柱合会議の翻訳係 (知ったか豆腐)
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柱合会議の翻訳係

平和な感じの鬼殺隊風景。


 時は大正時代。

 人知れず人喰いの鬼を狩る鬼殺隊と呼ばれる政府非公認の組織が存在していた。

 人間とは比べ物にならぬほど強力な力を持つ鬼と、か弱き人の身で戦う彼らの命は吹けば飛ぶように軽い。

 鬼は力が強く、多少の傷を瞬く間に治す再生能力を持ち、中には強力な妖術を使う個体もいる。そして、殺すには特殊な刀で頸を落とすか日光に晒さねばならない。

 そんな種族の格差をものともせずに鬼を数多く狩っている存在が“柱”と呼ばれる鬼殺隊の中心人物たちだ。

 

 彼らは当主・産屋敷耀哉の元で、半年に一度柱合会議(ちゅうごうかいぎ)と呼ばれる会合に集まって鬼殺隊の今後を決める重要な報告や議論を行っている。

 本来ならば最高幹部である“柱”しか参加することができない柱合会議。

 そこに、柱でもないのに参加を義務付けられている隊士がいるらしい……

 

 


 

 ――産屋敷家 鬼殺隊本部

 

 半年に一度の柱合会議。

 多忙な柱たちが一堂に会する数少ない機会であるが、その現場はピリピリとした空気に包まれていた。

 

「おい、冨岡。この間、お館様から直接命を授かったそうだが、何を頼まれたんだ?」

「……お前に話すことはない」

「あ゛? テメェ、どういうつもりだァ?」

「言葉通りだが?」

「ああ、そうかい。テメェ、喧嘩売ってんだな!?」

 

 その理由は風柱・不死川の問いに対して水柱・冨岡がバッサリと冷淡に返事をしたことが原因だ。

 一触即発の雰囲気。

 そんな危険な状況に、声を上げる人物がいた。

 

「お待ちください、風柱様! 今のは決してそのような意図の発言ではございません! どうかお聞きください!」

「ああ? テメエか。(にぎ)ィ……」

 

 今にも冨岡に殴り掛かろうとしていた不死川を、声を張り上げて止めた和と呼ばれる隊士。

 短く刈り上げた髪に丸い大きな目が特徴的なこの男は、和 結一郎(ゆいいちろう)

 階級は甲と柱に次ぐ地位に就いている。と、言っても本来ならば柱合会議に参加できるような階級ではない。

 その役割とはただ一つ――――

 

「先ほどの水柱様の言葉は『いつも通りの鬼の調査と殲滅で変わったこともなかったので、特に話すこともない』という意味です。決して、風柱様を見下しての発言ではございません!」

 

 言葉がいつも足りない水柱・冨岡義勇の言葉を補って皆に伝えることである。

 通称、『柱合会議水柱専属翻訳係』

 別名、『冨岡語翻訳係』である。

 

「ん? 俺はそう言ったはずだが?」

「~~~~ッ! そう言えてないからこうなっているのですが!?」

 

 不思議そうに首を傾げる冨岡に、言葉にならないうめき声をあげて頭を抱えた後思いっきりツッコミを入れる結一郎。

 彼のツッコミに柱の皆は頷いたのであった。

 この水柱、天然にして口下手という最強(最悪)の組み合わせの属性を備えており、いわゆるコミュ障気味である。

 

「まったく。冨岡さん、そんなだからみんなに嫌われるんですよ」

 

 会議に参加している蟲柱・胡蝶が呆れたように告げる。

 3歳年上の冨岡に対してとんでもない物の言いようだが、一連の会話の流れの後だと否定しづらいところである。

 

「俺は嫌われてない」

 

 冨岡本人はこう言って否定しているが、賛成してくれる人物はおらず。

 味方がいなくて内心泣きそうな冨岡。

 そんな内心地獄の冨岡の元へ一筋の蜘蛛の糸がたらされた。

 

「おやめください、蟲柱様! そのようなことをおっしゃるのは!」

「結一郎……」

 

 上司である柱に対してハッキリとその主張をぶつける結一郎。

 自分の味方をしてくれた結一郎の姿に冨岡は目を輝かせた。

 

「おや、和さんは冨岡さんが嫌われてないというんですか?」

 

 格下から自分の言葉を否定されても表面上はにこやかに問いを返す胡蝶。

 若干、怒っている空気が感じ取れるが、結一郎は怖気づくことなく声を張り上げた。

 

「水柱様が嫌われているかどうかなんてどうでもよいことです!」

「どうでも……」

 

 冨岡の目が死んだ。

 

「では、どうしてですか?」

「蟲柱様、よくお考え下さい。『嫌われてる』なんて言われて水柱様がどう思うのか!」

「どうって、それは……」

 

 言葉に詰まる胡蝶しのぶ。

 つまりこれは叱られているのだろうか?

 人を傷つけるような言葉を口にするなという。

 しかし、そうであれば「どうでもいい」という発言はおかしいのでは?

 答えが分からず悩む胡蝶へ、結一郎がその答えを告げた。

 

「水柱様は、『自分が話をすると不快にさせるようだからしゃべるのは必要最小限にしよう』とお考えになる方なんです!」

「それは……ッ!」

 

 結一郎の言葉にハッと何かに気が付いたように口に手を当てて驚く胡蝶。

 自分のした行いの重さに気が付いたのだ。

 今現在、ただでさえ口数が少ないというのにさらに減らす?

 すなわち、会話難易度の上昇という結果ではないか!

 

「むぅ、そうなのか! 冨岡、どうなんだ?」

「結一郎は俺の心が読めるのか?」

 

 今まで黙って話を聞いていた炎柱・煉獄杏寿郎が冨岡に尋ねれば、当の本人も否定しないという始末。

 

「蟲柱様、お願いいたします! どうか、どうかこれ以上この人から会話能力を奪わないでください!」

「和さん、頭を上げてください。私が悪かったです。気を付けます」

 

 深々と頭を下げる結一郎に胡蝶が謝罪の言葉を口にする。

 結一郎の悲壮な様子に涙があふれそうだ。

 現に恋柱の甘露寺蜜璃などは涙目で、岩柱・悲鳴嶼行冥は既に涙を流している……いや、この人はいつも通りだ。

 

『俺の口下手程度でそんな深刻そうな雰囲気になる必要があるのか? ちょっと皆大げさすぎるだろう』

 

 目の前で繰り広げられる茶番劇を見てそんなことを思う冨岡義勇であった。

 せめてそれを口に出せば、認識の是正ができるというのに!

 義勇さん、あなたそんなのだから……

 

 

 和 結一郎。

 柱でもないのに柱合会議に参加する唯一の隊士の苦労は続きそうである。

 

「水柱様、お願いですから、ちゃんと喋ってください!」




鬼滅の刃にハマって、衝動的に書き上げてしまった。
もっと鬼滅の刃の作品が増えるといいなぁ……

このままでは「読みたい作品がないなら自分で書けばいいじゃない」という、自家発電行動をとってしまいそうです(汗)


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その2(和結一郎という男)

2019/07/01投稿

反響が良いので続きました。
ちょっと主人公の設定を記述してみたり。


柱合会議の翻訳係 その2

 

 和 結一郎(にぎ ゆいいちろう)

 年齢18歳の男性鬼殺隊士である。

 この男、実は老舗和菓子店の息子であった。

 10歳のときに鬼に家族を惨殺されるまでは菓子職人として幼いころから修行に打ち込んでいたため、菓子作りを得意としている。

 任務の無い休日などは鍛錬の合間を縫って、趣味の一環として菓子作りをしていたりするのだ。

 時折差し入れされるお菓子はほかの隊員にも――特に女性隊員に――人気が高かったりする。

 

 そんな彼が胡蝶屋敷に重箱入りの菓子を差し入れている姿は珍しくないことなのだ。

 水柱・冨岡義勇が一緒でなければ……

 

 

「本日はおはぎを作りましたので、どうぞ皆でご賞味ください!」

「これはこれは。いつも差し入れありがとうございます」

 

 結一郎から風呂敷に包まれた重箱を受け取り礼を述べる胡蝶しのぶ。

 柱とはいえうら若き女性である。甘いものを前に顔が自然とほころんだ。

 

 女性率の高い胡蝶屋敷では結一郎の差し入れはとても喜ばれており、屋敷の住人からの評価はとても高い。

 どれくらいかと言えば、コインを用いなければ自身の意思も決められない栗花落カナヲですら結一郎の菓子を前に出せば問答無用で手に取るほどだ。

 なかなか感情を出さない自分の継子(つぐこ)が珍しく見せた自我の発露に、師匠であるしのぶは喜んでいたりする。

 それゆえ、そのきっかけとなってくれた結一郎が来ることは大歓迎なのだ。

 

「で、なんのご用ですか? 冨岡さん」

 

 つれない対応をされる水柱と違って!

 

「特に用事はない。俺のことは気にするな」

「そうですか。暇なんですか? なんでここにいるんです?」

「あ、蟲柱様。いまの言葉は『用事があるのは結一郎で自分はその途中で付き添っただけだから気にしなくていい』という意味です」

 

 言葉の足りない義勇をすかさず補足する結一郎。

 水柱専属翻訳係の面目躍如である。

 

 結一郎の言葉を受けて納得した様子のしのぶ。

 先程から気になっていた結一郎の後ろにあるいくつもの風呂敷包みについて聞いてみることにした。

 

「なるほど。では、そこの風呂敷包みはそのご用事ですか。それもお菓子だと思いますがどうされるのですか?」

「他の柱の皆さまへの差し入れです。本日は炎柱様、恋柱様、風柱様のお三方もいらっしゃるとのことでしたのでお届けしてこようかと!」

 

 結一郎の言葉にしのぶは驚くと同時に首を傾げた。

 多忙な柱がこれだけ揃っているという珍しさに驚くとともに、それにしては多すぎる荷物の量を疑問に思う。

 柱以外にも渡しに行くのかと問えば、結一郎は首を横に振ってこたえた。

 

「これの半分は恋柱様へのもので、残りの四分の三は炎柱様にお渡しする予定です」

「ああ! あのお二人なら納得です」

 

 炎柱と恋柱の二人は大変な健啖家だ。

 驚くほどよく食べる人たちで、特に恋柱は特殊な体質もあってか関取三人分はペロリとたいらげてしまう。

 そう考えればこの量も納得というものだ。

 

「特に好き嫌いもなく大変おいしそうに食べるお二方なので私も作り甲斐があるというものです!」

「フフッ、しかし、何でも美味しい美味しいと言われるのも複雑じゃありません?」

 

 元気よく答える結一郎に少し悪戯心が湧いたしのぶは、少しいじわるな質問を投げかけてみる。

 時折、こうした茶目っ気を出すところも彼女の魅力といえようか?

 

「いえいえ! 食べ物の好みで喧嘩するよりはよっぽどいいのです! 食の好みは主張が違えればすなわち戦争ですから!!」

 

 つぶあん派とこしあん派の仁義なき戦いがッ!

 と、何かトラウマを思い出したのか遠い目になる結一郎。

 趣味の場であっても気苦労が絶えないらしい彼に少し同情したしのぶであった。

 

「ええっと、あー、そういえば冨岡さんはなぜ和さんと一緒なんです?」

 

 場の空気を変えようと話題を変えるしのぶ。

 ずっと気になってはいたのだが、結一郎の趣味になぜ義勇が付き合っているのだろうか?

 それに答えたのは聞かれた義勇ではなく、結一郎だった。

 

「いえ、逆です! そもそもは水柱様のご用事に私が協力する形だったのですが、モノはついでだと私の趣味に付き合って頂くことになったのです!」

「冨岡さんの用事……ですか?」

「ああ。不死川に会いに行く」

「はい? なんですって!?」

 

 なんと、義勇の用事というのは風柱である不死川に会いに行くことだというのだ。

 仲の悪い相手のところへ向かうと聞いては驚かざるを得ないしのぶ。

 何しに行くのか聞いてみれば、義勇の返事は衝撃的な一言で。

 

「この間のおとしまえをつけにいく」

「えっ!?」

「水柱様、その言い方では誤解されます!」

 

 カチコミ!? と、驚愕に目を見開いたところで結一郎からすかさず補足が入る。

 話を聞いてみれば、曰く、

 先日の柱合会議の場で自分の発言のせいで不快にさせてしまったのでその詫びに行くのだという。

 その際の手土産として不死川が好物だと聞いたおはぎを持っていくことにしたのだ。

 そういう経緯で、菓子作りが得意な結一郎に話が回ってきて今に至るというわけである。

 

「冨岡さん、あなたどうしてこう、言葉の選び方が壊滅的なんですか……」

「……そんなに酷いか?」

 

 呆れを通り越してもはや脱力してしまいそうなしのぶ。

 口数が少ないのに言葉のチョイスがヒドイとなれば、そりゃあ誤解もされようというものだ。

 なお、本人には自覚はない模様。

 

「自覚無しとは救えません……そんなんだから皆に――」

「蟲柱様!」

 

 しのぶがいつもの癖で「嫌われている」と口にしようとしたところに、結一郎が待ったをかけた。

 それに気が付いたしのぶは、途中で言葉を止めて別の言葉を口にする。

 これ以上、義勇の会話能力を低下させるわけにはいかない。

 

「皆に誤解されるんですよ。もう少し言葉を選んで話をするべきでは?」

「そうだな。気を付けよう」

 

 真面目な顔でうなずく義勇だが、本当に分かっているのか不安だ。

 結一郎に視線を送れば、申し訳なさそうに小さく頭を下げる姿がある。本当に苦労しているなぁ。

 このまま不死川のところに送れば、彼を高い確率でキレさせるだろう。

 そう思ったしのぶはひと肌脱いでやることにした。

 

「このまま不死川さんのところに行って、下手な事を言って怒らせるのもまずいですから練習してから行ったほうが良いんじゃないでしょうか?」

「練習?」

「ええ、そうです」

 

 不死川に会ったときに事前になんて言うのか決めておいたほうが失敗しなくて済むというしのぶの言葉に義勇はうなづいた。

 何故かしのぶも協力的であるので、乗らない手はないだろう。

 そう判断した義勇はしのぶを不死川に見立てて予行演習(シミュレーション)を始めた。

 

『さて、なんて言えばよいだろうか?』

 

 先程ちゃんと言葉を選んで話さないと誤解されると、アドバイスを受けたばかりなのでじっくりと口にする言葉を探していく。

 しばらく思案した後、言うべき言葉を決めたようで強く頷いてしのぶに向き合う。

 

「冨岡さん、なんて言うか決めましたか?」

「ああ。決まった」

 

 しのぶはどんなことを言ってくるのか頭の中でいくつか想定しながら、不死川なら何て言うだろうかと考える。

 不死川を完璧に再現は自分と性格が違うので無理であろうが、それなりに会話ができるようであれば問題ないだろう。

 そう思いながら不死川をイメージして不機嫌な顔の演技をして言葉を待つしのぶ。

 対する冨岡の発した言葉は――

 

「……食え」

 

 おはぎの入った重箱を差出し、一言。

 それだけであった。

 あまりの意味不明さにピシリと表情が固まるしのぶ。

 こんなの想定外です……

 

「……和さん」

「はい!」

「解説を」

 

 会心の出来だとばかりに心なしかドヤ顔の義勇を無視して、しのぶは結一郎に解説を求めた。

 どういうことなの、これ? と。

 水を向けられた結一郎は承知とばかりに、解説を始める。

 

「水柱様は口下手であることは自認しております! そのため、長々としゃべっては余計なこと言って相手を怒らせるだけだとお考えになったのでしょう! それで言葉を削られたのです!」

 

 本来義勇が言いたかった言葉は、

 

『先日の柱合会議の際に自分の言葉のせいで不快にさせて悪かった。侘びの品としてお前が好物だというおはぎを持ってきたのでよかったら食べてくれ』

 

 である。

 そこから言葉を削りに削った結果が、最後の結論部分の「食べてくれ」が残ったのだった。

 

「なるほど~。……どうしてそうなるの!?」

 

 いつもの冷静なキャラが保てないくらいに混乱するしのぶ。

 言葉が足りないって言われてるのに何故、言葉を減らそうとするのか!?

 言葉を選べとは言ったが、厳選しろって意味じゃない!

 普通に考えて必要最小限に足りてない。というか、少なすぎる。鬼殺隊の最終選別の合格者だってもっと多いだろう。

 

「冨岡さん、どうしてそれで通じると思ったんです?」

「ダメか?」

「水柱様。普通の方はそれでは通じません」

『そういえば、なんで和さんは冨岡さんの言葉が分かるんでしょう?』

 

 義勇を諭す結一郎を見て今さらな疑問が頭に浮かぶしのぶ。

 冷静に考えれば、これってすごいことなんじゃないだろうか?

 

「蟲柱様、自分は昔から人一倍場の空気を読むのが得意だったのです! そのおかげでこうして水柱様のお気持ちをお察しできている次第です」

「ああ、そうなんですね。……あら?」

 

 しのぶの疑問にすかさず答える結一郎。

 その返事に一瞬違和感を覚えるも、そういうこともあると納得することにしたのだった。

 

 

 しばらく義勇の練習に付き合った後、二人を送り出したしのぶ。

 正直不安が消えない。

 虫の知らせとでもいうのか、それとも女の勘か。

 とにかく、義勇が円滑に不死川と会話をしている風景が思い浮かばなかったのだ。

 その悪い予感は約一刻後(約二時間後)に現実となる。

 

「急患、急患です! けが人を連れてきました!」

 

 (かくし)の一人が鬼殺隊の剣士を背負って胡蝶屋敷に駆け込んでくる。

 その背に背負われていたのは結一郎であった。

 

「何があったのです?」

「風柱様と水柱様の小競り合いに巻き込まれたとのことです」

「和さん、あなたって人は……」

 

 頑張れ、結一郎。頑張れ! おまえはこれまでよくやってきた、出来る奴だ。

 だから義勇の口下手のせいで苦労したとしても、挫けずに頑張れ!

 

 

オマケ『柱餡戦争』

 

音柱「やっぱり餡はつぶ餡だな。つぶが残ってる方が派手に食べ応えがあっていい。つぶ餡こそ至高だな」

蛇柱「認めない認めない。くだらない妄言を吐き散らすな。裏ごしするひと手間を加えて口当たりが滑らかになったこし餡が最高に決まっている。だいたい、菓子に食べ応えを求めてどうするんだ」

音柱「あ? 派手に喧嘩売ってんのか? 派手に」

蛇柱「そちらこそ自分の非を認めるべきだ。いまなら許してやらないこともないが?」

「「……………」」

霞柱「ねぇ、あの緑色の餡の餅ってなんだっけ?」

結一郎「ずんだ餅ですかね!? それよりも、無言で殴り合っているお二人を止めていただけませんか!」

 

 




原作で並んで登場したからか、義勇さんとしのぶさんは柱のなかでもコンビ感があるんですよね。
すごい絡ませやすい気がします。


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その3(継子のはなし)

2019/07/08 投稿

気が付けば字数が滅茶苦茶増えてる!?
今回は主人公の立場のお話。


 鬼殺隊には「継子(つぐこ)」という制度がある。

 鬼殺隊の剣士たちの最高位にして文字通り組織を支える役目を担う「柱」と行動を共にし、直接指導・修練が行われる柱の直弟子。

 言い換えれば「次期柱候補」のことである。

 その重要性から継子には一般隊士よりも広い裁量権が与えられ、一段上の立場として扱われている。

 しかし、そんな継子といえど柱合会議への参加は基本認められていない。

 では、その柱合会議への参加を義務付けられた結一郎の立場とはいったいどのようなものなのだろうか?

 


 

 ――鬼殺隊 拠点にて

 

 報告書を上げるために先を急ぐ結一郎。

 速足で歩き去る彼に他の隊士たちからの注目が集まっている。

 

「あれが(にぎ) 結一郎。水柱様の継子の……」

「継子なのに柱合会議の参加を認められてるっていうあの?」

「すごいよなぁ。次期柱に間違いなしだって言われてるらしいぜ」

 

 尊敬の念を込めて見られる視線が結一郎に向けられる。

 一方で、陰鬱な感情を抱く隊士たちもいる。

 

「一人だけ特別扱いかよ……」

「あいつ、柱の方々に媚びへつらって今の地位を得たらしいぜ。前に菓子折りを柱の方々に渡しに行っているのを見たぞ」

 

 尊敬の眩い視線も嫉妬の粘ついた視線も結一郎にとっては困ったものでしかない。

 ため息が出そうだった。

 

・・・・・

・・・・・

・・・・・

 

「と、いうことがあったのです。正直、困っております!」

 

 急須でお茶を注ぎながらため息を吐く結一郎。

 彼の愚痴に付き合っているのは水柱、蟲柱、炎柱、恋柱、音柱、蛇柱の柱の方々である。

 柱合会議でもないのに多忙な柱が集まるのも珍しい話だが、何の集まりかと言えばなんてことはない。単なるお茶会仲間だ。

 結一郎の趣味である菓子作りで作った茶菓子などを食べながら談笑するだけの親睦会である。

 メンバーは結一郎と付き合いの深い義勇。

 彼と結一郎とも年代が近く、接点の多いしのぶ。

 柱の中でも健啖家な炎柱・煉獄(れんごく) 杏寿郎(きょうじゅろう)、恋柱・甘露寺(かんろじ) 蜜璃(みつり)の二人は結一郎の作る菓子のファンだったりするので、お誘いをかけると時間が空いていれば来てくれる。

 音柱・宇髄(うずい) 天元(てんげん)は、彼本人というよりは彼の三人の妻が結一郎の菓子が好きなため、ぶっちゃけお土産目的で参加だったりする。まぁ、本人もちゃっかり楽しんではいるのだが。

 蛇柱・伊黒(いぐろ) 小芭内(おばない)は、恋柱の蜜璃につられてきている。

 

 そういうプライベートな場であるからか、気安い雰囲気になっていることもあってつい愚痴がでてしまった結一郎。

 彼の愚痴に対する柱たちの反応は様々だ。

 

「うむうむ、期待されているのは良いことだな! その期待に応えられるよう励むのだな!」

「炎柱様、たしかにそうなのですが、それで話を終わらせてしまうと自分はやるせないです!」

 

 常に前向きな性格の杏寿郎は、発言も前向きだ。

 他人が陰口を言っていることを気にするよりも、少なからず尊敬の念を向けられているのだからそれに応えるべし!

 そんな至極真っ当で真っ直ぐな返事をするのが杏寿郎という快男児であった。

 その真っ直ぐすぎるくらいの発言に結一郎としては少し戸惑いつつもお茶と一緒に大きめに切り分けた芋羊羹を出した。

 

「情けない情けない。他人のことを見ている暇があるほど余裕があるのか? そんな余裕があるのならもっと結果がでているはずだがな?」

「ハッ! 気に入らねえな。文句があるなら派手に本人にぶつければ良い。派手にな!」

 

 対して、陰口をする隊士たちへの不満と怒りを見せているのは小芭内と天元の二人だ。

 小芭内はねちねちとした口調でこし餡の煉羊羹を細かく切り分けながら、隊士たちへの不満を語っている。

 天元は単刀直入に自分の感情を言い表した。その怒りを紛らわすように大きく切り分けたつぶ餡の煉羊羹を口に放り込む。

 

「正直、自分程度にそんな視線を向けられても……と思うのですが!」

「え~、でも和君は頑張ってるんだからもっと自信を持っていいと思うんだけどなぁ」

「そうですよ。和さんはよく努めていますよ」

 

 蜜璃としのぶの女性ふたりから慰められる結一郎。

 麗しい女性二人に優しい声をかけられ思わず笑みがこぼれそうだ。

 

「ありがとうございます、お二方。頑張らないといけませんね!」

 

 お礼の言葉を言いながら、茶菓子の皿を出す結一郎。

 女性ということもあって、出したのは見た目の美しい桜餡を使った桜色の水羊羹。

 華やかな桜色は、二人のイメージにぴったりでもあった。

 ……蜜璃に出す際に切り分けずに一本丸ごと出すか迷ったのは結一郎だけの秘密である。

 

 各々、意見を出す中で黙ったままの水柱・冨岡 義勇。

 彼が何を考えていたかと言えば……

 

『旨いな。茶も良いのを使っている……ああ、幸せだ』

 

 思いっきりお茶とお菓子を堪能していた。

 目の前のお茶とお菓子に夢中になるあたり、育ちの良さとか人柄の良さを感じられるところだが、部下が真面目に相談してるときにコレはちょっと残念である。

 あくまで天然であって、悪気はないのだが。

 

『結一郎の作る菓子はいろいろな種類があるな。……頼めば鮭大根の菓子も作ってくれるだろうか?』

「水柱様! さすがに鮭大根のお菓子は難しいです!」

「お……ッ!?」

 

 どこまでもマイペースな考えを巡らせているときに、結一郎から返事が来てビクッと驚く義勇。

 思わず声に出ていたかと周囲を見渡せば、なんとも微妙な雰囲気になっていた。

 

「よもやよもや、だ。和君はずいぶん器用なのだな!」

「うっそだろ!? どうやったんだよ? 地味に派手なことしやがって」

「はぁ~。これはよくそこまでできるようになったと和をほめるべきか、それともそこまでさせたと冨岡を責めるべきか……」

「冨岡さん……あなた和さんに謝ったほうがいいですよ。ホントに」

 

 驚く杏寿郎と天元に、呆れる小芭内にしのぶ。

 彼らからの視線の意味が分からずに義勇が困惑していると、その答えを蜜璃が告げた。

 

「すごいね、和君。冨岡さんが思ってることが分かるんだね」

「いやいや、大したことはありませんよ!」

 

 蜜璃の言葉に手を横に振ってこたえる結一郎。

 しかし、彼の言葉に頷く者はいない。

 

「冨岡が口下手すぎたせいで、読心術を身に着けるとか、ヤバい、ウケる!」

「宇髄さん、さすがに笑っちゃかわいそうですよ。結一郎さんが」

 

 腹を抱えて笑う天元に注意をした後、義勇を責めるように睨みつけるしのぶ。

 どんだけ、結一郎に苦労をかけてるのかと問うような視線だ。

 

「……俺は悪くない」

 

 それを受けて義勇の一言。

 

「それはないだろう、冨岡」

「妄言をまき散らすな」

「派手に本気か?」

「えっと、ちょっとそれはないかな~って」

「つける薬はありませんね」

 

 そして義勇に味方はいなかった。

 南無……

 

 

「しかし不思議なものだな。よくもまぁこんな無口な男が結一郎のような継子を持てたものだ」

「いや、冨岡だからじゃねえのか? まあいいや。そういえば、俺も継子探さないとな」

 

 机に突っ伏して撃沈した義勇を放っておいて、小芭内が継子について話題を切り出した。

 天元も腕を組んで考え込み始める。

 そもそもの原因となった結一郎の相談内容からも察せられるように、鬼殺隊の質の低下は大きな問題なのだ。

 柱といえどいつまでも現役でいられるわけもなく。

 また、鬼との戦いは命がけ。上弦の鬼と呼ばれる強力な鬼との戦闘では柱ですらも討ち取られる可能性が高いのだ。

 

 そう考えれば後進の育成は重要課題といえる。

 しかし、現状では柱の直弟子である継子の数は少なかった。

 

「恥ずかしい限りだが、俺も継子はいない。こうなってくると二人がどうやって自分の継子を見つけたのか気になるところだな。うむ! ぜひ、その方法を教授願えまいか!」

 

 杏寿郎がしのぶと義勇に継子をどうやって決めたのかを尋ねる。

 分からないことは経験者に聞くのが一番手っ取り早い方法ということで、水を向けたわけだ。

 

「すみません。私のところのカナヲは孤児院で保護した子がたまたま才能があっただけで、私が自分から見出したわけではないんです」

 

 お役に立てずにすみません。と、頭を下げるしのぶ。

 対して義勇はといえば――

 

「俺には関係ない話だ」

 

 やはり、言葉が足らなかった。

 協力を拒否するような一言。しかし、柱のメンバーもだいぶ慣れたものだったりする。

 

「おい、和。翻訳」

「はっ、承知しました! 音柱様」

 

 もはや義勇が言葉足らずなことは周知の事実になっているため、慌てずに結一郎に言葉の解説を求める天元。

 結一郎は与えられた役目を慣れた様子でこなし始めた。

 

「水柱様のお言葉ですが、その前に一つ訂正をさせてください。自分は、継子ではありません!」

「はぁ!?」

 

 自らを継子ではないという結一郎に天元は思わず驚きの声を上げてしまう。

 それ以外の面々も驚きの表情を隠せない様子だ。

 

「え? でも、和君はいつも冨岡さんのお供してるわよね? なのに、継子じゃないの?」

 

 蜜璃が首を傾げて疑問をぶつける。

 二人の普段の様子から継子ではないということが信じられなかったのだ。

 結一郎は首を縦に振ってこたえる。

 

「ええ! そうなのです! 一応、階級は甲にはなっていますが、水柱様には継子として認められていないのです!」

「なんと! 本当にそうなのか?」

 

 結一郎の告げる言葉に思わず問い返す杏寿郎。

 残念ながら冗談ではないようだ。

 

「はい! 水柱様からは一度も指導を受けたことや稽古をつけていただいたことはありません!」

「……あれだけ、一緒にいて、一度もですか」

 

 しのぶが絶句したように何とか一言絞り出す。

 その結一郎を見る目はすごい同情に染まっていた。

 

「最近では当たり前のように任務も一揃いにされていますが、一度も、ないのです!」

「冨岡、お前……」

 

 あまりの残念さに小芭内は頭に手を当ててため息を吐いた。

 普段も一緒にいて、任務も付いて行っている。完全に継子と同じようなことをしておいて、継子として認めてないから稽古はつけてもらってないとか哀れにもほどがあった。

 むしろ、ここまで状況が揃っているのに何故認めてないのか疑問で頭が痛くなりそうだ。

 というか、ホント、認めてやれよ。

 

 小芭内がため息を吐いた後も結一郎の嘆きは続く。

 

「自分は継子ではないので裁量権は一般隊士と同じなのです。が、しかし、周りは自分を継子だと思っているので、その、期待される仕事が……ッ!」

 

 与えられた地位は変わっていないのに何故か責任ばかりが増えていく悪夢がそこにあった。

 

「派手に苦労してんなぁ。まったく憧れないが」

「音柱様! 自分も望んでこうなっているわけではないのです!」

 

 口から出た同情の言葉に鋭く切り返されてしまった天元。

 まぁ、そりゃそうだろうよ。としか返事できないのだが。

 

「ねぇ、冨岡さん。どうして和君を継子として認めないのですか? 和君には落ち度はなさそうですけれど」

 

 しのぶが義勇に結一郎を認めない理由を単刀直入に尋ねた。

 言葉の端に

 

『お前の都合なんだろ? ああん?』

 

 という感情が見え隠れしないでもないが、義勇は気にせずにその理由を短く言葉にした。

 

「俺は柱じゃないからな」

 

 柱ではない人間が継子を選ぶなどありえないと告げる義勇。

 自分の忌まわしい過去を思い出し、暗い表情を浮かべる。

 そんな彼に対して、柱たちは思い思いの言葉を投げかけた。

 

「はぁ? 何を言ってるんですか?」

「うむ。意味が分からん!」

「馬鹿なのか? ……馬鹿なんだな」

「地味に何を言ってるんだ?」

『真顔で変なことを言う冨岡さんもキュンとくるわ』

 

 総じて厳しい言葉ばかりであったが。

 いつも通りといえばいつも通りの展開に、義勇は結一郎に助けを求める視線を送るも結一郎は首を横に振った。

 

「さすがに無理です! 水柱様」

 

 結一郎といえど、義勇の過去の出来事を語ることはできない。語るべきではない。

 それはあくまで義勇の口から語らねばならないことなのだから。

 むしろ、語れたら怖い。

 

「……だいぶ昔の話になる。俺は、最終選別を突破していない」

 

 仕方ないと覚悟を決めて自らの過去を語り始める義勇。

 

 最終選別で七日間生き残ったが、それは同じ年に選別を受けた錆兎という少年が山の鬼をほとんど一人で倒してしまったおかげだからだ。

 自分は怪我を負って助けられ、気が付けば日にちが過ぎていた。

 助けられただけの人間が選別に通ったとは言えない。

 だから自分は他の柱たちと対等に肩を並べていいような人間ではない。

 ゆえに、自分は柱ではない。継子を選ぶ権利などない。

 

 辛い過去を交え、義勇は自分の考えを語った。

 珍しくも長々と言葉を紡いだ彼へ、柱たちは何を告げるのか?

 

「どんな派手な理由があるのかと思ったら、極限地味な理由だったな」

 

 呆れたように詰まらなさそうに感想を述べる天元。

 てめえの事情なんか知らねえよとばかりに突き刺さる言葉に義勇は落ち込んだ。

 

「昔は情けなかったとしても、今は成長したのだろう? ならば問題はないな!」

「冨岡さんはもっと自分に自信を持ってもいいと思うわ」

 

 過去は過去。今のおまえが重要なのだと告げる杏寿郎と、優しく励ます蜜璃。

 暖かな言葉を掛けられて、義勇は困惑したように問いを投げかける。

 

「俺は、こんな俺でも鬼殺隊に居場所はあるだろうか?」

「くだらないくだらない。当たり前のことを聞くほど愚かなのか。貴様が自分のことをどう思っていようが関係ないことだ。貴様は柱としての任を引き受けたのだろう? ならばその責を果たすことを考えていればいいのだ。それをうじうじと考えているなど馬鹿のすることだ」

 

 小芭内がネチネチとした口調で義勇を責める。

 

 自己評価がどうであれ、任された責務はこなさなければならない。それが責任ある立場、大人というものだ。

 それが嫌なのならばそもそも柱という地位など引き受けなければよい。

 一度引き受けておいて、自分は不適格だと責務を放棄するなどありえない。

 何より、お前を信じてその地位を与えてくれたお館様を裏切ることになる。

 

 次々とぶつけられる言葉に、義勇はようやく自覚した。

 もはや自分はあのころの十三歳の少年ではないのだと。

 今や、自分には与えられた責務があるのだと。

 

「冨岡さん……」

 

 自らの考えを改め、前を向くことを決めた義勇。

 彼に最後に声をかけたのはしのぶだ。

 

「あなた、普通に話ができたんですね」

「おい」

 

 しんみりしてたのに台無しなことを言われてしまい、思わずツッコむ義勇。

 頑張って語ったのに感想がそれかー。

 

「ごめんなさい。これだけしゃべっている冨岡さんが珍しかったものですから」

 

 それだけ衝撃的だったんです。と、言うしのぶに他の人も賛意を示す。

 

「たしかに! はてさて、いままで冨岡がこんなに話したことはあったかな?」

「普段からこれくらい話をしてくれれば楽だというのに」

「おしゃべりな冨岡さんもいいと思うわ」

 

 杏寿郎、小芭内、蜜璃の三人からもっと話をするべきという意見を貰う。

 駄目押しとばかりに、天元が告げた。

 

「まっ、これからはもう少ししっかり話すようにするんだな。派手に!」

「……努力する」

 

 皆に言われ、少しは頑張って話をしようと反省する義勇であった。

 なんやかんやと他の柱たちに説得されて義勇が考えを改めたところで問題が一つ残っている。

 結一郎(ゆいいちろう)の扱いだ。

 

 結局、現状では結一郎が義勇の継子ではないという事実が浮き彫りになっただけである。

 そのことに思い至った杏寿郎(きょうじゅろう)が、話題をそちらに戻すべく声を上げる。

 いや、声を上げるどころかむしろ自分の意見の主張であったが。

 

「ところで、(にぎ)隊士は誰の継子でもないということでよいのだな? よし、では俺の継子になるといい!」

「おい! ちょっと待て。異議ありだ」

「む、駄目か?」

 

 突然、結一郎に継子になれという杏寿郎に天元(てんげん)が待ったをかける。

 

「当たり前だろ、横からかっさらうつもりかよ。こいつは、俺の継子になるんだよ!」

「あー! 宇髄さんズルい! 私も和君を継子にしたいのに」

 

 杏寿郎に続き、天元、蜜璃(みつり)も結一郎を継子にすると宣言をする。

 複数の柱から指名を受けた結一郎はびっくりして声を上げた。

 

「あの! ここは水柱様に自分が継子として認めてもらう流れでは!?」

 

 さっきまでの会話の流れから言えばそうなるはずでは?

 という結一郎の疑問は、小芭内(おばない)が答えを教えてくれた。

 

「よく考えろ、和。現状で継子と同じように冨岡の任務に付いていけているお前を逃がす理由があると思うのか?」

「……ごもっともです!」

 

 継子を見つけるのが大変だという話をしていたところに、完全フリーな継子としての能力があることが証明された隊士がいるのだ。

 確保しないわけがないという話なわけで。

 しかしながら、ここまで義勇に付いてきておいて別の柱の継子になるというのも今更な話だ。

 

「自分は水の呼吸の使い手ですので、皆さまとは合わないのではないかと!」

「ん? 別に柱と継子が同じ呼吸でないといけないという規則はないぞ!」

「そうですね。私とカナヲも同じ系統とはいえ別の呼吸ですし」

「既に水の呼吸の型は覚えているのだろう? ならば太刀筋矯正や身体動作の最適化などが指導の範囲になるからな」

「指導するにあたって、そこまで呼吸の差は問題じゃないわね~」

「俺なら、忍の技術も教えてやれるぜ。毒とか爆薬に、変装、隠密、情報収集とかな」

 

 せめてもの抵抗と声を上げてみるも、あっという間に論破されてしまった。

 もう自分ではどうしようもない。かくなる上は助けてもらうしかない。

 そう思って義勇へと視線を送る結一郎。

 義勇が「俺の継子にする」と一言いえば、いままでの実績からして継子になれることは間違いない。

 

 視線を受けた義勇は結一郎の意図を読み、口を開こうとした。

 その瞬間、義勇の脳内の天然回路が仕事をしたのだ!

 

「ならば、結一郎を皆の継子にすればいい」

「なっ、水柱様!?」

 

 周囲が怪訝な顔をするなかで、一人だけいち早く義勇の言わんとすることを察して絶句する結一郎。

 結一郎が止める間もなく、義勇が言葉を告げた。

 

「柱が継子を選ぶという規則はあるが、柱が同じ人物を継子にしてはいけないという規則はなかったはずだ」

「おお! 言われてみればそうだな!」

 

 同一人物を複数の柱が継子に指定しても規則上は問題ないという義勇の指摘に、納得した声を上げる杏寿郎。

 天元、小芭内、蜜璃も「それだ!」という顔していた。

 結一郎にとって非常にマズイ流れである。

 

「複数人の柱から指導を受ける継子か……派手で面白いな!」

「音柱様、おもしろくないです。自分は!」

 

 派手が大好きな天元は新しい試みと聞いてテンションが爆上がり。

 一も二もなく賛意を示す。

 

「興味深いな。複数人の柱から指導を受けることでどんな変化があるのか……うまくいけば隊士の質の向上に役立つかもしれんな」

「蛇柱様、たしかにそうかもですが、自分で実験するのは勘弁していただきたいです!」

 

 僕で実験しないでくれ!

 そう告げるも聞いてくれる様子はない小芭内に泣きそうだ。

 

「俺の継子になったからには、全力で指導して見せよう! 立派な柱になれるよう頑張るのだな!」

「炎柱様、やめてください。死んでしまいます!」

 

 前向き発言の杏寿郎。やる気満々ですでに燃え上がっている。

 しかし、結一郎にはこの前向きさが今は辛く感じた。

 

「大丈夫! 和君ならできるから頑張って!」

「……頑張ります!」

 

 笑顔でにこやかに励ましてくれる蜜璃に返事をする。

 確かに励ましの言葉なのだが、この一言で追い詰められた気がしないでもない。

 

 どうしよう。正直逃げたい。

 そんな思いからすがるように義勇に視線を向ける。

 冨岡様。義勇様。水柱様。お助けください!

 

 結一郎の視線を受け、義勇は深く頷いて口を開いた。

 

「結一郎、男なら、男に生まれたなら進む以外の道などない!」

「み、水柱様ァ!!」

 

 かつての友の口癖のような信念を思い出し、結一郎に投げかける義勇。

 その言葉に結一郎は涙を浮かべた。

 もちろん、絶望の涙である。

 

 誰がこの場で励ませって言ったよ!?

 覚悟決めさせるようなこと言うんだよォ!?

 受け売りの言葉でドヤ顔やめろよ!

 

 もう内心でツッコミの嵐の結一郎。

 義勇がしゃべらなくても苦労するが、しゃべったらしゃべったで余計なことを言われて苦労する結一郎であった。

 

「派手に良いこと言うじゃねえか、冨岡」

「よし。そうとなればこちらも気合を入れねばな!」

「念のため確認をしておくべきだ。勝手をして迷惑をかけるわけにはいかないだろう」

「キャー! とうとう私にも継子ができるのね! 楽しみだわ」

 

 複数人の柱の継子になるのは避けられなくなった結一郎。

 後日、鬼殺隊の当主から認められ、正式に複数の柱の継子になったのだった。

 ちなみに、話を聞いた風柱と岩柱からも継子にされるのはまた別の話である。

 

 目指せ、史上最強の継子?




上弦の弐「地獄なんて人間の妄想で存在しないのになぁ……」
結一郎「地獄はあるんですよ! この世に!」

参加キャラが増えると、話って長くなるよなぁ。
ツッコミどころは用意した!
さぁ、存分にツッコむがいい!!


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その4(訓練後のはなし)

2019/7/15 投稿

お待たせです!


 ――鬼殺隊本部 産屋敷邸

 

「そうか。彼はもう出かけたようだね」

 

 鬼殺隊当主、産屋敷(うぶやしき) 耀哉(かがや)鎹烏(かすがいがらす)から報告を受け取っていた。

 しゃべる烏が告げるのは、彼が最近注目している期待の剣士(こども)の一人について。

 今の柱たちのほとんどから継子として指名された(にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)が任務に向かったことを報告していた。

 

「今思えば、彼は昔から器用で人当たりの良い性格の良い子だったね」

 

 個性的な柱たちからも好かれ、名前の通り彼らの間の和を結ぶような役割をしていた結一郎。

 特に独りで後ろを向いてしまいがちな義勇を気にかけてくれている結一郎の存在はありがたいものだった。

 そんな彼の人柄を見込んで特別に柱合会議には参加させていたものの、剣士としての実力に物足りなさを感じていたのも事実だ。

 だからこそ結一郎を柱たちが共同で継子に指名してきたときには、耀哉は驚きと共に変化の兆しを感じて期待に心が躍るように感じたものだった。

 

 実際に、継子となって柱たちから指導を受け始めた結一郎は驚くほどの成長を見せてきてくれている。

 

「まさか水の呼吸に加えて、五つの基本の流派の呼吸を習得するとはね」

 

 鎹烏たちから上がってきた報告の中でも特に驚かされたことがこの事実だ。

 もともと習得していた水の呼吸に加え、炎・雷・岩・風の呼吸を指導を受けて身に着けたのだという。

 雷の呼吸は柱たちの中に使い手がいないが、雷からの派生である音が独特で身に付かなかったことから代わりに基本の型である雷を習得したのだとか。

 同様に恋と蛇の呼吸も習得できていないが、複数の呼吸を身に着けたというだけでも十分すぎる成果だ。

 全集中の呼吸以外にも、柱たちからいろいろな技術や技能を学んでいるというのだから、実に将来が楽しみなもので。

 

「今回の任務先には十二鬼月(じゅうにきづき)が出たとも聞いているからね。もし討ち取れたならその時は……」

 

 柱への昇格条件は“鬼を五十体倒す”、“十二鬼月を倒す”という二つ。

 結一郎が条件を達成できたのならば、耀哉はどうするのかもう心に決めていた。

 

 また報告を頼むよ。と、鎹烏を送り出す耀哉のその表情には期待が映し出されている。

 

 


 

 ――十二鬼月

 それは鬼の首魁、鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)によって選別された“最強の鬼”たちの称号だ。

 上弦と下弦の各六鬼ずついる彼らは実力主義で選別されており、特に上弦の鬼たちは鬼殺隊の柱ですら百年近く幾人も返り討ちにしてきた強さを持っている。

 今まで鬼殺隊が討ち取れたのはいずれも下弦の鬼ばかりだという。

 しかしながら、その下弦の鬼ですらも雑魚鬼とは比較にならぬ強さを持つという。

 

『こわい、怖い、恐い……!』

 

 そんな恐ろしい強さを持つはずの十二鬼月が一人、下弦の()零余子(むかご)は恐怖に怯えながら逃走をしていた。

 彼女を恐怖に陥れたのは、三人の鬼殺隊士を引き連れた一人の鬼狩りの剣士だ。

 

 異常なほどに味方の指揮がうまく、こちらの弱点を見抜いてきたその鬼狩りは瞬く間に配下の雑魚鬼を殲滅して、彼女に刃を向けてきたのだ。

 こちらを見透かすような目が怖くてたまらない。

 いや、実際にすべて見透かしていたのだろう。

 仲間の能力も性格も動きの癖も。

 鬼の血鬼術もその攻略法も心の機微すらも。

 すべて全て、掌の上だったのだ。でなければ、盤上の詰将棋を解くかのように鬼が殺されるものか!

 彼女は配下の鬼たちが殺されていく場面を思い出す。

 

『佐藤さん、三つ数えて伍ノ型!』

 

 攻撃のタイミングを計られ、力強い炎の呼吸で頸を落とされる雑魚鬼。

 

『回避優先! 鈴木さん、参ノ型で焦らせば相手は大振りになる。そこを狙ってください』

 

 配下の中でも力の強かった鬼は水の呼吸による流麗な動きに焦り、防御が空いた瞬間に頸を刎ねられた。

 

『あの鬼は血鬼術のあとに隙ができる。恐れるな、高橋さん。壱ノ型で飛び込め!』

 

 飛び道具を血鬼術として使っていた配下は、血鬼術の後のタイムラグに一瞬で間合いを詰める雷の呼吸によって気が付けば頸が宙を舞っていた。

 

 そうやって下弦の肆を相手にしながら、入門指導(チュートリアル)のように他の隊士たちへ指示を出していった。

 本人の剣術も強く、卓越した戦術眼を持つだけでも厄介なのだが、それよりも恐ろしい能力がその剣士にはあったのだ。

 それは――

 

「どこへ行こうというのですかな!」

「ヒッ! どうして……?」

 

 零余子が逃げた先から声をかけて現れる鬼殺隊士。

 そう、(にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)だ。

 柱たちによって鍛えられたことによって基本五流派の呼吸を身に着けた彼は、仲間の能力についてよく理解していた。

 そして個性的な柱たちを相手にするために鍛えられた洞察力によって、敵味方の特徴を把握。

 それらの情報から戦術を組み立てるという、優秀な指揮能力を身に着けていたのだ。

 そして何より、他にはない特別な武器を彼は持っている。

 

『配下の鬼たちは、他の鬼たちはどうなったの』

「自分の仲間が相手にしてます。助けはきませんよ」

 

 零余子が配下を置いて逃げてきた先に意識を向けたわずかな顔の動きから考えを読み取り、応える結一郎。

 わずかな動作から考えを読まれる恐怖に逃亡に思考が傾く。

 

「向こうの滝つぼに逃げますか? なるほど、滝つぼに逃げられれば人間は追いつけませんからね。良い考えです! 自分が頸を落とす方が早いですが!」

 

 つま先の向きが逃げようと思った方向に少し向いた。それだけで、逃げ道がばれてしまう。

 逃げられない。ならば戦うしかない。

 

「血鬼術を使うつもりですね。でも、この距離なら自分が刀を抜く方が早いですね!」

 

 自身の血鬼術で戦おうとすれば、すぐさま居合の体勢に入り頸を落とせる準備が整えられる。

 駄目だ、考えが読まれて……

 

「ええ、そうです! あなたのすることは全てまるっとお見通しです!」

 

 心の衣を一枚ずつ剥がすように、自分の心が丸裸にされるような恐怖に震えが止まらない零余子。

 静かに迫る結一郎の姿は、まさに彼女にとって死神以外の何物でもない。

 

「さぁ、大人しく頸を出しなさい!」

 

 せめて痛みなくあの世に送ってあげよう!

 

・・

・・・

 

 先ほどまで鬼どもが根城にしていた廃寺で、四人の鬼殺隊士が体を休めていた。

 和、佐藤、鈴木、高橋の四人だ。

 彼らが何をしたかといえば、落ち込む結一郎を必死に慰めているのである。

 

「肝心の、肝心の十二鬼月を逃してしまうとは……不覚です!」

 

 下弦の肆・零余子を追い詰めた結一郎であったが、その後に生き残っていた雑魚鬼が乱入してきたせいで逃亡を許してしまうという失態をしていた。

 すぐに雑魚鬼は討ち取ったのだが、その時には零余子の姿は影も形もなく。

 十二鬼月を討ち取る絶好の機会をみすみす逃してしまった結一郎はそりゃもう、落ち込んでいた。

 

「すみません、和さん。俺たちがあの鬼を逃がさなければこんなことには」

「いや、あの場ですぐに仕留めきれなかった自分が悪いのです! 佐藤さんが謝ることではありません!」

 

 今回の任務で一緒になった炎の呼吸の少年剣士・佐藤が自分たちの実力不足を謝罪するが結一郎は首を横に振って否定する。

 雑魚鬼が乱入してきたからなど言い訳にしかすぎないのだ。あの場で下弦の肆を討ち取ることはできたはずなのだから。

 

「うぅ、でも、下弦の肆を逃がしちゃったのはやっぱり叱られますよね」

 

 不安そうな顔で告げるのは、メンバー最年少で雷の呼吸の使い手の少女剣士・高橋。

 任務の失敗という事実を前にして、その責任を問われるのではないかと考える彼女に結一郎は笑って返事をした。

 

「いえいえ! 十二鬼月と遭遇して生き残っただけでも十分と判断されますよ。まぁ、自分は継子なのでちょっと厳しくみられるかもですが!」

「ちょっと? そのちょっとというのは具体的にはどのようなことなのですか?」

 

 結一郎の言葉尻を捕らえて質問を投げかけるのは水の呼吸の青年剣士・鈴木だ。

 

「柱の方々に叱責されて、いつもより厳しい修行がつけられるくらいですかねぇ?」

「え、でも、和さんって複数の柱の方々の継子ですよね? それが全部厳しくなったら……」

「高橋さん! やめてください、想像させないで!?」

 

 この後に課せられるであろう修行の数々を想像して、吐き気がこみあげてくる。

 腹を押さえてうずくまる結一郎に、三人は必死で言葉を投げかけた。

 

「キャアアア!? ご、ごめんなさいぃ」

「和さん、しっかり! 下弦の肆を逃したのは俺たちの責任でもあるんですから!」

「そうですとも。私たちも弁護しますから。罰も一緒に受けましょう!」

 

 謝る高橋。佐藤と鈴木が慰める。

 彼らの心は一つになっていた。

 

『和さんだけを地獄に送るわけにはいかない!』

 

 のちに結一郎は語る。

 

「自分が弱かったばっかりに、地獄への道連れができてしまいました。あの三人にはすごい申し訳なかったです……」

 


 

 ――少し時が経った後の事。

 ――無限城にて

 

「お許しくださいませ! 鬼舞辻様、どうか。どうかご慈悲を!」

 

 必死に懇願していた下弦の陸が無惨に食い殺された。

 仲間の死を目の前にして零余子は恐怖に震えている。

 

 突然、鬼舞辻に召集され問答無用に叱責されるこの状況。

 下弦の伍が鬼殺隊に殺されたことで、下弦の鬼の弱さに見切りをつけたらしい。

 心の中で少しばかり反発しただけで心を読み取られ、殺された下弦の陸。

 次は我が身である。

 

「私よりも鬼狩りの方が怖いか?」

 

 鬼舞辻から向けられた言葉に零余子は答えられなかった。

 どちらが怖いなど言えるわけがない。

 だって、どちらも怖いのだから。

 

「お前はいつも鬼狩りの柱と遭遇した場合、逃亡しようと思っているな?」

「……はい。申し訳ございません」

 

 その通りだ。

 あんな、あんな恐ろしい化物のような人間がいるなんて。

 

「ほぅ? そこまで人間が怖いか。十二鬼月にもなって」

 

 頭上から怒りを感じる。

 何か、何かなにか弁明しないと!

