インフィニット・ストラトス DEEP (右左右 右左)
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入学編
二年目


この小説を書き始めた理由?、ヒロインの子逹から先輩!って呼ばれたいなと思って書き始めました。


拝啓 誰か様へ。

 

春も深まり、暖かな感じた生き物たちが、生き生きとし始める季節になりましたね。

 

私はこれから新しい生活が始まる事に心が弾んで・・・

 

 

 

・・・弾んではいないな。

 

 

 

教室の窓辺、清々しい程に目の前に広がる青い空を横目に見ながら、誰かに宛てる事もない手紙の冒頭を頭に浮かべていた。

 

「皆さんこれからS・H・R(ショート・ホーム・ルーム)を始めるですよ!」

 

小学生、そう思える位に背の小さい、紺色のツインテールの教師が髪をピョコピョコさせながら教壇から顔を出す。

 

「皆さんはパイロット科へと進級し、ISに関連する職業の中でも花形とも言えるパイロットへの道のりの一歩を踏み出しました、ここにいる皆さんはライバル関係ではありますが、友として・・・」

 

インフィニット・ストラトス 通称IS。

 

簡単に説明すると、従来の兵器達を凌駕するトンデモ兵器。鉄の雨を降らせてもへっちゃらだし、ミサイルをぶちまかしても切り落とす、航空機なんて遥か彼方に置いていき、果ては宇宙まで航行可能な夢のようなモノだ。

 

ただし、ISには一つだけ問題がある。

 

俺は先生の話しを聞きつつ、チラリと教室を見る。

 

女性しかいない

 

そう、ISには女性しか乗れないのだ。

 

そして、俺の今いるこの場所はIS学園、パイロットやシステムエンジニア、整備士などISに関係する未来のプロフェッショナル達を育成する為の学舎というわけだ。

 

そんな学校になぜ俺がいるかというと、そうISに乗れてしまうのだ。男なのに俺が。

 

 

事の発端は約2ヶ月前、織斑 一夏という少年がISを起動させた所から始まった。彼以外にも男でISを起動させる事が出来るかもしれないという事から日本で全国調査が始まり、しばらくたった時俺が見つかった。

 

今は世界的に調査が始まったが今の所、三人目は見つかってはいない。

 

「はぁ・・・」

 

誰にも聞こえない位のため息を付きながら教壇へと目を移す。

 

が、その途中でこちらを見つめてくる目玉が2つ。

 

「・・・・」

 

先生があれこれ言っているなか、隣の席から何の躊躇いもなくジッとこちらを見つめてくる女の子がいた。

 

水色の髪に赤い目、手には扇子を持っている。

 

(な、なんだ?)

 

困惑

 

何も言わず、暫く見つめあっていたが、フフッと笑顔を浮かべた女の子はこちらに小さく手を振ってくる。

 

俺も思わず手を振り返すがその時、ダンッ!!っと教壇を叩く音がした。

 

「しかぁあし!!そんな甘ったれた、腐ったミカンみたいな考えは今すぐ生ゴミ箱にでも捨ててくるのです!!」

 

突然、教壇の上に立ち上がった先生は腕を組ながら言い放つ。

 

「この界隈は弱肉強食!、とにかく強い者しか生き残れないのです!音大出たのに就職先がパン屋とか、んな学んだことを生かせないまま、なんで音大入ったの?みたいな事を永遠に言われ続ける人間だってこの世界にはいるんです!」

 

バンッ!と手を胸に当て。

 

「でも安心して下さい!、元中国代表ISパイロット、第1回IS世界大会「モンド・グロッソ」で総合準々優勝(・・・・・・)格闘部門準々優勝(・・・・・・・・)した、この王 美友(ワン メイユウ)が貴女達をどんな企業団体も欲する立派なパイロットに育て上げて見せるのです!!」

 

ババァァン!っという効果音が聞こえてきそうな位にフンスッと胸を張る王先生。

 

して生徒達の反応は・・・。

 

「「「「「・・・・」」」」」

 

シーンと静まりかえった教室。そしてそのまま時間だけが過ぎていく。

 

「・・・・はい、以上でSHRを終了しまーす、休み時間に入って下さいです」

 

よいしょと教壇から王先生が降りそのままスタスタと教室から出て行ってしまう。

 

あれ?先生、俺の紹介は?

 

先生が教室を出て行ってから、ザワザワと教室内が賑やかになっていく。

 

「ねぇ、一年生の織斑君見に行こっ!」

 

「うん!」

 

休み時間に入り教室から出ていく生徒がチラホラいるなかそのまま教室に残り友逹と雑談をする生徒達もいる。

 

この辺りはそこらの学校と変わらない風景だなぁ。IS学園って案外普通の学校なのねと思いつつも。

 

俺!一人ボッチ!!

 

もっと興味をもたれるもんかなと思っていたが、先生から自己紹介場を儲けられるわけでもなく、完全に孤立してしまっている!

 

どうすんだよこれぇぇ!!と頭を抱えて席に座っているとふと誰かの影がかかる。

 

「どうも〜、こんにちは」

 

そこにいたのは先ほどこちらを見てきた水色の髪をした女の子だった。

 

「ど、どうも・・・」

 

よかった、積極的に話しかけてくれる人がいて。

 

「王先生、中々、強烈な人だったでしょ?」

 

「ああ、教壇の上に先生が立っていいものなのかと思ったが」

 

水色の髪、手に持つ扇子、言葉使いからして性格は人馴っ子い女の子のようだった。

 

「まあ、王先生身長低いからね、ああでもしないと目立たないから」

 

ケラケラと笑いながら扇子を広げる女の子。あ、名前を聞かなくては。

 

「お前の名前は?」

 

「ああ、自己紹介をしないとね。私の名前は・・・「生徒会長!更識 楯無!!」

 

突然、教室の後ろから大きな声が張り上がる。

 

そこにいたのは外人の女子生徒の一人で可愛らしい金髪の三つ編みを2つ垂らした。

 

巨漢だった・・・

 

いや、女の子だから巨女か?・・・じゃなくて!

 

「クリスティーナ・ハイマッシブ!、生徒会長の座をかけて更識 楯無に決闘を申し込む!」

 

いやに漢らしい顔付きのクリスティーナと名乗った巨女はおもむろに自分の制服を掴み脱ぎ捨てる。元々着こんでいたのか制服の下にはレスリングのユニフォームを着ていた。

 

「あの・・・、クリスちゃん?私今ちょっと取り込み中なんだけど」

 

「問答無用!!」

 

その声と共にクリスティーナさんが駆け出す、教室の後ろからだがその速度は尋常ではなかった。

 

瞬く間に距離を積めてきたクリスティーナさんはレスリング特有のタックルを俺の目の前で放つ。

 

「うおぉぉぉ!?」

 

足を踏み込んだ大きな音と共にフワッと俺の前髪が上がる、強烈なタックル。こっちは椅子に座ったままだが腰を抜かしてしまいそうになった。

 

俺に話しかけてきたあの子は?

 

直ぐに目を向けだが、そこには既にあの子の姿はなかった。

 

ッどこに?

 

そう思った矢先、自分の斜め上から声がかかる。

 

「クリスちゃん、貴女のそういう猪突猛進的な所は好きだけど、ちょっと時を見計らってから挑んで欲しいんだけど」

 

いつのまに動いたのか、彼女は俺の机の上に立ってクリスティーナさんを見下ろしていた。

 

・・・水色の縞模様のパンツが見える。

 

「不意討ちよし、真っ向勝負でもよし、生徒会長は何時如何なる場合であっても挑戦には答えなければならないのでしょ?」

 

どんな生徒会長だよそれ!!

 

「まあ、そうは言ったけど、人が話している時位・・・」

 

「フンッ!!」

 

クリスティーナさんは最後まで話しを聞かず拳を降りおろす。

 

ベキャァア!!っと音立てながら粉砕される俺の机。

 

「俺の机があぁぁぁ!!」

 

フワリと空中で一回をし華麗に着地を決める彼女。

 

「もう、話しを聞かない悪い生徒には生徒会長としてオシオキしちゃうんだから」

 

「ようやくヤル気を出してくれたようでワタシもうれしいわ、楯無ちゃん」

 

そう言って再び俺の前で対峙し合う二人。

 

「オラァァァァ!!」

 

と、叫び声を上げながら、今度は組み付きにかかるクリスティーナさん。

 

しかし。

 

「そこッ!」

 

一瞬。組み付きよりも早く素早く、彼女の三連撃の蹴り技が入った。

 

「ぐおぉぉぉ!?」

 

明らかに女の子が出してはいけないような声を出しながらクリスティーナさんは一瞬宙に浮き、その巨体が仰向けになって教室床に倒れ込む。

 

「ハイ!レスリングで言うと背中が地面に着いたから私の勝ちね!」

 

手に持っていた、扇子を拡げる彼女。その扇子には「勝利」の二文字が書かれていた。

 

「くっ、相変わらずやるわね」

 

手で口元を拭いながらヨロヨロと立ち上がるクリスティーナさん。

 

「私の攻撃を食らって立ち上がる貴女のタフネスも凄いけどね。まっ、怪我してたらアレだし一様、保健室に行って来なさい」

 

「また、挑戦するわ・・・」

 

クリスティーナさん肩を押さえながらオズオズとこの場を後にした。

 

ポカーンと今、目の前で起こったこどが正直信じられなかった。しかし、改めて教室を見渡すとみんな何事もなかったかのように再び雑談を始めている。

 

「ごめんね〜、会話中断しちゃって」

 

先ほどトンデモ武闘会をしていた彼女はゴメンゴメンと舌を出しながら謝ってくる。

 

バケモンかコイツら。

 

「強いんだな、お前は・・・」

 

いや、強いの一言で片してしまっていいのだろうか・・・。冷や汗を欠きながらそう答える。

 

「生徒会長は最強であれって校則だしね、IS学園じゃあ日常茶飯事よ、毎日のように狙われるし」

 

ほとんどクリスちゃんだけど、っと付け加えてはいるが俺の内心は穏やかではなかった。

 

やっぱIS学園普通じゃねぇ、普通の学校みたいとか言った自分を叱咤するべきだった。

 

再び頭を抱えそうになる中、彼女がボソリと呟く。

 

「・・・まあ、最強って言っても猛者はこのクラスにはゴロゴロいるけどね・・・」

 

彼女が教室を見渡す。

 

女子生徒に囲まれているブロンド色のセミロングの生徒。

 

左目から口元にかけて切り傷の跡がある黒い長髪の生徒。

 

机に突っ伏して寝ている小柄な三つ編みの生徒。

 

クラスの子と誰とも話さず読書をしているメガネをかけた白い髪の生徒。

 

彼女の目からはそんな生徒逹が見てとれた。

 

「さて、改めて自己紹介するわ」

 

ポンっと手を叩き、こちらに振り替える。

 

「IS学園生徒会長 更識 楯無よ、楯無でいいわ」

 

スッと手を出され握手を求められる、俺は椅子から立ち上がりその手を握る。

 

「転校生の風見野 薪(かざみの まき)だ、薪でいい、よろしく」

 

 

転校したらトンデモ女子校だった、果たして俺は上手くやっていけるのだろうか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楯無、いきなりですまないんだが、この机どうしたらいい?」

 

そこには見るも無惨な俺の机だったものが一つ。

 

「スクラップね」

 

俺の二年目の高校生生活は自分の机を新しくする所から始まる。



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マイ・パートナー

主人公のISはオリジナル要素を極力削りました。
こんなんでどうでしょう?

キャラクター名変更8/20

ソル・ビビッド→ソル・エンゲルベルト


「風見野君、君には専用機が与えられるのです」

 

昼休み、まだIS学園に馴れない俺の為と楯無が色々と案内をして最後に食堂で昼食をとっていた時、王先生からそう言われた。

 

「俺の専用機?」

 

「そうですよ、専用機が与えられるのです。それはとっても名誉なことなのですよ!」

 

笑顔でピョコピョコとツインテールを揺らしながら王先生が説明をし始める。

 

先生曰く、ISは467機しか世界には存在しないISの開発者である篠々乃 束博士がある日を境にコアの製造を中止してしまったからだそうだ。その為ISは各国にとって貴重なものとなり、その保有数がその国の戦力そのものと言っても過言ではないらしい。

 

「そんな、一国が喉から手が出る程、欲しいと思うISを俺が貰ってもいいんですか?」

 

「ん~、国際IS委員会が男性操縦者のデータを欲しがっているんですよ。それと様々な魔の手から貴方自身を守る為に絶対防御や生命維持装置があるISが与えられるのです」

 

「魔の手?」

 

「はぁ〜、世界にはいたいけな男の子に対しても良からぬ事を考える奴らがわんさかといるんですよ」

 

やれやれとため息を付きながら首を横に振る王先生。

 

「じゃ、放課後に渡すので後で職員室にくるように、いいましたからですね〜」

 

そう言って先生は手を振りながら行ってしまう。

 

そんな先生を見送りながら食事を再開しようとすると。

 

「へぇ〜、薪君、専用機持ちになるんだ」

 

「ああ、らしいな。突然言われても実感は沸かないが」

 

楯無が喋りながらハンバーグをナイフで切り、そのまま口に運ぶ。

 

俺も箸を取り、鮭の切り身を食べてからご飯を口に入れ込む。

 

「織斑 一夏君も専用機持ちになるらしいし、男の子二人揃って専用機か、いいな〜」

 

「簡単に手に入らないモノを手にして悪かったな、だがお前も専用機持ってんだろ」

 

「フフン」

 

更識 楯無 ロシア代表。

 

先ほど校内を案内された時に色々ISについても説明されたが、まさか一国の代表だったとは恐れいった。伊達にIS学園の生徒会長を名乗っているわけだ。

 

食べる手を止めニヤニヤとこちらを見てくる楯無。

 

「・・・どうした」

 

めっちゃ食べずらいから早く用件を言ってくれ。そう思いつつ野菜に箸を伸ばす。

 

「私が教えてあげようか?」

 

その言葉を聞いて思わず箸を止める。

 

「ISの操縦をか?」

 

「ええ、このロシア代表にして、IS学園生徒会長が手取り足取り、教えてあげるわよ」

 

「本当か?、それは助かる!」

 

「気にしないで、初心者には誰だって優しいわよ」

 

よかった、ISの起動なんて、全国調査の時以来だし、正直かなり不安だった。ISの基礎訓練なんて本来は一年生の内に覚えなければならない事なのだが。

 

いかんせん、俺は二年生の時に転校してきてしまったのだ。確実にパイロット科の授業に付いていける気なんてしなかった。

 

そこに現れた救世主 更識 楯無。

 

楯無お前、巨漢を意図も簡単に蹴り倒すヤバい女の子だと思ってたけど本当にいい奴なんだな。目の前の楯無が女神のようにすら思える。

 

俺の中の不安が一つ晴れ、晴れやかな気分で食事を再開する。

 

しかし、俺はその時の事を後々後悔する羽目になる。楯無の不敵な笑みに気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここですよ」

 

放課後、楯無と共に王先生に連れられてやって来たのはIS学園にある倉庫の内の一つ。

 

その中は薄暗く、天井の高い場所にある照明だけが光源と言ってもいい。

 

「あれ?王先生、この倉庫って生徒立ち入り禁止じゃあなかったでしたっけ?」

 

楯無が、俺の後に続きながらそう質問する。確かにあまり人が立ち入った様子もないような場所だ、所々にホコリすら詰まっている。

 

「ま、まあ。今日から解禁されたのですよ。なので今後は使っても構いません・・・」

 

・・・多分、風見野君位しか使う人いないと思いますけど・・・。

 

最後にボソッと王先生が何かを言った気がするが、よく聞こえなかったのでスルー。

 

暫く歩いて行くと照明に照らされたシートに被せられた何かがあった。

 

「これですか?」

 

「はい、これが風見野君のISです、今シートをとりますよ。あ、楯無ちゃんそっち持って下さい」

 

「はい、わかりました」

 

そう言って王先生と楯無がシートの端を握る。

 

自分の中で緊張が走る。俺の専用機、そう聞くと聞こえはいいが、実際に持つとなるとどんなものなのかと期待してしまう。

 

「では、しかと見てください。これが風見野 薪の専用機です!!」

 

シートが取れる音と共に現れたのは・・・。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

あれ?

 

「あの、王先生?、専用機は?」

 

「これが!風見野 薪の専用機です!!」

 

いや、二度も言うな。

 

「王先生?、だってこれどう見ても・・・」

 

そう、どっからどう見ても。

 

「コアだけ?」

 

楯無が一番いいたい事を言ってくれた。

 

二人してISの固定台にセットされているISのコアを見てから王先生の方を見る。

 

「う、うう・・・」

 

「せ、先生?」

 

「うわぁぁぁぁん!!」

 

先生が泣き始めた・・・。

 

「風見野君、申し訳ないのです〜!」

 

突如として泣いて謝って来た先生に対して二人とも唖然としていると、先生が事のあら回しと言う言い訳回想に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー数週間前ー

 

夜、カタカタとパソコンのキーボードを叩く音が聞こえて来る部屋。

 

「ちーちゃん、二番目に見つかった子が起動したISはその子の専用機になるんですか?」

 

「ここでは織斑先生と呼べと言っているだろう、(メイ)

 

「今、ちーちゃんもニックネームで呼びましたですよ、というかいいじゃないですか。もう私達二人しかいないのですよ?」

 

織斑 千冬と王 美友二人は仲良く揃って残業していた。

 

IS学園職員室、ISという国家間の貴重なモノを預かる上に、各国の生徒逹の教育。果てや、衣食住まで管理しなければならない、ハンパではない情報量が飛び交うIS学園。勿論仕事の量もハンパではない。

 

「はぁ、来週からは寮に新しい生徒が入ってくるのか・・・」

 

ため息を付きつつ、コーヒーを啜る千冬。

 

「今年も賑やかな子達が入ってきそうですね、ブリュンヒルデちゃん」

 

「止めてくれ・・・」

 

ケラケラと笑いながら、カ○リーメイトを口に入れる美友。

 

「ちーちゃんのクラスの子の殆どが私の担任するクラスの子になるなんて思いもしませんでしたよ」

 

「アイツらは手を焼くぞ、更識 楯無、ソル・エンゲルベルト、鴉堕 舞姫(からすだ まいひめ)、フォルテ・サファイア、最後に(かすみ)・オウアランダー」

 

「この前、霞ちゃんも専用機持ちになって、その五名が二年生の専用機持ちですか」

 

そんな、雑談をしながら残りに残った仕事を片付ける二人。元々はモンド・グロッソで戦いあった二人だが争いも過ぎれば良き友、仕事の場で気兼ね無く話せる友は貴重だ。

 

「そういえば、さっきの二番の専用機の話しだが、確か風見野 薪が起動したのはIS学園のラーファル・リヴァイヴだろ?一機IS学園から無くなる事になるが、大した痛手ではないだろう、教師陣が使うISを一個訓練機に回す予定だ」

 

「そうだったんですか、了解で・・・え?、ラーファル・リヴァイヴ?」

 

「ああ、ラーファル・リヴァイヴだ。それがどうかしたのか?」

 

千冬が美友を見ると顔が真っ青になっていた。

 

「お前まさか・・・」

 

美友が様々な書類が山のように乗った自分の机をかき分けてヨレヨレになった紙を一枚見つける。

 

「く、訓練機のラーファル・リヴァイヴが故障してスペヤパーツがないからって理由でなんか知らない間に使ってないISがあるな〜と思って、パーツをそこから拝借してって言うかですね・・・」

 

「・・・つまりは?」

 

「・・・初期化しちゃったのです・・・はい・・・」

 

ただでさえ静かな誰もいない職員室に更なる沈黙が訪れる

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「助けて!!ちーちゃん!!」

 

「無茶言うな!!」

 

この二人って、本当仲がいいんですよね。一年生 副担任 山田 真耶 談

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、織斑先生の提案したこの倉庫ですか?」

 

王先生の回想が終了し楯無が扇子に手を当てながら聞く。対して先生は真っ白に燃え尽きたの如く、ポツポツ

と言葉を紡ぐ。

 

「はい・・・。ここは今は現役を退いた一世代のISのパーツや二世代のジャンクパーツなどを保管してある場所なんです。生徒逹に使わせる訳でもないですし、かと言って国に戻すのも面倒と言うことでずっとここに保管してあったのですよ」

 

「えっと、じゃあ俺のISは・・・」

 

「はい、ここにあるジャンクパーツで作る事になります・・・」

 

まさかの組み上げからスタート、そしてパーツはジャンク品・・・。

 

「だ、大丈夫ですよ、風見野くん。今ならこのIS、なんと整備士科の子とシステムエンジニア科の子も付いてくるんです!」

 

ヤル気を取り戻し始めた先生。だけどもそんなテレビ通販みたいな事言われても!

 

先生がなんとか弁解しようと躍起になっている時、倉庫の入り口から声が聞こえた。

 

「王先生〜!色彩 朱理が今来ましたよ〜!」

 

倉庫に入って来たのは二人、赤い髪の女の子と青い髪の女の子だった。

 

「あら、先生が言ってた整備士とシステムエンジニアって、朱理ちゃんと藍理ちゃんだったの」

 

「お〜、楯無。相変わらず話題の中心にいるなお前、そしてこっちが同級生の方の男性操縦者か」

 

ふーん、とこちらを舐めるようにみてくる。

 

いかん、押されては駄目だ。

 

「風見野 薪だ。よろしく」

 

こちらから手をだすと、ニカッと笑った赤い髪の女はこちらの手を取る。

 

「よろしく!整備士科に所属してる色彩 朱理(しきさい あかり)だよろしくな薪!でこっちの青いのは・・・」

 

色彩 藍理(しきさい あいり)です、システムエンジニア科に所属しています。薪さん。よろしくお願いいたします。」

 

「よろしく、ってお前ら双子か」

 

朱理と藍理。二人の容姿は瓜二つだ、髪は二人共ツインテール。赤い髪が朱理、青い髪が藍理といった感じだ後違いがあるとすれば・・・

 

「先生!このISを組み上げちまえばいいんだな?」

 

「そうです私の救世主!是非お願いするのです!」

 

「じゃあ、姉さんは状態のいいパーツを持ってきて組み上げて、私はシステムの立ち上げしとくから」

 

「おし、任せろ!適当にパパッと組み上げるから!」

 

「もう、姉さん真面目にやって。あ、先生も手伝って下さい」

 

「はい!この王先生がなんでも引き受けますよ!」

 

・・・性格だな。強気で大雑把な姉に真面目で冷静な妹っと言った所か。

 

とりあえず俺はそこら辺にあったパーツに腰かけて作業を見守る。

 

「あの二人が組み上げるなら安心ね」

 

そう言って隣に座ってくる楯無。

 

「そんなに凄いのかあの二人?」

 

「ええ、天性の朱藍コンビって言われる位には凄いわ、私のチームにも欲しかったな〜」

 

「チーム?」

 

「ええ、二年生からはクラス別とかじゃなくてチーム別なの」

 

そう言ってISが組み上がるまでの間、楯無のチームの説明が始まった。

 

「一年生でISの基礎を学んだら。二年生からは各それぞれの学科に別れて新学期がスタートするんだけど、その際にチームを組む訳。専用機持ちは勿論、専用機を持ってない生徒逹も自分達でISを調整して運用して、試合で結果をだす。そう言った仕組みなのよ」

 

なるほど、企業だけに整備や調整、測定を任せるのではなく自分達だけで成果を上げていくのか、確かにそれだけ企業がやっている事に近い事をやっていれば、就職した際にも即戦力として期待出来るわけか。

 

「薪君もチームを組むならばあの子逹はオススメよ、楯無ちゃんのお墨付き」

 

「チームか・・・」

 

今後の事を思いはせつつ自分のISが組み上がっていくのを見つめる。パーツ自体元々あった為、組み上がる時間は差ほどかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組上がったISに乗り込みアーム、レッグのサイズ調整をしていく。

 

「おお、本当に動かせるんだな」

 

「動かせなかったらここにはいねぇよ」

 

そんな会話をしながら朱理は王先生が下から持ち上げた部品を取り胸部装甲の調整もする。

 

「薪?キツくないか?」

 

「ああ、大丈夫だ。所であれ着てないけどいいのか?」

 

「んあ?、あれ?」

 

ISの固定台の上、まだISはその四肢を固定されているため俺自身体を動かせない。

 

「ああ!、ISスーツの事か?いいんだよあれはISスーツはISとの相性を良くしたり、追従性をあげたりするモンだから、それに今日は組み立てだけだし」

 

本格的な調整は明日からだな〜。

 

と、朱理が言っているのを尻目に俺は今の状況を見る。

 

胸がガッツリ当たってるんだが・・・。

 

今は完全に朱理に抱きつかれるような形となっており、朱理が動く度に胸が押し付けられるのだ。

 

平常心だ、向こうが気づいていないなら、俺も気づかない。知らなかったという事にしよう。

 

と今の状況を楽しむ方向にした。

 

「鼻の下が伸びてるわね」

 

「伸びてますですね」

 

王先生と楯無にはしっかりバレてた。

 

なんやかんやで楯無に叩かれつつ、ISが組み上がりいざ歩行テストを始める事になる。

 

「薪さん、ロック解除しますよ」

 

「ああ、頼む」

 

ガシャンっとISを固定するロックが外れる音がする。

 

「さあ、薪君!今こそ日進月歩!もはや使われる事もない運命だったパーツ達に今一度命を吹き込むの!」

 

楯無が俺に向かって扇子を突きつける、その扇子には明日への三文字。

 

あの文字どうやって変えてんだろ?

 

そんな考えを頭の隅に追いやり、歩く事に集中する。

 

「行くぞ・・・」

 

ゆっくりと固定台から足を下ろす。

 

「ッ・・・・」

 

一歩目。

 

だだの一歩だがなんだか感動してしまった。

 

「薪君、そのまま外へ・・・」

 

楯無に導かれながら、光射す倉庫の外へ向かう。

 

二歩目、三歩目と順調に歩を進め今太陽の下に・・・が。

 

「・・・・」ガシャン

 

「・・・・」ゴション

 

「あの・・・薪君?」ガシャン

 

「どうしった?」ゴション

 

「なんでそんなペンギンみたいな歩き方してるの?」ガ

 

「・・・・」

 

思わず立ち止まる。

 

「楯無、ISってこんな歩きづらい兵器なのか?」

 

「ん~多分、私の見立てでは右足と左足のサイズが違うせいだと思うの」

 

「朱理ィィ!!」

 

パーツを選んだ本人を見る。

 

「あれぇぇ?、寸法間違ったかなぁ?同じパーツなんてないからちょっと待っててね」

 

たはぁ〜 と手で頭を掻きつつ、再びパーツ選びを始める朱理。

 

「はい、じゃあ薪君、固定台に戻って」

 

「ええぇぇぇ!?」

 

この状態で歩くの結構疲れるんだけど!

 

「つべこべ言わずに走る!」

 

走れないんだけど!

 

「いいからもう一回!」

 

もう一回、もう一回、もう一回っと倉庫内に楯無の声が響きわたる。

 

「じゃ先生は、職員室に戻るので戸締まりお願いするのです。あ、風見野君!ここに風見野君がお泊まりする寮の鍵置いときますのです」

 

「お疲れ様でした。王先生」

 

「はい、藍理ちゃんも頑張って下さいなのです」

 

そう言って、先生はスキップをしながら倉庫を出て行く。

 

「クソッ!元凶が消えた!」

 

「ほら、薪君!サイズが合うパーツ見つけるまで寮にはいけないわよ!」

 

「嘘だろ!」

 

その後固定台から倉庫の入り口を10往復位してようやくサイズのあったパーツが見つかった。

 

だがISを装着して倉庫の外に出た時にはもう日は落ちていた。




機体名は。
ジャンク・ウォーリアー!


嘘です。


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ルームメイトは・・・

主人公とのご対面だよ、ラノベでも有名な一夏君だからね粗相のないようにしなければ。


ー夜ー

 

「初日から疲れた・・・」

 

「終われて良かったわね」

 

ISの基礎組み立てが終わり、ようやく寮に付く。寮は学年別に別れており、楯無と共に二年生の寮に向かおうとするが。

 

「薪君のその鍵、一年生の寮のじゃない?」

 

「は?、んなバカな・・・本当だ・・・」

 

王先生からもらった鍵は確かに一年寮と書かれたタグが付いている。

 

「多分、一年生の織斑君と一緒にしておきたいんじゃない?、それに一年生の寮長は織斑先生だし、トラブルがあっても安心だし」

 

「ああ、そう言う事か」

 

鍵を見つめて納得する。ようやく俺と同じ男性操縦者と出会えるのか、どんな奴だろう。

 

「じゃ、また明日ね薪君。ああ、そうだ。今度織斑君紹介してね」

 

「おう、またな楯無」

 

楯無と別れ、一年生の寮へと足を進める。

 

荷物そのものは少ない、IS学園に来る前は政府の要人保護プログラムであちこちのホテルに飛ばされたものだ。時折、女子生徒から好奇の目で見られているが旅行バックを引きずりながら、長い寮の廊下を進む。

 

「ええと、1025・・・1025・・・」

 

1023室、1024室と番号を見ていく。

 

「ここか・・・な?」

 

部屋番号的には次の部屋、しかしなぜだか人だかりが出来ていた。

 

「あ〜、すまん通らしてもらうぞ」

 

「あ、すいません・・・え、風見野先輩!?」

 

部屋着のラフな格好の女子達の合間をかき分け、部屋の扉の前に付く。

 

「篠ノ之さん、大た〜ん」

 

「抜け駆けは駄目だよ」

 

「織斑君、総受けってのもいいわね・・・」

 

何言ってんだこの子達?特に最後の。

 

そう思い、俺も女子達と一緒に部屋の中を覗きこむ。

 

 

女子が男子を押し倒していた。

 

 

「お盛んだな」

 

「え?、ッ!?、ち、ち、違います!!」

 

バッ、と女子が男子から離れすぐさま弁解を始める。

 

「まあ、俺自身そうだが思春期真っ盛りの年齢だし、そう言った事に興味があるのはわかるが」

 

「だから!違います!」

 

おお、吠える、吠える。

 

そんな、やりとりをしていると後ろでザワザワと話す声が増えてくる。

 

「なんで、二年生の風見野先輩がいるの?」

 

「荷物持ってるよね」

 

「えっ、てことはここに住むの!?」

 

「え〜、どこの部屋だろう」

 

話しが膨れ上がっていく。

 

「風見野先輩、ここの部屋の鍵持ってるよ!」

 

「じゃあ、1025室?また、いい情報手に入れちゃった!」

 

「篠ノ之さん一人に、織斑君に風見野先輩が同室って・・・きゃー!」

 

やんや、やんやと騒ぐ女子達を後ろ目に困り果てながらも部屋に入り、扉を閉める。ってこの扉、穴あいてんじゃん。

 

「この部屋に住む事になった二年の風見野 薪だ。よろしくな」

 

旅行バックを通路脇に置き、鍵を見せながら、近くにあった椅子に座る。

 

「お、織斑 一夏です」

 

ほほぅ、コイツが最初の男性操縦者の織斑 一夏か、誠実そうな人柄で髪は短髪、あとは・・・イケメンだな。

 

「え、あの、先輩もこの部屋に住むんですか?」

 

そう言って来たのは、先ほど織斑を押し倒していた女子。

 

「ああ、そういうはずだが・・・ええと、名前は?」

 

「あ、すいません。篠ノ之 箒です」

 

篠ノ之 箒ね、女子の中では高い身長で、髪を後ろで結んでポニーテールにしている、そしてなぜか剣道着を着ている。部屋着なのか?

 

「ああ、多分。山田先生が言ってた通り、政府の特命で俺達、寮に入れるのを最優先にしたらしいんですよ、なんで風見野先輩もここに住む事になったんじゃないですかね?」

 

「なっ!そんなの聞いていないぞ私は!」

 

「だって、箒!言わせてくれなかったじゃないか!」

 

また、騒ぎ始める二人。そうか、とりあえずIS学園に詰め込んで安全を確保したかったのか政府は。しかし、面倒な事が次々と起こるなIS学園は。

 

「まあ、二人共。どうしようもない状況らしい、まずは座って話しをしよう」

 

再び織斑に掴みかかろうとしていた篠ノ之をなだめ、二人をベッドに座らせる。

 

「つっといても、直ぐに、割り振られるだろうよ。流石に男子二人に女子一人の部屋ってのは、学園の教育上、見過ごせないだろうし」

 

「1ヶ月はこのままって山田先生が言ってました」

 

「・・・・」

 

まじか、1ヶ月この状態で過ごすのか・・・。

 

「すまんな、篠ノ之。迷惑をかける」

 

「い、いえ。私は大丈夫です・・・。一夏と二人きりだと思っていたのに・・・」

 

プレイボーイならぬプレイガールかお前は・・・。

 

最後の言葉にはつい申し訳ないと思ってしまった。が当の本人である織斑は?マークを浮かべ、不思議そうにしている。聞こえなかったのか・・・。

 

「はぁ、疲れた・・・」

 

そういえば風呂に入りたい。そう思ったが女子寮にある大浴場もこの分だと使えなさそうだな。先生方も俺達を受け入れる準備だけでも手一杯だったようだし。

 

部屋にあるシャワーでも使うか、いや、女子である篠ノ之がいるのだから先に聞いて置こう。

 

「そういえばシャワーはどうする?」

 

「適当でいいんじゃないですか?」

 

「な、一夏、お前!女子である私がいるんだぞ!また、さっきみたいな事があったらどうするつもりだ!?」

 

「ひっ、す、すいません箒さん!」

 

篠ノ之の言う通り、男子二人に女子一人だ。しっかり区分訳して置かないと事故じゃすまない。・・・というか既に事故があったみたいだが。

 

「篠ノ之、どの時間がいいか希望はあるか?」

 

織斑に怒っていた篠ノ之は顔を赤らめながら一度咳払いをする。

 

「私は7時から8時がいいです」

 

「分かった、じゃ、俺達は8時過ぎから9時な」

 

「え、俺早い方がいいんだけど・・・」

 

「わ、私に部活後そのままでいろというのか!?」

 

「箒、部活って、剣道部か?」

 

「そ、そうだ」

 

ああ、剣道部に所属してるのか。道理で剣道着を着ている訳だ。

 

「あれ?確か部活棟にシャワー設備ってあったような・・・」

 

「わ、私は自分の部屋でないと落ち着かないのだ!」

 

・・・よく分からんが、篠ノ之がそう望むならそれでいいだろう。

 

「じゃ、決まりだな。織斑、互いに気をつけよう」

 

「はい・・・風見野先輩」

 

「ん?」

 

一度立ち上がり、時計を確認し8時も過ぎているのでさっそくシャワーでも浴びようかと思ったが織斑が話しかけてきた。

 

「一夏でいいですよ」

 

名前か・・・、確かに今後コイツとの付き合いは長くなりそうだ。

 

「分かった一夏。俺も薪でいい、よろしくな」

 

「はい、薪先輩」

 

ニコッと笑った一夏の顔。んん、これは女子なら直ぐに墜ちてしまいそうだな。

 

さて、シャワーを浴びよう、と旅行バックに手をかけた時にある事に気づいてしまう。

 

「・・・まて、ベッドはどうする・・・?」

 

「「あ」」

 

ここはそこらのビジネスホテルより豪華な寮部屋だ、日本が学生を住まわすだけにどれだけの金をかけているんだと言いたくなるが、そんな国でも・・・

 

ベッドは二つしか用意してなかった!!

 

「床で寝るしかないか・・・」

 

幸い、床はフローリングなどの硬いモノではなく、転んでも大丈夫なマットが引いてある。後で先生から寝袋でも借りてくるしかない。

 

「薪先輩にそんなの事させる訳にはいきません、俺が床で寝ます」

 

「しかしだな・・・」

 

「じ、じゃあ、い、一夏がいいなら私と一夏が・・・一緒に・・・ゴニョゴニョ・・・」

 

「大丈夫か、箒?顔が赤いぞ風邪か?」

 

「うわぁ!?急に顔を近かづけるな!?」

 

はぁ、本当に初だな篠ノ之・・・。まあ、それは置いておいて、床で寝ないとすると俺と一夏が一緒のベッドを使って・・・いや、1ヶ月は辛いな・・・。

 

さて、どうした物か、と考えていると部屋のチャイムが鳴る。

 

「はいはい、今出ますよ〜」

 

部屋の扉に一番近い俺が開けにいく。多分外にいた女子達が俺達の様子が気になってインターフォンを押したのだろう。

 

「悪いが見せもんなん・・・」

 

「お前が、風見野 薪か」

 

部屋の扉の前には、布団を持ったブリュンヒルデがいた。

 

布団を持った。

 

「は、はい、自分が風見野 薪ですけど・・・」

 

「一年生の寮の寮長をしている、織斑 千冬だ。お前の分の布団だ、狭いが床に敷いて寝ろ、もしくは一夏にでも押し付けて寝ろ」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

部屋の外にワンサカいた女子達は先生の出現のせいかいつの間にやら全員いなくなっていた。

 

俺は目をパクチリさせながらも、布団を受けとる。

 

織斑 千冬 通称ブリュンヒルデ。おそらく日本で知らない人間はいないのではないだろうか。ISの世界大会、第一回目のモンド・グロッソで総合優勝を果たした人物、つまりISに乗れば世界で一番強い人間。モンド・グロッソで優勝した女性に贈られる称号、ブリュンヒルデを持っているが、第二回目のモンド・グロッソでは途中で棄権をしている。しかし、第二回目の優勝者はブリュンヒルデの称号を辞退している為、事実、世界最強の称号はこの人のモノとなっている。

 

「・・・・」パチクリ

 

「どうした?」

 

いや、どうしたもこうしたも世界最強から突然布団を渡されたらびっくりするわ。

 

織斑先生は怪訝な顔しながら、こちらを見ていたが部屋の中の様子に気づいてから、ため息をつく。

 

「はぁ、不出来な弟が迷惑をかける」

 

「い、いいえ、良くできた弟さんですね。直ぐに仲良くなれそうですよ」

 

そう、織斑 一夏、それと織斑 千冬は名字を見てわかるよう姉弟だ。ISを使えば世界最強の姉に男なのにISが使えてしまう弟。姉弟揃って、とんでもない人生を歩んでいるな。

 

「そうしてくれると助かる。後、箒も頼む、あいつらは幼なじみだからな同じように扱ってくれ」

 

「ああ、だからですか、妙に中がいいと思いましたよ。あの、二人」

 

「しかしだ」

 

そこで言葉を区切られる。そしてビシッとこちらの顔に指先を突きつけてくる。ビクッとした。

 

「女子には手を出すなよ、風見野。私はお前の事をまだよく知らないから釘を刺しておく」

 

し、しっかりした人だ。後威圧感が凄い。

 

俺は若干冷や汗をかきながら答える。

 

「こんな状況です、手出したくてもだせはしませんよ」

 

「・・・少し、意識が甘いように見える、ここで寮の規則を1~100まで教えてやろうか?」

 

「え、ええぇ・・・」

 

1から100って多くない?、いや分からんがそうじゃない、この年で警察に捕まってブタ箱にポイとか冗談ではない。今一度正しく女子には手を出さないと誓おうとした時、後ろから激しい物音がする。

 

「あ〜、箒・・・」

 

「いっ、一夏・・・その手に持ってる物を・・・」

 

そこには何故か、恐らく篠ノ之のであろうブラジャーを掴んでいる一夏が居た。

 

ん〜、D、それともEかな?

 

なんてバカな事を考えているとブラジャーを掴んでいる一夏が箒に向かって言った。

 

「箒、ブラジャー着けるようになったんだな」

 

「きっ、貴様ぁぁぁぁああ!!」

 

驚くべきほどに早い木刀、俺でも見逃しちゃうね。

 

木刀は綺麗に一夏の頭を直撃、その衝撃で一夏は一瞬で白目を剥いていた。

 

そんな殺人現場を見た後、一度、何故か空いていた扉の二つの穴を見て考える。そして今一度、先ほどの一部始終を見て目頭を押さえている織斑先生に宣言する。

 

「手は出しません!」

 

「ああ、その方が賢明だな・・・」

 

結局、一夏はそのままベッドで寝てしまったので俺は床で寝る事になった。




ん〜、二年生の寮でもいいけど、ルームメイト誰にするよ?
まだ、オリキャラはそこまで出したくないし、楯無だと捻りがないよな・・・。
(天の声)もう、いっそ。一夏と箒のとこにぶちこめば?そっちの方が面白いべ。
イイね〜。

みたいなノリで書きました、一夏と箒にもコンタクト出来るしいい感じに千冬とも接触でしました。

これがシャルロットの時も起きるから二度美味しい。


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ISのテクニック

さて、主人公がISを動かします。初心者だからね、練習しないとね。

主人公のISの見た目が出て来ます、ややこしいんで、適当に覚えて下さい。

後、この小説は主人公が徐々に強くなっていくタイプの小説です。俺TEEEではないです。


次の日の朝ー

 

「皆さんS・H・Rを始めますですよ!」

 

今日もツインテールを揺らしながら元気に挨拶する、王先生。相変わらず顔しか見えない。

 

昨日のゴタゴタもあり、余り寝れなかった為に、未だに睡魔と戦う俺。

 

あくびをしながら、先生の話しを聞いていると隣にいた楯無から小声で話しかけられる。

 

「ねぇねぇ、男子二人に女子一人の部屋って本当?」

 

話しが回るの早すぎるだろ女子校、昨日今日の話だぞ。

 

噂の浸透速度に、はぁ、とため息を付きつつ、小声で返答する。

 

「ああ、本当だ」

 

「きゃー、本当なんだ、面白い事もあったもんね。どうどう?同室の篠ノ之ちゃん、可愛い?」

 

そう、言われて真っ先に思い出した篠ノ之の姿は一夏の頭に木刀をブチ込んでいる姿だった

 

「・・・修羅だ」

 

「・・・は?」

 

白目を剥いていた一夏が、あまりにも衝撃的すぎて、頭から離れない。というかよく死んでいなかったものだ次の日にはケロッとしてたもんなアイツ。

 

「というか、静かにしろ楯無、SHR中だろうが」

 

「まあ、いいじゃない。先生の話しを聞くより、私の話しを聞いている方が為になるかも知れないわよ」

 

本当にコイツは生徒会長なのだろうか、生徒会長って生徒達の模範となるべき行動をすべき存在なんだよな?むしろコイツは不良みたいな行動しかしそうにないぞ。

 

「まあ、そんな事は置いといて。織斑君の事なんだけど」

 

先生の話しをそんな事呼ばわりで置いていく、生徒会長。というかお前も一夏の事気になっているんだな。

 

学校を歩いていても比較的俺の噂より一夏の噂をしている女子が多い。まあ、あのブリュンヒルデの弟ってだけでも話題性はあるもんな、後イケメンだし。こっちは特にこれといったステータスがないから悲しいもんだぜ。

 

「なんでも、昨日、イギリスの代表候補生にケンカを売ったらしいわよ」

 

「はぁ?」

 

ついでにトラブルメーカーだった。

 

「入学初日からなにやってんだアイツは・・・」

 

「なんか日本をバカにされたとかで、ケンカふっかけちゃったらしいけど、大丈夫なのかしらね〜」

 

「何がだ?」

 

「そのケンカがISを使った模擬戦らしいのよ、勝った方はクラス代表になるっていう」

 

ISを使ったって・・・。初心者相手によくそんな勝負を出したもんだなイギリスの代表候補生。

 

「その模擬戦、いつやるんだ?」

 

「6日後よ」

 

しかも時間もないし・・・。精々無惨な負け方をしないように練習するしかないだろうな。

 

「しかし、クラス代表決定戦か〜。面白そうね、うちのクラスでもやらないかしら」

 

「やっても、学園最強であるお前が勝つんじゃねぇの?」

 

「フフ、案外そうでもないかも知れないわよ」

 

完全にデキレースだろ、と思い楯無の顔をみるがその顔は慢心よりかは本当に楽しみ、と言った顔をしていた。

 

「はあぁ、やったら絶対面白いのに・・・」

 

「そうですね、面白そうなのでうちのクラスでもやりますか」

 

「やっぱり、薪君もそう思・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「先生の前でコソコソ話とはいい度胸してますね二人共」

 

・・・バレた!、王先生がいつの間にやら俺と楯無の前にいた。

 

「しかし、二人の言う事も最もです。なのでやります!一年生に見習って、二年生パイロット科でもクラス代表決定戦を開催する事を宣言します!!」

 

ええぇぇぇ!?冗談だろ!?

 

先生の高らかな発言と共に騒ぎ始めるクラス。

 

「昨日そういえばクラス代表を決めるのすっかり忘れていたので!今から一週間後!一年生のクラス代表決定戦の次の日に私達もやりますよー!!」

 

先生の音頭と共に盛り上がっていくクラスメイト達、というか先生色々とポカをやらかし過ぎない?

 

「集え!武士(もののふ)共!専用機持ち達は強制参加!もちろん腕に覚えがある奴らは参加歓迎!優勝者にはクラス代表の座を晴れてMVPに選ばれた人は副クラス代表の座もあります!さぁ、参加して先生達の博打の種になるんですよ〜!!」

 

いいのかよ教育者が生徒を餌に賭け事なんかして・・・。

 

そんな、俺の考えもうやむやに成る程に朝から騒がしくなったうちのクラス。

 

「はぁ、頑張れよ楯無、応援してるぞ」

 

「なに言ってるのよ、貴方も専用機持ちなんだから強制参加するのよ」

 

「いやいやいや、俺初心者、お前らプロ。雲泥の差しかないだろ」

 

例えるなら、ライオンさんやら虎さんやらジャガーさんやら名だたる肉食獣達がいるグランドにガゼルさんで出撃するようなものだ、ボコボコにされる未来しか見えないだけど!

