IS~人と怪獣の境界線~ (妖刀)
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豪雨に吼える

始めましての人は初めまして。お久しぶりの人はお久しぶりです。妖刀です。
活動報告で言った通り、インフィニット・ストラトス 忘れ去られた恐怖とその銀龍をを打ち切りにし、新たにリメイクとしてこの作品を作り上げました。物語の流れはリメイク前と大体同じな感じですが、いろいろ変わってるのでリメイク前を見たって人も是非見ていってください。

では本編どうぞ


 2054年8月某日。この日は稀に見る量の大雨が降っていた。雨のカーテンで周りの視界が遮られる中、ズシン、ズシンという重い音が鳴り響く。その光景はまるで山が移動してるように見えたが、時折その山の“後方に生えてる木々”に稲妻が走る。

 

「グォォァ……」

 

 その時、“山”が小さく吼えた。いや、それは山ではない。山のように大きい黒い体、灰色の背びれに長い尻尾。そしてそして上部にある顔から覗く鋭い目はあたり一帯を見渡すようにギョロっと動く。

 この生物……いや、怪獣の名はゴジラ。

 かつて50年前に日本に上陸し、東京で大暴れした怪獣王だ。だがしかし、2度も迎撃され、海に消えたゴジラだったが、なぜこんなところにいるのか。

 

「グォォォォァァアアアアア!!!!!」

 

 ゴジラは大きく吼え、再び侵攻を始める。ゴジラは愛知県の河和港から上陸。そして市街地を破壊しながら横断、そして現在、愛知と静岡の県境の山々にて立ちふさがる木々や山を蹴り飛ばし、破壊しながら突き進んでいく。

 だがそれを人間が見逃すはずもなく、ゴジラがいるところから約2km、彼女たちはゴジラの姿を捉えていた。

 

「目標発見。この雨の中だけどやっぱりあの大きさは目立つわね」

 

「情報見る限り身長70m。50年前より10mも大きくなってるわ」

 

「あと結構早く移動してるわね。だいたい時速50キロぐらいかしら」

 

「このまま山中を越えられるのは不味いわ。全機、作戦通りに動いて」

 

『了解』

 

 そこにいたのは量産型ISである“ラファール・リヴァイブ”10機が森の中に隠れており、機体色は緑と茶色の迷彩色に施していた。それぞれの手にはマシンガンやバズーカなどが持たれており、その中で先頭にいるラファール・リヴァイブを着た女性は手を耳に当て、近くにいる仲間、秋椿 凛1士に通信を送る。

 

『凛、準備は出来てる?』

 

『こちら問題ないです。いつでもいけます』

 

『わかったわ。でも無茶しないでよ』

 

『無茶も何もゴジラに仕掛ける時点で無茶みたいなものですよね?』

 

『ふふ、それもそうね。じゃあ、今から20秒後に開始よ。いいわね?』

 

『了解』

 

 そして通信が切れ、静寂が戻る。ただゴジラの歩く地響きの音が鳴り続ける中、ついにその時が来た。

 ゴジラの足元、そこの大地が剥がれ凛の駆るラファール・リヴァイブが飛び立つ。その手にはバズーカが握られており、そのままゴジラの顔まで一気に上昇すると、その顔めがけて引き金を引いた。

 弾はそのままゴジラの顔に直撃すると思われたとき、弾は弾け、そこが昼になったかのように強く照らされたのだ。

 

「ギュァァァアアアア!?」

 

 照明弾だ。それが超至近距離で炸裂したため、ゴジラの視界は真っ白に塗りつぶされ、目を潰されたことによって大きな悲鳴を上げる。

 

「今よ!」

 

 それを機に一斉にラファール・リヴァイブが飛び立ち、そのままゴジラの元へと駆ける。

 だがゴジラは体を大きく動かして尻尾を振って何も近づけないようにする。ブンっと音と風が鳴り響き、当たれば一撃で戦闘不能になるだろう。だが彼女たちはギリギリのところを何度も躱し、そのままゴジラの顔近くまで飛ぶ。

 

「全員、撃て!」

 

 掛け声とともにたくさんの弾がゴジラの顔めがけて放たれる。ゴジラに対しては豆鉄砲かもしれないが、それでも牽制になるはずだ。

 

「グゥゥ……」

 

 流石にイラつきを覚えたのか、目が見えなくてもゴジラは尻尾を振りまわし、そして両手を動かしてISを捕まえようとするが捕まらず、大きく吼えてその目を開いて彼女たちの方を向く。

 

「10秒もたなかったわね……まあいいわ。皆、そのまま作戦Bに移行、誘導するわよ!」

 

『了解!』

 

 十分にこちらへと意識を向けている。そして嫌がらせをするかのように弾をばら撒き、ゴジラもその方向に釣られて動き出した。

 その光景を陽動部隊とは別に散開、待機していたラファール・リヴァイブ5機が確認する。このラファール・リヴァイブ5機の片腕には、巨大な銀色の杭らしきものが装填された巨大なボウガンらしき武器が装備されていたのだ。

 

「良い調子みたいね。早くこのフルメタルミサイル、使ってみたいわ」

 

「ですけどこれ、ホントにゴジラに効くんですか?」

 

「大丈夫みたいよ。昔、ゴジラは刺突といった攻撃が有効ってのが出てるらしいから」

 

「そう、なんですか?」

 

 そう話してる間にもゴジラは刻一刻と目標地点に向けて動いている。そして彼女たちは私語を慎み、ヘッドユニットを下ろしていつでも撃てるように待機する。

 これらの機体もそうだが、彼女たちの機体は通信能力、装甲、バランサーが通常のラファール・リヴァイブより強化されており、そのセンサーからゴジラが近づいてきて、どこ狙うかすでにロックオンがかかる。

 

「30……20……10……フルメタルミサイル、発射!」

 

「発射!」

 

 ガキンと引き金を引く音が響く。

 後方に待機してたラファール・リヴァイブから放たれた銀の弾丸は山を斬り裂き、一直線にゴジラの元へと飛んでいく。そのまま弾はゴジラの右足へと向かい、そのまま膝や腿に何発も刺さる。

 

「グォァァアアアア……!」

 

 何かが直撃したことによってガクンと足が止まり、何があったかとそちらの方を向くゴジラ。だが不意にナニカを感じ、とっさに顔を上げたとき、ゴジラの胸部に先ほどの銀色のミサイルが胸部に2発直撃したのだ。恐らく顔を上げて無かったらそのまま顔面に直撃してただろう。それを理解してたのか、ゴジラの眉間に深く皺が寄り、フルメタルミサイルが飛んで来た方向を睨みつけ、そのまま背びれが青く光り始めた。

 

「させないわよ!」

 

 その時1機のラファール・リヴァイブが踊り立ち、口内も青く光るゴジラの前で彼女の右手に量子化されていた武器を展開する。

 

「これでもくらいなさい!」

 

 そう言って展開したのは、手持ち武器に改装された51口径105mmライフル砲だ。照準を口に向け、そのまま引き金を引く。放たれた弾はゴジラの口内に直撃し、爆発を起こした。

 

「ギュァァァアアアア!!!」

 

 ゴジラが悲鳴を上げ、背中の光が消えたのを見るや“アレ”を撃たせまいと弾を2発、3発と眉間や目に目掛けて撃ちこんでいく。

 他の隊員も同じく51口径105mmライフル砲を展開し、飽和攻撃をかけるようにゴジラにありったけの弾を撃ちこんでいった。

 それからいったい何発撃ちこんだのだろう。砲身が焼けただれるまで打ち込んだ結果、煙でゴジラの上半身が見えない。だがその動きは止まっており、尻尾もダラリと力なく地面に横たわっていた。

 

「やった……?」

 

 誰かがそう言う。

 だがしかし、その時だった。

 

「グォォ……グォァァアアアアア!!!!」

 

 硝煙を破り、ビリビリと響く咆哮。その音の大きさに全員とっさに耳をふさいでしまう。だがそれがいけなかった。

 

「ぎゃ」

 

 それは一瞬の悲鳴だった。そしてバイタルサインが消滅し、ISの反応が一瞬山の方に動いたと思ったら消えるのも同時だった。

 一体何があったのか分からなかったが、再びソレが空を斬り、その風圧で何機が飛ばされる。

 

「今の、尻尾……!?」

 

 そう、先ほどの1機はマッハになるのではないかという速度の尻尾の振りに巻き込まれ、そのまま山肌に叩き付けられたのだ。その質量も馬鹿じゃなく、ISも一撃で戦闘不能。搭乗者は……言うまでもないだろう。

 “ヤツラ”みたいに足が速いが一撃で潰せる。それが分かったゴジラは天に向けて吼え、そしてギラリと彼女たちを睨みつけた。

 

「グォァァアアアアアア!!!!

 

「嘘、あんなに当たったのに効いてない……!?」

 

『隊長!装填完了しました!いつでも撃てます!』

 

「っ……分かったわ!なら私たちがどいたらすぐに撃って!』

 

 そうは言うが、ゴジラは完全に彼女たちに狙いを定めており、下手に動けばその者が一番に狙われることになるだろう。

 ゴジラを怒らせてしまった。この不自然にも攻撃を仕掛けてこないゴジラに恐怖を感じていたが、ゴジラの背びれが青白く光り始めた。

 

「不味っ……全機散開!」

 

 それと同時にゴジラの口から青白い放射熱線が吐かれた。

 それを彼女たちは急いで散って回避するも、3機巻き込まれバイタルサインが消失。だがしかし熱線はここで止まらずにそのまま山肌を焼き払い、そのまま大地を抉り飛ばしながら首を動かすことにより、広範囲が焼き払われててしまう。

 こんなのをくらえばひとたまりもない。額からタラリと冷や汗を流すが、そんな彼女たちに凶報が届く。

 

「隊長……フルメタルミサイル隊、全滅しました……!」

 

 それを聞いたとき、苦い顔をするしかなかった。ゴジラは自分たちではなく、己にダメージを与えて来た方を優先し、焼き払ったのだ。あの装備だとISがさらに特殊装備になるため重量も嵩張り機動力が落ちる。そこを狙われてしまったため、逃げる間もなく全滅したのだろう。

 彼女に残された選択肢は2つだった。

 だがしかし、それを言う前に空が青白く光る。いったい何なのかと思って見るとゴジラの背びれが不規則に点滅しており、こんな反応初めて見たと思ったが強い殺気を感じ、

 即座に退避を指示する。

 

「グォォ……ギュァァアアアア……!」

 

 その声が届く前に、ゴジラがくぐもった悲鳴を上げる。何が起きたか見たら、ゴジラの喉にフルメタルミサイルが刺さっており、それでゴジラがよろめいたのだ。

 

「まだ……終わってないん、だから……!」

 

 あのゴジラの熱線で全滅したかと思われていたフルメタルミサイル隊だったが、1人だけ瀕死の重傷ながらゴジラ目掛けて放ったのだ。本人は顔めがけて放ったが照準が逸れ、そのまま喉に直撃。そして彼女も倒れ、バイタルサインが消滅する。

 現在ゴジラは喉への直撃で動きが止まっている。この間に残存部隊でゴジラを誘導できれば、と思っていたのだがこれがいけなかった。青く光っていた背びれは怒りを表すかのように次第に赤色に変色していき、それと同時に体の方も背びれを中心に赤く光っていく。

 これは不味い。彼女は他の隊員に逃げるように言おうとした。だが……

 大地が爆ぜた。

 その衝撃と振動は木々をなぎ倒し、近くの地震観測所で震度6を出すほどであり、至近距離にいた彼女たちは逃げようとするもその衝撃波に巻き込まれる。そして十数万度に達する熱はISのエネルギーを一気に削り、無くなった機体はその熱で蒸発する。

 

「ぅ、あ……いったい何が……何よコレ……!」

 

 凛は偶然生き残った。自分がゴジラのどこにいたのか覚えていない。だが運よく生き残った彼女が見たのは地獄と化した焼け野原だった。いったい何が起きたのか分からない。だがゴジラは一瞬で周りにいたISを倒し、高々に咆哮を上げていた。

 

「誰か、誰か返事してよ!ねぇ!」

 

 叫んでも誰も返事しない。ラファール・リヴァイブも損傷甚大であちこちからアラートが鳴り響き続ける。

 ゴジラがコッチを見ている。それに気づいた彼女は顔を真っ青にさせるも、その手にはバズーカが展開され、その先をゴジラに向ける。

 

「ぁ、あぁ……あぁぁぁああああああ!!!!」

 

 悲鳴、怒り、悲しみ、すべてが混ざったような叫び声をあげ、涙を流しながら彼女はバズーカの引き金を引き、弾が放たれる。そのまま弾はゴジラに向けて軌道を描き、顔に直撃して爆発。

 別にゴジラからしたらどうということはない攻撃。だが煙が晴れたとき、ゴジラが見たのは瞬時加速(イグニッション・ブースト)でゴジラ目掛けて突っ込み、その顔に近接ブレードを突き立てようとする凛の姿だった。

 

「ゴジラぁぁぁあああ!!!!」

 

 そして凛が最期に見たのは、ゴジラの口が青白く光り、その炎が自分を包み込もうとする姿だった。

 

 

 

 

 

 雷は鳴り、雨は降り続ける。周りにゴジラの敵はもういない。

 

「グォォォォァァアアアアア!!!!!」

 

 ゴジラは吼える。そして再び侵攻を再開した。

 なぜゴジラは目覚めたのか。三式機龍はいないのになぜ日本に上陸し、侵攻するのか。それは全て、過去へとさ遡る……。




そういえばゴジラ キングオブモンスター面白かったですね。


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眠り龍

どうも、あらすじとかで誤字っててそれに気づくやもう穴の中に入りたいと思った妖刀です……アカン……
そういえば皆さんはゴジラ キングオブモンスター見に行きましたか?自分は3回ほど見ましたが、いろいろととてもも面白かったです。そしてSHモンスターアーツのギドラ届いたけど、翼大きすぎない…?置き場所が……。


さて、話がずれましたが本編どうぞ



 時は2053年。

 ここはとあるISの施設。そこの広く薄暗い部屋の中に彼はいた。黒く少しモジャっとした長い髪を掻き分け、顎からは髭が伸びっぱなしになっているが、男の目には情熱というより狂気が混じっており、両手で2つのキーボード―を打っていく。

 それに連動するように近くにあったマニピュレーターがとあるカプセルをソレの中へと入れていく。

 

「ここに『G』のDNAを利用して作ったDNAコンピューターを組み込んでっと……。あとは……」

 

 そしてキーボードをカタカタと鳴らし、問題個所を確認していく。軽く1000以上ある確認だが、それを男は流すように確認していき、5分もしないうちに最終段階に入っていた。

 

「コアとの同調率問題なし、Gデータ全てコピー完了、DNAとの同調率問題なし、皮下ナノメタル注入完了、ここはよし……ここはよし……ここ、は……よし、これでOKだ。…アハハハ……ギャハハハハハ!いいねぇ!これで完成だ!」

 

 そして男は見上げた。そこに鎮座するIS……いや、これはISと言うのだろうか。通常のISと違い全身装甲であり背中には放熱板のように背びれが三列でたくさん生えている。ここまでならギリギリISと呼べただろうか。だが、頭部はまるで竜のようであり、何より尻尾がある。そしてなにより、地面から頭まで5mと大きい。

 そして現在、この機体各所のハッチを開けられてそこにたくさんケーブルが刺されており、主を待つかのように鎮座している。

 

「これでISの時代が終わり、再びIS誕生以前に戻る……この力さえあればISなんかもガラクタ同然だ。ははは、ギャハハハハハ!!!」

 

 男はその目を大きく見開き、狂乱するかのように高々と嬉しそうに叫んでいた。

 その時、パチンという音と共に部屋の中が明るくなる。彼はスッと後ろを振り向くと、そこには1人の白衣を着た男が立っていた。

 

「主任、またそこにいたのですか」

 

「おおワンダーソン君。何の用かね?」

 

 先ほどの態度をひそめ、ケロリとした顔をする主任と呼ばれる男。ワンダーソンと呼ばれた眼鏡をかけた20中ごろの男は部屋にいる主任を見るや、ため息を吐いて頭を抱える。

 

「あのですね、さっきから主任の声がうるさいからここまで来たのですよ。というか何叫んでたんですか?」

 

「あーそうだねー。深夜のテンションってやつさ。ははっ」

 

 現在時刻午前2時。この施設の明かりはこの部屋以外落とされており、見回りに来たワンダーソンがこの部屋に来たのだ。

 その時、ワンダーソンはそこに置いてあったISに気付く。

 

「主任、もうコレは開発が凍結されたはずですよ」

 

「あ、そうなんだ。で?それが何か問題?」

 

「問題って……もうこれには予算は割かないのですから、これ以上無駄なことをしないでくださいって所長に言われましたよね。そもそもコレは欠陥品。それは貴方が分かってるじゃないですか」

 

 そう、この機体はISとしては重大なとある問題が発生しており、未だにその解決点が見つかってないのだ。結果として開発は凍結。この機体も倉庫の奥へと消える、はずだった。

 

「いやいや、この機体にパッケージをつけることでその問題を解決している。ワンダーソン君もこれがどういうのか知ってるだろ?」

 

「パッケージって……そんなのを付けるなんていったい何を戦うというのです?」

 

「そりゃ世界だ」

 

 それを聞いたとき、ワンダーソンの口は開いたまま塞がらなかった。ISとはいえたかが1機。それでいったい何ができるのか。

 

「世界ってそんなアホの事……主任、いくら貴方が出来るアホ人間だからってそんな寝言は寝て言ってくださいこのアホ主任」

 

「助手にアホ言われた……」

 

「そもそも2号機が稼働してる時点でこの機体は用済みなんです。だからもうコレは意味ないんですよ」

 

 そう言われたとき、部屋の空気が少し重くなった気がした。ワンダーソンはソレに少し顔をしかめ、冷や汗を流す。

 

「ふーん、そう言うか……。それならコレ見てみろ」

 

 声のトーンを少し落とした主任がスイッチを押した時、ゴゥンと重い音が部屋に響き渡る。そして胸部の排気ダクトから大量の水蒸気を噴き出し、主任の手元にある投影ディスプレイから様々な情報が展開された。

 

「なっ……1号機が、機龍が起動している……!?」

 

「まあ俺にかかればこんなものさ」

 

 高らかに笑いあげる主任。ありえないとワンダーソンは情報を見ていくが、一部エラーが出てる以外は通常に使っても問題ないと言える状態だった。

 そして恐る恐る主任の方を向くと、彼はあくどい笑みをニヤニヤと浮かべており、その顔にイラッと来るもワンダーソンはどうにか平時の顔を浮かべる。

 

「ホントに、よくここまでしましたね……」

 

「さて、これでも中止というのかな?」

 

「……わかりました。これを所長に伝えておきます」

 

「あーよろしくねー」

 

 しぶしぶとワンダーソンが返事し、そのままこの部屋を後にする。そして部屋には主任だけが残ったが、彼は誰もいなくなるやすぐに電話を取り出し、そのままとある場所に電話を掛ける。

 

『……はい、更識です』

 

 聞こえたのは女性の声だった。だがこんな時間に電話をかけてきたためかとてもトーンが低く、すこし不機嫌な雰囲気も出ている。

 

「あーあー、聞こえてる?久しぶりだね楯無ちゃん。元気にしてるかーい?」

 

『何の用ですか……』

 

 電話越しに相手からの殺意が漏れてるのが分かる。だが主任はそれをニヤニヤとした顔で受け流し、本題に入ることにした。

 

「そっちがイライラしてるっぽいから手短に済ませるねー。さて1つ聞こう。キミの思い人が君と同じ学園に入れるなら……入ってほしいか?」

 

 その時、向こうが息が詰まったのか言葉を発さなくなった。

 ISは男には使えない。もし思い人がISを使えるとならば、一緒の学校へ行き、一緒に青春を過ごせる。そんな素晴らしい日々が送れるに違いないだろう。だがそれは彼女からした場合だ。思い人……男からしたら女しかいない場所へ向かうストレス、どれほどのものになるのか想像も絶するほどだ。

 

「さて、どうなんだい?」

 

『それは……もちろん……』

 

 相手の答えを聞いたとき、主任の口角が上がった。

 

 

 

 

 

 現在、時刻は午前4時半。あれから一睡せずに主任は機体の最終調整を行い、休憩に近くにあったソファー腰掛けてそのままコーヒーを啜っていた。

 

「断る、か……。彼女らしい答えだな」

 

 主任は先の相手の回答を思い出す。彼女が選んだ答えはNOだった。

 

『それは確かに良さそうですが、彼に私の好き勝手で辛い思いしてほしくない。ですから断らせてもらいます』

 

 そう言われたとき、主任は一瞬目を見開いたがゲラゲラと笑い、だいぶ向こうから顰蹙を買うもどうにか持ち直して通話を終了させたのだった。

 そして主任はパソコンに1人の男の画像を出す。

 

「まあ彼女がどうと言おうと関係ないんだがな。どうやってもアイツにはこれを受領してもらわないといけないんだから。さあ、魅せてもらおうか……無事起動してくれよ?パンドラの箱の鍵よ」

 

 そして主任は再び銀の龍を見るや、ニヤッと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 それから1年経った。

 ここはIS学園。IS操縦者育成用の特殊国立高等学校であり、女子高でもあるその学校の門に、1人の青年がいた。

 

「ここがIS学園……。今日から俺、ここに……よし、行くぞ!」

 

 決意を固めたのかこぶしを握り、そして青年は門をくぐる。

 だが彼は今は知らない。これから先起きる出来事を。それでどれだけ傷ついても、立ち止まることが出来なくなることを……。




さて、次回から原作1巻目に入ります。

では感想、誤字報告待ってます。まあ、ゴジラはいても誤字は無い方がいいけどね……。


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IS学園

さて、ここから原作1巻目の内容に入っていきます。


(やばい……つらい……!)

 

 ここはIS学園1年1組の教室。その教室の一番前の中央に織斑一夏は座っていた。彼の周りにいるのは女子、女子、女子。そんな彼女たちから好機や奇異の視線を浴び、そのプレッシャーからかガチガチに固まってしまっていたのだ。

 そして誰か助けになる人はいないかと周りを見渡すと、見覚えのある長い髪とリボンを付けた1人の女子と目が合った。

 

「箒……?」

 

 だが女子は一夏と目が合うや、少し挙動不審になるやそのままそっぽを向く。さすがに人違いかと諦め、一夏は不意に隣の誰も座っていない席を見た。女子の数と自分の数を合わせても席1つだけ余っており、いったい誰が来るのか……そう思ってたときだった。

 プシュンと教室の扉の開く音がし、そちらに目を向けるとそこにいたのはスカートではなく、ズボンを履いた自分と同じ男子生徒がいたのだ。

 

「え、もう一人男子……!?」

 

「うそ……!?」

 

「そんな情報あった!?」

 

 一気に教室はざわめきだすが、男子はジロッとそれを一瞥した後、そのまま一夏の前を通り過ぎて彼の隣に空いていた席に着く。

 

「わた、る……?」

 

 一夏は彼に見覚えがあった。いや、見覚えとかではなく確信があった。だが人違いだったらどうしようと一夏はどう挨拶しようか悩んでいた。

 

「……久しぶりだな、一夏」

 

 その時彼から話しかけられ、一夏は驚いた顔で彼の方を向く。

 

「航、なのか……?」

 

「ああ、そうだ。小学3年から中学の途中まで一緒だった篠栗航さ」

 

「……なら問題だ。99年、現れた2体目のゴジラはどこに上陸した?」

 

「房総半島だが?それで千葉県館山市を中心に破壊した、と言った方が正しいか」

 

 それを聞いたとき、一夏は心底からとても嬉しそうな笑みを浮かべ、席を立つやそのまま彼を抱きしめ、背中をバンバンと叩く。

 

「航!久しぶりだな!元気にしてたか!」

 

「ちょ、一夏、いきなりやめろそれ!」

 

 それに気づいた一夏はさっさと離れ、少しばつの悪そうな顔をする。

 

「あ、あぁ、やりすぎた。すまん」

 

「別にいいさ。まあ、とりあえず今は元気にしているよ。一夏は?」

 

「俺?俺はずっと元気にしてたさ。ただ鈴も引っ越して少し寂しかったなとは思ってたけど」

 

「え、鈴引っ越したのか?」

 

「ああ、中国に帰った」

 

「まじかー……で、一夏、後ろからジッとこっちを見てる女子でさ……」

 

「あれ、箒だよな……?」

 

「たぶん箒」

 

 チラッと後ろを向くと、そこには先ほどの女子がじーっとこちらを見ているのだ。まあそんな彼女は入学式から教室に戻ると、一夏がいることを知るやすごい焦って壁に顔をぶつけていたが。

 なお男子2人は入学式に参加していない。理由は周りの混乱を防ぐとともに、嫌男派の女子にいちゃもんを付けられないようにするための措置でもある。

 だが一夏は女子たちが入学式に行ってる間に教室に入たため周りからの視線にさらされていたのだ。まあそんな航も現在同時に色んな視線にさらされており、とりあえず一夏と会話するという選択肢でそれから逃げていた。

 だがしかし、余鈴が鳴ったため生徒たちは急いで自分の席に戻る。男2人もそれに習って席に戻り、後ろの視線を我慢しながらも待つ。

 そして1人の背の低い緑色の髪の女性が入って来た。

 

「はい、皆さん揃ってますねー。今からSHR(ショートホームルーム)を始めますよー」

 

 彼女の名前は山田真耶。このクラスの副担任を担当する教員だが、身長と顔の雰囲気から生徒に見えないこともない。そんな彼女は自己紹介を行っており、周りはちゃんと聞いている、様に見えていた。

 

「それでは皆さんこれから1年よろしくお願いしますね」

 

 シンとした教室。それによって真耶が涙目になってしまうが、そのままどうにか自己紹介するように言ったため、そのまま自己紹介が始まった。そのまま順調に進んでいってたが、一夏が緊張してしまい、そしてあまりにも短い自己紹介に周りがずっこけてしまうという珍事が起きたのだ。航もさすがにこれには苦笑いを浮かべており、一夏もやっちまったと苦い顔をしている。

 その時だ。パァンといい音が響くと同時に、一夏は頭に強い衝撃が入って痛みで頭を抱えていた。

 

「でっ、千冬姉!?」

 

 一夏が顔を上げたとき見たのは、黒のスーツに黒髪の女性、自分の姉である織斑理冬の姿だったのだ。だが千冬は「織斑先生だ」と言って一夏の頭を出席簿で叩き、再び一夏は頭を抱える。

 

「きゃー!千冬様よー!」

 

「私千冬様に会いたくて北海道から来ました!」

 

 毎度のことか呆れたようにため息を吐いて小言を言う千冬。だがそれでも女子たちは黄色い悲鳴を上げるのを止めない。

 

「静かにしろ!……篠栗、次はお前が自己紹介をしろ」

 

「え、自分ですか……?」

 

「面倒ごとはさっさと済ませた方がいい。だから次はお前だ」

 

「は、はぁ……」

 

 いきなりの指名に航はちょっと困惑しながらもそのまま教卓に向かう。身長は170センチ半ば、瞳の色は黒く濁った金色で、眼つきは少し鋭いためちょっと怖さが出ており、初見だと少し遠慮してしまう雰囲気がある。髪の色は黒で少しボサッとしてるが短めに切られていた。

 体つきは割と鍛えてるのか少しがっしりしており、背筋はピンとしているためその分少し迫力があるように感じる。

 

「えーっと、俺は篠栗航。見てのとおり男で、テレビに出てないけど一夏同様ISを使えます。だけど全くの初心者だから周りに迷惑かけるだろうけどその時は温かく見守ってくれると、助かります。あと眼つき悪いらしいけど、気にしないでください……以上です」

 

 そう言って航は席に戻る。

 そして自身の自己紹介も終わり、そのまま順調に進む。その後の休み時間に入り、この時一夏が航の席の方に体を向けてきた。

 

「それにしても航がIS使えるようになってるとか思わなかったぜ。テレビでも情報なかったしさ」

 

「いろいろあったんだよ。というか政府もそれでいろいろ振り回されてるらしいよ、知らんけど」

 

「知らねえのかよ」

 

 お互いに笑い合い、そのまま雑談に入ろうとするが……。

 

「ちょっといいか?」

 

 不意に1人の女子に声かけられた。それに2人が振り向くと、そこにいたのは先ほど2人をじっと見てた女子だったのだ。

 

「箒、か……?」

 

「久しぶり、箒」

 

 名前を呼ばれた女子、篠ノ之箒は小さく笑みを浮かべて彼らの元へと向かって一夏の机の元に体を寄せる。

 

「久しぶりだな……っと言いたいところだが、一夏、航みたいにもうちょっとはっきりとしてくれ」

 

「いやー、目をそらされて別人と思って……」

 

「そ、それは……」

 

 ばつの悪そうに眼を逸らす箒。久しぶりにあえて、そしてカッコよくなってたから何て言えるはずもなく、少し頬を赤らめていた。

 

 

「だけどさ、箒がここまできれいになってるとはなぁ。だけどその髪型で箒て分かったぜ」

 

「き、綺麗……私が、綺麗……」

 

 箒はそのまま顔を真っ赤にして動きが止まる。

 この時航は一夏の無意識の口説きに溜息を吐く。覚えてる限りでは小学生のころからこんな感じだったため、偶にこの無意識口説きで修羅場に巻き込まれるのだ。そのため一夏に口を酸っぱくして言っても結局は何も変わらないため、こういう時は諦めるしかない。

 

「航、ちょっと一夏を借りてもいいか?」

 

「え、まじで?」

 

 まさかの一夏を連れていく発言。それに航が少し眉をひそめた。

 

「その、ダメか……?」

 

 箒の困ったような顔にこちらも困り顔が浮かんでしまう。この中で男子1人になってしまうとすごい心細い。だが箒の潤んだ瞳に頭をバリバリと掻いた後、OKと言ったことにより、一夏が箒に腕を引っ張られて教室から消えていった。

 それによって女子の半数がそちらに付いていくが、残った半分はまだ航の方を見ており、とりあえず逃げ出したい気分に駆られてしまう。

 

「わーたんわーたん」

 

「ん……?え、本音?」

 

「もー!どうしてきづかないのさー!」

 

 その時不意に呼ばれ、彼が見たのは袖の長い女子だった。彼女は布仏本音。航の幼なじみである。彼女は航に名を呼ばれるなり、頬を大きく膨らませていた。

 両手を挙げてぷんすかっ!と怒る本音。その姿に苦笑いを浮かべた航はバッグの中に入れていたお菓子を彼女に渡す。すると本音の顔はへにゃぁと嬉しそうなものに変わっていき、周りはそれでいいのかと軽く呆れてたりする。

 

「そういえば本音も学園にいるって聞いてたけど、同じクラスとは思わなんだ」

 

「良かったね~これから1年よろしくね~」

 

「ああ、よろしく。……本音、IS分からないところいろいろあるからその時教えてくれない?」

 

「いいよ~。でもね~……ふふっ」

 

 本音が笑みを浮かべた理由が分からず、航はただ首をかしげる。まあその後は少しだけ本音からいろいろ教えてもらっていたが余鈴が鳴り、軽く別れを言ってお互い席に着く。その後一夏たちがバタバタと入ってきて急いで席に着いた後、千冬と真耶が教室に入って来て授業が始まった。

 

 

 

 

 

「あ゛~頭の中がガンガンしてふわふわする……全く分かんねえ……」

 

 授業が終わり現在休み時間。一夏は授業に全くついていけておらず、それに参考書を捨てたということもあって千冬に出席簿で頭を3度ほど叩かれたのであった。

 

「一夏、参考書捨てるってのは中々思いつかない行為だぞ。実際分かんねえのは同感だけど」

 

「だってよ、俺あんなの送られてきたのいまいち覚えてねえし……。そういえば航の、なんかへこんでたけどアレ何かぶつけたのか?」

 

 そう、航の参考書の背表紙が大きくへこんでおり、まるで何かぶつけたかのようになっていたのだ。

 

「ああ、アレ?あれで兄貴から殴られた」

 

「うぇ……あの人から?」

 

 一夏が思い出すは氷のように冷たい目をした男の姿だった。航はあの男がとても苦手……いや、嫌いと言ってもいいだろう。

 

「どこ殴られたか分からないけど大丈夫なのか?」

 

「ああ、問題ない。本が破れるんじゃないかってひやひやしてた」

 

「そっち!?」

 

 一夏が目を剥くが、航はケラケラと笑う。

 

「正直あれぐらいで音を上げてたら、強くなれないしな……」

 

「っ……」

 

 少し寂しくも冷たい目。未だにコレはどう言葉をかければいいのか分からない一夏。そのためとりあえず話題を変えることにしたのだが……。

 

「そういえば―――」

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「うぇ?」

 

「ん?」

 

 その時、声かけられたため2人は声のした方を振り向く。するとそこにいたのは金色の髪を青のヘッドドレスで留めた、制服をロングスカートに改造した女子だった。パッと見から英国系なのだろうが、先ほどの少し高圧的な態度からか若干航が眉を顰める。

 

「あ、あぁ、何の用だ?」

 

「っ……何ですのその返事は?このわたくしに話しかけられたことに栄光だと思わなくて?」

 

 一夏の返事に彼女はイラッと来てたが、冷静を装って先ほどより圧をかけながら2人に接する。

 

「すまんな。てかさっき自己紹介あったけど、俺ら全員覚えきれてないしさ」

 

 航がそういうが、彼女からしたら関係ない話なのだろう。さすがに我慢の限界か、わざとらしい態度で反応した。

 

「知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして入試主席のこのわたくしを?」

 

「あ、ちょっといいか?代表候補生って何?」

 

 一夏の質問に周りにいた生徒たちがガタタッと崩れ落ちる。セシリアも開いた口が塞がらないのか、一夏をありえない者を見たとばかりに目を見開いており、若干プルプル震えている。

 

「な、なな……代表候補生を知らないですって!?」

 

「お、おう、すまないけど知らない」

 

 セシリアの剣幕に怯む一夏。それを聞いた航はさすがに頭を抱えており、本気でこの場から逃げ出したい衝動に駆られる。

 

「なあ航。代表候補生って何なんだ?」

 

「一夏、あれだ。分かりやすく言うと国家代表になれるかもしれないエリートの1人だよ」

 

「へー、そりゃすげえや」

 

 一夏の興味なさそうな返事。さすがにイラッと来たのかセシリアの顔は険しいものになっていく。

 

「貴方、男でISが乗れるからって調子に乗っていませんこと?それだから男性というのは嫌なのですわ。貴方も織斑先生の弟だから少しは何か知識とかあると思いましたが、常識はずれでしたわ」

 

「……俺にそんな期待されても困るんだが」

 

 一瞬一夏の目が険しいものになり、航も同様にセシリアに厳しい視線を向ける。航の鋭い目つきで一瞬セシリアはたじろぐが、それでも先ほどの余裕を取り戻す。

 

「ですが、わたくしも優秀ですから貴方たちに優しくしてあげてもいいですわよ。ISのことであれば、まあ……泣いて頼れば教えてあげなくてもありませんわ。わたくし、ISで唯一教官を倒したエリート中のエリートなのですから」

 

「え、俺も倒したけど」

 

「えっ?」

 

 一夏の言葉に固まるセシリア。航も一夏の事をありえない顔で見ており、当の一夏は分かってないのか首をかしげている。

 

「なあ、航はどうだったんだ?」

 

「俺?負けたけど……一夏、ホントなのか?」

 

 航は怪訝な顔で一夏を見ており、セシリアはやっとであるが正気に戻る。

 

「ま、まあそういうものですわ。ですが、貴方はいったいどうやって倒したって言いますの!?」

 

「ま、待て。俺は倒したというか―――」

 

「ならいったい―――」

 

 その時だ。チャイムが鳴り響き、強制的に試合は終了となる。セシリアは納得いかないと彼らを睨みつけるが、しぶしぶと自分の席に戻っていった。

 彼らも一緒で自分の席に戻り、次の授業に使う教科書とかを出していく。

 

「てか一夏やオルコット、あの試合で現国家代表倒したのか……マジか」

 

 航のつぶやきはチャイムの音と共にかき消されるのであった。




さてさて、航は試験でいったい誰に当たったのでしょうねぇ……。


では感想等待ってます!