 

「た、ただの人間じゃありません。こちらの心を読んでくる化物みたいな鬼狩りの剣士がいたんです!」

「出まかせを言うな! そんな人間がいるはずないだろう!」

「嘘じゃないんです! 信じてください!」

「黙れ! 貴様、私に逆らうのか!?」

 

 真実を語っても信じてもらえず絶望する零余子。

 この時、鬼舞辻は『あれ? こいつ嘘ついてないぞ?』というのは心が読めるので薄々気が付いていたものの、常識的に考えてそんな人間いるわけないと判断してしまっていたりする。残念。

 それに例え真実であったとしても、人間から逃げるような惰弱な鬼などは不要と考えていた。

 

 自らの死が間近に迫っていることをヒシと感じる零余子。

 彼女の胸中は千々に乱れていた。

 

 どうして、どうしてどうしてどうして?

 なんでこんなことに?

 殺される? 私が? こんなところで?

 いやだ、いやだ、嫌だ嫌だ!

 全部、結一郎(あいつ)のせいだ。あいつさえいなければ。あいつと出会わなければ人間に恐怖することもなかった!

 憎い! 私はここで殺されるのに、あいつはのうのうと生きている? 許せるはずない!

 許せない、許せない、ユルセナイ! どうせ死ぬのならアイツを殺してからでないと気が済まない!

 

 命の危機に瀕して思うのは、自分を追い詰めた鬼狩りの剣士への逆恨みのような理不尽な憎悪であった。

 その感情を読み取った鬼舞辻の処刑の手が止まる。

 

「面白いな。いいぞ、その憎悪。それでこそ鬼らしいというものだ。気に入ったもう一度機会をくれてやろう」

「えっ? ……ガッ!?」

 

 零余子に太い針が突き刺さり、鬼舞辻の血が流れ込んでくる。

 自身の身体をより強力なものに変えようとする痛みに耐えながら零余子は鬼舞辻の言葉を聞いた。

 

「お前には私の血を分けてやった。それで強くなり、貴様を追い詰めた剣士を、鬼狩りの柱を殺すのだ」

「……ッ! 必ず、必ずや」

 

 零余子の目に映る憎悪の色。

 それは鬼舞辻を満足させるに足る深い色をしていた。

 

 

 

オマケ「オリ鬼殺隊員 プロフィール」

 

佐藤(さとう) 正義(まさよし)

 男性。年齢15歳。炎の呼吸。一人称:俺

 呼吸と同じく熱い性格。戦隊モノでいうとレッドにあたる。

 

鈴木(すずき) 寒太郎(かんたろう)

 男性。年齢18歳。水の呼吸。一人称:私

 生真面目で向上心のある性格。同い年の結一郎にわずかに対抗心。戦隊モノのブルー役?

 

高橋(たかはし) アヤコ

 女性。年齢14歳。雷の呼吸。一人称:あたし

 明るく気弱な性格。他の二人よりも才能はあるのだが、いまいち自信をもてない。戦隊モノのイエロー。

 

 

 

オマケ2「その他の下弦」

下弦の参「わ、私たちにも!」

下弦の弐「鬼舞辻様の血を分けてください。そうすればもっとお役に!」

鬼舞辻「お前たち、私に指図したな! 死ね!」

弐・参「「ギャアアア」」

下弦の壱『愚かだなぁ……』

 




やったね、結一郎。可愛い女の子(鬼)から(命貰います的な意味で)ロックオンされたよ!
一緒に地獄に行ってくれる仲間ができてよかったねぇ!
断られたどこかの上弦の鬼と違って!


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その5(修行内容公開編)

2019/07/22投稿

Q.結一郎が地獄というほど修行って?

という疑問に答えてみました。


 ――蝶屋敷にて

 

 蟲柱・胡蝶しのぶは自身が運営する治療院に入院中の患者の様子を見るために廊下を歩いていた。

 

「アオイ、結一郎さんの様子はいかがですか?」

「あ、しのぶ様。結一郎さんなら少し日に当たりたいとのことで、庭に出ています」

「そう。ありがとう」

 

 住み込みの看護隊士のアオイと言葉を交わし、目的の場所へ向かう。

 目的の場所は、結一郎のいる場所であった。

 

 (にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)。柱七名から継子に指名されるという前代未聞の快挙を成し遂げた我らが翻訳係は、現在体を酷使したせいで入院中であった。

 主に、鍛錬の厳しさが原因で!

 

『肉体的にも精神的にも疲労してましたが、大丈夫でしょうか?』

 

 自分の継子ではないものの、普段よく顔を合わせている間柄ということもありお見舞いに足を運ぶことを決めたしのぶ。

 ほどなくして庭先にいる彼の姿が目に入った。

 雀を手に乗せて穏やかな表情をしている結一郎。

 その姿に、しのぶは自分の心配は杞憂であったかと胸をなでおろす。

 

「今日は空が綺麗ですね……空を飛んでいたらさぞや気持ちいでしょうね」

「チュン、チュンチュン」

「そうですね。こんな気持ちの良いお日様には元気をもらえそうです」

 

 ホッとしたのも束の間。しのぶは考えを改めた。

 

『ゆ、結一郎さん、雀に話しかけてる!?』

 

 アハハー、と、雀に話しかけている姿はちょっと、いろいろとマズいように思える。

 なんというか、こう、精神的に見ていて不安になるというか。

 しのぶは端的にこう思ったのだ、

 

『あ、これ、ダメなやつだ……』

 

 と。

 


 

「ということがあったのですが、皆さん心当たりは?」

 

 ピキピキと怒りの笑顔で問いかけるしのぶ。

 彼女の目の前には結一郎の師匠である柱たちが正座させられていた。

 柱の中でも年若いしのぶだが、この時の彼女には誰も逆らえなかったという。

 有無を言わせぬ迫力があった、とのちに語ったのは何柱だったろうか?

 

 それに、責められている内容が「無茶な鍛錬による結一郎入院の原因究明」という彼女の医者としての真っ当な意見という反論しづらいものであったのも理由の一つだ。

 柱たちも、何か心当たりがある様子だったのでおとなしくしている。

 

「あの、もしかしたらなんだけど……私と煉獄(れんごく)さんが原因、かも?」

「どういうことでしょう?」

 

 おずおずと手を上げて発言する恋柱・甘露寺(かんろじ) 蜜璃(みつり)の言葉にしのぶは首をかしげた。

 柱二人がそろって原因というのはどういうことだろうか?

 その答えを炎柱・煉獄 杏寿郎(きょうじゅろう)が告げてくれた。

 

「やはり甘露寺と一緒になって打ち込み稽古をしたのはキツかっただろうか」

「……お二人相手に一人で?」

 

 高い攻撃力を誇る“炎の呼吸”とそこから派生した“恋の呼吸”の柱に二人掛かりでの打ち込み稽古を想像して顔を青ざめさせるしのぶ。

 相当な猛攻であったことは想像に難くない。

 ついでに言うと、すぐに独立してしまったが杏寿郎と蜜璃は一時期だけ師弟関係にあったということもあり、連携も悪くなかったはずだ。

 柱との一対一での打ち込み稽古ですら、厳しいものであると予想できるのに二人掛かりとはオーバーキルにもほどがある。

 結一郎が受けた稽古のすさまじさに戦慄しているところへ、さらに追い打ちをかけるように水柱・冨岡(とみおか) 義勇(ぎゆう)が口を開いた。

 

「そうか、煉獄たちもか」

「“たちも”!?」

 

 もしや、と思って視線を向ければ、義勇と蛇柱・伊黒(いぐろ) 小芭内(おばない)が気まずそうに目をそらした。

 ああ、こいつらもか!

 

「俺と伊黒の二人で相手をした」

「冨岡さん、なんで二人掛かりなのかという疑問は置いておくとして、あなたと伊黒さんが一緒に稽古をつけているということが驚きなのですけれど」

 

 二人の仲はそんなに良いわけでもないのに一緒に稽古をつけたということを疑問に思うしのぶ。

 むしろ冨岡は伊黒に嫌われてすらいるくらいなのだが。

 その疑問に答えたのは小芭内だ。

 

「単純に時間の問題だ。柱が多忙なのはおまえも知っているだろう? おまえが忙しくないなら別だが。それに和もほかの柱から稽古をつけてもらったり任務に付いていったりして時間があまり空いていない」

 

 柱と結一郎のスケジュール調整を考えるとどうしても柱が共同で稽古に当たる時間ができてしまうのだという。

 その説明を聞いてしのぶは二人掛かりの打ち込み稽古の理由は納得できた。

 まぁ、修行のレベルに関しては全く持って理不尽なものだと思うのだけれど。

 

 変幻自在で柔軟さが特徴の“水の呼吸”の義勇に、水の呼吸から派生した予測のしづらい太刀筋を描く“蛇の呼吸”の小芭内の組み合わせは先の炎・恋の二人とはまた違った厄介さだったろう。

 炎・恋の組み合わせが『力』の打ち込み稽古なら、水・蛇の組み合わせは『技』の打ち込み稽古といったところだろうか?

 以前、結一郎が基本五流派の呼吸を身に着けたと聞いた時には驚いたものだったが、もしかしたらこうした稽古に対応するために必然として身に着けたのやもしれない。

 

「和隊士には悪いことをしたが、正直、俺自身の良い鍛錬になったものだ! 柱同士の連携というのも悪くない」

「そうね。私も煉獄さんとの連携はとっても手ごたえを感じたもの」

 

 結一郎の負担についてはさておき、柱同士の連携について肯定的な意見を述べる杏寿郎と蜜璃。

 対してその意見に疑義をはさんだのは風柱の不死川(しなずがわ) 実弥(さねみ)だ。

 

「手ごたえを感じるのはいいがァ、柱が二人そろって活動することなんかめったにねえだろ? その鍛錬は意味があるのか?」

「いや、今後のことを考えれば意味はある。特に上弦との戦いを考えれば柱が複数で相手する必要もあるだろう」

 

 実弥の意見に反論したのは岩柱・悲鳴嶼(ひめじま) 行冥(ぎょうめい)

 彼は来たるべき上弦の鬼との戦いに向けての柱同士の連携について、その必要性を訴えた。

 ここ百年近く上弦の鬼の討伐はなされていない。つまりそれは歴代の柱たちが上弦の鬼たちに討ち取られてきたという証左であった。

 柱一人での対抗が難しいのならば、複数人で戦うのは選択肢として当然のものだ。

 

「鬼は個体として人よりもはるかに強力だ。しかし、共食いの習性ゆえに協力し合うということはまずない」

 

 つまり、手を取り合い力を合わせることこそが人間の強さだと語る行冥の言葉に皆は感じ入ったように深く頷いた。

 柱同士の連携の重要性を確認した一同であった。

 それは良いのだが、『その連携を継子で試すのはどうなの?』というツッコミを入れる人がいなかったのは不幸としか言いようがなかった。

 

「二対一の稽古は分かりました。それで、結一郎さんの入院したことについて他の方は心当たりは?」

 

 一旦話を切り上げて、風・岩・音柱の三人に向き直るしのぶ。

 彼女には確信があった。この三人も絶対やらかしているのだと。

 

「私のところでは筋肉強化訓練を主にしていたのだが……やはり丸太を担がせて下から火であぶったのはやりすぎだっただろうか」

「結一郎さんの足にやけどがあったのはあなたが原因でしたか!?」

 

 ジャラっと、数珠を鳴らしながらさらりととんでもないことを告げる行冥。

 診察中に疑問に思っていた結一郎の足のやけどの原因が分かってしのぶが思わず叫んでしまったのは仕方ないだろう。

 火であぶるのは危ないのでやめてくださいね。と、注意をしたことで今後は火であぶることは無くなったのだった。

 が、しかし、実は行冥が口にしていない事実がある。

 

 『結一郎、滝行にて心停止。のちに蘇生』

 

 そう、結一郎が岩柱の修行で臨死体験を経験済みだということを!

 そして蘇生したあとに何事もなかったかのように修行が再開されたという事実を!

 死ぬほど頑張る?

 否!

 “死んでも頑張る”ことをさせられているのが結一郎なのだ。

 そうとは知らないしのぶは、この事実を追求することなく次の風柱に水を向けた。

 

「それで、不死川さんはどうです?」

「……打ち込み稽古で刀を折ったのはやりすぎたかもな」

「そうですか。……ちょっと待ってください?」

 

 暫く考え込んだ後に心当たりの出来事を口にする実弥。

 自分の日輪刀が折られたならそれはショックだろうと納得しそうになったしのぶであったが、おかしなことに気が付く。

 

「不死川さん、あなた打ち込み稽古を真剣で?」

「実戦で木刀は使わねえだろォ?」

「稽古は真剣にやるものですけど、真剣()やるものじゃないでしょう!?」

 

 真剣な打ち込み稽古が文字通りだった。

 傷だらけで迫力のある顔をしている不死川が刀を抜いて切りかかってくるとは、恐怖にもほどがある。

 間違って切るようなことはないと思いたいが、万が一のことを考えるとあまり推奨できない。

 というか、良く生きてたなぁ。結一郎。

 

「はぁ……で、宇髄(うずい)さんは何をやったんです?」

「おい、地味に俺が何かやらかしたって決めつけて言ってねえか? まぁ、心当たりは派手にあるんだが」

 

 最後に残った音柱・宇髄 天元(てんげん)に目を向ければ、本人には思い当たる節が多くあるようで指折り出来事を数えていた。

 

「あー、基本(しのび)の修行はキツいからな。火薬の扱い失敗して危うく派手に爆死しかけたことか? それとも、毒の耐性つけるための服毒訓練か? ……どれだ?」

「宇髄さん、あなた鬼殺隊士を育ててるんですよね? 忍者じゃなくて」

 

 この人は結一郎を何にしたいのだろう?

 本気で分からなくなるしのぶであった。

 

 一通り話を聞いて、頭が痛くなるしのぶ。

 どいつもこいつも……

 と、いう感想はさておいて、原因は明らかだ。

 柱同士が結一郎にどんな・どれだけの修練を課しているのか把握していないのだ。

 おそらく、どの柱も単体の修行を切り抜いてみれば結一郎が耐えられる範囲の修行をしているのだろう。

 それを複数受けるということを考慮していなかったとなれば話はまた変わってくるわけで。

 

「これからは結一郎さんの修行内容もちゃんと連絡を取り合って計画的に進めていきましょう。それでいいですね?」

 

 しのぶの言葉に頷く柱たち。

 これで結一郎の過剰負荷がなくなればよいのだが。

 

「もう動物に話しかけるほどに追い詰められる結一郎さんを見るのは嫌ですからね」

「……結一郎は動物の言葉が分かるんじゃないのか?」

 

 しみじみと言うしのぶの言葉に、無表情で不思議なことを言い出す義勇。

 天然らしい発言にしのぶは一瞬呆けたあとに、手を振って否定して見せた。

 

「まさか、そんなわけないじゃないですか。全く天然さんですね、冨岡さんは」

「……俺は天然じゃない」

 

 仕方ないなぁ、と、言う風に告げるしのぶに対してぶすっとした表情で反論する義勇。

 いつもの流れなら義勇に味方する人はいない――はずなのだが。

 

「いや義勇(こいつ)が天然かどうかは派手にどうでもいいんだが、結一郎のやつが動物の言葉を分かるのは本当かもしれねえぜ?」

「……は?」

 

 天元の告げる言葉に思わず驚きで目を見開くしのぶ。

 彼の口から語られるのは結一郎が彼の忍獣(にんじゅう)のムキムキねずみと会話していた目撃例だという。

 

「俺のねずみがチューチュー鳴いてるのを頷いてるのを見たぜ。なんかあいつらから筋肉をつけるコツを聞いてたとか言ってたぜ」

「そういえば、俺の鏑丸*1に話しかけてたこともあったな。最近脱皮していたことを言ってていつ知ったのかと驚いていたが」

「私のところにいる猫にも話しかけていたな」

「え、ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 宇髄に続いて小芭内、行冥と次々寄せられる目撃情報に混乱するしのぶ。

 まさか、本当に会話できるのだろうか?

 もとから会話能力というか、人間関係を整える才能はすごかったけれど、よもや動物にまで!?

 

 結一郎の会話能力はいったいどこまで行くのだろうか?

 ちょっと怖くなったしのぶであった。

*1彼のペットの蛇の名前




とうとう動物とまで会話を始めた結一郎。
まぁ、原作主人公も雀と話してるから大丈夫大丈夫。

次回は、動物と会話できることのネタばらしです。
一応、理屈は考えてあります。


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その5 続(動物会話疑惑編)

2019/07/29 投稿


 ――甘露寺邸にて

 

 恋柱・甘露寺(かんろじ) 蜜璃(みつり)との稽古を終えた結一郎は、彼女の育てている巣蜜を使ったお茶菓子で休憩を取っていた。

 

「ねえ、結一郎君。一つ聞いてもよいかしら?」

「はい! なんでしょうか?」

 

 飼い猫と戯れていた蜜璃が、ふと思い出した様子で質問を投げかける。

 結一郎は口を付けていた紅茶のカップを置いて質問に答える姿勢になった。

 

「結一郎君が動物とおしゃべり出来るって聞いたけど、本当なの?」

「自分が、動物と……ですか?」

「そうなの。いろんな人が見たって言ってるから気になっちゃって」

 

 伊黒さんに、しのぶちゃん、悲鳴嶼さんに、と、名前を挙げていく蜜璃に結一郎は少し考え込んでから心当たりがあったのか、納得したように深く頷いた。

 

「ああ、分かりました! 確かに動物と意思疎通はできますね!」

「本当!? じゃあ、結一郎君は動物の言葉が分かるのね!」

「いいえ! 動物の言葉はあいにく理解できません!」

「え、えぇ?」

 

 動物の言葉が分かるわけないじゃないですか。と、にこやかに告げる結一郎に蜜璃は困惑を隠せない。

 動物と意思疎通はできるのに動物の言葉は理解できないという。

 矛盾したことを言っているように思えるが、本人曰く、絡繰りがあるのだとか。

 

「動物たちの言葉を自分が理解するのではなく、動物たちに人間が分かるように鳴き方を教え込んだのです!」

「えっと、つまりどういうことかしら?」

 

 分かるような分からないような言葉に蜜璃が首をかしげると、結一郎は穏やかに笑って説明を始めた。

 

「甘露寺師匠、電信はご存じですか?」

 

 突然、関係のなさそうな電信について語りだす結一郎。

 実のところ、これが動物と会話するための絡繰りの肝なのだという。

 明治維新のころから広がり始めた新しい通信網である電信。

 その方式の一つとして、「トン・ツー」という短点と長点の組み合わせの符号で言葉をやり取りする「モールス信号」というものがある。

 残念ながら、明治政府の構築した電信には採用されていないものの、江戸時代末期には伝わっており、それをたまたま知った結一郎が応用して動物との意思疎通に使ったというわけだ。

 動物たちの言葉自体は分からないものの、動物たちに人間に伝わるような鳴き方を覚えさせることで意思の疎通をしているという。

 

 例えば、

 雀ならば「チュン」という鳴き声と羽ばたきで「トン・ツー」代わりにする。

 ねずみなら「チュッ」と「チュー」の鳴き方の違いで。

 蛇ならば「シャッ」、「シャー」という一種の威嚇音の短長の違いを聞いて何を伝えているのかを判断するという。

 

「へぇ~。すごいこと考えるのね! 結一郎君は」

「いえいえ、たまたま思いついただけですよ」

 

 感心した声を上げる蜜璃に対して謙遜する結一郎。

 だが、他に聞いている人がいたら、『普通は思いつかねえよ!』とツッコミが入ったことは間違いない。

 この翻訳係はどこに向かっているのだろうか?

 柱複数人の継子になったせいでどこか常識というものが壊れてきているのやもしれぬ。朱に交われば赤くなるというし。

 

 こうして結一郎が動物と話をできる絡繰りを知った蜜璃は、当然の事ながら他の人にもこの話をするわけで。

 結一郎が動物と意思疎通をする方法を作り出したという事実はあっという間に広まった。

 その事実を知った柱たちの反応はやはり、様々なものであったという。

 

 あまり関心がなかったのが炎柱・煉獄(れんごく) 杏寿郎(きょうじゅろう)と霞柱・時透(ときとう) 無一郎(むいちろう)の二人。

 

「それはすごいな! だが、俺が使うことはなさそうだ!」

 

 と、一言コメントして終えたのが杏寿郎。

 彼らしいと言えば彼らしいのかもしれない。

 

「そうなんだ。僕には鎹鴉がいるからどうでもいいや。どうせ忘れるし」

 

 別に鎹鴉でよくない? という至極真っ当な反応だった無一郎。

 彼の場合は記憶が保持できないため、いろいろと関心が薄いこともあって仕方がない反応だ。

 

 好意的、というか動物と話をしたいと積極的に習得しようとしていたのは猫好きな蜜璃と岩柱・悲鳴嶼(ひめじま) 行冥(ぎょうめい)。そして意外なことに風柱・不死川(しなずがわ) 実弥(さねみ)が興味を持っていた。

 

「そこはニャー、じゃなくてニャッ! サン・ハイ! ……あーん、なかなか伝わらないわぁ~」

 

 結一郎から符号を教わって飼い猫に教え込もうと必死の蜜璃。

 その成果ははかばかしくないようで。

 元から習得難易度は高いうえに、人に物事を教えるのが苦手な彼女では時間がかかるだろうなぁ。

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

 ひたすら念仏を唱えている行冥。

 しかし、その手は先ほどからせわしなくジャラジャラ、パンパンと数珠をこすり合わせたり手を叩いたりとせわしない。

 手を叩くのを短点、数珠をこすり合わせるのを長点として使っているようだ。

 彼の場合は飼い猫がすでに結一郎の手によって符号を覚えているので、自分が符号を覚えることに集中しているらしい。

 彼の努力は報われるのだろうか?

 

『……さすがにカブトムシには教え込めねえよなァ』

 

 虫かごのカブトムシを見つめ、心なしか悲しそうな実弥。

 彼の趣味であるカブトムシの育成に結一郎が考えた符号を使えないかと考えたのだが、いくら何でも無理である。

 しかし、飼っているカブトムシと話がしてみたいとは、意外と可愛い思考しているような気がする。

 

 ちなみにだが、水柱・冨岡(とみおか) 義勇(ぎゆう)は弟子がせっかく考えたのだからと張り切り、いの一番に符号を覚えて皆に披露してみせたのだが――

 

「冨岡さん、とうとう人語を忘れましたか……」

「え? 符号を覚えたらもっと結一郎君と話せるようになると思った? 冨岡さん、動物と同じことしてどうするつもりなんです?」

 

 と、同僚の蟲柱・胡蝶(こちょう) しのぶにボロボロにされて心がボッキボキになっていたりする。

 

『弟子のために張り切るのはいいけれど、どうせ頑張るのならもっと普通に言葉を増やして会話したほうがいいのに。なんでこんな残念なんでしょう?』

 

 しのぶはしみじみと思ったという。

 

 逆に、今回の件で怒っているのは音柱・宇髄(うずい) 天元(てんげん)と蛇柱・伊黒(いぐろ) 小芭内(おばない)の二人だ。

 何故って、そりゃあ自分のペットに他人が勝手に芸を教え込んでたら嫌でしょうよ。

 

「おい、馬鹿弟子。派手に何勝手に俺の忍獣に教え込んでやがる……」

「おい、阿呆弟子。俺の鏑丸*1に勝手に教え込むとは、いつからお前はそんなに偉くなった? なぁ、どうなんだ?」

 

 最近、ムキムキねずみが自分よりも結一郎になついているような気がして気に食わない天元。

 最近、蜜璃が自分よりも鏑丸と話をする時間が増えていて気に食わない小芭内。

 二人の怒りの矛先は、元凶となった結一郎に向かったのであった。

 ああ、理不尽。

 

 お館様から一言

 

「本当に、結一郎は面白いことを考えるね」

 

 この出来事から鎹烏になぜか鎹雀が紛れ込んだとか、そうじゃないとか。

 あくまで噂で確認は取れていない。

 

 

小ネタ 其ノ壱「呟雀」

 

 庭で複数の雀に囲まれている結一郎。

 チュンチュンパタパタと雀たちが彼に教わった符号を使っていろいろな報告をしているようだ。

 

「チュンチュン(音柱様、嫁に内緒で派手に豪遊! 超貴重な大吟醸を買ったー)」

「チュンチュチュン(水柱様、今日は三食全部鮭大根だったヨ)」

「チュチュン(風柱様、虫捕りに出かけて蜂に追われるゥ~)」

「チュン(霞柱さまと一緒に一日ひなたぼっこしてたぁ)」

「チュンチュン(恋柱様、定食屋の食材を枯渇させるほど食いまくっタ!)」

「チュンチュ(炎柱様、朝ご飯の味噌汁にさつまいもが入っていておおはしゃぎ)」

「チュンチュン(蛇柱様、恋柱様への手紙が誤送されて大激怒)」

「チューン(岩柱様、子猫の可愛さに感激してガチ泣きしてた)」

「チュンチュンチュン(蟲柱様、研究に没頭しすぎて徹夜五日目。死ぬデチか?)」

 

 報告をにこやかに聞いていた結一郎はこう一言告げたという。

 

「柱の方々の行動を聞いていると、退屈しませんね」

 

 とりあえず、しのぶさんを寝かせるとこから始めねば!

 

 ※コソコソ話

 普段は雀が見てきてくれた遠くの天気を聞いて天気予報代わりにしたり、新しく開店したお店の情報を集めたりしてるそうです。

 

 

小ネタ 其ノ弐「鬼退治と言えば?」

 

「ごめんください! どなたかいらっしゃいますでしょうか!」

「はい! ただいま行きます」

 

 蝶屋敷で働く鬼殺隊士・神崎(かんざき) アオイが来客の対応のために返事をしながら玄関へと向かう。

 来客の声の主は結一郎ということもあり、アオイは気負いなく彼を出迎えるために扉を開け放った。

 

「いらっしゃいませ、結一郎さ……ん?」

「こんにちは、アオイさん! って、どうかされましたか?」

 

 扉を開けた先にいた結一郎の姿を見て驚きで体がこわばるアオイ。

 驚かれた当の本人は不思議そうな顔をしているが、傍から見れば人目を惹く状態だった。

 

「どうかしたって、私の方が聞きたいのですけど。どうしたんです? その動物たち」

 

 アオイの視線の先には足元におすわりする白犬と結一郎の肩に掴まる子猿、そして左腕にとまった雉の姿があった。

 彼女の頭の中に、あの御伽噺の題名が浮かび上がる。

 

「任務先で懐かれたのでこうしてお供してもらってます! 蝶屋敷って動物は駄目でしたか?」

「いえ、それは大丈夫ですけど……」

 

 気にするとこはそこなのかと問いただしたいアオイだが、あんまりツッコんでも藪蛇だと用件を聞くことにした。

 返ってきた答えは、何のことは無い、いつものお菓子の差し入れだという。

 そういうことならばと、屋敷の中でお茶にしようと結一郎を招き入れることになった。

 せっかくもらったお菓子なのだから、一緒に味わっても罰は当たらないだろう。

 

 そんなことを考えながら結一郎を屋敷を案内していると、アオイと同じく屋敷に住み込みの三人娘、すみ・きよ・なほが姿を見せた。

 なんだかんだでお菓子を持ってきてくれる結一郎のことを楽しみにしており、声が聞こえたのでやってきたのだろう。

 

「おや、こんにちは。すみちゃん、きよちゃん、なほちゃん」

「「「こんにちは、結一郎さん……わぁ!」」」

 

 挨拶をしたあと、結一郎のお供の三匹を見て目を輝かせる三人。

 先ほどのアオイと同じ御伽噺の主人公が思い浮かんだに違いない。

 アオイと比べればまだ幼さが残る三人は、思わずといった様子で童謡の一節を歌いだした。

 

「「「桃太郎さん 桃太郎さん お腰につけた (きび)団子 一つわたしに 下さいな~♪」」」

 

 楽しそうに歌う三人に、アオイは額に手を当ててため息を吐く。

 

『いくら顔なじみと言ったからって、客人を困らせるようなことをしちゃだめでしょ』

 

 たしかに桃太郎っぽいとは自分も思ったが、こんなことを言われても結一郎も困るだろう。

 そうアオイは思っていたのだが、結一郎は慌てた様子もなく笑顔で対応して見せた。

 

「アハハ、自分は桃太郎ではないのでお供には連れていけませんが、頑張っているご褒美です。はい、どうぞ」

「「「わーい、ありがとうございます!」」」

『え、えぇ~!?』

 

 結一郎が三人に手渡したのは小袋に分けられた黍団子だった。

 一口サイズに作られた団子をさっそく一個取り出して口に放り込む三人はその甘さに頬を緩めている。

 そんな三人娘とは反対に、アオイは驚愕で表情が固まっていた。

 

「どうぞ、アオイさんの分もありますよ!」

「あ、どうもありがとうございます。……じゃなくて! なんで黍団子持ってるんですか!?」

 

 手渡された黍団子を受け取りながらも、ツッコミを入れるアオイ。

 

「たまたま良い黍が安く大量に手に入ったので、たくさん作ったんですよ。……別に狙ったわけではないのです!」

 

 偶然だと主張する結一郎に、本当かなぁ、と、疑問に思うアオイ。

 悩んだ末に、考えても意味がないと深く考えないことにしたのだった。

 

『柱複数人から継子に指名されるだけあって、変わってるのね。きっと』

 

 

 その後、鬼たちの間で『鬼狩りの中に桃太郎がいた!』『桃太郎は実在したのか!?』『桃太郎の話は鬼狩りたちが自分たちの存在を隠すために作られた物語だったんだよ!』『な、なんだってー!?』

 と、噂になったとかならなかったとか。

 

*1彼の蛇




前回からの続きと小ネタでした。
桃太郎の童謡は著作権切れてるよね? 載せても大丈夫だよね? 不安。

※翻訳係コソコソ話
 実は第一話の「これ以上会話能力を奪わないでください」の土下座シーン。原作第一話の炭治郎のオマージュのつもりでした。よかったら読み返してみてください。


オマケのミニ次回予告

義勇『……マズい。結一郎には俺の考えが読めるんだった』
結一郎「冨岡師匠、何がマズいんです? ねぇ?」


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その6(冨岡師匠の秘密編)

2019/08/05投稿

そろそろ短編扱いも苦しくなってきた気がします(汗


 “鬼殺隊最終選別”

 各地にいる育手(そだて)の下で鍛錬を終えた入隊希望者が、鬼殺隊に入隊するために越えなければならない最後の試練。

 一年中、鬼の嫌う藤の花が狂い咲く“藤襲山(ふじかさねやま)にて行われるそれは、捕えられた鬼が潜む中を七日間生き抜くという過酷な試練だ。

 毎回多くの入隊希望者が参加するものの、無事に試練を乗り越えて入隊できる者は少ない。

 そんな最終選別を、今回は五人も合格者がいたという。

 

『そうか。もうそんな時期なのか』

 

 最終選別の話を聞いた水柱・冨岡(とみおか) 義勇(ぎゆう)は感慨深そうに目を閉じる。

 昔、自分の力だけでは乗り越えられなかった試練を自力で乗り越えた剣士が五人もいるという事実は否応なく彼の心を熱くした。

 最終選別に関しては、以前は負い目があって後ろ暗い気持ちが前に出ていた。

 しかし、今の義勇は柱としての責務を自覚しており、新入隊士が一人でも多く長く生き残れるように努めなければと、前向きな気持ちで受け止めている。

 結一郎(ゆいいちろう)を継子として鍛え始めたことで、上に立つ者としての意識がさらに強まった結果だろう。

 良い師弟関係は弟子だけでなく、師匠も成長させるものだ。

 人間として一回り成長した義勇はより頼もしくなったといえる。

 ……それが会話能力の改善につながっているかは別問題だったりするのだけれど。

 

 そういうわけで部下へ対する関心が強くなっていたこともあり、最終選別についても興味を抱いた義勇。

 特に今回の選別には蟲柱・胡蝶(こちょう) しのぶの継子である栗花落(つゆり) カナヲの名前もあったため、わざわざ入隊者の名簿の写しを取り寄せていた。

 名簿を開いた義勇はその中に気になる名前を見つけて目を留める。

 『竈門(かまど) 炭治郎(たんじろう)

 義勇は彼の名前自体は知らなかったが、彼を鍛えた育手の名前に憶えがあった。

 鱗滝(うろこだき) 左近次(さこんじ)という彼の師は、義勇の恩師であり、炭治郎を鱗滝に紹介したのもまた義勇であった。

 約二年前に、雪山で数奇な出会いをした少年と鬼となった彼の妹のことを思い出す。

 鬼となった者は強い飢餓感に襲われて、たとえ家族であろうと喰い殺してしまうのが常だ。

 むしろ、血のつながったものほど高い栄養価を得られることから家族を喰い殺している事のほうが多い。

 そんな常識がある中で、兄を喰らおうともせず、むしろ刃を向けた義勇から兄を守ろうとした鬼の妹に新たな可能性を感じて見逃した。

 そして兄を育手に紹介し、鬼殺の剣士の道を示したという過去があったのだ。

 その時の少年が無事に鬼殺隊に入隊したということに喜びを感じると同時に、覚悟を決めなければならないと表情が険しくなる義勇。

 

 鬼を殺すための剣士が鬼を匿っている。

 もしその事実が明るみになれば、問題となることは間違いない。

 そうなれば炭治郎本人はもとより、鬼を見逃して育手に預けた義勇も、そうと知りながら剣士として育てた鱗滝も隊律違反として責を問われるだろう。

 

『あの少年が覚悟を見せて結果を見せたのならば、俺も命懸けで答えなければならない』

 

 一人の鬼殺の剣士として覚悟を決める義勇。

 その姿は何も知らない第三者の心を打つような気迫を醸し出していた。

 ――――我らが翻訳係がいなければ!

 

「師匠。新入隊士の名簿を見て、何故、命を懸ける覚悟を決めているのですか?」

 

 実は今回の新入隊士の名簿を義勇に頼まれて持ってきたのは結一郎だったりする。

 なので、義勇が名簿を見ているのを目の前で見ていたわけだ。

 心の機微に敏感な結一郎は義勇が突然、命の覚悟を決めはじめたことに疑念を抱き、問いを投げかける。

 心中を指摘された義勇は、体を一瞬だけ強張らせた。

 しかし、その一瞬の反応でさえ結一郎にとっては答えとして十分すぎる。

 

『……マズい。結一郎は俺の考えが読めるんだった』

「冨岡師匠、何がマズいんです? ねぇ?」

 

 結一郎の前で重大な考え事をしていた己のうかつさに焦りを覚えるも、その心理すらも読み取られて焦りが積み重なっていく悪循環。

 義勇は何とか心を落ち着かせて言い訳を口にする。

 

「……柱として若い隊士たちが生き残れるように命を懸ける必要がある。そう思っただけだ」

 

 嘘は言っていない。実際にそう思っているし。

 口下手な義勇にしてはうまく言い訳した方だろう。

 普通の相手ならば、疑問には思いつつも納得はしてくれそうな言葉だ。

 だが、相手は結一郎。そうは問屋が卸さない。

 

「冨岡師匠。嘘はついて無いようですが、隠していることがありますね?」

 

 近くににじり寄り、義勇の手首を捉えて問い詰める結一郎。

 それは逃がさないという意思の表れだろうか? しかし、ここで振り払うのも不自然であり、自分の非を認めるようなものだ。

 義勇は腕に触れる結一郎からの圧を感じながら、ジッと耐えている。

 

「新入隊士の中に誰か訳ありでもいましたか? ……なるほど、当たりですね!」

『こいつ、脈拍から反応を見ているのか!?』

 

 核心を突く質問を投げかけられ、つい跳ね上がった心拍数から義勇の心情を読み取る。

 逃亡防止などではない。手首を掴んだのは読心の精度をさらに上げるためだった。

 一言も言葉を発していないにも関わらず、心の内を暴かれるような恐怖を感じて義勇は全集中の呼吸すら使って脈拍をコントロールしようと試み始めた。

 この水柱、必死である。

 

「冨岡師匠の関係者となれば、水の呼吸の使い手ですか? ……体温の上昇、発汗を確認。これも当たり、と」

『マズい。全身に、全集中の呼吸を使って体の隅々まで意識を張り巡らせろ! これ以上、こいつに何も悟らせるな!』

 

 ヒュッという義勇の口から洩れた呼吸音は果たして、恐怖に息をのんだ音だったのか。

 それとも水の呼吸独特の風の逆巻くような音だろうか?

 今現在、義勇は過去の鬼との激戦と変わらぬような緊張感に包まれている。

 

「冨岡師匠、あなたは――――」

「カアアア! (にぎ) 結一郎! オ館様ガオ呼ビデアリマス! タダチニ参上サレタシ!」

 

 結一郎がさらに問い質そうと口を開いたところへ、彼の鎹鴉が伝令を持ってきた。

 鬼殺隊の当主である産屋敷(うぶやしき) 輝哉(かがや)からの呼び出しとあれば待たせるわけにもいかない。

 仕方なく、義勇から手を放して席を立つ結一郎。

 その姿に義勇はホッと息を吐く。

 

『助かった。これ以上、問い詰められるのはキツい。本当に――』

「命拾いしましたね。師匠」

 

 義勇の心の声に被せるように言葉を告げて去っていく結一郎。

 残された義勇は先程とは違い、重く息を吐く。

 

「結一郎。心の声まで読むのはやめてくれないだろうか」

 

 義勇の独白を聞いていた鎹鴉(かすがいがらす)は思った。

 

 それ、お前のせいじゃね? と。

 


 

 ――産屋敷邸

 

輝利哉(きりや)、起こしてくれるかい?」

「はい」

 

 鬼殺隊当主・産屋敷 耀哉は息子の輝利哉の手を借りて病床から身を起こした。

 病魔に侵された体を起こしたのは、そろそろ呼び出した人物が来るだろう時刻が近づいているからだ。

 先ほど鎹鴉で呼び出した、結一郎のことである。

 彼の予測した通り、ほどなくしてふすまの向こうに人の気配がして声を掛けられる。

 

「和 結一郎です! お呼びにあずかり参上致しました!」

「うん。よく来てくれたね。入っておいで」

「ハッ!」

 

 短く返事をして音もなく部屋に入った結一郎は、頭を下げて耀哉の言葉を待つ。

 その忍びを思わせるような隙の無い動作を、もはや見えぬ目で感じ取った耀哉は結一郎の成長具合に笑みを浮かべて言葉を告げた。

 

「他の柱たちからもいろいろと頼まれて忙しいところに呼び出してすまないね、結一郎」

「とんでもございません! お館様のお呼びをどうして断りましょうか! なんなりとお申し付けください!」

 

 柱でもない自分に礼を尽くしてくれる当主に、精いっぱいの敬意をもって答える結一郎。

 彼だけではない。多くの鬼殺隊士にとって耀哉は尊敬に値する人物なのだ。

 

「ありがとう。そういってくれて助かるよ。結一郎には二つ、頼みたいことがあるんだ」

「はい、どのようなことでございましょうか?」

 

 そんな耀哉から結一郎に頼みごとがあるという。

 結一郎は真剣な表情で耀哉の言葉を待つ。

 

「まず、一つ目だけれど……以前、君と一緒に柱と稽古をつけてもらった隊士たちがいたことを覚えているかい?」

「はい! 佐藤隊士・鈴木隊士・高橋隊士の三名ですね」

「うん。彼らから面白い話が上がってきていてね」

 

 結一郎が下弦の肆を取り逃がすという失態を犯した際に、ともに責任を取る形で柱たちとの稽古に付き合った三名の剣士。

 その彼らが言う面白い話とは?

 

「彼らが言うには、柱たちの稽古は当然成長の役に立ったそうなのだけれど、一番成長を実感できたのは結一郎、君の指導だったそうだよ」

「自分の、ですか?」

 

 思わぬ事実を告げられ、目を丸くして驚く結一郎に耀哉は首を縦に振る。

 まだ信じられない様子の結一郎に言い聞かせるように丁寧に説明をしていく。

 

「彼らが言うには、君の指導は分かりやすく、また一緒に個人的な成長だけでなく仲間同士での連携も上手くなったそうだよ。素晴らしいね」

「か、過分な評価です。彼らが優秀であっただけで……」

「私はそうは思わないよ、結一郎。いや、彼らが優秀でないと言ってるわけじゃない。ただ、彼らを成長させたのは君の力が大きいと思っている」

 

 結一郎の指導能力を高評価する耀哉。

 事実、結一郎に指導された三人の剣士はその後実力が一回りも二回りも大きく成長していたのだから。

 壊滅的会話能力の某柱の心の機微を読み取るために鍛えられた結一郎の観察眼は、仲間の抱える問題点や課題、癖などを見抜くことができた。

 そこに習得した全集中の呼吸の五つの基本の流派の知識を加えて指導ができるのだから、教えを受ける側としてはありがたいものだろう。

 さらに言えば、柱複数人を相手にした打ち込み稽古や真剣を用いた稽古により、否応なく戦術眼を鍛えざるをなかった結一郎。

 そのため、彼の頭の中では複数人を相手にすることは当たり前であり、ひいては逆に複数人で攻めかかることの熟知にもつながっていた。

 つまり、彼の指導には最初から“連携”ということが組み込まれていたのである。

 

 その結果がもたらしたものは、その三人の剣士の成長だけではない。彼らが関わった任務における隊士の生存率の上昇というものだった。

 当然、この成果を無視するような鬼殺隊当主などいない。

 

「結一郎、鬼は強力で脅威的だ。我々はそんな存在と人の身で戦わなければならない。打ち勝つためには皆の力を合わせなければならない」

 

 そのためには君の力が必要だ。と、耀哉は結一郎に告げる。

 そうまで言われて応えないはずもない。結一郎は覚悟を決めた。

 

「ありがとうございます、お館様。では、自分は何をすればよろしいでしょうか?」

 

 話の核心を尋ねる結一郎に、耀哉は力強く答えた。

 

「鬼殺隊の目的は全ての元凶である鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)を倒すことだ。そのためには彼直属の精鋭である十二鬼月(じゅうにきづき)を倒す必要があるだろう。だが、上弦の鬼は柱といえども勝てる確率は低い」

 

 過去百年近く、鬼殺隊は上弦の鬼に敗北し続けてきた。

 

「上弦の鬼と柱が対峙したならば、柱たちを助けるための力が必要だと思う」

「お館様、つまり――」

「結一郎、君には新たな部隊を率いてほしいと思っているんだ」

 

 鬼殺隊の精鋭である“柱”

 それとはまた別の精鋭を作り出すというのだ。

 “個”として鬼殺隊最強の柱とは違い、“集団”としての最強戦力。

 多忙な柱の手が回らない部分や柱が上弦と遭遇した際の支援といった遊撃に、剣士たちの教導を目的とする。

 いうなれば、『鬼殺隊選抜打撃部隊』といったところだろうか。

 

「人員の選抜や指揮系統の調整はこちらで行っておくから、準備が整ったあかつきには君にその部隊の隊長を務めてほしい」

「御意!」

 

 頭を深く下げ、強く返事をする結一郎に頼もしさを覚える耀哉。

 任せるよ。と、告げた後に少し苦笑交じりに言葉を告げる。

 

「本当なら君を柱にしてあげるのが良いのだろうけれど、嬉しいことに今柱は誰も欠けていないからこういう形で報いる形になってしまった。苦労を掛けるね」

「柱の皆さまの誰かが欠けることに比べれば、自分のことなど……大任を全うできるよう、精進いたします!」

 

 耀哉からの言葉に身を震わせながら受けた一つ目の依頼。

 二つ目の依頼とはなんだろうか?

 

「ありがとう。もう一つの頼み事なんだけれど……少し難しい問題があるんだ」

「と、いいますと?」

「今回の最終選別に合格した隊士に“竈門 炭治郎”という隊士がいるんだ」

 

 とある新入隊士について語りだす耀哉。

 

 曰く、とある柱の紹介で育手の下で修業を積んだ。

 曰く、家族を鬼に殺され、妹も鬼になってしまった。しかし、その妹は人を襲わずにいるという。

 曰く、その鬼の妹は今までの鬼とは何か違う、新たな可能性を感じるという。

 曰く、その鬼殺隊士は鬼の妹を連れて任務にあたっている。

 

 などなど、詳しく情報を聞いた結一郎は何となく察した。

 あっ、あの水柱、やりやがった。と。

 

「鬼を連れた鬼殺の剣士なんて明らかな隊律違反だ。だけれども、その柱と育手が何かあったときには腹を切って責任を取るとまで言っているんだ。無視はできない。それに私の勘も何かあると告げているんだ」

 

 柱と育手からの報告と今現在も鎹鴉から報告を受けているらしい。

 が、しかし、やはりそれだけでは不安でもあるわけで。

 

「結一郎。先ほど言った部隊編成の準備が整うまで、彼のお目付け役をお願いできるかな」

「承知いたしました!」

 

 誰か信頼できる人に実際に見てきてもらう方が安心。

 じゃあ、信頼できる人って誰だろう?

 柱は忙しくてそれどころじゃない。柱並に強くて信頼出来て、柱ほど多忙じゃない人物って誰だろう?

 そう、結一郎である。

 

 二つの大任を任されて、耀哉のいる部屋から退室した結一郎。

 先のことを考えると気が重くなった。

 

『鬼を連れた鬼殺剣士……事と場合によれば柱合会議、いや、柱合裁判になりますね』

 

 隊律違反を犯した隊士など斬首が当然だが、今回は柱一人と育手、お館様の関与があるのだ。

 柱合裁判となる可能性は高いだろう。

 そうなってくると、関与した柱の責任を問う声が上がるに決まっている。

 そして、結一郎は将来の被告人の関係者になる未来が決まっていた。しかも高い確率で弁護側の立場だろう。

 

 新入隊士はともかく、被告側になるだろうあの柱が上手く自己弁護してくれるだろうか? いや、ないな!

 むしろ余計なことを言ってこじれさせる可能性すらある。

 

『今から考えるだけで、柱の方々の反応が怖いです! あああ、一部の方が激怒しているのが目に浮かぶ!!』

 

 傷だらけのあの人とか! ネチネチしてるあの人とか!

 もー胃が痛い!!

 

 




というわけで、そろそろ原作と接触します。
次回あたりで原作主人公登場予定です。

翻訳係コソコソ話
 実は選抜部隊の名称を決めてないんです……最初に候補になったの『暁』なんだけど、なんか駄目な気がします!

ミニ次回予告

結一郎「骨折してるんだから無理は駄目ですよ?」
炭治郎『なんで分かるんだ? すごいな』
結一郎「傷を庇って少し体の動きが不自然なので」
炭治郎「なるほど!」
善逸「ねぇ、今、炭治郎の心の声に返事してなかった!?」


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閑話『煉獄家にて』

2019/08/12投稿

煉獄家のすれ違いをどうにかして救いたいと考えた結果がこれなんだ。
これでよかったのだろうか……



煉獄家(れんごくけ)の家族会議事件」

 

 ――煉獄邸にて

 

 鬼との長い戦いの歴史を持つ鬼殺隊。その中でも煉獄家は代々炎柱を輩出してきた名家だ。

 そのため、名家らしく煉獄邸は立派な門構えをしたお屋敷である。

 そんなお屋敷の門を潜り抜ける一匹の猿の姿があった。

 『鬼殺』の文字が縫われた首巻をしているその猿の名前は「闘勝丸(とうしょうまる)」という。

 我らが翻訳係が仲間にしたお供の一匹で、今日も主の結一郎(ゆいいちろう)の頼みで菓子の入った荷物を届けに来ていた。

 結構な量で、鎹鴉(かすがいがらす)には重すぎるということから彼の仕事となっている。

 

「キキッ」

「ん? おお、闘勝丸か! いつもご苦労だな。今は見ての通り鍛錬の途中なのだ。少し待っていてもらえまいか」

 

 彼の姿に気が付いたのは炎柱・煉獄 杏寿郎(きょうじゅろう)だ。

 庭で炎の呼吸の型稽古の最中であった杏寿郎は途中でやめるわけにもいかないため、闘勝丸には少し待ってもらうように言う。

 闘勝丸は人語を理解できる賢い猿であるので、荷物を縁側に置いておとなしく杏寿郎の稽古を見守っていた。

 その目は真剣そのもので、次々繰り出される炎の呼吸の型を必死に目で追っている。

 一の型から最後の型まで順番に行う型稽古を百ほど繰り返した杏寿郎は、手ぬぐいで汗をぬぐいながら闘勝丸に声をかけた。

 

「すまない、待たせてしまったな。結一郎にもまた礼を言っておいてくれ」

「キッ!」

 

 ご苦労と言いながら闘勝丸から荷を受け取っていると、彼の視線が自分の持つ木刀に注がれていることに気が付く。

 興味を持った杏寿郎は、闘勝丸に質問を投げかけた。

 

「おや。剣術に、いや、全集中の呼吸が気になるのかな?」

「ウッキー!」

 

 尋ねてみれば正解であったようで、闘勝丸は首を縦に振って返事をしてきた。

 そのやる気あふれる目に杏寿郎もつい興が乗ってきたせいか、思わずこんな言葉を口にしてしまう。

 

「やる気があるのは感心感心! 結構なことだ。では、少しばかり伝授してやろう!」

「ウキキィ!」

 

 楽しげな様子で昔自分が使っていた子供用の短めの木刀を持ち出す杏寿郎。

 持ち出してきたのは長さ二尺(約六十センチメートル)より少し短い小太刀くらいの木刀だ。身長が三尺(約九十センチメートル)程度の闘勝丸には少し大きいかもしれないが、そんなことは関係なしに嬉しそうに木刀を受け取っている。

 こうして、柱と猿の奇妙な稽古が始まったのだった。

 

 

 ――二刻後(約四時間後)

 

 そこにはお互いに木刀を持って打ち合う杏寿郎と闘勝丸の姿があった。

 

“炎の呼吸 伍ノ型 炎虎”

 

 ゴォ! と燃えるような勢いを乗せた剣撃を杏寿郎が繰り出す。

 対する闘勝丸も深く呼吸をして応対する。

 

「キィイイイ!」

 

“猿の呼吸 壱ノ型 猿飛(さるとび)

 

 猿の身軽さと柔軟性を活かして跳躍。回避とともに鋭く切りかかっていく。

 お互いの一撃を躱し、交差した後に向かい合った一人と一匹は示し合わせたように木刀を下におろした。

 

「ふうう、よもやここまでとは。まさか、この短時間に独自の呼吸まで身に着けてしまうとは恐れ入った!」

「ウキ?」

 

 自分のことを不思議そうに見上げる闘勝丸を見ながら杏寿郎は感嘆に大きく息を吐いた。

 最初は息抜きのつもりで、お試しで指導を始めてみたのだが、闘勝丸の覚えが思った以上に良かったせいで気が付けば杏寿郎もノリノリで教えていた。

 その結果が、独自の呼吸法を使い剣術を繰り出してくる鬼殺の猿の完成である。

 どうしてこうなった?