 

「大丈夫!大丈夫!私がこの一週間でみっちり!ISのイロハってのを。教えて、ア・ゲ・ル・から!」

 

妙に色っぽい発言に不安しか感じない。

 

こうして俺の地獄の一週間は開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーアリーナー

 

放課後さっそく楯無にアリーナに連れてこられ、ISの訓練が開始される・・・が・・・

 

「はい、1、2、3、4」

 

「5、6、7、8・・・」

 

「は〜い、あんよが上手ですね〜」

 

「ぶっ飛ばすぞ、お前・・・」

 

「いや〜ん、薪君怖〜い」

 

歩行訓練、確かに初心者の俺には重要だが、赤ちゃん扱いは流石にやめて欲しい。

 

「流石に一人で歩ける、レッグパーツの調整も終わったからな」

 

「む〜、もうちょっと薪君で遊びたかったのに」

 

「おい・・・」

 

楯無は自身の専用機である。ミステリアス・レイディに乗り、拗ねたようにこちらを見てくる。

 

ミステリアス・レディ。ロシアの第3世代機体。水色をメインカラーとした機体であり、楯無自らが組み上げた期待度らしい。特徴的なのは左右一対で浮いている、アクア・クリスタルというパーツから出る、ナノマシで構成された水を使った戦闘方法だそうだ。

 

こういう、特徴があるのを専用機って言うんだよ。それに比べて俺の機体は・・・

 

「しかし、いつ見ても。薪君の戦闘は歪なISよね」

 

「うっせ、余りものだとこんなんしか出来なかったんだよ」

 

俺のISは簡単に言ったらキメラだ。

 

「右腕はイギリス製の第一世代のメイルシュトロームのパーツか、逆の左腕はアメリカの第二世代のアラクネね、って左の肩は打鉄の盾付きのパーツじゃない・・・」

 

倉庫にあったパーツ達は世界各国から寄贈された(もういらないので押し付けられた)物や単純にIS学園で破損してしまった物などで溢れかえっていた。しかし中には・・・

 

「そして、右足から腰にかけてはフランスのラーファル・リヴァイヴで、左足は・・・嘘、イタリアのテンペスタの足じゃない、よくあったものね」

 

「ついでに右のカスタム・ウイングもテンペスタのヤツだそうだ、左は朱理がジャンクパーツから組み上げたお手製だ。まあ、翼じゃなくてブースターだけどな」

 

テンペスタ。イタリアの第一世代ISでモンド・グロッソで準優勝した有名な機体と同形のISのパーツらしい。このようなお宝が時折あの倉庫には紛れている、俺にとって唯一の救いだ。

 

そんな、俺の専用機だが、カラーリングは全て元のままを使用している為とってもカラフル、早く塗装したい。

 

いや、そんな事をしている暇などないのだ。

 

「楯無、もう歩行訓練はいいから、戦い方を教えてくれ」

 

「もう、すぐ男の子はそうやって急かすんだから」

 

「あのなぁ〜」

 

「まあ、待ってって。人を呼んでるから」

 

そう言われて、楯無がアリーナの入り口を見ると、丁度よく二機のISがこちらに降りてくる。

 

「来たわよ、楯無ちゃん」

 

「只今、参りました」

 

「クリスちゃん!、サラちゃん!ごめんね〜ワザワザ」

 

「いえ、楯無さんに頼まれたのであれば放ってはおけませんわ」

 

来たのは巨漢のクリスティーナさんとクラスで見た事あるが初めての女子だ。

 

「ええっと、初めまして。風見野 薪だ」

 

「はい、初めまして、サラ・ウェルキンと申します。よろしくお願いいたしますわ、薪さん」

 

華やかな花の香り、お嬢様、そういった印象が残る綺麗な女子。

 

「クリスティーナ・ハイマッシブよ、クリスでいいわ。よろしくね薪君」

 

入学初日に俺の机をぶっ壊した巨漢女子、というか今こうして見たら俺より身長が高い、そして筋肉もモリモリにある。威圧感が凄い。

 

「あ、ああ、よろしく頼む二人共・・・」

 

「薪君、二人を専用機持ってないからって甘く見ちゃ駄目よ。サラちゃんはイギリス代表候補生、クリスちゃんはアメリカ代表候補生なの」

 

なんと、そうだったのか。筋肉にふさわしい実力をお持ちだったんだなクリスさん。

 

ちょっと挨拶の後、ウェルキンが俺のISをまじまじと見てくる。

 

「風見野さんのIS・・・とっても不恰好ですわね」

 

「本当ね、纏まりがないわ」

 

「・・・そう、言わないでくれ」

 

恐らく今後ずっと同じ事を言われ続けるのだろうか俺のIS。楯無はそんな俺を笑いながら見た後、一度手を叩く。

 

「さて、さっそく訓練を開始するわよ。サラちゃんは射撃、クリスちゃんは近接格闘、私は移動テクニックについてそれぞれ教えるから」

 

「おおお・・・」

 

楯無、なんやかんや言ってしっかり考えて置いてくれたんだな。初心者の俺を育てるべく人手まで用意してくれて。感心した。

 

「さぁ、薪君!この美少女三人が一週間で一人前のパイロットになるまで育てて上げるから覚悟しなさい!」

 

「お、おぉ・・・?」

 

美少女三人?とはあえて口にはしなかったが。晴れて国家代表一人と代表候補生二人による、豪華な訓練は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですから、ストックを持つ右手は脇を絞めて225度の位置に固定。左手は銃を側面からみて273度の位置と言ったではありませんか、そして息を止めてブレがないように・・・ああ!、またずれていますわ!」

 

「・・・すまん、よくわからん」

 

早速、頓挫した。

 

IS用スナイパーライフルを使った狙撃訓練。いや、言っている意味は何となくわかるのだけど、少しでもずれたら、直ぐに指摘してくる為、一向に進まないのだ。

 

「やっぱり、サラちゃんの教え方には問題しかなかったわね・・・」

 

「一年生の時から変わらないわね、サラの教え方は・・・」

 

後ろで控えている楯無とクリスさんも同じ意見なようだ。というかなんでこんなにも癖のある子を教官に選んだのか。

 

「そんなどうして・・・、セシリアは直ぐに覚えてくれたのに・・・」

 

「・・・多分、その子は同じような性格だったんじゃないか?」

 

「ううぅ・・・セシリア・・・」

 

目頭に涙を浮かべるウェルキン。そう言えば、そのセシリアって子が一夏の対戦相手らしい、先輩を追い越して専用機持ちとは相当の実力者だなその子は。

 

「ウェルキン、多分問題は俺の方にもあるかも知れん」

 

「はい?」

 

「ほら、俺のIS、右手と左手が違うだろ。だからスナイパーライフルのような大型の銃だとブレやすいんじゃないか?」

 

「まあ、そうですわね!、きっとそうですわ!」

 

コロリの気分を変えてくれたウェルキン。はぁ、単純な子で良かった。

 

「では風見野さんにはこちらを」

 

「これは?」

 

「IS用のマークスマンライフルですわ」

 

ウェルキンが出してきたのはライフルとスナイパーライフルの丁度中間に位置する、銃だった。取り回しがよくスナイパーライフル程ではないがライフルよりも射程が長いのが特徴の銃だ。

 

「ほぉ、撃ちやすい」

 

さっそく、一発撃ってみるが確かに重いスナイパーライフルより構えた際のブレが少ない。

 

「もう少し、こうして腕を上に上げた方がいいですわ、顔は銃身には近づけないようにして・・・」

 

「・・・・」

 

ようやく、訓練ぽくなって来たのはいいのだが、いかんせん。密着してきたウェルキンの胸が背中に当たってるのだ。

 

「息を止めて、狙いを的の中心に集中させて・・・風見野さん?、息止めすぎではありませんか?」

 

「ああ、すまん。集中してて・・・」

 

胸にとは言えたもんじゃなかったがご本人が気づいていないならそれでいい、ワザワザ指摘して訓練止める訳にもいかないしな。うんうん。

 

「薪君、鼻伸びてるわね」

 

「男はみんな獣ね」

 

バレてーら。朱理の時同様、楯無に叩かれながらも訓練は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、最後は私ね」

 

「ああ、よろしく頼むぞ。楯無」

 

今日の訓練も最後。楯無による移動のテクニックだ。え?クリスさんの訓練?

 

それが案外、非常に為になった訓練だった。

 

CQC、空手、柔道を始めとした、武器を使わない戦い方から。打鉄のブレードを使った模擬戦、近接戦闘時の足運びなど。今日1日でも覚える事は沢山あった。

 

多分、ウェルキンの時より集中してたんじゃないだろうか。何せ密着されても筋肉だからね、暑苦しいよね。というかバレた手前、下手したら、頭握り潰されそうだしね、怖かったね。

 

そんな恐怖の訓練も終わり、最後の楯無。実は一番教えて欲しい移動の技術を楯無が教えてくれるとは。

 

「薪君、まず戦場で生き残るには、何を覚えないといけない?」

 

「敵の攻撃を回避する、技術だろ」

 

「正解〜」

 

どんなに強い武器でも当たらなければ意味はないのだ。かわす、いなす、ふせぐ。それらが出来る操縦者は強い。恐らく、楯無はそれを一番よく知っているからあえて自分からここを担当してくれたのだろう。

 

「じゃあ、さっそく宙に浮くわよ。出来るわね?」

 

「ああ」

 

コクリと頷き、ISが基本搭載しているPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を使い空中に浮く。

 

「とりあえず、一通り見せるわ、見ててね」

 

そういって見せてくれたのは、バレルロール、スラスターを使った急速旋回、PICを駆使した高高度からの地面に向けてへの急停止、など。とてもではないが本当に一週間で覚えられるのかと言った技術ばかりだった。

 

極めつけは。

 

「最後に一番凄いの行くわよ」

 

そういって、楯無はまるで空中に足場があるが如く止まり、少し縮こまる。

 

そして。

 

「ッ――――!?」

 

ミステリアス・レイディのカスタム・ウイングが急に展開し、爆発的な加速をしながらアリーナの端まで一瞬で飛んでいく。

 

目の前で起こった一瞬の出来事に呆けていると、再び戻って来た楯無が笑顔で言う。

 

「今のが瞬時加速(イグニッション・ブースト)これは一週間で覚えられるかはわからないけど知ってて損はないわ、二年生のパイロット科の子達なら誰でも使えるし」

 

冗談だろ・・・あんなんで奇襲されたら死ぬわ。

 

「さあ、今教えた事全部やるわよ、薪君」

 

「ああ、それはいいんだが、ちょっと休憩しないか?流石にブッ通し続けでの練習はちょっと・・・」

 

流石に疲れた、ウェルキンとクリスさんと続きまだ休憩を入れていないのだ。

 

「何言ってんの!一週間しかないのよ!そんな弱音吐いてたら、ボロ負けするのは薪君よ?」

 

「え、ええ・・・」

 

スパルタかコイツ・・・

 

「やっぱり、楯無ちゃんも一年生の頃から教え方変わらないわね」

 

「ええ、私もよく言われたものですわ楯無さんに」

 

一年生の頃からこんなか・・・

 

「ほら、飛ぶ!練習あるのみ!」

 

「マジかー・・・」

 

空を飛ぶ俺、鞭撃つ楯無。

 

その日の寮、床にひいてあるベッドに突っ伏している俺を一夏と篠ノ之は見る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間たち

 

俺達のクラス代表決定戦が今日始まる。

 

「いや〜、昨日の織斑君とセシリアちゃんの試合面白かったわね」

 

「そうだな、まさか一夏が自爆するとは思わなかったが」

 

1日前、一年生のクラス代表決定戦が始まり、一夏とセシリア・オルコットが戦ったのだが、結果は一夏の自爆負け。

 

一夏の専用機、白式(びゃくしき)単一仕様能力(ワンオフアビリティ)零落白夜(れいらくびゃくや)は自身のシールドエネルギーを消費して、莫大な火力で敵を切る諸刃の剣だが、使ったとたん一夏のシールドエネルギーが切れた。

 

自分の機体特性をよく見てないから起きたようはうっかりミスだった。

 

「ああゆうふうには負けたくないな」

 

「頑張ってね、あ!ほら、張り出されたわよ!」

 

クラスの後方、掲示板の所に張り出された紙。

 

「見に行きましょ」

 

「ああ」

 

今回は参加人数がクラスの大半を占めるとの事でトーナメント式になっている。流石パイロット科だけあって腕に自身がある奴らしかいないな。

 

もちろん、ウェルキンやクリスさんの名前もそのトーナメントには書いてあった。

 

「ええと、風見野・・・風見野・・・」

 

正直、未だに乗る気ではないが、こうして行事レベルまで格上げされてしまったのだから参加せざる終えない。

 

「あ、あった、風見野 薪。対戦相手は・・・」

 

そうして指先を横へとスライドさせると誰かと指がぶつかる。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・なんでだ」

 

「・・・てへっ?」

 

 

風見野 薪 対 更識 楯無

 

 

「なーんで!いきなりラスボスと戦う事になってんだよ!!」

 

「よろしくね!薪君!」

 

「うるせぇ!」

 

終わった、冒険序盤から魔王の城来ちゃったヤツだこれ。ひのきのぼうで戦うヤツだよこれ。

 

「ん〜じゃあ、こうしましょう薪君」

 

「・・・どうした・・・」

 

悲しみに打ちひしがれていると楯無が提案してくる。

 

「私的にも勝ちを譲る訳にはいかないから。私に一撃でも攻撃を加える事が出来たら・・・」

 

「出来たら?」

 

「え、ええと・・・いいことしてあげる」

 

「・・・・」

 

なんだそりゃ・・・

 

 

始まってしまった二年生のクラス代表決定戦、俺この負け試合を果たして切り抜ける事が出来るのだろうか・・・




頑張ってボコボコにされろ、薪!

こんな感じでやって行きます。実は考えていたサラさんの登場シーン、口調とかあんなんでいいのだろうか?今後も射撃に関しては薪に助言をしてくれる人物になります。

後一種に出てきたオリキャラの情報を書いておきます。


クリスティーナ・ハイマッシブ

アメリカ代表候補生。ダリル・ケイシーの後輩。専用機持ちではないが近接戦闘に置いては優秀。その一方射撃は苦手。主に使うISは打鉄。

薪に巨漢と言われるだけあってIS学園の生徒間では一番デカイ、身長は190㎝ほど、女子だが筋肉力も馬鹿にできない位に多く、薪の机を粉砕するほど。

金髪の三つ編みのおさげがチャームポイント。


原作だと二年生のメンツが少ないと感じで制作したキャラの一人、なんか面白いキャラ欲しいなっと思い、作った筋肉キャラ。女子高生だけどまぁいいか。

顔は見てるだけでむせかえりそうなジョジョっぽいタッチの顔つきをしてると思って下さい。


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クラス代表決定戦 初戦

今回は戦闘になります。

途中一人称が変わったり、三人称視点になったりと場面がコロコロ変わります。

実験的に書いた部分が多いので見ずらいと思うかと思いますが。

指摘や感想などで言ってくれると幸いです。


アームの手を閉じたり開いたり、装甲を見て異常がないかを確認する。レッグの稼働範囲や、カスタム・ウイングを動かし展開するかどうか、一つ一つ見ていく。

 

「よし、大丈夫そうだな」

 

ここはアリーナのピット。もう少しで、俺と楯無の対戦が始まろうとしていた。

 

「・・・ふぅ」

 

いやに緊張するな。お腹のそこから込み上げるようなこの緊張感、いつも慣れない。

 

試合が始まるのを、ソワソワしながら待っていると、一夏達がピット内に入って来た。

 

「薪先輩、応援しにきましたよ」

 

「おお、一夏と篠ノ之か、それと・・・」

 

「セシリア・オルコットですわ」

 

一夏のケンカ相手のオルコットはいい所の出のお嬢様の如く綺麗なお辞儀をする。というか本当にお嬢様らしい。ウェルキンが言ってた。

 

「始めましてオルコット。昨日の試合見せてもらったよ。一年のクラス代表おめでとう」

 

「始めまして、風見野先輩。それと、クラス代表は一夏さんにお譲りしましたわ」

 

「え、勝ったのに?」

 

一夏の方を見るとえへへと頭の後ろを描いていた。

 

「そうなんですよ先輩、オルコットがクラス代表やった方が強いのに」

 

「し、紳士に、花を持たせるのも、淑女の嗜みですわ!」

 

なんだそりゃ・・・

 

「まあ、一夏はトラブルメーカーだ。よろしく頼むよ、オルコット」

 

「はい!」

 

「先輩、俺の事トラブルメーカーって何でですか!?」

 

「初日からケンカ吹っ掛ける奴をトラブルメーカーと言わずなんと言う?」

 

「うっ・・・」

 

一夏がなんとも言えない顔をしている、まあ、それ以外にも思い当たる節があるのだろうが。

 

「先輩のIS・・・」

 

先ほどまで会話に入らずジッとこちらを見ていた篠ノ之が口を開く。

 

「・・・変な形ですね」

 

「確かに、変ですわね」

 

「変だな」

 

そんなに変か・・・俺のIS・・・

 

「・・・うっせ」

 

そう毒づいていると、放送が入る。

 

[まもなく、風見野 薪 対 更識 楯無 の試合が始まりますですよ。両者はアリーナに出撃して下さい]

 

王先生の声だ。俺はISを浮遊させて出撃体勢をとる。

 

「一夏、緊張ほぐれた、助かった」

 

「いいえ、先輩応援してますよ!」

 

「ああ、アリーナ席に戻って見ててくれ」

 

ブースターを吹かし、飛んでいく。

 

「やるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ中央

 

多くの観客がいるなか飛行していく、アリーナの中央に目をやると既に楯無が待っていた。

 

「よ〜し、逃げずに来たわね」

 

「流石に逃げれないだろ、せっかく訓練してくれた、ウェルキンやクリスさん、そしてお前に申し訳が立たないからな」

 

「あら、薪君って以外に律儀」

 

ブースターを吹かして、楯無の正面に着地する。

 

「朝に言った通り、一撃でも、私に入れられたら、貴方の勝って事で」

 

「正直ボコボコにされる未来しか浮かばないんだが」

 

「まあ、チャレンジあるのみよ、成せば成る、成さねば成らぬなんだから」

 

そういって構えをとる楯無。

 

全く無茶を言う、相手は一国の代表、こっちはISに乗り始めてたかだか一週間の素人。

 

「まあ、やってみるさ」

 

それだけ楯無には期待されているという事だ。

 

こちらもいつでも武器を取り出せるように構えをとる。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

試合開始のカウントダウンが始まる。

 

3・・・2・・・1・・・

 

「ッ―――!」

 

ブザーが鳴り響く。

 

俺はその合図と共にマークスマンライフルを持ち出して楯無の頭に向かって狙撃した。

 

しかし。

 

「よっと!」

 

楯無は軽く、首をずらしただけで銃撃をかわした。

 

「ッな?!」

 

「綺麗な早撃ちね、サラちゃんの教育の賜物かしら?」

 

「うっせ!」

 

当たらなければ意味などないのだ。というか狙撃を首を捻っただけで回避するとかなんなんだよ!

 

「ッ!」

 

狙いを頭から胴体に切り替えて三連射する。

 

「よっ、はっ、よいしょ」

 

しかし、それらも楯無は右へ左へとISをスライドさせ、最小限の動きだけで回避する。

 

「・・・当たんねぇ」

 

「薪君、ハイパーセンサーを使った狙撃だから、こっちのアラートが鳴りっぱなしよ」

 

「なに?」

 

「上手い人はハイパーセンサーを使わずに撃って、相手のアラートを鳴らさないわ。これから撃ちますよって合図を相手にしているようなモノなんだから、そりゃ、私なら避けるわよ」

 

成る程・・・いや、ハイパーセンサー使って俺は始めて銃を撃てるのに、使わずにって絶対に無理だろ。

 

(狙撃での戦闘はほぼ無意味か、なら・・・)

 

俺はマークスマンライフルを収納し、打鉄のブレードを構える。

 

「行くぞ!」

 

ブースターを吹かして加速する。楯無に近づく直前に一度右に体をずらした後、急激に左へ加速してから、下からの斬撃を入れる。

 

「うんよいしょ!」

 

楯無は持っていたランスでその斬撃を受け止める。

 

「敵に補足されないように、予測不可能な起動を描く事はいい事ね、クリスちゃんの教育もしっかり受けてるじゃない」

 

つばぜり合い、ブレードとランスの間で火花が散る。

 

「ああ、そしてこの距離ならどうだ!」

 

一度距離を開け左手にサブマシンガンを展開しそのまま発砲する。

 

「む!?」

 

直撃を受ける楯無。今のはハイパーセンサーを使わずに撃ってみたサブマシンガンだ、無論、弾はバラけるがこの距離なら・・・

 

そのまま距離をとり楯無を見つめるが。そのISは無傷だった。

 

「残念だったわね、薪君。私のIS、ミステリアス・レイディはナノマシンで構成された水をベールのように纏えるの、しっかり狙ってないサブマシンガン程度の攻撃ならへっちゃらなのよ」

 

「たっく、厄介だな第三世代ってのは・・・」

 

イメージインターフェースによる、水の防御か・・・。マークスマンライフルの直撃か、ブレードによる斬撃しか俺の手持ちでは突破出来ないな。

 

そう、攻めあぐねいていると今後は楯無が水のベールを解除に水球を二つ作る。

 

「さあ、今後はこっちから行くわよ!」

 

楯無は一瞬でこちらとの間合いを詰めてくるとランスによる突出攻撃を繰り出してくる。

 

「くッ!?」

 

一撃、二撃、三撃と立て続けに撃たれるランスの突きによりこちらにダメージが入る。

 

風見野 薪 700→560

 

「ッらぁ!」

 

力任せによるブレードの横薙ぎ。しかし楯無に当たることもなく空振りに終わる。

 

攻め込まれたら確実に負ける。常に攻撃し続けるんだ俺!

 

そう思い、再び楯無に切り込みを入れていく。

 

「はぁぁぁ!」

 

「よいしょ、ほいと、やっと!」

 

だが、その全てがかわされ、いなされ、受け止められる。

 

そして終いには・・・

 

(ッ・・・霧?)

 

何時の間にか俺の周りには霧が立ち込めていた。

 

「はい!プレゼント上げる!」

 

バックステップで霧から待避する楯無。その行動に気づいた時にはもう遅く。

 

爆発

 

「がぁぁあ!?」

 

霧が突如として爆発を引き起こしたのだ、煙の中から抜け出した俺は息も絶え絶えに楯無を見据える。

 

清き熱情(アクア・パッション)って言うの。霧状に散布したこの水を、ナノマシンによる発熱で瞬時に気化させて水蒸気爆発を起こしたのよ」

 

「ハァ・・・ハァ・・・このヤロウ・・・」

 

(つまり置き爆弾かよ・・・下手に近接戦闘を挑んだら一瞬で爆死するなこれ・・・)

 

風見野 薪 560→320

 

残りシールドエネルギーはもう半分を切っている。だがいい打開策が見当たらない・・・、サブマシンガンの弾倉をリロードしてから、再び楯無に突っ込む。

 

「お!臆さずに突っ込んでくるのね!」

 

今度は右手にブレードを左手にサブマシンガンを持ち、突っ込む。

 

「水のベールを纏ったままでは霧も使えないだろ!」

 

サブマシンガンを連射しながら楯無との距離を詰める、勿論、楯無はベールを纏いサブマシンガンの銃弾を防ぐ。

 

ブレードによる上段からの振り下ろし、楯無は横へのステップでそれをよける。それを追うようにサブマシンガンでの追撃をおこなう。

 

楯無はランスをポール回しのように回しながらベールを纏っていない場所への被弾を防ぐ。

 

「うぉぉぉお!」

 

何度目かになる突撃、楯無は今度は避けずに受け止めてきた。

 

「この至近距離ならどうだ!」

 

ランスを受け止めるブレードとは反対側のサブマシンガンを楯無に押し付けて射撃を行おうとするが。

 

「甘い!」

 

楯無は肘を使って俺のサブマシンガンを持っている右手を跳ね上げ、ランスの持ち手による腹部への打撃、そしてそのままサマーソルトの蹴り上げをモロに喰らい、体勢を崩される。

 

風見野 薪 320→300

 

(ッしまった!体勢を崩されたらアレがくる!)

 

そう思った時には再び辺りが霧に覆われていた。

 

「ッく、らぁぁ!」

 

爆発

 

しかし、横方向へのバレルロールをしたことによって被弾を最小限に回避する。

 

「ッ・・・!」

 

バレルロール後の軌道が安定しない、そもそもまだ慣れていないのと急な姿勢変換をしたため俺自身バランスがとれていないのか。

 

武器を急遽収納し、回転している中、手を地面に付き、アリーナの地面を削りながら急停止する。

 

風見野 薪 300→210

 

「残りシールドエネルギーも半分以下、そろそろ諦める?」

 

「嫌な事いうぜ、そんな事言われたらますます諦められねぇだろ」

 

しかし、銃撃と近接による、攻撃も意味がなかった。こりゃ、もう手詰まりか・・・

 

次をどうするか考えていた時、視界の端から来た砂塵が目に入った。

 

(砂塵?・・・、さっき急停止した際に出来たヤツか・・・)

 

その時、俺はとある事を思いついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(流石に無理だったかしらね)

 

目の前にはもうシールドエネルギーが半分以下になっている薪君。

 

未だに諦めてない辺りは評価するけど、やっぱり一週間である程度まで戦えるようになっただけでも上出来か・・・。

 

基礎は大分覚えて来てるし、もう終わらしてあげて今後の成長に期待した方が・・・。

 

そう考えていた時、薪君が変な行動に出た。

 

「?」

 

薪は地面に手を置き回り始めたのだった。

 

「一体、何を・・・」

 

手を軸に、レッグのブースターを吹かしてベーゴマのように高速回転をしているのだ。

 

「これは、砂塵?」

 

薪が回転をした際に出る砂塵、それは徐々に巨大になっていき、薪君を覆い隠す程までに成長していく。

 

「薪君?、スモークのつもり?」

 

「まあ、そんな所だ・・・」

 

砂塵の中から薪君の声がする。どうやら、回転を止めたらしい。

 

全く、変な事を考える。

 

「薪君、目眩ましをして奇襲とか考えてるなら、それは誤算よ」

 

砂塵の中にいる薪君に向かって言う。

 

「ハイパーセンサーっていうのは元は宇宙での行動を視野に入れて開発されたの」

 

「操縦者の射撃の補助だけではなく、遥か遠方にある物体も、視界外から接近するモノも感知出来る位にね」

 

「無論、今の薪君みたいに見えない場所にいても、ある程度の場所ならすぐにわかるわ!」

 

水のベールを解除して攻撃体勢に移り、ランスを構えて薪君に突撃する。

 

「ああ、それはこっちも同じだ」

 

薪君はその場から微動だにしない。

 

「だが、俺が何をやっているかまでは解らないだろう」

 

ッ―――!

 

「アラート、まさか!?」

 

直ぐに水のベールを展開する。

 

直後、正面からの衝撃が走った。

 

「ぐッ!」

 

「くそっ!防がれたか!」

 

砂塵が晴れ、薪君が現れる。その手にはブレードやサブマシンガンではなくマークスマンライフルが構えられていた。

 

薪君は体勢を崩した私にブレードによる追撃をしてくる。

 

(あっぶな〜!、完全に不意を突かれたわ)

 

ブレードをかわしつつ、先ほどの事を考える。

 

(さっきのアラートは反応が遅かったって事は、薪君はハイパーセンサーの補助を使わずに撃ってきたって事・・・)

 

(まさか、ハイパーセンサーの感知を頼りに手動でも外さない位置まで、私を誘い込む罠だったとわね・・・薪君、このまま成長していったら・・・)

 

薪君の上段からの切り込みを受け止める。

 

(かなりの曲者になるかも・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?、今の先輩の攻撃、ダメージになってないのかよ!?」

 

「むぅ、たしかに当たったはずだが・・・」

 

アリーナ席、そこには一夏達の姿があった。

 

「今のはマークスマンライフルの適性距離ではありませんでしたわ]

 

セシリア、一夏、箒と並ぶ形で座っている。

 

「セシリア、解るのか?」

 

「ええ、マークスマンライフルと言っても構造はスナイパーライフルと余り変わりません」

 

「恐らく、あの水のベールに直撃したにもかかわらず、ダメージが入らなかったのは、弾が最大速に到達する前に着弾してしまった為ですわ」

 

「成る程・・・・箒、今の説明で解ったか?」

 

「いや、全然わからん」

 

「えっと、ですから・・・」

 

セシリアが今一度説明しようとした時、後ろから声がする。

 

「つまりは、弾の威力が十分では無い時に着弾したのよ」

 

後ろからの突然の声に一夏達は振り向く、そこにはサラ・ウェルキンとクリスティーナ・ハイマッシブの二人がいた。

 

「サラ先輩!」

 

「ごきげんよう、セシリア」

 

「うぉ!?キング・コング!?」

 

「誰がキング・コングよッ!二年のクリスティーナ・ハイマッシブよ、覚えて置きなさい!」

 

「す、すません」

 

サラがフフっと笑った後、一夏達に説明する。

 

「今の風見野さんの射撃がダメージにならなかったのは、簡単に言うと威力不足」

 

「本来、遠い場所にいる相手にダメージを与えるマークスマンライフルやスナイパーライフルは近すぎると弾の威力が乗りきらず、ああして水のベールに防がれてしまうのですわ」

 

「成る程・・・近すぎて駄目だったのか」

 

ようやく納得した一夏、そしてサラが続けて言う。

 

「ハイパーセンサーを使用して射撃すると敵にアラートで弾道予測されてしまいます」

 

「しかし、まだ風見野さんはハイパーセンサーの補助無しでは的確な射撃はまだ無理でしょう」

 

「だから、風見野さんは今の技量でも当てられる距離まで楯無さんを誘き寄せたつもりでしたが・・・」

 

そこで、サラは一度言葉を区切り、ため息をつく。

 

「はぁ、これなら、風見野さんに銃の仕組みまで教えて置くべきでしたわ」

 

後悔している、サラ。そんな彼女を見ながら、一夏は昨日の事を思い出す。

 

「へぇ、ハイパーセンサーか・・・だから、セシリアとの戦いの時もピーピーなってたのか」

 

そう呟いた一夏、しかし、サラはその言葉を聞き逃さなかった。

 

「昨日もピーピーなっていた・・・?」

 

サラは一度考えた後、セシリアに顔を向ける。

 

「セシリアまさかあなた。代表候補生ともあろう人物がまだハイパーセンサーの補助に頼っていますの?」

 

「ッい、いえ。それはですねサラ先輩、ッえっと、えっと・・・もう!一夏さん!!」

 

「えぇ!?、俺せい!?」

 

ですわよ、ですのよというお嬢様口調が飛び交う中、箒がクリスティーナに向かって言う。

 

「キンg・・・ハイマッシブ先輩、風見野先輩の逆転の見込みはありますか?」

 

それを聞いたクリスティーナは、薪の戦う姿を見てからキッパリと答えた。

 

「無理ね」

 

「そんな・・・」

 

「まず、操縦者の技量の差があるのは明白ね、次にISの性能差も離れ過ぎているわ」

 

「ISの性能差?」

 

クリスティーナの言葉を聞いて一夏も会話に参加してくる。

 

「薪君のISは第一世代型と第二世代型の混合機体、ジャンクパーツとスペアパーツの有り合わせよ」

 

「先輩、そんな機体で戦っているんですか!?」

 

「ええ、そして織斑君の白式の零落白夜ようなジョーカーカードがあるわけでもないし、逆転所か一発入れるのも難しい所ね・・・」

 

クリスティーナの言葉を聞き、今一度試合を見る一夏。

 

「薪先輩・・・」

 

その目には楯無に肉薄する薪が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

ブレードを両手で握りしめ、楯無に振りかぶる。

 

「中々しぶといわねッ、薪君!」

 

しかし、ランスで弾かれる。

 

(くそっッ!)

 

弾かれた勢いでもう一度ブレードによる攻撃を行うが楯無がランスで受け止めてから、体を上下反転させて自身の足を俺が持つブレードと腕の間に入れてきた。

 

「なッ!?」

 

「ISの戦闘は武器だけで戦うもんじゃないのよ!」

 

間に入れてきた足を折り曲げ、もう片方の足でブレードの腹を蹴る事によって、俺の手からブレードが弾かれてしまった。

 

「ブレードがッ・・・」

 

そして呆気にとられていた所を・・・

 

「しまっ!・・・」

 

(また、霧が!)

 

爆発

 

衝撃によって力が抜け、地面へと落ちてしまう。

 

風見野 薪 210→10

 

(痛ッて〜)

 

もう、体力的にも限界を迎えている体をゆっくりと起こし、楯無の方を向く。

 

「もう終わりね、次で決めるわ」

 

楯無がランスを構える。

 

確かにもうシールドエネルギーも僅かしかない。だが、俺には一つの賭けがまだ残っていた。

 

「フッ・・・」

 

「何?」

 

「いや、勝負はまだ終わっちゃいないってな」

 

再び、俺はベーゴマのように回転し砂塵を巻き起こした。

 

「呆れた・・・、私に二度も同じ事が通用すると思ってるの?」

 

「そう思うなら来いよ、楯無・・・」

 

「・・・・・・ッ!」

 

砂塵に阻まれていても解る、楯無がこちらに接近してきているのが。

 

俺はただ、その時が来るのを待つ。

 

楯無が完全に近づく、その時を。

 

「・・・ッ!」

 

ここだ―

 

「楯無、ベールを纏ったな(・・・・・・・・)

 

「!?」

 

俺はその瞬間に持っていたマークスマンライフルを楯無に投げつけ、瞬時に砂塵から抜け出した。

 

「きゃ!?」

 

砂塵から抜け出した俺は楯無を見る、そこには予想した通り、マークスマンライフルを警戒して水のベールを纏った、楯無がいた。

 

そして。

 

(ここだ!)

 

楯無と俺の間、そこには先ほど俺が落としたブレードが地面に突き刺さっていた。

 

(ッ!)

 

一瞬体を縮めて、アレを使った。

 

―瞬時加速ッ!!―

 

加速する、視界。

 

楯無との軌道上にあるブレードを手に取り、地面を抉り続けながらそのまま加速する。

 

「ッ!?」

 

楯無が気づいた時にはもう遅い、霧による爆弾も間に合わない。

 

「ッらぁ!!」

 

俺はそのままブレードで楯無を切り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「・・・置き爆弾の次は置きランスかよ・・・」

 

楯無にブレードによる切り上げを行ったが、俺の腹には代わりにランスが突き刺さっていた。

 

風見野 薪 10→0

 

「・・・・」

 

「だか、ついにやった」

 

俺の最後の攻撃、それは確かに・・・

 

「・・・学園最強に傷はつけた」

 

更識 楯無 650→640

 

刀身の先が触れただけ、たった10ちょっとのダメージ。

 

だが、確かに楯無にダメージは与えたのだ。

 

「試合に勝って、勝負に負けた・・・貴方の勝ちよ、薪君」

 

試合の終わりを告げるブザーが鳴り響く、そして徐々に観客席から拍手が聞こえ始める。

 

それを聞いた瞬間、疲れがドッと溢れ出てきた。

 

「・・・はぁ、疲れた」

 

「本当によくやったわよ、薪君。一週間でここまでやるなんてビックリよ」

 

観客席に手を振りながら答える楯無。

 

「ほら、貴方も手を振りなさいって」

 

「俺負けたんだけどな」

 

「いいから、いいから」

 

そう言って楯無は俺の手を取り、勝手に手を振らされる。

 

そうすると、一際大きい拍手がまた鳴り響く。

 

「ねっ」

 

「・・・・」

 

笑顔の楯無、全く勝手な事をしてくる。

 

どこかで先輩ー!と声が聞こえてくる。恐らく一夏だろう。

 

「はぁ・・・」

 

再びのため息、だがどこか清々しい気分でもあった。

 

俺の初陣は黒星からのスタート、だがこれから成長していけばいい。

 

今はただ、そう思い青い空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ、いい試合だったな」

 

拍手が鳴る、アリーナ席。そこで、四人の女子達が今の試合を見ていた。

 

「楯無が目を付けるのも解る、男というだけでなく、彼は多少キレ者のようだ」

 

ブロンドの髪の女子は足を組ながらそう薪を評価した。

 

「そう思わないか、舞姫?」

 

彼女の右隣にいる黒い髪の顔に傷跡がある女子が答える。

 

「あんなん、ただの素人イジメやろ。まあ、昨日の一年の試合よりかは、オモロイ物見せてもらったわ」

 

腕を組んでふんぞり返った状態で椅子に座って、アリーナの中央にいる二人を見つめる舞姫と呼ばれた女子。

 

「ふん・・・では、フォルテは?」

 

今後は左隣にいる、小柄で三つ編みを一つ垂らしてしる女子に聞く。

 

「ん〜、いいんじゃないっスかねぇ」

 

椅子に座ったまま、スマホをいじっているフォルテと呼ばれた女子。恐らく試合もほとんど見ていなかったようだった。

 

「何がいいのか全然わからんぞ、・・・よし、霞はどうだ?」

 

今度はフォルテと呼ばれた女子の隣に座っている白髪のメガネを掛けた霞という女子に聞く。

 

「・・・・」

 

「・・・霞?]

 

「え゛!?・・・あ゛・・・えっ・・・」

 

「霞はずっとあの転校生の事、目で追ってたっスよ」

 

「むぅ・・・そうなのか。して、どう思った?」

 

「えっ・・・あ・・・」

 

繋がらない会話、暫くだってから霞が口を開く。

 

「い、いいと・・・思い・・・ます・・・」

 

「うむ、そうか」

 

終了した会話。霞は少し戸惑ってから、再びアリーナ中央に目を向ける。

 

「・・・ご執心だな」

 

「んで、おまんはどう思ってるねん。ソル」

 

「ん、私か?」

 

ふと、突然言われてソルと呼ばれた女子は少し考える。

 

「まあ、まずは私も楯無と同じように彼と接触してみるさ。次のチーム戦までには彼の事を知っておきたいからね」

 

両手を口元に持っていき、添える。

 

「風見野 薪、面白い男じゃあないか・・・」

 

フフっと笑った、その顔は新しいオモチャを見たような顔だった。




うん、見ずらい。

途中の戦闘の説明する所とかめっちゃ書きづらい。

初心者感丸出しでお送りする小説ですが、頑張って技量を上げてきます!


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A・F・O

クラス代表決定戦の全試合が終了し、俺は倉庫に戻っていた。

 

薄暗い倉庫の中、パーツの残骸に腰掛け、照明に照らされたISをただジッと見つめる。

 

不恰好なその機体を先程まで自身が身に付けて、戦っていたとは・・・

 

「どうしたの、黄昏ちゃって」

 

「ん?ああ、楯無か・・・」

 

楯無が倉庫の中に入ってくる。そのままISを見ながら、俺の隣に立つ。

 

「いや、今更ながら、自分が本当にISを使えるんだと実感してな」

 

「本当に今更ね、もう一週間も使ってるじゃない」

 

「なんだかな、お前と戦ってからそう感じたんだよ」

 

自分はISを使える、ちょっと前まではそんな事考えもしなかった。ある日突然、自分は特別な人間だと言われても信じられない。だが楯無と戦って自分は本当にISに乗っているんだと信じる事が出来た。

 

「戦ってね・・・、貴方との試合が一番面白かったわよ」

 

「面白かったって・・・お前、ほとんど遊んでいただろ」

 

「まあ、そりゃ本気は出してないけど?使ってない武装もあるし」

 

「やっぱりか・・・」

 

「強者の余裕って奴よ」

 

楯無との試合、自分でもなにやってんだと言いたくなるような試合だった。今思えば、あの砂塵を使った駆け引きも、砂塵が出来上がるまで楯無は待ってくれていたのだ、楯無が瞬時加速などを使えば試合はもっと早く終わっていたはずだ。

 

「でも、薪君が瞬時加速を使って来るとは思わなかったわ」

 

「どっかのスパルタ教師の教え方が上手いもんでね」

 

一週間の間での練習量はバカにならない程だった。毎日、放課後が始まったら、アリーナの終了時間までみっちり練習させられるのだ。

 

そりゃ、嫌でも覚える。

 

そんな、俺の言葉を聞いて、楯無が笑う。

 

「じゃあ、そのどっかのスパルタ教師に感謝しないとね」

 

「ああ・・・」

 

暫くの間の沈黙。それが少し経ってから楯無が思い付いたように言う。

 

「ねぇ?・・・このISの名前はどうするの?」

 

「名前?」

 

楯無は俺の隣に腰掛けて、ISを見上げながらそう言う。

 

「だって、コイツとか、薪君のISとかじゃあ。この子も寂しいじゃない?」

 

「確かに・・・名前か・・・」

 

いきなり言われても思い付かない、そんな事全然考えていなかったのだから。

 

「色々なISのパーツを使ってるからキマイラとかコカトリスとかはどう?」

 

「なんでそんな、神話の生物名ばかり上げるんだ・・・」

 

まあ、確かに神話の生物の名前から由来を取っている武器などはあるけど・・・安直過ぎないか?

 

「ん〜・・・」

 

色々なISのパーツか・・・コイツの特徴はそこだもんな。

 

「そう言えば、色々な国のパーツ使ってるけど企業の連中に怒られないかしらねコレ」

 

「・・・え?」

 

突然、不穏な事を言う楯無。

 

「基本的にISって一つの国の企業が独自に開発していく物だから、こういうキメラ型のISって無いのよね。正直、世界初よ」

 

なん・・・だと・・・。

 

確かに、ISってそれぞれの国が独自に開発している物だ。テレビでもそんなIS見たこともない。

 

「まあ、IS学園産のISとでも謳って置けば大丈夫でしょ。国際IS委員会が何か言ってくるなら話は別だけど」

 

「・・・・」

 

先行きが不安だ・・・。

 

「で、名前、何か思い付いた?」

 

楯無はそんな俺の気持ちも露知らず、無邪気にも先程の話題を聞いてくる。

 

全く、コイツの言動といい行動といい。暫くの間は振り回され続けそうだな。

 

「そうだな、じゃあ・・・」

 

世界中のISのパーツを使っている。各国がISの技術競争をしている中、こんな機体名があってもいいだろう。

 

腰掛けていたパーツから立ち上がり、ISの正面に立つ。そして、楯無に振り向いて言う。

 

「[All・For・One(オール・フォー・ワン)]、全ては一つの為にだ。」

 

そう聞いた楯無が少し笑って言う。

 

「万人は一人の為に、じゃあなくて?」

 

「人じゃないからな」

 

「確かにね」

 

振り返り、オール・フォー・ワンを見て言う。

 

「せっかく世界各国のISのパーツを使ってるんだ、いつか世界の技術が集約されたISにしてみせる」

 

「大層な夢ね」

 

「夢はでっかい方がいいだろ?」

 

「フフ・・・応援してるわ」

 

薄暗い倉庫の中、照明に照らされたオール・フォー・ワンと名付けたその機体はなんだか、頼もしくも思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

 

「では、皆さんも知っての通り。クラス代表は霞・オウアランダーに決定です!」

 

朝のS・H・Rが始まり、王先生がクラス代表の発表をしたのだが。その結果に俺は驚愕していた。

 

「おい、学園最強さん、負けたのかよお前」

 

直ぐ様、隣の席の楯無を問い詰める。

 

すると楯無は照れたように言う。

 

「いや〜、霞ちゃん。ISの戦闘に関しては本当に強いのよね」

 

やっちまった〜、みたいな軽さで言われてもな。

 

「はッ、じゃあこれで学園最強はあの子の物か?」

 

「いえ、生徒会長の座を賭けた戦いでもなかったし。私の方がまだ物理的に強いからね」

 

つまり、ISを使わずに戦った場合は自分の方が強いと?いやだから、物理的に強さを求められる生徒会長ってどんな生徒会長だよそれ!

 

「それにね」

 

楯無が指先を教卓に向ける。そこでは王先生に連れられて、教卓まで来た、オウアランダーがいたのだが。

 

「さあ、霞ちゃん!クラス代表としてクラスの皆さんに何か一言!」

 

「王・・・先生・・・・・・」

 

「一言でいいんですよ!」

 

「え゛・・・あ゛・・・」

 

静かになる教室。

 

ああ、成る程。話すのが苦手な子なのか。確かに生徒達を引っ張る、生徒会長としては向いてないな。

 

暫く続く沈黙の後、オウアランダーが口を開く。

 

「よ、よろしくお願い・・・します・・・」

 

クラスから拍手が起こる、俺も拍手をする。

 

しかし、ああゆう、話すのが苦手な子を皆が注目する場所に立たせるのは酷じゃあないか、先生?

 

「じゃあ、次はMVPの発表です。前にも言った通り、MVPには副代表をやってもらいます。さて!今試合のMVPは〜?」

 

まあ、人と接して話すのも結局は慣れみたいな所があるからな。オウアランダーの成長の為に、先生もそうしたのか。

 

「風見野 薪君です!」

 

・・・・・・

 

え?ごめん全然聞いてなかった。

 

クラス全員がこっちを見てる。

 

「?」

 

思わず口に疑問符を出してしまった。

 

「風見野君が、今試合のMVPですよ。さあ、教卓まで来て下さい」

 

「いやいやいや、なんで!?」

 

俺がMVP!?国家代表やら候補生がひしめくパイロット科で俺がか!?初戦に敗退した俺じゃなくてもっと他にいるだろ!楯無とか!

 

「風見野君の一週間での成長ぶりや国家代表との戦いに置いての作戦などが評価されてMVPに選ばれました」

 

そう言ってタブレットを取り出してこちらに見せてくる王先生。そこには試合のデータや投票数、後俺が砂塵を巻き上げている画像などが映っていた。

 

「そんな・・・」

 

「さあ、観念して教卓に来るのです」

 

王先生の小さな手に引っ張られ教卓に連行される俺。教室の真ん前に立ちクラス全体を見渡す。あ、楯無口押さえてめっちゃ笑ってる。

 

「MVPで副代表の風見野君!何か一言!」

 

「えっと・・・」

 

「あ、二言でもいいですよ!」

 

「オウアランダーとの対応違いすぎませんか、先生!?」

 

突然そんな事言われても困る。ごめんオウアランダーさっき話すの苦手な奴とか言ったけど、誰だって唐突な事には対応出来ないわ!

