オーバーロード~死の支配者と始祖の吸血鬼~ (魔女っ子アルト姫)
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終わりの始まり

連日の出張に加えて接待に次ぐ接待。好い加減に表情筋が攣りそうになっているのを感じつつも自宅のドアのキーを回して中へと入る。自分を出迎えてくれる家族などいないが家に入れただけで気分が安らぐのだから、我が家というのは素晴らしいと思うのであった。鉛のように体にへばり付くスーツを脱ぎ捨てながら、カバンを放り投げて座り込む。下着だけという自堕落な格好だがそれだけ疲れているんだからいいだろっと黙殺する。

 

「ぁぁぁっっっ……漸く帰ってこれた……。あのくそ社長、死ねよ」

 

と思わずそんな愚痴がこぼれる。元々自分は愛想の良い方ではないし誰かと話すのは好きだが自分で話題を振ったりするのは苦手なのだ。それなのになんで富裕層のお偉いさん方の機嫌取りなんざしなければならないのだ。それでも仕事に必要だからと努力したお陰で妙に気に入られてしまって出張期間が大幅に増えた上にブクブクに太ったマダム(ババア)に擦り寄られてどれだけ大変だったか……自分の至福の時間ともいえるゲームすらまともに出来ず、毎日毎日豪華な食事と絢爛豪華な娯楽にお偉いさんと興じなくてはならない。もはや地獄のそれと同じだ。

 

「あっそっか、プライベート用の事完全に忘れてたんだったんな……」

 

ベッドに腰かけていると不意に視線を巡らせた時に目に入った携帯端末。仕事用とプライベート用に分けている、仕事に行っていたのだから持っていかないのは当然とも思えるが自分にとっては大切な友人達との絆の橋渡しをしてくれるものを忘れるのは流石に皆に失礼だったなと思いながらそれを手に取ってホーム画面を開くと通知来ていることに気づいた。

 

「これは―――モモンガさんからか、何々……?」

 

大切な友人であり自分が所属している組織の盟友である人物からのメールに気づいてそれを見てみる。それを見ると顔を青くしながら身体にあった鉛のような疲労など忘れて飛び上がってPCを起動させてダイブマシンを起動させていく。

 

「ええい早くしろ日本製め!!」

 

 

「またどこかで会いましょう」

 

そう言って来てくれたギルドのメンバーの一人が退出、いやログアウトしていった。致し方ないのだろう、残業で身体がボロボロで時間の感覚すらおかしくなっていると言っていた。それならば自分の体を優先して貰うのが当然なのかもしれないが一緒にいてほしいという思いがあったのか、ログアウトして既にいない場所に向けて手を伸ばしてしまった。未練がましいと思いつつも手を戻す。このサービス終了、ユグドラシル終焉の日に来てくれただけでも感謝しなければならない。むしろ孤独に最後を終えることを覚悟していた身としては話せただけ嬉しさがあった。

 

「また、何処かで会いましょうか……どこで会うっていうんだよ、くそ……ふざけるなぁ!!」

 

分かっている。彼、ヘロヘロさんが悪意などもなく本当に再会を願っての言葉だというのは理解しているがそれでも嫌だった。この場所は自分たち、ギルドメンバーが作り上げた場所なのに何でそんな簡単に投げ捨てられるんだと憤慨してしまう。そんな激怒さえも分かっている、こんな虚構だらけの世界ではなく現実を優先するべきだろ言う事は。そんな時の事だった。

 

 

―――アーカードさんがログインしました。

 

 

「えっ」

「久しいな我が友よ」

 

ヘロヘロと入れ替わるかのように登場したのは一言で言うならば色気のある美青年だった。艶やかな髪に白蝋かのような白く透き通りそうな肌、鮮やかで宝石などよりも何倍も美しい赤いロングコートに赤いテンガロンハット、そして愛用のサングラスを掛けている男が優しい声色で慈しむように呟いた。そんな言葉に思わず腰を浮かせながらこう言った。

 

「来て、くれたんですねアーカードさん……」

「勿論だ。まあ君からの通知は先程確認して大急ぎで来たのだがね、無様な私を笑ってくれたまえ」

「笑ったりなんかしませんよ、本当に来てくれてありがとうございます」

 

心からの感謝と感情をむき出しにするかのようにしながら言葉を述べるのは様々な装飾品や禍々しくも見えるローブを纏う骸骨、死の支配者(オーバーロード)にして大切な友人であるこのギルド、<アインズ・ウール・ゴウン>のギルドの長のモモンガは、彼との再会を始祖の吸血鬼(オリジン・ヴァンパイア)であるアーカードも心から喜んでいる。

 

「本当に、お久しぶりです。もう療養はいいんですか、確か心臓の病気でしたよね」

「ああっそれについては問題ない。3度の手術で漸く完治したよ、どれも10時間超えの大手術だったがな」

「うわぁっ……」

 

元々アーカードというプレイヤーはこのギルドから脱退していた。その理由が心臓の重い病気が判明し病気の治療と療養に専念しなければならない上にユグドラシルのようなゲームでは心臓に負担がかかるからと完治するまでやってはいけないと医者に言われてしまったからだ。それを聞いた時、病気の事以上に絶望したアーカード。だが彼はメンバーから治療を受けてまた一緒に遊ぼうという言葉に押されて治療に勤しむ為にギルドを一時的に脱退した。

 

「あの時は本当に苦渋の決断だった、だが皆が背中を押してくれたお陰で今私は生きている」

「当然ですよ。確かに会えないのは寂しいですけど、それでも生きていてほしいですからね」

「死の支配者とは思えない程に優しい言葉だな」

「ちょっとやめてくださいよ~」

 

そして手術を何度も受け、術後の経過も良好で数年の月日をかけて漸く完治したのだがそんな時間脱退した自分が顔を出していいのかという不安もあった為に中々ログイン出来なかった。だが今日、ユグドラシルのサービス終了時にみんなで集まりませんかというモモンガからのメールを受けて決意を固め、こうしてやって来たのであった。

 

「折角だ我が友よ、王座の間で最後の時を共に迎えるというのはどうだ。このギルドで華々しい最後に相応しい場だと思うが」

「成程流石アーカードさん。それじゃあこれも持っていきますか」

「ああっ我がギルドの象徴(シンボル)だ」

 

二人が目を向ける先には一本のスタッフがある。数匹の蛇が絡み合いながらもそれぞれが違った色の宝石を加える黄金の錫杖、<アインズ・ウール・ゴウン>の象徴たるギルド武器。このギルドがギルドたらしめる誇り高き証明をギルド長のモモンガが手に取る。この武器を作る為にメンバーで様々なことをした、くだらない話をしたり真剣に会議をしたこともあった。そんな沢山の思い出と共にある象徴と共に二人は王座の間へと向かう。途中NPCのメイドたちや執事も仕事をさせるべきだなと同行させ、王座の間へと着く。ギルド長であるモモンガがその玉座に腰を下ろし、アーカードはその隣に立つ。

 

「折角ですからアーカードさんも一度座ってみませんか?」

「いや遠慮しておくよ。それは君が正式にギルド長である証なのだからな、私が座るには荷が重すぎる」

「そうですかね。それにしてもそろそろフラットな感じでもいいんですよ?ロールプレイしなくても」

「あっマジで?」

「マジです」

 

そんな言葉のやり取りの直後にアーカードは深いため息をしながら、首を鳴らすかのようにしながら草臥れたかのような声を出す。

 

「いやぁロールプレイガチ勢としてはしっかりしておいたほうがいいかなと思って」

「俺もアーカードさんの見てあっカッコいいなと思って始めましたからね」

「嬉しい事を言ってくれるなぁ~……にしても、NPC達もよくぞ今日までここを守ってくれましたね」

「そうですね、本当に」

 

セバス・チャン、ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、シズ・デルタ、ソリュシャン・イプシロン、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。今この玉座にいる彼らには感謝しなければいけないかもしれない、言わば彼はプログラムでしかないのだがそれでも愛着は沸く。そして玉座の傍に使えるのは、このギルドの本拠地である<ナザリック地下大墳墓>を守護する守護者達の統括であるNPCのアルベドが控えている。

 

「結局ここまで攻めこんでくるプレイヤー居ませんでしたね」

「だな……そういえばアルベドをセッティングしたのってタブラさんだったっけ」

「ええそうですね。あの設定魔の」

「なんか気になりません?」

「なりますね」

 

という事で二人はアルベドの設定を見ることにした。あの設定魔が作ったんだからさぞかし凄い設定なんだろうなぁと思って覗くのだが、見た瞬間に軽く後悔するのであった。途中アルベドが何故か世界級アイテムの一つを所持していたりするのだが、それ以上に設定を開いた瞬間に情報が洪水のごとく溢れ出してくる物に圧倒された。

 

「「ながっ」」

「どんだけ書き込んでるんだこれ……うわっ文字数限界じゃないかこれ」

「流石タブラさん……というかあの人なんで勝手に持たせてるんですかね。しかもこれアーカードさんも一緒に取った奴じゃないですか」

「あ~……タブラさん的には、最後に娘にこの位してあげてもいいかなって気持ちだったんじゃないんですかね」

「まあ余り責める気はないですけど……」

 

気持ちは分からなくもないとも思う。NPCはこのギルドに所属しているプレイヤーが作り上げた存在達、言い換えれば子供のような存在。そんな子供に最後ぐらい持たせてもいいだろうというのは理解出来なくもない。そんな思いで余りにも膨大な設定を読み進めていくと最後に【因みにビッチである。】というのを見つける。

 

「ビッチって……まあサキュバスだし分からなくもない……のか?」

「いやでも守護者統括としてこれは……」

「ギル長特権で書き換えしちゃえば?最終日だし勝手に持ち出した罰って事にすればあの人も文句はないだろ」

「う~ん……まあそういう事にしておきますか」

 

アーカードに言われてその一文を消す。しかしこのままでは収まりも悪いかと思い何か入れるべきかと思ったモモンガは少し悩む。一瞬自分を愛しているという一文を思いつくがアーカードが居るのにそんな事は出来ないと踏み止まると一部を変えてこう入力してみた。【ギルメンを愛している。】

 

「なんだてっきりモモンガを愛している。っていれるのかと」

「何でバレたんですか!!?」

「男なら一度は思う。こんなスタイル抜群な美女に愛されたいと」

「そ、そりゃ思いますけど……アーカードさんもいるのに流石に出来ませんよ。それにこれならアーカードさんも愛されるんですから本望じゃないですか」

「おっとこれは一本取られたな」

 

思わず笑いあう。本当に二人は気心知れた友人同士なのだ、それ故にアーカードが脱退する時にモモンガは本当に悲しんでいた。だからこうしてまた話しあえるというのは嬉しい。だがそれも間もなく終わる、サーバーダウンが行われる午前0時が迫ってきている。

 

「アーカードさん、今日は本当に有難う御座いました。今日という日を俺は忘れません」

「俺だって忘れないさ。そうだモモンガさん、これ俺のメアドだから今度リアルで会おうよ。飯でも奢るから一緒に出掛けようぜ」

「良いですねぇ」

 

そんな風な会話をしながらも最後は互いに感謝と敬意をこめて挨拶をした後に静かに目を閉じながら終わりの時を待つ。今度は現実の世界で会う事を決めながら―――

 

そして一つの世界が終わり、新しい冒険の扉が開く。



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困惑

視界に広がっていたシステム情報内には時刻もあった、それがユグドラシルのサービス終了である0時を告げた。瞳を閉じて一つの世界の終わりを待っていたモモンガとアーカード。だが再び瞳を開けた時、待っていたのは未だ変わらずに死の支配者と始祖の吸血鬼の姿をしているお互いの姿であった。

 

「……あれ、アーカードさんそこにいます、よね?」

「あ、ああいるぞ。これってダウンが延期になったのか?」

「いえでもそんな通知は一切来てませんよ」

 

サーバーダウンによる強制排出が行われる様子が全くない。お互いが未だにプレイヤーとしての姿をしているうえで意識があるのが良い証拠となっている。ダウンのロスタイムか、それとも何か好ましくない問題が発生した事によるサーバーダウンの延期なのだろうかと思考が巡っていく。

 

「な、なぁモモンガさん大変だ俺の奴壊れたかもしれん。コンソールが開かない」

「えっマジですか!?んじゃ俺が……って俺のも開かない!?」

「他の機能も通じないっって如何なって―――」

 

二人して何とか状況の確認のために出来るだけの手立てを打とうとするのだが何の感触もなく焦燥が生まれていく。一体何が起きているのか全くもって把握が出来ない。必死に手を動かしても虚空を掴むだけで何も応えない。この状況を何とかしようとする中でそれを邪魔する物があった、いや正確には歓喜に震え咽び泣く声だ。

 

「ア、アーカード様!よ、よくぞご帰還していただけましたっ……!!」

「「えっ」」

 

その声に思わず視線を送るとそこには跪いたままの体勢でこちらに顔を向けながら、歓喜に溢れている声と感涙を流しているアルベドの姿がある。あり得ないという思考が二人に巡る、彼女はNPCだ。言うなればプログラム通りの行動しか出来ないしそれ以外の行動なんて失敗する。RPGの村の中にいる村人が自発的に外に出て行動するかのような出来事に言葉を失う。夢で見ているかのような不思議な感覚だ、しかしこのまま美女が泣いているのを放置するのもダメだろうと思ってアーカードは言葉を必死に紡ぐ、ロールプレイガチ勢としての能力をフル活用しながら。

 

「アルベド、如何やらお前には深い心配を掛けてしまったようだな。止むを得ない状況だったとはいえ済まなかったな」

「とんでもございません!!至高の方々が去っていかれたのは私などでは理解出来ないような深いお考えがあったが故。それならばアーカード様が私などに謝罪することなどありません!」

「これはケジメだ、私はここを離れてしまった。お前が私の事を思っているのであれば私の謝罪を受け入れて欲しいのだ」

「な、なんと慈悲深く勿体ないお言葉……!!この守護者統括アルベド、心してお受けさせて頂きますっ……!!」

 

更に歓喜の涙を流しながら頭を下げるアルベドにアーカードは乗り切ったと思いつつもこの状況は明らかに可笑しすぎるという事を理解する。確かに自由度が売りでもあったユグドラシルだったがここまでの自由度なんてない、これではまるで……彼女が生きているようではないか!?アーカードが自分の考えに驚きを感じていると途端に感情が静まっていき平常心に近い状態へと戻った。

 

「(あ、あれ?)」

「アルベドよ、お前がアーカードさんの帰還を喜ぶ気持ちは良く理解出来る。だが今はその帰還を喜ぶ前よりもやるべき事がある」

「はっモモンガ様、なんなりとご命じください!」

「うむっでは1時間後に守護者を第六層の闘技場に集めよ。そしてセバス、お前はプレアデスを連れてナザリック地下大墳墓を出て周囲を探索せよ。時間は1時間、そして範囲は周囲1キロとする」

「承知致しましたモモンガ様」

「アルベド、アーカードさんの事はまだ伏せておけ。重要な知らせがあると言って招集するのだ」

「承知致しましたモモンガ様」

 

アーカードの目の前でテキパキした指示を出しながらもまるで魔王であるかのような口調と威厳のある姿を見せるモモンガ。そう自分に影響されてロールプレイに力を入れるようになったモモンガのスタイル。その指示に従ってアルベドやセバスやメイドたちが玉座の間から退出していく中でモモンガは身体から力を抜いて玉座に溶けるかのように座り込む。

 

「はぁっ~……」

「モモンガさん、凄い堂に入ってたぞ魔王っぽいロール」

「なんだかそこまで焦りや緊張がなくて……何か一定以上の感情の揺れがあると、それが強制的に抑えられているような感じがするんですよ」

「アンデッドって種族の関係かな、俺もそんな感じがしたよ。精神状態異常が利かないとかの関係か」

「恐らくは」

 

自分がプレイヤーキャラクターとして設定している種族などの特性が反映されているとも取れる状況と事象、益々これが夢だと思いたくなってくるのだが……二人同時に同じ夢を見ているとも考えにくい。

 

「もしかして俺達……ゲームの世界に取り残されたとか、そういう感じなのか……?」

「そんなひと昔のネット小説じゃあるまいし……」

「だけど説明がつかないぞこれ……だけどそうなるとモモンガさん、あれは正解だったかもしれないぞ」

 

アーカードの言葉に思わず何がですかと聞き返す、それはアルベドのビッチ設定をギルメンを愛している設定に変えたことであった。

 

「さっきのアルベドの話だとゲームにログインしていなかったメンバー、いや引退していたメンバーは去ったって認識されてるみたいだ。彼女は生きていると仮定する、それは親がいきなり居なくなったってことにならないか?」

「……確かにそうですね、そうなると俺は大丈夫だとしてアーカードさんって大丈夫ですかね……NPC作ってましたよね、しかも一人は愛が重い系じゃありませんでしたっけ」

「……よしログアウトしよう」

「だから出来ないんですって!!」

 

一先ずそれは置いて置く事にしてアーカードは続ける。少なくともアルベドは自分が帰ってきた事を喜んでくれていた、即ち彼女は自分を好意的に思ってくれている。ギルメンを愛しているという設定故か、自分達の味方であると考える事が出来る。

 

「兎に角、先ずは闘技場に行きましょう。今出来る事をしていってから考えましょう」

「でも闘技場でやることって……あっもしかしてスキルとか魔法とかか」

「はいっ今の俺達でも出来るのかどうかを試しておかないと」

「……でもさ、俺の武器って確か宝物庫になかったっけ」

「あっ」

 

そう、アーカードは治療のためにユグドラシルを辞める時に必ず戻るという願掛けにと愛用の武器をモモンガに預けていたのである。その武器は何時でも帰ってきてもいいようにモモンガが宝物庫に厳重に保管している。この意味不明な状況ならば武器は取りに行くべきなのだろうが……モモンガとしては出来れば宝物庫に行く事は避けたい。何故なれば、あそこには彼の自走式黒歴史がいるのだから。

 

「ま、まあ何かあっても俺がアーカードさんを守りますから!!この<スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>もありますし!!」

「……ごめん頼むわ」



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双子と吸血鬼

「よし、指輪による転移は問題なく作動してますね」

「基本的にユグドラシルと同じと考えても悪くなさそうだな。そのあとは要検証と検討と言った所か、やれやれ未知の探求と検証ってビギナー時代を思い出すねぇ」

「全くです」

 

<リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>。ギルドメンバーの指に嵌められている指輪であり、彼らの絆の印でもありギルドの証明でもある。これを用いればナザリック地下大墳墓内で名前のついている部屋であれば自由に転移することが可能になる。指輪の力の行使はユグドラシル時代から何度も使っているが、この理解不能な状況下で無事に作動してくれるかは不安が付き纏っていたのだが無事に転移が成功したようで安心した。二人がともに転移したのはナザリック地下大墳墓の第六層、円形闘技場(コロッセウム)がある階層。ここで階層守護者達と待ち合わせしているのだが矢張り早く来すぎてしまったらしい、未だ誰もいない。

 

「とあぁっ!!ブイブイッ!!」

 

そんな二人を出迎えるかのように一人の幼い少女が舞い降りてくる。飛び降りたにも拘らず重さのない羽根のような軽やかな着地に魔法は感じさせない、肉体の技巧のみというのに驚かされる。着地してVサインを浮かべるのだったが逆に今度は彼女自身が驚愕に目を見開いていた。

 

「アッアアアッアーカード様ぁぁぁぁあああっっっ!!?」

 

そんな彼女も驚きながらも必死に自分を抑えつけながらダッシュでモモンガとアーカードの元へと駆けていくとすさまじい速度で跪いてみせる。まるで自らの感情を表現するかのようだ。

 

「アーカード様っお帰りなさいませっ!!再び御逢い出来た事を心から喜ばしく思います!!」

「お前も元気そうで何よりだアウラ。長らく心配を掛けたな、すまない」

「アーカード様が謝る事など何もありません!!私は、再びアーカード様と御逢い出来た事が嬉しいんです」

 

と敬意と喜びを示すように頭を下げながら述べるアウラにモモンガはあることを思い出した。アーカードはこの階層を守護するNPCを作った【ぶくぶく茶釜】と仲が良かったっというよりも彼はギルドメンバーほぼ全員と仲が良かった。唯一仲が良くなかったのは【るし☆ふぁー】位だろう、まあ彼に関してはモモンガもあんまり好きではないが……。

 

「私もだ。またお前に会えた事を嬉しく思う」

「うううっそう言って頂けるなんてとても光栄です……」

「所でアウラ、マーレの姿が見えないようだが……」

 

モモンガがそういうとアウラが若干怒りながら振り向き自分が飛び降りた高台に向けて声を出す。そこにはもう一人の階層守護者が居るのだが、何か事情がおりてこないようだ。

 

「マーレ何やってるの!!?早く降りてきなさいよぉ~!!」

「無、無理だよぉおねえちゃん……」

「アンタねぇ、折角モモンガ様とアーカード様がいらっしゃってるのよ!?失礼だから今すぐに来なさい!!」

 

そんな強気の声に押されているのか漸くもう一つの影が降りてきた。降りてきたのは杖を持った少女……に見えるのだが実際は少年でありアウラの双子の弟であるマーレである。この二人は酷く対照的というか、アウラは男の子っぽい服装、マーレは女の子っぽい服装をしているというかマーレに至ってはスカートまで履いてるので見た目は完全に少女である。だが男だ。

 

「お、お待たせして申し訳ありませんモモンガ様、アーカード様」

「何気にしてなどいないさ。それにしても……いやなんでもない」

『アーカードさん、今絶対茶釜さんの事思いましたよね』

『……本当にあの姉弟の闇って深いな』

 

と内心で二人を生み出したプレイヤーであり人気声優でもあるぶくぶく茶釜に若干の頭痛を覚えるのであった。

 

「ここに来たのは少しの実験の為だ」

「了解しました!あ、あのモモンガ様がお持ちになっているそれって、伝説のアレですよね!?」

「ああ。これぞ我がギルドの誇る最高位のギルド武器<スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>」

 

高らかにスタッフを掲げながら自慢するかのようにやや早口で語っていくモモンガにアーカードは慈しみを込めた視線を送る。確かにそれは自分たちギルドメンバーが様々な物を費やして完成させたギルド武器、誇り高く思って当然ともいえる。語っていたモモンガは暖かい視線を送られている事に気づいたのか咳払いをしてそれを中断し実験を開始すると通告する。アウラとマーレは標的でもある人形を引っ張り出してそれを設置する。それらを魔法で焼き払い、次に火の精霊を召喚などしているのをアーカードはそれを興味深そうに見学しながら自らの中に意識を向けてスキルなどを確認してみる。使用可能なスキルはすべて把握し体内の魔力まで把握出来た。

 

「アーカードさんは如何しますか、模擬戦するなら何か召喚しますけど……」

「いや俺は基本的に武器を使うからな。今それは宝物庫だ、また今度にしよう」

「あっそうでしたね、あ、あの……宝物庫って俺も一緒に行った方がいいですかね」

 

と召喚した精霊とアウラとマーレが戦っている間に二人は会話をする。そんな中でモモンガはアーカードの武器についてどうするかを聞いた。彼としては絶対に行きたくはないのだろう、だがアーカードの安全を考えると一緒に行った方が良いだろうというのも理解しているので苦悩している。

 

「……できれば来て欲しいですけど、多分大丈夫でしょう。俺のスキルは防御系が多いですし何かあっても生き残る可能性は凄い高いです」

「ああっそういえばアーカードさんってタンク系でしたもんね」

 

アーカードは基本的に誰かの盾となるラインを構築し、そのラインを長時間維持し続けている間に後方から相手を殲滅してもらうというのが得意な戦術だった。それも彼が保有しているスキルに回復や防御系のスキルが豊富なのも言える。全盛期にはたった一人で数百人の敵を引き続けた上に全てを全滅させるという事も達成している。味方としては頼もしいが敵になると酷く厄介なタイプなのである。

 

「俺が攻撃全部受けてその間にたっち・みーさんが切り込むとかもあったなぁ」

「懐かしいですね、敵から泣きが入る位に不死身でしたもんねアーカードさん」

 

そんな話をしている間に精霊が双子に倒されていた。流石レベル100のNPCでこの階層の守護を担当しているだけはあると感心する。それでも本来の戦い方からすれば大分手加減しているような戦いなので、実際はこれ以上というのだから頼もしい。それに拍手を送る。

 

「見事な戦いぶりだ。流石だなアウラとマーレ、ぶくぶく茶釜さんも鼻が高い事だろう」

「えへへへっそうでしょうかぁ~」

「ア、アーカード様にそう言われると照れちゃいますよぉ~」

 

嬉しさのあまりに身を嬉しさで捩っている二人は本当に幼い子供のように見える。実際に二人はダークエルフという種族で長命として有名なエルフとしては70代である二人はまだまだ子供の範疇になる。しかし本当に愛らしい姿だ、仲良し姉妹にしか見えない……だが、マーレは男だ。そんな中で闘技場内の空間の一部が歪み始めていく。そこから一つの影が入ってくる。

 

「おやぁっ私が一番でありんす、かっ……」

 

闘技場へと表れた小柄の少女は思わず言葉を止めながら手に持っていた傘を落とした。絶世という言葉が似合うほどの美しさを持つ少女はアーカードと同じように酷く肌が白い、そんな彼女はモモンガの隣に立つアーカードを見た瞬間に言葉を失っていた。そしてアウラとマーレも顔負けな速度で駆けていく、その際に胸が不自然な動きをしながら何やらズレているのだがそんな事なんて気にせずに跪いて言葉を出す。

 

「アーカード様御戻りになって下さったのですね!!?」

「ああっ元気そうで何よりだな……心配を掛けた」

「何を仰いますか!?始祖の吸血鬼たるアーカード様からそのようなお言葉を掛けて頂くなんて畏れ多くございます!ですが……私は、嬉しく思います……心より、そう思います……」

 

そう言いながら大粒の涙を流している少女、彼女はナザリック地下大墳墓 第一~第三階層守護者を務めている真祖の吸血鬼であるシャルティア・ブラッドフォールン。始祖であるアーカードには大きな感情を向けているのだろう。アーカードは自分が居なかったせいでこんな美少女を泣かせてしまった事を深く悔いながら、涙を流したまま跪く彼女を軽く抱きしめる。

 

「ア、アーカード様!?」

「すまなかった、すまなかったなシャルティア……だがもう安心してくれ、私はもうナザリックからいなくならない。もう何処にも行かないさ……」

「ぁぁっ……アーカード様……」

 

その言葉に深い安心感を覚えたシャルティアは涙を流すことをやめてアーカードに抱きしめられることを満喫しつつ至福に包まれていた。それをアウラとマーレは何処か羨ましく思いながら見つめて、モモンガはそれを見て自分が作ったNPCにもこんな思いを抱かせているかもしれないのだから会いに行った方が良いのか、と思うのであった。

 

この後、シャルティアがアーカードから名残惜しそうに離れた際にアウラから胸がズレていると言われて慌てて物陰に隠れつつそれを直して戻ってきてからアウラと軽い喧嘩を始めるのだが、それはまた別の話。




オーバーロードを見て思った事、あの姉弟の闇はマジで深い。


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守護者と領域守護者

「久しいなコキュートス、デミウルゴス。こうして会えた事に感謝しよう」

「勿体無キオ言葉ニ御座イマスアーカード様……!!」

「我らこそ至高の御方のお一人で在らせられるアーカード様のご帰還を心よりお喜び申し上げます……!!」

 

アーカードの前に膝をつき言葉を漏らす階層守護者。2.5メートルはあるだろう巨体の偉丈夫の蟲王(ヴァーミンロード)、コキュートス。一見はスーツを纏った人間のようだが飛び出している異形の尾とその余りにも落ち着きが様になりすぎている悪魔のデミウルゴス。かの二人もアーカードが戻って来た事に対して多大なる喜びを露わにしている。そして此処に第四階層と第八階層を除く階層守護者が揃った事になる。

 

「では皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

合図に守護者たちが一斉に頷き、瞬時に隊列を整える。守護者統括が前に、他の守護者は二、三歩下がった位置に横一列に並ぶ。そしてそれらを見つめるモモンガとアーカード。そして彼らは全く同時に膝をつきながら自らの忠誠心を現わすかのように臣下の礼を取る。

 

「第一、第二、第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

「第五階層守護者、コキュートス。御身ノ前ニ」

「第六階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」

「お、同じく第六階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。御身の前に」

「第七階層守護者、デミウルゴス。御身の前に」

「守護者統括、アルベド。御身の前に。第四階層ガルガンチュア及び、第八階層守護者ヴィクティムを除き各階層守護者。御身の前に平伏し奉る……ご命令を。至高なる御方々よ。我らの忠義全てを御身に捧げます」

 

誰かの喉が鳴る、少なくともモモンガの物ではない。骸骨である彼に鳴らす喉などない。あるのはゾクゾクと体を突き抜けるかのような不思議な高揚感と緊張感だった。部下を持った経験こそあるがそれはあくまで簡単な上下の関係であり、深くはない。深い忠義による感触を味わう二人には分からない、だがそれを裏切る事などできないという事は互いの共通の認識であった。モモンガは緊張のあまり絶望のオーラを纏ってしまい、アーカードは平静を装うつつも<伝言(メッセージ)>でモモンガに落ち着いてくれと声をかけるが、帰ってくるのは震えたモモンガの声だった。

 

「面を上げよ、此度の招集をよくぞ受けてくれた守護者達よ、それに感謝しよう」

「感謝など必要御座いません。我らは至高の御方々からに忠義のみながらこの身の全てらを捧げし者たち。至極当然の事でございます」

「うむっ。ではセバス、私が命じた事に対する報告を」

「はっ」

 

良いタイミングでやってきたセバスに報告をするように言うと更なる異常が明らかになってきた。元々ナザリック地下大墳墓が存在していた沼地が草原に変わってしまっている事や、知的生命体が確認出来なかった事などの報告が上がってくる。それらを聞いてモモンガとアーカードは冗談抜きで洒落にならないことになっていることを実感しながら話を進めていく。

 

「だが喜ばしい事もある。我が盟友であるアーカードさんがこのナザリックに帰還された事だ」

 

その言葉に皆態度は変えていない、しかし身体が歓喜に震えているのが見て取れる。

 

「アーカードさん」

「ああっ分かっているさ我が友よ。皆、懐かしい顔ぶればかりだ。本当に懐かしくも嬉しい顔ぶれだ。私はここに戻ってこれた事を心から喜ばしく思っている」

 

アーカードはそのまま自分が何故ナザリックを離れていたのかを説明しだした。モモンガから大丈夫なんですか?という心配が飛んでくるがそこはロールプレイガチ勢のアドリブ力を活用していく。真実と虚構を織り交ぜた事を話し出した。余りにも重すぎる病を患ってしまい、それらが皆に感染するのを防止するために一人で病魔と闘い続け漸く完治に至った事を語る。モモンガは確かにそれならボロは出ないだろうと感心していると、守護者達からは涙と怒りが滲みだす。

 

涙は至高の御方々よりも遥かに矮小な自分達を気遣ってくれた余りにも慈悲深いアーカードの行動に、怒りはそんな慈悲深いアーカードに巣くった病魔への怒りだった。その様なものを孕みつつもアーカードはもう自分は何処にも行かず此処に居続ける、皆と共に在り続ける事を宣言する。それで更に涙を流す者が激増するのだが、それらを何とか鎮静する事に成功する。そして次々と捧げられていく自分達への言葉に二人は居た堪れなくなり皆の忠義とこれからの活躍を願うと労って二人揃って転移するのであった。

 

「はぁっ……疲れた、というかなに、えっなにあの忠誠心!?」

「あれもう忠誠心じゃねぇよ。もう信仰か狂信に近いぞ」

「「……あいつら、マジだ……」」

 

心配していたNPC達が自分達を恨んでいるという心配はしなくていいのだろうが、これはこれで不安になってくる。特に守護者各位が自分達に向けてきた評価などが更に胃を圧迫するような気がしてきた。

 

「端倪すべからざるって……なんですかアーカードさん」

「噛み砕くと計り知れないって意味。俺だって何よ、たった一人で敵勢を絶望と失意の底へと葬り去る最強の吸血鬼って……」

「いや大体合ってるじゃないですか、主に不死身的な意味で」

「あ"っ?てめぇの自走式黒歴史連れてくるぞ」

「マジ勘弁してください」

 

と互いを軽く詰った所で思わずため息が漏れた。本当にこれから如何していくべきなのか協議している必要が出てきた、やるべき事は山のようにある。周辺の調査に警戒網の構築、戦力の分配やら本当にやることがある。そんな中でモモンガあることが気になっていた。

 

「そういえばアーカードさんのNPC来てませんでしたね」

「ああ~……各階層守護者を呼んだからじゃないか。一応領域守護者だから」

「実質的に第四階層の階層守護者ですけどね」

 

アーカードが生み出したNPCが配置についているのは第四階層、地底湖に配置されている。その地底湖の領域守護者という役職を持っているのだが……その第四階層の守護者はNPCではなくユグドラシルに存在する戦略級攻城ゴーレム。本拠地を守るという目的には使用出来ず、置き場所にも困るので地底湖に沈めているから階層守護者という建前が与えられている。なので実質的に階層守護者は第四階層の一部領域を守る、領域守護者を請け負っているアーカードのNPCという事になっている。

 

「それにしても……本当にNPC達は俺達の事を想ってくれてるんですね……俺も会いに行った方が良いかな……生み出した者としての責務もあるでしょうし」

「あんだけ黒歴史だって連呼して今更父親面っすかモモンガさん」

「……だってあれはそう思うでしょ!!?」

 

と必死な声で叫ぶモモンガにアーカードも納得出来る部分も多くある。確かに彼のNPCは相当にあれだ、意志と命を持っている現状であれにあったらモモンガは如何なってしまうのだろうか……。

 

「……よし、んじゃ俺も会ってきますよ」

「付き合いましょうか?」

「いえ、一人で行ってきます」

 

そう言ってアーカードの姿はモモンガの目の前から消え失せ、ナザリック地下大墳墓の第四階層の地底湖へと姿を移した。まるで宝石のように輝く湖が反射する光は伸びている光を放つ鉱石、天然のライトアップともいえる。そんな場所で一人の影が地底湖を見回るかのように歩き回っている。血のように紅いベスト、それに合わせられたようなショートパンツ。程よく長めのブロンドの髪と白い肌、そして鮮血のような魅惑的な瞳。右腕と違って左腕は赤い影が腕の形を取っているかのように見える。それを見て即座に確信する。あれは自分が作ったNPCだと。

 

「あれっこの階層に誰か来た?」

 

本来この階層に誰かが来る事なんてほぼない、あったとしたらガルガンチュアを起動させる為だけ。では誰が来たのかと影はこの階層に転移したアーカードの方を見た、そして限界まで目を見開きゆっくりと、一歩一歩確かめるかのように覚束無い足取りで迫っていく。そして目の前まで来た時にそっと、アーカードは手を伸ばし手触りの良い髪越しに頭を撫でてやる。

 

「セラス……セラス・ヴィクトリア」

「マス、ター……マスター……マスタァァ……」

 

セラス、彼女は撫でられて行く毎に涙腺が決壊していく。溢れ出したダムの水のように涙を流す、そんな彼女をアーカードはそっと抱きしめてやる。

 

「ただいま、セラス」

「お帰り、なさいマスター……」



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自らの従僕

「マスター本当にまたお会い出来るなんて……本当に本当に嬉しいですぅ……」

「お前の声は相変わらずよく響くな、全く好い加減に泣き止め」

「も、申し訳ございまぜん……」

 

未だに号泣し続けているセラスをあやすかのようにしているアーカード、確かに自分の作ったNPCに会いに来たのは事実だがまさかここまでだったとは思いもしなかった。これは今からもう一人のNPCに会うのが億劫になってきた感じがする。だが会わない訳にはいかないだろうし、覚悟は今の内に決めておいた方が良いだろう……何せ、もう一人のNPCの設定には設定魔のタブラとエロゲーイズマイライフのペロロンチーノが関わっている。

 

「あの、如何したんですかマスター。ため息などついて……?」

「気にするな」

 

設定を決める際に如何するかと悩んだときに相談に乗ってくれたのがその二人だった、自分の要望を聞いて細かな所などを決めてくれたタブラにはそれなりに感謝はしている。読みにくいレベルでくそ長い設定になっているが。問題なのはあのペロロンチーノの方だ、一応姉であるぶくぶく茶釜に最後に相談に乗って貰ってある程度の添削や修正をお願いしたのでマシにはなっているのだが……それでも十分過ぎるほどに濃いキャラになっている。

 

それを反省してこのセラスの設定を決める際には自分で出来るだけ考えた設定などを組み込み、性格面も真面目で明るいが、どこか気弱であどけなさが抜けてないという風にしている。そのお陰もあってセラスはかなりいい子になっているようで安心する、逆にそれは設定が反映されているという良い証拠なので、もう一人は相当にやばいのではという不安をあおる。

 

「セラス、あいつは如何したのだ」

「あいつ……ああっ彼女ならご飯を食べに行ってます。ですから私が交代で見回りを」

「成程。何か言っていたか」

「特には……マスターに会いたいとかなら普段通りにブツブツ言ってましたけど」

「……言ってるのか、普段から」

「はい割と頻繁に。酷い時には階層全体に木霊するぐらいの声でマスターへの思いをシャウトしてます」

 

思わず無言になるアーカードは恐らく悪くはない、悪いのはペペロンチーノである。これはエロゲの設定でもある愛が重い設定があからさまに反映されている、最初は盲目的にアーカードを愛するヤンデレ設定が入っていたのだが姉であるぶくぶく茶釜が人のキャラで何自分の趣味体現してんだっと突っ込みを入れてくれたお陰でそれは止められた。代わりとして他人よりもやや愛が重いという事にはなっているが。

 

「……セラス、奴は何時頃戻ってくる」

「マスターがお望みであるなら即座に呼び戻します」

「いや気長に待たせて貰おう、お前と話もしたいからな」

「マ、マスター……そう言って頂けるとは感謝の極みです!!」

 

一見すれば久しく会う娘を気遣っているようにも見えるのだが、実際は設定の影響もあるからあまり会いたくないのでそれを先延ばしにしているだけに過ぎない。たわいもない話をするアーカードとセラス、彼が話すのは自分が病気にかかる前の話。ギルドメンバーとの冒険譚と彼らとの日常。セラス(NPC)にとって至高の御方々の冒険譚は聞けるだけの至極の至宝と変わりがない物、キラキラと輝くかのような瞳を浮かべながら懐のマジックアイテムにアーカードの言葉を記録させていく。そんな事をしている中、階層に設置されている転送門(ゲート)が光を放った。それに気づいたのかセラスは残念そうな表情を浮かべながら、アーカードに断ってからそちらへと向かって行った。

 

「今日の日替わりランチも美味しかったわ~……ご主人様と取れる事が出来ればどれだけ完璧な美味となる事やら……」

「お帰りなさい。かえって来て早々ですがこちらに来てください」

「あらっなんですか、セラスさんがそんな事を言うなんて珍しいですねぇ」

 

そんな風に何処か物珍し気に語る彼女はセラスの後に続いていく。そんな彼女は地底湖を見つめながら輝く鉱石の光を浴びている存在を見たときに頭部の耳と尻尾を針金のように伸ばした。

 

「あ、あれ、はっ……!!!」

「落ち着いてくださいね、この階層の領域守護者として粗相のないように」

「わ、分かっておりますとも……!!」

 

今すぐにも駆けだしたい気持ちを抑えつけながらもセラスの言葉でさらに冷静さを保つ、それを感謝しながら一歩一歩踏み占めるかのように歩いていく。近づいて行くたびに胸に歓喜が迸る雷のように走る。それらに駆られそうになりそうながらも必死に身体を抑えながらも視線は一直線に向いてしまっている。

 

「マスターお連れしました」

「ご苦労。さて……久しいな―――玉藻」

「あぁぁっ……ご主人、さま……」

 

アーカードを前にした彼女は思わず膝をつきながらも神に祈り捧げるかのように手を組みながら始祖の吸血鬼を見つめる。そんな彼女は青く深くスリットの入った和服とは思えぬような和服を纏いつつ、スリットからは健康的かつ妖艶な色気を醸し出す肌が見えている。大きく胸元が見えそうなことまであるのを含めると本当に和服なのかと問い詰めたくなる、美しくもある桃の色の髪に添えられる大きな青いリボンに愛らしい狐の耳がある。そして触り心地のよさそうな尻尾。彼女もアーカードの手によって創造されたNPC、九尾の狐の玉藻。

 

「お前にもセラスにも心配を掛けた、長くこのナザリックを開けてしまったのは私個人の問題だ。お前たちを巻き込む訳にはいかなかった、だが私はもうお前達のもとから去る事などあり得ない。また、私に尽くしてくれるか」

「当然ですマスター!!私たちはそのように生み出されたもの、マスターへ忠義を貫き命を含めた全てを捧げるのが喜びなのです!!」

「セラスの言う通りで御座いますご主人様。なんなりとお申し付けください、全てをもって遂行してご覧に見せます……」

 

跪いて自らの忠義を捧げる二人、それを見てアーカードは彼女の言葉に嘘などはなく守護者達と同じだと確信を持つ。

 

「素晴らしいぞ二人とも、これからも私への忠義を忘れるな。そして私の役に立て」

「「はっ!!」」

「さて……現状を説明するか」

 

アーカードはナザリック地下大墳墓が何処かの世界に転移している事、これから警戒網の構築や外の世界の調査などの協力などを命ずる。そしてアーカードは二人にこれからの活躍を期待すると言い残してそのまま転移して他の階層へと向かう。

 

 

「それにしても玉藻さん、あれだけマスターの事を言っていたのに飛びつくのをよく我慢しましたね」

「ご主人様のご迷惑になる、それこそ避けるべきなのです。そして―――忠義をアピールしておけばこれからご主人様が接触してくださる機会がグゥ~ンと伸びてチャンスも……グフフフフフ……」

「うわぁ……やっぱり腹黒狐だよこの人」




Q.なんでキャス狐さんにしたの?

