光無き守護機竜 (春宵)
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少しずつ内容が加筆されていくため、
ネタバレ注意


レヴェオン家の説明

 

代々アイングラム家に仕える暗部と衛士の長をを輩出する家。

当主は二人おり、暗部と衛士の当主を交互に襲名する。

 

 

フューゼ レヴェオン

 

年齢 16歳

性別 男

身長体重 178.6cm 70kg

誕生日 12/24

職業 衛士兼従者(フィルフィ専属)

所持機竜 グレンデル

二つ名 灰の落陽

 

説明

 

レヴェオン家当主の一人で、レヴェオン家衛士隊当主の青年。

12歳頃に祖父からグレンデルとレヴェオン家衛士隊当主の座を受け継いだ。

父は過去最強と称されるレヴェオン家暗部当主、ジャック レヴェオン。

 

生まれ年がフィルフィと同じであったため、

各地を転々としがちなアイングラム家、

その中でも特にフィルフィの幼馴染兼付き人に近い形で育った。

その縁でルクスとも知り合っており、

ルクスにとってはもう一人の幼馴染になる。

ちなみに口癖はJ'ai compris (分かりましたという意味)

開始時点でルクスが黒の英雄だと知っている存在の一人で、

フィルフィの半アビス化を治そうとしている。

(元が付き人に近い為、誘拐の前後で急に体質が変わった時点で、

実験に巻き込まれた可能性が高い事に気づく。)

愛称はレーちゃん(フィルフィ) レーヴェ(ルクス)

 

 

神装機竜 グレンデル

 

 

フューゼの相棒にして、レヴェオン家が代々受け継ぐ神装機竜の一つ。

飛翔型の機竜であり機攻殻剣は灰色。

詠唱符は「(いにしえ)守る闇の底 命喰らいて心を砕け 冥竜は今解き放たれた。」

基本装備は機竜牙剣が一本と狙撃用ライフルが一挺、ナイフが五本。

能力発動体として仕込み籠手(クロー内蔵)二つと機竜息銃(ブレスガン)一挺を持つ。

武器では無いが追加エネルギーパックを搭載している。

 

 

神装

 

命を喰らうもの (ヘルズバイト)

 

クローで切るか触れる事で他者のエネルギーを奪う能力。

触れるかクローで切る事でしか吸収出来ない分、吸収率が高い。

(大体、アヴェスターの1.5倍ほど)

吸収したエネルギーは機竜本体か、追加エネルギーパックに貯蔵される。

また、後述の恐怖の刃と同時にクローに付与は出来ない。

 

 

特殊武装

 

恐怖の牙 (テラーストライク)

 

エネルギーを消費してクローや弾丸の貫通力や威力を高める武装。

上昇量は5倍で、使用時は武装が朱い光を帯びる。

(消費されるエネルギーは追加エネルギーパック、機竜本体の順)

 

 

闇に蠢くもの(ナイトメアアイズ)

 

いわゆるピット器官。

視覚をカットする代わりに、温度を可視化することが出来る。

練度を上げて、直接脳に情報を届けることが出来るようになっているので、

視覚に頼らず情報を得ることを可能にした。

これによって視覚をなんらかの要因で失っても、最低限の行動だけは出来る。

 

 

???

 

禁じ手

 

???



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第1章 闇色の翼
第一話


のんびりしているようで意外と鋭い親友が浴場へ向かって1時間。

本日分の食事は多めが良いという注文が入ったために、

追加の食事の準備を進めていると

学園長であるレリィお嬢様から呼び声がかかった。

 

 

・・・おかしい、レリィお嬢様には他の従者が控えているはず、

フィーちゃん専属の従者である私を呼ぶ必要はないはずだ。

そのようなことを考えつつも学園長室に着いたので、ノックをして

 

「レリィお嬢様、入室してよろしいですか?」

 

「大丈夫よー。」

 

許可も出たので入室してみると、お嬢様は机に肘をつけて待っていた。

 

「それではお嬢様、ご用件をどうぞ。」

 

