないわけはないよねぇ〜」

 

 

こうして商店街にて被害状況の検分が始まる中、トレーラーの台車を借りてのあんこう踊りのパレードが行われた。パレードを見にきた人たちからはカメラを向けられ、ケータイで動画を撮ろうとしている人も見受けられる。その中で隣のぶちぶち文句を言う数人を尻目に、ただ踊り続ける

 

私にとってこれはそんなに嫌いじゃないものだ。むしろ楽しくすらある。だから私にとっては罰ゲームではない。こうして罰を決められる立場になれるのは地味にメリットだろう。世の中もそういう立場に付けたもん勝ちなのだろうか

 

心情的には問題ないのだが、弊害は疲れることだ。この踊り、けっこう激しい動きを繰り返すのだ。それが面白いんだけど、明日は筋肉痛をちょっと覚悟しなければならないな

 

 



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第26話 K

 

 

こうして大洗女子学園の久しぶりの試合は一定の成功をおさめた。まず大きいのは、大洗がベスト4に入り得る聖グロという強豪相手に健闘できたという事実だ。優勝からは一歩遅れをとっているとはいえ、ウチらはガチのかき集め。西住ちゃんという頭がいたから、というのが大きいとはいえ、それでも健闘は健闘だ

 

フォーラムの白石ちゃんはこの結果に対し即座にそれを讃える声明を発表。こちらに対しては戦車道の存続を学園廃校回避の唯一の手段として認め、その育成に貢献するということを内密に伝えてきた

これにより表立って戦車道を奨励することが可能になった

 

そして町からの反応も上々だ。町を会場にすることで観光利益の増大はある一定は見込めることが判明し、連盟からの補償金が出る以上町からはそこまで大きな支出も必要ないとのことで、今後も受け入れていく方針を示した。再建できる業者が見つかれば、という問題こそあるが、概ね良い感じだ

ウチらが多少なりとも市街地を巻き込んだおかげで、沿岸部まで建設予定の道路の予定地も掃けたみたいだし。ま、巻き込みが足りないって話もあったけど、そもそも5vs5だったのだ。それ以上はうさぎさんチームでもとっちめて言ってくれ

 

 

そして戦車道のチーム内でもこの敗北は大きな意味を持った。これによりチームの指揮はかーしまから西住ちゃんに完全に移行された。練習の指揮こそかーしまがとるけど。優勝までの技量が足りてないことが示された以上、実践的にやっていくしかないのだ

6/8に可決された戦車道への追加予算案もこの短期間の上での奮闘を評価されて可決。新規車輌の購入とまではいかずとも、当面の弾薬、燃料の確保に腐心する必要はなくなった

それにより砲撃、行軍に関する訓練を重ね、一定の技量には達してきた。自主練の許可と各員の積極的な利用もそれを後押ししている

あと朝練始めた。一人死にかけている人がいるけど全体と優勝のためだ。気にするな

 

 

6/22、『学園都市内公共交通育成基幹条例』が大洗学園フォーラム、新大洗クラブなどの賛成で可決。将来的な都市内の通学、通勤用の公共交通を通すことを目標とすることを示すだけの条例だ。中身はない

一応方針は考えてある。学園間の南北を縦断しつつ周遊するバスだ。だがその性質上定期利用が大多数を占めてしまうため、収益性に課題が残る。果たして学園を残してもこの条件を受け入れてくれる業者があるものかね

 

こちらの試算だと終始トントン。しかもラッシュ時に毎時6本計算でだ。何千人と通学する生徒を支えることすら厳しい上に、人件費だけで重くのしかかる。他のルートに車輌を回せなかったりするのも痛い。これでもどこかのバス会社に受け入れさせるなら、学園から補助金を出すなども検討しなければなるまい

 

結局はカネの話に戻っちゃうんだよね

 

 

ま、まずは今だ。大きいのはサンダースとの伝手。私は6/9〜10に一泊二日でサンダースへの旅に出た

それもまぁ豪快だったよ。距離は近くなってたとはいえ、ウチのヘリポートに招待用のヘリを回して来たんだから。私は自分で行くとは言ってたんだけど、向こうが聞かなかった

この世の人間は話を聞かない奴が多いね

 

ヘリで運ばれること50分。これは日帰りもできるかな、と思っていた頃に、眼下には聖グロよりもひと回りでかい学園艦を見つけた。サンダース大学学園艦である

甲板もビッグ、校舎もビッグ、建物の類もとにかくビッグ。なんでもデカけりゃいいというのは母港の佐世保の米軍からでも引き継いだのかね

 

そしてだだっ広いヘリポートの一つに着陸した。というか大型機すら余裕で飛ばせる空港あるし、ここ。いやー、経済力もダンチダンチ

さらに迎えの車で走ること20分、校舎についたわけではなく、ヘリポートと一体化した空港を出るのにそれだけかかる。艦橋まではさらに20分だ

さらにそこのエレベーターを登って、やっとこさ辿り着いたのである

 

と、ここまでで一苦労終えた頃に、私はなんとかサンダース大学の高校生徒会長と学校法人の理事の一人に面会する運びとなった

だがそこの部屋も広いのなんの。これ教室ですか?と尋ねたら、

 

『こんな狭い部屋は我が校にはそんなにないよ』

 

と返されてしまった

いや、あれよ。大は小を兼ねるにも程があるよ

 

「この度はこうしてお会いできる機会を設けていただき、誠にありがとうございます」

 

「いえいえ、民主主義を掲げる学園との友好はこちらとしても設けておきたいですから」

 

こちらの握手に応えてくださったのは、向こうの生徒会長の取手満氏、男だ。ここはウチらと違い、女子校というわけではないからね

彼はウチのクラブに近い市民共和党の出身だが、かといって私を冷遇したりはしないらしい

 

「それに大洗は戦車道を導入したそうじゃないか。そうしたら我々は同じ競技を愛する仲間だろう」

 

その奥に座ったままの方は大学理事の一人、夏村重則氏だ。こうして学園間の調停に赴く人が多い方だと丘珠ちゃんに聞いた

 

「その通りです。今後も生徒間の交流など繋がりを拡大していきたいですね」

 

「将来的にはそうしていきたいですよね」

 

将来的、か。まぁ流石にサンダースならある程度把握しているだろうな

 

 

こちらの歓待は気分の悪いものではなかった。お互いの研究事業がどうたらこうたらといった話から、将来的に目指す市内交通の運営と介入度合いについての話、そして軽く戦車道にも触れ、おまけ程度に生徒の自治についての意見交換もした。将来的に民主主義的学生自治を支持する共同声明を出してもいいかなという流れになった

役には立ったが、唯一目が点になりかけたのが、この会議の席で出された飲み物がお茶でも水でもなく、カップ一杯のコ◯コーラだったところだろう

 

「あ、セブン◯ップの方がお好みでしたかな?」

 

そういうことではない

 

嫌いじゃないからいいのだが、なんとも言い難い光景ではあった。カップめっちゃでかいし。1Lくらいあるんじゃないのか、これ……

 

 

話もぼちぼち進んできたところで、この部屋に立ち入ってくる人が一人

 

「ハーイ、ミッツ!そちらが前に言ってたお客さん?」

 

金髪の長身で目も黒くない。ここにいる人の大半は日本人だと聞くが、人というのは見た目によらないらしい

 

「君か……こっちは大事な会談中なんだが」

 

「ということはその子がアンジーね!」

 

「話を聞いてくれ」

 

向こうの学校自体に言いたいが、その中でも特別、か

 

「でも見た感じ話はだいたい終わってるんでしょ?」

 

「いやまぁそうだが……」

 

「だったら大洗とは戦車道で戦うかもしれないんだし、私がマイスクールを案内してあげるわ!」

 

戦車道関係者か

 

「取手くん。君もこのあと忙しいだろうし、戦車道絡みなら彼女の方が適任なのも確かだろう。ここからはケイくんに任してもいいんじゃないか?」

 

ケイ。彼女が前に聞いた隊長か

 

「……わかりました。それじゃケイ、角谷氏は君に任せるが、くれぐれも無礼なことをしたり我が校に不利益になるようなことをしないでくれたまえよ」

 

「オフコースよ!それじゃアンジー、こっち来て!」

 

返事も聞かずにケイ氏は私の腕を引っ張って部屋の外へ連れ出していった

 

 

また長いエレベーターを降りていくと、下で車に乗せられた。車輪がえらく大きなバギーだ。ほら、あの障害物とかを軽々超えていきそうなアレ。私物かね

 

「この車は?」

 

「戦車の見廻り用をレンタルしたのよ!」

 

それでこれかいな

 

「それにしても、いきなり私を面白い呼び方するんだね。ケイさん」

 

「ケイでノープロブレムよ。ウチだと肩書き以外での敬語は殆ど使われないわ!せいぜいMr.かMs.くらいね」

 

つまり私が話していた二人は、この学園だと例外らしい

 

「んじゃMs.ケイかい?」

 

「Ms.もいらないわ。同じスチューデントでしょ?」

 

「確かにね。それにしても、上下関係がないのかい?」

 

「あるにはあるわ。ティーチャーとスチューデントぐらいはね。あとはプレジデントくらいかしら」

 