 

暫く続く沈黙の後、俺が口から捻り出した言葉は・・・

 

「・・・よ、よろしく?」

 

クラスから拍手が起こる。

 

「では、以上でS・H・Rを終了します!休み時間に入って下さい!」

 

王先生が教室から出ていく。

 

「完全にスベった・・・」

 

最悪だった・・・

 

そう感じていると突然フラッシュがたかれる。

 

「はーい、新聞部でーす!期待のルーキー風見野 薪君と二年のエース霞・オウアランダーさんの取材に来ました!」

 

今度はなんなんだ突然。

 

「あ、私は二年整備士科の黛 薫子。新聞部副部長やってまーす。ああ、風見野君は朱理から色々聞いてるから、よろしくね」

 

「ああ、よろしく・・・」

 

朱理と知り合いなのかコイツ。

 

「ほぅ、朱理が言ってた通り大人びてるけど、幸薄そうな感じ・・・」

 

「初対面の人間に対して中々ないいようだな」

 

「まあいいや、写真撮らせてね!はい!、カマンベール」

 

チーズってか・・・

 

フラッシュがたかれる。そのまま俺、そしてオウアランダーの写真を何枚かとられていく。

 

「よし、最後に代表と副代表が握手してるとこ撮らせて」

 

「握手?わかった」

 

代表と副代表が握手か。まあ、そういう写真はあるよな。

 

そして、手をオウアランダーに出すのだが・・・

 

「あ゛・・・あ゛・・・」

 

手を出したり引っ込めたりするオウアランダー。

 

顔も大分赤い、照れているという訳ではないようだが・・・

 

「おい、大丈夫か?オウアランダー?」

 

「ああ゛!?・・・ッ!・・・」

 

「ちょ!?おい!?・・・」

 

そのまま、手を繋ぐこともなくオウアランダーは教室を飛び出してしまった。

 

「あちゃ〜、やっちゃたわね薪君」

 

「あ、たっちゃん!」

 

「やっほー、かっちゃん!」

 

そう言って後ろで会話する楯無と黛。お前ら知り合いだってのか。

 

「どうすりゃ良かったんだ楯無」

 

「霞ちゃん、話すの苦手だし、人見知りだし、上がり症だから、接するのが難しいのよね。私も中々会話出来た試しないし」

 

だからあんな勢いで飛び出していったのか。

 

「ふーん、霞・オウアランダーさんはそういう人なのか」

 

そう言って新聞部らしくメモを取る黛。

 

「じゃ!パイロット科も色々大変だと思うけど頑張ってね風見野君!新聞にはクラス代表にフラれた副代表って書いとくから!」

 

「おいちょっと待て!それは不味いだろ、色々!!」

 

「じゃあね〜!素敵な一時をありがとう!」

 

「おいぃぃぃぃい!!」

 

教室からすばやく去っていく黛、捕まえようとした時には既に遥か彼方に消えていた。

 

「色々大変ね薪君」

 

「本当だよ・・・」

 

楯無に慰められるが朝から食らっているこの心の傷はそう癒えるものではない。

 

「ったく、ゴシップ部め・・・」

 

「まあ、ああ言った子達が学園を盛り上げてくれてるからいいじゃない」

 

「餌になる身にもなって欲しいんだが・・・あ、そういや」

 

そう言えば、この横にいる楯無と約束をしてたのを思い出した。

 

「楯無、お前に一撃でも食らわしたらいい事してくるっての言ってたけどあれはどうなった?」

 

「ん?ああ、あれね。いいわよ、ちょっと待ってね」

 

そう言ってメモ用紙を取り出して机に向かって何かを書き出す楯無。

 

その場で作るんかい。

 

少し経ってから、楯無が振り向いてからメモを渡される。

 

「はい、どうぞ」

 

「ああ、ありがとッ・・・!?」

 

そのメモ用紙には。

 

[更識 楯無を1日中好きに

 

いやいやいや!!不味いぞこれは肩叩き券の最上位版の人の事を好きにしていいよ券じゃないか!?こんな物、男子高校生が貰ってしまった日には何をしでかすか・・・

 

そこで楯無の指が離れ、文字が見えなかった部分まで見えるようになる。

 

[更識 楯無を1日中好きに練習につれ回していい券]

 

「・・・・」

 

「嬉しいでしょ?」

 

「ウン、ソウダネ」

 

また、練習か・・・

 

「これからも頑張りましょ薪君」

 

「ああ、よろしく頼むよ。楯無」

 

少し苦笑いをした後、チケットを手に教室の窓から見える青い空を見る。

 

アリーナで見たあの空と同じだ。

 

このISによって狂わされた人生。

 

俺はどこへ行けるだろう。

 

翼はある、それをどう育てるかは俺次第か・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、織斑 一夏達(彼ら)よりちょっぴり大人の少年少女が彩る、DEEP(ディープ)なお話し。

 

 




とりあえず第一章完です。

更新速度は3日に一回位のペースですすんで行きます。



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戯れ 一章
篠ノ之 箒という少女


キャラ編

章と章の間に何個か書いていきます。基本日常物として仕上げていく予定です


早朝、まだ目覚まし時計のアラームがなる前にふと目が覚める。

 

暖かい布団から見えるのはもはや慣れ始めた景色。自分の右隣にベッドが2つあるのが見えるが、そのベッドは後輩二人が使用しているので俺は床に敷いた敷き布団で寝ているわけだ。

 

「んん・・・まだ、寝れる・・・」

 

ベッド派と敷き布団派がいるが、ベッドはマットレスを個人に合わせて調整すれば最高の寝具になるだとか、敷き布団の方が床の固さも相まって、寝相がよくなるとかないとかウンタラカンタラ。

 

そんな事が頭をよぎるが眠気が直ぐに思考を曖昧にする。

 

まあ、まだ、起きる時間ではない。この人肌で温められた、暖かい布団を感じながら、二度寝をする。

 

最高じゃあないか。

 

二度寝をした後、目覚まし時計に起こされてから、俺の朝は始まるんだ。

 

俺の朝は二度寝をした後の一杯のコー・・・

 

「ぐぼはぁ!?」

 

「あ!?す、すいません!先輩!」

 

今日の俺の朝は一発の蹴りから始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはよう太陽、今日も世界を照らしておくれ。

 

篠ノ之に踏みつけられ目が覚めてしまった俺は外に出て篠ノ之の早朝の練習を見ていた。

 

竹刀を振るう篠ノ之。朝日に照らされて弾ける汗が輝く。なんと言うか素晴らしきまでの日本人女性って感じだ。

 

「あの、先輩・・・」

 

「ぬぁ?」

 

「何ですかそのマヌケな返事は。じゃなくて、別に先輩は私の練習に付き合わなくてもいいんですよ」

 

竹刀を振るうのを止め、こちらを見てくる篠ノ之。

 

「いや、やる事もないし目が覚めちまったし、二度寝するにも気分が悪くてな」

 

「す、すいません」

 

「気にすんな、流石に三人も同じ部屋だと狭いからな」

 

「はい・・・」

 

お腹を擦りながらそう答えると篠ノ之は再び竹刀を振るい始める。

 

朝のなだらかな時間、こうしてボケッと朝日を浴びるのも悪くない。そう思っているとあるモノが目に入る。

 

「フッ!・・・」ブルン

 

「・・・・」

 

「フッ!・・・」ブルン

 

「・・・・」

 

篠ノ之・・・胸デケェな・・・

 

竹刀を振るう度に揺れる胸。スイカサイズとでも言うべきそれに目を奪われる。

 

一夏が以前、間違って掴んでしまった篠ノ之のブラジャーがあったのだがあのサイズを考えると中々の大きさだ。

 

「フッ!・・・」ブルン

 

「・・・・」

 

「フッ!・・・」ブルン

 

「・・・・」

 

これは朝からいいモノを見させてもらった。踏まれた甲斐もあったものだ。って、俺は後輩に対して何を考えているんだか。

 

己の煩悩をぬぐい去る為に太陽を見る。うぉ!眩しい、心の卑しい部分が光によって浄化されていくようだ!。

 

朝光は人にも重要なモノだ、朝にはしっかり太陽を浴びるんだぞ。体が朝って認識してくれるんだ。

 

そんな植物の如く光合成をしていると再び篠ノ之から話しかけられる。

 

「あの・・・先輩・・・」

 

「ふぁ!?ふぁい!?」

 

「何ですかそのフ抜けた返事は、じゃなくて・・・その・・・」

 

「?」

 

「先輩は・・・家族の事とか心配じゃあないんですか?」

 

「・・・・」

 

家族か・・・

 

俺の家族は今、政府の要人保護プログラムによって名前を変えてこの日本のどこかに住んでいるらしい。

 

俺自身がISを動かせる様になってしまったが為に、家族が離ればなれになってしまった。

 

だがまあ、俺の家族は、みんな臨機応変に対応出来る、マイペースな人達だ恐らく、いきなり北海道やら沖縄に飛ばされても楽しくやってるだろう。

 

「そうだな・・・まあ、案外元気でやってるんじゃないか?」

 

「当の本人は、やっぱりお気楽なんですね・・・」

 

やっべ・・・なんか地雷踏んだかも。

 

篠ノ之がしかめっ面になる。

 

そう言えば篠ノ之は・・・。篠ノ之 束という姉を持つんだっけか。

 

篠ノ之 束 世界最強の兵器 ISを作った天才。

 

一人でISの基礎理論を考案、そして実証して、今ある全てのISのコアを作った正真正銘の天才。

 

ISの産みの親と言った所か。

 

「ひょっとして、お前も政府の要人保護プログラムを?」

 

「・・・はい」

 

成る程・・・恐らく。家族をバラバラにした原因を作った、姉である篠ノ之博士と、ISに乗れてしまった事で家族と離れにした俺を重ねてる訳か・・・

 

「あ、でも。姉がISなんかを作らなければ先輩も家族と離ればなれにならずにすんだんですよね・・・」

 

怒った顔をしたり申し訳ないなさそうな顔をしたり・・・コロコロ表情が変わる奴だ。

 

「まあ、ISが無かったら今頃日本は。ミサイルの雨で木っ端微塵だろうよ」

 

「あっ・・・」

 

「だろう?」

 

「・・・・」

 

「お前の姉は確かに、日本を救ったんだ。そんな姉を誇らしく思わないか?」

 

白騎士事件

 

今から10年前に起こった大事件だ。

 

日本を射程距離内とするミサイルの配備されたすべての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本へ向けて発射されるも、その約半数を搭乗者不明のIS「白騎士」が迎撃した上、それを見て「白騎士」を捕獲もしくは撃破しようと各国が送り込んだ大量の戦闘機や戦闘艦などの軍事兵器の大半を無力化した事件。この事件での死者は皆無だった。

 

by ウィキペディア

 

そんな事件で活躍したISを作ったのは篠ノ之の姉である篠ノ之博士だ。

 

そう言った偉業を為し遂げた姉に親しみが持てないのは、他にも事情があるようだが・・・

 

「・・・・」

 

まだ、思い詰めているようだ。

 

なら、もう一押し。

 

「俺達はISによって人生を狂わされたが、ISがなければここには居なかっただろう」

 

「・・・ISがあったからですか?」

 

「ああ、ISがあったから俺達は出逢う事が出来たし。お前も好きな人とまた出逢う事が出来ただろう?」

 

篠ノ之の顔の上に?マークが浮かび上がるが一瞬にして顔が真っ赤になる。

 

「ち、違います!一夏の事なんて好きじゃありません!!」

 

「あれぇ?毎日見てたけど好意を抱いているようにしか俺には見えなかったが・・・」

 

「違いますよ!!あんな貧弱!」

 

竹刀をブンブン振り回しながらおもいっきり否定してくる。まあ、本人が目の前にいないから好きじゃないとか大声で言えるんだろうな。逆に本人がいたら好きとも言えないんだろうけど。

 

「一夏。ちょっと会わないうちにあんなに弱くなって!昔は私以上に強かったのに!」

 

「確かクラス代表決定戦の時もお前が指導してたんだろ、やっぱり気にしてんじゃん」

 

「アイツが弱いからです!」

 

「ああ、自分が好きな相手にはやっぱり強くあって欲しいからな」

 

「だから!違います!好きじゃないです!」

 

「ええぇ?本当に?じゃあ、好きか嫌いかで考えたら?」

 

「っえ?あ、・・・えっと・・・ッがぁぁぁぁぁぁ!!」

 

顔を真っ赤にしながら竹刀をビシビシとこちらに叩いてくる篠ノ之、心なしかその攻撃は余り痛くない。

 

というか話しの本題がずれてしまったのだが・・・ま、いいか。本人が思い詰めるような顔はもうしてないし。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「リラックスできたか?」

 

「どこがですか!!」

 

おお、吠える吠える。やっぱり後輩弄りは楽しいな。

 

篠ノ之の呼吸が落ち着くのを待ってからそばにあった水の入ったペットボトルを渡す。

 

「・・・先輩は意地悪です」

 

「意地悪のしがいがあったからな」

 

「むぅ・・・」

 

再びしかめっ面になった篠ノ之だったが顔を振るい、水を飲み始める。

 

「まあ、でも。昔に離ればなれになった人間にもう一度会えるってのは嬉しい事だろ」

 

外から見える自分の部屋を見て言う。恐らくまだ一夏は寝てるんだろうけど。

 

篠ノ之は飲んでいたペットボトルから口を話し少し考えてからゆっくりと言った。

 

「・・・・はい」

 

その返事は確かに真っ直ぐで彼女の心の声だった。そんな気がする。

 

「よし、そいつは良かった。じゃあそろそろ食堂が開くだろうし、俺は戻るぞ篠ノ之」

 

そう言って、その場から立ち去ろうとした時、後ろから話しかけられる。

 

「あの、先輩・・・」

 

「ん、今度はなんだ?」

 

「あの・・・その・・・」

 

後ろを振り返ると篠ノ之がなんだかモジモジしている。

 

「篠ノ之とは言われたくないので、箒と呼んで下さい・・・」

 

名字・・・まだ、姉へのコンプレックスがあるからそう呼ばれたくないのか、それとも親しみを持ってなのか・・・

 

わからないな、だが。心の距離は縮まったらしい。

 

「わかった箒。俺も薪でいい」

 

「はい、薪先輩」

 

朝から見た彼女の笑顔はとびきり素敵な笑顔だった。



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セシリア・オルコットとサラ・ウェルキンという少女

昼休み

 

「腹へった・・・」

 

午前中の授業も終わり、午後からはISを使った実習をやる。

 

いかんせん、この実習が非常に辛い。なぜなら、まだ、ISに対しても馴れていない状況で一年生の基礎訓練をすっ飛ばし、いきなり二年生の応用、実戦訓練をやらされるのだから。

 

専用機持ちである俺は、専用機を持ってない一般の生徒などを相手にするのだが。

 

「ぐべぁ!」

 

「風見野君が地面に上半身突っ込んでる!?大丈夫!?」

 

「すまん、助かる」

 

とか。

 

「ぶべぁ!」

 

「薪さんがヘッドスピンかましながら壁に大の字になって埋まっているわ!?大丈夫!?」

 

「大丈夫ではない」

 

とか。

 

「あ」

 

「キャー、薪君が放った流れ弾が機材に当たって爆発したわ!」

 

「おい待て楯無!!今のはお前のランスに内臓してある四連装ガトリングの流れ弾だろうが!!」

 

など。

 

クラスメイトには迷惑をかけてばかりなのである。

 

流石、パイロット科だけあって俺より上手い奴しかいない。だが彼女達は例え俺が初心者でもちゃんと最後まで付き合ってくれる。いや本当、いい子達ばかりだよ。

 

そんなクラスメイトの為にしっかりと期待に答えなければ!よし、まずは腹ごしらえから。腹が減っては戦はできんと言うしな。

 

そう言って、意気揚々と食堂へと向かって行く最中に見慣れた二人が見える。

 

一年生のオルコットとクラスメイトのウェルキンだ。

 

「サラ先輩・・・私どうしたら・・・」

 

「大丈夫ですわよ、セシリア。私にいい考えがありますわ」

 

二人は同じくしてイギリスの代表候補生だ。代表候補生と言っても国の名を背負っているもの同士、何か不安や疑問、もしくはISの戦闘方法などの相談をしているのだろう。

 

「男性の心を掴むのはやはり料理。料理を作って織斑さんにめしあがっていただいては?」

 

「料理・・・どんな料理がいいでしょうか」

 

「織斑さんは日本男子、ここは日本料理にしましょう」

 

「ですが、日本料理なんて私には・・・」

 

「簡単です、日本料理の決め手はやはり出汁。出汁させえなんとかなれば問題ありません」

 

「出汁・・・魚や昆布、色々ありますが・・・」

 

「ふふ、しかしただの出汁ではインパクトがありません」

 

「?」

 

「ここは、我が祖国イギリスの魚料理。フィッシュ&チップスから出汁を取りましょう!」

 

「魚!!、フィッシュ&チップスなら私でも出汁が取れそうですわ!」

 

違ったただのテロリストの密会だった。

 

というかフィッシュ&チップスって揚げ物だよな、なんで既に揚がってる料理から出汁を取ろうとするんだこの子達。

 

こんな密会は見なかった事にして早く昼食を取りに・・・

 

「あら、風見野さん・・・!せっかくですし風見野さんから意見を聞きましょう!」

 

見つかった・・・

 

ウェルキンに腕を掴まれオルコットの前まで連れていかれる。

 

「風見野さん。日本男子である貴方に聞きたい事が・・・」

 

「知ってる聞いてた」

 

というよりかは聞いてしまったと言った方がいいか・・・

 

目の前には早く助言が欲しいと言わんばかりに目を輝かせているオルコットがいる。

これは、言うしかないのか、日本人として正しい事を。

 

「あー、オルコット。とりあえずフィッシュ&チップスからは出汁はとるな」

 

「え、それはどうしてですか?」

 

「え、じゃなくて・・・出汁ってのは出来上がった料理からではなく、食材そのものから取るんだ」

 

「「まあ!そうなのですか!」」

 

なぜ、二人して驚く・・・

 

「はぁ、とりあえず馴れない料理にはいきなり手を出すな、まずは出来る事から。そうだな・・・家庭科の教科書あったろ、まずはその辺りから練習してみろ」

 

「はい!ありがとうございますわ、薪先輩!」

 

「ああ」

 

ってあれ?、オルコットの俺の呼び方が名前に変わっている?

 

「早速夜に練習してみますわ、では一夏さんと昼食の約束をしていたので、失礼させていただきます」

 

「ええ、セシリア、頑張ってね」

 

「はい!頑張ります!」

 

鼻歌混じりに去っていくオルコット、その背中を見ながらウェルキンが一言漏らす。

 

「セシリア・・・遂に恋まで覚えて・・・先輩として嬉しい限りですわ」

 

「ずいぶん、後輩を溺愛してるなウェルキン」

 

「ええ、私よりISに対しては才能がありますし・・・あの子の家系は色々複雑な所があって」

 

「家系?」

 

「家系というより・・・あの子、実は独り身なんです・・・」

 

「・・・そうなのか」

 

「まだ、あのような年齢で家督を継ぎ、両親の残した財産を守る為にあの子は一人奮闘してましたわ」

 

「・・・・」

 

案外、高飛車お嬢様かと思いきや結構根がしっかりしてた子なのか・・・

 

「先ほど、風見野さんを名前で呼んだのは彼女なりの親しみだと思います」

 

「親しみ?」

 

「あの子、元々父親と少し仲が悪くて、男性そのものに対して余りいいイメージを描いていなかったんです。なので度々研究所でも男性研究者とのトラブルがあったり・・・」

 

「・・・察するとその問題は一夏が解決したようだな」

 

「はい。織斑さんとの決闘で何か感じる事があったのかも知れません。勿論、風見野さんと楯無さんとの決闘を見て学ぶ事も多くあったようですけど・・・」

 

「・・・そうか」

 

もう見えなくなったオルコットの背中を見終えて、ウェルキンがこちらを見てくる。

 

「話しが戻りますが。私があの子を溺愛してるのは、そんなあの子を守ってあげたいのと、単純に妹の様に思っているからですわ」

 

「いい先輩だな」

 

「例えあの子が、専用機持ちでもまだ私よりかはまだまだ未熟、これからも操縦技術の指導を続けていくつもりです」

 

ウェルキンのその顔は優しい顔をした本当の姉の様にも見えた。

 

「よし、ウェルキンとりあえず俺達もごはん食べに行こうぜ。午後からはまた実習だし」

 

「はい、ご一緒させていただきます」

 

二人して食堂に入っていく。

 

クラスメイトは優しい奴らばかりだが、まだまだ知らない事だらけだ、こうして自分からスキンシップを取るのも悪くは無いかも知れないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むぅ・・・未だにこのヌルヌルした芋はつまみづらいですわ」

 

「里芋は箸じゃ難しいか、フォーク持ってくるか?」

 

「いえ、ウェルキン家の名に懸けて必ずしやこの里芋とやらを掴んで見せます」

 

「芋を取るために家の名を懸けるな・・・」

 

早速、食堂にてウェルキンと昼食を取っていたのだが、一年間日本で過ごしていても馴れない物は馴れないか。

 

今日の昼食で互いに食べているのは、日本定食。

 

白ご飯、鮭、味噌汁、キュウリの漬物。そして里芋が入っている筑前煮だ。よくありそうな日本定食だな。

 

「あっ・・・」

 

ウェルキンが持ち上げかかっていた里芋がスルリと落ち、コロコロとトレーの上を転がっていく。

 

「・・・こうやって、挟むんだよ」

 

その里芋を箸でつまみ。そのまま自分の口の中に入れ、食べる。

 

「あっ・・・ちょ、風見野さん・・・」

 

「ん?トレーの上だから汚くは・・・」

 

ウェルキンの顔がちょっと赤い。

 

あ、やばいな。ウェルキンが箸をつけた物だったから失礼だったか。

 

「い、いえ・・・なんでもありませんわ・・・」

 

「あ〜・・・いや、すまんな」

 

ちょっとデリカシーが無かったか。

 

お互いの間に流れる沈黙。

 

どうしよう、かなり気まずい・・・

 

何かないかと、白いご飯を口にしながら考えていると、そもそも目の前に話題があるのに気づく。

 

「そいや、オルコットに料理について教えていたが、ウェルキン自身は出来るのか?料理?」

 

「はい、淑女の嗜みですからね」

 

「ほぅ・・・」

 

フィッシュ&チップスで出汁を取るとか言ってた時は料理経験が一切無いもんだと思っていたが、出来るのか料理。単純に日本食に対して知識が無いだけか。

 

そんな単純な発想をしながら、筑前煮の中の里芋を取る。

 

しかし、次のウェルキンの発言に俺は驚愕する。

 

「実はクラスの皆さんに食べて頂いた時、皆さん、涙を流しながら食べていたんですの!」

 

「・・・・」

 

箸でつまんでいた里芋が机の上に落ち、コロコロと床に転がっていく。

 

「あら、風見野さん落ちましたわよ、里芋」

 

「あ、ああ・・・」

 

え?涙流すレベルの料理なの?

 

床に落ちた里芋を取り、トレーの端に置いておく。

 

「きっと、美味しくて堪らなくって涙を流したし違いありませんわ!だから私、料理には自信がありますの!」

 

「そ、そうなのか・・・」

 

「はい!」

 

満面の笑みで答えるウェルキン。

 

「そうですわ!、いつか風見野さんに私の料理を振る舞わせていただきませ!」

 

「お、おう。期待しておく」

 

涙を流すレベルのウェルキンの料理。

 

この時の約束を俺は後々、何回も後悔する羽目になる。




サラ・ウェルキンってどういうキャラにしてったらいいんだろう?

そう思ってとりあえず、セシリア2号にしていく予定。

セシリアが料理下手なのは実はサラが教えて為とかどうでしょう


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リーグ・マッチ編
チームメンバー


第2章、原作でいうと鈴が転校してくる時の話しですね。

とは言ってもこの章では薪自身が大変な目に会うため鈴とは接触しません。ごめんね鈴ちゃん好きなみなさん。


朝の教室、自分の机に座りながら、左手首に付いている物をまじまじと見る。

 

グレーをメインに様々な色の糸が編み込まれたミサンガ、両端の部分は結ばれていて、その部分にビーズのような小さい珠がついている。

 

一見ただのミサンガだが、驚く事なかれ。なんと、これ、俺のIS、オール・フォー・ワンの待機状態なのだ。

 

ISは専用機持ちの操縦者が持ち運びしやすいように、待機状態という姿に変えて操縦者の体にアクセサリーとして装備される。

 

ブレスレットやブローチ、ロケットやメガネなどISは様々な物に姿を変える。まあ、操縦者はその形を決める事は出来ないので完全にIS任せになるが・・・。

 

猫耳とかになったらどうすんだろ。

 

そんな事を考えながら、今度はミサンガを引っ張ってみる。

 

ん〜、まんま、ミサンガだ。耐久性に不安しか残らないな。

 

「おはよー、風見野君」

 

「おはよう、工藤」

 

「おはよう、風見野」

 

「ああ、おはよう、佐渡さん」

 

もうそろそろ朝のS・H・Rだ。

 

転校して来てからしばらくたった。IS学園にもそろそろ慣れ始め、女子生徒だらけの環境にも大分耐性がついてきた。

 

クラスのメンツにも話しかけられる様になってきたし、クラスの副代表として行事の進行などもなるようになり、コミュニケーションを取る頻度も上がった。

 

まあ、本来リーダーシップを取るべき、オウアランダーの性格がコミ障の極みともいえるモノなので、俺が変わってやってる訳だが・・・

 

人間慣れだな。

 

「マッキーおはよう!」

 

「おはよう楯無。ってその油性ペンみたいな呼び方止めろ」

 

「あら、不採用?」

 

楯無が俺の隣の席に座ると同時に王先生が教室に入ってくる。

 

「さあ、みなさん。S・H・Rを始めますよ!」

 

いつものように始まる朝のこの時間。だか決まっていつも隣から声が聞こえてくる。

 

「ねぇ、薪君。聞いた?一年生に新しい代表候補生が入ってくるって」

 

「いや、知らん」

 

楯無は毎日朝、S・H・Rの最中に小声で話しかけてくる。

 

こいつは本当に生徒達が模範とすべき生徒会長なのだろうか。まあ、俺も小声で返すんだが。

 

「もう、薪君は噂に疎いんだから。なんでも中国から来た子らしいわ」

 

「中国か・・・王先生の後輩にあたるわけだが、まだ、4月後半だろ?こんな時期に珍しいな」

 

「でしょ、なんでも織斑君目当てにやっぱりきた子らしいわ」

 

「・・・アイツも大変だな」

 

今日の話題は一年生の転校生の話題らしい。

 

「つっといても、一年の転校生なんて俺達には関係ないだろ」

 

「あら?同じ転校生として興味はないの?」

 

「あんまり・・・」

 

実は転校生なんかより今は別の事に集中しなければならない事が俺にはあるのだ。

 

「楯無、次の行事のリーグ・マッチなんだが」

 

「貴方のチームについて?」

 

「ああ」

 

リーグ・マッチ。

 

一年生達はクラス代表戦としてクラス間で戦う事になっているが二年生からは各学科の生徒達がチームを組んで戦うトーナメント形式の行事だ。

 

チームは基本的に一つのISに2~3人のパイロットがついてそれを整備士科の生徒とシステムエンジニア科の生徒が気に入ったチームに入っていく訳だが。

 

「俺、整備士科とシステムエンジニア科に知り合い全然いないんだが」

 

「流石にこれは転校生である薪君には不便よね」

 

そう、いないのだ他クラスで知ってる人間が。

 

いや、いない事はない。最初にオール・フォー・ワンの基礎を組み上げてくれた整備士科の色彩 朱理、そしてシステムエンジニア科色彩 藍理の双子姉妹。後はちょっと前にあった黛 薫子くらいか。

 

なら、すぐに話しかけてチームに誘えばいいじゃん・・・とは、上手くいかないのが現実である。

 

「俺をどんな人間か知らないって事はそもそも信用も0からスタートか」

 

「そうねぇ、信用や信頼は大事よ。特に自分達の成績がかかってるからね」

 

成績。

 

IS学園は学校である。

 

無論、ISに対しての行事には評価がつけられてしまうのだ。トーナメントで優勝したチームの評価は高いし逆に負け続けるチームは評価が低い。

 

それを考えてみろ、どこの馬の骨とも知れない人間に自分の今後の人生を預けるなんて普通は無理だ。友達だったり、知り合いだったり、ある程度仲が良ければ信頼関係が生まれる。慰めあったり、励ましあったりそんな素敵な青春みたいな事が出来るんだ。

 

だが俺は転校生だ。本来一年生の間で築き上げるべきモノが俺にはない。

 

あるのは男性操縦者って事の知名度位だ。

 

どうすりゃいいんだ・・・

 

そんな、頭を抱えている俺に楯無が励ましてくれる。

 

「まあ、とりあえず人がいない事にはチームは組めないわ。まずは、当たって砕けなさい」

 

「・・・だな、結局はそれか」

 

信頼、信用は道端に落ちてなどいない。無い物ねだりなどせず、今あるものでなんとかしなければならないのだ。

 

「よし、まずは黛 薫子だな。アイツ新聞部だろ、男性操縦者って事で興味を・・・」

 

「あ、かっちゃんは私のチームの整備士リーダーだから無理よ」

 

えぇぇぇぇ!?

 

いきなり候補が一人消えた!

 

「じゃあ、色彩姉妹に当たるか・・・」

 

「頑張ってね、確か今あの二人フリーなはずだから」

 

 

まさかのフリー!

 

これは、チャンスがあるぞ俺!

 

「ただ、あの二人。腕は確かだけど癖が強いって聞くから気をつけてね」

 

「・・・・」

 

そっち系の問題抱えてるのかよあの二人。

 

朝の教室、途中から躊躇なく話す俺と楯無を物凄い剣幕で見る。王先生の顔をクラスの皆は見ていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み

 

早速、多くの女子生徒達が賑わう食堂で赤い頭と青い頭を探す。

 

手に持つトレーにはミートスパゲッティが乗った皿が一つ、チームに誘う事が出来たら一緒に昼食でもと思っていたのだが、誘う事が出来なかったら・・・一人寂しく食べるか・・・

 

食堂を見渡して二人を探すが、海外から来た子もいるので金髪、銀髪、緑、黄、紫。特徴的な髪の色をしている人は沢山いる。

 

「流石に人が多いと中々見つからな・・・」

 

目がチカチカしてきた、そう思った時、四人席に座っている赤色と青色を見つけた。

 

「いた」

 

赤と青のセットならあの二人だろうと近づいていく。

 

「でさぁ、その授業中に先生がさぁ」

 

「はい、姉さん」

 

思った通り、赤色と青色の双子。朱理と藍理だった。二人は丁度食べ始めたばかりのようだ。

 

よし、上手く、誘うぞ俺。

 

少し緊張している自分に言い聞かせ意を決する。

 

って、デートに誘う訳でもあるまいし!普通にチーム組みませんか?でいいじゃん!

 

自分の心の中にツッコミを入れつつ、二人の座る席に到達する

 

「隣いいか?」

 

「お、薪!おひさ〜」

 

「お久しぶりです、薪さん」

 

藍理が横にずれて、席を空けてくれる。

 

とりあえず座り、トレーを置く。

 

さて、少し食ってから本題に・・・

 

「そいや、薪。次の調整いつやんだ?」

 

「え?」

 

「だから、調整だよ、調整。あれから全然手つけてないだろ?」

 

「そうですね、そろそろ薪さん自身のデータが取れてきた頃ですしブースターのエネルギー効率にも変化を入れた方がいい頃合いですし」

 

「え?え?」

 

突然の事過ぎて会話が追い付かない。調整?エネルギー効率?やってくれるの?

 

「ま、まて。まだ俺らチーム組んでないし二人にそんな事してもらう訳には・・・」

 

カラン、と音を立てて朱理が持っていたフォークが落ちる。ちなみに朱理が今日食べているのはラザニア、藍理は蕎麦だ。

 

俺の言葉を聞いた朱理は手をワナワナさせながら答える。

 

「わ、私達・・・チーム組んで無かったのか?」

 

朱理は席から立ち上がるとツカツカとこちらに歩いてきて俺の胸ぐらを掴む。

 

「薪!私と硬い握手をした時、その時が私達のチーム結成の瞬間だったんじゃないのか!?」

 

「ええぇぇぇぇぇ!?」

 

まさかの予想外の方向だった。

 

「あれは嘘だったのか!薪!」

 

「ちょ!ちょっと・・・まっ!」

 

ガクガクと俺の首を揺さぶり抗議してくる朱理。

 

うぉ!?力強い!?

 

中々、朱理の拘束から逃れられないでいると俺の隣にいた藍理が助け船を出してくれた。

 

「あの、姉さん。私達なにか勘違いをしているようなので、とりあえず席に座ってから話し合いましょう」

 

「・・・・っむ。わ、わかった」

 

渋々と元の席に戻る朱理。うぇ、まだなにも食べてなくて良かった。

 

少し落ち着いてから、再び話し始めようそう思った時、朱理がいきなり机に突っ伏した状態になる。

 

「はぁ〜あ、ようやくチーム組めたと思ったのに・・・」

 

ゲンナリした顔で喋り始める朱理。

 

「前いたチームにも追い出されちゃったし、頼みの綱の薪にも断られちゃったからもう私達どうすればいいんだよ〜」

 

「もう、素直になにもせずにチーム内にいれば良かったんですよ姉さん」

 

「でもよ〜」

 

あれ?コイツら天性の朱藍コンビとかって言われてるんじゃなかったけ?もっと人気があるもんだと思ってたが。

 

落ち込んでる二人をそのままにする事は出来ず、とりあえず本題に入る。

 

「待てお前ら、まだ断ったわけじゃない」

 

「え?」

 

朱理が顔を上げる。

 

「単純にチームに勧誘しにきたんだよ俺は、まさかもうチームとして成り立っていたとは思わなかったがな」

 

「・・・・!」

 

その言葉を聞いて朱理の顔が明るくなる。

 

「本当か薪!」

 

「ああ」

 

「やったぁぁぁ!」

 

周りがこっちを向くくらい大きな声で喜ぶ朱理。

 

「よし!薪今日からチームとして頑張ってこうぜ!」

 

「ああ、よろしく。藍理もそれでいいか?」

 

「はい、よろしくお願いします薪さん」

 

かくして俺のチームは朱理、藍理を正式に迎え入れる事で決まった。

 

まだ、チームメンバーとしては少ないがそれはこれからの頑張り次第だろう。

 

・・・・

 

「・・・そういえば、なんで前のチームを追い出されたんだ?」

 

「え゛?」

 

疑問に思っていた事を口にしてみる、天性とまで言われているこの二人だ、腕は確かなはずだが・・・

 

「えぇぇと、それはその・・・」

 

両手の人差し指をくっ付けて何か言いづらそうにしている朱理。それを見かねて藍理が口をだす。

 

「姉さんがISを改造しまくるのが問題なんです」

 

「改造?」

 

「あ、藍理、言わないでって・・・」

 

「この前のチームにいた時は、打鉄の椀部にロケットくっ付けて射出出来るようにしてしまいましたし、その前の前は専用機にオーバースペック武装を取り付けて自壊させてしまって企業に怒られたではないですか」

 

「むぅ・・・」

 

朱理の頬が膨れる。

 

「だったら藍理だって訓練プログラム弄ってパイロットに嫌がられてるじゃん」

 

「あ・・・姉さんそれは」

 

「軌道訓練コースなんて、物理法則を無視したようなコースにしてさ、あんなん只のジェットコースターだよ!」

 

「あ、あれは!ISでしたら確実に動けるように調整されたコースだったんです!」

 

「あくまでISを使うのは人なんだから、机上の空論だよ。なんなコース出来る人間この世にいたらバケモンだよ!」

 

「むぅ・・・」

 

今後は藍理の頬が膨れる。

 

「机上の空論というのでありましたら!この前姉さんが設計してた武装も無茶苦茶な物でしょう!」

 

「あれは絶対成功する武装だって!確率は・・・」

 

俺を置いていい合いを始めてしまった二人、話しを聞く限り、腕は確かだが問題はあるようだ。

 

果たしてこんなチームで俺はリーグ・マッチを戦っていけるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!始めるぞ薪!」

 

「ああ、頼むぞ二人とも」

 

「はい、ではこれより飛行訓練を開始します」

 

放課後。俺達は早速リーグ・マッチに向けての調整の為第3アリーナを飛んでいた。

 

飛行訓練なら本来は第6アリーナを使うべきなのだがあいにく、3年生が大人数で使用してた為、クラス代表決定戦でも使ったアリーナを飛んでいる。

 

「・・・・」

 

この飛んでいる感じは好きだ、ヘリや飛行機とも違い、体に風が当たる感触。そして操縦捍なんて握らずとも自分の意のままに動ける。

 

ISに乗れて良かった。そう思える事の一つだ。こんな体験を男性で感じられるのが世界に二人しか居ないなんてもったいないものだ。

 

アリーナの上空を旋回しながらそう考えていると再び藍理から通信が入る。

 

[薪さん、カスタム・ウイングとブースターのエネルギー効率の調整をしました、これで、0,15%のエネルギー削減になります]

 

「0,15%って微量過ぎないか?」

 

[藍理の調整に文句言うんじゃねぇ、なんなら何も弄らず0%の方がいいか?]

 

「・・・すまん、藍理」

 

[いいえ、まだ薪さんのデータが沢山取れているわけではないので、まだこんなものです。薪さんの戦い方や移動する際の癖などがわかってきたらよりよい調整が可能となります]

 

「わかった」

 

まだ、俺もISを動かしてから1ヶ月もたってない、そりゃデータもすくないか。

 

これから成長していけばいい。

 

そう思い、飛行を続ける。

 

時折、飛んでくる藍理の指示や朱理の冷やかしなどを受けつつ、訓練は進んで行った。時間が過ぎて行きそろそろ終わろうかという所で異変が起きた。

 

「ん?」

 

警告音、目の前のモニターに機体に異変がある事を知らせるアラートが鳴り始めた。

 

[薪さん、左部のカスタム・ウイングに異常が出ています。目視して確認して見て下さい]

 

「ああ」

 

確か左側のカスタム・ウイングは朱理がジャンクパークのみで組み上げた、ロケットエンジンのような物だったはずだ。楯無との戦いの時にも異常なんてでなかったはずだがいきなりどうし・・・

 

「・・・・」

 

そんな朱理お手製のパーツから火花が沢山飛び散っていた。

 

「えぇぇぇぇぇ!?ひ、火花が出てるんですけどぉぉぉぉ!?」

 

バチバチと火花をチラシながらガクブルと震えるカスタム・ウイングを見ながら俺は絶叫した。

 

[っ!?薪さん急いで地面に着地してください!!]

 

「わ、わかった!」

 

藍理に言われた通り急いで地面に急降下する。

 

何だっていきなり!?そんな事を思っていると朱理が通信に入ってくる。

 

[えぇ?火花が出てる?さっき点検した時に異常は・・・なんだこのネジ?・・・・あ、わり、薪!ネジ一本閉め忘れたわ!]

 

「ふざけんじゃねぇ!朱理ぃぃ!」

 

まさかの整備ミス。

 

「ネジ一本閉め忘れただけでこんなにもポンコツになるとかドラえもッぶぁ!?」

 

急降下していた際に火花を散らしていた左のカスタム・ウイングが爆発した。

 

「うぉぉぉぉ!?」

 

急な爆発によって制御が効かず、きりもみしながらくるくると地面に落ちていく。

 

そして地面には。

 

「あわわわわわ!?」

 

よりにもよってISを纏っている子が一人いた。一年生なのか咄嗟の出来事に動けないでいるようだ。

 

「ど、どいてくれぇ!?」

 

これはぶつかる!!

 

そう、思った時。

 

 

 

黒い影が俺の前に現れた。

 

 

 

「うぉ!?」

 

何もしていなのに一瞬だけ、ガクンと俺の体は空中に止まる。

 

そしてその黒い影は俺の事を抱き抱えて地面にフワリと着地した。

 

「まったく、飛行訓練は第6アリーナでやるべきではないか、薪?」

 

「ああ、すまん助かった・・・って、え?」

 

助けてくれたそいつは俺の事をゆっくりと地面におろして腰に手を当てて言った。

 

「え?ではない、クラスメイト位わかるだろう」

 

「えっと、お前は・・・」

 

その子はセミロングのブロンドの髪をしていて前髪の一部を片方だけ三つ編みにして後ろにまわしている。

 

「クラスメイトの名前くらい覚えたまえ、私の名前はソル・エンゲルベルト。ソルで構わないよ、薪・・・」

 

黒いISを身に纏いソルと名乗った少女はニッコリと笑った

 







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黒の貴公子

オリキャラの説明回のようなもの。




「へぇ〜、そんな事があったんだ」

 

次の日の放課後、楯無に昨日あった出来事を話した。

 

「ああ、本当、ソルには助けてられたよ」

 

昨日に引き続き第三アリーナにて訓練をしている。

 

昨日、爆発したオール・フォー・ワンの左カスタム・ウイングは昨日、今日で朱理が直した。

 

アイツ本当に腕はいいんだが、どこか抜けてるんだよな。

 

「その後は?」

 

「俺の無事と一年生の無事を確認した後、颯爽と背を向けてどっか行っちまったよ」

 

「ふぅ〜ん」

 

「いや〜、ソル、カッコいいね。女子だけど俺が男だったら惚れてるね」

 

「薪君は男でしょ」

 

ISの訓練をしながらの雑談、今やっている訓練はISの基本中の基本とも言える武器の呼び出しだ。

 

ISの武器は名前を呼べば 拡張領域(バススロット)から手元に出す事が出来るが、戦闘中にそんな悠長な事はやってられない。

 

そのため、武器の形状を頭に覚えさせ、念じる事で手元に武器を出現させる訓練をしているとでも言えばいいか。

 

こちらの方が武器の名前を呼ぶよりも早く武器を構える事が出来るらしい。

 

「むぅ、ソル、ソルって・・・、サラもそうだけど薪君直ぐに女の子と仲良くなっちゃうんだから」

 

「女子しか居ないんだから、仲良くなるのは当たり前だろ」

 

「そうだけど・・・まあ、いいわ。とりあえず武器を出してみて」

 

「あいよ」

 

早速、右手にサブマシンガンを出現させる。

 

「今のは1,5秒・・・1秒台は切りたいわね」

 

「これ以上に早くできんのかよ」

 

「戦闘中の1秒の隙は死を招くわよ、薪君」

 

流石、蹴りを一瞬で三発入れ込む人間の言う事は重みがあるな・・・

 

「私やソルみたいな国家代表クラスの戦いになると、そんな僅かな隙をついて勝負が決まるんだから、隙なんて少ない方がいいわ」

 

「え、ソルって国家代表なの?」

 

知らなかった、というかまだ自分の周りの席の子くらいしか名前覚えてないな俺・・・

 

「そうよ、ソル・エンゲルベルト、ドイツ国家代表、私と同じく17歳にして国家代表になったのはあの子ぐらいかしら」

 

ドイツ人か・・・

 

いつもクラスで見るソルは女子生徒に囲まれていてその風貌すら見る事すら叶わなかったが、確かにISの授業の時や昨日みた感じでは確かにドイツ人だ・・・いや、一目見て何人なんてわからないけど。

 

「使用している専用機はドイツ第三世代機体、最近の試作品、シュヴァルツェア・シュトゥルム。シュヴァルツェアシリーズは最近ロールアウトした物だけど、それの雛型ね」

 

「ああ、あの黒い機体か」

 

俺のISを受け止めたソルの機体。機体自体はほっそりとしたフォルムで右肩と左肩にレールガンを搭載していた、両手の手首にはプラズマ手刀を、腰とリア・アーマーにはワイヤーブレイドをそれぞれ付けていた。

 

いや〜、見るからに面倒な機体だな、相手したくない。というか国家代表とは相手をしたくないっていうのは楯無で十分にわかった。

 

「後、第三世代特有のイメージインターフェースは初期型のAIC(慣性停止結界)完成型は敵の動きや武器を止める事が出来るけど、ソルの機体は一瞬しか止めれないわ」

 

「だが、国家代表なんだろう?」

 

「ええ、一秒もあれば薪君なんかは瞬殺ね」

 

まったく、本当に恐ろしい奴しかいないなウチのクラスメイトは。

 

「それなんかより、ソルの本当に恐ろしい所は・・・あら、噂をすればなんとやらね」

 

「ん?」

 

楯無が言葉を止めた時後ろから黄色い悲鳴が上がる。

 

「キャー!ソル様ー!」

 

「訓練頑張って下さーい!」

 

「今、私に手を振ったわ!」

 

「いいえ、私よ!」

 

後ろを見ればソルがピットから出た所だったらしい。

 

観客席にはざっと1クラス分は下らないくらいの女子生徒が一角にいる。

 

「なんだありゃ・・・」

 

「黒い貴公子、ソル・エンゲルベルト。一年生から二年生を中心に、ああやってファンクラブみたいなのが出来てるのよ」

 

「すげぇ人気だな」

 

観客席に手を振りながらソルがこちらに飛行し、俺達の目の前に着地する。

 

「やあ、薪、楯無。君達も訓練中かい?」

 

「ああ、そんな所だ、昨日はありがとな、ソル」

 

「なに、当たり前の事をしたまでさ」

 

「薪のカスタム・ウイングはもう直ったのかい?」

 

「ああ、朱理が1日で直したよ」

 

「そうか、流石は朱理だな」

 

髪をかきあげて、サッと手を横に流す。

 

綺麗というよりはカッコいいな。女子の人気もそういった所からくるのだろう。

 

「それでソル今日はどうしたの?まさか私との模擬戦でもやるの?」

 

楯無が俺の前に出てソルに訪ねる。

 

「ふふ、まあそう食ってかからないでくれ楯無、今日、用があるのは薪、君だ」

 

「俺?」

 

まさかのご指名で驚く。

 

「ああ、本来は昨日、君を訪ねようとしたんだが、ほら君墜落してしまっただろう」

 

「うぅ・・・すまん。それで?その用件ってのは?」

 

「なに、単純に君に興味があってね、手合わせ、もしくは、君の指導をしようかと」

 

手合わせは勘弁して欲しいな・・・

 

そう思っていると楯無がソルと俺の間に入る。

 

「指導者は間に合ってるし、今の薪君の実力で模擬戦をやってもソル相手じゃ、ボコボコされちゃうから駄目」

 

「ボコボコって、ひどい事言うな楯無」

 

いや、実際そうなるんだろうけど。

 

楯無にそう言われたソルは手を顎に当てて少し考えると口を開く。

 

「そうだな、模擬戦はまだ早いか・・・では、指導しよう。時には別の人間から指導を受けるのも薪にはいい刺激になるだろう?そうじゃないか楯無?」

 

「むぅ・・・だってソルに指導させると・・・」

 

「ん?何か言ったかい楯無?」

 

「いいえ、なんでもないわ。ほら薪君、ドイツ国家代表の御教授を受けれるのよ、喜びなさい」

 

なんか、勝手に決まったやり取り。まあ、俺自身、色々な奴から指導を受けれるのは嬉しい。それが楯無以外の国家代表ともなれば尚更だ。

 

「わかった、よろしくな。ソル」

 

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ、薪」

 

ソルは俺の手を掴むと空に上がる。

 

「今日は簡単な、飛行技術を薪に教えよう」

 

「なにやんだ?」

 

「シューター・フローでの円状制御飛翔さ。薪の武装は今の所、銃器がメインだからね、覚えて損はないだろう」

 

「げ・・・」

 

円状制御飛翔ってこの前、楯無と一緒にやってボロクソ言われたヤツだ・・・

 

基本的にPICを使った空中制御はオートによって行われているが、今からやろうとしているその円状制御飛翔は二人で空中で円を描きながら高速で撃ち合うものだ。相手の射撃を避けながら、自分も撃つ。PICがオートだと、細かい制御が出来ない為、マニュアルで制御しなければならない。

 

この前はそれが上手く出来なく、楯無の射撃をモロに喰らい、蜂の巣にされたものだ。

 

「簡単どころか、高難易度じゃねぇか」

 

俺の文句を聞くとソルはフフっと笑う。

 

「そうか?慣れれば大した事ではないさ」

 

「簡単に言うけどなぁ・・・」

 

「薪」

 

ソルが空中で突然止まり、こちらにズイっと顔を寄せてくる。

 

「私に身を任せて、大丈夫、薪になら出来るさ」

 

「お、おう・・・」

 

「では、始めよう」

 

ヤバい、今ちょっとドキっとした。

 

俺とソルは一定の間隔を取った後、回り始める。

 

「薪、私のISには標準的な射撃武器がない、まずは撃つ事に専念して、加速していこう」

 

「わかった」

 

二人の円形軌道は徐々に加速し始める。

 

「薪、私の目を見るんだ」

 

「・・・・」

 

「そうだ、上手いじゃないか」

 

「・・・・」

 

ソルのそう言った指導がしばらく続き、最終的にはソルのISのレールガンを使った円状制御飛翔を行った。

 

 

・・・・

 

 

訓練が終わり、二人して地面に着地する。

 

「よし、今日はここまでとしよう」

 

「ソル・・・」

 

「どうした、薪?なにかわからな・・・」

 

俺はソルの両手を掴むと直ぐに言った。

 

「楯無と変わってくれ!!」

 

「ちょっと!?薪君!?」

 

いや、ビックリした、出来てしまったのだ、昨日まで出来なかった円状制御飛翔が。

 

ソルは目をパクチリさせた後、照れたように言う。

 

「いや、薪の飲み込みが早いだけさ」

 

「そういう所だ!」

 

「?」

 

ビシッと楯無に指を指していう。

 

「アイツは厳しすぎる!ソルみたいに優しさがない!」

 

「悪かったわね!優しさがなくて!ああ、もう!だからソルにやらせるのはヤダったのよ!」

 

「楯無が厳しいのは一年生の頃から変わらないからな」

 

俺に掴みかかって来そうになっていた楯無をソルがなだめ落ち着かせる。

 

「まあ、そう言うな薪。楯無は非常に優秀な人間なんだぞ」

 

「優秀?」

 

ここから、ソルによる楯無べた褒めタイムが始まった。

 

「薪は知らないと思うが実は、楯無のISはロシア政府が用意した物ではないんだ」

 

「え、そうなの?」

 

「ああ、ミステリアス・レデイは楯無がロシア政府から提供された設計図を見て一人で組み上げた物だ。そうだろう、楯無?」

 

ソルにそう言われた楯無は少し照れくさそうに言う。

 

「みんなそう言うけど、本当は色んな人に手を貸してもらったのよ。かっちゃんや王先生とか、今のウチのチームのみんなにも」

 

「それは楯無の人徳あっての物だろう」

 

そうだったのか、楯無は否定的だがそれでも十分に凄い事だが。

 

「それに、文武両道、容姿端麗。非の打ち所ない素敵な人物だよ、楯無は」

 

「そんなに褒めったってなにも出ないわよ、ソル」

 

「そうだ、今度薪にも楯無が作ったお弁当を食べさせてみてはどうだ?楯無の作った料理は絶品だぞ、薪」

 

「ま、まあ、今度ね・・・」

 

すげぇソル、あの楯無を完全に手玉に取っている。

 

しばらくの間、ソルによる楯無べた褒めタイムが過ぎて行くが、それでも先ほどの訓練を受けた後では、ソルに指導をして欲しかった。

 

「ソル、そこをなんとかならないか?」

 

「ふん、薪も強情だな・・・」

 

ソルは少し困ったような顔をした後、再び顎に手を当てて考える。

 

「では、こうしよう。次のリーグ・マッチにて、私と戦う時、私のシールドエネルギーを半分でも削れたら、君を指導する、というのはどうだ?」

 

「ぬ、シールドエネルギー半分・・・」

 

楯無との戦いを思い出すと正直無謀とも感じる提案だが、ソルが出した条件がそれならばやるしかあるまい。

 

「わかった、それでいこう」

 

「よし、では、訓練を励めよ、薪」

 

そう言って、ソルは飛翔し、ピットへと飛んで行く。

 

その背中を見送った後、楯無の方へと振りかえる。

 

「よしゃあ!脱、楯無の指導の為に、頑張るぞ、楯無!!」

 

