アベンジャーズーホープ・オブ・レイー (白琳)
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キャラ紹介
オリ主・オリキャラ紹介(ネタバレ注意!)


自分的にも読者的にも便利かなと思い、作ってみました!キャラの情報に関しては話が進んでく度に書き足していきます。


レイ/スウァーノ・エイナム

性別:男性

年齢:20代~30代

種族:地球人

本作の主人公。突然の記憶喪失により自分の名前以外の記憶を失った男。いつの間にか使えるようになっていた万能光術(エネルギー・アーツ)で『領域外のエネルギー』という意味を持つアウトエナジー(S.H.I.E.L.D.が命名)を操り、光弾や光線を撃ったり、武器に変えたりして戦う。

ミア・トレスファーとは自身が傭兵だった頃からの知り合いである。その時点で恋人関係だったが記憶喪失となった事で彼女を忘れ、再会した際には忘れられていた事を恨んだミアに襲われるも和解、後に再び恋人関係となる。

 

『アベンジャーズ』までの経歴

少年期:住んでいた町が紛争に巻き込まれ、両親を失う。その後、孤児院に入るが紛争時に使われた兵器の開発者、トニー・スタークに仕返しをする為、力をつけようと孤児院を抜ける。

(参考として少年期は6~14歳まで)

 

青年期:傭兵として世界中を渡り歩く。その際にミア・トレスファーと出会い、後に恋人関係となる。

 

2008年:何者かにソウル・ストーンの力を与えられ、記憶喪失と共に万能光術(エネルギー・アーツ)を手に入れる。

その後、1年間は傭兵として各地で争いを収めつつ、自身の過去を調べる。

 

2009年:フューリーと出会い、S.H.I.E.L.D.に加入。特殊エージェントとして活動。

その半年後、任務中にウィンター・ソルジャーと初対面。

 

2011年:S.H.I.E.L.D.を脱退し、再び記憶を探る旅に出る。

 

2012年:ニューヨークにてアベンジャーズのメンバーとして参戦。

 

能力

万能光術(エネルギー・アーツ)

スウァーノが持つアウトエナジーを操る能力の総称。アウトエナジーの放出・吸収、放出を利用した空中飛行、実体のある物へと変化など使い方は多種多様。

過去に何者かにインフィニティ・ストーンの一つ、ソウル・ストーンを押し当てられた結果、力が流れ込んだ事で得た力。その代償に、名前以外の記憶を失ってしまった。

アウトエナジー

スウァーノが操る強力なエネルギー。基本は体力や気力などと引き換えに生み出されるが、過度な使用を続けると体力や気力を根こそぎ奪われる事になると『インフィニティ・ウォー』で判明する。

光線や光弾などとして放っても強く、盾や剣、槍などに変化させても本物以上の強度や切れ味を誇る。

 

エナジー・アーマー

『エイジ・オブ・ウルトロン』にて使われたアウトエナジーを全身に纏うというやり方をその後、進化させた事で生まれたアーマー。だが実際にはスウァーノがアウトエナジーと化してアーマーと一体化している為、中にスウァーノはおらずアーマーとは言えない。

『インフィニティ・ウォー』時点ではコントロールがうまくいっておらず、異常な量のアウトエナジーが放出されている。その結果、パワー・ストーンの攻撃をも防げるバリアを展開できた。しかし故にアウトエナジーの消費が凄まじく、肉体が変化したアウトエナジーを消費して痛みと疲労感を伴う事になった。

エナジー・ムーブ

エナジー・アーマーをアウトエナジーに戻し、粒子となって光速並の速さで移動できる。辿り着いた場所で再びアーマーへと変え、相手が気付く前に姿を現すと共に攻撃を行う事が可能。

エナジー・バースト

周囲に放出されているアウトエナジーを手に集め、強く輝き出した瞬間に殴る事でアウトエナジーが爆発される。『インフィニティ・ウォー』では右手で放ったが、左手でも可能。

 

 

 

装備

・戦闘スーツ

登場作品:『アベンジャーズ』『ウィンター・ソルジャー』『インフィニティ・ウォー』

S.H.I.E.L.D.の特殊エージェント時代から使用してるスーツ。レイ・アーマー開発後は使用していなかったが、犯罪者として逃亡する前に基地から持ち出し、二年間は着用して戦っていた。

 

・レイ・アーマー

マーク1

登場作品:『エイジ・オブ・ウルトロン』

トニー・スタークにより製作されたスウァーノ専用のアーマー。アウトエナジーを増幅する『ブーストラル』を両手に搭載しており、『ハイ・エナジーレイ』という強力な光線を撃つ事が可能。しかしこの時点では撃つ際に隙が多い事が難点とされてる(しかし直撃を免れたウルトロンでも片手を失う怪我を負っている)。その他、肩に追尾型のミサイル、足裏と背部にスラスターが装備されている。

マーク2

登場作品:『シビル・ウォー』

シビル・ウォーで使用。マーク1よりも『ハイ・エナジーレイ』を撃つ際に隙がなくなり、全体的に強化がされている。マーク1に装備されていたミサイルは排除されたのか、使用していない。スーツケースへと変形させ、持ち運ぶ事が可能。

落下するローディを救出する為に無理をし、最終的に全機能が停止した為に脱ぎ捨てている。

 

ヴィブラニウム・ブーストラル・ガントレット/V・B・ガントレット

登場作品:『インフィニティ・ウォー』

ワカンダの王女にして科学者であるシュリによって開発された武器。ヴィブラニウム製になっている他、ブラックパンサースーツの機能を応用し、アウトエナジーを使用する度に微弱な衝撃を吸収して衝撃波として放つ事が可能。だがアウトライダーズとの激闘の末に戦闘中に限界が訪れ、上記の機能が停止してしまう。

使用してる素材がヴィブラニウムの為、そのまま殴打などにも使える。

 

 

ミア・トレスファー

性別:女性

年齢:20代~30代

種族:地球人

オリヒロイン。かつてのスウァーノと同じく傭兵であり、様々な戦争・紛争に関わった上に『たった一人で傭兵数十人分の活躍をしている女性』という特徴を持っている為にS.H.I.E.L.D.から目をつけられていた。ただしスウァーノを探す為に『傭兵』という肩書きは邪魔という事で辞めている。

アベンジャーズ加入後のスウァーノと再会した際には、スウァーノが記憶を失った事を知らず、初めは忘れられた事に怒っていたが、知ってからは和解し、記憶を思い出す手伝いをしている。

ヒドラとの事件の前にスウァーノと恋人関係へとなっている。また、ウルトロンとの戦いの後にサムやローディ達と共にアベンジャーズに加入した。

 

装備

・戦闘スーツ

登場作品:『エイジ・オブ・ウルトロン』『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』

スタークが元々の戦闘スーツを元に強化開発したスーツ。反重力ブーツにより飛行する事が可能。

 

・アーム付きワイヤー

登場作品:『レイ・オリジンストーリー』『エイジ・オブ・ウルトロン』『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』

両手首に装着した腕輪から発射されるワイヤー。発射と同時に先端にアームが構築され、物を掴む事が可能。スターク製のものは高圧電流が流れる仕様になっている。

 

・セルファロー

登場作品:『レイ・オリジンストーリー』『エイジ・オブ・ウルトロン』『シビル・ウォー』『インフィニティ・ウォー』

スタークにより所持していた多節棍が強化された武器。元々の物は二つの棒を合体させる必要があったが、スターク製のものは折り畳み式になり、よりコンパクトになっている。

 

 

ゼロ

性別:?

年齢:?

種族:?

インフィニティ・ウォー終盤にてフューリーが無線機で連絡をした人物。しかしフューリーの呼び掛けに答える事はなかった。

 

 

MCUに未登場のマーベルキャラ

クリムゾン・ダイナモ

登場作品:『ウィンター・ソルジャー』

オリキャラではないものの、設定の違いや映画には出演していない為に記載。S.H.I.E.L.D.がトニー・スタークのハルクバスターとは別に対ハルク用兵器として開発していたアーマー。

現代で行動を開始したヒドラに奪われるが、スウァーノとの戦闘の末に機能停止し、装着者も死亡した。

 

その他

●ブラック・オーダーのオリジナル設定

エボニー・マウ

・元々は文明一つを研究の為だけに滅ぼした科学者。

・下記の通り、カル・オブシディアンに改造を施して用心棒へと変えた。

・唸り声しか上げないカル・オブシディアンの言葉が理解できる。

ダーク・ネクロマンシー

オリジナル能力。種族内で禁じられていた闇魔術の一つであり、死者をゾンビへと変えて使役する魔術。数百という数を操る事ができ、本編ではアスガルド人やザンダー人の死体を用いた。ゾンビの体は生前がいくら屈強な体でも脆くなってしまうものの、既に死んでいる為に致死性の攻撃でもなかなか倒れない。

 

カル・オブシディアン

・元々はサノスを賞金首として狙う賞金稼ぎだったが、捕らわれてエボニー・マウにより改造を施されて用心棒へとなった。

エロジオン・ウェポン・ロッド

オリジナル武器。先端のトランスフォーム・ブレードを外し、棒の先端から伸ばすコントロール・ケーブルで他の物体と合体させてより協力な武器に変える事が可能。また、合体した物体に備わる機能をケーブルを通じて使用者の思い通りに使用できる。

 

プロキシマ・ミッドナイト

・元々はとある惑星の闘技場で“最強の女戦士“として名を広め、それを知ったサノスとの決闘の末に敗れて彼への服従を誓った。

ライトニング・ボルト

オリジナル能力。槍の先端から撃つ稲妻状の光線。撃った後に向きをプロキシマの思い通りに変えられるが、攻撃を受けると見当違いな方向に曲がってしまう。

カース・バーサーカー

オリジナル能力。プロキシマの種族が持つ能力であり、自身が愛用する武器を腹部に突き刺して呪文を唱える事で獣の如き力を得る代わりに知能が大きく低下する(敵と味方の判別が付かなくなる、ほとんど唸り声しか喋らないなど)。また、使用者の魂は悲しみや怒りに囚われて永遠に苦しむ事となる。一度この姿になると元には戻れなくなる事からサノスからは使用を禁止されている。

 

コーヴァス・グレイブ

・サノスが壊滅させた組織のリーダーだったが、生き残った部下を裏切ってサノスの部下となった。

シャドウ・インベーション

オリジナル能力。自身の影の中に入り込み、地面はもちろん壁や天井になど自由自在に動く事が可能。影の中にいる間はセンサーなどに感知されず、相手に気付かれない。

シャドウ・アバター

オリジナル能力。自身の影の中から出現した分身。一体一体が本物と変わらない力を持ち、本物が持つ武器も持っている。影の中に戻る事は可能だが、倒された場合はそのまま死体として残る。本編では最大三体まで出しているが、限界があるかどうかは不明。




令和2年6/6、その他→MCUに未登場のマーベルキャラに変更。新たにその他を作成。


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アベンジャーズ・アッセンブルド
ニューヨークの決戦


アベンジャーズの二次創作です。MARVELの映画が好きで執筆を始めましたが、キャラの口調や性格に違和感などを感じましたらすみません。


スウァーノ・エイナムという青年がいた。彼は記憶喪失で自身の名前以外の事を何も覚えておらず、路上で暮らしながら日々を過ごしていた。

そんな彼はある日、謎の力が自分の体に宿っている事に気付いた。

 

エネルギーの吸収・放出。

エネルギーの放出を利用した空中飛行。

エネルギーを体に纏う。

エネルギーを実体のある形に変える。

 

様々な事が出来るこの力を独自に万能光術(エネルギー・アーツ)と名付けたスウァーノは、何か役に立ちたいと思い、紛争地域に出向いては争いを力を用いて収めていた。

その存在に目を留めたS.H.I.E.L.D.の長官、ニック・フューリーに誘われたスウァーノは特殊エージェントとして、他のエージェント達と共に平和の為に様々な戦場へと飛び込んでいった。

 

それから2年の月日が経ち──────

 

「……本当に行くのか?」

「ああ。俺は知りたいんだよ、自分の事を」

 

スウァーノはS.H.I.E.L.D.を去った。自分がどこの誰で、どうして記憶を失ったのか。そして何故このような力を持っているのか────それを知る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹っ飛べ!」

 

俺は迫ってくる宇宙人達に大きなエネルギー弾を放ち、吹き飛ばしていった。数は多いものの、どうやら一体一体は弱いらしく倒れた奴は起き上がってこない。

 

「ほら、早く逃げろ!」

「は、はい!」

「ありがとう、助かった!」

 

背後に隠れていた市民達に逃げるよう指示し、俺は空中飛行で別の場所へと向かった。

 

「くそっ……何なんだ、こいつら!?」

 

世界をいくら飛び回っても情報が集まらない事に苛立ち、気分転換にとニューヨークへ立ち寄ってみればこの惨状だ。

カフェでゆっくりしていたかと思えば、突然空に大穴が開いてそこから乗り物に乗った宇宙人がわらわらと出てきやがった。

そいつらを止めようとアイアンマンことトニー・スタークの姿が見えたが、軍勢に押されて今は戦艦みたいな化け物と対峙している。

 

「おらあっ!」

「ギャブワッ!?」

 

市民達を狙う宇宙人共を、エネルギーを全身に纏った状態での体当たりで薙ぎ倒していく。銃みたいな物から小さなエネルギー弾を撃ってくるが、生憎俺には効かない。

 

「ほら、返してやる」

 

手の平から吸収したエネルギー弾を強化して撃ち返してやる。宇宙人共の胸を貫き、倒すものの次から次へと敵は増えていってる。

 

「これでも食らっとけ!」

 

放出したエネルギーを何本もの槍へと変え、一気に放つ。それぞれ頭に突き刺さった後に爆発を起こし、首から上を無くした奴らはどんどん倒れていった。

 

「……流石に全部相手するのは無理か」

 

戦うだけならともかく、市民を守りながらでは到底不可能だ。戦うメンバーがどうしてと足りない。

あの戦艦の化け物をどうにかしようとしているスタークを援護して味方につけようにも、その間は地上が無防備になってしまうから駄目だ。

 

「ん?」

 

ふと強い風が吹いたかと思うと、上空から何かが飛来した。あの形に見覚えはある。あれは間違いなく、S.H.I.E.L.D.が保有しているクインジェットだ。

 

「何であいつらが……あっ!?」

 

その時、スタークタワーの方から放たれたエネルギー弾がクインジェットを直撃し、煙を上げながら墜落していってしまった。

一体誰が、と思ってタワーの上を見てみると、空の穴はスタークタワーの天辺から放たれている光線と繋がっている事に気付いた。

 

「あそこで何が起こってるんだ?」

 

この惨状が戦っているスタークの仕業とは思えないし、何よりあいつはヒーローだ。となればこの宇宙人共を呼び出しているのは別の誰かという事になるが……一体誰が?

 

「いや、まずはクインジェットの中にいる奴らを助けないとか」

 

俺は再び空中に浮かび、クインジェットが墜落した方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スウァーノ、何で貴方が!?」

 

墜落した場所へと辿り着くと、そこでは戦闘が繰り広げられていた。S.H.I.E.L.D.所属のエージェント、ナターシャとクリントが宇宙人を相手に戦っているのだ。

 

「それはこっちの台詞だ。気分転換にカフェで寛いでたんだよ。そしたらいきなりこれだ」

「それは災難だったな。俺達としては戦力が増えて大助かりだが」

「久し振り、クリント……で、あそこにいるのって本物か?」

 

俺が戦いながら指差す方向には、あのキャプテンアメリカがいる。第二次世界大戦中に生まれたアメリカの英雄であり、唯一無二の超兵士(スーパーソルジャー)である。

 

「ナターシャ!そこにいる彼は誰だ?」

「元S.H.I.E.L.D.の特殊エージェントよ。名前はスウァーノ・エイナム、戦力としては申し分ないわ」

「それは助かるな!」

 

最後の宇宙人を盾で大きく吹き飛ばし、一段落ついたキャプテン・アメリカが俺に近付いてくる。

 

「スティーブ・ロジャースだ、よろしく頼む」

「ナターシャに言われたけど、改めて……スウァーノ・エイナムだ。よろしく、キャプテン」

 

俺とロジャースが互いに自己紹介していると、突然上空から凄まじい勢いで誰かが降ってきた。銀色のハンマーを持つ金髪の男である。

 

「ソー、上はどうなってる?」

「キューブを囲ってるバリアが破れない」

『ああ、だがまずはこいつらだ』

 

ソーという男とロジャースに加え、スタークの声が聞こえてくる。どうやら俺以外の奴ら全員、顔見知りみたいだな。おかげで俺だけ色々と置いてきぼりである。

 

『キャプテン、一緒にいるのは誰だ?民間人は地下に避難させとけ』

「違うぞ、スターク。エイナムは僕達と一緒に戦ってくれる仲間だ」

 

スタークからの通信にロジャースが答え、俺が仲間である事を伝えてくれる。ナターシャやクリントみたいにスーツさえ着ていれば分かったと思うんだけどな。

 

「なぁ、ナターシャ。俺、急に巻き込まれたから分かんないんだけど、こいつら何なんだ?それとあのソーって人は?」

「奴ら、チタウリっていう宇宙人よ。で、ソーは神様。彼の弟のロキがチタウリを呼び寄せたのよ」

「……ナターシャ、頭大丈夫か?神様なんているわけないだろ」

 

俺としては真面目に言ったつもりだったんだが、ナターシャからは横目で睨まれてしまった。いや、だって突然「この人は神様です」って言われて信じられるわけないだろ?

 

「なら俺と戦ってみるか、ん?」

「……いや、それはパス。やっぱ信じるよ、あんたが神様だってこと」

 

右手に持つハンマーを軽く振りながらソーが提案をしてくるが、それは断る。何故かって?相手の実力を見切れるから分かるが、あいつと戦ったら間違いなく負けるからだよ。それにあのハンマーも着ている鎧も地球のものとは思えない作りだし、本当に神様なのかもしれない。

 

「ロジャース、作戦は?」

「チームワークだ。個々で戦うのは危険だ」

「待て、俺はロキとの決着が着いてない」

 

いや、今ロジャースがチームワークって言っただろ。ロキとやらに突っ込む気満々じゃないか。

 

「あ?あいつを仕留めるのは俺が先だ」

「お前もかよ、クリント!」

「俺はあいつに洗脳されていいようにされてたんだよ。一発やらなきゃ気が済まない」

 

矢じりの調整をしながらクリントがそんな事を言ってくるが、プライドが高いこいつの事だ。一人で突っ込む事はないにせよ、何かお返しをさせてやらないと俺がストレス解消の相手にされる可能性がある。

 

「ロキがいなくなれば軍隊が暴走し、さらに被害が拡大する。上にいるスタークを援護しないと」

「……ん?なぁ、誰かこっちに来るぞ」

 

瓦礫を避けながらバイクに乗って走ってくる男に気付き、俺はみんなに声をかける。すると全員がその人物に向かっていってしまった。

……えっと、S.H.I.E.L.D.のエージェントじゃないし、見た目からして何か特別な力を持っているような感じじゃないよな。

 

「その人、民間人か?ならさっきスタークが言った通り、地下に連れていった方がいいんじゃないか?」

「それは……何かのジョークかな?」

 

みんなに問いかけると、バイクから降りた人に苦笑いをしながら言われてしまった。

 

「いや、至って真面目なんだけど」

「あー……悪かった、せっかく心配してくれたのに。でも大丈夫、()()()が民間人なだけだから」

 

今の僕……?どういう意味だ、それ?

 

「それにしても、こんな酷い事をする奴らもいたもんだ」

「もっと酷い事をした人もいたわ」

「……すまない」

 

男がナターシャに謝るが、一体何をしたんだ?そもそもナターシャはS.H.I.E.L.D.のエージェントだ。何かしようものなら、叩きのめされるはずだろうに。

 

「スターク、来たぞ」

『バナーか。スーツを着ろって言え』

 

……バナー?ってもしかして、あの生物学者のブルース・バナーか?……なるほどな、これでさっき言っていた意味が分かった。となると、この場にいるのは学者としてではなく、()()()()()姿()が頼りにされたというわけか。

 

『これから愉快な仲間を連れてくる』

「ん、まだ仲間がいるのか?」

「いや、これで全員のはずだが」

 

俺の問いにロジャースが答える。そしてしばらくしない内に、その愉快な仲間が現れた。

 

「……どこか愉快な仲間なのよ」

 

唖然としながら言うナターシャ、というか俺達の目の前に現れたのはスタークと、ビルを突き破りながら現れたあの戦艦の化け物であった。

 

「あれはどこからどう見ても愉快な敵だな、間違ってるぞスタークの奴」

「冗談言ってる場合?」

「来るぞ!」

 

笑わせようと思ったらナターシャに睨まれ、ソーがハンマーを構える。俺もエネルギーを放出して盾を構成していると、バナーが迫ってくる怪物に向かっているのが見えた。

 

「あれ?なぁ、確かあっちの姿になるには……」

「バナー博士!」

 

ナターシャに問いかけていると、ロジャースに遮られてしまう。何だ、と思っていると、バナーも不思議そうに見ていた。

 

「今なら思いっきり怒ってもいいぞ」

「僕の秘密を教えようか。……いつも怒ってる」

 

そう言った瞬間、バナーの姿が変わった。皮膚が緑色へと変わり、筋肉が膨れ上がっていく。膨張していく体に合わなくなった服は破れて落ちていき、まるで丸太のようになった腕を勢いよく振りかざした。

 

「ゥガアアアアアアアッ!!」

 

雄叫びと共に拳が激突した怪物の顔は歪み、失速していく。そして突然の衝突により後ろが持ち上がっていく。周りの装甲が剥がれていき、その下に見える柔らかそうな場所が丸見えとなった。

 

『そのまま!』

 

一度は俺達の真上を通り過ぎたスタークが戻ってきて、ミサイルをその場所へと撃ち込んだ。

 

「レイ!!」

「任せろ!」

 

覚えてくれていた俺のコードネームを叫ぶナターシャに答え、俺はエネルギーを大きなドーム状にしてみんなを覆った。

次の瞬間、爆発を起こした怪物の破片が飛び散るもエネルギーの壁にぶつかるそれらは弾かれ、俺達は傷一つなくあの怪物を倒す事が出来た。

 

「さて、これで終わり……なわけないよな」

「当たり前だ、ここからが本番だろ」

 

エネルギーを消し、辺りを見渡す。いつの間にこんなに現れたのか、宇宙人共がビルの壁にくっついて吠えまくっていた。おそらく威嚇かそれに近いものだろう。

 

 

それに対するは、

 

負けじとばかりに吠えるハルク。

 

愛用のトリックアローを構えるホークアイ。

 

ハンマーを握り締めるソー。

 

エネルギーを双剣へと変えるレイ()

 

銃を構えるブラック・ウィドウ。

 

相棒とも言える盾を構えるキャプテン・アメリカ。

 

そして、降り立つアイアンマン。

 

 

 

敵の数は多い。だが……このメンバーで、負ける気などするはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい、それでこのエイナムってのは誰なんだ?急に仲間って言われて出てこられても困るんだが』

「スウァーノ・エイナムだ。よろしくな、スターク。元S.H.I.E.L.D.の特殊エージェントで……」

「おい、自己紹介は後にしとけ」




・オリ主の補足
オリ主がS.H.I.E.L.D.を抜けたのはアイアンマンが誕生する以前のこと。その後はS.H.I.E.L.Dに関わらずに過ごしていた為、正体を明かしているスタークはともかく、ソーが来たことやキャプテンアメリカの復活は知りませんでした。
ハルクに関してはニュースなどから存在を知り、独自に調べて正体を知ったという感じです。

アベンジャーズ計画に関しては知っていましたが、今回の事がそれに関わってる事は知らず、戦いの後に知りました。

オリ主の現在の強さは能力や経験も含めてナターシャ、クリントより上ですが、アイアンマン、ソー、キャプテン・アメリカ、ハルクよりは下です。


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レイ~オリジン・ストーリー~
前編


アベンジャーズの後のお話です。

前編、後編に分けて投稿する予定です。


ニューヨークでのアベンジャーズとチタウリとの戦いは、アベンジャーズの勝利に終わった。世界安全保障委員会の奴らの命令で核ミサイルを撃ち込まれた時は焦ったが、スタークの機転によりそれはワームホールの中へと持ち込まれてチタウリの母艦を破壊、ナターシャによってワームホールも消滅した。

 

その後はハルクにボロボロにされたロキを全員で囲って拘束した。ソーとロキ、兄弟って言ってたから似てると思ってたのに、実際は全然似てなかった。その後に義兄弟って聞いて納得したけど。

 

それから数日後、ソーとロキは今回の発端となったキューブを持って、故郷のアスガルドという神の国へと帰った。

ロジャースはバイクに乗ってどこかへと去り、スタークとバナーも共に車に乗ってどこかへ。ナターシャとクリントも俺に別れを告げた後、S.H.I.E.L.D.に戻った。

破壊されたニューヨークもスタークが政府と共に設立したダメージ・コントロール局により、復興の兆しが見えてきた。

 

そして俺はどうしたかと言うと…………。

 

 

 

 

 

 

「えっと……本当にいいのか、スターク?」

「ああ。ここを好きに使っていいぞ」

 

ニューヨークでの戦いから三週間後。再びホテル暮らしを始めていると、突然現れたスタークに捕まった俺はスタークタワーへと連れてこられた。そしてタワー内の住居スペースを使っていいと言われたのが今。

何故こんな事を?とスタークに聞いてみると。

 

「記憶喪失だと知った時の気分はどうだった?」

「何で今、その話を?」

 

アベンジャーズの面々は俺の記憶喪失について全員知っている。俺から直接話さなくてもいいと思ったが、どうせいずれはバレるだろうと思って話したのだ。

 

「君はいきなりだったとはいえ、共に戦った仲間だ。なら仲間の手助けを少ししようかなと」

「手助けって?」

「君の記憶を思い出させる装置を作ろうと思ったんだ」

 

記憶を思い出させる装置……そんなのが作れると思ってるのかと言いたい所だが、相手はあの天才を自称する発明家だ。 無理だと言われても作ってしまうかもしれない。

 

「でもその為には情報が足りない。記憶というのは非常にデリケートなものだ。もしも失敗すれば何が起こるか分からない」

「……俺にモルモットになれとでも?」

「何故そうなる。私は人体実験なんて好きじゃないぞ。ただ君に関するデータを取りたいだけだ」

 

スタークの言いたい事は分かる。記憶は何かの拍子に思い出す事がある。しかしそれを装置を使って無理矢理思い出させるとなると、色々と危険が付き物になってくるんだろう。だからまずは俺のデータを使って、可能な限り検証とかをしたいんだ。

 

「エイナム、何ならスタークが暴走しないよう僕が見張っていようか?」

「それは助かるな、バナー」

 

俺達の話を聞いていたバナーがソファーから立ち上がり、混ざってきた。アベンジャーズに入るまではインドのカルカッタに隠れながら医者として活動していたみたいだが、住む場所を失った今ではこのタワーで研究を手伝う代わりに生活させてもらっているらしい。

 

「おい、待て。それは僕が信じられないという事か?」

「そうじゃないが、あんたはやり過ぎる事があるだろ。ヘリキャリアにウイルスを仕掛けたこと、忘れた訳じゃないよな?」

「あれはS.H.I.E.L.Dがキューブを異常に欲しがっていたからだ。それにあの隠し事ばかりのフューリーが話すとは思えなかったからな」

 

方法はともかく、キューブを利用した兵器を開発する極秘計画、P.E.G.A.S.U.S.計画を暴露してくれたスタークには感謝している。もちろん試作品の兵器を見つけてくれたロジャースにも。

しかしフューリーが秘密主義なのは知っていたが、俺を含めた一部のS.H.I.E.L.D.職員にすらその計画を黙っていた事には失望した。前にフューリーからS.H.I.E.L.D.に戻る事を提案されたが、躊躇いなく断ってやったのもそれが理由だ。そもそもS.H.I.E.L.Dが秘密をいくつ隠しているのか分からない以上、戻る気はない。

 

「それは分かってる。あんたとロジャースが動かなければ分からなかった事だし」

「ならこの話は終わりだ。バナーをつける必要もないだろ?」

「いや、悪いがそれは譲れない」

「何故だ!?」

 

その後、数時間の説得でバナーの監視の下、俺のデータを取る事や装置を造る事に納得してくれた。バナーには悪いが、いずれ何か恩返しをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のエネルギーの名称?」

 

スタークタワー内の広いスペースを借り、立てた的の中心に正確に攻撃を当てるという特訓をしていると、バナーから質問をされた。

その内容は俺が復唱した通り、エネルギーの名称について。

最後の的をエネルギーの槍で貫き、俺は新たにエネルギーを放出して様々な形へと変えつつ考えた。

 

「S.H.I.E.L.D.に入る事になった時、これについて調べもらったんだよ。でも結果はどれも『まったく分からない』だったんだ」

「でも調べたんなら、何かしら出るんじゃないか?」

「このエネルギーって一定のものじゃないみたいでさ。数値とか何もかもメチャクチャで、似たような物質もなし。でも名前だけは付けてもらったんだが……」

 

何だっけか?口に出して言う事もなかったから覚える気がなかったんだよな……ええっと……。

 

「エイナム、ここにいたか!」

「スターク?どうしたんだい、そんなに慌てて」

 

ドアを勢いよく開け、入ってきたスタークは大股歩きで俺に近寄ってきた。何なんだ、と思っていると持っていた紙を突きつけてきた。

これは……結果表?あ、そういえばスタークが頼んできたからエネルギーを調べさせていたんだった。

 

「この結果を見ろ、何も分からなかった!一体この力は何なんだ!?」

「スタークにも調べてもらっていたのか。でも分からないとなると、もはや今の科学の領域じゃ無理なんじゃないか?」

 

領域、無理、エネルギー……領域外……エナジー……領域外のエナジー……?

 

「そうだ、思い出した!」

「うおっ!?急に大声を出すな、びっくりするだろ」

「ごめん、スターク。でもやっと思い出したんだ」

「S.H.I.E.L.D.が名付けたエネルギーの名称をかい?」

 

スタークが驚いて後ずさると、バナーが問いかけてくる。スタークとしては何なのか分かっていなかったようだが、エネルギーの名称と聞いて興味が湧いたようで「何だと!?」と急かしてくる。

 

「こいつは……アウトエナジー(領域外のエネルギー)だ」



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中編

前編・後編の予定でしたが、予想よりも文字数が多かった為、前編・中編・後編にしました。
そして今回、オリ主のヒロインが登場します。

あと、新作スパイダーマン、もう2日後まで迫ってきてますね。作者は公開日にいくつもりです。


アベンジャーズとチタウリとの戦いからおよそ半年が経った頃、世界ではアベンジャーズが今でも話題になっている。アイアンマンはさらに有名となり、キャプテン・アメリカやソー、ハルクも大勢に存在が知られた。

ナターシャとクリントはS.H.I.E.L.D.のエージェントである以上、目立った活躍は報道されていないがそれも時間の問題である。

 

そして突然現れたレイという男も上記の六人同様、話題になっている。そのレイの顔が大きくアップされた映像を見ている女性は、握り締めた拳を机に勢いよく叩きつけた。

 

「ようやく見つけた……!」

 

その映像を食い入るように見つめる女性はニヤリと笑いつつ、首にぶら下げているペンダントを見る。そのペンダントの中にはスウァーノの顔写真が入っていた。

 

「やっと会えるんだな、スウァーノ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?J.A.R.V.I.S.、スタークは?」

『トニー様は今日、プライベートでペッパー様と出掛けております』

「……ああ、そういえばそんな事を言ってたな」

 

スタークが開発した最新鋭の人工知能、J.A.R.V.I.S.。優秀な電脳執事とも言える存在であり、このタワーのセキュリティ管理にアーマーの製作補助、戦闘の際にはサポートに加わったりとスタークの生活面・戦闘面で活躍してくれている。

 

「バナーは……」

「僕がどうかしたかい?」

 

今日のバナーの予定は、と考えていると後ろから声を掛けられた。

 

「今日は自室で過ごすとか言ってなかったか?」

「そのつもりだったんだけど、お腹が空いてしまってね」

「ならこのサンドイッチ、食べるか?」

 

昼食にと作ったサンドイッチの山をバナーに勧める。思いの外作りすぎてしまい、どうしようかと考えていたのだ。

 

「おっ、ありがとう。いただくよ」

「どうぞどうぞ」

 

バナーが向かい側の椅子に座り、サンドイッチに手を伸ばすと俺ももう一つと手を伸ばした。ちなみに中身は卵やハム、トマトなど一般的なものばかりであるが、隠し味として入れてあるものがある。それは……。

 

「むぶっ!?」

 

サンドイッチを口にしたバナーが勢いよくむせた。そして顔を赤くし、キッチンに走って水を飲み始める。

 

「げほっ!げほっ!……な、何を入れたんだいこれ?」

「隠し味に超激辛ソースを入れてみたんだ。どうだった?」

「……これはもう隠し味じゃないと思うけど」

 

だよな、と俺は思う。俺は辛いのが好きだから平気だが、バナーには無理だったか。しかしハルクにならなかった所を見るに、コントロールはさらに出来るようになったようだな。

 

「悪い、先に言うべきだったな」

「まだ舌がヒリヒリする……緑色の大男に変身してたら、君に襲いかかっていただろうな」

「ハルクって変身した原因……というか、バナーの時の記憶って持ってるのか?」

「さぁ。僕はいつも脳に幻覚剤を1リットル流し込まれた気分だけどね」

 

それは随分と気持ち悪いんじゃないか?よく変身後に吐いたりしないな。

 

「……ちなみに食べ物ってこれしかないのか?」

「あー……確か冷蔵庫の中はほとんど入ってなかったな。よし、外で何か買ってきてやるよ」

「えっ?いや、それくらい自分で……」

『スウァーノ様、食事でしたらすぐに用意しますが』

 

バナーが俺を止めようとすると、J.A.R.V.I.S.からも声がかかった。おそらくタワー内にある職員食堂で作らせるんだろう。

 

「いや、俺も買いたいものあるからさ。バナー、何がいい?」

「じゃあ、手軽に食べられるもので。普通のものをお願いするよ」

「了解、待ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………で、バナーの昼食を買うついでに、暑かったからアイスを買って食べながらタワーに向かっていたんだけど。

 

「えっとぉ……?」

 

突然誰かに路地裏へと連れ込まれたかと思いきや、思いっきり抱き締められた。誰?と聞きたいが、押し付けられた顔から嗚咽が聞こえてきて、なかなか言い出せない状況である。

 

「やっと……やっと見つけたぞ……!」

 

抱きついているのは純白のドレスに似た衣装を着た女性だった。見上げてきた顔に思わずドキッとしてしまったが、何故俺にこんな美女が?スタークがパーティとかで一緒にいるのはよく見るが、よくあんな平然としていられるな。

 

「ど、どちら様で?」

「あたしだ、あたし!お前の恋人、ミア・トレスファーだ!」

 

ミア・トレスファー……?それに恋人だと?記憶喪失になって以降、誰かとも付き合ってないし、そうなると記憶を失う前からの知り合いとしか考えられないよな。

 

「ミ、ミア?」

「なに?どうかしたか?」

「その……俺、あんたの事が分からな──────」

 

最後まで言う前に俺は勢いよく蹴られてゴミ箱の山へと突っ込む事となった。えっ、何でいきなり蹴られたんだ?

 

「分からない?今、分からないって言おうとしたのか?」

「っ……記憶喪失なんだ。だから俺は知らないんだ、あんたの事を」

「冗談はやめてくれるか?そろそろあたしも怒るぞ」

 

な、何なんだこの人?何でそんなに怒ってるんだ?

 

「冗談じゃない。俺は本当に記憶を失って……」

「ふざけるな!」

「っ!?」

 

彼女の大声にゾクリとした感覚が背筋を襲った。先程まで優しげだった目が、今では殺意を感じさせる程に俺を睨んでいる。

 

「あたしが何年お前を探したと思う!?5年だぞ!5年もの間、あたしはお前を見つける為だけに尽くしてきた!なのにお前はあたしを忘れてるだって!?」

「それは……すまなかった。記憶喪失とはいえ、あんたにそんな事をさせて」

……違う

 

ミアからぼそり、と声が聞こえてきた。

 

「違う、違う、違う!お前はあたしを『あんた』なんて呼ばない!『ミア』っていつもみたいに呼べよ!!」

「……っ」

「ふざけんな……ふざけんなよ……!」

 

彼女の悲痛な叫びを俺は黙って聞く事しか出来なかった。しかししばらくすると彼女の声は聞こえてこなくなり、見れば顔を伏せた事により髪で表情のほとんどを読み取れなくなっていた。

 

「ミア……どうした?」

「あたしが愛したお前は、もういないんだ。だったら……お前を殺してあたしも死ぬ!」

「っ!?」

 

ミアから発せられた言葉に驚くが、どこからか取り出したナイフを構えて突っ込んでくる彼女を見るとすぐに体が動いた。

何故ナイフを隠し持っていたのか分からないが、怪我を負わせるわけにはいかない。まずは動きを封じて、それから話を……。

 

「なにっ!?」

 

凪ぎ払われるナイフの動きが素人のものではなかった。咄嗟にアウトエナジーで盾を作って防ぐが、弾いた瞬間に脇腹に鋭い痛みが走った。

 

「かはっ……!」

 

後ろに飛び、ミアから距離をとる。脇腹を触ってみれば出血しており、何故かと思っているとミアが履く靴の先端には真っ赤に染まった()が生えていた。

針を仕込んでるって、まさか暗殺者か何かか?いや、待てよ。確かミア・トレスファーってどこかで聞き覚えがあるような……。

 

「……そうだ。あんた、傭兵だろ。しかも結構名の知れた」

「へぇ、あたしの事を一つ思い出す事が出来たみたいだな」

 

S.H.I.E.L.Dに所属していた頃、世界各国の要注意人物を調べていた時だ。様々な戦争・紛争に関わり、『たった一人で傭兵数十人分の活躍をしている女性』という特徴から少し気になっていた傭兵がいたのだ。その女性の名前こそがミア・トレスファーだった。

 

「でも傭兵はもうやめた。お前を探すのに傭兵としての活動は邪魔だからな」

「なら何で武器を持ってる?」

「長年の癖っていうのもあるが、あたしを恨む輩は大勢いるからな。いつ襲われてもいいようにしてるんだ、よっ!」

 

ナイフと両方の靴に生えた針を振り回しながら襲ってくるミアを、アウトエナジーの盾を使いつつ、避けながらも受け流していく。だがこの狭い路地裏では十分に動く事は不可能だ。

 

「ちょっと付き合ってもらうぞ?」

 

ミアに飛びかかった俺は彼女を捕まえ、真上へと飛び上がった。パイプや換気扇を避け、狭い路地裏を抜けた俺はビルの屋上へと転がろうとしたのだが。

 

「だったらあたしにも付き合え!」

「っ!?」

 

ミアの左手首に嵌められた腕時計だと思っていた物からワイヤーが射出され、先端に構築されたアームが屋上の床を掴んだ。そして勢いよく巻き戻された事で俺は彼女と共に落ちていった。

 

「まさ、かっ!?」

 

床に落ちる途中に立っているアンテナにぶつけられる予想がつき、俺は咄嗟にアウトエナジーで球状のバリアを作った。ミアは弾かれて床に転がるが、バリアでアンテナをへし折った俺は、その瓦礫と共に床を転がり落ちていく。

 

「っと……自分で作ったのか、それ?」

 

瓦礫を光弾で吹き飛ばし、戻しているワイヤーについてミアに尋ねた。

 

「アイデアはお前から貰ったもんだけどな」

「俺から?」

「ああ、そうだ。例えばこんなのもな」

 

ドレスを捲し上げ、両方の太ももに装着している金属製の棒をミアは手に取った。そして二本を繋げ、左右を伸ばすと多節棍のように鎖で繋がった棍棒がいくつも現れていった。

 

「ほら、いくぞ!」

 

一直線に投げられた多節棍の先端は一際固そうに造られている。横に避けると、ぶつかった柵がまるで車がぶつかったかのように歪んでしまっていた。

 

「余所見してる場合じゃないぞ!」

「ちっ……!」

 

俺はアウトエナジーを双剣へと変え、攻撃を弾く。エネルギーの集合体である為、刃こぼれはしないが衝撃は凄まじくよろけてしまう。

 

「どうした?光線でも何でも撃てばいいだろ!」

「俺はあんたと戦いたくない!」

「記憶喪失だからか?甘くなったな、スウァーノ!」

 

多節棍を振り回しつつ接近してくるミアに対し、俺は防戦一方のまま追い詰められていった。確かに全力を出せば彼女を倒せるだろう。しかし俺を今まで探し続け、ようやく見つけた俺は記憶喪失だった事を考えると、罪悪感が湧き出てくるのだ。

 

「ほらっ!今度はこっちだ!」

 

右手首の装置からワイヤーが射出され、かわすと柵を掴んだ。そこである予想がつき、ミアを見るとワイヤーを巻き戻しつつ走っており、勢いがつくと床を蹴って飛び上がった。

 

「ちょっと使わせてもらうぞ、ロジャース」

 

ワイヤーの巻き戻しを利用して蹴りを決めようと迫ってくるミアに対し、俺はアウトエナジーで左手にヴィブラニウムの盾を模した物体を作った。

もちろんヴィブラニウムほどの強度はないし、そもそも盾の形を真似る事くらいしか出来ない。だが今はそれだけで充分だ。

 

「あ?何を────」

「ごめんな」

 

ミアの蹴りをかわすと同時に、顔が通る場所に盾を構えた。突然の事にワイヤーを止める事など出来るはずもなく、盾に顔をぶつけたミアは空中で後ろ向きに一周して床を転がっていった。

 

「ぐっ……このっ!」

「悪い!」

 

起き上がった瞬間にアウトエナジーを纏った拳で殴り飛ばした。今度こそ意識を沈められたミアに動く様子はなく、完全に気絶しているようだった。

 

「……しょうがないだろ」

 

説得して止めなかったが、それは無理だった。そして訪れたカウンターのチャンスを逃せば、次にいつチャンスが来るのかなど分からない事だ。ならば例え攻撃をしてでも、ここで止めるしかなかった。

 

「……どこに連れていくか」

 

話が出来る場所へと連れていきたいが、目覚めた瞬間に襲いかかってくる可能性は高い。民間人がおらず、尚且つミアが暴れても取り押さえられるような所は……。

 

「あそこしかないな」




最後のカウンター攻撃を思い付いたのは、シビルウォーでのキャプテン・アメリカVSスパイダーマンの戦闘シーンからです。


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後編

新作スパイダーマン、観てきました!とにかく面白くて楽しかったです!フェイズ3の区切りとしては納得の作品でした。


「何でここに連れてきたんだ!?」

「落ち着けって、スターク」

 

詰め寄ってくるスタークを落ち着かせつつ、俺は部屋の真ん中を見た。そこには未だ気絶しているミアが椅子に座っている。目覚めた時に暴れられないようアウトエナジーの手錠、足枷を付けた状態でだ。もちろん武器は全て外してある。

 

「いいか、彼女が暴れたらどうする?この下には僕の部下達が大勢いるんだぞ!」

「食い止めればいいだろ?それにここにいるのはアベンジャーズのメンバー3人だぞ」

 

俺がミアを連れてきたのはスタークタワーの最上階の部屋。俺とスターク、それからバナーもいれば丸腰のミアを止める事は充分に出来ると考え、ここに決めたのだ。

 

「あー……僕が変身したらここも無事には済まないと思うんだけど」

「……まぁ、俺とスタークだけでもどうにか出来る。だからここに連れて来たんだ」

「だからって……!」

 

あの決戦以前のスタークならここまでミアを警戒する事はなかっただろう。だがあのワームホールの中で敵の大きさを知り、地球外からの脅威に酷く怯えるようになったスタークはすっかり変わってしまった。今では「アーマー依存症」なんて発症し、スーツを何十着も造り続けている始末だ。

 

「それよりどうするつもりなんだ、エイナム?君が言った通りなら、彼女は目覚めたらまた襲ってくるぞ」

「分かってる。でも何言っても取り合ってくれないんだ」

「なるほどな……スターク、君ならどうする?」

 

指を顎に当てて考えたバナーは、スタークに質問をぶつけた。おそらくプレイボーイ、または女の敵であるスタークなら何か解決策を持ってるかもしれないと踏んだのだろう。

 

「僕か?僕なら……そうだな、スウァーノ」

「何だ?」

「彼女はきっと、いき過ぎた愛情が君の記憶喪失を知った事で殺意へと変わったんだろう。だったらそれを本来あるべき感情に戻せばいい」

「俺にどうしろと?」

「ちょっと耳を貸せ」

 

スタークが俺に耳打ちをしてくる。その内容に俺はえっ?と思い、目を見開いてスタークを見た。親指を立てて完璧だと言いたげな感じであるが、やる身としては羞恥心しかない。しかも仲間の二人がいる前でだ。

 

「大丈夫だ、絶対にうまくいく」

「……本当にやらないといけないのか?」

「彼女はお前を愛しているんだろう?だったらそれが一番効果的だ」

 

経験豊富なスタークからのアドバイスとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。だがそれ位の事をしなければミアは諦めてくれないだろう。

 

「う……ん?」

 

考えている間にミアが気が付いたようで、身動ぎすると共に声を漏らした。目を開き、辺りを確認している時に俺と合わすと襲いかかろうと動いた。しかし手錠も足枷がそれを阻み、手首と足首を痛めるだけに終わったのだった。

 

「おいっ、これを外せ!」

「そしたらまた俺を襲うか?」

「あんたを殺してあたしも死ぬ!そう言っただろ!」

 

まだ俺を殺すつもりでいる事を確認すると、スタークを見た。何を言わず、ただ頷くスタークに応えるように俺はミアに嵌めていた手錠と足枷を消失させた。

 

「……へぇ?急に素直になってどうしたんだよ?」

「俺を殺すんだろ?だったらやってみろよ」

「上等だっ!」

 

椅子から立ち上がると同時に俺に襲いかかり、馬乗りになって首を締めようと両手を向けてきた。その手を掴み、抵抗する俺をミアは力任せに突破しようとしてくる。

 

「っ……ミア!」

「何だよ!?」

 

ミアの視線が俺の顔に向けられた瞬間、力を振り絞って上半身を上げ、ミアの唇を自分の唇で塞いだ。

 

「っ!?」

 

突然の事に驚き、力が緩んだミアを押し退けて今度は俺が馬乗りになる。その間もキスを続けていると、今度は逆に抵抗していたミアの手が下ろされていく。

俺からのキスを受け入れたようで、その後も続けたが息が苦しくなった瞬間にゆっくりと顔を離した。

 

「はぁっ、はぁっ……もう、終わり、か?」

「まだ、したいのか?」

「好きな、相手からの、キスだぞ?したいに、決まってるだろ」

「でも俺はもう、ミアの好きだった俺じゃないんだろ?」

「……好きに、決まってんだろ。確かにお前はあたしの好きだったスウァーノとは、違う。でも好きなんだよ、あんたの事が」

 

ミアは目尻に涙を溜めつつ、言葉を紡いでいく。それを聞いた俺はスタークを見た。自身の言った通りにうまくいった事が嬉しかったのかガッツポーズをしている。

 

「スウァーノ、あたしを見ろ」

「えっ?あ、すま……」

 

スタークから視線を外し、ミアに向けると両腕を首に絡まされた直後に今度は彼女からキスをされた。まだまだ元気なようで、さっきまで辛そうだったのに今ではもうすっかり回復しているようだった。

 

「……それでいつまでやってるつもりだと思う?」

「さぁ。彼女が満足するまでじゃないかな」

「だろうな。あれは長いぞ」

 

スタークとバナーが話し合っているが、ミアには聞こえていないようだった。そもそもあの二人がいる事にすら気付いていないかもしれない。

スタークからのアイデアでやってみた事であるが……無事うまくいったようで良かった。

あとはミアが満足するまで付き合おう。スタークの言う通りならまだまだ続くみたいだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、本当に行くのか?」

「ああ。色々とやらないといけない事もあるし、何よりあたしをお前を殺そうとしたわけだしな。そんな奴と住めないだろ?」

 

ミアの襲撃から数日後、再び恋人となるまでには至らないものの、初めて出会った時と比べれば全然マシな関係に俺達はなった。ミアとしては恋人同士に戻りたいんだろうが、それはまだ無理だろう。だからまずは友達から、という事になった。

 

「今は違うだろ?だったら歓迎するぞ」

「……いや、だとしてもあたしは納得できないんだよ」

「そうか」

 

一緒にこのタワーで住む事を提案したが、それは却下された。しかし携帯番号も交換したし、アドレスも知ってる。何かあったり、会いたかったら連絡すればいいのだ。

 

「記憶……どうしても戻らなかったな」

 

ミアが知っている俺の過去は全部聞いた。曰く、「俺はミアと同じく傭兵だった」、「性格や喋り方は変わっていないが、戦いで甘さは一切見せなかった」らしい。その他に俺がミアとどのように付き合っていたか話してくれたが、それでも記憶が戻る事はなかった。

 

「いや、もっと昔の事が分かれば思い出せるかもしれないだろ?」

「……そうだな。あたしもお前の過去を徹底的に調べてやるよ」

 

そう言うと、ミアは俺に軽くキスをしてきた。そして頬を赤く染めると、「じゃあな!」と笑みを浮かべながら走り去っていった。

 

「ああ。じゃあな、ミア」

 

俺はそう呟き、ミアが見えなくなった事を確認してからタワーの中へ戻ったのである。




これでこの章は終わりです!次回からはまた、映画を元にしたストーリーが始まります!


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ヒーロー達の苦悩
アイアンマン 戦いの傷


本日、二度目の投稿です!

今までよりも文字数は少なめです。


ロキとチタウリ軍団との戦いからそろそろ7ヶ月が経ちそうになった頃、俺はタワーを訪れたスタークの恋人にしてスターク社のCEOであるペッパーに呼び出されていた。

 

「どうしたんだ、ペッパー?」

「どうしたもこうもないわよ……」

 

椅子に座るペッパーは呆れたように溜め息をついている。この時点で俺は何故呼ばれたのかについて、大体の見当がついた。

 

「トニーったらずっとアーマーの開発ばかりして……どこに行くにもアーマーを持ち歩いているのよ?私が何を言っても聞いてくれないし、もう心配で仕方ないの」

「さらに依存するようになったか……」

 

スタークはあの戦いで死にかけた結果、深刻なPTSDと不眠症を患う事となった。その不安を消す為に必要ない程にアーマーを増産させ、周囲からはアーマー依存症と言われるようにもなってしまった。

あの戦いが辛かったのは分かる。ロジャースやバナー、ソーもあれ程の戦いは経験した事がなかったらしいからな。もちろん俺もその一人だ。

しかしスタークは地球外のさらなる脅威をあのワームホールの先で見て知った他、気絶して死にかけたのだ。メンバーの中で一番精神的なダメージを受けていると言ってもいいだろう。

 

「ローディやハッピーもトニーを心配してくれてるけど……」

「変化はなし、か」

 

ジェームズ・ローディ・ローズ、それからハロルド・ハッピー・ホーガン。共にスタークの親友であり、前者はアメリカ空軍所属の軍人。後者はスターク社の警備部長を務めている。特にローズはスタークが開発したアーマーを着て戦ったりと、ヒーローとしても関わりがある。

 

「スタークの事は俺もバナーも心配だが、時間が過ぎるのを待つしかないんじゃないか?あいつが負った心の傷は大きすぎる」

「でも、だからってこのまま見ているだけじゃ……」

「確かにそうだ。だからペッパーやローズ、ハッピーがいるんだろ?お前らは俺達アベンジャーズよりもスタークと長くいる。完全に消す事は出来なくても、和らげる事ぐらいは出来るはずだ」

 

特にペッパーの存在はスタークにとって大きいだろう。何も出来ていないように見えて、実際は出来ているはずだ。ただ気付いていないだけで。

 

「でもどうすれば……」

「今までみたいに声をかけたり、あとはリラックスできるような場所を作ってあげるのはどうだ?ちょっと位は不眠症を改善できるんじゃないか?」

「なるほどね……分かったわ。ありがとう、スウァーノ。貴方が言ったこと、参考にしてみるわ」

「なら良かった」

 

しかし……ペッパーにここまで心配させるなんて、そこまで酷くなっていたのか。最近はずっと自宅でアーマーを造り、ほとんどこっちには来ていないから分からなかった。

俺も何か出来たらいいんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君に出来る事は何もない。帰ってくれ」

 

スターク邸を訪れた俺は休憩中のスタークに声をかけ、買ってきたケーキを共に食べる事にしたんだが……食べ終わった途端、そんな事を言われてしまった。

 

「だからって放っとく事も出来ないだろ。アーマーを持ち歩くまで依存してる奴を」

「…………」

「分かってるんだろ?このままじゃ駄目だって。前に進まないといけないって」

「ああ、分かってるさ。でも自分でもどうにも出来ないんだ、仕方ないだろ」

 

それは知ってる。そうでなかったら、ここまで陥るはずがないだろう。

 

「確かに俺があんたに出来る事はないだろうな。でも俺達は仲間だ。何かあったら必ず連絡をよこせよ?」

「……ああ」

 

泰作呟いたスタークは椅子から立ち上がり、ドアを出て消えてしまった。おそらくまたアーマーの製造にかかるんだろう。

あの状態で誰かと戦う事になったら苦戦を強いられるだろう。だからこそ俺達アベンジャーズがいる。一人で勝てないなら集まって戦えばいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後──────スタークがアベンジャーズとの連絡をする暇もない程に新たな敵に追い詰められてしまう事を、誰もまだ知らなかったのである。




精神的に追い詰められているスタークを心配する周囲を描いたつもりだったんでしたが、どうだったでしょうか?

ちなみにアイアンマン3のストーリーは前日談以外、描くつもりはないです。


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ハルク 暴走する恐怖

パパドック=サンさん、評価ありがとうございます!

今回も前回同様に短いですが、この章は基本的に1500文字とどれも短くなると思います。


スタークとキリアンら"エクストリミス・ソルジャー"の激闘から数週間後。ペッパーにアーマー依存症の克服を宣言し、『どんな姿であろうと自らがアイアンマンである事』に気付いたスタークは心臓手術を受け、ヒーローとなったきっかけであるミサイルの破片を取り除いた。

その後は新たなアーマーの開発も一時中止しており、ヒーロー活動も休業中であるが、これを機にやめる事はないだろう。

 

 

 

それより今はこのネガティブな男をどうにかしないと。

 

「大丈夫か、バナー?」

「……ああ」

 

椅子に座るバナーは酷く落ち込んでいた。まぁ、それも当然なんだがこんな調子が何日も続いていると流石に呆れてくる。どんだけネガティブなんだよ。

 

「俺はもう大丈夫だって、ほら」

「……大丈夫ならそのひきつってる顔は何だ?」

「あー……これはな……はぁ」

 

答えようとするが、何も浮かばない上に何度目かのやり取りだったりする為、思わず溜め息が出てしまった。

数日前、バナーはハルクになってニューヨークで暴れ回った。変身してしまった理由は出掛けた先でトラブルに巻き込まれたかららしいが、バナーもよく覚えてないらしい。

そしてハルクを止める為に、スタークとソーを除いたアベンジャーズが出動する事になった。

しかし戦力差が大きい為に真っ向勝負は出来ず、まずは俺がナターシャとクリントにサポートをされつつハルクを引き付けた。そして意識が俺だけに向けられた瞬間を狙って、スティーブがバナー用に開発された薬を打ち込んだ。

脈拍が著しく下がり、興奮が冷めていったハルクはバナーへと戻り、街も最小限の被害だけに留める事が出来たのだ。

 

「確かに俺はハルクに殴られたが、あれは俺のミスだ。あんたのせいじゃない」

「でもハルクは僕だ。そのせいで君は怪我をしただろ?今だって痛みを我慢してる」

 

怪我と言っても、不意をつかれてバリアが間に合わず、ハルクに一発殴られただけだ。しかし流石はハルクのパンチ。たったそれだけで車屋の壁を突き破った上にぶつかった車のドアを外れさせたっけか。

 

「君はチームの一員だ。なのに僕は君を……」

「だからそういうのはやめろって。俺は気にしてないから」

 

バナーがハルクになった時、止めようとして戦ったヒーローは何人かいる。ソーならハルクと互角に戦えるし、スタークだってアーマーを着込めば戦えるだろう。

だが俺は特殊能力があっても、体は生身の人間と変わらない。だからいつもと違ってここまで落ち込んでいるんだろう。

 

「それにほら、ハルクだって俺達の事は仲間だと思ってる。ただこの前は機嫌が良くなかったんだろ」

「つまり機嫌が悪かったら僕は君達を傷つけるかもしれないって事だろ?」

「まぁ……そうかもしれないが、毎回よりはいいだろ」

 

毎回変身する度に襲われるのは流石にごめんである。

 

「分かったよ。いつまでも僕がこれじゃ迷惑だろ?ならそろそろ立ち直らないとね」

「いや、迷惑とかじゃ」

「いいんだ。自分がどう思われているのかは自分がよく知ってる」

 

自分のネガティブな所も。周りがハルクをどう思っているのかも。だからバナーは『誰かがハルクを庇っても、口では何とでも言える』という事ばかり考えてしまう。

 

「バナー!」

「何だい?」

 

部屋を立ち去ろうとするバナーを俺は引き止めた。俺も口でしか言えないかもしれない。でもバナーがアベンジャーズを自分の居場所として思ってくれてるなら。

 

「もしも世界中があんたの敵になっても……アベンジャーズは絶対にあんたの味方だ」

「……それが変わらない事を祈ってるよ」

 

そう言ってバナーは部屋を出ていってしまった。俺の言葉はバナーに届いただろうか?

他のメンバーは分からないが、バナーもハルクも仲間だ。それが変わる事はない。例えこの先、どんな事になろうと。




アベンジャーズの中で一番力に悩んでるのってバナーですよね。エンドゲームでその悩みは解決したようですが、それに至るまでの話も考えたいなと思ってます。


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ソー ロキの死

ソーにとっての一番の悩みって、ロキとの関係だと自分は思っています。


ニューヨークの決戦から一年が経ったある日。ソーが突然ロンドンに現れ、女性を連れ去ったという情報が入った。調べてみればその女性とはソーが恋人だと語っていたジェーン・フォスターであり、どこに行ったのかと探したが二人共地球のどこにも存在しなかった。

その後、イギリスに地球外からの敵が現れたとフューリーから連絡が入り、アベンジャーズが出動したもののソーが仲間達と共に解決してくれていた。

 

事件の全貌を知っているソーから惑星直列やエーテル、ダーク・エルフなどの様々な事を聞いたが、まさか最後にあんな事を言われるとは思っていなかった。

 

『ロキが死んだ』など。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロキは……俺よりも王が何なのかを知っていた」

 

目の前に座る私服姿のソーが俺にそう呟いてきた。突然タワーを尋ねてきて、部屋に入ってきたかと思えばこれである。

 

「アスガルドの王位を継ぐのはやめたって言ってたな。それに関係している事か?」

「そうだ。父はそれを認め、俺に自由をくれた。もしもロキが生きていれば……俺は王位をあいつに継ぐよう父に頼んだに違いない」

 

俺はロキについてあまり知らない。奴が何をしたとかは聞いたし、姿については捕らえた時に知ったがそれだけだ。性格についてはずる賢く、たまに抜けている所があると聞いているが。

 

「本気か?奴は一年前、あれだけの事をしでかしたんだぞ?」

「だとしてもだ。あいつは王になりたがっていた。方法は何にせよ、王がどのような存在なのかをあいつはよく知っていたんだ」

 

確かにそれは頷ける。あの戦いの後、資料映像としてロキがドイツのパーティー会場を現れた時の記録を見させてもらった。そこで奴は会場にいた人々に対し、膝まづくように迫っていた。まぁ、結局はロジャースとスタークに邪魔されて捕まったが。

 

「でもそれも結局はロキが生きていたらの話だろ?」

「ああ……そうだな」

 

最近、ソーは弱気な様子を見せる事が何度かある。ロキが死んだ事が関係しているんだろうが、ソーとロキは義兄弟だ。敵として戦ってもやはり義弟であるロキを亡くしたのは辛いんだろう。

 

「なぁ、ソー。ロキは本当に死んだのか?」

「……何を言ってる。あいつは俺の前でカースによって間違いなく殺されたんだぞ」

「偽物って事はないのか?」

 

ソーからロキの能力については聞いた。幻術を得意とし、他者への変身や分身なども作れるという相手を惑わすにはぴったりな力だ。特に奴は言葉巧みに相手を操る事が出来るから余計に厄介らしい。

 

「偽物……あいつの幻術に嵌まっていたという事か?」

「ああ。ロキは宇宙に放り出されても生きてたんだろ?そしてチタウリと結託して地球に攻めてきた。……しぶとさに関しちゃ、ありえない話じゃないだろ」

 

ソーやロキが宇宙空間でも生きていられる事を考えれば当然だが、そこから地球まで来るというのは奇跡や偶然としか言いようがない。ロキ本人のしぶとさもあるだろうが、もしかしたら今回もまだ実はどこかで生きているのかもしれない。

 

「だが、だとしたら一体どこに!?」

「それは分かるわけないだろ。それにこれだって、さっきソーが言ってように『生きてるかもしれない』話だ」

「……そうだな。すまん、大きな声を出したりして」

 

ロキがまだ生きている可能性を出した瞬間、声を張り上げた事を考えると相当期待したんだろうな。それはつまり、ソーはまだロキの事を大切な義弟だと思っている証拠である。

 

「だがスウァーノ、お前のおかげでようやく見えた。ロキはまだ生きてるかもしれないという希望が」

「探すのか、奴を?」

「……いや。もしも生きているのであればロキは自ら俺の前に現れるはずだ」

 

義兄弟だが、昔から一緒に過ごしているせいだからだろうか?ソーはロキの事を、ロキはソーの事を互いの事をよく分かっているのかもしれない。そうじゃなければ今のような事は言えないだろう。

 

「お前のおかげで少し楽になった気分だ。礼を言うぞ」

「それはどうも。何か相談とかあったらいつでも来いよ?」

「ああ」

 

ソーはそう言うと、置いてあったハンマーもといムジョルニアを自身の手に納め、開いている窓から飛んで出ていった。

…………たぶん恋人の所に行くんだろうが、普通に行ったらどうなんだ?




ソーがロキに対して甘いかな?と執筆を終えてから思ったんですがどうでしょうか?感想を頂けるとありがたいです!


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キャプテン・アメリカ 過去への執着

ショー.さん、十紀斗さん、評価ありがとうございます!

そして登録者数が100人を越えました!ありがとうございます!


ニューヨークでの戦いからおよそ一年半が経った。あれ以来、ソーとダーク・エルフとの戦いで(意味なかったが)出動した事を除けばアベンジャーズが集結した事はない。それは同時に世界が平和という証拠だ。

俺とバナーはタワーに住み、スタークもカリフォルニア州にあった豪邸が崩壊してからはこちらに住んでいる。

ナターシャとクリントは相変わらずS.H.I.E.L.D.のエージェントとして活動し、ソーは恋人のフォスターと過ごしている。

そして最後の一人、スティーブ・ロジャースは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またここに来てたのか」

 

寂れたボクシングジムを訪れた俺は、その中でサンドバッグをただひたすら殴っているスティーブに声をかけた。

 

「スウァーノ……どうやってここに?」

「最近、あんたの様子が変だってナターシャから連絡もらっててな。休日はたぶんここにいるんじゃない?って言われて来てみたんだよ」

 

現在、S.H.I.E.L.D.に所属しているスティーブはナターシャと組み、様々な事件を解決しに出向いている。一緒にいるナターシャだからこそスティーブの変化に気付いたんだろう。

 

「……昔に戻りたくなったのか?」

 

俺は近くのテーブルに置いてあるいくつもの資料に目を向けた。見てみると、どれも第二次世界大戦中のものである。特に多くあるのは戦時中の恋人、ペギー・カーターとスタークの父親、ハワード・スタークのものであった。

 

「……最近、いつも考えてしまうんだ。自分が大戦中に消えてなかったらどうなっていたかって」

「そりゃ……今ここにはいないんじゃないか?」

 

そんな答えが欲しかったわけじゃない事は分かっているが、俺がそれを言ってもしょうがないだろう。これはロジャースの問題であって、俺が解決できるようなものじゃない。

 

「眠りにつく前、ペギーと約束をしたんだ」

「どんな約束なんだ?」

「『土曜にクラブで会いましょう』って彼女は言っていたんだ。でも僕が目覚めたのはそれから70年も後だった」

「……それは」

「仕方がない事だとは分かってる。でもペギーとの約束を果たせなかった事が心残りなんだ」

 

ロジャースをいつも持っている方位磁石を取り出し、開く。その中には一人の女性の写真が納められている。きっとあれがロジャースの恋人だったペギー・カーターなんだろう。

 

「……ペギーにはこの間、会ってきたんだ」

「どうだった?」

「認知症は改善されてきていた。ただ尋ねる度にやつれていってる」

 

スティーブにカーターの存命を伝えたのは他でもない、俺だ。フューリーからは弱みを見せる事になるとか、任務に支障が出るとかで口止めされていたが俺はもうS.H.I.E.L.D.を抜けた身だ。故にフューリーに従う理由はなく、彼女がいる老人ホームの場所を教えてあげたのだ。

 

「君が教えてくれた時点で彼女はもう車椅子生活だったんだ、無理もない」

「……あんたこそ、無理してるんじゃないのか?」

「なに?」

 

椅子に座る俺がそう言うと、ロジャースが驚きながらこちらを向いてきた。

 

「今の時代を生きてるのはあんたにとって、窮屈でしかないんじゃないか?S.H.I.E.L.D.の一員じゃなく、カーターと一緒に過ごす事が一番の望みなんだろ」

「……そうだとしても、世界では常に何かが起きてる。それを放っておく事は出来ない」

 

超人兵士(スーパーソルジャー)になり、ヒーローになったからこそロジャースの正義への思いはさらに増したんだろう。自分の望みよりも、他の事を優先するのもロジャースの正義感から来ているに違いない。例え自分が愛した恋人が相手でも、その自分の正義を変えるつもりはないんだろう。

 

「でも、君の言う事も合ってるな」

「えっ?」

「僕が超人兵士(スーパーソルジャー)になったのは戦争を止めたかったからだ。戦争が終結した今、僕が戦う必要はあるんだろうかって考えてしまう事もある」

「……ロジャース」

 

あんたは周りから求められてるだけで、自分の意思で戦ってないんじゃないか?そう言いたかったが、それはロジャースが持つ通信機が鳴り響いた事によって遮られた。

 

「……緊急任務だ。すまないな、エイナム」

 

リングから降りたロジャースは資料をまとめると、脇に抱えてボクシングジムから出ていってしまった。

誰にだって戦う理由はある。でもロジャースは本来ならもう戦う必要がないはずだ。目的であった戦争終結は既に果たされているのだから。

 

だが周りはそれを許さない。世界は今もキャプテン・アメリカを必要としているから。




ちなみに誤解をする人がいるかもしれない為、追記をしますとオリ主はペギーがまだ生存していること、老人ホームにいる事を確認してからスティーブに伝えています(生存、老人ホームの場所についてはS.H.I.E.L.D所属時に知っているため)。

この章はこれで終わりです。オリ主については次に執筆するウィンター・ソルジャー編以降に執筆しようと思っています。

あと、「戦いの傷(アイアンマン3前日談)」、「ロキの死(ダークワールド後日談)」のタイトルを変えました。


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ウィンター・ソルジャー
前編


ウィンター・ソルジャー編、開始です!