そういえばここ最近、この作品に出る予定の機龍をアオシマの三式機龍を使って製作し始めました。まあ、リメイク前の奴だと三式機龍とほぼ変わりませんが、こちらだとチョイいろいろ変わる予定です。ではこちらの完成もお楽しみに。


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代表決め~そして放課後~

どうも、雨続きで塗装が出来ない妖刀です。季節遅れの梅雨?はちょっと流石にやめてもらいたい。


 あれから再び教室には千冬と真耶が教卓におり、授業が始まる。

 

「それではこの時間は実戦で使用する各種武器の特性を説明する」

 

 千冬はそう言って授業を始めようとするが、何か思いだしたかのような顔をして黒板の方を向いていた体を再び生徒の方へと向ける。

 

「ああ、そういえば今度クラス代表戦があるからクラス代表を決めないといけなかったな」

 

 クラス代表とは何なのかと一夏が首をかしげてるのに気づいたのか、千冬は小さくため息を吐いてそれについて説明をしていく。そして自薦他薦で誰がしたいか聞いた時だ。クラスの大半の女子たちが手を挙げたんだ。

 

「私は織斑君を推薦します!」

 

「私も織斑君を!」

 

「私は~わーた……篠栗君をあげま~す」

 

 そのまま一夏が圧倒的有利の票数を得ることになってるが、当の一夏は自分が挙げられていることに気付いてないのか呆けた顔のままだ。

 

「ふむ、今のところ織斑の票が多いな。では代表は織斑一夏でいいか?」

 

「え、俺!?」

 

「なんだ、気づいてなかったのか?」

 

「お、俺辞退します!」

 

「ダメだ。推薦を受けたのだからそれに応えろ」

 

「なら俺は航を推薦します!」

 

 千冬に断られた一夏はとっさに航を推薦する。この時航に驚かれながらも睨まれたが、一夏は今はそんなこと気にしてられない。そのためにどうにかしてでも逃れようと奔走する。

 だがその時だ。

 

「納得いきませんわ!」

 

 そう言って机をたたき、立ち上がったのはセシリアだった。いったい何なのだろうと、周りからの注目を一斉に浴びる。

 

「そのような選出は認められません!大体男だからってそれでクラス代表とかされたら恥さらしですわ!このわたくし、セシリア・オルコットに一年間その屈辱を味わえというのですか!」

 

 そしていろいろ言ってるセシリアだが、次第にその言ってることは日本の侮辱となっていき、周りにいる生徒たちも教員も次第に顔が険しいものになっていく。

 おかげでそれに我慢できなくなった一夏。我慢を忘れてつい反論してしまった。

 

「イギリスだって何年メシマズ大国だよ」

 

「なっ!?わたくしの国を侮辱いたしますの!?」

 

「先に侮辱したのはそっちだろ!確かに日本には多数の怪獣が現れたけどさ!」

 

 一夏がぼそりと言ったことに反応したセシリア。そしてお互い睨みあっていたが、セシリアがそのまま一夏の机の元に来るや、彼の机に手をバンッと叩きつける。

 

「決闘ですわ」

 

「ああいいぜ。四の五の言うよりそれが早い。なあ、航」

 

「……俺も?」

 

「当り前ですわ。貴方も推薦されてますのよ?」

 

「……わかった」

 

「で、ハンデはどうするんだ?」

 

 最初は誰もが自分たちに欲しいハンデの話と思ってたが、一夏はセシリアにどれだけハンデを付ければいいと言ったのだ。その時、クラスにいた女子の大半が嘲笑し、一夏は今の世の中の事を思い出すや少し顔を青くする。

 

「織斑君、それ本気なの?」

 

「男が女に勝てるわけないじゃん」

 

「もー、男ってホント常識が無いのね、嫌になるわ」

 

「そんなにISの力知らないの?ISさえあれば怪獣だろうとすぐ倒せるのよ」

 

「「は?」」

 

 この時航と一夏の声が完全に一致した。ただ航の声がとてもドスの効いたものだったから周りにいた女子たちはビクリと体を震わす。

 

「怪獣がすぐに倒せる?ならゴジラもか?」

 

「あ、当り前よ!それの何が間違ってるのよ!そもそもあんな大きな足の遅いトカゲとかISで倒せないわけないでしょ!」

 

 航の問いに女子の誰かが反応し、周りもそれにうんうんと頷いてる。一夏は顔が険しいままだが、航はあくまで冷静な姿勢で口を開く。

 

「怪獣を、ゴジラを倒せる?冗談じゃない。怪獣は人の手では決して倒せないからこそ怪獣なんだ。人知を超えた者を倒すことは人の行いの範疇にはないんだ。女が男より強い?そんなの関係ない。怪獣を倒せるのは怪獣だけだ。それを知らずに怪獣の事を語られたくないんだが、分かってくれるか?」

 

 過去、とある男に言われた言葉を思い出しながら話す航。それに周りはぽかんとしていた。

 聴いてくれたのだろうか?そう思っていたが誰かが失笑するや、それは次々と伝播していく。

 

「な、何がおかしいんだよ!」

 

 狼狽する一夏だが、一緒に笑っていたセシリアは息を整えるや、彼女からしたら滑稽に見える男2人に向けてその理由を話す。

 

「怪獣?ゴジラ?ふふふ、面白い冗談を言いますのね。そんなのは全て過去のものですわ。今の主力は戦闘機や戦車でなくIS。勢力を考えれば怪獣など取るにたらないものではなくて?」

 

 見下すような笑み。周りの生徒もそれに同調するかのようにそれに賛同し、2人を見下しながらいろいろ心無いことを言い放ってくる。

 一夏は航に続くように“それでも”と一夏は言おうとしたが、航が一夏の肩に手を掛けて彼を制する。

 

「……一夏、もうこれは俺らが何言っても無駄だ。完全にアウェイになってる」

 

「だけどよ!」

 

 航が首を横に振ったことで、一夏は歯を食いしばりながらもゆっくりとうつむく。それを見たセシリアは勝利を確信したかのような笑みを浮かべ、そのまま2人を見下す。

 

「では見せてもらいますわ。教官を倒したその実力というものを」

 

「あー、その前に一ついいか?」

 

 いきなり水を差されたことで航を睨みつけるセシリア。

 

「いきなり何ですの?」

 

「そういえば教官ってどうやって倒したんだ?国家代表が相手だったんだろ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

『えっ?』

 

 航の言葉にシンとなる教室。航も予想外の反応されたことに少し戸惑い、そのまま助けを求めるように千冬の方を向く。

 

「織斑先生……どういうことですの?教官はこの学園の教師のはずでは……?」

 

「私もそれは初耳だ。篠栗、いったい誰が貴様の相手をした」

 

 そして全員が怪訝な顔で航を見るが、航も困った顔で頬を掻いてる。そして白状するかのように口を開いた。

 

「俺、現日本国家代表が相手だったんだけど」

 

『えっ!?』

 

「なっ……!?」

 

「なるほど、やはり更識か……」

 

 それを聞いたとき全員は絶句するが、千冬はため息を吐いて手を頭にやる。実際この学園在学で現国家代表となるとごく一部に限られる。そのため千冬は一瞬で誰か見当ついたのだ。

 

「で、結果は知ってるがどうだった?」

 

「えー、俺も専用機で頑張ったんですが向こうも専用機だったため、一方的に負けました」

 

 千冬の問いに答えた航だが、当の千冬はさすがに頭が痛いのか顔に手を当てたままため息を漏らす。

 だがそんなことよりセシリアは彼の言ったことを信じれないのか驚きを隠せない。

 

「貴方、専用機を持ってますの!?」

 

「ああ、これだけど」

 

 そう言って航は首にかけていた2枚の銀のドックタグを見せる。いったいどんな機体か分からないが、男が専用機を持ってるという屈辱を感じたセシリアは歯噛みする。

 

「では来週の月曜日に第三アリーナで三人で戦ってもらうぞ。いいな」

 

「「「はい」」」

 

 3人は返事し、余った時間で元の授業に入るのであった。

 

 

 

 

 

 それから時は飛び放課後。航は忘れ物があったため教室に戻るため一夏と離れ、現在本音と一緒に学生寮に向かっていた。

 

「女子と同室かー。正直すごい不安なんだけど」

 

「だいじょ~ぶだいじょ~ぶ。わーたんなら大丈夫だよ~」

 

 のほほんと笑みを浮かべる本音。

 実は授業が終わった後、千冬と真耶から寮暮らしであることが航と一夏に伝えられたのだ。まあ、実際この世に2人しかいない男子搭乗者が外から通学とかいつ誘拐にあってもおかしくないため、このような措置は正しいのだろう。だがしかし、男同士で同室にならず、お互い女子と同室と言われたとき、流石に航も呆けた返事しかできなかった。

 

「わーたん。1週間後、大丈夫なの~?」

 

「あー、どうだろ。なあ、代表候補生ってどれぐらい強いんだ?」

 

「え~っとね……あ、かんちゃんだ~!お~い」

 

「え、本音……?」

 

 本音が手を振った先にいたのは、水色の髪をした眼鏡をかけた女子だった。おどおどとした雰囲気の彼女だが、航の顔を見るなり、びくりと体を震わす。

 

「あ、かんざ……」

 

「っ……!」

 

 そして眼鏡をかけた女子はそのまま速足で去ってしまい、航は手を伸ばそうとするも途中で止めてしまう。

 

「かんちゃん……」

 

 本音も寂しそうなその背中を見送り、そのまま一緒に寮に入る。そしてエレベーターで上がり、一緒に降りた後彼女の部屋の前に着いた。

 

「私はここだから~じゃあね~」

 

「ああ、また明日」

 

 パタパタと袖の長い手を見送り、航は自分の部屋を目指しだす。

 

「えっと1030、かぁ……」

 

 途中地図を見ながら進んでいた航だったが、目の前にたくさんの女子の群れがいたため足を止めた。いったい何なのだろうかと思ってた時、1人の女子がこちらを向いた。

 

「あ、篠栗君よー!」

 

「え、もう一人の男子!?」

 

「ほんとだ!」

 

 いきなり女子たちに絡まれて困惑する航。よく見れば全員薄着であり、目の毒だったため必死に視線を逸らそうときょろきょろした時だ。

 視線の先に映ったのは一夏だったが、何かに追われてたかのように肩で息をしており、床にへたり込んでいる。いったい何があったか気になり、女子たちに道を開けてもらいながらも一夏の元へ向かった。

 

「一夏、何してるんだ?」

 

「航か!助けてくれ!」

 

 汗だくの一夏を見て、いったい何があったのか把握し切れてない航だが、一夏の説明を聞くなりため息を吐いた。

 

「さすがに一夏が悪いだろそれ……おい、箒、ちょっと扉開けてくれ」

 

「航、か?……ちょっと待っててくれ」

 

 航がノックしながらそういうや、少し間を置いてチェーンがあるため全開しないも扉が開く。

 

「うぅ……」

 

「うっ……」

 

 そこから覗く涙目で睨みつけてくる箒。それにすごい罪悪感に責められる一夏は手を合わせながら箒に許しを請うた。

 

「箒、俺が悪かった!だから中に入れてくれ!頼む!」

 

「箒。許してやれとは言わないけどこのまま外に置いとくと他の誰かに持っていかれるぞ?」

 

「そ、それは……!……一夏、入れ」

 

 そして扉が開き、そこには寝間着姿の箒がいたが、彼女の後ろには木刀が見え隠れしており、一夏もサーっと血の気が引いたのかひきつった笑みが浮かんでいる。

 流石に航も苦笑いを浮かべており、大人しく木刀を手放すように促したら大人しく手放したため安堵した。

 

「じゃあ、俺は部屋に行くから。ちゃんと仲直りしとけよ」

 

「え、もう少しのんびりしないのか?」

 

「この状況でできねーよ。それに……ねぇ?」

 

 箒と目線が合うや、察した箒は顔を真っ赤にする。それをニヤッて笑みを浮かべた航は、どうにか理由を付けて一夏たちの部屋を後にした。まあ、最終的に一夏の襟首を箒が掴んで、部屋の中に引きずって行ったが。

 それから5つほど間に部屋を挟み、目的の部屋の前に到着する。

 

「えーっと、この部屋か……」

 

 ノックするが反応が無く、ドアノブを触ると鍵がかかってたため、今はいないのだなと判断した航は鍵を開けてドアを開けた。

 だがしかしそこにいたのは、1人の女子だった。

 外にハネた水色の髪にルビーのような赤い瞳。そして誰もが見てもスタイルの良い体をしている彼女だが、一番大胆だったのは衣装だった。なぜなら服を着ず、その上からエプロンを着る、俗にいう裸エプロンだからだ。彼女の豊満な胸が布を三次元に消費しており、裾の方も何とか股下になっているという状況で、腕をグッとすることでその谷間を強調させる。

 そんな彼女は航を見るや、にこっと笑みを浮かべた。

 

「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」

 

 バタンと何事もなかったかのように扉を閉じた。そして手に持っていた鍵の番号と部屋の番号をもう1度確認する。確かに間違えていない。だがしかし、先ほどの光景を思い出すや少し顔を赤くする航。

 

「何で……?え、何で……!?」

 

 今日疲れすぎて幻覚でも見たのだろうか。航は改めて恐る恐る扉を開く。

 

「お帰りなさい。私にする?私にする?それとも・わ・た・し?」

 

「さっきより選択肢無くなってるんだが……」

 

「ふふ、どうする?」

 

 まだ外にはばれていない。そのため急いで彼女と一緒に部屋の中に入る航。「きゃ、大胆ね」とか言ってるが、今はお構いなしだ。

 

「いったい何やってんだよ刀奈!」

 

「ふふーん。航が同室だからつい、ね?」

 

 IS学園生徒会長更識楯無……更識刀奈は楽しそうな笑みを浮かべているが、目をスッと細めるやエプロンの裾をつまんで少し持ち上げ始める。

 

「ねえ、見たい?」

 

 ゆっくりと裾を上げていく刀奈。だがしかしくるっと翻して見せるは、黄色のビキニを着た彼女の姿だった。

 

「ふふ、残念でしたー。裸じゃなくて水着エプロンよ」

 

 悪戯が成功したという笑みを浮かべるが、すらっとした腹回りやフリフリとお尻を動かす仕草は彼の劣情を催し、ごくりと喉の鳴らす航。だがしかし、いい加減満足したのか彼女は脱衣所に向かいそのまま中で着替えて出てきた姿は、襟と縁が白になった水色のノースリーブのワンピースだった。

 そして刀奈はベッドに座ってる彼の隣に腰掛け、そのまま頭を彼の肩に預けるように、もたれかかって身を寄せる。

 

「ねえ航。私と同室で嬉しい?」

 

「すごい嬉しい。むしろ安心した」

 

「ふふっ。そう言ってくれて嬉しいわ」

 

 実際彼女も幼なじみである航と一緒に学園生活を過ごせることがとても嬉しかった。おかげで生徒会長の権力を使い、何やかんや航との同室の権利を手に入れ、こうやって一緒に住むことができる。

 それにここずっと彼に触れれてないのだ。刀奈はその分を埋めるかのように、まるでじゃれるかのように彼に更に身を寄せ、航も嬉しそうに彼女を抱きしめる。

 彼女が甘え続けて30分ほど経っただろうか。少しは満足したのか刀奈は離れ、そして少し身だしなみを整えて彼の本題に入ることにした。

 

「さて航。本音ちゃんから聞いたけど来週、代表候補生と闘うらしいね?」

 

「そうだが……」

 

「なら私に任せなさい。貴方だけの家庭教師になってあげるわ」

 

 彼女の手にいつの間にか握られていた扇子が開き、『準備万端』と書かれた文字を見せる刀奈。航からしても渡りに船といえる千載一遇のチャンス。これを逃すまいと即座にお願いするが、刀奈はキョトンとしていたがその後苦笑を浮かべた。

 

「もう、そこまでしなくても大丈夫よ。楯無先生にお任せあれ。と言っても、航のあの機体なら正直ね……」

 

「というか刀奈。いくらお互い専用機とは言え、一方的にボコボコにするか?」

 

「それが試験官の仕事だもの。それでも手加減したのよ?航に怪我されたら困るし」

 

「いくら未調整故に中身で戦うことになるとはいえ、装甲だけ狙ってシールドエネルギー綺麗に削るかなぁ……」

 

「そこは実力よ。さて航、貴方の機体が機体だから今は座学の方を中心にするね。……ちゃんと付いていけてる?」

 

「一応……でもお願いします」

 

「任されました。まあその前に腹ごしらえね。航の大好きなの作ってるから、食べていってね」

 

 不意に美味しい匂いがした。その匂いの元をたどるや、そこにあったのは部屋に備え付けられているキッチンの上にあった寸胴鍋からしてるのだ。

 

「航の大好きなビーフシチュー。貴方のためにたくさん作ったわよ」

 

『いっぱい食べる君が好き』と扇子で見せる刀奈。先ほどからどうして文字が変わるのか気になった航だが、それより刀奈の作った夕食の方が優先だ。

 

「さあ航。召し上がれ」

 

「いただきます!」

 

 そして刀奈と一緒に夕食を食べる航であった。




楯無さんの部屋着姿、Twitterでどうしようか悩んでたら“気品”があるやつというリプがあったため、とても悩みました。だって彼女、下着ワイシャツ姿が一番に思い浮かんでしまうんだもん。
なお初期案だとシャツとホットパンツだったけど、これはブレイジング・メモリーに外着のがあったため没になりました。
なお自分的にはシャルラウラが着てたようなあんな着ぐるみの着てもらいたいし、和服もイイよな、って思ってたり。


では感想等待ってます。


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怪獣学

さて、リメイク前の人なら知ってるであろう怪獣学の時間です。


 あれから翌日。航は朝の日課を終え、1人で学園の食堂へと赴いていた。刀奈は生徒会長としての仕事があるということで、一緒に朝食を食べることがかなわないことを嘆きながらも、何やかんや食堂で朝食を受け取るや、どこに座るか席を探していた。その時、聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

「ここのご飯、とても美味しいな!」

 

「う、うむ、そうだな」

 

 そこにいたのは朝食に舌鼓を打ってる一夏の姿であった。箒も合わせるように相槌をしているが、たまに見せる一夏のほわわんとした顔に胸を撃たれ、少し朝食の味を感じることができずにいたりする。

 邪魔しては悪いと思い航は他の席を探すが、周りを探しても席がそこしか空いてないため、航は相席させてもらおうと一夏たちの元へ向かうが、そこに複数の女子たちが群がりだす。いきなりのことで航も困惑しており、仕方なく別の席を探そうとその場から離れようとした時だ。一夏が彼に気付き、声をかける。

 

「お、航おはよう」

 

「ああ、おはよ一夏」

 

 女子たちも彼に気付くや、そそくさと1人分の席を開ける。座れということなのだろう。それを無碍にするわけにもいかず、航はおとなしくそこの席に着く。

 そして盆をテーブルの上に置いた時だ。一番最初に口にしたのは箒だった。

 

「そんなに食べるのか……?」

 

 そこにあったのは山盛りのご飯と山盛りのおかずだった。それをみた他の女子も固まっており、一夏もキョトンとしている。

 

「まあ、朝練してたからお腹空いたし」

 

「それなら仕方ないか」

 

 それでいいのかと思う女子たち。だが男たちはそんなの関係なしにご飯を食べ始めたため、いまいち納得いかないが一緒に食べ始める。

 

「そういえば織斑君と篠栗君って仲いいけど友達とかだったの?」

 

 不意に一緒にいた女子に聞かれた。

 

「ああ、そうだな。俺が小学3年生の時に一夏と箒のいる学校に転校し、そして中学の途中で俺が引っ越したんだ。だから一夏とは一年少しぶりってところか。箒とは……何年ぶりだ?」

 

「5年ぶりだな」

 

「ああそうか。時の流れは早いなー」

 

「だなー。まあ、またこうやって会えたのは嬉しいけど」

 

「嬉しい?そ、そうか……」

 

 そう言われ顔を赤くする箒。一夏はどうしたんだ?と彼女に顔を近づけたとき、箒の頭から煙が出ており、そのまま箒は一目散にこの場を後にしてしまう。

 それにぽかんとする一夏に呆れる航。女子たちは呆れたり楽しそうな顔してたり十人十色で、その後この面子でいろいろ話しながら朝食を食べるのであった。

 

 

 

 

 

「怪獣学かー」

 

「怪獣学だな」

 

 ホームルームも終わり休み時間。現在男2人はお互い席に着いて次の授業の準備をしていた。

 

「なあ航。怪獣学ってどんなのか分かるか?」

 

「えっと、たしかゴジラ襲撃後にできたやつで―――」

 

 航が話そうとしたときに余鈴が鳴り、他の生徒たちも席に着いて授業の準備をする。いったいどんなのか、そのことについて話してるのか周りの生徒もひそひそと何か話している。

 そして扉が開き、そこに1人の女性が入って来た。黒い瞳に黒髪のショートヘアーの日本人の先生教師であるから20代だろうが、その柔和な雰囲気は少し彼女を幼く見せる。そして先生は教壇の所に着くと、ぺこりとお辞儀をした。

 

「みなさんこんにちは。この怪獣学を担当する家城 燈(やしろ あかり)です。皆さんにはこの1年間、怪獣学を学んでいただきます」

 

「はーい」

 

 これに返事したのは航だけだった。他のクラスメイトは何も言わず、流石に航も驚いたのかつい後ろを振り向いてしまった。

 燈はこれが毎度のこととなれているのか愛想笑いを浮かべ、何事もなかったかのように説明に入っていく。

 

「では怪獣学というのはどういうのかという概要を話していきますね。そもそもこれが出来たのは最初のゴジラ襲撃後ラドン、モスラといった巨大怪獣が現れたことで―――」

 

 

 ―――怪獣学―――

 それは日本にしかない対巨大生物用の座学と言える内容の物である。元々日本では1954年のゴジラ襲来から何度も怪獣が出現し、幾度となく窮地に立たされてきた。だがしかし、自衛隊の頑張りもありほとんどは撃退し、それによって得た知識などを今の新しい兵器などを用いて新たな戦術を練られている。

 だが2004年のゴジラ襲来を最後に怪獣の出現報告は一気に激減。それによってこれらは少しずつ廃れていってるように思えていたが、IS登場後にできた“いす自(IS自衛隊)”に目をつけ、それによってさらに変化を遂げ今も存在してるのだ。

 そして現在もISが多数保有されているIS学園ではこれまで現れた怪獣の紹介、過去の出来事、そして再び現れた際の極力できるであろう対処などを学ぶのである。

 

 

「――――ということになります。わかりましたか?」

 

 一部除いてほとんど返事しないが、燈は顔色1つ変えずそのまま説明に戻る。

 

「そしてゴジラ襲撃から50年経ち、ずっと怪獣が現れてないと思われてますが、実際はそうではありません。ニュースになっていなくてもこのように怪獣はまだ存在しており、ただ人口密集地などに現れないからこちらから攻撃しないだけで、一応今も発信機などを使って居場所が特定されてます。これがその一部ね」

 

 そう言って映しだされたのは、甲の幅が30mはありそうな蟹。鮮やかな翼をもつ2体の巨大な蛾。100mもありそうな巨大な龍のような生物の姿が映し出されていた。

 今もこんなにいるのかと驚く生徒たちだが、誰もがとあることが気になっていた。

 

「どうして攻撃しないのですか?」

 

「下手に刺激して反撃をもらった際の被害が計り知れないため、現状放置という形にはなっています。ですが何か行動を起こした際にIS数機を使って牽制、鎮圧を行うようにされてます。これがそのISですね」

 

 そして先ほどの画像の上から出された画像は、フランスが作ってる量産型ISラファール・リヴァイブの姿だった。だが通常のラファール・リヴァイブとちがい、スラスターの大型化、頭部に特殊なバイザー、背中にISであまり見られない様なマウントラッチが備え付けられており、色も迷彩色が主となっていた。

 

「これらは対巨大生物用として暫定的に作られた兵装で、格納領域(バススロット)には通常の武装の他に背中のマウントラッチにとりつける巨大生物用大型武装の弾などが格納されます。この大型武装については後日説明しますが、気を引き付けるには十分なモノとは言われてますね」

 

 気を引き付ける。それを聞いたとき何人かピンと来たのか少し顔を青くする。だが大半は気づいてないのか「それならさっさと倒せばいい」「それじゃ税金の無駄」と言っている。毎年の事なのか燈も小さくため息を吐いて肩を落とし、さっさと授業に入ることにした。

 

「……では今回の怪獣はこちら。今から丁度100年前に登場した怪獣、1954年に日本に上陸したゴジラですね。身長50m。体重は推定2万トンとされており、ジュラ紀に生息していた陸上過渡期の水生生物がビキニ環礁の核実験で目覚めた姿、と通説では言われてますね」

 

 そして燈は白黒であるがゴジラの画像を何枚も展開する。燃え上がる東京を蹂躙するゴジラの姿は見る者を圧倒するかのような姿をしているが、今の子にとってはそれが分からないのか、だいたいが少しつまらなそうな顔だ。

 

「そしてゴジラですが、マーシャル諸島ラゴス島にいたこの恐竜が度重なる核実験であの姿に変貌したとも言われており、それを裏付ける証拠もあります。それがこの画像ね」

 

 そこに映し出されたのは古ぼけた写真の画像であるが、1体の恐竜が映っていた。黒くゴツゴツとした地肌。ティラノサウルスみたいに肉食獣にしては頭の比率が小さい。そしてその手は他の肉食恐竜と違って太くがっしりしており、4本の指が生えていた。

 

「ゴジラザウルス。身長12mの恐らく肉食で、先ほど言った通りマーシャル諸島のゴラス島に生息していた生物ね。この恐竜が初めて発見されたのは1944年太平洋戦争の真っただ中で、当時ここを防衛していた日本軍が一番最初に発見したと言われてます。ただこの時の姿から戦艦の主砲を数発食らうもそれに耐え、この島に上陸したアメリカ軍兵士をすべて倒したと言われてますね。ただその後、マーシャル諸島では核実験が行われ、それによってゴジラザウルスはゴジラに変貌したと言われてます。ちなみに砲撃した戦艦アイオワからの写真もちゃんと残ってるのですよ?」

 

 その画像は白黒でとても荒いものであったが、2本足で立ったナニカの上半身が砲撃による煙で覆われた姿が写されていた。だがしかしそれでも健在である画像も出され、誰もがその姿に驚いた。

 彼女たちもISの知識を持っている。そのため砲の威力はとても高いというのは誰もが分かっているが、この時から耐えるとは……。

 

「では54年に登場したゴジラについて戻りましょうか。目覚めたゴジラは小笠原諸島大戸島に上陸。そこを蹂躙した後再び海に消え、フリゲート艦隊によって機雷攻撃が行われるけど2度目は日本本土、東京に上陸。最初に品川を中心に街を蹂躙し、その後海に消えますが、再び現れたゴジラは戦車などの攻撃をものともせず皇居をぐるりと回るように東京を火の海にし、再び海に消えました。それにより東京は壊滅。死者行方不明者多数で、1945年の東京空襲の二の舞となったのです」

 

 その時出された画像は、まるで戦争映画を見てるような錯覚を覚えさせるほどの凄惨なものだった。東京は火の海と化し、その中を1体の怪獣が口から火を吐きながら闊歩している。

 これがゴジラ。戦後9年で復興を遂げていた首都東京は再び焼かれ、地獄絵図と化していた。

 

「ですがこのゴジラは人間の手で葬られます。その薬品の名前はオキシジェンデストロイヤーと呼ばれ、今展開された画像の物になります、これは酸素破壊剤とも呼ばれてましたが、これを浴びたゴジラは絶命、白骨化。そして後にこの骨を使い、2体目のゴジラを駆逐するため三式機龍が作られます。……ここまでがこのゴジラの現れてから最期までの記録ですね。ちなみにこの時のゴジラの皮膚は戦車の砲撃でびくともせず、5万ボルトの電流を浴びても怯みもしなかったと言われています。そして口から出す白熱光は、当時の現行するどんなものも焼き払うだけの火力と多量の放射能を帯びており、離れていても被爆するという恐ろしい物でした」

 

 彼女たちにとってはいろいろと衝撃だった。正直彼女たちは怪獣というものを舐めていた。たかが大きな火を噴くトカゲとしか思ってなく、1体でここまでやるのは知らなかった。

 だがしかし、それでもISの方がと思うのが多数で、納得いかなそうな顔を何人かしている。

 

「さて、次回は1999年に現れた2体目のゴジラとなります。では最後に質問のある生徒はいますか?」

 

 この時手を挙げたのは一夏だった。

 

「はい、織斑君」

 

「えーっと……先生はISでゴジラを倒せると思いますか?」

 

「それは……」

 

 沈黙が襲った。正直これは誰もが気になってることだった。いや、大半の女子たちはISの方が強いと思っており、正直この質問は聞くだけ無駄と思っていた。

 

「……どうでしょうね。過去現れた怪獣の中でならISで倒せる、迎撃できるのは多々いますがゴジラはわかりません。この54年現れたゴジラも、核実験に耐えたのならそれだけ核攻撃に耐える頑丈な皮膚も持っており、それにダメージを通すには砲弾などを用いなければなりません。ただこのゴジラならISを用いれば撃退するのは難しくはないと思います。ですがその後現れた2体目のゴジラについては、私もまだそこまで答えは出てませんね……。正直、場合によっては迎撃も難しいかと」

 

「先生!ISが弱いって言うんですか!?」

 

「そんなの間違ってると思います!」

 

 いろいろと文句を言う女子生徒たち。その声は次第に大きくなっていき、静かにしていた子たちはそのうるささに震えだしていた。そして誰かがうるさいと叫ぼうとした時だ。

 

 パァン!

 

 燈が強く手を叩いたのだ。それで一気にシンと静かになる教室。

 

「さて、少し静かにしてください。私はISが強い弱いとは言ってません。正直ISについては適材適所だとは思っています。ただ問題はゴジラ。この50年でどれだけ成長しているか全く予想が付かず、なおかつ今も完全な所在地もつかめていません。

 皆さん?今も日本は薄氷の上の平和だということを忘れないでくださいね?」

 

「……どうしてそこまでゴジラを危険視するんですか」

 

 ブスッとした顔で尋ねる生徒の1人。だが燈はスゥと薄く笑みを浮かべる。

 

「そうですね……私の祖母が当時、三式機龍の操縦士をしたことがあるから、と言っておきますね。……では少し時間が空きましたので、あとはチャイムまで復習などをしていてくださいね」

 

 また優しい口調に戻るが、生徒たちはぽかんとしてるだけで、正直勉強してる子は少ない。

 何とも言えない空気の中、授業終わりのチャイムが鳴り響くのであった。




リメイク前のもあって、どうやって新しく書くかすごい悩みましたが、どうにかこうにか書きあげることができました。
正直このラファール・リヴァイブ、AGPの山田先生+ラファール・リヴァイブを買ってそれで作り上げてみたいと思ってたり。

では感想等々待ってます。


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道場にて

無事書き直しが終わって無事に投稿できます……。さて、皆さんもスマートフォンをポケット入れた際にちゃんとロック掛けておきましょう……もうこんな思いは散々だ……。


では最新話どうぞ


 あれから次の授業に入り、現在の担当教員は山田真耶が行っている。内容はまだ最初の方だから周りにいる女子生徒はほとんど内容を理解しているが、その中で一夏はほぼグロッキーになっており、航も途中から完全に首をかしげている。

 その後は少しハプニングが起きるも順調に授業は進み、そして授業終わり前に千冬が、一夏にISが支給されることを発表したのだ。それでざわめくクラス内だが、嵐の中心である一夏は首をかしげていた。

 

「専用機?」

 

「……織斑、教科書6ページ、音読しろ」

 

「えっと……―――」

 

 ざっくりまとめるとISは国家、企業に技術提供されているが、その中心であるISコアを作る技術は明かされておらず、現在ISコアの数は1167個であるが、開発者である篠ノ之束博士以外には誰にも作れず、そして博士が行方不明のためこれ以上ISコアは作られてないのである。

 

「ほぇー……」

 

 とりあえず自分にこのコアの1つ分が配備されることは分かったが、どう見ても実験体にも感じる。不意に一夏はこの篠ノ之束博士の名前を読んだとき、彼女の姉というのがピンと来た。その彼女というのは……。

 

「あの、織斑先生。篠ノ之さんってもしかして篠ノ之束博士の関係者なのでしょうか……」

 

 やっぱりかと思う一夏。その箒は必死に目をそらしており、少し震えてしまっている。

 

「ああそうだ。篠ノ之箒は篠ノ之束の妹だ」

 

 個人情報なのにばらす千冬。それによって周りが驚き、一斉に箒の元に群がっていく。

 

「あ、あの人は関係な……ま、待ってくれ!そんなに質問されても、あぁ―――!」

 

 あまりの剣幕にオロオロとする箒。とっさに一夏に助けを求めんと顔を向け、そのもう泣きそうな顔を見た一夏は、流石に不味いとすぐに彼女を助けに向かう。

 

「み、皆!箒が困ってるから少し離れてくれ」

 

「一夏……」

 

 そしてしぶしぶ下がる生徒たち。だがその時チャイムが鳴り、授業はそのまま終了するのであった。

 

 

 

 

 

 それから昼休み。一夏、箒、航は同じ席で昼食を食べていたがこの時、箒は別のことで困り果てていた。

 

「なあ箒、俺にIS教えてくれ」

 

「そう言われてもだな一夏……」

 

 一夏の頼みは断れない。それに先ほど助けてもらった恩もあるのだが、彼女もISについては分からないことが多々ありすぎるのだ。それで教えてあげても一夏の成長にはつながらない。

 だが不意に気になるは、航が同じように聞いて来ないことだ。航も一夏と同じISについては素人同然。それなら困ってるはずだろうに、と少し気になる箒。

 

「そういえば航はISについては大丈夫なのか?」

 

「俺?幼なじみが同じ部屋だから教えてもらってる」

 

「幼なじみ?」

 

「ああ。俺らの1つ上のクラスだけどな。手取り足取り教えてくれてすげー優しいよ。まあ、俺が理解できてないからダメなんだけどなー」

 

「いいなー……いっ!?」

 

 一夏は不意に感じた殺気の方を向くや、箒が鬼の形相で睨みつけていたのだ。なぜ睨みつけられてるのか分からないが、不味いことを言ったのだろうと判断した一夏はどう弁明しようか悩む。だがその時。

 

「ねえ、君たちって噂の男子たちよね?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 いきなり声をかけられ、2人はご飯食べるのを中断して顔を向ける。そこにいたのは1人の女子生徒だったが、胸元のリボンの色から3年生だということが分かる。

 いったい何の様なのか、それが気になる2人だが、その中箒はすこし不機嫌な顔になってた。

 

「代表候補生の子と闘うって聞いたけどホント?」

 

「はい、そうですけど……」

 

「でも君たち素人だよね。IS稼働時間どれぐらい?」

 

「えーっと30分ぐらい、かな?」

 

「俺はー……忘れた10時間ぐらいと思う」

 

「え、航そんなに乗ってんのか?」

 

「だから専用機ある言っただろ。それを最低限乗りこなすためにだよ」

 

「そ、そうなんだー。でも相手は代表候補生だよ?軽く300時間は乗ってるんだから、そう簡単に勝てるわけないよ」

 

「は、はぁ……」

 

 一夏の生返事。それで少し顔をゆがめる上級生だが、親近感を持たせるかのように身を寄せてきた。

 

「でさ、教えてあげようか、ISについて」

 

「え、それなら「結構です」箒?」

 

 その時、箒がいきなり遮りって断ってきたのだ。それに顔をしかめる上級生。一夏もいきなりで驚きを隠せず、航も小さく眉をひそめてる。

 

「どういうことかしら?貴女、専用機もないただの1年生よね?」

 

「そうですが私、篠ノ之束の妹ですので」

 

「……っ!?そう、わかったわ……」

 

 篠ノ之束の名を出されたときしぶしぶと下がる。だが彼女は諦めず、即座に航の方を向いた。

 

「俺もすみませんが遠慮します。幼なじみに頼んでますので」

 

 即座に断る航。だがそれで引き下げる彼女でなく、ズイっと身を寄せてきたのだ。

 

「えー、どうしてよー。ほら、強がらずにさ?それにその幼なじみって子より私、強いかもよ?」

 

「あら、ホントかしら?」

 

 その時、また別の声がした。いったい誰なのかと思い、上級生は後ろを振り返る。するとそこにいたのは水色の髪の生徒、更識楯無が立っていたのだ。

 

「さ、更識会長……どうしてここに?」

 

「ん?私もお昼食べにここに来ただけよ。それに私より強いって言う子がいるなら、気になるじゃない?」

 

「えっ……?」

 

 女子は楯無の言ったことの意味が分からず、狼狽してしまう。いや、分からないのではない。分かってしまうのが怖いのだ。楯無はニコッと笑みを浮かべてるが、彼女はソレを見るやゾクッと背筋に寒気が走る。

 

「それにね、私だけの航に手を出されるの嫌なの……わかる?」

 

 ハイライトの無い目。それを見たとき、彼女は本気で恐怖を感じた。

 

「えぇっと……私、用が出来たので、さよならっ!」

 

 即座に逃げ去る女子。それを見送った後、楯無は少し残念そうにため息を吐く。

 

「もう、逃げなくてもいいのに」

 

「何してるんだ、楯無」

 

「ん~?航と一緒に昼食とりたかったから来たんだけど、ちょっと虫を追い払っただけよ」

 

 あっけらかんと言う楯無を見てぽかんとしてる一夏と箒。航はいつものことと苦笑いを浮かべるが、少しなつかしさを感じていた。

 そして席が空いていた航の隣に座った楯無は、そのまま一緒に昼食をいただくことに。ただ楯無の事を知らない一夏。いったい誰なのか航に聞くことに。

 

「航、彼女は?」

 

「ああ、彼女は更識楯無。俺の幼なじみで現日本国家代表」

 

「現……!?」

 

 バッと楯無の方を見る一夏。楯無は小さく首をかしげるや、ひらひらと手を振り、それを見た一夏はぺこりと会釈をする。そしてそのまま一夏と箒を紹介した後、いろいろ話してたら気づけば全員食べ終わっていた。

 そして航がお腹いっぱいで満足してる時だった。

 

