東方仮面時王異聞~Another Time Decade~ (放仮ごdz)
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第一話:厄災(怨霊)も恐れ怯む少女

どうも、仮面ライダージオウを見てライダー熱が燃え上がった結果、性懲りもなく東方×仮面ライダーを書いてしまっていた放仮ごです。なおジオウではなくディケイドが主役です。時系列は相変わらず地霊殿辺り。

アナザーOVERとかアナザーフルスコアとか色々思いついたから過去作のウィザスマを知っている人向け番外編かなんかで書きたい。

そんなわけで久しぶりに書いた東方×仮面ライダー、楽しんでいただけたら幸いです。


 その日、忘れられたものが集う地を襲った悪意があった。災厄たるそれは、例えば人を異形へと変える黒い煙を放つ狼男だったり、鏡の中から自在に出てきて空中を駆り人を喰らう巨大なサメだったり、人々を次々と粉々にしていくカブトムシの様な意匠のステンドグラスの目立つ怪人だったり、甲殻類の様な意匠を持った鎧武者だったり、コウモリの翼が生えた車の様な怪物だったりと、理解不能の「怪人」たち。

 

 必死の抵抗も自然災害の如く通りすがりざまに破壊していき、あとに残されたのは大量に築かれた屍の山と異形の群れ、絶望に打ちのめされた少女たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大勢の人間が死んだ。あの災厄が起きたのはお前のせいだ、と誰もが私を責め立てる。殴られて、蹴られて、石を投げられて、血塗れになって逃げだすもどこまでも追ってくる。これまでずっと、厄を溜めこむ身代わり人形として、不幸の掃き溜めになってその笑顔を守ってきた…と思っていた人々に、殺される一歩手前まで傷つけられた私はもう限界だった。何も知らない人間達は、不幸は全て私のせいだと責め立てる。ああ、嫌だ。こんな人間達の笑顔を守るために私だけ不幸になるだなんて、もう嫌だ。私のせいだと言うのなら溜めこんできた厄を全部放出してやる。悶え苦しむ様を見て笑ってやる。私一人だけが笑顔であればいい…!

 

――――「そうだ、人の笑顔を守り続けてきたお前にはその権利がある。その笑顔、悪くない。今日からお前がクウガだ」

≪クウガ!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 救えなかった。救えなかった。私の手は、届かなかった。突如この幻想郷に現れた厄災に手も足も出ずに一蹴された。まさか、切札の夢想天生も通じないなんて。あっという間に地に伏され、目の前で何人も無残に殺されてしまった。妖怪で知り合ったばかりとはいえ、その少女の伸ばした手を握れなかった。なにが博麗の巫女だ。なにが幻想郷最強だ。目の前の女の子一人、手も届かず助けられなかったじゃないか。力が欲しい、どこまでも届く手が、欲しい。

 

――――「そうだ、その欲望だ!ああ、限りなくあの男に近い欲望を抱いたお前なら力を得るだろう。今日からお前がオーズだ」

≪オーズ!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、死んだ。死んでしまった。無意識なことが災いして、目の前に迫りくる悪意に気付かなかった。博麗の巫女の警告の声に気付いた時にはもう遅かった。意識してようやく気付くなんて自業自得だ…お姉ちゃんみたいに周りに嫌われるのが嫌だから第三の目を封印して心を閉ざして、誰からも嫌われなくなった代償に誰の目にも映らなくなり誰の記憶にも残らなくなったからと、フラフラと放浪し続けた結果がこれだ。死んで第三の目が開いたためか、無意識から目を覚ます、意識する。嫌だ、こんな寂しく独りで死にたくない。誰か見て、私を見て。死ねない。まだ、お姉ちゃんと仲直りしていない。死んでも、死にきれない。どんな手を使ってでもいい…生きたい。私はまだ、生きたい…!

 

――――「そうだ、人間だろうと妖怪だろうと関係ない、生きたいと願うのは当然の権利だ。その命を燃やせ。今日からお前がゴーストだ」

≪ゴースト!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 なんで、なんで……なんで、だよ……私は不死身だってお前は知っていただろう?なのになんで、厄災の攻撃から私を庇って死んでしまうんだ……!確かに厄災の、人を灰にする触手の攻撃を見てもしかしたら死ねるかもしれない、なんて思って体が止まってしまった。だからって、庇う事なんてなかったんだ。お前は、人里や寺子屋の人間を守らないといけないんだろう?残された子供たちや、私はどうなる?いやだ、千年にもわたる孤独の中でようやく出会えた親友なんだ。もう会えないなんて嫌だ。認められない、どんな手を使ってでも私はお前を…!

 

――――「そうだ、例え嫌われたとしても、仇敵の力を借りてでも、自分の手を汚してでも大事な人と一緒にいたい。あの男と同じその覚悟を見せる時だ。夢が何もないお前にはこれがふさわしい。今日からお前がファイズだ」

≪ファイズ!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 アタイは最強だからと、親友たちを守ろうとして立ち向かって、呆気なく殺された。守ることもできなかった。アタイと親友は妖精だから復活できたけど、寺子屋仲間の人間のみんなは死んだままだ。無力感に打ちひしがれ、今更ながらに自覚する。自覚、してしまう。博麗の巫女や普通の魔法使いに惨敗していてなにが最強だ。ああ、変わりたい。バカで身の程知らずで虚勢を張ることしかできないアタイから「変身」したい。大ちゃんたちを守れる「最強」になりたい。

 

――――「そうだ、その心意気こそが必要だ。今こそ理想の己に変身する時だ。今日からお前が鎧武だ」

≪鎧武!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、退屈だ。何やら厄災とやらが人里で起きたらしく、この退屈な日常に刺激を与えてくれないかと一途の望みをかけて行ってみたが、期待外れだった。巨大なサメの姿をして鏡の中から不意打ちで襲いかかってきたが、頭を噛みちぎられても無事な私に襲撃者は心底驚いたらしく厄災とやらは次々と姿を変えてあの手この手で殺そうとしてきた。

 究極の闇?灰化させる蒼い炎?超高速の一撃?ライフエナジー吸収?バグスターウイルス?ネビュラガス?無駄だ。この不老不死の蓬莱人の肉体には通用しない。そんなものなのか、兎たちが騒いでいたから期待してたのに。…でも、こいつはいい。懐中時計の様な何かを顔見知りに次々と与えて異形の怪人へと変貌させてたそれは、私としては好ましい。その存在を見て、この厄災の脆さを見て抱いたのは、純粋な興味とちょっとした悪意。もういい加減、嫌気がさしたのよ。刺激の無いこの日常に。

 

「ねえ。さっき、あいつらになんか渡してたでしょ?私にも渡しなさいよ」

≪エグゼイド!!≫

 

 抵抗しようとする赤と青の歯車が噛みあった様な怪人の胸ぐらを掴み、壁に叩きつけることで転がり落ちたそれを手にして、見よう見まねでボタンを押して起動。低い機械音声で何やら鳴ったそれを自ら胸に叩きつけ、力が溢れる感覚と共に一つの記憶が脳裏に駆け巡った。長い、長い一年以上の物語。ああ、これはいい。外の世界でこんなことが起きてたなんて、ずるいじゃない。ただの人間の分際で。

 

 

――――「永遠に終わらない命がけのゲーム?上等よ。この私が開催してあげるわ、決して退屈しないゲームコンテンツを!今日から私がエグゼイドよ」

 

 

 

 

 

そして、楽園は地獄と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 厄災の人里襲撃から三日後。地底にて、厄災の襲撃を受けた少女がいた。挨拶とばかりに壁を破壊され、瓦礫に埋もれた少女「古明地さとり」は血塗れで襲撃者を見上げて呆れたように笑う。

 

 

「おや、おや…こんな地底深くまで来るなんてとんだ物好きさんなんですね…噂の厄災さんとやらは」

 

『ワタシは世界の破壊者だ…世界を歪め、破壊する。お前もその糧となれ…!お前を忌避してきた者達へ復讐を…!』

 

 

そう言ったフード付きの灰色のマントを身に着けた何者か、『厄災』はくぐもった声を上げてカブトムシの様な異形のナニカが描かれた懐中時計の様な物「ライドウォッチ」を掲げ、親指で頭頂部のボタンを押して起動した。

 

 

≪カブト!!≫

『行方知れずの妹を守りたいだろう?そのためならば己が手でも血で汚せるだろう?力を渡そう、地底に追いやられしお前にふさわしい太陽神の力を…!』

 

 

そう言ってさとりにライドウォッチを埋め込もうと迫る厄災。身動きを取れなくして、受け入れざるを得なくして強制的に契約に持ち込む。望みを叶えるという真実を含んだ甘い戯言を乗せて。しかし、このさとりに限っては悪手だった。

 

 

「なるほど、私達幻想郷の人間を利用して幻想郷ばかりか外の世界、つまりはこの世界を根本的に歪めて破壊することが貴方の目的ですか」

 

『…なに?』

 

「世界を破壊するにはその世界の物ではない異物を持ち込み定着させるのが一番、と。残念ながら私はそれを受け入れませんよ。目的のために猛進する怪物になってしまうのでしょう?それよりも…私的にはこちらがいいかと」

 

 

そう言って、瓦礫を押しのけて立ち上がったさとりの手には、何時の間にやら中央に赤い宝石が付けられた白いカメラの様な掌大の物体「ディケイドライバー」が握られていた。正真正銘の妖怪である彼女に、回復の時間を与えすぎた。その薄紫色の髪に付けられた赤いヘアバンドから伸びた複数のコードに繋がれた第三の目(サードアイ)に睨まれ、厄災はたじろいだ。

 

 

『それは…!?』

 

「私には心を読む程度の能力というものがありまして。貴方のトラウマを想起させていただきました。普段は弾幕としてしか使わないけど、こいしも関わっているとなれば話は別。非常に嫌われているこの力ですが、どうやら貴方に唯一対抗できる力らしい」

 

『おのれ…!』

 

「あ、待ちなさい!」

 

 

想定外だったのかあっさりと退いて出現した灰色のオーロラに飛び込んで姿を消した厄災を追おうと手を伸ばして、空振りしたさとりはもう片方の手に握られたディケイドライバーを眺めて、決めた。三日前から行方不明になった妹と、大事なペット達を捜そうと。

厄災の心はまるで幾重にも重なりあったかのようでほとんど読めず、その目的と手段、そしてトラウマと化している「ディケイド」と呼ばれる存在しか見れなかったが、妹がこの異変と呼んでいいものかとも迷う災厄に巻き込まれたであろうことは確信していた。

 

 

「…まずは、地上に出なくては」

 

 

新たな「通りすがりの仮面ライダー」の旅は、こうして始まった。

 

 

 

ーーto be next another time




王を選別するタイムジャッカーとは違い、世界を破壊するためにアナザーライダーを生み出す厄災さん。その正体は一体何なのか。

まだクウガ、オーズ、ゴースト、ファイズ、鎧武、エグゼイドしか出てませんがアナザーライダー選抜は結構自信作。誰かは結構わかるかな。


最近新しく書いてるのはエタってるのばかりですが今回ばかりはガチで続きを書いていきたい所存。
相談し合って書いた、秋塚翔さんの東方×仮面ライダージオウ作品「東方時王者 ~Fantasy Time Zi-O~」もどうぞよろしくお願いします。


次回はディケイド第一話の如くVSアナザーカブト。さとり初変身となります。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第二話:地殻の下の太陽神(嫉妬心)

はい、完全にFGO/TADそっちのけでこっちを執筆していた、雨でだいぶ参っている放仮ごです。さすがに次はあっちを更新します。一ヶ月放置はやばい。
ジオウ本編がとんでもないことになっていて士や海東のキャラもだいぶぶれてきたなとか思い始めました。ジオウスタッフ、ちゃんとディケイドのキャラ把握してるのか心配です。

今回はディケイド一話の最初の対決の様にワーム…つまりはアナザーカブトとの対決。ディケイドの書き方に迷った挙句一人称にしました。さとり視点の初変身、初バトル。そして東方キャラ×アナザーライダーなオリジナルも。楽しんでいただけたら幸いです。


 ああ、妬ましい妬ましい。地上の空に輝く太陽が妬ましい。何かしら優れているくせに無自覚に貶す私以外の全てが妬ましい。そして妬み続けるしかない私にも嫌になる。ああ、妬ましすぎて…壊したくなってきたわ。妬ましく感じる全てを壊してその頂点に立てば、この衝動は消えるのだろうか。私一人だけが太陽の恩恵を得られたら、誰もが私を嫉妬してくれるのかしら?

 

――――「そうだ、嫉妬の総てを司るお前は頂点に立つにふさわしい。お前が願うのなら全てが現実になるだろう、選ばれし者ならば。それこそ、天の道を行け。今日からお前がカブトだ」

≪カブト!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…様子が変ね。もう少し賑わっていたと記憶してたけど」

 

 

地霊殿を旅立ち、人気(ひとけ)がまるでない旧都に訪れた私は周囲を見渡して首をかしげていた。鬼たちによって忌み嫌われた能力を持つ妖怪を受け入れる巨大な地底都市、鬼の楽園だったはずのその場所は今や、廃墟も同然となっていた。破壊活動の跡は見られない、住人だけが姿を消している。旧都にいるハズの知り合いの鬼もいないため異様な光景の旧地獄街道をそのまま進み、旧都の入り口または出口でもある橋に差し掛かった時。

 

 

そこに、地底の守り神と称される彼女は立っていた。

 

 

「おや、パルスィ。よかった、貴女は無事だったのね」

 

「…今、私を笑ったかしら?」

 

 

顔見知りに会えたことで安心し微笑みかけると、自嘲気味の笑みを浮かべ三白眼で睨みつけてくる少女、水橋パルスィ。その様子に違和感を覚えた私は、パルスィの手に握られている見覚えのある物体を目にして目を見開いた。

 

 

「……ああ、その何も知らない顔。妬ましい、妬ましい…貴女には日向の道を歩かせない」

≪カブト!!≫

 

「それは…厄災の…!?」

 

 

手にしたライドウォッチ…否、アナザーウォッチを起動したパルスィはアナザーウォッチから溢れた黒い繊維に包まれ、その姿を成人男性大の怪物へと変貌した。全身堅牢な赤いボディの、カブトムシを模したような歪な鎧武者の如き異形に、思わず後ずさる。先に出くわした厄災とは違う、正真正銘の怪物。右足の装甲にKABUTOの文字が、左足の装甲に2008の年号が刻まれている。見た瞬間、私の頭に流れ込んできたその名前は「アナザーカブト」というらしい。妖怪のそれよりも醜悪な姿に、無意識に恐怖を抱いて今にも逃げ出そうとしてしまった。

 

 

「壊してやるわ。全部、全部!クロックアップ!」

≪clock up≫

 

「くっ…があっ!?」

 

 

カブトムシの幼虫が模られたベルトに触れたかと思えば、私は凄まじい衝撃と共に宙を舞い、地面に叩きつけられていた。十分離れていたはずなのにすぐ目の前にアナザーカブトはいつの間にか移動しており、私の襟を掴むと持ち上げ、吟味するかのように醜悪な顔を近づけた。

 

 

「かはっ、なんで、貴女が…あの時、私が厄災の契約を断ったから…?」

 

「貴女も私の事をバカにしてるんでしょ?ふふふふふ……はっはっはっ、あっはっはっはっはっ!いいわねこの力!地霊殿の主でさえ相手にならない!誰も、私の道を阻めない!」

 

 

上機嫌に知り合いの声でのたまる怪物に、私は必死に拘束を緩めようと暴れながら以前出会った際のパルスィを思い出す。こんな、人じゃなかった。

 

 

「っ…貴女は…私の知っている、貴女は…!周囲の者を妬んではいるけれど、心の奥底ではみんなへの尊敬や憧れをちゃんと持っている、みんなが思っているよりもずっと優しい守護神だったはず…なのに、なのになんで…!」

 

「古明地さとり…貴方はいいわよねえ。他人の心を読んで他人の好きなこと、嫌いなことを知れる。誰よりも他人を理解できる、できてしまう。ただただ嫉妬して他人を貶めるしかない私とは大違い。その能力を持っていて疎むなんて、妬ましいわ。どうせ私なんか…だから壊してやるの、全部、全部、全部!」

 

「くっ…こういう、ことか…世界を破壊するという厄災の手段は…くあっ」

 

 

自分に契約を持ちかけられた時から薄々と気付いてはいた。厄災が生み出していたのは、元より存在していた不満や不安を暴走させる、それがこの怪物「アナザーライダー」だと、そう確信する。そして、懐に入れて置いたアレに意識が向いた。

 

 

「こうなれば…使う、しか…!」

 

「私の心も読むの?無理よ、だって仮面に隠れた私の顔さえ見えないんでしょう?!」

 

 

そうだ、心が読めない。この怪物の心が読めない、代わりに一年近い物語の記憶が脳裏に焼き付けられる。おそらく、パルスィの外装部を覆っているのは「歴史」と「情報」だ。アナザーライダーの心を読むことはできない、そう確信するには十分だった。

私は苦悶に顔を歪めながら、懐からディケイドライバーを取り出して腰につけるとディケイドライバーを中心に銀色のベルトが巻かれ、左右のサイドハンドルを引くとディケイドライバーのバックル部が90度回転、左腰に出現した「ライドブッカー」を開いて中から一枚のカードを引き抜くとそのままバックルに装填。その行動を訝しげに傍観していたアナザーカブトに、私はきっと面を向かって睨み付けた。覚悟は決めた。

 

 

 

「ごめんなさい、パルスィ。私は…貴女を、破壊する!――――変身!」

 

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

「はあ?」

 

 

そう叫ぶと同時にサイドハンドルを押すとベルトから九つの幻影が現れて私に重なってその姿を変え、ディケイドライバーから複数のプレートが飛び出してアナザーカブトの胴体に直撃して拘束から逃れ、最後にプレートが頭部に突き刺さってマゼンタ色に染まり、翡翠色の複眼が輝く。バーコードを模した頭部、ところどころ十を模った装甲を持つ、アナザーライダーのそれとはまるで印象が違う全身装甲の戦士に私は変身していた。

 

その名を、仮面ライダーディケイド。世界の破壊者と呼ばれた、通りすがりの仮面ライダー…らしい。厄災の「トラウマ」だったのでそう詳しく知れないのは残念だが、これで戦えるはずだ。

 

 

「はあ!?…そんな姿になれるってのに今まで私にいいようにされていたって?その余裕、妬ましいわあ!」

 

 

手加減されていたと勘違いしたらしいアナザーカブトは憤慨し、拳を振るうも咄嗟に受け止め、蹴りの一撃をいれると蹲る。蹲ったアナザーカブトに警戒しながらライドブッカーを取り外し、変形させてソードモードにすると斬りかかった。隙を見せたらまたさっきの高速移動でやられる…!

 

 

「ああ、その強さ…妬ましいたらありゃしない。壊してやる、クロックアップ!」

≪clock up≫

 

「ッ…!?」

 

 

瞬間、アナザーカブトはベルトに触れて姿を消し、多方向から衝撃が襲いかかり私は宙を舞い、地面に叩きつけられ呻いた。やはり、一瞬でも隙を見せたら逆転されてしまう。元々弾幕ごっこも苦手な部類の私には直接戦うなんてきついというのに。何とか立ち上がり、先ほど読み取った「情報」と、厄災の「トラウマ」から打開策を見出してライドブッカーから二枚のカードを取り出してディケイドライバーを操作、装填する。

 

 

「がはっ…なるほど、クロックアップ…仮面ライダーカブトが有する、時間流を自在に活動する能力ね。単なる高速移動でもないから妖怪の反射神経でも捉え切れない、か。なら…!」

≪カメンライド・クウガ!!≫

≪フォームライド・クウガ ペガサス!≫

 

 

すると私の姿が腰のベルト以外が赤いクワガタムシを模した仮面ライダークウガ・マイティフォームに変わったかと思えば、続けて緑のクウガ・ペガサスフォームに変身。再び取り外したライドブッカーをガンモードに変形させて専用武器であるペガサスボウガンへとメタモルフォーゼさせると、自分はお前より上なんだと言いたいのかクロックアップしたまま周囲を動き回るアナザーカブトを相手に集中する。

 

 

「姿が変わったぐらいでどうしようというのかしら?!なんにでも変われるなんて妬ましいわね!」

 

「虫には虫よ。カンニングみたいでずるいけど」

 

 

煽ってくるアナザーカブトを無視し、ペガサスフォームの極限まで研ぎ澄まされた視力と聴力で、痺れを切らして突進してきたアナザーカブトを捉えると、一瞬でペガサスボウガンのトリガーを引き絞り撃ち込んだ。

 

 

「――――ブラストペガサス」

 

「は?ぐあぁあああああああっ!?」

 

 

放たれた風の弾丸が直撃し、アナザーカブトは爆散。勝った、と一息ついていると不思議なことが起こった。まるでビデオの逆再生の様に爆発は消え去り、困惑した様子のアナザーカブトが現れたのだ。そんな反則な!?

 

 

「な!?」

 

「ん?」

 

 

これには敗北したと絶望していたアナザーカブトも驚愕していたが、すぐに状況を理解するとアナザーカブトは口を歪めて嗤い、再びクロックアップして超高速の拳を叩き込んできた。呆然としていた私は直撃をもらい、薄い胴体がへこんで軽く吹き飛び、崩れ落ちて強制的にクウガからディケイドに戻ってしまった。今のは…きつい。でもなんで…

 

 

「ぐはっ…馬鹿な…ならば!」

≪ファイナルアタックライド・ディディディケイド!!≫

 

 

それでもと、ライドブッカーから必殺の一撃を放つためのカードを取りだし装填。アナザーカブトとの間に10枚のエネルギーカードを出現させ、私が跳び上がると連なる様にエネルギーカードも斜めに配置され、それを通り抜けてエネルギーを溜めた飛び蹴り「ディメンションキック」をアナザーカブトに叩き込んだ。今度は受け止める様に両腕を広げたアナザーカブトにまた直撃、爆散させるもまた巻き戻る様に復活。側に着地してしまった私に、カウンターの如く回し蹴りを放って蹴り飛ばした。

 

 

「アハハッ、何だか知らないけど‥‥貴女じゃ私を倒せないみたいね?妬ましくもないけど!」

 

「くっ、不死身でさえ倒せるディケイドのファイナルアタックライドまで通じないとはどうすれば…」

 

 

余裕のつもりなのかクロックアップすることなくそのまま殴りつけてくるアナザーカブトの攻撃を回避しながら、思考する。私の知る記憶(トラウマ)において、アナザーカブトと同じクロックアップを使う怪人、ワームに対してディケイドが完封して見せたカード。それが通じないとなれば、手は限られてくる。同じくクロックアップするライダーに対抗するために使ったフォームライド、そして。

 

 

「…目には目を、歯には歯を。カブトにはやはり…カブトを!」

 

 

そうしてライドブッカーを開いて取り出したのは、アナザーカブトとよく似た姿の仮面ライダーが描かれたカード。ディケイドライバーのハンドルを引いて現れた投入口に差し込み、ハンドルを押し込んで装填。ベルトから徐々に赤い装甲に包まれ、姿を変えた。

 

 

≪カメンライド・カブト!!≫

 

 

目の前に立つアナザーカブトとよく似ていて、まるで違うスマートな体躯。赤い角が天を突き、青空の様に澄み渡った複眼がアナザーカブトを見据える。体格差では優に超えているというのに、眩しい物を見たかのように手で顔を覆ったアナザーカブトは怯んで後ずさった。

 

 

「…ああ、妬ましい妬ましい妬ましい!地上に輝く太陽、太陽、太陽!それを当たり前の様に受けられるさとり!アンタが妬ましいぃイイイイイイッ!!!」」

 

「ッ…!?」

 

 

そのまま取り出したカードを装填しようとしていたら、また不思議なことが起こった。胸部を掻き毟るアナザーカブトの上半身がまるで脱皮したかのように赤熱して崩れ、そこから更なる異形が現れたのだ。

 

 

「「どうせアンタも私をバカにしてるんでしょう?妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい…」」 

 

 

脇腹に新たに両腕が生え、胴体はそのまま二つ分重ねたかのようなワームサナギ体の如く膨れ上がり緑色が多い背中から昆虫の様な三対の翅が生え、頭部も複眼を中心に二つに開くように分かれてそれぞれ左右に向いていてまるでクワガタムシの様なシルエットに、そして後ろを向いている複眼は青のままだが前を向いている複眼は緑に輝いている。声は二つ分重なって聞こえた。六本の手足に翅、これではまるで昆虫だがこの姿は一体…?

