なんかロボゲーの世界に転生したんですけど……… (⚫︎物干竿⚫︎)
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なんかロボゲーの世界に転生したんですけど………

なんとなくロボもの書きたくなったから練習の意味も兼ねて。
うーむ、ロボものって書くのむずかちいね(


ガタガタと揺れる薄暗いコックピットの中で考える。

なぜ、こんなことになったのだろうか。

 

『間も無く作戦領域に突入する。いつにも増して下からは盛大な歓迎の鉛玉のパーティーだが、そこはまあ諦めろ』

 

通信機の向こう側に居る老年に差し掛かる男性のそんな冗談交じりの言葉にため息をついて、

 

「で。やる事もいつもと同じってか」

 

『その通りだ。敵を撃って撃って引っ掻き回せ。傭兵が自身の命を惜しむなんて贅沢を許されるものかよ』

 

「知ってるけどさ。ホントもう笑っちまうくらい傭兵ってのはやっすい命だなぁオイ」

 

鉛玉が機体の装甲を掠め甲高い音を立てる。それを聞きながら言い返して、機体の戦闘システムを立ち上げる。

 

「っし。んじゃテキトーに投下よろしく」

 

『死ぬなら一機でも多く敵を潰してからにしろよ?スクラップからでっち上げた機体だってタダじゃないんだからな』

 

「へいへい」

 

通信を切り操縦桿を握るのとほぼ同時に輸送機の下部ハンガーにぶら下げられた俺を乗せた鉄の巨人が空中に放り出される。

 

汎用人型戦術武装装甲外骨格。通称バトルフレームと呼ばれる兵器であり、2138年現在における機甲戦力の代名詞である。

 

俺が今乗っているこのバトルフレームは君主制を復興させ中華人民共和国から皇華帝国と名を変えたユーラシア大陸の6割以上を支配する大国が今から50年ほど前に開発した第二世代型機の竜胆をスクラップからリペアしたもので、右腕に38ミリ重機関砲を左腕には60口径対装甲目標単装砲を備え、バックパックにダメ押し3連装ガトリング砲を左右2門と言う火力キチである。そこにこれでもかと増し増しにした追加装甲のせいでもはや原型機である何処と無く中華甲冑風な竜胆の面影はそれとなく爬虫類を思わせる形状の頭部くらいしか残っていない。

 

操縦桿を引き、フットペダルを踏み込み地面に向かって落ちる機体を立たせる。その最中にも御構い無しに飛びかかる鉛玉が装甲を叩きアラート音がコックピット内に鳴り響くが、それは無視して撃たれた際の衝撃も利用して機体を直立姿勢まで持っていき、ブースターを噴射して減速しながら地面に半ば激突するような勢いで着地する。

 

早速機体の下半身のフレームが過負荷異常の悲鳴をあげるが、重装甲化に加える関節部の強化によってなんとか耐える。

 

「まーったく着地するだけでダメージってどんな重量なんだか」

 

愚痴りながら竜胆の武装達をワラワラと居る子どもの頃にテレビで見たアニメの主人公でも乗ってそうなスラリとしたデザインのアメリカ合衆国を盟主とする自由資本同盟の第3世代型バトルフレームのコルベットに向けて、

 

「特に恨みも何も無いけど、明日の俺の飯のためにくたばりやがれぇいっ!!!」

 

竜胆の全ての武装が一斉に火を噴き、コルベット達を鉄くずに変えて行く。重機関砲とガトリング砲がいとも容易くコルベットの堅牢さと軽量さを両立した装甲を食い破り、単装砲が味方を守るため盾を備えて前に出てきたものを盾ごと撃ち抜き、その後ろに居たものまで吹き飛ばす。

 

だが、それも長くは続かない。

この竜胆は見ての通り最新鋭機であるコルベットですら歯牙にかけない圧倒な火力と装甲を備えているが、それでなくとも超過重量の機体に予備の弾丸など積める筈も無し。3分も斉射を続ければ弾切れである。

 

こちらの弾切れを悟ったコルベット達の反撃が始まる。お返しとばかりの十数機以上のコルベットから一斉に放たれた鉛玉があっという間に竜胆の装甲を削って行く。

 

「どいつもこいつも景気良いねえオイ!」

 

サブモニターの機体状態を示すところに目を向ければ、万全を示す緑から限界を示す赤に瞬く間に変わっていた。然もありなん、バトルフレームとしては重装甲とは言え最新の対装甲目標を想定した弾丸を雨あられと食らえばそりゃこうなる。

 

だが、そんな事は想定の範囲内だ。でなきゃ敵陣ど真ん中に単騎特攻とかダイナミック自殺以外の何でもない。まあ、事実この時代の傭兵ってのは自殺志願者みたいなもんなんだけどさ。

 

ターミナルコンソールを操作して、実行する。

竜胆の機体を覆う装甲が内側から吹き飛び、周囲が煙に覆われた。ちなみにこの煙にはチャフとしての効果がある。多対一の状況において効果を発揮するスモークである。

 

フットペダルを踏み込みブースターを吹かす。両腕に備えるのは弾切れになって用済みになった重機関砲と単装砲ではなく、重装甲の下に仕込まれた対バトルフレーム炸裂杭………ようはパイルバンカーである。

 

スモークの効果時間はおよそ10分。それまでにヤるだけヤってケツをまくらなきゃ今度は俺がきたねえ鉄くずの仲間入りだ。

 

重装甲状態の竜胆を想定した出力のブースターは装甲を脱ぎ捨て軽量化した竜胆(軽量化したとは言ってもコルベットよりは余裕で重い)を滑走させることなど容易い。あっという間にスモークに包まれて易々とは発砲出来ないコルベットに近付き、すれ違いざまにコックピットがある人間で言う鳩尾部分に拳を叩きつけるようにしてパイルを打ち込む。それを何度か繰り返しているとスモークが薄れ始め、近くのコルベット達がライフルを撃ち始めたのでさっさとおさらばする。

 

 

「38機撃破の4機大破………あんだけ弾ばら撒いてコレかぁ。まあ、飯代くらいは出るだろ」

 

ブースターを全力で吹かして同盟軍の駐屯地から脇目も振らずに逃げる。やってるバカが言うのもアレだがバカじゃないのだろうか依頼する連中。自分らで攻めるには被害がーってなるとこにわざわざ高い金払って傭兵送り込むとか傭兵がアレだと完全に払い損だろうに………

 

とは言え、前歴とか身分問わない仕事だからこそ俺みたいな転生者なんて言う戸籍も何も無い怪しさ抜群な野郎でも食いっぱぐれずに済んでるわけだが、

 

俺の名前はカズキ・クジョウ。

ただのロボゲー好きだった工場勤めが何の因果か、やってたロボゲーの世界みたいなロボットが戦場を闊歩する世界に放り出された者だ。

 

 

推進剤も使い切り、すっぽりと中が空洞になるような奇跡的な崩れ方をしていたビルの廃墟に身を潜めていると輸送機が拾いに来た。

 

 

『ほう、また生き延びたか。今度の傭兵は当たりみたいだな』

 

「仕事内容も理解した上で契約はしたけど、だからって死ぬだろうなで放り出すのやめね?」

 

『命が惜しいなら大人しくどこかの軍隊に所属することだな。尤も待遇の約束はしないがな』

 

「金のかからない傭兵扱いされるオチ確定じゃないですかやだー」

 

そんなやり取りをしながら、降下してきた輸送機のハンガーに機体を固定して本当の意味でおさらばする。

 

 

とりあえず思ったのは、ロボゲーがリアルになるとかロクなもんじゃねえってことだな、うん。

 

 

『それはそうと今回のお前への報酬だが、前回の赤字分の補填で0だ』

 

「命がけで戦ったのにそりゃねえよ⁈」

 

傭兵は世知辛いとです。



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2話

なんか思いついちゃったよ………


この世界にはいくつかの国家や国家を超越した国際組織と言った勢力があり、争ったり手を取り合ったりしている。ここは俺の知る世界と対して変わらんらしい。

 

 

国家としては世界最大規模と言えば、皇華帝国。

かつて存在したモンゴル帝国ほどではなくとも旧ロシアを含めたユーラシア大陸の6割を占める程の広大な土地を支配するだけあって物資も人も世界一である。

 

そして、世界有数の海軍を誇るブリテン島を国土とするグローリーオブロイヤル。中二病かな?って言われてもおかしくないような名前だがブリテン島と言う限られた国土でありながら独立勢力として名が知られる当たり相当ヤバイ国である。

 

後はバトルフレームを世界で初めて前線に投入し、現在に至るまでバトルフレームに関して言えばダントツで先頭を突っ走る議会君主制とか言う不思議な体制を敷く日ノ元皇国。言うまでもなく日本である。異世界でもやっぱり日本は変態技術国家でした。なんでも一部では第四世代型バトルフレーム(自力で飛行能力を有する)を量産配備してるとか………

 

勢力最大手は自由資本同盟。アメリカ合衆国を盟主として北米大陸、南米大陸の諸国家やヨーロッパの一部の国が加盟する超国家的組織で一般市民の多くの人々がここで作られた工業製品の世話になっているだろう。日ノ元皇国に次いでバトルフレームの技術に優れており、同盟軍のエースパイロットであるアイザック・フローライトには同盟唯一の第四世代型であるライトニングファルコンが与えられている。

 

次いでと言うか、俺達傭兵やそのブローカーやらが集まった太平洋上に浮かぶメガフロートを拠点とし、メガフロートの名前を取ってそのままアブレヒトと呼ばれる勢力。どこの勢力にも手を貸すし利用だってするわけで下手をこくと上記の勢力全部に叩き潰される可能性も否めない泥舟である。にも関わらずそれがされないのはなんやかんや言いつつ、どの勢力も傭兵を必要としていることと、何よりも世界最強のバトルフレーム乗りが居るからだ。曰く、単騎で同盟軍の艦隊を壊滅に追い込んだとか………

 

 

で。今俺が居るここがメガフロートアブレヒトである。かつては自由資本同盟が海底資源の採掘のための拠点としていたが、石油燃料時代の終わりを告げて金食い虫になったことによって放棄されたアブレヒトに何処からともなくあぶれ者達が集まり、いつの間にか傭兵の国のような扱いをされている。

 

 

「で。旦那」

 

「なんだ」

 

俺の呼びかけにフライトジャケットを羽織った身長190センチはあるであろう筋骨隆々な片脚が義足になっている初老の金色の長髪を一つに纏めて背中に垂らす男が振り向きながら答える。

 

「たしかに俺はあんたのしもべでもあるわけだけどさ。だからって、かれこれ2ヶ月くらいバトルフレーム乗ってないのはなぜ?竜胆だってもう直ってるのに」

 

「なんだ?自殺願望者だったのかお前」

 

「いや、死にたくないけどさぁ?」

 

「確かに機体は直ったがまだ修理費が払えてないからな。引き渡して貰えないのさ」

 

「え?この前の依頼の契約料ならいくらフルチューンした竜胆とは言え、足が出るって有り得んでしょ。俺だってそれくらいはわかるぜ旦那」

 

「仕方ない。あそこの爺さんは腕は良いが、料金増し増しなんてザラな話だからな」

 

「まぁじでえ?じゃあ、仕事どうすんだよ。俺は戦場で鉄砲玉やってナンボなのに」

 

「だから、マーケットでとりあえずの機体を確保するんだ。コレでもそれなりに顔は利く」

 

「んじゃ、仕事道具お願いしますわ」

 

そんな風に会話をしながら年代物のモノレールに乗り込み、アブレヒトの西端部港湾区丸々を占拠している一大マーケットに向かう。ここには世界中あらゆる勢力の物が集まる。食い物や服と言った生活用品はもちろんのこと、バトルフレームや航空機、果てには払い下げの軍艦すら並ぶカオスな市場だ。

 

 

「いつものことながら、盛況だなあここ。まあ、自分の金の無い俺は基本縁ないとこだけどさ………なんで、コルベット並んでるんですかねえ。同盟さんそんな金無いのか?」

 

「ガワだけのパチモノだ。装甲だって旧来のシロモノだ」

 

「ほへー。こりゃ日ノ元の錬鉄あたりくらいなら純正品あるかもしれないっすね」

 

錬鉄とは日ノ元皇国が開発した第二世代型バトルフレームであるが、あの国特有の職人芸の恩恵により第三世代初期型くらいなら超えるスペックを誇る傑作機である。ちなみに竜胆は操作性と調達コストの安さからコピー品が各勢力で用いられているのは内緒だ。

 

人混みの中を歩いて行くと、アブレヒトでも一般市民と称される非戦闘民の数は減り、見せつけるように銃やらをぶら下げた傭兵達ばかりが目につくようになり、並んでいる店も武器屋やバトルフレームなどを売るブローカーばかりになった。

 

 

「おう。珍しいじゃねえかヨルド、お前がマーケットに来るなんてよ。坊主もちったぁマシな顔付きになったな」

 

「例の工房のいつものアレだ」

 

「どもっす」

 

バトルフレームブローカーの片腕が義手になっている恰幅のいい男性に頭を下げる。ちなみにヨルドと言うのは俺の傭兵オーナーであるこの旦那だ。

 

「なるほどな。たく、あの爺さん金なら腐るほど持ってるだろうにあんな掻き集めてどうすんだかねえ。まあ、薮蛇突く趣味は俺もねえしほっとくが………となると、なるべくすぐ鉄火場突っ込めるヤツが良いよな。コイツはどうだ?」

 

そう言って1枚の紙を寄越して来た。そこには1機のバトルフレームの情報が書かれていた。

 

「ランスターか」

 

ランスターとは同盟の第二世代型バトルフレームで竜胆と同時期に開発されたにも関わらずコルベットに主力が置き換わりつつある現在でも支援機として採用され続ける大ベストセラー機だ。傾斜装甲を多用しているため旧来のチタンなどの複合合金製装甲採用機であるが第三世代型にも負けない防御力が売りである。

 

「そいつなら武装のライフルとグレネードにシールドと予備弾倉付けて4000で用意出来るぜ」

 

「4000か………出費としては痛いは痛いが竜胆のよりは安い、か」

 

旦那とブローカーの男性が話してる間暇なのでマーケットの中に並んでいる種々雑多なバトルフレーム達を見る。

 

出来の悪い人形みたいな見た目のバトルフレームは同盟が最初に開発した第一世代型バトルフレームドーラス。今では武装解除されたモデルが重工業系企業から大人気らしい。

 

次に目に付いたのは皇華帝国製第三世代型バトルフレーム甲武に酷似したバトルフレームだ。たぶんパチモノだろうが良く出来てる。ちなみに本家甲武は重装甲に物を言わせてブースターで敵に肉薄し近接格闘戦によって制圧することに主観が置かれている。ちなみにブースターが無ければ移動速度は並以下である。おや?どこかの竜胆が………

 

「こんなもんまであるのかよ………」

 

思わず声が出たのは日ノ元皇国製第一世代型バトルフレーム無骨がそこに佇んでいたからだ。日本の武者甲冑を思わせるデザインに腰に帯びた日本の大小の刀と言い、仮にも日本人である俺的に感動せざるを得ない。

 

 

「見惚れるのは結構だが、そいつはもう買い手がついてんだ」

 

「終わったぞカズキ」

 

「うっす。にしてもホント色々あるなぁここ。ロイヤルのカイウスまであるとか」

 

俺が見る先には、ロイヤルが持つ機甲兵団の装甲騎士団の大半を占める侍従級装甲騎と呼ばれる第二世代型バトルフレームがあった。騎士甲冑を彷彿とさせるデザインに携えた突撃槍が一種の芸術品のような風格を放つこの機体は装甲は薄いが背部や脚部に腰部と機体あちこちに配されたブースターが生む突進力は現存するバトルフレーム中最高クラスで海上を自力滑走すら可能としているとかって話だ。

 

バトルフレーム達から目を離して旦那達の方に振り向く。

 

 

「しばらくはコイツで仕事だ。そして喜べ、早速仕事だぞ」

 

「割り引く代わりにちょっとウチの船の護衛を頼むぜ」

 

「りょーかい。サクッと準備しますわ」

 

 

そして、俺はぱっと見は綺麗なランスターのコックピットに乗り込み輸送船の上に居る。竜胆とはボタンの配置やらモニターの配置やらが違うので少し不安は残るがたぶん大丈夫だろう。うん、きっと大丈夫。

 

今回の依頼の内容は自由資本同盟のリゾート地ハワイ(世界変わっても地球は地球だからやっぱりハワイはリゾートでした)在住の日ノ元の文化好きな富豪の好事家のもとにマーケットにも並んでいた無骨を送り届けることだ。片道1週間ほどであり、同盟軍の巡回艇が見回っているため東シナ海やらに比べれば治安が良いが、海賊の類が居ないわけではないので、傭兵が護衛として雇われることも珍しくはない。

 

 

「俺もいつか自分の機体持てるんかなぁ………維持費ヤバそうだけど」

 

『個人でバトルフレームを持てるレベルの傭兵なら金に困ることなどそうはないさ』

 

「旦那は昔はその個人でバトルフレームを持てる凄腕の傭兵だったんだろ?」

 

『昔の話だ。今の俺ではバトルフレームの戦闘機動は無理だからな』

 

「そいや、旦那撃墜されたのによくまぁ脚切断くらいで済みましたね」

 

『それはそうだろう、見逃されたんだからな。屈辱さ、俺には殺す価値も無いと言うわけだ………と、おしゃべりは終わりだ。お客さんのお出ましだ、丁重にお帰り願え』

 

「了解」

 

ランスターの戦闘システムを機動させてライフルを撃つ。ランスターのライフルはセミオート、2点バースト、フルオートを使い分けられるようになっていて、今回はまず警告の意味を兼ねてフルオートで軽く斉射する。

 

傭兵の仕事は毎回こうならなぁと考えながら、輸送船の船長の警告を無視して攻撃してくる海賊をテキトーに蹴散らす。



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3話

ハワイに無骨を送り届ける仕事を終えて、海賊を蹴散らしたりしながらのんびりとアブレヒトまで帰って来ました。

 

「そして、やっぱり俺に入って来る金は無い、と。まあ衣食住確約されてるし別に構わないんすけどね」

 

住居兼オフィス兼ドックを兼ねた倉庫内の居住スペースの掃除を終えてのんびりとしながら相変わらず素寒貧なふところに泣く。

 

ちなみに見て貰えば分かると思うが、俺は傭兵としちゃかなりの高待遇を受けている。衣食住の確約などなど普通の一般人と変わらない生活を約束されているからな。でも、アレ欲しいコレ欲しいって思ってしまうのは人のSAGAってなもんでして………有り体に言えば娯楽が欲しいです。でもそのためには自分の金が必要なのだ。

 

「当然だ。それでランスターの感触はどうだった」

 

「悪くはない。ただ、少しばかり火力が貧弱だと思うね。グレネードはそこそこだけどいかんせん弾数少ねえし。ライフルは正直な話豆鉄砲だろアレ。この前海で相手した賊連中は大した武装も揃えてないような木っ端だからどうとでもなったけど、バトルフレーム相手に戦うことを考えると威力不足も良いとこだわ」

 

「まあ、仕方のないことだな。ランスターは火力などよりも搭乗者を守ることに主眼が置かれた機体だ。火力は後付けの武装で補えと言うわけだ」

 

「でも、その後付けの武装買う余裕なんて無いだろ?」

 

「次のお前の働き次第だ」

 

「ん?仕事っすか」

 

「ああ。模擬戦闘の相手役、要するにかませ犬が今回の仕事だ。襲撃の依頼はその機体では無理だからな」

 

可能だったらぶっこまれてたんですねわかります。竜胆ならまだしもランスターで襲撃しろって機体の防御力が足りなさ過ぎるんですがそれは。

 

まあ、傭兵である俺にはどんな仕事だろうと拒否する権利は無いんだけどね!傭兵オーナーにこの仕事に行けって言われたら断れないのデス。ブラック?傭兵にはブラックもホワイトも無いんやで(にっこり

 

むしろこの旦那さんの下は真っ白ホワイトである。たしかに普通に考えてバカじゃねえの?って言われるようなダイナミック自殺も同然な仕事にも放り込まれるが、竜胆のように万全な機体に乗せてくれるしな。他所の良くあるスクラップを動かせるようにしただけの機体で逝って来いしてくる傭兵オーナーとは大違いである。

 

 

そんなこんなで輸送機に揺られてどんぶらこっこどんぶらこと目的地まで移動だ。

 

「そいや、目的地はどこなんだ?」

 

『日ノ元のイスルギ重工所有の技研って話だ。まあ、新興のバトルフレーム産業企業のひとつだ。肝いりの新型機の試験と言う話だが大したものは出てこないだろう。ほどほどにやりつつお前もソイツを馴らせ』

 

「うっす」

 

 

日ノ元皇国第二国際ターミナルで入国手続き(傭兵である俺は旦那の所有物なのでパスポートやらはない)を済ませ、そこで一旦休息を取ることになり、俺はこの異世界に来て初めて日本の大地を踏むことになった。

 

「あ〜足伸ばして湯に浸かれるってマジ贅沢〜」

 

泊まる事になったホテルの浴場でこの世界で初めての風呂を満喫してます。やっぱり日本人は風呂入らなきゃね。いや、アブレヒトにも風呂屋はあるんよ?一般人の憩いの場所でもあるけど、ほら俺は傭兵だからさ………

 

「いつまで風呂に入っているんだお前は」

 

「えーいいじゃないっすかー折角の風呂なんだからさー」

 

呆れた様にそう声をかけてくる旦那にそう答える。てか、やっぱ既に現役退いてバトルフレームには乗れない人とは思えない身体付きしてんなあこの人。俺も傭兵は身体が資本だって言われて鍛えて来たからそれなりに筋肉は付いてきたが、コレに比べたらヒョロもやしだ。

 

「日ノ元の連中はなぜ湯に全身を浸けるなんて言うことが好きなんだ。シャワーで十分だろう」

 

そんなことを言いながらもなんやかんやで湯に浸かる旦那。そのまま風呂の虜になればいいと思うの。

 

「旦那。風呂は風呂だからこそ良いんだよ」

 

「そうか」

 

目一杯風呂を満喫していつもの味気ない缶詰ではないちゃんとした飯も食って俺は元気抜群。つまり今の俺は無敵だ。

 

そんな感じにハイテンションで意気揚々とランスターに乗り込み機体を立ち上げる。

 

はてさて第五世代型バトルフレームとはどんな代物なのやら………

 

これまで開発されてきたバトルフレームは世代ごとにコンセプトがある。

 

第一世代型はバトルフレームとしての完成を目指したものだ。例えばこの前ハワイまで送り届けた無骨などは近接格闘型として開発された機体で、役割ごとにバリエーション機が存在する。逆にドーラスは遠中近の全距離に対応するマルチロール機として開発されている。

 

第二世代型のコンセプトは多様性と汎用性の向上だ。機体に共通ハードポイントを設けることにより、機体の兵装を換装する事による多機能化を図ったもので、結果としてバトルフレームは地上の機甲戦力の座を戦車から完全に奪い取ることに成功した。

 

第三世代型のコンセプトはバトルフレームと言う兵器の再構築と言うやつだろうか?メカマンあたりに語らせれば日が暮れるまで熱く語ってくれるだろうが、ただバトルフレームを動かして戦うだけの俺にはこれくらいしかわからない。だって、甲武とかガチガチの肉壁前衛機だし。一応、ハードポイントに砲とか付ければ砲台として使えるらしいが………強いて言うなら新技術の導入か。コルベットは堅牢でありながら軽量な新素材装甲が特色だし。

 

第四世代型のコンセプトは地上以外の領域でのバトルフレームの運用だ。同盟軍の持つライトニングファルコンは航空機にすら匹敵し得る航空戦能力を有していると言う話だし、日ノ元で開発配備が進んでいるって言う第四世代型機は水中戦に対応する機体まであるそうな。

 

ざっと挙げてみたが、ここらへんまで行くと変形とかビームとかレーザーの光学兵器の運用だろうか?ちなみに光学兵器自体はあります。主に艦船の艦砲とか要塞などの拠点の固定砲台に採用されてる。まあ仕方ないね必要な電力えげつないらしいからな。

 

 

「てかさ旦那」

 

『なんだ。機体に不調でもあったか?なるべく早く言えよ』

 

「いや、不調とかじゃなくてさ。前海の上で初乗りした時から思ってたんだけどこのランスターの機体管制システムドーラスのヤツじゃね?」

 

『マーケットの値引き品なんてそんなものだ。ちゃんと動いて戦えるだけマシだ』

 

「うーんこの」

 

やっぱりこの業界は世知辛い。そして純正品は高い。

ちなみにウチの竜胆くんはスクラップからのリペア機だけど一応純正品。え?首の下ほぼ別物だって?それは言わない約束だ。

 

そして、また輸送機でどんぶらこっこどんぶらこして目的地の研究所に到着しましたよ、と。

 

依頼主である研究所のお偉いさん方とのオハナシは旦那の仕事なので俺は一足先に研究所内の演習場にピットインだ。

 

演習場の中は円形で距離は直径で1キロほど。バトルフレームが暴れまわるにはやや手狭かな?と言った感じだ。しかもそこにポツポツと円柱とかが立ってたりするので余計狭く感じる。

 

「まあ、単騎なら問題ないか」

 

にしても、バトルフレームの試験を行う演習場の割には壁とか柱に弾痕の1つも無いのはなぜだ。

 

『聞こえてるか?』

 

「問題なく」

 

旦那からの呼びかけにスパっと考えるのをやめて答える。

 

『今回の模擬戦だが、こっちは模擬弾で向こうは通常通りだ』

 

「つまり傭兵相手の模擬戦の基本通りってわけか」

 

笑っちまうだろ?俺達傭兵は模擬弾で相手は躊躇いなく実弾ぶっ放してくるんだぜ?でも、傭兵を模擬戦の相手に使うと言うことはそう言うことなのである。安全に機体の戦闘能力を測るための致し方のない犠牲である。ショッギョムッジョ。

 

とかなんとかやってると演習場内にコンテナを引いてトレーラーがやって来た。コンテナの中には模擬弾を満載にした弾倉が入っていた。ご丁寧にランスターのライフル用の弾倉だ。オプションのグレネード用まであるよ。

 

そして、実弾から模擬弾への装填を行なっていると1機のバトルフレームが演習場内に入って来た。機体色は塗装が施されていないためか構造材の色むき出しで灰色に黒だとか白だとかが入り交じっていて、頭部カメラがライトブルーに輝いていた。

 

機体の印象としては脚部や腕部と言った機体各所に設けられた過剰なまでのブースターから第四世代型のように自律飛行が可能と見るべきだろうか、おあつらえ向きに前から見ても分かる翼がバックパックについてる上に、機体本体も空気抵抗を考慮したのか丸みを帯びていながらも尖っていると言うか鳥を思わせる形をしている。シュッと先細りのヘッドパーツはさながら鳥の頭部だろうか。

 

 

『今日は模擬戦の相手をよろしくお願いします。えっと………コックピットは外すよう気を付けますけど、なるべく避けてくださいね?』

 

機体の観察をしているとそんな声が届いた。あの新型機のテストパイロットらしいが………サブモニターに映った通信相手はどう見てもまだ20超えてないだろう女の子(黒髪ロング)でした。




研究所→新型機の開発→テストパイロットと言えばなテンプレ(


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4話

ロボの戦闘シーンは見るの楽しいけど、書くのクッソムズイね(


フットペダルを蹴飛ばすように踏み込み、操縦桿を操りランスターを振り回して押し寄せる"光線"を必死になって躱す。

 

光線即ち光学兵器である。

第五世代型バトルフレームは光学兵装の使用が可能らしい。それも小口径の防御火器の類では無く敵を破壊するだけの威力を持つ主兵装及び副兵装として。

 

どんな動力機関積んでるのか知らんし知りたくもないが、よくまあバトルフレームサイズにまで小さく出来たもんだ。既存の光学兵器を使用可能にするだけの膨大な電力を確保できるだけの動力機関となると、それだけでバトルフレーム1機分かそれ以上のビッグサイズだ。

 

「ふぬぐぅぅぅうう!」

 

パルスレーザーから逃れるために円を描くように右回りに走らせるランスターの左腕に装備した打撃戦も考慮され先端部がスパイク状になっているシールドを地面に突き立てて急制動をかける。そして、足が止まったのと同時に目と鼻の先を閃光が駆けて行き、高温異常のアラートランプが機体状況を表示するサブモニターが灯る。

 

「掠めてもいないのにコレかよ………っ!」

 

突き立てたシールドを引き抜いてランスターを再び走らせながら、メインモニターに映る試験機を睨む。

 

模擬戦用に武装された試験機は左腕にシールドと他兵装を組み合わせた複合型兵装を、右腕にはハードポイントに接続した上でグリップを握るタイプの逆手持ち式の小さめの、とは言え6メートルほどはありそうなロングライフルを備えていた。

 

このロングライフルが厄介だ。長物なぶん取り回しは悪いようだが、それを補って余りある火力があると見て間違いない。掠められただけでもきたない鉄くずの仲間入りを果たしそうなレーザービームを照射出来るようだ。事実、目前を通り過ぎただけなのにランスターの装甲が焼けて高温異常を訴えている。

 

救いがあるとすれば、光学兵器を使用可能とは言え右のレーザーライフルは左の複合兵装から放たれるパルスレーザーと違って、機体を飛行させながらの使用ができない事だろうか。あとは撃つまでに多少の時間があるから銃口の向きにさえ気を付けておけば辛うじて回避可能なことか。

 

「飛びやがったか!」

 

レーザーライフルの構え姿勢を解いて試験機がバックパックの翼を展開して飛行する。第四世代型もそうだが、最低でも30トンはあるバトルフレームを跳躍補助ではなく滞空飛行させるブースターってなんなんだ。

 

そして、降りかかる死の雨ことパルスレーザー。

レーザーライフルよりはマシとは言え、こいつもランスターにとっては十二分以上の脅威だ。あちらと違いパルスレーザーは照射ではなくレーザービームを高速連射することで弾幕を張るもので、艦船に次世代の対空機関砲として搭載されている。

 

そう、パルスレーザーですら既にバトルフレームが運用する既存の兵装を上回っているのである。

 

ブースターも使いランスターを加速させてパルスレーザーの雨を躱しながらバースト射撃でライフルを撃つが、なかなか当たらない。装甲を掠めてはいるがクリーンヒットが無い。

 

「飛べるってのが、こうまで面倒なんてな」

 

撃ち切ったライフルの弾倉を捨てて腰のハードポイントから新しい弾倉を装填し射撃準備を済ませながら愚痴る。これまで相手して来たのはコルベットを始めとした地上のバトルフレームばかりで航空戦力なんてヘリくらいしか相手にした経験が無い。それも重装甲でミサイルも豆鉄砲同然な重装竜胆でだから装甲が堅牢と言ってもそれなりなランスターではどうかわからない。

 

「ちょこまかと面倒くせえ!」

 

ライフルの銃身下部レールに装着したオプション兵装のグレネードを撃つ。試験機が回避したグレネードが円柱に当たり爆炎を模した大量のピンク色の塗料がばら撒かれ、試験機にも微量だが降りかかるが試験機はそれを無視して急降下して来て、左腕を振り抜いた。

 

「レーザーブレードっ!」

 

後ろにブースターを噴かしてランスターをジャンプさせて試験機の左腕から延びる閃光を躱す。シールドにパルスレーザーにレーザーブレードとかどんだけ盛り盛りの複合兵装なんだよその左腕のヤツ。

 

滞空中にライフルをフルオートで試験機に向けて撃つ。ついでにグレネードも叩き込んでおく。ピンク色の水飛沫が上がり、試験機の姿を包み隠す。一応レーザーライフルを警戒してランスターを逆時計回りに回り込むように走らせる。

 

煙状の塗料の中から試験機が飛び出して来た。綺麗なピンク色に染まったシールドの下のパルスレーザーの銃口を向けて撃って来るのを左腕の盾で凌ぎつつ後ろに退がる。

 

サブモニターに表示されるシールドのマッハで上がって行く損壊度に舌打ちしながらライフルを撃つが、試験機はお構いなしに突っ込んで来てレーザーブレードで切り掛かって来る。それを左側にランスターをジャンプさせて躱し、シールドのスパイクで試験機をぶん殴る。

 

「全弾持ってけェ!オラァ!」

 

たたらを踏んで体勢を崩した試験機にフルオートで弾倉内の弾を全部叩き込む。命中精度が下がるフルオートでも近接格闘レンジなら外しようもない。グレネードは距離が近すぎるのでぶっ放したらこっちも巻き込まれるので使わない。面白いように試験機の装甲がピンク色に染まっていくがまだ撃墜判定でないのか。どんだけ硬いんだコイツ。

 

全弾撃ち切ったところで試験機を蹴り飛ばして距離を取り、弾倉の再装填を行う。ちなみに弾倉はコレで打ち止めだ。おかしいな。ランスターのライフルの弾倉は標準で50連発のボックスマガジンだから既に70か80はぶっこんだはずなのに。

 

試験機の硬さに戦々恐々としつつ一旦給弾をするかどうか考えていると。

 

 

『傭兵。もう十分だ』

 

そう通信が入り、白衣姿のメガネをかけた短い黒髪をオールバックにした中年の男性がメインモニターに映し出された。

 

『これでも肝煎りの機体だったのだがな。まさか中破判定まで持って行かれるとは思わなかった』

 

アレだけやって中破っすか。そっすか………

ランスターの火力が貧弱にしたって流石にあり得んだろ。現状最硬の装甲を持つとされる甲武だって、流石にグレネードをまともに食らえば吹っ飛ぶんだぞ?いくらシールドで防御してたって言っても普通は大破くらいまで行くだろ………

 

『お疲れさまでした。傭兵さんって強いんですね。これまでも何回かバトルフレームを相手にしたことはあったんですけど、ここまで滅多打ちにされたのは初めてです』

 

「そりゃご期待に添えたようで何よりで」

 

男性に続いて届いた試験機のパイロットからの通信にそう答えて深く息を吐く。

 

「今日もなんとか生き延びたなぁ………ランスターの修理費高いんだろうなぁ………おかねほちい………」

 

サブモニターのランスターの機体状態を見るとコックピットのある胴体や機体動力部に近い腰部周辺を除いてほとんどが要修理を示すオレンジでパルスレーザーを防いだりと色々しまくった左腕とシールドは破損状態を示すレッドになっていた。

 

 

旦那がこの研究所の所長(さっきの通信のオールバックの男性)と報酬やらなんやらの話をしてるのを待っていると、静かなドックにパシンと何かを叩く音が響いた。なんだと思い、そちらの方を見ると怒鳴り声が続いて来た。

 

 

「なんと言う無様!手練れだったとは言え、相手はたかが第二世代型よ⁈それに第五世代型の機体で挑んで中破にされる⁈ふざけないでよ⁈私達がこの機体にどれだけ期待していると思ってるの⁈黙ってないで何か言いなさい!!!」

 

白衣姿の女性がヒステリック気味に怒鳴っていて、その女性の前には試験機のパイロットの女の子が立たされていてただ黙って下を向いていた。

 

「まあまあ、班長。ミライも精一杯やっての結果なんですから………」

 

「精一杯やった⁈だから何⁈勝たなきゃ意味がないの‼︎自分が作った最高傑作が第二世代型にも負けるようなガラクタ呼ばわりをされるのは私は耐えられない!」

 

なだめようとした整備員らしいツナギ姿の男性の胸倉を掴んでそう吠える。うーむ見苦しい。きたねえ鉄くずになってないだけ上等も上等だろうに。て言うか、機体性能が良いだけで勝てるなら苦労はない。

 

一言物申したいところだが、流石にここで出張るのは傭兵的にアウトだよなぁ………

 

「ああもう‼︎こんなことになるならテストパイロットなんて任せなければ良かった‼︎」

 

その声を聞いた瞬間、傭兵がどうとか俺の頭からはすっぽりと抜け落ち、体は勝手に動いていた。

 

 

「なら、アンタがそれに乗って俺と戦うか?ちょっとばかし機体は壊れてるが、まあ良いハンデだ」

 

言っちゃったZE!どう転んでもあとで旦那にぶっ飛ばされる未来が確定しました。でも仕方ないね。プッツンしちゃったからさ。

 

「傭兵風情が気安く話しかけないでちょうだい!」

 

「俺のことはどうでもいい。けど、戦ってもいないヤツが戦ったヤツを上からこき下ろして任せなければ良かっただぁ?調子乗ってんじゃねえよクソアマが」

 

「なんですってぇ⁈」

 

「なんだ?やるかやるなら買うぞ?コラ?」

 

「ああもう!なんでこうなるかな⁈班長の物言いは謝りますから退いてください!」

 

「ちょっと!勝手に話を!」

 

今にも殴り合いつかみ合いになりそうな空気が漂った瞬間、

 

 

「これは何事だ?」

 