「・・・薪君には一回お仕置きした方がいいのかしら?」

 

その日、第三アリーナに大量の大穴が空いた、というニュースが学校中に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、一年生寮

 

「なるほど、絶対防御ってのがあってもそれを越えた火力を出すとパイロット自体にダメージが入ってしまうのか」

 

「そう言う事、今日身に染みてわかったでしょ、薪君?」

 

「ああ、お陰で擦り傷だらけだ、あと、軽い火傷の跡もちらほら」

 

「それは、ごめんって言ったでしょ」

 

「というか、俺の言った事を真に受けるなよ、冗談だって」

 

「だってあそこまで言われたら・・・」

 

「お前に指導を付けてもらってるのは素直に感謝してる、楯無に声かけられなかったら未だに空も飛べてないだろうしな」

 

「むぅ・・・」

 

訓練が終わり、一年生寮の食堂を歩く、俺と楯無。

 

「というか、お前どこまでついてくるつもりだ?ここは一年生寮だぞ」

 

「食事が終わった後は、座学よ、座学。薪君が強くならなきゃ、ソルには触れる事すら出来ないんだから、今日からトコトンやるわよ」

 

「うへぇ・・・まじかよ」

 

楯無のスパルタ特訓で大量に空いた大穴は先生にバレない内にISを使って二人で埋めた。やっぱりISは戦闘以外にも使い道は山ほどあるな、本来の性能は泣くけど。

 

「さて、もう遅い時間だし座る場所は沢山あるが、どこがいいか・・・ん?」

 

二人して食べる場所を探していると、珍しい光景を目にする。

 

「おお、一夏。いつも女の子をはべらかせているお前が珍しいな一人で食べてるなんて」

 

「あ、薪先輩・・・って、勘違いを招く言い方は止めて下さい」

 

食堂の隅でショボンとした顔で一人で食べている一夏を発見した。

 

「一緒に食べていいか?」

 

「はい、大丈夫ですけど・・・えっと、どちら様でしょうか?」

 

「始めまして、織斑君。薪君のクラスメイトの更識 楯無よ。よろしくね」

 

「は、はい。よろしくお願いします・・・」

 

楯無はウインクをしながら挨拶する。

 

おお、おお、猫被ってんな。一夏に実はスパルタ教師で正直模範的ではない生徒会長とでも言ってやろうか・・・

 

「一夏、コイツは・・・」

 

「薪君、何も言わずに(・・・・・・)席をつめましょうね」

 

ゴッと腰をぶつけられ、席に追いやられる。

 

「・・・ハイハイ」

 

どうやら、余計な事は言わない方が良さそうだ。

 

一夏の対面に座るように二人して席に着く。

 

「で、一夏。どうした?そんなショボくれた顔して」

 

一夏は少し戸惑った後、口を開く。

 

「先輩・・・それがですね・・・」

 

一夏が話した事をまとめるとこうだ。

 

昨日、転校してきた他クラスの女の子が実は一夏の第二の幼なじみで、昔に何かを約束したらしい、一夏はそれが思い出せなく、その幼なじみに怒られて「馬に蹴られて死ね」と言われてしまったらしい。ついでに箒にも「馬に蹴られて死ね」と同じ事を言われたそうだ。

 

なんなんだよ、セカンド幼なじみって・・・コイツ確か箒とも幼なじみだってよな。はぁ、ISを起点として妙な出会いを持ってるなコイツ・・・

 

「確か、酢豚、毎日食べ放題って言う、約束だったはずだったんですけど・・・」

 

「そりゃ、お前、その子が言いたかったのは多分、味・・・」

 

「薪君、ストップ」

 

隣にいた楯無に口を押さえられる。

 

そしてそのまま、一夏に聞こえないように二人して顔を後ろに向ける。

 

「どうした、楯無?その子が言いたかったのは多分、毎日、貴方の為に味噌汁を作ってあげるって言う、遠回しな告白だろ?」

 

「いい、薪君?そう言う女の子の大事な事は本人達の間で決着をつけるべきなの。私達が口出しして事を急がせるべきじゃあないの」

 

「そうかもしれんが、正直、酢豚だぜ?ここ一ヶ月一夏を見てきたが、コイツは生粋の唐変木だ、ど直球に言ってやらないと一生気づかないぞ」

 

「ああ・・・、織斑君ってそういう子なのね・・・、それでも駄目、絶対駄目、私達は上級生なんだから、こういうのは見守るべきよ・・・・でも、酢豚かぁ・・・」

 

「昔の約束ってのも、どうなんだ?記憶として曖昧になっちまうだろう?」

 

「でも、織斑君ギリギリ覚えてるみたいなだし・・・しかし、いいわね〜、「あの時の約束覚えてますか?」なんて、素敵じゃない」

 

際どいライン、果たして俺達が一夏に気づかせるべきなのか、放って置くべきなのか、結局、青春してんなぁコイツらという話しになっていく。

 

「あの〜、先輩達?」

 

「ん?ああすまんな、ちょっと話してただけだ。しっかし、いい思いしてんな一夏」

 

「いえ、全然、今いい思いはしてないんですけど」

 

「・・・・」

 

そうだよな、素敵な約束でも結局噛み合ってないのなら意味はない。

 

「・・・先輩、俺、鈴にどうしたらいいんですかね」

 

「・・・・そうだな、お前ら、約束するって事は仲は良かったんだろ?」

 

「・・・はい、俺と鈴と、後、弾って奴がいるんですけどよく三人で遊んでました」

 

一夏は懐かしむように顔を緩ませる。

 

「なら、今はどうだ?仲良くしたいか?」

 

「勿論です!また・・・昔みたいにアイツと、一緒にいたいです」

 

「じゃあ、簡単だ、一言ゴメンでいいだろう」

 

「そう、簡単に言いますけど・・・」

 

「一夏、そうやって、自分の感情を優先させていると、タイミングを逃すぞ」

 

一度座り直し、一夏の目を見て言う。

 

「お前らは子供のようで子供じゃない、何かあったら早めに仲直りをした方がいい、じゃないと戻らなくなっちまう」

 

「戻らないですか」

 

「ああ、お前より少し大人からのアドバイスだ」

 

思春期の心は小学生より繊細だ、時間が解決しない事も出てくる。それに気づけないまま、日々を過ごしてしまう。

 

 

自分が納得出来ないから。

 

 

一夏は少し考え込んだ後、顔をあげる。

 

「わかりました、明日、鈴に謝ってみます」

 

「そうしとけ、問題は早めに解決だ」

 

しょんぼりした顔から元気になった一夏は、勢いよくご飯を食べ始める。

 

それを見た、俺と楯無は少し安堵する。

 

「薪君、凄いわね」

 

「いいや、一夏自身、どこか自分に否があるのは認めていたから、放っておいても勝手に謝ったろう」

 

「それでも、先輩としての務めは果たしたんじゃない?」

 

「そうかねぇ・・・」

 

ようやく、食事にありつく。この後、楯無のスパルタ座学が待ってる。

 

気が休むのはご飯の時くらいか・・・

 

夜は過ぎていく、ちょぴりだけど、一歩ずつ、成長していく彼らと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の夜、同じようにしょぼくれた顔で一人で食べている一夏を見つけた。

 

「どうした、一夏?」

 

「あ、先輩・・・」

 

少し申し訳なさそうに、一夏が顔を上げる。

 

「まさか、仲直り出来なかったのか?」

 

「ええ、ちょっとケンカしちゃって・・・」

 

「何だってまた・・・」

 

「その、色々話してたら、罵倒を沢山言われて・・・それで・・・」

 

「それで?」

 

「つい、アイツが気にしてる貧乳って言っちゃて・・・」

 

「・・・馬鹿だろ、お前」

 

ただ、繰り返してしまう事もある・・・

 




鈴との接触は第二章が終わった後になります。


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アップデート

薪のISの強化です。

強化と言えるものなのかわからないですけど。


 

時期は5月に入り、そろそろ本格的に学校が活発になり始める頃。俺はオール・フォー・ワンが置かれていた、在庫倉庫から移動し、整備士科が主だって使うISの整備倉庫に来ていた。

 

「そこの、スパナ取って!」

 

「ヒート・カッター使用の申請してくるね」

 

「ちょっと!最後にハイパー・センサーの基準値いじったのは誰!?測定値振り切ってるんだけど!」

 

基本的に二年生や三年生がこの倉庫で日々ISの整備と調整に勤しんでいる。場所によっては笑い声や時には怒号が飛び交う中、俺は朱理に連れられて、歩いて行く。

 

「とりあえず、ここ二週間ほどで得た、薪のデータを元に、私なりにオール・フォー・ワンの改修案を考えてみた」

 

「強化か・・・そいつはありがたいが何すんだ?腕をもう一本つけるとかいい始めるなよ」

 

「あー、オール・フォー・ワンの左腕のアラクネからの発想か?それも面白そうだからやってもいいんだが、今日はもっと基礎的な部分の改修だ」

 

アラクネって本来そんな機体なのか・・・というか面白さを求めてISをいじくらないで欲しい。

 

そこらに転がる機材をものともせず、ズイズイと倉庫の奥へと進んで行く朱理。

 

朱理の背中を追いかけるその途中、見覚えのある小柄な女の子を見つける。

 

クラスメイトのフォルテ・サファイアだ、確かギリシャ代表候補生で、専用機持ちなんだっけか・・・

 

水色に近いホワイト、淡いブルーとでも言えばいいか。そんなカラーリングをしたISに乗って、整備士と話し合っていた。

 

サファイアとは特に話すこともないし、声をかける必要もないか・・・

 

そのまま目の前を通りすぎ、朱理の後をついて行こうとする。

 

「ん?風見野?なにやってんスか、こんな所で?」

 

逆に声をかけられてしまった。

 

振り返り、ISに乗って少し高い位置にいるサファイアを見る。

 

「朱理に連れられて、オール・フォーワンの改造だ、あっちの倉庫じゃあ、機材が全然無いからな」

 

「ああ、ようやくあのスクラップ置き場から、脱出したんスか」

 

「スクラップ言うな、俺も時々言うけど」

 

サファイアは比較的小柄な体系をしている、王先生ほど小さくはないが、中学生と見間違えるサイズだ。

 

・・・貧乳。

 

「なんスか、人の体をジロジロ見て」

 

「いや、なんでも、後輩との会話を思い出しただけだ」

 

「はぁ?・・・意味わかんないっス」

 

ずっと同じ体勢を取っていて、肩が凝っているのか、顔を右、左と動かすサファイア。

 

「そういう、サファイアはここでなにしてんだ?」

 

「相方のダリル先輩とのハイパー・センサーのマッチング設定中っス」

 

「相方?」

 

サファイアにそう言われ、隣を見ると、金髪の身長が大きい女性が乗ったISがあった。

 

そのISの両肩には犬の頭のような形を模しており、機体全体のカラーリングはダーク・グレーだ。

 

ダリル先輩と呼ばれた、女性は目を瞑って、ISに乗っていて、俺達の会話を聞いたのか、チラッと片目を少し開き俺を見てくる。

 

・・・なんか、怖い先輩だな。

 

「風見野、知らないんスか?私達のコンビ名」

 

「え?コンビ名なんてあんの?」

 

突然言われ、再び少し上にいるサファイアを見る。

 

「ふふん、三年生のダリル・ケイシーと二年生のフォルテ・サファイアのコンビ・・・その名も「イージス」っス!」

 

イージス、ねぇ・・・

 

「先輩の乗る、ヘル・ハウンドver2.5の炎と私の乗るコールド・ブラッドの氷による攻防一体の布陣による、コンビネーション技が売りっスよ」

 

「そうか両機とも第三世代機体か、すげぇなそんな事出来んのか」

 

タッグか・・・俺もいつか誰かと組んでコンビネーション技とか生み出す事になるのだろうか・・・いや、俺のIS、第三世代機体じゃないからそんな芸当できそうにないな。

 

俺とサファイアが話していると先ほどのダリル先輩と呼ばれた人から声が飛んでくる。

 

「おい、フォルテ。めんどくせぇから、早く、ハイパー・センサーのリンクしろっていつまでも終わんねぇぞ」

 

「はい、はーい。今やるっスよ」

 

そう言って、サファイアは目の前の空中ディスプレイをいじり始める。

 

「そう言えば、風見野」

 

「ん、なんだ?」

 

「さっき、奥の方で楯無を見たっスよ、色々世話になってるなら、顔出しといた方がいいんじゃないスかねぇ」

 

げ、最近どこ行ってもアイツの顔見るな。まあ、教えてもらってるし、声かけとくか。

 

「じゃ、俺は行くぞ。頑張れよ、ゼウスの肩パット」

 

「おお、風見野も頑張・・・って!肩パット言うなっス!」

 

「おい!!フォルテ!!ちゃんとリンク先を参照しろって!わけわかんない数値出てるぞ!」

 

ワー、ギャー騒ぐ声を背に、倉庫の奥へと進む。

 

その先では当たり前のように朱理と藍理が待っていた。

 

「おし、来たな、薪、早速、とりかかるぞ」

 

「おう、よろしく頼む」

 

ISを展開しISの固定台にオール・フォー・ワンを設置させる。

 

「で、結局なにやんだ?」

 

「へへ、これだ」

 

そう言って、朱理が取り出したのは手のひらサイズという訳ではないが両手で持つ事が出来るくらいの四角く、若干長方形の黒い箱のようなものだった。

 

「なんだこれ?」

 

手に持ち、様々な角度から見るがいまいちわからない。

 

そんな俺を見て、朱理はニヤリと笑う。

 

「これは、追加スラスターだ!」

 

「スラスター?」

 

なんでそんな物を?

 

そう思っていると藍理がディスプレイを見ながら答える。

 

「今、オール・フォー・ワンに必要なのは快適な足回りとそれを制御するための制御機構です、二年生での戦いの殆どは、第三世代機との戦いになります。その為、まずは、機動力の確保を最優先に今回の改修案を出して見ました」

 

「なるほど、足回りか・・・」

 

確かに、楯無との戦いの時、無理なバレル・ロールをした際に姿勢制御が不可能になり思わず、地面に手をついでにしまった事を思い出す。

 

最初は自分の技量不足と思っていたが最近オール・フォー・ワンを使っていても、どこか体を動かし辛いと感じていた所だ。

 

「これを、両肩と両足、そして左右の腰とリア・アーマーにもつける。これだけあれば、瞬時加速の際も安全に姿勢制御が出来る」

 

「おお・・・これだけ作るのも大分時間かかったろ、ありがとな朱理」

 

たった一人でパーツを作る、俺が楯無と訓練している間もコイツは頑張っていたんだな、本当にいいヤツだよ。

 

俺は心の底から感動したが、朱理は逆に、は?みたいな顔をした。

 

「いや?ようつべの動画見ながら作ったから、あんまり時間は気にしなかったな?」

 

「プラモ感覚で作るんじゃねぇ!!」

 

台無しだった。

 

駄目だやっぱり信用性ゼロだ、この前のカスタム・ウイング爆発事件から何も学んでねぇ、コイツ。

 

「まあ、気にすんなって薪!確かに数多いから面倒だと思ったけど、安全は藍理が保証すっから!」

 

「テストは妹に任せるとか、姉としての威厳はいいのか!」

 

「私と藍理は同い年だからそんなの関係ねぇよ!」

 

「まぁ、姉さんも薪さんもそこまでにして、早く追加スラスターを付けて飛行テストをしましょう、耐久テストはしましたけど、そちらはまだなので・・・」

 

追加スラスターを持ち、オール・フォー・ワンに取り付ける準備を始める藍理。

 

それを見て、ため息を付く。

 

「耐久テストってまさか、床に100回落とすとかじゃないよな・・・藍理、信じてるぞ」

 

「なんだ、薪?スラスターに不満か?」

 

「・・・無いよりはましだが」

 

「ったく、しょうがないなぁ、薪は」

 

やれやれと首をふる朱理。

 

「そんな、薪に、実はもう一個、追加のパーツがあるんだ」

 

「え?マジ?」

 

ふふんと、鼻を鳴らす朱理。その後、俺の肩を掴み、藍理に聞こえないように話し始める。

 

「藍理には内緒なんだけどさ、実は既にオール・フォー・ワンにOSWを搭載させたんだよ」

 

「そのOSWって?」

 

「私の考えた最強武器、O・S・W(オーバー・スペック・ウェポン)の略称だ」

 

「何それカッコいい・・・で、何処にあるんだそのOSWってのは」

 

「あれだ、あれ」

 

そう言って、朱理がゆびを指した先にはオール・フォー・ワンの左のカスタム・ウイングがあった。

 

え?

 

「おい、あれのどこが武器なんだ?というかこの前爆発したお前の自作のヤツだよねぇあれ」

 

「それは言うな薪、あれはカスタム・ウイング兼、武器なんだよ本来は」

 

なにそれ〜?、最初かっらそんなん搭載してんなら言えよ、使ったわ、楯無との戦いで。

 

「あれは、凄いぞ薪。なんせ・・・」

 

「なんせ?」

 

 

 

「・・・ビームが出る」

 

 

 

ビーム・・・

 

「細かく言うとビーム状の剣になる」

 

「すまん、ライト・サーベルとビーム・セイバーの違いがいまいちわからない俺が言うのもなんだが、それは意味がある物なのか?」

 

「混ぜるな薪、あのカスタム・ウイングの正式名称「エンド・ロール」はブースターの射出口から超高熱とISのエネルギーを最大限ぶちまかす事が出来る仕組みになっている。まあ、瞬時加速を相手にぶつけるような物だ」

 

「よくわからんが、ヤバいってのはわかった」

 

「だろう・・・ただ・・・」

 

「ただ?」

 

今まで自信満々だった朱理の顔が曇る。

 

「安全性ど外視の出力を持っているが為、公式戦で使うような物だったら。まず、相手はミンチより酷い状態になる。そして、オール・フォー・ワンは半壊して、最悪、薪の左腕はふっ飛ぶ」

 

「早く外せ馬鹿」

 

流石に朱理の頭をひっぱ叩いた。

 

「ッ痛った〜・・・」

 

「痛った〜、じゃねぇ、俺に殺人させるつもりかお前は」

 

「だってよ〜!ロマンがよ〜!」

 

「安全基準の中でロマンは求めろ」

 

「姉さ〜ん!早く付けましょうよ〜!」

 

オール・フォー・ワンに乗っかって、もう取り付ける準備が終わっている藍理が叫ぶ。

 

「あいよ〜、今行くよ〜」

 

「はぁ・・・」

 

朱理が頭を押さえながら藍理の元へ行くのを見届けた後、俺は追加パーツが取り付けられるのを待つ間、近くの機材に寄りかかる。

 

馬鹿と天才は紙一重とはよく言ったものだ、朱理は馬鹿と天才の境目を行ったり来たりしているようなヤツだな。

 

結局、オール・フォー・ワンに対しての不安が憑きまとう中、改修されるのを見ていると、倉庫の更に奥に見覚えのある影を見る。

 

水色の髪・・・楯無?こんな奥で何やってんだ?

 

不思議に思い、その背中を追って倉庫の奥に入って行く。

 

ガチャガチャと工具の入った箱を探っている、楯無を見つけ、肩を叩く。

 

「おい、一人で何やって・・・」

 

「ひゃ!?」

 

その楯無はおっかなビックリしたような声を上げ、こちらの手を振り払う。

 

「うぉ!?どうした?楯・・・な・・・し?」

 

「・・・・」

 

楯無だと思っていたその少女は眼鏡をかけていて、少し髪型も違っていた。

 

怯えた表情のその子はこちらの顔をうかがいながら、ゆっくりと口を開く。

 

「・・・楯無は、姉です・・・」

 

「え、妹!?」

 

アイツ妹いたのか、知らんかった。確かに、妹と言われるとどことなく楯無の面影を残しながら、全然違う。

 

「えっと・・・あ〜、すまんかった、声かけて悪かったな」

 

楯無の妹と名乗った少女の顔が非常に怯えていたので、ここは一時退散しよう、いつ悲鳴が上がるかわかったものではない。

 

そう思い、朱理達がいる場所に戻ろうとすると、楯無の妹から声をかけられる。

 

 

 

「あの・・・風見野 薪さん、ですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、簪って言うのか」

 

「はい、薪さん」

 

楯無の妹で、そして簪と名乗った少女 更識 簪と、一緒に近くの機材に座る。

 

いざ、話してみると、活発的な楯無とは違いどこかオドオドとした会話をするが、とても大人しく、しっかりとした子のようだ。

 

そして、この子はなんと代表候補生らしい、姉はロシア国家代表で妹は日本代表候補生ってとんでもない姉妹だな。

 

「あの、薪さんは、お姉ちゃんと戦ったんですよね」

 

「ああ、フルボッコにされたけどな」

 

うぁ、見てたのかあの試合・・・こうして直に自分の試合の評価を聞く事になるとは思わなかったな。しかも、後輩から。

 

「いえ・・・凄いです。あのお姉ちゃんに挑むなんて」

 

「挑む・・・というか、ほぼ強制参加型の負けイベントだったがな、見てたならカッコ悪いって思ったろ」

 

「そうなのかもしれないですけど・・・それでも私はお姉ちゃんに立ち向かう、薪さんを、カ・・・」

 

「か?」

 

「あ、いえ・・・・」

 

簪は何か戸惑っているように見えるが意を決して俺を見てくる。

 

「薪さん、聞きたい事があるんですけどいいですか?」

 

「ああ、いいぞ」

 

「その、どうしたら、薪さんみたいに強くなれますか?」

 

「え?」

 

意外な質問だった。というか俺はまだクソザコミジンコドチビなので言える事なんて何もない、未だに訓練の際にも楯無から初心者と言われ続けているくらいだ。

 

「すまんが、俺は弱いぞ」

 

「いえ、そうじゃなくて、その・・・」

 

「?」

 

簪は目を伏せて言う。

 

「薪さんは弱いのに凄いです・・・回りは皆強い人ばかりなのに、そんな中で、戦うって決意してるのが、強いなって、思ってるんです」

 

「・・・簪」

 

今、弱いってハッキリ言ったね、この子。メッチャ心にぶっ刺さったわ。後輩から言われてハートクラッシュしそうだわ。

 

じゃなくて、多分この子は心の強さの話しをしてる。簪は大人しいのでは無く、内気な性格なのか・・・そして、それを改善したいと思っている。だから、俺から心の強さを学ぼうとしてる、と言った所か・・・

 

しかし、そんな事言われてもな・・・俺からして見ると、対した心構えがある訳じゃあないんだがな・・・割りと適当にやっている所もあるし。

 

さて、どうした物かと、辺りを見渡していると正面に未完成のISがある事に気づく。

 

「あのISは?」

 

「・・・私の専用機です・・・訳あって、未完成で、私一人で組み上げいる所です」

 

「一人で?」

 

「はい、一人でやりたいんです」

 

「ほう、楯無みたいだな」

 

「ッ!・・・」

 

あれ?なんか地雷を踏んだみたいだ・・・

 

簪の顔色が急に変わった・・・楯無となんかあるのか?

 

突然出てきた不穏な空気を払拭すべく別の話題に変える。

 

「ああ、えっとだな・・・あのISはいつ頃、完成予定なんだ?」

 

「夏・・・いえ、冬になるかもしれません」

 

「遠いな」

 

「フレームを組むだけでしたらニヶ月ほどで完成しますけど、第三世代機としてのイメージインターフェースは・・・全然」

 

「もったいないな」

 

「え?」

 

「ん、ああ、空を飛べないのはもったいないってな」

 

心から出た言葉だった。

 

わかった、この子はきっと、自分と姉を見比べているのだろう。

 

楯無は確かに完璧なヤツだ。学園最強だし、国家代表だし、料理とか勉強とかなんでも出来るヤツだし。

 

そんな姉を見て、自分も完璧でなければいけないと思っているのだろう、楯無は一人でISを完成させた(回りの人に手を貸してもらっているが)、そう思ってるから自分も一人でISを完成させようと思っているのだろう。

 

そんな事は気にしなくていいんだと、理解してもらわなければ。

 

「まずは、空を飛べるようにしたらどうだ?」

 

「空ですか?」

 

簪が驚いたように言う。

 

「そうだ。空はいいぞ、いい気分になれる」

 

「空・・・そうなんですか?」

 

「ああ、こんな倉庫でジッとしてるなんてもったいない、ISも外に出たいって思ってるさ」

 

「・・・でも」

 

簪がまた目を伏せてしまう、駄目だここはもっとしっかり言った方がいいか。

 

「簪、別に誰もいきなり完成品を出せとは言わないよ、ゆっくりでいいんだ、着々と完璧な物に仕上げてけばいい、俺も手伝うし」

 

「ゆっくり・・・」

 

「俺のオール・フォー・ワンだって、未完成品みたいなもんだぞ、いつしっかりとした機体になるのやら」

 

というか、不良品の類いに片足を突っ込んでいるのだが、主に朱理のせいで。

 

「だから、まずは、ISとして作って空を飛んでみろって、俺は簪と空を飛んでみたいな」

 

「・・・・」

 

俺の目を見て、その後小さくコクンと頷いてくれた。

 

良かった・・・

 

なんとか了承してくれたみたいだ。

 

そう心の中で安堵していると誰かが近づいてくる足音が聞こえる。

 

「ん?、あー!薪が下級生にナンパしてる!」

 

朱理だった。

 

「してねぇよ、終わったのか?、そっちは」

 

まったく、タイミング悪く来るなコイツは。

 

「おう、完璧だぜ!早く飛ばしに行こうぜー!」

 

「ラジコン飛ばすみたいに言うな、ったく」

 

機材から立ち上がり、朱理の後をついていく。

 

「ああ、そうだ、簪」

 

「?」

 

最後いい忘れていた事があった。

 

「俺が心が強い理由ってヤツだが・・・正直、俺にもわからん」

 

「え?」

 

「ただ、俺は今のままはヤダって思ってる、だから挑むんだ」

 

「・・・・」

 

「お前だって、今の自分は嫌だから、頑張ってるんだろ?だったらお前も強いさ」

 

「・・・そ、そんな事は」

 

また、目を伏せようとする簪。

 

だが、伏せる前に言わして貰う。

 

「いいや、お前は強いよ簪。弱いと思うならこれから強くなればいい」

 

「・・・・」

 

「俺は一足お先にそうさせてもらうよ。またな、簪」

 

そう言い残して俺は朱理の後を追って飛行訓練をするために外に出る。

 

心の成長は身体の成長より、遥かに難しい事だ。

 

俺自身、育て方ってのがよくわかってない。

 

だが、色々なものに挑戦して、力をつけなければ始まらない。

 

簪の心が成長する事を祈りながらも、まずは・・・

 

 

俺が強くならなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、挑戦のしすぎは良くないな。

 

その日の飛行訓練で、藍理が用意した軌道コースは常識を逸脱していた。

 

なるほど、朱理がジェットコースターって例える訳だ。

 

若干の後悔を俺は体半分を地面に埋めながら感じていた。

 

頑張るのはほどほどに。

 




簪かわいいな・・・

いや、みんな、かわいいけど。

今回の事で簪のISの完成が早くなる事はありません、早くなっても未完成の打鉄ニ式が臨海学校に出るくらいです。原作介入は出来る限りしたくないので、バランスとって一夏ヒロインの子達には接していきます。


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黒い嵐(シュヴァルツア・シュトゥルム)

ようやく、戦闘シーン

この小説に出てくるオリジナルの専用機持ち達は基本的にバケモンみたいなスペックもちだと思って下さい。

じゃないと、薪が育たないからね。


リーグ・マッチまで後数日、最後の追い込みをかけるチームが多くいる中、俺は一人、食堂に昼食をとりに来ていた。

 

多くの、女子高生が賑わう食堂の中を抜け食券を握り絞めて、注文カウンターへ向かう。

 

が、複数ある注文カウンターの中でひときわ、行列ができている場所があるのを見つける。

 

「なんだこりゃ?」

 

ちょっとした大名行列に驚いていると後ろから声をかけられる。

 

「やぁ、薪」

 

「おお、ソル・・・って、こっちにも大名行列!?」

 

後ろから現れたのは沢山の女子高生を連れたソルだった。

 

「ん?ああ、みんな、ここに固まっていると他の人の邪魔になってしまうから、一度、散らばって注文しよう」

 

「「「「「はい!ソルお姉さま!!」」」」」

 

圧巻。

 

ソルにそう言われた、ファンクラブの子達は一瞬で各、注文カウンターに並んでいく。

 

「よし、薪、私達も並ぼう」

 

「・・・ああ」

 

ソルにそう催促され、一緒に一番空いている列に並ぶ。

 

「なぁ、ソル、あれは何の列なんだ?なんか限定パンとか売っている列なのか?」

 

「ん?ああ、あの列か」

 

ソルファンクラブの子達が、他の注文カウンターに並んでも、それでも最初に見たあの長蛇の列には及ばない。

 

「ある意味、IS学園では君のように珍しいからな。ほら、一番前を見て見ればわかるさ」

 

「一番前・・・、ん?」

 

長い長い、列の先にいたのは。

 

「ありゃ、男か?」

 

注文カウンターで注文を取っていたのは男性だった。

 

「IS学園では珍しいだろう、一様、轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう)という壮年の男性用務員もいるだが、あそこにいる彼は若く、顔もいいからな、だから女子生徒に人気があるんだ」

 

「へぇ、名前は?」

 

「確か・・・有里 千秋(ありさと ちあき)だったけか」

 

「有里さんねぇ・・・おっと」

 

何時の間にか自分の番が回って来ていた。

 

カウンターで料理を注文し、料理ができ上がったらアラームが鳴るブザーを受けとる。

 

「なぁ、薪、一緒に食事でもどうだ?」

 

「ソルとか?ああいいけど・・・」

 

ソルの後ろを見る、そこにはズラッとならんだ女子生徒達、ソルファンクラブの皆さんがいた。

 

「いいのか?」

 

「ああ、構わんさ、いいだろ、皆?」

 

「「「「「はい!ソルお姉さま!!」」」」」

 

良かった、こういう子達ってもっと、異分子を嫌うもんかと思ってたから、これはソルの人柄がファンクラブの子達にも出てるのかもしれない。

 

しかし、この人数が一辺に食べれる席なんて果たして、このお昼時の食堂にあるのだろうか?

 

そう思っていると、席がある方から女の子が数人よってくる。

 

「ソル姉様!席確保してあります!」

 

「足りない分の椅子も持ってきました!」

 

「人払いはすませてあります!ほぼ、密室です!」

 

「いつも、すまないな、皆」

 

人海戦術とでも言えばいいのかあれよあれよと言う間に、座る場所が決まってしまう、というか最後の子は一体何をしようとしてるんだ。

 

ソルとそのファンクラブの皆さんに連れられて、確保されている席に座る。

 

「さて、薪とこうやってゆっくり話すのは始めてだな。時にはIS以外の話しもしたいものだ」

 

「そんな事、急に言われてもな」

 

「何、クラスの事でもいいんだ」

 

「クラスの事ね・・・」

 

座った席は四人席で、俺とソルは奥に座って対面している状態で通路側にはファンクラブの子が座っている。

 

「先生の事やクラスメイトの事でもいいぞ、楽しい話しでも悩み事でもいい」

 

「悩み事・・・」

 

そう思って真っ先に浮かんだのはオウアランダーの事だった、あの握手をし損ねた時から、オウアランダーとはほとんど会話などしてないのだ、したとしてもオウアランダーは簡単な相づちくらいしかせず、クラスの事は基本的に俺が決めるという状態だ。というか会話になってない。

 

これだな、あのフレンドリーな楯無も会話が出来ないと言っていたオウアランダーだが、このように人に好かれる、ソルならばあるいは。

 

「オウア・・・

 

「そうだ!せっかくだ、薪に聞きたい事があったんだ!」

 

「え?」

 

こちらが、話しを切り出そうとした時、ソルに上から被せられる。顔をニコニコさせながらソルが笑顔で聞いてくる。

 

「楯無は好きか?」

 

プロ野球選手もビックリするような豪速球ストレートが俺の胸を貫いた。

 

「・・・ソル、そういうのは・・・はっ!?」

 

見てる。

 

ソルの発言が聞こえていたのか、この辺りにいたソルファンクラブの子達を含め、食事をとりに来ていた女子生徒達が全員黙ってこちらを見ている。

 

ほら、はよ言えや。

 

会長と風見野君って確かに仲良しだよね。

 

言わんと男じゃねぇぞ。

 

待てよ、ソルさんが風見野君にそう聞くって事は、まさかの三角関係!?

 

男見せたれや。

 

女の子だしね、やっぱりそういった話題は気になるよね。

 

様々な思惑が交差する食堂の中、冷や汗をかきながら、何かこの状況から逃げれないかと考える。

 

「どうだ、薪?どうなんだ?」

 

「あのなぁ、ソル、お前も女の子なのは分かるが人の恋愛事情をそう・・・

 

「いいじゃないか、私と君の仲だ、前にも楯無を称賛したが楯無にはあの時言った事以外にもまだ沢山の素晴らしい所があるぞ」

 

「まだ出会って、一ヶ月だぞ、そういった判断は全然・・・」

 

「愛に時間は関係ないさ、それに転校してきて真っ先にに声をかけてくれたんだろう、楯無は?なんだか運命を感じないか?」

 

「・・・・」

 

ドイツ人だろ!情熱のイタリア人男性かお前は!

 

ソルのグイグイと来る、質問に中々言い出せないでいると早くもソルが諦めてくれた。

 

「ふむ、そうか、言えないか」

 

「突然過ぎんだよ」

 

「そうだな、やっぱりこういう話しは・・・」

 

ソルの目がキラリと光る。

 

「学校行事で外での宿泊をした時とかだな!」

 

「・・・・」

 

外に泊まると寝れないからテンション上がって、ベッドに潜ってよく恋話に発展するあるある。

 

もうコイツ本当にドイツ人なのだろうか?

 

突然過ぎた恋話も終わり、回りの目線も散っていく、早くアラームがならないかと手元のブザーを見ていると、再びソルが話しかけてくる。

 

「そうだ、薪互いに頑張ろうな」

 

「え、なにが?」

 

「何って、見ていないのか、対戦表?」

 

対戦表なんていつの間に張り出されていたのだろう、全然確認してなかった。

 

「すまん見てない、初戦は誰と誰がやるんだ?出来ればもう楯無と当たるのは勘弁・・・

 

ソルがこっちに指を指している。

 

「えっと・・・まさか・・・」

 

嫌な予感がする。

 

「君と私だ、お手柔らかに頼むよ、薪」

 

「・・・・」

 

ピー、ピーと料理が出来た合図のアラームが俺の手元で鳴り響く。

 

何だって俺は、こんなにも国家代表と初戦で当たるんだよ!!

 

俺の心の叫びは意味もなく、ただ料理を早く取りに来いとブザーに急かされ続けるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薪。遺書は書いたか?」

 

「ああ」

 

「ハンカチ持ったか?」

 

「もちろんだ、歯磨いてきた」

 

「よし、上出来だ」

 

「姉さんも薪さんもバカみたいな事いったないで、早くスタンバイして下さい」

 

リーグ・マッチ当日、ピット内にて、もはや初戦敗退を悟った俺と朱理はもはや意味のわからない事を言っている。

 

そこで、ピット内に入ってくる、人影が一つ。

 

「そうよ、薪君、ボロ負けしたら、お仕置きなんだから」

 

「楯無・・・」

 

入ってきたのはISスーツを着た楯無だった。

 

「わかってるよ、無惨な姿はさらさない、俺が諦めの悪い奴ってのはお前が一番知ってるだろ」

 

「そうね、薪君の粘着質な戦い方は嫌でもわかっるわ」

 

「粘着質・・・」

 

酷いいいようだ。

 

「まあ、いい、お前と戦ってから少しは俺も成長してるはずだ、ドイツの国家代表にどれほど通用するか試してくる」

 

「それでこそ、薪君ね!」

 

そういって、手に持っていた扇子を広げる楯無。その扇子には挑戦の二文字。

 

「よし・・・行くぞ、オール・フォー・ワン!」

 

利き腕の右手に付いているミサンガを前に突き出し、ISを展開する。

 

一瞬、体に電気が走る感覚がした後にはISを装着した状態になっていた。

 

 

 

そこに―――灰があった。

 

 

 

「ん?薪君のISのカラーリングが変わってる」

 

「いい加減にカラフルな色合いは目だち過ぎるからな」

 

今まではパーツ元々のカラーリングを使用していたが、朱理にお願いして色を変えてもらった。

 

今のオール・フォー・ワンのカラーリングはメインカラーはグレーになっている。

 

「追加スラスターも付けて新しくなったオール・フォー・ワンだ、どこまで出来るかは俺にもわからん」

 

「そう、じゃあ、期待してるわよ、薪君」

 

「まかせろ」

 

ISを発進させる為、ピット内にある滑走路に足を添える。

 

「システム・オールグリーン。いつでもいけます、薪さん」

 

「よっしゃ!行ってこい!薪!」

 

親指を立てる二人。

 

楯無の方を見ると、楯無も親指を立ている

 

「ああ、行ってくる!」

 

俺も親指を立て、飛行を開始する。

 

そして、アリーナに飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気をつけてね、薪君」

 

ピットに残った楯無が呟く。

 

「ソルの機体はただの第三世代機じゃあないわ」

 

遠くに見える、薪の背を見る。

 

「あの機体は第三世代機の中でも、希少な・・・単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)が使える機体なのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ中央にソルの姿が見える。俺はソルの前に降り立ち、正面から対峙する。

 

「ソル、待たせたな」

 

「ああ、来たか、薪」

 

挨拶をしながらソルの機体をまじまじと見る。

 

黒いソルの機体、両肩にセットされている、二門の大型レールガンと腰とリアアーマーにあるワイヤーブレイド、そして手首のプラズマ手刀。

 

そして、第三世代機特有のイメージインターフェースの、AICによる敵機の足留めか・・・

 

楯無の時とは違い今度は情報的に有利がある、一緒に練習もしたし。一度だけ助けてもらった時だがAICによる一瞬の機体停止も肌で感じている。

 

だが・・・楯無のようにソルも本気なんてそうそう見せてはくれないだろう。

 

まだ、ソルの底はこんなもんじゃないか。

 

そんな風に、ソルの機体を観察していると、ソルが顔を少し赤くしながら手で胸を隠すようにする。

 

「薪、その、そんなにジロジロ見られては・・・恥ずかしいのだが」

 

「違う、お前は見てない、機体を見てただけだ」

 

「そうか・・・いや、それはそれでショックだな」

 

少し、ションボリとしたソルを見た後、回りを見渡す。

 

「しかし、すげぇな、客席」

 

「ん?ああ、あの子達か・・・」

 

客席の一角をソルファンクラブの子達がひしめいている。垂れ幕や旗などを振っていて、時折、「ソル様ー!」なんてのも聞こえる。

 

「なんだか、アウェイ感出てきた」

 

「そういうな、薪、皆いい子ばかりなんだ。なんならあの子達に薪の応援でもさせようか?」

 

「遠慮しとくわ」

 

ソルと軽い会話をしている時にふと隣にあるアリーナを見て思い出した。

 

そいや、ここは第三アリーナだったけか、一夏達、一年生は第二アリーナでの戦いか、一夏・・・結局、あの酢豚の子とどうしたんだろ。

 

「薪、そろそろ始めるぞ」

 

「ん?ああ」

 

一夏の心配をする前に自分の心配だな。一夏・・・お前も頑張れよ。

 

思考を振り払い、目の前のソルを見据える。

 

静まりかえるアリーナ。

 

3・・・

 

2・・・

 

1・・・

 

 

 

試合開始ッ!――

 

 

 

その合図と共に俺は手元にバズーカを取り出した。

 

「ッ最初に!」

 

肩に担ぎ、そのままソルの足元を撃つ。

 

「この距離はちょっと遠すぎだな、薪」

 

そのまま、フワリとPICを使って浮遊するソル・・・だが。

 

地面に着弾と同時にボフンと辺りが煙で覆われる。

 

「ッ!?」

 

「読みが外れたな、ソル。このバズーカは弾の種類が選べる、マルチプル・バズーカなんだ」

 

「ふふ・・・楯無との戦いで味を占めたか薪?」

 

「そう思うなら、そこにいてくれ!」

 

続けて、バズーカを撃ち込もうとする。

 

「・・・煙、マルチプル・バズーカ・・・ッ!、そういう事か!」

 

発射と同時に、ソルが煙から抜けだす。

 

その瞬間――

 

大爆発!!

 

ソルが先ほどまでいた場所は大穴が空きそこからは黒煙が立ち上っていた。

 

ソルが出てきた先にブーストを吹かせて飛ぶ。体勢を立て直される前に叩き込む!

 

「くっ・・・今のは危なかった。粉塵爆発のつもりか?、いや、匂いからして化学物質が気化したものか・・・まさか、楯無を模倣していたとは」

 

「そういった所だっ!!」

 

打鉄のブレードを使った斬撃。

 

しかし、ソルはものともせず、プラズマ手刀でいなしていく。

 

「やはり、君は面白い人間だよ、薪、興味を持った甲斐があったと言うものだ!」

 

「ッく!?」

 

武器(エモノ)の重量を物ともせず、打ち込んでくるソル。

 

風見野 薪 700→670

 

やっぱり、近接戦闘になるとインファイトしてくるか。こうなると刀身が大きいブレードを持つ俺の方が不利か。

 

少し間を開けて・・・そこからッ!

 

ブレードを大きく振り払い間合いをあけ、再び迫ろうとした時。

 

「なっ!?」

 

そこにソルがいなかった。

 

[ここだよ、薪]

 

いつの間にかソルは俺から大きく距離を取り、アリーナの端まで移動していた。

 

「まさか、間合いを開けた時に瞬時加速で!」

 

[瞬時加速はなにも攻めるだけの為にある物じゃない、こうやって相手との距離を広げる為にだって使えるのさ]

 

ISのコア・ネットワークを通じてプライベート・チャンネルで話しかけて来るソルを見る。

 

「なら!こっちは距離を詰めるだけだ!」

 

カスタム・ウイングが大きく開き、エネルギーを出した後、それを吸い込み、爆発的な加速を産み出そうとする。

 

瞬時加っ・・・

 

[させないよ]

 

「ぐっ!?」

 

ガクンと一瞬、体が止まる。

 

クソっ!AICか!

 

体勢を立て直し正面を見た時には遅かった。

 

「ガッ!?」

 

体に何かが当たった衝撃、グルグルと回る視界を元に戻しすぐに横に加速する。

 

ヒュンと何かが体を掠める音がした。

 

今のは・・・大型レールガンか!

 

ソルを見ると両肩にある大型レールガンが二門ともこちらを捉えてた。

 

[今のシュヴァルツアシリーズに採用されているレールカノンよりかは低火力だが、私としてはこちらの方が使いやすい。弾速も早いし、リロードも早いからな]

 

「その機体、ロングレンジ機体か・・・」

 

[・・・まあ、そう思ってくれて構わん]

 

AICとレールガンによる確実な狙撃か・・・さっきの直撃でまたシールドエネルギーが削られちまった。

 

風見野 薪 670→590

 

瞬時加速によるショートカットはさせてくれないか。上手く、防いで行くしかない。

 

そう思って、再びソルに迫る。

 

[さて、どうする、薪?]

 

右手を突き出す、ソル。

 

来る!

 

機体を横にずらすが、再び捕らえられてしまう。

 

一瞬だけ止まる俺のIS。だが、さっきもやられた通り確実にソルはこの一瞬を当ててくる。

 

なら、当てられるなら・・・

 

二門のレールガンが火を吹く。

 

「おらっ!!」

 

俺は機体をAICの拘束が解けた瞬間、直ぐに機体の左肩を前にする。

 

「くっ・・・よし」

 

着弾、しかし俺のISの左肩パーツはここだけ打鉄の肩部シールドがついたパーツだ。

 

なんとかシールドで防ぐ事ができた。

 

[当たったそばから再生すると言われている、打鉄の肩部シールドか、上手く防いだものだ、なら・・・今度はどうする?]

 

今度は、腰とリアアーマーから出されるワイヤーブレードが襲いかかってきた。

 

「ああ、もう!!」

 

様々な角度から襲いかかってくるワイヤーブレード、俺は直ぐに追加スラスターをフル活用して、避け始める。

 

[ふふ、よく、避けるじゃないか薪]

 

「クソ、遊びやがって!」

 

[さあ、どうする、薪?]

 

再び右手が前に突き出される。

 

「こんのっ!」

 

一瞬だけ停止させられる、機体。そこにレールガンとワイヤーブレードが襲いかかる。

 

「―――ッ!」

 

どうすれば全て防げるか、どうすれば反撃出来るか、その選択に頭が奪われる。

 

着弾―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に無理があったか・・・意地悪し過ぎたかもしれん」

 

ふぅ、とため息をつく。

 

「しかし、レールガンが当たった時の煙でなにも見えなくなってしまったな、大丈夫だろうか薪・・・」

 

ん、煙?いや、煙なんてあんなに立たないだろ普通・・・

 

その発想になった時には遅かった。

 

「ッ!?」

 

突如として体を襲う衝撃、確かに右肩を撃ち抜かれていた。

 

ソル・エンゲルベルト 650→590

 

「なッ・・・!?」

 

「・・・ようやく、一発入れ込んだぞ。ウェルキンにしごかれた成果だ」

 

「煙からのマークスマン・ライフルによる狙撃か・・・」

 

煙の中から薪は狙撃してきたのだ、こちらの場所を頼りにハイパーセンサーの補助を受けずに。

 

「煙は・・・そうか、レールガンは肩で受け止めて、迫る、ワイヤーブレードにバズーカを当てて自分の回りに煙を撒いたか・・・空中でよくそんな事を思い付くものだ」

 

「おかげで、ワイヤーブレードはモロに受けちまったけどな」

 

風見野 薪 590→500

 

「ふふ、流石だ薪・・・やっぱり君は凄い」

 

これは―――あれ(・・)を使ってもいいかもしれん。

 

「よし!薪来い!君に国家代表の持つISの力をみせてやる!」

 

「AICにレールガンにワイヤーブレード・・・こんどはなんだ?」

 

私は右手を真上に掲げる。

 

「君に黒い嵐(シュヴァルツア・シュトゥルム)を見せてあげよう!」

 

そうして私があれ(・・)を使おうとした時。

 

 

 

空から光の柱が私を襲った―――

 

 

 

 




見せんのかい!

頑張れー、薪、次はゴーレム戦だぞ


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終幕(エンド・ロール)

 

「ッ!?ソル!!」

 

突如として空から放たれたその閃光はソルを直撃した。

 

煙を上げながらこちらへと落ちてくるソルを受け止め、即座に距離をとる。

 

すると、二撃目の閃光が今俺がいた場所を撃ち抜いていく。

 

「ソル!大丈夫か!?」

 

「ッ・・・すまない、薪、不覚をとった・・・」

 

ソルを抱き抱えて、空を見上げる。

 

そこにいたのは異様な形の暗いグレーの色をしたISだった。

 

全身装甲(フルスキン)体で胴体と頭は完全にくっついている、頭からは二本のコードのようなものが後ろへと伸びていて、その腕は足元まで伸びた長い腕だった。

 

「くッ・・・パージ・・・」

 

ソルが使えなくなった、ISの右カスタム・ウイングと右のアーム、そして右のレッグを空中へと外す。

 

「薪・・・私の腕と足はついているか?ほとんど感覚がないんだ・・・」

 

「・・・ああ、大丈夫だ、しっかり五体満足だよ・・・」

 

空からの閃光を浴びたソルの右手と右足の皮膚は赤く焼けただれていて、見ただけで痛々しいものだった、正直見るも堪えないような状態だ。

 

「ッ!ハァ、ハァ・・・」

 

ソルの顔が悲痛に歪む。大量の汗を浮かべながら、無事な左手で俺の背中を掴んでいる。

 

「ソル・・・大丈夫だ、しっかりしろ!」

 

ISの絶対防御を貫通して操縦者にダメージが入ったか・・・アリーナの観客席を守る為のシールドも絶対防御と同じような仕組みになっているはずだが、それを両方とも撃ち抜く火力・・・レーザーじゃなく、もう、ビームの類いか。

 

上空からゆっくりと降りてくる異形のIS、俺と同じ高度まで降りてくると、両手をこちらに向けてくる。

 

やっばっ!!