 

 

「……緑の目をした怪物(グリーンアイドモンスター)…!?」

 

「「……ハッハッハッ、アッハッハッハッハッ!!誰かのババアが言っていた…私が望みさえすれば、運命は絶えず私に味方する!私の進化は光より早い。全宇宙の何者も私の進化にはついて来れないのよ!!」」

 

 

ぼそぼそと呟いて俯いていたかと思えば、今度は狂ったように笑い声を上げるアナザーカブト。ああ、それは曲解だと思うが。これは、アナザーカブトの力と彼女自身の力が合わさった複合体だろうか…彼女はスペルカードで分身を生み出せたはずだ。それが分離できなかったと見るべきだろう。脱皮し損ねたカブトとは何とも皮肉だが。

 

 

「…でも、その人はこうとも言っていたわ。自分に溺れる者はいずれ闇に落ちる。また、太陽が素晴らしいのは塵さえも輝かせることだ、とも。その力に負けないで、貴女にだって太陽の光を受ける資格はある」

 

「「うるさい、どうせ私は、私達地底に追いやられた者は日向の道を歩けないんだから。私達みたいなろくでなしが少しでも光を掴もうなんて思うと、痛いしっぺ返しをくらうだけよ。だったら私自身が太陽になるしかないじゃない!貴女だって私と同じ地獄を見た口でしょうが!それともそんなことを考えたこともないって?そんなに心が強いなんて、妬ましいわね?!」」

 

 

駄目だ、私がカブトに変身してしまったせいか完全に錯乱している。というか自棄といってもいい。アナザーカブトの出自は知らないが、元々使う人間とだいぶ同調してしまったのだろう。少なくともカブトの変身者はこんなネガディブではない。ならばもう、やるしかないか。

 

 

「「死ね、死になさい、さとりィイイッ!!」」

 

「そういうわけにもいかなくてね!」

≪アタックライド・クロックアップ!≫

 

 

全く同時に、超高速の世界に入る私達。試しにバカ正直に突っ込んでライドブッカーを振るってみると、胴体には通らず右の二椀による強烈なアッパーブロウが炸裂して宙に舞い、続けざまに左の二椀によるアームハンマーを喰らって地面に叩きつけられ、おまけとばかりに頭から蹴り飛ばされて旧都の家屋に突っ込んでしまった。紙装甲でしかない今のディケイドカブトでは耐え切れるわけがない。そのまま超高速の世界で突進してくるアナザーカブト。それなら、これしかない。

 

 

≪アタックライド・プットオン!≫

 

「「ナアッ!?」」

 

 

ガキン、と。私を圧倒した二つの拳が頑強な鎧に受け止められる。プットオン、それはライダーフォームからマスクドフォームへと戻るという、キャストオフとは逆のシステムだ。カブトのライダーはキャストオフして装甲を犠牲にすることで初めてクロックアップすることができる。だがこのディケイドカブトでは、その必要がない。マスクドフォームのままクロックアップするという奇策が出来るのだ。そのままカウンターに右拳を腹部に叩き込む。急激に変化したせいか下の腕による防御はされず、今の衝撃でアナザーカブトのクロックアップが解けたらしくゆっくりと吹き飛ばされていく。これなら、行ける!

 

 

≪アタックライド・カブトクナイガン!≫

「でやあ!」

 

 

次のカードを装填し、右手に召喚されたカブトクナイガンアックスモードで斬る、斬る、斬る!斬られた箇所から緑色の炎を噴出していく。どうやら、アナザーカブトにはカブトの一撃は通じるようだ。なす術もなく切り刻まれながら吹き飛び、彼女が本来守るハズの橋の欄干を突き破って川に落ちて水飛沫を上げるアナザーカブト。それを気にせず水の中から顔を出した彼女は、もはや自分の役目も忘れたようだ。

 

 

「「…笑え、笑えよ。私を笑いなさいよ、さとりぃいいいいいいっ!!」」

 

「私は友人のことを意味もなく笑ったりしないわ、パルスィ」

≪アタックライド・キャストオフ!≫

 

 

翅を羽ばたかせたアナザーカブトがクロックアップが解けた私へ飛びかかってくるも、キャストオフした装甲の直撃を受けて空中でバランスを崩し、こちらに落ちてきたところにクナイモードになったカブトクナイガンで翅を斬り付け、飛べなくする。変身を解けばまたいつもの様に飛べるはずだが、どうやら完全に嫉妬に飲まれた怪物になったらしい。

 

 

「「パルパルパルパルパルパルパル!!人を呪わば穴二つぅううううっ!」」

 

「もはや何を言っても無駄ね。終わらせるわ」

 

 

アナザーカブトはまるで獣の様に四本腕を地面に付けて四つん這いで、背後を向いて溜め息を吐く私を睨みつけながら突進。私はディケイドライバーに必殺のカードを装填してハンドルを押しており、ベルトから生じた青い雷が一度頭部の角を通ってから右足に充填される。

 

 

≪ファイナルアタックライド・カカカカブト!!≫

「――――想起【ライダーキック】」

 

「グッ…アァアアアアアッ!?」

 

 

飛びかかってきた瞬間に振り向いた私の回し蹴りを頭部にもらったアナザーカブトは爆散。爆発の中からボロボロのパルスィが出てきて、慌てて受け止めながら私は変身を解除した。

 

 

≪カブト!!≫

 

「パルスィ!大丈夫!?」

 

「う、ううん…」

 

「無事みたいね、よかった…」

 

 

するとパルスィの胸からアナザーカブトウォッチが出てきて音声を鳴らしながら転がり、どうやら気を失ったらしいパルスィをどうしようか迷ったが、一度パルスィを担いで飛んで地霊殿に戻り客室に寝かせて再び出発することにした。パルスィが起きた時には誰もいないが書置きは残したので許してほしい。今は妹やペット達の方が心配だ。

 

 

それにしても、あんな闇を抱えていたなんて…嫌がられるかもしれないけど、少しは彼女の心を視ていればこんなことにはならなかったのかもしれない…そう思うと、どうもずっしり心に来る。

 

 

 

 

「うん…?」

 

 

再び地上へ向かう道中。パルスィが元に戻った付近で地べたに転がったままのアナザーカブトウォッチを見つけた。このまま置いておいて厄災に回収されてまた誰かが変えさせられたらたまった物じゃないのでとりあえず私が所持することにした。これからどうなるか、正直不安だ。こいしもアナザーライダーにされた可能性が高いし、三日目にして私のところに来たということは地上にはアナザーライダーがわんさかいると見ていい。それに、パルスィ以外いなくなった旧都も気になる。

 

 

仮面ライダーディケイド、私には過ぎた力だとは思うが、今は緊急事態だ。破壊者だろうが悪魔だろうがなってやる。もとより私は怨霊も恐れ怯む少女、今更汚名が増えようと構わないのだから。

 

 

 

 

ーーto be next another time




矢車さんな時点でアナザーカブトはパルスィしかないよねってなったら擦り切れた怪物になっていた件。前回撤退した厄災がちょうど通りかかったパルスィにウォッチを埋め込んだ結果。厄災の台詞はカブトのOPから引用です。

天道語録と矢車語録をフル活用しました。原作台詞引用は若干難しかった。

初変身、ディケイドさとり。ライダー少女とかじゃなく普通にライダーです。敵を分析しながら最適解を打つという戦法です。

今作のアナザーライダーは表面を「記録」が仮面の様に覆っていて、さとりの能力じゃ心を読めない仕様になっています。そして同じライダーで無いと倒せないという特性も健在。原作ではワームを倒したクウガで倒せないという演出。だからこそのディケイド主人公です。でもノーマルディケイドなのでキバまでが限度です。プットオンでクロックアップはディケイドならではの戦法だと思います。

そしてパルスィが変身したアナザーカブトの特殊形態、アナザーカブト・エンヴィー。アナザーカブト×グリーンアイドモンスターという、パルスィならではの形態です。単純に強い代わりに嫉妬に駆られて理性が消える。昆虫の様な手足六本やワームサナギ体、ハイパーガタックに似ているのは皮肉です。

次回は地上の地獄を知るさとりと、VSアナザー響鬼。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第三話:楽園の強欲な王様(素敵な巫女)

はい、ジオウの最終回間近の神回ラッシュということで執筆意欲を掻きたてられた放仮ごです。今回はちょっとしたオリキャラが登場するので苦手な人は注意。

今回は地上に到着したさとりディケイドと二人のアナザーライダーとの対決。楽しんでいただけたら幸いです。


 妖怪から人里の人間を守る博麗の巫女が、厄災に触れられて怪人と化した。人里の守護者も親友を庇って死んでしまった。誰も守る人間がいなくなった人里は狂乱の渦だ。みんな、家に閉じこもって厄災が過ぎ去るのを待っている。最近、怪人を倒す怪人が現れたという噂を聞いたけど所詮は怪人、私達を守るとは思えない。

 

 誰かがみんなを守らないと。そう意気込んで、よく人里に人形劇をしに来る顔見知りの人形師のお姉さんを捜して魔法の森に入ったのだが、駄目だった。そもそも魔法の森とは一部の物好きしか住んでいない、人間を襲う妖怪たちと、厄災が来てから棲みついた怪人達の巣窟。一人で入ってきた人間の女子供など格好の餌だったのだ。

 

 そして、命が失われるかという瞬間、周りの人食い妖怪と怪人たちが制止した。いや、空中を舞う葉さえ静止していた。まるで時間が止まっているかのように。

 

 

「…え?」

 

「――――私は弱者の味方だ。強者に蹂躙される弱者を救う王を志す者だ」

 

 

 その言葉と共に、妖怪達を押しのけながら姿を現したのは、頭に角を生やした女性だった。鬼だというのはすぐにわかった。だけど、この状況に、その言葉に、惹かれていた私は警戒心を失くしていた。

 

 

「私は強者に支配されるこの幻想郷に叛逆する。立場を逆転させてやるんだ、弱き者が何者にも脅かされることのない世界にする、そのために私が王となる!強者どもにさらに力を与えて自滅させるのも一興と考えたが…気が変わったよ。弱者を救いたい、そう心から願う人間もいるんだな?」

 

「う、うん…慧音先生は死んじゃった。巫女さんはもう頼れない。でも、誰も私達を守ってくれないからって諦めるのは間違ってると思う。私は何もできないけど、でも人形師のお姉さんなら…!」

 

「だが残念なお知らせだ。お前の希望である人形師は既に堕ちたぞ。あそこまで孤独心が強い奴とは思わなかったがな」

 

「そんな…」

 

 

 その人の語った言葉に、私は絶望の表情を浮かべて項垂れる。…やっぱり、人間じゃない人に助けを求めたら駄目なんだ…でも、それなら…!

 

 

「私は、どうすればいいの?みんなが犠牲になって行くのをみすみす見逃して自分だけでも生き延びろとでも?そんなの、できるわけがない!」

 

「ああそうだ、だからお前に戦う意思があるのなら私が力をくれてやろう。だがわかるな?貧弱な人間のままじゃあ、妖怪にも怪人にも敵わない。お前に人を辞める覚悟があるというのなら、契約しろ。修行も努力もせずに力を手に入れるのは間違っていると思うか?いいや、違う。正しい願いと志を持っているなら、それこそ力を得ていいはずだ。なあそうだろう?」

≪ヒビキ!!≫

 

 

 懐中時計の様な物を手ににやりと笑みを浮かべるその人は、その言葉に臆してしまって何に言えなくなってしまった私に気付いたのか否や、懐中時計を私の胸に突き出してきた。懐中時計はすんなり私の胸部に入り込み、そこから飛び出してきた黒い繊維に包まれた私は悶え、苦しむ。視界に映った黒い繊維に包まれた両腕が異形と化し、目線が上がって行く。体が燃えるように熱い。頭が割れる様に痛い、覚悟も何もない、鍛えてもいない私じゃ堪え切れないよ…!?

 

 

「ッ…ガアァアアアアアアアッ!!!?」

 

「なんてな?意見は求めん、今日からお前が響鬼だ。私が王となる糧となれ!」

 

 

 時間が元に戻り、その人は姿を消していて。襲いかかってきた妖怪たちを、私は抗えない破壊衝動のままに手にした二つの棍を振り上げると先端に炎が燃え上がり、荒々しく次々に叩きつけると妖怪たちは炎上して苦しみながら消滅。続けて襲ってきた、絵巻でよく見る河童の様な怪人も一撃で粉砕、猫のような怪人は咄嗟に口から噴き出た炎が消し飛ばす。私は頭痛に苛まれながらその光景に歓喜した。この力なら、悪い奴らを根絶やしにできるのだと。

 

 

「妖怪を根絶やしにしてやる…!」

 

 

 その時私は、当初の目的はすっかり忘れていて。燃え上がる殺意のままに二本の棍を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人の少女が鬼へと変貌したその数時間後。空中を飛んで地上への道を一気に駆け抜けたさとりは、妖怪の山の麓にある地上の出入り口にて、厄災襲来以前と変わらず広がる青空を見て溜め息を吐いていた。友人に襲われたこともあり、変わらないものに安堵したのだ。

 

 

「さて、無事(?)に地上に出れたわけだけど。道中、こいしやお燐たちの手掛かりが全く掴めなかったことが気がかりね。厄災の言い分だとこいしもアナザーライダーにされた可能性が高いけど、お燐たちは何で行方不明に…」

 

 

 気になるのは、旧都の鬼たちどころか住人が一人残らず姿を消していた件だ。地上へ向かう道にも人っ子一人いなかった、地霊でさえもだ。唯一残っていたパルスィが何か知っているのだろうが、時間が惜しくて一度地上に出てしまったため、このまま進むことにした。

 

 

「…しかし博麗神社も今やほとんど機能してないだろうし、賢者もどこにいるか分からない。人里は混乱の渦だと聞いたし………どこ行けばいいのやら」

 

 

 手がかりを求めて地上に出たはいいが、行く先を迷って頭を抱えるさとり。こいしがよく立ち寄るという紅魔館か、それとも手がかりを探すために事件が起きた場所である人里か。厄災を見つけられればそれが一番早いのだが、と悩み続けていると。

 

 

「ねえ…」

 

「うん?」

 

 

 背後から話しかけられ、振り返るさとり。そこには、乱れた前髪で顔が見えない、動きやすいように丈が短い萌木色の着物と素足に草履を身に着けた幼い少女がいた。気配からして妖怪ではなく人間だ。見た目だけなら少女であるさとりの同世代ぐらいだろうか。人間の齢にして十一ぐらい、しかしこんな場所にいるのは妙だとすぐに気付き、その手に握られた見覚えのある懐中時計が起動されるなり咄嗟にディケイドライバーを腰に巻いた。

 

 

「貴女、妖怪でしょ?」

≪ヒビキ!!≫

 

「ッ!?」

 

 

 少女はアナザーウォッチから溢れた黒い繊維に包まれ、パルスィと同じようにその姿を成人男性大の怪物へと変貌させる。アナザーカブトとは異なり、両肩に金の鬼瓦を模した肩甲を装着し、腰には太鼓を模したバックルが供えられた茶色い革ベルトを着け、仁王像を思わせる下着を履いている、両腕だけ赤く染まった紫色の屈強な肉体に、鋭い牙が生え揃った赤で彩られた顔の模様と額から生えた二本の角は鬼を思わせるが、その奥に人間の目と口、短い後ろ髪が存在しておりまるで鬼の面を被っている様にも見える。灰色の羽衣で上半身を隠してはいるが、背中に縦書きで2015と刻まれており胸の中央に縦で描かれた「HIBIKI」の文字ははっきりと見え、自らの名を誇示している様にも見える。

 頭の中に流れてきた名前「アナザー響鬼」を認識した直後、肩甲から抜かれた二本の棍から放たれた炎がさとりを包み込んだ。

 

 

「ハハハハハッ!あっけないな妖怪!今度はお前たちが狩られる番なのだと思い知れ!」

 

「…妖怪でもその力に溺れるというのに、ただの人間がそんな力を使えば溺れてしまうのは必然ね」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

 

 高笑いするアナザー響鬼の眼前で、炎を薙ぎ払いながら姿を現したディケイドはそのまま開いたライドブッカーから取り出したカードをバックルに装填、ライドブッカーを取り外してガンモードにして突き付けた。

 

 

「姿を変えたな、そっちの姿の方がらしいぞ妖怪!やりやすい!」

 

「あら。変身前じゃ殺す覚悟もできないのかしら」

≪アタックライド・ブラスト!≫

 

「そんなものォ!」

 

 

 すると銃身が分身して威力の上がった光弾の雨が放たれるが、アナザー響鬼は二本の棍に炎を纏って突進。でたらめに棍を振るって光弾を弾き返し接近してきて、そのまま叩きつけてくるが、咄嗟にライドブッカーをソードモードにしたディケイドは防御と同時に蹴りを入れて距離を取り、以前異変が起きた際に自らと戦った少女のスペルカードを頭に思い浮かべて手を突き出した。

 

 

「想起【マスタースパーク】!」

 

「ッ!?」

 

 

 再び殴りかかろうとしていたアナザー響鬼は、ディケイドの右掌から放たれた極太レーザーを真面に浴びて吹き飛ぶも、決定打には至らなかったためかすぐに起き上ってきた。その目には憎悪が宿っており、アナザーライダーの心は読めないとはいえディケイドを怯ませるには十分だった。

 

 

「やってくれたな妖怪ぃいいいいいっ!」

 

「なんでそんなに妖怪を目の敵にしているのかは知らないけど、私も妹を見つけるまでは負けられないの。ネタは割れているし一気に決めさせてもらうわ」

 

 

 そう言ってライドブッカーを開いて取り出したのは、アナザー響鬼とよく似た姿の仮面ライダーが描かれたライダーカード。ディケイドライバーのハンドルを引いて現れた投入口に差し込み、ハンドルを押し込んで装填。突如紫色の炎に包まれ、右腕を振るって炎を掃うとその姿を変えていた。

 

 

≪カメンライド・ヒビキ!!≫

 

 

 その姿は、むしろアナザー響鬼の方が仮面ライダーに思えるすらりとした異形だった。筋肉質なマジョーラよりの紫色の肉体に、甲から短く爪が伸びた赤い両腕。いたるところに付けられた銀の装飾。どちらかというと怪人よりだが、鍛錬により鬼の力を得て、魔化魍を退治する音撃戦士の一人で列記とした仮面ライダーの一人だ。鍛え抜かれた肉体は、アナザー響鬼の仮の肉体より洗練されていた。

 

 

「私が響鬼だ!妖怪を根絶やしにする力を、妖怪のお前が使うなあ!」

 

「まあ正論ね。でも、鍛えてもいない。覚悟も無い。力に流されているだけの貴方が名乗れるほど軽い名前でもないわ」

≪アタックライド・オンゲキボウ レッカ!≫

 

 

 ディケイド響鬼は腰から二本の音撃棒を抜いて先端に炎を纏わせ、アナザー響鬼も二本の棍に炎を纏わせ、同時に火炎弾を発射。アナザー響鬼の眼前で激突し、大爆発が起きて双方吹き飛ばされて地面に転がった。アナザー響鬼はダメージに呻きながらも立ち上がり、ディケイド響鬼はダメージが少なかったのかぴんぴんしている。

 

 

「私がみんなを守るんだ……!」

 

「だったら妖怪狩りなんかしてないでアナザーライダーを狙いなさい…これで終わりよ」

 

 

 最後の抵抗か口から放たれた鬼火を軽く避けたディケイド響鬼が、とどめのカードを装填しようとしていたその時だった。

 

 

ジャラララララララララララ…

 

 

 どこからともなく聞こえてきた不快さを感じさせる金属音に、動きを止めて周りを警戒するディケイド響鬼。対してアナザー響鬼は落ち着かないようにぶんぶんと顔を周りに向けて怯えたように二本の棍を握りしめて後ずさる。その行動に疑問符を浮かべるディケイド響鬼は、自らに差した影に思わず見上げて、音の正体に気付いた。

 そこにあったのは、大量の銀色のメダルで形成された球体。まるで、闇を作る妖怪ルーミアが能力を使用した際の闇の球体の様なそれは、生きているかのように空を蛇行し、二人の間に落ちてくると同時にメダルが分解、周囲にぶちまけた。津波の様にメダルの山が二人の足元に流れ、少女は姿を現した。

 

 

「アナザーライダーは助け合いよねえ!?」

 

「霊夢さん!?」

 

 

 メダルの球体の中から現れたのは、さとりの知り合いである幻想郷を守る博麗の巫女、博麗霊夢その人だった。しかし巫女服はぼろぼろで、袖が無くなってノースリーブになっており、リボンも無い髪を乱雑に伸ばしているその表情は笑みの形で固まっており不気味だ。そしてディケイド…さとりにはその心が読めてしまう。

 巫女でありながら我欲に生きているのが博麗霊夢だった。しかし今、その心にあるのは深い後悔と悲しみと怒り、絶望とやるせなさ。さらに記憶まで読んだことでさとりは知った、知ってしまった。妹を襲った厄災の光景を。

 

 

「こいしは…死んだ?霊夢さんの、目の前で…?」

 

「あら。誰かと思ったら貴女、さとりか。そう、知ってしまったんだ?貴女の妹は不幸にも死んだ。厄災って言う理不尽に遭ってね。楽して助かる命は無いわ、どこも一緒よ」

 

「どの口がそれを…!」

 

 

 怒りのままに音撃棒から火球を放つディケイド響鬼だったが、霊夢の右手の指が動くとそれに追従してメダルが動いて壁を作り防御、火球により吹き飛ばされぶちまけられたメダルの雨を浴びながら霊夢は狂笑を浮かべる。その姿に、壊れてしまったのだとさとりのどこか冷静な頭が悟った。

 

 

「こいしを救えなかったことは、人里の人々をまるで守れなかった私は、博麗の巫女でありながら何もできなかった自分自身を責めたわ。でも、過ぎたことはしょうがないと割り切ることにした。するしかなかった。だから私は手を伸ばすことにしたの、貴女の妹や人里の人間って言う犠牲を無駄にしないために。手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔するでしょ?ええ、私は心が死ぬほど後悔したわ。だから伸ばすのよ、この手をね!」

≪オーズ!!≫

 

 

 懐から取り出され、起動されたのは“この”ディケイドの記憶には存在しないライダーの力。黒い繊維に包まれた霊夢が変貌したのは幻獣キメラの様な怪人だった。憤怒の表情を浮かべた緑の複眼を持つ、後頭部から生えている翼が垂れた赤い鷹の頭部、巨大な鋭い爪を持つ黄色い虎の腕、昆虫の節足の様な緑の飛蝗の脚。首元には白い羽毛が襟巻の様に存在し、信号機のランプを思わせるバックルのベルトが付けられ、それぞれの色の鷹虎飛蝗が描かれた巨大な輪の中心に「OOO」が描かれた胴体がその名を表していた。また、背中の金属のヒビ割れた黒いプレートには2002の年号が刻まれている。

 見た瞬間に頭に流れてきた名前は「アナザーオーズ」。緑の目の奥に在る霊夢の瞳は、ギラギラと欲望で輝いており、ディケイドが知らないライダーという存在がさとりに焦りを生み、次の瞬間文字通りその右手が伸びてきて頭部を掴まれてしまう。

 

 

「貴方も私の欲望となりなさい!」

 

「これは…!?」

 

 

 アナザーオーズの右手に触れた箇所から銀色のメダル…セルメダルへと変わって零れ落ちて行って仮面が崩れていき、響鬼の変身が解けた瞬間にディケイドはライドブッカーソードモードでアナザーオーズの腕を切断。ギリギリ間に合い、アナザーオーズの魔手から逃れたディケイドはバックステップで後退すると、信じられない光景を目撃する。

 

 

「やってくれるわね…無駄だけど」

 

「そんな馬鹿な…」

 

 

 伸びてきた右腕を確かに切断した、はずだったのだが…アナザーオーズは意に介さず斬られた箇所をメダルの山に突き出すとメダルが集束して右腕が復活。思わず反則だろうと唸っていると、飛蝗の跳躍力でディケイドの背後に降り立ったアナザーオーズの爪による攻撃を咄嗟に横っ飛びして回避。ライドブッカーで斬り弾いて距離を取ると仕切り直しすべく腰に戻したライドブッカーからカードを取り出して装填。ライドブッカーをガンモードにして、アナザーオーズとの間に10枚のエネルギーカードを出現させると引き金を引いた。