A.異業種縛りで何にしようかと思ったら九尾の狐が思いつきました、それでマジックキャスターとかもありますから、狐でキャスター……もうキャス狐さんでいいじゃんってなったので。

後アーカードの中の人は中田譲治さん、Fateシリーズでもお馴染みの人ですからいいかなぁっと。


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アーカードの銃

「んじゃモモンガさん、行くけど大丈夫?」

「……ええっ大丈夫です、その為に態々一時間も時間を貰った訳ですから……」

 

世界が変貌してから三日が経過しようとしていた。人間である自分らが全く違う存在へと変化したことに違和感などは覚えなくなっている、まず精神などが大きく変動しようとした時には自動的に抑制のようなものがかかり精神が平坦に戻る。アンデッドというカテゴリーの影響か疲労や睡眠欲や食欲なども完全に消え失せている。性欲などについてはモモンガ曰くなくも無いらしい、アーカードは彼にセラスや玉藻に何か感じないのかと問われたが

 

「感じなくもないが、ンなもんに駆られて娘を襲ったら変態を超越した何かだよ」

 

そう言われて納得してしまった。自分達にとってNPCというのはかつてのギルドメンバー達が作った存在、それらは言うなれば親友たちの子供たちと置き換える事が出来る。そんな彼らに手を出す事なんて正直気が進まないし、罪悪感が付き纏う。自分達は保護者として彼らを守る責務がある、それに従事するべきではないかと思うのであった。そしてそんな彼らを守る為の力を再度手にする為にアーカードは宝物庫へと向かおうとしていた。

 

「んで伝える言葉はそれでいいんだな?」

「……はい、俺なりに息子への言葉を認めたつもりです」

「了解したよ。だがその内自分で会いに行けよ、戦力的な事を含めても現状あいつはナザリックの最大戦力の一人なんだ」

「……分かってます」

「ならよし」

 

力なく座っているモモンガを他所にアーカードは指輪を使い転移を行う。直後に広がる景色が一変しそこにあるのは絢爛豪華という言葉では収まりきらない程の凄まじいほどの財。全盛期のギルドの凄まじさを象徴するかのような量の財、これらを管理するのがモモンガが創造したNPC。財の中を歩きながら、ついついその中にある自分がギルドにもたらしたものに目移りしながらも奥へと進むと闇のような扉が待ち受ける。この先にこそ目的がある。

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ」

 

扉といっても開く戸も存在しない、あるのは何かを覆う闇だけ。ギルドへの言葉を捧げると闇の中に浮かび上がる言葉がある、それはここを開けるための条件。アーカードは悩むこともなく言葉を続ける。

 

「かくて汝、全世界の栄光を我が物とし、暗き物は全て汝より離れ去る、だろう――だったかな、相変わらずあの人はカッコいいギミックを作る」

 

蓋となっていた闇が消え去り、その先の通路が顔を見せる。このギルドのギミック考案担当でもあったタブラ。男性陣からはかなり好評だったがそれでも凝りに凝っていたのでデータ量を食い潰していた。責任を取って自分で課金してデータ量を増やしていたのもいい思い出だ。闇の先の通路にはギルドの皆で獲得した武器が飾られている。どれも本来は手に持ち強大な力を発揮する物ばかりだが、それぞれが持っている武器の方が強いという理由で記念で飾られているに近い物ばかり。そして通路を超えた先の霊廟と呼ばれる場に、目的のNPCが存在している。だがそこにいたのはNPCではなかった。

 

「お前は……」

 

そこにいたのは自分の玉藻の設定協力をしてくれた友人でもありギミック考案担当でもあり、アルベドの生みの親である至高の四十一人が一人、火力で言えばモモンガを上回る魔法詠唱者(マジックキャスター)たるタブラ・スマラグディナ。まさか彼もここに来ているのかとわずかながら思うのだったが、低い笑いを漏らしながらそのタブラを見ながら言う。

 

「成程、矢張りあいつが此処に最後に訪れていたか。なぁ―――禁断の役者(パンドラズ・アクター)よ」

 

ぐにゃり、歪むのような音を立てながらタブラの姿が変貌していく。そこに立つのは自らと同じく異形であった、塗り潰した黒い点のような目と口だけがある顔、纏っている軍服と制帽にはアインズ・ウール・ゴウンの紋章がある。彼はアーカードの来訪を歓迎しながらオーバーアクション交じりに挨拶をする。

 

「ようこそおいで下さいました、至高の四十一人がお一人であり最強の吸血鬼たるァァアーカード様ッッ!!御尊顔、再び拝見出来る喜び、恐悦至極に御座います!!」

「フフフフッお前も相変わらずのようだなパンドラ、ここに最後に来たのは矢張りタブラだったか」

「はいっご明察の通りで御座います。タブラ・スマラグディナ様は世界級(ワールド)アイテムである真なる無(ギンヌンガガプ)をお持ち出しになっております」

 

それを聞き確かに彼ならばあれをアルベドに持たせるだろうと確信する。なんだかんだで彼も娘を愛しているという事か。

 

「私の銃を出して貰いたい」

「おおっァアァァカード様の銃!!至高の御方々が持つ中でも最強と呼ばれるあの二丁が遂に貴方様のお手元にお戻りなる時が来たのですね!!承知致しました、即座にご用意いたします!!」

 

ワザとらしいオーバーリアクション、酷く仰々しいがこれらも全部モモンガが全てカッコいいと思って設定した事だ。故に自走式黒歴史なのである、まあ軍服は今もカッコいいと思っているだろうが。因みにアーカードは素でパンドラズ・アクターの事はカッコいいし好きなNPCであるので何も思ってない。こんなふざけた感じを出しているがこのパンドラの強みはギルドメンバーの姿をコピーし80%の力を発揮できるという所にある。ハッキリ言ってまともに張り合えば厄介すぎる上にパンドラは凄まじく頭が回る、正に禁断の役者に相応しい力を持つ。モモンガには黒歴史扱いされて半ば封印に近い処置をされているが……。

 

「お待たせ致しましたアーカード様、こちらが霊廟にて厳重に保管されていたアーカード様の武器で御座います」

「……懐かしいな」

 

柔らかなクッションが敷き詰められた宝箱の中には酷く懐かしい物が入っている。白金の拳銃と黒鉄の拳銃。どちらも拳銃というカテゴリーというには大きい物だがこれがアーカード専用の銃なのである。

 

「454カスールカスタムオートマチック、アーカード様と長きに渡り敵を屠り続けてきた銃」

 

<Ain's Wool Goun Arm 454 Casull>。銃身のスライドに刻まれている言葉を見つめながらそれを手に取る、懐かしい重さを感じる。それを感じつつももう一丁の拳銃にも手を伸ばす、こちらは最初こそカスール一丁のみであったがアインズ・ウール・ゴウンの名前が大きく広まり始めた際にカスールだけではと感じ始めた頃、ギルドメンバーが案を出し合いつつも制作した専用銃。どちらも思い出深い銃だ。

 

「パンドラ、お前はこの銃(ジャッカル)の詳細を知っているか」

「勿論に御座います。私の役目は宝物庫の管理、収められている全てを記憶しております」

「そうか……ではこの銃について述べてみろ」

「はっ!!」

 

ワザとらしく咳払いをするとパンドラは高らかに語りだしていく、それはアーカードの栄光を讃える歌のようだ。

 

「対異形種戦闘用13mm拳銃<ジャッカル> 454カスール改造弾使用ではなく初の専用弾使用銃です。全長39cm、重量10kg、装弾数6発。人類では扱いきれない名実ともにアーカード様の専用銃です」

「専用弾は?」

「13mm炸裂徹鋼弾」

「弾殻は?」

「純魔導銀製マケドニウム加工弾殻」

「装薬は?」

「マーベルス化学薬筒NNA9」

「弾頭は、炸薬式か?水銀式か?」

「法儀式済み魔導水銀弾頭でございます」

「パーフェクトだ、パンドラズ・アクター」

「おおっ感謝の極み……!!!」

 

ずっしりと重い銃、それを持ち上げつつも構える。吸血鬼の自分にとっては軽い物、マガジンをセットする。その音にも満足しつつそれを懐に収める。やはりこれがしっくり来る。そして銃身にはJesus Christ is in Heaven now(神は天に在り、世は全て事も無し)と彫られている。

 

「パンドラズ・アクター。お前の創造主から言葉を預かっている」

「おおっ我が創造主たるモモンガ様よりお言葉をっ!!!?」

「ああっ―――近々会いに行く、会う時を楽しみにしている。とな」

 

その言葉を聞いてパンドラズ・アクターは今までにないレベルの荒ぶりを見せる。彼にとってはモモンガは矢張り特別すぎる存在なのだろう。そんな彼を見つめながら改めて銃の重みを楽しむアーカードであった。




アーカードの旦那といえばこの銃、そしてリロードは気分。

そして一部変えてます、まあ折角魔法とかもある世界ですしね。


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息抜きと星空と誤発注

「戻ったぞモモンガ……どちら様?」

 

自らの武器を回収する事が出来たアーカードは打ち合わせ通りにモモンガの元へとやってきたのだが、そこにいたのは戦闘メイド・プレアデスが一人、ナーベラル・ガンマ。そして居たのは巨大な剣を保持している黒い全身鎧を纏っている騎士だった。

 

「私だ我が友よ」

「君か、今度は何の戯れかね?」

 

モモンガはナーベラルがいるからかアインズ・ウール・ゴウンのギルド長としての口調で話す、その為にアーカードもそれに合わせる。ロールプレイガチ勢にとってはこの程度朝飯前である、全盛期はモモンガとアーカード、そしてデミウルゴスの創造主であるウルベルト・アレイン・オードルと共に悪のロールプレイを存分に楽しんでいたものだ。

 

「武器防具の実験だ、どこまでが今までと同じで違うのかを検証する必要があるだろう」

「それで態々<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>で鎧と剣を作ったという訳か」

「まあっそんな所だ」

 

『アーカードさん、これから息抜きに外出しませんか?』

『構わないが俺は如何すればいいんだ?』

『ロリカードでいいじゃないですか、あれは基本ナザリックの外か内密にしかやってませんでしたからバレませんよ』

『ええっ~……』

 

 

「ナーベラル、私とアーカードさんは少し出てくる」

「近衛兵の準備は終わっております」

「いや、私だけで充分だ。何、心配するな。私の力は知っているだろう?」

「い、いえしかし……しょ、承知致しました……」

 

ナザリックのNPC達にとっての喜びとは自分達に仕える事、そして至高の御方々の為の剣となり盾となる事。彼女らは自分達が死ねと命じれば迷うこともなくそれを実行してしまうだろう。用事はないから今日はもう下がって休んでいいと言えば、自分は失礼を働いたのかと涙を流しながら許しを懇願する。それ故にモモンガとアーカードは窮屈さを感じていた。

 

ナーベラルも例外ではない、しかしアーカードは先手を打って近衛兵などの供は必要ないと言う。富裕層との接待で身に着けた女性を喜ばせるテクニック、ナーベラルの頬にそっと手を置きながら優しい声色と笑みを使いながらそう問いかける。彼女の頬が赤く染まるのを見ながらも了承の言葉を聞いたのを確認しながらモモンガと共に転移していく。残されたナーベラルはアーカードに触れられた頬を触れながら顔を真っ赤にしながらオーバーヒートしていた。

 

「ふぅっ……偶には息抜きは必要だからな」

「というかアーカードさん、さっきの何ですか?アーカードさんって女誑しでしたっけ?」

「人聞きが悪い事を言ってんじゃねぇよ。富裕層の婆どもを喜ばせる為に嫌々覚えたテクだよ」

「ああっ例の……」

 

最初こそアーカードの所作に驚いたモモンガだったが話を聞いてアーカードに同情した。太った婆にそんな事をしなければいけなかった彼の精神が心配になった。二人が転移したのはナザリック地下大墳墓の第一階層の地表部中央霊廟、指輪の力ではここが一番地上に近い。そんな話をしつつもモモンガは転移の間に変化していたアーカードの姿に驚く。真っ白なロングコートに帽子、上下も白に統一されているコーディネートを纏っている幼い少女にしか見えないアーカード、通称ロリカードである。

 

「本当に少女ですよね……」

「……俺だってこの姿好きじゃないんだぞ、この姿でどんだけ茶釜さんとやまいこさん、あとペロロンチーノがどんだけやばい目で俺を見てたことか……」

 

『大丈夫大丈夫!!私のセンスは絶妙だから!!』

『そうそう、ぼ―――私に任せてください!!』

『アーカードさん、お願いですからお兄ちゃんって言ってください』

『黙れよド変態』

『ちょっと待ってなんで見た目はマジでパネェ美少女なのに声同じなんすかぁぁああ!!!!???』

 

ギルドメンバーに玩具にされかけてたっち・みーさんとウルベルトさんに全力で助けを求めたりもした。この件に関しては仲が良くない二人も協力して助けてくれたりもしてくれた。そんな嫌な思い出があるロリガードで間もなく外に到達しようとしたときに目の前に悍ましく恐ろしいモンスターが複数現れた。

 

「嫉妬、憤怒、強欲の三魔将……!?」

「確かこいつらは赤熱神殿にいる筈だろ」

 

デミウルゴス配下である筈の三魔将、自分達ですら圧力を感じる風貌と強さを重ね持っているモンスターの登場に思わずアーカードは懐にある拳銃に手を伸ばすとその三魔将の隙間からデミウルゴスが顔をのぞかせる。二人の名前を呼ぶ声に思わずデミウルゴスは怪訝そうな表情を作るが、即座に跪く。続くように三魔将も忠義を示す。

 

「これはモモンガ様、アーカード様。近衛をお連れにならずにここにいらっしゃるとは……」

『えっ一発でバレましたよ!!?』

『おいロリガード状態ならバレないって言ったのアンタだぞ』

『俺のせいですか!?』

 

その後、デミウルゴスに見破れた二人はデミウルゴスを近衛として連れてそのまま外に出る事にした。まあ一人だけなら周囲に多くの近衛が居るのに比べたら大いにマシだ。そしてナザリックの外へと出た時に広がっていたのは満天の星空だった、生まれてから一度も見たこともない本物の星空に感動を覚える。

 

「凄いっ……これが本当の星空……」

「大気の汚染も何もない。人工心肺もマスクも必要ない澄んだ空気……凄い」

 

二人のいた現実世界は正に世紀末といっても過言ではない程の悲惨な世界だった。空はスモッグにより分厚い雲に覆われ星なんて見る事は出来ない、汚染によって人工心肺とマスクがなければ外に出る事も適わない。だが、今いるこの世界にそんなものは必要ないのだ。二人は本当の星空を見て感動に胸を振るわせていた。我慢出来なくなったのか、モモンガはあるアイテムを取り出し装備し唱える。

 

「<飛行(フライ)>」

 

重力の楔から解放されたモモンガはそのまま天高くへ中空へと舞っていく。アーカードもほぼ同時に背中から鮮血のような赤で染めたような影を翼の形にして重力を引き裂くかのように飛び上がる、デミウルゴスもそれに続くかのように追従していくが二人はそれを置いていくかのように舞っていく。もっと、もっと高く飛びたい、そんな欲求のままに雲を突き抜けていくと雲海を超える。そして広がっているのは月と星の青白い光で満たされる美しい世界だった。

 

「……ブルー・プラネットさんが自然に嵌る理由が分かったなモモンガさん」

「ええっあの人が作った第六層の空も美しかったけど、これはまた……」

「「見せたいなぁ……」」

 

他のギルドメンバーにも是非とも見てほしい、汚染されていないこの美しい世界を。世界はこんな顔を持っているのだと知ってほしい、体験してほしい。そんな気持ちで胸がいっぱいになっていくのを感じる。

 

「美しいな……まるで宝石箱のようだ」

「星々の輝きと月の明かり、それらが奏でる歌のようでもあるな」

 

思わずそんな言葉が飛び出す中でデミウルゴスが追い付き、それに対して返答する。

 

「この世界が美しいのは至高の御方々の身を飾る為の宝石を宿しているからかと」

「そうかもしれないな……私たちがこの世界に来たのは誰も手中に収めた事の無いこの宝石箱を手にする為なのかもしれないな」

「違うさアーカードさん。私たちだけではなくナザリック、いやアインズ・ウール・ゴウンを飾る為かもしれない」

「お望みとあれば、ナザリック全軍をもってこの宝石箱を捧げてごらんに入れます」

 

深々と頭を下げるデミウルゴスがそういう中で思わず笑ってしまった。何もかもが分からない段階でそんな事を言うとは、だがそこには確かなやってのけるという意志と自分達に捧げたいという思いが感じられる。

 

「この世界がどんなものなのか不明な段階でか、愚かにも聞こえるが……いやそうだな」

「世界征服か……心が躍る言葉だな。ウルベルトさんなら喜んでやるだろうな」

「ああそうだな……だけど確かに、世界征服なんて面白いかもな」

 

子供の児戯のような言葉、二人もそんなつもりで言った。知恵者のデミウルゴスもきっとそんな事は分かっているだろう。まずは情報収集と検証を繰り返していくのが一番なのだから、と思っている二人。この時、振り向いてデミウルゴスの表情を見ていれば、何れするであろう驚愕なんてしなかっただろう。



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異世界、恩人

「友よ、調子は如何かね?」

「アーカードさんか、ふむっ中々に難しいな」

 

ナザリック地下大墳墓が異世界だと思われる土地に転移してからという物、現状の調査と確認などに時間を費やすながら過ごしているモモンガとアーカード。そんな中でアーカードは鏡の前でパントマイムをしているような、奇妙な事をやっている友人に声をかける。その背後ではアルベドがとても慈愛の溢れる目をしながらどこか興奮しているかのような息遣いをしながらモモンガの作業を見つめていた。

 

「この手の動きで右移動……こっちで回転……それでこれが拡大っと……」

「しかしこれが役に立つとはな……世界も変われば常識も変わる、というやつか」

「その通りだろうな」

 

モモンガが使用しているのは<遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)>というアイテム。離れた場所の映像を映しだすだけのマジックアイテムという物で偵察に便利そうだが、ユグドラシル(ゲーム)では対策の取られやすい物の一つ。アイテムとしては微妙としか言えないものだが、周囲に危険があるかもしれない今の状況ではこのアイテムが輝く。自らを危険に晒さずに情報を引き出せるのだから使い勝手のいい物へとなっている。このアイテムで警戒網の構築もより効率的になっている。

 

が問題も存在している。ユグドラシルの時と違って、操作方法が表示されないので、身振り手振りの手探りでこの鏡の操作法を一から調べなければならないということだった。ゲームの説明書を読まないものよりもきつい物がある。

 

「そうだ友よ、これを宝物庫から出しておいたぞ」

 

そういうとアーカードは指で何を弾いてモモンガの元へと放り出す、それはモモンガの元へと到達する。それは<人化の指輪>というマジックアイテムであった。異業種であるキャラクターが人間へと一時的に化ける事が出来る指輪で、人間しか入れないエリアなどに入る為に使われる。逆に人間が異業種に化ける<異形化の指輪>というのも存在する。

 

「この指輪って……」

「この先、人間と接触するかもしれないからな。その姿では警戒されるだけだろうからな」

「確かにこれは助かるな、感謝するよ」

「私と君の仲だ、気にするな」

 

『実はなモモンガさん、こいつを付けたら凄い事出来るぞ』

『えっ凄い事って何ですか?』

『アンデッドは種族的な関係で睡眠欲や食欲がない、だがこの指輪があればそれらを再現できる。食事も出来るぞ』

『えっマジですか!!?』

 

<伝言>で飛んできた内容はモモンガにとって途轍もなく重要なものだった。死の支配者になってから疲労や睡眠、食欲すら感じなくなってきた彼だが人間で感じられていたそして出来ていた食事などが出来なくなっていて寂しさを覚えていた。それがこの指輪さえあれば解決するというのだから重要な物だった。

 

『私も先程それを使ってセラスと楽しい食事を楽しんできたところだよ。ナザリックの食事の美味さは凄まじかったぞ、マジでおすすめ』

『うぉぉぉっ……それはマジで朗報じゃないっすか……!!ありがとうございます、後で試してみますね!!あれでも玉藻は良いんですか?』

『あいつは第四階層の巡回の時間だった。それにあいつからは野獣の視線を感じるからなんかな……』

『もう愛が重い設定が来ちゃってるじゃないですか……』

 

モモンガは今すぐこの指輪を装備して食事をしてみたいという欲求に駆られながらもこのナザリックを守る為の行動を優先し、指輪を大事そうに懐にしまうのであった。そんな中漸く上手く動かせたのに安心しつつも、ある場面が映り込んだ。まだ遠いが村の中で多くの人々が走り回っているような光景にも見える。

 

「祭りか……?」

「いえこれは、違うようです」

 

後ろでそれを見ていたアルベドが応える、拡大をしてみるとそこに映っていたのは……鎧を纏っている騎士のような格好をした者たちが村人を追い立て殺している。芋虫のように這いずることしかできなくなった青年を、騎士らが嬲っていた。既に青年は死んでいる筈なのに、執拗に何度も力を込めて、嬲り続けている。それを形容するならば……虐殺という言葉が相応しい光景だった。

 

「……アーカードさん、俺今人間が殺されているのに何も思いません。虫が踏み潰されているのを見るのと同じぐらいの感覚しか抱いてません」

「俺もだよ……アンデッドになってる影響か……」

 

正直に二人は人間が殺されている事に何も抱いていない、同族であったはずの存在が殺されているのに何も抱かない。どれだけ凄惨な殺され方をしていたとしても、アンデッドになっている影響かもしれない。そんな中で少女二人が騎士に追いやられている光景が映り込んだ、助けるべきなのか、いや利益がないと素直に思ってしまえる自分が少し恐ろしかったが……今酷く不快だった。それは―――戦う力がない者たちが嬲られる光景が嘗てPK(プレイヤーキラー)に成す術もなく狩られていた自分達のように見えた。

 

「モモンガさん、ここにあの人が居たらこういうだろうな」

「『誰かが困っていたら、それは助けるのは当たり前』ですね、俺もアーカードさんもあの人に救われた」

「ああっ……たっちさんなら、確実にそういうだろうな」

 

自分達が今のギルドに所属するきっかけとなった人物は同じだった。聖なる純銀の鎧に身を包み、手にした剣であらゆる敵と困難を両断する正義の人。ユグドラシル全プレイヤー3位以内に入る最強プレイヤーとして名高かったたっち・みー。颯爽と現れては自分達を殺そうとしてきたプレイヤーを一撃で倒し、正義降臨というフォント共に力強く言った言葉があの言葉だった。因みに文字は課金らしく、一文字50円だか10円だかと聞いた。

 

「では行くとするか、友よ」

「ああっ。アルベドよ、ナザリックの警戒レベルを最大限引き上げろ。そして完全武装にて私とアーカードさんに続け。そして後詰として隠密能力に長けるか、透明化の特殊能力を持つ者を複数村へ送り込め。それと真なる無はおいていけ」

「いや友よ、念のために持って行かせた方がよいだろう。何が起こるが分からない以上は所持していた方が確実だ」

「確かにな、この世界に世界級アイテムがないとも限らない……アルベド、真なる無の所持は許可する。早急に武装を整えろ」

「承知致しました、では即座に準備を」

 

そういって消えていくアルベドを見送るとモモンガは覚悟を決めながら立ち上がった。ナザリックの利益にならないかもしれない、だがあの時に自分らを助けてくれたあの人の気持ちに報いるならこれが正解なのだろう。

 

「モモンガさん、これは無駄ではない。彼女らを助けたならば友好的な関係を築ける、それならこの世界に関する有益な情報を多く引き出せるかもしれん」

「……そうですね、やるなら前向きに行きましょう。それじゃあ行きますよアーカードさん」

「ああっ頼むよ」

「<転移門(ゲート)>」

 

距離無限、失敗確率0%の確実な空間転移魔法で二人の少女を助ける為に、死の支配者と始祖の吸血鬼がナザリックより出陣した。



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異世界での違い

少女、エンリはまだ幼い妹の手を引いて必死に走っていた。恐怖に怯えながらも必死に走っているが、それでもまだまだ遅い。そんな妹を必死に励ましながら足を動かし続ける、背後から迫ってくる金属音と笑いながら迫ってくる騎士から逃れる為に。突如として始まった虐殺、何故そうなるのかも理解出来ないままに村の中の人たちが殺されていく、恐怖でしかない。

 

「キャアッ!!」

「ネムッ大丈夫!!?」

 

引っ張られた手の先では妹が木の根に躓いてしまったようだ、必死に立たせようとする間に騎士が一気に距離を詰めて剣を振り被ってくる。ネムを庇う様に体全体を盾へ、妹を抱きかかえるようにする。背中に激痛と熱が襲い掛かる、斬られている。どうすれば妹を助けられる、如何すれば……と必死に考える中、突如として騎士たちの動きが止まった。何がと思う中、顔を上げるとそこには―――仰々しくも豪華なローブと杖を持った男と赤いロングコートを纏った美丈夫が立っていた。

 

 

 

「戦意もない幼い子供を襲おうとするとは……<心臓掌握(グラスプ・ハート)>!!」

 

<人化の指輪>を装備した影響か、少し痩せている男へと変貌しているモモンガ、だが変わっているのは見た目だけでステータスなどは変化していない。そして少女を助ける為に彼は魔法を行使する。魔法は簡単に分けて一から十まで区分できる、そして数字が上なほどに上級の魔法となる。そして今モモンガが行使するのは死霊系魔法の第九位、心臓を握り潰し相手を即死させる魔法。例え抵抗されたとしても朦朧状態になるのでモモンガはこの魔法をよく行使する。だが、それを受けた騎士は即死して倒れこんだ。

 

「成程な、人を殺しても恐怖も動揺もないか……本当に私は人間をやめているようだ。まあその事は後だ、魔法は通じる、成程問題ないな」

「ばっ化け物!!?」

「化け物か」

 

現れた男にいきなり仲間が殺されてしまった騎士は怯えながらも剣を構えて叫ぶ、だがそれを見てアーカードはニヤ付きながら笑う。

 

「ならばそれに相対している貴様は何だ。人間か、犬か、哀れな愚か者か。どちらにせよ私はお前のような手合いは好かん」

「いっ―――」

 

直後に騎士は助けを乞おうとする、もうしないから許してくれと。だが目の前の美丈夫はそんな事は許す事はない、直後騎士の頭部が吹き飛ぶ。荒ぶる雷撃によって騎士の全身は焼け爛れ、頭部は粉々になっている。それをやったのはモモンガだった、第五位階魔法である<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>を放った。実験のつもりで放ったのだがまさかこれで死ぬとは思っていなかった、レベルが100であるモモンガにとっては第五位階の魔法は適正な魔法ではない。この程度で死ぬ、という事はこの世界の人間はその程度であるという証明にもなる。

 

「弱いな、何を恐れていたかもわからんなこれでは」

「全くです。これなら外の調査を組み込んでも大丈夫そうですね」

「まだまだ検証は必要だと思うけどな」

 

そんな会話をするがアーカードはこちらを見つめて困惑している少女二人を見つめている、そんな彼女らに視線を合わせるかのように膝を曲げて目を見ながら話しかける。

 

「無事かねお嬢さん方」

「はい、あのあの助けて、いただいて……」

「大丈夫だ、君たちを危険に晒す者たちはもういない。安心しなさい」

 

そう応える中でモモンガはスキルの実験のためともしもこの世界に自分達以上の存在が居る事を警戒して、あるものを創る事にした。〈中位アンデッド作成 死の騎士(デス・ナイト)〉レベル的には自分達の半分以下の存在だが、これは酷く重宝していた。それは相手の攻撃を完全に引き付ける能力、そしてどのような攻撃を受けてもHPを1で耐えきる事が出来る。盾としては申し分ないモンスターだ。が、それが生み出される過程はユグドラシルとは異なっていた。自分が殺した死体へと霧が乗り移り取り込んで泥のように変化していき、肥大化していく。少女らにはきつい光景なのか、アーカードに大丈夫だと言われるまで酷く怯えている。

 

そして出来上がったのは2.5メートルほどの死霊の騎士。左手には身体の殆どを覆えるほどのタワーシールド、片手には両手で持つような巨大剣を握りしめている。悪魔のような死霊の騎士、それが完成する。

 

「死の騎士よ、この騎士の仲間がこの先の村にもいる。そいつらを消せ」

「オオオァアアアアアアアアア!!!!!」

 

咆哮、身の毛がよだつかのような恐ろしく本能へと訴えかけるかのような凄まじい咆哮。殺気を込めた咆哮をもって了承とした、モモンガは満足げに次へと進もうとするのだがなんと死の騎士はそのまま村へと走りだしてしまった。思わずあっけに取られてしまう。本来死の騎士は召喚者の周囲に留まるもの、だがこの世界には自由度が違うらしく忠実に命令を実行するために走り出していく。

 

「盾になるモンスターが守るべき者を放り出してどうすんだよ……この辺りもユグドラシルと違うみたいだから検証が必要か……」

 

直後、開いていた<転移門>から全身を鎧で包んだアルベドが姿を現した。彼女には申し訳ないが死の騎士の代わりに自分達の守りをお願いすることにしよう。

 

「準備に時間がかかり申し訳ございません」

「いやナイスなタイミングだアルベドよ。私とアーカードさんの守りを任せる」

「はいっお任せください!!」

 

至高の御身を自分が守れる、命令なのだが彼女にとっては至高の時間に置かれるに等しい状態。守護者統括の彼女ならば十全なる守りを展開する事が出来るだろう。そしてアルベドはアーカードに縋るようにしている少女二人に殺意を込める視線で見つめそうになるが、それをアーカードからの視線を受けて必死に抑えながら飲み込む。

 

「さて、君は怪我をしているな。これは治癒の薬だ、飲むと良い。そちらのお嬢さんは怪我はしていないようだな」

「あっありがとう、御座います……」

 

アイテムボックスから薬を取り出して与える、ユグドラシルプレイヤーは序盤にお世話になる<下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)>。その色に驚くような目をしながらも助けてくれた人たちの物だから大丈夫だろうと思って少女は一気に飲み干す。すると怪我は瞬時に癒えて痛みがなくなった。

 

「えっうそっ全く痛くない……!?」

「ふむっもう大丈夫だろう。ついでにこれも与えておこう、これは吹いた者に従うモンスターを召喚するものだ。ついでに魔法をかけてやってくれ友よ。私たちが居ない間に襲われたのでは意味がないからな」

「いいだろう友よ」

 

アーカードの言葉を受けてモモンガは二人に対して魔法を行使する。命を持つものが入る事が出来ない結界を展開する<生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)>。射撃攻撃を弱める<矢守り(ウォール・オブ・)障壁(プロテクションフロムアース)>を掛ける。これならば恐らく大丈夫だろう、これとアーカードが渡した<ゴブリン将軍の角笛>があれば何も心配する事はないだろう。

 

「さてと、死の騎士の事もある。そろそろ行くとしよう」

「ああっアルベド、守りは任せる」

「はっお任せください」

 

そして村へと向かおうとする三人に少女らはそろって頭を下げた。出会うことがなければ確実に殺されていたことだろう、それを助けてもらった感謝などしきれない。

 

「あ、あの出来ればお名前をお教えいただけないでしょうか!!?」

「……名前か。アインズ・ウール・ゴウンの支配者、モモンガ」

「同じくアインズ・ウール・ゴウンの銃、アーカード」



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関係構築、続く警戒

モモンガとアーカードが村へと到達した時には、村を蹂躙し尽くしていた騎士たちは死の騎士によって殺戮されていた。それでもある程度の騎士は残っていたのでそれらに対して脅しを籠めながら追い払うと、モモンガとアーカードは村長に助けた対価として情報を求める事にした。生きていく中で情報は必要になってくる、加えて自分達に好意的な相手を作る事が出来たのはかなりの僥倖と言える。此処を始点として情報の網を広げていくのも悪くはない。

 

「さてと……これから如何する友よ」

「そうだな……当初の目的は問題なく達成できた。我々の力が問題なく通じる事やこの世界の強さの基準というのもある程度把握出来たのも御の字だ。これらを基にしてこれからの作戦を立てていく、いやそれは早計だな」

「ではモモンガ様、これらを基にしつつもやや高めに設定したものを立案いたします」

「うむっそうしてくれ」

 

モモンガ達は異国から旅をしてきた旅人という事で通している、故にこの国の情勢などに詳しくないという事で情報を引き出している。幸いな事に村を助けたことで村長や村人たちは酷く協力的、これならばなんとかなるだろう。そんな中で兜の中から人間を見つめているアルベドに目がいく。

 

「アルベドよ、人間が嫌いか?」

「脆弱な生き物。下等生物。虫のように踏みつぶしたらどれほど綺麗になることでしょうか」

 

ナザリック地下大墳墓全体に言える事だが人間を軽視、いや侮蔑の目で見ているものが大半を占めている。異業種ばかりの集まりだからかと試しにアーカードがセラスに聞いたところ、過去にユグドラシルで攻めて込んできた1500越えの人間たちが大きく関係しているらしい。それは仕方ないと思う反面、情報などを集める上でこれはまずいとモモンガとも協議を重ねて意識改革を目指している。

 

「アルベドよ、確かに人間は脆弱だ。だがそれだけで判断するのはナザリックに不利益を齎す、そこは気を付けておけ」

「はっ承知致しましたアーカード様」

 

この位言っておけば恐らく大丈夫だと思いつつも意識的な改革は必要だと確信するモモンガ。そんな中、葬儀も終わった村の中が再び騒がしくなり始めている。また何か起きたのかと思いつつも助けたのだからある程度は干渉する必要があると思いつつも話を聞く。

 

「如何されました、村長殿」

「おおっモモンガ様にアーカード様。どうも村に騎士の格好をして、馬に乗った一団が近づいて来ているそうでして……先程の仲間ではないかと思いまして……」

「成程……友よ、そいつらは私たちで引き受けてやろうではないか」

「そうだな。私たちであれば問題なかろう、では村長殿は村人たちを村長殿の家へ。村長殿は念のため我々と、ご安心を。我々が安全を保証致します」

 

その言葉に安堵と感謝を露わにする村人たち、それを見ながらアーカードはそっとアルベドにこうやって感謝を植え付けてやれば従順になり利益になると教えるとアルベドは流石至高の御方々!と感動するのであった。そんな中で速やかに村人の移動が終了し、村長と共にその馬に乗った一団を迎え撃つことにするモモンガ一行。暫しすると二十人ほどの騎兵たちが隊列を組み、広場へと進入してきた。その装備に統一性はなく、まとまりの無い傭兵集団を連想させるが、何処か連帯感と規則正しい隊列に傭兵では無い事を理解する。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしまわっている帝国の騎士たちを討伐するために王のご命令を受け、村々を回っているものである」

「王国戦士長……もしや、あの……王直属の超精鋭……」

 

村長の言葉から推理すると相当な有名人の実力者らしい。王国の戦士長ともなればそれなりの腕前なのだろうが、自分達と比べれば流石に差がありすぎる。片手間どころか指一本で相手余裕だろう。

 

「この村の村長だな。隣にいるのは一体誰なのか教えてもらいたい」

「その必要はございません。お初にお目にかかります王国戦士長殿、私はアーカード、こちらは友人のモモンガとアルベド。旅の途中でこの村が襲われているのに遭遇いたしまして村の方々に力をお貸ししただけです」

 

富裕層との相手が多かったこともあったので目上の相手と話す事になれているアーカードが話の先陣を切る。それに合わせるようにモモンガが頭を下げる。それを見たガゼフは馬から降りながら深々と頭を下げる、戦士長というにはそれなりに地位のある人物であるはずなのに真っ先に頭を下げられることに少し驚き彼が相当な人格者であることを確信する。