 

「もはや下手な鬼殺の剣士よりも強いやもしれん……いっそのこと、俺の継子になるか?」

「ウキィ?」

 

 愉快な気分になり、闘勝丸に継子になれと勧誘する杏寿郎。

 もちろん、冗談なのだけれど。

 ただ、間の悪いことにそれを見ていた人物がいたのだ。

 

「兄上……兄上が、猿を継子に!?」

 

 物陰からそっと稽古の風景を見ていた煉獄家次男・千寿郎(せんじゅろう)

 彼は兄・杏寿郎のその発言を聞いてひどくショックを受けていたのだ。

 

 猿を継子にするなんて度量が広いにもほどがある!

 などという、非常識なことに対するツッコミを入れたい気持ちももちろんあったのだが、それ以上に彼自身の事情が心を責め悩ませていた。

 

 千寿郎に剣士の才はない。

 鬼殺隊の名門である煉獄家に生まれながらもいくら鍛錬を積もうとも日輪刀の色が変わらないという事実に悩んでいた彼にとって、柱になった兄は憧れの存在であり兄から認められることをずっと望んでいたのだ。

 本来ならば兄の下で継子として鍛錬を積まねばならないはずなのに、と、思い悩む日々を送っていた彼の目の前で兄が「猿を継子とする」と言い出した。

 それは千寿郎にとっては耐え難い事実で……

 

「そっか。僕の剣の才能は猿以下なんだ……」

 

 心が折れるほどの出来事であった。それはもう、ポッキリと。

 悲しいことに、彼に『いやいや、あの猿が特別なだけだから!』と、ツッコんでくれる人がいないのだ。

 とぼとぼと兄から背を向ける千寿郎。しかし、一人きりになるのは嫌だった。誰かに話を聞いてほしかった。

 そうなると、この屋敷にいる別の人間の下へ自然と足が向かう。

 普段は酒浸りであまり近づいていない父親のところへ。

 


 

「父上、僕は剣士になるのは諦めます」

「そうか……それについては何も言わん。しかし、何かあったのか?」

 

 泣きそうな顔で告げる千寿郎に父の煉獄 槇寿郎(しんじゅろう)は神妙な面持ちで話を聞いていた。

 千寿郎が鬼殺の剣士を諦めることについては、柱まで上り詰めながら自身の才能に絶望して引退を決めた自分が文句は言えないと考えて賛成も反対もしない。

 むしろ、末の息子が命がけの戦いに身を置かずに済むことを喜ばしく思ってすらいる。

 しかし、非才の身でありながらも兄に追いつこうと努力を重ねていた姿を知っているだけに、このようなことを言い出した理由が気になっていた。

 酒浸りで悪い父親をしている自覚はあったものの、完全に父親としての気持ちを捨てきったわけでもないのだ。

 気が付けば槇寿郎は息子にその理由を尋ねていた。

 

「兄上が、兄上の継子が……」

「杏寿郎の継子がどうかしたのか?」

 

 千寿郎の返事は、やはり兄の杏寿郎が関わっていた。

 柱である兄の控えとならねばと考えて努力を重ねていた千寿郎にとって、赤の他人が兄の継子になったというのは少なからず心に傷を負う出来事だったのだろう。

 いや、それでも立派な剣士が継子であれば納得は出来るはずだ。

 

『よもやろくでもない奴が杏寿郎の継子になったか?』

 

 槇寿郎の中で不安が膨らむが、口には出さずにじっと千寿郎の言葉を待つ。

 そして、千寿郎の口から語られた杏寿郎の継子はとても衝撃的な内容で……

 

「兄上の、継子が、猿だったんです……」

「ん? そいつはそんなに猿顔なのか?」

「違うんです! 本当にお猿さんなんです!」

 

 一瞬ふざけているのかと叱りつけようと思ったが、千寿郎の表情はとても嘘をついている顔ではなかった。

 がしかし、とてもではないが信じられない内容に何と判断を下せばいいのか分からず困惑するしかない。

 

「今も庭で稽古をしておられるので、信じられないなら見てきてください」

「そうか、分かった。少し見てくる」

 

 悩んでいると千寿郎から、庭に(くだん)の継子がいると聞かされたので一目見てくることを決めて立ち上がった。

 百聞は一見に如かず。己の目で見て確かめてくるのが一番だ。

 酒瓶を片手に杏寿郎がいる庭へ向かう。

 その先で槇寿郎が見るものとは?

 

<===================>

 

「そうだ! 集中して呼吸の精度を上げろ!」

「ウッキィー!」

 

 庭で楽し気に鍛錬に励む一人と一匹。

 その姿を物陰からこっそりと見ていた槇寿郎は、その光景の衝撃に打ち震えていた。

 

「杏寿郎、お前本当に……!?」

 

 自慢の息子が猿に剣術の指導をしている姿に動揺が止まらない。

 相手の猿が単に木刀を振り回しているだけなら、単に息抜きの遊びなのだと、ただの余興だと鼻で笑って済ませられた。

 だが、その猿は槇寿郎の目の前で“全集中の呼吸”を使いこなし、見たこともない型を繰り出してたのだ。

 その光景は槇寿郎に『杏寿郎の継子は猿である』という話が真実だと確信させるには充分なものであった。

 

『杏寿郎、どうして猿なんかを継子に? もしや、俺のせい、なのか? 俺が才能がなければ塵同然だと言い続けてきたせいで、才能があれば猿でも気にしなくなった。そういうことなのか!?』

 

 槇寿郎の胸に深い後悔が押し寄せてくる。

 自身が息子にぶつけた冷たい言葉の数々がこの結果をもたらしたのではないかと思い悩む。

 ぶっちゃけ他人が聞けば、「この親父、とうとう酒の飲みすぎでおかしくなったか?」と思われること請け合いなのだが、久しく息子とまともに向き合っていなかった槇寿郎はそう信じ込んでしまったのだ。

 

『すまん、瑠火(るか)。俺が不甲斐ないばっかりに杏寿郎が弟よりも、人間よりも猿を優先するような男になってしまった!』

 

 今は亡き妻に心で謝罪する槇寿郎。

 妻が亡くなってからの息子たちへの扱いを思い出せば、どうして彼女に顔向けできようか。

 きっとあの世から自分を見てため息を吐いているに違いないと自責の念が絶えない。

 

 今更になって巻き起こる良心の呵責に、手が酒瓶の蓋に伸びる。

 だが、彼は寸前のところで思いとどまった。

 

『ええい! 酒など飲んどる場合か!』

 

 酒瓶を地面に投げつけて叩き割る。

 こんなものに頼りたくなる自分が情けない!

 

「父上、そんなところで何をしているのですか?」

「杏寿郎……」

 

 陶器の割れる音で父の存在に気が付いた杏寿郎が声をかけてくる。

 その姿をまっすぐ見つめ、槇寿郎は告げた。

 

「杏寿郎、あとで話がある。夜に俺の部屋に来い。いいな!」

「はい、わかりました! 父上」

 

 告げるだけ告げて踵を返して立ち去っていく槇寿郎。

 まだ酒の残った頭で息子に向き合えるわけないと、後から時間を作ることにしたのだった。

 

 立ち去る父親を見送り、杏寿郎はいつになく嬉しそうな顔をする。

 

「久しぶりだな。あのような気迫のこもった父上の顔を見るのは」

 

 さて、どんな用事だろうか。と、笑う杏寿郎。

 そんな彼らを闘勝丸は心配そうに見ていたのだった。

 だって、この親子まともに会話できそうにないんだもの……

 


 

 夕食を終え、日も傾いてきたころ。

 杏寿郎は父の部屋を訪れていた。

 

「父上、お話があるとのことでしたがどんな御用でしょうか?」

 

 真正面に座る父・槇寿郎の顔はいつになく真剣な表情で、杏寿郎も背筋を伸ばして気合を入れて対面した。

 先に口を開いたのは槇寿郎だ。

 

「話というのはだな、お前、継子を決めたそうだな」

「はい。ようやく決まりました」

 

 父が継子を決めたことについて尋ねてきて、結一郎の顔を思い浮かべる杏寿郎。

 以前までは個性的な柱たちの人間関係を取り持ってくれていた会話能力に敬意を持っていたものの、剣士としての能力も優れていたことが分かって是非、自分の継子にと願った人物だと思っている。

 

「なあ、お前はそいつを継子に選んで後悔はないのか?」

「はい! 後悔はありません!」

 

 しかしながら、目の前の父は自分の継子に不満があるというのが伝わってきた。

 

『むぅ。何故だか父上は結一郎に対して不審があるようだ。どうにかして結一郎が良い男だと分かってもらわねば』

 

 自分の継子を父親に認めてもらおうと、言葉を尽くして説得しようと決意する杏寿郎。

 一方で、槇寿郎は杏寿郎の言葉を聞いて内心で頭を抱えていたりする。

 

『猿を継子にしたことを後悔してないだと!? こうもハッキリと断言するとは……ぐっ、どうやって杏寿郎の心を変えられる?』

 

 息子が猿を弟子にしていると思い込んでいる槇寿郎は、何とか猿を継子にするのをやめさせようと言葉を紡ぎだそうと悩んでいる。

 この親子、会話のしょっぱなからすれ違っていた。

 

「父上、俺の継子は才能のある優秀な剣士です。将来柱になることは確実だろうという実力があります」

「そうなのか!?」

 

 自分の継子である結一郎を認めてもらおうと、普段から父が重視している才能を前面に押し出して猛プッシュする。

 槇寿郎にとっては息子が猿を猛烈に推してくるようにしか感じられないのだが。

 猿は継子じゃないんですよ、お父さん……

 

『あの猿にそこまでの実力が!? いや、実力があるだけで柱など認められるはずもない!』

 

 はいそうですか、と、頷けない槇寿郎は杏寿郎に厳しい言葉を投げかけて反論する。

 

「才能だけあっても柱は務まらんぞ。柱というのは他の剣士たちの模範とならねばならん」

「いいえ、心配ありません。彼は人格も優れていて、俺の継子になる前から柱合会議に参加して柱たちの人間関係を円滑に進めるように配慮してくれるような男です!」

「な、なんだと!?」

 

 猿相手なら人格面から攻めてみれば考え直すと思って見れば、何と、人格も優れていると返ってきて驚愕させられる。

 しかも、聞いてみれば以前から柱合会議に参加して会議を円滑に進める役を持っていたというのだから信じられない。

 というか、猿が会議を進めるってどんな風景なのか思い浮かばない。

 いや、実際に円滑に会議進めてる奴は人間ですけどォ!?

 槇寿郎が混乱しているところへ、たたみかけるように杏寿郎が言葉を重ねて自分の継子を推してくる。

 

「そういう男ですから、他の柱にも目を掛けられているのです。実は彼は俺一人の継子ではなく他の六人からも継子として指導を受けてます」

「他の柱たちもか!?」

 

 猿が他の柱たちにも継子として認められているだと!?

 と、さらに混乱が加速する槇寿郎。

 息子だけでなく他の人もと言われればだんだん、自分の方がおかしいのではないかと不安になってくる。

 

『い、今の鬼殺隊はそうなっているのか? いや、そんなはずはない! 仮にそうだったとしても止めねばならんのだ!』

 

 引退した身だとしても、猿が柱になるなど認められぬと義憤を燃やす槇寿郎。

 誰か、誰か彼にそれが勘違いだと教えてやってくれ!

 

「お前の継子がたとえ、それだけ優秀だったとしても、あんな猿など認められるか!」

「む! 父上、あんな猿などと彼を侮辱する言い方は止していただきたい!」

「猿は猿だろうが!」

 

 自分の弟子を猿扱いされたと、さすがに口調が荒くなる杏寿郎。

 しかし、槇寿郎は相手は本当に猿だと思い込んでいるので、間違ったことは言っていないと激昂する。

 会話のキャッチボールというが、お互い違う球を投げ合っているような状況では文字通り話にならない。

 結局、全集中の呼吸を使った親子喧嘩にまで発展してしまうのだが、最終的には誤解がとけたのでこの話はめでたしめでたしで終わったのだった。

 

 後日、育手として後進を育成しながら、自分が駄目にしてしまった“日の呼吸”についての文献の復元と研究に勤しむ槇寿郎の姿があったという。

 また、それを手伝う千寿郎の姿もあったとか。

 こうして、煉獄家にあった蟠りは解消されたのだった。一匹の猿によって……

 

 

オマケ「そのころの翻訳係」

 

 ――とある任務中にて

 

「はっ! 何か自分が仕事しなければならない状況が起きている気がします!」

 

 何かを感じ取ったように顔を上げる結一郎。

 横にいた佐藤隊士が不思議そうに首を傾げる。

 

「仕事をしなければって、仕事してるじゃないですか。さっきも鬼を狩ったばかりですよね?」

「いえ、そうなんですけれど。求められている仕事が違うというか、もっと、こう、自分が必要とされている場面に自分がいない感覚といいますか……」

 

 モヤモヤした感じを覚えて落ち着かない結一郎。

 そうなんだよ!

 今まさに言葉が通じてるのに通じてない人がいるんだよ!

 翻訳係が必要なのは水柱(コミュ障)だけじゃないんだ!




翻訳係ミニコソコソ話
この話を書く際のアイデアメモ「煉獄家救う方法 猿 継子 アンジャッシュ」
夜寝る前にパッと思いついてメモった内容を朝見て頭を抱えたのは良い思い出。

感想で結一郎がいつかオリジナルの呼吸を使うと予想されてる人がいたけれど、最初に登場したオリジナル呼吸の使い手が猿だとは誰も予想できまい。
てか、人間以外に全集中の呼吸使わせたのは初ではなかろうか?

ちなみに闘勝丸の名前の由来は孫悟空です。


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その7 前編(お目付け役編)

2019/08/23投稿

原作主人公たちとようやくコンタクトが!


 周囲に畑が広がる田舎道で、竈門(かまど) 炭治郎(たんじろう)我妻(あがつま) 善逸(ぜんいつ)は一人の鬼殺隊士と対面していた。

 刈り上げた髪に丸い大きな目が特徴的な青年隊士で、鬼殺隊の隊服の上に白地に薄桃色の縁取りがされた外套(マント)を身に着けている。

 

「こんにちは。竈門 炭治郎君、我妻 善逸君。自分は(にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)。階級は(きのえ)です! この度は君たちのお目付け役として同行させてもらいます! よろしくお願いしますね!」

「はい! 階級(みずのと)。竈門 炭治郎です。よろしくお願いします!」

「待てよ、炭治郎ォ! 何普通に挨拶してんだよ! 今この人“お目付け役”って言ったぞ!?」

 

 二人の行く先に待ち構えるように現れた結一郎に、警戒心丸出しの善逸。

 やばいやばい、鬼殺隊の偉い人を知らないうちに怒らせて、俺たち監視されてるんだ! と、騒ぐ善逸に結一郎は落ち着かせるように言葉をかける。

 

「ハハハ、安心していいですよ! お目付け役と言っても監視というよりは君たちが死なないように教導の意味合いが強いですから」

「すみません。それはどういうことでしょうか?」

「それはですね――」

 

 結一郎の言葉に疑問を持った炭治郎が疑問を投げかけてくるので、一から説明を始める。

 曰く、鬼殺隊はその任務の性質上、損耗率が非常に高い。

 特に経験の浅い隊士ほど死亡率は高くなっていく傾向がある。

 それを問題視した鬼殺隊の上層部によって、熟練した隊士を未熟な隊士に着けて経験を積ませるという試みが行われることになったのだという。

 その第一弾が最近入隊した炭治郎たち新入隊士への結一郎の派遣である。

 

「つ、つまり、俺が死にそうになったら結一郎さんが守ってくれるってことですか?」

「ええ! 任務に同行している間は善逸君が成長できるよう助けてあげますとも!」

「結一郎さん……俺、あんたに一生付いていくぜ!」

 

 先ほどまでの警戒心はどこへやら。一瞬で掌を返した善逸に動じることなく結一郎は笑って受け止めた。

 この程度、いつもの会話事故の処理に比べれば大したことは無いのだから。

 

 ただ、同時にわずかな罪悪感を感じてはいる。

 というのも――

 

『うーん、表向きの理由でここまで喜ばれるとは申し訳ない気持ちになりますね』

 

 結一郎の本当の任務は炭治郎とその鬼の妹の禰豆子(ねずこ)の監視と調査なのだから。

 何はともあれこのまま立ち話をしているのもあれなので、続きは移動しながらということになった。

 炭治郎の鎹鴉(かすがいがらす)に急かされて走り出そうとしたところで、結一郎が炭治郎に声をかける。

 

「あ、炭治郎君。骨折してるんだから無理は駄目ですよ?」

「は、はい!」

 

 まだ話もしていない自分の骨折の事を言い当てられてびっくりする炭治郎。

 

『なんで分かるんだ? 俺は何も言っていないのに』

「傷を庇って少し体の動きが不自然になっているので分かるんです。足と肋骨かな?」

「なるほど! そんな風にわかるなんてすごいですね!」

 

 自分の身体のわずかな動きから負傷の個所まで読み取られたことに、素直に感心する炭治郎。

 その素直な反応が嬉しいからか、結一郎は他にも助言を続けていく。

 

「骨折した状態で動くと痛みで踏ん張りが効かなくなるので、全集中の呼吸で痛みを緩和しながら戦うわけです。しかし、かといって深く呼吸すればまた痛むでしょう」

「はい、どうすればいいですか?」

「答えは簡単。深く呼吸したら痛むなら浅く速く呼吸すればいいんですよ。ついでに骨折している部分に意識を集中して筋肉で強化すればなお良いですね」

 

 全集中の呼吸を極めればいろいろなことができるようになりますからね。と、笑って告げる結一郎に炭治郎は頼もしさを覚えた。

 もともと真面目な努力家である炭治郎は、年上で経験を積んだ剣士である結一郎のアドバイスを素直に聞いていく。

 走りながら全集中の呼吸を使って言われた通りにしてみれば確かに痛みが楽になって動けるようになった。

 全快とはいかないが、マシになった体調で結一郎の後に続く。

 その二人の後ろに続く善逸はふと思う。

 

『さっき、炭治郎が口にしてないところにも返事してたよな。怖い、覚妖怪かこの人!?』

 


 

 ――鼓屋敷(つづみやしき)

 

 鬼の血鬼術(けっきじゅつ)によって入ったものを逃さない迷宮と化した死の屋敷。

 その中で、結一郎は善逸と鬼に兄を攫われた少年・正一(しょういち)と共に屋敷の中を探索していた。

 

「まずいですね。早く炭治郎君とてる子ちゃんに合流しなければ」

 

 そう、よりにもよって戦力が分断された状態なのである。

 炭治郎一人だけなら何とかなるかもしれないが、保護対象と共にいるとなれば話は別。

 正一の妹のてる子とこの屋敷をさまよっているだろう炭治郎のことを心配していた。

 

 この屋敷からの脱出は困難を極めている。というのも、血鬼術によって屋敷の構造が次々と変化しており、出口を探すことはおろか現在地の把握すら危ういのだ。

 保護対象の正一を安全な外に連れ出そうとしていた善逸が、先ほどまであった玄関がなくなって大騒ぎしていたことは記憶に新しい。

 脱出が難しいとなれば、原因となっている鬼を倒して血鬼術を解除するのが一番手っ取り早いのだが、非戦闘員を連れていることがどうしてもネックなる。

 一時的に正一たち保護対象を安全な場所に隠して戦いに臨めれば良いのだが、そうそう安全な場所が見つかるという幸運があるとは限らない。

 難しい状況に少しばかり頭を悩ませる結一郎。

 そんな状況を善逸も理解しているからか、涙目で謝罪の言葉を口にする。

 

「結一郎さん、すみません。俺が尻で炭治郎たちを押し出したばっかりにバラバラに分かれて行動することになるなんて……もしこれで炭治郎たちが死んでたら俺のせいだよな。もしそうなったら俺は、俺は良心の呵責に耐えられずに死んでしまうぞーーッ! 頼む死なないでくれよ二人ともー!」

「善逸さん! 何てこと言うんですか! てる子が、そんな……不安になるようなことを言わないでくださいよ!」

「ご、ごめんね~、正一君! そんなつもりじゃなかったんだよぉ~」

 

 年下の正一から叱責されて謝るという情けない姿を見せる善逸。

 結一郎は善逸の言葉を聞いてホゥと息を吐いた。

 呆れてため息を吐いた……のではない。むしろ感心して息が漏れたのだ。

 その理由は、言葉では自己保身が先行した情けのないことを言っているが、心の中では本当に分断された二人の事を心配しているのが分かったからだ。

 柱合会議の翻訳係はこのくらい読み取れなければやっていけないのである。

 

「善逸君、鬼との戦いに臨む際は、酷く精神的に追い詰められるものです」

 

 不安を隠し切れない――いや、隠そうともしない善逸を励ますように力強く声をかける。

 

「そんな鬼との戦いの中で人は否応なく本性が現れるもの……悲しいことに中には戦いの場で利己的な自分をさらけ出してしまう者もいます」

 

 結一郎が鬼殺隊に入ってから見てきたものの中には眉をひそめたくなるような味方の醜態も当然あった。

 鬼への恨みで暴走する者、功を焦って突出しすぎる者、鬼の恐怖に負けて無辜の民を見殺しにした者……

 鬼殺の剣士と言えど、人間。無理からぬこととはいえ、悲しいことだった。

 

「そんな中で、怯えながらも他者への思いやりを忘れない君はきっと素晴らしい剣士になりますよ」

「結一郎さん……」

 

 結一郎の気持ちのこもった言葉に善逸は――

 

「いや、そんな気休めを言われても困るんですよォーー!」

「善逸さん、そこは励ましを受けて頑張るところでは! 情けなくないんですか?」

「ギャアアア! 正一君の厳しい言葉が俺に突き刺さる!」

 

 まったく心揺らがなかったのだった。こいつ、逆にメンタル強くないか?

 しかし、翻訳係は動じない!

 

「なるほど。善逸君に足りないのは自信ということですね! よくわかりました!」

「わかりましたって、何がですか?」

 

 ヒィヒィと悲鳴を上げている善逸に代わって正一が結一郎に質問をした。

 返ってきたのは自信に溢れた言葉だった。

 

「善逸君に自信を付けさせる方法ですよ。まぁ、何とかなります!」

 

 笑顔であっけらかんと答える結一郎に正一は尊敬の念を覚えた。

 

『すごいなぁ。この人こそ、鬼を倒す剣士なんだな。こんなゴミみたいな人を立ち直させられるんだから』

 

 結一郎から善逸に視線を移して正一は思った。

 

「なんだよう! どうして俺をそんなゴミを見るような目でみるんだよーーォ!」

「すみません、口に出してましたか」

「今ね! 今、君がそう思ってたって知ったよ!」

 

 善逸と正一の掛け合いを見て結一郎は思う。

 なんか、意外と大丈夫そうだな。と。

 

「さて、おしゃべりはこれくらいにしておきましょう! 早く炭治郎君たちと合流しないと。先ほどすれ違った猪の鬼殺隊士も気になりますしね」

 

 パンパンと手を打って注意を向けた後、二人を促す。

 動き出した三人が出会うのは炭治郎だろうか? 鬼だろうか? それとも?

 

▼▼▼▼

▼▼

 

 鼓屋敷に善逸の汚い高音の悲鳴が響き渡る。

 

「出ちゃったじゃない! 出ちゃったよ!! イヤアアアア!」

 

 残念なことに出会ったのは鬼であった。

 ぐひぐひと薄気味悪く床下から這い出してきた鬼を見て騒ぎ出す善逸。

 

「ぐひぐひ、子供だ。舌触りがよさそうだ」

「ギャアアア! た、助けて! 結一郎さんんん!」

「ハァ……仕方ありません、ね!」

 

 助けを求められた結一郎は、ため息を吐きながら鬼の攻撃をはじいて二人を守る。

 鬼の伸びる舌が槍のように高速で飛来するのを、容易く見切っていた。

 その一瞬の攻防で、鬼のおおよその力に検討を付けた結一郎は、いいことを思いついたとばかりに善逸に声をかけた。

 

「ふむ……この程度の雑魚鬼なら練習にちょうどよさそうですね! 善逸君、あの鬼を倒してください!」

「ハァ!? 何言ってんの、この人ォ!?」

 

 このまま結一郎が鬼を倒してくれると安心していた善逸は、不意打ちを受けたように素っ頓狂な声を上げる。

 正直、鬼と戦うなんていう恐ろしいことはしたくない彼は、必死で言い訳を探すのだが、そうは翻訳係が卸さない。

 

「ああ、正一君の事は心配しなくていいです。おっと。自分がしっかりと守っていますから」

「ヒィ、逃げ道塞がれた! じゃなくて、俺の心配はしてくれよーッ!」

「大丈夫大丈夫! よっと。善逸君ならできますよ」

「そりゃ、喋ってる片手間に鬼を相手できるようなあんただからでしょォーッ!?」

 

 会話をしながらも危なげなく鬼の攻撃を捌いていく結一郎に、善逸は思いっきり反論をぶちまける。

 こんなに強いあんただから言えるんだという言葉はごもっともではあるのだが、それでは善逸の成長にならないと結一郎はその言葉を否定する。

 

「そんなことないです! では、今からお手本をお見せしますね」

 

 そう言って結一郎は鬼の倒し方を解説を交えながら実演していく。

 『簡単! 鬼退治攻略術♪』とでも言いだしそうな気楽な雰囲気で。

 

「この鬼の舌は複雑な動きは出来ないみたいなので、初撃を見極めて切り落とします。で、即座に近づいて防御されないよう両腕を切り落とす。最後に無防備になった頸を落とせば……ほら、簡単でしょう?」

「料理の手順を説明するように言われても!? っていうか、そのまま頸を落としてくださいよ! お願いですから!!」

「グオオオ、てめえ、俺をなめてんのかァ!」

 

 もう頸を落とすだけ、というところで刃を止めて続きを善逸にやらせようとする結一郎に、善逸と鬼からそれぞれ抗議の声が上がった。

 鬼との戦いって命がけのはずなのにもう完全に導入戦闘(チュートリアル)である。

 そりゃあ、文句の一つも出るというもの。

 

「ダメですか……あ、そうだ。善逸君、やられる前にやれば怖くなくなりますよ!」

「良いこと言ったみたいに言わないで! 無理無理ムリィイイ!」

 

 がしかし、この結一郎という男。これまで散々柱たちから無茶無理をさせられてきたので、感覚がマヒしている。

 この程度は無理などと思わなかった。

 ヤバいぞ。感覚が(非常識)に近づいている!?

 

「仕方ありません、妥協しましょう! 抵抗できないくらいボコボコにしますから頸を切るのだけお願いしますね」

「エエエェ!?」

 

 一応、どこが妥協したのか分からない妥協をしだした結一郎。

 手足を切り落とし、適度に痛めつけて鬼を動けなくしながら善逸に頸を切るように迫る。

 その光景を見て正一は、以前どこかで聞いた獅子の子育てを思い出した。

 母獅子は子に狩りを覚えさせるために、まだ生きている獲物を目の前に持ってきてとどめを刺させるのだという。

 今、目の前で繰り広げられているのはまさにそんな風景だった。

 

「さぁ、早く頸を切るんです! 早く!」

「イヤアアア! 助けてェエエエ!」

「殺せ……いっそ、一思いに殺せよォオオ!?」

 

 その後、何とか頸を切った善逸。彼は鬼を切れるという自信を得た代わりに何かを失ったような気がしたとか。

 めでたし、でよいのか? これ。

 

 

小ネタ「ネット小説家“響凱”さん」

 

響凱「段々とお気に入りが増えなくなってきた。勿論、継続して更新はしているのだが、以前ほどのお気に入りの量が増えなくなってくるのだ。そして……」

無惨「響凱。もうお気に入りは増えないのか? その程度か?」

響凱「いいえ……いいえ、まだ……。お、お待ちください、あと少し……」

無惨「もういい。ランキングから除外する。それがお前の限界なのだ」

 

響凱「稀血(高評価)……稀血(高評価)……アレさえつければ、五十人、いや百人分……」

  「高評価をもっとつけるのだ。そうしたら小生は、また十二鬼月(ランキング)に戻れる」

 

炭治郎「君の作品はすごかった! でも、複アカで総合評価の操作をしたことは許さない」

 

響凱さん、垢BAN!

 




ゲームの実況は攻略動画系が好きです!

次話の後編でこの作品も10話目ですね。
何か記念企画でもしようかと思うんですが、どうでしょう?
考えているのは
1.キメツ学園の翻訳係 ~生徒会長・和 結一郎の日常~
2.鬼の翻訳係 ~if もし結一郎が鬼だったら~

このどっちかですね。


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その7 後編(お目付け役編弐)

2019/08/26投稿


 善逸(ぜんいつ)が鬼の頸を泣きながら切ったすぐあと、その異変は起こった。

 右に左に。前に後ろに。

 部屋の向きが目まぐるしく入れ替わり、足場を失って宙に投げ出される三人。

 鬼の血鬼術によって屋敷が動き始めたのだ。

 突如の事態に反応できたのは結一郎(ゆいいちろう)だけ。

 外に投げ出されそうになっている善逸と正一の二人を即座に視認した結一郎は、迷いなく正一の救出を選択した。

 その結果、善逸は外へ、結一郎と正一は内に分断されてしまう。

 善逸の安否も確認できずに部屋を結一郎は正一を抱えて動き回る。

 

「うわあああ、結一郎さん! 善逸さんが!」

「彼なら大丈夫! 彼も鬼殺隊の一員です。たかだか二階程度なら頭から落ちても大丈夫です!」

「あなたたちって何なんですかぁ!?」

 

 鬼殺隊の仲間である善逸を信じて、結一郎は正一を守ることに専念するのであった。

 

 ※彼らは特殊な訓練を受けています。マネしないでください。死にます。

 


 

 その後、屋敷の異変が収まったと思ったらまた別の部屋に飛ばされていた結一郎と正一。

 屋敷の中でも奥の部屋だったようで、二人で外に出たら一番最後の組であった。

 外には鬼にさらわれていた正一の兄の清とその妹のてる子、炭治郎(たんじろう)と善逸、そして途中ですれ違った猪頭の鬼殺隊士と、屋敷にいた人間全員が勢ぞろいしていた。

 何故か善逸はボロボロで、炭治郎と猪頭が殴り合いをしていたのだけれど。

 

「ゆ、結一郎さん、何がどうなってるんですか!?」

「あー、うん。だいたい分かりました。ちょっと止めてきます!」

 

 訳の分からなさに正一が声を上げるのを横に、結一郎は状況を見て大まかな事情を把握。

 次々と来るトラブルにため息を吐きそうになるのをグッと堪えて鬼殺隊士同士の私闘を止めるべく動き出した。

 

「シャッア!」

「ハアア!」

「はい! そこまでです!」

 

 二人の間に割り込み、拳を受け止める結一郎。

 乱入者の登場に、戦っていた二人は同時に動きを止めた。

 

「結一郎さん、あの、これは……」

「何もおっしゃらなくても結構です! だいたい事情は把握してます! ここは下がりなさい」

「は、はい!」

 

 結一郎の言葉に従って素直に拳を下す炭治郎。

 どうしようもなかったとはいえ、お目付け役の前で私闘という隊律違反をしてしまったことからその顔は少し不安そうだった。

 一方でもう一人の猪頭は、好戦的な様子を隠さずに結一郎に突っかかってくる。

 

「ああ? なんだテメエは?」

「鬼殺隊隊士、階級・(きのえ)(にぎ) 結一郎です! 拳を下ろしなさい!」

「ハンッ! 俺の名は嘴平(はしびら) 伊之助(いのすけ)だ! テメエ、強そうだなァ。俺と勝負しやがれ!」

 

 伊之助と名乗った鬼殺隊士は、上司である結一郎の制止も聞かずに勝負を挑んでくる。

 言葉の通じない様子に生真面目な炭治郎は、思わずといった様子で叱るように注意の言葉を投げかけた。

 

「何を言ってるんだ君は! さっきは思わず戦ってしまったけど、本来なら隊員同士でやり合うのは御法度なんだぞ!」

「知るか! そんなもん! 俺が一番(つえ)えってことを証明してやるぜ」

「だから、駄目だって――」

「いえ、炭治郎君。お相手してあげようかと思います!」

 

 炭治郎の言葉を遮って、相手をすると告げる結一郎に、「えっ?」と、皆から驚愕の視線が集まる。

 私闘は御法度だと知っているはずなのに何故?

 そんな皆の疑問に答えるように結一郎はこう告げた。

 

「これから伊之助君に稽古をつけてあげましょう。ええ、稽古です。稽古なら殴り合っていても私闘にはなりません!」

「え、ええっ!?」

 

 稽古なら私闘じゃないという屁理屈のような言葉に、それでいいの!? と、驚く炭治郎。

 しかし、何故だか分からないけれど結一郎が言うととてつもなく説得力があるような気がした。

 稽古と言ったら稽古なのである。

 たとえ、二対一でリンチのような打ち込みをされようとも!

 たとえ、真剣を使って切り合いみたいになっていたとしても!

 経験者は語るのだ。

 

「ハハッ、何でもいいぜ俺は。さあ、やろうか!」

「ええ! 教育して差し上げましょう!」

 

 静かに構える結一郎に猛獣のごとき動きで飛び掛かる伊之助。

 静動相反する互いの動き。

 制したのは結一郎であった。

 

「ガハッ!」

 

 気が付けば腕を取られて地面に転がされていた伊之助。

 動きを読み切った結一郎には、このくらい造作もないことである。彼の真骨頂はここからだ。

 

「テメエ……うおっ!?」

「どうかしましたか?」

「ぬおお、なにくそぉ……おわぁ!?」

 

 片腕を結一郎に握られたまま地面をのたうち回る伊之助。

 いや、正確にはのたうち回されているというのが正しいか。

 

「なんであいつ地面を転がってるんだ? 訳が分からねえ」

「善逸さん、俺、昔どこかで聞いたことがあります」

 

 腕を取られているだけの伊之助が結一郎に転がし祭りをされていることに疑問符を浮かべる善逸に、いつのまにか傍に来ていた正一が思い出したように話し始めた。

 何か彼には心当たりがあるようだ。

 

「その昔、唐の武術の達人は手に乗せた鳥が飛び立とうとする気配を察知していつまでも手に留めておけたそうですよ」

「ええ、そんなことできるのォ!? 人間技じゃないよォ!」

「触れた相手を通して肌に伝わる感覚で動作を読み取る技術を聴勁っていうらしいです。結一郎さんが使ってるのはソレじゃないでしょうか?」

 

 彼の説明は当たりで、結一郎はつかんだ伊之助の腕を通して彼の動きを察知。

 絶妙な加減で力を加えることで、伊之助を立たせないようにしていたのだった。

 この伊之助という少年は、肌感覚が人より優れているので結一郎と同じように触れている相手の動作を読み取ることもできる能力はあるだろう。

 それが一方的にやられているのは、ひとえに経験と鍛錬の差であった。

 

「それにしても、正一君詳しいね」

「あ、その、ちょっと興味があったので」

 

 顔を赤らめる正一君。

 まぁ、男の子はこういうのに興味を持つものなのである。

 

 

 伊之助が一方的に転がされて約十分ほど経っただろうか。

 諦めずに抵抗を続けていた伊之助であったが、とうとう力尽き、心折れて大人しくなった。

 戦意喪失を確認した結一郎は、今後のために上下関係をしっかりと教え込む。

 

「オレ、オ前ヨリ強イ。オ前、オレニ従ウ。イイナ?」

「ウン、ワカッタヨ……」

 

 伊之助を無事屈服させた結一郎は、一仕事したと良い笑顔を浮かべる。

 そんな彼にツッコみを入れるのは、もちろん善逸である。

 

「な、なんで片言になってんですかーッ!?」

「いやあ、なんか彼にはこういう言い方の方が伝わりやすそうな気がしたので」

「あ~はい! 理由はないのに何故か納得してしまいそうな俺がいるゥ!」

 

 なんだか分からないが凄い説得力だった。なんでか分からないが。

 とりあえず、一騒動終わったので犠牲者の埋葬を始めるのだった。

 


 

 埋葬を終えたころに、犬の鳴き声が聞こえてきた。

 鳴き声がした方に顔を向ければ、猿を背に乗せた土佐犬が走り寄ってきた。

 

「おや、闘勝丸(とうしょうまる)藤乃(ふじの)ですね。ご用は終わりましたか」

 

 駆け寄ってくる二匹の名を呼ぶ結一郎。

 彼らは結一郎のお供の動物たちであった。

 それぞれ『鬼滅』の文字が縫われた首巻をしており、猿の闘勝丸は日輪刀を背負い、犬の藤乃は胴の両脇に荷物を載せていた。

 二匹に遅れて、上空から一羽の雉も結一郎の下へ降りてきた。

 

「ああ、碧彦(へきひこ)も来ましたか。全員勢ぞろいですね」

「あ、あの、結一郎さん。その子たちは?」

「自慢のお供たちです。けっこう優秀なんですよ?」

 

 一番幼いてる子が犬・猿・雉を従えている結一郎の姿を見て目を輝かせて近寄ってきた。

 その姿から思い浮かぶ有名なキャラクターが頭から離れない。

 

「結一郎さんって、桃太郎だったんですね! だから、鬼退治をしてるんだ!」

「アハハ、そ、そうですね。そういうことにしておきましょうか……キビ団子は渡せませんが、代わりに渡さないといけないものがあるんです。――藤乃」

「ワン!」

 

 子供の夢を壊すわけにもいかないので、あいまいに頷く結一郎。

 そのうち熊とか亀が仲間になったらどうしようと一抹の不安がよぎったが、気にしないことにして用件をすませることにしたのだった。

 藤乃を呼び寄せ、彼女が背負っていた両脇の荷物箱からものを取り出す。

 

「これをお兄さんの清君にいつも持ち歩くように伝えてくれますか?」

「これは、なあに? 桃太郎さん」

「鬼が嫌う藤の花の香り袋です。稀血で鬼に狙われやすい清君は持っていた方がよいでしょう」

 

 結一郎に言われたことを素直に頷くてる子たち。

 鬼退治の専門家である桃太郎(だと信じている)その人から言われたのなら説得力も強いというものだ。

 用事を済ませたので移動しようと視線を移せば、そこには闘勝丸に喧嘩を売っている伊之助の姿があった。

 

「なんだ、この猿野郎。一人前に日輪刀なんか持ってやがって!」

「ウッキィ?」

「やめろ、伊之助! あの桃太郎さんのお供の猿なんだぞ!」

 

 どういうことなの、これ?

 何がどうなって伊之助が闘勝丸に喧嘩吹っ掛けてるのか分からない。

 というか、炭治郎まで自分のことを桃太郎だと信じ込んでいる事実に微笑めばいいのか落ち込めばいいのか迷うところだ。

 こんなピュア少年がいるとは……

 

「いけませんよ、伊之助君!」

「うるせえ! 猿にまで馬鹿にされてたまるか!」

 

 とりあえず止めねばと声をかけるが、その程度で止まる伊之助ではなく。

 闘勝丸に向かって力比べを挑み始めた。

 それを見て結一郎は焦りを覚えて声を上げる。

 

「闘勝丸は――」

 

“猿の呼吸 弐ノ型 猩々神楽(しょうじょうかぐら)

 

「君より強い……遅かったかぁ……」

「ぐおおお!?」

 

 闘勝丸によって吹っ飛ばされる伊之助。

 本日弐回目の敗北である。

 猿にまで負けた伊之助は、その後休息のために向かった藤の花の家紋の家に着くまで大人しかったという。

 

「猿が全集中の呼吸を使うとか、そんなことある!?」

 

 善逸のごもっともなツッコミは誰も聞いていなかった。

 

 


 ――藤の花の家紋の家にて

 

 炭治郎・善逸・伊之助の三人が医者の診察を受けているころ。

 結一郎は一人席を外し、単独で行動を起こしていた。

 向かった先は三人の荷物が置いてある部屋。目的は炭治郎の背負っている箱。

 そう、鬼の妹・禰豆子(ねずこ)の調査だった。

 音もなく部屋に侵入し、背負い箱の前に立つ結一郎。

 

「さて、ご対面ですね」

 

 箱の扉に手をかけてそっと開け放つ。

 そこには口枷をした幼い少女、竈門(かまど) 禰豆子の姿があった。

 眠っていたその目が開き、結一郎を見つめている。

 

「こんばんは。自分は和 結一郎と言います。禰豆子さんですね? お兄さんの炭治郎君の……仲間です」

 

 一応、挨拶から始めてみる結一郎。

 禰豆子ははっきりとした反応は示さず、ボーッとした雰囲気で結一郎のことを見つめていた。

 

『反応はない。が、こちらの言うことを理解していないわけでもないようだ。うーん、なかなか判断の難しいところですね』

 

 観察をしてみるものの、これという情報が集まらない。

 その後もいくつか言葉を投げかけるも、意志薄弱という様子で目立った成果は得られなかった。

 埒が明かないと感じた結一郎は、状況を変えるべくある物を取り出す。

 

 それは、一つの小瓶。昼にお供の動物たちが届けてくれた品の一つであった。

 その蓋を開けて布に中の液体を染み込ませていく。

 白い布が真っ赤に染まったそれからは、濃い血の臭いがした。

 十分に血が染み込んだ布を禰豆子の前に差し出し反応を伺う結一郎。

 そう、これは禰豆子の食人衝動を計るための実験の一つである。

 

『さて、“稀血”を前にしてどんな反応を示すのか。場合によっては……』

 

 襲い掛かってくるようならば即座に頸を刎ねる。

 そのつもりで、結一郎は禰豆子を見ていた。

 鬼の好む稀血の臭いを前に、禰豆子は目を見開き、口からは涎が口枷を伝って垂れ始めた。

 禰豆子の食人衝動は消えたわけではない。

 それを確認し、ジッと観察を続ける。

 血の誘惑に勝てるのかどうか。それは今後に関わる重大な事実だ。

 その結果は――

 

「う、ウウッ!」

「これは……驚きました」

 

 衝動に逆らって禰豆子は血の布から目を逸らし、鼻を手で覆って誘惑から耐えてみせたのだ。

 重大な事実が分かり、さらに調査を続けようとする結一郎。

 しかし、部屋の外から人の気配を感じ、即座に箱の蓋を閉じて屋根裏へ姿を隠した。

 そのあとすぐに炭治郎たちが部屋に入ってきて雑談を始めたのだった。

 

 その間に屋根裏から立ち去った結一郎は、家の外に出て屋根に腰掛けてため息を吐く。

 

「ハァ……仲間に内緒で調べものとは、お館様の頼みとはいえ嫌な仕事です」

 

 仲間である炭治郎の妹を、秘密で試すようなことをしていることに後ろめたさを感じる。

 これも仕事の内と言い聞かすものの、重い気分は晴れなかった。

 落ち込む結一郎の下へ、彼の鎹鴉(かすがいがらす)が次の任務を告げに来ていた。

 

 炭治郎たちが怪我の療養の間は、お目付け役を一時中断。

 別の任務に就かねばならない。

 

「まったく、忙しいことです。おちおち菓子作りも出来ません」

 

 明日、出立することを伝えるために炭治郎たちに挨拶に行かねばと腰を上げる。

 次の任務もなかなか厄介なことになりそうな予感を感じ取っていた。

 

『ある町で(かくし)数名が行方不明になっている。鬼の諜報活動の可能性あり。直ちに調査せよ』

 

 それが、結一郎の次の任務であった。

 鬼殺隊の、ひいては当主・産屋敷の機密を探るべく差し向けられた鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)からの刺客。

 そう考えるのが良いだろう。

 激しい戦いの影が見え隠れしているようであった。 

 

 

オマケ『アンケート企画 あらすじ』

1.キメツ学園の翻訳係 ~生徒会長・和 結一郎の日常~

 中高一貫のキメツ学園で生徒会長を務める結一郎の下には、学校中のトラブル解決の依頼が舞い込んでくる。

 

庶務「大変です! 冨岡先生に対するPTAからの抗議が!」

結一郎「また、あの人ですか!? これで何度目になるでしょうね!?」

 

会計「じ、事件です! 宇髄先生がまた美術室を爆破しました~!」

結一郎「けが人がいるか確認して、警察に連絡を。『テロじゃなくていつものです』と伝えてください!」

 

書記「結一郎さん、近所の食堂から『毎回食材を全滅させるのはやめてください』と苦情が……」

結一郎「該当する人物はもう当校を卒業してます! そう伝えてください!」

 

 次から次へと押し寄せる学校のトラブルにいつも彼はてんてこ舞いなのだ!

