Fate/Apocrypha×仮面ライダーオーズ 日野映司の物語 (バーラ18)
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プロローグ

えー、皆様どうも始めまして。
今回ハーメルン初投稿となります、バーラ18と申します。
前々からこのオーズの小説を書いてみたかったので、このサイトを始めました!
初心者なので色々間違いがあると思いますが、少しずつ直していきますのでご容赦ください。





それは到底戦いと呼べるものではなかった。

数は5対1、それは一方的な虐殺であった。

 

 

「ぐああああ!」

拳で霊核を皮鎧ごと貫かれた槍兵は断末魔をあげながら地面に崩れ落ちた。

闇夜の森の中で繰り広げられた戦い。

今それが終わりを迎えようとしていた。

「ばかな!5対1だぞ!なぜこっちが追い詰められているんだ!」

全身に中世風の騎士甲冑を纏った剣士はそう叫ばずにはいられなかった。

しかし悲しいかな、その問いに答えてくれる者はもうこの世にはいない。

正真正銘、剣士は5騎いた英霊の最後の一人となってしまった。

ふと月の光が闇を裂き、剣士の周りを照す。

そこにはついさっきまで仲間だったモノが散乱していた。

 

 

みずからの魂とも言える弓を傍らに残し、上半身をどこかへなくした弓兵。

愛用の槍を無残にも2つ折られ、心臓を穿たれた槍兵。

木の枝に吊るされ、身体を袈裟切りにされた魔術師。

黒いローブでしか判別することができないほど滅多打ちにされた暗殺者。

これぞまさしく死屍累々だった。

最後に残った最優を誇る剣士も鎧があちこちへこんでおり、愛用の剣は酷く刃こぼれ、いまにも折れそうであった。

 

 

彼らの名誉のために言っておくと、集まったこの5騎は決して弱いわけではない。

各騎それなりの功績を修め、幾多の修羅場を巡った英雄である。

ただ相性が悪すぎた、それだけなのことだったのだ

 

「くそお!なぜ攻撃が効かない!お前は一体何なんだぁ!」

剣士は目の前にいる怪物に問わずにはいられなかった。

なぜコイツは英霊を圧倒するほどの力を誇るのか、なぜコイツは我々を狩ろうとするのか。

そしてなぜ我々の切り札が通じないのか。

だが、怪物は何も答えない。

ただ剣士に向かって緑色の複眼を妖しげに光らすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、確かに引き受けたぜ」

仕事の依頼を受け、前金替わりに受け取った子ヒュドラのホルマリン漬けを抱えたフリーランスの魔術師、獅子劫界離は悠々と部屋を後にしようとした。

しかし

「待て、最後にもう一つ用事がある」

獅子劫を呼び戻したのは仕事の依頼主である時計塔、召喚科学部長ロッコ・ベルフェバンだった。

「なんだよ爺さん、まさか他に注意事項を伝え忘れたわけじゃないだろうな?」

獅子劫は訝しげな顔をした。

「なあに、これは依頼とは関係ないことだ、少しお主の意見を聞きたいことがあっての」

ベルフェバンはヒョヒョヒョと笑って獅子劫にソファーに座りなおしてもらうように促した。

「で、なんなんだよ、俺に意見を聞きたい事ってのは」

「これじゃよ」

彼は机の引き出しから数枚の書類を取り出し、魔術を使って獅子劫の手に誘導した。

「なんだこれ?」

「まあ、読んでみるといい」

受け取った書類に獅子劫は目を通し始める。

始めはただ流すように眺めていたが、途中からバッと食い入るように読み始める、その額には一筋の冷汗が流れている。

「爺さん.......これはデタラメな情報じゃないよな?」

時計塔の情報網を彼は決して疑っているわけではない。

だが、そこには獅子劫はもちろん、他の魔術師にとっても到底信じられない内容が綴られていた。

「ああ、すべてはその書類の通りだ」

ベルフェバンは渋い顔をして頷いた。

「だからって5騎のサーヴァントが何者かに全滅させられた、なんて信じられるかよ.......」

獅子劫が納得できないのも無理はない。

基本原則、いや絶対に一般人はおろか魔術師でさえもサーヴァントには逆立ちしても太刀打ちできない、それが今の魔術師達の間での常識だ。

そう、この事件は世界の理から大きく逸脱した出来事だった。

「このような出来事は二年ほど前から起きておる、最もこの儂を含めて誰も信じようとはしなかったがな。」

「念のため聞いて置くが他のサーヴァントの仕業じゃないよな?」

ベルフェバンは首を振った

「残念だがその可能性は薄い、事後処理を行った時に周囲にこびりついた魔力の残滓を計測したが、その亜種聖杯戦争に参加した魔術師とそのサーヴァント以外に反応はなかった」

獅子劫は深く唸る、この事件がサーヴァントの手によるものなら大分わかりやすかったのだが、と彼は思ったが現実にはそうはいかないみたいだ。

仮にサーヴァントも仕業だったとしても5騎を同時に相手どれる力をもつ者はそうそういない。

ならばいったい誰がこれを可能にするのか?

フリーランスで活動している獅子劫であっても全く思い浮かばなかった。

「そういえばサーヴァントは全滅した言ってたがマスターの方はどうだった?同じく皆殺しにされたのか?」

「いや、マスターは全員無事ではある、しかし全員重症だ、命に別状はないが魔術師としての再起は不可能だろう」

サーヴァントは殺して魔術師は生かす、犯人像を思い浮かべようとしたが謎は深まるばかりだった。

「ダメだ、どんな奴かまるで見当がつかない、爺さん、他に分かることはないのか?例えばそいつがどんな武器を使っていたかとか」

武器が分かればもしかしたら心当たりがあるかも知れない、獅子劫はそこに望みを賭けた。

「手がかりになるかは分らんが、奴の付けた破壊痕はどれも人間離れしておった、よほどの破壊力のある得物を使っていたのかもしれんな」

「人間離れした破壊痕て・・・・それだったら魔獣・・・いや、サーヴァントを相手にできるのは神獣くらいなもんか・・・」

「まあ、考えても仕様がないことだ。問題は・・・・・・」

「そいつは必ずこの聖杯戦争に参加してくる・・・・と言いたいんだろ?爺さん」

獅子劫の答えにベルフェバンは頷く。

「うむ、今回の聖杯戦争は亜種聖杯戦争と比べて召喚される英雄はどれも別格だ、やつが来たとしても問題なく鎮圧できるじゃろう、しかし油断はするな」

それは獅子劫も賛成だった。

正体が何であれ、英霊をも屠る怪物である、用心するに越したことはないだろう。

「分かっているさ、爺さん、何なら追加の報酬でそいつも倒してやるぜ」

「まあ、可能なら構わんが・・・・あくまで仕事はこの聖杯戦争で勝利することだ。それを忘れるな」

ベルフェバンは獅子劫にそう釘を刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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出発と怒りと決意

何とか、2話目が書けました!


日本の東京に位置する鴻上ファウンデーションの本社ビル、その最上階の部屋で一人の男性が鼻歌を交えながら、とある作業に熱中していた。

 

 

派手な赤色の背広の上からエプロンを付け、左手にはボール、右手には泡だて器を握り、慣れた手つきで生地をかき混ぜている。

 

 

「会長、日野さんをお連れ致しました」

ノックとともに、一人の女性が入室する。

「里中君、入れてあげたまえ」

男がそう言うと女性は一礼してから扉の向こうへ消える。

 

 

少しの時間の後、今度は一人の青年が部屋に入ってきた。

「よく来てくれた日野君!」

「お久しぶりです、鴻上さん」

男は満面の笑みで青年を歓迎する。

それに応えるように、青年も、静かに笑顔を作る。

 

 

「日野君、アフリカでの亜種聖杯戦争が終わった直後で申し訳ないが、早速ルーマニアに向かってくれ」

元の厳めしい顔に戻った鴻上は青年にそう告げた。

 

 

「ええ・・・分かってますよ、そのために早く戻ってきましたから」

「ということは・・・・今回の事情も理解しているようだ」

日野は少し顔を険しくして頷く。

 

 

「はい・・・・ユグドミレニアによる魔術協会への宣戦布告。それに伴う時計塔とのかつてない規模の聖杯戦争がルーマニアで行われようとしていますね」

「それは違う日野君、これは単なる亜種聖杯戦争ではない、もはや大戦だ」

 

 

日野はさらに表情を険しくさせる

「分かっています。今回の聖杯大戦・・・・多かれ少なかれルーマニアはかなりの被害を負うでしょうね・・・・・・」

日野は唇を噛み締める。

 

 

像が蟻を踏みつぶさず道を歩くのは不可能であるように、魔術協会がどのような処置を行ったとしても人外同士で行われる聖杯戦争では必ず土地にも人にも被害が及ぶ。

魔術協会が社会への被害を食い止めるのも、一般市民の命を惜しんでいるわけではなく、ただ自分達の神秘が暴かれるのを恐れているだけだからだ。

 

 

「深刻なのはそれだけではない、なんと今回の聖杯大戦、“ルーラー”が召喚されるそうだ。」

「確か聖杯戦争を調停するクラスでしたっけ」

「そう、そしてルーラーが召喚されるということは聖杯を悪用される可能性が理論上成立したということだ」

「散々被害をもたらした上、さらに悲劇をおこそうというのか・・・・・・・!」

 

 

青年は声を荒げ、己の心にドス黒い感情を流し込む。

凄まじい怒気で周りの空気が冷えつく、鴻上は涼しい顔をしているが近くに控えていた秘書は思わず身じろぎをする。

 

 

そんな日野をなだめるように鴻上は青年の肩に手を置く。

「日野君、落ち着きたまえ、今回の敵は強力だ。冷静にならなければ我々に勝利はない」

青年はそう諭され、怒りを鎮める。

 

 

「すみません、少し熱くなりました」

「忘れないでくれ日野君、君の目的は罪のない人々のために戦うのであり、決して復讐というつまらないもののためではないのだ」

「はい・・・・もうあんな悲劇は起こさせません・・・!」

日野はそう決意する、その眼差しには固い決意が込められていた。

 

 

 

 

 

 



