765プロがソード・ワールド2.0の仕事をした話 (鴉星)
しおりを挟む

社長が新しい仕事をとってきた

 ネタ探しをしていたらソード・ワールド2.0に興味を持ってしまい書きたくなってしまいました。


「春香君13人にソード・ワールド2.0をやらせてみたいんだが、どうだろうか!? プロデューサー君!」

 

「13人でTRPGができるわけないでしょう社長……」

 

 また無茶なことを言っている。プロデューサーはため息が漏れる。

 

「そういうが彼女たちも色々なことをやってみたいと言っているし……」

 

「あいつらの予定は半年先まですでに埋まってます。それに数人海外に行っていて全員が集まるのは相当難しいですよ」

 

「うーん……そうか……」

 

「そんなに良いお話だったんですか?」

 

 事務員の音無小鳥が会話に混ざって来た。

 

「もちろん! リプレイを出すんじゃないからね!」

 

「リプレイじゃない? じゃあ何を?」

 

「ふっふっふっ、なんとアニメをやろうという話になってね」

 

「ア、アニメですか!? じゃあ、主役の声とかは……」

 

「もちろん自分のキャラクターは自分であてることになるよ」

 

「すごいじゃないですか社長! やりましたねプロデューサーさん!!」

 

 うれしそうな小鳥の隣ではプロデューサーが考えるような悩んでいるような顔をしていた。

 

「あ、あれ? どうかしたんですか?」

 

「……社長。その話はすぐやらなければいけないことですか?」

 

「いや、彼女たちが世界で活躍する人物であることは相手も知っていることだからね。時間がかかることは承知しているよ」

 

「なら半年後のスケジュールに組み込みましょう。もちろんあいつらの負担にならないようします」

 

「うん。よろしく頼むよ」

 

 先ほどとは打って変わってプロデューサーは13人のスケジュールを考え始めた。

 

「ああ、そういえばルールブックとは手配してもらえるんですか?」

 

「問題ないよ。すで全員にいきわたる数を用意してあるから」

 

「なら、海外にいるメンバーに早く渡していかないと……今国内で活動しているメンバーにも話を通して半年後に新しい仕事として……」

 

 プロデューサーはブツブツ言いながら机に向かって作業していた。

 

「ふふっ、プロデューサーさん。すっかりやる気ですね」

 

「うんうん。これならうまくいきそうだね。じゃあ私は先方と改めて打ち合わせをしてくるよ。音無君すまないが……」

 

「はい。そのほかのことはこちらでやっておきますね。幸い会社も大きくなって新しい事務員も来てくれたことですし」

 

「うん。じゃ頼んだよ!」

 

「はい。いってらっしゃい」

 

 社長を見送り仕事を再開すると、携帯に高木からのメールが届く。

 

『言い忘れていたんだが、シナリオはプロデューサー君に一任しているからよろしくたのんだよ! 音無君もサポートを頼んだ!!』

 

 と、書かれていた。

 

「ええっ……」

 

 どうやら人員が増えても小鳥は楽ができそうにないようだった。

 

 




 この作品内では765プロの13人はSランク到達済みで日本のアイドル界を実質制覇したようなものですが、ほかのアイドルたちが一向に現れないことや第二の日高舞ショックが起きるのではないかという恐れから殿堂入り扱いを受けており、現在は女優などが主な仕事になっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キャラクター作成

投稿できるうちに投稿です。







2019年 8月20日文章追加


「よし、全員揃ったな。朝早くから悪いな」

 

 高木社長の話から半年と少し。765プロの初期メンバー13人がそろっていた。こうして全員がそろうのは久しぶりなことであった。

 

「みんなが事務所にそろうのは久しぶりだね千早ちゃん」

 

「ええ、久しぶりね春香。聞いているわよ、少し前までやっていた舞台が大盛況だったんですって?」

 

「えへへ、みんなさんのおかげだよ? 私だけじゃ満員にはできないよ~」

 

 久しぶりにあったからか、皆ワイワイ会話を楽しんでいる。

 

「ほらっ、注目!」

 

 プロデューサーは手を鳴らして13人の目線を集める。

 

「さて、もうわかっているだろうが、お前たちには新しい仕事としてソード・ワールド2.0の仕事をしてもらう。すでに聞いているだろうが、アニメ化を前提としている。自分が作ったキャラクターは自分で担当することを忘れないように。スケジュールもちゃんと確認しておくように。いいな亜美真美」

 

『は~い』

 

 双子の双海姉妹は仲良く返事を返す。

 

「でだ、この半年間でルールも一応確認してくれたと思うし、作りたいキャラクターを固めた者もいるだろうが、ちょっと先方から条件をいくつか出されてな。それを伝えておく」

 

「条件? どんなことを押し付けられたのよ?」

 

 プロデューサーの言葉に反応した水瀬伊織。今もウサギのシャルルを持っている。

 

「ま、ようはSランクアイドルだったお前たちのアニメ顔を描きたいから、種族の制限をされたり、キャラクターの名前は分かりやすく自分の名前だったりとかだな」

 

「つまり……タビットやリルドラケンなどはできないということですか?」

 

 ルールブックを確認しながら発言するのは秋月律子。最近はクイズ番組などで忙しいらしい。

 

「ああ、悪いな。お前らはアイドル界を制覇した存在だからな。やっぱり顔を売り出したい部分はある」

 

「ま、仕方がないよねー真美たちチョー有名だし」

 

「うんうん。忙しいよねー」

 

「お前ら昨日一日休みだったろ」

 

「プロデューサー。ほかにはなにか言われなかったんですか?」

 

 千早が脱線しそうな状況をもとに戻してくれた。

 

「ああ、基本は2.0なんだが、一部2.5の要素も入れてほしいと言われてな。といっても一部の神や特技、技能あたりしか盛り込めないけどな」

 

「なるほど、もう一度確認しておきます」

 

「それと、この仕事は長期にわたるし、現状、今年お前たちが全員で集まれるのは少ない。そこで最初は三つのグループに分かれてもらうことにした」

 

「そういえばボクは三日後に海外ドラマの撮影ですよね? それに映画の撮影もあったし、結構長い間外国にいることになりますね」

 

「ああ、ここにグループ分けしたリストがあるから確認してくれ。それぞれセッションを行う際に時間がかみ合わせられそうな組み合わせになっている。あとそれぞれどこの地方からスタートなのかも書いてあるからキャラクターを作る際に参考にしてくれ」

 

 

・グループA ダグニア地方

 

 天海春香 如月千早 星井美希 双海真美

 

 

・グループB リーゼン地方

 

 萩原雪歩 高槻やよい 秋月律子 菊地真

 

 

・グループC ザルツ地方

 

 我那覇響 四条貴音 水瀬伊織 三浦あずさ 双海亜美

 

 

 

「あっ、千早さんといっしょなの!」

 

「よろしくね美希」

 

「うん!!」

 

「あれ? 兄ちゃん。真美たちバラバラだよ?」

 

「ホントだ。なんでー兄ちゃん」

 

「……ハァ、お前ら前に別々に仕事が来てるって言った時に余裕余裕とか言ってただろうが、スケジュールはちゃんと見ておけ」

 

「そういえば……」

 

「言ったかも?」

 

「アンタたちプロデューサーさんに迷惑かけすぎないようにね」

 

 律子呆れているが双子はそこまで反省していないようで笑っていた。

 

『りょーかーい!』

 

「真ちゃんと一緒だ。よろしくね真ちゃん」

 

「うん。よろしくね雪歩。雪歩も今度海外で仕事だったよね? やよいや律子も」

 

「はい! よろしくお願いします!!」

 

「ええ、よろしくね」

 

「それじゃさっそくキャラクターを作ろうか?」

 

「はい!」

 

 やよいの元気な声を合図にグループBはさっそくキャラクターを作り始めた。

 

「貴音、自分たちも作ろ!」

 

「ええ、よろしくお願いしますね響」

 

「ちょっと響、私たちは5人なんだからちゃんと合わせなさい!」

 

「まぁまぁ伊織ちゃん。楽しくいきましょ?」

 

「そうだよいおりん! 面白いのを作って兄ちゃんを驚かせてやろ!!」

 

 グループCも作成に入った。

 

「よし、千早ちゃん、美希、真美。私たちも頑張ろう!!」

 

『はーい(なの)!』

 

「ええっ頑張りましょう!」

 

 グループAも2つのグループに遅れながらも作成に入った。

 

「あ、いけね。悪い、もう一つやってほしいことがあったわ。春香、1枚ここから引いてくれるか?」

 

 プロデューサーは箱を取り出し、春香の前に置く。

 

「? それじゃあ、これで」

 

 春香は箱の中に入っていた無数の紙の中から1枚を取り出した。

 

「どれどれ……おっ、全員プリースト技能(神官)とセージ技能(学者)を習得することと書いてある」

 

「え……ということは……」

 

「ちょっとした遊びみたいなもんだ。キャラクターにプリーストとセージを習得させてくれや、もちろんプリーストは最初からじゃなくてもいいぜ。ただしセージは初期作成時に絶対習得な」

 

『ええええっ!!』

 

「兄ちゃん! それじゃほかの技能が取れなくなるかもじゃん!」

 

「そーだ。そーだ!」

 

 双海姉妹が抗議をするがプロデューサーは知らん顔である。

 

「まぁいいじゃんか。ゆっくりやっていくんだ。最初から難しい敵と戦わせねぇよ」

 

『怪しい』

 

「アンタそういって昔私たちに無理難題を押し付けてきたじゃない」

 

「けどそれをお前たちは乗り越えたろ? それに、あんまりお前たちが死ぬようなことは起きないようにしてくださいと言われてんだ。そうそう命の危険にさらさないよ」

 

「それ、多少はさらすと言ってないか?」

 

「はい! 文句を言ってないでキャラクターを作れ!! 時間がもったいないぞ!! それに、プリーストの方はちゃんと特別ルールを用意してある」

 

「特別ルールですか?」

 

「そ、初期経験値とは別にプリーストレベル2回分の経験値をやろう」

 

「2回分……ということは生まれを神官にした場合冒険者レベルは3まで上げられるということですか?」

 

「鋭いな律子。そういうことだ。ほら今は作っちまえ、質問があるなら随時受け付けるからな」

 

 パンパンと手を叩く。それからは各グループで話し合い、キャラクターを作っていく。数時間後全員が作成を終了した。

 

「よし、それならグループA、ダグニア組から自己紹介をしてくれ」

 

「はい! それじゃ私から。んんっ。ハルカ=デュラミス。人間の神官です。セフィリア神聖王国の首都アーレで生まれ、育てられました。技能はプリースト3、セージ1、ソーサラー1です。もちろん信仰しているのはライフォス様です。経歴表で裕福な家庭に生まれたと出たので、貴族ということにしたいんですけどいいですか?」

 

「OK」

 

「ありがとうございます。それと許婚がいるとでたのでお相手がいると思います。でも最後に大ゲンカしたことがあると出たのでその相手と結婚したくないと喧嘩したのかもしれません」

 

「ほう。それでどうやって冒険者に?」

 

「実はまだそこまで決まってなくて……」

 

「じゃ、後で再度俺の方と打ち合わせておこうか、一応数パターン用意しておいたから」

 

「ありがとうございます!」

 

「よし、次」

 

「次は美希が行くの! ミキ=ライトネストだよ。レプラカーンで生まれは魔動機師。経歴表で銃で撃たれたことがあるって出たからそれ以来銃の怖さと強さを知ったんだと思うな。技能はマギテック2、シューター1、セージ1を取ったの。経歴表の残りの2つは愛読書を持ち歩いていると今でも使う決め台詞を持っているが出たけど、まだ決めてないから考えておくね」

 

「ん? プリーストはまだ取らないのか?」

 

「うん。この神様なんだけど……ダメ?」

 

「あーなるほど、レパラールね。じゃあそっちの地方に行く際に信仰するってことでいいか?」

 

「うん。お願いねハニー」

 

「ハニー言うな。次は?」

 

「じゃあ私が。チハヤ=ルナイト。ソレイユの斥候です」

 

「ソレイユ!?」

 

「あははっ、兄ちゃんやっぱり驚いたね」

 

「いや、悪い。あまりにも意外でな。もっと無難なところに行くかと思ったんだが……」

 

「思い切って見ました」

 

「そうか……(アニメだと薄着で結構露出するってこと忘れてんのかな)悪い、続けてくれ」

 

 笑顔で答える千早をプロデューサーは止めることはできなかった。

 

「技能はスカウト1、グラップラー2、セージ1です。エンハンサーが欲しかったんですけど、セージ絶対取得が痛いですね」

 

「うう、ごめんね千早ちゃん」

 

「いいのよ。それで、経歴表は体のどこかに刺青がある。のめり込む趣味がある。歌を褒められたことがないの3つです」

 

「最後の一つはお前と真逆だな」

 

「こういうのが面白いところですね。ああ、プリーストはサカロスを取りました」

 

「ティダンじゃないんだな」

 

 ソレイユは太陽神ティダンの眷属とも言われている。

 

「はい。変わり者なソレイユも面白いかって」

 

「ふーん。千早がやるとなるとより面白いな。じゃ、最後は真美」

 

「ほいほーい。真打ちのマミ=アントレイだよ。種族はダークドワーフ!」

 

「……え? ドワーフじゃないの?」

 

「だってそれじゃ面白くないじゃん! 生まれは戦士で技能はファイター1、エンハンサー2、セージ1をとったよん。プリーストは2.5からストラスフォードを取ってみようかなと思ってんだけど兄ちゃん」

 

「ん? どうした」

 

「ミキミキと同じで最初からじゃなくていい? 蛮族の経歴表を振ったら第一の神の声が聞こえたって出たんだけど、最初じゃなくてシナリオ中に聞こえたいなって」

 

「そうか、分かった。あとで打ち合わせよう」

 

「りょーかい。あとの経歴は優しさに目覚めた。人族の歴史に興味があるが出たよ」

 

「よし、次はグループBのリーゼン組。よろしく」

 

「それじゃボクから行きます。マコト=ゼファーランスです。ヴァルキリーの騎手でシムルグを信仰しています」

 

「シムルグ……プロセルシアの神だな」

 

「はい。幼いころプロセルシアから逃げるようにリーゼンまでやってきました」

 

「逃げるように?」

 

「経歴表で異性の家族がいないと出たので」

 

「なるほど、父親が妻や幼いお前を連れてリーゼンまできたが命を落としたってあたりか」

 

「はい。ええっとシムルグじゃ都合が悪いですか?」

 

「……(後半の話が作れそうだし)いや、大丈夫だ。残りの経歴と技能を教えてくれ」

 

「はい。奇妙な予言をされたことがある。今でも使う決め台詞を持っているが出ました。技能はライダー1、ファイター2、セージ1です」

 

「よし、次は?」

 

「はいっ! 私が行きます!! ヤヨイ=ラングストン。エルフの野伏です。プリーストは2.5からダリオンを選択しました。技能はレンジャー1、シューター1、スカウト2、セージ1です。経歴表は大好きな食べ物がある。大ゲンカしたことがある。有名人から貶められたことがあるが出ました。狩りをしながら生活をしていたんだと思います! 後のことはプロデューサーさんと相談していいですか?」

 

「分かった。あとで聞こう。よし、次頼む」

 

「じゃ、私が。リツコ=ハズウェルです。ナイトメア(ドワーフ)で生まれは魔動機師です。技能はマギテック1、ファイター1、エンハンサー1、セージ1、プリースト2でグレンダールを信仰しています。両親がドワーフなのでその影響かと」

 

「ドワーフのナイトメアは炎が弱点だからな。いい演技を期待しているぞ」

 

「ええ、頑張ります。それと経歴は両親に愛されて育てられた。己に何らかの誓いを立てている。今でも使うキメポーズを持っているが出ました。内容はまだ決まっていません」

 

「分かった。後で考えよう。じゃ、最後は雪歩だな」

 

「はい。ユキホ=コナーです。人間の学者生まれ、クス様を信仰しています」

 

「クスか……キルヒアじゃないんだな」

 

「真ちゃんがシムルグをやるので、私も珍しい神様を信仰してみようかと。技能はセージ2、コンジャラー1、プリースト2です。500点残しているので、ソーサラーあたりを随時習得していく予定です」

 

「了解。それじゃ……グループC頼むわ」

 

「ちょっと、なんか雑じゃないの?」

 

「まぁまぁいおりん。亜美たちが考えたのが、よっぽど気に入ったんだよ」

 

 亜美がニンマリと笑みを浮かべるが、プロデューサーは呆れた表情をしている。

 

「まぁ、止めなかった俺にも問題があるし、そういう連中がひとつあってもいいかなと思っただけさ。それじゃまずは誰からいく?」

 

「じゃあ自分から行くぞ! ヒビキ=カドゥケアス。人間の冒険者だ。技能はグラップラー2、スカウト1、セージ1そしてプリースト2だ。信仰しているのは2.5に登場した神の指先ミルタバルかな」

 

「スリ判定とか多様するなよ?」

 

「そんなにしないさー。経歴表はかつて貴族だった。大きな遺跡を発見したことがある。求婚されたことがあるがでたさ。それでプロデューサーにはこれを渡しておくね」

 

 響は紙の束をプロデューサーに渡した。

 

