「黒」のアサシン (爆焔特攻ドワーフ)
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開幕前夜・黒

カウレスはその目に驚きを宿していた。

 それはほかの者も同様であった。ユグドミレニアに連なる魔術師が東西南北から集めた聖遺物。無論、この大戦争の果てにユグドミレニアの名を魔術師の世界に轟かせるために、盤石のものにするために当主であるダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが以前に参加した聖杯戦争、亜種聖杯戦争ではない、真の聖杯戦争である冬木の聖杯戦争で主催者たちの目を潜り抜け奪取し、このユグドミレニアの地へと接続した大聖杯を使用した魔術協会と聖堂教会を相手取って始める大戦争『聖杯大戦』の勝利を確定するために、まずはランサーとしてルーマニアにおいて知名度による補正が最高クラスであるヴラド三世を召喚した。

 次に、ユグドミレニアの名を持つ魔術師から優秀な6人を抜粋し、それぞれに聖遺物を渡し召喚に臨ませた。アサシンを辺境の地であり大聖杯があった国である日本で召喚を行うといったが、「辞退」させた。

ここで不確定要素を入れるわけにはいかない。「ジャック・ザ・リッパー」を召喚するなら日本でなくともイギリスのロンドンで召喚したほうが確率は高くなる。わざわざあの土地で行わせる「必要性」は感じられなかったため、あの「他人」は始末しておいた。

 そこで、もう一人候補がいたのでその者に令呪を移植し改めて聖遺物を用意しなおして召喚させた。

その「召喚したサーヴァント」が予想を外したのだ。

用意しておいた聖遺物は「強靭でありながら、強い毒性を宿した短剣」であり、ハサンが召喚されるとダーニックは想像していたが召喚されたアサシンは服装も手に持った武装も古代の装いでも中世の装いでもなく。

見た目は現代の一般人が来ているような服装のサーヴァントだった。

アサシン以外の5騎のサーヴァントたちはみな、予想通りのサーヴァントが召喚されたがゆえに、想定外の札を引いてしまったアサシンのマスターである青年を除いた(・・・)6人は大小の差はあれども驚いたのである。

 アサシンのマスターはおおむね予想がついていた。どうみても、聖遺物は記憶の中にあったアレ(・・)の先端部分であった。どちらかというと、あのようなものがある魔術の世界に危機感を少し覚えた程度である。

(これがあったとしたら、将来的にこの世界から魔術も人間も消え去る運命にあるのかもねー。まぁこのアサシンを呼んだからにはまず勝てると思うけど、問題なのは人格かな?どのアサシンが呼ばれたか。全部の人格が呼び出されてたら厄介だよなぁ…)

 

「サーヴァント・セイバー。召喚の招きに従い参上した。我ら『黒』のサーヴァント、我らの運命は千年樹(ユグドミレニア)とともにあり。我らの剣はあなた方の剣である。」

大柄な体躯に相応しい大剣を背負い、銀色の頭髪を肩下まで伸ばした偉丈夫。その背中には特徴的な葉の形の跡とともに、竜翼があり、よく見れば頭部には竜角臀部には竜の尾がある。

 

「サーヴァント・ライダー。召喚の招きに従い参上した。我ら『黒』のサーヴァント、我らの運命は千年樹(ユグドミレニア)とともにあり。我らの剣はあなた方の剣である。」

小柄ながらも立派な騎士の装いをして、三つ編みにしたピンクの髪の毛と女性と見間違うような顔を持った青年。深紅のマントと頭の上の小さな王冠が高貴な雰囲気を作り出している。

 

「サーヴァント・キャスター。召喚の招きに従い参上した。我ら『黒』のサーヴァント、我らの運命は千年樹(ユグドミレニア)とともにあり。我らの剣はあなた方の剣である。」

顔は金色の角のついた仮面に覆われており、上半身も胸に緑の宝石が埋め込まれた金の鎧で覆われている。表情はうかがえないが、理知的な声をしており、服装はまさに「魔術師」といった感じの男性。

