或いは衛宮切嗣がほんのちょっと弱かったなら (原作未読の魔改造フェチ(百合脳))
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夢破れて山河あり

性懲りも無く新連載ー。

いい加減に既存作を進めたいけどね。
新作思いついちゃったらさ……仕方ないじゃん?
ほら、誰かに先越されて二番煎じとかなったら意味無いし……(詭弁)


「サーヴァント・セイバー、召喚に応じ参上した。問おう、貴方が私のマスターか」

 

 冷たい空気に包まれた静謐な聖堂の中、凛とした声が響く。

 発言者は白銀の甲冑を身に纏った、金髪碧眼の少女。相対するは死んだ目をした男とどこか作り物めいた女の二人。女騎士然とした美少女からの問いかけに答える事も無く、ただ呆然としている。それもそのはず、彼らにとってこの事態は想定外にも程があるのだ―――本来()()されるのは、()()でなければおかしいのだから。

 

 

 

 ―――どんな願いでも叶えるという万能の願望器『聖杯』の所有権を巡り、7人の魔術師が互いに競い合う魔術儀式、それが『聖杯戦争』。各魔術師はそれぞれ一騎ずつ、過去の歴史・伝説に名を残す英雄達―――即ち『英霊』を召喚、使い魔(サーヴァント)として使役し彼らを戦わせる。最後まで勝ち残ったペアが優勝、という寸法だが、今までは諸々の都合から途中で儀式自体が失敗に終わってしまい、未だ聖杯を手にした者は現れていない。

 そして60年ぶり、4回目の開催となる今回の優勝の為に、主催・運営の一角を担うアインツベルンは必勝を期して幾つかの駒を用意した。その一つが傭兵として雇った『戦闘のプロ』である衛宮切嗣であり、もう一つが『自律する聖杯の器』として造られたホムンクルスのアイリスフィール・フォン・アインツベルンであった。つまり、現在女騎士の前で呆然と立つ二人である。

 だが、今回の戦争で勝つにはまだ足りない、とアインツベルン家当主のユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、通称アハト爺は切嗣に語った。そして考えうる限りの最高戦力をサーヴァントとして呼び出す為、円卓を束ねたブリテンの王『アーサー』を召喚する為の触媒を準備したのだ。

 切嗣は自身の戦略・戦法上『暗殺者(アサシン)』の英霊を呼ぶ事を提案したのだが、スポンサーの意向には逆らえない。それに、確かに『アーサー王』は強力な駒であり、使い方次第では十分に役に立つと判断して()を召喚する事に渋々納得したのだが―――

 

「キリツグ、これって―――」

 

「ああ、その通りだアイリ―――」

 

 今回の戦争に連れ立って参戦する予定の二人は、夫婦でもある。互いにそれなりの期間連れ添ったのだ、相手の言わんとする事は分かるし自分も同じ気持ちだ。

 何せ、実際に召喚されたのは()()()である。しかしながら、『アーサー王』は()()として伝えられている。この事が示す事実は、ただ一つ。

 

 

 

 

 

『―――失敗した!!』

 

「―――はい?」

 

 二人の声が重なる中、当の少女から上がる困惑の声。

 

 

「なんて事だ、アーサー王を呼ぶつもりがどこの誰とも知れないコスプレ少女を呼んでしまうなんて!!」

 

「ええ、確かに見た目は可愛いけど戦力になるとは思えないわ!! だってコスプレだもの!!」

 

「こ、コスプレッ!?」

 

 騒ぐ二人の会話から、不穏な物を感じ取ったアルトリア―――男装したまま男として歴史に残ったアーサー王の正体たる少女。聖杯からのバックアップにより、『コスプレ』なる言葉の意味は理解できる。理解したからこそ、この二人が何か致命的な勘違いをしているのではないかと慌てて訂正に入る。

 

「英霊召喚は完全に失敗―――」

 

「お待ち下さい、失敗などではありません! 私の名はアルトリア、生前はアーサーと名乗り男王のフリをしてブリテンを治めていました。女の王では周囲が納得しなかった故の措置です。その為に後世には男性として伝えられたようですが、私は正真正銘、本物のアーサー王です。ご安心下さい、マスター」

 

 焦りからか若干早口になってしまったものの、とりあえず要点だけ伝えてから頭を下げ一礼。

 その自己申告を受け、一瞬だけ面食らったアイリと切嗣だったが、互いの顔を見合わせ頷き合うと再び口を開く。

 

「アイリ―――」

 

「キリツグ―――」

 

 

 

『この子、厨二病だ!!』

 

「ちゅーにっ!?」

 

 息ピッタリで叫ぶ夫婦の口から放たれた単語に、思わずギャグ漫画ばりのズッコケを見せるアルトリア。当然、聖杯から与えられる現代知識によって言葉の意味は分かる。分かってしまう。……なお、ここは厨二病というスラングが第四次聖杯戦争当時に存在している世界線である。

 

「なんて事だ、ただ女騎士のコスプレしてるだけじゃなくて重度の厨二病とは! やたら面倒くさい設定を、あんな真顔で平然と……それも人前でっ!!」

 

「ねえキリツグ、もしかするとこの子は自分で作った設定を自分自身で真実だと思い込んでしまった可哀想な子なんじゃ無いかしら? そう考えればこの真剣な様子も納得がいくわ!」

 

「真性だと言うのかいアイリ!? けどそうか、心の底から自分の事をアーサー王だと思い込んでいるコスプレ少女だからこそ、聖杯の選定を誤魔化してサーヴァントとして召喚されてしまったのだとしたら筋は通る……!」

 

「いや『筋は通る……!』じゃ無くてですね!?」

 

 二人して明後日の方向に話を飛躍させるマスターとその伴侶に、慌てたのはアルトリアだ。このまま黙っていては、自分は騎士王どころか英霊として扱って貰えるかすら怪しい。というか確実にイタイ子扱いだ。

 

「私は本当にアーサー王―――」

 

 

()()()失敗したようだな、衛宮切嗣よ!!」

 

『!?』

 

 アルトリアの声を遮るように、嘲る声が響き渡る。その場に居た三人がハッとして聖堂の入口へと振り返れば、両開きの扉をホムンクルスのメイド達に開けさせて堂々と入ってきたのは一人の老人。

 髪も髭も雪のように白く、重ねた(よわい)に比例して刻まれた額の皺を更に深め、冷酷そうな眼差しで自ら雇った傭兵を睨むこの老爺こそ、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン。聖杯戦争における御三家の一つ、千年の名家・アインツベルンの一族を束ねる長、アハト爺その人である。

 

「フン、『魔術師殺し(メイガス・マーダー)』などと名の通った暗殺者と聞いて雇ったものの……蓋を開ければこのザマか。まさかサーヴァントの召喚すらまともにこなせぬとはな」

 

「ま、待ってくれ! これは―――」

 

「黙れ! どう言い繕った所で貴様がアーサー王の召喚に失敗したという事実は覆らぬわ!」

 

 弁明しようと口を開いた切嗣だが、アハト爺は一喝すると同時に手に持った杖(足腰が悪い訳では無く只の魔術礼装)をダンと地面に打ち付け、その口を閉ざす。どうやら既に聞く耳を持たないようだ。

