Decade ~Neo-Aspect~ (黒田雄一)
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プロローグ

この作品は、『Determination Decade』の外伝となっております。
こちらの作品から読み始めても問題ない構造となっておりますが、本編と合わせて読むとより内容を深く読み取ることができると思います(肝心の本編はまだまだ序盤なのですが)

この作品は本編以上にグロテスクな表現、鬱展開がございます。
前半はそこまでありませんが、後半は――本編を読んで察してくださると助かります。

また、本作では門矢『士』は一切出ません。

以上、これらをご了承の上お読みください。


 門矢(かどや)(つかさ)は孤独だった。

 彼がまだ五歳の時にして、両親を交通事故で失った。

 それ以来、彼は両親が愛してやまなかったカメラを手放すことはなかった――

 

 

「……………………」

 

 とある雨の日。

 公園にいた門矢司、五歳は屋根のあるベンチで雨宿りしていた。

 彼はベンチに座らず、両親の形見である黒の二眼レフカメラを手に持ち、ただただ辺りの風景を見ているだけだった。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 一人の幼女が雨宿りしに、司と少し離れた横に立つ。

 

「うぅ……びしょ濡れ…………」

 

 幼女は嫌そうな顔で自分の体を見回す。

 

「っ!?」

 

 司は、彼女に目を奪われた。

 整った顔立ちに宝石のように美しい黄緑の瞳。

 そして何よりも、鮮やかな青緑色の長髪に目が行く。

 汚れ一つない、透き通った美しい髪。雨に濡れたことでその美しさが増していた。

 

 ――カシャ。

 

 司は無意識の内に、彼女を撮っていた。

 

「?」

 

 シャッターを切る音を聞いた幼女が司の方を向く。

 

「っ!?」

 

 司は彼女の視線に恐怖を抱き始める。

 彼女の目が怖いものに変わったわけではない。極力人との関わりを避けてきた司は、このあとどうしていいかわからず、それが恐怖の感情を生み出しているのだ。

 

「えっ、えっと……その…………」

 

 司は今にも死にそうな程細い声で、体を震わせる。

 しかし、それとは反対に幼女は目を光らせ、司に走り寄った。

 

「そのカメラなに!? 目が二つある!!」

 

 幼女は司の了承も得ず、二眼レフカメラを手に取り舐め回すように見る。

 

「あなただれ? しゃしん屋さん?」

 

 幼女は司の顔を覗き込むように尋ねる。

 

「……司。門矢、司」

 

 少し恐怖心が収まった司。だが、それに反比例するように胸の鼓動が高まり、幼女を見ていると口元がゆるむことにもどかしさを感じた彼は、彼女から目を反らす。

 

「わたし、氷川(ひかわ)紗夜(さよ)! ねぇ、撮ってほしいものがあるの!」

 

 紗夜は司の手を引き、雨の中を走り出す。

 

 

 これが、司と紗夜の出会い――

 

 

 そしてこの物語は、二人の――――

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……どけッ!!」

 

 約十一年後――

 荒れ果てた世界の中を、司は走っていた。道中、立ちはだかる肉団子のような怪物を蹴り飛ばしながら。

 

「!?」

 

 司は、探していた紗夜を見つける。紗夜は、司が先程蹴り飛ばした怪物と似たものに襲われそうになっていた。

 

「はぁ!!」

 

 司は全力で地面を蹴り、その勢いに身を任せて怪物を蹴り飛ばす。

 

「司!?」

「紗夜、こっちだ!」

 

 司は紗夜の腕を引っ張り、どこかへ逃げようとする。

 どこにも逃げ場などないことを自覚しながら――。

 

「!?」

 

 逃げた先に、大量の怪物がいた。

 戻ろうにも、来た道にも既に怪物が押し寄せている。

 

「…………」

 

(最初から覚悟は決めている――!)

 

「……紗夜、俺が道を作る」

「司はどうするの!?」

「俺はこいつらを倒してから紗夜を追う」

「そんなの駄目! あなたも――」

「逃げ続けたら終わらない、この悪夢は永遠に……」

 

 司が緑色のカメラのようなものを取り出し、それを腰に当てる。

 するとベルトが放出され、腰に巻き付いて固定される。

 

「俺はこの世界最後のライダーだ! 俺が戦わなければ、紗夜を守れない!」

 

 司はベルトのハンドルを引き、バックルを回転させる。

 

 ベルトに付いていた本のようなものから一枚のカードを取り出す。

 

「変身!」

 

 カードの裏面を外に向け、バックルに挿入する。

 

『カメンライドォ!』

 

 バックルから謎の音声が聞こえた後、司はハンドルを戻して変身する―― 

 

 

 

 

 

『ディケイド!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――これは、自分の存在意義を探し続けた少年の行く末を描いた物語――

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一章 青薔薇と椿に紛れる異物
第一話 司と紗夜


「ふぁ~……!」

 

 赤色のシャツの上にスーツのような黒の上着を身に纏い、首からマゼンタ色の二眼レフカメラをぶら下げた少年が、大きなあくびをしながら、駅前で誰かを待っていた。

 

 彼の名は門矢(かどや)(つかさ)

 現在高校一年生である。

 

「――少しくらいなら、いいよね?」

 

 退屈しのぎに、司はカメラを手に取り、周囲の風景を撮りだす。

 司は無我夢中で撮っていると――

 

「また勝手に撮ってるの?」

「うぇ!?」

 

 レンズ越しに、司の見慣れた少女が目の前に現れ、司は驚いてカメラを手放す。首にカメラのストラップをかけていたため、地面に落ちることはなかったが、驚きすぎた司はその勢いで尻もちを着く。

 

「……驚きすぎよ。情けないわね」

 

 青緑色の髪を腰の高さほど伸ばし、左肩にギターケースを持った少女が、司に手を差し伸べる。

 彼女の名は氷川(ひかわ)紗夜(さよ)

 司の幼馴染み。現在とあるバンドのギターを務めている。

 

「ご、ごめん……」

 

 司は紗夜の手を取り、立ち上がる。

 

「行きましょう。ライブハウスへ。時間が勿体ないので」

 

 紗夜は司の手を引っ張り、ライブハウスへと足を運び出す。

 

「えっ? 集合まであと1時間以上は――」

「その間は全て練習に当てるわ」

「紗夜、今日はライブだよね? 下手に体力を使うと本番で――」

「私がそんなヘマをするように見える?」

「い、いえ! 見えません!」

「よろしい」

 

 紗夜は微笑みを浮かべ、そのまま先に進む。

 

「…………」

 

(紗夜は、どうして俺を連れ回すんだ? 邪魔になるだけだと思うのに……)

 

 そんな疑問を持ちながら、司は黙って彼女についていく。

 

 

 

 

 司と紗夜は、目的地のライブハウス『CIRCLE(さーくる)』に辿り着く。

 

「あっ、紗夜ちゃんと司くん! 今日も早いね!」

 

 CIRCLEのスタッフ――月島(つきしま)まりなが出迎える。

 

「ど、どうも……」

 

 司は慣れない様子で受け答えする。

 

「手を繋いじゃってぇ! もしかして、付き合ってる?」

「えっ!?」

 

 その言葉を受けた司は思わずドキッとする。

 

「いえ、司はただの幼馴染みです」

「うっ……」

 

 紗夜は平然と返す。

 それを聞いた司はショックを受ける。

 

「?」

 

 司の反応を疑問に思った紗夜であったが、流すことに。

 

「……スタジオは空いてますか?」

「もちろん! 出演者用の練習スタジオがあるから。04番のスタジオを使ってね!」

「ありがとうございます」

 

 紗夜は司の手を引っ張ってスタジオに向かう。

 

「――応援してるぞ☆」

 

 すれ違いざま、まりなは司に小さな声で励ました。

 

「…………」

 

 スタジオに入った二人。

 紗夜はギターを取り出し、練習の準備をする。

 

「…………」

 

 何もすることがない司はそわそわし始める。

 

「? どうしたの?」

 

 その様子が気になった紗夜が尋ねる。

 

「あー、その……ずっと思ってたんだけど……俺、邪魔じゃない?」

 

 司が気になっていたことを口に出した。

 

「邪魔? そんなこと、思ったことはないわ」

「えぇ!? 逆にどうして!?」

「少なくとも演奏の邪魔にはならないわ。それに、多少音楽の知識があるから、客観的に見た演奏の感想もほしいから。司の存在は邪魔じゃないわ」

「そ、それならいいけど…………」

 

 紗夜が司の存在を肯定してくれたのだが、司自身は微妙に納得していなかった。

 本当に存在意義があると思えなかったからだ。

 

「!」

 

 そう思っているうちに、紗夜がギターを弾き始める。

 聞き惚れするような彼女のギターテクニックに、司は思わずカメラを構え、撮り始める。

 その様子を確認した紗夜がくすっと微笑み、より手の動きが洗練される。

 

「――ふぅ」

 

 弾き終えた紗夜が長い髪を片手でバサッと払いなびかせる。

 その瞬間も、司は逃さずシャッターを切る。

 

「……司にとっても、撮影の練習になるでしょ?」

「う、うん。確かに……」

「写真もギターと同じ、練習の積み重ねが大切なはずよ。私なら文句は言わないから、私で練習しなさい」

 

 そう言った後、紗夜はギターの練習を続ける。

 

「…………」

 

 彼女の姿をカメラに写しながら、司はある日のことを後悔する。

 

 

 

(紗夜がギターに固執するのは、きっと俺のせいだ――――)

 

 

 

   ◆

 

 

 「………………」

 

 中学時代――

 紗夜は放課後、学校の屋上で黙々とギターを弾いていた。

 その時の表情は真剣そのもので、演奏以外のことは一切考えていなかった。

 

 

 ――カシャ!

 

 

「!?」

 

 カメラのシャッター音を耳にした紗夜は、ギターを弾くのを止め、音がした方を向く。

 一人の少年――門矢司がカメラで紗夜を撮っていたのだ。

 

「司! 勝手に私を撮らないでと何度も言ってるじゃない!」

 

 紗夜は強い口調で司を叱り、カメラを奪い取ろうとする。

 

「ご、ごめん! つい!」

 

 司は怯えつつも、紗夜の手を的確にかわしていく。

 

「つい――じゃありません! 盗撮は立派な犯罪、私でなければ訴えているわ!」

「どうしても!」

 

 司は思いきって紗夜の手首を掴む。

 

「!?」

 

 強気になった司に、紗夜は驚いて思わず右足を引く。

 

「どうしても! ギターを弾いている時の紗夜を、紗夜自身に見せたいんだ! その時の紗夜が、一番輝いているから! 真剣な表情で弾く姿を! 本気で取り組んでいる姿を!」

「っ!!」

 

 司の想いがこもった言葉に、紗夜の冷えた心が溶け始める。

 

「ご、ごめん! 偉そうなことを言って……」

 

 我に返った司は、紗夜の手首を離す。

 

「…………」

 

 紗夜は無言のまま、ギターを弾き始める。

 

「おぉ……」

 

 司が紗夜のギターテクニックに見惚れ、聞き惚れていると彼女は指を止める。

 

「……撮りなさい」

「えっ……?」

「……あなたの気が済むまで、撮りなさい」

 

 そう言って、紗夜は演奏を再開する。

 司は慌てつつも紗夜を撮り始める。

 

「!?」

 

 司の手に、雫が落ちてくる。

 それを感じ取った間もなく、豪雨が降り始める。

 

「雨!? そんな予報聞いてないぞ!? 紗夜、撤退しよう!」

「…………」

 

 紗夜は雨を気にせず弾き続ける。

 

「紗夜、風邪ひくしギターも悪くなるからそろそろ――」

「!」

「ひっ!」

 

 紗夜は司を睨みつけた。司は思わず怯えたが、同時に弾き続けたいという彼女の熱意を感じ取る。

 

「…………」

 

 司は紗夜の気持ちに応えようと、カメラのシャッターを切る――

 

 

 

 

 

 ――結局、紗夜は雨が止むまでの三十分間、ずっと弾き続けた。

 

「あぁ、びしょ濡れだ……! 俺、タオルとか持ってきてないからなぁ……ハンカチじゃ気休め程度だし……」

 

 フェンスに背を向けている司はせ、めてものと思いカメラをハンカチで拭く。そのハンカチはズボンのポケットに入っていたもののため、当然濡れている。

 

「……ねぇ、司」

「?」

 

 司の左隣にいる紗夜がギターを構えたまま、彼に尋ねる。

 

「ギターを弾いてる私が一番輝いてるって……本当?」

「う、うん! 本当だ!」

「……そう」

 

 紗夜は右手を自分の胸に当て、安心した表情を浮かべる。

 

「!!」

 

 その姿を見た司は、再び紗夜に目を奪われる。

 雨に濡れた彼女の姿は、雲が晴れ差し掛かった夕日に照らされ、より美しく瞳に写った。

 司は、その瞬間も逃さずにシャッターを切る――

 

 

 

 この時の司は知らなかった。

 

 自分の言葉によって、紗夜が変わったことを。

 

 紗夜が、司のために弾いていることも――――

 

 

 

   ◆

 

 

 

――あの時、気づいていれば……紗夜は変われただろうか?

 

――気づいたとして、俺は何か言えただろうか?

 

――紗夜が変わったとしたら、紗夜に幸せが待っていたのか?