 

ソルを抱きしめ、回避行動を取る。

 

そのISの手のひらが一瞬光ったと思うと強烈な熱線が、さっきまでいた場所を通る。

 

あの、ビーム。両手から撃てるのか、いくらなんでも高火力過ぎんだろ。

 

そこで、王先生からの通信が入ってきた。

 

[風見野君!、ソルちゃん!大丈夫です!?]

 

「王先生!、俺は無事ですけど、ソルが怪我をしています、というかあのISは一体・・・」

 

[ソイツの正体はわかりません!今第二、第三アリーナにソイツと同じISが出現しています!とにかく風見野君達は今直ぐその場所から逃げて下さいです、直ぐに先生達が鎮圧に向かいます!]

 

「了解!」

 

一夏達がいるアリーナにもいるのか・・・だが、今は後輩達の心配もしてられない、ソルもこんな状態なら今はとにかく逃げるしかない!

 

ソルをしっかりと抱きしめて、ブースターを吹かし、敵を見失わないようバックで加速しながらピットへと逃げようとするが。

 

「なっ、閉まってる!?」

 

こんな非常事態にも関わらず、逃げる先のピットの入り口が開いていなかった。

 

そして・・・

 

あの異形のISの両手が再びこちらに向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ピット内―

 

「ちょっと!なんでアリーナに出れないの!?」

 

外の爆発音を聞きながら、アリーナへの入り口に楯無が叫んでいた。

 

その横で藍理がパソコンのキーボードを高速で叩きながら荒んだ声で説明する。

 

「今、謎のハッキングを受けていて!アリーナのシールドレベルがレベル4まで引き上げられているんです!こちらがアリーナに出撃することはおろか、薪さん達がピット内に入る事すら不可能になっています!」

 

「まさか、あのISがこんな事を!?」

 

「わかりません!今なんとか解除しようとは試みていますが・・・」

 

「解除なんて待ってられないわ!」

 

そう言って、楯無はISを展開し、ランスを大きく構える。

 

「ミストルティンの槍ならッ!」

 

「うぁ!?バカバカバカ!止めろ!ピットごと吹き飛ばすつもりか!!」

 

楯無が行おうとした行動を朱理が止めにかかる。

 

「んな事言っている場合!?薪君とソルの命がかかってるのよ!!」

 

「ミストルティンの槍は自爆技に近いものだろ!!こんな狭所で使って見ろ!私達を吹き飛ばす所か、ダメージを負った状態で戦っても返り討ちに逢うだけだぞ!!」

 

「くッ・・・」

 

楯無は構えていたランスをおろす。

 

「・・・藍理!どれくらいかかるの!」

 

「10・・・いえ、5分もあれば!」

 

「2分でやりなさい!!」

 

「無茶言わないで下さいッ!・・・いったい誰がこんなプロテクトを・・・」

 

藍理の高速のブラインドタッチを見てから、再びアリーナへと顔を向ける、楯無。

 

「ッ・・・薪君・・・」

 

楯無の目には正体不明のISの熱線をかわす、薪の姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ックソ!・・・」

 

立て続けに撃ってくる熱線をなんとかよける。

 

「薪・・・」

 

「なんだ、ソル!?」

 

抱えていた、ソルが痛みを堪えながら、俺に向かって話してくる。

 

「私を置いて、早く逃げろ・・・」

 

「悪いが、逃げ道がないもんなんでな、それにお前を置いていけるかよ」

 

「ッ・・・フフッ・・・君は強情な奴だな・・・」

 

痛みが体をかける中、それでも笑みを絶やさないソル。

 

「好きに言ってろ、ッ!?また!!」

 

再びの熱線、回避する事に成功するが今度は足元を掠める。

 

異形のISとの距離をとりながら考える。

 

ソルにああは言ったが、どっちにしろジリ貧だ・・・ソルを抱えたまま、いつまで持つか・・・

 

どうすればこの状況を打開策出来るかを考えているとソルがこちらの背中を強く握りしめてくる。

 

「薪・・・一つ案がある・・・」

 

「なんだ!、お前を置いていくのは無しだからな!」

 

「フフッ・・・大丈夫だ・・・それは薪の頑張り次第だがな・・・」

 

「・・・なんとかなんのか、この状況」

 

「ああ・・・私のISの、単一仕様能力を使う・・・」

 

「単一仕様能力?」

 

単一仕様能力、それはそれぞれのISが持つ特殊能力のようなものだ、基本的にどれも強力な能力ばかりだが、それを習得するためには、ISとその操縦者の相性が最高の状態になった時に起こる二次移行(セカンドシフト)をへて会得出来るものだ。だが、場合によってはそれでも会得しない時もあり希少なものだが、ソルはそれを会得してるのか。

 

「どうするんだ?」

 

「まず、この状態では単一仕様能力は使えない、一度私を地面に下ろせ」

 

「なっ・・・んな事したら!!」

 

「そこは、薪がなんとか注意を惹き付けてくれ・・・そして、私の単一仕様能力で敵の隙を作る、その後は・・・」

 

「・・・その後は?」

 

「薪、君が奴を倒すんだ・・・」

 

ソルから言われたその言葉に思わず、顔を見る。

 

「無茶いうな!あんな奴倒せるわけ・・・」

 

「薪、私の目を見ろ・・・」

 

グイっと寄せられ、額が当たる。

 

「大丈夫、薪なら出来るさ・・・」

 

痛みに堪えながらもめいいっぱいの笑みを浮かべる、ソル。

 

「・・・全く、お前は簡単に言ってくれるな」

 

前に指導してくれた時にも言われた言葉だ。

 

その笑顔を見て、決心がついた。

 

「わかった、やって見よう」

 

「フッ・・・それでこそ薪だ・・・」

 

一度急降下し、ソルを地面へと下ろす。

 

そして、異形のISの元へ飛翔する。

 

接近してくる事に気づいたのか、こちらに熱線を放ってくる。

 

「くッ・・・」

 

バレルロールでの回避、楯無の戦いの時とは違い、スラスターを吹かして、速度を落とさないように移動する。

 

「俺を見ろ!」

 

右手にバズーカ、左手にマークスマンライフルを持ち、その両方を撃つ。

 

二発、三発と続けて、撃っていくが敵は綺麗に回避して当たらない。

 

だが、これで俺に注意は向いている。

 

射撃による、攻撃は効果が薄い。それに、あのビームの射程内に居続けるのはまずい。

 

カスタム・ウイングのブースターを最大限まで上げ、更に加速する。

 

近接戦闘に持ち込むしかない!

 

両手にあった武器の残弾が切れたのを確認したら、それらを仕舞って、ブレードを展開する。

 

「オラッ!」

 

加速が十分に乗った重い一撃。

 

だが、それを物ともせず、そのISは片腕を使って受け止める。

 

「くっ、なんつぅ馬鹿力なんだよ・・・」

 

ギチギチと音を立てて、つばぜり合いを行う。

 

少しでも力を抜いたら弾かれそうだ。

 

攻めきれない・・・

 

そう思っていると、そのISの残ったもう一つの手がゆっくりと動いているのが視界の端に映った。

 

「やっば!?」

 

足を上げてその手を蹴りあげる。

 

その直後、その手のひらから空へと向かって熱線が放たれる。

 

今のは危なかった・・・

 

安堵したのもつかの間、体勢を崩してしまったこちらに、拳が飛んできた。

 

「がっ!?」

 

風見野 薪 500→470

 

視界が暗転しそうな中、食い縛り、なんとか距離を離されないように食いつく。

 

「なめるな!!」

 

今度は右からの斬撃、それもそのISは片腕で軽々しく受け止める。

 

そして、逆の手が迫ってくる。

 

だが。

 

「フッ!」

 

そのISから見たら、俺は一瞬で目の前から消えたと思われるだろう。

 

異形のISは俺の事を一瞬見失った。

 

追加スラスターをフル活用しインファイト状態のまま、敵の側面に回りこんだ。

 

「これでも!食らえ!」

 

手元に呼び出したのは対IS用手榴弾。

 

その持ち手を持ち、異形のISの頭部を横から殴りつける。

 

体勢を大きい崩した、IS。

 

そして、その場所から離脱しながら手を離した手榴弾に向かって、サブマシンガンの弾をばらまいた。

 

爆発する、異形のIS。

 

「流石に、なにか応えてくれないと困るんだが」

 

少し距離をとり、頭から煙をあげる、ISを見る。

 

空中で姿勢を立て直した、異形のISがゆっくりとこちらを見る。

 

「なっ・・・」

 

その爆発した頭部を見て驚いた。

 

何せ、本来、人の頭部があるはずのその場所は、機械だったからだ。

 

「無人機・・・なのか・・・?」

 

ISに無人機と言うのは存在しない、以前楯無の座学中に教えてもらった事がある。

 

ISは本来、人がいなければ起動しないもの、なので機械だけでISを動かす事は不可能。

 

何人もの科学者達がこれに挑戦したが、成果は一度たりとも上がっていない。

 

そう楯無から教わった。

 

目の前の光景に驚きつつ、そのISが放ってきた熱線をよける。

 

その時、俺はあの武器の事を思い出していた。

 

無人機なら・・・あれを使っても、心配ない!

 

二発、三発と放たれる、熱線を回避し、地上にいるソルを見る。

 

「ソル!、準備は出来たか!?」

 

アリーナの壁に手をつき、ヨロヨロと立ち上がるソル。

 

[・・・ああ、これくらいあれば隙くらいは作れるだろう・・・]

 

ソルの周り。

 

そこには、無数の黒い鱗のようなものが浮かんでいた。

 

その数、50個。

 

「こんな形で薪に見せるつもりなどはなかったのだがな・・・右手と右足のお返しだ・・・受けとれ・・・シュトゥルム!!」

 

ソルが怪我をした右手を掲げた後、その手を振り下ろす。

 

その合図と共に50個にもおよぶ、黒い鱗が一斉に射出された。

 

発射された、黒い鱗は弧を描がき、高速で異形のISへと突進していく。

 

それに気づいた異形のISはブーストを吹かして回避するが、黒い鱗は全て追尾するように接近していく。

 

「あれ・・・全部、追尾ミサイルかよ!!」

 

50個にも及ぶ追尾ミサイル、それが一斉に向かってくるのだ。

 

俺なら避けきれる自信など一切湧かない。

 

もちろん、その異形のISを例外ではなく。

 

右足・・・

 

左手・・・

 

背中・・・

 

胴体・・・

 

一発つづ徐々に数を増やしていきながら、被弾していく数は増していく。

 

そして。

 

運悪く、ブースターの所に当たったのが運の付きか・・・死肉に食らいつくハイエナ達のように体勢を崩した異形のISに残りの追尾ミサイルが全て被弾した。

 

「・・・・すげぇ」

 

モクモクと煙を上げる、異形のIS。

 

だが、まだ空中に浮いている。

 

無事な左腕を残し、それ以外は火花を散らしながらなんとか宙に浮いているような状態だ。

 

ギギッとぎこちなく左腕を上げ、追尾ミサイルを放ったソルに向かってなんとか標準をあわせて熱線を撃とうとしている。

 

「させるか!!」

 

ソルが作ったこのチャンス、無駄にはしない!

 

朱理が言った事を思い出す。

 

「安全性ど外視の出力を持っているが為、公式戦で使うような物だったら。まず、相手はミンチより酷い状態になる。そして、オール・フォー・ワンは半壊して、最悪、薪の左腕はふっ飛ぶ・・・」

 

それでも、アイツを倒せるのならッ!

 

俺は目に映るのモニターの武器スロットの中にある一番下の武器を選択した。

 

 

 

―OSW「エンド・ロール」起動ッ!―

 

 

 

武器の起動と共に左翼のカスタム・ウイングが左腕へと移動し接続される。

 

そして、バーニア口が4つに分かれ、それぞれが少し後ろに下がったと思うと赤く熱を帯ながら、高速で回転し始める。

 

画面上に映る大量のエラーコードを無視して、異形のISに標準を合わせる。

 

「このままッ!!」

 

残ったテンペストのカスタム・ウイングのブースターを吹かし、ボロボロになった異形のISに急速接近する。

 

こちらの接近に気づいたのか、ソルに向けていた左腕の銃口をこっちに向けてくる。

 

まずい!直撃・・・いや、このまま、ぶち抜く!!

 

放たれる、熱線。

 

それを真っ正面からOSWで貫く。

 

「くッ!!」

 

衝撃、そして激しい閃光、この世のものとは思えない音をたてながら当たる。

 

・・・これはエンド・ロールの音か?

 

耳をつんざくような音を立てながら赤い電撃、熱もはやそれすらもわからない高エネルギーを撒き散らしながら凄まじい火力で熱線を弾いていく。

 

風見野 薪 470→390→310→230

 

エンド・ロールそのものの攻撃の余波をモロにうけ、こちらのシールドエネルギーが削れていく。

 

左腕の骨か軋む、オール・フォー・ワンと俺自身の身体全体が悲鳴を上げている。

 

踏ん張れ、俺ッ!!

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

異形のISにビームの剣の先端が刺さる。

 

 

 

そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛みで目を覚ます。

 

「・・・・ベッド?」

 

アリーナに居た筈なのに・・・

 

ボーっとする頭を抱えながら起き上がる。

 

「ここは・・・保健室か・・・」

 

薬品の匂い、区切りをつけるように遮られたカーテン。

 

この場所にいるという事で、終わったという事実と安堵感と疲れがどっと押し寄せてくる。

 

確かソルとの戦いの時に、正体不明のISが襲ってきてそれで・・・

 

上手く回らない頭を整理しながら、少しずつ思い出していく。

 

気絶したのか俺・・・

 

頭を抱えていた左腕を見ると腕全体にいつの間にか巻かれていた包帯が目に入った。

 

腕は吹っ飛ばずにすんだか・・・良かった・・・

 

再びの安堵感を噛みしめながら、ベッドへと身体を落とす。

 

すると左隣に誰かがいる影を見つけた。

 

その影もこちらの気配に気づいたようで、ゆっくりと動く。

 

「薪か?・・・」

 

「!・・・ソル」

 

遮られたカーテンを開けるとそこにはベッドに座っているソルがいた。

 

「無事だったのか、ソル」

 

「ああ、薪のおかげでな」

 

夕日に照らされたソルがゆっくりと身動ぎするとその右うで全体に包帯が巻かれているのが見える。

 

「ソル・・・その腕・・・」

 

「ん?ああ、少々派手な火傷だが心配するなじきにな治るさ」

 

異形のISの放った熱線によって焼かれたソルの右腕と右足、その巻かれた包帯を痛々しく思っているとソルのいる方の窓から誰かが入ってくる。

 

「ヤッホー、薪君、ソル。無事みたいね」

 

窓から入って来たのは楯無だった。

 

「おい、楯無、何だって窓から入ってくるんだよ」

 

「だって、保健室の入り口にはソルファンクラブの皆や一夏君を心配して押し寄せてきた女子生徒で一杯だもの、今は保健室の先生が食い止めているけど、入れないったらありゃしない」

 

だからと言って随分、簡単に窓から入ってきたな、ここ二階だぞ。

 

「って、一夏も怪我したのか!?」

 

「ええ、多分前のベッドに・・・」

 

楯無がカーテンを締め切られている開けようとした時、バーンッ!と保健室のドアが思いっきり開け放たれる音が聞こえる。

 

「一夏さん、具合はいかがですか?わたくしが看護に来て・・・あら?」

 

声からしておそらくセシリアが保健室に入ってきたらしいが、様子がおかしい。

 

「どうしてあなたが?一夏さんは一組の人間、二組の人にお見舞いされる筋合いはなくってよ」

 

「何言ってんの?あたしは幼なじみだからいいに決まってるでしょ。あんたこそただの他人じゃん」

 

「わ、わたくしはクラスメイトだからいいんです!それに、今は一夏さんの特別コーチでしてよ!」

 

セシリアの他に聞きなれない声が聞こえる、箒では無い、ならば例の酢豚の子か・・・

 

「取り込み中みたいだしやめときましょ」

 

「だな、開けないほうがいい」

 

触らぬ神になんとやら、後輩達の騒ぎを耳にしつつ楯無がソルのベッドに座る。

 

「とりあえず、状況報告するわ」

 

「ああ、頼む、私達が寝てる間にどうなった?」

 

「まず、あのISだけど完全な無人機だったわ、一夏君達、一年生の機体の方は上半身と下半身を真っ二つにされて機能停止。薪君とソルが戦った機体は木っ端微塵所か跡形もなく消えたわ」

 

「え、そんな凄い攻撃だったの?」

 

「使った本人がそんな事言わないで頂戴・・・エンド・ロールでの攻撃の余波はアリーナの地面を半分消し飛ばす破壊力だったのよ、今後の使用は禁止ね」

 

なんと・・・とんでもない武器を使ってしまったものだ。

 

内心冷や汗をかきつつ、人的被害が出てない事に安堵する。

 

「楯無、あのISは誰の差し金だ?あんなフォルムと武器、各国の技術ではまだ作れそうもないが・・・」

 

「ソル・・・ごめんなさい、それは未だにわからないの。藍理達、システムエンジニア科の子達が総動員しても逆探知も出来なかったわ」

 

「そうか・・・」

 

「でも、二人とも無事でよかったわ」

 

「無事か・・・随分と派手にやられたがな・・・」

 

包帯の巻かれた手に目を落とすソル。

 

その姿を見て、俺はなんとかソルを励まそうとする。

 

「あー・・・ソル。右手と右足は気の毒だが・・・それでも、今の医学だったら動かせる程度には回復させることが出来るだろ?俺も付き合うからリハビリを一緒に頑張ろう」

 

「・・・・薪」

 

俺の言葉を聞いてキョトンとした顔をするソル、そしてすぐに申し訳なさそうな顔になる。

 

「いや、さっきも言ったが直ぐに治る」

 

「え?」

 

「ナノマシン治療というものがあってな、これくらいの火傷でも、まあ、二週間もあれば元通りになるさ」

 

「まじ?」

 

「ああ、まじだ」

 

「・・・・」

 

えぇ・・・

 

俺の知ってる現代医学と違う・・・

 

「なんだよ、心配して損したじゃねぇか」

 

「そうか、心配してくれていたのか・・・それは、それで嬉しいぞ」

 

少し顔を赤らめるソル。

 

全く、ナノマシン治療ってある程度傷なら直ぐに治せんのかい。

 

はぁ・・・とベッドに横たわり保健室の天井を見つめる。

 

「なぁ・・・楯無・・・」

 

「なに、薪君?」

 

「今回みたいな事・・・また、起きるのか?」

 

「・・・・」

 

楯無が一度黙り、真剣な顔になる。

 

「可能性はゼロじゃないわ」

 

「今度あったら、今回以上にヤバい事になるのか」

 

「恐らくね、数が増えるかもしれないし、敵そのものが強くなるかもしれない。もしくは・・・その両方かもしれないわ」

 

「・・・俺は・・・どうしたらいい?」

 

楯無が力強く言う。

 

 

 

「強くなりなさい、薪君。今よりも・・・ずっと、ずっと強く」

 

 

 

楯無の言葉が心に響く。

 

強くか・・・

 

気だるげな身体を起こし、楯無とソルを見る。

 

「楯無、ソル、俺は強くなりたい・・・だけど、俺一人じゃ無理だ。だから手を貸してくれ、頼む」

 

「私は構わないさ、というか薪には助けられたからね、よろこんで手を貸そう」

 

「私は元から薪君の専属コーチみたいなものだし?今さらよ薪君」

 

二人して承諾してくれた。

 

弱い自分だが、こうして誰かが引っ張ってくれるととても嬉しい。

 

「よし、ならまずはこの傷を治さないとな」

 

左腕を出しそれを楯無とソルに見せる。

 

「ナノマシン治療って俺も受けれるんだろ?この腕、ソルほどは酷い傷は負ってないはずだから、早く治んだろ?」

 

「たしかに、それくらいだったら1週間も経たずに完治するが・・・いいのか?」

 

「ああ、痛いのは我慢する」

 

男に二言は無い。

 

張り切っている俺を見て、ソルは笑う。

 

「そうか、そうか、わかった。なら・・・楯無、出番だぞ」

 

「ええ、そうみたいね!」

 

「え?」

 

横を見るといつの間にやらナース服に着替えていた楯無が立っていた。

 

そして、その手元にはマンガにでてくるようなデッカイ注射器があった。

 

「・・・いや、その・・・楯無・・・さん?」

 

「ほら、治したいなら早くケツを出しなさい!」

 

「えぇ!?痔薬的なノリなの!?」

 

「直腸から入れ込んだ方が一番効果的なのよ!」

 

「いやいやいや!ちょ!バカ!ズボンを下ろそうとするな!」

 

「もう!早く楽になった方が身の為よ!」

 

「ちょ、ちょっと!怪我人だぞ!パンチは無しだって!パンチは・・・あ、ちょ!?」

 

 

 

 

 

 

イヤーーーッ!

 

 

 

 

 

 

保健室にてなんとも情けない男の声が響いたと言う。

 

 




とりあえず、リーグ・マッチ編はこれにて終了です。

この後は日常パートを挟んだ後、タッグ・マッチ編になります。

さて、組む相手は誰でしょう?


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戯れ 二章
凰 鈴音という少女


リーグ・マッチ襲撃事件から数日、あの戦いも嘘であったかのようにいつものIS学園の日々が続いている。

 

そんな平和な学園の中で・・・

 

視線を感じる。

 

昼休みも終盤、楯無と廊下を歩いていると、後ろから視線を感じた。

 

「?」

 

振り向いて見ると、誰もいない。

 

「どうたの、薪君?」

 

「いや、なんか誰かに見られてる気がしてな」

 

「ああ、さっきから私達の事つけてる子?」

 

「え、わかってたの?」

 

流石は楯無、凡人の俺には気づかない事を当たり前のように気づいているな。

 

「まあ、バレバレだからね、ほら、あそこ」

 

「ん?ああ、あれか・・・」

 

楯無が指を指した方を見ると、廊下の通路の先の曲がり角からツインテールとおぼしき髪が片方だけ出ているのが見えた。

 

隠れているつもりなのかはわからないが、あれでは頭隠して尻隠さずと言った所になっている。

 

「なんだあれ・・・」

 

「あの子よ、あの子。酢豚の子よ」

 

「ああ、酢豚の・・・」

 

酢豚の子。以前一夏からの相談で出てきた、お味噌汁を毎日作って上げるではなく、酢豚を毎日作って上げると過去に一夏と約束をした少女の愛称である。

 

「中国の代表候補生 凰 鈴音。わずか一年間で、ゼロから代表候補生の座まで上りつめた、中国の期待のエースと言った所かしら」

 

「凰 鈴音ねぇ・・・そんな子が何だって俺達を?」

 

「多分、薪君を追ってきてるんじゃない?」

 

「えぇ?何だってまた」

 

中国の代表候補生にケンカなんか売った覚えなんてないぞ、一夏じゃあるまいし。

 

「聞いて見ればいいんじゃない?」

 

「近づいただけで、今にも逃げ出しそうな奴にか?」

 

廊下の角の端からでているツインテールはピクピクと触角のように動いている、近づいたら確実に逃げるな。

 

「じゃあ、待ち伏せすればいいじゃない」

 

「待ち伏せってどこで・・・ッ!?ちょッおい!」

 

楯無にガシッと手首を捕まれ、引っ張られる。

 

廊下の曲がり角を曲がり、そのまま近くにあった、掃除用ロッカーの中に引きずり込まれる。

 

密閉された真っ暗な空間、楯無を前にして背中に箒や塵取りの感触を感じ、僅かな隙間から外を見ることが出来る。

 

「ここなら、バレないわよ」

 

「・・・・」

 

いや・・・狭い!ロッカーの中に二人は狭い!

 

完全な密着状態、いやもうミッチミッチって感じだ。

 

「あれ?、あの二人は何処に!?」

 

外から声が聞こえる、ロッカーの隙間から見るとツインテールの活発そうな女の子がいた、制服は自分なりにカスタマイズされて肩が露出したものになっている。

 

「ふふ、見失ってる、見失ってる」

 

「・・・楯無、すまんがもうちょいそっちいけないか?」

 

無理やりロッカーに押し込まれた為、今楯無と俺は完全密着した状態になっている。

 

胸はもちろん、楯無の息使いまで耳元で聞こえ、ちょっとまずいのが楯無の股の間に俺の太ももが入っているのだ。

 

「なに、薪君・・・気にしてるの?」

 

ニヤニヤとこちらを見てくる楯無。

 

コイツ、楽しんでやがるな・・・

 

だが、ここで恥ずかしがっても男として恥、なんとか平穏を装って、この状況を打開するのだ。

 

「・・・いや、暑苦しいんだが」

 

「むぅ・・・薪君、女の子がここまで密着してるのに暑苦しいからどいてとか、それはないんじゃない?」

 

「お前は何を求めてるんだ、今はそういう状況じゃないだろ、というか押すな!背中の箒が刺さってるんだよ!」

 

更にグイグイと胸と身体全体を押し付けてくる楯無。

 

「ちょ、やめろ!普通に痛い!」

 

「サラや朱理の時みたいに薪君はもうちょっと私に対しても反応を見せるべきよ!」

 

「あれは向こうが気づいてないからだ!お前みたいにわかってて押し付けてくるのは・・・こう・・・あるだろう?」

 

「何よ!それ!」

 

ガッタン、ゴットンと楯無と俺が動く事によってロッカーが揺れる、外から見たらロッカーが生き物のようにすら見えるだろう。

 

「じゃあなんだ?美乳ですね、とでも褒めればいいか?」

 

「そういうのじゃなくて!こうもっとウブで困った感じの!」

 

「そんなの一夏にやれ!アイツは絶対ウブだから!」

 

コイツ・・・なんとなく、そういう傾向があると思ってたが、結構グイグイくるタイプなのね。

 

なおも、身体を寄せてくる楯無、意地でも俺の困った反応が見たいらしい。

 

「む・・・だったらこれはどう!」

 

「ちょっ!耳たぶを食むな!いだだだだ!箒が背中に!いいから!向こうに行け!」

 

「うわ!ちょっと!押さないで・・・きゃ!?」

 

「うぉ!?」

 

バン!という音と共にロッカーから出てしまう。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

いや、倒れ方が悪かった・・・俺は今、ガッツリと楯無の胸を鷲掴みにして押し倒した状態になっている。

 

「・・・イヤン」

 

「・・・えっと・・・いい美乳ですね?」

 

「・・・・」

 

あ、これは蹴りが飛んできますわ。

 

そう覚悟した時、側に誰かがいるのを思い出す。

 

「・・・先輩達・・・何やってんの?」

 

「「あ」」

 

ツインテールの追跡者に見つかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうして俺を追ってきたんだ?」

 

凰に見つかったのを起点に、楯無の制裁を回避した俺は面と向かって凰と話す事にした。

 

「・・・・」

 

凰は無言でこちらを睨み付けてきて、一切話そうとはしない感じだ。

 

「はぁ、どうしたもんか・・・」

 

逃げないだけ、ましと言うべきか、しかし、話してくれないんじゃあ、これからも俺の事をつけ回すのだろうか。

 

困ったものだ、楯無の強制セクハラ以上に。

 

「薪君、今、変な事考えなかった?」

 

「いや、全然」

 

なんで、こんなに勘が鋭いのだろうか。

 

「まあ、任せて薪君、私が聞き出してあげる」

 

楯無が前に出て凰に対峙する。

 

なにやんだ?

 

「・・・あんた誰?」

 

「あら?自分の学園の生徒会長も知らないなんて、少し、痛めつけた方がいいかしら?」

 

なんだか不穏な空気が二人の間に漂う。

 

おいおい。

 

「おい、楯無。頼むから荒事は・・・」

 

「ぬふふ、任せてって言ったでしょ薪君」

 

楯無がワキワキと指を動かしながら手を広げる動作をする。

 

「な、あんた、まさか・・・」

 

凰が何かに気付き、逃げようと体を後ずさるが。

 

「イッツ・ショーウターイム!!」

 

「きゃ、きゃあ!ちょ、止め!!」

 

そこからは楯無の一方的な蹂躙が始まった。

 

くすぐりと言う名の。

 

「ちょ!あは、あははは!!やっ、止め!」

 

「ん〜?ここか?ここの方がいい?」

 

「や、止めって!ヒィ!あははははは!」

 

廊下中に凰の悶え苦しむ笑い声が響いている。

 

「楯無、それ意味あんのか?」

 

「先輩の言う事を聞かない子はこうした方が一番なのよ、人を強制的に笑顔にさせる私の処世術。後、趣味」

 

「おい」

 

くすぐりが趣味って・・・また、嫌な趣味を。

 

「ふ、ヒヒヒ!もう止めて!わかったから!」

 

「本当に〜?薪君の後をつけてた理由を教えてくれる?」

 

「ほ、本当にだから!だからくすぐりはもう止めて!」

 

はぁ、と楯無から解放される凰。端から見たらただの後輩をいじめている上級生二人なわけだが。

 

「で、どうして俺の事を?」

 

「それはゼェ・・・一夏のゼェ・・・先輩ゼェ・・・だからゼェ・・・」

 

息も絶え絶えに、言葉を絞りだす凰。

 

やり過ぎだろう楯無・・・

 

「何だって、一夏の先輩だから追ってくるんだ?」

 

「・・・・」

 

一度大きく深呼吸し、息を整える凰、そして、ポツポツと話し始めた。

 

「一夏と私は・・・幼なじみで、昔、よく私のせいで一夏が上級生とケンカする事があったの・・・」

 

「・・・・」

 

「私・・・こんな性格だし、態度が悪いとか、気に食わないとかで、男の上級生が私に手を出そうとした時は一夏がいつも守ってくれたの」

 

「・・・・」

 

「その時は、いつも怪我して帰ってくるのに、笑顔で・・・もう、大丈夫とか言ってくるし・・・」

 

過去を思い出したのか、少し凰の目元に涙が浮かんでいる。

 

「・・・なるほど、だから今度は自分からどんな上級生か確認して、大丈夫な奴かどうか見定めようとしたのか」

 

「そんな、所・・・」

 

確かに、凰は攻撃的な性格と言えばいいだろうか、上級生である楯無や俺に対しても敬語などは一切使わない、そういった所に目をつけられたのだろう。

 

「で、どうだった?俺は大丈夫な奴か?」

 

凰は顔を上げ、俺を見る。

 

「一夏からもあんたの事は聞いているし、今もこうしてなにもしない奴だから、安心してる」

 

「そうか、それは良かった・・・」

 

どうやら、放って置いても勝手に解決したものだったらしい。変に思われてたらどうしようと考えていた。

 

「さっきのがなければ」

 

「え?」

 

凰の目が再び鋭いものに変わる。

 

そして、キーンコーン、カーンコーンと昼休みが終わる鐘の合図がなる。

 

「女子をロッカーに連れ込んだ挙げ句!押し倒していやらしい事をする奴なんて!絶対に!一夏の先輩だなんて認めないから!」

 

「ちょ!待て凰!それは誤解だ!!」

 

こちらに指を指しながらツカツカと廊下を歩き、捨て台詞を吐く凰。

 

「あんたみたいなエロ魔神!いつか私が成敗してやるんだから!!」

 

「エロ魔神!?」

 

廊下の角を越え、姿が見えなくなった。

 

「・・・はぁ、俺達も教室に帰ろう、楯無」

 

凰の事はとりあえず諦めて、今は午後からの授業を受けに行こう。次会った時は誤解を解かねば。

 

「ねぇ、薪君?」

 

「ん?」

 

楯無に肩を捕まれる。

 

「私に何か言う事は?」

 

えっと・・・凰から聞き出してくれた事だろうか?それとも・・・

 

「あ、ありがとうございました?」

 

「フン♪」

 

「ぐぼっ!」

 

楯無の綺麗な回し蹴りが決まり、ロッカーにぶちこまれる俺。

 

あれ?これ何言っても蹴られたのでは?

 

その日の5時限目、俺は目を覚まさずロッカーの中で過ごす事になった。

 




なんだかほとんど楯無のスケベ話になってしまった。


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更識 簪という少女

途中にある歌詞は・・・気にするな。


早朝。

 

まだ、なんとなく朝の寒さが残る5月。

 

今日は土曜日の授業も無く完全な休み。

 

俺は朝から行かなければならない場所があった。

 

整備倉庫だ。

 

OSW「エンド・ロール」を使用して中破したオール・フォー・ワンの修復作業を朱理と藍理が二人だけでやってくれている。

 

襲撃事件から数日の間で直すとは言っていたが土曜日の朝には出来るから取りに来いとは朝から稼働テストするつもりなのか?

 

無機質な倉庫の壁を見ながら、中に入っていく、勿論、いつもは工具の音や喧騒で騒がしいここもシーンと静かだ。

 

「おーい、朱理、いるか・・・って」

 

「zzZZZ」

 

倉庫の少し奥、オール・フォー・ワンの固定台がある場所に着くと直ぐに朱理を見つけたのだが、肝心の呼び出した朱理は無造作に床で爆睡していた。

 

「この感じ、金曜から徹夜でやったな・・・」

 

横のコンソールを見ると藍理は椅子に座って寝ていた、パソコンのデクストップもつけっぱなしだ。

 

「無理にやんなくてもいいのに・・・」

 

藍理はまだしも、朱理をこのままにするのは良くないな。

 

そこら辺を適当に片付け、近くにあった毛布を敷き、朱理を抱き抱える。

 

「よいしょ」

 

「ウ〜ン、薪・・・次の改修案は・・・ヤバくなったら頭と胴体が別れるぞ・・・」

 

「それは俺にトドメをさしているんだが・・・」

 

夢の中でも、ISをいじっているのか、変な寝言を吐く朱理。

 

朱理をゆっくりと即席ベッドの上に置く。

 

「・・・ありがとな」

 

「んん・・・」

 

頭を撫でるとゴロンと寝返りをうつ朱理。

 

朱理に毛布をかけた後、藍理にも毛布をかけてやる。

 

固定台に設置されているオール・フォー・ワンは3日前に見た時は全体的にボロボロで、OSWを装着していたアラクネの左腕は装甲が剥がれていて、テンペスタのウイングは余波の熱で所々、融解していたほどだったが。今は完璧な状態まで修復されている。

 

「・・・・」

 

自分の包帯が巻かれている左腕を見る。

 

「次は・・・どうなるかわからないか・・・」

 

楯無から言われたその言葉は自分の非力さを思い知るには十分だった。

 

人が乗っている訳でもない無人機のIS一機に手こずる所か、最悪やられていた可能性もあったのだ。

 

もしも、ソルのように戦えない人がいたら守りながらでもあのISを倒す事ができるだろうか?

 

いや、無理だな、今の俺には出来ない。

 

もっと力をつけなければ守るべき物も守れない。

 

その為には、一刻も早くISに乗り訓練をしなければ。

 

 

 

しかし・・・

 

 

 

「どうしたもんかな・・・二人とも寝てるし、起こす訳にはいかないし」

 

寝てる二人を見るがやはり起きそうな気配は一切無い、昨日電話をもらった時は朝から稼働テストすると朱理が意気込んでいたが、完全に寝てしまっている。

 

まあ、起きるまで待つか、起きそうになったら二人にミルクコーヒーでも・・・

 

そう思っていると俺達以外、誰もいない整備倉庫に人の声が聞こえる。

 

いや・・・

 

「これは、歌か?・・・」

 

整備倉庫の更に奥、そこから歌声が聞こえるのだ。

 

興味本意で歌が聞こえる方に言って見ると早朝なのにISを整備している人の背中を見つけた。

 

水色の髪・・・二つ結びの髪。

 

簪だった。

 

 

 

 

「バスターバスターAll Green♪ バスターバスターClear Up♪」

 

簪がISを整備しながら何か歌っている、なんだろう土曜日の朝なのに日曜日の朝みたいな感じがする。

 

「電子の回廊を駆け抜け 影から忍び寄るウイルスに銀の弾を撃て♪ 今こそ 力を合わせる時♪」

 

ああ、あれか・・・作業に没頭すると歌い出しちゃう奴か・・・まあ、まだ早朝だし、誰もいないと思ってるから歌ってるのか。

 

手の平でスパナを回しながら、体を小刻みに動かし手慣れた手つきでリズムよくパーツを組み上げていく簪。

 

「仮想の世界を守る為 魂をかけて戦うよ♪ 傷ついたって立ち上がる度に 勇気がわき上がる♪」

 

楽しく無邪気に歌うその姿はまるで整備倉庫を舞う妖精の如く・・・じゃない・・・なんだか見てはいけない物を見てしまった。

 

「終わりの無い戦いに 終止符をうて♪ 電子戦隊!バスターレンジャー! プ・ラ・ズ・マ・ブレード!」

 

くるんと真後ろに回って、持っていたスパナを剣のようにして空中を切りつける。

 

まあ、その目の前には俺がいるわけで・・・

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

早朝の倉庫にふさわしい、沈黙が辺りを支配する。

 

簪の顔が汗をダラダラと流しながら徐々に真っ赤に染まっていく。

 

さてプラズマブレードで切られてしまった俺はどうすればいいんだ・・・

 

「・・・あ〜、すまん簪・・・俺は蹴られたり切られたりするだけで爆発する芸当は持ち合わせていないんだ・・・」

 

「・・・い、いつから・・・見てたんですか・・・」

 

「えっと・・・バスターバスターオールグリーンの辺りから・・・」

 

「サビから見られてた!!」

 

しゃがみ込んで両手で顔を隠す簪。

 

サビだったのか・・・あれ・・・

 

「・・・死にたい・・・穴があったら入りたい・・・」

 

しくしくと泣き始めた簪の背中を見て、どうフォローしたものか考え始める事になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ・・・ヒーローものが好きなのか簪は」

 

「・・・はい、そう、です・・・」

 

簪が落ち着いた所を見計らって、二人して機材に座って先ほどの事を話し始める。

 

「傷ついても直ぐに立ち上がって、誰かを助けて最後は必ず敵を倒して終わる、そんな姿がカッコよくて、憧れてるんです・・・」

 

「まあ、そうだな、確かに最後は必ず勝つもんな」

 

「・・・子供っぽいって思いましたか?・・・」

 

「ん?・・・いや、今のご時世、大人だってよく見てるしあんまり気にする事はないんじゃないか?」

 

「そう、ですかね・・・」

 

未だに顔を赤く染めながら話す簪、確かにあんな堂々と歌ってる所見られたら恥ずかしいわな、それに簪、元々引っ込み思案な性格だし。

 

ヒーローか・・・

 

簪のいる環境を考えると確かにそういったモノに憧れを抱くのは分かる。何でも出来る姉に中々完成しないIS。そういった状況で苦しむ簪とって、カッコよく誰かを救うヒーローは心の拠り所になっているのだろう。

 

しかし、それはあくまでもテレビの中の世界のお話し、現実は甘くない。

 

簪は今のこの状況を誰かに救って欲しいのかもしれない、それこそヒーローの如く、しっかりちゃっかり。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

簪を救ってやりたいのは山々だが、俺はISの整備に対しては何の知識もないし、姉である楯無には俺も頭が上がらない状態である。それに問題なのは簪の心の強さもある・・・

 

どうしたもんかねぇ・・・

 

この子は問題が山積みだ、そう思っていると簪が俺の左腕を見て話してくる。

 

「薪さんのその左腕・・・この前の戦闘の怪我ですか?」

 

「ああそうだが・・・これくらいの傷は心配しなくてもすぐに治るぞ、明後日には包帯外していいって言われてるし」

 

「薪さん・・・あの正体不明のISからエンゲルベルト先輩を守りながら戦ったって一年生の間でも話題になってましたよ」

 

「守りながらって・・・ソルにはむしろ俺が助けられたんだが・・・」

 

噂には尾ひれが必ずつくものだな。放っておいたら更に噂が膨張しそうだ。

 

「すごいですよ・・・私だったら・・・怖くて、逃げちゃいますよ・・・」

 

「・・・・」

 

いや、最初、こんなバケモンと戦えるか!って真っ先にソルを抱えて逃げるを選択したけどな俺。

 

「ま、まぁ、やるしかない状況に追い込まれちゃったし・・・案外、誰でも火事場のクソ力ぐらい・・・」

 

「誰かを救って、敵まで対して・・・まるで・・・ヒーローみたいでした・・・」

 

「簪・・・」

 

うっ・・・なんだか簪から凄くキラキラした目で見られてる気がする。

 

というか実際キラキラした目でこちらを見てくる簪。

 

どうしようこの子の期待に答えられそうにない!

 

「ヒ、ヒーローねぇ・・・」

 

「はい・・・」

 

俺がヒーローとか絶対に合わないな、そんな人間じゃないし。悪の敵と戦う時にお膳立てする位の弱小ヒーロー位だし。黄色か緑だし。もしくはもうピンクでいいし。

 

自信がないとしかいいようがない・・・あ、そういえば、もう一人ヒーローがいるじゃないか、ウチの学園には。

 

「一夏はどうだ?アイツは確か、最後に凰を庇って負傷したって聞いたぞ、女の子を守る為に傷つくなんて、カッコいいじゃないか?」

 

簪に聞いてみる、俺なんかよりもルックスもいいし、グラスの女子どころか学園全体で人気があるし、十分ヒーローらしい奴なんだが、どうだろうか?

 

「織斑は・・・」

 

しかし、俺の期待を裏切り簪は突然ムスッとした表情になる。

 

「嫌い」

 

「え?」

 

あれ?また、地雷踏んだか俺?

 

「・・・本当は嫌いって訳じゃないけど・・・私のISが未完成なのは間接的に織斑のせいでもある・・・」

 

「なんだか話しが飲み込めないな・・・なんで簪のISが未完成なのは一夏のせいなんだ?」

 

「・・・私の打鉄二式は元々、倉持技研が開発していた第三世代機体のISなんですけど、織斑の白式の開発が急遽決まって・・・それでずっと後回しにされてる・・・」

 

簪が固定台に置かれている未完成のIS見つめる。

 

ああ、そういう事か・・・だから間接的にって事なのか。

 

「彼は悪くはないのに・・・なのに・・・なんだか許せなくて・・・」

 

ギュッと制服の胸元を握り締める簪。

 

その表情はなんだか苦しそうだった。

 

簪自身、今自分が抱いているこの感情は嫌いなんだろうな、あまり人に対しては理不尽な事は言わないような子だし。

 

「ふん・・・まぁ、気にするな簪、アイツは女の子に恨まれるのには馴れてるしな、もし会うような事があったらその時に感じた事を言えばいいさ」

 

「・・・織斑はいつも女の子に恨まれてるの?」

 

「いや、いつもと言う訳ではないが・・・」

 

そう、だよな?・・・一夏、信じてるぞ。

 

しばらくの間、簪の悩みを聞いていると一人整備倉庫に入ってくる子がいた。

 

「おはよ〜う、かんちゃん・・・ふぁあ・・・眠いよ〜」

 

「おはよう本音、眠いなら無理して手伝わなくてもいいっていつも言ってるじゃない」

 

「そう言っても、私はかんちゃんのメイドだし・・・なにかあったら怒られるのは私だよ〜」

 

のほほんっとした子が来た、制服は袖がダボダボで目は糸目、そんなシャキッとしないメイドがこの世にいてたまるかと言った感じの雰囲気だった。

 

「あ、確か、先輩の薪先輩だ〜」

 

俺に気づいてテクテクと歩いてくる本音と言われた少女。

 

「はじめまして、布仏 本音です。かんちゃんのメイドさんやってます」

 

「ああ、よろしく、風見野 薪だ」

 

メイドさんって・・・ああそいや楯無が前に更識家は古くから日本にある家系っていつか言ってたような・・・というか更識姉妹って二人ともお嬢様なわけか・・・うわ楯無似合わねぇー。

 

「よろしくお願いします、本音って呼んで下さい、マッキー」

 

「マッキー!?」

 

いきなり後輩からアダ名で呼ばれた、というか前に楯無が言ったアダ名じゃねぇかそれ、発案者はお前か!

 

「それにしても・・・」

 

フワフワとした感じで俺と簪を見てくる。

 

「かんちゃんがこんなにマッキーになつくなんて、なんだか兄妹みたいだねぇ」

 

いきなり言われてビクッとなる簪。

 

兄妹って・・・

 

「本音って言ったな、いきなりそんな事言うな、簪だってこま」

 

「お兄・・・ちゃん・・・」

 

ああ、なんかまた簪がキラキラした目でこっちを見てくるんだけど、姉じゃなくて兄が欲しかったとかいい始めそうな感じだ。

 

俺はお兄ちゃんなんかじゃないぞ簪、正直者ヒーロー以上に期待に答えられそうにない!

 

「おお、なんだか、まんざらでもないかんじ、これは嬉しいねぇ」

 

「・・・・」

 

「お兄・・・ちゃん・・・」

 

こちらの袖を掴んでくる。

 

はぁ、面倒な事になった。

 

とりあえず、話していても進展はしなそうだし、なら、行動するべきか。

 

座っていた機材から降りて、立ち上がり、袖をつかんでいる簪に向かって言う。

 

「簪、あのISまだ組み上がってないんだろ?」

 

「う、うん」

 

「なら、コイツも来たしやっちまおうぜ、俺も手伝う」

 

「ま、薪さんの手を煩わせるわけには・・・」

 

「どうせ、朱理と藍理が起きるまでは暇だからな、それまでは手伝うさ、俺自身、ISの整備に関しては知識として欲しいな」

 

「・・・いいんですか?」

 

「おう、まかせな」

 

「じゃあ・・・よろしくお願いします」

 

「よ〜し、眠いけど取りかかっちゃおうかんちゃん」

 

「うん」

 

簪も座っていた機材から立ち上がり、未完成のISに向かって走っていく。

 

その後ろ姿を見つめる。

 

例え今すぐ、あの子を救う事が出来なくても。

 

あの子の助けになる事なら出来る。

 

たとえヒーローでなくても、誰にだって出来る簡単な事。

 

 

手を貸す。

 

 

今はそれだけでいいんだ。

 




この話しでは、簪にお兄ちゃん呼ばわりされてますが、これはそういう風に思われているっていうだけです。

あくまで薪は簪にとっての憧れのような存在であるスタンスをとっていきます。

後、本音との遭遇。

本音は・・・多分専用機持ちにするかもです。


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ソル・エンゲルベルトという少女

オリキャラ回

基本的に原作キャラとの絡みをメインに作って行きます。


学生の本質はやはり勉学だ、それを忘れてはならない。

 

ここは寮の部屋、俺と一夏は揃って机に向かって勉強をしていた。

 

あの事件の後、部屋に戻ってみたら箒が消えていた、というよりは、ようやく部屋が確保出来たので箒が引っ越したって事だ。いや〜、やっぱり女子を含めた三人部屋は狭かったな、男二人の方が気にせず部屋を使える。ようやくのびのびと暮らせるものだ、ベッドにも寝れるし。

 

じゃなくて、今は勉強だ。

 

ここはIS学園、日本を中心に世界中から優秀な人間が集まる場所、勿論、ISの操縦やその知識が求められるのは当たり前だが、それでも基礎的な勉学は出来るようにしなければならない。

 

ならなければならないのだが・・・

 

わっかんね・・・

 

今、目の前にある教材が日本語で書かれているはずなのに読めそうにない。日本語を知らないのではない、何言ってるのか理解出来ないのだ。

 

状況は絶望的だった、このIS学園、偏差値がまさかの80越えという恐ろしすぎる学園、そんなん平凡な高校から来た俺からしてみればそこら中にクラスで頭が一番いい奴がいるようなモノだ。

 

出来杉君のバーゲンセールかここは。

 

勉強についていけない・・・それは学生において致命的である、本来は自分の学力にあった学校にいるのだからサボらない限りついて行けるはずなのだが・・・

 

「サボるサボらないの問題じゃねぇだろこれ・・・」

 

もう一度言おう、状況は絶望的である。

 

どうしよう、楯無やウェルキンに教えてもらわなければ一学期の中間テストでいきなり退学があり得る。

 

夏すら迎える事が出来ないセミになってしまう。

 

まあ、ISを使える男って事で退学はないだろうけど・・・

 

頭を抱えながら隣にいる一夏を見ると同じくして頭を抱えていた。

 

「どうした、一夏?何かわからないのか?」

 

「あ、薪先輩・・・なんとか、数学の問題を解いてきたんですけど、最後がわからなくて」

 

「どれどれ、先輩が教えてやろう」

 

流石に一つ下の学年の問題くらいは分かるだろう、そうたかをくくって渡されたプリントを見るが。

 

 

 

問10.