「呼んだ理由はね、うちの浴場に覗き魔が出たからなの。」

 

「はい・・・警備が足りていなくて申し訳ないです。」

 

「いいのよ。警備を断ったのは生徒達の方だし。」

 

「それでね、その覗き魔は生徒が組み伏せたそうなのだけど、

その覗き魔をを連れてきて欲しいの。

覗き魔相手に女の子を送るわけにも行かないし、

覗き魔を組み伏せられるほど武術の心得がある男って・・・ね。」

 

と、学園長は笑みを浮かべて言ってきた。

 

成る程、覗き魔に個人的にも罰を加えたいから連れて来いという事だろう。

正直に言うなら私もはらわたが煮えくり返っている状態だ。

個人的に話がしたい。

そう考えつつ一言、

  

J'ai compris.(分かりました)

 

とだけ、私は返してその愚か者の元へ向かった。

 

 

しばらく移動して、浴場付近に着いた。

生徒は皆、外で待機しているように見えるが、

生徒が居る状態で入っては覗き魔と同じだ、

生徒が皆出た事を確認する為にノックをした所で、

私は重大な失態に気が付いてしまった。

私は覗き魔の居場所を知らないのだ。

生徒が組み伏せたのだから、何処かの牢の中だとは思うが、

何せ昔の牢だ、脆い部分が無いとも限らない。

出来れば時間をかけたく無いので、生徒に聞いてみる事にする。

 

 

となれば知っていそうな面子のうち、誰に聴くべきか・・・。

フィーちゃんは頼りやすいが説明が要領を得ないし、

騎士団長を代理でしているリーシャ様に聴くのが一番だが・・・。

背に腹は変えられない、処罰覚悟で聞いてみる事にしよう。

 

そう考えて、生徒を落ち着かせているリーシャ様に近づくと、

リーシャ様の方から声をかけてきた。

 

「フューゼ、次からは警備隊を増やしてくれ。

上に覗き魔、あと最近ここらに出現し始めた泥棒猫が居た。

私は組み伏せられたりしてしまったが、

 後で覗き魔はクルルシファーが組み伏せてくれた。

 後は・・・泥棒猫には逃げられた。」

・・・よりによって、被害者はリーシャ様か。

これは首が飛ぶ事を覚悟しなければならない。

そして、何か言いにくいことがあるようだ。

多分、裸を見られたことだろうと考えて、触れないようにした。

「その覗き魔は今何処に? 連行しなければなりません。

終わり次第に現場検証を行うので、現場に人は入れないで下さい。」

 

「覗き魔は第三区画の五番だ。後者については了解した。」

成る程、三の五に覗き魔が捕らえられているらしい。

場所も分かった、ここで話をする理由も無い。

が、ここでリーシャ様の声に焦りがあることに気づいた。

まるで見られたくなかったものを見られたようだ。

罪人が見たのは裸だけではないのかもしれない。

「それでは、また後で。」

私はそう返した後、返答を聞かず立ち去った。

 

浴場を出てしばらく移動し牢屋区画に着いた。

三の五へ向かうなら、いくつかのルートがあるが、

その一つとして左側の廊下に地下墓地へのルートがある。

あの道なら三の二辺りからこちらまで抜けられる上、

獄吏も気味悪がってあまり巡回したがらない場所だ。

それに潜伏する場所や機竜(ドラグライド)展開時でも通行出来る道もあった筈。

過去に通風孔を利用して地下墓地へ降りた記録がある以上、

警戒するに越したことはないと考え、近くの守衛に

 

「覗き魔の連行に来た。私が戻るまで誰も通すんじゃ無いぞ。」

と言うと、守衛から気になる報告が返ってきた。

「その覗き魔なのですが、どうにも銀髪の首輪をつけた青年でした。

私見ですが、旧帝国王子であるルクス殿かと。」

・・・成る程、道理でレリィお嬢様が笑っている筈だ。

あいつがここ二年ほど釈放の代わりに雑用をしているのは知っていたが、

あのお人好しめ、泥棒猫を追いかけたのか?