 

 

 

 司は思考を巡らせながら、シャッターを切り続ける。

 ふとスタジオにある時計が目に入る。

 

「あれ、もう1時間経ったのか……けれど、皆来ないね」

 

 司が呟くと、それを聞いた紗夜が首をかしげる。

 

「皆? 司、誰か呼んだの?」

「えっ? あーいや、バンドメンバーのこと」

「バンド? 何を言っているの?」

 

 紗夜が信じられないことを口にする。

 

 

 

「――私、バンドなんて組んでないわよ?」

 

 

 

「ぇ…………?」

 

 司が困惑する間もなく、スタジオにまりなが入ってくる。

 

「!?」

「!?」

 

 彼女の姿を見た司と紗夜が、息を止めるほど驚く。

 まりなの全身血まみれになっており、怪我した右肩を手で抑えていた。

 

「二人とも!! 逃げて!! 早――あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!」

 

 背後から、得体の知れない怪物に大剣を突き刺される。腐敗した人の肉片を混ぜて作ったような怪物が。

 まりなは耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げる。

 

「ぁ――――」

 

 まりなが白目を向き、全身の力が抜ける。

 彼女が死んだのを確認した怪物は大剣を抜き、彼女に抱きついては体を食べ始める。

 

「まりな……さん…………!?」

 

 司は腰を抜かして怯える。

 

「っ!」

 

 同じく恐怖を抱いていた紗夜だが、このままでは司もろとも死ぬと思い、動く。

 

「司! 逃げるわよ!」

「で、でもまりなさんが――」

「まりなさんの行動を無駄にしないで!!」

 

 紗夜は司の手を取り、彼を引っ張りながらスタジオを去る。

 

「!?」

 

 

 しかし、その先も地獄絵図だった。

 

 

 どこを見ても血痕があり、まりなを襲った怪物と似たものが、他の人を襲っては食っている。

 紗夜は襲われている人を無視して、CIRCLEを出る。

 外も荒れており、怪物が暴れていた。

 

「まりなさん……大丈夫かな……?」

「『まりな』? まりなって誰かしら?」

「うえぇ!?」

 

 またも首をかしげる紗夜に、司は変な声を上げて驚く。

 

「何言ってるんだ!? さっき俺たちを――あれ……なんだっけ? さっきまで覚えてたのに……」

「っ!! 司!!!」

 

 何かを見た紗夜が全力で司の手を引く。

 

「うぉ!?」

 

 司は前に引っ張られ、倒れる。

 

「紗夜、どうし――た…………」

 

 司は体を起こしながら、紗夜の方を向くと、血飛沫を浴びると同時に言葉を失った。

 

 

 ――紗夜が、司を庇って怪物に食われていた。

 

 

「つか……さ……逃げ――て――」

 

 紗夜が怪物に押し倒され、体を食われ始める。

 

「あ……あぁ…………!」

 

 食われていく。

 大切な人が――

 

好きな人の顔が――指が――髪が――目が――食われていく。

 得体の知れない化け物に――――

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 司は無我夢中で、怪物に蹴りを入れる。

 何度も何度も何度も何度も――――

 しかし、司の力が弱く、怪物は蹴られていることに気づいていないように紗夜を食べ続ける。

 次第に、他の怪物が司を襲おうとやってくる。

 それでも司は紗夜を助けようとする。

 

 

 ――つか……さ……逃げ――て――

 

 

「…………!」

 

 紗夜の最後の言葉を思い出した紗夜。

 

「あぁ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 司は狂うように叫びながら、その場を走り去る。

 紗夜を置いて――

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……うぅ……」

 

 商店街――。

 司は見知らぬ店の路地裏に身を潜めていた。

 商店街にはまだ怪物は現れておらず、司を偶然目にした何も知らない住民が、血まみれの彼を見て悲鳴を上げている。

 だが司によってそんなことどうでも良かった。

 

 司は泣き崩れていた。

 紗夜を見殺しにした。助けられなかった。

 大切な人を――あの人を――あの…………

 

「あれ……俺は誰を見殺しに……見殺し? 何を言っているんだ?」

 

 司は忘れてしまう。

 自分の大切な人を。それに関することも。

 

「なんで俺は血まみれなんだ? なぜ……?」

 

 司は自分自身に困惑していると、懐から一枚の写真が落ちてくる。

 歪んでいるが、雨に濡れた紗夜が写っている写真が。

 中学の時に撮った、あの時の写真が。

 

「!?」

 

 その写真を見た瞬間、司は思い出す。

 

「紗夜……氷川紗夜! どうして忘れかけたんだ!? 紗――さ……あれ?」

 

 自分の意志とは関係なしに、紗夜が自分の記憶から消えようとしていた。

 司はスマホを取り出し、待ち受け画面になっている紗夜の写真を見て記憶を維持する。

 

「紗夜……紗夜……! 忘れるか!! 忘れてたまるか!!」

 

 司は返り血を使い、地面に紗夜の名前を書き続ける。

 

「紗夜! 紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜紗夜!!」

 

 指が痛くなっても止めない。一瞬でも止めたら、忘れてしまいそうだから。

 

 

 

「紗夜!!!」

 

 

 

「――意外ね。あなたが選ばれるなんて」

 

「!?」

 

 司の隣から、紗夜の声が聞こえてくる。

 司は期待するように左を向く。

 

「……紗夜…………なのか……?」

 

 彼の隣に立っていたのは、彼の知る紗夜ではなかった。

 しかし、髪の色が黒であること以外は、紗夜そっくりだ。

 

「……人の名前を書き連ねて……気持ち悪いわね。でも、それだけ彼女のことを愛していたのね」

 

 少女は手に持っていた、緑色のカメラのようなものを司に差し出す。

 

「これをあなたに。これを使えば、彼女を取り戻すことができるわ」

「!?」

 

 司が反射的に立ち上がる。

 

「《リコルド》を倒せば、喰われた記憶、存在が戻ってくる。奴らを倒すには、『仮面ライダー』になるしかないわ」

「仮面……ライダー…………?」

 

 司は疑問に思いつつも、カメラのようなものを手に取る。

 

「これ……カメラじゃない?」

「仮面ライダーへ変身するためのベルトよ」

「ベルト?」

「あなたが本当に『異端者』であれば、使い方は本能が教えてくれるわ」

「『異端者』? 何を言って――」

 

 司が尋ねようとするも、少女は最初からそこにいなかったかのように消滅していった。

 

「…………」

 

(これを使えば……紗夜を生き返らせることができるのか……!?)

 

「いた! おいそこのお前!!」

 

 通報した住民によって、警察がこの場に来る。

 

「手に持っているものを地面に置いて、両手を――ぶふぁ!!」

 

 警察の背後から怪物が現れ、彼の左胸に拳を貫かせる。

 倒れた警察を、怪物は貪り始める。

 

「……紗夜を食べた怪物」

 

 司の目の前に現れたその怪物は、紗夜を食べた怪物だった。

 

(…………あの人の話がどこまで本当かわからない。けど――)

 

 司はカメラのようなものを腰に当てる。すると、ベルトが放出され、腰に固定される。

 少女の言う通り、司は本能的にベルトの使い方を理解していた。

 司はベルトのハンドルを引き、バックルを九十度回転させる。その後、ベルトに掛かっている本のような入れ物から一枚のカードを取り出す。

 

(俺は紗夜を見殺しにしてしまった。その罰が戦うことなら、紗夜のために――罪を償うために! 俺の全てを戦いに捧げる!!)

 

「変身!!」

 

 司はカードをバックルに挿入する。

 

『カメンライドォ!』

 

 謎の音声を聞いた後、ハンドルを戻す。

 

 

 

 

『ディケイド!』

 

 

 

 

 司から円を描くように九人の幻影が生み出され、彼を中心に一つになってモノクロのヒーロースーツを身に纏う。その後、ベルトのレンズから七枚の赤い板が生み出され、顔面部に刺さると同時にスーツに色がつき、マゼンタが基調のスーツへと変わった。

 

 

 この日を境に、司は『仮面ライダーディケイド』として戦うこととなった。

 




2020/03/15追記
時系列の関係上、司と紗夜を高校『二年生』→『一年生』に変更しました。
これまで読んでくださった方に混乱を招くようなことをし、すみません。
ただ、本編の方には影響はないので、ご安心ください。


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第二話 異端者の初陣

『ディケイド!』

 

 仮面ライダーディケイドへと変身を遂げた司。

 

「…………」

 

(どうしよう……どう戦えばいいんだ!?)

 

 変身は体がなぜか知っていたため、躓くことなくできた。

 しかし、喧嘩もしたことない司は、怪物との戦い方がわからなかった。

 

『グァ!!』

 

 司が戸惑っていると、警察を食い終えた怪物が襲いかかってくる。

 

「うわぁ!」

 

 恐怖した司が、思わず拳を前に出す。すると偶然拳が怪物に当たり、後ろに吹き飛ぶ。

 

「……あれ? いける?」

 

 怪物が転がる様を見た司が、自分でもまともに戦えるのではと思い始める。

 今の司は、仮面ライダーに変身したことで、身体能力が向上しているのだ。

 

『ヴァ!!』

 

 立ち上がった怪物が先程より勢いをつけて襲いかかってくる。

 

「はぁ!!」

 

 それに合わせて司は怪物に殴る。拳を受けた怪物が怯む。

 

「いける!」

 

 確信に変わった司は、怪物に拳を左右交互に殴った後、右足で蹴り飛ばす。

 

『ガァ!!!』

 

 怒った怪物が、何もない空間から拳銃を出現させる。食われた警察が所持していた銃だ。

 怪物がそれを手に取ると、拳銃が変形し怪物の右腕と一体化して巨大なランチャーに変わる。

 

「嘘でしょ……!?」

 

 司が驚いている間もなく、ランチャーから豪速ミサイルが発射され、司に直撃する。

 

「うわぁ!!」

 

 司の体が大きく吹き飛び、商店街の表に出される。

 

「ゲホッ!! ゴホッ!!」

 

 ライダースーツが鎧の代わりになっているため、ミサイルを受けた衝撃は抑えられているが、それでも体を鍛えていない司には辛いものだった。

 覆面から、司の吐血が落ちてくる。

 

「?」

 

 日曜朝九時にやっている特撮番組のヒーローっぽい人の出現に、商店街の住民は不思議そうな顔で司を見ていたが――

 

『グアァァァァァ!!』

「きゃああああああああああああああああああ!!」

 

 怪物が姿を現した瞬間、住民が慌てて逃げ散る。

 怪物は逃げる住民に対してミサイルを放つ。爆発を受けた住民の体がバラバラになりながら吹き飛ぶ。そのあっけない様は、マネキンだったのではと疑うほどだ。

 

「やめろぉ!!」

 

 司は怪物を止めようと走る。それに気づいた怪物は司に向けてミサイルを放つ。

 司はミサイルをかわそうと――。

 

(!? 後ろには人が!)

 

 司は後ろにいる住民のことを考え、あえてミサイルを体に受ける。

 

「ぐぁ!!」

 

 司は後ろに吹き飛ぶ。彼が体を張ったことで住民に被害は出なかったが、彼の体の負担は大きかった。

 

(何か……対抗できる武器があれば……!)

 

 司は体を起こしながら考えると、地面に落ちたカードを収納する入れ物――『ライドブッカー』が目に入る。

 

「何か対抗する手段は!」

 

 司はライドブッカーを手に取り、開いてカードを確認する。

 しかし、ディケイドに関するカード以外白い靄がかかっていた。

 

(一か八かでわからないカードを使うわけにも――ん?)

 

 司はあるカードが目に留まる。

 技が発動できる『アタックライド』のカード。そのカードに写るディケイドは、武器を手にしていた。その武器は、ライドブッカーそっくりだった。

 

(いや違う! これはもしや……!)

 

 司はライドブッカーを閉じ、下の黒い部分を引く。すると、三十度曲がったところで固定され、収納されていた銃口が姿を見せる。

 

『ガァ!!』

 

 よそ見をしている司に対し、怪物がミサイルを放とうとする。

 

「!?」

 

 その動作に気づいた司は、銃口を怪物に向け、引き金を放つ。

 銃口から数発の弾丸が放たれ、怪物に直撃する。これによって怪物は怯み、ミサイルが放たれることはなかった。

 

「よし!」

 

 打開策を見つけ、一安心する司。

 

『ワォォォォォォォォォォォォォォォォン!!』

 

 それも束の間、怪物は雄叫びを上げ、仲間を十体呼び寄せた。

 その中には、まりなを襲った怪物もいた。

 

「数が多い……けど、逃げるわけにはいかない!」

 

 司はライドブッカーの持ち手を更に曲げ、収納されていた刃を伸ばす。

 このように、ライドブッカーはただカードを収納するだけでなく、武器としても戦えるのだ。『ガンモード』と『ソードモード』の二種類存在する。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 司は怪物の群れに突っ込み、ライドブッカーで斬っていく。

斬られた怪物は人間と同じ赤色の血飛沫を上げている。その返り血を浴びた司の姿は、正義のヒーローの様とは思えない。しかし、彼は街を守るため――紗夜を取り戻すために戦っている。

 怪物達の攻撃をかわし、隙を突いては攻撃。時折攻撃をかわせずに受けてしまうが、すぐに体勢を立て直して攻撃を再開する。

 大勢を相手にする中で、司は戦いに慣れ、次第に司が一方的に攻撃し始める。

 

(戦い方……大体わかったような気がする!)

 

  司は怪物達の攻撃をかわしつつ、ベルトのハンドルを引いてバックルを回転させる。その後、ライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルに挿入する。

 

『アタックライドォ!』

 

 ハンドルを押し戻し、技を発動する。

 

『スラッシュ!』

 

 ライドブッカーの刃が赤紫の光を放ち始める。

 

「はぁ!!」

 

 司は弧を描くように横に回転し、彼を囲んでいた怪物十体を斬り倒す。

 斬り倒された怪物は水風船が爆発するかのように、血飛沫を上げながら爆発四散する。

 

『グァ!!』

 

 残った一体の怪物――紗夜を食べた怪物がその場から逃げようと、隠していた羽を広げて宙に舞い始める。

 

「逃がすか!!」

 

 司はライドブッカーから新たなカードを取り出し、バックルに入れる。

 

『ファイナルアタックライドォ!』

 

 ハンドルを戻し、必殺技を発動する。

 

『ディディディディケイド!』

 

 ベルトのレンズから黄色の紋章が浮かぶと同時に、怪物を追いかけるように無数の巨大カードが並び現れる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 司は跳び蹴りの体勢を作り、カードを通り過ぎる。カードを通過する度に右足にエネルギーが蓄えられつつ、重力を無視するように上昇して怪物を追いかける。

 

「紗夜ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 大切な人の――大好きな人の名前を叫びながら、司は『ディメンションキック』を怪物に叩き込む。

 

『ガァァァァァァァァ!!』

 

 怪物は断末魔を上げながら爆発し、消滅する。

 

「…………うぐッ!」

 

 勢い余った司は、地面へ着地するも前へ倒れる。それと同時に変身が解ける。

 全身痣だらけで、口から血を垂れ流し、胴体に大きな切り傷ができていた。

 

「紗夜……紗夜は、どうなった?」

 

 司は立ち上がり、生き返ったかわからない紗夜を探しに行こうとする。

 

「……その前に、着替えたほうがいいか………」

 

 偶然自分の家である写真館の前に着地した司は、先に着替えを済ますことにした。

 

 

 

   ※

 

 

 

「紗夜……紗夜…………」

 

 着替え終えた司は紗夜の名前を呟きながら、ボロボロを引きずるように歩かせていた。

 

「…………あれ?」

 

 商店街を通っていた司はある異変に気づく。

 司は今、怪物と戦った場所と全く同じところを歩いているのだが、その痕跡が残ってなかった。

 爆発によって壊された建物も治っており、巻き込まれて命を落とした住民も、何事もなかったかのように過ごしている。

 

「…………」

 

 司は一度身を潜めた路地裏へ足を運ぶ。

 地面に書いた文字もなかったが、司が落とした紗夜の写真は残っていた。

 

「夢じゃ……ないよな…………?」

 

 司は写真を懐にしまいつつ、この場所で少女に渡されたベルトを手にし、ベルトを眺める。

 『ディケイドライバー』――誰からも名前を教わってないのだが、司にはベルトの名前を知っていた。

 

「怪物を倒したことで、街が、人が、元通りに……ってことは!?」

 

 司は全身に走っている痛みを忘れ、CIRCLEへと全速力で向かう。

 

(紗夜も生き返ったはず! まりなさんも!)

 

 CIRCLEに着いた司は、店内に入る。

 

「はぁ……はぁ……」

「あっ、司くん!」

 

 受付カウンターに、まりなの姿が。

 

「紗夜ちゃん探してたよ――って、どうしたのその傷!?」

「よ、よかった……無事で……」

「えっ、なに、私!? よ、よくわからいけど、私心配されてた!? やだ~! 嬉しいけど、君には紗夜ちゃんが――」

 

 

 

「司!!!」

 

 

 

 まりなが一人興奮する中、司を呼ぶ怒号が聞こえてくる。

 

「…………!!」

 

 声がした方を向いた司は、息をするのも忘れるくらい驚く。

 そこには無傷の紗夜が立っていた。紗夜は険しい顔で司に近づく。

 

「紗夜…………!」

「…………」

 

 

 

 

 

 ――――ビシッ!!!