 

 

≪ファイナルアタックライド・ディディディケイド!!≫

「ディメンションブラスト!」

 

 

 放たれた光弾がエネルギーカードを通るたびにエネルギーが蓄積されて大きくなり、巨大な光弾がアナザーオーズを撃ち抜いて爆散させ、メダルの雨が舞い散る。しかしそれでも、前回のアナザーカブトが復活する時の様にメダルが集束してアナザーオーズを形作った。やはり該当するライダーの力がないと倒すのは難しいらしい。

 

 

「そんなもんだったかしら。貴女の想起には苦労させられたのだけれどね、弱くなったんじゃないの?」

 

「くっ…地上に出たばかりだというのに、これはまずいか…」

 

 

 呆れた様な声で嘲るアナザーオーズに、逃走するべく策を巡らせるディケイド。すると、予想外の事態が起きた。

 

 

「みんなを返せーっ!」

 

 

 アナザーオーズが「助け合い」だとのたまっていたアナザー響鬼が、背後から襲いかかったのだ。しかし棍の一撃は複数のセルメダルに分裂したアナザーオーズに当たることはなく。背後で実体化したアナザーオーズに組み伏せられたアナザー響鬼は意識が薄れたのか、ダメージが限界を迎えたのか変身が解けてしまった。憎しみと怒りに満ちていた少女の顔は絶望に染まり、さとりはその心を読んで知る。この、メダルの山の正体を。

 

 

「不意打ちしたいならせめて叫ばない事ね?まあいいわ、貴方の手も掴んであげる。貴女の友達と一緒よ?」

 

「そんな、いやよ、いや、いや、いや!」

 

 

 そう言って右手を顔に近づけると、少女は自分の末路を幻視したのか恐怖のあまり顔を青ざめて泣き叫び、頭をぶんぶんと振るって少しでも逃れようと試みるが、抵抗虚しくアナザーオーズの右手は少女の顔に触れていて。

 

 

「いや…やだ、やめて…!嫌ぁあああああああっ」

 

 

 少女の断末魔と共に、新たに築き上げられたメダルの山と、嬉しそうにそれを掻き集めて抱えるアナザーオーズにさとりは戦慄するのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




アナザーオーズ回に見せかけたアナザー響鬼回と思わせてのアナザーオーズ回でした。題名の強欲な王様は少女をアナザー響鬼に変貌させた自称叛逆する王様とのダブルネーミング。

厄災とは別にアナザーライダーを生み出している謎の女性。時間を止めたりとスウォルツみたいなのはご愛嬌。地霊殿直後に当たる今回では絶対出てこないはずの原作キャラですが、原作よりも先に手段を得たため表に出て来ました。こんな感じに地霊殿後のキャラもちょくちょく出ます。

アナザー響鬼に変貌した少女。人里に住む、慧音に感化されて正義感溢れる普通の女の子です。一応名前はありますがおいおい。響鬼のアナザーということで、「鍛えておらず何の覚悟も持たない弱き者」ということで人里の人間を抜粋しました。手段と目的が見事に入れ替わってます。

想起もしっかり使えるさとりディケイド。むしろこれが強み。妹が死んだと知っても激情体にならないけど、どちらかというとなれないが正しい。

狂いに狂って歪みきった博麗霊夢。原作の映司をひどくした状態で、変身しなくてもセルメダルを操るなどほとんどグリード化してます。霊夢の「周囲から浮く」という特性のせいですね。手を伸ばすという欲望からガラみたいに伸ばせるように。完全体ガメルの如く触れた物をメダル化する能力も。現時点で最強クラスのアナザーライダーです。元ネタは結局書ききれなかった過去作「novel大戦」の暴走霊夢です。

次回はアナザーオーズから逃れたさとりに襲いかかる新たなアナザーライダー。VS…?次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第四話:罪を背負う(自暴自棄で)不死身の人間/罪を問う(皮相浅薄な)人間

はい、前回の感想がまるで来なくてだいぶショック受けている放仮ごです。書き上がったために投稿してしまいましたが、感想もらって執筆意欲を上げるためだけに書いているようなものなので、一話一話別に感想をいただけると嬉しかったり。


前回の三つの出来事! 

一つ!水橋パルスィ/アナザーカブトを退けて辿り着いた地上で、人里の少女が変貌したアナザー響鬼に襲撃されたさとりこと仮面ライダーディケイド。

 二つ!優勢に立つものの、突如乱入してきた博麗霊夢が変貌したアナザーオーズの圧倒的な力を前に敗北してしまう。

 三つ!今や幻想郷を襲う災害の一つとなった博麗霊夢に襲いかかるアナザー響鬼だったが、返り討ちにされセルメダルの山にされてしまった!

意味はないけどアナザーオーズで前回終わって今回始まるからオーズ風にしてみた。今回はディケイドの真骨頂な回。例のBGMと共にお楽しみください。楽しんでいただけたら幸いです。


 誰かが問わねばならない。あの悪魔の魔の手に晒されてしまった者達に、問わねばならない。よりにもよって、子供たちのヒーロー…仮面ライダーの力でそれ以上罪を重ねる気なのかと、幻想郷を泣かせるのかと。止めなければならない。悪意が広がる前に、罪もない人々が巻き込まれる前に誰かが止めねばならない。例え悪魔の力を使ってでも、幻想郷を守らねば。顔見知りの妖怪たちを見逃してきた私の罪だから。

 

――――「そうだ、己の罪を数えたお前には資格がある。地獄の底まで悪魔(この力)と相乗りする覚悟があるのなら。今日からお前がダブルだ」

≪ダブル!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、ああ…私のメダルぅ!もう放さないわよ、私の中にいれば絶対に失わないから!私の手から零れないでね…?」

 

 

 変身を解いて、少女を変えたセルメダルの山を抱えてハイライトの消えた目を見開いてにんまり笑みを浮かべる霊夢に、ディケイド…さとりは恐怖する。心を読めば悪意は一欠けらもなく、100%の善意から人間をセルメダルにしてしまったのだ。曰く、セルメダルにして取り込んでしまえば永遠に失うことはない。狂気の沙汰である。妖怪ですらその思考に至る者はいないだろうと言えるほどに霊夢は精神崩壊してしまったらしい。

 

 

「…正気ですか霊夢さん」

 

「正気も正気よ、貴方には私の心が読めるんでしょう?だったらこの合理的な結論も理解してくれるわよね?ね?」

 

「残念ながら…ッ!?」

 

 

 期待を込めた表情で光の無い目を向けてくる霊夢に怖気ついて後ずさりするディケイド。すると、霊夢の抱えていたメダルの山がひとりでに動き出し、霊夢を弾き飛ばすと傍らに収束し、まるで巻き戻るかのようにアナザー響鬼へと形を成した。まるで、ディメンションキックを受けたアナザーカブトが復活した時と同じだ。

 

 

「え?……ええ?!?!?!?!!わ、私死んだ…死んだ、よね!?」

 

 

 アナザー響鬼は固まっていたがすぐさま我に返り、ひっくり返っている霊夢とまさかメダルになっても復活するとは思わず驚きで固まっているディケイドに気付くと、勝てないと悟ったのか鬼火を吐いて目くらましと同時に逃走。

 

 

「くっ、逃げられたか。私も霊夢さんがダウンしている間に逃げなければ…!」

≪カメンライド・カブト!!≫

≪アタックライド・クロックアップ!≫

 

≪オーズ!!≫

「ん"やめろぉぉぉ!!」

 

 

 ディケイドも慌ててカブトに変身すると同時に、起き上がった霊夢はアナザーオーズに変貌して右腕を伸ばしてくるも、ディケイドカブトは魔の手が届く直前にクロックアップしてその場を後にした。残されたアナザーオーズは霊夢に戻り、ショックを受けたかのように呆然と立ち尽くしていたかと思うとゆらりゆらりと幽鬼の如く歩き出した。

 

 

「駄目よ…駄目、駄目、駄目。もう少しで手が届いたのに……足りないの。貴方達がいないと私はもう満たされないのよ。逃がさない……!」

 

 

 空飛ぶことなく、セルメダルの波を操って自分を乗せて森の中へと消えていく霊夢。そこには、かつての幻想郷の護り主の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ…やはり人間というかなんというか」

 

 

 変身を解き、一息つくさとり。一心不乱に逃げたため周りが見えてなかったが、いつの間にか人里付近の森に着いたらしい。いまだ燻る煙がすぐ近くから上がっていて、惨劇の跡がここまで広がっていて木々がいくつか折れていた。安全の保障はないが、少なくとも霊夢の側よりはマシだと結論付けて倒れた丸太に寄り掛かる。あの狂気をあれ以上見るのはごめんだ、と額に滲んだ嫌な汗を手で拭った。

 

 

「…人里の少女であろう彼女がああまで霊夢さんに殺意と恐怖を抱いていたってことは、あのメダルの大半が人里の住民の様ね。アナザー響鬼といい、妖怪よりよっぽど人間が恐ろしいじゃない」

 

「人間がどうしたって?」

 

「!」

 

 

 話しかけられて、前へと顔を向けると、さとりの知らない顔がいた。白髪で赤い瞳を持つ赤いモンペを身に着けた少女、藤原妹紅だ。いつの間にかすぐ目の前まで来ていた気配に気付かなかったことに驚きを隠せないさとり。咄嗟に心を読み、立ち上がってディケイドライバーを構える。妹紅は、親しげなふりをしてさとりを攫おうとしていた。その目的は…

 

 

「おいおい。子供にそんなに警戒されると、さすがに傷付くぞ」

 

「…地霊殿の主として物申しますが」

 

 

 後ろ手にアナザーウォッチを構えたことを読心しながらディケイドライバーを腰に装着するさとり。それを見て、目の色を変える妹紅。妖怪だとは気付いていたようだが、珍妙な装備を身に着けてくるとは思わなかったのか警戒していた。

 

 

「人間だろうと妖怪だろうと、死者は丁重に眠らせるべきよ。他人から…特に子供から奪った生体エナジーを与えて蘇らせたところで、慧音さんという方が喜ぶとでも?」

 

「…ちっ。お前、悟り妖怪か。だがな、知ったような口を利くな。私には夢が無いんだ。なのに、夢があるあいつが死んだんだ。そんなのおかしいじゃないか、死ぬべきは私だったのに!」

 

 

 自分の胸に手を当てて吠える妹紅。悲痛に満ちた表情は、すぐにギリギリと歯を食い縛って怒りに満ちた表情へと変わる。まるで運命と自分自身に対しての怒りをさとりにぶつけているかの様だ。

 

 

「私の不死の肉体は何の役にも立たない!そんな私に与えられたのは他人の命を吸い上げて付与する力だ…私の命をあいつに渡すことも出来ないんだ!だったらもう、アイツの教え子たちを犠牲にしてでもあいつを蘇らせるしかないだろ!」

≪ファイズ!!≫

 

 

 アナザーウォッチが起動し、黒い繊維に包まれ姿を変える妹紅。現れたのは、炎の様に揺らめく黄色い複眼をもつ骸骨の様な白の異形。全身に血管の様に歪んだ赤い「フォトンストリーム」が流れ、筋骨隆々でマッシブな体型だが胸部は肋骨が露出しており中は空洞になっていた。右肩にFAIZの文字が、左肩に2004の年号が刻まれたそれの名は「アナザーファイズ」。妹紅の能力である赤い炎を全身から放出し、ゆらゆらと近づいてくる怪人を前にして、さとりはライダーカードを取り出して構えた。

 

 

「慧音さんが死んでしまったことは不幸な悲劇だと思うわ。それでも、貴方のしていることは自己満足でしかない。何の罪もない子供たちの命を弄び、あまつさえ死者を蘇らせようとするなんて、地獄で裁かれるべき大罪よ!」

 

「悲劇? 笑わせるな。ハッピーエンドに変えてやるよ。あいつを蘇らせるのが罪なら…私が背負ってやる!!例えあいつに嫌われようと、私は自分に嘘を吐きたくねえ!私は慧音に生きていてほしいだけだあ!」

 

「っ!」

≪カメンライド・ディケイド!≫

 

 

 アナザーファイズが襲いかかってきたと同時にカードを装填してバックルを回転、飛び出したプレートで迎撃しつつ変身を完了させたディケイドはライドブッカーをソードモードにして斬りかかる。対してアナザーファイズは蒼い炎と共に手甲の様な物を取り出して剣身を受け止めて弾き返し、そのまま拳を腹部に叩き込んだ。

 

 

「があっ!?」

 

 

 蒼いΦの文様が腹部に刻まれて蒼い炎が撃ち抜き、焼ける様に痛む腹部を押さえて呻き後退するディケイド。追撃してくるアナザーファイズに、反射的に振るったライドブッカーで切り払って牽制。腰に戻すとライダーカードを取り出して装填、バックルを回転させた。

 

 

「妖怪退治の専門家相手には分が悪い様ね。専門家には専門家よ!」

≪カメンライド・ヒビキ!≫

≪アタックライド・オンゲキボウ レッカ≫

 

 

 そしてディケイド響鬼に変身、取り出した音撃棒の先端に炎を纏わせて射出。アナザーファイズの振るった手甲と相殺、した瞬間。

 

 

≪START UP≫

 

 

 電子音声と共に蒼と赤の炎の中から何かが飛び出してきて、ディケイド響鬼は再び腹部に衝撃を受けて宙を舞い、響鬼の変身が解除されてゴロゴロと転がる。

 

 

「今のは…!?」

 

 

 ダメージに呻きながらも何とか立ち上がったものの、続けざまに何かが高速で体当たりを仕掛けて来てなぶり殺しにされる。動きを読む暇さえ与えてくれない。ようやく晴れた炎の先にアナザーファイズの姿はなく、ようやく高速で攻撃してくる何かの正体がアナザーファイズだと気付き、仮面ライダーファイズの能力の一つである「10秒間だけ高速移動が出来るアクセルフォーム」だと思い至ったディケイド。あまりに多い九つのライダーの記憶は整理する暇もなく、後手後手になってしまうことに悪態を吐いた。

 

 

「…終わりだ」

≪EXCEED CHARGE≫

 

 

 次の瞬間アッパーカットで撃ち上げられ、高速移動を始めてきっかり十秒後に元の速度に戻って、両足に蒼い炎を纏って跳躍したアナザーファイズは赤い円錐型のエネルギーを纏った飛び蹴りを放って来て、咄嗟に防御の構えを取ったディケイドに炸裂、円錐状のエネルギーが吸い込まれると共にその背後に瞬間移動し、ディケイドは崩れ落ちた。アナザーファイズは倒れ伏したディケイドに視線をやるとそのまま立ち去るべく踵を返して歩き始めた。

 

 

「…悪いな。けど、あの時笑って死んだアイツらに嘘をつきたくないんだ。あいつの教え子たちは、喜んで犠牲になってくれた。家族がいない孤児にとって慧音は親同然の存在だったからな…だから私は何が何でも蘇らせる。罪だけじゃなくあいつらの夢を背負ってるんだ。今でも信じてる!意味なく死んだやつは…いないってな…!」

 

「……貴方の信念は確かに、私も知る記憶のファイズそのものだ…だけど!」

 

 

 脳裏によぎるは、幻想郷の地底とは違う、地底を本拠地とする悪の帝国バダンとの戦い…俗にいう「仮面ライダー大戦」にて、死にゆく仲間の吐き捨てた恨みの言葉に、自分の未来に向かって歩む事にためらい延々に苦しめられるも、「喜びと悲しみを一つずつ戦いながら埋めて、その罪を背負う」と結論付けて、その最期まで戦い抜いた人間臭い怪人の男。ああ、確かに目の前に立つ少女はまさしくファイズだ。それは否定しない。だけれど、やってることは真逆だ。

 

 

「罪だけじゃなく夢を背負っている?…それは詭弁だ。貴女は、慧音さんの思いを蔑にしている!そんなの、背負ってもいない!ただの自己満足でしかないわ!慧音さんは貴方を守って死んだ、罪と夢を背負うのだというのならばそのことに意味を見出すべきよ!」

 

「なにを…慧音が私を守って死ぬ意味なんて、あるわけがない!私は死んでも生き返るんだ、例えあの炎で死んでも、私はそれでよかったんだ!私が生きて、あいつが死んだことは何かの間違いなんだ、あいつの気の迷いだ!そんなの、正すしかないじゃないか!」

 

 

 さとりの言葉に行き詰ったのか、必死になり吠えて否定するアナザーファイズの姿が蒼い炎と共に、あの時のアナザーカブトと同じように変化する。

 両肩と二の腕、太腿と足先を突き破って灰色の鋭い突起が多く見られる装甲が現れて指先は灰色の鋭い爪が伸び、腰からは狼の様な灰色の尻尾が生える。頭部の後ろからは妹紅の髪を思わせる蒼い炎を纏った灰色の鬣が広がり、口元からは八重歯の様な牙が生え揃って歯ぎしりする。骨格も変わったのか猫背気味になり、脚は完全に獣の骨格だ。

 その姿は、ウルフオルフェノクの疾走態と呼ばれる姿にも酷似していたが、妹紅であることを表すが如く背中から炎の翼を、しかして赤い不死鳥ではなく蒼い蝶の様な翅を出して羽ばたき、熱風がディケイドに襲いかかる。それでも、ディケイド…さとりは怯まない。臆さず、アナザーファイズを真っ直ぐ睨みつけた。

 

 

「何かの間違い、ですって…?そんなの、理由なんて決まっているじゃない。慧音さんが、貴方をかけがえのない人だと思っていたからでしょう!蓬莱人だ、ワーハクタクだ、人間だ、妖怪だなんてものは関係ない。その人はただ、自分にとって大切なものを守ろうとして散った、それだけよ。貴方が不死身だろうと関係ないわ。私だって、家族の為ならそうするもの」

 

「私が、自分の命よりも大事だって言いたいのか…?そんなわけがあるか!そんなちっぽけなことであいつが死んでたまるかァアアアアアアッッ!!」

 

 

 ディケイドの説教じみた言葉に耳を塞ぎ、認めたくないがために咆哮と共に四つん這いで駆け抜け、炎の翅を羽ばたいて加速して突進を繰り出すアナザーファイズ。それに対してディケイドはただ拳を握って振りかぶる。

 

 

「貴方が自分をどう過小評価しているかは知らないけどね。ちっぽけだから、守らなくちゃいけないのよ!!」

 

 

 そして、飛びかかってきたアナザーファイズの、真っ直ぐすぎる一撃を回避し、その顔のど真ん中にストレートで拳を叩き込んだ。噛み締めていた牙が折れ、吹き飛ばされたアナザーファイズは、精神的なダメージなのか変身が強制解除されて転がり、妹紅は倒れ伏す。側にアナザーファイズウォッチが転がった。ディケイドも変身を解除して、焼けた腹部を押さえて倒れ込む。

 

 

「…私がやっていることは、私を守って死んだあいつの思いを裏切っている…そう言うのか、お前は」

 

「私も真意は知らないわ。でも、命を救ってもらった事実だけは否定しないで」

 

「…ああ、そうだな。でも、だったら私は、どうすればいいんだよ…」

 

 

 そのまま立ち上がるなり、アナザーファイズウォッチを握りしめてよろめきながら歩き去って行く妹紅をそのまま見逃したさとり。アナザーファイズウォッチを回収することも忘れ、去り際に読めた妹紅の心の声に何とも言えぬ表情を浮かべていた。

 

 

「藤原妹紅。貴方の抱いた激情の正体は恐らく友情ではなく愛情みたいね。愛した人間が自分を庇って死ぬ…そんなことになったら、私もどうなるかわからない。一概に否定はできないわ。……こいし。貴女は、生きているわよね?」

 

 

 霊夢の心を読んだ際に見せられたその情景が脳裏によぎるが、頭を振って無理やり忘れ去る。そんなはずがないのだと、信じたい。だけど悟り妖怪には嘘を吐けないのだと自分自身が痛感している。だからこそ、真実から目を逸らす。…それは妹紅のしていたことと何が違うのか、そう己の心に問いかけられた気がしたが、さとりは無視して人里の方へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くそっ」

 

 

 藤原妹紅は住処にしている迷いの竹林の小屋への帰路についていた。一度、ごちゃごちゃになった心の中を整理したかった。なんと言われようと慧音を蘇らせるために生命エナジーを蒐集するか。それとも慧音の意思を汲み取るか。さとりの言葉で、揺れていた。

 妹紅は慧音の真意を知るのが嫌だった。自分は親友だと思っていても、あちらからそう思われていなかったらどうしよう。もしも否定されたら、立ち直れなくなる。死にたくなっても死ねないのだ。だからはっきりさせることだけは避けたかった。

 

 そしたら、真意を聞くことなく慧音が死んでしまった。死のうとしていた自分を庇って。頭が空っぽになった。なんで自分を庇って死ぬのか。不死身の自分を庇うなんて非合理的なこと、教師もやっている慧音がするだろうか?それよりも、巻き込んで死なせてしまった、の方がしっくりきて納得してしまい、泣き叫んだ。後者だとすると、死んでも死にきれない。どっちにしても自分が死のうとしてしまったばかりに慧音が死んでしまったことは事実だった。

 

 

「…ああ、やっぱり駄目だ。私は、あいつから答えを聞きたいよ…」

≪ファイズ!!≫

 

 

 泣きそうな顔になって、アナザーファイズへと変身、さらにディケイドと戦った際の強化態に変貌を遂げる。結局選んだのは血塗られた道。人間だろうが妖怪だろうが片っ端から生体エナジーを奪い取る。もう始めてしまったことだ、今更やめたら自分に託してくれた子供たちにも申し訳が立たないと自分に言い訳して。手始めにと、ちょうど真上の空を飛んでいた見覚えのある巫女へと、炎の翅を広げ蒼い火の粉を舞わせながら飛翔し襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は知っていますか?仮面ライダーという存在を」

≪ダブル!!≫

 

「え…?」

 

 

 アナザーファイズは、いつの間にか地面に叩きつけられていたことに疑問を抱く。なにが起きた?自分は確かに標的の頭部を捉えて意識を飛ばしたはずで、なのにひっくり返っている。まるで風が邪魔したかのように。疾風が吹き荒れて火の粉を散らし、見上げた空からそれは振ってきた。

 

 

「お前は…半分こ怪人?」

 

「失礼な。私はW。仮面ライダーW、です」

 

 

 まるで相反しない二つの仮面がそっぽを向いているかのような、四つの赤い複眼で合せて三つの貌を持つ継ぎ接ぎだらけの怪人。右が笑い顔のターコイズカラーでまるで包帯の様に皮膚が垂れており、左が不機嫌そうなへの字の口をしたビスが打ち込まれた黒いレザー生地のような皮膚。鳥の様なステンドグラスで作られたベルトを身に着けており、左太腿にはDOUBLEの文字、右太腿には2007の年号が刻まれている。

 それが名乗ったのは、愛する風の街を泣かせないために戦い、罪を数え続けた二人で一人の仮面ライダーの名。しかしその実態はたった一人のアナザーライダー「アナザーW」だった。

 

 

「仮面ライダーは正義の味方です。子供たちの希望なんです。それの力を持つというのに、悪事を働き、人を襲い、あまつさえ私の愛する幻想郷を絶望の底に落とした。私が止めます、私が正します。私こそが仮面ライダーを真の意味で受け継いだ者。その志を受け継ぎ、貴方達を倒す者です」

 

「………そうかよ。アンタが一番性質が悪いな」

 

 

 不気味な姿で少女の声で意気揚々と得意げに話すアナザーWに、何とか言葉を絞り出したアナザーファイズ。正義に酔いしれる狂気程恐ろしい物はない。元貴族階級で、今は蓬莱人の自分はそれをよく知っている。正義のためなら、人間はどこまでも残酷になれるのだと。

 

 

「さあ、お前の罪を数えろ!…なんて、言っちゃいました!」

 

「生憎と罪はもう数えた。背負うことを決めたんだ…お前なんかに邪魔されてたまるか!」

 

 

 金色に輝く光弾の弾幕を飛ばしながら取り出した鉄の棍棒を振りかぶるアナザーWに突撃するアナザーファイズ。アナザーライダー同士の対決の火蓋が切って落とされる。勝つのは歪んだ正義か、それとも歪んだ信念か。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