「これは?」

 

「自分たちのグループの設定みたいなもの。5人で考えたんだ。じゃ、その設定に合わせてあずさ、お願い」

 

「ええ、任されたわ響ちゃん。アズサ=カドゥケアス。人間から生まれたナイトメアです。生まれは参謀で後方から皆に指示を出す役割をしようと思います。技能はセージ1、ウォーリーダー2、ソーサラー1でプリーストにはユリスカロアを信仰してみました」

 

「えぇ……マジかよ」

 

 ユリスカロアとは遥か昔の時代には世界各地で信仰されていた戦争系の女神である。しかし、平和な時代とこの神自身が唱えるやり方が他の信者たちには不評だったことも働いてか、今ではほとんど聞かなくなった女神である。ただしユリスカロアを信仰して使うことができる特殊神聖魔法のレベル13は非常に優秀。

 

「経歴表で育ての親に拾われた。故郷の場所を知らない。異種族の友人がいると出たので、カドゥケアス家に拾われて、ヒビキちゃんとは義理の姉妹役をやろうと思います」

 

「本当の姉だと思って慕ってるさー」

 

「異種族の友人は、これから紹介する3人にお任せするわ」

 

「んじゃ亜美から行こうかな。アミ=ファルクス。ドレイクブロークンの斥候だよ」

 

「なんともまぁ……」

 

「技能はスカウト2、ファイター1、セージ1で、プリーストにはヴァ=セアンを選んだよ!」

 

「また変わったところを選ぶな……」

 

「ふっふっふっ、やるからには楽しまないとね。経歴は人族に拾われた。人族として育てられた。人族の文化が好きと出たよ。これのおかげでいおりん、お姫ちんと色々できたんだけどね。じゃいおりん頼んだよ」

 

「任せときなさい。イオリ=ファルクス。妖精使いのバジリスクウィークリングよ。技能はフェアリーテイマー2、セージとアルケミストが1よ。プリーストはニールダを選んだわ。経歴表からは創造性に目覚めた。人族にくだらない賭け事で負けてしまった。人族の歴史に興味があるを自分で選んだりサイコロで出したわ」

 

「亜美と同じ苗字ということは……」

 

「ええ、義理の姉妹よ。そして次の貴音もね」

 

「では最後はわたくしが。タカネ=ファルクス。ミノタウロスウィークリングの戦士です。プリースト技能はヒューレを選ばせていただきました」

 

「え゛。い、一応聞くけど武器は?」

 

「両手持ちのソードです」

 

「ああ、うん。やっぱりか……」

 

「やっぱり驚くよね~」

 

「そりゃな……」

 

 プロデューサーが驚く理由はヒューレが持つ特殊神聖魔法フェイタルエッジにある。この魔法は自身の命中判定を行う際のサイコロの目を6ゾロに変更し、自動命中させることができる。

 そして両手持ち(所謂2H)のソードには斬鉄剣と呼ばれる武器がある。これは自動命中した際に、相手の防護点(防御力のようなもの)を無視してダメージを与えることができるのである。

 さらには種族のミノタウロスウィークリングにはダメージを底上げする特徴がある。

 

「まぁ、プリーストを13まで上げなければいけないことが少々辛いかと」

 

「それでも十分だと思うがな……」

 

「なにか問題であれば変えますが……」

 

「ああ、悪い。気にしなくていいよ。技能と経歴を教えてくれ」

 

「はい。技能はファイター2、エンハンサーとセージを1、プリーストが2です。経歴は人族として育てられた。人族の文化が好き。人族に恩がある。となりました」

 

「うん、了解した。あと伝えることは……ああ、そうだ。お前たちにこの仕事だけに時間を取らせるわけにもいかない都合でなんだが、合流するまでの話は少々飛んでしまうことを考慮してくれ」

 

「ええぅと……?」

 

「あー悪い分かりづらいな。つまりだ、ダグニア組がやった後に同じレベル帯のことをあと二回も繰り返すのは正直シナリオ的にも面倒なところがある。もちろん工夫はするけどな。んでだ。ダグニア組のセッションをやっている間にリーゼン、ザルツ組も何かしらのことをして経験値を稼いだことにしてくれ」

 

「じゃあ、ダグニア組が1000点稼いだら、ほかの二組も何かしていて、同じように経験値を稼いでいたということにするんですね」

 

「ああ、もちろん育てすぎないように冒険者レベルに制限はつけさせてもらうけどな。メインは合流した後だし」

 

「ねぇ、プロデューサー。自分たちザルツ組の時にはダグニアとリーゼンの二組分の経験値をもらったうえで始めるんだよね?」

 

「そうなるな」

 

「じゃあ、今回キャラクターを紹介した意味あるの?」

 

「ま、一応紹介だけはしないとな。一応仕事だし」

 

「プライベートで遊ぶためじゃないものね。ま、うまくやるわよ」

 

「ほかにも追加していくことはあると思うけど、今のところはこれくらいかな…………さて、これからお前たちはラクシアと呼ばれる世界で冒険してもらう。これだけでも長い仕事になると思うし、このあとにはそれぞれ声優としても時間を取られるだろう。加えてそのほかの仕事だってある。とても大変な日々になる。だけどお前たちはアイドル界を一時的とはいえ制覇したんだ。この程度の困難突破してくれよ?」

 

『はい!』

 

 プロデューサーの挑発めいた言葉に力強く返事を返す13人。その顔には辛さは感じられない。

 

「小鳥さんからもなにかありますか?」

 

 プロデューサーの傍で先ほどより準備をしてくれていた小鳥にも視線を向けるが、

 

「いえいえ、私はあくまでもプロデューサーさんのお手伝いをしているだけですから」

 

 とだけ言って断った。

 

「わかりました。んじゃ早速始めていくぞ。よろしくお願いします」

 

『お願いします!!』

 

 765プロの新たな仕事が始まった。

 

 

 




次回からはグループA、B、Cの順番に話を書いていく予定です。

ちなみに貴音がカタカナをちゃんといえているのはプロデューサーと訓練したからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ダグニア編
ダグニア地方・1 


始まりの剣。

ルミエル、イグニス、カルディア。

これら三本の剣がラクシアを作ったとされている。


「なぜ理解できんのだ、ハルカ!!」

 

 ダン! と力強くテーブルを叩く男性は目線の先にいる少女――ハルカ・デュラミスを怒りの形相をもって睨みつけている。

 

「何度も言っているとおり、私の夫は私が決めます。お父様やお母様が勝手に決めた相手の妻になどなりません」

 

 少女――ハルカは凛とした佇まいで、父親の言葉を撥ね退ける。

 

「ハルカ、お相手のアレドロ家と我がデュラミス家は長年に渡り友情を育んだ間柄なのですよ。あなたは両家に恥を掻かせるつもりなの?」

 

 男性の隣に座っていた煌びやかなドレスを纏ったハルカの母親も、娘に対して厳しい表情を作っていた。

 

「なんと言われようとも私は結婚しません。では」

 

 ハルカはそれだけ言うと、部屋から出て行く。

 

「待たんかハルカ、まだ話は終わって――」

 

 最後まで父親の言葉を聞く前にハルカは姿を消した。

 

 

 

 

 テラスティア大陸の北東方面に位置するダグニア地方の一国家、セフィリア神聖王国。その首都アーレがハルカ=デュラミスが生まれ、育てられた場所である。

 

 蛮族と総称されるゴブリンやトロールたちを打ち滅ぼし、人族の手に土地を取り戻すことを使命に掲げているセフィリアでは聖戦士と呼ばれる名誉ある者たちがいる。

 彼らは蛮族を掃討するだけではなく自衛手段が乏しい村に住む人々のために剣を振るうヒーローのような存在である。

 

 しかし、時代が進み人族と蛮族の戦いに終わりが見えない状況が進んでいくと、聖戦士の数が減っていってしまう。新たに加えようとしても質は落ち、横暴な者も出てくる始末。最悪なことに聖戦士の称号を金銭で得ようとする貴族もいるほどである。

 

 ハルカの婚約者も金で聖戦士の証を買っただけの男である。

 

 それを知ったハルカは、元々好きでなかった相手であったため、絶対に結婚などしないと決めたのである。

 

(こんなところに居ては私までおかしくなってしまう。どこか、違うところへ――――)

 

 ハルカはそう決心し、すぐさま行動に出た。師と呼び慕うライフォス神殿の司祭に手紙を書いて使用人に渡すと、身支度を急ぎ整え、部屋にあった美術品を売り捌き金銭を得ると、セフィリアの東にあるバルナッド共和国へ向かう商人たちの荷台に乗せてもらうことになった。

 

「これが……セフィリアの外の景色……」

 

「嬢ちゃん。外を見るのは始めてかい?」

 

 女性の商人が声をかける。

 

「はい。ずっとアーレの中で育ちました」

 

「ま、城壁の外に出るなんてセフィリアじゃアタシら商人や聖戦士が大半だろうしな」

 

「……美しいですね。それでいてどこか危険もありそうな……」

 

「嬢ちゃん。アタシら商人は危険でも商売をしなきゃいけない。冒険者みたいに一攫千金を狙えるほど強くないけど、自分の身くらいなら守れる。生きるためには金を稼がないといけないしね」

 

「冒険者……か」

 

「ん? 冒険者を知らないのかい? いくら冒険者が好まれていないとはいえセフィリアにも冒険者はいるだろうよ」

 

「いえ、知ってはいたのですが、自分には縁がないなと思っていまして……」

 

 ラクシアの世界において一番自由な仕事は何か? と尋ねれば大抵の者は冒険者と答えるだろう。過去の遺跡から価値のあるものを発掘するもよし、蛮族やアンデッドを退治することで名声を得るのもよし。と、その時によって好きなことをできるからである。

 

 残念ながらセフィリアという国は冒険者を野蛮な連中と見下す傾向にあり、他国よりも冒険者を受け入れている専用の店が少ない。

 

「嬢ちゃんは見たところライフォスの神官だし、こう言っちゃなんだが、他の上から見てくるライフォスの戦士よりは引く手あまたじゃないかね?」

 

「あはは……そうだといいんですけど」

 

 ライフォス神官は他所では嫌われる傾向がある。原因は色々とあるが、最近ではラクシアにおける最初の神ということで、ライフォスは神々の王だと主張する者たちがいる。そのような者たちが聖戦士として他国のライフォス以外の神を祭る神殿で粗暴な態度を取り、あまつさえ金品を要求することがある。

 

 このことが原因で、ダグニアの冒険者たちの間では、ライフォスは邪神と陰口を叩く者もいるほどである。

 

「そういえば嬢ちゃん。神官として魔法は使えるんだろうけど、それ以外は何かできるのかい?」

 

「恥ずかしながら家にいるか、ライフォス様の神殿に行くくらいで……」

 

「なるほどね。なら簡単な魔法を覚えておくかい? その体じゃ敵の正面に立って戦うってのは無理そうだし」

 

「いいんですか!? ぜひ教えてください!!」

 

「お、おう。なら簡単な真語魔法(ソーサラー)を教えておくよ。道中何もなかったら暇だし、ムサイ男どもの相手をしなくていいし」

 

「聞こえてるぞー」

 

『はははははっ!』

 

「うるさいね! ちゃんと周りを見てな!!」

 

 女性は怒った口調で言っているが、口元は笑っていた。おそらくはこのようなやり取りを楽しんでいるのだろう。ハルカはそう感じ取った。

 

「では、ご指導よろしくお願いします!」

 

 ハルカ=デュラミスの冒険は今より始まった。

 

 

 

 

 

 ハルカが商人たちと共にバルナッド共和国に着いたのは、出立からおよそ6日が経過した頃だった。

 

 その間に最低限の魔法を覚えたハルカは商人たちと別れ、バルナッド市内を歩いて回っている。

 

「セフィリアとは全然違う街なのね……」

 

 少し前まで見ていた街並みとは違う景色がハルカを楽しませていた。

 

「ここは広場かしら……活気が全然違う。ううっなんだか熱気が」

 

 バルナッドでは金を稼ぐものが偉い。という風潮が少なからずある。そのために広場で商売している者たちは一人でも多くの客に自分の商品を売りたいのだ。

 

「ここから離れ――きゃ!」

 

 広場から出ようとしていたハルカに一人の男がぶつかって来た。

 

「おい、気をつけろ!」

 

「す、すみません!!」

 

 頭を下げて謝罪すると男はそのまま姿を消そうとするが、

 

「待ちなさい」

 

「イデデデデデデッ!!」

 

 一人の美女が男の右腕を押さえつける。

 

「貴方、今彼女から何を盗ったのかしら?」

 

「な、なんの――イデェ!?」

 

「とぼけないで、ねぇ貴女、ガメルがいくつか盗られていないかしら?」

 

「え? …………ああっ! 100ガメル分の袋がない!!」

 

「やっぱりね。この男が持っているわよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お、おい! もう放してくれよ!! 金は返しただろが!」

 

「しょうがないわね、ほら行きなさい」

 

「ちっくしょお……覚えてろよ!!」

 

 男は痛めつけられた右腕を抑えながら、走り去っていく。

 

「随分と隙だらけだったけど、バルナッドは初めてなの?」

 

「はい。本当に助かりました」

 

 ハルカは目のやり場に少々困っていた。目の前の美女は自身の体を最低限の布で隠しただけで、後は肌を露出していた。ドレスなどを着ていた日々のハルカからすれば少々困った状況である。

 

「えっと、申し訳ありません。あなたはソレイユですか?」

 

 ソレイユ。始祖神ライフォスの友人にして太陽神として崇められるティダンの眷族と言われる者たちだ。

 

「ええ、私はチハヤ=ルナイト。よろしくね」

 

「ハルカ=デュラミスといいます。先ほどはありがとうございました」

 

「たまたまよ。ま、これも何かの縁だし、この後予定はある?」

 

「いえ、特には」

 

「じゃあ、一緒に食事でもどう? 奢るわ」

 

「え、そんな! 悪いですよ」

 

「いいのよ、ちょっと臨時収入も入ったしね」

 

「???」

 

「さ、行きましょ、美味しいお酒が飲めるところがあるのよ」

 

「ええ!? まだ昼ですよ!!?」

 

「いいじゃない。飲みたいときに飲まないと! さ、行くわよ」

 

「あ、ちょ、ちょっと~」

 

 ハルカはチハヤに手を引っ張られ、そのまま広場を後にする。

 

 

 

 

「ここよ」

 

 広場を後にした二人はバルナッドの端にある一軒の小さな店だった。店名は〈千夜の剣〉という店のようだ。何やら屋根の上で作業している人がいるがハルカはそれどころではなかった。

 

「あ、あの……私たちが通った所って……」

 

 ここに来るまで、ハルカは周囲に人影が少ないことに何やら違和感を覚えていた。

 

「ああ、あの辺はスラムみたいな場所だし、大抵は夜に店を開けるらしいわ。私は知らないけどね」

 

(そっか、ソレイユって夜はすぐ寝ちゃうって本に書いてあったかも……)

 

「ま、今日は近道のために通っただけだし、普段は使わないほうがいいわ、またお金を取られたくないでしょ?」

 

「は、はい。気を付けます」

 

 二人が中に入ると、二十席ほどの店内が視界に入った。先に来ていたと思われるフードを被った人物以外は誰もいないようだった。

 

「こんにちはマスター。いつものお酒ありますか?」

 

「ああ、チハヤちゃんいらっしゃい。今日も来ると思っていたから用意しておいたよ」

 

 マスターと呼ばれた30代ほどの男性が笑顔で出迎えた。

 

「おや、珍しいね。チハヤちゃんが人を連れて来るなんて」

 

「さっきスリにあった所を助けたの」

 

「ハルカ=デュラミスと申します」

 

 礼儀正しく挨拶するハルカ。マスターはそれに笑顔で答える。

 

「よろしくねハルカちゃん。店主のアルフレッドだ。好きに読んでくれて構わないよ。ま、立ち話もなんだし、座って座って」

 

 二人はテーブル席に座ると、店の奥から美しい女性がグラスを二つ持ってやってきた。

 

「いらっしゃいチハヤちゃん。いつもの置いておくわね」

 

「ありがとうマダム」

 

「はい。あなたにも」

 

「あ、ありがとうございます……(綺麗な人、チハヤさんとは違った何かがあるような……)」

 

「アルフレッドの妻、レミアよ。よろしくねハルカちゃん」

 

「よ、よろしくお願いします!!」

 

 レミアのチハヤとは違った美しさに緊張したのか少々声が上ずったハルカ。それをクスリと笑いながらレミアはボトルをテーブルに置いて「ゆっくりしていってね」とだけ言って店の奥へと姿を消した。

 

「それじゃ乾杯しましょ」

 

「あ、はい。乾杯」

 

 グラス同士をキンッと軽く鳴る程度接触させ、自分たちの口へとグラスを運ぶ。ゆっくりと少しずつ流していくハルカと一気に飲み干すチハヤ。

 

「ぷはっ! やっぱりマスターが揃えているお酒は最高だわ!!」

 

「ありがとうチハヤちゃん」

 

「お、美味しい……」

 

 初めて飲む酒の味に自然と笑みがこぼれるハルカ。それを見たチハヤはボトルに入った酒をハルカのグラスに注ぎ入れる。

 

「それで、ハルカはどうしてバルナッドに?」

 