「ねえ航。放課後、時間ある?」

 

「へっ?」

 

 それはいきなりの誘いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だー、くそ!勝てねえ……俺、弱くなったなぁ」

 

 現在放課後。IS学園にある道場にて、一夏は箒と剣道の試合をしていた。理由は単純で、ISというのは防具の延長線ということで、箒に勧められて剣道をしているのだ。だが一夏は一時期剣道を止めてたため、その分体が鈍ってしまっていた。だがある事件を見るや、一夏は再び剣を取り、ずっとそれから素振りを続けていたのだ。そして今回ずっと箒とやり続けていた。

 だがしかし、箒との実力差が開いていたため何度も負けてしまい、疲れで尻もちついてしまっている。

 

「そう思うなら立て!そして剣を持て!」

 

「そうは言われてもなあ……」

 

 竹刀の切っ先を一夏に向ける箒。だがもうお互いずっと打ち合い続けてたため、一夏もそうだが箒も息が上がっており、流石にこれ以上してもお互いに辛いだけだ。だからもうそろそろ今日は止めようと提案する。

 

「たのもー」

 

「ほー、ここが……」

 

 その時、白道着に紺袴という日本古来の武芸者スタイルで現れた楯無と普通に制服姿で現れた航。いきなり何だと振り向く2人だが、お昼の事を思い出すや何事もなかったかのようにお互い防具を外していく。

 

「それじゃ、私ここで待ってるから」

 

「分かった。じゃあ、着替えてくる……なあ一夏、お前どこで着替えた?」

 

「ん?あぁ、案内するよ」

 

 一夏についていくようにして消える航。そして楯無と箒が道場に残されるが、箒はチラチラと楯無の方を見ている。

 

「あら、どうしたの?」

 

「あの、改めて聞きますが更識先輩は航とはどういう関係で?」

 

「彼とは幼なじみ……と言いたいけど、一応許嫁の関係でもあるわ」

 

「ほう、許嫁……許嫁!?」

 

 驚きのあまり二度見してしまう箒。一体どういうことなのか聞こうとしたが、不意に自分が一夏と許嫁だったらというのを想像してしまい、顔が真っ赤になってしまう。それを見て少し楽しそうにする楯無は、待ってる間に準備運動を済ませ、いつでも相手できるようにしていた。

 

「ふふ~ん……ふふ、久しぶりの手合わせね」

 

「待たせた」

 

「んん、大丈夫よ」

 

 そして着替え終わり、そこに現れた航は楯無と同じ道着姿であったが、袴の裾が紐で縛られており、通常のソレとは少し異なった姿をしている。

 そして2人は道場の真ん中に立つ。

 

「そういえばここ、畳じゃないが大丈夫か?」

 

「あら、私の心配してくれるなんてほんと優しいのね」

 

「まあなー」

 

「あ、篠ノ之ちゃん。貴女が試合の掛け声してその時計のスイッチ押してくれない?」

 

「あ、はい……では、はじめ!」

 

 箒の掛け声ととも足元に置いてあった時計のスイッチを入れる。

 お互い手をだらりと下げた自然体。だがしかし、空気は張りつめており、誰も咳すらすることができない。真剣な顔でじっと見る航と、少し楽しそうな笑みを浮かべてる楯無。お互い身長差は15cmはあるが、果たしてこの手合わせでどう影響が出るのか……。

 先に仕掛けたのは航だった。床を蹴って一気に距離を詰め、そしてジャブ程度に拳が振るわれるが、楯無はそれを難なく躱す。

 それは分かってたのか、航は前まわし蹴りを放った後に連続で後ろ回し蹴りを放ち、まるで独楽のように回転するが、楯無はそれを後ろに体をのけぞらせて躱し、そのまま後方宙返りで着地。だが航は間伐入れずそのまま突きを繰り出だした。

 

「甘い甘い」

 

 だがそれも当たらない。クルリと回って躱した楯無はそのまま航の頭目掛けてローキックをする。だがそれを躱す航だが、放たれた蹴りはそのまま戻るようにして航の側頭部に当たる。

 

「ぐっ……」

 

 航は不意打ちによろめいてしまい、その隙を突いた楯無はそのまま航の腹に回し蹴りを浴びせた。だが航はそれで揺るがず、まだ問題なさそうだ。逆に楯無は少し顔をしかめており、自分の足を労わるようにさすっている。

 

「硬っ……航、前よりさらに鍛え上げてるわね。一瞬岩でも蹴ったのかと思ったわ……」

 

「そりゃもちろん。じゃないと生きていけないからな」

 

「なら、もう少し本気でもいいかしら?」

 

「……お手柔らかに頼むよ」

 

 ふふっと笑みを浮かべていた楯無だが、その瞬間に一気に距離を詰め、航が腕で防御した上から何発も叩き込み、そして横腹に蹴りを浴びせる。

 だが航もそれに対して横一閃に腕を振るうが、楯無はすでに下がっており空振りに終わる。

 

「消え……!?」

 

 見ていた一夏は一瞬の出来事で目を見張るが、そうしてる間にも再び楯無が詰め、航が付きだした拳を手に取るや、そのまま脇固めで腕を極めようとする。だが航もそれに反応し、とっさにその場で回転して抜け出すやそのまま振り向きざまの裏拳を放つ。

 だが楯無もそれを大きく仰け反って躱し、跳ね上がった足が航の顔面目掛けて放たれるが、航は後ろに下がって躱した。

 

「あぶね……」

 

 警戒心を解かない航。だが楯無は不審な笑みを浮かべるや、手を下ろしてユラリと航に近づいていく。いったい何がしたいのか。航は強く警戒するが……そのまま航の手の届く距離に届いた時だ。

 まるで彼に甘えに行くかのような動きだった。楯無はスルリと航の懐に入り込むや、そのまま彼の胸元に体を寄せ、べったりと引っ付く。

 そして両手を彼の胸に当て……。

 

「っ……!?」

 

 航は顔をゆがめるや、彼女の肩を持って即座に引きはがす。そしてミドルキックをするが、楯無に当たったと思ったら開脚して一瞬で床に伏せ、そのまま後ろに転がり下がって立ち上がった。

 

「もー、いきなり引き剥がすなんてひどいじゃない」

 

「鎧通し使おうとしたヤツが言うセリフかそれ」

 

「あー……えへ、ばれちゃった?」

 

「似たようなのは使えるからな」

 

 鎧通し。元は戦国時代に生まれた技で、鎧の上から人体に直接攻撃するために生み出されたと言われており、それを楯無は航の胸部に放とうとしたのだ。だがとっさの判断で使われる前に離し、結果未遂で終わったのである。

 航は小さくため息を吐くやダラリと手を下ろし、コキコキと肩を鳴らす。

 

「さて、少しふりだしと戻るか」

 

「あら、まだ付き合ってくれるの?」

 

「そりゃ彼女に誘われたことを逃げ出したら男じゃないだろ?」

 

「ふふ、それはとても嬉しいわ」

 

 お互い楽しそうにしている。だが航の顔から笑みが消えると同時に、彼は楯無に向けて拳を振った。

 

「もう、せっかちな男は嫌われるわよ?」

 

「それは勘弁だな!」

 

 航の拳が空を斬る。楯無はいまだに彼の攻撃を舞うように躱し続けるが、少しずつ息が上がり始めていた。それもそうだ。男女としてもあるが、航が攻撃を受けても動きが衰えず、それに楯無は躱すにしても動きが派手のため余計に体力使ってるのだ。

 そしてついに……。

 

「あら?」

 

 楯無は自分の腕が掴まれ、そのまま体が宙を浮く感覚を味わう。そして彼女が見たのは逆さまに見える道場の姿だった。

 

(軽い……!)

 

 まるで羽を投げたような感覚を航は味わう。

 キレのある背負い投げ。そのまま床に落とされるかと思われたが、楯無は空中で身を捻ってそのまま綺麗に着地。そして袖を掴んでる手を振り払おうとするも、がっしりと掴んだ手はそれを許さず、そのまま関節技に入ろうとするも、これもまたスルリと彼の手を軸に回って逃れる楯無。

 そして今度はちゃんと袖をから手を外し、航から距離を取った。

 

「ふふーん。まだまだね、航」

 

「まるで猫だな」

 

 それを見ていた一夏や箒も同じ感想だった。荒々しく力強い航とは反して、楯無は猫の様にしなやかで滑らかな動き。

 剛と柔。そんな2人は再びぶつかり合い、航は楯無の攻撃を流すかわざと受けてそのカウンターで攻撃を繰り出す。だが楯無もそれをほぼ躱し、そのまま流れるように攻撃を止めない。

 そして楯無は再び航の懐に潜り込み、掌を彼の胸に当てる。それを読んでた航は両掌で楯無挟み込もうと勢いよく閉じようとした。

 

 

 ピピピピピピ

 

 

 そのとき、近くに置いてあった時計から音が鳴った。それによってお互いの動きが止まるが、航の手は楯無を捉えるほんの数センチというスキマしかなく、楯無も放とうとするタイミングだった。

 

「あ、もう時間になっちゃった」

 

「ぬ、むぅ……」

 

 お互い不完全燃焼のため、航は少し顔をしかめる。だが楯無は少しニヤッとすると、彼に身を寄せて来た。

 

「ねえ、そのまま抱きしめてくれない?」

 

「ん?ん……」

 

 強張っていた手の力を抜き、そのままギュッと楯無を抱きしめる航。そんな楯無も彼の胸元に顔を埋め、嬉しそうに航に身を預けていた。2人だけならずっと抱きしめ続けてただろう。だがしかし、ここには他にも2人いることを忘れていた。

 

「し、神聖な道場でそんなことを!」

 

 箒は顔を真っ赤にして声を上げる。それを見るや苦笑いで離れ、吼え続ける箒を宥める楯無。航は彼女たちから距離を取るや、そのまま一夏の隣に座り、大きく息を吐く。

 

「あー疲れた。おまけに地味にあちこちいてぇ」

 

 そして見えた肌は部分部分が青く変色しており、それを見た一夏は顔をしかめて少し引いてる。

 

「うっわ……それ結構な力で殴られてないか?」

 

「そりゃ楯無も強いからなぁ。おまけに向こうもこっちもまだ本気出してないし」

 

「本気じゃないって……」

 

「まあ、これはまだお互いお遊びだしな」

 

「えー……」

 

 ただでさえあの戦いを見て内心熱中していた一夏だが、これを聞くやさすがに呆れを隠せないのか、ため息を漏らす。

 そして2人は、楯無に脇をくすぐられて笑い続けている箒の姿を眺めていた。




そういえば昨日はシン・ゴジラが上映されて3年目の日でしたね。みなさんはシン・ゴジラ見たときどう思いましたか?自分はホントにすごいゴジラを見たと思いました。


さて話が逸れましたが、次回はクラス代表決定戦となります。リメイク前では書かれなかった内容となってますが……ではお楽しみに。


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決戦 クラス代表決定戦 上

さて、久しぶりの更新です。今回はリメイク前だとカットされた内容となっております。では見て行ってください。


 あれから何やかんや航と一夏はクラス代表決定戦に向け、お互い自分のできることを精いっぱい行って来た。座学やお互いが得意とする剣道や武術などを復唱、時には航と一夏が相手しあうなど少しでも勝率を上げようと精いっぱい頑張っていた。

 そして1週間経ち、ついに決戦の日。

 ここは第3アリーナのピットにつながる廊下。そこに試合を臨む一夏と航、そして応援に来た箒と楯無がいた。一夏と航はお互いISスーツに着替えており、一夏はへそ出しのツーピースシャツにハーフパンツといった紺色のISスーツで、航は一夏とは違ってへそを出してないタイプだが、なぜかその上からパーカーを羽織っていた。

 

「ついにこの日が来たな」

 

「そうだな」

 

「最初の試合はオルコットらしいぞ」

 

「そうだな」

 

「更識先輩がオルコットの機体の動画持ってきてくれたから、少しは参考になったな」

 

「そうだな」

 

「一夏、体調は大丈夫か?ほら、スポーツドリンクもあるぞ」

 

「ありがとう箒。でさ……」

 

「うむ」

 

「俺の機体、いつ来るんだ?」

 

「……いつだろうな」

 

「いつだろうな……じゃねえよ!俺、どうすればいいんだ!」

 

 そう、まだ一夏の専用機が到着していないのだ。このままでは学園の訓練機を使わなければならず、そうすればただでさえ低い勝率がガクンと落ちてしまう。それで頭を抱える一夏だが、箒はこれをどうにか励まそうと頭の中を回転させる。

 

「お、落ち着け!ほら、えーっと……落ち着け!そうすればどうにかなる!」

 

「そこ何かしろよ!余計気になるじゃねえか!」

 

「わ、私にどうしろというのだ!?」

 

 そのまま言い合いに発展してしまう二人。だが内容は割と馬鹿らしく、どちらとなく笑ってしまえばそのまま二人とも笑いあってた。

 そしてその光景を見てる航と楯無。

 

「あんな風に言い合えるなんて緊張解れてるみたいね。航は大丈夫?」

 

「ん、大丈夫」

 

 そうは言うが、航は腕を組んだまま少しピリピリさせた雰囲気を出しているが不意に彼の口に小さく笑みが浮かんでるのが見えたため、邪魔してはいけないと楯無は何も言わずに彼の隣に居続けた。

 それにしても遅い。さすがに相手を待たせるのは不味いと思い、楯無は航を先に戦わせるように上に通信をつなげようとした時だ。

 

「織斑君織斑君織斑君!」

 

 その時、真耶が急ぎ足でこちらに向かって来た。そして到着するや、息を荒くしたまま少し咽ており、誰もがそれを心配そうに見ていた。

 

「そ、その、大丈夫、ですか?」

 

「はぁはぁ……織斑君、来ましたよ専用機!」

 

「さっさとしろ織斑。早く乗れ」

 

 いつの間にやって来たのか千冬がすでにそこにいるが、一夏は専用機の名を聞くやとっさに千冬の方を向く。その後千冬姉と言ったため叩かれる一夏だが、その後機体はピットに搬入していると言われ、背中押されながらそのままピットに入ると……。

 そこにいたのは白だった。

 

「これが、俺の……」

 

「はい。これが織斑君専用IS“白式”です」

 

 そこに鎮座する1機のIS。それについて真耶が説明しようとするとき、一夏は無意識にその装甲に手を触れていた。

 キィンと頭に入る感覚。何か懐かしさを感じた一夏だがそれもつかの間、時間がないため教師2人の力を借り、白式に乗っていく。

 

「そうだ。背中を預ける感じにしろ。あとはシステムが最適化してくれる」

 

 そして展開されていた装甲が身を包むように締まり、一夏は動作を確認するように手足を動かす。

 

「すげぇ……前使ったヤツとは全く違う……」

 

「どうだ、一夏?」

 

 教員としてでなく一家族として聞かれる一夏。姉に心配されている。少しふがいなく感じながらも、一夏は力ずよく、威勢のいい声で答えた。

 

「ああ、行けるよ千冬姉」

 

 小さく笑みを浮かべる千冬。これなら心配せず送り出せる。コクリとうなずくや、それに反応してかカタパルトのゲートがゆっくりと開き始める。そこから映し出されるは青い空と、ぐるりと囲みこむアリーナの光景。

 一夏はこれまで世話になった箒の方を向き、グッと親指を立てる。

 

「箒、行ってくるよ」

 

「……ああ、勝ってこい」

 

 そしてカタパルトに足を乗せ、そのまま発射シーケンスを終え、そして出撃しようとする。

 

「一夏!」

 

 この時航に呼び止められた。振り返るとそこには小さく笑みを浮かべた航が一夏めがけて拳を突き出していた。

 

「思いっきりぶちかましてこい」

 

「ああ!」

 

 拳を合わせる一夏。

 もう何も怖くない。一夏は己を鼓舞するように叫ぶ。

 

「織斑一夏、白式、行きます!」

 

 強いGを感じながらも、一夏はカタパルトから射出され、そのままセシリアが待つアリーナの中へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの中央。そこにセシリア・オルコットはいた。

 彼女の機体は全体が青く、4枚のフィン・アーマーを背に従え、まるでどこぞの王国騎士然とさせる気高さを見せる。そして彼女の手に握られてる、身長より大きい大型のレーザーライフル“スターライトmk-Ⅲ”がとても目立っていた。

 

「待たせたな」

 

「あら、来るのが遅いから逃げたのかと思いましたが……逃げずにいらしたのは褒めてあげますわ」

 

「そりゃどうも」

 

 お互いの距離は50m。すでに試合開始の鐘は鳴っているため、いつ仕掛けられてもおかしくない。だがセシリアは余裕からかライフルの銃口を下ろし、ビシッと一夏に指を指して来た。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

「チャンス?」

 

「わたくしが一方的に勝つのは自明の理。だからボロボロな姿をさらしたくなければ、今ここで謝るというのなら許してあげなくってよ」

 

 その時、白式が敵ISの武装が射撃モードに移行と警告を表示。それを聞くや、一夏は目をスゥと細める。一夏は勝てるか分からなくても、ただで負ける気はない。

 

「それはお断りだ。俺には俺のプライドもある。そしてたとえ勝てなくとも、アンタに一矢報いて見せる!」

 

「そうですか……それではお別れ、ですわっ!」

 

「いっ!?」

 

 そしてライフルからレーザーが放たれる。一夏はとっさに躱すが、それを待ってたと言わんばかりに2射目が放たれ、肩アーマーが破壊される。

 

「ぐぅ……!」

 

 映像とはずっと違う、この衝撃や圧力。すぐにバランスを戻した一夏は再び放たれたレーザーをおぼつかない動きながらも躱していき、どうにかバランスを戻す。

 

「あら、少しは動けますのね。ならこれはどうでしょう。行きなさい、ティアーズ!」

 

 ガチャンという音と共に彼女のフィン・アーマーから4つのビットが切り離され、獲物を見つけた狼のごとく一夏めがけて群がり、そして銃口から先ほどのライフルほどでなくてもレーザーが放たれる。

 映像では知っていても、実物を見ると話は別だ。一夏はとにかく今は回避に専念しており、この状況を打開しようと必死に動き回っている。

 

「くそっ、装備は!?」

 

 そして白式が選んだ武器を手に展開したが、それは1振りの近接ブレードだった。たしかに一夏は射撃の仕方など知らず、剣1つを振って来たためとても使いやすい武器だった。だがしかし、この状況下では無用の長物にしかすぎず、他に使えそうのがあるか現在展開可能な武器一覧を見るが、この展開されてるブレード1つ以外何も入っておらず、一気に絶望的な顔になってしまう。

 

「武器はこれだけか、よぉ!」

 

 叫ぶと同時に咄嗟に地面に落ちるように動く。すると頭上をクロスするように数本レーザーが通りすぎ、そのまま一夏は地面すれすれを飛んで飛んでくるビットの範囲を少しだけでも狭くしようと努める。

 

「おほほ!この中距離射撃型のわたくしにそのような武器で勝とうとは愚かではなくて!」

 

 様々な場所から飛んでくるレーザー。それを一夏は紙一重ながらも躱し、どうにか食らいつこうとする。だが距離を詰めればすぐに離され、ブレードを振うチャンスなどほぼ無い。

 その間、ひたすら一夏はセシリアの攻撃を躱し続けた。

 

 

 

 

 

「試合開始から27分。よく持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」

 

「そりゃどうも!」

 

 未だに射撃の雨が止まず、一夏は反撃するチャンスがいまだないことに焦燥感が募っていた。逆にセシリアは余裕の表情を見せており、どちらが優勢からはっきりと見えていた。

 だがしかし、一夏も馬鹿ではない。ずっと逃げていたおかげでセシリアの機体の癖が少しだけわかったらしいが、やはり逃げることしかできない。

 そして一夏は背を向けるようにして逃げ出した。

 

「くそっ……!」

 

「逃がしませんわ!」

 

 一夏を追いかけるビット。だがそれが一夏の狙いだった。

 

「そこだ!」

 

 咄嗟に振り返り、ビットを1つ斬り裂く一夏。それに驚いたセシリアは付近にいたビットの動きを止めてしまい、一夏は返し刃にそのビットを斬り裂き、そのばで火球に転じさせる。

 

「この……わたくしのブルー・ティアーズを!」

 

 まさかビットが2機破壊されたことにより、セシリアは残りの2機に攻撃命令を出す。だが頭に血が上った状態のため少しながら雑な動きとなり、先ほどより穴が出来たのを見た一夏は展開されてたブルー・ティアーズのレーザーを無理矢理潜り抜けた。ビットが展開されてる間はセシリアはまともに動けない。その隙を狙い、一夏は切っ先をセシリアに向ける。

 

「しまっ……!」

 

「ここ、だぁああああ!」

 

 後は突撃し、そのまま切り裂く。これが今一夏に思いつく唯一のチャンスだった。その距離はみるみる縮まり、もうすぐ届く。

 

「い、インター・セプター!」

 

 だがしかし、叫び声とともに彼女の左手に咄嗟に展開されたショートブレードで、近接ブレードを受けるセシリア。

 勢いで折れるかと思われたインター・セプターだったが、大きく火花を散らしながら近接ブレードを受け流し、勢いを流された一夏は思いっきりつんのめってしまう。

 そしてお互いの体が接触してしまうが、セシリアは慣れないタックルで一夏を押し戻し、スターライトmk-Ⅲを一夏に向ける。

 そう、最初を受け流すだけでよかったのだ。そのできた隙が一番の狙いだったのだ。

 

「甘いですわ!」

 

 そしてスターライトmk-Ⅲの接射をまともにくらい、絶対防御も発動したことによって白式のシールドエネルギーが大きく減ってしまう。

 そして一夏から距離をとったセシリアは、停止していたビットを再び稼働させ一夏を囲むように配置させる。

 

「驚きましたわ。初心者なのにわたくしの懐にまで飛び込んできたものは初めてですわ。その雄姿に讃えて、この一撃で終わらせて見せましょう」

 

 そう言うと、ライフルの銃口を一夏に向けるセシリア。そしてロックオンしたとき、不意に彼と目が会った。この絶望的な状況下なのに、まだ諦めていないその目。セシリアはその気迫に少し飲まれそうになる。

 

「はぁ……はぁ……まだだ……まだ、終れねぇ……!」

 

「っ……!これでフィナーレですわ!」

 

 そして引き金を引き、放たれたレーザーは一夏の胸部に直撃した。

 

「ぐあぁぁぁ!」

 

 そのまま一夏は地面に墜落。その衝撃で大きく土煙が立ちこめ、彼の姿が見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

「一夏っ!」

 

 それをピットで見ていた箒は叫び声をあげてしまう。

 

「機体に救われたな、馬鹿者め」

 

 だが千冬は小さく笑みを浮かべ、じっと画面を見ていた。

 

「一夏、まだ終わってないだろ?お前の力はまだそんな物じゃない……」

 

 航はグッと自分の拳を握り、力を入れる。

 そして見つめる先、そこの土煙の中で一つ白が動いた。

 

 

 

 

 

「……確かに多少は出来ましたが、まあ、こんなものでしょう」

 

 冷たい目で墜落した場所を見るセシリア。たしかに一夏は頑張った。だが彼女に食らいつくには実力も機体性能も足りず、最後のあの食らいつき以外は惨めにしか感じなかった。そして次の試合のため、ピットに戻って補給に向かおうとする。

 だがセシリアは気づいていない。まだ試合終了のブザーが鳴り響いていないのを。

 

 

 ――警告!敵IS健在――

 

 

「なっ……!?」

 

 セシリアは咄嗟に振り向くが、白式は土煙の中で姿が見えない。どうせ虫の息だと思いながらも、いつでも攻撃できるようにビットに指示を送る。

 そして煙の中から声が聞こえた。

 

「まだ、終わってねえぞ……俺も、白式も!」

 

 そして煙が一気に晴れたとき、そこにいたのは先ほどの時と違い、工業的な凹凸が消え、機体がシャープになり、白さが鮮明になった白式の姿であった。それに損傷した装甲も綺麗に修復されており、まるで進化したと言わんばかりの印象を与える。

 

「ま、まさか一次移行(ファースト・シフト)!?あ、貴方、今まで初期設定で戦ってたの言いますの!?」

 

 そのことをショックに感じたセシリア。だが一夏はそれを後目に今の自分の姿に驚いていた。

 レーザーが直撃する直前、初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ) が終わりそれを承認したら今の姿になっており、そして彼の手に握られていたのは近接ブレードとは違う、新たな刃が握られていた。

 その名は雪片弐型。姉の使っていたISの専用武装“雪片”の名を継ぐ刀。それを見た一夏はグッと柄を握りしめ、これを手に入れたことに歓喜、そして姉に感謝した。

 世界最強を手に入れた刀。それを継ぐものとして、この試合負けるわけにはいかない。

 そして意志のこもった強い目でセシリアを睨みつけた。

 

「俺は最高の姉を持ったよ……」

 

「何を言っていますの……?」

 

「ああ、負けない。この刀にかけて……な」

 

 その時、雪片弐式の刀身が割れ、そこから光の刃が伸び始める。

 いったい何をする気か。まだ一夏はその場から動いていないがヘタに何かされる前にと、セシリアはすぐさま狙いを付けて、引き金を引く。だが一夏に当たろうとしたとき、白式がウィングスラスターを広げ、瞬時に回避されるや先ほどとは全く違う速度でセシリア目掛けて突っ込んできたのだ。

 

「くっ、ティアーズ!」

 

 2機のビットがそれを拒もうと一夏の元に繰り出される。だがしかし先ほどと全く違う、滑らかな動きでレーザーを躱し、そしてすれ違いざまに2機のビットを斬り捨てる一夏。

 

「速い!?」

 

 ライフルを撃つが、それを一夏が何度も躱していく。次第に距離が詰められ、このままでは一夏の得意距離に持ち込まれてしまう。

 さっきとはずっと違う。一夏は機体に振りまわされそうになりながらもセシリアを追い詰めていき、そして雪片弐型を構え、時折掠めながらも突撃を止めない。

 そしてついに、完全にセシリアを捉えた。

 

「これでっ!」

 

「甘いですわ!ビットは6機ありましてよ!」

 

 そして腰だめに装備してあったミサイルビットを射出し、一直線に一夏に向けて飛ばす。もう躱すには今の一夏には難しい距離のため、このまま当たればただで済まないだろう。

 

「まだだぁ!」

 

 だが一夏は雪片を振り投げ、そのまま回転しながら飛ぶ雪片とミサイルが直撃し、大爆発が起きる。いったい何が起きたのか分からないセシリア。だがしかし、ブルーティアーズが上からの警告アラートを鳴らす。

 

「上っ!?」

 

 そう。煙を抜け出し、宙を舞ってた雪片弐型を掴んだ一夏は、セシリア目掛けて振り下ろしたのだ。

 

「うぉぉぉおおお!!!」

 

 もう逃げ切れる距離でもライフルを撃てる距離でもない。このまま当たれば一気に形勢逆転だ。そう一夏は信じ、刃がセシリアを捉える。

 

「インター・セプター!」

 

 だがセシリアはライフルをとっさに格納し、その手に出したのは先ほどのショートブレードだった。それを両手で支えて雪片弐型を受けるセシリアだが、今の一撃で亀裂が入り、一気にピンチに陥ってしまう。

 

「くぅぅ……!」

 

「おち、ろぉぉ……!」

 

 力技で押し切ろうとする一夏。だがセシリアもそれに負けまいと力を込めるが、一夏が上から押してるのもあってどうしても押されてしまい、もう持たないため万事休すとなるセシリア。

 そしてついに、インター・セプターが割れた。

 

「しまっ……!」

 

「俺の、勝ちだぁぁぁ!」

 

 そのまま振り下ろせば一夏の勝利がほぼ決まる。誰もがそう思っていた。

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

「「えっ……?」」

 

 ぴたりと刃がセシリアに当たる直線に止まった。

 誰もが理解できてなかった。この一太刀を振り下ろせば勝利。だがしかし、一夏はその前に負けてしまっている。

 

 

「まったくこの馬鹿者め……」

 

 その中、唯一理解している千冬は呆れたようにため息を吐くのであった。




中・遠距離系代表候補生が近接を疎かにするほど弱いわけがない。


さて、次回は「決戦 クラス代表決定戦 中」をお送りいたします。お楽しみに。


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決戦 クラス代表決定戦 中

どうも、最近夏の暑さに参ってる妖刀です。夏になってホントに毎日暑いですよね。もうゴジラにでもなって海を泳ぎたいぐらいです。

では今回のお話は前回、一夏はセシリアをギリギリまで追い詰めるも負け、そして第2試合である航とセシリアの試合が待っていた。


では本編どうぞ!


 あれからピットに戻った一夏に待っていたのは、千冬からありがたーい説教であった。現在一夏は固い床の上で正座しながら千冬の説教をくらっており、もう雰囲気からすごい落ち込んでるのがよくわかる。

 その後、真耶に宥められて説教が終わるが、一夏はどんよりと暗い雰囲気を出しており、それを見た航たちもさすがに苦笑いを浮かべるしかできない。

 その中、箒は彼に寄り添うや、そのまま一夏の手を取った。

 

「一夏……代表候補生相手にとても頑張ったぞ。だから落ち込むな。次勝てばいいんだ」

 

「箒……」

 

 それが効いたのか落ち込んでいた一夏が徐々に元に戻り、そしていつもの一夏になった。それを見届けた千冬は小さく笑みを浮かべ、そして今度は航の方を向く。

 

「さて、次は篠栗。貴様の番だ。準備は出来てるか?」

 

「大丈夫です。いつでもいけます」

 

 そう言って羽織っていたパーカーを脱ぎ捨てる航。そして彼の黒のISスーツが露わになるが、彼の姿を見たとき、楯無以外の誰もが驚きや少し顔をゆがめたりと十人十色の反応を見せた。

 その中一夏は恐る恐る彼の背中を指さした。

 

「航……その背中は?」

 

 彼の背中にあったもの。それは10cmにはならないだろう複数の背びれだった。それは背骨に沿うように生えており、よく見たら肋骨の部分にも小さく背びれが生えているのだ。

 

「ああ、これか?生えて来た」

 

「生えて来たって……」

 

 あっさり言われたためどう返せばいいのか分からず、一夏も困り顔を浮かべてしまう。だが航はそんなのを気にせず、そそくさとピットの真ん中に立ち、ゆっくりと目を閉じた。

 

「皆、航から離れて」

 

 その時、楯無の指示の元、航から大きく離れる面々。いったい何が起きるのか……。その中心で航は目を閉じたままだが、何か気を張り詰めているように感じる。そしてすぅっと目を開く。

 

「来い、機龍」

 

 それに呼応し、光始めるドックタグ。そしてまばゆい閃光がピット内を包んだと思ったら、轟音と振動がそこにいた人たちに襲い掛かった。それにびっくりし、こけてしまう一夏と箒。楯無もバランス崩すも、とっさに正して航のいた方を見ていた。

 そして光が収まり、その巨体が露わにとき、一夏はその姿を見るや言葉を無くしてたが、ぽつりとその名をこぼす。

 

「三式、機龍……?」

 

「機龍……いや、この時は四式機龍ね。それがこの機体の名前よ」

 

 そう説明する楯無。

 鈍い銀色の全身装甲ボディ、三列に並んで生えている背びれ、鋭い手足の爪に長い尻尾。極め付けはゴジラに似た頭部。それに背部と腕部には黒と銀を主とした色で仕上がった武装が装備されており、その姿はまさに50年前にゴジラと共に海に消えた対G兵器、三式機龍とほぼ一緒だったのだ。

 その姿。それを全員が“見上げて”おり、そして長い尾がユラリと上がり、そのまま地面に叩き付けられる。

 

「あの、更識先輩……。コレ、大きくないですか?」

 

「大きいわね」

 

「大きいわねって、これのどこがISなんですか!?」

 

 箒はありえないと言わんばかりに叫ぶ。この機体、身長が5mと普通のISと比べてとても大きいのだ。ピットは元から天井高めに作られてるが、申し訳程度に身をかがめ、少し窮屈そうにしている機龍。

 千冬も真耶もぽかんとしており、誰もがその姿に圧巻させられていた。……ただ1人を除いて。

 この時、箒はプルプル震えてる一夏の姿を見る。

 

「……げぇよ」

 

「一夏……?」

 

「すげえよ航!これ三式機龍そっくりじゃねえか!いいなぁ!」

 

 目を輝かせ、その周りを回るようにして機龍を眺める一夏。その姿はまるで好きなものを見た子供のように見えるが、彼からしたらロマンのようなものが目の前にあるのだ。そんなの無理もないだろう。

 

「黙れバカ者が」

 

「んぐっ!?」

 

 頭に出席簿をくらって沈黙する一夏。そして千冬はじろりと楯無の方を見るや、楯無はそれに気づきヒラヒラと軽く手を振り返す。これはどういうことかと詰問しなければ気が済まないが、今はこの機龍がどう戦うのか、それが少し気になっていた。

 

「航、いつでも出れるわよ」

 

「わかった。……篠栗航、機龍、行くぞ」

 

 ズン、ズン、という重い足音を響かせながらカタパルトに向かうが、機龍はカタパルトを無視してそのままアリーナに向けて歩いていく。

 

「篠栗、カタパルトに足を乗せるように指示が出たはずだが?」

 

「織斑先生無駄ですよ。機龍は重すぎるから特注のカタパルトじゃないと重量オーバーで飛ばせません」

 

 それを聞いた千冬は、呆れた顔で出撃を見送るのであった。

 

 

 

 

 

 アリーナ中央。壊れた装備を交換したセシリアは、次の試合に向けて精神統一を図っており、そして先ほどの試合を振り返っていた。

 

(素人とはいえ専用機、ここまで実力差を埋めてくるとは思いませんでしたわ……。もう油断いたしません。あんな無様な勝利ではなく、ちゃんとした勝利を取って見せましょう……!)