 

3以上の自然数nについてxのn乗+yのn乗=zのn乗となる0ではない自然数(x,y,z)の組は存在しない事を証明せよ

 

 

 

 

「・・・すまん、無理かもしれん」

 

「ですよね・・・」

 

証明の問題、高校入試には必ずでてくるが、数学としての知識は勿論、その根拠を書く為の説明する力も必要な問題だ。

 

「俺、証明苦手なんだよな」

 

「あー、わかります数学の問題かと思ったら突然国語をやらされてるみたいで」

 

「・・・とりあえず、何か書いて部分点だけもらったら?」

 

「それすらも、難しそうなんですが・・・」

 

「だよな・・・」

 

はぁ、と二人してため息をつく、一夏も俺同様、平均的な学力を持つ所から来た為、正直IS学園のレベルについて行けない。

 

「あぁ、駄目だ駄目だ。一回休憩いれよう、お茶でも飲むか?」

 

「あ、なら俺がいれますよ、先輩は座ってて下さい」

 

一夏が部屋についている簡易的な台所に向かう。

 

一夏はなんだかとても家庭的な所があるんだよなぁ、マッサージも出来るとか言ってたし、いい男だよコイツは全く・・・

 

その背中を見ていると部屋のチャイムが鳴った。

 

「ん?はいはい、今出ますよ〜」

 

ドアを開け、外にいる人物を見ると。

 

「やあ、薪。今いいか?」

 

ソルがいた。

 

ラフな格好、というよりは落ち着いた服装、まだ、春の陽気が残る中の為、ベージュのシャツに黒いスカート、そしてカーディガンを羽織っている。

 

「珍しいなソル、お前が一年生の寮にくるなんて」

 

「なに、少し用があってね、薪は今勉強中だったか?」

 

肩越しに部屋の中を見て、部屋の中の様子を察したようだ。

 

「まぁな、そうだお前この問題分かるか?」

 

「ん、どれだい?」

 

そう言って、ソルに一夏からもらったプリントを突きつけて見る。

 

その問題を見たソルはククッと笑う。

 

「ああ、この問題か、相変わらず数学のエドワース・フランシィ先生はいじわるな人だな」

 

「え、そうなのか?」

 

「ああ、去年、私もこの問題に悩まされたものだよ。ちなみに答えは方程式 xのn乗+yのn乗=zのn乗が n≧3 の場合、 x,y,zは0でない自然数の解を持たない・・・だ」

 

・・・・ん?よくわからん。

 

「つまり?」

 

「3以上での自然数では証明出来ない。答えは無いというのが答えだ、わかったか?」

 

「全然わからん」

 

「プッ・・・ハハハ!まぁ本気で証明するとなると分厚い本は二個必要だからな」

 

なんだ、その問題は・・・

 

ソルに笑われながらも一夏のプリントの問題に答えを書いて置く。

 

「で、ソル、用ってのは?」

 

「ああ、そうだった、そうだった」

 

ソルが身だしなみを整え、俺に向きなおって言う。

 

 

 

「篠ノ之 箒と言う子を紹介して欲しいのだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年生の寮の長い廊下を歩く。

 

俺は気になって後ろからついてくるソルに疑問を言ってみた。

 

「何だってまた、箒を紹介して欲しいんだよ」

 

「まぁ、私の個人的な興味だ」

 

まさか、コイツ・・・

 

「篠ノ之博士関連なら止めろよ、アイツ、気にしてるから」

 

一様の忠告、前に話した時には箒、かなり気にしてたし。

 

「ん?ああそうか名字が同じだからどうもそう思っていたが、妹だったのか・・・]

 

まさかの気づいてなかった。

 

「まあ、そうでないならいいけど・・・」

 

しばらくして箒がいる部屋の前に着く。

 

チャイムを鳴らし、返事を待つ。

 

「今、出るから待っていてくれ」

 

声からして箒だな。

 

ガチャとドアが開く音がして中から箒が出てくる。

 

「薪先輩?どうしたんですか?」

 

まぁ、当然の反応だろうな。

 

部屋から出てきた箒の姿は剣道着などではなく、Tシャツ一枚・・・ん〜、胸が強く強調されてる。

 

たゆん、たゆん、と揺れる胸を見ながら、箒にソルを紹介する。

 

「箒を紹介して欲しいって奴がいてな。こちらはソル・エンゲルベルト。俺のクラスメイトでドイツ国家代表だ」

 

「え!?、あ、はい。篠ノ之 箒です、よろしくお願いします 」

 

国家代表と聞いてかしこまったのか箒はビシッと体を整えソルに頭を下げる。

 

「頭を上げてくれ篠ノ之君。ソル・エンゲルベルトだ、よろしく頼む」

 

「はい・・・」

 

挨拶も終わったが本当、何の用が箒にあるのだろう。繋がりがあるとは思えないし。

 

「篠ノ之君、早速だが君に・・・」

 

ゴソゴソと後ろから何かを取り出すソル。

 

「これを着けて貰いたいのだが・・・」

 

 

 

ソルが取り出した物は ネコ耳カチューシャだった。

 

 

 

「「・・・・」」

 

「いや〜、一目見た時から君にはこういった物が似合うと思っていてね、是非、篠ノ之君がこれを着けてる姿を見たいんだ。あ、私は可愛い女の子に目が無くてね、好きなんだ。いや、別にレズって訳ではないぞ、ただ可愛い女の子が好きなんだ」

 

そのセリフを聞いて固まっていた俺は箒に肩を捕まれ二人してソルに聞こえないように会話する。

 

「あの、薪先輩・・・なんですかあの人は・・・」

 

「いや、俺も今凄く驚いてる。今までのソルのイメージが一瞬で崩壊した所だ」

 

黒い貴公子、紳士、もはやイケメン。ソルにはそういった言葉しか当てはまらない子だと、思っていたがまさかそういった趣味があったとは。

 

人は見かけによらないとはこの事か・・・

 

「まあ、箒。あんな事言っているがソルはいい奴なんだ、ここは一丁、ネコになってくれないか?」

 

「嫌です、初対面の人間からネコ耳を着けてくれって言われて承諾する人なんていませんよ」

 

「そこをなんとか頼む・・・」

 

「嫌ったら嫌です」

 

箒の鋭い目付きが俺を睨んでくる。箒、プライドは高いからなぁ、やっぱり無理があるか。

 

そう思っていると中々返答がこない事に気づいたソルがネコ耳カチューシャを両手で握りしめて言ってくる。

 

「そうか・・・まぁ、突然言われても無理があるか・・・しかし・・・見たかったなぁ・・・きっと似合うと思うのだが・・・」

 

シュンと落ち込むソル。それを見た箒は少したじろぐ。

 

「頼む箒、多分お前も数学の問題で悩んでんだろ?答え教えてやっから、ネコ耳を付けてくれ、人助けすると思ってさ」

 

「な、なんで数学の問題の事をッ!・・・・くッ、わかりましたつけるだけですよ・・・」

 

数学の答えを教える事で手を打ってくれたのか、箒はソルからネコ耳カチューシャを受け取り、一瞬、迷ってから頭につけた。

 

「ど、どうですか・・・?」

 

顔を赤らめながら聞いてくる箒・・・

 

それを見たソルは胸元を押さえながら言う。

 

「可愛い!!」

 

「えええええ!?」

 

「可愛いぞ、篠ノ之君!!」

 

「そ、そんな・・・」

 

「ついでにニャ〜とでも言ってくれ!」

 

「え、えっと・・・」

 

頬を赤らめて意を決して言う。

 

 

 

「に、ニャ〜・・・」

 

 

 

数秒の沈黙の後にソルがガッツポーズをする。

 

「くぅ〜!心が洗われるよ!やはり、私の目に狂いはなかった!」

 

「そ、そうですか・・・」

 

「やはり、ネコ耳はいい物だな!」

 

すかさずスマホで写真を撮り始めるソル、それに気づいた箒が直ぐに俺の後ろに隠れる。

 

「しゃ、写真は駄目だ!」

 

「ぬ、そうかなら仕方ない・・・可愛いので写真として保存しときたかったのだが・・・」

 

「薪先輩・・・わた、し・・・そんなに可愛いく、見えますか・・・」

 

こちらの背中から服の袖を掴みながら頬を赤らめて下から見上げてくる仕草に思わずキュンと胸が鳴ってしまう。

 

「ああ、誰が見ても可愛いって言うだろうよ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

「今度一夏の前でやって見たらどうだ?アイツも喜ぶと思うが」

 

「えぇ!?、そ、それは無理です!!」

 

更に顔を赤らめて抗議してくる箒、だが、その仕草は駄々をこねるネコにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、お前にそんな趣味があったとは」

 

「ふふ、恥ずかしいとは思わないぞ、可愛いものは可愛いのだから愛でて当然だ」

 

「もう少し自重はしてほしいんだがな」

 

「いや〜可愛い子を見るとつい」

 

一通り箒のネコ耳姿を堪能したソルと共に自分の部屋を目指す、部屋に帰って勉強の続きをしなければ。

 

勿論、箒には対価として、数学の答えを教えた、ついでに猫耳も箒はもらっていった。

 

「いいのか?ソルの私物を箒にあげて?」

 

「なにストックは沢山あるからな、ネコ耳も犬耳も種類も豊富だ・・・薪もつけるか?」

 

「・・・遠慮しとくわ」

 

コイツは誰彼構わず付けるのかコイツは。

 

「そんな種類の耳をどうすんだよ、一個、一個つけて遊ぶのか?」

 

「ふふ、薪、人には人の絶対に合う動物の耳があるのだよ、それを瞬時に見極めてつけるんだ。薪は・・・無難に犬耳などはどうだ?」

 

「だから遠慮するって・・・」

 

「そうだ、なら次に出て来た。女の子に合う動物の耳を当てよう、薪もやって見ろ、直ぐに出来るぞ」

 

「んな事・・・」

 

そんな会話をしていると通路にある知らない部屋から誰か出てくる。

 

髪型はツインテールで小柄な体型、八重歯が特徴的な・・・

 

「ん?エロ魔神、なにやってんのよこんな所で」

 

 

 

「「猫だな」」

 

 

 

即答だった。

 

「はぁ?」

 

「凰は猫だな、もしくは猫科の動物か・・・」

 

「薪、ここに虎耳がある、付けてみよう」

 

スッと何処からか虎耳カチューシャを取り出すソル。

 

「え?、なに?・・・」

 

後ずさる凰の肩を掴み、逃げられないようにするソル。

 

「大丈夫痛くしないから・・・」

 

「え、え!?ちょ、ちょっと!エロ魔神、助けなさいよ!」

 

「ああ、すまん凰、後で数学の問10の問題の答え教えてやっから」

 

「なんで、数学の問題の事知ってんのよ!」

 

その後、凰の悲痛な叫びが・・・じゃなかった、弱々しい、ガオーという声が寮に小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日

 

「え?先生に怒られた?」

 

「はい・・・なんでも、お前らにこの問題が解けるわけ無いだろって、元々、考えさせる力をつけさせたかったみたいで」

 

「なんだ、そりゃ」

 

「それが、この問題、人類が解くまで350年かかった難問らしくて」

 

「・・・そんな、問題を高校生にやらせるなよ」

 

恐ろしきIS学園、今後も俺と一夏は、この学園の常識外れな部分に頭を悩まされる事になる。

 

 




この問題がわかる高校生がいたらマジの化け物ですよね。


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もっとDEEP 千冬・深夜の食堂編

今回は薪は出て来ません、食堂で出てきた人が出て来ます。

後、三人称で書きます。


夜の学園、真っ暗な廊下、昼は生徒達が過ごすこの学園も深夜帯にもなれば誰もいない。

 

そんな、学園の食堂へと続く道に二つの人影が・・・

 

「真耶ちゃん、誰にも見つかってないですよね?」

 

「はい、大丈夫ですよ、王先生。尾行は無しです」

 

「よし、でわ、抜き足差し足で進みますよ〜」

 

「はいッ・・・」

 

辺りを注意しながら進んで行く二人、閉まっている食堂のドアを開け真っ暗な中を進んでいく。

 

食堂の食券カウンターに既に誰かがいる。

 

「お、ちーちゃんももう来てましたか]

 

「来たか、美・・・・なんだ今回から真耶も呼んだのか」

 

「特に知らされずについて来たんですけど・・・まさか・・・本当にやるんですか?」

 

「ああ、一ヶ月に一回はな・・・」

 

「これがなきゃ教員生活なんですかやってられませんよ!」

 

多少、困惑気味の真耶にウキウキ気分の二人。

 

しばらく、その場でとどまっていると、閉まっていた食券カウンターのシャッターがガラガラと上がり、調理場の光と共に一人の男の声が聞こえた。

 

「いらっしゃ〜い、IS学園裏食堂の開店です」

 

中から現れたのは二十代位の青年、優しそうな顔をした爽やかな顔つきをしている。

 

「よっしゃ!今椅子もってきますですね」

 

「あ、私を手伝います」

 

王と真耶がイスをとりに行っている間、その出てきた青年と顔を合わせる千冬。

 

「先月はやらなかったけど、どうしたの千冬?」

 

「少し、てんやわんやしててな、お前だって分かってるだろ、千秋」

 

「ああ、千冬の弟の一夏君と、もう一人の男性操縦者の薪君だっけ?時々、食堂で働いてても見るよ」

 

「その二人の手続きやらなんやらでな・・・5月に入って落ち着いたと思ったら、この前の襲撃事件だ・・・」

 

「大変だね、千冬は」

 

はぁ、頭を押さえながらため息をつく千冬、それを見た千秋はフフと笑い、料理の準備をし始める。

 

「さて、なに食べたい?のと、なに飲みたい?一ヶ月やってなかったし今日は豪勢に振る舞うよ」

 

「フ、そうだなじゃあ・・・」

 

深夜の食堂・・・そこで行われていたのは、昼は食堂で働いいる有里 千秋が定期的に開いている大人の隠れ飲み会だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な食堂のなかカウンターの所だけの明かりの中飲み会が始まった。

 

普段使っている食券カウンターを居酒屋のカウンターバー変わりにして飲み始める、大人達。

 

教育者が学園内でこんな事やっていいのかという声はここにはない、大人だって隠れて悪い事をしたい時もある、人間だもの、と誰かが言った、そんな気がした。

 

「真耶ちゃん、おかわりは?」

 

「えっと、じゃあ、カルーアミルクってありますか?」

 

「うん、あるよ、今作るからちょっと待ってね。そっちの二人は?」

 

「「生ビール!!」」

 

「はいはい」

 

手慣れた手つきでビールをジョッキに注ぎ、二人に渡す千秋。渡された二人はゴクゴクとビールを飲み干していく。

 

「「プハァ・・・」」

 

「飲むねぇ、二人とも」

 

「普段飲まないからですね」

 

「そうなのか?私はよく寮の部屋で一人飲みしてるが」

 

「ちーちゃんは安酒でもいいと感じてるからいいんです、大人なら、こうもっと旨い酒を・・・」

 

「そう言ってお前、この前安物のワインを飲んでただろ」

 

「あれは、貰い物でしてですね!」

 

「まあ、二人とも飲み過ぎはほどほどにね・・・はい、真耶ちゃん、カルーアミルクとエビとアボカド和え出来たよ」

 

「わぁ、ありがとうございます、千秋さん。まさか学園で飲めるなんて考えても見ませんでした」

 

「ま、楽ですよねー、いちいちモノレール乗って町まで行って居酒屋探すより、学園で飲んだ方が早いですし」

 

「そうだな、これなら心配せずにいくらかでも飲めると言うものだ」

 

再びゴクゴクとビールを飲む二人。

 

「「プハァ・・・おかわり!!」」

 

「はいはい」

 

ちなみに、学園の食堂になんでビールサーバーがあるんだというのはその他諸々全部、千秋が持ち込んでいるからである。

 

ジョッキを受け取り、肴をつまんでは食べる。

 

「くぅ〜ん、この、炙り〆鯖。脂がほどよくのっていて、濃厚って感じですよ」

 

とろけるような顔をする、美友。

 

「千秋は料理が得意だからな。家庭料理からこういった肴まで、実家がバーやっているおかげで酒にも詳しい」

 

「え、そうなんですか?」

 

「うん、そうだよ。千冬はもう常連さんだしね。真耶ちゃんも今度くれば?」

 

「そうだな、夏にでも連れてこう」

 

「い、いいんですか?おじゃましちゃって・・・」

 

「お客様なら大歓迎だよ・・・。はい、千冬。できたよ]

 

カタと緑色が盛られた皿が千冬の前におかれる。

 

「これは、空マメか?」

 

「うん、春も直ぐに終わっちゃうからね、旬の物を」

 

「そうか、って、熱っ、アチ」

 

手のひらで踊る空マメをなんとか剥いて、口の中に入れる千冬。

 

「ふむ、青くさい・・・だが、うまい」

 

「塩のみの味付けだから、マメの味がよく出るでしょ?」

 

「ああ、ビールには枝豆もいいが、これもあうな」

 

パクパクと三人で食べていると酒も進み、酔いも回ってくる、そうすると人は自然と色々な事を聞いたり、話したりしたくなる物だ。

 

「そういえば、織斑先生と千秋さん・・・お二人はどういう関係なんですか?」

 

「ああ、真耶ちゃんそれ聞いちゃいますですか?初見で見たら凄く気になりますですよね」

 

真耶が放った発言に美友が乗っかる。

 

「こ、コイツとはただの友人だ、別に特にこれと言った関係がある訳ない、要らん詮索はするな真耶」

 

「あれ〜?そうでしたっけ〜?どうでしたっけ?千秋君?」

 

「お、おい!美!」

 

お酒で酔っているのか、どうなのかはわからないが顔を赤くしながら美友を止めようとする千冬。だが、ヒョッイと交わされてしまう。

 

それを見ながら、新しいビールを持ってきた千秋が答える。

 

「千冬とは友人関係だよ、恋人とかじゃなくて」

 

「ええ、そうなんですか・・・」

 

なんだつまらんとガックシと肩を落とす真耶。だが、千秋が続けて言う。

 

「ただ、千冬とは昔からの付き合いでね、幼なじみって所」

 

「幼なじみですか!?」

 

「うん、小学生六年生くらいかな、まあ、本格的に話し始めたのは中学生になってからだけど、実は、初めて話した時に千冬ったら」

 

「はいはいはいはい!!」

 

キラキラと目を輝かす真耶。

 

「バカ!止めろ!」

 

「ステイ、ステイですよ、ちーちゃん」

 

千秋を止めようとする千冬だが、逆に美友に羽交い締めにされて動けなくされてる。

 

「千冬は美人だねって言ったら顔面を思いっきり殴られたんだ」

 

「え、えぇ?」

 

「プハハハハははは!」

 

「くぅ・・・」

 

困惑する真耶。爆笑する美友。赤面する千冬。

 

「それで、中学生の時に千冬についたアダ名が、殴るナイフって言うのがついたんだ」

 

「プッ・・・」

 

真耶が噴いてしまった。

 

「千秋ぃぃ!!くッそ!離れろ美ッ!」

 

「ぐぁ!?ちょ!アイアンクローはなしですよ!?」

 

「あの時は!!お前がいきなり初対面にも関わらず名前でよんで変な事を言ってきたからだ!」

 

「僕は基本、人には人の名前があるのだから名前で呼ぶけどなぁ、名前も似ててなんだか親近感が沸いたし。それに、見て感じた事を言ったまでだし」

 

「見て感じたって・・・お、お前・・・!」

 

「いまでも、美人だよ千冬は、綺麗な女の子って感じ」

 

「綺麗って、女の子って・・・お前のそういう所が私は!・・・」

 

指をさして、顔を真っ赤にしてしばらくの沈黙。

 

「・・・私は?」

 

「い、いや・・・なんでもない・・・」

 

ストンとイスに座り、アイアンクローをしていた美友を席に置き、チビチビとビールを飲み始める千冬。

 

それを見た横目で見ていた真耶は・・・

 

(これは・・・脈アリ!!)

 

そう、思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くかぁ〜」

 

「おい、美、まだ始まって1時間とちょっとしかたってないぞ」

 

カウンターに突っ伏し、寝息を立てる美友。

 

「美友ちゃん、体がちっちゃいから、酔いが回るのが早いのかな?」

 

「まあ、直ぐに起きるさ、美も飲み足りないだろうし」

 

そう言って、グイッとジョッキを仰ぐ、千冬。

 

「おかわり?」

 

「くれ」

 

「はいはい」

 

厨房の方を向き、ビールを注いでいると。食堂の入り口から誰かがコッソリ入ってくる。

 

「お、やってる、やってる」

 

「来たわよー!千秋さーん!」

 

入って来たのは二名、二人とも教員だ。

 

「あ、フランシィ先生、榊原先生、イスそこら辺から持って来て下さい。私、王先生を寝れる場所に移して来ますね」

 

「ああ、すまない」

 

真耶が美友を抱えて長椅子がある方に行ってしまう。

 

それと、入れ替わるように千秋がカウンターから顔を覗かせる。

 

「はい、生ビール」

 

「ああ」

 

受け取ろうとして、千冬と千秋の手が触れあう。

 

「ッ!?」

 

「おっと・・・危なかった、気をつけてね」

 

「す、すまん・・・」

 

落としそうになったジョッキをなんとか支えて、持ち直した。

 

手元に置いたビールを見ながら千冬が呟く。

 

「なぁ・・・私は本当に綺麗だと思ってるのか・・・?」

 

「うん、千冬は綺麗だよ」

 

「そうか・・・それは、嬉しい・・・」

 

「うん」

 

沈黙、二人して目を合わさないでいると千冬が意を決して言う。

 

「千秋・・・あの時の約束・・・覚えてるか?・・・」

 

約束・・・千秋は思い出すように言う。

 

「・・・・うん」

 

「なら・・・」

 

「でも、今じゃないかな・・・」

 

「ッ・・・そうか」

 

拒否された、そんな感情が千冬の中を駆ける。

 

「まだ、何が起きるかわからない。あの二人も今後どういった行動をとるか・・・予想はできない」

 

「全てを乗り越えた後か・・・」

 

「うん、その時になったら・・・僕から約束を果たすよ」

 

耐えられない思いが体の中を渦巻き、ついに口から言ってしまう。

 

「・・・でも、私はっ!」

 

 

 

 

 

 

「イッエーイ!!、飲んでるか!?ちーちゃん!美友ちゃんの復活だぜぃ!!」

 

「「・・・・」」

 

「ありゃ?どうしたのですか二人とも?」

 

「なんでない・・・酒が入り過ぎただけのようだ・・・」

 

「え〜?酔いすぎですか〜?千秋君、お冷や下さい!」

 

「・・・うん」

 

厨房の奥に千秋が消えていく、その背中を見て千冬は思った。

 

(そうだ、私・・・今は・・・今は、これでいいんだ・・・高望みはするな・・・)

 

そう、自分にいい聞かせた。

 

 

 

大人達の夜はふけていく、拭え切れない感情を置いて。

 

 

 



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タッグ・マッチ編
余りものチーム


襲撃事件からしばらく経ち、6月の頭、月曜日。

 

「では、朝のSHRを終わります」

 

「起立、礼」

 

先生が教室を出ていき、ザワザワと教室内が騒がしくなる。

 

こう見るとただの高校なんだけどなぁ。

 

そう、思いながら、朝に先生に配られた、プリントを見る。

 

 

学年別個人トーナメント

 

 

 

文字通り、学年別で行われるトーナメントだが、この前のリーグ・マッチと違う所は全員強制参加と言う、見るからに長ったらしい事になる行事だ。

 

専用機持ちも専用機を持ってない人も参加のごちゃ混ぜトーナメントな為、全行程を一週間かけてやる。

 

そして、この前の襲撃事件を考慮し、今回はペアを組んでタッグマッチになるという事だ。敵が来ても四人でフルボッコにしろよ。との事か。

 

「てな訳で、楯無」

 

「無理よ」

 

「なんでだ!」

 

撃沈。

 

楯無と組めば楽々と優勝まで行ける気がしていたのに。

 

「私はもう組む相手決まってたから、薪君は頑張って探してね」

 

「ぐぬぬぬ」

 

飄々と俺をあしらう楯無。

 

羨ましいぞ楯無と組む相手、国家代表が味方とか絶対楽じゃん。

 

「薪君には強くなってもらわないと困るんだから、私と組むんじゃなくてもっと別の子と組んでみたら?」

 

「んなこと、言われてもなぁ」

 

「もちろん、薪君は私が育ててあげるから、何か分からない事があったら言って、お姉さんが優しく教えてあげる」

 

きゃるんと自分のほっぺたを人差し指で押さえながら、ウインクしてくる楯無。

 

それを無視しつつクラスの後ろを見る。

 

「なら」

 

国家代表ならうちのクラスにはもう一人いる。

 

席を立ち、ソルの座る席まで移動し、正面からお願いしてみる。

 

「ソル、俺と」

 

「ああ、すまない薪、さっきサラと組む事になったんだ」

 

「早い!」

 

轟沈。

 

さっきから、最後まで言わせてくれない。

 

二人連続のお断り、なんだか泣きたくなってきた。

 

「組む相手がいないのか薪?」

 

「そんな所だが、後他に誰がいいか・・・」

 

「なら、霞はどうだ?あの子は私達位に強いし、味方なら頼もしいぞ」

 

霞・オウアランダー。このIS学園に入って最初の頃にやった、クラス代表決定戦にて、国家代表を押さえて、クラス代表になった子だ。一様、俺自身、副代表な為、面識がない訳ではないが・・・

 

「無理だ」

 

「なんでだ?」

 

「アイツとはコミュニケーションをとれそうにない、相方になるなら、それは致命的だろ、というかアイツ俺の事避けてる気がするし」

 

そう、オウアランダーは上がり症で人見知りなど、人との会話がとにかく出来ない。この前も話しかけようとしただけで逃げられてしまった。

 

「む?・・・薪には興味がありそうな感じだったのだが」

 

「ないないって、それなら、せめて会話くらいはしてくれるって」

 

「そうか・・・」

 

「ああ、そうだ、すまんなソル」

 

「いや、こちらこと期待に答えられなくてすまない、薪、頑張って相方を探してくれ」

 

ソルに手を振り、席に戻って突っ伏す。

 

楯無が全て分かってたように笑いながら聞いてくる。

 

「どうだった?」

 

「駄目でした」

 

「まぁ、国家代表だものね、そう易々と組めるものじゃないわよ」

 

「くそぉぉ・・・」

 

嘆いていても拉致が明かない。

 

席に戻ったのも束の間、再び席を立ち上がる。

 

「どこいくの?」

 

「トイレだ」

 

「ああ、遠いものね」

 

男子トイレはIS学園にて少ない。一番近くて一年生の廊下の奥だ、急がねば。

 

「そう言えば薪君、伝え忘れてた事があるんだけど」

 

「あ、何がだ?」

 

「SHR中に新しく入ってきた二人の一年生の転校生の話ししたじゃない?」

 

「ああ、一夏は人気だなって、何だって二年生には転校生がこないんだか・・・」

 

朝のSHRの楯無との小さな声の会話、その時はタッグトーナメントの事で頭が一杯でまた一夏目当ての子が来たのかと気にしてなかったけど。

 

「それなんだけど、片方は男の子らしいのよ」

 

「へぇ・・・え?」

 

男?ようやく俺と一夏以外にも男が見つかったのか。だけどニュースなどではそんな男性操縦者が見つかった話しなど全然見なかったが。

 

「それでね、その男の子なんだけど」

 

「ああ?」

 

「その子には、気をつけてね、薪君」

 

「?」

 

楯無が少し真剣に言ったその事をその時はさして気にも留めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「男性操縦者ねぇ」

 

そうぼやきつつ階段を降りると遠くから誰が走ってくるのが見える。

 

一夏だ。そして、その手で誰か一人女の子を引っ張ってこちらに走ってきている。

 

「ん?おい!一夏、廊下は走るな!」

 

「薪先輩!?」

 

俺の前で急停車する一夏ともう一人の女の子。

 

また、一夏が女の子をたぶらかしているのか。

 

金髪の髪の毛で後ろは結んでいて、瞳は緑色。背は中くらい、胸はほとんど無く、中肉中骨の・・・

 

いや・・・女の子じゃない?男子用のスラックス履いてるって事は・・・

 

「すみません先輩、あ、コイツ、俺達と同じ男の操縦者のシャルルって言うんです、こっちは先輩の薪先輩だ」

 

「えっと、シャルルです、よろしくお願いします、薪先輩」

 

「お、おう・・・よろしく・・・」

 

また、イケメンか!

 

一夏のように格好いいとはまた違ったベクトルの、綺麗、可愛い、と言った感じの子。

 

男の娘か!

 

神様は理不尽だな・・・

 

そう思っていると、一夏達が走ってきた方向から黄色い悲鳴が上がる。

 

「いたわよ!」

 

「待って〜!織斑君!デュノア君!」

 

「こちらAチーム!目標を補足した、Bチームは先回りしろ!」

 

ヌーの大群ってこんな感じと言わんばかりの女子達が廊下を走ってくる。

 

「すみません先輩!俺達急いでるんで!行くぞ!シャルル!」

 

「え?キャ!?」

 

再び走って行く一夏達、イケメンは大変だな。というか今女の子の声が聞こえた気が。

 

「全く、やれやれ」

 

一夏達の背中を見送った後、俺は一人、迫りくるヌーの大群(女子生徒達)の正面に立つ。

 

時には先輩らしくアイツらに威厳を見せないとな。廊下は走るな、ルールはルールだし、しっかり言えばアイツらも止まるだろう。

 

一度大きく息を吸い込んでから、両手を組んで言う。

 

「お前ら!廊下ははし・・・って!、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「「「「「キャァァァァァァ!!!」」」」」

 

ドドドドドッと俺は大群に引かれた。

 

聞いた事がある、とある牧場がヌーの大群に対抗するために有刺鉄線(バッファローフェンス)を置いたにも関わらず、全員突っ込んできて、牧場が荒らされてしまったと言う事を。例え何か障害があったとしても、彼らはそれすらも踏み越えて行くんだね。自然って凄い。

 

奴らが通った後はペンペン草すら残らない、服に足跡をつけられながら、俺は倒れこんでいた。

 

「わー、ってあれ?マッキーどうしたの?」

 

「・・・・」

 

ノリで後をつけてきたのか大群から大きく遅れて、本音が来た。

 

「マッキーボロ雑巾みたいだね」

 

チョンチョンと座り込んでこちらをつついてくる。そんな本音を見ながら俺は最後の息を振り絞って言う。

 

「イケメン・・・死すべし・・・」

 

俺はそこで息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み 食堂

 

はじめましてッス。ギリシャ代表候補生のフォルテ・サファイアって言いまっス。

 

今は相方のダリル先輩とお食事中ッス。

 

「ダリル先輩〜、食後のデザート持って来たッスよ」

 

「おお・・・ありがとな」

 

持って来たのは、ダリル先輩にモンブランと、私用にチーズケーキ。

 

どっちも美味しそうッス。

 

「すみませんッス。ダリル先輩が食べたかった有里 千秋さんが作ったスペシャルデザートは完売してたみたいで、普通のデザートになってしまったッスけど」

 

「いや・・・別にいい・・・」

 

ハムッとさっそくチーズケーキを一切れ、口の中に頬張る。

 

む〜ん、やっぱりIS学園のデザートは美味しいッス。そこら辺で売ってる、ケーキなんかよりも格段に違う、そんな美味しさを感じるッス。

 

そんなケーキに舌包みを打っていると、ダリル先輩が未だにモンブランに手をつけないのを発見する。

 

「ダリル先輩、食べないんッスか?、食べないなら、そっちのモンブランもちょっぴり食べさせて欲しいんッスけど」

 

口をあ〜ん、と開けモンブランを口の中に入れてくれるのを待つ。

 

あ、私とダリル先輩はぶっちゃけると実は恋人同士なんッス。女性同士が付き合っているなんて、って思われるかもしれないッスけど、私はダリル先輩のサバサバしてるけど、時折格好いい所見せてくれる所が好きになったッス。

 

性別は関係ないんッス。好きになった人がたまたま女性だっただけッス。

 

それに、全く別の所で作られたはずのISの相性も抜群でスッし、もう、運命しか感じられないッス。

 

「・・・・」

 

「あれ、どうしたんッスか?ダリル先輩?」

 

「・・・ああ、いや、ちょっとな・・・」

 

動かないダリル先輩、いつもなら文句を言いつつも私の事を甘やかしてくれるんッスけど。なんだか今日のダリル先輩は悩んでるみたいッス。ご飯を食べてる時も、口数が少なかったッスし。

 

「ダリル先輩らしくないッスよ、私達恋人同士なんッスから、隠しごとは無しで話し合いましょうッスよ」

 

「隠しごと・・・そう、だな」

 

ダリル先輩の顔がいやに真剣なものになる、それはさて置き、くれないなら、ダリル先輩のモンブランを頂いちゃいますッスか。

 

手を伸ばし、モンブランが乗った皿を手に取ろうとした瞬間、ダリル先輩が口を開く。

 

 

 

「オレ達・・・別れないか?」

 

 

 

「え?」

 

カランと私が持っていたフォークが落ちる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてッスか・・・

 

ダリル先輩との昼食を後に私は一人、負のオーラを撒き散らしながらトボトボと廊下を歩いていた。

 

猫背な背中がいつもより猫背に、時折心配そうに見てくる視線すら感じるけど、そんな事はどうでも良かった。

 

「なんで・・・いきなり・・・あんな事を・・・」

 

オレ達・・・別れないか?

 

フラッシュバックするあの光景。

 

「ダリル先輩に聞いても、すまないの一点張りッスし、何だって・・・いきなり・・・」

 

まさか!

 

「ここ最近の私の態度のせいッスかね・・・ダリル先輩と私、二人とも面倒くさがりやのマイペースッスし・・・私がいつの間にかダリル先輩に負担をかけていてそれで・・・」

 

思い出すのはちょっと前の機体調整の時。ダリル先輩が早く終わらせたいのに私は風見野と喋ってましたし。

 

「あの時か?、いやまた別の時かもしれないッス・・・」

 

ふと最近の自分の行動を思い出すと、ダリル先輩にとってマイナス点がちらほらと上がってくる。

 

「そんな私に見切りをつけて、別れ話なんかを・・・私のせいッス・・・」

 

ダリル先輩はしっかりしている、私の用な子でなくとも、ダリル先輩のような人なら引く手あまただろう。

 

「はぁ・・・私・・・ダリル先輩と別れたくないッス・・・でも、どうしたら・・・」

 

トボトボと歩いていると廊下の張り紙が目に入る。

 

そこには。

 

 

 

学年別個人トーナメントの案内

 

 

 

そう書かれていた。

 

「ああ、もうそんな時期ッスか・・・って言っといてもうちのクラスはバケモンばかりで優勝なんて・・・」

 

そう思いつつ、張り紙を見ていると最後の優勝景品に目がついた。

 

 

 

優勝景品

 

有里 千秋が作る、スペシャルデザート優先権ペアチケット

 

 

 

「これッス!」

 

確かダリル先輩はかなりの甘党だ、ちょっと前からスペシャルデザートは食べたそうにしてたし。これを入手してダリル先輩と一緒に食べれば・・・関係の修復が見込める!

 

以下妄想シーン

 

いつもの食堂、私達の前にはドデカイパフェが置かれている。

 

「凄いッスね、ダリル先輩!さっそく頂いちゃいましょうッス!」

 

「ああ、そうだな・・・って・・・」

 

ダリア先輩の方にあるパフェをジッと見ているとダリル先輩が私の視線に気づく。

 

「なんだ、フォルテ?これが食べたいのか?なら・・・口移しで食べさせやるよ」

 

「そ、そんなダリル先輩・・・回りに人も居まッスし・・・」

 

「別に気にする事なんてねぇじゃねぇか、むしろ回りに見せつけてやればいいじゃねぇか」

 

顎を捕まえられ、顔を向けさせられる。ダリル先輩の綺麗な顔が目の前にある。

 

「ダ・ダリル・・・先輩・・・」

 

「フォルテ・・・」

 

二人の影がゆっくりと近づいていき・・・そして・・・

 

 

 

「ぐはぁ!完璧ッス!」

 

妄想から脱却した私は大きくガッツポーズを取る。

 

「なら、さっそく相方を探すしかないッス・・・でも・・・」

 

多分、他の専用機持ち達は既に、相方の目星はつけられているであろう。

 

今朝、風間野が、楯無とソルには既に断られているのを見ている。

 

「じゃあ・・・強い奴で探すなら、霞とか・・・いやコミュニケーションとれなくて無理そうッス、だったら、専用機は持ってないッスけど、クリスかサラか・・・いや、既に二人とも決まってそうッス」

 

ぬがぁぁぁぁと頭をかきむしる。

 

国家代表や一般生徒でも強いパイロット科の連中と対等に戦うにはどうしたらいいのか・・・

 

 

 

「「はぁ、どうしたもん(ッス)かね〜・・・ん?」」

 

 

 

いつの間にか近くに誰かいた。

 

その顔を見て、コイツならと決心した。

 

 

 

ここに二年生専用機持ちの余りものチームが結成する事になる。

 

 

 




はい、フォルテと組みます。

ダリル先輩はそれなりの考えあってフォルテに別れ話を切り込みました。

原作ブレイク?まぁ、最後までみて下さい。

シャルロットとラウラにはそれなりに接触していく予定です。


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マイペースなあの子

フォルテ・サファイア

 

髪型はポニーテールではなく先端にリボンを着けた、ちょっとボサボサ気味の三つ網おさげと言った感じだIS「コールド・ブラッド」の待機状態になったいる。髪の色はダークブルーとでも言えばいいか。

 

小柄な身体に猫背な姿勢のせいでより小さく見える。多分二年生で一番小さい。まあ、王先生程小さくはないが。

 

そして、ギリシャ代表候補生、実力は二年生の中でもかなり高い方だ。IS学園では有名な「イージス」の片割れであり、まさしくタッグ戦のスペシャリスト。

 

そんな、子と俺はタッグを組むことになった。

 

教室にて―――

 

放課後、サファイアの近くの席の椅子を借りて二人で対面する。

 

「まずは、風見野の事を知りたいッス」

 

「俺の事?てっきりISの模擬戦でもして力量を試されるかと思っていたんだが・・・」

 

「違うッスよ、タッグ・パートナーに必要なのは、息の合った連携もそうッスけど。まずは、信頼関係ッス、信頼関係が築けなかったら相方に背中を任せる事もままならないッスからね」

 

ノンノンノンと人差し指を振りながら腰に手を当てて答えるサファイア。

 

「そうだな・・・プロフィールか・・・」

 

「一気に言って見て下さいッス」

 

突然そんな事言われてもなぁ。

 

そう思いつつ頭に浮かんだ事を手当たり次第に言っていく。

 

「・・・風見野 薪。男、年齢は16才、四人姉弟の真ん中、学歴は平凡なのにIS学園に入ってしまった学生、趣味は・・・多彩だな、色々やってる。小説、ゲームにマンガ、模型にアニメ観賞に映画も見るな、ドラマとかも、後、楽器のベースも少々。好きな食べ物はないけど、嫌いな食べ物は・・・お麩かな」

 

「特技はないッスか?」

 

「ISに乗れる事とかじゃ駄目か?」

 

「それは、世界が知ってるッス」

 

世界か〜。

 

終了。

 

「ん〜、普通ッスね」

 

「悪かったな普通で」

 

「なんかこう最も、驚くような趣味でもあればいいんッスけど」

 

「そんな物を一般男子高校生に求めないでくれ」

 

むしろ、多彩な趣味を持ってる事や四人姉弟とかに驚いて欲しかったんだが・・・

 

「あ、そう言えば、俺、実は目が悪い」

 

「え!そうなんッスか!?」

 

そこに驚くのかよ。

 

「ああ、普段はコンタクトだが、夜には外して眼鏡かけてる」

 

「眼鏡風見野・・・見たことないッスね」

 

「レアだからな、見た事あるのは一夏と箒くらいか」

 

後、今後はシャルルも追加されるのか。

 

「ほら、次はお前だ、サファイア」

 

「えぇ〜、めんどくさいッス」

 

「俺だけ言ったら不公平だろ」

 

めんどくさいって・・・人に言わせて置いて自分は逃げるつもりか、させんぞ。

 

渋々といった感じで自己紹介を始めるサファイア。

 

「えっと、フォルテ・サファイア、女子、16才ッス。ギリシャの代表候補生で、専用機を持ってるッス」

 

「その辺りはもう、何度も聞いたんだが・・・趣味とかは?」

 

サファイアは少し悩んでから言い始める。

 

「料理を・・・」

 

「へぇ・・・料理出来るのか」

 

「食べる事ッスかね」

 

食い専かよ。

 

「日本にきてから、この国の料理って凄い美味しいんだなって思ったッスよ。どこ行っても、色んな食べ物があって目移りしちゃうッスから。でも、やっぱり、ショッピング・モールで食べたあのパフェが一番、美味しかったッスね〜」

 

食べたパフェの事を思い出しているのか、少しよだれが出ているサファイア。

 

まあ、パフェが好きとかは女の子らしいが。

 

「なるほどな、じゃあ、特技は?」

 

「ISの能力を使って、一瞬で冷凍ジュースとか作れるッス」

 

「なにそれ、夏にめっちゃ便利」

 

科学の結晶が、便利グッズになると誰が予想しただろうか。

 

「いや、待て、それは、お前の特技じゃなくてISの特技だろ」

 

「バレたッスか」

 

「当たり前だ」

 

終了。

 

俺とサファイアで、一通りの互いのプロフィールを見せ合った結果は。

 

「ん〜、風見野とは普通に仲良くなれそうなんッスけど、まだ何か足りないような・・・」

 

「そりゃ、自己紹介しただけで仲良くなれたら、人間関係に苦労しねぇよ」

 

「じゃあ、そうッスね。今度の週末の日曜日に駅前にでも遊びに行かないッスか?」

 

遊びにか・・・まぁ、仲良くなるなら、それが一番手っ取り早いか。

 

「わかった、遊ぶか」

 

「よし、じゃあ、そうするッス」

 

遊びに行く、約束を交わし席を立ってそのまま教室を後にするサファイア。

 

「じゃ、私はダリル先輩との用事があるんでさようならッス」

 

「え、終わり!?この後に訓練とかしないの!?」

 

「めんどくさいでまた明日ッス」

 

「それもめんどくさいのかよ!」

 

手を振りながら消えて行った。

 

「・・・・はぁ」

 

席に座り直し、ため息をつく。

 

なんと言うか、アイツのペースに乗せられっぱなしだったな、楯無とは違い、別の意味で振り回されそうだ。

 

「これから、どうなるんだか・・・」

 

今後の行く末に不安を募らせていると、教室の入り口から暗い顔をしたサファイアが帰ってきた。

 

「どうした?サファイア。忘れ物か?」

 

「あ〜・・・いや、なんて言うんすかね・・・」

 

サファイアが気まずそうに頭を掻く。

 

「そ、そう言えば、用事なんて無かったんすよ・・・」

 

「はぁ?」

 

「い、いいから、風見野の言う通り、これから第三アリーナに訓練しに行くッスよ」

 

そう言うだけ言って、サファイアはまた教室を後にする。

 

「はぁ・・・何だって、ダリル先輩との昨日の約束を・・・なにも無かったら今頃デートだったんッスけどねぇ・・・」

 

ボソボソと何かを言いながらトボトボと歩いていくサファイア。

 

「何か言ったか?」

 

「なんでも、ないッスよ」

 

俺はそのの丸まった猫背を見て思った。

 

マイペースな奴だな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サファイアとの訓練は余りいいモノではなかった。最初こそ、それなりにやっていたのだが、途中からサファイアのやる気がなくなって、ほとんどダラダラと過ごすような訓練だった。

 

「楯無との訓練と比べたら楽っちゃ楽なんだけどな・・・」

 

寮の廊下を歩きながら自分の部屋を目指す。

 

楽と言えば楽、しかし、なにも身に入らない訓練は意味がない。

 

楯無の場合は次に俺に何を教えるべきかを考えて来てくれるのだ、毎回課題があり、それが出来たら終わり、それが出来なければ何度でもやる。辛い訓練だがとても分かりやすく、シンプルだ。

 

だが、サファイアは・・・なんと言うか、適当な所が多かった。多分、普段から訓練をすると言っても上級生のダリル先輩に任せていたのだろう。というかサファイアは誰かに教える事自体、始めてなのではないだろうか・・・

 

悶々とした考えの中、特に激しい訓練などもしていないのに疲れた身体を引きずって自分部屋に入る。

 

「ただいま」

 

「先輩、お疲れ様です」

 

「お疲れ様です・・・」

 

ん?ああ、そうか一人増えてるんだっけ。

 

入った部屋の中には一夏以外にもう一人、金髪の子がいた。

 

どうやら、二人は食後の休憩もかねてお茶をしていたようだ。

 

「よろしく、一つ上の風見野 薪だ」

 

「朝あった以来ですね。シャルル・デュノアです、よろしくお願いします」

 

「ああ、何か困った事があったら俺か一夏に言え、同じ男性同士仲良くしよう」

 

「は、はい」

 

一夏同様、素直な後輩なようだ。

 

近くの椅子に座り、一息つく。

 

「先輩もお茶いりますか、日本茶ですけど?」

 

「ああ、貰おうか」

 

俺の分の日本茶が入れられ、早速いただく。

 

ん〜、やっぱり日本人は日本茶だよな、緑茶。せんべいと合う、ようかんと合う・・・そう言えばお腹が減ってきた、まだ、夕飯食べてないし、後で行こう。

 

「このお茶、紅茶とはずいぶん違うんだね。不思議な感じ。でもおいしいよ」

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ。今度機会があったら抹茶でも飲みに行こうぜ」

 

「抹茶か・・・シャルルの口に合うかな?」

 

「合いますって、美味しいんですから」

 

抹茶、緑色の濃い液体と言えば聞こえが悪いが、まあ、自分は好きな部類には入るな。ちょっと前の抹茶ブームもあって日本人にも広く浸透してるし。

 

「抹茶ってあの畳の上で飲むやつですよね?特別な技能がいるって聞いた事があるんですけど・・・一夏はいれれるの?」

 

「抹茶は「たてる」って言うんだぜ。いや、俺も略式のしか飲んだことな」

 

「確かに俺も本格的にやった事はないな、京都にでも行けば直ぐに出来るが・・・この辺りも探せばあるか?」

 

「そう言えば、今は駅前に抹茶カフェっていうのがありましたよ。コーヒーみたいな感覚で飲めるやつです」

 

「抹茶カフェか・・・じゃあ、今度シャルルを誘って行って来い一夏」

 

「わぁ、今度誘ってよ一夏。一度飲んで見たかったんだ」

 

「おう。ついでに色々案内もするぜ。せっかくだし今週末の日曜にでも出かけるか」

 

「本当?嬉しいなあ。ありがとう、一夏」

 

柔らかな笑みを一夏に浮かべるシャルル。中性的な印象があるシャルルの笑顔はまるで女性のようにも思えてしまう。

 

というか・・・

 

「ま、まあ、俺も久しぶりに抹茶を飲みたかったし、ついでだよついで」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

一夏が照れてる。一夏、シャルルは男だぞ、お前はただでさえ女子に囲まれているのに、そこからさらに新天地に向かおうとするのか?俺は止めんが後ろから刺されるぞ。

 

「先輩も一緒にどうです、たまには後輩との仲でも深めましょうよ」

 

「わりぃが、日曜には予定が既に入っていてな、また今度の時にでもな」

 

よいしょと立ち上がり、部屋を後にする。

 