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚の招きに従い参上した。我ら『黒』のサーヴァント、我らの運命は千年樹(ユグドミレニア)とともにあり。我らの剣はあなた方の剣である。」

アーチャーを見て最初に驚くのは下半身だろう。アーチャーは半人半馬の姿で現界していた。だが、その目には獣の面影などはなく多くの英雄を導いた「賢人」と伝えられている通りの姿であった。

 

「サーヴァント・アサシン。召喚の招きに従い参上した。我ら『黒』のサーヴァント、我らの運命は千年樹(ユグドミレニア)とともにあり。我らの剣はあなた方の剣である。」

アサシンを見て驚くのは何も服装だけではない。服装は現代の服を軍服にしつらえなおしたような服であり、腕には眼立つ腕輪をしており、その手にはセイバーに負けずとも劣らぬほどの巨大な武器を持っていた。

 

「ウウゥ…ウウ。」

バーサーカーはそのクラス通り意思疎通や言語などは備わっていないものの、その身体の美しさはこの場にいる者を凌駕している。頭には避雷針のような金色の一本角を持ち、華奢な体躯には似合わないモーニングスターのような武器を抱えていはいるが、その華奢な体躯を彩るような白い花嫁衣装はアンバランスさも相まって、何とも言えない魅力を醸し出していた。

 

 ここに黒の陣営のサーヴァントは出揃った。これより聖杯大戦は開幕する。

 




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猛るゴルド 

 ユグドミレニア城塞の一室。ドンッ! と音を立てて高級なソファに座ったのは、ユグドミレニアに名を連ねるゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 ふくよかな体と神経質そうな顔が特徴的で、体の大きさとは対照的な心の小ささが欠点であった。そんな彼は、最優のサーヴァントとして召喚した竜人ともいえるセイバーを後ろに従え自室へと戻ってきていた。

陣営の中で最前線を張るサーヴァントを召喚し、情報漏洩対策としてサーヴァントへの絶対命令権である令呪は使わなかったが、きつく言い聞かせることでセイバーを自分が許可したとき以外は話さないようにしたゴルドだったが、今の彼の表情は侮蔑で占められていた。

その矛先は、セイバーではなく一緒に召喚されたアサシンのサーヴァントへと向けられていた。

 

「何なのだ!暗殺者風情が、名を隠しおって…恥を知れ! おまけに、あのヴァシュロン・アドゥムス・ユグドミレニアという小僧も気に入らん!」

 

 正確にはアサシンは名前を隠したのではない、召喚されたアサシンはライダーからの質問に対して「呼び名が多いため、アサシンでいい。」と突っぱねたのである。

その態度がゴルドの琴線に触れたのである。最優で全線で戦うセイバーと違い、裏で暗躍し鼠のように敵陣営を嗅ぎまわりだまし討ちしか能がないアサシン風情が真名を隠すなど「裏切ります」と公言しているようなものだ。

 

 しかも、そのアサシンの口を割らないマスターにも腹が立っていた。

自分や他の家の者と違い、この聖杯大戦のためにダーニックが新たに「補充」してきた魔術師であり、そこら辺の一般人と変わらないはずなのに、サーヴァントと堂々と話せる胆力と何も読み取れない能面のような表情が不気味さを醸し出していた。

 ダーニックは「補充」した魔術師の割にはあの青年を気に入っているようであり、ランサーからも目を掛けられているような気配さえある。 自分のサーヴァントとすら信頼関係を中々築けないゴルドには着実にストレスが溜まっていっていた。

 

「!」

 

その時、ゴルドの私室のドアがノックされる。

「何の用だ! いま、私は大事な話を…!」

 ゴルドはフラストレーションをぶつけるかのように大声で叫ぶが、ドアを開けて入ってきたのはユグドミレニア所属のホムンクルスであった。

ホムンクルスは少し息を切らせ、ゴルドとセイバーを見据えて報告を始める。

 