 切嗣が奥歯を噛み締め押し黙ると、フンと鼻息を鳴らしたアハト爺はカツカツと靴音を立てながら彼らの横を通り過ぎ、聖堂奥の壇上へと登る。そんな二人の間で視線を交互に動かしながら、オロオロとするアイリ。……そして何か一番偉そうな人にすら召喚失敗扱いされて呆然と立ち尽くすアーサー王(仮)。

 

「やはり魔術師崩れなんぞに期待をかけた儂の失策だったな。もうよい、貴様との契約は無かった事とする」

 

「なっ―――」

 

 決定事項の如く一方的に言い放たれたその言葉に、アイリは目を見開き、切嗣は言葉を失う。

 

 アハト爺と切嗣との間に結ばれた契約とは、即ち聖杯戦争への参戦。数多の外道に堕ちた魔術師を抹殺してきた切嗣がその手腕でアインツベルンを勝利に導き、一族の悲願である失われた第三魔法を復活させる。その見返りとして、切嗣は聖杯のチカラを使い自分の願いを―――長年夢見た理想の世界、『恒久的世界平和』を実現させる。……そういう約束だった。

 その契約を破棄するという事は、切嗣にとって最初で最後、唯一無二の理想を叶える機会を永久に失うという事に他ならない。

 

「そんなっ、早まるな! 例えサーヴァントが変なコスプレ娘だからといって僕のやり方なら問題ないっ、必ず聖杯を手にしてみせる!! だから―――」

 

「英霊を喚ぶ事すら満足にできぬ身で、どの口が『聖杯を手にしてみせる』だ!! もはや貴様なんぞに欠片も信用は無いわ!!」

 

 

(へ、変なコスプレ娘……)

 

 仮にもマスターである男からの余りの言い草にショックを受けよろめくアルトリアだが、誰も気にしない。

 

 

「待ってお爺様、キリツグは―――」

「ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン殿っ!!」

 

 どうにか夫とアハト爺との間を取り持とうとするアイリにも気付かない程憔悴した切嗣は、自らの雇い主たる当主殿の名前を敢えてフルネームで呼び、彼の足元に縋り付く。

 

「どうかもう一度だけチャンスをくれッ!! この失態は必ず挽回してみせる! だからどうか聖杯を僕にっ、でないと恒久平和が、僕の願いが!! 僕にはもうっ、……僕の人生には、もう、それしか無い―――」

 

「この戯けがッッ!!」

 

「グゥッ!?」

「キリツグッ!?」

「ま、マスター!」

 

 必死の形相で拝み倒す切嗣を、アハト爺は一喝と共に蹴り飛ばした。老体から放たれたとは思えない威力に、不意を打たれた切嗣は為す術なくぶっ飛ばされてゴロゴロと床を転がる。

 起き上がる事も出来ず呻く彼の下にアイリスフィールが駆け寄ると、アルトリアも慌てて剣を抜く。マスターの上司らしき人物とはいえ、サーヴァントたる彼女にとっては令呪を持つマスターの身を守る事が先決だ。

 

「ご老人、マスターに何をっ!」

 

「小娘は黙っておれ!! ……なあ衛宮切嗣よ、貴様今何と言った?」

 

「ガハッ、ぐ……こ、恒久平和……僕には、それしか無いと……!」

 

 困惑しながらも妻の手を取り何とか体を起こした切嗣は、確固たる意志を込めた瞳でアハト爺を睨む。いや、睨んだ()()()だった。

 だが傍から見れば、その眼差しは余りに弱々しかった。まるで捨てられた子犬のように覇気を感じられない、震える瞳。聖杯戦争を生き残っていく為に最も重要な英霊の召喚に失敗し、雇い主からは参戦資格すら取り上げられて、本人の思っている以上に精神が追い詰められていたらしい。

 それでも昔の衛宮切嗣ならば、ここまで動揺を表に出す事は無かった筈だった。アインツベルンに来る前なら―――アイリスフィールと出会ってから共に過ごした時間を、ささやかながらも確かに幸福だった9年間を経験する前なら。皮肉にも、愛する者達との穏やかな生活が彼の心から『強さ』を……『頑なさ』を奪い去ってしまったのだ。

 

 ―――しかし、それは彼の心が『健全な』普通の人間のソレに近付いた事を意味している。

 

 

「衛宮切嗣……貴様、本気で言っておるのか? 貴様には『恒久平和』などと言う絵空事な理想しか残っていないと、本気でそう思っているのか?」

 

「当然だ、僕はその為に―――」

 

()()()戯けだと言うのだ、この大馬鹿者めが!! 貴様にはそれしか無いだと? ならば答えろ切嗣、()貴様の手を取り貴様の体を支えている、貴様の隣に居る者は何とするッッ!?」

 

 その言葉にハッとして、隣を見やる。そこに居るのは当然、自らの愛しい妻・アイリ。繋いだ手から伝わる温もりは、彼女が確かにそこに……自分の隣に寄り添っているのだという事実を感じさせてくれる。

 

 その彼女は今、状況を飲み込めないながらも彼の手を強く握りしめてアハト爺を睨んでいた。

 

 愛する夫に暴力を振るい、あまつさえその夢見た理想をも奪おうとするのは、己の一族の当主。敵意を乗せた視線を送るだけでも、相当の勇気がいる事だろう。いや、彼女が造られた生命(ホムンクルス)である事を鑑みれば、その程度の話ではない。造物主たる親に逆らうなど、本来は()()()()()事だ。

 それを為したのは、偏に切嗣への愛情。人形として生まれた彼女を、人間として愛した切嗣が起こした、小さく尊い本当の奇跡。切嗣にとっても、何にも代え難い大切な存在。……さっきまでの自分は、そんな彼女のことさえ頭から抜け落ちていたというのか。

 

「……切嗣よ、今一度問うぞ。貴様には本当に、手の届かぬ理想しか残っていないのか? 今その手の内にある温もりは掴むに値しないゴミでしかないと?」

 

「僕は……僕は、……っ……!」

 

 諭すように静かに語りかけるアハト爺。切嗣は言葉に詰まった。

 恒久平和は彼が全てを捧げると誓った理想。例え彼自身や愛する妻が犠牲になろうとも、その結果として人類が救われるなら。……そして欲を言えば、ありふれた悲劇が無くなった平和な世界で二人の間に生まれた娘が生きていけるのなら。そう思えば、それこそ己の持つ全てを代償に捧げるつもりだった。

 しかし、肝心のサーヴァントは厨二病のコスプレ少女。いくら切嗣が一流の戦闘者・暗殺者だろうが、駒がコレではどうにもならない。古今東西の英雄達が相手では、どう足掻いても彼女を守り切る事は不可能だ。英霊には英霊でしか対抗できない、つまりよく分からんコスプレイヤーでは太刀打ちできないのである。マスター狙いの戦略を取るにせよ、サーヴァント自身の継戦能力は大前提。彼女の脱落がマスターの敗退と同義である以上、勝ち目は皆無と言えた。

 

 ―――そんな勝算/zeroな戦いの為に、アイリを切り捨てる? ……そんなの無理だ。昔の自分ならいざ知らず、彼女との幸福に身を浸しすぎてしまった今の自分には、到底……。

 

 

 

「―――お母様? キリツグ?」

 

「!? イリヤ!?」

 

 突然の声に振り返れば、そこに居たのは切嗣とアイリの愛娘であるイリヤスフィール。幼いながらに緊迫した雰囲気を感じ取ったのか、心配そうな表情で両親を見詰めている。

 