逆にそれがなけりゃ学校と呼べるのか謎なんだが

 

「それもまたそれで面白いかもねぇ……」

 

「だったら短期交換留学生にでもなったらいいじゃない」

 

「ウチとサンダースの間にそれに関する協定がないのさ。それに……」

 

「それに?」

 

「この学校は私の体じゃ受け止めるにはデカ過ぎるよ」

 

炭酸で膨れた腹をさすりながら、冗談のような本心を語った

 

 

そんなこんなで飛ばしてしばらくすると、校舎の裏手らしきとこに着く。許可証がいるとかそういう次元ではなく、他の車と並走して校舎の中へ入っていく

 

走ってさらに3分。案内されたのは緑の巨大な倉庫だった

 

「ここは?」

 

「戦車の車庫よ!」

 

車庫なら何輌入ってんのだろうね。ウチの赤レンガの倉庫20個分すら上回るだろうね。近くには洗車用らしき設備もあるし、その奥はもう練習場のようだ。サンダースのだからだだっ広いんだろうな……

 

 

中はもう想定した通り。両側にズラっと並んだ緑色の戦車が首を揃えていた。100輌は間違いなく超えていると思う

 

「……すごい数だ」

 

「そうでしょう、アンジー。サンダースは戦車の総数500輌くらい、ここの他にもいくつか倉庫があるわ」

 

500……ウチの100倍、か

 

「ここは2軍用の倉庫。補欠用ね」

 

「こりゃすごいね……これだけあったら管理が大変じゃないかい?」

 

「そうね。基本はシャーマンで揃えてあるけど、式典用とか予備用の車輌とかは把握しきれてないのよね」

 

これだけあり、人員を割いているのだ。管理しているところがしっかりしてねばならないのだろうが……弾薬、燃料なども桁違いだろうし厳しいのだろうな

 

そして彼女は、ケイはこのサンダース大学付属の戦車道という組織をどの程度掌握しきれているのだろうか。サンダースの様子も見る限り、各車輌の自主性を重じているのかもしれん。付け入る隙があるならそこになるのだろう

 

「あ、隊長。お客様ですか?」

 

「イェス!よくやっておくのよ!」

 

「イェス、マム!」

 

……慕われているようだね。

 

「それじゃアンジー、1軍の倉庫を見せてあげるわ!」

 

……マジで?ウチらなんなら敵だよ?

 

「ハリアップ!」

 

ハリアップじゃないよ。いいのそれ

 

 

そもそも倉庫の素材の質が違うし、車輌もめっちゃ砲身長いのがいるし、なんだったら端の方に現代戦車いたし。1軍の倉庫は思っていた以上に質が高かった

車輌の数こそ限られているものの、磨かれてピカピカだし設備はウチと比べたら桁違いに整ってるし、奥にはシャワールームが一人一人専用のがあって、そのさらに奥はプロテインのサーバーがあって飲み放題なんだとか

えげつねぇ……マネーイズパワーか……

 

「……さすがはサンダースだね。戦車道にこれだけの力を注ぎ込めるところは他にはないよ」

 

「それが強さよ。2軍、3軍もそうだし、1軍内でも常に大会に出るためのレギュラー争いがあるわ。競って競って上に来たものにどんどん機会を与える。それがウチよ」

 

その競争に勝ったこともまた、自身として強みになっていくのだろう。そして技術自体も高まると

 

……勝てんのかな。いや、勝つしかないか。虎視眈々と隙を狙い、突くしかない

 

隙となるのは、その競争の弊害だ。競争でメンバーが頻繁に入れ替わる、ということは団結という点に関しては弱い。レギュラー一人落とさないと下の選手は出れないわけだし。サンダースの各車輌が自主性高いと踏む要因もそこ

その点は規律重視の黒森峰との違いだな。あと向こうは車輌の質、ってのもあるけど

 

次の日はサンダースの学園艦にある半導体工場と高校の校舎とを見学。前者は休日で稼働してなかったけど、サンダースは水の浄化設備の質を高め、輸送も行うことで半導体産業に食い込み、利益の上がる構造を採っている

最低賃金を独自設定して長崎県のよりかなり高くしても回っているのは、こうした地場産業の存在が大きいんだろうね

ウチの将来を見る上でも参考になるね

 

 



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第27話 36

……と思っていた相手といきなり当たるとは、思いもしなかったよ

 

埼玉スーパーアリーナでの高校生戦車道全国大会の抽選式。そこの壇上で西住ちゃんが引いたのは8番。んで、そこの左枠はもうすでに埋まってた

 

サンダース大学付属

 

7番にはその文字がしっかりと埋められていた

 

いやぁ……さ、ありえない話じゃないよ。初戦からサンダース、プラウダ、聖グロ、黒森峰と当たるってのは

 

んだけどさぁ、実際あたって見るとヤバイって思うよね、ほんとさ

 

それに初戦でまだ車輌数の制限が10輌と少ないとはいえ、こちらは5輌。まず勝ち目はないだろう。席の奥からはもう歓声が上がっているしね。勝ち確ってやつ

 

……こうなるんだったら車輌まで詳しく見ておくべきだったかな。いや、私詳しくないから無理か

 

「……小山、かーしま」

 

「それでも会長、勝つしかありませんよ」

 

「……わかっているさ」

 

 

そして下の枠が埋まっていく流れの中で、私たちがこの先当たるであろう学園も見えてきた

 

まずはサンダース。次いでマジノかアンツィオ。そしてその次は……多分プラウダだろう

 

その先は……聖グロか黒森峰。優勝するにはこれらに全勝するしかないってわけか……

 

ま、ベスト4に食い込む時点でその4つのどこかは撃破しているかされているかしてないといけないんだし、こんなものか……現状5輌しかないのを考えれば、準決勝とかでいきなり15輌持った競合とぶつかるよりはマシなのかな。それにしても、数さえあればなぁ

 

 

数は足りねえ経験値はねぇ、そしたら練習するしかないってことで、まもなく朝練を導入した。西住ちゃんが戦車借りたいって言うから、公道走ってもいい許可を出した。そしたら空砲ぶっ放して帰ってくるとは思わなかったね。経験者はそうも大胆になるものなのかな?

 

この前の聖グロ戦の失敗に基づき、まず隊列関係と砲撃という基礎的なところから固め直していく。あとは弱点を突けるかな、本番次第か

また件の教官も呼んで少なくとも皆着実にレベルアップしているし、レベルアップしようとする意思を見せていることもプラスだ

 

 

同時に参加に向けての準備も整えていく。まずはユニフォーム、こっちで言うパンツァージャケットの制作だ。各々採寸した上で制作してもらい、売った。これを作ってもらったのも大洗の地元の服屋だ。私とも面識がある店である

 

あとは試合開始地への航路変更。最初こそ自衛隊の演習地らしいけど、こっから先は決勝までルーレットで場所を決めるらしい。しかもそこに72時間以内に移動しないと不戦敗だ

というか場所をテキトーに決めるとかマジでやめて欲しい。ウチに航路を左右するものが特にないから今はいいけど、将来的に企業誘致したら寄港地次第では大きく不利になる

 

やはり戦車道は将来的に無くさざるを得ないだろう。西住ちゃんがやめてしばらくしたら負け始めて、世論としてもやめる流れになるかな

 

 

そして6/30。前日の議会対応を済ませた私も合流し、開会式の行われる自衛隊の北富士演習場に移動した。車輌の移動手続きやメンバーの案内はかーしまに丸投げして、私だけ後でバスでやってきて合流だ。いやー、小田原から遠いのなんの

 

なんかポンポンと音の鳴る玉が上がって児玉会長の手短な話があって、ここに第74回全国高校生戦車道大会の開会が宣言された

私たちにとっては最後の命綱だ。手繰っても手繰っても持ってこれるとは限らない。だがそれを止めるという選択肢は残されていない

 

 

私たちの初戦はサンダース。とりあえずまた正式に戦う前に挨拶に行こうとしたが、整備している間に向こうからやってきた

 

「整備終わったかー!」

 

「はーい!」

 

「完了しました!」

 

「それじゃ、試合開始まで待機!」

 

「あ、砲弾忘れてたー!」

 

こっちはこんな間抜けなんだけどね

 

「それでよくのこのこ全国大会に出てきたものね」

 

間違いじゃないんだよなぁ、背景に事情さえなければ

 

かーしまが軽くキレ気味に返すと、なんでも試合前の交流を兼ねて食事でもどうかと来たらしい。腹は減っては戦はできぬ。乗るのも損ではあるまい

 

「あぁ〜、良いねぇ」

 

しかしまぁ……資金力だよね。シャワー用の車輌に販売者の数々、おまけにヘアサロンまで。ここまであったらそりゃ士気も上がるし、ある程度観客も受け入れてるから営業利益も上がり、観客との距離感も詰めやすい

金の力という反発を言うほど食らっていない理由はそれもあるし、なにより優勝してねぇからだね。逆を言えば優勝してない戦車道にここまで資金を注ぎ込める、という証左でもあるわけだけど

これより黒森峰強いんだよなぁ……

 

「ハァイ、アンジー」

 

「やぁやぁケイ。お招きどうも」

 

「なんでも好きなもの食べてって!」

 