「申し訳ありません。 ですが、火急の要件です。」

「話せ」

「先ほど、ルーマニア北西部の道路にてサーヴァントの反応を2騎補足しました。一人はおそらく赤のランサー。」

「もう一人は?こちらに攻めてくるのか?」

「いえ、この反応はおそらくルーラーかと思われます!」

「なんだと!?」

 ゴルドは驚く。

 ルーラーはかなり特殊なクラスであり、いくつかの条件がなければ召喚されることはないクラスであるからだ。

ひとつは、聖杯がルーラーが必要であると判断した場合に召喚され、もう一つの条件は「聖杯戦争が理論的に崩壊すると決定された」ときに召喚される。

 つまり、このどちらかを黒か赤が満たしてしまったということである。

ルーラーにはサーヴァントへの絶対命令権である令呪を所持しており、その力はマスターに3画ずつ現れるものより強力であるとされている。

もし介入を許せば、この聖杯大戦は崩壊するであろうが、もし懐柔できれば赤の陣営に対するジョーカーになりうる。

 そう考えたゴルドはセイバーを連れ、勇み足でルーラーと赤のランサーの居る場所へと急行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アサシン、狙撃許可を出します。もし、ゴルド氏が撤退もしくは苦戦する際は赤のランサーを狙撃してください。」

「了解しました。弾種はどうしますか?」

「神性にも効く猛毒の弾丸を所持していますよね?それを使いなさい。隙があるならばそのまま食らい殺しなさい。」

「わかりました。では、私は狙撃ポイントに移ります。マスターはどうしますか?」

「私はほかのサーヴァントが居るかどうか確認します。では、3時間後には戻りますから結果報告などよろしくお願いしますね。」

 ゴルドが車に乗り込み出発するのを見下ろしながら、ユグドミレニア城塞の屋上の一角ではこのような会話が行われていた。

マスター…ヴァシュロンはアサシンにそう告げると屋上から身を翻し森へと消え去る。

それを見送ったアサシンは、狙撃銃を担いで赤のランサーと黒のセイバーの予測交戦ポイントが望める高台へと移動し始めた。

 




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聖杯大戦 初戦

投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

ぼるてる様。高評価ありがとうございます。励みになりました。


                  トゥリファス郊外道路

 

 深夜ではあるが、道路上に等間隔で設置された街灯があたりを明るく照らしている。

そこを歩く女性が一人。金糸のような髪が街灯に照らされうねり、美しくきらめいている。

ルーラー。今回の聖杯大戦にて召喚された特殊クラスであり「裁定者」のクラスを預かるサーヴァントである。

彼女に対峙するのは、街灯の上に立つ偉丈夫。

 

 白き髪と同じような肌、胸には紅玉が埋め込まれ、両手足には金属の鎧を纏っている。

右腕には凝った意匠が施され溢れんばかりの神秘を溢す槍。

背後には燃え立つ炎を体現したかのようなモノが漂っている。

彼を毅然と見つめながら、ルーラーは誰何する。

 

「貴方は、赤のランサーですね?」

 

その質問に少し頷き返して

「ああ。その通り、オレは赤の陣営に所属するサーヴァント・ランサーである。」

 

そして、彼は槍をルーラーに向けて構えた。

 ルーラーはその動きに警戒を示し、強い声で諭すようにランサーへと言葉を投げかける。

 

「ルーラーへの敵対行為は、そちら側に後ろめたいことがあると見なしますが、何かお伝えしたいことがあればお聞きします。もし、その事柄の説明をしないというのなら明確な敵対行為と判断して赤の陣営側にペナルティを課させていただきますが、よろしいですか?」

 

「構わん。オレの主はルーラーを排除せよと言われた。だから、オレはそれに従うまでだ。」

 