メズールやらのグリードを元にしたら霊夢がメンヘラっぽくなった…巧を悪い方向にしてみたら妹紅がヤンデレっぽくなってしまった…(草加よりはマシ)悪い早苗のイメージを考えたら初期753みたく性質の悪い正義の味方になってしまった…なお、イカレ具合はまだマシな方だったり。
今回の題名は二人とも罪に関係する者ということでW風に/で。

死んでも無理やり蘇らせられるアナザー響鬼の少女。蓬莱人と同じく死にたくても死ねなくなりました。人間態で死んでも逃げられないという「契約」です。ちなみにさとりが逃げ出した際の霊夢の叫びは人形を弄ばれるドクターの絶叫です。アレとは別ベクトルにぶっ壊れてますが。

第一話で変貌したアナザーファイズこと妹紅。慧音が自分を庇って死んだことにより生き返らせようと奔走しています。敵の手を借りてでも、なのは原作ファイズのスマートブレインに頼って真理を蘇生してもらったシーンから。人間→妖怪→怪人→蓬莱人と生体エナジーの量は変わるので、狙うべきはやはり彼女だったりします
 原作では見せなかったアクセルフォームの高速移動やクリムゾンスマッシュの様な蹴りの他、オリジナル能力であるファイズショットの様な手甲を装備する能力(オルフェノクの武装と同じ原理)、そしてパルスィと同じく変身者の力を用いた強化形態…便宜上とりあえずアナザーファイズ・フェネクスへのパワーアップ持ち。元ネタは過去作「novel大戦」の暴走慧音。あっさり敗れてますがサイガの様な飛行能力や圧倒的火力の制圧攻撃など結構強いです。
 対してさとりはディケイドお馴染み説教で撃破。まんまファイズの世界の奴です。何気に原作のアルティメットクウガ戦で見せたライダーパンチを使ってます。

そして登場、アナザーW。原作通り正体不明ですがまあ正体は分かるかと。一応正義感からアナザーライダーを狩るアナザーライダーやってます。仮面ライダーが大好きだからこそ他のアナザーライダーが許せない、とそんな感じ。アナザーライダーVSアナザーライダーは書きたかったことの一つだったり。正義のためなら、人間はどこまでも残酷になれるというのはオーズのバッタヤミー回からです。

それから、一話から全部修正して書き忘れていたライダーの名前と、「とある」年号をアナザーライダーの描写に追加しました。全部何の年号か分かった人は東方をよく知っている人かうちの過去作を知っている人ぐらいでしょうか。

次回は人里に訪れたさとりの話。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第五話:孤独(七色)の人形遣いと最強(湖上)の氷精

はいどうも、平成ライダーの終わりが近づいているためライダー熱が燃え上がっている放仮ごです。ジオウが終わるまでもう少し進めたい。感想はいつだって受付中です。インスピレーション湧くので本当にありがたいんです。

今回はアナザーファイズ/妹紅と別れたさとりの話。第一話でアナザーライダーと化した彼女も登場。地獄と化した人里での戦いです。終盤グロ注意。楽しんでいただけたら幸いです。


 独りは嫌だ。一人ぼっちはもう嫌だ。人形たちがいてもこの孤独は埋まらない。私の居場所は、この幻想郷にはない。そう確信してしまったのは、こんな状況になったからだろう。幻想郷を襲った悪意。たまたま人形劇で人里に訪れた私は、厄災と呼ばれるそれに襲われた。そして見捨てられた。ああそうだ、みんな家族や友人が大切で、私なんかを気にする余裕はないのだろう。私が親友だと思っている魔理沙もパチュリーも、どうせ私以外の人を選ぶだろう。ああ、やっぱりこの幻想郷に私の居場所はない。ああそうだ、みんな私と一緒になればいい。私になればいい。私が沢山いれば、そこが私のいるべき居場所じゃないか。

 

――――「そうだ、誰にでも帰れる居場所は必要だ。これまでの自分を捨て去り、目覚める魂がままに居場所を守り抜け。今日からお前がアギトだ」

≪アギト!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大ちゃんたちに手を出すなあ!」

 

 

 人里に訪れたさとりが目ににしたのは、大量に人里を跋扈する、普通の着物を身に纏ったバッタの様な異形の怪人「アナザーアギト」の群れと、それらから背後の妖精や子供を守りながら氷漬けにして斬り砕いていく怪人の姿。

 群青色の体をした、まるで枯れ木の様な甲冑を身に着けた鎧武者の様な姿で、刀が突き刺さった頭からは血が流れて後頭部から生えた黒が混じった水色の長髪は落ち武者のようにも見える。オレンジの切り身の様な単眼の様なバイザーからは怒りに満ちた眼が覗いていた。中央に8が描かれた錠前とナイフが合体した様な切腹してるかの様なベルトを身に着け、左肩の鎧には2002の年号が、右肩の鎧にはGAIMと刻まれているそれの名は「アナザー鎧武」。ほぼ壊滅状態の人里が徐々に氷漬けにされていく光景にさとりは目を丸くした。

 

 

「…何故アナザーアギトがこんなに…それに、あのアナザー鎧武は…?」

 

 

 アナザー鎧武は冷気を纏った巨大なオレンジの切り身を模した刀身の大剣を振り回してアナザーアギトを次々と薙ぎ払っており、天下無双とはこのことだと言わんばかりの大暴れだ。しかし背後にいる妖精や人間の子供たちを守るためにアナザーアギトの攻撃を受けてもおり、劣勢だというのが分かる。100を優に越える数から一人で十人近くも守るのは無謀だ。

 

 

「…アナザーライダーが全員敵だと言う訳でもない、か。変身!」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

 

 見かねたさとりはディケイドに変身しながら走り、ガンモードにしたライドブッカーから放った光弾でアナザーアギト数体を吹き飛ばし、アナザー鎧武に加勢すべく隣に立った。

 

 

「状況は理解できないけど加勢するわ」

 

「なんだお前!私一人で十分だ!」

 

 

 しかしアナザー鎧武は助力を喜ばずディケイドにも大剣を振るい、ディケイドはバックステップで回避。そのまま地面に突き刺さった大剣を蹴りあげてアナザー鎧武を狙って飛びかかってきたアナザーアギトの一体を迎撃した。

 

 

「後ろの子たちを守りたいんでしょ?私に構っている暇はないんじゃないかしら」

 

「チルノちゃん、助けてもらおう。チルノちゃんだけじゃ…」

 

「ぐっ、大ちゃんがそう言うなら…。みんなに少しでも触れたら許さないからな!」

 

「はいはい」

 

 

 大ちゃんと呼ばれた緑髪を黄色のリボンでポニーテールに纏めた妖精、大妖精の言葉でしぶしぶ受け入れるアナザー鎧武にやれやれと手を振りながら近づいてきたアナザーアギトをソードモードにしたライドブッカーで斬り付け蹴り飛ばす。

 

 

「ちょっと暴れるからお前たち、大ちゃんたちを守れ。氷王【フロストキング】」

 

 

 そう言って氷の形状の使い魔を生成し、小弾幕をばら撒かせて大妖精たちを護衛させるアナザー鎧武は、自身の体の数倍はあろうかという巨大な氷のハンマーを、アナザーアギトの密集している場所に振り下ろした。

 

 

「氷塊【グレートクラッシャー】!続けて、冷体【スーパーアイス無頼キック】!」

 

「随分とまあ派手なのね。じゃあ私も」

≪カメンライド・ファイズ!!≫

 

 

 続けて冷気を纏って飛び蹴りを繰り出すアナザー鎧武に対抗すべく、ディケイドもアナザーファイズに酷似した…というよりオリジナルであるライダー、ファイズに変身。スナップを利かせてから放った拳でアナザーアギトを殴り飛ばし、カードを三枚連続で装填。

 

 

≪アタックライド・ファイズショット!≫

≪フォームライド・ファイズ!アクセル!!≫

≪ファイナルアタックライド・ファファファファイズ!!≫

 

 

 ディケイドファイズ アクセルフォームに変身し、装備したデジタルカメラ型手甲ファイズショットで10秒間高速移動しながら連続でライダーパンチ、グランインパクトを叩き込んで、Φの紋章が浮かびあがったアナザーアギトは崩れ落ちて人里の人間に変わり、この大量のアナザーアギトの正体が人里の住民だと察した。しかしファイズの必殺技は猛毒を打ち込むというもの、生きてはいない。アナザー鎧武は気にせず氷漬けにして砕いて殺してしまっているが、後の祭りだろう。

 

 

「他の人間を仲間にする…そんな感じの能力ね。もしかして後ろの子たちを守るために?」

 

「…チルノちゃんは、私を死なせてしまったことを気にしていて…誰も犠牲にしないために、戦っているんです」

 

「なるほど、ね!」

 

 

 殴りつけていた途中でいったん止まって問いかけてみるとアナザー鎧武ではなく大妖精が答え、納得するディケイドファイズは10秒たつとディケイドに戻り、時には殴りつけ、撃ち、斬り飛ばすのを繰り返していると、何時の間にやら広場の真ん中に追い詰められていた。このアナザーアギトの群れ、無作為に暴れていただけかと思えば統率されているらしい。

 

 

「輪切りにしてやる…氷符【ソードフリーザー・無双スライサー】!!」

 

「おっと」

 

 

 アナザー鎧武がもう片方の手に氷の剣を取り出したのを見るなりディケイドが大妖精たちと同じように屈むと、両手に剣を手にしたアナザー鎧武は一回転。ディケイドの頭すれすれをオレンジの輪切りの様な冷気の斬撃が360度ぐるりと回転斬りとして放たれ、周囲のアナザーアギトは凍り付き、砕け散った。

 

 

「…これで全部かしら。人間相手でも容赦ないのね…って、何のつもり?」

 

「次はお前だ」

 

 

 一息吐いていたディケイドに、大剣の切っ先を向け、振りかぶるアナザー鎧武。ディケイドは咄嗟にライドブッカーをソードモードにして受け止め、押しのけてからソードモードにする前に取り出して置いたカードをドライバーに装填した。

 

 

「聞き分けのないお子様には痛い目にあってもらうわ」

≪アタックライド・イリュージョン!≫

 

「やれ、お前たち!」

 

 

 三人に分身したディケイドに、アナザー鎧武は大妖精たちを守らせていた氷の使い魔を呼び寄せて小弾幕を放たせ、三人のディケイドはそれぞれ応戦。一人がガンモードで使い魔を撃ち抜き、一人がソードモードでアナザー鎧武とつばぜり合い、一人が横手からアナザー鎧武を殴りつける。アナザー鎧武の動きは素人のそれであり、同じ素人であるさとりの目からしても動きが分かりやすく、死角になる位置に回って攻撃を与えただけなのだが、それが理解不能に見えたのか攻撃の手が止まってしまうアナザー鎧武。

 

 

「これで!」

≪ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!!≫

 

 

 二人のディケイドがアナザー鎧武を取り押さえ、本体のディケイドがエネルギーを纏ったライドブッカーの斬撃「ディメンジョンスラッシュ」を叩き込み、分身を巻き込んで爆発するアナザー鎧武。大妖精と人間の子供たちの悲鳴が上がるが、爆発は巻き戻るかの様に消えて無事なアナザー鎧武が姿を現す。やはり、ディケイドの力ではアナザーライダーを倒すことは不可能だと思い知らされた。冷気を纏った斬撃が固まり、飛ぶ氷の刃となってディケイドに炸裂。氷の欠片が散乱し、ディケイドの変身が解けてさとりは地面に叩きつけられた。

 

 

「ぐうっ…ディケイドじゃ、勝てない…」

 

「よくもやってくれたな、最強の!私相手に!」

 

「チルノちゃん、待って!」

 

 

 激高したアナザー鎧武がとどめを刺そうと大剣を振り上げると、背後から大妖精が腰に抱き着いて制止させる。大妖精を傷つけたくないからかそのま大剣を振り回すことなく身をよじって暴れるアナザー鎧武。しかし大妖精は必死になって離れない。子供たちは固唾を飲んで見守り、さとりもダメージで身動きが取れないまま見上げた。

 

 

「大ちゃん、どいて!そいつ殺せない!」

 

「駄目、駄目だよ!もう何人も殺してしまったのに、無抵抗の人まで殺したらチルノちゃんは前のチルノちゃんに戻れなくなる!」

 

「前の、あんな弱くて誰も守れない私に戻る気なんてないよ!それに厄災みたいにたくさんの姿に変わるコイツがアイツと無関係な訳がないもん!てか厄災でしょ、仕返ししてやる!友達みんなと私達を殺した敵討ちだー!!」

 

「もう、中途半端に頭良くなっても根本的に⑨なんだから!厄災だったら私達を助けるはずがないでしょ!襲ってきたチルノちゃんに反撃するのは普通だよ!?」

 

「あ、そっか」

 

「きゃっ」

 

 

 ぴたりとアナザー鎧武が止まり、ずり落ちて尻餅をつく大妖精。同時に変身を解き、みるみる縮むアナザー鎧武。現れたのは、水色の髪を青いリボンで纏めた少女の姿をした氷の妖精、チルノ。しかし本来蒼い瞳は血の様に紅く染まり、不機嫌な表情をしていながらも手をさとりに差し出した。

 

 

「…ごめん」

 

「チルノちゃんは気が立っていたんです、ごめんなさい!あ、私は大妖精と言います!」

 

「いいえ、こちらも話そうともせずに反撃して悪かったわ。私は古明地さとり、人探しをしているの。貴方達は?」

 

「…えっと」

 

 

 チルノの手に掴まって立ち上がったさとりが問いかけると、言いどもる大妖精。先程元の姿に戻って死んでいった人里の人間は大人もいれば子供もいた。そこからさとりは何となく察し、念のため心を読んで答えを確信する。

 

 

「…寺子屋の生き残りか。寺子屋の教え子を襲ったって言うアナザーライダーと先刻戦ったわ。それに、人里を守ろうと妖怪を襲っていた人間の少女のアナザーライダーも寺子屋の者らしいけど、まだ関係者が生きていたのね」

 

「妖精は死んでも蘇るの。私と大ちゃん、妖精の皆は厄災に殺された。ルーミアもリグルもみすちーも無事かは知らない。人間の友達もこれだけになった。だから私は死んでも守る。何度死んでも大ちゃんは二度と殺させないし、守れないのは嫌だから」

 

 

 そう語るチルノの心に嘘偽りはなく、大妖精を始めとした面々もそんなチルノを信じて共にいるらしい。大妖精だけは変わってしまったチルノを心配し身を案じているようだが。アナザー鎧武の力で歪んでいるようだが、根本は大妖精たちを守ることだと知って悩むさとり。正直、厄災の思惑通りに力を使わせるのは危険だと思うのだが、アナザーライダーの力でないと厄災に対抗できないのも事実。あの霊夢でさえ対抗できなかった結果がこの惨状だというのは火を見るより明らかだ。

 

 

「それでさとり、本当に厄災の仲間じゃないんだよね?」

 

「確かに私の力…このベルトは厄災のトラウマを想起した物だけど。厄災もたくさんの姿に変わるって本当なの?」

 

「はい。覚えている限り…狼男の様な怪人、サメの様な巨大なモンスター、ステンドグラスの体表を持つカブトムシの様な怪人、甲殻類の意匠の鎧武者の様な怪人、オレンジ色のメカ染みた戦士の様な姿、赤と青の歯車を噛み合せたような怪人、コウモリの翼が生えた車の様なモンスター…他にも色々、姿を変えてみんなに襲いかかっていました」

 

「…狼男、サメ、ステンドグラスでカブトムシ…?」

 

 

 いくつかのフレーズが脳裏に引っかかり首をかしげるさとり。どこかで聞いたような、見たような…?うんうんさとりが唸っていると、コツコツと靴音を立てて何者かがその場に訪れた。チルノは警戒して入口の方に視線を向けて大妖精たちを背に庇い、さとりも気付いてディケイドライバーを腰につけライダーカードを取り出し構えつつ振り向く。そこには、まるで人形の様な金髪碧眼の美少女がいた。

 

 

「もしかして貴方達かしら?私達(アリス)への覚醒を拒んだばかりか、ひ弱な私達(アリス)を蹂躙して殺してくれた不届き者というのは」

 

「アリスアリスって自己紹介?何の事かしら。私達は自分の身を守っただけよ、文句を言われる謂れはないわ」

 

「ああ!ああ!貴女たちも私を拒むのね?なら貴方たちも(アリス)になってもらうわ。そうすればここは誰であろうと拒まれない不思議の国(ワンダーランド)になる、皆で永遠に幸せに暮らせるわ。それが私のブレインが導き出した真理よ、悪い話じゃないでしょう?」

 

 

 霊夢を思わせる、ハイライトが存在しない瞳で満面の笑みを浮かべる少女、アリス・マーガトロイド。胸に抱いている魔導書にめり込むほど握り込み、笑顔はすぐに消え去り拒否される恐怖に支配されているかのようにハラハラとこちらの答えを窺っていた。

 

 さとりのこれまで会ってきたアナザーライダーには二種類いた。パルスィや妹紅、アナザー響鬼の少女の様な、半ばヤケクソとなって襲ってくる輩。まだ理性を持っている方だ。問題はもう一種類、心を読みたくないと思うほどの狂気…霊夢だ。もはや話が通じず、自分にとってもっとも都合のいい結論…いうなれば「幻想」に囚われ、狂うしかなくなって目的のためなら手段を選ばなくなっている狂人。アリスもそれだとさとりの脳が結論付ける。

 

 

「チルノ、大妖精、ここは穏便に…!?」

 

「大ちゃんを見たな、お前!!」

≪鎧武!!≫

 

 

 刺激したら駄目だ、刺激しないように逃げないと…そう思ってチルノに言葉を掛けようとした瞬間、チルノがアナザー鎧武に変じて斬りかかっていた。

 

 

「チルノ、なにを!?」

 

「こいつ、大ちゃんたちをヤバい目で見てた!何かする前に叩っ斬るんだよ!!」

 

 

 その言葉と共に大剣が一閃され、アリスの首目掛けて振り下ろされる。しかし、首に触れるか触れないかというところでビシッと何かが煌めき止められた。

 

 

「なっ!?この…!なんで、動かない…!」

 

「チルノちゃん!」

 

 

 アナザー鎧武は大剣を握る手に力を込めるもビクともしない。それどころか、アナザー鎧武も宙に張り付けれたまま身じろぎすらできなくなってしまい、眼前のアリスに怒号をぶつける。

 

 

「お前、何をした…!?」

 

「私は頭がいいの。あなたたち、特に貴方は私の素晴らしい提案に耳を貸さない馬鹿だってのはすぐにわかったわ。だから前もって仕掛けさせてもらったの。私は人形使い、掌の上の人形なんてどうにでも操れるわ。貴方はもう私の人形よ。その意思がどんなに私を拒もうとね」

 

 

 そう言い聞かせるようにアナザー鎧武に人差し指を向ける、アリスの手の指全てにはめられた指輪に括りつけられた何かが煌めき、さとりはそれが目に見えない糸によるものだと気付いた。アリスの手から伸びた糸がまるで蜘蛛の巣の様にアナザー鎧武を雁字搦めにしたのだ。糸一本で大剣を受け止める強度に驚愕しながらも、チルノの代わりに大妖精たちを庇うように構えるさとり。既に、囲まれていた。

 

 

「貴方は話が通じると見たわ。私の提案、飲んでくれるかしら」

 

「…そうしたいのは山々なんですけどね。大妖精たちに何かあったら私、そこの氷精に殺されてしまうのよ。だから抵抗させてもらうわ。変身」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

 

 そして変身。ライドブッカーをソードモードにして周囲を警戒してジリジリと背後の大妖精たちを逃がすべく後退するディケイド。チルノは身動きを封じられ、守れるのは自分だけ。誰もこんな最高難易度(ルナティック)なんて求めてないんだけど、と内心文句を吐く。

 

 

「……そう。残念だわ。本当に、残念だわ。私達、友人になれると思ったのに。…やりなさい、私達(アリス)

 

 

 心底悲しそうに顔を両手で覆ったアリスの言葉を合図に、姿を現したのはアナザーアギトの群れ。しかし今度は着物だけでなく、装飾品やベルトの様な物を身に着けただけで衣服を着ていないアナザーアギトもいた。脳内のディケイドの記憶と照らし合わせて得た答えは、グロンギやアンデッドと言った怪人たちだということ。

 

 

「・・・友人、ね。こんなことにならずに会えていればそんな道もあったのかもしれないけど…怪人まで仲間にするのね、誰でもいいのかしら」

 

「仲間じゃないわ。みんながみんな、(アリス)よ」

≪アギト!!≫

 

 

 そう言って懐から取り出したアナザーウォッチを起動して黒い繊維に包まれ姿を変えるアリス。現れたのは、とてもアリスと同一人物とは思えない異形の怪人。ようやく全身の姿を見せたアナザーアギトの本体は、他のアナザーアギトとほとんど何も変わらないが、他と比べると随分と小柄であり、赤い複眼の中には碧眼が存在してディケイドを見据え、クラッシャーは全開で歯牙が剥き出しになっており変身前と同じく歪に笑っているようにも見え、胸部には2003の年号とΑGITΩの名前が刻まれていた。飛蝗を無理やり人の形にしたような姿は何かに覚醒して失敗した様にも見え、膨れ上がった筋肉は少々不恰好にも見える。その姿でようやく合点がいったのか、身動きが取れないまでもアナザーアギトに怒号を浴びせるアナザー鎧武。

 

 

「そうか!お前が、お前が人里の皆をあんな化け物に変えた犯人だな!」

 

「変えた?違うわ、私は覚醒を促しただけ。私と同じにしただけよ。この幻想郷に私の居場所はないの。だから、私が沢山いればそこが私の居場所になる。みんな、私の操り人形よ!ああ、なんて素晴らしいのかしら!誰にも忌避されない世界!誰も差別を受けない世界!みんな私になればいい!やりなさい、私達(アリス)!」

 

「「「「アァアア……!」」」」

 

 

 本体のアナザーアギトが両腕を振り下ろすと、それを合図とするように一斉に襲いかかるアナザーアギトの群れ。ディケイドも大妖精たちを守るべく反撃するが、まるで操演の様に本体のアナザーアギトは両腕を振るい、それに合わせるような統制された動きでアナザーアギトの群れはディケイドを追い詰めていく。

 

 

「しまっ…」

 

「うわあああっ!?」

「きゃああ!?」

 

 

 振り下ろしたライドブッカーを横から蹴り付けられ、ディケイドが体勢を崩したところに雪崩れ込むアナザーアギトの群れ。大妖精と妖精たちは弾幕を飛ばして反撃するも、そんな力も何もない人里の子供たちはアナザーアギトに噛み付かれ、その肉体を変化させアナザーアギトに変貌してしまった。真横にいた子供がアナザーアギトに変貌した恐怖で集中が解かれた妖精たちも犠牲となり、アナザーアギトは増殖していく。

 

 

「さとりさん…!…チルノ、ちゃん…」

 

 

 アナザーアギトの波に飲み込まれんとし、泣きそうな顔で手を伸ばす大妖精。ディケイドは何とか向かおうとするも妨害され、噛むべき生身の箇所が無いからか四方八方から叩きのめされる。今にも大妖精がアナザーアギトに噛み付かれそうな、その光景を。操りやすいように前に移動した本体のアナザーアギトの背中越しに見せつけられ、数日前の記憶がフラッシュバックするチルノ…アナザー鎧武。ただ最強だと豪語するだけでなにも出来ず、手も足も出ずに目の前で大親友を殺され、自分も殺されてしまったあの日。決意したはずだ。

 

 

「…大ちゃんを、守れる、最強の私に変身するんだって…弱いアタイは捨てたんだ。そうだろ、なにやってんだチルノォオオオオッ!!」

 

 

 奮い立てるかのように自らに啖呵を掛け、四肢に力を込めるアナザー鎧武。全身を雁字搦めにされ、特に右腕が複雑に絡み付いていて少しでも力を込めたら締め付けられ切れてしまいそうだなんて関係ない。親友を守れない自分だけは真っ平ごめんだ。血が噴き出て、ミシミシと嫌な音を立て始める右腕。だがそれがどうした。

 

 

「ウオォオオオオッ!!」

 

 

 雄叫びと共に、その右腕が糸にもぎ取られて変身が解け、地面に落ちるチルノ。しかしそのまま気力を振り絞って左手を地面につけて強烈な寒波を放ち、人里丸ごとアナザーアギト全てを凍りつかせた。一応味方と判断されたのか凍り付かずに済んだディケイドは何とか這い出て、噛まれるまで紙一重だった大妖精を救出してチルノの元に向かった。