ニューヨークでの戦いより2年半前──────

 

「いやぁ、ここの庭園は素晴らしい!君もそう思わんかね?」

「そうだな」

「だろ?なんたって、この庭園は私が設計したからな!はっはっは!!」

「……はぁ」

 

俺は現在、S.H.I.E.L.D.の任務でとある国の要人を彼のボディーガードと共に護衛中である。ただこいつ、自慢ばかりしてくるからうざい。自分が設計したという庭園を散歩しながら自慢されても、俺は別にどうでもいい。

まぁ、S.H.I.E.L.D.の為に活動資金を集めてくれたりと悪い奴じゃないんだけどな。

 

「ところでそろそろ車の中に戻った方がいいんじゃないか?」

「ん?ああ、私が暗殺者に狙われてるからか……あんなの嘘に決まってるだろ。何故私が狙われないといけない?それに仮に狙われていたとしても、この庭園には誰一人入れないよう言ってある」

 

いや、暗殺者なら普通に殺して入ってくると思うんだが。しかし自分は狙われてないとまだ言うのか。S.H.I.E.L.D.からの護衛をつけるのも渋々といった感じみたいだったし、意識が足りなさすぎるだろ。

 

「さらにはS.H.I.E.L.D.の君がいるんだ。大丈夫に決まっているだろう」

「いや、だが……」

「さぁ、次はあっちを回るぞ!」

 

逆にこんな俺達以外、誰もいない場所だからこそ狙われる確率が高い。だからさっさと車の中に戻ってほしいんだが何で言う事を聞いてくれないんだ、こいつは。

 

「どうするかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ター……──『ギンッ!』──……ン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

撃たれた。発砲と共にエネルギーによるバリアで要人とボディーガードを囲ったが、間一髪だったようだ。バリアが形成した際に迫ってきていた銃弾にぶつかった事で、方向がずれて頬を掠めるだけとなったらしい。

 

しかし誰が?おそらく暗殺者だ。どこから?遠くからスナイパーライフルで撃ってきたと思われる。被害は?要人の頬を銃弾が掠めたのみ。次の行動は?今すぐここから離れ、安全な場所へ。

 

「あっ、あれ!」

「なに?」

 

ボディーガードが後ろを指差し、振り向くとバリアに何かがぶつかった。何かと思えばそれは拳。しかし人間の皮膚とは思えない銀色で、よく見れば鋼鉄の腕であった。その特徴とバリア越しに見える顔を確認して俺はすぐに暗殺者の正体が分かった。

 

……ウィンター・ソルジャー。諜報の世界で伝説とされ、過去50年間に20件以上の暗殺任務を遂行しつつもその素性、経歴が一切不明で消息を掴めないことから『幽霊』とも称されている暗殺者だ。

そして今から半年前、つまり俺がS.H.I.E.L.D.に所属した頃にロマノフが任務中に襲われたという奴だ。

 

こいつは……一筋縄じゃいかないな。

 

再び鋼鉄の拳が叩きつけられるもバリアはビクともしない。しかしずっとこのままでいるわけにはいかず、故に俺はボディーガード達に小声で話し始めた。

 

「今からバリアを解く。そしたら俺が奴を引き付けてる間に安全な場所まで逃げろ。いいな?」

「は、はい!」

 

ボディーガードからの返事を聞いた俺はバリアをエネルギーへと戻し、右手へと纏った。そして強く握り締め、勢いよくウィンター・ソルジャーを殴ったのである。

 

「……っ!」

 

空中を回り、地面に叩きつけられた奴はすぐに起き上がった。結構丈夫だな、と思いつつ隙を見せずに光弾を撃ったが素早い動きで避けられてしまった。

もう一度撃つもやはり避けられてしまい、奴の接近を許してしまう。

 

「マジ、かっ!」

 

急所を狙ってくる拳や蹴り、間接を極めようと掴みかかってくる指をどうにか防ぎつつ、俺は反撃できる隙を見つけようとした。

しかしそれが見つからない。S.H.I.E.L.D.に入って様々な国の武術は習ったものの、今のレベルでは奴の動きについていくのがやっとである。

 

「おらっ!」

「っ!?」

 

しかしいつまでも防戦一方でいるわけにはいかない。エネルギーを足に纏って蹴り上げ、強引に隙を作る。そして反対の足で回し蹴りを放つがかわされ、鳩尾を鋼鉄の拳で殴られてしまった。

 

「ごふぅ……!」

 

後ろに吹き飛び、地面を転がった俺は鳩尾を押さえる。容赦なく殴られたおかげで凄まじく痛かった。しかしそれで崩れ落ちる程、やわな特訓は受けていない。

 

「げほっ……やってくれたな、あんた」

「……」

「少しは話そうぜ、な?」

「……断る」

 

まぁ、だろうな。そう思いながら俺は両足にエネルギーを纏う。そのまま走り出して地面を勢いよく蹴ると、跳躍して奴を蹴り飛ばした。

転がっていくウィンター・ソルジャーに対し、すぐに両手から光線を撃つ。起きた瞬間に受けた事で防御する事も出来ず、そのまま光線に押されていって木の幹を折った所で止まった。

 

「ぐっ……ちっ」

 

苛立ちからか舌打ちが聞こえ、ウィンター・ソルジャーは携帯しているナイフを取り出す。逆手に持ち、走ってきた奴がナイフを振ってきた瞬間にバリアを作り、ぶつかる直前で防いだ。

刃は通らない。その事を悟った奴は跳躍し、バリアを飛び越えてきた。

 

「なんっ!?」

 

今度は真上にバリアを作ると、奴は飛び乗ると同時に横に転がって俺のすぐ隣へと着地した。

 

「……死ね」

「やだよっ!」

 

俺の顔に向かって凪ぎ払われるナイフをエネルギーで纏った両手で取り押さえる。まさか刃に掴みかかるとは思っていなかったのか、少し目を見開く奴の腹に蹴りをお見舞いしてやった。

 

「吹っ飛べ!」

 

纏っていたエネルギーをそのまま光弾に変えて撃つ。今度はうまく直撃し、吹き飛んでいくウィンター・ソルジャーは木々にぶつかり、最後は地面へと倒れた。

だがそれでもまだ立ち上がれるだけの余力は残っているようだった。

 

「……お前、一体何者なんだ?50年前から暗殺者やってるのに、老けてないってどういう事だ?」

「……」

「まぁ、ここで答えなくても独房の中でじっくりと……」

 

そこで俺の携帯が鳴り響いた。ウィンター・ソルジャーの動きに気を付けつつも画面を見てみると、ボディーガードからの連絡であった。

 

「どうした?」

『ハ、ハウロ様が……殺されました』

「なっ!?」

 

ヘルロー・ハウロ。俺がさっきまで護衛していた要人の名前だ。そいつが殺された?そんな馬鹿な、あいつを狙っていたウィンター・ソルジャーは俺が今ここで足止めをして……っ!?

 

「まさかお前、仲間がいっ!?」

 

一瞬、ボディーガードからの連絡に目をそらしてしまったのが駄目だった。その僅かな隙に奴はハンドガンを取り出して俺の胸を撃ったのである。

 

「がっ……!?」

「……任務完了。帰還する」

 

どこかへ連絡をとるウィンター・ソルジャーだったが、倒れてうつ伏せとなってしまった俺には相手が誰なのか問い詰める余裕などなかった。心臓はどうにか免れたようだが、出血が止まらない。

 

「くそっ……ま……て……」

 

どうにか声を絞り出して呼び掛けるものの、意識を保っている事に限界が来たようで、俺は気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨークで起きたアベンジャーズとチタウリとの戦いからもう二年が過ぎた。

この二年間で俺はヒーロー活動をほとんど行っていない。いや、行ってはいたんだがスティーブやS.H.I.E.L.D.の精鋭部隊であるS.T.R.I.K.E(ストライク)の活躍によりする必要がなかったのだ。

さらにはスタークもアーマー開発に手をつけるようになり、ソーもいる。ヒーローが何人もいれば、それだけ個々の活動が減るのは当然である。

 

それで、そんな俺が今何をしているのかと言うと……。

 

 

 

「左、失礼!」

「はいはい、左ね!どうぞー!」

「し、失礼っ」

「え、ああ、どうぞ」

 

スティーブが日課としているランニングを一緒にしている最中である。とりあえずスティーブが抜いた人を俺も抜き、どうにか追い付こうとするが流石は超人兵士(スーパーソルジャー)。いくら走ってもなかなか距離を縮められないし、そもそも相手は体力に限界があるのか分からない男である。

 

「スウァーノ、遅いぞ!」

「当たり、前だろ」

 

前から声をかけられるが、どうにかついていってるのが現状だ。日頃から体は鍛えているものの、生身のままで超人にはまだまだ程遠い。

 

「くそぉ……!」

 

体力もほぼ限界に達し、気合いと根性だけでスティーブを追いかけているとさっき追い抜いた人が見えてきた。どうやらまた一周走って追い付いたようだ。たぶん、これで三回目か?

 

「おい、おい!言うなよ!絶対に言うなよ!?」

「左、失礼!」

「くっそぉっ!」

 

何度も抜かれている事に悔しさを感じたらしいが、抜かれた上にまたもや声を掛けられた。そしてスティーブに追い付こうとするものの、既に遥か彼方まで行ってしまっている。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

「あー……大丈夫か?」

「だ、だい、じょうぶ、だ……!」

「俺にはそう見えないが」

 

走る、というか小走りになっている男に合わせて走るが、俺以上に限界がきているらしい。小走りから歩きへ、そして立ち止まって近くの木陰へと座り込んでしまった。

 

「はぁ、ひぃ……あんたも、凄いな。あの体力馬鹿に、ついていけるなんて」

「まぁ、最近はよく付き合ってるからな」

 

その間、一度も抜く事は出来なかったが。

 

「そこの君、衛生兵を呼んだ方がいいか?」

「それよりも、肺を取り替えてくれよ」

 

また一周して走ってきたスティーブが冗談混じりに声を掛けるが、男も冗談で返す。まぁ、本当に肺を取り替えた所でこの体力馬鹿になれるとは思えないが。

 

「あんた達、二十キロをたったの三十分で走ってたな」

「そうか、遅すぎるな」

「いや、十分速いだろ?」

 

一マイル(一・六キロ)を一分以下で走れるスティーブとしては遅いのかもしれないが、俺としてはそこまで速く走れていたとは思わなかったんだぞ。

 

「所属はどこだ?」

「第五十八落下傘部隊、今は退役軍人省にいる。サム・ウィルソンだ」

「僕はスティーブ・ロジャース」

「だろうと思った。あんたは?」

 

スティーブと握手し、起き上がらせてもらったウィルソンは俺の名前を尋ねてきた。スティーブはキャプテン・アメリカとして教科書にも載っているから正体が明かされているが、俺は一般に名前を明かしていない。まぁ、する機会がないだけなんだが。

 

「スウァーノ・エイナム。レイって言った方が分かるか?」

「レイ?……えっ、あのレイか!?アベンジャーズの!」

「ああ、そのレイで間違いない」

 

故に名前を明かすと驚かれるのは当然である。

 

「驚いたな。まさかキャプテン・アメリカだけじゃなく、レイにまで会えるなんて」

「たまにこの辺はうろついてるから会ってるかも知れないぞ?」

「そいつは惜しい事をしてたな」

 

実際にここ、ワシントンD.C.にはたまに来ている。その主な理由はS.H.I.E.L.D.の本部施設であるトリスケリオンに用事があるからだ。組織を抜けたとはいえ、出入りはフューリーから許可されている。だから情報を集める為の場所として利用させてもらっているのだ。

 

「スウァーノ、サム。僕はそろそろ行くよ」

「何だ、用事でもあるのか?」

「ああ。任務が入った」

 

スティーブはそう言って通信機を見せてくる。そこには確かに任務を通知する文字が表示されていた。

 

「おつかれ、サム。あれで走ったならな」

「おいおい……それはないだろ?」

「本当の事だ。スウァーノも、おつかれ」

「ああ、おつかれさん。また付き合わせてくれよ」

 

俺がそう言い、スティーブとハイタッチをしていると目の前に一台の車が停まった。その運転席にいるのはアベンジャーズのメンバーであり、S.H.I.E.L.D.のエージェントでもあるナターシャだ。

 

「よっ、ナターシャ。久し振り」

「ええ、久し振りね。男三人でランニングでもしてたの?」

「ああ。ウィルソンは走ってないみたいだが」

「いやいや、走ってただろ!?」

 

助手席に移動し、スティーブと運転席を替わるナターシャは髪型を変えたらしく、セミロングになっていた。

 

「似合ってるな、その髪型」

「ありがと」

「クリントはどうしてる?本部でも見かけないが」

「今は休暇中よ。家族の元に帰ってるわ」

 

なるほど、だから全然見ないのか。一言伝えてくれればいいのにな、そしたら家に遊びに行っていたのに。

 

「またな、スウァーノ」

「ああ。しくじんないようにな」

 

まぁ、あのキャプテン・アメリカがそんな事をするとは思えないけど。スティーブが運転する車が走り去っていき、俺も帰るかと思っているとウィルソンに肩を叩かれた。

 

「今の女の人って、もしかして彼女だったりするか?」

「ナターシャか?いや、そんなんじゃない。よく知ってる仲間なだけだ」

 

それに……彼女ならもういるしな。




前半、書いてる時に「あれ?これだとレイ〉キャプテン・アメリカになるんじゃない?」と思いましたが、単純な強さだけならレイの方が勝ってるんじゃないかな?
戦法や戦略の立案はキャプテンの方が勝ってるだろうけど。

皆さんはキャラの強さを比べる時にどんな事で比べますか?


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中編

ケツ.ゲ.イイジャナイ12世さん、便所飯さん、評価ありがとうございます!
そしてついに評価バーに色が付きました!

今回は映画『ウィンター・ソルジャー』の裏側で起きていたような物語です。


「どうしたんだよ、こんな所に呼び出して」

 

ある日、俺はトリスケリオンを訪れた後に突然フューリーに呼び出された。近くにあった喫茶店へと連れ込まれ、店員が注文を聞きに来るものの「いらない」と答えて返してしまった。

俺、コーヒー飲みたかったんだが……。

 

「これをお前に託す」

 

フューリーがいつもの強面の表情で小さな紙袋を渡してきた。中を見てみると、入っていたのは一つのUSBメモリであった。

 

「……これは?」

「このまま帰れ。そして誰にも気付かれずに中身を確認しろ」

「は?どういう事だよ」

「あとは任せたぞ」

 

立ち上がり、俺の肩にポンッと手を乗せるとフューリーは喫茶店から出ていってしまった。手元に残されたのはUSBメモリが入ったこの紙袋のみ。

 

「なんなんだよ、一体……?」

 

 

 

タワーに戻ってきた俺は自室にてパソコンを起動した。そしてネットを切る。誰にも気付かれずに、という事だったのでJ.A.R.V.I.S.からも見られないようにしたのだ。それに万が一、何が起きるか分からないし。

 

「さて、それじゃ……」

『スウァーノ様』

 

USBメモリを挿そうとすると、J.A.R.V.I.S.の声が自室に響いた。やはりネットを切った事には気付かれたか。

 

『ネットをお切りになされましたが、何をするおつもりですか?』

「このメモリのデータを見るだけだよ」

『それでしたらネットを切る必要はないと思われますが』

「……個人的な調べものがしたいんだよ。だから誰にも見られないようにな」

『それでしたらトニー様特製のファイアウォールを……』

「いや、いいから」

 

J.A.R.V.I.S.からの申し出を断り、俺はUSBメモリをパソコンに挿し込んで読み込みを始めた。一体何が出てくるのかな、と思っていると画面に現れたのはS.H.I.E.L.D.のマーク。その次に現れたのは様々な情報が収められたファイルの大群であった。

 

「これは……インサイト計画に関連したデータか」

 

ファイルを一つずつ開き、内容を読んでいくと全てインサイト計画に関わるものだという事が分かる。

 

インサイト計画──────船から打ち上げられたスパイ衛星がアルゴリズムを用いて『将来的に“世界平和を乱す危険性”を持つ人物』を捉え、新型ヘリキャリア三機で先制攻撃をし、犯罪を起こす前に排除するというプロジェクト。

S.H.I.E.L.D.の上層部がこの計画を生み出し、世界平和を求めるフューリーも賛成していた。

 

だがこの計画に俺やスティーブは反対している。スタークはこの計画に賛成しており、開発したリパルサー・エンジンを新型ヘリキャリアに提供してしまっているが。

だが反対するのは当然だ。アルゴリズムが敵を捉えても、そいつが本当に"世界平和を乱す危険性"を持っているとは限らない。もし違っていれば、S.H.I.E.L.D.は無関係の人物を殺害したという事になるだろう。

 

それにこの計画がもしも敵に利用されてしまったら。その時、インサイト計画は『世界平和』の為ではなく、『大量虐殺』の為のものとなるだろう。

 

「……ん?」

 

ファイルを読み進め、最後のファイルを開こうとしたが何故か開かなかった。何故かと思い、様々な手段を用いるも開かない。それどころか『解析不能』という文字まで出てきてしまった。

 

「……なるほどな」

 

おそらくフューリーはこの『解析不能』のファイルを開いてもらう為にUSBメモリを託したんだろう。

だが俺では分野が違う。これを得意とするのは、ここの家主と執事である。

 

 

 

 

「こいつは時間がかかりそうだな」

 

スタークがUSBメモリ内の『解析不能』のファイルのみを取り出し、3Dホログラムにして調べているとそう呟いてきた。

 

「そんなに頑丈なのか?」

「いや、面倒な上に壁が多いだけだ。ファイルの中身を無理矢理奥に押し込めた感じだな、これは」

 

つまり時間の問題という事か。とりあえずこれでファイルの中身が何なのか判明する事が確定したな。

 

「しかし何でインサイト計画のファイルと一緒にこんなのが?」

「何か秘密があったりするんじゃないか?」

 

フューリーも知らないS.H.I.E.L.D.の秘密が。そんな冗談を頭の中で思っていると、携帯が鳴り始めた。誰だ?と思いながら画面を見ると、スティーブからであった。

 

「もしもし?どうした、スティーブ。こんな夜遅くに」

『……フューリーが』

「フューリーが、何だ?」

 

途端に俺は身を引き締めて問い掛けた。あのフューリーに何かが起きたという事になると、極めて重大な事態である事に間違いはないだろう。

 

『フューリーが……亡くなった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スティーブの話をまとめると、こうだ。フューリーはウィンター・ソルジャーに襲われたらしい。そしてスティーブの住むアパートに逃げ込み、『S.H.I.E.L.D.が危険だ』と警告すると同時に俺とは別のUSBメモリを渡したそうだ。

その後、再び現れたウィンター・ソルジャーに狙撃され、運ばれた病院で手術中に死亡が確認されたとのこと。

フューリーの死をS.H.I.E.L.D.の副長官であるマリア・ヒルとナターシャは悲しみ、スティーブも現実を認められない様子だった。俺もみんなと同じ気持ちである。キューブの力を利用し、秘密裏に破壊兵器を開発しようとしていたわけだが俺をS.H.I.E.L.D.に誘ってくれた恩人でもあるのだ。

 

だから……悲しいに決まってるだろ。

 

 

 

 

 

 

「スウァーノ、これを見ろ!」

 

後日、フューリーを殺したウィンター・ソルジャーの情報を集め、それらを整理していた俺の元にスタークが走り込んできた。そして持っていたタブレットをテーブルの上に置く。

 

「もしかして、ようやくファイルが開けたのか?」

「ああ、そうだ!どんなサプライスが待っているのかと思ったら出てきたのは何だと思う?これだ!」

 

スタークに急かされ、タブレットを手に持って電源を入れる。すぐにあのファイルに入っていたデータと思われる文章やら画像やらが映し出され、俺はそれを最後まで一気に読んでいった。

 

「……おい、本当かこれ」

「ああ。信じられないが、本当だ」

 

資料に書かれていた事を読み、俺は唖然とした。インサイト計画に関連したデータである事に変わりはないのだが、それよりもさらに重大な事が書かれていたのだ。

 

インサイト計画の要素の一つであるアルゴリズム。あれは『将来的に“世界平和を乱す危険性”を持つ人物』を捉えるはず。しかしここには『将来、"計画の邪魔になる恐れ"がある人物』を捉えると書かれている。

計画とは何か?誰が考えた計画なのか?インサイト計画とは本当は一体何なのか?

 

それらの疑問に答えるように文章の最後には、とある言葉が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────『ハイルヒドラ(ヒドラ万歳)』と。

 

 

 

 

ヒドラ……かつて第二次世界大戦中にヨハン・シュミットが率いていた秘密結社だ。戦時中は世界の中でも特に優れた科学技術を有し、最先端の兵器を数多く生み出してきたとして知られている。

元々はナチスの極秘科学部門だったみたいだが、シュミットがキューブを手に入れ、新兵器を完成させるとナチスから独立して世界征服を目論むようになったらしい。

最後はスティーブによってシュミットが倒されて壊滅したと聞いていたんだが……まさかS.H.I.E.L.D.の中に潜んでいたとは。

 

 

 

「とにかくこの事をスティーブに!」

 

ヒドラがまだ存在しているとなれば、必ずスティーブを狙うはず。手遅れになる前にヒドラがS.H.I.E.L.D.内に潜んでいる事を伝えなければならない。

 

『お待ち下さい、スウァーノ様』

「J.A.R.V.I.S.?」

『トニー様、S.H.I.E.L.D.の内部にアクセスする事が出来ました』

「よくやった、J.A.R.V.I.S.!」

 

S.H.I.E.L.D.の内部にアクセス?えっ、あんたヘリキャリアに続いて、またJ.A.R.V.I.S.にそんな事させていたのか。

 

「それでどうだった?」

『現在、S.H.I.E.L.D.は嘘の情報を流しています。スティーブ様に罪を被せ、数日前から逃亡犯として追跡しているようです。また、ナターシャ様も共に行動しています』

「はぁ!?何だそれ!」

 

スティーブとナターシャを捕まえようとしてるだと?おそらくヒドラの仕業だろうが、何でそんな事を……いや、待てよ。確かスティーブってフューリーから……。

 

「そうか……USBメモリだ」

「何?」

「スティーブはフューリーからUSBメモリを受け取ったって言ってた。おそらくそれにヒドラにとってまずい何かが入ってるんだ」

 

きっとナターシャはスティーブを助ける為に一緒にいるんだろう。そして今もS.H.I.E.L.D.の追跡から逃げ切ろうとしているに違いない。

 

「J.A.R.V.I.S.、スティーブとナターシャは今どこに?」

『現在、二人共に車に乗って移動中しています。ワシントンD.C.に向かっているようです』

 

わざわざトリスケリオンがある場所へ行くという事は、インサイト計画の正体について知っている可能性が高い。そしてヒドラの事も。

 

「スターク、俺は今からスティーブ達の所に行ってくる。二人を助けてやらないと」

「なら僕も行こう」

 

ヒドラが相手となれば、仲間が必要だ。スティーブも戦時中にはハウリング・コマンドーズというチームと共にヒドラと戦っていたようだし。

俺が身支度を整えようとすると、スタークは準備万端と言いたげにマーク43を飛来させてきた。

 

「いや、スタークはバナーと一緒にここに残っていてくれ。もしも計画が発動してしまった時、ニューヨークを守れるヒーローがいないと」

「……確かにそれは一理あるな。分かった、こっちは任せておけ」

 

よし、それじゃあ飛んでスティーブ達と合流を……と思った所で携帯が鳴った。こんな時に誰だと画面を見ると、掛けてきたのはマリアだった。

 

「もしもし?」

『スウァーノ、今から指示する場所に来てちょうだい。そこでスティーブ達と合流してもらうわ』

「えっ、マリア?お前、何言って……」

『長官がそろそろ気付いた頃だろうと言ったのよ』

 

フューリーが『言ってた』じゃなくて『言ったから』?いやいや、何で現在進行形?フューリーはもう死んでこの世にはいないだろ?

 

『とにかく場所を指示するわよ』

「お、おう……」

 

どういう事なんだ?一つ、疑問が解けたと思ったら次は別の疑問が出てくるとか勘弁してくれ。




次回からまたスティーブ達が出てきます。あと、映画では出てこなかった敵も登場する予定です!

ちなみにオリ主のスティーブへの呼び名が前回からロジャース→スティーブに変わっているんですが、気付いているでしょうか?


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後編

今回は今までの話の中で一番文字数が多いです。


「ここだな」

 

マリアから指定された場所付近になった辺りで目立たないよう、徒歩で移動を始めた俺は数十分後に目的地に到達した。ワシントンD.C.の近くにある山中であり、古いダムがすぐそこにある場所である。

 

「……スティーブ達もマリアもいないか」

 

場所は間違ってない。となると、あっちが遅れてるのか?

 

「ん?」

 

しばらく待つかと思っていると車の音が聞こえ始め、灰色の車が視界に入った。窓にプライバシーフィルムを貼っているらしく中は見えないが、誰が入っているのかはすぐに分かった。

 

「スティーブ、マリア、ナターシャ……って、何でウィルソンも?」

「おい、何だその反応」

 

いや、だって前に一緒にランニングをしただけの仲だろ?まぁ、その後にスティーブはウィルソンがやってる退役軍人の為のカウンセラーを見せてもらったりしていたようだが。

 

「っておい。ナターシャのその怪我はどうした?」

「……敵に、襲われたんだ。それで……怪我を」

 

ナターシャの怪我についてスティーブがどこか歯切れ悪そうに説明してくる。何故かは分からないが、道中で何かがあったのだろう。

 

「大丈夫か?」

「……応急処置はしてもらってるわ。傷も深くない」

「なわけないだろ」

 

だったら何でそんな強く押さえてるんだよ。確かに見た目からはそんなに酷くないが、相当痛いんだろう。

 

「マリア、どこかでナターシャの手当てをしないと」

「分かってるわ。みんな、こっちに来て」

 

そう言うマリアの後を追い、俺達が辿り着いたのはダムの近くにある鉄格子の扉。その先に何があるのかと思っていたが、マリアが開けた事でそれが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、やっと来たのか」

 

死んだはずのフューリーが怪我を負いつつも、ベットに寝て生きていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

フューリーが生きている事に混乱していた俺達であったが、互いに情報交換をした事でそれは解決した。ちなみにその間、ナターシャはフューリーに付き添っていた医師に止血をしてもらっていた。

つまり状況を説明すると、

 

まずフューリーがウィンター・ソルジャーに殺されかけたのは本当だが、バナー用の鎮静剤を用いる事で脊椎の損傷や脈を毎分一回に遅らせるなどの症状を一時的に引き起こし、死んだように見せかけたらしい。ヒドラだけでなく、俺達も騙す為に。

 

次にS.H.I.E.L.D.は創設された時点で既にヒドラの息がかかっていたようだ。そして構成員が十分となった今、インサイト計画を利用して自分達の邪魔となる相手を消して完全復活を果たすつもりなんだろう。

S.H.I.E.L.D.の理事を務める高官のアレクサンダー・ピアースやS.T.R.I.K.E.、その他にも大勢がヒドラに所属しているに違いない。

 

そしてウィンター・ソルジャー。奴もヒドラの一員らしくが、それどころかスティーブの親友であるバッキー・バーンズだという事がさっき分かったようだ。しかも洗脳をされており、スティーブの事は覚えていなかったらしい。

なるほどな、だからスティーブは落ち込んでいたのか。

 

さらに最悪な事に、インサイト計画までもう時間がない。

 

 

 

「で、どうするんだ?」

「もちろん止める。だから君にも来てもらったんだ」

 

まぁ、呼ばれなくても来るはずだったんだけどな。ウィルソンは結構前から一緒に行動しているらしく、共に戦ってくれるとのこと。なんでも米軍でのコードネームであった『ファルコン』の由来となった、フライトスーツを装着するとか。

 

「スーツはどうしたんだ?」

「捨てた。発信器が付いてる可能性があったからな」

「でも必要だろ。スミソニアン博物館にあるレプリカなんかどうだ?」

「……それしかないか」

 

流石にその一般服でいくわけにはいかないだろ。まぁ、レプリカだから防御面は期待できないが。

 

「俺は地上からの敵の増援に対処し、スティーブとウィルソンはヘリキャリアへ。ナターシャとフューリーはピアースを捕まえ、ヒドラの存在を全世界に公開か」

「キャプテンの援護は任せてくれ」

「ああ。頼んだぞ、サム」

 

それぞれが別々に行動し、ヒドラの計画を止める。だがそれは結果的にS.H.I.E.L.D.を壊滅させるという事だ。

 

「……いいのか、フューリー」

「ああ。世界を救う為に、やらないといけない事だ」

「ナターシャは?」

「覚悟ならもう出来てるわ」

 

S.H.I.E.L.D.はフューリーやナターシャにとって、唯一の居場所だ。そこを消すという事は、二人からなくてはならない場所を奪うとも言える。

 

「スウァーノ。僕達がやらなきゃ、世界はヒドラに支配されるぞ」

「……ああ、そうだな。ごちゃごちゃ言ってる場合じゃない。やるしかないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワラワラと……こんなにいたのか」

 

発進してしまったヘリキャリアにスティーブとウィルソンは乗り込んでいった。コントロール・チップを別のチップに交換し、三機で自滅し合ってもらう事が最終的な目的だ。

それを知らずともキャプテン・アメリカが現れたとなればヒドラの奴らも全力で邪魔をしてくるのは当然だろう。スティーブの演説でヒドラのメンバーでない職員も戦ってくれているが、人数も武器も敵の方が上だ。

 

「だから俺が頑張らないとな!」

 

向かってくる奴らに光弾を撃って吹き飛ばす。遠距離からの銃撃に対してはバリアで身を守り、光線で周りの敵をも巻き込んで倒していく。

 

「ふぅっ……はっ!」

 

拳をアウトエナジーで纏い、敵が纏まっている所に向かって跳躍すると拳を地面に叩きつけた。その瞬間、衝撃波となって広がったアウトエナジーが敵を一気に吹き飛ばしていった。

 

「上には誰も行かせないぞ?」

 

真上を飛ぶヘリキャリアを指差し、構えた双剣で敵の集団へと突っ込み、斬り刻んでいく。最後には融合させて槍へと変え、敵に投げつける。突き刺さった奴を中心に大きな爆発を引き起こして残ってる奴らの半分が消えた。

 

「よし、このまま……っ!?」

 

背後から迫って来る気配に気付き、振り向くと同時にバリアを張って鉄の拳を防いだ。やはりというべきか、ウィンター・ソルジャーことバーンズである。

 

「久し振りだな。4年半ぶりか」

「お前など、知らない」

「酷いな。ちょっとは覚えてくれてもいいだろ」

 

バリアを不意に解いた事でバーンズはバランスを崩し、攻撃するチャンスが生まれた。しかしすぐに体勢を立て直され、鋼鉄の腕を使って何度も俺の首を潰しにかかってくる。

 

「バーンズ!お前、スティーブのこと何も覚えてないのか?」

「覚えてなどないし、覚える気もない!」

 

腕を掻い潜り、顎を下から殴ろうとするが受け止められる。咄嗟に光弾を撃つが、蹴られた事で見当違いの方へ飛んでいってしまった。

 

「……だったらお前をずっとここに留めてやる。記憶がないお前を親友となんて戦わせてやるか」

 

昔の記憶を失ってる事を利用してこんな事をさせ、さらには親友であるスティーブを殺させるだと?そんな事、記憶が戻ったら絶対に後悔するだろ。

ふざけるなよ、ヒドラの奴ら。痛い目は確かに見せられたが、奴はもしかしたら俺がなっていたかもしれない未来の一つだ。だからこれ以上、バーンズを苦しめるような事は絶対に────

 

「俺に親友なんていない!」

「覚えてないだけだろ?お前にはスティーブっていう親友がいるんだよ」

 

記憶が混乱しているのか否定の言葉が強くなり、動きも単調になってきている。このままうまくいけば、バーンズをどうにか捕まえる事が出来るかもしれない。

 

と、思っていたんだが…………。

 

「なっ!?」

 

突然飛来してきたミサイルの爆発に巻き込まれ、俺は吹き飛んで瓦礫と共に壁に叩きつけられた。バーンズはそんな俺を見ていたが、すぐに戦闘機がある場所へと向かってしまった。おそらくヘリキャリアに向かう為だろう。

 

「ぐっ……一体、何が?」

『はははっ!勢いよく吹き飛んだな!』

 

邪魔な瓦礫を踏み潰し、煙の中から地響きと共に現れたのは赤色の巨大なロボット。いや、正確にはロボットではないな。

S.H.I.E.L.D.がスタークとは別に対ハルク用に開発したパワードスーツ、クリムゾン(深紅色の)ダイナモ(発電機)だ。その名前の由来通り、最新式の発電機を積んでおり、それを動力源にしている。

技術力がスタークには及ばず、大きな見た目をしている為に動きが遅かったり、細かな動きは出来なかったりなどあるがそれ位だろう。戦闘力はスタークのアーマーと比べても大差ないだろう。

 

『スウァーノ、まずいわ。C(クリムゾン)・ダイナモがヒドラに奪われた』

「……けほっ。ああ、知ってる。目の前にいるからな」

 

近付いてくるC・ダイナモが拳を振るってくる。巨体である故にその力は凄まじく、後ろの厚い壁を粉砕してしまった。

 

『逃げるな!』

「じゃあ、お前が離れろ」

 

両手から光線を全力で同時に放つ。それを受けたC・ダイナモは大きく吹き飛び、コンテナや戦闘機などを破壊しながら転がっていった。それに巻き込まれたヒドラのメンバーもおり、突き飛ばされたり潰されたりしていく。

 

「バーンズは……っ!?」

 

こちらに機関銃を向け、発砲しながら飛んでくる戦闘機が見えた。バリアで銃弾を防ぎ、耐えていると戦闘機は諦めたのか機関銃を収納し、ヘリキャリアへと向かっていった。

……一瞬だったが操縦室に誰が乗っているのかが見えた。あれはバーンズだ。

 

「スティーブ、ウィルソン!バーンズがそっちにっ!?」

 

轟音と共に振り降ろされてきた拳をバリアで防ぐ。しかしその重さは凄まじく、俺ごとバリアが地面にめり込んでしまった。

 

『よくもやってくれたな……このまま押し潰してやる!』

 

C・ダイナモはさっきの攻撃によりボロボロになっていた。だがそのせいで怒りが頂点に達したらしく、拳の両脇に展開した小型のジェット噴射機が拳の重さを倍増していく。

 

「それが……どうしたっ!?」

 

バリアを消すのではなく、弾けさせる。それによりC・ダイナモはよろけ、とどめとばかりにさっきと同じ様に光線を撃った。

壊れかけていたおかげで装甲が弱くなっていたらしく、光線は奴を貫通。ちょうど中にいたヒドラのメンバーに直撃したらしく、押し出されたそいつの体は無惨な姿へと成り果てていた。

 

「まだ俺とやりたい奴はいるか?なら覚悟はしとけよ」

 

壊れたC・ダイナモと死亡した仲間の姿を見て怖じ気づいた奴もいるが、まだ武器を構えている奴も多くいる。

大した忠誠心からなのか、それとも裏切って殺されるのが怖いからか。どっちにしても、ヒドラに入った時点でいずれこうなる事は分かっていただろうに。

 

「まったく、哀れな奴らだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ウィルソンはバーンズによりフライトスーツを壊され、空中に落とされたもののパラシュートで生き延び、ナターシャ達を狙うS.T.R.I.K.E. のリーダー、ラムロウと対峙する事に。

三機目でバーンズと激突したスティーブは死闘の末にチップの交換に成功し、ヘリキャリアはそれぞれが他の二機のみを敵として捕捉。だがバーンズに邪魔され、まだ脱出できていない。

 

『撃て!今すぐ!!』

『でも……!』

「マリア、俺がスティーブを救助する!だからやれ!」

 

スティーブの言う通り、今ヘリキャリアを潰さなければヒドラが何らかの対策をしてしまうかもしれない。自分達が乗るヘリキャリアだけが狙われ、混乱している今しかチャンスはないのだ。

 

『……頼んだわよ、スウァーノ。必ず生きて戻ってくるように』

 

マリアがそう言った後、ヘリキャリア三機の武装が火を吹いて同士討ちを始めた。あちこちで爆発が起こり、破壊されていくヘリキャリアへと俺は飛んでいく。

 

「マリア、スティーブはどのヘリキャリアに!?」

『一番よ!』

「よし、分かっ……!?」

 

マリアから言われたそのヘリキャリアが飛行機能を失い、トリスケリオンへと墜落していくのが見えた。あそこにはナターシャやフューリー、ラムロウと戦っているウィルソンが……!

 

「フューリー!ナターシャ!ウィルソン!ヘリキャリアがそっちに!」

『分かってる。俺とロマノフは脱出した。今からウィルソンを回収しに行く』

 

通信機からヘリの音と共にフューリーの声が聞こえてきた。どうやらあっちは大丈夫なようだ。だったらあとはスティーブさえ助ける事が出来れば!

 

「スティーブ!返事しろ、今そっちに……あっ!?」

 

装甲に『IN-01』と書かれたヘリキャリアへと向かっている最中、瓦礫と共に落下していくスティーブが見えた。もしかしたらぶつかった衝撃で落ちたのかもしれない。

一直線にスティーブへと飛び、邪魔な瓦礫などは光弾や光線で破壊していく。そしてついに辿り着いたスティーブの腕をしっかりと掴んだ。

 

「スティーブ、おい!大丈夫か!?」

 

呼び掛けるが、反応がない。だが息はしている事から気絶しているだけだろう。怪我も酷いし、親友と戦うのは辛かったに違いない。最後まで全力を出せなかったのだろう。

 

『スウァーノ、ロジャースは!?』

「今、回収した。気絶はしてるけどな。これからそっちにもど──────」

 

そこまで言った瞬間、スティーブを助けられて気が抜けていた事が原因だろう。上から迫ってくる巨大な瓦礫に俺は気付けず。

 

「っ!!?」

 

スティーブ共々押し潰され、下に見える湖へと沈められてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かはっ……げほっ……!?」

 

誰かに岸へと放り投げられ、その衝撃で俺は目覚めた。隣にはスティーブが気絶した状態で倒れており、起き上がろうとした俺の横を鋼鉄の腕を持つ男が歩いていくのが見えた。

 

「バーンズ……何で俺達を助けた?」

「……お前が親友(スティーブ)の仲間だからだ」

 

小さく呟くように言ったバーンズだったが、今確かにスティーブを見て親友と言った。それはつまり記憶が戻って……?

 

「お前、もしかして」

「そいつが起きたら、伝えてくれ」

 

こちらに振り返るバーンズは、どこか戸惑いつつも口をゆっくりと開いた。

 

「俺にはもう関わるな。俺の事は忘れろ、と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナターシャが世界へ公開したS.H.I.E.L.D.の機密情報、そしてヒドラの存在。それがS.H.I.E.L.D.に潜み、インサイト計画を主導していた上に自分達の邪魔となる者達を消そうとしていた。

平和を維持するどころか、大量虐殺が行われようとしていた事に世界中がS.H.I.E.L.D.を非難し、本部も崩壊した事から組織としては完全に壊滅。

フューリーは死を偽装したままヒドラの残党を追い、ナターシャは自分の過去(KGBのスパイだったこと)を暴かれてしまった。

スティーブとウィルソンは行方をくらましたバーンズを探す旅を始め、ヒドラの影響を受けていなかったS.H.I.E.L.D.の職員はFBIやCIAへと異動していった。

 

 

 

 

「……本当に行くんだな」

「ああ、しばらくは戻らないだろうな」

 

今日、スティーブとウィルソンはバーンズを追ってニューヨークを出発する。ナターシャから渡されたバーンズ関連の書類を読み、そこから得られた情報を元に探していくようだ。

 

「スティーブを頼むぞ、ウィルソン?」

「キャプテンの足は引っ張らないさ」

 

結局、スティーブにはバーンズからの伝言を伝えずに『記憶が戻っていたかもしれない』事を伝えた。というか仮に言ってもスティーブはバーンズを探しただろう。自身にとって唯一の親友なのだ、諦めるわけがない。

 

「じゃあな、スティーブ」

「ああ、スウァーノ。また会おう」

 

スティーブとハイタッチを決め、俺達はその場を去った。だがおそらくいつか、再び俺達は出会うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────世界が危機に陥った時、アベンジャーズのメンバーとして。




これにてウィンター・ソルジャー編、終了!

次回からはオリ主のオリジン・ストーリーです。


ちなみにこの話をどこまで続けようか悩み中です。
とりあえず現在の目標はエイジ・オブ・ウルトロンです。(最終到達点とは言ってない)


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レイ~オリジン・ストーリー2~
前編


赤坂サカスさん、あら不思議さん、HNさん、ぼるてるさん、いいひとさん、アカガラさん、評価ありがとうございます!

今回はオリ主とオリキャラとの話です。タグに恋愛と入れてあるので、たまにはそれっぽい要素も入れておかないと。


S.H.I.E.L.D.壊滅からおよそ半年後。世界各地で犯罪が増え続け、それに伴って俺達ヒーローの出番も増えてきている。スティーブやウィルソンもバーンズを探す傍ら犯罪者達を捕まえているし、ソーもたまに姿を見かける。

特にスタークは戦いの後もダメージ・コントロール局との連携で街の復旧もしないといけないから一番の苦労者と言えるだろう。

 

仲間達が頑張る中、俺もヒーローとして戦いながら自分の過去を探っている。自分はどこの出身で親は誰なのか。どのようにして傭兵になったのか。だが知りたいのはそれだけじゃない。一番知りたい事がある。

 

 

──────アウトエナジーを操る万能光術(エネルギー・アーツ)を俺はどのようにして手に入れたのか。

 

俺とミアで協力して調べてみると、俺は記憶喪失になる数日前まではこの力を持っていなかったらしい。つまり記憶を失ったと同時にこの力を手に入れた可能性が高い。

なら俺はどうして記憶を失った?いくら調べてもそれだけがまったく分からないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スウァーノ、遊園地に行くぞ!」

 

タワーを訪れたミアを俺の部屋に招き、しばらくしない内に彼女が後ろからのしかかりながらそう言ってきた。

 

「急にどうしたんだよ?」

「だってあたし達、付き合ってから恋人らしいこと何もしてないんだぞ?お前が傭兵だった時も仕事が忙しくてあまり遊べなかったしさ」

 

あのヒドラの事件よりも少し前、俺はミアとついに恋人関係になった。

何故すぐに付き合わなかったのか?ミアは俺の色々な事を知っているが、俺はミアの事を何も知らない。だから出会ってから約一年半の間、俺は彼女の事を知ろうとしたのだ。

『笑顔が可愛い』『料理や掃除などが苦手』『負けず嫌い』『夜中、ベットの中に潜り込んでくる』など色々知った。ちなみに最後のはそこまでだ。襲ったりとかはしてない。

しかしミアの『恋人らしいこと何もしてない』というのには誤りがある。付き合ってないにも関わらず、出会う度にキスを求めてくるし人前だろうと関係なく抱き付いてきていたのだ。付き合ってる今ならともかく、あの頃は勘弁してもらいたかった。そのせいで周りからは既にミアが恋人だと決めつけられていたし。

 

「だから行こう!今すぐ行こう!」

「いや、もうちょっと……」

 

今は俺が傭兵だった時の事を調べており、何十枚という資料を読んでいるのだ。俺の傭兵としての活動を纏めたものであり、どれも誰の記憶に残らないような資料ばかりだが。

 

「そんな詰め過ぎても疲れるだけだぞ?なぁ、一息つけよ~?」

「……分かったよ。ミアの言う通りだな」

 

確かに詰め過ぎるのは体に良くないか。既に二日徹夜しているが、慣れてしまったのかあまりいつもと変わらない。

 

「ところでいつまでのしかかってるんだ?」

「あ?当ててんだよ」

「……あー、なるほど」

 

正直言って、ミアの胸の膨らみは小さい。別に好みがあるわけじゃないが、前に『貧乳』と口にしたら大暴れされたっけ。

理由として戦争などに参加していると栄養がある食事をあまり食べられなかったから、と言っていたが。

 

「…………今、『貧乳』って言ったか?」

「い、いや。言ってないぞ」

「ふーん」

 

心の中で思っただけで反応するとか、どんだけ気にしてんだよ……。

 

 

 

 

その後、俺の運転でミアと一緒にニューヨークにある遊園地へとやって来た。タワーの近くにあるテーマパークの中では一番大きい遊園地であり、大きな門を潜って俺達は中に入った。

楽しげな音楽が流れ、動物の格好をした人が子供達に囲まれている。遊園地なんて情報だけでしか知らなかったが、こんな感じなのか。

 

「ほら、最初はどれに乗る?パンフレット見てみるか?」

「ああ、見る」

 

入り口で渡されたパンフレットを広げていたミアが俺に近寄り、この遊園地の地図を見せてくる。肩と肩が触れ、顔がくっつきそうになるがこういった状況にも慣れた。初めは戸惑いすぎてミアを不機嫌にさせてしまっていたが。

 

「これなんかどうだ?あたし、まずはあのジェットコースターに乗りたい」

「ジェットコースター?……ああ、あのハリケーンコースターか」

 

少し先にあるこの遊園地の名物と言えるハリケーンコースター。ハリケーンという名前の通り、回転したレールがいくつも設置されてるジェットコースターだ。

乗ってる人達が悲鳴を上げているが、俺からしてみればあんなのいつもやってる事だ。しかも空中で。

 

「ミアが乗りたいなら俺はいいぞ」

「よし、なら乗るぞ!」

 

 

 

 

 

ハリケーンコースターの一番前列に乗れた俺達は初めに上へと登っていくレールを走ってる時も余裕であった。

俺はもっと上空を飛ぶ事だってあるし、ミアだって戦いの中では空中へと身を投げ出す事もあるからな。

 

「ス、スウァーノ」

「ん?……って、ミア?」

 

しかし頂上に着く直前、ミアが俺の腕をしっかりと掴んできた。何だと思い、横を見るとそこには必死になって俺に掴みかかっているミアがいたのである。

 

「お、思ったより……た、高いんだが」

「……もしかして怖いのか?」

「なっ!?そ、そんなわけないだろ!ただ、いつもと感覚が違うだけで、下見たら怖くなったとかそういうんじゃなくて──────」

 

ミアが必死になって俺に言ってくるが、その途中に真っ逆さまに落ち、ミアの言葉はそこで切れた。

 

「きゃああああああっ!!?」

 

悲鳴と共に俺の手を握り締めるミアは涙目である。初めてミアが涙を流す所を見たが、そこまで怖いか。

彼女には悪いが、滅多に見ない表情を見せてくれたこのジェットコースターには感謝する他ないな。

 

 

 

 

 

「……もう、絶対に乗るか」

「そろそろ泣き止めって、ミア」

 

目を赤くして愚痴るミアの涙をハンカチで拭いてやる。誘ってきたのはミアなんだが、本人がこういう目に遭うのは珍しいパターンだよな。

 

「ほら、ならあれとかどうだ?ティーカップとか、メリーゴーランドとか」

「あたしを子供扱いするなっ!いいか、次はあれに乗るぞ!」

 

そう言ってミアが指差すのは上がったと思ったら垂直に落ちるアトラクションであった。見た目や悲鳴が聞こえてくる事からあれもジェットコースターと同じ絶叫系だろう。

 

「いや、お前さっきあんなに……」

「ふん!あれなら絶対に大丈夫だ!行くぞ、ほら!」

 

俺の腕を引っ張り、アトラクションへと向かっていくミア。

だが絶対にさっきと同じ結果になるだろうな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊園地に来た時間が遅かった事や混んでいて待ち時間が長かったりなど、色々な理由で乗れるアトラクションには限りがあった。

そして最後に、ミアが「乗りたい!」と言い出した観覧車に乗る事となった。

 

「……綺麗だな」

「そうだな。ほら、あっちの方まで見えるぞ」

 

真下に見えるアトラクションや街頭の光、その先に見えるニューヨークの夜景がとても綺麗に見える。タワーの最上階からも夜景は見れるが、ここからだとまた違った夜景が楽しめるな。

 

「……なぁ、スウァーノ」

「ん?」

「えっとな……その、ちょっとは息抜きになったか?」

 

ミアは不安そうに尋ねてくる。おそらくミアは自分の過去を調べる事に躍起になり、無理をし続けている俺を心配してここに連れてきたんだろう。

俺が何も答えずにいると、ミアの表情がさらに不安を感じたものとなった。そんな彼女を安心させるように俺は頭を優しく撫でる。

 

「ああ、息抜きできたよ。ありがとな、ミア」

「そ、そうか!なら良かった!」

 

不安そうな表情から笑顔となったミアが突然立ち上がり、抱き付くと同時に俺に自身の唇を押し付けてきた。

嬉しさから来る行動だろうが、突発的にやられると驚くんだが……まぁ、いいか。

 

「また遊びに来るか?」

「ああ、また来るぞ!お前と二人でな!」

 

そんな約束をした後、観覧車が終わるまでミアからキスを何度もねだられる事になるとは、まだこの時の俺は思いもしていなかった。




次回は逆にマーベルキャラとの話になります!


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後編

今回は今までとは趣向を変えて、短編集です。ちなみにちょっと短いです。

オリ主のストーリーというより、エイジ・オブ・ウルトロンの前日談みたいな感じです。


「そういえばさ」

「何だ?」

「ソーのムジョルニアって何で出来てるんだ?」

 

ソーと一緒に犯罪者達を一掃した後、手元に戻ってきたムジョルニアを指差しながら俺は尋ねた。

スティーブが持つ盾以外ならどんな物でも破壊し、持ち主が念じる事でどこからでも飛んでくる。さらには心が高潔な者しか持ち上げる事が出来ない不思議な武器だ。

 

「ムジョルニアはウルという金属から出来てる。アスガルドの武器にも使われてる金属だ」

「へぇ……ウルか」

 

そんな金属は聞いた事ないな。たぶんアスガルドでしか生産していない金属なんだろう。

 

「じゃあ、ソーにしか持ち上げられないってのは?」

「それは俺が高潔な魂を持っているからだ!」

「いや、そうじゃなくてどうやってムジョルニアはそれを判別してるのかってこと」

 

もしも地球でもその機能を『持ち主にしか扱えない』というもので再現できたら、防犯予防とか他人に武器を奪われるリスクとかを減らす事が出来るんじゃないか?

 

「それは…………俺も知らん!」

 

……まぁ、ソーって基本、脳筋だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「秘書には慣れたのか?」

「ええ、まぁ。今までS.H.I.E.L.D.の副長官として働いてきた甲斐もあって、すぐに慣れたわ」

 

マリア・ヒルはS.H.I.E.L.D.崩壊後、スターク社のCEOであるペッパーの秘書として働いている。まぁ、それはスタークの弁護士を使って、自分を投獄しようとしてくる奴らから身を守る為なんだが。

 

「フューリーと連絡は?」

「定期的にしてる。今はソコヴィアに向かってると言ってたわ」

 

ソコヴィア……確か東欧にある小国か。最近は政治的に不安定な情勢で紛争が絶えないって話だ。しかもその紛争に使われてる兵器のほとんどはスタークが作ったもの。軍需産業を撤退したとはいえ、兵器がまだまだ残っている事にスタークは心を痛めていたな。

 

「そこにヒドラが?」

「それは分からないわ。噂程度の情報を元に追っているんだもの」

 

S.H.I.E.L.D.が壊滅し、すぐに手に入っていた情報が今ではその程度しか手に入らないのが現状だ。だがたったのそれだけでヒドラを追い続けているフューリーは凄いと言えるだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アーマー?俺に?」

「ああ、そうだ。君専用のアーマーだよ」

 

スタークに呼ばれてラボを訪れた俺は、そこで見せられた3Dホログラムのアーマーを指差して尋ねた。

 

「エイナム、君はバリアを張って身を守ってるが……攻撃と同時には出来ないだろう」

「そうでもないぞ?両方同時にやるのは難しいだけで」

「だとしても突然襲われた時とかは便利だろ?」

 

まぁ、確かに。奇襲や予想できない攻撃などはバリアを張れずに受けてしまう時があるからな。

 

「だからこいつを君にやる。存分に使ってくれ」

「どんな機能をつけるんだ?」

「それは秘密だ、楽しみにしててくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリントの家族や家の所在地などはフューリーが害が及ばないようにとS.H.I.E.L.D.の記録には残らないよう処理されている。その為、S.H.I.E.L.D.の職員はおろかアベンジャーズの面々でさえその事を知らない。俺とナターシャ、フューリーを除いて。

 

S.H.I.E.L.D.崩壊後、ナターシャは偽のIDを入手して戦いとは無縁の生活を送っており、クリントも家族の元に戻って平和な日常を送っているらしい。

 

「そろそろ体が鈍ってきたんだろ?」

「……まぁな」

 

クリントの子ども達との遊びに疲れた俺は妻のローラが相手をしてくれてる間にその場を離れ、外で弓矢の特訓をしているクリントに声を掛けた。

 

「S.H.I.E.L.D.が崩壊してから俺はずっと家族と過ごしてるんだ。当たり前だな」

「なら招集されるまでに腕を磨いといてくれよ?」

「……新しいミッションか」

 

的から矢を引き抜くクリントに俺は書類を渡す。そこに書かれているのはS.H.I.E.L.D.に保管されていたとある武器の記録である。

 

「ロキの杖が盗まれていたんだ。犯人は最後に調べていた元S.H.I.E.L.D.の科学者、バロン・ストラッカー。ヒドラの残党を指揮している奴だ」

「なるほどな。それで奴の居場所が判明したら?」

「決まってるだろ?」

 

──────アベンジャーズの総攻撃だ。




次回からはエイジ・オブ・ウルトロン編に入ります!


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エイジ・オブ・ウルトロン
幕開け


エイジ・オブ・ウルトロン編、開始です!

今回の話は前編後編などではなく、タイトルに名前をつけていきます。


「たくっ、ぞろぞろと出てきやがって!」

 

迫ってくるヒドラの兵士達を次々に光線を撃って吹き飛ばしていく。相手も最新鋭の武器を装備して強力な光弾を撃ってくるが、当たらなければ問題ない。

 

が、しかし。

 

『ちょっと誰かこっち来てくれない?敵がどんどん増えてきてるのよ』

「戦力を集めて一人ずつ倒していく気か」

『ナターシャ、僕が行くまで耐えろ!』

 

ジェットパックで飛んでくる兵士を殴り飛ばし、地面に落とすとバイクに乗って走っていくスティーブが見えた。上り坂を飛び出し、空中で盾を投げると兵士達を撃退していき、計算された動きで盾が手元に戻っていく。

 

『スウァーノ!』

「はいよっ!」

 

スティーブがバイクに乗ったまま引きずっていた兵士を放り投げ、そいつを光弾で遠くへ吹き飛ばす。

ふと背後から嫌な感じがし、振り返ると斧らしき武器を振り上げながら飛んでくる兵士が見えた。しかし放たれた矢がジェットパックを貫き、爆発して悲鳴と共に落ちていった。

 

『ボケッとしてると痛い目見るぞ?』

「助かったぜ、クリント」

 

敵からの攻撃を木々に隠れながらやり過ごし、矢を放って倒していくクリント。様々な種類の矢を使っているようで、刺さった瞬間に爆発したり、痺れて倒れたりしていた。

 

「スウァーノ、ムジョルニアに!」

「任せろ!」

 

俺より高い位置からソーが投げたムジョルニアにアウトエナジーを纏わせる。それによって威力が格段に増し、狙っていた戦車は激突した瞬間に潰れ、周囲の兵士達を衝撃波で吹き飛ばしていった。

 

『エイナム、右から狙われてるぞ?』

「サンキュッ!」

 

スタークからの報告を受け、俺は右に向かって両手を向ける。その瞬間、両手に組み込まれているアウトエナジー増幅装置が起動して威力が増した光線、ハイ・エナジーレイを撃った。

直撃した兵士達は宙を舞い、倒れなかった一部の兵士はスタークが吹き飛ばしてくれた。

 

『そろそろアーマーに慣れてきただろ?』

「まだちょっと違和感があるけどな」

 

スタークが開発してくれた俺専用のスーツ、その名も『レイ・アーマー』。アイアンマンのアーマーをモチーフにしたようだが違っている部分もある。マスクは口の部分のみが開閉できる仕組みで顔を割らずに直に喋れたり、万能光術(エネルギー・アーツ)により両手にリパルサーの装備はなかったり。

その代わりにスタークが研究の末にアウトエナジーの威力を増幅させられる装置・『ブーストラル』を開発し、それを両手に組み込んでいる。それ以外にも機能はあるが、一番よく使うのはそれだ。

 

「ゥガアアアアアッ!!!」

 

どこからか跳躍してきたハルクが俺を越え、前進してきていた兵士達の前に着地し、その衝撃で吹き飛ばす。さらには戦車や見張り台も体当たりで次々に破壊していき、様々な所から悲鳴が上がっていた。

 

「……ハルクさえいれば十分なんじゃないかって思うんだが」

『いや、あの緑の彼だけだったら暴れまくって手に負えなくなるぞ?』

『やめて、生きた心地がしなくなるわ』

『無駄口を叩く暇があるなら戦ったらどうなんだ!?』

 

あっ、まずい。スティーブが大勢の敵に囲まれてる。援護してやらないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東欧の小国、ソコヴィア。五月になった今でも雪が降り積もっているその国の山奥には廃墟同然の古城がある。

そこを今、バロン・ストラッカー率いるヒドラの残党が基地にしているのだ。フューリーからの情報に判明した事だが付近にある市街地の人々はそれを知らず、避難もまだ完全ではない。

 

『皆様、市街地に住む市民が襲われています』

『J.A.R.V.I.S.、アイアン軍団を送れ!』

 

J.A.R.V.I.S.からの情報にスタークは迅速に対応し、アイアン・レギオンを呼び出した。アーマーを模して作られた量産型ドローンであり、主にJ.A.R.V.I.S.の操作でアベンジャーズの後方支援をする役目を担っている。

……まぁ、スタークが作った兵器が紛争に使われてるこの国では、市民はあいつを心底嫌ってるが。

 

「なぁ、奴らが使ってる武器の原動力、何だと思う?」

『ロキの杖だろう。ヒドラがキューブを利用して作った武器とも似ている』

「ならあそこに杖があるはずだ!」

 

ソーがムジョルニアから雷を放ち、敵を一掃するとヒドラの基地へと飛び出していった。

 

「スターク、ソーがそっちに向かってるぞ」

『ああ、こっちからも見えた』

「スウァーノ、また来たぞ!」

 

スタークに連絡をしている途中、スティーブが無線越しではなく、走りながら直に声を掛けてきた。視線の先には数多くの兵士と今までよりも数倍の大きさを誇る戦車が向かってきている。

 

「スティーブ、あいつらに向かって盾を投げてくれるか?あと、縦向きで」

「どうする気だ?」

「試したい事があってな」

 

スティーブは疑問に思いながらも盾を敵へ向かって縦向きで投げてくれた。そこに俺がアウトエナジーを盾の周りへと纏わせる。さらに周囲を鋭利な形へと変化させ、盾を中心に円形の鋭い刃となった。

 

「さらにこうすればっ!」

 

刃を巨大化させ、戦車と同じ高さへと変える。雪を巻き上げながら迫ってくる刃から兵士達は逃げるように横へと飛び、戦車は刃によって真っ二つにされた上に爆発した。

 

「よし、成功っ!どうだ、凄いだろ?」

「……凄いが、僕の盾を使う必要はあったか?」

「アーマー越しだとまだ調整が難しいんだよ」

 

 

 

 

 

 

ヒドラの基地へと飛んでいくソー。邪魔をしてくるジェットパックを装備した兵士は体当たりで吹き飛ばし、徐々に距離を詰めていく。しかし基地に辿り着く寸前に突然発生したバリアがソーを弾いた。

 

『サーファーくん、まずはバリアを解除しないと基地には近付けないぞ?まずはその方法を見つけるのが先だ』

「ふんっ……それよりも手っ取り早い方法があるぞ、スターク」

 

地面に着地したソーは上空に発生した雷雲から雷をムジョルニアに吸収させ、バリアに向かって一気に解き放った。しかしまるでバリアの表面を滑るかのように雷は広がっていってしまう。

 

「なに?」

『ストラッカーは他のヒドラの基地よりも進んだ技術を持っているようです』

『なるほど、対策はされているという事か』

 

ソーでもバリアを破れない事を見て、スタークは確信した。やはりバリアを発生させている元を断つしか方法はない、と。

 

『J.A.R.V.I.S.、このバリアの動力源は?』

『北側の塔の下に粒子の変動が見られます』

『よし、そこを突っついてみよう』

 

スタークは飛行速度を加速し、兵士や車両の隙間を縫いながら基地の北側へと向かっていった。

 

 

 

 

 

『まずいわ、クリントが重傷よ』

「なに?」

 

迫ってくる敵を片っ端に吹き飛ばしているとナターシャからそのような連絡が入った。クリントが攻撃を受け、しかも重傷?大袈裟かもしれないが、このヒドラの兵士ごときにあのクリントがやられるとは思えない。

 

『ぐっ……兵士じゃない、敵がいるぞ……』

「兵士じゃない敵?」

「スウァーノ、強化人間がいる。今まで見た事がない相手だ、高速で動いている」

「強化人間?……まさか」

 

ロキの杖を利用したのか?あれが洗脳や攻撃をする以外にどれ程の力を持っているのか分からないが、だからこそ強化人間を作り出すなんて芸当が出来る可能性が高くなる。

 

「敵は制圧できた。スウァーノ、君はクリントをクインジェットへ。ナターシャはハルクに子守唄を頼む」

『……分かったわ』

 

指示を受けたナターシャは躊躇いながらも返事をする。やはり共に戦っている仲間だとしても、ハルクに接近して落ち着かせるなど怖いに決まっている。だがナターシャしか今の所、ハルクと心を通わせる事が出来ないのだ。

 

「スティーブは?」

「僕はストラッカーを捕らえてくる」

「了解、頼んだぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クリントを無事にクインジェットへ送り届けた後、ナターシャと精神的に不安定なバナーと合流し、ロキの杖を取り戻したスタークとストラッカーを捕らえたスティーブ、ソーも戻ってきた。

 

「大丈夫か、クリント?」

「ああ、死にはしないさ」

 

クリントの傷は確かに重傷だが応急手当をした事で多少マシになり、バナーの友人であると同時に人工皮膚細胞専門の科学者であるヘレン・チョが治療を担当するらしい。なんでも画期的な技術を使うとか。

 

「ようやく取り戻す事が出来たな、ソー」

「ああ、ついにだ。これで全て解決した」

 

ロキの杖を見ながら話しているスティーブとソーに近寄る。ソーにとってこの杖は自身の義弟であるロキが地球に持ち込んだ、いわゆる置き土産なのだ。故にこの杖を取り戻し、アスガルドに保管する事こそが兄としての尻拭いなんだろう。

 

「でもアスガルドにはキューブもあるだろ?それらを一ヶ所にまとめるつもりか?」

「いや、キューブは引き続きアスガルドで保管するが、杖は別の誰かに頼もうと思っている。信頼できる誰かにな」

 

なるほど、それなら安心だ。前にダーク・エルフとの戦いで手に入れたエーテルという物体もアスガルドには置かずにコレクターという人物に守ってもらってるようだし。

 

「なぁ、その杖を少し調べてもいいか?ほんの二日間だけだ」

 

クインジェットの操縦をJ.A.R.V.I.S.に任せたらしいスタークがこっちに向かってくる。おそらく科学者としての探究心を抑えられないんだろう。

 

「そしてその後はソー、君の見送りと今回の作戦成功を兼ねたパーティを開くつもりだ」

「いいだろう。戦いの後の宴は格別だからな」

 

絶対にソーの奴、パーティが目的だな。スタークが開くとなれば出てくる料理も酒も豪華になるだろうし。

とりあえずこれでしばらくは落ち着いた生活が送れるだろうからな、パーティまではゆっくり休もうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────この時、誰もが気付いてなかった。ロキの杖を取り戻した事がこれから起こる戦いの幕開けでしかなかった事に。

そしてスタークが突然ロキの杖を調べると言い出した事に誰か一人でも違和感を感じるべきだった事に。




オリ主のアーマーの口元の開閉については実写版トランスフォーマーのオプティマスみたいな感じです。戦闘時にあのマスクが閉まる瞬間がかっこよかったので使ってみたくなりました。


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ウルトロン計画

ウルトロン編は五話を予定してますが、文字数の多さなどから変わったりするかもしれません。


ヒドラから杖を取り戻してから二日後。負傷したクリントはヘレン・チョが開発した人工組織構成マシンであるクレードルを用いる事で傷を塞ぎ、回復した。

ちなみにその間、スタークとバナーはずっと杖を研究していたがそこまで調べる必要があるんだろうか?食事も最低限の物しか摂ってないし、どうせならソーに頼んで貸してもらう期間を伸ばせばいいのに。

 

「スウァーノ!飲んでるか?」

「ん?ああ、飲んでるよソー。でもアスガルドの酒は強いな、一口飲んだだけでも酔いが回ってくる」

「そうだろう!アスガルドの酒を飲めるお前も十分強いと思うがな」

 

まぁ、それは後にして今はこのパーティを楽しむか。アベンジャーズのメンバーとその友人達でスタークタワーもとい、アベンジャーズタワーで開かれたパーティは大にぎわいである。各自、酒を片手に色々と話をしている。

スタークの友人であるローズも来ているし、ウィルソンもバーンズの捜索を一旦切り上げて来てくれた。

 

「ウィルソン、バーンズの方は順調か?」

「まぁ、ボチボチかな。それより今回の戦い、呼んでくれたら駆けつけたのに」

「なら次、誘ったら絶対に来いよ?」

「あー……できれば程々の時がいいかな」

 

何言ってんだ、そっちから言ってきたんだ。覚悟しとけよ?

 

「スウァ~ノ~!」

「えっ、へぶっ!?」

 

名前を呼ばれて振り向くと、こちらに向かって走ってきたのは同じくパーティに来ているミアであった。顔を赤く染め、ぶつかってきたミアに押されて俺はソファーに倒されてしまう。

 

「にぇへへへ……♪なぁ、服脱げよ~?あたしも脱ぐからさ~」

「ちょっ、おい、やめろ!?」

 

俺に股がった状態で自身のドレスに手をかけるミアを止める。こんな大勢がいる場所で脱ぐとかなに考えてるんだ!?