そういい捨てて、ランサーは槍を構えルーラーを食い破らんと構える。

ルーラーも手に旗を取り出し構える。

と、ランサーの視線がルーラーから逸れる。その視線に先にはルーラーとランサーの場に走ってくる一台の車の姿があった。

 ルーラーとランサーの目の前でドリフトしながら急停止した車からは、黒の陣営のマスターであるゴルド・ムジーク・ユグドミレニアと黒のセイバーが車から降り立った主を守るように出現する。

 

 「危ないところでしたな、ルーラー。我が名はゴルド・ムジーク・ユグドミレニアと申します。此度の聖杯戦争には『黒』のセイバーのマスターとして名を連ねております。」

 

ゴルドはランサーへと指を突き出し、その顔を憤怒に歪め言葉を吐き出した。

 

「『赤』のランサーよ! お前がルーラーを殺害しようとしたのを我々は確かにこの目で見た! 聖杯戦争を司る英霊の抹殺を謀ろうとは究極のルール違反であろう! 罰則程度で済まされることでは断じてない! 大人しく我がセイバーと…」

 

彼は大げさな身振り手振りでランサーを弾劾し、表情を緩めてルーラーに向き直ると

「彼女の沙汰を受け入れるがいい! 」

と言ったが、ルーラーは首を振り

 

「いえ、私が両陣営同士が戦うことに異存はありません。 私は介入しませんのでご安心を。」

とゴルドに返した。

 

「え?」

 

「私の命が『赤』のランサーに狙われることと『黒』のセイバーが『赤』のランサーと戦うことは全く別の案件です。私はルーラーとしてこの戦いの規律を守る義務があります。」

 

 予想外の返答に、ルーラーを引き入れようとしていたゴルドは固まったが、すぐさまセイバーに向き直ると

「セイバー!殺せ!あの『赤』のランサーを何としてでも叩き潰すのだ!」

 

 セイバーにランサーと戦うように指示した。

そのゴルドの慌てふためきようは見ていて滑稽だったのか

 

「ふむ、二人がかりで戦うことでオレを倒そうと企んだのか…?お前が求めるものはそんなことで得られる勝利か?何とも浅ましいが、それも一つの戦い方だ。オレはそれでも構わんが。」

 

「ッ!!!」

 

 その言葉でゴルドの顔が憤怒一色で染まる。『赤』のランサーの言葉はゴルドの憤怒の炎にガソリンを投げ込んだかのような結果を引き起こした。

「令呪を以て命じる!セイバーァ!あのランサーを殺せぇぇぇぇぇぇ!!! 」

 令呪が1画消え失せ、聖杯から膨大な魔力がセイバーへと行き渡り力がみなぎる。

セイバーは膨大な魔力に押し出されるように、ランサーへと駆け出し剣を振るった。

 

 

 

         英雄と英雄の人知を超えた戦闘がここに開幕した

      この戦闘並びに戦争はどちらかの陣営が撃滅するまで続く大戦争

                聖杯大戦初戦

 

 

      『赤』の陣営所属・ランサーVS『黒』の陣営所属・セイバー

       

                 Open Combat




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剣と槍の舞踏  

今日は文字数が結構多めになりました。

おのけん様、10評価ありがとうございます!
また、ぴんころ様と町長様も8評価を入れていただきありがとうございます。
おかげで今回の話はすらすらと書くことができました!


 ルーマニアの闇夜に甲高い音が響き続ける。何も知らぬものが聞けば「祭囃子」と聞き間違えるようになっている。

 だが、その発生地点を見れば誰でもその「認識」が違うことに気づくだろう。甲高い音は英雄同士の武器がぶつかり合い、弾かれる音。剣と槍の乱舞。

 常人が入り込めば一瞬で刃の暴風に巻き込まれ、現世から消える。

 

 それを間近で見てしまった魔術師の気持ちはどんなものだろうか?

 特に、英霊を使い魔同然と見ている魔術師がそれを見てしまったら?