「OK OK、おケイだけに」

 

「ハハッ、ナイスジョークね!」

 

こんなんでそこまで大爆笑してくれるなら、こっちもやった甲斐があるものさ

 

 

この最中、ケイはウチの秋山ちゃんに詰め寄っていた。なんかオッドボールとか読んでたけど、話は聞こえないが雰囲気から見てそんなに悪いことじゃないようだ

あとからケイに確認をとると、どうやら秋山ちゃんがサンダースに潜入してきたらしい。なんつーことしてくれてんねん、すんませんと謝ったが、向こうはルール違反ではないし、ウチはいつでもオープンだからここからはフェアプレイでいきましょ、と笑って謝ってくれた

この数の差でフェアも何もあるか、とも思ったが、口に出す気はない。だったらスパイ天国なんだろうなとは思ったけどね

 

いずれにせよ、西住ちゃんが向こうの陣容を把握できているのはこっちにとって大きなプラスだ

 

 

「それでは、大洗女子学園対サンダース大学付属の、試合を開始する」

 

でっかいモニターの下で、ケイと握手を交わす

 

「よろしく」

 

「ああ」

 

さて、どうやって叩くか。そこに私がどこまで関わるかな

というかそれより早めに戻らないといけないのだが。遠いわ

 

 

「サンダース付属の戦車は攻守共に私たちより上ですが、落ち着いて戦いましょう。機動性を生かして常に動き続け敵を分散させ、III突の前に引き摺り込んでください」

 

「おー!」

 

ここら辺は西住ちゃんが組んだ通り。もう文句を言う輩はいない。意思統一ができているのは強みかね

 

さて、午後1時。試合開始の時間だ。審判のホイッスルが鳴り響く

 

「ウサギさんチームは右方向の偵察をお願いします。アヒルさんチームは左方向を。カバさんと我々あんこうは、カメさんを守りつつ前進します」

 

「あのチーム名はなんとかならんかったのか……」

 

「いーじゃん、可愛くて」

 

かーしまがごちるが、そんな程度で士気に繋がるなら儲け物だ。なによりウチらは西住ちゃん頼み。彼女の言うことをある程度は受け入れないとね。嫌われたら終いだ

 

この試合、というか戦車道大会では、練習試合での殲滅戦とは異なり、フラッグ戦というルールが導入されている。よーするにウチなら私の車輌がやられたら負けってわけだ。学園の未来と私が一心同体ってわけだね

これがあるから逆転を狙いやすい。とはいえそれは殲滅戦に比べればの話だ。その一輌を向こうも守ろうとするから、そうなれば数で勝るサンダースが有利であるのは変わらない

 

ま、ウチらはなんとか自前で身を守るしかないかな

 

「パンツァー、フォー!」

 

 

森林地帯から出発した大洗だったが、早速戦況は芳しく無さそうだ。偵察に向かったウサギさんに敵は9輌、つまりフラッグ以外全車輌をこちらに差し向けてきたのだ

このピンチに西住ちゃんは自らを含めた救援を差し向け、包囲網を突破してなんとか救出に成功した

こちらは1輌の損失での影響がどうしても大きくなる。被害なしで切り抜けられたのは大きいだろう

 

 

しかしまぁ話を聞いてみると、なんとサンダースの奴ら通信を傍受しているらしい。確かに遠くを眺めてみると、それらしき気球が上がっている。何がフェアプレイだこのこんちくしょう。気付かなきゃ負けてたに違いない

 

さて、これがあのケイの発案とは、私にはどーにも思えないんだよね。かといって他のメンバーを知ってるわけじゃないから、誰がやったかなんてわかるはずもないけどさ

 

西住ちゃんはこれを逆手に取り、高所から敵の様子を俯瞰しつつ陽動に乗せられているフリをした。ウサギさんに丸太を引っ張らせて土煙を上げさせ、それを大部隊の撤退に見せかけるとは演技派だねぇ

 

そして敵さんがノコノコと分散したところで、フラッグの護衛を各個撃破。残ったフラッグをアヒルさんで釣り出して追いかけ回す、というフラッグ戦における理想系を作り上げたってわけだ

 

無線を陽動で使いながらどうやって連携を取ってたかって?ケータイのメールさ。武部ちゃんがめっちゃすげぇスピードでメール送りまくってるんだと

 

 

とはいえウチらの技量だとそれからが怪しいんだよね。相手も逃げるから、必然的に行進間射撃になる。それを当てるのは上級者ですら厳しいと西住ちゃんから聞いたし、実際相手だけでなく自車輌の移動も計算に入れなきゃならないから難しい

 

追いかけるにしても向こうも打ってくるから場所を下手にバラさないために砲撃は控えるし、ルートも稜線を利用して隠れながらになるしね

 

「柚、遅れるな」

 

「わかってるよ、桃ちゃん」

 

「頑張れー」

 

かーしまの口に干し芋を一枚突っ込んだ

 

 

それに手間取っている間に、西住ちゃんの策で引き離したサンダースの本隊が追いついてくるのは止むを得なかった。それまで最後尾にいたウチらはウサギさん、アヒルさんを壁にする形となった

かーしまは後ろに放ったが、距離はあるしかーしまの腕では当たるわけがない。当たったところで正面からじゃ穴も開かないだろうしね

 

「桃ちゃん、当たってない」

 

「うるさい!」

 

「壮絶な撃ち合いだねぇ」

 

私がどうこうできるものじゃないね

 

 

だがその追撃してくる奴らの中に、その行進間射撃を難なく行ってくる化け物がいたのだ

ウチらを囲むように守っていたウサギさんチーム、アヒルさんチームはやられた。撃ってきたのはやたらにでかいファイアフライとかいうものらしい。蛍なのに強すぎるって

 

そしてウチらの後ろの壁が消えた以上、カバさんを守りにつけざるを得ない。III突は前にしか打てないから、正面火力は半減どころかそれ以上に落ちる

 

そう、脱落。この試合始まって初めての。しかも公式戦での、だ。優勢があっただけに学園云々がなくとも勝ちたいという思いはあるだろう。しかしそれを満たすには状況は良くない

 

不安

 

ウチのかーしま含め生き残った車輌に充満したのは、それだ

 

敵の砲撃、履帯近くを這い、車体を掠るそれは尚更助長してくるだろう

 

私は介入するか?いや、今の私の立ち位置じゃ無理だな

 

「落ち着いてください!」

 

……お?

 

「落ち着いて攻撃を続けてください。敵も走りながら撃ってきます。フラッグ車を叩くことに集中してください

今がチャンスなんです!当てさえすれば勝つんです!諦めたら……負けなんです!」

 

西住ちゃん……よう言うた!それでこそ隊長だ

 

「諦めたら……負け」

 

「いやもう無理だよ柚ちゃーん!」

 

この……ま、いっか。頭でも撫でてやろう

 

 

そして正面のあんこうはここから離脱。どうやら丘の上から狙う気らしい。ウチらの正面が、空いた

 

「あ、に、西住!何してる!」

 

「ここは任せよーよ、かーしま」

 

「しかし……」

 

「きっと何か考えがあるんだよ」

 

敵フラッグは蛇行して逃げてるからか、向こうからこちらの正面が空いたのは見えてないらしい。相変わらず逃避中だ。だったら後ろを壁に任せている以上、やることは一つ

 

「このまま走って逃げてれば良いよ」

 

 

試合は、あんこうが無事敵フラッグを撃破して終わった

 

ここに大洗女子学園はサンダース大学付属からの勝利を勝ち取ったのである

 

放心状態のかーしまを乗せながら、ウチらはゆったりと帰還する

 

「へへっ〜、ブイ」

 

西住ちゃん、良くやってくれた

 

その証にしては、このブイサインは軽すぎるかな?

 



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第28話 次への

試合終了後、ケイは西住ちゃんと話してさっさと戻っていった。何を話していたのかと聞くと、ちょっと疑問を解決してもらったのだという。ま、いっか。こっちから話したいことは彼女より上の人間につないでもらったほうがやりやすそうだしね

彼女は多分、仲間とみなせば信じ、動く。さてどうしたもんかな

 

それはともかく、サンダースへの勝利。これのインパクトは大きい

戦車道をよく知らずとも、サンダースがとんでもなくマンモス校で資金力があると知らない人は少ない。そこに勝ったとなれば学園都市内でも戦車道許容ムードは否応なく高まるんだな。校舎にも垂幕ぶら下げたし

 

実際戦車道支援を名目に立ち上げた寄附金もサンダース戦勝利で一気に増額した。今なら数輌なら車輌を発掘したとしても十分に動かせるようになってる。安定財源とするには弱いけど、補助的なら十分だ

 

そして政治側も反応する。白石ちゃんも真っ先に反応したし、丘珠ちゃんも双方の健闘を称えた。一応サンダースにも顔を立てた形だ。学園全体での受け入れムードを示すのにもちょうどいいね

竹谷氏も称賛して下さった。ただ、辻氏からは連絡はない。それくらいやってもらわねば、ということなのだろうか

 

だがあまり良くない話もある。これを機に有力校が本格的に我々を警戒し始めているようだ。当然っちゃ当然だけどね。連盟理事校の一つなわけだし、そこに勝ったとなれば警戒感を持つだろう