 

 グッと拳を握りしめるセシリアだが、観戦席からは飛んでくる応援はすべてカットしていた。どうしてかというと……。

 

「オルコットさーん!次も勝ってー!」

 

「生意気な男なんてボコボコしちゃって!」

 

 応援されているのはわかる。だがこのような応援は如何なものか。

 セシリアも確かに女尊男卑の考えは持っているが、ここまで露骨にされると何か嫌悪感と共に鳥肌が立つのだ。そのため観戦席の声を聴かないようにしており、再び集中する。

 その時、ピットの入り口が開いた。この後カタパルトに乗せられて篠栗航が飛び出してくる、そうセシリアは身構えた。

 だがしかし、いまだにカタパルトの音が一切せず、それどころか何かが歩いてる音らしきものが聞こえたのだ。

 

「何ですの、この音は……」

 

 ISにしては重すぎる。それに普通はカタパルトを使うはずなのにその様子も見えず、いったい奥から何がやってくるのか、セシリアは警戒しながら見つめる。

 そして影になってる所からその姿を現した時、セシリアはそれを見るや息をのんだ。

 

「何ですの、あれ……」

 

 巨大な銀色の龍が現れた。それがセシリアの最初の感想だった。だがその大きさは自身のISより一回り以上大きく、鈍く光る銀がその威圧感を大きくしてるかのようだ。

 

「何アレ……」

 

「大きい……」

 

「あれってホントにIS……?」

 

 観戦席も困惑するが、その大きさの迫力に飲まれ誰かが息をのむ。機龍はカタパルトの先端に立ち、周りを一瞥した後、そのまま飛び降りたのだ。地に着こうとする前に太腿部スラスターを展開、そしてゆっくりと高度を上げて行き、セシリアがいる高度へと上がる。

 

「待たせた」

 

「それ、本当にISですの……?」

 

「一応、な」

 

 怪訝な顔で見るセシリアだが、そういうのなら仕方ないとスターライトmk-Ⅲを展開。そして銃口を機龍に向けた。

 

「今度は最初から行かさせてもらいますわ」

 

「ははっ、やっぱり一夏はアンタに一矢報いてたか」

 

「ええ、とても驚きましたわ。さて貴方も同じようなものなのでしょう?」

 

「もちろん負ける気はない」

 

 それを聞くやフフッと笑うセシリア。そして武器の安全装置を解除し、いつでも撃てるようにする。

 

『試合開始!』

 

「お先いただきますわ!」

 

 セシリアはスターライトmk-Ⅲの引き金を引き、レーザーはそのまま機龍へと向かう。だが機龍は体を捻り、尻尾を振うことでレーザーをかき消した。

 

「なっ……尻尾は攻撃用の武器というわけですか」

 

 斬り払いと同じと判断したセシリア。そして再びレーザーを放つと、機龍は太腿部スラスターを輝かせてそのまま躱した。

 

「お返しだ」

 

 機龍がジッとセシリアを見るや、それに連動するように左右からせり出したバックユニットの砲身部と言える部分が連動して動く。すると突如、セシリアは複数からのロックオン警告が鳴り響いたことに驚いた。

 

「全弾発射!」

 

 そして機龍のバックユニットから12発のロケット弾、6発のミサイルが放たれる。ロケット弾は直線的に飛び、ミサイルは大きく弧を描きながらセシリアの元へと飛んでいく。

 

「なっ!?ですが数だけのミサイルで!」

 

 即座にセシリアは後ろに下がり、ビットを展開するやロケット弾の半数を一気に破壊。そして煙を斬り裂いて飛んで来た残りを躱しながら、セシリアは追いかけてくるもの全てを撃ち落とす。

 そしてビットが機龍めがけて飛び出した。

 

「ビット撃ちながら動いてる……!」

 

「当り前ですわ。先ほどの試合では手を抜いていましたが、もう油断いたしません。さあ踊りなさい、わたくしとブルーティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 セシリアの射撃を合図に他のビットも射撃を始める。ビットによるオールレンジ攻撃。航はスラスターを器用に使って地を駆けるように躱していく。だがその巨体からかすべて躱すのは叶わず、どうしても被弾してしまう。

 だがそれで一瞬よろめいたように見えるが、機龍は何事もなかったかのように攻撃を止めない。

 

「硬い、ですわね……!」

 

 どれぐらいダメージが通ったのか分からないが、あの様子だとあまり効いてないと考えるセシリア。だがそうしてる間にも機龍からの攻撃は止まず、それを的確に撃ち抜いていくが、やはり数の暴力というべきか何発かロケットが抜けて来た。

 だがミサイルより誘導があまりかかってない。それが分かってるセシリアはとっさに動いて躱したが……。

 

「近接信管!?」

 

 ロケットはセシリアの近くで起爆。多数の爆炎と爆風に煽られ、シールドエネルギーが大きく削られる。そうしてる間にも再びミサイルは飛んで来たため、セシリアは地面に向けて一気に落ち、地面ギリギリのところで向きを変えてそのまま地面と水平に飛ぶ。ミサイルはそれに反応することができずに次々と地面に落下し起爆していった。

 

「もう、何発ありますの!?」

 

 完全に弾薬庫としか思えない数。この状況をどう打破するか悩むセシリアだが、このミサイルの威力を思い出すや彼女はバックユニットに照準を合わせ、引き金を引いた。

 

「これでどうです!」

 

 機龍がバックユニットからミサイルを放った瞬間、セシリアはそれを3つ一気に打ち抜いた。巨大な爆炎が機龍の身を焦がし、ゼロ距離とあってその巨体が揺らいでバランスを崩す。

 これならいける。セシリアは小さく笑みを浮かべ、放たれたばかりのロケットミサイルを撃ち抜き、その衝撃を機龍に浴びせることで射撃も併せてダメージを与えた。

 

「ぐぅ……!」

 

 大きく退いて地面を削りながら着地する機龍。この攻撃でシールドエネルギーもそこそこ削れており、バックユニットもまだ使えるが、流石に近距離の爆発により発射部が数か所エラーを吐き出している。

 それを見たセシリアは、この機体の特性を見抜いたのかビシッと指を指して来た。

 

「やっぱりその大型の機体、重量が重すぎてあまり動けないと見ましたわ!そのための重装甲。そして機動力をカバーするためのミサイル等の武装。それにその姿、空中ではなく陸上で戦う機体そのものですわ。そのような機体でわたくしに勝てると思いまして!」

 

 そして機龍を十字で囲むようにビットを配置させ、そして避けた先にいつでも撃てるように準備を済ませるセシリア。機龍は一切動かず、ただ尻尾がゆらゆらと動いていた。

 この状況で動かないことに不気味に思ったが……この時、ユラリと機龍が顔を上げた。

 

「なら言わせてもらう……誰が遅いと言った」

 

 ゾッとするような重い声。一瞬冷や汗が出て、彼女は悲鳴を上げるかのように指令を出す。

 

「ティ、ティアーズ!」

 

 即座に十字砲火を浴びせようとするが、機龍は尻尾を地面を抉りながら振りまわすことで土煙と共に礫を四方八方に飛ばす。それによってセシリア本人以外からの攻撃を一時的に無力化し、グンと顔を上げてセシリアを見上げた機龍は全スラスターを起動。

 その衝撃波で地面を大きくえぐりながら、機龍はセシリア向けて飛び出した。

 

 

 

 

 

「航、だめっ!」

 

 楯無の叫びを聞いたとき、周りにいた者全員がギョッとした顔で彼女の方を見た。いったい何が起きるのか、起きたのか分からず困惑するが千冬は冷静に彼女に声をかける。

 

「どういうことだ、更識」

 

「それは……機龍の第三世代兵装が航に強く干渉を始めてます……。これ以上航が暴れればオーバーロードで……」

 

「待て、どういう意味だ。詳しく説明しろ」

 

 そう聞くが、楯無苦汁の表情で目をそらす。だが言えと言う眼つきで睨みつけてくる千冬に観念したのか、大人しく口を開く。

 

「あの機体の第三世代兵装は人機一体……機体に人体の神経を直接接続しています」

 

「何……!?」

 

 人機一体。それは過去に提唱されたこともある案だった。だがしかし、これを行うには強靭な肉体と精神が必要となり、強大な負荷がそれぞれに発生する。そして体のどこかに機体と繋がるための装置が必要となるため、この技術は禁忌として封印されたのだ。

 

「だが待て。篠栗に繋ぐための端子……まさか、あの背びれか」

 

「……はい。あれが送受信ユニットとしても働いてるみたいで、背びれを使って脊髄に直接つないでるのと同じ状態になってます。ただこの人機一体、並のISだとシールドバリアを張れない等の異常が発生することがこの時分かり、結果作られたのが追加ユニットであり、航を護る鎧である四式機龍となってます」

 

 それを聞いたとき、誰もが絶句していた。そんな危険なモノを積んで、彼は戦いに挑んでたのかと。

 

「ま、待ってくれよ!それを航は知ってるのか!?」

 

「えぇ、知ってるわ。彼はそのリスクを承知でアレに乗ってるのよ」

 

「どうして!」

 

「……航は欲してるのよ。力を」

 

「力……」

 

「そういえば一夏君は航と中2の途中まで一緒だったのよね。ならあの事件は知ってるでしょ?」

 

「それは……」

 

『ワァァァアアアア!!!!』

 

 一夏が目を伏したとき、いきなり歓声が響いた。いったい何があったのか見てみると、先ほどまでセシリアが航を見下していたのに、今となっては航がセシリアを見下し、そのセシリアは大地に叩き伏せられていたのだから。

 

 

 

 

 

「何が……なんで……」

 

 セシリアはいったい何が起きたのか半ば混乱していた。先ほどまで自身が空にいて、彼が下にいた。なのに今は逆転しており、逆に彼に見下されている。

 

「っ……!っはぁ!はぁ……はぁ……。少々意識が飛ぶなんて……」

 

 顔を振り、改めて機龍を睨みつけるセシリア。

 大地を飛び立った時、機龍の動きが変わった。先ほどの機械に近いものではなく、とても生物に近い、滑らかな動きに。その瞬間自身の狙撃の命中率が大きく下がったのだ。

 一体何があったか分からないが、それに驚いたおかげでセシリアの反応が遅れ、その結果、接近を許してしまいあの巨木の様な尻尾の攻撃をくらったのだ。その一撃は重いでは表せぬほどの一撃で、絶対防御を発動させられた挙句そのまま地面に流星のごとく墜落。だがそれで止まらず、そのまま地面を大きくえぐりながらセシリアは吹き飛ばされたのだ。

 

(たった一撃であの威力。次、下手に当たればもう後がないですわね……。それにあの速度、流石にだまされまし……っ!?)

 

 急な警告音。

 セシリアはとっさに起き上がり、そのまま一気にその場を離れる。次の瞬間、先ほどまでセシリアのいたところに機龍が勢いよく着地……いや、おそらくセシリアを攻撃したのだろう。だがセシリアが逃げたことでそのまま大地を割り、その黄色の双眸が彼女を睨みつける。

 この攻撃を躱さなければ……セシリアの一筋の冷や汗が流れるが、彼女は離れながら機龍の右目を狙撃した。だがそれはすぐに躱されてしまい、ギョロリとその目がセシリアを捉える。

 

「キァァァアアアア!!」

 

 機龍は吼え、セシリア目掛けてスラスター全開で一気に突っ込んだ。セシリアは近づかせまいとビットと自身の射撃を合わせて機龍に攻撃を加えるが、その巨体に似つかわぬ俊敏な挙動。すべての攻撃をまるで読んでるかのように躱していき、少しずつ距離を詰めていく。

 

「そんな滅茶苦茶な動きで……!」

 

 そうは言うが、セシリアの攻撃が当たらない。その時、機龍の手が近くにいたビットを捕まえるや、万力に掛けるかのように一気に握り潰す。

 

「ひとつ」

 

「くっ……!」

 

 セシリアは3機のビットを前に集中させ、網を張るようにレーザーを放つ。だが難なく躱されると、機龍の口にエネルギー反応が出てることに気付いた。そして口を開くや、そこから雷のような光線がセシリア目掛けて放たれたのだ。

 

「きゃぁ!?」

 

 咄嗟にビット1機を盾にして防ぐがビットは大きく斬り裂かれ、そのまま火球に転じる。機龍は止まらない。

 そしてその爪をセシリアに突き立てようとおおきく振りかぶった時だ。

 

「いい加減に、しなさいっ!」

 

 至近距離からのミサイルビット。機龍が回避運動取ろうとする前にミサイルビットはそのまま直撃。その爆風に少しダメージを受け、吹き飛ばされるセシリア。

 どれほどのダメージが入ったか分からない。そのためセシリアは追撃にレーザーを放とうとしたが、突如爆炎を斬り裂きながら伸びる手。それはセシリア確実にとらえる死神の鎌の様でもあった。

 

「しまっ……ぐぅっ!」

 

 そのまま押し付けるように伸びた手はセシリアの顔を掴み、そのまま遠心力を付けられて投げ捨てられる。飛ばされる中、彼女が見たのは自身目掛けて飛んでくる多数のミサイル群だった。

 

「嘘……!」

 

 そして近接信管もあわせ、すべてのミサイルが起爆。セシリアが悲鳴を上げるが全て爆発音でかき消され、そして大地に1つ、青が墜ちた。

 

「くっ……うっ……」

 

 誰もがその姿に絶句してる中、ズゥン……と重い音を立てて着地する機龍。その黄色く光る目がセシリアを捉えるや、バックユニットを彼女向けてロックオンした。

 絶体絶命。このまま機龍が放とうとしたときだ。瓦礫の中から1つの青が立ち上がる。セシリアだ。

 

「まだ……、まだわたくしは負けてはいませんわ!」

 

 機体の損傷は大きく、武装もほぼ残っていない。だが代表候補生として己のプライド、家の当主としての誇り。それらがセシリアを奮い立たせ、意地でも立ち上がる。

 ボロボロになった機体でもまだ動く。セシリアはスターライトmk-3を握り、その銃口を機龍に向けた。

 

「キァァァァ……キィィァァァアアアア!!!」

 

 そしてビリビリと機龍の咆哮を響かせると、そのまま一斉射が始まり、爆炎などがセシリアを包んでいく。誰もがセシリアの負けを覚悟した。だがしかし、爆炎の中からセシリアが飛び出だすや、同時に2機のビットが機龍の邪魔をするようにレーザーを放つ。

 おかげでセシリアを確認するや掴みかかろうとしてた機龍は急速に方向転換。だがそれでも一気に距離を詰め、途中1機のビットをさらに破壊した。

 そして接近するや、そのまま高らかに振り上げられた右手。そのままセシリア目掛けて振り下ろされるが、彼女は後ろに下がってその爪を躱し、そのまま機龍の顔めがけてレーザーを撃つ。

 直撃したが、仰け反る仕草を見せずに再びセシリアに接近しようとする。

 

(やはり……!彼は近接戦にこだわるスタイル!トドメは至近距離から仕掛けてくるつもりですわね!)

 

 セシリアは気づいたのだ。空中だと尻尾の攻撃が三次元になるが、地表付近だと大きさが災いし、尻尾の動きが単調になる。そのため攻撃が手足を用いたものになるが、それならまだ回避は容易かった。

 だからといって油断は全くできない。あの加速力を活かして一気に近づかれるため、その瞬間がとても危ないのだ。

 攻撃を当てては後ろに下がる。決して高度を取らずに行うため機龍の大きさが威圧感となってセシリアに襲い掛かる。だがこの状態でもセシリアはあくまで冷静に機龍に対して攻撃を緩めない。

 だがしかし、そんな時間も終わりを告げる。もうブルー・ティアーズに限界が来たのか、機体出力がガクッと下がり始めたのだ。

 

「こんな時に……しまっ……!」

 

 もう逃げられない。そして機龍は尻尾をセシリア目掛けて。大きく尻尾を薙いだ。

 

「インター・セプ……きゃぁああ!!!」

 

 尻尾の薙ぎ払いがモロに直撃してしまい、インター・セプターを展開したがそれでも一瞬で折れ、セシリアは大きく吹き飛ばされる。それによってシールドエネルギーは0となってしまうセシリア。

 

『セシリア・オルコット、シールドエネルギー0。勝者、篠栗航!』

 

 試合は終わった。だがほとんどの人は拍手もせず、ただ茫然としていた。




四式機龍

○○○○社(後の話に記述)が作り上げた第三世代IS“機龍”、の追加ユニットもといオートクチュールの1種(と思われる)。
体高:5m
重量:ISの数倍以上

待機状態:2枚の銀色のドックタグ


装備
バックユニット(6連装ロケット弾×2、3連装ミサイル×2)
腕部レールガン
口部メーサー砲


ちなみにその姿

【挿絵表示】






では感想等待ってます


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決戦 クラス代表決定戦 下

お久しぶりです。八月中に投稿しようとしましたが、4回ほど8割がた書き直したり、パソコンフリーズで保存できなかったり、艦これしてたりで投稿が遅れました。すみません。


 試合後、航はカタパルト端に足をつけ、ピット内へと戻った。そこには一夏たちはおらず、楯無1人だけが彼の帰りを待っていた。

 そして楯無は彼の姿を見るや、小さく微笑みを浮かべる。

 

「おかえりなさい」

 

「ただい、ま」

 

 楯無の元にたどり着くや、機龍は大きく項垂れる。その声は掠れており、とても疲れていることが楯無には分かった。

 そして機龍が光り始めるや、その巨体は光となって消え機龍の胸部、3mはある場所から航がそのまま落ちるが、無事着地した。だがそれもつかの間、航は片膝を着いて大きく息を吐く。

 全身は汗だらけで、少し顔色が悪い。楯無は不安に感じるもそれを陰に潜め、笑顔を浮かべて彼を迎える。

 

「航、おめでとう。とても上出来だったよ」

 

「ありがと」

 

 いつもと違う少し弱弱しい声。一瞬悲し気な顔を楯無は浮かべたが、彼が元気になりそうなことが思い浮かぶやそそくさとその場所に向かう。

 そして楯無はピットの角にあったベンチに腰掛け、航の方を見ながら自分の太腿をポンポンと叩く。察した航は苦笑いを浮かべ、頬を掻いた。

 

「別に大丈夫だよ」

 

「疲れてるでしょ、ほら」

 

「俺、汗臭いぞ」

 

「問題ないわ、それぐらい」

 

「それに……」

 

「航」

 

 ピクリと止まる航。そんな彼をジト目で見つめる楯無は、小さくため息を吐いて再び自分の太腿を叩く。

 

「次の試合まで20分インターバルが入るわ。だから今のうちにゆっくり休んで頂戴」

 

「……わかった」

 

 観念したのか、そのまま彼女の元へと向かい、太腿に頭を乗せて横になる航。俗に言う膝枕というやつで、きっと誰かがいたら何か騒いでたかもしれないが、今は2人だけしかいない。このチャンスを逃す楯無ではなく、今はこれを堪能する。

 背びれがあるため仰向けになれない航は、彼女に背を向けるようにして横たわっており、それを楯無は優しく彼の頭をなでていた。

 

「ねえ、本当に大丈夫?棄権する?」

 

 機龍がどれだけのものかは楯無も知っている。だから正直あまり乗ってほしくないってのは本音だ。だが彼女も、彼がどういう性格か知ってるわけで……。

 

「いやだ……俺は……」

 

「……そう、わかったわ。でも無茶はしないでよ」

 

「ん……」

 

 小さく動いた航の頭をギュッと抱き寄せ、再び優しく頭をなでる楯無。これで少しでも彼が元気になるなら……その願いを乗せて彼女は航のそばに居続けた。

 

 

 

 

 

 ここは航がいるピットとは反対のピット。次の試合に向けて一夏たち一行はこちらに来ていたのだ。途中セシリアと会っってしまったが、驚いたことに彼女から「次の試合、がんばってくださいね」と応援されたことにキョトンとしてしまう。

 そのまま何とも言えない気分になりながらも、次の出撃に向けて白式を纏った姿で開発元である倉持技研の技術者が機体調整を行っていた。

 その間少し暇なため、一夏は隣に居る箒と一緒にいろいろ話し合っていた。

 

「うーん、航におめでとう言いたかったなぁ」

 

「仕方ないことだ。あの人が『私が彼を見るから織斑君は次の試合に備えていて』と言われたからな」

 

「そうだけどさ……。それにしても先輩、航に会いに行くとき嬉しそうに笑み浮かべてたよなー」

 

「そう思うか?」

 

「え?」

 

 箒も彼女が浮かべた笑みが思い浮かぶ。それは少し辛そうなものであり、いったい何があるのかと少し気になるが、今はそれは置いといて次の試合のことを放そうとしたとき、先に千冬が口を開いた。

 

「さて織斑、さっき私が言ったことはちゃんと覚えてるか?」

 

「ああ、零落白夜、だろ?」

 

「そうだ。航の機体はどれだけシールドエネルギーがあるかは分からない。だがそれが上手く決まれば織斑にも勝利が見えてくるはずだ」

 

 零落白夜。それは昔、織斑千冬が使っていた専用機“暮桜”の単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)と呼ばれる特殊能力で、それで彼女は世界一を取ったのだ。

 その零落白夜が一夏の専用機である白式の単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)として顕現しており、その威力はとても絶大だが、反面自身のシールドエネルギーを大きく消費するため、諸刃の剣と化す。そのため先ほどの試合、一夏はそれに気づかず負けたのだ。

 

「だけどさ、機龍のあのミサイルの嵐を抜けないといけないんだよな……正直不安なんだけど」

 

「何を言うか一夏!男たるものそのようなことで音を上げるな!」

 

「それぐらい私の弟なら出来るだろ」

 

「えー……」

 

 姉と箒の無茶ぶりにさすがの一夏も肩を落とすしかない。

 その時、作業が終わったのか技術者が息を吐きながら白式のハッチを閉める。

 

「はい、調整できました」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そして手を握ったり放したりすると、前よりより馴染んだ気がするため、一夏は少し笑みを浮かべていた。箒も自分の事のように喜んでおり、これで少しでも勝率が上がると意気込む。

 

「いやー、ここに持ってくる際も結構バタバタでしてね。これで婆羅陀魏社の連中に馬鹿にされずに済みます」

 

「「ばらだぎ……?」」

 

「えっ……あっ」

 

 聞いたことない単語に首をかしげる一夏と箒。それでしまったと口に手を当てる技術者は、何でもないと連呼して、彼らの質問を無理矢理封殺しようとしたが……。

 

「さて、聞かせてもらおうか。婆羅陀魏の連中といったい何があったのかを」

 

「あの、その……ひぃ……!」

 

 千冬の迫力で小さく悲鳴を漏らす倉持技研の技術者。何があったか気になる一夏たちだが、今はそれを見なかったことにして、次の試合に備えることにした。

 

『織斑君。準備出来たらいつでも発進してください』

 

 その時だ。真耶からのアナウンスが聞こえ、カタパルトに足を載せる一夏。

 

「織斑一夏、白式、行きます!」

 

 そしてカタパルトから出撃した。

 

 

 

 

 

 一夏が先にアリーナ内に入り、その後すぐに航もアリーナ内へと入る。

 

「あれが四式機龍……」

 

 一夏は改めてその大きさに驚きを隠せなかった。自身のISである白式。それを軽く見下せるほどの大きさに、人の形と異なる姿。

 大きさは戦力に大きくかかわるとか何かで言ってたが、改めてみるとホントにそれを実感する。だがしかし、一夏はそれでも負けないとグッと手に力を入れる。

 

「待たせたな、一夏」

 

「航……」

 

 雪片弐型を展開し、中段で構える一夏。航の方は両手をダラリとおろしており、いったい何をするのか全く手が読めない。

 だが先ほど見せた試合、それは完全近接型である一夏にとっては、完全不利な状況と言える試合展開を魅せられ、正直どうやって勝利に運べばいいのか分からない。ただ唯一使える手としては零落白夜を当てること。決めれるか分からない。だが彼はそれを当てなければ勝利が無いのは確実だった。

 一夏は強く雪片弐型を握りしめる。

 

「航、俺は勝つぞ」

 

「それはこちらも同じだ」

 

 お互いに身構える。その気迫は観戦席にも通じたのか、シンと一気に静まり返った。

 

『試合開始』

 

「うぉぉおおお!」

 

 すると雪片弐型の刀身が割れ、そこから光の刃が伸びて来た。零落白夜だ。

 一夏はそれで構えて機龍めがけて一気に突っ込み、一気にその刃を振り下ろす。

 

「おらぁ!」

 

 確かに速かっただろう。だが機龍の腕部についていた射撃武器、それの砲身が縮むと同時に中央から長さが1mほどのブレードが出てくるや、振り下ろされた雪片弐型をそのまま右腕のブレードで受け止める。

 一夏はこのまま押し切ろうと力を入れるが、機龍はびくともせず、空いてる左手の爪を立てるやそのまま一夏の腹目開けて振り上げた。

 だが一夏もそれにとっさに反応して離れ、再び雪片を構えて突っ込む。だがこれもブレードで防がれ、いや受け流されたためバランスを崩してしまう一夏。

 しまった。と口が言うと同時に、腹に機龍が思いっきり拳を叩き込んだ。その威力に肺から息をすべて吐き出し、体をくの字に曲げるがそれでも動きが止まらない機龍は、体を大きくひねって尻尾を縦に振り下ろし、モロに食らった一夏は悲鳴を上げる間もなく一気に叩き落された。

 

「っ……ぐ、ぉぉおおおお!」

 

 地面に叩き付けられる一瞬、ウィングスラスターの出力を最大にし、地面すれすれで勢いを殺しきった一夏だが、結果バランスを崩して地面を転がってしまう。

 

「はぁ……はぁ……なんていうパワーだよ……!」

 

 シールドエネルギーの量を確認すると、先ほどの攻撃で一気に削れたのもあるが、いま零落白夜を発動してるためシールドエネルギーが少しずつ減っていっている。ヘタにのんびりしていたらまた自滅しかねないため、一夏は再び近づこうと空を見上げるが、そこからはミサイルの雨が一夏めがけて降り注いだ。

 

「うぉ……っ!?」

 

 20にもなるミサイルの群。一夏はとっさに起き上がるやスラスターを使って逃げようとしたとき、ミサイルは至近距離で一斉に爆発。だが一夏は多少ダメージくらうも白式の機動力に物言わせ、無理やりこの爆発から脱する。

 だがその時、一夏の目の前に機龍が勢いよく降りて来くるやそのまま腕部の装備が火を噴く。

 それによってシールドエネルギーがゴリゴリ減る一夏。これは不味いと離脱しようとしたが、それを逃がすまいと機龍が大きく踏み込み、そのまま一夏を追い詰めた

 

「キァアアアア!!!」

 

 

 

 

 

 零落白夜は一撃必殺の剣だ。

 航も零落白夜がどんなものか知っていた。モロに食らえば機龍といえどもどれだけダメージが入るか分からない。だが先の試合、セシリアがインター・セプターでそれを防いでるのを見たため、己も腕部レールガンに付いているメーサーブレードを使えば問題ないと判断したのだ。そして試合、読み通り零落白夜を防げると実感した航。

 人機一体で体力を多く消費してるため、短期決戦で済ませようと機龍のパワーで無理やり押し通せばどうにかできると判断し、近接攻撃を繰り返す。先ほどの叩き落しで零落白夜は停止しており、一夏は白式の機動力を活かし、どうにかこれらの攻撃を躱すのが精いっぱいだった。

 航の機体がこんなに大きくなければ、これまでの近接攻撃は一夏に当たってただろう。だが機体構造からかそれも難しく、大きさの差もあって逆に攻撃が大振りになってしまう。そのため足の速い白式にいまいち攻撃が決まらないのだ。

 そして機龍が腕を大振りで振るった時だ。一夏はそれを雪片弐型で受け流し、そして刀身が割れて零落白夜が顕現。一夏は懐に超至近距離に潜り込み、そのまま光の刃を横一閃で薙ぎ払う。

 

「おらぁ!」

 

「っ!?」

 

 人機一体で疲労していた航はそれの反応に遅れ、光の刃が機龍を斬り裂く。いや、バックブーストで後ろに下がったため深く入るのは避けれたが、それでも腹部に傷を負った。

 

「くそが……!何だよこの減り方……頭おかしいだろうが……!」

 

 

 航はこの一撃で減ったシールドエネルギーの量が尋常じゃないことに小さく唸る。

 だがこうしてる間にも一夏が近づいてきたため、機龍が近づかせまいと尻尾を振う。

 

「っらぁ!」

 

 だが寸のところで尻尾を躱した一夏は、そのまま雪片弐型が機龍の太腿部を斬りつけ、火花を散らす。そして返し刃で更に斬り裂こうとするが、航は薙ぎ払うように尻尾を振るう。だが先に一夏が離れ、再び高速で近づくや機龍の装甲に何度も刃を斬りつけ、ヒット&アウェイで攻めていく。

 

「くそ、がぁっ!」

 

「うおおおっ!?」

 

 雪片弐型を振ったと同じタイミングで機龍がその場で高速回転。そして尻尾が一夏を捉えたかと思われた、雪片でとっさに庇った一夏はその威力を殺しきれずに一気に吹き飛ばされる。

 大きく体勢を崩した一夏だが、すぐさま姿勢を整えるが肩を大きく上下させて息を荒くしている。

 

「はぁ、はぁ……硬すぎだろソレ……」

 

「それはお互いさまだ。なんだよその攻撃力は……」

 

「これが姉から受け継いだ力、零落白夜だ」

 

「……だが勝たせてもらうぞ、一夏。それにあまり時間は残されてないからな」

 

「そうか……だけど、なっ!」

 

 後ろに1回下がり一夏は雪片を再び構え直す。

 

「俺だって負けねえ!弱いままの自分でいるのは嫌なんだ!この力で俺は大事な人たちを守るんだよ!」

 

 

 守る。守る。守ル。マモル……

 

 

 ああ、何と眩しいことか。航は彼の眩しさに目を細め、心の中にあるナニカがゾワッと揺れ動く感覚を味わった。

 

 

 

 

 

「一夏……」

 

 ピット内で聞いていた箒は頬を赤らめ、潤んだ瞳で一夏を見つめていた。今は彼は弱いかもしれない。だがその決意を持つ瞳は箒の心を射抜くには十分だ。

 

「ふっ、言うじゃないかまだ素人のくせに。だが楽しみにしてるぞ一夏……」

 

 千冬はあんなことを強気に言える一夏に呆れながらも、これからの成長をとても楽しみにしていた。誰も指摘しないが彼女の口角は少し上がっており、嬉しそうにしてるようにも見える。

 だがしかし、彼女たちの顔は次の瞬間一気に凍り付く。

 

 

 

 

 

 一夏はいつでも攻撃できる準備は出来ていた。だが航が、機龍が力を抜いたかのようにだらりと手を下ろしており、顔も俯いているため、あまりにも不気味な雰囲気を感じていた一夏は顔を振り、意を決して突っ込もうとした。その時だ。

 俯いていた機龍が顔を上げたとき、一夏は背筋に氷柱を刺しこまれたかのような冷たさを案じた。

 

「守る……?何をだ……?」

 

「航……?」

 

 ゾッとするような殺意。この時一夏はまるで心臓を何かで刺されたかのような錯覚を味わい、無事か確かめるために手を胸元に当てた。

 この感覚は観戦席にも伝わったのか、先ほどまで応援や罵声を飛ばしてた生徒たちの声がぴたりと止む。

 この感覚は不味い。一夏が1歩後ろに下がった次の瞬間だった

 

「あぁぁあ……ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

「キァァアアアアア!!!」

 

「っ……!?」

 

 航が叫ぶと同時に機龍が吼える。

 距離は大きくあいていた。だが機龍は一瞬で距離を詰め、大きく開かれた掌が一夏の顔を掴もうとしていたのだ。

 それに気づいた一夏はとっさに機龍の右腕を斬り裂く。だがそれでも止まらず手は一夏の顔を掴むや、そのまま地面に叩き付ける。衝撃で意識が飛ぶかと思った一夏だが、ISの生体保護機能でそうならずに済んだ。

 だが彼が次に見たのは自身の顔を踏み抜こうとする機龍の足だった。

 

「嘘だろっ!?」

 

 咄嗟に転がることでそれは避けることはできたが、地を割る一撃と衝撃がモロに襲い掛かり、大量の礫が一夏に襲いかかる。

 それによって一夏は跳んでくる礫から顔を庇ってしまい、目の前の視界を自ら塞いでしまう。それによって一夏は自身に迫る尻尾に気付けなかった。

 

「がぁ……!?」

 

 全身に強い衝撃が走る。機龍の尻尾が振り下ろされたのだ。

 これまでにない一撃。体が無理矢理大地に沈められ、シールドエネルギーも一気に削れる。これは不味い。そう思って逃げ出そうとするが……。

 

「逃げ……ぐあぁ!」

 

 再び尻尾が振り下ろされ、更にダメージが入る。このままじゃ一方的になぶり殺しだ。意識が揺さぶられる中、一夏は無意識にその名を叫んだ。

 

「白式ぃいい!」

 

「っ……!」

 

 一夏の叫び声とともにウィングスラスターが輝き、3度目尻尾を叩きつけられる前に一気に離脱する。その後バランスを崩して転げながらの着地になる一夏だが、その目は機龍をまっすぐに見つめていた。

 地を蹴り、一直線に一夏は機龍めがけて突っ込む。

 だがそれを待ちるけるかのように尻尾による横薙ぎ。このまま一夏が躱すために跳べば手で捕まえられる。航はそう確信していたのだが、一夏は尻尾の下をスライディングしながら掻い潜る。

 

「なっ!?」

 

 航から驚きの声が漏れた。一夏はそのまま勢いよく姿勢を立て直すや、零落白夜の発動してる雪片弐型を機龍に向けて一気に振り上げた。

 

「うぉぉぉおおお!!!」

 

「キァァアア!!!???」

 

 一気に機龍の前面装甲を斬り上げた。左横腹から右肩に掛けて斬り裂かれ、機龍は大きな悲鳴を上げる。

 手ごたえはある。いくら大型とは言え、これだけ大きく斬り裂けば大ダメージが入って一気に形勢逆転するはずだ。

 そう、これが普通のISならば、だ。

 

「ァァァ……キァァアアアアア!!!」

 

「嘘、だろ……!?」

 

 機龍は止まらない。斬り裂かれた装甲からは火花が散っているが、そんなの関係ないと言わんばかりに黄色の双眸が一夏を射止めていた。

 このショックで一夏は動きを止めてしまう。だがその隙を逃がす航でもなく、一気に前に出た機龍は一夏の胴に蹴りを浴びせて吹き飛ばした。

 そして口からメーサーを何度も放つ。まるでかの怪獣王が、何度も敵に熱線を浴びせるかのように。

 

「うわあぁぁあ!!!!」

 

 一夏の断末魔が響く。

 何度放たれただろうか。煙が晴れたころには白式はボロボロになり、一夏は完全に横たわっていた。

 終わった。誰もがそう思った時、ボロボロになった白はゆっくりと動き出す。

 一夏は雪片を杖のようにしながら立ち上がり、その目は機龍を睨みつけ、杖にしてた雪片を握りなおす。

 

「わた、る……!」

 

 航は返事せず、ただ機龍は小さく項垂れている。

 もう零落白夜も発動しておらず、飛ぶ気力が無いのかフラフラとした足取りで向かう一夏。

 だが一夏が力尽きるように片膝を着いたとき、試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっくん、零落白夜があるのに勝てないってホントにちーちゃんの弟なの?」

 

 暗い部屋の中、1人の女が空間投影ディスプレイを見ながら、退屈そうに足をぶらぶらとさせていた。

 困惑、呆れ、落胆。女のつぶやきにはそれらが含まれており、その後小さくため息を吐く。彼女が見てた画面の中には一夏と航が戦っていた試合光景が映されており、満足いかない結果だったのか興味無くしたのか分からないが、女はそのまま空間投影ディスプレイを閉じ、そしていきなり立ち上がる。

 

「まあいいや。今度はコレを使っていっ君が目立つチャンスをあげようっと。それにアレがどれだけ力があるか見ておかないとね」

 

 女が見る先には3体のナニカがいた。2体は全身が黒で人型とは言いづらく、両腕が長く大型化している。そして残りの1体は、全体的な色は銀だが先ほどの2体より一回り以上大きく、胴体が樽でも入ってるのか大きく丸みを帯びていた。

 

「さて、いっくんの実力を上げないといけないけど、それ以前にあの邪魔者消すための準備もしないとね」

 

 キラリと装甲が一瞬虹色に光る。そして女はニタぁと笑みを浮かべた。




こう、書いてたら機龍が大きいから近接戦すごい難しいんですよ。5mと3m弱(?)の機体同士だとすごい体格差がありすぎて、ね……?ね……?