 

 セイバーとランサーの目に追うことすらできぬ高速戦闘。

 一瞬にして位置が入れ替わり、即座に攻撃が相手へと向かっていく。ランサーは槍のリーチと軽さを生かした面の制圧に向いた多段攻撃をセイバーに撃ち放つ。

 セイバーは目視で致命傷にならないように身体を最小限に動かして致命傷を避け、槍衾の隙間から一撃重視の一閃をランサーに繰り出した。

 ランサーは肩あてでその一閃をはじき返し、わずかによろめいたセイバーの胴体に強烈な薙ぎ払いを叩き込む。

 セイバーは強靭な足腰で吹き飛ばされずに、槍をつかむと竜人の腕力で強引にランサーを己の懐に呼び込み、膝蹴りを打ち込む。

 それは傷は与えないが、衝撃は伝わりランサーは勢いよく後方に飛ばされ、背中から火炎を吹き出しながら空中で宙返り、態勢を整えて大地へと降り立った。

 槍によってできた傷が既に癒えたセイバーは着地後の隙を狙ってランサーに飛び込む。

 互いの獲物が衝突しひときわ大きな衝突音を響かせると両者は同時に後方へと飛び退り、戦闘前と同じように対峙する。

 

 周りの状況は、戦いの前と比べて惨憺たる有様だ。道路は砕かれ電灯は余波によって吹き飛んだり、上下逆転して大地に突き刺さっている。

 まるで大規模な地割れが発生したかのような原因は、あまりにも強すぎる英雄同士のぶつかり合いだけで引き起こされたのだ。

 

 相手の様子を伺う2騎のサーヴァントの様子を見ている。ゴルドの自信は打ち砕かれていた。

 この聖杯大戦に参加したゴルドの気分は最高潮に近いものだった。

 政治分野などにしか本領を発揮できない今回の主催者であるダーニックのことは心の底で軽蔑していたし、今回の宝具も濫用可能な体制までユグドミレニアがこぎつけることができたのも、ムジーク家が「魔力生成に特化したホムンクルス」や「戦闘特化のホムンクルス」の製造技術を齎すことで、ユグドミレニアは戦力の大幅な増強ができた。

 その上に本来の聖杯戦争では宝具を打つだけで魔力を大量に持っていかれてしまう事態をホムンクルスに肩代わりさせることによって避けることができるという魔術協会にはない魔力面と戦力面で圧倒的優位に立てるのはムジーク家及び、自らの才能があったからこそだ。

 

 他のユグドミレニアの参加者は破綻者や名前を知られていない若造ばかり。

 しかも、サーヴァントはルーマニアで知名度補正が一番高くなるヴラド三世とは違って、世界的に知られている大英雄!

【竜殺しの英雄・ジークフリート】

なのである。しかも、潤沢な魔力による召喚ともあって竜にさらに近づいたセイバーは持ち前の再生力と強化された竜の体によって耐久力は他のサーヴァントどもと一線を画す。

 そして適性がもっとも高いセイバークラスで召喚されたことで、セイバーに勝てる英雄は居なくなった。

 自分も魔術は極めているというわけではないが、魔術協会の魔術師とは互角と言えるほどの強さだろう。

 これで勝てぬはずがないと意気揚々とルーラーを助け、ランサーに馬鹿にされてつい令呪を使ってしまったが、関係ない。自分とセイバーの力、そして潤沢な魔力と令呪を使えば負けるはずがないと思い込んでいた。

 

 だが、どうだ?

 

 セイバーとランサーの剣戟を自分は視認することさえままならない。セイバーもランサーも傷はなく互角。

 世界的に知名度が高い大英雄に劣らない英雄なんてほとんどいないはずだ! あのランサーの真名さえ判明すれば、セイバーは打ち倒せるはずだ・・・!

 

 そして、ゴルドは気づく目の前にいるではないか。相手の真名を看破する能力を持った裁定者が!