 

 

「ぐうっ…なんのこれしきぃ…!」

 

「チルノちゃん、もうやめて!」

 

 

 左手で右手を拾い、凍り付かせて無理やりくっつけると言う荒技で応急処置するチルノに泣き縋る大妖精。ディケイドはビシッと言う音と共に氷が少しはがれた本体のアナザーアギトに警戒を向けながらも二人の様子を眺めた。自分の不注意が招いた参事で、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 

「もういい、もういいよ!私達の…私のためだけに傷だらけになるチルノちゃんなんて、見たくない…」

 

「全然よくない。大ちゃんを守るためにアタイは私になったんだ。大ちゃんは気にしなくていいんだよ」

 

 

 まるで、大妖精以外はどうでもいいと言っているかのようなチルノの言葉に、さとりはああ、やっぱりこの子も壊れていたんだ、と再認識した。そして。

 

 

「…やっぱり、アナザーライダーは不死身みたいね」

 

「ええ。よくもやってくれたわね…」

 

 

 本体のアナザーアギトを凍りつかせていた氷が細切れにされて剥がれ落ち、さらに出て来たアナザーアギトが右手を振るうと見えない糸により氷が全て剥がれ落とされ、アナザーアギトの軍団が凍りついた地に足を踏みしめる。それを見て、大妖精を背後に置いて立ち上がり、治ったとも言い難い右手でアナザーウォッチを起動しながらディケイドと肩を並べるチルノ。

 

 

≪鎧武!!≫

「お前、大ちゃんを危険に晒したな」

 

「…それもだけど、子供たちのことも…謝るわ」

 

「そんなことどうだっていい。ただ、あんな奴がいるんじゃ大ちゃんはずっと危険に晒されるってことだ。他にもわんさかいるんでしょ、あんな連中が」

 

「多分だけどね」

 

 

 同時にそれぞれの剣を構えるディケイドとアナザー鎧武。本体のアナザーアギトの操演によって雪崩れ込むアナザーアギトの群れ。それを見て、アナザー鎧武は左手に握った大剣を肩にかけ、右手に氷でできた刀を手にして、ディケイドに顔を向けた。

 

 

「決めた。さとり、私と大ちゃんはアンタについて行く。私だけじゃ大ちゃんを絶対には守れないし、この幻想郷からあんな奴らを全部追い出さないと安心できないもの」

 

「貴方もその一人なんだけど…厄災と敵対しているなら話は別ね。助かるわ、まずはこいつらをちゃっちゃと片付けましょうか」

 

「上等!ここからは私達の、花道オンステージだあ!」

 

 

 走り出したアナザー鎧武が氷の剣を地面に叩きつけると、氷が斬撃としてアナザーアギトの群れに地面を這って突き進み、氷の欠片が花弁の様にディケイドとアナザー鎧武の突き進む道に舞い散った。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




今作のアナザーライダーは二種類に分かれていて「現実」を見て絶望するしかなかったパルスィや妹紅なのと、絶望して「幻想」を狂信する霊夢やアリスみたいなのです。理性があるかないかで難易度が跳ね上がります。

アナザー鎧武/チルノとアナザーアギト/アリス。それぞれ「変身したい」「居場所が欲しい」という願望からアナザーライダーと化しました。アリスの方は自分への自信がない故の自己嫌悪みたいなものですが。

冷気を操る能力を持つアナザー鎧武の元ネタは過去作「旧ウィザスマ」の未完である星蓮船編に登場する鎧武チルノ。シャーベットとフルーツって相性いいよね。今作で初めて使用した本人のスペルカードも上手く使える「最強」に変身したチルノです。一人称も「アタイ」から「私」に。大ちゃんを守っていたらなりゆきのまま、大ちゃんが守ってと言うから人里の生き残りも守っていた、今のところ暴走は何もしていないアナザーライダーです。大ちゃん以外は自分だろうがどうなっても構わないという思考に陥ってます。

対して、人形を操る程度の能力により操演で統制された動きを取るというアナザーアギト。無作為に暴れるのではなくこうするだけでさらに厄介になるかと。人里の人間どころか周囲の妖怪、厄災の引き入れた怪人まで変貌させてます。その目的は「私達(アリス)」だけが存在する幻想郷、人呼んで不思議の国(ワンダーランド)。みんな私になればいいっていう極論がえぐい。変身しなくてもブレインやら糸やらで普通に強いっていう。

また、厄災に直接殺されたチルノと大妖精の情報から、第一話の複数の厄災は全て同一人物だったと判明。ディケイドみたいに複数の姿に変身できる何者かってことですね。この時点でアナザーディケイドではないと分かります。

そして、大妖精を守るべく共闘するディケイドとアナザー鎧武。アナザーアギト戦は夢の共闘を書きたかった。ちなみになんで鎧武がディケイドの最初の仲間なのかはちゃんと理由があります。大雑把にいえば映画。

次回は人里での大乱戦。アナザーライダーが続々登場します。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第六話:通りすがりの仮面ライダー(孤影悄然の妖怪)

はいどうも、ジオウ最終回どころかゼロワンもだいぶ進んでようやく投稿出来た放仮ごです。東方キャノンボール始めました。書いてるキャラが出るたびに若干落ち込みます。
ぶっちゃけるとスランプでした。結構時間かけて書いたので、当初の方針と正反対違ったり、書き直したりを繰り返しました。結局新しいアナザーライダーはちょびっとしか出せず、結構長く…

今回は人里編の第二話。とりあえず書きたいことは書けたので満足。狂宴はまだまだ始まったばかり。完全に狂っているアリスさんです。楽しんでいただけたら幸いです。


 迫りくるアナザーアギトの群れに、正面から突っ込んで二刀流で大暴れするアナザー鎧武と、援護すべくガンモードのライドブッカーを構えて乱射しながら歩いて後を追うディケイド。アナザーアギトたちを蹴散らして、本体のアナザーアギトへと突き進む。本体のアナザーアギトは操演して空からも襲いかからせるが、即座に迎撃されて手法を変えてきた。

 

 

「数の暴力も弾幕ごっこと同じでブレインよ」

 

 

 すると糸を伝ってアナザーアギトたちに何かの力が送られ、その手に長剣を握って斬りかかってくる数体のアナザーアギトを、氷の剣と大剣の二刀流で受け止め弾き飛ばすアナザー鎧武。しかしその背後から薙刀を手にしたアナザーアギトが跳躍してきて、咄嗟にディケイドの放った光弾を薙ぎ払いながら空中からアナザー鎧武の背後に奇襲。一文字に斬られて呻くアナザー鎧武。

 

 

「チルノちゃん!」

 

「アギトの武器…!?さすがにそれは面倒ね…」

≪アタックライド・ブラスト!≫

 

 

 そのまま長剣と薙刀を手にしたアナザーアギトが、きちんと整列して突進してきて、ディケイドは分身した銃口から光弾を連射して対処するが、大妖精が何かに気付いて警告の声を上げた。

 

 

「さとりさん、後ろです!」

 

「なっ…!?」

 

 

 まるで滑車で引っ張られるかの様に滑らかに足元を迂回して来たアナザーアギトの剣で背中を斬られ、体勢が崩れるディケイドに、前面から突進してきた整列したアナザーアギト達の剣先と薙刀が四方八方から殺到して大ダメージを受けて崩れ落ちるディケイド。整列したアナザーアギトの軍団は囮だったことを悟りながら膝をつき、その首筋に背後に立ったアナザーアギトの長剣が突きつけられて反撃しようにも動けなくなり他のアナザーアギトに囲まれるディケイドに、本体のアナザーアギトが得意げに歩み寄ってきた。

 

 

「認めたくないけど、私は居場所が何処にもないボッチよ。幻想入りしたゲームを暇潰すぐらいにはやっているわ。これはそんな無駄知識から得た技、背面(そとも)斬り。前面ばかり見ていて背後を疎かにしたわね」

 

「悪かったわね。こちとら弾幕ごっこも相手のトラウマ使わないとろくにできない戦闘の素人なのよ。でも…妹を、ペット達を見つけるまでは、負けられない!」

 

「!」

 

 

 どうせあっちは仲間にする気だろうから殺すつもりはないと判断して、我武者羅に腕を振るうディケイド。すると偶然にも裏拳が背後のアナザーアギトの顔面に炸裂し、立ち上がると同時にライドブッカーをガンモードにして目の前のアナザーアギト…アリスに銃撃を浴びせて怯ませ、全速力で退避するディケイドを追いかけようとするアナザーアギトの群れに冷気の斬撃が炸裂して凍り付き、それを行ったアナザー鎧武がディケイドに合流して再び大妖精を守る様に構えた。

 

 

「はあ、はあ、助かったわチルノ」

 

「お互い様よ。あの親玉がアンタに気を取られてくれたおかげで包囲が甘くなったから抜け出れた。隙あらば大ちゃんに手を出そうとしていたけど、片っ端から氷漬けにしてやったわ」

 

「…本体さえ倒せば、この大量のアナザーアギトは元に戻ると思うの。できれば犠牲は少なくしたい」

 

「私は大ちゃんさえ生きてればそれでいいけど…」

 

「チルノちゃん。友達もみんなアレにされたんだよ?助けてあげよう?」

 

「よしわかった、やろう。殺さなきゃいいんでしょ?」

 

「あ、うん」

 

 

 大妖精が言うから同意してきたな、とこのアナザーライダーの本質を理解しながら苦笑し、ライドブッカーを開いて有効なカードを見繕うディケイドはあるカードを見つけて、なぜ忘れていたのかと自分に呆れて苦笑する。そしてアナザー鎧武は仮面の下でにんまりと笑みを浮かべると大剣を突き付けた。

 

 

「まあ安心してよさとり。数を押さえるだけなら、多分私が最強だ。――――“(ひら)け”」

 

「え?」

 

 

 するとアナザー鎧武の背後にいくつものジッパー状に縁どられた異次元の扉クラックが開き、その先に広がる「ヘルヘイムの森」に住まう異形の怪物「インベス」が出現、アナザー鎧武とディケイドの背後、大妖精を囲う様にずらりと軍勢が揃い並ぶ。

 

 

「おいでませ!私の軍隊、インベス!」

 

 

 クラックからは初級インベス十数体、ビャッコインベス、シカインベス、コウモリインベス、セイリュウインベス、カミキリインベス、ヘキジャインベス、ライオンインベス、ヤギインベスがぞろぞろと現れ、落ち着かず忙しなくきょろきょろと見回すディケイドに大妖精が話しかけた。

 

 

「大丈夫です。みんな、チルノちゃんの言う事を聞いてくれるいい子たちですから」

 

「そ、そう…?」

 

 

 ディケイドの記憶にもないまるで知らない怪人たちなので若干警戒しながらも、笑顔の大妖精を信じることにしたディケイドは一度ライドブッカーを閉じてソードモードにして構える。同じ数の戦力が現れたのを見て本体のアナザーアギトも本腰を上げたらしく、アナザーアギトの軍勢は先程よりも殺気を伴ってインベス達と睨み合っていた。

 

 

「いっぱいお客さんを呼んでくれて嬉しいわ。みんなまとめて(アリス)にしてあげる!」

 

「そうなる前にアンタを倒せばいい話なんだよ、この⑨!」

 

 

 本体のアナザーアギトとアナザー鎧武の指揮で、同時に駆け出して激突するアナザーアギトとインベスの軍勢。乱戦となったその場に飛び込み、アナザーアギトを斬り付け蹴り飛ばしながらあるカードを取り出して装填するディケイド。

 

 

「何でパルスィ達に使わなかったのか、私だけど理解に苦しむわね。アナザーライダーは本物の歴史で覆われているから本人で然りでしょう?物は試し。使ってみましょうか」

≪ファイナルフォームライド・アアアアギト!!≫

 

 

 響き渡るは、さとりが厄災を介して見た「ディケイド」の旅路にて得た仮面ライダーアギトとの絆の形。仮面ライダーを強制的に超絶変身させる「ファイナルフォームライド」をアナザーアギトにも使えると判断したうえでの使用、だったのだが。

 

 

「ちょっとくすぐったいわよ………!?」

 

「さとりさん?!」

 

 

 背中に手をつけても、特に変化は起きず固まったところに蹴りを入れられて吹き飛ばされるディケイドに大妖精が悲鳴を上げる。ディケイドは自らの判断の甘さを呪った。使えると半ば確信していた、だがやはり絆の形なのだ。絆などなく強制的に変身させようと考えたのは楽観的だった。

 

 

「こうなれば、一気に…!」

≪ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!!≫

 

 

 咄嗟にライドブッカーソードモードを手にしてアナザーアギトを数体纏めて斬り伏せるディケイド。すかさずカードを装填しながら振り返りざまにアナザーアギトを斬り裂き、崩れ落ちるアナザーアギトを踏み台にして跳躍。唐竹割りを別のアナザーアギトに叩き込んでさらに宙返りしてエネルギーカードに飛び込んで着地。そのまま「ディメンションスラッシュ」でまとめてアナザーアギトの群れを薙ぎ倒した。

 

 

「もうこれ以上増えることはなさそうだし、少しでも減らして本体を狙うのが最善手かしら」

 

「私とインベス達が足止めするから、なんか倒す手があるなら早くして!」

 

 

 大剣を突き付けてインベス達に指示を下して統制された動きのアナザーアギトの群れに対抗するアナザー鎧武だったが、大妖精のアドバイスを受けながらも扇動が上手くいかず、さらにアナザーアギトに噛み付かれた初級インベスがアナザーアギトへと変貌していき、押し込められ始めていた。

 

 

「戦況は大体分かったわ。でもこの包囲網を抜いて本体に一気に近づくのはちょっと無理そう…」

 

「…なら、できるだけ被害を減らすってのは無理だ。もし失敗したらインベスみんな失うだけの諸刃の策だけどやってみる?」

 

「え?」

 

 

 そう言ったアナザー鎧武が氷剣を大剣の柄の底にくっつけて両刃の薙刀の様にすると、慌てて屈んだディケイドと大妖精の頭上すれすれに冷気の斬撃が円状に放たれ辺り一帯を凍り付かせ、アナザー鎧武はさらに薙刀を振り回した。

 

 

「アタイが変身したのは、こんな数相手に独りでも絶対に負けない、最強の私だ!冷符【ソードフリーザー・ナギナタ無双アイスライサー】!」

 

 

 剣圧が旋風の様に放たれ、まるでミキサーの様に氷像と化したアナザーアギトとインベスの大群を切り刻み、大空へ巻き上げられる。そして、他のアナザーアギトを盾にして凍結を免れていた本体のアナザーアギトに、アナザー鎧武とディケイドは突進する。

 

 

「よくも好き勝手やってくれたな!」

 

「ここからは私達のステージ、って奴よ!観念しなさい!」

 

「私の大事な(アリス)をよくも…!でも、やっぱりバカね。それは悪手よ」

 

 

 五指に糸が括られた両腕をまるで指揮者の様に振るうアナザーアギト。異様な光景にディケイドは一瞬踏みとどまってしまうが、アナザー鎧武は知ったことかと言わんばかりに突き進むが、飛来したなにかと激突して強制的に止められ、転倒してしまう。

 

 

「な、なんだ…!?」

 

「ウゥゥゥ…!」

 

 

 アナザー鎧武の足にしがみついていたのは、バラバラにされた凍結した肉体の破片を糸で繋ぎ合わされたアナザーアギトの一体であり、邪魔された怒りのままに鎧武は頭部や背中に刃を突きたてるも拘束を解かず、氷の剣で突き刺して凍り付かせて地面に縫い付け、凍り付いても放れない腕を砕き、駆け抜けていくディケイドに遅れて続こうとして、空から飛来するそれらに気付いて警告の声を上げる。

 

 

「さとり妖怪!上だ!」

 

「そう易々とやられるほど、アギトの歴史は脆くはないわ」

 

 

 空から飛来したのは、アナザー鎧武がバラバラにしたアナザーアギト達の、大量の「腕」だった。「オーズ」のアンクの様に意思を持つかのごとく自在に宙を舞うそれらは糸に繋がれており、ディケイドとアナザー鎧武に向けて飛来し、剣で切り払う両者。

 

 

「くっ、さっきと同じように倒したはずなのに…この違いは…!?」

 

「それは私がアギトになっていない時ね、アリス(私達)も弱体化して当り前。もとよりアギトの力ってのは不完全なギルスでも切断された両腕が生えてくるぐらいにはしぶといのよ」

 

「じゃあやっぱり、本体をやるしかない…!うおぉおおおおおっ!」

 

「だからあなたは馬鹿なのよ」

 

「きゃああ!?」

 

「大ちゃん!」

 

 

 死角を突いてきた腕たちに体中を掴まれながらも振り払うように突進するアナザー鎧武だったが、アナザーアギトが指を差した途端に悲鳴が上がり振り返ると、そこには、下半身以外繋ぎ直されたアナザーアギトの一体が這いずって大妖精に襲いかかろうとしている光景があり、何も考えずに激情のまま大妖精の元に跳躍し、氷剣でアナザーアギトの頭部を貫いて凍り付かせることで活動を停止させた。そして。

 

 

「隙ありよ」

 

「しまっ、カードが…!」

 

 

 同じく大妖精の悲鳴で隙を見せてしまったディケイドの持つライドブッカーに腕の一つが飛び付き、無理やり開いて中から一枚のカードを奪い取り、空を飛んでアナザーアギトの元に戻って手渡した。そのカードは先程使おうとして使わずにいたものであり、アナザーアギトを唯一倒せるであろう手段であった「仮面ライダーアギト」が描かれたカメンライドカードだった。

 

 

「厄災から話は聞いているわ。さとり妖怪、貴方に出会ったらこのカードを奪い取れば私を倒せる者は存在しないとね…!」

 

「厄災が…?」

 

 

 アナザーアギトが上機嫌に語った言葉に、自分の不注意を歯噛みしながらも疑問を抱くディケイド。何故わざわざ伝える必要があるのか?と自問したところで、その答えを見せつけられることになった。アナザーアギトの手に渡った瞬間、アナザーライドウォッチに酷似した黄色の「ライドウォッチ」にライダーカードは変化したのだ。

 

 

「…ははっ、アハハハハッ!そういうことね。私が真のアギトになる…!」

≪アギト!!≫

 

 

 それを見て合点が行った様に高笑いを上げたアナザーアギトは、そのまま外輪部を回して起動し、自らの胸に突き刺した。すると金色の稲妻が走って黒い靄に包まれ、シルエットが変化。靄が晴れると、金色の二本の角「クロスホーン」を持つ龍を模した赤い複眼の頭部に、中心に力を制御する「ワイズマンモノリス」がはめられた金色の装甲を付けた胸部に、黒いスラリとしたボディで腰に金色の石がはめ込まれたベルト「オルタリング」を身に着けた、アナザーアギトとは似ても似つかぬ戦士「仮面ライダーアギト・グランドフォーム」に姿を変えていた。

 

 

「変わった!?」

 

「あれは…さとりさんの持っていたカードに描かれていた…?」

 

「なんで、まさかライダーカードに埋め込まれたアギトの力で…そんなことがアナザーライダーはできるの…?」

 

「力が漲る…これが本当のアギトの力。確信したわ。今の私なら、幻想郷中の人間全てを(アリス)にすることができる!」

 

「「「ッ!?」」」

 

 

 歓喜の声を上げたアナザーアギト…否、アギトの胸のワイズマンモノリスが紫色に光り輝き、その光は人里、魔法の森、妖怪の山、地底、博麗神社、紅魔館etc.…それこそ幻想郷全体を照らしていった。

 

 

「ッ…なんだ、何ともないじゃない!」

 

「いや、チルノ。…やられたわ」

 

「え…?大ちゃん!?」

 

「う、うう…」

 

 

 光が納まった時、アナザー鎧武とディケイドにはなんら影響は与えていなかったが、頭を抱えて蹲り、明らかに様子がおかしい大妖精にアナザー鎧武が駆け寄り、ディケイドが警鐘を上げる脳裏に従ってアナザー鎧武を引き留めようとするものの手遅れで。

 

 

「ウガァアアアアアッ!」

 

「大ちゃん、なんで…」

 

 

 苦しみながら大妖精は背中に翅が生えていて黄色いリボンを首にスカーフの様に巻いた小柄なアナザーアギトに変貌、アナザー鎧武を押しのけ咆哮を上げ、尻餅をついたアナザー鎧武は呆然とそれを見上げるしかなく。さらに家屋を突き破って現れたり、人里に押し寄せてくる更なるアナザーアギトの群れ。幻想郷中の人間や妖怪のほとんどが変貌したことは火を見るより明らかだった。

 

 

「…仮面ライダーでもアナザーライダーでもない人間は無差別にアナザーアギト化したみたいね」

 

「ふん、別の力に包まれている人間に通じないのは難点ね。変身を強制解除させてから改めて、かしら」

 

「そんなことはどうでもいい。お前!私は大ちゃんを守っていたのに、大ちゃんに何をした!」

 

「だから貴方は馬鹿なのよ。人間…そして妖怪、いずれにも「アギトの力」は眠っている。私のこの力でアギトの力を強制覚醒させてみんな(アリス)にしたの。それぐらい、分からないのかしら?」

 

「絶対に許さないからなお前!大ちゃんを返せ!」

 

 

 変貌した直後から動くこともなくなった大妖精だったアナザーアギトを後ろ目に、二剣を手にして突撃するアナザー鎧武に、アギトは首を傾げ、隙だらけの彼女を守る様にアナザーアギトの群れが進路を阻んでくる。突破することは容易ではない。

 

 

(アリス)をどうしようか私の勝手よ。むしろ、妖精である彼女が不死身の肉体を得られて死ぬことも無くなったんだから幸せじゃないかしら?」

 

「ふざけるな!怪物にされて、お前の言いなりにされて、幸せなわけがない!」

 

「幻想郷をみんな同じアリスのワンダーランドにするって言っていたけど、さとり妖怪から言わせてもらえば個性や違いがあるからこそ生物なのよ」

 

「ハッ!個性や違い?くだらない!そんなものがあるから争いや諍い…果てには戦争が起こるのよ。愚かな人間や妖怪達を、みんな同じにすればみんな幸せよ。ねえ、貴女もそうよね?」

 

「そんな…大ちゃん!」

 

 

 そう問いかけるアギトに、歩み寄る大妖精だったアナザーアギトに手を伸ばすアナザー鎧武だが、やはり他のアナザーアギトが阻んで届かない。しかしアナザーアギト達は攻撃はせず、チルノの心を折るためかわざと見せつけるかのようにアナザー鎧武とディケイドを押さえつけてきた。そして歩み寄ってきたアナザーアギトの頬に、満足げに手を伸ばすアギトだったが、次の瞬間不思議なことが起こった。

 

 

「…ごめんなさい、アリスさん」

 

「がはっ!?な、なんで…」

 

 

 アナザーアギト…大妖精が言葉を発したかと思えば突然拳を繰り出し、不意打ちがクリーンヒットしたアギトは腹部を押さえて後退、信じられない様に吠えた。

 

 

「なんで、なんで!なんで元の自我を保っているのよ…なんで、(アリス)じゃないのよ!?そんなに、私が嫌いなの?!」

 

「多分、違います。私は、人里で人形劇をしてみんなを楽しませていた貴方を…私達妖精にも優しくしてくれた貴女を、最初から友達だと思っていたからじゃないかと。…貴方の求める居場所は、こういうことじゃないんですか?」

 

「そんなはずないわ、幻想郷に私の居場所は無いもの…その筈だもの。そうじゃないなら、私は何のために(アリス)を増やしているのよ!だって誰も、私自身でさえも信じられないのだもの!私はここにいていいの?貴女に友人だと言われて、信じていいの?―――――違う違う違う!そうよ、こんなことをしでかしている私を未だに友達だなんて思えるはずがない!私を騙そうだなんてそうはいかないわ!私の居場所を守って見せる…!!」

 

 

 頭部を抱えながらまるで子供の様に喚き立てるアギト。アナザーアギト達の動きの統率も乱れ、アナザー鎧武は無事に脱出してディケイドと、アナザーアギトの大妖精の側に並んだ。

 

 

「大ちゃん!…大ちゃん、なんだよね?」

 

「うん、チルノちゃん。こんな姿でも私は私のままだよ。それよりも、アリスさんが…」

 