そう言いながら、話をしていたはずの旦那と所長がやって来た。そして旦那は問答無用で俺の鳩尾に拳を叩き込み、俺はその場で悶絶を打ってのたうちまわることになった。

 

 

「申し訳ないウチのバカが面倒を起こしたようで」

 

ゴミを見るような目で俺を見下ろしながら旦那がそう言う。

 

「いや、こちらこそ彼を怒らせるような事をしたようで申し訳ない。で?コレは何事だ?」

 

旦那に対して一言謝ると所長が一介の研究所の所長とは思えないような冷たい目を怒鳴り散らしていた女性とツナギの男性、それとパイロットの女の子に向けて問う。

 

それに対してツナギな男性が「実は」と前置きをして、

 

「そんなくだらない事で騒ぎを起こしたと?全く………」

 

「しょ、所長………っ」

 

女性が何かを言おうとしたが、所長の視線を受けて黙り込む。

所長は呆れたようにため息を吐くと、

 

「娘のために怒ってくれて礼を言わせて貰うよ。年若い傭兵」

 

「お、俺はただ、自分が、ムカ、ついたから………」

 

「そうだとしても、だ」

 

 

その後、俺は旦那に引き摺られるようにして輸送機の中に連れて来られその壁に叩きつけられる。

 

「俺は常々言っている筈だ。自分はなんなのかを理解しろ、と。誰かのために怒るのは構わん、他人を哀れむ権利くらいは傭兵にだってあるからな。だが、結果が気に入らないなら戦ってやる?随分と偉くなったものだな?」

 

「………すんません」

 

「全く、実際にしでかす前だったから良かったものの。始まってからでは遅いんだ」

 

「………はい」

 

「分かったなら、さっさとランスターを積み込んで帰るぞ」

 

その後、ランスターを輸送機のハンガーに積み込み研究所を後にしたが、研究所が見えなくなってもなぜか研究所のある方から視線を外すことは出来なかった。

 

ちなみにランスターの修理費の分の赤字が俺に加算されました。報酬結構貰ってたはずなのに竜胆を引き取るための代金にしかならなかったのか………




最初から最後まで戦闘シーンにしたかったけど、無理だったわともちゃん。てか、かかった日数の割に短いし……なんだコレ

傭兵には理不尽やらなんやらに怒る程度の権利はあるけど殴りかかったりとかの実動に移す権利は無い模様


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5話

模擬戦の依頼を終えてアブレヒトに帰って来ました。

ランスターは旦那の知り合いの人がやってる工房で格安で修理して貰うことになり、依頼の報酬やらと合わせて出来た金で竜胆が戻って来た。新品同然の仕上がりにはなってるが、かかった費用が高過ぎる。

 

ちなみにぼったくられるって分かってたとこになぜ預けたのかと旦那に聞いたところ、

 

「仕方ないだろう。あのスモークはあそこの工房でしか仕込めないんだ。それに追加装甲だってそこらのヤブ職人に仕立てられる物じゃないんだ」

 

とのことです。まあ、実際に乗って戦う俺からすれば機体性能が良いバトルフレームに乗れるのはありがたいことなんだが。

 

今日は旦那は外出中で俺1人である。だからなんだって話だがな。自分の金も無いから出かけてもなんも出来ないし上に独立傭兵でもない身分で出歩くとか日が暮れる頃にはサンドバッグにされて路地裏あたりに転がってるよ。ていうか、この世界で目覚めた日に実際サンドバッグされたし。

 

「掃除はやったし、竜胆の日常点検も終わった………やる事ねえな」

 

やや遅めの昼飯に缶詰(なんか肉っぽいナニカ)を食いながらぼやく。

旦那も今日は丸一日戻らないって言ってたし本当にやることがない。

 

ゴンゴンと居住スペースにある通用口の方の防弾鋼製のドアが叩かれたので、ベッド代わりであるソファーから降りてそちらへ向かい、確認用の小窓を覗き込むと、油で汚れたツナギを着た仏頂面の肩にかかる程度の金髪の女の子が居た。

 

「旦那なら出かけてるよ。今日は丸一日戻らないってよ」

 

「知ってます。その旦那さんに貴方の様子を見てこいと頼まれたんですよ」

 

「旦那に?そこまで信用ないかね俺」

 

「知りませんよ。とにかく入れてください。暑いですから」

 

「あいよ」

 

ドアの鍵を外して開ける。ギイと年代物のドアが軋む音を立てて開き、外からの熱気が一気に吹き込む。暑さには慣れたもんだが、中々キツい。腕で閉まろうとするドアを押さえながら道を開けると女の子が入って来た。

 

「お茶くらい無いんですか?」

 

冷蔵庫からミネラルウォーターが入ったボトルを渡すとそう言われた。

 

「探せば茶葉くらいあるだろうけど、生憎と俺はどこにあるのか知らないんだ。ていうか、俺はそこの冷蔵庫か缶詰入れてあるダンボールしか開ける許可貰ってねえし。飲みたいなら自分で探せ」

 

「使えませんね」

 

「俺は旦那のしもべではあるが、誰にでも従うわけじゃないからな」

 

女の子が居住スペースの奥にある炊事場に行くのを見送りソファーに寝転がる。

 

あの女の子の名前はミリア・ホークマン。旦那が別れた嫁さんとの間に作っちゃった娘らしい。旦那曰く若かりし時代の過ちだそうな。とは言え、嫁さんと別れたのは不仲になったからとかって理由ではないらしい。

 

まあそんなことはどうでも良い。重要なのはなぜこの子を寄越したのかだ。

 

 

「仮にも客が居ると言うのに随分とダラけてますね。これは伝えておかなければいけません」

 

「客っていうかただの監視だろうが。特におかしなこともしなけりゃそれでいいだろ」

 

接待用の小洒落たティーセットを持って炊事場からミリアが戻って来て机を挟んで向かい側のソファーに座りながらそう言ってきたのにひらひらと手を振って答える。

 

「で。メカマンとしての修行はどんな感じよ」

 

「そこそこですね。まあ、プレーンのバトルフレームくらいなら一人で面倒見れるようにはなりましたよ。旦那さんからはさっさと竜胆の面倒を見れるようになれと言われましたが、アレの面倒見れる職人なんてこのアブレヒトにだってそう数多くないんですよ」

 

「そりゃご愁傷様で。さっさと旦那もあのぼったくり工房と縁切りたいんだろうさ」

 

「なら、あんなフルチューンマシンなんて捨ててそこらのプレーンでも使えばいいんですよ」

 

「竜胆無くなったら俺が死ぬわ⁈」

 

「傭兵なんて命切り売りしてなんぼでしょう?何をためらってるんですか」

 

「やっぱお前は旦那の娘だよ」

 

そう言うと露骨に表情を変えて持っていたティーカップを置いて、

 

「あの人はあの人です」

 

「旦那もお前も頑固だねえ………って、アッツ⁈」

 

ティーカップに残っていた茶を浴びせかけられた。

火傷はしなかったがクッソ熱い。そんな露骨な反応するって絶対旦那のこと好きだろお前。

 

「まったく………丁度良いです。竜胆見せてもらいますよ」

 

「おう、好きにしろ。俺はちょっとシャワー浴びてくるから」

 

居住スペースを出てバトルフレームの格納スペースに向かって行くのを見ながらソファーの脇のカゴから着替えのシャツと下着、それとタオルを持って居住スペースの奥の炊事場の入り口の隣の扉を開けて中に入る。その先はシャワー室になっている。

 

野郎のシャワーシーンなんぞ誰得なのでカットォ!

 

シャワー室を出ると格納スペースの方から機材を動かす音が聞こえたので竜胆をいじくってるらしい。それをBGMにしながらソファーに寝転んで目を閉じる。機械の音?普段仕事で輸送機内で寝起きとか当たり前だから子守唄みたいなもんだわ。

 

 

「起きなさい」

 

ぺしっと額を叩かれて強制的に目覚ましがかかった。

 

「竜胆見せてもらいましたが、よくまあ、あんな機体で生きて帰って来れますね貴方。と言うか、アレなんで動くんです?追加装甲分の超過重量だけでも機体のパワーモーターが悲鳴あげますよ普通」

 

「装甲で耐えて撃ってれば大体敵は片付いてるからな。どんな改造を施してんのかは知らん。俺にわかるのは精々が超重装から追加装甲パージで高速でかっ飛ぶとっつきマシンってことくらいなもんよ」

 

答えながら起き上がって、ソファーに座りなおす。時計を見ると俺が寝てから2時間くらいが過ぎていた。2時間もメンテするでもないのに竜胆いじってたんか。

 

「昔から何も変わってないんですね。父さん」

 

「人なんてそう変わらんて。てか、あの人も現役時代にあんな感じのバトルフレーム転がしてたのか」

 

現役時代のことあんま語らないからなぁ旦那。どんな風に戦ってたかとか、どんな機体に乗ってたかとか黙して語らない。精々が脚切って傭兵引退せざるを得なくなった時の事くらいだ。

 

「貴方の前の傭兵は4回目の襲撃依頼で死にました。結構良い人だったんですよ?なんで傭兵なんてやってるのか不思議なくらいに」

 

「ま、傭兵やってる連中なんて全員何がしか問題抱えてるからなぁ。どんなに人柄が良くたって傭兵に身をやつすっことはそう言う事さ。俺だって、自分の名前以外がアレだろ?」

 

俺はこことは違う似たような世界の人間だとか言っても信じられるわけが無いからテキトーにごまかした。まあ、そのせいでサンドバッグにされたり命切り売りしてなんぼな傭兵なんて言う仕事に就いちゃってるんだが、そこは仕方ない。

 

拾ってくれた人も割と良い人?だし、これ以上は高望みだろう。増長はロクなことにならないからなイカロスの物語とかが良い例だ。

 

 

「貴方は死にませんよね?」

 

「さあな。俺だって死にたかないし、やれるだけはやるけど、きたねえ鉄くずの仲間入りする時はするだろうしな」

 

「………あの人もですけど、なんで傭兵ってそんな自分の命を軽く扱うんですか」

 

「いや、お前も言ったじゃん。傭兵なんざ命切り売りしてなんぼだって、事実そうだ。死はいつでもすぐそこにあるんだから、恐れる意味がない」

 

「だから、傭兵は嫌いなんです。あの人も貴方も」

 

「知らんがな。お前の好き嫌いなんて知るかよ」

 

恨みがましい目で見ながらそう言うミリアにそう返す。

まあ、自分でも変だとは思う。自分の命を木っ端みたいに軽く扱うことなんて出来なかった筈だ。俺ってそんな人生刹那系だったか?とか疑問は尽きないが、生きてるんだから問題ないだろう。

 

その後は特に会話を交わすことも無く時間が過ぎ、日が暮れて旦那が帰って来た。

 

「面倒をかけたな。特に何も無かったな?」

 

「ええ。何をするでもなくそこで惰眠を貪ってただけですよ」

 

「そうか。まあ、やる事をやっていたなら問題ない。丁度良い、礼も兼ねて飯でも行くか」

 

「そうですね。ここには味気ない缶詰しかないですし」

 

父親と娘のやり取りには見えねえのはなんでだろうか。なんか飯食いに行くっぽいが俺には関係ないな。味気なかろうとなんだろうとこの缶詰が俺の飯なのだ。

 

「カズキ。お前も来い」

 

「ひょ?」

 

「不満か?」

 

「まさか、喜んで着いて行きますとも」

 

特になんかがあった訳でもないが、妙に疲れた休日の締めに降って湧いた幸運である。やったぜ。




特に意味も無いカズキくんの休日


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6話

本格的に外に出歩くのも辛くなって来た真っ盛りなある日、俺は海の上に居た。

 

例のごとく襲撃依頼である。目標は太平洋を航行中の資本同盟軍の補給艦隊だ。

 

「旦那。本当にこの装備でコイツ海上滑れんの?」

 

『スペック上は追加ブースターを使えば行けるはずだ。実際にどうするかは自分で考えろ』

 

「はいはいやりますよ………」

 

とは言え、真面目にどうしたもんか。モニターに表示された竜胆の装備を見ながら頭をひねる。

 

今回の竜胆はいつものガトリングと重機関砲と単装砲に加えて、バトルフレーム用の水上滑走用フロートとバックパックと脚部に追加ブースターユニットと腰部ハードポイントに大容量のプロペラントタンクを4本も引っ付けた水上戦仕様になっている………のだが、この竜胆のような超重量の機体で使うことは想定していない。そりゃそうだ。

 

しかも追加ユニットのせいで輸送機の格納庫に竜胆納まらないから、ハンガーで宙吊り状態だ。

 

 

「ところで、旦那が受けてくる依頼って資本同盟を対象にしたのばっかなのはなんでなんだ?見たところ旦那は皇華帝国のシンパとかってわけでもなさげだけどさ」

 

『それを知ってどうする?お前はただバトルフレームに乗っていればいいんだ』

 

「そりゃそうだけどさ。あんま目の敵にしてやってると叩き潰しに来るじゃん?」

 

『その時はお前を盾にでもして逃げるさ』

 

知ってた。

傭兵の命は消耗品。この業界の常識である。

 

「で。目標の戦力は護衛に駆逐艦2隻と軽空母1隻だっけ?」

 

『クライアントからの情報が間違っていなければな。軽空母に関しては6機の艦載機の運用が可能だそうだ。何を積んでるかはシークレットだがな、使えん』

 

「航空戦力かぁ………絶対戦闘機だよなぁ」

 

『だろうな。わざわざヘリを軽空母で使う理由が無い』

 

バトルフレームと言う次世代の兵器が当たり前の存在となって尚、空は未だに戦闘機の独壇場である。なぜか?それは単純に戦闘機が速いからだ。亜音速で空を飛び、機関砲やミサイルと言った強力な爪でこちらを仕留める恐ろしい鋼の猛禽類、それが戦闘機だ。

 

「まあ、やるだけやるさ」

 

どちらにせよ傭兵である俺には仕事を拒否する権利など無い。やれと言われたならその通りにやる。それが傭兵なんだから、

 

 

『よし、目標補給艦隊が見えて来たな。準備はいいな?』

 

「うっす。いつでもどうぞ」

 

『最後にもう一度言うが、今回の襲撃依頼の行動時間は10分だ。補給艦の撃沈は大前提として護衛艦も沈められるだけ沈めろ。しくじるなよ?』

 

「こんな海のど真ん中でコイツと心中は俺だって嫌すわ。それに」

 

一瞬、死なないですよねと言ったミリアの顔が脳裏を過ぎった。なぜかはわからんが、見たくない顔だ。傭兵なんぞのためにあんな顔をするなんて優しすぎる。

 

『やる気があるなら十分だ。行って来い』

 

ハンガーのロックが解除され、竜胆が落ちる。それに合わせてブースターを全て点火し、上手いことフロートで着水からの滑走が出来るように調整する。

 

「後は野となれ山となれだ」

 

着水。そして、水飛沫を上げながら竜胆が疾走する。とりあえずランディングは無事成功だ。次は本番のドンパチだ。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

警報が鳴り響くのを聞くのと同時に食べていたハンバーガーを皿に半ば放り捨てるように置きながら立ち上がって、食堂から飛び出しロッカールームに走り込み通常の制服から対衝撃性などに優れたパイロットスーツに着替える。

 

俺の名はアイザック・フローライト。

自由資本同盟軍の航空機隊のパイロットで、階級は大尉。そして、そのなんと言うか別の世界からこの世界に来た人間らしい。

 

別の世界から来たとは言っても、この世界にきちんと愛する両親や妹も居る。だが、前世の記憶かわからないが、薄暗いカーテンも閉じた部屋に閉じこもりPCの画面に向かって「俺ならもっと上手くやるわ、このヘタクソ」だとか色々なことをがなり立てたりしていた記憶がまるで自分の経験かのように染み付いているのだ。幼い頃からずっと、

 

そんな記憶の中にあるような男にはなりたくなかった。だから、色々なことを必死になってやった。勉強もスポーツも。そうして生きてきたからか、軍に入隊後もやれる事をやれるだけやり続けていたらエースなんて呼ばれるようになってしまった。

 

とは言え、俺がやる事は変わらない。

 

ロッカールームから飛び出して艦内の格納庫にある自分の機体のところへ向かう。

 

「いつでも出られますぜ!大尉」

 

俺の機付きの整備士である中年のベテラン技師がサムズアップしてくるのに答えてハンガーの階段を駆け上がって開け放たれたコックピットに乗り込み、手早く機体を起動させる。

 

MT/A-01ライトニングファルコン(MTとはマシントルーパーの略らしい)。

それがこの機体の名前だ。この世界の主流機動兵器であるバトルフレームの中でも第四世代型と呼ばれるカテゴリに含まれる機体で、戦闘機のように自由に空を飛ぶ事が出来る。自由資本同盟軍が持つジョーカーの一枚とすら言える機体だ。

 

白く塗られた装甲とバックパックから伸びる翼のようなメインブースターから白鳥とも呼ばれている。

 

未だにエースと呼ばれることには違和感を感じるし、軍で唯一の第四世代型バトルフレームなんて言うものを与えられているプレッシャーは重たい、が、俺は軍人で兵士だ。そう求められたならそう努めるだけだ。

 

 

『こちらAWACSロングホーン。艦の防空レーダーが高速で接近する熱源を感知した。恐らくは例の情報にあった傭兵だろう。また情報に合わせて送られて来たデータによると対象は皇華帝国製第二世代型バトルフレームのAT-098竜胆をカスタムした機体らしい』

 

『竜胆?あんなもん俺らファイター乗りにとっちゃカモじゃないっすか』

 

気楽そうにこの軽空母レミニオンの飛行隊の1人であるドミニク・レッカー少尉がそう言う。事実大半のバトルフレームに対してファイターは絶対的な有利を取る事が出来る。

 

『油断するなレッカー少尉。ヤツは我が軍のバトルフレーム一個大隊相当を単騎で撃破している』

 

『マジかよ………』

 

『続けるぞ。戦闘スタイルは至ってシンプルに重装甲で耐えての撃ち合いと、ヤツと直面して生き延びた陸の連中からの情報によれば追加装甲をパージして、その際にスモークを撒きその効果中に高速での接近格闘戦を行うらしい。しかも使用武装は対バトルフレーム炸裂杭だそうだ』

 

対バトルフレーム炸裂杭。既存のバトルフレームの近接格闘兵装としては破格の破壊力を誇る兵装だ。欠点として密着状態でなければ万全の威力を発揮できない事を挙げられるが、それを補って余りある威力から開発されてから未だ尚、特殊兵装として自由資本同盟軍でも採用され続けている。

 

『炸裂杭ならファイターには関係ありません。それ以外の武装は?』

 

レッカー少尉とは違う落ち着き払った冷静な声でそうロングホーン問いかけるのはカレン・レーニッツ少尉。同盟軍でも珍しい女性のファイターパイロットで、端麗な容姿からファンも多いらしい。

 

『右腕に38ミリ重機関砲と左腕に60口径対装甲目標単装砲を1門ずつ。それにバックパックの左右ハードポイントに48ミリ三連装ガトリング砲を計2門搭載しているそうだ。ちょっとした移動要塞レベルの重火力だな』

 

呆れたようにそう言い切ったロングホーンは一つため息を吐いて、

 

『まあなんでアレだ。こんなバケモノに砲火を叩き込まれたとあっては艦船ですらただでは済まない。諸君らもそれを深く理解した上で出撃して欲しい………と、もう時間もあまり無いな。各員は発艦後、迅速に迎撃に当たってくれ』

 

 

傭兵………呼び方はどうあれど、その実態は奴隷だ。

アブレヒト。傭兵の国とも呼ばれるあそこ以外にだって傭兵は居る。全ての人に自由と尊厳をと掲げるこの自由資本同盟にだって少なくない数の傭兵と彼らを所有するオーナーと言う存在がいて、軍が表立っては出来ない後ろ暗い仕事に従事しているとは聞くが、

 

「貴様は何故戦う?傭兵」

 

発進位置へと運ばれるライトニングファルコンの中でそう呟き、甲板上の滑走路に移動すると同時にその考えを捨てて、操縦桿を握りフットペダルを踏み込みブースターの出力を上げ、

 

「アイザック・フローライト。ライトニングファルコン発艦する」

 

ファイターばりの急加速と共に全長10メートルほどの鉄の巨人が空へと飛び立つ。

 

それに続いて後から艦載機のファイター達が上がって来る。

F-46ワイバーン。就役から30年以上も空の王者として君臨し続ける資本同盟軍が誇る傑作機だ。双発の推力偏向ノズルを搭載したジェットエンジンやカナード翼による高い機動力とスピードで敵を翻弄する。俺もライトニングファルコンの前までは乗っていた機体だ。

 

『俺達は賑やかしみたいなものだ。バケモノの相手は任せるよエース』

 

編隊を組む5機のF-46の先頭の隊長機のパイロットであるジョージ・ノイマン中佐からそんな通信が飛んで来た。

 

『そこは俺達に獲物取られて悔しがるなよエースくらい言いましょうや隊長』

 

『レッカー少尉はなんでそういつも自信満々なんです?僕は不思議ですよ』

 

レッカー少尉の物言いにそう自信なさげに言うのはダン・モンロー軍曹。今回の補給艦護衛が初の実戦の新人パイロットだ。初任務なのに災難なとは思うが、いずれは経験することになる修羅場だ。

 

『ったく、飯の最中だったってのに空気の読めねえ傭兵だぜ。なあ?アイザックよ』

 

編隊の内、1機だけイナズマのパーソナルマークが描かれた機体のパイロットがそう話しかけて来る。F-46時代からのバディのロナルド・オーエン中尉だ。ライトニングファルコンに乗り換えてからも俺に追従出来る数少ないパイロットの1人である。

 

「ロニー。バーガーなら帰投してからまた食い直せばいい。そんなことよりも目の前の状況の方が重要だ」

 

『お堅いことで』

 

『各員お喋りはそこまでだ。もう目標が見えるはずだ』

 

ロングホーンにそう言われ、海に目を向けると水飛沫を上げながら真っ直ぐ突っ込んで来るダークグリーンカラーの見るからに重そうなハリネズミのように砲口を構えるバトルフレームの姿が目に入った。




いわゆるライバルキャラの投入。
才能豊かなイケメンな転生者………うーんこの


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7話

掃射力の高いガトリングを撃ち、飛来するミサイルを叩き落とし全速力で竜胆をかっ飛ばす。

 

「おいおいおい。なんで、こんな小さい木っ端みたいな補給艦隊にトップエースが乗ってんだよ⁈」

 

戦闘機に混ざって空を自由に飛び回る白い巨人は言うまでもなくバトルフレームであり、自由資本同盟の虎の子の機体である第四世代型バトルフレームのライトニングファルコンだ。

 

自由資本同盟軍のトップエースパイロットのアイザック・フローライトが駆る機体でトップエースの名に恥じない戦果をこの機体と共に挙げている。旧型艦ばかりとは言え、戦艦1隻、正規空母(飛行隊6機編隊を同時に3編隊以上運用出来る空母)1隻、重巡洋艦2隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦6隻を単騎で一回の戦闘で沈めたらしいが、バトルフレーム単騎が一個海軍戦力相当ってどんな悪夢だ。

 

見たところ武装はバックパックから伸びるブースターユニットに接続されたミサイルランチャーと右手に持ったスナイパーライフルに左手のライフルだけだ。仕込み武装が有ったとしてもナイフか拳銃くらいのものだろう。

 

それに警戒すべきはコイツだけではない。ライトニングファルコンと共に攻撃を仕掛けてくる戦闘機。こいつらだって無視は出来ない脅威だ。何せ狙えないくらいに速い。こちらがブースター全開の最大速度なのに対して、向こうはトップスピードにすら到達していない。様々な航空機動が出来る程度のスピードしか出ていない。様々な角度からミサイルや機関砲をヒットアンドアウェイで叩き込まれるんだから、たまったもんじゃない。

 

ガトリングの弾幕を抜けてミサイルが迫り、爆発する。近接信管により目標に接近しただけで爆発してダメージを与える特殊弾だ。まあ、このミサイルの爆発そのものは問題なく装甲で耐えられる。だが、爆炎で見えない一瞬の間に叩き込まれる鉛玉のダメージがシャレにならない。装甲表面の高温化で脆くなったところに入って来るからより一層タチが悪い。

 

そして、何よりも竜胆の脚部にフロートを付けた上でブースターでかっ飛ばす事によって無理矢理この水上と言う環境での活動を可能としている現状、地上なら追加ブースターに任せてサイドステップやらバックステップやらの回避挙動を行えるが、踏ん張りも利かなけりゃある程度以上のスピードを維持し続けないと河童に引きずり込まれてガメオベラなわけで、出来る事と言えば蛇行とか旋回くらいしかない。

 

重ねて言うけども無理無茶も良いところだ。相手はハイGターンやらインメルマンターンにスプリットSやらの空戦機動を駆使して追い縋って来るのに、こっちは拙い船乗りの操る船も同然だ。しかも、なんか1機ガチの変態機動してるのが居る。なんだあの180度ターン。

 

ロックオンアラートが鳴り響く。機体が急減速するのも構わずに咄嗟に機体を直角に曲がらせる。目の前に竜胆が上げるのとは別の水飛沫が上がり、更に機体のセンサーが水没のアラートが追加で鳴り出すがなんとかスピードを上げて態勢を立て直す。

 

「バトルフレームが空飛びながらそんな高速で砂してんじゃねえ!」

 

旋回し、モニターにライトニングファルコンを捉え左の単装砲を向けて撃つ。さながら空中でサイドステップするかのように横方向に飛びながら右のスナイパーライフルと左のライフルを撃って来る。てか、普通に考えてスナイパーライフルを片手だけで使えてるのおかしいわアレ。

 

ライトニングファルコンの攻撃をどうにか躱したところで戦闘機達からの攻撃が飛んで来る。尾翼と主翼にイナズマ型のパーソナルマークが描かれた機体が特にヤバい。残りの4機が連携を意識した常識的な飛行なのに対して、連携なんて最初から考えていないような軌跡を描いて飛び、ミサイルや機関砲を撃って来る。

 

それを適当に右腕を振るいながら重機関砲を斉射する事で払い除けて補給艦隊の方に向かおうとするが、そうはさせじと突っ込んで来たライトニングファルコンがこっちの進路を塞ぐようにミサイルをを撃って来る。ノーロックで撃たれたミサイルがカーテンのように目の前に降り注ぎ、進行方向を変えざるを得なくされた。

 

舌打ちをしながら、ライフルを撃って来るライトニングファルコンと撃ち合うが、真上からのロックオンアラートに無理矢理機体を旋回させて回避しようとしたが間に合わずにミサイルや機関砲が真上から降り注ぎアラート音に加えて警報ランプが灯り、コックピット内が赤くなる。

 

サブモニターに目を向けて被弾状態を確認すると、頭部と上半身がオレンジになっていて、プロペラントタンクが1本空になっていたのでパージする。少しまずい。想定ではプロペラントタンクを1本消費する頃には補給艦隊に肉薄している予定だったのがオジャンだ。

 

さて、どうする?とてもじゃないが無視出来るような連中じゃないぞ?ついでに言えばはたき落とすのもほぼ無理と来た。無理ゲー過ぎて笑えて来るわ。ハハッ意気揚々と襲撃に来てコレとか何をしに来たんだかね俺は。

 

 

「傭兵が命を惜しむのは贅沢。躊躇うな、ね………」

 

傭兵の基本的な教えを口ずさんで、竜胆をかっ飛ばす。

ミサイルが着弾し、左のガトリングが吹き飛んだがまあいい。機体本体には直撃してないんだし、それに最悪左腕の単装砲さえ有れば補給艦くらいなら沈めれる。

 

ミサイルが着弾して右肩の追加装甲がもげたが、右腕は残ってる。なら問題ない。全速力で前に進む。艦影が見えて来たがまだ艦種までは分からないので頭部カメラの望遠機能で確認する。そこまで大きくは無いが武装してる艦だ。駆逐艦だろうか。まあいい。なんであれ沈めればいいだけの話だ。

 

目の前の艦から垂直にミサイルが撃ち出され、艦首側艦上に搭載された砲がこちらを向いて火を噴き、光弾がばら撒かれる。この前の試験機に装備されていたものとは比べ物にもならない艦砲として完成されたパルスレーザーである。竜胆の装甲を信じてその弾幕の中に突っ込み、一気に距離を詰める。瞬く間に追加装甲が鉄くずと化して行くがなんとか肉薄することに成功した。

 

「まずは一隻ィ!」

 

吠えながら発砲。艦の側面部をなぞるように駆けながら全兵装からばら撒かれる弾丸が艦をズタボロにして行く。ここでガトリングの弾が切れたのでパージしながら、今度は艦首側から艦尾側へと駆け抜けながら反対側からも鉛玉をしこたま叩き込むと爆発炎上した。それを横目に見て確認して竜胆を旋回させる。

 

モニターの向こう側には他の艦とは明らかに見た目が異なるクレーンなどが特徴的な補給艦の姿があった。そちらに向かって竜胆をかっ飛ばした瞬間、竜胆の装甲ごと胴体右側が砕けて激しい衝撃が襲いかかりコックピット内も破損し飛んで来た破片が操縦桿を握る右腕に突き刺さったり、顔を切ったりしたが目に飛んで来なかったのは不幸中の幸いってやつだな。それにまだ操縦桿も動かせる。なら、問題無い。

 

ひび割れたサブモニターを見れば、機体右側が全体的にレッドで右腕は欠損を示すブラックになっていた。だが、逆に言えば欠損しているのは右腕だけだ。まだコイツは動く。なら問題ない。

 

無事な左手でメインコンソールを叩くように操作してもはやあるだけ無意味な追加装甲をパージしてスモークをばらまいて、

 

「こっからが本番だ」

 

装甲が減った分軽くなった機体はより加速し、破損のダメージも重なって軋んで悲鳴をあげるが、まあもうちょっとだけ付き合えよ相棒。

 

スモークの中を補給艦が居た場所に向かって突き進む。

武装は単装砲と炸裂杭だけだが、非武装の装甲も薄い補給艦くらいなら仕留められる。

 

「見えた」

 

単装砲を補給艦に向けて撃とうとして、咄嗟にパージする。一瞬だけ宙に浮いた単装砲がねじ曲がるようにひしゃげて砕け散る。下腕部ハードポイントの炸裂杭を展開して撃発用グリップを握り、飛び降りて来た機影に向かって振るう。

 

飛び降りて来た機影、ライトニングファルコンが炸裂杭を握った左腕を振るうのに合わせて竜胆を蹴り、そのまま距離を取って左手のライフルを撃って来るのを竜胆の脚部のフロートをパージして真横に竜胆を飛ばして回避する。

 

レーダーも何も無力化するこのスモークにあんな高速で突っ込んで来るなんて大したクソ度胸だよこのパイロット。計器類すら狂わすから高度とか完全に目測になるし、スモークで見辛いから気付いたら目の前が海面でもおかしくないってのに。

 

まあ、そのクソ度胸の持ち主はもう1人居るらしいが。

機関砲を撃ちながら戦闘機が1機、ライトニングファルコンよろしく突っ込んで来た。三次元機動出来る第四世代型バトルフレームであるライトニングファルコンならまだしも機動性やらで劣る戦闘機でやるとか正気かよコイツ。

 

スモークの効果時間は残り8分。そして、推進剤の残量から見て戦闘継続可能時間はギリギリ5分あるかどうか。しかもフロート捨てた分余計に推進剤の消費が増えてるから下手すれば3分くらいか………

 

残った兵装は炸裂杭のみ。機体状況は最悪。

相手は間違いようもないエースが2機………これはいよいよ俺もきたねえ鉄くずの仲間入りか?

 

飛来した弾丸を躱しながら空になったプロペラントタンクをパージ。これで残りは2本。いよいよ後が無くなって来やがった。

 

ブースターを全開で竜胆をかっ飛ばし補給艦との距離を詰める。飛んで来たノーロックのミサイルをかいくぐり、更に接近する。衝突しそうなギリギリで突っ込んで来た戦闘機から至近距離で放たれたミサイルを炸裂杭の装甲部分を盾にして防ぎ、そのままスピードを維持したまま補給艦に向かって突っ込んで炸裂杭を打ち込む。杭を打ち込んだ場所から補給艦の側面部が大きく抉れた。そこへ更に竜胆をターンさせて追加で炸裂杭を叩き込むと、艦内の補給物資の爆薬でも吹っ飛んだのか、盛大に爆炎を上げながら補給艦が内側から爆発炎上する。

 

そして、竜胆の左腕が肘から先がもげて文字通り手も足も出せない状態になった。目標の補給艦は沈めた。なら、やる事は1つである。

 

「にぃげるんだよぉぉぉおおお!!!台所の黒光りするアレのようにィ!!!」

 

叫びながら脱兎のごとく逃げる。鉛玉やらが飛んで来るが無視だ無視。どうせ逃げるしかなんも出来ないんだだから!!!

 

スモークの効果範囲から飛び出すと、待ってましたばかりに上からのロックオンアラートが鳴り響く。ブースター全開でサイドステップやらなんやらととにかく動きが不規則になるように竜胆をかっ飛ばしてひたすら逃げる。

 

「やべえええ!!!推進剤がマジマッハ!!!」

 

凄まじい勢いで減って行く推進剤に悲鳴を上げながら、追って来る戦闘機隊に帰れ!と吠える。

 

最後のプロペラントタンクの推進剤が半分ほどになったところでようやく戦闘機隊が引き上げて行った。

 

「………ははっ………生きてらぁ………ははっ………」

 

なんか変な笑い声が出て来た。

 

『また随分とズタボロだな』

 

「ああ。旦那も無事だったか」

 

『索敵範囲の外に居たからな』

 

「さようでございますか………こっちは酷い目に遭ったわ。ライトニングファルコンは出て来るわ変態機動する戦闘機は居るわ」

 

『何?ライトニングファルコンだと?』

 

「こりゃハメられたな旦那」

 

『のようだな………さて、回収するぞ』

 

「たのんますわ。正直言って限界なんすわ」

 

上からゆっくりと近付いてくるティルトローター式の見慣れた輸送機を見上げながら弱音を吐く。あ、やばい。ちょっと視界がおかしくなって来た。




なんとか最初から最後まで戦闘シーンで行けたよ!