……いや、待てよ。顔を赤く染めてる上にこのミアの状態から察するに……。

 

「なぁ、誰かミアに酒飲ませたか!?」

「もしかして弱いのか?」

「ああ、とびっきり弱いんだよ!しかも本人がそれを自覚してくれないから尚悪い!」

 

俺も初めて知った時は驚いたもんだ。二人っきりで飲もうとしたら突然暴れて襲いかかってきたんだよな。しかも途中から性的な発言が出てきたりと、色々とヤバかった。

 

「それは悪い事をしたわね……ごめんなさい」

「犯人はマリアか!」

 

どうやらミアに酒を渡したのはマリア・ヒルだったようだ。まぁ、悪気があってしたんじゃないだろうし、責める事は出来ないが。

 

「スウァーノ、あたしを無視すんな~!チューしろよ!チュー!」

「ほら、お姫様が駄々こねてるぞ、王子様?」

「うるさい、クリント!」

 

酒を飲み、酔いが回っているクリントがからかってくるがそんな事言ってるなら助けろよ、おい!

 

「ミア、落ち着けって!」

「やだ!チューしてくれるまで落ち着かない!」

「子供か!」

 

よりにもよって幼児退行かよ!?めんどくさいな、まったく!

 

「エイナム、レディからの頼み事にはいつ何時でも答えるものだぞ?」

「俺は時と場合によるんだよ、スターク!」

 

別にミアとのキスが嫌なわけではない。ただこんな大勢がいる場所でキスなんて恥ずかしすぎて出来るわけないだろ。

 

「あたしと……チュー……しろぉぉ……」

 

しばらくミアと攻防を続けていると、彼女の目がトロンとして眠たそうだった。ミアの酒癖の特徴として、飲んですぐに酔って暴れるが、割とすぐに眠たくなるのだ。

そしてついに限界がきたらしく、俺に覆い被さって眠ってしまった。

 

「はぁ……ミアを寝かせてくる。そしたらクリント、俺をからかったこと後悔させてやるからな」

「後悔させる?俺を?はっ、出来るもんならやってみな」

「ああ、やってやるよ……!」

 

ミアをお姫様抱っこで持ち上げ、クリントを睨みつつ俺はパーティから一旦抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミアを俺の部屋のベットへと寝かせ、俺はパーティに戻る為に廊下を歩く。タワーがアベンジャーズの基地へと変わってから部屋が移動したせいで、前よりも歩く時間が多くなってしまったのだ。

 

「さて、どうするかな……酒に何か混ぜる?いや、あいつの持ち物に何か小細工でも……」

 

だからその時間をクリントにからかわれた事へのお返しを何にするのか考える時間に使う。いつもならこんな事しないはずだが、俺も結構酔っているんだろうな。

 

──────ガシャン、ガシャン。

 

「……何だ?」

 

廊下の曲がり角から何かが歩いてくる音がしてくる。だがそれは人間のものとは思えず、おそらく機械だ。

まさかタワーに武装した侵入者が?と思い、正体を知る為に近くの柱に隠れて様子を見守る。

そして出てきたのは──────

 

「レギオン?」

 

曲がり角から出てきたのは壊れかけているアイアン・レギオンだった。何故こんな所に?あれはJ.A.R.V.I.S.からの命令がない限りは研究室の真下にある格納庫に収納されてるはずだ。

しかも何で動いている?まさか故障?いや、そもそもレギオンが抜け出していてJ.A.R.V.I.S.が気付いていないはずがない。

 

「J.A.R.V.I.S.?おい、J.A.R.V.I.S.ってば」

 

基本的にJ.A.R.V.I.S.はこのタワー内ならどこにでもいると思ってもいい。もちろん廊下でも。だが俺がいくら問いかけても、J.A.R.V.I.S.が答える事はなかった。

 

『……彼なら、死んだぞ』

「っ!?」

 

レギオンからJ.A.R.V.I.S.ではない誰かの声が発せられた。気付かれているなら隠れる必要はないか。

 

『実に、惜しかったがな。残念だった』

「誰だ、お前は?J.A.R.V.I.S.をどうしやがった?」

『だから言ってるだろう?彼は、死んだと』

 

奴がJ.A.R.V.I.S.を壊した。つまりはそういう事だろう。このレギオンを操ってる奴が一体どこから、さらにはどうやってJ.A.R.V.I.S.に接触したのかは分からないが……戦闘面でも生活面でも世話になった仲間を殺したこいつは許さない。

 

「消えろ」

 

俺はそう言って右手からアウトエナジーの光線を放つ。あそこまで壊れかけてるならこの一発で……と思っていたが、突然左右の壁を突き破って現れた別のレギオンにより遮られてしまった。

 

「なにっ!?」

『スウァーノ・エイナム、お前とここで会えたのは喜ばしい事だ。お前はアベンジャーズの中で特に厄介だからな。一人でいる今がチャンスという事だ』

 

光線を受け、破壊されたレギオンを吹き飛ばして奥にいる本体に殴りかかる。しかしそれは壁に出来た穴から出てきた新たなレギオンに体当たりを受けた事で叶わなかった。

 

「ぐっ……こ、のっ!」

 

廊下の壁を突き破り、部屋の中を転がった俺は立ち上がったレギオンに足を掴まれて投げ飛ばされた。しかし空中を飛び、壁への激突を避けると奴の頭を殴って吹き飛ばす。

次に現れたレギオンが背後から掴みかかろうとしてきたが、咄嗟にバリアを張って弾き、光弾を撃って腹に穴を開けてやる。

 

『おやめくだ、我々が、まも、い』

「黙れっ!」

 

奴が出したのか、それとも壊れたからなのかは分からないが、J.A.R.V.I.S.の声を聞きながら戦いたくはない。双剣を生み出し、交差させるように首を刃で挟むとレギオンの頭を切り落とした。

 

「くそっ、あいつにレギオンはみんな操られてるのか……とにかく!」

 

俺は走り出すと窓を割って空を飛び、パーティが開かれてる場所へ再び窓を割って突入した。悪いが、わざわざ内側から鍵を開けてもらってる暇はない。

 

「おい、スウァーノ!一体何をしてるんだ!?」

「おいおい、それがからかわれた事へのお返しか?残念だがそれぐらいじゃ俺は驚かないぞ?」

「悪い、スティーブ!それと黙ってろクリント!」

 

俺は辺りを見渡してスタークを見つける。俺が窓を突き破って入ってきた事に他の人達と同様に驚いていた。

 

「スターク!レギオンが奪われてる!操られてるぞ!」

「は?何を言ってるんだ、エイナム。アイアン軍団はJ.A.R.V.I.S.が管理してるんだぞ?」

「そのJ.A.R.V.I.S.がやられたんだよ!」

 

俺の発言にスタークだけではなく、この場にいる全員が驚く。すぐにスタークがJ.A.R.V.I.S.に呼び掛けるが、俺と同じく返事はない。

 

「J.A.R.V.I.S.、一体どうしたんだ?何があったんだ、応答しろ!」

「エイナム、どういう事だ?J.A.R.V.I.S.がやられたって一体何が……」

 

『彼なら私が殺した。……ああ、だがお前は仕留め損なっていたか』

 

階段を登り、現れたのはあのボロボロなレギオン。俺を見て残念そうに呟くが、あれ位でやられるわけがないだろ。

 

「スウァーノ、どういうこと?」

「さっき、下の階でレギオン達に襲われたんだよ」

「お前は誰の差し金だ?答えろ!!」

 

俺とナターシャが話をしていると、ムジョルニアを持って前に出たソーが今にも襲いかからんとばかりに声を荒げた。

 

『まぁ、待て。お前達アベンジャーズは人類を守る為に戦っているが……"平和をもたらす"為に一番不必要なのが人類だと何故気付かない?』

『私は今までのあらゆる記録を全て見させてもらったが、人類が世界を乱しているのは明白だろう。なのにお前達は自分達がヒーローだと気取って人類を守っている』

 

 

 

『ならばお前達、アベンジャーズを全滅させて人類を滅亡させる事がこの世界に平和をもたらす鍵となるはずだ』

 

 

 

こいつは……何を言ってるんだ?確かに今まで俺達が戦ってきた相手はその多くが同じ人間だ。環境汚染や戦争を起こし、世界を乱しているというのも間違いではない。しかしだからと言って、平和をもたらす為に人類を滅ぼすのはいくらなんでも極端過ぎる話だ。

 

「平和をもたらす……まさか、ウルトロンか?」

 

その時、隣にいるバナーが誰かの名前を呟いた。だがウルトロンなんてのは聞いた事も見た事もない名前だ。

 

「バナー、ウルトロンって何だよ?」

「ええっと……実は」

『私がウルトロンだ、エイナム。私はトニー・スタークにより生み出され、"平和をもたらす"という指示を受けたのだ』

 

スタークがウルトロンを生み出した?J.A.R.V.I.S.を壊し、仲間である俺を襲うようなこのロボットをか?

何故そんな事をしたのかは分からないが、スタークに限って狙ってやったとは思えない。おそらく何か理由があるはずだ。

 

「ウルトロン……違う、違うぞ。お前がするのは人類を滅ぼす事じゃない。この世界を平和にする事だ」

『その為に人類は邪魔なのだよ、スターク』

 

スタークがウルトロンを説得しようとするが、奴は聞く耳を持たない。世界を平和にする為に、人類を滅ぼす事が必要だとまったく疑っていないようである。

 

『だからこうして体を持った。だがこれはまだ蛹だ。お前達を潰す為に、この蛹ではあまりにも力不足だろう』

 

後ろにいるマリアが何かを察したらしく、椅子から立ち上がって移動を始める。近くにいたヘレン・チョもマリアを見習って少しずつ後退りを始めていた。

 

『だからお前達の相手を務めるのは彼らだ』

 

ウルトロンがそう言ったと同時に、最後の壁を突き破って操られているレギオン達が突入してきた。

 

「まだいんのかよ!?」

 

俺がそう言いながら戦闘を始めると共に、他のアベンジャーズメンバーもレギオンを各自で撃退を始めていた。だが俺を除けば今、武器を持っているのはソーと拳銃を隠し持っていたナターシャのみ。全員、スーツを着ていない為に本来の力を出せずにいた。

 

「ぐぁっ!?」

「ローディ!!」

 

レギオンが放ったリパルサーを生身で受けたローズが吹き飛び、壁に体をぶつけた後に窓を割ってテラスを転がっていった。あれはまずいな、絶対に体のどこかを負傷したに違いない。

 

「キャプテン!」

 

ウィルソンが置いてあった盾をスティーブへと投げる。それを受け取ったスティーブは、押さえつけていたレギオンを壁に叩きつけて頭を盾で切断した。

 

「ソー、こっちも頼むぞ!」

「任せろ!」

 

アウトエナジーで纏った拳でレギオンを吹き飛ばすと、ソーがムジョルニアを凪ぎ払って体の下半身を破壊する。だがそれでもまだ動けるようで、戦利品として飾ってあったロキの杖を掴み、この場から離れようとしていた。

 

「ロキの杖が!」

「何!?」

 

俺が叫ぶと、スティーブもそれを見る。レギオンは火花を散らしながらも空中を飛び、窓から外へと出ようとしている。

 

「逃がすかよ!」

 

光線を撃ってレギオンを破壊する。ロキの杖が床に落ち、最悪の事態は防げたと思っていると、別のレギオンが横から飛行しつつ杖を奪い去っていってしまった。

 

「なっ!?くそ……っ!」

 

追い掛けようとするが、目の前の床を突き破って新たなレギオン達が現れる。それぞれが邪魔するようにリパルサーやらミサイルを撃って俺達を襲ってきた。

 

「まずっ……!」

 

スティーブは盾で身を守り、ソーもあれ位では傷つかないが他のメンバーはさっきも言った通りスーツを着ていない。だから俺は飛び上がって大きなバリアを生み出し、ナターシャやクリント達をレギオンの攻撃から守り通した。

 

「スティーブ!ソー!」

 

俺の声に応じるようにスティーブは盾を構えた突進でレギオンを吹き飛ばし、投げた盾を胸に突き刺す事で機能停止に追い込む。

ソーもムジョルニアを投げてレギオンの頭を粉砕し、戻ってきたムジョルニアを掴み取ると同時に他のレギオン達を壊していった。

 

「これで全部か?」

「ああ。杖を奪っていった奴と、あいつを除けばな」

 

盾を引き抜きながら問い掛けてくるスティーブに俺はそう答える。

残っている内の一体であるレギオンもといウルトロンをスティーブとソーを中心に俺達は囲い、すぐに応戦できるように武器を構える。

 

『はぁ……愚かだ。良かれと思ってしている事だろうが、考えが足りないのだ。そして今度はこの人形を使って世界を守るだと?』

 

ウルトロンは落ちている破壊されたレギオンを持ち上げ、頭を握り潰す。そしてスタークの前へと放り投げた。

 

『何故分からない?平和への道は一つしかないのだ。そう、それはすなわち人類を滅ぼ──────』

「ふんっ!」

 

そこまで言った所でソーが投げたムジョルニアがウルトロンを貫通し、破壊した。目に灯っていた光は消え、完全に機能を停止する。

 

「これでウルトロンは終わり……じゃないんだろ?あんたが作ったのがあんな壊れかけたロボットのはずがない」

「……ウルトロンはロキの杖にあった宝石の中から見つけた人工知能だ。ネットワークを通じてどこかに逃げたに違いない」

 

スタークの代わりにバナーが代わりに説明する。ネットワーク上を動ける人工知能か……おそらく機械であれば何にでもアクセスできるんだろう。レギオン達を操ったみたいに。

 

「という事は最悪、核ミサイルの発射コードにアクセスされる危険があるという事か」

 

マリアとヘレン・チョに支えられながらローズが話の中に入ってくる。どうやら肩を痛めたらしく、苦しそうな顔で押さえていた。

 

「どうするつもりだ!?杖をまた奪われたんだぞ!」

 

杖を一番取り返したがっていたソーは、ウルトロンを開発したスタークを責める。挙げ句の果てにはスタークの襟を掴み、持ち上げてしまった。

 

「落ち着け、ソー。今は争ってる場合じゃないだろ?」

「……っ!」

 

俺の言葉でハッとしたソーはスタークを降ろし、今回何枚目かの窓を割って空へと飛んでいってしまった。おそらく杖を奪ったレギオンを追い掛けるつもりなんだろう。

 

「スターク、J.A.R.V.I.S.は?」

「……ウルトロンが言っただろう?データ上から完全に消えてる」

 

バナーに聞かれたスタークは暗い表情でそう答える。自ら開発し、そして今まで家族のように接してきた相手だ。無理もないだろう。

 

「そもそも何故ウルトロンを作った?何が目的だったんだ?」

「決まっているだろ、世界を平和にする為だ。ウルトロンがアーマーを操り、世界を守るウルトロン計画。その為に作っていたんだよ」

 

スティーブからの質問にスタークが答えるが……ちょっと待てよ?

 

「スターク、それって誰かに相談したのか?まさかみんなに内緒で勝手に作っていたのか?」

「そうだ。口論をしてる時間なんてなかったからな」

「……スターク、僕達はチームだ。だったら例え時間をかかっても話し合い、最善の解決策を出すべきだった」

 

スティーブの言う通りだ。俺達は今まで個々に戦ってきたが、今はチームとなって戦っている。しかも世界規模の作戦を考えていたんなら、尚更相談は必要だったはずだ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、時間をかけてる間に敵が来たらどうするんだ?またあのでっかい穴からエイリアンが出てきたらどうやって戦うって言うんだ?」

 

「そんなの前みたいに俺達が団結して戦うに決まってるだろ?俺達はアベンジャーズ、世界を守る為のチームだ」

 

「……負けるぞ、今度は」

 

「それでも僕らで戦う。最後まで諦めずに、例え力尽きても戦い抜くんだ」




ワンダとピエトロは次くらいで出てきます。

一応、アベンジャーズのメンバーはマリア・ヒルからの情報で二人については知っているという設定から入ります。


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垣間見る過去

そふびさん、ハーフシャフトさん、評価ありがとうございます!

今回、オリ主の過去が一部判明します。


──────バロン・ストラッカーがウルトロンに殺された。

 

おそらくは奴の口から情報が漏れないようにする為だろう。

しかし本人が消されてもある程度の情報を集める事は可能だ。かつてナターシャによって世界に公開されたS.H.I.E.L.D.の犯罪者リストを漁り、ストラッカーと関係がある人物を探したのだ。

ウルトロンは自身の事を『蛹』と称していた。つまりボディを必ずアップグレードするはず、とスタークの考えによりそれを可能とする人物を片っ端から探した。

 

そして見つけた。名前はユリシーズ・クロウ、ワカンダという国で盗みを働いたという武器商人である。

 

「そいつ、知ってるぞ。……いや、僕が武器を提供していたわけじゃないぞ?ただ、同じ商人として調べていただけだ」

「オランダ出身のベルギー人……この首筋の焼き印は泥棒って意味らしい」

 

スティーブに睨まれたスタークが誤解を生まないよう説明している中、バナーがクロウについて記載されているプロフィールを話していく。

 

「……なぁ、スターク。ワカンダって確か」

「ああ、あそこには()()があったはずだ」

 

昔、ワカンダについて調べた事がある。あの国は厳しい鎖国状態が続いていた為に情報が少なく、しかしそれを怪しいと感じた俺は色々な方面から調べていた。そして二十年前、クロウにアレを全て奪われたと国連に報告していた事を発見したのだ。

 

「スティーブ、父はあの金属をどこで手に入れたと言ってた?」

「金属?……っ、見つけたのはハワードだけじゃなかったのか!」

「……?おい、何の話だ一体?」

 

スタークの言葉にスティーブが気付くが、ソーだけは話についていけずに置いてけぼりであった。

 

「世界最強の金属、それをクロウが今も持ってるかもしれないって事だ」

 

俺とスターク、スティーブは後ろを振り向く。そこには壁に立て掛けられたヴィブラニウムの盾があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────俺達の考えは正解であった。クロウの隠れ家を見つけ出し、暴れたら危険が伴うバナーを機内に残して内部に乗り込むとヴィブラニウムが納められた倉庫を見つけた。

それをウルトロンは狙い、クロウから全て買い取ったみたいだが……どうやら何かいざこざがあったらしい。クロウの片腕が切断されているのだ。

 

『来たか、アベンジャーズ』

『ウルトロン、こんな事をしてお父さんは悲しいぞ』

『誰が息子だ、誰が!』

 

生みの親であるスタークは確かにウルトロンの父親と言えるだろう。残念ながら息子はそれを嫌がっているみたいだが。

とりあえず俺とスターク、スティーブ、ソーでウルトロンと対峙し、ナターシャとクリントにはクロウの部下達を任せる作戦だったんだが……ここで予想外の相手が現れた。

 

「まさか本当に現れるなんてね」

「よっぽど暇なんだろ、偽善者ってのは」

 

ウルトロンの背後から現れた姉弟には見覚えがある。ソコヴィアでクリント達を襲った強化人間であり、マリアが入手した映像から顔や姿も確認していたからすぐに分かった。

ソコヴィア政府への反対運動に参加していたらしく、それを手助けする為にヒドラの人体実験を受けた姉弟。

 

姉のワンダ・マキシモフは強力なサイコキネシスと精神操作の能力、弟のピエトロは光速並の超人的スピードを出せる能力だと既に判明している。

 

「偽善者、だと?」

「ああ、そうだろ。特にそいつ……トニー・スタークは!」

 

兄がスタークを指差し、次にクロウが取り扱っているミサイルに視線を移す。そこにはスターク社のロゴが描かれているものもあった。

スターク社が兵器の開発から身を引いてから何年か経つが、未だに作ってしまった兵器は残っている。それはもう、世界中に。

 

「自分で兵器作って、それが人の命を奪ってるから今度はヒーローになるなんてよく考えたよな、そんな作戦!」

「そんな事あるわけないだろ」

 

ヒーローになった事がスタークの考えた作戦なんてあるはずがないだろ。スタークは世界平和を望んでいたが、自分のやり方ではその願いを叶えられないと知り、今度こそ世界平和を実現させる為に頑張っているのだ。

 

それが例え、今回のような騒動を生もうとも。

 

『落ち着け、ピエトロ。今からそいつらに分からせてやればいい。自分達の愚かさをな』

 

ウルトロンのその言葉と同時に奴によく似たロボットが現れ、それが戦いの合図だと言わんばかりにスタークがウルトロンへと突っ込んだ。

 

『こいつは僕が止める!』

 

互いに殴り、レーザーや光弾、ミサイルなどを撃ち合いながらスタークとウルトロンは屋根を突き破り、外へと戦う場所を変えていった。

 

「ぐっ!?」

「ソー!」

 

こちらもロボットと戦っていると、突然ソーが吹き飛んだ。一体何が、 と思っていると俺も体に謎の衝撃を受け、よろめいた。

アーマーを着ているから痛みはそうでもないが……一体何が?

 

「気を付けろ、兄の方だ!」

「……なるほどな」

 

ロボットの攻撃を盾で防ぎつつ叫ぶスティーブの言葉に納得した。どうやら超人的スピードというのは本当らしい。走っている姿など一瞬も見えなかった。

 

「どうだよ、俺のスピードは?ついてこれるか?」

「ふんっ!」

「遅い遅い!」

 

背後に向かって腕を振るうが、当たらずに逆に俺が殴られたような衝撃を受ける事となった。肉体は一般人と変わらないだろうが、あの超人的スピードが加わる事で俺達と変わらない威力を出しているんだろう。

 

「おい、いたぞ!」

「殺せ殺せぇっ!」

「……ちっ、そっちからもか」

 

クロウの部下達がライフルを構えてこちらに向かってくるのが見える。どうやらナターシャとクリントだけでは抑えきれなかったらしい。

 

「ソー、スティーブ!兄の方を頼む!」

「分かった!」

 

両手から光弾を撃ち、敵を吹き飛ばしていく。ロボット達も向かってくるが、所詮は量産型だ。ウルトロンと比べれば弱く、光弾を数発撃ち込めば煙を上げながら落下していった。

 

 

 

 

 

「……そういえば」

 

クロウの部下とロボットをほとんど倒しきった辺りで妹であるワンダ・マキシモフの姿が見当たらない事に気付いた。兄の方はソーのムジョルニアを握るなんて馬鹿をした事で吹き飛んでいったのを見ているが、妹だけがどこにもいないのである。

 

「一体どこに……っ!?」

「ひっ!」

 

突然横から違和感を感じ、振り向けば探していた妹を見つけた。しかし両手が赤く光っており、俺の周りにもそれによく似た赤い煙が漂っ……て……?

 

「っ……なに、しやがった……」

 

頭の中に何かをされた。おそらく、というか間違いなく能力の精神操作だ。アーマーを着込んでいるが、どうやらそれは何の意味もなかったらしい。

 

「がっ……!?」

 

何が……起こっ……て……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……ーん!!うわぁーん!!父さんっ!母さんっ!どこにいるのっ!?」

 

周囲で銃撃戦が起こってる中、少年は()()()()()場所で泣き叫んでいた。体はボロボロ、様々な箇所から血が流れ出ていた。

 

「ねぇってば!どこにいるのっ!?」

 

さっきまで一緒にいたはずなのに!と少年は両親を探す。しかしどこにもいない。幸か不幸か爆発で玄関近くまで吹き飛ばされた少年だけは瓦礫が少なかった為、もがいて外へ出る事が出来たのだ。

 

「ひっ!?」

 

遠くの方で爆発がいくつも起こる。空から降り注ぐ爆発物が少年の住み慣れた町を破壊していっていた。

 

「……あ」

 

元々、この辺りは紛争地域から近かった。だが今までこの町まで被害が出る事はなかったのだ。故にこの襲撃は突然のものであり、誰もがこの状況に追い付いていなかった。

 

「おい、坊主!ここで何してやがる!?さっさと逃げるぞ!!」

「やだっ!父さんと母さんがここにいるんだっ!」

 

走ってきた中年の男性に少年は抱えられたが、崩れた家に戻ろうと男性から離れようとするが、子供と大人では力の差は歴然だった。

 

「……残念だが、あれじゃもうだめだ!親の事は諦めろ!」

「やだぁっ!!離してよぉっ!」

「っ……!」

 

もがく少年の気持ちを男性は理解していた。自身もさっきの爆発により家族を一人失ったからだ。だがここで立ち止まってしまっていては、せっかく助かった命を無駄にすると思い、こうして逃げてきたのだ。

 

「父さぁぁんっ!母さぁぁんっ!」

 

 

 

 

 

政府により今回の襲撃の首謀者が逮捕された頃、少年を含めた民間人は避難所での生活を余儀なくされていた。

数日前、ここに到着してから少年を助けてくれた男性は生き延びていた家族と合流し、少年と別れた。それから彼は避難所の片隅で子供という理由から大人達の手を借りつつ、生活しているのだ。

 

「なぁ、知ってるか?」

「ん?何だよ」

 

少年が一人でご飯を食べていた時、すぐ近くで男性二人が話を始めた。

 

「この襲撃で使われた兵器ってさ、ほとんどが『スターク社』のものらしいぜ」

「マジか。ならあんな威力を持ってる事にも納得がいくな」

 

少年の耳に偶然聞こえてきた『スターク社』という言葉。今まで生きてきた十数年間で聞いた覚えがない言葉だったが、どこかの会社という事だけは理解していた。

 

「社長のトニー・スタークってさ……軍需産業で世界平和を目指してるみたいだけど、そんなの無理だろ。好きに戦争をやってくれーって言ってるようなもんじゃん」

「だよな。あいつがやってんのは平和なんかじゃない。この襲撃だって、あいつが兵器なんて作ってなきゃ起こってないのかもしれないんだぜ?」

 

 

「トニー……スターク……」

 

 

そいつが──────父さんと母さんを殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……い、おい!大丈夫か?エイナム、しっかりしろ!」

「う……ん?」

 

名前を呼ばれ、俺はゆっくりと目を開けた。ここは……クインジェットの中か。どこかを飛んでるらしく、外の風景が動いている。

そしてすぐ目の前には必死になって俺に呼び掛けるちょび髭のおっさん……というか、トニー・スタークがいた。

 

「……スターク?」

「ようやく目覚めたか。心配したんだぞ、襲われた中でお前だけが目覚めな──────」

 

意識が朦朧とする中、スタークの言葉を遮り、スタークの首を絞め上げたと同時に壁へと叩きつけた。

 

「か……はっ……お……お、い……?」

「トニー……スターク……!」

 

ギリギリ、と首を絞める力を強める。スタークが俺の手をこじ開けようとしたり、引き離そうとするが少し前までは生身で戦っていた俺とは体の鍛え方が違う。

 

このまま、奴の意識を刈り取って──────

 

「何してんだ、スウァーノ!」

 

操縦席から突然現れたクリントが驚きの声を上げ、俺を突き飛ばす。その衝撃でスタークは俺の手から離れて転がっていった。

 

「けほっ、けほっ!……なぁ、僕って何か恨まれるような事とかしたか?」

「さぁな、自分の知らない所でしたんじゃないか?」

 

咳き込むスタークを守るようにクリントは俺に向けて弓矢を構える。仲間であるはずのスタークを襲ったのだから当然の行動だ、驚きはしない。

 

「スウァーノ。お前、スタークをどうする気だった?」

「……悪い。その……混乱していたんだ。だから敵との見分けがつかなかったんだ」

 

嘘だ。意識は朦朧としていたが、混乱はしていない。それにあれが俺の過去なのか、それとも作られたものなのかも分かっていなかった。

だが、あれが本当に俺が過去に経験したものであり、両親がスタークの作った兵器により殺されたと考えると、ジッとはしていられなかったのだ。

 

「……すまん、スターク」

「いや、いい。他のみんなだってこの有り様だからな」

「他のみんなって……っ」

 

クインジェットの奥を見るとソーやナターシャ、スティーブまでもが虚ろな瞳となって、壁に寄り掛かって座り込んでいた。意識はあるようだが、何かに取り憑かれたかのように反応がない。

そしてその奥にいる毛布にくるまっているバナーもブツブツと呟くだけで、何の反応もない。

 

「ソー達はお前と同じ様にあの女にやられたんだ。しかもバナーを操ってハルクに変身させやがった」

「それで……どうなったんだ?」

「僕がハルクバスターを着て止めた。その結果がこれだ」

 

スタークが俺にスマートフォンを渡してくる。その画面には、『ヨハネスブルグに死者数人が出る甚大な被害が』『アベンジャーズ、世界中から非難される』などを始めとするニュースがいくつも映っていた。

 

「……ウルトロンとあの兄妹は?」

「ウルトロンにはまたネットに逃げられた。兄妹も、姿を消したそうだ」

「そうか……」

 

つまりまたこんな事が起こる危険がある。ウルトロンは俺達を全滅させると言っていたが、自滅させられる可能性も大きく出てきたな。

 

「ところで俺達は今、どこに向かってるんだ?」

「今、世界で一番安全な場所さ」




オリ主の記憶に関しては今後、ワンダが鍵になります。

トニー・スタークの一人称を「私」から「僕」に全話、訂正しようと思います。


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再激突

発表されてから何日か経ちましたが、MCUのフェイズ4の作品が判明しましたね。作者としては全作品気になりましたが、ソー第4作目やドクター・ストレンジ続編、エターナルズなどが気になりますね。

ドラマ作品ももちろん見たいけど、登録してないから見れない……。


クリントの操縦の元、辿り着いた『安全な場所』。そこは俺とナターシャにとって見知った場所であった。

周囲が森に囲まれ、大きな農場を持つ一軒家のすぐ近くにクインジェットは着陸する。

 

「……?ここが安全な場所か?」

「ああ、だといいんだが」

「なるほどな、考えたなクリント」

 

フューリーの命令によりS.H.I.E.L.D.の記録に存在されず、一部の知る人間を除いて隠されてきた場所。

 

インターネット回線を全て掌握できるウルトロンですら特定できない──────クリントの家族が住む彼の家が、世界で一番安全な場所なのだ。

 

 

 

 

 

「あっ、パパ!おかえり!」

「おおっ、ただいま」

 

一夜ずっと寝込んでいたにも関わらず、未だ体調が悪いメンバーを支えつつ家の中へ入ると、長女であるライラがクリントの胸元へと飛び込んできた。

 

「パパだ!」

「クーパーも元気だったか?」

 

後から走ってきた長男のクーパーの頭を撫でていると、ドアの向こうから入ってきた女性がクリントの傍に立った。

 

「紹介するよ。娘のライラと息子のクーパー。それからローラだ」

「初めまして、皆さんの事は知ってるわ」

 

クリントの奥さんであるローラのお腹は前よりも膨らんでいるな。第三子を妊娠中であり、今度は男の子と聞いているが、そろそろ産まれるんじゃないか?

 

「ナターシャおばさんとスウァーノおじさんもいっしょー?」

「え、ええ……大きくなったわね、ライラ」

「まだおじさんって年齢じゃないって。お兄さん、だ!」

 

メンバーの中で一番精神への負担が大きいナターシャをこれ以上追い詰めない為に、俺は子供達の相手をする事にした。ライラの背後に回り、彼女を持ち上げて肩車をしたのだ。

 

「たっかーい!」

「僕もやって!」

「ああ、待ってな」

 

ライラを肩車した状態で回ると、彼女からさらに喜ぶ声が聞こえてくる。そろそろクーパーと交代してやるかと思っていると、隣から何かを踏み潰した音が聞こえてきた。

 

「む……」

「何してんだよ、ソー」

 

どうやらソーが組み立ててあったブロックを踏んでしまったらしく、足をどけるとバラバラになってしまっていた。おそらく製作者であるライラからは睨まれてしまい、ソーはまた踏まないよう足でブロックをどけていった。

 

「やはり……気になるな」

「ソー?どこに行くんだ、ソー!?」

 

何かボソッと呟いたソーは突然家の外へと出ていき、それをスティーブが追いかける。しかし少し話をした後にソーはムジョルニアを振り回し、どこかに飛んでいってしまった。

 

「どうしたんだ、あいつ」

「さぁ?」

 

知ってるわけないだろ。俺に聞かれても困る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーがこの場から去った後、スタークとスティーブはローラからの頼みで薪割りを始めた。

ナターシャは何を見せられたのかは分からないが、随分と心に傷を負っているらしくバナーが互いを癒すように話をしている。

クリントは私服姿に着替え、久し振りに家に帰ってきた事からローラとの会話を楽しんでいた。仲がいい夫婦だよな、本当に。

 

「…………」

 

俺と散々遊んだライラとクーパーは二人で遊びを始め、自由になった俺はソファーに深く座り込んだ。

さっきまで考えないようにしていたが、一人になるとどうしてもあの事を思い出してしまう。

 

もしもあれが俺の失った記憶の一部であり、本当に両親がスターク社の兵器で殺されたんなら、つまりスタークは俺にとって両親の仇という事だ。

いや、本当に仇となるのは兵器を買い、撃ち込んだ奴だろう。スタークは方法に問題があっただけで、本気で世界平和を目指していたヒーローだ。

 

「……でも」

 

恨むべき相手がスタークじゃないのは分かってる。だがそれを理解していても、心の内に眠る感情までは抑える事が出来ない。

今まで仲間として共に戦ってきた相手が実は両親が殺した兵器を作った張本人だったのだ。そんな相手とこれまでと同じ様に接する事が出来るだろうか?

 

「俺は……どうしたらいいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が幾分か経ち、昼を過ぎた頃に残っているメンバー全員がスタークに倉庫へと呼ばれた。何だろうかと思いつつ向かうと、久し振りに会う人物がそこにいた。

 

「……フューリー、何であんたがここに?」

「決まってるだろ。お前達を助けに来たんだ」

 

その後、フューリーからの情報でウルトロンの行方が分かった。奴は今まで何度も核ミサイルを奪おうとしていたようだが、何者かがアクセスされる度に発射コードを書き換え、守っていたらしい。この人物の正体を突き止める為に、スタークがノルウェーにあるインターネットの世界的中枢施設の『ネクサス』に向かう事となった。

 

そして現在。ウルトロンはソウルにある研究所でヘレン・チョを襲い、彼女が開発したクレードル、奪ったヴィブラニウム、そして杖の先端にある宝石を組み合わせて最強の人工肉体を生み出そうとしているようだ。

 

「とにかくウルトロンを止めよう。僕とナターシャ、スウァーノとクリントで向かう」

「ええっと……キャプテン、僕はどうすればいいかな?」

 

俺達がクインジェットに乗り込もうとした所で、一人残されているバナーがスティーブに問い掛けてきた。

 

「バナー博士はフューリーの車でタワーに向かってほしい。そこで出番を待っている()()にスーツを用意しておいてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達がソウルの研究所に辿り着いた時点で、クレードルはウルトロンに奪われてしまっていた。ヘレン・チョは怪我を負っていたものの命に別状はなく、彼女曰く奴はまだ新たなボディにアップグレードできていないらしい。

 

ならここからの作戦は簡単だ。研究所からクレードルを乗せて出てきたトラックに飛び移り、ウルトロンを倒してクレードルを奪う。たったそれだけの話だ。

 

『キャプテン、スウァーノ。奴を乗せたトラックが下を通るぞ』

「ああ、分かった。……スウァーノ、行くぞ」

「いつでもこっちはいいぜ」

 

アーマーに搭載されている武器を全て起動させ、そう答える。そして俺達がいる橋の上をトラックが通り過ぎようした瞬間、俺達は互いにコンテナの上へと飛び降りた──────が。

 

『っ、スウァーノ!?』

 

スティーブの声が無線から聞こえてくる。本来なら直接言葉を交わせるはずなのに、何故無線から?と思うだろう。

その理由は俺だけがコンテナに乗れず、それどころかトラックから凄い勢いで離されているからだ。

 

『二人も相手するには分が悪いからな。一対一とフェアにいこうじゃないか』

「ウルトロンッ……!」

 

どうやら奴のボディはスタークに壊されたものとクレードルを守っているものに加え、もう一つあったらしい。

飛んだ瞬間に横から体当たりされると同時に捕まえられた時は一瞬だが驚いた。

 

「ぐぁっ!?」

 

俺の首を絞める手と片腕を掴む手からの拘束から逃れようとしている間に壁へと叩きつけられた。それも何回もである。

 

「こ……のっ!」

『うおっ!?』

 

アウトエナジーをバリアのように展開し、奴を弾き飛ばす。続けてブーストラルを用いてハイ・エナジーレイを撃つも隙が大きかった為に、片手を消し飛ばすだけに終わった。

 

『やったな!』

 

奴が残っている手から光弾を連続で撃ってくる。それを俺は全て吸収し、一気に放出すると共に融合させて大きな光弾へと変えた。

 

「ほらよ、返すぞ!」

 

それをウルトロン目掛けて投げつける。避けようとしていたが、間に合わず真っ正面から受ける事となった。

だが流石というべきか、大きな傷は負っておらず表面が黒く焦げただけであった。

 

『ふん、自分の攻撃に対策がされていないわけがないだろう』

「だったらこれでも食らっとけ!」

 

両肩から姿を現した追尾型のミサイルを発射する。ウルトロンの攻撃により片方は潰されたが、もう一つは奴の顔を直撃した。

 

『むぅっ!?』

 

爆煙で視界を遮り、その間に奴の背後へと回り込む。気付かれない内にハイ・エナジーレイを撃ち、今度こそ直撃させた。

 

『卑怯な手をっ……!』

「お前には言われたくないっ!」

 

背中を大きく抉られ、片手を失っていた腕も消えたウルトロンがそう言ってくるが、レギオンを操ったり精神操作が出来る女を仲間に引き入れて悪夢を見せてくるお前も十分卑怯だろ。

 

「これで……!」

『なら、こういうのはどうだ?』

 

下に見える道路へと手を伸ばすウルトロン。するとそこを走っていた車の何台かが吸い寄せられるように空中へと浮かび始めた。

 

「お前、何を……!?」

『磁力を操っているんだ。だから……こういう事も出来る』

 

手元まで浮かんできた車を奴は磁力を反発させたらしく、俺に向かって勢いよく飛ばしてきた。

さっきまで走っていた車の中には当然人が乗っている。車体を受け止めて勢いを殺すと、アウトエナジーを纏わせて操り、道路へと降ろしてあげた。

 

『ほら、どんどんいくぞ!』

「……っ!?」

 

空中へと引き寄せた車を次々に俺へと飛ばしてきた。あれら全てを受け止める事は出来ない。少々荒っぽいが、飛んでくる時点でアウトエナジーを纏わせて動きを止めてみせた。おそらく車内にいる人達は急に止まった衝撃で怪我をしてしまってるかもしれないが。

 

「なかなか……キツいな……!」

 

数台の車を一度に、それも慎重に操るというのはなかなかに難しい。集中力を切らしてしまえば、アウトエナジーが消えて全ての車が真っ逆さまに落ちてしまうだろう。

 

『隙ありだ!』

「がっ!?」

 

なんて思っていると、目の前まで飛んで来たウルトロンに勢いよく殴られて壁に激突した。そのせいで気が散ってしまい、危惧していた通りに車が落下を始めてしまった。

 

「くそっ!」

 

こうなった以上、仕方ない。俺は車を次々に弾き、道路へと飛ばしていった。そして最後の車は地面へと正面からぶつかる寸前で止め、ゆっくりと降ろしてあげる。

 

「ふぅ……ウルトロン!!」

 

俺は飛び上がり、浮かんでいるウルトロンに突っ込む。しかし奴が俺を避ける事はなく、アウトエナジーを纏った拳が顔半分を吹き飛ばしても反撃すらしてこなかった。

 

『お遊びは終わりだ、エイナム。時間稼ぎはこれで十分だ』

「なに……っ!?」

 

咄嗟に危険を感じ、バリアを張る。ウルトロンの胸元が光ったと思うと自爆を引き起こし、衝撃で吹き飛ばされた俺は停車中の車へと叩きつけられた。

 

「ぐっ……時間稼ぎ?一対どういう事だ?」

 

脳みそが揺れるような感覚に陥り、頭を振って意識をハッキリさせる。そうしていると、クリントから通信が入ってきた。

 

「どうした?クレードルは?」

『クレードルは回収したが……ナターシャがウルトロンに連れ去られた』

「はぁっ!?」

『俺は……タワーに戻る。スウァーノ、キャプテンの方を頼んだ。何やら大変な事になってやがる』

 

そう言ってクリントは通信を切った。だが長年の付き合いにより、あの二人は互いになくてはならない関係となっている。となると、ナターシャが無理矢理にでもタワーに行くよう命じたに違いない。

ナターシャはもちろん心配だが……『何やら大変な事になってる』らしいスティーブも心配だ。一刻も早く向かおう。

 

「って言っても、絶対()()だよな!」

 

俺が飛んで向かうのは凄まじい勢いで脱線し、街中の道路を走っている電車である。しかも運転席の窓が割られている所を見るに、運転士のミスといったわけじゃないだろうな。

 

「スティーブ、こっちは片付いた!今、脱線してる電車の中にいたりするか!?」

『いる!電車を止めるぞ!君は前から電車を押してくれ!』

「分かった!」

 

電車の正面へと飛んでいく途中にアウトエナジーで全身を覆い、形を変えていく。イメージするならハルクバスターみたいな巨体だ。

 

「あれは……?」

 

車輪が見覚えのある赤い霧状のものに包まれて止まり、地面に押さえつけられて摩擦を起こしている。さらには前方で()()が素早く動き、市民を端へと移動させていっていた。

 

「…………」

 

何故あの二人がここにいるのかは知らないが、どうやらこの電車を止める為に頑張ってくれているらしい。なら俺も頑張らないと格好がつかないだろう。

 

「ふん……ぬっ!」

 

電車の前に着地し、アウトエナジーで構成した巨大な両手で受け止める。その衝撃は凄まじく、直接受け止めているわけでもない俺を痺れるような感覚を襲ってきた。

同じく巨大な両足で踏ん張るも、電車は止まる事なく地面を抉りながら俺は押されていく。

 

「だったらこれも!」

 

アーマーの足裏、背部に搭載されているスラスターも起動させてジェット噴射を開始する。

しばらくすると電車の速度が落ち、突き当たりに見える建物に激突する寸前でようやく止める事が出来た。

 

「止まったか……」

 

覆っていたアウトエナジーを消し、スラスターも止める。地面に着地すると、電車の中からはスティーブと少し前までウルトロンと一緒にいた兄妹の片割れ、ワンダが乗客と共に出てきた。

 

「ワンダ!」

「ピエトロ……大丈夫?頑張ったわね」

 

彼女の隣に突然現れた片割れの兄、ピエトロは妹であるワンダを心配するが彼女も兄の事を心配していたようだった。昨日戦った相手だが、いい姉弟だな。

 

「スティーブ、ウルトロンは?」

「……すまない、逃げられた。クレードルは回収できたが……」

「ナターシャが拐われた、か」

 

どうしてウルトロンはナターシャを?まさか洗脳とかなんかして仲間に引き入れようとしてるわけじゃないよな……?

 

「それと君達……逃がしてやりたいが、一緒に来てもらうぞ」

「ええ……いいわよ」

 

まぁ、確かにこの二人は戦力として申し分ないしな。戦わないにしても、出来る事はたくさんあるだろうし。

ワンダから返事をもらったスティーブはスタークに連絡をするが……出ないようだ。それどころか誰も。

 

「……もしかして」

「何か心当たりが?」

「今、クレードル……というかウルトロンが作った人工肉体はタワーにあるだろ?」

「あの中に入ってるのは悪魔だわ!」

 

途中、ワンダが話に割り込んでくる。どこか怯えた様子だったが、ピエトロに抱き寄せられて落ち着いたらしい。

何にせよ、あの中に入ってる人工肉体は非常に危険って事だろう。

 

「スウァーノ、それで?」

「……そいつにあの好奇心旺盛な科学組が手を出さないと思うか?」

 

まだ予想の範囲を出ないが……確認する為にも早くタワーに戻った方がいいな。




予定では次で終わりますが……終わるかな?

あと、エイジ・オブ・ウルトロン終了後にこの作品の最終的な目標を発表したいと思います。


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決戦、そして

今回にてウルトロン編は終わりです。

戦闘描写を長々と書くと流れが悪くなってしまう為、今回戦闘描写は短めです。

あとがきでこの作品の目標を発表します!


アベンジャーズタワーに戻ってからの話をしよう。結局、やはり科学者二人は人工肉体を弄っていた。どうやら記憶を捨てて生き残っていたJ.A.R.V.I.S.をアップロードさせて新たに味方を作ろうとしていたらしい。

ウルトロンの件があった為、俺とスティーブは反対したが、突然戻ってきたソーの雷撃を受けた事でそれは無駄に終わってしまった。

 

そして生まれたのが──────

 

「えっと……じゃあ、ヴィジョン?」

「はい」

「お前は俺達の味方……で合ってるんだな?」

「合っています。ウルトロンを止める為、貴方達を手伝わせてください」

 

どうやらウルトロンとは違うようで、俺達に敵対意識はないらしい。まぁ、ソーのムジョルニアを軽々と持ち上げた時点でほぼ確信していたんだが。

 

ちなみにソー曰く、ヴィジョンの額に埋まってる石はインフィニティ・ストーンと呼ばれる物らしい。それ一つで全てを破壊できると言われてるみたいだが……マジか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スウァーノ!」

 

ウルトロン、そしてナターシャが捕らえられているソコヴィアに向かう為に準備をしている途中、背後から走ってきたミアに抱き付かれた。

 

「大丈夫だったか!?色々あったんだろ!?」

「ああ、平気だ。ミアも元気になったのか」

「次の日にはな!」

 

降り立つミアが着ているのは私服でもなく、前まで着ていた自作の戦闘スーツでもない。

スタークがミアのスーツを元に、強化改造した新たな戦闘スーツであった。

 

「なぁ、これどうだ?凄いだろ!?飛べるんだぞ!」

 

ミアはそう言って、履いている反重力ブーツを起動させる。それによりミアの体が浮かび上がるがここは室内だ。興奮していたせいもあって、天井にガツンッという音が鳴り響いた。

 

「いった~!?」

「少し落ち着けよ、ミア……」

 

ミアは頭を押さえながら降りてくる。それを俺は呆れながら見届けていると、後ろから声をかけられた。

 

「エイナム!」

「ん?……ウィルソン、それにローズも」

 

歩いてきたのはウォーマシン マーク2を纏ったローズに、新たなフライトスーツを背負ったウィルソンであった。

 

「今度は俺達も参加させてもらうぞ?」

「程々の時がよかったんじゃないのか」

「まぁな。でもスタークからプレゼントされたこの新品を早く試したくてな」

 

アベンジャーズのメンバーに、マキシモフ姉弟、ヴィジョン、ミア、ウィルソン、ローズという六人のメンバーが加わった今ならば。

 

必ず──────(ウルトロン)を倒せる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……と思っていたんだが。

 

「何する気なんだ、あいつ……!?」

 

精神操作で市民を街の外へと避難させるワンダ、避難を伝えるピエトロ、上空から安全を見守るウィルソンとローズを中心に俺達はこれから戦場となるソコヴィアから市民を逃がす事にした。

だがそれが完了する前に、地響きと共にソコヴィアが上空へと浮かび始めたのだ。

 

『あいつはこの街を隕石みたいに落とすつもりよ!』

「なっ!?」

 

どこまで上昇させるつもりなのかは分からないが……この街を本当に隕石に見立てるなら、被害は最悪なものになるぞ……!

 

『街を浮かべてる装置は教会にあるぞ。だがその前に──────』

『ああ、市民の安全を確保しないと』

 

どうやら装置の場所は既に分かっているようだ。それを壊せばこの街の浮上は止められるだろうが、同時に落下する事となる。

どうにかして市民全員をこの街から脱出させないと……。

 

『おい、わんさか来たぞ!』

 

空中を飛ぶローズから連絡が入る。それと同時に周囲の地面から這い出るように、ウルトロン似のロボットが次々に現れてきた。

 

『皆様……ウルトロンは現在、ネットワークから切り離されています』

「つまり?」

『今いるロボットを全て倒せば、ウルトロンを完全に倒せるという事だ』

 

ヴィジョンからの報告、そしてスタークの言葉に全員の士気が上がる。今まではいくら倒しても新たなボディと共に復活されたが、それが出来ない今が唯一のチャンスだろう。

 

『……みんな、聞こえるかしら?』

『っ、ナターシャ!無事だったか!?』

『ええ、ありがとクリント。今、ハルクと一緒にソコヴィアに飛び移った所よ』

 

これでアベンジャーズ全員集合だな。ハルクが市民を巻き込まないか心配だが、うまく逃げてくれる事を願おう。

 

「スウァーノ、なにボサッとしてるんだ!あたし達も戦うぞ!」

「ああ、分かってるよ」

 

反重力ブーツで空を飛び、取り出した多節棍でロボット達を薙ぎ倒していくミアを追うように俺も飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次々に襲いかかってくるウルトロンに似た奴の手下、名付けるならばウルトロン・セントリーだろうか。その数は多いが、これ以上増える事はない。それはいいんだが──────

 

「あぶないっ!」

 

奴らが人質にとろうとした家族を守るように、俺は彼らの前へと降り立つ。そしてハイ・エナジーレイを撃って奴らを遠くへ吹き飛ばした。

 

「早くここから逃げろ」

「は、はいっ!で、でもどこに逃げれば……?」

 

それなんだよな……ここが空中である以上、逃げられる場所がない。市民を守りながら戦わないといけない以上、それが一番の問題なのだ。

 

「スウァーノ!あっちに怪我人が……助けないとまずいぞ!」

 

手首から放った複数のワイヤーをウルトロン・セントリーに撃ち込み、高圧電流を流し込んでショートさせていくミア。

その先には瓦礫に埋もれた怪我人を助けようとする人達が見えた。

 

「スティーブ、避難できなかった市民が多い。このままじゃ……」

『ああ……だが今は手段がない。スタークが色々と模索してくれているが……』

 

空を飛べるメンバーで何人かずつ地上に降ろしていく?いや、それだと時間がいくらかかるか……。

 

『困ってるみたいだな。懐かしのものを持ってきたぞ』

 

突然無線に割り込んできたのはフューリーの声。一体どこから、と思っていると浮かぶソコヴィアの隣に旧式のヘリキャリアが現れた。

アベンジャーズ結成時にS.H.I.E.L.D.の拠点となっていたものである。

 

「フューリー!!」

『市民をヘリキャリアに誘導しろ。ライフボードで救助する』

 

そう言ったと同時にヘリキャリアからは複数の救助挺がソコヴィアに隣接するように浮かび始めていた。

 

『ローズ、君はライフボードと市民の安全を頼む。サムは怪我人の救助に回ってくれ』

『了解』

『こっちは任せろ、キャプテン』

 

これで市民の安全は確保できたな。

 

「となれば、あとはあいつだけか」

 

 

 

 

 

 

 

ウルトロン・セントリーを撃破しつつ俺達は教会にある装置へと向かう。ソコヴィアはかなりの高さまで上昇し、ここで落とされたら間違いなく地球そのものがもたないかもしれない。

 

「全員、来たみたいだな」

 

市民の救助に回っているローズとサムを除いたメンバーが教会に集まった。ピエトロはどうやら警察官からの誤射で怪我したらしく、出血していた。

 

「大丈夫か?」

「ああ。これくらい、なんともない」

「……来たぞ」

 

ソーの一言により全員が教会の外へと目を向ける。そこには一段と大きくなったウルトロンがいた。

 

『一ヶ所に集まってくれて嬉しいぞ。これで纏めて倒せる』

「お前一人でか?貴様の仲間は全員倒したぞ!」

『これを見てもそれが言えるか?』

 

ウルトロンが手を上げる。すると一斉にあちこちからウルトロン・セントリーの大軍が教会の周りへと押し寄せてきた。

 

「……まだこんなにいるなんてね」

「あいつを怒らせたぞ」

 

しかしまだこんなにも残っていたとは。全然片付かないと思っていたが、まさしくその通りである。

 

『これが私の全力だ。お前達全員と私全員……果たしてどちらが勝つだろうな?』

 

ウルトロンはそう言って俺達を指差し、攻撃命令を出す。この街を落とす為に俺達を倒し、装置を動かせと。

 

「みんな、絶対に装置に触れさせるな」

「ああ、分かってる」

『装置を丸になって囲むぞ、いいな?』

 

スタークの指示により、俺達は装置を取り囲む。四方八方から迫ってくるウルトロン・セントリーから守る為に。

 

 

 

相棒の盾を投げつけるキャプテン・アメリカ。

 

サイコキネシスを放つワンダ・マキシモフ。

 

弓数本を同時に放つホークアイ。

 

多節棍を叩きつけるミア・トレスファー。

 

自慢の怪力で叩き伏せるハルク。

 

スティックを操るブラック・ウィドウ。

 

超人的速度で駆け出すピエトロ・マキシモフ。

 

両手からハイ・エナジーレイを放つレイ()

 

ムジョルニアを凪ぎ払うソー。

 

マインド・ストーンから光線を放つヴィジョン。

 

空中からリパルサーを放つアイアンマン。

 

 

 

それぞれが目の前の敵と戦い、時には隙をついて抜けてきた相手を倒す。

互いが互いを支えながら、俺達はウルトロン・セントリーを倒していく。

 

そして──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったか」

「ああ、ようやくな」

 

俺達はライフボードに乗り込み、隣にいるスティーブにそう声を掛ける。

ワンダがウルトロンのコアを抜き取る事で機能停止させ、スタークのソーの協力によりソコヴィアは墜落する前に粉砕された。

市民もローズとウィルソンの協力により無事に救出され、ヘリキャリアに乗り込む事が出来た。

 

だが……何もかもがうまくいったわけじゃない。

 

「ピエトロ……お願いよ。目を開けて……」

 

クリントと子供を助ける為、ピエトロはその犠牲となってしまった。ワンダがずっと声を掛けるが、彼が動く様子はない。

 

「……ロマノフ、大丈夫か?」

「ええ……大丈夫よ。ごめんなさい、心配かけて」

 

ミアは座り込んだまま落ち込んでいるナターシャに声を掛けるが、それは当然だろう。

想いを寄せていたバナーはハルクの姿になったまま、クインジェットに乗り込んで姿を消してしまったのだ。しかも唯一心が通じ合っていたナターシャの通信にも応えずに。

 

「…………」

 

俺達は戦いには勝った。だが失ったものも多くあったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう、いくのか?」

「ああ、これから忙しくなるからな」

 

車を呼び寄せ、乗り込むスタークを俺は呼び止めた。ウルトロンを作り、今回の事件の元凶となった償いをする為にアベンジャーズを脱退するのだ。

その他にもインフィニティ・ストーンを調べる為にソー、家族を守る為にクリントもアベンジャーズから去ってしまった。

 

「……なぁ、スターク」

「何だ?」

「前に、あんたに襲いかかった事があるだろ?あれ、実は……」

「ああ、そんなこと分かってるさ」

 

夢で見た事を話そうとした所で話を遮られてしまった。分かってるって……えっ、どういう事だ?

 

「僕の知らない所で誰かに迷惑をかけてしまってるのはよく知ってる。まさか君にまでかけてしまってるとは思わなかったが」

「いや、それはそうだけど……そうじゃなくて」

「……すまなかった」

 

スタークから一方的に謝られてしまった。別に俺はそれを望んでいるわけじゃないんだが……。

 

「それじゃ……僕は行く。また、暇になったらこっちにも寄るからな」

「あ、ああ……」

 

そう言ってスタークはエンジンを吹かし、走り去ってしまった。

 

「…………」

 

このスタークに対するモヤモヤとした気持ちは……どうすれば晴れるんだろうか?

 

「スウァーノ、早く来いよっ!キャプテンが呼んでるぞ!」

「ちょっ……行くから待てって、ミア!」

 

チームから主力となっていた四人が脱退し、新たに五人が加わる事となった。

今回の戦いでも活躍してくれたミア、ワンダ、ウィルソン、ローズ、ヴィジョンである。

さらには基地をタワーからスターク社の倉庫を改装した施設へと移し、元S.H.I.E.L.D.のスタッフやヒーローと親交がある人達がサポーターとして加わる事となった。

 

色々とやらなければいけない事はあるが……まずは新メンバー達のトレーニングからだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球より遥か遠い場所にて────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………私は、自身のみが入る事を許した部屋へと向かっている。そこに今まで大切に保管してきた物を手に取る為に。

 

「────様、ついに始めるおつもりですか?」

「ああ、そうだ」

 

後ろに控える優秀な配下からの質問に答える。今までも計画を練り、動き始めてはいたがどれも失敗してきた。

 

復讐心に駆られたアスガルド人を利用したはずが、マインド・ストーンもスペース・ストーンも手放す結果となった。

 

同じく仇敵を憎むクリー人を使い、パワー・ストーンを手に入れようとしたが、ストーンはノバ軍に奪われ、奴は消滅した。

 

だからこそ私が動き出す。わざわざ私が出向く必要はないと考えていたが、確実に手に入れるにはそれしかないだろう。

 

「エボニー・マウよ、全軍に伝えよ。インフィニティ・ストーンの捜索を始めろと」

「はっ!」

 

この場から消え去る配下から視線を外し、辿り着いた部屋へと入る。その奥に見える扉…………私のみに反応する厳重なロックが解かれていく。

そして何重もの壁が開いた果てに、台座の上に置かれた物へと左手を伸ばす。

 

「さぁ……この()で終わらせてやろう」

 

"インフィニティ・ガントレット"を嵌めた左手を掲げ、私はそう宣言したのだ。




最後ので分かると思いますが、最終的な目標はサノスが登場するインフィニティ・ウォー、そしてエンドゲームです!

オリ主、第三者以外で初めての別視点であるサノス視点なのはちょっとした練習です。サノスって、こんな感じでいいですか?


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新たなヒーロー達
新たなアベンジャーズ(ニューアベンジャーズ)


最初は新たなメンバー達との戦いを描くつもりでしたが、個々でのオリ主との絡みを描いてみました。


~ワンダ・マキシモフ~

 

ウルトロンの事件から数ヵ月が経ち、アベンジャーズの新メンバー達のトレーニングも大分進んできた。まだまだチームとして纏まっているとは言いがたいが、それも時間の問題だろう。

ところで力が似ているという点から、俺は新メンバーの中で唯一、ワンダの教育係を任されている。主に力のコントロールなどが目的だが、それ以外にも自身の境遇から学べなかった事など色々だ。

 

「ほら、ワンダ。撃ってみろよ」

「え、ええ……」

 

ワンダは恐る恐る両手に赤いエネルギーを纏う。そしてそのエネルギーをいくつも俺に向かって投げつけてきた。

それらを吸収しようと構えるが、直前で曲がって俺を素通りし、壁へと直撃して粉砕してしまった。トレーニングルームの壁じゃなかったら崩れてたな。

 

「まだ難しいか」

「ちょっとまだ……慣れなくて」

 

アベンジャーズの一員として活動する以上、人間を相手に戦う事だってある。ワンダも俺達と敵対していた頃は普通に戦えていたが、どうもヒーローに目覚めてからは自分の力で相手を傷つける事を極端に恐れるようになってしまったらしい。

 

「まぁ、そんな落ち込むなって。戦う事が出来なくても、やれる事はたくさんある」

「やれる事って……?」

「サイコキネシスで味方を遠くに飛ばしたり、精神操作で相手に情報を吐かせるとかな。拳で殴り合うだけが戦いじゃない」

 

特にワンダの能力は色々と応用が利く。サイコキネシスはエネルギーを塊にして撃つ以外にも自身を浮かせたり、生物・物体共に自由に操る事が出来る。

戦ってくれるなら強力な戦力になるが、味方の支援だけでもワンダは十分役立つはずだ。

 

「でも、いざって時に戦えないとみんなに迷惑をかけるわ」

「だからって無理に克服するのもストレスだろ。気長にやっていこうぜ」

 

そもそもワンダはまだまだ戦えるようになった新米ヒーローだ。それにメンバーの中じゃ誕生したばかりのヴィジョン(推定0歳)を除いて一番若い。戦えないからって誰も責めやしないだろう。

 

「……やっぱり違うわね」

「何がだ?」

「この力を手にし始めた頃は、早く実戦投入できるようヒドラの教官から厳しくされたわ。私も……ピエトロもね」

「……そうだったのか」

「でもスウァーノ、貴方は違うわ。こんなにも私に優しくしてくれてる。ピエトロも、貴方に教わっていたら……っ!」

 

ワンダの目尻から涙がこぼれ落ち、頬を流れていく。ワンダのピエトロを失った悲しみは未だ癒えていない。あの時まで互いに一生懸命に生きてきた兄なのだ、当然だろう。

 

「ワンダ、今日のトレーニングはこれで終わりだ。お前は部屋に戻って休んどけ」

「えっ、でも……」

「いいから」

 

ワンダの能力、特にサイコキネシスの威力は彼女の精神状態に左右される。このままトレーニングを続けてもコントロールが難しくなり、余計に彼女に負担をかける事になるだけだ。

 

「ワンダとのトレーニングは終わりか、スウァーノ」

「……スティーブ」

 

ワンダが去った後のトレーニングルームにスティーブが入ってくる。私服姿でいる事からトレーニングをしに来たわけじゃないみたいだが。

 

「どうだ、彼女は?」

「まだどうも言えないな。今できるのはあまり負担をかけ過ぎない事くらいか」

「なるほどな」

 

スティーブはアベンジャーズのリーダーとして新メンバー、特にまだ若いワンダの事を気にかけてくれている。だがそれも目の届く範囲でしか出来ない為、教育係として俺を傍につけたのだ。

 

「でもいつかきっと、大きな戦力になってくれるはずだ」

 

 

 

 

~サム・ウィルソン&ジェームズ・"ローディ"・ローズ~

 

「エイナム、戻ったぞ」

「おかえり、そしてお疲れさん。ウィルソン、ローズ」

 

基地に着陸したクインジェットから降りてくるメンバー達を出迎え、最後に出てきた二人にも労いの言葉をかける。

ソコヴィアでの戦いを除けばチームで戦う事をしてこなかったミア、ワンダ、それとヴィジョンはまだトレーニング中だ。しかしこれまでの集団戦を経験してきたこの二人はすぐに新たなメンバーとして度々出動するようになったのだ。

 

「今回はどうだった?」

「二対五で俺の負けだ。まぁ、今回の俺は偵察がほとんどだったからな」

「おいおい、それは負け惜しみだろサム。偵察って言ったも結構戦ってただろ」

 

スティーブ、スタークそれぞれの相棒的位置に立つこの二人は何故かお互いにライバル心を持っている。今回みたいにどちらが多くの敵を倒せたか競うのも珍しい話じゃない。

 

「ならこれでローズの九戦中、六勝三敗だな」

「また差が開いたな。次で勝負がつくんじゃないか?」

「いや、次こそは俺が勝つ。絶対にな」

 

勝ち越したいという相手がいれば、それが成長に繋がる事だってある。

ただウィルソン……お前、前の勝負の後にも似たようなこと言ってたぞ。

 

 

 

 

 

~ヴィジョン~

 

「エイナム、今いいでしょうか?」

「ぶっ!?」

 

基地に設けられた自室で過ごしていると、突然ヴィジョンが目の前の壁をすり抜けて現れ、俺は飲んでいたコーヒーを吹いてしまった。

 

「大丈夫ですか?」

「……大丈夫だけど……それ、ナターシャやワンダとか女性にやるなよ?特にミアは絶対にだ」

「それは何故でしょうか?」

 

ヴィジョンは人間の年齢に換算すると、0歳だ。体格は大人で世界の情勢などもネットワークで調べられるが、常識などはまだまだ何も知らない赤子同然である。

 

「着替え中とかに入ったら怒られるからだよ」

「どうして怒るのですか?私は着替え中に見られても怒りませんよ」

 

まぁ、お前は人間の生活を知る為にスーツを着てるけど、別に着なくても問題ないし……って、それはいいんだよ。

 

「女ってのは裸を他人に見られるのが嫌なんだよ。特に男にはな」

「なるほど……ありがとうございます、勉強になりました」

「それで俺に用事があったんじゃないのか?」

 

ヴィジョンの登場の仕方で話がすっかり脱線してしまったが、そもそもの目的をまだ聞いていない。

 

「はい、実はもう一度料理に挑戦してみたいと思いまして」

「もう一度?……ああ、そういえば前はワンダと作ったって言ってたな」

 

知識はあっても実践は初めてだったヴィジョンは見事に失敗し、ワンダがほとんど作り直したみたいだが。

 

「今度はワンダと一緒に完成させたいと思ってるんですが、その前に一度練習をしたいと思ったのです」

「なるほどな、それで俺に協力してほしいと」

「はい」

 

つまり俺との料理は本番であるワンダと作る時に失敗しないようにする為と。まぁ、男なら女にいい所を見せたいだろうしな。

……そもそもヴィジョンに性別があるのか不明だが。

 

「いいぞ。それにどうせならみんなに振る舞おうぜ」

「ですが失敗したら……」

「そうならない為に俺も作るんだろ?」

 

それとも何だ、工程は間違いないのに結果は失敗とか漫画みたいな事になるのか?

 

「とにかく調理場に行こうぜ。何があるか確認しないと」

「ええ、分かりました」

 

 

 

 

その後、見た目・味共に問題なく完成したもののヴィジョン一人で作るのはまだまだ先の話になるだろうという結果になった。

いや、だって試しに一人で任せたら炭が出来てたし。

 

 

 

 

 

 

 

~ミア・トレスファー~

 

新しく設立されたアベンジャーズ基地には自室が人数分用意されている。されているのだが……。

 

「おい、ミア……」

「えへへっ、別にいいだろ?」

 

深夜、誰かが布団の中に入ってきた事で目覚めた俺はすぐにその相手がミアである事に気付いた。

毎日というわけではないが、よくミアはみんなが寝静まった辺りで俺の部屋に来ては布団の中へと潜り込んでくる。そして朝までここで寝るのだ。

 

「……っ」

 

ミアは基本、就寝時はネグリジェを着て眠る。しかし今回は一段と生地が薄い上に面積が少ないものだった。さらにはシングルベットである為にどうしようと体が密着する事となる。

 

「お前なぁ……俺に襲われるとか考えないのか?」

「別にスウァーノだったらいつでも歓迎するぞ」

「……へぇ」

 

俺だって男だ。夜中に布団に潜られ、生地の薄い服を着て如何にも『襲ってください』というようなこの状況で、さらにそう言われては黙ってるわけにはいかない。

俺は布団をどけると素早くミアに馬乗りをした。

 

「……へっ?」

「いつでも歓迎なんだろ?だったら問題ないよな」

「い、いや、ちょっ、ま、まだ覚悟が────っ!?」

 

ミアの言葉を遮り、彼女の口を自分の唇で塞ぐ。突然だったからか少なからず抵抗しようとするミアだったが、しばらくすると動きが鈍くなっていた。

 

「ぷはっ……はぁ、はぁ……あの、なぁ……!」

「歓迎するって言ったもんな?」

「っ……えっと、それは……その、本気じゃ……」

「今更言葉の撤回はなしだぞ、ミア」

 

俺はそう言ってミアに笑みを向ける。それを見て唾を飲み込み、顔を紅潮させるミアの体へと俺は手を伸ばした──────




今回の章はあと二話投稿して終わりです。

シビルウォーにはその後にもう一つ章を投稿したら突入します。


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1.5cmのヒーロー(アントマン)

前回からタイトルに初めてルビを振ってますが、どうでしょうか?