 

 

2.鬼の相談係 ~if もし結一郎が鬼だったら~

 人を超えた能力を持つ鬼たち。しかし彼らにも悩みはあるようで……

 

累「ねぇ、家族がちゃんと役割を果たしてくれないんだ。どうしたらいい?」

結鬼「それ、本人の適性と合ってないんじゃないですかね? ていうか、何故子供の鬼に母親役を!?」

 

猗窩座「なぁ、上弦の弐がウザいんだが、何とかしろ」

結鬼「どうしろと!? ……分かりました。そんな目で見ないでください。なるべく鉢合わせしないように調整しますから!」

 

童磨「猗窩座殿が冷たいんだ。何とかならないかな? というか、他の皆もおしゃべりしてくれないんだよねぇ」

結鬼「え、無理をおっしゃる……いえ、なんでも! そうですね……とりあえず、贈り物でもしてみたらいいのでは?」

※その後、童磨は猗窩座に女の肉を持って行って喧嘩になります。

 

 個性的で仲の良くない十二鬼月から相談を受け、世にも恐ろしいブラック上司の鬼舞辻 無惨の機嫌を損ねないように頑張る鬼の相談係の日常である。

 




翻訳係コソコソ話
犬…藤乃 雌
猿…闘勝丸 雄
雉…碧彦 雄

次回は炭治郎たちとまた分かれてオリジナル展開です。
ガッツリ戦闘にするつもりです。
鬼は原作に出てきた鬼を出すつもりです。
さて、どの鬼になるでしょうか?
お楽しみに。




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その8(隠失踪事件)

2019/09/04投稿


 とある街角で二人の人物が人目を避けるように会話をしていた。

 一人は黒子(くろこ)のように布で顔を隠した鬼殺隊の裏方“(かくし)

 もう一人は、白地の外套(マント)を身に着けた鬼殺の剣士・(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)だった。

 

「――以上がご報告となります」

「なるほど。状況からみて明らかに鬼の仕業ですね」

 

 結一郎は今回の任務に挑むにあたって、隠から事件の報告を受けて情報収集にあたっていた。

 この度の任務は、「隠数名が行方不明」という事件の調査及び解決となっている。

 巧妙に所在地を隠している鬼殺隊の本拠地を探る鬼の刺客が差し向けられたと考えられるこの事件は、緊急性・重要性が高く、早急の対応が必要なものだ。

 

「それで、頼んでいた物は?」

「はい、こちらです」

 

 隠から手荷物を受け取る結一郎。

 その中には、今回の任務で必要な道具がそろっていた。

 

「行方不明になった方々の持ち物……確かに預かりました。藤乃(ふじの)に追跡させましょう」

「よろしくお願い致します」

「えぇ、あなたもお気を付けて」

 

 別れの言葉を告げて歩き出す結一郎。

 その姿は人混みに入ると、スッと消えるように気配が消えて見えなくなった。

 忍びの技を覚えているという噂は本当だったのか、と、残された隠は一瞬驚いたが、すぐに落ち着いて自身も移動を開始する。

 結一郎が仲間の仇を討ってくれることを信じて。

 


 

 時刻は丑三つ時(午前二時頃)。

 人も動物も草木でさえも寝静まる深夜。逢魔ヶ刻。

 一人の隠が街を静かに歩いていた。

 そんな彼の目の前に突然壺が一つ現れる。

 不自然に現れた壺を訝しみ、様子を確認するために近づいた……その瞬間、壺から手が伸びてきて彼に襲い掛かる。

 魔の手にかかる寸前、大きく後方に跳躍して危機を逃れた彼は次の攻撃に備えるように身構えてみせた。

 

「フッフッフッ、これはこれは活きのよい。生意気な、いや、それもまたよし」

 

 壺の中から不気味に身をうねらせながら現れたのは異形の鬼。

 額と口の位置に目があり、元の目があったであろう場所には口が二つ。体は蛇とも蚯蚓ともつかぬような奇怪な姿であった。

 その上下に並ぶ鬼の瞳にはそれぞれ“上弦”、“伍”と刻まれている。

 最強の十二体の鬼に名を連ねるその名は、上弦ノ伍・玉壺(ぎょっこ)という。

 

十二鬼月(じゅうにきづき)……上弦の鬼!?」

「その通り! さあ、無駄な抵抗はやめてもらいましょうか」

 

 後ずさる隠を捕らえようと玉壺が血鬼術(けっきじゅつ)で襲い掛かる。

 身体から生える小さな手に握られた小さな壺から、人を食い殺す妖魚が無数に飛び出して身を抉ろうと飛び掛かってきた。

 隠はもう一度跳躍して躱しながら、口笛で合図を送る。

 その合図に呼応するように犬の遠吠えが響き渡った。

 次の瞬間、日輪刀を咥えた犬が飛び出し、器用に口で刀を隠に投げ渡す。

 

「何ィ!? 貴様、まさか!?」

「よくやりました、藤乃!」

 

 投げられた日輪刀を掴み取った彼に向けて、玉壺が妖魚を差し向ける。

 宙を舞う人喰いの魚群。

 それを刀剣の一閃が呑み込んでゆく。

 

風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ(じんせんぷう・そぎ)

 

 螺旋状に切り刻む剣閃は妖魚を残らず絶命せしめ、その傷跡を地面に刻み込む。

 その人間離れした技をなした人物は、妖魚の毒の体液に濡れた隠の衣服を脱ぎ去ってその正体を現す。

 先ほどまで『隠』と刻まれていたその背の下から現れたのは『滅』の一字。

 人の身で鬼を滅する鬼殺の剣士。その隊服であった。

 

「変装とは味な真似を。まあ、それもまたよし。何者です?」

「……見ての通り、ただの鬼殺隊士ですよ。あなたが仲間を攫っていた犯人ですね?」

 

 上弦の鬼と相対しながらも、恐れることなく情報を引き出そうとする結一郎。

 行方不明になった仲間をどうしたと鋭く問えば、目の前の鬼は嗤って返事をしてきた。

 

「ヒョヒョッ、彼らですか。拷問をしてもロクに情報を吐かないので、私の作品にしてあげましたよ」

「作品……?」

 

 玉壺の口からでた『作品』という言葉に、嫌な予感を覚える結一郎。

 その予感は的中。

 玉壺の隣の地面から出てきた壺からおぞましいモノがその形を見せる。

 

「いかがでしょうか、私の作品は!」

「こ、これは……ッ!」

 

 行方不明になった隠四名。彼らの遺体を切断し、つなぎ合わせて作られた悪趣味(グロテスク)なオブジェだ。

 あまりのことに言葉を失う結一郎を横目に、玉壺は誇らしげに自身の作品について解説をし始めた。

 

「名付けて“黒子の顔並べ”でございます! 四人の黒子をふんだんに使った贅沢な作品なのです」

「……それで?」

 

 解説をする玉壺に結一郎は淡泊に続きを促す。

 続きを求められた玉壺は喜び勇んで話を続けた。

 

「裏方として顔を隠している彼らの顔をあえて前面に出して強調する。この部分がこの作品の味を出しているのですよ!」

「そうなんですか……それで?」

「……しかしながら、裏方という奥ゆかしさも表現せねばと思い、手足をへし折り絡み合わせて体に巻き付かせて表現しています」

「ふーん、それで?」

「……ッ!」

 

 頑張って説明しているのに、結一郎の反応が薄くてなんだかやりづらさを感じる玉壺。

 しかし、説明の続きを促されていることには変わりなく、ここでやめるのもなんだか負けた気がする。

 

「世のはかなさを表現するために、一部は骨がむき出しにしてあります。赤い血に混じり白い骨の色がまた艶やかでしょう?」

「なるほど……それで?」

「…………おっほん! 極めつけは、ここの腹を押すと断末魔を再現する絡繰りが施されているのです! どうです、すばらしいでしょう?」

「ほほう……で?」

 

 玉壺が自身の作品について熱弁するのを、結一郎が一言「それで?」と返す。

 そんなやり取りが数度繰り返されて、とうとう玉壺がキレた。

 

「あああ! 何なんだ、貴様ァ! さっきから『それで?』ばっかりで返しやがって! もっと私の作品について言うことはないのか!!」

 

 ほぼ無反応といっていい結一郎の態度に怒りをぶつける玉壺。

 その怒りを受けても結一郎は平然として、会話を続けようとしていた。

 

「ああ、すみません。自分は芸術には詳しくないもので。なので、ついあなたの解説の先が気になって淡泊な反応になってしまったんですよ」

「そ、そうか。ならば、それもまたよし!」

 

 これだけじゃないんでしょ? もっと話を続けてくださいよ!

 という、結一郎のヨイショにあっさりと乗せられる玉壺。

 機嫌をよくした玉壺は、さらにペラペラと作品について語りだす。

 四半刻(約三十分)ほど話したところで、そろそろ無くなってくる。

 

「――――と、いうところがこだわった所でして」

「なるほどなるほど、それで? 他には?」

「ほ、他に!?」

 

 ネタがもうないのに結一郎に続きを促されて焦る玉壺。

 どうする? と、考えるが言葉が出てこない。

 そんな彼の様子に、結一郎はわざとらしくため息を吐きながら告げた。

 

「もう語れないんですか? あなたの作品って、たかだか四半刻で語りつくせる程度なんです?」

「なっ! そんなはずないだろォ!! もっと語れるわ! 本当に!」

 

 えー、もう限界なんですかぁ?

 という幻聴が聞こえてきそうな結一郎の言い方に、玉壺がムキになって反論してまた語りだす。

 自分の芸術観も交えて語りまくる玉壺。

 負けられない勝負がそこにはあったのだ。

 ……正直、第三者からみたら訳がわからないものでしかないのだけれど。

 

 

 ――一刻半後(約三時間後)。

 

「その時、私は新たな芸術の扉を開いたのです!!」

「なるほど、そうだったんですねー」

 

 とことんまで自分の芸術について語りまくった玉壺は、不思議な満足感に包まれていた。

 ここまで自分の芸術について話して聞かせたのは初めてだ。

 となれば、是非とも相手の感想が聞きたくなるのが心の常というもので。

 

「あー、私ばかり話してしまいましたが、あなたはどう思います? 私の芸術は」

「ん? ああ、そうですね。ここまで聞いたんだから自分の感想も言わなきゃいけないですよね」

 

 作品の感想を求められ、それもそうだと首を縦に振る結一郎。

 玉壺は彼の口から出る感想を今か今かと待ち望んでいた。

 ここまで自分の芸術に興味を示してくれた人間だ。どんな賛美を口にしてくれるだろう!

 

「つまらないです!」

「そうかそうか、つまらないか! ……は?」

 

 褒め称える言葉とは正反対のことを言われて固まる玉壺。

 そんなヤツを尻目に結一郎は言葉を続けていく。

 

「つまらないんですよ、あなたの作品は。全てにおいて」

「人の心をかき乱すような情念も、人を圧倒させるような迫力も凄みも美しさもない」

「あるのは人の(むくろ)を使っているというおぞましさだけ。人の死体を使ってるんだからおぞましさがあるのは当たり前で評価点はあげられませんね」

 

 酷評。嵐のような酷評であった。

 約二刻あまりも語らせておいて、この評価である。

 やられた方にとってはたまったものではない。

 

「な、何を言うか、貴様ァー! それは芸術を理解できないお前の頭が問題なのだろうがッ!」

 

 芸術への審美眼がない猿が! と、キレる玉壺。

 だがしかし、それで怯むような結一郎ではない。

 柱合会議の翻訳係を舐めるなよ!

 

「ハハハ、そんなことを言うから二流なんです! 一流の芸術は素人すら感動させるものですよ? それを相手が理解しないから悪い? 理解させられなかった己の未熟を恥じるべきでは?」

「ッ!? 偉そうに分かったような口を!」

「その証拠に! あなたが自慢気に語っていた断末魔を上げる絡繰り。あれは逃げでしょう。絡繰りなんかを使って、工夫したつもりになっている! 自分の作品に自信がないことが透けて見えますよ!」

「グヌヌ、生意気な!」

 

 結一郎の言葉に悔しさから歯を噛み締める玉壺。

 彼の言葉に自分でも少し心当たりがあるような気がして負けた気分になっていた。

 決して認められるものではないが、完璧だと思っていた自分の作品について真正面から酷評されたのは初の出来事で戸惑いを隠せない。

 苛立つ玉壺。さらに結一郎が言葉を投げかける。

 

「まぁ、褒められるところがないわけではないです。一番元となっている壺。これは良い仕事してますね!」

「む? ほほぅ、そうか、分かりますか! この壺の良さが」

 

 メタメタに貶された後に、急に褒められてちょっと嬉しくなる玉壺。

 特に自分のアイデンティティにも関わりそうな壺について褒められたのだから、気分は急上昇といったところだ。

 この鬼、チョロいぞ!?

 

「なかなか綺麗で良い壺ですね!」

「そうだろう、そうだろう! この美しさはたまらないだろう?」

「ええ、分かります。……それで、この壺はどこで買ったんです?」

 

 上機嫌になっていたところに、結一郎の一言でビシリと体が硬直する玉壺。

 今、こいつなんて言った?

 

「買った? ~~ッ! これは私の作品だァ!」

「ハッハッハッ! 今更そんな見栄を張らなくてもよいではないですか! 良いものを見極めるのも誉められた能力ですよ?」

「私に創作能力がないことを前提で話すなァアアア!!」

 

 お前が価値ある作品を作れるわけないだろ。(意訳)

 そう言われた玉壺は今度こそ、ブチ切れた。

 これだけ話をさせておいて、この男は玉壺の事を芸術家だと認めていないのだ。

 許せることではない。

 

「この壺はなぁ! あのお方にも評価頂いていて、高く売れているんだぞ! 私の作品が、だ!」

「なんと! 本当ですか!? 本当ならどこで売っているか言えるはず……」

「○○商店と××骨董店だ! 東京の大店で扱われてるのだぞ!」

 

 その言葉を聞いて結一郎の表情が笑みを描く。

 良いことを聞いた。あとで調べなくては。

 笑みを浮かべる結一郎を見てとうとう玉壺の堪忍袋の緒が切れた。

 

「何を笑っている貴様ァ! 許さん! 私に殺される直前になっても笑っていられるか試してやる!」

「無理ですよ。あなたでは」

 

 殺意を向けてくる玉壺に対し、勝利宣言ともいえる挑発を行う結一郎。

 これに玉壺は耐えられなかった。

 

「舐めるな、小僧ォ!」

 

 “血鬼術 千本針魚殺(せんぼんばりぎょさつ)

 

 手に持った壺から呼び出された金魚が毒針を射出して攻撃するこの技。

 無数の針を高速・広範囲にばら撒くこの技は回避がしづらい厄介な攻撃である。

 もっとも、それは攻撃を放てればの話だが。

 

「ギョエエエ」

 

 奇声を発し、妖魚の身体が崩れていく。

 次の瞬間には玉壺の頸が刎ねられていた。

 

 “雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃(へきれきいっせん)

 

 結一郎がしたことはシンプル極まりない。

 出現した妖魚に藤の花の毒を塗り込んだクナイを投げ、それを追い抜かすように高速の居合抜きを放ったのだ。

 

「あなたの敗因はただ一つ。長々とおしゃべりをしすぎたんですよ」

 

 居合を振りぬいた形から正眼に構えを戻した結一郎の目には油断などない。

 上弦の鬼を倒せた手ごたえを感じていなかったのだ。その判断は正しいことがすぐ証明される。

 

「残念でしたね。それは私の抜け殻だ、間抜け」

 

 勝ったつもりかと、嘲るように物陰から現れた玉壺の姿は先ほどまでと大きく形を変えていた。

 鋭い爪を持った太い腕をそなえ、魚のような鱗が並ぶ長い胴体をくねらせて移動してくる。

 より凶悪な姿に変貌した玉壺は自慢げに己の肉体を誇った。

 

「見るがいい、私の真なる姿を! 金剛石よりも硬く強い鱗、練り上げた美しき姿を!」

 

 その姿を見た結一郎は一言。

 

「……壺は?」

「え? 壺?」

 

 意外な一言に玉壺は言葉が出なくてオウム返しに聞き返すことしかできなかった。

 結一郎は間の抜けた返事をした玉壺を責めるようにまくしたてる。

 

「壺はどこにいったんです? あれだけ自慢げに話をしていたのに真の姿とやらになった瞬間用済みですか!? あなたの壺への愛はそんなものだったんですか!」

「わ、私の壺への愛!?」

 

 結一郎の激しい言葉に玉壺は気持ちが圧されているのを感じた。

 心の片隅で『何故、私が叱られてるんだ?』とか、『なんでこいつ、こんなに壺推しなんだ?』という疑問がよぎらないでもなかったが、それを押し流すような衝撃を受けていたのだ。

 名前にも「壺」とあるのに、真の姿になった途端に壺要素がなくなるとか自分でもどうなんだろうと思ってしまったのだ。

 自身の能力が自己否定をしているように感じられてショックを受けて地面に手を突きそうになる玉壺。

 

 そんな隙を見逃すなど、鬼殺の剣士としてあるまじき行為だ。というわけで。

 

「いまだ、隙あり!」

 

 “炎の呼吸 伍ノ型 炎虎(えんこ)

 

「ぎゃああ!? 人が落ち込んでいるところを斬りかかって来るなんて鬼か、お前は!?」

「いや、あなたが鬼で自分が人です! 間違えないでください」

「そういうことを言ってるんじゃない! くうぅ、どこまでも馬鹿にしやがって!」

 

 斬りかかってきた結一郎の攻撃をかろうじて避けた玉壺が卑怯者と罵るも、結一郎はとぼけた返事をしてまた怒りを煽る。

 もちろん、結一郎はわざと行っている。精神攻撃は基本であるからして。

 

 ここまで馬鹿にされて黙っていられるはずもない玉壺は、自身の最大の技で決着をつけることを決めた。

 “血鬼術 陣殺魚鱗(じんさつぎょりん)

 全身を覆う鱗を使い、高速で縦横無尽に飛び跳ねて相手を攻撃する技で、触れた相手を魚に変えて絶命させる「神の手」を合わせて使うことから大変危険な攻撃である。

 玉壺はこの術に絶対の自信を持っていた。

 

「これで死ねェ! 血鬼術、陣殺ぎょぼああ!?」

 

 結一郎を殺す。

 その殺意を持って高速移動をしたその一歩目で、玉壺に衝撃が襲った。

 響き渡る爆発音と火薬の臭い。

 なんてことはない。玉壺の移動した先にあらかじめ衝撃で爆発する爆薬が投げ込まれただけの話だ。

 

「ぐうう、どうやって私の動きを!? あの移動速度についてこられるはずがない!」

「あれだけ、長く話をしていたんです。あなたの思考の癖くらい把握してます、よ!」

 

 移動速度を目で追えなくとも、動きの軌道を予測できなくとも、お前の思考は読み通せると告げる結一郎。

 その証拠に、斬りつけられた刃を腕で防ぎ高速で動いた玉壺の移動先へまた爆薬を投げつけてみせる。

 数瞬の後に爆音。見事命中だ。

 

「くっ、だが、爆薬では私は殺せない。お前の本命の攻撃にさえ気をつけておけば私に敗北はない!」

「あなたをここで釘付けにする。それで自分の勝利は確定です!」

 

 時間は結一郎の味方だ。

 なぜなら……もう、空が白み始めていた。

 

「あ、朝!? そんな、朝になってしまう!」

「言ったはずです。あなたの敗因はただ一つだと」

 

 結一郎と玉壺が接触したのが丑三つ時(午前二時頃)。

 そこから二刻(約四時間)近く話をしてれば、そりゃ朝にもなるだろう。

 敗因は趣味の話に夢中になって徹夜したことだ!

 

 玉壺は自身の敗北を予感して青ざめた。

 状況は既に結一郎とどう戦うかではない。どうやって結一郎から逃げ出すかという選択を迫られている。

 自分の思考は筒抜けで下手に動けない。

 せめて真の姿になる前の壺のある状態だったら空間移動系の能力で逃げ出せたかもしれないというのに。

 ここにきて、自分の選択肢が頸を締めることとなっている。

 絶体絶命のピンチ。だが、玉壺の運はまだ尽きてはいなかったようだ。

 

「お前たち、何の騒ぎだ! ――ば、化け物!?」

「しまった! 逃げなさい!」

 

 結一郎の爆薬の音を聞きつけて駆けつけた警察官。

 その姿を目にしたとき、結一郎と玉壺は正反対の感情を覚えた。

 不運な警察官に向け、妖魚をけしかける玉壺。

 無辜の住人が被害を受けることを結一郎が見逃せるはずもなく、彼を庇いに動かざるを得ない。

 妖魚をすべて叩き落した時には、玉壺の姿はなく。

 臍を嚙む結一郎の顔に朝日が照り付けた。

 あと一歩間に合わなかった。

 

「上弦の鬼を倒す機会を逃すとは……不覚です!」

 

 結一郎と玉壺の戦い。

 お互いに勝利のない、悔しさの残る戦いとなったのであった。

 

オマケ「玉壺、叱責」

 

 琵琶の音と共に景色が入れ替わる。

 無限城と呼ばれる鬼舞辻(きぶつじ) 無惨(むざん)の居城へと空間系の血鬼術によって呼び出された玉壺。

 上弦の鬼である彼を呼び出せる人物など彼の主しかいない。

 

「無惨様、これはご機嫌麗しく……」

「ほぅ、玉壺よ。お前には今の私が機嫌よさそうに見えるか?」

 

 平伏して挨拶をすれば、頭上から感じるのは無惨の怒り。

 玉壺は言葉を間違えたことを知った。

 

『しまった。私としたことが不用意な言葉をかけてしまうとは。無惨様は何にお怒りなのだ?』

「私が何に怒りを覚えているのか分からないのか? 玉壺」

 

 配下の心を読むことができる無惨は、玉壺の心の内の疑問を読み取り言葉を投げかける。

 無惨の口調から、自分に関わりのあることだと予測できるものの、心当たりが見当たらない。

 ここは不興を買うことを覚悟して正直に話すしかなかった。

 

「申し訳ございません。愚かな私にはご心中をお察しすることができず……何があったかお教え願えますでしょうか?」

 

 平身低頭。精一杯の謝意を示しながら怒りの理由を教えてもらうよう懇願した。

 その殊勝な態度が認められたのか、無惨は玉壺に不快な出来事についてあらましを語り始めた。

 

「お前の壺を卸している○○商店と××骨董店に鬼狩り共の調査が入ったのだ」

「なんと!? そのようなことが!」

「私に繋がる証人・物証共に消し去ったが、私の擬態先の一つと収入源の一つが潰されたのだ。これは由々しき事態だなぁ? 玉壺よ」

「は、はっ! おっしゃる通りでございます! (ま、まさか、あの時の!?)」

 

 無惨から具体的な話を聞かされ、ようやく心当たりのある出来事を思い出す玉壺。

 先日、屈辱の逃亡を余儀なくされた鬼狩りの剣士のことを思い出す。

 

『奴の口車に乗せられて、店の名前を口にしたような気がする。マズい、これは失態だ!』

「そうかそうか。やはりお前のせいであったか」

「む、無惨様、申し訳――」

 

 謝罪の言葉を口にしようとした瞬間世界が反転する。

 気が付けば玉壺の頸は無惨の手に逆さに乗せられて、異様な形で対面させられていた。

 

「黙れ、口の軽い愚か者が! お前が無駄にお喋りなのは口が二つもあるせいか? 片方縫い付ければ少しは沈黙を学べるか?」

「こ、これは――」

「黙れと私が言っているのが分からないのか」

 

 ミシリと頭蓋骨が嫌な音を立てるのが聞こえる。

 無惨の怒りによっていつ握りつぶされるかも分からない。文字通り相手の手に命を握られている状況。

 そんな状況の中で玉壺は……

 

『無惨様の手が私の頭に! ああ、いい! すごく良い!』

 

 恍惚の表情をしていた。

 こいつは、レベルが高い。何とは言わないけれど。

 当然、配下の心が読める無惨はこの玉壺の感情をダイレクトに知ることになるわけである。

 ……ご心中、お察し致します。

 

「玉壺、これまでの功績に免じて今回のことは許そう。だが、二度目はないと思え」

「おぶっ! は、ははぁ! ご慈悲を賜り感謝致します!」

 

 ポイっと投げ捨てて、冷たく言い捨てる無惨。

 さすがの鬼の首魁といえど変態を手の上に保持し続けるのは嫌だったようだ。

 うん、災難だったね。

 さらに言えば、これ以上何の罰を与えようが、玉壺にはご褒美にしかならないような気がして気が削がれたというのもある。

 この変態、最強ではなかろうか……

 おまけで言えば、上弦の鬼という早々替えのきかない優秀な配下でもあるので、粛清までは免れたのだった。

 戦闘に能力が偏りがちな上弦の鬼の中でも貴重な探索・探知が得意な鬼で優秀なのだ。変態だけれど。

 

 軽く心労を覚えながら無限城を去る無惨。

 もしかしたら、無惨に一番ダメージを与えているのは身内なのかもしれない……?

 

 

「玉壺殿、あまり無惨様を困らせるようなことをしては駄目だぞ!」

「そ、そうですな。気を付けましょう(童磨(どうま)殿に言われたくは……いや、それもまた良い)」




「壺」っていう字がゲシュタルト崩壊しそうで困りました。この話。
鬼滅の二次創作なので、一度は煽りの呼吸を使わせたかったんです。
しかし、響凱さんが言われた言葉って、ハーメルンで執筆してる人が言われたら誰でもダメージ受けそうな気がします。うん。

翻訳係コソコソ話
 実は結一郎、興味がない玉壺の話を、相手が気持ちよく話せるように気を使いながら延々と聞き続けるのはけっこう苦痛だった。
 仲間を作品にされた怒りを笑顔の下に隠して応対していたりしてたりします。


ミニ次回予告
「キメツ学園 ~生徒会長・和 結一郎」


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キメツ学園の翻訳係 ~生徒会長・和 結一郎の日常~

2019/09/17投稿

記念アンケート企画です。
たくさんの投票ありがとうございました!


『中高一貫キメツ学園』

 個性的な先生、生徒たちが多く在籍するこの学園はいつも騒がしい。

 バイクで登校する不良や年中半袖裸足の野生児がいたり、礼儀正しく規則を破るピアスの少年にフランスパンを咥えて登校する女子生徒など色物生徒が山ほど存在する。

 ついでにいえば、先生も変わった人が多い。

 指導が厳しすぎてPTAから目を付けられ、そろそろ教育委員会が動くと噂される体育教師や、「芸術は爆発だ!」と、美術室をダイナマイトで爆破する美術教師なんかがいたりする。

 今述べた二人に比べれば、授業中に急に騎馬戦をやりだす歴史教師や授業は鼓を使って古典音楽ばかりする音楽教師が可愛く見えるのだから、この学園に在籍している人物たちの濃さが分かるというもの。

 そんな学園の生徒会長は毎日が大忙しなのだ。

 

 これは、日々舞い込んでくるトラブルを解決するために東奔西走するキメツ学園生徒会長・(にぎ) 結一郎(ゆいいちろう)の物語だ。

 

 

 

『キメツ学園生徒会役員』

 学校行事の運営や各部活の予算決定などの重要な役割をこなすのが生徒会というものだが、この学園の生徒会は学園内で起きたトラブルの解決も仕事の一つとなっている。

 今日もまた、生徒会には様々なトラブルの知らせが届けられている。

 

「大変です、和先輩! 冨岡先生に対するPTAからの抗議が届いてます!」

「またですか! あの人はもう、これで何回目です!? 冨岡先生には後で話を付けに行くので詳細をまとめておいてください」

 

 高等部一年生の佐藤庶務が慌てて報告してきたのを、内容に呆れながらも冷静に対処する結一郎。

 その後のスケジュールに体育教師の冨岡先生への取り調べを書き込んでいると、次なるトラブルが舞い込んでくる。

 

「じ、事件です! 美術室が爆発しましたぁ~!」

宇髄(うずい)先生ですね! すぐに警察に連絡を。『テロじゃなくていつものです』と言えば通じるはずです」

 

 中等部二年生の高橋会計が息を切らして駆け込んで報告してきたのを迅速に対応。

 一瞬で犯人を特定して、対処する姿は慣れを感じさせるものだった。

 美術室が爆発するのが慣れているというのも嫌な話だが。

 

「結一郎さん。近所の食堂から『毎回食材を全滅させるのはやめてください』と苦情が入ってます」

「……該当する人物はもう当校を卒業してます! そう伝えてください!」

 

 息つく暇もなく、次のトラブルの報告を持ってきたのは高等部三年生の鈴木書記。

 彼の報告に少し疲れたような表情をした後、的確に指示を出す。

 曲者ぞろいの学園で、結一郎はいつもてんてこ舞いなのだ。

 

「まったく、どいつもこいつもですよ!」

 

 生徒会長・和 結一郎。中等部三年生の前期から続けて七期目の現在。

 彼は一刻も早く生徒会長を辞めたいと思っていたのだった。

 まぁ、先生たちからの推薦および、圧倒的得票率のせいで誰も代われないのだけれどね。

 彼が生徒会長を辞めるには、あと半年は待たねばならないのだ! 頑張れ!

 

 


 

 生徒会に持ち込まれるトラブルに頭を抱えたくなる結一郎。

 しかし、嘆いていても問題は解決しないので行動するしかない。

 そういうわけで立ち上がり生徒会室から出た結一郎は、職員室へ向かう。

 言うまでもないことだが、問題解決の協力を先生に頼みに行く……わけではない。

 むしろ、問題の元凶がそこにいるからだ。

 生徒会長が問題を起こした教師を叱りに行く。ぶっちゃけ、立場が逆だと思うのだ。普通は。

 

 何が悲しくて指導を受ける立場の生徒が、指導をする立場の教師を叱りにいかねばならないのか。

 そんな情けない教師代表が冨岡(とみおか) 義勇(ぎゆう)という男である。

 

「さて、何か言うことはありますか? ()()()()担当体育教師・冨岡 義勇先生?」

「なぜ、肩書まで言う必要がある」

「言わなきゃわかりませんか?」

 

 もちろん皮肉である。

 職員室で自分の席に座っている冨岡先生に結一郎が見下ろしながら言う。

 口調はにこやかながらも目は決して笑っていない結一郎が問いかけに対して、冨岡先生が答えたのは本筋とは関係ない言葉であった。

 これが誤魔化そうとか話題を逸らそうとかいう意図ならまだいい。いや、よくはないのだが。

 この男、空気が読めていないが故の発言であった。

 うーん、頭が痛いぞ結一郎。

 

「PTAからの抗議を何回もらえば気が済むんですか? あなたは」

「大丈夫だ。問題ない」

「問題だから自分がここにきてるんですが……それと、その大丈夫って『全部自分が責任を取るから大丈夫だ』って意味で言ってるんでしょうけれど、通じませんよ。普通の人には」

 

 今回のトラブルについて文句を言えば、傍から聞けば無責任とも状況を理解していないともとれるような返事に呆れてしまう。

 この言葉の足りなさが、トラブルの原因なんだなぁ、と、改めて実感させられてしまった。

 それじゃだめですよという、結一郎の真っ当な意見を受けて冨岡先生は反論する。

 

「和、お前には通じたじゃないか」

「うわぁ、否定しにくいところを突いてきますね、この人」

 

 普通の人には通じませんと言った手前、この言葉を否定したい結一郎。

 言外に「お前は普通じゃない」と言われてしまったわけである。

 こんなブーメランってある!?

 ちょっとイラっとした結一郎だが、こんなことでいちいち突っかかっていては話が進まない。

 重要なのはこの後どうするかということだ。

 

「まあいいです。それで、この後先生にはPTAに謝罪と反省を述べてもらうわけですが……コレの通りに従ってください」

「これは?」

 

 結一郎が手渡したのはA4のプリントの束だ。

 両面に文字が印刷されたそれの内容は、簡単に言えば台本であり、問答想定集であった。

 

「これを全部暗記してください。で、本番では一字一句違わずに、この台本通りに答えてくださいね」

 

 言葉が少ないかあるいは余計なことを付け足して言うかのどちらかが多い冨岡先生対策である。

 ここまでしなきゃいけない先生もヤバいが、それに対してこんな準備できてしまう結一郎も大概である。

 

「こんなものなくても、俺は大丈夫だ」

 

 それなのに、せっかく作った台本を素っ気なく突き返そうとする冨岡先生。

 これには結一郎も堪忍袋の緒が切れた。

 

「はぁ……言うに事を欠いてそんなことを。では、鱗滝(うろこだき)さんの前でも同じことが言えるか試してもらいます!」

 

 鱗滝という名前を聞いて慌てる冨岡先生。

 鱗滝 左近次(さこんじ)

 キメツ学園の用務員で、この学園の古株でもある。

 冨岡先生が学生時代から勤務をしており、かつ、彼の学生時代には大変お世話になったため頭が上がらなかったりするのだ。

 

「ま、待て、結一郎! ちゃんとするから、鱗滝さんに言うのは待ってくれ」

「冨岡先生……自分は()()()()()と言ったんです! すでに鱗滝さんには連絡済みなのです!」

 

 恩師からの叱責はさすがに辛いのか、思いとどまってもらおうと懇願する冨岡先生であったが、結一郎は無情にも事実を突きつけたのだった。

 もう叱られるのは確定事項なのだと。

 その言葉にガックリと項垂れる冨岡先生。

 

「まったく、前回も今回も危うく地元新聞の三面記事に載りかけたんですから鱗滝さんにこってり絞られて反省してください」

「プッ! ハハハッ! 残念だったな、冨岡。派手に三面記事に載るチャンスだったのにな!」

 

 哀れなその姿を笑う人物がいた。

 結一郎はその人物に顔を向けて呆れた顔で告げる。

 

「三面記事定番男が人の事をよく笑えますね! 宇髄先生!」

 

 宇髄 天元(てんげん)。美術教師である。

 学園教師問題児その二である。

 

「芸術は爆発だからなぁ、仕方ねえんだよ」

「そんな芸術なんて廃れてしまえ! 本当に!」

 

 芸術は爆発だと言って、本当に美術室を爆破すること数回。

 しょっちゅう壊れるので最近なんかは美術室は壁がなくなって吹きさらしみたいになっている。

 地元の新聞にはもはや風物詩として掲載されており、もはや誰も警察に通報しなくなっていたりする。

 なんで、捕まらないんだ。謎すぎる!

 こんな感じなので、本人は全然反省してもいない。

 

「まったく、そんなんだから給料下げられるんですよ……」

「おい、ちょっと待て、何て言ったお前!?」

 

 しかし、今回はそろそろ制裁が下されたようで。

 結一郎がポツリと呟いた一言に聞き逃せないワードがあって驚く宇髄先生。

 聞き返された言葉に、結一郎が結構重大な連絡事項を伝えた。 

 

「学園長からの伝言です。『天元、ちょっとやりすぎたね。仕方ないから、今度のボーナス70%カットだよ』とのことです! 仕方ありませんね!」

「Noooo!」

 

 校舎に被害が出ているので弁償というわけである。

 極めて妥当な判断。むしろ、今までされていなかったのが温情だ。

 ホント、反省して。

 

====================

 

 もう日も落ち始めた夕方。

 部活も終わり、人が少なくなってきた校舎を結一郎は疲れた足取りで進んでいた。

 今日も今日とて濃密な一日だったのだ。

 

 卒業生のとある捌倍娘(大食い女子)が食材を全滅させた定食屋が実家の生徒にその旨を報告に行ったり、その卒業生に気がある伊黒(いぐろ)先生に『彼女が出禁を喰らって悲しんでいるので食事会(デート)に誘ってあげてください』と新しくできた食べ放題のお店の情報を一緒に渡して問題解決兼恋路の応援をしたり、あまりの疲労している様子を見かねて薬学研究部の女子生徒(胡蝶しのぶ)が試作栄養ドリンクをくれたものの味に問題ありで悶絶したり、とあるパン屋の息子(竈門炭治郎)と実家の和菓子屋のコラボのあんぱんについて話し合うなどプライベートな用事もこなしたりなどなどなど……

 

 大変忙しい一日だったのだ。

 まぁ、今日に限ったわけではないのだけれど。

 

「つ、疲れました。し、しかし自分ももう三年生。そろそろ引退の時期です。もうちょっと頑張れば終わりです」

 

 独り言をつぶやく結一郎。

 彼の言う通り、もう高校三年生であるので生徒会は任期満了で引退。自分の進路を考えねばいけないころだ。

 ここまで学校に奉仕しているのだから内申点は滅茶苦茶高いであろうことは明確。あとは勉学に励むのみなのだ。

 

「遅くまでお疲れ様、結一郎。頑張っているね」

産屋敷(うぶやしき)学園長……」

 

 身支度を整えて帰ろうとしていた結一郎に声をかけてきたのは、この学園の長である産屋敷先生。

 病弱で普段はなかなか姿を見せないので、声を掛けられた結一郎は驚いていた。

 

「学園長、お身体は大丈夫なのですか?」

「ああ、心配してくれてありがとう。今日は調子が良くてね。ちょっと顔を出してみたんだよ」

 

 身体を気遣う結一郎に、産屋敷先生は人を安心させるような笑顔で答えた。

 その表情も声も一種のカリスマに溢れており、聞く人を否応なく心酔させるような雰囲気を持っている。

 彼の言葉に胸をなでおろした結一郎はしばし足を止めて話をすることになった。

 

「結一郎、君には個性的な子たちが多いこの学園をよくまとめてくれていて助かっているよ。いつもありがとう」

「そう言ってもらえると報われた気持ちになります」

 

 産屋敷先生からの労いの言葉を貰って心が温かくなる。

 自分の苦労や努力を認められるというのは本当に気持ちがいいことなのだ。

 

「もう少しで君の生徒会の任期も終わりだね。長い務めを果たした結一郎にはご褒美が必要だと思うんだ」

「ご褒美……ですか?」

 

 生徒会長として苦労してきた結一郎にご褒美をあげようと言う産屋敷先生に首を傾げる。

 ご褒美とはいったい?

 

「うちの系列の大学の推薦状を時期が来たら出してあげよう。これがあれば優先的に合格させてあげられるはずだ」

「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」

「これくらいは何ともないさ。もちろん、一定以上の学力は求められるけれど……結一郎なら大丈夫だろう?」

 

 学園長直々の推薦状というご褒美が確定した結一郎。

 この後の自分の進路に明るい未来が見えて嬉しく思う。

 トンデモ学園の生徒会長として苦労してきたのだからこれくらい貰って当然なのかもしれないけれど、嬉しいことは嬉しいのだ。

 

「ああ、あともう一つ提案があるんだけれど、いいかな? 結一郎」

「はい、何でしょうか?」

 

 喜んでいる結一郎に産屋敷先生がそっと声をかけてくる。

 返事をした結一郎だが、ふと何か嫌な予感がよぎる。

 長く生徒会長として過ごしたせいで身についた第六感が訴えかけてくるのだ。

 なんか、重大なことが起こるぞ! と……

 

「さっきの推薦なんだけど、もしある学部を受けるならさらに受験料・入学金・授業料が免除になるんだけれどどうかな?」

「す、すごい大盤振る舞いですね! ど、どの学部なんですか?」

 

 いろいろなことが免除になると聞いて、しかし、素直に喜べない。

 何故って、そりゃあ、世の中無料(タダ)ほど高いものはないのだから。

 引きつりそうになる表情を必死で取り繕いながら尋ねたその学部。産屋敷先生はニッコリと答えた。

 

「キメツ大学の教育学部だよ。結一郎」

 

 君にピッタリなんじゃないかな。

 そう告げられて結一郎はなんて答えたらいいのか分からなかった。

 

 自分の進路の明るい未来が見えたと思ったら、就職先(ゴール)まで決められているような気がしたのだ。

 人を安心させるような表情・声音で告げてくる産屋敷先生。

 その言葉に従えば恐らく、安定した未来が待っているのだろう。

 なのに、どうしてこうも不安が消えないんだ?

 

 もしかしたら、この学園から自分は逃げられないのかもしれない。

 

 結一郎はふと、そんなことを思った。

 

 

 

 

オマケ『没になった鬼の結一郎 冒頭部分』

 

 闇に潜み、人を喰う鬼。

 その首魁である鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)は大変気難しい。

 鬼が自分の命令に従うのは当たり前。

 自分の望んだ結果を出すのは当たり前。失敗することなどありえない。

 正体の露見につながるような愚か者など不要。自身の名を呼ぶことすら許さない。

 

 そんな彼に従う鬼たちは、逆鱗に触れぬよう戦々恐々としながら過ごしている。

 そのため、無惨の怒りに触れないように彼の傍に仕えることを許された鬼に相談をする慣習ができたのだという。

 これは鬼たちから鬼舞辻無惨(ブラック上司)に対する相談を受ける『鬼の相談係』の物語。

 “覚鬼(さとりおに)”と呼ばれる鬼の物語である。

 

 以下、ダイジェスト

 

響凱「鬼としての成長が伸び悩んでいるので、強くなる以外の方法で無惨様に貢献したい」

覚鬼「なるほど、それで金を稼ぐための小説の出版ですか」

響凱「作品ができたので読んだ感想を聞かせてほしい」

覚鬼「ほぅ、どれどれ……」

(貧乏御家人の次男坊が異世界に迷い込み無双しながら立身出世して美女に囲まれてイチャイチャする話)

響凱「どうだろうか?」

覚鬼「……ちょっと時代を先取りしすぎたかもしれません。百年ほど」

 

猗窩座「鬼狩りの柱の一人を倒したぞ。これなら無惨様も誉めてくれるはず」

覚鬼「ちょっと待ってください! たぶん、それ言ったら怒られますよ!」

猗窩座「何ィ!? 何故だ!」

覚鬼「いや、あの、無惨様は『鬼なら人間を殺せて当たり前、それより青い彼岸花は見つかったのか!』って言いますよ。きっと」

猗窩座「……どうすればいい? いや、なんとかしろ、お前!」

覚鬼「えぇ!?」

 

累「ねぇ、僕の家族になってよ」

覚鬼「すみません、お断りします」

累「長男の役割は嫌か? でも、役柄としてはピッタリだと思うんだけどな」

覚鬼「あの、どの役割がいいとかそういう話ではなくてですね……」

累「仕方ないな、うん。次男の役割ならどうだろう?」

覚鬼「話を聞いてください!?」

 

童磨「いやあ、すまない。人を食べているところを信者に見られてしまったんだ」

覚鬼「またですか!? ちょっとは警戒してください!」

童磨「申し訳ない、反省しているよ。それでなんだけど……」

覚鬼「はぁ……分かりました。自分の血鬼術で記憶を消しておきましょう」

 




知らなかったのか? 産屋敷先生からは逃げられない。

次回は那田蜘蛛山です。炭治郎たち+水柱・蟲柱コンビと合流です。
サクッといきたいところ。


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その10(那田蜘蛛山編)

2019/09/25投稿


 鬼殺隊本部である産屋敷邸にて、結一郎は当主の耀哉(かがや)と対面していた。

 用件は先日遭遇した上弦の伍についての詳細な報告が第一にある。

 これまで多くの鬼殺隊士たちが返り討ちにされ、情報を持ち帰ることも出来なかった正体不明の上弦の鬼。

 そのうちの一体とはいえ、容姿・性格・能力といった詳細な情報を得ることができたのは僥倖と言える出来事であった。

 そのため、紙面による報告だけではなく当事者である結一郎が呼びだされて直接口頭報告をすることになったのだ。

 

「ご苦労だった結一郎。よく上弦の鬼の情報を持ち帰ってくれたね」

「いえ、鬼の頸を獲ることもできず、申し訳ございません」

 

 耀哉からのねぎらいの言葉に、結一郎は上弦の伍を討ち取れなかったことを詫びた。

 あと一歩というところまで追い込んでおきながら逃してしまったのは、痛恨の極みであった。

 しかし、耀哉は結一郎の謝罪を首を横に振って否定する。

 

「いいや、上弦の鬼と戦って生き残ってくれただけでも上出来だ。結一郎、奴らは強い。焦ってはいけない」

「はっ! ご温情、感謝致します!」

 

 自身の失態に優しい言葉をかけられ、感極まる結一郎。

 多くの剣士たちから慕われる当主のカリスマがそこにあった。

 一連のやり取りを含め報告を終えると、次の要件に入る。

 その用件を告げるために、耀哉は口を開いた。

 

「結一郎、以前に伝えていた選抜部隊の準備がひとまず整った。君にはこれから部隊を率いて任務に向かって欲しい」

「御意!」

 

 耀哉からの指令に深く頷く。

 説明を聞けば、選抜されたのは以前共に任務を受けたことのある佐藤・鈴木・高橋の三名だという。

 今後また人数を増やしていく予定だが、まずは結一郎と関係があり、実力も申し分のない三人を選んで結成されたのだという。

 人選について結一郎に否はない。

 柱たちから受ける地獄のような特訓にも自ら参加してくるほどの覚悟も、それを乗り越えた実力もある。

 そんな信頼できる彼らと共にする部隊の名前が耀哉から告げられた。

 

「この部隊の名前は“(あさひ)”。君はそこの“棟梁(とうりょう)”を名乗るといい」

「謹んで拝命致します!」

 

 鬼殺選抜隊“旭”

 鬼の支配する夜を終わらせる朝の光を冠した名だ。

 そしてその部隊の長という意味と、柱に並んで鬼殺隊を支える意味も含め“棟梁”と名付けられた役職に結一郎が付くこととなったのだった。

 新たな役目を与えられた結一郎は気力全開で次なる任務に挑む。

 

 次なる任務の先は那田蜘蛛山(なたぐもやま)

 多くの隊士たちが派遣され、誰も戻らぬ土地だ。

 


 

 那田蜘蛛山には複数の鬼が潜んでいる。

 普段は共食いの習性から単独行動が基本の鬼たちが集団として活動しているという事実は、普通ではない『ナニカ』がそこにいるという証左にほかならない。

 悪鬼の巣窟へ普段よりも人員を投入して足を踏み入れた鬼殺の剣士たち。

 彼らは酸鼻を極める地獄のような光景を目の当たりにしていた。

 

 ある者は人の倍はあろうかという巨大な鬼に怪力で叩き潰され、

 ある者は溶解液の満ちる繭に閉じ込められて生きながら溶かし殺され、

 ある者は毒を打ち込まれ、痛みと恐怖に震えながら体を蜘蛛に変えられて下僕にされた。

 

 そしてもう一体、母鬼と呼ばれるその女の鬼は五指から伸びた蜘蛛の糸で小型の蜘蛛を操り、隊士たちの四肢に括り付けて操り人形と化す恐ろしい術を持っていた。

 糸を括り付けられた隊士たちは本人の意思の望まぬままに仲間に向けて刃を振るわされる。

 たとえ自らの骨が砕けようと、内臓が潰れようと、その糸は無情に体を動かし続けるのだ。

 無理やり体を動かされる苦痛に自らの死を乞いながら仲間が襲い掛かってくるおぞましくも最悪な状況。

 

「マズい、マズいわ! 鬼狩りが、鬼狩りが来る!!」

 

 そんな地獄を作り出した女の鬼は、焦りを隠せずに顔を歪ませていた。

 彼女の指につながる糸はピンと強く張られており、少しでも力を抜けば体が引きずられそうなほどの力で引っ張られていた。

 多くの人間を操ってきた糸が逆に彼女を拘束する物に成り果てている。

 こんな様子では、人間を操ることなどできはしない。つまり、彼女は今、無防備な状態にさらされているのだ。

 

『そんな! なんて馬鹿力! 逆に私の糸を絡めとって力比べを仕掛けてくる人間がいるなんて!?』

 

 鬼に力比べを仕掛け、あまつさえ拮抗状態を生み出した常識知らずな人間がいた。

 その人物とは、鬼殺選抜隊“旭”棟梁・(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)。我らが翻訳係である。

 

 

 鞘に蜘蛛の糸を巻き付け、力の限り引っ張っている結一郎。

 鬼と力で張り合うという信じられないことを行えているのには理由があった。

 一つは鬼殺の剣士の必須技術である“全集中の呼吸”。

 もう一つは“反復動作”と呼ばれる技術だ。

 集中を極限まで高めるためにあらかじめ決めておいた動作を行い全ての感覚を一気に開くというもので、これを行うことで通常では出せない怪力を出すことができるのだ。

 

(りん)(ぴょう)(とう)(しゃ)(かい)(じん)(れつ)(ざい)(ぜん)!』

 

 結一郎の場合は「九字切り」もしくは「九字護身法」と呼ばれる九字の呪文を唱えることが反復動作となっている。

 本来ならば、九字の呪文に合わせて両手で九種類の印を結ぶのが正式なものだが、訓練により唱えるだけでも極限の集中状態に持っていけるようになっていた。

 もちろん、印を結んだ方がより集中しやすいのは言うまでもない。

 そんな反復動作と全集中の呼吸を使い鬼と力で張り合う結一郎の内心は、端的に言えば滅茶苦茶焦りまくっていた。

 

『うおおお! 早く! 佐藤くん、鈴木さん、高橋さん、炭治郎(たんじろう)伊之助(いのすけ)ぇぇぇ! みんな早く鬼の頸を切ってください! これ、結構キツいです!!』

 

 口には出さないものの、けっこう情けないことを考えていたり。

 森に入った際、炭治郎を庇って腕についた糸を引っ張り返したところ、相手の動きが弱まったことから逆に糸を絡めて力比べを行い動きの妨害をする作戦を決めた結一郎。

 ズバリ作戦は当たり、結果として操られていた仲間の動きも止まり、糸を操る鬼は差し向けた仲間に無抵抗に首を斬られるだけとなっている。

 ただし、欠点としてこの作戦では結一郎の負担が滅茶苦茶でかいというのを見落としていたのだけれど。

 

 お館様直々に新たな役職に任じられ、張り切った結果がコレである。

 どうも我らが翻訳係、致命的ではないものの肝心なところで詰めが甘いというか、うっかりをやらかすというか……

 今は複数の呼吸を使いこなすようになったとはいえ、彼も元を正せば水の呼吸の使い手。多少、天然が入っているのはしょうがないのかもしれない。

 

 

 なお、母鬼の頸は炭治郎君が優しく斬り落としたそうです。

 

 

 

「しっかりなさい! 諦めてはだめです!」

 

 糸を操る鬼が倒されたことで抑え込む必要がなくなった結一郎は生き残った隊士たちを相手に応急処置を施していた。

 骨折や内臓の損傷といった重傷者ばかりで一刻の猶予もない者も多い。

 その命の残り時間を少しでも伸ばそうと結一郎は奮闘をしていた。

 

「すみません、助かりました。ありがとうございます」

「無理にしゃべらないで、呼吸を整えることに集中してください!」

 

 額に脂汗を浮かべながら尾崎という長い髪を後ろにまとめた女性隊士が礼を述べる。

 それを結一郎は制止しながら、全集中の呼吸を使うよう指示を出した。

 

「これから骨の位置を戻して固定します。全集中の呼吸で骨折した箇所に意識を集中させて痛みを緩和させてください!」

「そんなことを言われても!?」

「いいからやるんです! さぁ、自分の身体の構造を意識して……そう、そこです!」

 

 呼吸法の指導を行いながら処置をこなしていく結一郎。

 痛みに呻く相手にも容赦なく、しかし彼らの命を救うために迅速に対応していく。

 

「棟梁、お待たせしました」

「よく無事に戻ってきました! 佐藤君と鈴木さんは周囲の警戒と怪我人を連れてきてください。高橋さんは自分と一緒に応急処置を!」

「「「はっ!」」」

 

 鬼を倒して戻ってきた旭の隊員三人に素早く指示を出すが、その後であることに気が付いた。

 

「って、炭治郎君と伊之助君はどうしました?」

「え、あれ!? どこにもいないぞ!?」

 

 結一郎に指摘され、佐藤が驚いた声を上げる。

 他の二人も気が付いていなかったらしく、お互いに顔を見合わせて目を見開いていた。

 

 端的に言えば、炭治郎と伊之助の二人ははぐれたのだ。

 なぜこうなったのかと言えば理由は二つ。

 一つは、旭の三人と炭治郎・伊之助の身体能力に大きな差があり、かつそれを旭の三人は自覚していなかったことだ。

 この三人は結一郎と訓練を積んで急速に実力をつけたためまだ自分たちの実力と他の一般隊士たちとの実力差を身をもって体感しておらず、そのため自分たちの通常速度で移動した結果、炭治郎たちを置き去りにしてしまったというわけだ。

 もう一つの理由は、伊之助の性格だ。

 自尊心の高い彼にとって同期の炭治郎が鬼の頸を落とし、増援の旭のメンバーは誰もが自分よりも実力が上という環境は我慢できるものではない。

 プライドが刺激された彼は置いて行かれたことを良いことに獲物を求めて鬼を探しに別行動を開始したというわけである。

 当然、彼一人を置いていけない炭治郎も後を付いていっている。

 

「はぁ……事情は分かりました。鬼殺隊も仲間同士で動く訓練にもう少し力を入れるべきですね」

 

 おおよその事情を察してため息を吐く結一郎。

 鬼殺隊も人手不足から単独任務が多く、複数人で動くことに不慣れであるということが浮き彫りになった形だ。

 このこともお館様に報告せねばならないなぁ、と、考えながら伊之助と炭治郎を探しに向かおうとする結一路は、ふと人の気配を感じてそちらに顔を向ける。

 視線を向けた先から猛スピードで向かってくる人影。

 

「派遣された柱は冨岡(とみおか)師匠、あなただったんですね!」

「ああ。問題はないか、結一郎?」

 

 水柱・冨岡義勇(ぎゆう)がその姿を現す。

 鬼殺隊本部になんとかたどり着いた鎹鴉(かすがいがらす)により山に十二鬼月(じゅうにきづき)がいることが報告され、その対応のために柱が派遣されたのだ。

 状況を確認する義勇に結一郎は炭治郎たちのことを告げる。

 

「先ほど共闘していた隊士二名とはぐれてしまいました。一名は猪の被り物をしており、もう一人は箱を背負ったあなたと同門の水の呼吸の使い手です」

「俺と同門?」

 

 結一郎の言葉に不思議そうな顔をする義勇に近づき、そっと耳うちをする。

 

「あなたの師である鱗滝様のところに預けた彼です。二年前の……と言えばわかるでしょうか?」

「結一郎、お前……」

 

 結一郎が自分の秘密にしていることについて事情を把握しており、それに配慮して動いてくれていることに驚く。

 どのようにしてその事情を知ったのか義勇は分からなかったが、自分に悪いようにはしてくれていないと理解した義勇。

 彼は即座に自分のすべきことへと意識を切り替えた。

 

「わかった。その二人は見つけたら俺が何とかしよう。結一郎は怪我人の救護を頼む。(かくし)の部隊ももうすぐ着くはずだ」

「承知しました、冨岡師匠。お気をつけて!」

 

 事後処理部隊である隠たちもこの場に向かっていることを告げ、護衛と指揮を結一郎に任せた義勇は森の奥へと去っていく。

 その姿を見送った結一郎も、自分の役目をこなすため仕事に戻った。

 まずは怪我人を隠に預けてちゃんとした治療をしてもらわねば!