プラウダ、黒森峰も例外ではない。黒森峰は西住ちゃん送ったことは知っているから、もともとあっただろうけどね

それでも勝つしかないし、みんなの練習への集中度合いも大きく変化はない。西住ちゃんへの負担集中だけ避ければ、当面はうまく回るだろう

 

 

「今の戦力で、2回戦勝てるかなぁ……」

 

「絶対勝たねばならんのだ」

 

生徒会室で語られるのも今はまだそっちがメインだしね

 

「2回戦はアンツィオ高校です」

 

「ノリと勢いだけは、あるからねぇ〜」

 

そう。次に当たるのはアンツィオ高校。栃木の学校だけど海がないから、静岡県清水を母港としている。資金力はサンダースやプラウダより遥かに劣り、ウチらよりかはマシというレベルである

観光業がメインだったかな?産業は。日本のローマとかローマよりローマとか呼ばれてるね。ローマがゲシュタルト崩壊しそう

 

調べたけど、戦車道においてはウチと経緯が近いんだよね。東海で中学時代戦車道の名選手として馳せていた安斎千代美を、学園長直々に奨学金を出してスカウト。一時期は部員が彼女含め3人しかいなかった戦車道を立て直させたんだそうな。スカウトしてほぼゼロから立ち上げさせたところとか結構似てるよね

その後戦車道大会で一回戦通過を10何年かぶりで達成。それと都市内でのパフォーマンスが成功しているお陰で、一定の発言力を有するにまで至るんだって

 

ここまで持っていった安斎、うーん厄介そうだ。同じ世代も少ないだろうから、下を簡単に統率しきれるだろうしね。ノリと勢いだけ、と言われるけど、そのノリと勢いを統率できてるんだろうからなかなかのもんだと思うよ

だけどやはり資金力に劣る以上、戦車の質はウチと同じか下手したらそれ以下だ。この先を考えても一番勝ちやすい相手なのは間違いない。かといって油断して良いわけじゃないけどさ

 

 

「西住ちゃ〜ん。チームもいい感じにまとまってきたじゃないの」

 

「あ、はい」

 

「西住ちゃんのおかげだよ。ありがとね」

 

「あ、いえ……お礼を言いたいのは私の方で。最初はどうなるかと思いましたけど、でも私今までとは違う戦車道を知ることができました」

 

「それは結構だが、次も絶対に勝つぞ」

 

「勝てるかねぇ〜」

 

「チームはまとまってきて、みんなのやる気も高まってますけど、正直今の戦車だけでは……」

 

「ふむ……」

 

これを今こそ『西住ちゃんの号令で』進める時だねぇ〜

 

 

とにかく戦車だ。次の次からは相手は15輌。5輌じゃどうあがいても勝ち目はない。なら数をなんとか増やすしかないよね。ということで特段手掛かりもないのに捜索隊が組まれた

人員?後で考えよう。目星は付けてるし

 

練習日のうち一日を割いて艦内での戦車探しを行った。棒を倒して適当に探し始めたカバさんチームとか、多種多様だったけど

残された廃棄車輌の資料を見るに、まだまだ間あるのは間違いないようだしね

 

まず西住ちゃんとバレー部が見つけたのは、戦車じゃなく砲身。どうもドイツ製の75ミリの長砲身だそう。これはIV号の強化に使うことになった。というかそれ以外載せられる車輌ないし

 

そして艦内を探し回らせて秋山ちゃんとカバさんチームが見つけてきたのが、ルノーB1bisというフランスの戦車だった。いやあの棒で見つかんのかい

農業科が半ば放棄していた池の中から出てきたので、重量のあるIII突とかに引っ張らせて引き上げた。これ以上下手に自動車部動員したら弱み握られちゃうしね

見た目的には89式っぽい気もするけど、一応75ミリ砲というM3Leeくらいの副砲は乗っけているとのこと。装甲も厚いからまだマシだね

乗員定員は4人だけど、砲塔が1人乗りなので副砲、操縦で3人いればなんとかなるとのこと

 

そしてもう1輌、ウチの運命を左右し得る存在が見つかった

 

艦底を捜索していたウサギさんチーム一行が行方不明になって、それを捜索すべく残りのあんこうチームに艦底に入り込んでもらった。一応地図は渡したし、派閥争いが残ってそうなところは侵入不可マーク付けといたから一応安心だ

 

「会長、お銀に話は……」

 

「めんどいからなしね」

 

 

調査の結果、ウサギさんチームと武部ちゃんは無事発見された。いたのはまだ比較的浅いところで、艦底の派閥の影響の薄いところだったのは幸いだった

 

そしてたまたま彼女らがいた場所で見つけたのが

 

 

「これが件のポルシェティーガーですか」

 

「そ、んでこれ引き揚げて修理して欲しいんだけど」

 

「……いつもやってる作業に加えてですか?」

 

「そう」

 

「……わかりました。しかしこれの復帰、元の車輌が車輌だけに、復帰に二週間弱はかかりますよ」

 

ビンゴ。決勝からしか無理だろうけど……そりゃそうか。こんな下から上げてくるんだから学園艦の仕切りぶち抜くレベルだしね

 

「OKOK、宜しくね〜」

 

「いいや!せっかくのアハトアハトなのにそんなに待てるか!貴様ら徹夜で修理だ〜!」

 

「そりゃ無理ってもんですよ。時間かけてじっくり直させてください」

 

「ぬぁーにぃー!」

 

「まぁまぁ、自動車部が言うんだから仕方ないさ」

 

「その代わり修理が完了したら、この戦車を私たちで動かします。かなりマニアックですしね、これ」

 

よっしゃ、人員確保成功!

 

「りょうか〜い。単位は保証するし、自動車部予算増額ね」

 

「よ、宜しいのですか!」

 

「いいじゃん。こうして役立ってくれる人に報いない方が悪いし」

 

 

んで1輌は乗員の目星つけたけど、もう1輌もつけなきゃならないよね

 

「つーわけでさ、この見つけた車輌乗って戦車道やってくれない?」

 

「はぁ?」

 

園ちゃんを呼び出して切り出したのはそれだ

 

「いや、あの時以来下手な用件で呼び出したりしないでって言ったけど……」

 

「結構重要案件だろ?」

 

「どうして私たちなのよ」

 

「まず戦車道が廃校に繋がってると知ってること。愛校心溢れる風紀委員ならそれだけで戦車道に集中してくれる動機になる」

 

「まぁ……そうね」

 

「あとそど子の視力が欲しい」

 

「視力?確かに両眼2.0あるけど……」

 

「偵察とか砲撃とかで視力は欲しいのさ。それも一つ。最後はここから本格的な監視と対策を立てときたい」

 

「……どういうこと?」

 

「アンツィオ勝ったら相手はプラウダと黒森峰、あとは聖グロだろうさ。そんなところと戦うんだ。こちらも内部の引き締めを強化しておかないといざという時困る」

 

「あの2人は大丈夫だったじゃない」

 

「それ抜きでもさ。他のチームが自分たちの活躍から私たちや西住ちゃんに逆らおうとしだすと困る

あと強豪が曲がりなりにもサンダースに勝った私たちに目をつけてるだろうから、みんなと情報の保護も兼ねてね」

 

「要するに秋山さんがやったみたいな話の逆を警戒しろと」

 

「そーゆーこと。つか今もやってもらってるけど。とはいえこちらに戦力を組み替える余裕とかないから、元から筒抜けな気もするけど、念には念をってことで。なんならそーゆーことしてくるの、相手の学校だけとは限らないし」

 

「……文科省?」

 

「とかね」

 

「話としてはわかったわ。でも一つ聞いていい?」

 

彼女らもすでに他の選択科目をとっている。それを切り替えさせるわけだから向こうが切り出すことは一つ

 

「……単位の扱いはどうなのよ?」

 

「今参加すれば確定!」

 

「……どういうこと?」

 

「次の試合、今参加してもそど子達出れないだろうけど、アンツィオに勝てば参加扱いで単位決定」

 

「そど子じゃないわよ。で……負けたら?」

 

「そもそも廃校じゃん」

 

「そうだったわね……」

 

「ということで、あと2人呼んで次に向けて練習よろしくね〜。その人選は任せる」

 

その後実際に2人連れてきたので、決定したとのことを伝えといた

風紀委員の仕事?しばらく艦底との争いないんだしなんとかなるっしょ

 

 

7/6。試験前最後の議会にて可決されたのは『船舶科業務改善条例』。これで船舶科の4ローテ制への改定や休暇制度の拡充などが取り決められた。以降は2年後の予定だ

ちょいと手間をかけて教員採用の幅や艦底の者らへの処遇の詳細を船舶科、教職員連盟と調整したから時間かかったけどね

艦底からの幹部登用にNOを出してきた船舶科を、教員監視を一年試験的に付けることを条件に幹部層へも部分的に登用を認めさせたりね。ここら辺はもう今年度入ったら担当部署作ってそこに振っちゃってたから、私は言うほど関与してないけど

これで海の民は建艦以来の結党の理由を失った。とはいえ海の民自体はフォーラムに編入されたし、それに反発したメンバーは私の刺客にやられたり無所属で細々と結党を宣言したりしている程度だから、ほぼ意味ないけど