ウルトロンとの戦いから数ヵ月が経った頃、民間からの俺達への不満は大きくなってきていた。元々少なからずあったが、一気に増えたのはソコヴィアの事件からだ。

スタークが世界平和の為に開発したウルトロンが世界を滅ぼそうとしたのだ。奴を倒して人類を救ったとはいえ、その発端を生み出した俺達が非難されるのは当然だろう。

 

さらには暴走したハルクとハルクバスターとの激突でヨハネスブルグ、クレードルを奪う為にウルトロンと戦ったソウルにも大きな被害を出してしまっている。

 

俺達アベンジャーズは世界を救う為に今まで戦ってきた。その選択に間違いはないだろう。

だがウルトロンとの戦いは──────間違っていたと言うしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数名のメンバーでの任務から戻ると、基地に残ってもらっていたサムからある報告を受けた。

 

「侵入者!?」

「ちょっ、ばかっ!声がでかいって!」

 

どうやら俺達が留守にしていた間に何者かがこの基地に侵入したらしく、サムが撃退に向かったが反対にやられたらしい。ついでにそれをスティーブには黙っていてほしいとも言う。

付き合いも長くなり、ローディとは別にファーストネームで呼び合う仲にはなったが流石にそれを黙っておくのはなぁ。

 

「頼む、キャプテンには秘密にしておいてくれよ」

「……まぁ、いつかバレると思うけどな。それどその侵入者ってのは?」

「ああ。今、監視カメラの映像を出す」

 

それがあったらスティーブにすぐバレないか?と思うが黙っておこう。

一方、サムが操るパソコンにカメラの映像が映り、そこに誰かと戦うサムの姿が現れた。

 

だが──────

 

「なぁ、相手はどこにいるんだ?」

「ちょっと待ってろ。たぶんもうすぐ……きたっ!」

 

サムがウィングパック、通称ファルコンの翼による攻撃を繰り出すと突然スーツを着た人物が現れた。しかもまるで豆粒サイズから巨大化するように……っ!

 

「もしかして、さっきまでは小さくなっていたのか?」

「ああ、そうだよ」

「サムがおかしくなったのかと思ってた」

 

映像の中でサムは侵入者に対して善戦をしているが、相手が小さくなった途端に押され気味になっていく。そして相手が消えた基地の中にサムも入っていくが……しばらくすると、勢いよく壁を突き破ってサムが出てきた。

 

『おいっ!何を、し……うわあああっ!?』

 

ファルコンから火花が散り、サムは地面へと墜落した。立ち上がって辺りを見渡しているが、あの壊れたファルコンではもう飛べもしないし戦えないだろう。

 

「……侵入者を目視で確認できたのはここまでだ」

「それで侵入者は何を?」

「いや、それが何かを盗まれたとかの形跡はなくてな……」

 

……あそこまで小さくなれると、ドアの隙間や小さな穴も通り放題だよな。となると、誰にも気付かれないで何かを盗む事も可能なはずだ。

まさか縮小能力なんて使う奴がいるとは……ん?

 

「なぁ、サム。侵入者が大きくなった所で映像を停止してくれるか?」

「ああ、分かった」

 

サムが映像を巻き戻し、侵入者が大きくなった所で停止した。

侵入者が装着しているスーツ……銀色のフルフェイスヘルメット、口元のチューブ、黒と赤のツートンカラー、両手のボタン、ベルトに付いたダイヤル式の装置……そうだ、このスーツは──────

 

「こいつは、アントマンだ」

「……アントマン?」

「昔、S.H.I.E.L.D.に所属していたエージェントのコードネームらしい。ほとんど情報は残ってなかったが……俺が見たスーツと同じだから間違いないはずだ」

 

でも……そのエージェントは1989年にS.H.I.E.L.D.を退職したと記録されていた。となればそいつはもう高齢のはずだ。そんな奴がスーツを着て、しかもこんなに戦えるか?

 

「……もしかして」

 

そのS.H.I.E.L.D.のエージェント……今どこで何をやってるのか、片っ端から調べてみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたみたいなスーパーヒーローに会えた事は本当に嬉しいよ。でも前科持ちの元電気技師の俺に何の用事が?」

「肩書きはそれだけじゃないだろ、スコット・ラング?」

 

俺が人気のない喫茶店へ電話で呼び出したのはアントマンについて調べていた際に、ようやく判明した正体であるハンク・ピム──────が、何かと秘密裏に接触していたこの男である。

 

「ハンク・ピムという名前に聞き覚えは?」

「いや、ないな」

「……本当か?」

「ああ、そんな()は知らない」

 

……割と簡単に墓穴を掘ったな、こいつ。

 

「俺は一言も男なんて言ってないが?」

「あ……いや、ほら、だってハンク・ピムなんて名前、男だって思うだろ」

「……そういえば、そいつには息子がいるって話なんだが」

「いや、そいつは嘘だろ。ホープは息子じゃなくてむす……っ!」

 

これで認めざるを得ないだろう。自身がハンク・ピムと関係を持ってるという事を。

 

「どうする?もっと大事な墓穴でも掘るか?」

「……いや、やめとく。大事なことばっか話してたらハンクにまた怒られる」

「なら正直に話せ。アントマンってのは知ってるな?」

「ああ……っていうか、やっぱバレてる?」

「お前が二代目って事くらいはな」

 

監視カメラには映ってなかったがラングはサムに対してヘルメットを開け、顔を見せたらしい。そのおかげで俺が顔写真をサムに見せると、すぐに侵入者の居場所が判明したのだ。

しかし正体を隠しているにも関わらず、素顔を見せるとか……一番やっちゃいけない事だと思うんだが。

 

「えっと……それで俺ってどうなるのかな……?」

「理由が何にせよ、あんたが基地を襲ったのは当然許される事じゃないが……一つ、条件を呑んでくれれば帳消しにしてやる」

「本当か!?そ、その条件ってのは?」

 

食いついてきたな。これでこの後の話もスムーズに出来るだろう。

 

「あんたの力が必要になった時……俺達にその力を貸してくれ」




今回はスコット・ラング/アントマンのシビルウォー参加に繋がる話でした!

今回の章はタイトル通り、シビルウォーに登場する新ヒーローの話です。話はもう一つ残っていますが、どちらを描くかは既に決まっています。


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親愛なる隣人(スパイダーマン)

この話をもってして、この章は終わりになります!


「スウァーノ、なに調べてるんだよ?」

 

俺が基地内にある機器を使い、様々な人物を顔写真付きで調べていると通り掛かったミアから疑問の声を掛けられた。

 

「俺達以外のヒーローをリストにして調べてくれってスティーブから頼まれてる事は知ってるだろ?」

「そういえばそんな事……ああ、それがこれか」

「そういうこと」

 

3Dホログラムで表示されている顔写真は色々ある。以前出会ったスコット・ラングを始め、盲目の弁護士や女性探偵など様々だ。何人かはチームを組み、共に戦った事もあるみたいだが……こいつらはアベンジャーズみたいな表舞台より、裏で活動する方が性に合ってるんだろうな。

 

「……ん?なぁ、こいつって誰だ?」

「どれだ?……ああ、これか」

 

ミアが指差すのは壁にくっついたり、糸らしき物で街中を空中移動しているヒーローの映像だった。

 

「さてな、俺もまだ正体を掴めてない。この映像もネットに投稿されていたものだしな」

「へぇ……まぁ、頑張れ。コーヒーでも淹れてくるか?」

「ああ、頼む」

 

ミアが室内にある簡易的なキッチンへと消え、再びリスト作成をしようとしたが、ミアが気になっていたあの映像を一番前へと持ってきた。

 

「…………」

 

このヒーローが着ているスーツは手作りといった感じが強い。協力者の有無は分からないが、少なくとも正体は民間人の可能性が高い。

そしてやっている事は泥棒退治や道案内など大きくはないが、決して必要がないわけではない。ネットでの評判がいいのも民間人に近い位置で活動しているからだろう。

 

アベンジャーズへの勧誘は置いておくとして……どういった人物なのかは正直気になる。

 

「……調べてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨークの街中をブランコのように移動していくヒーローの姿が見えた。そいつは人が多く集まっている場所などを通り過ぎる時には必ず声を掛けている。

 

「ねぇっ!事件が起きたらすぐに知らせてよ!?急いで行くからさ!」

 

「今日はいい天気だね!ランニング頑張ってよ!」

 

「あっ、おばあさんこんにちは!今日は大丈夫?何も盗まれてない?」

 

「僕を撮ってくれるって?いいよ!どんなポーズがいい?こう、糸を出してるとことか?」

 

市民に声を掛け、良好な関係を築いているのはいい事だ。大きな事件を相手にしている俺達みたいなヒーローにはそんな事さえ出来ないからな。

 

「ねぇっ、その武器どこで買ったの?すっごくかっこいいよ!でも残念、それは僕が没収して君と一緒に警察に届けてあげるから。……えっ、不審者が何を言ってるんだって?僕は不審者なんかじゃない!スパイダーマンだ!」

 

……でも、敵にまでお喋りはしなくていいと思うが。

 

 

 

 

 

「はぁー……今日も疲れたなぁ」

 

ビルの屋上に着地したスパイダーマンは柵に座り、マスクを脱ぐ。後ろからしか見えない為、顔は見えないが男性である事に間違いはないだろう。

隠れている俺に気付く事もなく、彼は持っている袋からサンドイッチを取り出して携帯を弄りつつ食べ始めた。

 

……そろそろいいか。

 

「ちょっといいか、スパイダーマン?」

「ぶふっ!?」

 

サンドイッチを吹いた彼は突然声を掛けられた為に、動揺してマスクを被る事すら忘れてこちらを振り向いた。

まぁ、それが目的だったんたが……これでようやく顔を確認する事が出来た。

 

「それとも()()()()()()()()と呼んだ方がいいか?」

「……っ!?」

 

少年、もといパーカーの顔が驚きで埋め尽くされる。当然だろう、今まで誰にも正体を明かさず、活動をしてきたのだから。

だから俺も彼の正体を掴む為に色々な手を打った。最後は自分の目で顔を確認するまで確信はしていなかったが。

 

「何で僕の名前を……って、もしかしてアベンジャーズのスウァーノ・エイナム!?そうですよね!?」

「ん?ああ、そうだけど」

「マジかっ……本物に会えるなんて!あのっ、サイン貰ってもいいですか!?えっと……あ、このスーツでもいいんで!お願いします!!」

「あー……いや、今はペンを持っていなくてな」

「それなら僕のを……って、リュックサックが無いんだった!ああっ、もう僕のバカァ~ッ!」

 

なんていうか……自分の正体がバレた事よりも俺に会えた事に驚いてないか?

 

「なぁ、パーカー?ちょっと落ち着いて……」

「僕、アベンジャーズのファンなんです!こうやってスーツ着て、ヒーロー活動してるのも貴方達みたいになりたくて……あの、僕もアベンジャーズの一員になりたいんです!」

「……とりあえず落ち着け。そして俺の話を聞け」

 

正体を調べていた時は、まさかここまでお喋り好きとは思ってなかったなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アベンジャーズの追加メンバー候補?えっ、それに僕が!?」

「いや、君は違う。もっと下、つまり候補の候補だ」

 

理由としては色々あるが、一番の理由はパーカーがまだ学生だからだ。自警活動ならともかく、アベンジャーズに入ってしまえば学校生活にも支障が出てくる。

それに──────

 

「パーカー。君には家族がいるだろ?」

「えっと……はい、叔母がいます」

「アベンジャーズに入ってしまえばその人が巻き込まれる事だってある」

 

今は脱退しているが、スタークとクリントにも恋人や家族がいる。前者は実際に巻き込まれてるし、後者だって今後もないとも限らない。

それを考えると、パーカーの叔母も危険に巻き込まれる可能性がないわけではなくなってくる。

 

「叔母さんは君がスパイダーマンだって事は?」

「知らないです、話していませんし……でもそれなら叔母さんは僕が守って……」

「……悪い、まだこの話は早かったみたいだな」

 

ヒーローとして活動しているとはいえ、中身はただの学生だ。家族もいて、まだ一人で何かを決められない子供にこんな話を持ってきたのは完全なる間違いだった。

 

「ま、待ってください!僕はアベンジャーズに入りたいんです!」

「言っただろ、候補の候補だって。それにどうしても入りたいならまずは高校を卒業して進路をちゃんと決めてからだ」

 

……パーカーみたいに俺達アベンジャーズに憧れる人はたくさんいる。でもヒーローである事は決して誇れる事でも、自慢できる事でもない。

ヒーローになった事を後悔しているメンバーがいないわけじゃないからだ。それを代償に自分の人生が狂ってしまった奴らだっている。

 

「それまでよく考えとけ。自分がヒーローになった事にどんな意味があるのかを」

 

それが分かった時に、パーカーは自分で答えを出すはずだ。自分がアベンジャーズになるべきか、そうでないべきかが。




これでオリ主とアントマン、スパイダーマンとの顔合わせが出来ました!
これがシビル・ウォー編にどこまで影響を及ぼすかは秘密です。

次回は再びオリ主の章に入っていきます!


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レイ~オリジン・ストーリー3~
目覚める記憶


オリ主の過去の一部、そして力をどうやって手に入れたのかがようやく判明します!


「……ねぇ、本当にいいの?」

「ああ、やってくれ」

 

俺が座る椅子の背後でワンダが両手を赤い霧で包む。これからワンダの力により、俺の失った記憶を少しでも思い出させてもらうのだ。

これに関しては既に実証済みだ。ウルトロンとの戦いの時、俺はワンダに襲われて『両親がスタークが作った兵器により殺された』という過去を思い出したのだ。

 

ちなみに────今している事を俺とワンダ以外、誰も知らない。知れば絶対に反対されるからだ。特に恋人のミアとリーダーのスティーブには。

 

「じゃあ……いくわよ」

「おう」

 

ワンダの指がゆっくりとこめかみに触れる。

 

そして俺の意識は────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────…………なぁ、先生」

「ん?どうしたの?」

 

両親をあの紛争で失った俺は他の子と同様に、孤児院へと引き取られた。そこでの生活に不満があるわけでも嫌な事があるわけでもない。

ただ──────何年経っても、あの時の事を忘れられないのだ。

 

「俺、ここを出ていく」

「……出て何をする気なの?」

 

──────そんなの決まってる。

 

「強くなって、偉くなって……いつかあいつ(トニー・スターク)に仕返ししてやりたいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────……おい、大丈夫か?」

「だ、大丈夫に……決まって、るだろ……」

 

残っている敵の傭兵を気絶させ、後ろにいる少女へ声をかける。初めは女でありながら傭兵という事に驚いていたが、流石に力では男に勝てず、囲まれた所を助けてあげたのだ。

 

「その割には息が苦しそうだぞ?」

「う、うっさいんだよっ!」

 

持っているナイフを振り回してくるが、疲れきった体ではうまく扱えずに腕を掴まえられ、俺にナイフを奪われるという羽目となった。

 

「あっ、お前っ!返しやがれ!」

「…………」

 

殴りかかってくる少女を片手で制しつつ、状況を把握する。敵はあと僅かとなり、残っている味方だけで抑えられてるといった感じだ。

 

「おい、ここはあいつらに任せて退くぞ」

「はぁっ!?ふざけんな、あたしだってまだ戦えるんだよ!」

「今の状態で戦っても邪魔になるだけだ」

 

別にこの少女がどうなろうと構わないが、無理に突っ込んで殺される姿は見たくない。ただそれだけだ。

 

「ほら、行くぞ」

「おいこらっ!引っ張るな!担ぐな!降ろせぇぇっ!!」

 

 

 

 

 

「おい、エイナム!」

「……ん?ああ、トレスファーか」

 

とある地域の紛争に参加し、敵を薙ぎ倒していると声を掛けられた。その相手は、好戦的な少女ことミア・トレスファーであった。

 

「この前はよくもやってくれたな!勝ち逃げしやがって!」

「逃げたわけじゃない、戦いに戻っただけだ」

 

ギャーギャーとうるさいこの少女から、俺は何度も勝負を挑まれてる。出会い方に問題があった事は分かっているが、既に変える事が出来ないのでどうしようもないのだ。

 

「エイナム、あたしと勝負しろ!今度は逃げるなよ!?」

「だから逃げてないって……で、内容は?」

「どっちが相手を多く倒せるかだ。負けた方は相手の命令を一つ聞く、どうだ!?」

 

今までも似たような勝負は挑まれているが、勝った方は負けた方に一つ命令できるとか……自分の体をもっと大事にしろと言ってやりたい。

 

「断ったら?」

「お前が受けるまで何度でも言ってやる」

「……分かったよ。その勝負、受けてやる」

 

いつまでも言われてちゃしつこいったらありゃしないからな。

 

 

 

 

 

「げほっ……おい、大丈夫か……!?」

 

戦闘中、敵が用意していた装甲車から発射された砲弾が俺とトレスファーの近くに着弾し、俺達は吹き飛ばされたあげく、池へと落ちた。

互いに意識を失ってしまったが、先に目覚めた俺がどうにかトレスファーを引き上げたんだが……目を覚まさないのだ。

 

「おい……しっかりしろ……!」

 

全身がズキズキと痛むも、全部無視だ。彼女を目覚めさせようと心臓マッサージを繰り返すがまったく反応が返ってこない。

 

「……くそっ!」

 

躊躇っていたが、しょうがない。あとで何を言われるか分からないが、俺はトレスファーと直接唇を合わせて人工呼吸しながら心臓マッサージを続けた。

 

「けほっ……げほげほっ!」

 

それから数分後、トレスファーは口から水を吐きながら目覚めた。丁度俺が彼女の口から顔を離し、心臓マッサージへと移行する瞬間である。

 

「おい、大丈夫か!?」

「お、おう……だい、じょうぶ……」

 

まだ苦しそうだが、意識はハッキリとしてきたらしい。俺と目を合わせると、何かを思い出したかのように手を口へと添えた。

 

「お、お前……」

「……何だよ?」

「あ、あたしのファーストキス……奪っただろっ!?」

 

どうやら目覚める寸前にしていた人工呼吸の事には気付いていたらしい。ややこしくなるからバレなきゃいいなと思っていたが……どうやらそううまくはいかないらしい。

 

「しょうがないだろ、あんな状況じゃ」

「うるさいっ!せ、責任とれ!あたしのファーストを奪った事の!」

「責任って……」

 

そう言われてもな……どう責任をとれと言うのだ。

 

「あ、あたしのっ…………()()になれ!」

「……は?」

「い、いいだろ!勝負はあたしの方が勝ってたんだから!」

 

まぁ、それは間違ってないが……しかし彼女ね。今までも色々な人から作れ、作れと言われてきた言葉だな。

 

「じゃあ……よろしく頼むな」

「……えっ?」

「ん?」

「あっ、え、えっと……よ、よろしくお願い……します……」

 

どうしてそこで敬語になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スウァーノ・エイナムだな?」

「誰だ、あんたは」

 

誰かにつけられてる事に気付き、俺は裏通りへと入った。そこでようやく声を掛けてきた相手はフードにサングラスなど、自身の正体を完全に隠した人物であった。声からして唯一、男性だという事は分かるが。

 

「お前に頼み事があるんだ」

「頼み事?」

「そう、しかもとっても簡単な事だ。こいつに触れてくれるだけでいい」

 

手を入れ、探っていたポケットから取り出したのは──────オレンジ色に輝く不思議な石であった。

 

「……そいつは?」

「多くは言えないな。名前が()()()()()()()という事以外は」

「……ソウル・ストーン?」

 

何だ、それは?言い換えれば『魂の石』だが……そもそも俺がそれに触れた所で一体どうなるって言うんだ?

 

「頼む。お前がこれを触れるか触れないかで……変わるかもしれないんだ……────が」

「おい、何が変わるって……」

「……すまん!」

 

素早く俺の右手を握った男は、俺が抗えない程の信じられない力で引っ張った。まるで切羽詰まった人間のような気迫で。

 

 

そして──────俺の手はソウル・ストーンへと押し付けられた。

その瞬間に俺の中で何かが生まれると同時に、大事な何かが消えた感じがしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────…………これは。

 

「目覚めたわね。そこで貴方が忘れていた記憶は終わりのはずよ」

 

過去を夢として見ていた俺が起き上がると、ワンダがそう告げてくる。

しっかり見えた過去の他にも、うっすらと見えた過去などがあるが……一番知りたかった過去は見る事が出来た。

 

「ソウル・ストーン……」

 

それが俺を記憶喪失にしたと同時に……代わりに万能光術(エナジー・アーツ)を与えた代物であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく思い出したんだな、スウァーノッ!!遅すぎるんだよぉっ!」

「悪かったな、ミア」

 

子供のように泣きじゃくりながら抱き付いてきたミアを俺も抱き締める。落ち着くまでこのままでいようと考えていると、ワンダから記憶の目覚めさせ方について尋ねていたスティーブが、怒った表情で近付いてきた。

 

「スウァーノ、君が記憶を取り戻した事は嬉しく思ってる。でも……やり方が問題だ。せめて僕達に相談してくれれば……」

「いいじゃんか、ロジャース。こうして記憶は戻ったんだからさ」

「キャプテンはそういう事を言ってるんじゃない、ミア……やり方が危なすぎるって言ってるんだ」

 

俺に抱き付いたままスティーブに反論するミアだが、それに対してローディが間に入ってくる。

 

「スウァーノはチームにとって大事なメンバーなんだぞ。もしも何かがあって……目覚める事がなかったらどうするつもりだったんだ、ワンダ?」

「えっ……?」

 

ローディがワンダの方へ振り向き、質問を投げ掛ける。確かに俺に何かがあったら、手を掛けたワンダに責任が押し付けられるだろう……だが。

 

「待てよ、ローディ。俺はワンダなら出来ると信じて、頼んだんだ。何があっても、それは俺の自業自得だ」

「ああ、お前はそうかもな。でも周りはそうは思わないんだよ」

「わ、私……その……」

 

「────……ワンダ」

 

ローディに詰め寄られるワンダの前にヴィジョンが降り立つ。

 

「落ち着いてください、大丈夫です。エイナムは記憶を取り戻した、つまり貴女が責任を負う必要はありません」

「……そうね。仮に何かあっても、ワンダ一人が抱え込む事はないわ」

 

ヴィジョンがワンダを安堵させ、ナターシャもそれに同意する。何度も言うが、ワンダは俺に頼まれてやってくれたのだ。何が起ころうと責任は俺にある。

 

「スウァーノ、体に何か異常はないか?それと思い出した事で何か問題は?」

「いや、特にない……ただ」

「ただ?」

 

 

──────スタークとどう接すればいいか分からないんだ──────

 

 

そのたった一言が言い出せなかった。




ソウル・ストーンを持っていた人物に関してはまたいずれ出てきます。

この章はこの話のみですので、次回からようやくシビル・ウォー編に突入していきたいと思います!














ちなみにそれぞれのチームのメンバーが一部変わります!


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シビル・ウォー
戦いと犠牲


シビル・ウォー編、開始です!

今回もタイトルは前編後編などではなく、ちゃんとつけていきます!


──────ウルトロンとの戦いから一年が経った。脱退していったメンバーと入れ替わるように新たなメンバーを加えた俺達アベンジャーズは、世界を守る為に常にどこかで戦っている。

 

そう……今も、だ。

 

ナイジェリアの都市、ラゴスにある感染症研究所を元S.H.I.E.L.D.のS.T.R.I.K.E.のリーダーにしてヒドラの一員であるブラック・ラムロウが仲間と共に襲撃するという情報が数日前に舞い込んできた。

おそらく奴らの目的は厳重に保管されている生物兵器だろうが、もしもあれが奪われれば大変な事になる。

 

故に全メンバーで出動し、ローディ・ヴィジョンには待機をしてもらいつつ研究所に侵入した奴らを全員捕らえようとしたんだが──────

 

「スティーブ、こっちは片付いたぞ!そっちは!?」

 

スティーブ、ナターシャが重傷を負った末に奴らは生物兵器を奪い、研究所から二手に分かれて逃げていった。その内、片方は俺が追い付いて捕らえたものの奪われた生物兵器は持っていなかった。

さらにラムロウも乗っていなかった事も含めると、こっちは囮だったんだろう。

 

『サム、ナターシャ、ミアと一緒に追いかけてる!スウァーノもこっちへ────』

『会いたかったぜ、この野郎っ!』

 

ラムロウと思われる男の声と共に、スティーブが殴られた音が聞こえてきた。そこから途切れ途切れの声と一緒に激しい殴り合いの音が聞こえてくる。

 

「くそっ……サム、状況は!?」

『奴ら、マーケットの中に分かれて逃げた!民間人でいっぱいだ!こんな所でもし、撒かれたら……!』

「どれだけの被害が出るか分からないぞ……とにかく生物兵器を取り返さないとまずい」

 

無線でサムと連絡を取りつつ、俺はマーケットへと向かって飛び立つ。スティーブがラムロウと交戦し、サムとナターシャ、ミアは逃げた仲間を追跡……そういえばワンダは?

 

「ワンダ、今どこにいる?」

『今、スティーブ達を追いかけてる所よ!』

 

……どうする?生物兵器はサムとナターシャ、ミアに任せてスティーブを援護するか?民間人が多い中でワンダが力を振るえば、それで被害が出る可能性を考えると彼女の為にも避難を優先した方がいいだろう。

 

「ローディ、ヴィジョン!マーケットにいる人達の避難を頼む!」

『ああ、了解した』

『任せてください』

 

指示が出来ないスティーブに代わり、二人に避難を頼んだ俺はマーケットへと降り立った。入り口近くから中心に向かって店や壁が破壊されている事を見るに、これを追えばスティーブと合流できるはずだ。

 

「スウァーノ!みんなは!?」

「来たか、ワンダ。俺はラムロウと戦ってるスティーブを援護してくる。ワンダは周囲にいる人達が巻き込まれないよう避難させてくれ」

「分かったわ」

 

ワンダと分かれた俺は走り出す。するとそう遠くない場所でスティーブとラムロウが多くの人達に囲まれながら戦っていた。

 

「お前ら、早く逃げろ!スティーブ、ラムロウから離れてろ!」

「あ?テメェ、何するつも────」

 

人の壁を飛び越え、スティーブが距離をとった瞬間に俺はラムロウに向かってハイ・エナジーレイを撃つ。スタークがアーマーに改造を施してくれた事により、隙を見せずに撃つ事が可能となったのだ。

 

「がはぁっ!?」

 

大きく吹き飛んだラムロウは果物が積まれた棚へと突っ込んだ末に店内へと転がり込んでいった。あの強固そうなアーマーを着込んでいるとはいえ、ただでは済まないだろう。

 

「スティーブ、ここからどうする?」

「ああ……サム、奪われた生物兵器はどうなってる?」

 

『キャプテンか?無事に取り戻したぞ!』

『ラムロウの仲間も全員捕らえたわ』

『あたしとサムのロボ(とり)で後ろから襲ったら一発だったぞ』

『ミア、ちゃんと名前で呼んでくれよ。レッドウィングってさ。ナターシャも』

『『嫌()』』

 

ミアとナターシャから相棒の名前を呼ぶ事を断られたサムを放っといて……ラムロウはどうなった?

 

「ぐっ……やってくれたな……」

 

フラフラとしながら煙の中から出てきた奴は、ヘルメットを脱いだ瞬間によろけて倒れた。アーマーもボロボロな事から、もうまともに戦えないだろう。

 

「お前、その傷は……」

「ふっ……そんなに目立たないだろ?」

 

素顔を見せたラムロウの顔半分は焼け爛れていた。サムからトリスケリオンの崩壊時にラムロウは巻き込まれたと聞いていたが、おそらくその時の物だろう。

 

「ラムロウ、答えろ!あの生物兵器を誰に売り付けるつもりだった!?」

 

横から飛び出したスティーブが息も絶え絶えなラムロウに掴みかかり、問い出そうとする。

しかし返ってきたのはそれとはまったく別の内容だった。

 

「そういや前に、バッキーと会ったぜ」

「……何だと?」

「奴が洗脳されるまでな」

 

バーンズが洗脳をされた……!?だがあいつはあの激闘の末に、過去の事を思い出したはずだ。だったらヒドラやその他の奴らにも、もう手を貸さないはずだ。だったらどうやって奴らの接近を許して洗脳を……?

 

「奴からの伝言だ……"彼に伝えてくれ、死ぬ時は死ぬしかない"ってな」

「……バッキー」

 

……何か嫌な予感がする。今回の作戦とは関係ないにしても、あいつがこうも簡単にペラペラと情報を吐くわけがない。

何を狙っている?──────まさか!?

 

「スティーブ、罠だ!そいつはお前を油断させるのが目的だ!」

「っ!?」

「だから俺と……死ね!」

 

ラムロウが隠し持っていた爆弾を起動させ、スティーブを道連れに自爆へと踏み切ったみたいだが──────それは失敗したようだった。

 

「ぎゃぁぁあああっ!?」

「っ……ワンダ!!」

 

スティーブがラムロウを包む爆炎から離れ、いつの間にか現れていたワンダへと声を掛ける。

爆炎を外側からサイコキネシスで強引に抑え込み、ラムロウだけを殺そうとしているみたいだが……そういった訓練をまだワンダはしていない。

 

「はっ!」

 

爆炎を抑え込むワンダの力の上から、さらにアウトエナジーで囲い込む。このままワンダに任せれば、力をコントロールできずに暴走させる光景が目に浮かんでくる。

 

「ワンダ、力を切れ!」

「……っ!」

「俺が必ず守ってみせるから!」

「で、でもっ!」

「だから早く切れ!!」

「わ……分からないのよ!」

 

ワンダからの悲痛な声により、俺は確信した。彼女は既に力をコントロールできていない。おそらく切ろうとしても、切れないんだろう。

 

「ヴィジョン!今すぐワンダの元へ来てくれ!」

 

ワンダの状態を危険と判断したスティーブがすぐにヴィジョンに通信を繋げ、大声で呼び出す。

すると数秒もしない内に、空中からヴィジョンがマントをはためかせながら地上へと降り立った。

 

「ヴィジョン……!」

「ワンダ、落ち着いてください」

 

ヴィジョンがゆっくりとワンダへと近付いていく。彼女から発せられる力に、ヴィジョンは押されかけるがそれに耐えながら進んでいく。

そして進むにつれて額のマインド・ストーンが強く輝き出し、その状態でヴィジョンはワンダの手を握った。

 

その瞬間──────ワンダの力は弾けるように消え、ラムロウを襲う爆炎を留めるものはなくなった。

マインド・ストーンを持つヴィジョン、その石の力を授かったワンダ……同じ力を持っているからこそ互いに力を抑える事が出来るのではないか、という考えから生まれたワンダの暴走対策である。

 

「ぐ……っ!?」

 

爆炎は既に生き絶えているラムロウを瞬く間に炭へと変え、アウトエナジーのバリアへと叩きつけられる。抑え込まれた結果、巨大なエネルギーとなっていた爆炎は衝撃を外へと吐き出した。

その衝撃はバリアにより弱まったものの、民間人はおろか近くにある建造物を軽く吹き飛ばす程のものであった。

 

「ふぅ……」

 

バリアを解除し、一息つく。怪我人がまったくいないわけではなかったが、最悪の事態を防ぐ事は出来た。

その原因となったワンダはヴィジョンに支えられながらこちらへと歩いてきていた。

 

「スウァーノ、ありがとう……それと、ごめんなさい……」

「お前はスティーブを、みんなを守ろうとしたんだろ?だったら謝る必要なんてないだろ」

「ワンダ、私達はチームです。互いに助け合うのは当然の事です」

 

俺の言葉に同意するように、ヴィジョンはワンダに声を掛ける。そう、俺達はアベンジャーズ。協力し、助け合い、敵を倒す事はチームとして当たり前だ。

 

「バッキーが……また洗脳されて……?」

「スティーブ、そいつはまだ分からないだろ。ラムロウが咄嗟に思い付いた嘘かもしれない」

「……そうだといいんだが」

 

スティーブにとって、バーンズは幼少時代を共にした唯一の親友だ。故にラムロウがスティーブを油断させる為の嘘だったとしても、何かがあったと思うと不安になるのは仕方のない事だ。

 

「スティーブ、とにかく今は救助だ。今の衝撃で怪我をした人もいるだろうし」

「ああ、確かにそうだ。ワンダとヴィジョンは協力して救助を。スウァーノ、君はサム達と合流して──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、スウァーノ。お前からも言ってくれよ。レッドウィングは俺にとって、大切な相棒だ。それなのにみんな名前を呼んでくれないなんて、酷いと思わないか?」

「あのな、サム……嬉しいのは分かるが、専用のドローンを貰えたからって喜び過ぎだろ。もうちょっとその気持ちを抑えとけ」

「スウァーノの言う通りだ。毎回毎回しつこいんだよ」

 

アベンジャーズ基地への帰還中、クインジェット内ではいつものように俺達は今回の事や他愛もない話などをしていた。

狭いとはいえ小さな部屋もいくつかある為、落ち込んでしまってるワンダや彼女についているナターシャやヴィジョンはそちらにいる。

 

と、思っていたんだが──────

 

「みなさん、少しいいでしょうか?」

「ヴィジョン?」

 

いつものように壁をすり抜けてきたヴィジョンにはもう驚く事もなくなった。それどころか普通に会話できるレベルである。

 

「ヴィジョン、ワンダは?」

「大丈夫、落ち着いています。ですがスウァーノがワンダの力を抑えてくれなければもっと酷い事になっていたでしょう」

「まぁな!スウァーノは凄い奴だからな!」

 

ミアが俺を褒めるが、俺としては仲間であるワンダや民間人を助けただけだ。それは今まで何回もしてきた事なんだからそこまで騒ぐ事じゃないだろ。

 

()()()()()()()()()()()()()()今は……特に」

 

その言葉に全員が押し黙る。俺達アベンジャーズは今まで世界を守る為に、チームでも個人でも何度も戦ってきた。しかしその度に犠牲者を何度も出している。

それによりアベンジャーズは今ではヒーローチームどころか、国際法違反の自警団ではないかと言われるまでになってしまった。

 

しかし──────俺達がしてきた事は間違っていないはずだ。ウルトロンの件など異例はあるが、世界を守る為に俺達は戦ってきたのだ。

それに俺達が戦わなければもっと酷い事に、さらには人類が絶滅していたかもしれない。

 

だから俺は何があろうと、信じている。俺達ヒーローがいる事は正しいんだと。




シビル・ウォー編は全6話構成の予定です!


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賛同と拒否

シビル・ウォー編、第2話です!
今回からいきなりですが互いのチームメンバーが映画とは異なっていきます。


「……ソコヴィア協定だと?」

 

ラゴスでのラムロウとの戦いから数日後、アベンジャーズ基地の作戦室にメンバー全員が集められた。

その理由はかつてハルクことバナーの力を軍事利用しようと考えていた元アメリカ陸軍将軍、今ではアメリカ国務長官に就くサディアス・"サンダーボルト"・ロスがとある条約を持ちかけてきたからだ。

 

「そうだ。君達アベンジャーズのような超人達を国連の管理下に置き、国連が認めた時だけ活動を許可するというもの。既に117ヵ国が賛同し、樹立している」

「……本気で言ってるのか?」

「自分達の立場を君は理解しているのか?君達は危険な集団だと思われているんだぞ」

 

一番初めに反対の意思をとった俺に対し、ロスは厳しく答えてきた。理由はおそらく自分の娘とバナーが付き合っていた事とか自分とバナーとの因縁だろうが、あいつはヒーロー達を露骨に嫌っているのだ。

 

「覚えているか?ニューヨーク、ワシントンD.C.、ソコヴィアなど……君達が敵と戦う度に各地で犠牲者が出ている。我々を守る為に戦っているんだろうが、その逆だ。君達は守るどころか壊しているのだよ」

「僕達が戦わなければ、被害はもっと大きくなっていたかもしれない」

「確かに。しかし結果は一つしかない。戦いの中で、気付かない間に君達が命を奪った可能性だってある」

 

ロスが言っている事を否定は出来ない。何十回という戦いの中で、俺達の攻撃が流れ弾となって民間人に牙を剥いた時もなくはないはずだ。

 

──────だが。

 

「俺達がやってきた事は間違いとでも言いたいのか?」

「そうは言わない。だが、そう思う人がいないわけではないだろうな」

「……そうね。確かにそういう人はいるわ」

 

ナターシャがロスの言葉に同意する。だが彼女自身も間違っているとは思っていないだろう。ただ実際にそう思われている事に落ち込んではいるだろうが。

 

「いい加減、君達は我々からの視点も考えるべきだ。君達一人一人の力が世界にとっては脅威だ。にも関わらずソーとブルース・バナー……三十七トン級の核弾頭二つが所在不明など──────」

「おい。あの二人を爆弾扱いするなよ」

 

俺は立ち上がってロスに詰め寄る。確かにあの二人はチーム内でも強大な力を持ち、現在でも居場所が分かっていない。

だがそれでもソーとバナーは俺達の大事な仲間だ。そんな二人を爆弾と言うなど、誰であろうと許さない。

 

「スウァーノ、落ち着くんだ」

「おいおい、ロスは国務長官だぞ。手荒な真似をしたらどうなるか分かってるだろ?」

 

スティーブに宥められ、ローディからも注意を受けた俺は大人しく椅子へと座る。ロスは突然の事に驚いていたが、咳払いと共に気持ちを落ち着かせていた。

 

「とにかく、だ。この協定に署名しない人物は能力、技術、武器を使用する事を一切禁止されるぞ」

「その状態で活動した場合はどうなる?」

「その人物は犯罪者として扱われる事になる。もちろんその者に接触、加担した者もな」

 

スティーブからの質問にロスは冷淡に答える。ヒーローを嫌ってる奴からしたら、このソコヴィア協定は是非とも推し進めたいものだろう。それに物理的な力ではなく、法的な力で俺達に迫れるのだから尚更いいだろう。

 

「具体的にはどうなるんだ?まさか牢屋にでも入れられるのか?」

「ウィルソン、そのまさかだ。軽ければ武器の没収や能力の制限だけだが、本格的な活動になればラフトへ収監される事になる」

 

ラフトへ収監って……それじゃ本当に犯罪者じゃないか。今までヒーローとしてみんなを守ってきたのに、署名せずに活動しただけですぐ悪者扱いか。

 

「ねぇ、ヴィジョン。ラフトって……?」

「私達が入る前からスターク氏と政府が共同して造り上げ、完成させた刑務所です。大西洋の海中にあり、私達が捕まえた犯罪者はそこに収監されているのです」

 

ヴィジョンがワンダに説明するが、知らないのもしょうがない。ラフトが完成したのはまだ最近だし、メンバー全員にまだ伝え終わっていないからだ。

 

「さて……では、よく考えたまえ。協定に署名して国連の監視の下、活動を続けるか。それとも署名に拒否して活動を終えるか。どちらでも自由にするといい」

 

最後にそう告げ、ロスは作戦室を出ていった。残ったのは俺達アベンジャーズのメンバーのみ。

ロスの言う通り、協定に署名するか拒否するか考えなくてはならない。とりあえずここは一旦分かれてそれぞれで考えてみて──────

 

「ふざけんなよっ、あのジジイ!!」

 

バンッ!と机を叩いてミアが立ち上がった。鼻息を荒くし、完全に頭に血が上っている。

ずっと静かだからどうしたんだと思っていたが、怒りで黙っていたのか。

 

「何が国連だ、協定だ!ただあたし達が怖いだけだろ!!ずっと守ってやってたのに、手の平返しやがって!」

「ミア、落ち着けって」

「これが落ち着いてられるかよ!」

 

再びミアが机を叩く。それもさっきより強く。協定に署名しないどころか、敵意剥き出しだな。

 

「でも署名しないと活動を禁止されるわよ。それとも犯罪者になるつもりかしら?」

「ぐっ……うぅっ……くそっ!」

 

ナターシャに反論する言葉が見つからず、椅子を蹴り倒したミアはドアを力強く開けて出ていってしまった。

あの様子じゃロスを襲いかねないと思ったのだろう。ナターシャも俺達に一言、「言い過ぎたわ、落ち着かせてくる」と言って出ていった。

 

「……スティーブ、どうする?」

「どうするも何も決まってるだろ?117ヵ国が賛同してるんだ、はいと言うしかないだろ」

 

スティーブに問いかけると、それよりも先にローディが答えてくる。今でこそアベンジャーズのメンバーだが、元軍人としては多くの国が賛同している事に反対するつもりはないんだろう。

 

「俺は反対だね、組織に任せて良かった事なんて一つもない。それにこれに同意したら、政府が俺達を犯罪者みたいに監視するって事だろ」

「組織は組織でも国連だぞ。S.H.I.E.L.D.でも安全保障委員会でも、ヒドラでもない。国連の決定に逆らうのか?」

「あんたは一体どっちの味方なんだよ!」

 

互いに意見が異なるローディとサムが言い争いに発展する中、スティーブは考え込んでおり、ワンダもどちらを選ぶか迷っている。唯一、ヴィジョンが周囲の観察をしているがそれは既に答えが決まっているからなのかは分からない。

 

と、その時。

 

「電話……?」

 

突然鳴り出した携帯をポケットから取り出してみると、そこに映っていた名前は──────『トニー・スターク』であった。

本人にはまだ気付かれていないものの、俺は以前よりもスタークとの間に距離を空けている。

両親を殺した兵器を開発したスターク……開発した事に責任があっても、両親が殺されたのはスタークが原因ではない。それは分かっている。

だが……例えそうでも、心の中ではスタークを許す事が出来ていないのだ。

 

「……どうした、スターク?」

『ロスから協定の話は聞いたか?もちろん僕はもう聞いた。今、そっちに向かってるんだが』

「何の用だ?今こっちはこっちで、協定のせいでうるさいぞ」

 

 

『うるさくて結構。僕もその話をするんだからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ怒り心頭なミアを除き、ラウンジに集められた俺達はスタークからとある青年の話をされた。その青年とはチャールズ・スペンサー。コンピューターエンジニアリングの学位を取得し、座りっぱなしの仕事が始まる前に、夏休みをボランティア活動に費やす事にしたらしい──────()()()()()で。

 

時期が悪かったなどと言えない。俺達が救えず、ビルの下敷きにしてしまったのだから。

 

「ここには意思決定の方法論がない。監査を受けるべきだ、僕は受け入れる覚悟が出来てる」

「自分のせいで誰かが死んだからって、怖じ気づくのか?」

「怖じ気づいてなんかない」

「自分の行動に責任を持たなくなるって事だろ?責任を転嫁するだけだ」

 

……スタークとスティーブ、互いの意見は正しいだろう。だが今の状況ではどっちにしてもリスクを伴う事になる。

だが──────

 

「スティーブ、俺はお前に賛成するぞ」

「おい、ちょっと待て。スウァーノ、何を言ってる?」

「言い方は悪かったけどな、スターク?協定に賛同すれば、国連が俺達よりも上の立場になるわけだ。そうなれば俺達が例えミスをしても、その責任は国連が背負う事になるんだぞ」

「そうだ。戦う僕達が責任を負わずに関係のない人達が責任を負う必要はないはすだ」

 

ソコヴィア協定に国連の全員が賛同しているのかは分からない。もしもしていなかった場合、そいつらは嫌々ながら仕方なく責任を負う事になるだろう。

それに戦う力がある俺達が負う責任を、代わりに誰かが負うなど正しいとは思えない。

 

「悪いがスティーブ、スウァーノ……その言い方は間違ってる。国連だってそんな事は分かってるはずだ。そうならないように俺達を管理下に置くんだろ」

「分かってなかったらどうするんだ?」

 

戦う度に各地で被害を出してしまっているのは、今までの俺達の行動で分かっているはずだ。それなのに国連は誰にも責任を負わせないようする?

それはつまり──────俺達に『戦うな』と言うようなもんじゃないのか?

 

「そもそも国連が俺達を監督したからって、必ずしも被害が少なくなるかは分からないだろ」

「それはもしかしたら被害の量が変わらない、もしくは逆に多くなるかもしれないという事か?」

「……ああ、そうだ」

 

途中からスタークが割り込み、言葉を返してくる。俺はスタークから視線を外しながらも自分の発言に肯定した。

 

「スウァーノ、それは可能性の低い話です」

「どういう事だよ、ヴィジョン」

「私が調べた限りでは、スターク氏が自らがアイアンマンと公表してから八年……超人と呼ばれる者は急激に増加しました。その間に世界を滅ぼしかねない事件も同等の割合で増えています」

「……我々のせいだと?」

「因果関係はあると思います、ロジャース」

 

確かにそれはあるだろう。ヒーローが現れれば敵も現れる。そして戦い、同じヒーロー達と出会って共闘を始めると……さらに大きな敵が目の前に現れる。

 

「……私は、賛成するわ」

「ワンダ?」

 

ワンダがポツリと漏らした声にヴィジョンが反応する。他のメンバーもワンダへと視線を移すと、彼女は俺達を見回した後にゆっくりと口を開いた。

 

「私はこの力を授かるのと一緒に普通である事を捨てて……ピエトロも失ったわ。私にとって、ここは唯一の居場所なのよ。だから……出ていきたくないの。ごめんなさい、スウァーノ。それにスティーブも」

「いや、俺達の事は気にすんなって」

 

ただでさえ拒否する人数が少ないのに自分も賛成する側に付いたからだろう。だがワンダを責めるような事はしない。彼女にとっての言い分は当然だろうしな。

 

「いいか?今、サインに応じなければ後で強要されるんだ、結局はな。それよりマシだろ?」

「トニーの言う通りかもしれないわ。ハンドルさえ手離さなければ車は運転できるのよ」

 

確かにスタークとナターシャが言ってる事は分かる。全員が協定に賛成さえすれば、今後もヒーローチームとして変わりなく活動を続けていく事が出来るのだ。ただしそれには国連の命令に従うという義務が付いてくる。

 

スターク、ローディ、ナターシャ、ヴィジョン、ワンダは賛成。

 

スティーブ、俺、サム、ミアは拒否。

 

これではナターシャの言っている事とは逆だ。互いに意見が割れ、ハンドルを掴んで運転など出来るはずがない。

 

「!……そんな」

「スティーブ、どうし……?」

 

いつの間にか携帯を開いていたスティーブだが、どうやらメールが来ているらしい。驚きと悲しみで顔を歪めているスティーブが気になり、画面を覗き込むとそこには文章が短く書いてあった。

 

──────()()は逝ってしまった。

 

「スティーブ、彼女って……」

「……行かないと」

 

協定について討議中にも関わらず、スティーブは出ていってしまった。だがその理由を俺は知ってる。

 

前に言っていたのだ。彼女──────ペギー・カーターの寿命はもう長くない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、署名に反対する俺達の意思は変わらないまま、ソコヴィア協定の署名式がウィーンで執り行われた。

だが……その最中に何者かによる爆破テロが起きた。演説中だったワカンダの国王であるティ・チャカを始めとする十二人が死亡し、さらには七十人もの出席者が負傷した。

 

世界を変えるこの署名式を襲った犯人は近くにある監視カメラに映っていた。それによりそいつは国際指名手配を受ける事となる。

当然だろう、反対している俺達にとってはいいことではないが世間的には今後の世界をより良くする為の協定なのだから。

 

 

しかしその犯人が問題だった。俺達が知らない相手じゃない。それどころかスティーブにとってはよく知る相手だ。

 

スティーブの昔からの親友にして相棒……バッキー・バーンズが爆破テロの犯人として指名手配されたのだ。




映画ではキャプテン側だったワンダはここではスターク側です。理由としては、

・オリ主の活躍によりワンダが一般市民の犠牲を出していない。
・オリ主との特訓により自分の居場所を見つける事が出来た。
・オリヒロインがいる為、チームのメンバーを調整したため(メタな理由)

などです!


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友情・仲間・解散

「何してんだ、スティーブ……!」

 

俺はナターシャから連絡が入った瞬間に基地を飛び出し、アーマーは着ずに空中へと飛んだ。向かう先はベルリンに置かれている対テロ共同対策本部である。

 

ナターシャ曰く、爆破テロの容疑者であるバーンズがブカレストに潜伏している事にスティーブとサムが気付き、接触を図ったが警察特殊部隊に襲撃されたとのこと。

その後、ワカンダの王子であるティ・チャラが扮する『ブラックパンサー』までもが父親の復讐の為に参戦し、混戦となったもののローディが四人を逮捕する事で事態は収まったらしい。

 

「確かにバーンズは親友だろうが、今動いたらどうなるか分かってるだろ……!?」

 

それは今の俺も同じだ。しかし車やクインジェットなどで向かっているようでは遅い。その間にどう事態が変わってしまってもおかしくはないのだ。

 

 

 

 

 

 

「何だ……?」

 

人目につかないよう着地し、本部に近付いていると騒がしい事に気付く。ここの職員達が外を走り回ったり、集まって何かを話し合っている様子を見る限り、何かが起こったのは間違いない。そう思い、この騒ぎが何なのか尋ねようとすると──────

 

「……サム?」

 

どこか周囲を警戒しているような素振りを見せるサムが、誰にも見つからないよう本部から出てくる姿が見えた。ローディに犯罪者扱いで捕まった以上、ここからそう簡単に出てこれるとは思えない。

 

つまり──────()()したという事だ。

 

「……よし」

 

後を追いかけよう。そして色々と事情を聞こうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの精神鑑定医が暗号を使って、俺をまた洗脳したんだ。ヘルムート・ジモという男だ」

「暗号だって?」

「ヒドラが使っていた特殊な暗号だ。まだあの頃の癖が抜けないみたいでな」

 

 

 

「バッキー、君が本当にあの爆破テロを起こしたのか?」

「スティーブ、あれは俺じゃない。ジモが俺に変装して起こしたんだ」

「何でそれが分かるんだよ?」

「……奴の狙いはおそらくウィンター・ソルジャーの軍団だ。その中に、俺も引き入れるつもりだろ」

 

 

 

「どういう事だ、バッキー?」

「ウィンター・ソルジャーは俺以外にも何人かいる。シベリアで今も冷凍保存中だ」

「そいつらを目覚めさせるって事か、そいつは」

「かもしれないな。ジモの目的がさらに大きなテロを起こす事だと考えれば、間違いないはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

「……なら、ジモって奴は今度はシベリアに向かうはずって思ってるのか?」

 

今まで壁越しに話を聞いていたが、このまま放っておいたら次に何をするのかは目に見えている。だから俺はスティーブ、サム、バーンズの三人の前に姿を現した。

 

「スウァーノ……今までの話を聞いていたのか」

「ああ。脱走したサムを追っ掛けてたらここに辿り着いてな」

「マジか、見られてたのかよ……」

 

別に途中で声を掛けても良かったんだがどこまで行くのか気になったからな。そしたらこの廃工場が目的地だったというわけだ

 

「よっ。久し振りだな、バーンズ」

「……俺からの伝言をこいつ(スティーブ)に伝えてくれなかったみたいだな」

「言っても聞かないと思ったしな」

「……だろうな、俺も半分諦めてはいた」

「伝言?何の話だ、二人共」

 

話の内容を理解していないスティーブ、それからサムが首を傾げているが今頃言う必要はないだろう。それよりも今はジモの事だ。

 

「もしかしてシベリアに行ってジモを止める気か?」

「ああ、僕達はそのつもりだ。スウァーノ、君も一緒に来てくれるか?」

「……その前にまずは他のメンバーに相談した方がいい。お前らは犯罪者扱いで動けないし、スタークも近くにいるだろ。俺だって迂闊には動けないし、ジモは戦えるメンバーに任せて──────」

「今のスタークは何を言っても信じてくれない」

 

おそらくあの討議の後もスタークと何かあったんだろう。今まで共に戦ってきた仲間であり、アベンジャーズのメンバーでもあるスタークに相談する事をきっぱりと断ってきた。

 

「それに相談しても、国連の指示がないとアベンジャーズは動けない。バッキーがあの爆破テロの犯人だと決めつけられてる以上、この話を信じてもらうのは無理だ」

「だからって、これ以上何かしたら今度はどうなるか分からないぞ」

「このままジモを放っとけば、今度はさらに多くの人が死ぬかもしれないのにか?」

 

確かに国連からの指示を待っていれば、その間にジモはウィンター・ソルジャーの軍団を率いて前よりも大きなテロを起こすかもしれない。だが協定への同意を拒否してるにも関わらず、また動けばスティーブもサムも今度は確実にラフトに収監されるに違いない。

 

「スウァーノ、俺も覚悟してる。アベンジャーズのメンバーとして世界の危機を前に黙ってなんかられない」

「サム……だが」

「……なら俺一人でジモを止めに行く」

 

アベンジャーズ内での問題だからか、今まで黙っていたバーンズが初めて口を開いた。確かにバーンズはアベンジャーズのメンバーでなければヒーローとしても認識されていない。例え動いても協定に反するわけではないが……。

 

「バッキー、それを僕は許さないぞ。君が一人で行くなら僕は全力で君を止める」

「……スティーブ」

「スウァーノ、そういう事だ。俺達はこのまま黙ってるわけにはいかない。犯罪者になっても構わない。必ず世界を守ってみせる」

 

スティーブ、サム、バーンズの意思は固いらしく、スターク達には相談せずにこのままシベリアに向かうつもりらしい。

 

「スウァーノ、君はどうする?」

「……少し待ってくれ。答えは必ず出す」

「味方として俺達と一緒に戦うか、敵として出てくるかをか?」

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スティーブ達を捕まえるだって?」

「ああ、ロスからそう言われてな。しかも制限時間付きだ」

 

ひとまずスティーブ達と別れ、対テロ共同対策本部に戻った俺はスタークと合流した。「ここまでどうやって来た」とか「力を使っていないだろうな」とか聞かれたが、バレないよう誤魔化しておいた。

そしてスタークから告げられたのは『制限時間内にスティーブ、サム、バーンズの身柄を確保する』という話だった。

 

「君は何か知らないか?彼らの行方について」

「……いや、何も知らないな」

「だろうな、僕もまだ尻尾すら掴めてない」

 

本当はスティーブ達がどこに向かってるか知ってる。三人は航空機を奪う為にライプツィヒ・ハレ空港に向かうと言っていたからな。

 

「スティーブ達にも何か考えがあっての行動なんじゃなのか?」

「なら何故、僕達に相談しない?僕達はチームだろ!あの二人は協定に同意してないんだ、もしも犯罪を起こして捕まったらアベンジャーズだってどうなるか分からないんだぞ!」

 

……なるほどな。スティーブが『今のスタークは信じてくれない』と言った理由が分かった。スティーブは世界を守る為に動いてるが、スタークは仲間を守る為に動いてる。これでは相談した所で、他の仲間に被害が及ばないよう行動するはずだ。

 

「スウァーノ、君も協定に同意するんだ。そして僕達と一緒にスティーブ達を捕まえに行くぞ」

「……悪いが、断る。言っただろ、俺は自分の責任を誰かに押し付けるつもりはないって」

「あのな、今はそんな事を言ってる場合じゃ────」

「それに」

 

俺は少し躊躇ったものの、意を決してスタークに向かって言葉をぶつけた。

 

 

 

「俺は……あんたとは一緒に戦いたくないんだ」

 

 

 

「……そうか。ああ、そうか!理由は知らないがそれなら結構だ!!」

「ああ、理由なんて知らなくてもいい」

 

子供みたいな理由だって事は分かってるからな。『自分の親を殺した兵器の開発者(トニー・スターク)が悪いんじゃない』なんて事を認めず、少しでも憂さ晴らしをしたいなんて。

 

「だったら僕にも考えがある!君の代わりに他に戦える者を誘うという方法だ!丁度気になってる相手がいてね、彼を誘うとしよう!」

「……ああ、好きにしろ」

 

俺はそう言い、叫び続けるスタークに背を向けてその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アベンジャーズ基地へと戻った俺はミアからどこに行っていたのか尋ねられたが、それをはぐらかして自室へと入った。

そして携帯電話を取り出してスタークが『気になってる』という人物へと電話を掛けた。

 

『あっ、エイナムさん!?突然どうしたの?いや、それより聞いてよ!実はさっき、家にスタークさんが来て、僕の力を貸してほしいって言ったんだ!それで飛行機っていうか、自家用機でベルリンに今向かってて!』

「……やっぱりか」

 

動画サイトでスタークがスパイダーマンことパーカーの事を見つけた、と前に言っていたからな。その後も正体について調べていたらしいから大方予想はついていた。

 

『えっ、やっぱりってどういうこと?』

「いや、何でもない。……なぁ、近くに誰かいるか?」

『うん、ハッピーっていうスタークさんの運転手がいるよ。すぐそこで寝てるけど』

「ならいい」

 

とりあえずこの話が誰かに聞かれてるって事はなさそうだな。他のメンバーに俺とパーカーに繋がりがあるって事は伝えてないし、スタークも学生という身分から警戒もしていないだろう。

 

「パーカー、スタークから何を頼まれたんだ?」

『なんでもキャプテン・アメリカが暴走してるからその鎮圧の為にって……ねぇ、エイナムさんは何か知ってる?同じチームのメンバーでしょ』

「……そうだな。だが俺も理由については詳しくは知らない。ところでスタークから何をしろとか指示はされてるのか?」

『うん!って言っても、登場する時の演出くらいだけどね』

 

なるほどな。スタークの事だ、初めて姿を見せるからとかいう理由でパーカーを派手に登場させるつもりなんだろう。

 

「どんな演出なんだ?」

『えっとね、僕がスタークさんに呼ばれたら──────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーカーから本人のみの動きだけだが知る事が出来た。とりあえず対策はどうにか出来るだろう。まずは基地を出てスティーブと合流し、この事を伝えないといけない。

 

「…………」

 

今回の事件をややこしくしてるのは、発端のソコヴィア協定だ。あれのせいでチーム内で意見が割れ、俺達の関係は悪くなった。そのせいでスティーブもスタークも互いに対立する構図となってしまっている。

 

 

犯罪者になってでも親友、そして世界を救おうとしてるキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャース。

 

相手に嫌われてでも今は仲間を守る為に懸命になっているアイアンマンことトニー・スターク。

 

 

もしもソコヴィア協定さえなければバーンズを助ける為にスタークも力を貸してくれただろう。だが協定に同意し、バーンズを犯人と決めつけてるスタークにそれはもう無理な話だ。

 

『世界を救いたい』『仲間を守りたい』────互いにその事を知らなくても、どちらとも最もな理由だろう。

だが仮に知っていても、ソコヴィア協定という邪魔なものがある限り、納得は出来ても止まる事は不可能だ。

 

「だから……」

 

ソコヴィア協定が存在してる限り、俺達が元のチームに戻る事はない。いつになっても意見が合う事はこないはずだ。

 

「アベンジャーズを────力ずくにでも()()させてやる」

 

……それぞれが自分を守るには……それしか方法がないから。




親友との『友情』、『仲間』を守りたい、アベンジャーズの『解散』。今回のタイトルはそれぞれ三人の目的さらとりました。

オリ主とスタークとの関係が一気に険悪になりましたが、それとは別に目的が仲間を守りたいというのはどちらも同じです。ただ手段が違うだけで。


そして次回からはようやく戦闘シーンが多くなります!


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守りたい思い・裏切られた思い

スパイダーマンのMCU残留か脱退かたくさんニュースがありましたが、とりあえず3作目の製作が決まりましたね。その後も是非MCUの作品に出演してもらいたいです!

さて、こちらはそろそろ物語が後半に入っていきます。

禁断の戦いがついに始まる────!


「スウァーノ、アーマーを持ってどこに行くつもりですか?」

 

俺のアーマーはスタークに改造が施された事により、スーツケースへの変形機能が追加されてる。そのスーツケースを片手に持ち、基地の入り口へと進んでいると正面に降り立った相手から声が掛けられた。

 

声の主は──────ヴィジョン。

 

「貴方は協定に賛同していません。故にアーマーを持って外に出る事は禁止されています」

「ああ。知ってるぞ、ヴィジョン」

「……何をする気ですか、スウァーノ」

 

ヴィジョンのマインド・ストーンに力が集まるのを感じる。おそらく俺が反対の立場であるにも関わらず、何かを企んでいるのであればすぐに止められるようにだろう。

 

「悪い、ヴィジョン。何も聞かずにそこをどいてくれ」

「断ります。ロジャース、ウィルソンに続いて貴方までも犯罪者にさせるわけにはいきません」

「……だよな」

 

それぞれ賛同と反対の立場とはいえ、それ以前に俺達は仲間なのだ。大切な仲間を敵に回す事になる行動を止めないわけがない。

 

「でも俺にはやらないといけない事が出来たんだ。その為には犯罪者になる事も仕方ないんだよ」

「……どうしても、ですか?」

「ああ、どうしてもだ。だから……止めるなら、強引にでも突破する」

 

俺はスーツケースを展開し、アーマーを装着しようとする──────が、何故かスーツケースは動かず、何事かと思って見ると、()()()()()()()()が全体に纏まりついていた。

 

「これは……っ!」

 

その煙にスーツケースが引っ張られ、俺の手を離れて遠くの床に転がされる。こんな芸当が出来る奴はこの基地に一人しかいない。

 

「何をしようとしてるの、スウァーノ?それにヴィジョンも」

「……ワンダ」

 

俺とヴィジョンが今にも戦いを始めうとしたからだろう。ワンダの顔には困惑の色が見え、状況に追い付けていないらしい。

 

「ワンダ、スウァーノを止める為に手伝ってください。彼は自分の力を使って何かを企んでます」

「えぇっ!?スウァーノ、今自分がどんな立場にいるのか分かって──────」

「ああ、分かってる。結果がどうなる事もな。それでも俺は止まる気はない」

 

アベンジャーズの解散……スティーブとスターク、二人を中心に始まろうとしてる戦いを利用するこの目的を今は誰かに言うわけにはいかない。言えば本気で止められる可能性が大きいからな。

 

「何を言っても止まる気はありませんか」

「悪いが、ないな」

「……なら仕方ありません」

 

ヴィジョンが宙に浮かび、俺に向かってくる。アーマーがない以上、ハイ・エナジーレイは撃てないがだったらそれ以外の戦法をとるだけだ。

 

「スウァーノ、抵抗は無駄です」

「そんなの、やってみないと分からないだろ!」

 

迫ってくるヴィジョンに対し、俺はアウトエナジーを放出してバリアを張った。マインド・ストーンの力により透明化できるあいつには足止め程度にしかならないだろうが。

 

「っ……これは」

 

しかしヴィジョンがバリアに触れた途端、あいつは透明になったにも関わらずすり抜ける事が出来なかった。

この事に関して俺は少ない時間の中で考えた。俺に力を与えた石、ソウル・ストーン……石である事や名前からしてそれもインフィニティ・ストーンの一つである事は間違いない。

 

俺は力を与えられただけでヴィジョンは石そのものを持っているが、もしもソウル・ストーンが圧倒的な力を持ち、力を与えられただけでもそれがマインド・ストーンと同等だとしたら。

 

「……はぁっ!」

「うっ!?」

 

バリアを押し出すと同時にヴィジョンを弾き飛ばし、俺はアウトエナジーの双剣を生み出す。こうやって武器を使うのも随分と久し振りだな。

 

「いくぞっ!」

 

俺も宙に浮き、空中で制止したヴィジョンへと迫る。こちらに気付き、俺に掴みかかろうとするヴィジョンの両手を避け、俺は剣を薙ぎ払った。

 

「ぐっ……!?」

「私もやられてばかりではありません」

 

マインド・ストーンにより硬化したヴィジョンの体に刃は通らず、その隙に腕を掴まれた俺は床へと勢いよく放り投げられた。

 

「ちっ……っと!?」

 

床に叩きつけられる前に空中で止まり、着地するとヴィジョンの額から放たれた光線が俺の周囲に着弾し、大きな爆発を起こしていった。

 

「げほっ……やってくれるな」

「攻撃を止めるなら今の内ですよ」

 

空中に浮かび、マインド・ストーンを輝かせるヴィジョンと、爆炎に囲まれながら双剣を構える俺が互いを睨む。

今度はどんな攻撃を仕掛けるか、と考えていると俺が持つ双剣が両方とも手の中から抜け出して俺に切っ先を向けた。

 

「ワンダ、お前もやる気か?」

「…………」

 

双剣が赤く包まれている事からワンダの仕業だという事にはすぐ気付いた。しかしそれ以上の動きをワンダは見せず、双剣も空中で止まったままである。

 

「お願い、スウァーノ……こんな事やめて」

「ここまでやって、やめるわけにはいかないだろ」

「私は……貴方と戦いたくない!私を強くしてくれた貴方とは!」

 

ワンダの気持ちも分かる。俺だってスティーブに頼まれた事とはいえ、これまでワンダの教育係を務めてきたのだ。自分の教え子と言えるワンダと戦いたいなど思うはずがない。

 

「だったら今すぐここから離れろ。俺はヴィジョンを倒してここを出ていく」

「だから……それをやめてって言ってるのよ!」

「……悪い、そういうわけにはいかないんだよ」

 

アベンジャーズが国連の管理下になれば、スタークやスティーブなどよりもより強力な能力を持つワンダやヴィジョンがどうなるか分からない。もしかしたらどこかに監禁される可能性だってある。そんな事は絶対に許さない。

 

「邪魔するつもりなら、お前にだって容赦しないぞ」

「だったら……その前に貴方を止めるわ」

 

ワンダの力がみなぎるのを感じる。同時に止まっていた双剣が動き出し、俺に向かってきていた。ワンダの力の影響か、構成しているアウトエナジーを分散する事も出来ず、このまま自分の武器と戦う事になるのかと思っていると──────

 

「きゃあっ!?」

「っ!ワ、ワンダ!」

 

背後から誰かに襲われたワンダは床を転がり、咄嗟にヴィジョンが駆け寄る。双剣を支配していた力も消え、二つは俺の手元へと戻ってきた。

 

「なーにしてるんだよ、スウァーノ?」

「ミア……お前」

 

ワンダを襲ったのは突然現れたミアであった。しかも戦闘スーツに身を包んでおり、協定に違反しているのは明白である。

 

「ほら、これ捨ててあったぞ」

 

ミアが放り投げてきたのはさっき遠くに飛ばされたスーツケースである。それを受け取った俺はすぐにアーマーへの変形機能を起動させた。数秒もしない内に展開したそれを装着し、最後にマスクを被って完了する。

 

「……いいのか?お前、犯罪者にされるんだぞ」

「知るかよ、あんな協定。あたしはあたしのしたいようにするんだ。それにお前が何しようと、あたしはお前の味方だからな」

 

そう言うとミアは強化された多節棍、その名も『セルファロー』を取り出して床に叩きつける。どうやら意思は固いらしく、ヴィジョン達と戦う事にも躊躇いはないらしい。

 

「ミア、貴女まで……!?」

「悪いな、ワンダ。でも好きなこいつの為ならあたしは何だってするぞ?」

 

俺だけでなく、ミアまでも敵に回った事にワンダは驚く。それに対してミアは当然と言わんばかりに俺の味方である事を主張した。

 

「……ミア、俺があの二人を足止めするからお前は先に外に出てろ」

「はぁ?あたしも戦うに決まってるだろ」

「今はここから無事に逃げる方が重要なんだ。だから頼む」

 

ヴィジョンやワンダと戦い、あいつらを倒す事が目的ではない。戦わずに済むならそれに越した事はないのだ。

 

「……分かったよ。その代わり、お前もちゃんと来いよ」

「ああ、分かってるさ」

 

セルファローを折り畳み、背中の筒へと収納したミアは背後の入り口へと走り出した。しかしそんな行動をして、ヴィジョン達が黙って見ているはずもない。

 

「ミア、止まりなさい!」

「ヴィジョン!私が止める!」

 

ワンダのサイコキネシスが周囲の棚や机、椅子、置物などを浮かび上がらせて入り口に飛んでいった。おそらくあれで入り口を塞ぎ、逆に俺達を足止めするつもりだろう。

 

「ミア、突っ走れ!」

「おう!」

 

俺はワンダに双剣を投げつける。当てる気はないものの、それにワンダは怯み、力にも乱れが生じた。浮かび上がっていたものはコントロールを失い、床に次々と落ちていく。

 

「っ、ワンダ!」

 

両手で顔を守るワンダの前へと立ったヴィジョンは、双剣を両手で受け止めた。そしてそれを握り潰し、強引にアウトエナジーへと戻したのである。

 

「……スウァーノ。貴方は本当に私達を裏切るつもりですか?」

「裏切ってなんかない。お前らを守る為だ」

「だとしても、この行動は明らかな裏切りです」

 

ミアが無事に入り口を出ていった事を確認し、俺は両手にアウトエナジーを高めていく。ここからどんな事が起ころうと、立ち止まるわけにはいかない。

 

自分の為にも……そして仲間の為にも。

 

「なら止めてみろよ」

「はい。必ず止めてみせます」

 

前へと歩いてくるヴィジョンの額に強大な力が集まっていくのを感じる。おそらくあれがヴィジョンの最大の攻撃になるだろう。

 

「怪我なく止める事が望みでしたが……仕方ありません」

 

次の瞬間、マインド・ストーンへと集まった力が巨大な光線となって一気に放たれた。間違いなくこの基地一つ分を半壊させる威力はある。

 

そんな光線を俺は両手で受け止め──────全力を以てして吸収をした。

 

「ぐっ……ぅぅぅうううっ!!?」

「スウァーノ、何をっ……!?」

 

吸収するエネルギーが全身を駆け巡り、凄まじい激痛が走る。まるで筋肉は裂け、骨は砕かれ、内蔵のいくつかが破裂していくような感覚だ。

 

「ぐっ……っ、はぁっ!!」

 

そして我慢の末にエネルギーを全て吸収した。だがあまりにも強大だったからか、全身が熱をもっているように熱い。いや、蒸気が俺から放出されている事から間違いなく異常なほど高温になってるんだろう。

 

「だが……これで、いい」

「っ……まさか!?」

 

一度に大量の力を失ったからか、ヴィジョンは膝をついている。そんなヴィジョンへと俺は痛みを無視しながら近付いていった。

 

「心配すんな。加減はしてや────っ!?」

 

ヴィジョンに向けた両手が無理矢理下に向けられ、俺の動きが封じられた。そうだ、さっきから姿が視界に入らなかったからすっかり忘れてた……!