さて、次回はまた日常に戻ります。たぶん戻ります。



では感想や誤字羅出現報告待ってます。(誤字羅いない方がいいんだろうけど)


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怪獣学 2

佐世保の艦これリアイベから帰ってきました。佐世保バーガー5~6個食べた後にレモンステーキ、美味しかったです。


 あの試合が終わり、翌日。朝の教室ではホームルームが行われているが、その中一夏は、電子黒板に書かれている文字を見て唖然としていた。

 

「はい、というわけでクラス代表は織斑一夏君に決定しました。あ、一つながりで縁起もいいですね」

 

 真耶の発表が行われ、パチパチと拍手の音が響く中、織斑一夏は目を大きく見開いてありえないという顔を隠せない。

 どうしてこうなったのか、それを聞くために一夏は手を挙げた。

 

「先生。質問いいですか?」

 

「どうしました織斑君」

 

「あの……俺、2敗したんですけどどうしてクラス代表に」

 

「ああ、それはですね―――」

 

「それはわたくしが辞退したからですわ!」

 

 ガタンと音をたてながら立ち、腰に手を当てて一夏の方を指さしながらそう言うセシリア。さすがに訳が分からず一夏は目を丸くしており、コホンと軽く咳をしてセシリアは改めてその説明に入る。

 

「まあ、勝負は貴方の負けでしたが、そもそもこれは仕方のないこと。むしろ代表候生をあそこまで追い詰めたのは十分に称賛に価いたしますわ」

 

 そこまで言われて少しムズ痒いのか頬を掻く一夏。それを見てセシリアは小さく微笑み、話を続ける。

 

「あの時はわたくしも大人げなくあんなことを言ってしまったのは謝罪いたします。ですので自ら辞退いたしまして、織斑さんに代表を譲ることにいたしましたの。それに代表となれば出る試合も数多。実戦となればより多くの経験値が積めるでしょう」

 

「そ、そうか。あ、それと俺のことは一夏でいいぜ。それとセシリアと呼んでもいいか?こう、名字で呼ぶのなんか苦手でさ」

 

「ええ、よろしくてよ。ではよろしくお願いしますね、一夏さん」

 

「おう!……あれ?」

 

 何か乗せられた気がする一夏。この時一夏は改めて自分と他の2人の勝率を思い出す。自分は全敗。セシリアは1勝1敗。そして航は2勝。

 それを思い出すや、即座に航の方を向いた。

 

「航!お前2勝したよな!?どうして!」

 

 隣に居る航にの机を強くたたき、顔を一気に詰めかけるが、航は少し申し訳なさそうな苦笑を浮かべ、右手を軽く振って返す。

 

「あー……すまんな。あの試合の後楯無に医務室に引きずられながら連れていかれて、結果肋骨3本、右腕に罅入ってるのが判明した。だから辞退させてもらう」

 

「えっ……?」

 

 航の右手を見ると、長袖の制服に隠れているが手首の方に包帯が見える。いったい何があったのか、一夏はそれが不安でたまらなかった。

 他の生徒や副担任の真耶もそれに気づくや、怪訝な顔を浮かべている。

 

「あの機体はじゃじゃ馬すぎてな、パートナー……の俺のことも信じてないらしい。だから跳ね返ってくるだとさ」

 

「だとさって……それ誰が言ったんだよ」

 

「え、機龍の開発者に言われた。だから死なないように気を付けろってな」

 

「えー……」

 

 最初から死ぬ前提と言わんばかりの仕様に誰も何も言えない。この空気の中、千冬が手を叩いたため全員がその方を向く。

 

「さて、篠栗はこのような理由だから辞退。織斑、貴様がクラス代表になるがいいな?」

 

「は、はい!」

 

 千冬からの圧もかけられ、一夏はYES以外の返事することはできなかった。そしてクラスの全員から拍手が送られ、一夏はひきつった笑みを浮かべながら、内心すごい落ち込むのであった。

 

 

 

 

 

 そしてホームルームが終わり休み時間。一夏は改めて航の状態を見る。

 

「おいおいホントに大丈夫なのか?」

 

「これならまだ問題ない。そういえば一夏、クラス代表頑張れ。応援してるから」

 

「お、おう……そうだけどさ……何で俺なんだよ……ISの実力も低いし……」

 

「まー、そこはひたすら乗るしかないな、うん」

 

「そうだけどさー!」

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「「ん?」」

 

 そこにいたのはセシリアだった。何かデジャヴを感じるが、前の時とは違い、彼女は温厚な笑みを浮かべている。それにしてもいったい何の様なのか。2人は首をかしげていた。

 

「一夏さん。それならわたくしが練習相手をしてあげますわ」

 

「本当か!」

 

 試合であれだけ強かったのだ。一夏に取ってはまさに渡りに船だった。セシリアもその反応が嬉しいのか微笑みを浮かべており、そして日程などを組んでくことに。

 

「なら今日の放課後から早速いたしますわよ」

 

「ああ、それならよろしくたの―――」

 

「ま、待て!一夏は私が教えるのだから問題ない!」

 

 間に入り込んできたのは箒だった。いきなり入ってきたことに一夏は驚いているが、箒は一夏が捕られると思ったのか、必死に彼と一緒にいるアピールをセシリアに行う。それでセシリアは嫌な顔をするかと思われたが、少し驚きを浮かべるも自然とその顔には笑みが浮かんでいた。

 

「まあ、あらあら。それなら篠ノ之さんも一緒にいかがです?わたくしとしては2人になったところで何も問題ありませんわ」

 

「なっ、その、それは……」

 

「ふふっ、冗談ですわ。ですが気が乗ったらその時は一緒に教えてあげますわ」

 

「む、むぅ……その時は頼む」

 

 少し申し訳なさそうに答える箒。一夏はいったい何だったのか首をかしげていたが、なんか解決したなら問題ないかと一人頷いている。

 その時余鈴が鳴り響く。航たちはそれぞれ分かれ、自分たちの席に着く。

 そして1分ほどして入ってきたのは燈だった。

 

「はい、今日最初の授業は怪獣学ですが……皆さん、聞いてます?」

 

「はーい」

 

 航たちなどやる気のある生徒はちゃんとしているが、他の生徒はパッと見ちゃんとしているようで、心あらずという雰囲気を出している。

 流石に燈も眉をしかめるが、小さくため息を吐いた。

 

「……えー、今回の怪獣学はコレですね」

 

 諦めた燈はリモコンを操作し、いつものように画像を出す。

 それは黒だった。巨大な灰色の背びれに長い尻尾。誰もが写真などで見たことある姿。

 

「今回の怪獣もゴジラ。厳密に言うなら2体目のゴジラですね。身長は55m。体重約2万5000トン。1954年に現れたゴジラと同種で、遺伝子から最初のゴジラの子どもであることが判明しています。そして今回のゴジラこそが、今日本海溝で眠ってる個体となっています」

 

 今も眠っている。それを聞いて何人かごくりと喉を鳴らすが、大変の生徒はヘラヘラとしており、そんな大げさとか言っている。

 それに一瞬目を細める燈だが、いつものようにニコッと笑みを浮かべ、画面を操作する。

 

「……さて、ゴジラについてですが、まずはこの写真を見てください。これは5年前に撮られた深海7500mの海底の写真ですが、このままじゃ全く何もわかりませんね?」

 

 そして出された写真だが、真っ暗な空間に明りが灯されたかのような光景だった。それが何なのか分からず、生徒たちは首をかしげている。

 

「ではこの写真にある加工を行われたものを映します。はい」

 

 そこに映し出されたのは海底だった。暗さはさっきより明るくなっており、地面のおうとつや岩石などが薄緑の線で映し出されており、その中でひときわ目立つ山のようなものがあった。

 明らかに他のとは違う、いくつも生えた()()()が海底から隆起したかのように生えており、その先には尻尾らしきものも見える。

 

「これって……」

 

「はい、これが皆さんの知ってるゴジラの姿です。この姿が捉えられたのは今から15年前となっており、この写真は5年前に撮られた最後の記録となっています。今は体のほとんどが海底に埋もれていますが、当時の記録だとまだ生体反応があることが確認されています」

 

「先生、1つ質問いいですか?」

 

 その時手を挙げたのは航だった。

 

「はい、篠栗君どうぞ」

 

「最後に記録されたのが5年前って言ってましたけど、それ以降の記録って無いんですか?」

 

 その時、燈は気まずそうに目を逸らす。何か行けないことなのだったのだろうか、航は少し苦い表情を浮かべた。

 

「……実はですね、このような海底探査等の予算は全てIS関連に吸われ、今となってはこのような深海探査などを行ってる組織はほぼありません。ISは当初、宇宙進出を目的としたため宇宙とは真逆の暗闇の世界、深海調査にも使われる予定だったそうですが、そのようなことが行われた記録が一切なく、結果として今の深海は何があるのかすら全く分かってない状態となっています。そのためゴジラが今もこの場で眠っているか、それとも活動開始してるのかすら一切分かっておりません」

 

 “彼女”たちにとって深海探査は全く重要とは思ってないだろうが、このような調査でどれだけ国防にかかわるか重要な問題なのだ。だがISの登場はそれらすら忘れさせ、目の前の利益ばかり追求するようになってしまった。

 とんでもない事実。ISがこのような影響を及ぼしていたのを知らなかったらしく、生徒たちは驚きを隠せない。

 それを確認するや、燈は授業を進めることにする。

 

「では本題、もとい説明に入りますね。ゴジラは1999年、ここから遠くない房総半島に上陸、そこでこの固体と自衛隊による初の戦闘が行われますが、大敗。その後自衛隊は三式機龍を開発し、完成同年の2003年にゴジラと激突します。最初にゴジラ横浜にあった八景島と呼ばれる人工島を破壊し、横浜市本土に入ったとき―――」

 

「せんせー。ここって横浜市ですけど、その八景島ってここからどれぐらいの距離なんですかー?」

 

 その時1人の生徒から質問があった。

 

「そうですね。距離は全く離れていません。というか同じ横浜市金沢区で、ここから1キロ未満の場所にありました」

 

「ありました……?」

 

「はい。ゴジラによって壊された八景島は今となっては姿かたち無くなっており、その土地の一部がこのIS学園に使用されています」

 

 それを聞いて一気にざわめく生徒たち。そんな近くにゴジラが現れたという驚きを露わにしており、そして燈が指さした方を見る。

 その後出された写真には三角形の屋根を持つ施設をゴジラが吹き飛ばす姿であった。

 

「さて話に戻りますが、横浜市本土に上陸したゴジラはそのまま街を蹂躙しつつ侵攻。そこに三式機龍が現れそこで戦闘となります」

 

 そして新たに画像が映し出される。そこに映し出されたのは航の専用機である四式機龍に酷似した銀色の龍の姿であった。

 

「三式機龍。これについての説明はまた今度しますが、この戦闘にゴジラは敗走。ですが、ゴジラがその時に挙げた咆哮により機龍が暴走。それによって横浜市が火の海になってしまいます」

 

「え、人が作ったロボットなんですよね?なんでそれが暴走を?」

 

「良い質問ですね。その理由はこの機体、ゴジラのDNAを使ったDNAコンピューターという物を用いてるのですが、これがゴジラの声に反応し、そのまま暴走したとされています。さてこの説明もまた今度しますが……後日ゴジラは東京都品川に上陸。そこで自衛隊総力を駆けたゴジラ迎撃作戦が展開されます」

 

 そこに映し出されるのは、ゴジラに攻撃する戦車や戦闘機の写真、三式機龍と激突しているゴジラの写真などだった。どれも昨日撮ったのではないかというほど鮮明で、とても臨場感のあるものばかりだ。

 だがいくら数をそろえようと戦車も戦闘機も破壊されていく。ただその中、三式機龍はゴジラに挑み、そして出された写真は海上にそびえる巨大な氷柱と、胸元に大きな傷を残すゴジラの姿であった。

 

 その戦いは熾烈を極めるも、三式機龍の3式絶対零度砲を浴びせ、結果ゴジラを撃退することは成功しました。ですがゴジラには絶対零度の攻撃も致命傷を与えるまででしかならず、この1年後の2004年にに再びゴジラは東京に現れます。それがこの姿です」

 

 そこに映し出されたのは先ほどと同じ個体のゴジラであるが、胸部には大きな傷跡が残っており、品川での戦闘の傷が癒えてないことがよくわかる。だが1年で致命傷であった傷をここまで治すとはどれほどの生命力なのか……。

 

「その後ゴジラは東京湾の品川沿岸から上陸後、巨蛾“モスラ”の成虫と激突。その後に前回の戦闘によって損傷した箇所を直した三式機龍改と激突します」

 

 そこに出されたのは極彩色の翼をもつ巨大な蛾とゴジラが戦ってる姿であった。顔の付近で足で引っかいたり、翼から黄金の粉をゴジラに向けてばら撒いてる姿などがある。

 だがしかし、それらが効果ないのかゴジラの熱線に焼かれ、巨蛾は墜落。だがそこに現れた三式機龍改との激突の写真が出された。

 

「ゴジラは三式機龍改との戦闘に入り、最初はゴジラ優勢でしたが、モスラの幼虫2匹が戦闘に参加。それによってゴジラは徐々に不利に追いやられます。モスラの成虫を倒すも、それによって幼虫たちの怒りを招き、結果ゴジラは機龍の攻撃によって腹に風穴を開けられ、モスラ幼虫の吐く糸によって完全に動けなくなってしまいます」

 

 そこに映し出されたのは糸でグルグル巻きにされ、地に伏すゴジラの姿であった。このままトドメが刺されるのかと思っていたら、三式機龍改がゴジラを抱きしめ、そのまま空へと去る写真が映し出され、生徒たちはどういうことかと唖然とした表情を浮かべる。

 

「この時三式機龍改にはある感情が芽生えたらしく、そのままゴジラを抱きしめ飛翔。そしてゴジラは三式機龍改に抱かれたまま、そのまま日本海溝に姿を消しました。これが丁度50年前に起きた出来事です」

 

 近いことは日本史で学んだのだろうが、こんなことがあったのか。改めて女子たちはゴジラの事を知るが、これが今更何になるとかと言わんばかりの目で燈を見てくる。だが燈も分かってるのか、小さく肩をすくめるや、軽く時計を見て締めに入ろうとしていた。

 

「ちなみにゴジラが東京を目指していた理由ですが、八王子駐屯地目指して移動しており、そこには、三式機龍がいたからです」

 

「リベンジマッチですか……?」

 

 生徒がそう言うが、燈は否定するようにゆっくりと首を横に振る。そうでなければ一体何なのか。生徒たちは首をかしげる。

 

「ゴジラの目的は、……三式機龍を取り戻すことだったんです」

 

「取り戻す?先生、機龍は人が作ったロボットじゃ?」

 

「……三式機龍は格闘戦も重視するため、1954年、死んだゴジラの骨をそのまま利用して作られています。ゴジラは自身の親の遺骨を取り戻しに来ただけなんです」

 

「えっ……」

 

 誰もが言葉を失った。ゴジラの骨が使われているということがどういうことか頭に入らず、生徒たちはただ唖然とすることしかできなかった。

 

「まあ、いきなりのことで混乱してるみたいですが、『キーンコーンカーンコーン』あら、チャイムが鳴ってしまいましたね。これについては次回の怪獣学にて説明します」

 

 そして挨拶の後、燈が出ていく。生徒たちはそのまま周りのことおしゃべりを始める中、航は手元に開いていた教科書に目を向ける。

 

「ゴジラ、か……」

 

 そのつぶやきは誰にも聞こえない。航は教科書を閉じ、小さくため息を吐いた




艦これイベでE-2-2ラスダンが終わらず、結果こっちを進めることにした妖刀です。硬過ぎでしょあの姫たち。どうしろっていうんだ。(初甲挑戦並感)

今回の怪獣学はリメイク前では書かれてなかった2代目ゴジラこと釈ゴジの解説となります。釈ゴジ、あの子はとてもかわいそうな子と思うんですよね。親が殺された挙句、その親の骨を使ったロボットに殺されかけるんだから……。
ただそんな釈ゴジですが、自分はとても大好きです。とてもカッコイイですし。


ちなみにIS学園の立地ですが、バリバリの神奈川県横浜市です。理由は多々あれど個々の方がいろいろと都合がいいと判断し、この場所にしました。(リメイク前もそうだった気がするけど気にしない)そして八景島、彼は犠牲になったのだ……。


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クラス代表パーティ

お久しぶりです。いろいろあって離れてましたが、また投稿します。


 時は過ぎ4月の4週目の頃。1年1組の生徒たちは授業のため第2アリーナに来ていた。

 内容はISの実技であり、全員はISスーツを纏っていた。

 ISスーツはパッと見生地が薄く、女子たちのは競演水着に見えるが、拳銃等の攻撃も通さない強靭さも備えている。だが彼女たちのスタイルを色濃く反映しており、思春期真っ盛りの男子からしたら目に毒でしかない光景が広がっていた。

 その生徒たちの列の前、そこにはジャージをきた千冬と真耶が立っており、その2人の間には航、一夏、セシリアの3人が立っていた。

 なお男子のも肉体を反映しているため、一夏のしなやかながらしっかりと鍛えられてるその身体をうっとりと眺めている女子は多数で、対して航はがっしりと鍛え上げられた筋肉が主張しており男らしさを感じられるが、生えている複数の背鰭が強い異物感を出してるのか、多数の女子たちが嫌悪的な顔を浮かべている。だが航はそれを無視しており、というより完全に男としての反応が出ないように、視線は完全に空へと逃がしていた。

 

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を行ってもらう。織斑、オルコット、篠栗、前に出てISを展開しろ」

 

「「「はい」」」

 

「来い、機龍」

 

 一番最初にセシリアがブルー・ティアーズを展開。それに少し遅れて航も四式機龍を展開し、一夏も白式を展開した。

 セシリアは模範となるような綺麗な展開だったが、航がしたら光と同時に地面に衝撃が走り、座っていた女子たちの体が一瞬浮きあがる。そこに現れた四式機龍はその巨体のため女子たちを見下ろす姿になるが、それを見た女子たちはブルリと体を震わす。

 一夏とセシリアも改めて見上げながら機龍の大きさに感嘆のため息を漏らし、よくこんなのと闘ったなと改めて自分たちがとんでもないことをしたことを自覚する。

 

「ふむ、言えば展開速度はまあまあだが、言わずに展開できるようになれ。そしていちいち衝撃を立てながら着地するな。いいな」

 

「あっはい」

 

「さて織斑だが、貴様は篠栗みたいに声を出さずにできても、展開速度は遅いな。1秒未満は最低切れ」

 

「は、はい……」

 

 落ち込む一夏だが、それをしり目に千冬はさっさとこれらの説明を行い、そして次の指示に入る。

 

「では飛べ」

 

 一番最初に空に飛び出したのはセシリアだった。それを追うように航も機龍のスラスターを展開し、一気に飛び上がる。

 

「うお!?」

 

 下で一夏が衝撃で転びそうになってるが、航はそれをスルーしてセシリアに追いつき、そのまま追い抜く。

 そして一番最初に200mに着いた航は、そこから見える海を眺めていた。

 

「ホント、速いですわね」

 

「ん?あぁ、この機体の取り柄でもあるしな」

 

 そこに追いついてきたセシリアが話しかけて来た。本当に前の様な棘のある雰囲気は消えており、淑女然とした彼女を見て航はいまだに彼女の姿に驚きを隠せない。

 これまでのアレは何だったのか聞いたら、目を逸らされて少し謝られたためこれ以上は何もできず、どうするかと思った時だ。

 下の方から一夏が少し遅めであるが彼らの元に着き、もうこの時点ですごい疲れた顔をしている。

 

「はぁはぁ、やっと追いついた……はえーよ2人とも」

 

「そりゃまぁ……」

 

「練習していますし」

 

 2人にそう言われたためへこむ一夏。

 

「それにしても飛ぶ感覚ってのがよくわからなくてなぁ……こう、イメージって言われても……ホントセシリアに指導してもらわなかったらもっとひどいことなってたかも」

 

 一夏はクラス代表戦以降からセシリアにISのいろはを教えてもらっているが、いまだにいろいろと飲み込むことができずに操作に苦戦していた。

 なおあの試合でなぜあそこまで動けたかをセシリアが聞いたところ、ただ勝ちたいという感情だけで動いてた、とのことで彼女はそれに呆れていたりする。

 

「なあ、航はどういう感覚で飛んでるんだ?」

 

「んー……ノリと勢いといえば今はそうだけど、そうだな……そうだ、俺が飛べるようになるまでボロ雑巾になってた話でもしようか?」

 

「ぼ、ボロ雑巾……」

 

「あぁ。楯無にマンツーマンで教えてもらった時だが───」

 

「いや、話さなくていいわ」

 

「そうか……」

 

 若干航の目からハイライトが消えてたため、どれだけやばかったかをすぐ理解した一夏。さすがにセシリアもそれには苦笑いしか浮かべ切れず、一夏は不味いと思い、どうにか話題を変えようと考える。

 

「なあ、航──」

 

『さて、これから3人には急降下から地表10cmの場所で停止してもらう。いいな』

 

 その時だ。千冬からの指示が飛び、とっさに話すのを止める3人。そして最初誰から行こうかと一夏が聞こうとしたとき、すでにセシリアの体が動いていた。

 

「ではわたくしから参りますわ」

 

 セシリアは地面に向けて急降下し、道中即座に反転。そのまま地表10cmのところで見事に停止し、完全な見本を生徒たちに見せつける。

 

「航、どっちが行く?」

 

「じゃあ俺が」

 

 そして次に降りるは航。その巨体が一気に降りる様を下で見てた生徒たちは、恐怖を感じたのか一斉に逃げ出す。

 航も途中反転し、スラスターの逆噴射も利用して減速するが間に合わず、その足を地面に着けてしまう。その衝撃で地面が大きく揺れ、着地箇所を中心に放射状に亀裂を走らせるもどうにか着地する航。

 

「馬鹿者。私は10cmと行ったはずだぞ」

 

「すいません……」

 

「ったく、そのままじめんに墜落してたらどれだけの被害になって───」

 

 その時、彼らから少し離れた場所に、1つの白い流星が落ちた。

 

「……誰が墜落しろといった」

 

 一夏が急降下を行ったが、止まることができずそのまま地面に大きなクレーターを作り上げてしまった。そのため千冬からの説教が飛び、放課後は一夏がこの穴を埋めなければならず、そのことに彼は完全に膝を着いて落ち込んでしまっている。

 

「シャキッとしろ、織斑。では次に武装の展開について説明する。織斑、早速見せて見ろ」

 

 そう言われたため一夏はすぐに雪片弐型を展開する。1秒きるか否かの速度だったが、千冬は眉間にしわを寄せたままの顔で見る。

 

「まだ遅い。最低コンマ5秒で出せる様になれ」

 

 それで再び落ち込む一夏だが、実際彼の武装は雪片弐型1本しかないため遅ければ致命傷だ。そのためこう怒られるのは仕方ないのだろう。

 そして次はセシリアの番だ。彼女はコンマ5秒未満で主武装“スターライトmkIII”を展開するがその銃口が完全に一夏の側頭部を捉えており、そのことを千冬に怒られる。

 そして次は近接武装だが……。

 

「インター・セプター」

 

 セシリアの一声と共に1振りのショートブレードが左手に展開される。代表候補生がこのような展開方法を取るのは実際はどうなのだろうと思うが、だが彼女はそれを恥ずべきこととは思わずスラっとしたその刀身を見せる。

 

(え、こんな武装で雪片受け止めたのかよ……)

 

 一夏は改めてあの試合のことを思い出す。1次移行して一気に押してたのに、普通なら叩き切れていただろう。だが彼女の技量が上だったのかそれすら叶わず、最後はこの武装で止められて結果自爆による敗北。

 

(すげえよな、代表候補生って……)

 

 チラチラと彼女のことを見てることに気付かれたのか、小さく微笑みを返すセシリアにドキッとする一夏。

 そのことを箒が詰まらなさそうに見てるのに気づいておらず、それと同時に千冬が出席簿を振り上げるのにも気づいていなかった。

 

「では次は篠栗の番だ」

 

 沈黙してる一夏を放っておいて、千冬は彼の前に立ち、機龍を見上げる。

 

「さて篠栗だが……」

 

 正直どうするか彼女も悩んでいた。実際機龍の巨体こそが武器であり、すでに腕部レールガン、バックユニットが装備されているからだ。

 

「篠栗、他に展開できるものはあるか?」

 

「もうこの状態がフル装備なんですけど」

 

「何もないのか?」

 

「はい……」

 

「そうか……」

 

 無い袖は振れないのだから、仕方なく打ち切り、その後は千冬と真耶による説明が続く。そしてチャイムが鳴るや、授業は終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『織斑君、クラス代表着任、おめでとー!』

 

 パーン、パーンとあちこちでクラッカーの音が鳴り響く。その当事者である一夏はジュースの入ったコップを片手にただ苦笑いを浮かべている。

 

「あ、あはは……」

 

 現在午後6時半。食堂では主に1年1組の生徒たちが集まり、その中心に椅子に座った一夏がいた。現在全員の手にはジュースの入ったコップが握られており、周りのテーブルにはいろいろな食べ物が置かれている。

 

「じゃあ、織斑君クラス代表を祝って、かんぱーい!」

 

『かんぱーい!』

 

 これを皮切りに、女子たちはいっせいに盛り上がりだす。現在行われているのは“織斑一夏クラス代表決定記念パーティー”で、彼女たちはそれを祝う……のを建前にみんなで騒ぎ楽しんでいた。

 なお当人の一夏も何やかんや楽しんでおり、彼の両隣にいる箒とセシリアが一夏の口にお菓子をドンドン運んでいた。

 

「一夏もモテモテだねぇ」

 

「だね~。でもわーたんも、眉間の皺もう少し無くせばモテると思うよ~?」

 

「んー、そうか?」

 

「そうだよ~。でも~かいちょ~だけに見てもらいたいのかな~?」

 

「くっ、ははっ。そうかもな」

 

 本音からお菓子をもらいながらその姿を眺める航。だが実際彼の元にも女子たちがいろいろ話しかけてくるため、女子テンションに振り回されながらも航も楽しそうにしていた。

 

「はいはーい、新聞部でーす!今話題の男子生徒たちにインタビューにきましたー!」

 

 その時、眼鏡をかけた女子が一夏の元へとやって来た。ネクタイの色からして2年だが、彼女

 

「あ、君が織斑先生の弟の織斑一夏君ね。私は黛薫子。はい、名刺」

 

 そう言って一夏に名刺を渡してきた女子、黛薫子は勢いのまま一夏に対してインタビューを開始する。

 内容はクラス代表になったからその一言や、これからの意気込みなどと言ったものだ。まあ意気込みはともかく、一言の方は何気にねつ造されるらしいから一夏は呆れていた。

 そして次に一夏の隣に居たセシリアの方を向く薫子。

 

「じゃあ次はセシリア・オルコットちゃんだけど、うーん……あ、織斑君の操縦を見てあげてるって聞いたけど今どんな感じかな?」

 

「そうですね……。初心者ゆえにまだまだと言いますが、それでも一歩一歩それをモノにしてきていますわ。ただ私が説明してる時ゲンナリした顔を浮かべるのですが、どうしてなのでしょう?」

 

 少し困り顔で首をかしげるセシリア。一夏はそれを聞いたとき顔を逸らした。それを知ってる箒は苦笑いを浮かべることしかできず、ただ薫子とセシリアは首をかしげていたが、薫子は「なるほど」とつぶやき、他にちょこっと質問をしていく。

 

「オルコットちゃんありがとうね。じゃあ次はえーっと、もう一人の男子こと篠栗君は……いたいた」

 

 薫子は食堂の少し奥の方で本音と一緒にいる航の姿を見つけ、人波を掻き分け彼の元へと進んでいく。そして薫子は先ほどの一夏の時の様に航に名刺を渡し、そして質問してくる。

 そして彼女からの質問をすらすらと答えるだが、5つほど答えたころだろうか、それは唐突にやって来た。

 

「なるほど……。じゃああと、たっちゃんについて聞きたいんだけど……」

 

「たっちゃん?」

 

「うん。更識楯無でたっちゃん。わかりやすいでしょ」

 

「ああ、なるほどな」

 

 そういうあだ名があるのかと感心した航。だが彼女に付いて何を聞きたいのかと思いながらも、お菓子に手を伸ばす。そして薫子がマイクをズイっと航の顔に近づけ、詰め寄って来た。

 

「今たっちゃんと篠栗君が同室って聞いてるけど、彼女とはどういう関係?」

 

「関係、と言われても……幼なじみとしか」

 

「えー、つれないなぁ。ほら、他にもいろいろあるんでしょ?」

 

 グイグイとマイクを押し付けてくる薫子にゲンナリしてるのか、航も困り顔を浮かべている。どうしようと周りを見渡した時だ。薫子の後ろに1人女性が立っていた。更識楯無だ。

 

「楽しそうなことしてるじゃない、薫子ちゃん?」

 

「あ、たっちゃん」

 

「え、生徒会長!?」

 

「うそ、こんなところに!?」

 

 ワーキャーと騒いでる女子たちをしり目に、楯無は航がいるところへと一直線に向かう。本音はそれを見るやそそくさと航の隣から離れ、その場所に楯無は着いた。

 薫子は早速標的を航から楯無に変え、彼女の顔にマイクを向ける。

 

「さてさてたっちゃん。早速聞きたいことがあるんだけど」

 

「私と航の関係?」

 

「そうそう!ホント話が早くて助かるよぉ。で、どうなの?たっちゃんと篠栗君、幼なじみだけなの?教えてちょーだい」

 

 ゴマするかのように楯無に寄る薫子。楯無は扇子を手で遊びながらどうするか考え、チラッと航の方を見る。彼の少し眉間にしわを寄せた顔を見るや、ニコッと笑みを浮かべる楯無。

 

「そうねぇ。航と私は幼なじみなのは合ってるわ。でも、貴女はそれだけではないと思ってるのでしょ?」

 

「さすがたっちゃん、分かってるぅ」

 

 ノリノリの薫子。楯無も楽しくなってきたのか、ちょいちょい焦らしており、周りからの視線が多くなってきたところで扇子を広げて小さく微笑みを浮かべた。

 ついに来るかと全員が身構え、楯無の口が開く。

 

「なら答えてあげるわ。私、航と婚約してるの」

 

 それを聞いたとき、まるで時が止まったかのように食堂が一斉に静かになる。楯無は「あら?」と首を傾げ、航と目を合わせる。彼は小さくため息を吐きながら首を横に振り、楯無はニコッと笑みを浮かべる。

 

「え……婚約……?」

 

「そうよ」

 

「たっちゃんと、篠栗君が……?」

 

「さっきからそういってるじゃない」

 

 プルプルと震えながら確認する薫子だが、この事実が受け止めきれないのか何度も楯無と航の顔を見る。航はため息を吐いて顔に手を当て、対して楯無はしてやったりとちょっとドヤ顔を浮かべ、広げられた扇子に“婚約宣言”という文字を浮かべていた。

 

『え、ぇ……えぇぇええええええ!?』

 

 それはまさに音響兵器と言えるような叫びだった。女子たちが一斉に声を上げたため、男2人は耳がやられたのではないかと顔をしかめている。

 

「え、ホントに婚約してるの!?」

 

「現日本国家代表と世界に2人しかいない男子搭乗者の片割れ、もう図になるじゃない!」

 

「たっちゃん!もっとその情報を詳しく!」

 

 さっきの和気あいあいな状態とは全く違う、完全に阿鼻叫喚な状態と化した食堂。航は完全に呆れた顔で楯無の方を見る。

 

「楯無ー……」

 

「あはっ。だって航を取られたくないんだもん。だから、ね?」

 

「ねっ?じゃなくてだなぁ……これどうすんだよ」

 

 ただ航は食堂の光景を見てため息を吐くことしかできなかった。

 なおこれは一夏たちにも聞こえており、その大胆な告白に一夏はとてもびっくりしていた。

 

「箒!航、アイツ結婚するのか!?」

 

「う、うむ……そうだな」

 

 自分と違って妙に冷静な箒。さすがに違和感を感じたのか、一夏はとりあえずいったん落ち着いて彼女の隣に改めて座る。

 

「あれ、箒?なんかえらい冷静だな」

 

「実は……前にあの2人が道場で手合わせしてた時があっただろう。その時に教えられて……」

 

 知ってたことを隠してたことに罪悪感を感じたのか、箒は一夏から目を逸らす。なお一夏は箒に対して何も思っておらず、ただ航のことで頭がいっぱいだった。

 

「それにしても航、日輪のことはやっぱり立ち直ったのかなぁ。まあ、そうなんだろ」

 

「日輪?……あぁ、彼女か。そういえばあんなに航のこと好き好き言ってたのに、ここにいないのも不思議だな」

 

「あー……それなんだけど実はな───」

 

「うるさいぞ!少し黙れ!」

 

 その時だ。

 さすがに50を超える生徒が騒げばうるさくなり、そこに怒った顔の織斑千冬がやって来た。

 

 

 

 

 

 あれから千冬の説教が行われるも再びパーティは行われ、22時前にはもう全員解散し、航たちもすでに自室に戻っていた。

 

「あー、流石に疲れた。刀奈、あまりあんなこと言うなよ」

 

「えへへ、ごめんね。でも私、航が他の人に盗られるの嫌だし、色目飛ばされるのも嫌なの」

 

 刀奈が航に向かい合う形でまたがり、そのまま体を預けるように押し付けてくる。ただバランスが悪かったのかそのまま倒れ込み、「きゃん」と刀奈の小さな悲鳴が響く。

 

「ねえ、航……」

 

「何だ」

 

「私、重い?」

 

「別に。これぐらいが丁度いい」

 

 それを聞くや、彼の胸元に顔を埋める刀奈。航は何も言わず、彼女の頭に手を置き、優しく撫でる。

 

「んっ……」

 

 心地よさそうな声を漏らし、へにゃりとした笑みを浮かべる刀奈。

 

「航……私がずっとそばにいるからね……」

 

 航に聞こえない声でつぶやく刀奈。ただその目は、光が宿っていなかった。




リメイクするって、難しいですね……。

ではまた次回お会いしましょう。


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セカンド幼なじみ

どうも、最近バニー楯無さんのフィギュアをネットで購入し、家に来るのを今か今かと待ってる妖刀です。(新品未開封を定価で買えた)

途中書く気無くしたら戻したりの繰り返しで、何とか形になったので投稿します。
さてさて今回のお話はあのツインテール娘が……では本編どうぞ


 それはパーティが終わって間もないころだった。

 

「えーっと、ここをこう行って、次にこう……ったく、この総合案内所ってどこなのよ!」

 

 1人の少女が夜の学園で叫ぶ。なんでこんな時間、こんなところに私服の女子がいるかは不明だが、彼女は手に持ったメモ用紙とにらめっこしながら周りを見渡す。

 そしてやみくもにあちこちを歩きまわってた時、何やら談笑してる生徒たちがいるため場所を聞こうとしたが、その中に1人の男子がおり、それを見た彼女は足が止まる。

 

(うそ、一夏……)

 

 男子、一夏を見た女子の顔はまさに恋する乙女のようなもので、顔をプルプル振って笑顔を浮かべた彼女は彼に声かけようと近づく。

 

「ねえ、一k───」

 

「一夏!明日は剣道の練習をするぞ!」

 

「まあ箒さん。明日はわたくしのISの講義でなくて?そう約束したはずですわよ」

 

「う、ぐぅ……!」

 

「ですがわたくしも鬼ではありませんわ。貴女も一緒に来れば、ねぇ?」

 

 そこに現れたポニーテールの女子と金髪の女子。それを見た少女は一瞬で固まり、彼らがどこかに行くのをそのまま見送る。

 その後、少女は無事総合案内所を見つけ、そのまま手続きを行っていたが……。

 

「はい、これで手続きは終わりですよ、凰鈴音さん」

 

 そう呼ばれた少女、凰鈴音はお礼を言い、ニコッと笑みを浮かべる。ただその目には光がなかった。

 

 

 

 

 

 

 どうしてこんなところに自分はいるのか航は分からなかった。ただ何もない和室。そこに彼はいたが、そんな彼の前に1人の女の子が座る。

 航は彼女を知っていた。烏の濡れ羽色のような黒くて長い髪。整った容姿に、そしてルビーの様な赤い瞳がジッと航を見つめていた。

 

「ねえ、航。私と刀奈、どっちが好き?」

 

「え?どうしたのいきなり」

 

「ねえ、どっちなの?」

 

「ん~どっちも好きだし……」

 

「へえ、そうなんだー。なら航……」

 

 彼女は微笑みを浮かべる。

 

 ──好きならなんで私をたすけてくれなかッタノ?──

 

 ゾッとするような寒気。そして彼女は手を伸ばし、そのまま航の首を絞める。先ほどの綺麗な肌は青白く変色しており、濁った赤い瞳が狂気を感じさせる

 航は必死に振りほどこうとするも、その力はとても強く引き剥がすことができない。

 

 ──航、ねえ、死んで。シンでワタシのところにキテ──

 

「う、ぁ……あぁああああああ!!!!!!!」

 

 そして航の首の折れる音が響いた。

 

 

 

 

 

 汗で身体がべとつく中、航は目を覚ました。現在時刻は朝5時で、窓からは眩しい朝日がカーテンの隙間から覗きこんでいる。

 

「……っ!」

 

 急いで鏡で首元を見るが、特に痕などもなく、ただの夢と分かった航だが、気分が悪くなったのかそのまま脱衣所の方で顔を洗いに向かった。

 

「ん……どうしたの?」

 

 そして再びベッドに戻った時、寝惚け眼をこすりながら起きた刀奈が小さく欠伸をしながら航の方を見ていた。どうやら先ほどので起こしてしまったらしい。なぜ一緒のベッドにいたかは今更だからスルーしつつ、航は苦笑を浮かべた。

 

「……いや、何でもない。ただ悪い夢を見ただけだ」

 

「そ~。ならまた寝ましょ~?ほら~私が抱っこしてあげるよ~」

 

 両手を広げて誘う刀奈。戻ればそこには楽園が待っているのだろうが、時計を見るやいつもの朝練に出る時間だったため、航はそれを断る。

 そのため刀奈が頬を膨らませてそのまま不貞寝してしまうが、航は彼女の頭を優しく撫でるや道着に手を伸ばし、そのまま日課の朝練のため自室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

「ねえねえ聞いた?2組に転入生来たんだって」

 

「え、ホント~?」

 

「うんホントホント。それでさ、その子中国の代表候補生なんだって」

 

「うっそ~!?」

 

「ほんとー!」

 

 この日、1組の女子たちの話題は2組のことでもちきりだった。それはむろん一夏の元にも届いており、一夏はそれを聞くや

 

「転校生かー。どんなのかなー」

 

「あら、一夏さん。今はそういうのを気にする暇はあると思いまして?」

 

「そうだぞ一夏。もうそろそろクラス代表戦が待ってるのだぞ!」

 

 そう詰められるが、彼だってそのことは分かっていた。だから今日までISではセシリアにいろいろ教えられ、箒からは剣道場で毎度の様に竹刀を握っていた。

 だから問題ない、とは言えないが彼もそうそう負ける気はなかった。

 その時教室の前の扉が開き、そこから航が欠伸しながら中に入って来る。

 

「お、航おはよ」

 

「ああ、おはよ。ん、くぁぁ……」

 

「おいおい、欠伸とか夜更かしでもしたのか?」

 

「んーそうだな……悪い夢を見た。ただそれだけだ」

 

「悪い夢?」

 

 どういうのか聞こうとした一夏だったが、それより箒たちが一夏をまくしたてるためタイミングを逃してしまう。

 

「何かえらい騒いでるけどどうしたんだ?」

 

「航、貴様も言ってやれ。もうそろそろクラス代表戦なのだぞ」

 

 箒からその名を聞いたとき、航は納得したかのように何度もうなずく。

 

「おー、そうか。それなら一夏ガンバ」

 

「おう、任せとけ!」

 

「そういえば優勝したチームはデザートフリーパスと訓練機の貸し出し優先権が手に入るってさ」

 

 それを聞いたとき、女子たちの目の色が変わった。そして箒とセシリアが一夏の肩をガシッと掴む。

 

「一夏、優勝するぞ!」

 

「一夏さん!絶対優勝いたしましょう!」

 

「お、おう……頑張るさ!もちろん頑張るさ!」

 

 最初2人の迫力に気圧される一夏だったが、グッと拳を握り立ち上がるや、その決意を表明した。それを聞いたクラスの子たちが一斉に一夏の方を向くが、一斉に拍手が巻き起こりそれと同時に応援の声が送られた。

 

「それでこそ一夏だ!」

 

「ではわたくしたちはどうすれば一夏さんが勝てるようになるか考えますので」

 

 むろん箒とセシリアも一緒で、むしろ彼を勝たせるためにいろいろ策を練り始める。それに周りの女子も数人交わりはじめ、気づけばそれぞれが意見交換しあう場となっていた。

 

「そういえば専用機持ちのクラス代表って1組以外誰がいるの?」

 

「えーっと1組と4組だけど、4組の子専用機持ちが完成してないとか聞いたよ」

 

「え、それなら楽勝じゃない?」

 

 一夏以外の専用機持ちがいない、それならチャンスあると全員が思った時だ。

 