 これ以上仲間を失わないためにも気合が入る結一郎。

 

 

 そんな意気の高さは隠の部隊と合流して一瞬で消え去ったのだけれど。

 

「か、カナヲちゃん!? なぜ、ここに!?」

 

 隠を指揮する蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶの継子、栗花落(つゆり)カナヲの姿を見た結一郎は驚愕で開いた口が塞がらなかった。

 彼女がここにいるなど思ってもいなかったのだから。

 

「……あ、お菓子の人」

「自分の覚えられ方がそれというのも複雑な気持ちになりますが、置いておきましょう! カナヲちゃん、君がここにいるということはしのぶさんもこちらに来ているということですか!?」

 

 こちらに気が付いたカナヲの自分への認識に脱力しかけながら、気になっていることを尋ねる結一郎。

 その問いにカナヲは無表情で返事をする。

 

「師範なら一緒に来てます。今は山の中で鬼を狩るために別行動です」

「そうですか……これはマズいことになりました」

 

 返事を聞いて頭を抱える。

 まさか二人も柱が派遣されてくるとは予想外であった。

 結一郎の脳裏には今最悪の状況が浮かび上がっている。

 懸念していることは鬼の妹を連れた炭治郎とその関係者である義勇の事だ。

 

 鬼の妹について当事者である義勇が竈門(かまど)炭治郎・禰豆子(ねずこ)兄妹を見つけただけならば何も問題はない。

 最悪なのはそこにしのぶが竈門兄妹と出会った場合だ。

 鬼殺隊士が鬼を見逃す理由などあるわけもなく、実力差も考えれば禰豆子はあっという間に殺されてしまうだろう。

 かといって、その場に義勇がいれば何とかなるかと言えば、何とかならない可能性の方が高いと思えた。

 

「冨岡師匠の口下手は今に始まったことじゃないですが、こうも期待できないと悲しくなります!」

 

 義勇が竈門兄妹を庇い、しのぶに事情を説明して刃を引くように上手く説得する。

 そんな光景はまっっっっったくもってイメージできなかった。

 むしろ、義勇が変なことを言い出してしのぶが煽り返すように返事をしている方がしっくりくる。

 柱同士が刃傷沙汰とか勘弁してほしい事態だ。

 

「佐藤君、鈴木さん、高橋さん! 隠の方々の護衛は任せました! 自分は行かねばならないところがあります!」

 

 現場を部下に任せて駆けだす結一郎。

 焦燥感が焼き付いて離れなかった。

 

 

 事実、結一郎の懸念は当たっていた。

 下弦の伍・(るい)を倒し、竈門兄妹と再会した義勇のところへしのぶが乱入。

 禰豆子を狙うしのぶとそれを庇う義勇で小競り合いが起きていたのだ。

 

「冨岡さん、これは明らかな隊律違反ですよ!」

 

 そして現在、義勇はしのぶを木を背にするように押さえ込み拘束することに成功していた。

 両腕を頭の上にして片手で押さえ、暴れられないよう自分の身体を密着させて動きを封じている。

 同じ柱でありながらこうも一方的な展開にできたのは、男女の体格差も当然ながら、普段の訓練の差が出ていた。

 結一郎を継子にしたことで、他の柱と手合わせすることが多くなった義勇は対人戦という意味ではしのぶよりも一日の長があったのだ。

 

「鬼殺の妨害をするなんて、どういうおつもりなんですか?」

「これには訳がある。だが、上手く説明できるか……」

「口下手ですものね、冨岡さんは」

 

 至近距離で睨み合う二人。

 今も一瞬でも気を許せば攻守が入れ替わるような攻防を水面下で繰り広げていたりするのだ。

 膠着状態だ。

 

「冨岡師匠! しのぶさん! お二人ともお待ちください! …………あっ!」

「む、結一郎か!」

「ああ、結一郎さん。助けてくださいませんか? って、どうしました?」

 

 そこへ慌てた様子で駆けつけた結一郎。

 がしかし、二人の様子を見て硬直。どこか気まずそうに目を逸らした。

 結一郎の不可解な様子に義勇としのぶは二人そろって首を傾げる。

 そしてその疑問は結一郎の口にした言葉で氷解した。

 

「二人がそのような関係だとはつゆ知らず……ご安心ください! いま見たことは口外しませんので!」

「えっ!?」

「は、はぁ!?」

 

 結一郎の言っている意味が一瞬理解できず、脳がその意味を理解したときに自分たちの姿を客観的に考える余裕ができた。

 

 見目麗しい女性がこれまた見目麗しい男性に木を背にして迫られ、顔がくっつきそうな距離で何事かを話している。

 そう、いわゆる『壁ドン』と言われているやつだ。

 大正時代にその概念があるかはともかく、客観的に見れば義勇がしのぶに迫って愛をささやいているようにも見えなくはない。

 つまりは、結一郎に男女の関係があると誤解されたのだ。

 

「あ、あの、結一郎さん? これはですね――」

「伝令!! 伝令!! カァァ! 炭治郎・禰豆子両名ヲ拘束。本部ヘ連レ帰ルベシ!!」

 

 またタイミングの悪いことに、しのぶが弁明をしようとした頃合いに鎹鴉から伝令が届いて言葉を口にすることができなかった。

 その伝令を聞いた結一郎は、この機に乗じて立ち去ろうとしていたり。

 

「あ、そういうことですので……お邪魔致しました、どうぞごゆっくり!」

 

 自分は炭治郎と禰豆子を確保してきます! と、あっという間に立ち去っていく。

 残された二人は顔を見合わせ、数瞬して慌てて結一郎の後を追いかける。

 

「ちょっと、冨岡さん! 結一郎さんに誤解されたじゃないですか! どうしてくれるんです!?」

「俺に言うな! 早く追うぞ!」

 

 文句を言うしのぶに応じることなく、走り出す義勇。

 彼にはそうしなければならない理由があることを知っていたのだ。

 

「ねぇ、ちょっと、結一郎さん速くないですか!?」

「結一郎は五つの呼吸法に忍びの技術を身に着けているんだぞ。遅いわけがないだろう」

「それを早く言ってくださいよ!」

 

 柱たちに鍛えられまくった結果、結一郎の移動速度は鬼殺隊の中でもトップクラス。

 追いつくのは並大抵のことではない。

 自らの誤解を解くために、柱二人は今日一番の本気を見せたのだった。

 柱の本気ってそういうところで見せるものだっけ?

 

 

 なお、コミュニケーション能力の高い結一郎の誤解を解くことは簡単であったが、うっかりそのことを口外しないように告げるのを忘れていたせいで、一連の流れが他の柱にも伝わることになったりした。

 もちろん、他の柱からからかい倒されたのは言うまでもない。

 

「待ってください、結一郎さん! 誤解なんですよ!」

「いえいえ、分かってますとも! ご心配なく~!!」

「結一郎、話を聞け! 俺が胡蝶に無理やり迫ったわけじゃないんだ」

「ちょっと、その言い方はまた誤解されますよ!」

「……仲が良いんですね、お二人とも。お幸せに!」

「ほ、ほら、冨岡さん! あなたのせいですよ! どうしてくれるんですか!?」

「……俺は悪くない」




以前に話に上げていた選抜隊の名前が決まりました。
アイデアをくれた方々に感謝です。

他人をフォローしている間は良いけれど、単独で行動するとわりとうっかり属性の結一郎君だったり?
水の呼吸だもの、是非もないよね?

しかし、翻訳係はやっぱりしのぶさんとか義勇さんとかと絡めてる方が楽しいなぁ……

ミニ次回予告
「逆転柱裁判 ~弁護士・和結一郎~」

風柱「この鬼が人を喰らうことをコレで証明してやる!」
結一郎「ちょっと待った!」

※この予告には多少誇張された表現があります。


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その11(柱合裁判編)

2019/10/07投稿

登場人物が多くなると大変でした。


 ――柱合裁判

 

 鬼殺隊の最高幹部である柱たちによる隊律違反を犯した隊士を裁くために行われる裁判だ。

 竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)は今まさに判決を待つ身としてこの場にいるのだ。

 後ろ手に拘束された姿はまさに罪人。

 鬼を狩り人を守ることを目的としている鬼殺の剣士が鬼を連れて歩いていた事実は背任行為にほかならず、重大な隊律違反と言うほかない。

 実際、その場にいる柱たちの反応は厳しいもので――

 

「裁判の必要などないだろう! 鬼を庇うなど明らかな隊律違反! 我らのみで対処可能! 鬼もろとも斬首する!」

「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

 

 即時処刑を主張する炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)に、音柱・宇髄(うずい)天元(てんげん)が同調する。

 この場には風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)を除いて八人が揃っているが、誰一人として炭治郎に味方をする者はいない。

 岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)、蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)も即時処刑に賛成。

 反対意見を述べる蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶと恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)も『お館様の判断を聞いてから』という理由であり、せいぜい中立程度の立場だ。

 霞柱・時透(ときとう)無一郎(むいちろう)にいたっては欠片の興味も示していなかったりする。

 唯一味方をしてくれそうなのは、水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)くらいのものだが、拘束はされていないものの彼も隊律違反を犯した立場であり、発言力は低いのが現状だ。

 もっとも、義勇の口下手は皆の承知の事実であるので、発言力があったところで正面から庇って力になってくれるかは疑問なのだけれど。

 

「皆さま、炭治郎君の処刑に自分は断固反対させて頂きます!」

 

 そんな中、一人炭治郎を庇うのは(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)だ。

 お館様の命令で炭治郎の内偵調査をしていたため、他よりも事情を知っている結一郎は必然的に彼を弁護せざるを得なかった。

 結一郎は真正面から柱と対峙して見せる。

 

「何故そいつを庇う結一郎。お前がそいつを庇う理由が理解できないが? 隊律違反の重大さも分からない馬鹿になったか?」

「罪人を庇うからにはお前にも責が及ぶ……それを分かっているのだな?」

 

 そんなことなど知らない小芭内と行冥の二人が結一郎に不審の目を向けてくる。いや、彼らだけではない。その場の全員が結一郎へ視線を向けていた。

 

「よもや、その少年が連れている鬼は人を襲わないなどと言うのではあるまいな!?」

「ええ! “そうだ”と言わせていただきます、煉獄師匠!」

 

 人を襲わない保証ができるのかと問う杏寿郎に、結一郎は力強く肯定する。

 その返答はいささか予想外であったか、面食らったように一瞬驚愕が場を支配する。

 そして次には張り詰めたような厳しい雰囲気が場を満たした。

 当然、その矛先は結一郎だ。

 

「そこまで派手に主張するからには、それなりにこちらを納得させられるだけの根拠があるのだろうな?」

 

 天元がその圧を強めて結一郎に返答を強いる。

 結一郎はその圧に臆することなく、堂々と返事をしてみせた。

 

「もちろんあります!」

 

 なんの躊躇いも見せず即答する様に一同は黙らざるを得ない。

 彼らに畳みかけるように結一郎は一つの事実を告げる。

 

「自分はお館様の命を受けて炭治郎君のお目付け役をしてました」

「なんと! お館様の命でか!?」

 

 結一郎の告げる言葉に杏寿郎が驚きの声を上げる。

 彼の言葉はほかの柱たちの代弁でもあった。

 

「そうです。そしてその目的は……言わずとも分かりますね?」

「むぅ……」

 

 今回の件について当主・産屋敷(うぶやしき)輝哉(かがや)の明確な意思が存在していることをほのめかされては、下手に独断で事を進めるわけにもいかない。

 悩ましさに自然と口からうなり声が漏れ出る。

 納得は出来ないが、今は矛を収めるしかない。しかし不満が消えるはずもなく。

 

「ふん! 俺たちにも秘密でお館様から直接命を受けるとは信頼されているようで何よりだ、結一郎。いつの間にかずいぶんと偉くなったようだな? 何せ柱の俺たちにも秘密の任務を任せられるんだからな」

 

 多少の不満と嫉妬を含んだ八つ当たりのような嫌味を小芭内が投げかけてくる。

 自分の弟子が知らないうちに当主から特別な任を与えられていたと知り複雑な心境がこぼれ出た言葉であった。

 ネチネチとしたある意味いつも通りな彼の言葉に結一郎はあえて笑顔で返答して見せる。

 

「えぇ、そうなのです! この度、鬼殺選抜隊“旭”の“棟梁”を拝命致しました。今回の会議から正式に参加させて頂きます!」

 

 皆様、改めて宜しくお願い致します。と、にこやかに告げられて小芭内は布で隠された口元がヒクつくのを感じた。

 「偉くなったな」と嫌味を言ったら「偉くなったんです」とそのまま肯定されるとは思いもしない。

 事実、今までは会議を円滑に進めるための特例で参加が認められていたのだが、今ならば正式な立場で参加できるのだから。

 柱と棟梁は個の最高戦力と集団での最高戦力の長という違いはあれど、格としては同格である。

 弟子からの思わぬ反撃を受けてさらに言葉を重ねようと思った小芭内であったが、杏寿郎や蜜璃が結一郎の昇進を祝う言葉を口にし始めたため機を逃してしまう。

 どうしてくれようと考えていたところに、彼とは別に声を上げる者がいた。

 柱のだれかではない。現在、咎を待つ身である当事者・炭治郎である。

 

「まっ、ゲホッ! まってくだ……ゲホゲホッ!!」

「水を飲んだ方がいいですね」

 

 結一郎が自分を庇って孤立しているのを黙って見ていられず声を上げようとした炭治郎だが、前回の激しい戦闘のダメージから声がでなかった。

 すかさず、しのぶが小さな瓢箪(ひょうたん)に入った鎮痛薬入りの水を飲ませて上げた。

 一息ついた炭治郎は、自らの主張をハッキリと告げる。

 

「俺の妹は鬼になりました。だけど人を喰ったことは無いんです! 今までも、これからも、人を傷つけることは絶対にしません」

「だ、そうだが? 結一郎」

 

 炭治郎の言葉を受けて天元は彼を庇っている結一郎に視線を向ける。

 結一郎はその意をくみ取って返事をする。

 

「はい。その点についても把握しております! 今までの経歴で人を襲っていないことはもちろん、将来の危険性を確認するためにいくつか実験と監視はしておりましたので」

「結一郎さん、あの晩に禰豆子(ねずこ)のところに血の匂いがしていたのは……」

「そうです、炭治郎君。きみには申し訳ないことをしましたが、禰豆子さんが本当に人を襲わないか勝手ながら確認をさせてもらいました」

 

 これまでの経歴を把握しており、将来の危険性についても考慮していると述べる結一郎。

 その言葉に心当たりがあった炭治郎はその点について尋ねれば、結一郎は否定することなく首を縦に振って答えた。

 結一郎がいない間も、お供の猿・闘勝丸(とうしょうまる)が監視していたことも告げて謝罪を口にする。

 仲間である鬼殺隊士を密かに監視していたのだ。正直気分は良くはない。

 

「もういい、そいつの事は分かった。お館様がいらっしゃるまでとりあえず保留でいいだろう。だが、そこにいる冨岡についてはどうするね? よりにもよって柱が隊律違反とは……どう処分する? どう責任を取らせてどんな目に遭わせてやろうか」

 

 話題を変えたのは小芭内だ。

 炭治郎のことは結一郎が保証するというのでひとまずお館様が来るまで置いておくことにして、同じく隊律違反をした義勇の処分について話題を上げる。

 もとより義勇のことを嫌っているせいか、その口調はとげとげしいものだ。

 

「それこそお館様が来てからの判断でしょう。柱の処分を決められるのはさすがにお館様以外にはいらっしゃらないかと」

 

 すべてはお館様の判断待ちだと反論するのはしのぶだ。

 その言はもっともであり、小芭内は苛立たし気に眉をひそめた。そうして、その怒りの矛先を結一郎に向けて口を開いた。

 これ、八つ当たりという。

 

「それで? 結一郎、お前は冨岡についてはどう思う? そこの小僧と同じように庇いだてするのか?」

 

 先ほどは炭治郎のことを庇った結一郎に義勇の隊律違反について判断を聞く。

 同じように庇うのかと問われ、結一郎は不思議そうな顔をして告げる。

 

「え? 何故自分が冨岡師匠を庇わないとダメなんです?」

 

 理解できません。と、首を横に振る結一郎に場の空気が凍る。

 特に、義勇はその言葉を聞いた瞬間ものすごい勢いで結一郎に顔を向けた。

 信じられないものを見たかのような顔をして。

 あまりにもあんまりな言葉にしのぶがおずおずと問いかける。

 

「何故って……結一郎さん、それでいいんですか?」

「ええ、いいんですよ! 『自分は口下手だから、結一郎に任せておけば大丈夫だろう』なんて考えているお師匠さんですから!」

 

 なんでこっちに任せっきりなんだゴルァ! という副音声が聞こえてきそうな結一郎の言葉に皆の視線が義勇に向けられる。

 そのため、彼の言葉にギクリと身を強張らせるのをバッチリ見られてしまっていたり。

 

「冨岡さん、せめて自己弁護くらいはご自分でやらないと」

「いや、しのぶさん。弟弟子が大変な時に一言も喋らない時点でマズいと思います!」

 

 しのぶの忠言に被せるように結一郎が文句を言う。

 たしかに今回の件では発言力は低くなっているのは間違いないだろうが、それでも発言しなくてよいわけではないのは明白なわけで。

 むしろ、発言力が低くなっているからこそ頑張って発言しなければいけないのではなかろうか?

 口下手な義勇にそれを求めることは酷な話だと結一郎も理解はしているが、それでも発言なしはなぁ~、というのが結一郎の偽らざる気持ちであったりする。

 生殺与奪の権を他人に握らせるなよ!

 

 ちょっとイラッとした結一郎は、この際なので思いっきり爆弾を放り込むことに決めたのだった。

 

「まったく! 那田蜘蛛山での出来事のせいでしのぶさんと顔を合わせづらいからって、一人離れたところに立っているのはみっともないですよ!」

「なっ!?」

「ちょっと!?」

 

 那田蜘蛛山での出来事を蒸し返されて目を見開く義勇と(ついでに)しのぶ。

 何のことか分からない他の面々は当然結一郎に詳細を尋ねた。

 

「えっと、冨岡さんとしのぶちゃんに何かあったの?」

「ええ、あったんですよ。自分が思わず二人が男女の関係だったのかと勘違いするような出来事が」

「え!? 本当に!? ぜひとも聞かせてほしいわ!」

 

 色恋沙汰の匂いを感じた蜜璃が結一郎の計算通り強く食いついてきた。

 他の柱たちも何か面白いことが始まったと静聴の様子だ。

 いつの時代もスキャンダラスな話は皆興味が湧くのである。やられた方はたまったものではないが。

 

「結一郎さん、それは口外しない約束だったはずです!」

「そんな約束はした覚えがありませんので! していたとしても、お二人が男女の関係だったことを言わないという話であって、それが誤解だというならまた別の話です!」

「また詭弁を――」

「それでそれで!? 山の中で二人に何があったのかしら!?」

 

 しのぶの抗議は蜜璃によって押し流されてしまい、止められる様子はない。

 それに乗じて結一郎はノリノリで話し始めていた。

 ……彼もストレスが溜まっているんだ。暴走の一つや二つしてもおかしくはないよね?

 

「ちょっと言葉だけでは説明しづらいですね……蜜璃師匠、伊黒師匠、ちょっとお手伝いをお願いいたします」

 

 言葉だけの説明では不十分だと、蜜璃と小芭内で当時の再現をしようとする。

 なお妨害しようとした義勇としのぶは、状況を面白がった天元と上手く彼に乗せられた杏寿郎によって邪魔されていたり。

 そうして結一郎の指示に従って那田蜘蛛山での義勇としのぶの状況が再現されたのだ。

 

 ただし、義勇の役割が蜜璃。しのぶの役割が小芭内で。

 

「キャー! たしかにこれはキュンキュンする状況ね!」

「おい、結一郎。なんでこの配役にした!」

 

 男女逆ながら壁ドンのシチュエーションに乙女心が爆発している蜜璃。

 対して小芭内は、好意を寄せている蜜璃と密着していることに喜びを覚えながらも自分がしのぶ(女側)の役をさせられたことに怒りを滲ませている。

 結一郎の答えは無情なもので。

 

「伊黒師匠の方が身長が低かったので……」

「~~~~ッ! そんなに違わないだろうが!」

 

 小芭内と蜜璃の身長差は五センチメートル。たかが五センチ、されど五センチ。

 この身長の差で男としての扱いをされなかったのだから文句も出ようというもの。

 

「伊黒師匠は甘露寺師匠のお相手は嫌でしたか?」

「誰もそんなことは言ってない!」

「伊黒さん、私じゃ嫌……だったかしら」

「そんなことはない。俺がお前を嫌うことなど……」

 

 結一郎の言葉と蜜璃の表情に翻弄されて、もはや義勇のことなど頭から吹き飛んでいる小芭内。

 横を見れば義勇としのぶは先の那田蜘蛛山での出来事について言い合いをしており、なんともカオスな状況であった。

 

「うまいことやったじゃねえか、結一郎」

「……分かった上で乗ってくれた宇髄師匠には感謝してます」

 

 この状況を引き起こした結一郎にそっと近づき耳うちをする天元。

 彼は結一郎が話を逸らすために場をかき乱したことを見抜いていたのだ。

 見抜けたのは元忍びとしての観察力か? いや、妻帯者の経験・貫禄というやつか?

 

「結局、お館様がいらっしゃるまで待つしかないからな。暇つぶしさ。ところで、結一郎」

「はい、何でしょうか?」

「那田蜘蛛山での話、あれはお前が意図的にやったのか?」

 

 那田蜘蛛山で義勇としのぶの関係を誤解していた、というのは今回のように場の意識を逸らすためにわざとやっていたのかを問う天元。

 

「……フフッ」

 

 結一郎は笑顔で笑ってみせたのだった。

 いや、どっちなんだよ!?

 

『そういえば、さっきから喋ってるこの人。誰だっけ?』

 

 ちなみに、先ほどから全く会話に参加していない無一郎は結一郎のことを思い出せずにずっと首を傾げていたのだった。

 うーん、カオス。

 

 

「オイオイ、何だか騒がしくなってやがるなァ」

 

 混沌とした状況に遅れてやってきたのは風柱・不死川実弥だ。

 隠の制止を無視して禰豆子の入った箱を片手に現れた彼は砕けた空気に苛立ちを隠せなかった。

 

「一体全体どういうつもりだァ? 隊律違反の隊士! それに連れられた鬼! そんな許しがたい奴らを前に何をゴタゴタと喋ってやがる!」

 

 殺気を露わに日輪刀に手をかける実弥。

 抜刀し、手にした箱に刃を突き立てる……直前、結一郎が待ったをかけた。

 

「不死川師匠! 勝手をされては困ります!」

「結一郎、テメェ!」

 

 とっさに駆け出し、実弥の腕を押さえて刀が突き立てられるのを防いだ。

 止められた実弥は結一郎を睨め付け吠えるように怒りをぶつける。

 

「なんでテメェがこの鬼を庇うんだァ? 俺を納得させるような理由があるんだろうなァ?」

 

 自らの行動を邪魔された実弥は、当然その理由を問う。

 その質問に結一郎は困った顔になってしまった。だって、その質問――

 

「あの、すみません。師匠。それ、さっき話したばっかりなんですよ」

「あぁ!?」

 

 つい先ほど説明を終えたばかりの話なのだ。

 正直もう一回同じ説明をするのかと思うと気が進まないわけで。

 これについては禰豆子の箱を取りに行って遅れてきた実弥が悪いのだ。

 まさか、『俺がいない時に勝手に話を進めるな』と、文句を言うわけにもいくまい。

 

「チッ! 後からちゃんと説明を聞かせてもらうからなァ! で、この状況はなんだよ?」

 

 結一郎が炭治郎たちを庇っていることは、後から説明を聞くと一旦脇によけて今の状況について聞く実弥。

 遅れてやってきたら義勇としのぶは何か言い争いをしているし、小芭内は蜜璃に拘束されていたのだ。

 はっきり言って、訳の分からない状況なのは間違いない。

 なので、そのことについても聞いてみたのだが……

 

「えっと、不死川師匠。すごい下らない話になりますが……聞きます? 本当に」

「……本当に何があったんだよ。てめえらァ!」

 

 説明すると長くなる上に割と中身のない話をしなければならないわけで。

 端的に言えば、もう一度この話をするのが面倒くさいのだ。

 

 状況が分からず混乱が深まるばかりの実弥。

 しかし、残念ながら問い詰める時間はなかった。

 

「お館様のお成りです!」

 

 当主・産屋敷耀哉の到着を告げられ、すぐに場を移動して傅く体勢になる。

 他の柱たちと並びながらも、状況が分からない心のモヤモヤは積もるばかりだった。

 ちょっと遅れて話題に入れなかっただけで、決して実弥がハブられているわけではないので悪しからず。

 


 

 そうして始まった柱合裁判。

 それはやはりと言うべきか穏やかなものにはならなかった。

 炭治郎・禰豆子の兄妹を容認する耀哉に、行冥・天元・小芭内・杏寿郎・実弥の五人の柱が反対意見を述べた。

 耀哉は元柱の育手(そだて)、炭治郎と義勇の師である鱗滝(うろこだき)左近次(さこんじ)の手紙を公開して禰豆子が二年以上もの間人を喰っていない事実、また禰豆子のために三人もの人間が命を懸けている事実を突きつけた。

 『人を襲わない保証が無い』という反対意見に『人を襲う保証がない』こと。そして、禰豆子の事実を否定するために同じく命を懸ける覚悟を問うたのだ。

 さらに、炭治郎が鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)と遭遇した事実も告げ、炭治郎が鬼舞辻へつながる手がかりになるかもしれないという考えを見せたのだった。

 

 耀哉の説得により柱のほとんどが一応は納得した表情を見せるなか、一人実弥は唇が切れるほどに歯を噛み締めて不満を表していた。

 

「人間ならば生かしておいてもいいが、鬼は駄目です! 承知できない!」

「不死川師匠! 何をするおつもりです!?」

 

 再び刀に手をかける実弥に、結一郎が止めに入る。

 何をする気か尋ねられ、実弥は自分の意図を語った。

 

「何って、証明だ! 鬼という者の醜さを!! 鬼が人の血肉を前にして耐えられるはずがねェ!!」

「待ってください、不死川師匠!」

 

 自らの腕に刃を当てて血を流そうとする実弥。

 その彼を結一郎は必死に止めた。

 なぜなら――

 

「それ、もうやりました! 禰豆子の前で稀血を見せても耐えていたのは確認済みです!!」

 

 もう実証済みなのだから。

 

「もうやった……だとォ?」

「はい! 以前、自分のお供が師匠の血を貰いに来たことがあったと思うのですが……」

「なっ!? あの時の! そのために使ってやがったのか!?」

 

 自分の血を使って禰豆子が人を襲うことを証明してやろうとしたら、すでに人を襲わなかったと言われてしまうとは。

 しかもその証明に使われたのは、今証明に使おうとした自分の血なのだからやるせない。

 なんだか今日はやろうとすることが片っ端からスキップされているような感じがする実弥であった。

 

「結一郎、お前は……」

「はい。お館様の命で炭治郎及び禰豆子について内偵調査をしておりました。なので、もし禰豆子が人を襲うようなことがあれば、自分も腹を切って詫びましょう」

 

 自分の報告でお館様が判断を間違えたとなれば、自分も責を負わねばならないと覚悟を見せる結一郎。

 また彼らを庇うために命を懸ける者が現れたことで、彼らを認めないと反対出来るものはいなくなったのだった。

 

 

「それはそれとして、何勝手に人の血ィ使っとんじゃ、テメェは!」

「使い道も聞かずに渡したの師匠ですよね!?」




なんだか前回から人の恋愛関係にちょっかいをかけるキャラになったような気がする結一郎君でした。

翻訳係コソコソ話
 実は早めに到着していたお館様。柱たちの会話が面白くてちょっと聞き耳を立てていた……って言ったらどうします?


ミニ次回予告
宇髄「やっぱり、俺が一番結一郎に影響を与えてるな。派手に!」
その他師匠s「「「「「「あぁ!?」」」」」」」

小ネタ集になる予定。
次回もお楽しみください!


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その12(小ネタ集)

一番のお師匠様?

 

 柱合会議が終わり、当主の産屋敷(うぶやしき)耀哉(かがや)が退出した後も結一郎を除いた柱たちは解散せずに暫く話を続けていた。

 多忙で普段はなかなか一堂に揃うことが少ないだけに、すぐに解散するのは憚られたのだ。

 今回から正式参加となった結一郎も後からまた合流する予定で、今は証言をするために参加した村田隊士を送っている途中である。

 結一郎不在のまま柱たちは会話を進めている。

 彼らの話す内容は多岐にわたり、今回の柱合裁判の原因となった竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)についてのそれぞれの所感や任務先での出来事の報告といった真面目なものから、新しくできた店や流行のカフェについて情報交換といった俗な話もしていたりする。

 もっとも、鬼殺隊内での恋愛事情について話題が飛んだ時には某柱がピキピキしていたり、某柱がお先に失礼しようとして皆から止められたりしたりもした。

 そうして話をする中で、ふと音柱・宇髄(うずい)天元(てんげん)結一郎(ゆいいちろう)について話題を移す。

 

「しかしまぁ、結一郎も俺の教えがしっかり身についてきているようだな。上弦の鬼との戦いでも、与えられる任務でもその影響が見て取れるしな!」

 

 俺の影響が派手に出てるぜ、派手に! と、どこか誇らしげな顔で告げる天元。

 実際、上弦の伍・玉壺(ぎょっこ)との戦いでは爆薬やクナイを使って戦っているし、お館様から直接味方の内偵調査を依頼されるなど、忍者化が著しいといえる。

 自慢するような天元に周囲は「確かにそうだよなぁ」と、頷いていたのだが、次の天元の言葉に強く反応することとなる。

 

「てことはだ、俺が結一郎の一番の師匠だってことだよな。派手に!」

 

 俺が一番の師だという宣言に、他の師匠たちはピクリと体を揺らす。

 正直言って、その言葉は聞き捨てならないものだ。

 結一郎が複数の師から教えを受けているのは周知の事実だが、その師匠たちからすればたった一人だけの継子である。

 そのため、内心では自分が「一番の師匠」という意識があっても不思議ではない。

 師匠としてのプライドと言うヤツだ。

 そうとなれば、このまま天元に言わせたままにはしておけるはずもないわけで。

 対抗心を刺激された師匠たちの中で、最初に口火を切ったのは意外にも口下手なはずの水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)だった。

 

「……結一郎は元々は水の呼吸の使い手だ。当然、俺の一番弟子だ」

「だから何だってんだァ? なら一番教えられることが少ねェってことだろ?」

「むしろ、冨岡さんの方がお世話されてますよね?」

 

 まぁ、一瞬で論破されるお粗末さではあったが。

 口下手にしては頑張ったよ。うん。

 

 風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)と蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶの言葉でメタメタにされて落ち込む義勇をよそに話は進む。

 天元に反論する二番手は、鬼殺隊最強の男、岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)だ。

 

「特殊技術を教えているという意味ならば私も反復動作という技術を教えている。先の那田蜘蛛山でも活用したらしい。ついでに岩の呼吸も習得させている」

 

 大変優秀な()()継子だと、静かに対抗心メラメラで告げる行冥。

 お前は自分の呼吸法を教えてないよな? と、マウントを取りに行くあたりかなりの本気度が伺える。

 思わぬ人物の参戦に驚くものの、その程度で止まるような人間が柱になれるはずもない。

 続いて炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)が己の主張を声にした。

 

「なるほど! たしかに俺は特殊技術は教えていないな。しかし、その分呼吸法の指導はしっかりとしたぞ! 彼のお供の闘勝丸(とうしょうまる)の指導も任されているしな!」

 

 水の呼吸と並ぶ古い歴史を持つ炎の呼吸。

 その歴代の柱を輩出してきた名家・煉獄家に伝わる呼吸の指導ノウハウを誇る杏寿郎。

 最近では父と弟が協力してくれるようになり、より効果的な修練法を作り出したりしていることもあって鼻高々といった様子だ。

 ついでとばかりに、他の師には任されていない結一郎のお供への呼吸法の指導までしていることをほのめかしておく。

 熱烈な彼の主張に負けじと口を開いたのは実弥だ。

 

「ハッ! 技術だのなんだのとズレたこと言ってんなァ。大事なのは剣の腕だろうが。その点で言えば俺はみっちりと仕込んでやってるぜェ?」

 

 一番大事なのは剣の腕だと主張する。

 実戦経験を重視するのは、全集中の呼吸も習得せずに個人で鬼を狩っていた彼の過去が影響しているのだろうか?

 

 とりあえず、また真剣で打ち込み稽古しているらしいので、後ほどしのぶからのお説教不可避であろう。南無……

 堂々と己の主張をする面々の隣で一人落ち込んでいるのは恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)

 彼女は他の柱と自分を比べた結果、結一郎への影響力が少ないと落ち込んでいたのだ。

 

「どうしましょう。私、すごい技術も教えていないし、呼吸法も使ってもらえてないわ! 私って、駄目な師匠なのね……」

「そんなことはない! 甘露寺の教えはちゃんと結一郎の身になっているはずだ」

「伊黒さん……」

 

 すかさずフォローの言葉をかけたのは蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)だ。

 好意を寄せている蜜璃が落ち込んでいるのを見て放っておけるはずもなく、自然と慰める言葉をかけていた小芭内。

 好感度ポイントの稼ぎどころを逃さない、隠れた鬼殺隊恋愛ガチ勢でなかろうか?

 

「そうかしら?」

「そうに決まっている。呼吸法が使えないというなら、これから覚えさせればいい。違うか?」

「そう、ね。そうよね! もっと頑張って覚えてもらえばいいのよね!」

 

 小芭内に励まされて気を取り直した蜜璃。

 彼女は今、結一郎への指導に熱意を燃やしているのだった。

 あの、“頑張って”という言葉は誰にかかってるんですかね? 蜜璃本人? もしや、結一郎だろうか?

 

 また、結一郎への指導熱が刺激されたのは彼女だけではなかった。

 これまでの話を聞いて、自分が「一番の師匠」だと思ってもらおうと考えた他の師匠たちも張り切っていたりする。

 結一郎不在の間に、こうして修業が厳しくなることが決まったのだった。

 

「柱と同格に昇進したはずなのに……結一郎さん、ざま、コホン。可愛そうですね」

 

 ニコニコ顔で告げるしのぶ。

 まぁ、昇進したからといって今までの師弟関係がなくなるわけじゃないのだから仕方ない。

 そんな顔であった。

 頑張れ、結一郎!

 


村田さんと翻訳係

 

 柱合会議を終え、証人として呼ばれた村田を送る結一郎。

 濃い面子に囲まれ疲労した村田の姿に同情した結一郎は、その苦労を労わるために声をかけた。

 

「会議へのご参加ご苦労様でした。この後はごゆっくりお休みください」

「あ、ありがとうございます。毎回これに参加していたなんてすごいですね」

「いえ、慣れましたから」

 

 疲れた笑みを見せる村田と結一郎。

 柱の皆さまはキャラが濃いうえに会議の場では圧が強いので疲れるのは無理ないことなのだ。

 まぁ、結一郎は最近はそちら側よりになって来ているのだけれど。

 話をする中で結一郎はふと気になったことを聞いてみる。

 

「そういえば、村田さんは冨岡師匠と同期と聞きましたが、本当でしょうか?」

「あ、そうです。最終選別が一緒でした。(にぎ)さんは水柱様の継子でしたね」

 

 義勇の同期と弟子。

 彼を通じた共通点を見出し、顔を見合わせる。

 

「冨岡師匠と同期……」

「水柱様の継子……」

 

 お互いの立場を想像した二人は、そろって同じ言葉を口にした。

 

「「大変だったんですね、お互いに」」

 

 何がとは言わないが。何がとは。

 しかしながら、しっかりと共通認識と共感を得たのであった。

 


無一郎と翻訳係

 

 霞柱・時透(ときとう)無一郎(むいちろう)はずっと悩んでいた。

 柱合裁判の時から新しく棟梁に任命された人物について思い出せないのだ。

 もう少しで思い出せそうなもどかしさを抱えたまま裁判が終わり、会議も終わり。そして耀哉がいなくなって雑談に入ったころにようやく思い出せた。

 そう、これが正解だ!

 

「あ、お菓子の人」

「え? あ、はい。お菓子の人です?」

 

 またもお菓子の人扱いされる結一郎であった。

 


継子の翻訳係

 

「結一郎さんはこんなに厳しい修業をさせられているのによく継子を辞めようとしませんでしたね」

 

 村田を送って戻ってきたら、過酷な修業が決定していてさめざめと泣いている結一郎に質問をするしのぶ。

 前々から疑問ではあったのだ。

 修業のせいで入院までするはめになったこともあるのに、結一郎からは継子を辞めたいという言葉は一度も聞いたことがないのだ。

 どうして続けていられるのか分からなくて、この機会に聞いてみたのだが、その返事は彼らしいもので。

 

「修業は厳しいですが、皆さま本気で鍛えてやろうというお気持ちが伝わってくるので……その、期待を裏切るのは忍びなくてですね……」

 

 読心術を身に着けた結一郎は、修業のさなかでも師匠たちから伝わる本気の熱意を感じ取ってしまっていたのだった。

 手段はどうあれ、本気で自分のことを思ってやってくれていることを拒否などできるはずもない。

 

「結一郎さん、あなたって人は」

 

 人の気持ちを察せるというのも善し悪しあるのだなぁ。

 


産屋敷一家と翻訳係 その1

 

 鬼殺隊当主・産屋敷(うぶやしき)耀哉(かがや)とその息子・輝利哉(きりや)が庭の縁側で日を浴びていた。

 鬼殺の剣士たちへ絶え間なく指示を送る日々の中の束の間の穏やかな日常。

 ゆっくりとした時間を過ごしていた耀哉だが、ふと用事を思い出す。

 

「そういえば、薬を貰ってこなければいけないんだったね」

 

 病弱な体をしている耀哉は薬の服用が欠かせない。

 その薬がなくなりそうになっているので貰ってこなければいけないことを思い出したのだ。

 いつもなら鎹鴉に頼むところを、何を思ったのか手を二回叩いて人を呼び出した。

 

「お呼びでしょうか、お館様」

 

 合図を聞き、音もなくスッと姿を現す結一郎。

 その姿は草紙に出てくるような、例えるならば将軍家に仕える御庭番のような登場の仕方であった。

 片膝をつき傍に控える結一郎に耀哉が声をかける。

 

「呼び出してすまないね、結一郎。一つお使いをお願いしたいんだ」

「はっ! 何なりとお申し付けください!」

 

 結一郎に蝶屋敷まで薬を取りに行ってもらうよう頼む耀哉。

 当然、その頼みを断る理由などない結一郎はすぐさまその場を後にするのだった。

 もちろん、登場時と同じく煙が消えるような忍者みたいな立ち去り方をして。

 

「父上、今のは……」

 

 結一郎がいなくなった後で、息子の輝利哉からの視線を感じた。

 息子に顔を向けて微笑みながら耀哉は言う。

 

「ふふっ、忍者を呼び出すお殿様みたいだったろう?」

「はい」

 

 ちょっとした悪戯が成功した子供のように告げる耀哉に、輝利哉の表情も穏やかなものとなる。

 

「昔から一度やってみたかったんだ」

「父上、私もやってみてもいいでしょうか?」

「うん。結一郎ならお願いしたらきっと聞いてくれるさ」

 

 微笑み合う親子。

 過酷な運命を背負う親子の暖かな会話がそこにあったのだった。

 


産屋敷一家と翻訳係 その2

 

 産屋敷家の当主は呪われているかのように必ず三十歳になるまでに病没している。

 今年で二十三歳を迎えた耀哉もまた、その命の灯火が揺らぎ始めていた。

 今日も体調がすぐれず、病床に身を横たえる耀哉。

 その傍らには父の看病をする長女のひなきと、新設された部隊“旭”の訓練結果報告に来た結一郎が控えていた。

 すでに報告は終わり、結一郎は耀哉の痛ましい姿に表情が曇りそうになるのを必死でこらえていた。

 

「こんな情けない姿で悪いね、結一郎」

「とんでもございません。何卒、ご自愛くださいませ!」

 

 耀哉の言葉を強く否定する結一郎に、耀哉は己が感じていることを素直に口にした。

 

「日に日に自らの寿命が削られていくのを感じるんだ。これも産屋敷家の運命というものなのだろうね」

 

 もう自分の命は長くないのだと悟ったように口にする。

 その言葉を結一郎は素直に受け取ることができなかった。

 

「何を弱気なことをおっしゃられるのですか! そうして諦めたようなことをおっしゃらないでください!」

 

 激励の言葉というよりはもはや嘆願とも呼べるような言葉を口にしてしまう結一郎。

 鬼殺隊の当主であり、カリスマであり、父でもあるその人が自らの死を語る様などは見たくはないのだ。

 そんな結一郎の気持ちを察してか、耀哉は言葉に力を込めて独白するように語り掛けた。

 

「あぁ、そうだね。私はまだ死ねない。鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)を倒すまでは……私の代で決着をつけてみせる」

 

 その弱った病身のどこから出てくるのだろうかと思える悲壮な覚悟。

 その覚悟を見た結一郎は、感動で胸を打つのと同時に一抹のもの悲しさが去来するのを感じた。

 

『お覚悟、ご立派でございます。しかし、そのお命を家の使命のためだけに長らえさせるというのはあまりにも寂しいではありませんか……』

 

 自らの命を長らえさせたい理由が一族の宿願を叶えるためだけというのはあまりに寂しい。

 出来うるならば、耀哉にも未来に明るい希望を持って生き長らえて欲しい。そう結一郎は思う。

 

「フフッ、世の中の父親という者は娘の白無垢姿を見るまでは死んでも死にきれないと聞きますが、お館様は違うのですか?」

 

 だからこそ、失礼を承知で息女のひなきをネタに、茶化すようにあえて明るく冗談を口にしたのだった。

 その気持ちを汲み取った耀哉は、意識して明るい声で返事をしてみせた。

 

「娘の嫁入り姿か……確かにそれはぜひとも見たいね」

「えぇ、そうですよ。それを見るまでは死ぬなんてとんでもありません」

「あぁ、そうだね。それを見るまでは死ねないなぁ」

 

 耀哉と結一郎、そしてその話のネタにされた娘のひなきの三人で笑い合う。

 病気の陰の気を明るい陽の気が吹き飛ばしてくれることを信じながら。

 

 

 少しばかり笑った後で、耀哉は何かを思いついたように結一郎に顔を向けた。

 当主の言葉を一言も漏らすまいと真剣な表情をする結一郎であったが、その言葉に大きな衝撃を受けることとなる。

 

「そうだ、結一郎。どうせなら君が娘を貰ってくれないかい?」

「えっ?」

 

 一瞬何を言われたのか理解ができず情けない声を出してしまったが、頭が言葉の理解に追いついたときにはもうたいそう混乱してしまう。

 君が相手なら安心できるよ。と、突然の嫁入り相手に指名されればそれは驚くというもので。

 しかしながら、そう易々と逃してくれるほどお館様は甘くない。

 追い打ちをかけるように耀哉から次々と言葉が投げかけられていく。

 

「私の娘では不満かい?」

「いえ、そのようなことは決して! むしろ身に余る思いです!」

 

 不満とか言えるわけないじゃないか。

 

「年齢差が気になるかい? 大丈夫だよ。あと五、六年すれば似合いの年齢になるさ」

「あ、はい。おっしゃる通りですね」

 

 現在、結一郎は十八歳。ひなきは十歳。八歳差だ。

 確かに五年後には二十三歳と十五歳。それほど奇異にみられる年齢差ではないだろう。

 

「娘の気持ちが大事? そうだね。それは大切なことだ。……ところで今、ひなきはどんな表情をしているかな? 嫌そうな顔をしているかい?」

「……そのようなことはありません」

 

 薄らと顔を赤く染め、気恥ずかし気に結一郎のことを伏し目がちに見ているひなき。

 とてもではないが、嫌がっているようには見えない。むしろ、将来の夫が決まってすごい意識しているような?

 産屋敷家のお子様たちは皆早熟であります。

 

 次々と逃げ道を塞がれて、気が付けば婚約は確定したも同然の状況になっていることに戦慄を隠せない結一郎。

 1/Fゆらぎと呼ばれるような相手をリラックスさせる声音で、こちらの反論を先回りされるように言葉を投げかけられては何も言えないのだ。

 あれよあれよという間に人生の墓場に片足を突っ込まされている。

 

『お館様とあまね様のお子ですから、将来はきっと美人さん確定ですね。躾もされていて理想のお嫁さんになるに違いありません。……だからこれは良い話。良い話なのです!』

 

 心の中で自分に言い聞かせる結一郎。

 実際、悪い話では決してないし、お館様と血縁関係を結べると知ったら羨む隊士も出てくるだろう。

 だけれど! それでも! 納得しきれない所もあるわけで。

 

『どうして、どうしてこうなった!?』

 

 なんかもう、いろいろと諦めたほうが幸せな結一郎である。とっくに試合は終了している。

 とりあえず、ご婚約おめでとうございます?




1.「一番のお師匠様?」
 お師匠さんたちのプライドとそれに伴う結一郎の過酷な修業(再)。
 最近、翻訳係が調子に乗ってきてたのでそろそろシメないとね!

2.「村田さんと翻訳係」
 冨岡義勇の関係者。それだけで伝わる苦労……

3.「無一郎と翻訳係」
 ぶっちゃけ、中の人ネタ。前々回の話の感想でチラッと鉄血の話が出てたので、それだ! と思い追加したネタでした。

4.「継子の翻訳係」
 なんでこんなに過酷な修業を耐えられたのか?
 ⇒翻訳係だからね。お師匠たちの熱意は余すところなく理解してしまってますので。

5.「産屋敷一家と翻訳係 その1」
 お館様にはこうした平穏な日常を過ごしていて欲しいなぁと思ったので。
 ちょっとお茶目なところもあるんじゃないかと想像してみたり。
 そしてさらっと御庭番化している翻訳係。

6.「産屋敷一家と翻訳係 その2」
 前半シリアス? と、思わせておいてのギャグでした。
 柱たちの恋愛関係を弄っていたら、気が付いたら自分は人生の墓場に片足を入れさせられていた翻訳係であった。
 お館様の方が一枚上手なのだよ。

お館様「結一郎、人をくっつけるっていうのはこうするんだよ?」

 念願のヒロインだぞ。どうしたそんなしかめっ面して? 笑えよ結一郎。


翻訳係コソコソ話
 蜜璃のことでからかったお詫びに、結一郎は小芭内に彼女とのデートをセッティングしてあげてます。


ミニ次回予告
機能回復訓練……は、すっ飛ばして無限列車にはいる。かも?


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その13(小ネタ集その2)

2019/10/18投稿
2019/11/12リンク追加、微修正

筆がのったので小ネタ集投稿です。

1.翻訳係の逢引のすすめ
2.蜜璃のデート報告?
3.炭治郎と蟲柱さん
4.婚約報告と柱たち

以上の四本でお送りいたします!


翻訳係の逢引のすすめ

 

「先日は失礼を致しました」

 

 頭を下げ、謝罪の言葉を口にする結一郎。

 その相手は先日の柱合会議でからかいのネタにしてしまった蛇柱・伊黒(いぐろ)小芭内(おばない)だ。

 彼の恋愛感情を利用して場の空気を操ったことを謝りに来たというわけである。

 結一郎からの謝罪。小芭内はそれを鼻を鳴らして受ける。

 

「フン! 何のことやら、俺にはとんと分からんな。そんな無駄なことに時間を使う余裕があるとは羨ましいね。あいにく俺は暇じゃない」

 

 ネチネチと皮肉を交えながら遠まわしに気にしていないと告げる。

 言っていることが大変面倒くさいような気もするが、コレが彼の個性なので致し方無い。

 謝罪も終わり、さっさと帰れと言われた結一郎。しかし、素直に帰らずに話を続けようとする。

 

「ありがとうございます、師匠。ところで、最近できた洋食のハイカラなお店がありまして、たいそう美味と評判だそうですよ!」

「突然、何の話をしている?」

 

 急に洋食店の話をし始めた結一郎に訝しげな視線を向けるも、結一郎は気にも留めずに話し続けていく。

 一体何だというのだろう?