良い勝負したと思う?そんな上手い話なわけがない。竜胆大破に対して、今回の相手戦闘機もバトルフレームも含めて無傷なのだ(


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8話

「以上が報告となります」

 

タブレット端末を手にした部下からの報告を聞いて、紫煙を上げる葉巻をテーブル上の灰皿に押し付けて、

 

「存外、同盟のエースとやらも大した事が無いようだな。5年前の東シナ海一帯の占領に際した戦いで我が軍の一個艦隊を単騎で無力化して見せた実力に期待していたのだがとんだ期待外れだな………いや、件の傭兵『鉄槍』が異常なのか」

 

「恐らくは後者かと、あの傭兵の動きはモニターしていましたが異常と言う他にありませんでした」

 

「で、あろうな」

 

PCの画面に目を向けると、そこには海上をブースターによって駆ける異形の姿と化した我が皇華帝国軍が誇る第二世代型バトルフレームAT-098竜胆の戦う姿が映っていた。

 

最新鋭機であるAT-136甲武ですら凌駕するような圧倒的な強度の装甲によって降りしきるミサイルや弾丸の雨の中を駆け抜けて行く姿ははっきり言って敵には回したくないものがある。機体が破損しようとも撃墜されることも躊躇わずに前進してくる敵など想像もしたくない。

 

軍上層部も懇意である傭兵として、これからも継続的に依頼を送りゆくゆくは取り込むことを狙っているのだろうが………

 

「どこの馬の骨とも知れない傭兵なぞの戦力を当てにする?馬鹿な話も大概にしろ。我が軍の将兵達は皆精強だ。だと言うのに、何故上層部は傭兵ばかりを使うのだ」

 

「しかしながら閣下、あの傭兵は使えます。そこいらの有象無象の傭兵とは違って使い潰すには惜しいのでは?」

 

「ああ、それは認めるとも。こんなものを見せられてはな………で。例の計画はどうなっている?」

 

わざわざ自由資本同盟に潜入させている工作員達に無理を言って、あのエースの動向を探らせたら丁度良くアフリカへの異動があったのでそれにぶつけてみたが、よもや逃げおおせて見せるとは予想外だ。それだけの腕があるなら腹立たしいことではあるが、使うだけ使って潰すのがいいだろう。

 

「つつがなく。報告によれば、早ければ半年以内には仕上がると」

 

「よろしい。中央の権益にしがみつく事しか頭に無い老害どもに目にものを見せてやる」

 

そうとも、戦場の主役は傭兵などではない。我ら正当なる将兵達なのだ。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

『すまない、傭兵を取り逃がしてしまった。あんなボロボロのバトルフレーム1機すら仕留めらないとはいよいよ俺も退役を考えるべきかもしれないなぁ』

 

「いいや、奴を仕留め切れなかった俺達にこそ責任がある」

 

ノイマン中佐からの通信にモニターに映る補給艦と護衛の駆逐艦の片割れの残骸を見下ろしながら答える。

 

何人が死んだ?少なくとも3桁単位で人が死んでいる。俺達が、俺がしくじった結果がこれだ。あそこで外さずちゃんと胴体中央部に当てていれば補給艦は沈まなかっただろうし、もっと言えば最初から進行の妨害などではなく撃墜を選んでいれば駆逐艦だって守れた筈だ。

 

何がエースだ。周りからちやほやとおだてられてのぼせ上がったか、アイザック・フローライト。

 

 

『こちらAWACSロングホーン、各機無事か?』

 

『ピンピンしてるよクソッタレ!守るはずの補給艦沈められて俺らは無傷ってなんだよこりゃ⁈補給待ってる連中になんて言い訳すりゃ良いんだよこれ!エース送り届けたって食うもんも弾薬も何も無かったら戦えないじゃねえか!』

 

レッカー少尉が怒鳴るような声でロングホーンに返答する。

彼が言ったように、俺達の機体はいずれもかすり傷ひとつ付いていない。味方の盾になって傷付くならまだしも味方はやられて自分は無傷など皮肉にもなりやしない。

 

『レッカー少尉、それは艦隊の全員が同じ気持ちだ。とにかく一旦帰投するんだ』

 

『了解………』

 

『他の皆もだ。帰投してくれ』

 

『承服出来ません。まだ燃料も弾薬も十分にあります。今ならまだ』

 

『司令部からの命令だ。そのまま本来の任務に戻り、積荷を届けろとのことだ。フローライト大尉とオーエン中尉もだ。積荷である君達が戻らなければそれも成せない』

 

『ふざけんな!ここまでコケにされて黙ってられっか!行くぞアイザック。味方の敵討ちだ!』

 

『いいから戻って来い!お前たちの仕事はなんだ⁈アフリカの連中を助けることだろうが!』

 

「戻ろう、ロニー。そしてここで散った人達のためにも1人でも多くの味方をアフリカで助けよう」

 

『ちくしょう!』

 

 

あの傭兵とはまた戦場で会う気がする。その時は必ず奴を墜とす。絶対にだ。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

眼が覚めると古ぼけてはいるが清潔感のある天井がそこにあった。

なんで俺こんな所に居るんだ?えーっと?確か………

 

「あー思い出した思い出した。旦那に回収してもらった後に意識がぶっ飛んだんだ」

 

と言う事はここはアブレヒトの病院か。あれ?治療費ヤバくね?あらやだまた赤字が積み重なっちゃう。

 

まあ、生きてるだけめっけもんなんだろうけどさ。

左腕には点滴の管が付いていて右腕はガーゼやらなんやらで真っ白になっているし体も軋むように痛い。けど、それは生きている証だ。

 

「まあうん。生きてて良かった」

 

実際、あの時の銃撃が竜胆の右腕の方に逸れていなかったらきたねえ鉄くずとして太平洋の藻屑になっていた。どうにもこうにも俺は悪運ってのが強いらしい。

 

最初の日にゴロツキにサンドバッグにされて放り出されても冬の真夜中凍死する前に旦那にも拾って貰えたし。ま、幸運には程遠いけど。

 

ぼんやりと天井を見ながらそんな事を考えているとカーテンが開いて誰かが入って来た。旦那か?そう思ってそっちに目を向けると見慣れた機械油に汚れたツナギではない私服らしい白いブラウスに黒のやや長めのスカートと言う服装のミリアだった。

 

しばらく互いに無言で見合っていると、

 

 

「目が覚めたのか」

 

「ども旦那。俺どんくらい寝てた?」

 

「4日と言ったところだな」

 

「4日も寝た切りとかここ出た後が恐ろしいわ」

 

「安心しろしっかりとリハビリメニューは組んでやる」

 

「オーナーの心遣いが身に染みるねえ」

 

「道具のメンテナンスは大事だからな」

 

「ああ、メンテナンスは大事っすね」

 

「「はっはっは」」

 

なんかコントみたいなやり取りを旦那としていると、

 

「随分と気楽ですね?ん?」

 

「いや、なんでお前が怒ってんだ」

 

ミリアのすっごくイイ笑顔にそう返す。笑顔とは本来(以下略

なぜにこんな怒ってんだコイツ。俺なんか地雷踏んだか?

 

「心配してたんですよ?3日前帰って来た父さんに呼び出されたと思ったら、竜胆は半分スクラップ状態。貴方はと言えば父さんが応急処置を済ませてましたが意識は戻らず、病院に連れて来て医者に見せても血を流し過ぎで治療を施しても目を覚ますか分からないって言われて………」

 

「あー失血死寸前だったかぁ。まあ、腕に破片やら刺さったのもそのままで傷の手当てとかもしてなったから、当たり前か」

 

ぼやくようにそう言うとビンタをされた。結構痛い。

 

「自分のことなんですよ⁈なんでそんな他人事みたいなんですか⁈」

 

「生きてるならセーフセーフ。後遺症とか残ったらヤバイけど」

 

「安心しろ。医者の見立てでは奇跡的に特に後遺症なども残らないそうだ。もっとも傷痕は残るらしいが特に問題はないな。まあ、竜胆を潰す事になったからその分、お前にはコレからもしっかりと働いて貰わなければならないがな」

 

やったね。これまで通りにお仕事できるよ!目頭がなんか熱いけど気のせいだ!うん!と言うかマジで後遺症でバトルフレーム乗れないとか言われたらその時点で俺の人生ガメオベラだから運が良いわ。折角生き延びたのに路上死亡エンドは勘弁だ。

 

「と言う訳で特に問題はない。竜胆?知らない子と言い張りたかったです」

 

「馬鹿ッ!!!」

 

そう怒鳴ってミリアは出て行ってしまった。一体今の返事の何が悪かったんだろうか?

 

「気にするな。アレはいつもの事だ」

 

「自分の娘の事だろうに気にするなって、この父親マジパネェ」

 

「傭兵が行くのは戦場なんだ。引き金を引けば誰かが死ぬし、生きて帰って来られるだけでも十分に幸運だ。それをいちいち多少の大怪我をした程度で喚き立てるようならこの業界に関わるべきじゃない」

 

「なら、無理矢理にでもアブレヒトから放り出しゃ良いじゃん。皇華帝国でも自由資本同盟でもどこでもいいから、そこで普通の女の子として生きさせてやれば良いだろ」

 

「したとも。俺だってその程度の親の努めは果たすさ。だが、それでもここに残ってバトルフレームの技師になる事を選んだのはアレだ。なら、そんな甘えは許されない」

 

「戦場に出て行ったヤツが無事に生きて帰って来られるように、だっけか?お優しいことで」

 

「さて、ここでの治療費は必要経費としておくが、さっきも言ったように竜胆がダメになったからな。急遽ランスターをカスタムする事になった分はお前の赤字に加算するから覚悟しておけ」

 

「いきなりそれぶっ込んで来る⁈」

 

俺、自分の金を手にする以前に赤字生活から脱却できるんだろうか?




後日談っぽいもの。
順番は依頼人の皇華帝国の軍人さん→ライバル→カズキくんの順になってます。

カズキくんの人生葉っぱ隊ぶりが酷い?書いてる自分も書き終わってこやつの死生観にちょっと引いてる(何


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9話

病院から退院して、リハビリだとか体の鍛え直しだとか色々やってたら夏は過ぎて秋になっていた。時間の流れって早いって思った今日この頃。

 

ちなみに今日はアブレヒトでも上の連中が住む場所に旦那と共に来てます。雑多でいつでもわいわいぎゃあぎゃあと喧騒絶えない一般区と違ってすごく静かです。

 

「同じアブレヒトの上とは思えん場所だなぁここ」

 

アブレヒトは元々は東西に10km、南北に4km程の大きさのメガフロートひとつだったそうだが、月日が経ち人が増えるのに合わせて増築が繰り返された結果、東西に50km南北には20kmと劇的ビフォーアフターを遂げて今の形になったらしい。もう大都市が一つまるごと海に浮かんでるようなもんだな。

 

西部は商業区として発展し、北部は数多のバトルフレーム技師達の工房が軒を連ねる工業区。東部にはアブレヒトの食糧事情を一手に担う農業プラントがあり、南部は一般民向けのアパートや借家と傭兵達が住居兼オフィスに使う倉庫などが建ち並ぶ一般居住区。そしてここ、アブレヒトのほぼ中央、権力者達が住まう上居住区だ。

 

 

「まあ、普通は傭兵には縁の無い場所だからな。傭兵でここに来るのは凄腕も凄腕の連中くらいのものだ」

 

「じゃあ、なんで俺らは居るんですかね」

 

「お呼びがかかったのさ」

 

「誰に?」

 

「行けば分かる」

 

そう言って歩き出した旦那の後を追いかける。と言うかあんまり長居したくないなぁここ。

 

人一人すら歩いていない不気味なくらいに静かで小綺麗な道を歩いて行くと、洋館じみた高そうな屋敷が建ち並ぶ中に武家屋敷を思わせる木造瓦屋根の大邸宅が建っていた。

 

「ここだ」

 

「え?ここ大丈夫?ヤクザの組長かなんかの家だったりしない?」

 

「安心しろ。周りの家も似たようなものだ、ヤクザかギャングか呼び名は変わるがな。大体がこのアブレヒトに居るのはそう言ったアウトローな連中ばかりだろう?俺達然り」

 

「そういやそうだった」

 

男は度胸。傭兵は命を投げ捨てるもの。南無三。

心の中でそう唱えて旦那な後に続いて開け放たれた門をくぐり、丸石が敷かれた道を歩いて屋敷の中に入る。

 

「お待ちしておりました」

 

リアルメイドさんなんて初めて見た。てか、和風なお屋敷なのにメイドさんでいいのか。中々イイ趣味してそうだなここの主人………

 

靴を脱いで上がって、メイドさんの後に続いて板張りの廊下を歩いて行く。にしても怖いくらい姿勢いいなこのメイドさん。

 

「こちらでお待ちください」

 

そう言ってメイドさんが開けた襖をくぐって畳が敷かれた部屋に入ると、先客らしい連中がこっちを見ていた。纏った雰囲気で大体分かるが、全員が一級品クラスの傭兵達だ。超こええ。

 

「よおヨルド、お前さんも呼ばれたのか」

 

ニィっと笑みを浮かべて旦那並にガタイの良い左目に眼帯を付けた黒人の男の傭兵が話しかけて来た。

 

「カークスか。まだ生きていたのか」

 

「カハハハ!!そうそうくたばるものかよ。で?そっちのボウズが噂の2代目か?」

 

そんな値踏みするような目を向けないでくれませんかねえ?

 

「たまたま拾ったのが当たりだっただけだ。それに自分であんな呼び名を名乗れるものか」

 

「パイルを主兵装にして散々暴れておいてそれを言うかね。ええ?鉄槍さんよぉ」

 

「やめろ。他人から聞くだけでも気色悪い」

 

「相変わらず、恥ずかしがり屋だなぁお前さん。さて、噂は聞いてんぜボウズ」

 

いきなり話振って来たな。そして、他の連中もこっち見ないでくれませんかねえ⁈俺、あんたらに目ェつけられるような凄腕でもなんでもない木っ端傭兵なんですが⁈

 

「噂?」

 

動揺を悟られないよう気を張りながら聞き返す。

 

「なんでも、アイザック・フローライトも居る艦隊に1発かましてやったそうじゃねえか」

 

「ぶちかましたって、駆逐艦と補給艦1隻沈めるのに、フルチューンの竜胆1機は割に合わないだろ」

 

「バトルフレームなんざ所詮は消耗品よぉ、やる事やって生きて帰ってこれるなら勝ちってなもんさ。それに、あの青二才だって仮にも自由資本同盟軍のエースなんだぜ?」

 

アレを青二才扱い………この人、一体何者なんだ。

 

「大体が、ここにこうして『呼ばれている』。それだけで、傭兵ならお前さんに興味を持つのは当たり前の話さ」

 

「そんなもんか」

 

「ああ、何せここの主人は………と、来たみたいだな」

 

音も無く襖が開いて、老人と言えるくらいの年齢に見える黒い和服に紺色の羽織を着た男がメイドさんを引き連れて部屋に入って来た。ここに居る中の誰よりも一番ヤバいと直観的に分かるくらい凄まじい空気を纏っている。なんだこの爺さん。

 

 

「まずは皆、忙しいだろうに良く集まってくれた」

 

「あんたの声を無視出来るようなヤツはこのアブレヒトはおろか、世界中探したって居やしないよ」

 

タンクトップにホットパンツと言う露出過多な赤毛のショートヘアの女がそう言うと、旦那も含めてそれに同意を示した。

 

「カズキ。お前もこのアブレヒトは扱いや維持に困った自由資本同盟から売りに出されてそれを買い取った者が居るのは知っているな?」

 

「それくらいは」

 

「その買い取ったのがあの男、ゲンドウ・ミツハラだ」

 

「はぁ⁈」

 

いや待て。個人でメガフロート買い取るってどんな財力してんだ⁈国レベルで金持ってんのかあの爺さん⁈開いた口が塞がらないってこう言うことなのか。

 

「さて、皆にこうして集まって貰った理由だが、私から依頼をしたいからだ」

 

その言葉に集まった傭兵連中が息を飲むのが分かった。

 

「依頼の内容はアフリカで我が物顔で暴れ回る傭兵達の排除だ。アフリカの情勢は皆も知っての通り、群雄割拠の戦国時代状態だ。その隙を突くように好き勝手に振る舞う傭兵である事すら捨てた獣をどうにかしろ、とそれぞれに現地政府を支援する自由資本同盟と皇華帝国双方からの要望だ。ご丁寧にこの依頼が成されない場合、それ相応の対応を取らせて貰うとの脅し付きだ」

 

傭兵は傭兵が片付けろ。お前らの身内だろうが、って事だろう。

 

「すまないが、ウチは降りさせて貰う」

 

「だなぁ。傭兵は命投げ捨てるものかもしれないけど、後ろから味方のはずの軍隊に撃たれたくない」

 

「ウチは自由資本同盟からの覚えも悪ければ、皇華帝国にはこの前の依頼でハメられたばかりなんでな。おかげで竜胆がスクラップの大損だ」

 

自由資本同盟はともかく皇華帝国からハメられる意味が分からないんだよなぁ。問題無く依頼された通りにやって来たのに、なぜに罠にハメられなきゃならんのか。

 

周りからお前ら正気か?と言いたげな視線が集まるが仕方ないね。確かに傭兵は命を投げ捨てるものだけど、その命の切りどころくらいは考える。

 

 

「ウチの傭兵も言ったように、いつ撃ってくるか分からないような連中を背にするような依頼は御免だ。そもそも、しばらくは襲撃依頼自体やめて護衛依頼に専念するつもりだった」

 

「あれ?でも、護衛依頼は割が安いって言ってなかったっけ?」

 

「黙っていろ。目的地はアフリカだったか?アフリカなら故意的なフレンドリーファイアも許されるだろうな。これだけお膳立てされていて、後ろから撃たれる事を考えるな、と言うのが無理な話だ」

 

旦那すげえ、あの爺さんに真正面から見られて平気ってどんな胆力してんだ………

 

「………まだ過去を引きずっているのか。まあ、その危惧は最もだ。しかし、この依頼は我がアブレヒトの価値にも関わるのだ。誰にでも任せられる訳ではない。それは分かってもらえるな?」

 

「依頼を選ぶ権利はこちらにもある。ハイリスクローリターンの可能性が高い依頼を受ける者が居るか?」

 

過去?旦那は昔何があったんだ………

 

「まあまあ、ヨルドよ。そのボウズが大事なのは分かるがそこまでにしとけや。下手に翁の機嫌でも損ねたら、そもそも仕事が出来なくなるぜ?」

 

「カークス」

 

「お前さんが自由資本同盟を憎んでるのは知ってる。あんなことされりゃあどんな愛国者だって反国家主義者に鞍替えするだろうが、それとこれとじゃ話は別だろ?」

 

説得を受けて旦那はため息を吐くと、

 

「今回だけだ」

 

短く絞り出すように一言そう言って、腕を組んで黙り込んだ。

どんだけ自由資本同盟嫌いなんだ旦那。

 

「そこのおじさまと自由資本同盟の確執はどうでも良いですけど、報酬はどれくらいなんですかぁ?まさか、自由資本同盟と皇華帝国が出し渋るなんて外面の悪いことはしませんよねぇ?」

 

黙って話を聞いていた西洋人形か何かかのようにフリルやらリボンだらけのゴシックロリータってやつ?そんな感じの高そうな服を着た色素の薄い白に近い薄い金髪を腰のあたりまで伸ばした女が笑っていない笑顔でそう言う。

 

ああ、報酬は大事だな。うん。やるならやるで報酬はきっちり貰わないと、積み重なり続けてる赤字が減らないからね!

 

「依頼主から提示されたのは1人あたり4億。そこに私からの個人的な謝礼として追加で1億を報酬として支払う」

 

「長期契約ですよねぇ?少し安くないですかぁ?」

 

5億で安いって、一級品の傭兵って動かすのにどんだけ金いるのか知りたいやら知りたくないやら、

 

「ボクは別にそれで構わないけどね。ドンパチ楽しいカーニバルならなお良しだ」

 

妙にイイ笑顔で貴族か何かみたいな小綺麗な服を着た金髪のイケメンがそう言う。トリハピ野郎かな?

 

「それが依頼であるなら、何であれ誰であれ撃つ。それだけだ」

 

トリハピ野郎(暫定)に続いて頭から爪先まで黒一色な男が抑揚のない声でそう言い着ているくたびれたロングコートの中に右手を突っ込むとなんか細長いものを取り出して口に咥えた。たぶん知らない方が身のためなアブナイおクスリかなんかだよなアレ。

 

「これだからドンパチやりたいだけのトリガーハッピーにワーカーホリックは嫌なんですよねぇ………」

 

「なんで誰も分かってくれないんだ。ミサイルと機関砲に泣き叫ぶ人の叫び声、最高のオーケストラじゃないか」

 

あ、トリハピでサイコパスだこいつ。

 

「報酬に関しては目を瞑って貰いたい。代わりに皆の機体の整備費、弾薬費ならびに諸々の費用をこちらで受け持とう」

 

「純粋に報酬で5億………それならまあ」

 

「他人の金でミサイルカーニバル!なんて素敵な響きなんだ!」

 

「翁には色々と世話になってるしアタシはロハでもいいけどね」

 

「カハハハ!これは仕事終わりに良い酒が飲めそうだな!」

 

「依頼受領。必ずこなしてみせるとも」

 

なんでもうやりきった気になってんだこいつら………一級品の傭兵って怖い。旦那はランスター改造したって言ってたが、どんな機体に仕上がってるのか俺まだ知らないから不安だらけなんだが。

 

「出立は明後日正午とする。それまでに各自準備を整えて、東部港湾区に集合だ」




アフリカってドンパチ混乱の戦国時代にするのに便利な気がするのはなんでだろう。

カズキくん、はじめての他傭兵との共同仕事。
なお、友軍のはずの片っぽ(自由資本同盟)はいつ背中から「1発なら誤射かもしれない」してくるからわからない模様(何


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10話

ゲンドウ氏のお屋敷を出て、ランスターが預けられている工房がある北部に向かう。クレーンやドリルに発電機やらと種々雑多な機械達の奏でるオーケストラを聴きながら、作業用重機としてカスタムされ平和な目的で運用されるバトルフレーム達を見ながら歩いて行くと目的の工房に着いた。

 

開け放たれたバトルフレーム用の進入口からはハンガーに固定されたバトルフレーム達が並んでいるのが良く見える。

 

旦那に続いて中に入ると、耳をつんざくようなけたたましい機械音が所狭しと響き渡っていて、たまらず耳を塞ぐ。

 

「うひゃあ、いつ聞いてもやかましいことっ」

 

旦那が何か言っているが機械の音にかき消されて聞こえない。

そうして待っていると、俺達に気付いた工房の人間が近付いて来た。頭にバンダナのようにタオルを巻いたツナギを着た男で、

 

「どうも!親方は今ちょっと出かけてるんで、事務室の方で待っててもらえませんか!」

 

機械音に負けないくらいの大声で叫んでそう言った。

彼の言葉に従って、工房の端の方にちょんと設置されたプレハブ小屋に入る。壁に防音素材が使われてるのか普通に会話出来る程度にまで外からの音が抑えられていて、良く冷房も効いていた。

 

「珍しいですね。連絡も無く急にやって来るなんて」

 

俺達の少し後にミネラルウォーターの入ったボトルを持ってミリアがプレハブ小屋に入って来た。そういや、ミリアが修行してる工房ってここだったっけか。

 

「急に依頼が入ってな。ランスターは仕上がってるな?」

 

「ええ。親方が不眠不休でハイテンションで改造して、仕上げの調整をほっつけて来ました」

 

「待て。お前がやったのか?」

 

「まだですよ。どうせカズキが乗るんでしょう?なら、カズキが居なきゃ調整も何も出来ません」

 

おっそうだな。

 

「いや、お前はやらなくて良い。マオが帰って来てから奴にやらせろ」

 

「卒業試験だとか言って、私にやれって言って聞かないんですが」

 

「状況が状況だ。腕も不確かな半人前に調整は任せられん」

 

「一体今度はどんな依頼を受けたんですか?」

 

「ゲンドウ・ミツハラからの依頼でアフリカに行く事になった」

 

「アフリカって絶賛戦争真っ只中じゃないですか。なんでまたそんなところに」

 

「さぁな。呼びつけられて半ば強制的に依頼を押し付けられた」

 

拒否権の無い依頼って依頼って言えるんだろうか。え?報酬は出るんだから無問題?せやな。

 

「あと2時間もすれば親方も戻ると思いますから、このまま待っててください。私は自分の仕事に戻りますので」

 

そう言い残してミリアがプレハブ小屋を出て行った。

 

「カズキ」

 

「なんすか」

 

「いや、なんでもない」

 

過去に何があったか知らんが、今日の旦那ちょっとナイーブ過ぎない?まあ誰にだって触れて欲しくない傷ってもんはあるか。俺には特に無いけどな!

 

そのまま微妙な雰囲気を漂わせながら、水をちびちび飲みつつ待っていると。

 

「やあ!待たせたようですまないね!」

 

そんな元気いっぱいな声と共に胡服姿の黒髪の男がプレハブ小屋に入って来た。

 

マオ・フーシェン。旦那の古い知り合いのバトルフレーム技師で、この工房の主人だ。

 

「それで、今日はなんの用事だい?ランスターなら後はミリアちゃんが仕上げをするだけだよ⁈いやあ、久しぶりのフルチューン楽しかったなぁ」

 

「アレにも言ったが、仕上げまでお前がやれ。急遽失敗が許されない仕事を受ける事になった」

 

「ああ、例のアフリカの話だね⁈技師連中の間じゃあ、ちょっとしたお祭り騒ぎさ!」

 

どこから漏れたとか気にしたら負けなんだろうなぁ。なんでか、アブレヒトの職人ネットワークって、下手な情報屋より色んな情報が流れ回ってるし。誰某の趣味嗜好みたいなどうでも良いのから今回みたいな重要度の高い情報だろうとどこかしかから拾ってくるからね………

 

「ふーむ。調整まで請け負うのは構わないけど、アフリカに行くってことは長期依頼だろう?その間、ランスターの面倒を見てくれるアテはあるのかい?ワタシは無理だよ。なんたって忙しいからね!大口依頼でドーラス12機を使えるようにして納品しろとの無茶振りを受けていてね!」

 

「そうか………気は進まないが、あそこに依頼するか」

 

金繰りの算盤を頭の中で弾く旦那が顔をしかめる。竜胆ダメにしたのは謝るけどアレは不可抗力だ。エース2機とか無理無理かたつむり。

 

「そこでだ!ランスターのカスタム費用を値引きする代わりにミリアちゃんを連れて行ってあげてほしい!」

 

「論外だな」

 

「まあまあまあ、落ち着いて話を聞いてくれないか?友よ。はっきり言うが、ミリアちゃんがバトルフレーム技師としてやって行くには技術云々よりも心構えの方が大事だ。て言うか技術だけなら現時点で既に合格レベルだし10年もしないうちにワタシなんて余裕で超える技師になるよ」

 

「マオ、それは過大評価し過ぎじゃないのか?」

 

「そんなことはないさ。あの子がウチに来てから3年が経つが、バトルフレームの分解から組み立て調整までをこれだけの短い時間で全てを1人で出来るようになる技師なんてそうは居ない。天才ってやつだね⁈とは言え、だ。あの子には決定的に覚悟が足りない」

 

「だからアレは甘いんだ」

 

「そう。だからこそあの子には目で見て肌で現実を感じて理解して貰わなければならない。それでダメならあの子はダメさ。ダメならダメと引導を渡してやるのも親の務めだろう?」

 

はい。それでくたばることになる俺の命は所謂コラテラルダメージってやつですね、わかります。傭兵の命は下手すりゃバトルフレーム用の弾丸より安いからね仕方ないね。泣きたい。

 

「それで、バトルフレームと傭兵を使い潰せと言うのか?冗談もいい加減にしろ」

 

「実らない作物を育てても意味が無いだろう?ダメな芽はさっさと抜いて新しい芽を育てた方が建設的だからね!」

 

シレっとくそ辛辣な事言ってんなこの人。

 

「大体がね。たかが傭兵の命と自分の娘を同じ秤にかける事自体が筋違いと言うものじゃないかな?その子の境遇にはワタシも同情はするけどそれだけさ。その子とミリアちゃんならワタシはミリアちゃんの方が大事だよ」

 

たかが傭兵の命だってさwハハッワロス………分かりきった事だけど、直接目の前で言われると泣きたくなる。

 

「カズキ」

 

「なんすか旦那」

 

「お前が決めろ」

 

「マジで言ってんの?」

 

「究極的にはお前が生きるか死ぬかだからな」

 

「んじゃミリアで」

 

「そうか………」

 

なんでかって?気心知れた相手だし、腕自体は工房の主人である親方さんが合格レベルって認めてるんだから特に問題は無いからだ。どうせ、誰がやってもきたねえ鉄くずになる時はなるんだしな。

 

うん、自分でもこんだけ軽く命扱ってりゃたかが傭兵の命って言われてもしゃーないわ。

 

「傭兵の方が話がわかるじゃないか。キミ、名前はなんて言うんだい⁈」

 

急にハイテンションやめてくれませんかねえ………

 

「カズキ・クジョウ」

 

「カズキだね⁈覚えておこう!もし、キミがヨルドの下から独立出来たなら色々融通してあげるよ⁈」

 

「独立出来る気しないけどな。赤字ばっか溜まりまくりだし」

 

「そうだな。6億くらい自分で用意出来たなら考えてやるが」

 

6億とかマジ無理ゲーじゃないですかヤダー。

 

「さて、それじゃちゃっちゃと調整終わらせようか⁈カズキを借りるよヨルド⁈」

 

「ああ、さっさと終わらせろ」

 

「なぁにすぐに片付くさ⁈」

 

頭の中でドナドナを流しながら親方さんに俵担ぎされてプレハブ小屋を出る。そして、そのまま連行された先にはハンガーに固定されたランスターが有った。

 

竜胆のようなそのまま無理矢理戦艦の装甲を盛りました〜みたいな外見ではなく、追加装甲は施されているがちゃんとしたジャケットアーマーの様な感じで、脛の外側には追加ブースターが備わっていた。

 

「で。両腕のあのゲテモノ武装はなんなんだコレっ⁈」

 

特に目を引いたのはランスターの両腕のハードポイントに接続された複合兵装だ。シールドの内側に単装砲と竜胆にも備わっていた炸裂杭を更に太く強力にしましたと言わんばかりのモノが引っ付いたトンチキ兵装である。

 

「この機体はね⁈かつてヨルドが傭兵時代に乗っていた機体を再現アップデートしたものなんだ!ジャケットアーマーにはツテを使って手に入れたコルベットの装甲を加工したものを使ってるから、軽くて頑丈だ!あの竜胆には負けるけどね⁈どうやったら旧来の技術だけで作られた装甲があれだけの強度を持つのか興味が尽きないよ⁈現物は無くなっちゃったけどね!」

 

「旦那こんな変態マシン乗ってたのか………」

 

「説明を続けるよ⁈バックパックのメインブースターは左右それぞれを単発から双発に変更して脚部にサブブースターの追加したから、かなり自由に動き回れるよ⁈まあ、その分推進剤の消費とかは増えたからバックパックに追加タンクを付ける事なったから機体重量は増えちゃったんだけどまあ誤差だよね⁈ちなみにバックパックのマウントユニットは右がM4グレネードランチャー、左がガルム速射機関砲!そしてぇ!大目玉はコレ!コルベットのシールドをベースに48口径アサルトカノン・ストリクスに68口径パイルバンカー・ストークを組み合わせた複合兵装ヘルファイア!守ってよし撃ってよし突いてよしの便利兵装さ!使いこなせるかは知らないけどね!まあ、ヨルドは使いこなしてたし、ヨルドが手放すのを惜しむくらいの傭兵のキミなら大丈夫さ!」

 

なんでこの爆音の中はっきりと声が聞こえるのかとか一呼吸で全部言い切ってるのが怖いとか色々あるけど、それより何よりもこんな機体を仕上げてくる狂気が怖い。そして、コレを乗りこなしてたって言う旦那も旦那で突き抜けてて怖い。え?あんなゲテモノ竜胆乗ってたお前が言うな?せやな(

 

「さあ、コックピットに乗り込んでくれたまえ!」

 

なんかギラついた目が怖いから言われたままにランスターに乗り込むとコックピットブロックが見慣れた竜胆のものにすげ変わっていた。竜胆とランスターって操作系統も何もかも違うはずなのに動くのかコレと思いながら、メインコンソールの画面を操作して起動させる。

 

「お、動いた」

 

『当たり前さ⁈まあ、繋げるのはちょっと苦労したけど、竜胆と同じ感覚で動かせると思うよ⁈』

 

職人の技ってスゲー。しかもこの親方さんよりも腕の良い職人(例:竜胆を仕上げた職人とか)も居るんだから、アブレヒトって割りかし技術者の魔窟だわ。

 

そんな事を思いながら言われた様にランスターを動かして調整を進めて行く。




機体更新回みたいなの
量産汎用機をワンオフカスタムチューンしたロボって不思議とカッコいいよね。

まあ、オリジナルのワンオフロボもカッコいいけどね!(数々のロボアニメの主役機見ながら)


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11話

アフリカ。

そこではかれこれ30年以上の間、民族主義やら宗教やら鉱物資源やらを巡った戦争が続いている。元の世界のアフリカでも時折小競り合いがあったくらいだったが、こっちの世界のアフリカのように毎日そこかしこで汚い花火が上がるような世紀末ではなかった。

 

 

「戦場で飯の種稼ぐ傭兵である俺が言うのもなんだけどさ。ウン十年も戦争続けるって馬鹿じゃねえの?」

 

メインコンソールを操作してランスターの機体状態を確認しながらぼやく。

 

「そうですね。誰かしらに不幸を与える貴方が言えた義理じゃないですね。とりあえず、そのケーブルを繋いでください」

 

「へいへい」

 

そう答えてミリアに言われたようにメインコンソールパネルの下部にあるコネクターに渡されたケーブルを繋ぐ。

 

「全く、なんで私までアフリカまで行かなきゃならないんですか。言っておきますけど、機体本体はともかく両腕の武装の調整までは難しいですよ?」

 

「マジで?お前んとこの親方さんが問題なくやれるって言ってたから頼んだんだけど」

 

「真に受けるあたり馬鹿ですね。父さんならコネやらなんやらでウチの親方以上の技師だって引っ張ってこれるだろうにわざわざ私みたいな未熟者を連れて来るとか、本気で馬鹿ですね」

 

「ぶっちゃけ白状するとランスターの改造費割り引いてくれるって話だったから、それに飛び付きました。だって仕方ないだろ!それでなくたって赤字まみれなんだよ!」

 

「やっぱり貴方も命よりもお金が大事なんですか」

 

「それ抜きにしてもお前に頼んでたけどな。腕は良くても信用出来ないヤツより信用出来るヤツを選ぶよ俺は。それに両腕のは最悪バラして単品で使えばいい。それくらいは出来るだろ?」

 

旦那なら手抜き仕事するような技師は引っ張って来ないだろうが、それでも見ず知らずの相手よりは良く見知った相手の方が良い。長期間一緒に仕事をするならより一層だ。

 

「やっぱり馬鹿ですね貴方。まぁ、こっちも仕事として引き受けたからにはやるだけはやりますよ。未熟者の技師でもそれくらいのプライドはありますから」

 

「おう。なぁに多少ボッコでもなんとかするさ。半分くらいぶっ壊れてたって動くのは竜胆が証明してくれたし」

 

「今残っている竜胆の部分はコックピットだけですけどね」

 

「大丈夫。武装的にも実質竜胆だからコイツ」

 

砲にガトリングにグレネードに装甲マシマシ。ほら、竜胆と一緒だ。全然違う?知らんな。乗ってる俺が竜胆って言うんだから竜胆なんだよ。イイネ?はて、俺は誰に向かって言っているんだろうか。

 

ランスターのメンテを終わらせた後は特にやることもなく退屈なので船の甲板でボーっと海を眺めてみる。そういや、純粋に何かをするでもなくただ海を見るのってこの世界で初めてだわ。

 

 

 

「まるでそこかしこでドンパチ起きてるのが嘘に感じるくらい安穏としてんなあ………」

 

この世界に来てから3年目くらいか。他に道がなかったとは言え、よくまあ生き延びてるもんだわ。バトルフレームを操縦する才能とか悪運の強さをくれた神様に感謝すべきなんだろうな。いや、そもそもなぜこんな世界にブッ込んだって怒鳴るわ。元の世界に帰せって。

 

「いや、今の俺があそこに戻ったところで生き苦しいだけか………」

 

ドンパチの無い当たり前で平和な暮らし。そんなモノはもう俺には分からないし、今の俺にとっての普通はバトルフレームに乗って引き金を引く事だ。今更それを忘れろって言うには引き金を引きすぎた。

 

 

「そんな所で黄昏れてないで一緒にお茶でもしないかい?」

 

声が聞こえた方を振り向くとトリハピ野郎が立っていて、俺が甲板に出て来た時点じゃなかったはずの折りたたみ式の机と椅子が並んでいて、机に取り付けられた日除け用の傘の下ゴスロリ女が椅子に座っていた。お前らいつ来たし。

 

「まあ、それくらいなら旦那も怒らねえかな」

 

「独立していない傭兵は大変だね。何をするにもオーナーに伺いを立てなきゃならないんだからさ。最初から独立傭兵で始めたボクには無関係だったけど」

 

「初っ端から独立傭兵って金持ちだなぁ………やっぱそれなりの家の出なのな」

 

「これでも元はロイヤルの貴族の御曹司だからね!流石に誰かの下で奴隷のように使われるってのは外聞的にも避けたかったんだろうさ」

 

「御曹司を勘当って大概だな」

 

「なぁに弟がそこらへんは上手くやってるよ。たまに泣き言のメールも来るけど」

 

押し付けられたか………頑張れ見ぬ弟君。超頑張れ。

そうやって話しながら椅子に座ると、トリハピ野郎はせっせとお茶の準備を始めた。

 

「驚いた。ゲンドウ氏の屋敷でのやり取り的に、お前らあんま個人的な付き合いは無いって思ってたんだけどな」

 

「タダで美味しいお茶が飲めるんですからぼっちに付き合うくらいはしてあげますよぉ。そっちこそ割と自由に動いてるんですねぇ」

 

にっこりと笑顔でゴスロリ女が割と辛辣な事言ってるが、まあトリハピで軽くサイコパス入ってるような奴と友達になりたいような奴は居ないわな。

 

「旦那曰く何から何までこっちで面倒見るのは御免だ、だってさ」

 

「普通は傭兵の反逆を恐れてそんな事しないんですけどねぇ。まぁ、個人的に調べた限りでもオーナーとしてはかなりのお人好しなあのおじさまならそんな事考える必要ないんでしょうねぇ」

 

「盛り上がってるみたいだね。なにやら泣きたくなる事言われたような気がするけど、それはまあいいとしてお茶にしよう。ボクのとっておきの茶葉を使ったから味は保証するよ」

 

トリハピ野郎がそう言って小洒落たティーカップに注がれた紅茶が目の前に置く。ゴスロリ女に倣ってとりあえず一口飲んでみるが、美味いのはわかってもどう表現していいのかわかんねぇや。

 

「グリュネソルトの茶葉はいいですねぇ。心が落ち着きますよぉ」

 

「とりあえず美味い茶って事だけはわかったわ」

 

「はは、お気に召したようでなによりだよ。さて、それじゃあこれからも仲良くしていくためにも自己紹介をしようか。ボクの名前はアイク・ロッソよろしく頼むよカズキ」

 

ああうん、こっちの名前は知られてるんですね。

 

「イリヤ・ネウロイ・ヴェルノイアですよぉ。まぁ、アフリカから生きて戻れたならこの先もよろしくお願いしますねぇ。もしかしたら仕事の手伝いを頼む事もあるかもしれませんしぃ」

 

「そっちはなんか知ってるみたいだけど、俺はカズキ・クジョウ。別に忘れてくれて良いぞ」

 

独立傭兵でも無いのに名前覚えられるとかロクでもない事になるフラグでしかない。

 

「普通なら売り込みするところだよ、ここは」

 

「それなり以上に好印象与えて来たはずの皇華帝国に騙して悪いがされたばっかなんで………」

 

「傭兵なんて稼業やってれば騙して悪いがなんて事はよくある話さ。むしろ、そんな依頼が来るって事は名前が売れて来た証明だよ。気楽に使い捨て出来る都合の良い存在であると同時に目の上のコブのようなものだからねボク達傭兵は」

 

「ですねぇ。傭兵なんて命を切り売りするのと同じくらいに騙されてなんぼですしぃ」

 

「コレが一級の傭兵の価値観か………」

 

木っ端傭兵の俺とは見てるものが違いすぎる………騙される事前提ってお前。

 

「まあ、目に見えて怪しい依頼は受けないのが基本さ」

 

「傭兵の鉄則ですねぇ、依頼内容の割に報酬の良い仕事は避けるものですよぉ。たまに適正の報酬でも騙される事ありますけどぉ」

 

「もう木っ端傭兵で良いよ俺は」

 

あー茶が美味しい。

 

「無理だね」

 

「無理ですねぇ」

 

「ですよねー。わかってたよチクショウめ」

 

少なくとも自由資本同盟からは目の敵にされてもおかしくない。アフリカ着いたら後ろからの不幸な一撃貰わないよう気を付けなきゃ。向こうに駐留してる軍隊とは基本的に別行動らしいが、場合によっては協働もあるはずだ。そうなった時に『不慮の事故』として始末されないようにな(

 

 

●●●●●●●●●

 

 

「まさかこのような場所で再び会う事になるとは思いませんでしたよ。ハートマン艦長」

 

狭いがそれなりに小綺麗に整えられた船長室で机を挟んで向かい会った老齢の船乗りに向かってそう話しかける。

 

彼は俺、ヨルド・アフマンがかつて自由資本同盟軍に属していた時の最後の任務で俺達の隊を任務地に輸送した船の船長であるロイス・ハートマンあの時は少佐だったか。

 

「もう昔の事さ。私もこうして君と再び出会う事になるとは思わなかったよアフマン君」

 

「昔の事、ですか………自分にとってはそうではありません。確かにこの身この命を捧げる事を選んだのは自分ですが、だからと言って祖国の為でも同盟の為でも何でもなく、ただ理事にとって外聞が悪い。潔白アピールのためだけに殺されるなど冗談ではない。今だって国内の傭兵に俺達が担っていた仕事をやらせているではないか」

 

「そうだな。私も任務を終えた後、半ば強制的に軍を追われこうしてしがない船長をする事になるまでは信じられなかったよ」

 

そう言って、ハートマン艦長が机の上に置いたくたびれた自由資本同盟軍の軍帽に手を置く。

 

「俺達の存在を無かった事になどさせはしない。第33独立作戦小隊は消えはしない」

 

「君の怒りはわかる。が、その復讐をあの少年に背負わせ続けるのはやめたまえ。いつか後悔する事になるぞ」

 

少年、カズキの事か。

たまたま通りかかった路上にボロ雑巾のような姿で打ち捨てられていたのを拾った俺の傭兵であり、復讐の代弁者。

 

「後悔、ですか………しかし最早自分は止まれません。俺を逃がしてくれたロウ隊長やジェシカ、アイク、リロイ、テミス。戦友達には申し訳ないですがね」

 

彼らが今の俺を見たら確実に泣くだろうが、どうしようもない。理不尽に友を、家族を奪われて黙っていられるほど俺は大人にはなれなかった。

 

マグカップに残っていたコーヒーを飲み切り、船長室を辞する。




夏の暑さにやられて死んでた。更新滞って申し訳ない(焼き土下座)
毎日毎日熱中症とかワロエナイ。皆もポカリ飲んで熱中症に備えてな

次はドンパチ戦闘回にしたい。


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12話

海をどんぶらこっこと一月ほど渡ってアフリカに着きました。

ん?現状?ドンパチの真っ最中ですが?