「あ、えっと……」

 

 ハルカはチハヤに話してしまうことに少しだけ躊躇いはあったが、隠し事をするほどでもないと考え、ここにバルナッドに来た理由を話す。

 

 アルフレッドやレミア、店にいた一人の客にも聞こえていたが、ハルカは気にすることなく、これまでの不満を吐き出すように語った。

 

「そう……大変だったわね」

 

 すべてを聞き終えたチハヤは呟くように言い、グラスを呷る。

 

「これからどうするの? 歓楽街で働くってわけじゃないでしょ?」

 

「むむむ、無理ですよ! わ、私まだ……その……」

 

「ああ、ごめんごめん。そりゃまだそうだよね」

 

「チハヤさんはその……経験は……」

 

「ないわよ」

 

「え、ないんですか!?」

 

「いいお相手がいないのよ。マスターほどのいい人がいればいいんだけど」

 

「からかわないでよチハヤちゃん」

 

 アルフレッドが苦笑いを浮かべながら料理をテーブルに置く。

 

「ハルカちゃん。もしよかった冒険者をやってみないかい?」

 

「え……冒険者ですか?」

 

「うん。実は昨日からうちも冒険者の店として登録してあるんだよ。まだ一人も冒険者もいないし、仕事もないけどね」

 

「へー知らなかったな。昨日もいたはずだけど」

 

「チハヤちゃんは夜の六時になると寝ちゃうから。正式に許可が下りたのはチハヤちゃんが寝た後だし」

 

 なるほどねー。と言いながらチハヤは料理をガツガツ食べる。

 

「私一人でできるでしょうか? 冒険者は場合によっては大変な仕事だと聞きますけど」

 

「何言ってるのよハルカ。私もやるわよ」

 

 口の中の料理を酒で流し込むと、チハヤはハルカに力強く言った。

 

「え、いいんですか?」

 

「もちろん。言ったでしょ、これも何かの縁だって」

 

「ありがとうございますチハヤさん!!」

 

「ああ、そうだ。マミちゃん。君もどうだい?」

 

 アルフレッドは店の奥で一人でいた客に声をかける。

 

「……ありがたいですけど、その……」

 

「君の立場が大変なのはわかるけど、やはりしっかりとした保証は必要だよ?」

 

「…………」

 

 奥にいた客は席を立つとハルカとチハヤの席まで歩いてきた。

 

「マミ=アントレイ。良ければ私も加えてほしい。一応戦える」

 

 マミと名乗る少女はメイスを二人に見せる。しかし、顔を見せたくないのか、フードを深く被っている。

 

「私は構わないわ。ハルカは?」

 

「問題ないですよ。よろしくね、マミちゃん!」

 

「ありがとう。お役に立てるよう頑張るわ」

 

 マミと握手を交わす二人。アルフレッドは笑顔でそれを見守っていた。

 

「ああ、そうだ。もう一人紹介しておこうかな。確かガンを使うと言っていたし」

 

 すると店のドアを力強く開く人物がいた。

 

「マスター! 屋根の修理終わったよー!」

 

 ドアを開けて入ってきた人物――否、人間よりも大きな耳をして、だらりと下がっている。耳はフサフサした毛で覆われ、体格もマミよりもさらに小柄に見える愛くるしい少女の姿があった。

 

(わ、レプラカーンだ。本当に変わった耳をしているんだ……)

 

 レプラカーンは通常人の前にはあまり姿を見せない貴重な種族というのが多くの人の常識であったが、どうやら目の前の少女は違うようだ。

 

「ああ、ミキちゃんありがとう。それに丁度良かった」

 

「??」

 

「実はここにいるハルカちゃん、チハヤちゃん、マミちゃんが冒険者として仕事をするんだ。ミキちゃんはガンを使えたよね? 君さえよければ彼女たちと冒険者としてやってみないかい?」

 

「いいの!? うん、やるやる!! あ、ミキ=ライトネストだよ、よろしくね!!」

 

 ミキは嬉しそうにその場で何度も跳びあがる。

 

「うん、パーティのバランスとしては申し分ないかな」

 

「ところでマスター、依頼はあるの?」

 

「……あはは、ごめんごめん明日までに用意しておくよ。今日は四人で結成のお祝いでもしたらどうかな? お金はサービスするよ?」

 

「ホントに!? じゃあワタシもみんなと同じやつ!!」

 

 ミキが元気よく手を挙げる。

 

「色々準備も必要だと思うけど、まぁいいのかな……」

 

 マミも口元に笑顔を見せつつ、チハヤの隣に座る。

 

「じゃ、乾杯しましょう!」

 

「そうね! じゃ、グラスを持って……乾杯!!」

 

『乾杯』

 

 チハヤの号令の下、四つのグラスが優し気な音を奏でる。

 

 四人は思い思いにこれからの冒険に花を咲かせる。

 

 ソレイユのチハヤは午後六時になると翌日の午前六時まで基本的には目を覚まさないため、道端で眠られても困るため、チハヤがアルフレッドの店にある二階の宿で眠り次第、マミが冒険の準備をしようとハルカとミキを誘って遅い時間ではあるが買い物に出かけた。

 

 背負い袋、水袋、毛布、たいまつ数本、火口箱、10mのロープ、小型ナイフの所謂冒険者セットはアルフレッドが用意してくれるとのことで、三人はそれ以外の回復用のヒーリングポーション。万が一意識を失った際のアウェイクポーション。そしてハルカのような魔法使い系統の力を使う者には必須の魔晶石と呼ばれるアイテムを購入これがあればマナ(MP)が不足した場合でも魔法などが行使できる。

 最後に薬品の救命草、魔香草を購入。それぞれ体力(HP)とマナ(MP)を回復できる代物であるため、戦闘以外の時に使う。

 

 買い物を終えた三人はアルフレッドが用意してくれた部屋で眠りについた。

 

 

 

 

 翌日。

 

 四人は一階の店内に集まり、朝食を食べていた。

 

「はい。じゃあこれが依頼……というよりも地図かな」

 

「? 依頼じゃないんですか?」

 

「うん。知り合いに聞いてみたら新しく見つけた遺跡があるらしくてね。その地図をくれたんだ。遺跡探索も冒険者の醍醐味だろう?」

 

「どれどれ……あっ、結構近いよ!!」

 

 ミキが地図を見てみると、バルナッドの北にあるタナト川周辺にあると印がある。距離にして半日以下で到着する距離だった。

 

「マスター。こんな近い距離なのにだれも気が付かなかったの?」

 

 マミは疑問を口にする。

 

「どうやら地下にあるみたいでね。今回たまたま地面が隆起した際に発見したらしいんだ」

 

「よし、食事を終えたら早速行きましょ!」

 

 チハヤの言葉に三人は頷き、手早く食事を終わらせると、アルフレッドとレミアそして幼い双子の赤ん坊に見送られた。(二人の子供であるが、自分の母と比べてハルカはレミアが子供を産んでいたとは思えない美しさがあると感じていた)

 

 

 

 バルナッド共和国は実のところ歴史が浅い。正確には今のバルナッドがということであるが。

 

 ラクシアは大まかに四つの時代が存在している。

 

 10000年以上昔といわれる神紀文明シュネルア。

 3000年前に存在していた魔法文明デュランディル。

 2000年前から1700年ほど続いた高度な技術が発展していた魔動機文明アル・メナス

 そして現代。

 

 しかしながらアル・メナスから現代に至るまでに高度に発達していた技術などは消えてしまった。それが大破局(ディアボリック・トライアンフ)と呼ばれる蛮族たちの襲来である。現代から300年前、「地上」からは蛮族をほとんど駆逐できており、人々は安寧の時代が到来したのだと思い込んでいた。しかし、蛮族たちは地下に国を作り、来るべき時まで力をつけていた。この奇襲によりアル・メナス文明は滅びを迎え、生き残った人々が団結し、決死の覚悟で戦い、戦争を仕掛けてきた蛮族の王を誰かが倒したとされている。

 

 この時バルナッドはアル・メナス時代のダグニア地方に名を刻んでいた。しかし、蛮族たちの過激な攻撃により、一度は滅びを迎えたのである。

 

 現在のバルナッドはその過去の都市の近くに新たに構築された遺跡都市としての一面も持っている。しかし当時のバルナッドは現在の都市よりも大きく。今も未踏の場所が存在しているのが事実である。

 

 今回四人が向かうのもその過去の遺跡と関係があるのかもしれない。

 

 

 

「楽しみだね、いいものがあるといいな~」

 

「そうね、ここまでマスターに用意してくれたんだからそれなりの物を見つけないとね」

 

 楽しそうなミキとやる気をみなぎらせているマミ。

 

「いい天気。これなら力が漲るってものよ!」

 

「チハヤさん。元気ですね……」

 

「ソレイユは太陽が出ているときは元気だからね」

 

 談笑をするチハヤとハルカ。初めて故のまったりとした空気であるが、緊張しているよりはましなのかもしれない。

 

 地図を頼りに進んでいくと、隆起した地面のそこに確かに構造物の入り口が見えた。

 

「ここだね。ようし! 行こー!」

 

「待ってミキ、あなたは暗視があるからいいかもしれないけど、ハルカたちは持ってないのよ。まずは明かりの用意をしましょ」

 

「あ、そうだった。ありがとうマミ」

 

「あ、私がライトの魔法を使おうか? 魔晶石もあるし」

 

「勿体ないわよハルカ。その一個分は別の時に必要になるかもしれないし、残しておきましょう」

 

「うん。ありがとう(……さっきからマミは頭数に入ってないような……)」

 

 ふと、ハルカが疑問を持つが、それを払い、たいまつに火をつけるのを手伝った。

 

 ハルカとチハヤがそれぞれたいまつを持ち、マミは暗視があるから平気だと言う。

 

(やっぱり。ということはドワーフ?)

 

 再び疑問が湧いて出てきてしまうが、もう一度ハルカは降り払う。

 

(今は遺跡探索に集中しよう!)

 

 ハルカたちは奥へと進んでいく。

 

 

 

 遺跡内部は光が届いていないせいか、暗い。

 

 暗視を持つミキとたいまつを持ち斥候としての技量を持つチハヤが前を歩き、その後ろをハルカとマミが歩いている。

 

「おお、なんの建物かわからないけど、いいつくりしてるなー。この柱も立派だよ~」

 

 ミキが時々足を止めて、遺跡の柱などを触って機嫌をよくしていた。

 

「時代としてはアル・メナスの物?」

 

「うん。そうみたいだね! ワクワクしちゃうよ」

 

 マミの質問に元気に答えるミキ。とてもご機嫌である。

 

「……ミキ近くに来て」

 

「え?」

 

「早く! みんな敵よ」

 

『!!』

 

 チハヤの声で皆顔を引き締め、背中合わせに周囲を警戒する。

 

 ウィーンという機械音と共に、複数の物体がやってきた。数は五体だ。

 

「あれは……レンガード! 魔動機文明の遺跡でよく見かけると本で読んだことがあります!」

 

「たしか、連結させると厄介だって聞くから気を付けて!」

 

 ハルカとミキがそれぞれ敵――レンガードのことを口にする。

 

「チハヤ、私たちで前衛を組みましょう」

 

「当然! 遅れないでよマミ!」

 

 チハヤは素早くレンガードに接近、警告を発していたレンガードに攻撃する。

 

「はぁぁぁっ! たぁ!」

 

 平たく小さめなレンガードに対してチハヤは二連続のキックを浴びせる。

 

「もういっちょ!」

 

 さらにもう一撃加えて粉々に粉砕した。

 

「ようし、私も! エネルギーボルト!」

 

 商人の女性から習った魔法でハルカは二体目のレンガードを狙う。

 

 当たり所がよかったのだろう。一撃でレンガードを破壊した。

 

「やるねハルカ! ならワタシも、ソリッド・バレット、ドーン!!」

 

 両手に持ったガン――トラドールでレンガードに狙いを定めて発射した。

 

 しかし、一撃とはいかず、レンガードは動き続けている。

 

「うーん。ハルカみたいにはいかないか」

 

「なら私が!」

 

 ヘビーメイスを両手に持ったマミがミキの攻撃でボロボロになっていたレンガードを破壊する。

 

「あとは二体だけ!」

 

 その二体はミキの言う通り連結し、電撃を帯びて攻撃してきた。

 

「よっと、危ない危ない」

 

 チハヤにたいして攻撃したがあっさりと回避されてしまう。

 

「畳みかけましょう!」

 

 レンガードはあっさりと倒されてしまった。

 

「使えそうなのは……この記録装置一つね。あとは粉々だし、お金にはなりそうもないわね」

 

 はぁ、とため息をつくマミを励ますようにチハヤが背中を叩く。

 

「まだ終わりじゃないわよマミ気を取り直して行きましょ!」

 

「……そうね。とりあえずレンガードたちが来た方向へ行きましょうか」

 

 四人は警戒しつつも奥へと進んでいく。

 

 いくつかの道は土に埋もれてしまい通れそうになく、現状の自分たちではどうすることもできないため、進めそうな道を探していると、絵が描かれた壁を見つける。

 

「これは……」

 

「魔動機文明語だね、ワタシ読めるよ! ええっと……バルナッド駅地下通路ご案内掲示板? だって」

 

「駅……?」

 

「何かしらそれ」

 

 マミとチハヤはわからないと言った表情をしていたが、ハルカとミキは分かったようで、

 

「ううん、確か当時の移動手段だった列車なんかが止まる場所だったかな……セフィリアじゃあまり魔動関連は好かれてないからそれ以上は分からないかな」

 

「確かそんな感じだったよ。ええっと……ドワーフのストラスフォードが作り出した移動手段が魔動列車で、各地に一時的に人や物が乗り降りするための施設かな」

 

「そっか……やっぱりドワーフはすごいんだ……」

 

(マミもドワーフじゃないの?)

 

 マミの呟きが聞こえてしまったハルカだったが、気にしていても仕方のないことだった。ハルカはストラスフォードの名前を聞いて思い出したことがあった。

 

「あ、そういえばストラスフォードって名前神様にいたんじゃないかな。確か大陸各地に列車を走らせた功績でグレンダール様に手で神になった方がいたって本で書いてあったような……」

 

「へぇ、すごい神様ね。大陸各地って」

 

 素直に感心するチハヤ。

 

「うん。でも、大破局の影響でどこもこんな感じじゃないかな」

 

「なら、ちょっとでもみんなに知ってもらわないとね」

 

 チハヤの言葉に三人は頷きさらに奥へと進む。

 

 地下へと続く階段を発見し、四人は明かりと暗視を頼りに進む。

 

 空気がやや重たく感じる地下であるが、ミキは気にした様子もなく回りを見ている。すると、

 

「あっ、見て!」

 

 ミキは声をあげて前方を指さす。さすがに明かりの届かない範囲では見えにくいため、ミキはチハヤと共に前へ進む。

 

「これは……魔動列車?」

 

 マミの言葉にハルカが頷く。

 

「うん。本に書いてあった絵に酷似している。間違いないと思うよ」

 

「これが列車……」

 

 マミは列車に近づいて見惚れていると、

 

「っ! 危ないマミ!」

 

「え? きゃっ!」

 

 チハヤが素早く小柄なマミを抱き上げてその場から離脱した。そこへ銃弾が飛来した。

 

「な、なに!? チハヤさん! マミちゃん!」

 

「ハルカ、敵だよ!」

 

 ミキは手にトラドールを握りしめている。

 

「っ!」

 

 それによりハルカも警戒態勢を強める。

 

「敵は右前方よハルカ!」

 

 チハヤの声に従いそちらを見ると、二足で立つ自分たちよりも大きな魔動機械がそこにはいた。

 

「っ!? ガーヴィ! 気を付けて、ワタシと同じでガンを使う!!」

 

 その言葉を肯定するかのようにガーヴィは銃撃を行ってくる。

 

「っ! ハルカ!!」

 

 ミキがハルカをかばうように押し倒す。

 

「ご、ごめんミキちゃん。大丈夫?」

 

「平気よ、それよりもいったん距離を取りましょう!! チハヤ、マミ!