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記憶と嵐の前の静けさと旅立ち

お待たせしました!
今回で3話目になります。



雲一つとない空の下、一組の母子が手をつないで歩いていた。

 

いつもは曇りの天気が多く、陰鬱としたこのロンドンも今日に限っては妙に解放性があった。

 

巨大な塔が見えてくる位置にくると母親は自分の子供を腕に抱きあげた。

 

「ほらご覧映司、あれがこのロンドンでも有名な時計塔よ」

「わぁ、大きいねえ!すごいすごい!」

いかにも子供らしい感想を述べる。

後に憎悪し、嫌悪する対象になることを子供はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・・・・・・」

 

大分懐かしい夢を見た。

まだ自分の人生が黄金に輝いていた時期、その最後の思い出だ。

 

ベッドの脇にある時計を見る、針はもうすぐ午前9時になる位置にあった。

 

「いけない、里中さんと空港で待ち合わせしてるんだった」

青年は汗で濡れたシャツを脱ぎ捨て外出用のカジュアルな服に着替える。

 

ホテルの部屋を出る前に黒色の物体とメダルの入ったホルダーを鞄に入れる。

そして、派手な柄の予備のパンツをポケットにしまった。

 

 

「遅れてすみません里中さん、ちょっと寝坊しちゃって・・・・・・」

「気にしないでください、ご飯奢ってもらいましたし、どうせこの後観光するつもりでしたから」

 

そう言って、彼女はロールキャベツを口いっぱいに頬張る。

テーブルの脇には皿の山が築かれていた。

鴻上ファウンデーションから多額の報酬をもらっているとはいえ、懐を心配したほうが良さそうだと日野は内心苦笑した。

 

「日野さんは何か食べないんですか?もうお昼を回ってますよ?」

その問いに日野はビクッとした。

「い・・いえ、今日は遅めの朝食を取ったので後で頂きます」

里中は一瞬日野の様子に疑問は感じたものの深くは追及しなかった。

 

「それでは日野さん・・・・・・気を付けて下さいね・・・・」

「はい・・・・必ず生きて帰ってきますよ」

 

その言葉を最後に日野は彼女を見送る、最後の言葉は鴻上の秘書としてではなく、里中個人のものだったかもしれない。

 

心を込めた彼女の言葉に対し、自分は嘘をついてしまったと日野は内心深く反省した。

 

(さすがに・・・・・今回は厳しいかな・・・。)

今まで、自分が生き残ってこれたのもただ単に敵が弱かった上に、運がついていたというのも大きい。

 

今回の敵は一人ひとりが強力だ、もう自身の幸運に頼るのには限界を感じていた。

 

ふと、空を見上げる、分厚い黒灰色の雲に覆われた空は“今にも泣きだしそうな”という表現が相応しかった。

 

道路の脇に停めていたライドベンダーに跨る。

ひとまず、ユグドミレニアの本拠地があるトゥリファスへ向かう、そこで戦いの火蓋が切られるはずだ。

 

ヘルメットをしっかり被って覚悟を決める、そうだ、もう引き返せない、せめてこの選択が間違いではなかったと胸を張って言えるよう努力するしかない。

 

死地に向かってバイクを走りださせる、最初から戻るつもりはない、引き返すならこんな無謀なことはせず日本で平和に暮らしている。

 

あの絶望の日から目を背けるのはやめようと決意したのは他ならぬ自分自身なのだ。

 




3話を読んでいただいて大変感謝です!
次は恐らく、戦闘回となりますので、お楽しみに!


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始まりと怪物と対立

更新が大分遅れて申し訳ありませんでした!
ここからはペースを戻していくのでお許しください。


トランシルヴァニア高速道、トゥリファスへ通じる唯一の国道ですでに最初の戦いが始まっていた。

 

神槍と聖剣がぶつかり合い、火花を散らす。

両者とも強大な力を持つ者どうし、衝突によって周りの道路はすでに原型を留めることは叶わず瓦礫の山と化していた。

 

決着は未だつかず、互いの身体に傷だけが増えていく。

それでもなお、二人は戦いをやめない。

この殺し合う瞬間こそが唯一の目的であり存在意義。

なぜなら彼らは英霊、戦い続けた果てにその身を朽ちさせた求道者にして大狂人。

第二の生を得て現界したこの瞬間でも、その信仰を変えることは決してないのだ。

このまま両者は夜明け前まで一切の邪魔が入ることなく打ち合いを続けることになろう。

 

―これにある例外が乱入しなければの話ではあるが

赤のランサーと黒のセイバーが間合いを詰めるために両者同時に踏み込んだその瞬間―

黄色に輝く大量の光弾が2騎に向かって容赦なく降り注いだ。

煙が舞い上がりあたりに立ち込める。

 

あまりにも突然の出来事に黒のセイバーのマスターであるゴルドとルーラーは一瞬判断が遅れた。

「何者です!姿を現しなさい!」

「せ、正々堂々の戦いに横槍を加えるなど恥を知れ!このゴルド・ムジークが相手をしてやる!」

大声を上げるも、内心ルーラーとゴルドは少し焦っていた。

 

なぜなら通常のサーヴァントの数十倍の知覚力を持つ彼女は、アサシンのサーヴァントは愚か通常の魔術師の気配さえも看破する。

しかし、さっきの攻撃を行った何者かはルーラーと魔術師の索敵、人払いの結界さえも潜り抜けて誰にも気づかれることもなくここまで接近したのだ。

一瞬でも気を抜けば次にどんな攻撃が来るか分からない。

この場にいる全員と、この状況を傍観する者達も最大限の警戒を行う。

だがその必要はなさそうであった。

 

「ここはトゥリファスへ繋がる唯一の国道、貴重な物資や医薬品を輸送するための道路はここしかない。それを・・・・・よくもこんな瓦礫の山にしてくれたな!ここを破壊されたら一体どれくらいの人々が困るかわからないのか‼」

尋常ならざる怒りに満ちた声、その声の主は瓦礫の頂上に立っていた。

「なっ・・・・!」

あまりの常識からかけ離れた姿にルーラーは言葉を失う。

聖杯から与えられる知識でもあのような怪物に関するものは与えられなかった。

その姿はまさしく異形、全身を黒色で包んだかと思えば、顔は赤、身体は黄色、足は緑と普通は考えられない配色だった。

異形の戦士の右手には黒と青が混ざった剣、左手にはなにやら銃のようなものが握られていた。

 

「ほう、何かと思えばこれはまた奇妙な乱入者だな。」

煙の向こうから何事もなかったかのように赤のランサーと黒のセイバーが表れる。

今の攻撃は完全に命中したはずだ、しかし2騎とも全くの無傷であった。

(クソッ、対英霊用に改造したバースバスターが全く効かないか・・・・予想してたとはいえ今回の英霊は間違いなく一流ばかりだ。)

内心、異形の怪物は歯噛みする。

戦いを止めるために奇襲をかけたはいいものの、このままでは一流のスペックを誇るサーヴァント3騎と戦わねばならなくなる。

 

(切り札を切るか・・・・いや、まだこんな前哨戦で使っては後がない、どうするか・・・・.)

「ルーラー、どうやら我々の戦いの前にあの怪物を協力して倒すことが先決のようだな。」

異形の怪物は右手の剣を構える。

「いいえ、赤のランサー、貴方は黒のセイバーとの戦闘を再開してください。あの部外者は私が相手をします」

「了解したルーラー、お互いの戦いの後にお前の命をもらうとする。」

「構いません。黒のセイバー、貴方もそれでよろしいですか?」

黒のセイバーは無言で頷く、特に不満はないという表情だった。

「ルーラー、この怪物が恐らく・・・・」

「英霊殺し・・・・ですね、私も噂で聞きましたが、このような存在は初めて目にしました。」

「不祥ながら、このゴルド・ムジークも援護致します。魔術師としても奴の存在は許すことはできません!」

「ハッ、何が許せんだ。根源というくだらん目的のために罪もない命を粗末にするお前たち魔術師こそ俺は許さん!」

怪物の言葉にゴルドルフは顔を真っ赤にする。

それも当然だ、魔術師にとって根源の到達は何を犠牲にしても優先すべき崇高な義務である。

それを“くだらない”の一言で一蹴するのはすべての魔術師の存在意義を侮辱するに等しい。

「ふ、ふざけおって!根源の到達こそが我々、いや全魔術師の悲願だぞ‼それをくだらんだと!貴様何を言っているのか分かって―」

「もういい、耳障りだ」

怪物の左手に握られていた黒い銃が火を噴く。

さきほどと同じ黄色の光弾が今度はゴルドに向けられる。

赤のランサーと黒のセイバーは無傷だったが、普通の魔術師ではただではすまない。

 

「マスターッ‼」

寡黙を維持していた黒のセイバーも思わず叫ぶ。

しかし、攻撃がゴルドに命中する瞬間ルーラーが彼の前に割り入り、旗を回転させ、光弾をすべて弾いた。

 

「あなたにどんな事情があるにすれ、この聖杯大戦において土俵に上がる資格を持つのは赤と黒のマスター達とそのサーヴァントだけです。これ以上の狼藉を行うなら、あなたがなんであれこの場で討ち滅ぼします」

毅然とした態度でルーラーは怪物に警告する。

「サーヴァントによる無関係な人間への被害を食い止めてくれるならできるだけ最後に殺したかったが・・・・どうやら今倒す他ないようだな」

怪物は一歩も引く様子はない、左手に持っていた銃を後ろに投げ捨て、両手で弓を引き絞るように剣を構える。

「私は誰の味方でもありません。ただこの聖杯大戦を司るのみです」

すでに、赤のランサーと黒のセイバーは戦闘を再開している。

怪物はかれらを止めるためにも目の前のルーラーを早急に撃破しなければならなくなった。

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
戦闘回とはいったものの本格的に入れなくて申し訳ありません!
しかし、次は本当の戦闘回なのでどうぞ楽しみしてください!


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英霊と怪物と攻防

というわけで今回は本格的な戦闘回です。
あんまり場面が変わらないかもしれませんがお許し下さい。


「ッシ!」

掛け声と同時に怪物は前へと踏み込む。

地面を踏み台にし、自慢の脚力で怪物は一瞬にして距離を詰める

 

(速い!)