 

アフリカ到着早々、上陸した港町(自由資本同盟傘下入り済み)の周囲を荒らして回る傭兵や現地民兵が一緒くたになった賊の撃滅をする事になったんだが………何故かその賊の拠点に俺が単独で襲撃する事になった。理由は他の傭兵連中(特に赤毛の傭兵の女)からの要望で実際の俺の実力を知りたいって話だ。

 

まあ、鉄槍だなんだと噂ばっかりが先走ってるし、そう言われても仕方ないんだけどな。

 

 

超遠距離からの曲射とは言え、やたらと狙いのガバガバな降り注ぐ砲撃を盾で防ぎながらランスターを前へと走らせる。

 

ヘルファイアの上面部に備えられたコルベット本体にも使われている特殊合金を用いて作られたこの盾はとても頑丈で軽い。とは言え、竜胆で使ってた単装砲みたいな高威力の実体弾ぶっ放すもんにはやや脆いのがネックか。実用化されつつある光学兵器への対抗が重視されてるって話には聞いたが、このアフリカにゃ光学兵器なんて上等なもんがあるわけもないし、あの単装砲クラスのもんが出て来た時が心配だ。俺はコレをぶち抜いて来た側だからな。

 

 

「覚えてやがれよ?クソッタレ共め………」

 

やらせる理屈も分かるし、俺だって同じように名前が売れ始めて噂が先走ってるような奴と協働するってなったら、そいつの実力を見せて貰うと思う。

 

が、それはそれこれはこれだ。

 

港町に防衛と言う名目で残った他の傭兵連中に対して毒づきながら、バックパック左側にマウントした機関砲を撃ち、近付いて来る機関銃などで武装した武装車両を蹴散らす。ただの機関銃くらいなら豆鉄砲だが、パンツァーファウストやらRPGやらのロケットランチャーをぶっ放してくるのも居るから近付かれる前に吹っ飛ばすに越した事は無い。

 

『目標まで後3キロメートルだ。防衛戦力にバトルフレームが8、タンク3輌を確認している。まあ、他にもまだあるだろうが構わん、蹴散らせ』

 

対空砲火の届かない高空を偵察用カメラなどを追加した特別仕様にカスタムした輸送機で飛ぶ旦那からそんな報告が届く。

 

「なんで真正面から拠点攻略に単騎で突っ込まにゃならないんだか」

 

『力を示せと言われた以上はやる他にない。何、いつもやっている襲撃に比べれば楽だ。機体もパイロットの質も取るに足らないんだからな』

 

「そりゃそうだけどさぁ………」

 

目標との距離が近づくに従って敵の照準精度が上がって来た砲撃の中をブースターを吹かして一気に駆け抜ける。

 

爆炎を抜けると、一丁前に軍基地のように防壁が備えられた賊拠点のゲートからバトルフレームが出て来る。ずんぐりとした箱を並べて組み合わせたような見た目ではあるが、低コストで未だに傭兵やそのオーナーから大人気な自由資本同盟産の第一世代型バトルフレームのドーラスが3機と、そのドーラスをパク………もといベースに開発された頭部と胴体が一体化したような卵型の胴体部に丸みを帯びた手脚が付き、単眼のカメラアイが特徴的な皇華帝国産の第一世代型バトルフレームの円人が3機でしかも編隊を組むと言うこのアフリカ以外じゃまずお目にはかかれない貴重な光景を見ながら、その編隊にランスターを突っ込ませる。

 

先頭のドーラスが撃ってくるライフルのバースト射撃を左の盾を前にかざして防ぎながら距離を詰め、ランスターの右腕の肘をたたむように引いて右のヘルファイアの杭の照準をドーラスの胴体部に合わせ、そのままシールドバッシュを叩き込み、後ろにたたらを踏むドーラスに向けて右腕を突き出すようにしながら杭を打ち込む。

 

竜胆で使っていた物に比べると小口とは言え、火薬の爆発力で杭を撃発していたアレと違って電磁力による超加速で杭を打ち込むので、軽く取り回しも良い。威力も同等かややこっちのが上か?まあなんでもいい。一撃で目の前の目標を砕いてくれるならそれで十分だ。

 

杭を受けたドーラスの胴体が砕け、破片やオイルやらが入り混じった液体を撒き散らしながら崩れ落ちて行く。それを蹴散らすように突進で吹き飛ばしながら次の目標に狙いを付ける。

 

二番手に付いていた鉈のような外見をした現在の皇華帝国軍でも使われているバトルフレーム用の近接格闘兵装である汎用機鎧用長刀を両手に持った円人が斬りかかってくる。それを後ろに跳んで、両手の長刀の連撃を躱しながら両腕のヘルファイアのカノン砲を撃ち込んできたねえ鉄くずに変えて、それを壁にしてM4グレネードランチャーを曲射で撃つ。リボルバー式の弾倉に装填された砲弾の中から選んだのは広範囲に業火を撒き散らすナパーム弾だ。瞬間的に3000度以上の高熱まで加熱されれば、頑強な装甲に覆われたバトルフレームであってもただじゃあすまない。

 

とは言え、高温の代償として燃焼時間30秒くらいしか無いから耐える奴は普通に耐えるんだけどな。(皇華帝国の甲武とか俺が乗ってた竜胆とか)まあ、賊連中に用意出来るようなバトルフレームにまともな耐熱処理なぞ出来るわけもないので、きたねえ鉄のローストの出来上がりだ。

 

そして残ったのは、重武装で足の遅かった近接武装のひとつも持っていない砲撃支援型のドーラスが一機だけだ。

 

『こ、降参だ!あそこの連中は好きにしてくれて構わねぇから助けてくれ!」

 

ヘルファイアのカノン砲を向けるとオープン回線の通信でそんな命乞いが聞こえてきた。ご丁寧にコックピットハッチまで開けて操縦桿から手を離した姿まで見せてくる。

 

「旦那どうする?」

 

『生かしておいたところでロクな事にならん。やれ』

 

「だそうだ。残念だったな」

 

賊が何かを言う前にカノン砲を撃つ。開け放たれたドーラスのコックピットに吸い込まれるように飛び込んだ砲弾に貫かれたドーラスが爆発を起こして吹き飛ぶ。

 

ヘルファイアを下ろして堅く閉じられた賊拠点のゲートに目を向ける。まあ、賊連中で用意出来るようなシロモノなんだから、そこまで大したもんじゃないだろうが、仮にも防壁として用意された物だ。そんな簡単には行かないだろう………

 

とでも言うと思ったか。

 

何のための炸裂杭だ?むしろ、こんな時のための炸裂杭に決まってんだろぉ!

 

壁の向こうから引きこもりチキンどものろくに狙いも定めていない、無作為に飛んで来る砲弾を無視してゲートに接近して右のヘルファイアの杭を連続で打ち込む。ガガガン!と金属と金属がぶつかり合う金切り音が上がり、あっという間にゲートがひしゃげていく。ゲートから杭を引き抜きながらトドメの一撃としてグレネードランチャーから徹甲弾をお見舞いする。

 

ちなみにこの徹甲弾もナパーム弾も普通なら使えません。なぜって?高いからだよ(真顔)他人のサイフで高価な弾をブッパ気持ちいですねえ!

 

徹甲弾が炸裂して壊れかけだったゲートを完全に吹っ飛ばす。そうして出来た道を通って、賊拠点内に踏み込む。その瞬間、雨あられと砲弾やら何やらが飛んで来たが追加装甲で耐える。

 

「熱烈な歓迎痛み入るねぇ………じゃ、サクッと終わらせますか」

 

ランスターのブースターを吹かして出迎えの中に突っ込む。機関砲で武装車両やロケットランチャーを持っただけの賊連中らを一気に蹴散らし、横隊で雁首を揃える戦車にはカノン砲をお見舞いしてサヨナラだ。

 

バトルフレームが見当たらない。旦那からの報告にあった数は8。そして俺がきたねえ鉄くずに変えた数が6。残りはどこ行った?

 

「旦那。そっちから残りのバトルフレームは見える?」

 

『お前が丁度居る場所を挟むように二手に分かれて向かって来ているな。まあ、奴らはこっちが空から見ていることに気付いていないようだが………爆装したファイターでも使えば余裕なくらいザルな対空警備だ』

 

「傭兵崩れが居るって言っても見たとこ、大体は民兵みたいだし、そんな高性能なレーダー用意出来なかったんじゃね?」

 

後は自由資本同盟にとっては、この賊連中は別に潰す必要の無いくらい脅威と思われてないか、だ。

 

『と、お喋りは終わりだ。奴らが両脇の倉庫に入ったぞ』

 

「へーい」

 

旦那との通信を終えて、操縦桿を握り直した瞬間、左の倉庫の壁が砕けてバトルフレームが飛び出して来た。大分カスタムされているが、下半身の過剰なまでのブースターと頭部の緑色のデュアルアイカメラの特徴からカイウスと判断して、飛び出して来た勢いのまま突き出されたバトルフレーム用の両手剣をランスターを屈ませて躱して、左のヘルファイアの盾でかち上げるようなタックルを仕掛けながら、右のヘルファイアのカノン砲を牽制として後ろに向けて撃つ。

 

タックルを受けたカイウスはたたらを踏みつつも堪えて、仕返しに両手剣を振るって来る。ヘルファイアの盾でいなすが、甲高い金切り音を立てながら火花が上がり、盾が幾分か削られる。

 

「結構やるなぁコイツ」

 

呟きながらランスターを左側、丁度入って来たゲートの方へと跳躍させて距離を取る。それに少し遅れて、俺から見て右側の倉庫のシャッターをぶち破りながら長柄斧と槍を組み合わせたハルバードのようなものを持った肩幅の広い逞しさと力強さに溢れた重厚な甲冑を着込んだ様な見た目のバトルフレームが出て来た。

 

旧主力機の竜胆ならではの高い操作性はそのままにハイパワー化と重装甲を施した皇華帝国が新型機として配備する第三世代型バトルフレーム甲武だ。

 

 

『イキったところで所詮は肝の小さい小物だったなぁ依頼主。たかが、バトルフレーム一機に攻められたくらいで臆病風に吹かれてさ』

 

『とは言え依頼は依頼、しっかりとやりきるのが傭兵と言うもの。それに目の前の此奴はなかなかに出来る』

 

『みたいだな。やれやれ、ここが俺らの死に場所ってやつかぁ?ま、やられる気はないけどさ』

 

『然り』

 

オープン回線でなんか急にくっちゃべり出したが、コイツらここの雇われた傭兵か。で、その賊の親玉は尻尾巻いて逃げ出した、と。

 

「旦那」

 

『捕捉済みだ。後ろの連中に追撃に向かわせた。これくらいは奴らにも働いてもらわねばな』

 

アブレヒトでも指折りの傭兵に追われる賊の皆様ご愁傷様。まあ、賊なんぞに身をやつしたあんたらの選択を恨みながら地獄の底で閻魔様に土下座してらっしゃい。

 

「あんたらの依頼主の命は時間の問題だけど、それでもやるのか?」

 

オープン通信で呼びかける。

 

『依頼主がどんなクソだろうと仕事内容がどんなであれ、契約にだけは嘘付かない主義なんだわ』

 

『信用信頼がモットーである故な』

 

「そうかい。んじゃ、やるか」

 

相手がなんであれ前に立ちふさがるならそれは俺が撃つべき目標だ。




アッカーン!どんどん投稿間隔が延びてりゅう()
ちなみに没ネタだけど、カイウスを主人公機にする予定があったりなかったりした。

パイルバンカーぶん回す騎士っぽいナニカ。うーんこの。


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13話

両手剣を担いでカイウスが突進してくる。凄まじい速さだ。スピード特化のカイウスらしいと言えばらしいが、にしたって速い。

 

まあそのタネは至って単純、あの機体に追加されたブースターだ。

カイウスはバックパックと腰後部に高出力のメインブースターを2基ずつと腰横部アーマーに瞬発性と機動性を確保するためのサブブースターを基本装備にしているんだが、目の前の奴はそれらに加えて脚部にまで追加のブースターを施していやがる。そりゃ、重たい両手剣担いでもスピード落ちんわ。

 

『シャアッ!!』

 

オープン回線でそんな事を吠えながら、突進の勢いを乗せて両手剣を振り下ろして来る。ランスターを後ろにジャンプさせてその一撃を躱す。空を切った両手剣の刃が地面に振り下ろされ、地面を固めるコンクリートが砕かれて破片が飛び散る。あんなもんまともに受けたらどうなるかわかったもんじゃねえ⁈

 

そして、その状態からこちらに背中を向けるようにしながら一歩踏み込んで来て返す刃で斬り上げて来る。それを左半身を前に向けるようにして躱しながら、そのままカイウスの懐に飛び込もうとしたが、カイウスの脇下から甲武の斧槍が飛び出して来た。咄嗟に左のヘルファイアの盾で防ぐが、ランスターが後ろに吹っ飛ばされる。

 

崩れた体勢を立て直して着地しながら舌打ちをする。

手は速いが攻撃一辺倒なイノシシなカイウスにパワーはあっても鈍重な甲武。思いの外上手いこと噛み合ったコンビしてやがる。

 

カイウスの大振りでぶん回される両手剣は確かに剣そのものの重量もあってまともに食らえばシャレにならないが、見切るのはそう難しくない。連撃も繋がったとしても精々が3回。たぶんだがそれ以上は腕もそうだが機体の方が負荷に耐えられないんだろう。だからこそ、今ですよー攻撃してくださいと言わんばかりに隙が出来る。

 

けれど、常にカイウスの後ろに続く甲武がさっきのようなカウンターなどでその隙を埋める。防御でも回避でも他なんでもいいからとにかく相手の動きが止まればそれで十分。体勢を整えたカイウスが再び攻撃を繰り出す。

 

これがこいつらの戦闘スタイルなんだろう。

シンプルと言うか稚拙な連携だと言うかは人によるだろうが、厄介は厄介だ。

 

さて、どう仕留めたもんか。

カイウスと甲武、どっちかだけならそこまで撃破は難しくない。カイウスはさっきのように連撃を凌いだ後の隙を突いて杭を打ち込めば片付くし甲武に至っちゃ攻撃させる前に懐に飛び込んじまいさえすればこっちのもんだからな。これだから一撃必殺の炸裂杭はやめられない。まあ、旦那が外すって言ったらそこまでだけども。

 

 

『オラオラァ!びびってねえで攻撃して来いよ!』

 

だから、いつまでオープン回線開いてんだお前はよ?命の取り合いしてる相手と仲良くお喋りでもしたいのか。

突進しながらそんな吠え声を上げながらカイウスがまた突進して来て、その突進の勢いのまま刺突を繰り出してくる。

 

それを左のヘルファイアの盾を両手剣の腹にぶつけるように振るって逸らし、右のヘルファイアの盾を構えて、それを勢いに乗っていて止まり切れずに突っ込んで来たカイウスに叩き付ける。そして、仰け反ったカイウスの脇の下に左腕を潜り込ませてカノン砲を撃つ。

 

効くかは知らんけど後ろの甲武への牽制くらいにはなる。

やる事やった左腕を引っ込めて、カイウスに今度は盾を構えタックルを仕掛けて吹っ飛ばす。

 

「欲しいならくれてやんよ!激アツの鉛玉ァ!」

 

グレネードランチャーの照準を吹っ飛んだカイウスとそれを受け止め切り揉みしている甲武に合わせてM4グレネードランチャーの弾倉に残った通常のグレネード弾3発全弾を叩き込む。

 

着弾したグレネード弾が連撃で爆発して、炎と煙を撒き散らす。左右を倉庫の壁に挟まれた擬似的な閉塞空間なのも相まって立ち込めた煙が視界を塞ぐ。どうとでも動けるように身構えた瞬間、煙の向こうから竜胆が姿を現した。てか、竜胆⁈あ、俺が乗ってたヤツと同じで竜胆に追加で甲武の装甲着込んでたんですねわかります。って、自分で自分にツッコミ入れてる場合じゃねえ。

 

飛び出して来た竜胆の手には仕込み武器らしき柄も何も無いシンプルな片刃の短剣が握られていて、突進の勢いのまま刺突を繰り出して来た。ギリギリ左のヘルファイアを割り込ませる事が出来たが、短剣とは言え機体の全重量を乗せた一撃は両手剣やら斧槍と言うヘビー級な武装を防いで損耗していた盾を貫いて下のカノン砲と杭の機関部にまで届き、左のヘルファイアが使えなくなった。そして、そのまま斧槍をぶん回していたパワーにものを言わせた投げで立て続けに左側の倉庫の壁に叩きつけられ、鉄筋コンクリートの壁を破壊しながらランスターが倉庫内の床に倒れる。

 

すぐにランスターを起き上がらせながら、ぶち抜いた壁の割れ目の向こうに右のヘルファイアを向けて、そこに居る竜胆に向けてカノン砲を撃とうとした瞬間、横から左腕を失い頭部も半ば砕け半壊したカイウスが突っ込んで来た。

 

「まだ生きてやがったのか⁈」

 

咄嗟にランスターの右腕を引いて後ろに一歩分跳んで、突進の勢いのままに振り下ろされる両手剣を躱すが、叩きつけるように振り下ろされた両手剣が横薙ぎに振るわれる。盾で防ぐが、まだ空中に浮いたままだったランスターはバットで打たれたボールのように吹っ飛ぶ。

 

『ハッハ!死ぬかと思ったぜ!あの距離じゃあテメェもグレネードの爆破範囲に巻き込まれかねないってのによぉ』

 

そのセリフを聞きながら着地して、カノン砲をカイウスに向けて撃つ。だらりと垂れ下がった右腕は動く様子もなく、無防備のまま俺が撃った弾がカイウスに命中し、ぐらりと後ろに向かって倒れて行く。

 

『先ぃ逝ってんぜ?相棒』

 

『ああ、そうは待たせぬよ』

 

倒れていくカイウスの手から両手剣を取って、竜胆がそれを引き摺るようにしながら走って近づいて来る。それにカノン砲を撃ち込もうとしたが、弾詰まりを起こして撃てない。間が悪過ぎんだろおい。

 

くそったれめ!

 

ツイてない自分に文句を言いながら、カノン砲から炸裂杭に切り替えて竜胆を迎え撃つ。コンクリートの床を削って火花を散らしながらランスターの左脇から右肩に向けて斬り上げるように振り抜かれた両手剣を左のヘルファイアで防ぐが、楔のように突き立ったまま途中でへし折れてめり込んだままになっていた短剣の刃が更に深く減り込み、ランスターの左腕まで届き、左腕破損のアラート音が鳴り響く。それを聞きながら左腕の出力を上げて過負荷異常の警告アラートも無視して両手剣を跳ね上げる。

 

『ぬ⁈』

 

「あばよ。先に行ってるヤツによろしく言っておいてくれや」

 

最後にオープン回線を繋いでそう言って、ガラ空きの竜胆の胴体に右のヘルファイアの炸裂杭を向けて杭を打ち込む。上に着込んでいた甲武の装甲ならいざ知らず、頑丈さよりも軽量さを優先させた竜胆の装甲が耐え切れるわけもなく、あっさりとひしゃげ、内側から爆発するように砕け散り、残った竜胆の下半身の膝が崩れて倒れ、上半身の残った部分がランスターの頭上を通り過ぎて後ろに落下する。

 

深くため息を吐いて、杭を撃発した状態の右腕を下ろす。左腕が力が抜けたようにだらりと垂れ下がっているが、まあ大丈夫だろう。こいつら以外の後詰めが居なければだけどな。

 

「旦那。終わった」

 

【丁度こちらもカークス達から終わりの通信を貰ったところだ。グッドタイミングだな】

 

「それとランスターぶっ壊れたんだけどコレ、ミリアに直せるかね?」

 

【さあな。アレに直せなければ、そのまま出て貰うだけだ】

 

「ですよねー」

 

わざわざ他の傭兵連中がそれぞれ独自に連れて来てる技師に頼んでまで直さんよな。最悪、左脇取っ払ってなんか代わりの腕を付けりゃ良いだけだし。パーツはどっから調達するか?目の前に残骸があるじゃろ。後はわかるな?

 

ま、とりあえず両手剣は貰ってこう。なんか役立ちそうだし。

右のヘルファイアのグリップを格納して、フリーになった右腕で両手剣を拾って肩に担ぐ。それなりに重いが、ぶん回すならともかく担ぐ分には問題無いだろ。

 

のっしのっしと歩いて(倉庫の壁に叩き付けられた時にバックパック破損してた)港町まで戻ると、既に他の傭兵連中は戻って来ていた。特に疲れた様子もハンガーに並んでるバトルフレームも破損した様子も無いのにイラッと来たが、黙って割り当てられたハンガーに向かい担いで来た両手剣をハンガーの武装懸架用ラックに立てて、ランスターを格納する。

 

主電源を切って、コックピットハッチを開けると目の前の乗り降り用のキャットウォークに旦那譲りの仏頂面をしたミリアが立っていた。なんか言えよこえーよ(真顔)

 

「まずは、単独襲撃お疲れ様でした」

 

「お、おう」

 

まさか労われるとは思ってなかった。ランスターぶっ壊れてるからそれに怒られるかと思って損したわ。

 

「また、壊れちゃいましたね」

 

「生きてて怪我も無いなら御の字さ。で、コレ直るか?」

 

「バラした次第です。前にも言いましたけどヘルファイアはともかく機体本体ならなんとかします」

 

「んじゃ頼む。コイツの状態次第で俺がどうなるか変わるし。と言うわけでそこ退いてくんね?降りられないんだけど」

 

ミリアが退いたのを確認して、シートに体を固定するベルトを外してランスターから降りて軽く伸びをして凝り固まった体を解しながら歩いて階段を降りて、格納庫内の休憩室に向かって冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出してソファーにどかりと座り込みながら飲んで、

 

「今日もまた生き延びた。さて、明日はどうなることやら………」




前回投稿日を見る。
今回投稿日を見る。

これアカンヤツや………(白目)
俺も頑張らなきゃ、タ●キも頑張ってたし!(フラグ)

甲武と見せかけた竜胆だったって言うオチだけど、カズキくんの乗ってた竜胆も似たようなもんやしセフセフ。てか、この先も似たような感じで便利使いすると思われる竜胆


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14話

賊の拠点襲撃から3日ほどが経ったところで港町に自由資本同盟軍を示すマークが描かれたバトルフレーム用に後部コンテナがハンガーになっているトレーラーがぞろぞろとやって来た。ちなみに俺達のとこに当てがわれたトレーラーはコンテナが2輌編成で、ランスターも輸送機もどっちも収容できるようにしてあった。意外と良対応でびっくりした。

 

広大なアフリカを移動するための足らしい。マジでアフリカを東へ西へ南へ北へと俺達を使い倒すつもりらしい。

 

で、早速それを使って移動してるわけだが、

 

 

「とりあえず、直せるだけは直しましたけど、左のヘルファイアは駄目ですね。ああまで壊れていてはオーバーホールして完全整備するか、新しいものを積むしかありませんね」

 

だろうな。折れた短剣が完全に機関部貫いててぶっ壊れてたし。

そんなミリアの言う事を聞きながら、横倒しでハンガーに固定されたランスターに目を向けて、

 

「で、右のヘルファイアバラして、カノン砲右手にシールドと炸裂杭はひとまとめに左腕、と」

 

「親方が見たら泣きますね」

 

「そうかい。俺にはどうでもいいけど」

 

「それで、あの両手剣本当に使うんですか?」

 

「当然。だから持って来たんだ」

 

やっぱりパイルバンカーはロマンだけど、身の丈くらいあるデカイ剣もオトコノコ的に考えてぶん回したい。

 

「ところで旦那は?」

 

「カークスさんと何かを話し合ってるみたいです」

 

この傭兵グループのまとめ役は経験やらなんやらから自然と旦那とカークスのおっさんになってた。まあ、この2人以外は精々が20か30の若僧ばっかだしそうなるのは当たり前か。て言うか他の連中全員、集団のリーダーとか務まりそうにないしな、俺含めて。

 

「次の行き先かねえ?」

 

「私に分かる訳ないじゃないですか」

 

「ですよねー」

 

そんな他愛のないやり取りをしていると、左手首に付けた腕輪型の端末からピーピーとアラームが鳴った。ちなみにコレも供与品である。なんか怪しい仕掛け(毒針とか爆弾)だとか無いかと怖かったがそんな事は無かったけど、このなんも無さが逆に怖い。

 

「さて、それじゃお仕事始めますか。ま、ランスターの中に待機してるだけだけで特になんかする訳じゃないけど」

 

「武装の確認は忘れないでくださいね?何か起きた時はすぐに出さなきゃいけませんから」

 

「わかってるって」

 

端末のアラームを止めて、開け放たれたランスターのコックピットに入る。機体を寝かせた状態でも乗り降り出来る様にバトルフレームのコックピットはある程度回転する様に出来ているので特に無理もなくシートに座りベルトを締めてランスターをスタンバイ状態で起動させて武装と機体の状態を確認する。特に問題は無し、なんかあってもこれならすぐ対応出来るだろう。

 

特に何かをするでもなくボーッとシートに体を預けながら、この前の2人組の傭兵達との戦いを思い返す。はっきりわかったのは、自分の操縦技術の未熟さだ。カークスのおっさんには上等、上等って褒められたけども単にあのおっさんが基準にしてるラインを下回っていないだけだ。実際、赤毛の女の傭兵には微妙な顔されたし。

 

て言うか、そもそもがなんでゲンドウ氏は旦那に依頼の話を持って来たんだ?いまいち実感は無いが、名前の売れて来た新進気鋭の傭兵?そんなもん俺以外にだって吐いて捨てるほど居るだろうになぜわざわざピンポイントでウチなんだ?分からん。さーっぱりわかんねえ!

 

高卒でも工場で働いてたヤツにそん権謀術数出来るわきゃないにしても考えないと下手すりゃこの前の補給艦隊襲撃の時みたいにハメられる。再三繰り返してるが、ウチは自由資本同盟から撃たれても文句言えないくらいに襲撃をしまくってるんだからな。

 

 

『やあ、カズキ。そっちの調子はどうだい?』

 

そんな風に考えに耽っていると、トリハピ野郎のアイクからいきなり通信が飛んで来た。なんなの?友達居ないの?あ、こいつぼっちだったな。とりあえず、通信に応じる。

 

「別に、普通にランスターの中で待機してるよ」

 

『暇だろう?ちょっと話でもしようじゃないか』

 

「一応、俺仕事中なんですがね?そこんとこ分かってる?」

 

『堅苦しいのは抜きで行こうじゃないか。ボク達は軍隊でもなんでもない傭兵なんだからさ』

 

「仮にもプロ的にそれはどうなんだ」

 

『ハハ、行儀の良い傭兵なんて傭兵じゃないよ』

 

まあ、その通りっちゃその通りなんだけども………うーんこの

 

『仕事だカズキ。お喋りしてないで出ろ』

 

「うっす」

 

お喋りしてるのバレテーラ。とりあえず、ランスターをスリープ状態から戦闘状態に切り替える。それと同時に武装のロックの解除を進めて行くとコンテナ上部が前方向へ中折れ式で折り畳まれて、ランスターを固定しているハンガーが起き上がり、ハンガーのロックが解除される。

 

『進行方向の直進10キロの場所から救難信号が発信されている』

 

「タダで人助け?いつから俺らそんな聖人になったんよ?」

 

『勘違いするな。救助はあくまでもついでだ、恐らく賊か何かに追われてるんだろう。となればこちらの進行の邪魔だ。まあ生きていれば拾ってやれ』

 

「迂回とかはしないんで?」

 

『生憎とこのトレーラーで通れるような道は今走っているここしかないから迂回しようがない。手間だが叩き潰してこい』

 

「りょーかい」

 

そう返事を返して、コンテナの床を蹴ってランスターをジャンプさせて外に出るのと同時にブースターを点火してランスターを加速させる。

 

鈍足な部類に入るランスターでもブースターまで使えば時速300キロは普通に出せる。10キロなんてあっと言う間だ。そして、見えて来たのは3機のお揃いのライムグリーンで統一されたカラーリングに左肩アーマーに歯が金歯になっているドクロと言う趣味の悪いマークが描かれたドーラスに、それと同じマークが描かれたバンが追いかけっこをしていた。てか、ドーラスの方完全にバンの方いたぶって愉しんでるなアレ。

 

どう見ても、オーナーに反逆した傭兵と傭兵に反逆されたオーナーですね本当にありがとうございました。

 

あ、気付かれた。まあいい、どうせやる事は変わらんしな。3機のうちバックパックにグレネードランチャーを備えた右後方のドーラスにカノン砲を向けて撃ち込んでさっさと無力化し、ランスターの足下を走り抜けて行くバンを見送る。

 

そして、この前の賊連中よりよっぽど優れた精度で撃ち込まれる弾丸を左にステップを踏んで躱し、牽制としてバックパックの機関砲を撃ちながら一気に距離を詰めて、正面、左後方のドーラスを殴り飛ばすように左腕を突き出しながら杭を打ち込む。砕けた上半身と飛び散る破片やオイルやらを無視して杭を戻しながら、ブースターの左側だけを吹かしてランスターをコマのようにターンさせて、こちらに右半身を向ける様に旋回中のドーラスに左腕を叩き込む。

 

それに対してドーラスが咄嗟に右肘を畳んで腕全体を盾にする様にして受け止める。そのまま杭を打ち込むが、ドーラスの右腕と胴体の一部を砕くに留まり、逆に格闘用ナックルガードに覆われたドーラスの左の拳がランスターのガラ空きの腹に突き刺さる。

 

「かっ⁈」

 

モロに衝撃を受けた事で激しい揺れと共に固定用のベルトに体が圧迫され一瞬動きが止まる。モニターには立て続けにタックルを仕掛けてくるドーラスの姿が映っているが体が動かず、そのままタックルを食らいランスターが大きく吹っ飛ぶ。

 

宙に浮いている間に呼吸が戻り、それに合わせて手脚に力が戻る。背中から地面に倒れそうなのをブースターを吹かしてなんとか堪える。

 

「やってくれんじゃねえか」

 

サブモニターに目を向けるが、特に機体に異常は無い。流石ランスターだなんとも無いぜ。と、一人でネタやってる場合じゃないな。機体は大丈夫でも、さっきので中の俺に小さくないダメージがあった。良く吐かなかったもんだわ。万一吐いてたら、吐いたもので喉詰まらせてたかもしれなかった。ゲロに塗れて死ぬのは流石に嫌だわ。

 

ひとつため息をついて落ち着いて、カノン砲を走り寄って来るドーラスに向けて撃ち込む。シールドでも構えているならともかく、右腕は砕けて左腕にも格闘用ナックルガードしか残っていないドーラスに防ぐ手立てがあるわけもなくあっさりとカノン砲の砲弾がドーラスの胴体部、丁度コックピットブロックのあるあたりを貫き、ドーラスが倒れ伏す。

 

「ふぅ………やる事やったし戻るか」

 

右腕を下ろして、適当に路上のドーラスの残骸を退かしてかっ飛ばして来た道を歩いて戻る。向こうもこっち向かって来てるんだし、わざわざブースター使って推進剤を消費する必要もない。

 

で、戻って来てみれば逃げたはずのバンが一緒に居て移動の脚を止めていた。何か面倒ごとの臭いがプンプンするぜぇ………

 

トレーラーにランスターを格納して、グループの全員が集まっている件のバンのところに向かうと、揉めてますよと言う空気を通り越して殺し合いでも始まりそうな雰囲気が漂っていた。

 

お、旦那が気付いた。

 

「戻って来たか。機体は壊れていないな?」

 

「ちょっとトチってぶん殴られたから少しジャケットアーマー削れたけど、ダメージらしいダメージはそれくらい。後は強いて言うなら俺が吐きそうになったくらい」

 

「そうか。なら問題無いな」

 

うん、なんの問題もないな。ちょっと目頭が熱いけど、コレは目に砂が入っただけだからなんでもない。

 

「おい!無視してんじゃねえぞコラッ!」

 

なんかコテッコテの昔読んだマンガとかで出てきた背広に貴金属類身に付けた成金臭漂うおっさんが血走った目で怒鳴って来た。

 

これならあの時、見逃さずにどさくさに紛れて踏み潰しときゃ良かったかもしれない。




前回よりランスター動きまくりだって?
ヘビー級武装一個分減った分機体の出力にもの言わせてブン回してるだけです。簡単に言えば、過⭐︎積⭐︎載状態と許容重量かの違い


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15話

傭兵に反逆されたこの成金風なオーナーの名はアゼム・ガナンと言うらしい。元々は自由資本同盟の勢力圏内でやっていたらしいが、死んだ父親からオーナーのライセンスと傭兵達をまとめた民間軍事会社を引き継いだは良いものの仕事が上手く行かず、アフリカで一旗上げようとやって来たらしい。