 

「ワン、ダ……!」

「これで終わりよ、スウァーノ!」

 

サイコキネシスで俺を拘束するワンダ。しかしヴィジョンが放った最大のエネルギーを吸収した今なら、ワンダの力にも抗えるはず。

 

「おおおおおおおっ!!」

「な、何?この力……」

「ワンダ!すぐに離れてください!」

 

ヴィジョンがワンダの前へと立ち、彼女を守るように抱き締めた瞬間、俺は限界まで吸収して今にも溢れ出そうだったエネルギーを衝撃波にして周囲に放った。

 

「きゃっ!?」

「っっ!?」

 

衝撃波に巻き込まれたヴィジョンとワンダは吹き飛び、壁すらも容易に破壊していった。周囲にあった物は全て吹き飛ぶか壊れ、一瞬にして何もない空間が出来たのである。

 

「っ……はぁ……しんどいな、これ」

 

今まで吸収したどんな力よりも強大だったな。最悪、自爆するかもと考えていたがうまくいって本当に良かった。

 

「……悪いな」

 

どこかにいるはずのヴィジョンとワンダに俺はそう告げ、破壊されて大きな穴が出来た壁から外へと出ていった。

このままミアと合流し、スティーブ達が向かうライプツィヒ・ハレ空港へ俺達も飛び立つ。そしてそこで必ず起きるはずだ。

 

アベンジャーズを分断する……最悪の戦い(シビル・ウォー)が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか、ワンダ?」

「え、ええ……ありがとう、ヴィジョン」

 

ヴィジョンのおかけでワンダは無事であり、そのせいで瓦礫に押し潰されていたヴィジョンだったが平然と起き上がっていた。

 

「スウァーノ達は逃げてしまいましたか……」

「ごめんなさい、ヴィジョン……私、足を引っ張ってばかりで……」

「ワンダ、気にしないでください。……とにかく今はスターク氏に連絡する事が先決ですね」

 

ヴィジョンはそう言うと、通話機能を起動させてスタークとの連絡をとり始めた。一方でワンダは基地の惨状を見て唖然としていた。

 

巨大な穴が出来た壁。

大量の瓦礫。

あらゆる機器から飛び散る火花。

 

これらを全て自分達とスウァーノが起こしたのだ。仲間であるにも関わらず、争って基地を破壊してしまった。

 

「こんなの……もう嫌よ……」

 

大切な仲間達が互いに戦い、自分の居場所も失いつつある事がワンダはとても悲しかった。




今回と次話で空港戦を描こうと思ってましたが、文字数が一杯だったので無理でした。
もしかしたら話数が一つ増えるかもしれません。

感想はいつでもお待ちしてます!


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エアポート・バトル 前編

一ヶ月もの間、投稿できずにすみませんでした!現実の仕事や色々な事が忙しく、あまり手をつけられませんでした。

それでは、シビル・ウォーで一番の見せ場である空港での戦い、始まります!


「待たせたな」

 

ライプツィヒ・ハレ空港に到着した俺とミアはスティーブ達がいる駐車場へと辿り着いた。既にここにいるメンバーとは連絡済みであり、俺達が加勢する事は知っている。

『アベンジャーズの解散』という俺の目的はミアを含め、誰も知らないが。

 

「君達が来てくれて本当に助かる。ありがとう」

「あたしはスウァーノについてきただけだぞ?」

「それでもだ、ミア」

 

スティーブが味方になってくれたミアにお礼を言い、次にそれを眺めていた俺の方へと向かってくる。

 

「スウァーノもありがとう」

「いいんだよ。俺もやりたい事があるからな」

「やりたい事って何だよ、スウァーノ?」

 

俺とスティーブの話を聞いていたサムが尋ねてきた。答えるべきか悩んだが……やめておく。スティーブ達はシベリアに行ってウィンター・ソルジャー達を目覚めさせようとしてるジモを止めに行く為であって、アベンジャーズの解散を望んでるわけじゃない。言えば、反対されるかもしれない。

 

「ちょっとした事だ、気にすんな。……それよりお前ら、武器はどうするんだ?」

 

バーンズは鋼鉄の義手という武器を持っているが、スティーブとサムは一度捕まった時にスーツや武器を取り上げられている。止めに来るスターク達と戦うには生身では危険だ。

 

「心配するな、その二人の装備はここにある」

 

バーンズがここまで乗ってきた車のトランクを開けると、そこにはスティーブとサムの装備一式が全て積まれていた。

 

「どうやって取り戻したんだ?」

「シャロンが僕達に届けてくれたんだ」

「シャロン?……ああ、なるほど」

 

シャロン、その本名はシャロン・カーター。スティーブから聞いた話だが、元恋人であるペギー・カーターの姪らしい。元S.H.I.E.L.D.のエージェントであり、今は対テロ共同対策本部に所属している事が装備一式をスティーブ達に届ける事が出来た理由だろう。

スティーブとシャロン、二人の関係についてよくは知らないが、何かしらあるんだろう。でなければわざわざそんな危険を冒すはずがない。

 

「スティーブ、彼女は……」

「シャロンは覚悟の上と言ってた。僕は……その行動を絶対に無駄にはさせない」

 

スティーブは決意を固めるように拳を握り締める。シャロンの行動は世間から見れば決して正しい事ではない。それは彼女もスティーブもよく分かってるだろう。

 

「おっ、来たぞ」

 

サムが指差す方向から一台のバンが走ってくる。スティーブ達が乗ってきた車から一台分空けた場所に停まったバンから降り立ったのは──────

 

「よぉ、みんな久し振りだな」

 

アベンジャーズの元メンバーにして元S.H.I.E.L.D.のエージェント、そして弓術の達人であるクリント・バートンである。

家族の為にチームを離れ、ヒーローとしても引退を決めたクリントが何故ここにいるのか。それは追われる身となったスティーブからの助けに駆けつけてくれたからである。

 

「家族とは仲良くやってるのか?」

「ああ。ただ今日は子供達と遊ぶ約束をしてたんだが……急用が出来たと言って抜けてきた」

「大丈夫か?特にピエトロとか」

「まぁ……ライラとクーパーがうまくやってくれるさ」

 

ピエトロ・バートン。バートン家の次男であり、ウルトロンとの戦いの後に産まれた子だ。あの戦いで命を救ってくれたピエトロ・マキシモフの名前を付けたみたいだが、そういえばワンダはまだその子とは会ってないんだっけか。

 

「すまないな、クリント。君はもうヒーローを引退してるのに」

「水臭い事を言うな、キャプテン。俺もたまには体を動かしたい気分なんだ。それに俺も協定には反対だからな」

 

クリントはそう言いつつバンの後部座席のドアへと回り、取っ手を掴むと勢いよく開けた。

 

「それと言われた通り連れてきたぞ。アベンジャーズと聞いてやる気満々だったんでな、苦労はしなかった」

「っ!?……え、えーっと……もう着いたの?」

 

バンの中にいたのは、ウトウトと眠りかけていた男性──────少し前に基地に侵入してサムと交戦し、見事勝利して逃げ延びたアントマンことスコット・ラング

である。

 

「うわぁっ……キャ、キャプテン・アメリカ、初めまして」

「ああ、初めまして。スティーブ・ロジャースだ」

「お、俺はスコット・ラング……ほ、本物のキャプテン・アメリカと手を繋いでる……!あっ、俺、手繋ぎすぎ……!?」

 

バンから這い出てくると同時にスティーブと手を繋ぎ、かと思えば慌てて離すスコット。以前にアベンジャーズメンバーである俺と会ってるとはいえ、人気のヒーローであるスティーブ相手じゃ落ち着けないのも当然か。

 

「あっ……この前は、その、本当に……」

「気にするな、メンバー入りのオーディションだ。だが今度は負けないぞ?」

 

俺達の奥にいるサムに気付き、先日の件を謝ろうとするがそれは断られてしまう。まぁ、スコットの態度や性格、それにアベンジャーズのファンである事から何か事情があったに違いないと気付いてるんだろう。

 

「スコット、突然悪かったな」

「そ、そんな事ないって。俺とあんたの約束だろ?それにスーパーヒーローのあんた達と一緒に戦えるなんて思ってもみなかったし」

 

『基地に侵入した事を帳消しにする代わりに必要な時には力を貸してもらう』。スコットとはそう約束をしているが、ヒーローとはいえ関係ない彼をアベンジャーズの問題に巻き込むのはいい感じなどしない。

 

「それで?作戦とかあるのかよ?」

 

ミアがスティーブに尋ねる。それに対してスティーブは頷き、ここに集まった七人が一ヵ所に集まった。

 

「ああ。まず僕達の目的はこの空港にある航空機を奪う事だ……そして必ず、スターク達が止めに来るはず」

「あっちの戦力は分かってるのか?」

「おそらくスターク、ナターシャ、ヴィジョン。それからワンダにローディ……」

 

スティーブ、クリント、俺で話を纏めていく。俺がスターク側のメンバーについて考えていると、突然バーンズが手を挙げた。

 

「もう一人いる。あの黒い豹みたいな奴だ」

「ティ・チャラ……ワカンダの国王か。そういえばバーンズ、お前を恨んでるんだったな」

「なら可能性は大きいな」

 

これで六人……いや、もう一人いる。

 

「ティ・チャラ以外にもあっちには協力者がいる。……スパイダーマンだ」

「スパイダー……蜘蛛か?」

「そんな奴、スタークの知り合いにいたか?」

「いや、知らないな……スウァーノ、そのスパイダーマンというのは?」

 

名前を出すが、やはり誰も名前を知らなかった。まぁ、パーカーはスコットみたいに大事件を解決した事もなければ、俺との関係もみんなには伝えてないから知らないのも当然か。

 

「相手を逃がさず、捕らえる事が得意な奴だ。ニューヨークで活動してて、動画サイトにもたまに上がってる」

「ふぅん……よく知ってんだな、スウァーノ」

「……実はチームの候補メンバーとして何度か会ってるんだ」

 

ミアに尋ねられ、俺はそう答えた。別に隠す必要もなかったがまだ『候補の候補』でしかないし、あまりメンバーと関わりを持たせたらパーカーを調子づかせる事になるからな。

 

「……大丈夫なのか、スウァーノ?」

「何がだよ、スティーブ」

「僕達と一緒にいるという事は、その人とも戦うという事だ。君にはその覚悟があるのか?」

 

……パーカーとも、アベンジャーズのメンバーとも戦うのは嫌に決まってる。だが今更そんな事言ってもしょうがない。それにパーカーからはあいつの役割を聞いてしまってる。

その時点でもう覚悟はしていた。どんな事になろうと、どんな事を言われようと……俺はもうこのまま突き進むと決めたのだ。

 

「ああ、あるさ。だから心配するな」

「……そうか、分かった」

 

……『痩せ我慢をしてる』なんて、分かってるんだろうな。何年も一緒に戦ってきた仲間だし。

それにスティーブは今まで苦しい決断を何度もしてきたんだ。だからそういう事には敏感なんだろう。

 

「よし、とにかく作戦を決めようぜ。スティーブ、何か考えは?」

「ここに来るまでに大体は立ててきた。だが協力者二人がどう動いてくるか……」

「少なくともスパイダーマンの動きは分かるぞ」

 

ティ・チャラはそもそも対面した事すらないから何も分からないが。

 

「どうやって知った?」

「電話で尋ねたら答えてくれたんだ」

「随分と素直な奴だな、おい」

 

確かにパーカーは人を簡単には疑わないだろうし、裏切ったりもしないだろう。

そんないい奴に、俺は──────

 

「スウァーノ、やっぱり……」

「……覚悟はあるって言ってるだろ、スティーブ」

 

そう言って心配してくれてるスティーブを黙らせる。後悔するのは後でいい。今は仲間を守る為にやるべき事をするんだ。

 

──────と、暗くなる気持ちを奮い立たせていると、空港の様々な所でアナウンスが始まった。

 

「……空港から避難しろだって」

「スタークだな。もう嗅ぎ付けたか」

 

バーンズの言葉に続き、俺がその指示を出したスタークの名前を口にする。となると、いつまでもここに固まってるのはまずいな。

 

「時間がない、それぞれの配置場所と役割を決めよう。まずは──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーマーとスーツを纏った俺とスティーブは駐車場を離れ、飛行場へと出た。目の前にヘリコプターが見え、シベリアを目指す為にアレを確保するのも手だが……どうやらそれは無理なようだ。

 

『……まさか君までスティーブといるなんてな』

 

待機していた上空から降下し、着地したスタークとローディ。さらには背後にナターシャが退路を塞ぐように現れ、俺達は挟み撃ちされる形となった。

さらにコンテナの上を飛び越えてきたブラックパンサーことティ・チャラ。バーンズの言う通り、確かにあれは黒豹だな。

 

『スウァーノ!お前、自分が何したか分かってるか?ヴィジョンとワンダと戦って、しかも基地を破壊するとか……このままじゃキャプテン以上の犯罪者だぞ!』

「分かってる。それに協定に逆らってる以上、犯罪者になるのは確定だろ」

 

ローディが忠告してくるが、そんなのはもう遅い。そもそも犯罪者になる事など覚悟していた事だ。

 

『スティーブ、大人しく投降してくれ。今ならバーンズを引き渡せばどうにかなる。スウァーノも……最悪の事態になっても僕達が守ってみせる』

「スターク、()()()()聞いてくれ!全てあの精神科医が仕組んだ事なんだ!」

 

スターク、スティーブがそれぞれの言い分を主張する。スタークは俺達をここで止める為、スティーブはここを突破して進む為。

 

『それより?あのな、僕はこれ以上アベンジャーズを引き裂きたくない。仲間の君達も守りたい。それを『それより』とはどういう事だ!?』

「聞け!彼と同じ超人兵士が五人、シベリアにいる。あの医者が接触するのを止めないと」

 

スティーブとスタークが互いを睨みながら話す。だが残念ながら両者の気持ちは通じ合わない。それはもちろん俺もだ。

 

「スウァーノ、お願い。スティーブを止めて。貴方なら彼を止める事が出来るはずよ」

「……悪いな、ナターシャ。それは聞けない」

 

スティーブがスターク、ローディと向かい合うように俺もティ・チャラとナターシャと向き合う。相手がいつ動いてもすぐに対処できるようにだ。

 

『はぁ……そろそろ我慢も限界だ。レオタードくん!』

 

くるっ!俺がそう警戒し、アウトエナジーを放出するも──────想定と違って誰も現れず、何も起こらなかった。

 

「……なに?」

「スウァーノ、どういう事だ?君の言う通りなら……」

 

『おい、どうした?何をしてる!?』

 

どうやら困惑してるのは俺達だけじゃなく、あちらもらしい。という事はパーカーに何かがあったという事か。

 

『……なに?スウァーノがいるから?いいから教えた通りにやってみろ!僕に恥をかかすな!!』

 

……なるほど、そういう事か。パーカーにとって、スティーブはともかく俺までいるのは予想外だったんだろう。だからスタークに呼ばれてもすぐに動けなかったに違いない。

 

「もうっ、どうなっても知らないよ!」

 

そんな掛け声と共に後ろから俺達を飛び越えるように現れたパーカーがウェブ(蜘蛛の糸)を連射してくる。しかしそれを俺はバリアで全て防ぎ、パーカーは車の上に()()()()()()まま着地した。

 

「っ……だから言ったじゃないですか!エイナムさんがいるからまずいって!」

 

スタークに向かって怒るパーカーのスーツは今までの手作りスーツではない。おそらくスタークが新しく作ってやった物に違いない。

 

「残念だったな、スターク。せっかく考えた演出が台無しになって」

『まさか……知ってたのか?』

「ああ、その通りだ。あいつ、スパイダーマンとは知り合いでな。事前に何をするか聞いておいたんだ」

 

俺の言葉を聞き、スタークはパーカーに視線を向ける。その表情は戸惑いや怒りなど色々な感情が入り交じったものであった。

 

『……スウァーノが言っている事は本当か?』

「は、はい……」

『っ……だったら何でその事を僕に伝えなかった!?』

「だ、だって……!」

 

スタークに反論しようとするパーカーだが、言葉がうまく出てこないらしい。次第に怒るのも馬鹿らしくなってきたのか、息を吐いて落ち着いたスタークがこちらに振り向いた。

 

「もういい……バーンズを引き渡して僕達と一緒に来るんだ!特殊コマンド部隊はこんな丁重に接してくれないぞ!」

「だろうな。だがこっちもそういうわけにはいかないんだよ」

 

するとその時、俺とスティーブの無線機にサムから通信が入った。スターク達が乗ってきたクインジェットは第五格納庫にあるらしい。

……なら、時間稼ぎはここで終わりだな。

 

「……ミア、そっちは?」

『完了だ、いつでも出来るぞ』

「なら始めてくれ」

『おう。派手にやるからな、驚くなよ?』

 

スターク達に聞こえないよう小声でミアに指示を出す。ミアにはクリントと共に駐車場に待機してもらっている。その理由はあちらのメンバーを少しでも分断する為だ。

 

そして──────

 

『っ!?なに!?』

 

遠くでこちらからでも爆炎が見える程の大爆発が起こった。スタークがその音と衝撃に驚き、他のメンバーも唖然としている。

ミアが爆発したのは燃料が入ったタンク、そして仕掛けたのはスターク製の強力な設置型爆弾だ。

 

『スターク、ワンダから通信が入ったぞ!駐車場でミアを発見した!』

『……ターミナルでも発見した。ウィルソンとバーンズだ』

 

よし、うまくいった。これで後はあっちが分かれようとしてくれれば成功だ。

 

『ローディ、キャプテンを頼む!僕はトレスファーを──────』

「ラング、やれ!」

 

スタークが飛び立とうとした瞬間、スティーブが叫ぶ。その瞬間、浮かび上がったスタークは足裏のリパルサーが切れて地面へと着地した。

 

『おいおい、何してるんだトニー!?』

『分からない……F.R.I.D.A.Y.、原因を突き止めろ。ローディ、代わりに君がミアの元へ行ってくれ!』

 

あっちの指揮をとっているスタークをここに縛り付け、俺達で相手をする。その為にスコットには小さくなってアーマーの内部へと入ってもらい、システムを誤作動させてもらっているのだ。

 

「バーンズは私がっ!」

「行かせるか!」

 

走り出すティ・チャラに光弾を撃ち込み、妨害する。その間に追い付いたスティーブが盾を用いたタックルを浴びせ、戦闘へと突入した。

 

「ス、スタークさん!僕は何を……?」

『言っただろ、距離をとって糸を投げつけろ!』

 

スタークに指示を仰いだパーカーはすぐに動き出した。おそらくバーンズ達の所へ行くつもりだろう。

 

「待てっ、お前の相手は────っ!」

 

パーカーを追い掛けようとするが、迫ってきた光弾に気付いてバリアで防いだ。撃ってきたのはこちらに両手を向けてるスタークである。

 

『待つのは君だ、スウァーノ。あの子にとっては名誉挽回の機会なんだ』

「……あいつはまだ子供だぞ。危なくなったらどうするつもりだ」

『僕が守る。だからこんな茶番は終わりにしてもらうぞ』

 

茶番?まさかスコットの存在に気付いたのか?そう考えていると、ラングから突然通信が入った。

 

『ちょっ……まずい、まずいって!冷却装置が作動して────うわぁぁああっ!?』

 

そんな悲鳴と共にアーマーの隙間から排出された冷気と一緒に、元の大きさへと戻ったスコットが転がり出てきた。

 

『こいつは驚いたな、小さくなる技術か』

「あんたには真似できない技術さ」

『そいつはどうかな?』

 

スタークが片手をスコットへ向ける。あのままじゃ危ないと思い、ハイ・エナジーレイを放とうとするが、飛んできた何かが腕に仕掛けられた。

 

「何が……っ!?」

 

その物体から放出された強力な電流がブーストラルを襲い、機能停止させられてしまった。片方だけではあるが、こんな事を仕掛けるのはあいつしかいない。

 

「ナターシャ……!」

「悪いわね、スウァーノ」

 

両手にバトンを持ち、襲いかかってくるナターシャを相手にしつつスタークとラングへと視線を向ける。あのままじゃスコットが……と考えていると、横を通っていった盾がスタークの手首を弾いた。

 

「ラング、盾を拾え!」

 

どうやらティ・チャラの隙を見つけ、その間に盾を投げたらしい。だが武器を失ってしまえば相手に追い込まれるのは時間の問題となる。

 

「よ、よし……うおりゃあっ!」

 

盾をキャッチしたスコットはスティーブを真似てか、スタークにタックルを仕掛ける。だがあの攻撃は超人兵士であるスティーブだからこそ出来るのであって、誰でも出来るというわけではない。

 

『っと……?』

「いっだぁぁあああっ!?」

 

案の定、スタークよりも攻撃を仕掛けたスコットの方が大ダメージを受けていた。当然だ、相手が生身ならともかくアーマーならその痛みは何倍もある。

 

「無茶な事するからだ……っと!」

「くっ!?」

 

ナターシャの足下に光弾を撃ち込んで距離をとらせる。その隙に俺はアウトエナジーを全身に纏い、その状態でスタークにタックルを仕掛けた。

 

『がっ……!?』

 

横からの突然の攻撃に反応できず、吹き飛とんでいくスターク。こうなれば、俺がスタークの相手をするしかないだろう。

 

「スコット、あんたはスティーブの援護をしてくれ」

「あ、ああ。悪い、助かった!」

 

盾を持ってスティーブの元へと走り出すスコット。それを見送った俺は立ち上がるスタークへと視線を向けた。

 

『……やってくれたな、スウァーノ』

「やらなきゃスコットが危なかったしな」

『戦うからには手加減はしないぞ。あまり僕を怒らせるなよ』

 

どうやらシステムを復活させたらしく、空中に浮かぶスターク。その位置から俺を狙って光弾を撃ってくるが俺はそれらを全てバリアで防いでいった。

 

「手加減しないのは……こっちも同じだ」

 

俺が片手でのハイ・エナジーレイを撃つと同時に、スタークも胸からユニ・ビームを撃ってきた。

中心でぶつかり合うが、威力は俺の方が高い。故に押し込めると思ったが──────その前に俺とスタークを巻き込み、大爆発が引き起こされた。

 

「うおっ!?」

『ぐっ!?』

 

互いに吹き飛び、俺は壁へと激突する。崩れた瓦礫をどかしつつどうにか立ち上がるが、どうやら被害は周りにも出たらしい。横転した車やコンテナが目につき、炎も燃え盛ってる。そんな中をスティーブがスコッと共に走ってきていた。

 

「大丈夫か、スウァーノ!?」

「ああ、なんとか……スターク達は?」

「分からない。俺達と戦ってたブラック・ウィドウとあのブラックなんとかも」

 

まぁ、とりあえずこれで一旦はスターク達から姿は隠せただろう。しかしいつまでもここにいるわけにはいかない。各地点で戦ってるメンバーと合流し、格納庫に向かわかないと。

 

「スティーブ、みんなと合流するぞ」

「ああ、今ならバレないはずだ。ラング、いくぞ」

「あ、ああ!」

 

 

 

 

 

 

 

全速力で走る俺達の後にミアやサム、バーンズ達が横から現れてついてくる。どうやら無事に相手を突破できたらしい。このまま全員で格納庫に向かう事が出来れば大成功なんだが……。

 

「っ、止まれ!」

 

スティーブの一声で俺達は止まる。すると目の前の足下にどこからか放たれた光線が横に長い線を引いていった。

 

「……これは」

「止まれって言う意味だろ。なぁ、ヴィジョン」

 

俺に声を掛けられたヴィジョンは上空にいた。おそらくここで待ち伏せをしていたんだろう。無言のまま、降り立つヴィジョンの周りには相手の全員が既に集まっていた。

 

「…………」

『…………』

 

スティーブとスターク、互いが相手を睨む。スタークは俺の事も見てるかもしれないが。

 

「スティーブ、一応聞くが……どうする?」

「……戦う」

 

俺達が前進を始めると、相手も前進を始めた。どちらも止まる気はなく、やがて歩く事から走る事へと変わっていく。

距離が段々と縮まっていき──────そして俺達は激突した。

 

 

 

アイアンマンの拳を盾で防ぐキャプテン・アメリカ。

 

ブラック・パンサーの攻撃を避け、一撃をお見舞いするウィンター・ソルジャー。

 

機関銃を起動させ、狙いを定めるウォーマシンを錯乱するように飛び回るファルコン。

 

スパイダーマンが放ったウェブを小さくなってかわすアントマン。

 

ワンダが操るコンテナから逃げ回り、隙を見ては攻撃を仕掛けるミア。

 

ブラック・ウィドウを狙うが、接近戦を強いられるホークアイ。

 

ヴィジョンの光線を同じく放った光線で相殺するレイ()

 

 

 

 

ついに始まったシビル・ウォー(最悪の戦い)……例えどちらが勝っても、最悪な結果しか待ち受けてない。しかしこの戦いを乗り越えなければ俺もスティーブも目的を達成する事は出来ないのだ。




ワンダは今後のMCUではどうか分かりませんが、映画でもスカーレット・ウィッチとは呼ばれてなかった為、本名のままですがミアにはヒーロー名をつけた方がいいですかね?


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エアポート・バトル 後編

MCUには今後、アベンジャーズのようなチームが出てくると言われてますがどんなチーム名、構成メンバーなのか今から楽しみですね!

それでは後編をどうぞ!


「はぁっ!」

 

両手から光線を放つが、突っ込んでくるヴィジョンにはバリアで防がれてしまう。反撃の光線を放ってくるが俺はそれを吸収、すぐにそのまま撃ち返してヴィジョンにぶつけた。

 

「ぐっ……」

 

全力ではないとはいえ、やはりヴィジョンの光線を吸収するのはかなりキツい。今のだって手が痺れ、熱くなったから咄嗟に撃ってしまった事が原因だ。

 

『スウァーノ!ちょっと手を貸してくれるか!?』

 

無線で呼び掛けてきたサムを探すと、ローディからの攻撃に追われていた。初めこそ錯乱していたが、どうやらそれも効かなくなってきたらしい。

 

「待ってろ、今い────!?」

 

飛び立とうとした瞬間、何かが足に張り付いた。視線を向けてみれば、それは白いネバネバとした塊。こんなのを使える奴はこの場に一人しかいない。

 

「……スパイダーマン」

「エイナムさん……!」

 

正体を隠してる以上、パーカーの名前は出せない。ヒーロー名を呟くと、目の前に着地したあいつは俺を睨んできていた。

 

「何でっ……僕は貴方が何も知らないと思って、伝えただけなのに……」

「勉強になっただろ?いつだって誰もが味方だとは思うな」

「思えるわけないよ!僕はエイナムさんの事を信じてるし、尊敬だってしてるんだよ!?」

 

そんな事は態度を見ればすぐに分かる。尊敬してるのはアベンジャーズのメンバー全員かもしれないが、信頼関係で言えばパーカーの事を知ってるのは俺とスタークだけだしな。

 

「作戦の事を聞いたのも、見せ場を潰した事も悪いと思ってる。けどスタークの思い通りに話を進めるわけにはいかないんだ」

 

そう言ってアウトエナジーを衝撃波にして放ち、強引にウェブの塊を弾き飛ばす。自由になったのも束の間、またパーカーがウェブを撃ってくるがそれらは全てバリアで防いだ。

 

「エイナムさん、僕は貴方と戦いたくないよ。だって僕をアベンジャーズの候補……の候補に選んでくれたし。僕の話だっていつも聞いてくれてた。だから────」

「俺だってお前とは戦いたくない。だが戦わなきゃどうなるかなんて分かってるだろ?」

 

俺は両手にアウトエナジーを集める。パーカーと戦う事は今になっても心苦しいが、捕まるわけにはいかない。相手が挑んでくるなら嫌でも戦うしかないのだ。

 

「だったら僕がエイナムさんを止めてみせる……!」

 

そう言って近くにある小さなコンテナにウェブを糸状にして付着させると、俺に向かって勢いよく投げつけてきた。

 

「……っ!」

 

咄嗟にコンテナを光弾で破壊し、俺は飛び下がる。するとパーカーがウェブを駆使し、空中を移動しながらこちらに向かってくる姿が見えた。

俺を止めてみせると言ったが──────経験の浅いお前に止められる程、俺は甘くない。

 

「ふっ!」

 

アウトエナジーを鋭い刃にして放ち、ウェブを切断する。突然の事にバランスを崩し、落下してくるパーカーだったが直前で受け身をとって着地。

 

「……あ」

「もっと周りを見て動いた方がいいぞ」

 

そして目の前にいる俺から威力を抑えた光弾を撃ち込まれ、吹き飛んでいった。しかしパーカーもヒーローの端くれだ、この程度じゃしばらく動きを封じるだけだろう。

 

「……ごめんな、パーカー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は他のメンバーを援護しつつ、戦いを進めていく。ナターシャに接近戦で苦戦してるクリントやワンダに逃げ道を塞がれていたミアなどと協力して窮地を脱し、互角の戦いへと持ち込んでいったのだ。

 

「バーンズ、平気か?」

「まだいける。お前は?」

「そっちと同じだ」

 

ティ・チャラに蹴り飛ばされたバーンズの隣に着地し、安否を確認する。小さな傷はいくつかあるが、目立った傷は見当たらない。まだまだいけるのは本当だろう。

 

「邪魔をするな、レイ……いや、スウァーノ・エイナム」

「悪いが仲間なんでな。邪魔させてもらうぞ、王子様?」

 

凄まじい跳躍で俺達との距離を一気に詰め、銀色の爪を振り降ろしてくるティ・チャラ。しかし周囲に張ったバリアには勝てず、その攻撃が俺達に届く事はなかった。

 

「っ、なら!」

 

するとバリアを蹴り、ティ・チャラが俺達の頭上を越えて背後へと着地した。接近を阻止しようとハイ・エナジーレイを撃つが、身軽な動きでかわされてしまう。

 

「俺に任せろ!」

 

バーンズが横から掴みかかり、共に転げ回った後にティ・チャラの顔を鋼鉄のアームで殴り飛ばした。しかしどうやら勢いを殺したようで、すぐに攻撃へと転じてくる。

 

「させるか!バーンズ、離れろ!」

 

俺はアウトエナジーで槍を構成し、勢いよく投げつける。しかしバーンズが寸前まで影となっていたにも関わらず、ティ・チャラは槍を両手で押さえ込んだ。

 

「ふんっ……小細工など通用するものか」

「なるほどな。なら、これはどうだ?」

 

俺はティ・チャラが握っているアウトエナジーの槍を操り、勢いよく爆発させた。もちろん持っていたティ・チャラは無事に済ま─────っ!?

 

「……言っただろう。小細工など通用しない、と」

 

爆風の中に立つティ・チャラは微動だにしておらず、全く効いていない事は明らかだった。

 

「ヴィブラニウム……か」

「そうだ。キャプテンの盾を私は全身に纏ってるという事だ」

 

ワカンダで産出され、スティーブの盾にも使われている地球最強の金属、ヴィブラニウム。ソーのムジョルニアの一撃にも耐えられる事を考えれば、あの爆発で無傷なのも納得できる。

 

「それがどうした?俺は負ける気なんてしないぞ」

「……奇遇だな、私も同じだ」

 

俺とティ・チャラ、そしてバーンズが睨み合ってるとコンテナの向かい側で巨大な()()が現れた。それはローディを掴まえており、逃げ出そうとするあいつを遠くへと投げ飛ばしてしまった。

 

「ハッハッハッハッハ!!」

 

「スコット……?」

「どういう事だ?あの男、小さくなるだけじゃなかったのか?」

 

確かそのはずなんだが……もしかして巨大化する能力を隠し持ってたのか?それはそれで嬉しい誤算だが……なんというか凄まじいな、人が一瞬にして大きくなるとか。

 

「俺はぁ……ジャイアントマンだぁっ!!」

 

コンテナを蹴り飛ばし、もぎ取った飛行機の翼を武器に暴れ回るスコット。小さくなるだけでも驚きなのに、巨人にまでなれる事を知ったスターク側は大慌てである。困惑し、襲いかかるスコットに防戦一方であった。

 

しかし──────

 

「ヴィジョン、彼を止めて!」

「分かりました」

 

「う、わぁっと!?」

 

ワンダがサイコキネシスでスコットの足を止め、バランスを崩した所にヴィジョンの体当たりがお見舞いされた。飛行機数機が倒れるスコットに押し潰され、飛び散る破片が多くのメンバーを襲っていく。

 

「っ、ミア!!」

「スウァーノ……!」

 

「ボーッと突っ立ってると危ないぞ?」

「……悪い、助かった」

 

「う、うわぁっ!?」

『安心しろ、君は僕が守ってやる』

 

潰されそうになっていたミアを俺が、バーンズをサムが救いだす。多数の破片が迫ってきていたパーカーは怯え、動けずにいたがスタークが向かった事から心配はないだろう。

 

『キャプテン!このままバーンズをあんたの所に連れてく!そしたら倉庫まで突っ走れ!』

『っ!?君達はどうするつもりだ!?』

『作戦変更だ、キャプテン。あんたとバーンズだけでもシベリアに向かわせる。こいつらの相手は俺達に任せておけ』

「……クリントの言う通りだ、スティーブ。これは勝敗を決める戦いなんかじゃないだろ」

 

一番重要なのは『倉庫に辿り着き』、『クインジェットを盗んで』『シベリアに向かう事』だ。そしてそれを担うのはスティーブとバーンズ、今回の事件と因縁のある二人が一番のはずだ。

 

『でも僕達が向かえば!』

『キャプテン・アメリカ、俺達が必ず突破口を開いてみせるから』

『新人にばかりいい格好は見せられないな。任せとけ、キャプテン』

 

起き上がったスコットはコンテナを持ってスターク、ローディに殴りかかっていく。クリントも弓をロッド状に変形させ、ティ・チャラに勝負を挑んでいった。

 

『みんな…………分かった。サム、バッキーをこっちに!』

『ああ、待ってろキャプテン!』

 

「スウァーノ、あたし達もやるぞ!とことん暴れ回ってやる!!」

「ああ、それじゃあ──────やるか」

 

掴まるバーンズと共に飛んでいくサムを肉眼でも確認し、俺とミアもスコット、クリントと共に再び戦いの場へと戻っていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果──────スティーブとバーンズはクインジェットの強奪及び離陸に成功した。ヴィジョンが管制塔を崩落させて道を塞ごうとした事もあったが、ワンダが危機一髪でサイコキネシスで止めた事で無事に倉庫へ侵入できたのだ。

 

もしもワンダが止めてくれなければ……道を塞ぐどころか、スティーブとバーンズを崩落に()()()()()()()かもしれない。

 

「おい……スウァーノ、()()……まずくないか?」

 

しかし飛び立ったはいいものの、クインジェットをスタークとローディが追い掛け、その後をさらにサムが追い掛けた。そんな中、ヴィジョンが二人を妨害するサムを撃ち落とそうと光線を放ったが──────狙いは外れ、代わりにローディを直撃したのである。

 

「やばいぞ、あのままだと!?」

「っっ……!!」

 

俺は隣で慌てるミアの言葉で落下するローディの"死"を予感した。アウトエナジーを一気に放出して飛び立ち、空港の壁を越えて広い平原の上を飛んでいく。

あの場にいるメンバーはほとんど疲労で動けないし、そもそも飛べなければ意味がない。ヴィジョンはいたが、ワンダに付き添ってたせいで咄嗟の判断が出来なかったんだろう。

 

「間に合うか……!?」

 

煙を上げながら落ちてくるローディをスタークとサムが助けようと追ってるが、あれでは先に地面に激突する。つまりローディを助けられるのは俺一人になったという事だ。

 

「ぐっ……!?」

 

放出するアウトエナジーが今まで以上に膨大な為か、熱を帯びたアーマーが耐えられなくなって壊れる寸前な事に俺は勘づいた。

しかし止まるわけにはいかない。仲間を救う為なら、こんな所で止まっていいはずがない。

 

「うぉぉぉおおおおっ!!」

 

墜落ギリギリという間一髪で、俺はローディに追い付いて彼を抱き止めた。そして空中で数回転した後に地面へと激突、共に激しく転がっていった。

 

「が、はっ……」

 

ローディを手離し、仰向けに倒れた俺は全身の痛みに襲われた。どこかの骨が折れたかもしれないが、この位慣れっこである。

 

『ローディ!スウァーノ!……大丈夫か!?』

 

着地したスタークが慌てた様子でヘルメットを外し、こちらに駆け寄ってくる。俺が手を上げて『無事』である事を伝えると、動かないローディのマスクを取り外しにかかった。

 

「ローディ!!F.R.I.D.A.Y.、すぐに────」

げほっ……あ、まり大声を、出すなって……

 

小声ながらも声が聞こえてきた。どうやらローディも生きてるようだ。その事に安心していると、遅れて来たサムが走ってきた。

 

「スウァーノ、無事か!?」

「ああ……でもアーマーはもう駄目だな。機能が完全に停止してる」

 

アウトエナジーによるダメージに加え、地面に激突した事もあって使い物にならなくなってしまった。仕方ない為、サムに手伝ってもらいつつ手作業でアーマーを脱いでいく。

 

「……スウァーノ」

 

その途中、ローディを介抱していたスタークが声を掛けてきた。何だと思うが、この状況でも戦いを続ける事はない……と思うが。

 

「ありがとう、ローディを助けてくれて。僕じゃ絶対に無理だった」

「……仲間なんだから当たり前だろ」

 

互いに傷つけ合い、最悪死者すら出しかねない戦いだったが、それでもアベンジャーズのメンバーが大切な仲間である事に変わりはないからな。

 

「なら……一つ教えてくれないか?君はどうして僕と一緒に戦いたくないなんて言った?我々は……仲間なんじゃないのか?」

「…………」

 

確かにスタークもアベンジャーズのメンバーであり、何度も共に戦ってきた。だから仲間ではある。しかし両親が死んだ原因がスタークにある事を知ってる今は、心から仲間であると言い張る事は出来ない。

 

「あんたが昔、発明してた兵器はテロリストとかの手にも渡ってた……そうだな?」

「どうした突然……いや。ああ、その通りだ。だから僕は奴らと戦う為に──────」

「……そのせいで俺の両親は死んだ。住んでた町があんたの兵器で襲撃されて、瓦礫の下敷きにされたんだよ」

 

今まで誰にも教えなかった俺の過去を伝えると、スタークの目が見開いた。聞いてたローディやサムも驚き、口を開けて唖然としている。

 

「それは……本当なのか?」

「ああ、本当だ。だがあんたは兵器を開発しただけで、実際に使った奴らが悪い……心もそれで納得できれば良かったんだけどな」

 

頭で理解できていても、心はそうはいかない……その結果がスタークとの共闘の拒絶、そして仕返しをする事を決めたのだ。

 

「……悪かった。謝っても許されない事は分かってるが、謝らせてくれ。本当に……すまない」

「……謝ったって、どうにもならないだろ」

 

両親が帰ってくるわけでもないし、スタークへのモヤモヤが消えるわけでもない。

 

「それだけですか?」

「……ヴィジョン」

 

飛んできていたヴィジョンが降り立ち、俺にそう問い掛けてきた。

 

「……すみませんでした、ローズ。私のせいで貴方を危険な目に遭わせてしまった」

いや……気にしないでくれ、ヴィジョン……

 

その途中に倒れてるローディに謝る事も忘れずに。

 

「ヴィジョン、今の質問はどういう事だ?」

「言葉の通りです、スターク。貴方に対する敵対心だけでエイナムはロジャース達を援護したのか、という事です」

 

……どうやらヴィジョンはこの場にいる誰よりも頭が切れるらしい。俺がスティーブ側についた理由が他にもあるはず、と気付いてる。

 

「……ヴィジョンの言う通りだ。俺があんた達と戦ったのは、スタークだけが理由じゃない──────アベンジャーズを解散させる事だ」

「……っ!?」

 

俺の言葉にスタークはまたも驚き、サムやローディも同様だった。表情の変化が少ないヴィジョンでさえ、固まってしまってる。

 

「どういう……ことだ?」

「ソコヴィア協定がある限り、俺達は元のチームには戻れない。それに、日常でも能力が使える俺やヴィジョン、ワンダが何もされずに済むと思うか?」

「それは……あくまで可能性の話です」

 

ヴィジョンはそう言うが、視線を逸らした事のは否定できないからだろう。つまり、"ありえる話"なのだ。

 

「チームになれないなら、それぞれで自分を守るしかない。解散して隠れれば政府に見つかる危険も少なくなるだろ」

「それが……正しいと思ってるのか?」

「あんただって、自分が正しいと言い切れるのか?」

 

スタークは俺の言葉に言い淀む。俺だって自分のしてる事が正しいかなんて分からない。分かる奴がいるなら、教えてもらいたいものだ。

 

「……もう、好きにするといい」

「なに?」

「僕も君も自分が正しいのか分からないなら、分かるまで突き進めばいいだけだ。だから僕らは君達の事を見逃す」

 

そう言い、スタークはローディを支えながら立たせる。その間、ずっと見続けてる俺とサムの視線に気付くと、スタークはシッシッと手を払ってきた。

 

「早くいけ。僕の気分が変わらない内にな」

「スターク、いいのですか?」

「いいんだよ。ロスには……そうだな、不意をつかれて逃げられたと報告しよう」

「それで納得するとは思えませんが……」

 

どうやらロスには嘘の報告をする気らしい。俺達の事を見逃すというのは本当のようだ。

 

「……スターク」

「まだいたのか、何だ?」

「あんたとは……まだ正直、無理だ。でも……」

 

 

──────ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、俺とサムは空港に急いで戻ってミア達と合流した。クリントやスコットも一緒に逃げると思っていたが、『逃亡者となって家族を危険な目に遭わせるにはいかない』という理由で自ら捕まる事を望んでいた。

仕方なく俺とサム、ミアだけで空港から逃げる事になったが──────俺達に向けられていたワンダとパーカーの悲しそうな顔が、いつまでも頭から離れなかった。




シビル・ウォー編は次回にて完結となります!

映画との大きな違いは、ワンダがキャップ側につかなかったこと・ローディが墜落で怪我をしなかったことですね。結局、仲間の危機からワンダはキャップ達を助けていますが……。


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襲いかかる脅威

今回でシビル・ウォー編は完結です!


俺達が空港から立ち去り、身を隠した数日後……スティーブから連絡があった。

辿り着いたシベリアで追ってきたスタークと目的が一致し、ジモを追い詰めた、と。しかしウィンター・ソルジャー軍団は奴により全員殺され、とある映像を流された。

 

それはバーンズがウィンター・ソルジャーだった時代、スタークの両親であるハワード・スタークとマリア・スタークを襲撃して殺害した映像だったらしい。

 

怒り心頭なスタークとスティーブ、バーンズは戦い、互いに重傷を負いながらもどうにか勝利。自身の盾を捨て、バーンズと共にシベリアから脱出したとのこと。

つまりスティーブも、スタークとは関係を修復できないまま別れる結果になってしまった。

 

そこで話は一旦終わったが、他にも聞きたい事はあった。ジモはどうなったのか、今二人はどこにいるのか。それらは全て自分達と合流してから話す事にしようとスティーブから言われた。

 

 

そして────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央アフリカの小国、ワカンダ。そこは亡きティ・チャカに代わり、ティ・チャラが国王として治める農業国家────というのは表向きであり、実際はヴィブラニウムを研究し、地球上で最も発展した文明を持つ国家である。

 

そして、犯罪者として追われる俺達をティ・チャラの計らいで匿ってくれる唯一の隠れ家でもあるのだ。

 

「来てたのか、スティーブ」

「スウァーノか」

 

ワカンダにある施設の一つをある理由で訪れ、それが終わった後に偶然にもスティーブの姿を見つけ、声を掛けた。

 

「シュリにアウトエナジーの事を調べさせてほしいって頼まれてな……大変だった」

「なるほど、彼女が張り切ってるのはそのせいか」

「……バーンズの方はどうなんだ?気になってんだろ?」

 

ジモに洗脳され、事態をややこしくさせたバーンズは二度とそんな事が起こらないようにと、自らの意思で冷凍睡眠装置へと入った。その中で洗脳の解き方が見つかるまで眠る事を覚悟したのだ。

 

「ああ。……みんな頑張ってくれてるみたいだが、まだ時間がかかるらしい」

「かなり深くまで根付いてるんだな」

 

スティーブにとってはようやく昔のような関係に戻れた親友が、いつ起きるか分からない眠りについてしまったのだ。落ち込まないわけがない。

 

「だが……きっといつか、バッキーは目覚めるはずだ」

「そうだな、ワカンダの技術力はスターク以上だ。絶対にうまくいくって」

 

じゃなきゃスティーブがいくらなんでも哀れ過ぎる。ペギー・カーターが亡くなった今、スティーブの過去を……キャプテン・アメリカになる前のスティーブを知るのはバーンズ一人しかいないのだ。

 

「……それで?バーンズが起きるまでずっとワカンダで隠れてるつもりか?」

「いや、いつまでも匿ってもらうのもティ・チャラに悪い。いつかは出ていくつもりだ」

 

サムはともかく、ミアが隠れてるばかりで負けた感じがすると不満を言ってるからな。そろそろスティーブに動いてくれないと、不満が爆発しそうだから丁度良かった。

 

「そしたらどうする?また世界を救うのか?」

「ああ。スターク達とは別の方法でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球よりも遥か遠い宇宙──────そこを飛ぶ『ステイツマン』と呼ばれる宇宙船は激しい攻撃を受けていた。

しかも搭載してる兵器の数も船の大きさも桁違いな宇宙船、そして宇宙全域で「出会えば終わり」と囁かれる『サンクチュアリⅡ』に、である。

 

「…………」

 

『サンクチュアリⅡ』の主は自身の部下を引き連れ、燃え盛る炎で包まれた『ステイツマン』の中を歩いていった。

黄金色の鎧を身に纏い、左手には同じく黄金色のガントレットを嵌めた宇宙最悪の存在。そのガントレットには、紫色に輝く石(パワー・ストーン)が一つ既に埋め込まれていた。

 

「さぁ、スペース・ストーンを渡してもらおうか」

 

目の前に倒れているアスガルドの新王────そして最強の雷神とも言われるソーは満身創痍であった。この船に乗るアスガルドの民を守る為に挑んだ末、敗北したのだ。

 

"狂ったタイタン人"、"全宇宙の敵"とも言われる圧倒的強さを誇る存在──────サノスによって。




MCU作品って、全ての作品が繋がってるから見てない作品があると「これ誰?」って話になりますよね。今回、ソーが宇宙にいる理由を描いていないので、知らない方は「マイティ・ソー バトルロイヤル」を見て頂ければ分かります!一応、次回で簡単な説明はしますが……。

あと、原作と話の流れがそんなに変わらないという感想を貰いましたが、原作との大きな違いはエンドゲーム終盤を予定してます!

そして次回から遂にインフィニティ・ウォー編が始まります!


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インフィニティ・ウォー
サノスの独白


ブラック・ウィドウの予告編が解禁されましたね。ちなみに作者は絶対に見に行きます!

それではインフィニティ・ウォー編、スタートです!


惑星タイタン──────その星は我が故郷にして宇宙全体でも数少ない、発達した文明と自然が広がる惑星であった。そしてタイタン人は美しい見た目を持つ種族として自らの容姿に絶対的な自信を持っていた。

 

しかし私はそうではなかった。どのタイタン人よりも醜い姿で産まれたのだ。自分が望んだわけでないにも関わらず、『タイタン人の恥だ』と私は家族や他のタイタン人から数えきれない程の理不尽な虐待を受けながら生きてきた。

 

しかし──────成人した頃には、私の我慢は限界を超えていた。殺しにかかってきた母親を私は返り討ちにして殺し、自分が産まれ育った町を焼き払って立ち去った。

 

 

 

この醜い姿が私は嫌いだが、それ故か他のタイタン人にはない強さがあった。圧倒的な筋力、どんな怪我も治る回復力、滅多な事では傷付かない耐久力など私の肉体は戦いに特化してると言っていい程、強い。

故に、私はタイタンを旅している際に誰かから襲われようと一度も負けた事はなかった。

 

そして──────故郷を捨て、国を出た私はタイタンが抱えている問題を知った。それはどの国も人口の増加により食糧難に追われ、頻繁に戦争を起こしているというものだった。

このままではいずれ、タイタンが滅びの運命を辿る事は容易に想像できた。それを防ぐ為にはどうしたらいいか?何をすればいいか?

……簡単な事だ。人口が多いなら、減らせばいいだけの話。タイタンの絶滅を防ぐにはその方法しかない、と私は考えた。

人を殺す事に躊躇いなど、故郷を焼き払った時に捨てた。だから私は同胞であるタイタン人の半分を容赦なく切り捨てる事が出来たのだ。

 

しかし──────結果は失敗に終わった。絶滅寸前まで追い詰められていたタイタンは、既に生物が生きていける環境ではなくなっていたのだ。残っていたタイタン人の半分は死に絶え、私はこの星から脱出した。

 

 

──────タイタンを絶滅から救う事が出来なかった。もちろん後悔はしたが、逆に私はそれが嬉しくもあった。私を見た目の醜さから批判し、同じタイタン人だと認めなかった奴らに"死"をもたらす事が出来たのだから。

 

それにタイタンのような星は他にもあるはず。ならその星を見つけ、人口を半分へと減らし、救ってやればいい。それが出来るのは、私一人しかいないだろう。

 

 

 

それから私は宇宙を飛び回り、多くの生命体がいる星を見つけてはその数を減らし、いつか来るであろう滅びの運命から救っていった。

そんな私に付き従ってくれる部下が現れ、私は自身が率いる軍団を作り出す。

 

私の忠実な部下達……その名も"ブラック・オーダー"。自分達を"サノスの子"とも名乗る彼らとは、実際には家族という関係ではないが私は少なからず嬉しかった。

私の知る家族とは、実の息子を殺そうとするようなものだからな。

 

かつて文明一つを研究の為だけに滅ぼした科学者にして闇魔術の使い手、エボニー・マウ。

 

私を賞金首として狙った末にエボニー・マウにより、改造が施された元賞金稼ぎにして用心棒、カル・オブシディアン。

 

とある惑星の闘技場で"最強の女戦士"として名を広め、私との決闘の末に服従を誓ったプロキシマ・ミッドナイト。

 

私が壊滅させた巨大組織のリーダーであったが、残っていた仲間を裏切って部下となったコーヴァス・グレイブ。

 

各々が様々な過去を持ってるが、私の部下になる為にそんなものは関係ない。強く、優秀である事が肝心なのだ。

もしも裏切れば、誰であろうと容赦はしないが。

 

私はブラック・オーダーを中心に、大勢の部下と共に宇宙を巡っていく。そんな中で、私の目的は変わりつつあった。

かつては『滅びたタイタンの代わりに他の星を救おう』というものだったが、今は違う。

 

生命体が増えていく事で、『生き延びる為の戦争』が増えてるのだ。それではタイタンと同じ運命を辿る星がいくつも現れ、いずれ宇宙の均衡(バランス)が崩れる事になる。

それを回避する為、私は誰もが思い至らなかった考えを成し遂げる事を目的にした。

 

──────『全宇宙の生命体の半分を消し去り、均衡を保つ』。

 

しかしそれは容易に出来る事ではない。宇宙は広いのだ。それに私の目的を知った者は必ず邪魔をしてくるに違いない。

しかしそれらの問題を解決できる術を私は見つけた。一瞬にして生命体の半分を消し、自身を圧倒的なまでに強くする方法を。

 

それは"インフィニティ・ストーン"──────六つある強大なエネルギーの結晶石にして、それぞれが全てを破壊する程の比類なき力を持っている。それらを全て集め、力を一つにする事で宇宙全体に望んだ影響を及ぼす事が出来るのは、エボニー・マウとの研究により判明している。

 

そしてストーンの力を一つに纏める為の"インフィニティ・ガントレット"。ニダベリアのドワーフ達を騙して作らせたモノであるが、中々に素晴らしい。たった一人を残して惑星を凍らせた事が悔やまれるが、仕方ない。私に対抗できる武器を作り出されてはまずいからな。

 

 

 

ガントレットが完成すれば、あとは全てのストーンをストーンを揃えるのみ。あの愚かなアスガルド人と裏切り者のせいで三つのストーンを手に入れ損なったが、問題はない。今度は私の手で確実に奪えばいいだけの話だ。

 

「サノス様、これを」

 

燃え盛る炎、多数の屍が横たわる中で私はブラック・オーダーが帰還するのを待っていた。そして戻ってきた彼らの内、コーヴァスが小さな容器を私に差し出してきた。

 

「既に鍵は解かれております」

「……ふむ」

 

私は容器を開け、中身を確認する。入っていたのは目的である紫色に輝くパワー・ストーン。多くの者の手に渡り、最終的に惑星ザンダーに本部を構える宇宙警察・ノバ軍が所有する事となっていた。

だがそのザンダーを私達が襲撃し、こうして奪ったのだ。それによりノバ軍及びザンダーの者共は死に絶えているが、些細な犠牲だろう。

 

「マウよ、準備は?」

「いつでも」

「ならば始めろ」

 

パワー・ストーンは石そのものが常に力を発している。無闇に掴めば、肉体が崩壊する事はまず間違いない。故にマウが製作した特製のアームにてストーンを掴み、ガントレットへと近付けていく。

 

「っっ……!!」

 

ガントレットがパワー・ストーンを吸い寄せ、人差し指の付け根にある穴へと嵌まった。その瞬間、ストーンの莫大な力が私の体へと流れ込んできたのである。

 

「っ!……サノス様、ご無事ですか?」

「ふぅ……当然だろう」

 

痛みは凄まじかったが、実に心地いい。これがパワー・ストーンが持つ全てを破壊する力か。

 

「もうこの星に用はない……だが、見せしめに破壊するのもいいだろう」

 

インフィニティ・ストーンを狙う私に逆らえばどうなるか。その事を全宇宙に知らしめる為にはいい方法だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンダーの壊滅──────サノスが新たなストーンを求め、アスガルド人が乗るステイツマンを襲撃したのはその一週間後である。




スタートと言いながら、まだインフィニティ・ウォー本編より前の話という。次回から本編にちゃんと入っていきます!


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終わりへ(全滅)の始まり

インフィニティ・ウォー編へ完全に突入です!

今回はスウァーノ視点、サノス視点、第三者視点を織り混ぜながら展開していきます!


アスガルド──────そこは九つの世界(惑星)の頂点と言われる『神々が住む国』。

その()の王であるオーディンは、アスガルド人を『アスガルドで“希望のかがり火”として夜空に輝き続ける種族』と形容していた。

 

しかしオーディンが寿命により亡くなった事で復活したヘラ──ソーの実姉にしてムジョルニアの前所有者、そして死の女神である──のアスガルドへの復讐、そして銀河の征服の為に一時は民全員が危機に陥ったのだ。

 

ソーと生きていたロキを惑星サカールへ追放し、ヘラの目的は果たされようとした。だがこの目論みは最後には潰される結果になったのである。

 

 

死の世界からのオーディンの助言により真の雷神へと覚醒したソー。

 

惑星サカールで闘技場のチャンピオンとして君臨し、二年間も変身したままだった事で知能を上げたハルクことブルース・バナー。

 

ソーの義弟にしてかつてアベンジャーズと戦うも敗れ、ダーク・エルフとの戦いでは自らの死を偽装してオーディンに成り代わっていたロキ。

 

太古の時代に幽閉先から脱出しようとしたヘラとの戦いで同胞達を殺され、逃げ延びた先のサカールで酒好きの賞金稼ぎに成り果てていたアスガルドの女戦士、ヴァルキリーのブリュンヒルデ。

 

 

彼ら四人が結成した“リベンジャーズ“やサカールの奴隷であったコーグ、アスガルドを一度は裏切ったスカージ、アスガルドの番人であるヘイムダルの手によりヘラの手下達は全滅。

 

『アスガルドとは場所ではなく、民である』────その事を悟ったソーは“ラグナロク(世界の終末)“を発動させてヘラもろともアスガルドを崩壊させたのだ。

 

そしてソー達は新たな故郷である地球を目指し、旅立ったのである────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スペース・ストーンはどこにある?吐け、無力なアスガルドの王よ」

 

倒れ伏しているアスガルドの新王────確かソーと言ったか。

そいつの首を締め上げながら宙吊りにする。

私の手をこじ開けようともがくが、死にかけている奴にとっては無駄な抵抗だ。

 

「ぐ、ぅっ……ストーンはない……キューブはアスガルドと共に失われたっ……」

「嘘だな。その話が本当なら何故パワー・ストーンがここに反応した?」

 

インフィニティ・ストーンは磁石のように互いに引き合う性質がある。

正確な場所まで分かるわけではないが。

 

「そんなこと……知るかっ……!」

「……ふむ」

 

どうやらこいつはストーンについて本当に知らないらしい。

だがストーンがこの宇宙船のどこかにある事は確かだ。ならば()()がバレずにストーンを持ち込んだのだろう。

 

「サノス様、この男はどうされますか?」

「がはっ……ひ、久し振りだな」

 

大きな足音を立てながら近付いてくるカルが放り投げた人物の処分をコーヴァスが尋ねてくる。

すると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()マウが代わりに答えた。

 

「ほぅ、かつてサノス様の期待を裏切り、のうのうと生きているロキではないか。この男も我が実験のモルモットにしてもいいでしょうか?」

「構わん。だがその前に」

 

私はガントレットに嵌められているパワー・ストーンをロキに向けた。

ストーンが反応を示し、淡い紫色の光がさらに激しくなる。

 

「貴様がストーンを隠し持っているのか」

「さぁ、どうだろう?見ての通り、私は何も持っていないが」

 

私の問いにロキは余裕の笑みを見せ、答えてくる。

その顔を引き剥がして強引に聞き出そうと考えていると、首を絞められている愚かな王が苦し気に声を発した。

 

「言っただろう……キューブはもう、ないと……!」

「ならば徹底的にやるまでだ」

 

手を離してソーを地面へと落とす。息を吸い、むせている奴を上から頭を押さえつけて地面に叩きつけた。

 

「がっ!?」

「ストーンを渡せ。でなければ、こいつを殺す」

「やるがいい。私にとっては血の繋がらない義兄だからな」

「ロキ、貴様……ぐぁぁああっ!?」

 

パワー・ストーンを顔に押し付ける。ストーンが持つ破壊のエネルギーがゆっくりと顔に広がっていき、紫色のヒビが入り始めた。

激しい痛みに暴れるが私の力の前では何の問題もない。

 

「さぁ、どうする?このまま見殺しにするか?」

 

ロキの表情は変わらない。本当に殺してもいいと考えているのなら望み通りそうしてやろう。

ストーンの力をさらに強めようとすると、ロキが自分の唇を噛み締める姿が見えた。

 

「やめろっ!!」

 

「ならばストーンを渡せ」

「ロキッ……本当の事を、言え……!キューブは、もうどこにも……」

 

ストーンが本当にないと信じているみたいだったが、ロキが手の平に出現させたキューブを見て「バカが……」と呆れていた。

おそらくお得意の魔術で消していたんだろう。

 

「サノス……お前は一つ勘違いしているな」

「なに?」

「私がこうしてお前の前に出てきたのは、お前の注意を引く為だ。────やれ、ハルク(緑の怪物)!!」

 

ロキの大声と共に突然壁が崩れ、中から現れた大男が私を突き飛ばした。

ソーが私の手から放り出され、ロキは私に巻き込まれてキューブを手離していたが、それを拾っている余裕はない。

 

「ガァァァアアアッ!!」

「っ!」

 

立ち上がる私にハルクと呼ばれた大男が襲いかかってきた。顔を何度も殴られ、一撃一つ一つが私を着実に追い込んでいく。

そして柱を突き抜け、壁にめり込んだ私の胸を勢いよく蹴り飛ばした。「かはっ」と、肺にある空気が全て口から漏れるようだった。

 

「ハルク、ソー、仲間!お前、ハルク、許さない!!」

 

言葉を発するハルクの拳が、防御すら取らない私の顔を容赦なく殴っていく。

攻撃はさらに激しくなり、私の意識が段々と薄れていくのを感じた。

 

「ゥガァァァアアアアッ!!!」

 

トドメとばかりにハルクは私の首を締め付け、振りかぶった拳が迫ってくる。

それを朦朧とする意識の中で見続け──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッッ!!?」

 

私に傷一つすら付けられない軟弱な拳を受け止め、困惑している奴の顔を殴り飛ばした。

ふむ……“弱いフリ“をするというのも大変だな。だがあえて自らを弱く見せ、調子づいた所を落とすという“遊び“もなかなかに良いものだ。

 

「お返しだ」

 

鼻血を吹き出し、ふらつくハルクの顔を壁へと叩きつける。

抜け出そうと抵抗してくるが、構わずに今度は床へと叩き落とした。

 

「ガアアァァ──────」

「吠える事しか能がない犬風情が」

 

足を掴み、床を引きずって放り投げる。地面をバウンドした直後にすぐ突進してきたが、受け止めると同時に背負い投げの要領で頭から床へと落とした。

 

「ふんっ……ほんの少し、パワー・ストーンの力を見せてやろう」

 

気を失ったハルクを片手で持ち上げ、ガントレットを握る。

それによりパワー・ストーンの力が発揮し、殴り飛ばすと床や壁にボールのようにぶつかっていく。

そして最後は瓦礫と共に落ちてきたのであった。

 

「……アレが貴様の切り札か?」

 

呆然と立つロキにそう尋ねる。あの程度で私を倒せると思っていたのなら随分と弱く見られたものだ。

雑魚が何人集まろうと、私の敵ではないというのに。

 

「サノス様、こちらを」

 

近寄ってきたプロキシマがキューブを私に差し出してくる。それを受け取った私は力を込め、外殻となっているキューブを粉々に砕いた。

手元に残っているのは、中にあったスペース・ストーンだけである。

 

「ようやく私の元に来たか」

 

我が部下を貸したにも関わらず、ロキが地球侵略に失敗した事によりアスガルドへと保管された。

奪い取る事も考えていたが、前王のオーディンやヘラと戦って無事には済まされない。

故に奴らが死んだこの瞬間を狙ったのだ。

 

「ぐっ……!」

 

ガントレットにスペース・ストーンを嵌め込むと、凄まじい力が私の体へと流れ込んでくる。

しかしこの程度で屈するような我が肉体ではない。

痛みを耐え抜き、私は二つ目のストーンを手に入れた事をようやく実感したのだった。

 

「ふふっ……む?」

 

突然倒れているハルクの体が謎の光に包まれたかと思うと、一直線に光と共に宇宙の彼方へと飛んでいってしまった。

あの光……確かあれは。

 

ビフレスト(虹の橋)だと……ヘイムダル、生きてるのか!?」

 

ビフレスト……アスガルドを含めた九つの世界を繋ぐものだったか。

ヘイムダルという奴に聞き覚えはないが、余計な事をしてくれたものだ。

 

「コーヴァス、邪魔者を仕留めろ」

「はっ!」

 

あの男に逃げられたからと言って何かが変わるわけではない。

だがヘイムダルという奴は、必ずどこかで邪魔になるはずだ。

ならば今ここでその命を絶っておけばいいだけの話。

 

「っ……やめろ……ヘイムダル(親友)を殺すなら、まず先に俺から──────」

「黙らせろ」

 

カルが犠牲になろうとする愚かな(ソー)を足で押さえ付け、そこにマウが瓦礫から生み出したマスクを口へと嵌めた。

 

「っ…!っっ……!!」

 

口の動きを制限され、声を出せなくなったソーが私を睨み付ける。

だがそのような視線は今まで幾度も受けてきた。

今更そんなもので臆するような弱者ではないのだ、私は。

 

「殺れ、コーヴァス」

 

私の命令と同時にコーヴァスが持つハルバード(槍斧)が振り降ろされる。

邪魔者の胸を貫き、そして短い悲鳴が響いた後にコーヴァスが血まみれの武器を片手に戻ってきた。

 

「ところで……だ。()()()()()()()()()?」

 

私はそう問い掛けながら後ろを振り向く。そこにはナイフを片手に私の首筋に迫ったロキが、空中で動きを止められていた。

スペース・ストーンの力ならば単純な瞬間移動の他にもこうして相手を空間ごと拘束する事も可能か。なるほど、使い道はまだまだありそうだ。

 

「私が隙を見せたと思ったか?楽観過ぎるぞ、アスガルド人よ」

「ぐっ……!」

 

ナイフを弾き飛ばし、ロキの体を宙に浮かべる。もちろん全身を空間ごと拘束し、出来る事は喋る事くらいだろう。

兄であるソーを見てみればカルの足下から抜け出そうともがいている。おそらく脱出すればこの出来損ない(ロキ)を助け出す為に私に襲いかかってくるだろう。

 

「弟想いの兄だな。お前を助け出そうと必死になっている」

「……義兄、だがなっ……それにっ、私はいつだってあいつをっ、利用している。そんな弟を……本気で助けると思うか?」

「なら試してやろう」

 

パワー・ストーンの力も使い、輝くストーンを少しずつ奴に近付けていく。

今度は先程とは違い、アスガルド人だろうと消滅は免れない力をその身に注ぎ込むつもりだ。

 

「お前は絶対に神になんてなれやしない……この化け物が」

「神になど興味はない。私が目指すのはこの宇宙の均衡、ただそれだけだ」

 

「……っ!!……っ!!!」

 

口を封じられたソーが何かを叫びたがっている姿を確認し、私はガントレットをロキの体へと押し付けた。

触れたパワー・ストーンの力は体全体へと広がり、紫色の光と共にロキの体は消滅を始めていく。これを止める術はもはや私でもない。

 

「ソー……いや、兄上。これでお別れだ。こうなるなら、もっと──────」

 

その言葉を最後にロキは完全に消滅した。

 

「っっ……うぁぁぁぁああああああっ!!!」

 

直後、目を細める程の眩しさを伴いながら巨大な雷が落ちた。

一体どこから?と思ったが、それよりも注意しなければならない相手がいる事に気付き、その考えを止めた。

 

「流石は雷神といった所か」

「ふぅ……ふぅ……!」

 

雷の直撃を受け、気を失ったカルを倒したソーは破壊されたマスクを剥ぎ取る。今の奴は全身に雷を纏い、その姿からは今まで瀕死だったとは到底思えない。

 

「サノォォォォス!!!」

 

纏っていた雷を衝撃波のように周囲へと放ち、ブラック・オーダーを圧倒する。そして飛び出すと拳を振りかぶりながら私へと向かってきた。

 

「ふんっ────っ!?」

 

ガントレットを閉じようとした瞬間、巨大な雷が私に落とされた。

その威力に一瞬立ちくらみをし、その隙に奴の拳が私の顔を殴りつけたのである。

 

「おおおおおおおおっ!!」

 

拳や蹴り、頭突きなど全ての攻撃に雷を纏わせながら私の体に叩き込んでくる。

その圧倒的なまでの威力と手数、そして気迫は相当なものだがそれらが私を上回っているわけではない。

 

「がふっ!?」

 

頭上から殴り付けて攻撃の手を止め、ガントレットを閉じて二つのストーンの力を発動する。

スペース・ストーンが拘束し、パワー・ストーンから放たれた力がソーを遥か遠くに吹き飛ばしたのであった。

 

「サノス様、ご無事でしょうか!?」

「……あの程度、何ともない」

 

プロキシマが心配してくるが、私の体にも鎧にも傷一つすら付いていない。ブラック・オーダー相手ならば有利に立てたかもしれないが、私が相手では無力に等しいのだ。

 

「あの男……いずれサノス様の前にまた現れるでしょう。その前にここで息の根を止めるべきです」

「その必要はない」

 

ガントレットを掲げ、閉じる。パワー・ストーンの力がこの船全体に広がり、すぐに周囲で爆発が起きていった。

この船ごと破壊してしまえば、生き残りがいたとしても死に絶えるだろう。

 

「行くぞ、ブラック・オーダーよ」

 

スペース・ストーンの力が生んだワームホームを通り、我々はこの船から姿を消した。

そしてアスガルド人が乗っていたこの船も、宇宙の藻屑となって消えたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スペース・ストーンの空間把握能力を使い、私は次なるストーンの場所を特定した。

 

マインド・ストーン、タイム・ストーンは地球に。

 

リアリティ・ストーンは様々な生物・物をコレクションしているタニリーア・ティヴァンことコレクターが住む惑星ノーウェアに。

 

しかし最後のストーン──────ソウル・ストーンは未だに場所が分かっていない。

 

「ならば……()()から聞き出せばいい」

 

私を裏切り、雑魚共の集団の仲間になったガモーラ。同じく私を裏切り、私への復讐を企てているネビュラ。

どちらも義娘でありながら私なりに愛情を注ぎ、優秀な暗殺者・殺し屋として育て上げたつもりだった。

 

だが結果はこの有り様である。特にネビュラにはガモーラとの試合に負ける度にサイボーグ化を施してやったというのにだ。

だが、今更娘達の育て方を後悔しても遅い。それよりも今はストーンを集める事だ。

 

地球にあるストーンはブラック・オーダーに任せ、私はノーウェアへと向かう。そしてその後に娘達を探し出してソウル・ストーンの所を聞き出せばいい。

ガモーラとネビュラはソウル・ストーンがどこにあるのかを突き止めている。必ずあの二人が必要なのだ。

 

「しかし……そう楽々と集まっては面白くないというものだ」

 

私はヘルメットを外し、鎧も装着を解除して床に落としていく。

この鎧もガントレットと同じくドワーフ達に造らせたもの。装着者の力を飛躍的に倍増し、ガントレットを持たなくても絶対的な存在になり得るのだ。

 

この鎧を外す事で私の実力は大きく下がるだろう。だがこれは『私を倒そうとする者達へのハンデ』だ。

もちろん私は倒される気などないし、立ち向かってくれば誰であろうと関係なく戦うつもりだ。

 

「さぁ……始めるぞ」




ロキ、初登場にしてすぐ退場……!ロキファンの方々には申し訳ないです!
ヘイムダルはもっと酷く、名前のみ出て退場……MCUキャラは多過ぎて登場させるのが難しい……。

ちなみにサノスが鎧を脱ぎ捨てた事とエンドゲームでの強化に理由付けをしてみました!まだまだ本気を出してませんし、エンドゲーム編ではどうなる事やら。
あと、サノスや(あまり強そうには見えなかった)ブラック・オーダーは映画よりも強化していく予定です。

今回からちょっとしたアンケートを実施していきます!良ければ回答をお願いします!締め切りはエンドゲーム編終了までで!