「儂が呼んだのだ、こんな事もあろうかとな。ご苦労だった、セラ、リーゼリット」

 

「いえ。我々はイリヤ様のメイドですので」

 

「エスコートもお仕事の内」

 

 アハト爺はイリヤを聖堂まで連れて来たホムンクルスのメイド二人に労いの言葉をかけているが、切嗣にはそんな事を気にする余裕は無かった。自分と妻の所へ駆け寄る、白銀の妖精と見紛うばかりの一人娘。それしか目に入らない。

 虚ろな瞳、しかしイリヤを見て僅かに光が戻りつつある切嗣と、どうしたものかと戸惑うアイリ。二人の間で視線を交互に彷徨わせた後、おずおずと妖精は口を開く。

 

「大丈夫? キリツグ」

 

「……ッ!!」

 

 彼女はただ、元気の無さげな父親を純粋に気にかけただけだったのだろう。

 だが切嗣は、もう大丈夫では無かった。この瞬間、大丈夫では無くなった。―――大丈夫では無い自分自身を、ハッキリと自覚してしまった。自分はもう、戦えないと……気付いてしまい、認めてしまった。だから。

 

 

「ああ、大丈夫……大丈夫だよ、イリヤ……もう、大丈夫だから……アイリも……!」

 

「……キリツグ?」

 

 涙をポロポロと零しながら、妻と娘を抱き寄せる切嗣。彼はもう、戦えない。()()()()()()()。愛する妻に犠牲を強いなくて良いのだ、愛する娘と離れなくて良いのだ。彼はもう、これまでの自分を繕えない。だけどその分は、愛する家族が埋め合わせてくれる。補ってくれる。ずっと支えてくれる。これからは、ずっと。

 なら、自分がすべき事は彼女達を、家族を守る事だ。世界や人類を救える程、今の自分は強くない。嘗て誓った筈の理想を捨ててしまえる程に弱くなってしまった。だが、それでもせめて、彼女達だけは。『正義の味方』として誰もを救う事は出来なくとも、自分を愛してくれる家族だけは守り抜きたい……『愛する者達の味方』でありたい。衛宮切嗣は、今新たにそう誓う。

 

 

「二人共、僕は……僕はね、『正義の味方』に、なりたかったんだ……」

 

「キリツグ……」

 

 突然の独白。涙はまだ止まらないが、憑き物が落ちた様にスッと晴れやかな顔を見せる切嗣に、二人は神妙な面持ちでただ静かに聞き入る。

 

「でも、今は……君達二人の、『家族の為の正義の味方』でありたい。心からそう思う……どうしてかな、僕の過去は、それを許さない筈なのに。僕にそんな事を望む資格なんて、無い筈なのに……それでも、そうしたいんだ。……はは、こんなザマじゃあ始めから正義の味方なんて無理だったかな」

 

「そんな事無いもん! 私にとって、キリツグはずっと正義の味方よ! 私とお母様を見守っててくれるもの! そうでしょ、お母様?」

 

「そうね、イリヤの言う通りよキリツグ。私達にとっては、貴方は今も昔もずっと変わらない……ちょっと不器用で頑固者で、でも優しくて頼りになる、世界で一番かっこいい『正義の味方』よ!」

 

 その言葉に、切嗣は答える事が出来なかった。ただ嗚咽だけが喉から絞り出せる精一杯だった。それでもその両腕は、目の前に居る掛け替えのない家族をしっかりと抱きしめていた。二度と手放さない様に。

 

 

 

 

 

「ふん、アイリスフィールめ、絆されおって。それでも我がアインツベルンのホムンクルスか、聖杯の守り手か!」

 

「! アハト爺……!」

 

 暫し経った頃、背後から投げつけられた声。すっかり家族三人だけの世界に入り込んでしまっていたが、彼らの目の前にはアインツベルンの当主が立っていたという事を、今更ながら思い出す。

 

「私は、―――」

「今更言い逃れが通用すると思ったかアイリスフィール!! 切嗣が戦意を喪った今、貴様も聖杯戦争に参戦などするものか!! 我らが悲願、第三魔法の復活を、よもや聖杯の守り手が放棄するなど……恥晒しめが!!」

 

 口を開きかけたアイリは、再びその口を閉ざすしか無かった。図星だったからだ。切嗣が聖杯による理想より自分達家族との幸せを願った以上、参戦すれば確実に帰れないと分かっている戦いなど出る筈は無い。

 

 

 ―――そんな彼女には見向きもせず、明後日の方向を向いたアハト爺はただ事実だけを告げる。

 

 

「尤も、貴様の背信はとうに分かっていた事よ。貴様には聖杯を担う資格など有りはせん……気付いておらんようだが、既に貴様の体からは聖杯の因子を抜き取っておいた。もはや貴様は、性能も寿命も()()()()()()……利用価値も無くなった不良品に用など無い、どうとでも好きなように余生を過ごす事だな」

 

「ッ!? アハト爺、それは―――」

 

「フンっ、貴様に"アハト爺"などと呼ばれる筋合いは無いぞ切嗣!」

 

 ―――それは、人形(ホムンクルス)として造られたアイリスフィールが只人として生きていけるという宣告。そして、聖杯(どうぐ)では無く衛宮切嗣の妻として生きて良いという宣言。新たな門出を迎えた一組の夫婦に手向ける、アインツベルン当主直々の『祝福』であった。

 

 

 

「……義父(ちち)と呼ばぬか、馬鹿者めが」

 

「お……お義父様ァァァァーーーーー!!!」

 

 一旦は止まった涙が再び湧き出し、感涙に(むせ)び泣く切嗣。そんな彼の肩を抱き、自身も涙ぐみながら自らの創造主(ちちおや)に黙って頭を下げるアイリ。状況は全く理解してないものの、とりあえず両親に合わせてペコリと頭を下げてみるイリヤ。そして照れ臭そうに耳を赤くしながらそっぽを向くアハト爺。

 彼らの様子を見守っていた、セラやリーゼリットを含むホムンクルスのメイド達は、一斉に拍手で祝意を表す。アインツベルンは今日も平和であった。

 

 ―――そして、この平和はきっと、これからも続いていくことだろう。末永く。

 

 

 

 衛宮切嗣の聖杯戦争は、こうして終わったのだった。

 

 

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 

 

「いやいやいやいやいやちょっと待って下さい!! 私はどうなるんですか!? 聖杯戦争は!? ブリテンの救済は!? 呼び出しといていきなり全部放り投げないで!!?」

 

「何じゃ、まだ居たのかコスプレ娘。空気の読めん奴め」

 

 白けた目を向けられるが、セイバー・アルトリアにとっては死活問題である。彼女とて、叶えたい願いがあるからこそ聖杯戦争への召喚に応じた訳で。それを自分の与り知らぬホームドラマで軽くスルーされたら堪んない訳で。というか、色々あったけど結局誤解は解けないままだし。

 

 

「……まあ、実を言うとお前のような英霊()()()が喚ばれるのは計算の内だったのだがな。何しろ切嗣の奴、とんでもない頑固者だからな、一度心を完璧に折ってやらねば、諦める物も諦めんわ。このままだと破滅に向かって一直線だろうて、見てられんでな、この機に『家族との幸せ』という奴を叩き込んでやろうと思った次第よ」

 