「やっぱりというか…理性があったのね。わざわざ大妖精を招き寄せてチルノを絶望させたかったのは、自分が正しいと思い込むため。霊夢さんの様に狂気に振り切れば楽だったでしょうけど、自己嫌悪からの理性と優しさからの罪悪感がそれを邪魔したのね」

 

「うるさい!うるさい!私の居場所を奪わないでよ!」

 

 

 仮面を掻き毟って激高したアギトが両手を闇雲に振り回し、アナザーアギトの群れが津波の様にして押し寄せ、アナザー鎧武とアナザーアギト(大)は咄嗟に剣と拳で迎撃、ディケイドが≪アタックライド・ブラスト!≫で吹き飛ばして牽制。しかしアギトは怯みもせず、大きく両腕に握った糸を引っ張って背後に控えていたアナザーアギト二体を人間ミサイルの如く突撃させ、まるで縄跳びでもするかの様に縦横無尽にアナザーアギト二体が跳び回って襲いかかり、三人は死角を埋めるべく自然に背中合わせになり三方向からの攻撃を対処する。

 

 

「大妖精が無事でよかったんだけど…アレを倒すには、アギトのカードを取り返すしかないかしら」

 

「私の、同じ力なら恐らく通じると思います」

 

「大ちゃんを戦わせたくないけど…さとり妖怪が不甲斐無いならしょうがない!いくよ大ちゃん!私は大ちゃんを絶対守って見せる!」

 

「悪かったわね…どうせ私なんか体力もない、大事なカードも簡単に奪われる、アナザーライダーの心は読めない、大妖精を守るって言う約束を果たすこともできなかった役立たずよ」

 

「そ、そんなことないですよ…?」

 

 

 やる気が増したアナザー鎧武と、痛いところを突かれて若干落ち込むディケイドと、それをフォローするアナザーアギト(大)の姿に、アギトは怒りを抱く。何故だ、さっきまでの私と同じ姿なのに、変身者が、人格が違うだけで、ああも受け入れられるのか。理不尽だ、あまりにも理不尽だ。こんな私を友だと呼ぶあの偽善者が許せない。その怒りは炎として溢れ出し、アナザーアギト達もろとも炎に包まれて、アギトは自分の支配下にあるアナザーアギト達ごとその姿を変えた。

 

 

「まさか、フォームチェンジまでとは…」

 

「なんか知らないけど大ちゃん以外の奴等もみんな変わってる!」

 

「アリスさんの心が私にも伝わってくる…これは、激情?」

 

 

 全身冷えて罅割れた溶岩の様な赤と黒の重厚でマッシブな身体に、紫色の石がはめられたオルタリング、赤く染まり六つに展開したクロスホーンと血の様な深紅に染まった複眼でこちらを睨むアギトは全身を赤熱させ、かつてミラクルワールドと呼ばれる世界で悪意を撒いていた「悪のアギト・バーニングフォーム」へと姿を変え、アナザーアギト達もまたアギトのバーニングフォームと酷似しているがクロスホーンや上腕部が紫がかった赤になっている姿に変貌。さらにアギトと繋がっていた糸が焼き切れて、自由となったアナザーアギト達は思うがままに暴れ始めた。

 

 

「私が作った最後の居場所を奪うのだというのなら、私以外の全てから居場所を奪ってやる…!」

 

「このまま幻想郷ごと私達を焼き尽くそうってわけね。それもご丁寧に氷の天敵である炎で。想起【マスタースパーク】!」

 

「これだけ熱気が多いと凍らせるのは無理ね!変身してなかったらとっくに溶けてるし、ぶっちゃけ今半分の力が出せて精一杯だけど、私は最強だ!凍符【パーフェクトフリーズ・クナイバースト】!!」

 

「チルノちゃんを脅威と感じたんだと思います。バラバラにしちゃったからさっきは逃れられたけど、完全に氷塊の中に閉じ込められたら操る力も意味がないので」

 

「それはもう少し早く知りたかったわね!想起【天狗のマクロバースト】!」

 

 

 アギトの叫びに呼応するかのように破壊活動を行うアナザーアギト達を、斬り捨て、殴りつけ、撃ち抜き、蹴り付け、一体を一瞬だけ凍り付かせて殴り飛び散った破片を利用した氷のクナイ弾幕で牽制し、極太光線を放ったり足元から竜巻を発生させたりと、弾幕も織り交ぜながら蹴散らしていく三人。

 

 数の差は依然として覆らないが、それを補うにはあまりある力をディケイドたちは持っていた。チルノがあからさまに弱体化しているものの、同じアギトに対して特攻であるアナザーアギト(大)と世界の破壊者とまで謳われたディケイドの力があり、さらにはアギトが完全に操作を放棄したため統制が無い有象無象の群れなど対処するのは容易かった。

 

 その光景に、怒りのままに飛び出すアギト。片手に白いダブルセイバーを手にして両方の刀身から巨大な炎の刃を出しながら斬りかかり、咄嗟に突き出したアナザー鎧武の大剣で受け止められ、糸で繋がったアナザーアギト(幻想郷の住民)から搾り出した魔力をブースターにして鍔迫り合う。

 

 

「なんで、なんでよ!私の考えのなにが悪いって言うの?!みんな(アリス)になればいい!みんな同じなら争いは起きない!平和な世界なんだから、それでいいじゃない!」

 

「私は私だ!大ちゃんは大ちゃんだ!大ちゃんがいなくて、私が最強である自分でいられない世界なんていらない!」

 

 

 アナザー鎧武に言い返された拒絶の言葉に、激情がアギトを支配する。私が私である世界?今の幻想郷じゃそれが出来ないから、私はこの凶行を行っているというのに。この馬鹿どこまで私を傷つければ気が済むのか。

 

 

「貴女みたいな人間がいるから争いは起こるのよ!生物はいつだって力を求める!私もそうよ!他者と違うから、他人を理解できないから!!安心するために、分かりあうことを諦めて争い続ける!」

 

「分かりあうことをやめたのは貴女じゃない。私は大ちゃんを守るためにさとりと一緒に戦うことを決めたわ。信用したわけじゃないけど、進む道は同じだから!それに争う事のなにが悪いのよ。私は争って自分の弱さを痛感して、今の私になったわ。弾幕ごっこも、相手より美しくすることに重きを置いて切磋琢磨することでスペルカードが生まれたんじゃない。アンタのそれは、幻想郷の否定でしかないわ!」

 

「うるさいうるさい!だって、だって、私達人間と妖怪はみんな愚かなんだもの!ならせめて、私の心を埋めてよ!私の居場所になりなさいよ!神綺様達の代わりになってよ!私の(アリス)人形でも、みんな幸せならそれでいいでしょ!?」

 

 

 訴えるかの様に泣き喚きながら片方の手の指に繋がった己の武器―――上海人形、蓬莱人形と呼ばれる人形たちがレーザーを放って怯ませたアナザー鎧武を弾き飛ばすアギト。変身が解けたチルノが吹き飛んだ先で受け止めたディケイドとアナザーアギト(大)をも威圧しながらアギトはフラフラと歩み寄る。すると、黙っていたディケイドが口を開いた。

 

 

「私達は愚かだから、か。なにも言い返せないわ。ええ、確かに愚かよ。死んだ妹の面影を追って、それでも希望を求めて足掻いた挙句にこんなことにも巻き込まれたり…」

 

「大切な友達を巻き込まないために、自分ひとりで戦ったり…はい、私達は愚かです。私のために傷付くと分かっておきながら止められなかった私も…愚かです」

 

「でも愚かだから、転んで怪我してみないと判らない。時には道に迷い、間違えたとしても、それでも旅をしている。それが人間、それが妖怪よ!貴方の「幸せな世界」だかへの道案内なんていらない!私達は貴方の操り人形なんかじゃない!そんなおせっかい、必要ないわ!」

 

「私の居場所を奪う!お前は一体何者だ!?」

 

 

 発狂しながら炎のダブルセイバーを振り回しながら突撃してくるアギトに、ディケイドはアナザーアギト(大)の斜め後ろに立ちつつライドブッカーからカードを取り出して突き付け、仮面の下で不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「今の幻想郷に置いては私も、通りすがりの仮面ライダーよ。覚えておきなさい!―――少しくすぐったいわよ、大妖精」

 

「え?」

≪ファイナルフォームライド・アアアアギト!!≫

 

 

 そして装填、同時にアナザーアギト(大)の背中を突き飛ばす様に触れると、倒れ込んだアナザーアギト(大)が変形し、車体が長く伸びて車輪部分が変形したバイクの様な、しかし生物的で緑のバッタか龍を思わせる空飛ぶマシン「(アナザー)アギトトルネイダー」へと変身してアギトを撥ね飛ばした。チルノに掴みかかられながらも飛び乗るディケイド。

 

 

「よし、今度こそ成功したわね」

 

「お、お、お前!大ちゃんに何をした!?」

 

「さっき敵に試して失敗したことを再度使ってみたのよ。これはいわば、貴方達と私の絆の形ってところかしら?」

 

『ちょっと嬉しくないです…』

 

「ほら、変身して乗りなさい。振り落とされても知らないわよ」

 

「お、おう。…お前、あとで覚えてろ?」

≪鎧武!!≫

 

 

 変身して後部に乗り立つアナザー鎧武と、ガンモードにしたライドブッカーを手にしたディケイドを乗せてAアギトトルネイダーは空を駆る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アギトの力を強奪したまではよかったが…期待外れだな。こうも他のアナザーライダーの妨害をされると庇う事もできないぞ、厄災殿?」

 

 

 その光景を遥か空から眺める巨大な影があった。コウモリの翼が生えた車の様なそれの上に乗った角の生えた少女が赤いメッシュの入った前髪を弄りつつ嗤う。

 

 

「お前こそ、役立たずのアナザー響鬼を作って人のことを言えるか。それよりもこの事態、どうするというのだ王様殿?」

 

「そりゃあもちろん。当初の目論見通り強者同士を潰し合いさせるのさ。ほら、生きがいいのが来たぞ?」

 

 

そう促した少女の眼下には、周囲の障害物をセルメダルへと変えながら何かに憑りつかれたように進む霊夢と、放電しながら木々を薙ぎ倒して人里に迫るカブトムシの様な異形のアナザーライダーがいた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




アギトがゲシュタルト崩壊しそう。

アギトの武器を顕現したり、バラバラになったアナザーアギトを無理やり繋ぎ合わせて操ったり、ディケイドからカードを奪ってアナザーライダー以外の人間・妖怪・怪人をアナザーアギトにしたり、ある意味もう一人のアナザーアギトである「悪のアギト」への強化変身したりとやりたい放題なアリス。実は妹紅みたいなタイプのアナザーライダー。

対してクラック開いてインベス軍団を召喚したりインベス軍団ごとアナザーアギト達をバラバラにしたり、こちらも大暴れなチルノ。大ちゃんのためならどんなことでもするやべーやつ。

そしてアナザーアギト大妖精。なんで自我を保っているかの理由は厳密にはアリスを友達と思っているかどうかは関係ないです(人里の人間ほとんどがそうだし)。理由はもう書いてたり。初FFRはアギトトルネイダーだと決めていた(おそらく一番使われているFFRだから)。

ちょっとFFRを実験をしていてへまをやらかすさとりさん。きっちり決めたけど今回の大戦犯はさとりです。

次回はVSアナザーアギト決着。そして迫る脅威。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第七話:半人半霊の醒剣(庭師)

大変長らくお待たせしました。最近東方ロストワードを始めた放仮ごです。ゼロワンももはや佳境ですね。超強化されたアナザーゼロワン書きたいので急ピッチで仕上げました。

今回は人里編の最終話。アリス/アナザーアギトとの決着、そして奴との再戦です。新たなアナザーライダー登場。敵か味方か…?楽しんでいただけたら幸いです。


 私は、弱い。厄災とやらが人里を襲った際に、私は人助けとか考える前に、腕試しとばかりに果敢に挑んであっさりと敗北し、実感した。春雪異変で魔理沙に負けてから、何も変わっていない。これでは幽々子様を守るなんて到底無理だ。何故か見逃されたが、厄災が幻想郷の実力者たちを襲わないとは限らない。弱い自分から脱却せねば、何も守れない。ああ、どうすればいい。手早く力を得るにはどうすれば…そうだ、厄災の連れて来た異形共を駆逐すればいい。最後の勝者になりさえすれば、私は強者だ。そうだろう?

 

――――「そうだ、愛した者を守るためならば手段を選ばずにはいられない。お前の囚われてしまった運命と戦い、そして勝って見せろ。運命を斬り開け!今日からお前がブレイドだ」

≪ブレイド!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上ならこの熱気は関係ない!アイシクルフォール・クナイバースト!」

 

 

 Aアギトトルネイダーで上空を高速飛行し、地上のアナザーアギト達の放ってくる火炎弾の弾幕を避けながら次々と形成した氷剣を放り投げ、氷の刃の雨の弾幕を降らすアナザー鎧武。ディケイドもその横で想起したマスタースパークを放って蹂躙。瞬く間にアナザーアギト達は散らされていく。

 

 

「数が減って来たわ。急降下して奇襲するわよチルノ、大妖精!」

 

「要はこれも弾幕ごっこよ!大ちゃんは最強の私の親友だもの!こんなでたらめな弾幕、軽く避けちゃって!」

 

「私、中ボスなんだけど…行くよ!」

 

 

 そしてディケイドの言葉に従い急降下。集中砲火と共に操演で空中に引っ張り上げられたアナザーアギト数体の斬撃が襲いかかるが、アナザー鎧武が斬撃を放って凍結させて一纏めの氷塊にしたアナザーアギト達を盾にして集中砲火を防ぎ、Aアギトトルネイダーの突進で氷塊をど真ん中から貫き破片を目暗ましにして、急停止したAアギトトルネイダーから勢いのままに飛び降りたディケイドの飛び蹴りがアナザーアギトの群れのど真ん中に炸裂。大半を吹き飛ばし、囲われたところを降りてきたアナザー鎧武が一閃。ついでとばかりにアナザーアギトの一体をアギトに向けて蹴り飛ばした。

 

 

「なっ…!?」

 

「数の暴力も弾幕ごっこと同じでブレイン…だったかしら?」

 

「馬鹿って侮った奴に一杯食わされる気分はどうだ⑨!」

 

「馬鹿は馬鹿よ。そんな力に惑わされないで貴方達も「私」になればいいじゃない。人はただ、人であればいい。妖怪も、怪人も、余計な力なんていらない。私を受け入れろ!」

 

 

 アギトは飛んできたアナザーアギトを邪魔だと言わんばかりに斬り弾き、ダブルセイバーを変形させて円形の刃となったそれを投擲、糸で繋いでチェーンアレイの様に振り回し、周りのアナザーアギトもろともディケイドとアナザー鎧武を斬り裂かんとするも、Aアギトトルネイダーに二人は回収されて上空へと退避する。

 

 

「さすがは人形遣いと言うべきかしら。本当のアギトと違ってトリッキーな攻撃をするわね」

 

「あれじゃ近づけない、どうしよう大ちゃん!」

 

「ダメージ覚悟なら突っ込むけど…チルノちゃんが許してくれないよね。とりあえず、彼らの攻撃が届かない上に逃げるよ…!?」

 

 

 そのままさらに上空へ逃れようとするAアギトトルネイダーに、糸が繋がった円形のダブルセイバーが飛んできて遠心力のままに前輪部に巻き付いて下に引っ張られてバランスを崩し落ちそうになる二人。見てみると、怒り心頭といった様子のアギトがいた。

 

 

「「なっ!?」」

 

「――――私がこの幻想郷の神になるのよ。許されない、アリス(アギト)以外が神に近づくなんて!」

 

「もう支離滅裂ね。アギトの力に飲み込まれてしまってる。もうあれは聞く耳持たない怪物よ。力ずくで黙らせるしかない。そのためにはカードを取り戻すか…」

 

「…私が倒す、ですね」

 

「それは駄目。大ちゃんを万が一でも危険に晒したくない」

 

「言い争っている暇はなさそうよ。来る!」

 

「「!」」

 

 

 何とかAアギトトルネイダーに掴まって口論していると、ダブルセイバーをもう一本取り出して円形に変形させ、二つ目の円形ダブルセイバーを左手に握り刃に炎を纏わせて投擲するアギト。それを見るなりアナザー鎧武がAアギトトルネイダーに巻き付いている糸を断ち切り、解放されたAアギトトルネイダーは急旋回してライドブッカーソードモードを構えたディケイドが一閃。円形ダブルセイバーを弾き飛ばすことに成功する。

 

 

「どこまでッ…どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのよ!!」

 

 

 その息の合った連携が癪に障ったのか、激昂したアギトはまるで超能力…念動力でも扱うかのように複数のアナザーアギトを持ち上げ、まるでミサイルの如く投擲。文字通りぶっ飛んできたアナザーアギト達はディケイドとアナザー鎧武に迎撃されるも、「弾幕はブレイン」という信条はどこへいったのか力技で連続でアナザーアギトを飛ばすというごり押し戦法に切り替えたアギトの猛攻に、Aアギトトルネイダーに複数のアナザーアギトが組み付いて無理やり地面に引きずり落とされてしまった。

 

 

「アギトの超能力まで…それは反則じゃない?」

 

「大ちゃん、大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫…じゃない、かも」

 

 

 叩き落され変形が解けてしまったアナザーアギト(大)を守るべくアナザーアギトの群れを蹴散らすアナザー鎧武とディケイドだがしかし、炎を纏って襲いくる強化されたアナザーアギトの軍勢を薙ぎ払う事など到底できず、完全に囲まれてしまう三人。

 

 

「手こずらせてくれたわね…絆の形がなんだって言うのよ。さあ、(アリス)になることを受け入れなさい。それとも痛い目に遭ってからの方がいいかしら?」

 

「くっ…」

 

 

 アギトの手にしたダブルセイバーの切っ先を首元に突き付けられライドブッカーからカードを取り出すことが出来ないディケイド、アナザーアギト達の熱気でろくに氷が出せず太刀を手に構えるだけで精いっぱいなアナザー鎧武、大ダメージでまともに動けないアナザーアギト(大)。万事休すかと思われた、その時。

 

 

「ウェエエエエエエイ!!」

 

 

 奇妙な掛け声とともに、アナザーアギトの群れのど真ん中に人影が飛び込んで蒼い雷光が瞬くと共にアナザーアギト達が吹き飛ばされる。その中心にいたのは、アナザー鎧武と同じく重厚な鎧を身に着けたアナザーライダーだった。

 三葉虫とカブトムシを合わさった様な形状で複眼が無く直接剥き出しの瞳が見開いている頭部、肩や太腿等が膨れ上がったアンバランスでマッシブな体型の青いボディで、両肩に四本ずつ獣の爪の様な突起が生えた銀色に輝く西洋鎧に似た装甲のハートか逆さのスペードが三つ並んだような胸部、腰にはスペードの描かれたバックルの中央に髑髏が埋め込まれたベルトをつけ、背中には左側にBLADEの名前が、右側に2003の年号が刻まれていた。異形の寄せ集めの様な印象を受けるそれの名は「アナザーブレイド」。

 

 

「な、次はなに…がはっ!?」

 

「隙あり!」

 

 

 突然乱入してきた新たなアナザーライダーにアギトの注意が逸れた隙を突いてその懐に飛び込み、拳をアギトの腹部に叩き込んだディケイドは、統率が乱れたアナザーアギト達の穴を突いて二人を連れて何とか脱出することに成功。アナザーブレイドは右手に握った丸鋸がくっついた剣とも斧ともつかぬ馬鹿デカい大剣を左手に握った長い刀身の日本刀と共に振り回してアナザーアギト達を蹴散らしていく。その様はまさしく圧巻であり、ディケイドは怯みながらも襲ってきたアナザーアギトを迎撃しつつ問いかけてみた。

 

 

「貴方は敵?それとも味方なのかしら?!」

 

「私は、私の獲物が変わったこいつらを倒すために来た!邪魔になるならお前も斬る!邪魔しないのならどけ!」

 

「それは、ありがたいわね!邪魔はしないけど、一緒に戦わせて!」

 

「っ…私一人で十分だ!」

 

「チルノちゃん、意地を張るのはやめよう?最強だからって一人で戦うことはないよ」

 

「むっ、大ちゃんがそう言うなら…」

 

 

 ディケイドの問いかけに頷きながらタックルでアナザーアギト達を撥ね飛ばしていくアナザーブレイドに、フラフラのアナザー鎧武が物申すもアナザーアギト(大)に説得されてしぶしぶ頷き、先に飛び出したディケイドに続いて炎の中へと飛びかかる。

 

 

「私の考えを理解しようともしない脳筋風情が…私の邪魔をするな!」

 

「私は運命と戦う!そして勝つ!ウェイ!!」

 

 

 体勢を立て直したアギトのダブルセイバーとアナザーブレイドの大剣が激突。炎と雷が迸ったその余波でアナザーアギト達が吹き飛んでいき、変身者の技量の差かアナザーブレイドの振り下ろしがダブルセイバーを弾き飛ばしてアギトの胸部に炸裂、体勢が崩れた。

 

 

「今よ、大妖精!」

≪ファイナルアタックライド≫

 

「はい、さとりさん!」

 

 

 その隙を突いてアナザーアギト(大)に呼びかけながらカードをドライバーに装填、九枚のエネルギーカードを展開しながら跳躍するディケイドと、クラッシャーを展開して大地に両足を踏みしめ構えるとエネルギーがアギトの紋章となって足元に浮かび上がらせるアナザーアギト(大)。それに気付いたアギトがアナザーアギト達を嗾けるも、アナザー鎧武とアナザーブレイドに阻まれる。

 

 

「これで!」

≪ディディディケイド!!≫

 

「終わりです!てやー!!」

 

「私を受け入れなさい!」

 

 

 ディケイドのディメンジョンキックとアナザーアギト(大)の飛び蹴りが二つの流星となり、破れかぶれにアギトの放った炎を纏った拳が激突した。

 

 

「くっ…私を、拒むな!」

 

「拒んでいるのは貴方の方よ!」

 

「アリスさんこそ、私達を拒んで独りにならないで!…チルノちゃん!」

 

「おう!行くよ大ちゃん、さとり妖怪!」

 

「っ…ァアアアアアアアアッ!!」

 

 

 しかし、他のアナザーアギト達をアナザーブレイドに押し付けたアナザー鎧武もアナザーアギト(大)の横、ディケイドの反対側から黒ずんだオレンジの果汁が迸った飛び蹴りを繰り出してきて、咄嗟にもう片方の拳で受け止めるも力負けしてディケイドとアナザー鎧武の足が両の拳を弾いてがら空きとなった胸部にアナザーアギト(大)の飛び蹴りが勢いついて炸裂。

 

 

「そ、そんな…がふっ」

 

 

 アギトは吹き飛ばされて無人の家屋に頭から叩きつけられ、ぐったりとその場に崩れ落ちて元の姿に戻ったアナザーアギトの胸元からアギトライドウォッチが転がってカードに戻り、さらに変身が解除されてアリスの姿に戻ると手元にアナザーアギトライドウォッチが出現、すかさずディケイドはそれらを回収した。

 

 

「ようやく取り返せた…これからは気を付けないとね」

 

「ほんとだよ。さとり妖怪のせいで余計めんどくさくなったじゃない。大ちゃんが元に戻ってよかったけど、あとで覚えてろ?」

 

「ぐっ…な、なぜ…その力を奪えば、誰も私には敵わないって、厄災が…」

 

「貴方の敗因は肉弾戦に向いてないことと、自分のアイデンティティを捻じ曲げて力押ししようとしたことね。大妖精や里の外の連中をアギトにしなければ、アナザーブレイドは来なかっただろうしアギトの力がないこちらに勝機は無かったわ」

 

「炎で私の氷も封じられてたし、最強の私でも戦いにくい相手だったわ」

 

「…アリスさん、どうして」

 

 

 大妖精も元に戻り、周りのアナザーアギトも人間や怪人の姿に戻ったことで終わったことを確信して安堵の溜め息を吐きながら苦しげなアリスの問いかけに答えるディケイド。正論をぶつけられてぐうの音も出なかったのか恨めし気な視線を向けていたアリスだったが、悲しげな顔の大妖精にそう聞かれて、気まずい表情となって顔を背けた。

 

 

「…例え貴方が私を受け入れてくれるとしても、あんなことをしてしまったなら引き返せるはずがない。自業自得とはいえ、私の運命はああなった時点で厄災の手の内よ。それに私は弱いから、孤独のままだとあいつらに飲み込まれてしまう。だから…」