 

仕事が上手く行かなかったのを傭兵達のせいにして、罵詈雑言撒き散らしてるが、考えるまでもなくこのおっさんが単に無能なせいだろう。抱えてる傭兵達にこなせるわけもない無理な仕事を引き受けたりとかな。

 

「クソネズミどもが!誰のおかげでメシ食って来れたと思ってんだ!それをクソクソクソッ!!」

 

ヒステリックにそう怒鳴りながら、ドーラス達にいたぶられてベコベコになったバンを蹴飛ばす。

 

とりあえず、一言だけ俺から言うなら間違いなくあんたがクソネズミって呼んでるその傭兵達がメシにあり付けてきたのはあんたの親父さんのおかげだろうよ。旦那もいつぞや俺に向けたゴミを見るような目を向けてるよ。

 

そして、ひとしきりバンに八つ当たりして少しは落ち着いたのか、おっさんがこっちを振り向いて、

 

「いいかっ!わかってるとは思うが、テメェらはあのクソネズミの掃除をやるんだ!」

 

どう言う流れでそうなるんだ。

 

「いくら用意出来る?話はまずはそれからだ」

 

「あァ?んなもん500で十分だろうが!オラ!どうした!さっさとバトルフレームのとこに行け!」

 

おっさんが全く動かない俺達に対してそう怒鳴る。

500。正確には500万クレジット。バトルフレーム持ちの傭兵を動かす額としてはあまりに安い。基本的に最低でも1000万クレジットからが相場で、今ここに居る中だとその最低額で動かせるのは俺だけだ。

 

「論外だな。一体どんな風に仕事をしていればそうなる?500ではウチのカズキすら動かせん。他の連中は言わずもがなだ」

 

「傭兵1人抱えてるだけの零細オーナーが俺に意見してんじゃねえ!」

 

「意見も何も、この業界の常識の話だ。この程度のことすら知らないのか?」

 

「舐めてんじゃねえぞ!クソが!」

 

そう怒鳴っておっさんが旦那に殴りかかるが、旦那はそれをひらりと余裕で躱し、空ぶったおっさんの顔面に逆に拳を叩き込む。左脚義足でホントあそこまでよーやるよあの人。

 

「ぶご⁈」

 

「いいか?クソ野郎。俺達は別に今ここでお前を放り捨てて行っても構わないんだ。傭兵に反逆された?そんなものきちんと傭兵の手綱を握れていないお前が悪いに決まっているだろう」

 

鼻血を噴きながら倒れたおっさんの胸ぐらを掴んで持ち上げて、至近距離で睨みつけながら反論を許さない勢いでそう言い放って、ベコベコのバンの車体に投げ付ける。

 

旦那、戦えないって嘘だよな。

 

「尤も、オーナーから反逆した傭兵共をシメる事そのものは俺達へのゲンドウ氏からの依頼からそう外れてはいない。全員で1億で手を打とう。これだけの戦力をたったの1億で雇える機会なんて他にないぞ?」

 

わーお、旦那ってば搾り取る気だわ。あーあ、おっさんキレてんじゃねえか。

 

そして、プツンと言う音を聞いたような気がした瞬間、おっさんが背広の中から拳銃を取り出して旦那に向ける。怒りのあまりガクガクと揺れてはいるが、しっかりと銃口は旦那の頭に向いていて、いつぶっ放されてもおかしくない。

 

「あいつらも!テメェらも俺をコケにしやがって!」

 

そのまま頭の血管破裂してくも膜下出血でもして倒れるなり死ぬなりしてくれねえかな。俺以外の傭兵連中も怒りを通り越して哀れなものを見るような目をおっさんに向けている。

 

「雇う側が払う金決めんのは当たり前だろうが!テメェらは言われるままに戦ってりゃ良いんだよ!それを金が足りねえだ⁈ふざけんじゃねえぞ!」

 

「そいつぁ、あんたらオーナーが所有する傭兵の話だぜ?あいにくとここに居るのは、そこのカズキ以外は独立傭兵だ。受ける受けないの自由があるんだよ。ふざけてんのはおたくだろうがよ」

 

これまで旦那に任せて黙っていたカークスのおっさんがそう言いながらズンズンと近寄ると、腰に差した拳銃を目にも止まらない速さで抜きながら撃った。てか、発砲音で撃ったのは分かったが、いつ撃ったし。撃たれたおっさんの頬に赤い横線の傷が出来る。

 

「黙って聞いてりゃあ、ぎゃあぎゃあと好き勝手に喚いてくれちゃってまぁ………このままここで俺らとオサラバするか、ヨルドの言った条件を飲むか選びな。それでもってんなら熱い鉛のプレゼントだ」

 

あ、コレマジで殺す目だ。カークスのおっさんもう人間を見る目してねえもん。ただの的としか目の前のおっさん見てねえよ。

 

結果、流石におっさんも自分の命は惜しかったようで旦那の出した条件を飲んだ。1億なんて大金払ってでも反逆した傭兵達はどうにかしたいらしい。

 

ちなみに旦那にこの場に居る全員をまともに雇った場合にかかる金聞いてみたら、カークスのおっさんが4000万で赤毛の女が3000万、黒ずくめ野郎が2500万でアイクとイリヤが横並びで2000万の最後に俺が1500万と続くらしい。確かにこれなら1億で雇えるなら破格なんだろう。てか、カークスのおっさんは4000万積まなきゃ動かせないのか。

 

で、傭兵各員バトルフレームを出してきたわけだがまあ、珍妙な万国博覧会じみた光景だ。

 

一番マシってか普通にバトルフレームって外見をしているのは、カークスのおっさんの機体で、白色と灰色がランダムに混じった都市迷彩が施され銃剣付きのアサルトライフルにシールド、バックパックに左側にランスターに付いているのと同じM4グレネードランチャー、右側にブレードアンテナ状のレーダーユニットを備えた肩幅の広いがっしりとした歩兵を思わせる機体で、フルフェイスヘルメットのような頭部のバイザーの向こう側で複眼型のカメラがオレンジ色に光っている。

 

次に赤毛の女の機体だが、こいつに至っちゃまず人の形をしていない。バトルフレームの定義はどこ行った?真紅の前後に長い胴体部に直接、ショットガンのようなものと一体化した腕と鳥のような鋭いクロー状のブレードが付いた逆関節の脚部が付いていて、胴体部の前面にこれまた鳥のような形状の頭部が付いていて、青い単眼のカメラが獲物を探し求めてるように見えるのは気のせいじゃないな。俺達は獲物じゃないゾ。

 

そして、色々謎な黒ずくめ野郎の機体は本人同様黒色をベースに灰色などの暗色系で纏められた細身の機体の全身各所にブースターが施された下腕部にブレードが付いている。なんかどっかで見た事あるような既視感っぽいのを感じるのはやっぱりアレだろうか。某ドイツ忍者のアレに似てるからだろうか。見たとこ爪先とマニピュレーターもそのまま刺突武器に出来そうなくらいに鋭い。

 

で、アイクの機体はトリハピらしいと言うか何と言うか、両腕に6連装ガトリングが2つ並んだものを付けた重装竜胆すら超えるような分厚い重装甲な機体だ。片腕だけで合計12連装のガトリングとか変態かよ。そして、その変態ガトリングに加えて胴体部に機関銃が左右に1つずつ付いていてバックパックにはバトルフレームの全長にすら匹敵しそうなミサイルランチャーが左右2つ付いている。重ねて言うが変態か?

 

イリヤのはアイクに比べればまだ優しい見た目だ。強いて言うなら、脚部が四脚になっていることくらいか。両手で持っている大型のバトルフレーム用スナイパーライフルやカメラに装甲施してそのまま取り付けたような大型のカメラを備えた頭部も特徴的と言えば特徴的だが、前の連中に比べれば可愛いもんだ。女性的な丸みを帯びた上半身のバックパックには左に申し訳程度に近接防御用の機関砲、右側にレドームを備えたいっそ清々しいまでの遠距離特化仕様だ。

 

 

………なんなの?カークスのおっさんの以外キワモノ過ぎねえ?バトルフレームの異形化流行ってんの?

 

『さて、色々思うことはあるだろうが仕事だ。なぁに、軽いお使いみたいなもんさ』

 

カークスのおっさんからそんな気楽そうな通信が入る。まあそれもそうか。ドーラスくらいじゃ俺ならいざ知らず、独立傭兵として名を上げた連中が遅れを取るなんてよっぽど数に差でもなけりゃありえんし。

 

『ドーラスが全部で15機。うち3機はそこの坊やが撃破済みだから残りは12機………つまんないねえ』

 

『ボクは好きに弾がばら撒けるならなんだって良いよ!』

 

『本当、血の気の多い人達ですねぇ』

 

『特に並べる言葉は無し、成すべきを成す。ただそれだけだ』

 

まるでピクニックかハイキングにでも行くような気軽さだ。まあ、こんだけ数揃えれば気楽にもなるわな。俺だって、特に緊張してないし。

 

とりあえず、折角の機会だから両手剣ぶんぶんしよう!こんな機会滅多にない!一応炸裂杭は持ってくけどな!オラワクワクして来たぞ!

 

ミリアに呆れ顔で「馬鹿ですね」って言われたけど、気にしねえ!

 

 

『さて、楽しげなところ悪いがカークス。どう攻めるつもりだ?』

 

『とりあえず、カーシャにボリス。それとお前んとこのカズキに突っ込んで貰うのは確定だな』

 

名前的にカーシャが赤毛の女で黒ずくめ野郎がボリスか。てか、知り合いなのか。

 

『順当なところだな。さて、そろそろあのクソ野郎の言った野営地が見えて来るはずだが………』

 

到着したのはそれなりの規模の村みたいだが、灯りも炊事の煙も何も無い廃墟と言った感じで、バトルフレームの姿なんてどこにも無かった。

 

 

『引き払った後っぽいな。空振りか………いや、全員散れ!』

 

村内に入って周囲を調べるが、つい最近まで生活していた痕跡はあるが他には人っ子1人見つからなかった。それを確認して村を出ようとした瞬間カークスのおっさんが怒鳴るようにそう言った。

 

その言葉に従って、全員がそれぞれバラバラに散開(家が低くて盾にならない)した瞬間、雨のように砲弾が降り注ぎ爆炎と土砂が辺りに飛び散る。

 

『ハッ!少しは楽しめそうじゃないか!』

 

村を包囲する様に砲撃を叩き込みながらドーラスが向かって来るのに心底嬉しそうな声を上げながら赤毛の女、カーシャのバトルフレームが逆関節脚のバネを活かしたジャンプで飛び上がって、真っ先に突っ込んで行く。

 

ちょっとしたお使い同然の楽な仕事ってのはなんだったのかと思いながら、俺もランスターを走らせる。




旧式で安さくらいしか利点の無い雑魚扱いしてるけど、ドーラスだってただのやられメカじゃないのだよ

おっさんが変にゴネてなければ、こうなる前に襲撃出来てと可能性


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16話

上から降り注ぐ砲弾が空中で更に子弾をばら撒き、それがもぬけの殻だった村をあっという間に建物の瓦礫すら残さずに吹き飛ばす。

 

相手方も報復があることは見越していたんだろうが、にしたって用意が周到だ。あのおっさんがゴネていた時間や移動時間を含めても半日も経っていない。にも関わらず、拠点にしていた村の住民達を全員完全に逃した上にバトルフレームを周囲に潜ませての伏兵戦法。

 

規律正しく動ける上に一般人からの心証も良いはずの軍隊ならまだしもしょせんはゴロツキの集まりも同然な傭兵隊で出来るなんて大したもんだわ。

 

まあ、そのせいで今こうしてクラスター弾やら榴弾やらをあちこちから浴びせかけられてるんだけどな!

 

 

『全員生きているな?』

 

「とりあえず、俺とアイクとイリヤは生きてる!後は知らん!爆炎で見えねえしレーダーも高熱で使いものになんねえ!」

 

怒鳴るように旦那からの通信にそう返事を返す。

最初の砲撃で散らばって回避した後、自然と今の状態になっていた。と言うかたまたま俺が逃げた先にアイクが居て、ランスターとアイクのバトルフレームを肉盾にしようとイリヤがやって来た。

 

『こっちも無事だ。悪ぃな十分以上に戦力あるからって油断してたぜ。まあ、こうなっちまっちゃしょうがねえ適当に蹴散らせ!』

 

『問題無し。別行動で目標を殲滅する』

 

『楽しんでる真っ最中さね!ドーラスの割に良く動いてるよ!』

 

姿が見えない連中も無事みたいだ。てか、真っ先に飛び出して行ったカーシャに至っちゃ既に交戦してるらしい。

 

俺達の方に向かってくるドーラスは3機。内訳は2機がロケットランチャーを担いだ標準型、その後ろから断続的にバックパックから伸びる2本のキャノン砲から本弾をばら撒く両腕にマシンガンとシールドを装備した砲撃型だ。

 

今の俺達と同じように2機の標準型が砲撃型の盾になるように立ち、砲撃型は曲射によって前2機に当てないようにしながら、こっちの動きを制限してくる。

 

 

『カズキ、ランスターの右脇空けてくれますかぁ?』

 

イリヤからそんな通信が届き、言われたように一旦両手剣を右肩から左肩に担ぎ直してランスターの右腕を上げると、ランスターの右腕を押し除けるようにぬっと大型スナイパーライフルの銃身が飛び出して来る。

 

そして、竜胆で使っていた単装砲のような轟音と共にマズルフラッシュが瞬き一瞬の間も無く前衛のドーラスの片割れが下半身を残して消し飛んだ。

 

『ハハッ!豪快じゃないか!それじゃあボクも派手に行かせてもらうとしようか!』

 

そんな言葉と共にアイクのバトルフレームが両腕を持ち上げてガトリングガンの銃口を向ける。いや、どう見てもまだガトリングは射程外だろと思ってる間に銃身が回転を始め並のバトルフレームならあっと言う間にきたねえ鉄くずを通り越して、塵になりそうな夥しい量の鉛玉がばら撒かれる。

 

応戦する形で、仲間が吹っ飛ばされたことに驚いたのか動きを止めていたドーラス達がまた砲撃を開始するが、その一瞬が命取りだ。

 

後ろから飛んで来るアイクがばら撒く鉛玉が怖いがランスターを突っ込ませる。そして、担いだ両手剣を振り下ろす。それに対してドーラスがロケットランチャーを放り捨ててシールドの裏に仕込んだナイフを引き抜くと、俺が振り下ろす両手剣に合わせて受け流そうとしたみたいだが、そこはランスターのパワーでごり押してナイフをへし折ってそのままドーラスを叩き斬り、その勢いのまま前へと突っ込む。

 

砲撃型が両手のマシンガンを撃ってくる。それによって凄まじい勢いでジャケットアーマーが削られて行くが知ったことか。どちらにしろ前に出た以上はやるしかない。てか、下手に下がったらいまだにぶっ放し続けてるアイクのガトリングにきたねえ鉄くずにされる。仮にも味方の攻撃でとかシャレにならんわ⁈

 

そして、両手剣を引きずるようにしながら踏み込みランスターの機体全身を振り回すようにして振り上げる。それをドーラスが左腕のシールドで受け止める。が、両手剣そのものの重量にランスターの機体重量まで乗せた一撃は上へとドーラスを吹き飛ばす。マシンガンの銃口が両手剣を振り切って無防備なランスターの方を向くが、それから鉛玉がばら撒かれることは無い。その前に空中のドーラスにイリヤの射撃が入り、木っ端微塵にする。

 

 

『終わったぜ。グレた連中の頭も捕まえた』

 

『任務完了』

 

『つまらない仕事かと思ったけど、なかなか楽しかったよ』

 

 

俺達がやり終えるのと同じタイミングで通信から続々とそんな報告が届く。流石と言うかなんと言うか早えーな。お前ら。こっちが3人でやるのと同じくらいの時間で仕留めるとか。

 

やることはやったのでさっさと夜営地に戻る。まあ、夜営地とは言ってもただトレーラ並べてるだけなんだけどな。この依頼を受けるにあたってそのままの流れでこうなった。

 

 

「ハッ!ざまぁねえなあ?ええ?」

 

頭部と右腕を全損、左腕を半ばから失った通常型のドーラスから降ろされたリーダー格の黒い髪を短く刈り上げた白人の男を見下すようにニヤニヤと腹の立つ笑みを浮かべておっさんがそう問いかけるが、リーダー格の男はそれに何も答えずにただ空を見上げている。

 

「だんまりかよ。まぁいいさ、お前はここで俺にブチ殺されるんだからなァ!」

 

喜色満面におっさんが懐から拳銃を抜いて、それをリーダー格の男に向けて引き金にかけた指に力を込めて行く。そして、朝のニュース並に聞きなれた乾いた音が響いた。

 

 

 

が、撃たれたのはリーダー格の男ではなく、依頼主であるおっさんの方だった。左脚の太腿から血を流しながら痛みに呻いて、

 

「誰を撃ってんだテメェ⁈」

 

「そりゃあお前さんに決まってんだろ?」

 

詫びれた様子も無くカークスのおっさんが拳銃を片手にそう答える。

 

「俺達に依頼をふっかけて来た時のやり取りで既にお前さんは俺達が

ぶっ潰すべき対象に入ってんのさ。このアフリカの情勢に乗じて暴れ回る連中が俺らの攻撃対象なんだからな」

 

「け、けど、ここで俺が死んだらテメェらに報酬は………」

 

「そこは心配しなくてもきちんとお前さんの資産から俺達に支払われるから問題ねぇよ。安心して死んでけ?なぁに、そこのそいつも一緒に送ってやるから死出の道も寂しかねぇさ」

 

依頼主が死んでも報酬は支払われるって、改めて思うけどこの業界ブラックだわ。そんな事を他人事のように銃口突き付けられて今にも射殺されそうな人を前に思える俺は壊れているのかもしれない。

 

「テメェら全員ロクな死に方しねえよ、クソが!」

 

「自分で選んで引き金を引き、そして誰かに撃たれて死ぬ。それが俺達傭兵の最期さ。間違っても平和に暮らしてる一般市民のようにベッドの上で静かな最期なんてのはあり得ない」

 

そう言い切るとカークスのおっさんが引き金を引いた。

 

 

 

因果応報、ロクデナシにはロクデナシな結末が待っている。昔の論者が言った自らの行いは何倍にもなって自分に返ってくると言うのは事実なんだろう。

 

当然、俺も例外じゃないはずだ。いつかは知らないが、確実にこんな理不尽な結末が待っているはずだ。10人殺せば殺人鬼、100人殺せば殺戮者、千を万を殺せば英雄だなんだと言うが理不尽に他人の命を奪う奴の人生が報われる?それは創作の物語の主人公か、それに値する行いをした奴だけだ。

 

少なくとも俺にそんなものは無い。ただ旦那に言われたように引き金を引いて殺す。それに対してなんとも思ってない奴が真っ当な最期?ちゃんちゃらおかしいわ。俺がさんざっぱらにきたねえ鉄くずにして来た自由資本同盟軍の兵士達、国のため誰か大事な人のために戦うことを選んだこいつらの方こそが報われるべきだろうよ。

 

まあ、だからって俺の引き金を引く指が重くなるかと言えばそんな事はない。今更、そんな事を気にするならとうの昔に旦那な下から逃げ出すか自殺してるわ。

 

 

「旦那。あの両手剣いくらくらいで売れるかな?」

 

「大分使い減りしているようだが、モノ自体は良いからな。100くらいにはなるだろうな。なんだ、持って来た割に飽きるのが早いな」

 

「飽きたって言うか、俺にゃ剣術なんて高尚な技術は無理みたいすわ」

 

 




たぶん今回は切られても文句は言えないし、批判米来ても文句言えない。色々とアレだしね………

まあ、出した時点でこのおっさんはこうなる事決まってたわけなんですが


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17話

あれから数日が過ぎて俺達は今はアフリカ大陸の北、エジプトに居る。

 

エジプトとは言っても、俺の知っているエジプトとは少し違いこの時代になっても王政を維持し続けていて、国王もファラオと呼ばれる現人神ではなく神官達の長である祭儀長と呼ばれる人物が務めているらしい。

 

まあ、俺には関係ないことなんだけども。

ただの傭兵に国の在り方だとか政治のこととかわかる訳がないだろ?この国はそう言う国ってこと以上は俺には関係ないからな。

 

で、なんでまたわざわざエジプトくんだりにやって来たかと言うと、エジプト北部のユーラシア大陸と繋がった中東地域との国境線にかつて皇華帝国が行った国土拡大の侵略戦争に際して国防のために築かれたサルイーク要塞。ここが反政府勢力やそれに雇われた傭兵達によって占拠されたそうで、その要塞を取り戻すためだ。

 

ちなみにエジプト政府と大元の依頼主である自由資本同盟と皇華帝国それぞれの軍との協働と言う豪華っぷりだ。皇華帝国が混ざってるのはエジプト的にちょっとアレだろうが戦力は戦力だ。素直にアテにしとこうと言う感じらしい。

 

 

 

 

「で、攻めるのは良いけど仮にも侵略全盛期の皇華帝国軍を数年に渡って受け止め続けた難攻不落の要塞だからどうやるか攻めあぐねてると」

 

ランスターのカメラの望遠機能を使って件の要塞を見る。バカでかい壁が数キロってレベルで立ちはだかっているのが見える。エジプト側からの情報によるとあの要塞は八角系をしていて、それぞれの角の上部には大型のレールガンが計8門に加えて、ハリネズミのように無数に配備された対空砲に対地対空ミサイル。しかもどっちも爆撃機が飛ぶような高空まで射程圏内と言う鬼仕様だ。

 

更に要塞内部にも曲射式のキャノン砲やらミサイルにレーダー。果てには爆撃機すら飛ばせる滑走路まで備えていると来た。

 

当時のエジプトが国家崩壊しかねないレベルで予算注ぎ込んで築いたそうだが、正直やりすぎじゃね?と思ったのは俺だけじゃないはず。

 

 

『まあ、普通に考えて一斉に攻撃仕掛けてどこでも良いから壁抜いて地上戦力を要塞内に突っ込ませて、制圧………とまぁ、教科書通りの城攻めくらいしかねぇわな。対空防御で航空戦力がアテに出来ねぇ時点で取れる策なんて限られるからな。要塞ぶっ壊して良いってんならいくらでも手はあるだろうが、エジプト政府が要塞はなるべく壊さず、直せる程度の損壊で取り戻せって言ってる以上はしゃあねえわな』

 

『エジプトは国ですからねぇ、その国の意向を無視しては自由資本同盟も皇華帝国もこのアフリカでの面目丸潰れですしぃ。とは言え、その壁一つを落とすのにどれだけの被害が出るかわかったものじゃないですけどねぇ………うわぁ、ここから見えるだけでも要塞の外の塹壕にタンクが5輌見えますよぉ?』

 

呆れたような声でランスターの隣に並ぶカークスのおっさんとイリヤもそう言う。この組み合わせの理由はバトルフレームのカメラの性能で選んだ結果だ。

 

アイクのは並か若干劣る精度で、カーシャやボリスの機体に至っちゃ高速機動に対応するために処理能力特化で望遠機能すら付いていないと来た。まあ仕方ない。その分対バトルフレーム戦なら無類の強さを発揮するんだから、ドンパチでしっかり働いて貰おう。

 

「んで、俺らは自由資本同盟軍と一緒に攻めるんだっけ?」

 

『ああ、皇華帝国軍にゃ増援要らねえからな。世界最大の軍隊は伊達じゃねえ、俺達に自由資本同盟軍にエジプト軍合わせてもまだまだ数足りねえよ』

 

流石、兵士は畑から取れるとまで言われたロシアまで取り込んでるだけはあるわ。おっそろしい。

 

『で?自由資本同盟軍と協働するのは良いとして、そこに思い切りフレンドリィファイアされそうなのが居るんですけど?巻き添えでフレンドリィファイアは嫌ですよぉ?』

 

「それな、俺もびびってる。いっそのこと俺単機だけ皇華帝国の方に混じるかな………あ、ダメだわ。たぶん向こうでもやられるわ」

 

アルェ?味方のはずなのに敵陣に居るみたいだぞ?

まあ、そうなったらそうなったで生きてたらぶち抜けばいいや。攻撃して来る奴が悪い。正当防衛、正当防衛。

 

『さて、おっかない奴らが来る前に引き上げんぞ』

 

『スピード的に戦闘機ですかねぇ?凄い勢いで来てますねぇ………撃ちますかぁ?』

 

『やめとけ。要塞からの砲撃やらなんやらと飛んで来たら逃げれねぇからな。さぁスタコラサッサとキリキリ走れよ?』

 

そいや、追加でレーダー積んでたなこいつらの機体。そんなことを思いながらランスターを走らせる。昔の偉い人も言ってたっけな三十六計逃げるに如かずとかなんとか。

 

途中で戦闘機に追い付かれはしたが、思いの外あっさりと引き上げて行った。完全に舐められてますわコレ。偵察と言うか斥候として来てるのわかってるだろうに見逃すとか普通ならあり得んわな。

 

 

エジプトが用意した基地に戻る。

民間の空港を利用した要塞攻略のための仮設陣地なので、元からある柵くらいしか周りに張り巡らされてはいないが、格納庫に滑走路に管制塔やらと必要な施設は十分に揃っている。ちなみにここ以外にも滑走路は無くともバトルフレームや戦車を動かすには十分な陣地がいくつもあって、攻略戦の準備を進めている。俺達が斥候として要塞に向かったのもその準備のひとつだ。

 

今ここには俺達傭兵隊とエジプト軍の戦車とバトルフレームの混成機甲隊に自由資本同盟軍のバトルフレーム一個中隊が居て、一番優先度の低い俺達傭兵隊の格納庫はハンガーを並べてその周りにプレハブで壁やら天井を用意したものだ。

 

ハンガーにランスターを固定して降りると、事前に決めておいたようにカークスのおっさん達と合流して、ここの指揮を担う自由資本同盟軍の中隊の指揮官のところへと向かう。

 

なぜ俺やイリヤも行くのかと言えば、カークスのおっさん曰く少しでも多くの情報が必要だから3人それぞれの別視点からの意見を出さなきゃならないかららしい。俺達の機体はそれぞれが得意とする距離が違うから攻略の足しになるかも、だそうだ。

 

 

「ふむ………要塞前にも前線陣地が築かれている、か。全く呆れるくらいの潤沢な戦力だな。もはや軍ではないか」

 

俺達からの報告を聞いて、じゃらじゃらと幾つも階級章が付いた自由資本同盟軍の高級士官を示す濃紺色の背広の制服を着込み、綺麗に手入れのされた髭がダンディさを際立たせる中年の男性が呆れたようにそう言う。

 

「もうちょい近付いて前線陣地も偵察出来たら良かったんだが、あれ以上は陣地から砲撃やらが飛んで来て済し崩し的に開戦しかねねぇから引き上げて来た。悪いな」

 

「いや、無理に突っ込まれて足並みが揃う前にしでかされるよりはよっぽど良い。同盟圏内の傭兵どもにも見習って欲しいくらいだ。出自がスラム上がりやらなどのロクに教育も受けていないような連中には無茶な話だろうがな」

 

自由資本同盟内の傭兵ってどうなってんだと思ったが、学やらなんやらちゃんと身に付いてるならこんな仕事に就いてる訳が無いし、バトルフレームに乗りたいなら軍に入隊すりゃいいもんな。

 

「にしても、よりにもよって奴らが用意したタンクはライノスか………R・K社も兵器を売る相手は選べと言いたいものだ」

 

BTAー48ライノス。バトルフレームが普及する以前に自由資本同盟軍が採用していたMBT、いわゆる主力戦車で時速100キロ近い高速で走りながらでも誤差1メートル以内で目標に当たるとか言う精度の高い主砲が売りの戦車で様々な戦場で戦果を挙げて来た名戦車だ。まあ、砲撃型ドーラスの開発と普及で少しずつ出番は減り、終いにはランスターの開発に合わせて戦場から姿を消した悲しさ。

 

で、R・K社と言うのは正式にはラインフォルト・カーマインアームズと言う軍事系のグループ企業でライノスはもちろんのこと、ドーラスやランスターと言ったバトルフレームを開発販売している。なお、コルベットはライバル企業であるマイダスインダストリー社の開発だ。

 

と言うか、R・K社とマイダス社の2社で自由資本同盟の軍事産業は2分化されてるらしい。まあ、一緒になって兵器開発したりもしてるようだからそこまで企業間の仲は悪くないっぽい。ちなみに俺やカークスのおっさんのバトルフレームに積んでるM4グレネードランチャーはR・K社の製品だ。

 

「順当に考えるなら、タンクを潰してからの前進が無難ですねぇ」

 

「皇華帝国軍から1個分隊で良いから甲武回して貰えれば、ファランクス隊形でゴリ押し行けそうだけどな。精度高いっても砲弾の威力はそれなりだろ?徹甲榴弾でも甲武の装甲なら防ぐのは問題無いだろうし」

 

「バトルフレームの扱いなら諸君ら傭兵に1日の長と言うものがあるのかもしれないが、皇華帝国の甲武はそこまでなのか?」

 

司令官が訝しげにそう聞き返して来るが、あんたら仮にも仮想敵にしてる国のバトルフレーム甘く見積もり過ぎじゃないか?仮にも敵である以上、強く見積もっても悪くないってかそれくらいじゃないと痛い目に合いそうなもんだが………

 

「まあ、スピードとか機動性やら総合的に見れば同盟のコルベットのが上だわな。近接戦闘なら甲武の圧勝だろうが………と、話がズレたな。ウチのカズキが言うように甲武回して貰えりゃ、それ盾にしつつ割と安全にあの陣地も突破出来るだろうよ。ま、作戦立てるのはそっちの仕事だ。俺達も上手く使ってくれや」

 

「ああ、あのアブレヒトからわざわざ選ばれてここまで来た諸君らだ。期待通りの働きをしてくれると信じているとも。ご苦労だった、下がって休んでくれ」

 

「あいよ。戻るぞ2人とも」

 

「うぃす」

 

「やっと終わりですかぁ」

 

指揮官室を出て、俺達傭兵にあてがわれた格納庫に併設されたプレハブ小屋の兵舎に戻る。にしてもわざわざ俺達に別料金払ってまで依頼するようなことだったんだろうか?コレ。




はい。と言う訳でロボモノ定番の要塞攻略戦でございます。
戦車とかバトルフレームとか戦闘機いっぱい出したいなぁ(願望)

なお、現実は………そんなに色々ぶっ込んで捌けるのやら………


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18話

偵察から2日ほどが経ち、いよいよ開戦が近いのか独特のピリピリとした空気が基地全体に漂っているが、俺達はと言えば各々が連れて来た技師達と一緒になって機体の整備をしたり、飯食ったり茶飲んだりなんだりと割とフリーダムにリラックスしていた。

 

と言うか、俺達傭兵からすれば戦うのは当たり前の事だから特に緊張するとかもない。むしろ、カーシャとかアイクあたりなんかは、まだかなまだかなと開戦が待ち遠しいくらいらしい。

 

俺?

 

 

「旦那。いつまでもいじけてないで交渉やらの仕事やろうぜ?ここに来てから全部カークスのおっさんに丸投げじゃん」

 

「うるさい。コレでいいんだ。俺が出ると逆に拗れる恐れがある」

 

「ホント旦那ってば自由資本同盟に何やったんだよ」

 

ご覧の通り不貞腐れた旦那の相手をやってます。いや、ちゃんとランスターの整備は手伝ったりしてるからな?ただ、今はミリアに「邪魔ですから宿舎で良い年にもなって意固地になってる旦那さんの相手でもしててください」って厄介払いされただけよ?

 

薄々と旦那に対して自由資本同盟が何らかの手酷い裏切りをしたのは俺でもわかるが、具体的にどうかまではわからない。

 

「まあ、このまま自由資本同盟と関わりを持っていればいずれは知ることか………いいだろう、少しだけ話をしてやろう」

 

そう前置きをしてから旦那は旦那の過去のことを話し始めた。

 

 

 

●●●●●●●●●

 

俺は元はと言えば、自由資本同盟軍のパイロットだった。

あの頃の俺は、自由資本同盟が掲げる正義を何も疑うことなく信じていた。いや、ある種盲目的だったとすら言える。

 

自分で言うのは少し、いや大分気色悪いが、俺は優れたパイロットで兵士だった。士官学校を卒業して軍に入隊してから1年が過ぎた頃に俺はとある部隊に配属となった。

 

第33独立作戦小隊。

 

役割は簡単に言えば、自由資本同盟理事委員会の私兵のようなものだ。作戦内容はまあ特殊部隊と言えば大体わかるだろうから詳しくは省くが主な活動は自由資本同盟の利益となることと不利益の排除だ。

 

そこでも俺は自由資本同盟のためにと引き金を引いていた。小規模ではあったが俺が引いた引き金が原因で起きた戦闘だってあった。

 

そうして自由資本同盟が掲げる正義と言う名の光の下の影の中で汚れ仕事をやっていた俺達、第33独立作戦小隊にいつものように委員会からのオーダー入った。とある国の半国営麻薬組織の保有するプラントを襲撃しろと言うものだった。汚れ仕事の中では比較的マシだと隊の仲間達で言い合ったものだ。

 

現地に向かった俺達はいつものように襲撃を行った。半国営の闇組織とは言え、バトルフレームなど当時は自由資本同盟か皇華帝国くらいしか軍としては保有していなかったからな。精々が対バトルフレーム用ロケットを持った民兵程度が関の山なプラントだ。特に苦労もせずに全てを終わらせたさ。

 

だが、それは罠だった。

襲撃を終えた帰投の道中で俺達は襲撃を受けた。しかも相手は俺達と同じ委員会の私兵部隊でな。

 

1機、また1機と墜とされて行く中で、部隊で一番被害が軽微だった俺は仲間達に逃された。なぜ仲間達が俺を逃したのかは今でも分からないし、あの時あそこで仲間達と共に散っていればと何度思ったか分からない。

 

追撃を受けながらもなんとかアブレヒトに辿り着いた俺は襲撃の真実を知った。あの年はアメリカで自由資本同盟の理事選挙があった。その時の理事のアピールは自由資本同盟軍からの後ろ暗いものの払拭だった。

 

それはまだ良い。俺達のように汚い事に手を染めることもなく真に自由資本同盟の正義を兵士達が誇れるようになった証拠のようなものだからな。だが実際には服役囚へ恩赦などで首輪をつけ、私兵となる傭兵隊を作り上げて結局は俺達がやっていたのと同じことをしていた。

 

俺はそれが許せなかった。だから、アブレヒトで傭兵になって奴らに教えてやろうと思った。貴様らが如何に過去の汚点と言おうとそんな事はない、と。

 

後はお前も知っての通りだ。自由資本同盟軍に対して度重なる襲撃を繰り返して、最後には自由資本同盟軍が雇ったアブレヒト最強の傭兵、黒い凶鳥と呼ばれる奴にあっさりと撃墜され、どうにか一命を取り止めて傭兵のオーナーになった。

 

●●●●●●●●●

 

 

旦那が話終えて、ミネラルウォーターを一口飲む。

 

「つまり、俺や俺の前のきたねえ鉄くずになった傭兵は旦那の復讐の道具ってわけだ」

 

「そうだ。呆れたか?だが、それが俺だ」

 

「いや?正直、どうでも良いわ。俺はただ旦那が撃てと言った奴を撃つだけだし、何よりそんな真っ当な正義感あるなら傭兵なんてやってねえわ。何?最低な野郎だって罵って欲しいのか?引き金を引く意思を他人に任せてる俺も大概畜生だからそんなこと言えないんだよ」

 

俺からすればどこにあるのかわからないバーゲンセールで叩き売りされてそうなロボゲーかなんかの主人公みたいな経験を旦那がしていたところで「あ、そう。で?」にしかならない。

 

俺の返事を聞いて旦那は自嘲気味に笑うと、

 

 

「あいつ以外でまさかどうでも良いと言う奴がいるとはな」

 

「あいつ?」

 

「俺の元嫁だ」

 

「ああ、若気の至りでミリアつくっちまったって言ってた相手な」

 

「何を血迷ったか、あいつに全てを話したことがあってな。その時言われたのが、あなたがどんな人生を歩んで来たかなんてどうでも良いし、知ったことではありません。ここに居るのは私が惚れたヨルド・アフマンと言う無鉄砲で意地っ張りな男性だけです。とな」

 

「すげえプロポーズだ」

 

てか、普通そう言うのって主人公がヒロインに言うもんではないだろうか?