「お義父様、そこまで考えて……!」

 

 

「え、英霊もどき……私、本当にアーサー王なのですが……」

 

 遠い目で哀愁を漂わせる英霊の中の英霊、英霊代表のアーサー王氏。もうなんか、マスター達に理解してもらうのは不可能な気がしてきた。

 

 

「まあそんな訳で、種を明かせば今回の召喚失敗は半ば出来レースだったのだ。何せ触媒は儂が用意した偽物―――『ミニチュア・ラウンド☆ナイツ』シリーズのガムに付いてきた玩具の鞘なのだからな」

 

「そうか、道理でエクスカリバーの鞘がプラスチック製で5cm大だった訳だ……言われるまで全く気付かなかった……!」

 

 

「えっ何? 私食玩に呼ばれて来ちゃったんですか!? 嘘でしょう!!? うっそだぁ!!」

 

 今明かされる衝撃の真実。死んだ目で、キャラもブレそうになりながら必死に否定したがるアルトリアだが、悲しいかな事実は事実。召喚陣の脇にぽつんと置かれたプラスチックの小さな鞘が全てを物語っていた。

 

「い……いえ、この際そんな事は構いません! 問題は聖杯戦争です、聖杯戦争! もう私の正体とかマスターの戦意とかはさて置いても、私の願いの為には聖杯が必要なのです! マスターにその気が無くとも、私は戦わねば―――」

 

「ええい、喧しいわコスプレ娘! 儂とて何も考えていない訳では無いわ!」

 

 喚き立てるアーサー王(笑)をギンと睨み、一喝で黙らせるアハト爺。

 その迫力たるや、幾多の戦場(いくさば)を越えブリテンを守護(まも)り続けたアルトリアですら、本能的に萎縮してしまうほどの凄み。1000年の歴史を誇るアインツベルン一族、その当主という肩書きは伊達では無いのだ。

 

「そもそも我らアインツベルンは聖杯戦争の主催、そして聖杯とは我らが悲願・第三魔法への唯一の足掛かり。切嗣とアイリスフィールを抜かした所で、戦争自体を辞退するとは言っとらん! 駒が使えなくなったなら、其れなりの戦い方を()るのみよ!!」

 

「は、はぁ……? まあ私としては戦えるのなら文句は有りませんが……"それなりのやり方"?」

 

「!! お、お義父様ッ、貴方はまさかッッッ!?」

 

 アハト爺の言い分に怪訝な顔をしながらも、一応は納得した表情を見せるアルトリアとは対照的に、彼の思惑に気付いた―――()()()()()()()()切嗣は、驚愕の声を上げ悲痛そうに顔を歪める。

 が、その様子を一瞥するなり、アハト爺は鼻で笑い。

 

「そんな顔をするな切嗣、儂を侮辱する心算(つもり)かっ!」

 

「っ! い、いいえ、そのような事はっ!」

 

「ならシャンとせんか馬鹿者め。これは儂が儂自身の意志で選んだ道よ、そこに貴様が責任を感じるなど思い上がりも甚だしいわ!」

 

 ピシャリと言い放ち、羽織っていた上着をバサリと翻しながら聖堂の出口へと歩を進める。その足取りはとても老爺とは思えぬ程に力強く、覇気に満ちていた。

 

「……えっと? その、私には話が見えないのですが……結局、私とマスターは……?」

 

「フン、貴様も切嗣も必要は無い。此度の戦―――」

 

 

 困惑しつつも切嗣とアハト爺を交互に見遣るアルトリア、溢れそうな涙を堪えて敬礼する切嗣、そして深く、深く頭を下げるアイリスフィール。両親の間でキョロキョロと目を泳がせたかと思うと、取り敢えず敬礼を真似ながらぴょこんと一礼するイリヤスフィールや、恭しいカーテシーで見送るセラ達メイド一同など、聖堂に残る人々を一顧だにせず出口の敷居を跨ぐと、彼は持っていた杖を勢いよく地面に打ち付け、高らかに音を響かせながら宣言した。

 

 

 

 

 

「―――()()()()!!!」

 

 

 ―――アインツベルン当主『アハト爺』ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルン、参戦。




最初に思いついたシーンは最後の一言。
これだけは絶対に書かなければという義務を感じた。
後悔はあまりしない方向で逝きたい(震え声)


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うっかり参戦しちゃった系の人たち

時系列を始めとした原作設定が軽々しく崩壊してますが、独自設定です。
独自設定です(大事な事なので2回言いました)。

というか、こんな場末のSSで原作設定なんてあって無いようなモンだと思うし(


「……やってしまった……」

 

 薄明かりに照らされた夜半の教会の一室、呟いたのは老齢の神父。眉を(ひそ)めて思案する彼の目の前には、真っ赤なスーツに身を包んだ男性が倒れていた。

 男性のスーツが赤いのは、別に血で染まるまでも無く、元からそういう色合いだったというだけの事。だが彼のスーツは今、確かに血に塗れていた……言うまでも無く彼自身の血液によって、である。

 

「……どうしたものか……」

 

 途方に暮れながらも不思議と落ち着き払って、目の前の惨状を気にも留めないこの神父―――言峰璃正は、今回開催される第四次聖杯戦争の『監督役』である。

 彼の所属する『聖堂教会』は、基本的には魔術師達の総本山『魔術協会』と冷戦状態にある。が、この対立する二大勢力のどちらにとっても一大イベントである聖杯戦争に際しては、お互いの利害の一致もあって、教会側から戦争を取り仕切る『監督役』が派遣される事となっていた。それが彼の役目である。

 

 だが、聖杯戦争とはいえ戦争は戦争。陰謀や策略は当然の如く存在し……まぁ有り体に言って、審判役(レフェリー)である彼は参加者の一人とズブズブの関係であり、その優勝の為に尽力する腹づもりであった。

 それは彼自身がその参加者―――遠坂時臣と懇意である、というのも理由の一つではあるが、究極的には聖堂教会という組織からの指示でもあり、教会側の総意と言っても過言では無い。詳細を省いて結論だけ述べれば、その遠坂が優勝してくれた方が彼らにとって"都合が良い"のだ。

 

 

 解説すると、『遠坂家』とは聖杯戦争の創始に関わった『始まりの御三家』の内の一つ。聖杯にかける願いは『根源への到達』……魔術師としては極一般的なものと言えるだろう。だがこれは極論すれば『個人で完結する願い』であり、周囲に与える影響はほぼ皆無と言っていい。

 教会の思惑としては、よく分からん人間が聖杯を入手し教会に不利益な事態を起こされる可能性がある位なら、いっそ璃正神父が人物を保証する遠坂のマスターに聖杯を取らせ、教会の害にならない穏便な願いで戦争を終結させる方が良い―――と、そういった訳で監督役の教会サイドは遠坂に肩入れする予定であったし、そういう協定も結んでいた。

 

 ……で、現在。

 璃正神父の目の前で血溜まりに沈んでいるのが(くだん)の遠坂時臣氏。その満身創痍ぶりを見るに、もはや聖杯戦争への参加は絶望的だろう。一体誰がこんな事を……と尋ねるまでもなく、下手人は璃正神父その人。

 得意の八極拳で、彼の胸を一突きで貫いたのだ。

 

「……どうしてこうなってしまったのか……」

 