「あれ?何処に行くんですか先輩?」

 

「夕飯だ、まだ食べて無くってな、だから帰ってくるまでに二人ともシャワーを浴びといてくれ」

 

「わかりました。シャルル順番とかどうする?基本、先輩は遅いから最後になるんだけど」

 

「あ、僕が後でいいよ。一夏が先に使って」

 

後輩達の会話を聞きつつドアを閉めて食堂へと向かう。

 

シャルル・デュノア・・・楯無からは気をつけて、なんて言われたが、なんて事はない俺達と同じただの一般人のようにしか見えない・・・だか・・・中性的な顔・・・。

 

 

 

「まさか・・・実は女の子とか?・・・」

 

 

 

・・・ないな、というか確かめようがないな、やろうと思ったらそっちの気があるのではないかと校内で噂されてしまう。

 

「はぁあ・・・なんなんだよ、いったい・・・」

 

身の回りで起こる様々な事柄に頭を悩ませつつ今日はご飯にありついた。

 

 

 

そして、また今日から床で寝る日が続く。

 

 




凡骨主人公 風見野 薪

薪は果たしてシャロットの正体に気づけるのか

後、フォルテとは仲良くなれるのか


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様々な思惑

ソルに引き続きオリキャラとそしてラウラが出てきます。

このオリキャラの子は関西弁を喋る子なんですけど、筆者は関西人でもなんでもないのでガバガバな所があります。

その辺りは配慮して見て下さい。


土曜日の午前の授業も終わり、午後は自由な時間、各生徒達はそれぞれの時間を過ごす。勉強する人、ISの訓練をする人・・・私、更識 楯無は・・・

 

ピット内の休憩室、座れる椅子や自動販売機などを完備している部屋、余り使う人はいないけど、ちょっと休憩したい時とかはここで休んでまた訓練を開始した方がいちいち、教室楝まで戻らなくてもいい。

 

アリーナ内で休む子もいるけど、座れる椅子もないし、何より危ないからね。

 

私はそこで自動販売機で買ったばかりのスポーツドリンクを二個持って、休憩室にあるアリーナが見渡せる窓辺にいる相方に近づく。

 

「はい、舞姫ちゃん」

 

「ああ、すまんのぅ、楯無、おおきに」

 

舞姫ちゃんがスポーツドリンクを受け取り、そのまま飲み始める。

 

私と同じ日本人だけど、舞姫ちゃんはまさしく日本人らしく日本人形みたいに綺麗な女の子。身長は薪君と同じくらいの女子にしては高身長で、黒くて長い髪に黒い瞳、決め細やかな肌、ただ・・・左目から口元にかけての切り傷の跡が目に入る。

 

「なんや、人の顔見て」

 

「いいえ、ただ、綺麗な肌だなって」

 

「毎度、毎度、かわらんなぁ、おまんは・・・」

 

「ええ?本当の事よ?」

 

「こんな、切り傷の跡があったら誰も綺麗とは思わんやろ・・・」

 

そう言って、顔の跡をなぞり舞姫ちゃんはその話を区切る。まぁ、余り触れて欲しくもないような話しなんだろうけど、私的にはもうちょっと自分に自信を持って欲しい。

 

「所で、どうやった?うちのIS「雷神」の新装備は?」

 

「避雷針を打ち出す、レールガンのこと?確か名前は・・・」

 

「「穿ツ・雷双」や、火力も弾速も申し分ないし、うちとしてはええもん、もうたと思うんやけど」

 

「いいんじゃない、「雷神」に今まで無かった中遠距離の武装。相も変わらず帯電機に頼ってしまうのはいただけないけど、戦闘の幅が広がるのはいい事ね」

 

鴉堕 舞姫 日本代表候補生。

 

今、もっとも日本代表に近い女の子。関西弁を使うけど関西人かどうかは知らない。専用機は倉持技研が作った第三世代機の「雷神」、その名の通り、電気を使った攻撃を主体とした機体を所持している。

 

「せやな、後は、楯無とのイメージインターフェースの連携が出来るかどうかって所やな」

 

「そうね、ロシアの機体と日本の機体だけど、もしかしたら面白いコンビ技が出来るかもしれないし」

 

「おもろいってだけで、うちに声かけたんか?」

 

「それもあるけど、風見野君の為でもあるわ」

 

「しょうもない、また、アイツか・・・」

 

舞姫ちゃんが怪訝な顔をする。

 

「楯無・・・風見野をこのまま育てぇどなんすんねん?」

 

「それは単純に、彼一人で自分の事を守れる力をつけさせる為よ」

 

「んな事ゆうてもなぁ・・・風見野の今の勝率って、なんぼや?」

 

そう言われて、ここ最近のクラス内の模擬戦の結果を思い出す。

 

「4月から6月にかけての勝率なら・・・0勝ね」

 

「もちろん、国家代表候補生以下との戦いでもやろな?」

 

「・・・ええ」

 

「めっちゃ負けてるやん」

 

やっぱり、始めて二ヶ月ちょっとじゃあまだまだ、クラスの子にも負けるわよね、こればっかりは訓練してきた時間が物を言うし・・・しかし、今回の私には作戦がある。

 

「でも、薪君はしっかりしてる子よ。ソルの時とは違ってあえて今回は突き放す事にしたの。今頃、突然手を引いてくれる人が居なくなって、そろそろ私に泣きついて来てくるはずよ!もう、練習がキツイとか言わせない!」

 

「なんやねん、それ・・・」

 

舞姫ちゃんの呆れた顔が目に移るが、私は薪君のあのすまし顔を崩したいの!その為ならあの手、この手で・・・

 

「ん?・・・ほんまや、楯無の言う通り、風見野の奴しっかりしとるな」

 

「そうなのよ・・・薪君たら、案外器用で・・・」

 

「フォルテと組んだんか」

 

「え!?本当に!?」

 

舞姫ちゃんが手すりに寄りかかりながらアリーナを見ている。その視線の方向には確かに薪君の「オール・フォー・ワン」とフォルテの「コールド・ブラッド」がいた。

 

「本当だ・・・」

 

「ほぉ・・・相方にフォルテを選ぶなんて、けったいな事するやんけ」

 

「フォルテ・・・マイペースな子だから、案外、合わせるのが難しいのはわかるけど・・・薪君、何だって」

 

「おお、おお、手まで繋いどるで」

 

「ええ!?」

 

アリーナを見ると確かに手を繋いで、何かをやっている。

 

「な、な、な・・・」

 

「なんや、楯無。そこに男と女がいるならそんな事不思議やないやろ」

 

「薪、君・・・私という、女の子が、いながら・・・」

 

更識 楯無のプライドにかけても薪君を釘付けにしなければ。

 

メキャっと音をたて、手に持っていたスポーツドリンクが歪む。

 

「これは、一肌、脱ぐ時が来たようね・・・」

 

「はぁ・・・」

 

舞姫ちゃんがこちらを見ながらため息をついた後に何かをボソッと呟く。

 

「アイツ・・・負けて、辛くないんやろうか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーナ内

 

サファイアが突然俺の左手を握ってマジマジと凝視している、突然の事だが、ずっと無言で見てくる、好きにはさせているが・・・もう、かれこれ3分位たっている。

 

「どうしたんだ、サファイア?俺のISの左手になにかあるのか?それとも壊れてるのか?」

 

「いやなんでもないッスけど・・・このアラクネの腕は・・・風見野、確かこれ離れた所にあるISの倉庫から発掘したんッスよね?」

 

「ああ、第二世代機で、程よい状態で保存されてるのはこれ位しか無かったからな」

 

オール・フォー・ワンの左腕はアメリカ製の第二世代機、アラクネと呼ばれるISの物を使用している、左腕全部って訳ではないが、肩部分は打鉄の物だ。

 

「そうッスか・・・じゃあやっぱりダリル先輩の元の専用機のパーツッスねこれ」

 

「え、そうなの?」

 

「そうッスよ、ダリル先輩が一年生の時の専用機はアラクネッスし、機体が壊れたからって理由で今のISに乗り換えたって言ってたッスし」

 

ダリル先輩・・・確か、前に整備倉庫で見かけたあの金髪の人、そして、サファイアの相方か・・・。

 

「へぇ、奇妙な縁もあったもんだ、先輩のおさがりを俺が使うなんてな」

 

「そうッスね、風見野が持ってるなんて・・・ダリル先輩・・・やっぱり安心するッス・・・」

 

ギュっと更に俺の左手を握りこむ、サファイア。やっぱり相方に対してはそういった安堵感などが芽生えるのか、そこまで行ってようやく相棒と呼べる存在になるのだろう。

 

安心しているサファイアの顔を見ていると、そんな考えが浮かんでくる。

 

その瞬間―

 

ゾクッ

 

「ッ!?」

 

突然殺意のようなものを感じた。

 

「どうしたんッスか、風見野?」

 

「あ、いや、なんでもない・・・」

 

辺りを見渡してもこちらを向いている人は誰もいない、あえて言うなら遠くで一夏達、後輩が練習しているのが見えるくらいだ。

 

「へんな、風見野ッスね」

 

「すまん・・・というか、もういいだろ、とっとと訓練を始めよう」

 

サファイアの手をふりはらうと浴びせられていた殺意も消えていく。

 

「あ・・・まあ、そうッスよね・・・」

 

名残惜しそうにサファイアは俺の左手を見ている、どんだけ先輩が好きなんだかコイツは。

 

「じゃあ、訓練に移るッスよ」

 

「よし、今日は何を教えてくれるんだ?」

 

「今日はポジションどりッス」

 

「ポジションどり?」

 

サファイアは空中ディスプレイを操作してISの射撃用の的を空中に二個用意する。

 

「やることは簡単ッス。あの的がランダムに動きながら風見野に接近してくるから、私とあの二個の的も視界にいれつつ逃げるッス」

 

「は?」

 

意味がわからん。

 

サファイアが一度ため息をついた後、噛み砕いて説明してくれる。

 

「2or2、タッグ戦の場合はとにかく、相方と敵の行動を見ながら戦闘は動いて行くッス。今まで、風見野は1or1

、シングル戦しかやった事がないから自分の事しか考えなくて良かったッスけど、これからは戦況を考えながら動いて欲しいッス」

 

「ああ、なるほど、周りを見る練習か」

 

「そうッス、案外簡単ッスよ、移動するだけならッスけど」

 

「わかった、とりあえずやって見よう」

 

射撃用の的が浮き、俺とサファイアも同時に浮く。

 

「いいッスか?とにかくまずは感覚を掴む所からッス」

 

「おう」

 

そう言って全てが動きだす。

 

的がこちらに接近してくるのでサファイアと俺は後退しながら二人で移動する。

 

不規則に軌道を描く二個の的、その両方を視界に入れながら、サファイアも視界に入れて置く。

 

なるほど、確かにこれなら相方がいま何をしているかもわかるし、突然の攻撃にも対象出来る訳か・・・

 

しばらく、空中で軌道を描いているとサファイアからプライベートチャンネルが入ってくる。

 

[いいッスね、風見野。初歩としては上出来ッス]

 

[そうか、確かに案外簡単だな]

 

[そう、思ってるならレベルを上げるッスよ]

 

サファイアがそう言った後、突然片方の的が大きく軌道を逸れて俺に接近してくる。

 

な!?

 

急な的の動きに俺は対処出来なくなり、サファイアを視界に捉える事が出来なくなってしまう。

 

[風見野!何やってるんッスか!もっと大きく下がって視界を広げるんッス!]

 

[んなこと!言われたってな!]

 

バーニアを吹かして、後退するがサファイアとの距離が離れて、結局目の前にいる的しか見れなくなったしまった。

 

[ああ!もう!中止!中止ッス!]

 

的が目の前から消えて、地上に着いたサファイアの元に急ぐ。

 

「すまん・・・」

 

「まあ、最初は無理ッスから、グチグチ言わないッスけど、接近戦を得意とする敵もいるんッスからあれくらいはなんとかして貰わないと困るッス」

 

おっしゃる通りで・・・

 

確かに、戦闘ではよりスピーディーに、より過激に戦闘は進んでいく、タッグ戦では周りが見えなくなった時点で負けか・・・

 

「いいッスか、風見野。タッグでは相方にいかに負担をかけずに敵にダメージを与えるかが肝ッス」

 

「ああ、被弾を避けて、お前も守ると」

 

「そうッス、私と風見野のISの相性を考えると、基本的には受けッス、敵の攻撃をいかに凌いでダメージを与えるか、それが重要になってくるッスよ」

 

「わかった、じゃあ、もう一回・・・」

 

再度、ポジション訓練をやろうと思った時、アリーナ内が騒がしくなる。

 

「ねぇ、ちょっとアレ・・・」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代機だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど・・・」

 

アリーナ内の視線を集める場所に目を移すと、そこにはソルの乗るISに酷似した、ISがいた。

 

「ありゃなんだ?」

 

「多分、一年生の転校生の子ッスね、ソルの乗る「シュヴァルツア・シュトゥルム」の完成形って前にギリシャの研究所で聞いたッス。まさか、IS学園に持ってくるとは思わなかったッスけど・・・」

 

サファイアも現れたISを見て、そんな感想をもらす。

 

そう言えば、楯無がちょっと月曜日に一年生に転校生が二人いるとは言っていたが・・・そうか、ソルの後輩だったのか。

 

長い銀髪の低身長の少女、なにより目立つのはその左目にある眼帯が目につく、雰囲気自体もトゲドゲしいっていうか、誰も近寄らせない・・・そんな、空気を放っている。

 

そう思っていると、その銀髪の子が一夏に話しかけている。

 

「おい」

 

「・・・なんだよ」

 

またか、またなのか一夏・・・お前はそうやって直ぐ女の子にちょっかいをかけられるんだ?

 

オルコットの時もそうだが、一夏は時間をかけずに直ぐに女の子を堕とす。

 

まったく、罪作りなヤツだ。

 

いつもの事、そう思って見ていたが、何やら不穏な空気が二人の間に出始める。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話しが早い。私と戦え」

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

一触即発という四字熟語が当てはまる、まさにそんな感じだった。

 

まさか、いきなりこの場で戦闘とかおっぱじめないよな?

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を――貴様の存在を認めない」

 

聞いている限りではいまいち話しの全容が見えて来ないが。どうやら、あの二人にはそれなりの因縁があるらしい。

 

少し嫌な予感がする、野暮かもしれないが首を突っ込んだ方がよさそうだ。

 

「風見野、どこ行くッスか?一年生のいざこざなんて放って置いて訓練を再開するッスよ」

 

「ん?ああ・・・まあ、そうだな・・・」

 

一夏の元に行こうとした瞬間サファイアに呼び止められる。

 

確かに、いきなり戦闘なんて流石にしないか・・・、下手に出て更に事態を悪化させるかもしれないしな。前に楯無が言ってた通り、後輩達の間で起きた事は後輩達の間で・・・

 

ドンッ!

 

ゴガギンッ!

 

「ブッ!?」

 

大きな音が二発鳴ったと思ったら俺の頭に衝撃が走った。

 

突然の事に理解出来ないのと揺さぶられた頭のせいで俺は地面に倒れる。

 

「風見野!?だ、大丈夫ッスか!?」

 

サファイアが驚いた顔をしてこちらに寄ってくる。

 

「血とかは・・・良かったッス、出てないみたいッスね」

 

「な、なんとか・・・シールドエネルギーがちょっと減ったくらいだ・・・」

 

「IS様々ッスね、戦闘状態で展開してなかったら、頭がふっ飛んでたかもしれないッス」

 

クラクラする頭を押さえながら何が起こったのかと辺りを見渡すと足元をコロコロと転がって行く、歪んだ大きな弾丸を見つけた。

 

「まさか・・・」

 

最初に音が鳴った方、一夏達の方を見ると、一夏、銀髪の子、いつの間にか一夏の前に立ってシールドを構えているシャルル三人が唖然としてこちらを見てくる。ついでにアリーナにいた全員が俺を見ている。

 

そして、銀髪の子のISの肩についているカノン砲がシャルルと一夏に向けられているのを俺は見逃さなかった。

 

「おい、そこの銀髪一年」

 

「な、なんだ・・・」

 

「お前の撃った弾が跳弾して俺に当たったんだが・・・」

 

そう、跳弾したのだ。

 

銀髪の子が撃った弾がシャルルのシールドに当たり、跳ね返った弾はあらぬ方向に飛んで行くまでは良かったのだろうがそのあらぬ方向に俺が居たのだった。

 

「はぁ・・・たまたま俺がISを展開してたから良かったが。もし、他の子に当たってたらどうすんだ、ケガじゃすまないぞ」

 

「ぅ・・・」

 

「私闘をやるのは構わないが、せめてアリーナの使用ルールと安全は守れ、事故が起きてからじゃ遅いんだから」

 

俺自身、前に事故を起こしかけた事があるし、その時はソルに助けられたが今は絶対にルールは守るようにしている。ISってやっぱり兵器だし危ない事だらけだ。

 

「わかったか?」

 

「・・・・」

 

無言。

 

だが、その銀髪の子の顔からは申し訳ないという感じは読み取れる事が出来た。

 

『そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!』

 

突然アリーナにスピーカーからの声が響く。騒ぎを聞きつけてやってきた担当の教師だろう。

 

「今回はもうとやかく言わないが、次は気をつけろよ。ほら、面倒事になる前に行け」

 

銀髪の子は一度俺を見た後、一夏に向き直る。

 

「・・・ふん。今日は引こう」

 

言うだけ言ってアリーナゲートに去っていく。その向こうでは怒り心頭の教師が待っているであろうが、俺への態度からして見ても恐らく無視を決め込むんだろうな。

 

「おお~、風見野。なんだか大人の対応ッスね。つい、あの子の胸ぐらでも掴んで争いに発展するもんだと思ってワクワクしてたんッスけど」

 

「ワクワクすんじゃねぇ、サファイア。まぁ、跳弾が当たるなんて俺の運が無さすぎるっていうか、あの子もわざとじゃあないしな」

 

「そうッスね、あんなデカイ跳弾が当たる事なんて人生でそうないッスからね、むしろ貴重な体験するができたと喜ぶべきッスかね?」

 

「あのサイズの跳弾に当たった、人生そのまま終わるだろ本来・・・まあいいや、ちょっと待ってろサファイア」

 

サファイアのマイペースな会話を一度区切り、一夏達の元に飛翔する。

 

「あ、薪先輩」

 

「おう、シャルル、ケガはないか?」

 

「薪先輩!大丈夫でブァ!?」

 

駆け寄ってきた一夏にげんこつを食らわす。

 

「何するんですか!?」

 

「一夏、お前、何やったか知らないが女の子に恨まれてるのを自覚してるなら、お得意の小粋なトークでとっとと解決しろ!」

 

「無茶言わないで下さいよ!ボーデヴィッヒのヤツ向こうからいきなり!」

 

「言い訳は聞きたくないねぇ!」

 

「ちょっと、ボーデヴィッヒの時と対応違くありません!?」

 

「女の子には甘いんでね、お前には厳しくしてやる」

 

「最悪な先輩だ!」

 

一夏に少しムシャクシャした感情を叩きつけた後、サファイアとの訓練を再開しようとした時にはアリーナの閉鎖時間が来てしまった。

 

一年生達のいざこざ、これ以上悪化しない事を祈るばかりだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうし、ッザ・・・ァイア?俺のISの左

ッザ・・・かあるのか?それと、ッザザ・・・てるのか?』

 

『いやなんでもな、ッザ・・・ど・・・このアラ、ッザ・・・の腕は・・・風見野、確、ッザ・・・所にあるISの倉庫から発掘したんッスよね?』

 

『ああ、第二世代機で、ッザ・・・で保存されてるのはこれ位しか無かったからな』

 

アリーナ観客席

 

トントンと耳に当てた盗聴機を叩きながら、双眼鏡でアリーナ中央付近にいるフォルテと風見野を見る。

 

「クッソ・・・不良品じゃねえかこれ・・・」

 

一度双眼鏡を外し、盗聴機のイヤフォンを見てみる。

 

だが、ただのイヤフォン。恐らく問題なのはフォルテのISスーツに忍ばせた盗聴機本体の方だろう。

 

「はぁ・・・な〜に、やってんだがオレ・・・」

 

オレこと、ダリル・ケイシーはIS学園の三年生で、アメリカの代表候補生で専用機持ち。そして、二年生のフォルテ・サファイアとタッグを組んでいる「イージス」の片割れである。

 

いや・・・組んでいたか。

 

オレにはもう1つの顔がある。

 

それは。

 

亡国機業(ファントム・タスク )の構成員であり、コードネームは『レイン・ミューゼル』。炎の家系、ミューゼルの末席。

 

ようは、この世界の敵。

 

「いやなもんだぜ・・・」

 

イヤフォンをクルクルと弄りながら空を仰ぐ。

 

亡国機業(ファントム・タスク )は言わばテロリストだ、それもISなどを使った最先端の技術を持った危険な集団。

 

今までは、その活動の頻度は高い訳ではなかったが、あの織斑 一夏と風見野 薪が世界に知られた頃からその活動は徐々に勢いを増し始めている。

 

恐らく、遠くない未来に私もその活動に大々的に参加する事になるだろう。

 

だから、そうなる前に。

 

愛しの恋人との縁を切る事にした。

 

「アイツには・・・無理させる訳にはいかねぇしな・・・結構泣き虫だし・・・気が弱い所もあるし・・・可愛いし・・・」

 

最後のは関係ないな。

 

いつまでも、楽しい日々が続く訳じゃない・・・そう、わかってるからこそ、フォルテをこっちの世界には来させたくなかった。

 

もう、フォルテと五日間も話してない・・・ちょっと前までは考えられなかった事だ。

 

「オレから別れ話を切り出しといて、なんで傷ついて、未練タラタラなんだか・・・」

 

自分の今とっている行動に呆れてしまう。

 

フォルテとの別れ話をした後、フォルテが突然新たなパートナーを組んだと言う情報を掴んだ。

 

それを実際に確認して見ると驚く事にまさかの風見野 薪を選んだとは思わなかった。

 

フォルテお前バイだったのか!!

 

最初こそ少し焦ったが、調べて見ると、次の行事に行うタッグ・マッチ戦の為の一時的なパートナーという事だった。

 

だが、それでも・・・

 

「元恋人としては気になっちまうんだよな・・・」

 

体を起こして、再びイヤフォンを耳にして双眼鏡を覗きこむ。

 

未練だなんて無いつもりでも、気になっちまう。オレらしくないが、フォルテが落ち着くまでくらいだったらこうして・・・

 

『へぇ、奇妙な縁もあったもんだ、ッザ・・・ザザ・・・うなんてな』

 

『そうッスね、風見野、ッザザ・・・ザザザ・・・やっぱり安心するッス・・・』

 

フォルテが風見野の手を握り、安堵したとびっきり笑顔を見せた。

 

その瞬間。

 

バキャ

 

「風見野・・・テメェ・・・フォルテから離れろ・・・」

 

左手で耳にしていたイヤフォンは砕け、右手の双眼鏡にはヒビが入る。

 

我ながら、未練タラタラとか言っている場合ではない。恋人がどこの馬の骨かもわからない男に笑顔を振り撒いているのである、それも・・・手を握りしめて・・・

 

『風見野・・・安心するッス・・・』

 

「とか言っちゃってまぁ・・・」

 

フォルテはそんな軽い女じゃねぇ・・・風見野 薪・・・お前の事はこの私が徹底的にしっかりと調べあげてやる。

 

 

 

その観客席に他にいた生徒たちからは鬼が観客席にいたと騒ぎになった。




どうしよう、ダリル先輩がキャラ崩壊を起こしかけてる気がする。というか起きてる。


・・・まっいっか。


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あうとれいじ

ピット ロッカー内

 

訓練が終わり、一夏を隣に着替えている、平日は学年そのものが違うので一緒に着替える事なんてないが、今日みたいな土曜日などには都合が合うと二人でロッカー部屋を占領している。

 

「痛って〜」

 

なんだか大口径の弾の跳弾を頭に食らった際に首を痛めたようだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ、少しひねったみたいなもんだ明日には治るよ」

 

首を擦っているともう既に着替え終えている一夏から心配される。

 

「そいえば、シャルルは?」

 

「アイツ、なんだか俺らと一緒に着替えたく無い見たいで、先に部屋に行ってます」

 

「・・・一夏、嫌われてんじゃね?」

 

「えぇ・・・まぁ、確かに少し強引に誘ったりしたせいかもしれないですけど、男同士だし気にしなくてもいいんじゃないかって思ってるんですけどね」

 

一夏が少し残念そうに言う。

 

「あのー、織斑君とデュノア君と風見野君はいますかー?」

 

「はい?えーと織斑と風見野先輩だけならいます」

 

ドア越しに呼んでいる声が聞こえる。確かにこの声は余り面識がない山田先生だったか?

 

「入っても大丈夫ですかー?まだ着替え中だったりしますー?」

 

どうやら俺達に何か伝えたい事があるようだ。

 

「先生、今なら大丈夫ですよ。入って来て下さい」

 

「そうですかー。それじゃあ失礼しますねー」

 

バシュッとドアが相手山田先生が入っくる、王先生ほどではないがやっぱりこの人も小さいな・・・

 

「あ、すいません、風見野君はまだ着替え前でしたか」

 

「いいえ、気にしないで下さい」

 

「は、はい。えっと・・・デュノア君は一緒ではないんですか?今日は織斑君と実習しているって聞いていましたけど」

 

そう、言われ一夏を見る。

 

「あ、まだアリーナの方にいます。もうピットまで戻ってきたかもしれませんけど、どうかしました?大事な話なら呼んで来ますけど」

 

「ああ、いえ、そんなに大事な話でもないですから、二人から伝えておいて下さい。ええとですね、今月下旬から大よくが使えるようになります。結局時間帯別にすると色々と問題が起きそうだったので、男子は週に二回の使用日を設ける事にしました」

 

「本当ですか!」

 

一夏が突然喜び山田先生の手を取って感謝の言葉を並べる。

 

・・・しかし、風呂か。シャワー生活に慣れて来てしまったが為に風呂の喜びを忘れてしまった。まぁ、嬉しいと言えば嬉しいか・・・

 

一夏が山田先生に詰めより、先生は顔を赤くしている。

 

一夏・・・やはりお前は天然の女ったらしか・・・

 

先生と生徒の禁断の関係に発展しそうになるのを見ていると、ロッカーの影からシャルルが出てくる。

 

「・・・一夏、何してるの?」

 

一夏がドキィッ!として人形のように振り替える。

 

「まだ更衣室にいたんだ。それで、先生の手を握って何してるの?」

 

「あ、いや。なんでもない」

 

一夏が山田先生の手をパッと話す、それに続き山田先生も恥ずかしくなったのか一夏に背を向ける。

 

「シャルル、そりゃ、一夏だぞ。一夏が女性に対してする事といったら・・・わかるだろ?」

 

「・・・一夏はやっぱりそう言う人なんだ・・・」

 

「待て!違う違う!薪先輩も変な事言わないで下さい!というかシャルル。今月下旬から大浴場が使えるらしいぞ!」

 

「そう」

 

少し、一夏をからかって見たが、なんだかヤケにシャルルが不機嫌だ、何かあったのか?

 

「ああ、そういえば織斑君にはもう一件用事があるんです。ちょっと書いて欲しい書類があるんで、職員室まで来てもらえますか?白式の正式な登録に関する書類なので、ちょっと枚数が多いんですけど」

 

「わかりました。シャルル、先輩。自分はちょっと時間がかかるんで先に部屋に帰ってシャワーでも浴びてて下さい」

 

「おう」

 

「わかった」

 

一夏はそう言って山田先生とロッカーから出ていく。

 

そして、シャルルと二人きり・・・

 

「先輩は早く着替えないんですか?・・・」

 

こちらを見ないままタオルで頭を拭きながら、シャルルが訪ねてくる。

 

コイツ、一夏の言った通り本当、人と着替えたがらないな。

 

俺はロッカー内の服を取り出し着替えなが言う。

 

「シャルル・・・何があったか知らんが一夏に言えない事があるなら俺に言え、相談にならのる」

 

「・・・いえ・・・大丈夫・・・です」

 

大丈夫・・・ね。コイツ、嘘はつけないタイプみたいだ、何か抱えているみたいだが、まぁ、言いたくないなら無理に聞く必要性はない。

 

「そうか・・・」

 

着替え終わり、ロッカーを閉める。未だに着替え始めないシャルルに対してどうしようかと考えていると、再び外から声が聞こえる。

 

「薪君〜、いるのは分かってるんだから出て来なさ〜い」

 

声からして楯無か、いいタイミングで来てくれる。

 

「シャルル少し遅くなるかもしれないから、先にシャワー浴びといてくれ」

 

「はい・・・」

 

シャルルを横目に更衣室から出るとそこにはもちろん楯無がいたが・・・

 

「・・・どうしたんだよ、そんな膨れっ面して」

 

「別に・・・」

 

ここにも機嫌が悪い子が一人。

 

「なんでも、舞姫ちゃんがこの後直ぐに寮の自室に来て欲しいって言ってたわよ」

 

「え、俺一人で?」

 

「そうよ・・・はぁ、なんでソル、フォルテに続き舞姫ちゃんまで・・・」

 

・・・楯無が何かブツクサ文句を言っているが。しかし鴉堕か・・・確か少し前に話した時は関西弁を使う女の子って印象だったな。後は日本代表候補生だから簪の先輩に当たる訳か。

 

「わかったじゃあ行ってく・・・」

 

「二年生の寮までは一緒に行きましょ」

 

グイっと腕を抱きしめられ、そのまま俺ごと移動し始める。

 

「ちょっ、楯無いきなりなんだ!?」

 

「その・・・薪君がなびかないか心配で・・・」

 

少し進んだ所で止まり、いきなり恥ずかしそうにソッポを向く楯無。

 

・・・・えーとこれはつまり・・・誰かになびくって事か?確かにここ最近は楯無以外にソルやサラ、クリスさんにサファイアにも指導してもらっていたが、次に鴉堕も来る可能性が出てきたからか?

 

「なびくってお前・・・別に気にすんなよ、たかが指導だろ」

 

「だって・・・」

 

楯無って結構独占欲強い方なのか?というか俺なんか独占した所でなんになる。

 

「俺の師匠はお前だ楯無、そこは絶対に変わらないから安心しろ」

 

「本当?」

 

「本当」

 

楯無の赤い瞳がこちらの目をジッと見てきたので、見つめ返していると、楯無がニッコリと笑う。

 

「じゃあいいわ」

 

そのまま楯無に腕を抱きしめられたまま俺は二年生寮に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楯無から解放されて直ぐ、俺は鴉堕の部屋の前にいた。

 

「何の為に俺をよんだんだか・・・」

 

とりあえずドアをノックして部屋にいるか伺う。

 

「は〜い、今いく〜」

 

声からして鴉堕のようだ、ガチャとノブが回る音がしてから鴉堕が出てくる。

 

「鴉堕、呼ばれて来た風見・・・」

 

部屋から出て来た鴉堕の姿を見て驚く。

 

返り血を浴びた顔。

 

血がこびりついたエプロンに三角頭巾そして・・・

 

血のついたドス。

 

「あ・・・え、と。取り込み中でしたか?」

 

「え?・・・ああ、おまんの為にな、ちょいと捌いとった所やで・・・」

 

「さ、捌く・・・?」

 

血のついたドスの刃をスッと指で拭き取るの見てから後退りしてしまう。

 

「えっと、出直した方がいい感じ?・・・」

 

「別に気にすんなや、直ぐ出来上がるし、部屋に上がって待ってろや」

 

「いや、なんていうかその・・・」

 

なんかヤバい匂いがプンプンする、匂いって言うか実はトマトでしたみたいな感じじゃない、マジの血の匂いが鴉堕から感じる。てかなんで包丁じゃなくてドスなの?

 

そんな思考を巡らせていたら、部屋の中のベッドに誰かが倒れているのを見つける、その僅かに見える手の肌は血の抜けたいやに白い肌だった。

 

これ、絶対ヤバイ、ヤツだー!

 

逃げよう、俺の頭の中の脳内会議で全員一致のエマージェンシーと言う結論が出た。

 

「すまん鴉堕。俺急用を思い出したから、これにて・・・」

 

背を向け、真っ直ぐダッシュしようと思ったが後ろの襟首を掴まえられて、引きずられる。

 

「まぁ、待てや、直ぐに食えば十分に間に合うやろ」

 

「いやだー!まだ死にたく・・・え、食う?」

 

「ああ、うちの作った料理食わしてやるわ」

 

鴉堕の言葉に唖然としているとそのまま部屋のドアがパタンと閉まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魚捌いてただけかよ・・・

 

部屋に入り机に座ってると、お皿に乗った魚料理が出てくる。

 

「鴉堕、お前自炊すんだな」

 

「ここの食堂もええ味しとるけど、うちが食べたいと思った物ちゃうからな、そんな日はこうして作っとるんや。まぁ、趣味や趣味」

 

血のついたエプロンと三角頭巾をとり一緒に椅子に座る、もちろん顔についていた血も綺麗になくなっている。

 

寮では自炊も出来るが鴉堕のように実際にやっている生徒は少ない。後はお弁当を作る生徒がちらほらいたはずだ、確かこの前一夏が箒と凰とオルコットのお弁当を食べたとか言ってたし。ソルも楯無のお弁当は旨いとかも言ってた記憶がある。

 

「つーか、魚の血どんだけ浴びたらあんな状態になるんだよ、後なんでドス?」

 

「うちもようわからん、料理は出来る方なんやけど、なんでか汚れるんやわ・・・ドスの事は聞かん方が身のためやで・・・ああ、ちょいと待ってくれや、起こさあかん」

 

身のためって何?・・・

 

鴉堕がベッドに近寄り、倒れている人の肩を揺らす。

 

「ほら、ご飯出来たで、冷める前に起きんかい」

 

「ん・・・」

 

ムクリとベッドから起き上がる子が一人、先ほど死体かと思っていたその子はまさかのクラスメイト、霞・オウアランダーだった。

 

「・・・ッ!?・・・」

 

寝ぼけ眼のまま辺りを見渡し、俺がいる事に気づき驚く。

 

「よう・・・邪魔してる」

 

「こ、こん、ばんわ・・・」

 

相変わらず怯えた表情でこちらを見てくるオウアランダー、まさか、鴉堕とルームメイトだったとは。

 

オウアランダーも席に座り、三人で手を合わせる。

 

「ほな、食べるで。いただきます」

 

「「いただきます・・・」」

 

なんだこの状況・・・クラスメイトの部屋に行ったらご飯食わされるとか突然過ぎて意味わからん。

 

箸を持つが、いまいちご飯を食べる気にはなれない。とりあえず二人の様子を見るが・・・

 

「霞、頬っぺたにご飯粒付いとるで」

 

「え?・・・あ、ごめん・・・」

 

「気にすんなや・・・ほら、動かへんで」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「ええんよ、それより今日のご飯はどや?旨いか?」

 

「うん・・・舞姫の作るご飯はいつも美味しい・・・」

 

すげぇ、鴉堕、あのオウアランダーと会話してる。

 

思わず親子か!と言いたくなるような場面だが、オウアランダーの始めて見る顔に終始驚く。

 

「なんや、風見野、ボヘっとしてはよ食わんのかい」

 

「あ、いや・・・」

 

こっちは突然の事だらけで驚きっぱなしなんだよ!

 

そう思いつつ、ご飯を食べようとするが、思いきって聞いてみた。

 

「なぁ、鴉堕。俺に何か用があって呼んだんじゃないか?」

 

「・・・・」

 

さっきまでオウアランダーを見ていた優しい目とは真逆に突然冷たい鋭い目付きになる。

 

「なんや、本当しっかりしとるやん・・・楯無に甘やかされてばかりやと思うたわ」

 

なんだ・・・突然。

 

暖かかった空気から一変、突然辺りが冷たい空気に変わった気がした。

 

「いきなり、仲もよくない人間から、飯を食えと言われても、手ぇつけないくらいには平和ボケしとらんようやな・・・けど・・・」

 

「は?何を言って・・・」

 

 

 

「単刀直入に言ったるわ、おまん、このままだと死ぬで」

 

 

 

突然鴉堕からそう言われて頭の中が困惑だらけになる。

 

死ぬって・・・

 

「いまいちわかってないようやけど、簡単や風見野、お前は弱すぎや」

 

「・・・おま」

 

「ここ最近の戦績と、こないだの襲撃事件の映像、見させてもろたで。正直、今後あんな事起きたら次はないで、おまんは必ず死ぬ」

 

「そんな事、やって見ないと!」

 

「「エンド・ロール」やったけ?上手いタイミングで使えればええけど、場合によっては操縦者に危険が及ぶんやろ?とは言ってもおまん・・・使う気マンマンやろ・・・」

 

「ッ・・・」

 

確かにいざとなったらまた使う気はあった、ちょっと腕が怪我したくらいだし、あれがあれば一人でも無人機は落とせる自信はある。

 

「そう言う所や、慢心が死を呼ぶで、この前も大丈夫やから、次も大丈夫はないんや」

 

「だけど・・・」

 

「日本政府からも、おまんと織斑 一夏を守れって通達が来とるんや、下手に前線に立たれたら困るのはこっちや。悪い事は言わん・・・これからは普通に過ごせ・・・」

 

「・・・それは、つまり」

 

「せや、もう、訓練はするなってこっちゃや」

 

ギュッとテーブルの手を握りしめ、自分の不甲斐なさを呪うが・・・同時にさっき楯無に言った事やソルの事、そして今パートナーとして組んでいるサファイアの事を思い出す。

 

ここで、はい、そうですねって納得は出来ないんだよ。

 

だから、俺は意を決して言う。

 

「なら、お前より強ければいいのか?」

 

「は?」

 

「お前を倒して、強い事を証明出来ればいいんだよな?」

 

鴉堕が面を食らった顔をした後、笑う。

 

「・・・風見野・・・ふっ、ええで、そっちの方が分かりやすいなぁ。なら、タッグ・マッチでケリつけようやんか、うちのおまんの戦争や」

 

「わかった・・・それで決まりだ」

 

言いたい事は言い切った為、立ち上がって部屋から出ようとする。

 

「おい、待ちぃや」

 

「なんだ?まだ何か・・・」

 

鴉堕が俺の目の前に置かれていた料理を指さす。

 

「もう、腹割って話した仲や・・・料理くらい食ってけ」

 

「・・・・」

 

グゥゥゥとお腹が鳴る。

 

「はぁ・・・」

 

椅子に座り箸を取る。

 

「お話し・・・お、終わった?」

 

「おお、すまんな霞。変な空気出して」

 

「・・・喧嘩してるの?」

 

「ケジメみたいな物や・・・気にせんで食べな」

 

二人のやり取りを見た後、料理を口に運ぶ。

 

「旨いな・・・」

 

思わず口にしてしまった言葉を鴉堕は聞き逃さない。

 

「せやろ、腕には自信があるんや」

 

あんな話をした後だが、鴉堕は優しく笑っていた。

 

コイツなんと言うか・・・切り替えが早いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで、国家代表候補生に喧嘩売ってんだよ俺は・・・一夏じゃねぇんだぞ」

 

鴉堕の部屋でご飯を食べた後、一年生寮に帰還した俺。

 

今までの公式戦では初戦から国家代表に当たっていて無理ゲーだからという事ですましていたが、今回は勝利予告までして喧嘩を売ってしまった。国家代表ではないと言ってもその実力は折り紙付き、いつも通りにボコボコにされる未来しか思い浮かばない。

 

「はぁ〜鴉堕のご飯美味しかったな〜」

 

なんて事を呟き、現実逃避を試みるが意味なんてない。

 

とりあえず、今日はシャワー浴びて寝よう。

 

そう思って、部屋のドアを開ける。

 

「ただい・・・何やってんのお前ら?」

 

「うぁ!?え、これは!・・・」

 

「え!?、えっと!・・・」

 

一夏とシャルルが部屋でご飯を食べていた、というより一夏がシャルルにご飯を食べさせていた。

 

そんな二人は俺が部屋に入ったくるなり飛び起きるよいに椅子から立ち上がり、一夏はシャルルを隠すように、シャルルは一夏に隠れるように動いた。

 

今、男が男にアーンってしてたよな・・・

 

「一夏・・・シャルル・・・お前はやっぱり・・・」

 

「ち、違いますよ!シャルルが箸苦手なんでそれで・・・」

 

「なら、スプーン使えよ」

 

「それは・・・俺も言いましたよ・・・」

 

「一夏が甘えていいって・・・」

 

二人共ゴニョゴニョと何かを言っているが聞こえない。

 

「まぁ、いいシャルルも一夏もシャワーはもう浴びたよな?」

 

「「シ、シャワー!?ですか!?」」

 

「お、おう・・・」

 

なんで二人して顔を赤らめてんだ?

 

「もう、俺が入るぞ」

 

「「ど、どうぞどうぞ」」

 

バスタオルを掴んでシャワー室に入る。

 

なんかよくわからんけど訓練終わった後の不機嫌なシャルルは消えたな。

 

良かった良かった。

 

そう思い、シャワー室に入ろうとした時、洗面台の籠の中に何かを見つける。

 

ん?これはサラシ?いやコルセットか?

 

・・・サラシなら・・・箒か!

 

多分箒の物だろう、絶対持ってそう。

 

「一夏〜!」

 

洗面所から手だけ出してサラシか何かを一夏に見せる。

 

「な、何ですか薪先輩ってうぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

ん?今女の子の声が聞こえたか?

 

「これ箒の忘れものか?」

 

「え・・・あ、はい、そうです、いや〜箒のヤツめ、こんな忘れ物するなんて・・・」

 

一夏が受け取りそのまま持っていく。

 

よし、今日は疲れたからとっとシャワー浴びて寝よう。

 

 

 

後になってから何故あの時気づかなかったんだろうと常々思う。



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コールド・デート

フォルテとのデート回

始めて一万字を越えた・・・

というか途中から集中力が切れてきてあんまり味のない文になってしまった気がする。


今考えたらこれはデート何じゃないだろうか・・・

 

今日は日曜日の昼頃、普段ならIS学園で訓練でもしてる時間帯だが、俺は一人、町の駅まで来ていた。

 

手頃な飲食店やショッピングモール、外部からくる人用にホテルなどが立ち並ぶこの辺りは、かなり静かな場所だが学生が遊ぶなら何の不自由もない場所だ。

 

そんな場所で俺はサファイアと待ち合わせをしていた。

 

今考えたらこれはデート何じゃないだろうか・・・

 

何度も頭の中でリピートする思考、月曜日にサラッと承諾してしまったが、今思えば女子と二人きりで遊ぶ機会って俺の人生で今のところあんまりないな。

 

なんだかそう思うと緊張してきた・・・って、俺はラノベのヒロインか何か!

 

「・・・・」

 

落ち着こう。

 

久しぶりの休日だ、IS学園に入ってからまともに遊んだ事もなかったからな、今日はサファイアに甘えてゆっくりしよう。

 

「ねぇ〜そこのちょっと大人びた君〜。私達と遊ばな〜い」

 

「お姉さん達と遊ぼうよ〜」

 

サファイアを待っていると、通りかかったキャバイ女性二人から声をかけられる。

 

あれ!?逆ナン!?

 

いや、男としては嬉しいけど、サファイア待ってるし・・・

 

「あ〜、いや、自分お金持ってないですし、待ち人を待たせてるので・・・」

 

「まぁ〜そんな事言わずにさ〜」

 

「お姉さん達といいことしようよ〜」

 

なんだこの状況!?

 

女尊男卑のこの時代で何故このような事が起きるんだ!

 

ISが登場して以来、各国はそろって女性優遇制度を取るようになってから男性の地位は右肩下がりになった。しかし、アイドルやホストなど顔の偏差値が高い人達は以前にもまして女性(権力者)から可愛がられるようになった。

 

だが、俺の顔は普通である。恐らくこの女性達には金を搾り取られ直ぐにボロ雑巾のように捨てられり未来しか思い浮かばない。

 

頭の中で何とかこの女性達を回避するシミュレーションを数回するが全て無駄に終わる。

 

どうしよう・・・この状況を打開する為には・

 

「風見野〜待たせたッス」

 

救世主来た!

 

駅の改札口から来たサファイアが俺と女性二人の間に入って来る。

 

「ん、知り合いッスか?」

 

「いや、そういう訳じゃない」

 

ホっと胸を撫で下ろしサファイア押して前に出てもらう。

 

「え?・・・ああ・・・悪いッスけど、私達これから用があるんで失礼するッス」

 

サファイアが俺の手を引き、逆ナン二人から遠ざかる。

 

「なんだ、ロリコンかよ」

 

「顔好みだったのに・・・次行こ、次」

 

なんか嫌なレッテル張られたんだけど!違うからな!サファイアが小柄なだけだ!

 

後ろから聞こえる声に心の中で苦情を言いつつサファイアと共にショッピングモールへと続く道を移動していく。

 

「はぁ、なんで絡まれてんッスか・・・というか風見野って年上にでもモテるんッスか?」

 

「あんなん一生に一度にあるかないかの状況だ、ここ最近で一番驚いた」

 

「なら・・・声かけない方が良かったッスか?」

 

「いいや、助かったよサファイア」

 

礼を言い手を離し隣を歩くサファイアを見る。

 

茶色いブーツにグレーのスカート白いシャツに薄手の黒コートを羽織り、可愛らしいブラウンのポシェットを肩からかけている。

 

いかにも春って感じだ、そろそろ夏も近いが時折寒くなるこの不安定な季節にはピッタリだろう。

 

「なんすか?」

 

「いや、可愛らし服だなって・・・似合うな」

 

「え?あ・・・ありがとうッス・・・」

 

指先で顔をかき、少し頬を赤らめるサファイア。

 

「えっと、そう言う風見野も・・・あれ?普通ッスね」

 

「悪かったな普通の服で、こちとらIS学園に入れられた際から私服は一着しかないんだよ」

 

俺の服装は紺のジーパンにグレーのシャツを着てるくらいだ。オシャレ?そんなもん今頃誰も住んでいない我が家に置いてきた。

 

「は〜、という事は風見野ってこの辺りで遊んだ事は無いんッスか?」

 

「ああ、見知らぬ土地だよ、ココドコー?状態だよ」

 

「ふんふん・・・じゃあッスね・・・」

 

クルンっと回り俺の前に出てくるサファイア、そして少し前傾姿勢になり。

 

「私が案内するッスよ、今日は風見野の事をつれ回してやるッス」

 

あざとい!いつもズボラに見えるサファイアが可愛く見える!

 

「本当か?それは助かる、何も調べてなかったからな」

 

「大丈夫ッスよ、どうせいつものデートコース回るつもりだったッスから」

 

「なるほどそれは安心・・・え?」

 

今、なんて言ったコイツ?

 

「いつものデートコース?」

 

「あ・・・」

 

しまったと言う顔をするサファイア。

 

「なんだ誰かと付き合ってんのか、お前?」

 

俺の問いに目を泳がせながら冷や汗をたらすサファイア。

 

「そ、そうなんッスよ〜。私付き合ってる人がいて・・・ああ、でも大丈夫ッスよ、風見野は関係無いッスし〜・・・」

 

「ちゃんと、付き合ってる人には男と遊んで来ますとか言ったか?最近はそういうので問題になるケースも・・・」

 

「言っては無いッスけど・・・大丈夫ッスから!そういうの気にしない人ッスから!」

 

「まぁ・・・お前が言うならいいが・・・」

 

「ほら!早く行くッスよ、風見野!」

 

「うぉ!?いきなり引っ張るなって!」

 

そうか・・・サファイア付き合ってる人がいるのか。まぁ、サファイア可愛らしい見た目してるし男性(・・)が放って置くわけないか・・・しかし、こんなんでいいのだろうか・・・実は独占欲が強い人でトラブルに巻き込まれるのはゴメンだぞ。

 

クラスメイトの知らない一面を知りつつも、不安を抱えながら俺とサファイアのデート?は始まった。

 

後ろを尾行する謎の影に気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の目の前にはピンクやグレー、黒や赤、紫や水色などと言った薄い布が大量に並んでいる。

 

そのお店の照明は暖かさを覚える明るいオレンジ色?いや、橙色だろうか?そんな色合いを出していて、店員さんも笑顔でお客様を向かえて・・・って・・・

 

薄い布・・・いや・・・これは下着!