 

「そのお店では海軍仕込みのカレーがおいしいらしく、それにコロッケと付け合わせの生野菜と一緒に食べるのが通なんだとか! かなり食べ応えがあって満腹になると評判とのことです!」

「知らん、興味がない」

 

 熱く語る結一郎を冷たくあしらう。がしかし、彼が止まる様子はなく強引に話を進めてくる。

 

「いえいえ、そう言わないでください。そのお店の近くにあるカフェも有名で、おいしいコーヒーとワッフルが自慢だそうです!」

「おい、いい加減に――」

「きっと女性を連れて行ったら喜ばれるでしょうね!」

 

 そろそろ怒りを見せようとしたところで、結一郎の一言に体が止まる。

 先ほどからの話の流れに思うところがあったのか、話を聞く姿勢になった小芭内。

 その様子を見て結一郎は懐から件のお店のチラシを取り出し、そっと差し出す。

 店の簡単な紹介や住所が記載されたそのチラシを受け取り、結一郎の意図を察した小芭内は目で合図を送る。

 

『よし、続けろ』『承知しました』

 

 我が意を得たりと、結一郎は世間話を続ける。

 ずっと飲食店の話ばかりではあれなので、少しは文化人的なことをば。

 

「そういえば、伊黒師匠はキネマは見たことがおありですか?」

「いや、無いが?」

 

 キネマ、活動写真つまりは映画のことについて話をする結一郎。

 見たことがないという小芭内に嬉々として話を始めた。

 

「そうなのですか! 自分も見たことが無いので行ってみようと思っていたのですが、あいにく用事が出来てしまいまして」

 

 ○○日なのですが、残念です。と、そっとチケットを差し出す。二枚あった。

 

「この日は伊黒師匠はお休みだとお聞きしましたので、代わりに見に行っていただけませんか?」

「フン! そういうことなら貰ってやらなくもないが」

 

 チケットを受け取る小芭内は、不機嫌そうな言葉とは裏腹に少しウキウキした様子が見て取れた。

 小芭内がチケットを仕舞ったの見て、結一郎は言葉を重ねる。

 

「ええ、ぜひよろしくお願いします! ああそういえば、甘露寺師匠もこの日お休みだそうですよ? いやぁ、偶然ですねー」

「そうだな、偶然だな」

 

 『偶然』という言葉を強調しながら、恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)のスケジュールを口にする結一郎に、小芭内も同じく『偶然』という言葉を強調しながら応えてみせた。

 フッフッフッ、と笑い合う二人。

 酷い茶番を見た気がする。

 

「悪いが結一郎、用事ができたので失礼させてもらうぞ」

「ええ、どうぞ。ああ、ご用事を済ますにはご本人のお屋敷を訪れるといいですよ。本日は一日待機だそうです」

「ああ、覚えておこう」

 

 立ち去ろうとする小芭内に声をかける結一郎。

 一から十までお膳立ては完璧である。

 

 後日、二人で出かける小芭内と蜜璃の姿があったとか。

 

「チュンチュン!」

「ほほう。上手くいったようでなによりですね!」

 

 何か雀からの報告を聞く結一郎。

 仕掛け人は密かに笑っていたという。

 


蜜璃のデート報告?

 

 皆が寝静まる時刻となったある日の夜中のこと。

 任務を終え、たまたま帰り道が一緒になった蜜璃としのぶは仲良くお喋りをしながら道を歩いていた。

 主に蜜璃が話し役で、しのぶが聞き役にまわっていた。

 楽し気に蜜璃が話すのは先日、小芭内に誘われてお出かけしたことだ。

 

「伊黒さんが連れて行ってくれた洋食屋さんがハイカラで料理も美味しかったのよ!」

「洋食ですか。あまり馴染みがないのですが、どんなものを食べたのですか?」

 

 訪れたという洋食屋について聞くしのぶ。

 質問を受けた蜜璃は詳細にその食事について語り始めた。

 

「そこのお店はカレーが看板のお店だったからそれを頼んだの。すっごいのよ! これが!」

 

 たくさんの香辛料を使ったコクのあるルゥに玉ねぎや人参といった西洋野菜のうまみが溶け込んだ深みのある味はもう絶品。

 肉の代わりに使われていたエビやイカといった魚介特有の甘味がルゥの旨味と辛味を引き立てて舌の上で踊っているようだった。

 そうした複雑な味が白いご飯と絡まってもうたまらない!

 さらに一緒に出されたコロッケはサクサクの衣の後に、ホクホクのジャガイモがお出迎えしてくれて食感と味ともに大満足だった。

 そのサクサクのコロッケにルゥを少しかけてあげれば、また先ほどとは違った味が楽しめて二度おいしい。

 香辛料で口の中が飽和状態になったのを付け合わせの生野菜(サラダ)がさっぱりさせてくれて、またカレーの味を飽きさせない。

 

「あまりにも美味しかったから、はしたないけれど、私、お替りをしちゃったの」

「おいしかったなら仕方ないですよ」

「そ、そうかしら。あ、そのあとに食後のカフェにも行ったのだけれど、そこもよいところだったわ!」

 

 落ち着いた雰囲気のカフェにマスター自慢のコーヒー。

 深煎りの苦みが強いコーヒーに合わせて、これまた自慢のワッフルをイチゴのジャミ(ジャム)と一緒に口にすればちょうどよい塩梅に苦みと甘味が混じり合う。

 コーヒーのよい香りを楽しみながらゆったりと過ごす至福のひと時であった。

 

「それでそれで、最後は伊黒さんとキネマを見てね――」

 

 テンション上がりまくりで喋りまくる蜜璃に、しのぶは顔には出さないものの複雑な心境になっていた。

 他人の逢引の詳細、というかもはや惚気話を聞かされて困っているから?

 いいや、そんなことはない。しのぶもうら若き女性なので恋バナは興味がないわけではない。

 では、何が問題なのかといえばその逢引の内容であった。

 

『なんだか美味しそうなお話ばかりですね……どうしましょう、おなかが減ってきました』

 

 逢引(デート)の報告だと思っていたのに、内容が食レポだった件。

 もう一度述べるが、今は夜中である。

 当然、お店もやっていないし、そもそも夜食は健康に良くない。

 そう分かっていはいるものの、食欲を刺激されるような話をされてしまって胃袋が猛烈に自己主張をしてきているような気がする。

 胡蝶しのぶ、夜中に食欲を持て余す……

 


炭治郎と蟲柱さん

 

「怒っていますか?」

 

 唐突に内心を言い当てられたしのぶは、一瞬張り付けていたはずの笑顔を忘れてしまうほどに衝撃を受けていた。

 一人真面目に訓練を続ける炭治郎に声をかけた結果がコレだ。

 もとより「鬼と仲良くする」という夢を託そうと思って話しかけたこともあってか、不思議とその胸の内を明かす気持ちになったしのぶは、静かに語り始めた。

 

 鬼に姉を惨殺された時から鬼の犠牲者の涙と絶望を見るたびに鬼への怒りとどうしようもない嫌悪感が溜まっていくこと。

 一方で鬼にも同情するような優しい姉の想いを継がなければと、姉が好きだった笑顔を張り付けて過ごしてきたこと。

 その二つの想いに板挟みになって、そのことに疲れを感じていること。

 そうした胸の内を語った上で、炭治郎が禰豆子を守って頑張ってくれれば気持ちが楽になることを伝えたのだった。

 

 しのぶの独白を受けて炭治郎はより一層の努力を決意するとともに、彼女を支えてくれる人がもっといればいいのに、と、切実に思うのだった。

 そう考えた時に、炭治郎の脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。

 

「頑張ります。でも、俺だけじゃなくてもっと多くの人がしのぶさんを助けてくれるはずですよ。例えば、冨岡さんとか!」

「……炭治郎君、どうして冨岡さんの名前を?」

 

 言うことは言ったので立ち去ろうとしていたのに、義勇の名前を出されて足が止まる。

 何で冨岡さんが、と、尋ねてみれば、炭治郎の返事は頭が痛くなるようなものであった。

 

「恋人同士なら頼っても大丈夫だと思ったので! 冨岡さんならしのぶさんのことを支えてくれますよ!」

 

 純粋な瞳で告げられて、困った笑みを浮かべるしのぶ。

 あの口下手な義勇に自分の気持ちを打ち明けたところで、ちゃんとした返事をしてくれるかどうかというと全く信用は出来ないのだ。

 というか、炭治郎の中の義勇はどんな人物になっているのか聞いてみたい気持ちである。

 まぁ、それは置いておくとして、大変な誤解が生まれている。

 

「誰と誰が恋人同士ですって?」

「えっ、だからしのぶさんと冨岡さんが……」

 

 違うんですか? と不思議そうな顔をしてくる炭治郎にしのぶは頭を抱えたくなった。

 何でこんな勘違いを。いや、あの裁判の時か。じゃあ、あの翻訳係が悪いな。うん、次あったらシメる。

 

「炭治郎君、私と冨岡さんは恋人ではありません」

「えっ、でも――」

「違います。いいですね? 違いますから!」

「あ、はい」

 

 有無を言わせぬ圧を笑顔でかけてくるしのぶに炭治郎は何も言えなくなったという。

 そのあと風のように立ち去ったしのぶに、残された炭治郎はしばし呆然としていた。

 

「しのぶさん、どうしてあんなに否定したんだろう? 恥ずかしかったのかな?」

 

 残念ながら、この長男の誤解は解けていなかったりする。

 しのぶさん、お忘れですか? 彼は義勇と同門ですよ?

 


婚約報告と柱たち

 

『結一郎、産屋敷家長女・ひなきと婚約』

 

 この一大ニュースは瞬く間に柱たちへと知れ渡った。

 それを聞いた各柱の反応は様々だ。

 結一郎的に一番ありがたかったのは、無関心か淡泊な反応に留めてくれた蛇柱・伊黒小芭内と霞柱・時透(ときとう)無一郎(むいちろう)の二人だ。

 両者共に常識的なお祝いの手紙と贈り物を寄越してくれた。

 正直このくらいの対応を皆がしてくれたのなら良かったのだが、個性的な柱の方々がそれで済むはずもなく。

 まず、過剰なくらいお祝いをしてくれたのが四人いる。

 一人目は、炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)

 継子のめでたい出来事を祝うのに、この快男児はチマチマしたことなどしない。

 直接結一郎の下を訪れて、祝いの言葉をかけたのだ。大声で。

 

「婚約おめでとう、結一郎! うむ、実にめでたい話だ!」

「あ、ありがとうございます煉獄師匠。あの、ちょっと――」

「お相手がお館様のご息女と聞いた時には驚いたが、それだけ期待されているという証拠だろう! 精進せねばな!」

「……はい、頑張ります」

 

 祝いの品を手渡し、去っていく杏寿郎の背を見送る結一郎だったが、ものすごく居心地が悪い。

 何せ、周囲には一般隊士たちが多くいたのだ。

 あれだけ大きな声で話されたら聞こえていない者などいない。

 周りがざわついているのが聞こえる。視線が自分に向いているのを感じる。

 もしかしなくても、近日中にこの話は鬼殺隊中に広まるんだろうなぁ……

 

「真っ直ぐ祝福してくれるのはありがたいですが、もう少し場所を選んで欲しかったです、師匠……」

 

 結一郎は遠い目をしながらそう思った。

 

 二人目は一番関わりの深い水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)

 過去に結婚直前の姉を鬼に殺害されたという過去を持つ彼は、結一郎の婚約の話を聞いて滅茶苦茶張り切った。

 自身の足で多くの神社仏閣を巡り、お守りを集めてきて結一郎に祝いの言葉と共に贈ってきたのである。

 師の思いやりに感謝するものの、その中身を見て苦笑いをせざるを得ない。

 

「さすがに“安産祈願”は気が早すぎますよ、冨岡師匠」

 

 相手はまだ十歳。そんな相手に手を出すほど自分は鬼畜じゃない。

 というか、まだ婚約段階だっての!

 

 三人目は岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)

 元々涙もろい彼がお館様のご息女の婚約話を聞いて冷静でいられるはずもなく。

 話を聞いてひとしきり号泣した後は、祝いの品に白無垢と紋付袴を注文しようとして結一郎本人から止められたという一幕があったという。

 

「悲鳴嶼師匠も気が早い! 代わりに探してきたのがおんぶ紐ってもっと気が早いですよ!」

 

 どうやら彼の盲目の目には、お館様の孫がもう映っているらしい。

 

 四人目は恋柱・甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)だ。

 結婚相手を見つけるために鬼殺隊に入った彼女にとって職場結婚を決めた結一郎は偉大な先達になったのだ。

 そりゃもう、熱烈にお祝いして猛烈に話を聞き出そうと根掘り葉掘り話を聞いてくる。

 いろいろ質問されたけれど、婚約を決めたのはお館様なので答えようもない結一郎は滅茶苦茶困ったらしい。

 

「知らないですよ。鬼殺隊士同士で結婚する方法なんて……」

 

 次に面倒くさい反応をしてきたのは風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)だ。

 祝いの言葉はしっかりと贈ってくれたのだが、その後が面倒くさかった。

 

「結一郎、てめえ、お館様のご息女を泣かせるようなことがあったらただじゃ置かねえからな……」

「あの、不死川師匠。あなたお嬢様のどういう立ち位置なんです!?」

 

 そのセリフって親族から言われるなら分かるんですけど!? と、ツッコむも聞いちゃいない実弥。

 

「てめえは絶対(ぜってえ)クズな父親になるんじゃねえぞ。俺の親父がクズだったせいでお袋は苦労した。そんな思いはさせんなよ! ……そのお袋も鬼になって俺が殺したんだが」

「だから気が早いです! というか、さらっと重い過去を話さないでいただけますか!?」

「家族が増えたらよォ、兄弟で仲良くするようにちゃんと教えないと駄目だからなァ。唯一残った弟から人殺しって罵られるような俺みたいにはさせんじゃねぇぞ!」

「話を聞いてください! というか、現在進行形で問題抱えてるのあなたですよね!?」

 

 どこの心配してるのかとツッコミたいお説教に、ところどころにぶち込まれる重たい過去の話。

 言っちゃあ悪いが、大変面倒くさかった。

 もう、弟さんに一切合切ぶちまけて対応してもらおうか。

 そんな考えがよぎった結一郎であった。

 

 最後に一番面倒くさい反応をしてきた二人。

 蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶと音柱・宇髄(うずい)天元(てんげん)だ。

 今回の婚約の話を聞いて、嬉々として結一郎を揶揄ってきたのである。

 

「この度はご婚約おめでとうございます。結一郎さん」

「これはありがとうございます」

「十歳の女児を相手に婚約ということは、これから自分好みに育てていくわけですね」

「人を光源氏扱いするのはやめていただけませんかねぇ!?」

 

 祝いの言葉の後にとんでもない言葉をぶっこんできやがる。

 そのほかにも、「もしかして幼女趣味ですか?」とか、「逆玉の輿ですね、羨ましいなぁ~」とか、「婿入りですかね? 婿殿とお呼びした方がいいですか?」とかとか……

 以前、義勇との関係を揶揄い倒したのは自分なのである程度は我慢するが次々と言葉を重ねられれば結一郎も堪忍袋の緒が切れようというもの。

 

「アハハ、この度急な婚約となったのもお館様がご息女の将来を案じての事でしょう。何せ花の盛りは短いといいますしね。ねえ、しのぶさん。そうでしょう?」

「そうですね。ああ、私のことはご心配なく。私はまだ十代ですから」

 

 言外に行き遅れないようにと喧嘩を売る結一郎に、しのぶは額に青筋を浮かべながら真正面から喧嘩を買うことにした。

 花の十代の乙女に何てこと言いやがる!

 

「ああ、そういえば冨岡師匠がいましたか、失念してました」

「フフフ、結一郎さんは婚約して幸せボケしましたか? それは誤解だと伝えたはずですけれど。というか、冨岡さん相手とかありえませんね。無理です」

 

 さらっと関係ないところでディスられる義勇。

 

「おや、ならお相手がいないことになりますが、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですとも。私は結婚できないのでなくて、結婚しないだけですから」

「ハハッ、冨岡師匠も同じことを言いそうですね!」

「ちょっと、冨岡さんと同じ扱い何てそれは心外です!」

 

 ついでとばかりに弟子も本人のいないところでディスってくる。

 冨岡さんが何をしたっていうんだ! ちょっと口下手で結果的に全方位に敵を作っちゃうだけじゃないか!

 

 数分ばかりバチバチやり合ったところで、冷静になった二人。

 あまりにも馬鹿らしくなったので、喧嘩はやめたのだった。

 

 もう一人の面倒くさいヤツの天元。

 柱の中で唯一の既婚者ということもあり、結婚に関してものすごい先輩面して話しかけてくるのがウザかった。

 

「いいか、嫁にしたからってそれで終わりじゃねえんだ。ちゃんと労わってやることが大事なんだぜ。何か機会があれば派手に贈り物をしてやることも大事だ。派手にな!」

「なるほど。参考になります」

 

 最初はこうした結婚生活におけるアドバイスをしてくれているだけだったのだが、途中から嫁自慢が入ってきて、ウザくなってくるのが厄介だった。

 

「普段は姉御肌なくせに、二人だけになったら甘えてくるんだぜ? ここが派手に可愛くてな!」

「『こんなあたしを愛してくれるのは天元様だけ』なんて、いじらしいこと言ってくれるんだ。まぁ、当然派手に愛してるんだけどな!」

「自己主張はあんまりしない奴なんだが、気が付いたらそっと隣に立って腕を絡めてきたりな。こういう嫁のささやかな愛情表現を逃さないのができる男ってやつさ。派手に応えてやってるぜ、俺はな!」

 

 祝いに来たはずなのに散々惚気てきてイライラさせられる結一郎。

 さりげなくマウント取ってきてませんかね!?

 

「ま、俺のところみたいに鴛鴦(おしどり)夫婦を目指すんだな。派手に」

「ええ! 無事に結婚したあかつきには良い夫婦になりたいものです! 理想は隠し事のない夫婦ですね。宇髄師匠のところもそうでしょう?」

「もちろんそうに決まってんだろ!」

 

 天元の返事を聞いて結一郎はニッコリ笑う。

 

「そうですよね! 例えば、妻に内緒で豪遊して高いお酒を買って隠しておくとかしませんよね?」

「ゆ、結一郎、お前」

「やだなあ、師匠。例え話ですよ。例え話」

 

 例え話の体をしながら、天元の秘密を口にしていく結一郎に冷や汗が流れる。

 自室の戸棚の裏とかに隠したりしないようにしますよ。と、隠し場所までバレている。

 こいつ、どうやって知った?

 その疑問に答えるように結一郎が一言ポツリと漏らす。

 

「自分は小さなお友達が多いので、いろいろ教えてもらえるんですよねー」

「そ、そうか。派手に気を付けるぜ」

 

 こいつ、諜報力って意味で元忍びの俺以上じゃねえか?

 天元は戦慄を隠せなかったという。

 




1.翻訳係の逢引のすすめ
 前回のコソコソ話にあった内容です。こうやって翻訳係は小芭内師匠の支援をしているのでした。

2.蜜璃のデート報告?
 デート報告だと思った? 残念、メシテロでした!
 夜中に読んで、しのぶさんと同じ気持ちを味わっていただきたい!

3.炭治郎と蟲柱さん
 誤解はなかなか解けない。義勇さんと同門だぞ! 察しろ!

4.婚約報告と柱たち
 蛇と霞は短縮したとはいえ、残りの八人分書くの意外に大変でした。
 各自の反応としては不思議じゃないと思いたいです。

次回こそ、無限列車編です!


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その14 前編(無限列車編)

2019/10/21投稿


 柱合会議から三か月後。

 鬼殺選抜隊“旭”の運用再訓練を終えて、結一郎は部隊を離れて任務に就いていた。

 といっても、単独任務ではない。

 また竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)のお目付け役としての任務だ。

 もはや禰豆子(ねずこ)の危険性を測るという意味合いはないのだが、関わった者としてけじめをつける意味で裁判後の炭治郎の初任務に同行することになったのだ。

 今回の任務は、『無限列車』と呼ばれる汽車で短期間のうちに四十名以上の行方不明者が出ているということで炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)が派遣されたという経緯を持つものだ。

 

 駅で炭治郎と我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)嘴平(はしびら)伊之助(いのすけ)と合流。

 駅員に帯刀を見とがめられ警察を呼ばれそうになったところを結一郎が口八丁で何とかごまかしたという一幕があったりした。

 鬼殺隊でも随一の会話能力を持つだけあって、最初は不審な目で見られていたものの最後は『新訳・桃太郎』という劇の衣装だと納得させることができた。

 まぁ、彼のお供の三匹もその説得力を持たせる一助になったのは間違いない。

 

 汽車の中で杏寿郎と合流した四人。

 結一郎が炭治郎と杏寿郎の会話を聞きながら少し形の崩れたおにぎりを食べて腹ごしらえをしているうちに汽車が動き出した。

 ほどなくして車掌が切符の確認のために現れたので、購入した切符を取り出すために懐を探る。

 ――違和感があった。

 目の端に映る光景に何かおかしな点を見つけたのだ。

 ついでに車掌に注目してみれば、焦り、緊張、そして切実なまでに何かを求めるような気持がくみ取れた。

 怪しさを感じた結一郎は一計を案じる。

 

「切符を拝見致します……」

「あー、すみません。購入した切符をどこかで落としてしまったようです! 料金はお支払いしますので新しく発券して頂けますか?」

「え……それは、その……」

 

 想定外というように、慌てた表情を見せる車掌。

 結一郎はそこを逃さずたたみかける。

 

「どうかしましたか? 切符の発券ができなかったら後から手続きできるものでも良いので出していただけませんかね?」

「いえ、あの……切符を……」

「できませんか? それとも、()()()()()()()()()()()()理由でもあるのですか?」

「……ッ!?」

 

 結一郎の指摘に息をのむ。

 結一郎は立ち上がり問い詰めるように言葉を投げかける。

 

「話は変わりますが、今日は皆さんお疲れのようです。あなたが切符を切ったあとにみんな眠ってしまっています! 珍しいこともあったものですね?」

「…………ぐっ」

 

 結一郎が感じた違和感はそれだった。

 夜行運転の汽車とはいえ、乗客が切符を確認した後にすぐに眠り始めるというのは異常だ。

 気が付くのが遅れて自分以外の皆は切符を切られてしまったが、この車掌がこの異常に関わっている可能性を考えて切符を無くしたと嘘を吐いたのだ。

 その懸念は当たっており、車掌は態度を一変させて結一郎に怒鳴りかかってきた。

 

「う、うるさい! どうして切符を素直に切らせないんだ! 夢を、家族に会える夢を見せてもらえないじゃないか!」

「夢を……それが血鬼術(けっきじゅつ)? ならばあなたは鬼の協力者ということか」

 

 脅すように刀の鯉口を切り、抜刀する様子を見せつける。

 傷つけるつもりはないが、多少怖い目にあってもらってでも情報を引き出さねばならない。

 

「あなたが知っていることをすべて話してもらいましょう!」

「……黙れ、黙れ黙れ黙れぇ! 切符を出せ、切符をだせええぇ!」

 

 詰問に対して激昂する車掌の男。

 結一郎は目を見開いて驚いた後、一呼吸の間で彼を突き飛ばした。

 

 次の瞬間、結一郎の身体を強い衝撃が襲う!

 何とか身をひねり衝撃を緩和。

窓を突き破って車外に放り出されそうになるのを枠に指をかけて何とか耐えきった。

 顔を上げてみれば、そこには一体の女の鬼がいた。

 

「カアアアア!!」

「チィイ! 闘勝丸(とうしょうまる)藤乃(ふじの)碧彦(へきひこ)! 皆を頼みます!」

 

 体勢の整わぬうちに追撃をかけられ、車体の屋根に逃れた。

 お供の三匹に炭治郎たちを任せ、襲ってきた鬼と対峙する結一郎。

 その正体も分からぬうちに猛攻を受け、押されてしまう。

 

「ぐぅ! なんだ、この鬼気迫る様子は!?」

「逃がさない、逃がすものか!」

 

 その女の鬼の血鬼術なのだろう、腕から膨らんだ瘤のような硬化した肉の弾丸が射出される。

 それを狭い屋根を転がって躱すが、次には体当たりを受けてとうとう列車から鬼ごと放り出されてしまった。

 高速で移動している汽車から地面に投げ出されれば重傷は避けられない。

 

 全集中・水の呼吸 陸ノ型“ねじれ渦”

 

とっさに全集中の呼吸の型を繰り出して衝撃を緩和することを判断。

 身動きの取れない空中のため、選んだのは体のねじれを利用して繰り出す水の呼吸の陸ノ型。

 回転する勢いで相手を弾き飛ばしつつ、地面に攻撃を当て衝突の勢いを殺して受け身をとることに成功した。

 

「何者です! ただの雑魚鬼ではありませんね!?」

 

 汽車が走り去っていくのを見送りながら、刀を構え問いかける。

 この攻防だけで並大抵の相手ではないことは感じ取れた。

 そして感じる既視感。この鬼、どこかであったか?

 

「貴様、私のことを忘れたか!」

「何!?」

 

 女の鬼が怒りを滲ませて声を発する。

 暗闇から月明かりの下へ姿を現したその鬼の顔を見て、結一郎は息をのんだ。

 その左目に刻まれた二つの文字。“下肆”!

 

「下弦の鬼……あの時の」

「ようやく思い出したか、私のことを!」

 

 その血を思わせるような赤い目は、怒りと恨みで染められていた。

 生々しい感情を剥き出しに下弦の肆・零余子(むかご)は声を荒げて結一郎を攻め立てる。

 

「貴様のせいで私は鬼狩り共に恐怖を覚えた! 十二鬼月にもなったのに雑魚鬼と同じように鬼狩りに怯えて過ごす日々……屈辱だった!」

 

 強くなったはずなのに、人を喰らって力をつけたはずなのに弱い頃と変わらず、地べたを這いずり回るような虫みたいな気分を味わわされたのだ。

 その屈辱、許せるはずもない。

 

「あのお方から臆病者と見做されて、私は殺されそうになった! 無用な、不要な、要らない者とされた私の気持ちが分かるか!」

 

 自らの存在を否定され、圧倒的上位者から処分される恐怖。

 その際に感じたのは恐怖と同時に、自分が理不尽な目にあわされることになった原因への怒りと恨みだった。

 

「私は貴様と出会う日を待ち望んでいたのよ! 貴様を殺し、喰らい、あの日の屈辱を拭うために!」

 

 彼女の感情をぶつけるような恨み言と攻撃が結一郎へと向けられる。

 烈火のごときそれを、結一郎もまた怒りの感情で応えてみせた。

 

「何を言うかと思えば……ふざけたことを言うな!」

 

岩の呼吸 参ノ型 岩軀の膚(がんくのはだえ)

 

 迫りくる肉の弾丸を日輪刀と取り出した鎖分銅を振り回して防ぎきる。

 反撃の機会を得た結一郎は、お返しとばかりに激しい剣戟を打ち込んでいく。

 

「再会を望んでいたのはそちらだけと思わぬことです!」

「なんですって!?」

「自分もお前の頸を斬るために探していたということだ!」

「な、なんで……」

 

 結一郎に睨みつけられ、怯えを見せた零余子。

 自分の命を寸前まで追い詰めた相手から向けられた殺気を前にして、怒りと恨みがかつての恐怖で塗りつぶされていく。

 零余子には結一郎が何故こうまで怒りをぶつけてくるのか理解できなかった。

 その理由はすぐ彼の口から聞かされることとなる。

 

「お前が逃げたせいで、僕は師匠たちから滅茶苦茶厳しい修業を受けさせられたんだぞ!」

「え、えぇ!?」

 

 斬りかかってくると同時にこんなことを言われれば困惑もしようというもの。

 そんなこと私に言われても……

 

「そんなことを言われてもとか、他人事みたいに考えやがって! お前のせいで僕以外にも三人も犠牲になったんだぞ! ふざけんな!」

「ふざけてるのはどっちよ! というか、また心を読まないで!?」

 

 心を読まれ追い詰められるこの既視感。

 恐怖は前回の二倍増しだ。あのブラック上司のせいで。

 

「だいたい、上司に殺されそうになったからなんだ! こっちは師匠の修業受けてて一度死んだんだぞ! 臨死体験だ、臨死体験! 文句言うならいっぺん死んでから来い!」

「そ、そんな無茶な!?」

 

 とんでもない無茶ぶりを見た。

 一回死んで来たとか、もうどっちが化物なのやら。

 というか、そんな修業を課してくる鬼狩りって、やっぱり怖い!

 

「謝れよ! 僕に謝れぇええ!」

「ご、ごめんなさいぃいい!?」

 

 勢いに負けてとうとう謝る零余子。

 もう彼女の精神(ライフ)はゼロである。

 

「うるさい! さっさと頸を出せ!」

「イヤアアア!?」

 

 無惨様、やっぱりこの鬼狩り怖いです。

 頸を刎ねられる直前に彼女はそう思ったそうな。

 

 


 

――結一郎が零余子の頸を刎ねた少し後の頃。

 

「皆無事だ! けが人は大勢だが命に別状は無い。君はもう無理せず……」

 

 重傷を負いながらも列車と同化した下弦の壱の頸を落とした炭治郎に呼吸法の指導をしながら誉めるように声をかける杏寿郎。

 しかし、彼の言葉は最後まで言うことはできなかった。

 砲弾が着弾したかのような重い地響きが鳴り響く。

 土煙が晴れ、姿を現したのは体中に罪人の刺青のような文様が入った鬼。

 その両目にはそれぞれ文字が刻まれていた。

 “上弦” “参”

 

 上弦の鬼。最強の鬼たちが一体。

 それが戦場に現れたのだ。

 




【朗報】結一郎、ようやく十二鬼月討!
【悲報】煉獄さんと上弦の参、エンカウント!

果たして、結一郎は煉獄師匠のピンチに間に合うことができるのか!?


翻訳係コソコソ話 壱
 お供参匹に守られていたので、夢の中に侵入してくる人はいなかった。
 ついでに、列車をお供三匹で一両守っていたので、煉獄さんの負担軽減。
 鬼殺の猿を舐めるなよ!

翻訳係コソコソ話 弐
 序盤に結一郎が食べていた形の少し崩れたおにぎりはひなきお嬢様が作りました。


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その14 後編(対・上弦の参)

2019/10/30投稿


 鬼殺隊炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)

 十二鬼月 上弦の参・猗窩座(あかざ)

 人と鬼。それぞれの最高戦力の一角同士の戦いは拮抗した状況になっていた。

 拮抗状態ということはすなわち人間側の不利に他ならない。

 そもそもの生物としての性能の違いが杏寿郎を追い詰めているのだ。

 猗窩座との攻防ですでに満身創痍の杏寿郎。

 額から血を流し、全身打撲と複数個所の骨折など、傷を負っており戦闘不能は時間の問題だ。

 対する猗窩座は、鬼の驚異的な再生能力のせいで傷一つ残っていない。

 

「どう足掻いても人間では鬼には勝てない」

 

 自らを誇るように語る猗窩座。

 その言葉はまるでこの状況こそがその証拠であるとでも言うようであった。

 だが、そんなもので心が折れるようなものに鬼殺の柱が務まるものか!

 

「俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!」

 

 己の責を果たす。その意思に微塵も揺らぎなし。

 たとえその命がここで尽きるとも、柱である杏寿郎が退くわけにはいかないのだ。

 覚悟を決めた杏寿郎は、炎の呼吸の奥義をぶつけるべく刀を構える。

 猗窩座も応えるように、血鬼術で自身を強化して拳を握りこんだ。

 互いの奥義が衝突する――その直前、猗窩座の首に向けて鋭い銀閃が煌めいた。

 

“雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)

 

「何!? チィイイ!!」

 

 奇襲となったはずの一撃を恐るべき反応速度で防いだ猗窩座は、乱入者に向けて敵意を向ける。

 

「何者だ、貴様!?」

 

 乱入者の正体を問えば、その影ははっきりとした口調で己の名を名乗る。

 

「鬼殺選抜隊“旭”の棟梁……と言っても通じませんね。この場ではこう名乗りましょう! 炎柱・煉獄杏寿郎が継子、(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)です!」

 

 白い外套(マント)をはためかせ、高らかに告げる結一郎。

 汽車から落とされ下弦の肆を討った後、速度に優れる雷の呼吸を使って疾走。師の危機に間に合ったのだった。

 

「結一郎、今までどこに……いや、今はいいな、そんなことは! よく来てくれた」

「煉獄師匠もご無事で、とは言えませんね。しばらく体力の回復に努めてください」

 

 杏寿郎の傷を見て、全集中の呼吸での回復を促す。

 彼が回復するまでの時間を稼ぐべく、結一郎は猗窩座の前に躍り出た。

 

「お待たせしましたね。上弦の参」

「猗窩座だ。そうかそうか、杏寿郎の弟子か! 師と同じくよく練り上げられた闘気だ。お前も強者だな!」

 

 杏寿郎に代わる新たな強者の出現を喜ぶ猗窩座。

 弱者を蔑み、強者を尊ぶ猗窩座のお眼鏡に適ったらしい結一郎は、師匠と同じく鬼への勧誘を受けた。

 

「お前も鬼になれ結一郎。老いることなく永遠に強者のままでいられるぞ!」

「強者、ですか?」

 

 思わぬ提案を受けて問い返せば、猗窩座は嬉々として持論を語りだす。

 

「そうだ。人間は弱く脆い。儚い生き物だ。今持っている力も技も時間と共に失われていく……」

「鬼になって不老となれば、それが永遠だと?」

「まさしく! 鬼になれるのは選ばれた者だけだ。鬼になれば何百年でも鍛錬を続け強くなり続けることができる!」

 

 無限の鍛錬による無限の強さの獲得が鬼には可能なのだと、結一郎を誘う。

 結一郎は無限の鍛錬と聞いて、今まで受けてきた地獄の修業を思い出して若干、胃が痛くなっていた。

 正直、御免である。そんなものは。

 その気持ちを表に出さないように表情を取り繕いながら、結一郎は言葉を投げかけた。

 

「そんなに強さを求めてあなたは何をしたいのですか?」

「おかしなことを聞く。強さを求めるのに理由など不要だ」

 

 強さを重視する猗窩座にその目的を問えば、返ってきた答えは無目的というもの。

 それを聞いた結一郎は首を横に振る。

 

「なら、話になりませんね。自分が強くなるのは大切な人を、無辜の人々を守るためです! 強くなるのは手段に過ぎません!」

 

 強くなること自体を目的とする者。

 強さは目的のための手段でしかない者。

 話がかみ合うはずもなかった。

 自分にとっての手段を目的としている猗窩座に対して、結一郎は嘲るように問いを投げかける。

 

「先の一瞬でも感じましたが、あなたは十分すぎるほど強い! それでもまだ強さを求めるというのか!」

「当然だ!」

 

 武を極めようとする者は皆そのはずだと返す猗窩座に、結一郎ははっきりとその愚を語ってみせた。

 

「ハハッ! 何を馬鹿なことを。必要もないのに必要以上にそれを求めることを人は“無駄”と呼ぶのですよ!」

「無駄だと!?」

「その通りです。 あなたのその強さで何ができる? 人を殺し、物を壊す! 鬼にできることなどそのくらいのものだ!」

 

 だが、我々(人間)は違うと高らかに謳う。

 己の師匠と仲間がたった今守りきった二百人の乗客たちを示し、奪うだけ、壊すだけのお前たちとは違うのだと。

 その誇りを猗窩座は理解できない。

 

「弱者を何百人と救ったところで何の価値がある!」

「あなたの無駄な百年よりはよっぽどある!」

 

 猗窩座の鬼になってからの百年近くの生き様を無駄と言いきる結一郎に、怒りで青筋が浮かび上がる。

 

「どうやらお前とはとことん価値観が違うらしいな」

「えぇ、そのようで! まぁ、それを抜きにしても個人的に鬼になれない理由もあるのですがね」

「……一応、聞いてやる。なんだ?」

 

 怒りは積もっているが、人との会話が好きな猗窩座は聞いてやることにした。

 ムカツク上弦の弐(同僚)に比べればまだ大丈夫だ。大丈夫。

 結一郎が語る、鬼になれない個人的な理由とは?

 

「自分は婚約者がいるので……鬼にはなるわけにはいかないんですよ!」

 

 鬼になったら結婚できないじゃないですか! と、語る結一郎。

 その理由に猗窩座はなぜかどうしようもなく苛立ちが止まらないのを感じた。

 不快だ! 何故か分からないがとてつもなく不快だ!!

 

「……殺す!」

「かかってこい! 百年物の独身男!」

 

 “血鬼術 術式展開 破壊殺・羅針”

 “炎の呼吸 壱ノ型・不知火(しらぬい)

 

 足元に雪の結晶のような陣を出現させる猗窩座に、力強い踏み込みで斬りかかる結一郎。

 奇しくも先ほどまでの師・杏寿郎をなぞるように始まった戦闘は、同じく結一郎の苦戦という形となって現れた。

 

“脚式・流閃群光(りゅうせんぐんこう)

 

「くうぅ!?」

 

 鋭い連続蹴りが頬をかすめ、血が飛び散る。

 致命傷はなんとか避けてはいるものの、完全な回避を許さない苛烈な攻撃に傷が増えていく。

 

『自分以上の先読み!? なんて厄介な!』

 

 結一郎の苦戦は猗窩座の持つ圧倒的な身体能力もさることながら、相性の悪さもあった。

 元来、結一郎の戦闘スタイルは相手の癖などから心理・動きを先読みして先の先または後の先を制する戦い方だ。

 戦いが長引き相手の情報を得ることができればできるほど先読みの精度が上がっていく、ある種のスロースターターといえる。

 そういう意味で、まだ猗窩座の情報が十分でなく、かつ百年の戦闘経験と血鬼術による探知で先読みを上回ってくる猗窩座との相性は最悪に近いものなのだ。

 

『おそらく探知系だろう血鬼術だけでも厄介なのに、武術家特有の戦術眼までありますか! つくづく化物ですね!!』

 

 心の中で悪態をつきながら、必死で食い下がる結一郎。

 その無様が猗窩座は愉快でたまらない。

 

「どうした、さっきまでの威勢は! お前の力はそんなものか!」

「調子にのるな!」

 

 挑発に応じるように結一郎は新たな技を繰り出す。

 動きが読まれるのなら、その読みを外す動きをしてやればよい!

 

“全集中・柱連(ちゅうれん) 五行連環(ごぎょうれんかん)

 

  伍ノ型・炎虎(えんこ)

  陸ノ型・黒風烟嵐(こくふうえんらん)

  捌ノ型・滝壷(たきつぼ)

  弐ノ型・稲魂(いなだま)

  弐ノ型・天面砕き(てんめんくだき)

 

 次々と呼吸を切り替え、型を流れるように繰り出していく。

 

「何? 呼吸が……ッ!?」

 

 目まぐるしく変わる結一郎の呼吸と闘気に戸惑う声をあげた猗窩座。

 ここまで多様な呼吸を使える剣士など猗窩座の戦ってきた百年の戦闘経験にもない相手だった。

 七人の柱に師事し、五つの呼吸を習得した結一郎だからこそ出すことができる異種の型による連続技だ。

 水で十、炎で九、風で八、雷で六、岩で五。

 これらの型を変幻自在に組み合わせて繰り出すこの技のパターンを読み切ることは困難を極めるに違いない。

 だがしかし……

 

「なかなか面白かったぞ! こうも闘気が変化したのを見たのは初めてだ!」

「クッ! 修羅め!」

 

 猗窩座は変化する呼吸に順応し、結一郎の振るう日輪刀を捉えてみせたのだ。

 この凄まじいまでの戦闘能力に結一郎は戦慄を隠せなかった。このままではやられる!

 

「死ね、結一郎!」

「いいや、まだです!」

 

 命を奪う一撃を叩き込もうとした猗窩座は、結一郎の視線に違和感を感じた。

 視線が自身の後方を見ている。

 羅針には反応はない。しかし、この土壇場で目を逸らすことをこいつがするだろうか?

 何かある!

 そんな判断を刹那の間で行い、行動へと移す。

 結一郎を蹴りで吹き飛ばしながら振り向き、攻撃に備える猗窩座。

 

「さあ、何が来……る?」

 

 結一郎が何を仕掛けてきたのかと身構えていたのに、そこにいたのは予想外のもので……

 

「ケーン!」「ワン!」

 

 羽を広げ威嚇する雉とそれを背に乗せて吠える犬。

 結一郎のお供の二匹であった。

 そりゃあ、動物ですもの。殺気なんかあるわけないので探知すり抜けてきて当然ですよ。

 騙された! そう思ったときにはすでに致命的な隙が生まれてしまっている。

 

“水の呼吸 壱ノ型・水面斬り”

 

 すかさずその機を狙う結一郎。

 その一撃は猗窩座の頸を半ばまで切り裂いたものの、落とすまでにいたらず、わずかな差で逃げられてしまった。

 

「チッ! 惜しい!」

「貴様ァ! ふざけているのか!」

 

 結一郎の視線によるフェイントに騙されたという羞恥と騙すにしてももっと別の方法が無かったのかという怒りでキレている猗窩座。

 しかし、結一郎はふざけてなどいない。むしろ大真面目だ。

 

「あなたを倒すためならばこの場のすべてを利用してみせます! なにせあなたは無駄に強すぎるので!」

 

 猗窩座の強さを身をもって体感している結一郎は、とれる手段は全て使う気概で臨んでいる。

 怒らせて相手の判断が乱れるならしめたものだ。

 

「さっさと死ね!」

 

 結果、相手の攻撃が苛烈になって苦労するのもよくある話であったりするのだけど。

 

“破壊殺・乱式”

 

 猗窩座の怒りに任せた乱打に襲われて防戦を余儀なくさせられる。

 必死に攻撃を捌いていくが、一度、二度とかすめるように被弾が増え、ついに体勢を崩すという致命的な隙を曝してしまう。

 

()ったぞ!」

「いいえ、あなたの方です!」

 

 勝利を確信する猗窩座に、結一郎は機を見出だす。

 自分の背後を見るその目を見た猗窩座は、嫌なものを感じ取っていた。

 

『同じ手を二度もくらうものか! ……いや、こいつもそのことは分かっているはず?』

 

 怒りで曇っていた心に長年の戦闘者としての勘が警告を告げていた。

 その本能的な勘に従って意識を巡らせれば、羅針に反応するものが――

 

“炎の呼吸 壱ノ型・不知火”

 

「避けられたか! 大丈夫だな、結一郎!」

「助かりました、煉獄師匠」

 

 結一郎を助け起こす杏寿郎。

 一時戦闘を離れ体力を回復していた彼は、結一郎の合図を見て戦闘に復帰。

 結一郎の意図を読み、彼の視線とは別方向からの奇襲を行ったのだ。

 しかしながら、やはり上弦の鬼と言うべきか、いくつもの虚実を混ぜた奇襲を難なくかわされて決着はまだ着かない。

 

「ああ、そうだな杏寿郎。お前ほどの強者があの程度で戦えなくなるはずがなかったな!」

 

 二対一になったというのに微塵も自らの敗北を疑う様子もなく、むしろ喜悦の表情で応じてくる猗窩座。

 戦闘を望み、流血を好む様はまさしく修羅。

 

「まったくもって凶悪な鬼だな! 上弦というのは!」

「本当に嫌になります!」

 

 改めて感じる上弦の鬼の強大さを前に言葉を交わす二人。

 諦観ともとれるような軽口だが、その声音に絶望など含まれていない。

 鬼殺の剣士が鬼を前に勝利を諦めることなどありはしない!

 

「だが、二人一緒ならば必ず勝てる! そうだろう、結一郎!」

「えぇ、師弟の強さを見せてやりましょう!」

 

 いくぞ! 応!

 呼応の声と共に剣を構え走り出す二人。

 結一郎は文字通り“呼吸”を合わせ、猗窩座へと迫った。

 

「ハハハ、素晴らしい連携だ! 過去にもこれほどの強者同士の緻密な連携は見たことがない!」

 

 燃え盛るような猛攻を行う炎の呼吸の剣士二人を相手にしても、猗窩座は、この戦鬼は愉悦を覚えている。

 呆れるほどの身体スペックの差。悍ましいまで戦闘に依存した精神性。

 もはや生半可な攻撃は通用しないと判断した師弟二人は、言葉を交わすことなく最大火力を出せる型を同時に選択した。

 

““全集中 炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄””

 

 広範囲をえぐり斬る炎の呼吸の奥義が挟み込むようにして猗窩座の頸を狙う。

 猗窩座の肉をえぐり、骨を削りながら迫る刃。

 しかし、それは頸にわずかに食い込んだところで猗窩座に刀身を掴まれ止められてしまった。

 

「オオオオオオオ!!」

「ハアアアアアア!!」

 

 だからなんだ!

 と、全身全霊をかけて刀に力を込める。

 この機を逃せば勝ち目などない二人に、引くという選択はない。

 そのまま刃を押し込み、頸を断つべく残りの力を出し切る。

 だが、相手は上弦の参。早々それを許してはくれるはずもない。

 

「ガアアアアアア!!」

 

 二人の全力をそれぞれ片手で止めながら互角以上に張り合う。

 驚くべき怪力。タフネス。

 この悪鬼を倒すにはもう一手足りない!

 その一手を打つべく、じっと機を伺っていた者がいた。

 

「ウキッー!」

 

 “猿の呼吸 壱ノ型・猿飛(さるとび)

 

 響き渡る奇声と共に飛び出す小柄な影。

 結一郎のお供の一匹、杏寿郎から呼吸法を伝授された鬼殺の猿・闘勝丸(とうしょうまる)だ。

 そう、炎柱・煉獄杏寿郎の継子はもう一匹いる!

 

「何ィ!?」

 

 結一郎と杏寿郎の攻撃を全力で防いでいる猗窩座は、突然飛び出してきた猿を察知しながらもその攻撃に対してどうすることもできない。

 何者にも妨げられることなく突き立てられた刃は肉を裂き、骨を断ち、ついに頸を斬り落とす。

 

「俺が、猿ごときに!?」

 

 驚愕と怒りに染まった表情で地面を転がる猗窩座の頸。

 ほどなくして塵になって崩壊し始めたその頸と体を見てようやく勝利の実感が湧いてくる。

 

「勝った? ……勝ったんですよ、煉獄師匠!」

「ああ、大勝利……だ」

「師匠!?」

 

 上弦の鬼の討伐という大成果を喜ぶ結一郎だったが、膝をつき力尽きたように倒れる杏寿郎を見て慌てて駆け寄る。

 

「しっかりしてください、煉獄師匠!? 痛ッ!」

 

 倒れた杏寿郎を抱き起そうとして、左腕に痛みを覚える結一郎。

 いや、左腕だけじゃない。戦闘中は忘れていた痛みが、安堵感を得たことで思い出したように痛みだしたのだ。

 

「大丈夫ですか、結一郎さん、煉獄さん!」

「おい、死ぬんじゃねえぞ、ギョロ目! 妖怪男!」

 

 痛みに悶絶していると、心配した炭治郎(たんじろう)伊之助(いのすけ)が近寄ってきた。

 動けない自分の代わりに、二人に指示を出す。

 

「炭治郎君は心配してくれるのはありがたいですが、君も重傷です。動かないこと! 伊之助君は、藤乃の背負い袋から薬箱を出してください」

「す、すみません!」

「そうだぞ、権八郎! 大人しくして親分に任せておけ! ……これで合ってるか、妖怪男!」

 

 粗雑な言動とは裏腹に仲間思いなのか、テキパキと動く伊之助。

 この際なので自分の呼び方は不問にして、伊之助の問いに首を縦に振って答える。

 

「ええ、それです。鎮痛剤なので炭治郎君も飲んでおくといいでしょう」

 

 伊之助から受け取った薬箱から錠剤を取り出し飲み込む。もちろん炭治郎と杏寿郎にも処方しておく。

 亜米利加のとある地方でとれる薬草(ハーブ)を調合したもので、効果はてきめんだ。

 痛みが治まったところで自分の左腕の応急処置をして、杏寿郎の処置をし始めた。

 

「まったく、情けないな! 弟子に怪我の手当てをさせることになるとは!」

 

 結一郎による止血などの応急処置を受けながら、自分の不甲斐なさを嘆く杏寿郎。それを見て結一郎は呆れたように言う。

 

「上弦の参と一人で渡り合っていたんですから、命があっただけでも十分ですよ! 本当に間に合ってよかったです」

 

 もし自分が間に合っていなかったら確実に杏寿郎が死んでいたであろうことを想像して顔を青ざめる。

 柱の中でも人望が厚く、名門の出身ということもあって一目置かれていた杏寿郎が死亡していたならば鬼殺隊にどれだけの動揺を与えたことか。

 選抜隊の“旭”もようやく活動を始めたばかりで、若手がまだ育っていないのだ。

 そんな状況で炎柱・煉獄杏寿郎の後釜などそうそう見つからない。

 結一郎は杏寿郎の継子でもあるが、今は新たな“棟梁”という役職を得た身であるので、柱の兼任は憚られる。

 というか、そんなことになろうものなら結一郎の過労死待ったなしなので無理!

 結一郎のためにも、本当に杏寿郎が生き残ってくれて良かった。ホントに。

 じゃあ、他に誰が? となると、蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶの継子、栗花落(つゆり)カナヲがいるが、彼女はまだ経験不足。

 該当する人間はいないように思えた。

 

『あれ? ちょっと待って、柱の条件ってたしか……』

 

 柱の候補者ということを考えた時に、柱に昇格する条件を思い出した結一郎。

 

 階級が(きのえ)の者が、

  一、鬼を五十体討伐すること。

  二、十二鬼月を討伐すること。

 どちらかを達成すれば、昇格の条件となる。

 

 十二鬼月を倒す。今まさに起こったことだ。しかも上弦の参。

 誰がやったかといえば、炎柱・煉獄杏寿郎。棟梁・和結一郎。……そして、お猿の闘勝丸である。

 

『え、まさか、そんな、アハハ~、ありえないですよね?』

 

 猿柱、就任!

 そんな文字が頭の中に躍り出るのを必死に振り払う。

 というか、下手したら結一郎の戦績よりも上かもしれないという嫌な想像が!

 自分が斬ったのは下弦の肆。でも、闘勝丸が頸を落としたのは上弦の参……。

 

「ウキ?」

 

 結一郎が見つめてくるのを不思議そうに首を傾げる闘勝丸。

 無邪気なお供の姿を見て結一郎は考えるのをやめることにした。

 やめやめ! これ以上考えると落ち込みそうだ。

 

「煉獄師匠、絶対に死なないでくださいね?」

「もちろん死ぬつもりなどない! しかし、どうした? 急に」

 

 杏寿郎の問いに結一郎は答えることができなかった。

 だって、言えるわけねえじゃん。「あなたが柱を辞めたら後釜が猿かも」とか。

 こんな脅し文句ある!?

 

 なお、『上弦の鬼を倒したら引退しよう』と考えていた某柱の方にはもろ直撃であったり。

 下手に死んだり、大怪我で引退できなくなった柱の皆さんだった。

 大変ダナー。柱って。

 




シリアスとギャグが入り混じってジェットコースターみたいな話になってしまいました。
 後半は力尽きた感が半端ないです(汗

Q.どうして猗窩座の頸を闘勝丸に斬らせた!
A. だってアンケートの結果が……

Q.本当のことを言え!
A. 絶対みんな最後の選択肢を選んでくれると思ってました! 計算通り! やったぜ!
 いや、もう本当に闘勝丸の人気がすごいと思うんですよ。たぶん拙作の人気投票やったら確実に上位に食い込みそうな予感がします。
 ちょっとしたネタで出しただけのはずだったのに、こうなるなんて……いっそ、鬼殺の猿を主役にした話でも書くかぁ?

翻訳係コソコソ話
 闘勝丸が杏寿郎に指導を受けたいたことは知ってましたが、継子扱いされていたことは知らなかった結一郎。今回の件で杏寿郎が継子扱いをしているのを知って驚愕していたりしました。

ミニ次回予告
千寿郎「そ、その耳飾りは!? ち、父上! 父上ー!」
槇寿郎「おまえ、日の呼吸の使い手だな!」
炭治郎「え、えぇ!?」
 炭治郎in煉獄家!