 

 

 

 

 

「!?」

 

 紗夜の強い平手打ちが、司の頬に当たる。

 

「私がどれだけ心配したかわかってるの!? 自分が何したかわかってるの!? なんで平然と突っ立ってられるの!?」

「さ、紗夜……?」

 

 司はぶたれた理由がわからず、戸惑う。

 

「寝ぼけてるのもいい加減にしなさい!! 何回電話しても出ない!! 家に行ってもいない!! 街中探し回ったのよ!! なのにどうしてあなたは平然と……!!」

 

 紗夜が目に涙を浮かべながら司を叱る。

 司はそっとスマホを取り出して確認すると、紗夜の不在着信が五十件以上入っていた。

 

(そうか……怪物を倒したことで、怪物そのものが現れなかったことになってるのか。理由はわからないけど、俺は大遅刻したことになってるのか……)

 

「ごめん、紗夜。その……なんて説明すれば……」

 

 司が言葉選びに迷っていると、口から血が流れ出る。

 

「!? ごめんなさい! 怪我させるつもりはなかったの!」

 

 それを見た紗夜が焦り出す。更に追い打ちをかけるように、彼の体がボロボロになっていることに気づき、顔を青ざめる。

 

「司!? 何があったの!? 通り魔にでも襲われたの!?」

「いや、これは……その――――」

 

 何か言って誤魔化そうとした司。

 しかし、体力の限界が来てしまい、司は気を失う。

 

「司? ねぇ司!! 司!!」

 

 紗夜は彼を抱き支え、何度も名前を叫ぶ。

 

「ダメよ司くん! 変なとこ触っちゃ――って、えぇ!? 司くん!? 何があったのかわからないけど、とにかく救急車!!」

 

 我に返り、司が倒れているのを見たまりなが、慌てて救急車を呼ぶ。

 

 

 

 

 

「――『司』って言うのか……」

 

 CIRCLE店内の片隅。

 司を監視していた、黒のジャケットを着た青年がドーナツを食べている。

 

 

「心配だな。あれじゃ到底一人でやってけない。先輩として、俺がついてやるか」

 

 

 



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第三話 仲間、親友、妹

 約1年前――

 

「あんたみたいな奴、このバンドにいらない!! 出てってよ!!」

「…………」

 

 スタジオにて、マイクを持った少女が紗夜に対して怒号を放った。

 他にも、少女のバンド仲間である女二人も、紗夜を鋭い目つきで睨み付けていた。

 

「い、一旦落ち着こうよ!」

 

 スタジオ内に、司の姿もあった。

 司は焦った様子で、両手をわちゃわちゃと動かしている。彼が一番落ち着きがなかった。

 

「確かに、紗夜が出す課題は難しい。俺が受ける立場だったら徹夜しないといけないかもしれない。でも紗夜はみんなが少しでも上達するようにと思って出してるんだよ! そこは理解してほしい。だから紗夜、少し課題を――」

 

「――いままでありがとう」

 

 紗夜はギターケースを肩に背負い、司の腕を掴む。

 

「行きましょう、司」

「さ、紗夜!?」

 

 紗夜は士の腕を引っ張ってスタジオを出ようとする。

 

「待って!」

 

 今度は少女が司のもう片方の腕を掴む。

 

「司くんにはこのまま残ってもらいたいの!」

「うえぇ!?」

 

 少女の発言に、司は変な声を上げて驚いた。

 

「司くん、残ってくれるよね?」

「え、えっと…………」

 

 司は返答に迷った。

 

(彼女達も、俺を必要としてくれている。紗夜とは幼馴染み。紗夜がいないバンド内に留まったとしても関係は続くだろう。でも……俺は――――)

 

「――――ごめん」

 

 司は優しく腕を上げ、少女の腕を解いた。

 

「ぇ…………」

 

 拒否されると思わなかった少女の目から光が消え、膝を崩す。

 

 

 

 司は、紗夜についていくことを選んだ。

 彼女を撮り続けるために――――

 

 

 

   ◆

 

 

 

「ぅ…………」

 

 過去の記憶を夢で見ていた司が目を覚ます。

 目を開けると、見知らぬ白タイルの天井が目に写る。

 

「…………」

 

 司は、ここがどこなのか疑問を浮かべる前に、夢に見たことを振り返った。

 

(俺はあの時、紗夜についていった。あの時だけじゃない。もう二回ほど似たようなことが起こってる。バンド内で揉め事が起きて、その度に紗夜が抜ける。そして、俺がそれについていく。バンドメンバーは、俺が残ることを望んでいたのに、俺は自分の欲求に正直になって……)

 

「――司!」

「!?」

 

 聞き間違えるわけがない、大切な人の声が耳に入り、司は我に返る。

 

「……紗夜?」

 

 司は視線を左に向け、紗夜の姿を捉える。

 紗夜は涙を浮かべ、寝ている司に抱きつく。

 

「良かった……! あなたが無事で……!」

「!?」

 

 目を覚ました司に安堵する紗夜。

しかし、彼は心配してくれたことに嬉しさを感じると同時に、心の奥底に眠る彼の本能がくすぐられる。

 体に伝わる胸の感触――髪の香り――生暖かい息――

 彼を興奮するのも無理はない。

 

 

 ――司は変態であり、童貞であるからだ。

 

 

「……ここは――うッ!」

 

 司は体を起こそうとするが、全身に痛みが走る。

 ここで司は、全身包帯巻きにされていることに気づく。

 

「ご、ごめんなさい! 怪我してるのに、私……!」

 

 司が苦しんだのは自分のせいだと思った紗夜が離れる。

 

「いや、大丈夫……」

 

(……気絶したのか。情けないな……俺)

 

「司はゆっくり休んでて。明日は月曜だけれど、あなたの学校には連絡を入れてあるから安心して。授業のノートを見せてくれるような友達はいるの?」

「うっ……!」

 

 紗夜の質問に、司は釘を刺されたように固まる。もとい、動ける状態でもないが。

 

「大丈夫!? どこか痛むの?」

 

 彼のうめき声に、紗夜は体が痛んでいると勘違いする。

 

「大丈夫! 痛みもないし、ちゃんと友達もいるから!」

 

(まぁ……まともな友達じゃないけど……)

 

 

 

「そう、僕がいるから安心してください、お義姉(ねえ)さん」

 

 

 

 司の『まともじゃない友達』が、病室を訪れる。

 

 海老反りに跳ねた黒髪をしている少年が、紗夜に対して謎の会釈をする。

 彼の名前は海東(かいとう)大樹(だいき)

 司とは中学の時からの仲で、彼の唯一の男友達である。

 

「はぁ……海東さん、その呼び方を改めてくださいと何度も言いましたよね? それに、妹を渡す気もありませんし」

「安心してください。必ず、日菜のハートを撃ち抜いてみせますから」

 

 大樹は右手で銃を作り、撃つ真似をする。

 紗夜は重くため息を吐き、頭を抱える。

 

「だ、大樹。見舞いに来てくれたの?」

 

 話を変えようと、司が大樹に話しかける。

 

「もちろん! お義姉さんの婿さんだからね!」

 

(……火に油を注いだかもしれない)

 

 そしてそれが、彼自身に返ってくる。

 

「司は婿じゃありません。ただの幼馴染みです」

「うッ!!!」

 

 きっぱりと言った紗夜。司は心臓に矢が刺さったような痛みに襲われる。

 

「司!? 本当に大丈夫!?」

「だ、大丈夫……体は痛くないから」

 

 ――体は痛くなかった。

 ――だが心は痛んでいた。

 

 そして更に追い打ちをかけるように、彼の心を苦しめるような人物が現れる。

 

「司くん! 大丈夫!?」

 

 紗夜と似た顔立ちの少女が、司の元へ走り寄る。その勢い余って司に覆い被さるように、両手を彼の顔近くに着かせる。

 

「だ、大丈夫だよ……日菜」

 

 彼女の名前は氷川(ひかわ)日菜(ひな)

 紗夜の双子の妹。何でも熟せる天才児である。

 

「ほんとー?」

 

 日菜は何か勘違いしているのか、自分の額を司の額に合わせ、熱を測る。

 

「日菜! 司は風邪をひいたわけじゃない!」

 

 急に焦りだした大樹が、日菜を司から引き離す。

 

「…………?」

 

 一方、司は意外にも平然を保っていた。

 

「あっ、大樹くん。ここにいたんだ。倒れたって聞いたから、熱でもあるのかなーって!」

「……日菜、病院では静かにしなさい」

「あっ、おねーちゃん!」

 

 日菜は大樹を押し飛ばし、紗夜のもとへ。

 押し飛ばされた大樹は床に倒れる。

 

「おねーちゃんもいたんだ!」

「当然よ……放っておけるわけがないじゃない……!」

 

 目を光らせる日菜に対し、紗夜は目を反らす。

 その際、司の隣にある物置台の時計が目に入る。

 

「……もう、六時なのね」

「えっ!?」

 

 司は驚き、窓の方を見る。

 カーテン越しだが、夕日が落ち、辺りが暗くなっていくのがわかる。

 

「紗夜、俺のことはいいから、家でゆっくりして」

「……その前に、一つだけ聞いていいかしら?」

「?」

 

 

「司……あなたの身に何があったの?」

 

 

 紗夜がついにそれを聞いてきた。

 

「それは…………」

 

 司は答えられなかった。答えられるわけがなかった。

 下手に誤魔化そうにも、この場をやり過ごせる言い訳が思いつかない。

 正直に話しても、怪物だの変身して戦っただの、信じてくれると思えなかった。

 

「――――ごめん、実はよく……思い出せないんだ」

 

 司は一か八か、その記憶を失ったという嘘を話した。

 

「…………そう、体に気をつけてね」

 

 意外にもあっさりと納得した紗夜は、この場を去って行く。

 

「おねーちゃん! あたしも帰る!」

 

 日菜が彼女の後を追う。

 

「別にいいけど……少し離れて歩いてよね」

「えぇ~!? どうしてぇ!?」

 

 二人の声が遠くなっていく。

 

「……日菜と紗夜、どうして仲が悪いんだろうね」

 

 いつの間にか立ち上がっていた大樹が、先程までとは違い少し低いトーンで話した。

 

「日菜は何でも熟せる天才。それだけなら『自慢の妹』として見られるんだろうけど、日菜は紗夜がすること何でも真似して、あっさりと紗夜を超えてしまう。それに嫌気が差したんだろう……うっ!」

 

 司は物置台にかけてある私服の上着のポケットからスマホを取るため、起き上がろうとするが、激痛に襲われ思うように体が動かなかった。

 

「そんな体で動こうとするな。僕がいるんだから、頼ってほしいな」

「ごめん……」

 

 大樹は、司の代わりに上着のポケットからスマホを取り出そうとする。

 しかし、大樹が手を入れたポケットの中には、別のものが入っていた。

 

「これは……?」

「!?」

 

 大樹が取り出したもの、それは『ディケイドライバー』だった。

 大樹は不思議そうな目でドライバーを舐め回すように見る。

 

「そ、それは…………」

 

 司が答えに困っていると――

 

「変わったカメラだね!」

 

 大樹がカメラだと解釈し、ポケットに戻す。その後、反対側のポケットからスマホを取り出し、司に渡す。

 

「ありが、とう……」

 

 司は呆然とした表情でスマホを受け取る。

 

「さて、僕もそろそろ帰るとしよう。また見舞いに来るよ!」

 

 そう告げて、大樹は病室の外へ出た。

 

「……………………はぁ」

 

 大樹は一人、歩きながら重いため息を吐く。

 

 

 

 

 

「司も……僕と同じ道を辿るなんて……」

 

 

 

 

 

 




今回初登場した海東大樹は、『司』とは異なり本家の方の大樹です。
ただ、見ての通り日菜に想いを寄せているために、キャラが崩壊することが多々あります。大樹好きの皆さん、すみません。

今後とも、よろしくお願いします。


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第四話 紗夜のバンドメンバー

リアル多忙により、更新が遅れてしまいすみませんでした!



「……ただいま」

 

 五日後の夕方。

 たった五日間で完治した司は家に帰ってきた。

 

 司の傷は全治まで早くとも一ヶ月とされていたが、彼は異常なまでの回復力をみせた。医者は困惑していたが、本当に体に異常がなくなっていたため、司は無事退院することができたのだ。

 

 しかし傷は完治しても、疲労は抜けていなかった。

 

「…………」

 

 司は無言で二階に上がり、自室へ向かう。

 

 二階には四部屋あり、元々両親が使っていた部屋が二つ、もう一つは誰も使っていない空き部屋だった。司本人は知らないが、後々弟妹が生まれてもいいように、司の嫁が住み始めてもいいように空けてあったのだ。

 

 司は迷わず自室に入り、吸い込まれるようにベッドに倒れ、うつ伏せで横の壁を見る。

 壁には、紗夜の写真がびっしりと貼られていた。

 大きく歪んだ写真もあれば、ピントのあった良い写真まである。

 

「紗夜…………」

 

 司は彼女の名を呟いた――――

 

『ガァアアアアアアア!!』

 

 すると突然、全身腐敗した目玉が飛び出ている人間のような怪物が、部屋の壁を突き破って入る。

 

「怪物……《リコルド》!?」

 

 司は跳ねるように立ち上がり、ディケイドライバーを渡した少女が言った怪物のと思われる名前を口にする。

 

「どうしてここに!? ――いや、今はそんな事気にしてる場合じゃない!」

 

 司はドライバーを取り出し、腰に付ける。

 

『ウゥ……オエッ!!』

 

 怪物は顔が裂けそうなほど口を大きく広げ、何かを吐き出した。

 

「ッ!?」

 

 それを見た司が片足を引く。

 怪物の吐く様にゾッとしたわけではない。正確には、それを軽く超えるとんでもないものが吐き出された。

 

 

 

 ――氷川紗夜の、頭だ。

 

 

 

 驚いた表情で固まった紗夜の顔が、目に焼き付く。

 

『オエッ!! ブェッ!!』

 

 怪物が吐き続ける。

 

 右腕――右足――左腕――左足――胴体

 

 紗夜の五体全て、怪物の口から吐き出された。

 

「紗夜…………紗夜!!」

 

 司は紗夜の体をかき集め、生首を持ち上げる。

 

「…………痛い」

「!?」

 

 紗夜が口を開いた。

 生首の状態では、まともに話せるわけがないのに。

 その理由を考えさせる間もなく、司の精神が追い込まれていく――。

 

 

 

 

「痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ピンポーン! ピンポーン!

 

 

「!?」

 

 家の呼び鈴に、意識が鮮明となった司。

 窓から昼の日差しが差している。司は無意識の内に寝ていたのだ。

 

 司は飛び起き、部屋を抜けて階段を降り、玄関へ走って扉を開ける。

 

「――退院おめでとう、司」

 

 その先にいたのは、紗夜だった。

 

「昨日はごめんなさい。本当なら家に送って行きたかったのだけれど、急用ができて――って、司?」

 

 司は目を見開かせた状態で、紗夜の体を舐め回すように両手で触り始める。

 

「司!? ちょっ、やめなさい!!」

 

 紗夜は戸惑いつつ、反射的に司を蹴り飛ばした。

 司は大の字になって倒れる。

 

「あなた、一体何を考え――はっ、ごめんなさい!」

 

 無断で体を触ってきたことを叱ろうとした紗夜であったが、病み上がりの司を蹴り飛ばしたことに気づき、慌てて彼のそばへ駆け寄る。

 

「大丈夫? 傷口開いてない?」

「…………良かった。紗夜が無事で」

「え?」

「いや、何でもない。体は大丈夫。傷口はもう完全に塞がってるから」

 

 司は立ち上がり、荷物をまとめようと自室に戻っていく。

 

「…………」

 

(たとえ怪物を倒して紗夜を戻したところで、食われた時の紗夜は苦しむ。なんとしてでも、紗夜を守らないと! せめて、奴らが現れる原因がわかれば……)

 

 

 

   ※

 

 

 

 駅前広場。

 

「…………」

 

 汚れ一つない長い黒髪に、白と黒のドレスのような服を身に纏い、男なら誰しもが一度目を留める大きな胸をした少女――白金(しろかね)燐子(りんこ)が誰かを待っていた。

 

「あこちゃん、まだ来ないな」

 

 その横に、一人の青年がドーナツを食べながら待っていた。

 黒いジャケットを着た、茶髪青年の名は操真(そうま)晴人(はると)

 ある事情で、燐子の家に居候している。

 

「そうですね……」

 

 

「――遥かいにしえの時より、我と共に戦いし魔導士とその従者よ……」

 

 

 突然、ゲームのキャラクターか何かを気取った口調の紫髪の少女が現れる。

 

「今宵 火と闇の封印が解かれし暗黒の地にて いざあいまみえん……!」

 

(……っ! キマった……!)