いつのまにか怪物の剣先が彼女の目の前にまで迫っていた。

怪物の予想外の速さにルーラーは一瞬判断が遅れてしまう。

 

戦闘において、一瞬の隙は決して看過できるものではない。

しかし、だからといってこれで勝負が決まると考えているのなら早計である。

今回呼び出されたルーラーはこの聖杯大戦を司る一流のサーヴァントだ。

それゆえ違反を行ったサーヴァントに粛清を行える戦闘力がなければ話にならないのだ。

 

(けど、捉えられないスピードではない!)

判断が遅れたため回避はあきらめ、旗を使って剣先の軌道を自分の身体からずらした。

怪物の放った突きは虚しく大気を貫く。

攻撃を受け流され怪物はそのままルーラーの後ろへ流される。

ルーラーは怪物の背中に向けて旗を垂直に振り下ろした。

怪物は身体を急反転させ攻撃を剣で受け止める。

だが、予想以上の重いひと振りに怪物は思わず右片膝をつく。

(重い!このサーヴァント、筋力はおそらくB以上だ!)

間髪いれずルーラーの蹴りが怪物の頭部に飛んでくる。

怪物は上体を大きくのけぞらせてかわし、そのままバク転で後方へと下がる。

状況は振りだしに戻った。

 

「少々驚かされましたが・・・・今の攻防であなたの動きは分かりました。次は必ず仕留めます」

「へえ、そうかい、やってみな」

ルーラーの挑発に怪物は怯みもしない、その余裕は蛮勇によるものではなく、確かな根拠が存在している。

(筋力も敏捷も技も彼女がすべて上・・・確かにこの形態では勝てないな)

怪物は自分と彼女の性能差を冷静に判断する。

(ならばここで切り札を切るか?いや、まだこんな序盤で使用してしまうと相手にただ有利な情報を与えるだけだ。)

 

「ハア!」

代わって今度はルーラーが先手をとる。

ルーラーの振るう旗が怪物を地面ごと薙ぎ払おうと襲い掛かる。

さきほどの攻防で怪物は学習したのか旗を正面からは受けとめず、上に跳躍して回避する。

そして地面に落下する勢いに任せて両手で握った刃を叩きつける。

ルーラーは正面から剣を受けた。

怪物とは違って彼女は自慢の筋力で攻撃を防ぎきる。

そのまま鍔迫り合いに持ち込むも怪物の目の前からルーラーの姿が一瞬にして消える。

怪物が背後の気配に気付いた時にはすでにルーラーの旗は自身の身体に叩きつけられる寸前だった。

 

この距離ではもう回避も剣での防御も間に合わない。

怪物は右手を剣の柄から離し、手甲に内蔵されていた鉤爪を展開し、紙一重でガードする。

左手の鉤爪も展開し、剣を捨て、切り上げた。

ルーラーは鉤爪を真後ろに跳躍してかわす。

ただ、完全に回避することはできず、鉤爪はルーラーの服を掠め、数センチの切り傷を与えた。

 

状況は再度振りだしに戻る。

始まったばかりの戦いは決着が付かない泥沼と化した。

 

 

 

 







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中断と謎と正体

お待たせしました。
少し投稿が遅くなって申し訳ありません。


その後も戦いは続き、気づけば空が完全な闇から、うす暗いダークブルーへと変わっていた。

 

先に戦闘を中断したのは黒のセイバーと赤のランサーだった。

「このままでは、日が昇るまで打ち合うことになるな。俺ではそれでも構わんが、そちらはどうだ。お前のマスターはうんざりしているようだが」

マスターに言葉を封じられている黒のセイバーはわずかな逡巡を切って捨てて、口を開く。

 

「願わくは、次こそは貴公と心ゆくまで戦いたいものだ」

「ああ、オレは実に運が良い。黒のセイバー、初戦にお前と打ち合えた幸運を心から感謝しよう」

黒のセイバーの言葉に赤のランサーは掛け値なしの称賛を送る。

二人の間には戦士としての絆があった。

その濃密な雰囲気につれられるように、いつの間にか怪物とルーラーも戦闘をやめていた。

 

「では、さらばだ。黒のセイバーよ」

赤のランサーはたちまちの内に、その身を霊体と化して消えていく。

 

そして空は、薄紫色に染まりだしていた。

「夜が明けます。あなたがサーヴァントでなくても日が出ている間の戦闘は何があろうと許しません。大人しく降伏を・・・・・」

そう言って振り返ると異形の怪物の姿はどこにも存在しなかった。

 

「まあ、いいでしょう」

聖杯大戦はまだ始まったばっかりに過ぎない。

戦いが続く限り彼は現れるだろう、倒すのはいつでもできるはずだ。

ルーラーはそう気分を切り替える。

(ただ・・・・・、あの程度の実力でどうやって英霊を屠ったのでしょうか・・・?)

疑問を抱きつつも、ルーラーは黒のセイバーとそのマスターの所へ真っすぐ歩きだした。

 

 

 

トゥリファス郊外にある森林、その中でも特に大きな大樹の幹に異形の怪物は背中を預け座り込んだ。

 

「さすが一流のサーヴァント・・・おそらくアレは大分手加減されていたな・・・」

怪物はさきほどの戦闘を思い出し、冷静に分析した。

 

ルーラーは怪物に対して“討ち取る”とは言ったものの、一晩かけてもとどめを刺すに至らなかった。

仮に本気を出していたなら、怪物は三合と持たなかっただろう。

 

「やはり気づかれたかな・・・・俺が人間であることに」

怪物は自分の腰に巻いてあるベルトに手を伸ばし・・・・三枚のメダルのようなものが入ったバックルの部分を斜めから真横に戻した。

 

みるみるうちに怪物の面影が消え、一人の青年に変わる。

その青年の顔は疲労と極度の緊張の余韻で苦痛に歪んでいた。

青年の名は日野映司、彼こそが、今の魔術世界を騒がしている“英霊殺し”の張本人であった。

 

時間をかけて息を整え、余裕を取り戻した上で再度さきほどの戦闘を分析する。

(今回は手加減していたルーラーが相手だったからこそ、互角に戦えていた。だがもし・・・あのセイバーとランサーが相手だったらおそらく・・・・・。)

日野映司が今まで戦ってきた英霊の中であのセイバーとランサーの2騎はもはや別格だった。

 

さきほどの戦闘で確認した英霊とは別に、赤と黒の両陣営にはまだ姿を見せていない一流のサーヴァントを多く存在している。

 

対して、日野映司はまさに孤立無援の状態だった。

赤と黒、どちらかの陣営に所属しているわけでもなく、時計塔やユグドミレニアといった魔術師達の味方でもない。

 

むしろ魔術師は彼にとって英霊と同じく殲滅すべき敵である。

そのためこのルーマニアにおいて彼の味方というものは存在しない。

一応、日野映司を支援している組織はあるものの、戦いに直接参加することはない。

 

これには2つ理由がある。

1つ目は魔術協会に勘づかれる恐れがあるのと、2つ目は魔術師や英霊と戦う手段を持っているのが日野映司を置いて他にいないからである。

 

しかし、日野映司は一人で戦う事を心苦しく思うことはない。

誰もこんな不毛な戦いに巻き込みたくはないし、元々自分は天涯孤独のようなものだ。

体力が回復し、戦闘の余韻からも解放された日野映司はあらかじめ停めておいたトライベンダーに跨り、森の中の獣道を真っすぐ走り出した。

 

 

 



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警戒と紛争と村



更新が遅れて大変申し訳ございません!
そのため今回は少し多めにしてみました。
今回の話はほとんどが回想となります。
回想が進んでいくごとに日野映司がオーズになる過程がはっきりするでしょう。



「して・・・・・あの慮外者について貴様らは何を感じた?」

 

ユグドミレニアの本拠地である古い古城。

その奥にある玉座に座すサーヴァントは自分の家臣達に対して意見を求めた。

 

「私めから申しますと・・・・・あれを英霊と呼ぶにはいささか脆弱といえます。」

 

玉座の傍に立っていた1人の魔術師が誰よりも最初に口を開いた。

その魔術師こそが今回の聖杯大戦を引き起こした張本人、名はダーニック・プレストーン・ユグドミレニアである。

「一理あるなダーニック、確かにあの程度ならバーサーカはおろか、ライダーでも勝てるだろう。」

 

異形の怪物はルーラーを相手に一晩なんとか渡り合うことに成功した。

しかし、それはルーラーがあからさまに手を抜いていたからであり、本来なら一瞬で勝負がついていた。

 

もちろん、この玉座の間に集うすべてのマスターとサーヴァントがそれに気づいていないはずがない。

その上で、全員が疑問なのは「なぜ今まで怪物は英霊を屠ることができたのか?」ということだ。

 

「大賢者よ、そなたはどう感じた」

 

ランサーが次に意見を求めたのは黒の陣営のアーチャー、真名はケイローンである。

 

「そうですね、いくら亜種聖杯戦争の型落ちした英霊でもあれに勝利することは容易です。そう考えると・・・・・恐らく何かしらの切り札があるかと思われます。警戒は続けるべきかと」

 

ギリシャ神話において様々な英雄を育てあげた彼の分析は非常に論理的であり、的確であった。

 

「よかろう・・・・キャスター、さらに監視用のゴーレムを増産し、あの慮外者を探し出せ」

「了解したランサー」

 

ランサーに命令を受けた黒のキャスターは無感情に受諾した。

 

 

「エイジ!こっちも頼む!」

「分かりました!」

 

砲弾で破壊された建物の残骸を担ぎながらも、俺は張りのある声で返事をした。

政府軍とゲリラ軍の両陣地に挟まれているこの村はいつどちらの軍勢に攻め込まれてもおかしくはなかった。

 

今のところ被害がでたのは一部ではあるものの、村人の不安は募るばかりであった。

村人総出で被害の修復に努めるものの、人手が全く足りておらずまるで間に合っていない。

2か月前までは他の国のボランティアがいたが、紛争が激しくなるにつれ、徐々に帰国して

いった。

 