 

「この村を救って頂き感謝の言葉もない」

「いや、我々も旅をしている身。情報を得る為に助けたと言った方が正しいだろう、そのように礼を言われるほど大した者ではないさ」

「それでもあなた方この村の命を救って頂いたのは間違いない。それに礼を申し上げるのが当然の事です」

 

どうやら人格者である上に酷くまじめな気質らしい、ある種いろんな人が想像する騎士というのはこういうタイプの人なのだろうと思うアーカードなのであった。それを受け取るとガゼフも漸く顔を上げる。

 

「旅をしているとのことですが、何処から旅を」

「異国です。海を渡った先に我々の故郷があり、諸事情で海を渡ったのです」

「なんと海をですか!?それはなんと長い旅路ですな……」

 

『アルベドよ。アーカードさんの話は聞き逃すな、あの人は咄嗟に物語を作るのに長けている。あれで我々のバックストーリーを語っている、それを聞き逃さず襤褸を出さぬようにせよ』

『はっ承知致しました!』

「(そういえばアーカードさんがゲームマスターをやって、ユグドラシル内でクトゥルフをやった事もあったな……ウルベルトさんの探索者がダイス運悪いのを横でクリティカル連発するやまいこさんがいて憤慨してたっけ……)」

 

ロールプレイガチ勢はその辺りをやっても強いのか、途中ペロロンチーノが素でシナリオブレイクをやらかしたのだがそこをアドリブで上手く繋げたりもしていた。その経験もあってかアーカードの語りは中々に迫力と説得力を感じさせる物となっていた。

 

「成程……それは災難ですな、何かお力になれる事があればよいのですが……」

「では出来ればこの辺りの情勢などをお聞かせいただけますかな」

「その位であればお安い御用ですな」

 

とアーカードの巧みな話術でガゼフの中でアーカードの評価が上がっていき、国同士の情勢などの情報が得られようとしている中でガゼフの配下であるひとりの騎兵が村に駆け込んできた。そして、大声で緊急事態の発令を告げる。

 

「戦士長!大変です、村の周囲に複数の人影を確認しました。村を包囲しながら接近中です!!」




アインズ・ウール・ゴウン、クトゥルフでの一幕

ウルベルト「よし此処こそ俺の見せ場……ファ、ファンブルだと!?」
アーカード「ブルースクリーンになった後、ブツンと電源落ちました」
たっち「あっこれやっちゃったんじゃ……」
やまいこ「機械修理!!よっしゃクリティカル!!」
ウルベルト「こ、今度こそ……ま、またファンブル!!?」
アーカード「極端だなぁ……」


次回、アーカード戦闘開始か開始直前


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天使を従える者

「ガゼフ殿、ここから先は私が受け持とう。選手交代だ、ゆっくり休みたまえ」

「アーカード殿……恩に着る……」

 

崩れ落ちていくガゼフ、それと同時にガゼフの身体は光に包まれてその場から消えていく。アーカードと共に現れたモモンガによって転移の魔法をかけられて村へと転移させられている。アーカードはそれを見送ると改めて立ち上がりながら目の前にいる敵へと視線を向ける。無数の騎士たち、というよりは魔法詠唱者(マジックキャスター)の一団と言った方が正しいのだろう、周囲にはユグドラシルでも見た天使型のモンスターである「炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)」と「監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)」が静かにこちらを見据えている。ハードユグドラシルプレイヤーのモモンガとアーカードはそれを即座に見抜き大した相手ではないと見据える。

 

「何者だ、貴様ら。ガゼフ・ストロノーフを何処へやった」

「殺し屋さ」

 

この村を包囲するかのように展開する者たちが居るという知らせ、それは敵対する者たちが再び襲い来ようとする合図。村を襲う為ではなく、正しくはガゼフを殺すための兵。村を襲ったのも彼を誘き寄せる為に物だと、そしてガゼフはそれを迎え撃ち、奮戦するも限界を迎えるが人間としての凄まじき強さを見せた彼にアーカードは口角を持ち上げながら彼の命を救いあげ、その戦う役目を引き継いだ。

 

「殺し屋だと、ハッそのような輩が我らになんのようだ。我々を殺すような依頼でも受けたか」

「ああっ受けているさ。これから貴様らを殺すものだ」

「愚か者め、殺されるのは貴様だっ!!」

 

隊長であるニグン・グリッド・ルーインは命令を下し、それらを受け取る部下らが天使たちに攻撃命令を下し弾幕のような火の魔法や衝撃波が襲い来る。だがそれらはアーカードの身体を傷付ける事もなく無力化されていく。<上位物理無効>と<上位魔法無効化Ⅲ>。レベル60程度の攻撃、第六階魔法以下を無力化する常時発動型特殊技術(パッシブスキル)。前線に立ち続ける彼にとってはこれも防御系の一端にしか過ぎないスキルではあるが、この世界ではかなり有効らしい。悉くを無に帰しながらアーカードは銃を抜く、白金の銃を右手に構え、左腕を台座にするかのようにしながら構えて引き金(トリガー)を引く。

 

始祖の吸血鬼の身体能力を考えれば銃の反動などないに等しい、轟音と共にスライドから薬莢が弾き出される。それらから吐き出される弾頭は正確に天使らの頭部を撃ち抜きながらも次々と弾丸を吐き出し続ける。気付けば天使の悉くが撃ち抜かれ消滅していた。

 

「なっ―――これは、何が起きて……!?」

「13㎜爆裂徹甲弾、こいつを食らって平気な異形(フリークス)はいない」

 

「……流石アーカードさん。銃の腕は衰えちゃいない……」

 

久しく見るアーカードの射撃を見るモモンガは感動すら覚えていた。アインズ・ウール・ゴウン屈指のタンクとしてギルドに貢献し続けてきたアーカード。不死といっても過言ではないレベルで半端ではない防御力と回復力からアンチスレが凄まじく乱立した程の活躍をした。そして手にする拳銃の威力は半端ではない上に<無限射撃>の魔法付加(エンチャント)がなされており、リロードは気分なチート拳銃と化している。たっち・みーとアーカードがいる時は諦めろと言われるほどにやばい扱いをされていた人物である。

 

「流石アーカード様……!!ああっなんてお美しい……」

 

顔は見えないが恍惚仕切っている声を聞きながらもモモンガは一応情報遮断系の魔法を展開する、アインズ・ウール・ゴウンの軍師であった『ぷにっと萌え』さんにも情報はアドバンテージを生むと厳しく言われた。念には念を入れよ、損は生まない。確かに同意する、そして展開すると情報系魔法の遮断を確認してやってよかったと安心する。

 

「最高位天使を召喚する!!」

「やらせると思っているのかね?」

 

天使が次々と全滅していき、遂に「監視の権天使」も身体に銃痕を刻まれて消滅してしまったのを見るとニグンは切り札となりえるアイテムを取り出す。それは超位魔法以外を封じて使用する事が出来る<魔封じの水晶>、最高位天使を召喚すると宣っていたので警戒してアーカードは腕をカスールで吹き飛ばし、持ち前の身体能力を利用してそれを回収する。

 

「がぁぁあああああっっ!!?」

「さてさて最高位天使というのだから熾天使級(セラフクラス)だろうな。友よ、解析出来るか?」

「触れる事が出来るならば出来るぞ、どれ……はぁっ?」

 

モモンガは<魔封じの水晶>に触れて内部に封じ込められているものを調べる、ユグドラシルでは中身に時限爆裂式の魔法を仕込んで時限爆弾代わりにしてくるプレイヤーまでいた。モモンガは手早く発動阻害の魔法を掛けながら内部を確認すると呆れかえったような声を上げる。

 

「如何した友よ」

「……熾天使級が出てくると思ったら……中に封じられているのは<威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)>だ。第七位階程度の天使だぞ、なんでこれが最高位なんだ……」

「……警戒して損したのか」

「いやぷにっと萌えさんの教えに従うなら損にはならない、警戒はすべきだった」

「そう思っておくか……」

 

雑魚な天使にもほどがある、ユグドラシルでも時間稼ぎどころか数合わせ程度にしか使われない存在。自分達にとっては雑魚に過ぎない。それだって銃で一撃で沈められる、焦って気疲れしてしまった……。

 

『アーカードさん、<魅了の魔眼(エロ光線)>であの隊長格を洗脳しちゃってください。この世界の情報を得たいですし』

『分かったが……その呼び方やめてくれるか、ペロロンチーノに「それさえあればエロゲ―の状況作り放題ですね!!」って言われてからあんまり使いたくなくなってるんだから……』

『ペロロンチーノォッ!!!』

 

この後、敵全員を<魅了の魔眼>で魅了洗脳を施した。内容はナザリックに従う事に幸福感を得るという物、麻薬じみたそれにニグン達はあっさり魅了されて、ナザリックの為ならばと全ての情報を喋る事だろう、例えどんな細工があろうとも、無力なのだから。こうして異世界転移後初のイベントは幕を閉じるのであった。



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至高の御方々の会話

「アーカードさん、例の一団から情報は引き出せてます?」

「デミウルゴスが尋問を行ってるけど魅了の影響もあって色んな事が分かった」

 

モモンガとアーカードが一つの村、カルネ村の危機を救い、王国戦士長という太いパイプを得る事が出来てから数日。ナザリックに仕える事に対する幸福感を植え付けられたニグンら、デミウルゴス主導の下で尋問による情報収集が行われているが三度の質問後に死亡するという事が起きていた。どうやら情報漏洩に対する魔法が施されているらしく、それの解除処置の後に改めて情報の引き出しが再開された。

 

ニグンらはスレイン法国に仕える陽光聖典という部隊らしい。スレイン法国についてはガゼフからある程度の情報を得ているがニグンによって更に詳しい事が明らかになっていった。600年前に現れた六大神によって救われた人間の国家であり、人類の守り手として他種族狩りなどの活動を長年に渡り行っているらしい。その後も有力な情報を提供し続けるニグンらは処分される予定ではあったが、アーカードの発案でスレイン法国に潜り込むスパイとしての役割を与える事になった。それを受けたニグンは

 

「おおっ偉大なる方々にお仕えすることをお許しいただけるではなく、お役目まで与えて頂けるなど……このニグン、全身全霊を尽くし任務を全う致します!!全てはアーカード様、いえナザリックの為に!!」

 

と大粒の涙を流しながら部下たちと共に任務を与えられた光栄に感謝しつつ、様々な工夫を与えられた上でスレイン法国への帰路へと着いた。

 

「どんだけやばいんですか、アーカードさんの魅了って……」

「まあ一応これでも始祖の吸血鬼だから、その関係かな……まあ兎も角これからこの世界を調査する過程でスレイン法国は注意していく事が必要だな」

「ですね……俺達なんて目の敵にされること間違いなしでしょうし……」

 

異業種の集いといっても過言ではないアインズ・ウール・ゴウンなど目の敵にされても可笑しくはない、がニグンはモモンガを見た時にこうも言っていた。スルシャーナ様、と。

 

「明らかにプレイヤーですね、スレイン法国を助けた中に死の支配者もいたって事でしょう」

「それに後なんか妙なアイテムがあるって言ってたな……ケ、ケ…ケイなんたらって言ってたな」

「でもユグドラシルにそんなアイテムありましたっけ?」

 

ニグンが僅かに知っていた噂に近いような話、法国最強の部隊である漆黒聖典にはそのようなアイテムがあると聞いたことがあるらしいが、一つの部隊の隊長であるニグンも詳しくは知る事は出来なかったらしい。最強の部隊ならばユグドラシルのアイテムを所有している可能性も否定出来ない、だが廃人といっても過言ではないモモンガとアーカードすらそんなアイテムに覚えはない。

 

「もしかして訛った……とかですかね」

「あり得るな……ニグンに探らせてみるか?」

「それも検討しましょう、兎に角外の調査をするメンバーは厳選しつつ世界級アイテムを持たせる事にしましょう。この世界に世界級アイテムがあるならそれに対する備えは必要です、ぷにっと萌えさんの教えを全力採用のプランを構築しましょう」

「だな」

 

世界級アイテムに対抗する事が出来るのは同じ存在でしかない、外の調査を行うメンバーは慎重に選びつつもその漆黒聖典やらに出会った際には撤退を基本にした作戦を考えておく必要がある。仮に世界級アイテムを所持している連中ならば今の段階で対抗できるのはモモンガ、アーカード、アルベド位だろう。

 

「さてと……次にやるべきはガゼフが仕えてる王国の情報収集だな」

 

当座の目的であった情報収集の内、スレイン法国の情報はかなり入手出来ているしニグンを通して定期的に情報を得る事が出来る。ならば次のステップを踏むべきだろう。リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国、この二つの国への情報収集の敢行をすべきとアーカードは思案する、王国についてはガゼフからある程度情報を得られているがそれでも僅かな物、やはり自分達で情報を集める事は必須だろう。まずは近場である王国から始めるのが妥当、そんな中でモモンガはある案を思いついていた。

 

「アーカードさん、冒険者をやればいいと思うんですよ」

「冒険者って……確か村長が言ってたあれか?」

「はいっ現地での情報は貴重だと思いますし、何よりこの世界を見て回りたいじゃないですか!」

「……それが本音じゃないだろうなモモンガさん」

 

一瞬モモンガの身体が大きく震えた気がした。思わずジト目でそれを見つめてしまい、モモンガは焦りながらしっかりと目的がある事を語る。冒険者になればこの世界の資金を得る事が出来る、情報を集めるのであれば如何しても金が要る。ユグドラシルで使用していた金貨などは金としての価値はあるが通貨としては使えない、ならば現地の仕事で稼ぐしかない。

 

「確かにな……この世界の事を知るなら金はどうしても必要だな……」

「そうでしょ!?俺だってちゃんと考えてるんですよ!!」

「分かった分かった……後、それに合わせて金貨を溶かしてユグドラシルの物だと分からなくして売るのも手だな。やりすぎると足が付きかねないから自重は必要かもしれないが」

 

何度か協議を重ねた結果として冒険者として出向く事にはアーカードは賛成した、問題なのは守護者達の説得だろう。絶対に至高の御方々が行く必要などない、行くならば自分達を共にしてくれというに決まっている。

 

「如何しましょう……プレアデスから誰か連れていく事にしましょうか」

「それは普通にありだな。それと俺も行くからな」

「えっアーカードさんもですか!?」

「当たり前だ。自分だけ未知の世界を冒険しようたってそうはいかないぞ。後、俺に責任と仕事押し付けようとしてもそうはいかん」

「ナ、ナンノコトデスカネ」

「……よし、パンドラから<不死者を縛る鎖(アンデッド・チェーン)>借りてくるから待ってろ。その後、アルベドとシャルティアを部屋に放り込むからな。勿論<人化の指輪>を装備させてな」

「ちょっやめてくださいよ!!?アンデッド特攻の束縛特化アイテムじゃないですか!!?それ俺でも解くのに少し時間かかるんですからその間に食われるじゃないですか!?」




ニグン、ナザリックの為に働く事に。

後、漆黒の事は深くは知らない感じに。


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冒険者としての活動

エ・ランテル。三重の城壁に囲まれている城壁都市。正しく都市その物が壁といった印象を受ける。その城壁を二つ潜ったところのエリアは市民のためのエリアで様々な立場の住民が日々の営みがある。商いに勤しむ商人が声を張り上げて盛んに客を呼び込んでいた。しかしある一団が歩いている姿を見ると思わず目が留まり、声が静まり返る。先頭を歩く漆黒に輝きつつも金と紫の文様の入っている全身鎧は様々な羨望の視線を集める。その隣を歩く全身を漆黒に染めているかのようなロングコート、漆黒のテンガロンハットと全身を黒に統一しているサングラスを掛けている男。だがそれ以上に目を引くのは後ろの二人の女性だろう。

 

すらっとした細い身体に豊かで艶やかな黒髪をポニーテールにしている、白い肌は太陽の輝きを受けて真珠のように輝く。男であればだれもが見惚れるだろう、そんな女性がもう一人。艶やかでキメ細かい輝きを放つショートに揃えられたブロンド、纏っているマントは自己主張の激しい胸部を隠すかのように。そんな絶世の美女二人を連れている戦闘の漆黒の二人にも視線が集まっている。一体何者なのかと。

 

「モモンさー……ん。周りにいるやぶ蚊共を駆除してもよろしいでしょうか」

「ダメですよナーべさん、ここでは私たちは人間としているんですから。無用な問題は避けないと、まあ気持ちは分かりますけどね」

「も、申し訳ございませんセラス様……」

「私にも様はなしですよ。今は同じチームの同僚なんですから」

「し、しかし……」

 

『アーカードさん、セラスを連れてきて貰って有難う御座います。宿屋の事もありますし、一緒に来てもらうのは正解でした』

『セラスは人間に差別的な意識も薄いからな、玉藻よりも適任だろうと思ってな』

『ああっ……玉藻って確かカルマもマイナスでしたもんね……でも本当は食われるかもっておもったからでしょ』

『……まあな』

 

冒険者としての登録も無事に済ませ、紹介された宿屋で男に絡まれた。質の悪い奴らだったがそれらを一蹴した、がその時にポーションを割ってしまったので弁償したという事が起きた。矢張りモモンガの全身鎧は目立つのではないかと思いつつも、それよりもナーベラルとセラスが一番目立っているのだと。これから漸く冒険者組合で依頼を受けて自分達を顔を売ろうとしているのだが……少々先行きが不安である。

 

「惚れました!!一目惚れですお嬢様方!!」

「回れ右して帰っていただけます?」

「話しかけないでくださいミジンコ」

「ああっ冷たいお言葉が更に胸にしみる……?!!」

「「はぁっ……」」

 

……連れてくるのはセバスみたいな男の方がよかったのかもしれないっと本気で思い始めた二人であった。

 

 

「改めまして……本当に申し訳ありません。私たちは『漆黒の剣』というチームを組んでおります、私がリーダーをしているペテル・モークです。うちのチームの仲間であるルクルットが失礼を……これはチームの目や耳としてとても優秀な野伏なんですが……その、女性に目がないというか節操がないというか……」

「おいおいそんな言い方ないだろうぉ?今回はマジで本気さ、全身に電流が奔る程の恋さ、ああっなんて麗しいぃ!!」

「いい加減にしろって……ええっとそれで」

 

曰く本気の恋をしたというルクルットの事を放置して後の二人の紹介をされる。森祭事(ドルイド)のダイン、そして魔法詠唱者である『術士(スペルキャスター)』の異名を持つニニャ。魔法の天才として名高く、本人は恥ずかしがっているがその腕前は確か。生まれつきの特殊能力ともいえるタレントである『魔法適正』を保有し魔法の習熟が通常の倍近く早いらしい。ゲーム的に例えば魔法職系の経験値倍加、と言った所だろうか。

 

そして同時にこの街には更に特異なタレント持ちが居るという事も聞く事が出来た。ンフィーレア・バレアレ。あらゆるマジックアイテムを使用可能という物、それを聞いて思わず緊張が走る。ユグドラシルでは職業によっては使用不可のアイテムなどもあった、それを完全に無視出来るというのはかなりの強みになるし危険にもなりえる。注意しておく必要がある。

 

「私がリーダーのモモン、こちらはサブリーダーの」

「ヴァン・ヘルシング、気軽にヴァンと呼んでくれて構わない」

「そしてナーベとセラ・ヘルシングです」

「ほほう、という事はヴァン氏とセラ氏はご家族という事でしょうかな?」

「そのような物と思ってくれても構わんよ、私にとってはまだまだ手の掛かる小娘であることは変わらないからな」

「ええっ!?ちょっと酷くないですか!?」

「ならさっさと成長する事だ」

 

むっ~っと唸りながらジト目で睨みつけるセラスの視線を軽く受け流すアーカードにモモンガは矢張りロールプレイガチ勢は頼りになるなぁと改めて安心する。設定上ではあるが二人は親子という事になっている、まあ実際にセラスはアーカードの眷属という設定なので家族というのは間違っていない。

 

「それで仕事についてはエ・ランテル周辺でのモンスター・ハントで宜しかったかな」

「はいっ報酬は冒険者組合を経由して街から支払われる報奨金という事になります」

「(ドロップ品目的に近い物だな……)私に異存はないがリーダー、君は如何かな?」

「私も問題はないよ」

「異存はございません」

「お二人が問題ないのでしたら私も問題ないです」

 

問題もないという事でモモンガ達は漆黒の剣と共にモンスターを討伐することになったのである。

 

「ではまず一言……ヴァンさん、ぜひお義父様と呼ばせてください!!」

「せめてセラを口説いてからにしろ。セラ、その気はあるか」

「皆無ですね、というかタイプじゃないです」

「あうぅうんでも俺は諦めないぜ、この真実の愛を知っていただくまでは!!」

「本当にすいません、モモンさんにヴァンさん……」

「「いえいえ……」」

 

既に互いに準備も揃っているという事ですぐに出立する予定だったのだが……ここで予定外の事が起きる。自分達に直接指名の依頼が舞い込んできた、しかも噂のタレント持ちのンフィーレア・バレアレから。思わず疑問に思いつつも礼儀を考えて漆黒の剣との依頼を優先しようとも考えたが、是非とも関係を築いておきたいというモモンガの考えから、逆に自分達が漆黒の剣を雇ったうえでンフィーレアの依頼を受けるという事になった。

 

『しかし、あの宿屋の一件がこんな事に繋がるなんて……ラッキーと思っていいんですかね』

『思ってもいいんじゃないかな。あらゆるマジックアイテムを使用出来る、出来る事ならば手中に収めておきたい人材だ。関係を築くにはちょうどいいと思っておこう』

『そう言えばアーカードさん、セラスは基本ガンナーですけど武器は大丈夫なんですか?』

『昔俺が使ってた奴を使わせるさ、あれならこの世界でも問題ない』

『ああっあれですね!』

 

そんな会話が<伝言>で行われながら、モモンガ達はエ・ランテルから出立するのであった。




ヴァン・ヘルシング:2004年公開の映画タイトル。モンスター・ハンターであるヴァン・ヘルシングの活躍を描くモンスターアクション映画で作者が大好きな映画の一つ。ちょうどヘルシングで繋がりがあるので名前として採用。


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この世界での戦い

初めての依頼であるンフィーレアの護衛任務、それに従事しながら薬草が取れる森までの道を歩いていく。幸いなことに今のところモンスターの気配などはなく順調に工程を進められている。レンジャーであるルクルットがセラとナーベに色目を使ってちょっかいを掛けるのではと少々心配していたが、如何やら仕事はしっかりするタイプなようで安心した。それとも、ただ単にアーカードにいい所を見せようとしているだけなのかもしれない。

 

「セラ、扱いは気を付けろ。普段のとは感覚がまるで違うからな」

「はいっ大丈夫です、扱いきってみせますよ」

 

そう言って背負っているクロスボウを担ぎながら力強くアピールをする。セラスが持っているクロスボウはアーカードが拳銃にたどり着くまでに長らく使用していたクロスボウで中々に思い出深い武器。セラスも本来はアーカードと同じく銃を使用するが、この世界ではあまりにも目立ちすぎるのでこのクロスボウを与えたのである。

 

「にしてもセラちゃんは俺と同じく弓を使うなんて運命を感じるなぁ!」

「クロスボウと弓は同じじゃないですよ」

「たっはぁ~キッツいなぁ!」

 

相も変わらず口説こうとしているルクルットに呆れつつも、これでも必要な人材なのだからと肩を竦める。そんな中で出てきたのはこれから行く森をテリトリーにしているという強大な魔獣、通称森の賢王であった。

 

「森の賢王、ですか」

「はい、ここからカルネ村辺りまでがそのテリトリーなんです。その影響も滅多な事でモンスターは姿を見せません。他のモンスターには出会わないという意味では楽ですね、まあその賢王に出会ってしまったら最悪な状況でしょうけど」

「大丈夫だぜナーベちゃんにセラちゃん、俺が守るからよぉ!」

「ナメクジ程度に守られるほどやわではありません」

「貴方よりヴァンさんを信頼してるのでいいです」

 

これほどまでに拒絶や冷たい言葉を掛けられているというのにめげずにアタック出来るというのは尊敬するべき事なのか、諦めが悪いと呆れるべきなのだろうかと思っていると突然ルクルットが表情を引き締める。どうやらモンスターの接近に気付いたようだ、真剣な表情でモンスターの方向を指さすと確かに複数のモンスターがこちらへと接近してくるのが見える。それを見てセラスは素早くクロスボウを構える。

 

「この距離ならこのクロスボウで容易く撃ち抜けますけど、如何しますか」

「折角だ、漆黒の剣の皆さんに私たちの力を見て頂きましょう。我々も頼りになるという所をお見せしなければ形式上の雇い主としては情けない」

「リーダーに従おう」

「同じく」

「了解しました、では我々はンフィーレアさんの盾となりますが出来る限りのフォローはさせてもらいます」

 

ぺテルが素早く指示を出す、簡単なものだが各自がそれらを完全に理解して配置につきながら準備を整えていく。連携と経験が程よく調和している良いチームだという事を再認識しながらモモンガ達は前へと出る。敵はゴブリンとオーガの混成した群れ。大した相手ではないという事を理解しながらも普段とは違う戦い方でどこまでやれるかを試すいい機会だと思いながら、モモンはマントの下に隠すように装備していた巨大な剣を抜刀する。

 

「おおっなんと立派な……!!」

「あのサイズの剣を二刀流ってどんな力だよモモンさん!?」

 

モモンが抜刀した剣のサイズは150を超える程の巨大な物、その長さからかなりの重量である筈なのにそれを軽々と片手で、しかも両手に保持しているというモモンの怪力に漆黒の剣は思わず驚きを隠せない。そしてヴァンも懐から武器を出す。それは籠手に何やら丸鋸を付けているかのような特殊な物、そしてヴァンは手のひらにあるトリガーを握るように引くとそれに呼応するように丸鋸が勢い良く回転し始めていく。あの勢いの丸鋸なら易々と樹木を削り取って倒してしまうだろう。

 

「行きますっ!」

 

クロスボウを構えたセラがそのトリガーを引く、その途端クロスボウからは凄まじい速度の矢がまるで銃弾のような速度で射出されていく。それも連続して何本もの矢が撃たれていく、飛来する複数の矢の雨をゴブリンらは頭部に受けて次々と倒れていく中を切り込むかのようにモモンとヴァンが殴りこんでいく。全身を使って、剣を自らの一部と化すかのように洗練された職人の技のような一閃がオーガへと到達、それとほぼ同時にヴァンの拳がもう一体のオーガの頭部を潰しながら両手両足を回転する丸鋸の手刀によって、一瞬で二体のオーガが両断される。それらの隙を詰めるかのようにナーベが魔法を詠唱、指先から紫電迸る<雷撃(ライトニング)>が襲い掛かりゴブリンを貫通してオーガを焼く。

 

「す、すげぇ……」

「ミスリルどころの腕前じゃない、オリハルコン……いや、アダマンタイト級に匹敵するんじゃないか!?」

 

一瞬にして多くの同胞が殺された事に動揺し恐怖したゴブリンたちは脱兎のごとく退却し逃げ去っていく、それをセラが構えたクロスボウが狙い撃ってあっさりとゴブリンとオーガの集団は殲滅された。

 

「いやぁ本当にお強いですねモモンさん達は!!」

「正しく鬼神のごとき活躍とは、あのような事を言うのであるな!!」

「マジでビックリしちまったもんな!俺達がフォローする暇もないぐらいに手早い連携が出来てたもんなぁ!!」

「僕たちもあれぐらいになる位に頑張らないといけないですね!」

 

漆黒の剣の皆はモモン達の活躍に興奮している様子、冒険者として彼らもそれなりに腕が立つと自負はしているが改めて上の存在の力を目の当たりにすると嫉妬ではなく興奮と憧れを抱いてしまう。自分達もあそこまで行きたい、努力していってみせるという素直な気持ちが沸き上がる分、彼らは間違いなく伸びるとモモンとヴァンは確信している。

 

「にしてもさ、セラちゃんのクロスボウってなんで連射出来るんだ?クロスボウって威力高いけどその分手間がかかる筈だけど」

「それは特殊な細工がしてあってな、多くの矢を装填しそれを放てるようにしてある。その分、手入れに手間がかかるがな」

 

嘗てアーカードが使用していたクロスボウ、ユグドラシル内では<スーパークロスボウ>とも呼ばれていた。高圧ガスを利用して矢を連続して放てるという物で矢もマガジン式で弾幕を張る事も出来る。但し、余りにも高速で矢を撃つので直ぐにマガジンが空になって再装填が必要で当てるにも本人の力量に依存するという弱点がある。だがこれはアーチャーとガンナーがどちらも使えるという利点もあるのでユグドラシルではそれなりに人気の武器の一つだった。

 

「こりゃ俺の弓はいらないかな?」

「その分、矢をあっという間に使い切る。腕が肝心だ、それに再装填の間にお前が矢を撃ってフォローするという手もある」

「おおっ成程!ヴァンさん、もしかして俺の事セラちゃんの相手として良い感じに見てる!?」

「チームの役割としてはありだとは思っている。それだけだ」

「たっはぁ~手厳しいぃ~!」

 

そんな中で、本来魔法詠唱者であるモモンガは自分がこの世界で前衛としてそれなりに出来る事に安心感を得ていた。矢張り前もってコキュートスに剣の使い方を習ったのは間違いではなかったようだ。

 

『モモンガさん、コキュートスの教えは正しかったな』

『そうですね、まあその分結構スパルタでしたけど……』

『そういう所は親そっくりだな』

『全くその通りですね』



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森の賢王

「これである種の安心があるな、ユグドラシル内のアイテムは基本的に同じという訳だ」

「ですね。<ゴブリン将軍の角笛>も予想通りな物ですし、そう思っていいんでしょうね」

 

この世界に来てから初めての戦闘を乗り越えて、穏やかな丘や森の近くを超えていくと漸く目的地のカルネ村に到着した……のだがそこには武装したゴブリンたちがまるで村の防備を固めるかのように存在していた。それらに武装の解除を促されるが、そこへモモンガと共に助けた少女の片割れであるエンリが現れた。彼女はンフィーレアと友人関係にある事もあって何の問題もなく村の中へと入る事が出来た。この村で少々の休憩を取った後に森へと入って薬草探しを行う事となる。

 

「しかし、本当になんで将軍なんだ?毎回思うが名前負けもいい所だろうに」

「ですよね。ユグドラシルでも偶に話題になりましたもんね、その度に検証やらが行われたけど全然わからないから結局運営のお遊びだって事になってましたけど」

「モモンさ~ん!!ヴァンさ~ん!!!」

 

二人で話し合っているとそこへンフィーレアがやってくる、どうやらエンリから話を聞いているうちにそれらを繋ぎ合わせていき、自分の祖母がやっている店にやってきた冒険者が見せたモモン達が与えたという赤いポーションの話を繋げた結果として自分達が村を救った二人だと気づいたらしい。それに殺気を向けるナーベをセラスが止めながら二人は言う。

 

「そうだな、私たちであることは否定しきれないな。君が黙っていてくれるのならば嬉しい限りだ」

「はいっ勿論です!この村を、エンリを救ってくださった方々にご迷惑になるような事なんて絶対にしません!」

「(なるほど、恋か……)ならばこれはコネクション作りの一環と我々は捉えるさ。君もそれでいいだろう、そうすれば君にも何れ赤いポーションを渡す時が来るかもしれないぞ」

「はっはい分かりました!!これからもよろしくお願いします!!」

 

これでンフィーレアは自分達に協力的な現地人という事になるだろう、下手に脅すよりも感謝という名の鎖の方が

余程強固で頑強な関係を生み出せるという物だ。これはこれで怪我の功名という奴だろう。

 

「さてと、そろそろ薬草採取へ赴くとするか。案内を頼むぞ私たちの依頼人君」

 

茶目っ気を含ませたウィンクにンフィーレアは笑顔で答えながら先に行って待っていると駆けだしていく、そんなウィンクにナーベラルとセラスは思わずトキメキを覚えたりもするのだがそれはまた別の話である。

 

 

「ここからが薬草の採集ポイントになりますので護衛をお願いします」

 

漸く本題である薬草採取へと入る事になる、森の賢王と呼ばれる強大な魔獣のテリトリー。そのテリトリーが故にある種安全は確保されているが件の魔獣が問題になる位だろう。それでもモンスターと遭遇する可能性が高まりかなり危険な行為であるので冒険者である皆は入念に準備を整えてきた。

 

「まあモモンさん達が居るなら何とかなるだろ、あれほどの力を持っている方が一緒なら心強いですし」

「頼りにされるとしましょう」

「えっと万が一森の賢王と出会った場合なんですけど、出来れば倒さずに追い返すことは可能ですか?」

「テリトリーの変動を気にしているのだな、問題はないだろう。仮にも賢王と呼ばれているなら知性も高いだろうし上手くやれば双方の利益にならないと理解して貰えるだろう」

 

仮に獣性が強く話が通じないとしても力でねじ伏せて上下関係を教えてやれば獣は大人しくなるだろうとアーカードは秘かに思っている。というかそっちの方が手っ取り早い。そして同時にモモンガは<伝言>アウラへと飛ばして森の賢王を誘き出すように指示を出す、敢えて戦う事で名声を高めようのが目的。流石に倒すのはまずいらしいので爪の一本や尻尾を切り取って持ち帰る程度にしておいた方がいいかもと今の内に打ち合わせをしておく。

 

 

「……おい不味いぜ、なんかでかいのがすげぇ速度でこっちに来てる……!!」

 

順調に薬草採取が行われていき、十分な量に達しようとしていた時の事だった。ルクルットが森の異変と凄まじい気配が迫ってくるのを感知。馬の速度などではない、それ以上の速度で木々の間を縫うように爆走しているのがわかる。

 

「森の賢王か!?」

「分からないけどそう仮定した方がいいかもしれねぇ!!やべぇなこのままだと直ぐに来るぞ!!」

「では打ち合わせ通りに此処はモモン殿らにお任せし、我らはンフィーレア殿を連れて退却するとしよう!」

「それが一番だ!!ニニャ、急げ!!」

「はいっ!!」

 

前もって決めていた通りに手早く荷物を纏めて来た道を戻っていく皆、ンフィーレアは気を付けてくださいというがそれにヴァンは力強いサムズアップで答える。そして去っていくのを確認すると武器を取り出しながら迫りくるそれに構えを取る。そしてその直後に木々の隙間から突如としてとんでもないスピードで鞭のようなものが身体を貫かんと迫る、モモンがそれ完璧に受け止め、セラがそれが来た方向へと矢を放つが全く手応えもなくそれは再び森の中へと消えていく。

 

「鋼鉄並の物があれほどに自由自在……普通に厄介だな」

「加えて伸縮自在か長いというのも加えるべきだろう」

 

―――それがしの初撃を完璧に防ぐとは……天晴でござる。

 

「「……それがし……ござる?」」

 

響いてくる声の言葉を聞き返すかのように呟いてしまう、そんな言葉をギルドメンバーの「武人武御雷」と「弐式炎雷」がそんな言葉を使っていたような気もする……確か大昔にいた侍が使っていた言葉だとか、武御雷は侍の中でも島津が最強……だとか、島津には妖怪がいるだとかなんとか言ってた気もする。

 

―――さて、それがしの縄張りに土足で侵入してきた者よ。いま退くのであれば、先程の見事な防御、そして矢の冴えに免じて追わずにおくでござるが……どうするでござるか?

 

「愚問だな。そういう貴様こそ姿を見せたらどうだ、賢王というのは名前だけか」

 

―――言うではござらぬか……ならばそれがしの偉容に瞠目し、畏怖するがよいでござるよ!