 

「分かったわ!」

 

 四人はガーヴィの腕に装着された銃の射程から外れるように距離をとったが、

 

「――――――」

 

 なんとガーヴィの銃撃は本来の射程よりも長い物になっていた。

 

「射程は15mのはずなのに、なんでっ!?」

 

 ミキは自分の知っている情報との違いに動揺する。

 

「落ち着いてミキ、私が見た限り、あいつの腕は後から改造した跡があったわ」

 

 マミの言葉にミキははっとする。

 

「じゃあ」

 

「ええ、何らかの理由でやつを改造したのよ」

 

「っ! 長話はできないわ」

 

 チハヤの表情が再び強張る。

 

 見ると、先ほどのレンガードたちが五体連結した状態の物が五組現れた。

 

「数が多い!」

 

 ハルカの悲鳴に近い声が漏れだす。

 

「このっ!」

 

 ミキは手当たり次第といわんばかりにガンを撃つ。

 

 命中したが、先ほど戦ったレンガードよりもあたりが悪いのか、効いているようには見えない。

 

「さっきのやつよりも耐久に優れている!?」

 

「上の階まで引きましょう!」

 

 チハヤの声で、四人は上の階まで撤退した。

 

「はぁ、はぁ……大丈夫?」

 

「な、なんとか……」

 

「どうやらここまでは来ないみたいね」

 

「はぁ、いったい何を守ってるんだろう……」

 

「守ってる?」

 

「うん。ガーヴィとかは命令で動いているから多分地下のどこかに守らなきゃいけない何かがあるんじゃないかな」

 

 ミキは少々不安げに話す。

 

「どうする? ここは戻る?」

 

「……いいえ、せっかくパーティを組んでの初めての冒険だもの、これくらいの障害は払いのけないと夢には程遠いわ」

 

「夢? チハヤさん。なにか夢があるんですか?」

 

「ええ、いつかバルナッドで一番の酒造家になりたいの。今回ハルカと冒険に出たのはその資金を得るための第一歩だったの」

 

「そうだったんですか……」

 

「ええ、だからこんなところで引けないんだけど、みんなを無視していくわけにも「行こう」え?」

 

 チハヤの言葉を遮ってマミが言う。

 

「私にもやりたいことがある。ここで引いたら何もできずに生涯を終えそうだもの、逃げてられないわ」

 

「マミ……」

 

「それに――みんなにこれ以上隠して戦うなんてできないわ」

 

 マミはそう言ってフードを取る。そこには青白い肌をした少女の顔があった。

 

「……もしかして、ダークドワーフだったの!?」

 

「うん……」

 

 ダークドワーフとは、かつて神々と戦いの中で人族のもとを離れて蛮族側に味方したドワーフたちがいた。彼らは巨人サイクロプスから黒い炎を貰い、操ることを可能とした。その代償に、炎に対しての耐性を失い、地下での生活が長かった影響で、子孫にも肌の色が通常のドワーフとは違うというものになっている。

 

「フードをしていたのはそれでなのね」

 

「ごめん……」

 

 小さな声で謝罪するマミ。そんなうつむいたマミにミキは、

 

「もう、マミは気にしすぎだよ!」

 

 怒っていた。

 

「え?」

 

「誰だって言いたくないことはあると思うよ。ワタシだって昔銃に撃たれたことがあるけど、それがきっかけで銃を使うようになったもの」

 

「え、なんで?」

 

「だって、身を持って銃の怖さも痛みも知っているから。だから自分で使うときはちゃんとするって決めたの」

 

 ミキはトラドールを力強く握りしめる。

 

「……マミちゃん。私ねセフィリアの実家から逃げてきたの。昨日聞いてたよね」

 

「うん」

 

「このまま逃げたら何も変わらないと思うの、何かを変えたくて出てきたはずなのに、何も……。だから、私は貴族の娘じゃなくて、冒険者のハルカ=デュラミスでいたいの」

 

 すっ、とマミに手を出すハルカ。

 

「一般的には裏切りのドワーフとか言われているけど、マミちゃんは私たちの仲間だよ!」

 

「ハルカ……」

 

「うんうん! その通りだよ」

 

「当然、私もよ」

 

 ミキとチハヤがそれに賛同する。

 

「ありがとう」

 

 マミはハルカの手を取り立ち上がる。

 

「さて、まずはあのレンガードの群れをどうにかしないとね」

 

「強度が上がっている以上一撃には期待できない。だとするなら時間をかけてでも、確実に倒すべきかも」

 

「うん。チハヤとマミはきついかもだけど、ワタシがなんとか援護するね!」

 

「私は回復を中心にサポートする!」

 

「よおし! 行きましょう!!」

 

『うん!』

 

 チハヤの号令に声を合わせて頷いた三人は再び地下へと向かう。

 

 案の定というべきか、レンガードの群れは待ち受けており、魔動機文明語で警告を発していた。

 

「ガーヴィはこっちに来ないみたい。今のうちだよ!」

 

「ライフォス様、私たちを見守りください。フィールド・プロテクション! 今ですチハヤさん!」

 

「行くわよ! たあああっ!」

 

 チハヤは一番近くにいたレンガードを投げ飛ばす。連結していたレンガードはチハヤに投げ飛ばされた時点でバラバラになった。

 

「一体ずつなら!」

 

「くらえ!!」

 

 マミのメイス、ミキのトラドールが、確実にレンガードを撃破していく。

 

 当たり前であるが、それでも数はいる。

 

「反撃に備えて!」

 

 レンガードたちの猛攻が始まる。前線に立っているチハヤとマミだが、チハヤは軽やかに避けられるのだが、マミはそういうわけにはいかないため、チハヤが敵を引き付ける。

 

「当たらなければ意味はないってね!」

 

 レンガードの電撃攻撃も空振りに終わる。

 

「もらったぁ!」

 

 チハヤ達の猛攻は凄まじく、ガーヴィが一定の場所から動かないことが分かったため、レンガードたちに集中できたことも大きい。

 

 時間は少々かかったものの、無事にレンガードの群れを撃退した。

 

「この距離なら大丈夫なのね。今のうちに回復をしましょう」

 

 買っておいた救命草と魔香草を使って全快した四人はガーヴィをどう攻略するかを考えた。

 

「無理な改造のせいで、接近すれば何とかなるかもしれない。その時は私の奥の手も使うわ」

 

「黒炎のことだね?」

 

「うん。出し惜しみはしていられないし」

 

「なら、マミは側面から行ったほうがいいわね。私が正面から囮としていくわ」

 

「じゃあ、ワタシとハルカはその援護をするね」

 

「分かった。気を付けて」

 

 作戦を決めた四人は素早く行動する。

 

 まずはミキが射程距離ギリギリな位置から攻撃を開始、ガーヴィはそれに反応して反撃してくるが、そこへチハヤが接近。攻撃目標をチハヤに切り替える。するとそこへハルカのエネルギーボルトが飛来。ガーヴィの体に傷がつく。

 

 それでも命令に忠実なガーヴィは一番近づいてきているチハヤに狙いを定める。銃撃を開始しようとするが、ガンと魔法の攻撃を受けてひるんでしまった結果、時すでに遅く、チハヤに投げられてしまう。

 

「だああああああああ!!」

 

 地面に金属音が鳴り響く。そこへ側面から走ってきていたマミが黒い炎をメイスに纏わせていた。

 

「これでどうだああああああああっ!!」

 

 全力で叩きつけた一撃は、間違いなくガーヴィを破壊するに至った。もともと劣化していた部分もあっただろうが、それでも勝ちは勝ちである。

 

「や、やった……」

 

「ええ……」

 

『……やったあああああああ!!!』

 

 四人の嬉しさが爆発したようで、お互いを抱きしめる。

 

 その後、レンガードを含めた戦利品を回収し、ガーヴィが守っていった奥へと進む。

 

 

 

 そこは数十人の人間が入れるような部屋だった。

 

「なにかないか探してみましょうか」

 

『うん』

 

 四人は探索を開始する。すると、チハヤがあるものを見つけた。

 

「ミキこれなんて書いてあるのかしら」

 

「どれどれ」

 

 そこにはここで働いていた職員らしき人物の手記だと分かった。

 

『ついにバルナッドにも線路が作られ魔動列車が通るようになった。これでさらに貿易がやりやすくなるし、人の往来も増えるだろう』

 

『それにしてもセフィリアのやつらは魔動機械がそんなにいやかね。頑なに否定して時代に取り残されても知らねぇぞ』

 

『ラ・ルメイアにも線路が作られた。これでますます豊かになるに違いない!』

 

『話によると列車を作り出したスタラスフォードっていうドワーフは自分の目でも見分を広めたくなる人物だとか、でも今は立場上それも難しいらしい。なんとも難儀な話だ』

 

『リーンシェンクの魔動列車総本部はまた新たなルートを開拓するらしい。ただでさえザルツ、リーゼン、ダグニアと繋いでいるのに大丈夫なのかね』

 

『ついにストラスフォードはやりやがった! このテラスティア大陸で列車が通っていないのはプロセルシアっていう島が集まってできた場所だけらしい。とんでもない話だな』

 

『炎武帝グレンダールが功績を認めてストラスフォードを神にしたらしい。すげぇ! まさか生きているうちにそんなことが起きるなんてな!!』

 

「やっぱり、ストラスフォード様は神様だったんだね」

 

「そのあとの物は?」

 

「ええっと、これかな」

 

『くそっ、蛮族どもめ、地下でずっと待ってたってわけかよ、けどなこっちだって意地がある。見てろよ』

 

『一体だけ残ったガーヴィにここを守るように命令した。これでここにある物は守れるといいんだが……全部を持ち運べないのが悔しいな……』

 

『もし、だれかがこれを見つけてくれたのなら、これを読んでくれるのが人族なら、これを託したいどうかストラスフォードのことを忘れないでくれ』

 

「ここで終わってる……」

 

「ここになにかあるってこと?」

 

「そうみたいだね。なにかまだ見ていないのは……」

 

 四人は辺りを見回す。

 

「あれじゃないかしら?」

 

 チハヤがある一点を指す。

 

 そこには棚のような物があり、いくつかは開けっ放しになっているが、一部はまだあけていないようだった。

 

「どれどれ……」

 

 ゴソゴソと探してみると、

 

「こ、これ……」

 

「うん! 間違いないよ!! 魔動列車の設計図だ!!!」

 

 四人は歓声を上げる。

 

「よし、戻ってマスターに報告しましょ!」

 

「うん!」

 

「やったねマミちゃん! って、どうしたの?」

 

「……私いつかリーンシェンクに行ってみたい」

 

「リーンシェンクに?」

 

「うん。ストラスフォードがなんのために列車を作ったのか、それを調べたい」

 

「なら、まずは強くならないとね!」

 

 チハヤがバシッとマミの背中を叩く。

 

「うんうん! それに、移動するお金も稼がないとね!!」

 

 ミキもチハヤに倣ってマミの背中を叩く。

 

「リーンシェンクか、楽しみだね」

 

「来てくれるの?」

 

「仲間だから当然でしょ。ほら、もう行きましょ」

 

「そーだね。早くしないと途中でチハヤが寝ちゃうかも」

 

「まだ平気よ! ……多分」

 

「ふふ、マミちゃん。行こ!」

 

「うん」

 

『若きドワーフよ……』

 

「え?」

 

『ワシ……は…………そなたを……待つ…………』

 

「今のは……」

 

「マミちゃーん。どうしたのー?」

 

「ごめん、今行く!」

 

 マミは気のせいだったとして、三人を追いかけた。

 

 四人の冒険はひとまず無事に終えるのであった。

 

 

 

 

 余談であるが、見つけてきた資料にマギテック協会は大いに歓喜したとか。

 

 

 

 

 




区切ろうと思ったのですが、一話でまとめたくて無駄に長くなってしまいました。申し訳ない。


この作品は本来のリプレイなどの戦闘ではありえないところが多々ありますが、ご了承ください。


リザルト

 基本経験値1000点
 GM(プロデューサー)からのボーナス1000点
 レンガード              レベル1 5体撃破 50点
 連結レンガード            レベル2 5体撃破 100点
 改造ガーウィ(劣化による弱体化あり) レベル3 1体撃破 30点

 計 2180点


名誉点獲得

 貴重な資料を持ち帰ってた者たち(30点)

 歴史的資料である魔動列車の資料を持ち帰った者たちがバルナッドに現れた。
 しかし、聞いたことのない冒険者だったためかすぐに印象が薄れてしまう。
 他の冒険者たちもマグレだろうと思っている。
 マギテック協会の一部からは覚えてもらえた。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リーゼン編
リーゼン地方・1


ダグニア組獲得経験値 2180点と同じ分をリーゼン地方組は習得。

(理由は第二話に書いてあります)


成長報告。レベル上限3

リツコ=ハズウェル

 マギテック2 ファイター2 エンハンサー1 セージ1 プリースト2
 残り経験値180点


マコト=ゼファーランス

 ライダー1 ファイター3 セージ1 プリースト2 スカウト1
 残り経験値180点


ヤヨイ=ラングストン

 レンジャー2 シューター2 スカウト2
 セージ1 エンハンサー1 プリースト2
 残り経験値180点


ユキホ=コナー

 セージ3 コンジャラー1 ソーサラー1 プリースト2
 残り経験値680点


 上記の状態からリーゼン組は開始します。


 ――――なにかがおかしい。

 

 ヤヨイ=ラングストンとマコト=ゼファーランスが違和感を覚えたのは、視線の先にいるウルフの群れだった。

 

 ウルフの群れは大体が3頭から5頭ほどで行動する。しかし、二人が目撃している群れの数は誰がどう見ても10頭以上いると答えるほどに多い。

 

「問題が起きる前に、お店に知らせないとっ! 行こうマコト」

 

「ええ! 急ぎましょう!!」

 

 幸いにも二人がいる位置とウルフたちとの距離はそれなりにあり、風下にいたおかげで特に匂いを感知されることはなく、無事に撤退することができた。

 

 

 

 

 

 リーゼン地方、デュポール王国。ドラゴンと盟約を交わすこの国は、最強の生物と言われているドラゴンと共に戦う5人の竜騎士がいる。

 

 この国では、竜騎士となった者のみが国王とその王位継承権を得ることができる。

 

 竜騎士を名乗ることが出来なければ、例え国王の子であっても王位継承権を持つことが出来ない。それだけ人とドラゴンの間には深い繋がりがあると言ってもいい。デュポール王国は街の地区などにも竜に関連した名前をつけおり、西の竜翼、東の竜翼などと呼んでいる。

 

 そんな西の竜翼にある通りをフラフラと歩いている女性がいる。

 

 彼女は、自分の視線に入るもの全てが気になると言わんばかりに、前にではなく横に移動している。右手側に気になる物があれば右に。左手側に何かあれば左に動いている。朝家を出たのに、昼近くになっても目的地に到着していないことを考えると、相当遅い。

 

「ユキホ。いつまでも疑問を持っていないで早いところお店に行きましょう。また依頼を一つもやらずに帰るなんて嫌よ?」

 

「ええ、分かってる。でもねリツコ、周りには沢山の不思議があるの。興味が尽きないわ。ほら、あそこのご自宅に飾っている花壇。一部の花が変わっているわ、昨日の朝の時点では何も無かったもの」

 

「……それが?」

 

「もしかしたら酔った人が元々あった花を踏んだかもしれない。それで入れ換えるために昨日は何も無かったのかも」

 

「ただ植え替えたかったから。とは思わないの?」

 

「そうね。それもあり得る。だから直接聞いて来るわ」

 

「止めなさい」

 

「あ、離してリツコ。まだ疑問が……」

 

「そろそろお店に行くわよ。いい加減仕事しないと」

 

「あら、あそこのお店……」

 

「ほら!! 行くわよ!!」

 

「ああ、気になるのに……」

 

 リツコに強制的に連れられるユキホの表情は悲しそうだった。

 

「こんにちはー」

 

中へ入ると、昼前ということで相当賑わっていた。

 

リツコとユキホが所属している冒険者の店――〈竜の鋼翼亭〉はデュポール王国最大規模を誇る。訓練場も併設されていたり、本来ギルドが運営をしているライダーたちが乗る馬やヒポグリフらを収容する店専用の厩を国の許可を得て持っているほどである。

 

「おう。来たな二人とも」

 

 店主のベルン・エレストンが一人の女性を相手にしていたようだが、リツコとユキホが来たのを見ると笑顔で迎えてくれた。

 

「相も変わらず遅かったな。またユキホの癖かい?」

 

「ええ、いつものです」

 

「ひどい言われようだわ。私は気になったことを――」

 

「マスター!!」

 

 ユキホが反論しようとしたが、そこへ店の中へとやってきた二人の女性の姿があった。

 

「おお、ヤヨイにマコトじゃねぇか、ん? お前さんたち、依頼はもう少しかかると思ったんだが、どうした?」

 

「ハァ……ハァ……マスター、その件なんですが、少々困ったことに……」

 

 息を切らしながら、二人は自分たちが見てきたウルフの異常な群れのことを話した。

 

「……そうか、よく報告してくれたな。お前さんたちのウルフ討伐依頼がまさかそんな数だったとはな」

 

「……興味深いわ。ねぇ、そのウルフたちはどんな様子だったの? オスとメスどちらが多い印象だった? まとめ役のようなウルフはいた?」

 

「え、ちょ、あなたなに?」

 

 話を聞いていたユキホが突然マコトに質問する。

 

「ユキホ! ごめんなさい。うちの連れは気になることがあるとすぐに知りたがるから」

 

「そ、そう。ここの所属よね? 見たことないような……」

 

「ああ、ユキホがすぐに店に行こうとしないからもしかしたらすれ違っていたのかも」

 

「そんなことは今はいいでしょうリツコ。今はそのウルフたちがとても気になるわ。マスター、その依頼私とリツコも行くことは可能?」

 

「ちょっとユキホ!!」

 

「数が十体以上もいるウルフの群れに彼女たち二人では対処は難しいわ。それにお店をよく見てリツコ」

 

 ユキホに言われるまま店内を見渡すリツコはあることに気が付いた。

 

「ほかのみんながいない……?」

 

 最大規模を誇る冒険者の店となると、所属冒険者の数も群を抜いているが、同時に依頼の数も多く舞い込んでくる。

 

「……さすがによく見てるじゃねぇか。今、うちにいる冒険者はお前さんたち四人だけだ。ほかのやつらは依頼を受けたり遺跡の調査だったりで、今日の朝には出ちまった。夜になりゃだれか戻ると思うがな」