「よしみんな!今日の仕事はこれで終わりにしよう!」

 

村の村長さんの掛け声で村人は片づけを始める

 

「ふー、今日はこんなもんか」

 

夕暮れも近くなってきたので俺もシャベルなどの工具を納屋へ片づけにいく。

納屋からでると村長の息子さんがやってきた。

 

「エイジ!今日もお疲れ!」

「お疲れ様です!橋の方はどうでしたか?」

「いや・・・・・思いのほか被害が大きくてな・・・一度取り壊して作り直さないとダメだ」

 

晴れ晴れとした笑顔がトレードマークである彼も今回ばかりは顔を曇らせた

 

「そうですか・・・・確かあそこの川は流れが早すぎてボートで渡るのは無理でしたっけ?」

「ああ・・・・輸送車には悪いが2日かけて回り道してもらおう・・・・その間は俺たちで何とか食つなぐしかない・・・・」

 

2人は会話をしながら村人達の様子を眺める。

彼らは表面上では明るく振舞っているものの、不安な表情が時折出ていた。

 

「エイジ!」

 

後ろから声をかけられ振り向くと俺の上半身めがけて1人の少女が突っ込んできて、そのまま押し倒された。

 

「いててて・・・・・」

「エイジ!エイジ!見てみて!今日ねとってもいいものを見つけたの!」

 

少女が持ってきたそれは、葉っぱと実がついているオリーブの枝だった。

「オリーブか・・・確か平和の象徴だったね」

「うん!これを村に飾ればきっと争いも終わるよ!」

 

村が危機的状況に陥っているのにも関わらず希望を持ち続ける少女の姿に俺は不意に涙が出そうになった。

 

「こらエルパ、エイジが困っているだろう退いてあげなさい」

 

この少女は村長の息子の一人娘である。

 

「はーい、パパ」

「それじゃあエイジまた明日も頼むな、帰るぞエルパ」

「うん!じゃあねエイジ!」

「気を付けてね」

 

エルパを担ぎ上げ村長の息子は帰路につく、二人の姿が見えなくなるまで俺は手を振り続けた。

気が付くと、完全に日は落ち辺りは真っ暗な闇に包まれていた。

 

「せめて子供だけ達でも何とかできてばいいのだがな・・・・」

 

いつの間にか俺の隣には村長が立っていた

 

「大丈夫ですよ!きっと紛争も今に終わります!俺もそれまでこの村にいますから!」

 

俺は自分にも村長にも言い聞かせるように励ました。

 

「なあエイジ、もうこの村に残っている外国人はお前だけだ。悪いことは言わん・・・・・日本政府もとっくに避難勧告を出しとるだろう・・・・お前にも家族がいるはずだ・・・・日本へ戻りなさい。」

「村長・・・・・それは・・・・・・・!」

「まだこの村が終わると確定したわけではない。しかし・・・・・最悪の事は考えて何の関係もないお前だけはせめて・・・・・・・。」

 

村長の瞳から光がなくなり始めていた。

 

「俺もこの村の一員です!最後まで頑張らせて下さい!」

「そうか・・・・そうじゃな!じゃあ明日も必死に働いてもらうぞ!エイジ!」

 

(良かった・・・・・元気を取り戻してくれたか・・・・)

 

心からの叫びが効いたのか村長の瞳にまた光が戻ってきた。

 

「あっ!村長見てください!今日は星がよく・・・・・・あっ」

 

遠くの森の中から2つの光が放たれた。

その2つの光は天高く飛んでいくと、パッと弾け、一瞬だけ闇夜を照らした。

 

「政府軍の照明弾じゃな」

「照明弾を撃ってきたのは3日ぶりですね、一応村人の皆さんに注意を呼びかけましょうか」

「そうじゃな、明日からまた気を付けて作業をしてもらって・・・・・いかん‼エイジ!」

 

村長が必死の形相で俺の後ろにある空を指さした

 

「え?どうしたんで・・・・・・」

 

そう言って後ろを振り向く。

満天の夜空から大量の青い星のようなものが俺たちに向かって容赦なく降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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想定外と森林と狂戦士

大変長らくお待たせいたしました。



ルーマニアの昼下がり、トゥリファス郊外の草原にテントを張っていた映司はゴリラカンドロイドの警告音でたたき起こされた。

 

「クソッ!一体あいつらは何を考えているんだ!」

 

ゴリラカンドロイドはサーヴァントが実体化し、大きく移動した場合に警告音を出す設定にしており、この他にも日野映司は数種類のカンドロイドを鴻上ファウンデーションから貸し出されている。

 

聖杯大戦が始まる前、映司はさらに追加のカンドロイドをキャリーケース一台分ほど里中から受け取っており、そのほとんどをルーマニア全土に放っていた。

 

そのためルーマニアのどこかで何か不審なことがあれば遠隔通信で日野映司の手持ちのカンドロイドに情報が一瞬で送られてくのである。

 

今現在移動中のサーヴァントを追跡しているタカカンドロイドからの情報によると。どうやら森を突っ切って真っすぐ黒の陣営の本拠地に向かっているようだ。

 

「この単細胞っぷりから見るにおそらくバーサーカだな・・・・マスターと仲違いでもしたのか?いずれにせよあのイデアル森林には猟師やたくさんの人が出入りしている、急いで止めないと!」

 

最低限の荷物を引っ掴み、テントを飛び出し、ヘルメットを着ける間も惜しみライドベンダーを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その男は筋肉(マッスル)だった

バーサーカと鉢合わせしてしまった老猟師は後に彼をそう表現した。

 

「あっ・・・・・あっ・・・・・・」

 

鹿を追ってこの森に入った老猟師はその巨大な姿と不気味な笑みに圧倒され言葉も出ない。

 

数十年間生きてきた中で最大の危機だと自分の直感が告げている。

 

しかし、逃げようにも攻撃しようにも身体が全く動かないし、動けない。

 

両手に握られたライフルも効かないだろうし、逃げても追いつかれる自信があった。

 

まさしく絶体絶命、自分の人生は今ここで終わるのだと悟り、老猟師は目をつぶった。

 

「セイヤアアアアアッ!」

 

聞こえたのは自分の肉が潰れる音ではなく、バイクのエンジン音と若い男の叫びと物と物が強烈にぶつかったような音だった。

 

次に目をあけるとそこにいたのはバイクに跨った異形の怪物だった。

 

その姿には異質さが目立つが、どこか神々しく、また頼もしくも感じられた。

 

「今の内です!早く逃げてください!」

 

怪物は老猟師に向かって振り返ると必死な様子で叫んだ。

 

怪物の心からの叫びに老猟師はようやく自分を取り戻し、多少おぼつきながらも森林の外に向かって一目散に走りだした。

 

怪物は赤のバーサーカが吹っ飛んだ方向に向き直る。

 

やがて奥から地響きのような足音と共に赤のバーサーカは戻ってきた。

 

「フハハハハハ!残念だったな圧政者よ!あの程度の攻撃では吾輩の歩みは止められぬのだよ!」

 

怪物にとって今のライドベンダーの体当たりがまともに通じるとは考えていなかった。

 

怪物はバイクから降りるとルーラーの時と同じように剣を構える。

 

「お前・・・・・バーサーカだな?この聖杯大戦において日の出ている内に戦闘を行おうとするのは禁止されているはずだ!」

 

昼間にサーヴァントが実体化していることに対してはまだ目をつぶるとしても、こんな昼間に敵の本拠地に攻め入るのは一般市民への被害、および神秘の秘匿という観点からも明らかにルール違反だった。

 

「フハハハハハ!圧政者を駆逐するのに昼も夜も関係ないのである!」

 

(ああ、こりゃまた大分頭のネジが飛んだバーサーカだな)

 

怪物を激戦を予想し、剣を握る手に力をこめ、全神経を集中させた。

 

 

 





いかがでしたでしょうか?
次の話はスパルタクス戦になります。

ここからは日野映司の回想をどんどん出していく予定です。


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ピンチと切り札と重力コンボ

お待たせいたしました。

今回が初のコンボのお披露目となります。



「わが愛によって塵になるがいい!」

振り下ろされたバーサーカの大剣を怪物は跳躍して何とか躱す。

 

「セイヤアッ!」

 

お返しと言わんばかりに怪物は自慢の蹴りをバーサーカの顔面にお見舞いする。

 

「フハハハハ!その程度か圧政者よ!」

「ぐっ!何!」

 

バーサーカは怪物の蹴りをもろに食らったはずが、血の一滴も流さず不気味な笑みを浮か

べながら怪物の足を潰れんばかりに左手で握った。

 

「ではこちらの番である!」

 

バーサーカは怪物の足を掴んだまま周囲の地面に何度も何度も叩きつけ終いに近くの巨木に向かって投げ飛ばした。

怪物の身体は巨木の幹をへし折り、さらに後ろへと飛ばされ、岩に叩きつけられた。

 

(あっ・・・・・・・ぐう・・・・まずい・・・・・、ルーラーはまだか・・・・・)

 

昼に戦闘はあきらかにルール違反なのでルーラーが全力で駆けつけてくるはずではある。

さらにバーサーカは自制を行わず全力全開で戦闘を行うクラスであるかつ、怪物が森林にやって来るまでずっと実体化していたので本来ならばもう魔力切れになってもおかしくはないと怪物は計算していた。

 

しかし、ルーラーがやってくる気配はなく、バーサーカも魔力切れで疲労が出てくるはずなのに未だ不気味な笑みを浮かべながらこちらへ近づいてくる。

 

(やるしか・・・・ないか・・・・バーサーカは絶対に手加減はしてこない・・・・・)

 

怪物は切り札を一枚切ることを決意した。

 

(ラトラーター・・・・・いやこいつは攻撃をスキルか宝具で吸収している・・・・・タイマンな状況かつ一瞬で決めるには・・・・)

 

「ハハハハハ!何とも脆いな、圧政者よ!」

 

バーサーカは敵を痛めつけて満足したのか余裕の足取りで怪物に向かって歩を進めていく。

 

(ッ・・・・!今だ!)