「・・・分かった。外には漏らすなよ?

男尊女卑を掲げる奴等にとっては仇に当たる。」

 

「了解しました。あれらと争うのは後が面倒ですから。

こちらとしても話す理由は有りません。」

 

「ならいい・・・ではまた。」

 

まぁ顔馴染みでも罪人なら仕方ない。

処遇は後で決めるとして、取り敢えず連れて行こう。

 

 

長い階段を下り、地下墓地に着いた、

「・・・ここはいつ来ても腐臭がする。換気口を増やすべきか。」

などと、言ってみたが気を取られている暇はない。

時は有限だ、検査を始めようと思い詠唱を始めた。

 

「古生るる闇の底 命喰らいて心を砕け 冥竜は今解き放たれた。」

私が詠唱を終えると、端末より闇が漏れ出て、

この身を包み、灰の竜へと姿を変えた。

 

「・・・視覚遮断開始。能力起動異常なし。」

「・・・さて、脱牢者は居るだろうか?」

 

機竜を纏い、闇を見通してゆっくりと歩みを進める。

 

今の私は灰の狩人、潜む者を逃してはならない。

 

何も変化を見つけられないまましばらく移動していると、

地面に温かい棒状の物が落ちていた。

骨にしては短いが、近づくと鉄の匂いがした。

・・・これは不味い、近くにまず間違い無く敵が居る。

しかし、調べないわけにもいかない。

周囲を警戒しながら調べる事にした。

「・・・周囲に敵影無し。・・・能力解除、視覚回復。」

能力を解除して、温かい何かを見てみると、それは虫や鼠にたかられていた。

虫達のたかる隙間からは白いものが見えていた。

「これは・・・やはり骨か。だが虫がついていることを加味しても

子供にしては太すぎる。十中八九大人の骨だな。」

 

虫達がたかるということは、肉が残っているということ。

これに肉が残っていて、

近くに同じように虫がたかっている場所は無い。

つまりはこの大人の骨はこれ以外ないという事。

 

骨がこれだけということは、大方捕食されたのだろう。

それが真新しいということは、

捕食者も暫くは満足していると予想される。

これなら火急というわけでは無い。

能力起動時間の長さを加味して、展開時間は7割を切ったところだ。

捜索が長引く可能性が残る以上、

今夜、装備を整えてから開始すべきだろう。

 

「これは、帰りは上を通るべきだな。

あれも強いが、万が一傷付くと後に響く。」

などと小声で言ってから上に向かう階段を登っていった。

 

 

長い階段を登りきり、第三区画の五番に着いた。

 

中の人間を確認すると、 間違い無くルクスであると確認出来た。

本当は絞め落としてから運ぼうと考えていたが、

さっきの事もあるので、やめておく。

 

「お前を連行させてもらう。・・・ルクス・アーカイディア」

 

「・・・何故僕の名を知っている。」

 

「分からないなら良いさ。」

 

「・・・言い回し、聞き覚えが有る。

・・・昔、聞いたような・・・。」

 

「今は私のことなど良いだろう?・・・ほら、出てこい。」

私はルクスと会話しながら彼を牢から出し、手枷を付けた。

 

「・・・逃げるとは思わないのか?」

ルクスからそんな事を聞かれた。

「逃げれるなら、逃げてみると良い。

飛翔型の機竜でも壁は破れるだろうが、私が許さない。」

この近距離で気づかれない以上、私は忘れ去られたのかもしれない。

そのように思ってしまい少し悲しくなったが、

そんな感情は奥にしまって、このように返した。

 

そして道程が半分を過ぎた頃にルクスがこう言ってきた。

「そういえば、貴方はフューゼ・レヴェオンを知っていますか?」

 

「・・・!、知っているが、どうした?」

この質問をされた瞬間、動揺してしまった。

「彼に伝言を頼めますか?」

・・・お前は何を言っているんだ?