 

「さすがにそこまで待つわけにはいきません。あれほどの数は危険です」

 

 マコトは必至に訴えかける。

 

「そうだな。おし、依頼主には俺から話を通しておく。お前たち四人でそのウルフたちを追いかけ、可能であれば撃破または数を減らしてくれ、ほかの連中が戻りしだい援軍として送る。ヤヨイ、ウルフを確認した場所はどこだ?」

 

「はい。地図でいうと……このあたりです」

 

「よし。じゃあそこからマーキングとかをしといてくれ。援軍のやつらがどこに行きゃいいかわからねぇなんてことはしたくねぇしな。緊急の案件だ。ちょっとばかし道具を多めに渡しておく。遠慮なく使え」

 

「ありがとうございます!」

 

 マコトは道具を受け取ると、リツコとユキホの方を見る。

 

「ええっと、急がなきゃいけないけど、パーティを組むなら挨拶しなきゃね。マコト=ゼファーランス。武器はこの槍で、シムルグという神を信仰しているの」

 

「シムルグ? 聞かない神ね」

 

「私が生まれたっていうプロセルシアでは有名らしいわ。まぁ、私自身は記憶がほとんどないころにここに来ていたからよくわからないけど」

 

「プロセルシア? 南東にあるといわれている場所ね? すごく興味があるわ」

 

 ユキホはわかりやすいほど瞳を輝かせてマコトに近づく。

 

「ユキホ。今はやめなさい」

 

「……はいはい」

 

「アハハ、仲がいいんだね。ワタシはヤヨイ=ラングストン。武器はこのクロスボウ。後方からの援護射撃なら任せてね。樹神ダリオン様を信仰しているわ」

 

「ダリオン……ここから北にあるアルフォート王国では多くの人が信仰していると聞くわ」

 

「じゃ、次はこちらね。リツコ=ハズウェル。武器はこのアックスで、ほんの少しだけマギテックが使えるわ。それとグレンダール様を信仰しているの」

 

「グレンダールを……あの、さっきから気になっていたけどあなたは……」

 

 マコトは言いよどんでいるが、目線はリツコの頭部に向けられていることから、何を言いたいのか、リツコにはすぐに理解できた。

 

「ええ、私はドワーフの両親から生まれたナイトメアよ」

 

 リツコの頭部には二つの角が小さくある。リツコはナイトメアと呼ばれる種族で、ごく稀に人間、ドワーフ、エルフ、リルドラケンなどから生まれる。ほぼ人間と変わらない見た目であるが、頭に現れる角のせいで生まれる際に母体を傷つけて命を奪ってしまう事、人族でありながら穢れという蛮族たち同じものを内包している事などが原因で一部の国、辺境の村などではまず生きていけないほど嫌われている。特にダグニア地方のセフィリアという国の人間からしてみれば、まず人として扱われない可能性が高いほどでナイトメアであるというだけで殺されることもある。

 

 しかしながら、ナイトメアは成人後(成人は15歳)見た目が変わらず、寿命も定かではなく、実質の不老不死ということから冒険者として適正が高い。そして竜の鋼翼亭ではナイトメアの冒険者もそれなりにおり、重宝されておりデュポールに住む市民たちも嫌う者もいるが、多くの者たちが信頼している。

 

 ナイトメアであることを隠す者もいるがリツコをはじめとしたこと店に所属している者たちは生まれを恥じることなく兜などを被る以外は隠すことをしていない。

 

「そう……そうなるとちょっと面白いかも」

 

「面白い?」

 

「ええ、私はヴァルキリーなの」

 

 ヴァルキリー。ナイトメアとは真逆で神に祝福された種として愛される種族である。背中や足のくるぶし辺りに翼を出すことができるため神の使いと言われている。そのため生まれてすぐに両親が信仰している神殿で神官として育てることもある。

 

「ヴァルキリー……興味あるわ。中々会うことないし……ふーん」

 

 ユキホはマコトをジロジロと見る。

 

「やめないさいよユキホ。私は気にしないけど、マコトはいいの? ナイトメアと一緒なんて」

 

「このお店に所属しているならナイトメアと話すことなんてよくあることだし、そんなことを気にしていたら冒険者なんてやっていないわ」

 

「そう。じゃあ、これからよろしくね。ほらユキホ。そろそろ自己紹介くらいして」

 

「ユキホ=コナー。コンジャラーとソーサラーを少々嗜むクスを信仰しているしがない神官よ。それよりヴァルキリーというのは羽を出すことができると本で読んだわどういうものか見せてくれないかしら?」

 

「ユキホ、それよりも出発の支度をするわよ。急いで現場までいかないと」

 

「……分かった。あとで見せてもらうわ」

 

「見るのは確定なのね……まぁ、いいか。じゃ、支度が終わり次第北の城門で落ち合いましょう」

 

 マコトの言葉に頷く三人はそれぞれの支度を終えて、一時間後に北の城門前に集まった。

 

「さあ、行きましょうか。急がないと被害が出てしまうかも」

 

 城門から出た四人は急いで、ヤヨイとマコトがウルフの群れを見た地点まで向かった。しかし、昼を過ぎた時間から行動を開始したために、現地に到着するのは翌日になってしまうことは確定的だった。元々二人が戻ってくるときも一日かかっているのだから致し方ない。

 

 交代で夜襲に備えて警戒をしつつ、翌日の朝には現場に無事到着した。

 

「ここがウルフを見た場所なのね?」

 

「ええ。当然とはいえ、姿はないわね」

 

「あるのはウルフたちの足跡だけか……」

 

 リツコ、ヤヨイ、マコトの三人は周囲を見渡しながら現場の確認をしている。しかし、ユキホはというと、

 

「すごいわリツコ。こんなにもウルフの足跡があるなんて。通常の群れよりも圧倒的に多い。これほどの数がどうしてひと塊で行動できているのかしら……新しい環境への適正? それともリーダー格のウルフがよほど優秀? いえ、もしかしたらリーダーを失ったウルフたちの集まりなのかもしれない。様々な可能性が考えられるわ……」

 

 ぶつぶつと呟きながら足跡を眺めている。

 

「あー始まっちゃったか」

 

「ええっと、ユキホはどうしたの?」

 

 少々引いているマコトがリツコに問う。

 

「気になることがあるとああやって色々な可能性をぶつぶつ呟くのよ。それでも答えがでないと……」

 

「さぁ、早くウルフの群れを見つけましょう!!」

 

「ああやって、一気に行動力が増すのよ」

 

「へ、へぇ……」

 

 ヤヨイもユキホがズンズン進む姿に、少々たじろいでいる様子だった。

 

「さ、私たちも行きましょう。こらユキホ! 後方型の貴女が前に立ってどうするのよ!」

 

「なんだか姉妹みたいね」

 

「親子みたいなところもあるかもね」

 

 マコトとヤヨイの二人はリツコとユキホの関係に笑みを零し、二人を追いかけていった。

 

 

 

 足跡はデュポールの西から北西方面に広く広がるティラの樹海へと続いていた。仲間が来るかもしれないことを考慮し、マーキングを忘れずに行いつつ、探索を続ける四人。

 

 しかし、ティラの樹海は巨大生物や大型植物の住みかとなっており、実力がなければ樹海の奥に進むのは危険である。しかし、ここには魔法文明の遺跡があると言われており、それを探しに多くの冒険者がこの樹海に挑み痛い目を見てきた。広大な樹海を完全に走破したものはいないと言われている。

 

 そして四人は樹海の外輪部付近までやってきた。

 

「樹海の中に今の私たちが入るのは危険ね」

 

「ええ、正直に言えばそれほどの実力はないしね」

 

「となると、私たちの仕事はもっと実力のある人たちに引き継いでもらうことかしらね。できれば見つけたかったけど」

 

 リツコとマコトが今後のことを話していると、足跡をユキホと共に調べていたヤヨイから声を掛けられる。

 

「二人とも! この足跡おかしいわ」

 

 二人を呼び寄せるヤヨイ。

 

「どうしたのヤヨイ?」

 

「見て、少し先の足跡」

 

 リツコとマコトはヤヨイが指さす方を見ると、一匹分の足跡だけになっていた。

 

「これは、一匹分?」

 

「どういう……こと」

 

「…………相当賢いリーダーね」

 

 足跡を見ていたユキホがそんなことをつぶやく。

 

「どういうことユキホ」

 

「リツコ。多分だけれど、私たちは少し前から連中の罠の中にいるのよ」

 

「これが、罠?」

 

「ええ、おそらく連中のリーダー……ウルフリーダーとでも呼びましょうか。そいつは多分だけれどヤヨイとマコトが自分たちのことを見ていたことを知っていたのよ」

 

「そんなはず! だって、ワタシたちは風下に」

 

「鼻ではなく目よ。原因はわからないけれど、ウルフリーダーは知能が通常のウルフのそれとは違う。二人が見ていたことも気が付いていて、また来ることも分かっていたのだと思うわ。そしてここに連れてきた」

 

「どうしてここに?」

 

「このあたりの草木はやや長い。ウルフほどの生き物であれば姿を隠すのは可能でしょう」

 

「っ!! みんな気を付けて!!」

 

 気配を察知したヤヨイがクロスボウを構える。三人も遅れて臨戦態勢をとる。ティラの樹海方面を見ると、一匹のウルフがゆっくりと歩いてくるのが見えた。

 

「あいつ、明らかに普通のウルフじゃない!」

 

 ヤヨイが声を荒げて言うが、ほかの三人も理解していた。通常のウルフは黒か白、時期によっては茶色の毛を持っているというのがウルフに対する認識であったが、現れたウルフの毛の色は白みがかった青だった。本にも載っていないような色をしており、異端なウルフであることがわかる。

 

「奴がウルフリーダーで間違いないでしょうね」

 

 ユキホの言葉をほかの三人は信じた。否、信じざるを得なかった。それだけ奇妙な雰囲気を持っていたからである。

 

『AAAAAAAAAAAAAAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 

 ウルフリーダーは遠吠えのように声を発すると、周囲からその声に対するウルフたちの声が聞こえた。

 

「これはっ!?」

 

「完全に待ち伏せされたわね」

 

「くっ、迎え撃つしかないわね、ユキホ、指示して。貴女の言葉を信じる」

 

「リツコはウルフリーダーの正面を見ていて、ヤヨイとマコトはそれぞれ左右と後方を、私は支援に集中する。お互いにカバーしていきましょう」

 

「分かった!」

 

「任せて!!」

 

 マコトとヤヨイは武器を構え、茂みから現れるであろうウルフたちを警戒した。

 

「GAAAAAAAAAA!!」

 

「はっ!!」

 

 飛びだしてきたウルフをマコトの槍が一突きした。

 

「ギャン!?」

 

 上手い具合に当たったのかウルフは絶命した。

 

「よし、あのウルフリーダー以外は大したことないのかも」

 

「油断は禁物よマコト!!」

 

 ヤヨイがマコトの左から襲ってくるウルフに矢を当てた。

 

「ありがとヤヨイ!!」

 

「まだまだ、来るはずよ! 油断せずに行きましょう!」

 

 リツコもアックスを振り回し、ウルフを一匹蹴散らした。

 

「エンチャント・ウェポン。三人の武器を強くして……」

 

 ユキホの唱えた魔法によって三人の武器は強化され、これによってウルフをやや倒しやすくなった。

 

「ありがとうユキホ! これなら!!」

 

 ウルフの頭部にヤヨイのクロスボウから放たれた矢がしっかりと命中。一撃で命中。矢の本数も考えなければならない中で、確実に倒せていることにヤヨイはほっとしていた。

 

「やるじゃないヤヨイ! こっちも……やぁあ!!!」

 

「負けていられないわね!」

 

 マコト、リツコも次々とウルフを打倒していく。

 

 しかしながら、ウルフリーダーはなぜか動いていない。まるで観察しているかのように、四人を見ていた。

 

 そして、十三体目のウルフを倒されたところで、ウルフリーダーは再び吠える。

 

「ROOOON!」

 

 先ほどとは違う叫び方に四人は疑問を持つが、すぐさま、謎が解けるものの、別の疑問が発生した。

 

「な、どういうこと、なんで……なんでジャイアントアントがウルフに従っているの!?」

 

「それだけじゃない、ジャイアントリザードにキラービーも少量だけど確認できるわ。……なるほど、まさにリーダーなのね」

 

「どういうことなのユキホ」

 

「やつは知能が高いだけではなく、なんらかの方法で、ウルフ以外の生物を自分の支配に含めることができるんじゃないかしら」

 

「そんな力はウルフにはないはず!」

 

「ええ、だからこそ気になるわ、いったいあのウルフになにがあったのか……ね」

 

「でも、今はそんなことを言っている場合じゃないわ!!」

 

「そうね、ジャイアントアントは洞窟などに生息している種なのにウルフが原因でここまで来ていると考えるととっても気になるけど、今は撃破を優先させましょう」

 

 ジャイアントアントは蟻ではあるのだが、1メートルほどの体格をしているため、人族からしてみれば脅威である。

 ジャイアントリザードは肉食のトカゲであるし、キラービーは毒蜂で50センチもの大きさで、生物の血液すら吸収して巣に持ち帰る習性がある。

 

 ウルフリーダーはその場で声を出して指示を飛ばしているかのようだが、動くそぶりは見せない。

 

 四人は向かってくる敵を倒すことに集中する。

 

「やぁ!!」

 

 マコトの槍がジャイアントアントの首を貫けば、

 

「だあああああっ!!」

 

 リツコはジャイアントリザードの頭をアックスで叩き潰す。

 

「エネルギーボルト!」

 

 ユキホが魔法を駆使すれば、

 

「そこっ!」

 

 ヤヨイは飛んでいるキラービーに的確に矢を当てる。

 

 しかし、やはり数の力は強力であった。徐々に押され気味になる四人。ウルフリーダーはそれを見ているだけだった。

 

「まずいわ、もう矢の数が……」

 

「魔晶石の数も底を尽きるわ」

 

「はぁ、はぁ……そうね、練技を使うマナも無くなりそうだわ、魔晶石でごまかしてきたけどね」

 

「どうする? 逃げられそうにはないけど……」

 

 マコトの言葉にリツコはすぐさま答える。

 

「当然、勝つわ。まだまだ死ぬわけにはいかないもの」

 

「そう、ね。私も一度くらい生まれ故郷のプロセルシアに行ってみたいし」

 

「うん。諦めるわけにはいかないね」

 

 三人が気合をみなぎらせていると、言葉を発していなかったユキホが口を開いた。

 

「三人とも、少々無理をする覚悟はある?」

 

「え?」

 

「どういうこと?」

 

「……なにか閃いたのユキホ」

 

「ええ、まぁ。でも危険でもあるわ」

 

「いいわ、やって」

 

「リツコ!?」

 

 即決するリツコに驚くマコト。

 

「ちょ、いいのそんな簡単に言って」

 

 ヤヨイも敵を攻撃しながらも動揺を隠せずにいる。

 

「ユキホがそういうならなんとかなるわ。ユキホお願いね」

 

「ええ、ならやるわよ。―――スパーク!!」

 

 ユキホはコンジャラーが扱う魔法スパークを詠唱。敵がいない場所を攻撃した。

 

「ちょ、なんで敵を狙わないの!?」

 

「まだまだ、スパーク!」

 

 ユキホはヤヨイからの言葉を無視して続けざまにスパークを放つ。すると、ユキホが魔法を使った場所から煙が発生した。

 

「もう一度、スパーク!!」

 

 三度魔法を同じ場所へと使うユキホ。スパークは半径三メートルの空間に影響を及ぼす雷の魔法である。

 

「いったい何を……」

 

「この冬の時期のリーゼン地方は南のフェイダン地方なんかと比べると寒さはマシと言えるけど、乾燥はするわ」

 

「乾燥……あっ!」

 

 ヤヨイは何が言いたいのか理解したようで、驚いた表情をユキホに向ける。

 

「ええ、少々無理矢理だけど、火を作ったわ」

 

 煙は次第に勢いを増し、数秒後火が生まれた。

 

「これを広げるわ、スパーク!」

 

 さらに火元周辺にスパークを打ち込むユキホ。さらに火は勢いを増した。

 

 これに驚いたウルフリーダーをはじめとする敵たちは火を恐れて逃げ出したモノたちが現れる。ここでウルフリーダーが初めて慌てているかのように周囲を見る。

 

「初めて焦った様子ね……」

 

「!!」

 

 火はどんどん広がり、ウルフたちも数を減らしている。

 

 ウルフリーダーは怒っているかのように、唸っている。

 

 しかし、リツコたちはまだウルフリーダーの底力を見くびっていた。

 

「BARUUUUUUUUU」

 

 ウルフリーダーがまたもや吠えると、逃げ出さなかったウルフやジャイアントリザードらが、ウルフリーダーを守るかのように密集、本体の姿を隠した。

 

「な、そんなことも」

 

「まずいわ、奴は逃げるつもりよ!」

 

「な!?」

 

「っ、どきなさい!!」

 

 マコト、リツコが敵を払うが、ユキホの言葉通り。ウルフリーダーは姿を消した隙をついて、後方の樹海へと姿を消していた。

 

「くっ、やられた……」

 