怪物は瞬時にベルトのバックルを真横に戻しメダルを全部抜く。

 

そして今度は白銀に輝く3枚のメダルをベルトに差し込む。

 

怪物は立ち上がりながら再度バックルを斜めに倒し、ベルトの右に取り付けられた黒色の物体を右手に握り、ベルトのバックルに沿って勢いよく滑らせた。

 

『サイ!ゴリラ!ゾウ!サッゴーゾ・・・・・サッゴーゾ‼』

 

怪物のベルトから声と、そして重厚そうな音楽が森林に響き渡る、同時に身体にも変化が表れた。

 

体色は赤、黄、緑から全身白一色となり、複眼は緑から赤に、頭にはサイを思わせる大きな一本角、両腕はゴリラのように太く、足はゾウのような重みを漂わせていた。

 

「ほう・・・・?さらなる圧政を私に敷こうというのか、いいだろう!わが身を以てその傲慢を打ち砕こう!」

 

さすがのバーサーカも怪物の変化に気づき、即座に大剣を振りかぶった。

 

刹那―――――怪物の剛腕から繰り出されたストレートパンチがバーサーカの顔面をとらえ、さきほどとは逆にバーサーカが大きく吹き飛ばされ岩に叩きつけられた。

 

「第2ラウンドだ、バーサーカ」

 

状況は完全に逆転した。

 

 




いかがでしたでしょうか?

戦闘はまだまだ続きます。
楽しみにして下さい。


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2戦目と2騎と2回目

大変遅れて、申し訳ありませんでした!
今回は少し多めにかいてます。


「オオオオオオ‼圧政者よ!」

「お前はそれしか言えんのか!この脳筋!」

 

岩から身体を引きはがしたバーサーカは懲りずに真正面から怪物に向かってくる。

 

「ハア!」

 

怪物はゴリラのドラミングのように自分の胸を両腕で連打する。

すると怪物とバーサーカの間に斥力が発生した。

 

怪物が胸を叩く度にバーサーカの身体は徐々に空中へと浮かんでいく。

 

「ヌウウウウウ!これしきのことお!」

 

バーサーカは空中で必死にもがくも身動きを取ることができない。

 

怪物はバーサーカが空中に浮いたまま能力を解除し、そのまま地面へ突き落した。

 

怪物の猛攻はまだ止まらない、力に任せた打撃のコンビネーションを打ち込み、最後は足の重量キックを命中させバーサーカを大きく突き飛ばした。

 

「中々やるな圧政者よ!たがしかあし!私の肉体は打ちつけば打ちつけるほどより鉄のように強くなるのだ‼‼」

 

バーサーカの言葉通り、彼の身体はさっきまで怪物の猛攻で血だらけだったはずだが、いつのまにか血は止まり、さらに肉体のサイズがさっきよりも大幅に増えていた。

 

「そうか・・・・ならここで決める‼」

 

『スキャニングチャージ‼』

 

怪物は黒色の物体をもう一度バックルに滑らせると、周りの木片や岩がバーサーカに一気に集中し、拘束する。

 

「オオオオオオ‼」

 

雄叫びを上げて瓦礫を引きはがそうとするが怪物の能力が強いためびくともしない。

 

怪物は両足をピッタリそろえ空中へ飛びあがり、そしてそのまま両足を地面に叩きつけた。

 

怪物が地面に着地すると同時に重力圏内に入ったバーサーカはそのまま地面に埋め込まれ、大地を割りながら怪物の間合いへ引き寄せられる。

 

バーサーカを一撃で必ず仕留めるため怪物はメダルのエネルギーを両腕の拳と頭の角に最大限に集中させた。

 

「セイヤアッ!」

 

バーサーカが間合いに入ると同時に、銀色に強く発光した拳と角をバーサーカに向けて繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、さすがにまずいか」

 

 

 

その瞬間―――――怪物の身体は一本の矢によって大きく吹き飛ばされた。

 

「ぐわああああああ!」

(な、何だ!いきなり森の中から・・・・!)

 

 

「バーサーカ!ここは私達に任せて汝は要塞へ向かえ!」

 

「おお!感謝するぞアーチャーよ!圧政者を倒した暁には共に凱歌を叫ぼうぞ!フハハハハ!」

 

バーサーカはわき目も振らず要塞に向かって走りだした。

 

「あっ・・・・クソ!まてえ!」

 

怪物は慌てて追いかけるも森の中から矢が飛んできて進行を妨害した。

 

(後ろかっ!それも2騎!)

 

矢の飛んできた方向で敵の位置と人数を瞬時に把握した怪物は振り返りざまに両腕のパーツを後ろの森にめがけて撃ち出した。

 

「残念・・・こっちだぜ」

 

怪物の己の背後に今まで感じたことのない尋常ならざる殺気を感じた。

 

「ウワアアアアアア!」

 

反射的に怪物は裏拳を放つもそこに敵の姿はなかった。

 

「ノロマめ、こっちと言ってんだろ‼」

(なっ・・・・・・!)

 

思考する間もなく怪物の脇腹に蹴りが命中した。

 

「はッ、英霊殺しと聞いて期待してみたがこれはとんだ期待はずれだなあ。」

 

ダメージで震える身体を起こす怪物に向かって、そのサーヴァントは挑発とも取れる言葉を放った。

 

怪物は今の攻撃で目の前のサーヴァントがどれほどの英雄であるのかを感じ取れた。

 

(今まで、サーヴァントと戦ってきたから分かる・・・このサーヴァントは黒のセイバー、赤のランサーと同格だ・・・・・!)

 

さらに後ろの森に隠れているもう一騎のサーヴァントも非常に厄介な存在である。

 

(大英雄ほどの殺気はないが、今にも俺を射抜かんとする眼光、そして正確無比な射撃、これは非常にまずい・・・・。)

 

どちらか一騎なら逃げる方法を考えていたが、瞬間移動に匹敵する速度を誇る英雄、針の目を易々と通すような弓の腕を持つ弓兵が同時に襲い掛かってくる、もはや逃走は不可能だ。

 

(今度こそラトラーターか・・・・いや森の木々が邪魔だ、ここはこいつでいくしかない・・・。)

 

怪物は姿を変える時と同じようにバックルの部分を真横に戻し、メダルをすべて抜き取っていく。

 

「気を付けろ!ライダー、さらに何かくるぞ。」

 

森の中から声がした。

警告をしてるだけで矢を放たないのは彼らの余裕の表れである。

 

(ライダーでこの強さか・・・・相当な大英雄とみた、アーチャーは言わずもがな、セイバーもおそらく相当な実力者だろう・・・・。)

 

ライダークラスは基本的に乗り物か馬に乗った状態で戦闘を行う。

騎乗せずに戦闘行為を行うことはライダーのサーヴァントにとって大きなアドバンテージを失うに等しい。

それを放棄してもなお、圧倒的な実力をこのライダーは持っていた。

 

「はっ、心配いらねえよ姐さん、アンタは他のサーヴァントの警戒をしててくれ。」

 

ライダーは自分一騎のみで怪物を制すと宣言した。

 

さらに怪物が次の力を解放するまで待つつもりである。

 

その間に怪物はメダルをすべて入れ替え、バックルを斜めに倒し黒色の物体を滑らせた。

 

『クワガタ!カマキリ!バッタ!ガ~タガタガタ・キリッバ・ガタキリバッ!』

 

怪物は2回目の形態変化を完了する。

戦いはまだ終わらない。

 

 




いかがでしたでしょうか?
怪物がこのムリゲーコンビに勝てるかどうかは次回のお楽しみに!


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大英雄と瞬足と最強コンボ

今回は比較的早く更新することができました。



「ハアッ!」

 

怪物のクワガタを模した頭部から緑色の電撃を辺りにまき散らす。

 

「へえ!姿が変われば攻撃も変わるんだな!」

 

そう感心しながらライダーは自慢の俊足で怪物の攻撃範囲から距離を取る。

 

その隙を見逃さず怪物は後ろの森に跳躍する。

 

「ハッ!逃がさねえよ!」

 

ライダーは怪物の後ろ姿を追う。

 

怪物が形態を変えたとはいえ、敏捷の差は未だライダーが大きく優位である。

 

そのまま距離を詰め怪物の後ろ姿に槍を突き立てる。

 

しかし、槍を突き立てる寸前、左方から現れたもう一体の怪物(・・・・・・・)がライダーに斬りかかる。

 

槍で攻撃を受け止めたライダーは空中で一回転し回し蹴りを放ち怪物を彼方へと飛ばす。

 

「なるほど、分身か・・・・ならばこうだな・・・。」

 

ライダーは怪物の能力を把握するともう一体の怪物の追跡を中止し、開けた場所の真ん中に降り立った。

 

「さあ来いよ、俺の身体にその刃を叩きつけてみろ!」

 

ライダーは槍を構えず両手を広げ自分の身体を無防備にさらした。

 

その隙を逃さず森の中から一斉に20体の怪物が飛び出し、ライダーの身体に、カマキリの鎌のような刃で斬りかかった。

 

ある怪物は頸動脈に、ある怪物は脛に、ある怪物は脇腹に、と20体すべての怪物が人体の急所に刃を突き立てた。

 

人体の急所はサーヴァントにとって霊核がある位置でもある。

 

普通のサーヴァントならここで勝負ありである・・・。

 

普通のサーヴァント(・・・・・・・・・)ならの話だが・・・・・・

 

「はっ、やはりテメエは俺の身体を傷つけるに値しねえみたいだな。」

(なっ・・・・・・刃が・・・・。)

 

怪物達の刃は肉や骨はおろかライダーの皮膚さえも切り裂いてはいなかった。

 

この硬さは鎧のような守りではなく、攻撃そのものに対する明確な拒絶に近い。

 

いずれにしろ、このような形で攻撃が効かなかったのは怪物にとって初めての体験であった。

 

(くっ・・・・ならば次の攻撃を!)

「隙だらけだぜ!英霊殺しッ‼」

 

怪物達が次の攻撃を繰り出す前にライダーが自前の槍を全方向に回転させ切り裂いていく。

 

みるみるうちに怪物の分身は消え去り、最後に残った怪物は吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 

(ああああああああああっ!!!!!!!いたいたいたいたちあちあいたたいあつえちたうえいえたあ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“!!!!!!!!!!)