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ブラック・オーダー襲来 前編

アンケートに答えてくださった方、ありがとうございます!まだまだ期間はありますのでまだ答えてない方は気軽にしてください!


太陽系へと辿り着いたQシップ────サノス軍のドーナツ状の軍艦────二機は目の前に見える地球へと向かっていた。

エボニー・マウとカル・オブシディアン、コーヴァス・グレイブとプロキシマ・ミッドナイトに分かれてそれぞれタイム・ストーン、マインド・ストーンの奪取を企んでいるのである。

 

 

 

「カル、我々の作戦は分かっているな?」

「グルルゥ……」

「そう、タイム・ストーンを奪う事だ。調べた所、ストーンは”ニューヨーク”という街でストレンジなる者が所持しているらしい」

 

マウは種族の中で禁断とされていた闇魔術を何十体もの死骸へと施し、不思議な模様が浮き出る度に別の場所へと移動させていた。

その後ろでカルは自身の武器である斧の調整をしている。それも今から始める”狩り”の為に念入りに、だ。

 

「カル、さっきのような失態はもうしないように。サノス様の機嫌を損ねるな」

「グルルァァガッ!」

 

マウの言葉が気に障ったのか、カルは斧を振り上げてチェーン付きの刃を飛ばした。それをマウは見もせずに闇魔術による念力で受け止めたのである。

 

「『なら私がやればよかった』と?ふっ、用心棒が聞いて呆れるな」

「ガルルゥ……」

「いいか?目的はタイム・ストーンを奪い取る事であって、仲間割れではないのだ。それを忘れるな」

 

全ての死骸を移動し終えると、マウは操縦桿の前へと立った。しかし自動操縦である為に握る事はせず、巨大なモニターに前方の地球を映しただけだった。

 

「こんなにも綺麗な星は私の実験場として使いたい所だが、今はストーンをサノス様の元へ届ける事の方が大事だ」

 

マウ達が乗るQシップがニューヨークへと向かう中、もう一方のQシップも別の場所を目指していた。

おそらくマインド・ストーンの所在地を突き止めたのだろうとマウは予測する。

 

「それでは始めよう。偉大なる我らが父(サノス様)の悲願の為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドクター・ストレンジ』

 

本名スティーヴン・ストレンジ。今から一年前、彼はニューヨークで優秀な医師として働いていた。だが事故により指の精密な動きが出来なくなり、彼は医療の世界から姿を消した──────医師でなくなった事を頑なに認めなかったが。

彼は様々な治療法を試したものの失った機能は治らず、莫大な時間と費用の浪費だけに終わると共に世界中の医師、そして元恋人にまで見捨てられてしまう。

 

自分の傲慢さが結果的に何もかも失う事になったストレンジが最後の希望をかけて訪れた場所。

 

 

その名は”カマー・タージ”。そこで手に入れたものは────────”魔術(まじゅつ)”。

 

 

 

 

 

「──────サノスが地球に来る……!」

 

ストレンジは現在、自らが主として務めるサンクタム・サンクトラム────地球を別次元からの侵略から守る施設────に落下してきた()()()の言葉を聞き、同じ魔術師であるウォンと顔を見合わせた。

 

「サ、サノ……なんだって?」

「サノス!!インフィニティ・ストーンを狙ってる怪物だ!あいつをどうにかして止めないと!宇宙が大変な事になるぞ!」

 

ストレンジが聞き慣れない名前について尋ねた所、バナーは発狂したかのように掴みかかって叫んだ。

そんな中、ウォンはインフィニティ・ストーンの名前にピクリと眉を動かした。

 

「インフィニティ・ストーンだと?どこでその事を知った?君は何者なんだ?」

「バナー!ブルース・バナーだ!ええっと、ハルクって言った方が分かるかな?ストーンの事は……っ、ソーから聞いたんだ」

 

ハルクにソー。アベンジャーズの主力にして現在行方不明となっているメンバーである。

その片方が空から降ってきて、サノスという怪物がインフィニティ・ストーンを狙っているときた。

普通なら信じないだろう。しかしここにいるのは地球を侵略者から守る魔術師二人である。

 

「誰に連絡をとればいい?」

「アベンジャーズ全員に。まずはキャプテンからだ」

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ、あれ……!?」

 

課外学習へと出掛ける為にバスに乗っていたスパイダーマンことピーター・パーカーは、遠くに見えるQシップを目にして驚いていた。

一体どこからあんなものが?と考え込んだが、あれが地球のものとは思えないのは当然だろう。

そして何よりも──────自身が持つピーター・ムズムズ(命名者メイ・パーカー)が危険を察してる時点でアレがヤバい物である事は分かっていた。

 

「ね、ねぇ、ネッド!みんなの目をアレから逸らしてくれ!」

 

ピーターは隣に座る親友兼同級生にしてメイと同様にスパイダーマンの正体を知るネッド・リーズへと声を掛けた。彼がピーターの指差す方向を見てみれば、目に映ったのは空を飛ぶQシップ。

 

「ユ……UFOだぁぁああっ!」

 

それをUFOと勘違いし、かつ叫ぶのは当たり前である。

 

ネッドの叫び声により全員がQシップへと釘付けになる。方法はともかく全員の目を引き付けてくれたネッドに感謝しつつ、ピーターはマスクを被ってバスの窓から外へと飛び出した。

 

「あんなの、絶対にスタークさんが見逃すわけない!僕もヒーローとしてやらなくちゃ!」

 

かつてアベンジャーズの内乱でスタークからの期待を裏切りつつも、その後にどうにか信頼を取り戻したピーターは更なる活躍の為にQシップへと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「アベンジャーズが解散って……どういう事だい、トニー!?」

 

近々結婚を考えているペッパーとのウォーキング中にストレンジに呼び出されたスタークは、サノスの脅威を聞いた後にバナーに彼がいなかった間のアベンジャーズの事について話した。

 

「言った通りだ。僕らは二年前、ソコヴィア協定やバーンズの確保……まぁ、冤罪だったんだが。それらが理由で内乱を起こして解散した。キャプテンやスウァーノとも連絡を取れなかったのはそれが原因だ」

「そんな……でもさっき、連絡手段はあるって言ってなかったか?」

「……キャプテンとはな」

 

スタークがポケットから取り出したのは古い携帯。

 

──────『必要になれば必ず駆けつける』というメッセージと共に送られてきた、現状唯一スティーブと連絡が取れる機器である。

 

「電話をするんだ、今すぐにだ」

「……何故君にそんな事を言われなきゃならない、ドクター?いや、魔法使いか」

「タイム・ストーンは必ず守らなくてはならない。その為に出し惜しみをしてる余裕はない」

「電話をするかは僕らの問題だ。首を突っ込まないでくれるか?」

 

スタークとストレンジ。互いにプライドが高く、さらには性格も似通っている二人が出会えば衝突するのは仕方がない事である。

 

「そうだ……トニー、ヴィジョンは?彼の額にはマインド・ストーンが埋まってる。彼も狙われるに違いない」

「……ヴィジョンはワンダと一緒にアベンジャーズを脱退した。今じゃどこで何をしてるのかも分からない状態なんだ」

 

かつてスウァーノがヴィジョンに伝えた、アベンジャーズにいる事が彼とワンダに危険をもたらすかもしれないという話。その可能性を否定できなかったヴィジョンはワンダと共にチームを抜けたのだ。

 

「トニー……ソーが、死んだんだ」

「っ……なんだと?」

「ハルクの意識がまだあったからハッキリと見えた訳じゃない。でもソーのあの状態じゃ生きてるのは絶望的だ。サノスは今までのように勝てる相手じゃないんだ」

 

バナーから伝えられた仲間の死。それが確実でないにせよ、スタークにはもはや迷っている暇はなかった。

携帯を開き、一つだけ入っている『スティーブ・ロジャース』の名前をすぐ押そうとするが……一歩手前で指は止まってしまった。

 

「っ……!」

 

親友であるバーンズを守る為に自分と戦ったスティーブと顔を合わせる事だけを躊躇っていたスタークだったが、そこである可能性を思い付いてしまった。

 

スティーブよりも会う決心がついていない仲間、スウァーノ・エイナムが一緒にいるんじゃないか、と。

 

スターク自身が開発した兵器を利用したテロリストにより彼の両親は殺された。

その真実を突きつけられた日から、スタークは何をどうすればいいのかとずっと悩んでいたのである。

 

「……トニー?どうしたんだ、早く電話を」

 

動きを止めたスタークを心配し、バナーが話しかけたと同時に──────外から爆発音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Qシップの接近によりニューヨークの市民は一斉に逃げ出していた。誰もいなくなった場所に降り立ったマウとカルは目的のタイム・ストーンを見つける為、互いに動き出そうとしたのだったが──────地球で最初のヒーローが勝負を挑んできたのである。

 

「うわぁぁっと!?」

 

チェーン付きの斧を振り回しながら辺りを破壊していくカルに対し、スパイダーマンことピーターは空中をスイングで移動しながら間一髪で避けていった。

 

「そ、その斧、凄いね!スッゴい!イケてる!でも僕のスーツには負けてるね!」

 

飛んでくる刃をかわし、ウェブで絡めた車を勢いよく投げ飛ばすピーター。しかしそれをカルは片手で弾き飛ばしたのだった。

 

「ウッソ!?マジで!?」

「グルルァアッ!」

 

なかなか地面へと降りてこないピーターに苛立ち、攻撃をさらに激しくするカル。その光景を共に地球に降り立ったマウは呆れた目で見ていた。

 

「まったく、あのような虫けらは放っておけばいいものを……む?」

 

自分は自分でタイム・ストーンを探そうと決めたマウであったが、近付いてくる足音に気付いてそちらを見た。

 

その足音の正体は、トニー・スターク、ブルース・バナー、ドクター・ストレンジ、ウォンの四人である。

 

「おいおい……どうして坊主が戦ってるんだ?」

「えっと、あの赤青の方だよね?坊主って、もしかしてまだ子ど──────」

 

「ちょっ、まっ、ぁぁぁああああっ!!」

 

カルは斧を変形させた鋏でピーターを挟み込むと、勢いよく投げ飛ばした。

──────スターク達のいる方へと。

 

「ふっ!」

 

ストレンジが咄嗟に開いたゲートウェイ───スリング・リングにより開かれた転移できる門───へと飛び込んでいったスパイダーマンは、転移先である公園の芝生へと落ち、そのままゲートウェイは閉じられた。

 

「おい!パーカーをどこにやった!?」

「落ち着け、すぐ近くの公園だ。アスファルトにぶつかるよりマシだろう」

 

ストレンジは詰め寄るスタークを遮り、ウォンと共にオレンジ色の魔法円を展開した。互いにすぐにでも戦闘へと入れる段階である。

それに対してマウは両手を腰に回し、カルは斧を肩にかけて隙がある態勢を取っていた。

 

「お前達、サノスの回し者だな?」

「如何にも。我々はブラック・オーダー、サノス様に仕える忠実な部下である。偉大なるサノス様の悲願の為、タイム・ストーンを寄越したまえ」

「お断りだな。我々の領域に踏み入れてる時点で、お前達は”敵”だ」

 

ストレンジの答えにマウはやれやれといった様子で首を振る。そして指を鳴らすとカルが歩き出し、次第に助走をつけ始めたのである。

 

「バナー、準備はいいか?」

「ああ、いつでも」

「久し振りの共同戦だな」

 

スタークは前へと出ると、胸に装着している新型のアーク・リアクターを起動させた。内部から放出されたナノ粒子がアーマーへと変形していき、スタークへと装着されていく。

 

マーク50、通称”ブリーディングエッジアーマー”。今までのアーマーとは違い、高度なナノテクノロジーによりその形状を装着者が望む形へと自在に変化させられる。さらには十億以上のナノ粒子で構成されているアーマーそのものが高い攻撃力、耐久力を誇っているのだ。

 

「うぅぅ……ぉぉぉオオオっ!!」

 

一方、バナーも心拍数を上げていき体を緑色の巨体へと変化させていく。膨れ上がった筋肉が服を破り捨て、いつも通りパンツ一丁となったハルクはスタークの隣へと立った。

 

「……お前、誰だ?ソーの友達か?」

『おおっと、随分見ない間に賢くなったな、グリーン・ジャイアント(緑の巨人)?誰って僕はトニー・スターク、一緒に戦ってき──────』

「スターク、余所見をするな!」

 

迫ってきたカルは飛び上がり、斧をスタークへと振り下ろした。しかしスタークはそれを一瞬にしてナノマシンで構築した盾で防いだのであった。

 

「ガァァアアアアッ!!!」

 

カルが再び斧を振り上げる前に、飛び出たハルクが殴り付けた。すぐに態勢を立て直して斧を凪ぎ払うが、伏せたハルクには当たらずに掴みかかられたのである。

 

『ハルク!理解してるんなら三秒後にそいつから離れろ、いいな?一、二、三っ!』

 

スタークの背後から現れた四基のビーム砲が火を吹き、真上へと飛んだハルクが今まで目の前にいた為にそれが見えていなかったカルへと直撃した。

 

「……ふっ」

 

マウは横にあった瓦礫を動かし、飛んできたカルが自身にぶつかる寸前で今度は真横へとぶっ飛ばしたのである。

 

「アイツ、ハルクが倒す!邪魔するな!!」

『邪魔なんてしてないだろ、手助けしてやったんだ』

「そんなのハルク、いらな、いっ!?」

 

ハルクがスタークへと詰め寄ると、突然地面から生えてきた土の柱が二人を吹き飛ばした。スタークは上空へ、ハルクは建物の窓を突き破って姿を消してしまう。

 

「まったく、お喋りな奴らだ」

 

柱を生み出したマウは今度は近くにある瓦礫を操り、ストレンジ達に向かって飛ばしたのであった。

 

「むっ」

「私に任せろ!」

 

ウォンがすぐに大きな魔法円を展開し、盾のように瓦礫を防いだ。そして攻撃が収まると、ストレンジが何重もの魔法円を展開して防御から攻撃へと転じようとする。

しかしそれを囮に見せるかのように、戻ってきたスタークが両手から衝撃波を撃って車をマウへと吹き飛ばしたのであった。

 

「いい手だが、私には通じない」

 

向かってくる車をマウは闇魔術により生み出した刃で切断し、真っ二つとなった車体を返すように飛ばした。

片方はスタークの攻撃により破壊したが、もう片方は避けるだけで精一杯だった為にストレンジが開いたゲートウェイでどこかへと飛ばされていった。

 

『おい、そのストーンどっかにやってくれ!』

「悪いが手離す気はない」

『だよなっ、じゃあな!』

 

ストーンを狙っている以上、そのストーンをどうにかすればいいと考えたスタークだったが、断られた為にそれを諦めて単身マウへと向かっていった。

それに対し、瓦礫を繋ぎ合わせて槍のような形状へと変えてスタークを狙うマウ。全て避けられてしまうものの、自身の背後から飛んできたチェーン付きの斧には反応されずに吹き飛ばす事に成功した。

 

「カル、あちらは任せたぞ」

「グルルゥ────ッ!?」

 

建物を貫通していったスタークを問い掛けようとするカルだったが、直後に建物の壁を突き破ってきたハルクの体当たりを受ける羽目となった。そして互いに絡み合いながらスタークのいる方へと進んでいったのである。

 

「よっと……あ、あれ?スタークさんは?」

「彼ならデカブツと戦ってるぞ」

「本当!?」

 

建物の間をスイングしながらストレンジの隣へと着地したピーターだったが、彼の言葉を聞いてすぐにまた飛び出そうとした。

しかしそのピーターをストレンジは腕を掴む事で止める。

 

「スタークにはハルクがいる。君は私と一緒にあいつを倒すぞ」

「えっ、ハルク!?マジで!?うわぁっ、タイミング悪すぎるでしょっ!」

 

憧れのアベンジャーズメンバーであるハルクがいる事に興奮するピーターだったが、その姿をストレンジは呆れながら見ていた。

 

「……いくぞ、少年」

「あっ、僕はスパイダーマンだから!」

「ドクター・ストレンジだ」

「ん、ドクター?えっと、もしかしてお医者さん?」

 

ストレンジ、ウォン、ピーターが並び立つとマウは上空で待機しているQシップに視線を移した。そして手を掲げ、スッと地面に向かって降ろしたのである。

 

「……?何してるの、あれ」

「さぁな。だが……」

「ああ……凄まじい力を感じる。気を付けろ、ストレンジ」

 

Qシップから一筋の光が放たれ、地面へと照射された。そしてその中から這い出るように何かが出てきたのである。

それは──────

 

「ヴヴヴヴァ……」

「ィアアア……」

 

呻き声を上げながら歩いてくるのは、『歩く死骸』もといゾンビ。地球人とは思えない姿をしている事から宇宙人と思われるが、その中にはサンダー人やアスガルド人なども混ざっていた。

 

その数は二桁を軽く越え、三桁にまで上り詰めている。

 

「えっ、ちょっ、はぃ!?な、何あれ本当に!?バ、『バイオハザード』みたいなんだけど!?」

「ゾンビ映画には興味がないんでな、早々に退場願おう」

 

ピーターがゾンビの圧倒的数に怯えて後退るのに対し、ストレンジとウォンは魔法円を構えて勇敢にも立ち向かっていった。

 

「ゆけ、我が『死者の軍団』よ。奴らを殺し、タイム・ストーンを奪うのだ!」




映画と違ってバナーがハルクに変身できた理由は『ハルクが映画よりもバナーに協力的だったから』『サノス達を恨んでたから』などと思ってください。

ブラック・オーダーを強化すると前回言いましたが、マウの場合は闇魔術によりネクロマンサー的な事が出来る事にしました!闇魔術ってなんだかそんなイメージがあるので。

次回は映画とは違ったタッグでブラック・オーダーと戦います!


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ブラック・オーダー襲来 後編

皆さん、明けましておめでとうございます!今年も『アベンジャーズーホープ・オブ・レイー』をよろしくお願いします!


「ふぅぅぅ……はっ!」

 

ストレンジが複数の魔法円を展開し、その中から放たれた槍がゾンビ達を貫いていく。

アスガルド人など元々は屈強な肉体を持つ者はゾンビ化に伴い、肉体が脆くなったらしく簡単に攻撃を受けていった。

 

だが──────

 

「ヴアアアァァ……」

 

胸を貫かれたゾンビ達はそれでもストレンジへと向かってくる。既に死んだからなのか、生きてる相手にとっては致死性のある攻撃でもなかなか倒れないのだ。

 

「ならば……!」

 

瓦礫の下へと魔法円を生み出し、中へと落ちていくと今度はゾンビ達の上に展開する。すると先程の瓦礫が顔を出し、ゾンビ達を踏み潰したのであった。

 

「……っ」

 

元医者である故に死んでるとはいえ、人を殺した事にストレンジは不快感を覚えた。しかしどうやらこの一撃で完全に動かなくなったらしく、二度と動き出す事はなかった。

 

「ストレンジさぁん!た、助けて!」

「なにっ?」

 

ゾンビ達に囲まれているピーターは間を抜けながら戦っていたが、そろそろ限界が来てしまったらしい。近くにいたストレンジへと助けを求めた。

 

「待ってろ、もう少し耐え────っ!」

 

両手に魔法円を展開し、ピーターを助けに行こうとするストレンジだったが、背後から感じる気配に気付いて横へと飛んだ。

すると先程までいた場所に巨大な棍棒が叩きつけられたのである。その持ち主はハルクやカル並の巨体を持つゾンビであった。

 

「ストレンジ!私があの子を助けに行く!君はそいつを倒せ!」

「ああ。頼んだぞ、ウォン」

 

ウォンがピーターの所へと向かっていく姿を確認し、ストレンジは再び振り降ろされる棍棒を身に付けている”浮遊マント”で空中へと飛ぶ事でかわした。

 

続いて巨大なゾンビの周りに魔法円を複数展開する。次第にそれらが熱を持つように赤くなると、一気に光線が放たれたのである。

それらを受けてもまだ動けるゾンビだったが、ストレンジが直接触れた瞬間に放たれた衝撃波によって吹き飛ばされていった。

 

「ィアアアアア……」

 

多くのゾンビを背中で押し潰しながら倒れたが、それでも立ち上がろうとする巨大なゾンビ。しかしストレンジが魔法円を変形させた剣を脳天へと突き刺すと、糸が切れたように倒れたのだった。

 

「ウァァァァ……」

「ァァアアアア……」

 

ストレンジを目掛けてその巨体を登り始めるゾンビ達。その行動に意思はなく、ただマウの命令通りに動くというもの。

元医者として、そして魔術師として命への心構えが出来ているストレンジにとって、命を冒涜しているマウは許しがたい存在だった。

 

「よくもこんな事を平然と……!」

 

巨体を登りきり、襲ってくるゾンビ達を魔法円から変化させた剣や鞭、盾などで応戦するストレンジ。その途中、偶然にも奥で佇むマウと目が合った。

相手もストレンジと目が合った事に気付いたのか、挑発するかのようにニヤリと口の端を上げたのであった。

 

「────っ!」

 

残っているゾンビ達を叩き落としたストレンジは空中を飛び、ゾンビの群れを飛び越えてマウへと向かっていった。

それに対し、『作戦通り』にストレンジを誘き寄せたマウは闇魔術を発動した。するとストレンジの左右から瓦礫の塊が飛んできたのである。

 

「くっ……!」

 

マントによる飛行を止め、突然の落下で瓦礫との衝突を免れたストレンジは地面を転がっていった。そこにゾンビ達が集まるが、咄嗟にスリング・リングで開いたゲートウェイへと飛び込み、姿を消していく。

 

「むっ?どこに……がっ!?」

 

マウの後ろにゲートウェイが開かれ、そこから現れたストレンジが彼の肩を剣で貫いたのだった。わざと胸を狙わなかったのは元医者として命を奪う事を躊躇ったからか。

 

「小癪なっ!」

「がふっ……!?」

 

瓦礫を集めて作り出した塊をストレンジへとぶつけて吹き飛ばした。剣は魔法円から変化したものだった為、既に消えているがマウの肩からは赤色の血がポタポタと地面へと落ちていっていた。

 

「この程度で私を傷つけたつもりか!?」

 

瓦礫を集めて複数の槍を生み出しては空中に浮かべ、ストレンジへと飛ばしていく。剣で叩き落としていくストレンジだったが、全てとはいかずに何本かを体に受けてしまっていた。

 

「ぐ、ぅ……!!」

 

槍が頬を掠め、傷口から血が垂れる。ストレンジはそれを拭うと魔法円から光線を放った。だがマウはそれを自身が立つ瓦礫を浮かび上がらせる事でかわしたのである。

 

その瞬間をストレンジはチャンスと考え、首にぶら下げているペンダント──────『アガモットの目』の仕組みを駆動させる。

このペンダントの内部に収められているのは時間を操る緑色の石、”タイム・ストーン”である。ストーンを露出させ、展開した緑色の魔法円を操る事で時間を自由自在に操る事はもちろん、より強い高位の魔術が使用可能となるのだ。

 

「ぐっ、ぁがっ……!?」

 

ストーンから魔法円が展開しようとした瞬間、瓦礫や地中から伸びてきた鉄筋が紐のようにストレンジの体に巻き付き始めたのである。

両手両足、そして首にまで巻き付かれてしまってはストーンを操る暇もなくアガモットの目が閉じられる。

 

首を締め付けられ、手足も動かせず魔術も使えないストレンジの前にマウが降り立つ。

自身に巻き付いている鉄筋が彼の使う闇魔術によるものだという事には既に気付いていた。だとしても出来る事は何もないが。

 

「くくっ、ストーンは奪わせてもらうぞ」

 

タイム・ストーンを取り出そうとマウはアガモットの目に掴みかかる。だがそれと同時にペンダントそのものかが高熱を帯び始め、驚きと痛みで離してしまったマウの手は火傷を負っていた。

 

「残念、だったな……私以外に、このアガモットの目は操れないぞ……?」

「っ……ならば貴様にさせるまでだ!」

 

ストレンジの首をさらに締め上げ、気を失わせたマウは彼を倒れた地面ごと宙へと浮かべた。このままQシップまで連れていくつもりだろう。

 

ところでストレンジが身に付けている浮遊マント。実は意思を持っているのだ。気まぐれな性格ではあるが、一度主人として気に入られてしまえば全力で助けてくれるストレンジの相棒である。

そして今、ストレンジの危機を救おうと浮遊マントはズリズリと体に巻き付いている鉄筋の中を動いていき、最後にはスポッとストレンジの体を抜いたのである。

 

「っ!?待て!!」

 

ストレンジは未だ目覚めないものの、浮遊マントは主人を安全な場所まで運ぼうと追いかけてくるマウから逃げていった。

その光景にウォンと協力しながらゾンビ達と戦っていたピーターが気付いた。

 

「えっ、あれまずいよね!?」

「むぅっ……仕方ない!ここは私に任せて、君はストレンジを頼む!」

「は、はい!」

 

ゾンビを吹き飛ばすウォンから指示を受け、ピーターはウェブを飛ばしてストレンジとマウを追いかけていった。

一方、ゾンビ達に囲まれる形で残されたウォンは両手に魔法円を展開した。ピーターにああ言った以上、この場をたった一人で戦い抜くつもりなのだろう。

 

「さぁ、来い……私が相手をしてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スタークさん、あのストレンジさんっていう人が宇宙人に追いかけられてて!僕も今追ってる!』

『視界から外すなよ、坊主。隙があったら魔法使いを助けてやるんだ』

『うん、分かった!』

 

ピーターと連絡を取り終え、スタークは噴水広場をメチャクチャにしながら戦うカルとハルクを見た。

ハルクが力任せに戦うとは逆に、カルはただ斧を振るだけではない。斧を変形させた盾や鋏などを用いて攻撃を防ぎ、カウンターを仕掛けている。

 

「ゥガアアアアアッ!!」

 

振り下ろされるハルクの拳をカルは盾で防ぐ。そしてすぐさま先端をハンマーへと変え、ハルクの横顔を殴り付けたのであった。

 

「グルルルゥゥゥガアアッ!!」

 

『そろそろ僕も参加させてもらうぞ?』

 

体を回転させ、勢いを乗せた拳をカルへと放つハルク。それを防御の上から受け、あまりの衝撃に後退るカルへリパルサーの雨が降り注いでいく。

 

『チャンス!』

 

リパルサーはカルには大した攻撃になっていないものの、目眩ましにはなっていた。その隙をつき、目の前に降り立ったスタークは両腕に空気を圧縮し、衝撃波を放つ砲口を形成する。

そしてその矛先をカルへ向け、両方同時に放ったのである。衝撃波を受け、吹き飛んだカルは噴水を破壊して最後にはトラックへと衝突した。

 

『よし、このまま──────』

 

「ハルク、あいつぶったぉぉぉおおおす!!」

 

『ぃぶくっ!?』

 

サノスへの怒りからか、部下であるブラック・オーダーに強い敵意を見せているハルクは目の前にいたスタークをお構いなしに吹き飛ばし、カルへと向かっていった。

 

『ボス、大丈夫でしょうか?』

『いたた……まったく、自分の図体を考えてほしいもんだな。前にいるからって仲間を轢くか、普通?』

 

一方、吹き飛ばされたスタークは宙を舞って地面へと落ちた。サポートAIであるF.R.I.D.A.Y.に心配されつつ、起き上がるカルへと視線を向ける。そこでスタークはある事に気付いた。

 

『……何をしてるんだ、あいつ』

 

カルは斧の先端を取り外し、左腕に取り付けて盾へと変形させた。そして残った棒部分をトラックのコンテナへと突き刺している。

スタークが疑問に思った事はすぐに解決へと至った。突き刺した部分からケーブルが生え、それはコンテナの至る所からも出没していた。

 

『っ……まさか!?』

 

ケーブルがコンテナの形を変えていき、まるでつるはしのように突起を出現させた。カルがそれを持ち上げると、車本体は接続部分が切れて地面へと落ちていくのだった。

 

 

──────物体への侵食、さらには武器への変化。それがカルの切り札にして新たな武器を生み出す方法なのである。

 

 

「ッ……!?」

 

武器へと変わったコンテナを、向かってくるハルクに振り降ろしていく。それを見たハルクは両手で受け止めようと手を伸ばすが、もはや金属の塊となっているそれは圧倒的な質量でハルクを押し潰したのだった。

 

『おい、あんなのアリか!?』

 

再び振り上げられる武器は既にボロボロ。しかしカルはそれを見ても気にせずにもう一度ハルクへと振り下ろそうとしていた。

スタークから見て、地面に出来たクレーターの中心にいるハルクの姿は見えない。スタークはハルクがそう簡単に倒れないと知っているが、あの攻撃を続けざまに受ければ只では済まないと予感し、すぐに行動に出た。

 

ナノマシンで構築した小型ミサイルを発射し、コンテナだった物へと直撃。大きさからは予想できない爆発を引き起こし、頭上から降り注ぐ破片がカルを襲っていった。

 

「ガァァァアアアアッ!!」

 

クレーターから這い出たハルクはカルに殴りかかる。しかし左腕の盾に防がれ、残っている棒部分で殴られたハルクは先程のダメージもあってふらついてしまった。

その間にその場から離れるカルを見て、スタークが叫んだ。

 

『ハルク、そいつを逃がすな!また何かするぞ!!』

 

空中に飛び、両手に形成した巨大アームから強化したリパルサー・レイを放ちながらカルに向かっていくスターク。その光線は盾によって防がれ、その間に伸びたケーブルが周囲の車を捕らえて引きずっている。

 

『クソッ!』

 

ケーブルに巻かれた車を振り回し、スタークはそれを間一髪でかわしていく。だが近寄ってきていたカルに殴り飛ばされ、スタークは地面に激突していった。

 

「グルァァァアアアアッ!!」

 

跳躍して落下する速度を乗せたハルクの拳がカルの頭に直撃する。にも関わらず、カルは棒の先に連結させた車数台をハルクに叩きつけた。負けじと立ち上がろうとするするハルクだったが、直後にケーブルが全身に巻き付いて身動きをとれなくなってしまった。

 

「ガゥゥウウ……!?ゥガァァアアアアッ!!!」

 

ケーブルを引き裂こうと暴れるハルク。その分のケーブルを切り離したカルは、再びこちらに向かってくるスタークを見つけた。両手にナノマシン製の剣を携え、カルに接近戦を挑むようだった。

 

だがカルは咄嗟に左腕の盾を外し、スタークへと投げつけた。簡単に避けられると思っていたスタークだったが、突然盾の周りに刃が生える。

驚くスタークだったが広くなった攻撃面積からは逃げられず、鋭い刃へと衝突して墜落してしまった。

 

『ぐ……ぁが……っ!?』

 

地面を転がっていったスタークの肩から腰にかけてアーマーには深い傷がついていた。ナノマシンによる修復は始まっているものの、時間がかかってしまう。その隙を狙うようにカルが棒を投げ捨て、新たに剣を構えてスタークへと跳躍したのであった。

 

スタークへと迫るカルと、ダメージから動けずにいるスターク。その二人の間に突如ゲートウェイが開かれ、カルはその先の北極へと落ちていった。そして吹雪の中へと消えていき、それを確認したウォンはゲートウェイを閉じるのであった。

 

「大丈夫か?」

『ああ。助かったよ、ウォン』

 

修復を終えたスタークは立ち上がり、ウォンに礼を言う。ピーターから連絡が入ってきたのはそれとほぼ同時であった。

 

『スタークさん!ぼ、僕、()()されちゃう!?』

 

『なに?』

「どうした?」

 

スタークが空を見上げると、Qシップから照射される光によりストレンジと彼に掴まっているピーターが吸い込まれ、その周りを浮遊マントが飛んでいた。

どうやら浮遊マントは逃走に失敗し、ピーターもストレンジの救出に失敗した上に一緒に連れ去られる結果となってしまったようだった。

 

『ウォン、結婚式には招待するよ!』

 

スタークは二人を助ける為にQシップへと飛び立っていった。それを見送ったウォンの隣にケーブルをちぎったハルクが着地した。自分がいない間に戦いが終わった事に怒っているらしく、機嫌は悪い。

そのさらに後ろには、スタークを助ける為に飛び出したウォンを追いかけてきたゾンビ達が群れていた。

 

「戦い足りないなら、あいつらはどうだ?なかなかしぶといぞ」

 

ウォンの言葉を聞き、ハルクは直ぐ様跳躍した。そして着地と同時にゾンビ達を一気に吹き飛ばす。殴り、蹴り、投げ飛ばし、振り回し、そしてまた殴り飛ばす。

ゾンビの数を瞬く間に減らしていくハルクの強さに感心しつつ、ウォンも戦う為に戦場へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、息が苦しい……ぅうっ……」

 

ストレンジ(と浮遊マント)がQシップの内部へと入るとゲートは閉じ、入れなかったピーターは落ちまいと壁に掴まった。そして眼下に見える遥か遠くの地面に怯え、壁を登っていったのだ。

その間にもQシップはどんどん上昇していき、既に空気が薄い高さまでに到達している。息が苦しいのは当然であり、このままでは酸欠で気を失うのは時間の問題であった。

 

『おい、パーカー!そこから飛び降りろ!』

 

その時、Qシップの横をスタークが飛んでいるのをピーターは見つけた。『そこから飛び降りる』という言葉をうまく回らない頭で理解し、意味が分からずに困惑する。

 

「ス、スタークさん、そんな事できない、よ……そ、それよりも息がっ……!」

『大丈夫だ、僕に考えがある!いいから早く飛び降りろって!』

「わ、分かった……よ……」

 

そしてピーターほほぼ気絶に近い形でその場から飛び降りた。真っ逆さまにに落ちていくピーターだったが、突然背中に()()が衝突したのを感じた。そしてその何かは全身に纏まりつき、確認しようとした時にはQシップの内側の壁に叩きつけられたのであった。

 

「いっだ!?……えっ?な、何これ!?」

 

起き上がるピーターが驚愕する。スーツが今までのものから、新たにスタークがマーク50と共に開発したナノマシン製のスーツ──────”アイアン・スパイダー・アーマー”へと変わっていたのだから。

 

「ス、スタークさん!これって!」

『よし、F.R.I.D.A.Y.。坊主を地上に返してやってくれ』

「……え?ちょっとスタークさん!まっ────」

 

スタークからの指示にピーターは困惑し、このままストレンジ救出に一緒に向かおうと言い出そうとするも開いたパラシュートに体を引っ張られてしまった。

 

「うわぁぁああっ!?」

 

Qシップの横を回りながら過ぎ去っていく。気持ち悪さから吐くと思ったピーターだったが、パラシュートが偶然にもQシップの壁に引っ掛かった事で落下は止まった。

 

「うっぷ……は、吐くかと思った……早く中に入らないと……」

『いけません。ボスから貴方を地上に、おお、くりす、るように、と……──────』

 

地上から離れすぎたせいでF.R.I.D.A.Y.との通信が切れ、自由になったピーターはQシップの僅かな隙間から内部へと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾンビ達を全員倒したハルクは満足したのか、バナーへと戻った。破れてしまった服の代わりに新しい物を店から調達してきたバナーは、外で待っていたウォンと合流する。

 

「えっと……君はこれからどうするんだ?」

「私はストレンジ不在の間、留守を預かる必要がある。それと、これは君に渡しておこう」

 

そう言ってウォンが差し出してきたのはスタークが持っていた古い携帯電話。どうやらいつの間にか落としてしまっていたらしく、バナーがそれを受けるとウォンはゲートウェイの中へと消えていった。

 

バナーは携帯を開き、登録されている『スティーブ・ロジャース』の名前を選択する。

そしてコールが鳴る中、相手が出るのを待つのであった──────




カル・オブシディアンの強化点は、武器の強化ですね。ケーブルを自由自在に操って物体を掴み、力ずくで形を変えて武器に変えます。

そして次回はようやく本作のオリ主、スウァーノ・エイナム登場です!!


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もう一つの戦い 前編

このサイトでMCU作品を探すと、MCUと何らかの作品とのクロスオーバー作品が多いですよね。いずれ他作品キャラを出そうかな……?


今から二年前──────俺達アベンジャーズは意見の違いから二つのチームに分断された。

 

一つはソコヴィア協定に賛同し、スティーブの親友であるバーンズを捕らえようとするチーム。

 

もう一つはソコヴィア協定に反対し、バーンズを守るスティーブに協力するチーム。

 

空港での戦闘やシベリアでのスタークとスティーブの一騎討ちの末にある者はチームに残り、ある者は犯罪者として追われ、ある者は牢獄へと。

 

あの最悪の日から二年間──────その間に様々な事があった。

 

今まで俺達が戦った敵(チタウリやウルトロン)の武器を利用し、売り捌いていた集団をスパイダーマンことピーター・パーカーがボスを捕らえて壊滅させたこと。

 

国王となったブラックパンサーことティ・チャラがワカンダを開国し、自国の技術を世界に伝えたこと。

 

そしてヴィジョンとワンダがアベンジャーズ基地本部から去ったこと。

 

世間的にはこれらが大きいだろう。だがその裏で、俺やスティーブ達は世界中で犯罪組織の壊滅やテロ活動の阻止を行ってきた。表立った活動は出来ないものの、俺達は俺達に出来る事をやってきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……スタークか?」

 

現在、ワカンダから離れている俺達が本拠地にしている建物にて、スティーブが携帯を取った。あの携帯に掛けてこれるのはスタークに渡した携帯からだけのはず。

という事は、スティーブを必要とする程の戦いが起こるという事だろうか?

……それにしても、スティーブも大分見た目が変わったよな。生やしていなかった髭は伸ばしっぱなしで、スーツはボロボロ。しかも相棒の盾はスタークに渡ってしまい、武器は素手のみ。俺も髪を伸ばしているが、そんなに見た目は変わってないはず。

 

「っ……バナー!?」

「はっ!?」

 

スティーブが立ち上がり、大声を上げる。俺もまさかの名前が出て来て驚いてしまった。

ブルース・バナー。事故でガンマ線を大量に浴びた事により、緑の怪物・ハルクへと変身できるようになった天才科学者。ウルトロンとの戦いの後、クインジェットに乗って姿を消してしまったが、一体今までどこにいたんだ?

 

「今までどこに……なに?……待ってくれ、それは一体……ああ、分かった」

「スティーブ、本当に相手はバナーなのか?」

「それも含め、君に代わってもらいたい。バナーが言ってる事が本当なのかどうか」

 

バナーが言ってる事?その言葉に違和感を持ちながら俺は携帯を受け取り、耳に当てた。

 

「もしもし、バナーか?スウァーノだけど」

『スウァーノか!頼む、よく聞いてくれ!インフィニティ・ストーンを狙ってる奴がいるんだ、そいつの名前はサノス!今、そいつの手下達が地球に来てるんだ!』

「えっと……サノス?誰なんだ、そいつ」

 

代わったかと思えば、バナーから急かすように言葉の波が襲ってきた。インフィニティ・ストーンはなんとなく分かるが、それを狙ってるサノスってのは何だ?

 

『宇宙の半分の命を消そうとしてる奴だ!今、二つある内、一つはスタークに任せてある。君はみんなと一緒にヴィジョンを守ってくれ!』

「……っ!?」

 

何だよ、そりゃ……それにインフィニティ・ストーンが地球に二つあるだって?一つはヴィジョンが持ってるやつ、もう一つは……何だ?俺の過去から推測するに、ソウル・ストーンの可能性があるが。

 

『スウァーノ、詳しい事はあとで話す!だからヴィジョンを……!』

「バナー、俺達は仲間だろ?仲間の言ってる事なら信じるし、仲間がピンチなら助けるしかないだろ」

『……ああ、そうだね』

「あんたはアベンジャーズ基地に行っててくれ。ヴィジョンを拾った後、そこで合流するぞ」

『えっと……ごめん。その、僕今まで『宇宙』にいたから場所が分からないんだ……』

「……は?」

 

今までバナーの身に何があったのか、手短に話してもらった後に基地の場所やローディがまだ残ってる事を伝えて電話を切る。

携帯を閉じ、スティーブに返す際に俺は申し訳なさそうな顔をした。

 

「すまん、スティーブ。色々と勝手に決めちまって」

「いや、僕も同じ判断をしていた。それよりヴィジョンの場所に心当たりは?」

「……たぶん、スコットランドにいるはずだ。この前、連絡を取った時にしばらくそこでワンダと暮らすって言ってたからな」

 

俺達はローディ、ヴィジョン、ワンダとは定期的に連絡を取り合っている。かつては対立した訳だが、後になって後悔したローディや仲を戻したかったワンダと再会して連絡先を教えてもらったのだ。

ローディとはスティーブが、ヴィジョンとワンダとは俺が主に連絡を取り合ってるから二人に関しては俺の方が詳しい。

 

「よし、なら僕はクインジェットの準備をしてこよう。サムとナターシャも帰還させないといけないな」

「サム達には俺が連絡しとく。ミアもそろそろ起きてくるだろ」

 

スティーブが部屋を出ていったと同時に寝室(にしてる部屋)から、目を擦りながら起きたばかりのミアが出てきた。昨日は犯罪組織との戦いで大活躍したらしいからな、好きな時間まで寝させる事にしていたのだ。

 

「スウァ~ノ~……おはようのキスしろー!」

 

俺を見つけ、迫ってきたミアは飛び上がって俺に襲いかかってくる。()()()()に俺は抵抗せず、ソファーへと押し倒された俺はミアからのキスに応じた。

 

「んんっ……んくっ、ぷはっ。えへへっ」

「満足したか?」

「もっとだ!こんなんじゃあたしは満足しないこと、知ってるだろ?」

 

再びキスをねだってくるミアを可愛いと思いつつ、今度は俺から口を近付ける。

この二年間で付き合っていた俺達の仲は急激に近付いた。というよりはスキンシップが前より過激になったというか……今では風呂で一緒だろうが、ベットで一緒だろうが動じない程だな。

 

「────おい、まずいぞ!ここの警察が俺達に気付き始め……って、またやってるのかよ……」

「いつ見てもラブラブね、貴方たち」

 

周囲の見回りから帰って来たサム、ナターシャから入ってくると同時にそのような言葉を貰った。特に恋人がいる事もいた事もないサムにとっては『空気が甘くなる』というレベルらしい、俺達は。

 

「そいつは丁度いいな。今すぐここから離れる事になったんだ」

「あら、新しい任務かしら?」

 

最後に、ミアに軽く口付けをして彼女には立ち退いてもらった。俺も立ち上がり、ミア、サム、ナターシャと順番に視線を合わせていく。

 

「どうやら地球の次は宇宙を救うみたいだぞ、俺達は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スコットランド上空にて待機しているマウ達とは別のQシップから降り立ったコーヴァスは、マインド・ストーンの反応を頼りにワンダとヴィジョンを発見していた。

 

「ヴィジョン、これ……スタークがっ……助けにいかないと!」

「しかし、この映像を見る限りスタークはあの宇宙船を追って、既に地球にはいない可能性があります。今は早くロジャース達と合流する事を優先にした方がいいかと」

 

店のテレビから、ニューヨークでの戦いを知ったヴィジョンとワンダだが、ヴィジョンの姿は今までと違って地球人の青年とほとんど変わらない。マインド・ストーンの力を理解し、その力を最大限に使いこなす事で自身の見た目を変えられるようになったのだ。

 

「…………」

 

コーヴァスは話をする二人の内、ヴィジョンの後ろへと回り込んだ。ストーンを回収する為、まずはその所有者である彼を葬り去る為である。

得物であるハルバードを構え、矛先をヴィジョンへと向ける。『この一撃で胸を貫く』、そう決断したコーヴァスは勢いよく地面を蹴った。

 

────────だが。

 

「っ!?」

「えっ!?」

「これはっ……!」

 

突然ヴィジョンとコーヴァスの間に生まれた“エネルギーの壁“がハルバードを受け止めた。その衝撃と音に気付いたヴィジョンがいつもの姿へと戻り、驚くワンダを守るように立ち塞がった。

一方でコーヴァスは邪魔をした壁を睨み、もう一度ハルバードを叩きつけるが、ヒビすら入らずに弾かれる結果となった。

 

「っ……誰だ!?俺の邪魔をする者め!」

「仲間の危機なんだ、邪魔して当然だろ」

 

上空から聞こえてくる声に気付き、コーヴァスが見上げると目の前に何者かが降り立った。同時に両手から放たれた光線を受け、コーヴァスは地面を転がっていく。

 

「ちっ……!」

「……やっぱアーマーなしじゃ傷一つつかないか」

 

二年前、逃亡する際に基地から持ち出したS.H.I.E.L.D.時代の戦闘スーツを身に纏ったスウァーノはそう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……こいつがバナーが言っていたサノスの手下のブラック・オーダー、その一人か。チタウリやウルトロンなんかよりも強いと聞いて、スティーブ達より早く駆けつけたが……危なかったな、確実にヴィジョンを殺しに来ていたぞあいつ。

 

「スウァーノ……助かりました。私のセンサーに何故反応しなかったのかは気になりますが」

「なるほど、だからか。まぁ、今はそれよりワンダを連れて逃げろ、ヴィジョン」

 

ギリギリで作ったアウトエナジーの壁を消し、代わりに双剣を生み出す。なんとかして奴をここで足止めしてヴィジョン達を逃がさないとな。

 

「私達も戦うわ、スウァーノ!相手がどんな敵なのかも分からないのに、貴方一人でなんて……」

「奴の狙いはヴィジョンのマインド・ストーンだ。それが奪われたら大変な事になるらしいからな……だったら一刻も早くここから離れた方がいい」

 

確かにヴィジョンもワンダも戦力的に申し分ないが、ヴィジョンのセンサーに奴が気付かれなかった事もある。万が一、マインド・ストーンが取られる事だけは防がないといけないのだ。

 

「ワンダ、行きましょう」

「でもっ……!」

「スウァーノが何も考えなしに来ると思いますか?おそらく、何か策があるはずです」

 

いや、流石に買い被り過ぎだろ。アーマーがない以上、ハイ・エナジーレイは撃てないし、まともに攻撃を受ければやられる可能性だってある。相手の詳細が分かってないにも関わらず、この状態で挑むのは無謀かもしれないがやるしかない。

 

「邪魔するなら貴様から殺してやる!」

「できるもんならなっ!」

 

跳躍してきた奴がハルバードを振り降ろし、俺はそれを双剣で防ぐ。しかしすぐに別の方向から攻撃され、俺も合わせて防ぐが反撃する機会が見つからない。

そのまま奴のハルバードを双剣で防ぐ、弾く、避けるを繰り返しながら追い込まれた俺の背中は壁に当たった。

 

「死ねっ!」

 

逃げ場を失った俺にハルバードを突き刺そうとしてくる。だがそれを好機と見た俺は紙一重でかわし、奴の得物は壁に突き刺さる事になった。

 

「今度はこっちの番だな!」

「くぅっ……!」

 

ハルバードを手離し、俺の双剣をかわすが逃がしはしない。双剣を槍へと変え、瞬時に投げつけて奴に怪我を負わせる。

それからも長剣、矢、斧、クロー、メイス、ハンマー、ブーメラン、鎌とアウトエナジーを様々な武器に変えながら攻めていく。武器を変えていく事で混乱する奴の先を読み、確実に攻撃を決められるのだ。

 

「これで────終わりだっ!」

 

再び変えた双剣で奴の首を斬り落としたかと思ったが、刃が交差する瞬間に奴の姿が消えてしまった。

 

「なに────っ!?」

 

後ろから襲ってくる感覚がし、俺はとにかく大きな盾へと変えた。それから数秒をしない内に強烈な一撃が俺を襲った。その犯人は目の前にいる()()()()()を振り降ろしてきたブラック・オーダーの一人である。

 

「勘のいい奴めっ!」

「何で後ろに、ぐっ!?」

 

地面を蹴って盾を飛び越え、上から襲ってくるがそれをかわす。着地した瞬間を狙って攻撃するも弾かれ、なかなか反撃のチャンスを貰えない。

 

「そもそもあの武器は壁に刺さってたのに、どうやって……ぁがっ!?」

「ふんっ、考えた所で無駄な事だ!」

 

凪ぎ払われたハルバードを脇腹に受け、俺は壁へと叩きつけられた。間一髪でアウトエナジーで受けたが、それなのにその衝撃が強すぎた。致命傷ではないが、無視できる程の痛みなんかではない。

 

「これでもっ!くらえっ!」

 

スティーブが使っていた盾をアウトエナジーで生み出し、それを近くの壁へと投げつける。あいつ程うまくはいかないものの、弾かれた盾は奴の死角から向かっていった。

そのまま当たる──────と思ったが、再び奴の姿は消えたのである。

 

──────()()()へと。

 

「っ、マジかっ……!」

 

影が動き出して壁を登り、俺の近くまで移動してきた瞬間に奴が音もなく影の中から飛び出してきた。その光景に驚くも、位置が分かっている今回は慌てずに逆に反撃を決める事に成功した。

 

「ぬぅっ……!俺の術に気付いたか……」

「影に入って動くなんて……宇宙人はそんな事が出来るのかよ」

「だがこの程度は問題ではないっ!」

 

奴が姿を消す方法は分かったが、ハルバードが刺さっていたあの場所からここまでは距離がある。いくらなんでもあの短時間でハルバードを抜き、再びこっちに戻ってくるのは無理な気がするが……。

 

「考えをしてる余裕があるとはなっ!」

「あったら楽なんだがな!」

 

ハルバードを盾で受け止めて弾き飛ばし、槍を投げつける。それを弾かれる事を想定した上で俺は斧を生み出し、跳躍して振り降ろした。

 

「はぁっ!!」

「っ……!」

 

槍を弾くものの、斧を受けて傷口から血を流す奴は地面へと手を付いた。しかしそれでもまだまだ戦えるだろう、奴は。

 

「ふっ……そろそろ時間稼ぎもいい所だな」

「なにっ?」

「俺が一人で来ると思ったか?残念だが、俺は()でしかない!!」

 

ハルバードを持ったまま走ってくる奴は俺に掴みかかってきた。それでも止まらずに走り続けるこいつを止めようとするが、その前に俺は轟音と共に背中に凄まじい痛みを受けた。

俺を盾にして奴は工場の壁へと突っ込み、さらには粉砕したのだ。

 

「がふっ……こ、のっ!」

「ふんっ!」

 

投げ飛ばされ、地面へと転がる俺はすぐに起き上がって両手を構えた。生身のまま壁へと突っ込まれたのは流石に苦しいが、まだ体は動くし、戦えるはずだ。

 

「見てみるがいい……貴様の仲間の死に様……を……っ!!?」

 

奴が指差す方向にいたのは膝を付くブラック・オーダーの一人と思われる人物。それとスティーブ、サム、ナターシャ、ミア。その奥には無事なヴィジョンとワンダもいる。

 

「悪いな、敵が一人じゃない事は想定済みなんだよ」

「くっ……プロキシマ!!」

「コーヴァス……」

 

プロキシマと呼ばれた敵に駆け寄っていく奴はコーヴァスと言うらしい。俺もプロキシマと戦ってくれたスティーブ達と合流する為に飛んでいった。

 

「みんな大丈夫か?」

「ああ。そっちもうまくいったみたいだな」

「まぁ、四人対一人だからな」

「……これがブルースが言ってた敵の実力なの?正直信じられないけれど……」

 

スティーブ達にやられたプロキシマは武器の槍を支えにしながら立ち上がる。そして俺達の方に矛先を向けてきた為、一気に警戒するが向かってくる気配はない。

──────と、思っているとその矛先から青白い稲妻状の光線が放たれた。その速度に誰も守る体勢に入れなかったが、光線は空中で曲がって俺達の間を通っていくのであった。

 

「っ────まずいっ!!」

 

スティーブが叫ぶ。その言葉で俺は背後にヴィジョンとワンダがいる事を思い出した。急いで振り返り、二人の安否を確かめようとするとそこには驚きの光景が広がっていたのだ。

 

「う……ぐ、ぅ……っ!!」

 

ワンダがヴィジョンの前へと出て、サイコキネシスの壁で光線を防いでいたのである。火花が散り、苦しそうな表情をするワンダだったが最後には光線の向きを変え、コンテナへと飛ばした。

そして──────周囲にあったドラム缶や机などを巻き込んでコンテナは爆発したのである。

 

「っ……ちぃっ!」

「どいつもこいつも邪魔をっ……!」

 

ヴィジョンへの攻撃を邪魔された二人は悔しがり、拳をギリギリと握り締めていた。どうなるかと思ったが、ヴィジョンが助かって良かった。

 

「ヴィジョンは……私が守るわ。私は彼と一緒にどこまでも進むって決めたのよ!」

「ワンダ……」

 

ヴィジョンとワンダ、二人が機械と人間という違いを越えて相思相愛になったとは聞いていたが、どうやらうまくいってるみたいだな。

ヴィジョンを守る為にワンダも戦いに加わり、俺達はブラック・オーダーと対立する。人数はこちらが有利なのだ、このまま奴らを追い詰めて──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁあああっ!!?」

 

後ろからヴィジョンの悲鳴が聞こえたのはその直後だった。




コーヴァス・グレイブは影の中へと入って移動するオリジナル能力を持ち、プロキシマ・ミッドナイトは次回ですね。
ちなみにコーヴァスはもう一つオリジナル能力を出します。


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もう一つの戦い 後編

ブラック・ウィドウの公開が迫り、ファルコン&ウィンター・ソルジャーも米国配信が今年に繰り上がったりとMCUの作品がどんどん楽しみになってきましたね!

唯一、MARVEL関連で残念な事と言えば、PS4版アベンジャーズの発売が先伸ばしになった事ですね……まぁ、さらに良くなって発売されるみたいですから楽しみなんですが!


「ぐぁぁあああっ!!?」

 

「なっ……ヴィジョン!?」

「どうした!?」

 

俺達が後ろを振り向くと、ヴィジョンが宙に浮いていた。だがそれは彼が自ら浮いてるわけではない。背後から腹を貫かれ、持ち上げられているのだ。

貫いている武器はハルバード、そしてそれを持っている敵はこの場に一人しかいない。

 

「コーヴァス……!?」

「でも、あいつはそこにいるぞ!?どうなってる!?」

 

ヴィジョンを襲っているのは確かにコーヴァスだが、プロキシマの隣にも奴はいる。その事にサムが困惑しているが、味方全員が同じ気持ちだ。

 

「ふんっ!」

「あっ……ヴィジョン!!」

 

俺達が驚いている間にコーヴァスがハルバードを振り払い、先端が抜けたヴィジョンは吹き飛んで地面に転がった。今まで口に手を添えて黙り込んでしまっていたワンダがようやく動き、ヴィジョンに近寄ろうとするもコーヴァスに腕を掴まれて投げ飛ばされてしまう。

 

「ワンダ!」

「だ、大丈夫よ!」

 

サイコキネシスにより地面にぶつかる前に体勢を立て直したワンダ。だがその間にコーヴァスはヴィジョンへと近付き、ハルバードを振り上げていた。

 

「ストーンは頂く!!」

「やらせるか!」

 

ヴィジョンの額目掛けてハルバードが振り下ろされたが、アウトエナジーをヴィジョンの全身に纏わせてバリアを形成する。どうにか間に合ったバリアにより、奴の一撃を防ぐ事は成功した。

 

「っ……貴様ぁああっ!」

「邪魔をするな!」

 

ヴィジョンを襲ったコーヴァスが怒り、プロキシマと一緒にいたもう一人が俺に襲ってくる。だがハルバードをバリアで防いだ瞬間、スティーブの攻撃とミアのセルファローを立て続けに受けて退く結果となった。

 

「スウァーノ、大丈夫か!?このっ、よくもあたしの大事で大好きなスウァーノに!!」

「スティーブ、こうなったら二手に分かれるしか」

「ああ、それしかない」

 

スティーブの指示により俺とスティーブ、ミアはコーヴァスとプロキシマ、サムとナターシャ、ワンダはヴィジョンを襲ってるコーヴァスへと振り向いた。

 

「ちっ、奴らに俺の邪魔をさせるな!」

「なっ……何だそれ!?」

 

ヴィジョンを襲うコーヴァスの影から切り離された小さな影が動き出し、サム達の前へと移動した。そしてその影の中からハルバードを構えた三人目のコーヴァスが這い出てきたのである。

 

「……なるほどな。分身、それが正体か」

「ただの分身だと思うな。俺達は一人一人が本物のコーヴァス・グレイブだ」

 

それは……敵としてはまずいな。つまりは同じ強さを持った敵が三人もいるという事だ。あいつ一人でも強敵なのに、あっちには二人もいるのか……。

 

「コーヴァス、奴らは私一人で十分だ。お前はあちらに行き、あのバリアを破壊する為の時間を稼げ」

「だがあの二人の内、俺と戦っていた奴は強いぞ」

「問題ない。私の強さはよく分かってるだろう?」

「……ならば任せるぞ」

 

俺達の相手はプロキシマが一人でするらしく、コーヴァスはサム達との増援に向かおうと跳躍した。当然そんな事はさせないと身構えると、突然放たれたワイヤーのアームがコーヴァスを掴み、電流が流されたのであった。

 

「が、ぅぐっ……!?」

「ったく、そんな簡単にいかせる訳ないだろ?」

 

ワイヤーをガントレットの中へと巻き戻し、墜落したコーヴァスにミアは勝ち誇ったかのように言い放った。だがすぐに立ち上がり、ハルバードを凪ぎ払ったのである。

 

「はっ!」

「むぅっ……!?」

 

だがコーヴァスとミアとの間に割り込んだスティーブがハルバードを受け止めると共に掴み、コーヴァスをその場から動けないようにした。

その隙を狙い、俺は横から生み出した斧を奴に叩き込んでやった。

 

「ぎゃばっ……!?」

「コーヴァス!?よくもっ!」

 

吹き飛び、壁に叩きつけられるコーヴァス。その返り討ちをしようとプロキシマが槍を構えて襲ってくるが、ハルバードを奪ったスティーブがその攻撃を防いだ。

 

「スウァーノ!ミア!」

「ああ、分かってる!」

「やるぞ、スウァーノ!」

 

スティーブが槍を受け流し、プロキシマがバランスを崩した瞬間を狙って俺は剣を、ミアはセルファローで攻撃した。だがそれらを奴は容易にかわしたのである。

 

「まだだっ!!」

 

片手にもう一本、剣を生み出して振り下ろす。だがそれすらもプロキシマは槍で受け止めたのだった。

 

「私はブラック・オーダー最強の戦士。そう易々とやれると思うな」

「っ……!」

 

弾かれた俺は飛び退き、ミアもプロキシマの攻撃をかわして戻ってくる。すると俺達が離れた瞬間を好機と見たのか、槍から稲妻状の光線を放ってきたのである。

 

まずい。あれは確か、さっき俺達の間を抜けてヴィジョンを狙った光線。だとすれば例え隠れても逃げられないだろう。ならば、せめてミアを守って──────

 

「やめろぉっ!」

「がふっ……!?」

 

スティーブがハルバードでプロキシマを殴り飛ばすと、突然光線の向きが変わって壁へと直撃した。そして破壊された壁の穴の大きさもそうだが、光線がそれた事にも俺達は驚いていた。

 

「まさか……いや、そういう事なのか」

「どういう事だよ?」

「たぶん、撃ってから光線の向きを自由に変えられるんだ。だからスティーブに殴られて、光線の操作を誤ったんだ」

 

だったら例え撃たれても対抗できるだろうが、何度もは無理だろう。やはり撃たせない事が一番有効な対策になるはずだ。

 

さて……どうにかプロキシマとコーヴァス、両方を相手して戦えているがサム達は大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ!」

「がはっ!?」

 

コーヴァスがハルバードを凪ぎ払い、突撃してきたサムを殴り飛ばして壁へと叩きつけた。そして攻撃の機会を伺っていたナターシャへと振り向くが、振り下ろそうとしたハルバードは空中で止まってしまっている。

 

「くぅっ……はぁっ!!」

「っ……なにっ!?」

 

サイコキネシスでハルバードを弾き飛ばしたワンダだったが、直後にコーヴァスに掴まれて投げ飛ばされてしまった。だが空中に浮かび、即座に浮かべた瓦礫を叩きつけたのである。

 

「ふっ!」

 

ふらつくコーヴァスの膝をナターシャはバトンで攻撃し、膝をつかせる。その隙に復活し、飛んで来たサムが急降下からの蹴りを顔に決めた。

 

「ワンダ、今の内にヴィジョンを!」

「え、ええ!」

 

ナターシャに指示され、ワンダはヴィジョンの元へと向かった。バリアを破壊しようと何度もハルバードで攻撃しているコーヴァスだったが、ワンダが迫ってきている事に気付いて舌打ちをしつつもヴィジョンから飛び退く。

 

「ヴィジョン!今、そっちに────」

「行かせるわけがないだろう!」

 

飛び出すワンダをコーヴァスがハルバードを振り下ろして止める。驚くワンダだったが、彼女も負けじとサイコキネシスによりコーヴァスを吹き飛ばしたのであった。

 

「ヴィジョン……スウァーノ!バリアをっ!」

 

今も遠くで戦っているスウァーノに大声を掛け、頷くと共にヴィジョンを守っていたバリアを解いてもらう。ハルバードを突き刺された腹部には穴が空いているが、ワンダはその傷に手を添えて塞いでいった。

額にあるマインド・ストーンを自身の力を以てして活性化させ、修復するという同じストーンの力を持つワンダだからこそ出来る芸当だ。

 

「ワンダ……ありがとう、助かりました」

「ヴィジョン、みんなが戦ってくれてる間に早くここから逃げ──────」

 

「わぁぁああっ!?」

 

二人のすぐ横をサムが転がっていく。翼は片方がもげ、飛ぶ事は不可能な事がすぐ分かる。

ワンダ達が後ろを振り向けば、ハルバードを持った二人のコーヴァスが立っており、ナターシャが捕まってしまっていた。

 

「ナターシャッ!」

「くくっ……面倒な貴様さえいなければ、どうって事はない」

「さぁ、この女を殺されたくなければそのロボットを俺達に渡せ!」

 

ナターシャの首へとハルバードを近付けるコーヴァス。その気迫は冗談などではなく、本気であった。

これ以上、仲間を傷付ける訳にはいかない────そう考えるヴィジョンは、自ら敵の元へと向かおうとしていた。

 

「ヴィジョン!?駄目よ、貴方はここにいて!」

「ロマノフを救いだし、あの二人を私の自爆で倒します。大丈夫、ワンダもみんなも私が守ってみせます」

「でもっ……!」

「どうした、早くしろっ!」

 

ワンダとヴィジョンが揉めていると、早く選択をしろと言わんばかりにコーヴァスが声を荒げる。ハルバードの刃はナターシャの首へと当たっており、斬れる事はないもののその恐怖がナターシャを襲っていた。

時間がない事にワンダは焦り始め、仲間であるナターシャか、最愛の相手であるヴィジョンのどちらを取ればいいのか分からなくなっていた。

 

──────そこへ、希望を見出だす者達が現れるまでは。

 

「ナターシャをっ……離せ!!」

 

スウァーノのアウトエナジーを纏った蹴りがコーヴァスを襲い、もう一人をスティーブが羽交い締めにする。ナターシャを救いだし、最後には動揺するコーヴァス二人の顔にミアのセルファローがトドメのように炸裂したのであった。

 

「ぐぅっ……何故ここに……プロキシマともう一人の俺はどうしたっ!?」

「っ……ここだ、コーヴァス……」

「プロキシマ!?」

 

三人目のコーヴァスに支えられながら歩いてくるプロキシマの体からは血が垂れていた。コーヴァスの手には刃が血で濡れたハルバードが握られており、原因がそれである事は明白である。

 

「……すまない。私が()()()さえ発揮できれば……」

「それはやめておけ、サノス様にも言われてるだろう……俺達よ、一度元に戻るぞ!」

 

プロキシマを支えるコーヴァスの影へと入っていく二人のコーヴァス達。怪我をしているプロキシマを抱え、目の前に集結したスウァーノ達を見て自分達の不利をコーヴァスは理解していた。

 

「……仕方ない、一度撤退するぞ」

「ぐっ……!!」

 

プロキシマがスウァーノ達を睨む。だがそれに臆さず、睨み返す彼らにコーヴァスは舌打ちをして上空のQシップへと吸い込まれていった。

 

こうしてブラック・オーダーによるヴィジョンの襲撃及びタイム・ストーンの奪取はひとまず防がれたのである。

 

 

 

 

 

「それじゃ、そろそろ向かおう」

「ええ。ローディと……戻ってきたってのが本当ならブルースとも」

 

スティーブはクインジェットに視線を向け、俺や他の面々、未だにふらつくヴィジョンへの方へと振り向いた。

 

「ああ、戻るとするか。俺達の家……アベンジャーズ基地に」




コーヴァスの二つ目の能力は分身能力。本当はもっと制限があったり、色々と内容を出すつもりでしたが弱く見られてしまう為、あえてやめました。
プロキシマのオリジナル能力は映画でも登場した光線にちょっと付け足しただけですね。ですが、オリジナル能力はまだありますのでワカンダ戦で出てきます!