 

声と共に木々の間から声の主が姿を遂に姿を見せる。その姿を見たモモンガとアーカードは思わず言葉を失った、まさかこんな魔獣が居るなんて思いもしなかった、いやユグドラシルでもいなかった。彼らの常識では当てはまらない魔獣がそこにいた。

 

 

―――驚愕に動揺、それに支配されているようでござるな。それは正しい反応でござる、生物として正しい反応でござる。

 

ナーベラルとセラスはそんな事ないと二人の顔を見る、モモンガはヘルムで見えないがそれでもアーカード徒と同じく驚愕している事は分かった。まさか至高の御方である二人を驚愕させるなんてと思う中で、モモンガとアーカードは呟いた。

 

「「お前の種族……ジャンガリアンハムスターって言わないか?」」

 

その言葉に森の賢王は、木々の間からつぶらな瞳をぱちくりと瞬きさせながら姿を現した。余りにも巨大で20メートル近い尻尾が異様ではあるが、どう見ても見た目はジャンガリアンハムスターだ。

 

「なんとぉ!?もしやそれがしの種族を知っているのでござるか!?」

「ま、まあ知っているというか……仲間がお前に似た動物を飼っていたというか……」

「で、では是非教えてほしいでござる!ぞれがしは是非とも同族に会いたいでござるよ。同族がいるのであれば、種族を維持するという責任があるのでござる。子孫を作らねば生物として失格でござる故……」

 

酷くさびしそうに森の賢王は呟いた。彼からしたらずっと一人で同じ存在がいるかもわからなかった、出来る事ならば同じ存在に会いたくて堪らないというのが伝わってくるが、思わずモモンガは顔を背けた。アンデッドの自分は既に子供を作れないから失格なのだろうかと真剣に考えてしまっている。そんな賢王にアーカードは近づいて優しく身体を撫でる。

 

「そうか、確かに寂しいものだ……孤独は常に自分を蝕んていく。そして心を侵食していく……お前も家族が欲しいのだな」

「そうでござる……一人なのは嫌なのでござる、分かってくれるのでござるか……?」

「うむっ私も一人きりだったことがある、孤独に耐えながら仲間に会える日を待ち続けていたよ」

 

思い出すは心臓の病のための闘病生活、自分が有能であった為に会社が関係を持っている富裕層に取り次いでくれたおかげで自分は十分な治療を受ける事が出来た。その過程で一部の富裕層に目を付けられて、接待などを強要されたりもしたが、まあ生きていられるのでそれも今となればよかったとさえ思える。

 

「私たちが知っているお前の種族は酷く小さく、大人でも手のひらに乗る程だった。だがどうだ、私達の下に来るならばその力で同族を探してやることもできるぞ」

「ま、真でござるか……?しかし、何故それがしにそこまでの事を……」

「孤独を知る者としての温情というやつだ、受け取るか?」

「……是非とも、受け取らせてほしいでござる。そしてそれがしを貴方様、殿の配下に加えてほしいでござる……触れられて分かってござる。途轍もない力を感じるのでござる、そんな方にお仕えしたいでござる」

 

予想外の事が起こったが、森の賢王はアーカードの配下に入る事となった。これならンフィーレアの要望も叶える事も出来ただろう。そんな賢王を連れて森を出て皆の下へと向かう……が問題の賢王がこんなに愛らしい姿をした魔獣など知って落胆しないだろうか、というかこれで明らかに自分達の名声を高める事なんて絶対に出来ないとモモンガとアーカードは思っていた……が

 

「凄いなんて立派な魔獣なんだ!!」

「(……はぁっ!!?)」

「(えっ)」

 

とニニャが叫ぶのを皮切りに次々と声が上がる。

 

「こうして傍に立っているだけで、強大な力と英知を感じるのである!!森の賢王という名は伊達ではないであるな!!」

「確かにこりゃナーベちゃんを連れられるし、セラちゃんの親父さんなだけはあるぜ!!」

「これほどの魔獣に私達だけで相対したら、皆殺しにされていましたね……流石モモンさんとヴァンさんだ!!」

 

「……ナーベは如何思う?」

「強さは別として、力を感じさせる瞳をしていますね」

「……セラス、お前は?」

「とても屈強で賢い魔獣だと思いますよ」

「「……嘘だろ」」

 

この時、モモンガとアーカードはやっぱりここは異世界なんだなと強く実感するのであった。



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不快感

エ・ランテルに到着したモモンガ達は視線を集めていた、既に日は落ち漆黒の帳が辺りを包み込む中でも皆の視線はくぎ付けになっていた。賞賛と驚愕、どよめきの中心部へと立っているヴァン・ヘルシングことアーカードは少しリラックスしながらそれらを受け入れていた。富裕層での経験もある為かこういった目立つことには慣れているからかもしれない。

 

『アーカードさん、本当に大丈夫なんですか……!?今から俺も一緒に乗りますよ、アーカードさんだけにこんな辱めなんて……』

『気にしてないさ。それにこんな経験なんて異世界でもないとできないって思っておくよ』

『そ、そうですか……?』

 

現在アーカードはンフィーレアの依頼の薬草採取の最中に配下となった森の賢王の背に乗ってエ・ランテルへの凱旋を果たしていた。森の賢王の身体は丸いので身体を横に向けるような形で騎乗している、そんなアーカードへと向けられている視線は羨望や畏怖、そして憧れなどが多かった。見た目的にはメリーゴーランドにいい年をした大人が乗っているのに近い物がある筈なのだが……矢張り感覚が違うのか、この世界からしたらアーカードはペガサスなんかに騎乗しているように見えるのだろう。

 

「それではモモンさん達はこれから森の賢王の登録ですね。私たちはンフィーレアさんを手伝って荷降ろしをしてきます、またあとで合流しましょう」

「ええっではまた後で」

 

一旦ンフィーレアと漆黒の剣とは離れて組合へと向かう、そんな中でアーカードは森の賢王の名前を考えていた。モモンガに知恵を借りてもよいのだが、生憎モモンガのネーミングセンスは良くない事はギルドメンバー内では周知の事実だった。アインズ・ウール・ゴウンの名前になる前に彼が出した名前の案は「異形種動物園」だった。故に自分で考えておいた方が良いだろう。そして組合に到着した時に登録した際に彼が決めた名前は―――

 

「これで登録は完了だ、今日からお前はスマインだ。愛称はマインだな」

「かたじけないでござる殿。この時をもってそれがしはスマインの名前を拝命するでござる!」

 

スマイン、森の賢王という名前を持つほどの知性を持っているのだからそれを使った。正直名前に困ったのでそこから使ったともいえるのだが……スマートブレインと当て嵌めてそれを縮めただけ。そしてどうやら賢王は女の子らしいのでせめての物の抵抗として、愛称は女の子っぽいものにする事にした。因みにモモンガはハムスケやダイフクという名前を考えていたらしいがそれでもよかった気がしてきた。特にダイフクとか。

 

「なんとっ素晴らしい魔獣……!!おやっお主らはもしかして孫と共に薬草の採取に向かった者たちではないかの?」

 

森の賢王ことマインの登録も終了してこれからンフィーレアの店へと向かおうとしているときに一人の老婆が話しかけてきた。話を聞いてみるとどうやら彼女こそがンフィーレアの祖母であるリイジー・バレアレであったようだ。折角なので彼女と共に店へと向かう事となった。そして到着したリイジーの店で見た物は……全滅しゾンビと化して襲い掛かってくる漆黒の剣の皆だった。

 

 

「……安らかに眠ってくれ」

 

ゾンビと化していた彼らをもう一度殺したモモンガ達は彼らに布をかけつつも冥福を祈る。僅かな時間ではあったがともに旅をした仲間だった、彼らには冒険者として色々教えて貰った。これからも出来る事ならば仲良くして良い関係を築いて人脈とするのも考えていた。その矢先がこれだ、何とも言えない。そして彼らの連携と仲の良さは自分達、アインズ・ウール・ゴウンの仲間たちとも共通する所があった。それを想っていたアーカード、そしてモモンガにとって今の光景は酷く不快に感じられた。

 

「わ、わしの孫が……ンフィーレアがおらんのじゃ!!」

 

そんな中に響き渡るリイジーの悲鳴めいた声、それを聞いて確信した。漆黒の剣の身なりは整ったまま、物取り目的の物ではない。無くなっているのは彼らの冒険者の階級を示すプレートのみ。目的はンフィーレアであった事は明白だ……それを聞いてアーカードは声を出す。

 

「リイジー殿、彼らはお孫さんを守ろうとして全滅したようだ。私としては彼らの仇を討ちたい、その過程としてお孫さんの救出を行いたいと思っている。良いだろうか」

「……願ってもない事じゃ、冒険者に依頼するのと変わらないじゃろう」

「では承ろう。任せておけ」

 

力強く答えるアーカードにリイジーは確信めいた予感を感じていた。彼らならばきっと孫を助けてくれると、そしてそれに見合うだけの報酬を絶対に用意すると。孫を助けてくれるのであれば全てを明け渡してとしても構いはしない、それだけ彼女にとってンフィーレアは大切な孫なのだ。

 

「すまないな、勝手に話を進めてしまった」

「気にしてませんよアーカードさん。それに俺だって結構むかっ腹立ってますから、仇を取ってやりましょう」

 

モモンガとしても漆黒の剣の仇を取るのには賛成だった。彼らとの短い旅は中々に楽しかったし冒険者としての基本なども教えて貰った。彼らには恩義もある、それを果たす為に仇を撃つ。リイジーに頼んで一室を借り、地図を広げながら作戦会議という名を打っているがやる事は決めている。

 

「ぷにっと萌えさん考案、誰でも楽々PK術。相手の情報をとにかく収集し、奇襲でもって勝負を付ける」

「魔法による情報収集を行う際には防御対策を念入りにする。これらが基本……でしたね」

「の割には俺が囮の作戦も多かったよな」

「いやだってアーカードさんが余りにも不死身だからですよ」

 

そんな会話もしながらも魔法などを幾つも行使しながら情報を収集し、ンフィーレアがいるであろう場所を特定した。そこへ死の支配者と始祖の吸血鬼は従者を伴って出陣するのであった。




森の賢王の名前は一応考えた結果です。

……某ライダーの会社は関係ないですよ?別に突然、賢王が

「Exceed Charge」

とかは言いだしませんから。


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夜会

エ・ランテル外周部の城壁内の四分の一、巨大な区画を丸ごと使用しているのは共同墓地。これほどまでに巨大な区画を使うのは理由がある、死者が集まる場所、生者が死を迎えたその場所には不浄なる命が生まれてくる場合が多い。墓地に不浄なる者、即ちアンデッドが発生したとしてもある程度の数ならば隔離出来る。定期的に冒険者が墓地の中へと入ってアンデッドを狩り、より上位のアンデッドが湧くのを防止するようにもしている。だが、その墓地では衛兵たちが大騒ぎを起こしていた。

 

―――墓地を埋め尽くさんとする限りのアンデッドの大群が迫っている。

 

途轍もない数のアンデッドが壁をよじ登ろうとする、それらを阻止するために槍を振り下ろしては持ち上げ再び振り下ろすのを何度も繰り返す。腐敗臭が嗅覚をマヒさせるかのような長い時間、それだけを繰り替えす。自分達の役目を必死に行い続ける作業を繰り返していく、だが徐々に疲労が溜まっていく。疲労という概念がないアンデッドはただただ壁を登ろうとしてくる。衛兵の隊長は後退の命令を出す、自分達だけでは到底対応しきれない。応援を待って殲滅するしかないと思っていた時の事、更なる絶望が到達した。

 

集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)。自分達だけでは決して倒せないような巨大なアンデッドが姿を現した。壁すら余裕で超えてくるような巨体に絶望を感じていた時だった。その巨人の頭部が消し飛んだ。そしてそれと同時に地面に見事なグレートソードが刺さった。

 

「やれやれっ賑やかな夜会な事だ、そうは思わないか友よ」

「夜会というには品もないな。こういうのは運動会というのだよ、墓場でな」

「成程、夜にするには最適だな」

 

そこへ現れたのは屈強な魔獣を連れた全身鎧の戦士、そしてテンガロンハットを被った漆黒の男とそれらに続くようにしている二人の女性。彼らが着用している金属製のプレートを見て冒険者か!?と希望を抱く中でそれが銅のプレートであることに気付きそれらが無に帰そうとするが、グレートソードを片手で引き抜く姿を見て希望が再び燃え上がる。

 

「門を開けろ、この先に用がある」

「よ、用がある!?今この先の墓地はアンデッドが山ほどいるんだぞ!?無数の数のアンデッドが!!」

「それがこの私に、モモンに何か関係があるのか」

 

圧倒的なほどに自信を持つ戦士に衛兵は威圧され、何も言えなくなる。だがそんな事知った事かと、隣の男であるヴァンは帽子を被り直しながら手に武器を構えながらセラに視線を送る。

 

「私も同意だな、では行くとしよう。行くぞセラ、スマイン」

「はいっヴァンさん!」

「承知したでござる殿!」

「おいおい置いていくなよ、行くぞナーベ」

「ハッ!!」

 

そんな言葉を残してその一団はまるで小さな溝を超えるかのような軽快さで壁の向こう側へと行ってしまった。嵐が過ぎ去った地のような静けさが衛兵の間に広がっていく、そしてどれほどの時間がたったのか分からない中で衛兵たちが気付いた。アンデッドの呻き声が全くしない。壁の向こう側を恐る恐る視界に入れると居たはずのアンデッドの群れが居ない、それどころか遠くからは剣戟の音が聞こえてくる。

 

「俺達は、伝説を見てるのか……?漆黒の戦士、いや―――漆黒の英雄たち……」

 

 

「しかし凄い数でござるなぁ!!ふうぅんぬうでござるぅ!!」

「ええいっ何時もの銃で吹き飛ばしたい!!」

 

とスマインの背に乗りながら文句を言いつつも正確な狙いでアンデッドたちの頭部を吹き飛ばしていくセラス。アンデッドに弓などは相性が悪い、それらを腕前でカバーしているが矢張り効果は薄め。余計に矢を撃つ羽目になっている。特にアンデッドは生命に対して反応する性質を持っているにスマインを集中的に攻撃している。それらをセラスがフォローしつつ自慢の尻尾で一気に薙ぎ払っていく、流石に尻尾の一撃は耐えきれないのか次々と崩れ去っていくアンデッド。

 

「セラス殿、矢の数は大丈夫なのでござるか?目的はあくまでそれがし達が倒したという理由作りなのでござろう?」

「そうね……もうマガジンは3つ使っちゃったしもう良いかもね。マスター予定通りのマガジンを使い切りましたぁ!!」

「よしっでは一気に終わらせるか」

「了解ですマスター」

 

それを皮切りにモモンガは<中位アンデッド作成>を発動し自らの下僕となる物を作り出し、それらにアンデッドの相手をさせていく。有象無象程度のアンデッドは中位のアンデッドで無双できるので心配ない、更にこの墓地に何者かが侵入しないように、した場合は追い返す用の下位のアンデッドも作成しておく。これでいざという時は遠慮なく自分達の全力を出す舞台が出来上がった。そして進んでいくと霊廟らしき場所で何者かが儀式を行っている様子が見える、念の為にスマインを見張りとして待機させたままで前へと進んでいく。

 

「カジット様……」

 

儀式を行っている内の一人が小声で中心部にいるローブの老人に言う。小声だろうと自分達にとっては聞こえる、声をかけるにしても名前を出す時点でアウトだ。

 

「良い夜だな、こんな夜にこんな儀式を行うのは無粋だぞカジット君とやら」

「……貴様らアンデッドの群れを突破してきたのか?」

 

儀式を邪魔されたからか、それとも名前を呼んだ一人に苛立っているのか忌々しげにカジットが質問を投げ掛けてきた。それにはアーカードが答える、さぞ退屈そうに答えてやる。

 

「あの程度のアンデッドなど軽く飛べば簡単だ。随分とめでたい頭の持ち主だな、いや寂しい頭か」

「偽りを吐くとはな……そんな筈がなかろうが」

「それは君たちの勝手にすればいいだろう、私達の目的は君たちが攫った少年だ。彼を返すのならば殺すまではせん、それと―――そこにいる女は顔を見せろ。刺突武器を持っているだろう」

 

カジットは一瞬言葉に詰まる、自分達だけだと言おうとする前に問題の人物が出てきてしまった。霊廟から一人の女が顔を出す、愉悦に歪ませながらも自分の優位を信じ切っている表情と甘ったるい声が特徴的な女。

 

「あっははっいや~バレバレみたいだったしさ。隠れてても仕方ないなって思ったからいいよねカジっちゃん」

「貴様……」

 

気軽そうに話している中、セラスが<伝言>でアーカードへと言葉を飛ばす。

 

『マスター、あの女はそれなりにレベルがあるみたいです。あと武技……ってやつでしたっけ、それも使えるっぽいです』

『ほうっ?』

 

セラスの基本職はガンナー、後方支援が主で狙撃や射撃系のスキルを多数習得しているがそれだけではなく観測手(スポッター)としても活動が出来るように相手の情報を引き出すスキルも習得している。流石にスキルなどの詳しい情報を得るには至近距離から見る必要があるが、今回はそれが良い方向に働いている。

 

『詳細は分からないですけど……』

『いや使えるのが分かっただけで十分だ、では奴はこの世界ではそれなりの強者という訳か……』

 

僅かに考え込むとセラスとの<伝言>を切ると即座にモモンガへと繋げる。

 

『モモンガさん、ちょっと我が儘良いですか。あの女で実験をしたい』

『実験ですか、どんな実験を?』

『眷属化の実験。この世界の人間を眷属にしたらどうなるのかを試してみたい、魅了(あっち)はニグンに使ったけどこっちはまだだし。それにするなら強い奴をしたいんだ』

『分かりました。確かにアーカードさんのスキルの検証も必要ですもんね。んじゃあいつらはちゃっちゃと倒しちゃいますね』

『んじゃあの女の動きは俺が縛りますから、その間に掃除を』

 

瞬間、<魅了の魔眼>を発動してそれでこちらを見つめながらニヤニヤしている女を見る。ちょうど視線が合ったことで彼女の目にアーカードの瞳が映り込んだ。その時から彼女の内側から噴火する火山のマグマのように沸き立つものがあった、身体が熱くなり脳が沸騰するような感覚。女としての本能が疼いている、そんな感覚に魅了されてしまい思わず座り込んでしまう。

 

「ぁぁっ、ぁぁぁっ……」

「おい一体どうしっ―――」

 

刹那、疾風の如く駆けるモモンガとナーベラル。二人が持った剣が一閃され、彼らの首が瞬時に落とされた。彼らには何が起こったのかも分からぬまま、意識と命は闇へと葬られた。死んだ場所はちょうど墓地なのだ、ある意味ちょうどいいかもしれない。目の前で仲間が殺されたであろうにも拘わらずに女は動かない、正確には朱に染まった頬と恍惚とした表情でアーカードを見つめたまま動かなくなっていた。そしてアーカードはその女へと近づいて行く。

 

「お前の名前は」

「クレ、マンティーヌ……クレマンティーヌです……」

「そうか、ならばクレマンティーヌ―――お前は私の物だ」

 

そう問いかけると彼女、クレマンティーヌは益々恍惚に表情を染めながら自らを見下ろすアーカードに悦びに満ちた声で頷いた。




アーカードはエロ光線を使った!

クレマンティーヌはメロメロだ!


大体こんな感じ。


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吸血と眷属

エ・ランテルの共同墓地、そこで起こったアンデッドの大量の発生。それを引き起こしたと思われる一団の撃破を終了したモモンガ達、そんな彼らがこれから行おうとしていたのは、セラスが自身のスキルでそれなりに強い事を見抜いたクレマンティーヌに対してのアーカードによるスキルの実験であった。クレマンティーヌはアーカードの<魅了の魔眼>を受けた事による魅了を受けている状態になっているが、如何にも様子がニグンに対して行使した時とは異なっている。端的に言えば性別の違いだろう。

 

<魅了の魔眼>その物は相手に魅惑の効果を与える物だが、クレマンティーヌはアーカードに対して女として魅了されてしまった。強烈な恋愛感情と魅了が掛け合わせてしまいこの状況が出来上がっている。ニグンの場合はアーカードのカリスマ性に魅了されたに近い状態だが、異性の場合はそこに恋愛感情がプラスされてしまう。

 

「<魅了の魔眼>……これはかなり強力だな」

「そうですね、マスターの場合は<始祖の吸血鬼>ですから魔眼の力が更に強いのでそれもあると思います」

「成程。吸血鬼としての格というやつか……」

 

セラスも同じ魔眼を使う事は出来るが、アーカードほど強くはない。そこは吸血鬼としてのランクの差という奴だろう。

 

「さてクレマンティーヌ、改めて言っておくが私は吸血鬼だ。人ならざる化け物だ」

「吸血鬼……?」

 

ヴァン・ヘルシングとしての姿から本来のアーカードとしての姿に戻る。同時に<人化の指輪>も外して完全に元に戻るとクレマンティーヌも目の前にいるのが吸血鬼であることを完全に理解したのか驚きを隠せないといった様子だ、言う必要はないかもしれない。だが魅了されている彼女は逃げる事はない、単なる自己満足だがアーカードはやっておきたかったのだ。

 

「私の眷属になる、それは人ならざる者へと成り果てるという事だ。殺されぬ限り死ぬ事の無い吸血鬼となる」

「……私が、吸血鬼……構いません、いえ寧ろ私を吸血鬼にしてほしいのです!!」

 

頬を赤くしたまま、神への祈りをささげるかのように手を組んで懇願するクレマンティーヌ。そこに迷いなどはなく真っすぐな物がある、それは魅了されたからなのかは定かではない。

 

「貴方と同じ時を刻む事が出来るのならば私もその存在へとなりたい……永遠の忠誠を誓わせてください!!」

「……それはお前の意思だな」

「はいっ今まで生きてきてこれほどまでに燃え上がるような感覚なんて初めてです……この思いを、永遠に感じていたい……そして、貴方のお傍にお仕えしたい……」

 

彼女にとってアーカードから受けた<魅了の魔眼>によって与えられた感情は初めて体験する燃えるような恋情だった。愛を受ける事も本気で誰かを愛する事もなかった彼女にとってそれは刺激的すぎた。それが魔眼による偽物だったとしても構わない、もう自分はこれなしでは生きていけない。この愛に生きたいと心の奥底から思った。狂ってしまっている自分に残っている女がまだ残っていた、それが本気で望んでいる。この偽物に本当に生きていたい。

 

「良いだろう、これからお前を私の眷属とする」

 

膝を付く、彼女と目線を合わせながら軽く喉元を撫でてやる。触れられただけで全身を駆け巡っていく快感、ゾクゾクとした物と電流のようなものが全身を突き抜けていく。たとえ今殺されたとしても後悔がないレベルの快感に身を震わせる。首筋が伸び切ったところで指を止めながらそっと彼女の首元へと口を持っていく、口内から鋭い牙が姿を見せながら息がその首筋を刺激する。そして―――

 

「スキル発動<吸血>」

 

アーカードはクレマンティーヌの首へと牙を突き立てた。牙が皮膚を破り、肉を裂く。そこから血が溢れていくがそれらが彼へと吸われていく。この世界で初めて味わう血の味、人間の頃では考えられない程に酷く甘美な味わいがする。濃厚な血の味が口内を支配する中でアーカードはその美酒に酔いそうになりながらも血を吸い続ける。

 

「あぁぁっ……んぁっ……ひゅっぁぁぁぁっっ……」

 

モモンガは目の前で行われている<吸血>の光景を見ていたが次第に見ていることが辛くなってきた。それは余りにも簡単だった。

 

「ナーベラル、私達は霊廟の奥へと入るぞ。依頼を果たすとしよう」

「承知致しましたモモンガ様」

「で、ではセラスここは任せるぞ」

「お任せくださいモモンガ様、確りとここは守っておきますので」

 

ナーベラルを連れて霊廟へと足を踏み入れていくモモンガ、ハッキリ言ってその光景を見ていられなくなったのだ。吸血鬼に血を吸われるという事をされているクレマンティーヌ、彼女が発する声は皮膚が破られた苦痛の声でもなく、肉を裂かれた悲鳴でもない。まるで性交をしているかのような悦びを孕んだ嬌声のようだった。吸血をされる側が与えられるのは苦痛ではなく凄まじいまでの快楽、同時にアーカードの血の一部が彼女に流れ込まれ、クレマンティーヌは彼の眷属となる。

 

「ぁぁっ……んんっっ……」

「……羨ましいなぁ……」

 

セラスは血を吸われているクレマンティーヌに思わず羨望を感じてしまった。彼女もアーカードの眷属ではあるがそれでも主人に血を吸われるという行為に如何してもそんな感情が生まれてしまった。自分も吸われたいという思いを抱いていると吸血が終わったのかクレマンティーヌから離れる。クレマンティーヌの身体は見た目は変化はないように見えるが、瞳が血のように赤く染まり吸血鬼の証拠でもある牙がそこにあった。

 

「これでお前は人間ではなくなった。どうだ吸血鬼(ドラキュリーナ)となった気分は」

「―――世界が違って見えます……ご主人様……」

「それは上々。お前は私の物だ、私のために全てを尽くせ」

「承知致しました。このクレマンティーヌ、アーカード様の眷属として恥じぬ働きをすることをお誓い致します」

 

モモンガが霊廟の中でンフィーレアを無事に保護し戻って来た時に見たのは、完全に眷属となりアーカードに跪くクレマンティーヌの姿であった。



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世界級の喜び

「さてっ……これでポーションの件は終わりでいいだろう。この世界でどこまでユグドラシルのポーションに近づけられるか見物だな」

 

リイジーの依頼であったンフィーレアの救出を無事に成功させたモモン達、ンフィーレアを抱えて墓地から帰還すると冒険者組合から呼び出しを受けた。どうやら共同墓地で起こったアンデッドの大量発生に立ち向かった事が衛兵たちによって伝えられたらしく、その事実確認であった。一応カジットらの遺体は回収して冒険者組合に突き出した結果、カジットらはズーラーノーンという秘密結社の人間だった事が明らかになった。モモン達にとってはンフィーレアを助けに行ったらそれが犯人だったので倒したという程度であったが、かなりの働きをしたという事になり、モモンらはミスリルの冒険者として格上げされる事となった。

 

「アーカードさん、クレマンティーヌの様子はどんな感じですか?」

「全くもって私に忠実だ。ナザリックNPCとほぼ変わらないで通じるかね」

「OK把握しました」

 

ンフィーレアを救出して貰ったリイジーは深くモモン達、モモンガへと感謝を捧げていた。そしてアンデッドの大群の中から大切な孫を救ってくれた礼として準備したのが自分の全てであった。財産だけではなく自分の薬師としての腕を全て差し出すという彼女に、モモンは少し困りながらもそれを受け取る事にした。そしてンフィーレアから中継して貰い、二人をカルネ村にてユグドラシルと現地のアイテムを使った全く新しいポーション作成を依頼する事にした。

 

「そして……次はシャルティアでしたっけ」

「ああっ任務の成功の報告、そして何やら献上品があるらしい」

 

モモンガがシャルティアへと与えた任務は「武技、魔法、世界情勢に詳しい者の捕獲」である。ニグンという存在を確保はしているが更に詳しい情報を得る為にこのような指令を下している、出来るだけ早急に情報を集めておくに越したことはない。だが万全も喫している。ニグンの話からこの世界に他のプレイヤーの存在が考えらえる、それによってそのプレイヤーによって持ち込まれている可能性がある世界級アイテムを警戒している。

 

世界級アイテムは文字通り、それ一つが世界に匹敵するほどの力を持った総数200からなるアイテム。ユグドラシルにおいては一つ一つがゲームバランスを崩壊させかねないほどの破格の効果を有している。これらの効果に対抗する事は実質不可能であり、同じく世界級アイテムを所持するか最高峰の職業とされるワールドチャンピオンが使えるスキルをタイミングよく使用するしかない。そしてギルド:アインズ・ウール・ゴウンはそれらのアイテムを11も所有している破格のギルドでもある。その内の一つをシャルティアに持たせて任務に当たらせている。

 

「俺一人だったら世界級アイテムの可能性に気付けてなかったかもしれませんから、アーカードさんに感謝しかないですよ」

「それはせめて本当に世界級アイテムがあってから言ってくれ。まあ個人的にはあった方がワクワクするんだけどな、改めてこの世界を旅する理由にもなるからな」

「はははっそういえば俺達もそうでしたね、世界級アイテムがあるって情報を得た時なんて皆で行きたい!って言ったりもしましたもんね」

 

世界級アイテムは文字通りの最上級アイテム。様々なプレイヤーがそれを求めていた、それはアインズ・ウール・ゴウンも同じだった。初めて入手した時はギルドを上げて大喜びをしたのをよく覚えている、そしてその能力に驚いたり、バランス崩壊必至レベルの力を秘めた物を見つけた時は喜びよりも驚きと呆れだった時もある。中には運営に直接システム変更の要求をするものまであるのが世界級アイテム、それをこの世界で適応したら……如何なってしまうのだろうか。

 

「そう言えばアーカードさんも俺と同じで世界級アイテムは所持してるんですよね、ギルドのとは別物扱いで」

「ああっ持ったままだよ。しかし本当に持ったままでいいのかとあの時は本当に思ったよ」

「それの情報を最初に手に入れたのはアーカードさんですし、手に取ったのもアーカードさんじゃないですか。それは俺も賛成でしたし、珍しくたっちさんとウルベルトさんも賛成してたじゃないですか」

 

モモンガとアーカードも既に世界級アイテムを所持している。但しアーカードが所持している物はかなり特殊な部類で手にした途端にアーカードにしか扱う事が出来ない完全な専用の世界級アイテムとなってしまった。それもあるが、そのアイテムの存在を最初に掴んだのも手にしたのもアーカードだったのでギルドの皆は所持については一切の反対がなかった。寧ろウルベルトに至っては必要だろっと推奨していた位だ。

 

「そういえばウルベルトさんが世界級アイテムを模倣しようとしてたのもこの世界級アイテムが原因だったな」

「そうでしたね。アーカードさんが魔王なら俺は大魔王になるしかないな!!って鼻息荒くしながら言ってましたもんね、流石我がギルドで最も悪に拘った人ですよ」

 

ウルベルトとアーカードはギルド内でも仲が良かった。ロールプレイガチ勢と悪に拘る者は相性がいいのか日頃から魔王について語り合ったり、ナザリックに侵入者が起きた際にはどちらが魔王役をやるのかを談義したりもしていた。結果としては

 

『アーカードが魔王、そしてその背後に存在する更なる魔王……大魔王として俺は君臨しようじゃないか』

『……ウルベルトさん、それ最高。よし今すぐ登場の台詞を考えましょう!!』

『おうよ同士!!』 

『本当にあの二人は仲良いよなぁ……俺もあんな感じにエロゲー談義してぇよ、なぁモモンガさん』

『そりゃ無理でしょペロロンチーノさん……というか俺に振らないでください』 

 

そんなやり取りを行いながら台詞に加えて登場演出なども盛り込んだギミックを制作していた。まあ結局それも日の目を見る事はなかったのだが……。そんな話をしている中、扉がノックされる。入る事を許可すると、扉を開けたのは綺麗な身なりと相応しい服装に身を包んだクレマンティーヌであった。

 

「失礼致しますモモンガ様、アーカード様。シャルティア様がご帰還なされました、王座の間にてご報告を致したく階層守護者の皆さま方と待機しております」

「そうか、では行くとしよう友よ」

「ああそうだな。クレマンティーヌ、セラスの下で吸血鬼として能力の訓練を積むといい」

「はっ承知致しました!」

 

クレマンティーヌはそのまま去っていく、彼女はアーカードによって眷属化された事で吸血鬼と化した。<スキル:吸血>を行った場合<下級吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)>となるのだが<始祖の吸血鬼>であるアーカードは吸血鬼としての力を高めるスキルを習得している関係でクレマンティーヌは<中級吸血鬼(ミドル・ドラキュリーナ)>となっている。今現在は人間の感覚がまだ強く残っているらしいのでセラスの下で力に慣れる為の訓練をさせている。二人は玉座の間へと移動する、そこでは階層守護者らが既に待機している。モモンガが玉座に付きアーカードはその隣へと立つ。モモンガとしてはアーカードにも席を用意すべきかもと考えていたりもする。

 

「さてシャルティアよ、任務ご苦労だった。詳しい報告を聞く前にお前が確保したというアイテムを見せて貰おう」

「了解致しんした、こちらでありんす。お納めくださいませ」

 

シャルティアの配下である<吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)>に指示を出して確保したというアイテムをモモンガとアーカードへと献上する。丁寧に折りたたまれたそれを目の当たりにした至高の御方二人は思わず息を飲んだ。そのアイテムが発する力の波動、それに覚えはある物だった。思わず視線を合わせまさかとそれを見つめる。気品ある銀色に龍を思わせるかのような金の細工が編み込まれたチャイナドレスに見える物……。

 

「友よ」

「ああっ<道具上位鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)>」

 

モモンガは鑑定を行う為の魔法を行使する。未知のアイテムを鑑定するこの瞬間に感じるドキドキ感に少し高揚している二人、そして鑑定を行ったモモンガは思わず言葉を失った。そしてその直後にらしくもない大声を上げた。

 

「おおおおっっ!!?ア、ア、アアア、アーカードさん!!?これマジでやばいですよ本当にすごい!!!シャルティアマジでよくやったぁぁああ!!」

「えっええっ?」

 

見た事もないようなテンションの上がり方と興奮をしているモモンガを目にする守護者達は思わず目を丸くしていた。それはアーカードも同じだったが、モモンガから何故興奮しているかの理由を聞くと同じく興奮した。

 

「そりゃ興奮しますよ!!だってこれ、世界級アイテムなんですよ!!」

「……マジかモモンガぁ!!?マジで言ってるのか!?」

「マジのマジ、大マジですよ!!」

「「うおっしゃあああああああああ!!!!」」

 

世界級アイテムが手に入った、これほどまでの歓喜があるだろうか。二人が思わず固く握手をしハイタッチをする。そして次の瞬間―――

 

「「イヤッハッ……ふぅ……」」

 

精神の強制抑制が発動し、二人はそろって溜息を吐いて我に返るのであった。世にも珍しい死の支配者と始祖の吸血鬼が揃って溜息をつく瞬間である。



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褒美

「……さて一旦落ち着こうか友よ」

「そうだな、うむ」

 

精神の強制鎮静化が発生した事であれほどの喜びを消し去れてしまったアーカードとモモンガはもう少し浸っていたかったという思いと階層守護者の皆がいるのだから確りとしなければと意志を取り直す。こちらを見つめている皆の視線は驚きとどういう事なのか、という感情に囚われているのが幸いだった。確りした態度でいなければ……自分達はナザリック地下大墳墓における最高位に立つ身なのだから……と内心で深呼吸をする。あのデミウルゴスがポカンとしているのだから、流石にやばいと二人も思ったのかもしれない。

 

「さて、皆にも確りと説明しなければならないだろうな。シャルティアが持ち帰ったこのアイテム、それは正しく途轍もない価値を秘める程のアイテムなのだ」

「ああっこのアイテムの名は<傾城傾国>という、その力は対象を洗脳する事だ」

 

洗脳を齎すアイテム。それだけを聞くと至高の御方である二人が歓喜するほどのアイテムなのかと一瞬首をかしげるが、頭の回転が速いデミウルゴスやアルベドはただの洗脳を齎すアイテムではないと察する。

 

「お前たちも何故洗脳を行うアイテムがそれほどの価値があるのかと思う事だろう。当然だ、既にナザリックにも洗脳を行うアイテムは存在している。だがそれでは済まないのがこれなのだ。なぁ友よ」

「ああそうだ。皆聞くが良い、シャルティアが入手したこの<傾城傾国>は最高峰のレアアイテムである世界級アイテムに該当する代物なのだ」

 

玉座の間に大きなどよめきが走った。それも当然だ、それほどに希少かつ強力なのが世界級アイテムなのだから。それを聞いて思わずデミウルゴスが声を上げる、その声にも動揺が入っているのかやや震えている。

 

「そ、それは至高の御方々が力の限りを尽くし入手したという世界級アイテムの一端という事で御座いますか!?」

「うむ。我がギルド、アインズ・ウール・ゴウンが欲した世界に匹敵する力。我らは200あると言われる中でも十程度しか入手出来なかったアイテム。それと全く同じ価値があるものだ」

 

それを聞いて更にどよめきが強くなる。至高の御方が力を尽くしたとしても十幾つの数しか確保出来なかったアイテム、それを今回シャルティアが手に入れたという事実。ナザリックがこの世界に転移してからでは一番の大手柄とも言える事を成したのである。

 

「これはシャルティアが大手柄だなアーカードさん。何か褒美を取らせなくてはならないな」

「全くもってその通りだ。これほどの手土産だ、相応の物をやらなければ」

「ほ、褒美など……畏れ多くございます!!私は御二方にお褒め頂くだけ十分過ぎるほどの褒美でありんす!!」

 

シャルティアは褒められたことによる頬の朱さを持ちながらも頭を下げる、彼女は決して謙遜している訳ではなく本気でそう思っている。ナザリックにいる者たちにとっての喜びとは即ち至高の御方に仕える事。言うなればモモンガとアーカードに仕える事こそ喜びでありそれこそが給金のようなもの。これ以上何か貰おうなど考え付きもしなかった事。しかしモモンガ達としても何も与えないという訳にもいかない。シャルティアが成したのは正しく世界を一つ手に入れたに等しい偉業なのだから。ギルドメンバーがいたら暫くの間シャルティアを持ち上げ続けるし、生みの親であるペロロンチーノなんて彼女を抱き上げて号泣して喜ぶことだろう。

 

「それでは私たちの気が済まないのだ。言葉だけで済ませるほどに軽い事ではない、是非受け取ってくれ」

「そのようなお言葉だけでも私は……!!」

 

シャルティアが感動に浸り、近くでアルベドが何やら悔しがっているのが見える。そう言えばアルベドはアルベドでギルドメンバーを愛している設定にしているので、そんな二人に褒められているシャルティアに嫉妬しているという所だろうとアーカードが思う。そしてそんな中で思う。

 

『……モモンガさん言うのは良いけどさ……どんな褒美が相応しいんだこれ』

『……あっ』

 

褒美を与える事自体はアーカードも大賛成、与えるべきとすら思っている。それほどの事をしたのだから当然。だが……逆にどんな褒美が相応しいのか全く分からない。手柄が逆に大きすぎる。例えるとしたら何だろうか……夏祭りの福引で自分の代わりに行かせたら特賞を当てた……いやそれ以上。もう本当にどんな褒美を与えたらいいのか冗談抜きで分からない。

 

『……もうモモンガさんの子供産む権利で良いんじゃねぇかな……』

『ちょぉっ!!?んな事言ったらどんな事になるか分かってるんですか!!?というなんで俺なんですか!?それなら貴方でいいじゃないですかっ同じ吸血鬼でしょうが!!?』

『ザケんなお断りだぁ!!!』

『俺だっていやですよ!!?』

 

と<伝言>を駆使して脳内会議もどきは白熱していくのである。その場は閉じ、後に褒美を与える事で一時的な終了を見せた。そして二人はギルドメンバーのホームポイントにされている円卓で改めて頭を悩ませる事にした。此処ならばNPC達は入ってこないので遠慮なくぶっちゃけられる。

 

「はぁぁぁぁっマジでどうしよう……」

「とんでもない大手柄だからなぁ……」

 

真剣にどうするべきなのかと思案する二人、そんな時にアーカードに名案が降りてくる。

 

「……ペロロンチーノのアイテムを渡すっていうのは如何だ?」

「ペロロンチーノさんのアイテムをですか?」

「ああ。シャルティアにとっては生みの親である至高の御方の物を貰える、これはナザリックの皆にとっては相当な褒美になるんじゃないか」

「ああっ確かにそれは名案ですね!!」

 

確かにそれならばNPC達からすれば至上の喜びになるかもしれない、ペロロンチーノも引退する際に装備を含めてアイテムをモモンガへと渡している。それらは宝物庫にて管理されているのでその中からどれかを渡す事にすればシャルティアも喜んでくれる事だろう。

 

「後はそうだな……俺がシャルティアのために何か作るか」

「えっアーカードさんも何か出すんですか?というかそういう系のスキルって持ってました?」

「あるぞ、裁縫が出来る」

「裁縫!!?」

 

アーカードは基本的に防御や回復系のスキルがあるタンク系のスキル構成にしているが、ゲームなのだから遊びの要素がないと行けないという事で遊びで制作系のスキルを有している。それが生産系スキルである<裁縫>なのである。このスキルを使えばユグドラシル内で好きな衣装を制作して着る事が出来るという完全な遊びスキル、がユグドラシル内の市場では憧れの衣装を着たい!というユーザーもいたのでそれなりに需要はあった。その後、その衣装に効果を付与などして実際の戦いの場で着るというのも流行っていた。

 

「マ、マジだ……アーカードさんもガチビルドだと思ってましたよ……」

「いやぁ俺だって遊ぶときは遊ぶぞ。それにリアル趣味が裁縫だし、ほら昔に見せただろ?」

「あっそう言えば!!」

 

思い出すのはユグドラシル時代、ある日アーカードが見せたいものがあると皆にある画像を公開した。それは部屋の中に飾られているギルドメンバーのデフォルメ人形であった。どれもかなりのクォリティで特に女性陣からは凄い人気で是非とも欲しいというのでプレゼントした事もある。

 

「そうかそう言えばそうでしたね……んじゃ今回も何か作るって事ですか?」

「そうだな……ペロロンチーノのぬいぐるみなんて喜ぶと思うんだけどどうかな、それに触ると声が出るような仕掛けにするんだよ。あいつの音声データ確かあった筈だから」

「絶対喜びますよそれ!!」

「よし決定!!」

 