 

艦底から小勢力の主力を正式に引き抜いて弱体化させ、相対的にお銀派の力は強まり、完全一強を達成。武力抗争も収まりを見せ、風紀委員を介さずとも一定の自浄が進んだ。本物の酒とか違法薬物関係は放棄、摘発が進んだ

もっとも酒や薬物とかでバレて警察に突き出さざるを得なくなれば艦底との信頼関係が崩壊するから、秘密裏に焼却して流したりしたけどね。証拠は海流が処分してくれるさ

汚染?確かに問題だね。ただそれは艦底が再び抗争して血を垂れ流すようになるよりマシさ。海は広いな大きいな

 

 

一連の改革はほぼ順調に進んでいた。こちらには廃校の危機回避というお題目があるし、党の対立も挙校一致をある程度達成し収まっている。支持率も世論調査見るに若干下がっているが高水準であるのに違いはない。まぁ今のところ廃校の絶対回避の道は示してないわけだし

私が来たる時に向けて練習できているのも、私にかけなければならない案件が減ってきているから、というのもある

 

あとは託児関係とかに手を入れて卒業後も学園に残りやすくするとかあるけど、議会はこれでしばらく閉会。試験期間もあるしね。次に開かれるのは新学期だ

市民議会の議員の方も研修期間という名目で間を開けてある。実際の地方議員も研修で海外とか行ったりするしね

 

生徒会は残る生徒で夏休み期間中も基本業務を回す。接岸こそ戦車道の都合で期間を制限されるとはいえ、実家に帰るって人も多いからね。仕事も減るから、多少抜けても問題ない。私は8月末に休暇取得予定だけど、それ以外は戦車道と事務作業に専念できる

 

夏休みの前に試験勉強もあるけど、それが効率的に捌けないと生徒会ではやっていけない

 

 

そして各校の試験期間を挟んで7/14。なんとか次の試合、荒地と森ステージでアンツィオ戦が始まることになったのである。他の場所では同時にプラウダが試合をしているらしい。また荷物を陸に上げて点検作業から始める

 

安斎千代美、なんで呼んだろかな

 

 



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第29話 これが本当の



あけおめ。今年も続くんじゃよ





さて私が結局チョビ子と呼んで、向こうがアンチョビだと否定することで始まったアンツィオ戦。正々堂々と戦おうと手を結んだ

とはいえフラッグ車だったウチらはたいした仕事もせずに終わっていた。基本前線出ないなら越したことはない車輌だしね。やられたら終わりだし

 

カルロベローチェとかいう機銃しか乗っけてない戦車はアヒルさんが、他のセモベンテはカバさんとかが対処してくれた

そして秋山ちゃんが調べてくれてたアンツィオの秘密兵器、とはいえ性能はウチのIV号と大差ないP40はあんこうチームが撃って終わり

相手は壊滅的被害を受け、こちらの被害はセモベンテと相討ちになったカバさんだけ、と圧勝を飾った。そのセモベンテになんでも鈴木ちゃんの知り合いが乗ってたらしいけど、まぁいいや

 

一応アンツィオも看板で主力を誤認させるという作戦を取っていたらしいけど、なんで数のコントロールをしてないのかねぇ。そりゃ規定が10輌なのにそれ以上の看板を用意してたらバレるわ

 

こうして見事、大洗女子学園は久々の出場でベスト4に食い込んだのである

 

 

試合終了後、アンツィオの幹部面々がウチらを招待してきた。何かと思ってついていくと、並んでいたのは大量の鍋とフライパン

 

「これは……」

 

「試合が終わったら勝ち負け関係なし!みんなで食べて試合の結果を分かち合うのがアンツィオ流だ!みんな食べてってくれ!」

 

そのチョビ子の掛け声に応じてアンツィオの緑っぽい洗車服に身を包んだメンバーが叫ぶ

 

料理は多様だ。パスタとピッツァはもちろん、しかも種類もトマトソースとかクリームソースとかソースが目立たないものまで色々だ。濃い目のチーズの香りが漂ってくる

 

皆昼過ぎからの試合だったし試合の時の緊張と消耗もあって、喜んで乗っかることにした。私もね

 

しかし……学園都市で維持費稼ぎに屋台やってるって聞いたけど、屋台で安く出してることを考えなくてもうまいよなぁ……他所なら3倍で売ってても利益出るぞ、これ。私じゃ同じ味は無理だ

 

笑顔だねぇ、みんな。アンツィオ側だって誰一人泣いてる人はない。確かに美味いというのもあるけど、それが仮にこの先あっても果たしてウチらは負けた時に同じ顔ができるのか。私には無理だね

 

 

飯がうまいとはいえ、それだけじゃいけないんだな。西住ちゃんには隊の指揮や相手との交流に集中してもらってる。勝たなきゃいけない、相手との交流は控えめな黒森峰との差からこちらに残ろうとする意志をより引き出すためにね

 

だから事務処理は私とかかーしまで受け持ってる。そしてこうして今、大会本部に港までの車輌運搬の手続きに来た

行きに引き上げた時と同様、私が車輌、備品の確認書類を出して許可をもらう。急いでやる必要もないけどウチは自動車部が学園艦にいるから、特に損傷したIII突とかは引き上げないと修繕できない

 

「はい、こちらの現場資料とも照合取れましたので、用意の出来次第引き上げいただいて構いません」

 

「ありがとうございます」

 

帰ったら飯の騒ぎもある程度落ち着いてるだろうし、そしたらかーしまに指揮してもらって撤収かな……

 

「あ」

 

と思いつつ外に出ようとしたところで、めっちゃ重そうなロールをぶら下げた人とぶつかりかけた

 

「お、チ」

 

「アンチョビだ」

 

速攻で名前を呼ぶのを否定された。よっぽどその名前で呼ばれたいらしい

 

「……総帥アンチョビ。君もあれかい?」

 

「いや、だからアンチョビでいいって。外の人からそう呼ばれるのはくすぐったい」

 

「でもそう呼ばれてるんだろう?」

 

「それ知ってるのか……あ、因みに来た理由はそちらの予想通りだ。私たちも今日中に戦車引き揚げたくてね」

 

「そちらもか」

 

向こうが背を向けて手続きに向かおうとすると思いきや、少し立ち止まって話しかけてきた

 

「角谷……君とは少し話してみたかったんだが……」

 

「人目につかないうちにかい?」

 

「そっちの方がいいだろう?」

 

「……乗った。外で待ってる」

 

何を話す気かは知らないが、同じ関東圏の戦車道やってる学園。しかも都市運営委員の一人だ。伝手は広げておこう

 

 

「待たせたな」

 

私よりちょっと時間がかかったようだが、それでも早めに彼女は外に出てきた

 

「いやいや、こっちもそちらが片付け中じゃ動かせないしね。一緒にやったなら手伝うもんさ」

 

その場で立ち尽くしていても、そこまで蒸し暑い時間じゃなくて助かった

 

「そこを分かってくれるのはありがたいな。むしろウチら楽しむのは楽しむんだが、片付け終わるまで集中力が保たないからな……」

 

「そうなのか?」

 

「飯の時間とおやつの時間には正確なんだがなぁ」

 

向こうはちょいと大きめのため息をついた

楽天主義。秋山ちゃんに見せてもらった映像や試合後の選手の様子とかこうした反応から察するに、アンツィオに蔓延しているものはそれだ

金銭面の緩さ、長期的視点の不足。その理由は『なんとかなるさ』、そんな感覚だろう

 

「そりゃ気質ってもんじゃないかい?」

 

「その通り。私じゃそれは変えられないさ」

 

「ふーん……」

 

戦車道においては絶対的カリスマである彼女がそう言うのは彼女が高校で入学しているが故だろうか。それとも他にあるのか……

 

「干し芋いる?」

 

「貰おう」

 

おや?何気にすぐ貰ったね

 

「私はいうほど食べられてないんでな……」

 

結構すぐにかじり始めた

 

「あ、分かるわ。お偉いさんとかと食事したりするとあまり喉通らなくて後々腹減るんだよね」

 

「そうなんだよなぁ……」

 

「ということは……今日お偉いさんがいたかな?」

 

「お前らのところの西住だよ!」

 

「あ、西住ちゃん?」

 

西住流絡みかな

 

「あの天下の黒森峰の副隊長だぞ!しかも1年で。化け物以外どう呼べばいいんだよ!」

 

「あー、確かに」

 

「今日の食事会も隣にいたけど、内心バックバクだったんだぞ!どうやってあんな人材呼んだんだよ!しかも今戦車道やってんだろ。あれがあって

戦車道やっているところはどこだって西住に勧誘かけてるさ。それで結局大洗に来てるってことは、そもそも西住は戦車道やりたくなかったってことだろう?」

 

「……頼んだらやってくれたよ。あとは……いる間にできるだけ負担かけないように、かな。ウチの戦車道は西住ちゃんなしでは回らなくなってるから」

 

「負担かけないように、ねぇ……ということは、話してないんだろう?」

 

「……何をさ」

 

「ま、おおかた今年の戦車道大会で負けたら廃校、ってところじゃないか?」

 

ほう……

 

「どうしてそう思うのさ」

 