「その情報、古いわよ」

 

 声がした。いったい誰なのかと全員が声のしたドアの方を向くと、そこには髪をツインテールにした1人の女子が腕組みをして立っていた。

 

「お、お前、鈴、か……?」

 

 鈴と呼ばれた少女、凰鈴音は一夏を見るや、そのまま彼の前に立ち、ビシッと指をさす。

 

「ふふん。この私、2組代表の凰鈴音が宣戦布告に来たのよ。どう、驚いた?」

 

 ドヤ顔で胸を張る鈴。だが一夏は最初は驚いていたものの、軽く呆れた顔で鈴を見て小さくため息を吐いた。

 

「お前なぁ……そう威張っても怖くないぞ?」

 

「な、何言うのよアンタはー!」

 

 キーっ!と怒り、一夏の机を叩く鈴。だが一夏は笑顔を浮かべたまま鈴の頭をなでたため、顔を真っ赤にしながら一瞬で落ち着く鈴。それを見た箒は驚きの顔を浮かべており、セシリアも「ほぉ」と感心した顔で一夏を見ている。

 そして落ち着いたころ、鈴は一夏の隣の席にいる航に気付いた。だがいつの間にか航は仮眠してるのか、腕を組んでうつむいたまま寝息を立てており、鈴はニヤニヤとしながらそんな彼の肩を思いっきり揺さぶる。

 

「んぉ……!?」

 

「航!あんた元気にしてた!?」

 

 無理矢理揺さぶられたことで航が目を開き、濁った眼でじろりと鈴を睨みつけるが、そのツインテールを見たとき、彼の瞳が揺れた。

 

「ひの……いや、鈴か……鈴?」

 

 鈴がいることに驚いたのか、完全に目を覚まして鈴の方を見る航。鈴は先ほど睨みつけられたことで少しびくついていたが、彼女の知ってる航になったのを確認したのか、安堵の息を吐く。

 

「ホント久しぶりね。てかアンタ、誰かと間違えなかった?」

 

「いや、気のせいだ……」

 

 曖昧な返事の航にジト目で返す鈴。だがこの時、教室の扉が開き、そこから入って来た人物を一夏が見たとき、少し顔を青くし、さっさと席に着く。

 そしてソレは気づいてない鈴の元へ近づき、手に持っていたモノを振り下ろした。

 

「いったぁ!いったい何なの、よ……。ち、千冬さん……」

 

 頭に強い衝撃が走ったため怒っていた鈴だが、千冬の姿を見るや冷や汗がブワッと噴き出す。そんな鈴を見ながら、再び千冬はその出席簿を上げて行く。

 

「織斑先生だ。さっさと2組に戻れ」

 

「は、はいぃぃぃ!一夏、また昼休みね!」

 

 そのまま脱兎のごとく2組へ逃げる鈴。ぽかんとしてた一同だったが、この時箒が一夏に詰め寄り、あの女は誰だと問いただす。だがしかし、箒の脳天に出席簿が叩き込まれるまで、そこまで時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 あれから昼休み。各生徒は食堂に向かったりといろいろ行動をする時間だ。そのため一夏も食堂に向かおうとしたが、この時怒ってる箒に詰め寄られていた。

 

「一夏のせいだぞ!」

 

「いやなんでだよ」

 

「そうですわ箒さん。あれは貴方の不注意が原因かと」

 

 セシリアからの援護射撃に何も言い返せない箒。

 あの授業後、箒はさっき現れた鈴のことばかり考えていたため、授業が耳に入って無かったのもあって千冬に何度も頭を叩かれたのだ。それで一夏に対して怒っているが、当の一夏は何で怒られてるのか全く知らないため、教室を出ようとしてる航に声をを駆けた。

 

「そういえば航、一緒に食堂来ないか?」

 

「んー、いいけど」

 

 その後食堂に向かう御一行。そして食堂に着いたとき、そこにラーメンが乗った盆を持った鈴が仁王立ちで立っていた。

 

「おーい鈴、そこ邪魔になってるぞ」

 

「一夏が遅いのがいけないのよ!」

 

 とんだ理不尽に苦笑いを浮かべる一夏。そして鈴に席を取らせに行った間に一夏たちは昼食をもらって、鈴のいる席に着く。

 

「それにしてもホント久しぶりだな鈴。元気にしてたか?」

 

「もちろんよ。それにしても一夏も元気そうでよかったわ。というか元気すぎるっぽいからたまには怪我ぐらいしなさいよ」

 

「おいおい、なんだよそれ」

 

 鈴の冗談を笑い飛ばす一夏。

 

「いやー、それにしてもホント鈴とは1年ぶりだな。中国行ったから不安だったけどこうやって見るとホント元気でよかったわ」

 

「そ、そこまで心配されてたなんて照れるわね……」

 

 そのまま2人で談笑が始まるが、それがつまらない箒はさっさと昼食を食べるやバンッとテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「一夏!彼女は一夏の何なのだ!?」 

 

「え、私はい、一夏の……」

 

「鈴?鈴は幼なじみだぞ」

 

「え、幼なじみ……?」

 

 ポカンとする箒と少しふてくされてる鈴。

 

「おう。箒が引っ越した後に転入してきた子でな、箒がファースト幼なじみなら鈴はセカンド幼なじみってところだな」

 

 そんな一夏の説明に呆れる面々だが、鈴はそんな箒に興味を持つ。

 

「ふぅん、てことはアンタが言ってた篠ノ之箒ね。私、凰鈴音よ。よろしく」

 

「篠ノ之箒だ。箒でかまわん。よろしく頼むぞ」

 

「なら私も鈴でいいわ」

 

 そのまま握手をする2人。だが後ろでナニカが爆発した気がするのは気のせいだろうか。

 

「ふふ、このセシリア・オルコットを忘れないでほしいですわ」 

 

「え、誰」

 

「なっ……!?わたくし、セシリア・オルコットを知らないですって……!?」

 

 強くショックを受けるセシリア。それで完全に落ち込んでいたが、そんなの気にしてない鈴はそのまま航の方を向いた。

 

「というか改めて久しぶりね航。元気にしてた?」

 

「んー……まあしてた、と思う」

 

「何よー2年ぶりの再会なのにその返事」

 

「そう言われてもなぁ……」

 

 頬をポリポリと掻く航だが、不意になんで“今になって”鈴が編入してきたのか気になった。彼の記憶では鈴は日本にいたはずだが……。

 

「なあ鈴、お前何で入学遅れて来たんだ?そして中国の代表候補生?日本にいて?」

 

「え、私中国にいたからなんだけど」

 

「え?」

 

「え?」

 

 航はいったい何のことか全くわからず、ただ首をかしげている。航はまだこっちにいた頃、鈴が日本にいたのは覚えている。そのためかみ合わない会話にただ疑問を感じた。

 

「あー、そうか。航は知らんかったな。航がいなくなって1年後に鈴は中国に引っ越したんだ。だから俺は鈴と1年ぶりで、航とは2年ぶりになるんだよ」

 

 一夏の説明に納得いったのか、なるほどと頷く航。

 

「へー中国に……鈴も大変だっただろ。一夏と離れ離れになるんだから」

 

「えぇ、もちろんよ……。でもこうやってまた会えてすごい嬉しいわ」

 

 ニコッと笑みを浮かべる鈴。

 

「そういえば一夏、クラス代表なんだって?」

 

「あ、あぁ。いろいろあって代表になったんだ」

 

「ふーん……」

 

 スープを飲みながら答える鈴。だがこの時、彼女の口角が上がり、何か思いついたかのような表情になる。

 

「ねえ、一夏ってまだIS乗って間もないんだよね?それなら私がISの見てあげようか?」

 

「お、本当か?そりゃ助か──」

 

 彼女も一夏との時間が欲しいのだろう。その欲と善意を交えて行ったのは良いがこの時、箒がダンッ!とテーブルを叩き立ち上がり、ギッと鈴を睨みつける。

 

「それは間に合っている!なんせ私とセシリアが一夏のを見てるのだからな」

 

「そうですわ。それに今度のクラス対抗戦の対戦相手に手を見せたくないので、下がってくださいます?」

 

「なによ、今は私が一夏と話してるの。下がってなさいよ」

 

 箒の妨害とセシリアの援護。それに気を悪くした鈴が彼女たちを睨みつける。

 先ほどの和やかな雰囲気から一転、明らかに殺気立てる3人に挟まれてる一夏はオロオロとしており、航はそれを尻目に昼食を取っていた。だが鈴はため息を吐いた後、グルンと航の方を向くや笑顔を浮かべて彼に詰め寄る。

 

「それなら航、私が見てあげようか」

 

「んー……それは嬉しいけどさ、俺、もう見てくれる人いるし」

 

「え、そうなの?どういう人?」

 

「現役日本国家代表」

 

「え゛っ……そ、そう。そんな人が見てくれるならその期待に応えれる様に頑張りなさいよ」

 

 鈴はひきつった笑みを浮かべながら、これは完全に無理だと諦める。

 

「ほれみろ。今は貴様は下がっておくのだな」

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

 勝ち誇った顔の箒と悔しがる鈴。セシリアは軽くため息を吐くや一夏と放課後の練習内容について話し合う。

 

「何よ一組だからって!私は一夏に───」

 

「ごちそうさま」

 

 その時パンっと手を合わせ、一番最初に航は食べ終わった。そしてそのまま盆を返そうと立ち上がる。

 お互い睨みあっていた箒と鈴だが、いきなりの手を合わせる音にびっくりして完全に航の方を向いており、一夏もぽかんと彼を見ていたがそれを引き止めようと立ち上がる。

 

「おいおい、まだここにいればいいじゃん」

 

「すまんが用があるからな。お前らとの食事まあ楽しかったぞ。それに、ウマに蹴られてまだ死にたくないし」

 

「え?」

 

 航はケラケラ笑いながらこの場を後にする。一夏は意味が分からないと首をかしげているが、箒と鈴は内心航に向けてグッジョブと親指立てていた。

 そして航が盆を返すとき何人か生徒たちとすれ違うが、彼女たちは彼を見るや一瞬びくりと体を震わせて道を開ける。この時彼は気づいてるのか気づいてないのか分からないが、ただ無表情を浮かべていた。




なおここまで投稿遅れた理由ですが、途中シリアスな感じにしようかな思ってたら変に詰まってしまい、結果シリアスを結構抜いたらすらすら書けてしまいました。ええ、無駄なことなんてするもんじゃないと改めて思いました。



では次回をお楽しみに


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怪獣学 3

どうも、楯無さんの私服はダサい言われて寝込んだ妖刀です。ダサかろうとそれすら含めて彼女が大好きという結論にたどり着いたので、さっさと書きあげて今回の最新話を投稿します。ではどうぞ!



ぶっちゃけ彼女の私服がダサく見えないのって、自分がある意味彼女と私服センスが似てるんだろうな、って思ってしまったのは秘密だったり。


 それから午後、航は次の授業の準備をしていた。その隣で一夏が鼻歌歌いながら準備をしており、嬉々としながら航に話しかけて来た。

 

「航、次怪獣学だってよ。楽しみだな」

 

「ああ、そうだな……てかお前、そんなに楽しみだったのか?」

 

「もちろんさ!てか航、これお前が原因だということ忘れてないか?」

 

「……忘れた」

 

「おいっ」

 

 一夏のツッコミが入るが、航は目を逸らした。実際お互いが小学生の頃、航が一夏に“知り合い”から貰った怪獣の情報がたくさん詰まった図鑑を見せ、それで気づけば一夏もその魅力に引きずり込まれて行ってたのだ。なおこれで当時、箒は2人に軽くドン引きし、鈴は呆れ果てていたという。

 そしてチャイムが鳴ると騒いでいた生徒たちも一斉に静かになり、それと同時に扉が開き、そこから怪獣学担当である家城燈が入って来た。

 

「はーい、今日も怪獣学やりますよー」

 

 そのまま教卓に着くやそのままさっさと操作パネルを操作し始める燈。

 そして彼女が操作して複数の画像を展開すると、そこに写っていたのは極彩色の翼をもつ、巨大な怪獣の姿だった。

 

「綺麗……ってあれ、これって最初の怪獣学で写真に載ってた怪獣じゃ?」

 

「あら、ちゃんと覚えていてくれたのですね。では今日の怪獣はモスラを行おうと思います」

 

 覚えてくれてたのが嬉しいのか、小さく笑みを浮かべる燈。実際怪獣学はとても不人気であり、毎年生徒たちの成績は、この教科だけ赤点は取らなくても良くないって状況だ。実際怪獣学では赤点とっても補習とか無く、進学に関係はないが、のちの就職で国防系に入るのは100%不可になる。

 まあ今年はちゃんとしてる生徒がそこそこおり、その中に男子2人も含まれるから燈の機嫌が良くなるのは目に見えてよくわかる。

 

「では改めて、この怪獣の名前はモスラ。別名巨大蛾怪獣、巨蛾と呼ばれ1961年と2004年に東京に現れた怪獣です。基本的にはこちらから何もしなければ決して攻撃してこないと言われ、人類には比較的友好的な怪獣でもあります」

 

「蛾……?」

 

「名前も英語で蛾を意味するmothが使われており、ラはゴジラのラを足したと言われてます。まあ見た目は蝶に見えるけど、そこら辺間違えないようにしてくださいね」

 

 怪訝な顔をしてる生徒たちに説明するが、実際蛾と言われていい顔する子はあまりいないだろう。だがそれを気にしない燈はそのまま世界地図を展開し、赤道近くに赤い点を出し、そこを拡大していく。

 

「モスラは基本的には南太平洋のミクロネシア・カロリン諸島のインファント島という島に生息しており、そこで守護神と崇められております。そして現在も稀に島の外で飛行してる姿が撮影されます。ちなみにインファント島ですが、今は立ち入り禁止になってる島で、近くにあるレッチ島と呼ばれる島から見ることができるんですけど……正直ここもここで別の怪獣がいるんだけどそれはまた別のお話にでも。そしてレッチ島はぜったい船で行っちゃだめですよ。海にいる怪獣に食べられて死にますから」

 

 死ぬと聞いたとき、教室の温度が下がった気がした。先ほどの赤い点がある島の隣、そこにある人周り小さな島にマークが打たれる。

 

「あの……死ぬって……」

 

「これニュースになってないんだけど言ってもいいのかな……。まあ要点をまとめると、ある国の軍艦がその島に近づいた際、その怪獣によって艦が沈められていてですね。搭乗員全員死亡もしくは行方不明。ただその時の最期の通信に“巨大な鋏が”という言葉が遺され、後に上空からの調査で分かったのがレッチ島近辺に巨大なエビの怪獣がいるということで、それの回遊圏がインファント島も含まれているという事実がもたらされています」

 

「あの先生、その怪獣の画像ってあるんですか?」

 

「ええ、ありますよ。そうですね……それなら次回にでも行いましょうか。当分は今現存してる怪獣で行う予定なので。さて話が少しそれたけど、モスラは1961年と2004年に2度日本に現れ、片や東京をめちゃくちゃにし、片や日本を守るために戦いました。ではまず昭和の方から……」

 

 そしてパネルを操作してまた違う画像を出す燈。そこに現れたのは巨大なチョココルネに見える画像に、折れた東京タワーにさらに大きな白いピーナッツみたいなのが張り付いた画像、そして巨大な羽を生やしたモスラの姿などが出される。

 

「1961年版モスラ。幼虫の体長は最初40メートルと言われてますが、日本での観測時は最大180メートル。体重は大きさが変わるからそこまでわかってないけど恐らく2万トンは優になると思います」

 

「え、とても大きくないですか……!?」

 

 あまりの大きさに何も言えなくなる女子達。180メートルという大きさはあまりにも大きく、想像がしにくいだろう。

 

「実感の湧かない人は今度アリーナで縦横どっちでもいいから180m計ってみて下さい。そしたら大体わかると思いますので。さてモスラですが1961年、現在のロシア……旧ソビエト連邦北部にあった国、ロリシカ共和国の領地であったインファント島にて当時日本人とロリシカ人が合同調査に向かった際、そこで小美人、妖精を発見します」

 

「妖精!?」

 

 その言葉に西洋系女子達が反応する。まあ、向こうは妖精の伝説とかいろいろあるからそれに反応したのだろう。セシリアもその中の一人だ。

 

「はい。ですがその小美人をロリシカ人であるクラーク・ネルソンが見世物にするために拉致、そして最初に日本の東京で早速独自のショーを行ったのです。ただ、それがいけませんでした……。ちなみにクラーク・ネルソン、彼は悪い意味で世界史の教科書にも乗ってる人ですので、今度暇があったら見てみてください。なんせ彼のせいで日本とロリシカ共和国は大惨事な目に遭うんですからね」

 

 一瞬黒い笑みを浮かべる燈。いったい何をやらかしたのか最初分からなかったが、今の授業がモスラであることを思い出すと、何人か顔が青くなり始める。

 

「この時、小美人は歌を歌っていたと言われていますが、その時にモスラにテレパシーか何かを送っていたらしく、それによってモスラがインファント島から小美人がいる東京へ向かい始めます。その道中軍などが足止めを行いますが、モスラはどんな攻撃も関係なしに突き進み、結果東京への侵入を許してしまいます」

 

 その写真が出されるが、どれも悲惨なものだ。通った後は文字通り均されており、前に見たゴジラが暴れたときの様にとてもひどいありさまになっていた。そして周りの建物とその後ろに移るモスラの大きさの差がすごく、目の錯覚かと思うほどの迫力がある。

 

「その後モスラは自衛隊の攻撃もものともせず、目の前にあるものをすべて破壊しながら進軍。そして東京タワーに着いた際、そのままよじ登り、東京タワーをそのまま真っ二つに折ってしまいます。ちなみに怪獣が東京タワーを壊したのがこれが初ですね。その後2004年にゴジラが破壊したため、現在の東京タワーは3代目になります。その後モスラはこの東京タワーで繭を作り始めます」

 

 そこに出てきた画像には、折れた東京タワーに巨大な繭を作り出したモスラの姿があった。改めてみると明らかに異様なほどの大きさの繭に生徒たちは現実を受け止められないのか混乱してる様子。ただこの中でまともな顔で受けてるのは男子二人と一部の女子たちぐらいだ。

 

「そしてネルソンの行いでこのような事態になったロリシカ共和国は責任を感じ、日本に当時最新鋭の原子熱線砲……いわゆるメーサー殺獣車のご先祖を向かわせ、そのままモスラの繭を焼きます。それによってモスラを焼却したかと思われてましたが……この時の熱により進化が早まり、それによって繭からモスラ成虫が出てきました」

 

 そして燈が画面を操作すると、先ほどの繭から出てきてるモスラ成虫の画僧が写る。翼を広げたその姿だが、東京タワーと比較しても明らかに大きく、巨蛾の名に恥じぬ巨大な姿が映し出されていた。

 

「モスラ成虫。体長80メートル、翼長250メートル。体重は約1万トンとされ、体長はともかく翼長250メートルは今まで現れた怪獣の中で一番大きく、それを超える怪獣は未だに現れてません」

 

「250メートル……!?」

 

「え、でかくない!?」

 

「うそ……!?」

 

 誰もが驚きを隠せず絶句している。先ほどの幼虫でもとても大きいのに、それをさらに超える大きさなのだ。なお比較対象に東京都庁が出されるが、モスラの翼長はそれすらも超える大きさのため余計に訳が分からない。

 

「モスラの飛行速度はマッハ2ほどでその羽ばたく力はとても強く、1度羽を動かせば木を薙ぎ払い、車をひっくり返し、人間も木の葉のように空を舞うほどと言われています。その後モスラは繭から飛翔し、そのままロリシカ共和国に侵入。首都ニューカークの上空から小美人を探し続けたため、その羽からの暴風により街は壊滅状態に。ただそのおかげで小美人たちは無事ネルソンの元から逃げ出し、彼女たちを助けに来た日本人調査隊の人達に保護されます。その後、小美人からの教えにより、ロリシカ共和国の空港にモスラの紋章を描くことでモスラが気づき、その後小美人が返されたことによりモスラはインファント島へと戻り、この事件は終息を告げます。ちなみにこの紋章は当時撮られたものを借りさせてもらいました」

 

 そして燈が映したのは空港に描かれた大きな紋章だった。そして次に映し出されたのは、そこを中心にモスラが居座る姿。先ほどまで暴れた姿と異なり、とても大人しそうな様子に何か愛嬌も感じられる。

 

「そういえばネルソンはどうなったのですか?」

 

「彼はこの事件が収束する前に亡くなっており、その理由がモスラがニューカークで暴れたからとも、彼が原因でモスラが来たことに怒った市民たちに殺されたとも言われていますが、そこら辺ははっきりしていません。なお事件は終息しましたがその後、ロリシカ共和国はこのモスラの一件により社会的地位も大きく落ち、首都壊滅という甚大な被害により回復が出来ない状況とりなり、そこに日本からの損害賠償の請求が重なったため、1963年にソビエト連邦に吸収されてしまいました」

 

 1人が起こしたこととはいえ、ここまで大惨事を起こしたのだ。そのため国が消えても仕方ない。怪獣は1体だけでそれを起こせるだけの力があるのだ。これで授業最初の舐めてた態度がそこそこ鳴りを潜め、前よりノートを開いて真剣に聞く子が増えていた。

 

「先生。ここまでしたのにその後モスラを殺せというのはなかったのですか?」

 

 1人の生徒が質問する。だがこれは誰もが思ったことであり、だいたいの生徒がそれに同意するかのようにうなずく。

 

「たしかにあったのでしょう。ですが、元々これの原因は人間が起こしたことであり、モスラはただ拉致された島の者を取り返しに来ただけにしかすぎません」

 

「ですけど……」

 

「モスラにとっては善も悪もなく、ただ自分にとって大切な小美人を取り返すために行動してるだけです。そうですね……皆さん、自分の中に大切な人を思い浮かべてください。もしその人が連れ去られた時どうしますか?その時……そうですね、言ったらアレですが自分の手元に力、ISがあれば……と」

 

 その時、誰もがそのISを使ってその人を取り戻しに行くと考える。実際そうだ。条約とか関係ない、大切な人を守るためならきっと自分も使うだろう。誰もがそう思っていた。

 一夏は不意に自分の過去を思い出し、一瞬苦い顔をする。だがそれでなんとなく、一夏はモスラの気持ちが分かった気がした。ああ、だから千冬姉は……と。

 この時、一夏は何か感じたのか不意に左隣を向く。そこには航がいるが、彼はうつむいたままギチ……と歯を食いしばっていた。まるで悔しそうな、悲しそうな顔をしており、一夏はなんでそんな顔をしてるのか察してしまう。

 

「……篠栗君、どうしましたか?」

 

 完全に俯いてた彼だが、燈から見ても明らかに1人だけ異様な雰囲気がその時出てたのだ。

 

「……あ、いや、なんでも……ありません……」

 

 パッと顔を上げて返事する航だが、明らかに元気がない。隣に居る一夏も心配そうに見ており、周りも何があったのかと怪訝な表情で航を見つめる。

 燈もどうしようか悩んだとき、不意に時計を見るや、小さくため息を吐いて手を叩いてこちらに注目を集める。

 

「んー、ちょっと長引いてしまいましたね。では次回は2004年に現れた個体と、その子供たち。そして時間があればレッチ島近海の怪獣に着いても触れて行きましょうか」

 

 そして丁度良くチャイムが鳴り、そのまま号令ともに燈は教室を後にする。生徒たちは5分程度の休憩時間に次の授業の準備や他の生徒たちと話し合ったりしている中、一夏は一人黄昏てる航に声をかけた。

 

「なあ、航」

 

「ん、何だ……」

 

「航は……いや、何でもない」

 

 目を伏せる一夏。航はそれを見るや、ため息を吐き視線を窓の外の青空に向ける。

 

「なあ一夏。俺、ISがあれば大切な人を守ることできるかな……」

 

「航……」

 

 それは今航が持ってる願い。ただ一夏には彼が少し危うく見えた。

 なぜなら第2回モンド・グロッソの後の自分の姿に重なって見えたのだから……。




というわけで今回の怪獣学はモスラ(初代)でした。実際最初はリメイク前と同じ順番で考えたけど、最近モスラ見たのと、某氏の動画(わかっても名前は伏せておいてください)を見て、「そうだ、モスラにしよう」ということになりました。なお次回は普通のお話ですが、次の怪獣学はモスラ(東京SOS版)+α(余裕があれば)となっております。

では次回をお楽しみに


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銀対蒼

どうも、最近艦これ熱が少し冷めて小説熱が再燃してる妖刀です。こんなペースで投稿していくつもりなのでよろしくお願いします。では最新話どうぞ


 それから放課後、一夏は第3アリーナの方でいつものようにセシリアからISの操作練習を習うことになっていたが、今日はいつもと違うメンバーがそこにいた。

 

「あら箒さん、やっと来ましたのね?」

 

「おぉ箒……箒?」

 

 そこにいたのは量産型IS“打鉄”を纏った箒がいた。いつもの雰囲気と打鉄の姿が相まって、見事にサムライガールという様になる姿をしている。

 そんな箒は打鉄内に格納されてる装備の名前を叫ぶと、その右手に1振りの近接ブレード“葵”を展開し、反対側の手を挙げて一夏を指さした。

 

「一夏!貴様を鍛えに来たぞ!」

 

「お、おう……?」

 

 何か自信満々な箒。

 

「一夏、まだ近接訓練の訓練が足りてないだろう。だからISを借りてきたのだ」

 

「あぁ、たしかに近接訓練はな……」

 

 実際してきてないわけではない。セシリアはインター・セプターを展開し、それで一夏と打ち合っていたのだ。いや、打ち合いっていたと言うよりセシリアは苦手な近接戦の相手を一夏にしてもらってるというモノだった。

 だがその捌きっぷりは見事なもので、実際太刀である雪片二型を使ってるのにギリギリなところもあるものの、セシリアは10回中2回しかモロに攻撃をくらってない。

 しかし、一夏からしたらつばぜり合いなどの状況がないため少し不満が溜まっており、むしろ今箒が来てくれたことを嬉しく思っていたりする。

 

「箒さん、一夏さんの相手するのはいいですが、まずは───」

 

「では、参る!」

 

「ちょ、箒さん!?」

 

「はあぁぁぁあああ!」

 

 セシリアの言葉を聞かず、一直線に一夏の元へ向かう箒。そして振り下ろされる葵だが、一夏はそれを後ろに下がって躱し、一夏は雪片を箒めがけて横に薙ぐ。だがいつの間にか葵が上げられており、そのまま雪片を受け止める。

 

「甘いぞ一夏!私があのような動きで隙を見せると思ったか!」

 

 一気に踏み込む箒。それによって押し込まれる一夏だが、それを力づくで押し返すや完全につばぜり合いの状態に入る。

 

「楽しいぞ一夏!私はとても、きゃあ!?」

 

「な、何だ!うおっ!?」

 

 その時、彼らの周りに数発レーザーが降り注ぐ。さすがに驚いた2人はとっさに空を見上げると、そこにはスターライトmk-Ⅲを構えたセシリアがいた。

 

「全く、2人は血の気が多すぎますわ。今はわたくしが教官なのですから、ちゃんとわたくしの指示に従ってもらいますわ」

 

「だが近接は私の領分だ!」

 

「ええ、それは分かっていますわ。……はぁ、まあ今は好きになさってくださいまし」

 

 それを聞くや、ぱぁっと嬉しそうな顔をする箒。そして改め葵を構えるや、それに応える様に一夏も雪片を構える。そしてお互い再び切り結び合う姿を見届けるや、セシリアは今自分が出来る、いや自分が出来なければならないことの練習を始めるが……。

 

「そういえば航さんは、今何をしてるのでしょう?あんな機体、まだ使いこなせてないでしょうし……」

 

 不意に航のことが気になったセシリア。実際前の試合でも完全に使いこなせてる様子でもなかったため、きっとどこかで練習してるのだろうと思うが、あんなのがいて、他の生徒たちは集中できるのか……。

 まあ気にしても何も始まらない。セシリアは自身の周りに展開したターゲット目掛けて射撃を開始した。

 

 

 

 

 

 一夏たちが第3アリーナで特訓をしてる同時刻。

 ここは第5アリーナ。学園には6つアリーナが存在しており、現在放課後にて自由に使えるアリーナは第2、第3、第4となっている。そのためそ現在この時間は基本閉ざされている第5アリーナだが、その中に銀色の龍、四式機龍が立っていた。

 ただ機龍はジッと空を見上げており、まるで何かを待っているかの様だった。

 

『ピットより1機のISが発進』

 

 その時、機龍からそんな反応が届いたため、航はピットのある方向を向く。そしてそこから1機の青いISが出てくるのを見たとき、ダラリとしていた尻尾が反応した。

 そのISは水色を基調としており、上半身は他のISと比べて装甲が少ないように見えるが、腕部が機龍のと酷似しており、指が5本なの以外はほぼ機龍と言っても差し支えない。そして脚部も機龍のに似ており、がっしりとした脚部の先には4本の爪が備え付けられていた。

 そして本体左右には非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)である大型のひし形のクリスタルが浮かんでおり、そこからあふれ出る水が機体をヴェールのように纏い、まるでドレスを着てるかのようにでも見せる。

 名は“蒼龍”。四式機龍の姉妹機であり、第三世代の機体、そして更識楯無の専用機である。

 彼女はそのまま航の近くに降り、そのまま歩いて近づく。

 

「待たせたわね、航」

 

「ん、別に問題ないよ」

 

 そうは言うが機龍の尻尾は先ほどよりも揺れており、まるで飼い主を見た犬の様にも見えたため、楯無はそれが可愛く見えたのかクスッと小さく笑った。

 

「それにしても……アリーナをわざわざ貸切にして大丈夫なのか?」

 

 そう、この第5アリーナは今日は点検のため使用中止となっているが、その中楯無から航にISの調子を見てあげるって提案してきたのだ。そのためホントに使っていいのか不安に思ってる航であったが、楯無はいつもの扇子より大きな水色の鉄扇を展開し、それで不敵に笑みの浮かんだ口元を隠す。

 

「大丈夫よ。もう点検は終わっているし許可は得ているもの。それに私たちがやると他の人達の迷惑になっちゃうからね」

 

「それもそうか。じゃあ、頼むよ」

 

「ええ」

 

 そして楯無はゆっくりと50mほど空に上がり、そのまま航を見下ろす形となる。航もそんな楯無を見上げ、ゆっくりと足を開き、いつでも準備万端だ。

 

「さて航、早速来なさい」

 

 左指で誘うように手招く楯無。それに反応するかのように機龍の胸部から廃熱音が響き、そしてその巨体をかがめ、そのまま大地を踏み砕きながら一直線に楯無目掛けて飛翔した。

 それと同時にバックユニットからミサイルが6、ロケット弾が12も同時に放たれ、それらが一斉に楯無目掛けて飛んでいく。

 ミサイルやロケット弾で包囲し、その中央を機龍が突っ込む。それが航が四式機龍を用いて使う戦法だ。だが楯無はそれを破壊するための射撃兵装を一切展開しない。ただニコッと笑みを浮かべ、そして同じくミサイルが飛んでくる方向へと向かって突っ込む。

 そのまま近接信管で一斉に爆破するミサイル群だが、煙を斬り裂き、そこから開いた鉄扇を盾にした楯無が現れる。

 だがすでに機龍は至近距離に迫っており、その腕が楯無目掛けて振るわれるが完全に航の動きを見切っており、当たる直前に最低限の動きで回避している楯無は、楽しそうに小さく笑みを浮かべていた。

 そのまま航とすれ違い、ほぼ急降下で地面に向かう楯無だが地面すれすれで方向転換し、地を這うかの如く高速移動をする。

 

「くそっ!」

 

 同時に航も急速旋回し、楯無目掛けて速度を上げるが、それでも明らかに楯無の機体は速い。さらに複雑な機動を描きながら飛ぶため、機龍の攻撃がまともに当たらない。

 

「ほらほら、そんなんじゃ当たらないわよ。それとも私と鬼ごっこでもする?」

 

「待て!」

 

 挑発に乗せられ追いかける航。そしてバックユニット、腕部レールガン、口部メーサー砲の全てを使った射撃を楯無に向けて放った。

 

「ふふっ」

 

 だが余裕の笑みと共に下がりながら振り返り、その手に最初持ってた扇子を展開する。それを開き、そこにアクアナノマシンを少しばかり浸透させる。

 

「はぁっ!」

 

 そのまま鉄扇が振るわれると、放たれたミサイルは全て彼女に届く前に全て起爆した。そして瞬時に体をのけぞらせるや、メーサーとレールガンの射撃を躱し、再び機龍との距離を開く。

 

「ほら、1回でも私に当てて見せなさい」

 

「それなら!」

 

 航の声と共にギラリと機龍の双眸が輝き、スラスターの光が一層強く輝いた。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?」

 

 その巨体から見合わぬ速度。体の負担が大きいからと彼は言っていたが、まさかここで使ってくるとは。それで一瞬で距離を詰め、鋭い爪が楯無目掛けて襲い掛かる。かなりの至近距離であるが、それを上体を反らしたり、ステップを刻みながら躱し続ける楯無。

 実際機龍が普通のIS大の大きさであったなら、こう上手くいかなかっただろう。なんせ相手は格闘技などにおいてはまともに相手したくない航なのだ。だが四式機龍はその巨体ゆえにパワーはあるが、動きにおいてはその巨体が仇となり、かなりの隙ができるのだ。ゆえに楯無はそれを利用して躱してるだけにしか過ぎない。

 その時、楯無はちらりと航と模擬戦を始めてからの時間を見る。もうすでに30分は経過しており、もうそろそろこちらも仕掛けるかと考える楯無。

 

「うーん、時間も経ったわね。じゃあおいで、村雨」

 

 余裕があるのだろう。航から距離を取り、わざとその名を挙げて彼女は武装を展開する。

 その声と共に彼女の右手には、葵より一回り長く大きな近接ブレードが握られており、それを両手で構えた楯無は、空を強く踏むと同時に一瞬でその刃が届く距離へと踏み込んできていた。

 

「速い……!」

 

 航のうめき声が響く。

 その速度を乗せたまま楯無は体を大きくねじり、遠心力を乗せた村雨を機龍の横腹目掛けて一気に振るう。だが航もそれは分かっていたのか振うと同時に後ろに下がるが、楯無は無理矢理踏み込み、その一撃を機龍に当てることに成功する。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

 一撃が重い。脇腹に直撃したため機龍の巨体がよろけたが、そのまま身を捻って返し刃に尻尾で一気に薙ぎ払う。だが楯無はすでにその範囲外に下がっており、そのまま身を屈めるや一気に航の懐に入り込み、そのまま村雨で機龍を袈裟斬りする。

 

「こら、そこで足を止めない!」

 

 楯無の追撃は止まらず、迫ってくる攻撃も受け流しながら何度も村雨で斬りつける。だがそれで黙ってる航ではなく、一瞬居合いの試製を取ったかと思えたら、音速を超える速度で尻尾を振ってきたのだ。

 

「ぐぅ、おあぁ!」

 

 そして振るわれた尻尾を縦無は村雨で受け、大きく火花を散らしながらもどうにか受け流せ……なかった。途中から軌道が変化したため無理やり押し飛ばされた楯無は、すぐに姿勢を正すも瞬時に逆に体を回して放った尻尾の薙ぎ払いで吹き飛ばされた。

 

「くっ……!」

 

 少しずつ成長していってる。それがわかる楯無は少しうれしいのか、小さく笑みを浮かべながらも剣を握りなおす。

 そして再び迫って来た機龍の攻撃を躱し続けていたが、後ろに下がった際楯無は自分の後ろに尻尾が回り込んでることに気付かず、そのまま逃げ道をふさがれてしまう。

 

「しまっ!?」

 

 そして突き出された右手。それはそのまま楯無の元へと向かい……。

 

「良い動きしてるじゃない……!」

 

 だがしかし村雨を両手で構えた楯無は、後ろに押し込まれながらも真正面から攻撃を受けたのだ。

 だがその巨体差もあり、航は力を込めればそのまま押しつぶせると思っていたが、いまいち思うとおりに押し込めない。

 

「航、忘れてない?蒼龍も結構力持ちなのをね……!」

 

 そうは言うが実際パワーの差は埋められず、ジワジワと押される楯無。そして機龍のスラスターの出力が上がるや、そのまま無理やりアリーナの壁に叩き付けられる。

 

「かはっ……!」

 

 次第に苦悶の表情を浮かべ始めるがその時、楯無はいきなり村雨を格納したのだ。

 村雨が消えたため、バランスを崩した機龍は前のめりになってしまう。それと同時に楯無は機龍のお腹に抱き着き、いや抱き留めてそのまま機龍の顔を見上げた。

 そして楯無の掌が機龍の胸元に添えられ、ニコッと可愛らしい笑みを浮かべた時だ。

 

「が、ぁ……!?」

 

 航の断末魔と共に後ろによろめく機龍。だがバランスを崩したのか、そのまま下に落ち、強く地面に叩き付けられた。

 

「ねえ知ってる?鎧通しはIS戦でも使えるのよ。……でもやっぱり足が地面を噛んでないと威力が減るわね」

 

 そうは言うが、最低でも筋肉に力を入れてないときに腹を殴られたかのような衝撃は発生する。そのため航はうめき声を上げながらもゆっくりと立ち上がろうとするも、大きくよろめき膝を着く。