 

「ルーラーよ!」

 彼女はゴルドへと振り向く。

 

「どうか、どうか裁定者の力を以てランサーの真名を…!」

「お断りします。」

「何故ですか!?あなたの命をあのランサーは狙っています。もし私とセイバーが敗北すればランサーはあなたを狙うかもしれません! それでもよろしいとあなたはおっしゃるのですか!?」

 

 ゴルドの焦りが積もった眼がルーラーの目を見つめる。

 ルーラーは先ほどの会話と変わらず、まっすぐとゴルドの目を見つめ語気を少し強めて言い返す。

 

「中立のサーヴァントとして現界したルーラーとしてそれを看破し伝えることは明確なルール違反となるからです。また、先ほども伝えましたが セイバーとランサーが戦うことと私が命を狙われることは別の事柄です。私個人の事情を考慮して、彼らの戦いに水を差すような行いはルーラーとして召喚された私の誇りにかけてできません。」

 

「…ッ!!」

 

 ゴルドは唇をかむ。

(強情すぎる…!)

 そして、ゴルドはあることに気づく。サーヴァントを戦わせるのならばマスターが近くにいることは確実だ。

 魔術戦に持ち込めば、セイバーが致命的な傷を行う前にマスターを脱落させることができる。

 

「ならば、魔術戦だ!敵のマスターと誇りある戦いをして見せよう! 見ているのだろう!?『赤』のマスターよ! 出てきて勝負をせんか! 魔術協会の走狗よ! このゴルド・ムジーク・ユグドミレニアが相手をしてやろう! 」

 

 しかし、その声に反応するものはいない。

 もしかすると相手も自分と同じように令呪をランサーに使わせ、偵察役としてランサーを出しているのかもしれない。

 だが、撤退の時となればさすがに出てくるはずである。

 そう考えたゴルドはセイバーとランサーの戦いを見守ることにした。

 

 

 

 そして、幾ばくかの時間が経過し空が白み始める。

 

 ランサーもセイバーも数時間に及ぶ戦いで、消耗はしているものの鎧や髪に土ぼこりがついている程度で目立った傷はないし、目にも闘志が宿っている。

 

「このまま太陽が昇ってからもお前とは撃ち合いを続けられそうだ。」

 

 ランサーが口を開き、セイバー見据える。

 それにセイバーもわずかながらだがうなずく。

 

「だが---お前のマスターはうんざりしているようだ。」

 

 その言葉にゴルドは疲れを意識した。寝ることはできずに英雄同士の戦闘を間近で何時間も見続けたのだ。当然、足にも疲労回復の魔術は施してはいるが限界は近い。なにより、精神的な疲労は癒すことができない。

 

 セイバーはそんなマスターを身体の状態をつながれたパスで確認する。

 令呪の効果もあり、あと数日程度ならランサーと戦うことは可能であるが、もしマスターを狙われれば致命的な一撃をもらうことになる。

 マスターをかばったことで戦いが終わるなど、ランサーは良しとしないだろう。

 

「マスターの心配をしてくれて感謝する。もし、機会があるのならば…次こそは貴公と決着が着くまで戦いたいものだ。」

 その言葉にゴルドは気づかされた。

 

 自分はセイバーの足かせとなってしまっていたことを。 自分がセイバーについてくることなくユグドミレニアの一室で使い魔を通して見守っていたらどうだっただろうか?

 セイバーはを気にすることなく全力を発揮し、ランサーを討ち取っていただろう。

 悔しさを痛感する。

 自分が変なプライドと欲を出してルーラーの協力を取るために出向かなければ自分はランサーという戦果を前に胸を張れていたであろうに。

 裁定者の勧誘など、詐欺師ともいえるあのダーニックに行わせればよかったのだ…。

 

 後悔を感じているゴルドの前で、ランサーはセイバーに

「初戦でお前と打ち合えた幸運に感謝しよう。」

 武人らしく堂々とだが、傲慢な雰囲気を感じさせずに告げると、霊体化していく。

 そしてランサーの霊体化が胸まで到達したその時

 

「では、さらばd…!」

 