「落胆している暇はないわよリツコ、こいつらを倒さないと!!」

 

「ええ、そうね!」

 

「と、いっても、ワタシそろそろ矢が無くなるから、石でも投げるとするわ!」

 

 落ちていた石を拾い投擲するヤヨイ、数が少なくなった魔晶石を使い、魔法を使うユキホ、最後の力を振り絞り武器を振るうリツコとマコト。

 

 倒した数が三十を超えたころには、四人は限界を迎えていた。

 

「さすがに……きついわね……」

 

「ええ、ちょっとまずいかな……」

 

「石を投げるのも大変だわ」

 

「…………いいえ、どうやら私たちは運がいいわ」

 

「え?」

 

 ユキホの言うことがわからなかった三人は少しだけ油断してしまった。そこへ残っていたジャイアントリザードが襲い掛かるが、遠方からの攻撃によって絶命した。

 

「な、なにが……」

 

「おーい、大丈夫かー!!」

 

「あれは!」

 

 声がするほうを見ると魔動バイクに乗った集団を見つけた。彼らはリツコたちと同じ冒険者の店に所属するトップクラスの実力者たちの姿だった。

 

「よく頑張ったな。あとは俺たちに任せて休んでくれ! 若手のお嬢ちゃんたちが頑張ったんだ、俺たちも気合を入れるぞ!!」

 

『おお!!』

 

 五人組の彼らにしてみれば今更ウルフなどの敵に苦戦するはずもなくすぐさま終わりを迎えた。

 

「すごい……」

 

「ええ、まだまだ未熟だと思い知らされるわ」

 

「そんなことないわよ、これだけの数を四人で倒しただなんてすごいことよ? もっと胸を張りなさい」

 

 女性の冒険者から励まされる四人。気が付けば雨が降り、周囲の火は鎮火へと進んでいった。

 

「いやー煙が見えたときは何事かと思ったけど、その場にいたなんてね。一応見に来て正解だったわ。ついでにうちにはフェトル神官がいるから雨を降らせることもできるしね」

 

「フェトル……確か、雨と雷の女神でしたね」

 

「ええ、頼りになるのよ。さ、ヒーリングポーションを飲んで少しでも元気を出してちょうだい」

 

 女性からポーションを受け取った四人は一気に飲み干した。

 

「よし、こっちは片づけたぞ」

 

「こっちもだ。まぁ、俺たちも実力はあるはずだからな。これくらいはできないと」

 

 敵を倒し終えた男性陣たちが近づいてくる。

 

「疲れているところ悪い。一応情報を共有したいんだが、いいか?」

 

「はい。じゃあ私たちが見たことをお話しします」

 

 リツコたちはウルフリーダーのことを分かった範囲で包み隠さず話した。

 

「むう、樹海の中に逃げたか……俺達でも樹海内部では危険だろうしな。今は手出しできんか」

 

「すみません。私たちが逃がさなければ……」

 

「いや、聞くところによるとマスターからは撃破または数を減らすことを依頼されているんだろう? 十分な成果さ。それにウルフリーダー1匹になったんだ。当分はおとなしくなるはずだ」

 

「ですが、脅威がなくなったわけじゃないですし」

 

「確かに。けど、こんな数の敵と戦うなんて誰も予想してなかったはずだ。君たちはまだ若手だ。これから成長すればいいだけさ」

 

「はい……」

 

「じゃ、剥ぎ取り作業をしたらゆっくり帰ろう。君たちが倒した敵の数は多いからゆっくりでいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 リツコたちは自分たちが倒したウルフらを剥ぎ取り、しっかりと供養した。

 

 その後は魔動バイクなどに乗せてもらいながらデュポール王国へと戻った。

 

 

 

「とりあえずはお疲れさん。増援に送った連中から話は聞いたよ。相当な数倒したんだって?」

 

 店に戻った四人はマスターから酒を奢ってもらっていた。

 

「ええ、とても大変で、とても未熟であることを理解しました」

 

 リツコはがっくりと肩を落とす。

 

「ま、連中とは経験の数が違うからな。仕方ないところもあるさ」

 

「でも、弱いことは確かです。もっと鍛えないと」

 

「そうね。狙撃の腕をもっと高めれば、矢を無駄にしなくて済むし」

 

「………………」

 

「ユキホ? どうしたの??」

 

「マコト、ヤヨイ。これからも私たちとパーティを組まない?」

 

「え?」

 

「……いいの?」

 

「ええ、感というものに頼りたくないのだけれど、あのウルフリーダーは間違いなく私たちを目の敵にしている可能性があるわ。もし、バラバラになっていたら、今回以上に大変なことになるかもしれない。だったらひと塊のほうがいい。それにバランスも悪くないし。どうかしら?」

 

「そりゃ、こっちからお願いしたいくらいよ。ね、ヤヨイ」

 

「ええ、こちらからも頼りにさせてもらうわ」

 

「ふふ、よろしくね二人とも」

 

「はっ、こいつぁいい。新しいパーティの誕生か。よし、今日は全部奢ってやるからなんでも注文しな!」

 

『ありがとうございます!!』

 

 新しく酒を注文した四人はジョッキを持って各々を見つめる。

 

「じゃ、乾杯!!」

 

 リツコがジョッキを持ち上げ音頭をとる。

 

『乾杯!』

 

 それに答えるように三人がジョッキを持ち上げる。

 

 

 

 ここに新たなるパーティが結成された。

 

 

 




リザルト

 基本経験値1000点
 GM(プロデューサー)からのボーナス経験値1000点
 ウルフ        レベル1 16体撃破 160点
 ジャイアントアント  レベル1 9体撃破 90点
 ジャイアントリザード レベル2 5体撃破 100点
 キラービー      レベル2 5体撃破 100点

 計 2450点



名誉点獲得

 因縁の始まり(30点)

 奇妙なウルフことウルフリーダーとの因縁が始まったことを予感する。
 依頼を達成した四人は若手冒険者として一部の冒険者から期待されることに。
 しかし、まだまだ所属する冒険者全員に知られるほどではない。


 次回のザルツ組はダグニア組の経験値+リーゼン組の経験値を合わせた分を事前に獲得(何らかの依頼などを受けて)した状態で始めます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ザルツ編
ザルツ地方・1


ダグニア組2180点+リーゼン組2450点 計4630点分の経験値をザルツ組は事前に習得。


レベルの上限は3まで


ヒビキ=カドゥケアス

 グラップラー3 プリースト2 スカウト2
 セージ1 エンハンサー1 レンジャー1


アズサ=カドゥケアス

 セージ2 ウォーリーダー3 ソーサラー1
 コンジャラー1 プリースト2


アミ=ファルクス

 スカウト3 ファイター3 セージ1 プリースト2 レンジャー1


イオリ=ファルクス

 フェアリーテイマー3 プリースト3 セージ1 アルケミスト1


タカネ=ファルクス

 ファイター3 プリースト3 セージ1 エンハンサー2 レンジャー1




 人族と蛮族は分かり合うことはない。

 

 それが大勢の者たちの認識である。

 

 しかし、蛮族の中でには力がないゆえに蛮族内での扱いがひどく人の生活圏にて仕事や住処を得る者たちもいる。

 

 ザルツ地方のほぼ中央に存在するルキスラ帝国。そこより半日ほど西ある町――レアンダはテラスティア大陸でも珍しい人族と蛮族が共存している町である。

 

 蛮族といえど、住んでるのは蛮族の中でも最弱といわれるコボルドやモヤシなどと言われ使い捨てにされるウィークリング。そしてラミアと呼ばれる者たちである。

 

 この町のことは帝国も知っているし、中には蛮族を討伐すべしと主張する者もいるのだが、ルキスラ皇帝は首を縦に振ることはない。ここを攻撃するということはルキスラを滅ぼすことに繋がってしまうからである。

 

 レアンダの町にはほかにも特徴がある。それは町のほぼ中心にある大きな神殿である。

 基本的には神殿一つにつき、それぞれの信仰する神の石像が置かれることが基本であるが、この町では一つの神殿に数多くの神々の石像が置かれている。

 元々はこの町を作った町長が信仰していた神ヴァ=セアンの石像だけを置いていたのだが、人が集まると、各々の信仰する神が存在するため神殿を作るのだが、集まったとはいえやはり数は国には及ばないため、一つの大きな神殿を作り、そこにそれぞれの神を設置することにしたのだ。

 

 同時に町長は来るものを拒まない性格であったため、穢れゆえに嫌われるナイトメアだろうと蛮族のコボルドであろうと受け入れた。そしてレアンダの町は出来上がっていったのである。

 

 当然町に住み人たちは人族、蛮族などで見ていない。隣人として相手と接している。

 

 そしてその結果、人族と蛮族の混じった友人関係が出来上がるのである。

 

「おーい! アミー! おーい!!」

 

 一人の少女が町中を走りながらアミと呼ばれる人物を探していた。

 

「おやおやヒビキちゃん、アミちゃんを探しているのかい?」

 

 一人のコボルドがヒビキに声をかけてきた。

 

「あ、マレッタおばさん。アミを見なかった?」

 

「さっきまでイオリちゃんに怒られていたようだったねぇ、ああ、広場のほうにいたよ」

 

「そっか、ありがと!!」

 

 ヒビキはそれを聞いて再び走り出す。

 

「相も変わらず元気だねぇ」

 

 マレッタは犬顔をくしゃりと崩し、笑顔を見せる。

 

 

 

 マレッタからの情報を頼りに、町の中心にある広場に面した場所にある神殿へと向かっていた。するとお目当ての人物は広場にて寝っ転がっていた。

 

「おーい! アミ、聞いてくれよ!!」

 

「うわっ、ヒビキ姉っ、何、どしたの?」

 

 驚いたように飛び起きるアミと呼ばれた少女。彼女の背には羽が生えており、頭部には立派な角がある。

 彼女はいわゆるドレイクと言われる蛮族の中でも高位の種族なのだが、生まれつき魔剣を持って生まれる通常のドレイクと違い彼女は剣無しで生まれたために、下っ端種族のゴブリンにも舐められ、落ちこぼれ扱いを受けるドレイクになっている。

 とはいえ彼女は生まれて間もなく育ての親に助けられたため、ほとんど人族のように育てられている。

 

「この町の近くに見たことのない洞窟があるんだよ! きっと父さんたちが言っていた魔剣の迷宮ってやつだ! 行ってみないか!!」

 

 魔剣の迷宮は特殊な力を持つ武器がある日とある場所にて突然迷宮(一概には迷宮と呼べない作りもありえる)を生み出す。冒険者はそこへ入り、最奥にある魔剣を回収して一攫千金を狙うこともある。ただし、危険と隣合わせであり、なにが起こるのかわからないのが魔剣の迷宮である。

 

「え、二人で行くの?」

 

「何言ってんだ。タカネにイオリ、アズサ姉さんを誘うに決まってるだろ?」

 

「うぇぇ、ワタシ、今さっきまでイオリ姉に怒られたばかりなんだけど」

 

「どうせまた勉強をサボったんだろ?」

 

「それはあなたもでしょヒビキ?」

 

「…………え?」

 

 声のした背後に視界を向けると、一人のナイトメアの女性が立っていた。

 

「あ、アズサ姉さん。ちょうどよかった今「それよりもヒビキ、あなたまた課題をやっていないようね?」う、それを今言う?」

 

「元気なのはいいけれど、もう少し勉強にも身を置いてほしいわね」

 

 手を腰に当てて怒っていますという雰囲気を出しているようだが、まったく伝わりそうにない。

 

 アズサはヒビキの実の姉というわけではない。実際にはナイトメアであることから捨てられていたところをヒビキの実の両親に助けられ家族として迎えられている。

 

「そういうのは姉さんのほうが得意じゃん? アタシは行動派だし」

 

「もう。お義父さんやお義母さんが呆れちゃうわよ?」

 

「うー、姉さん帰ったら教えて?」

 

 ヒビキはアズサに甘えるように近づく。

 

「ちゃんとやるって約束してよ?」

 

「うん。するー」

 

「もっと真剣に」

 

「がんばります!!」

 

「もう……しょうがないわね」

 

 アズサは苦笑いでヒビキを見つめる。自分の義妹がかわいいのか、どうしても甘やかしてしまうのである。

 

「相変わらずアズサ姉さんはヒビキ姉さんに甘いですね」

 

 そこへやって来たのは二人の女性。一人は女性にしては高身長で頭部に牛のような角を生やした女性。

 もう一人は左目を髪の毛で隠した少々小柄な少女であった。

 

「あら、タカネちゃんにイオリちゃん。どうしたの?」

 

「ヒビキ姉さんが町中を走り回っていると聞いたので」

 

 どこかツンとした表情で答えるイオリ。

 

「ふっ、あれだけ騒いでいたら何かあったんだろうと思うだろう」

 

 クールな笑みで答えるタカネ。

 

 二人はウィークリングと呼ばれるいわば蛮族版ナイトメアな存在だ。蛮族から生まれる中には時に、人間に近い姿で生まれてしまうことがある。それがウィークリングである。本来よりも穢れが少なく、その種族の特徴的な力も損なわれているため、弱く脆いということから生まれてすぐ処分されるか、早々に戦場に立たされて死ぬというのが大半である。

 

 牛のような角を持つタカネはミノタウロスウィークリングと呼ばれ、元々の種族であるミノタウロスのように力があるが、伸びしろは少々時間がかかる。

 

 一見人のように見えるイオリはバジリスクウィークリングと呼ばれる限りなく人に見える蛮族である。違いは隠してある左目が石化を引き起こす目であることであるが、本来のバジリスクよりもその性能は劣化している。

 

 ここにアミを加えた三人は生まれも明確な種族も違うが現在の両親に命を救われ姉妹として育てられている。

 

 ちなみにだが、実の子もいるのだが、兄弟仲は良好である。

 

「ヒビキ姉が魔剣の迷宮みたいなのを見つけたんでって」

 

「もう、また勝手に町の外に出たのねヒビキ」

 

「ごめんごめん。でも今回は当たりかもよ?」

 

「そう言いますけど、前も大きな遺跡を見つけたと大はしゃぎした結果、すでに他の冒険者たちによって大方の物を持っていかれた後だったと思いますけど?」

 

「そうきつく言うなイオリ。ヒビキ一人が中に入らなくてよかったと皆言っていただろう」

 

「けど、遺跡を見つけたときは一人です」

 

「イオリ姉はヒビキ姉が大好きだもんね。今回の魔剣の迷宮は二人で見つけたかったんでしょ?」

 

「アミ!!」

 

「そっか、ごめんなイオリ、今度は二人で何か見つけよう?」

 

 ヒビキはイオリの前までやってきて両手を握る。

 

「ううっ、べ、別にヒビキ姉さんと何かをしたいわけじゃないというか……」

 

「イヤ?}

 

「イヤというわけでもなくて……その……」

 

「ほらほら、ヒビキ。うちの妹を揶揄っている場合じゃないでしょう? どこでその迷宮を見つけたの?」

 

「お、タカネは乗り気?」

 

「まぁ、自分の技量がどれほど上達したかを図るには実戦が一番だからな」

 

「はぁ、まぁ……いつもの流れね。ヒビキ、帰ったら勉強をしてもらうからね」

 

「はーい」

 

「それはアミも同じね。分かった?」

 

「うぇーい」

 

「イオリがしっかりしていると私は言うことがないな」

 

「タカネ姉さんも剣ばかり振っていな「よしっ、準備に移ろうか」もう!」

 

 五人は両親に話をした上で許可をもらった。

 全員成人であり、一応冒険者を名乗る以上は自分の命は最低限自分で守るのが一般的だ。

 ヒビキとアズサの親――カドゥケアス夫妻は無理はするなとだけ言って了承してくれた。

 が、タカネら姉妹の育ての親――レイモンド=ファルクスとアーリアは過保護なところがあるため、期限を設けられ、その期限までに戻らないのであれば自ら連れ戻しに行くと言う。

 

 何を言っても無駄だと分かっている姉妹はそれを了承。ヒビキとアズサに伝えると苦笑いを浮かべる。ファルクス夫妻の過保護なところは何度も見てきているからである。

 

 その後、五人は道具や装備品の確認をしつつ、広場近くの神殿にてそれぞれが信仰する神の石像の前で礼拝を行った。

 

「うん? おお、アズサではないか! うむうむ。今日もしっかりと私の可憐な石像に挨拶をするとはさすがだな!! しかし、こうして実物がおるのだ。私のほうにしておけばご利益があるやもしれんぞ?」

 

 神殿内でひと際大きな声を出す少女。僅かではあるが、人ならざるものの雰囲気を出している。

 

「これはユリス様。この時間は町で布教をしているかと思ったのですが」

 

「うむ、そうしたかったのだが、コボルドの童たちに囲まれて振り回されてな。見よ、気に入っていた服が泥だらけだぞまったく!」

 

 アズサと話すユリスとは、戦勝神ユリスカロア本人であり、まごうことなく女神なのだが、神々の戦争が終わりを迎えると、戦いに関する協議を持っていた彼女の信者たちは時代とともに数を減らしてしまい、現代においてはアズサ一人が神官としての技能を有している存在となっている。一応信仰をするだけの町民はいるにはいるが熱心ではなく、町を守るために必要かな? という程度である。