 

「痛い」という言葉さえもが可愛く思えるほどの苦痛が怪物に襲い掛かる。

 

怪物のこの形態は分身を多数出現させ敵を蹂躙することができる。

 

しかも、一体一体の分身はパワーダウンせず、そのままのスペックで戦える。

 

だが強すぎる力には代償が付くように、この能力にも弱点が存在する。

 

そのまま自分自身のコピーを作る以上、一体一体が受けるダメージもそのまま返ってくるのだ。

 

先ほどのライダーが放った全方向の槍の回転斬りは20体すべての分身をズタズタに切り裂き消滅させた。

 

分身が1つ消えるほどのダメージ、その20体分(・・・・・)を怪物はその身に受けなければならなかった。

 

「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”!!!!!!あ“あ”あ“あ”ッ‼‼」

 

怪物は絶叫し地面にのたうち回る。

 

全身を切り裂かれる痛みは常人にとって想像を絶するものである。

 

しかし、怪物はその姿をまだ人間に戻してはない。

 

それは“戦える”“まだ戦う”という無言の意志でった。

 

「なるほど・・・・テメエの分身のダメージはそのままそっくり返って来るんだな」

 

ライダーはのたうち回る怪物を片足で押さえつけ槍を構える。

 

「あ“あ”あ“あ”あ“あ”‼」

 

痛みに悶えながらも怪物はライダーの足を殴りつける、しかし先ほど同様全く効いている気配はなかった。

 

「悪いが・・・・・とどめだ。」

 

ライダーの槍の切っ先が怪物の喉元に直進する。

 

絶体絶命、しかし怪物に状況を打開する力は残ってはいなかった。

 




いかがでしたでしょうか?

もう少しこの小説の更新ペースをあげることができたら前々から書いていたもう一つの小説を新たに投稿しようかなと思ってます。

次回もお楽しみに!


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誓いと地獄と覚醒

少し調子の良いので投稿ペースを上げることができました。
もう少しすれば新しい仮面ライダーシリーズの小説を出したいです。

それではどうぞ!


「悪いが・・・・・とどめだ。」

 

ライダーの槍が怪物の喉を捉える。

 

「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“!」

 

怪物は“まだ負けてない”と言うようにライダーの足を何度も何度も殴りつける。

 

怪物の喉を押さえつけているライダーの足の力が想像以上に強く、このままでは槍が喉を貫通する前に意識がなくなりそうであった。

 

(ダメ・・・・・・・だ・・・・・・、まだ、まだ・・・・どこにも届いていないのに・・・・)

 

怪物の心の叫びも虚しく意識は徐々に暗転していく。

 

(結局・・・・無力なままだったなあ・・・・オレ)

 

怪物が最後に浮かんだ言葉は命乞いではなくただただ己の無力への嘆きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エルパちゃんはさ、紛争が終わって大きくなったら何がしたい?」

 

夕暮れ時、日野映司は村への道を少女と手を繋ぎながら歩いていた。

 

彼女の遊び場は歩いていくと村から少し遠い、なので暇つぶしにそんな他愛のない話題を振ってみた。

 

「そうだね!他の子たちはお金持ちとかスポーツ選手になりたいと言ってるけど、エルパはやっぱり村でお母さんになっておばあちゃんになりたい!」

 

「そうなんだ、うん、エルパちゃんならきっとなれるよ。」

 

確かにその願いは大きい夢ではないかもしれない、しかし映司にとっては一番しっくりくるものであった。

 

そんな誰しもが望むささやかな幸せ、それを守るために自分は世界中を旅しているのだと改めて気づく。

 

「エイジのお母さんは二ホンにいるの?」

 

その遠慮のない問いに映司は本当の事を伝えるか頭を悩ませる、しかし今は彼女と二人きりなので真実を伝えることにした。

 

「もういないよ・・・・・エルパのお母さんと同じように悪い奴らに殺されちゃったんだ。」

 

ショックを受けたエルパはうつむきながら目に涙を浮かべる。

 

「ご、ごめんさい、エイジのお母さんがヘータイに殺されたなんて知らなかったから・・・・・。」

 

“こりゃ失敗したな”とエイジは心の底から深く反省する。

 

いくら心の強い彼女でも誰かの悲しい過去を受け流せるほどには成長していないのだと映司は身をもってしった。

 

本当ならここでこの話題は中止するべきではあるが、映司はひとつ訂正しなければならないことがあった。

 

「違うんだよ・・・エルパちゃん、俺の母さんは兵隊に殺されたんじゃない、もっと、もっと、ずっと悪い奴ら(・・・・・・・・・・・・・・)に殺されたんだ・・・・・。」

 

映司は苦い記憶を思い返すように、自分の母親の臓物が飛び散った(・・・・・・・・・・・・・・)自分の顔を撫でる。

 

「でも・・・・、そいつらを憎んでもどうしようもないし母さんは返ってこない。だからこそ、もう2度とエルパちゃんや他の人たちに悲しい思いをさせないために俺は頑張るんだよ。」

 

「エイジ・・・・・。」

 

「エルパちゃんは俺が守るから・・・・・だから君はもう泣く必要はないんだ・・・・。」

 

映司は優しく少女の頭を撫でる。

 

「う“ん・・・・・ありがとうエイジ・・・・!。」

 

少し涙を浮かべたものの、エルパはいつもの日向のような笑顔を向ける。

 

(うん・・・・・やっぱり君はその笑顔の方が素敵だ・・・・俺もこの笑顔を守れるようにもっと・・・・。)

 

映司は少女の笑顔をきっと守って見せると心の中で誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ・・・・・・嘘だ!嘘だ!・・・・こんなの嘘だぁ‼」

 

映司の目の前にはこの世の地獄が広がっていた。

 

藁や木材でできた住居はあっという間に燃え火の海となり、肉と血の焦げる不快な臭いが鼻に突く。

 

村の住民が必死に耕した畑は先ほどの攻撃によって見るも無残に荒らされ、村の平和を願ったシンボルであるオリーブの木はその願いを嘲笑うかのようにズタズタに引き裂かれていた。

 

家々はすべて焼け、生存者は皆無、しかし映司は地獄の中を僅かな希望を求めて進む。

 

(せめて・・・せめて彼女だけでも・・・・・・!)

 

自身も切創と火傷でボロボロになった身体を引きずりながらエルパの家へと向かう。

 

「うぇぇん・・・・・グス・・・グス・・・・。」

 

彼女の家に近づくにつれ、すすり泣く声が耳に入る。

 

「待ってて・・・・・今・・・・行くから・・・・・!」

 

嗚呼、あれほど悲しませないと彼女に約束したはずなのに・・・・・また自分は何もできなかった。

 

すすり泣く声は徐々に大きくなっていく、しかし彼女の家はまだ見えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ“ウ“ウ“ウ“ウ“ウ”ッ!」

 

怪物は突如唸り声を上げ、左手でライダーの槍の穂先を掴む。

 

「へえ、まだやるかい!そうこなくちゃあなあ‼」

 

ライダーは槍を押し込む力を強くする、しかし怪物の力が相当強く徐々に押し戻される。

 

「なっ・・・・くそコイツどこからそんな力が・・・・!」

 

「何をしているライダー!早く止めを刺せ!」

 

たまらずライダーは両手で怪物に槍を押し込もうとするものの、それでも状況は変わらない。

 

ライダーの筋力ステータスはB+、これはルーラーと黒のセイバーに匹敵する高さである。

 

並の英霊では例え両手を使ったとしても彼らは片手で軽くねじ伏せてしまうだろう。

 

しかしこれはどういうことだろうか・・・・・この状況では怪物が逆に両手を使った筋力B+のサーヴァントを相手に片腕だけで押し返しているのだ!

 

(どうやってやがる・・・!コイツの殺気がいきなり変わって、眼が紫色(・・・・)になった途端急に強くなりやがった!)

 

突如起きた不可解な現象にライダーは気を取られていた。

 

そして大英雄であれ、一瞬の隙は致命的なものであることを忘れてはいけない。

 

「・・・・・ッ!ライダー‼」

 

アーチャーが叫ぶも時すでに遅く、怪物の右手に握られた何かが(・・・)ライダーの左足を大きく抉った(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
皆さんもお気づきでしょうが、エルパは原作の仮面ライダーオーズに出てくる「紛争地で亡くした少女」の役です。

日野映司も火野映司も2人とも少女の命を奪われ、それが彼らの一生の傷になります。
「何によって少女の命を奪われたか?」これが2人の行動の分岐点となるでしょう。

それでは次回もお楽しみに!


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奇跡と情けと涙

うーん、最近は調子が良いですね。

もう1話投稿したら新シリーズを投稿しようかな?



ライダーは久しぶりに感じた鮮烈の痛みに思わず顔を歪ませる。

 

しかし同時に心の中では歓喜が沸き起こる。

 

「う・・・・・うぅ・・・・・。」

 

怪物はライダーの足を抉った攻撃が自分の最後っ屁とでもいうようにさっきまで握っていた何か(・・)を地面に落とし、身体を脱力させた。

 

強力な殺気は消え失せ、複眼は紫から元の橙色に戻っていった。

 

今度こそ怪物は何もできない、だがいつまで経ってもライダーの攻撃は来なかった。

 

「ハハハハ、ハハハハハハハハハ‼」

 

突然ライダーがまるで心の底から歓びを噴出させるように笑いだす。

 

(何が可笑しいんだコイツは・・・・・?普通は無敵の身体に傷を付けられた事に憤慨する状況だろう。)

 

よく見れば奥にいるアーチャーも“信じられない”という顔をしており、ライダーの身体を傷つけるのは不可能に近いのだと怪物は理解した。

 

「そうか!そうか!貴様はオレの身体を傷つけることが出来るのか‼なるほど!やはり“英霊殺し”の名は伊達ではなかったか‼ハハハハハハ!」

 

ライダーに屈辱の怒りはなく、代わりに生涯の好敵手を得たとでも言うように笑っている。

 

「フウ・・・・・・、よし姐さん。俺はコイツを見逃すことする。」

 

突然の言葉に怪物もアーチャーも言葉を失う。

 

「何を考えているライダー、そいつは我々の戦いを盛大に狂わせるぞ。それに可能なら殺せとマスターに命じられたはずだろう。」

 

(悔しいがあのアーチャーの言う通りだ・・・・俺をここで殺すのが判断としては正しい、なのにあのライダーはなぜ俺を生かす・・・・・・?!)