最初こそ困ったりもしたのだが、シャルティアへの褒美は割と順調に決定していくのであった。

 

「んじゃ俺も何か送った方がいいかな……あっ<リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>送ったら喜びますかね?」

「あ~確かにそれもいいだろうな」




裁縫は史実ネタ。

アーカードの元ネタともいえるヴラド公は幽閉中に刺繍と裁縫に嵌っていた。更に家事も出来たらしく、客人に手料理を振舞ったらしい。割と家庭的な一面もあったそうな。


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やりすぎプレゼント

第九階層に存在するアーカードの私室。吸血鬼だからか明かりはそれほどまでつけられてはおらず、薄暗くなっている。照明自体は存在しているが吸血鬼の特性上、夜目は利くので暗闇の中でも十二分に物は見える。そんな薄暗い室内では二つの紅い光が妖しく輝いている。それが見据える先にあるのは自らの両手、そして瞳の光を反射するかのように光を放つ針。時折光が隠れたりもするが、光は輝きをやめない。

 

「よしっここでこいつを埋め込むか」

 

針を置きながら近場に置いていた掌に収まる程の小さな宝玉、それを針を通していた物へと置くと宝玉が溶けるかのように崩れて一体化していく。完全に一体化したのを確認してそっとそれに触れてみるとそれ全体から声が聞こえてきた。

 

『技術の発展は最初に軍事、次にエロと医療に使われるのだ。これはエロの偉大さを物語っている!!』

「……成功はしたが真っ先に流れるのがこれか」

 

溢れてきたのはナザリックのNPC達が呼ぶ至高の御方四十一人が一人、アインズ・ウール・ゴウンの中で遠距離攻撃では随一を誇り『爆撃の翼王』とも呼ばれた事があるシャルティアへの生みの親であるペロロンチーノの声だった。アーカードが今行っているのはシャルティアの褒美の制作、趣味の裁縫とマジックアイテムや過去の記録などをフル活用したペロロンチーノの人形であった。

 

『そう……この俺こそが……爆撃の翼王、エロゲーマイライフのペロロンチーノだっ!!』

「これはあれか、ウルベルトさんと一緒に台詞を作ってる時の奴か……後者は絶対にいらんだろ」

『うおっほぉうこれはまた……溜まりませんなぁ……(じゅるり)ヒィッまだ何も言ってねぇだろ姉ちゃん!?』

「……ああっあの時か」

 

テストの為に何度も触れて記録されているペロロンチーノの声を聞いて行く度のそれがいったいどんな状況の物なのかが彼の脳裏に過っていく。懐かしきあの時代、様々な意味での完全最高の黄金期。アインズ・ウール・ゴウンにとっても、自分にとっても最高の時だった。ペロロンチーノには色々言われたりされたりもしたが、なんだかんだで仲も良かった。一緒に馬鹿をしたり、自分が窘めたり、怒られるペロロンチーノの盾にされてので致し方なく茶釜さんを静めたり……今思うと自分はかなりギルドの潤滑剤としての役目が多かった気がする。

 

特に一番多かったのがキレる茶釜さんとペロロンチーノの喧嘩という名の茶釜さんの一方的なリンチ仲裁、同着でたっちさんとウルベルトさんの意見の食い違いによる口喧嘩の仲裁と妥協案の提示とその後の後始末が多かった。

 

「本当に、楽しかったな……」

『何しんみりしてんだよ。また来れるさ、俺は絶対に大丈夫さ。また―――ここに来てくれよ』

「―――」

 

思わず、その時に息を呑んだ。思わず昔を懐かしみ気分が落ち込んでしまった時に流れた言葉、それは自分が治療のために一時ギルド脱退をする時にペロロンチーノから言われた励みの言葉だった。ギルドの皆から言われた、元気になってくれ。お前がいてこそのこのギルドなんだと、様々な思いが込められた言葉の一つ、それを聞いたアーカードは手持ちの宝玉にその言葉を移した。シャルティアには悪いかもしれないが、この言葉は渡せないと思ったのかもしれない。

 

「ああっそうだな。私が落ち込むなどらしくない……私はアインズ・ウール・ゴウンのアーカードなのだからな」

 

そう思いながら人形に触れる。自分らしくいればいいと改めて思わせてくれた彼に感謝を想いながら―――

 

『アーカードさんの魔眼ならエロゲ―の状況作り放題ですよね!!催眠系の奴とかすげぇいいじゃん!!うっひょ想像したら漲って来たぁぁ!!!』

「ペロロンチーノォォォオ!!!!」

 

感動を返せ!!と言わんばかりにアーカードが人形を地面へとたたきつけるのであった、そして拾い直した後でアウトな音源が入っていないかを確認していきそれらを別の物へと移し替えていくのだが……その際にペロロンチーノのあれな言葉やらを大量に聞く羽目になったアーカードは溜息と共に肩を大きく落としていた。そして同時になんでこんな音声が残っているんだと激しく思うのであった。

 

 

「面を上げよ」

『ハッ!!』

 

改めて王座の間、そこに階層守護者を集結させたモモンガとアーカード。二人で協議を重ねた結果のこれからの方針やらを語るという事で集まって貰っている。

 

「今回、シャルティアが大きな手柄を上げた事は非常に喜ばしいと同時にこの世界にも私とアーカードさん、いやナザリック地下大墳墓に近しい存在がいると確認出来た。世界級アイテムの存在、故にこれから行うこの世界での情報収集は細心の注意を払う必要がある」

「そこで我が友モモンガと協議を重ねた結果、各守護者に世界級アイテムを預ける事となった。この意味は言わずとも理解が及ぶと私は確信している」

 

ナザリック地下大墳墓の外にて作戦行動を行う階層守護者には世界級アイテムを持たせ、この世界に未だある可能性がある世界級アイテムの対抗策とする。そして行動を行う際にも何か問題が発生した場合には即座に連絡、危険が起こった場合には撤退を視野に入れる事を厳にする事を伝える。誰にどのアイテムを渡すかは後々決定するとして今回の本題ともいえる物へと移行する。

 

「シャルティアよ。お前への褒美だがアーカードさんとこれも協議を重ね。我々が相応だと判断したものを用意した」

「モ、モモンガ様!恐れながら矢張り私はそのような褒美を受け取るなど畏れ多く……」

「そう言ってくれるなシャルティアよ。お前が受け取ってくれないと私たちも困ってしまう、これはこれから手柄を立てた者へと与える物のテストケースともいえる。それに過度な謙遜は逆に侮辱となる」

「も、申し訳ございません!!お、恐れながらしかとお受け取らせて頂きますっ!!」

 

少々脅しているようになっている事に二人は少し罪悪感を覚えるが、守護者たちの忠誠心の事を考えるとこの位の事を言わないと受け取ろうとはしてくれないだろう。他の守護者達がいったいどのような物を送るのだろうかと少しソワソワしている、そして同時にシャルティアへの羨望の視線が向けられて行く。

 

「シャルティアへの褒美はお前の働きに見合う物だと私たちは確信している。受け取るがよい」

「有難き幸せでありんす……これは……本でありんすか?」

 

モモンガより手渡された物を胸に抱いたのちに改めて見る彼女に何処か愛らしさを覚える二人。

 

「そうだっそれは<百科事典(エンサイクロペディア)>というアイテムだ。様々なモンスターの情報などが掲載されており、自分で書き加える事も出来るものだ。それ自体は大したものではないが……それはペロロンチーノさんが使っていた物だ」

 

<百科事典>はモモンガの言う通り大したアイテムではない。ユグドラシル開始時、プレイヤー一人一人に配られるアイテムで所謂自分で編集出来るポケモン図鑑のようなものだ。自分で書き込んでいく事が可能なのでモンスターの戦闘能力や弱点など書き込んでいくのが有効活用に繋げる事が出来る。が、ペロロンチーノの物には彼らしい物が書かれまくっていたのでそれらはモモンガとアーカードが削除している。そんな事を知らない守護者達だが、それがペロロンチーノの物だと分かった途端に凄まじい物が流れた。

 

「な、なんとっ……!?」

「くぅぅぅぅっっ……!!な、なんて羨ましいぃぃぃっ!!」

「シ……至高ノ御方ノ持チ物ヲ……頂クノカシャルティアハ……!?」

「世界級アイテムに匹敵する褒美、という訳ですな……」

「す、凄い……」

「世界級アイテムの入手、やっぱり凄い偉業なんだね……」

 

彼らからすれば至高の御方の持ち物は世界の至宝と呼んでも差し支えない。そんな物を頂けるという事は至上の喜び、改めて<百科事典>を持っているシャルティアの手が震え始める。自分の創造主の持ち物が自分の手の中にあるという興奮が迸っている、そして自分にこれほどの至宝を与えてくれたモモンガとアーカードに一層の忠義と全てを捧げる事を誓う。この様子にモモンガとアーカードは若干やりすぎた……?と思い始めなくもないのだが、折角作った自分の作品をしまう訳にもいかないと決意を固めてアーカードは声を上げる。

 

「さてシャルティアよ、次の品だ。これは私からと思ってくれ、これもお前の働きに見合うと思っているぞ」

「は、はいっ!!」

 

既に泣きそうになっているシャルティアだが、必死に精神を立て直しながら顔を上げる。胸には受け取った<百科事典>を抱きしめている、そのせいで明らかに胸に詰められているパッドが歪んでズレているのだが本人はそれに気付けずにいる。まあそれはしょうがないという物だろう。

 

「さてっ送る品は……これだ」

 

守護者は一体どんなものが送られるのかと喉を鳴らす中でアーカードの指が鳴る。その瞬間、アーカードの隣にアーカードとほぼ同サイズの影が出現する。純白と黄金の翼に輝く翼、鳥を思わせる嘴を持つマスクのような兜、威風堂々たる佇まいをしているバードマンがそこにあった。それを見た瞬間シャルティアは思わず、立ち上がってしまった。許しを得る事もなく立ち上がる事は本来無礼に当たる筈なのにそれすら頭から消し飛んでいた。そこにあったのはシャルティアの創造主、至高の御方が一人、ペロロンチーノそのものであったのだから。

 

「どうやらその反応を見る限りお前もよく似ていると思ってくれているようだな」

「似てっ……ア、アーカード様……こ、これは……」

 

なんとか衝撃から精神を立て直すがそれでも酷くぐらついている状態、声と身体も震えている。アーカードも少しやりすぎたかなと思いつつも話をする。

 

「落ち着くのだシャルティアよ、これは私が制作した人形だ。<1/1スケール・ペロロンチーノ人形>というべきかな」

「人形……!?本当に人形なのですかアーカード様!?い、いえ確かにペロロンチーノ様の気配は感じませぬが……これはあまりにも……!!」

 

シャルティアは落ち着きかけている、そこで漸く目の前のペロロンチーノが本物ではないと理解したがそれでも余りにも似すぎている。正しくペロロンチーノの生き写しその物だ、他の守護者達もシャルティアと同意見なのか目を丸くし本当にペロロンチーノが現れたのかと錯覚するほどの超クォリティであった。

 

『ちょっとアーカードさん本気出し過ぎでしょ!?』

『い、いやぁ似てる方がいいかと思ってさ……MAXレベルで<裁縫>取ってるからフル活用したんだけど……』

『その結果がこれですよ!!?これじゃあ俺の<リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>出せないじゃないですか!!?これじゃあ保留にしないとマジでシャルティアが壊れますよ!?』

『……ごめんなさい』

 

本人からすれば親切心と喜んでくれるのではないかという善意からやった事なのだが、これは想像以上に不味かったのかもしれない。

 

「すまないシャルティア、お前の気持ちを考えずに……」

「い、いえそんなアーカード様が御謝りになられる事など一つもございませんでありんす!!ただ、本当にペロロンチーノ様かと見間違うほどだったので……し、しかしこれを本当に私が頂いても……!?」

「ああっその為に作ったのだ。それとこのままだと受け取りにくいか」

 

そう言ってアーカードは<ペロロンチーノ人形>に触れてあることを念じる、すると人形はそれに応じるようにポンッ!という音と共に両手で抱えられるほどの大きさのデフォルメ人形へと変化した。この人形は等身大のリアルタイプと小さいSDタイプに変化する事が出来るのである。それを見たシャルティアは愛らしくなったペロロンチーノの姿に超興奮してしまい、先程の<百科事典>の影響もあったからか、キャパオーバーを起こしてしまい気絶してしまった。

 

『……アーカードさん』

『……本当にごめんなさい』

 

その後、守護者達には働きに応じて褒美として各守護者の創造主のアイテムを授ける事もあるという事を説明しその場を解散。シャルティアは自室に運び込み、ベットに<ペロロンチーノ人形>と共に寝かせることにした。

 

そして―――シャルティアはそれから出来るだけSDタイプの<ペロロンチーノ人形>を胸に抱くようになり、笑顔が絶えなくなった。そして<ペロロンチーノ人形>からペロロンチーノの音声が流れるとアーカードから説明されると再び気絶するのであった。

 

「モモンガさん……俺ってプレゼントのセンスないのかな……」

「アーカードさんが凄いショックを受けていらっしゃる……!!?」




アーカード「反省もしているし後悔もしている……善意が害になるなんて……」

モモンガ「やばいアーカードさんがガチ凹みしてる……」


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冒険者としての目的

「……」

「え、えっとマスター元気出してください!!シャルティアさんが気絶しちゃったのだって嬉しすぎた余りですっだからマスターからの贈り物が気に入らなかったとかそういう訳じゃありませんって!!」

「その通りで御座いますヴァンさー……ん。あれほどの至宝を頂いたのです、嬉しさのあまりに気を失ってしまったとしても致し方ないという物です!」

「(相当ショックだったんだろうなぁ……アーカードさん)」

 

シャルティアへの褒美を送ってから既に数日が経過している、モモンガ達は冒険者としての活動のためにエ・ランテルへとやってきていたのだが冒険者組合長から呼び出しを受けたので待合室にて組合長を待っていた。その間にもヴァンは帽子を深々と被ったまま無言を貫き通していた。未だにシャルティアが自分からの贈り物で気絶してしまったというのを気にしているようだ。アーカードには一切の害意も悪意もかけらもなかった。大きな手柄を立てたシャルティアへの褒美として十分な物になる為に作ったものだった。しかしそれが気絶させるという結果に繋がってしまい酷くショックを受けてしまっていた。

 

「いい加減に戻って下さいよヴァンさん、仕事に差し付えますよ」

「……分かってる、仕事は確りするさ」

 

そう言いつつ帽子を少し上げる姿を見てセラスとナーベラルはややほっとする。彼とて現実世界(リアル)では会社員として様々な人間と仕事をしてきたのだ、それらで得た瞬時に感情を殺して今すべきことに集中するという技術は会得している。それを活用して一旦ショックを忘れて仕事モードに入る。それから程なくして組合長、プルトン・アインザックが入室してきてモモンガはほっとして、自分も冒険者モモンとしての態度にスイッチを入れる。

 

「さてモモン君、改めて先日のアンデッドの発生事件の解決について感謝する。君たちが早急に対処をしてくれなければエ・ランテル全体にアンデッドが跋扈している事になりかねなかった」

「いえ大したことはしておりません。それに我々はリイジー・バレアレさんからお孫さんの救出の依頼を受けました、その依頼を達成する過程においてアンデッドに遭遇し掃討したというだけ事ですのでお気になさらず」

「くっくっくっ……いやはや君は大物だね。君たちが破壊した残骸を調べた所、あそこには骨の龍(スケリトル・ドラゴン)3体分の残骸が転がっていたようだが?」

『なっ!!?』

 

共同墓地では自分達の名声を高める為にクレマンティーヌの眷属化、ンフィーレアの救出が終了した段階でモモンガがアンデッドを召喚して敢えてそれを倒してここにはそれだけの奴らがいたんだぞという事をアピールしたつもりだったが如何やら正解だったらしい。アインザック組合長と共に入ってきた魔術師組合長テオ・ラケシル、ミスリルの冒険者プレートを持つチームが驚愕に慄いている。骨の龍は魔法への絶対耐性を持つ魔法詠唱者にとっては天敵、それが3体もいる中でアンデッドの軍勢を葬ったというのか!?という驚きに包まれていた。

 

モモンガ達にとっては赤子の手をひねるような物だが。骨の龍の魔法耐性はあくまでも第六位階以下、それ以上の魔法を行使出来るモモンガとナーベラルにとってはその程度の魔法耐性なんて紙同然。そして吸血鬼であるアーカードとその眷属であるセラスにとっても敵ではない。二体はモモンガ達が直々に倒したが、最後の一体はクレマンティーヌの吸血鬼となった能力を見る為に戦わせてみたが本人曰く人間の時とは比べ物にならない力と速さを出せたらしく瞬殺した。

 

「そこで君たちにはミスリルの冒険者として昇格を認めたい。本当は更に上へと認めたい所なのだが……」

「いえ問題はありません。特例を作りすぎますと他の冒険者たちの反感を買いかねません。いい判断だと思いますよアインザック組合長」

「そう言ってくれると助かるよ、さあこれを受け取ってくれたまえ」

 

そう言って差し出してくれるミスリルの冒険者であることを認めるプレート。それを受け取って銅のプレートと交換する。これだけの事をやってのけたのだから反対意見などでない、出たとしても黙殺されるに決まっているのだから冒険者も歯ぎしりをするだけで何も言わない。そして組合長の話はまだ続いた、どうやらエ・ランテル近郊で冒険者チームが吸血鬼と遭遇し殺されたという話だった。女の冒険者も生き残ったらしいが即座に引退して何処かに行ってしまったらしい。

 

『アーカードさん、これって……シャルティアが世界級アイテムをゲットする前にやってた事と合致しますね』

『ああっつまりその生き残ったっていうのが俺達がポーションを与えたあのブリタって冒険者だったのか。やれやれあのポーションが変な事にならずに済んでよかった……』

 

シャルティアは任務の過程で襲い掛かってきた死を撒く剣団を撃滅させたという、たった一人だけ逃してしまったという話だがそこは問題ない。世界級アイテム入手で十分過ぎる程に相殺出来ている。そしてその後に吸血鬼のクラスペナルティ<血の狂乱>が発動してしまい、近くにいた冒険者も血祭りにしてしまったらしい。そこで自分達が与えたポーションを持っていたブリタと遭遇し投げられたポーションを浴びて<血の狂乱>が解除されたという。そしてその後に世界級アイテムを持った集団と遭遇し戦闘、アイテムを入手したという流れだと聞いている。

 

『そう言えばアーカードさんの<血の狂乱>は抑制されてるんでしたっけ?』

『ああっ俺の世界級アイテムがデメリット部分を消してくれてる。マジで便利だよこれ、ついでに眷属認定されてるセラスと多分クレマンティーヌも無くなってると思う』

『ほへぇ~……流石運営認定の専用世界級アイテムですねぇ』

 

 

 

「そしてその吸血鬼の外見は生き残りの冒険者が証言してくれた、それでもかなり大まかだが……銀髪で大口だというのだ」

 

それを聞いた途端にヴァンが机を叩きながら立ち上がった、皆驚きながらも彼を見つめるが言葉を失っていた。ヴァンは修羅にも思える程の憎悪を燃やした憤怒を体現したような表情を作りながら荒い息を吐く。そしてその隣で顔を青くにしたセラが汗を流していた。

 

「落ち着けヴァン」

「だがあいつだ、間違いなくあいつなんだぞ!!?あいつなんだぞ理解しているのかモモン!!!俺の、俺達の……!!!」

「落ち着けと言っているんだ大馬鹿野郎!!ここで激情に駆られるお前が奴を討てると思っているのか!?」

「っ……」

 

モモンも苛立っているかのような大声を出してヴァンを叱咤する、それを聞いてヴァンは苦虫を嚙み潰したようにしながら口を閉ざし謝罪をしながら席につき直した。モモンも落ち着き始めたヴァンを見て分かればいいんだと言いながら席につき仲間のいきなりの事を詫びる。

 

「申し訳ございません、私の仲間が……お詫びいたします。その吸血鬼は私たちが追ってきた吸血鬼だからだ」

「何!?」

「非常に強力で凶暴なやつでね、私たちは冒険者になろうとしたのも奴らの情報を集める為だったんだ」

「奴ら……!?奴らとは、吸血鬼は複数なのかねモモン君?」

「ええっその片割れ、銀髪に大口の吸血鬼。その名前は……」

 

と此処でモモンの口が止まった。名前は適当にカーミラにしようと思ったのだが、余りにもベターすぎてこれではプレイヤーに筒抜けすぎる、急いで別の名前を出さなければと思ったのだが……全く思いつかない。困ったモモンガは<伝言>でアーカードに助けを求める。

 

『すいませんアーカードさんっ吸血鬼の名前の知恵を下さい!!』

『考えてなかったんかい!!?』

『カーミラとかエリザベートとかしか思いつかないんですよぉ!!』

『ああ~……なるほどな。分かった分かったんじゃ俺が言うから……』

『ありがとうございます!』

 

 

「……奴の名はヴェローシュカ、奴は俺達が必ず殺す……!!」

「……聞いてもいいかね、君たちはなぜその吸血鬼を追うのか」

 

アインザックは酷く気になった。ヴァン・ヘルシングという人物の事は聞いている。見た目こそ何処か厳格そうな印象をこそ与えるが本人は温厚で気さく、ジョークにジョークで答えたり、笑って話をしてくれたり子供と一緒に遊んだりもしたという。そんな彼がここまでの激情に駆られている理由を知りたかった、ヴァンはモモンに目配せをすると彼は少しだけ頷いた。

 

「……奴は俺達の故郷を壊した、様々な物を奪った。その報いを受けさせる……それが目的だ」

 

そう答えるとヴァンは一刻でも早く準備をしたいと申し出てセラを連れて部屋を退出していた。モモンも彼の精神安定のためにもそれが良いだろうと進めた。そして此処からモモン率いるチームの目的は故郷を蹂躙し残虐の限りを尽くした吸血鬼の討伐であると広まる事になる。同時に彼らは異国の貴族、もしや王族ではないかという噂が流れるのであった。

 

 

「いやぁ流石アーカードさん、中々の熱演でしたね」

「ふふんっ久しぶりのロールプレイだからな、力を入れてしまったよ」

 

まっそれは全部嘘なんですけどね、彼らにそんな目的などない。全ては自分達が名声を高めて速く最高位冒険者となってその立場を利用してでの行動の為。

 

「にしてもよくも即興であんな物語作れましたね……俺には絶対無理ですよ」

 

アーカードが作ったのは自分達の故郷を蹂躙した二体の吸血鬼、それらを追う自分達のストーリーだった。無論前もって作ったのではなくその場で作った物である。

 

「この位出来ないとGK(ゲームキーパー)なんて出来ないさ」

「ウルベルトさんも驚いてましたもんね……アーカードさんのアドリブ力によるシナリオ修正」

「あれは大体素でシナリオブレイクしたペロロンチーノのせいだ」




ヴェローシュカ:映画「ヴァン・ヘルシング」に登場するドラキュラ伯爵の花嫁であるヴェローナ、マリーシュカから取った名前。この映画にはもう一人の花嫁であるアリーラという吸血鬼も登場する。


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イベント発生・魔樹

「こんなもんですかね」

「だからって森の一部を灰にするとかやりすぎじゃないか?」

「まあこの世界の位階魔法の基準を考えたらあれが妥当だと思いますよ、第八位で神話級なんですから」

 

ナザリック地下大墳墓・円卓の間。アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーでなければ入れないNPC曰く神聖な間。全盛期においてはここに至高の御方四十一人が集結し様々な事を議題として意見をぶつけ合っていた。今では二人しか使用する者がいない場に寂しさも覚える。そんな場所を頻繁に使用しているのがモモンガとアーカードであった。ここならば自分達の素を出していたとしてもナザリックの皆に聞かれる事もないので重宝している。

 

「それでもこれで俺達もアダマンタイト級冒険者、情報もより集めやすくなるでしょうね」

「同様に面倒ごとも増えるだろうが上手く対処していくしかないだろうな」

 

冒険者組合から出された特殊な依頼、銀髪で大口の吸血鬼の討伐。それを引き受けたモモン達はその吸血鬼が冒険者を殺したという場所から少しだけ離れた森の中で戦闘になり、秘蔵のマジックアイテムである<魔封じの水晶>を使用し、封じられている第八位魔法を行使して<吸血鬼・ヴェローシュカ>を討伐した……という事になっている。実際はモモンガが別の魔法を行使して森の一部を死の大地へと変えて、そこでヴェローシュカを倒したという事にした。それによってモモン達は王国にて未だ二つのチームしかいなかった冒険者の最高位、アダマンタイト級への昇格が認められた。

 

「しかし、漆黒の双璧か……漆黒の英雄戦士・モモンと漆黒の英雄紳士ヴァン・ヘルシングか、せめて二つ名位分けて欲しかったなぁ」

「お互いに真っ黒な姿なのが災いしたな……というか、考えるのが面倒だったんじゃないんだろうな」

 

それがモモンガ達が仮の姿を取っている人間の姿での異名であった。チームの名前などは一切決めておらず、リーダーとサブリーダーの見た目が漆黒に染まっている事から付けられた二つ名。二つ名を付けられる事自体は悪くはないが、二つ名とはその人物を現す唯一無二を現す異名。それが殆ど被っているのは本人達的には気に入らないご様子。違いがあるのは戦士であるか紳士であるかの部分しかない。まあ分かりやすいかもしれないが……。

 

「ナーベラルには『美姫』でセラスには『弩姫』か……こっちも豪く被ってますよね」

「もうまともに考える気ねぇんだろうな、発案した奴」

 

一応二人にもユグドラシル時代には確りとした二つ名のような物はあった。それに比べたら自分達の凄さは全く強調されていないし見た目から決めた漠然とした物なのがお気に召さないらしい。特にユグドラシルだと凝った名前が多かったのも影響しているのだろう。因みにアーカードがギルドメンバーで一番カッコいいと思っている二つ名はウルベルトさんの『大災厄の魔』である。

 

「まあニックネーム程度だと思っておこう、しかしこれだと俺達のチーム名って漆黒になるのか?」

「それが一番楽かもしれないですねぇ……でも漆黒かぁ……」

「ドイツ語読みでもするか」

「それだけはやめてください」

 

そんな風に二人で話しているとアーカードにクレマンティーヌからの<伝言>が入ってくる。それを受けてアーカードはそれに出るのだが、モモンガはアーカードの不思議な癖を見た。アーカードは何故か<伝言>を出る時などは首元に人差し指と中指を当てるような仕草をする。何かの癖なのだろうか、見た目もあって中々にかっこいいので自分もあんな風にやろうかなと思うあたり、流石はパンドラズ・アクターの創造者(父親)である。

 

『アーカード様』

『クレマンティーヌか、何か用か』

『はいっご報告したい事がございます。お時間を宜しいでしょうか』

『ああっ聞こう』

『セラス様のご命令を受け、吸血鬼の力の訓練中に妙な物を発見致しました』

『妙な物……?』

 

クレマンティーヌ曰く、セラスの指示を受けて新しく仲間となったハムスケ(スマイン)と連携を取る訓練をするためにトブの大森林を進んでいたのだがその途中で余りにも奇妙な立ち枯れをしている木々を発見した。スマイン曰く何やら良くない物を感じるとのことでその場を離れようとした所に、森精霊(ドライアード)が接触を図って来たらしく連絡を取って来たとの事。

 

『その森精霊はなんと?』

『はっ。なんでも世界を滅ぼす事の出来る魔樹、それの復活が迫っているとのことです。大昔にとある者達と復活しそうになったらまた倒すという約束を交わしたそうです。私をその人間らの仲間だと思って接触を図って来たとのことです』

 

「世界を滅ぼす魔樹……モモンガさん、参加してくれ」

「了解です」

 

『クレマンティーヌ、モモンガだ。詳しい情報はあるか』

『モモンガ様、はいっ森精霊から詳しい位置情報を得ております。名前は森精霊も少々うろ覚えらしいのですが……ザイトル……クワエとか昔来た人間が言っていたそうです』

 

それを聞いてモモンガとアーカードは顔を見つめ合わせた。ザイトルクワエ、それに二人は心当たりのような物はわずかながらにあった。それは以前アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーで行っていたクトゥルフ神話TRPGのセッションで出てきた物。クトゥルフ神話における独立種族、ザイクロトルからの怪物が元だと思われる。

 

「似てますね……それが元ネタって事ですかね」

「可能性としてはある、という事は大昔にプレイヤーがいた……と見て間違いないな。にしても世界を滅ぼす魔樹ねぇ……この世界基準ってオチじゃないよな」

「あり得そうですけどねナザリック(ウチ)からも近いですし対処しておきましょう、念の為に守護者にも連絡を入れておきましょう」

「だな」

 

『クレマンティーヌ、これから私たちがそこに行く。森精霊に話を通しておいてくれ』

『承知致しました!』

 

世界を滅ぼせるという魔樹、ザイトルクワエ。プレイヤーとの関連性が匂う名前に二人はやや警戒しながらも準備を進めていく。そして二人はクレマンティーヌの下へと転移を発動させる。



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イベント・世界を滅ぼすかもしれない魔樹?

転移門(ゲート)>を行使しクレマンティーヌとスマインが待機している場所へと転移するモモンガとアーカード。世界を滅ぼす魔樹という物に興味を持った、というよりも自宅に近い位置にそんな物がいるのを見過ごして何か問題を起きてから慌てるのが嫌だったから出向いたというのが一番正しいのだろう。将来の禍根は出来るだけ早く叩くに限る。武人武御雷も叩くなら根まで叩かなければいけないと言っていた、あれも確か島津の言葉らしいが……それには賛成の挙手しか上がらない。

 

「殿~!!大殿~!!」

「アーカード様ぁ~モモンガ様ぁ~!!」

 

転移完了後、こちらに駆け寄ってくる大柄の影。それはスマインとそれに騎乗しているクレマンティーヌであった。スマインに合わせられて作られた防具と騎乗の為の物も見事に身体にあっているのか、以前よりも屈強な印象を与える。通常の馬と騎馬の違いのような物を感じる、それに乗っているクレマンティーヌも様になっている。目の前に止まったスマインは身体を沈めながら騎乗者が降りやすいようにし、クレマンティーヌもそれを有難く受け取りながら降りて軽く撫でている。訓練で二人の間にそれなりの関係が生まれているらしい。

 

「ご苦労、それで問題の森精霊とやらは何処にいる」

「森精霊のピニスン殿はこの先に居られるでござる。某は殿たちの<転移門>が見えたので迎えに参上したのでござるよ大殿」

「そうか、では森精霊のところまで案内してくれ」

「承知致しました、こちらです」

 

クレマンティーヌが先導する形でそこへ向かっていく。アーカードは主としてスマインに乗るがモモンガは乗るのを嫌がったのでそのまま歩き。森の賢王とも呼ばれる魔獣であるスマインだがその容姿は巨大なジャンガリアン、モモンガからしたら出来れば避けたいのだろう。

 

「大殿、本当に某に乗らなくても宜しいのござるか?殿に作っていただいた防具は二人まで乗れるでござる」

「い、いや私は良いさ。直接の主人であるアーカードさんを確りと運んでくれ」

「承知致したでござる!殿如何でござろうか、実はクレマンティーヌ殿に快適にお運びするための練習に付き合ってもらっていたのでござる」

「ふむっ確かに以前よりも乗り心地が良いな」

「そう言って頂けて嬉しいでござるよ~」

 

照れくさそうにしながらも嬉しそうに尻尾で頭をかくスマイン、彼女はアーカードの事を殿と呼ぶ。そしてギルド長であるモモンガはアーカードの上という事で大殿という呼び方をしている。

 

「やったねぇ~マインちゃん、練習の甲斐があったじゃん」

「これも全てクレマンティーヌ殿のお陰でござる」

「いやいや私は何もしてないよ~」

 

その様な会話を挟みつつも一行は森の中を歩みを進めていく。そしてやや拓けていて場所に出るとそこに目的の森精霊が待機していた。木々の枝と葉に幻影のような物を投影しているような姿をしているなんとも形容しがたい姿をしている者、それが森精霊だった。まあ姿云々は異形種の集まりであるナザリックの収めている自分達が言える事じゃないかと内心で思う二人であった。

 

「お待たせ~ピニヤン」

「いやアタシの名前はピニスン。ピニスン・ポール・ペルリアなんだけど……」

「愛称というやつでござるよ。某もスマインという名前でござるがマインとよく呼ばれるでござる」

「そ、そういうもん……?し、しっかしまた凄い人が来たね……あっ人って言ったら失礼になったりしちゃう?」

 

どうやらクレマンティーヌとスマインは森精霊とそれなりに良い関係を築く事に成功しているらしい。これはこれで有難い、下手に騒がれて一から説明する事も省けるしそれなりに情報も引き出しやすくもなっている。お手柄と言える。

 

「いや問題ない。私がクレマンティーヌとスマインの主であるアーカードだ」

「私はモモンガだ、まあ関係的にはアーカードの上司だが実質的には同格だから気にするな」

「あっこ、これはご丁寧に……そ、それにしてもアーカードさんとモモンガさんでいいんだよね。凄い力をビンビン感じるよ……ここの二人も凄い力を感じるのにそれ以上って……」

 

ピニスンは二人から溢れている風格と力に戸惑いを見せている、クレマンティーヌですら自分よりも遥かに格上で到底届かないような存在である筈なのにそれ以上の存在がいるというのが信じられなかった。だがこうして直面するとそれも理解出来る、そして同時に希望も湧いてくる。この二人ならばあの魔樹を封印してくれるのではないかと。

 

「それでクレマンティーヌ達に接触したのは魔樹に関しての事だったな」

「そう、そうなんだよ!!もうすぐ復活しちゃいそうなんだよ!!?アタシは魔樹の近くで生まれちゃったからもう怖くて怖くて……何時本体の樹が終わっちゃうかも解らないんだ……」

 

気落ちしたように語るピニスン、確かにそれは運が悪い。生まれてみたら近くに世界を滅ぼす魔樹が封印されていて、しかも復活が近くなっているとか不幸というレベルの話じゃない。何と災難なんだ……。

 

『どうするよモモンガさん、俺としては森精霊は正直言ってどうでもいいんだが』

『う~ん……でも森精霊って事は植物を育てる事に長けていると思いますし、利用価値はあると思いますよ。第六階層で行ってる植物園での実験とかにも良い影響を与えそうですし。それに……』

『それに?』

『なんか、余りにも不憫すぎて……』

『それは分かる』

 

 

「成程。では私たちがその魔樹、ザイトルクワエを倒してやる」

「えっ……ええええっっ!!!?いやいやいやそうして貰えれば凄い有難いけど相手は世界を滅ぼせる力を持ってるんだよ!?そんな簡単に引き受けちゃっていい問題じゃないよ!?」

 

アーカードの余りにも軽い発言にピニスンは素っ頓狂な声を上げながら困惑する。散々世界を滅ぼす力を持つとかとんでもなく危険だという事を伝えているのにこれほどまでに簡単に言われるとは思いもしなかったのだろう。

 

「まあタダとは言わんさ。君には私たちの本拠地に移住して貰い、そこで植物の飼育を手伝ってもらいたい」

「ふぇっ?えっ条件ってそんだけなの、えっ世界を滅ぼす魔樹を倒してもらう条件がそれ!?」

「不服か?」

「いやいやいやいやそうじゃなくて釣り合って無くない!?」

「私たちとしては釣り合ってる」

「ええっ~……」

 

ピニスンは若干呆れ返っている。そして少し考えてから自分の本体である樹を傷付けないように気を付けて欲しい事だけを念押ししてそれを了承した。ピニスンの移住はクレマンティーヌとスマイン主導で即座に行われていき、最後はモモンガの<転移門>でナザリックへと送り付けられた。倒してからでも良かったのだが、あの様子では自分達の実力を見せたらギャアギャア騒ぎそうだから先に退かしたとった方が正しいのだが。その直後である、大地を裂くように巨大な樹木が身体を眠りから覚ますかのように起こしていく。余りにも巨大な樹、というよりも塔に近い魔樹。それは巨大な6本の枝を伸ばしながら叫ぶように大口を開けながら周囲の木々を口と思わしき場所へと放り込んで咀嚼していく。

 

「あれが噂のザイトルクワエか……全長100mといった所か。枝はそれ以上……300は位か」

「ガルガンチュアよりも遥かにでかいですけど……確かにこれは世界を滅ぼす魔樹って言われても納得ですね。それじゃあレベル計りますね」

 

モモンガは懐から水晶のようなモニターを取り出すとそれ越しにザイトルクワエを見つめる。それは相手のレベルや詳しい情報などを得る事が出来るスキルを発動できるマジックアイテム、一週間に一度しか使えないが念のために持ってきたのだ。

 

「ザイトルクワエ、体力は……測定範囲外。ほうほう、そしてレベルは……」

「如何したよ」

「解散ですアーカードさん、あれのレベル80~85でした」

「……守護者待機させる意味、なかったな」

「「はぁっ……」」

 

世界を滅ぼす魔樹、ザイトルクワエ。それを前に二人の男は溜息と共に肩を落とした。




ユグドラシル基準ではレベルに10の差があれば勝ち目はない。メタを張っていれば戦えるが、レベル100のモモンガとアーカードからすれば世界を滅ぼす魔樹はただの雑魚にしか過ぎなかった。


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イベント・魔樹の行方

「んだよレベル80そこらかよ……世界を滅ぼす魔樹っていうからせめて100目前とか、100とかを期待してたのに……ああっ俺もうだめ、やる気失せた」

「同じくです。悪い予想のこの世界基準っていうのが的中しちゃいましたね……と言っても排除しないとナザリックの害に成り得るから倒さないという選択肢はなし」

「でも俺はやる気0だ。なんだよ折角俺の世界級アイテムのお披露目できると思ったのに……」

 

世界を滅ぼすというほどの相手だというからアーカードも非常にやる気になっていた、しかしレベルが80~85だと聞いてやる気が完全に失せてしまった。その理由は彼自身の余りにも高すぎるタンク性能にある。最初こそ自分が倒れにくくするためにしていた防御型のスキルだったが、仲間を得てからは彼らを守る盾となりたいという思いから回復系のスキルも習得していった。その結果として出来上がったのが最早不死なのではないかと疑いたくなるほどの極悪タンク性能を持ったアーカードなのだが、それが影響して自分が倒されるという事態が全く起こらなくなった。

 

故に彼の中では自分を倒すほどの力を持った相手とはどんなものなのだろうか、という思いとそれと戦ってみたいという思いがある。一応アーカードを倒す力をもっている相手としてはたっち・みーという存在がいた。彼もハッキリ言ってアーカードとの1on1のPVPは絶対にごめんだと零している。そんなたっちを超える程の相手がいるのではないか?という興味があった、もしかしたら今回のザイトルクワエがそれなのかもしれないと思って期待していたのだが……期待外れであった。