 ランサーが突如として身体をそらす。

 その瞬間、ランサーの肩に黒い靄を纏った弾丸が撃ち込まれ爆散した。

 

「ぐぅっ!?」

 

 ランサーは肩を抑え、弾丸が放たれた方向を険しい目で見つめて、今度こそ撤退した。

 

 

 ゴルドはその光景を見たとき、少し動揺した。

(あのセイバーが傷をつけれなかったランサーに傷を負わせた…?いや、セイバーは私を気にしていたから本気を出せなかっただけだ。おそらく、アーチャーかアサシンの仕業だろう。 あとで問い詰めなければな…。)

 

 そのあと、ゴルドはルーラーをユグドミレニアの拠点に招待しようと交渉したが、にべもなく断られてしまった。

 交渉が失敗したゴルドはため息をつきながらもホムンクルスとともに車に乗り込み、帰還した。

 

 

 ルーラーは両者が帰還した後、息を吐く。

 

「…これが、初戦…。」

 

 ルーラーの目の前には、明るい太陽の光に照らし出された崩壊し、元の様子を想像することができないほど破壊されつくした道路が映っている。

 魔術協会が暗示などを使って、魔術的隠ぺいを施せば大丈夫だろうがこの道は数か月は使用不可能になるだろう。

 

 全てのサーヴァント同士の戦闘がこのような破壊を巻き起こすとは考えたくもないが、もし市街地で戦闘がおこれば裁定者権限を使ってでも止めるしかない。

 もしも、ほかのサーヴァントがみな『黒』のセイバーであるジークフリートや『赤』のランサーである、施しの英雄・カルナのように規格外であるサーヴァントだとしたら

 この聖杯大戦は甚大な被害を各地に残し、最悪の場合このルーマニアが滅ぶ可能性もある。

 それを監視するために自分は呼ばれたのだろうか?

 それとも、あのランサー・カルナが私を抹殺しようとしたように……。

「今、考えを巡らせたとしても何も始まりませんね。ともかく関係のない人々に被害が及ばないようにがんばるしかありませんね。」

 ルーラーは霊装を解除すると電灯が光る道を町に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむマスター、使い魔からの声の通達と目視によって俺のスキルは問題なく発動した。ほい、これがルーラーとランサーの情報だ。」

 

 純白の髪を腰まで伸ばした褐色の肌をした少女が隣の人物にメモ用紙を渡す。

 マスターと呼ばれたメガネをかけた青年は、そのメモを確認するように口に出す。

 

「今回のルーラーのはかの、オルレアンの聖女であるジャンヌ・ダルクのようですね。向こうのランサーはインド神話の英雄・カルナですか…。私の家が触媒を渡したとはいえ、こうもあたりを引き当てますか。まぁアルジュナなどが召喚されても困りますが…。今回の目的の大部分は果たしていますが、まだまだやることがありますしね。特にロードからの連絡で、赤の陣営のマスターと一切連絡がついていないというのが怪しいですし、聖杯大戦の数か月前からこのルーマニアに土木建築の材料が黒の陣営以外の場所に流れているというのも怪しいですしね。」

 

 前半部分に白い髪の少女は反応する。

「えーーー?この戦争あんたの家が引き起こしたのか?」

 

「人聞きが悪いですよアサシン。どっちみち、ユグドミレニアが奪取した聖杯が安全かどうかは近いうちに調査しなければならなかったんです。その役割がユグドミレニアと親しい家で、魔術協会とも聖堂教会ともつながりがある家に回ってきたんですよ…。私は魔術も強くないので、前線には出たくないのに勝手にユグドミレニアに連なっているとかいう『認識』を押し付けられた時はどうしようかと思ったんですよ?」

 

「でもよー?それなら俺が全員殺せば関係なくね?」

 

 アサシンのかるーい言葉にマスターはため息を吐く。

「あなたがアサシンのスキルを保持して召喚されたらそれでよかったんですがね、アーチャーのスキル持っているのにアサシンのステータスで召喚されたせいで気配遮断がないからどうしようもできないじゃないですか…。」