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失ったモノ

今回はサノス回です。戦闘がない分、今までより短いです。


地球より遥か遠い惑星。そして今まで限られた者だけしかその存在を知らなかった未知の惑星──────ヴォーミア。

その惑星に隠され、ストーンを持つに相応しい者を待ち続ける最後にして最強のストーン……ソウル・ストーンがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────私は今、ソウル・ストーンを手に入れたという達成感と共に酷い後悔をしていた。

 

 

惑星ザンダーを滅ぼし、手に入れたパワー・ストーン。

 

アスガルド人から奪い取ったスペース・ストーン。

 

抵抗するコレクターを殺し、奪い取ったリアリティ・ストーン。

 

 

これら三つのストーンを手にする為に多くの者達を殺した事には何の後悔もしていない。我が悲願を達成する為に必要な犠牲だったのだ。

 

だが……我が愛する娘、ガモーラを殺す事は果たして正しかっただろうか?

 

惑星ノーウェアで偶然にも現れたガモーラを仲間から引き離し、私は宇宙船へと戻った。そこで私の目的を再び聞かせたが共感は得られなかった。

だから私はソウル・ストーンを手に入れる為に、その場所を知るガモーラから何としてでも聞き出さなければならなかったのだ。

 

──────例え、捕らえた妹のネビュラを拷問してガモーラを悲しませる事になっても、だ。

 

そして辿り着いたヴォーミアでストーンの番人(ストーン・キーパー)である男から、『愛する者を犠牲にしなければならない』、と告げられた。

感情を消し、冷酷な性格となった私に愛する者などいない、とガモーラから言われた。確かに私には心から愛した者はいなかった──────娘以外には。

 

「…………」

 

いつの間にか立っていたヴォーミアの湖で、私は底から掬い上げたソウル・ストーンをガントレットへと嵌めた。凄まじい痛みが私を襲う。だがそれはガモーラを失った痛みと比べれば些細なものだった。

 

「……ガモーラ」

 

最初、ガモーラは私を恐れていた。だから私は彼女には戦いの術を教えなかった。代わりに私を父親として見るよう心優しく接したのだ。

そして娘には近しい年齢の者がいない事を不遇に思い、私は拐ってきたネビュラをガモーラの妹として育てる事にした。だがネビュラは反抗的で、私にもガモーラにも襲いかかってきた。故に私が力でねじ伏せ、立場を分からせたのだ。

それから二人は姉妹という関係には程遠かったが、ある程度の信頼関係を築き上げた。それからだ、ガモーラとネビュラが私の為に戦いを教わりたいと言ってきたのは。

 

私は嬉しかった。二人が私の事を思い、そう言ってきてくれたのだから。だから私は直々に二人に戦いを教えた。ガモーラには暗殺者、ネビュラには殺し屋としての術を叩き込んだ。

そして戦う力を付けさせた後、私は二人を戦わせた。結果はガモーラの圧倒的勝利だったが私はある事を思い付いたのだ。

 

敗北者には罰を与える事にすれば、二人は互いに勝つ事を望み、さらに強くなるのでは?と。

 

だから私は負けたネビュラに改造を施した。ガモーラにもネビュラにも止めるよう懇願されたが、ならば二人共してやる事を言えば黙り込んだ。

ガモーラは改造への恐怖から。ネビュラは姉だけでも助ける為に。

 

それからも私は二人は戦わせ、負けた方に改造をしていった。だが全てガモーラの勝利であり、改造はネビュラに集中。結果、あの娘は私が拾った頃とはまったく違った姿へと変わっていた。

反対に勝ち続けたガモーラは褒め、今後の成長に期待している事を告げた。

 

ガモーラは改造への恐怖、そして私からの期待に応える為にネビュラへの情を消して容赦なく戦い、ネビュラはそんな姉に殺意を抱く程の憎しみを持っていった。

この時点で義理の姉妹として互いに認めていたが、この戦いのせいで二人は愛情と憎悪が入り交じった感情を相手に向けていたのである。

 

だから二人が途中から……いや、初めから私を殺す為だけに戦いの術を教わりに来た事を知っていた。だが暗殺者、殺し屋として家族にさえも殺しにいく気持ちでなければならない。

 

愛情、殺意、憎悪──────それらが渦巻きあって私と姉妹の関係は続いてきた。しかし小さい頃から普通の家族でいられなかった私にとって、この新たな家族は運命であったと言えるだろう。

 

「だが……ここで止まるわけにはいかない。いや、もう誰にも止められないのだ」

 

宇宙を駆け巡り、数多くの命を散らし、さらには愛した娘を手にかけた時点でもう遅いが、再び宣言しよう。

 

インフィニティ・ストーンを全て集め、この宇宙の生命を半分に減らして絶滅の危機から救う。それが出来るのはただ一人、私だけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なに?このままサノスのいる場所に向かうだと?」

「ああ、このまま地球に戻ったっていつかは来る。だったらこっちから奴を攻めてやるんだ」

 

エボニー・マウを浮遊マントの助けもあって宇宙空間へと放り出し、息の根を止めたスタークとピーター。二人と共に助け出されたストレンジは、これからどうするかを話し合っているのだ。

 

「危険過ぎる。タイム・ストーンを奪われるわけにはいかないんだぞ」

「バナーの話じゃあいつはまだストーンを二つしか手に入れてないと言ってた。なら、他のストーンを集められる前に倒すのがいいはずだろ」

「……いいだろう。だが、私は君達の命よりもタイム・ストーンの守護を優先するぞ」

「ああ、しっかり守ってくれよ?」

 

ストレンジとの相談を終えたスタークは話の外にいたピーターに声を掛け、これから始まる戦いの前に彼の覚悟を尋ねる事にした。

 

「パーカー、これから僕達はサノスと戦う。もしかしたら死ぬかもしれない。君にその覚悟はあるか?」

「……うん、あるよ。そいつを倒さなきゃ地球どころか宇宙が危ないんだもんね。僕がスタークさん達の助けになれるか分からないけど……」

「それなら君もアベンジャーズの一人だ。歓迎するよ、ピーター・パーカー」

「っ……は、はい!」

 

Qシップの自動操縦によりサノスが待つ場所へと向かうスターク達。戦いの結果がどうなるか分からないまま、三人はサノス打倒を心に決めるのであった。




エボニー・マウは映画と同じ倒され方をされたのでカットしました。


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基地への帰還

アベンジャーズ、(スタークとクリントを除いて)再集結です!


「ここに帰ってくるのも、随分と久し振りだな」

「ああ、そうだ」

 

ヴィジョンとワンダを連れ、クインジェットで基地へと辿り着いた俺達。ソコヴィア協定による影響か、基地に滞在している職員はほとんどおらず、何事もなく廊下を進んでいく。

そしてローディが待っている部屋へと入ると────

 

『よく戻ってくる事が出来たな、キャプテン……!』

 

ローディは勿論いたが、空中に浮かぶディスプレイには協定を推し薦め、俺達を嫌って国際指名手配犯に指名してくれたロス長官の顔が映し出されていた。

 

「……そっちもよくここに顔を出せたな?」

『黙れっ!ローズ、早くこいつらを捕らえろ!』

「ええ、任せてください長官」

 

ローディはそう言うと、即座にディスプレイの電源を切り落とした。これでうるさい奴がいなくなってくれた。

 

「悪いな、なかなか話が終わらなくて……いや、それよりも久し振りだなみんな!会えて嬉しいよ」

「ああ、連絡はしてたとはいえ、直接会えると嬉しいもんだな」

 

俺とローディが手を握って再会を祝い合う。だが今はそれは手短にして、早く本題へと入ろう。スティーブも目で訴えてるしな。

 

「ローディ、バナーは着いてるか?」

「……こっちだよ、スウァーノ。みんな、心配かけてごめん。でもこうしてまた会えて良かったよ」

 

奥のドアから顔を覗かせ、現れたバナーは俺達との再会を喜んではいるものの、初めはどこか元気がなかった。

おそらく自分と因縁のあるロスがいつの間にかアメリカ国務長官なんて立場になってるからだろう。ソコヴィア協定もそうだが、今後もその立場を利用して何をしてくるのか不安なんだろうな。

 

「あっ……ナ、ナターシャも……その、会えて嬉しいよ」

「え、ええ。私も嬉しいわ、ブルース」

「髪、金色に染めたんだ。すごい似合ってる」

「ありがとう。ちょっと色々あってね」

 

ナターシャとバナーがちょっとよそよそしいが、まぁ、いい雰囲気になった途端にバナーが行方不明になったからな。しょうがないか。

 

「バナー、大体は話で聞いたがもう一度話してくれないか?」

「ああ……勿論だ。じゃあ、まずはウルトロンとの戦いの後、僕がどうしてたかだけど──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は電話で軽く聞いたが、やっぱり驚く事ばかりだな。二年間もハルクのままで、サカールって星の闘技場でチャンピオンとして君臨していたかと思いきや、そこで偶然再会したソーと一緒にアスガルドをソーの姉であるヘラから守る為に戦って……。

結局はスルトとかいう化け物のせいでアスガルドはヘラもろとも崩壊してしまったが、残ったソーやバナー、その他の仲間やアスガルド人は地球を目指して旅立った。でもそこでサノスが現れて──────

 

「ソーがやられた……?」

「つ、つまり殺されたって事かよ!?」

「ソーが死んだかは分からない。でもサノスに手も足も出ずに負けたのは事実だ」

 

ヘラのせいでムジョルニアを失っていたとはいえ、ソーが敵に完敗するなんて……確かにバナーの言う通り、サノスは今まで以上の化け物みたいだな。

 

「サノスの脅威は分かった。ところでストーンの所在が分かってるのはサノスが持つパワー、スペース。ヴィジョンが持つマインド。そして────」

「スタークとパーカー、それとストレンジっていう魔術師が持ってるタイム・ストーンか」

 

バナーの話の中で、『赤と青の蜘蛛みたいなヒーロー』って言葉でそれがパーカーだとは分かったが、ストレンジなんて奴は知らない。しかもスタークと一緒に宇宙に行くとか……無事に帰ってきてくれればいいんだが。

 

「残りのリアリティとソウルに関しては誰も知らないか……」

「でもとりあえず、ヴィジョンだけでも守る事が出来れば絶対にストーン全部は集まらない。そうでしょ?」

「確かに!ヴィジョンが守る為だけに集中すればいいんだからな!」

「ああ、いいんじゃないか?」

 

ナターシャの提案にミアやサム、その他のメンバーも賛成する。だが当の本人であるヴィジョンは暗い表情であった。

 

「どうしたの、ヴィジョン?」

「……それよりも私ごとストーンを破壊する方が確実だと思われます」

「なっ……!?」

 

ヴィジョンの言葉にみんなが驚く。いや、俺やスティーブ、ナターシャもその方法は考えてはいた。だが仲間であるヴィジョンを失うわけにはいかないと、口に出さなかったのだ。

 

「ヴィジョン……お前、犠牲になる気か?」

「私を守ろうとすれば間違いなく多くの犠牲者が出ます。あのブラック・オーダーという敵は決して侮れません。それに……」

 

ヴィジョンがコーヴァスに刺された腹に手を置く。同じストーンの力を持つワンダに治してもらったみたいだが、完全に元通りになったわけじゃなく少し調子が悪いらしい。

 

「駄目よ、ヴィジョン!そんな事、絶対に駄目よ!」

「……もしも私ごとストーンを破壊するならワンダが適任でしょう。私と同じストーンの力を持っていますから可能な筈です」

「……ヴィジョン!お願いだからその話をやめて!!」

 

ワンダの能力が無意識に少し発動したらしく、周囲の植木や棚が浮かび、倒れていった。その事でワンダは一気に冷静になり、わたわたと困惑し始めた。

 

「ご、ごめんなさい、私……!」

「落ち着いて、ワンダ。大丈夫だから」

「ああ、誰も怪我してないしな。ちょっと気持ちが昂っただけだろ?」

 

申し訳なさそうに謝るワンダにナターシャ、ミアの女性陣が宥め始める。宇宙の危機が迫ってるとはいえ、今のヴィジョンはワンダの気持ちを無視していたな。

まぁ、自分が宇宙の危機に関わってる以上、そんな大胆な発想を提案するのも無理はないか。

 

「とにかく、ヴィジョンを破壊するというのは他に手段がなくなった時の最後の方法だ。バナー、ストーンをヴィジョンが外す事は出来ないのか?」

「……ストーンをヴィジョンから無理やり外せば、ストーンから力を供給してる彼は完全に機能停止する。でも掛かってる鍵を一つずつ外していけば……可能かもしれない」

 

バナーの言葉にヴィジョンとワンダが振り向き、俺達もバナーを見る。すると全員から視線を向けられてるバナーはあまりの期待の大きさに耐えきれなかったのか、手を振って慌て出した。

 

「あ、あくまで可能の話だからね!?でもヴィジョンはJ.A.R.V.I.S. 、ウルトロン、マインド・ストーンによって生み出された。だからストーンが欠けても、他の二つが補い合って、そこにストーンとは別のエネルギーを供給できれば……」

「それはここで出来るの?」

「いや……ここの技術じゃ難しいかもしれない。それに鍵は僕とスタークで掛けたんだ。だから僕ともう一人、スタークと同じ位の科学者がいれば……」

 

スタークと同じ位の科学者……バナーも頭はいいが、既に頭数に入ってるから駄目だろ。ラングのアントマンスーツを開発したハンク・ピム……いや、探してる時間はないし、ラングに聞こうにもあいつはクリントと同じで司法取引中だから接触するわけにはいかない。

あと、いるとしたら誰だ……?

 

「なぁ、スウァーノ」

「何だ、ミア?今スターク以外に優秀な科学者がいないか考えてるんだが」

「あいつはどうだ?ほら、スウァーノのアウトエナジーを研究してる、あのワカンダの科学者」

「ワカンダ……あっ」

「あたしはあいつ、苦手だけどな。だってアウトエナジーを調べるだけって言ってスウァーノのあちこちを触ってたし……」

 

そうだ、あいつなら……絶対にスターク並の頭脳を持ってる!それにワカンダは最新技術が揃ってるし、場所としても最高だ!

 

「ミア、よく言った!ありがとな!愛してるぞ!」

「えっ、愛し……ふへへへっ」

 

嬉しさからか体をくねらせてるミアを一旦放置し、スティーブ達に駆け寄る。サノスやブラック・オーダーがいつまた襲ってくるか分からない以上、すぐに行動しないとな!

 

「スティーブ、今すぐワカンダに行くぞ!()()()ならヴィジョンのストーンをどうにかしてくれるかもしれない!」




お気に入り登録や評価、感想お待ちしてます!

あと、アンケートの方もよろしくお願いします!エンドゲーム編終了時までやってます!


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ワカンダの協力

恐れていた事が起こってしまった……楽しみにしてたブラック・ウィドウの公開延期が決まってしまいました。ウイルスの危険とか考えれば妥当な判断ではあるんですけど……。
無事に公開するまではどんな事が起こるのか妄想しながら待ちましょう!


ワカンダ──────アベンジャーズの内乱より二週間後、亡きティ・チャカに代わり国王となったティ・チャラが治める国。そして長年その存在とヴィブラニウムを秘密にしてきたが、ティ・チャラが開国した事によりワカンダの技術は世界中に広まる事となった。

 

そのティ・チャラの妹にして王女、そしてワカンダの技術開発チーム“ワカンダ・デザイン・グループ“を率いる天才科学者・発明家のシュリ。

彼女はスタークと同等かそれ以上の工学、物理学、プログラミングなどの多数の技能に長け、それらを活かしてブラックパンサー・スーツや様々なツールを開発してきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれた。待ちわびたぞ」

 

ワカンダへと到着し、クインジェットから降りた俺達をティ・チャラと彼の親衛隊である“ドーラ・ミラージュ“が出迎えてくれた。確か彼女らの隊長は……オコエって名前だっけか。

まぁ、それよりも……。

 

「何してるんだ、バナー?」

「え?いや、だって王様なんだから……」

「そういうのはちょっと……やめてくれるか?」

 

ティ・チャラに向かってお辞儀をするバナー。それをティ・チャラは嫌そうに拒否するが、シュリ曰く照れてるだけらしい。

 

「ありがとう、陛下。力を貸してくれて助かった」

「気にするな。地球の危機を前にしてただ待つわけにはいかない。それと……()が目覚めたぞ、キャプテン」

 

ティ・チャラが横へと移動すると奥から現れたのはスティーブの親友であるバーンズであった。二年前、ヒドラの洗脳から解き放たれる為に冷凍睡眠装置へと入り、しばらく顔を見ていなかったが……ついに出てきたのか。

 

「バッキー!」

「久し振りだな、スティーブ。随分と髭が濃いぞ?ちゃんと剃ってるのか」

「君も人の事は言えないだろ」

 

どうやら昔の自分を大分取り戻したらしく、スティーブとの会話の中では笑顔も見える。

左腕の義手はスタークとの戦いで完全に失われていたが、ワカンダで新しく開発して貰った物を付けたらしい。

 

「えっと……彼がバッキー・バーンズでいいのかい?」

「ああ、そうだぞ」

「話で聞いたイメージとちょっと違うけど?」

「まぁ、今まで約二年間、冷凍睡眠装置の中にいたからな」

 

後ろでバナーがローディ、サムと話し合っているがまぁ、バナーはバーンズと直接会った事ないしな。誰が誰なのか、分からないって所だろう。

 

「みんな、そろそろ行くとしよう。シュリが待ちわびてるみたいだ」

 

そう言うティ・チャラが耳に付けてる装置を外すと、そこからシュリらしき声が聞こえてくる。彼女の機嫌が悪くならない内にとっとと行くとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い……これ、二兆以上のプロテクトが複雑に掛けられてるのね。物理的に取ろうとしても簡単には外せない代物だわ」

 

ワカンダ・メディカル・センターにて彼女はヴィジョンを分析し、マインド・ストーンに関しても難なく解析してそう結論付けた。

 

「ヴィジョンだけがストーンの力を完全に制御できてる。だから誰にも盗られないようにとスタークと協力して厳重に掛けたんだ」

「今じゃそれが難問って事か」

「ねぇ……その、ヴィジョンからマインド・ストーンを切り離す事は出来るの?」

 

ワンダがシュリに尋ねると、彼女は少し悩んだ末にこちらへ振り返って頷いてきた。

 

「……うん、出来るよ。でもこんな大量に掛かってるとなると、かなりの時間が必要になるかな」

「ならシュリ、お前は一刻も早く、彼からストーンを外してくれ」

「それなんだけど……彼はストーンからエネルギーを供給してもらってるから、ストーンを外してしまえば機能停止に陥るのは確実だよ。何かその代わりになるものがあればいいけど、その状態が長引けばどんな事が起こるか……」

「私は構いません」

 

シュリが心配する中、ヴィジョンは起き上がってワンダが止めてほしい言葉を口にした。

 

「私一人がどうなろうと、この宇宙にいる全生命と比べれば……」

「ヴィジョン!だからそんな自分を──────」

「そうだ、”リアクター”だ!」

 

ワンダがヴィジョンに駆け寄ろうとすると、バナーが突然叫び出した。リアクターって、スタークのアーマーに取り付けられてる動力用の発電機関……ってああ、なるほど。そういう事か。

 

「アレでスタークはアーマーの全動力を賄ってる。リアクターのパワーをヴィジョンに組み込む事が出来ればストーンの代わりになるんじゃないか?」

「だがこの国にリアクターなんて物はないぞ」

「……いや、あるな。クインジェットのコンテナの中に」

 

今回、クインジェットには大きなコンテナが付けられている。あの中にはいつでも戦えるようにと各自のスーツや武器、それからスタークが開発した新たなアーマーが積み込まれているのだ。

 

「おいっ、もしかしてウォーマシンからリアクターを抜くつもりか!?」

「いや、ウォーマシンのじゃ足りない。でも一緒に積んできた『ハルクバスターの強化型』に使われてるリアクターなら十分なはずだ」

 

ハルクバスター・マーク2──────かつてウルトロンの事件があった時、暴走したハルクを止める為にスタークが装着したハルクバスターを強化改造したアーマーである。スタークが基地に保管している事をローディから聞き、持ち出したのだ。

 

「いいのかよ?アレ、あいつらがまた襲ってきた時の切り札にするんじゃなかったのか?」

「確かにそうだが今はヴィジョンからストーンを問題なく取り出す事の方が大事だ」

 

基地を出発する前に決めていた作戦と違ってくる事をミアが指摘するが、それよりもスティーブは出てきた案を実行する事を決意した。戦力の低下は否めないが、ヴィジョンの為と考えれば仕方のない事だろう。

 

「……分かった。シュリ、彼を頼むぞ」

「うん、任せといてよ!絶対に成功させてみせるから!」

 

シュリがそう言い、研究チームの各メンバーに指示を出していく。このままうまくいって、ヴィジョンから何事もなくストーンを取り出せればいいんだが……。

 

「……なぁ、あれ何だ?」

 

窓越しに外を見ていたサムが誰かに聞くわけではなくそう呟いた。同じく隣にいるバーンズが空を凝視していた事から、嫌な予感がして俺も空を見てみればその予感が的中してしまった。

 

「もう来やがったか」

 

雲に穴を空けながら勢いよく落下してくるのは黒い柱のような物体。ワカンダに直撃すると思われたそれらは、この国を覆うバリアと衝突して次々に爆発していく。

それを知って向きを変えたのか、途中からバリアの外に落下していった。

 

「……戦いの準備は出来てるな?」

「はっ!」

「なら全員に伝えろ。戦いへ出向くとな」

 

ティ・チャラから命令を受け、走り出すワカンダ人。こちらのリーダーであるスティーブも同じ判断らしく、ティ・チャラと頷き合う。

 

「キャプテンには今すぐ盾を、そして()にもあの武器を授けろ」

「……えっ、俺にか?」

 

相棒である盾がないスティーブはともかく、俺にまで渡す物があるとは思っていなかった。まぁ、アーマーがない以上助かるし、それに……あの()()()を使うのはなかなか大変だからな。




映画ではサノスに殺され、エンドゲームでも出番がなかったヴィジョン……果たしてここではどうなるのか?

それと、この先からはワカンダ編→タイタン編→ワカンダ編→と話を区切りながら交互に展開していくか、ワカンダ編終了→タイタン編とするか、現在迷い中です。

ちなみにワカンダ編は(ほとんど)スウァーノ視点、タイタン編はサノス視点で展開していきます!


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ワカンダ防衛戦 前編

お待たせしました!ほぼ一ヶ月投稿せず、すみませんでした!
理由としてはなかなか気分が乗らず、執筆が進まず……自分勝手な理由でごめんなさい。

そしてワカンダ編はスウァーノ視点と言いましたががっつり第三者視点入ってます。


「イバンベ!!」

 

「「「イバンベ!!」」」

 

「イバンベ!!」

 

「「「イバンベ!!」」」

 

草原に並ぶ俺達アベンジャーズ。そしてスーツを身に纏ったティ・チャラ率いるワカンダの戦士達が互いを鼓舞する。

先頭に立つのは俺とスティーブ、ナターシャにティ・チャラ。バナーはハルクに変身し、みんなの邪魔にならないよう後ろに控えている。ハルクとは話が出来ると知っていたが、いざ見るとびっくりするな。スティーブの指示をちゃんと理解して「分かった」なんて言ってたし。

 

あと、ワンダだけはヴィジョンの傍に残ってもらってる。最悪の事態になった時にはストーンの破壊を頼んであるが、ストーン摘出中のシュリや彼女の部下達を守ってもらうのがメインである。

 

「さて……うまく使えればいいんだが」

 

俺はそう言って両手に装着している黒いガントレットを見る。シュリ曰く、名前は『V(ヴィブラニウム)B(ブーストラル)・ガントレット』。その名の通りヴィブラニウム製であり、今まで通りハイ・エナジーレイを撃てる事は当然、ティ・チャラのスーツのように衝撃波を放てるらしい。俺の場合はアウトエナジーを放つ時の微弱な衝撃を吸収するみたいだから攻撃を受ける必要はないんだけどな。

 

「……来たな」

 

スティーブがそう呟く。正面を見てみれば、柱が落ちた方向からこちらに向かってくる軍勢が見えた。

腕を四本持ち、顔には口しかない黒い化け物。こちらの何倍もの数がいるそいつらを率いているのはブラック・オーダーの三人。

二人は俺達と戦った奴らであり、もう一人はニューヨークでスターク達と戦っていたハルク以上の巨体を持つ敵である。あいつもブラック・オーダーの一員と見て間違いないだろう。

 

「絶対に奴らを先に行かせるな。ここで食い止めるぞ」

「ああ、当然だ」

「この国で奴らの好きにはさせない」

『スウァーノ、あたし頑張るからな!見てろよ!?』

『キャプテン、空からの支援は俺とウィルソンに任せてくれ』

 

スティーブから始まった言葉に続き、みんなが声を上げていく。宇宙を、地球を、そして大切な仲間を守る為に俺達は奴らを倒す。辛い戦いになるだろうが、今までもやってきた事と同じ事だ。

 

 

 

だけど………………どうしてこんなにも不安な気持ちが心に広がるんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆけっ!!」

 

プロキシマの命令によりあの黒い化け物達、アウトライダーズが敵陣に向かって飛び出す。まるで狂犬のように走る彼らだったが、ワカンダを守るバリアに弾かれて行く手を阻まれてしまった。

だが中には手足や胴体を切断されようともバリアを突破する者もいる。しかし歩く事もままならず、敵陣の元へ辿り着くのは困難であった。

 

「●●●●●ッ!!」

 

すると他のアウトライダーとは違い、八本の腕を持つリーダー格のジェネラル・OR(アウトライダー)が指示を出した。

──────『迂回せよ』、と。

 

「っ……おい、あいつら……」

「バリアを正面から突破できないと見て、後ろに回り込むつもりか」

 

スウァーノが気付いた事にティ・チャラが同意する。このまま後ろに回り込まれ、バリアを無理矢理にでも突破されてしまえば大した時間をかけずにヴィジョンのいる施設に侵入されてしまう。

 

「……私が合図を出すと同時にバリアの正面と左右の一部を開け」

 

ティ・チャラが耳につけた無線機で命令を下す。未だにバリアの正面に留まっている者もいるが、回り込むスピードが速い。素早い判断が必要と感じ、敵をバリア内に誘い込んで倒す事をティ・チャラは選択した。

 

「キャプテン、彼らに指示を頼む」

「ああ……みんな、僕とナターシャ、ティ・チャラ達で正面から来る敵を叩く。スウァーノとローディで右、サムとハルクで左から入ってくる敵を叩くんだ」

『左右の敵を倒し終わったら?』

「正面への加勢に入ってくれ。いいか、入ってきた瞬間がチャンスだ」

 

回り込もうとするアウトライダーズは速いが、数はまだ少ない。故にアベンジャーズ最大の戦力を向かわせて一気に殲滅させるつもりである。

 

「分かった。すぐに片付けてくるからあっちは任せたぞ。ミアも頑張ってくれ」

『当然っ!』

『なぁ。俺、ハルクに間違えられて殴られたりしないよな……?』

「大丈夫よ、サム。今のハルクなら」

 

「ウォォォオオオッ!!今度こそ倒す!ハルク、負けない!!」

 

「……きっと」

『おいおい、そこは断言してくれよ!?』

「サム、君はとにかくハルクを抜けた敵を頼む。ヴィジョンの元に向かわせるわけにはいかないんだ」

『ああ、分かったよキャプテン……やってやるよ!』

 

その言葉を最後に、スウァーノとローディはバリアの右側へ、ハルクとサムはバリアの左側へとそれぞれ向かっていく。

 

──────そして。

 

「よし……今だ、バリアを開け!!」

 

ティ・チャラの命令でバリアの正面と左右の一部が開く。そこからアウトライダーズが一気に入り込んでくるが、左右から入った者達の多くは一瞬にして吹き飛ばされた。

 

 

「はぁっ!」

『くらえっ、化け物!!』

 

右側はスウァーノのハイ・エナジーレイとローディのミサイルポッドによる爆撃で。

 

「ウガァァアアアア!!」

「いけっ、相棒!」

 

左側はハルクの激しい殴打とサムが飛ばしたレッドウィングによる支援攻撃で。

 

 

「いくぞ!」

「ワカンダ・フォーエバー!!」

 

そして正面から入ってくる敵に対して走り出したそれぞれのリーダーが飛び出す。

 

「●●●●ッ!?」

 

正面から入ってきたジェネラル・ORがスティーブとティ・チャラの同時攻撃を受けて倒れたのを皮切りに他のアベンジャーズメンバーとワカンダ軍がアウトライダーズと激突していった。

 

マインド・ストーン、そしてヴィジョンを守る為の防衛戦が遂に始まったのである──────!




一応、ワカンダ編が終わってからタイタン編を書く事にします!あっち行ったりこっち行ったりだと混乱しそうなので。


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ワカンダ防衛戦 中編

遅くなりましたが、『アイアンマン』からずっとトニー・スタークの吹き替え役を担当してくれた藤原啓治さんのご冥福をお祈りします。
今までありがとうございました。


俺は飛び回りながらハイ・エナジーレイで周囲の敵を薙ぎ払っていく。跳躍して襲いかかってくる奴もいるが、そいつらはかわすか殴って叩き落としていった。

このガントレット、ヴィブラニウムで造られている為に頑丈である。故に殴っても有効なダメージが与えられるのだ。

 

「っ、失せろ!」

 

複数で飛び掛かってくる敵をアウトエナジーで生み出した槍で突き刺し、殺す。……そのつもりだったんだが、地面に落ちた奴らは生きており、槍が刺さったまま走り出していく。

 

「不死身か、こいつら!?」

『おい、そいつは勘弁してくれよ!』

 

リパルサー・レイ、マシンガン、ミサイルポッドなど装備されてる武器を総動員させて敵の殲滅に当たっているローディが苦言を漏らす。

だが宇宙という未知の領域の敵である以上、あり得ない話ではない。バリアの左右から入ってきた奴らは俺とローディ、ハルクとサムで迎い撃ってどうにか止める事は出来た。だが正面から入ってきた敵は数が多く、動きを止めてもまるでゾンビみたいに起き上がって襲いかかってくるのだ。

 

「はぁっ!」

「ふっ!」

 

遠くでスティーブとティ・チャラがお互いの背中を相手に任せながら戦っているのが見える。スティーブはワカンダから新しい小型の盾を二つ貰い、両手に装着して敵を次々に殴り付けていってる。投げ付ける事は不可能みたいだが、何もないよりはマシだろう。

 

「はっ!!」

 

敵からの攻撃を受け続けていたティ・チャラが衝撃波を放って周囲の敵を一掃した。だが吹き飛ばしてもすぐにまた新しい敵が襲いかかっている。

 

「させるかよっ!」

 

俺はガントレットから今まで溜め込んでいた衝撃波を光線状にして敵に放つ。それは広範囲に広がって一気に敵を吹き飛ばす事に成功し、俺はスティーブ達の近くへと降り立った。

 

「助かった、スウァーノ!」

「スティーブ、どうする?奴ら、一体一体はそんなに強くないが、数が多い上に半端な攻撃だと致命的な怪我でも全然動くぞ」

「なら一撃で仕留めにいくだけだ!」

 

ティ・チャラがスーツに装着されている鋭利な爪で敵の体を引き裂いていく。そして最後に蹴りによる重い一撃を叩き込み、吹き飛ばした。

それでも立ち上がる相手だったが爪で胸を抉られると、流石に絶命したようだった。

 

「やっぱりしぶといな……」

 

周囲の敵を光線や光弾、投げつけた槍や剣などで蹴散らしつつ仲間達の戦いに目を向ける。

 

「うぉぉおおおおっ!!」

「ふんっ!」

 

上空から降下していくサムが二丁のマシンピストルを乱射し、敵の大軍へと命中させていく。そして地面スレスレを飛び、背中の翼を敵に叩きつけていった。

その隣ではバーンズが機関銃を撃ち、近付いてきた敵は義手のアームで殴り飛ばしていってる。飛び掛かってくる大勢の敵に苦戦する事はあるが、サムの協力で危機には陥っていない。

 

「はっ!どうした、こんなもんかよ!!」

 

ミアは反重力ブーツで飛び、伸ばしたセルファローを振り回して敵に変化自在な攻撃を当てている。また時にはワイヤーを射出し、電撃を浴びせて敵を倒していってる。

 

「っ……!」

「ふっ……はぁっ!」

 

ナターシャはバトンを両手に持ち、軽やかに動きながら敵の隙を突いていってる。その近くではドーラ・ミラージュの隊長であるオコエが槍を構えて敵と対峙していた。

共に戦った事はなかったと思うが、相性はいいらしく互いに生まれた隙をカバーするように戦っているな。

 

「ゥガアアアッ!!どこにいる、デカブツめ!!」

 

……そしてハルクはたった一人で群がっていく敵を叩きのめしつつ、おそらくニューヨークで戦っていたあの巨体の敵を探しているようだった。

 

『ぐぁああっ!?』

「っ、ローディ!?」

 

すると突然上空から攻撃を仕掛けていたはずのローディが地面へと落ちてきた。二回程バウンドし、展開していたミサイルポッドは外れて近くに転がっている。

 

「大丈夫か!?」

『わ、悪いっ……あいつの攻撃を貰った……』

「あいつって……っ!」

 

ローディが顔を向ける方に視線を向けると、丘の上にブラック・オーダーの一人であるプロキシマが立っているのが見えた。空に向けてる槍の先端では青白い電流が迸っており、おそらくローディはあそこからの光線を受けたんだろう。

 

「ローディ、いけるか!?」

『あ、ああ。まだいけるぞ、キャプテン』

 

スティーブが心配する中、ローディはなんとか立ち上がって戦闘に復帰する。それを見届けた後、俺はプロキシマを睨んだ。薄らと笑みを浮かべる奴に怒りが沸き、俺は両手にアウトエナジーを溜め込んで飛び出した。

 

「……今だ、やれ」

 

プロキシマが何かを呟いたように見えたが、ここからハイ・エナジーレイを撃ち込めばただでは済まない筈。俺は両手を奴に向け、一気に──────

 

『っ!?スウァーノ、奥から何か出てくるぞ!!』

「何……っ!?」

 

サムからの連絡を聞き、俺が警戒するとプロキシマの背後から回転する巨大な刃がいくつも並んだ巨大兵器が姿を現したのである。

 

「ぐっ……!」

 

避ける暇もなくギリギリの所で巨大兵器をアウトエナジーで包み、強引にその場で止めた。だが咄嗟の事でどうにか止めていられるのが限界である。

もしも今の状態で攻撃を受けたら間違いなくやられるし、そうなればこの巨大兵器により多くの仲間が殺されるのは明白だ。

 

「グルルアアッ!!」

「っ!?」

 

だが今の俺を見逃してくれるはずもなく、あのブラック・オーダーの一人がチェーン付きの刃を投げ付けてきた。勢いよく飛んでくるそれを避けていられる余裕はなく、俺に直撃──────

 

「ゥガァァァアアアッ!!」

 

────する前に上から落ちてきたハルクが刃を叩き落とし、再び跳躍して相手に突っ込んでいったのである。

ハルクに突進された奴は倒れ、二人は周囲にいる味方や敵を巻き込みながら転がっていく。そして先に起き上がった敵がハルクを掴み、投げ飛ばすと奴も同じ方向へと向かっていったのである。

 

『スウァーノ、大丈夫か!?』

『待ってろ、すぐにこいつを破壊してやる!』

 

サムとローディが武器を展開して俺が止めている巨体兵器に攻撃を始めるがビクともしない。それどころか段々と力が上げているのか、止め切れずに回転を始める刃が現れてしまってる。

 

「こんのっ……!」

 

どこか遠くに投げ飛ばせればいいんだが、今の不安定な状態じゃ厳しいしそもそも『物を操る』というのは専門外だ。ワンダなら軽々と出来るかもだが、俺ではうまくいかずに味方を巻き込む危険性が付いてくる。

 

「スウァーノッ!!」

「うおっ……!?」

 

突然ミアの声が聞こえたかと思うと、正面から向かってきていた稲妻状の光線が直前で曲がり、俺の横を掠めていった。犯人としか思えないプロキシマの方を見ると、ミアが対峙している。おそらく光線を放ったプロキシマをミアが襲った事で驚き、不意に曲がったんだろう。

 

「っ……この小娘が!」

「あたしはミアだ、小娘なんかじゃないぞ!」

 

振り回される槍にセルファローで対抗するミアだが、実力に差があり過ぎる。いくら攻撃しても槍で弾かれるか受け流されるかで終わり、至近距離に入ったプロキシマに槍で顔を殴られ、ミアは吹き飛ばされてしまった。

 

「っ……あの野郎、ミアを!!」

 

怒りで顔が歪むのを感じるが、今攻撃に向かえばどうにか止めてる巨大兵器が動き出してしまう。自分の大切な彼女が傷つけられてるのに何も出来ないなんて、悔しさ以外のなにものでもない。

 

「ふん、邪魔が入ったが……今度こそ貴様をっ!?」

「させるものか!」

 

プロキシマが俺に向き直った直後、走ってきたティ・チャラが衝撃波を放って奴を吹き飛ばした。それでもすぐに体勢を立て直して着地するプロキシマだが、ティ・チャラの猛攻が彼女を襲っていく。

 

「ふっ、はっ!」

「チィッ!」

 

槍で振り降ろされる爪を防ぐプロキシマだったが、流石は国王にして世界やワカンダを守る戦士、ブラック・パンサーの名を持つティ・チャラ。すぐに攻撃の隙を見つけてすり抜け、プロキシマの顔に爪痕をつけた。

 

「ぐっ……!?」

 

だがそこまでが限界だったようで、槍から放たれた光線を受け、吹き飛ばされてしまった。ヴィブラニウム製のスーツ故に大したダメージは受けてないみたいだが、その間にプロキシマは今は不利と見て立ち去ってしまったようだ。

 

……そういえば、あの大男やプロキシマは俺を狙ってきたというのに、コーヴァスの奴は来ないな。というか戦いが始まる前に姿を見たのが最後だ。

 

「うおっ……!?」

 

と、考え事をしていたら巨大兵器の力が更に強まって刃が少しずつ近付いてきている。このままだと俺はおろか、後ろで戦っているみんなの所に向かっていくのは時間の問題だ。どうするっ……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スウァーノッ……!」

 

ワカンダ・メディカル・センターにてアベンジャーズ・ワカンダ軍とサノス軍の戦いを見守っているワンダは、スウァーノの危機を見て声を張り上げた。

 

「あのままじゃ……」

 

自分がいけば強力なサイコキネシスであの兵器をどうにか出来るはず、とワンダは思った。だが敵がいつあの防衛線を抜けてくるか分からない以上、離れるわけにはいかない。

それにシュリの部下の他にも戦士が何人か残ってるとはいるとはいえ、彼らが侵入してきた敵に敵わなかったら最愛のヴィジョンを失うという恐怖がワンダをこの場から動けなくさせていた。

 

「……ワンダ」

「ヴィジョン……?」

 

今もシュリによるマインドストーンの摘出手術を受けているヴィジョンがワンダに声を掛ける。今までずっと黙り込んでいた為に、どうしたのかと心配そうにワンダは近付いていった。

 

「行ってください、みんなの元へ」

「っ!」

「貴女は今、ここにいるべきではない。仲間を助ける為に向かうべきだ」

「で、でもっ……」

 

もしもの事があったら、と言いたげなワンダにヴィジョンではなくシュリが口を開いた。

 

「もしもこっちで何かあったらすぐに連絡する。だから兄さんやみんなをお願い!」

「…………」

 

ワンダはギュッと手を握り締める。ヴィジョンは大切な存在だが、仲間であるアベンジャーズの面々も同じく大切な存在である。ここでただ待ってるだけでは何も守れない、と意を決したワンダは部屋を飛び出していった。

 

「……あれで良かったの?実は不安なんじゃないの?」

「私はワンダや仲間達と触れ合い、人の心を手に入れ、ワンダを愛するようになりました。ですから彼女がいなくなって不安はあります」

 

ヴィジョンはそこで言葉を切り、「しかし」と言う。

 

「だからこそ信じなければならない。ワンダを、そして私の仲間達を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ……!」

 

ギギギ……と巨大兵器が音を立てながら近付いてくる。サムやローディが破壊しようと攻撃を懸命に仕掛けているが、破壊するどころかビクともしない。二人が抜けている以上、こちらの戦力は減ってるし早い所どうにかしなければならない。それは分かってるんだが……!

 

「っ……撃つのはまず……!」

 

ハイ・エナジーレイを撃とうとするが、アウトエナジーを手の平に集中させた瞬間、集中が乱れて巨大兵器が大きく動いてしまった。丘の地面を切り裂き、瓦礫と共に刃が仲間達を襲っていく。

 

「ぐっ……はぁっ……!」

 

再びアウトエナジーで巨大兵器を包んで止めに掛かるが、踏ん張ってなお止めるだけが精一杯だったコイツを 簡単には止められなかった。動きを遅くするのが限界である。

 

『撤退だ!撤退しろーっ!!』

 

ティ・チャラが無線機越しに叫んでいるのが聞こえる。その命令に従ったワカンダの戦士達が逃げ出しているが、あれでは駄目だ。絶対に追いつかれる。

 

「止まれっ…………あ?」

 

俺の抵抗も虚しく進んでいく巨大兵器が突然止まり、それどころか空中に浮かび始める。よく見てみると周りを赤い霧状のモノが漂っており、それにより何故こんな事が起こってるのか理解できた。

 

「ワンダ!!」

「ふぅ……はっ!」

 

地面の上に立っているワンダを見つけ、彼女が腕を振るった瞬間に巨大兵器は吹き飛んで敵が固まっていた場所へと突撃していった。あそこには味方もいないようだったし、一番いい場所だったと言えるだろう。

 

『ワンダ、ヴィジョンはどうしたんだ!?』

『まだストーンの摘出手術中よ、スティーブ。でも大丈夫、呼ばれたらすぐに戻るわ!』

『いや、必ず連絡できるとは限らないだろ!?早く戻った方がいい!』

 

スティーブからの質問にワンダは答えるが、最悪の事態を想定してるローディはそれに意を唱える。確かにヴィジョンとマインド・ストーンの安全を取るならローディの意見に従った方がいいが……。

 

『でもワンダの力がなければ被害はもっと大きくなってたわよ』

『キャプテン、こちらの戦力は削られつつある。彼女をここで戻せば苦戦は免れないぞ!』

 

ナターシャ、ティ・チャラからローディとは反対の意見が出てくる。ティ・チャラの言う通り、ワカンダの戦士には怪我をした人が多い。中には致命傷を負ったのか他の戦士達に守って貰ってる人もいる。

……あの巨大兵器のせいもあるだろうが、俺がそれを止めてる間に大分こちらが追い詰められていたんだろう。

 

「……スティーブ、ローディ。ワンダは残そう。ここを抜かれたらヴィジョンが危ない事に変わりはないだろ」

『それはそうだけどな、スウァーノ!』

『……ワンダをここに残す。全員、シュリ達からの連絡に気を付けろ!』

 

スティーブがキャプテンとして苦渋の決断を下す。ここで共に戦ってもらうか、ヴィジョンの傍でいざという時に戦ってもらうか──────彼は考えた末に前者を指示したのであった。

 

 

 

 

 

 

ワンダが加わり、俺も戦いに戻るが……ワカンの戦士は多くが致命傷を負って動けず、ほとんど戦っているのはアベンジャーズの面々とティ・チャラ、ドーラ・ミラージュの彼女達だけだ。

こちらの何十倍もの数に加え、いくら傷つけても倒れないしぶとさを持つ奴らと対峙するにはいくらなんでも数が少なすぎる。

 

「ぐっ……!?」

「おい、来るなって……!」

 

スティーブやティ・チャラ、地面に引きずり落とされたサムに敵が群がる。すぐにその場から脱出するがその先にも敵がおり、どこにも逃げ場がないのだ。

 

「ぐっ……!?」

 

飛び掛かってくる敵を光弾や光線で撃ち落としていくが、その内の一体に捕まれて地面に叩きつけられる。すぐにV・B・ガントレットからハイ・エナジーレイを撃つが、そろそろこちらも限界のようだ。

 

「っ……はぁっ!」

 

衝撃波を放って辺りの敵を吹き飛ばすがその威力は最初の時よりも弱い。ハイ・エナジーレイもだ。

撃った数はおそらく何百発に及ぶだろう。それに加えて衝撃の吸収と放出を何度も繰り返した事でガントレットは既にボロボロになってしまってる。

 

「くそっ……!」

 

ハイ・エナジーレイと衝撃波が使い物にならなくなった以上、もはやガントレットは殴るくらしか使い物が残っていない。他の攻撃手段である光線、光弾、槍や剣での攻撃などでも攻めるが威力は格段に低下している。

 

俺やスティーブ達の他にもあちこちで仲間達が押されている。このままじゃここを突破されるのは時間の問題だ。早く何とかしないと……ん?

 

「何だ、あれ……っ!?」

 

突然空から降り注いできた光の柱が敵を一気に吹き飛ばした。あれは……見た事がある。確かソーがどこかに移動する度に出現していたビフレストとかいう……という事はもしかして……!?

 

「うおっ!?」

「い、今のは……?」

 

ビフレストの中から現れた謎の斧が回転しながら飛び回り、まらで意思を持っているかのように敵を薙ぎ倒していく。しかもその斧からは雷が放出しており、それがあの斧の持ち主が何者なのかを示していた。

 

「────待たせたな」

「ソー……生きてたんだな……!」

 

ビフレストが消え、戻ってきた斧を手にしたのはアベンジャーズの一員にして、アスガルドの新たなる王になったという──────”ソー”であった。




ワカンダ防衛戦、次回でラストです。


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ワカンダ防衛戦 後編

PS4で9月発売のMarvel's Avengers、皆さんは予約しましたか?私は予約開始日に予約しました!


ストームブレイカー──────それはヘラとの戦いでムジョルニアを失ったソーが、新たに手にした”王の武器”とも称されるアスガルドの歴史上最強の武器。

サノスに敗れ、宇宙空間を漂いつつも一人生き延び、偶然にも”ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー”と呼ばれる銀河を股に掛けるチームに助けられたソー。互いにサノスに因縁がある事を知り、彼はチームのメンバー数人と共にサノスを倒す為の武器を手にする為に旅立ったのである。

 

アスガルドと親交があり、ムジョルニアを始めとしたアスガルドの武器を製作してきた伝説とされる惑星──────ニダベリアへと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サノスを……連れてこぉぉぉいっ!!」

 

雷を帯びた斧を振り上げ、勢いよく跳躍したソーが着地と共にその斧を地面に叩きつけると、衝撃波と共に放たれた雷が大勢の敵を吹き飛ばしていった。

さらに斧を投げ付けて道を作るように敵を倒していく。その圧倒的な強さは凄いんだが……。

 

「あの二人……二匹か?あれは何なんだ?」

 

ソーと共に現れた二つの存在を見て俺は首を傾げる。何せ身の丈以上のライフルを乱射するアライグマに木のような……というか、人の形をした木が戦ってるんだから。

 

「とりあえず……ソーの仲間って事でいいんじゃないかしら?」

「そうだな……」

 

詳しくは分からないが、味方である事には変わりないだろう。ならば一緒に戦う事に躊躇いなどない。

 

「オレはグルート!!」

「っと……僕はスティーブ・ロジャースだ」

 

スティーブもあの木……グルートとか言う奴と会話できてるし。

 

『みんな、大変!!』

「うおっ……どうした、シュリ」

 

突然シュリから連絡が入り、驚く。突然何だ、と思っているともっと驚く言葉が聞こえてきた。

 

『敵が一人、侵入してきてる!黒いマントをしててハルバードを持った敵!……凄く強いっ!』

「なっ……!?」

 

絶対にコーヴァスの奴だ!戦場で見当たらないと不思議に思ってたが、そっちにいたのか……!ワンダが戦場に出てきたのを狙ったに違いない。

 

「っ、すぐに戻るわ!────っ!?」

 

ワンダが空を飛んで向かおうとするが、彼女に向かって一筋の光線が放たれる。その光線をワンダはサイコキネシスで止め、上へと弾いた。

 

「コーヴァスの邪魔はさせない!」

「きゃっ……!」

 

ワンダを狙ってプロキシマが跳び、彼女を捕らえて地面に叩き落とす。すぐざま起き上がるが、プロキシマとの一騎討ちにもつれ込み、とてもヴィジョンの元に行ける状況ではなくなってしまっていた。

 

「誰かヴィジョンを!!」

 

スティーブが戦いながら指示を出す。だが誰もが敵の攻撃に邪魔され、飛べる仲間もすぐに撃ち落とされてしまっている。

このままじゃまずい……!!

 

「スティーブ、俺が行ってくる!」

「スウァーノ!?だがどうやって────」

 

出来れば最後まで取っておきたかったがこのままでは使わざるを得ないだろう。それにただ飛んでいくだけでは時間が掛かり過ぎる。

 

()()()を、使う」

 

 

 

 

 

 

ワカンダ・メディカル・センターではブラック・オーダーの一人、コーヴァス・グレイヴがワカンダの戦士達と戦っていた。というよりも……殺戮と言っても言いかもしれない。

 

「っ、どこに……ぐっ!?」

「な、何故二人になって……ぁがっ!!」

「ぐっ……こ、この身を犠牲にしてでもぉっ!?」

 

 

自身の影に潜み、相手が見失ったと思った瞬間に背後に現れて心臓をハルバードで突き刺し。

 

分身で二人に分かれ、左右からハルバードで挟むように切り刻み。

 

倒れ伏した戦士の頭を文字通り踏み潰し。

 

 

向かっていった仲間達が容赦なく殺されていく映像から目を背け、シュリは無線機に向かって叫んだ。

 

「みんな、大変!敵が一人、侵入してきてる!黒いマントをしててハルバードを持った敵!……凄く強いっ!」

 

このままでは大した時間も掛からずにいずれここに到着する。戦場にいる仲間達の誰かが戻ってくるよりも前に。そう考えたシュリは一度手を止め、念の為にと置いていたヴィブラニウム・ガントレットへと手を伸ばした。

 

「シュリ、逃げてください。あの敵はいずれここに──────」

 

その瞬間、ヴィジョンの声を遮るように部屋の扉が吹き飛んだ。そしてハルバードの先端を赤く染めたコーヴァスが部屋の中へと入ってきたのである。

 

「っ……!」

 

この部屋の中で戦えるのはシュリの部下を除き、ヴィジョンとシュリのみ。しかしヴィジョンが手術中で戦えない以上、自分が戦うしかないとシュリはガントレットからソニックブラストを撃つ……が。

 

「消えたっ……!?」

 

影に潜み、攻撃をかわしたコーヴァスはその状態のまま動いてヴィジョンが横たまる台の傍まで近寄る。そして影から出ると同時にハルバードを振り上げた。

 

「ストーンは貰うぞ、役立たずなロボット」

「あっ……!?」

 

シュリが振り返るが遅い。ヴィジョンもストーン摘出の途中の為か反応が遅く、振り上げられたハルバードは額に埋め込まれているマインド・ストーン目掛けて振り降ろされ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ……!?」

 

────るが、その矛先がストーンに届く前に突如コーヴァスが吹き飛ばされ、壁を破壊して外へと放り出されていった。

 

「────間に合ったみたいだな」

「ス、スウァーノ……?」

 

先程までコーヴァスがいた場所で()()()()()()、突然現れたスウァーノにシュリが驚き、ヴィジョンも困惑した表情を見せた。

 

「スウァーノ……貴方は、今……」

「悪いな、ヴィジョン。今は説明するよりもまずはあいつを倒す事だ」

 

スウァーノはそう言い、壁に出来た穴を通ってコーヴァスを追っていった。今の光景に唖然するシュリにヴィジョンはストーンに手を触れつつ問い掛けた。

 

「シュリ……マインド・ストーンの状態はどうなっていますか?」

「えっと……もうすぐ外れるわ。そしたら貴方の額とアーマーのリアクターを繋いで────」

「ならストーンを()()()()()()()()寸前で摘出を止める事は出来ますか?」

 

 

 

 

 

 

 

「グァァアアッ!!」

「ウガッ……!?」

 

戦場から離れた森の中。ハルクがカルに殴られて木々を薙ぎ倒していき、岩に叩きつけられた所で止まった。

ハルクが朦朧としながら立ち上がる中、カルの右手に握られている棒の先端にはケーブルで侵食されたワカンダ軍の戦闘機の一部がいくつも繋がっている。

 

「グルルゥッ!!」

 

戦闘機に装備されている砲口が動き出し、一気にハルクを狙って放たれる。何十発もブラストを受け、ハルクは再び吹き飛んで地面を転がっていった。

 

「ゥガッ……ハルク、今度こそ勝つ……!」

 

立ち上がってカルを睨み、勢いよく跳躍するハルク。カルが持つ武器にしがみついて何度も殴り、引きちぎり、その大きさを小さくしていく。

 

「グルルァァアアッ!!」

「ッ……お前、絶対倒す……!」

 

カルが武器を降ってハルクを地面に叩きつけるが、それを堪えてハルクはカルの顔を殴った。そして怯んだ隙に武器を強引に奪い取ったのである。

()()()()()()をいじめたお前達、ハルクがみんな倒す!!」

 

棒より先が小さくなり、ハルクにも扱いやすくなった武器を振り回してカルを殴る。とにかく殴る。何度も殴る。何度も。何度も。何度も。何度も。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ!はっ!」

 

ナターシャ、オコエ、ミアの攻撃を槍で捌いていくプロキシマ。遠くからワンダもサイコキネシスで三人を援護しているが、それすらもプロキシマは難なくかわしていった。

 

「……何?邪魔が入って……っ、またあの男か!!」

 

耳に装着している無線機から何か通信を受けた後、プロキシマが激しく怒りを露にした。そして歯軋りをしつつ自分の手元にある槍に視線を落とす。

 

「悪いな、コーヴァス……私はサノス様の為ならば、()()()を捨てるなど惜しくはない……!」

 

そう呟き、槍の先端を自身へと向けるプロキシマ。その姿に四人が動揺している間に彼女は槍を腹に深々と突き刺したのであった。

 

「はぁっ!?」

「あの女、一体何のつもり……?」

 

「ぐふっ……我が身を犠牲に……内なる獣を、呼び醒ませ……!」

 

呪文を唱えるかのように呟くプロキシマ。突き刺した槍を血と共にズルリと抜き、地面へ投げ捨てる。するとプロキシマの体に変化が訪れた。

 

────口が大きく割けていき、牙が生え。

────体が刺々しく、邪悪なものへと変化し。

────腰からは体液と共に悪魔の如き尾が生える。

 

カハァァァアア……

 

まるで獣のように四つん這いとなったプロキシマは勢いよく跳躍した。鋭く伸びた爪で狙うのは未だ唖然としているミアとナターシャである。

 

「っ、危ない!」

「このっ……化け物!!」

 

しかし間一髪でワンダが動きを止め、オコエがプロキシマの首を槍で貫く。謎の変貌はあったものの、これで終わった────と安心し切っていると。

 

ウバァァア……!

「ひっ!?」

 

プロキシマの顔のみが動き、驚いたオコエを捉える。そして槍を両手で掴み、自分の体を手繰り寄せて近付き始めたのである。

首に更に深く槍が突き刺さる事などまったく気にせずに。

 

「く、来るなっ!」

 

怯えたオコエが槍ごとプロキシマを投げ飛ばす。両手両足で着地し、躊躇なく首から槍を抜いたプロキシマはコキコキと音を鳴らす。そして何かに気付いたように森の方へと視線を向けた。

 

コー……ヴァァァ……ス

「お、おいっ!逃げたぞあいつ!」

 

突然四人に背を向け、四つん這いになって走り出すプロキシマ。目の前で戦い、邪魔なワカンダの戦士やアウトライダーズに敵味方関係なく襲いかかっていく姿は、もはや”獣”にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐっ!?」

 

コーヴァスが振り回すハルバードをバリアで防ぎ、衝撃に耐える。だがやはり、ほんの少しとはいえ()()()を使ってしまったこの身ではまともに戦えず、俺は吹き飛ばされてしまった。

 

「がはっ!」

「貴様、俺の邪魔を何度もっ……今度こそ息の根を止めてやる!!」

 

そう叫ぶコーヴァスは跳躍し、俺にハルバードを突き刺そうとしてくる。それをどうにか避けた俺は、転げ回って奴から距離を取った。

 

「ふっ……理由は知らないが、動くのも辛そうだな。早く楽になった方がいいんじゃないか?」

「ふざけんなっ……!」

 

俺はふらつきながらも立ち上がり、アウトエナジーを周囲に放出する。そしてそれらを一度に剣や槍などの武器へと大量に変化させた。

 

「貫けっ!」

 

俺が合図を出すと、それらは一気にコーヴァスへと襲いかかっていく。たがハルバードの一振で半分が、もう一振でもう半分が弾かれてしまった。

 

「くそっ……!」

「この程度の力しか出せないお前など敵ではないな」

 

そう言い、四人に分身するコーヴァス。力が出せない今の俺を数で叩き潰すつもりなんだろう。ハルバードを構え、俺に狙いを定めるコーヴァス達。

 

「はぁっ!!」

「なっ……がふっ!?」

 

その瞬間、茂みから飛び出してきた人物──────スティーブがコーヴァスの一人に掴みかかり、両手の盾で殴り飛ばした。

 

「スウァーノ!平気か!?」

 

他のコーヴァス達のハルバードを盾で受け止め、どうにか戦い続けるスティーブだったがいくらなんでも無茶すぎる────と思った時。

 

「避けろ、キャプテン!!」

「っ!」

 

上から聞き覚えのある声がし、スティーブが飛び退いた瞬間に木々の間から現れた黒豹……ブラックパンサーことティ・チャラがコーヴァス達の間に降り立った。そして同時に衝撃波が放たれ、コーヴァス達を吹き飛ばしたのである。

 

「大丈夫か?戦えないようなら下がっていた方が身の為だぞ」

「心配すんな……まだやれる」

 

ティ・チャラに握った手を引っ張って貰い、立ち上がる。スティーブも俺達に駆け寄ってくると、吹き飛ばされたコーヴァス達も体勢を立て直して俺達を囲み始めていた。

 

「三対四か……」

「──────いえ。四対四ですよ、スウァーノ」

 

上空から放たれてきた光線がコーヴァス達に距離を取らせるように俺達の周りを一周した。そして地面を抉った光線が収まると、俺達の前に降り立ったのはストーンの摘出手術を受けているはずのヴィジョンであった。

 

「ヴィジョン!何でここに……!?」

「あの場所までも襲われた以上、私に考えがあります。ですがその前に……この者達を片付けましょう」

 

ヴィジョンがそう言うと、コーヴァス達は苛立ちを隠そうとせず、唸り声やら歯軋りをしている。

 

 

鋭く伸びた爪で立ち向かうブラックパンサー。

 

両手の盾で殴りかかるキャプテン・アメリカ。

 

マインド・ストーンの力を駆使するヴィジョン。

 

アウトエナジーを放出して光線を放つレイ()

 

 

宇宙を守る為、仲間(ヴィジョン)を守る為────俺達は奴らとの戦いに絶対に勝ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方──────サノスの故郷・惑星タイタンにて。

 

「言え、サノスはどこにいる!?ガモーラをどこにやったんだ!!」

「サノスの手下が何を言ってる?お前達こそサノスの居場所を知ってるだろ!」

「はぁ?俺達がサノスの手下だって?ふざけるのもいい加減にしろ!!」

 

カルとマウが乗ってきたQシップに乗り込み、タイタンに不時着したスターク、ストレンジ、ピーターの三人。

その三人に突然メカニカルなヘルメットを被った男、灰色の肉体とスキンヘッドな特徴的な男、そして額に生えた触覚や大きな黒目など明らかに地球人ではない女性の三人が襲いかかってきたのだ。

 

「落ち着きたまえ。私達はサノスを倒す為にここまで来た。君達は?」

「俺達だってそうだ!サノスの奴を倒して俺のガモーラを取り返して……って、だったらこいつらは何なんだよ!?」

「僕達、アベンジャーズだよ!」

 

ナノマシンのマスクを消し、素顔を見せながら答えるピーター。その言葉に触覚を生やした女性が反応を示した。

 

「アベンジャーズって、ソーが言ってた()()を守ってるヒーローチーム!?」

「君達、ソーを知ってるのか?」

「ああ、知ってる。俺達が助けた男の名前だ」

 

スタークの質問に灰色の肉体を持つ男が答える。互いに『相手がソーを知っている』という事実により敵対意識は消え、漂っていた緊迫感も無くなりつつあった。

 

「えっと……貴方達は?」

「俺達か、坊主?俺達はな、()()()で活躍してるヒーローチーム、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーさ」




これにてワカンダ防衛戦編、終了です。次回からはタイタン編が始まりますが……インフィニティ・ウォー編、ちょっと長くなりすぎかな……?