 

「で、気の迷った俺は、そいつとやる事やってミリアが出来たと言うわけだ」

 

「一発ヒットとかマジかよ。あれ?てか、旦那今47だか48だよな?パイロットとして軍に入隊ってことは士官学校上がりだろ?」

 

「自由資本同盟は15歳で成人だからな。俺が士官学校に入ったのが15の時で、卒業と入隊が19歳。そして、通常の軍人だったのが20歳。そこから3年で部隊崩壊して傭兵になったからな」

 

「なるほど」

 

一通り話を終えたところで腕輪型の携帯端末から呼び出し音が鳴った。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

「ああ、精々背後に気を付けて行け」

 

「へーへー」

 

旦那と別れて宿舎を出て、携帯端末の画面に表示された場所、この基地の司令のところへと向かう。ノックをしてから部屋に入ると既に俺以外は集まっていた。

 

「あら、遅れた?」

 

「いや、大丈夫だ。さて諸君ら傭兵へのオーダーだが、我が自由資本同盟軍バトルフレーム一個小隊とともに敵防衛陣地を突破して、要塞上部のリニアカノン砲の破壊だ」

 

「こりゃまたなかなかの無茶振りだ」

 

口笛をひとつ吹いてカークスのおっさんがそう言い、司令の右後ろに立つ卸たてのスーツのように汚れひとつない制服を着込んだいかにもキャリア組と言った感じの副官らしき男が睨む。お堅いことで。

 

「無理難題は承知している。しかし、あのリニアカノン砲があっては要塞攻略用に要請した陸上戦艦を呼べないのだ。つまりは、このオーダーの成否によって要塞攻略の成功の明暗が分かれるのだ。それはわかって貰えるな?」

 

腹芸とか一切無いマジの視線かどうかまではわからないが、司令の目は熱く訴えかけていた。てか、陸上戦艦ってなんだ。自由資本同盟軍はそんなもん作ってたのか。

 

「依頼とあらば遂行するのみ」

 

ボリスが全員の意思を代弁するように静かにそう言った。そもそもが依頼主からのオーダーである以上俺達に拒否する権利はない。

 

「無論、エジプト軍も我ら自由資本同盟軍も諸君らに十分な支援を約束する。必要な兵装などが有れば気にせず言ってくれて構わない」

 

「じゃあ、バトルフレーム用のレールガン一式をお願い出来ますかぁ?私のアージェントの手持ちのライフルでは些かリニアカノンを破壊するには火力が不十分なので」

 

「わかった、手配しよう」

 

「んじゃあ、俺からもランスター1機分の装甲とシールド1枚。それから炸裂杭となんでも良いからバトルフレームで使える単装砲一門貰えないか?機体の整備に必要だから」

 

「任せておけ。後の者は無いか?」

 

司令太っ腹すぎない?後ろの副官がぎょっと目見開いてるけど大丈夫?

 

「し、司令っ!いくらなんでも安請け合いし過ぎでは⁈」

 

「要塞攻略に必要なのだ。仕方あるまい?彼らの準備不足で皇華帝国軍に先に攻略されるような恥はさらせぬのだ」

 

ああ、やっぱ張り合ってるのね。

司令の言い分に渋々副官が引き下がる。キャリア組は大変だな!

 

「オーダー了解。まあ、気張るとするさ」

 

「頼むぞ。繰り返すが、諸君らの働き次第で戦局は左右されるのだ」

 

並々ならぬ熱意の籠もった目に見送られて司令の部屋を出る。まあ、あれくらい期待された方がやる気も出るってもんだ。

 

 

●●●●●●●●●

 

 

傭兵達が部屋を出ていくのを見送り、椅子に座って神に祈る。神よ、見ているのならばどうか我らに勝利を………

 

「ところで司令。あの男は放置でよろしいのですか?」

 

祈り終えたところで後ろに控える副官として派遣された大尉がそう口を開く。何故このアフリカでの覇権の証明となる重要な作戦に駆り出されたのかわからないキャリア組の若造だ。上層部は何を考えているのやら

 

「あの男とは、誰のことだ?大尉」

 

「決まっているでしょう!宿舎に引き籠もっているあの男、ヨルド・アフマンです。司令もご存知でしょう。あの男の存在は我が自由資本同盟にとってガン細胞のようなものだ。もしあの男があの事を………」

 

「それで?彼を拘束してどうすると言うのかね」

 

「決まっています。然るべき措置を」

 

本当になんでこのような男が副官として派遣されたのか、軍上層部に対して呆れながら大尉の方を振り向いて

 

「貴君は彼らを敵に回したいのか?あの傭兵達は一人一人が内側から我が軍を食い破れるほどの実力を持っているのだぞ。傭兵は依頼主が裏切るような行動を取れば間違いなくこちらを殺しに来る」

 

「し、しかし!」

 

「大尉。我らの目的はなんだ?あんな過去の遺物の相手ではなく、あの要塞の攻略だ。これ以上同じことを言わせるなら荷物を纏めて本国に帰れ」

 

大尉が押し黙る。ここで追い返されるような事があれば、自分の出世に響くからかは知らないが………全く困ったものだ。これだからキャリア組は嫌いなんだ




超絶遅刻で申し訳ない上に相変わらずの短さ()
すまない………本当にすまない………

ガンダムブレイカー3にハマり過ぎた。
ゲームにかまけてコレとは極刑不可避()


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19話

ハンガーに固定されたランスターを見上げる。

前の追加装甲を盛りながらも割とスマートにまとまっていたのが、重装竜胆よろしく盛りに盛った追加装甲によって大幅に着膨れしている。

 

「これまた随分と盛ったなぁ。コレ動けんの?」

 

隣でタブレット端末を操作をしているミリアに聞く。

 

「運動性能はいくらか低下していますが問題なく動けますよ。そもそもランスターは竜胆に比べて馬力に余裕がある設計なので多少無理な盛り方をしても大丈夫ですからね。これでもブースターでのジャンプも可能なんですよ?」

 

「そりゃ有難い。で、ヘルファイア直せないんじゃなかったのか?」

 

ランスターの両腕には元通りの形ではないが、確かにヘルファイアが戻っていた。ランスターのシールドにストリクスとストークが取り付けられている。パッと見ではシールドが変わったくらいしか違いが分からない。

 

「ああ、それですか?形になっているだけですよ。ストリクスもストークもただシールドの裏にまとめて装備しているだけで、それぞれ操作が別なので切り替えに一手間かかりますし」

 

「普通に使えるんだろ?」

 

「はい、使用そのものは問題ありません。ただ、咄嗟にストリクスとストークの切り替えが出来ない事だけは頭に入れておいてください。それとスペースの都合上、ストリクスの弾倉を切り詰めたので装弾数が3発ほど減ってますから残弾にも気をつけてください」

 

「3発かぁ。つまり片方あたり6発の12発か。予備弾は?」

 

「腰部ハードポイントに一つずつ予備弾倉を用意してあります」

 

合計で24発か。まあ、そんなもんだわな。コレがライフルだったなら厳しいところだがストリクスは砲だ。シールドやらで防がれるたならともかく、直撃させれば一撃でバトルフレームだって撃破は容易だ。24発なら十分な携行数だ。それにいざとなりゃ杭でぶち抜けば良い。

 

「私の方で出来る事はやりました。後はそちらで頑張ってください」

 

「精々きたねぇ鉄くずの仲間入りしないよう気張るよ。旦那の面倒よろしく」

 

「やれやれ介護にはまだ早いんですけどね」

 

「違いない」

 

離れて行くミリアを見送って、ランスターに乗り込み起動させる。

機体の状態確認を進めて行くが、両腕に二つずつ武装を装備している都合上チェック項目がやたらと多い。なるほどミリアがヘルファイアを組むのが無理って言ったのはこのシステムのほうか。

 

チェックを済ませてハンガーのロックを解除してランスターを格納庫から出すと、基地を囲うフェンスの外にデデーンと効果音でも聞こえて来そうなバカデカイ2連装の大砲が特徴的な双胴型の陸上艦が鎮座していた。

 

アレが基地司令が言っていた陸上戦艦らしい。

確か名前はゴリアテ。元はRK社が開発した陸戦を制する為に開発した重戦車だったが、バトルフレーム万歳の自由資本同盟軍にコレイラネとお蔵入りしたのをマイダス社と共に再設計、再開発したものだ。

 

まず元々重戦車に積まれていた艦砲になる予定だったがコンペで落選した大口径砲を取っ払って、代わりにマイダス社の軍艦のレーザー式主砲の試作品に換装しようとしたら砲はともかく、肝心のジェネレーターを搭載するには車体が小さかったので載るように再設計したら馬鹿みたいに車体がデカくなったのでいっその事バトルフレームを収容出来る様にしてしまえとやった結果、双胴型のアレになったとか。

 

艦上部中央に対要塞重レーザー砲ギガンテスを2連装で搭載し、艦左右胴部上部には26センチ対艦砲を前後に2門ずつの計4門。それに対空銃座が2門、多目的防御機関砲を左右側部に3門ずつと前部と後部に1門備え、4機ずつバトルフレームを整備収容出来るドックを備え正しく移動する要塞と言うに相応しい代物だ。

 

唯一の弱点は鈍足だ。どれだけ頑張っても最高で時速80キロ程度でしか動けない。いかに強固な装甲と強力な砲を備えていても、蟻のようにバトルフレームに集られてはいずれは沈むし、目標の要塞の大型レールガンなどの高威力かつ高速の一撃の前ではひとたまりもない。

 

だからこそ、俺達はここに呼びつけられてるんだからな。

 

 

 

正午を過ぎて要塞攻略が開始され、俺達は事前に言われたように最前線を要塞や防衛陣地から飛んで来るミサイルやら砲弾やらなんやらの盛大なお出迎えを一番機体の装甲が厚い俺、アイク、カークスのおっさんで受け止めながら突っ走っている。

 

『まさか策も何も無しの正面からの突撃とは恐れ入った。これが傭兵の戦い方か』

 

後ろから自由資本同盟から回されて来た小隊長さんからそんな呆れまじりの言葉が飛んで来る。

 

まあ、普通に考えて頭おかしいわな。

 

『歩兵くらいならどうにか身ぃ隠せるだろうが、バトルフレームじゃ隠れようがねぇからな。なぁにお前さん達は俺達の後に着いて、あそこに着いたら思う存分暴れりゃいい』

 

『そんな無茶苦茶な………』

 

小隊のサブマシンガンを両手に装備した前衛の片割れのパイロットからそんな非難するような声が飛んで来る。

 

『じゃあ、後ろの連中と合わせて仲良く皆でお手手繋いで突っ込むか?レールガンでまとめて吹っ飛ばされるだろうがな。いいか?俺達は後ろの連中の弾除けだ。それを承知でこっちに回されて来たんだろう?』

 

カークスのおっさんが飛んで来た砲弾をシールドで受け流しながらそう返す。あんな重そうなシールドでよくまぁやるよ。てか、

 

「どうでも良いってか、機体の強度的に当たり前だけど俺が先頭ってなんかのいじめですかねぇ⁈」

 

コックピットの中がね?もう、ずっとアラートでやかましいんだよ!と言うか、このままだと装甲が保たんわ!

 

「アイク!対空弾幕!」

 

アイクに向かって吠えながらバックパックの機関砲を主翼と水平尾翼が一緒になったような形状のデルタ翼が特徴的な戦闘機の3機編隊に向かって撃ち弾幕を張る。

 

『おいおい、ボクのガトリングはAAガンじゃないんだけどね?このペースだと肝心のパーティーで弾が足りなくなりそうだ』

 

「やかましい。そのパーティー会場に着く前にダウンしたら一緒だ」

 

アイクにそう返しながら、弾幕を潜り抜ける中で戦闘機から苦し紛れ気味に放たれたミサイルを右のシールドで防ぐ。鳴り響くアラートを無視してダメージを確認する。色はオレンジ。まだ保つには保つが多少心許ない。

 

こちらから撃ち上げる鉛玉を躱しきれずに2機の戦闘機が爆炎を上げながらきたない鉄くずに変わり、無事に弾幕を潜り抜けた残りの1機もスナイパーライフル持ちのコルベットが放った超高速の一撃を受けて黒煙を上げながら墜ちて行く。途中でベイルアウトするのは見えたが、生き残れるかは怪しい。まあ俺には関係ないか。ゆっくりと降りて来るパラシュートから意識を外して前方向に意識を戻す。

 

「要塞まで距離8000!地雷原注意!」

 

要塞前の防衛陣地との間の草木すら無い、要塞に続く道があるだけの見晴らしの良い平野に飛び出しながら通信で警告する。

 

戦車に対して有効な地雷があったように地雷はバトルフレームにも有効だ。そりゃそうだわな、タイヤだったりキャタピラが脚になっただけで地面の上を移動してるのは変わらないんだから致命打にはならなくてもどっちか片方の脚部だけでも潰せればそれだけでただの的だからな。

 

と言うか要塞まで残り10キロ切ってるのに迎撃が戦闘機しか来てない時点で地雷がしこたま仕込まれてるに決まってる。

 

『アイク、ミサイル撃ち切って構わねえから全部前にばらまいてけ』

 

『やれやれ、本当にパーティーの前に弾が無くなりそうだ』

 

カークスのおっさんの指示にそう文句を言いながらもアイクがバックパックの両サイドのミサイルランチャーからミサイルを撃ち出す。ある程度進んだミサイルがいくつもの子弾に分かれて、地面に降り注ぐと明らかにミサイル以外の爆炎が上がった。

 

『そぅれ!煙を盾に一気に突撃だ!後ろの連中そろそろ出番だぜ!しっかり準備しとけ!』

 

その声に続いて爆煙の中へと突っ込む。装甲表面の温度上昇に留意するようサブモニターに表示されるが、これくらいなら装甲を追加していない通常状態のランスターでも問題無い。

 

『ちょ⁈本気でこの中突っ切るのかよ⁈』

 

『機体温度上昇!た、隊長大丈夫なんですかコレ⁈』

 

『落ち着け!コルベットの機体ならこれくらいの温度はどうって事はない!それよりお前達も武装のチェックを済ませておけ!』

 

共有回線で情けない声を上げる前衛組のパイロットに隊長さんがそう声をかけているのを聞き流しながら、両腕のカノン砲と炸裂杭の切り替えを確認しておく。問題無し。

 

「やっぱ微妙にいちいち切り替え操作すんの面倒いな」

 

ぼやきながら煙の向こうからそれなりに当てを付けて撃ち込まれてくる砲弾に注意しながら、ランスターを更に加速させる。

 

『ミサイルはコレで完売だよ』

 

その言葉と共に更に追加でアイクがミサイルをばら撒いて、煙で見えないが先で爆発音が上がった。

 

「要塞まで残り2000!そろそろ防衛陣地前に出るぞ!」

 

共有通信で後ろの連中に向かって吠えながらブースターを吹かして一気にランスターを前進させる。煙の中から飛び出すと防衛陣地のフェンスが見えた。その向こうからバトルフレームや陣地内に設置された砲やらから鉛玉が飛んで来るが、装甲を信じてそのまま前進。右腕を畳んで炸裂杭に切り替えてそれを真っ直ぐフェンスに向ける。

 

「はい!こんにちはってな!」

 

フェンスに向かって突っ込むようにしながら右腕を突き出して炸裂杭を打ち込む。炸裂杭がフェンスに穴を開けてランスターがそこへそのままトップスピードで突っ込んでブチ破る。

 

ランスターに制動をかけて穴の前に立ち塞がるように仁王立ちして、手当たり次第にカノン砲を撃って近づいて来ようとする敵を牽制する。

 

『あたしら置いておっぱじめてんじゃないよ!』

 

『攻撃開始』

 

そんな言葉と共にカーシャの赤い鳥みたいなバトルフレームとボリスの黒いブレオンのバトルフレームが飛び込んで来て、凄まじい勢いで敵に向かって行く。

 

『おいおい2人だけで楽しまずにボクも混ぜておくれよ!』

 

2人に少し遅れて飛び込んで来たアイクがそう言いながら、前にカーシャとボリスのバトルフレームが居る事など知ったこっちゃ無いとばかりに両腕のガトリングをぶっ放す。

 

『カハハハハ!暴れろ暴れろ!俺達が暴れた分だけ後ろの連中が楽になるんだからなぁ!』

 

『無茶苦茶だ。統制も何もあったものじゃないな』

 

『傭兵は自由で良いなって思ったけど、軍隊入って良かったわ………』

 

『同意する。頭の中どうなってるんだ』

 

『2人とも無駄口叩かないで集中』

 

『傭兵にお行儀良くなんて期待するだけ無駄ですよぉ。さてさて、ヒャッハーしてる人達に陣地荒らしは任せてこっちはこっちでやることやりますねぇ。身動き取れなくなりますからフォローは任せますよぉ?』

 

最後に残りの連中がゾロゾロと入って来て、各々にそんな事を良いながら動き出す。正規の訓練を受けてるだけあって手早くコルベット達が広がって周囲を警戒する防衛隊形を取り、その真ん中あたりに座したイリヤが機体に積んで来た武装を展開する。

 

両腕で抱えた四角い構造材みたいな形になっていたものから銃身であるレールやグリップが展開してレールガン本来の形を取り、折り畳まれていたバックパックの右側のサブアームがレールガン後部を掴んで固定する。それに合わせて左側のレールガン用の外付けジェネレーターから4枚の放熱板が迫り出して駆動音を立てる。

 

『さーて、そんじゃまぁ俺も仕事するかね、と』

 

言いながらカークスのおっさんがおもむろに吹っ飛んだ固定砲の方へとライフルを向けてセミオートで1発撃つ。撃たれた鉛玉がその固定砲の残骸の陰からナイスタイミングで出て来たロケットランチャーを担いだ男に命中し、ミンチより酷い姿に変わるのが見えた。おお、グロいグロい。

 

『とまあ、こんな風にあちこちから歩兵が出て来るだろうからよーく気を付けろよ?』

 

なんて事ないようにそう言いながらあちこちへとライフルの銃口を向けて鉛玉を撃ち込んで行く。たまらず炙り出されて来た歩兵が出るわ出るわ。バックパックの機関砲をそいつらに掃射する。ん?オーバーキルだって?仕方ないね。対人機銃なんて積んでないし。

 

そんな事をしながらイリヤのレールガンのエネルギーチャージが終わるのを待つ。

 

時計を確認すると正午からまだ2時間も経っていない。それに軽くため息を吐く。今日はまた長い1日になりそうだ。




書き上げに時間かかりすぎでワロタ………ワロタ………
はい、ごめんなさい。ふっつーに書くのサボってました。

ダークソウルはあかんね。時間が文字通り消える()


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20話

ロケット弾を防いだ事で限界を迎えた左のシールドをパージしながら、機関砲を撃ってロケット弾を撃って来た敵の歩兵を吹っ飛ばす。

 

こちらが動けないのを良いことに蟻か何かのようにロケットランチャーを担いだ特技兵が押し寄せて来る。

 

『クソッタレ!どっからこんなに湧いてくんだよ!』

 

『喚く暇があるなら撃て!』

 

その言葉と共に2機のコルベットのサブマシンガンから鉛玉がばら撒かれるが、効果はあまり芳しくない。そりゃそうだ。単純に的が小さ過ぎる。専用の対人装備でも無けりゃいくらバトルフレームと言えども歩兵相手に後手に回るなんて事は普通にあり得る。人型のロボットたって区分的には戦車と同じだ。

 

それを踏まえて見れば、対バトルフレーム用のライフルで無駄弾も無く的確に歩兵を吹っ飛ばしているカークスのおっさんがおかしい。と言うかほとんどカークスのおっさん一人で歩兵の攻勢を殆ど押さえ込んでやがる。

 

まあ、この歩兵共は自由資本同盟の連中からすれば撃とうにも撃ちにくいかもしれないけどな。良いとこ中学生くらいの年齢の少年兵ばっかりだ。とは言え、練度も何もかもが微妙な少年兵を突っ込んで来るって事は向こうも相応に厳しいんだろう。

 

 

「だぁもう!サンドバッグじゃねえんだぞコンチクショウ!」

 

吠えながらカノン砲をロケット弾を撃ってさっさと歩兵が隠れた瓦礫に撃ち込むが、そこには誰も居ない。ふぁっきゅー。

 

「イリヤァ!まだチャージ終わらないのか⁈」

 

いい加減撃たれっぱなしでストレスがヤバい。

 

『そうですねぇ。あと3分と言ったところですかぁ?』

 

今回イリヤが持ち込んでいるレールガンはバトルフレームでも携行出来るくらいに軽量小型化が出来ているが、代わりにぶっ放すための電力を艦船みたいに一瞬で供給する事が出来ず、規定の電力をレールガンに蓄積する必要がある。

 

レールガン一つでコレだ。いつだかのレーザー兵器盛り盛りな第五世代型試験機のジェネレーターがいかにぶっ飛んでいるのかよく分かると言うもんだな。そしてアレが欲しいと今は切実に思う。まあ無い物ねだりしてもしゃあないんだけどさ。

 

「おっさん!突っ込んで暴れたいんだけど無理⁈」

 

『しゃあねぇな。なるべく撃たせんなよ?こちとらどいつもこいつもお前さんのほど頑丈じゃないからな』

 

よっしゃお許しが出た。ヒャアもう我慢出来ねえ!突撃だぁ!

ランスターのブースター全開で飛び出して手近な残骸をそのまま突進で蹴散らす。

 

「逃がすかってんだよ!」

 

残骸やらを蹴散らして突っ込んで来た俺のランスターに慌てて逃げ出す歩兵を飛びかかるように攻撃する。突進の勢いのまま轢き、両腕をそのまま鈍器としてぶん回して吹っ飛ばす。

 

やっぱちまちまやるのは性に合わない。突っ込んで暴れるに限る。俺が暴れて奴らが逃げ惑ってるうちは後ろにもロケット弾も行かないだろうし………たぶん。

 

そうやって暴れていると唐突にロックオンアラートが鳴り響き咄嗟に構えたシールドにミサイルが着弾し、それに少し遅れてレーダーの索敵範囲内にアイコンが追加されて爆煙の向こうから鉛玉が連射で撃ち込まれて来る。

 

爆煙を引き裂くようにランスターのスレスレを白に赤のラインでマーキングされた逆向きに取り付けられたような前進翼と呼ばれる特徴的な主翼をした戦闘機が飛び抜けて行く。

 

そしてそのままイリヤ達の方へと向かって行き、機体下部にマウントしたミサイルを撃ち込んでグンと鋭い角度で機首を上げるとまるでバク転でもするかのようにこっちを向くと再び鉛玉を撃ち込んで来た。

 

「トップガンかよ!」

 

甲高い音を立てて着弾した鉛玉が装甲を削って行く。ロケット弾やミサイルに比べれば大した事無いダメージだが、無視は出来ないので防御を固めざるを得ない。

 

『そっち生きてますかぁー?』

 

「この程度でくたばるならアフリカ来る前に死んでるよ!で?チャージはまだ終わらねぇのか⁈」

 

『そっちは大丈夫ですって言えたら良いんですけどねぇ』

 

「レールガンやられたのか⁈」

 

だとしたら強引にここまで突っ込んで来た意味がなくなるってか今回の仕事完全にトチった事になる。

 

『本体は無事なんですけど、さっきのミサイルの破片がですねぇ?こう見事にジェネレーターに命中しちゃいまして、爆発こそしませんけどエネルギーが8割くらいしか溜まってないんですよねぇ。ここからあのデカいのを陥すにはちょっとエネルギーが足りないんですよぉー』

 

『でだ。あの空のはこっちでどうにかすっから、嬢ちゃんをぶち抜けるとこまで連れてけ』

 

「動けないって言ってなかったっけか?」

 

『機体のエネルギーもレールガンに回してたからですよぉー。チャージする必要が無いならまあどうとでもなります。まあ、2基目は陥せないから半分仕事に失敗したようなもんですけどねぇ』

 

器用に展開したままのレールガンをサブアームと両腕で抱えたイリヤの機体とサブマシンガン持ちの2機のコルベットが走って来る。それに合わせてランスターを走らせてまだ隠れているかもしれない歩兵を警戒する。

 

戦闘機からのロックオンアラートが鳴り響くが、すぐに鳴り止む。

 

『ハッハァ!北の猟犬がこんな南の大地居るなんてなぁ』

 

そんな声が聞こえ、カークスのおっさんが戦闘機に向けてライフルを撃っている。並の機動の戦闘機なら間違いなく被弾しているだろう見事な偏差射撃だが、それを戦闘機の方はまるで人間が乗っているとは思えないような複雑怪奇な機動で回避してみせる。いや、なんであんな飛び方で落ちないんだアレ。

 

 

「なんだあの戦闘機。バルキリーかよ………」

 

『何と勘違いしてるか知りませんけど、アレはSU-X03ヴェールクトⅡですよぉー?』

 

前世のロボアニメに出て来た変形する戦闘機の名前を思わず口を滑らせて言ったらすぐにイリヤからそんな訂正を入れて来た。てか、なんだその某超本格的飛行機ごっこゲームにでも出て来そうなのは。

 

『カズキも皇華帝国によるロシア連邦への侵略戦争は知ってると思いますけど、あの頃に作られた物で自由資本同盟のワイバーンはアレの劣化コピー機だってもっぱらの噂ですねぇー』

 

『間違っても空軍連中の前ではそれ言ってくれんなよ?あいつらマジギレすっから』

 

「で、そんなもんがなんでこんなとこに居るんだよ?」

 

『簡単な話ですよぉー。ロシアは皇華帝国に敗北しましたけど、そんなのは認めない。自分達の国を取り戻すんだーって愛国心溢れる人達が居るわけですけど、何をするにもお金は入り用ですからねぇ?』

 

「なるほど。軍資金集めの為に傭兵なんぞをやってると」

 

自分達の国を取り戻したいと言う心意気は御立派でも先立つモノが無けりゃどうしようもない。いやはや全く世知辛いもんだ。

 

時折遭遇するロケットランチャー持ちの歩兵達をサーチアンドデストロイしつつ移動を続けて行く。

 

歩兵らしき集団が見えたので咄嗟に左のカノン砲を撃ち込もうとしてコルベットの片割れがそれを妨害して来た。

 

『待て、衛生兵だ。相手は反政府勢力とは言え非武装の衛生兵への攻撃は条約違反だ』

 

その言葉にカメラの解像度を上げると確かに担架に負傷した歩兵だかパイロットだかを乗せて必死になって戦場から離れようとしているのが映った。

 

上げたランスターの腕を下ろして先を急ぐ。カークスのおっさんならあの戦闘機相手にも死ぬ事は無いだろうが、弾が足りなくなったら何も出来ないからな。そうなったら間違いなくアレはこっちに来る訳で、流石に走りながら安定しない状態で戦闘機相手に射撃戦なんてやってられない。

 

 

『あのあたりちょっと吹っ飛ばして場所作ってください』

 

「あいよ」

 

返事するのと同時にバックパックのグレネードをぶっ放してまだ歩兵用の武器弾薬あたりでも詰まってそうなコンテナの山を吹っ飛ばす。そうして出来たスペースでイリヤが再度射撃体勢を取り、レールガンをぶっ放す。

 

レールガンから眩しい閃光を纏いながら放たれた砲弾が要塞の大型レールガンを貫いた。それから少しして炎と煙を上げながら崩落して行く。それを見ながらイリヤは用済みになったレールガンをサブアームごとパージして四脚のうち右前側の脚部の装甲の隙間に手を突っ込んで、リボルバー型のハンドガンを引き抜いた。

 

『やれやれ、保険に持って来て正解でしたねぇ』

 

「俺も旦那に頼んでハンドガンくらい積んでもらうべきかねぇ。赤字増えるけど」

 

『その両腕のパイルで十二分以上に暴れてるんですからハンドガンは無駄ですよ無駄。むしろ、その分タンク増設して貰って推進剤増やして貰った方が良いんじゃないですかぁ?』

 

「ま、そこは旦那が考えるさ。さて、んじゃ戻ってカークスのおっさん達とケツまくんぞー」

 

一応、1人を除いてヒャッハー楽しんでそうな特攻野郎チームにメッセージを送っておく。落ち着いたら帰って来いと。間違いなく無線飛ばしても高笑いか無言しか返って来なさそうだからな。

 

それにあいつらは自分の力を証明してみせた独立傭兵達だ。どんなに頭ヒャッハーも退き際を見誤るなんて事は無いだろうし、あいつらが死のうが俺にとっちゃ関係無いしどうでもいい。

 

カークスのおっさん達のところまで戻ると、1機も欠ける事なく3機とも残っていた。どうやらあの戦闘機は追い払えたらしい。

 

『うし、戻ったな。このままここに居ても目的は達成出来ねえ。報告がてら一旦戻るぞ』

 

『待て。そちらの傭兵がまだ全員戻って来て居ないだろう』

 

「一応、帰って来いよーってメッセージは送っといたから生きてりゃ勝手に戻って来るだろうから気にしなくて良いよ隊長さん』

 

『そう言うこった。あのおっかねえ犬っころが飯食って戻って来る前にズラかるぞ』

 

そう言って動き出すカークスのおっさんに続く。戸惑っていた様子のコルベット組も後に続く。

 

基地に戻って来るとまあ、こっちもなかなか大変な事になっていた。あちこちに爆撃でも食らった様な跡が残っている。吹っ飛ばされた格納庫や輸送機やらバトルフレームやら戦車やらの残骸が転がっている。

 

俺達傭兵に与えられた格納庫は幸い爆撃を受けず無事に残っていた。

ハンガーにランスターを固定して一旦降りる。ミリアはもちろんのことウチ以外のとこが連れて来たアブレヒト組のメカニックの姿が見えないのは多分、金積まれて基地修繕だとかそっちの方に駆り出されてるからだろうが、まあ、すぐに戻って来るだろ。

 

一旦機体の事は頭の中から放り出してカークスのおっさん達と一緒に司令のところに向かう。

 

 

「悪いな。ちょってばかし想定外の敵に出くわしてレールガンをやられちまってデカブツの片方しか陥せ無かった。必要なら違約金払うぜ」

 

「構わんとも。旧ロシアの猟犬部隊崩れが向こうに居るなど想定外にも程がある。片方を陥してくれただけでもありがたいとも」

 

「そう言って貰えるなら助かるが、そっちが用意してたゴリアテはどうしたんだ?」

 

「件の飛行隊に主砲及び動力部を見事にぶち抜かれて木っ端微塵だとも。ゴリアテを失った以上、我々陸軍だけではあの要塞はどうしようもない。空軍に戦力の要請をして、彼らの到着を待っているのが現状だ。何はともあれ諸君らも休んでくれ」

 

なんで最初から空軍呼ばないってのは野暮な文句だろう。向こうの対空網の前じゃ空爆なぞ無理だし、かと言って飛べても高度は200メートルが精々、そんな低空じゃ半端な腕前じゃ下から撃ち上げる対空砲火のカモでしかない。

 

まあ、出来そうなのは一応心当たりあるが、いくら自由資本同盟軍と言えどもあんなパイロットがゴロゴロしてる訳も無いだろうしな。てかもし居たら今頃空軍だけで自由資本同盟軍が世界制覇出来てるわ。




前投稿日を見る(゚∀゚)
今投稿日を見る_:(´ཀ`」 ∠):

コレはアカン()

鳴り物入りの戦艦とかってなんでこんな簡単に壊されてまうん?


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21話

目の前のモニターに拳を叩き込みそうになるのを必死に堪えながら、長々とくだらない事を言い合っている老人共に向けて口を開く。

 

「作戦の指揮があるので私はこれでお暇させて貰う」

 

苛つきを顔と声に出さないように気をつけながら言い切って、形ばかりの敬礼を取って通信機ごしの会議とは名ばかりの老害共の足の引っ張り合いから立ち去る。

 

モニターが消えるのを待たずに跳ねるように座っていた椅子から立ち上がって、通信室を出る。

 

「お疲れ様でした閣下」

 

通信室の外に控えていた側近から軍帽を受け取って被り直しながら硬い廊下を歩く。

 

「全く、中央の老害共にもほとほと呆れ果てたものだ。こちらは重要な作戦の真っ最中だと言うのにあんな会議とも呼べないようなものに出席しろだなどと………それで、状況はどうなっているか」

 

「はっ。報告によれば自由資本同盟とエジプトの連合は要塞上部の大型リニアカノン砲1門を破壊したものの、ゴリアテでしたか?要塞攻略の主力となる陸上戦艦を失い、手をこまねいているようです」

 

「当然だな。あんな戦車の出来損ないのようなもの1隻でどうにかなるなら我が皇華帝国軍が攻略出来ないはずがなかろう。で、こちらの戦況は?」

 

「装甲騎兵団第一軍、二軍共に第一防衛線を突破。第二防衛線を攻略中です。しかしながら連中は面倒な傭兵を雇ったようで、前進が滞っています」

 

「また傭兵か。どこの傭兵だ?まさかとは思うがアブレヒトではあるまい」

 

この作戦には皇華帝国と自由資本同盟が連名でアブレヒトから雇った傭兵が参戦しているが、我々が雇った者どもとはまた違う傭兵が要塞側に着いていたとしても、あそこの成り立ち上居てもおかしくはない。

 

「ロシアの残党の飛行隊です」

 

「あの駄犬共か」

 

かつての統一戦争においてロシアが用いたSU-X03ヴェールクトⅡ。それを操る我が皇華帝国に恭順せずに反逆する愚か者達だったか。よもやここに居るとは………

 

「またしても傭兵か。あんな者共が戦況を左右するなどとは頭が痛くなるな」

 

苦虫を噛み潰したような気分になりながら作戦指揮所に入る。

 

 

「すまない。今戻った」

 

「構いません。奴らまたぞろ面倒な相手を出して来ました。そこまで大きな被害こそ出てはおりませんが、いかんせん的確にこちらの脚を止めに来ています」

 

一時的に指揮を任せていた副官の代わりに司令席に座って戦場の状況が映し出されたモニターに目を向ける。

 

「シュウ中尉。アレの状況はどうなっている?」

 

「現在最終調整を行なっています。もう間も無く出せます」

 

「急がせろ。それから私の機体を準備しておけ」

 

「かしこまりました………閣下の困ったクセがまた出たわね………」

 

「何か言ったか?中尉」

 

「いいえ何も」

 

小声で何か言っていたが、まあ瑣末な事だろう。

さて、生意気な反逆者共とその飼い犬共をどうしてくれようか。

 

 

 

●●●●●●●●●

 

 

 

機関砲を対空砲よろしくぶっ放して飛んで来る戦闘機を追い払う。例の前進翼の戦闘機の姿が見えないのが不気味だが、ゴリアテ沈めた事でこっちの優先度が下がってんじゃないのかと言うのがカークスのおっさんや旦那の見立てで多分間違ってないんだろうが、それはそれとして、こっちの戦線を抜いて戦闘機が飛んで来てアッツアツの爆弾プレゼントして来るので油断は出来ない。

 

「ったく、まだ補修終わってないんだぞこちとら」

 

今のランスターからは補修のために追加装甲が取っ払われているから、奴らが持って来たアッツアツのプレゼントを貰うとどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 

まあ、基地に配備された対空機関砲やらも一緒になって景気良く鉛玉ばら撒いてるし大丈夫だろう。見た感じ飛んで来てる戦闘機のパイロットの腕もあの前進翼のより大分低いしな。実際、対空砲火を必死になって回避していると言った感じで、砲火の合間を縫ってエントリーからのお届け物をする余裕は無さげだ。

 

『ハハハハハハ!随分と活きの良いファイターじゃないか!それそれもっと必死にならないと墜としてしまうよ?』

 

オープン回線でそんな楽しげな声が聞こえて来る。

一緒に迎撃に出張っているアイクが惜しみ無く両腕のガトリングから鉛玉をばら撒いている。戦車はおろか艦船の装甲すらぶち抜きそうな弾幕に追い立てられている戦闘機のパイロットに少しだけ同情する。

 

「あ、やべ」

 

戦闘機が1機対空砲火を振り切ってエントリーして来るのが見えるが対空砲も俺も反応が追いつかない。

 

今にも爆弾を投下しようとした戦闘機だったがどこからともなく飛んで来た鉛玉を受けて汚い花火に変わる。

 

 

『こちら独立作戦飛行隊ライトニングAWACSロックハート。待たせたな、援護しよう』

 

その無線に続いて、戦闘機とバトルフレームが飛んで来る。

忘れたくとも忘れようもないライトニングファルコンと、それに似ているが形状の違う第四世代型が3機、それにF-46ワイバーンが4機。

 

瞬く間に反政府勢力の戦闘機は途中参加の飛行隊によって空の汚い花火に変わった。正に瞬殺である。

 

感心していたらコックピット内にロックオンアラートが鳴り響いた。操縦桿を引いてフットペダルを蹴飛ばすようにランスターを旋回させてバックパックの機関砲を上に向ける。

 

「ったく、怨み買ってるのは分かりきっちゃいるけど、それはそれでビビるわ!」

 

機関砲をぶっ放しそうなのを堪えて、ロックオンレーザーを向けて来る戦闘機を見る。覚えのある機動ってか、いつだかの補給艦隊襲撃の時のやつだ。尾翼と主翼のパーソナルマークが広げた鳥の翼と稲妻に変わってるがそこは所属が変わったとかそんな感じのだろう。