 

「姐さん、命令ではバーサーカの監視と偵察が最優先のはずだぜ?俺たちが戦闘を開始してもうどれくらい時間がたったかね?」

 

その言葉にアーチャーは軽く舌打ちする。

 

「いいだろうライダー、だがソイツを生かした責任はお前がとることになるぞ。」

 

「大歓迎だ、コイツはオレの獲物と定めた。他の誰にも取らせねえよ。」

 

(ああ・・・・・なるほど、アイツにとって俺は都合の良い獲物(オモチャ)か・・・、これはまた嫌なヤツに目を付けられたな・・・・・。)

 

怪物はライダーが自分の生かした理由を察すると心の底から辟易した。

 

「と、いうわけで“英霊殺し”よ、俺にとってもお前にとっても今は決着をつける時じゃねえ、だか....必ず本気で殺り合う時が来る、その時までに・・・・・お前の首を預けとくぜ」

 

そう言い残すとライダーはユグドミレニアの要塞へと向かっていった。

 

「命拾いしたな怪物よ、死にたくないならこれ以上私達の戦いに首を突っ込まない方が賢明だ。」

 

アーチャーもライダーの後を追うように森の中へ消える、残されたのは怪物ただ1人だけだった。

 

「ふっ・・・・・・ふう“う”う“う”う“、うぐ”ぐ“ぐ”っく・・・・・・・・。」

 

怪物は悔しさのあまり嗚咽を漏らす。

 

英霊に見逃された屈辱、自身の無力さを怪物はしかと噛み締める。

 

(これじゃあ・・・・・結局あの時(・・・)と全く変わらないじゃないか・・・・・・!)

 

その夜、イデアル森林の中ではいつまでも誰かのすすり泣く声が聞こえたという・・・。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

次は回想も入れてみたいとおもいます。


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母と介抱と温もり

大変遅れて申し訳ありませんでした!

最近は忙しくてあんまり時間を取れないので更新が少し遅れてしまうかもしれませんが、
何卒お許しください。

という訳で今回は回想も含みます。


 

「わあ!すごい、高い高い!」

 

「ええそうね映司、とっても高いわね」

 

腕の中の子供は嬉しそうに声を上げ、母親は満足そうに笑みを浮かべる。

 

映司は赤ん坊の頃から親の仕事の都合で世界各地を転々としている。

 

その過程で歴史的建造物や世界遺産といった珍しいものをいくつも見てきた。

 

その中でも自分の目に映る時計塔は、特別な存在感を醸し出していた。

 

「さあ、帰りましょうか映司」

 

母親はもう少し子供に時計塔を眺めさせてあげたかったが、時間が押してきているので早々に切り上げる。

 

「お母さん!今日のごはんは何かな?」

 

「そうねえ・・・・・今日は・・・・あれ?火事かしら?」

 

突如、サイレンが町中に鳴り響き、時計塔の周辺から複数の煙が上がる。

 

これだけならばただの火事だとも考えれられるが、次の現象がそれを否定する。

 

「なんだ!爆発が起きたぞ!」

 

今度は爆発による火の手があがり、周りにいた民衆がざわめきだす。

 

あるものは爆発が起きた方向にカメラを向け、またあるものは怖いもの見たさに足を運んでいく。

 

「怖いわね・・・・私達も早くホテルに戻りましょ」

 

危険な気配を感じていた母親は早々にこの場を後にしようとした時――――――

 

時計塔の方に向かおうとしていた男性二人が、黒色の脂を全身に塗りたくったような見た目をした巨大な四足歩行の獣に、頭から食いちぎられた。

 

一瞬の間の後、一斉に悲鳴が上がる。

 

中には腰を抜かす者や、あまりにも現実離れした光景のせいか呆気にとられて動けいない者もいた。

 

「映司、逃げるわよ!」

 

だが母親は自体が尋常ではないことを瞬時に察し、獣が周囲の人々を喰い散らかしている間に子どもを抱えたまま逃げ出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走って走って走り続け、ようやく泊まっているホテルの前につくと母親は安堵し、子供を地面に降ろした。

 

「ねえ・・・・・・ママ・・・・さっきの一体なんだったの・・・・・?」

 

子供は事態を上手く理解できていないのか恐る恐る母親に尋ねる。

 

そんな我が子を、母親は震える手で優しくなでながら語りかけた。

 

「ああっ・・・・映司、もう大丈夫よ、何も心ぱ――――――――」

 

母親はそれ以降の内容を子供に伝えることができなかった。

 

なぜなら・・・・さきほど民衆を襲っていた獣が、母親の上半身を爪の一薙ぎでバラバラにしたからである。

 

“べちゃ”と子供は自分の顔に何かブヨブヨした生暖かい物体が飛び散ったのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ・・・・・うう・・・・。」

 

悪夢のせいですっかり重くなった瞼を持ち上げ、ゆっくり上体を起こす。

 

辺りを見渡してみると、今映司が寝ているベッドを除けば、大量の薪やら道具やらが積まれており何らかの小屋であることが見受けられる。

 

すると、正面のドアがゆっくりと開き1人の少年が中の様子をうかがってきた。

 

「お父さん!お母さん!お兄さんが起きたよ―!」

 

少年は外に向かって大声で叫ぶと、映司に向き直り「ちょっと待ってね」と言ってドアを閉めた。

 

(どうやら俺はサーヴァントの戦闘の後、意識を失ったんだな・・・・)

 

映司はライダー、アーチャーとの戦闘の後にあたる記憶がないためそう確信した。

 

しばらくすると今度は1人の女性が入室する、その手には温かいスープの入った皿を載せたお盆が握られていた。

 

「すみません、ここはどこですか?ちょっと俺、昨日の記憶が曖昧でして・・・・・」

 

サーヴァントと戦っていたとは言えないので、映司は女性にそう誤魔化した。

 

「そうですか・・・・・ここはイデアル森林の中にある私達の家です。昨日主人と息子と共に家路についていたら血まみれで倒れている貴方を見つけてここまで運びました。かなり重症でしたので昨晩は主人と交代で付きっきり介抱をしたのですよ。」

 

映司は深く頭を下げる

 

「申し訳ありません、大分迷惑をお掛けしてしまったようで・・・・・」

 

「いえ、大丈夫ですよ。最近は物騒なので傷が癒えるまではここにお留まりになってください。」

 

「本当に・・・・・ありがとうございます。」

 

優しさ、温もりというものに触れたのはいつ以来であろうか、サーヴァントと戦うようになってからはよく覚えていない。

 

映司は零れそうになる涙をぐっとこらえてお礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?

もうすぐ新しいシリーズの小説も投稿したいと思いますので、そちらの方も楽しみにして下さい!


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驚愕と別れとシギショアラ

大変遅れて申し訳ありません!


日野映司は傷の痛みに顔を歪めながら出発の準備をしていた。

本当は傷が癒えるまでこの家に滞在するつもりであったが、1日の間に状況が一変してしまっていた。

ベッドの上で朝食を食べていた映司は、偵察に向かわせたカンドロイドの情報と鴻上ファウンデーションが極秘で入手した霊基盤を見て愕然とした。

“赤のバーサーカは黒の陣営に捕獲された”、そこまでは許容範囲だ、しかし、“黒のセイバーが脱落した”のは全くもって想定外だった。

最優と謳われるセイバーはそれこそ尖った性能はないものの、どんな相手でも柔軟に対応できるのが大きな強みである。

映司は数々の亜種聖杯戦争を見てきたが、その中でセイバーは終盤まで生き残っていることが他のクラスと比べ、比較的多かった。

映司はトゥリファス国道での戦闘を思い返す。

あの馬鹿げた強さを誇る赤のランサーと互角の戦いをしていた以上、黒のセイバーは相当な大英雄だったことに間違いない。

それを失った黒の陣営は今頃それを代替する戦力を見つけるのに躍起だろう、そしてそれを赤の陣営が見逃す手はない、これを機に一斉に総攻撃をかけるはずだ。

「そうなると・・・・不味いな・・・・・」

いくらトゥリファスが外界と隔離されているとはいえ、13騎のサーヴァントが同時に戦えばただではすまないだろう。

そう考えた映司は居ても立っても居られなかった。

しかし、今この家を出ようとしても住人が身体を張って止めるだろう。

それを予想して映司は日が暮れた頃に家を出ることにした。

 

 

 

 

 

最後の荷物をライドベンダーに乗せる。

ありがたいことにここの人たちは俺のバイクも忘れず回収してくれていたのだ。

せめてものお礼に玄関の扉の前に少しのお金を置き、深々と頭を下げる。

思い返せば、自分は今までサーヴァントとの戦いに明け暮れ、“温もり”というものに触れる機会が無かった。

世界を旅していた頃の自分は色んな出会いをして、助け助けられ、喜びに満ちていた人間だった。

しかし、あの頃の俺はもはや見る影もなく、サーヴァントの冷酷さ、残忍さに俺も影響を受けてしまったせいか昔は丁寧だった言葉遣いや振る舞いがいつの間にか荒くなったことに最近気が付き始めた。

もし仮に全てのサーヴァントを倒して亜種聖杯戦争を根絶したとしても以前のようにみんなと笑って過ごす、というのは出来そうにもない。

「よし、こんなもんか・・・・・」

荷物を載せ終わり、俺はライドベンダーに跨り夜道を駆け出した。

ふと、後ろを振り返ると小屋の住民が扉を開けたまま立っている、暗闇だったせいか、彼らはどのような顔をしていたかは全く分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

トゥリファスから少し離れた近隣の都市シギショアラに映司は向かっていた。

カンドロイドからの情報によるとアーチャーとそのマスターが本拠地である城塞を離れそこに向かっていた。

“地の利がある黒側のサーヴァントが持ち場を離れて動いているということはきっと何かあるはず、”そうふんだ映司は威力偵察を行うことにした。

シギショアラに入ると既に2つの戦闘音がしていた。

恐らくサーヴァントと魔術師が混戦状態に陥っていると判断した映司はまず明らかに音が大きいサーヴァント同士の戦いに乱入ことを決断した。

効率を重視するならば魔術師を先に無力化することが望ましいがここは人が住む都市であるため戦闘による被害が尋常ではないサーヴァントをまず止めることを映司は優先していた。

ベルトにメダルを装填し変身を完了した映司はギアを全開にして現場へ突入する。

右腕を負傷した青年と鎧を着た剣士を視認した映司は、まず明らかに強力そうな剣士の方に負傷を負わせるべくライドベンダーのスピードをさらに上げ、そのまま体当たりをくりだした。

しかし、一瞬の刹那に怪物の姿を確認した剣士は間一髪で身を躱す。

躱されたことに怪物は内心で舌打ちはしつつも急ブレーキを発動しタイヤを滑らせながらも冷静にバイクを停車させた。

座席から降りつつ、荷台に掛かっていた愛用の剣を取り出すとゆっくりとした足取りで2騎の英霊に向かっていく。

「どうやらここまでのようですね・・・・」

負傷したん青年がそう呟くと身体を跳躍させ、建物の上へと距離を取った。

「逃げるか、アーチャー!?」

剣士は怒りを隠さず咆哮するが、青年は顔色一つ変えなかった。

「ええ、このままではこちらが敗北します。なので貴方にはこの怪物を相手にしていただきます。」

(クソッ、やられた!)