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タイタンの戦い

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、略名ガーディアンズ。それは宇宙のならず者達で構成されたヒーローチーム。

 

地球人とセレスティアル(天界人)・エゴとのハーフにしてリーダーのスター・ロードことピーター・クイル。

 

サノスの義娘にして最強の暗殺者、ガモーラ。

 

サノスと手を組んでいたロナンに家族を殺され、両者を恨むドラックス・ザ・デストロイヤー。

 

アライグマに改造された元賞金稼ぎ傭兵のロケット・ラクーン。

 

ロケットの親友にして相棒、人型植物のヒューマノイド(フローラ・コロッサス)のグルート。

 

かつてエゴに育てられ、彼の従者になるも彼の目的を知って裏切り、ガーディアンズの仲間となった昆虫型の人型エイリアン、マンティス。

 

 

ザンダーの滅亡を目論んでいたクリー人のロナン、宇宙全体を飲み込もうとした宇宙の起源と同時に生まれたとされる謎の古代種族・セレスティアルのエゴ。

そのどちらも倒し、宇宙の危機を救った彼らは立派なヒーローチームとして活動しているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ……貴方達のお友達っていつもあんな感じなの?」

「なにっ?」

 

ガーディアンズのメンバーとスターク達がサノスとの戦いに備えて相談していると、マンティスが困惑した様子で問い掛けてきた。

その言葉に気付いたスタークが目を向ければ、足を組んで宙に浮かぶストレンジの頭が凄まじい速度であちこちへと振り向いているではないか。

 

「お、おい!大丈夫か!?」

「はぁ……はぁ……タイム・ストーンで1400万651通りの未来を視てきた。我々とサノスとの戦いの結末を」

「……その内、僕達が勝ったのは?」

 

 

「我々が勝ったのは……()()だけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久し振りの故郷だ」

 

私はスペース・ストーンの力でワームホールを開き、故郷であるタイタンへと辿り着いた。地球にあるはずのタイム・ストーン……それがこの星から何故か感じられたからだ。

 

「あれは……」

 

僅かに文明が残り、荒廃したタイタンの地面を歩いていると破壊されたQシップを見つけた。あのQシップはマウとカルが使っているもの。それがあのような状態であるという事は……なるほど、大体の事情は掴めた。

優秀な部下を失ったのは惜しいが……今まで私に付き従い、共に戦ってくれた事に感謝している。

 

「ようやく来たか、サノス」

「お前は……」

 

赤いマントをなびかせながら地上へと降りてきた男に目を向ける。その瞬間、私の頭にこの男のこれまでの記憶、力、人間関係など様々な関係が流れ込んできた。おそらくはソウル・ストーンによるものだろう。

 

「スティーヴン・ストレンジ……タイム・ストーンを守る地球の魔術師か」

「一つ抜けているぞ。私は、地球最強の魔術師だ」

 

そう訂正するが、地球人という雑魚共が魔術師になった所で弱い事に変わりはない。その中で最強になっても、私の前では無意味だ。

 

「ならばその地球最強の魔術師にいい物を見せてやろう」

 

私はそう言い、リアリティ・ストーンの力を使った。周囲の光景をかつてのタイタンへと変え、高度な文明を築いていた頃の我が故郷を奴に見せたのだ。

 

「美しいだろう?私の故郷だ。だがこのタイタンは人口の増加により飢餓に見舞われた。だから私が滅びへの道を止めたのだ」

「……虐殺をしてか」

「そうするしか方法がなかった。しかし……タイタンは滅びた。故に他の星は救ってみせると私は決めたのだ」

 

インフィニティ・ストーンを全て集め、全宇宙の生命体を半分に減らす。そうする事で争いも飢餓も無くなり、この宇宙は滅亡の危機から救われるのだ。

実際、今まで救ってきた星に住む者達は裕福に暮らしている。私が思い描いた未来通りに。

 

「それを望んでいるのは貴様だけだ」

「そうだろう。誰もやろうとしない。だから私がやり遂げるのだ。狂人と呼ばれようとな」

「その後は?」

「ようやく休める。新たな宇宙の日の出を眺めながらな」

 

リアリティ・ストーンで生み出した光景を消し、私はガントレットを構える。対峙するあの男も両手にオレンジ色の魔法陣を生み出していた。

 

「……?」

 

そこで私は違和感を感じた。突然頭上が暗くなったのだ。すぐに上を向くと、空高くから巨大な物体が落ちてきているのだ。

それを誰が落としているのかはソウル・ストーンが教えてくれた。

 

アイアンマン──────トニー・スターク。私と同じく知識に呪われ、(サノス)の出現を恐れていた者。

 

私はパワー・ストーンを使ってその物体を破壊し、リアリティ・ストーンで蝙蝠へと変えて奴を襲わせる。

 

──────それが奴らとの戦いが始まる合図となったのだ。

 

 

 

 

 

 

ストレンジ、スターク。そしてクズ虫(ピーター・パーカー)ガモーラが愛していた者(ピーター・クイル)灰色の男(ドラックス)虫女(マンティス)

六人で挑んでくるが、それでもインフィニティ・ストーンを持つ私にとっては誰もが雑魚だ。

 

 

ミサイルの雨を降らされようと────

魔術で生み出した剣で斬られようと────

粘着性のある糸で視界を塞がれようと────

背中に付けられた爆弾を爆発されようと────

二本の剣でいくら斬り付けられようと────

 

 

私には通じない。インフィニティ・ストーンの力で捩じ伏せ、向かってくる者共を叩き潰していく────が。

 

「っ!!?」

 

突然後ろから何かに突き飛ばされた。そのままその何かに引きずられるが、どうにか立ち上がるとそれが我が船の輸送機だと気付いた。その時点で操縦者が誰なのかは勘づいた。

 

「……ネビュラ」

 

思った通り、ボロボロになった輸送機から出てきたのは我が義娘であるネビュラだった。ガモーラからソウル・ストーンの場所を問いただす為に人質として捕えていたが、逃げ出したか。

 

「ガモーラは、どうしたの……!?」

「……お前が知る必要はない」

「答えなさい!!」

 

構えた電気ショックスタッフで私に襲いかかってくるが、私はそれを軽くいなしてネビュラを殴り飛ばした。

 

「…………」

 

ガモーラとネビュラがロナンの件やエゴの星での件で絆を深め、義理でありなからも本当の姉妹のようになった事は耳にしていた。

ガモーラが死んだ事は薄々分かっているだろう。ネビュラもガモーラより弱いとはいえ、私の娘だ。姉を失った怒りや悲しみを分かち合いたい気持ちはあるが、ガモーラを奪った私にそんな事は出来ない。

 

……ネビュラよ、分かってくれ。ガモーラを失わなければソウル・ストーンを手に入れる事は出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬぐっ……!?」

 

ネビュラが加わった奴らと戦いを続けていると、ストレンジが伸ばしてきた鎖がガントレットに絡まり、手が無理矢理に開かれた。

さらにはクイルが地面に設置した機械に右手を引っ張られ、他の者達も私の体を押さえに掛かってきたのだ。

 

「貴様らっ……!」

『そいつを渡してもらうぞ……!』

 

スタークがガントレットに掴みかかり、私の左手から抜こうとする。私がそれに抵抗しようとした瞬間、あの虫女……マンティスが頭の上へと落ちてきた。

 

「あ、がっ……!?」

 

そして頭を掴まれた瞬間──────目の前の光景が一瞬にして変わったのだ。

 

「これは……っ!?」

 

荒廃したタイタンから変わったのは、昔のタイタンであったものの私がリアリティ・ストーンで見せた時のような美しさはない。

多くのタイタン人が死に、火が燃え盛り、多くの屍の上にたった一人の『醜いタイタン人()』が立っていた。

 

「うぅっ……ぐ……!?」

 

私がタイタン人を虐殺した光景からまた変わり、そしてまた変わっていく。

 

 

今まで私が救ってきた星。

 

マインド・ストーンを手に入れる為に滅ぼした種族。

 

パワー・ストーンの力で崩壊させたザンダー。

 

ノーウェアで殺したコレクター。

 

 

そして──────

 

『拐われた時、私はまだ子供だった』

『救ってやったんだ。母を失い、あそこで彷徨っていたお前を』

 

ガモーラをノーウェアで待ち伏せし、我が船に連れ戻した後。私はソウル・ストーンの在処を尋ねる前に、ガモーラに私の元に戻ってくるよう説得しようとした。私がしている事がどれだけ厳しく、どれだけこの宇宙にとって大事なのかを理解してもらって。

 

『……いいえ。私は故郷の星で幸せだった』

『腹を空かせ、ゴミを漁ってもか』

 

ガモーラの種族……緑色の肌と赤紫色の髪が特徴的なゼホベレイも他の星と同じく人口の増加で飢餓に見舞われた者達が大勢いた。ガモーラもその一人であり、過酷な生活を強いられていたのだ。

 

『崩壊寸前の故郷を私が救ってみせた。その後、どうなった?生まれた子供たちの腹は満たされ、澄んだ空しか知らない。楽園だ』

『半分を殺したからよ』

『小さな犠牲で大勢を救ったのだ』

 

そうでなければ人口が増え、飢餓や争いが起こる星を救えない。それが嫌なら他の星に移住するしかない。だが生命体が住める星は多くない。移住する為にもその星に住む者達を殺さなければいけなくなる。

 

『……正気じゃない』

 

分かっている。正気じゃなければこんな方法を行動に移すはずがない。狂人と言われている私が最も自分を狂人と思っている。

だが……やるしかないのだ。後悔をしようと罪悪感を何度も感じようと。それこそが私の使命であり、タイタンを救えなかった私の()()()()なのだ。

 

だから──────

 

『すまない……ガモーラ』

『やめて!!』

 

私はヴォーミアで大切な娘であるガモーラを殺した。誰もが躊躇うはずの事を私は『宇宙を救う』という目的の為に感情を殺し、実行したのだ。

 

どれだけ悲しもうと。どれだけ傷つこうと。

 

狂人と言われようと。正気じゃないと言われようと。

 

大切な部下を失おうと。大切な娘を失おうと。

 

私がやらなければならない。この先の宇宙がどうなるか分かっている私だからこそやらなければいけないのだ。

 

「────……はどこだ!?」

 

……誰だ?私が今一度、決意を固めた時に声を掛けてくる輩は。

 

「────……ラをどこにやった!?」

 

そもそも私は今まで何をしていた。何故私は過去の光景を見ている。

 

「────……いつは、ガモーラと一緒にヴォーミアに行った。だけどそいつだけが戻り、ガモーラは戻ってこなかった。つまり……っ!!」

 

……そうだ。思い出した。私は戦っているのだ。タイム・ストーンを手に入れる為に。

 

「おいっ、言え!俺のガモーラはどこにいる!?」

 

ガモーラは私の娘だ。貴様のものなどではない……だが、失いつつある意識を目覚めさせる為にこいつを利用させてもらおう。

 

「ガモー……ラは、死んだ。私が……殺したのだ」

「っ……ふざけんな!嘘だと言えっ!この野郎!!」

 

顔を何度も強く殴られる。そこで気が付いた。ガントレットがスタークとクズ虫により抜かれようとしているのを。

 

「ふんっ!!」

「きゃあっ!?」

 

頭の上にいる邪魔な虫女を振り落とし、私を止めに掛かっている者達を全員殴り飛ばしていく。そしてガントレットを左手に嵌め直し、私は宇宙に浮かぶ月を見た。

 

「これでもくらうといいっ……!」

 

ガントレットを月に向け、パワー・ストーンで破壊する。そして巨大な破片へと変わった月をスペース・ストーンで上空へと転移させた。

そして────隕石となったその破片を奴らに向かって落としたのだ。

 

 

 

 

 

 

僅かに残っていたタイタンの文明は墜落する隕石により完全に破壊され、地形も変わっていった。大きな爆発音が響き渡り、瓦礫の山が次々と生まれていく。

 

「ふっ……はぁっ!」

 

そんな中、無事だったストレンジの魔法陣から稲妻の如く光線が放たれ、地形を破壊しながら私に向かってくる。私はそれを跳躍して避け、今ある全ストーンの力を込めた光線を放った。

その光線をストレンジが跳ね返し、私もスペース・ストーンの力で跳ね返し──────最後はストレンジがただの葉へと変えた事で終わりを告げた。

 

すると次の瞬間、ストレンジが何十人もの分身を生み出した。そして一斉に鎖を投げつけて私を拘束したが……ソウル・ストーン、そしてパワー・ストーンの力で奴の分身のみを破壊したのだ。

 

「タイム・ストーンは渡してもらうぞっ!」

「うおっ……!?」

 

リアリティ・ストーン、スペース・ストーンで奴を引き寄せ、首を掴んで締め付ける。そしてもがいている間に私はストーンがあると思われる首飾りを奪い、握り潰した。その中にタイム・ストーンは──────なかった。

 

「っ……ストーンをどこに隠した!」

 

小賢しい真似をしてくれたストレンジを私は放り投げた。壁にぶつかって転がっていく奴は起き上がらず、おそらく気絶したのだろう。ならばソウル・ストーンで目覚めさせればいいだけの話だ。

 

そう思いつつ、奴に近付こうとすると突然左手に何かが装着された。それはスタークが装着しているアーマーの手の部分である。手が開かれ、閉じられないようにしてある事に気付くと、スタークが目の前に降り立った。

 

……面白い。アーマーを纏っただけの地球人が私に一騎討ちを挑むか。

 

「来るがいい……トニー・スターク」

 

私の言葉を合図に奴は動き出した。ミサイルを撃ち、蹴りを放ち、ハンマーへと変化させた両腕で私を殴り飛ばす。間を見せず、反撃を許さない怒涛の攻撃に私は耐えていたが──────僅かだが、私の頬に小さな傷が作られた。

 

「ようやく、か」

『何?』

 

かつて地球にロキを仕向け、私はスペース・ストーンを手に入れようとした。だがスタークの行動により二つとも地球人の手に渡ってしまった。そして今回も奴は私の計画を邪魔する為に現れ、私に挑んできた。

あの頃はまだ小さな芽だった存在が、今では私を傷つけられる存在となった。

 

敵ながら惜しいがこの男は……今ここで潰しておくべきだろう。

 

『がっ……!?』

 

マスクを剥ぎ取り、スタークの素顔が現れる。奴に装着された手の部分もガントレットから外し、私はパワー・ストーンの力を発動してスタークの顔を狙った。

だが直前でマスクが再び現れ、致命傷を与えられないまま奴は吹き飛ばされていった。それでもマスクの半分以上が割れ、アーマーの一部も失われている。

 

「これで終わりか?」

「ぐっ……まだ、だ!!」

 

両手から光線を撃つ。私はそれをもろに受けながら進み、スタークの前に辿り着いた。腕の先端から剣を出現させ、挑み掛かってくるが私はそれを容易く受け止めてへし折り──────スタークの体に突き刺した。

 

「かはっ……」

「よくやったと褒めてやろう。トニー・スターク」

 

私はスタークの頭に手を置き、称賛する。私の計画を邪魔し、何年もの間警戒し続け、そして私の前に立ちはだかった男。だからこそ称賛するに値する。

 

「だがこれで終わりだ」

 

閉じたガントレットをスタークに向け、四つのストーンの力を発動する。致命傷を負って動けず、無防備な奴を今ならば確実に殺せるだろう。

 

「待て、サノス!」

「ぐっ……ドクター……」

 

いつの間に気付いたのか、ストレンジが私に声を掛けてくる。私はガントレットをスタークに向けつつ、顔だけを向けた。

 

「私と、取引をしないか?」

「取引だと?」

「……お前にタイム・ストーンを渡そう。その代わり、スタークを助けてくれ」

「っ……ドクター、それは……!!」

 

ふん……甘いな。仲間を助ける為に大事なストーンを手離すか。だが、それと同時に懸命な判断でもある。

 

「いいだろう。だが偽物を渡せばどうなるか分かっているだろうな?」

 

もしもタイム・ストーンが偽物だったならばスタークをすぐに殺す。もしも仕掛けが施されていたとしても、ストーンの力で身を守ればいい。

 

「ああ……分かっている」

 

ストレンジの手元に出現したタイム・ストーン。それを奴はゆっくりと浮かび上がらせ、私の元へと飛ばしてくる。私はそれを右手で掴み、本物かどうか確認した上でガントレットへと嵌め込んだ。

 

「ぐっ……はぁぁああ……!」

 

体の中に力が張り巡らされる。パワー、スペース、リアリティ、ソウル、タイム……そしてマインドが揃った時、私はこれ以上の圧倒的な力を手に入れるだろう。そしてその時こそが我が目的が達成される時……!

 

「ストーンは渡しただろう……早くスタークを助けてやってくれ」

「ああ、いいだろう」

 

私はリアリティ・ストーンの力を発動する。それによりスタークに突き刺さっている剣は塵となって消え、傷もなかったかのように消えていった。

 

「うぉぉおおおおっ!!」

「っ、クイル……!」

 

意識を目覚めさせる為に利用したクイル。奴がブラスターを撃ちながら迫ってくるが、私はスペース・ストーンで作り出したワームホールの中へと吸い込まれていく。

奴には感謝しないといけないだろう。ガモーラが死んだ事で煽ったとはいえ、奴のお陰で私はタイム・ストーンを手に入れられたと言っても過言ではない。

 

「礼を言うぞ、ピーター・クイル」

「このっ……逃がすかぁぁっ!」

 

ワームホールに飛び込もうとしてくるが、直前で入り口は閉じられた。おそらく私を逃がした事を悔しがっているだろう。

 

ともかくこれでストーンは五つ揃った。残るはマインド・ストーン、そしてそれがあるのは──────地球だ。




今回の話を書いてる時、サノスとブラック・オーダーをメインにした話を書きたいなーと考えてました。サノスとブラック・オーダーの出会いの話とか、ガモーラやネビュラとの絡みとか……いつか書きたいと思います。

ちなみに最初にストレンジが言っていた『二つ』の内、一つは普通に映画と同じ未来です。


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サノスVSアベンジャーズ

今回の終盤、多少グロ表現があります。人によっては「何だ、こんなもんか」と思う人もいると思いますが、苦手な人の為に一応伝えておきます。

それではそろそろ終わりが近付いてきたインフィニティ・ウォー編、どうぞ!


「ぐっ……!」

「はぁっ!!」

「がっ……!?」

 

俺は迫ってきたコーヴァスのハルバードをバリアで受け止めたものの、その場で拮抗したまま動けなくなってしまった。だがティ・チャラが横から襲い掛かった事でコーヴァスは吹き飛び、転がっていった。

 

「この、邪魔を……っ!?」

 

起き上がったコーヴァスの胸が背後からハルバードで突かれた。それをやったのは俺と同じく疲弊しつつあるヴィジョンであり、動かなくなったコーヴァスは放り投げられた。

 

これで────ようやく四人全員のコーヴァスを倒せた。だが姿が同じ奴が四人も倒れているってのはちょっと不気味だな……。

 

「大丈夫か、ヴィジョン?」

「はい……まだ、どうにか……」

 

スティーブが膝をついているヴィジョンに声を掛ける。すると、無線機からシュリの声が聞こえてきた。

 

『ねぇ、ヴィジョンは大丈夫!?ストーンをギリギリの所でヴィジョンとくっつけてるだけだから危険なの!早くリアクターと繋げないと!』

 

シュリからの言葉に俺達は驚く。ヴィジョンはそんな状態で俺達を助けに……。

 

「スウァーノ……貴方が考えてる事は違います。私が自らシュリに頼んだのです。ストーンを私の意思で外せる限界までプロテクトを外してくれと」

「何故そんな事を?」

「……あの場所が襲われた以上、もう猶予はありません。ですが皆は私を犠牲にするわけにはいかないと言う。だから考えたのです、ストーンを今すぐ彼女に守ってもらおうと」

「彼女って……ワンダか?」

 

俺の質問にヴィジョンは頷く。確かにワンダはマインド・ストーンを守るのに相応しいだろう。ワンダと愛し合ってる事もあるが、何よりワンダはマインド・ストーンから力を得た。ストーンそのものを保持すれば、その力を底上げする事も可能かもしれない。だが……。

 

「シュリが言ってただろ、ストーンを外したらすぐにリアクターと繋げないといけない。機能停止すれば何が起こるのか分からないって」

「構いません。それを承知で私はここに来たのですから」

 

……ワンダには止められていた事だが、ヴィジョンはやはりストーンを敵に渡さない為に自分がどうなると構わないという意思を強く持ってるんだろう。ワンダには悪いが、その覚悟には恐れ入る。

 

「ならばまずは彼女と合流しよう」

「だな。きっとまだあっちで戦って……っ!?」

 

茂みをガサガサと鳴らし、何かが近付いてくる音が聞こえた。そろそろ限界なヴィジョンを守るように俺達は立ち、まだ姿が見えない相手に警戒する。

そして数秒後──────

 

コー……ヴァスゥゥッ!!

 

「うおっ……!?」

「くっ!!」

 

茂みから飛び出してきたのはプロキシマ……のような気がする敵だった。まるで獣の如く襲いかかってくる奴を俺がバリアで止め、スティーブが勢いよく盾で殴りつけた事で木の幹へと叩きつけられた。

 

「な、何なんだ?あいつ、本当にプロキシマか?」

「様子は違うが……おそらく彼女だろう」

 

スティーブの言葉にあいつ自身も、そして俺もティ・チャラも驚く。さっきまで見ていた奴とは思えないからた。牙を生やし、体は刺々しくなり……さらには腰から尻尾が生えているときたんだから当たり前だ。

 

「スウァーノ!!」

 

するとプロキシマを追い掛けるように走ってきたのはミアにナターシャ、ワンダ、オコエ。

 

「ゥガァァァアアアッ!!」

跳躍してきたのか、上空から木々をへし折りながら着地するハルク。

 

「おおい……サノスが来てるとか聞いてねぇぞ!?」

「オレはグルート!!」

 

サノスの出現に驚く、途中にソーから名前だけ聞いたアライグマことロケット、人みたい木ことグルート。

 

「みんな、大丈夫か!?」

『敵はソーがみんな倒してくれてる!あとは……そいつだけか!』

 

広い場所へと共に着地するサムとローディ。

 

総勢十三人に囲まれるプロキシマ。その顔に憎悪や怒りの表情が見えるが、口から漏れるのはコーヴァスという名前と獣のような唸り声だけである。

 

「おい、一体何があった?」

「分かりません……突然自分の武器を体に突き刺したと思ったらあの姿に」

 

ティ・チャラがオコエに確認をするが、どうやら彼女も分からないらしい。おそらくプロキシマ自身か、持っていた槍に何か仕掛けがあるんだろうが……。

 

コー……ヴァ……ッッ!?

 

突然プロキシマが怯えたような表情を見せたかと思うと、後ろを振り向いた。俺達も視線を奥へと向けると、かつてスペース・ストーンが生み出したようなワームホールが出現し────そこから出てきたのは。

 

「あれは……」

「あれがサノス……だろうな」

 

左手に装着しているガントレットにいくつかのストーンが嵌められてるのが証拠だ。その数は五つ。確かストーンは全部で六つあるって話だが、という事は……。

 

「まさかスターク達……やられたのか……?」

「なっ……!?」

 

俺の言葉にスティーブが驚きの声を上げ、みんなも目を困惑した様子を見せる。だがストーンの一つであるタイム・ストーンを持っていたストレンジとスターク達は一緒にいるとバナーが言った。考えたくはないが、サノスがそのストーンも持っているという事はつまりっ……!

 

「安心しろ、地球人……スタークは生きてるぞ」

「なにっ……!?」

「他に一緒にいた仲間もな」

 

……信じていい話かは分からないが、もし本当なら喜ばしい事ではある。だがどうしてスターク達を殺さなかった?ストーンを手に入れたいならその位すると思っていたんだが……。

 

「それよりも……プロキシマ。私の命令に従わずその姿へとなったか……」

サノ……ス……様

「お前を苦しませたくはなかったのだが……すまないな。今すぐその苦しみから解放してやる」

 

サノスのガントレットに嵌められてるストーン……その一つが紫色に輝き出す。そしてそのストーンをあいつはプロキシマに叩き込んだ。

 

「んなっ!?」

あ……がっ……コ……ヴァ……

 

プロキシマの体が紫色の粒子となって消え始め、ほんの数秒もしない内に彼女は俺達の目の前から姿を消してしまった。

 

「……プロキシマ、コーヴァス。二人で会える事を願っているぞ」

 

そう呟くサノスは俺達に倒されたコーヴァスを見つめていた。

 

「おいっ……どういう事だよ?」

「何がだ?」

「仲間だったんだろ!?それなのに何で……!」

「苦しみから解放する為だ。プロキシマの種族はあの姿になれば、二度と元の姿には戻れなくなる。そして本能のみで戦い、意識は怒りや憎悪、悲しみに蝕まれる」

「だからって……!!」

 

大切な仲間を……そんな躊躇いなく殺していいはずないだろうがっ……!

 

「さて……話はここまでにしよう。私がここに来た目的はただ一つ……そいつからストーンを奪い取る事だ」

 

そう言い、サノスは余裕そうな顔でこちらに歩いてくる。俺達だけで勝てるのかは分からないが……少なくともヴィジョンがワンダにストーンを渡すだけの時間は稼いでみせる。

 

「ヴィジョン、お前はワンダと一緒に下がって……ここに来た目的を達成しろ」

「はい、ありがとうございます」

「えっ?ど、どういう事よスウァーノ?私もみんなと一緒に……ヴ、ヴィジョン!?」

 

事情を知らないワンダをヴィジョンが後ろへと連れていく。他のメンバーもヴィジョンの行動に困惑する者もいるが、俺やスティーブが何も言わないからか何か考えがあると思ったんだろう。そのまま何も言わないでくれた。

 

「みんな、油断するな。何をしてくるか分からないぞ……!」

 

スティーブの言葉に全員が頷く。だから全員で立ち向かい、あいつが何かをする前に倒せればと考えていた。

 

 

キャプテン・アメリカが盾を振りかぶり。

 

ブラック・パンサーが爪を振り降ろし。

 

ミアがセルファローを薙ぎ払い。

 

ハルクが拳を突き出し。

 

ブラック・ウィドウがバトンで攻撃し。

 

ロケットのキャノン砲が火を吹き。

 

グルートが枝を成長させた触手で攻撃し。

 

オコエが槍を突き放ち。

 

ファルコンがライフルを連射し。

 

ウォーマシンが全装備を展開して攻撃し。

 

レイ()が光線を放ち。

 

 

全員で立ち向かえば勝てると思った。そうじゃなくても奴の足止め位は出来ると思った。

 

そして──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所詮はこの程度か」

 

私は周囲に倒れる者達を見渡してそう呟いた。しつこく挑んでくる奴もいたが……そいつも最後には倒れた。ガントレットが閉じる事が重要だと気付き、止めに掛かった者もいたが、そいつも今では気を失って倒れている。

 

「ぐっ……かはっ……」

「む……?」

 

後ろで声が聞こえ、振り向くとたった一人だけまだ意識を失っていない奴がいた。だが立ち上がる事は出来ず、膝をついてしまっている。

 

────スウァーノ・エイナム

 

ソウル・ストーンにより頭の中に入ってくる情報に……私は驚いた。こいつの能力にはソウル・ストーンが関係している。だがこのストーンは私が手に入れるまでヴォーミアに誰の手に渡る事もなく隠されていた。

 

なのに……何故こいつはソウル・ストーンから力を得ているのだ……?

 

「サノ、ス……」

 

聞きたい事はあるが……それは後でいいだろう。今はそれよりもマインド・ストーンを手に入れる事の方が先決だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……────説明は以上です。ワンダ、マインド・ストーンを持ってすぐにここから逃げてください」

「ちょ、ちょっと待ってヴィジョン……!」

 

アベンジャーズがサノスと戦っている間、ヴィジョンはワンダに自分が考えた作戦を説明していた。そして実際にそれを実行しようとするが、その前にワンダに止められた。

 

「そんな事をすれば貴方は……っ!」

「……はい、私はどうなるか分かりません。ですがこの宇宙を救う為には────」

 

「っ……宇宙がどうとか関係ないっ!私にはっ……ヴィジョンが必要なの!!」

 

ヴィジョンの言葉を遮るようにワンダが叫んだ。

 

そもそもワンダとヴィジョンでは考え方が違っているのだ。ヴィジョンは宇宙や地球、仲間を自分を犠牲にしてでも救おうとしている。反対にワンダはそんな壮大な話よりも、愛するヴィジョンをその事の為に失いたくないのだ。

 

「私はヴィジョンと一緒にいたいの……だからっ!」

「……ワンダ」

 

ワンダの目から流れる涙をヴィジョンは指で拭い、頬に手を添えた。

 

「ならば約束をしましょう、ワンダ。どんな事になろうと私は必ず貴女の元に戻ります」

「……本当に?」

「はい。私と貴女は結ばれた赤い糸を辿り、探し、また巡り会う。きっとそんな運命が待っているはずです」

 

ヴィジョンが言っている事はもちろん根拠のない話である。だがワンダに信じてもらう為には十分なようだった。

 

「うん……分かったわ。私もそんな運命が来る事を待ってるわ」

「ワンダ……後をよろしくお願いします」

「ええ……任せて」

 

ヴィジョンは自らの意思で最後のプロテクトを外し、マインド・ストーンを自身の額から手に取った。そしてすぐに脱力感に襲われ、ヴィジョンはふらつくがワンダにしっかりとストーンを渡す事は出来た。

 

「ヴィジョン……!」

「ワン、ダ……────ッ!?」

 

ワンダはヴィジョンを支えようとする。ヴィジョンも彼女の体に身を預けようとした瞬間、後ろから頭を鷲掴みにされて体が持ち上げられてしまった。

 

「ストーンを渡せ。でなければこいつの頭が潰れる事になるぞ」

 

ヴィジョンを持ち上げたサノスの右手からはミシミシという音が聞こえてくる。既にストーンを失い、機能停止に陥っているヴィジョンに抵抗できるわけもなく、その頭を砕かれようとしていた。

 

「っ……やめて!!」

「ならばストーンを渡せ。さぁ、はや────」

 

そこまで言った瞬間、上空から放たれた雷撃がサノスを襲った。ヴィジョンの頭から手を離し、吹き飛んでいったサノスは木々を薙ぎ倒していく。

 

「……ソー……」

「早く逃げろ。奴は……俺がここで殺す!」

 

ストームブレイカーを携えながら着地したソーはワンダにそう言う。頭を砕かれず、倒れているヴィジョンを心配そうに見つつもワンダは約束を守る為に走り出した。

 

「貴様っ……!!」

「ロキを、そしてアスガルドの民を殺したお前を殺して……敵を討つ!!」

 

立ち上がるサノスに近付いていくソー。そんな彼の隣に一つの影が現れた。

 

「俺も……やるぞ、ソー」

「負けただろ。お前は下がってろ、スウァーノ」

「あんただって負けたんだろ……だったらお互い様だ」

 

そう言うスウァーノは周囲にアウトエナジーを放出する。だがそれは────武器に変えるわけでも光線を撃つ為でもない。

 

「もう一回……耐えてくれよ、俺の体……」

「スウァーノ、お前何を────」

 

凝縮し、実体化したアウトエナジーがスウァーノの体を包んでいく。足先から上へと進んでいき、頭もアウトエナジーで作られたフルフェイスマスクに覆われる。

その姿はかつてのレイ・アーマーにも似ているが、金色と銀色で構成され、細部が刺々しくなっているなど少し異なる。

 

──────“エナジー・アーマー“。かつてウルトロンの事件において、一度使ったアウトエナジーを全身に纏うというやり方をスウァーノが試行錯誤の末に進化させ、完成させた最強のアーマーにして切り札である。

 

「さぁ、ソー。サノスをぶっ倒すぞ」

「ああ」

 

身構えるスウァーノとサノスに対してサノスはガントレットを閉じようとする。それを止めようとソーがストームブレイカーで攻撃するよりも前に──────()()()()がサノスを襲った。

 

「なっ……?」

 

ソーが驚くが無理もない。

 

何故ならば、さっきまで隣にいたスウァーノが今ではサノスの顔に強烈な拳の一撃を与えているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────“エナジー・ムーブ“。

 

俺がそう名付けたそれはその名の通り、アウトエナジーという粒子にアーマーを戻し、光速並の速さで移動して辿り着いた場所で再びアーマーへと変えて姿を現す。コーヴァスに襲われるヴィジョンの元に向かう時もこれを使ったのだ。

この時、俺の体は……というか、この姿になっている間、俺は()()()()()()()()している。つまりアウトエナジーで作ったアーマーと一体化しているのだ。

だからアーマーの中に俺の体はない。このアーマーそのものが今の俺の体なのだ。

 

「ぐふっ……!?」

 

突然俺に殴られ、よろけるサノス。しかし顔には傷一つ付いておらず、俺を視界に入れると再びガントレットを閉じようとするが────遅い。

エナジー・ムーブをしてサノスの脳天に蹴りを決めた。

 

「ぐっ……何が……?」

「さぁ、何だろうなっ!」

 

両手から光線を放つ。ブーストラルを使ってないにも関わらず、その威力は絶大で受けたサノスの周りにあった木々が焼き切れていた。

 

「ぐっ……ぉぉぉぉおおっ!!」

 

ついにガントレットが閉じられ、紫色のストーンが輝くと同時に光線が放たれた。だがそれは前方に作ったバリアを貫通する事は出来ず、止められた。

……このアーマーからは異常な量のアウトエナジーが絶えず放出されている。おそらくまだ俺がコントロール出来てないせいもあるんだろうが……そのお陰で強力なバリアが作れるのだ。

 

「バカな……!」

 

俺は離れているサノスの元へエナジー・ムーブで接近し、奴の目の前に現れた。そして右手に周囲に漂うアウトエナジーを全て集める。それにより俺の右手は熱を持ち始め、強く輝き出した。

 

──────“エナジー・バースト“。

 

「吹っ飛べ!!」

「ぬがっ……!?」

 

サノスを両腕による防御の上から殴る。だが集めたアウトエナジーが爆発を起こした事でその防御は無意味となり、サノスは遠くに見える岩へと叩きつけられた。

 

「っ……ぐっ、はぁ……!」

 

サノスの元へ向かおうとするが、凄まじい痛みと疲労感により膝をつく。だがまだギリギリ、アーマーの解除はされない。

 

エナジー・アーマーはアウトエナジーを大量に消費し、俺の体は今、そのアウトエナジーと同化している。

 

そして戦う為に俺はアウトエナジーを使っている。基本は体力や気力などと引き換えに生み出したアウトエナジーが放出されているが……過度な使用を続ければ体力や気力などを根こそぎ奪われ、今度は体が変えたアウトエナジーが使われる事になる。

 

つまり────諸刃の剣なのだ、このアーマーは。

 

「なるほどな……ソウル・ストーンより与えられた力、それを全て解放した姿がそれというわけか」

「っ!」

「だがまだ完全に制御できてるとは言い難いものだな」

 

こちらへと向かってくるサノス。防御をしていた両腕は赤く腫れ上がっており、着ているインナーは所々破けている。今までと比べるとダメージは大きいが……致命傷まではいかなかったらしい。

 

「敵ながら凄まじいものだな、スウァーノ・エイナム。お前達の中で私に傷を負わせたのはお前とスタークだけだ」

「そう、かよ……」

「誇ると共に痛感するといい。誰も私には勝てないのだと────っ!!?」

 

サノスが俺にガントレットを向けた瞬間、奴の背後から現れたソーが斧を振り払い……首元へと突き刺したのである。

 

「あがっ……はっ……!?」

「う、おおおおおっ!!」

 

首元から血が吹き出し、苦しむサノスにソーはさらに斧を食い込ませようとする。だがそれも長くは続かず、ソーは投げ飛ばされてすぐにガントレットが閉じられた。

緑色のストーンが輝くと、サノスの時間だけが戻っていき────斧は抜かれて地面に落ち、首の傷も塞がっていってしまった。

 

「ぬぅ……愚かなアスガルド人がっ!」

「っ……!」

 

サノスが顔を踏み潰そうとするが、咄嗟に避けるソー。そして飛んできた斧を手に取り、勢いよく振り降ろす──────が、それはガントレットに掴まれて止められてしまった。

 

「この……怪物めっ……!」

「何とでも言うがいい」

 

顔を殴られ、地面に倒れるソー。掴んでいた斧を投げ捨ててソーを持ち上げたサノスはガントレットのストーンを全て輝かせた。

 

「ぐっ……」

「弟と同じ運命を共にするがいい……!」

 

あのままではソーがサノスに殺されるのは明白である。どうすればいい、と考える俺の視界に入ったのはサノスが地面に落としたソーの武器。

 

ソーを助ける為に。サノスを倒す為に。俺はその武器を──────()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだっ……!!?」

 

ガントレットから五つのストーンの力を集めた光線を放とうとした瞬間、サノスは危機感を感じた。自分の命を脅かす存在が迫ってきている──────だがそれは気付くのに遅すぎるものだった。

 

「……っ……!?」

 

脳天に痛みが走る。次にサノスの視界がズレる。そして最後に口が半分に割けた。

 

「っ……スウァーノ……」

 

ストームブレイカーにより顔が縦半分に割けたサノス。当然その状態で生きているわけもなく、サノスは膝から落ちてうつ伏せに倒れるのだった。

 

「これで……絶対に……死んだだろ……」

 

限界が訪れてアーマーがアウトエナジーへと霧散し、体が元に戻るスウァーノ。持っていたストームブレイカーを取り落とし、背中から地面へと倒れた。

 

「……やったな、スウァーノ」

「ああ……」

 

サノスの血で濡れたストームブレイカーを拾うソーは動かなくなったサノスを見て、グッと両手に力を入れた。

アスガルドの民、そしてロキを殺したサノスを自分の手で殺したかったのだ。結果は成功だが、自分の手で復讐を果たせなかった事が心残りなのである。

 

「スウァーノ!ソー!大丈夫か!?」

 

スティーブを先頭にアベンジャーズのメンバー、ティ・チャラ、オコエがこちらへと走ってくる。ハルクは気絶したからかバナーの姿に戻っており、一番後ろを走っていた。

 

「サノスは……っ!?」

 

尋ねてくるスティーブに対してスウァーノとソーは頭を割かれたサノスに視線を向ける。血の池を作っているその姿に何人かは引いていたが、サノスを倒せた事に喜ぶメンバーもいた。

 

「スウァーノッ……やったんだな!」

「ああ……やったんだ、俺達」

 

走ってきたミアを座りながら抱き締めるスウァーノ。ミアから「大丈夫か?」や「やっぱりスウァーノは凄いな!かっこいいな!」など心配されたり、褒められたりするスウァーノはソーが死体と化したサノスをジッと見つめてる事に気付いた。

 

「どうしたんだ、ソー?」

「何かあったのか?」

 

同じくソーを気にしていたスティーブも声を掛ける。それに対してソーは無言のまま立ち尽くしていた。

 

「……ソー?」

()()()……()()()()……!」

 

ソーがそう言った瞬間──────サノスの体が赤い霧となって消えていったのである。

 

「え……?」

「こいつは偽物……リアリティ・ストーンで生み出された幻だ!!」

 

そう言い、ソーはすぐさまストームブレイカーの力で空へと飛んでいった。

本物のサノスが狙っているワンダの元へと向かう為に。




知らない人の為に説明しますと、スウァーノがストームブレイカーを持てたのは映画の監督が言っていた通り、「ストームブレイカーはムジョルニアとは違う」からです!


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アベンジャーズ、全滅

今回にて長かったインフィニティ・ウォー編、終了です!
そしてようやく物語に大きな変化とオリジナル要素が……?


オリ主・オリキャラ紹介にてブラック・オーダーのオリジナル能力などを追加しました!興味があれば、見てください!


「はぁっ、はぁっ……!」

 

サイコキネシスで空を飛び、森を抜けたワンダは未だ戦いが繰り広げられてる戦場へと降り立った。手の中に収まっているマインド・ストーンを一度見て握り締め、再び飛び立とうとして──────目の前の風景が歪みだした事に気付いた。

 

「っ……なに……?」

 

空間が歪み、ワームホールが生まれるとワンダは先程見たものと似ている事から嫌な予感を感じた。

 

「嘘でしょっ……!?」

 

ワームホールからゆっくりと出てきたのは本物のサノス。その体はほぼ無傷であり、目の前にいるワンダを見つけるとニヤリと口の端をつり上げた。

 

「嘘ではないし、幻でもない。現実だ。そして運命はいつでも私の手の中にある」

「あっ……!?」

 

リアリティ・ストーンが強く輝く。するとワンダが持つマインド・ストーンが糸のようにほつれていき、それはサノスの右手へと向かっていく。糸は集まって形を作り、再びマインド・ストーンの姿を現した。

 

「だめっ!!」

「無駄だ」

 

ワンダがストーンを取り返そうと迫るが、パワー・ストーンとスペース・ストーンの力で放たれた衝撃波により吹き飛ばされてしまった。

 

「これで……全てのストーンが我が元に集ったか」

 

ガントレットの中央部分にマインド・ストーンを嵌めるサノス。全身に流れる圧倒的な力に苦しむが、それもすぐに収まった。そして──────ガントレットには全てのインフィニティ・ストーンが嵌められたのである。

 

「サノォォォオオオス!!」

「ぬぐっ……!?」

 

上空から突然飛んできたストームブレイカーをサノスは間一髪ガントレットで防ごうとするが、大きく弾かれて刃が胸に突き刺さる結果となった。

 

「ぐ、うっ……貴様……!」

「……これで終わりだ。お前を殺して……復讐を果たす……!」

 

膝をつくサノスにソーは近付き、勢いよく耳を引きちぎろうとする。痛みに悶えるサノスだったが、次第に顔には笑みが零れていった。

 

「ならば……頭を狙うべきだったな」

「っ……やめろ!!」

 

サノスの言葉でソーが気が付くが既に遅い。持ち上げたガントレットの親指と中指を合わせ、躊躇いなく────────“パチンッ“と音を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ────!!」

 

その瞬間、ガントレットは今までと見間違える程に焼け焦げた。全てのインフィニティ・ストーンを一度に使った事に素材として使われてるウルでもギリギリ耐えるのが限界だったのだ。

 

「……何をした?何をしたんだ!?」

「今に分かる」

 

ソーが強い口調で詰め寄るが、サノスはただ一言そう呟き、背後に出現させたワームホールに吸い込まれてこの場から消え去ってしまった。

 

「……ねぇ、ソー……ヴィジョンはどう────」

「っ、ワンダ!?」

 

呆然としていたソーの目の前でワンダが砂のようになって崩れ落ち、消えてしまった。その光景に驚くソーだったが、消えているのは彼女だけでなく────周りにいるワカンダの戦士達も次々と同じように消え始めていた。

 

「そんな……!」

 

 

 

 

 

 

 

地球から遠く離れたタイタンでもサノスが行った消滅が始まっていた。

 

「あぁっ……」

 

まずはマンティスが消え────

 

「クイル……」

 

ドラックスが消え────

 

「マジかよ……」

 

クイルが消え────

 

「トニー……これしか、道はなかった」

 

ストレンジが消え────

 

「スタークさん……ごめん……」

 

ピーターも、スタークの腕の中で消えてしまった。

 

「もう……終わりよ」

「……そんな」

 

残されたネビュラとスタークが絶望的な表情で消滅した者達がいた場所を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スティーブ、これは……」

 

バーンズが消え────

 

「こんな所で死ぬな。さぁ、立つ────」

「っ、国王……!?」

 

ティ・チャラが消え────

 

「オレは、グルー……ト……」

 

グルートが消え────

 

「う、あっ……」

「サム!?どこに……」

 

サムも彼を探すローディの目の前で消えてしまった。

 

 

──────そして。

 

 

「ブルース……」

「ナターシャ……?」

 

膝をつくナターシャにバナーは近付く。様子がおかしい事に気付き、触れようとするとナターシャの体が次第に砂のような物へと変わっていってる事に気付いた。

 

「ナターシャ!?か、体が……!」

「ブルース……もう、二度と目の前から────」

 

バナーが崩れ落ちるナターシャを支えようとした瞬間、彼女は完全に砂へと変わり果てて消え去ってしまった。

 

「そん、な……」

 

 

 

 

 

 

 

「これが、サノスがしようとしてたやつなのか……!?」

 

周りで次々と仲間が消えていく事に俺は呆然としていた。バーンズも、ティ・チャラも、グルートも、サムも……そしてナターシャまでも消えてしまった。

 

「……スウァーノ」

「ミア?……ちょっと待て、嘘だろ……!?」

 

こちらにふらつきながら近付いてくるミアに俺は気付いた。どこか苦しそうな表情に俺は嫌な予感がして、ミアを支えようと手を伸ばした。

 

「ごめん……愛してるぞ」

 

だが────その手はミアの体をすり抜け、今までミアだったはずの砂は目の前で崩れ落ちた。

 

「……ぁ……」

 

俺は膝をつき、ミアだったものを掬い上げようとする。だが手が震えてうまくいかず、それは風に吹かれて宙を舞っていった。

 

「そんなっ……」

「国王……陛下……」

「グルート……嘘だろ……?」

「ナターシャ……!!」

「一体何が……どうなってるんだ!?」

 

完全なる──────俺達の敗北(仲間の消滅)だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所──────アメリカ合衆国ジョージア州・アトランタを車で走るフューリー、アベンジャーズ解散に伴い彼と行動を共にしているマリア・ヒルもその異常事態に直面していた。

 

「長官!これは……」

「ああ……何かが起こってる」

 

────自分達の車に衝突した無人の車。

────ビルへと追突するヘリコプター。

────周りで次々に消滅していく人々。

 

この状況をすぐには理解できないものの、フューリーがまず手に取ったのはポケットの中に入れていた小型の無線機だった。

 

「“()()“、緊急事態だ……“ゼロ“?応答しろ!聞こえて────」

「……長官」

 

無線機の向こう側にいる相手にフューリーが叫んでいると、隣にいるヒルがフューリーを呼んだ。彼が視線を向けた瞬間には、先程まで確かにいたヒルも消滅してしまっていた。

 

「くっ……!」

 

途端に走り出したフューリーは呆然と立ち塞がる市民を押し退けて車の中からある物を取り出した。それは今では数も使っている人数も限りなく少ないであろう通信機器、ポケベルである。

 

「頼むぞ……っ!?」

 

ポケベルに数字を打ち込んでる途中、フューリーは自身の体も消え始めている事に気付いた。痛みを感じず、ただ全ての感覚が消えていく状態を悔しがりながら──────フューリーは消え、残されたポケベルは地面へと落ちた。

 

消滅直前でどうにかメッセージが送られていたポケベルの画面には不思議なマークが現れ……上は青、下は赤で構成されたイラストが映し出されていた。




次回、ついに“エンドゲーム編“突入!

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※諸々理由があり、終盤が変更されています。(1/2)


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エンドゲーム
デシメーション/消滅


エンドゲーム編、始まります!この章のタイトルはこんな風に『◯◯/△△』になります。

また、今回からスウァーノの仲間への呼び名が一部変わっています。主にラストネーム(苗字)からファーストネーム(名前)に変わっています。


サノスが引き起こしたインフィニティ・ガントレットによる全宇宙の生命を半分だけ消滅させるというもの──────地球でそれが起こったのはもちろんワカンダだけではなく、同時に地球のあらゆる場所で起こっていた。

 

ワカンダではナターシャ、ミア、サム、バーンズ、ワンダ、ティ・チャラ、グルート。

 

アトランタではフューリー、マリア。

 

サンフランシスコではスコットに加え、一緒にいた事を確認したハンク・ピム、彼の娘のホープ・ヴァン・ダイン、それにジャネット・ヴァン・ダインと言うハンク・ピムの妻。

 

さらにはクリントの家族であるローラ、クーパー、ライラ、ピエトロも反応が一切なく消滅したに違いない。

 

知っている人物をちょっと調べただけでも、こんなにも多くの仲間が消えていた。宇宙へと飛んだスタークやパーカー、ストレンジがどうなったのか分からないが、無事でいてほしいと願っている。

 

だが──────被害に遭っているのは消滅した者だけじゃない。運転手が消滅すれば車やヘリなどの乗り物は事故を起こし、警察官が消えれば殺人や強盗などの犯罪が増える。

 

地球のあらゆる場所で混乱が起こる中、アベンジャーズに出来る事は沢山あるだろう。だが今までのどんなものよりも規模が違い過ぎる上に、俺達も多くの仲間を失って何をすべきか見失っていた。

だから──────まずは消滅した者達を復活させる方法はないかと約二週間ちょっと、俺達はそれを調べていた。

 

 

 

その鍵となるであろう物は──────

 

「おい……ついに止まったぞ」

「何だって?」

 

ローディに言われ、その場にいた俺やブルース、ロケットが顔を向けた。鍵となるであろう物とは、フューリーが残したとされる“古いポケベル“である。そう言ってこいつを渡してきたあの配達員の事を信じるなら、あいつはフューリーの部下か何かだったんだろう。

話を戻すが、そのポケベルは電力を維持する事でどこかへと信号を発信し続けていたんだがそれが突然止まってしまった。つまり……あちら側にいる誰かが通信を切ったに違いない。

 

「もう一度繋げる事は出来ないのか?あちら側に誰がいるのか知りたい」

「僕もそれが気になって続けているんだけど……」

「無理だろ、完全に止まってやがるぜこいつ」

 

ローディに呼ばれてきたスティーブがブルースとロケットに尋ねるが、どちらもお手上げらしい。まぁ、明らかにただのポケベルとは思えないし、そう簡単にうまくはいかないか。

 

「……どうするんだよ?こいつがみんなを復活させる為の第一歩になるかもしれないんだぞ」

「分かってるって、そんな事は!」

「バナー、落ち着くんだ。スウァーノも」

 

消滅した大勢の仲間、そしてミアまでもが消されて……みんなを助ける為の鍵になるかもしれないこの謎のポケベルまで止まって苛立ってしまっていた。ブルースもロケットも頑張ってくれているのにな。

 

「とにかくブルースとロケットは信号の発信を復活させられるか試してくれ。フューリーが一体、誰に信号を送っていたのか分かれば────」

 

 

「貴方達、フューリーを知ってるのね」

 

 

「なっ!?」

「っ……だ、誰だよ、あんた!?」

 

突然後ろから声を掛けられ、驚きで飛び退いた俺達の目の前に現れたのはポケベルの画面に映っていた画像と似たようなスーツを身に纏った金髪の女性であった。

 

「一体どこから……いや、もしかして君がこのポケベルの向こう側にいた?」

「ええ、そうよ。これがその証拠」

 

そう言ってスーツの前腕に装備されてるガントレットのタッチパネルを操作すると、再びポケベルが鳴り出した。

 

「……それであんたは何者なんだ?」

「私はキャロル・ダンヴァース、前にフューリーとタッグを組んでたの。キャプテン・マーベルって呼ぶ人もいるけど、こっちはヒーロー名だから」

「キャプテン……マーベル……?」

 

キャプテン・マーベルというヒーローも、キャロル・ダンヴァースという名前も聞いた事がない。いや、もしかしたら俺達が知らないような場所で今まで活動していたのかもしれないが。

 

「それでフューリーはどこに?N-14から飛んできたから、大分時間が掛かったの」

「えっと、それってどこの地名かな?」

「N-14……もしかして『サムアックス』か?」

 

ダンヴァースから謎の単語が出てきてブルースを始めに俺達は困惑していたが、この中で宇宙出身であるロケットは理解できたようだった。

 

「サムなんだって?」

「サムアックス、サムアック人とかいう奴らが住んでる星だ」

「星って……あんたは自分が宇宙から来たとでも言いたいのか?」

「ええ、そうよ」

「本気か?」

「本気よ」

 

ローディがダンヴァースの事を疑っているが、正直俺もまだ信じられない。N-14もといサムアックスという場所をロケットが知ってたから信憑性はあるが、一体どこまでが本当なのか。

 

「話を戻すわよ。フューリーはどこにいるの?」

「……残念だが、フューリーはいない」

「いない……?」

 

スティーブがそう言うと、ダンヴァースが驚きと困惑が入り交じった視線を向けてきた。そして顎に手を当てて考え込んでいたが、しばらくすると自身の中で解決したようだった。

 

「サノスに消されたのね?」

「っ……奴を知ってるのか」

「ええ。あいつが宇宙のあちこちで何をしてきたか、その目的が何なのか全部知ってるわ。サムアックスや他の惑星で消滅が始まったからまさかとは思ったけど、ついにやったのね」

 

サムアックスや他の惑星で、か……ダンヴァースの言葉を信じるなら本当に宇宙のあちこちで沢山の命が消されているんだろう。

 

「君は何か知ってるか?消されたみんなを元に戻す方法を」

「それは────」

 

ダンヴァースがスティーブの質問に答えようした瞬間、どこからか激しめな音が室内で鳴り響いた。ほとんどが驚き、一体どこから聞こえてくるのかと思っているとその発信源らしき機械をロケットが取り出した。

 

「おっ、ようやく繋がったみたいだな」

「何だそいつは?」

「俺の仲間が乗ってるベネター号と繋がってる通信機さ。あいつら、どこに行きやがったのか全然繋がらなかったけどな」

 

そう言うと、ロケットが通信機のボタンを押す。すると通信機から鳴り響いていた音が消え、代わりに誰かの声が聞こえてきた。

 

「おい、クイル!お前ら、今どこにいんだ?こっちは大変な事に……」

『その声、ロケットね……やっと通信が繋がって安心した』

「あぁ?……その声、お前もしかしてネビュラか?」

『ええ……久し振り』

 

ダンヴァースに続き、またもや知らない名前が増えたな。クイルにネビュラね……ロケットはクイルっていう人が出ると思っていたんだろうけど、実際はネビュラという人だったと。話からするに互いに知り合いみたいだか、仲間なんだろうか?

 

「何であんたが俺達の船に乗ってる?クイル達はどうしたんだ?」

『……ロケット、落ち着いて聞きなさい』

「何だよ?……おい、まさか……」

 

 

『彼らは────消えたわ。一緒にいたテラ人(地球人)三人の内、二人と一緒に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────ネビュラからサノスの故郷・タイタンで何があったのか、スターク達がどうなったのかを全て聞いた。ロケットは仲間が消滅したという話を最初こそ信じていなかったものの、次第に本当だと気付き始めてからは落ち込んでしまっている。

 

逆に俺達はスタークは生き残っているという話を聞き、安心した。だがベネター号の燃料や酸素、食料が残り少ないらしく、通信機から座標を割り出してダンヴァースが救出に向かった。宇宙から来たという話を疑っていたが、あのスーツ姿のまま宇宙へと飛び上がっていく姿を見れば本当だと信じるしかない。

 

だが……他の二人、その内の一人であるピーターは消滅してしまったという話を聞いて、俺の気持ちは暗くなりがちであった。

 

「……ピーター」

 

チーム内で争ったあの日からピーターとは一度も会っていない。あの頃、逃走中に電話が何度か来た事はあったが追われる身としては出れなかったし、携帯や電話番号を変えてからは一切掛かってくる事はなくなった。

 

「くそっ……」

 

スタークよりも先に───アベンジャーズの候補の候補ではあるが───チームに誘った身としては逃走中もパーカーの事は気に掛けていたし、色々としてやりたい事もあった。

 

だがそれよりも──────

 

 

『何でっ……僕は貴方が何も知らないと思って、伝えただけなのに……』

『勉強になっただろ?いつだって誰もが味方だとは思うな』

『思えるわけないよ!僕はエイナムさんの事を信じてるし、尊敬だってしてるんだよ!?』

 

『だったら僕がエイナムさんを止めてみせる……!』

 

『……ごめんな、パーカー』

 

 

アベンジャーズを解散させる為とはいえ、ピーターには酷い事をしてしまったと今も後悔している。それをまだ直接謝れていない事も。

 

「スウァーノ」

「スティーブ……髭、剃ったのか」

 

自動ドアをくぐり、今では使われる事のない応接室に入ってきたスティーブ。逃走中に伸ばしきっていた髭は綺麗さっぱり剃ったようで、かつての姿へと戻っていた。

 

「ああ。君も髪を元に戻したらどうだ?」

「……まぁ、いずれな」

「彼女が助けに向かってからもう三日経つが、どう思う?」

 

そう、ダンヴァースがスタークとネビュラの救出に向かってからもう三日が経った。あの時点でベネター号の燃料や酸素、食料は残り少ないと言っていた。それから三日が経ったとなると果たして無事なのか……。

 

「……今は無事に戻ってくる事を信じるしかないだろ」

 

ロケットが持っていた通信機が再び繋がらなくなり、使い物にならなくなってしまった今、出来る事はそれしかないだろう。

 

「────……テン!!キャプテン、どこにいる!?」

「ローディ?……どうしたんだ、僕はここだ!」

「ここにいたか!ああっ、スウァーノも一緒か!」

 

スティーブを探していたローディが応接室に駆け寄り、息を少し切らしながら中に入ってきた。

 

「今、例の通信機から……『もうすぐ地球に着く』っていう連絡が入ったんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

他のメンバーを集め、俺達は基地の外へと飛び出した。空を見上げるがどこにも宇宙船らしきものは見えない。もうすぐって言った以上、まだ見える距離にいないだけかもしれないが。

 

「────ローディ!!トニーは!?」

「いや、それがまだ……」

 

宇宙船を待ってる間にローディが連絡しておいたペッパーがハッピー・ホーガンの運転の下、こちらに駆けつけてきた。ここに到着するまでほとんど掛かっていないが、それだけスタークの事が心配だったんだろう。

 

「なぁ、あれじゃないか?」

「ああ……そうだ」

 

ローディが指差し、ロケットがそれを肯定する。ローディが指差したそれは確かに宇宙船であり、下からダンヴァースが支えていた。そして俺達の目の前に着地し、宇宙船もゆっくりと降ろされていった。

 

「安心して、二人共生きてるわ」

「ああ……ありがとう、ダンヴァース。あんたのおかげだ」

 

ダンヴァースに礼を言い、ベネター号に近寄ると開いたドアからスターク、そしてネビュラという青い皮膚……というか、機械的な部分が見れる女性がスタークを支えて降りてきた。

 

「大丈夫か、トニー」

「ああ……奴を、止められなかった」

「俺達も同じだ、スターク。サノスを倒せなかった」

「スウァーノ……」

 

ネビュラから代わったスティーブに支えられながらスタークに俺も加わる。かつてそれぞれの思いからぶつかり合った俺達だが、今はそれどころではない。

 

「ピーターが……消えた」

「っ……あいつだけじゃない。地球じゃ大勢消されてる……」

「そんな……じゃあ、みんなは?」

「トニーッ……!!」

 

互いの言葉にショックを受けていると、スタークを一番心配していたであろうペッパーがスタークに抱きついて戻ってきた事を確認した。できればそのままでいさせたいし、ゆっくりと休ませてやりたいが……生き残ったメンバーが揃った今、これからどうするかを考えなくてはならない。




アンケートはエンドゲーム編終了時までです!それまでにたくさんの回答お願いします!


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コンフリクト/衝突

久し振りの投稿です!!


体の大半を機械に変えてるというネビュラはともかく、スタークは生身の人間だ。何日もの間、宇宙空間を放浪していた事によるダメージは大きく、今は栄養剤をチューブで接種してもらいながら話を聞いてもらった。地球で起こった戦いの事、サノスが宣言通りに人類の半数を消した事、宇宙スキャナーでも衛星でも奴を見つけられずもう地球にはいないこと────

 

「……サノスと戦っただろ?」

「あんなの、戦いにすらなってない。あいつにとっちゃ遊びみたいなもんだ。いいように弄ばれただけだ」

「そうか……」

「魔術師もストーンを渡しちまうし」

 

スティーブが尋ねると、スタークはそう答えた。戦いに負けたからか、長い間宇宙空間を放浪していたからか、それとも……ピーターを失ったからか。

何にせよ、スタークは疲弊しきっており、機嫌を悪くしていっていた。

 

「何かないか?手掛かりや座標とか、何でも」

「……僕は何年か前、未来の光景を見た。まるで悪夢のような……」

 

……何だ?突然何を言い出してるんだ、スタークは。

 

「おい、スターク。話に集中して────」

()()が必要だった。スティーブもスウァーノも。……だがもう過去形だ、君達は去った!もう遅いんだよ……」

「まだ間に合うはずだ、スターク。俺達と一緒に……」

「いいや、遅いね。それよりも今必要なのは……髭剃りだ!」

 

そう言うスタークは腕に付けていたチューブを勝手に外してしまった。おいおい、まだまともに動けるような状態じゃないだろ。

 

「はぁ……君らに話した事あったよな?確か僕はこう言ったはずだ、世界を守るには世界中にアーマースーツを配備するしかないと!それで貴重な自由が損なわれたとしても、絶対に必要だったんだ!」

「……そのプランのせいで何が起こったのか忘れたわけじゃないだろ」

()()()()()()()()()()()()!!」

 

スタークからの反論に俺はギリッ、と歯を食いしばる。スタークとブルースが進めていたウルトロン計画、確かにうまくいけば世界平和に役立ったかもしれない。だがその計画は失敗し、多くの市民を危険に遭わせた。それでも続けるべきだったと?

 

「トニー、落ち着けって」

「“負けるぞ“と警告した時、君らは言ったな?その時も一緒だと!……それでこれだ。見事に負けた。君達はいなかった」

「……いなかったのは、あんたも同じだろ」

「なんだと?」

「スウァーノ、君も落ち着けっ」

 

ローディがスターク、スティーブが俺を宥めるが彼らを無視して俺達二人は接近した。

 

「俺達は確かに()()()でサノスと戦った。そこにスターク、あんたはいなかった」

「宇宙にいっていたからな、いなくて当然だ。サノスをこっちから迎え撃とうとしたんだよ、結果は見ての通りだけどな!」

「……さっき言ってたプランの時もそうだったな、あんたはチームのメンバー誰にも相談しない」

「残ってるメンバーなんていなかったからな!君達との意見が分かれたせいで!」

 

俺とスタークの口論はどんどんヒートアップしていく。こんな事になるはずではなかったのに。本来ならば残された俺達だけでサノスを見つけ出し、消えた人々を元に戻す方法を考えなければならないのに。

 

「……いいか、よく聞けスターク。俺達はあんたを必要としてた。あんたは俺達を必要としてた。だが互いに力は貸せなかった。理由は、分かるよな?」

「魔術師を放っておけば良かったって言いたいのか?」

「そうは言わない。だがこの戦いで戦力を分散させるのは間違いだった」

 

もしも……ロケットの仲間であるガーディアンズ・オブ・ギャラクシーやダンヴァースは無理だとしても、スタークやピーター、それにストレンジという魔術師がいれば、もしかしたらサノスに────

 

「……分かったよ。だったらこれでも使って戦ってくればいい!」

 

スタークはそう叫び、胸に装着しているアーク・リアクターを外して俺に押し付けてきた。

 

「『戦力を分散させるのは間違いだった』だと?それは君が望んでた事だろ、スウァーノ。僕は忘れてないぞ、二年前、君が“()()()()()()()()()()()()()“と言った言葉を!」

「……なにっ?」

「ど、どういう事だいスウァーノ?」

 

スタークからの暴露を聞き、スティーブやブルースが俺に視線を向けてきた。離れた場所で黙り込んだまま話を聞いているソーも顔を上げ、アベンジャーズではないロケットとネビュラもこちらを見てくる。唯一、あの時一緒にいたローディだけが何も言わずにいた。

 

「ソコヴィア協定が理由だ。ワンダやヴィジョン……ストーンの力を持つ二人が監視だけで済むとは思えなかったからな」

「それは君もだろう、スウァーノ?」

「俺は協定には今も反対だからな。あの時、二人は賛同していたから尚更危険だった」

 

後にアベンジャーズを離れ、ヒーローとしても活動せずに身を潜めていたから政府に捕まる事はなかったが……もしもあれからもずっとヒーロー活動をしていたら政府の研究機関に実験をさせられていたかもしれない。

 

「スウァーノ、君だってチームの誰にも相談していなかったんだろ。なのに僕だけを否定するなんて勝手が過ぎないか?」

「……それは」

「それに君達は僕を必要としていたと言ったが、君達の誰かが僕の前に現れた事が一度でもあったか?僕も電話はしなかったが、君達から現れても良かったんじゃないのか?」

 

スタークが俺達に『否定できない言葉』を次々にぶつけてくる。そんな様子のスタークをローディが止めに入るがスタークは止まらなかった。

 

「……結局、僕達は後からしか動けないんだ、アベンジャーズだからな!君達も僕のように動けないし、僕の前にも現れないような臆病、もの……っ」

 

そこまで言った所で────限界が来たらしく、スタークが倒れた。

 

「っ、トニー!?」

「おいっ、そっち持て!とにかくベッドに────」

 

 

 

 

 

 

 

疲れから倒れたスタークをベッドへと運び、付き添っていたいと言うペッパーに任せて俺達は部屋を出た。スタークの事は心配だし、ちゃんと話をして……()()()も解決したかったが、今の状態じゃ無理だろう。

 

「ダンヴァース……あんたはみんなを元に戻す方法を知ってるか?」

「ええ、分かるわ。あいつ(サノス)を殺してもう一度ガントレットを使えばいいだけよ」

 

なるほどな。ガントレット……もといストーンがみんなを消したんならその逆も可能って事か。

 

「だが肝心のサノスがどこにいるのかが分からないぞ」

「いや、それなら分かったぜ」

 

ローディが根本的な問題を口にするが、ロケットがそれを解決してくれるらしい。俺達の中心に展開された3Dホログラムが惑星の形をとるが、ここにサノスが?

 

「惑星ガーデンだ。二日前にこの惑星から地球と同じ、ストーンが使われた波紋が確認された」

「またストーンを……今度は一体何をしやがったんだ!?」

「……この惑星に行ってサノスからストーンを奪おう。そしてみんなを復活させるぞ」

「でもまた同じ結果になるんじゃないか?」

 

スティーブが指示を出すが、ブルースがネガティブな発言をする。確かにサノスのあの強さならそれを否定できないが、だからって必ずしも同じ結果になるとは限らないはずだ。

 

「前と違って、今回は私がいるわ」

 

何人かが諦めかけていると、ダンヴァースがそう言った。そう、今回はダンヴァースやネビュラなど新たな仲間がいる。メンバーは少なくなってしまったが、彼女らの力を頼りにするしかない。

 

「新入りさん、お言葉だが俺達は何度も地球を救ってきてるんだ。なのにあんたは地球が大変な事になってる時に一体どこで何をやってたって言うんだ?」

「おい、ローディ……」

「宇宙にはヒーローがいない星がたくさんあるわ。貴方達は()()()()を守ればいいけど、私が守る場所は()()()()なの」

 

ダンヴァースからの皮肉っぽい返しにローディは黙り込んでしまった。まぁ、それじゃ地球に駆け付けられなかったのも納得できるな。

 

「サノスを殺すのは俺だ」

「……ソー」

 

今までソファーに座りながらずっと黙っていたソーがようやく口を開いた。そしてダンヴァースの前に行き、彼女を睨む。しかし怯まない様子のダンヴァースを見て手を上げ──────()()()()()()()()()()()()()で飛んできたストームブレイカーを手に取った。

 

「ふん……気に入った」

 

今のやり取りでもまったく怯まなかったダンヴァースをソーは気に入ったらしく、彼女も彼女で仲間として受け入れられた事が嬉しかったらしく、自然と笑みを浮かべていた。

 

「────よし。奴の息の根を止めに行くぞ」




スウァーノとスターク。さらに深まってしまった溝が元に戻る日は、果たして来るのか来ないのか。


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