 

「あっちょっとアーカードさん寝っ転がらないでくださいよ。誰かが見てたらどうするんですか」

「だってよぉ~……俺は自殺願望とかないけどよ、倒されたいんだよ。それで今度はそいつを超えるぞ~って努力をしたかったんだよ。あれだよ、たっちさんに勝ちたかった武御雷さんの亜種だよ」

「あの人も大分あれでしたけど……兎に角そういう体勢はダメです!!せめて座って下さい!!」

「えっ~……」

「えっ~じゃない!!」

 

若干おかんっぽさを発揮しながらなんとか寝そべっているアーカードを立たせる事に成功するモモンガは溜息をつきながらある事を想う。武人武御雷、コキュートスを創造したギルドメンバーであり打倒たっち・みーを目標に掲げていた正しく武人であった。そういえばアーカードは彼とも仲が良く一緒にいてよくPVPなどをよくしていた。アーカードは新しい銃を組み込んだ戦い方を、武御雷は新しく作った武器の性能試しとどれだけのDPS*1を発揮するかをアーカードで試していた。まあ確かに火力を確かめるならばアーカードで試すのが一番だろう。

 

『おいアーカード、ちょっと新しいのを試してぇから付き合ってくれよ』

『いいですけど武器ですか?』

『いやコンボだ、上手くいけば対たっちさんの切り札に成り得るかもしれなねぇ超コンボだ』

『おおっそりゃ受け甲斐がありますねぇ!!』

 

そんな風にアーカードは役に立てるのが嬉しそうにしながら喜んで試し切り相手を引き受けていた。その事でペロロンチーノがM疑惑を流したせいでアーカードがガチ凹みし、茶釜さんがブチギレたという事もあった。

 

「兎に角、対処はしないといけませんからねぇ……如何しますあれ」

「もうモモンガさんが超位魔法でぶっ飛ばせばいいじゃん」

「やる気なくし過ぎです!!もう少し真面目に考えてくださいよ全く……せめてナザリックの為になる事を考えてくださいよ」

「為にねぇ……」

 

そう言われてもそんな事思いつくようだったら会社で発表する企画を考えるのなんて苦労しない。考えるとしたら今ナザリックが進めている事柄にザイトルクワエを役に立たせるという事だろうか、しかしレベル80などナザリックのNPC的にも必要はない。ある意味ガルガンチュアよりも巨大というのは役に立つかもしれないが、逆にでかすぎる。そんなこんなでアーカードは考えていくが……こんな事ならばデミウルゴスに相談すればいいだろうと思う。と思った時だった、デミウルゴスであることを思いついた。

 

「あいつでスクロール作成って出来ないのかな」

「へっ?」

「いやほらっ紙の原料って木じゃん。それだったらザイトルクワエを原料にしてスクロールを作れるんじゃないかなぁ~って」

「……良いかもしれませんねそれ」

 

デミウルゴスに任せている仕事の一つに魔法を封じ込め、何時でも使用出来る巻物(スクロール)の素材調達という物があった。ナザリックが異世界に転移した為にユグドラシル由来の素材の入手がほぼ不可能となった。その代用品を求めてデミウルゴスに素材捜索の命を下していた。仮にもレベル80もある魔樹だ、素材としては悪くはないのではと思い至った。そうなるとデミウルゴスの働きの一部が無碍になってしまうのが少々痛い所だが、そこは自分らが上手くフォローすれば良いだろう。

 

「それじゃあザイトルクワエを討伐するんじゃなくて捕獲に切り替えますか?でもあれをどうやって……あっそうだ!!<傾城傾国>で洗脳すれば簡単かも、性能の評価も出来るし!!」

「それナイスなアイデアだな。まあ世界級アイテムだからだれでも洗脳出来るとは思うけど、現地調達のものだし正常に作用するかも確認しておきたい所だな。んで誰に着せるんだあのチャイナドレス」

「ロリカードで着れば」

「断固拒否する!!!」

 

この後、デミウルゴスとアルベドを呼び説明を行った後にアルベドに<傾城傾国>を着て貰いザイトルクワエを洗脳する事になった。因みにこのドレスを着た際のアルベドの破壊力が凄まじくモモンガは何回も精神の鎮静化が発動していた。アーカードは一度発動した後はなんともなかったが、やっぱりモモンガはアルベドに惹かれているのかなっと内心で思うのであった。そして洗脳は無事成功し、ザイトルクワエは完全にナザリックの手中へと落ちた。

 

「さてデミウルゴス、このザイトルクワエの管理はお前に任せる。素材調達に代わる新たな命だ」

「承知致しましたモモンガ様!!このデミウルゴス、全力をもって務めさせていただきます!!そしてその更に奥にある深きお考えを実行できるよう、最善を尽くす事をお誓い致します!!」

「「……えっ」」

 

深々と礼をしながら言葉を述べるデミウルゴス、だがモモンガとアーカードは何のこっちゃと理解できていない。二人の考えはザイトルクワエをスクロールの材料にするだけでそれ以上は何も考えていない。本当に何も考えていない。

 

「ああっやっぱりそういう事だったのね、流石至高の御方!!これほどまでのお考えなんて!!」

「(えっアルベドまでぇ!?ちょっと待って本当に待って!!?)」

「(おいおいおいマジで待ってくれ!!?深く考えって何!?寧ろ浅い事しか考えてねぇんだけどぉ!?)」

「アルベド、済まないが後で知恵を貸してくれないかい。モモンガ様とアーカード様のために万全を期す為に」

「ええっ勿論よデミウルゴス、全力で力になるわ」

「「(お願いだからマジで待ってくれ)」」

 

混乱する二人、だがそれを表に出す事なんてできない。普段の威厳あるロールプレイが逆に仇になっているせいか素で物が言えない二人が出来る事と言えば……

 

「流石はデミウルゴス、私の考えを見事に察知したな」

「見事だ二人とも。流石はナザリックが誇る知恵者だ」

 

そのまま乗っかって誤魔化す事だった

*1Damage Per Second「単位時間当たりの火力」を指すゲーム用語。




オバロ名物、デミえもんの深読み&誤発注。


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至高の御方の会話&謎のNPC

「なあモモンガさん、思いついたか」

「全然駄目です。一体何を思ったんでしょうか、デミウルゴスとアルベドは……」

 

ザイトルクワエを<傾城傾国>にて洗脳してから数日、モモンガとアーカードは冒険者業を終えてナザリックに帰ってきてから円卓に入りあの時、デミウルゴスとアルベドが何を思って自分達の深い考えと思ったのかを解明するべく頭を回転させていた。ザイトルクワエの洗脳は本当に素材目的でそれ以上の考えなどなかった。それなのに何故か感動し、やる気になってしまったナザリックの参謀ともいえる二人の考えを何とか読み解こうと必死になるが頭を絞ったとしても何も思いつかずにお手上げな状況になっていた。

 

「簡単なのはパンドラに振ってみるのが楽だと思うぞ、あいつもあいつで確かナザリックトップクラスの頭脳持ちって設定の筈だろ」

「そうなんですけど……なんか癪というかどんな顔して会いに行ったらいいのかまだ分からなくて……」

「お前は長い海外出張で子供に会えなかった親か何かか、普通に接すればいいんだよ。なんだかんだでアンタだってパンドラの事は嫌ってるわけじゃないだろ」

「そ、そうなんですけど……」

 

モモンガが創造したNPCのパンドラズ・アクター。彼も設定で頭脳面はナザリックトップクラスという物が与えられているのでアルベドとデミウルゴスに匹敵するほどに頭が回る。ザイトルクワエの事を話しながら、お前ならこの後に私が何を思っている、と聞けば普通に答えを返すだろう。それがモモンガからの物ならば猶更張り切って更に頭を使い、あの二人の思考と同じ答えを出す事だろう。だが肝心の生みの親であるモモンガの決心がつかないのかそれは取りやめる事にした。

 

「何時までも避けるのはやめとけよ、アルベド達を見てれば分かるだろうけど自分を創造してくれたメンバーに対して深い思いを抱いてる。それはパンドラも同じだ、あいつだってアンタの役に立ちたいと思ってる筈だぞモモンガさん。それにあいつの能力を考えたら何れ表に出す事も視野に入れた方がいい、なら慣れる方が楽だぞ色々と」

「……頑張ります」

「おう」

 

アーカードはそれ以上何も言わなかった。モモンガもパンドラズ・アクターの事が嫌いではない、当時の自分がカッコいいと思っていた物を全てつぎ込んだ生きる黒歴史。それを見ると当時の自分を思い出して嫌になる。だがそれはパンドラではないとアーカードは言っている、自分の息子自身と向き合ってやれと言っている。モモンガもそれは理解しているのか、少しだが一歩を踏み出そうと努力はしている。

 

「そういうアーカードさんはどうなんですか玉藻との関係は」

「……痛い所を突いてくるなぁ」

 

自分ばかりは卑怯だと言わんばかりにカードを切る、それは苦手意識を確実に持っているであろう玉藻の前の事だった。冒険者としての供にも真っ先にセラスを選んでいる、社交性などを考えれば確かにその選択は正しいだろうがそれでも明らかに避けているのは明らかだ。

 

「……一応適度に話はしているさ。セラスを挟んでな、それでもあいつの視線が時々鋭くなるから気が気じゃない……あいつ、魔法使って俺を拘束しようとする仕草も見せるからなぁ……」

「なんか、すいません……」

 

思っていた以上に深刻だった。愛が重い設定がある玉藻、彼女の愛はアーカードへと真っすぐに向かっている。本人もそれを自覚しているが避けているばかりでは娘が可哀そうだと思って、何とか接触はしている。だがその度に貞操の危機を感じているらしく、安易に聞いたモモンガは軽く後悔した。なんとか空気を変えようと別の話題を出す。

 

「そっそう言えば王国の方に情報収集に出しているセバスの方は如何ですかね」

「定期的な報告は入ってきてるけど順調らしい。この世界の魔法を調べる為にスクロールの購入もしてるらしい」

 

セバスはプレアデスの一人、ソリュシャンと共にリ・エスティーゼ王国の魔術師組合にて販売されているスクロールの購入による魔法調査と王都における有名人物や噂レベルの話、冒険者組合での冒険者への依頼内容などを報告書に起こして報告させている。今のところ目立った妨害などもなく順調に進んでいるらしい。

 

「基本的にはユグドラシルと同じような魔法ばかりらしいですもんね……やっぱり昔にプレイヤーが来て広めたという認識でいいんでしょうね」

「この世界特有の魔法があったら俺達でオリジナルの魔法が作れるという可能性もあるから、知っておきたいけど難しいのかもな……」

 

的が外れたことに少しため息が漏れる。基本的にセバス達の活動資金は自分達が冒険者として稼いだ資金から出ている。一応ユグドラシル製の財宝などを加工し、出所が分からないようにしてから売って資金にもしているがそれでも慎重に行わなければならないので報酬金が主な所がまだまだ多い。貧乏性な所がある二人からすれば出費が続く事にため息が出てしまう。

 

「まあ何かあっても大丈夫だろ、あいつも付けてるんだから」

「いやその場合周囲とか大丈夫ですかね……半径1キロが消し飛んだってなったら洒落にならないんですけど……」

「流石に大丈夫だよ……たぶん」

「何でアーカードさんが作ったNPCって何処かしら何か抱えてるんですか!!?」

「セラスはちげぇだろセラスはぁ!!あの子は純粋無垢な天使だぞ!!」

「何処の世界にあんな砲を担ぐスナイパー吸血鬼がいるんですか!!」

 

と喧嘩になる二人、その原因となっているのはセバス達にあった。セバス達は設定として富裕な大商人の我儘な令嬢とその執事という形をもって潜入を行っている。もしもの為の護衛……というか暴力担当としてアーカードが創造したセラスや玉藻とは全く別のNPCを同行させている。アーカード曰く会心の出来のNPC、ナイスなダンディと語るNPC。が、一部問題を抱えているというべきなのか……モモンガはそこを心配している。

 

 

「祈りの時間だ。今日も今日とて我らが神、至高の御方への祈りを捧げるとしよう―――AMEN」




この作者、隠す気が一切0である。


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マッチポンプ計画

「……そういう事かよぉ……」

「どったよモモンガさん」

 

自室にてモモンガはアーカードに相談を行いながら自らがやるべき仕事を片付けていた。アルベドも席を離れているので平常時、自分達の素を出しながらの会話を行っている。何れはバラバラに仕事を片付ける事になるのでこういうのも今の内になるだろうなと思いながら。ブラック企業に勤めていたモモンガからすれば休む事なく働き続けているメイドや守護者達に眉を顰めており、如何にかしなければと頭をひねっていた。そんな中で上がってきた一つの報告書へと目を向けた時に脱力と共にそんな声が響いた。

 

「ほらっ近々リザードマンの集落を落としてナザリックの勢力に組み込むって話があったじゃないですか」

「ああっあったなそう言えば。最初こそは全滅させて全部をアンデッド化させる予定だったけど、それだと種族としての長所が皆殺しになるから保留にした奴だな」

「それです。それでなんとかリザードマンを配下に付けられる方向で進めていこうって言った奴です」

 

モモンガはまだこの世界にアーカード以外のギルドメンバーがいるのではないかという希望的な観測を持ち続けている。それもいるのであれば探し出したいという出来ればがつくような観測だ、それも気心が知れたアーカードが居てくれるからこそだろう。その為にもナザリックの戦力を増強して行く必要があると考えている。その工程の一部としてアンデッドによる軍勢を作ろうとしていたが、それも問題が起こる。

 

人間や亜人などを使用してアンデッドの作成を試してはいるが、アンデッド化させてしまうと完全にそれになってしまいその種族ではなくなる。例えばリザードマンであれば水かきが存在し水辺などでは高い機動力などを発揮できるが、これをアンデッド化させるとそれらが完全に死んでしまい能力としての多様性が皆無に近くなる。群は数だけを揃えばいいという物ではない、適切な役割分担をして運用してこそ。故にトブの大森林にある湿原に生息しているリザードマンを全滅させて勢力に組み込むという案は破棄された筈だった。

 

「配下にした場合とかは逆に色々面倒くさいけど、<エクスチェンジボックス>の実験目的でナザリック内にアンデッドたち使って作った大規模な畑とかあるからそっちから流用が利くだろうから多分大丈夫だろう」

「……それでデミウルゴスから上がってきた物です、見てください」

 

そう言われて回されてきた報告書、手に取って見てみる。すると思わずモモンガがそういう事なのか……と言ってしまった意味が理解出来た。確かにこれはそう思ってもしょうがない。そこにあったのは―――『ザイトルクワエを用いたリザードマン吸収計画』と書かれていた。

 

「そういう事か……成程な、ザイトルクワエを全く関係ない第三勢力とかそういうのに仕立て上げて俺達がそれを助けてリザードマンに良い印象を抱かせて配下に置くってわけか……ひでぇマッチポンプだな」

「でもかなり有効な作戦ですよね。しかも見てくださいよ、既に復興の資材搬入計画まで準備されてますよ。此処までやられるとマッチポンプもいっそ清々しいですね……」

「下手に恐怖や力で抑えつけるじゃなくて感謝の鎖で縛り、俺達への忠誠を植え付けるか……あいつ悪魔か」

「悪魔ですよ」

「そうだった」

 

こういった作戦に至ったデミウルゴスにも理由がある。アンデッド化に難色を示したモモンガとアーカード、これにデミウルゴスは閃いた。二人が目指す世界征服というのは圧倒的な力による単純な物ではない、アインズ・ウール・ゴウンは元々異形種救済を目的にしたギルドだと彼の創造者であるウルベルトが呟いていたことがあった。それらが結び付いて導き出した答えが、人間に迫害される異形種、それらを纏め上げた国を作り上げその国が天下を取るという物だった。故にリザードマンを配下にするマッチポンプ計画をアルベドと入念に協議を重ね、十全ともいえる準備を整えて提案したのである。

 

「スクロールの素材用としてはもう十分って訳か」

「素材としては一級品らしいです。素材用のザイトルクワエの複製……って言ったらいいんですかね、そっちを活用するらしいですね」

「抜かり無しって訳か……」

 

改めて計画書を見ても完璧すぎる計画だ。ザイトルクワエの活用方法からリザードマンの支援計画、頭からしっぽまで反対の要素がまるでない。此処まで有能だとその上に立つ自分達がその働きに見合う事が出来ているのかと軽く思ってしまう。

 

「全滅させるよりかは遥かにマシだとは思う。法国の事も考えるとやっぱり戦力はあった方が良いからな」

「そういえばニグンの方はどうなってんですか?」

「定期的な報告は来てる。どうやら法国は<傾城傾国>を俺達に取られた事に大慌てらしい」

「まあ世界級アイテムですからね」

 

<傾城傾国>を所持していた部隊はニグン曰く、スレイン法国最強の部隊とされる漆黒聖典。その漆黒聖典が未だに戻ってこない事実に相当慌てふためいているらしくニグン達の部隊である陽光聖典まで状況把握と<傾城傾国>の捜索に駆り出されているらしい。それらは既に手が届かぬ場所にあるというのに滑稽な事だとニグンは笑っていた。それを聞いてアーカードも笑って同意を示した。

 

「それでもまだまだ法国には最強の戦力が控えているらしい。クレマンティーヌにも聞いてみたが、人外領域すら超越した漆黒聖典最強の化け物。六大神の血を引くとされる先祖返りの人間の皮を被った怪物がいるらしい」

「……プレイヤーの子孫って事ですかね、そう考えると厄介かもしれませんね……」

「法国にはまだ慎重にならざるを得ないのが現状だ、その為にも一つ一つこなしていこう」

「そうですね」

 

このナザリックを守る為にも、自分達も力を蓄えていかなければならない。如何したって力は必要になってくる。いざとなればアーカードは自分の全てを開放する事も厭わない、地上に死を満たす大河を流す事も躊躇もない。全てはナザリックを守る為……。

 

「あっそうだモモンガさん、王都の奴からも報告来たぞ。問題ないってさ」

「了解です。それにしても大丈夫そうで安心しました……ある意味彼はナザリックで一番ぶっ飛んでますから……結構不安だったんですよ、どんな間接的な言葉でもナザリックか俺達を侮辱したら殺しそうじゃないですか」

「流石にそこまでじゃねぇよ、あいつは。あいつはナザリックの為に頑張ってる、まあ……ストレス溜まってそうだったから、見合う価値があればバレないように工作したらやってもいいとは言ったけどさ……」

「う、う~んまあそれならセーフ、なんですかね……アーカードさんの作ったNPCってなんかあれですよ。セラスだってスナイパーが持つような物じゃないでしょ砲は、なんであれ持たせたんですか」

「ギャップ萌えって奴かな」

 

 

 

 

「そうですか、では私は行く所がありますので失礼致します」

 

そう言って男は頭を下げて歩き出した。見た目は大柄でいかつく、左頬には大きな傷跡がある男はにこやか笑みを作りながらもそのまま拳を握りこんでいる。隣を歩く執事、セバスも同じような心境なのか顔をしかめている。二人が軽く相手をした相手は至高の御方を侮辱するに近い発言をしたので二人は内心では怒っていたが、その怒りに身を任せてはその御方に迷惑がかかると自制をしている。

 

「良いかセバス、抑えろ。あのような微塵のカスは御方々の素晴らしさなど理解しておらんのだ」

「承知しております……ですが些か不快ですな」

「ああそうだな―――次は殺す、必ず殺す……」

「殺気が漏れております、早急に館に戻るとしましょう―――アンデルセン様」

「ああそうだな……祈りの時間が近い、それを欠かす訳にはいかない」



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武人の心意気

リザードマンを配下へと置く計画は順調に進行している。既にザイトルクワエの出撃準備や回収の手順、どういった風でザイトルクワエの下へとやってきたのか、出来るだけ敵意ではなく好意を持たせるための準備が進められて行く。そしてザイトルクワエを倒しリザードマンを救う役目を務める事となったのは<凍河の支配者>である武人・コキュートスであった。この役目に据えるのを決めたのはモモンガであった。

 

守護者各位が何かしらの任務などに就いている中でコキュートスは目立った活躍が余り出来ていない印象があった。実直な武人であり至高の御方の剣として自らを考え振るわれる時を待ち続ける彼は自ら責務を全うする中で自らを鍛え上げる事に余念がなかった。そんな力を存分に発揮して貰おうと思い、コキュートスにその役目を任せる事にした。この役目を与えられたコキュートスは下顎を打ち鳴らしながら、大気が凍り付くほどの冷たい呼吸を漏らしながら興奮するように答えた。

 

「オ任セ下サイモモンガ様!!コノコキュートス、必ズヤ御期待ニ沿ウ働キヲスル事ヲ御約束致シマス!!!」

 

武人としての設定を与えられているコキュートスにとって戦いの役目を与えられる事は非常に喜ばしい事だったのか、鋭い尾を激しく床に叩きつけようにしながらも力強い声で活躍を誓う。そして張り切ったコキュートスはそれに見合うだけの働きをして見せた。ザイトルクワエの襲撃によって被害が大きく、別れた部族を一つとして団結したリザードマン。しかしそれでもこの世界では天災に等しい力をもってザイトルクワエには歯が立たなかった。それでも尚立ち上がろうとする一人のリザードマンがいた。

 

ザリュース・シャシャ。リザードマン全体で見ても間違いなく最強というべき戦士。多くの仲間がやられて行き、絶望と苦痛が身体を貫く中で彼は未だに膝を折らなかった。強大な災厄という驚異の中で奇跡的と言っても過言ではない出来事があった。緑爪(グリーンクロ―)小さき牙(スモール・ファング)鋭き尻尾(レイザー・テイル)朱の瞳(レッド・アイ)竜牙(ドラゴン・タスク)の五部族が一つに纏まって災厄に立ち向かおうとした。最初は戦えていた、ザイトルクワエの枝から枝分かれした小さな枝が波のように襲い掛かってくるのを食い止めていた。だが本体が迫り皆が勝てない事を悟った、だが少しでも時間を稼ぎ戦えない者を逃がす事が目的だった。多くの戦士たちが倒れていく中でザリュースは立ち続ける、迫る枝を切り払う。

 

「俺は、まだ戦える……!!!」

 

力を込めてリザードマンの四至宝の内の一つ、<凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)>を握りしめる。自分には守りたい(メス)がいる。結婚など自分には出来ない、自分などには無理だと思っていた中で出会った朱の瞳のクルシュという白鱗の美女に一目惚れをした、本気で愛したいと思った彼女を守りたいと更に力を籠める。身体に走る激痛は努めて無視する。本能が危険を叫ぶが聞き流す。自分が出来る事など限られている、ならば出来る事を―――

 

「全力で剣を振り続ける―――!!来い、厄災!!!!」

 

叫びをあげる、龍の如き力強く猛々しい咆哮にザイトルクワエの意識が向く。そして同時にそれはこう思った、こいつはここで殺さなければならない。向けられるだけの枝を向けて一息に殺しにかかる、それも自分の役目も理解している。だがそうした方が良いと思うだけの迫力をザリュースは発揮していた、本当にリザードマンかなのかと疑いたくなる程の覇気。これは蜥蜴(リザード)ではない、(ドラゴン)だと思考させた。そして迫る枝がザリュースの身体を圧し潰そうとした時の事だった―――

 

「素晴ラシキ咆哮ト覚悟ダ。私ハオ前トイウ存在ニ敬意ヲ払オウ」

「あっ―――貴方はっ……!?」

「ムゥゥン!!!」

 

一閃。力強くも鋭い一閃が空気を、いや空間を薙いだ。迫ってきた枝の殆どが圧し折られるかのように斬られていく、その一撃は止まる事もなくザイトルクワエの頭部の一部を切り裂き苦痛に歪んだ悲鳴を上げさせた。ザリュースの目の前に一人の戦士が立っていた。手にした巨大な剣と巨大な身の丈と同じ長さのハルバートを持つ昆虫のような姿をした戦士が自分達が手も足も出なかった厄災を苦痛に歪ませていた。

 

「マダ、動ケルカ」

「……当然、まだ動ける……!!」

 

既に限界など越えている筈なのに身体を動かし武器を構えるザリュースにカチリ、と下顎を鳴らすコキュートス。武人として尊敬に値するとザリュースを褒める、意志が折れない精神力は称賛に値する。そしてそっと彼の武器に目を落とすと少し考えると言葉を口にする。

 

「冷気ヲ奴ノ頭部ニテ炸裂サセロ、奴ノ弱点ダ」

「冷気を……承知した。それでは道をお任せしてもいい、という事ですな」

「無論、奴ノ頭上ヘト飛バソウ」

 

初めて会った筈なのに不思議とザリュースとコキュートスは通じ合っていた。互いの意図を完璧に理解していた、身体を軽く丸めるとコキュートスの腕の一つに持ち上げられる。目で合図を送るとコキュートスは再び一閃。それによる再生し始めていた多くの枝が再び消え失せていく、そしてコキュートスは渾身の力でザリュースを投擲する。

 

「ッ……!!!」

 

凄まじい風圧と空気を切り裂くような速度が身体を殴りつける、冷たい空気も傷に染みていく。だが気にならなくなっていた、これがもう最後のチャンスなんだと理解が出来ていた。弾丸となったザリュースはザイトルクワエの頭部へと到達すると<凍牙の苦痛>を渾身の力を込めて、気迫を込めて振るった。

 

「<氷結爆散(アイシー・バースト)>ォォオオオオオ!!!!!」

 

剣が振るわれた先の大気が一気に凍結していく。極寒の冷気がザイトルクワエの頭部を支配していく、それこそ<凍牙の苦痛>の能力の一つ。一日に三度しか使用できない大技<氷結爆散(アイシー・バースト)>であった。

 

「<氷結爆散(アイシー・バースト)>!!!<氷結爆散(アイシー・バースト)>!!!!」

 

立て続けに全てをぶつけた、これが自分の全力だと全てを持って行けと言わんばかりの力が振るわれた。ザイトルクワエの頭部は絶対零度の氷河のような冷気に包まれていた。そしてザリュースはその苦痛に悶えるかのように身を捩るザイトルクワエによって振り落とされて落下する。だがそれを素早く移動したコキュートスが受け止め、優しく地面へと下す。

 

「無茶ヲスルモノダ」

「出せる、全力を出したまでの、事……」

 

そしてその全力が応えたかのように次第に厄災の全身へと氷が走っていく、絶対零度の冷気に包まれていくザイトルクワエ。だがそれでもまだ動けるのか巨大な枝をザリュースへと向けて伸ばすが、それはコキュートスが受け止める。

 

「最後ノ一撃ハ貰ウゾ」

 

一瞬だった。彼の剣がぶれたかと思うと、彼はその剣をしまっていた。何が起きたのか、刹那の夢。そして現実に起きるのは―――真っ二つになり崩れ落ち爆発を起こしたザイトルクワエの姿だった。ザリュースはそれを見つめる、そしてそれをやってのけたコキュートスを見つめる。彼は小さく、終ワッタナ。と言い残すとそのまま去ろうとする。

 

「お、お待ちください!!!何故、何故あなたは私を助けてくださったのですか!?貴方であれば私などの力がなくとも厄災を討てたはずでは!?」

 

全身に痛みが走る、それよりも知りたかった。如何して―――それにコキュートスは少し笑って応えた。

 

「敬意ヲ払ウベキ戦士ヨ、オ前ハ生キルベキダト思ッタマデダ」

「ッ―――」

 

その言葉を受けて、ザリュースは自然と座り込み地面に擦り付けように頭を下げた。素晴らしい方だと心の奥底から思った。そして沸き上がった思いをそのまま言葉にした。

 

「どうか……お名前をお聞かせください……」

「コキュートス」

 

その名を確かに耳にし、魂へと刻むとザリュースは疲労からか倒れこみ意識を手放した。そして目覚めた時、好いた女であるクルシュに抱き付かれて深い安堵の息を付いた。そしてクルシュから自分をここまで運んでくれたのがコキュートスであると知らされ、未だ集落にとどまってくれている彼にリザードマン全員で頭を下げて懇願した。

 

「どうか、我らを貴方様の配下に―――加えて頂きたい……!!」

 

この時より、ナザリックにリザードマンが加わった瞬間であった。



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動き始まる事態

「これがセバスへの追加資金で、こっちがリザードマン村への復興支援用の物資購入諸々の資金っと……それでこれがセバス達が王都で借りている屋敷の家賃だから……」

 

エ・ランテル。最高級の宿屋、黄金の輝き亭。その最も高価とされる部屋にてアダマンタイト級冒険者、漆黒の英雄戦士モモンことモモンガはそこで宿を取っていた。アダマンタイト級という冒険者の最高位にもなるとそれ相応の物を要求されてしまうのでこの黄金の輝き亭で宿を取っているのだが、本人からすれば豪華な食事も寝心地の良いベットも必要がないので無駄な出費が増えるだけだとげんなりとしている。こんな時に取引先の重役が高級な腕時計を付けている理由が身に染みて分かった死の支配者であった。

 

「た、たったこれだけ!?い、いやリザードマンには物資で代用する事も出来るからこの位かなぁ~……やっぱり何処かの商人にスポンサーになって貰った方が良いのかもしれないなぁ……いやでも金で何でも引き受けるとは思われたくはないし……ああもうなんでこんな宿取らなきゃいけないんだよ!!」

 

広げられている金貨や銀貨、それらは一般人からすれば一生掛かって漸くいや稼げない額かもしれない。しかしアダマンタイト級に出される依頼料は飛びぬけて高い。そんな依頼料をもって受けるモモンだが、それでも様々な理由で資金は次々と吹き飛んでいく。この世界の金を手に入れるための手段はモモンガとアーカードの冒険者としての収入とユグドラシル内のアイテムを売る事、しかし後者は他のプレイヤーがいた場合自分達の存在を知らせる事になる為慎重に行わなければいけないので大規模に行えず、矢張り主なのは冒険者としての収入だった。

 

「はぁっ……金がない時に出費って嵩むんだよなぁ……」

 

深いため息が漏れる。ナザリックを維持するためにはこの世界の金は必要はない、だがこの世界で活動するためには金が要る。その為にはユグドラシル内の金貨が使えないという事実が本当に痛い。アインズ・ウール・ゴウンはギルドとしての格は上位ランキングにも入る程のギルド。そんなギルドが素材などを手に入れたりクエストで入手した金貨の数はとんでもない額、それさえ使えれば……と思わずにはいられない。

 

「今帰ったぞ。何だまた金を見て溜息でもついてるのか」

「ああっおかえりなさい、その通りです……」

 

そんな中帰ってきたアーカードに肩を竦められる、最近こんな光景が頻発している。まるで小さな会社を興したての社長のような姿だ。そんな彼に助け舟を出すかのようにどんっと目の前に革袋を置く、重々しく音が響き中からはジャラジャラと音が聞こえる。

 

「こ、これは?」

「追加の資金だ。それも入れて勘定をしておいてくれ」

 

中身を確認してみると大量の金貨と銀貨が収まっている、これだけで次回送る分を簡単に賄えるだけの量が入っている。

 

「こ、これ一体どうしたんですか!?」

「この世界の宝石商に宝石を売ったんだ。勿論細工は流々、バレる事もないだろう。加えて俺が裁縫で作った品を流してみたらバカ売れした」

 

アーカードは自分なりに出来る事を考えてこの世界の市場を調べると同時に宝石の細工のレベルなどを調べ上げていた。それに合わせた物に宝石を仕立て上げて売ってきたのである、そして自分の趣味である裁縫を駆使して様々な物を作ってみてそれも売ってみただが……何故かそっちがよく売れたのが驚きであった。アーカードの裁縫レベルがMAXであるのもそうだが、あのアダマンタイト級冒険者のヴァン・ヘルシングが制作したというのが更なる箔付けとなったらしく、宝石よりもこちらの方が多くの金を稼いだ事に驚きを隠せなかった。

 

「有難う御座いますアーカードさん!!これで色々と楽になりますよぉ!!」

「気にするな。空き時間に趣味をやって出来た物を売っただけだ、後ヴァンだ。ナーベの事を言えなくなるぞ」

「あっすいません……それにしても流石に凄いんですね、アダマンタイトって称号は」

「俺達を含めて王国には3チームしかいない最高位だからな。利用出来る分は利用するのが吉だ」

「ちゃんと加減はしてくださいよ?」

「分かってる、あくまで称号は称号だ」

 

その辺りは恐らく理解しているから問題はないだろう。アーカードはロールプレイにかなり気を使う、役を演じるのに周囲の状況や環境、文明レベル、人々の事まで調べてから演技に入る程だ。だからこそガチ勢を名乗れるのだろう。

 

『アーカード様』

「うおっ!!?」

「ど、どうしました!?」

「い、いや<伝言>だ。リラックスしてたからビビった……この声は……アンデルセンだな。あいつの声すげぇ迫力と威圧感あるんだよな……」

 

そう言って首筋に指をあてて<伝言>の体勢に入る彼を見ながらその名前を聞いて改めて思う。アーカード曰く渾身の出来のNPC。ギルドメンバーからは最恐神父、怪物神父、圧倒的存在感、やばい(ド直球)、などなどの評価を与えられているNPCがアレクサンド・アンデルセン、通称アンデルセン神父。

 

普段は穏やかな表情を浮かべる優しげな神父様だが、敵対者への攻撃や忠義の対象となっている至高の御方の侮辱をされると性格が一変する。本性は残虐で残酷、更に敵が強ければ強いほどに好戦的な本性を剥き出しにして誅殺を楽しんでいく。アーカードと同じく防御と回復に多くのスキルが割り振られ傷を負ったとしても即座に回復する。そしてアンデルセンはその手に銃剣を使用する白兵戦を得意とする。

 

因みにアンデルセンを作った際にギルドメンバーから制作時期がペロロンチーノがアーカードのドM疑惑を流した直後だったので、そのせいで色々たまったストレスが爆発したせいで生まれたNPCなのでは……と思われている。

 

「……ふむっあっえっはぁぁっ!!?」

「うわぁ!?」

 

金をしまっている最中にアーカードが素っ頓狂な声を上げる。思わず金貨を落としてしまいそれを慌てて追いかける英雄モモンの姿が生まれたりもした。

 

「……そ、そうかうん分かった。私の方から伝えておくからお前はそのまま任務を続けてくれ。後でまた連絡する」

「ど、どうしたんですか。声に出てますよ?」

 

頭を抱え始めるアーカードに思わず声をかける。<伝言>で伝える言葉が思わず声に出てしまっているほどに焦っているのか彼の顔色は良くない。まあ普段の肌が白いのでそれよりは良いともいえなくもないが。

 

「……セバスに裏切りの可能性があるっと報告してきたんだよあの神父」

「えええええっっ!!?」

「まあ驚くよな……人間の女を救って屋敷でメイドとして働かせているらしい、だがそれを報告してこない」

「あのセバスが裏切りなんて……」

「俺もそれはないとは思うが……」

 

あのセバスが裏切り……正直考えられない。執事としてあれほど真面目な彼が、何より彼を作ったのはあのたっちさんだ。彼に作られたセバスがナザリックを裏切ったというのは考えにくい。

 

「人間の女を助けた……如何思います、裏切ったと思いますか?」

「ないと思う。どちらかというとたっちさんの性格に影響を受けてるからこその行動だと思う、誰かが困っていたら助けるのは当たり前なたっちさんの子供だぞ。それに影響されてる可能性はある」

「ですよね……でも報告をしないのはちょっと問題ですね、報連相は基本中の基本ですし……一度セバスと話した方が良いかもしれませんね」

「だな」

 

アーカードは再びアンデルセンへと<伝言>を飛ばしそちらに行く事を伝える。

 

『至高の御方の御手を煩わせる訳にはいきませぬ、宜しければ私がセバスを処分いたしますが』

『いや私は奴を処分する気はない、そのまま待機だ』

『承知しました、我が君』

 

「……ふぅ……なんかアンデルセンと話すと不思議と緊張するな」

「凄い解りますそれ」




アーカードが敵の攻撃を引き付ける、アンデルセンが敵中を搔き乱す、セラスが後方から砲をぶちかます、玉藻が援護の魔法を行使。

これが基本的な戦法。


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セバス、騒動。

「本日ハコレマデトスル」

『承知致しましたコキュートス様!!』

 

リザードマンの集落にコキュートスの姿はあった。デミウルゴスとアルベド発案のマッチポンプ計画で救われたリザードマン達は従順にコキュートス、引いてはナザリックに忠誠を誓っている。大きな被害を被ったリザードマンの集落、それの復興を支援する段取りは既に形作られておりアンデッドらがリザードマンと協力して壊れた家の修理や様々な事を起こっている。そんなリザードマンの統治を任せられたコキュートス、彼は救世主という目で見られており尊敬と羨望の眼差しが強い。そして今行っているのはリザードマンを鍛え上げる事だった。

 

コキュートスの力を見たザリュースを筆頭に是非とも自分を鍛え上げて欲しいという声が多かった。最初こそコキュートスは彼らのレベルで自分の指導についてこられるのかとやや疑問もあったが、今は少しずつ成長していく姿を見るのも悪くないと思い始めている。何れ自分の教えた剣技で敵を打ち倒す、そんな光景に少しだけ心が躍りこれはこれでありだなとコキュートスは満足げに下顎を鳴らすのであった。

 

「ムッ……」

 

指導も終わりこれからナザリックに帰還しようとした時の事、唐突に彼に<伝言>が飛んでくる。それはデミウルゴスの物だった。至急ナザリックに戻るように、そして自分と共にモモンガとアーカードの供をしてほしいという物だった。無論と返答をし緊急帰還用の<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>の巻物(スクロール)を手に取り発動させる。

 

「私ハナザリックヘト帰還スル。緊急事態発生時ハ巻物ヲ使イ私ニ<伝言>ヲ飛バセ」

「承知しましたコキュートス殿」

 

ザリュースは礼を捧げながら消えゆく救世主を見送った。そして彼は今日の指導で得られた手応えに頬を緩めながら無事だった自分の魚の養殖場へと足を進める。

 

 

「さてセバス、何故私たちがこの場にいるのかその説明はいるか」

「……いえ必要御座いません」

 

王国の屋敷、そこを拠点として活動を行っているセバスら。そこの一室にてセバスは珍しく汗をかきながら震えそうになっている身体を必死に抑えながら凛たる姿で立ち続けている。だがそれをいつまで目の前の御仁に維持出来るかはセバスにも分からなかった。目の前の客人用のソファに腰かけているのは至高の御方であるモモンガ、そしてアーカード。護衛と思われる守護者であるデミウルゴス、コキュートス。そしてアーカードの傍で待機しながら冷たい視線を投げ続けるアンデルセン。それらが此方へと視線を向けている、用件は理解出来る。だが冷や汗が止まらなかった。隣にいる自らが助けた女性、ツアレも目の前の状況に震えている。

 