 

 少女がドヤ顔をみせる。

 

「こんにちは、あこちゃん」

 

 燐子が笑顔で少女を迎える。

 彼女こそが、燐子達が待っていた宇田川(うたがわ)あこ――中学三年生である。

 

「おまたせっ! りんりん! そうはる!」

 

 少女あこは先程とは異なり、中学生相応の明るさで二人に駆け寄る。

 

「やっぱりんりんの考えてくれたセリフ、かっこいいよ!」

「ありがとう……今日もかっこいいね」

「えへへっ、ありがとう!」

「俺はなーんか勿体ない気がするんだけどなぁ~」

 

 晴人があこの頭を撫でる。

 

「あこちゃんは可愛いんだから、もうちょっと可愛い服を着ても似合うと思うんだけどな」

「ふっふっふ……わかっておらぬな」

 

 あこは晴人の手をゆっくり降ろし、後ろに下がって格好いいポーズを決めようとする。

 

「我の魅力を――っいて!」

 

 しかし、後ろの通行人のギターケースにぶつかってしまう。

 

「ごめんなさい! ケース当たってしまいました?」

 

 通行人――氷川紗夜が立ち止まってあこに尋ねる。

 紗夜の隣には、司の姿もあった。

 

「あっ、全然大丈夫っ!」

「そうですか……では」

 

 紗夜は前に向き直り、先に進む。

 その後、晴人に目を向けた。

 

(あの男……どこかで見たことあるような……それに、隣にいるのは同じクラスの白金さん……?)

 

「紗夜、どうかした?」

 

 紗夜の様子が気になった司が尋ねる。

 

「いえ、何でもないわ」

 

 紗夜は顔を前に戻し、CIRCLEへ向かう。

 

「…………」

 

 一方、晴人は司の方を凝視していた。

 

(あいつ……たった一週間で完治したのか? ……ただの新人ではなさそうだな)

 

 

 

   ※

 

 

 

「おはようこざいます」

 

 CIRCLEに着いた紗夜と司。

 紗夜は受付のまりなに挨拶をした。

 

「おはよう! 紗夜ちゃん。司くん無事退院できたんだ! おめでとう!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 司は頭を下げる。

 

「今日は普段より遅かったけど、何かしてたのぉ?」

 

 まりながニヤニヤしながら聞く。

 

「…………いえ、何も」

 

 まりなの期待していることがわかっていた司であったが、本当に何もなかったので、残念そうな顔で答えた。

 

「そ、そうなのね……」

 

 司の様子に、まりなが同情するような悲しい声を出す。

 

「皆はどの部屋にいるんですか?」

 

 二人の会話に何の反応も示さなかった紗夜。

 

「『ライスカ』の皆なら、02番のスタジオにいるわ」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 紗夜はお礼を述べた後、司の手を引っ張ってスタジオに向かう。

 

「うおぉ!?」

 

 いきなり手を掴まれたことに驚いた司は、変な声を上げた。

 

「――おはようございます」

「お、おはようございます……」

 

 紗夜と司がスタジオに入る。

 

「おはよ――つ、司くん!?」

 

 マイクを持った茶髪の少女。

 最初は気を落としたような声で挨拶をしようとしたが、司の姿を見て驚き彼に駆け寄る。

 

「怪我はもう大丈夫なの!?」

「うん。大丈夫だよ、奈菜(なな)ちゃん。もう完治したって医者が言ってた」

「……っ!! 良かったぁ……!!」

 

 少女――奈菜が彼に抱きつく。

 

「!?」

 

 司は思いもよらぬ彼女の行動に驚き、目を見開く。

 

「……やめなさい、彼は病み上がりよ」

 

 紗夜はその光景に目を反らしながら、奈菜に注意する。

 

「あっ!? ごめん! 痛くなかった!?」

 

 奈菜は司から離れ、彼の身を案ずる。

 

「大丈夫。体はもう痛まないから。みんな、心配かけてごめん……」

 

 司は頭を深く下げる。奈菜だけでなく、他の少女二人に対しても。

 

「私たちは大丈夫だよ……退院おめでとう……!」

 

 紺色のツインテールをした少女――芽生(めい)が優しい表情で答える。

 

「あまり心配かけるなよ。約一名が集中できないからな」

 

 黒髪のボーイッシュな短髪をした少女――小和(こより)が苦笑を浮かべる。

 

(一名……紗夜のことかな……?)

 

 と思う司であったが――

 

「ちょ、小和! 余計なこと言わないで!」

 

 小和の言葉に顔を赤くしながら反応したのは、奈菜だった。

 

「?」

 

 司は奈菜が反応した理由がわからず、首をかしげる。

 

 

 門矢司、恋をしながらも他者から向けられる好意には気づかない、鈍感な男である。

 

 

 

 奈菜、芽生、小和の三人は、紗夜のバンド仲間である。

 奈菜がボーカル。芽生はキーボード。小和がドラム。そして、紗夜がギターを担当している。

 彼女達四人はガールズバンド『RISE(ライズ) TO(トゥ) THE() SKY(スカイ)』、略して『ライスカ』としてCIRCLEでライブを行っている。

 

(紗夜は自他共に厳しい性格だから、これまで様々なバンドから存在を阻まれてきた。その度に別バンドへと転々としてきたけど、どれも長続きしなかった。けれど、『ライスカ』は違う。もう半年も続いているんだ。きっと、上手くやっていける……きっと)

 

 司は、バンドを続ける紗夜を見てきた。……正確には、見せられ続けてきた。

 今回は大丈夫――そう思う彼であった。

 

 

 

 しかし――――――

 

 

 

 

 

「ねぇ司くん? あなたは抜けないよね? 私たちのそばにいてくれるよね?」

 

 

 

 

 司の『人生』は、またも彼に究極の選択を突きつける。

 

 

 

 




 作中に出てきた『ライスカ』というバンドは、紗夜がRoseliaに入る前にいたバンドのことです。名前は勝手ながら自分で考えてつけました。
 奈菜たち三人の名前もです。
 彼女達の容姿は漫画版を元にしました。



 まだ忙しい状態が続くので、更新が遅くなりますが、今後ともよろしくお願いします!


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第五話 指輪の魔法使い

「……よし、準備完了っと」

 

 CIRCLE内のライブ会場。

 その客席で、司はカメラの準備をしていた。

 これから、『ライスカ』のライブが始まるのだ。

 

「なぁ、次って『ライスカ』だよね?」「ってことは、あの紗夜が出てくるのか!」「可愛いし、ギターもメッチャ上手いし」「転々とするから、追いかけるの大変だぜ」

 

 彼女達のライブを待っている男達は、特に紗夜を話題に持ち上げていた。

 客席にいる半分以上の人が、『ライスカ』ではなく紗夜目当てで来ていた。その中には女性もいる。

 

「……ねぇ、『あれ』いつもいるよね?」「紗夜様のストーカー? ……きもっ」「変なカメラ持ってるし……きもっ」「顔は可愛いんだけれど…………きもっ」

 

 女性からの容赦ない罵声を浴びる司。

 

「…………」

 

 司はそれを気にせず、ライブが始まるのを待った。誰かに馬鹿にされることは、とっくの昔になれていた。

 会場が暗くなると、ステージだけがパッと明るくなる。

 ステージには、奈菜、芽生、小和、そして紗夜の四人――『ライスカ』姿があった。

 

「みんなー! 今日も来てくれてありがとう!!」

 

 センターに立つ奈菜がマイクを持って叫ぶ。それに反応して、観客が歓声をを上げる。

 

「それじゃあ早速行くよ!」

 

 『ライスカ』の演奏が始まった。

 彼女達はロック系に近い激しい演奏をしつつも、アイドルのようなピュアで可愛らしい雰囲気も出している。

 彼女達の演奏は音楽業界から言わせればお世辞にも良いと言えるものではないが、少なくとも彼女達の演奏を聞きに来た観客を楽しませることはできていた。

 そして何よりも、他の三人よりもずば抜けて上手い紗夜が目立っていた。

 

「…………」

 

 他の観客が盛り上がっている中、司は黙って彼女達を撮り続ける。

 彼女達――と言ったが、司は無意識に紗夜だけにピントを当てていく。

 

(紗夜……やっぱり大丈夫かな? なんか、楽しくなさそう……)

 

 

 

「――話にならないわ」

 

 

 

 少女の呟く声が、微かに、確かに司の耳に入った。

 司が周囲を見渡すと、右隣にいる背の低い銀髪の少女に目を留める。

 彼女は腕を組み、真剣な眼差しで『ライスカ』の演奏を聞いていた。

 

「ギターだけ上手くて、あとは話にならない。バランスが悪すぎる……」

 

(た、確かに……柔らかい雰囲気の中にガチの人がいるからね…………)

 

 少女の的確な評価に、司は自分の事で図星を突かれたような感覚に襲われる。

 

「みんな盛り上がってるね~! 次の曲行くよー!」

 

 『ライスカ』が次の演奏に入る。

 紗夜の激しいギターソロがあるのが特徴の曲だ。

 彼女のギターソロに合わせて、周囲の盛り上がりもより熱くなる。

 

「……でもあの子、あのフレーズが弾ける技術もだけど、普通に練習して身につくレベルじゃない。一体、毎日どれだけ弾いてるの……? 土台になる基礎のレベルが尋常じゃない……」

 

「……紗夜はきっと、空いた時間があれば何が何でも弾いてるよ」

 

「!?」

「あっ!?」

 

 少女の発言に、思わず司は反応してしまう。司は少女と共に驚く。

 

「ご、ごめん! 盗み聞きしてたわけじゃないけど……その……」

「……あの子の名前、『紗夜』って言うのね」

 

 目を反らす司に対し、少女は彼の方を向いて紗夜の名を確かめる。

 『ライスカ』の演奏の中、普通に会話できていることの異常性に気づかずに。

 

「う、うん……そうだけど……」

「そう……覚えておくわ」

 

 そう言うと、少女は正面に向き直る。

 

「…………」

 

 しかし、何か気になった少女は、再び司の方を向く。

 

「……あなた、どこかで会ったことあるかしら?」

「えっ……?」

 

 少女の思いもよらぬ言葉に、司は唖然とする。

 

「みんなぁ! 今日は来てくれてありがとう! また遊びに来てね!!」

 

 そんな中、『ライスカ』のライブが終わる。

 

「紗夜ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」「さいこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 観客が紗夜の名を叫び、盛大な拍手で見送った。

 

「…………」

 

 その間、何も答えられなかった司。

 

「……ごめんなさい。気のせいなら、それでいいの」

 

 そう言って、少女はその場を去って行く。

 彼女の姿を見た女子が話しかける

 

「あっ! 友希那(ゆきな)さん! この前はどうも……」

「…………」

 

 少女――友希那は女子を無視して去って行く。

 

「あれっ、行っちゃった…………話しかけたの、気づかなかったのかな?」

 

 女子が疑問を浮かべていると、その友達が友希那について話す。

 

「知らないの? 友希那って『レベルの合わない人間とは話さない』らしいよ?」

「なにそれ!? 確かにめちゃくちゃ上手くてすごいけど、ちょっと酷くない!?」

「スカウトの話もよく来るらしいし、あたし達みたいなアマチュアとは違うって思ってるんじゃない?」

 

(友希那って言うのか……どこかで聞いたことあるような――って、そろそろ皆の所へ戻らなきゃ!)

 

 司は急ぎ足で、紗夜達がいる控えスタジオへと足を運んでいく。

 

 

   ※

 

 

 『ライスカ』の演奏が終わり、別のバンドのライブが始まった頃――。

CIRCLEの屋外にあるカフェのフードコートに、あこ、晴人、燐子がいた。

 

「そうはる、いつもそのドーナツ食べてるよね?」

「あぁ、不思議とこれだけはいくら食べても飽きないんだ」

 

 あこがマカロンタワーに手をつける中、晴人は『プレーンシュガー』と呼ばれるドーナツだけを食べていた。その隣で燐子はコーヒーを飲みつつ、プレーンシュガーを食べたそうに見ていた。それを察した晴人は、紙袋から一つ取り出す。

 

「燐子ちゃんも食べる?」

「っ!? い、いえ……大丈夫です……晴人の分、なくなっちゃうから」

「気にするな。燐子ちゃんの分も考えて買ってあるから。遠慮しなくていいんだぞ」

「う、うん。それなら、いただくね……」

 

 燐子は晴人からプレーンシュガーを受け取り、幸せそうな顔で食べ始める。

 

「りんりんもそれ好きなの?」

 

 あこが尋ねると、燐子は静かに頷く。

 

「あこも食べたい!」

「そう言うと思って、ほら」

 

 晴人はあこにもプレーンシュガーを渡す。

 

「ありがとう!」

 

 あこはプレーンシュガーを頬張り、しばらくして味の感想を告げる。

 

「うーん、美味しいけど、普通のドーナツって感じだね」

「あぁ。けど、そこがいいんだ。何の変哲もないのが、一番良いことだから」

 

 晴人はまだ一口も食べていないプレーンシュガーを見ながら、そう優しく言った。

 

「あの……あこちゃん、ずっと気になってたんだけど……この音は?」

 

 燐子は、CIRCLEから漏れている音楽が気になった。

 彼女はCIRCLEがライブハウスであることを知らなかった。

 

「りんりん気づいたね!」

 

 あこは待っていたかのように目を光らせる。

 

「じゃあ、なぞなぞだよっ! このカフェの横にある建物はいったい何でしょう~?」

「おいおいそれ、なぞなぞとは言わないだろ?」

 

 あこが出した問題に、晴人はクスッと笑った。

 

「…………?」

 

 燐子は考えるも、答えを出すことができなかった。

 その様子を察したあこが、答えを出す。

 

「にひひっ、りんりんはライブハウスって知ってる?」

「ライブ……ハウス……?」

「うん! ここの横、ライブハウスなの!」

 

 あこがCIRCLEを指差しながら言った。

 

「あこ最近ライブハウス通いにハマっててね! 知る人ぞ知る自分だけのバンドを見つける……それって、すーっごくカッコよくない?」

「いいマイナーバンドを発見できるもんな。確かに悪くない」

 

 晴人がプレーンシュガーを食べながら同調した。

 

「でしょ!? でねっ、ついに見つけたの! あたしの超カッコイイ人っ!」

「そうなんだ……あこちゃん、かっこいいの……好きだもんね」

「えへへっ! だからりんりん、そうはる、ライブハウス行こ?」

「……………………………………………………え?」

 