 

 ちなみに神々は人々から忘れられてしまうと完全に消滅してしまう。人々から信仰されることで、自身の存在を確立している。なのでユリスカロアは割と消滅を迎えそうになっていた女神である。

 

 神々にも時代によって神格に違いがある。始まりの神といわれているライフォスやティダン。戦争を引き起こしたダルクレムなどは古代神(エンシェントゴッド)といわれ、昔から世界各地で信者が存在する。

 ユリスカロアも古代神であるが、その各地方のみで知名度が高いといわれる小神(マイナーゴッド)と呼ばれる神ほどの力しかなく。地上――レアンダの町に住み着いており、そこで信者を増やそうと活動する始末である。

 この、女神らしからぬ行動からヒビキは駄女神と言ったことがある。

 

「それはそうと、どこかへ出かけるのかアズサよ」

 

「はい。妹のヒビキが魔剣の迷宮を見つけたというので見てこようかと」

 

「この前も遺跡を見つけて騒いでいなかったか?」

 

「ええ、また勝手に町を出たようです」

 

「やれやれ、ミルタバル信者らしいのか、それとも性格故のことなのか分らんな」

 

「全くです」

 

「まぁ、気を付けていくのだぞアズサ。なんなら何か魔法を使うか?」

 

「いいえ、己の力で道を切り開きましょう。ましてやユリス様の神官として、知恵を持って」

 

「ほほう。言うではないか。だが、あらゆる方法を持って勝利をつかまねばならんぞ? 生きてこそだ」

 

「承知しております」

 

「うむうむ。この調子でお前が活躍してくれれば、いずれは「おーい駄女神ユリス様ーそろそろうちの姉さんを開放してくれー」駄女神言う出ないわー!!」

 

 ユリスカロアは怒ってヒビキの元へと突撃していったが、ひょいっと避けられ転んでしまった。

 

「ほら、ヒビキ遊んでいないでそろそろ行くわよ」

 

「はーい」

 

「では、行ってまいりますねユリス様」

 

 タカネらと合流して五人は神殿を後にする。

 

「…………せめて起こしてくれアズサよ……」

 

 倒れたユリスを放置して。

 

 

 

 五人は身支度を整えると町の南から出発。街道から離れた場所にあるというその迷宮は思いのほか近く、半日で行ける道のりであった。

 

「というより、いつ迷宮を見つけたのさヒビキ姉」

 

「朝早起きしてちょっと散歩をな」

 

「町の外に出て散歩をしちゃだめでしょ」

 

「はーい」

 

「けど、少々時間は遅いですね。今日は迷宮近くまで行ったらキャンプをして明日挑むべきでは?」

 

「暗視があるから私とアミは平気だか……まぁ、危険は排除する必要があるな」

 

「そうね。幸いおじ様が設けてくれた期限は明日の夜。無理をする必要はないわ」

 

「じゃあ、交代をどうするか決めたら早めに休もう」

 

 五人はテキパキとキャンプの支度と、周囲に罠を設置して敵への警戒に備える。

 

 何事もなく翌日の朝を迎えた五人。朝食と片付けを終え、ヒビキが見つけた迷宮の入り口へ向かう。そこは山が出来上がっており、ぽっかりと穴をあけていた。

 

「ここが……確かにヒビキ姉さんの言う通り、見たことないです」

 

「うーん。確かにね。この辺にこんな山はなかったはずだし」

 

「中は暗いか……火をつけておこうか?」

 

 ヒビキは火を起こす用の道具を取り出す。

 

「そうね、少し時間はかかるでしょうけど、お願いするわ」

 

「よし来た! アミ、タカネ。手伝ってくれ」

 

「はーい」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 三人は協力して火を起こす。種火を作り、用意した松明に移していく。暗視を持たないヒビキ、アズサ、イオリの内、格闘のヒビキが手を塞ぐわけにもいかないため、松明はアズサとイオリが持つことになった。

 

「んじゃ、行こうかアズサ姉さん」

 

「ええ、暗視を持つアミちゃんは斥候も兼ねているから先頭をお願い」

 

「りょーかい!」

 

「ヒビキは射程の短い格闘だから、アミちゃんの次に前へ……見えにくいけど平気?」

 

「平気だよ。いざとなったらアミを盾にして「ちょっとヒビキ姉!」冗談だよ。とにかく、アタシは平気だから」

 

「そう。じゃあ殿はタカネちゃんにお願いするわ。後ろへの警戒もしないといけないし」

 

「ああ、任された」

 

「私とイオリちゃんは真ん中で松明を持ちながら行動ね」

 

「はい。わかりました」

 

「それじゃ、行きましょう」

 

 五人はぽっかりと開いている穴へと入っていった。

 

 松明の明かりによって内部の作りが見える。

 

「やけに綺麗な洞窟だな。なにかでくりぬいたみたいだ」

 

 壁に触れながらヒビキはぽつりと言う。

 

「やはり魔剣の迷宮でしょうか?」

 

 ヒビキの手元を照らしていたイオリが後ろにいるアズサに聞く。

 

「その線が有効ね。何があるか分からないけれど」

 

「でもでも、もし強い魔剣だったら町のためになるよね?」

 

 魔剣があるかもしれないということからテンションが高いアミ。

 

「町のためになりような物であればいいんだがな」

 

 それに対してあくまでも冷静に返すタカネ。

 

「て言っても、町の人たちはアタシらより強い人が多いけどな」

 

「守りの剣がないからどうしても鍛えなきゃいけないしねー」

 

 強い穢れを寄せ付けない守りの剣と呼ばれる代物は基本的に国が設置をしている。だが、彼女たち五人が暮らしている町には存在しないため、蛮族が襲ってくることがある。

 

 とはいえ、実力者が多いレアンダの町民たちはそこらの蛮族に後れをとることはまずない。

 

 さらには人間に化けることができるオーガなどの一部の種族はこの町に近づくと人の姿を維持できなくなってしまい、一切の潜入が行えなくなっている。

 

「んん?」

 

「どうしたアミ?」

 

 斥候として少し先を見てくると言い、先へと移動したアミ。入り組んでいた先で足を止めていた。

 

「うーん。少し明るい場所があるね。松明は要らなくなるかも」

 

「ここまで敵が出てこなかったとみるとより警戒が必要ね。みんな、気を付けて」

 

 アズサが気を引き締めなおし、五人はアミの言う明るい場所へと向かう。

 

 たどり着いた場所は、貴族などが暮らす豪華な屋敷であった。ただし、洞窟内部であることは変わらないのか、窓の外は土で覆われている。明かりがなければ少々暗い印象を与える。

 

「ますます迷宮感があるな……」

 

「なんで洞窟の中に屋敷なんだろうね?」

 

「魔剣の迷宮に常識はないって聞くしなーよく分からん」

 

「アミ、ヒビキ姉さん。警戒をしてください」

 

「ごめんごめん」

 

「不気味な感じだけど気配は感じないんだよなー、アミは?」

 

「うーん今のところは平気かな」

 

 松明を壁に設置されていた使われていない松明とと交換し、中央にある二階への階段をさけ、一階を調査する。

 

 しかし、家具があるだけで、そのほかには何もなく、五人は一度、入り口へと戻った。

 

「家具は新品同様。しかし、それ以外は何もない。どういうことだ?」

 

「……二階の調査をしてみましょうか」

 

 アズサが階段のほうへ進もうとしたその時、

 

『ギィ』

 

 僅かな声を聴いたアミとヒビキの動きは早く、アミはアズサを止め、ヒビキは声を荒げ「円陣!!」と言う。

 

 その言葉を聞いたタカネとイオリも素早く動く。

 

 アズサとイオリの周囲をヒビキ、アミ、タカネの三人で囲み、周囲を見る。

 

「敵かヒビキ?」

 

「ああ、僅かだが、声がした。人の声じゃない」

 

「うん。ワタシも聞いたから間違いないよ」

 

『ギィ、ギィ』

 

「近いぞ」

 

「っ! 二階のあそこ!」

 

 アミが指を指したのは、二階へと上がる階段へと繋がる途中にある柱の陰から覗き見る奇妙な生物だった。

 

「姉さん、イオリ、あれはなんだ?」

 

「…………分かりません。アズサ姉さん」

 

「私にも分からないわね」

 

『ギィ、ギィ、ギィ!』

 

 生物は成人男性ほどで、黒い肌で体の至る所から禍々しい何かが生えていた。

 

 生物は五人に狙いをつけたのか、階段から飛び降りると一直線に向かってきた。

 

『ギィィィィィィィ!!!』

 

「チィ!!」

 

 狙われたヒビキは背後にいるアズサ、イオリのためにも避けることをせず、攻撃を防ぐ。

 

「舐めるな!!」

 

 お返しと言わんばかりに、二連続で殴り、怯んだところに蹴りを食らわせ、後退させる。

 

『ギィィ!』

 

「とりあえず殴れるし、蹴ることもできるな」

 

「ならば早々に片付けよう。アミ」

 

「了解タカネ姉」

 

 両手剣を構えるタカネとそれぞれの手に剣を持つアミが謎の生物に接近。三つの斬撃が敵を打ち滅ぼした。

 

『ギィィィィィ!!』

 

 断末魔の叫びとともに敵は黒い砂と肌についていた鱗を残して消えた。

 

「おいおい、まともに戦利品も頂けないのか、何なんだあれは」

 

「見たことない生物でした」

 

「そうね。私たちはすべてを知っている訳でもないから、致し方ないといえばそうなのだけど……ちょっと気になるわね」

 

「この鱗みたいなのなんだろ?」

 

「不用意に触れるなよアミ。なにが起こるか分からないからな」

 

 剣の先で鱗を突くアミ。

 

「ふむ、見たところ触っても平気そうだけど……」

 

「持ち帰って調べてみますか?」

 

「そうね。町長やお義父さん、レイモンドおじ様に聞いてみましょうか」

 

 アズサは鱗を持ってきていたカラの袋に入れる。

 

「…………アミ」

 

「うん」

 

 袋に入れ終えた直後、ヒビキとアミの表情が険しくなる。

 

『ギィィィィィ!!!』

 

 先ほどと同じ異形な生物が五体現れた。そのうち三体は倒した者と同じであったが、残り二体は黒い肌をしているが、三体と違って鱗の量が少ない。が、腕にはその分黒いオーラを発していた。

 

『ギャオオオ!!』

 

 そのうちの一体が腕を五人のほうへと突き出すと、腕からソーサラーの魔法リープ・スラッシュが放たれた。

 

「ぐっ!」

 

「タカネ!」

 

「平気だ。なんとか抵抗した」

 

「魔法を使える個体ってことか。姉さん、ああいうのは先に倒したほうがいいんだよな?」

 

「ええ。けど、前列の三体がそれを許さないでしょうね」

 

「だったら――」

 

 ヒビキは右手の拳を左掌にバシッとぶつけると、

 

「手早くぶっ倒す!!」

 

 三体の前衛の内、中央に立っていた者へと攻撃する。

 

 それに続いてアミとタカネも連続で攻撃する。確実に一体を倒した。

 

「イオリちゃん。私たちも行くわよ!!」

 

「はい!!}

 

 ナイトメアの種族特徴というべき異貌を発動するアズサ。これを使えば、詠唱することなく魔法を使うことができる。

 

「イオリちゃんは前列のやつに眼を使って、私は後衛の連中に魔法を使ってけん制する!」

 

「はい!」

 

 イオリは左目を隠していた髪を手でまくり、左目を露出させる。ウィークリングであれ、元はバジリスク。左目には弱体化しているとはいえ、石化の力が宿っている。

 

 残された前列二体の内の一体はイオリに睨まれたことによって、動きが鈍くなった。

 

「前衛の三人はイオリちゃんの眼で鈍いほうを先に倒して!」

 

『了解!!』

 

「そして私の相手は――お前たちよ! エネルギーボルト!!」

 

 アズサの魔法は後衛の二体の内、先ほど魔法を使ったほうへとむけられた。命中はしたようだが、ピンピンしている。

 

「やはり、魔法への抵抗が強い個体ね。イオリちゃん、眼の力を後衛に、アルケミストの補助をタカネちゃんに使って! タカネちゃん、あなたは後衛の方へ意識を集中して、ヒビキ、アミちゃんは急いで前衛を倒して!}

 

「タカネ姉さん!」

 

 イオリはアルケミスト技能を駆使し、クリティカルレイを使う。

 

「感謝するぞイオリ」

 

「タカネの道を作るぞアミ!」

 

「いよーし! やるぞー!!」

 

 二人は連携して二体目を撃破、そこをタカネが駆けていく。最後の一体はイオリの魔眼によって動きが鈍くなっている。

 

「はああああああ!!}

 

 両手剣を豪快に振り回し、後衛に強力な一撃を与えた。後衛の敵は物理攻撃に弱いのか、はたまたタカネの力が強すぎたのか分からないが、会心の当たりだったようで、一体の敵が一撃で散った。

 

「残敵二」

 

 残り二体は抵抗するが、五人の連携になすすべもなく散る。

 

「ギィウエエエエエエエ!!」

 

 だが、最後の一体であった後衛型の敵は最後に断末魔の叫びとは言えない叫びをあげて散っていった。

 

「まずいんじゃないか、姉さん」

 

「ええ、おそらく今のは…………」

 

『ギィギィギィギィギィ!!』

 

「げぇ、仲間がいっぱい来た!!」

 

 二階からワラワラと異形の敵が現れる。

 

「さっきから二階の方から来るな……」

 

「何かあるんでしょうか?」

 

「それを調べるためにも、こいつらを倒すわよ!」

 

『了解!』

 

 追加で現れた敵は八体と多い。加えて先ほどの連中とはまた違いが現れた。

 

「今度は剣を持った敵かよ」

 

「けど、なんか不釣り合いっていうか……」

 

「……過去に冒険者が持っていた物を使っているのかもね」

 

「なるほど…………こいつらに殺されただけではなく、所有物まで好き勝手に使われているのか」

 

『ギィィィィィィィィィ!!』

 

 八体の敵が一斉に襲ってくる。

 

「ハッ!」

 

 ヒビキは近づいてきた敵へと攻撃しかし、

 

「うぐっ」

 

「ヒビキ姉! どうしたの!?」

 

「こいつら、さっきより硬い。鉄を殴った感覚だ」

 

「先ほどのやつより物理的に硬いのね? だったら」

 

「ああ……姉さん、イオリ出番だ!!」

 

「ええ、エネルギーボルト!!」

 

「任せてください! アースハンマー」

 

 今度はアズサとイオリが活躍して、敵を倒していく。特に妖精魔法を使うイオリの魔法は敵が嫌がるのか、大きなダメージを与えた。

 

「私たちも負けてられんな」

 

 タカネは剣を握り直し、敵へと駆けていく。

 

「いよーし、ワタシだって!」

 

「殴りにくいなら投げ飛ばせばいいってな!!」

 

 八体の敵も五人の敵ではなく、次々と倒されていった。

 

「これで終わりだ! はあああ!!」

 

 タカネの全力攻撃で最後の一体が塵となり、ようやく一段落ついた。

 

 五人は回復を優先。改めて準備を整えると、二階へと上がる。

 

「この屋敷、意外と広さは無いんだな」

 

「そのようね。さて、特に敵が多く出てきた右側だけれど……」

 

 一つ一つ調べていくが、何か特別な物があるといった様子はない。同様に左側にも確認できなかった。

 

「どーする? なにも見つからないよ?」

 

「このまま手ぶらというのも悔しいですね……」

 

「…………みんな。この屋敷に入ってから、何かおかしいなというところはなかった? どんな些細なことでもいいの」

 

「そう言われても、洞窟内に屋敷という時点でおかしい話だと思うが」

 

「まぁ、タカネの言う通りだよなー他に何かあったっけ?」

 

「うーん」

 

 五人は思い出そうとするが、何も思い浮かばない。

 

「残念だけれど、引き上げるしかないわね」

 

 そう言ってアズサは入る際に置き換えていた松明を取ろうとした。

 

「…………そういえば、なんで入り口の松明は燃えてないんだろうな」

 

「え?」

 

「ほら、入ってきたとき、燃えていない松明が二つあったろ? 他は燃えてるのに」

 

「そういえばそうだったな……あの時は私が一つ交換したから覚えている」

 

「あ、そーいえば! 二階になんで松明を置くところがあるんだろうって思ったよ!!」

 

「…………なるほど、イオリちゃん。この燃えていない松明に火を頂戴」

 

「あ、はい! ティンダー」

 

 火の妖精魔法で松明に火をつける。

 

「ヒビキ、アミちゃん。これらを二階の松明を置く場所に」

 

 二人は松明を持って二階へ駆けあがる。

 

 二人が松明をセットすると、二階へ上がる階段が突然動き出す。

 

 左右に分かれるように動き、その間に空間が広がる。

 

「どうやら奥があったみたいだな。ご丁寧に明かりもある」

 

「行きましょう」

 

 二階から戻った二人と合流し、五人で新たに見つかった道を進む。

 

 道は金と赤の二色が豪勢交じり合った道で、左右の壁には細長いろうそくが光を放っていた。

 

「一本道か……敵は――――「伏せてぇ!!」っ!?」

 

 アミの声で全員伏せることに成功。その頭上を早い何かが、通り過ぎて行った。

 

「っ……まさか今のは」

 

「あそこにいる!!」

 

 アミが見ている方を見ると、両手で持つ大きな銃を構えた異形体の姿があった。

 

『ギィギィギィ!』

 

「今度はガン使いかよ!」

 

 異形体はリロードを行うが、てこずっていた。

 

「……どうやらまだ慣れていないのかもな」

 

「ならばチャンスよ、ヒビキ!!」

 

「よおおおしっ!!