「セバス、私やモモンガはお前が裏切りを企てているという事を思っている訳でもなければお前を罰するために態々来た訳ではない。だがな……セバス、お前はソリュシャンからこの事を報告するべきだと進言を受けていた、違うか?」

「……その通りに御座います、しかし報告すべき程の事ではない私が勝手に判断致しました……」

「ふむっ……」

 

セバスとアンデルセン、そしてソリュシャン。この三人で王都についての調べを進めていた、ソリュシャンは突然の事に驚きながらもセバスに何度も報告すべきだと進言を行い続けた。そしてそれが聞き入れなれない為にアンデルセンを通してアーカードへ報告を行った。この場合正しいのはソリュシャンだ、彼女からすれば何の予定もなく予想外の行動をしたセバスの行動を報告しただけなのだから。

 

「セバス、お前の口から聞きたい。彼女を助けた状況、お前の行動を全て話せ。真実を」

「承知致しました……」

 

セバスは自分がツアレと出会った時の状況、なぜそのような事をしたか、全てを虚言なく報告する。その際に娼館の男に必要以上の金を渡したことに若干眩暈を起こしたが話を聞き続ける。その内容にデミウルゴスはポーカーフェイスを続けているつもりだろうが青筋が額に立っている、コキュートスも苛立っているのかカチカチと威嚇するような音を下顎で鳴らしている。全てを話し終えたセバスに二人は何も話さない。最後に自分は二人への忠義も忠誠も忘れたわけもなく、裏切るつもりなど毛頭ないと締めくくる。

 

「……我々ニトッテ、優先スベキ事ハ至高ノ御方。御方ヨリノ命令、ソレヲ曲ゲテノ愚カナ行動、ソレガ許サレルト思ッテイルノカセバス」

「全く同意だね、今の君の言葉に信頼性があると思っているのかね」

「お前は仕えるべき御方の御気持ちと信頼を裏切ったに等しい、それを理解しているか」

 

容赦なく突きつけられるコキュートスとデミウルゴス、アンデルセンの言葉。それはセバスも重々承知している。だが自分に至高の御方を裏切る考えなどかけらもない事は理解してほしいとそれだけを思っている。冷たく重苦しい空間が広がっていく中で小さい笑い声が木霊した、それはアーカードの物だった。小さな声は次第に大きくなり、大きな笑いとなって部屋中に木霊した。

 

「ハハハハハハッ!!!!友よ聞いたか、矢張り我々の思った通りだ!!愉快だ、非常に愉快だ!!」

「フフフッ確かにな、ここまでピッタリだといっその事微笑ましく思えてくる」

 

突然の大笑いと微笑みを浮かべる二人にセバスは呆然とする。自分に何か笑われるような部分があっただろうかと思って思いつかない、何故笑っているのかも理解出来る。当然だ、それはたっちさんと重ね合わせている二人だからこそ笑えているのだから。

 

「セバス―――困っていたら助けるのは当たり前、だろう」

「ッ―――!!」

「矢張り、そうだったんだな。やっぱりたっちさんの子供だ」

 

それを聞いてデミウルゴスとコキュートス、アンデルセンは何故セバスが今回のような行動をとってしまったのかを理解出来てしまった。彼の生みの親であるたっち・みーは弱きを助けずに強者を名乗れるはずがないという思考を持つ善人だった。そんな考えにセバスも強い共感を覚えそれを実行に移したのだろう。

 

「セバス、ツアレ……だったな。そいつはお前に預けよう。お前の好きなようにするがいい、ナザリックで働かせようが何処かに送り出すのも好きにしろ。だが今回の任務によってお前に与える筈だった褒美はなし、それで帳消しだ。それからこれからは何かあったらすぐに報告しろ、ツアレの処遇についてもだ。報告、連絡、相談、報連相は基本だ」

「承知致しました、寛大な処置に感謝致します……!!」

 

セバスは深々と頭を下げてツアレを休ませるために退室していく、そしてそれを見送った二人にデミウルゴスは口を開く。

 

「モモンガ様、アーカード様。御二方の決定に異を唱える訳ではございません、ですがセバスの処分は本当に宜しいのですか?」

「疑問に思うか。だが褒美をなくすというのはセバスが行ってきた行いの全てを無に帰すという事だ」

「それに奴が仮にナザリックにツアレを迎え入れる場合にもメリットはある。これから私が人間の世界に干渉していく、その場合に備えて人間に対する対応を練習する相手にもなる。ナザリックには人間を卑下する見方が強いからな」

 

セラス曰く、ユグドラシル時代に起こったアインズ・ウール・ゴウンに1500人のプレイヤーが攻撃してきた事が人間を軽視、見下した考えの原因になっているらしい。これから人間に多く接する場合があるのでその考えは出来るだけ変えるべきと二人は思っているので、ツアレがナザリック入りする事は別に拒むほどの事ではなく、むしろ良い切っ掛けになるのではと考えている。

 

「今回の一件はこれまでだ。アンデルセン、王都での情報収集は十分と判断する。早急に館を引き払いナザリックへの撤収の準備を整えろ、セバスについても今まで通りに接してやれ」

「承知致しました、我が君」

 

この後、モモンガとアーカードは守護者を連れてナザリックへと戻っていく。セバスはツアレが自分と共に居る事を強く望んだ為にナザリックへと連れていく事を決定した。そして必要な手続きとデミウルゴスに頼まれた小麦の買い出しにソリュシャンへと向かって行った……が、まだ騒動は終わっていなかった。

 

「許さん……至高の御方を、我らがナザリックぉ侮辱した愚か者共がぁぁぁ……!!!」




ネタバレ、神父様キレる。


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神父、暴走間際

「な、なんだソリュシャン何があった!?」

「ア、アーカード様申し訳ございません!!どうかアンデルセン様を御止めください!!」

「どうかお気を確かに、どうかどうか落ち着いてくださいアンデルセン様!!!?」

 

ツアレの事も無事にセバスが報告を行い、ナザリックにて働く事が決定した。そして彼女をセバス付きの仮メイドとして経験を積ませることを決定してナザリックで一件落着だと落ち着きをもって、<人化の指輪>にて紅茶を楽しんでいるときの事だった。ソリュシャンから緊急の連絡がアーカードへと舞い込んできた。すぐさまモモンガに<転移門>を開いて貰って現地へと急行するのだがそこでは柄にも合わずに慌てふためいているソリュシャンと必死にアンデルセンに羽交い締めを仕掛けて動きを封じているセバスの姿があった。

 

「許さん……許さんぞぉ……ごみの分際でぇ、カスの分際でぇ……至高の御方々が住まうナザリックに所属するメイドの命を狙っただとぉお!!!??許せるかぁぁあああ!!!」

 

怒髪天を衝く。正しく今の状態を表す言葉だろう。アンデルセンは通常は優しい神父様だ、ナザリック内ではだれに対しても優しく接し望むであれば共に至高の御方への祈りを捧げる事も拒否しないどころか喜んで一緒に祈ってくれる。怪我をすれば子供の心配をするかのように優しく回復を掛けてくれる、正しく神父の鏡のような人物。だがそれはあくまでナザリック内部に対してのみの話。それに敵対、反発する者に対しては容赦の欠片も掛けない。それは既にナザリックのメイドとして働く事となったツアレにも適応される。アーカードは正しく激昂しているアンデルセンに軽く恐怖を覚えながらも至高の御方たらんとする態度を崩さずに懐から銃を抜き、上へと向けてトリガーを引く。

 

「「ッ!!」」

 

拳銃にしては重く低い音が館に響き渡る、それに反応してセバスはアンデルセンから離れ構えを取る。アンデルセンも瞬時にその手に銃剣(バヨネット)を持ち十字架の構えを取る。だがその元がアーカードだと理解できると直ぐに構えを解く。

 

「セバス、ご苦労だったな。よくぞ私が来るまでアンデルセンを抑えていてくれた。寧ろよく抑えられたな」

「お褒め頂き感謝の極みに御座います。たっち・みー様にそのように創造された身であるからこそ出来たのでございます」

 

先程までの様子から一転して完璧な執事の礼をするセバス。アインズ・ウール・ゴウン最強の騎士であるたっちさんに創造されているセバス、そんな彼もナザリックのNPCの中でも指折りの強さを持つ。レベルは当然100、そして守護者序列3位【肉弾戦最強】であり純粋な格闘戦では最も優れている。そんなセバスだからこそアンデルセンを抑える事が出来たのだろう。彼以外で単独でアンデルセンを抑えられるNPCなど数えるほどしかいない。

 

「アンデルセン、説明を。何故お前はセバスに羽交い締めにされていた。何故激昂していたのかを明確且つ正確に説明しろ」

「ハッ……まずはお恥ずかしい所をお見せしてしまい申し訳ございませぬ……」

「よい、お前はナザリックの為に怒った。その怒りは正しい物、しかしセバスには謝罪しておけ」

「はいっ……済まなかったセバス。神父である私があのような姿を……恥ずかしい限りだ」

「お気になさらないでくださいませアンデルセン様。元を正せば私が安易な行動をとった上、貴方のお怒りは私としては嬉しい物がございます」

 

話を聞くとどうやらアンデルセンをとがめる理由はなかった。彼はセバスとソリュシャンが王都からの撤収準備の間、ツアレにこれからメイドとして働く上での注意事項や覚えておくべき事を指導していたらしい。ここはナザリックの者には優しいという事が出ている。そんな中、館に侵入者が現れた。それはツアレを誘拐するためにやってきた、邪魔をするならば貴様から殺すぞと言い出した。そしてそれらは禁句を言った。

 

「てめぇのくそみたいな主にいいな、その女を返してほしければ俺達八本指に懇願しろってな!!」

「……ア"ア"ッッ……!!?」

 

アンデルセンの逆鱗、至高の御方への侮辱。それに触れた者らは物の見事にアンデルセンに瞬殺された。そこへ挨拶回りと小麦の購入などを終えたセバスとソリュシャンが戻ってきた。静かに激昂するアンデルセンに慌てふためきながら説明するツアレ、そしてそれを聞いたセバスは今にも飛び出していきそうなアンデルセンを必死に抑えつけ、ソリュシャンは大慌てでアーカードへと<伝言>を飛ばした。という事だった。

 

「成程な……。アンデルセン、ツアレを助けようとしたのは素晴らしい。彼女は人間だが既に我らと同じ場所を居とする者、彼女もまたお前達と同じく私と友の庇護下の存在」

「仰る通りに御座います」

「しかし……その八本指か、少々不快だな」

 

それを聞いた途端にアンデルセン、セバス、ソリュシャンの瞳に鋭い光が灯るがそれを止めながらアーカードは言う。

 

「そうだな……ふむっ以前デミウルゴスがモモンとヴァンの武勇を立てる為に魔皇を作るという提案をしていたな。それを乗じさせるというのはありだな、よしこれで行こう。アンデルセン、セバス、ソリュシャンはこのまま待機、別命あるまで勝手な行動はするな」

「「「はっ!!」」」

「私は一度ナザリックに戻りモモンガさんに報告を済ませる、何時間はかからんさ。アンデルセン」

「はっ」

 

顔を上げるアンデルセンにアーカードは言った。

 

「我らに仇なす愚か者に対する行動は、分かっているな」

「然り」

 

ゆらりと悪霊のごとく立ち上がるとアンデルセンは高らかに語りだす。

 

「至高の御方に仕える者、その者としてすべき事を全て成し、主たる神、至高の御方が望む者を全て遂行する……それが我らが使命」

「素晴らしい、流石はアンデルセンだ」

 

今、始祖の吸血鬼に仕える最強の神父が、解き放たれようとしている。




神父、出撃準備開始。


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悪魔の計

「にしてもまあ……デミウルゴスも凄い事思いつきますよね。魔皇を作りましょうって」

「ウルベルトさんの子供らしい、とは思わないか?」

「最も悪に拘った人ですからねぇ……でもあの人なら自分がやりたい!って言うと思いますよ」

「脳内再生余裕だな」

 

アインズ・ウール・ゴウン一悪に拘った男、それこそがウルベルト・アレイン・オードル。悪に拘りは強く、アーカードの専用となった世界級アイテムを見てからというもの悪魔を大量召喚するワールドアイテムの模倣したり、振る舞いや声、喋り方にも悪役足らんとした情熱を掛けた。特にロールプレイガチ勢であるアーカードにロールプレイの指導まで依頼して徹底した悪になろうと努力を重ねていた、それはナザリック内の仕掛けにも反映されており、デミウルゴスに受け継がれている部分も多い。

 

「それにしても流石デミウルゴスだな、俺達に対する依頼が確実にされるなんてどうやったら予測出来るんだよ」

「本当ですよね……八本指、それの襲撃への助っ人としてだなんて」

 

今、モモンガとアーカードは黄金の輝き亭の自室にて準備と称して雑談に勤しんでいた。彼らが部屋で待機しているときの事、唐突にそれは現れた。それは王国のレイブン候という貴族からの呼び出しという名の依頼であった。それはセバスがツアレの事をモモンガとアーカードに説明する前に、王女付きのクライムという騎士とブレインという剣士と共に八本指の奴隷部門長と六腕の一人を捕縛した成果を挙げた。それに乗じて一気に八本指を撃滅するという作戦を決行するとの事、だが八本指にはアダマンタイト級冒険者と互角とされる力を持つ六腕が居るという。その相手をする為に自分達に依頼を持ってきたという話だ。

 

「間違いなくデミウルゴスの作戦とブッキングしますよね」

「だな……まあ上手くやるしかないだろ。それにデミウルゴスならこっちの動きに合わせる事なんて余裕だろう、さすデミださすデミ。というかこうなる事も想定はしてたので大丈夫ですって言ったあいつにビビったわ」

「ホントそうだから困りますよね」

 

ナザリックも今回、王都にて拠点としていた館を襲撃された事で八本指への攻撃を決定し即座に実行する事に決めている。それと同時にモモンとヴァンの武勇を高める為の魔皇を生み出し、その始まりの物語を紡ぎだす予定だったが丁度いいのでその魔皇も退けちゃってくださいっとデミウルゴスはかる~く計画の修正までやってのけた。本当に優秀過ぎる頭脳で羨ましい限りである。

 

「さてと、そろそろ行きますか」

「おう。おっとボロを出さないように頼むぞモモン」

「そちらこそ頼むぞヴァン」

 

 

日も落ち、夜の帳が辺りを包む。闇が跋扈する暗い王都を頼りなさげに照らすのは家から漏れ出ている弱い明りのみ。頼りなさげなそれらは即座に闇に飲まれるのに抵抗こそするが呆気なく飲まれていく。それらを遮るような影を作りながら王都を歩いていく二つの影、それは大きな屋敷の柵の前へとたどり着くと足を止めた。そして―――腕を振るうと巨大な柵は大きく拉げながら倒れこみ、それを踏み越えて影が中へと入っていく。

 

「な、なんだてめぇらは!?」

「何もんだぁ!?」

 

荒くれ者どもの声、そして大きな男に顔を歪ませるかのような肥え太った腹の中が汚らしい者共の声がする。それらを受けるのは二人の男、一人は老齢の執事。もう一方は眼鏡をかけた男。それらへと声をかけるが、二人は一切顔色を変えない。

 

「ここが何処か理解しているのかぁお前ら?」

 

前へと出てくる5人の人間と一体のアンデッド、多少なりともレベルが高いらしいが自分達にとっては雑魚その物。敵ですらない、駆除する対象ですらない。

 

「貴方方でしょう、屋敷に無礼な者達を送り込んできた八本指というのは。今回はそのお礼参りに参りました」

「何ッ……という事はあいつらは矢張り殺されていたという事か、それで此処に来たと?ははっ身の程知らずが!」

 

そう言って皆が笑い出す、あの程度の者を倒せる程度のレベルでここにやってきたのかと笑い始めた。だがそれも眼鏡の、アンデルセンの一喝で静まり返った。

 

「喧しい、貴様のようなゴミが喋るなぁ……そうだ、我々がお前らを殺すのだ、そして死ね。愚かにも天に唾を吐いたことを悔いて死ね、震えながらではなく藁のように死ね……AMEN」

 

そう言い、アンデルセンは懐から銃剣を抜刀しそれで十字架を作り出す。それが示すのは自らのへの神への祈りの忠義、そしてその神が望むであろう事を全て成しとげるという事。同時に執事、セバスも構えを取る。これからするのは戦いではない、鏖殺、駆除だ。それを我らが主が望みになった、不快だと思った。ならばそれを成す。それが彼らの在り方。

 

「我らは至高の御方()の代理人、神罰の地上代行者。我らの使命は我が神に逆らう愚者をその肉の最後の一片までも絶滅すること……AMEN!!!

 

低く恐ろしげな声を上げると同時に二つの影が閃光となって宙を舞い、そこいら中が血で染まっていく。一人は銃剣を、一人は拳を振るって人をゴミのように崩していく。その光景は正しく駆除だ、人間が駆除される虫のように殺されていく様は恐ろしさを通り越して清々しく思える程だ。それに恐怖を覚えるアンデッド、それはまるで子供のように地面に崩れ落ち、震える身体を必死に動かしてそこから遠ざかろうとするがそれを見逃す神父ではない。

 

「どこに行こうというのかね、どこにも逃げられはせんよ。Dust to dust、塵は塵に。塵に過ぎない貴様らは塵に還れっ!!AMEN!!!

 

この時より、ナザリックによる悪魔的な作戦が始まった瞬間だった。




脳内再生余裕でしょ、皆さん


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計画進行

「我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物して与えん。汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと」

 

夥しい数の死体とそれから流れ落ちていく鮮血。後ろに立つセバスは背後から不意打ちをしようとした愚か者を回し蹴りにてあの世へと送り出した、それをアンデルセンが唱える聖書にある言葉が魂を浄化し、無へと返しながら次なる生へと旅路を迎える。

 

「されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ。恐れをもて主につかえ、慄きをもて喜べ。子に接吻せよ。恐らくは彼は怒りを放ち汝ら途に滅びん」

 

怒り狂っているとはいえ彼は神父、その役目は果たす。今世の行いが愚であるならばそれを即座に切り捨て新たな生へと送り出してやるのも自らの役目だと彼は考えている。至高の御方が一人、アーカードによって創造された神父、その役目は敵対する者であろうとも次の人生は我らに平伏し利を成させる為でもあると考えている。よってアンデルセンが例え愚かな者であってもその魂を浄化し送り出す、そうあれかしと創造されたからだ。

 

「その怒りは速やかに燃ゆベければ。全て彼により頼む者は幸いなり……貴様らの今世には意味はない、だが次はある事だろう。それを願い今を悔やみそのまま死んでゆけぇ……AMEN!!!

 

ゴロリとアンデルセンの手によって首を刎ねられた死体が転がった。筋骨隆々の男、身体の各部に入れ墨のような物を入れているがそれだとしてもアンデルセンに敵う訳もない。単純な戦闘力であればアンデルセンはシャルティアとタイマンを張る事が出来る。倒す事が出来なくても長時間戦い続けてスキルを使い切らせたうえで大きく疲労を与える事は容易にできる、それが最強神父:アレクサンド・アンデルセンなのである。

 

「アンデルセン様、ここの拠点の物資は全て確保完了致しました」

「宜しい。では我々の役目は終わった、ナザリックへと帰還する。セバス、お前の気も少しは晴れた、そうじゃないか?」

 

先程とは一転して穏やかな表情になったアンデルセン、そう問われたセバスは少しだけ晴れたと素直に白状した。彼はツアレを攫いに来たという者達に対して嫌悪感と怒りを抱いた。そしてそれを命令した連中に少しでもやり返したいという思いを僅かながら抱いていた。だがアンデルセンが相手を殺している時点で十分に晴れていたのだが……改めてこうして行動出来てスッキリした部分もあった。それを聞いてアンデルセンは穏やかな笑みを浮かべてそれは良かったという。

 

「では帰ろう。お前はツアレにナザリックで覚えておくことの大切な事を教えておいた方が良いだろうな。俺の方である程度は教えてやったが、仕事の方は分からんからな」

「有難う御座います。ではさっそく指導をしておきます」

 

そんな話をしながら準備が整ったので、転移魔法が封じ込められたスクロールでその場から転移する二人。そしてそれからそこへセバスが出会った少年クライム、ブレインが命令を受けて八本指の拠点へと足を踏み入れるのだが……死屍累々の光景を目にして言葉を失うのだが、それは別の話。

 

 

「むっ……」

「如何したヴァン」

 

エ・ランテルにてレイブン候からの依頼を受諾した漆黒の英雄ら、彼らは魔術師が展開した<浮遊板|(フローティング・ボード)>に乗せられてそれを<飛行(フライ)>の魔法で引っ張る魔術師の背中を見ながら見えてきた王都の景色を見ているときの事、ヴァンが声を上げた。

 

『……デミウルゴスが見えた。戦闘中だな』

『えっマジですか何処?』

『ほらっあそこ……って流石に無理か、俺の視力だから見えたからな』

 

始祖の吸血鬼が優れているのは身体能力だけではない、それらを構成している全てのパーツが優れている。腕力、脚力は当然ながら瞳も優れている。それが捉えたのは仮面を装着したデミウルゴスが炎の壁、恐らく<獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)>を発動し冒険者と思われる二人を焼き殺している。その後、迫ってきた相手をスキル<悪魔の諸相:豪魔の巨腕>で殴り飛ばしている。

 

『俺ちょっとデミウルゴスに会ってきますよ。今魔皇ムーブ中でしょうし、名を売るのにも利用出来るでしょ』

『分かりました、んじゃ俺の方から今からアーカードさん行くよって伝えときますね』

『頼むわ』

 

「セラ、途中下車だ。ついて来い」

「はいっ!」

 

そういうとヴァンは立ち上がった。冷たい風が全身を撫でるように通り過ぎていく、そんな中で指を出してその風を感じる。

 

「風力、温度、湿度、一気に確認…ではやるか……<弾丸飛行(バレット・フライ)>!」

 

セラがヴァンの背中にしがみついたのを確認すると彼はゆっくりと浮遊板から身体を投げ出した。まるで物を静かに投げたかのような自然体で板から身体を投げ出した、そして彼は一気に加速してデミウルゴスの元へと閃光のような速度で飛行していく。それを魔術師が唖然とした表情で見つめる中、モモンが言葉を上げる。

 

「彼が保有するアイテム、その中にあのような速度を出せるものがある。一日に数回しか使えないがな」

 

そういうと魔術師は顔を見合わせて取り合えず残った漆黒の英雄戦士であるモモンと美姫ナーベを一刻も早く連れて行くために飛行に集中した。

 

弾丸の如き速度で空を引き裂いていくヴァン、その目的地はただ一つ。魔皇としてふるまうデミウルゴスの元。そして地上が近づいてくるとセラは自分から手を放して少し離れたところに着地する、そして自らは轟音と共にデミウルゴスの元へと着地する。ゆっくりと身体を持ち上げて声を上げる。

 

「私の相手はどちらだ……?」

 

漆黒の双璧が一人、漆黒の英雄紳士・ヴァン・ヘルシング。彼が齎すのは希望か絶望か、はたまた別の物か……。



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魔皇ヤルダバオト

魔皇って書くとなにか疼きますよね。主に心の奥にある封じておきたい何かが。


私はその時思った。時噺や吟遊詩人が語る物語は決して夢物語なのではないと。目の前にて魔たる皇と戦い続ける漆黒の英雄、それは手のひらに装備する鋭く輝く丸い鋸がついたもので魔皇の攻撃を捌きつつも隙を見て鋭い蹴りを入れた。私は肉体的な技術には長けていないが仲間が長けていて、その技術を見るがそれと比較してあからさまなほどに痛烈な一撃だった。その最中、吹き飛ばされているというのに魔皇は懐から出したナイフを私へと向けて投擲した。あんな不安定な体勢で驚きながらも全く反応出来なかった。頭を貫こうとするそれを、漆黒の英雄は止めて見せた。あれほど早く飛んでくるナイフを容易く掴んで見せた。

 

「無事か?」

「えっあ、ああっ……」

 

思わずそんな声しか出なかったのだ、あと少しで死ぬところだったのだから当然だったかもしれないが驚きで舌が回らなかった。命の恩人に対してそのような言葉しか出せない。そんな私自身に腹が立った。もっと気の利いた言葉があった筈だと、この方は私の命をもう何度も救ってくださっているのだ。そんな方へと向けた言葉がそんな物で良いはずがないと悔やみ続けた、だが目の前の漆黒の英雄はそんなこと気にしていないと言わんばかりに優しく、勇ましい、頼り甲斐のある声で力強く言う。

 

「無事でよかった」

 

私を助けられてよかったと、完全な善意を言葉に込めて贈ってくれた。優しげな瞳からは私への思いが込められており、その目を見ていられなくなり思わず目をそらしてしまった。だってしょうがないじゃないか、あんな綺麗な目で見られたら見ていられない……と自分を正当化させながら仮面を付けていて表情がバレなくて良かったと安堵する。そして胸が高く高鳴った、その高鳴りはどんどん高くなっていく。

 

「おおっこれまでの攻防に加え今の一撃、そして私の攻撃から彼女をここまで完全に守るとは、このヤルダバオト心よりの称賛をお贈りさせていただきます!!」

「ふんっまさかお前のような存在に称賛されるとはな」

 

私も気付いている。目の前の魔皇のわざとらしいとも思えるような仰々しくわざとらしい演劇の役者のような所作はこちらを挑発し馬鹿にしている、自分もあの魔皇と同じく仮面をしているがその下でこちらをあざ笑っているであろう顔を殴り飛ばしたくなってきた。そんな中で英雄の行動に驚いた。片手のそれを投げ捨てると私の元まで歩み、私の身体を持ち上げ、片腕で抱きしめるように抱きかかえた。

 

「キャッ!?ヴァヴァヴァヴァヴァン様!?」

「突然済まない、だが守る為にはおそらくこれが最適だ」

 

そういう彼に私の脳内は沸騰寸前だった。長らく生きてきたされた事もない恐らく伝説と言われる勇者の片手御姫様抱っこ、それを私は体験している。もう思考が死にそうになってきた、なんとか絞り出した言葉は

 

「ぁぁっ……ヴァン様ぁぁっ……」

 

という言葉が彼に聞こえていないことを強く願う。

 

 

王国には3つのアダマンタイト級冒険者が存在する。朱の雫、蒼の薔薇、漆黒。その内の蒼の薔薇は女性のみで構成されている珍しい冒険者チーム。そのメンバーである女性としてみるには巨石を思わせるような大柄な体躯で筋骨隆々の戦士・ガガーラン。そんな彼女が八本指の拠点の一つへと踏み込んだ時、そこには人間の腕を旨そうに貪り食っているメイドの姿があった。真っ先にそれが化け物で人間に仇成すものだと看破し戦闘を開始した。

 

直後にチームメイトであるティアと共に戦うが、蟲を自在に操り武器や兵として使うメイド、エントマに苦戦を強いられて行く。がその最中に仲間のイビルアイが救援に駆けつけた、彼女は殺虫効果のある魔法を使えた為に戦いを有利に運ぶ事が出来、なんとかあと一歩のところまで追いつめる事に成功するのだが……そこに現れたのがスーツに仮面をつけた悪魔であるヤルダバオトだった。イビルアイが殿となってガガーランとティアを逃がそうとするが、ヤルダバオトはそれを嘲笑うかのように二人を殺して見せた。そしてその直後にヴァンが空から降ってきてその戦闘に介入した。

 

「(さて、どう出てくるか……デミウルゴス)」

 

ヴァン・ヘルシングこと、アーカードは魔皇を演じているデミウルゴスの出方を伺っていた。この戦いもデミウルゴスに加勢する事も良いが、他人の目があるのならば敵対するしかない。そもそもがモモンとヴァンの武勇をより広めるための魔皇なのだから。

 

「<悪魔の諸相:触腕の翼>!!」

 

バク宙から跳躍したデミウルゴス……いやヤルダバオトは翼を猛々しく広げる。正しく悪魔に相応しい禍々しい翼だ、その翼から夥しい数の鋭利で平たく薄い触手のような羽が打ち出されていく。抱かれている仮面を被った少女のような見た目をしたイビルアイはまずいと漏らすが、ヴァンは焦るつもりはなかった。片手に握っている小型回転丸鋸、それに魔力を供給してやると丸鋸から魔力の刃が伸びてゆく。それを掲げる、それは巨大な盾となって向かってくる羽を全て撃ち落としながらヴァンとイビルアイを守り続けていく。

 

「やれやれっ相変わらず魔力を食う奴だ、改良しないとダメだな!!」

 

丸鋸を振るうとヤルダバオトは羽の射出をやめていた。そして再び仰々しい礼を捧げていた、それでもヴァンは内心であれは本気で称賛してるんだろうなぁ……と思いながら胸の中の少女を抱え直す。

 

「(にしてもこの子痩せすぎだろ……ちゃんと食ってるのか?)」

「ヴァ、ヴァン様私は大丈夫です!」

「そうか、それならばよかった」

「(ああっヴァン様が私の事を心配して……!!)」

 

とある意味でのすれ違いをしている二人、そんな中でヤルダバオトは言葉を口にする。

 

「それではそろそろ引かせて頂きます。私たちの目的はとあるアイテムの回収です、これより王都の一部を地獄の炎で包みます。もし侵入してくるというのであれば、煉獄の炎が貴方方をあの世に送る事を約束致しましょう!!」

 

そう言い残して一気に上昇していくヤルダバオト、ヴァンは丸鋸を下ろす。あそこまで一気に距離を稼がれたら追う事は出来ない上に今の状況で追えばイビルアイを庇い切れなくなるのは必至。今の段階ではこれが限界だと告げるとイビルアイがヴァン様が私を思って……と小さな声で感動し始める。それに気づかずにこれからどうするかなと思うヴァンであった。




劇団ナザリックの公演の開幕で~す。

これから始まるのはイビルアイとヴァン・ヘルシングのラブコメでーす(嘘)。


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閑話:給与の行方

所謂番外編です。


「やっぱり働きには確りとした対価があるべきだと思うんですよ。あれだけ働いてくれてるのに無給無休(ダブル)なんてあんまりだと思うので導入するべきだと思うんですよ」

「確かになぁ……そこら辺はブラックで働いてたモモンガさんらしい意見だな」

 

円卓の間。ナザリックの至高の御方である二人が会議する決まった定位置。そこで行っている話はナザリックの意識改革について、そしてNPC達の働きに対する正当な報酬について。

 

「みんな至高の御方に仕える以外の喜びはないって言いますけどやっぱり働きには相応の物があるべきですよ。なんかブラック企業の長みたいな感じがして気分も良くないですし」

「言いたい事は理解出来る。それについては俺も賛成しておくが……仮に給料を支給したとしてこの世界で満足出来るものが手に入るのかっていう問題も出てくるぞ」

「そうなんですよねぇ……」

 

仮に守護者たちに給金として自分達が冒険者として稼いだ金を与えるとしてもそれらを彼らが使うのかも怪しい。この世界で彼らを満たすだけのものがあるのか、そして異形種の集まりでもアインズ・ウール・ゴウンでは街に出ての買い物も難しい物ばかり。特に蟲王であるコキュートスなどは買い物などは確実に出来ない、自分達のように<人化の指輪>などの人間に化けるアイテムなどを使用する事も考えたが、そこまでの数もないので難しい。

 

「かと言っていきなり休みを導入しても向こうは戸惑うだろうし、その前段階として給料は導入したいんだよなぁ……」

「う~む……なんとも言えんなぁ……給料を出すにもそれを使う先がない、それを活用する為の休みも物がないから作れない……手詰まりになってきてるなぁ」

「「如何したものか……」」

 

そんな風に思わず頭を抱えてしまった二人。盲目的且つ狂信的に尽くしてくるNPC達は二人にとっては異常に映ってしまう、それを少しずつ改変していくための土壌づくりも中々に難しい。そんな時に二人に名案が浮かび上がってくるのであった。

 

「あっそうだ!!アーカードさんこんなのってどうですかね!!?」

「―――ふむふむ、いやそれ中々いいアイデアだな。それならこれをこうして……」

「あ~成程……多分行けますね!!」

 

 

「さて階層守護者達よ、今回集まって貰ったのは日頃からの献身と活躍に感謝する。この世界についての調査に地盤固めなども順調に進んでいる。故に皆にある事を提案するつもりだ」

「これは私とモモンガが以前から考えていたことだ、お前達にはとある物を与える事を私たちは考えている」

「とある、ものですか?」

 

集められた階層守護者達へと言葉を綴る二人、守護者達は二人から向けられる言葉に喜びを感じそれを胸に刻みつつ二人が自分達に与える物について思案が出る。それは少なからずシャルティアが世界級アイテムを入手したことで得た褒美に対して憧れを抱いているから。創造者である至高の御方(ペロロンチーノ)の持ち物に加えて至高の御方(アーカード)お手製の物を送られているからこそ生まれる気持ち、そんな中で二人からの言葉に期待するなという方が難しいという物だろう。

 

「ああ、アルベドやセバスには以前話したかもしれんが、お前たちに給金を与える計画を立てている。それについて意見を出した事も忘れている訳ではない。だがお前たちは慣れない世界で非常によくやってくれている、故に私とアーカードさんなりにお前たちの褒美として用意したのがポイント制の給与だ」

「ポイント制……?」

 

モモンガとアーカードが考え付いたのは現金ではなくポイントによる給与であった。これならばナザリック内でも使うことが可能である上にこれらを利用する為に休日を使うという事も適応できる為、効率的だと二人は考え付いた。そして休日を使わせるためにポイントで引き換える物というのは……

 

「引き換えについてはまだまだ検討中だがそうだな……一例をあげるとするならば、以前アーカードさんがシャルティアに送ったような物やギルドメンバーが残してくれた持ち物との引き換えや私たちと何かをする権利と言った事を考えている」

 

その時、守護者達に電流が奔る。シャルティアが受け取った<1/1スケール・ペロロンチーノ人形>や自分達の生み親だけではなく他の至高の御方の持ち物への引き換えというのは非常に魅惑的な提案であった。そしてモモンガとアーカードと何かをする権利……それに酷く鼻息を荒くしているアルベドとシャルティアに二人は軽く汗をかく。

 

「モ、モモンガ様そのような褒美を我らのような者を与えるなど……!!」

「先も言ったが私はお前たちの働きぶりに非常に満足している、それに報いる褒美を与えるシステムを作るのだ。それにな―――ギルドメンバーたちも使われないよりも使われた方が嬉しいと思うだろう。それが自分の子供や仲間の子供であれば猶更だ」

 

その言葉を受けて、守護者達は歓喜に震えていた。自分達にそのような優しさを向けてくれる二人に、その場は一旦閉幕して締めくくったが二人は予想以上の食いつくに確かな手応えを感じていた。意識改革に向けて良いスタートダッシュが出来そうだと安心するのであった。



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イビルアイ

「……成程。蟲のメイドを……ヤルダバオトの戦力にはそれと同等の物が他にもいると考えて行動をした方が良さそうだな」

「私もそう思う、仮にあれが本当にメイドであるならばそれと同等の力を持った者もいる事も考えられます」

 

ヤルダバオトが撤退した後、ようやく合流したセラと共に助けた少女、イビルアイから事情を聴く事に成功。内容は大体予想通りの物であり、八本指の拠点を襲撃中のエントマと遭遇し戦闘に発展したと言った所だった。エントマが後れを取るとは思えないがイビルアイは蟲特効の殺虫魔法<蟲殺し(ヴァーミンベイン)>で上手く立ち回っていたことが判明した。聞けばその魔法は彼女のオリジナルであるらしい、それを聞き自分達もオリジナルの魔法を生み出せる可能性が出てきた事に少々喜びを覚えるヴァンことアーカードであった。

 

「だがそのメイドを追い詰めたからこそ、ヤルダバオトの攻撃対象にされてしまったのかもしれないな」

「話を聞く限りだとそのヤルダバオトって奴は仲間に対して優しいって印象ですもんね」

 

遭遇戦闘、それで彼女らが戦ったことは理解出来る。エントマも可能であれば撤退という判断も下せた筈、倒すべきと判断したのかそれとも何かを侮辱されてそれを優先してしまったのか、それでもアーカードにとってはエントマはギルドメンバーである源次郎の子供のようなもの。そんな彼女を倒す一歩手前まで追いつめた、そう言われれば思う所がある。

 

「踏まなくても良い虎の尾を踏んでしまった……確かにそうかもしれない。しかしヤルダバオトは言っていた。王都の全域を地獄の炎で包むと、そんな奴に仕えるメイドがまともである筈が無い。私は仲間たちが戦いを挑んだのは正しい事だと信じている」

 

そんな奴の上の存在が目の前にいるんだよなと内心で思っているヴァンとそんな主人の内心を察して苦笑を内心で浮かべるセラ。だが彼女の言葉もある種正しい、同時に仲間へと向けている信頼と絆は固く強い物だという物を感じさせる。

 

「確かに、君の仲間への侮辱に当たるな。謝罪しよう、すまない」

「あ、頭を上げてください!?あなたのような素敵な方が私に頭を下げるなんて……ヒゥッ!?」」

 

素直に謝罪をするヴァンに姿にワタワタして必死に頭を上げるように頼むイビルアイ、そんな彼女は不意に高い声を上げて頭を抱えるようにしながら背を向けてしまった。それを見たセラはははぁ~ん……と何処かニヤついている笑みを浮かべながら軽く肘でヴァンを小突く。

 

「なんだセラ」

「いえいえ~……この色男~」

「……はっ?」

 

ヴァンはまるで意味が理解出来なかった。そう、自分が助けたイビルアイが―――自分に好意を抱いたなどと考えもしなかった。

 

「(素敵!?何を言っているんだ私は……ああもうだって、しょうがないじゃないか……!!久しぶりに少女らしい思いを抱いたっていいじゃないか……こんな強くて素敵で……そう、私より強大で素敵な戦士なんだから!!)」

 

とイビルアイはほぼ完全にトリップしながら自分の中に生まれたそれと格闘、いや殆ど抵抗する事もなく受け入れて完全に恋する乙女と化していた。彼女としても今まで抱いたこともないような強烈な思いに理性を溶かされていた。しかし肝心のヴァンは気付けていない。フォローをしておくと彼は別に鈍感という訳ではない。

 

「あのイビルアイ……さんでいいのかな。これからどうするか予定はあるか聞いてもいいかな」

「あっは、はい!!」

 

アーカードは自らの魔眼によって魅了されたクレマンティーヌが自分に恋愛感情を抱いている事は承知しているし玉藻が自分の事を愛している事も重々承知している。だが、現実世界でも女性との付き合いもなく交際などもした事もない彼からすれば、何かきっかけがあった二人は理解出来る。が、意識もせずにただ単純に起こした行動でそんな好意が生まれるという事を考えた事もなかったのでイビルアイの事が分からない。

 