 燐子の表情が固まった後――

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 珍しく大声を上げて慌て出す。

 

「ひ、人……あんなにたくさん…………!」

 

 CIRCLEの入り口には、長い行列ができている。それを見た燐子は顔を青ざめ、体を震わせる。

 

「大丈夫だ。俺がついて――」

 

 燐子を安心させようとした晴人。しかし、何かに足をつつかれるような感触を覚えた彼は言葉を止め、視線を落とす。

 プラモデルのような赤い小さな鳥が、くちばしで晴人の足をつついた後、どこかへ案内しようと羽ばたいていく。

 

(このタイミングでか……)

 

 晴人は燐子の耳元へ口を近づけ、あこに聞こえないよう囁く。

 

「ごめん燐子ちゃん、《リコルド》が出た」

「!?」

 

 燐子の顔が更に真っ青になる。

 

「どうしたの?」

 

 あこが不思議な顔を浮かべると、晴人は立ち上がり一度ズボンのポケットから携帯を取り出す。

 

「ごめん! 急にバイト頼まれちゃって!」

「そうなの? それじゃあ仕方ないね」

「ホントごめん! 燐子ちゃんを頼む!」

 

 晴人はこの場を走り去って行く。

 

「行かないでぇぇぇぇぇぇ……!」

 

 燐子は涙目になりながら、晴人に向けて手を伸ばすも、彼が立ち止まることはなかった。

 

「うぅ…………」

「大丈夫だよ! 人多いけどドリンクカウンターの近くなら空いてるし、りんりん騒がしいの苦手だから今日はその人の出番だけにしたの!」

「む、むり……! こわい……わたし……帰…………」

 

 心の拠り所でもある晴人がいなくなった燐子は、ただひたすら怯える。

 どうしても燐子を連れて行きたいあこは、最後の手段に土下座する。

 

「ちゃんと出演時間確認したから! ね! お願い! りんりんも聞いたら絶対ハマっちゃうから! ほんと超~カッコイイから!」

「あ、あこちゃん! 顔上げて……!」

 

 燐子の動揺が悪化していく。あこは顔を上げ、上目使いで再びお願いする。

 

「ねっ? 行こう?」

「わ、わたし…………」

 

 純粋な眼差しに、燐子は断ることができなかった。

 

 

 

   ※

 

 

 CIRCLEから少し離れた公園。

 

『ガァァァァァ!!』

 

 《リコルド》三体が、公園を本能のままに破壊していた。

 

「……訳もなく街を破壊しやがって!」

 

 赤い鳥を追ってこの現場まで辿り着いた晴人は、右手を小さな手形の付いたベルトに添える。

 

『ドライバーオン!』

 

 謎の音声と共に、ベルトの手形が晴人の手と同じくらい大きいバックルに変化した。

 晴人はバックルのバンドルを操作し、手形の向きが左手に合うようにする。

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン!! シャバドゥビタッチヘーンシーン!!』

 

 バックルから非常にやかましい音声が流れ出す。

 晴人は左手の中指に付けた赤い指輪のバイザーを降ろし、仮面の形にする。

 

「――変身」

 

 左手をバックルの手形に添え、変身する。

 

『フレイム!』

『プリーズ!』

 

 ベルトから音声と共に、晴人は左手を横に伸ばす。

 すると、左手の前に大きな赤い魔方陣が現れ、晴人の体を通過していく。

 

『ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

 

 炎に包まれるように晴人の体にライダースーツが纏われる。

 黒のロングコートに、宝石のような美しい赤色のマスクをした『仮面ライダーウィザード フレイムスタイル』へと変身を遂げた。

 

 

 

「さぁ、ショータイムだ!」

 

 

 

 



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第六話 選んだもの

お久しぶりです。
これまで更新できずに、本当にすみませんでした。
落ち着いてきたので、不定期ではありますが更新を再開します。

また、更新が止まっている間に、運営の方から『オリ主』タグをつけるように言われましたので、付けることにしました(正確には強制的に付けさせられました)
正直、性格が極端に異なるとはいえ、『門矢士』を元にしたもう一人の『カドヤツカサ』なので(作中の設定でもそうなので)、『オリジナル主人公』にするのは逆にマズいのでは…………と思いましたが、下手に逆らって作品が消されるのは嫌なので、大人しく従います。
このタグが付いたことに不満を持つ読者もいると思いますが、このような事情があるのでお許しください……


※※今回の話は、胸糞悪い要素が含まれています※※



「紗夜たち、もう戻ってるかな?」

 

 『ライスカ』のライブが終わり、司は紗夜たちと合流しようと、スタジオルームに向かって歩いていた。

 司はふと、現在時刻が気になり懐から携帯を取り出そうとする。

 

「あっ!」

 

 懐に手を入れて漁っていると、同じ懐に入れていたライドブッカーが零れ落ち、ガツンと大きな音を立てて床に落ちた。

 司は慌ててライドブッカーを拾う。

 

「傷ついてないかな……?」

 

 司はライドブッカーの隅々まで確認し、傷がついてないか確認する。

 武器である以上、戦闘を重ねれば傷つくのは避けられないものであるが、それでも不用意に傷つけたくないと司は思っていた。

 だが、一度戦闘を行ったにも関わらず、ライドブッカーには傷一つなかった。

 

「良かった……」

 

 司はペットの頭を撫でるかのように、ライドブッカーに描かれているディケイドの紋章を人差し指で触れる。

 

「――――!?」

 

 すると突然、司は謎の圧迫感に襲われ、思わず周囲を見渡す。

 周囲には誰もいない。しかし、何かが起きていることを司は感じ取る。

 

(もしかして、《リコルド》!?)

 

 司は《リコルド》が出現したことを察知した。

 確信は持てなかったが、尋常じゃない寒気と威圧は奴らの仕業としか、今の司は考えられなかった。

 

 

 ――ビビッ!! ビビッ!!

 

 

「うわっ!!」

 

 突然、ライドブッカーから耳障りな警告音が鳴り響き、司は思わず声を上げる。

 ライドブッカーを確認すると、紋章が赤紫色に光っていた。

 しばらくすると、紋章が別の物に変わっていた。

 

「……魔法、陣…………?」

 

 紋章がディケイドから、ウィザードに変わっているのだ。

 しかし、それを司が知っているわけがなかった。

 

「これは一体――――って、あれ?」

 

 気がつくと、ライドブッカーから出ていた警告音が止み、紋章も元に戻っていた。

 さらに、先ほどまでの圧迫感も嘘のように消えていた。

 

(気のせい……な気はしないけど、朝も悪夢見たしなぁ……今は変に追求しない方が良さそう)

 

 司は気にしないことにし、紗夜たちのいるスタジオの前まで歩く。

 

「!?」

 

 スタジオの目前まで歩いたところで、司は前から歩いてくる少女に目が留まった。

 『ライスカ』のライブを真剣に見ていた少女――友希那だ。

 

「あら、あなたはさっきの……」

 

 友希那も司の存在に気づき、声をかけてくる。

 

「えっと…………」

(みなと)友希那(ゆきな)。私の名前よ」

 

 司が友希那の名前を出すかどうか迷っていると、彼女の方から名前を出してくる。

 彼女の名前は知っていた司だが、盗み聞きで知った名前を出しては不審がられるのでは思ったが故の迷いだった。

 

「か、門矢司です! その……どうして友希那さんがここに?」

「どうしてって、ライブがあるからよ」

「ライブ……ライブ!? もしかして、バンドやってたりするんですか!?」

「いえ、今はソロでボーカルをしているわ。あなたこそ、バンドを組んでいたの? ここではあまり見ない顔だけれど」

「いや、俺はその…………」

 

 

「――もう無理!!」

 

 

 すぐ隣のスタジオから怒声が聞こえてくる。

 司はこの声に聞き覚えがあった。元より、声が聞こえてきたスタジオは彼が目指していたスタジオ。誰の声なのか一瞬で察しがついていた。

 

「奈菜ちゃん!? まさか…………!」

 

 嫌な予感が頭に過った司は、迷わず扉を開けて中に入る。

 

「あなたとはやっていけない!!」

 

 スタジオ内にいる、怒りを露わにした奈菜が、紗夜に対しそう言い放った。

 司が入ってきたことに、この二人の他、芽生と小和も気づいていない。

 

「……私は事実を言ってるだけよ。今の練習では先がない」

 

 一方、紗夜は冷静に言い返す。

 

「バンド全体の意識を変えないと……いくらパフォーマンスや衣装で誤魔化しても、基礎のレベルを上げなければ、後から出てきたバンドに追い抜かされるわ」

「っ!?」

 

 紗夜の正論に、奈菜の怒りが更にこみ上げてくる。

 

「でも……いくらそうでも! あなたが入ってきてから……私達まだ高校生なのに! みんな練習と課題で寝る時間もないのよ!!」

「奈菜ちゃん! 落ち着いてよ!」

 

 紗夜に迫ろうとする奈菜に、芽生は涙を目に浮かべつつ押し止める。

 

「……ねぇ紗夜」

 

 ドラム椅子に座って、一連を黙って聞いていた小和がやっと口を開く。

 紗夜は後ろを向いて小和と顔を合わせる。

 

「あなたの理想はわかる。でも……あなたには、バンドの技術以外に大切なものはないの?」

「…………」

 

 紗夜は目を逸らして考える。その視線の先に、偶然司が立っていた。

 

「司……くん…………!?」

 

 奈菜たちはやっと、司の存在に気づいた。

 

「……お、お気になさらず…………」

 

 下手に口を出したら余計悪化する。

 これまでの経験から、司はこの状況を見守ることが最善だと結論付けていた。

 司に対して紗夜は何も反応を示さず、小和が出した問いに答える。

 

「ないわ。そうでなければ、わざわざ時間と労力をかけて集まってまで、バンドなんてやらない」

「っ! ひどいよ!!」

 

 紗夜の冷酷な言葉に、奈菜が再び口を開く。

 

「私達は確かに、いつかプロをって目指して集まった! でもみんな……仲間でしょ!?」

「仲間? 馴れ合いがしたいだけなら、楽器もスタジオもライブハウスも必要ない。高校生らしくカラオケかファミレスにでも集まって、騒いでいれば充分でしょ?」

「紗夜! それは言い過ぎだ!」

 

 黙っていられなくなった司が口を挟んでくる。

 

「紗夜の言うように、上を目指すには生半端な気持ちで練習したって意味がないのはわかる。でも、一緒に演奏する仲間との関わりを、馴れ合いだって言って見限るのはおかしい! 紗夜は、技術だけに固執するロボットと演奏したいのか!?」

「ロボット…………」

「!?」

 

(今度は自分が言い過ぎた! ……けど、ここまで言わないと、紗夜は――――)

 

「……考えてもみなかったわ、最終手段として候補に入れておくわ」

「えっ…………!?」

 

 司は目を見開く。

 冗談か、はたまた本心か。真意はともあれ、紗夜の発言に司はショックを受けた。

 

「……最低!! もういい!! こんなバンド解散よ!!」

 

 怒りが頂点に達した奈菜は、自暴自棄な言葉を吐き出した。

 

「奈菜、落ち着きなって」

 

 変わらず冷静な小和が間に入る。

 

「私達がバラバラになることはないよ。この中で考え方が違うのは一人だけ…………紗夜、そうだよね?」

「!?」

 

 彼女の言葉を聞いて、動揺を見せたのは司。

 ここまで来ればこの後どうなるのか、わかり切っていたからだ。

 

「……そうね」

 

 紗夜はどうするべきか悟ったようにギターケースを肩にかけ、扉の前に立つ。

 

「私が抜けるから、あなた達はバンドを続けて。その方が、お互いの為になると思う。今までありがとう。行きましょう、司」

「え!?」

 

 紗夜は司の手を引っ張り、もう片方の手で扉を開く――――

 

「――待って」

 

 司の腕を掴み、彼と紗夜の動きを止めたのは、奈菜。

 

「……その手を放しなさい」

 

 司でなく、紗夜がそう言った。

 紗夜は奈菜を強く睨み付けている。

 

「抜けるのはあなただけ。司くんは関係ない」

 

 奈菜は強気な口調でそう告げた。

 まだ怒りの熱は冷めていないが、先ほどと違って我を忘れている様子はなかった。

 

「関係あるも何も、司は元から『ライスカ』のメンバーではないわ」

「違う! たとえ一緒に演奏したことなくても、『ライスカ』と共に時間を過ごしてきた司くんも! 大切なメンバーよ!」

「奈菜ちゃん…………」

 

 司を掴む奈菜の手が震えている。彼女の言葉が本物であることを、司は実感した。

 

「……このことに、これ以上司を巻き込まないで」

「元は紗夜の方よ! 紗夜が勝手に連れまわしてるだけでしょ! 聞いた話だと、これまで紗夜がいたバンドの練習に、必ず司くんを連れて行ってるって本人から聞いたよ!!」

「…………」

 

 紗夜が司の方に視線を送る。

気まずい司は視線を返すことができず、他所を向いた。

 奈菜に紗夜が意図のわからない連れまわしをしていることを、司は話したことがあったのだ。

 紗夜は司に何も言わず、奈菜の方に視線を向けなおす。

 

「それでも、司がここにいる意味にならないわ。だから――」

「……紗夜、ごめん。先に行っててくれないか?」

 

 司の発言に、紗夜は信じられないと言わんばかりの驚いた顔を見せる。

 

「つ、司……?」

「大丈夫。後ですぐ合流するから。少しだけ、奈菜と話をさせてほしい」

「…………っ!」

 

 紗夜は不満げな顔を浮かべた後、司を掴む手を放し、勢いよく扉を開けてスタジオを抜ける。

 その後、紗夜が誰かとぶつかる音がするが、司たちの耳には入らなかった。

 

「司くん! 残ってくれるんだね!」

 

 奈菜は喜び、目に涙を浮かべる。

 芽生と小和も安心した表情を見せた。

 

「…………」

 

 しかし、司はまだ迷っていた。

 

「司くん? 大丈夫? ねぇ司くん? あなたは抜けないよね? 私たちのそばにいてくれるよね?」

 

 暗い顔をしたままの司に、奈菜は次第に焦りが出てくる。

 司は一度深呼吸をし、奈菜たちに向けて言い放つ。

 

 

 

「ごめん…………俺は紗夜について行くことにしたよ」

 

 

 

「えっ…………」

 

 司の決断を耳にした『ライスカ』の三人は息を止める。

 

「……どうして…………どうして!?」

 

 最初に口を開いたのは奈菜。何の躊躇いもなく涙を流し、司に尋ねる。

 

「どうしてなの……司くん!?」

「……何を言ってるんだ、司?」

 

 芽生も小和も続けざまに聞いてくる。

 

「……奈菜ちゃん、芽生ちゃん、小和ちゃん。三人のことは本当に大切な友達だと思ってる。それでも…………それでも、紗夜を一人にできないから……俺は、紗夜のそばにいることに決めた」

 

 司は奈菜の手を解き、優しい表情でゆっくりと告げた。

 

「なんで……なんでよ!」

 

 しかし、納得できなかった奈菜は意地でもと司に食い付く。

 

「なんで紗夜にこだわるの!? 信じられない!!」

「……紗夜は、恩人だから。生涯孤独だったかもしれない、俺を救ってくれたから。紗夜がいたから、『ライスカ』とも出会えたんだ」

「それでも!! 司くんが無理して司くんについて行く必要はないじゃん!!」

「俺が行かなかったら……紗夜が一人になるから…………でも、約束するよ。ライブには必ず行くし、スタジオにも顔を――――」

 