「どうもこうも、廃校準備校に指定された学校が急に戦車道に参加して、しかも西住をわざわざ呼んだんだ。本気度から見るに、ただならぬ理由があると考えるのが普通だ」

 

「確かにね……」

 

「私もこうして幹部として戦車道に携わっているから分かるが、戦車道はひたすら金がかかる。ウチも切り詰めに切り詰めて、稼げる限り稼いでなんとか回してるんだ。それを公立の、しかもその中で特段大きいわけじゃない大洗が持つんだ。乾坤一擲の何か、そう考えるには十分すぎる」

 

金か。物価を見るにもっと稼げる気もするが、それは競争の結果のようだし、厳しいのはお互いだろう

 

「あとそれであえて戦車道を選んでいるってところもな。ぶっちゃけ私も詳しいわけじゃないが、それでもない限り大洗が戦車道を作る理由はない

BC自由とかベルヴォールとかが戦車道拡大したとか作ったとかだったら、まぁ裏は大体想像つく。だが内政状況に大きな混乱がない大洗が作るとなったら、相応の理由が必要だろう

本来戦車は市街戦で不利だから、学園都市が持つ意味も薄いしな」

 

相手をよく見てるな。そして内実もほぼスパっと当ててる

 

「……ほぼご名答だよ、アンチョビ」

 

「ならよかったじゃないか。私たちに勝って廃校を逃れる道が見えてるってことだろ」

 

「まぁ……そうだね」

 

その先を見据えると、喜べることばかりじゃないんだけどね

 

「だがな……角谷。私が言うのもなんだが、そのことは西住に伝えといた方がいいんじゃないのか?」

 

「ほう。西住ちゃんに負担をかけたくない。それが間違いかい?」

 

「いや、それは正解だろう。そうじゃなきゃ西住はあんな笑顔を見せることはあるまい。大洗で戦車道楽しんでるんだろうな、とは思う

だが……西住が何から逃れてそっちに来たから知ってるよな?」

 

「黒森峰と、西住流……」

 

「どちらも『負けが許されない』ところからだ。だからこそ負けそうな事態になった時に『負けてもいい』と考えかねないんじゃないか?それは困るだろう?」

 

「勝ちにはそこそこ貪欲なように見えるけどね、西住ちゃん」

 

「だがそれに……『仲間の無事』がかかったらどうだ?」

 

仲間の無事。西住ちゃんが無線で真っ先に確認すること

頭の中で去年の全国大会の決勝の映像が駆け巡る

確かにどこかのチームが無事でいられない。それとを天秤に乗せられたら、西住ちゃんは勝ちを捨てる采配を取るだろう。それは……許していいのか?許さないべきなのか?

 

「ま、そこは私が介入し過ぎることでもないかな。それにしても、この干し芋美味いな。なんかイタリア料理にアレンジで使っても面白そうだ」

 

「干し芋がかい?あまりパスタにもピッツァにものってるイメージ湧かないけどね」

 

「なにおぅ。本来のイタリアンは素材本来の味を活かすスタイルだぞ。この干し芋こそまさに素材の味だろう」

 

そうなのか?結構ソースとか使うイメージあるわ

 

「実際スイーツパスタとかもあるからな。この渇き具合を戻して使うか、それともこれを活かして潰したりして使うか、いやそれだと食感を活かせないな……悩むところだ」

 

「できたら食べさしてくれる?」

 

「ああ、もちろんだ。そしてお返しと言ってはなんだが……」

 

背負ってたカバンから瓶と紙コップを取り出す

 

「ぶどうジュース一杯どうだ?」

 

「ぶどうジュース?」

 

「ぶどうジュース」

 

色的に紫っぽいから、まぁ間違いない

 

と思っていた

 

「しっっっっっっっぶ!」

 

口の中の水分が一斉に渋みに置き換えられ、喉に張り付く。干し芋食べなれてるけどこれはレベルとベクトルが違う

 

「あ、それフルボトルだったか」

 

「いや、てかこれワ」

 

「ぶどうジュース」

 

アッハイ

 

「こっちなら大丈夫じゃないか?軽いやつにしたけど」

 

「ま、少しなら……」

 

そして帰るまでに追加で2杯もらっていた。呑みやすかったんだもん

 

しかし西住ちゃんに話すか……片付けを進めながらも私の思案は止まる様子を見せなかった

 

 



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第30話 狭間

 

 

さて、勝った以上考えるべきは次のプラウダだ。私たちが試合をした同じ日に二回戦進出を決めた。そして私たちが試合をするのはこんな時期にだが真冬に近いところだ。なんと北緯60度を超えるという。雪だって降るところだってさ

戻ってくるのにも時間がかかるし、寒すぎるところや暑すぎるところは単純にエンジンに負担がかかる。やっぱ抽選って糞だわ

 

 

西の黒森峰に相対する東国の雄プラウダの強みはその生産力の高さだ。資本力こそサンダースに敵わないが、それを中央、プラウダ共産党の統制で有効活用している、というのが名目だ

実際学園都市の中では重化学工業の割合が高いし、企業もプラウダが介入する企業との合弁しか認められない

だが何が真にプラウダを支えているか

 

移民の受け入れとそれによる賃金の安さだ

 

そもそもがロシア革命やその後の大飢饉からの亡命者でできた学園だからね。その歴史の都合上移民を断ることは難しい。日本本国よりも難民受け入れが多いって問題になるくらいだし

で、学園都市、自治都市であることを理由に国の命令と関係なく人件費を下げ、かわりに高齢年金とか食糧支援とかの保障を付けて心を掴んでいるわけさ。その分製品の質は低いって言われるけど。高校も学費はなしだし、その為特に今の政権とは仲が悪い

 

戦車道で黒森峰に負け始めたきっかけだって出先機関を青森の三厩に置こうとして政府の反対くらって、それ以降都市防衛に予算振り分けるようになったからだって聞くし

三厩は青函トンネルの本州側の出入り口だからね。政府も北海道物流を左右されることを嫌ったんでしょ

 

 

いずれにせよ上からの支援もあって生徒の団結心は強いし、上意下逹システムが戦車道でも完備されてる。サンダースみたいな切り崩しは効かない

おまけに今の戦車道のトップはエカチェリーナ、通称カチューシャ。去年黒森峰を撃破し黒森峰の10連覇を阻止した英雄だ。それだけに上からも下からも信任も厚い

さらにウチらは人民と敵対しているから、話もつけづらい。聖グロはそこそこ仲良いらしいんだけどね

彼女が破った西住ちゃんが率いている、そこから油断してもらうしかないかな。この弱点も予想でしかないけどさ

 

 

前回大会優勝校プラウダ。そこと戦うことは私たちにとって喜ばしいことではない。もちろん相手が強いから負ける可能性が高いというのも要素の一つだし、その試合に最大火力のポルシェティーガーを投入できないのも一つ

ここら辺はどうしようもないからあまり考えないようにしてる

 

「そこそこ戦力の補強はできたな」

 

かーしまがこう言っていたように、マシにはなってきてるからね

 

だがどうにかしなけりゃいけない問題が一つ。それは風紀委員のそど子とその部下二人、後藤ちゃんと金春ちゃんの参加と、彼女らの乗るB1bisがお披露目となった練習前で如実に示された

後ついでにIV号も拾った砲身で強化したってさ

 

「次はいよいよ準決勝!しかも相手は去年の優勝校、プラウダ学園だ!絶対に勝つぞ!負けたら終わりなんだからな!」

 

「どうしてですか?」

 

「負けても次があるじゃないですか」

 

「相手は去年の優勝校だし」

 

「そーそー、胸を借りるようなつもりで……」

 

つまり敢闘精神の不足。向上心の限界だ。ほぼ初心者が集結したこのチームがいきなり全国大会ベスト4。本来なら小説の帯にでも書かれそうな内容だ

だから上を目指す合理的な理由がない限り、もはや上を目指す動機がなくなってきているのである。これで良い、今くらいで良いってね

ちなみに最初のかーしまの発言は私が許可を出してる。負けたら『この大会では』終わりって意味だってゴリ押せるからね。それでいて皆に上を目指させる。ギリギリなのを察した上で、だった

 

「それではダメなんだ!」

 

だからかーしまのこの一言は余計でもあったし、必要でもあった

確かに皆に少なくとも決勝まで行かなきゃならない理由を隠していることを、遠回しとはいえ知らせた点で良いわけじゃない。だがかといって、このまま隠し通せるものでもないことを教えたのもこの一言だった

 

倉庫の中は困惑、疑念、畏怖などから静寂で満たされる。誰も、口を開かない

人によっては予想できているのかもしれないね。だけどそれは聞きたくない話。聞き直してウチらの誰かが語るのを聞きたくないのか

 

「勝たなきゃダメなんだよね」

 

それを破った私の言葉は、かーしまの発言を軽く裏付けるものでもあり、私自身に必要なことを思い出させるものでもあった

それ以上の追求を避けたかったってのもあるけど

 

「西住、指揮」

 

「あ、はい。練習、開始します!」

 

練習自体は大きな問題もなく始まった。まずは試合で頑張る為に練習する。その点に関しては共有できている。上達という結果も今のところついてきてるし

だけど私にはさっきの自分の言葉が繰り返される。そして私の肩にのしかかるものを、恥ずかしい話だが久しぶりに思い起こさせた

 

「西住ちゃん。後で大事な話があるから、生徒会室来て」

 

開始前にそう言わざるを得ない身の上だったのだ、と。これはもっと早く行うべきだったし、なんだったら全員に言うのが正解かもしれない

 

 

「やぁやぁよく来たね」

 

もう航路はかなり北へと進めていた。もう外でチラついているのは雪だ。こんな無茶ができるのも帰省してる人が多いからだね。だから私たちは7月の末である今この艦橋の上でコタツを囲むなんてジョークができる

窓を開けて寒くしておいて、んで久々に引っ張り出したってわけさ。海風入れたようなもんだからさ

 

「あ、はい」

 

「いや〜、寒くなってきたねぇ〜」

 

「北緯50度を超えましたからね」

 

それシベリアだよシベリア。もう西に横たわってんのはサハリン北部だってさ。そしてまだ北だよ?