 

『機体こそ変わっちゃいるが、あの時のクソ野郎だな?』

 

戦闘機のパイロットからの通信だ。

 

「おいおい、こちとらそっちからの依頼受けてここに居るんだけど?」

 

『笑わせんじゃねえ。あんだけ好き放題やってくれた奴がどの面下げてそこに居やがるってんだ』

 

「文句は依頼して来た奴に向けろや」

 

『うるせぇ!てめぇがやったのは事実だろうが!』

 

やれやれ、こりゃまた盛大に嫌われたもんだわ。まあ、未だに撃たれてないだけ向こうも我慢出来てる方か。

 

『そこまでだロニー。今すぐ彼の機体からロックを外すんだ』

 

『嫌だね』

 

『ロニー、俺に引き金を引かせてくれるな』

 

『クソが!けどな、降りたらぶん殴りに行くから首洗って待ってろよ』

 

そんな言葉を残して戦闘機からのロックが外れ、ロックオンアラートが鳴り止む。

 

『隊の仲間が失礼した。ライトニング隊隊長のアイザック・フローライトだ。彼に代わって謝罪する』

 

「気にしなくて良いよ。俺達傭兵はそう言うもんだし特にウチはおたくら自由資本同盟からの評判は悪いだろうしな」

 

そう言う情報規制でもかかってるのかもしれないが、むしろ今の今まで後ろから撃たれてないだけ温情とすら言えるくらいには、自由資本同盟の連中をきたない鉄くずに変えて来た俺からすれば、今更怒る事でも無いし、それどころか撃たれても因果応報としか言えない。

 

 

ランスターをハンガーに戻して、手持ち無沙汰だからミリアの手伝いでランスターをいじっていると、金髪の某私は帰って来たぁ!とか言うあの人っぽい感じのイケメンな自由資本同盟の兵士が一人やって来た。

 

「呼ばれてんぜ鉄槍サン」

 

アイクのとこの技師がやって来て、格納庫の入り口に居る兵士を親指で指す。

 

「わざわざどうも。それとその呼び名はやめろ?んな二つ名貰うような傭兵じゃないんで」

 

そう技師に返して、ミリアに断りを入れてから兵士の方に向かう。

見たところ拳銃の携帯とかもしていないからひとまず命の心配は無い。

 

「アイザック・フローライトだ。先程のことに関して改めて謝罪しに来た。本当にすまなかった」

 

そいえ言って頭を下げて来る。別にそこまでやらなくても良いんだけどなぁ。そもそもアレも承知した上でこうしてアフリカまで来てんだし。

 

「わざわざ律儀なことで。んで?ぶん殴るとか言ってた方は?」

 

「次の出撃まで営巣に入っている」

 

「そうかい。てか、マジで謝罪のためだけに来たのか」

 

「主な目的はそうだが、聞きたいことがあって来た。なぜお前は引き金を引くんだ?」

 

「傭兵にそれ聞く?雇い主が撃てって言うんだから、それ以上もそれ以下もねぇだろ」

 

少なくとも俺にとって引き金を引く理由はそれだけだ。旦那が、雇い主が撃てって言うんだから俺はそう言われた通りにして、代わりに金を貰う。ただそれだけだ。いちいち考えてたらキリが無いわ。

 

「自分の意思も無くあれだけ撃てるものなのか」

 

「逆に考えてみなよ。そうでも無きゃパンクしちまう。人間ってのはおかしな事に馬鹿みたいに殺し合ったりしてる割に殺すとそれで精神的に馬鹿みたいにダメージ受けるもんだからな」

 

俺?とうに考えるのはやめた。必要なら誰だろうときたない鉄くずにするし、特に必要無いならその場に応じて考える。

 

「あんたにとっての引き金を引く理由なんざ俺は知ったこっちゃないけど、そこに意味を見出してどうすんだ?引き金を引く意味を良く考えろとは良く見たり聞くけども、じゃあきちんと深く考えたなら撃っても良いって?そんな訳無いだろうがよ。そんなのは撃った事実から逃げてるだけだ。どんな理由があれどてめぇ自身の意思で引いたんだ。そんな事でウジウジ悩んでるような奴は銃なんざ捨てて教会で牧師でもやってろ」

 

もう俺からこいつに特に言う事は無いし、話すだけ無意味そうだから軽く手を振ってランスターの整備の手伝いに戻る。




ロボモノってなんで自然と前線病罹患者な指揮官が湧くんだろうか。

主人公って戦う事に悩み抱えてるもんじゃん?なお、割り切り済みガンギマリなカズキくん。仕方ないね。トリプルスコアで人ぶち転がしてるからね()むしろここまで来てウジウジしてるようなのは死んでると思うの


投稿日に関してはもう何も言わない(真顔)


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22話

なんの茶番劇だろうかコレ。

そんな事を思いながらドーラスの胴体に炸裂杭を打ち込む。オイルやらなんやらをぶちまけながら砕ける機体を蹴り飛ばして健気に撃って来る固定銃座を黙らせる。

 

「陸軍がどうだの空軍がどうだのそんなもん今更持って来んなっての」

 

作戦の主導権が陸軍から空軍に変わったとかでモニター越しに偉そうってか実際軍のお偉いさんのおっさんから「お前らの尻拭いしてやるから掃除済ませとけ」みたいな事を言われてえっちらおっちらと戦闘中だ。

 

『まあ、良いじゃないか。面倒な要塞はあっちでやってくれるって言ってるんだからさ。それよりさっさと次に行こう。ふふふ、さて次の連中はどんな風に歌ってくれるかな?』

 

一緒に景気良く鉛玉をばら撒いていたアイクがそう言って来る。歩兵相手にすら両腕のガトリングをばら撒いてるから辺りはミンチよりひでぇやな惨状である。

 

「聞こえるのって爆音と金切音だけだろ。歩兵じゃあるまいに」

 

黙らせた防御陣地から次へと向かおうとランスターの向きを変えた瞬間ロックアラートが鳴り響く。右のフットペダルを踏み付けつつ操縦桿を引いてランスターを反転させて飛んで来た誘導ミサイルを防ぐ。

 

どうやら生き残りが居たらしい。そのまま死んだふりでもしてりゃ良いのになんで手を出して来るのやら。まぁ、どうでもいい。撃って来るなら黙らせるだけだ。

 

慌ててミサイルの発射器を投げ捨てて逃げ出そうとする歩兵に向けて砲弾を撃ち込む。無駄弾な気もしないでも無いが、瓦礫に阻まれてやり損ねるよりはマシだ。

 

「よしクリア」

 

『酷いなぁせっかく良い音が聞けそうだったのに』

 

「遊んでる場合じゃねえからね?」

 

『僕からすればカズキはもっと余裕を持って愉しんだ方が良い』

 

割とまともかと思ったけどやっぱりコイツ頭おかしいわ。

ため息を吐きつつアイクと一緒に次の防御陣地に向かう。ちなみに俺達はイリヤがクソデカ砲台を落とした側の掃除で、まだ残ってる方はカークスのおっさん達が行っている。時折クソデカ砲台からの砲撃が盛大に爆発を起こしているが、アレ自分達の方にも被害出てるんじゃなかろうか。

 

「てか、砲台無いからって俺とアイクと連合軍の部隊と協働って話のはずがなんで俺らだけで突出してんだ?」

 

『それは僕らがくたばろうがどうしようが損害に数えなくて良い傭兵だからさ』

 

「知ってた」

 

『それにどうせ僕もカズキも仲良くおてて繋いでみんなで進みましょうなんて性に合わないじゃないか。ぶっちゃけ邪魔だろう?』

 

「弾除けにはなるじゃん?」

 

そんな風に駄弁りながら後ろからの援護射撃と言う名の前に進めやと言う熱いコールに押されるように次の防御陣地へとランスターを進める。

 

戦車やらバトルフレームやら固定銃座やらのお出迎えを防ぎつつ次の目標の防御陣地に突っ込む。俺を盾にしていたアイクが景気良く鉛玉をばら撒き、戦車も歩兵も区別無くミンチに変えて行くのを見ながら長刀を持って突っ込んで来る竜胆を迎撃する。

 

「軽いんだよ」

 

言いながら長刀を受け止めた左腕を外側に向けて広げると、あっさりと竜胆の懐がガラ空きになる。そこに右腕を殴り込むようにして炸裂杭を打ち込む。

 

『君の奏でる音も素敵だよカズキ』

 

「はいはい。残敵は………後ろの連中に耕して貰えばいいか。てか、俺ら居るのに問答無用過ぎんだろ」

 

降り注ぎ始めた砲弾に文句を言いながらフェンスをぶち破って防御陣地を抜けたところでランスターの肩の追加装甲が吹き飛び大きく体勢を崩され、咄嗟に左腕の盾で機体前面をカバーして崩れた姿勢を立て直す。

 

「狙撃か?アイク生きてるか?」

 

『大丈夫だよ。君が盾になってくれたからね』

 

「そいつは何よりだ。ミサイル残ってる?」

 

『ミサイルじゃなくてロケットだね。まだまだたっぷり残ってるよ』

 

「んじゃ、前方400メートル先を吹っ飛ばせ」

 

『はいはい』

 

アイクがバックパックのロケットをぶっ放して狙撃をかまして来た機体に直接単装砲を固定した自走砲台のような見た目になっているドーラスを木っ端微塵に吹っ飛ばす。

 

「よし次行くか」

 

『そろそろ序曲は終わりたいところなんだけどね』

 

「残念ながらメインディッシュはお空の連中のもんだよ」

 

『世知辛いね』

 

防御陣地に突っ込んで耕して回っていると、要塞から戦闘機が飛んで来た。訳の分からない動きをする前進翼の奴じゃなくてデルタ翼の方だ。

 

カークスのおっさんならともかく俺もアイクも高速で飛び回る戦闘機を撃墜するような偏差射撃は出来ないんだが、だからと言って出来ないだのとは言ってられないか。

 

戦闘機が撃って来たミサイルを回避するが近接信管のミサイルの爆炎に機体を炙られるがまだ問題無い。

 

「おかしな機動をしないならこうすれば良いんだよな?」

 

機関砲を戦闘機に向けて撃つ。当然、戦闘機がそれを回避する。目に見えてスピードが落ちているところへカノン砲を向けて、おおよその感覚で3発連射。2発は外れたが1発が主翼を抉り取り綺麗にくるくるとスピンしながら明後日の方に飛んで行った。

 

「意外とやれば出来るもんなのな」

 

『流石だね』

 

「あのヴェールクトだっけか?アレが来ない事祈りたいね」

 

カークスのおっさんしかまともに相手に出来ねぇしアレ。

割とマジでそう思いながら次の防御陣地に向かう。残りは確か3つか。さっさと終わらせよう。

 

「あん?」

 

防御陣地に向かっていると突然、要塞の残っていた大型レールガンが吹っ飛んだ。なんか共有通信の無線が騒がしい。

 

『皇華帝国が新しいオモチャ持ち出して来たみたいだね?空を見てごらんよ』

 

「赤いバトルフレーム?」

 

両手にライフルを持った背中に4枚の鳥を思わせる翼を持った赤いバトルフレームが空中に居て、不動のまま背中の翼からレーザーを撃ち出して飛んで来るミサイルを全て迎撃している。

 

「わざわざこっちまで来させるとか派手な見世物だねえ」

 

『カズキ。何が見えるんだい?』

 

「ほい」

 

ランスターのカメラでスクリーンショットを撮ってアイクに送る。

 

『へぇ、噂に聞く第五世代型バトルフレームってやつかな?』

 

「んー?なんで皇華帝国がアレ持ってんだ?確か日ノ本のナントカって研究所で試験してたはずなんだけどな」

 

『知ってるのかい?』

 

「前に模擬戦の相手をちょっとね」

 

『まあ、よくある技術のパクり合いだろうね。流出させてたとしたらその研究所の責任者は首が飛んでるね、物理的に』

 

「ま、なんであれ俺らには関係無い。次行くぞ次」

 

あの赤いバトルフレームの出現は敵に少なくない動揺を与えてるようで防御陣地からの抵抗もあっさりとしたもんだった。で、その俺達の上を大慌てで自由資本同盟の戦闘機と第四世代型バトルフレームの飛行隊が飛んで行くのだった。

 

本当にまるで何かの茶番劇だ。

 




いつぶりだろうねコレ?


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23話

通信が賑やかだ。

私としては弱いモノイジメをしているような感じなんだけど、下の人達にとっては違う。

 

「朱雀を見せ付けて来い、ね。無駄に煽るような事をしてどうするのか分からないけど、お義父さんが喜ぶなら良いかな」

 

ATX-00朱雀。世界で初めて実用化された第五世代型バトルフレームらしい。技術的な事はよく分からないけど、訓練で乗った竜胆なんかとは比べ物にもならないくらいに良く動ける。まぁ、それが出来てるのは機体の方に直接こうしたいと言う意思を送る事で動いてくれるイメージトレースシステムがあればこそなんだけど。

 

私の名前はナタリア。朱雀のパイロットで現状唯一のイメージトレースシステムの適合者らしい。朱雀を作った女科学者が言うにはベースになった機体は直接機体とパイロットとを通信ケーブルで繋ぐ事でやっていたらしいけど人としてどうなんだろう?女科学者も単に美しくないから直接接続じゃなくてイメージトレースシステムを作ったって言ってたし結局は同類だ。

 

さて、それはさておいて私はとにかく朱雀の強さを見せ付けた上で自由資本同盟の人達よりも先にこの要塞を落とさなきゃいけない。

 

「ん。慌てて出て来たね」

 

朱雀のレーダーがこっちに向かって飛んで来る自由資本同盟の飛行隊を探知した。それと同時に真下からのロックオンアラートと共に機関砲を撃ちながら急上昇して来る戦闘機がやって来た。

 

前進翼が特徴的なヴェールクトⅡと言う機体で、旧ロシアを愛する人達が乗っているって話だけど………

 

「守るべき人達を見捨てて逃げ出した負け犬だよね?」

 

少なくとも私にとってはそうだ。雨風を気にしなくて良い住むところ、暖かくて美味しいご飯。そして家族達。それをくれたのはロシアじゃなくて皇華帝国であり、お義父さんでもあるリ・イーシン将軍だ。

 

だから、銃を向けるのにも引き金を引くのにもなんの躊躇いもありはしない。

 

「墜ちろ」

 

朱雀の両手に装備したレーザーライフルが火を吹く。実弾銃とは比べ物にもならないそれをヴェールクトⅡは機体をロールさせて最低限の動きで回避してみせる。腕前だけは良いのが余計に腹立たしい。

 

「鬱陶しい」

 

ギリギリを飛び抜けて行くヴェールクトⅡを躱しながらパチパチと打ち上げて来る要塞の対空設備に向けて朱雀の背中に装備された飛行ユニットを兼ねたマルチレーザーランチャー鳳翼の低出力モードのパルスレーザーをばら撒いて黙らせる。

 

『おのれ!皇華帝国の魔獣めが!』

 

「負け犬はキャンキャン吠えるのが得意?」

 

『女だと⁈ふざけおって!』

 

「女だから何?どうせここで死ぬアンタには関係無いよ」

 

『ほざけ!』

 

機関砲とミサイルを巧妙に撃って来る。なんとかミサイルは撃ち落としたが、機関砲の弾が朱雀を叩く。モニターしてるだろう女科学者が悲鳴あげてそうだが、そんな事はどうでも良い。朱雀がモニターに表示して来たダメージの報告を素早く確認してホロウィンドウを消して、鳳翼のパルスレーザーをヴェールクトⅡに向けて放つが、それに対してヴェールクトⅡが対光学兵器用のスモークを放出して防いだ。

 

「小細工を」

 

再度両手のレーザーライフルを撃つ。パルスレーザーならともかく、これの収束率ならダメージは下がるとしても無効化は出来ないはず。

 

想定通りヴェールクトⅡが回避機動を取るが、それと同時にミサイルを撃って来た。当然迎撃しようとしたが目前で爆発して、中に詰め込まれた薬品やらと反応した炎に朱雀が炙られた。

 

ミサイルの種類が見切れない。私もそうだが、朱雀に搭載されているAIもまだまだ未熟でそこまでの判断が下せない。

 

『援護するぜ?皇華帝国のパイロット』

 

その声と共に自由資本同盟軍の戦闘機ワイバーンが1機飛び込んで来た。それに少し遅れて第四世代型バトルフレームのライトニングファルコンがやって来る。

 

『こちらライトニング1。少し出遅れた』

 

「援護はありがたいけれど、邪魔にはならないでね?」

 

『あん?女ぁ?』

 

『皇華帝国は何を考えて………』

 

お決まりの反応だ。大体の人達はこう言う反応をする。

 

『ええい!資本主義の犬どもまで来よって!』

 

ヴェールクトⅡのパイロットは大分頭に来てるらしい。怒って冷静さをかいてくれる分には大歓迎だ。

 

しかしそこは腕のあるパイロット。動きのキレが良くはなったものの特に冷静さを欠いている様子は無い。ワイバーンとライトニングファルコンに追い立てられるようにしながらも巧みに攻撃を回避しながら逆に仕掛けて来る。

 

レーザーライフルはともかく鳳翼は味方が居ると使えない。攻撃に巻き込む可能性が高すぎる。むしろ私からすればなんで明らかに射線上に互いが居るような状態でもあの自由資本同盟軍の2人は普通に攻撃を仕掛けられるのか。

 

「やりづらいなぁ!」

 

援護と言いつつあの2機の動きは完全に2機だけで完結したもので、こちらの攻撃を差し込む隙間が少ない。なるほど、他を置いてこの2機だけ突出しているのも納得だ。連携しようにもこれじゃあ返って邪魔だ。

 

下の方を見れば彼らのお仲間らしい戦闘機とバトルフレームが残っていた要塞の対空兵器だとか敵の戦闘機部隊やらと盛大にやり合ってるのが見える。うーん、このままだと全部自由資本同盟に持って行かれそう。

 

「それは流石にマズいよね?」

 

あのワイバーンとライトニングファルコンの邪魔になろうと知った事じゃない。そっちが好きにやるならこっちも好きにやらせてもらう。朱雀からのフレンドリーファイアの警告を無視して突っ込む。

 

ワイバーンから放たれたミサイルの接近アラートが鳴り響くが、ギリギリまで引き付けて朱雀バク転させるようにして躱しながら、朱雀のサポートの自動照準で鳳翼から短連射でパルスレーザーを撃って、更に追い討ちのレーザーライフルを叩き込む。

 

普通の戦闘機なら問答無用ではたき落とされるような弾幕だが、それすらもヴェールクトⅡは切り抜けて機関砲を撃って来る。流石にミサイルは品切れらしい。

 

『祖国復興のため、私は!私は!負けられんのだァ!』

 

『最期の言葉はそれで十分か?』

 

『何⁈』

 

綺麗にヴェールクトⅡにライトニングファルコンのスナイパーライフルの弾丸が命中し、制御を失って炎を上げながら落ちて行く。トドメ持って行かれちゃった。

 

そして、下を見るとそっちでも粗方決着が付いたらしい。どうやら私達と戦っていたヴェールクトⅡのパイロットが特別強かっただけで残りはそう大した事無かったようだ。

 

『全軍進めェい!一気呵成に攻め落とすのだ!』

 

繋ぎっぱなしの共有通信から李将軍の声が聞こえたと思えば皇華帝国側から攻め寄せている方のゲートが破壊されてバトルフレームが雪崩れ込んで来た。先頭には甲武をベースに作られた李将軍の専用機の姿があり機体の全長を超える程の巨大な剣を振り回して、蹂躙している。

 

副官の中尉さんがまた深いため息ついてそうだ。と言うか、なんで真っ先に突っ込んで来てるの⁈

 

『アレが噂に聞く猛虎将軍な。自ら先頭突っ走るとかなかなか面白えじゃねえか』

 

『いやアレは………』

 

自由資本同盟の2人が何か話してるけど、そんな事を気にしてる場合じゃない!急いで朱雀を降下させて、将軍の機体を攻撃しようとしている敵を鳳翼で吹き飛ばす。

 

ああもうなんでこう血の気の多い人かな⁈

 

ちなみに言うまでも無いだろうけど、要塞を占拠していた反政府勢力が降伏するまでは私達があのヴェールクトⅡを撃墜してから30分もかからなかった。




まさかの主人公一切出番無し。
今頃カズキくんは水でも飲みながら「はいはい茶番劇茶番劇」ってな具合に呆れ返ってます。


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24話

日が暮れてわいのわいのあちらこちらで酒盛りどんちゃん騒ぎだ。

場所はほんの数時間前まで攻撃を仕掛けていた要塞だ。対空砲他防衛設備のあらかたは破壊し尽くされゲートも片方が綺麗に吹っ飛んでいると言う惨状だが、直すのはどうせエジプトだ。

 

「あー茶が美味い」

 

酒盛りを他所にアイクとイリヤの3人で茶をのんびりと味わう。香りもなんも分からんが酒なんぞより余程俺の舌に合う。

 

「結局、終わってみれば少しばかり暴れただけで終わっちゃったねえ」

 

「楽に終わったんだから良いじゃないですかぁ。私なんて最後全く出番無しのお留守番ですよぉ?」

 

「その分こっちはケツを追い立てられつつの掃除だったわ」

 

イリヤが用意した茶菓子のクッキーを齧りつつ愚痴る。良い具合に紅茶と噛み合う味わいに気分良くしていると酒瓶片手に酔い酔い気分の千鳥足なパイロットスーツを着崩した年若い自由資本同盟のパイロットがやって来た。

 

「おう!そんなとこでチビチビとやってないでこっち来いよ!」

 

ああ、この間のコルベットのパイロットの片割れか。

 

「気持ちだけ貰っとくよ。俺達は俺達で楽しくやってるからさ」

 

「そうか?いつでもこっち来いよな!」

 

ワハハと気分良く他の自由資本同盟軍の連中で固まっている所へと戻って行く。それを見送って茶を飲むと空になった。そこへアイクがすぐさま新しく茶を注ぐ。

 

「にしても、露骨に距離開けて来てますねぇー。カズキちょっと嫌われすぎじゃないんですかぁ?」

 

ソーサーに空いたカップを置いてイリヤがそう言う。

 

「旦那が襲撃依頼しか持って来ないのが悪い」

 

「けど、別に痛む心とかないだろう?」

 

イリヤの空いたカップに茶を注ぎながらアイクがそう言って来る。そんなもん当然、

 

「痛む心なんて持ってたら傭兵なんて出来ません。だろ?」

 

「ですねぇ」

 

「そりゃそうだね」

 

そうやって俺達なりにわいわいやっていると疲れたような顔でミリアがやって来て俺の隣に座り、アイクが当然のように茶を渡す。そして、それを一息で飲むと。

 

「適当にお父さんに押し付けて出て来ましたけど、皆してなんでお酒があんなに好きなんですかね………」

 

「あーお疲れさん」

 

この分だと酒注ぎとかやらされてたんだろうなぁ。

見た感じ少しはミリア自身も酒を飲んでるみたいだが、意識ははっきりしてるしなんか脱ぎ出したあのコルベットのパイロットみたいにはならんだろ。てか、なんだこの惨状は日本の飲み会かよ。

 

「そう言えばカズキ達はこの後どうするんだい?まだまだアフリカの掃除は続きそうだけど」

 

「旦那が適当に仕事持って来るんじゃねえの?それこそ襲撃仕掛ける先は山ほどあるだろうし」

 

「私はとりあえず南の方でギャング狩りですかねぇ?組織建って何かしようなんてのは暫くは出ないでしょうしぃ」

 

「ま、要するにやる事は最初に受けた掃除と変わらないって話だな」

 

「ですね。早速、明日からランスターの整備に取り掛れと言われてますしね。単純にお父さんが自由資本同盟軍の居る所から離れたいだけかもしれませんが」

 

だろうなぁ今頃どんちゃん騒ぎ無視して明日にでも出て行けるように算段付けててもおかしくない。

 

やれやれ。茶番劇みたいな戦いの後はゴミ掃除とかやる気起きねえにも程があるわ。まあ、仕事は仕事だしやるけども。

 

「ご馳走様でした。美味しかったです」

 

「そいつは良かった。茶を楽しめる相手は少なくてね」

 

「乱暴者揃いですからねぇ、傭兵も兵隊も」

 

「茶飲み仲間欲しいなら傭兵やめて喫茶店でもすれば良いじゃん?」

 

俺?ぶっちゃけ飲めりゃなんでも良いです。美味いに越した事はないけども。ただ、酒は勘弁したいところだな。下戸だし。

 

「カズキ、宿舎までお願いします」

 

「1人で戻りゃ良いだろ………って、あー酒入ってる連中の弾除けか」

 

「はい」

 

「あいよ。んじゃまぁ俺もついでにシャワー浴びて寝るとしますかね。なんか無駄に疲れたし今日。ごっそさんアイク」

 

「健康的だねぇ。それとも仲良くベッドインかな?」

 

「旦那に殺されるわ」

 

飲み切ったカップとソーサーをアイクに返して、ついでに変な事を言う阿呆の頭を軽く引っ叩く。色々とほったらかしにしてるようでいて地味に認知の範囲内にずっとミリアを置いてる旦那なんだから確実に明日の日の出は迎えられないだろう。めんどくさい父親心である。

 

で。特に絡まれる事も無く宿舎に戻って。ミリアと別れてさっさとシャワーを浴びて持ち込まれたパイプベッドに横になって、

 

 

「愉しめ、ねぇ………」

 

昼間アイクに言われた事を改めて思い返す。心に余裕を持たないとそのうち潰れるぞって言うあいつなりのアドバイスか何かなんだろうが、なんだそりゃ。アイザックだったか?自由資本同盟のエースにも言ったがじゃあ撃っても良いのかと。撃つべき時に撃つべき相手を撃つ。それだけで十分だろう。愉しいだとか善悪だとか煩わしい。

 

まあ、そう思いたいだけなんだろうな。単に仕事だからと割り切るんじゃなくてそう開き直った方が楽なんてのは俺だってわかっちゃいる。

 

「は。偉そうに悩むくらいなら牧師か神父にでもなれと言っといて人から言われた途端にこのザマとは、我ながら女々しいと言うか感覚が抜け切らないと言うか………」

 

「別に良いんじゃないですか?それでも」

 

「何か用?」

 

「用が無かったら話ちゃ駄目なんですか?」

 

「雑談とか出来るような話題持ってねぇよ俺」

 

「話題なんてなんでも良いんですよ。ただちょっと眠れそうにないから話し相手が欲しいだけなので」

 

「なんだそりゃ」

 

まあ、どうせ俺も今のままじゃ寝れないし丁度良いか。

それからしばらくミリアと話をしたが、結局ランスターの乗った感触だとか武装の使用感と言った仕事の話になったのは仕方ない。話題らしい話題が無いんだからこうなる。

 

その後?普通にお開きからのおやすみである。アイクにも言ったが朝チュン?ねぇよそんなもん。




ちょっとした休憩回。
アフリカでのドンパチはもうちょっと続く模様。


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25話

要塞攻略から早いもんで1週間が過ぎた。俺達は個々に散らばってアフリカでドンパチしている。一応、毎日互いに連絡を取っているがそれ以外は完全にフリーダムだ。

 

 

「ご覧ください。この見渡す限りのお花畑を」

 

『ふざけてないでさっさと終わらせろ。まだまだ焼く場所は残っているんだからな』

 

「へーへー」

 

返事を返しながら端が見えないほどに広がる巨大な花畑にヘルファイアの代わりに装備した火炎放射器をぶっ放す。ん?なんの花かって?ハイで気持ちよくなれるお高いアレの元になるお花だよ。

 

今現在、珍しく俺は世のため人のためなクリーンな仕事に従事している。現地マフィアの資金源になっていると言う農場の処分だ。マフィア自体は今この辺りの治安維持を担っている皇華帝国の部隊が壊滅させるそうだ。アフリカに来る前から分かり切っていたとは言え、警察すらまともに機能していないのヤバすぎるだろう。自警団と言う名の暴力団も普通に居るし。まぁ、自警団言うだけあってこっちは話が通じる。

 

「よーし綺麗に燃えたな?消火消火っと」

 

火炎放射器とは反対側の左腕に装備した消化器で消火剤を撒いて火を消す。火消しまでが処分のお仕事です。

 

 

ちなみに現在のアフリカでは件の要塞攻略の影響もあって、皇華帝国や自由資本同盟の傘下に下る国や自治体が急増している。特に第五世代型バトルフレームなんてもん大々的ちらつかせた皇華帝国は凄まじい勢いで影響力を強めている。特に侵略とかはしていないが結果としてアフリカに勢力圏を広めつつあると言う訳だ。

 

で、それに慌ててるのが自由資本同盟だ。率先して山賊やらマフィアやらなんやらを潰したり自分達にとっての旨味の無い条約を結んだりと必死にアピールをしているらしい。その甲斐あってか、どうぞこうぞ皇華帝国一色なんて言う事態は避けられているとか。

 

 

燃え残りが無いかの確認をしながら撤収準備をしているとランスターに石が飛んで来た。そっちを見れば、ここで働いていたであろう現地民が居た。そして、何かを叫んでるがここの言葉がわからないのでただ喧しいだけだ。まあ、大体は分かるが。

 

「まともに政府とかも機能してないから、働き口らしい働き口も無い。だからこんなとこでも働くし、女子供だって売る、と………世紀末世紀末」

 

呟きながらトレーラーまで戻る。相変わらず外はやかましいが、俺の知った事じゃない。連中のアフターケアは皇華帝国の仕事なんだからな。

 

ハンガーにしっかりと機体が固定されてるのを確認してから電源を落としてコックピットから出る。

 

「全く、そのうち銃でも持って来そうな勢いだな」

 

「連中からしたらそうしたいんじゃないすかね。今しや人間は金が無きゃ生きていけないんだから」

 

話しながら旦那からミネラルウォーターのボトルとビスケットのような携帯食料を受け取ってそれを齧る。いつも食ってる缶詰もそうだが、この世界の野戦食は意外と美味いのが多い。いや、単に旦那がそこそこ美味いのをくれてるだけかもしれんが。

 

そのままトレーラーに揺られて次のクソッタレなお花畑に向かう。

色んなもんがほぼ無価値同然になってもあんなもんだけは値崩れしないと言うか高級品なんだから全くもって世界ってのはクソだ。

 

「カズキ。不確定な情報だが、武装している可能性がある畑もあるそうだ。言われなくとも分かり切っているが、仕事の話を持ってくる時点で言って欲しいものだな」

 

「渋られると思ったんだろ」

 

「ふん、見くびられたものだ」

 

「実際にドンパチすんの俺なんだけどな」

 

機嫌の悪そうな旦那にそう答えながらランスターに乗り込んで起動させる。火炎放射器と消化器は必須だから仕方ないとは言え、バックパックの2つだけが対バトルフレーム用の武装だ。

 

ヘルファイアが外してあるから炸裂杭が無いのが痛い。尤もマフィアに用意出来るのは精々がドーラスくらいでかつ1機か2機が精々だろうしなんとかなるだろう。

 

「それじゃあ、さっさと次も終わらせますか」

 

トレーラーからランスターを出して畑があると言う場所に向けて、木やらなんやらを踏み倒しながら進んで行くと、警告にあった通りの鉛玉のお出迎えだ。ガン!ギン!と装甲を叩く音がやかましいが、銃座として固定して使う程度には大口径とは言え、あくまでも対人用の機関銃くらいじゃ豆鉄砲も良いとこだ。

 

バックパックの機関砲を撃って銃座を黙らせて前に進み目当ての花畑を焼き払いながら、奥の方から走って来る武装車両を機関砲で薙ぎ払い、炭になった片端から消火剤をばら撒く。

 

そんな感じで現地民達の非難怒号を聞きながらお花畑を焼いて回ったり武装車両吹っ飛ばしたりだなんだとしながらあっちへこっちへと行ったり来たりしていると、

 

 

 

「お願い、します………村を、私達を助けて、ください」

 

いかにも現地民の子って感じの女の子がやって来た。

 

「金はあるのか?」

 

「ありません………か、代わりにわ、私を好きにしてください………」

 

「話にもならんな」

 

まあ、当然取り付く島も無いわな。それなりに可愛らしい子ではあるが旦那別にロリコンでもなんでもないしな。

 

「お、お願いします!こ、このままじゃ、村の、皆が!」

 

「そうか。それは残念だったな」

 

そう言って旦那が女の子を引っ張り出そうとした瞬間、トレーラーが揺れた。地震でもなんでも無く砲弾だのが着弾した際に発生する衝撃波由来のものだ。

 

「黙らせて来いカズキ」

 

「ま、待ってください!今のランスターの装備ではバトルフレームとの戦闘は無茶です!」

 

「グレネードあるしどうとでもなるよ。両腕のも目隠しくらいには使えるし」

 

慌てて言い募るミリアにそう言ってランスターに乗り込んで起動させてトレーラーから出る。案の定外にはバトルフレームが2機居た。特別なオプションも何も無いプレーンなドーラスで、手入れもテキトーと言った感じのいかにもゴロツキが乗ってそうな感じだ。

 

『見ろよバトルフレームが出て来たぜ?』

 

『しかもランスターじゃねえか。こりゃ見逃す手はねえな!』

 

『ちげえねぇや!おい、ガキが1人来てんだろ?そいつとそのバトルフレーム置いてくなら見逃してやる』

 

頭数が多いからって気が大きくなってるらしい。コレは黙ってる訳には行かない。この商売舐められるのは御法度だからな。

 

余裕ぶっこいてノーガードで突っ立っているドーラスの片方にグレネードランチャーを2発ぶち込む。きちんと万全の整備をしているドーラスならともかく、見るからに装甲のへたっている目の前のゴロツキ共の機体程度じゃ耐えられるはずもなく左に居た方が鉄くずに変わり、それに呆気に取られている方に突進して蹴りを入れて転がしたとこに機関砲をぶち込んで仕留める。

 

「いくらなんでもアホ過ぎんだろ………おっと、消火消火」

 

グレネードランチャーで吹っ飛ばした時の爆炎が燃え広がらないようにドーラスの残骸に消火器をぶっかける。

 

「終わったよ旦那。見掛け倒しの雑魚だったわ」

 

『そうか』

 

「で、どうすんの?」

 

『どうするも何も村に居るとか言う賊どもを蹴散らすしかないだろう。この手の連中は放っておくとお礼参りしに来るからな。それなら今やっても大して変わらん』

 

「潰してくのな了解。んじゃ一回戻るわ」

 

相手がさっきの奴らみたいにアホ揃いだったとしても流石に今のままで突っ込むのは無謀と言うかダイナミック自殺なので火炎放射器と消火器をヘルファイアに換装して再度出る。

 

「こっちで良いのか?」

 

「う、うん。このまま真っ直ぐ」

 

地図を見せてもどのあたりかとかはわからないそうで、普通に道案内してもらうために女の子をシートの後ろの隙間にすっぽりと収まるような感じで、半ば無理矢理乗せている。

 

そのまま女の子の道案内に従って進んで行くと枯草の屋根に粘土を塗り固めた壁で作られた家が立ち並ぶ村が見えて来た。

 

「道案内ご苦労さん。それじゃ出てくる時に言った通り降りてくれ」

 

ランスターを屈ませてコックピットハッチを開けて女の子を降ろし、全武装のロックを解除して、そのままカメラの望遠機能で村を見る。

 

「ドーラスが3機に竜胆が1機、と」

 

ここからも見える広場にゴロツキ共のバトルフレームが駐機してある。

見たところ起動している様子は無い。と来ればやる事は一つだ。身を屈めた姿勢のままバックパックのグレネードランチャーの照準モードを切り替える。中近距離用の直接照準から長距離用の観測照準にして操縦桿を押して引いてと調整をして、撃つ。

 

「ビンゴ」

 

撃ち上げたグレネード弾がぴくりとも動かないバトルフレーム達に吸い込まれるように降り注いで吹っ飛ばした。村の方にも多少の被害が出てるがまぁそれは仕方ない。あくまでもゴロツキ共を吹っ飛ばすのが俺の仕事だからな。

 

ランスターを立ち上がらせて村に向けて移動させると、今さっき吹っ飛ばしたバトルフレームの持主達らしき男達が居た。リーダーらしき男がランスターを見て慌てて何か指示を出しているが、待つ理由は無いのでヘルファイアを向けて吹っ飛ばす。

 

「ま、後はお好きに」

 

万一生き残りが居たとしても、流石にバトルフレーム無しでふっかけてくる馬鹿は居ないだろうし、バトルフレームって言う脅威が無いなら村人が大人しくしてる理由も無いんだからな。



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26話

途中寄り道をしたりしながらもお花畑を焼いて回る仕事を終えた。

一応は貸与品である火炎放射器と消火器をこの辺の治安維持に派遣されている皇華帝国軍に返して次の仕事のために南下する。

 

「そいや旦那」

 

「なんだ」

 

「あの子置いて来たけど良かったのか?」

 

「あんな骨と皮だけの子どもを連れ歩いてどうする。まだ当分アブレヒトには戻れん以上は売りにも出せん。そうなれば無駄な食い扶持が増えるだけだ。それなら放り出してしまった方が楽だ」

 

「こっちで売るって気は無いのな」

 

「あの見てくれじゃあ好事家にしか売れんし、どうせなら高値で売りたいからな。ここじゃあ端金くらいにしかならん。それで何が言いたいんだお前は」

 

「いんや別に?タダ働きした後だからちょっと気になっただけだよ」

 

なんか前にイリヤが旦那が甘いって言ってた理由がわかったような気がする。それに笑いそうなのを隠すのにミネラルウォーターを飲もうとボトルのキャップを開けた瞬間、激しい揺れと共に世界がひっくり返る。

 

こりゃ死んだかな?