 

 

「どうしてあんな女のために!?」

 

 

 

「…………」

 

 奈菜の一言――その一言が、司の意思を固めてしまう。

 奈菜自身も悪気はなかった。言うつもりもなかった。この言葉を口にし、司の表情が険しくなったのを見て我に返った奈菜は罪悪感に包まれ、怯えた表情で体を震わせ始める。

 

「……紗夜のこと、悪く思う気持ちもわかる。けど、俺は『本当の紗夜』を助けるために、支えるために、紗夜について行く。たとえ、俺の存在が……紗夜の眼中になかったとしても」

 

 司は扉の方を向き、ドアノブに手をかける。

 

「待て!! 奈菜はお前のこと――!!」

「ッ!!」

 

 小和が何か告げようとしていたが、司は耳に入らないように勢いよく扉を開け、走り去っていく。

 

 ――司自身、辛いのだ。

 自分で決めたこととはいえ、友達を捨てたのだ。

 紗夜と奈菜たちを仲直りさせて、『ライスカ』として活動を続けさせてやりたかったのが本心。だが、『今の紗夜』では到底叶いっこない幻想で、仮に『ライスカ』に残る選択をさせられたとしても、気まずい空気が続くだろう。そうなれば、今度こそ『ライスカ』は解散の道を辿る。

 

 奈菜たちとは半年間とはいえ、とても楽しくかけがえのない日々を過ごしてきた。しかしそれ以上に、紗夜との時間が司にとって大切なものだった。

 紗夜は自分の生きる意味をくれた存在。行くべき道を照らしてくれる存在。

 『今の紗夜』は出来の良い『妹』の存在に、『姉』として生きる意味を見失い、道なき道を彷徨い歩いている。

 だから今度は、自分が紗夜の道しるべになりたい。紗夜に、紗夜として生きてもらいたい。

 中学の時から、司はそう決意していた。たとえ、友達を捨てても――――紗夜を――――

 

「っ…………!!」

 

 しかし、司は本心まで非情になりきれず、奈菜たちと縁を切るようなことをした自分に嫌悪感と、まだ他の方法があったのではという後悔がこみ上げ、涙を流す。

 

「っ!? 司!?」

 

 なぜか友希那と話していた紗夜は、横を走り去る司に驚き声をかける。

 しかし、司は止まることなく、外へと走っていく。

 紗夜は司を追いかけようとする前に、友希那の方を向く。

 

「……わかりました。でも、まずは一度聴くだけです」

「いいわ、それで充分よ」

「一旦失礼します――」

 

 話し終えると同時に、紗夜は猛ダッシュで司を追いかける。

 

「…………」

 

 友希那はその姿を見送った後、自分のスタジオへ歩いていく。

 




前書きが長くなりすぎたので、書ききれなかったことをこちらに書きます。

時系列の関係上、司たちの年齢を一つ下げました(高校二年生→高校一年生)。
少しネタバレになってしまいますが、Roseliaのバンドストーリー第二章を一年の中で無理矢理詰め込む予定でしたが、他イベントの絡みがないと成立できず、一年間でそれも詰め込むのは不可能だと今更気づいたが故の変更です。
これまで読んでくださった方の混乱を招くような変更をしてしまい、すみません。
ただ、これによってこれまでの話に大きな変化は起きていないので、安心してお読みください。

活動報告でもしたように、本編のストーリー構成を見直すために、しばらく外伝の更新に専念します。
本編の方を楽しみにしてくださってる方が多いと思う中、勝手なことをしてすみません。

四月中には本編も再開したいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。



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第七話 交わる二人の仮面ライダー

※※グロ描写多めです。お読みの際はご注意ください※※


「…………」

 

 CIRCLEから少し離れた場所にある公園。

 司はベンチに座り、下を向いて考えていた。

 

(また友達を捨ててしまった……後悔はないと言ったら嘘になるけど……紗夜を支えるためには――――支えるため……?)

 

 司はやっと自分の愚かさに気づく。

 司が『ライスカ』を捨てて紗夜について行ったところで、彼女の役に立てる保証などどこにもない。

 『紗夜について行きたい』『紗夜に見捨てられたくない』という自分の欲求を、願望を満たすために友達を捨てたということに、今になって気づいたのだ。

 

(俺は最低な奴だ……本当に、最低だ……)

 

「あれ? あれ!?」

 

 子供の焦る声が聞こえる。

 司が前を向いて確認すると、砂場で遊んでいた幼い少年がオドオドと何かを探しているのが見えた。

 その様子に、すぐ近くにいた少年と同い年くらいの少女が声をかける。

 

「どうしたの?」

「ない! おかあさんのネックレスがない!?」

「もう! 外に持って歩かないようにって、なんども言ってるでしょ!?

「だって! おかあさんの『かたみ』なんだもん!」

「はぁ……しかたないわ! わたしも探すから!」

「う、うん! ありがとう!」

 

 二人は砂を掻き毟りながら、落としたネックレスを探す。

 

「…………形見」

 

 司は再び下を向き、首から下げている二眼レフカメラを手に取る。

 両親の形見である黒のカメラを、マゼンタに染めていたのだ。

 自分を変えようとして、思い切った色に染め上げたのだが、彼自身変われているような気がしていなかった。

 

「俺は…………………………」

 

 

 ――ドッ!!

 

 

 実際に音が響いたわけではない。

 このような擬音が聞こえてきそうな程の圧迫感に、司は襲われていたのだ。

 

(この感覚!? あの時と同じ!? いや、それよりも強い!)

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「!?」

 

 耳が痛くなるほどの悲鳴が前方から聞こえてくる。

 司は反射的に前を向くと、ネックレスを探していた少年が《リコルド》に食べられていた。

 恐竜のような見た目に人の腕が四本。その腕で少年の四肢を掴み、頭から食べている。

 地獄のような光景に少女は悲鳴を上げることしかできない。その彼女の声も空しく、子供の体に似合わぬ大きな両手を持つもう一体の《リコルド》が、その巨大な手で少女をバシッと叩き潰した。

 少女の血が勢いよく公園中に飛び散ると同時に、潰し損ねた右腕が吹き飛び、司の体に直撃する。

 

「《リコルド》!!」

 

 司は考える間もなく、ディケイドライバーを取り出して腰に付ける。

 なぜ《リコルド》が音沙汰なく現れたのかという疑問。少年たちを助けられなかった罪悪感を抑え、戦うことを優先させた。

 《リコルド》を倒せば、全て元に戻るからだ。

 司はディケイドライバーのハンドルを引いた後、ライドブッカーからディケイドのカードを取り出す。

 

「変身!」

 

 カードをバックルに挿入し、ハンドルを押し戻す――

 

『カメンライドォ!』

『ディケイド!』

 

 九つの幻影が司と一つになり、『仮面ライダーディケイド』へと変身を遂げた。

 

「はぁ!」

 

 司はライドブッカーを『ソードモード』に切り替え、少年を食べている《リコルド》に斬りかかる。

 

『ヴァ!?』

 

 食事を邪魔されたことに驚いた《リコルド》は口に頬張った『少年だったもの』を吐き捨て、司の攻撃をかわす。その後、四本の腕を使って司を拘束しようとする。

 司は勢いに身を任せて体を翻しつつ、《リコルド》の腕を斬り飛ばす。

 

『ヴォオオ!!』

 

 巨大な手を持つ《リコルド》が野太い声を上げながら、司を叩き飛ばそうとする。

 それに気づいた司は宙に舞った状態で《リコルド》の手に蹴りを入れる。

 

「くッ!」

 

 だが単純な力で《リコルド》に勝てないことを悟り、司はリコルドの手をバネにするように横に跳び、《リコルド》二体と距離を置く。

 

「まだだ!」

 

 司はライドブッカーを『ガンモード』に切り替え、《リコルド》二体を撃ちながら突進する。

 《リコルド》二体はライドブッカーの弾丸に一瞬怯むも、それだけで後はなんともないように、向かってくる司を迎撃しようと動く。

 司はブッカーを『ソードモード』に戻し、向かってくる恐竜型の《リコルド》の体を斬ろうとする。それに合わせて、恐竜型が四本の腕を再生してくるが――――

 

 

 

「おかあさん

     おかあさん

         おかあさん

             おかあさん」

 

 

 

「ッ…………!!」

 

 手となる部分に、それぞれ顔が生える。

 食われた少年の顔が。

 

 《リコルド》が食った『存在』から具現化されたものであるのだが、余りにもリアルで、怯えた表情の少年の顔を見た司は躊躇ってしまい、動きを止めてしまう。

 

「うぐッ!!」

 

 その隙にもう一体の《リコルド》が巨大な拳で司を殴り飛ばした。

 司の体は公園を囲っている木にぶつかり、地面に落ちる。

 

「ゴホッ……ゴホッ…………!!」

 

 司は仮面越しに吐血しつつ、フラフラと立ち上がる。

 

(敵の策にハマるな! 奴らを倒せばあの子たちは助かる……助かるはずだから!!)

 

 司は再び《リコルド》へ向かって走り出す。

 

『ヴォオ!!』

 

 子供の《リコルド》が向かってきた司を払おうと拳を横に振る。

 司は地面を蹴って高く跳び、《リコルド》の頭上からライドブッカーで斬りつけようとする。

 

 

 

『きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

 

 

「ッ!?」

 

 しかし、そう上手くいかなかった。

 子供の《リコルド》が潰した少女の悲鳴を上げてきた。 少女の何倍もの声量を、司に向けて。

 司の体は痺れ、ライドブッカーを振り下ろせなかった。

 それに対し《リコルド》は容赦なく強大な両手で、宙に浮く司の体を叩き潰す。

 

「うッ…………!!」

 

 全身に激痛が走ると同時に、司は地面に落ち、うつ伏せに倒れる。

 ライダースーツのおかげで体がペシャンコになることはなかったが、殆どの骨が粉々に砕け、もはや動ける状態ではない。

 その悲惨さはスーツにも現れ、左胴と右足以外砕け散り、変身してないも同然の姿になっている。

 

(動け……ない……もう、ダメだ……)

 

 ――どこに力を入れても、激痛が走る。

 ――意識しないと呼吸も止まる。

 

 

 

 どうすることもできない司は諦めかけていた。

 そして、トドを刺そうと、子供の《リコルド》が拳を振り下ろす――

 

 

 

 

 

 ――ギターを弾いてる私が一番輝いてるって……本当?

 

 

 

 

 

 雨に濡れた紗夜の横顔が浮かんでくる――

 

「ッ!!!」

 

 動かせないはずの司の体が動いた。

 拳が当たる直前に、体を横に転がしながらライドブッカーで弾き飛ばし、その勢いで立ち上がる。それと同時に、体に残っていたスーツも剥がれ落ちた。しかし、ディケイドライバーのレンズはまだ赤く光っており、なぜか彼はまだ変身状態を保てていた。

 目、鼻、口から血が止まる気配もなく、歯も残っている本数を数える方が早いくらい抜けてしまっている。

 

「さよ……さよ……!!」

 

 骨が砕けたことで真っ直ぐ立てず、頭もグニャグニャになっており、脳に再生不可能のダメージを負っているはず。

 それなのにも関わらず、司は立っている。

 氷川紗夜という少女の存在が、彼を超人に変貌させているのだ。

 

『ヴェア!!』

 

 二体の《リコルド》が突撃してくる。

 司はドライバーのハンドルを引き、ブッカーから、黄色のカード『ファイナルアタックライド』のカードを取り出す。

 

DANGER(デンジャー)!! DANGER(デンジャー)!!』

 

 ブッカーから謎の警告音と声が聞こえてくるが、司はそれを無視して黄色のカードをバックルに差し込み、ハンドルを戻す。

 

『ファイナルアタックライドォ!』

『ディディディディケイド!』

 

 ドライバーの音声とともに、司の目の前に巨大なカードが《リコルド》たちへ向かうように並び立つ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 司が両足に力を入れる。

 同時に、全身から青紫色の波動が放出され、片翼が生まれる。この謎の現象に司は気づいていない。

 

「がはッ!!」

 

 しかし、跳躍する前に大量の血を吐き、膝を崩す。

 現れた巨大なカードも、謎の片翼も消えた。さらに、レンズの赤い光も消え、幻影が司の体から抜ける。変身解除の合図だ。

 《リコルド》二体は容赦なく司に襲い掛かる。

 

(まだ――死ねない――――死ねない――のに――)

 

 司の意思とは関係なしに動かなくなった体。

 今度こそ、司は《リコルド》に襲われ――――

 

『グァア!!』

 

 死ぬことはなかった。

 謎の弾丸が《リコルド》の横を襲い、怯ませた。

 

「はっ!」

 

 間もなくして司の前に男が降り立ち、《リコルド》を手形の付いた剣で斬りつける。

 《リコルド》二体は後ろに吹き飛び転がる。

 

「よかった。ギリギリ間にあ――って……ない!?」

 

 黒のジャケットに、迷彩柄の入ったTシャツを着た茶髪の青年――操真晴人が後ろの司を見て焦り出す。

 

「…………!?」

 

 しかし少しずつ、微かだが司の傷が治っていくのが確認できた。

 変形していた頭も、徐々に戻りつつある。

 

(こいつ、やっぱただモンじゃないな。尚更面倒見ないとな)

 

「…………」

 

 司は驚いた表情で晴人を見つめることしかできなかった。

 

「変わらず無茶な戦い方してるみたいだな。そんなんじゃ、彼女ちゃんに迷惑かけちまうぞ。にしても、連続してこの公園に《リコルド》が現れるとはな……」

 

 晴人は説教じみたことを言いながら、右手を手形の付いたベルトに添える。

 

『ドライバーオン!』

 

 音声とともに、晴人の腰に『ウィザードライバー』が現れる。

 晴人はバックルのハンドルを操作し、手形が左手になるよう向きを変えた。

 

『シャバドゥビタッチヘーンシーン!! シャバドゥビタッチヘーンシーン!!』

 

 バックルからやかましい音声が流れ出す。

 晴人は左手の中指に付けた赤い指輪のバイザーを降ろし、仮面の形にする。

 

「――変身」

 

 左手をバックルの手形に添える。

 

『フレイム!』

『プリーズ!』

 

 その後、晴人は左手を横に伸ばす。

 左手の前に大きな赤い魔法陣が現れ、晴人の体を通過していく。

 

「!?」

 

 その魔法陣を見た司は思い出す。

 『ライドブッカー』に、同じものが浮かび上がったことを。

 

『ヒー、ヒー、ヒ―ヒーヒー!』

 

 炎に包まれるように晴人の体にライダースーツが纏われ、『仮面ライダーウィザード フレイムスタイル』へと変身を遂げた。

 

「さぁ、ショータイムだ」

 

 晴人は左手を肩の前に構え、決め台詞を吐く。

 

 

「仮面……ライダー……!? 俺の、他にも――――!?」

 

 ――ビビッ!! ビビッ!!

 

「!?」

 

 目の前の青年が仮面ライダーに変身したことに驚いていると、右手に持ったままのライドブッカーから警告音が鳴り響く。

 以前と同じものだ。

 司はライドブッカーの紋章を確認する。

 案の定、魔法陣――ウィザードの紋章が浮かび上がっていた。

 

(……ライドブッカーには、他の仮面ライダーを探知する機能があるのか?)