 

「次の会場は北ですもんね」

 

「全く、会場をルーレットで決めるのはやめてほしい」

 

同意。ま、ルーレット回してダーツでも当ててんのかもね。こっちには通達が来るだけだからさ

 

「あの、お話って……」

 

「まぁまぁあんこう鍋でも食べて」

 

まだ、まだだ

 

「会長の作るアンコウ鍋は絶品なのよ」

 

「まず最初にね、あん肝をよく炒めるとこから、そこに味噌を入れて」

 

「いや、鍋の作り方はいいですから」

 

大洗人になって貰うからには、知っておいてもいいと思うんだけど、な

 

「炬燵、熱くない?」

 

「あ、大丈夫です……」

 

 

 

「言えなかったじゃないですか」

 

3人が囲む空になった鍋が蛍光灯の光を残す。そして後は、水かけ祭りとかハロウィンとかの写真

楽しかった『あの頃』の写真

私がまだ政治家はおろか官僚にもなりきれていなかった時のもの

 

「これでいいんだよ」

 

いや、よくはない。それは何より自分がよくわかっていなければならないはずだ

 

「転校してきたばかりで、重荷背負わせるのもなんだし」

 

「ですが……」

 

「西住ちゃんには事実を知って萎縮するより、伸び伸び試合して欲しいからさ」

 

それは……理由として、弱い。そうであって欲しいのは、我が儘だ

 

「お茶……入れましょうか」

 

「はぁ……終わりか」

 

「まだ分かんないよ」

 

分からないのだ。そしてそれが、何よりの問題なのだ

 

「会長、明日朝これの残り食べて行きます?」

 

「お、いいねぇ。ご飯パックのが冷蔵庫にあったっしょ、たしか」

 

「卵もありますし、ちょうどいいでしょうね」

 

「こんだけ寒けりゃ、明日まで外に出しといても腐んないんじゃない?」

 

「逆に凍ってますよ……」

 

炬燵にくるまって、小山が持ってきたお茶を含む。口に付いた油とコラーゲンをゆっくりと混ぜて流す

 

「会長」

 

「かーしま、どうした?」

 

 

 

「貴女は今、何者ですか?」

 

 

 

湯呑みを口から外す。ここまで一瞬とはいえ茫然とさせられるのも久々だね

 

「ほう……かーしま。言うじゃないか」

 

「西住には、言うべきでした。彼女が負けてもいいと言い出せば、我々は誰一人としてその流れを変えることはできません。だからこそ……西住は優勝を目指してもらわなくちゃいけないんです」

 

言い返せない。それが正しいからだ

 

「そしてその優勝にかかっているのは、この学園都市の未来そのものです。その一人のことに腐心して3万人を未来を変えるのです。だからこそ私は河嶋家の一人としても、生徒会の広報としても、そして戦車道の副隊長としても、西住に言うべきだと考えます」

 

「だったら私が言わないのを無視して言ったらよかったんじゃない?」

 

「私は生徒会では会長の下です。そして廃校云々はまず学園都市を運営する生徒会に絡む話。会長から話はまず進めるべきだと思案しました」

 

かーしまにしては本当に理路整然としている

 

 

「会長。いえ、杏」

 

あんず。その3文字が小山から放たれた

 

「小山……しばらくぶりに聞いたよ、それ」

 

「情が……移りましたか?」

 

そう呼んできたということは、今の私が生徒会長として、じゃないということになる。だとしたら……

 

「……そうだね。私は『彼女の友人の一人』として、このまま楽しそうに試合して欲しいんだ

見てるだろ?前のアンツィオ戦を終わった後、その前のサンダース戦が終わった後。西住ちゃん、すっごくいい笑顔してたでしょ

試合だけじゃなくてもいい。練習中でもいい。整備中だっていい。なんなら武部ちゃんとか秋山ちゃん達と一緒に帰っている時だっていいさ。そんな時に悲しそうな顔をされるのが、追い詰められた顔をされるのが、ウチらの戦車道のあるべき道かい?」

 

「そう……ですね」

 

「あれを護りたい、というのは、横暴かな」

 

「会長、貴女はもう……西住を『駒』としては見れない、と」

 

駒。そう、本来の西住ちゃんの役目はそれだった。戦車道で優勝し、学園都市を残すための、起死回生の駒。そして駒のまま扱うしかない、かつてはそう誓った

 

「……私が、言いましょう。会長でできないのならば、泥をかぶるべきは下です」

 

「かーしま、待て。このことを引っ張りたいのは、それだけじゃないさ」

 

一応だけどね

 

「杏、何かあるの?」

 

「万が一の話さ。いや、実際としてはかなりの割合あるんだろうけど。そのことを話しておいた上で負けたら……どう足掻いてもその責任は西住ちゃんに乗っかる」

 

それはどれだけ擁護しても避けられない。仮に西住ちゃんだけに知らせたら、逆に自分で背負い込むだろう。かつて実際に責任をぶつけられたことがあるから尚更さ

 

「考えたくはありませんが……そ、それは言わなくても廃校という結末は変わらないのでは?」

 

「関連させなければ、西住ちゃんは背負わなくて済む。生徒会の努力不足だけでね」

 

これも西住ちゃんにより良く、という話だ。結局駒として考えられないことを何より証明している

 

「負けた後西住ちゃんは黒森峰に復帰、で話は終わらないだろうさ。知らない方が向こうにとっちゃ幸せだよ」

 

「た、確かにそうですが……しかし……」

 

そうやって即座に否定してこないあたり、程度の差はあれどみんな同類だね

 

「杏。やっぱり杏は官僚だね」

 

「私は追い込まれるか言われなきゃできない、それで精一杯の根っからの官僚さ。政治家はやっぱり向いてないよ」

 

少し冷めかけたお茶を一気に流し込む。もう油だなんだは気にする必要もない

 

「だけど……かーしまの言うことがもっともだっていうのはわかってるさ。わかっているし、私はそれに応じて決断しなきゃいけない

だからかーしま。もし情勢が悪くなってチームの雰囲気や西住ちゃんが負けてもいいとか言い出したら……すまない、言ってくれ……

もっとも、ちゃんと言える頃には手遅れかもしれないけど……それ以上は無理だ」

 

「……わかりました」

 

目線を落とした先には、またあの写真だ。魔法使いの私に小山のティンカーベル。そしてかーしまのジャック・オー・ランタン

 

この学園も、私の心も、天国と地獄の狭間を彷徨っている

 

 




まーだプラウダ戦始まってないんですがそれは……



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第31話 告白

 

 

着いた場所では、すでに積雪が見られた。7月末にである。寒くなるからと皆マフラー、手袋はもちろん、ヒートテックや厚手のコートを久々に引っ張り出して持参している

私も倉庫から久々に引っ張り出した雪靴を履いてきた

 

「寒ッ!マジ寒いんだけど!」

 

降り立った人からこんな声が聞こえるのもなんら不思議はない

 

「III突履帯にはウィンターゲーテを。ラジエーターには不凍液を」

 

「はい」

 

一応対策はしてきてる。西住ちゃんだって戦ったことがあるし、黒森峰ならどこよりも対策を練ってきた相手だろう

 

「いきなり試合で大変だと思いますけど、落ち着いて頑張ってくださいね」

 

だがこちらはなんとか1輌増やしただけの計6輌。相手はこの準決勝から15輌。比率的にはむしろ一層不利なんだよな

雪合戦したり雪像作ったりしている今が今日で一番幸せだ

 

 

その準備が進められる中、一台の車が雪煙を立てて近くに止まった

 

「誰?」

 

「あれは……プラウダ高校の隊長と副隊長」

 

「地吹雪のカチューシャとブリザードのノンナですね」

 

胸を張って護衛も付けずに車から降り立ってこちらに向かってくる

少し離れたところで立ち止まるや否や、小さい方、カチューシャが唐突に笑い始めた

 

「このカチューシャを笑わせるためにこんな戦車用意したのね、ね!」

 

悪かったなこんちくしょう

その言葉は喉よりさらに奥に封じておく

 

「やぁやぁカチューシャ。よろしく、生徒会長の角谷だ」

 

ゆーてお前だって一介の戦車道隊長でしかないだろうが。陸上警備隊を自前で保有しているプラウダにとっちゃそもそもはそんな大した地位じゃないだろう

 