 などと、状況の割には幾分呑気な声音で呟く璃正神父。どうしてこうなったかっつったら、そりゃまあ自分がしでかした事ではあるが、やっちまった今となっては『もっと穏便なやり方があったんじゃないか』とか色々考えてしまう訳で。

 

 

 とりあえず、この惨状が生み出される原因となった、ほんの数分前の出来事をご覧頂こう。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

(この戦い、我々の勝利だ)

 

 遠坂家5代目当主、遠坂時臣はそう確信していた。数多の英霊達の中でも頂点に立つ、英雄の中の英雄・王の中の王たる古代メソポタミアの『英雄王』ギルガメッシュの召喚に成功したからだ。

 高ランクに纏まったステータス、優秀な保有スキルも然る事ながら、『この世のあらゆる財を持っていた』という逸話の通り、あらゆる英霊の持つあらゆる宝具を射出する【王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)】は、勝つも負けるも宝具次第なサーヴァント戦においてチートじみた強みとなる。

 宝具とはその英雄の象徴であり、サーヴァントという枠に押し込められた英霊にとって最強最大の拠り所。良くも悪くもサーヴァントの性能は宝具に依存すらからこそ、宝具の相性や使い方一つで戦局は大きく傾くし、逆に致命的な弱点ともなり得る。だからこそ、サーヴァントは己の真名を7つのクラスで覆い隠し、宝具を秘するのである。

 然るに英雄王ギルガメッシュは、無限に等しい宝具を湯水の如く投げつける事が出来る。それもただ放つのでは無く、『王』としての的確な判断力と戦略眼で状況に応じた使い分けが出来るのだ。並の英霊では敵う筈も無いし、時臣が勝利を確信するのも頷ける。

 

 たが、その上で更に策を弄するのが遠坂時臣。元々魔術師としての才に恵まれなかった彼は、努力の積み重ねで大成した。そんな彼だからこそ、最強の英霊(コマ)を手中に収めるだけでは()()()()()()と考える。準備という物は、いくら重ねても重ね過ぎるという事は無いのだ。

 そこで彼は、(かね)てより懇意であった冬木教会の神父、言峰璃正と裏で手を結ぶ事を考えた。それは璃正神父が今回の戦争の監督役に選ばれたというのも理由の一つだが、それだけで無くもう一つ……璃正神父の『息子』の存在もまた関係している。

 

 言峰璃正の一人息子、言峰綺礼。彼もまた聖堂教会の人間であり、『代行者』として死徒(ざっくり言うと吸血鬼的なモノ)を狩る仕事に就いていた。そんな彼は何を思ったか、突如『愉悦の気配を感じる』とか宣って、本来教会とは対立する立場にある魔術師の時臣に弟子入りし、魔術を学んでいたのだ。

 ただでさえ代行者として高い戦闘能力を誇るのだから、対魔術師戦闘では大いに活躍してくれるだろう。そんな彼にマスターになって貰ってサーヴァントを使役させれば、全体の2/7と監督役が味方になるのだ。血縁関係と師弟関係という繋がりから、裏切られる心配も全く無い(断言)。

 

 理想としては、時臣自身は地の利を活かし、遠坂家の堅牢な魔術工房に篭城。決定的な局面までは最大戦力であるギルガメッシュを秘匿し温存する。

 綺礼には捨て駒として隠密と諜報に特化したアサシンのサーヴァントを使わせて、可能なら何らかの方法を用いて脱落を装い潜伏させ情報収集に専念させる。

 璃正神父の監督役としての権限も駆使して裏から戦局を操り、他陣営を疲弊させ、確定的な勝利の算段が付いたら出陣、英雄王の圧倒的な力で聖杯を入手する―――。

 

 完璧だ。完璧な勝利の図式だ。むしろこれで勝てねば救い難い無能だ。少なくとも時臣は、そう信じていた。……ただ一点、難点を挙げるなら―――

 

 

 

「いやあ、私ともあろうものが、うっかり綺礼君に話を通すのを忘れていたよ。はっはっは」

 

「………」

 

 そう、遠坂家に代々受け継がれる呪い『うっかり』が発動し、言峰綺礼を仲間に引き込み忘れていたのだ。と言うか、綺礼をマスターにするという戦略そのものを伝え忘れていた為、父親の璃正によって『もうすぐ戦争が始まるから』と避難させられていた。

 そこまででもとんでもないうっかりではあるが―――

 

「はっはっは、そういう訳だから今すぐ綺礼君に連絡して呼び戻―――璃正神父?」

 

「…………」

 

 へらへらと、しかし優雅に笑いながら告げる言葉に、言峰璃正は答えない。ただ無言で、無表情に、その身体をゆらりと動かし―――

 

 

「私の可愛い可愛い一人息子を戦争に利用する不届き者は死ねェェェェ!!!!」

 

「がぶっ……!?」

 

 たった一歩の踏み込み、たった一撃の掌打。長年の鍛錬に裏打ちされた淀みない八極の拳が、時臣の体を容易く貫き、その意識を刈り取る。

 ……そう、そもそもの話。彼がどうしようもない息子大好き人間(ムスコン)であるという事実を()()()()忘れ、その息子を戦略の中に組み込んでしまった事。それが一番致命的な()()()()なのだった。文字通り。

 

 

   ※   ※   ※

 

 

「さて……どうするか」

 

 何度目かの自問。カーペットに流れ出た血潮の鉄臭さに包まれながら、溜息を吐く。

 ついカッとなってやってしまったが、息子の扱いはともかく彼は今回の戦争における同盟相手。少し落ち着いた今となっては、己の短慮を後悔する気持ちも湧いてくる。反省は一切していないが。する気も起きないが。

 

「……とはいえ……」

 

 如何に個人的に許せない部分があったにせよ、遠坂と協力して彼に聖杯を取らせるという方針は決定事項。上層部とも協議の上、明確に『教会からの指令』として下された命令でもあった。

 それを(個人的感情で)一方的に反故にした上、『ムカついたんで遠坂殺っちゃいましたテヘペロ☆』とか報告したら、絶対に破門される。というか、代行者が送り込まれて首を取られるかもしれない。

 が、既にやっちまった現状、どうする事も出来ない。普通に考えて詰みであった。

 

「……いや、待てよ」

 

 この際息子とその妻子を連れて誰も知らない山奥にでも隠れ住もうかな、とか考えていた璃正の脳裏に電流が走る。はたと思い付いた、この絶望的な状況を覆す逆転の一手。

 

「そうか……この手があったな。というか、これしかない」

 

 元はと言えば、教会にとって聖杯が誰とも知れない人間の手に渡り不都合が生じるのが問題であって。たまたま璃正の知己であった御三家の一角・遠坂時臣が人間的にも願望的にも教会にとって好都合だったから手を結んだに過ぎない。

 逆説的に、教会にとって都合の良い結果になるなら聖杯を取るのが遠坂である必要は無い訳だ。

 

 ―――で、協力者・遠坂を討ち計画を頓挫させてしまった責任を取り、失態を雪いで聖堂教会に許されるだけの手柄を立てる為の方法は一つ。

 

 

 

「私が聖杯を取れば良いのだ」

 

 

 

 それは実に単純な理屈。聖杯さえ教会に献上出来れば、上層部も文句は言うまい。むしろ罰を受けるどころか、褒賞すら貰えるかも知れない。正しく起死回生の妙手であった。

 