杏寿郎「列車の中でも話していたが、俺の継子として面倒を見てやろう!」
義勇「待て。(同門の水の呼吸の使い手で弟弟子の)炭治郎は俺の継子になるべきだ!」
 炎柱vs水柱 どっちの継子でショー再び!?

などなど、空白期の小ネタ集の予定です。


【読み飛ばし推奨】豆腐の愚痴
 戦闘描写を書くのは苦手です。臨場感があるように書こうとするのが一番しんどいです。
 苦手意識があるからか、ついギャグを入れようとしたり端折ったりしてしまいます。
 自分って本当に駄目だなって思います。
 今回は特に猗窩座がガチ戦闘キャラなので、そのギャグを挟むことさえ一苦労。
 作者の望みは上弦の伍・玉壺のようなギャグまみれの戦い。
 原作のシリアスな空気はどこ行ったと読者に言わせてツッコミを入れさせること。
 それなのに割とガチの戦闘描写を書かざるを得ない……どういうことなんだ?
 なんでそんなにお前はガチの戦闘キャラなんだ? 猗窩座!
 玉壺も零余子もこれでもかとネタになってくれたというに……まともにネタにできたのは猿に頸斬られるというオチだけか? 猗窩座!
 婚約者ネタなんてコミックス派からしたら意味不明な上に下手したらネタバレだろうが! 猗窩座!
 どうしてこうもギャグにし辛いんだ、猗窩座、猗窩座、猗窩座アアア!!
 もう、お前なんかさっさと嫁さんのところ行って寿退社してろよ! 祝ってやる!


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【番外編】キメツ学園の翻訳係 弐~文化祭~

2019/11/08投稿

予定を変更してキメツ学園です。

※これは鬼滅の刃ノベライズ第2巻『片羽の蝶』のネタバレを一部含んでいます。
 ・もうすでにノベライズを読破済みである方
 ・ネタバレしても気にしない心の広い方
 ・どうせ買うつもりないからどうでもいいよという不届き者
以上の方以外はご注意ください。


【番外編】キメツ学園の翻訳係 弐~文化祭~

 

 キメツ学園文化祭。

 『何人にも平等に、生徒の自主性を尊重する』という理念を掲げるこの学園の文化祭は、生徒たちがその自主性を大いに発揮して盛り上がる一大イベントの一つだ。

 お祭りは誰だって楽しい。

 しかし、その裏では運営のためにとても苦労している人がいることを忘れてはいけない。

 今回の文化祭を開催するにあたって、文化祭実行委員長を務める高等部三年生・胡蝶(こちょう)しのぶはある事案で頭を抱えていた。

 

「はぁ~、どうしましょう。もう手立てがありません」

 

 大きなため息を吐き途方に暮れる。

 彼女を悩ませているのは「キメツ☆音祭」に参加する一つのバンド『ハイカラバンカラデモクラシー』についてだ。

 ヴォーカルを高等部一年生・竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)、三味線を同じく一年生・我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)、太鼓を同一年・嘴平(はしびら)伊之助(いのすけ)、そしてハーモニカを美術教師・宇髄(うずい)天元(てんげん)というメンバーで構成された異色のバンドである。

 彼らの奏でる音楽は破滅的というか、破壊的というか、はっきり言ってしまえば音祭への参加を拒否したいくらいのものだ。

 その音楽を聴いた者は、激しい嘔吐と震え、眩暈と頭痛に襲われ意識を失うという。

 生物兵器もかくやとばかりのこのバンドを参加させれば、当日の保健室は満員御礼どころか野戦病院の様相を呈するに違いないわけで。

 しのぶは彼らを棄権させるべくあの手この手を使ったのだが、結果は伴わなかった。

 

 学園でも指折りの不良兄妹にして人気バンドを組んでいる謝花(しゃばな)兄妹をけしかけ、毒を以て毒を制する作戦はHBD(ハイカラバンカラデモクラシー)の音楽の破壊力により失敗。二人が尊い犠牲となった。

 次に頼ったのは学園一の熱血歴史教師・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)だ。

 生徒思いの彼ならば、他の生徒に危害が及ぶと知れば止めてくれると思って説得をお願いしたのだが、HBDの身の程をわきまえない「いつかメジャーデビューしたい」という熱意にほだされて失敗してしまった。

 ならば、学園の最終兵器(リーサルウェポン)とも言われる風紀委員顧問・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)にHBDの摘発を依頼したのだが、しかし、まさかのまさか、彼らの音楽に冨岡先生は感動を覚え帰ってきたのだ!

 ミイラ取りがミイラになった!

 こいつ肝心な時に使えねー、ペッ、と内心で吐き捨てたのは秘密である。

 

 そういうわけで万策尽きたしのぶは、もはや自分の手には余ると他人の力を借りることにしたのだった。

 

「仕方ありません。生徒会に相談しましょう」

 

 困ったら生徒会へ。キメツ学園の常識である。

 


 

「なるほど! 事情はよく分かりました!」

 

 生徒会室の椅子の一つに座りしのぶの話を聞いて頷く生徒会長・(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)

 彼の正面に机を挟んで座るしのぶは、笑顔で応対する結一郎の様子に不信感を覚えた。

 あまりに気楽な様子に事態の深刻さを理解しているのかと聞きたくなったのだが、そこは数々のトラブルを解決してきたベテラン生徒会長。

 しのぶのその不信感を拭うように声をかけてきた。

 

「胡蝶さん、ご心配なく。その件については生徒会でも把握してまして、ちょうど対応をしているところだったんですよ」

「あら、そうなのですか?」

 

 結一郎の言葉に目を丸くして驚くしのぶ。

 よくよく考えれば、多くの生徒に被害が出るかもしれないのに生徒会が放っておくはずもなかった。

 そこまで考えた時に、自分が苦労してきたことを思い出して脱力しそうになる。

 自分がやらなくてもよかったじゃないか、と。

 

「はぁ~、では私たちがやってきたことは取り越し苦労だったようですね」

「いえ、そんなことは無いです! 胡蝶さんたちが解決してくれるのならばそれが一番穏便に済みそうだったので」

 

 自分たちの苦労は意味なかったとしのぶが呟けば、結一郎はそれを首を横に振って否定した。

 どういうことかと聞けば、結一郎は疲れた顔をして答える。

 

「いえ、生徒会で彼らを対処するとなるとどうしても力技にならざるを得ませんでしたから」

 

 あまりとりたい手段ではなかった、と語る結一郎にしのぶは首を傾げる。

 好ましくない手段というとどんなものだろうか? 生徒会の権限を使って強制的に棄権させる? しかしそれは、生徒の自主性を重んじる理念に反するような……

 

 あれこれとその方法を考えるしのぶの前で、結一郎はPHSを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。

 

 call……call……call……

 

 三回呼び出し音が聞こえたところでブツリと電話が切れた。

 呼び出しに応えなかったようだが、結一郎は気にした様子もなく、むしろ当然のようにPHSを机にしまい込む。

 

「あの、今のはいったい――」

「た、大変です、和生徒会長!」

 

 しのぶが問いを投げ終える前に入口のドアが勢いよく開け放たれ、庶務の佐藤が緊急事態を告げてきた。

 

「佐藤くん、何かありましたか?」

「だ、第二音楽室で爆発が起きました!」

「第二音楽室……たしか、今は宇髄先生たちが使っていたはずですね」

「え、それって……」

 

 結一郎は慌てた様子もなく、その原因を佐藤に示唆して見せた。

 原因が想像できたのだろう。佐藤は納得したように頷く。

 

「まぁ、宇髄先生のいつものやつでしょう! 佐藤君、いつもどおり警察に説明しておいてください」

「はい! 了解です!」

 

 指示を受けてすぐさま立ち去る佐藤を見送り、結一郎も立ち上がる。

 その姿を、しのぶは顔を引きつらせてみていた。

 

「和さん、あの、もしかしてさっきの……」

「やれやれ、宇髄先生にも困ったものですね! 文化祭が近いというのにこんな騒ぎを起こすなんて!」

 

 しのぶが胸に湧き起こった疑念を問おうとする言葉を遮って結一郎が言葉を発する。

 さっきの電話は何だったのかとか、そもそもHBDの使用していた教室と時間を把握していたのかなど疑念は尽きない。

 しかし、いまの結一郎はその質問を許してくれそうな雰囲気ではなかった。

 代わりといっては何だが、大きな独り言をつぶやいている。

 

「あー、本当に困ったものです! 宇髄先生も時と場所を選んでいただかないと! 文化祭までもう日にちがないときにこんな事件を起こされてしまっては、可哀相ですが、彼らの活動は自粛して頂くほかないでしょう! そうは思いませんか? 胡蝶さん」

「……ええ、本当ですね」

 

 白々しいまでの結一郎の言葉に、にこりと微笑んで同意するしのぶ。

 おおよその裏事情を目の当たりにした彼女がとった選択は、『見ないことにする』であった。

 まぁ、それで問題が解決するならしょうがない。しょうがない。

 彼女は計算高く、賢い人間なのだから。

 

「さて、自分は第二音楽室に行って()()()()をしてこなければなりません。申し訳ないですが、ここで失礼させてもらいますね」

「ええ、ご苦労様です。頑張ってください」

 

 立ち去る結一郎を見送ったしのぶは、今起きたことを胸の内に秘めて忘れることにしたのだった。

 あー、悩みが解決してよかったなぁ!

 

 その後、学外からも人の集まる文化祭で危険な火薬を使ったパフォーマンスをしようとしたHBDは音祭の参加権利をはく奪されたのであった。

 もちろん彼らは、

 

「俺はやってねえ! こんな地味な爆発は俺じゃねえ!」

「本当に俺たちじゃないんです! 信じてください!」

「イヤアアア! 何で何もしてないのに爆発が起きてんのォ!? これはれっきとしたテロじゃない!? そうじゃないの!?」

「ガアアア! ふざけんなチクショウ!」

 

 と、身の潔白を主張したのだが、普段の(主に宇髄先生の)行動から一顧だにされなかったという。

 自分たちで真犯人を見つけるんだ! と、彼らが張り切るものの、何者かによる証拠の隠滅と生徒会の迅速な教室の復旧によってまともに捜査は出来ず。

 真実は闇に葬られたとのこと。

 

 学園の治安を守るため、暗躍する生徒会の噂。

 信じる信じないはあなた次第です……

 




ノベライズを読んで衝動的に書いてしまいました。
次回こそは小ネタ集です。今のところの予定では、

1.『炭治郎と継子認定』
2.『炭治郎と煉獄家の方々』
3.『翻訳係、杏寿郎と飲み明かす』
4.『翻訳係ととんでもねぇ炭治郎』
5.『ひなきお嬢様のお気持ち』
6.『猗窩座の走馬灯~愛妻vsブラック上司~』

以上の六本でお送りするつもりです。
お楽しみに!


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その15(煉獄家と炭治郎と翻訳係)

『炭治郎と継子認定』

 

 無限列車での激闘を終え、竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)は蝶屋敷にて傷を癒していた。

 腹部に深い刺し傷を受けたため、しばらく安静が必須と言われている炭治郎は現在ベッドに横たわりながら見舞い客と話をしているところである。

 

「忙しいなか来てくださってありがとうございます。冨岡さん」

「気にするな。弟弟子を心配するのは当然だ」

 

 その見舞い客は水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)であった。

 いろいろな出来事があり、上に立つものとしての意識が芽生え始めた義勇は弟弟子が怪我をしたと聞いて忙しい任務の合間をぬって駆けつけてきたのだ。

 少し前の彼なら確実に見舞いなど来ていない。これも彼の成長の賜物だ。

 なお、継子の結一郎(ゆいいちろう)の見舞いには一度もきたことはない模様。一度も。

 

 いろいろな心境の変化もあってお見舞いに訪れた義勇。彼にはお見舞い以外に炭治郎の下へ訪れた理由があった。

 

『炭治郎を俺の継子にする。それが一番いい方法だ』

 

 お見舞いも兼ねて炭治郎に自分の継子になるよう提案しに来たのである。

 今回の件で炭治郎が大怪我をしたと聞いた義勇は、大事な弟弟子が無事に生き残れる実力を身につけさせねばと使命感を覚えたことから、この発想になったという。

 才能のあると認められた継子でも、場合によっては柱でさえも鬼との戦いで命を落とす殉職率の高い鬼殺隊では、“実力があれば死なない”とは必ずしも言い切れないものの、力が及ばなければ瞬く間に命を落とすことは間違いない。

 努力はどれだけしても足りないのだ。

 そう考えれば、柱である義勇から指導を受けることは、実力をつける方法として効果的だといえる。

 無限列車では、炭治郎は単独ではないとはいえ十二鬼月・下弦の壱の頸を落とすという成果を残しているため、義勇の継子になる資格は十分。

 つまり、義勇の『炭治郎を継子にする』という考えはなんの問題もないと言えた。

 ただし、この条件に当てはまるのが義勇だけではないという点を除いて……

 

「失礼する! 竈門少年はいるか!?」

「あ、煉獄さん。こんにちは。お元気そうですね!」

「うむ! まだ体はあちこち痛むがな! お、冨岡も来ていたのか!」

 

 病室の扉を元気に開けて入ってきたのは炎柱・煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)だ。

 彼も上弦の参との戦闘で大怪我をして入院をしているのだが、そのことを感じさせない快男児さを見せつけてくる。

 一方、大事な用件を告げようとしていたところに乱入されて義勇は少しご機嫌斜めである。

 

「弟弟子のお見舞いに来るとは感心なことだな! うむ、立派な兄弟子をもって幸運だな! 竈門少年!」

「はい! 俺の自慢の兄弟子です!」

「……俺はそこまで立派な男じゃない」

 

 同僚と弟弟子から褒められたのに、ぶっきらぼうに応える義勇。

 しかしこの時、義勇から照れと喜びが入り混じった臭いがしていたと後に炭治郎は語る。

 この水柱、なかなか褒められ慣れていないので結構ちょろい。

 

「それで、煉獄さんはどうされたんですか? 俺に何か用事が?」

 

 怪我をした身でわざわざ病室に訪れた杏寿郎に用件を尋ねる炭治郎。

 同じく怪我をしている者同士でお見舞いもないだろうし、何かあるに違いない。

 その予想は正しく、杏寿郎から単刀直入に用件が述べられた。

 

「うむ、この間の約束を果たそうと思ってな! 列車の中で俺の継子にして面倒を見ると言っていただろう? それの意思の確認に来たのだ!」

 

 無限列車の中で口にした、「継子にする」という言葉を有言実行すべくやってきたという。

 上弦の参・猗窩座(あかざ)との戦いを見ていた炭治郎にとって、杏寿郎の直弟子である継子になることに否やはない。

 ごく短時間ではあるが、呼吸法を使った止血の指導を受けたこともあるので、指導力と人柄の両面で折り紙付きである。

 炭治郎から文句が出ようはずもない。

 反対意見が出るとしたら、その場にいるもう一人の師匠候補からであろう。

 

「待て。炭治郎は俺と同門だ」

「ああ、知っているが?」

 

 炭治郎を継子にするのは自分だと告げたつもりの義勇だが、残念ながら言い方が間違っていて杏寿郎に伝わらず。

 杏寿郎からすれば、既に知っている事実を言われただけで、継子にすることを止められているということになっていない。

 相変わらず、言葉が足りませんよ。義勇さん。

 

 困った杏寿郎は、同じく入院中の結一郎(ゆいいちろう)を連れてくるべきか考える。

 しかし、その心配はなかったようで、義勇はさらに言葉を続けて主張を始めた。

 

「弟弟子の面倒を見るのは兄弟子の役目だ。だから、俺の継子にする」

「冨岡さん……」

 

 義勇の言葉に炭治郎が思わずといった風に声を出す。

 兄弟子が自分のことをここまで考えてくれているとは思ってもいなかったのだ。

 しかし、悩ましいものでそうなってくると杏寿郎からも継子として誘われていることになる。

 

『どうしよう? 俺はどうすればいいんだ? 俺のためにこんなすごい人たちが名乗りを上げてくれているというのに!』

 

 悩む炭治郎。

 その悩みを吹き飛ばしたのは、燃える炎の熱血柱だ。

 

「なるほど! 冨岡も竈門少年を継子にしたいと? よし、ならば二人の継子になるといい。竈門少年!」

 

 師匠候補が二人だって? なら二人の弟子になればいいじゃないか!

 そんな単純明快な返事に、炭治郎は面食らい、義勇はその手があったかと納得する。

 

「え、ええっ!? それでいいんですか!?」

「まったく問題ないな! 既に七人の柱の継子になった者がいるからな!」

「そんな人がいるんですか!?」

 

 それでいいのかと問えば、既に前例があると答えられて驚くしかない。

 そう、既に『複数の柱からの継子指定』という前例はあるのだ。

 前例がもうあるのならば、どちらの継子になるのかで争う理由などあるわけもない。なにせ、両方の継子にしちまえばいいのだから!

 そういうわけで、炭治郎は水柱と炎柱の継子として認定されたのであった。

 

 のちほど、継子の先輩である結一郎のところを尋ねた炭治郎。

 

「そうですか、炭治郎君も複数の柱から指導を受けることとなりましたか……」

「はい。結一郎さんも複数の柱の方の継子なんですよね?」

「ええ、そうです! 先達として助言するとすれば……」

 

 言葉を探すように一度口を閉じた結一郎は、自分の意思を伝えるため炭治郎の目をしっかりと見つめて助言の言葉を告げる。

 

「炭治郎君、くれぐれも死なないでくださいね?」

「はい! ……え、ちょっと待ってください! どういうことなんですか、それ!?」

 

 複数の柱から指導とか、その先は地獄だぞ。少年!

 


『炭治郎と煉獄家の方々』

 無限列車での激闘からしばらく経ったころ。

 傷も動ける程度に回復した炭治郎と杏寿郎の二人はそろって煉獄邸へと向かっていた。

 継子となったことで、顔を合わせることも多くなるであろう杏寿郎の家族に挨拶をすることと、炭治郎の家に代々伝わる「ヒノカミ神楽」について調べることが目的だ。

 特に道中で変わったこともなく煉獄家についた二人の目に、門前を箒で掃除している少年が映る。

 

千寿郎(せんじゅろう)、ただいま帰ったぞ!」

 

 親し気にその少年に声をかける杏寿郎。その少年は、杏寿郎の弟の千寿郎だった。

 

「おかえりなさい、兄上。おや、そちらの方はどなたですか?」

 

 兄とそっくりの顔をほころばせて挨拶をした後に、同行している炭治郎に気が付いて視線を向ける。

 弟に尋ねられた杏寿郎は、二人の仲を取り持つように紹介を始めた。

 

「この度、俺の新しい継子になった炭治郎だ。炭治郎、こちらは俺の弟の千寿郎だ。年も近いようだし、仲良くしてくれると嬉しい」

「はじめまして、杏寿郎師範の継子になった竈門炭治郎です。よろしくお願い……って、どうしました!?」

 

 杏寿郎の紹介を受けて挨拶を始めた炭治郎であったが、千寿郎の反応がおかしくて思わず言葉が途切れてしまう。

 なにせ千寿郎は炭治郎の顔を見て手にしていた箒を取り落とすほど、驚愕していたのだから。

 

「どうした、千寿郎? 炭治郎がどうかしたのか?」

「ち、父上! 父上ェー!! 耳飾りが、日の呼吸の剣士がいらっしゃいましたー!!」

 

 様子を訝しむ兄の言葉も無視して、慌てた様子で家の中に駆け込む千寿郎。

 彼の言葉に聞き逃せないものがあった炭治郎も慌てて後を追う。

 着いて早々に、本来の目的の事柄が目の前に現れたのかもしれない。

 

「待ってくれ! 俺の耳飾りについて何か知ってるのか? いや、それよりも今、日の呼吸って――」

「日の呼吸の剣士はどこだ!」

 

 必死な様子で追いすがる炭治郎の前に、家の奥から一人の男性が興奮した様子で駆けてきた。

 杏寿郎の年齢を一回りほど多くした顔のこの男性は、煉獄家家長・煉獄槇寿郎(しんじゅろう)である。

 突然現れた見知らぬ男に少しうろたえた炭治郎だが、気を取り直して声をかける。

 

「あの、すみません!」

「む、誰だ? いや、その耳飾り……お前が日の呼吸の剣士だな!? よし、詳しく話をきかせてもらおうか!」

 

 声をかけたはいいものの、槇寿郎の勢いに圧倒されてしまった。

 

「あの、俺は家に伝わるヒノカミ神楽が何か知りたくて来たんです!」

「そのことについてもじっくりお話を聞かせてください。とりあえず、中へどうぞ」

 

 このまま流されてはいかんと、精一杯用件を述べるものの、千寿郎まで急かすように強引に中に案内されてしまう。

 あれよあれよという間に、煉獄家の中へ連れ込まれていった炭治郎。

 嵐が通り過ぎたかのような騒ぎに、一人まったく関われずに置いてきぼりにされてしまった杏寿郎は唖然としていたが、気を取り直して一言呟いた。

 

「よもや、俺がのけ者にされようとは……炭治郎はよほど俺の家族と相性がいいらしいな!」

 

 良いことだ、と、頷くもののちょっと寂しくなった杏寿郎であった。

“ヒノカミ神楽 日暈の龍(にちうんのりゅう) 頭舞い(かぶりまい)

 

 煉獄家の庭で日輪刀を振るう炭治郎。

 現在、炭治郎は煉獄家の面々に「ヒノカミ神楽」の型を見せているところだった。

 あの後、客間に通された炭治郎は槇寿郎と千寿郎の親子二人から煉獄家に伝わる“日の呼吸”についての話を聞き、また、自身の家に伝わる神楽について洗いざらい話したのだ。

 

 那田蜘蛛山で窮地に立たされた時に、父が「ヒノカミ神楽」を舞う時に『どれだけ動いても疲れない呼吸がある』と言っていたことを思い出し、とっさに使った結果剣技の威力が上がったこと。

 そのことを疑問に思い、長い歴史を持つ炎の呼吸の名家である煉獄家なら何か分かるのではないかと尋ねてきたこと。

 そういった炭治郎の知っていることやこれまでの経緯を話したところ、槇寿郎からの深い興味と考察を聞くことができた。

 

「その耳飾り、歴代の炎柱の手記に記載されていた“始まりの剣士”が身に着けていたものと合致している。その点から考えれば代々継承されてきたという神楽は“日の呼吸”に深いかかわりがあると考えていいかもしれないな」

「でも、俺の家は代々普通の炭焼きの家系です。そんなすごい呼吸がどうして、俺の家に?」

 

 何故、たかだか炭焼きの家に伝説となるような剣士の技の一端が残っているのか。

 そう炭治郎が疑問に思うのは当然のことだ。

 普通に考えれば煉獄家のような鬼殺の家に伝わっている方が、理解できるというもの。

 その疑問を、槇寿郎はこう考察する。

 

「何故お前の家に継承されたのかは分からん。だが、予想するにだ、現在“日の呼吸”を継ぐものどころか、どんなものであったかの伝承すら数が少ない状況だ。

 これはおそらく“日の呼吸”を恐れた鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)が、その痕跡を消そうとしたのではないかと思う」

「その目を逃れるために、神楽の形で残した……と?」

「おそらくはな。俺の予想の域を出ないが」

 

 元々、武術と舞踊の関係は深い。舞の中に剣技の型をまぎれさせて隠すことも可能だろうと語る槇寿郎に、自分の家の謎が深まって複雑な顔になる炭治郎。

 

『耳飾りと神楽を絶やすな』と言い聞かせていた父は何か知っていたのだろうか?

 その問いは誰も答えられないものであったが、ついつい考え込んでしまう。

 

「とにかく、そこは考えていても仕方がない。大事なことは、『ヒノカミ神楽』が“日の呼吸”であるのかどうか。また、それは他の人間にも使えるのかどうかということだ」

 

 意識を切り替えるように槇寿郎が今後について話をする。

 ヒノカミ神楽を研究すれば、日の呼吸を復活できるかもしれないと語る槇寿郎の目は情熱に燃えていた。

 かつて鬼舞辻無惨をもう一歩というところまで追いつめた“日の呼吸”。それが現代に復活したのならば、大きな希望になることは間違いなかった。

 そのために槇寿郎が炭治郎に協力を要請するのは当然のことで。

 

「炭治郎、一度そのヒノカミ神楽を見せてくれ」

 

 

“ヒノカミ神楽 斜陽転身(しゃようてんしん)

 

 タッと宙に躍らせた体を膝の柔らかな動きで受け止める。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 十二の型全てを連続で行った炭治郎の呼吸は荒く、額から大粒の汗が流れている。

 剣技の威力が大幅に上がるヒノカミ神楽だが、炭治郎の消耗は激しいのだ。

 疲労の激しい炭治郎に、槇寿郎が声をかける。

 

「ありがとう、よくやってくれたな。大丈夫か?」

「すみません。ちょっと疲れただけですから」

 

 返事をした炭治郎を見て槇寿郎は考え込む。

 何故、炭治郎はここまで疲労しているのか?

 身体の鍛錬が足りていないというのが、普通に考えたら出てくる答えではある。だが、先ほどの炭治郎の父の話ではヒノカミ神楽の呼吸は『どれだけ動いても疲れない呼吸』のはずだ。

 それは炭治郎の父が病に侵された病弱な体でも冬の日の入りから日の出まで神楽を演じ続けたという事実が証明している。

 つまり、今の炭治郎のヒノカミ神楽には何かが足りない。不完全なのだ。

 

「お前の神楽が完璧ではないということは分かった。だからそれを何とかして完璧な形にせねばならない」

「……はい。でも、どうやったら?」

 

 父から受け継いだ神楽が不完全だという事実に悔しさを噛み締める炭治郎。

 なんとしても完全な神楽にしたいが、その方法が思いつかない。

 

「ふむ。さきほど見せてもらったが、『ヒノカミ神楽』には動きや呼吸そのものに俺の知っている炎の呼吸に通じる要素があったように思う」

「はい! 俺も使っていて水の呼吸に似ているところがあるように思います!」

「各呼吸の流派は日の呼吸から枝分かれしていったものだ。ならば、逆に各流派の要素を研究することが、ヒノカミ神楽の完成につながるやもしれん」

「なるほど!」

 

 ヒノカミ神楽と既存の呼吸に共通点があるのならば、それを調べればよい。

 特に基本の五流派は歴史も長く、良く知られているものなのだから。

 しかし、そうなってくると各流派を使える人物の協力が必要になってくるわけで。

 

「他に協力者を募るとして、出来れば複数の呼吸を習得・精通していて、それなりに実力があって、出来れば他人にそれを教える指導力があるやつがいれば一番いいんだが……」

 

 そんな都合のいい奴はいないよなぁ。と、ため息を吐く槇寿郎。

 しかし、その言葉に首を横に振って杏寿郎は否定する。

 

「父上! 一人俺に心当たりがあります!」

「何! 本当か!?」

 

 基本の五流派を習得していて、柱並に実力があって、他の隊士に対する指導も実績を持っている。

 そんな都合のいい人材がいるというのだ。

 いったい、それは誰なんだ!?

 

「結一郎に協力を呼びかけましょう!」

 

 そう、我らが翻訳係である。便利な男なのだ、彼は。

 

「気が付いたら、仕事が増えている!?」

 

 結一郎は悲鳴をあげたとか。

 


 

『翻訳係、杏寿郎と飲み明かす』

 老舗料亭の暖簾をくぐり、店員に名前を告げて案内をされる。

 落ち着いた雰囲気の店内の廊下を歩いて着いた個室のふすまが開けられて中に入る結一郎。

 

「来たな、結一郎。悪いが先に始めさせてもらっているぞ!」

「今日はお誘いありがとうございます。煉獄師匠」

 

 部屋には酒杯を傾ける杏寿郎の姿があった。

 本日、結一郎は杏寿郎に誘われて酒席を共にすることになっているのだ。

 実は師匠からの呑みの誘いがあったのは初めてだったりする。

 そんな珍しい誘いがあったのは、日中の煉獄邸にいた時だった。

 

 

「息を乱すな! 剣筋がぶれているぞ!」

「はい!」

「そうだ! 心を燃やせ! もっと熱くなれ!!」

 

 煉獄邸の庭で槇寿郎から指導を受ける炭治郎。そして、それを横で眺める杏寿郎と結一郎。

 炭治郎の鍛錬の指導は皆で行っているのだが、一番張り切っているのは槇寿郎だったりする。

 炎柱の名家の家長らしい熱血指導に結一郎も苦笑いをせざるを得ない。

 現在の短期的な目標は“全集中・常中”の呼吸を水の呼吸からヒノカミ神楽の呼吸に切り替えることだという。

 ヒノカミ神楽の身体に体がまだ馴染んでいないのなら、四六時中行うことになる常中で行えるようになればいい! という、単純明快な発想である。

 たしかに正しい考え方であり、柱二人と元柱、そして棟梁からの指導もあってメキメキと実力が上がっていくことを感じられたので問題はない。

 あるとしたら、水の呼吸が使われなくなると知って少し寂しそうな顔をしていた義勇の気持ちくらいだ。

 

「なぁ、結一郎」

「はい、なんでしょうか、師匠」

「今晩、酒を呑みに行くのに付き合ってくれ」

 

 そんな熱血指導を見ていた杏寿郎が声をかけてきたと思ったら、突然の呑みの誘い。

 何事かと思ってその顔を見た結一郎は、杏寿郎の気持ちを汲み取って首を縦に振ったのだった。

 

 

 そういう経緯で始まった二人だけの呑み会。

 運ばれてきた料理と酒に口を付けながら杏寿郎を見れば、既に結構な量の酒を呑んでいるようだ。

 こんな杏寿郎を見るのは珍しい、むしろ、初めてだと心の中でため息を吐く。

 ここに至っては単刀直入に切り込んだ方がよさそうだと覚悟を決める結一郎。

 

「煉獄師匠、何か言いたいことがあってこうして場を設けたのですよね?」

「……結一郎にはやはりお見通しか。うむ! 端的に言って愚痴をこぼしたい気分になったのだ! 我ながら情けないことだと思う。しかし――」

「良いのではないですか? だからこそ、酒の席なのでしょう?」

 

 あの杏寿郎が愚痴を言いたくなるほどに不満を貯めているということに驚きながらも、煉獄邸で誘いを受けた時からなんとなくその気持ちを察していた結一郎は酒の席だからと、気楽に自分の気持ちを吐き出すように促す。

 結一郎の言葉を受けて暫く逡巡していた杏寿郎も、少しずつ口を開き始めた。

 

「炭治郎を父が熱心に指導していたのを結一郎も見ていただろう?」

「ええ、あれだけ熱心で的確な指導をされている槇寿郎さんはすごいですね」

「ああ、母が亡くなってから無気力に過ごしていたころを考えれば、こうして精力的に活動してくれていることは息子として喜ばしい!」

 

 酒浸りで息子のことも見ようとしなかった頃に比べればなんと喜ばしいことか!

 その指導を受けて、次代を担う若者の炭治郎が実力をつけていることは素晴らしく、望ましいことだと思う。

 

「だが、それを素直に喜べない自分がいるのだ!」

 

 引退した父が新たに熱意を燃やせることがあることは喜ばしいことだ。

 継子である炭治郎が力をつけていくことは素晴らしいことだ。

 息子として、師匠として、それらは望ましいことなのだ。

 

 それでも、心にできたこのしこりを無視することができない。

 

「ハッキリ言おう! 俺は炭治郎が羨ましい!」

 

 先ほども言った通り、父の槇寿郎が活発に炭治郎という若い世代を育てていることは素晴らしいことに違いない。

 その一方で、こう思ってしまうのも止められない。

 

「父上は、何故俺が未熟だった時に立ち直ってくれなかったのだろうか?」

 

 自分はたった三冊しかない指南書を頼りにほぼ独学で鍛錬してたのに!

 尊敬する父親からあんな熱血指導を受けたかった!

 こんなこと言っても仕方ないことは分かっているが、息子の時には無気力で、息子の弟子には熱心だなんて、納得できない!!

 

「今の俺は柱だ。柱としての責任を背負っている。なのに、まだ柱じゃなかったらあんな指導してもらえたんじゃないかと駄目なことを考えてしまっているのだ」

 

 その気持ちを振り払いたくて酒に手が伸びてしまう。そのことを自覚して自己嫌悪が積み重なっていく。

 負のスパイラルに陥ってしまっている杏寿郎。

 こんな情けない師匠の姿を見た結一郎の反応は――

 

「んぐ、プハー! 分かります、師匠!」

 

 杯の酒を一気に煽り、叩きつけるように机に拳をぶつける。

 まさかまさかの共感であった。

 予想外に驚く杏寿郎をよそに、結一郎は言葉を重ねていく。

 

「炭治郎君はズルいんですよ。いろいろと!」

 

 語りだす結一郎は止まらない。

 

 知っての通り、自分は冨岡師匠に継子としてなかなか認めてもらえなかった。

 継子になれたと思ったら、なんでか分からないけれど七人の柱の継子になってるし。

 もちろん、今となっては良かったと思っているし、不満もない。

 でも、炭治郎を見ているとズルいと思ってしまうのだ。何がって、

 

「冨岡師匠の方から継子にしたいって言いだすなんて、羨ましいじゃないですかぁ!」

 

 それなりに傍で活動していた自分は周りの人から言われてようやく継子認定したくせにィ!

 

「同じ一門の弟弟子だからですかね? 思いっきり身内びいきじゃないですぅ!? 僕だって水の呼吸使ってたのに!」

 

 本人が柱としての自覚をもって後進育成に目を付け始めたことは良いことだし、炭治郎が成長していくことは悪いことじゃない。それは分かってる。

 でも、それはソレとしてズルいよなぁ!

 

 文句を言いながら酒をあおる結一郎に、杏寿郎は徳利を差し出す。

 

「師匠?」

「呑め、結一郎! 今晩は呑み明かすぞ!」

「呑みましょう、師匠! こういう嫌な気持ちは呑んで忘れるに限るんですよぉ!」

 

 お互いに酒を注ぎ合い、不満を口にする。

 結局朝まで呑み明かした二人の絆はより深まったとか。

 

 ついでに二人そろって二日酔いで蝶屋敷の世話になったとさ。

 たまにはこういう時もあるさ、人間だもの……




煉獄さんの家のことを書いていたら思った以上に文字数が伸びたので区切りました。
次回で予告していた分の続きを投稿します。

1.『炭治郎と継子認定』
 前例があったら当然それを踏襲するよね。やったね、結一郎。(地獄への)仲間ができたよ!

2.『炭治郎と煉獄家の方々』
 槇寿郎さんが早期に立ち直ったことによる炭治郎の強化フラグ。
 炭治郎君は今後ヒノカミ神楽の呼吸が常中になります。透き通る世界ももうすぐだ!
 というか、冬の東京の日の入り日の出の時間を調べたら
日の入り 16:30ごろ → 日の出 6:50ごろ。
 ざっくばらんに14時間近く舞ってる? 炭治郎パパ……そら、達人ですわー。

3.『翻訳係、杏寿郎と飲み明かす』
 なんか、作中だと人格者で聖人じみたお人な杏寿郎さんですが、こんな一面あってもいいんじゃないかと思って書きました。
「煉獄の兄貴がこんな嫉妬なんかするか!」ってお人はいらっしゃると思いますが、自分はこういう人間臭いところがあった方が好きだったりします。


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その16(翻訳係と恋模様?)

『翻訳係ととんでもねぇ炭治郎』

 結一郎が師匠と仲良くそろって蝶屋敷に入院していた時の事。

 寝てばかりでは体が鈍ると思い散歩がてら庭に足を向けたところ先客がいた。

 

「カナヲは蝶を手に止めるのが上手だな」

「コツを掴めば難しくないよ。炭治郎もやってみる?」

 

 その先客は入院服姿の炭治郎といつもの隊服姿のカナヲだった。

 庭を舞う蝶に囲まれながら朗らかな雰囲気で話す二人の様子は、見ている人の心も穏やかにしてくれるようだった。

 邪魔をしては悪いと少し離れたところからこっそり眺めていた結一郎は、あることに気が付いて思わず笑みを浮かべる。

 

『おやおや? あの感情を見せるのが不得意のカナヲちゃんがあんなにも……なるほどなるほど』

 

 以前は人形のように感情を見せなかったカナヲが炭治郎を前にしたら花が咲くような笑顔を見せている。

 蝶を手に止める方法を教えるために体を寄せて、手が触れあって、そのことに気が付いてわずかに頬を赤く染めて……

 読心術など身に着けていなくとも分かる。まさに青春の一頁!

 

『同期の女子隊士の心をちゃっかり奪っているとは、炭治郎君、やりますね!』

 

 後輩の意外な一面を知ってニヤニヤしている結一郎。

 自分はこんな甘酸っぱい経験を飛び越えていきなり人生の墓場ルートだったので、その分の鬱憤を晴らすかのように他人の恋路を見つけたら裏表で暗躍して支援することに決めているのであった。

 他人も人生の墓場に引きずりこむ気満々というわけだ。趣味が悪いぞ、この翻訳係!

 

 今は何もしなくても勝手に良い雰囲気になっているようなので、とりあえずこの場は何もしないことに決めた。

 二人に気づかれないように結一郎は静かに立ち去るのだった。

 炭治郎とカナヲの会話を目撃した次の日のこと。

 結一郎は二人の仲を進展させるべく、行動を起こそうとしていた。

 作戦はシンプルに、自分の得意分野であるお菓子作りを活かしたものだ。

 二人分のお菓子を作ってカナヲに渡し、「炭治郎君と一緒に食べたら彼も喜びますよ」などと言ってカナヲをけしかけるというもの。

 甘いものを一緒に食べて話をするだけでも恋する乙女には十分過ぎるほど充実の時間になるに違いない。

 

 そう思って蝶屋敷の台所に向かった先にはまたも先客がいた。

 

「手伝ってくださってありがとうございます。炭治郎さん」

「このくらい、どうってことないよ! アオイさんにはいつもお世話になっているから」

 

 蝶屋敷の看護婦をしているアオイと、昨日に引き続き炭治郎であった。

 会話をしている二人に何か感じるものがあったのか、すぐに姿を見せずに様子を伺う結一郎。

 彼に気づくことなく、二人は会話を進めていく。

 

「そんな、私にはそれくらいしかできないので……」

「そんなことないよ! 俺、アオイさんの作ってくれるご飯は優しい味がして大好きだし、おかげで元気を貰ってるよ」

「その、ええっと、……ありがとうございます」

 

 炭治郎の裏表のない素直で直球な褒め言葉に頬を染めるアオイ。

 そして何かを思いついたように、炭治郎に向けて口を開く。

 

「そこまで言って頂けるのなら、今度炭治郎さんの好物を作りますね。何か好きな食べ物はありますか?」

「いいの? 俺、たらの芽が好きなんだ」

「たらの芽ですね。わかりました、良いものがあったら買っておくので食べに来てくださいね」

「うん! 楽しみにしてるよ!」

 

 訓練があるからと立ち去る炭治郎に見つからないように身を潜めた結一郎は驚愕に身を震わせていた。

 

『炭治郎君、アオイさんの心までまで射止めていましたか!?』

 

 まさかあの純朴な少年が入院先の女の子を二人も攻略済みだったとか予想外である。

 アオイも炭治郎のためにご飯を作る約束までしているし、というか、炭治郎の好物聞くときの表情がかなり真剣だったのを見ていろいろとお察しである。

 炭治郎の性格から『女の子を口説いてやろう』とかは絶対考えていない。

 つまりは、無自覚にありのままの応対で二人の女の子を恋する乙女に変えてしまったのだ。

 善逸の言葉を借りれば『とんでもねぇ炭治郎だ』ということ。

 これには翻訳係もびっくり。

 

『どうしましょう。自分はいったいどっちを応援すれば……』

 

 恋の応援をやめるつもりは全くないあたり、彼も大概である。

 悩む結一郎。しばらく唸って脳裏に浮かんだのは師匠の一人だ。

 

「そうか! 何も一人に絞ることはありませんね!」

 

 だって、三人も嫁がいる師匠がいるんだもの。二人くらいどうってことないさ。

 そんなちょっとぶっ飛んだ結論に達した結一郎。

 これは彼が混乱しているからなのか、それとも柱たちと付き合う内に常識と言うものが侵食されてしまったからなのか……

 

 こうして結一郎は炭治郎と二人の女の子の恋路を応援するべく暗躍を開始するのであった。

 この翻訳係、いい加減疲れていると思われる……

 


『ひなきお嬢様のお気持ち』

 文机に向かい、手紙を書くために筆をとります。

 宛先はもちろん、結一郎様です。

 

 “前略”

 “先日、上弦の鬼を討ち果たした際にお怪我をなされたと承りました。お加減はいかがでしょうか?”

 “およそ百年以上果たせなかった上弦の鬼の討伐という快挙をお祝い申し上げますとともに、結一郎様がお怪我なされたと聞いた際、ひなきは大変心配致しました。”

 “鬼狩りの任務の都合上、仕方がないとはいえ、お体ご自愛下さい。”

 

 ここまで書いたところでふと手を止め物思いにふけります。

 考えるのは私の人生の事。

 今、こうして許婚(いいなずけ)に手紙を書いていることが信じられません。

 許婚。将来の結婚相手。将来の夫。将来の旦那様……

 

 私は今まで自分が結婚することなど考えたこともありませんでした。

 産屋敷家の長女として生まれた私は、鬼狩りの剣士たちの当主の一族としてその使命に命を捧げるのだと教えられ、また自分自身もそうなるのだと信じて生きてきました。

 普通に結婚して、普通に子供を育てて、普通に幸せに老いて死んでいく。そんな“普通の人生”とは無縁なのだと思っていたのです。

 

 だからこそ、あの時、父を励ますために私の明るい“普通の幸せな人生”を想像させるようなことを言ってくださった結一郎様の言葉がとても嬉しかったのです。

 そんな素敵な夢を見させてくれて、とても幸せな気持ちになれて。

 それだけでも十分幸せだったのに、お父様がその場で結一郎様との婚約を結んでいたのには驚くと同時に困惑しました。

 別に結一郎様との婚約が嫌だったわけではありません。

 ただ、今まで想像もしていなかった“未来”が目の前に突然示されてどうすればいいのか分からなかったのです。

 でも、嫌な感じはしませんでした。心が温かくなって、たぶんその時私の顔は赤くなっていたに違いありません。

 

 一方で一抹の不安が拭えないのも確かです。

 幸せな未来を想像するたびに一つの疑念がよぎります。

 

「私は、本当に幸せになっていいのでしょうか?」

 

 思わず不安が口から漏れ出てしまいました。

 幸せな未来を夢見る気持ちと、産屋敷の一族として使命に殉じなければという気持ちが交互に押し寄せてきてどうすればいいのか分からなくなります。

 

 結一郎様はどう思われるのでしょうか?

 この気持ちを伝えたらなんて答えてくれるでしょうか?

 そもそも、こんな気持ちを伝えてもいいの?

 分かりません。分からない……

 

「結一郎様、お会いしたいです。お顔が見たい……」

 

 どうしたらいいのか分からないけれど、とにかく会いたいと思ってしまう。

 こんな我儘なことを、ひなきは考えてしまうのです。

 


『猗窩座の走馬灯~愛妻vsブラック上司~』

 視界が回転し、数拍の後に衝撃が頭に襲い掛かった。

 何が起きたのか分からず、地面を一度二度と跳ねて転がったところでようやく自分の頸が落とされたのだと気が付く。

 

「俺が、猿ごときに!?」

 

 隠れ潜んでいた猿畜生に頸を斬られるという屈辱に湧き上がる怒りとは裏腹に、頸を斬られた体はどんどんと崩壊して塵になっていく。

 身体の喪失を感じていた猗窩座。

 その意識は気が付けば無明の暗闇の中にいた。

 

「ここは? いや、そんなことはどうでもいい! あんな結末、認められるものか!」

 

 自身の置かれた状況に理解が追いつかない。しかし、そんなことを気にしているほどの余裕が猗窩座にはなかった。

 強さを求めた果てに、猿に頸を斬られて死ぬ結末を受け入れられないのだ。

 世の中のほとんどの者が受け入れられないだろうことは今は置いておく。

 猗窩座の今わの際の走馬灯、精神的な空間とも呼べるあの世とこの世の境目のような不思議な空間で猗窩座は不満を口にする。

 

「俺は誰よりも強くならねばならないんだ! 強くならなければ!」

 

 この期に及んでまだ強さを渇望する猗窩座。

 そんな彼の頭に結一郎が投げかけてきた言葉がよみがえる。

 

『自分が強くなるのは大切な人を、無辜の人々を守るためです!』

 

 先ほどまで相対していた強敵の言葉がこびりついて離れない。

 その言葉は猗窩座の記憶にない、何かが訴えかけてくるようで……考え込んだ先でふと、あることに気が付く。

 

「何故、俺は強くならないといけないんだ?」

 

 己の行動原理の根本的な理由が分からない。

 武の道を極めようとしているのだからと考えていたが、もっと別の何か理由があった気がするのだ。

 何かを思い出しそうになっている猗窩座の耳に、優しい少女の声が聞こえてきた。

 

「もういいんです、狛治(はくじ)さん」

「おまえは……いや、あなたは」

 

 雪の結晶の髪飾りを付けた少女が猗窩座を別の名前で呼ぶ。

 猗窩座は、それが自分の名前であることを、人間だったころの記憶を思い出していた。

 

 その少女の名前は恋雪(こゆき)。猗窩座が狛治と呼ばれていた人間だったころの恋人・許婚だ。

 結婚の直前、狛治がいない間に殺されてしまった恋雪との約束は

 

「誰よりも強くなって、一生あなたを守る」

 

 果たされることのなかったこの約束こそが、鬼となった猗窩座の核になっていたのだ。

 思い出した過去の記憶に、嫌っていた弱者が本当は誰だったのかを知って、鬼の“猗窩座”から人の“狛治”の姿に戻った彼は一人納得した顔をしていた。

 

「そうか。あれだけ嫌っていた弱者は俺自身だったか……」

 

 恋雪の父であり、自分の武術の師匠である慶蔵(けいぞう)から託された武術を復讐のため血まみれにした辛抱の足りない自分。

 自殺した父が遺言に残した「真っ当に生きろ」という願いをかなえることも出来ない自分。

 肝心な時に大切な者の傍にいなくて、守ることも出来なかった役立たずの自分。

 

 どうしようもなく弱い自分が一番嫌いだったのだ。

 

「ああ。だから俺はあんなにアイツにイラついたのか。全部、俺が欲しいものを持っていたから」

 

 結一郎のことを思い出し、自嘲する狛治。

 戦っていた結一郎は、狛治が手にすることができなかったものを持っていた。

 

 大切な師匠の危機に間に合い、師と共に鬼である自分から無辜の民を守るという真っ当な道を歩むことができている結一郎。

 そんな彼に自分が敗北したのは当たり前だった、と、納得した面持ちになる狛治。

 

「狛治さん、逝きましょう?」

「恋雪さん……」

 

 そんな彼に恋雪が手を差し伸べる。

 愛おしい恋人の手を取ろうと腕を伸ばす。そんな彼を呼び止める声があった。

 

「強くなりたいのではなかったのか?」

 

 聞こえてきたのは、咎めるような鬼舞辻無惨の声。

 鬼になったものにかけられる無惨の呪いが精神世界で具現化した姿だった。

 その呪いは強制的に狛治の意識を猗窩座へと変えようとする。

 

「そうだ、俺は強くならねばならない……」

 

 おぞましい呪いによって、強さへの渇望を呼び起こされて鬼に姿を変え始める狛治。

 それを許せない人物が目の前にいた。

 

「私の夫に何をするんですか!」

「ヘブッ!?」

「無惨様!?」

 

 無惨の形をした呪いに、恋雪の平手打ちが炸裂した!

 あまりの事態に猗窩座は驚愕で動けない。

 そうして猗窩座が動けない間にも、百年以上夫を鬼にされていいように使われてきた恋雪の怒りは止まらない。

 

「私たちが死んで、傷心している狛治さんの心に付け込んでよくも鬼になんてしましたね!」

 

 一撃(1hit)

 

「鬼にした狛治さんに人喰いをさせて! 百年も悪事に加担させて!」

 

 さらに一撃(2hit!)

 

「そうやって鬼にして働かせたくせに、酷い扱いをして!」

 

 まだまだ!(3hit!)

 

「もう、あなたなんかにこれ以上狛治さんを好きにさせません!」

 

歯ァ、食いしばれ!(K.O.)

 

 怒りの往復ビンタをくらい、無惨の呪いが倒れ伏す。

 その様子を見ていた猗窩座の姿は、気が付けば狛治の姿に戻っていた。

 俺の妻がこんなに強いわけがない……

 

「ぐっ、猗窩座ァ! お前は強さを求めていたはずだ! だから鬼になったのだろう!」

 

 しかし、無惨の呪いも諦めが悪い。

 フラフラになりながら立ち上がり、狛治を猗窩座へと戻そうとする。

 が、しかし――

 

「良く言ったぞ、恋雪! 娘がここまで言ったんだ。父親として黙っていられないな!」

「グフッ!?」

 

 突然現れた男性の鋭い拳が無惨の顔にクリーンヒットして、強制的に黙らせた。

 鍛え上げられているのが一目で見てわかる胴着姿のその男性は慶蔵だった。

 娘と弟子を助けるためあの世から駆けつけた彼は、容赦なくその拳を振るって無惨の呪いをボコボコにしていく。

 もしかして、オラオラですかぁ!?

 

「恋雪、狛治君を連れて逝きなさい。こいつは俺がなんとかしておくから」

「ありがとう、お父さん。さ、逝きましょう、狛治さん」

「あっ、はい」

 

 ちょっと前まで上司だった人物が、義父にボコボコにされている状況に困惑を隠せない。

 そんな混乱状態の狛治には、恋雪からの言葉を受け入れる以外に選択肢などなかったのだった。

 だって、狛治さん婿養子だし。逆らえるわけないじゃん。

 

 一方的な惨劇に背を向け歩き出す二人。

 少し落ち着いた狛治は恋雪に懸念を伝える。

 

「恋雪さん、俺は人を殺した。人間だった時にも、鬼になった後も。たくさん。だから、俺は地獄行きだ」

 

 罪人の自分は地獄に行くから一緒に逝けないと告げる狛治。

 だが、恋雪は少し怒った様子でその言葉を否定する。

 

「もう! 狛治さん、百年も私を待たせたのにまた離れ離れになるつもりなんですか?」

「いや、でも……」

「いいえ! もう、離しません。離れません!」

 

 たとえ地獄に行くことになろうとも離れ離れになることは頑として聞き入れようとしない恋雪に、狛治は折れるしかない。

 

「本当に、恋雪さんには敵わないな……」

 

 笑みを浮かべ共に歩き出す。

 もう、何があっても二人一緒にいることに決めたのだった。

 

 

「猗窩座! 猗窩座!! 猗窩座ァァァ!!!