 だがその一撃で航は咽ており楯無はゆっくりと地面に降りて、彼の元に心配そうに近寄ってきた。

 

「その、大丈夫?やりすぎちゃった……?」

 

「げほっげほっ……あ゛ぁ……」

 

 そしてどうにか立ち上がった航は呼吸を整え、だらんと下がっていた腕を上げ、再戦の意思を見せる。

 

「まだやるの?」

 

「もちろん、だ!」

 

 スラスターを全開にし、楯無目掛けて突っ込む航。だが楯無も分かっており、彼女はある武装を展開した。

 楯無を囲うように展開された非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)のごとく浮いてる武装。それは四式機龍が持つバックユニットそのものであった。

 

「全弾発射!」

 

 楯無の掛け声とともに放たれる20のロケット弾とミサイル。それと同時に機龍のバックユニットからミサイル群が放たれ、お互い相殺しあうかのように爆発する。

 だがその爆炎の中を斬り裂いて現れた機龍は右手を大きく振り下ろし、それを躱した楯無は再び機龍に肉薄し、村雨の刃を確実にその巨体に当てていく。

 だが先ほどよりよろめいたりしない機龍。そのため先ほどの攻撃の手数が増え、そして村雨と機龍の爪がつばぜり合いになった時だ。バックユニットから楯無目掛けてミサイルが弧の字を描きながら飛び、それを後ろに下がって楯無は躱す。そして機龍の目の前でミサイルが爆発するが、その煙を斬り裂きながら機龍が再び現れた。

 そして腕部レールガンからメーサーブレードを展開し、楯無目掛けて突っ込む。それに応えるように楯無も村雨を突きの姿勢で突っ込んだ。

 そしてお互いの刃がお互いに届こうとした時だ。

 

 

 ピピピピピピピ

 

 

 アラームが鳴った。その瞬間、お互いの動きがぴたりと止まる。だが村雨の切っ先は機龍の喉元数センチ前で止まっており、機龍のメーサーブレードも楯無の側頭部を数センチ手前で止まっていた。

 張り詰めた空気の中、先に動いたのは楯無だった。手に持っていた村雨を格納領域(バススロット)に格納し、それに習って航もメーサーブレードをレールガン内に格納する。

 

「航、ご苦労様。今日の手合わせはこれでおしまいよ」

 

「終わった……あー疲れた……」

 

 その時、大きくバランスを崩した機龍がそのままうつ伏せに倒れる。そしてその姿が解かれ、中にいた航がそのまま地面に投げ出された。

 航は立ち上がろうとしたが、疲労がたまってるのかそのまま仰向けに倒れ、近くに立っている楯無に顔を向けた。

 

「あ゛ーきっつ……まだ引き出せたの村雨と扇子だけかよ」

 

「ふふ、まだまだね。でも少しずつ伸びては来ているわ」

 

 楯無は航に手を差し伸べ、それを掴んだ航はそのまま立ち上がる。その後航は楯無によって逆お姫様抱っこされながらピットに戻り、蒼龍を格納した楯無と共にピット隣にある待機室にあるベンチに腰掛ける。

 そしてお互いに今回の手合わせのことで話し合ってた時、航はあることを思い出す。

 

「そういえばなんで村雨みたいな近接剣入れてるのさ。刀奈だと蛇腹剣とか好きそうだけど」

 

「あー……実はね、政府から日本国家代表なら初代ブリュンヒルデである織斑先生を倣えって言われてね……。それで入れなきゃダメだったの……」

 

「えー……」

 

「まあ、これ1本で戦えって言われてないから他にもいろいろ入れてるけどね」

 

 そんな無茶を要求されてることに呆れる航。だがそれでも使いこなしてるのだからとても恐ろしい。だが不意に航はあることが思い浮かぶ。

 

「てか刀奈が一夏の指導したらアイツ、とても強くなりそうなんだけど」

 

「あー、それでもいいんだけど彼次第かしら。夏休みまでの結果次第では私も考えておくわ」

 

 まだ手を出すつもりのないらしく、楯無はパチンパチンと扇子を開いたり閉じたりしている。

 その後お互いに更衣室に戻り、制服に着替え直した2人はそのまま一緒に寮に向けて歩く。

 その帰り道の途中だった。航は特徴的なツインテールをした女子が不機嫌そうな顔をしながら寮へと向かっていくのを見かける。

 

「鈴……?」

 

 何であんな顔なのか分からない。だがこの後めんどくさそうなことが起きそうだと判断した航は、少しげんなりとした表情を浮かべていた。




楯無さんは強いよ。国家代表だもん。


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鈴の怒り

どうも、パソコンはどうにか復活したけど入れ替わるようにスマホが死にかけてる妖刀です。どうも今年も自分は不幸で呪われてるらしい。
そしてなんやかんやスマホの方で話は書いてたから、貯まった分はボチボチ投稿していきます。なおスマホで投稿できないのかということに着いて申し上げますと、書いたのを自分のスマホでどうやってコピペして投稿欄に載せればいいのか分からないため、投稿できないということでございます。


では長々とこんなこと書きましたが、本編どうぞ


それは航と楯無が戦い終った頃、一夏たちも本日の訓練が終わり、一夏は箒に連れられ、ピット隣の休憩室でぐったりとしていた。

 

「あー、体が重い……めっちゃ疲れた……」

 

「全く、まだ鍛え方が足りないからこうなるのだ。まだ無駄な動きが多すぎる。もっと自然体で制御できるようになれ」

 

「へいへい……」

 

空返事で答える一夏。箒はムッと顔をしかめたとき、プシュンと休憩室の扉の開く音がした。2人が誰が入って来たかと思って振りむくと、そこにいたのは凰鈴音だった。

 

「お疲れさま!はい、コレ差し入れ!タオルと飲み物」

 

「おぉ、鈴!」

 

彼女は手に持っていたボトルを一夏に渡す。一夏はそれを嬉しそうに受け取り、そのまま鈴は空いてる方の一夏の隣に腰掛ける。

そしてお互いに楽しそうに話してるため、それを詰まらなさそうに見ていた箒は立ち上がる。

 

「箒?」

 

「一夏、部屋に戻ったら先にシャワー使ってもいいぞ」

 

「おう、サンキューな」

 

そのまま休憩室を出ていく箒。鈴は先ほどの言葉の意味が分からず、怪訝な顔を浮かべていた。

 

「ねえ一夏、シャワー使っていいってどういうこと……?」

 

「ああ、ちょっと訳あって箒と俺、同室なんだよ」

 

「はぁ!?寝食共にしてるってこと!?」

 

「あぁ、そうだな。幼なじみが同室相手で良かったぜ。まあ一番は航だけどさ、そうじゃなかったらどうなってたことか……」

 

一夏はうんうんと頷きながらそう言うが、隣で鈴がプルプル震えてるのに気づいていなかった。

 

「……ならいいわけね」

 

「鈴?」

 

「幼なじみならいいってわけね!なら待ってなさいよ!」

 

「うおっ!?」

 

勢いよく立ち上がるやそのまま出ていく鈴。一夏はいったい何なのか分からず、ただその場で固まるしかなかった。

 

 

 

 

 

そしてアリーナから戻って来た航と刀奈が一夏の部屋の前で見たものは、完全な痴話喧嘩だった。

笑顔の鈴と完全にキレる数秒前の箒。航たちが見たのはそんな光景だった。間にいる一夏は完全にオロオロとして困り果てており、仲裁役になれる様子もない。

一夏たちの部屋と自分たちの部屋が近い、というかこの場を通り過ぎないと着かないため、航たちは嫌でもこの状況を目の当たりにし、航はチラッと一夏を見ると偶然彼と目があった。明らかに助けてという目で航たちを見つめるが、航は完全にあきれ果てている。

 

「お前ら……何してるんだ?」

 

「何って箒、一夏と同室なんでしょ?だから~あたしと変わってもらおうって思ってね」

 

そう言って肩にかけてるバッグを見せる鈴。あまりの荷物の少なさだが、それでも問題ないのか鈴は箒に対して少し舐めかかった態度で説得をしている。だが箒も我慢の限界なのか、明らかに殺気が漏れ始めていた。

 

「はいはい。痴話喧嘩するのはいいけど、周りに誰もいないからって少し声抑えるか部屋の中でしなさい。迷惑でしょ?」

 

「あ、楯無さん」

 

この時間に入ってきたのは楯無で、鈴は最初誰だと思ったが、一夏の言った名前を聞くや、驚いたかのように目を見開く。

 

「楯無さん聞いてください!凰鈴音が──」

 

「分かってるわよ。幼なじみだから部屋を変わってってでしょ?というかさっきから聞いてたんだけどね」

 

油断大敵と書かれた扇子を見せる楯無と、周りが見えてなかったことを反省する箒と鈴。

 

「で、結論だけど無理ね」

 

「そんな、何で!?」

 

発狂するかのように叫ぶ鈴。だが楯無は肩をすくめながら小さくため息を吐く。

 

「何でってそういう決まりだからよ。まあ、航もホントは別の子だったんだけど私、無理矢理同室相手になったんだけどね」

 

フフッと笑みを浮かべる楯無。だが航と鈴は完全にぽかんとした顔になっており、我に返った鈴が楯無に喰いかかる。

 

「どうしてそんなのが出来るのよ!?」

 

「私、生徒会長だからこういう権限ぐらいは持ってるのよ?」

 

「ならあたしも一夏と!」

 

「あ、それは無理。航のはまだ寮室相手が決まってないときに私が無理やりねじ込んだだけだし。それに今だと1年の寮長は……織斑先生だったわね。あの人に許可貰わないと無理よ?」

 

「げっ、千冬さんが……?」

 

その名前を聞くやゲンナリとする鈴。逆に箒はこれは勝機があると思ったのか、逆にドヤ顔になってきている。

 

「ふん、それならさっさと帰るのだな。それにここで騒いでたら……いつ織斑先生が来るやら」

 

「そ、そうね、それなら……」

 

流石に鈴も諦めて撤退しようとした時だ。彼女は急に振り向き、そのまま一夏に詰め寄る。

 

「そういえば一夏。あの、その……」

 

「ん?どうしたんだ鈴?」

 

急にモジモジしだしたため首をかしげる一夏。そして鈴は1度落ち着くため深呼吸をし、そして一夏の顔を見つめる。

 

「あのね、一夏。私と離れるときに言ったこと、覚えてる?」

 

「約束?「えーっとたしか……鈴が料理上手になったら毎日酢豚を──」

 

「そう、それよ!」

 

「毎日おごってくれるって奴だろ?」

 

「えっ……」

 

この時、空気が固まった気がした。だが一夏はそれに気づかず、笑顔を浮かべたままだ。そしていろいろと何か言ってる一夏だが、その間にも鈴は俯き、明らかに怒りで震えている。これは不味いと航が声かけようとした時だ。

 

 

パァン!

 

 

この時、鈴が一夏の頬を思いっ切り平手打ちした。

 

「ほえ……?」

 

「最っ低!一夏何か……大っ嫌い!」

 

目じりに涙を貯め、一夏を睨みつける鈴。何か言おうとしたがグッと堪え、そのまま一夏の元を走り去っていく。

 

「り、鈴……!」

 

手を伸ばす一夏だが、その前に鈴の姿が見えなくなってしまい、一夏はただ立ちつくしてしまう。

 

「ほ、箒……」

 

「知らん。お前の責任だからな」

 

箒に助けを求める一夏だが、そう残した箒は部屋に戻り、強い力でドアを閉じる。一夏は完全に呆然としており、そのまま航たちがいた方を向くが、もうすでに航たちはおらず、ただ一夏はその場に立ちつくしてしまっていた。

 

 

 

 

 

その翌日から、鈴は目に見えるように機嫌が悪くなった。あからさまに一夏を避けており、一夏が声をかけようにも向こうから去っていく。

当の一夏もこれには困り果てており、箒やセシリアに助けを求めても「そちらの問題を巻き込むな」と一蹴されてしまっている。

航はこんな2人を見て、一夏たちの問題だからと静観を決め込むことにした。だがしかし、この日の夜、航と楯無がもう自室でくつろいでいる時だ。急にチャイムの音が鳴り、それに反応した航がドアを開ける。

 

「はーい……鈴?どうした急に」

 

「ちょっといいかしら」

 

明らかに不機嫌そうな顔。いったい何されるのか分からず、航は若干ながら身構えた。数刻の間、ようやく鈴の口が開く。

 

「航、あたしと闘いなさい!」

 

「……はぁ?」

 

航の呆れた声が響いた。

 

 

 

 

 

それから翌日の第5アリーナ。そこに銀色の機体と赤紫の機体がお互い向かい合うように浮かんでいた。

 

「……なんで俺が鈴と闘うハメになってんだよ」

 

「うっさいわね!それなら断ればよかったじゃない!」

 

「そう言われてもなぁ。楯無に色んな相手を戦って経験を積めって言われてるしな」

 

「うわぁ」

 

鈴は内心失敗したかなと思っていた。自分が強いという自負はあるが、今回は流石に相手が不味い。

目の前にいる四式機龍はデータで貰った時より実際に見たらとても大きく見え、何より人型ではない、ゴジラと同じ姿であることに一種の威圧感を感じていた。

それに航が日本国家代表である楯無に鍛えられてるため、激情に任せた自分を殴りたいほどの衝動に駆られる。

だがもうこうなったのなら仕方ない。せめて本国から言われた機龍のデータだけでも取ってやろうと鈴は意気込み、格納領域(バススロット)から2振りの青龍刀を両手に展開する。

 

「航、アンタは武装展開しないの?」

 

「この腕や尻尾が武器そのものになるから問題ない。俺はいつでもいけるが……楯無、審判頼めるか?」

 

『いいわよー』

 

管制室から楯無の声が響く。今回も彼女がアリーナの貸切を行い、結果航と鈴は誰にも邪魔されずに戦うことができるのだ。ただし今回は学園へ今回のデータ提出を条件にアリーナの貸し出しを行われてるため、複数の監視カメラが彼らを映していた。

 

「さて、一夏への憂さ晴らし、ここで晴らさせてもらうわよ」

 

「あのなぁ、俺で憂さ晴らしするってお前そんな性格だったか?」

 

「……うっさいわね。そんなことどうでもいいじゃない」

 

ぶっきらぼうに言いながら目を逸らす鈴。それを見た航は内心ため息を漏らす。

 

「そういえば鈴、この戦いのデータ、あとで一夏に送るぞ」

 

「へ~アンタ、そういうことするんだ」

 

「まあデータを受け取るのは一夏次第だが、クラス対抗戦が控えてるからな」

 

「ふーん。まあいいわ。別に初心者相手にハンデ付けてあげるぐらいあたしも優しいから」

 

「ありがとよ。じゃあ、もうそろそろ始めようか」

 

「ええ、そうね」

 

だらりと下げていた腕を上げ構える航。それと同時に鈴も青龍刀を構え、いつでも戦えるとポーズを取る。

 

『では試合開始!』

 

「行くよ、甲龍(シェンロン)!」

 

開始の合図とともに、鈴は己の専用機の名を呼び、そのまま機龍めがけて突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

航の四式機龍と鈴の甲龍が戦ってるとき、楯無は管制室の画面でその様子を眺めていた。

 

「あれが中国の専用機、ねぇ……」

 

大振りな青龍刀“双天牙月”での二刀流。それを軽々と出来る機体はあまりおらず、そのため甲龍はパワータイプのISと言うのが確認できる。その二振りの青龍刀を上手に使いこなす鈴だが、機龍の堅牢な装甲と見た目に沿わぬ機動力で攻撃の半分は半分以下の威力でしか当てられてない状況となっている。いや、それでも半分は当てれてるあたりさすが代表候補生と言うべきか。

 

「やっぱり機龍って自身の大きさと体型が仇になってるわね……。航、本領である格闘技がとてもやりにくそうだし」

 

ぼそりと呟く楯無。

実際機龍はバックユニットやなどからの攻撃や、その巨体を生かした攻撃が主になるが、航自身は表向きは武術家のため技を活かせていない。

 

「それにしても凰鈴音ちゃんねぇ……。ゼロからたった1年で代表候補生、しかも専用機持ちになるなんて……一種の天才ってやつかしら。正直このまま慢心しなければ在学中に国家代表も遠くはないわね」

 

もしそうなったら楽しみだ。楯無は内心笑みを浮かべていたら、不意に後ろの扉が開く音が聞こえ、誰が来たのかと後ろを振り向くと、とても見知った顔が見えた。

 

「お姉ちゃん、ちょっといい……?」

 

そこにいたのは楯無と同じ水色の髪をした眼鏡をかけた女子だった。彼女の名前は更識簪。更識楯無の実の妹である。

 

「あら簪ちゃん、珍しいわねこんなところに来るなんて。」

 

「んん、お姉ちゃんに用があったから……。」

 

「私?」

 

「うん。あのね、やっと通ったよ……。これで開発再開されるって……」

 

「ホント?よかったわねー!」

 

その意味が分かったとき、楯無は笑みを浮かべて簪を抱きしめる。簪もいきなりでびっくりしたが、彼女の本心が伝わるや、簪も嬉しそうな笑みを浮かべた。

ここまで嬉しそうにしている姉妹。いったい何があったのか、少し時を遡るは入学式前後。

彼女の機体、打鉄弐式は一夏がIS適正があると発覚した際、彼の専用機を打鉄弐式が作られていた会社である倉持技研が受け持つこととなり、その弐式の開発スタッフすべてが白式開発に回されたのだ。それにより打鉄弐式の開発は凍結。

それによって簪は半ば自暴自棄になりかけていたため、それを見てた楯無はどうにかしないとと思っていた。

だがその後、そのことをどこからか聞きつけたのか、打鉄弐式は別の会社が受け持つことになったのだ。そのため凍結から1月という少し長い期間であったが、それが解決したことはとても喜ばしいことであった。

 

「でも……ホントにタッグマッチに間に合うの……?間に合わせるって言ってはいたけど……」

 

困り顔を浮かべる簪だが、それもそのはずだ。もうクラス対抗戦まですでに1か月切っており、普通ならそんな短い期間で全くの未完成であるISを仕上げるなんて倉持技研並みの企業でないと到底無理な話だ。

それを聞いたとき、楯無は受け持つ会社のことを思い出し、眉間を揉みながら少し苦い顔をする。

 

「あー……あそこなら大丈夫よ。言ったからには最低でも機体だけでもちゃんと戦える状態まで仕上げてくるわ。そう、そこら辺はちゃんとするのよね。ただ……」

 

「ただ?」

 

「最初予定されてたスペックより上方修正されてるってのは覚悟しておいてね……」

 

「え……?」

 

それのいったい何がいけないのか。簪はこの時そう思っていたが、後にこの言葉の理由を知ることととなるのは後日のことである……。

 

 

 

 

 

ギンっ!と金属同士のぶつかり合う音が響く。だがそれと同時にガリガリと金属が削られんとばかりの音が鳴り響き、鈴は急いで後ろに下がった。

 

「あーもう!硬過ぎじゃない!なによその装甲!」

 

あまりの硬さに鈴は苛立ちを隠せず、最初見せていた集中力が散漫になってきていた。そのため攻撃も徐々に雑なものになってきており、それもあってか航の反撃の手数も増えてきている。

むしろのその反撃をギリギリで躱すのが無理になって来たのか、青龍刀を使って攻撃をしのいでいるが、すでに限界が近いのか1本の青龍刀に亀裂が走る。

どうしてこうなったのか。鈴は自身に対して苛立ちが隠せないが、不意に一夏の顔が脳裏によぎった。

 

(なんでこんな時に……!一夏なんか……!)

 

顔を振って彼を頭の中から消そうとした時だ。

 

「はやっ……!?」

 

機龍が一気に距離を詰め、右腕を鈴目掛けて突き出して来た。だが鈴は身をかがめて機龍の腕を躱し、そのまま腹を斬り裂こうとした。

だがしかし、そのまま流れるように機龍は身を翻すや、尻尾を鈴目掛けて放つ。明らかに下がっても間に合わない距離のため、鈴は青龍刀2本を使い、後ろに押されながらも無理やり受け止める。

 

「ぐっ……うっ……!」

 

「まさか受け止めるとはなあ。だが、これはどうだ!」

 

そして急速に逆回転を行うことで、返し刃のごとく飛んで来た機龍の尻尾。それは完全に鈴の横腹目掛けて放たれた。鈴は後ろに下がろうとしたが、先ほど尻尾を防いだ時の反動か、体が少ししびれてることに気付いたときにはもう遅かった。

 

「しまっ……きゃあぁぁああ!?」

 

機龍による尻尾の薙ぎ払い。それがモロにお腹に入った鈴はそのままアリーナのシールドにまで吹き飛ばされ、そのままバリアに激突するや、地面に落ちる。

 

「げほっ、げほっ……!はぁ……はぁ……」

 

立ち上がろうとする鈴だが、あの一撃で絶対防御を無理矢理引き出され、先ほどの衝撃もあって脳震盪を起こしたのか立ち上がろうとするもまた倒れてしまう。

そんな鈴の手前、機龍が降りたつやそのままジッと彼女のことを見つめ、手を差し伸べた。

 

「なんの、つもりよ……」

 

鈴は機龍を睨みつけ、地に刺さっていた青龍刀を抜くや、そのまま切っ先を機龍に向ける。

 

「鈴、完全に苛立ってるのは分かるけどさ、一回冷静になれ。そのままじゃ見えるものも見えないぞ」

 

「どういう意味よ!私はまだ戦え──」

 

「ならさっきのがら空きだった胴は何なんだ。あそこからカウンターでも狙っていたのか?」

 

「それは……ええ、そうよ!だけど失敗した。ただそれだけよ!」

 

「鈴、今は一夏のこと忘れろ。じゃないとそのままじゃひどい怪我する羽目になるぞ」

 

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!あたしは!一夏にぃ!」

 

「……」

 

「あんたには分かるの!?こうやって一夏に会いたくて私は来たのに!あいつは、そんなあたしの気持ち何か知らないでぇ!」

 

青龍刀が航に襲い掛かる。だが上手く入らず、装甲を軽く傷つける程度で終わってしまう。

 

「私は……だって……寂しかったのよ……?」

 

そのままぺたりとへたり込む鈴。完全に戦う意思が無くなったのか、青龍刀は量子化される。航はそれ見るや、ため息をつき機龍を量子化し、生身で鈴の前に立つ。

 

「航……?」

 

「だから振られた様にって言っただろ、俺は」

 

「えっ……?」

 

「言葉は間違えても、一夏はお前との約束を覚えてたじゃねえか」

 

「えっ……あ……」

 

頭に血が上っていたが、少しずつ冷静になっていく鈴。そう、一夏は言葉は間違えてても、ちゃんと自分の約束を覚えていてくれた。多少の怒りはあれど、それでも嬉しさがジワジワとこみあげてくる。

ただ不意に、一夏の頬を張ってしまったことを思い出し、少し暗い顔を浮かべる鈴。

 

「ねえ、私一夏に嫌いって言っちゃったんだけど……」

 

「あぁ、そういえばそうだったな。まあ一夏なら自分が悪いってのは分かってるだろうから。どうにかなるだろ。あと……半分とは言わないが鈴悪いな」

 

「半分って……?」

 

「鈍感な一夏に遠回しな告白をしたことかな。まあ、お前がした約束の本当の意味を教えたら鈍感な一夏でもたぶん分かるだろ」

 

「で、でで、できるわけないでしょ!?」

 

鈴は顔を真っ赤にして反論し、航はそれを見るやククッと笑った。

 

「なら俺にはそれ以上のことは考えられないな。まあ、あとは鈴次第だ」

 

それを言われうつむいている鈴。さすがに無理かと航は思っていたが……。

 

「やってやる。やってやるわよ!やればいいんでしょ!?」

 

「お、おう……?」

 

いきなり意気込んできたことで航は驚きを隠せない。だが鈴は完全に立ち直ったのか、そのまま航の方を向く。

 

「航。私、一夏とちゃんと向き合うわ。そして伝えるの、この気持ち」

 

「そ、そうか。頑張れ。なら一夏には鈴は一応気は直したが、対抗戦まで合うの控えとけと伝えとくぞ」

 

「ええ、お願いね。……ねえ、航。あとお願いがあるんだけど……」

 

そう言って鈴は右手に青龍刀を展開する。それを見るや、航はニヤッと笑みを浮かべた。

 

「なら改めて相手してやるよ。来い、機龍」

 

その声と共に四式機龍が展開され、地面に立つ。鈴は青龍刀の切っ先を機龍に向け、先ほどまで浮かべていた泣きそうな顔とは違う、吹っ切れた、とてもすがすがしい顔を浮かべていた。

 

「航、ありがとね」

 

「どうてことはない。ただ、お前たちは仲良くいてほしいだけだ」

 

「ふふっ。さーて、さっきの様にはいかないわよ?」

 

「ならお手柔らかに頼むよ」

 

「それは無理な相談ね!」

 

そして再び機龍と甲龍はぶつかり合う。その戦いは30分にも及ぶのであった。




さて、次回はクラス対抗戦。いったいどんな試合が繰り広げられるのか……。

では次回、お楽しみに。


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クラス対抗戦

それから時は経ち、クラス対抗戦当日。アリーナの観客席は熱気に包まれており、今か今かと試合が始まらんと待っている。

そんな中、最初の試合である1組対2組に出る一夏は、自分の出番である試合に向けて休憩室でストレッチを行っており、応援のためか箒とセシリアも同じ部屋にいた。

そんな中一夏は近くにあったモニターに顔を向け、今の状況を見る。

 

「それにしてもホント観客多いな。満員御礼ってやつか?」

 

「世界に2人しかいない男性搭乗者のうちの片割れの試合。そうとなれば誰もが見たいものですわ。そして入れなかった人たちは校舎内のモニターで観戦するんだとか」

 

「うぇ、そんなに……プレッシャーかかるなぁ……」

 

「情けないぞ一夏。そんなことで怖気づいている!」

 

いきなり箒に背中を思いっきり叩かれ一瞬顔をゆがめる一夏。

 

「しっかりしろ!胸を張って堂々と行け!」

 

「そうですわ。あれから一夏さんは強くなられました。その成果をしっかりと発揮してやるのです」

 

「箒、セシリア……」

 

一夏の緊張が解けたことに微笑みを浮かべる2人。だがこの時、セシリアは航がいないことが不思議に思ったのか、周りを見渡す。箒もずっと不思議に思っていたのか、少し首をかしげていた。

 

「そういえば航さんは?」

 

「そういえばいないな。あやつなら何か言いそうな気がしたが」

 

「航?あいつは楯無さんと一緒に見るから観戦席にさっさと行っちまった」

 

「全く……一声ぐらいかけていってもよかろうに……」

 

箒がため息を吐くが、一夏はそんなのを気にしてる様子もなく、むしろ小さく笑みを浮かべている。

 

「いいよ。あいつから“勝ってこい”って言われてるしな」

 

「……いいのかそれで?」

 

「ああ、問題ない」

 

そんな少ない言葉でいいのかと疑問に思った箒だが、一夏は分かってるのか小さく笑みを浮かべているため、箒はこれ以上何も言えずため息を吐く。

その時、不意に時計を見た箒は試合開始の時間がすぐそこまで迫ってることに気付く。

 

「一夏、こうやってのんびりしてるが大丈夫なのか?」

 

「ん?あぁ、そうだな。箒、セシリア、行ってくるよ」

 

「行ってこい!」

 

「健闘を祈りますわ」

 

「ああ、勝ってくる」

 

ピットに向かう時に高くつきあげた拳。それを見た箒は熱い息を漏らし、セシリアは楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはアリーナ中央。そこにはお互いISを纏った一夏と鈴がおり、お互いすでに得物を展開したまま向き合っていた。

 

「待たせたな、鈴」

 

「逃げないで来たのね。今なら謝ればまだ優しくしてあげるわ」

 

「手加減何かいらねえよ。全力で来い」

 

「……そう。ならアンタをボコボコにしてあげるわ」

 

ギンと一夏を睨みつける鈴。その迫力に一瞬押されそうになる一夏だが、こちらも真剣な顔で雪片弐型を構える。鈴もそれに応えるように右手に持ってた青龍刀を両手で構え、互い戦う姿勢になったのを確認したのかアナウンサーの声が響く。

 

『それでは両者…試合開始!』

 

「はあぁぁ!」

 

アナウンスと共に鈴は青龍刀を大きく振り構え、一夏目掛けて全速力で突っ込む。それに驚きながらも反応した一夏も雪片弐型で受け構え、お互いの刃がぶつかり合って火花を散らす。

 

「アンタの試合見たわよ。たしかに零落白夜は凶悪だけど、初心者の付け焼刃でこの私に勝とうなんて1000年速いわよ!」

 

だが力技で無理矢理押され、一夏はそのまま吹き飛ばされるがすぐに姿勢を整える。だがその間にも鈴が迫り、青龍刀を振り下ろす。それを受ける一夏だが、完全に上から押さえつけられてしまい、身動きを取ることができない。

 

「ぐっ……!」

 

「どうしたの一夏!あの威勢は最初だけなのかしら!」

 

「まだ、だぁ!」

 

「なっ……きゃあ!」

 

一夏は雪片を格納し、それによってバランスを崩した鈴の手を取り、そのまま背を彼女に向け勢いよく投げようとする。

 

「させな……きゃあああ!?」

 

「おおお!?うおおお!」

 

この時、鈴がむりやり解こうとしたためか、一夏がバランスを崩し、そのまま2人そろって地面に向けて真っ逆さまに落っこちる。いや墜ちている途中、一夏が急加速し、一気に2人は地面に向けて叩きつけられた。

その衝撃で轟音と土煙が広がるが、その中で再び金属同士がぶつかり合う音が響く。そして土煙が晴れたとき、そこには再びお互いの得物でつばぜり合いを行っている2人の姿があった。

 

「アンタねぇ!落とす背負い投げとか初めてよ!?」

 

「航に教えてもらったからな!投げ技は投げるのではなく落とすって!」

 

「アイツぅ!何とんでもないこと教えてんのよぉ!」

 

そう叫ぶ鈴だが、その間に一夏がスラスターを全開にし、無理矢理鈴を壁側に押しやる。

 

「うっそ、私が押されてる……!?」

 

「うおぉぉおおおお!」

 

そのまま壁に鈴を縫い付けた一夏は、そのまま零落白夜を発動し、じりじりと鈴を追い詰めた。

 

 

 

 

 

ここは観戦席。そこで航は周りからの視線に、居心地が悪そうにしていた。彼の隣に座っている楯無もジト目で航を見つめており、必死に目線を逸らそうとする航。

 

「航……?」

 

「まあ、たしかに言ったし教えたけどさ。俺が機龍に乗ったらあんな風の投げになるけどさ。だからって早速やるか……?」

 

それを聞くや楯無はため息を吐く。たしかに航が教えてるのは見てたが、正直アレはどうかと彼女自身も思っていた。だがしかし、それを一夏がやってしまったのだから仕方ない。

なおそれを聞いていた箒とセシリアも呆れているが、それよりも一夏が押していることを喜んでいた。

 

「いけ、一夏!そこだ!」

 

「箒さん、まだ油断できませんわ。向こうはまだ手数を残しています」

 

「それはこちらとて同じことだ!だが近接は先に優位をいかに取るかが大事なのは知ってるだろ!」

 

「ええ、それはもちろん知っていますわ」

 

興奮してる箒とまだ冷静なセシリア。だがしかし、この後箒が悲鳴を上げるのはすぐであった。

 

 

 

 

 

「なめんじゃ、無いわよっ!」

 

「ぐあっ!?」

 

密着されていたため、鈴は一夏の腹を蹴り飛ばすや、そのまま上昇して距離を取る。肩で息をする鈴だが、その顔はとても嬉しそうなのか口角が上がっている。

 

「やってくれたわね一夏……。初心者だからすこし優しくしてあげてたけど、もう止めるわ」

 

そう言うと、彼女は左手にもう1本青龍刀を展開し、そのまま柄頭を連結させてバトンの様に回す。

 

「じゃあ一夏、まだ付き合ってもらうわよ!」

 

「ああ付き合ってやるよ、いくらでもな!」

 

「っ……!いくわよ!」

 

一夏の付き合うという言葉に一瞬頬を染める鈴だが、それを振り払うように一夏めがけて突っ込んで、そのまま青龍刀を振り下ろす。一夏はそれを躱して雪片で切り上げようとするが、

すでに連結解除されたもう1本の青龍刀が一夏の側頭部目掛けて振られており、それに気づいた一夏は急いで鈴から距離を取る。

 

「逃がさないわよ!」

 

その時、甲龍の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の装甲がスライドしたと思った瞬間だった。一夏は何もない空間からいきなり殴られたかのような衝撃を味わい、そのまま吹き飛ばされる。

 

「なぁ……!?」

 

“航から聞いてたはず”なのに、いったい何が起きたのか分からない。

だが鈴はそのまま追撃してきたため苦し紛れに雪片を振う。だが鈴はその場でバク転して躱し、そして青龍刀で一夏を斬りつけた。

 

「く、そ……!あれが衝撃砲ってやつか……!」」

 

「あら、知ってたのね。どう?甲龍の第三世代兵装“龍砲”は。見えない弾で狙われるのは恐ろしいでしょ」

 

完全に防戦一方の一夏に対し、鈴は獣の様な笑みを浮かべながら青龍刀を振う。そして逃げようものなら龍砲で動きを鈍らせ、再び追撃に入る。

一夏は必死にその2本の青龍刀を捌き続けていた。だがしかし、鈴はそれをあざ笑うかの如くその上を行こうとする。そして二刀流を駆使して一夏の雪片を弾くと、そのまま青龍刀を両手で持つや、一気に一夏の腹目掛けて振り下ろした。

 

「がふ……!?」

 

モロに食らった一夏はそのまま流星のごとく落ち、地面に叩きつけられそのまま仰向けで地に伏す。その傍に鈴は降りたち、勝ち誇ったような顔で一夏を見下していた。

 

「ねえ知ってる?雪片じゃなくても攻撃力の高いISなら、絶対防御貫いて本体に直接攻撃を与えられるのよ。つまりね……」

 

高らかに掲げ挙げられる青龍刀。あとはシールドエネルギーがなくなるま刻み続ければ、鈴の勝利が確定する。ここまで追い詰められ、観客は誰もが万事休すかと思っていた。

だがしかし、この時一夏が小さく笑みを浮かべたため、鈴はピクリと止まる。

 

「ああ、知ってるよ……それぐらいな!」

 

「えっ、きゃああ!?」

 

鈴はいきなり跳ね上がった一夏の足に驚き、そのまま顎を蹴りあげられてしまい、一瞬意識が飛ばされる。

一夏はこの時の反動でそのまま起き上がり、同時に零落白夜を発動させた雪片弐型で鈴を斬りつける。

すぐに我に返った鈴は急いで離れたためかすめた程度で済んだが、それを逃がさんと一夏は一瞬で距離を詰め、そのまま右の龍砲を真っ二つに斬り裂く。それによって鈴は驚きの顔を浮かべた。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?初心者のあんたが!?」

 

「俺はいつまでも初心者じゃないられないんだよ!」

 

舞台は再び上空へ移り、再びお互いが斬り結び合う。だがしかし、先ほど零落白夜を食らったおかげか、鈴の動きが少し消極的にも見える。

 

「うおぉぉおおお!」

 

「くっ……!」

 

おかげで先ほどとは違う、一夏が優勢となって動き出していた。

 

 

 

 

 

 

 

「航……ホントにいろいろ教えたのね」

 

「一夏、こういう体術……武術の飲み込みすごい速いからな。前に武道場で軽く組手したしたときにちょこっと教えた。ただISであんな風に出すとは思わなかったけど」

 

クックックと笑う航。楯無は呆れながらもあの技を使う一夏に軽く感心していた。

 

「でも大丈夫なの?あれ、家の(わざ)でしょ?」

 

「一夏が使うアレは技であって業じゃない。……というか楯無も実際あれぐらい簡単にできるだろ。裏含めてさ」

 

チラッと彼女を見ると、ニコッと笑みを返されたため、航も小さく笑う。

だが航は少し顔をしかめると顎に手を当て首をかしげる。

 

「それにしても……いきなり顎を狙うとか一夏も中々容赦ないな。まあ、喉狙わないだけまだ優しいが」

 

「航……ここでそんな恐ろしいこと言わないでよ」

 

「ん?あぁ、そうだったな」

 

周りをチラッと見るや、彼に対して若干ドン引きしてる生徒が数人いたため、流石に自重しておく航。そして再び視線をアリーナに戻すと、一夏が鈴目掛けて雪片弐型を振り下ろしていた。

 

 

 

 

 

「もらったぁ!」

 

「きゃああああ!」

 

斬りつけられ、鈴は悲鳴を上げる。だが彼女は無理矢理一夏を斬りつけて隙を作ると、そのまま距離を取る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

戦いの中、一夏が少しずつ成長してきている。それをこの手で実感してる鈴は、彼に対して少し恐怖を感じていた。

 

(なんでここまで強くなってきてるのよ……!私だって1年で代表候補生になるまで頑張ったのに、一夏はそれを越え……認めない、認めないわ!)