手を差し出したが、握ってこようとしない。プラウダ生は握手も忘れたか、と思いたくなったときには、もうその相手は隣の者の肩の上にいた

 

「貴女たちはすべてがカチューシャより下なの。戦車も技術も身長もね!」

 

いや最後は違うやろ

 

「肩車しただけじゃ……」

 

「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね!粛清してやる!行くわよ、ノンナ!」

 

そんな物騒な言葉はちゃんと口が回るようになってから言いな。言い返せるならそれが一番的確だ

 

「あら、西住流」

 

去り際にやっとこさ西住ちゃんを見つけたらしい

 

「去年はありがとう。貴女のおかげで優勝できたわ。今年もよろしく。じゃーねー、ピロシキ〜」

 

「ダスヴィダーニャ」

 

下がプラウダ式の正しい返事をして帰っていった。ピロシキってなんだよ

 

ほうほう。ウチのかーしまと西住ちゃんを侮辱してくとはいい度胸だねぇ。もしこれが手の込んだ向こうの作戦なら、今まさに術中にハマったさ

 

あのお転婆な小学生には天下一の恥辱を与えようかね。こんな見るからに全力で劣っているチーム相手に負ける、というね

 

 

かといって西住ちゃんの策に逆らうつもりはなかった。フラッグを叩けば勝ちなのだ。勝つしかないからこそ、頼るしかなかったのだ

 

だが皆は違った。西住ちゃんが相手の出方を見つつ長期戦を目論んでいたのに対し、カバさん、今回フラッグを変えてもらったアヒルさんを中心に速攻論が幅をきかせたのだ

 

西住ちゃんの戦法もわかる。さっきの言動から見てもなんならウチらを挑発しているという可能性もあるし、こちらの策は看破されていると見てその上で動く。なんなら向こうの作戦を利用して勝つ。それが今までのウチのやり方だった

 

しかし速攻論も分からないわけじゃない。まず状況は尽くプラウダ有利。気候もプラウダがよく航海しているところだし、雪上も向こうにとっちゃなれたもの。時間が経てば寒さに弱いこちらに不利だし、戦力を漸減させられると数的不利も膨らむ

あのカチューシャの言動からして少なくとも心のどこかで私たちを舐めてるのは事実。仮に最初は思ってなくて演技だったとしても、口に出してしまえば多少は心理状況に影響するものだ

だったら敵フラッグに全車輌で斬り込む。それも一つの策ではあった

 

寒いのは誰だって嫌である。試合を早く終わらせられるに越したことはない。そして残りは勢いには乗ってくるウサギさんとよく分かってないカモさん

あんこうとカメさん以外が速攻論支持に傾くまであまり時間はかからなかった

 

 

私はどうするか。まず避けたいのはチームの分断だ。ただでさえ数が少ないのに内部に不和があって勝てるはずもない

ここで言えれば纏めやすいのだが、それは辞めた。だったらカメさんチームはどちらに乗るか、その答えは政治家としての選択っぽくなった

 

「よし、これで決まりだな」

 

「勢いも大切ですもんね」

 

かーしまと小山も私の判断と同様だった。皆の士気は速攻論ならかなりの高さを維持できる。逆にここで西住ちゃんの策を通せば、気合が削がれる

そして気合が削がれたときに何が起こるか。魔物が目を覚ます。『ベスト4でいいや』という魔物が

 

「……わかりました。一気に攻めます」

 

西住ちゃんも乗った。そして納得した

 

「孫子も言ってるしな。『兵は拙速を聞くも、未だ功久しきを賭ざるなり』。だらだら戦うのは国家国民のために良くはない。戦いはちゃちゃっと集中してやるもんだよ」

 

「ね、西住ちゃん」

 

「はい!相手は強敵ですが、頑張りましょう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

と思っていた時期が私にもありました。うーん、孫子を生半可に学んだのはやっぱり悪かったかな……

 

ハイ、ウチの現状。出口が一つの建物の中に全車輌います。外ではプラウダがその入口向けて砲口を突きつけてるし、おまけにIII突は履帯と転輪やられてる

 

うーん、実にテキスト通り引っかかったよね、ウチら。フラッグ車をやれば勝てる。それ故にフラッグ車を追跡してたら、周り全部囲まれてここに逃げ込む羽目になった

 

状況は最悪だ。打って出る力はないし、このまま時間が過ぎればもちろん向こう優位が増す一方。寒さに強いのは向こうだしね

 

敵さんには火力高いのもいそうだし、こんなコンクリの建物、砲弾撃ち込まれたらいつ屋根が落っこちてきても驚かないよ

そしてそれで戦車が、こちらのフラッグ車が走行不能になったら相手の勝ちだ去年プラウダを優勝に導いたカチューシャだ。それくらいの事はしてきてもおかしくない

だが奇跡的に建物が砲撃で潰れることはなかった

 

 

「カチューシャ隊長の伝令を持ってまいりました」

 

砲撃が止んで訳もわからず頭を出し始めた大洗の面々に、プラウダの2人の使者は告げた

 

「『降伏しなさい。全員土下座すれば許してやる』、だそうです」

 

「なんだと……Nuts」

 

かーしま、お前もないだろ

 

「隊長ば心が広いので3時間は待ってやる、と仰っています。では」

 

頭を下げて帰っていった。白旗持ってたからそのままとち狂って降伏してくんないかなと思ったけど、無理だわな

 

3時間。はて、なんのための時間かな?こちらが低体温症を発症するか?それとも燃料切れか?はたまた他の何かか?

 

 

「誰が土下座なんかするか!」

 

「全員自分より身長を低くしたいんだな」

 

「徹底抗戦だ」

 

「戦い抜きましょう」

 

私の甘い考えは、この時点まではなんとか保てていた

カチューシャに提示された屈辱的条件。それを跳ね返すのは皆にとって、どうしても勝たねばならない疑問云々以前に直近の課題として避けねばならないものだった。それすら潰えるほど時間と体力と継戦能力の不利を悟ってない

 

「でも、こんなに囲まれていては……」

 

しかしそうでないものが一人。それが隊長、戦術家の西住ちゃんだった

その判断ももっともだ。脱出しようとした瞬間撃ち抜こうとしてくるのは素人目に見えてる

 

「それに、戦ったら怪我人が出るかも」

 

怪我人、か。本来ウチらも気にかけるべきだが、西住ちゃんにとってはそれ以上に大きなポイントとせざるを得ないのだろう。さっき建物内で砲撃受けたときの建物の軋みとかも助長してそうだ

これが彼女だけならまだ良かった。西住ちゃんが言ってるとはいえ、さっきと同じく皆が言い続ければまた折れる。だがここで向こうに大きすぎるフォローが入った

 

「みほさんの指示に従います」

 

「私も!土下座ぐらいしたっていいよ」

 

「私もです!」

 

「準決勝まで来ただけでも上出来だ。無理をするな」

 

あんこうチームの残りのメンバーがこの動きに同調したのだ。彼女らからしたら西住ちゃんを支持しない理由はないだろう。冷泉ちゃんが言うことも学園廃校を知らないのだから妥当なのだ

 

 

「だめだッ!」

 

それに抗う声。それを許したらもう未来すら潰えかねん人のだ

 

「絶対に負けるわけにはいかん!徹底抗戦だ!」

 

実際私も役目からしたらそう主張しなければならないのだ。が、私は状況を見つめるフリをして何も言えずにいた

勝つしかない。戦うしかない。だが最終的に発言するのを、私は今ここに至ってすら拒否していた

 

「でも……」

 

「勝つんだ!絶対に勝つんだ!勝たないとダメなんだ!」

 

「どうしてそんなに……初めて出場して、ここまで来ただけでも凄いと思います。戦車道は戦争じゃありません勝ち負けより大事なものがあるはずです」

 

「勝つ以外の何が大事なんだ!」

 

勝たないとダメ、それはその通りだ。しかしそれは今のウチらにとっての論理だ。今の西住ちゃんにとって、その言葉はまずい

勝つ以外の何が。それを求めた西住ちゃんには掛けてはならない

 

「私……この学校に来て、みんなと出会って、初めて戦車道の楽しさを知りました。この学校も戦車道も大好きになりました。だからこの気持ちを大事にしたまま、この大会を終わりたいんです」

 

こう言われたらこちらからはどうしたらいい。この学校も大事と言われて、私たちは他のあらゆる手段のどれを使って言い返したらいい

この言葉を絶対的義務で否定することは、西住ちゃんに同じ茨を踏めと告げるのと同義だ。だが……

 

かーしまが西住ちゃんの話の最中、顔を少しこちらに向けた。懇願、許可の要請だった

もはや告げるしかない。その目に対し微かに頷いて応じた

 

「何を言っている……」

 

これを私から告げないのだから、私は悪い人間だ

 

「負けたら我が校はなくなるんだぞ!」

 

 

 

「学校が……なくなる?」

 

呆然とした目が揃う。一部は僅かな希望をこちらに託そうとする

 

「河嶋の言う通りだ」

 

が、拒むことしかできない

それが事実。私が決めたたった一つの道なのだから

 

「この全国大会で優勝しなければ……我が校は廃校になる」

 

 



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