 

 そう、たとえ、元上司の悲鳴が遠くから聞こえてきたとしても!!

 寿退社したんで、聞~こえない~聞~こえない~。




1.『翻訳係ととんでもねぇ炭治郎』
 無自覚たらしな炭治郎君に戦慄する翻訳係でした。この後、結一郎は炭治郎が二人を養えるように鍛えていくのです! どういうことだってばよ?
 個人的には炭治郎とカナヲの組み合わせも好きだけれど、炭治郎とアオイとの組み合わせも好きだったりします。

2.『ひなきお嬢様のお気持ち』
 原作を見てる限りだと、産屋敷家の一族は絶対覚悟ガンギマリだと思うんですよね。
 ちょっと切ない感じにしてみました。久しぶりの一人称視点でちょっと手こずったり。
 ちなみに、産屋敷家の兄妹は原作と違いオリジナル設定です。
 五つ子とか予想外。というか、ひなきお嬢様が原作設定だと8歳になってしまうので結一郎がとんでもないロリコンになってしまいます(汗


3.『猗窩座の走馬灯~愛妻vsブラック上司~』
 最後に愛は勝つ。ということで……


ミニ次回予告
実弥「てめえは、嫁を貰って、子供を育てて、幸せな家庭を築けはいいんだよ!」
玄弥「いや、兄貴が結婚できてないのに俺が先に結婚するわけには……」
実弥「俺は、結婚できないんじゃねェ! しねェだけだァ!!」

――『翻訳係と不死川兄弟』


無惨「上弦の参、猗窩座が死んだ」
童磨「ええっ!? 猗窩座殿は猿に頸を斬られたのか!? 猿にだなんてなんて可哀相なんだ。よりにもよって猿にだなんて!」
玉壺「童磨殿、これ以上はおやめください!」
妓夫太郎『あ、無惨様の機嫌が悪くなってんなァ……なんで気づかねえんだ?』

――『上弦パワハラ会議 ~黙ってくれよ童磨さん~』

他、小ネタの予定。


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その17(不死川兄弟・ストレスフル上弦会議)

2019/12/18投稿
大変、遅くなりました。

「不死川兄弟と翻訳係」
「ストレスフル上弦会議」


「不死川兄弟と翻訳係」

 

 風柱・不死川(しなずがわ)実弥(さねみ)には悩みがあった。

 何かと問われれば、それは鬼になった母親の襲撃から一人生き残った弟・玄弥(げんや)のこと。

 たった一人だけとなってしまった家族には、鬼とは無縁な幸せな家庭を築いて平和に暮らしてほしい。

 そう祈って日々をすごしていたのだが……

 

『あの愚弟がァ! どうして鬼殺隊なんかに入ってやがる!』

 

 その大事な弟がなんと鬼殺隊に入隊して鬼との戦いに身を投じているというのだ。

 これは実弥にとって断じて放っておけるものではなかった。

 弟をいつ死ぬかもしれない危険な鬼殺隊から辞めさせたい実弥。

 しかし、その方法が思いつかず、悩みに悩んだ結果、一人で考えていても埒が明かないという結論に達する。

 大事な家族のことの相談には信頼できる人物にすべきだろう。

 そう考えた時に彼が思いついたその人物は、我らが翻訳係・(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)であった。

 

 

 

 文机に向かって筆を走らせる結一郎。

 部屋には濃い墨の匂いが漂い、紙の束が山のように積まれていた。

 結一郎、ただいま事務作業(デスクワーク)の真っ最中。

 相談に来た実弥は、それを眺めながら座布団に座って茶を飲んで待っていた。

 待たされていることは別に問題ない。

 いまや役職も得て多忙な結一郎に無理を言って時間を作ってもらっているのだから。

 実弥が気になっているのは一つ。

 

『なんで冨岡(こいつ)が居やがる!』

 

 水柱・冨岡(とみおか)義勇(ぎゆう)が同じく茶を飲んでいたりするのだ。

 正直、実弥は義勇のことは好きではない。

 結一郎のおかげで、言葉足らずなだけで本人には悪気はないと分かったので嫌ってはいないのだが……

 だからと言って、義勇に癪に障るような言い方をされてイラつかない訳ではないため、好きになれないのだ。

 端的に言ってそりが合わない関係だ。

 そんな相手が同席していては、落ち着いた気持ちになどなりようもない。

 

「……何故、不死川がここにいるんだ?」

「アァ!? 俺がここにいて何か悪いのかァ?」

 

 ほら、こうして義勇が口を開けばはた目からは喧嘩を売ってきているような言葉を投げかけてくるのだ。

 

「冨岡師匠、不死川師匠と仲を深めようと声をかけた心意気は良いですが、今の言い方では不死川師匠がここにいることを責めるような言い方になってます!」

「……すまない。不死川が結一郎に何か用事があるのか聞きたかっただけだ」

「そォかい……」

 

 すかさず入った結一郎の解説のおかげで、義勇の言いたいことが分かったものの、その言葉の選び方に頭を抱えたくなる実弥。

 それだけのことを聞くのにどうしてそんな言い方になるのだろうか……

 

『こいつ、結一郎がいなければ他人と意思疎通ができていたのか不安になるぜェ……』

 

 思わず心配や不安を通り越して、哀れなものを見る目で義勇を見てしまう実弥であった。

 

「ああ、冨岡師匠。不死川師匠があなたを見ているのは好意を持ってくれたからではなくて、その語彙力を憐れんでの事なので勘違いしてはいけません!」

「……!? そんなわけないだろう、結一郎」

「こっちみんじゃねえよ、冨岡ァ。あと、さらっと俺の心読むんじゃねェよ」

 

 同僚がなんかとんでもない勘違いしていたことが分かった上に、弟子からは心をノールックで読み取られて渋い顔になる。

 天然コミュ障と読心系コミュ力お化けと同席しているとか、凄い嫌な空間だ。

 そんなはずないよね? と、すがるように見つめてくる義勇の視線を無視し、実弥は結一郎に話しかける。

 

「しかし、忙しそうだなァ結一郎。都合が悪いなら出直すが?」

「いえ、残りは個人的な手紙を書けば終わりですので、もう少しお待ちください!」

 

 仕事が溜まっているような結一郎に気を使って出直すことを告げれば、個人的な手紙を書いたら終わると返事が返ってくる。

 その手紙の相手を聞けば、婚約したお館様の娘・ひなきへの手紙であった。

 

「お嬢様とは上手くいってんのかァ?」

「ええ、おかげさまで。先日はご兄弟と一緒にお食事に誘われました!」

「そォか、そいつはよかったなァ」

 

 家族ぐるみでの付き合いを始めているらしい結一郎の言葉に頷く実弥。

 弟子と主筋の関係が上手くいっている様子なのは喜ばしいことだ。まぁ、結一郎の外堀が順調に埋められているような気がしなくもないが。

 

「なるほど。大阪城だな」

「何を言ってんだ、てめえは!?」

 

 隣で話を聞いていた義勇が突然謎のコメントをしだしてツッコミをいれる。

 どういう流れで大阪城が出てきた!? 何故だ!

 

「ああ、まさにそんな感じですね!」

「今ので、分かんのかよ……」

 

 そして、その謎コメントを理解する翻訳係。

 間に挟まれた実弥は到底ではないがついていけなかった。

 

「それで、夏なのか?」

「そりゃあ、夏ですね。自分としてはご維新の時の江戸城な気もしますが!」

「てめえら、本当に何の会話をしてんだァ!?」

 

 一人置いてきぼりで会話が繰り広げられて、思わずキレる実弥。

 どういうことかと聞いてみると、要は外堀を埋められているというのを面倒な言い方をしていただけであったり。

 解説をすれば、豊臣家と徳川家が激戦を繰り広げた大阪の陣。冬と夏の二度あった戦いの冬の陣の後に一度休戦が行われた際に、外堀どころか内堀まで埋め立てられていたりする。

 義勇が言う夏の陣では内堀も埋められた落城寸前の状態で、結婚が確定している結一郎の状態を言い表したものだったのである。

 正直言って、遠回りな言い方にもほどがあろうというもの。

 弟のことを相談する前だというのに、実弥は何だか疲れた気分にさせられてしまっていた。

 だって、冨岡さんですもの……

 

『まったく、玄弥のことを相談しなきゃならねェってのになんで結一郎の婚約の話なんかしてんだァ? ……んん? 婚約?』

 

 内心で愚痴をこぼしていると、実弥の心に引っかかるものがあった。

 暫く考え込んでいた彼は、何かを思いついた様子。

 

「悪ィな、結一郎。相談してもらうって言ってたがァ、自分で何とかなりそうだわ」

「えっ、本当に大丈夫ですか?」

「おゥ、またな」

 

 結一郎の呼び止める声も無視して立ち去る実弥。

 良い考えが浮かんだと語っていたが……結一郎には悪い予感しかしなかった。

 

「だ、大丈夫でしょうか? 嫌な予感がします」


 

 玄弥はそわそわと落ち着かない様子で部屋に一人で座っていた。

 それもそうだろう。なにせ長らく顔を合わせていなかった兄から呼びだしを受けたのだから。

 

「落ち着け、俺。兄貴に会ったらちゃんと謝るんだろ! しっかりしろ!」

 

 動揺する自分を叱咤激励する。

 彼には兄の実弥に謝らなければならないことがあった。

 数年前、鬼になった母を殺した兄を人殺しと罵倒したことを謝りたかったのだ。

 最愛の母を手に掛けた後に家族から酷い言葉を投げ掛けられてどれだけ兄は傷ついただろうか。

 当時のことを思い出す度に玄弥は後悔に苛まれていた。

 そして今日、ようやく贖罪の機会がやってきたのだ。気合いが入らないわけがない。

 

「おィ、もう来てるな、玄弥」

「あ、兄貴!」

 

 そしていきなり襖が開けられ、唐突に実弥が姿を見せた。

 

「あの、兄貴、俺、あの時のことをずっと謝りたくて、それで!」

「どうでもいいから、さっさとこれに目を通せェ」

「ええっ!?」

 

 兄への謝罪を口にしようとするも、言葉がうまく出てこなくてもどかしく感じていた玄弥だっが、当の兄からどうでもよいと言われてしまい困惑するしかない。

 変わりに目の前に積み上げられたのは何やら厚みのある冊子の束だった。

 何だこれ? と、思って開いてみればそこには美しい女性の顔写真が写っていた。

 

「兄貴、これって……」

「てめえの好みの女を選べェ、そしたら次は会う段取りをしてやる」

「やっぱり、お見合い写真なのか!?」

 

 久しぶりに兄に会えたと思ったらいきなりお見合いをさせられそうになっている。

 その訳の分からなさに玄弥は目を白黒させて驚くしかない。

 実弥がどうしてこんなことをしているのか?

 それは、『優しい弟なら結婚してしまえば相手のことを思いやって危険な鬼殺隊を辞めるはずだ』という考えからであった。

 名付けて、「寿退社大作戦」である。

 この風柱、弟が絡むとわりかしポンコツなのではなかろうか……

 

 当然、納得などできるはずもない玄弥は反発する。

 

「いきなり結婚とか、どうしてそういう話になるんだよ、兄貴!」

「うるせェ! てめえは、さっさと結婚して幸せな家庭を築いていればいいんだよ!」

 

 相手のことを思いやっているはずなのに、気がつけば怒鳴りあっている二人。

 もはや話し合いというよりは喧嘩のようになってしまっている。

 

「兄貴が結婚できてないのに、弟の俺が先に結婚するわけにはいかないだろ!」

「俺は結婚できないんじゃねェ! しねェだけだァ!」

「じゃあ、兄貴の結婚相手は連れて来ようと思えば連れて来れるんだな?」

「あたりめェだろォが! 余裕で連れて来れるに決まってんだろ!」

 

 売り言葉に買い言葉で応酬する。

 気がつけば実弥は一週間後に弟に恋人を連れて来る約束をしてしまっていた。

 もちろん、いまの実弥にそんな相手などいない。

 さあ、どうする?

 

 

「なるほど、それで私のところにきた……と?」

 

 そう告げるしのぶの前には頭を下げる実弥の姿があった。

 弟との間で交わした会話の内容を明かして、しのぶに協力を頼みこんでいるのだ。

 何の頼みだろうか?

 

「頼む! 一日だけ俺の恋人のフリをしてくれ!」

 

 偽装結婚ならぬ偽装恋愛の依頼であった。

 こんな頼みごとをされて、しのぶは顔が引きつるのを感じる。

 

「そォしねえと、弟が、玄弥が結婚できねえんだ。弟の結婚がかかってるんだよ!」

「おっしゃっている意味が分かりません!?」

 

 自分が恋人のフリをすることと、彼の弟の結婚に何の関係があるというのか!

 また面倒くさいことに巻き込まれてしまったしのぶは頭を抱える。

 どうしろって言うんだ、こんなの。

 

「仕方ありません。恋人のフリはできませんが、何とかしましょう」

「何かいい考えがあンのか?」

 

 しのぶには何か考えがある様子。それは一体……

 

「結一郎さんにお任せしましょう!」

 

 The・丸投げ!

 何とかするとは言ったけど、自分が何とかするとは言ってない。

 こういう面倒くさいのは全部翻訳係にお任せしておけばいいというのは柱の中では常識だ!

 頑張れ、結一郎。頑張れ!

 

 

「というわけだァ。何とかしろ」

「……最初よりも状況を悪化させてから問題を持ち込まないでいただけませんか!?」

 

 相談に来ていたあの時にもっと引き留めておけばこんなことにはならなかったと後悔している結一郎。

 ぶっちゃけ、あの段階なら自分が兄弟の間に入って説得して穏便に玄弥を鬼殺隊を辞めさせることも可能だったのだ。

 もうここまで来たら実弥の作戦に乗るしかない。

 

「自分の知り合いの女性というと――」

「もし、お館様のお嬢様を紹介するってンなら、俺はてめェを八つ裂きにする」

「……いやだなー、そんなことするわけないじゃないですかー」

 

 そんなこと思っていないので、人を殺せそうな目で見ないでほしい。

 そう思う結一郎であった。

 果たして、結一郎は実弥に女性を紹介できるのだろうか……?

 

 翻訳係の奮闘は続く!(続きません!)

 


 

「ストレスフル上弦会議」

 

 ――無限城

 

 鬼の首魁・鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)の居城に、最強の鬼である上弦たちが呼び集められていた。

 

 上弦の陸・妓夫太郎(ぎゅうたろう)堕姫(だき)

 上弦の伍・玉壺(ぎょっこ)

 上弦の肆・半天狗(はんてんぐ)

 上弦の弐・童磨(どうま)

 上弦の壱・黒死牟(こくしぼう)

 

 何百何千という人間を喰らってきた恐るべき最凶の悪鬼たちだが、彼らのいる場は重たい空気に包まれていた。

 無惨の放つ怒りの感情が圧となって彼らに圧し掛かっているのだ。

 

 上弦が集められた理由である上弦の参・猗窩座(あかざ)の死因を告げた時から既に無惨は不機嫌であったが、その不機嫌を煽る者がいた。

 その名を童磨と言う……

 

「そんな、猗窩座殿が死ぬなんて! なんて可哀相なんだ。しかも相手が猿だなんて! あんなに力を求めていたのに、猿に殺されるなんてあんまりだ! さぞ、無念だっただろうに。猿相手では猗窩座殿も浮かばれない……猿に斬られるなんてこんな酷いことはない!」

 

 猗窩座が死んだことを嘆く童磨。

 しかし、その言葉は猗窩座を馬鹿にしているような内容になっていることに気が付いていない。

 当然、猗窩座が死んだことを不快に思っている無惨はその言葉を聞いて不機嫌の極みといった表情となっている。

 

『いやいや、何回“猿”って言うんだぁあ? 無惨様の機嫌が猿って言われる度に不機嫌になってるよなぁあ。頼むからもう喋るの止めてくんねぇかなああ!』

 

 それを横で聞いている妓夫太郎は、鬼になって痛むはずのない胃がキリキリ言っているような気がしていた。

 童磨は妓夫太郎・堕姫の二人を鬼にして命を救った恩人なのだが、その恩人が空気を読まないのでもう頭を抱えてしまいたい気分だ。

 

「黙れ、童磨! 貴様の話は癪に障る!」

「ははぁ、これは失礼しました」

 

 無惨の一喝で童磨がようやく黙り込み、妓夫太郎は内心でホッと胸をなでおろす。

 しかしホッとしたのも束の間、次に口を開いた玉壺がまた問題発言をし始めた。

 

「ホホッ! しかし、猗窩座殿も情けないですな。まさか猿ごときにやられるなど」

 

 猿に殺された猗窩座を嘲る玉壺に、無惨は怒りの視線を向ける。

 それはそうだろう。

 お気に入りだった猗窩座が死んでただでさえ苛立っているのに、そのことを喜んでいる部下など不快に決まっている。

 ついでに言えば、だ。

 

「玉壺。少し前に鬼狩りに頸を落とされそうになった挙句、私の擬態先と収入源の一つを潰したのは誰だったか?」

「そ、それは……」

「口を慎め、玉壺! 私はお調子者が嫌いだ」

 

 以前の自分の失態を棚に上げた発言も苛立たしい。

 あまりの厚顔無恥さを見せつけられて妓夫太郎は頭痛がしそうだ。鬼だから気のせいなのだけれど。

 

「鬼狩り共はとうとう動物にまで剣を持たせるようになったか。恐ろしい、恐ろしい。もしかすれば、鬼殺の猿が他にも育てられているかもしれぬ! ヒィイイ!」

「オイ、やめろぉお。嫌な想像させんなぁあ」

 

 一人離れたところにいた半天狗が、鬼殺の猿が量産されているかもしれないと言い出す。

 その様を想像した妓夫太郎は、げんなりした。

 鬼を殺せるような猿がそんなにたくさんいてたまるか!

 

「フン! 何よ。猿ごときに私たちがムガムガ……」

「黙ってよおなぁあ? おまえは頭が足りねえんだからなぁあ」

 

 鬼殺の猿を恐れる半天狗を馬鹿にしようとした妹の堕姫の口を慌てて手でふさぐ妓夫太郎。

 その猿に猗窩座が殺されているのを忘れているあたり、残念な頭である。

 幸いにして途中で遮ったので無惨の怒りはこちらに向いていないが、不用意な発言をされそうになって妓夫太郎は思いっきりため息を吐きたい気持ちになった。

 苦労鬼なのだ、妓夫太郎は。

 

 そんな彼にさらに追い打ちをかけるように、無惨はプレッシャーをかけてくる。

 

「どうやら私は上弦だからという理由でお前たちを甘やかしすぎたようだ……これからはもっと死に物狂いでやれ!」

 

 成果を出せ! 期待に応えろ!

 そうプレッシャーをかけるだけかけて立ち去っていく無惨。

 残された上弦たちの間で重い空気だけが残る。

 なんて、嫌な職場なんだ……

 

 そんな空気を打ち払うのは、上弦の壱。十二鬼月最強の鬼、黒死牟だった。

 

「確かに……このままにはしておけぬな……私も大きく動くこととしよう……」

「おお、黒死牟殿が動かれるか! それは頼もしいが、して、どのように動かれるおつもりで?」

 

 無惨から発破をかけられて、重い腰を上げることを決めた黒死牟。

 どう動くのかという童磨の問いに、ハッキリと返事をする。

 

「このままやられたままにはしておけぬ……報復を、落とし前を付けさせねばなるまい……鬼狩り共の柱、件の猿、そしてその猿を育てた剣士……すべて根絶やしにする……」

 

 そう言って立ち去る黒死牟。

 ついに、最強の鬼が動き出したのだ。




「不死川兄弟と翻訳係」
ツッコミ役もボケ役も出来る不死川さんはホント優秀ですよね!
諸事情により偽の恋人になってもらう話は鉄板といえば鉄板。ニ●コイ?
~翻訳係コソコソ話~
 結一郎は何とかして実弥のお相手を用意したらしいです。お相手はポニテの鬼殺の剣士だそうですよ? 一体、何崎さんなんだ……?

「ストレスフル上弦会議」
ブラッド企業、十二鬼月。無惨様が一方的にストレス与える側かと思ったら、空気を読まない部下のせいで逆にストレスかけられてたり……
そして猗窩座以上にギャグにし辛そうな黒死牟……

~ミニ次回予告~

獪岳「こんなところで、死ねるかよ!」
結一郎「よくも、仲間を!」

黒死牟「その命……要らぬのだな……?」


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その18(上弦の壱遭遇戦)

2020/01/03投稿

あけましておめでとうございます!


 それは体中の細胞が絶叫して泣き叫ぶような恐怖だった。

 鬼殺選抜隊・“旭”の一員である獪岳(かいがく)は、一体の鬼の前にはいつくばり、頭を垂れて無様な姿を晒していた。

 

『どうして、どうしてこうなった! なんでこんなところに上弦の鬼がいやがる!』

 

 抵抗の意思すら奪うほどの存在感。肌で感じる実力差。

 いま、彼を見下ろすのは十二鬼月最強の鬼。上弦の壱・黒死牟だ。

 任務の最中、黒死牟と遭遇してしまった獪岳の部隊は、瞬く間に彼一人を残して殺されてしまったのだ。

 

「鬼になってでも……生き延びたいか……」

 

 黒死牟の問いかけに頷くことで返事をする。

 絶体絶命の危機に直面した獪岳が選んだのは、鬼になってでも生き残るという道だった。

 ちょうど上弦の参の席が空白となった現在、呼吸を使える剣士を鬼にすることに価値を見出だした黒死牟はそれを受け入れる。

 

「有り難き血だ……一滴たりとて零すこと罷りならぬ……零したときは……お前の首と胴は泣き別れだ」

 

 その言葉と共に注がれた血が獪岳の手の上を満たす。

 恐怖に震えそうになる手を必死で抑え込み、ゆっくりとその血を口元へと運んでいく。

 一口でも口にすれば鬼となる血の盃に舌を伸ばした瞬間、一陣の風が通り抜けた。

 

“風の呼吸 壱ノ型 塵旋風(じんせんぷう)()ぎ”

 

 地を抉るような剣風が黒死牟と獪岳の間に吹き荒れて強制的に両者を引き離す。

 

「大丈夫ですか、獪岳!」

 

 現れたのは鬼殺選抜隊・旭の“棟梁”(にぎ)結一郎(ゆいいちろう)だ。

 彼は黒死牟に向き合いながら、背に庇った獪岳へと声をかけた。

 鎹鴉によってもたらされた救援要請に、急遽駆けつけたのだ。

 そんな結一郎に助けられた獪岳だが、その表情に安堵はなく、むしろ苦々しい表情をしていた。

 

『クソ! 最悪だ。貰った血を零してしまった! どうする、どうすれば……』

 

 助けに来た結一郎よりも黒死牟の方が強いと判断した彼は、鬼になって生き残るという道を諦めていなかったのだ。

 そうなれば、獪岳にとって目の前にいる結一郎はただの邪魔者でしかない。

 この獪岳という男は、自己の生存に関してことのほか強い執着を持っている。

 

『生きてさえいればいつか勝ってみせる』

 

 そんな信条をもって生きてきた彼にとって、鬼殺隊士としてありえない“自ら鬼になる”という選択は生存のためならば当たり前の選択肢になるのだ。

 助けにきた相手から逆に邪魔者扱いされている結一郎だが、そうとは知らずに黒死牟へと刃を向けていた。

 

「よくも仲間を! これ以上はやらせません!」

「余計なことをする……」

「あなたにとってはそうでしょうとも!」

「いいや……」

 

 仲間を助けるのは当然だと言う結一郎に、黒死牟は首を横に振って間違いを正す。

 余計なことだと思っているのは自分ではないのだ、と。

 

「そこの男は……命惜しさに命乞いをして鬼になろうとしていたのだ……お前は助けに来たと言ったが……そいつにとってはどうだろうな?」

 

 黒死牟から視線を向けられ、ビクリと体を震わせる獪岳。

 己の罪状が味方に明かされて焦る獪岳は、結一郎の反応をかたずを飲んで見守っている。

 

「彼が、鬼に?」

「そうだ……お前にとってそいつは守るに値する存在ではない」

 

 その背に守る者は唾棄すべき裏切者だと告げる黒死牟。

 結一郎はその言葉に対して怒りをあらわにした。

 

「でたらめを言うのもいい加減にしてもらいたい!」

 

 鬼狩りの剣士が鬼になることを選ぶなど、許されることではない。

 

「鬼殺の剣士が自ら鬼になるなどありえません!」

「ご立派なことだ……だが、そいつは先ほど自ら鬼になることを――」

「ありえません!」

 

 黒死牟の言葉を遮って断言する。

 

「……信じられぬか。しかし、その男が鬼になろうとした事実は――」

「そんなものありません!」

 

 結一郎、黒死牟の言葉をまたもインターセプト。

 二度も続けて言葉を遮られ、さすがの黒死牟も面食らった様子。

 上弦の弐(問題児)にだってこんなことされたことはないのに……

 

 少しばかり無体な扱いをされた黒死牟だが、あることに気が付く。

 伝令役の鴉が隠れてこの場の様子を見ているのだ。後々のことを考えれば鬼になって助かろうとした隊士がいたなど不都合な事実に違いない。

 そのことに気が付いた出来る鬼である黒死牟は、とある疑念を抱いた。

 こいつ、事実をなかったことにしようとしてないか? と。

 

 鬼になろうとした隊士はいなかった! いいね!?

 

「事実を認めぬか……愚かなり……」

 

 呆れと侮蔑を含んだ声で言う黒死牟。しかし、結一郎は力強く反論する。

 

「しつこい! 我々鬼殺隊には、自ら鬼になろうなんていう恥知らずはいないんです!」

 

 鬼を狩るために体を鍛え、技を磨いてきた剣士が鬼になるなんて、そんな滑稽な話はない。

 鬼なんていう人喰いの化け物に成り果てた剣士に、いったい何の価値があろうというのか。

 そんな意味不明な存在、畜生にも劣る存在だ! と、黒死牟に啖呵を切って見せた結一郎。

 彼には鬼殺の剣士としての矜持がしっかりと根付いているのだ。

 なお、この言葉において鬼殺の猿については例外とする。だって、あれはどう考えたって理の外の存在だし……

 

「獪岳もそう思うでしょう?」

「えっ!? アッハイ!」

 

 突然、話題を振られて思わずうなずいてしまう獪岳。

 頷いた後で思いっきり頭を抱えたくなっていた。

 

『はい、じゃねえ! 何やってんだ、俺! 鬼になるしかこの場を切り抜ける道がねえってのに!』

 

 結一郎の言葉に返事をしたことで、黒死牟からの好感度が下がった。

 鬼にして生き残れる確率が下がり焦る獪岳をよそに、結一郎と黒死牟の会話は続く。

 

「あくまでもその男を信じるか……」

「えぇ、もちろん! 獪岳は自分の部下の中でも一番生きることに向き合っている男ですから」

 

 結一郎が言うには、獪岳という男は何があっても生き残るという強い意志を持った人間で、それゆえにどんな逆境でも諦めない男なのだという。

 

「生き残って勝つためなら、頭を地にこすりつけて命乞いの真似事くらいはしてみせる……そんな強い男だ!」

 

 だから獪岳が鬼になるなんてありえないと、彼は言う。

 こうやって言うと、生き汚さも目的のために泥水も飲み干せる立派な人物に早変わりである。

 もっとも、言われた本人は『誰のこと言ってんだよ!?』と、ツッコミを入れていたのだけれど。

 

「なるほど……私はまんまと騙されていたということか……」

 

 そして、何故か納得しちゃう黒死牟。

 先ほどまでの行動は、『圧倒的な実力差を持つ相手に、自ら屈辱的な行動をとってまで頸を獲る隙を伺っていた不屈の男』という風に見られてしまったようだ。

 いったい、どこの時空の獪岳のおはなしなんですかねぇ?

 

『納得すんなよ! 目ェ、六つもあるのに何見てたんだお前は!』

 

 なんだかとてつもない方向に勘違いされていることに、内心でツッコミを入れる獪岳。

 

 鬼になるフリとかじゃなくて本心だから!

 剣士の誇りとかホント、どうでもいいから!

 畜生以下と言われても、生き残った者が勝ちだと思っているから!

 だから、だから鬼にして命だけは助けてほしい!

 

 と、本当は叫びたい獪岳であった。

 今の状況でそんなことを言っても絶対信じてもらえないので、言えないが。

 

 何もしなければ鬼にしてもらえない獪岳の心に、ふとよこしまな考えがよぎる。

 

“結一郎をこの場で殺して見せれば、信用してもらえるのではないか?”

 

 仲間の首を手土産に裏切るのは常套手段だ。珍しくもない考えである。

 しかしながら、それは行動に移されることは無かった。

 なぜなら、目の前に立つ結一郎は、黒死牟と相対し会話を交わしながらも常に獪岳を刃の間合いに入れているのだから。

 

 結一郎が覚妖怪じみた読心術を持っていることを知っている獪岳は、自分のこの考えが読まれているのではないかという疑念が拭えないのだ。

 実際には、結一郎は何かあった時に庇えるように手の届く範囲にいるだけなのだが、獪岳にしてみれば裏切った瞬間に自分を斬り殺すためにしか思えなかった。

 そして次の結一郎の言葉が駄目押しだった。

 

「仮に鬼になろうなんて隊士がいたら、自分が頸を斬り落とします!」

『クッ、チクショウ! 俺の考えなんざお見通しってことか!』

 

 逃げ道を塞がれた(と思い込んだ)獪岳は、覚悟を決める。

 もはや戦って生き残るしかない、と。

 

「そうか……ならばこれ以上、言葉は不要……」

「まだ自分としては言い足りませんが?」

「時間稼ぎならばやめておけ……」

「フッ、あの壺みたいにはさせてくれませんか!」

 

 奇しくも獪岳が戦う覚悟を決めた頃合いに、結一郎、黒死牟の両者の間で戦闘の緊張感が高まる。

 結一郎は正眼に刀を構え、黒死牟は柄に手をかける。遅れて獪岳が刀を手に取り腰を深く落とした。

 

「~~ッ! 来ます、獪岳!!」

「クソ! こんなところで、死ねるかよ!」

 

 戦いは何の前触れもなく始まった。

 結一郎と獪岳の二人が地を蹴った瞬間、地面には幾条もの斬撃が刻みつけられる。

 黒死牟の振るう刀に沿って、いくつもの三日月のような軌道が物理的破壊力を持って現れることで攻撃範囲を広げていた。

 

 月の呼吸 弐ノ型・珠華ノ弄月(しゅかのろうげつ)

 

 三連の斬撃とそれに付随した月輪が周囲を切り刻む。

 そう、黒死牟の恐ろしさは鬼の持つ血鬼術に加えて、鬼殺隊の使う全集中の呼吸を組み合わせてくることなのだ。

 鬼との身体能力の差を埋めるための全集中の呼吸を鬼が使えばどうなるのか?

 それは一方的な蹂躙という結果をもたらすことに他ならない。

 

「クソォ! このままじゃ……!」

 

 近づくことも出来ず、一方的に追い詰められていく二人。

 ついに郊外近くを流れる川の橋の上にまで追いつめられてしまっていた。

 遮蔽物がなく、躱せる場所も少ない橋の上では地の利など存在しない。

 危機的状況に思わず毒づく獪岳であったが、それはこの戦闘において致命的な隙を見せることとなってしまう。

 

「獪岳! 集中を切らしては――」

「油断したな……」

 

 月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮(やみづき よいのみや)

 

 単純にして別格の速度で振るわれた横なぎ斬撃は、回避の遅れた獪岳の腹部を鋭く薙いだ。

 

「ガフッ!」

「もう終わりだな……動けば……臓物が……まろび出ずるぞ……」

「獪岳ーーッ!!」

 

 血を吐き膝をつく獪岳を見下ろす黒死牟。

 命に係わる重傷、いや、そうでなくとも黒死牟が刃を振るえばその命は簡単に散るだろう。

 仲間の命を助けるために、結一郎は無謀を承知で攻勢をかけざるを得ない。

 駆けだした結一郎は自らの外套(マント)を脱ぎながら、一直線に突進する。

 

「フッ、無謀な……何ッ!?」

 

 愚直な突進に対し余裕の表情で迎撃をしようとした黒死牟だったが、結一郎の思わぬ行動に目を見開いて驚愕する。

 結一郎は黒死牟に刀ではなく、肩から外した外套を投げつけてきたのだ。

 裾に重りを仕込んであるその外套は網のように黒死牟に絡みついて動きを阻害しようとしてくる。

 

「小癪! ……なんと!?」

 

 その外套を切り捨てた黒死牟だったが、外套で塞がれていた視界が開けた時には結一郎の姿はなかった。

 どこへ消えた?

 そんな疑念を考えるよりも早く、黒死牟の戦闘者としての勘が体を動かす。

 刹那、金属同士がぶつかる甲高い音が響き渡った。

 

「チイィ! 仕とめきれなかったか!」

「面白い技を使う……今のは焦ったぞ」

 

 鍔迫り合いの形になった両者だが、その表情は正反対であった。

 外套の仕込みでの拘束、視界を妨げた後の奇襲という二つの布石を置いたうえでの攻撃が通用しなかったのだ。

 特に後者については、白い外套姿から黒い隊服姿に変わることで、白い物が消えたら無意識的に白い物を探すという人の習性すら利用した初見殺しの策だったのだ。

 それを易々と破られた結一郎が苦い表情になるのも当然と言えよう。

 対する黒死牟は、その奇術的な策ですらも愉しいとばかりの表情。

 まるで、手品でも見せてもらったとでも言うように余裕を見せていた。

 

 そして、奇策が破られた瞬間ほど危険な時はない。

 

「グッ……ッ!? マズい!!」

 

 背筋をなぞるような悪寒が結一郎を襲う。

 危険を感じ取った本能的な勘に従って飛び退る結一郎。しかし、それは一歩遅かった。

 

“月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍(げっぱくさいか)

 

「ああああ!?」

 

 血飛沫が舞う。

 鍔迫り合いからノーモーションで現れた月輪の斬撃。

 至近距離から放たれたそれは、結一郎の左腕を斬り飛ばしてみせた。

 苦悶の声を上げながらも、すぐさま傷口をきつく縛って止血を試みる結一郎。

 なおも抗おうとする結一郎に、黒死牟は傲慢にも似た憐憫の視線を向けて言う。 

 

「既に満身創痍……()には勝てぬ……諦めろ、人間」

 

 自分に勝てるはずなどないと、鬼と人、積み上げてきた修練の年月、そんな絶対的な自信からくる傲慢なセリフだった。

 しかし、だからそうですかと言えるほど、結一郎という人間は諦めが良くない。

 

「諦める? ふざけたことを……まだ片腕が千切れただけでしょうが!!」

 

 たかが片腕程度、と、あえて言い切り戦意を露わにする。

 急な失血による不調を感じさせぬ強い意志で黒死牟を睨みつけて吠える。

 

「全集中の呼吸を身に着けておきながら、鬼になった恥知らずに! 人間の矜持を見せてやる!!」

 

 鬼でありながら全集中の呼吸を使う黒死牟の来歴をおおよそ感じ取った結一郎は、真正面から黒死牟を嘲ってみせる。

 鬼狩りの技を身に着けながら、鬼になって生き永らえている裏切者の恥知らず。

 その言葉は黒死牟の逆鱗に触れる事柄であったようだった。

 

「そうか……人としての矜持を語るか……ならば、その命……要らぬのだな?」

 

 人としての矜持を抱いて死ね。

 殺意と共に黒死牟が刀を振りかぶる。

 同時に結一郎も弓を引くように日輪刀を構えた。

 

“月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間(とこよこげつ むけん)

“水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突(しずくはもんづ)き”

 

 縦横無尽の月輪の斬撃と高速の突き技。

 お互いが繰り出した技の勝敗は……黒死牟に軍配が上がった。

 

 全身を切り刻まれ、橋下の川へと落ちる結一郎。

 まともな光源が月明かりしかない夜道では、その生死ははっきりと判別できない。

 

 そうして結一郎を倒した黒死牟だが、その顔は晴れない。

 なぜならば――

 

「浅かった……確実に仕留めきれなかったとは……不覚なり」

 

 結一郎に確かに傷を与えながらも、その命を奪えた確信を持てないのだ。

 そうなった理由に怒りのこもった視線を向ける。

 

「死にぞこないが……まさかここまで動けるとはな」

 

 そこには、黒死牟に刃を突き立てながら胴体を真っ二つに割られてこと切れた獪岳の姿があった。

 両者が技を繰り出す瞬間、獪岳は隙をついて黒死牟に一矢報いていたのだ。

 

 その事実に黒死牟は何とも言い難い不快感を覚える。

 ほんの少し前まで、自分に無様に命乞いをして鬼になろうとしていた格下が自身の邪魔をしてきたのだ。

 獪岳にどんな心境の変化があったのかは知らない。分かるはずもない。

 だが、まるで黒死牟に人間としての矜持を見せつけたかのような死にざまが気に食わなかった。

 

「あの男……もし生きていたのならば……次は必ず殺す!」

 

 不快感は怒りに変わり、殺意を募らせていく……




黒死牟「“ぎゃぐ”とやらは……既に斬り捨てた」
(ギャ/ /グ)<……

年明け最初の投稿がこんなにギャグとシリアス入り乱れた上に血なまぐさくて大丈夫だろうか……
遅くなったのは、年末年始で忙しかったのもありますが、やっぱり戦闘描写が進まなかったからです。
ついでに、獪岳の扱いを変えたのでプロットに変更もあったので。

~翻訳係コソコソ話~
元のプロットだと、獪岳は出オチ要員でした。
黒死牟「血、一滴でも零したら殺す」
結一郎「助けに来ました!」
獪岳「あっ!」(驚いて血を零す)
黒死牟「血を零したな? ならば死ね!」

みたいな。


~ミニ次回予告~
結一郎、蝶屋敷入院!


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その19(蝶屋敷入院中)

2020/01/17投稿


 ――蝶屋敷

 

 (にぎ)結一郎(ゆいいちろう)は病床で静かに寝息を立てていた。

 上弦の壱・黒死牟(こくしぼう)との戦いで重傷を負った彼は、急報を受けて駆けつけた隠によって救助され、何とか一命を取り留めたのだった。

 しかし、片腕を失うほどの傷だ。生死の淵を彷徨うこととなった結一郎は、一週間も昏睡状態が続いている。

 

 そんな彼の下には、人付き合いの多さからか多くの見舞客が訪れていた。

 師匠である柱たちはもちろん、部下である旭所属の隊士や任務で関わりのあった隊士や隠、主である産屋敷(うぶやしき)の一族に、果ては鎹鴉(かすがいがらす)や雀、お供の三匹といった動物たちまで結一郎の病室を訪れていたのだ。

 彼が普段から多くの人々から慕われていることの証左であり、同時に多くの人に心配をかけることになった今回の事件。

 今、彼の寝顔を椅子に腰かけながら見つめる音柱・宇髄(うずい)天元(てんげん)もまた、彼のことを心配する一人であった。

 

「……まったく、地味に心配させんじゃねえよ、馬鹿弟子が」

 

 ぞんざいな言葉だが、その口調は弱々しく。

 いつもの不敵な天元からは想像できない様子を見るに、弟子の負傷に大きなショックを受けているようだった。

 それもそのはず。天元にとっては結一郎は初めての継子なのだ。

 元忍という来歴から継子を作るつもりがなかった天元。

 そんな彼が結一郎を継子にしたのは、その場の雰囲気に合わせた気まぐれのようなものでしかなかったのだ。

 正直言ってしまえば、真面目にやる気などなく、忍の尋常ならざる訓練をやらせれば耐えきれずに逃げ出すだろうと高を括っていたのだが、ところがどっこい、なんだかんだで耐えてしまった結一郎。

 気が付けば、忍の技術を身に着けて立派な天元の弟子となっていたのだ。

 

 元来、天元という男は忍として育てられながらも、人としての情を捨てきれなかったほど情の厚い男である。

 そんな男が弟子を取れば情が移らないはずもなく……形だけのつもりの弟子は、いつの間にか自慢の弟子になっていたのだった。

 

「この俺様をこんな派手に心配させやがって」

 

 眠り続ける結一郎を見る天元の脳裏には、先日、蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶの告げた言葉が思い浮かんでいた。

 

『何とか一命は取り留めました。片腕を失って鬼殺隊を続けていけるのかは……正直厳しいかもしれません』

『身体的な障害を抱えたこともそうですが、心の方も心配です』

『命の淵に立たされて、剣を持てなくなった人は多く見てきましたから……』

 

 身体は救えても、心は極論を言えば本人自身が何とか持ち直すしかない。

 命のやり取りというのは、他者からの殺意というのは時として心を壊すもの。それを元忍である天元はよく知っていた。

 

 果たして、目覚めたとして結一郎の心は無事なのか?

 そんな疑問が頭を離れなかった。

 

「うっ……こ、ここは?」

「結一郎! 起きたのか!?」

 

 そんな折であった。結一郎が目覚めたのは。

 


 

「そうですか……一週間も」

「ああ、派手に目が覚めてよかったぜ」

 

 目を覚ました結一郎に状況を説明した天元。

 一週間も昏睡していただけあって、結一郎の姿は以前よりも弱々しいものになっていた。

 

「ご心配をおかけしました」

「いいや、命が助かっただけでも儲けものだろ。よく生きて戻ったな。……体は大丈夫そうか?」

「それは……なくなったのは利き腕ではないのでまだ戦えるとは思いますが……」

 

 天元の言葉に無くなってしまった肘から先の左手があったところを見つめる結一郎。

 失ったものは大きく、元に戻ることは無い。

 そんな当たり前の事実が心に重くのしかかってくる。

 

「た、たかが腕の一本が無くなった程度です! このくらい……ううっ!」

「お、おい! 無理すんな!」

 

 声を上げようとしたが、眩暈を感じたのか前のめりに体を倒れ込ませる結一郎。

 慌てて体を支える天元だったが、その表情は堅いものだった。

 やはり心に大きな傷を負ってしまっているのではないか。そんな不安が的中したようで嫌な気分になる。

 注意深く様子を伺えば、結一郎が何かを言っているようだ。

 

「――が――ん。なに――べも――を」

「なんだって? もう一回言ってくれ」

 

 聞き取れず、聞き返す天元。

 二度目ははっきりと聞き取れた。

 

「血が、栄養が足りません。何か、食べ物をください!」

「……おう」

 

 そういえば、一週間寝たきりで絶食してたことを思い出した。

 そりゃ、お腹減るよね!

 

「食い物って、粥でいいか?」

「なんでもいいから、持ってきてください!」

 

 

 山のように積み重なった皿とお椀。

 結一郎は一週間分の栄養を補充するのだと言わんばかりに食いまくったのだった。

 

「結一郎、お前、その、大丈夫か?」

「ええ、片腕だけだったので食べにくかったですが、しっかり食事もとったので大丈夫です!」

 

 病み上がりにそんなに大食いしたことを心配して声をかければ、何だかズレた返事が返ってきて頭を抱えたくなる天元。

 食事を終えて心なしか覇気を取り戻した様子を見て、弟子がますます人間離れしているのを感じる。

 肉を食ったら回復するような超人体質でもあるまいし……

 だがまぁ、理由は分からなくとも元気があることは良いことだ。

 気分が落ち込んでいたり、暗くなっているよりは断然よい。

 

「まったく。思ったより派手に元気そうで安心したぜ。死にかけたんだからもっと堪えたかと思ってたんだが」

「ハハハ、何言ってるんですか宇髄師匠! 死にかけるなんて修業してたらしょっちゅうじゃないですか~!」

「おぅ……」

 

 死にかけどころか臨死体験も経験済みですよ?

 と、笑顔で語られて言葉を失う天元。

 死にかけても堪えていない理由はお師匠さん(自分たち)のせいだった!?

 改めて弟子の扱いが酷かったことを痛感させられる。

 弟子に人権はないのか!? ……無いのかー。

 

「まぁ、といってもこの通りの状態なので復帰まで時間がかかるかもしれませんが……」

「……大怪我したんだ、このまま引退しても誰も文句は言わねえと思うぜ。派手に」

 

 無理をしていないか案ずる天元の言葉に結一郎は感謝の言葉を述べつつも首を横に振って答えた。

 鬼殺隊を辞めるつもりは全くない。なぜなら――

 

「目の前で部下を殺されて黙っていられるほど人間できてないので!」

 

 結一郎の中で鬼に対する怒りが燃え上がっていたのだから。

 

「気持ちは派手に分かるが、冷静になれ。結一郎」

「ご心配なく! 自分は自棄になったりなんかしてませんよ」

 

 憎しみや復讐心に囚われて無茶をするのではないかと天元が言葉をかける。

 結一郎はあくまで平静を保った口調で語り出した。

 

「いままで鬼に情けをかけていたつもりはありませんでしたが、どこか甘さがあったのだと思います」

 

 静かだが、熱のこもった視線を天元に向けて言う。

 

「だから、これからは鬼に容赦はしません! 躊躇もしません!」

「はぁ……加減はしろよ? 頼むからな、派手に!」

 

 フッフッフ!

 と、謎のテンションで笑う結一郎に天元はドン引きしつつ、一応釘は刺しておいた。

 鬼どもに地獄を見せてやりますよ! と、気炎を吐く姿に、眠れる虎を起こしたという言葉が脳裏を過ぎる。

 今後、結一郎の相手をする鬼は可哀相なことになる。

 そんな予感を覚えた天元であった。

 

 


 

オマケ『お供'sオリジン』

 

闘勝丸(とうしょうまる)の場合

 一心不乱に刀を振るう。

 結一郎のお供の一匹。猿の闘勝丸は怒りに燃えていた。

 (かしら)と慕う結一郎が鬼によって大怪我をさせられたことは、彼に鬼への憎悪を思い出させるには充分すぎる出来事だった。

 

 闘勝丸が結一郎と出会ったのは彼の生まれた山の中。血でむせ返るような惨劇の真っ只中であった。

 一体の鬼が気まぐれに、ただ「楽しいから」という理由で彼の群れに襲い掛かってきたのだ。

 喰うわけでもなく愉悦のためだけに行われた悪逆に、ろくな抵抗も出来ずに殺されかけたところを結一郎に助けられた闘勝丸。

 自分の命を救い、仲間の仇を討ってくれた結一郎に恩を感じると共に、鬼を倒せる力を求めて彼は結一郎についてゆくことにしたのだった。

 

 そうして多くの奇縁を得て、今や“鬼殺の猿”と呼ばれるまでになった闘勝丸だったが、今回の事件は自らの慢心を戒めるものになった。

 恩人である結一郎に重傷を負わせた鬼への怒り。

 肝心な時に恩人の側におらず、何も出来なかった不甲斐ない自分への怒り。

 それらの感情が闘勝丸を突き動かし、さらなる強さへの欲求となっていたのだった。

 刀を振るう闘勝丸。

 その額には、彼の怒りが現れたかのようなゆらめく炎のような形の痣が浮かび上がっていた。

 

「ち、父上! 大変です!」

「どうした、千寿郎。何があった?」

「お猿さんの額に痣が!!」

「な、何ィ!?」

 

 

藤乃(ふじの)の場合

 蝶屋敷の玄関前で大人しく座る白犬がいる。

 彼女の名は藤乃。結一郎のお供の一匹だ。

 ご主人の結一郎が入院してからというもの、彼女は結一郎が目覚めるのを健気にもずっと待ち続けていた。

 驚くべきは犬の忠誠心だろうか?

 いいや、それだけではない。藤乃もまた結一郎に恩を感じていたのだ。

 

 藤乃は子犬の頃に、人里離れた山に住む老夫婦に拾われ、大事に育てられて元気に過ごしていた。

 翁と山をまわり、老婆に優しく撫でてもらう幸せな日々。

 そんな日常を壊したのは一体の悪鬼であった。

 老夫婦を喰い殺し、あまつさえその住みかを奪った鬼をなんとかしようと人里におりたものの、野良犬同然の薄汚れた姿に里の人は嫌悪をあらわに追い払ってくる。

 よしんば追い払われなかったとしても、人と犬では言葉は通じない。

 絶望しそうになった藤乃だったが、そこに現れたのが結一郎だった。

 優れた観察眼で藤乃が何かを訴えていることを見抜いた結一郎は、彼女の案内で鬼のところにたどり着き、見事鬼を討ち果たして見せたのだった。

 親代わりの老夫婦の仇を討った結一郎は、そのまま藤乃を引き取ってくれた。

 一度は孤独を味わった藤乃。

 もう二度と主の元を離れまいと、いつまでも待ち続けるのだった。

 

「義勇さん! 何故、結一郎さんのお見舞いに行かないんですか? 弟子だったんですよね?」

「炭治郎、俺は(犬が怖いから)見舞いにいけないんだ」

「何か理由があるんですか?」

「(情けないから)理由は言えない」

 

 早く目覚めろ、結一郎。仕事だ!

 

碧彦(へきひこ)の場合

 結一郎のお供の一匹。雉の碧彦。

 彼が結一郎についてゆく理由とは?

 

 A.美味しいお団子をくれたから!

 

 理由が羽根のように軽い……雉だけに?

 




おや、斬られたギャグの様子が……?
(ギャζ ウネウネ ξャグ)
(ギャグζ ニョキ! ξギャグ)
(ギャグ )) デーン! (( ギャグ)
( ギャグ ) <鬼ども覚悟しておけ!> ( ギャグ )

翻訳係コソコソ話 その1
闘勝丸が痣を出したせいで煉獄家は大騒ぎだったそうです。大変だなぁ……

翻訳係コソコソ話 その2
犬や猫などの体に毛の生えた動物が苦手なしのぶさん。さりげなく玄関前に藤乃に居座られて微妙に困ってました。


ミニ次回予告
『結一郎へお見舞い』

結一郎「あの、すみません。許してください」
ひなき「嫌です! 許しません!」

結一郎、尻に敷かれる?


善逸「結一郎さん、俺の兄弟子の最期はどうでしたか?」
結一郎「彼の最期は、勇敢で立派でした……」

結一郎、善逸と獪岳について語り合う。


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