怪物は青年の意図を察知すると下半身の力を解放して追跡を試みようとするが、一瞬の内に隠れ身で路地裏に逃げられてしまった。

後に残ったのは激昂する剣士と怪物、これから何が起こるかは想像に難くなかった。

 

 

 

 

(おい・・・・・マスター)

鎧を着た剣士は怪物の姿を確認すると同時に己のマスターに念話を放つ。

(何だセイバー?俺はもう大丈夫だ。そろそろ戻ってきていいぞ)

(悪いマスター、こっちはまだ続きそうだ)

そのセリフに剣士のマスターは疑問を呈す

(何?サーヴァントとマスターは既に撤退してるぞ)

(お前の言っていた怪物が来た)

その言葉に剣士のマスターは少し考えて発言した。

(分かった、一応そいつはターゲットだから俺は止めたりはしない。だが、恐らくそいつには英霊を殺す程の何かがある。それだけは留意しろ)

己のサーヴァントを止めるのは不可能と判断したマスターはせめてものアドバイスを送った。

(ハッ、テメエのサーヴァントを何だと思っている。俺は最強の英霊だ、何が来たとしても正面から叩き潰してやる)

威勢のいい言葉を最後に剣士はマスターとの念話を切る。

「色々と言いたいことはあるが・・・・今の俺にそんな慈悲はない、英霊殺しだか怪物だか知らねえがテメエが俺に叶う道理は万に一つもねえ」

「あ、そう」

剣士の挑発に対して怪物はまるで無関心かのように応える。

怪物は幾度もそういう台詞を吐くサーヴァントと対峙したきたせいか相手にするのも億劫であったため何も突っ込まないことを決めていた。

だが、その態度が剣士の怒りの炎に油を注ぐこととなる。

剣士のこめかみから何かが切れる音が響くと、身体に纏わせていた怒気がさらに圧力を増した。

「・・・・・・もういい、殺す。」

問答を打ち切ったは剣士は怪物に目掛けて剣を振りかぶった。

 




いかがでしたでしょうか?
次は赤のセイバーとの戦闘に移ります。


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剣士と怪物と力の謎

やっぱり戦闘シーンは難しい・・・・・


(・・・・ッ!はやっ!)

 

セイバーの放った一撃を怪物はなんとかバックステップで躱す。

 

剣で受けることも出来たが自分自身の長年の経験による直感は“悪手”と判断していた。

 

最初の一撃を躱した後、剣士から漏れ出る魔力を見て怪物は己の直感が間違っていなかったことを確信した。

 

(あの漏れ出る尋常じゃないほどの魔力量、ジェット噴射のような加速・・・間違いない、あれは魔力放出だ)

 

魔力放出とは武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上するスキルであり、長所としては絶大な能力向上を得られ、短所としては通常の魔力消費とは比べものにならないくらいの負担をマスターが負うことなどがあげられる。

 

いずれにせよそうそう何発も撃てるモノではないため回避に徹していればその内マスターの魔力が切れ必然的に撤退を強いられることとなる。

 

最も・・・・魔力放出のスキルは白兵戦に非常に長けた高位の英霊しか所持していないため、一流のサーヴァントを相手取る技量を最低限持ち合わせてなければたちまち押し切られてしまうだろう。

 

「オラッ、そこだぁ!」

 

剣士の放った蹴りが腹部に命中し、怪物は遥か後方に吹き飛ばされ、小屋に激突し瓦礫の山を作り出した。

 

(ぐ・・・・うう、つ、強い。このセイバーはおそらく黒のセイバーと全く引けを取らないほどの格を持った高名なサーヴァントだな・・・。)

瓦礫の山から何とか這い出した怪物はある決断をした。

 

(しょうがない、あの力をこんな序盤から使いたくはなかったが・・・ここでセイバーを倒しておけば赤の陣営はきっと総攻撃を中止せざる終えないだろう・・・。)

 

たった数舜の攻防で怪物は目の前の剣士が己より遥かに強いことを確信し、出し惜しみしないことを決めた。

 

無論怪物には他の形態で戦う選択肢もあったが、ここまで高位かつ一流のセイバーを相手にするとなると、もはや隙がなかなか存在しないため奥の手を使うしか勝利への道はない。

 

幸いにも両者はシギショアラの無人地帯に入っていたため怪物は奥の手を使ってもそこまで酷い被害にはならないと確信していた。

 

自信の胸に手を当て、中に潜む危険な力へ向かって怪物は語り掛けるように言葉を紡ぎ始めた。

 

「頼む・・・・・俺に力を・・・」

 

「アァ?何ブツブツ言ってやが―――ッツ!!」

 

怪物に対して圧倒的に優位を誇っていた剣士は、怪物が言葉を発し始めた瞬間、己の直感が今までにないほどの警笛を鳴らし始めたため、思わず飛びのいた。

 

(・・・・・・・?なぜ今距離を取った?)

 

怪物は一瞬のことに情報の処理が追いつかず、力の引き出しを一旦中止する。

 

「クソッ!!」

 

その一瞬の隙に剣士は最大級の悪態をつきながら身を翻し夜の闇へと消える。周辺の魔力濃度が元に戻り戦場だった無人地帯は元の廃墟に戻っていった。

 

監視用の使い魔が消えたことを確認し、怪物は装置を水平に戻し元の映司へと姿を戻す。

 

「なるほど、アイツは直感か未来予知のスキルを持っているな・・・一見粗暴そうに見えて油断ならない奴だ」

 

セイバーを逃してしまったとはいえ、シギショアラがあまり被害を出さずに済んだことを映司はプラスと考え、再びトゥリファスへと戻るためライドベンダーの元へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

突如怪物から漏れ出た原始的な力に対する恐れとそれに屈した己自身に対する怒りを胸に抱えたセイバーは重い足取りでマスターの元へと向かっていた。

 

歩き出して十分、セイバーのマスターは年代物の建築物に気の抜けた様子でもたれかかっていた。

 

「アーチャーと怪物は撤退したか」

 

セイバーのマスターは決して彼女が怪物を前に逃げたとは言わなかった。

状況的にはセイバーが撤退したのは事実に近いが、だからといって命を懸けて戦った己のサーヴァントに対して心無いことを言うつもりはないようだ。

 

「マスター・・・アイツはなんだ・・・・?」

 

セイバーは思わずマスターに当てつけ気味に問いかける。

 

それも当然だ、彼女はそこらへんの並の英霊ではなく、世界に広く名を知られた大英雄の1人。

 

そんな自分があんなワケの分からないものを相手に撤退を強いられるなどあってはならなかった。

 

だが、もしあの場で己の直感に従わなかったら真の力を解放した怪物を前に成す術なくやられていただろう。

 

なぜ成す術なくやられるという結果になってしまうのかセイバーは納得いかなかったものの、己の直感を裏切るという愚行は行わなかった。

 

「そうだな、俺の予想としてはサーヴァントに対抗できる礼装を身に着けた魔術師か魔術使いだと思っているが・・・お前はどうなんだセイバー?アイツと戦ってみたんなら俺よりも詳細な推測ができるはずだぜ」

 

マスターの問いに答えるため一度怒りを飲み込んだセイバーは冷静に先ほどの状況を振り返る。

 

正直、怪物が力を解放しようとする前はこちらが圧倒的に優位であり、それこそ並の英霊でさえも勝つことは可能だろう。

 

だが、あの力だけは尋常ではなかった。

ブラックホールのような力の奔流を思わせたかのようにおもえば、巨大な虚のように暗い気配を醸し出していた。

 

その力の印象からセイバーは英霊が本来戦うべき強大な敵の気配(・・・・・・・・・・・・・・・・)を感じ取った。

 

「アイツは・・・・いや、やっぱり分かんねえ」

 

「そうか・・・まあ、戦いはまだ序盤に過ぎん。怪物も黒のアーチャーも仕留める機会もまたあるだろうさ。という訳でトゥリファスに帰還するぞセイバー」

 

「あいよ。・・・で、どうやって帰るんだ?行きに使ったバスはもう出てないだろ」

 

「そりゃお前―――借りるんだよ」

 

そういうとセイバーのマスターは大通りに停車されていた乗用車の窓ガラスを叩き割り、ドアのロックを解除した。

もちろん、セイバーのマスターはこの車を返却するつもりは毛頭ない。

 

「ほら乗れ」

 

 

「・・・警察に捕まって聖杯大戦から脱落という結末は避けてくれよ、マスター」

 

セイバー呆れ混じりに嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 




いかかでしたでしょうか?
いよいよ赤の陣営と黒の陣営の総力戦が始まります。
果たして映司はどのように戦っていくのか・・・どうぞ楽しみにしてください!


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