「良いだろう、言ってみろ。」

 

「ルクスは元気だと、生きていたらまた会いに行く、と伝えて下さい。」

 

「・・・承った。」

 

その後、私達が外に出るまで、会話は無かった。

いい加減に気づけと内心思いはしたが、私が声に出す事もなかった。

 

 

そして、外に出て光が私を照らした時、やっと私に気づいたようだった。

 

「・・・まさか、レーヴェか?」

 

「そうだ、忘れられたのかと思ったぞ?」

 

「・・・恥ずかしいな。本人だと気付かず伝言を頼むだなんて。」

 

「それにしても、お前は上級者だな。

風呂場の音だけを楽しんで満足とは。」

などと揶揄って、くすりと笑うと、ルクスが

「君は全く失礼だなぁ!あれは猫が逃げたから・・・」

 

「後で被害者に謝っとけよ?

よりによって皇女に迷惑かけたんだからな。」

 

「えっ、でも旧t「そこまでだ。きな臭い話は後で聞く」・・・了解。」

・・・どうやらリーシャ様には秘密があるらしい。

フィーちゃんから、下腹部辺りをいつも隠していると聞いていたが、

何か付いていたということだろう。

そして今のルクスの発言を切らなければ、口の動き方からして

旧帝国と言ったようだし、旧帝国絡みの何かだろう。

とりあえず、学園に着いたら人払いして話を聞いてみることにする。



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第二話

しばらく移動して、学園に着いた。

警備兵に顔を見せ、人払いがしたい旨を言うと

「少しお待ち下さい。」

と言って、奥へ下がっていった。

 

 

「しばらく時間がかかりそうだ。

今の内に質問があるならするといい。」

と、声をかけると、

「なら・・・フィルフィさんは元気かな?

君なら今の状態を知ってるでしょ?」

と返ってきた。

 

少し思い返して、薄々気が付いていると考え、私は

「元気だが・・・やはり健康すぎる。」

と返した。

 

「きっと身体が強くなったんだよ。

・・・僕らがそう信じないでどうするのさ?」

そう言っている彼の表情は後悔に溢れていた。

 

彼は今でも、あの時の事へ囚われているのだろうか。

もっと早く気がつけば。

もっと早く助けられれば。

などとずっと考えていたのだろうか。

 

そのような事を考えていると、今のフィーちゃんに会わせたくなってきた。

 

私はあの子に伝えなかった。

あの子にあの時の事を聞かれたとしても。

 

しばらくして、そのことについて聞かれることは無くなった。

だが、あの子の顔を見た時に長い付き合いだからこそ分かってしまった。

あの子が何処かで事実を知ってしまった事に。

 

それでもあの子は変わらなかった。

変わらず前を向き続けた。

だから、お前も過去に囚われるな、などと言ってやりたくなった。

 

そのような事を考えすぎて思考の海に沈みかけた瞬間。

 

「応接室を使って下さい。」

という警備兵の声で引き戻された。

 

「あ、あぁ・・・了解した。」

一瞬、何のことだったか出てこなくなってしまったが、

すぐに人払いの件だと理解出来た。

 

「ルクス、出発するぞ。」

 

「・・・考え事は終わった?

言いたいことがあるなら言ってくれないと分かんないよ?

僕はあの子ほど君との付き合いは長くないから。」

 

「・・・今度あの子に会ってみるか?

無事に帰ってこられたらだが・・・。」

そうルクスと会話しながら移動を始めた。

 

 

「もしかして・・・今さっきの考え事って

僕があの子に何かすると思ったってことかな?」

 

「違う。あの子ならまだマシだ。

・・・立場上フォローが楽だからな。」

 

「それなら何考えてたのさ?」

 

「・・・どんな反応を示すのかを考えていただけだ。」

 

「・・・そういうことにしておいてあげる。」

そう返したのを最後に会話は途切れ、

目的地まで何も話は無かった。

 

 

「着いたぞ。応接室だ。」

 

「入って少し待っていろ。

・・・周囲を探ってくる。」

 

「了解したよ。」

そう会話を交わし、索敵を行うことにした。

 

本来なら罪人から目を離してはならない。

だが、今回の相手、ルクスはよく知った相手だ。

性格上逃げないと判断して周囲を探りに向かった。

 

 

周囲を探っていると、人の気配がした。

そろそろ生徒達が帰ってくる時間だが、

無警戒ではなく、何かを監視するかのように物陰に潜んでいる。

つまりは何者かに私の任務が既に漏れている可能性が高い。。

気づいていないふりをして角を曲がり、

後ろにまわる形で気配を消して潜んでいた存在を確認すると

一人の生徒を発見した。

 

「何をやっているのですか?