 

 アズサの声に反応したヒビキがダッシュで敵へと近づく。

 

 動く前にイオリからヴォーパルウェポンの援護をもらっているため、いつにもまして強力な攻撃を行えると考えていたが、敵は両手で持つガンを捨て片手で持てるガンをそれぞれの手に持っていた。

 

「なに!?」

 

 すぐに倒せると考えていたヒビキだったが、敵の行動に驚き、隙ができてしまった。

 

「ヒビキ、上に!」

 

 後方からタカネの声に反応してヒビキは頭上にあったシャンデリアを掴み攻撃を回避、そこへアズサとイオリの魔法が飛来。遅れてアミとタカネも全力で攻撃。接敵された異形体はあっけなく散った。

 

「ふぅ……ありがとうなアミ、あの時声をあげてもらわなかったらアタシは危なかったよ。タカネもありがとな。危うく体に穴が二つ出来そうだった」

 

「気にするな。付き合いが浅いわけじゃないんだ」

 

「そうそう。あ、それより。これ」

 

 アミは敵が持っていたガンを見せる。

 

「ボロボロだな。これじゃ問題が起きるのも無理ないか」

 

「戦利品を頂いたらこの辺りを調べましょう」

 

「あ、ここの壁、動くみたい。だから急に現れたんだね」

 

 敵の背にある壁がぐるりと回る仕掛けになっていることに素早く気が付くアミ。お手柄だ。とタカネに頭を撫でられると嬉しそうに笑う。

 

 奥を調べると、そこには巨大な装置が置かれている空間へとやってきた。

 

「なんだこれ……」

 

「調べてみましょう」

 

 五人は装置周辺を調べていると、

 

「っ!! これは!」

 

 イオリが絶句したように身を固くした。

 

 他の四人が近づくと、そこには透明な筒の中に捕らえられていた人間が五人が戦っていた異形体へと姿を変える光景だった。

 

「っ、あの武器は元々の所有者の物だってことか!」

 

「装置を止めましょう。まだ助けられるかも「無理よ」っ!?」

 

 五人が警戒する中、フードを被った女が現れた。

 

「ごきげんよう。ここまで来るとは驚いたわ。そしてよくも試作品たちを倒してくれたわね」

 

「試作品だと!? お前、何者だ!!」

 

「それに答える義理などないでしょう? でも、代わりの答えをあげる。あなたたちはここで死ぬという答えをね」

 

 女が右手を光らせる。

 

 すると、一斉に装置が動き出し、筒に入れられていた人間たちが一か所に集められ融合し始めた。

 

「貴様、何をっ!」

 

「いずれはやろうと思っていたけれど、三つ眼かうまくいかないわね、失敗だわ。まぁ、あなたたちを殺すことぐらいはできそうかしら」

 

 筒から出てきたのは複数の人間の交じり合った異形体だった。ある意味で黒い肌の怪物と分かる姿であるのが、気分を害さない最後の救いかもしれない。

 

『ヴォオオオオオオオ!』

 

 右が三つの腕、左が一つというアンバランスさで、体に顔があったりと素人からしてもうまくいっていないようにしか見えない。

 

「じゃあ、さようなら」

 

 女は魔法を使って姿を消した。

 

「テレポート……高い実力はありそうね」

 

「姉さん、そんなことよりもあれを!」

 

「そうね、ごめんなさい。あれはもう人じゃないわ、私たちで楽にしてあげましょう」

 

「うん……」

 

「分かった」

 

「はい」

 

「うし、行くぞ!」

 

 イオリの魔眼の力で微弱ではあるが、動くを鈍くし、イオリの補助を受けたタカネの一撃が傷を作る。

 

『ヴォオオオオオヴァアアアア!!!』

 

「なに!?」

 

 しかし、驚くべきことに怪物は傷を癒す力を持っていた。

 

怪物は怪我を恐れぬ様子を見せずに、ヒビキたち五人を正確に狙ってくる。

 

「何で傷が!?」

 

「複数の人間の集まりだからよ! 傷ができれば治癒しようとする。それがあいつはとてつもなく強いのよ!」

 

後方から魔法で援護するアズサが言う。

 

「魔法でも傷を残すことができません!」

 

イオリの悲鳴にも聞こえる声が前衛三人にとってどれほどショックなのか分かっている。

 

「しっかりしろイオリ!」

 

「タカネ姉さん……」

 

「義母さんから学んだ魔法が通用しないのはショックなことだろう。だが、ここでは一瞬でも気を抜けば死に繋がる。まずは目の前の敵に集中するんだ」

 

「でも、どうやれば……」

 

「簡単なことだ! ヒビキ、アミ!」

 

「ああ、あいつの体に治癒できないほどのダメージを」

 

「与えちゃえばいいってね!!」

 

『おおおおおおっ!』

 

 怒涛のラッシュを与え、そこへアズサの魔法が追撃、怪物は怯み、回復も遅れを見せた。

 

「畳みかけるわよイオリちゃん!!」

 

「はい!」

 

 アズサとイオリの魔法がダメージを蓄積、再びヒビキとアミの連続攻撃を与えると最後は渾身の振り下ろしを見せたタカネの一撃で怪物は散った。

 

「ふう……」

 

「ナイスな一撃だったなタカネ」

 

「私一人ではなくみんながいたからだろう。全員でもぎ取った勝利だ」

 

「だな」

 

「さて、この装置分解して破壊しましょう」

 

「ああ、こんな物あっていいはずがない」

 

 五人は使えそうな機器をバラし、使えなさそうな物は破壊した。大元の装置は戦利品を纏め、死者に礼を捧げてからアズサのスパーク機器を攻撃爆発を起こさせた。

 

 屋敷を出て、洞窟内を急いで駆け抜け五人は無事脱出した。

 

 大きな爆発後、周囲の光景はまるでなにもなかったような光景へと変貌していた。

 

「消えた? どういうことなんだよ……」

 

「ヒビキが見つけたあれは、冒険者を連れ込み、あそこで怪物に仕上げる罠だったんでしょうね。なんの目的があったかは分からないけど」

 

「くそ、なんかすっきりしないな」

 

「仕方ないってヒビキ姉、今回は無事だったことを喜ぼ?」

 

「そうですよ。それに、あの女は平気であの装置を捨てたってことは……」

 

「ほかにもあるでしょうね」

 

「理由は不明だが、あの女がしていることは許せることではないな」

 

「ああ、次に会うまでに力つけて一発ぶん殴ってやるぜ」

 

「さあ、今は戻りましょう。レイモンドおじ様が心配しているかもしれないし」

 

 五人は少々思い足取りで帰路につく、謎をいくつか残しながらも彼女たちは無事帰還したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………失敗とはいえ、なかなかの出来であったのに倒すとは、中々できるわね。でも、新しい世界であなたたちは不要だわ」

 

 女は離れた場所から五人を見つめる。

 

「工房は一つ潰されたけれど、このザルツにはまだある。大陸各地の工房もまだまだ活動を続ける……ああ、楽しみだわ、早く、早く新しい世界を見たいわ……」

 

 恍惚の笑みを浮かべる女はその場所から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リザルト


 基本経験値1000点
 GMからのボーナス経験値1000点
 人間だった怪物 レベル3 6体撃破 180点
 強化された怪物 レベル4 8体撃破 320点
 ガンを使う怪物 レベル4 1体撃破 40点
 失敗作の怪物  レベル5 1体撃破 50点


 計2590点



名誉点獲得


 戦いの始まり(30点)


 遺跡のような場所で出会った謎の女との繋がりが生まれたことにより、
 彼女たちはこれからも戦いをすることになる。
 なお予断であるが、レイモンド氏は娘たちの熱烈なハグをした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最新話
ダグニア編・2


 ハルカたち四人が遺跡から当時の資料を持ち帰ったことはバルナッドで話題になった。しかしながら、新人冒険者ということが知られるとマグレだったという印象を受けて噂はすぐに忘れられた。

 

 だが、アルフレッドやレミアは四人の活躍を誉め、アルフレッドはまた新しい仕事を持ってきてくれるほどだ。四人は蛮族退治やバルナッド近郊に現れた獣などを退治し、少しずつ冒険者として成長していた。

 

 そんなある日のことである。

 

「商人の護衛ですか?」

 

「うん。ハルカちゃんたちも冒険者として色々経験を積んでみたほうがいいかなと思ってね。ツテを辿ったら護衛の仕事が来たんだ」

 

「マスターのツテってなんだか広すぎるような……」

 

「そーだね。前の蛮族退治の依頼とかもバルナッドの軍からの依頼だったし」

 

「そんなことはないよマミちゃん、ミキちゃん。冒険者の店としては駆け出しだから結構必死だよ?」

 

「余裕そうに見えるけどね~」

 

 酒の入ったグラスを片手に笑うチハヤ。

 

「あ、チハヤさん。まだ朝なのに……」

 

「気にしない気にしない。これくらいじゃ酔わないわよ。ハルカもどう?」

 

「いいですよ。これから仕事になるかもしれないし。それで、店長。護衛の商人さんはどこまで行くおつもりですか?」

 

 すると店の扉が開き、ハルカにとっては見知った顔が現れた。

 

「邪魔するよ店長」

 

「やあ、いらっしゃい」

 

「あ、あなたは!」

 

「元気そうだね嬢ちゃん。噂は聞いてるよ。それと初めましてだね。アタシはヒルダってしがない商人さ」

 

 現れたのはハルカをバルナッドまで送り届けてくれた商人の女性だった。

 

「じゃあ、今回の依頼は……」

 

「そう。アタシたちを護衛してもらいたい。ラ・ルメイアまでね」

 

「太陽神ティダン様を主とした国ですね」

 

「そう。ちょっとした商談があってね。なに、そこのダークドワーフの嬢ちゃんのことも考えてすぐに終わるはずさ」

 

「っ!? なんで……知って」

 

「情報は商人にとって大事なんだよ? と、格好つけたいけど本当はマスターから聞いたのさ、ちょっと借りがあってね」

 

「……いいんですか?」

 

「普通のドワーフと少し違うだけだろう? それにこの嬢ちゃんとうまくやっているみたいだしね。それで信用できる」

 

「わわっ!?」

 

 ヒルダはハルカの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

 驚いたハルカだったが、嫌な感情はでず、温かい気持ちになっていたので好きにさせていた。

 

「んー。この依頼受けるってことでいい?」

 

 ミキはほかの三人を見る。チハヤは酒を飲みながら空いている手で了承を示す。

 

「うん。構わない」

 

 少し嬉しそうに笑うマミ。

 

「あ、うん。私も構わないよ。ラ・ルメイアか……本とかでしか知らないから、楽しみだな~どういうところかな」

 

「それじゃ、出発は明日の朝になるから南門で会おうじゃないか」

 

 ヒルダはそれだけ言って店から出て行ってしまった。

 

「よし、それじゃ一通りの準備をして明日に備えましょうチハヤさん」

 

「そうね。とりあえず酒樽は「ダメです」ケチ……」

 

 拗ねるチハヤを連れて四人は準備の為に市内へと繰り出す。

 

 

 翌日。早朝からバルナッド共和国の南門で待機していた四人はヒルダ達と同じ商会の人たちと合流。ラ・ルメイアへと向かう。

 

「そういえばヒルダさん。チハヤさんは……」

 

「ああ、ソレイユだから夜に対して制限があるんだろう? ちゃんとマスターから聞いているさ。安心しな。男どもには手を出させないさ!」

 

「ずりぃぞヒルダ! 俺たちも姉ちゃんたちと仲良くさせろよ!」

 

「何言ってんだい、アンタたちが十万ガメル積んだって無理な話さ」

 

「ひでぇ!?」

 

 愉快な笑い声がハルカたちを包み込む。

 

 その時、

 

「っ!! みんな!!」

 

 ミキの緊張感あふれる声が響いた。

 

 その声を聴いた三人はすぐさま警戒。すると、一同の前に三体のウルフが現れた。

 

「なんだウルフか、これなら嬢ちゃんたちに頼らなくても俺らで「いえ、あれはただのウルフではありません」へ?」

 

 簡単な武装をした男性の言葉を遮り、ハルカは険しい顔をした。

 

「あれはポイズンウルフ。尻尾に毒針が生えている種です」

 

「うえ!? 毒!?!?」

 

「はい。ウルフは基本的に灰色ですが、見てくださいあの尾の黄色を。あれがポイズンウルフである証拠です。下手をすれば命に関わります。私たちに任せてください」

 

「お、おう……すまねぇが頼むわ」

 

 四人は襲い掛かるポイズンウルフたちに向かって走り出す。とはいえ、ハルカとミキは後方支援のため、商人たちの前に立つぐらいで止まったが、マミとチハヤは一気に距離を詰めた。

 

「大人しくしなさい!!」

 

 先頭のポイズンウルフを掴んだチハヤは素早く地面に叩きつける。

 

「貰った!!」

 

 そこへ息の根を止めるようにマミがメイスを振り下ろす。

 

 二匹のウルフはチハヤとマミにそれぞれ襲い掛かるが、後方からのミキとハルカの攻撃によってひるんでしまう。そこへ容赦なく前衛二名が攻撃。素早く三匹のポイズンウルフを撃破した。

 

「いやーやるもんだねアンタたち」

 

 ヒルダは拍手をしながら四人に近づく。

 

「ふむ、そのウルフから手に入れた素材はアタシ等で買い取ろうか? 勿論毒針なんかは悪用しないと約束するよ」

 

 四人は頷き、相場よりも少々高めに買い取ってもらった。

 

 夜はチハヤがすぐに寝てしまう為、安全をとって野営。三人で見張りをすることになる。事情を理解しているヒルダが周囲に簡単な罠を作ることをアドバイス。ミキが楽しそうに罠を設置した。

 

 とはいえ月神シーンの加護があったのか、何事もなく翌朝を迎えた。

 

「うーん! よく寝た!!」

 

「ああ、おはようチハヤ」

 

「おはようマミ」

 

 最後の見張り役だったマミに挨拶したチハヤは元気よくストレッチをする。その様子を見ていたマミは、仮眠を取るために眠りについた。

 

「さてと、朝食の支度をしないとね」

 

 夜の見張りができない以上はチハヤが朝食係になるのはある意味では必然だったのかもしれない。

 

「よし、それじゃ今日もサカロス様に感謝の一杯っと」

 

 ……酒を飲みながらだが。

 

 

 

 ぽつぽつと起床を始め、ミキや仮眠を取ったマミは起きたが、なぜだかハルカは起きてこない。

 

 ミキが様子見に行くと、起きようとして、また寝たと思われる状態のハルカが視界に飛び込んできた。

 

「もう、ハルカったら。ハールカ! そんな状態じゃ体を痛めるよ!!」

 

「うーん…………もう少し……」

 

「もう、しょうがないなー。えい!」

 

 ミキは物作りの趣味があり、簡単にできるものをいくつか持ってきていた。そのうちの一つである目覚まし道具は、二つの木製の棒をぶつけることで、高音を発生させることができるという代物であった。

 

「わあああ!? な、なに!?」

 

「おはよハルカ」

 

「え、ミキ……え?」

 

「もう、いつまでも起きてこないから心配したよ?」

 

「ご、ごめん……ラ・ルメイアはどんなところなんだろうな~って眠る前に考えていたら眠れなくなちゃって……」

 

 寝癖がついた髪を直しながらハルカが恥ずかしそうに話す。

 

「気が早いよハルカ。まだサンスールにもついてないんだよ?」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 サンスール。セフィリア、バルナッド、ラ・ルメイアの三カ国の中心にある都市であり、商業がバルナッドに次いで盛んである。中心にあることを利用した商魂の逞しい者たちが数多くいる。

 

 現在はどこの国にも属していない都市ではあるが、三百年前の領土を持ち出して、サンスールは自国の領土であると主張するセフィリア、三カ国の重要な商業都市として発展させるべきであると主張するバルナッド、現在進行形で都市防衛に人員を割り当てているラ・ルメイアが自国の領地であると主張している。(ただし、ラ・ルメイアの現国王はバルナッドと同様の考えである。一部の重臣たちが領地であると主張をしているのである)

 

 これを利用してサンスールの者たちの中には商売をする者もいる。

 

 

 

「おはようハルカ、さ、早く食べましょう」

 

「おはようございますチハヤさん。わぁ、美味しそう」

 

 チハヤの手料理を食べ終えた一同は素早く支度をしたのち、サンスールへと向かった。目的地ではないにせよ、四人にとって楽しみなことであることには変わりはなかった。

 

 ハルカたちの冒険はいまだ始まったばかりである。

 

 

 





・ポイズンウルフ

 通常のウルフとは違い尻尾の先端が黄色くなっており、そこが毒針になっている。
 危険な種でもあるため、ウルフだと思い込んで毒を使われ、解毒が間に合わず命を落とす者が年間で何人か出てしまう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。