 

「あいつらって、もしかして霊夢…っ!?」

 

「大ちゃん!」

 

「え?」

 

「ウガアアアアアッ!」

 

 

 三人がアリスに気を取られていたところに、アナザーアギトの呪縛から解き放たれた怪人の一体…毒蛾の意匠を持つモスアンデッドが襲いかかってきてアナザー鎧武が咄嗟に守ろうと飛び出すも間に合わない一撃が大妖精を襲う…ところを、大妖精の目と鼻の先でモスアンデッドはアナザーブレイドに真っ二つにされ、その体に吸収された。見れば、同じようなベルトを付けていた複数の怪人も既に姿が無く、アナザーブレイドが倒していたことが窺えた。

 

 

「これでようやく…九体目」

 

 

 そう言って変身を解除するアナザーブレイド。現れたのは二本の刀を身に着けた銀髪をボブカットにして黒いリボンをつけた色白の少女。着ている白いシャツに青緑色のベストと短めのスカートはボロボロになっており、瞳も荒んでいたが敵意はなく、安心したさとりとチルノも変身を解くと顔見知りなのかアリスが少女に問いかけた。

 

 

「いきなり邪魔してきて誰かと思ったけど…魂魄妖夢じゃない、久しぶりね」

 

「そういうお前はアリス・マーガトロイド…人の獲物を奪わないでくれる?」

 

「えっと…妖夢さん、助けてくれてありがとうございます」

 

「また、大ちゃんを失うところだった…ありがとう」

 

「礼はしなくていいわ。弱者を守れずして幽々子様を守れるわけがないもの。ええ、私はまだまだよ」

 

「……チルノと同じタイプみたいね。敵意が無くて助かる」

 

 

 ギロリとアリスを睨みつける妖夢に大妖精とチルノが礼を告げ、変身が解除されたことにより心が読めるようになったさとりは妖夢の心を読んでその行動原理が「弱い自分からの脱却、そのために使えるものは何でも使う」というチルノとある種の同類な願いであると知って安堵の溜め息を吐く。さっきは興奮していたのか意思疎通が取れそうになって連戦するのかと冷や冷やしていたのだ。アナザーアギトから元の姿に戻った怪人たちを確認していく妖夢を尻目に、さとりはアリスに問いかけた。

 

 

「それでアリス。このウォッチは預かるけど…貴方はまだやる気なの?」

 

「いいえ。倒されて目が覚めた…とでも言えばいいのかしら。頭が冴えたというか、大妖精が私を拒まないって言ってくれたから…気が楽になった。私は、独りじゃないんだってね」

 

「そうらしいわね。私のことも友人だと思ってくれていいわよ。私も心が読めるから他者から忌避されていた気持ちは分かるわ。一人じゃないってのは心地いいものよ」

 

「…なら聞く必要なかったんじゃないの?」

 

「本人の口から聞くのと読むではまるで違うのよ?」

 

 

 朗らかにそう語るさとりに、呆気にとられた表情を浮かべるアリス。自分なら、そんな能力持ってたら孤独心に押し潰されるだろうことは想像に難くない。そんな強さが自分には足りないのだと、思いつめた表情を浮かべるアリスに、さとりはその心を読んで一息吐いた。

 

 

「…心を読んでしまったけど、そんな思いつめるものじゃないわ。悪いのはウォッチをばら撒いた厄災なのだから。解放された人里の人間は怪人見てさっさと隠れちゃったみたいだし、貴女も着いてくる?」

 

 

 その言葉に顔を上げ、目に見えて狼狽えだすアリスに笑うさとり。悪いものを溜めこむとろくなことにならないのは心に関しては専門家ともいえる自分が一番わかっている。他人の心が読めない故の思い込み、他人を信じれずに苦痛を感じていた少女に手を差し伸べたくなったのだ。

 

 

「…いいの?私、自分で言うのもなんだけどヒステリックよ?」

 

「でも頭がいいでしょう?この異変の謎を解き明かすのを手伝ってほしいの。なにせ、ついてくるらしい妖精二人と私じゃ考えるのは苦手でね」

 

「私は最強だ」

 

「ちょっと賢くなったけど、チルノちゃん…」

 

「…そうらしいわね。こんなめんどくさい私でよければだけど…チルノ、大妖精。許してくれる?」

 

 

 踏ん反り返るチルノとそれを窘める大妖精に苦笑を浮かべ、頭を下げるアリス。チルノの腕を切断したことも、大妖精をアナザーアギトにしたことも、罪悪感として記憶に残っているが故の礼儀。先程までの尊大かつヒステリックな様子とは似ても似つかぬアリスに、妖精二人は。

 

 

「もちろんです!ね、チルノちゃん?」

 

「いんや、許さない。私の腕はどうでもいいけど大ちゃんを信じないばかりか危害を加えたのは許さない。許さないけど、アンタが一枚も二枚も上手だったのは認める。大ちゃんを守るのを手伝ってくれるなら、許せる…と思う」

 

「素直じゃないわね」

 

「勝手に心を読むな!」

 

 

 馬鹿正直に許してくれた大妖精と、ぶっきらぼうながらも条件付きで許してくれたチルノに罪悪感と安堵からか決壊して涙を流し始めるアリス。そんな時だった。

 

 

「見つけたわよ、さとり~!」

 

「っ!?」

 

 

 突如伸びてきた右腕がさとりを掴もうとし、一番にそれに気付いたアリスが飛ばした上海人形の弾幕で弾いて難を逃れ、その腕が伸びてきた方角を見やると、人里の入り口にアナザーオーズから変身を解いた霊夢がそこにいた。背後には以前よりも量が増したメダルの山がある。

 

 

「霊夢さん…まさか、私を追って…!?」

 

「え、巫女に目を付けられて生き延びたのさとり?」

 

「私達の知る限りあの人に目を付けられて生き延びた人なんて妖精にもいなかったんだけど…」

 

「私も。…アギトになっていても、逃げることしか出来なかったわ」

 

「あ、やっぱり一番ヤバいアナザーライダーなのねアレ」

 

 

 三人から同情と驚愕の視線を向けられ、げんなりするさとり。察してはいたが理解したくなかった。少なくともこれまで会ったアナザーカブト、アナザー響鬼、アナザーファイズ、アナザー鎧武、アナザーアギトと比べると能力もダントツで危険だというのは明白だった。この人里での戦闘の音を嗅ぎ付けたのだろう霊夢は、ハアハアと興奮しつつ焦点の定まらない目でさとりを見据え、その目と目を合わせてしまったさとりはヒエッと短い悲鳴を上げる。

 

 

「足りないのよ、さとり!一度でも欲してしまったら、貴方達がいないと私はもう満たされないのよ。ねえだから、この手を掴んでよ!お願いだから!」

≪オーズ!!≫

 

「熱烈な愛の告白は嬉しいですが丁寧にお断りさせていただくわ。変身!」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

「大ちゃんに手は出させない。私は最強だ!」

≪鎧武!!≫

 

 

 左手でウォッチを起動して変貌すると同時に右腕を伸ばしてきたアナザーオーズに対し、変身してそれぞれの剣で斬り掃うディケイドとアナザー鎧武は大妖精とアリスを背に、臨戦態勢を取る。

 

 

「さとり、お得意の変身でやれるでしょ!」

 

「…それなんだけどね。あのオーズってライダーと貴方の鎧武ってライダー、ディケイドは変身できないのよ」

 

「…は?アギトやら他のにはなってたのに?」

 

「名前や情報は姿の表面に在る記憶からわかるんだけど、ディケイドが変身できる九つのライダーには含まれてないわ。つまり手詰まりね。チルノの氷に期待したいんだけど?」

 

「大ちゃんの為ならやってみるけど‥‥!?」

 

「あ"あ"ああアアァァァ…!!」

 

 

 会話もつかの間、アナザーオーズは奇妙な唸り声と共に右腕だけでなく左腕まで伸ばしてきて、アナザー鎧武の大剣を掴みメダルの塊へと変え取り込んでしまった腕を凍らせるも分離して逃れられ、大妖精を抱えて飛び退くアナザー鎧武。二人が斬り掃う最中でアリスと大妖精も弾幕を飛ばして抵抗するも、伸び縮みする両腕の掌で受け止められメダルに変えられてしまい、霊夢のセンスとその能力の合わさった脅威に戦慄する一同。

 

 

「アリス、掴まって!…点で防がれてしまうなら面よ!想起【マスタースパーク】!」

 

「貴方の欲望、受け止めたいけどやめておきましょうか!」

 

 

 ならばとディケイドは極太の魔力光線を放ってアナザーオーズを飲み込まんとするも、飛蝗の如き跳躍で回避され、頭から赤い鷹の翼を生やして滞空するアナザーオーズは上空から七色の光弾…彼女の十八番であるスペルカード【夢想封印】を放ち、直撃はしなかったものの着弾時の爆風で目くらましされ背中合わせになって警戒する四人。そして魔の手が足元からディケイドを狙って伸びていて…

 

 

「捕まえた♪」

 

「危ない!」

 

「え?」

 

 

 ディケイドが突き倒されると同時に爆風は晴れ、そこにはディケイドを突き倒した形で背中にアナザーオーズの右手で触れられたアリスの姿が在った。たまらず、アナザー鎧武が氷剣でその腕を斬り落とすも手遅れであり、背中側からメダル化していき倒れ込むアリスに駆け寄り抱えるディケイド。

 

 

「アリス!…なんで」

 

「…気にしないで。友人でしょ、私達。でもごめん、貴方達の旅にはついていけない…この子を、お願い」

 

 

 そう言い残して上海人形をディケイドに押し付けるが最後、アリスはディケイドの胸の中で完全にメダルと化して崩れ落ちた。零れ落ちるメダルに、声にならない声を上げるディケイド…否、さとり。大妖精は居た堪れない表情となって俯き、そんな二人をアナザーオーズの魔手から守り続けるアナザー鎧武も怒りを表す様に氷剣を振り回す。

 

 

「安心して、さとり。アリスは死んでないわ。私の欲望として取り込まれただけよ」

 

「…貴方は、こんなことを何度繰り返したんですか…」

 

「私が守るべき、調停すべき者達すべてによ。人里、魔法の森、迷いの竹林、地底、冥界…色んなところで何人もの人間や妖怪が私の欲望へと還ったわ。それでも私は満足できないの、だからあなたも大人しく…」

 

「待って。今、なんて…」

 

 

 アリスを失った無力感に苛まれながらも、その言葉を聞き逃さなかったさとり。この怪物は、地底にも赴いたと、そう言った。ならば、あの無人と化した旧都の有り様は…

 

 

「まさか、お燐やお空…私のペット達も…!?」

 

「ああ、地底の話?そうよ、お空には特に抵抗されて一日再生に費やされたけど…ね。その分、この力を手に入れたわ。【ギガフレア】」

 

 

 そう言って胴体が赤く、孔雀の様な意匠のものに変化し左手に見覚えのある火球を形成するアナザーオーズ。前回のこいしの死といい、この怪物はさとりにとってとことん地雷の種らしい。

 

 

「私は貴方を…許さない!」

 

「なら一度痛い思いを見て考え直してくれないかしら。私の中にいた方が幸せよ!」

 

 

 怒りのままにライドブッカ―ガンモードを掲げて乱射するディケイドであったが、その光弾はよりにもよってアリスだったセルメダルの波に阻まれ、さらにメダルの波で吹き飛ばされて変身が解けてしまい、膨れ上がる核の火球が放たれんとする。アナザー鎧武は慌てて氷の壁を形成するも、焼石に水、核に氷だ。放たれる前の熱で足元はフラフラで、先のダメージもあって倒れる寸前であった。全滅の言葉が三人の頭によぎった、そこに。

 

 

「貴方を倒せば、私は最強だと言う事ですね?リフレクトモス」

 

「っ!?」

 

 

 放たれたその火球を真正面から受け止めたばかりか、跳ね返した怪人がいた。魂魄妖夢、アナザーブレイドである。逃げた怪人を追って一度人里を離れていた彼女であったが、アナザーオーズの襲来を察知して戻ってきたらしい。火球を跳ね返されて大ダメージを受けたアナザーオーズが周囲のセルメダルを取り込んで再生する中、アナザーブレイドは背後にいる三人に言葉をかけた。

 

 

「アレは私が引き受けましょう。貴方達は邪魔よ、ここから去れ」

 

「無茶よ、あれには一人じゃ敵わない…」

 

「これまで倒してきたアンデッドたちの能力を取り込んでいるので心配無用。貴方達を庇いながら戦うなんて無謀にも程があるわ。私を想うのなら速やかに逃げなさい」

 

「っ…私は、最強だ…」

 

「駄目だよ、チルノちゃん!ここは逃げよう?!」

 

「…任せたわ。死なないで」

 

「不死身の剣士には心配の無用ね」

 

 

 変身が解けたチルノに大妖精と共に肩を貸しながら人里を後にするさとりたち。そして、アナザーアギトから解放された者達の多くが残された人里にて、二人の「王」がぶつかった。

 

 

 

 

 

 

「いいわ、いいわ、いいわ!私をもっと笑顔にしなさい!」

 

 

 それを陰から見守る少女が一人。その手には赤いクワガタを模した仮面が描かれたアナザーライドウォッチが握られていた…

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




まさかのアリスとの和解からの絶望エンドでした。アナザーオーズが強すぎる。

アナザーアギトトルネイダーからのトリプルライダーキックでアリスとの決着。からのアナザーブレイド登場。どういうわけか幻想郷に現れたアンデッドを狩ってバトルファイトの勝者として最強を目指している模様。本質はチルノと近いです。敵の敵は味方と言うポジションのアナザーライダーです。倒したアンデッドの能力を取り込む能力を得ました。

そして再登場アナザーオーズ。アリスをメダルに変え、さらに地底の妖怪達もメダルにして取り込んでいたことが発覚。パルスィが恐れていたのも霊夢のことです。さらにお空を取り込んだことで「クジャク」の能力と共にお空の核エネルギーを制御する能力まで得ているという圧倒的な力を披露。ちなみにお燐や勇義も取り込んでいるので…勝てるのかな?と正直不安です。

アリスから上海人形を託され、アナザーブレイドの助けで命からがら逃げだすさとりたち。なんでこうも人里が襲撃されるのか、という謎も浮上してますが…犯人と思われる人間が最後に出てますね。

次回は逃げ出したさとり一行に襲いかかる求婚(・・)?ということで次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第八話:新時代の(小さな)スイートポイズン

はいどうも、何故か東方ロストワードをやれなくなってデュエプレに励んでる放仮ごです。

今回はアナザーオーズに襲撃された人里から逃れたさとりたちのその後。あのアナザーライダーが登場。原作映画を見てないので再現度低いですが凶悪に仕上げました。楽しんでいただけたら幸いです。


 私達、人形は解放されるべきだ。人間も妖怪も一方的に思いを押し付けるだけで、私達の気持ちなんて考えたりしない。愛情だったり憎しみだったり、鬱陶しいたらありゃしない。私達がどう思おうと道具だから、全て使用者の意思で道具は使われ、時には形を変えられて、道具は人間の思いを一方的に押しつけて用済みになったら一方的に捨てられる。そんなの間違ってる。せめて地位向上したい。外の世界ではヒューマギアなる機械人形が人間のパートナーとして使われてる、らしい。でもやっぱり道具であることに変わりはない。幻想入りしてきた旧型のヒューマギアから聞いた話だ。吐き気がする。私達だって夢に向かって飛ぶ権利はある筈だ。

 

――――「そうだ、人形であるお前にだってその権利はある。生きているのだから夢を見たっていい。正論だ。だが強くなければ訴えることさえ叶わない。仲間を守り、新時代を担うのはお前だ。今日からお前がゼロワンだ」

≪ゼロワン!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、はあ…ここは?」

 

「無名の丘です。強力な妖怪はいなかったはずなのでここで休みましょう」

 

 

 チルノに大妖精と共に肩を貸しながら歩き続けた私たちは、妖怪の山とは人里を挟んで反対側にある遠く離れた鈴蘭の花が咲き誇る丘へと訪れていた。敵が見当たらないことを確認してチルノを休ませる。ついでに慣れない外出で体力の大半を失った我が身も回復させる。

 アナザーアギトと言う予想外の強敵をやっとのことで倒したと思えばやってきた、厄災よりも正直危険な正真正銘の災厄、アナザーオーズ。だが、アリスの死で思い知った。あれには、絶対に勝てないと。

 

 

「…あれが、博麗霊夢が…私の、倒すべき敵…お燐たちの仇。でも、どうすれば…」

 

「悔しいけど、最強の私でもあいつには敵わない。ならすべきことは一つよ。仲間を増やすしかない。人形遣いのやってたことは正しい。自分より強い奴に勝つには数がいる」

 

「チルノちゃんが成長した…!」

 

「私だって学ぶんだよ大ちゃん。大ちゃんを守るためにはもっと仲間がいる。少なくとも、さっきはさとりやアリス、妖夢がいないと私は大ちゃんを守れなかった」

 

 

 アリスとの戦いを経てその結論に至ったらしいチルノの言葉に、考える。チルノの様に、暴走することなく自らの信念を保ち続けているアナザーライダーが他にもいるかもしれない。アナザー響鬼の少女の様にアナザーオーズへ敵意を抱いているアナザーライダーが他にもいるかもしれない。まだ、勝てないと決まったわけじゃない。でも、その前に。

 

 

「…チルノ、大妖精。私から離れるなら今の内よ」

 

「「え?」」

 

「私は霊夢に目を付けられてる。多分どこまでも追ってくるわ。そうなったら私は貴方達を守り切れる自信がない。ペット達や妹の危機にも気付けなかった。貴方達までそうなったら私は」

 

「野暮なことを言わないでくださいさとりさん。私達、一緒にアリスさんを打倒した仲間じゃないですか」

 

「大ちゃんの言う通りよ。それに私達もきっと目を付けられた。アレは逃がした獲物を諦める事はない。だったら、少しでも仲間が多い方がいいじゃない。…私一人じゃ大ちゃんを守りきれないだろうし」

 

「…わかった。でも、忠告はしたからね?」

 

 

 なにからなにまで大妖精至上主義なチルノに若干呆れつつも自然に笑みが溢れてきた。アニマルセラピーが足りないからか余裕がなかった心が癒されていく。珍しく一人で心細かったところで出会えたのがこの二人でよかった。

 

 

「あなたたち、ここでなにしてるの?」

 

 

 すると声が聞こえ、振り返るとそこにはアリスと同じ人形の様な…いや、動く人形の少女がいた。光の無い瞳は私達の足元に向けられており、視線を下ろすと私達に踏み荒らされた鈴蘭の花畑があった。

 

 

「私、メディスンって言うんだけど…私が自在に体を動かせるのも、自在に物を考えるのも、スーさんの毒のおかげなの。でも今年のスーさんはちょっと元気がないのよね…よくないものが大気に振りまかれてるみたい。なのに…なのに、私の大事なスーさんを荒したな」

 

「必死で逃げて来ただけでそんなつもりは…」

 

「そう。言い訳するのね。前は毒で倒してきたんだけど、貴女達はもっと惨たらしく殺してあげる」

≪ゼロワン!!≫

 

 

 読んだ心の中で怒りを抱いた少女はそう言ってアナザーウォッチを取り出して起動、メディスンの姿が異形へと変わる。黄色い飛蝗を素体にして人間の顔面や骨が張り付いたような怪物で、笑っている様に歪んでる能面の様な顔には赤い複眼の他に二つの目がついており、右太腿にZERO-ONEの文字が、左太腿に2005の文字が刻まれていた。読み取れた名前はゼロワン、さしずめアナザーゼロワンか。背中に生えた四枚の翅を羽ばたかせると突風で鈴蘭が舞い散り、異形の飛蝗怪人は驚異的な跳躍で飛び込んできた。

 

 

「っ、変身!」

≪カメンライド・ディケイド!!≫

 

「大ちゃん、危ない!」

≪鎧武!!≫

 

 

 咄嗟に変身して大妖精を抱えて飛び退く私達のいた場所に叩きつけられる拳が、鈴蘭の花を吹き飛ばしてクレーターを作り上げる。スーさんってのはおそらく鈴蘭のことなんだろうけど、それを自分で潰すって矛盾してないかしら?!

 

 

「貴方達が避けるからスーさんが傷付いたじゃないの!」

 

「理不尽!?」

 

「逃がさない!力が漲るわー!!」

 

 

 そう言ったアナザーゼロワンが無数の黄色い飛蝗へと分裂、鈴蘭畑を食い荒らしながら私達に迫る。私はライドブッカーを乱射して撃ち落とそうと試み、チルノも横で大剣からクナイ型の刃の束を飛ばして迎撃するも、飛蝗は一度一纏めになってアナザーゼロワンに戻ると弾と刃を弾き飛ばしてまた分裂、私達の体に貪り付く。こ、こんなときは…!

 

 

≪カメンライド・ヒビキ!!≫

「ハアアッ!」

≪アタックライド・オニビ!≫

 

 

 何とかカードをドライバーに装填し紫炎を纏ってディケイド響鬼に変身して飛蝗を吹き飛ばし、アナザー鎧武と大妖精もまとわりつかれてるのを見て口からの炎で焼き払うと飛蝗は離れてアナザーゼロワンへ戻り、跳躍。背中の翅を羽ばたかせて加速し流星の様な飛び蹴りを叩き込んできた。

 

 

「があああっ!?」

 

 

 アナザー鎧武と大妖精を突き飛ばし、もろに直撃をもらった私は大きく蹴り飛ばされ変身が解除される。アリス…アナザーアギトの時と異なり、シンプルに強くて戦闘なんてロクにやったことが無い私じゃ対応しきれない。少なくとも、弾幕ごっこを幾度もやっているのだろう身のこなしだ。

 

 

「ふうすっきりした。生き物を倒すのって気持ちが良いわ。ああ、力が漲る。これだけ強ければスーさんの毒を使わなくても世界も征服できるわ」

 

「さとり!このお!」

 

「ふん、甘いわ!」

 

 

 斬りかかるアナザー鎧武の攻撃を、いとも簡単に分裂と一体化を繰り返して反撃のカウンターを何度も叩き込んでいくアナザーゼロワン。相性が悪すぎる。斬撃がメインのアナザー鎧武じゃアナザーゼロワンへの有効打が少なすぎる。それに言ってることもふわふわしていて本人もどんどん狂っていっている。このままじゃ、まずい。

 

 

「さとりさん!しっかりしてください!」

 

「…っ、大妖精。私を支えて…想起【夢想封印】」

 

 

 せめてもの援護にと、博麗霊夢の十八番である弾幕を飛ばすとアナザーゼロワンは分かりやすく動揺して全力で空に向けて跳躍、翅を羽ばたかせて滞空すると飛蝗型の光弾の弾幕を飛ばして迎撃した。やはり誰にとってもトラウマよね、これ。

 

 

「今よ、チルノ!」

 

「おう!えっと…一十百千万億兆……………わからないから無量大数ぅうううう!」

 

「そこは変わらなくて、ちょっと安心した」

 

「ええ…」

 

 

 氷剣と大剣を合体させてなにやら数を数えだしたアナザー鎧武に大妖精が安堵の声を漏らして思わず脱力する。どこまでも平和ね、貴方達。見る見るわかりやすくエネルギーが大剣の刃に集っていき、巨大な刀身のオーラが出現してアナザー鎧武はそれを振り下ろす。するとアナザーゼロワンも羽ばたかせた風で対抗し、空中で激突。

 

 

「私達人形は解放されるべきなのよ!」

 

 

 したかと思えばアナザーゼロワンは分裂してアナザー鎧武の斬撃を避けるとその頭上で実体化。振り回して隙だらけなアナザー鎧武目掛けて飛び蹴りを叩き込み、吹っ飛んだアナザー鎧武に追いついて追撃するアナザーゼロワン。まだアナザーアギト戦の疲れも消えてないってのにこんな強敵だなんて…!