「そうと決まればこうしては居られん。早速サーヴァントを召喚せねば!」

 

 方針は定まった、後は邁進するのみ。神に仕える神父としての使命感(?)に燃える璃正は、英霊召喚を行う準備の為にその場を後にする。

 ……残される時臣の骸の事など、もはや気にも留めなかった。

 

 

 

 ―――聖堂教会第八秘蹟会所属『冬木教会神父』言峰璃正、参戦。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 それから数刻、血溜まりの中心で呻く声と身動ぐ気配。

 

「う、うう……璃正神父、一体何を……」

 

 (うな)されながら目を覚ました遠坂時臣。そも言峰璃正とて、つい衝動的に手が出てしまっただけで、別に本気で殺そうと思っていた訳でも無い。見た目こそ血がドバドバ出ててヤバそうに見えるが、実のところ命に別条は無いのだ。

 

「―――お父様っっ!!!」

 

「ゲホッッ!?」

 

 命に別条は無かったのだが。突如部屋に飛び込んできた小さな影に飛び付かれ、押し潰された時臣は再び意識を手放した。

 

「ああ、お父様っ! こんな血塗れに……やっぱり聖杯戦争って危険なんだわ!」

 

 自分が追加ダメージを与えた事など全く気付かず、倒れる時臣に泣き縋るのは彼の娘である遠坂凛。察しの通り、彼女もまたうっかり屋である。

 聖杯戦争の開始も近いからと、時臣が妻の葵と共に町から避難させていたのだが。『お父様のようなうっかりおじさんがそんな戦争に参加するなんて、危険では無いのだろうか?』と自分の事は棚に上げて心配になった凛は、こっそり一人で戻ってきてしまったのだ。

 家に帰ればもぬけの殻。どうやら教会へ行ったらしい、と突き止めて追いかけて来てみれば、案の定こんな惨劇だ。

 

「お父様! 目を覚まして下さい、お父様!!」

 

「ぅっ、ぅぅ……」

 

 わんわん泣き喚きながら時臣の体をガクガク揺さぶる凛は、その行為が父親に更なる追加ダメージを与えている事に全く気付かない。

 

 

 

「クッ、フハハハハハハハハ!! さっきから黙って見ていれば、中々の茶番ではないか! つまらん男だと思っていたが、少し見直したぞ時臣!!」

 

 と、突然響き渡る高笑い。この世の全てを見下しているような傲慢さ、だがそれが相応しいと感じさせる高貴さ。その両方を兼ね揃えた美声の主は、虚空から姿を現した。

 

「!? あ、あなた一体どこから……いえ、霊体化してたの? じゃあもしかして、サーヴァント!?」

 

 突然見知らぬ男性が現れて驚く凛だったが、彼女は父から魔術師としての英才教育を受け、7歳児としては聡明な子であったので、すぐにその正体に思い当たった。

 サーヴァントは元が霊体である為、いつでも自由に実体化を解いて姿を消す事ができる。逆もまた然り。実際に見るのは初めてだが、目の前で笑い転げる金髪の青年からは尋常ではない魔力を感じる。英霊と呼ばれる存在である事は想像に難く無かった。

 

「クッハハハ……はぁ、いや笑った! これぞ愉悦というもの、不覚にも貴様に召喚されて良かったと思う所だったぞ時臣!」

 

「お、お父様のサーヴァント……? ひょっとしてお父様を見殺しにしたの? どうしてっ!」

 

「ほう? 時臣の娘か。(オレ)を睨み罵るなど普段ならば許さぬ所だが、今は機嫌が良い。それに道理の分からぬ幼子に王の偉大さを説くは大人の役目、子の蒙昧は親の罪。子供の罪では無い。今回は特別に許そう。して、何故見殺しにしたかと問うたな」

 

 尊大に呟きながら凛を見つめる真紅の双眸。己の存在全てを丸裸に見通されるかのような錯覚。凛の背筋に寒気が走る。死の実感が体を通り抜けていく。

 別に殺気を放たれた訳では無い。寧ろ逆だ。この男は凛の命を何とも思っていない。彼にとって目の前の小娘の命など、奪うにも値しないものなのだ。現状殺すに足る理由が無い、だから殺していない。この先理由ができれば殺されるし、そうでなければ捨て置かれる。彼にとってはその程度。

 幼い凛にも、朧げながらに理解できる。そもそもにして、存在の格が違う。彼は圧倒的で絶対的な上位者。真名は父からも聞かされていないが、きっと生前はどこかの王様か何かだった事だろう。逆立ちしたって敵う相手では無い。凛に出来るのは、ただ(こうべ)を垂れて恭順の意を示す事のみ。

 

 

 

「―――答えなさい。あなたは、お父様を裏切ったの」

 

 ―――頭を下げる? 知った事か。父を奪われて黙っている位なら、恐怖なんて幾らだって捩じ伏せてやる、と言わんばかりの気迫を込めて、真正面から睨み返す。体の震えは止まらないし、怖くて涙も滲んできたが、目は決して逸らさない。

 そんな彼女を見定めるように眺め続ける英雄王―――ギルガメッシュ。暫く無言のままで時が過ぎていったが、彼はやがてニヤリと口元を歪めると、厳かに口を開いた。

 

「……フ、王である(オレ)を前にして、なかなかの胆力ではないか。これが時臣だったならば、即座に平伏(ひれふ)して許しを乞うた所だろうよ。いや、そもそもヤツなら(オレ)に対してここまで食い下がる度胸も無かろう。親子だというのに、こうも違うものか。―――娘、名乗るが良い」

 

「……は? え、り、凛、だけど……」

 

「では娘よ。その蛮勇に免じて貴様の質問に答えよう。(オレ)は別に時臣を見殺しにした訳では無い。確かに結果として時臣は斃れる事になったが、それは此奴が道化を演じたからよ。なれば、その様を見届け大いに笑ってやるのも王の務め。時臣は曲がりなりにも(オレ)の臣下、その芸の邪魔をするのは不粋であろう?」

 

 薄笑いすら浮かべながら、さらりと告げられたのは、父を見捨てた理由。その余りの言い分に、一瞬呆然となる。

 

「……そんな。そんな、理由で……!?」

 

「落ち着け、娘よ。本題はここからだ」

 

 さっき名前聞いたのに結局『娘』としか呼ばないじゃない、なんてチラリと考える間も無く言葉は続く。

 

(オレ)は一部始終を見ていた。故に、時臣を襲った犯人を知っている。それはこの教会の神父、名は言峰璃正」

 

「そんな……神父様が!? お父様と仲は良かった筈なのに、どうして……!」

 

「そこでだ、娘。()()()()()()()()()()()()?」

 

「……どういうつもりよ」

 

「なに、少しばかり手を貸してやろうと思ってな」

 

 激昂しかけた所に、冷や水を浴びせられた気分になる。目の前の男が善意で行動するとは思えない。絶対に何か裏がある。……そう思ったのが伝わったのか、より一層笑みが深くなる。

 

「慎重さは美徳だが、度が過ぎれば毒となるぞ。これはお前にとって得しかない取引よ、受けぬは却って損というもの。(オレ)にとっては片手間であるし、暇潰しに丁度良いと思ったまでのこと。……ああ、無論だが、(オレ)がお前の為に戦ってやるという意味では無いぞ」

 

 そう言うと、ギルガメッシュは未だ冷たい床に倒れたままの時臣を一瞥した後、凛へと視線を戻す。

 