 

「ごめーん。ところで、そろそろ霊装変えてもいい?この幻霊飽きてきた…。」

 

「まぁ、いいですよ。ランサーには神呪毒を打ち込めましたし、当分は動くのもままならないでしょう。」

 

 そうマスターが言い終えるのと同時にアサシンの姿が文字通り「溶ける」。

 数秒ののち、アサシンは召喚された時の姿に戻る。

「はぁぁぁー。やっぱ、魔力消費が少ないとはいえ疲れるわー。」

 アサシンは首をゴキゴキならし、「如何にも疲れている」とマスターに見せる。

 

 

「さて、次の局面はどうなりますかね?早いうちに聖杯の確認がしたいのでサーヴァント同士が衝突する大規模戦闘がおこってくれれば楽なんですけどね。」

 

 アサシンのマスターは窓から入り込む陽光に目を細めて、少し嗤った。




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ゴルドの八つ当たり

更新が滞っていて申し訳ありませんでした。
今回は短めですが楽しんで頂けたら幸いです。


「もう一度聞いてもよろしいですか?アサシンをどうすると?」

ミレニア城塞の一室。ゴルドとヴァシュロンが向き合って座っており傍らにはそれぞれのサーヴァントが控えている。

ゴルドの表情は不敵そのものであり、逆にヴァシュロンの表情は少し焦りを見せている。

「ふん、何度も言ってやろう。貴様のアサシンを赤のサーヴァントと直接対峙させる。ランサーとセイバーとの戦いの折にランサーを狙撃したのは貴様のサーヴァントであるとアーチャーからは聞いている。別に、私は怒っていわけではない。純粋に貴様のサーヴァントの実力が見たいだけだ。これは既にランサーから正式に許可されている。アサシンのサーヴァントらしく闇討ちしても良いし、正々堂々と戦うのも良い。実力を見せさえすればいいのだ!」

どう考えても、水を差されたことに対する八つ当たりで間違いないだろう。

内心ため息を吐く。こちらの目的が露見していないのは僥倖ではあるが、アサシンのスキルを開示しなければならないのはかなりの痛手だ。しかも相対するサーヴァントによっては宝具の使用をしなければいけない可能性がある。

一番の希望としては赤のキャスターもしくはアサシンに当たることが最善だが、ライダーやセイバーに当たるとしたらかなりまずい。

機動力が高いライダーに狙われれば宝具発動前にアサシンが消滅する可能性もある。

セイバーならば奇襲なら手傷を追わせることは可能だろうが、純粋な剣としてアサシンより上の技量を持つサーヴァントとならば先ず勝利は愚か逃走も不可能だろう。

アサシンのスキルで変化できるのは狩人に分類できるサーヴァントのみ、対人の剣技を磨いている狩人のサーヴァントは一人も居ないし、幻霊として呼び出そうにも自らが知らなければアサシンは変化することも不可能だ。

 

ゴルドの話を聞く限り、ユグドミレニアのホムンクルス部隊とキャスターのゴーレムも一緒に出撃することになるらしいが、サーヴァントの前では壁としての期待も出来ない。

ならば、こちらも近接戦闘が行える狩人をアサシンの変化先として選ばなければならない。

今夜にもアサシンの実力診断テストのような公開処刑は行われるらしい。

それまでに近接戦闘に向いている狩人の英霊もしくは幻霊を見繕わなければいけなくなった。

既に時刻は夕方に差し掛かろうとしている。夜まで数時間しかない、神霊も呼び出せなくはないが流石に全力戦闘しようものなら一時間でミレニア城塞のホムンクルスの魔力タンクは空っぽになるだろう。

 

なんとしてでも、それなりの強さの皮を確保しなければならない。

ゴルドの部屋から自らの部屋に帰る中で久しぶりに頭を抱えた。




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