 

 そんなことを考えている内に、晴人が《リコルド》に向かって走り出していた。

 《リコルド》二体は立ち上がり、晴人を迎撃しようと動き出す。

 恐竜型は子供の顔を手に戻し、触手のように伸ばして晴人を掴もうとする。晴人は進みながら身を翻し、恐竜型の手をかわす。晴人は地面に足を着かせるも、勢いを殺さず再び体を回転させ、恐竜型の首に蹴りを入れる。

 恐竜型が怯んだところを、すかさず『ウィザーソードガン』と呼ばれる剣で二回斬りつける。

 

 子供型の《リコルド》が、恐竜型に夢中な晴人に襲い掛かろうと、彼の横から拳を振り下ろす。その動きを察知した晴人はスッと移動させてかわしつつ、ドライバーのハンドルを操作する。

 

『ルパッチマジックタッチゴー! ルパッチマジックタッチゴー!』

 

 相変わらずうるさい音声が鳴り響く中、晴人は右手に新たな指輪をはめ、バックルにかざす。

 

『ビッグ!』

『プリーズ!』

 

 晴人が右手を横に突き出すと、魔法陣を通じて彼の右腕が子供型の腕に負けないほど大きくなる。

 

「巨大には巨大を……ってな!」

 

 晴人は右腕を横に振り、子供型を恐竜型共々吹き飛ばす。《リコルド》たちは司の横を通過して、彼の後方に転がる。

 晴人は右手を引き、元の大きさに戻す。

 

(…………俺も、戦わないと……!)

 

 司は体を震わせつつ、振り向きながら立ち上がった。

 この時には既に、体の殆どの傷が治っていた。しかし、何故か痛みだけが引かずに残り、それが彼の動きを防いでいる。

 

「おいおい、無茶すんなって!」

 

 晴人が司の前に出て、彼を止める。

 

「てか、よく立てるな。回復力尋常じゃないとかっていうレベルじゃないぞ!? ……ともあれ、ここは俺に任せな。先輩として、手本を見せてやる」

『ヴァア!!』

 

 《リコルド》二体が立ち上がる。

 恐竜型は腕を四本から八本に増殖させ、それを伸ばして晴人たちに襲い掛かる。

 晴人は恐竜型の腕を斬りつつ体を回転させ、足に炎を纏わせ腕を蹴り燃やす。

 

(凄い……動きが大胆そうに見えるのに、無駄がない……!!)

 

 司は晴人の戦い方に見惚れていた。

 

『ガァ!!』

 

 腕に火が付いたことで恐竜型が動揺する中、晴人は『ウィザーソードガン』の手形の親指を引き、手形を開かせる。

 

『キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ! キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!』

 

 武器からもやかましい声が聞こえてくる。

 晴人は手形に握手するように左手を添える。

 

『フレイム!』

『スラッシュストライク!』

 

『ヒーヒーヒー! ヒ―ヒーヒー!』

 

 剣に炎が纏わりつく。

 

「はぁ!!」

 

 晴人は剣を振り、炎の斬撃を飛ばす。それを受けた恐竜型の体は真っ二つになりつつ炎に焼かれ、灰になって消滅する。

 

『ゴォオオオオ!!』

 

 子供型が巨大な腕を振り回しながら晴人に接近する。

 晴人は冷静にドライバーのハンドルを二回操作した後、右手に新たな指輪を付けてバックルに添える。

 

『バインド!』

『プリーズ!』

 

 すると、子供型周囲の地面に複数の魔法陣が現れ、中から鎖が飛び出して子供型を拘束した。鎖自体太くないのだが、巨大な腕をもガッチリ固定するほど頑丈なものだ。

 

『きゃあ――!!』

 

 子供型は抵抗しようと、少女の悲鳴を出してきた。

 だが、その行動を読んだ晴人は剣を投げ、子供型の喉に突き刺して声を封じた。

 

(嘘!? たった一瞬で特性を読んだっていうのか!?)

 

 晴人の素早い判断に、司は実力の差を思い知る。

 自分はまだまだ未熟であることを。今の自分では、いずれ《リコルド》に殺されると。

 

「……フィナーレだ」

 

 晴人はハンドルを二回操作し、右手に新たな指輪をつけてバックルに添えた。

 

『チョーイイネ!』

『キックストライク!』

 

『サイコー!!』

 

 晴人の足元に巨大な魔法陣が生まれると、右足に前よりも大きな炎が纏わりつく。

 晴人はロンダートからバク宙をし、浮いたまま身を翻して子供型の正面の方に向き、右足を突き出す。巨大な魔法陣が右足の前に現れ、その魔法陣ごと子供型を蹴り貫き、爆発を起こさせた。

 爆発四散した子供型は当然、再生することなく消滅した。

 

「…………」

 

 一連の戦闘を見た司は、言葉が出なくなっていた。

 《リコルド》に対し、晴人は無傷で勝利したのだから。

 戦いを終えた晴人は、一息吐く。

 

 

 

「…………フィー」

 

 

 

 




 補足(?)説明

 前話にも出てきたライドブッカーの警告音などは、オリジナルのディケイドと差別化するための設定です。
 しっかりとした理由もあるのですが、それは後々のお楽しみということで。

 また、ライドブッカーの表記なんですが、戦闘シーンでは特に多用されるためブッカーと短く表記することもあります。今後は、『RB(ライドブッカー)』という表記で略そうかなと考えています。

 ウィザードライバーの音声表記について。
 変身待機音だけ半角表記になっていますが、わざとです。
 ネタ的な意味でやっているわけではなく、この待機音だけ他よりも独特なリズムだなと思い、半角にしました。
 ……批評が多かったら戻します。

 
 今後とも、よろしくお願いします!


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第八話 問われ続ける存在意義

「!? あったぁ!!」

「よかったね!」

「うん!」

 

 公園の砂場で、少年少女が探していたネックレスを見つけ出す。

 先ほど怪物に食われた記憶も忘れて。

 

「…………」

 

 それをベンチに座っている司が安心して見守っていると同時に、劣等感に陥る。

 

(俺の力だけじゃ……あの子たちを助けることはできなかった……人助けが自分に向いていないのはわかっている。でも、それを言い訳にして戦いから逃げたくはない。きっと、俺にしかできないことがあるから、このドライバーをもらったはずなんだ!)

 

「ッ!?」

 

 突然、こめかみに鋭い激痛が走る。司は思わず身を横に逸らす。

 

「悪い、まだ痛むか?」

 

 近くの自販機で飲み物を買っていた晴人が、司の分の缶ジュースを彼のこめかみに優しく当てたのだ。しかし、傷口が完全に塞がった今もなお、痛みが治まることはなかった。

 

「はい。少しは収まりましたが……助けてくださって、ありがとうございます」

 

 司は晴人から缶ジュースを受け取る。

 

「気にすんなって」

 

 晴人は司の隣に座り、自分の缶ジュースを開けて一口飲む。

 

「……自己紹介がまだだったな。俺は晴人。操真晴人だ、よろしく」

 

 晴人は手を差し伸べ、握手を求める。

 

「……門矢、司です」

 

 司は応じ、晴人の手を握った。

 

「知ってる。確か、先週傷だらけでCIRCLEに来てたよな?」

「は、はい! どうしてそれを!?」

「あの周辺に大量の《リコルド》が発生したのを探知して来たんだが、急に《リコルド》が一斉に俺を無視して商店街の方に行ったんだ」

「商店街…………」

 

 司は初陣の時を思い出す。

 晴人を無視したのは、司の元にいた《リコルド》が呼び寄せたからであると考えた。

 

「駆けつけた時には《リコルド》は全滅。存在修復が始まって街は元通りになった。気になった俺はしばらく探索して、CIRCLEに戻ってみると傷だらけのお前を発見。名前はお前の彼女が叫んでたから、把握してるってわけ」

 

(晴人さん、紗夜を俺の恋人だと勘違いしてるみたい…………嬉しいけど)

 

「晴人さんは、その、存在修復する前の記憶も残っているんですか?」

「当然。《異端者》に選ばれた者は『存在』を外部から干渉されないらしいからな」

「い、《異端者》って……えぇ!?」

 

 《異端者》。

 その言葉が他の人の口から出ると思っていなかった司は、思わず声を荒げる。

 

「晴人さんも、《異端者》なんですか!?」

「俺が仮面ライダーであることがその証明だ。本来、この世界に仮面ライダーは存在しないらしい」

「この世界って言い方ですと、まるで他の世界があるみたいな言い方ですが……?」

「さぁな。悪い、俺も詳しいことは知らないんだ。俺にベルトを渡した『黒髪の少女』から少し話を聞いたぐらいでさ。あっ、その少女、司の彼女に似てるんだよね」

 

 そう言いながら、晴人は司の背後を指差す。

 気になった司は後ろを向く。

 

「はぁ……はぁ……!!」

 

 ギターケースを持った紗夜が、息を切らしながら司の方に走って来たのだ。

 

「紗夜!?」

 

 驚いた司は、思わず立ち上がる。

 

「司! 大丈夫!? 何があったの!?」

 

 紗夜は息を整えず、真っ先に司の両肩を掴んで尋ねた。

 

「うッ!!」

 

 両肩に痛みが走り、司の体が怯む。

 

「えっ!?」

 

 予想外の反応に紗夜の声が裏返る。

 

「ご、ごめんなさい! 痛めるつもりはなかったのに……!」

「大丈夫、君のせいじゃないから」

 

 晴人がフォローに入る。

 

「君の彼氏、凄いんだぜ? 確か――」

「司は私の彼氏じゃありません。ただの幼馴染みです」

「うぐッ!!!」

 

 精神的大ダメージを受けた司は左胸を抑え、膝を崩す。

 

「司!? ……何があったんですか!? 本当に大丈夫なんですよね!?」

 

 紗夜が晴人に強く問い詰める。

 

「落ち着いてくれ。話を続けるが、確か五人のチンピラが子犬をいじめていたのを、こいつが一人で追っ払ったんだぜ」

「子犬?」

 

 紗夜は周囲をキョロキョロと見渡す。

 

(あれは本当か確かめたいんじゃない、どんな子犬か見たいだけだ……)

 

 紗夜の行動に、司は冷静な分析をしながら立ち上がる。

 紗夜は大の犬好き。真面目な彼女に反して、犬には目がないのだ。

 

「あーすまん。子犬はどこかに逃げちまった。どこか安全な場所に行ってくれていることを願う」

「……そうですね」

 

 紗夜は晴人の作り話を疑うことなく、子犬の安全を彼とともに願った。

 

(戦いのことを簡単に隠して見せた。俺なんかよりも遥に長く戦ってきたんだろうな……)

 

「……そういえばあなた、昼過ぎに白金さんの隣にいましたよね?」

「そうだが、もしかして燐子ちゃんの友達?」

「クラスメイトです」

「そっか。よかったら仲良くしてやってくれよ。人見知りだけど、優しい子だから。俺の名は操真晴人。訳あって燐子ちゃんの家にいるから、何かあったらよろしく!」

「氷川紗夜です。司がお世話になりました」

 

 紗夜は晴人に一礼した後、司の前に立つ。

 

「司、私はこれからCIRCLEに戻らないといけないけど……」

「もう大丈夫。痛みも引いてきたから……でも、CIRCLEにまだ用事があるの?」

「えぇ、実は湊さんのライブを見ないといけないから」

「湊さん……って、まさか友希那さんのこと!?」

「あら、知り合いだったの?」

「まぁ……今日知り合ったばかりだけど」

「なら話は早いわ、行きましょう」

「う、うん! うん!?」

 

 紗夜は司の手を掴み、彼を引っ張ってCIRCLEへ向かって足を運ぶ。

 司は戸惑いつつも、彼女について行くことに。

 

(これで恋人じゃない――っていうのは無理がないか?)

 

 晴人はそう思いつつ、二人の後を追う。

 

「?」

「実は俺も、連れをCIRCLEに待たせているんだ」

「そうですか。では、一緒に行きましょう」

「おう」

 

 三人は、CIRCLEへ向かう。

 

 

   ※

 

 

 CIRCLEのライブ会場。

 客席には司たち三人が着いており、友希那のライブを待っていた。

 

「……すごい熱気だね」

「そうね……こんなにファンがいるなんて――」

 

 紗夜の肩に誰かの肩がぶつかる。

 横を向いて確認すると、パーマをかけた茶髪を一つに束ねている、いかにもギャルっぽい雰囲気を漂わせている少女がいた。

 

「あっ、ごめんなさい!」

「いえ……こちらこそ」

 

 少女は見かけによらず丁寧な声で謝り、距離を置く。

紗夜も頭を下げる。

 

「あれっ、この時間のライブを見るって聞いたんだけどなぁ……」

 

 一方、晴人は燐子たちを探すため周囲を見渡している。

 

「りんりん! こっちこっち!」

 

 すると、後方から聞きなれた声が聞こえてくる。

 ドリンクバーの近くに今しがた、あこと燐子が来たのだ。

 

「ここに居れば、押されないからね! って……り、りんりんっ!?」

「人が……たくさん…………うち……に…………帰……りた…………い」

「わわわわわ!! りんりんの顔が青い!!」

 

 大はしゃぎしているあこに対し、燐子は顔を青ざめ、体を震わせている。

 人混みが苦手な燐子の体から次第に力が抜け、後ろに倒れそうになった。

 

「っ!?」

 

 その体を、先に回り込んでいた晴人が支える。

 

「大丈夫か?」

「は、晴人さん!?」

「そうはるだ! もうバイトは終わったの?」

「まぁな。燐子ちゃん、立てるか?」

 

 晴人が尋ねると、燐子は彼の方を向き涙目で訴える。

 

「か……帰りま……しょう…………!」

「えぇ!? りんりん! ここまで来てそれはないよ!?」

「燐子ちゃん、あこちゃんのためにも今日は頑張るべきだと思うけどな」

「うぅ…………」

 

 弱気な燐子に励みを入れた晴人。

 三人の様子を、紗夜と司は見つめていた。

 

(白金さん……彼女も湊さんのファンなの? それにしても隣の子、騒がしい……)

 

「ちょっとあなた達、静かに――――」

 

 紗夜が注意しようとしたところで、友希那のライブが始まった。

 

 

 

「!?」

 

 

 

 彼女の歌声が耳に入った瞬間、紗夜は目を大きく見開き、ステージ側を振り向く。

 これまで聞いたことのないキレのある声。偽りのない感情が籠った声量。

 友希那の歌声に、聞いている全ての人が虜になる。

 

(言葉ひとつひとつが、音に乗って、情景に変わる……

 色になって、

 香りになって、

 会場が包まれていく……

 

 ――――『本物』――――

 

 やっと…………見つけた……!!)

 

 心を打たれた紗夜は拳を強く握りしめる。

 

「…………!!」

 

 司も友希那の歌に心を奪われていた。

 

(俺は素人だから、どんな風に凄いとか言葉にできない……けど、他のボーカルとは決定的に違う。感情の込め方が尋常じゃない!)

 

 友希那の歌が終わると同時に、歓声が会場全体に巻き起こり、その声はCIRCLEの外にも漏れるほどだった。

 

 

   ※

 

 

「……どうだった? 私の歌」

 

 ライブが終わり、紗夜と司は友希那のいるスタジオに訪れていた。

 

「うん! とっても良かったよ!」

「…………」

 

 司が素早く答えるも、紗夜の反応がない。

 

「紗夜?」

 

 心配そうに彼女の顔を覗きこむ司。それに応じたわけではないが、紗夜が口を開く。

 

「……何も言うことはないわ。私が今まで聴いたどの音楽よりも、あなたの歌声は素晴らしかった…………」

 

(紗夜がここまで相手を褒めるの、初めて見たかも……!)