「戦うのは飽くまで貴様だ、娘。(オレ)はその足掻く様を後ろから眺めて楽しむのみよ。手を貸すと言うのは、時臣の魔術刻印をお前に移植してやるという事だ」

 

「お父様の……遠坂家の魔術刻印ですって!?」

 

 魔術刻印。魔術士の家系に代々伝わる、一子相伝の魔術式。或いは臓器のようなものであり、血族以外にはまず適合しない。故に魔術師は、親から移植された魔術刻印により先祖代々の魔術を受け継ぎ、己の代で練り上げた魔術を組み込み、そしてまた次の代へと託す。

 だからこそ、魔術刻印とはその家の当主の証でもあり、その家系の魔術師として全開の力を振るうには、必然的にこれが刻まれていなければならない。兄弟が何人いようとその家の魔術を継げるのは一人だけなのもその為だ。

 

「仇を取るならば力は必要であろう? 案ずるな、今はアーチャーなどという窮屈なクラスに押し込められているが、我こそは英雄王ギルガメッシュ。キャスターとしての現界で無くとも、我が財を用いれば刻印の移植程度数分で済む。後はお前次第だ、娘」

 

「…………」

 

 ギルガメッシュの話を聞き、凛は黙って考え込む。魔術刻印と共に当主の重責も継がねばならない事。ギルガメッシュは見ているだけで、実質己一人で戦わねばならない事。それらを承知の上で、父の仇となった璃正神父を討つだけの覚悟があるのか。……答えはすぐに出た。

 

「……お願い、ギルガメッシュ」

 

「ふむ、もう少し悩むかと思ったのだがな?」

 

 面白そうに笑みを深めながら囁くギルガメッシュに、強い意志の篭った視線を向ける。迷う事も、惑う事も無い、覚悟を決めた瞳を。

 

「私は遠坂凛、お父様の……遠坂時臣の娘、遠坂家6代目当主よ。その責任を負う覚悟なんて、今更だわ。私一人でも、戦い抜いてみせる」

 

「魔術刻印を移植する以上、令呪もお前に移す。当然、時臣の仇のみならず聖杯戦争にも参加する事になるぞ。(オレ)(オレ)で勝手にやる故、勝利を目指す必要は無いが、例え貴様が死ぬ事になろうと(オレ)は助けはせん。マスターが消えた所で、(オレ)なら何とでもなるからな。それでも―――」

 

「くどいわ、ギルガメッシュ。承知の上よ……それにね。私が当主になる以上、私はこの冬木の管理者(セカンドオーナー)。そうでなくてもこの町は、私の生まれ育った大切な場所。―――お父様がこんなになって、私は聖杯戦争ってものに心底幻滅したの」

 

「―――ほう?」

 

 興味深げに眉を吊り上げる。

 

「このままだと、私のお父様だけじゃなくて、町の人達にも犠牲が出るかもしれない。普段行くお店の店員さんや、私の学校の友達、私の知らない人達だって……きっとこの町に、冬木に住む人達にとって、聖杯戦争は良くないモノ。だから、決めたわ。私は皆の為に、私の代で、()()()()()()()()()()!! ……ご先祖様やお父様には悪いけど」

 

「クク、フ……ハハハハ! よくも大言を吐いたものよ! だが良い、許す! 妄念を夢と履き違えるのも子供の特権よ!」

 

 凛の宣言に、呵呵大笑して機嫌を良くするギルガメッシュ。楽しそうで何よりだが、笑われた凛としては恥ずかしいやら何やらで、居心地が悪い事この上無い。

 確かに子供の発想そのもので、幼稚且つ未熟な理想論ではあるが、本人にしてみれば悩みに悩んだ末の結論なのだ。笑われて気分が良い筈も無かった。

 

「い、いいから早くしなさいよ!?」

 

「ハハ、そうむくれるな! ……やはり貴様をマスターにした方が、時臣なんかより何倍も楽しめそうだ。召喚された時は、つまらん戦になりそうだと溜息を吐いたものだが……ウム、悪くない」

 

 そう呟き、魔術刻印を移植する為の準備をしながら、ちらりと未だ倒れ臥す時臣に目を向ける。

 

 

 ―――凛はうっかり失念しているが。時臣は、死んだ訳では無い。というか、命に別条は無いので、治療を受ければ普通に目覚める。

 

(にもかかわらず、娘に魔術刻印を奪われ。目が覚めれば当主の座も戦争への参加権も失い、挙句に当の娘は一族の悲願を否定し戦争の終焉を望む始末。盤石な勝利の布陣を整えていた筈が急転直下絶望の淵……ククク、時臣の反応が楽しみだ。愉悦愉悦)

 

 着々と進む刻印の移植。フンスと意気込む幼女を尻目に、時臣の(哀れな)未来へ思いを馳せる英雄王。生粋の聖杯戦争エンジョイ勢である。

 苦悶の表情を浮かべて気絶している時臣だが、何も知らずに眠っていられる今が一番幸せなのかもしれなかった。

 

 

 

 ―――遠坂家6代目当主『あかいこあくま』遠坂凛、参戦。

 

 

 

   ※   ※   ※

 

 

 

 魔術師達の学び舎『時計塔』の一学生であったウェイバー・ベルベットは、自分の書いた論文を酷評した師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを見返す為に、彼の後追いで聖杯戦争への参加を決意した。

 師が英霊召喚の為に用意した聖遺物を盗み、単身日本へ渡航して、まず真っ先に召喚を行い―――無事に『征服王』イスカンダルを呼び出す事に成功。その豪放磊落過ぎる性格は少々心配だが、強力なサーヴァントである事に疑いは無い。

 それはそうと、大事なのは拠点の確保である。衝動的というか突発的というか、とにかく後先考えずに参戦してしまったウェイバーに、事前の準備など無い。よって、戦争中の滞在拠点は魔術工房でも何でもない、市街地の民家の一つに居候する事になった。

 

 選んだのは冬木市深山町の一軒家に住むカナダ人、マッケンジー夫妻の家。二人暮らしの外国人老夫婦なので、ウェイバーが紛れ込んでも周辺住人は親戚か何かと思ってくれるだろう。

 早速ウェイバーはマッケンジー夫婦に対し催眠の魔術を掛け、自分の事を『海外遊学から帰って来た彼らの孫』だと思い込ませた。

 

 

 

 

 

「なぁ、ウェイバー……お前さん、儂らの孫ではないね?」

 

「いや早い早い早い早い!!??」

 

 2秒で催眠は破られた。恐らく最速記録である。

 狼狽するウェイバーとは対照的に、目の前の老爺グレン・マッケンジーは落ち着き払って彼を宥めた。その隣では、妻のマーサが「あらあら、最近の若い子はヤンチャさんなんですねぇ」なんて微笑んでいる。

 

「にしてもお前さん、ウェイバー……あー、ベルベット、だったか。今のは何じゃの、催眠術か何かか。一瞬お前さんの事が孫に思えたが、いやはやとんでもない術もあったもんじゃのう」

 

「いやいやいやいや!! それで済む訳無いだろっ!? いくら僕が三流魔術師だからって催眠魔術がこんなにすぐ解ける筈が―――って誰が三流だコノヤローーー!! 畜生っ、バカにしやがってクソックソッ……」

 