 

呑気にそんな事を思っている間に全身がコンテナの壁に叩きつけられ、中にあった色んなものが降って来た。

 

ライトが切れて薄暗い中で目が覚めた。全身あちこちと痛いがまだ生きてるらしい。無駄に悪運の良い事だ。本当にもしかしたら神様がなんかも目的で生かしてるのかもな。

 

「って、アホな事考えてる場合じゃないな………」

 

覆い被さっているダンボールやらを押し除けて這い出すと、それはもうコンテナの中はシェイクした弁当箱の中じみた惨状になっていた。ランスターがしっかりとハンガーに固定されたままなのはマジで運が良い。

 

「カズキ、大丈夫なんですか⁈」

 

ミリアがそう言いながらランスターのコックピットから出て来た。たまたま調整のために入ってたから助かったようだ。

 

「俺はなんとかな。けど、どっかに旦那埋まってるから掘り起こすの手伝ってくれ」

 

「なんでこんな事に………」

 

「思ってる以上に俺と旦那は敵が多いって事だよ。ほら、手動かせ」

 

足下の工具箱やらなんやらを放り退けて掘ると、頭から血を流して気を失っている旦那を見つけた。

 

「父さんしっかりしてください!目を覚まして!」

 

旦那を引っ張り出してミリアに介抱を任せて、足下に散らばるものの中から治療に使えそうなものを探す。

 

「あークッソ、暗いから何がなんだか分かりにくいったらないな」

 

愚痴りながら掘り出したガムテープとなんかの布を持って戻る。

 

「起きてよお父さん⁈聞こえないの⁈」

 

「止血くらいはなんとか出来そうなの持って来たからちょっと代われ」

 

泣きそうな顔で旦那に呼びかけているミリアの代わりに持って来た布を破って頭と何かで切ったらしい右腕にキツく巻き付けてガムテープでガチガチに巻いて固定する。

 

「起きて、起きてよぉ………!」

 

「とりあえず落ち着けって、このくらいで死ぬタマかよ旦那が」

 

「………うるさい、ぞ………」

 

「お父さん!」

 

「旦那。見ての通りだけどどうする?逃げるってんなら、ランスターで逃げるけど?」

 

「傭兵が、良いようにやられて、黙っている訳が無い、だろう………ぅぐ………」

 

「無理に喋っちゃダメです!逃げましょうカズキ!」

 

ミリアがそう言い募るが、まぁ、俺がどうするかは決まってるか。旦那は殴り返せと言った。それに、逃げるとは言ったが逃げ切れる保証も無い訳で。

 

「ミリア。旦那頼むわ」

 

「カズキ⁈」

 

「悪いけど、俺は旦那の所有物だからな」

 

ミリアにそう言って、トレーラーが横転してるから上にある形になるランスターの腕にジャンプして這い上がりコックピットに乗り込んでメンテナンスモードから諸々の確認をすっ飛ばして戦闘システムを起動させて、右腕を突き上げてコンテナのハッチに炸裂杭を打ち込んで、そのまま押し開けて、ハンガーの固定ボルトを緊急パージしてトレーラーの外に出る。

 

手早く周囲を確認すると爆弾かなんかで走っていた道から逸れた林の中に俺達のトレーラーは横転していて、いかにも特殊部隊と言った感じの歩兵に取り囲まれていた。

 

「自由資本同盟、ね」

 

歩兵の持つ銃から大まかに判断するのと同時に逃げようとする歩兵の背中に向けて機関砲をぶっ放す。ミンチより酷い有様になるが、情け容赦をかける必要は無い。

 

逃げながら無線機に向かって吠えている奴が居る。そいつに機関砲の照準を向けた瞬間、林の中から森林迷彩のコルベットが突進して来て銃剣を着剣したカービンライフルを叩き付けて来た。

 

それをヘルファイアの盾で防いで押し返す。たたらを踏んでコルベットが大きく仰け反った。いつもの感覚でそこから踏み込んで右腕を振りかぶる。そこへコルベットが仰け反った姿勢のままカービンライフルを撃って来るが、構いやしない。そのまま右腕を叩き込んで炸裂杭を打ち込む。

 

「ちぃ!ただじゃ死なねえってか!」

 

炸裂杭を抜いて腹に風穴の空いたコルベットを転がそうとしたらそのコルベットが盛大に爆発した。至近距離での爆発にコックピット内にアラートが鳴り響くが無視して、フットペダルを踏み込んでランスターをそこから跳び退かせる。その際にランスターの肩を林の中から飛んで来た鉛玉が削る。

 

すぐさま林の中にランスターを退避させる。敵がどこに居るのかは分からないが、開けた所で一方的に撃たれるよりはマシだ。それに特殊部隊だってんならこっちがこうやって逃げるくらい分かってるだろうし、そのように動くだろう。

 

林に飛び込んだ瞬間、ランスターの肩を削ったものに比べれば大した事は無いが鉛玉の雨が襲い掛かって来る。分かり切ってるから驚きはしないが随分と手慣れた動きだ。

 

「鬱陶しい!」

 

グレネードランチャーを射撃が飛んでくる方に当てずっぽうだが弾道がバラけるように装填されている分を全部ぶっ放して黙らせて、もう片方へ向けてランスターを突進させる。

 

いかに迷彩塗装を施した所で、ギリースーツの歩兵ならともかく全長10メートルの巨体は酷く目立つ。草木を薙ぎ倒しながら見えて来た機影に向けてヘルファイアと機関砲をぶっ放す。ジャンプして鉛玉を回避しながらコルベットが手榴弾のような物を投げ、それが目の前で爆発する。俺もそうだがお互いに森が燃えようが知った事じゃない。

 

燃え広がる爆炎の中にランスターを突っ込ませて高音異常のアラートを無視してそのまま突っ切りコルベットに肉薄して右腕を突き出すが、そこへ横槍が飛んで来てランスターの右腕の肘から先を盾ごともぎ取って行く。が、それに構わず左腕を叩き込んで炸裂杭を打ち込み、そのまま左腕をフルスイングして杭を引き抜きながらコルベットを投げる。さっきのように盛大に吹っ飛ぶ音を聞きながら、狙撃が飛んで来た方へと向かう。

 

「なるほどレールガン」

 

イリヤが要塞の時に装備していたのと同じレールガンを装備したコルベットがそこに居た。接近して来る俺に気付くと躊躇なくレールガンとジェネレーターをパージしてカービンライフルを拾い上げてそれを撃ちながら距離を取ろうとするが逃す訳が無いだろ。そのまま距離を詰めて炸裂杭をぶち込んで吹っ飛ぶ前に放り投げて周囲を警戒するが鉛玉が飛んで来る様子は無い。

 

まだ戦闘は継続は可能だが一旦横転したトレーラーの所まで戻るとミリアがトレーラーの運転手の介抱をしていた。どうやらまだ生きてるらしい。運の良い運転手だ。

 

残った左腕でコックピットをカバーするようにしてランスターを屈ませて降りる。

 

「歩兵は来なかったみたいだな」

 

「ですけど、父さんもこの人もかなり危ない状態です。少しでも早く助けを呼ばないと危険です」

 

多少時間が空いたのととりあえず旦那が生きてるってので少しは冷静さをミリアも取り戻したみたいだ。

 

「連絡用の通信機積んでただろ。盛大に吹っ飛ばしてくれやがったから壊れてるだろうが、なんとか動かして皇華帝国の部隊に連絡を入れてみてくれないか?」

 

「皇華帝国のですか?」

 

「ああ。自由資本同盟の方に入れたら下手したらおかわりが来る」

 

「攻撃して来たのは自由資本同盟なんですか?」

 

「間違いなくな。何せ特務仕様の自爆装置付きのコルベットとついさっきまでド突き合ってたからな。言ったろ?俺と旦那は思ってる以上に敵が多いってな。とりあえずなんでも良いから連絡を取れ。分かったな」

 

ミリアに言うだけそう言って、俺はランスターの中に戻って再度の襲撃に備える。歩兵はともかくバトルフレームなら多少の被弾くらいじゃ下がる理由にはならないし、特殊部隊ともなればこのまま引き下がるなんて事はありえない。間違いなく攻撃して来る。

 

案の定来やがった。燃える炎やらを巧みに利用しながら駆動音らしい駆動音も立てずに忍び寄って来たコルベットを迎撃する。トレーラーに流れ弾が行かないようにランスターを盾にするようにして突っ込ませる。

 

被害を抑えるためにぶん投げたりしてるとは言え、近距離での爆発のダメージはシャレにならない。盾はもちろんランスターの装甲にもダメージがそれなりに来ている。追加の装甲はもうほぼダメだ。

 

「これ誰が直すと思ってんだよチクショウ!」

 

目の前のコルベットに文句を言いながら、半ばデッドウェイトになっている追加装甲とグレネードランチャーをパージしつつ盾を叩き付けるようにタックルを仕掛けるが、突き出した盾をジャンプ台のようにしながらコルベットがバックジャンプしながらおまけとばかりに鉛玉を撃ち込んで来る。そろそろ盾もヤバいな。

 

距離を空けたコルベットに向けて機関砲を撃ってトレーラーから引き離す。機関砲も弾切れだ。こっちも躊躇なくパージを実行し、更に身軽になったランスターを突っ込ませる。迎撃にコルベットがカービンライフルを撃って来るが、不自然なタイミングで途切れる。弾詰まり起こしたか弾が尽きたかどっちでも良いが、こっちとしては願ったりだ。

 

コルベットが銃身下のレール部に取り付けた銃剣を取って重りにしかならないカービンライフルを捨てて前に出て来る。

 

ランスターよりも身軽で腕の振りも速いコルベットの攻撃が先に飛んで来るがそれを盾で受け流すようにして防ぎ、すぐさま左腕を引いて炸裂杭を打ち込もうとするが、銃剣を弾かれた姿勢からコルベットが蹴りを繰り出して来て狙いがブレて打ち出した杭はコルベットの胴装甲の一部を削るだけだ。

 

杭を戻しながら互いに息を合わせたように一旦距離を取る。至近距離すぎて互いに攻撃が出来ないから当然と言えばそうだがコルベットの方には自爆もある。とは言え、好き好んでダイナミック自殺はしたくないだろう。

 

そして、仕切り直した俺達はまた一歩踏み込んで、俺は炸裂杭をあっちは銃剣をそれぞれのコックピットにぶち込むために殴り合う。

 

コルベットが左手のマニピュレーターが壊れるのも厭わずに叩き付けて来てランスターが仰け反り、そこへ銃剣を突き立てて来る。それを仰け反った勢いのまま足を振り上げて蹴り上げるようにしながら追加の脚部のブースターがオーバーロードするのを構わずに全力噴射して無理矢理ランスターをバク転させて凌ぐ。無茶の代償にブースターが死んだが、命の代わりになったと思えば安い。

 

流石に今の蹴りは想定外だったようで対処しきれなかったコルベットが大きく姿勢を崩している。やるなら今しかない。ブースター全開で距離を詰めて左腕をコルベットの腹にぶち込んで炸裂杭を打ち込んでヘルファイアをパージ。突進の勢いのまま突き飛ばされたコルベットが吹っ飛んだ。

 

「流石にもう居ないよな?」

 

サブモニターに表示された全武装喪失の文字を見て冷や汗をかきながら周囲を警戒するがどこからも鉛玉が飛んで来る様子もない。ただただ林が燃えているだけだ。てか、これ森林火災起きないよな?

 

うん、自由資本同盟が吹っかけて来たせいだ。俺は悪くない。うん。




あれ?なんか旦那さん生き延びたぞ?


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27話

救援要請を受けてやって来た皇華帝国軍の部隊に拾われてドナドナされてやって来た町で早くも1週間が過ぎた。

 

ランスターも「周囲に不用意な刺激を与えないように」と治安維持の名目で没収された俺は見事な役立たずである。仕方ないな。バトルフレームでドンパチするしか俺には出来ないし。

 

精々が未だに集中治療室から出て来られないトレーラーの運転手の様子を見る事くらいだ。旦那はせっせと毎日タブレット端末とにらめっこしつつ損失したランスターの装備を集めるのに勤しんでいて、ミリアは持ってかれはしたものの整備の許可は貰えたランスターの整備をしつつ旦那の世話を焼いている。

 

 

「あー生きてるって素晴らしい」

 

「そりゃ何よりで」

 

パイプ椅子に座りながら運転手との雑談に興じる。意外と元気そうではあるがまだ昨日目を覚ましたばかりの病み上がりだ。

 

「雇い主に命狙われるってあんたら何やったんだ?」

 

「バトルフレーム山程ゴミにして数え切れんくらい兵隊ぶち転がして、それからアフリカに送られるはずだった食い物とか水とか燃料とかを海の藻屑にしたりとまぁ色々?」

 

「そいつはまた。てか、なんで自由資本同盟はあんたら雇ったんだか。おかげで死にそうな目にあったわ」

 

「そこに関しては割と真面目にごめん」

 

「俺、これからどうなるんだろうなぁ」

 

「生きてるってバレたら消しに来るかもな」

 

「やめてくれよ、縁起でもねぇ」

 

旦那から聞いた話だと普通に有り得そうなんだよな。流石にここに居るうちは安全だろうが。

 

「にしても、思ってた以上に皇華帝国って面倒見が良いんだな。てっきり敵国の人間の治療とか出来るかって言われると思ってたんだ。それに自由資本同盟の病院だったら下手したらもうICUからは放り出されてるぜ?」

 

「瀕死の重症で起きたばっかで?」

 

「ああ。何せ金を持ったもん勝ちだからな。金の無い奴は生きる価値無しとまでは言わねえけど、それこそ最低限の医療が受けれるってくらいでちゃんと面倒見てもらえるかは金次第って話さ」

 

「流石資本主義」

 

「お金様どうぞ私をお救いください。なんてな」

 

意外と元気だなこいつ。流石あの状態から生き延びただけはある。まあ起き上がるほどの元気は無いっぽいが。

 

「んじゃ、そろそろ時間だし行くわ。一応旦那にもあんたのことどうにかならないか聞いてみるよ」

 

「おいおい、傭兵オーナーだろ?」

 

「安心しろ。うちの旦那はかなり異色ってか甘い人だから」

 

「全然、信用できねぇ………」

 

そこで会話を終わらせて、パイプ椅子を片付けつつさっきから凄い目でこっちを睨んで無言の威圧をかけて来る看護官の人に頭を下げて外に出る。

 

間借りしている場所とは言え、一応は拠点だから防弾装備にライフルをぶら下げた歩哨があちこちに居る中を歩いて俺達に貸し与えられたプレハブ小屋に監視兼護衛の完全装備の兵士に軽く挨拶をして入る。

 

リビングに簡易キッチン。それから寝室とシャワーがあるだけのいかにもプレハブだが生活するには十分過ぎる。まあ、強いて問題があるとすれば女のミリアも一緒の寝室で寝泊まりさせられてる事だが、そこに関しては俺がなんかしようもんなら翌朝フレッシュな肉塊になるだけの話なので実質問題は無い。

 

「戻ったか。様子はどうだった?」

 

「まだ身動きは無理だけど元気そうだったよ。ただ、ここ出た後の事は気にしてた」

 

「当然だな」

 

「旦那。どうにかなんねぇ?俺達のやった事の巻き添えだぜあいつ」

 

「ふむ。これも良い機会か」

 

「良い機会って何が?」

 

「そろそろ俺も腰を据えるべきかとは考えていた。事実、ここに来て危うく死ぬところだったからな」

 

「死ぬのは俺達使いっ走りだけって話だ」

 

「無論使い捨てる気は無いがな。お前達にかかる費用分程度は回収しなければ商売上がったりだ」

 

「へーへー。精々大事に使って貰えるようにこれからも頑張りますよ」

 

軽く返事をしながら冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出してキャップを開けて飲む。

 

「ところでランスターの装備はどんな感じで?」

 

「難しいところだな。この辺りで手に入りそうな物と言えば大半がジャンクで良い物でも乱造の露悪品ばかりと来ている。一応は皇華帝国軍の方にも売って貰えないか聞いてはいるが、ここの司令官は生真面目らしくてな、本部隊の将軍に掛け合ってからだそうだ」

 

「まぁ、軍の備品だしな。しかもライフルとか一山いくらの歩兵の装備程度ならともかくバトルフレームだし」

 

「そう言う事だ。カークスからは精々バカンスを楽しめと言われたさ」

 

「なんとも素敵なリゾートな事で」

 

そんな感じで適度にだらけつつやる事もないので軽く筋トレをしつつ時間を潰している間にミリアが帰って来た。ちなみにこの基地の連中から人気を集めてるようで、手の早い連中から飲みの誘いを受けている。

 

脳みそ筋肉な兵隊ばっかりとは言え、あからさま過ぎる。で、当然ながら俺も弾除けに連れて行かれた。お呼びじゃねえオーラ凄かったけど、こっちも仕事なんでな。

 

「流石にランスターの完全メンテナンスは厳しいですね。ある程度は皇華帝国で使われている部品でも代用が効くんですけど、関節部はどうしても規格が別物ですから手が入れられません。いっそのこと手脚を甲武あたりの物に無理矢理取り替えた方が楽です」

 

「竜胆はダメなのか?コックピット使ってるけども」

 

「腕部はともかく脚部は竜胆の物では武装の積載に大きな影響が出ますね。具体的には右腕にライフルを装備してバックパックの片方に軽量の爆発物を詰むのが精々ですね。当然ですが装甲の追加なども諦めてください」

 

「論外だな」

 

そうばっさりと切り捨てて旦那がタブレット端末をいじってそれをミリアに見せる。それをひとしきり見て大きく顔をしかめて、

 

「なんですかコレは?ランスターの積載上限をどれだけ無視してるんですか。兵装はまだ良いです。ギリギリこれまでの全備重量の許容内でしたから。問題は追加の装甲です。こんなの積める訳がないでしょう⁈」

 

「どうにかしろ」

 

「どうにかしろって無理言わないでください。物理的に無理なんですよこれだけの装備は!」

 

「そうか。なら、カズキが死んだとしてもそれも仕方の無い事だな」

 

あ、旦那俺をダシにしやがった。

思いっきり苦虫を噛み潰したような顔をしてミリアが旦那を睨む。

 

「わかりました!なんとかしてやりますよ!けれど、そもそもランスターが直らない事にはどうしようもないんですからね!そっちはそっちで頼みますよ!」

 

言うだけ言うと先に寝ると言ってミリアが寝室に入って行った。それを見届けると旦那はため息を吐くとまたタブレット端末をいじり始めた。

 

俺は俺で特にやる事も無いので旦那が見るだけ見てテーブルの上に放り出してある新聞を開いてみたが、英語ならともかくこの辺りの現地の言葉で書かれていて何が何やらさっぱりなので閉じてまたテーブルにポイーして旦那の隣に座っているとコンコンと小屋のドアがノックされた。

 

旦那が俺に目配せして来たから立ち上がってドアに近付いてドアノブを握りつつ、

 

「何の用だ?」

 

「夜分遅くに失礼する。司令からそちらの要望に対する返答があった」

 

旦那な方を振り返ると旦那が首を縦に振ったのでドアを開けて中に招き入れる。

 

「改めて夜分遅くに失礼するが、なるべく返事は早い方が良いだろうと言う司令の言葉により参上した」

 

「前置きは良い。それで?」

 

「こちらから依頼する仕事の対価として供与するとの事だ。機体もこちらで代替品を用意しよう」

 

「わかった引き受けよう。カズキ、仕事の時間だ」

 

「了解どこにでも行きますとも」

 

バカンスの時間は思ったよりも短かったようだが、まぁ良い。どうせバトルフレームに乗るしか俺には能が無いんだしな。暇して腕鈍らせなくて済んだと思おう。




ルビコンで星焼いたり銀河にコーラルばらまいたりしてました。
言い訳はしない。アーマードコアが楽しかったんだ………はい、許されないね。だが、私は謝らない。

え?最近ドンパチパートも短いって?はい、そっちに関してはマジですまん。


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28話

見慣れた竜胆のソレとはレイアウトの異なるコックピットに乗り込んで操縦桿とフットペダルの位置を確認する。

 

今回貸与された竜胆はどうも近代化改修を施したタイプの機体でコックピット内部も甲武を踏襲した仕様になった、いわゆる竜胆改と言うべき代物らしい。

 

前はコンソールパネルにあったボタンがアームレスト部分に移されていて手早く操作出来るようになっていて、メインモニターもサイズアップしている。総じてより扱い易そうな感じだ。流石正規採用量産機はモノが違うわ。

 

「珍しく楽しそうですね」

 

「そりゃね。見慣れない新しいのってなったら少しは嬉しいよ。まあ、動かす上じゃ面倒臭ぇのは確かだけども」

 

朝起きて仕事の話してからずっとご機嫌斜めな仏頂面のミリアにそう答えながら調整用のケーブルを受け取って繋ぐ。

 

「全く、朝起きたら仕事が入ったから借り受けた機体の調整をしろとか勘弁して欲しいですよ」

 

「いや、それは不貞寝し「何か?」いいえなんでもないです。はい」

 

操縦桿とフットペダルの重さと感度の調整をしてケーブルを抜いてミリアに返す。

 

「言わなくてもわかっているとは思いますけど、あくまでも動かし易いように調整しただけですから、色々と制限がある事は理解しておいてください。まず、あなたの入力に対して実際の挙動は遅いです。主に武装のせいですが。それから右手の重機関砲は本来の射程に対して3分の2から半分程度が精度の保証が出来る限界です」

 

「そんなに精度悪いんだ?」

 

「単純な話として、この重機関砲はそもそもが両手で保持して使う武装だからですよ。片腕では反動を制御し切れません。あなたが前に乗っていた機体は各部の出力強化や追加装甲の重量で無理矢理反動を押さえ込んでいましたが、近代化改修しているとは言っても素の竜胆の出力では無理ですので諦めてください。貸与品に物理的に手を加える事は出来ませんし」

 

「それはしゃーないか。どうにかするわ」

 

そう返事をしながら右のアームレストのボタンを叩いて武装を確認する。サブモニターの右腕部に煌々と安定重量超過のアイコンが踊っている。重量的にはどっこいレベルのはずの左腕には付いていないのはなんでだ。

 

「炸裂杭は良いのなコレ」

 

「そっちはゼロ距離で使う物ですからね。当てられさえすれば精度も何も関係ありませんから」

 

「それじゃ行って来るわ。旦那の世話は頼んだ」

 

言って、コックピットのハッチを閉じるとキャットウォークが外され、機体をハンガーに固定するロックが解除される。そのまま竜胆を歩かせて格納庫の外に出て誘導に従って移動する。

 

そのまましばらく待っていると下部にそのままハンガーでバトルフレームをぶら下げて運ぶタイプのぶっちゃけ旧式の輸送機がやって来た。皇華帝国軍の所属を示すマークが側面部に描かれているからちゃんと正規の部隊のもんではあるらしいそれは既に3機の竜胆を腹にぶら下げていて、残ったスペースに俺の乗ってるコイツをぶら下げるつもりらしい。

 

「おーなかなか良い腕のパイロットじゃん」

 

割とキッツキツなハンガースペースに擦らせる事もなく綺麗に降下して来て俺を積むとふわりとこれまた熟練を思わせる揺れの少なさで飛び上がった。

 

 

『これで全員だな?傭兵とオマケのヒヨッコ共』

 

『おい!オマケは俺たちじゃなくて傭兵野郎の方だろ!』

 

輸送機のパイロットに比べるとかなり若い声が通信の向こうから聞こえて来る。まぁ、この世界じゃ多くの国が15から18あたりで成人迎えるっぽいから変ではないんだが。

 

『お前さん1機でも自力で仕留めてんのかい?』

 

『この間の要塞落とす時に2機やってるっつーの!』

 

『そいつは結構、少しは使えるヒヨッコって訳だ』

 

『はいはいそこまでな。あまり煽るような事を言うのはやめて貰いたい』

 

『すまんなぁ。イキの良い若造を見るとついやっちまうんだ』

 

あれぇ?俺は一体いつ遠足のバスに乗り込んだんだ?

これからドンパチしに行くって言うのに空気がゆる過ぎる。なんかいびきみたいなのまで聞こえてくるんだが?

 

緊張ガチガチなのはダメだがゆる過ぎるのもダメだ。今日、大丈夫か?めちゃくちゃ不安になって来るんだが。

 

『さて、それじゃあ着くまでの間におさらいの時間と行こうかね。なぁに難しい事なんて何も無い。傭兵崩れとお友達のゴロツキどもを掃除するだけの簡単な仕事さ』

 

「目標の大まかな数くらいはわかるか?」

 

『正確なところは不明だが、この辺で手に入る粗悪品のドーラスがざっと10機に傭兵崩れが持ち込んだ竜胆が2機とランスターが1機ってとこだな。ああ、それから連中どうも街をひとつ占拠してるそうだ。お山の大将が一丁前に一国一城の主気取りと来たもんだ』

 

「確実にロケットとか街中に対機甲戦力用のトラップあるじゃんそれ」

 

『なんだビビってんのか?傭兵野郎』

 

「ビビるとかそう言う話じゃなくて当然の話なんだが?」

 

『ハッ!奴らが何仕掛けてようが怖くねぇよ』

 

うーん、思いっ切り天狗の鼻伸びてるなコイツ。まぁ、それで汚ねえ鉄くずの仲間入りしようが自業自得か。全員連れて戻れとかも言われてないしその時はその時だ。

 

『そうそう傭兵。閣下からお前さんに一言だ。仕事の達成内容次第で色々と便宜を計ってやるのもやぶさかではない、だそうだ。お前さんのオーナーからもサボるなだと』

 

「へーへー了解了解。精一杯頑張らせていただきますよ」

 

はい。要するにこの半分遠足気分漂ってる連中も全員連れて帰れと言う事ですねわかります。チクショウ!あーもうどうにでもなりやがれ!

 

そのまま時折絡んで来るバカを適当にあしらいながら目標の街の近くまでのんびりと空の旅を楽しんでいると、

 

『ミサイルアラートだと⁈クソッ!ちょっとばかし揺れるが舌ぁ噛むなよ積荷ども!』

 

その言葉と共に輸送機がガクンと墜落もかくやな勢いで地上付近まで降下しながらフレアをばら撒く。ロックを撹乱されたミサイルが輸送機の上ギリギリを通り過ぎて地面に着弾して爆発を起こす。

 

『悪いが、どうやら送ってやれるのはここまでらしい。すり抜けながら落とすが着地トチるなよ!』

 

『了解した。総員降下体勢!』

 

『なんで山賊同然の奴らがミサイルなんぞ持ってんだよ⁈』

 

『空中降下とか苦手なんだけど⁈』

 

「文句言う余裕あるなら操縦桿とペダルに意識向けろよ、新兵ども。そんじゃ良い適当なタイミングで頼むぜ運び屋さん」

 

喚いてるバカどもに言いながら降下前の最終確認を手早く済ませつつ戦闘システムを起動させる。その作業が終わるのと同時くらいのタイミングで追撃のミサイルを振り切った輸送機がハンガーのロックを解除。竜胆が空中に放り出される。竜胆のバックパックの右側に装備されたグレネードランチャーの七八式擲弾砲を選択して盾を構えてライフルを向けているお出迎えのドーラスに向けてぶっ放す。

 

正規仕様の機体なだけあって搭載されてる射撃システムも優秀で多少のズレはあるがおおよそ狙い通りの位置にグレネード弾が飛んで行きドーラスの出足を挫く。

 

フットペダルを踏み込んでブースターで落下の勢いを落としながら着地と同時に竜胆を突っ込ませる。ドーラスが迎撃に撃ってくるが、それは左腕に装備した炸裂杭の装甲で防ぐ。やっぱり重たいが盾としても使えるからコイツは便利だ。

 

そんな事を思いながら牽制とばかりに重機関砲をぶっ放して2機のドーラスの片方を蜂の巣にする。ちゃんとした機体の装甲なら少しは耐えられただろうが装甲他の質の悪い粗悪品じゃ耐えられるはずも無い。そのまま相方がやらせて怯んでいる方の土手っ腹に殴るように左腕の炸裂杭を叩き込む。

 

「よーし、それじゃあ仕事の時間ですよ、と」

 

一言呟いて、お代わりのドーラスに向けて重機関砲をぶっ放す。後ろの奴らは知らん。たぶん変に気にするより俺が突っ込んだ方が安全だろうし。




あれ?ちょぼちょぼ書いてたはずなのに年明けて2月だって?
一体何が起きたんだ………(責任放棄)


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キャラ名簿(あと多少の説明)

名前:カズキ・クジョウ

性別:男

年齢:23

出身:日本(作中では日ノ元皇国ということにしている)

 

主人公にして、傭兵のバトルフレーム乗り。

高校卒業後、親戚の経営する機械工場で働いていたある日、目を覚ますとそこは見知らぬ世界だった。

 

なぜ、この世界に居るのか分かっていないが、ゴロツキに絡まれて放り出されたところをヨルドに拾われ、以来彼の下で傭兵として働いている。

 

搭乗機体

AT-098竜胆ヨルドカスタム

皇華帝国の前主力機体であった竜胆に改造を施した重装甲重武装を地で行く機体で、並のバトルフレームどころか艦船ですら撃破可能。ただし重量による機体挙動の制限は大きく、ブースターは移動補助程度にしか使えない。が、そもそも回避する必要が無いほどの火力を有している。

 

追加装甲内部には特殊なスモークが仕込まれていて、視界を制限するだけでなくレーダーや通信機器などの電子機器を封じる。ただし、それはこの機体も含まれるため、単騎で複数の敵に囲まれた窮地における緊急装備が本来の使用方法だが、ヨルドは竜胆に隠し武装として対バトルフレーム炸裂杭を追加し、スモークの効果中にコレを使用してとにかく対象に被害を与えるようにしている。

 

MT-04ランスター

自由資本同盟が開発運用を続けるベストセラー機であり、頑健な装甲によるパイロットの生存性の高さに重点が置かれた機体ではあるが、ブースターによる跳躍などのある程度の三次元機動もこなせるほどに運動性能も高い。オプション兵装の種類も豊富なマルチロール機。

 

MT-04ランスターカスタム

ランスターをベースにジャケットアーマーとブースターを追加し、バックパックの右ハードポイントにM4グレネードランチャーと左ハードポイントにガルム速射機関砲、両腕部に複合兵装ヘルファイアを装備させたカスタム機。

 

防御力は竜胆に比べると低下しているが、機体重量が軽い分動き回れるため戦闘能力自体は竜胆より高いが、高い攻撃力はヘルファイアに組み込まれた炸裂杭に依存しており、対バトルフレームに重点が置かれた仕上がりになっている。

 

なお、原型となる機体は傭兵時代にヨルド自身が駆っていたもので、ジャケットアーマーとブースターの追加はそのまま右腕にセミオートライフル、左腕に炸裂杭内蔵型のシールドを、バックパックにはM4グレネードランチャーの前モデルであるボックスマガジンの大容量が特徴的なM3グレネードランチャーを装備していた。

 

 

名前:ヨルド・アフマン

性別:男

年齢:47

出身:自由資本同盟

 

元は腕利きの傭兵であり、カズキを傭兵として雇うオーナー。

自由資本同盟に対して並々ならない執着心を抱いていて、引き受ける襲撃依頼は自由資本同盟を対象にしたものばかりであり、それなりに自由資本同盟からは脅威とされている。

 

搭乗機体

ELS-mk5マザーグース

自由資本同盟が開発したティルトローター式多目的輸送機。戦場での運用が想定された機体であるため、強度の高い装甲と優れた機動性を与えられているだけでなく、機体下部格納ユニット内である程度の運搬する機体の整備なども可能。

 

アフリカでの運用に際して、コンテナ部分を丸々空中管制用ユニットに交換ているため一時的にバトルフレームの運搬機能を失っている。

 

 

名前:アイザック・フローライト

性別:男

年齢:31

出身:自由資本同盟

 

自由資本同盟軍のエースパイロットであり、同盟軍が保有する唯一の第四世代型バトルフレームライトニングファルコンの専任パイロットである。

 

カズキ同様に異なる世界からやって来た者ではあるが、この世界で生を受けている。前世の己の姿に対して極度の忌避感を感じており、こうはなるまいと常に自分を律して生きている。

 

搭乗機体

MT-01/Aライトニングファルコン

自由資本同盟軍が保有する唯一の第四世代型バトルフレームであり、戦闘機にも引けを取らない高速での中長距離からの射撃戦により相手によっては一方的敵を殲滅することすら可能ではあるが、パイロットであるアイザックは中近距離での格闘戦も交えた運用を行うので、その高い機動性は専ら回避機動に用いられている。

 

 

名前:ロナルド・オーエン

性別:男

年齢:31

出身:自由資本同盟

 

アイザックと並ぶ自由資本同盟軍のエースパイロットであり、ライトニングファルコンの戦闘機動に追従するほどの高い技量を持つ。

 

腕は立つが、品行方正とは言い難い男でありアイザックとは真反対とも言えるが互いに親友でライバルと思い合っている。

 

搭乗機体

F-46ワイバーンカスタム

2090年代後半に開発され、それ以来自由資本同盟の空を守り続けている気高き鋼の竜である。機体性能としては推力偏向ノズルを搭載した双発式のジェットエンジンとカナード翼による高い機動性を活かした空中機動戦を得意としている。ロナルドが駆る機体はより機動性が高められているため操作性はピーキーで、エース級の技量があって初めて飛ぶ事が可能になる。

 

 

名前:ミリア・ホークマン

性別:女

年齢:20

出身:アブレヒト

 

ヨルドの一人娘であり、彼の口利きによって弟子入りした工房でバトルフレーム技師として修行をしている。

 

かつて、傭兵時代のヨルドが撃墜され半死半生で帰って来た事により親しい相手が傷つく事に対しての忌避感を抱いている。バトルフレーム技師を目指したのも父親のように傷付いて帰って来る傭兵を減らしたいと思ったから。ヨルドにはそれは甘えだと一蹴されているが、それでも本人は本気でそう願い技術を磨く。

 

 

 

バトルフレーム

全長10メートル前後の人型機動兵器で、人のように様々な武器や道具を操ることによる高い汎用性から登場して以降爆発的な勢いで普及し今では世界中どこでもその姿を見る機甲戦力の代名詞とも言える存在。

 

MT-01ドーラス

自由資本同盟が最初期に量産配備した機体で、標準仕様の機体で3点バーストとフルオートを状況に応じて切り替えて使用出来るアサルトライフルにシールドとナイフを基本として機関砲やグレネードランチャーを装備している。マニピュレータで武装を扱う為、バズーカやロケットランチャーなどの追加武装も用意されている。

 

派生機体として長射程のキャノン砲を備えた砲撃型がある。この機体が装備するキャノン砲は優れたガンナーであれば曲射を用いて最大10数キロ先の目標をピンポイントで狙い撃てるほどの高い精度を誇り、それを活かすために一部の機体ではコックピットが複座型になっているものも存在する。

 

傭兵

なんらかの代価として自身を差し出しバトルフレームなどに乗るか、銃を手に戦場を駆ける者達。戦奴と言い換えても良い。そう言う成り立ちであるため人種年齢性別に関係なく数多く存在している。

 

オーナー

代価と引き換えに傭兵達を使う者達。傭兵との契約の履行は義務であるが、彼らをどう扱うかの裁量はオーナー次第である。文字通り捨て石のように扱う者も居れば、傭兵も個人として扱い生活を保障する者も居る。

 

独立傭兵

自身の身の証を立てた傭兵達であり、腕利きの兵士あるいはバトルフレーム乗りの証左でもある。バトルフレーム乗りであるなら、個人でバトルフレームを所有している。そして大体の者は独自に改造や開発を行ったオリジナルの機体に搭乗している場合が多い。

 

クレジット

アブレヒトは明確な国家ではないため固有の貨幣を持たない。しかしながら、世界中各地から傭兵やそのオーナー達が集まって来る都合上その貨幣の代わりとなるものが必要になったために用意されたものであり、レートは国家によりけり。



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