私なんてつけても何も有りませんよ?」

 

「貴方が心配で、つい・・・。」

 

「大丈夫ですよ。これが私の仕事ですから慣れています。

・・・取調べを行いますので、聞かないようにしてください。」

そう会話を交わしたものの、返事がないので少し脅しを入れることにした。

「さぁ、行ってください。・・・今なら目を瞑ります。

それとも人に見つかって後で説教される方がお好みですか?」

 

「ごっごめんなさい! すぐ行きますからやめて下さい!」

少し脅しを入れてみたところ、すぐに立ち去ってくれた。

 

「他には・・・居なそうかな?」

周囲を探っても他に潜んでいる気配はないので、応接室に戻ることにする。

 

 

応接室前に戻ってきたのでノックをして一言、

「ルクスー居るかー?」

と、部屋の中に言うと

「居るよー。」

と、返事が返ってきた。

「部屋に入っていいか?」

と、聞くと

「ご自由にどうぞ。」

と、返ってきた。

とりあえずルクスから許可は得たので部屋に入ることにする。

 

部屋に入って見ると、ルクスはソファに座ってこちらを見ていた

どうやら心の準備も言うことの準備も終わっているようだ。

これならすぐに本題に入って大丈夫だと判断して、私は口火を切った。

「それで・・・お前は何を見たんだ?」

 

「簡単に言うと旧帝国の奴隷の焼印だよ。」

 

「見間違え・・・という訳でもなさそうだな。」

 

「それに前の話から考えるにあの人はアティスマータ家でしょ?

元々貴族の血縁者だし今は皇女という立場、

奴隷に堕ちる事なんてそうそう無いはずだよね。」

 

「・・・普通は無いだろうな。」

(まず間違い無くあの空白の時間だろうな)

「・・・仕方がない、帝国時代の奴隷商を探ってみよう。」

 

「焼印はだいぶ時間の経ったものだったから後でもいいかもね。」

 

「時間がかかりそうだし、何があったか知ってる可能性があるからな。」

 

 

「それで対価は何か欲しいか?

・・・情報を一方的に聞くのも悪いから何か教えようと思うんだが

いい話が無いんだ。」

 

「別に見返りを求めてる訳じゃ無いから何も返さなくていいんだけど・・・。

君の性格上、貸し借りは作りたく無いんでしょ?」

「流石に知られてるか・・・まぁそれも有る。」

 

「それなら僕に対する話とかは無いの?」

 

「確かに有るが、知らなくとも問題はないと思うぞ。」

 

「それでもいいよ。 元々貸し借りを無くすのが目的だから。

君の事だから、それでも重要な事を話してくれそうだし。」

 

「・・・では一つ目、お前の妹であるアイリが学園に入学したぞ。」

 

「・・・無事で良かった。

・・・あれ? もしかしてこの騒ぎも知られてる?」

 

「知られている可能性はあるな。」

 

「・・・アイリから白い目を向けられそうだ。

関係修復・・・出来るかな?」

 

「それより先に今の事を考えろ。」

(関係修復など必要ないだろうがなぁ)

「そして二つ目だ。簡単に言うならお前を探している奴がいるぞ。

正しく言うなら黒の英雄を、だがな。」

 

「・・・ッ!」

私がその名を出した瞬間、ルクスは目を見開いた。

 

「聞かれた時は面倒事の予感と本人の許可が無いから知らないと言ったが、

素性は出自以外は判明しているし、お前を発見したと言っていいか?」

 

「それはやめてほしいな、騒ぎになるし。

というか、なんで知ってるのさ?」

 

「逆になんで知らないと思った?