「セラ、お前はモモンに連絡を取れ。奴の方でも情報を得られているかもしれん」

「分かりました」

 

命を受けたセラは頷きながら少し離れながら<伝言>を使用して連絡を試みる。その間にヴァンはイビルアイと共にヤルダバオトの攻撃で死亡したガガーランとティアの遺体を腐敗を防ぐ布で包んでいく。

 

「間もなく私たちの仲間が此処に来る手筈になっています。私たちのリーダーのラキュースは蘇生魔法を使用出来ます」

「蘇生魔法……ですがそうなると」

「はいっその蘇生魔法は第五位階信仰系魔法<死者復活(レイズデッド)>は復活時に膨大な生命力を消失させてしまうので即座の戦線復帰は難しいと思います」

 

それを聞き矢張り代償も無しに簡単に復活できる訳ではないと理解する。いわゆるデスペナルティ、生命力の消失というのはレベルダウンだろう。この世界でレベルを上げるのは相当辛いだろう……特にレベル100である自分のレベルが下がった場合、どうやって上げるべきかというのは考えておくべきかもしれない。しかし、これはある意味いい機会かもしれない。

 

「ふむ……セラ、あれを出してくれ」

「あれ……ああっあれですね、ちょっとお待ちを……えっと何処にしまったっけ~……あった!」

 

セラの荷物から二つの薬瓶が取り出されそれがヴァンに手渡される。それをイビルアイへと手渡す。

 

「こ、これは……?」

「これは一時的に生命力を増加させるポーションだ、二人に飲ませるのが良いだろう」

「そ、そんな貴重な物を!?そ、それならばヴァン様が飲むべきです!!」

 

聞いたこともないようなポーション、生命力を増加させる事が出来るという事は力の底上げが可能であるという事。それならばヤルダバオトに対抗できるヴァンこそが飲むべきだとイビルアイは主張するがそれには首を横に振って無理だという。

 

「残念だが私はそれを飲めない。それは失った生命力を補填する事しか出来ない、中身が少なくなった水を足す事が出来るが減っていない中身を増やす事は出来ない」

「そ、そうなのですか……?しかしこんな貴重な物を……」

「ならばこれが終わったら食事でも奢って貰おうか」

「えっ……食事を、ですか……?」

 

仮面で見えないが思わずイビルアイの瞳が丸くなった気がした、生命力を補填するというとんでもない物の代金が食事を奢る事で釣り合うというのだろうか。

 

「それの副作用は飲んでから二日以内にかなりの量の食事をとらなければいけない、補填した分の生命力分を食わなければならない。そこに随伴させてもらうだけで良いさ」

「……分かりました。有難くこれを使わせていただきます」

 

同時にイビルアイは更にヴァンに惚れ込んでいた、本当に御伽噺に出てくる英雄がそのまま飛び出してきたかのような素晴らしい人格者だと更に胸が高鳴った。そんな中でセラが声を上げた。

 

「ヴァ、ヴァンさんあれっ!!」

 

セラが指さす先には王都の一区画を丸々包むような炎が舞い上がっていた、地獄の炎というには美しい炎が壁を成して王都の一部を飲み込んでいた。

 

「あれは……まさかヤルダバオトが言っていた地獄の炎!!?」

「ヴァン様……!!」

「……ヤルダバオト」



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舞台裏

王都の一部を轟々と燃え盛っている光のような炎、魔皇たる悪魔であるヤルダバオトが起こした炎、ゲヘナの炎。炎自体は幻影に近い類の者であり触れて火傷もしないし何も感じない。陽炎が見せる幻、その先へと足を踏み入れる王都を守らんとする冒険者たち。その中にはイビルアイの仲間であり最高峰の冒険者であるアダマンタイトの称号を持つ蒼の薔薇のメンバーであるラキュース、ティナの姿もある。リーダーであるラキュースは少しだけ不安そうな視線を向けていたが直ぐに笑みを零した。

 

「本当に大丈夫そうね、ガガーランにティア!」

「寧ろキレがいい」

 

目の前で低位の悪魔を撃破する仲間、ガガーランとティア。二人はヤルダバオトの攻撃によって死亡したがラキュースの蘇生魔法によって蘇生を果たした。本来は生命力の消費によって戦線復帰は難しいはずなのだが……蘇生される前よりも格段にいい動きを見せている。

 

「おうよっ!!ヴァンがくれたポーションが相当利いてるみたいだぜ、身体がこんなに軽い上に力が漲ってるなんて久々だ!!暴れたくてしょうがねぇ!!!」

 

片手で巨大な刺突戦鎚(ウォーピック)を振り回しているガガーランの姿なんて今まで何度も見た来た筈なのに今日の彼女の戦槌のキレは何時も以上に良い。悪魔にそれが直撃すると全身に衝撃が伝わった直後に爆散するかのように消滅している。隣のティアも素早い動きで悪魔の背後を奪うと首に刃を突き立てる、そして直後のその刃が悪魔の胸から生えているという矛盾したような事をやってのけている。本人も調子が良い事が分かるのか頬が緩んでいる。

 

「……凄い動ける、いいっ……」

「こりゃヴァンには相当いい礼をしなきゃいけねぇな!!よしっ寝るか!!」

「童貞食いのガガーランが珍しい……でも娘いる相手」

「俺は一向にかまわねぇ!!」

 

本人が聞いていたらどう思う事を平然と話すチームメイトに軽く頭痛を覚えるラキュースだが、蘇生魔法による生命力の消失は問題なさそうで本当に安心した。ヴァンから手渡された生命力補填のポーションには感謝しなければならない、彼は既にヤルダバオトの元に到達しているだろうか。同じく漆黒の英雄と呼ばれるモモンと共に激闘が始まっているのかもしれない。それを補助する為に同行したイビルアイに応援を送りながら、自らの武器(魔剣キリネイラム)を握る手に力を込めて迫ってくる悪魔の群れへと刃を向ける。

 

「<超技:暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)>!!」

 

魔力を流し込んだ夜空の星を思わせる漆黒の刀身は魔力によって膨れ上がる、それを渾身の力で振るいながら一気に振り抜く。暗黒の刃の一閃、同時に斬られた悪魔は爆発を受けながら消滅していく。ハイセンスな名前だけあってかなりの威力を発揮し悪魔を一掃していく。そんな中、一際巨大な爆発音と共に煙が空へと昇っていく。その方向はモモンとヴァンが居る筈の方向……ヤルダバオトとの戦闘の激しさがうかがえる。

 

「勝利を……祈ります!」

 

 

 

一際巨大な爆発がした辺りの民家、既に人の気配など皆無。悪魔によって人々は攫われた上に家族はバラバラにされている、既に住む者もいなくなった中で一つの空き家へとモモンとヴァンは入っていく。そこの一室、一般的な民家にしてはそれなりの装飾などがされている部屋の中に仮面をテーブルの上に置きながら礼儀正しく座っているスーツを纏った悪魔、デミウルゴス、そしてマーレの姿があった。

 

「この部屋は安全なのだな」

「大丈夫でございます。入念に準備を重ねた対策を行っておりますので此処での会話を盗み聞ける者などおりません」

「そうか、では計画の全てを話して貰うぞ」

「まず、モモンガ様とアーカード様。御二人に直接御話ししたいという我儘を聞いてくださり感謝申し上げます。今作戦<ゲヘナ>には4つほど利点がございます」

 

『4つ!?アーカードさん俺一つも分からないんですけど!!?』

『おいギルド長、せめて八本指への襲撃を誤魔化す位は分かれ。後それは言うなよ、カリスマブレイクが起きる』

 

「ほう、3つだと思っていたが」

 

それを言うとデミウルゴスは心の底から嬉しそうな声を上げながらモモンガに知恵比べに勝てたと喜ぶ。実際は全戦全勝なのだが……こちらがお前の方が凄いよと持ち上げても何を言うのかご謙遜を、と返させて無に帰する。悪魔だが、デミウルゴスの忠誠心が高さはナザリックでもトップクラスだろう。

 

まず<ゲヘナの炎>が覆っているのは王都の倉庫区、そこにある全ての財を頂戴する事。これによりモモンガとヴァンが先導して行っている冒険者による収入だけに頼る心配がなくなり、金策の不安が解消される。次にアーカードの言う通り、八本指への襲撃を誤魔化す為。

 

「そう言えばアイテムの回収が目的、だと私と戦った時に言っていたな」

「はい、こちらをご覧ください。アーカード様は特にお目にした事があるかと御座いますが」

 

そう言ってマーレに目配せをしてとあるアイテムを出させる。それには黄金で作られた悪魔像、禍々しくも見事な輝きからか神々しさすら感じるそれは色が違う宝玉を握りしめている。色違いの宝玉という所から何処か<スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン>を連想させる。

 

「それはウルベルトさんが作ったアイテムだな」

「その通りで御座います。ウルベルト様が御作りになられたアイテム、その中には第十位階魔法<最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)>、そしてアーカード様が御持ちになられる世界級アイテムの効果を模した物が付与されています」

 

『……えっそれって相当やばくないですか』

『これ一つでこの世界だったら世界滅亡の危機だな間違いなく』

『わ、笑えない……でもそれをここで使うのはちょっともったいないな……』

 

そう思ったのか、モモンガはアイテムボックス内からもう一つの悪魔像を取り出した。それは黄金のものと比べると何処かボロボロな印象を受ける上に未完成のような出来栄え。それもそれの筈、それはウルベルトが捨てる筈だった失敗作。本来は捨てる筈だったのだが、貧乏性持ちのモモンガが捨てるならば欲しいと言ったので譲り受けたもの。

 

「デミウルゴス、こちらを使うといい。これもウルベルトさんが作った物だ、試作品だが用途は足りるだろう」

「しかしモモンガ様のお手持ちのものを使うなど!!」

「そうか、ならばこれはデミウルゴスにやろう。ウルベルトさんもお前が持つのならば喜ぶだろう、それにこれは彼にとっては失敗作だ。ならばそれなりに有効活用するのもお前の役目だ」

「なんという……!!」

 

身体と声を震わせながらデミウルゴスはその悪魔像を受け取る、その際には感涙の涙を流しながらの言葉に思わずモモンガが言葉に詰まってしまったりもした。そして三つ目、それは炎の内側にいた人間たちを捕らえその多くを既にナザリックへと移送し様々な用途に使用する準備を整えているとのこと。4つ目、これらの悪行をヤルダバオトに受けて貰う事。そして自分たちがそのヤルダバオトを倒せば一気に名声が上がるという事。

 

「流石はデミウルゴスだ、見事な策だ。さて後は……私とモモンがヤルダバオトと戦うだけだな」

「はいっその通りで御座います。御二人のお相手が務まるようこのデミウルゴス、精一杯務めさせていただきます!!」

 

 

『モモンガさん、これはデミウルゴスに褒美とかも考えた方が良いかもしれませんね』

『ですねぇ。後で考えるの手伝ってください』

『勿論』



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終幕・ヤルダバオト

「ええいっ!!」

 

セラが構える<スーパークロスボウ>から放たれていく矢、通常のそれとは比較にならない速度で弾幕を張っていく。がそれらを正確に、まるで全ての弾道を理解しその先に置くかのような射撃を行いながら矢を撃ち落としていく射撃の持ち主がセラと戦っている。

 

「全く冗談じゃない!!飛んでくる矢の真正面に銃弾を叩きこんで迎撃するなんて、どういう芸当なんだか!!」

「ありがとう」

「そりゃどうもっ!!!」

 

マガジンを交換しながら放たれてくる弾丸を回避する。セラはイビルアイと共にモモンとヴァンがヤルダバオトを討つまでの時間稼ぎとして配下のメイドたちと戦いを行っている。ナーベは3人を受け持ち、イビルアイとセラは二人と戦っていた。どちらも仮面をつけたメイドだがその戦闘能力は最高位冒険者であるイビルアイですら油断を許さない程の力を秘めている。接近戦を仕掛けるメイドと後方から銃による援護を行うメイド、コンビネーションも絶妙で攻めるに攻めきれない。

 

「<水晶防壁(クリスタルウォール)>!!今の内に矢を!」

「有難う!」

 

イビルアイも接近戦を仕掛けてくるメイドを相手にしながらも、自らの周りに水晶の盾を展開し攻撃を防御しながら広い視野で適時セラの援護を行っている。殴りかかってくるメイドの拳の威力にかなりの勢いで水晶が薄くなっていくのに顔をしかめながらも援護を忘れない、彼女も超一流の冒険者である。だとすればお互いに一対一での実力の凌ぎ合い。対抗こそできるが互いに巨大な一撃を加えることが困難。移動しながらの戦闘を続け、互いが背を預けるような立ち位置になる。

 

「ヒィ~全く勘弁してほしいですよ、矢を空中で撃ち落とすとかマジ勘弁です」

「全くだ。彼方のメイドの拳の威力も半端じゃない、そちらに行ったらかなり危険だ」

「私もヴァンさんから格闘術は叩き込まれてますけどクロスボウ(これ)の腕程じゃないですからね……そのままそっちでお願いできますか?」

「任されよう、そちらも悪いが彼方を頼む。奴の援護を抑え込んで貰えるのはありがたい」

「了解です」

 

クロスボウを力強く握りしめながら目の前のメイドが此方をの動きを伺っている、それを破るかのように爆発と土煙と共にナーベが飛び出してくる。身体に傷を作りながらもセラとイビルアイは体勢を変えて彼女を加えて三方向を警戒するような形を取る。

 

「ナーベさん無事?」

「問題ありません、ですが……矢張り侮れませんね」

「お前も相当な腕前の魔法詠唱者の筈だが……魔皇を名乗る奴の部下なだけあるという事か」

 

ナーベの相手をしていた3人のメイド、自分達が相手をしていた者達と互角と考えてもそれを三人と一人で渡り合っていたのだから寧ろ彼女の力量の高さが伝わってくる。ある意味相性の良さもあるかもしれないが、そうだとしても十分過ぎる力。だが此処からは三人で全てのメイドを相手にする必要が出てくる、中々にやばい状況だが……イビルアイは負ける気がしなかった。あのヴァンのチームメイトと一緒にいる、だから絶対ここは突破できるという確信がある。

 

「私が高さを作る、それに合わせてくれ」

「分かりました。ナーベさんもそれでいいですよね」

「分かりましたセラ……さん」

 

反撃に転ずる作戦は決まった。ならば後はそれを実行するだけ……と魔法を行使しようとした時だった、一際巨大な大爆発が巻き起こった。爆炎の中を突っ切るように吹き飛んでくるのは魔皇ヤルダバオト、それを追うように爆炎の中から飛び出してくるのはモモンとヴァン。モモンの腕力で投げられたヴァンが強烈な蹴りを加え、ヤルダバオトはごろごろと地面を転がって倒れ伏す。それを見たセラ、イビルアイは顔を明るくしながら声を上げる。

 

「ヴァンさん良かったっ!!」

「ヴァン様っ!!」

「無事だったか、だが……矢、使いすぎだろ。やれやれだから小娘のままなんだお前は」

「(ああやっぱり……マスターも罪作りな人ですねぇ……まあ彼女はOKでしょうけど)ううっ……」

 

そんな風に軽くセラを叱り飛ばしながらも軽く頭を撫でてやり、それを踏まえてもよくやったと褒めるヴァン。そんなセラを羨ましそうに見るイビルアイだったが、その直後に周囲のメイドたちが一気に距離を取った、ヤルダバオトへの攻撃を見て後退するのが最善と思ったのだろう。

 

「さてっ、続きをするとしようヤルダバオト。好い加減お前も本気を出したらどうだ」

「そのようで、では全力で行かせていただきます」

「掛ってくるがいい、ヤルダバオト!!」

 

互いに一気に駆け出していく、そして互いの得物がぶつかり合っていく。甲高い音を響かせながらも一息を吐けば十数の技がぶつかり合う。それほどまでにヤルダバオト、モモン、ヴァンの力量が異常な領域に入っている。だがヤルダバオトも負けずにヴァンを蹴り飛ばす、苦しげな息を漏らしつつも魔力を丸鋸へと回しながら構えを取る。トリガーを握りしめると魔力の刃が形成されていき巨大な翠の丸鋸が出現する。

 

「はぁぁぁぁっっ……<剛・撃斬>!!」

 

アンダースローのようなフォームから繰り出されるそれはヴァンの元から離れてヤルダバオトへと向かっていく。地面を抉りながら前へと進んでいく魔力の刃、モモンはそれを助けるかのように足蹴りしながら後方へと引く、真正面からそれを受ける形になったヤルダバオト、だが彼にも焦りの色は全く見えない。

 

「<悪魔の諸相:煉獄の衣>ムゥウン!!!」

 

全身がら獄炎を放ち、それを纏いながらも飛んでくる刃を真正面から受け止める。そして身体から炎が刃へと引火していく。魔力で形成された刃は通常であれば物理的に砕く事は出来ない、だが魔力で生み出された獄炎はその魔力を糧に炎を強めていく。魔力は全て炎にくべられる薪にされてしまい消えてしまう。

 

「地獄の炎……」

「ええ、如何なる炎に対する耐性を所持していようとも、無傷という訳には行きません」

「モモンっ!!」

「ああっ!!」

「「<凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)・改>!!」」

 

モモンが取り出したのは二つの剣、それはリザードマンが所持する至宝に酷似している剣。その片方をヴァンへと手渡したモモン、そして二人は刃へと魔力を供給していく。氷の刃は朧げに光を放ちながらも徐々にその光は強まっていく。

 

「その武器は……!?」

「「<二重氷結爆散(ツイン・アイシー・バースト)>!!!」」

 

二人が振るう刃、魔力によって起動した術式が巻き起こすのは絶対零度の氷河を丸ごと召喚するかのような冷気と氷の山。それが土石流のようにヤルダバオトへと流れ込んでいく、それと纏う煉獄の炎がぶつかり合い一気に冷却された事になる爆発が生じる。霧が生じ視界が悪くなる中でヤルダバオトは未だに健在だった。だが冷気によるダメージは確実にあるのか、スーツの各部が凍り付いている。

 

「本当に貴方方は御強い……!!」

「お前もな」

「<剛・撃斬>が通じないのは誤算だった。さらに威力を上げるべきだったな」

 

そこにあったのは敵同士の会話、というよりも同僚同士の会話に等しい重さの無い気軽い会話だった。彼らにとって今の戦いなどそこまで大きくないという事なのだろうか。イビルアイは思わずなんという二人だと声を上げてしまう、彼女とて最高峰の冒険者。だがそれを遥かに上回る高みに彼らはいる、世界は広いという奴だろう。

 

「提案があるのですが、宜しいでしょうか」

「なんだ」

「この辺りで引きますので、勝負はこの辺りにしませんか?」

「なっ!?」

 

イビルアイは何を言い出すのだこの悪魔、と思う。王都を襲い仲間の命を奪っておいて自分が劣勢になったら戦いをやめるというのか、許される事ではない!と魔法を唱えようとした時だった、ヴァンが手を上げてそれを止める。

 

「断ったら、王都全域を悪魔で襲うつもりだろう」

「ご明察。流石ヴァン殿、そのような頭の悪い小娘よりも何千倍も聡明な方だ」

「その聡明なお嬢さんの仲間を殺したお前が言うな、そのせいで彼女も怒っているんだ」

「それは申し訳ございません。それで受け入れて貰えるでしょうか」

「私は構わない。お前が大人しく配下の悪魔を連れて引くのであれば」

「勿論でございます、これ以上は我々としても望むべきではありませんので」

 

メイドたちを自らの背後へと回らせる、そのまま大人しく帰るという意思表示だろう。

 

「ではこれにて撤収させていただきます。残念です、アイテムを回収するという目的を果たせないのは」

 

そう言い残すとヤルダバオト達の姿は転移の光で掻き消え後には何も残らない。同時に王都を覆っていた炎の光も消え失せ、炎によって遮られていた空が浮かんでくる。既にかなりの時間が経過していたのか夜の時間が終わり、夜明けが始まっているのかうっすらと空が明るくなり始めていた。

 

「うわぁ~いやったぁ~勝ったぁ!!流石はヴァン様だぁ!!」

「有難う、だがしかし……離れてくれるとありがたいんだが……」

「照れなくてもぉ~♪」

「いや照れてるとかそういう事じゃなくて……」

「(う~んマスターを狙いの人が一人増えた……まあマスターいい男ですもんね)」

 

王都から完全に悪魔は撤退していた、ヤルダバオトの言葉に偽りはなかったという事だろう。そしてその激しい戦いを締めくくるかのようにヤルダバオトを撃退した二人の英雄の勝鬨が王都の大きく木霊した、それが告げる戦いの終わりと勝利は王都に安堵と高揚を齎す。こうして王都を震撼させた魔皇ヤルダバオトの襲撃は幕を閉じた。



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閑話:ルプスレギナ、至福の時

「さて……ポイントの使い道ねぇ……」

 

アーカードの自室。吸血鬼らしく薄暗い部屋の中、紙に向かって筆先を向けるが如何にも思い当たらずそれを置く。冒険者として働いている以外は基本的にロールプレイ中に等しい彼だが、自室やモモンガと二人きりにおいては素でいる。本人としてはロールプレイも自分の素も同じという認識で作られた自分を演じるのに苦痛も何もないらしいが素でいると気分が楽である事に変わりはない。言うなれば私服と余所行きの服装の差程度には感じているとのこと。

 

「案外思いつかないもんだなぁ……まあNPC達向けだからな、俺が思いつかないのも無理はないか」

 

ひたすらに思考しているのは導入すると決定されたポイント制の使い道。NPC達には大見栄を切って検討中と言ったは良いがその内容が全くと言っていいほどに煮詰まらない。自分達とNPCでは考え方に違いが出てきているので難しいのも当然かもしれないが。まず自分達に仕える事こそ至高の喜びと捉えている、そして自分達の言葉一つ一つにも一喜一憂する感覚、これが使い道を難しくする。

 

「意見を聞くのが一番なんだが……下手にプライドを持たん方が良いな。認めるべきは認めるのが成功の道だし」

 

とあっさりと自分だけで考えるのを捨て去ったアーカード、なんだかんだで柔軟な思考をしている彼。だからこそシナリオブレイクをされたのにそれをアドリブで修正する事も出来たりするのだが。そんな思考を持った時に扉がノックされる。入ってよいという許可を出す、入ってきたのはプレアデスの一人であるルプスレギナ・ベータであった。

 

「失礼いたします。アーカード様、本日の御付きを仰せ付かりましたルプスレギナ・ベータ、ただいま参りました。全身全霊をもって役目を全うさせていただきます」

「ご苦労」

 

赤毛に健康的に焼けた小麦色の肌という魅力的なメイドであるルプスレギナ、そんな彼女が傍につきつつも紙に視線を向けるがこれはちょうどいいのではないかと思う。モモンガと自分だけでは女性向けの物もハッキリ言って思いつかない。此処に茶釜さんややまいこさんが居ればと切実に思った、では試しに彼女に聞いてみようとしよう。

 

「ルプスレギナ」

「はいアーカード様」

「……まずその口調をやめろ、お前はもっと砕けた口調なはずだろう?」

「し、しかし至高の御方に対してそのような無礼は……!!」

「だがそれはお前の創造者がそう望んだ口調の筈だ」

 

獣王メコン川、それが彼女を作ったギルドメンバー。その彼が望み創造したのはルプスレギナ、接しやすい女性と礼節を持った美しさの女性の良さを重ね持つのを望んだのも彼だ。自然体としては接しやすいというのが望まれている、自分もそんな方が相手をするのは楽である。そう告げるとルプスレギナは困惑したような表情をしながらも無礼ではないかと質問するが、自分は気にしない事を伝えると漸く砕けた口調になった。

 

「それでルプスレギナ、お前に幾つか聞きたい事がある。お前は給与としてポイント制を導入することを聞いているか?」

「はいっす。一応お伺いしてるっすけど本当にいいんすか?」

「私たちが良いと言っているんだからいいんだ。それでその使い道を今検討しているんだが如何にもいい案が出なくてな……お前ならどんなものを貰ったら、されたら嬉しいのかを答えてくれ」

「私なら何されても嬉しいと思いますけど」

 

それだと本気で困る。何をされても嬉しいというのは逆にこっちに丸投げしているのと同義、何にしたら困っているのになんでもいいと言われても如何したらいいのか困るのだ。何でもいいだと逆に困ると伝えると必死に考え始まるルプスレギナ。その仕草がかわいらしく思える。

 

「う~ん……頭を撫でて貰う、とかすっかね?」

「それはポイントの使い道としてどうかと思うが……働いた対価にそれが見合っているのか?」

「私は思うっす!!あとアーカード様は以前にナーちゃんじゃなくてナーベラルのほっぺに手を当てたって聞いたっすからそれもいいと思うっす!!」

 

と元気よく力強く答える彼女にNPCからするとそういう物なのかと、少々考え込む。

 

「ではルプスレギナ、こちらに来い」

「はいっす!」

「ではっ……」

 

近くに寄ってきたルプスレギナ、それを確認しながらアーカードはおもむろに彼女の頭を撫で始める。一瞬何をされているのか分からなそうにしていたが直後に顔を真っ赤にさせながら、慌て始める。

 

「アアアアアアアアーカード様ぁぁっ!!?ななな何をっ!?」

「頭を撫でてやっている」

「い、いやそういう事じゃなくて……」

「嫌か」

「そうじゃないっす寧ろご褒美っす!!!」

「では良いんだな」

「うううっ……(で、でも快感……凄いテクニシャンっす……)」

 

アーカードとしては可愛らしい親友の子供の頭を撫でてやっている程度の認識しかない、それに加えて本当に喜んでくれるのか程度の気持ちはあるが他意はない。しかし彼女からすれば頭を撫でられるという事は無上の喜びに等しい行為、一回撫でられるごとに身体に電流が奔るような思いを感じている。そして頭から手が離れた時は思わず、小さくあっ……という声を漏らしてしまう。

 

「私にとってお前たちは愛すべきナザリックの者達だ。そんなお前達の頭を撫でるのはある意味当然であり、当たり前の事だ。望めば幾らでも撫でてやる」

「ほ、ほんとっすか……!?じゃ、じゃあもっと撫でて欲しいっす……」

「フッ可愛い奴め、良いだろう」

 

そう言ってルプスレギナの頭を撫でるのを再開するアーカード、この時ルプスレギナは顔を伏せていたがその表情は恍惚な笑みで染まっていた。この後、アーカードは頭を撫でられていたルプスレギナが本当に嬉しそうだったので一緒に何かをする権利というのを盛り込んだり、かつてのギルドメンバーのPVPの記録映像の閲覧許可など様々な考えを出してそれをモモンガとの協議に出すのであった。

 

因みにルプスレギナはというと……

 

「今日のアーカード様のお仕えでいっぱい頭を撫でて貰ったっす!!超気持ちよかったっす……身体中ゾクゾクしてやばかったす!!」

『っ!!?』

 

この事をプレアデス月例報告会及びお茶会にて存分に自慢し、他のプレアデスから凄まじく羨ましがられたりするのだが本人はあまり気にせずに望めば撫でてくれるという事を伝えるのであった。そして、自分がアーカードの御付きになると決まって頭を撫でて欲しいと強請り、喜んで撫でてくれるアーカードの手の感触を味わうのであった。




プレアデスの中だとルプーが結構好きです。


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ゲヘナ後の会話

「ふぅっ……」

「お帰りなさいアーカードさん、如何でした蒼の薔薇との一時は」

「変な言い方は勘弁してくれモモンガさん」

 

ヤルダバオトの一件より数日、漸くナザリックへと帰還したアーカードの姿が円卓の間にてあった。英雄モモンとして活動していたモモンガやナーベラル、セラスは先にナザリックへと帰還したがアーカードはガガーランとティアに譲ったポーションの引き換えとして提示した食事の為に数日王都に滞在し続けていた。それによって蒼の薔薇とより深い関係作りも出来たりはしたがそれでも精神的な疲労も相応にあった。

 

「ど~も蒼の薔薇のイビルアイに目を付けられた感じだな」

「……人間じゃない、って事がバレたって事ですか」

「いやそうじゃない感じがする。彼女、恐らく俺と同じ吸血鬼だ」

 

如何にもヤルダバオトの一件で惚れられたらしいイビルアイからかなりの接触を受けたアーカード、しかし彼はイビルアイが同じ存在なのではないかという感覚を味わっていた。彼女自身は恐らくマジックアイテムか何かでアンデッド探知を無効化するような物を所持しているのだろうが、始祖であるアーカードには感覚的に同じ存在であるという事が把握出来た。

 

「だから多分種族的な問題で俺に惹かれてるって感じなんだろう、多分だが」

「ふむぅ……取り敢えず申し訳ないですけどそっちはアーカードさんに任せても良いですか?そういう事情があるならこれからも多分アーカードさんが対応した方が楽だと思いますし」

「マジか……分かったよ、出来る事は俺の方で処理しよう」

 

モモンガにギルド面での仕事をさせてしまっている手前、アーカードも自身が何も仕事をしないというのはバツが悪いのかそれを引き受ける事にした。効率面などを考えれば自分が蒼の薔薇との窓口などをやった方が明らかに良いのは明らか。

 

「ペロロンチーノが居たら多分歓喜するやら嘆くやらしそうだ……」

「ああ~……確かにまあシャルティアの件もありますし普通に喜びそうですよね、後なんで俺じゃないんだ……って嘆きそうでもある」

 

嘗ての友人を思うと懐かしく思う手前、確実に言いそうな問題発言を想像して微妙に頭が痛くなる。

 

「勘弁してくれよっただでさえ俺には玉藻の目が光ってんだぞ……」

「今から設定変えられたらどれだけいいんでしょうね……」

「いやそれで一番得するのアンタだろ、主にパンドラ」

「何で変えられないんだぁぁぁあああ!!!」

「自分で言って自爆すんな」

 

出来る事ならばモモンガは速攻でパンドラの設定を書き換える事は間違いないだろう、オーバーアクションやらドイツ語やら修正したい部分なんて幾らでもある事だろう。個人的には好きなキャラだが本人的には今すぐに消し去ってやりたい過去の汚点に近いから無理もない。

 

「それでこっちだとゲヘナの実行隊に対する褒美とかやっちゃった感じ?」

「はい、やっちゃいました」

「そっか、んじゃ俺は……何しようかな」

 

モモンガはモモンガで蒼の薔薇を押し付けてしまったと思っており、自分の方で出来る事は全て片付けてしまっていた。アーカードの分のやる事まで気を利かせたつもりだったが如何やら裏目に出てしまったようで、少しだけ申し訳なく思えてきた。

 

「アーカードさん、蒼の薔薇とはどんな感じだったんですか?」

「まあ普通かな。飯食いながら適当な話をしてたって感じ」

 

食事の際にガガーランに寝ないかと誘われたり、セラがティアと双子のティナに口説かれそうになっていたが本人的に完全にそっちはNGだとフッたりとそれなりに面白い事自体はあったが一番困ったのは自分の妻がどんな人かと聞かれた時だった。セラは設定上、ヴァン・ヘルシングの娘という事になっているがならばその母親はどんな存在なのかと。

 

「えっじゃあその時どうしたんですか?」

「アドリブに決まってるでしょうが、最初は玉藻を妻役にする事も考えてはいたけど……絶対に暴走するからやめてその場で全部考えたよ」

「ああっ……目に見えますもんね」

「……まあそれでその場を誤魔化したんだがな、なんか妙~にイビルアイがセラに優しくするようになったんだよ。如何思う?」

 

妻はセラを産んで直ぐに死んでしまったという事にしておいたのだが、セラもそれを感じ取って適当に合わせてくれたのだが、それを聞いイビルアイはセラに優しくなっていた。まあ端的に言えばイビルアイはヴァンに惚れているから今の内に娘であるセラにも優しくして母親的な立場を確立しようとしたのであった。

 

「その子も母親の事で苦労して、良くしようと思ったとかですかね」

「そう思うのが自然なのかな……」

 

が、恋愛に疎い男二人はそんな可能性に全く辿り着く事は出来ずにイビルアイがセラに対して親身になったと解釈してしまったのであった。

 

 

 

「何なんですかその女ぁ!?私のご主人様に色目を使うなんてぇ……!!」

「いや私のマスターでもあるんですけど……」

 

そんな話題に上がっているセラことセラスは第四階層にある自分達の領域へと一度帰還してそこで玉藻に話をしていた。そこで矢張りというべきか、愛が重い玉藻はイビルアイに対して怒りのような嫉妬の炎を燃やすのであった。

 

「セラスさんだって何でそのままにしたんですか!!?ご主人様にそんな女など相応しくありません!!」

「いやいやいや、相応しいかどうかなんて私たちが決めるべき事じゃないですよ。マスターがどう思うかでしょ?私は別にマスターが幸せになっていただけるなら玉藻さんでもイビルアイさんでも結婚しても良いんですよ。私にとって優先すべきはマスターの幸せですからね」



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嘗てありし思い出

「ふうっ……」

「あれっ如何しましたアーカードさん」

 

アーカードの自室、モモンガはそこを訪れて男二人だけで気軽に話をしながら休みを堪能していた。テーブルの上には普段出されるような高級感あふれる料理ではなく何処か庶民的な料理が並べられている。それらはアーカードが作ったものであり、裁縫と同じように取得していた料理スキルで作った料理だった。モモンガは人化し、どれもこれも美味しい美味しいと言いながら頬張るのだが何処かアーカードの様子は優れなかった。

 

「いやな、如何に気分が良くない。何故だろうな」

「もしかして気分悪くさせちゃいましたか、すいません料理を食べてみたいなんて言っちゃって……」

「いやそれは関係ない。寧ろ腕を振るえて私も満足している」

 

リアルでは料理をするどころかまともな食材すらない、安価な液体食糧ならまだしも調理を行える物など高くて手が届かない。だからこそアーカードはユグドラシルでそれを求めた、形だけで味などは感じなかった自分が起った調理という工程は酷く楽しく甘美な物だった。そして今それを友人に振舞えている、これ程に満足出来る事など無い……筈なのだが、どうにも気分が良くない自分がいて苛立っている。

 

「何かしたい事がある、とかですかね。俺も仕事が凄いやばかった時とかユグドラシルプレイしたくて凄いイライラしましたもん」

「それに近いかもしれないな、だが何をしたいのかは分からないんだ」

 

蒼の薔薇の一件から数日程度。ナザリックに帰還したアーカードは普段通りに過ごしていた。仕事もしっかりこなしながらも眷属にしたクレマンティーヌの様子を見つつ、セラスや自分を狙ってくる玉藻の野獣の眼光から上手く逃れてきている。何も変わらない筈の日常なのに苛立っている、何が違うのか全く理解出来ない苛立ちが募り続けている。

 

「何か習慣付けた事をし忘れてたとかですかね」

「習慣と言ってもなぁっ……ずっとやってたのにもうやってない事と言えば……」

 

今までしていたのにしていない事、この世界に来てから同じような事を繰り返していた筈。では来る前だろうか、それをしていないストレスが何時の間にか募っていた、という事なのだろうか……その様に考えると答えは呆気ない程に容易く見つける事が出来た。

 

「ああそうか、分かったよモモンガさん」

「良かった、それでしたら俺が手伝いますよ。それで何でイライラしてたんですか?」

「ああっ―――殴られてなかったからだな」

「―――はっ?」

 

 

「成程……ああ確かに、アーカードさんが療養する前でしたらたっちさんも建御雷さんも健在でしたもんね」

「ああっこの身体だからだろうな。もう染みついてしまっているんだ」

 

アーカードの苛立ちの理由、それは単純にギルドメンバーの役に立っていなかったから。毎日のように建御雷のスパーリング相手を務めながらどれだけHPを削り切れるのか、この戦術はたっち・みーに対して有効なのか愚策なのか、それとも切り札に成り得るのかという事の検証に付き合っていた。そしてたっち・みーもガチバトルが嫌なだけでアーカードによく相手を頼んでいた。それはコンボの練習だったりと日によって違ったが、そんな日々がアーカードにとっては当たり前の日常だった。

 

「偶に二人がどっちが高いDPSを出せるか勝負だと言って、交代交代に私を切り刻むんだ。いやぁあの時は流石に冷や冷やしたな」

「何やってんですかあの二人。なんだかんだでたっちさんも脳筋気質な所あったんですね」

 

ある種の狂気的な光景だったかもしれない、仲間の身体を使って自分の力の方が上だと競い合うのだから。加えて建御雷の武器は【建御雷八式】はアンデッドの弱点属性である神聖属性を纏う刀でもある、アーカードにとってこれは天敵と言わざるを得ないのだが……スキルなどで自身の弱点を補強してこそいるがそれでも防ぎきれずにアーカードには大ダメージが入る。そしてたっち・みーも遠慮なく全力で攻撃してくるので冗談抜きでやばいダメージのオンパレード。

 

だがそれでも倒れないのがアインズ・ウール・ゴウンのラスボスの一人と言われた吸血鬼アーカードなのである。自己回復や状態異常回復などのスキルも持つアーカードは受けたダメージを無効化するかのように傷を塞ぎ、立ち上がって数値を二人へと話し、再び次の攻撃を受ける。それこそがタンクとして前線を支えた彼の役目でもある。

 

「そうだな、私は今となってはNPCの皆に守られる立場だ。今まで守る立場だったのに逆の立場になってしまって慣れる事が出来なかったんだろうな……」

 

最強の盾、それこそがアーカードを形容する言葉だった。だが気付けばその盾は守るべきはずだった存在達に守られる立場へと変わっていた。前線で使われてこそ価値があった筈だったそれは宝物庫に飾られる宝物のように安置された。それに彼は不満を持ってしまったのだろう。

 

「済まないモモンガさん、胸の痞えは取れた」

「良いんですか、なんだったら俺がその……DPSを調べる事もしますけど」

「ハハハハッギルドメンバー思いの君に私を攻撃出来るのかね、出来たとしても今度は君の心にしこりを作ってしまう。そうなったら元も子もないさ、もう大丈夫だ気にするな」

 

そう言いながらエプロンを付けながら顔を結う。気分が良い、友人の為にあと数品作ってあげようと思い至りながらアイテムボックスから食材アイテムを取り出しながら、笑みを浮かべながら言う。

 

「さて友よ、折角たっちさんと建御雷さんの名前が出たんだ。二人の好物でも作ってあげよう」

「えっ良いんですか!?しかもあの二人の好物って凄い気になるんですけど!!?」

「ならば大人しく待っているといい、それともオムライスのお代わりが先かな」

 

そんな風にアーカードはモモンガと一時の安らぎを得ていた。新しい料理を口にしながら友との思い出に浸りながらの食事会は酷く甘美な物だった。

 

「それで今度は帝国に行くのだったか、向こうはどんな国だろうな」

「何か楽しみですね」

「弁当でも作っていくか」

「いや遠足じゃないんですから」

「何だ要らんのか」

「欲しいです」



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