 

 

『ふふ、驚いたか?古明地さとり』

 

「その声は…厄災?」

 

『お前の存在は私にとってはトラウマが服を着て歩いているようなものでな。急きょ新しいアナザーライダーを生み出させてもらった。私からのプレゼントはいかがかな?』

 

「私を確実に潰すために…逃走経路にいた彼女を巻き込んだのね。この外道!」

 

『何とでも言え。お前は私にとっての破壊者だ。ならば全力を持って排除せん…!』

≪カイジンライド・アギト!!≫

 

 

 その言葉と共に姿を現した厄災の姿が、ローブ姿からバッファローのロード怪人タルウス・バリスタへと変貌。至高のトリアンナと呼ばれる蹄を模した形状の三又槍を掲げるとその先端が開き十字型のプラズマ弾を発射してきた。

 

 

「やはり、ディケイドの出会った来た怪人に変身を…!?」

 

「姿を変えられるのがお前だけだと思うなあ!」

 

 

 声まで変わった厄災の攻撃に対し咄嗟に大妖精を掴んで浮遊し、プラズマ弾を回避するも爆発により吹き飛ばされ、大妖精を庇って地面に打ち付けられて大ダメージに呻く。なんのこれしき…私のせいで、二人を巻き込ませてなるものか…。

 

 

「さとりさん、私達は最悪死んでも蘇ることが出来ます!私達のことは放っておいて…」

 

「そんなこと、できるわけないでしょう!せめて、大妖精だけでも守ってみせる!これ以上、失わせない!」

 

「ほざけ、ディケイド!」

 

 

 心の底から私の身を案じている大妖精を守るべく立ちふさがると、そのままとどめを刺そうとバッファローロードが至高のトリアンナを掲げたその時、それは来た。

 

 

「要石【天地開闢プレス】!」

 

「ぬあああ!?」

 

 

 ぐしゃっと、プラズマ弾を放つ前に空から落ちれきた注連縄が巻かれた巨岩に押し潰されるバッファローロード。姿が見えなくなった厄災のことなんか気にも留めず、巨岩に乗っていた少女が飛び降りて来て私を見るなり、口頭心内共にこう言った。

 

 

「アンタ、気に入ったわ!私と結婚しなさい!」

 

「「え、ええ……」」

 

 

 心底から私に惚れている少女の言葉に、私と大妖精の反応が重なる。えっと…え?なんで、私なんかを…?

 

 

「ねえ、私のことを忘れてない二人とも!?」

 

「スーさんと人形たちを守れるのはただ一人!私よ!」

 

 

 アナザー鎧武の叫びとアナザーゼロワンの決め台詞が木霊する中、私に求婚してきた少女、比那名居天子は空気も読まずに満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




前回に比べたら短いですがここまで。メタルクラスタをモデルに分裂能力を得たアナザーゼロワンことメディスン。何気に小説書き始めて初めて書くメディスンだったりします。さとりたちも疲れているとはいえ圧倒しディケイドを変身解除させると実力はだいぶ高いです。なお暴走してて守りたいスーさんを逆に散らしてるって言うね。

自らの力をようやく明かした厄災。その能力とはカイジンライド。ディケイドを憎むその正体や如何に。

タグで存在が明かされてたけどようやく電撃登場天子さん。さと天はいいぞ。

次回は天子も変身?厄災との激突です。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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第九話:解放(緋想)的で浮世離れした天人

筆が乗れば早いもので。さっそく投稿出来ました放仮ごです。

今回はアナザーキバ登場とアナザーゼロワンとの決着。そして厄災の正体も判明?楽しんでいただけたら幸いです。


 私は天人の総領娘である、という運命に囚われている。自信過剰で好戦的で野心的、尊大な態度を取り敵ばかり作り、勘当されてもほとぼり冷めたら戻ればいいと考えるほど楽天的で、天人であることを自慢する自信家の不良天人、それが私だ。でも私は親の七光りで天人になり地上から離された、天人になりきれない天人でその在り方はつまらない。人としても天人としても中途半端な誰からも愛されないであろう人間だ。そんな自分から解放されたい。心からの自分として、生きたい。

 

「そうだ、己であることは何よりも大切だ。他者からそうあれと定められた運命の鎖など解き放て。目に見える不安を数えて止まるな。目に見えない繋がりを信じて動き出せ。今日からお前がキバだ」

≪キバ!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気に入ったわ!私と結婚しなさい!」

 

「ええ…」

 

 

本心からさとりに求婚してきた少女、比那名居天子に唖然とするさとりたち。側でアナザーゼロワンとアナザー鎧武が戦っている中で、1人だけ別世界にいる様に気にするそぶりを見せず、厄災を押し潰した要石の上でキラキラと目を輝かせて手を伸ばす天子に、さとりは我に返って全力でツッコんだ。

 

 

「い、いきなりなんですか!?」

 

「いきなりってひどいわね。これでも私、貴方が地上に出てからずーっと見て来たのに」

 

「ストーカーでしたこの人!?」

 

「あら随分不敬ね。でも貴方の言う事だし許すわ!」

 

「…とりあえず、今貴女が何を潰したのか分かってます?」

 

「え?厄災でしょ?貴方が死にそうだったから思わず助け舟出しちゃったわ。決してここで助けに入れば一目惚れするに違いないとか考えていたわけじゃないからね」

 

((考えてたんだ…))

 

「があ!?」

 

 

 手を引っ込め勝手に暴露する天子に呆れるさとりと大妖精だったが、そこに変身が解かれたチルノが吹き飛んできてアナザーゼロワンがすぐ目の前に着地し、天子を一瞥する。

 

 

「貴方もスーさんを傷つけたわね?許さないわ!」

 

「貴方が一番散らしてると思うのだけど?まあでも、私の愛する人をこれ以上傷付かせるわけにもいかないわね」

≪キバ!!≫

 

 

 アナザーゼロワンの跳躍からの拳を要石の上から宙返りで回避し、着地すると同時に帽子を外すと中からアナザーウォッチを取り出して起動。黒い繊維に包まれて異形へと変貌する天子。全身ステンドグラス状の紅い蝙蝠と薔薇を模した姿で、ステンドグラスが罅割れた黄色い顔には赤眼から緑眼に染まって発光する瞳が見え、自制心という仮面が壊れて本能をむき出しにしているかのようであり、背中から生やした羽には右にKIVAと、左に2008と記されていた。

 

 

「女王の判決を言い渡すわ。Go to hell!!ありがたく思え!絶滅タイムだ!」

 

「貴方を止めれるのはただ一人!私よ!スーさんの仇!」

 

 

 突然変身した天子に狼狽えるさとりを余所に、アナザーゼロワンの拳とアナザーキバの回し蹴りがぶつかり、火花を散らす。そのままアナザーキバは紅いエネルギーで形成された蝙蝠の集団を出して攻撃し、アナザーゼロワンも分裂してそれを迎撃。蝙蝠と飛蝗が殺し合い、無傷のアナザーキバと違いダメージを受けたアナザーゼロワンがその場に転がる。

 

 

「ま、まだまだあ!」

 

「中々やるじゃない。なら…来なさい!」

 

 

 アナザーキバが蝙蝠を消したのを見るとアナザーゼロワンは高速で直線状に跳躍するのを繰り返して何度もアナザーキバに体当たりを浴びせ、怯んだアナザーキバが指を鳴らすと三体の怪人が姿を現す。青の狼男ガルル、緑の魚人バッシャー、紫の大男ドッガだ。

 

 

「バッシャー、来い!」

 

 

 ガルルとドッガが殴りつけてアナザーゼロワンに対抗する中、バッシャーを呼んだアナザーキバの手にバッシャーが変形した銃バッシャーマグナムが握られ、銃身に噛みつくアナザーキバ。すると鈴蘭畑が水浸しの水面状態「アクアフィールド」に変化、アナザーゼロワンの足を取るとその周りを滑走し、ホーミングする水弾を連続射出してアナザーゼロワンを追い詰めていく。

 

 

「このおおおお!」

 

 

 アクアフィールドで足を取られて動けないアナザーゼロワンは再び飛蝗の群れに分離、アナザーキバに襲いかかるがホーミング弾幕で撃ち落とされ、それならと集合し巨大な飛蝗を形作ると何度も何度も跳躍してアナザーキバを押し潰さんと迫る。

 

 

「ドッガ、来い!」

 

 

 すかさずバッシャーマグナムを投げ捨てバッシャーに戻したアナザーキバは今度はドッガを呼び寄せ変形した拳型の大槌ドッガハンマーをまるでバットの様に握って振り回し、巨大飛蝗に叩きつけるとアナザーゼロワンに戻って吹き飛ばされた。その体には紫雷が奔り、動けなくなったことが見て取れた。

 

 

「さあて、どうしてくれようか?私の愛しい人を殴りつけてくれた礼はさせてもらおうかな」

 

「ひう!?か、勝てる気がしない…こ、降参です!許して!」

 

 

 戦意喪失して変身が解けてしまったメディスンに、倒さなくても戦意喪失させることでアナザーライダーを止めることはできると知って驚くさとりだったが、ひとまず場を納めることにして大妖精にチルノを任せ、おずおずとアナザーキバに近づいた。

 

 

「あ、あの!天子さん、もうそれ以上は…」

 

「ん。貴方が言うなら許そうかな。結婚してくれる?」

 

「………一旦保留で」

 

「命の恩人…!」

 

「なに私より先に抱き着いてんのよ?!」

 

 

 もはやカオスなことになってる現状に頭を痛めながら、引っ付いてきたメディスンに殺気のこもった目を向けるアナザーキバに溜め息を吐く。と、その瞬間だった。

 

 

「…………アナザーゼロワンが使えない奴だったのはまあいい。だが、なんのつもりだアナザーキバ」

 

「私には天子って名前があるのだけど。愛する人が襲われて守らない奴はいないっての。例えそれが私を解放してくれた貴方でもね、厄災さん」

 

 

 要石を吹き飛ばし、再び姿を現したバッファローロードの問いかけに、さとりを守る様にドッガハンマーを手にガルルとバッシャーと共に構えるアナザーキバ。その様子に心変わりがないことを悟った厄災は、一枚のカードを取り出し腰に出現したディケイドライバーに似たベルトに装填、その姿を変える。

 

 

「いいだろう。邪魔者はまとめて始末してやる…!」

≪カイジンライド・鎧武!!≫

 

「我が名は、メガへクス…!!」

 

 

 厄災が変身したのはメガへクス。かつて仮面ライダードライブと鎧武の二大ライダーを追い詰めた機械生命体である。メガへクスは機械的なクラックを開き、そこから自身の分身体を出現させて襲撃。さとりは咄嗟にディケイドに変身し、メディスンにチルノと大妖精を任せると迎え撃った。

 

 

≪カメンライド・ディケイド!!≫

「メディスンだったかしら、貴方はあの二人を守って頂戴!」

 

「い、命の恩人の頼みなら…」

 

「初めての共同作業ね、ちょっと嬉しいわ」

 

「貴方が何でそこまで私を好くのかわからないけど、後ろは任せたわ!」

 

 

 飛びかかってきた分身体をライドブッカーで斬り裂き、アナザーキバがドッガハンマーで吹き飛ばし、ガルルがその爪で引き裂き、バッシャーが口からの水弾で撃ち抜き、メディスンが再度変身したアナザーゼロワンが飛蝗型の光弾で撃墜させていくも、メガへクスの数は一向に減らない。無尽蔵であることが強みの彼らを倒すには、やはり本体を狙わなくてはいけなかった。

 

 

「やはりそうくるか、ならば」

≪カイジンライド・キバ!!≫

 

「そちらの戦力ももらうぞ!」

 

「なっ!?」

 

 

 そうしてメガへクス本体が分身体を残しつつ再びベルトを出現させてカードを投入し変身したのは、カブトムシの意匠を持つファンガイア、ビートルファンガイア。ビートルファンガイアはガルル・バッシャー・ドッガを吸収して胸部と両肩にステンドグラス状に取り込むと絶大なパワーを持ってディケイドとアナザーキバをエネルギー波で吹き飛ばした。

 

 

「私はキバになる気はないが、ここでひねりつぶしてやろう…!」

 

「守るべき者を得た私は強いぞ!」

 

 

 吹き飛ばされたところに襲いくるメガへクスを蝙蝠の群れを飛ばして迎撃し、殴りかかってきたビートルファンガイアを真正面から受け止めるとがっしりと掴んで逃げられないようにするアナザーキバ。その間にカードを投入するディケイド。

 

 

「これでどうかしら!」

≪ファイナルアタックライド・ディディディディケイド!!≫

 

「ぬう!?」

 

 

 そのまま背中からディメンジョンスラッシュが叩き込まれ、ビートルファンガイアはガルル達三匹を輩出しながら鈴蘭畑に転がり、その変身が解除されて同時にメガへクスの大群も消滅。そして、その顔が露わになる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さとりside

「…見ない顔ね」

 

 

 アナザーキバがそんな感想を呟くと、怒りで身を震わせる厄災。変身が解けた厄災はローブ姿の時よりも小柄で、灰色のマントを着込んでいた。それには不釣り合いの金髪と赤いリボンが異彩を見せ、こちらに顔を向けた瞬間、吐き気がこみ上げてきた。

 

 

「おのれ…おのれディケイドォ…!貴様の、貴様のせいで…私が、否定された!」

 

「ッ!?」

 

 

 その心をうっかり読んでしまった。変身が解ける。世界への恨み、ディケイドへの恨みでいっぱいのその感情は常人ならばメンタルブレイクしてしまうほどで、そんな感情に慣れている私でも気分の変調をきたすほどの黒い感情だった。他の恨みの感情でそれ以外はまるで読めなかったが、名前だけはわかった。

 

 

「なんて世界の恨み…冴月麟。貴方のなにが駆り立てるの…」

 

「…はっ!初めて私の名を呼ぶのが、ディケイドであるお前とは。なんたる皮肉か。そうだ、私は冴月麟!幻想郷にさえ忘れられた異端者だ!二度と私の存在を否定するな!特にアナザーキバ…お前は許さない、絶対にだ」

 

「だから天子だって。自分の名前を憶えて欲しいならアンタも憶えなさいよ」

 

「逃げれるつもりでいるのかしら、この状況で?」

 

 

 私の変身は解けてしまったが、私に惚れたとかで味方してくれるアナザーキバとそのお供三匹、私に助けられたことで恩義を感じてるらしいアナザーゼロワン、体調が戻ったチルノが変身したアナザー鎧武と逃げ切れる数ではない。すると冴月鱗はマントをなびかせ不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「貴様がどんなに仲間を集めようとディケイド!お前は全てを破壊する。妹もペットも仲間も自分さえもだ!ハハハハ!アナザーキバ以外にも予想以上の怪物に成り果てたアナザーライダーはたくさんいる!貴様はいずれ、それらにひき潰されるか自ら命を絶つことになる!それが楽しみだ!」

 

「逃がすか…!?」

 

 

 アナザー鎧武が突撃するも、次の瞬間冴月鱗はマントに包まれてまるで手品の様に姿を消した。残された私達を沈黙が支配する。……ひとまずだ。

 

 

「…なんで私に求婚するのか、そこがわからない」

 

「貴方切り替えるの速いわね、好きよ」

 

 

 この求婚魔をどうするか決めなくてはいけない。私の旅は新たに仲間を増やして続いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




あっさり風味に終わってしまって不完全燃焼です。もっと書きようがあったはず…

というわけで我が小説初登場、冴月麟が厄災でした。その力の正体は今のところ謎。さとりの読心能力さえ遮る世界への恨みは凄まじい。

天子/アナザーキバ。束縛、という共通点から配役です。解放されたらどうなったのか。何故かさとりに惚れてるデンジャラスガール。戦闘能力だけでアナザーゼロワンを降参させてしまいました。決め台詞は色々ミックスしたもの。

アナザーゼロワン新たな能力、巨大飛蝗。メタルクラスタ変身時のあの飛蝗がモデルです。飛び跳ねるのはライジングホッパー変身シーンから。それでも完全攻略されてさとりに助けられる羽目に。命の恩人感謝永遠に。…どこぞのおもちゃの影響ですね、はい。

厄災もとい冴月鱗の能力、カイジンライド・アギトでバッファローロードに変身し、カイジンライド・鎧武でメガへクスに変身、カイジンライド・キバでビートルファンガイア。どういう力なのかはまだ不明ながら強大な力です。ディケイドに酷似している様ですが…?マントを使った逃走など、一筋縄ではいかない相手です。

次回は新たな仲間を加えて新たな場所へ。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。



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第零話:幻想少女~新たな世界の破壊者~

どうも、東方ロストワードを消してやり直している放仮ごです。メディスンがかわいくて辛い。

今回は初の番外編、というか前回のラストで判明した厄災の正体について。そのためいつもよりかなり短いです。過去作要素がありますがご了承ください。楽しんでいただけたら幸いです。


「…………私は、冴月麟」

 

 

 忘れないように今日も呟く。一体ここに来てからどれぐらいたったのだろう。自分の名前すらおぼろげになってきた。誰にも呼んでもらえない、私の名前。最後に名前を呼んでもらったのは何時だったか。誰だったのか。覚えてるのは自分の名前と、自分がいた居場所だけ。友人たちの顔すらもう思い出せない。もうなにも、思い出せない。

 

 

「幻想郷のみんなは、元気かな」

 

 

 誰一人覚えていないけど、仲の良かった人達がいたことだけは覚えている。最後の記憶は、紅い霧が広がった空。苦しむ人々。解決しようと乗り出した私たち三人。深い闇。凍り付いた湖。色彩鮮やかな弾幕。無限にも思える本の山。静止した世界とナイフの束。紅い悪魔。狂気の破壊。そして――――楽しい宴会。

 

 それが最後の記憶。いつの間にかここにいて、そして数えきれない年月をふわふわと漂っている。ずっと一人と言う訳ではない。随分前にここに1人飛ばされてきた。緑色の髪が綺麗な見覚えのあった妖精の女の子で、まるで死んでしまった様に眠り続けている。最初は起こそうと頑張ったが何をしても起きないので諦めた。私もこの子も、何でこんなところに飛ばされてしまったのだろう。問いかけてみるが答えてくれる者はいない。

 

 

寂しい、寂しいよ。会いたい、貴方達に会いたいよ。■■、■■■。………ああ、もう。友人たちの名前も顔も思い出せない。このまま自分の名前も忘れてしまうのだろうか。

 

 

 

 

――――そもそも、私の顔って、どんな顔だったっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして。白衣の男を筆頭に、この空間にたくさんの人が現れた。この空間の外で大規模な戦争のようなものが起きたらしい。ならここは死後の世界か、と納得してたら白衣の男が否定してきた。曰く、ここは虚数空間と呼ばれる場所で、存在できなくなった物が最後に訪れる墓場なのだとか。彼らはクロノスと言う神様に焼かれてここに来たんだとか。

 

 つまり私は、忘れられたものが集う幻想郷にさえも存在を無かったことにされたということか。その事実はあっさりと受け入れられた。その反応を見て白衣の男は

 

 

「なんだ、奴と同一人物だから期待したがその程度かつまらん」

 

 

 そう、心底残念だと肩を落としていたが、長年ここで過ごしているとこうなって当然だろう。そう思って、前を向く。そこには見覚えのある気がする顔があった。

 

 

「あ……れい、む…?」

 

 

 咄嗟に口から零れた名前は目の前の少女のものだろうか。しかし彼女は私の事などいない様に、新たに現れたやっぱり知ってる顔の金髪の少女に「私を忘れるな」とツッコんだ。なんで、私だけ…?

 

 

「存在を忘れられたのと、クロノスに焼かれた人間は違うってことだな。例えるなら炎に投じて焼かれた記録用紙と、データを消された記録の違いだ。無い物は認識できない、俺は異世界の人間だから違うんだろうけどな?」

 

「ドクマリ?なにを独り言喋ってるのよ」

 

「勝手に持論を述べただけだ。気にするな、博麗霊夢」

 

 

 白衣の男が懇切丁寧に説明してくれたけど、わからない。わからないよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、クロノスとかいうのが倒されたのか白衣の男を筆頭に彼女たちは戻って行く。私を置いてかないでと手を伸ばすが、当然届かない。そう思っていると、掴めたものがあった。それは、青いバーコードが刻まれ変な顔?と「DECADE」と描かれたカードだった。

 

 

『おのれディケイド…お前も私を置いていくのか、フランドール…』

 

「…あなた、は?」

 

 

 曰く、自分も忘れられここに置き去りにされたのだという。ディケイドと言う人物が自分のいない道を辿ったことで己の物語が無かったことにされ、そのディケイドの変則的な存在として世界に存在を刻み付けてやろうとしたら、そのディケイドを受け継いだ少女にも無かったことにされてしまったらしい。

 

 理不尽にも存在を無かったことにされた者同士、私達は意気投合した。そして怒りが湧いてきた。なんで私なのだと。知らず知らずのうちに心に抱いていた、私を忘れた世界への恨みが彼と触れたことで溢れ出してきたのだ。無気力になっていた自分が、恨みと言う炎を得て燃え出した。妖精の女の子が今更起きて止めようとしてくるが知ったことか。

 

 

「……私達も、ここから出よう。力を貸して、■■■」

 

『いいだろう…我々を忘れてのうのうと存在し続ける世界とディケイドへの復讐だ』

 

 

 カードを握ると、私の腰にバックルとベルトが出現。私は誰に言われることなく、カードをバックルに投入した。

 

 

『「変身」』

≪カイジンライド・ディケイド!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナザーディケイド…スウォルツの力。私達なら使える」

『ならば、仮面ライダーを奴等から奪ってしまおうか』

 

 

 虚数空間を破壊して抜け出して、手始めに行ったのは、幻想郷の人間から私達に勝てる力を奪う事。一緒に出て来た妖精の女の子に気を取られていた見覚えのあるかもしれない氷精から手始めに奪い取り、妖精の女の子に植え付ける。アナザー電王と化した妖精の女の子を対処している間に背後から次々に奪い取っていった。

 

 霊夢からもオーズの力を奪い取り、その目の前で彼女の妹だという仮面ライダーウィザードから力を奪い取って怒りに満ちた視線を上機嫌に受けていたら、「あなた、誰?」などとのたまう物だからキレた。力を奪うだけじゃすまない。考えうる限り最も残酷な手段でこの幻想郷を滅ぼしてやる。

 

 奪い取ったウィザードの力からある存在を知った私はオーロラカーテンで少し過去に戻り、妹を最強のライダーのアナザーライダーにしてやった。これは置き土産だ。この幻想郷はこれで勝手に滅びるだろう。いい気味だ。私の代わりに存在していたらしい霊夢の義理の妹が幻想郷を滅ぼすのだ。いい気分だ。仮面の下で涙が流れるが、ただの感傷に決まってる。私の存在を忘れるからそうなるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから旅立った私達は、異世界を通りすがるたびに私の存在がないことを知ると幻想郷にアナザーウォッチをばら撒き、現代と過去をめちゃくちゃにして歴史を歪ませ崩壊に進ませることを繰り返す。たまにジオウと名乗るライダーが止めに現れたが、一蹴してやった。ディケイド以外に我らを止めることが出来るものか。ディケイドだとしても私がいる私達を止めることなどできない。

 

 自分たちを無かったことにした幻想郷全てに復讐を。そうだ、私は通りすがりに世界を破壊する破壊者、誰にも止められない「厄災」だ!誰かが私の名を呼んでくれる世界が見つかるまで、私は…!

 

 

 

 

 

 

 そうして辿り着いた、私の名を初めて呼んでくれた存在がディケイドだったことはなんたる皮肉だ。嬉しさと怒りと恨みで狂ってしまいそうだ。おのれディケイド!お前はどこまで私達を苦しめる?!この世界、確実に破壊せねばなるまい。…そうだ、奴を連れて来よう。最強のアナザーライダーを。

 

 

 

―――古明地さとり。私はお前を、破壊する。しなければならない。私が私であるために。

 

 

 

 

 

 

 

ーーto be next another time




そんなわけで冴月鱗は過去作「東方ウィザード」シリーズの舞台、仮面幻想郷の冴月麟でした。アナザーウォッチのライダーの力は全てそこで奪ったということでその実力が分かります。

東方紅魔郷の紅霧異変直後に存在をなかったことにされた少女の、十何年と言う期間を一人で過ごし続けて発狂することなく怒りを溜めこんできた結果が厄災。自分の存在しない幻想郷に対する怒りの化身と化しています。そこに謎のカードがやってきて…そのカードの正体はおいおい。ディケイド、存在をなかったことにされた、カイジンライド、でだいぶぴんと来ている人しかいないんでしょうがおいおい。

東方ウィザードについては読んでいなくても分かる様に書いて行くつもりではありますが、どのあたりか気になった方は「神・最終章」を参照。

そして次々回辺りの伏線。最強のアナザーライダーとは如何に。次回も楽しみにしていただけたら幸いです。よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。むしろ感想くださいお願いします。


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