アイングラム家はお前のやった事を知っているんだぞ。

それに黒い機竜を持つ人間は限られているだろうが。」

 

「・・・君らはもう一つの黒い機竜を知っているけど、

普通は知らないし、機竜を見られるとバレてしまうか・・・。

その上であの子や君のお父さん経由で確認をしたんだね。」

 

「まぁ・・・否定はしない。」

そう会話を交わしたのを最後にルクスは報告が終わったようなので、

取り調べに移ることにした。

「・・・そろそろ取り調べに移るが、

報告は他に何かあるか?」

と言いつつ、メモを取リ出した。

「取り調べって・・・あれは事故なんだけど。」

皇女相手の時点で単なる事故では済ませられない事を、

ルクスには察して欲しい。

「・・・何故天井裏にいたんだ?」

 

「何故って、人のバッグを取った猫を追いかけてだけど?」

・・・予想が当たってしまった。

「何故、女性用下着を持って居たんだ?」

 

「バッグの中身が下着だったからだけど・・・。」

それを聞いた瞬間、彼に哀れみの目を向けてしまった。

「そんな目で見ないでよ・・・。」

咄嗟にそう返してきたルクスとため息をつきあった。

「気を取り直して・・。・何故警備に申告しなかったんだ?」

 

「・・・君が居たのなら話は通したと思うけど・・・。

見ず知らずの誰かに迷惑をかけたくないという独りよがりだよ。」

・・・お願いだから一声かけて欲しかった。

なんでも一人でやりたがる所は変わっていないようだ。

「了解。嘘はついていないだろうから真偽は聞かないでおく。

次はお前を呼んでいる人が居るから連れて行く。」

 

「まさか・・・黒の英雄を探していた人の所へ?」

 

「お前が望むなら後で連れて行くが・・・どうする?」

 

「つまり違うのか・・・。

というかすぐには牢に入れられないと言ってるように聞こえるけど?」

 

「・・・呼んだのがレリィお嬢様だからな・・・。」

 

「それなら・・・沙汰は追って下りそうだね。」

 

「まぁ現場検証の結果にもよるがな。」

 

「・・・こちらは聞くことはもう無いが、そちらはどうだ?」

 

「こっちも無いよ。」

 

「それでは移動開始するぞ。

・・・ちゃんと付いて来いよ?」

 

「言われなくとも。」

 

 

学園内の人気が無い場所を選んで進むこと十分程度。

やっと学園長室に着いた。

 

ノックをしようと部屋に近づくと、部屋の中から

「ど・・行っ・・・・か。」

という怒りのこもった声が聞こえてきた。

2メートル程扉から離れていたから余り聞こえなかったが、

この声は・・・リーシャ様の声だろうか?

ラボ関係のトラブルかと思い出直そうとした時、

リーシャ様が怒る可能性がある事がもう一つある事に気付いた。

(もしかして隠していたもの関係か?

そうだとすればルクスが見てしまったし、

口止めの為に探しているといったところか。)

などと考えつつ

「フューゼ、只今戻りました。

・・・しばらくしてからまた来ましょうか?」

と、扉越しに言うと

「ちょ「入ってこないでくれ!」入っていいわよ」

という声が帰ってきた。

レリィお嬢様の声色は変わっていないが、

リーシャ様の声色には明らかに焦りがあった。

「本当に入ってよろしいので?

そしてリーシャ様・・・防音壁では無いので大声を出すと、

他の人の迷惑になりますよ。」

私がそう反応すると部屋の中から

「そうね。・・・落ち着いて深呼吸なさい。

ほら、ヒッヒッフー、ヒッヒッフーっと。」

・・・レリィお嬢様、それはお産時の呼吸法です。

この場には似つかわしくありません。

貴方含めて既婚者はこの場には居ないのですから。

などと考ながら部屋を離れてルクスを連れてくると、部屋の中から

「ヒッヒッフー ・・・ヒッヒッフー。ってこれはラマーズ法だ!