 自分で勝手に自爆してるが、彼も混乱してるのである。温かく見守ろう。

 

 

「しかしウェイバーや、今のみたいな術を使えるってこた、お前さん……()()()なんじゃろ? やっぱアレか、()()()()に参加するのか?」

 

「なッ……!? なんでこんな民家の爺さんが聖杯戦争の事をっ、まさか魔術師!?」

 

「いやいや、儂らは魔術なんぞとは縁もゆかりも無い一般人じゃて」

 

 驚愕に次ぐ驚愕で身を強張らせるウェイバーに苦笑しながらも、グレンは柔らかく語りかける。

 

「とはいえまぁ、聖杯戦争の方には縁があるなぁ。な、婆さんや」

 

「ええもぅ、懐かしいわねぇ。もう60年前かしら。アナタと出会ったのもあの戦いでしたっけねぇ。あの時は敵同士でしたけど、教会前での殺し合いも今となっては良い思い出ですものねぇ」

 

「えっ、……え? つまり、えっ……だ、『第三次の生き残りィ』!?」

 

 信じられない、と言わんばかりに目を剥き叫ぶウェイバー。その反応にもまた、夫婦揃って苦笑するばかりである。

 

 ―――その時であった。ふと気配を感じて振り向くと、いつの間にか隣に一人の大男が立っている事に気付く。見間違う筈も無い、その男こそ誰あろう征服王イスカンダル。彼が召喚したサーヴァントであり、生前は史上最大版図となる国家を築き上げた大王。その彼が、霊体化を解いて出現したのだ。

 

「なっ、なんで出てきたんだよ!? 騒ぎになるから暫く霊体化してろって言ったじゃないかぁ!!」

 

「おお、そうだったな。いやスマン、そこな老人に用が出来たもんでな、ついうっかり出てきちまった。まぁ坊主の思惑も上手く行かんかったようだし、今更だろう?」

 

「い、今更って……! そりゃ、催眠は失敗だったけど……」

 

「で、だ。ご老体よ」

 

 ブツブツと文句を重ねるウェイバーを置いて、イスカンダルは一歩前に歩み出る。

 

「おお、あんた、サーヴァントかね。前の戦いでも色んなサーヴァントがおったが、あんたはまた随分強そうじゃな。なんというか、『覇気』が違う。どこの英雄か知らんがの、生前は王様か何かやってたんじゃあ無いかな?」

 

「ふむ、やはり只の老人では無かったか。見ろ坊主、余の正体を一目で感じ取りおったぞ。―――では、御免!」

 

「―――なっ、ちょ、ライダー!?」

 

 会話もそこそこに、突如剣を抜き斬りかかるライダー・イスカンダル。丸太のような豪腕から放たれた一直線の剣撃は、刹那の逡巡も許さずグレンの脳天に向かい―――

 

 ―――寸前で、ピタリと止まった。イスカンダルが止めたのでは無い。半歩だけ体を前にずらしたグレンがその右腕を上げて、剣を構えるイスカンダルの手を抑えたのだ。

 剣が止まっている今も、イスカンダルはサーヴァントとしての人外の膂力で押し込もうとしているが、ピクリとも動かない。グレンの腕力は、イスカンダルのそれと完全に拮抗していた。

 無言で睨み合う二人の間の緊迫した空気に、ウェイバーは息を呑み、マーサはニコニコと微笑んでいる。

 

 どれだけの時間が経っただろうか。やがてイスカンダルはニヤリと笑うと剣を納め、同時にグレンも手を放して軽く肩を回す。少しだけ疲れた様子だが、逆に言うとそれだけである。

 

「やれやれ、久しぶりだと老骨には堪えますな。……それで、御満足頂けたかな? ライダーさんや」

 

「おうとも、いや素晴らしい武人だ! 戯れの一撃如き通じないとは思ってたが、まさか真正面から押し返されるとは思わなんだ! そっちの、婆さんの方も只者では無いんだろう? 全く、戦争前に幸先の良い掘り出しもんだわい!」

 

「……は? 掘り出しもの? お前何を……待て、今何があったんだよライダー! いや見てたけど! 理解が追い付かないって言うか……ああもう、つまりどういう事なんだよっ!?」

 

 完全に置いてけぼりのウェイバーに向き直り、破顔しながら征服王が言うことには。

 

「決めたぞ坊主、余はこの夫婦を臣下とする!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!?」

 

 と、そういうことであった。

 

 

 

「待て待て待て待て、もうどこからツッコんだらいいのか……ああもう、そもそもだよ、急に臣下つったってなぁ、相手が認める訳無いだろ!?」

 

 

「や、儂らは構わんよ。なあ婆さんや」

 

「そうですねぇ、私も構いませんよ。これからよろしくね、ウェイバーちゃん」

 

「な・ん・で! そうなるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 みっともなく喚くウェイバーだが、さもありなん。彼からすればマッケンジー夫妻は『見も知らない若造に急に押しかけられ催眠されかけた上、そのサーヴァントにいきなり斬りかかられたにもかかわらず、勝手にそのサーヴァントの部下にされた挙句危険な戦争への参加を強要されても拒絶どころか受け入れる変人達』である。そりゃあ意味分からんし、お人好しを越えて摩訶不思議である。

 とはいえ、マッケンジー夫妻にも一応の言い分はあるようで。

 

「いやな、儂らは前回も一般人として聖杯戦争に巻き込まれた訳なんだが。前はほら、さぁこれからだって所で小聖杯たらが壊れたってんで、消化不良のまま終わっちまっただろう? 決着を付けられんかったのがどうにも心残りでな」

 

「前回はサーヴァントの皆さんも、私らが殺す前に座に帰っちゃいましたからねぇ。私達が冬木に移り住んだのも、次の戦争に参加して今度こそ最後まで戦う為ですし」

 

「だからなウェイバーや、お前さんは何も気に病む事は無いぞ。儂らの事なら遠慮無く使ってくれ。ま、傭兵みたいなもんじゃな」

 

「坊主、ご夫婦はこう言っとるんだ、別にいいじゃ無いか! よぉし、今より其方らは余の食客だ! 無事聖杯戦争を勝ち抜き余が世界を征した暁には、好きなだけ褒賞をやるぞ!!」

 

「おやおやライダーさん、私らみたいな老人にはそんな大層なご褒美なんて勿体ないですよ。……でも世界征服は魅力的ですねぇ。私達の力が世界にどこまで通用するか、聖杯戦争の後の『お楽しみ』ができちゃったわねぇ♪」

 

 

(どうしよう、もう収拾が付かないぞコレ)

 

 ワッハッハ、と豪放に笑い合うイスカンダルとグレン爺さん。その隣ではマーサ婆さんがニコニコ笑顔でトチ狂った事を宣っている。

 この場に残された唯一の『一般人』であるウェイバー(魔術師)は、キリキリと胃が痛むのを感じながらも思う。―――聖杯戦争なんて、勢いだけで参加するもんじゃ無いな、と。……今更手遅れであるが。

 

 

 

 ―――冬木市深山町在住『第三次聖杯戦争の生き残り』マッケンジー夫妻、参戦。




はい、大体こんな感じでお送りして行きます第四次聖杯戦争。
どちらかってーとGガンダムとかGロボとかのノリで眺めてくれるとありがたい。

じゃ、また来年あたりに次話投稿すると思うんで。
その後は未定。続くといいね。


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