 

鈴の中で黒い感情が駆け巡る。自分より少ない努力で自分を越えられてたまるかと思い、青龍刀を握る力が強くなる。

だが龍砲は片方は破壊され、もう片方も斬りつけられたおかげで出力が下がっており、今となってはまともに使える武器が青龍刀だけだ。

まだ射撃武器がやられただけだが、零落白夜によってシールドエネルギーが大幅に削られており、正直もう1発零落白夜をくらえば確実に負けるほどにまで追い詰められていた。

 

「鈴、決めさせてもらうぜ」

 

「ええ、来なさい一夏」

 

一夏は零落白夜を発動させ、雪片弐型を大きく振り構えて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させ、鈴目掛けて突っ込んだ。

だが鈴は見逃さなかった。一夏が先ほど手の平を握ったり放したりしてるのを。明らかに浮ついてる。そしてそれを裏付けるように大振りになって突っ込んできたのだ。

 

「もらったわ!」

 

「やべっ……!?」

 

その動きに合わせたカウンター。止まろうとしたがもう遅く、一夏はそのまま青龍刀に直撃する……と思われていた。

 

 

ドォォォン!

 

 

 

アリーナのシールドを貫く灼熱の光。そして響き渡る轟音。それによって鈴は反射的に動き、結局一夏はそのまま素通りし、急いで止まるや轟音のした方を向く。

 

「な、何なんだよいったい!?」

 

「い、一夏あれ……!」

 

鈴が指さした方向。先ほど降り注いだ光によってできた土煙の中、ハイパーセンサーがナニカを捉えていた。その中から覗く赤い双眸。それを見た2人は一瞬びくりと震えるも、お互いに得物を構える。

 

「何よ……侵入者?」

 

「何者だよお前は……」

 

お互いの問いかけにも何も答えず、侵入者は煙の中でじっとしていた。いったい何者なのか。そう思った時、ユラリと煙の中でナニカが動いた。その動いた先、何やら光が集まり始め……。

 

「……っ!?鈴!逃げろ!」

 

「えっ、きゃあ!?」

 

一夏が鈴の背中を押して飛ばした瞬間、2人の間に先ほどと同じ閃光が走り、そのまま壁にあたるや大爆発を起こす。

あまりの威力に驚愕の表情を浮かべる2人。そして煙を破り現れる大きく長い腕。その先にはチェーンソー複数のチェーンソーが付いており、時折不気味な金属のこすれる音が響く。

その後、土煙が去って現れたその姿もまた異形だった。

全身は黒く、大きさは3mほどだが、先ほどの太く長い腕に普通のISに近い脚部、そして胴と一つになったかのような頭部には複数の赤く光るカメラアイが備え付けられており、時折ギョロギョロと周りを見渡すかのように動いている。

それはISと呼ぶには禍々しく、とても異様な姿となっていた。

 

「何よこれ……」

 

あまりの不気味さに息をのむ鈴。

 

「おい、お前何者だ!」

 

一夏はその侵入者、人の形が見える部分に向けて叫ぶ。だがそれに応える様に返ってきたのは、複数のカメラアイの不規則な点灯だった。

そのカメラアイのうちの1つ。それが観戦席の方を見たとき、その目がもう1人の男子生徒の姿を捉える。その目はアリーナの観戦席がシャッターで閉じられるまで見続けていた。

 

 

 

 

 

 

──目標発見──



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襲来 上

クラス対抗戦を行っていた一夏と鈴。そんな彼らの前に現れた謎の機体。それはいったい何者なのか。そして何が目的なのか。一夏と鈴の運命は!




では本編どうぞ


 ソレが現れたとき、誰もがわけがわからないと固まっていた。だがしかし、それを現実に戻すかのようにアリーナと観戦席を遮断するかのように展開される防護シャッター。それが発動したことによってあたり一帯が暗くなり、それと同時に赤色灯が観戦席を照らした。

 

「ねえ、いったい何が起きたの!?」

 

「分かんないよ!これ、どういうこと!?」

 

 あちこちで悲鳴が上がり、文字通り阿鼻叫喚となる観戦席にいる生徒たち。次の瞬間、大きな音と衝撃が観戦席を揺らし、それによって多数の生徒たちがこけたりすることで、悲鳴やついには泣き声も響き渡り、それによって不安が伝播していく。

 その中航と楯無は先ほどアリーナの中に入り込んできたモノについて話し合っていた。

 

「航、見えた?」

 

「ああ、一瞬だけだが」

 

「アレ、侵入者よね」

 

「間違ってなければ恐らくな」

 

「航、私アレの鎮圧に向かうわ」

 

 グッと扇子を握りしめる楯無。先ほどまでしてた楽しそうな顔は消え真剣な顔、“仕事”をするときの顔になってるのを見るや、航もスゥと眼つきが鋭いものになる。

 

「“楯無様”、それなら私も──」

 

「航はここに残って。もしアレがここを突き破って来たらそれを止められるのは専用機持ちだけよ」

 

「……わかりました」

 

「あとちょっと待ってね……『簪ちゃん、聞こえる?』」

 

 楯無は片手を耳に当ててそう言った。恐らく黙秘回線(プライベート・チャンネル)を用いて妹に呼びかけているのだろう。そして何度か相槌を打った後、通信を切って再び航の方を向いた。

 

「航、簪ちゃんはここから丁度真反対のところにいるわ。そこで2人でセンサーで監視、観客がい無くなり次第、場合によってはここから無理やり突入して鎮圧するわよ」

 

「……彼女の機体はまだ未完成だったのでは?」

 

「婆羅陀魏がやってのけたわ」

 

「……そうですか。失礼いたしました」

 

「別にいまはそのことはいいわ。ただ今は『聞こえるか、更識』はい、織斑先生」

 

 その時、楯無の元に千冬から通信が入る。だがこれは航にも聞こえており、航も黙ってそれに耳を傾けた。

 

「織斑先生、現状を教えてください」

 

『ああ、現在アリーナ内に所属不明機が1機侵入。そして織斑と凰が応戦中だ。観戦席での現状はどうなっている』

 

「はい、現在いきなりのシャッターなどにより中はパニック状態となっており、それに全出入り口のゲートが閉ざされています。そちらで操作は出来ますか?」

 

『すでに試しているが何者かに寄るハッキングによって操作がこちらからはできない。場合によっては専用機で扉を破壊、そして生徒たちに避難誘導を頼む』

 

「先生、あの所属不明機はどうするのですか?正直織斑君と凰さんには荷が重いかと」

 

『教員を集めた鎮圧部隊を編制中だ。それが終わり次第即突入させる』

 

「わかりました。ではこちらも避難誘導が終わり次第、鎮圧に向かいます」

 

『ああ、頼んだぞ』

 

 通信が途切れ、そのまま再び航の方を向く楯無。

 

「航、今の通信は専用機持ち全員に聞こえてるはずよ。だから場合によっては扉を壊してでも避難させて」

 

「かしこまりました」

 

 そして航は別の扉の方へと向かい、楯無も同じく近くの扉を目指し始めた。

 

 

 

 

 

 

 ここは管制室。そこには千冬と真耶がおり、今現状を整理しながらあちこちに指示を飛ばしていた。

 

「よし、更識が動けば少しは観客の方も落ち着くはずだ。山田先生、現在アリーナ内はどうなっています」

 

「はい、すでに織斑君と凰さんが所属不明機と戦闘開始していますが、今のところは2人とも目立った損傷はないようです。ただ、お互い先ほどの試合でシールドエネルギーを消費していますから、あまり長い戦闘はできないかと」

 

「鎮圧班はどうなっている」

 

「そちらも現在ISを受け取り、ピット入り口の方に……織斑先生、ピットのゲートが閉ざされてるとの報告が」

 

「構わん。壊してでも突入するように言え」

 

「は、はい!」

 

 これで一夏たちの負担も減るはずと思っている千冬だが、アリーナの遮断シールドがレベル4、それにアリーナに通じる扉も全部閉ざされているため、最短の扉破壊による直進も正直どれほどの時間がかかるのか……。千冬は小さく歯噛みする。

 観戦席の方では楯無たちも避難誘導を始めているが、いつそちらに攻撃が向くか分からないため、そちらの方も不安だ。

 

「織斑先生、焦る気持ちは分かりますが今は彼らを信じましょう」

 

「ああ、そうだな。山田先生、ここはコーヒーでも飲んで落ち着くとしよう」

 

 それで飲むも、味が分からないほど千冬は焦っている。実際こんな事件も初めてだし、その指揮をこのように行うのも経験が少ないため、千冬はとりあえず顔だけは平常を保っていた。

 だがそんな状態でも状況は変化していく。千冬はただ、こう指示することしかできない自分を恨んでいた。

 

 

 

 

 

「なんなのよコイツ!」

 

「くそ、仕掛けにくい!」

 

 アリーナ内、一夏と鈴は所属不明機もとい敵ISと交戦状態になっていた。先ほどふたたび自分たちにビームを放ってきたため、躱すのを皮切りに2人はお互い得物を構えてそのまま急接近、そしてお互いに得物を振り下ろす。

 

「速い!」

 

「だけど!」

 

 それに反応して下がる敵IS、即座に鈴は追いかけ、そのまま追い打ちを掛ける。遅れながらも一夏も追い打ちに入る。

 だがしかし、両腕のチェーンソーでそれを防ぎ、逆に歯がまだ動いてないチェーンソーで殴りかかる。鈴はそれをどうにか受け流しているが、腕の長さを見誤った一夏は反応が遅れてしまう。

 

「しまっ……!」

 

 そのまま勢いよく押される一夏。だが雪片を盾にしてたため彼自身にダメージは入らず、どうにか防いだと思い込んでいた。

 その時だ。チェーンソーの束が大きく開くと、それはまるで指の様に動き、そのまま雪片弐型を掴んだのだ。

 

「なっ……!」

 

「一夏!剣を格納して!」

 

「っ!?」

 

 格納すると同時にチェーンソーが一斉可動する。もしこれで少しでも遅れていたら、雪片弐型は巻き込まれて粉々に砕け散ってただろう。一夏は一気に冷や汗を流すが、距離を取って再び雪片二型を展開する。

 

「あっぶねぇ……くそ、これじゃ下手に攻撃しても防がれちまう。あんなのに巻き込まれたらただじゃ済まねえぞ」

 

「全く、アンタが龍砲を壊さなければまだ牽制できたのに……!」

 

「そう言っても仕方ないだろあの時は試合だったんだから!」

 

 だが言い争っても埒が明かない。お互いの武器は手に持ってる己の剣だけ。お互い目が会いコクリと頷くや、鈴が真正面、一夏はサイドに回る。

 

「はぁ!」

 

 鈴は2本の青龍刀の柄頭を連結し、そのまま回転させて敵IS目掛けて投げる。だがそれをひらりと躱し、指を開いて無防備な鈴目掛けてチェーンソーの付いた腕を伸ばす。そのまま掴むかと思われた時、敵ISは急に横に逃げ出した。それと同時にその後ろから先ほど投げた青龍刀が戻ってきて、鈴はそれを掴んで再び二刀流にする。

 

「一夏、そっちに!」

 

「ああ、分かってる!」

 

 一夏は零落白夜を起動し、そのまま逃げる相手と速度を合わせて雪片で薙ぐ。

 

「くそ、当たらねえ!」

 

 雪片は空しく空を斬り、お返しと言わんばかりに敵ISは腕を伸ばして指を閉じたまま一夏を殴る。それにより吹き飛ばされた一夏が見たのは、自分目掛けて手からビームを放とうとする敵ISの姿であった。

 鈴は急いで妨害しようとするもすでに遅く、一夏めがけてビームは放たれる。

 

「一夏ぁぁぁ!」

 

「うおぉぉぉ!」

 

 一夏は何を思ったのか、零落白夜を発動。そのままビームが当たろうとする直前に振った瞬間、ビームは霧散し、一夏は何とか距離をとり、鈴と合流する。

 

「アンタ、何無茶してんのよ!」

 

「お、おう、すまな……あぶなっ!?」

 

 2人の間をビームが通過する。急いで離れた2人は再び敵ISを睨みつけるが、それを歯牙にかけずダラリと腕を下ろし、無防備な姿をさらけ出した。

 

「何なのよ、その挑発むかつくわね……!」

 

「くそ、あのチェーンソー硬過ぎだろ。まじで刃が通らねえ……」

 

 明らかに手数が足りない。このままじゃジリ貧と分かってる2人だが、だからと言ってすぐに妙案が思いつくわけでもなく、お互いににらみ合い状態になってしまう。

 

「なあ鈴。なんでアイツ、俺らがこうやって話してる時突っ込んでこないんだ……?」

 

「アンタ、いきなり何言ってんのよ」

 

 いきなり聞かれたためか、鈴は呆れた顔で一夏の方を向く。

 

「だってよ、さっきからアイツ、何か挙動がおかしいんだ。それにこうやって俺らが話してるとさ、まるでそれを聞いてるかのような感じでさ」

 

「だからって……そうね。たしかにこうやって話してるけど、明らかにこっちは意識散漫になるのに仕掛けてこないわ」

 

「……あれ、本当に人入ってるのか?」

 

「もしそうだとしたらどうするのよ」

 

「零落白夜を本気で使える」

 

 チラッと奴の方を見るが、チェーンソーがたまに動く程度で仕掛けてくる様子はない。あまりにも不気味だが、今はそれをチャンスとわかるやお互いに目配せをし、コクリと頷く。

 

「行くわよ!」

 

「おう!」

 

 そして再び仕掛ける2人。それに反応するように敵ISも動き出し、再び近接戦が行われる。先ほどより激しく攻撃する2人だが、的確に相手は対応してくる。そう、まるで機械のように。

 その時だ。一夏を払いのけた敵ISは鈴の元へと向かい、そのまま右腕のチェーンソーで鈴に喰いかかろうと大きく開く。

 

「一夏っ!」

 

「応えろ、白式ぃ!」

 

 次の瞬間、鈴と所属不明機の間に割り込んだ一夏は零落白夜が発動し、伸びた光の刀身が敵ISの右腕を銃口から貫く。そして一夏に触れようとしたチェーンソーも止まり、それと同時に右腕数か所から小爆発が起きる。だがとっさに左腕で一夏を殴り飛ばし、敵ISは距離を取った。

 

「よし、一矢報いてやったぜ……!」

 

 吹き飛ばされた一夏だが、すぐに体勢を立て直して再び雪片を構える。その口元からは笑みがこぼれており、逆に敵ISは壊された右腕を庇うようにして左腕を突き出し、そこからビームを連射する。

 明らかに焦っているように見え、そのまま畳みかける一夏たち。敵ISに徐々に攻撃が当たるようになってきており、このままなら倒せる。そう思っていた。

 

「これでトドメだ!」

 

 一夏は零落白夜を発動させ、敵IS目掛けて突っ込む。

 その時だ。チェーンソーを束ねたと思った瞬間、急に腕が高速回転し始めるや、そのまま敵ISは一夏めがけて突っ込んできたのだ。そのまま一夏がチェーンソーに巻き込まれるかと思ったその時。鈴が一夏にぶつかり、そのまま跳ね飛ばした。

 

「鈴!?」

 

「きゃああぁぁ!!」

 

 チェーンソーに巻き込まれ、跳ね上げられた鈴はそのまま地面に叩きつけられ、そして甲龍は解除されてぐったりとしてしまう。

 

「お前、お前だけはぁああ!」

 

 一夏は怒りに飲まれてたのかもしれない。ただ殺意だけを乗せた刃は敵IS切り裂き、そのまま相手の左腕が宙を舞い、血であなくオイルが噴き出す。

 

「おらぁあああ!」

 

 一歩踏み出して右肩から胴に向けて袈裟斬り。それにより敵IS……無人機のカメラアイの光が消え、そのまま仰向けに倒れる。

 一夏はそれを見届けるや、急いで鈴の元へと向かった。

 

「鈴、大丈夫か!?」

 

「一夏……倒した?」

 

「ああ、やったよ。俺たちの勝ちだ」

 

「そう……一夏、後ろ!」

 

「えっ……?」

 

 振り向くと、そこには片腕を失いながらも一夏に攻撃を加えようとする無人機の姿だった。まだ動けたのか。半壊した右腕を振り上げ、そのまま攻撃しようとする無人機。

 一夏は鈴を抱きかかえ、そのまま逃げようとしたが次の瞬間、無人機が横にいきなり吹き飛ばされた。

 

「え?」

 

「え……?」

 

 いきなり何が起きたのかわからず、ポカンとする2人。その時、ハイパーセンサーがとある反応を拾った。

 

「間に合い、ました……!」

 

 それは日本の量産機である打鉄2機とフランスの量産機であるラファール・リヴァイブ1機に乗った教員たち3人で、打鉄の右腕に装備された弓状の巨大なパイルバンカー……の杭を射出し、それで無人機を吹き飛ばしたのだろう。

 そしてラファール・リヴァイブに乗った教員が彼らの元へと寄ってきた。

 

「織斑君、凰さん、大丈夫ですか?」

 

「は、はい……え、えっと……」

 

「二人とも、よく耐えてくれました。後は私たちに任せてください」

 

 そして再び凛とした顔を浮かべるや、そのまま敵ISの元へと向かう。ライフルで牽制してくる教員たちに対し、腕部のビーム砲を向けて単発のビームを放つがひらりと躱され、そのまま1人の教員が敵IS目掛けて一気に近づく。

 それに反応した敵ISは右腕を振うが、教員はそれも躱し、自身の右腕に69口径パイルバンカー“灰色の鱗殻(グレー・スケール)”を展開。

 

「援護よろしく」

 

「任せて!」

 

 打鉄に乗ってた教員たちの腕部からワイヤーらしきものが放たれるや、そのまま無人機の右腕と胴に絡み、動きを制限する。それで逃れようとする無人機だが、対巨大生物用に作られた頑丈なワイヤーの前ではびくともせず、胸部に杭を押し当てられ、引き金を引かれた。

 2発3発と何度も放たれた一撃により、次第にぐったりとする無人機。そして全発撃ち終え、無人機がうつ伏せに倒れるとライフルを展開して頭に突き付けた。

 

「それ以上の抵抗は無駄です。そのまま投降しなさい」

 

 機械の人形がいうこと聞くかわからない。そのためか安全装置を解除し、いつでも引き金を引けるようにする教員。

 

「終わった……?」

 

「学園の教師ってとても強いのね……」

 

 これらを見ていた一夏と鈴はあっけないながらも、この騒動が落ち着いたことに安堵する。

 あとは教員たちが処理するだろうと思い、完全に脱力したときだ。ハイパーセンサーがはるか上空、そこに対していきなりロックオンするや、警告音(アラート)を鳴らす。

 それは管制塔の方にも届き、千冬や真耶が驚きの顔を上げた。

 

「っ!?上空、新たなIS反応!」

 

 それは上空からミサイルの雨を降らしながら現れた。四方八方にばらまかれたミサイルはランダムに起爆し、その爆圧がアリーナのを大きく揺らす。

 

『きゃあああ!!!???』

 

 いきなりの攻撃に教員たちが悲鳴を上げ、同時に一夏たちも爆風で吹き飛ばされる。いったい何者が攻撃したのか全員が見上げると、そこにヤツはいた。

 それはある機体に似通っていたが、般若を思わせる顔つき。胴体はずんぐりと丸みを帯びており、たくさん打たれているリベットはまるで、旧世紀の兵器と思わせる風貌だ。

 二の腕部の装甲にはMGと書かれており、手首を回転させながらその黄色いカメラアイはあたり一帯見渡している。

 時折虹色に光る銀色の装甲が眩しいのか、一夏は少し目を細めてソイツを見ている。そしてハイパーセンサーがその機体を明確に捉えたとき、全員が次第に驚いた顔になっていく。

 そう、何より普通のISより大きく、最初の所属不明機より大きな身体なのだ。ただ一夏はその姿を見たとき、とても見慣れたその機体の名を呟く。

 

「機龍……?」

 

「キシェァ―!」

 

 機龍に似て似つかわぬソイツは機械的な咆哮を上げる。そして指、膝、足の指からなる多数のミサイルを一夏たち目掛けて放った。




次回「目覚め」




では感想等待ってます。
※5/10、さっそく一部修正行いました。


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襲来 下

本当にお久しぶりです。
7か月振りの更新となります。クリスマスプレゼントになるかどうかは分かりませんが、では本編どうぞ。


 いきなりの攻撃だった。誰もが呆気に取られており、そのせいで反応に遅れてしまう。果たして最初に声を上げたのは誰だったか。それに反応し、ようやく全員が回避行動をとり始めるが、ミサイルの雨はいっせいに起爆し、アリーナがその衝撃に晒された。

 その爆発力は凄まじく、轟音が鳴り響き、アリーナを大きく揺らす。それによりいくつかシステムがダウンしてしまい、観客席を守るバリアが完全に機能停止する。

 その中一番早くに爆炎から抜け出したのは一夏で、彼は抱きかかえていた鈴の状態を確認する。どうやら軽い火傷で済んでると思われるが、それでも爆発の衝撃のせいか、意識が朦朧としている。

 

「鈴、大丈夫か!?」

 

「う、うん……一夏が守ってくれた、から……」

 

「俺が絶対守ってやるからな。だから安心しろよ」

 

「うん、一夏……」

 

 小さく笑みを浮かべる鈴。一夏はそれを見て安堵の息を吐くや先ほどの攻撃してきた機体に対して睨みつけた。

 

「くそ、何だよあの機龍モドキは。いきなり俺たちを狙ってきやがって……!」

 

 明らかに狙われてると分かった一夏は、鈴を逃がすためにピットへの通り道に立ちふさがる機龍モドキを睨みつけ、左手に鈴を抱いたまま雪片を抜く。

 だがその時、ラファール・リヴァイブに乗った教員たちが一夏の前に立った。

 

「織斑君は行ってください!私たちが援護します!」

 

「先生……ありがとうございます」

 

 そして一夏の盾になるように教員2人が機龍モドキに攻撃を仕掛け、意識がそちらに向いている間に一夏はその横を抜けようとした。そう、したのだ。

 

「……っ!?」

 

 それは一瞬だった。機龍モドキとこちらは距離が空いており、一夏はこれだけの距離があれば白式の機動力さえあればどうにかなると思っていた。だがしかし、機龍モドキは重鈍な見た目に反し、一瞬で距離を詰めてきたのだ。それどころか一夏を逃がすために壁になっていた教員2人も巻き込み、そのまま一夏から逸れてアリーナの壁に激突する。

 

「あ……ぁ……」

 

 その威力と衝撃は凄まじく、一瞬で戦闘不能なり、ズルリと地面に落ちる教員。そしてゆっくりと一夏の方を向いた機龍モドキは、小さく鳴き声を上げて一夏をじっと見つめる。

 そして両腕を上げて一夏に照準を向ける。

 

「早く逃げなさい!」

 

 それは残っていた教員の射撃だった。カンカンと跳弾する音が響く中、一夏は我に返り、足が動くのを確認するや急いでピットの方へと向けて逃げ出した。

 それを狙おうとする機龍モドキ。だが教員は即座にバズーカを展開。そのまま引き金を引き、弾はそのまま機龍モドキに向かう。

 

「こっちを見なさい!」

 

 それに反応した機龍モドキは教員めがけてミサイルを多数放つ。だがそれを躱しながら教員は近接ブレードを展開し、蛇腹状となってる関節部めがけて突き立てようとした。しかし機龍モドキは首を高速回転させ始め、そこを中心に円筒形のバリアを張るや近接ブレードの切っ先はバリアと当たって火花を上げる。

 

「なによ、それ……!」

 

 刃が通らない。それに焦った教員だったが、隙を見せてしまったため機龍モドキはそのまま近接ブレードを掴み、空いてる手からミサイルを放つ。その爆発に飲み込まれた教員はシールドエネルギーが一気に削られてしまうが、それでももう1本近接ブレードを展開して左肘関節を貫いた。

 

「キシャー!」

 

 声を上げるや無理やり振り払い、口部からミサイルを放って教員を墜落させる。

 

「先生!」

 

 さすがにまずい。教員はシールドエネルギーが少ないながらも機龍モドキめがけて近接ブレードの切っ先を向け、もう一方の手にショットガンを展開する。

 それに反応したのだろう。機龍モドキは腕部、脚部を向け、ミサイルを放とうとしたが……。

 ピットを閉ざすシャッターが爆発した。いったい何なのかと思ったとき、そこに空いた穴から青い閃光が一直線にこちらに向かってきたのだ。

 それに反応し、ビームを放った敵IS。そのままビームは“彼女”に当たるかと思われたが、そのまますり抜け、一瞬で敵ISの懐に入り込むや手に村雨を展開して胴を薙ぎ払う。

 

「硬い、わね……!」

 

「た、楯無さん!」

 

 彼女、更識楯無はそのまま下がるや一夏たちの前に立ち、そしてふたたび村雨を構える。機龍モドキはそれを見るや再びミサイルを放とうとしたが、先ほどの穴から飛び出した銀が機龍モドキにたいして激突し、そのまま吹き飛ばされた機龍モドキは地面に叩きつけられる。

 

「キァァァ……」

 

「航、私は先生と一夏君たちを下がらせるわ。だから頼んだわよ」

 

「わかった」

 

 彼女たちの壁になるように、機龍モドキの前に立ちはだかる四式機龍もとい航。

 四式機龍と機龍モドキは身長はあまり変わりがなく、その巨体が見せる威圧感と同時に守ってくれそうな安心感を感じる。

 

「じゃあ一夏君、航に任せていきましょうか」

 

「でも……」

 

「鈴ちゃんに何かあったらどうするの?」

 

「ぐ、それは……」

 

 航の手助けをしたい。だけど今彼の手元には鈴がおり、彼女の申し訳なさそうな顔が一夏の中の火を鎮火させるにはたやすいものだった。

 

「一夏、守りたい人がいるなら全力で守れ。それまで俺が奴の相手してやるから」

 

「航……頼んだ」

 

「あぁ、まかされた!」

 

「キァァアアアア!」

 

 声を上げると同時に、スラスターを吹かして身をかがめながら機龍モドキにぶつかり、それで仰け反った機龍モドキの腕を掴み、鋭い爪をその装甲に突き立てる機龍。

 大きく火花を散らしながらその装甲に大きな傷をつけていくが、機龍モドキは空いてる手を機龍の胸元に押し当て、そのままロケットを射出。その爆発によりよろめく機龍だが、決して掴んだ手を放さずそのまま巻き込むかのように身をひねり、機龍モドキを無理やり地面に転がすとそのまま尻尾を叩きつけた。

 起き上がることもできないほどの力で2度、3度と叩きつけるが指からフィンガーミサイルが放たれその爆発に飲み込まれたことで動きが止まってしまい、そのスキに機龍モドキは体勢を立て直し、機龍も尻尾で薙ぎながらも機龍モドキのほうを向いた。

 だがその時、機龍モドキの目が強く輝いた。

 

「っ!?」

 

 航は咄嗟に顔を逸らす。すると機龍モドキの目から放たれた光線は、バックユニットを片側を一瞬で融解させ、そのまま貫く。爆発の衝撃で身体がよろめくも、意地でも離さない航。

 そしてバックユニットのスラスターが強く光り、無理やり力押しで機龍モドキを壁に叩き付けた。

 叩きつけると同時に、即座に放たれた右腕のメーサーブレードが機龍モドキの装甲を食い破り、深々とその刃を突き刺す。そして電流が流されたことにより機龍モドキは各所から煙を上げ、首を不規則に揺らしながら目を点滅させる。

 

「キシャー!」

 

 悲鳴を上げる機龍モドキ。

 効いてる。これならいけると思っていたがその時、機龍モドキが頭を高速回転させ始めたのだ。それによってバリアが展開されたと思ったとたん、バリアに挟まれた腕部レールガンは耐えきれず圧壊、爆発する。機龍の装甲も激しい火花を上げながらも無理やり引き抜き、至近距離で口部メーサー砲を使うが、それもすべてバリアに防がれてしまう。

 どうするかと思ったとたん、すぐにバリアは消え、そして目からの光線、スペースビームを食らった機龍はそのまま地面に墜落してしまう。

 それを好機と見た機龍モドキは、眼部、鼻部、口部、胸部、腕部、脚部、あらゆるところに搭載されているあらゆる火器を使用し、機龍目掛けて一斉射を行う。

 その火力はすさまじく、機龍がよろめいたと思ったとたんにほかの攻撃が降り注ぎ、爆炎が機龍を飲み込んでいく。

 

「ぐぅぅ……!まだ、だぁ!」

 

 だがその炎を斬り裂き、機龍は現れた。だがその姿は先ほどとは違い、左腕の腕部レールガン、バックユニットを切り離した姿は前よりゴジラに近い姿となっている。

 機龍高機動形態。航の視界にはそう表示されており、より身軽になった機龍はどこで習ったのか、様々なマニューバ飛行を駆使して攻撃を躱していく。

 そして至近距離に近づくや、身をひねって尻尾を叩きつける。それによって吹き飛ばされる機龍モドキだが、お返しと言わんばかりにミサイルを多数放つ。だがそれを無理やり躱すや、再び接近して近接戦を仕掛ける。

 だがしかし再び首を回してバリアを張ったため攻撃が通らず、航は小さく舌打ちを上げる。このバリアを突き破れるだろう方法はあるだろうか。ひたすら爪で切り裂いたり尻尾を叩きつけたりするが一切通らない。

 そして機龍モドキはそのままその身体を押し付けてきてバリアに接触した部分からダメージが入り、ガリガリと装甲の削れる音が響く。

 このままでは不味い、下がって体勢を立て直そうとするも逃がしてくれず、ダメージが蓄積されていく。

 

「機龍の攻撃が、通らねえ……!」

 

 力業が通らずこのままでは不味い、そう思った時だ。

 

「うおぉぉおおお!」

 

 一閃。その時バリアが崩れ、つんのめるかのように機龍にぶつかる機龍モドキは、いったい何が起きたのかわからず、ソレが駆け抜けた方を振り向く。そこにいたのは教員たちと一緒に撤退したはずの一夏で、手に持ってる雪平弐型は零落白夜を発動していた。なるほど、これで切り裂いて無理やり停止させたのだろう。

 一夏はそのまま雪平弐型を機龍モドキめがけて振るうが、とっさに距離をとって様子を見ている。

 

「一夏、どうしてここに……!?」

 

「航が危ないから戻ってきた!鈴は楯無さんに任せてるから問題ないしな」

 

「勝てる見込みは?」

 

「あのバリアが斬り裂ける。それだけでも十分あるだろ。それにな……」

 

「それに?」

 

「俺は……鈴を傷つけたやつらの一味っていうなら、奴が許せねえ!」

 

 それに呆れる航だが、小さく笑うと視線を一夏から機龍モドキへと向ける。

 

「一夏、それならやるぞ」

 

「おう!」

 

 機龍モドキに仕掛けるため2人は別方向に飛ぶ。それに対応するかのように機龍モドキは首から上を一夏、それ以外を航に向けて攻撃開始するが、お互い高機動型のためまともに攻撃が掠ることもなく、先に航が機龍モドキに突撃する。

 高機動からの強襲。それに人の姿とかけ離れた機龍では、通常のISとは攻撃パターンが違いそしてパワーも桁違いのため回避に入る機龍モドキだが次の瞬間、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使った一夏が背部から零落白夜で背びれを数枚斬り裂き、そのまま駆け抜ける。

 

「くそ、浅い!」

 

 急いで体制を立て直す一夏。だが視界を向けた先にはすでにミサイルや光線を放つ機龍モドキの姿があり、それに驚いて動きを止めてしまう。それによって回避が遅れてしまうが、そこに航が割込んでその体で無理やり攻撃を受け止めた。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

「航!」

 

「大丈夫だ、行け!」

 

 そして爆煙を目くらましに、一夏が再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、そのまま機龍モドキへと接近する。そして零落白夜を起動させ、そのまま横だめに構える一夏だが、機龍モドキもわかってたのか一夏に左手を向け、そのままミサイルを撃とうとした時だ。

 先ほど教員に刺された部分から爆発を起こし、その衝撃で大きく体をよろめかせる機龍モドキ。

 その隙を逃さず航は尻尾を機龍モドキの横腹に当て、大きく吹き飛ばしてそのまま追撃をかける。

 埒が明かないと思ったのだろうか、機龍モドキは体勢を立て直し、再び首を回してバリアを張ろうとしたのだろう。

 

「させるか!」

 

 だが機龍の前に回り込んだ一夏が、零落白夜を発動させた雪平弐型でバリアを切り裂き、そこに航が機龍モドキの下あごに爪を喰い込ませ、無理矢理制止させる。

 顔も無理矢理上に押し上げられてスペースビームもまともに使えず、振りほどこうと放たれたミサイルが装甲を穿ち、爆発する。だがそれでも機龍は止めないため、機龍モドキは口部に無理やり左腕をねじ込ませ、接射によるミサイルが一気に起爆したことで航のうめき声が上げ、機龍モドキから手を放してしまう。

 

「ぐぅ……!」

 

 それで逃げようとした機龍モドキだったが、奴は爆炎を斬り裂いて現れた一夏に対応することができず、一夏はそのまま懐に入り込むや、零落白夜で機龍モドキの右腕を肘関節から切り飛ばす。

 

「キシェ、ア……!」

 

 機龍モドキは一夏から距離を取ろうと下がる。だがその後ろにはすでに航が回り込んでおり、その背中に手が軽く添えられる。

 

「そのまま固まってもらうぞ」

 

 機龍の拳が機龍モドキの背部を深々と穿ち、まるでのけぞったかのような姿になる。それでも首を回して機龍に攻撃しようとしたが、この時もう一方の手が機龍モドキの頭を掴む。そして万力を思わせるほどの馬鹿力により首の可動部から火花が散り始め……大きな音とともに機龍モドキの頭が胴体から切り離される。

 その中にあった装置、それは予備のカメラアイのようなものだが、その機龍モドキの目がとらえたのは、雪平弐型を振り下ろす一夏の姿だった。

 

「これで、終わりだぁあああ!」

 

 雪平弐型を両手で持って袈裟斬り。刃が深々とその胴体を斬り裂き、その部分から火花やスパークを起こす機龍モドキはそのまま力を失ったかのように地面に向けて落ちていく。

 きっと誰もがやったと思ったのだろう。だがしかし機龍、航は落ちるようにしながら機龍モドキの元へ向かうや、そのまま胸部を踏みつけながら着地した。

 その衝撃で表面が大きくへこみ、金属の曲がるような低い音が鳴り始める。だがそれでも踏む力を緩めない機龍。その時、機龍モドキの足がもがくかのように動き出した。

 

「やっぱり生きてたか」

 

 更に踏む力を強くした。装甲の一部がはじけ飛び、機龍モドキの各所内部が露出し始める。必死の抵抗か、機龍に向けて脚部のミサイルを放つだけ放つが、その爆発の炎のせいか機龍の目は真っ赤に染まっているように見える。

 

「キァァ……!」

 

「キシャー……!」

 

 機龍モドキからその姿はどう見えたのかは分からない。ただ姿が見れれば、心があれば機龍モドキは恐怖していたのだろう。なんせその姿はかの怪獣王と面影が重なって見えたのだから。

 バキバキと音をたて、胸部が押しつぶされていく。必死に足をもがかせている機龍モドキだが、次第に装甲の隙間、関節部から火花を走らせ、内部が圧潰して行ってるのがよくわかる。

 

「逝、ね!」

 

「キシェァァァアア!」

 

 限界を超えた機龍モドキは、断末魔と共に大爆発を起こし、あたり一帯に爆炎と衝撃波をまき散らした。

 その威力はすさまじく、近くにいた一夏は爆風によって飛ばされ、そのままアリーナの床を転がる羽目になるほどで、そして体勢を立て直して顔を上げるとそこには、先ほど機龍たちがいたところは黒煙を上げながら炎が激しく燃え上がっており、2機の姿が全く見えなかった。

 

「航!」

 

 ここまでなってると一夏は声を上げながら航を探そうと現場に近寄る。いったいどこにいるのか……一夏はハイパーセンサーを凝らして見ると、その時。

 ズン……ズン……と重い足音が響き渡る。もしかしてと思い、音の下ほうを向くとそこには、爆炎の中から現れる四識機龍の姿があった。あちこちが煤こげているものの、大きなダメージをくらった様子はなく、一夏は笑みを浮かべて機龍の元へと向かう。

 

「心配したんだぞ航!こいつぅ!」

 

「こいつがそう簡単に壊れるか。こいつは───」

 

「「機龍だからな」だろ?」

 

 それを聞くや、航は笑い声をあげる。そして楯無やほかの教員が現れ、ようやくこの事件は終結するのであった。




お久しぶりです。リメイクだからさっさと書くとか言っておいて更新に7か月も待たせてしまいました。
何があったかと言いますと、最初リメイク版ということで前のやつより何か足そうということになり、今回の話を作ってたのですがこの時無人機を倒すのに航だけにするのか、航&一夏にするのか、航&楯無にするのかなどといういろいろな案が出てきて、それら全て途中まで書いてたのですが、さらにそこから派生が始まり結果的に10パターンというとんでもない数出来て、逆にどれを完成させればいいのか、どうすればいいのかわからなくなり結果投げだしてしまいました。
本当に、応援してくれた皆様に申し訳なく思っております。

これを機にもっと更新速度を上げていく努力をするので、応援等、よろしくお願いいたします。


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