落ち着く為の呼吸法では無ーい!」

というリーシャ様のツッコミが聞こえてきた。

ここに在籍して一年以上経つが、未だに

この漫才に対する対応の仕方が定まらない。

とりあえず、取り調べの結果を簡単にまとめておくことにする。

これを提出すれば、報告は必要なくなるだろう。

 

メモを書き終わり、部屋の中に

「落ち着きましたか?

落ち着いたら言ってください。」

と言うと

「・・・フューゼ・レヴェオン。 こちらもOKだ。」

と、リーシャ様らしき人の声が返ってきた。

「それでは改めて・・・フューゼ、只今戻りました。

例の人間も連れてきています。」

 

「連れてきなさい。」

 

「それでは失礼します。・・・ほら、ついて来い。」

 

 

私が学園長室に入って中を見渡すと、

ほぼいつもと変わらない様子の二人がいた。

そして、二人の視線が私から後ろのルクスの方を向いた。

来賓用のソファに座っていたリーシャ様がルクスを見た瞬間、

頰がリンゴのように赤く染まった。

予想はついていたが、ルクスは顔を覚えられていたようだ。

そのまま私がルクスを机の前まで連れて行くと、

リーシャ様が徐に口を開き、自己紹介を始めた。

「知っているかもしれないが、一応名乗っておく。

 私の名はリーズンシャルテ・アティスマータだ。」

 

「これでも新王国第一皇女をやっている。

 まぁ・・・陰で不相応と言うものもいるがな。」

 

「よろしくな、王子様。」

と、リーシャ様が名乗り、ルクスは困惑しながら、

「えーっと・・・よろしくお願いします。お姫さま。」

と、返した。

見た限りだと反応の仕方が見つからなかったように感じた。

そのような、困惑混じりの会話を終えたところで、

「自己紹介も終わったところで本題に移りましょう。

どうして浴場に忍び込んだの?

裏を取るからフューゼは調べに行って頂戴。

 そうね・・・騒ぎを起こさないのなら機竜を使って構わないわよ。 

 ただ,話が終わる頃には帰って来てもらうわ。」

 という学園長からの指令が入った。

長く見積もって一時間、その間に現場検証と移動を済ます必要が有る。

「j'ai compris.」

私はそれだけ言って、学園長室を飛び出した。

 

 

機竜を展開して高空を飛行すること約三分、浴場付近に着いた。

高空から浴場を見ると確かに屋根に穴が開いている。

ルクスの証言を信じて飛行しながら調べてみることにする。

 

「これは・・・梁の一部が腐食しているのか。」

 近づいてみてすぐに分かった事だが、梁の一部が腐食していた。

確かに耐久性が落ちているようだ。

詳しい腐食具合は落ちた部分を見てみなければ分からないが、

このまま放置していれば,突如として天井が落ちてくるという事態が起こった可能性があったことは理解出来た。

原因は予想出来たので裏付けの為次は内部から見てみることにする。

懐からナイフを取り出して一応浴場の扉をノックして無人なことを確認した後内部に入ることにした。

浴場内部に入り、落ちた部分を確認すると芯まで腐っていた。

この時点でこれは人が乗っても大丈夫なように作られた屋根が弱っていた事による事故な事が分かった。

・・・ここは崩れた部分をそのまま塞いで大丈夫なのだろうか?

再度機竜を展開して崩れた部分と離れた梁をナイフの背でつつくいてみるとポロリと表面が剥げた。

この様子だと作業しようと数人が屋根に乗った時点で崩れてしまいそうだ。

これは報告が必要な事なのでまとめて、剥げた部分は崩れた部分と一緒にサンプルとして持ち帰る事にした。

今の浴場の状態では屋根の貼り直しが必要になってしまうだろう。

その上工事の間は浴場の使用が禁じられるか、時間が短くなることも予想出来る。

この事を生徒にも知らせなければならないが、知れ渡るのには時間が必要だ。

その時間を出来るだけ確保する為に十全に調べ尽くしたとは言い難いが戻る事にした。



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