 

 紗夜の素直な感想に、司は驚く。

 だが、更に彼を驚かせる一言が、彼女の口から放たれる。

 

 

 

「あなたと組ませてほしい」

 

 

 

「!?」

 

 司は目を見開き、息が止まる。

 そんな彼の反応を誰も気に留めず、紗夜が言葉を続ける。

 

「そして……『FUTURE(フューチャー) WORLD(ワールド) FES(フェス).』に出たい……あなたとなら、私の理想――――頂点を目指せる」

「……ええ!」

 

 紗夜の言葉を聞いた友希那は、微笑むを浮かべた。

 

「ちょちょちょッ!! ちょっと待って!?」

 

 司が体を震わせながら、声が裏返りそうになりつつも口を開いた。

 

「どうしたの? そんなに焦って」

 

 紗夜が不思議そうに司の方を見る。

 

「いやだって今! 今『組む』って!? それって、バンドのことだよね!?」

「それ以外何があるの――って……ごめんなさい。説明してなかったわね。実は、司が『ライスカ』と話をしているときに、湊さんに誘われたのよ」

「えぇ!? えぇ!?」

 

 司は動揺を更に大きくし、友希那の方に視線を向ける。

 

「紗夜の言う通り、先に誘ったのは私の方よ」

「そ、そうなんだね……!」

「……司、ひょっとして反対なの?」

 

 紗夜が不安そうに尋ねてきた。司は首を横に振る。

 

「そんなことはない! ただ、話が急だったからその……理解が追いつかなかっただけ……」

「そう、なら良かったわ」

 

 紗夜は安心したように一息吐く。

 

(……もしかして、俺が反対したら考えを改めるつもりだった!? ……いや、考え過ぎか……)

 

「――ところで、司」

 

 彼を呼んだのは友希那。

 

「ッ!? はい!」

 

 急に話しかけられたことに驚いた司は、思わず大きな声で返事をした。

 

「あなたは何か演奏できるのかしら?」

「……ごめん、何もできない……です…………」

「そうなの?」

「俺はただのカメラマンです……」

「カメラマン? 紗夜はそんなものを連れて――」

「『そんなもの』ではないわ」

 

 紗夜が割って入って来る。

 

「司は私の幼馴染みで、私とともに様々な音楽に携わってきた。ある程度音楽の知識はあるから、客観的な良いアドバイスをくれる。私が保証するわ。彼が邪魔になるようなことがあれば、私も責任を取って抜ける」

「そこまで言う!?」

 

 紗夜の過大評価に、司に変なプレッシャーがかかる。

 

「そう……紗夜がそこまで言うなら、司を連れてくることを許可するわ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとう……」

 

 頭を下げる紗夜に、司も頭を下げる。

 

「……あなたと組める事になってよかったわ。もうスタジオの予約を入れていい? 私、時間を無駄にしたくないの」

「……同感ね」

 

 友希那と紗夜がスタジオを抜ける。

 司も慌ててその後を追う。

 

「他に決まっているメンバーは?」

「いいえ、まだ誰も……ベースとドラムのリズム隊、それにキーボードは特に重要」

「あと三人も……だったら急ぎましょう。実力と向上心のあるメンバーを見つけて、少しでも練習時間を確保して――」

「最高の曲を作り、最高のコンディションでコンテストに臨まなきゃ」

「……本当に、あなたとはいい音楽が作れそう」

「そうね」

 

 意気投合し、互いに微笑み合う紗夜と友希那。

 

「…………」

 

 そんな二人を見た司は、罪悪感に呑まれ始める。

 

(紗夜が他人に微笑みを浮かべたの、久しぶりに見たかもしれない……友希那さんとなら、本当に上手く行くかもしれない……そう考えたら、俺が『ライスカ』から離れた意味は…………なかったのかもしれない……)

 

「メロディはさっき聴いてもらったものを、私の方で詰めてみるわ」

「じゃあ私は、その後のパートのベースを――」

 

 

「あのっ!」

 

 

 友希那と紗夜の目の前に、隠れていた少女がばっと現れる。

 

(この子……確か、晴人さんと一緒にいた、あこちゃん? だっけ……?)

 

 少女――あこを目にした司は、周囲を見渡してみる。

 すると、奥の扉の陰に隠れている燐子と晴人の姿が確認できた。

 燐子は飛び出したあこを見て慌てており、晴人は司がこちらを見てきたことに気づき、微笑み返す。

 

「あのっ! さっきの話って! 本当ですかっ!? 友希那――さん、バンド組むんですか!?」

 

 あこは緊張で目を回しながら友希那に尋ねた。

 

「……えぇ、その予定よ」

 

 友希那は素直に返答した。

 

「あ、あこっ! ずっと友希那さんのファンでしたっ! 憧れてますっ!! ……だ、だからお願いっ!」

 

 あこは両手を合わせ、勢いに身を任せて願いを告げる。

 

 

 

「あこも入れてっ!!」

 

 

 

 




どうも、専門学生――だった者です。
今月から晴れて社会人になりました。


紗夜の口調に関してですが、友希那と出会ったばかりの頃は敬語が安定していなかったはずなので、そちらの方に合わせました。


四月に入ったので、今後は本編の方も更新していきます。ただ、実は一次創作の新作も別サイトで投稿していきたいと考えていますので、以前よりも更新頻度は下がるかと思われます。


今後とも、よろしくお願いします!


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第九話 追い打ち

お久しぶりです。
しばらく更新できず、また本編でなく外伝を更新してしまい、すみませんでした。
今後の活動につきましては、活動報告にてお伝えしますので、そちらも見てくださると助かります。


「あこも入れてっ!!」

 

「!?」

「!?」

 

 あこの頼みに、友希那と紗夜は驚いた。

 見ず知らずの人から唐突に言われたのだから、無理もない。

 

(い、いきなり!? この子、見た感じ明らかに紗夜たちより年下なのに、思い切ってそんな!? しかも、この二人を前に!?)

 

 司も驚いていた。

 人気がありつつも他者との交流を避けているとの噂が流れている友希那。

 これまでの経験から素人を甘やかすようなことはしない紗夜。

 この二人の中に、無垢そうな少女が入ろうとしているのだ。

 

(あこ……ちゃん…………!?)

 

 あこの思いきった行動に、燐子は不安そうに彼女の様子を覗き込んでいる。

 その背後にいる晴人も、息を呑んで動向を見ていた。

 

「あこ! 世界で二番目上手いドラマーですっ! だから、あこもバンドに入れてくださいっ!!」

 

 あこは自己アピールを入れつつ、再度お願いを口にする。

 彼女の姿に、紗夜は困惑するしかなかった。

 

「ちょっとあなた!? 私たちは本気でバンドを――!」

「――遊びは他所でやって」

 

 それに対し、友希那は冷静に対処する。

 

「私は『二番』である事を自慢するような人とは組まない」

 

 友希那はあこを横切って先に進んでしまう。

 

「……失礼します」

 

 そう言って紗夜も先に進み、友希那の後を追いかける。

 

「えっと……その……ごめん!」

 

 司はあこに謝った後、紗夜の後を追う。

 入り口に差し掛かった際、晴人と燐子にも頭を下げた。

 

「……うぅ」

 

 辛辣に断られたあこは落ち込み、床に膝と両手を付ける。

 

「あこちゃん……大丈夫……!?」

 

 心配になった燐子が恐る恐る彼女に近づく。

 

「やっぱり、一筋縄じゃ行かなそうだな。あこ、元気出せって」

 

 晴人はあこに歩み寄り、彼女の肩に優しく手を乗せた。

 すると、あこはバッと立ち上がる。

 

「あこ、ぜーったいあきらめないもんっ!! 今日はダメだったけど、明日こそ……っ!」

「おう、その意気だ! 頑張れよ」

「うん! ありがとう!」

 

 元気を取り戻したあこ。

 

(本当に……大丈夫……なのかな…………?)

 

 しかし、燐子の中の不安は解消されていなかった。

 

 

   ※

 

 

「……ここ、左だから」

 

 スタジオの予約を済ませ、夜の帰路を歩いていた友希那、紗夜、司の三人。

 その十字路で、直進しようとしている紗夜と司に対し、友希那がそう告げる。

 

「また明日」

「お疲れさまです」

「ま、また明日!」

 

 友希那が左に曲がり、二人から離れていく。

 二人は彼女を見送った後、先に進み始める。

 

「……司、体の方は大丈夫なの?」

「うん。今はもう、何ともないかな」

「そう。良かったわ…………それにしても驚いたわ。あなたが不良に立ち向かう度胸があったなんて」

「ま、まぁね……」

 

 司は目を横に反らす。

 それが嘘であることの罪悪感もあったが、紗夜から腰抜けだと言われた気がして心を痛めていた。

 決して、紗夜がそんな思いで言ったわけではないのだが。

 

「紗夜の方も、こんなに早くバンドが組む相手が見つかって驚いたよ! しかも、今までに比べたらいい感じじゃない?」

「そうね……湊さんとなら、上手くいきそうね」

「…………」

「司?」

 

 落ち込んだように下を向き始めた司に、心配になった紗夜が顔を覗かせる。

 

「あっ、いや、その…………俺、紗夜についてって良かったのかなって……」

「一度もダメと言った覚えはないわよ。そんな風に考えないで」

「それでも、『ライスカ』の皆に……もう……」

「……司」

「?」

 

 

「私は…………あなたがついてきてくれて、本当に嬉しく思っているわ」

 

 

「えっ……!?」

 

 紗夜の言葉に、司は思わず顔を赤くした。

 

「あなたがいなかったら……私がギターを弾いている意味がないもの……」

「えっ……」

 

 しかし、続けざまに放たれた言葉に、司の顔が一気に青ざめる。

 

 今まさに、『ギターへの固執』が『門矢司』にあると、本人の口から放たれたのだ。

 

「あなたがいるから、私も頑張れる。これからも、よろしくお願いします」

「う、うん…………」

 

 司は複雑な感情に呑まれる。

 紗夜の言葉は、司にとってまるで告白を受けたかのような嬉しいものだった。しかし、同時に自分が紗夜をギターに依存させている、ギターのため身を粉にしようとしている事実を本人の口から聞き、司の嫌な予感が確信に変わってしまい、素直に喜べなかった。

 

「…………」

「…………」

 

 司が口を止めると共に、紗夜との会話が止まってしまう。

 すると、紗夜たち氷川家が住む大型マンションを横切ろうとしているのを司が確認した。

 

「紗夜、もう家に着いたけれど……」

 

 司に言われた紗夜は足を止め、反対隣を向いて確認する。

 綺麗な長方形をしたマンション。そこに紗夜が家族とともに住んでいるのは確かだが、彼女は何故かマンションへ向かおうとしなかった。

 

「そうね、でも司を送っていくから大丈夫よ」

「えぇ!? いや、大丈夫だよ!?」

「また倒れられたりしたら困るわ」

「本当にもう大丈夫だから! むしろ、紗夜を一人にする方が心配だよ!」

「……ふふっ、そう」

 

 紗夜が嬉しそうに微笑みを浮かべ、マンションの方に体を向ける。

 

「心配してくれるのね。でも、自分の身も心配した方がいいと思うわ」

「そこは……なんとかしてみるよ」

「お願いするわ。それじゃ、また明日」

「うん、またね!」

 

 紗夜は司に手を振りながら、マンションの中に入っていく。

 司も紗夜の姿が見えなくなるまで、手を振り返した。

 

「…………」

 

 司は暗い顔を浮かべて手を下ろし、自宅へと歩いて行った。

 

 

   ※

 

 

 翌日――月曜日

 

「はぁ……」

 

 高校の教室にて、司は自分の机に突っ伏していた。

 

 司は、『初霜高校』という学校に通っている。

 公立の普通の学校で、共学である。

 紗夜は花咲川女子学園という女子校に通っているため、学校は別々となっている。

 ちなみに彼女の妹――日菜はまた別の羽丘女子学園という学校に通っている。

 

「大丈夫かい? 司」

 

 疲れを見せている司に、大樹が話しかけてくる。

 彼も司と同じ学校に通っていた。本当は日菜と同じ学校に通いたかったそうなのだが、どうあがいても女子校には入れないため、司と同じ学校に通うことにしたのだ。

 

「うん、まぁね……」

 

 そう言ってみせるも、間もなく司はあくびを漏らした。

 

「お義姉さんに振り回されているのかい?」

「紗夜のこと? 別に振り回されてるって言うわけじゃないけど……ていうか、その呼び方やめた方がいいんじゃないの?」

「何を言っているんだ? 僕と日菜が結婚するのは確定事項さ」

「よくポジティブでいられるね……」

「そういう司も、お義姉さんと上手くいってるんじゃない?」

「……いや……その……」

「?」

 

 

「俺は……紗夜のそばにいない方が、いいのかもしれない……」

 

 

「な、何を言ってるんだい!?」

 

 司の弱気な発言に、大樹は驚愕する。

 弱気なのはいつもの事なのだが、紗夜に対する想いが強いことを大樹は知っているからだ。

 

「これまであんなにウキウキとお義姉さんの話をしていたのに!? なにか、喧嘩でも――いや、その程度で壊れる関係とは思えない……」

 

 大樹は自分なりに考えて答えを探している。

 

「喧嘩とかしたわけじゃないんだ……ただ――」

 

 司が説明しようとした瞬間、彼の全身に強い寒気を感じた。

 《リコルド》が出現したことを、彼は瞬時に察する。

 

(このタイミングで!? 学校があるけど……いや、そんなこと気にしてる場合じゃない!)

 

「うっ…………」

 

 司はその場から離れる口実を作ろうと、腹痛を起こした体にしてお腹を抑え始める。

 

「司!?」

「だ、大丈夫……ちょっとお腹を壊しただけだから!」

 

 そう言って、司は教室を走り去った。

 

 

   ※

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 司は学校を出て、街を走っている。

 花咲川女子学園のある方角へ、直感的にそちらの方に《リコルド》がいると感じ、ひたすら走っていた。

 

 ――ビビッ!! ビビッ!!

 

 ライドブッカーから音が出る。

 司は走りながらライドブッカーを取り出して表面を見ると、ウィザードの紋章が浮かび上がっていた。

 

(晴人さんが先に行って戦ってるに違いない!)

 

 そう思っていると、付近で銃撃音が聞こえた。

 司は音がした住宅街の方へ走っていく。

 

「フィー…………」

 

 人気のない空き地に辿り着く。

 しかし、司が来た時にはもう晴人が《リコルド》を倒しきっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

「あっ、来たんだ」

 

 変身を解いた晴人が司の存在に気づき、彼に近づく。

 

「学校あるだろ? 無理して来る必要はないんだぞ」

「そう、ですよね……ただ、晴人さんにも『仕事』があると思いますから、俺も駆けつけますよ」

「仕事? 《リコルド》退治のことか?」

「えっ?」

 

 思いもよらぬ晴人の返答に、司は戸惑う。

 

「いえ、それとは別で……何かしてませんか?」

「んー、それ以外特に何もしてないが……」

「…………わ、わかりました」

 

 司は悟ってしまう。

 

 

 ――操真晴人が、無職であることを。

 

 

「? よくわからないが、学校ある日は俺に任せろ。昔から一人でやってきたんだ、心配すんな」

「は、はい……」

 

 司は複雑な気持ちを持ったまま、学校へ戻ることにした。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 一連の流れを、大樹は陰で見ていた。

 



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