 

「サファイアぁぁあ!ここランジェリーショップじゃねぇか!」

 

「うるさいッスね〜、入口に突っ立ってないで早く中に入っるッスよ」

 

俺とサファイアがショッピングモールに入り早速訪れたのは下着売り場もといランジェリーショップだった。

 

まて!男子高校生に対してデートコース一軒目がランジェリーショップって難易度高いぞ!いきなり全開フルスロットルって感じだ!

 

「風見野が任せるって言ったんッスから、文句言ってないで早く行くッスよ」

 

「うぅ・・・」

 

確かにサファイアに任せると言った手前、何も言えない。サファイアに手を引かれ俺はそのままズルズルと店の中に引きずり込まれる。

 

下着って、本当に様々な色があるんなだなぁ、形も多種多様だ。IS学園に入ってから特に一年生寮で過ごしている際、女子の下着は山ほど見る機会はあったのだが、こうしてまじまじと見た事はない、何より女子が隣にいる状況で。

 

サファイアを見ると既にどんな物があるかと物色を始めていた。

 

はぁ、いっそう開き直ってしっかり見て見るか・・・案外一周回って楽しめるかもしれん。

 

という訳で、俺も目の前にあった下着を手に取って見る。

 

「ホウ・・・コレガ、ヒモパントヤラカ・・・」

 

「なんか、風見野がバグってるッス」

 

「知らない物には誰だって動揺するもんだろ。女子の下着を知り尽くしている、男子高校生がいたら見てみたいものだ」

 

「変態優等生ッスねソイツ」

 

「というかなんでこのブラとパンツ前にもヒモがついているんだ?これじゃあ使えにく・・・ああ、そういう事か・・・」

 

「・・・風見野はやっぱりそういうのが好きなんッスか?」

 

「好きか嫌いかと言われたらもちろん好きだが・・・俺には早すぎる、というか今お前が持ってる黒のパンツも早すぎる、黒はアカンッスよ黒は」

 

「風見野は私の親か何かッスか・・・後、私の口癖が移ってるッス」

 

サファイアから黒パンツとブラジャーを没収し元の棚に戻す。

 

しかし、下着の種類って本当に沢山あるんだな。インナー、スパッツ、キャミソール、補正下着、ガターベルト風パンツ、セクシーランジェリー・・・女性って大変だな。

 

次に手に取って見た物はグレーの色をしたヒラヒラのフリルがついた透け透けのキャミソール、いやこれもう隠すとこ隠せてないよね。

 

「ん〜、どんなのがいいッスかね〜」

 

「・・・・」

 

横にいるサファイアに持っている下着を合わせてみるが、サファイアの小柄な体型もあいまって・・・

 

「犯罪的だな」

 

「え、何がッスか?」

 

「いや、なんでも・・・」

 

女性の勝負下着とは恐ろしい物だ、こんなの着られたら人によってはイチコロだわ。

 

そんな思春期真っ盛りの妄想を頭に思い浮かべて要るとサファイアが顔を覗かせてくる。

 

「風見野・・・それがいいんッスか?」

 

「いや、流石にこれは強烈・・・って待て、何?俺の推薦で決めるの!?」

 

異性の同級生の下着決めるって過酷すぎない!?

 

「まぁ、物欲しそうにしてたッスからね」

 

「してねぇよ!」

 

こんなのサファイアに着せられるか!

 

直ぐに元の棚に戻そうとしたが、サファイアにひったくられる。

 

「ニヒヒ、じゃ、これにするッス」

 

「おい!」

 

サファイアを止めようとしたが直ぐにレジへと向かってしまい、そのまま会計をすませてしまった。

 

マジ?・・・着るの、あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いてはペットショップに入る俺とサファイア。

 

ペット?

 

「なぁ、寮って動物飼うの禁止だよな?」

 

「いや、そういう訳じゃないッスよ。犬、猫は駄目ッスけど、金魚とかならOKッス。実際にサラが飼ってるッスよ、確か去年の夏祭りで手に入れた金魚だったはずッス」

 

「へぇ・・・ウェルキンが金魚・・・」

 

「名前は刺身ッス」

 

「冗談だよな・・・」

 

「・・・・」

 

「返事してくれ・・・」

 

まぁ、良かった・・・次はまともなお店で。

 

ペットショップは標準的な感じだ、動物の種類は多様だが流石に希少性が高い動物はいないようだ。

 

ちなみにこの店のイチオシはウーパールーパー。

 

以前何時だったか一夏が「自分達ってウーパールーパー見たいですよね」と言っていたが・・・多分俺らはこんな安い生き物じゃないぜ一夏。後、ウーパールーパーって唐揚げにして食えるんだね・・・

 

お値段一匹あたり500~1500円。

 

透明なプラスチック越しに子犬や子猫が大量に入っている場所を通る、寝ているヤツもいれば、起きてこちらを興味深々に見てくるヤツもいる。

 

「で?何しに来たんだここに?」

 

「サラの金魚のエサと・・・今日こそは捕まえるッスよ」

 

サファイアがフンっと鼻を鳴らし近づいて行った先には・・・

 

触れ合いコーナーと書かれた看板が立っていた。

 

ああ、そういう・・・

 

二人してゲージの中に入る、広さはそこそこあり、昼過ぎもあり、かなりの人がこの触れ合いコーナーに入っている。

 

見渡す限り、猫、猫、猫。

 

どうやら今は猫との触れ合いコーナーらしい。

 

「よ〜し・・・ほら、くるッスよ、チッ、チッ、チッ」

 

サファイアがさっそく座り込んで、舌で音を鳴らし猫を呼ぼうとするが、肝心の猫は・・・

 

「フニャ〜」

 

サファイアの方を見向きもしないで、欠伸をかいている。

 

「くっ、なんで来ないんッスか・・・」

 

「そんなんで、猫がくる訳ないだろう犬じゃないんだから・・・」

 

「でも、近づいたら、逃げられたんすよ前に来た時は」

 

なおも懸命に舌だけで猫を呼んでいるサファイアだったが、猫は一向にサファイアを見る気配はない。

 

「諦めたらどうだ?」

 

「ぐぬぬ、こうなったら強行手段ッス!」

 

サファイアが立ち上がりゆっくり静かに近づいて行く。

 

「なんかもう、結果が見えてる気がするんだが・・・」

 

「静かにッスよ風見野・・・」

 

猫の背中を狙ってゆっくり忍び寄るサファイア。後三歩、後二歩、後一歩と近づいて行くが・・・

 

「ニャ〜」

 

「あ!」

 

やっぱり逃げられる。

 

「な、なんででッスか・・・」

 

「猫はぶっきらぼうだしな・・・」

 

猫に逃げられたサファイアが若干泣きそうな顔をする、意気消沈しているサファイアを宥めようと近づいた時。

 

「ニャ〜」

 

「ん?」

 

俺の足下に猫がすり寄ってくる。

 

「どうした、猫?」

 

「ニャ〜・・・」

 

抱き上げて猫の顔を見てみるが全然何を考えているか分からない。まぁ、構って欲しいだけなんだろうけど・・・

 

そんな俺を見たサファイアは信じられないといった顔でこちらに積めよってくる。

 

「な、なんで私はダメで、風見野にはすり寄るんッか・・・」

 

「日頃の行いじゃね?」

 

「そんなんで猫になつかれるんッスか!?マタタビでも体に塗りつけてるんじゃないんッスか!?」

 

「猫に近寄るために体にマタタビ塗りつけるヤツってどんだけ猫の為に努力してんだよ」

 

サファイアが尋常じゃないくらいに抗議してくる。

 

まぁ、昔から動物にはヤバいくらい好かれやすいって家族にも言われてるけど・・・

 

「はぁ、じゃあほら。お前が持て」

 

「うぇ!?あ・・・」

 

猫を押し付けると一瞬サファイアが戸惑うが直ぐに落ち着く。

 

「ふぁ・・・猫だ・・・」

 

「ニャ〜」

 

猫の脇を持ってマジマジと見つめるサファイア。

 

どんだけ、感動してんだ・・・

 

フニャリとサファイアの顔が緩み、猫と会話し始める。

 

「よ〜しよしよし、可愛いヤツッスねお前は」

 

「ニャ?」

 

「こう見てると頬擦りしたくなってくるッス」

 

「ニャ?ニャ?」

 

「えい!」

 

「ニャ!」

 

サファイアが猫に顔を近づけた瞬間、猫が両手を伸ばしサファイアの両目を押さえつける。

 

「・・・サファイア、それギャグか何かか?」

 

「もう!・・・でも、肉球が気持ちいッス・・・」

 

「そっか・・・」

 

何となくこの状況をスマホの写真に収め・・・サファイアが満足するまで待って置く。

 

だが、待ってると俺困るんだよね・・・

 

しばらくして・・・

 

「いや〜やっぱり動物っていいッスね」

 

「そうだな・・・だが、好かれるのも大概だぞ」

 

「何言ってるんッスか、動物のあのモフモフは人間じゃあ絶対に味わえない・・・」

 

「この状況を見てもか・・・」

 

俺は動物に好かれやすい。

 

今の状況は頭に猫、肩に猫、腕に猫、胡座をかいて座った隙間に猫、猫、猫、猫・・・

 

「風見野・・・実は体臭がマタタビの匂いだったりするッスか?」

 

「何それ臭そう・・・」

 

「ニャ〜・・・」

 

そうして触れ合い広場内の猫が全て俺の元に集まるまでゆっくりしていった。店員が猫を引き剥がしてくれたのは一時間位後の事だっただろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜、猫の匂いがシャツについた・・・」

 

「風見野の特技は猫集めだったんスかね?」

 

「常時発動の特技とかいらないだろ」

 

その後も、サファイアと共にショッピングモールを巡り、アクセサリーショップや本屋、雑貨屋などを周りそろそろ帰る時間が近づいていたので最後に駅の前にある、喫茶店に来ていた。

 

モダンな作りをした喫茶店、和洋折衷という言葉が似合いそうな場所だった。

 

二人して席に座り、おしながきを見る。

 

「お、パフェあるじゃないッスか。私はこの宇治抹茶こしあんパフェにするッス」

 

「俺はそうだな・・・無難にこのストロベリーパフェに・・・」

 

おしながきを見ていると飲み物の中に抹茶と書かれたページを見つける。

 

ん?作法なしの本格的抹茶が飲めるお店?・・・

 

そういえば、一夏がコーヒーみたいに楽に抹茶が飲める場所があるって言っていたが・・・そうか、このお店だったか・・・

 

黒い髭の生えたダンディーな店員さんが配膳トレーに水を持ってやって来る

 

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「店員さん!この宇治抹茶こしあんパフェをお願いするッス、風見野は?」

 

「ああ・・・じゃあストロベリーパフェと・・・この抹茶を二杯お願いします」

 

「うけたまわりました」

 

店員さんが水を置き、そのまま店の奥へと帰っていく。

 

「抹茶をなんで二杯も頼んだんッスか?どんだけ飲むんッスか風見野・・・」

 

「いや、後輩が言っていた事を思い出してな。まぁ、俺が奢るからお前も飲んでみろ」

 

「え!奢りッスか!なら飲むッスけど・・・」

 

「ん?」

 

サファイアがジッとこちらを見てくる・・・正確には俺の右手にある財布を。

 

「風見野・・・お金大丈夫ッスか?」

 

「・・・だ、大丈夫」

 

「凄い不安な顔してるッス!」

 

俺は高校二年生だ。一様、一年生の時にバイトをしていて余ってはいるがそれでも今後の事を考えるとあまりに心元無い。

 

「風見野、ここは私が全部払った方が・・・」

 

「それだと俺がヒモみたいじゃん、大丈夫払うから」

 

「ならいいッスけど・・・風見野って結局、何処にも所属してないんッスよね」

 

「いや、IS学園所属になったが・・・」

 

「・・・もしかして補助金とかって無いんッスか?」

 

「そうなんだよ!いいよな!国家に所属してるヤツは!」

 

所属国家。

 

ISを持つ以上、各それぞれのISが作られた企業の国家に所属しなければならない。ISを作るのは各企業だが、その企業は国からの援助を受けてISを開発している。

 

そして操縦者ももれなく国家に所属するわけだが、国家代表や国家代表候補生にはなんと国からの補助金が貰えるのだ、それはもちろん学費や生活に当てられるのだがそれでも余る、その余ったお金は学生には大金と呼べるくらいにはあるだろう。

 

楯無もソルもウェルキンもクリスさんも鴉堕も目の前にいるサファイアもみんなバイトなんてしなくても全然余裕なのだ!いいな〜!

 

「そういえばなんでIS学園所属に?いままでそんな枠なんて無かったッスよね?」

 

「実はな・・・」

 

 

 

ちょっと前・・・

 

「風見野、今いいか?」

 

「あれ、織斑先生?はい、大丈夫ですけど?」

 

一年生の廊下を歩いている時、ふとした瞬間に織斑先生に呼び止められた。

 

「実はお前の所属先が決まってな・・・」

 

「ああ、長引いていた、国際IS委員会のヤツですか」

 

俺の持つISオール・フォー・ワンは様々なISのパーツで作られたキメラ機体だ、最初は企業の反感を買うもんだと思っていてビクビクしていたが企業連からはむしろ好評価だった。

 

リーグマッチ戦を境に多くの企業から開発協力の申し出が届くほど良かったのだが、様々なパーツを組み込んでいるせいで各国揃ってウチの機体!と言うようになっていったのだ・・・事態を重く見た国際IS委員会が仲裁に入り各国を話し合いの席に着けたはずだが・・・

 

「で、結果はどうなったんですか?アメリカですか?イギリスですか?フランス?それともイタリアですか?」

 

「はぁ・・・あのバカどもが話し合い(殴り合い)をした結果、お前はIS学園で預かる事になった」

 

「IS学園所属ですか・・・無難な着地点ですかね?」

 

「ああ、これ以上怪我人が増えなくて良かった」

 

「?」

 

「とにかく、職員室に来い手続きの書類を書いてもらう」

 

「わかりました・・・あ、そういえば織斑先生、俺には補助金とかって・・・」

 

「無い、甘ったれるな。IS学園は日本政府からの金でしか動いていないのだ、貴様に回す金など一円たりともない」

 

「・・・ソンナー」

 

補助金の件は織斑先生により一蹴され、俺は見事にIS学園に所属する事になってしまった。

 

 

 

「という訳だ・・・」

 

「風見野は世界に振りまわせれたって事ッスか」

 

「そういう事だが、まぁ、企業連がオール・フォー・ワンの開発に協力してくれるってのは決まったみたいだし、後は試作兵器の稼働テストとか、ありがたいもんだ、さっそく倉持技研から試作兵器きてるし早く使ってデータを渡さないと」

 

「へぇ〜そんな事があったんッスね」

 

会話が終了したと同時にパフェがテーブルに置かれる。

 

「俺トイレ行ってくるわ」

 

「わかったッス先食べてるッスよ〜」

 

サファイアと話していたらすっかりトイレに行くタイミングを逃してしまった。

 

はぁ、俺は今後どうやって娯楽を楽しめばいいのだろうか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

トイレを済まして席に戻ろとする時、通りかかった席で怪しい人物を見かけてしまう。

 

「・・・・」

 

その人は店の中なのにしっかりとオレンジ色のコートを着ていて頭には深く被った帽子、足元からはガターベルトが見え、髪は金髪のホーステイル。そして黒いサングラスにマスクという・・・私怪しい人ですよと言っているような感じだった。

 

危険人物だな・・・こういうのは触れない方が・・・

 

そう思い横を素通りしようとした時、一瞬見えた横顔にどこか見覚えがあった。

 

「・・・・」

 

一度止まりジッと見つめて見るとその怪しい人の目線の先にはパフェを食べるサファイアの背中があった。

 

金髪、ホーステイル、サファイア・・・もしかして・・・

 

「ケイシー先輩?」

 

「・・・・」ピク

 

「ダリル先輩ですよね?」

 

「・・・・」ピクピク

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「サファ・・・」

 

ガッ!

 

サファイアと呼ぼうとした瞬間、顔を片手で捕まれそのまま顔の近くまで引き寄せられる。

 

「フォルテに言ったら・・・コロス」

 

「ふぁい・・・」

 

頬っぺたを鷲掴みされながらも必死で答える。

 

やっぱりこの人めっちゃ怖い。

 

二人してサファイアの方を見るが未だにパフェを食べるのに夢中でこちらには気づいていないようだ。

 

「ふぅ・・・」

 

パッと手を離され自由になる。

 

「・・・痛てて、何やってんですかダリル先輩・・・」

 

「・・・フォルテが心配で様子を見に来ただけだ・・・」

 

「サファイアが心配?」

 

「ああ、下着見たり、猫触ったり、アクセサリー見たり、そんな様子を見てただけだ」

 

様子が心配ってサファイアめっちゃ元気だけどというか今日の全部見てたんかい・・・もはや、ストーカーなのでは?

 

「サファイアと話さなくても?」

 

「うるせぇ、いいんだ、これで・・・」

 

サファイアを見つめるダリル先輩の目を追うと、まさかのサファイアが俺のストロベリーパフェまで食い始めているのを見てしまった。

 

俺のパフェー!

 

この先輩の異常な行動力とサファイアのパフェ強奪に驚きつつもさっき聞いたかった事を聞いて見る。

 

「サファイアが心配ってどういう事ですか?」

 

「お前には関係ねぇ」

 

「今、サファイア組んでいるのは俺です、相方を心配するのは当たり前でしょう」

 

「てめえにフォルテの何がわかる」

 

キッとこちらを鋭く睨んでくるダリル先輩、なのでたじろぐ事はせずダリル先輩の目を見つめて見る。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「ふん・・・それでもお前には関係ねぇよ」

 

駄目か・・・まぁ、込み入った事情なのだろう・・・なら、無理に入るのはよくないな・・・

 

「・・・だが、風見野」

 

「はい?」

 

「フォルテに・・・いや・・・何かあったらフォルテを支えてやってくれ、お前が今の相方なら頼む・・・」

 

「は、はぁ・・・」

 

支えるね・・・

 

ダリル先輩は頼んでいたコーヒーを残したらまま席を立ち上がり店を出ていってしまった。

 

俺も席に戻るか・・・パフェないけど。

 

席に戻る手前、ダリル先輩の言っていた事を頭にいれながら、サファイアの横顔を見てると・・・

 

今日1日過ごした中で見たことのない寂しい顔をしていた、目の前の誰も座っていない席を見ながら。

 

「サファイア大丈夫か?」

 

「え?あ、お帰りッス風見野、ストロベリーパフェは・・・溶けちゃたみたいッスよ」

 

「・・・口に赤いソース付いてんぞ」

 

「え?マジッスか!?」

 

ゴシゴシとナプキンで口を拭き始めるサファイア。いや、それだと食べましたっての言ってるようなものなんだが・・・

 

はぁ・・・とため息をつき、いつの間にか届いていた抹茶を飲む。

 

サファイアのあの寂しそうに誰もいない席を見つめる顔、相棒のダリル先輩が姿を現さなくても心配だから見に来たと言う意味とサファイアに何かあったら支えろ、そして・・・いつものデートコース・・・

 

サファイアの顔を見ながら考える。

 

つまり、そこから導かれる結論は・・・

 

「ん?どうしたんスか風見野?私はストロベリーパフェは食って無いッスよ?」

 

「・・・なぁ、サファイア」

 

「?」

 

「お前・・・」

 

 

 

 

「最近付き合ってる人と上手く行ってないだろ」

 

 

 

 

多分、これだ・・・最初の時にサファイアは恋人の話で凄く動揺していたのを思い出した、さて結果は・・・

 

「な、なんでわかったんスか?」

 

良かった正解だった、いや、この場合、事態はよくないのか・・・

 

「いやなに、さっき・・・」

 

ダリル先輩の事言ったら多分殺されるな俺、えっとじゃあ伏せて言えばいいのか。

 

「・・・あ〜、あれだ、俺、洞察力は凄いから、今日1日見て気づいたんだ」

 

「え!?見ただけでわかるんッスか!?」

 

「ああ、もちろん」

 

いや、本当はダリル先輩に言われるまで微塵も気にして無かったけど・・・

 

「で?上手く行ってないのか?」

 

「う・・・そう・・・なんスよ・・・」

 

サファイアの口調が急激に弱々しくなる。

 

「実は・・・突然別れ話をされて・・・」

 

「突然か・・・」

 

どうやら事態は既に深刻化してるらしい確かにダリル先輩も相棒が心配になるわけだ。

 

「多分私が悪いんッス・・・私、面倒くさがりやで、ガサツな所もあるんで・・・それに、愛想尽かして・・・」

 

「ふん・・・」

 

「それで・・・どうすればいいかよく分からないッスけど、とりあえずタッグ・マッチの優勝賞品で・・・どうにか仲直り出来ないかなって・・・今考えているんッス」

 

なるほど、そういう事だったのか・・・

 

サファイアは訓練に対しては面倒くさがって真剣に取り組んでいないと時々思っていたが、今のサファイアは焦っていてそれで時折上手くいかない訓練があったのか。

 

では、俺はどうすればいいか・・・簡単だダリル先輩が言った通り、今の相方は俺だ、俺がサファイアを支えればいい。

 

「サファイア」

 

「?」

 

「ようやくお前のモチベーションが上がらない事に気がつけたよ、なら、俺の優勝の為に精一杯俺も協力しよう」

 

「風見野・・・」

 

「俺も、タッグ・マッチでやらなきゃ行けない事が増えてな、せっかくだ優勝までやってろうじゃないか」

 

「・・・・」

 

「一緒に頑張ろうサファイア」

 

「あ、ありがとうッス、風見野」

 

サファイアが少しだけ泣きながらそう言った。

 

日曜日の休暇はここまで・・・リフレッシュのつもりがまた一つ増えた悩み事をおみやげにIS学園に俺は帰っていく。また明日から頑張らなければ。

 

ちなみに飲んだ抹茶はとても薄い味だった。




薪がこのダリル先輩とサファイアの状況に気づいていく訳ですが、まだ若干、薪は勘違いをしています。



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後輩達のいざこざ

「凰とオルコット、そしてドイツの子か・・・」

 

アリーナ休憩室

 

月曜日の放課後、サファイアと一緒に訓練の為に第三アリーナを訪れたのだが、今は一年生の三人が二対一の変則マッチを行っていて終了するまではアリーナ内に出る事が出来ない。

 

その為、休憩室で待機し模擬戦が終わり次第、訓練をやろうと言う事になった。

 

しかし・・・なんだか気まずいな・・・

 

今休憩室には俺、サファイア、そして、楯無と鴉堕がいる。

 

休憩室にあるベンチに座り、後輩達の戦闘を見ている鴉堕を見る。

 

土曜日にお前に勝つとか言った手前なんとも話しかけ辛くなってしまった。

 

まぁ、もともと余り話す間柄でも無かったから深く気にしてはいないのだが。こう、敵として同じ部屋の中にいると・・・

 

気まずい・・・

 

「薪〜君、どう?上達してる?」

 

そう思っていると楯無が隣に座ってきた、それも密着するような形で。

 

今は互いにISスーツを着ている状態、普段はこうして触れて来ても制服を着ている為、気にならなかったが。ISスーツのせいで肌と肌が直に触れあうように感じてしまう。

 

「ああ、サファイアの指導のお陰でな、タッグ戦の知識量は増えて来たよ、後少し離れろ」

 

「いいじゃない、まだ汗なんてかいて無いし、それとも・・・気になる?」

 

少し、上目遣いで挑発するようにこちらを見てくる楯無。

 

ISスーツラインがくっきりと見える胸も目に入る。

 

「・・・止めてくれ楯無、お前とのこういったやり取りは疲れるんだ」

 

「むぅ・・・こう言うの絶対好きな癖に」

 

うっせぇ、好きだよ!だが今はそんな事してる場合じゃない!後学の為にも後輩達の戦闘を研究しなければ。

 

自制心を呼び覚まし、楯無から距離を取ろうとする・・・が。

 

「そうやってずっと根を詰めてると疲れるだけよ薪君」

 

腕を捕まれ楯無の胸の前まで持ってかれる。

 

「人間って柔らかい物を掴むと癒されるんだって・・・」

 

いや、待て・・・それはつまり胸を掴めと?

 

「大丈夫よ、この前みたいに蹴らないし、私としては・・・薪君に癒されて欲しいだけだから」

 

楯無から胸を揉んでいい許可が降りただと!?待て俺!!ブレーキ!ブレーキをかけろ!絶対何かある!

 

「わ、悪いが、楯無・・・その手には乗らんぞ・・・どうせ、嘘で〜すとか言うんだろ?」

 

「・・・・」

 

あれ、マジ?そこで無言は心理戦においては強いぞ!いやでも楯無の顔が全然赤くもなってないし、若干笑ってるし・・・でも、もう握れば掴んでしまう距離まで来ている。

 

・・・ちょっとだけなら。

 

自制心というブレーキがスッポ抜けてしまい、俺は生唾を飲んで楯無の胸を・・・

 

「何やってんッスか!!」

 

「腕がぁ!?」

 

サファイアの踵落としが俺の腕を蹴り落とす。今一瞬腕がくの字に曲がった気がする。

 

「よし成功!大丈夫、薪君?」

 

「何私の目の前でイチャイチャしてんスか、見せられてるこっちはフラストレーション溜まりまくりなんスッけど?」

 

「楯無、テメェ・・・」

 

まぁ、確かにこんな場所で楯無が仕掛けてくる方がおかしかったのだ、サファイアがアクションを取ってくるのを見越した行動だったのか・・・

 

「楯無・・・この借りは必ず返す・・・」

 

「返す所か、借金まみれにしてあげるわよ薪君」

 

痛む腕を押さえていると休憩室の入り口から何人か入ってくる。

 

「やぁ、君達も待ちの状態かい?」

 

「ごきげんよう、風見野さん、楯無さん、フォルテさん、舞姫さん」

 

「あら?みんな居るのね」

 

「・・・・」

 

休憩室に入って来たのは上からソル、ウェルキン、クリスさんにオウアランダーの四人だった。

 

「やっぱり、見に来たのね、ソルとサラは」

 

「いきなり始まった事には驚いたが、互いの後輩の試合だからな、二対一というハンディキャップマッチだが、ラウラなら問題はないだろう」

 

「あら?そうでしょうか?セシリアと凰さんはここ最近仲がよくなり始めたと聞きましたので、むしろ二人のコンビの前になすすべもなく負ける可能性もありましてよ」

 

「でも、見た所、二人は劣勢の状態ねソルちゃんの後輩の方が一枚上手みたい」

 

「流石クリスだ、一瞬で見抜いたか。ラウラは強いぞ、候補生には太刀打ち出来ない位にはな」

 

「・・・・」

 

あの銀髪の子、ラウラって言うのか。

 

突然ワイワイと騒がしくなる休憩室。誰が喋ってるかわからなくなってくる。

 

というか今この休憩室には・・・楯無、ソル、サファイア、鴉堕、ウェルキン、クリスさん、オウアランダーという、二年生のエースが勢揃いしている、一瞬で恐ろしい空間になってしまった。

 

「そう言えば、あの噂本当なのか?」

 

自動販売機で飲み物を取り出しながらソルが聞いてくる。

 

「噂?」

 

全然知らん。というかこの学園、いつの間にか色々な噂が広がっている所があるんだよな、女子高ならではなのか、まぁ、男子である俺はいつも耳にする事すらないんだが。

 

「ああ、学年別トーナメントで優勝したら学年問わず織斑君と交際出来るって噂?」

 

「そう言えば、そんな噂もあったな、まぁ恐らくその噂は間違いだろうがな」

 

楯無がソルに反応して答える、って一夏、また変な事に巻き込まれてるのか・・・

 

「じゃあ、どの噂よ?」

 

「あれだ、薪が舞姫に決闘を申し込んだという噂だ」

 

は〜ん、決闘ね〜そういう噂もあるのか〜・・・って・・・

 

「ちょっと待て!なんで知ってんだよ!」

 

まさかの二日前の出来事が早くも漏れだしてる。

 

「ほぅ、噂は本当だったか」

 

「うわ〜、本当だったんスか、バカッスね〜風見野」

 

「今度こそ、ジャイアントキリングなるか、と言ったとこかしら」

 

「あら、応援してますわよ、風見野さん」

 

「・・・・」

 

みんな知ってる感じだ!

 

何でだ?確かあの時いたのは俺と鴉堕とオウアランダーだけだったはずだ、オウアランダーは余り誰かと喋るヤツじゃ無いし・・・

 

そう思い、鴉堕の方を見る。

 

「なんや、ウチがそうベラベラと話すヤツに見えるか?」

 

いえ、全然。

 

「じゃあなんで・・・」

 

一体どっから話しが漏れたんだと思っていると、俺と鴉堕以外が全員、楯無を見る。

 

「あ、ゴメンね、薪君、私が言ったの」

 

「楯無ぃぃ!?いや、なんで知ってんの!?」

 

「私の情報収集能力を舐めないでね」

 

楯無が扇子を広げて笑う、その扇子には情報戦の三文字。

 

「諦めろ薪、もう二年生全体にはこの噂は広がってる」

 

「そうですわね、あまり目立った争い事のない二年生にはあっという間に広がってしまいましたからね」

 

な、何だってー!

 

なんという事だ・・・俺と鴉堕の勝負が二人の間の決め事だったのに、学年全体が知っているだと!?

 

勝負の内容までは知られてはいないみたいだが、事の次第が大きくなっていくにつれて不安も大きくなっていく。

 

「なんや、風見野、んなガタガタ震えて」

 

俺の様子を見た鴉堕がニヤニヤとしながら聞いてくる。

 

「いや、震えてはねぇよ、ただ・・・話しがデカくなり過ぎ・・・」

 

「なんなら、学年別トーナメントと言わず、今からタイマンで勝負してもええんやで」

 

「え!?」

 

今から!?一対一で!?

 

「ええやろ、今ならここにいるメンツだけやし、おまんも気は楽やろ」

 

「それはそうだが・・・」

 

「それとも何か?フォルテがいないと戦えへんほどおまんは未熟なんか?」

 

「ッ・・・」

 

今のはムカッと来た・・・

 

俺は鴉堕の前に立つ。

 

「なんや、怒ったか?」

 

「ああ、流石にそこまで言われたらな・・・」

 

「ほぅ、ええ顔しとるやん」

 

「鴉堕・・・俺と一対一で勝・・・」

 

勝負しろと言いかけた瞬間。

 

「あれ・・・危ない・・・」

 

いつの間にかアリーナを見渡せる窓にべったりとくっついていたオウアランダーがボソリと呟いた。

 

その場にいた全員がオウアランダーを見た時、大きな音がアリーナに響いた。

 

「な!?」

 

「なんや!?」

 

何が起こったのかと窓に近寄り、アリーナの中央を見るとそこには。

 

「セシリア!?」

 

「何をやっているんだ!ラウラ!」

 

「うわ・・・ひどいッスね」

 

そこには、二人を蹂躙しているラウラとボロボロになったISを纏っている凰とオルコット。

 

そして、その間に突撃していく零落白夜を発動させた一夏の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、一夏がラウラを相手取って、戦闘が開始されたが劣勢、それを見かねたシャルルが一夏の開けたアリーナのシールドの裂け目を通り乱入・・・だが。

 

後輩達のいざこざは結果的には織斑先生の介入によって事を終えた。

 

だがその件が終わる際、アリーナ内全ての生徒に織斑先生が放った一言。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

その言葉もあり俺と舞姫の一対一の勝負も流れてしまった。

 

燻る感情にいまいち集中が出来なかった俺は訓練を少しやった後、後輩達がいる保険室に向かった。

 

「おう、大丈夫かお前らって・・・」

 

「なによ?」

 

「なんですか?」

 

ベッドにはムッスーとした顔の凰とオルコット、想像通りだな。

 

二人とも顔や腕に包帯が巻かれている、見るからに酷い状況だ。

 

「後輩がケガしたって聞いたんだ見舞いに来ない先輩はいないだろう」

 

「別にあんたが来なくたって・・・」

 

「これくらいのケガ心配される訳が・・・」

 

「やっぱ、一夏の方が良かったか?」

 

「「・・・・」」

 

図星ですか。

 

ちなみに一夏はいない、ちょっと前までいたようだが用が済んだら帰って行ったそうだ。

 

「やっぱり好きな人にはずっといて欲しいよな〜」

 

「うっさいわね!ッ――!?」

 

「鈴さん、あまり騒いだらお怪我に触りますわ」

 

少し騒ぎ、痛そうにする凰をオルコットがなだめる。

 

「セシリア、アンタはコイツにからかわれてていいの?」

 

「わたしくしは・・・一夏さんに側にいてくれたら嬉しいのは本当ですし・・・」

 

「な――!」

 

少し恥ずかしそうに答えるオルコットに凰が唖然とする。素直な子だなオルコット・・・なら、素直な子にはそれなりの報酬を。

 

「じゃあ、後で一夏にオルコットの面倒を見ろって俺から言っておくよ、そしたらアイツも動くだろうし」

 

「まぁ、本当ですか、薪先輩!」

 

「な――!」

 

パァと笑顔の花が咲くオルコットに再び唖然とする凰。

 

「せ、先輩・・・私は・・・」

 

「頑張れ」

 

「そんな・・・」

 

酷く落ち込む凰、まぁ、オルコットを看病したら凰も見に行けって一夏に言って置くか、こんなケガで流石に可哀想だし。

 

そんな、一夏を中心とした話しや二人がISの損傷により学年別トーナメントに出れなくなったなどの話しを聞いていると突然保険室の入り口がスパーン!と開け放たれる。

 

「セシリア!大丈夫ですか!」

 

「サラ先ぱ!?ウプッ!?」

 

保険室に飛び込んで来たのはウェルキンだった。ウェルキンはセシリアを見るやいなやその豊満な胸でセシリアの頭を抱き抱える。

 

「ああ!セシリア!こんなケガを沢山して・・・大丈夫ですか?腕は?頭は?失明なんてしていませんよね!?」

 

「さ、サラ先輩・・・く、苦し・・・」

 

ギュウギュと胸に締め付けられるセシリア、今にも窒息しそうな勢いだ・・・しかし、大きなスイカが重なり合うように四つ・・・

 

「うわ・・・」

 

「どうした凰?羨ましいか?」

 

「それは、どういう意味で言ってるのよ」

 

「・・・大丈夫だ凰、一夏もわかってくれるって」

 

「先輩、ケガ治ったらコロス・・・」

 

最近、やけにコロス宣言されるな俺そろそろ寿命が尽きるか・・・

 

セシリアの体の状態を調べ尽くしたウェルキンが目に涙を貯めながら俺の方を向く。

 

「風見野さん、わたくし、やはり我慢なりませんわ!セシリアをこんな目に合わせて・・・あのラウラとか言う、小娘を今すぐにでも血祭りにあげて・・・!」

 

「バカやめろ、後輩達の間で起きた事だぞ、俺達先輩が出て行って何になる」

 

「イギリスの面子にかけてもこのままでは!」

 

「そういうのをやめろって言ってるんだ、お前が出たら向こうはソルが出てくる羽目になるだろ」

 

「しかし・・・しかし・・・」

 

「あの子がやった事はソルも怒っていた、多分何かしらの行動をソルなら移すよ」

 

涙を堪えて訴えくるウェルキン、どんだけ後輩LOVEなんだコイツは・・・

 

IS学園は世界稀にみる多国籍学園だ、それも軍事絡みの。多分今までも学生内での衝突が国にまで響いた事は何度かあるだろう、恐らく織斑先生はそういった経験からサラがラウラに向かって衝突をさせないように全学年に向かって私闘の禁止を言い渡したのか。

 

「あの、サラ先輩・・・すいません、私が勝手な判断をしたまでですので・・・結果こうなってしまったのはわたくしのせいです」

 

オルコットが申し訳なさそうに言う。凰もこの状況をみて自分が起こしてしまった事態に少し反省しているようだ。

 

「セシリア・・・わかりましたわ」

 

涙を拭い、落ち着いてから椅子にすわるウェルキン。

 

「セシリア、わたくし、スコーンを焼いて参りましたの、紅茶と一緒に頂きませんこと?」

 

「はい、もちろん頂きますわ、サラ先輩」

 

はぁ、良かった・・・ウェルキンが暴走しなくて。

 

安堵し俺はそろそろお暇しようと席を立とうとした時。

 

ジャムを縫ったスコーンが俺の前にも出される。

 

「どうぞ、風見野さんも」

 

「ああ、ありが・・・」

 

はッ!?

 

待て、確かウェルキンって出汁を取るのにフィッシュ&チップスを使うようなヤツだよな!?

 

受け取ってしまったスコーンに目を落とす、その間にもウェルキンは凰にもスコーンを渡し紅茶の準備まで終えてしまっている。

 

「では、頂きますわ」

 

「スコーンか、久しぶりに食べるわね」

 

「いや・・・え・・・」

 

後輩二人が躊躇なく・・・かぶり付く!

 

しばらくの間の無言が保険室を支配する。

 

「・・・どう、だ?」

 

「・・・うん、美味しいわよ?」

 

「ええ、サラ先輩が作るスコーンは美味しいんですの、作る度にその美味しさが高まっていくような」

 

「さぁ、風見野さんも食べて見て下さいな」

 

なん・・・だと?

 

メシマズでは無いのか!?

 

正直、鴉堕に勝負を挑もうとした時より震えている手を押さえ、そのスコーンを口に運んでみる。

 

「・・・・」

 

「どうですか?」

 

外はサクっと、中はホロリと崩れるような食感、味はプレーンの為インパクトはないがほんのりとした甘さにジャムが乗っかり互いを尊重し合っている、ここは保険ではない、まるでイギリスの王宮にいるような気分にさせ感じらる。

 

「うまい・・・」

 

「まぁ、良かったですわ、紅茶も召し上がって下さいな」

 

「ああ・・・」

 

どういう事だ・・・?出汁にフィッシュ&チップスを持ち出すような子だぞ・・・何故、何故こんなにも美味しいスコーンを作れるんだ?

 

学園生活は早くも2ヶ月、色々な問題を抱えながらもさらにクラスメイトの謎が一つ増えてしまった・・・

 

いつの間にかアリーナでの燻りは消え、俺はスコーンと紅茶をたらふく堪能した。

 




サラは面倒見のいい優しい先輩ですが、セシリアの事となるとキレます。

そりゃもう、キレたら国家代表レベルです。

サラの料理は今後も度々出てきます、バリエーション豊かな素敵な料理も。


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苦い一杯

「まずいな、大分お腹がいっぱいになってしまった」

 

ウェルキンの美味しいスコーンを食べ過ぎてしまったのか夕食を前にお腹がふくれてしまい、夕食をどうするかと考えながら夕日が差す廊下を歩く。

 

まさか、ウェルキンが料理上手だったとは料理に変な事言う割には腕はいいようだ。

 

またいつか、ご馳走して差し上げますわ、と言っていたので次に食べるウェルキンの料理が楽しみだ。

 

俺はリフレッシュされた気分の中、寮へ帰る為歩いているとふと見知った顔を見る。

 

「あれは・・・ソルと・・・えっと、ラウラ?」

 

夕日が差し込む廊下、放課後の為周りには誰もいない。

 

そんな中、ソルとラウラが対峙していた。

 

「ラウラ、どうやら織斑先生からも釘を刺されたはずだが、何故このような事をしたのだ?」

 

「このような事?あの二人も承諾して始まった戦闘です、何の問題もありません」

 

「問題がないだと?相手を操縦者生命危険域(デッドゾーン)まで追い込んでおいてか?」

 

「・・・・」

 

どうやら、余りいい空気ではないようだ、立ち聞きするのは忍びないが廊下の影に隠れてしまう。

 

「ラウラ、お前もわかってるはずだがここは学園だ。生徒同士互いを思いやり、成長していくのが・・・」

 

「ッ!貴女も教官と同じようなことを!何故そんなにも腑抜けてしまったのですか!」

 

「?・・・ラウラ何を言って・・・」

 

「意識が甘く、危機感に疎く、ISを兵器として見れていない奴らばかりの場所で教官や貴女の能力は半分と生かされていません!」

 

「ラウラ・・・」

 

「貴女も教官もドイツに帰るべきです!あまつさえ、実力も低能な奴が国家代表候補生を名のっているなどッ!こんな学園ッ!」

 

「ラウラッ!!」

 

「ッ!?・・・」

 

キンッと張るような声を出しソルがラウラの言葉を止める。ただえさえ静かな廊下が更に静かに思えた、普段は冷静で静かなソルがこんな声を出すなんて・・・

 

「この学園を否定するつもりなら私も怒りが押さえきれん。そして、ドイツの事を持ち出すなら私も持ち出そう、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐。命令だ、ここではこれ以上の荒事を立てるな」

 

・・・・少佐?って言う事は二人ともドイツ軍出身なのか?てか今ソル、少佐に命令したよね?という事は少佐以上の階級持ってるの?

 

「貴女も教官も・・・ここにくるべきではなかった」

 

ポツリとそう言い残し、ラウラは脱兎の如く走って行ってしまった。

 

静と静まり返る廊下、夕日に照らされたソルがただ一人廊下に取り残された。

 

「・・・すまんソル、立ち聞きするつもりはなかったんだが・・・大丈夫か?」

 

「薪か・・・すまんな、こんな醜態を晒して・・・」

 

廊下の影から顔を出してソルの横に立つ。

 

「ふぅ・・・すまん、肩を貸してくれないか・・・」

 

「え?・・・おまッ・・・まぁいいけど」

 

ソルはトンと俺の肩に頭を乗せてくる。

 

引き剥がそうとしたが、ソルの顔を見て気が変わった。コイツも相当疲れてるみたいだ。

 

二人してラウラが走っ行ったオレンジ色に染まった廊下を見つめる。

 

「・・・何かあったか?」

 

「ふっ・・・我ながら最低だと思っているだけだ」

 

自傷した後こちらに寄りかかり、それから少ししてソルが口を開く。

 

「ラウラには・・・親がいない」

 

「親を早くに無くして一人身なのか?」

 

「いや、あの子は・・・人工的に作り出された子なんだ」

 

その言葉を聞いた瞬間絶句した。

 

「一つ前の政権の負の遺産でな・・・ラウラを含め数名の子供が、ただ戦いの為に作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた」

 

「おいおい、そんなの人権侵害待った無しじゃねぇか」

 

「ああ、それが露見した後その時の政府は解体、直ぐに計画は中止されたさ・・・だが、彼女達は軍に取り残された、それどこかISの登場によって彼女達は更に改造を施された。「境界の瞳(ヴォーダン・オージェ)」ラウラの眼帯を見たろ?あの下にはナノマシン治療が施された疑似ハイパーセンサーのような目に仕上がっている」

 

もはや言葉が出なかった・・・今まで平凡に暮らしていたがよもやそんな事が世界のどこかで平然と行われていたなんて想像もしなかった。

 

「そしてラウラのその「境界の瞳(ヴォーダン・オージェ)」には不具合が合って・・・その結果、一時期、部隊内の評価は最低でな・・・笑い者にされていたんだ」

 

それは・・・自分に取っての存在理由が無くなるに等しいな・・・

 

「だが、そんなラウラを救ったのがその時、ドイツ軍にて教官役をする事になった織斑先生だった。私もその頃彼女達と訓練をする機会があってな・・・織斑先生が教官になってからのラウラの成長ぶりは目を見張るものがあった・・・瞬く間に部隊最強にのしあがっていったよ・・・ただその時にはラウラの目に映っていたのは織斑先生の姿だけだった」

 

成る程、だから教官に帰って来て欲しいとラウラは言っているのか・・・

 

「私は国家代表の為、普通の部隊に所属しているがラウラ達はドイツ軍の日陰者だ・・・特殊部隊からは移動できない・・・あの子達は、ラウラは・・・本来なら親の愛情を注がれて育たなければいけないのだ・・・あの子達は愛されなければいけないのに・・・私は・・・否定してしまった・・・」

 

「・・・・」

 

「すまないな薪こんな話しを聞かせて、薪が黙って聞いていてくれたおかげで吐き出す事が・・・」

 

「・・・はぁ 」

 

ポンっとソルの頭に手を乗っける。

 

「今の状況を少しでも変えりゃいいんだろ?」

 

「薪?・・・」

 

んな話しを淡々と聞かされたらなんとかしてくれと言われているような物だ・・・コイツは人が悪いのか天然でやっているのか・・・

 

「ま、やってみるさ、保証はしないがな」

 

「え、え?」

 

ソルが驚きの顔をしてこちらを見てくる。

 

コイツのこんな顔始めて見たな。

 

「じゃ、あの子を追っかけるから、またなソル」

 

「ま、待て!薪!」

 

ソルの止声を背中で受け流し、ラウラが走って行った廊下を俺も走る。

 

紅茶もたらふく堪能した後だが、食後の一杯と洒落込もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラを探し寮の部屋や、庭、食堂を探した後、屋上に来てみるとそこに彼女はいた。

 

オレンジ色の夕日は陰りそろそろ夜になろうとしている時だった。

 

ラウラは一人、屋上のベンチに座ってただ時間が流れていくのを見ているようだった。

 

「となり、座るぞ」

 

「誰だ貴・・・」

 

俺の顔を見た瞬間おっかなビックリした様子でこちらを見てくる。

 

「流れ弾に当たった奴だよ」

 

「・・・風見野 薪か」

 

「なんだ知ってるのか」

 

「資料で見た・・・二番目の男性操縦者だとな」

 

なら話しが早い、俺はラウラと少し距離をどってベンチに座る。

 

「私になんの用だ」

 

ラウラが威圧するように言葉を言ってくる。だが、少しセコイがこちらはお前の腹の中はほとんど見えているんだ。怖さなんて微塵も感じないぞ、ほんのちょっぴり怖いけど。

 

少し間を置いてから話しを切り出す。

 

「・・・ソルはああ言ってたが、本当はお前の事を心配してんだぞ」

 

「ッ・・・聞いていたのか」

 

「まぁな、お前の事情もそれなり聞いたし織斑先生に救われたのも分かったが・・・何故一夏にああまで突っかかる?」

 

唯一分からない所はそこだった、別に織斑先生に戻って来て欲しいだけなら織斑先生との話し合いでなんとかなるはずなのだが、何故一夏なのか?

 

「アイツは・・・教官の名誉を傷つけた・・・」

 

「つまり?」

 

「第二回IS世界大会モンド・グロッソの決勝戦の際、織斑 一夏が誘拐された・・・教官は棄権を強いられ、大会二連覇は消えた・・・」

 

ラウラはゆっくりと説明し俺に織斑先生が日本代表から教官になるまでの話しをしてくれた。

 

「は〜、なるほど。でドイツ軍が手を貸して一夏を見つける手助けをしたと」

 

「そうだ」

 

「で、その時の借りをラウラ達がいる特殊部隊の教官役になることで借りを返したと・・・あ〜、そうだな、確かに一夏が悪いな・・・ってなるかボケ!」

 

いやいやいや、無理でしょ!一般人の中学生になに求めてるのこの子!?お前が拐われたから教官が優勝を逃したって。全国の中学生にテロリストに誘拐されない自信がある人って聞いたらほとんどの人が無理って言うよ!・・・一部を除いて!

 

「ッ!教官の弟であるならそこらのテロリストなら一人や二人!」

 

「どんだけ教官すげぇんだよ!おかしいだろその物差し!」

 

「教官は凄いぞ!素手で戦車を薙ぎ倒し、石ころ一つで戦闘ヘリを墜落させる程の人だぞ!」

 

「それは凄い!」

 

織斑先生化け物か何かですか?人間性をどこかに落として行ってしまったんですか?

 

そこからしばらくラウラの織斑先生の武勇伝を聞いた。やれ、機銃掃射を受けながら壁を走るだの、やれ、眠りながらもCQCを使ってくるだの、やれブレード一本でISと戦うなど・・・いや、最後のは一夏達とラウラのいざこざの時に実際にブレード一本で止めてたな・・・て事はマジか・・・

 

ラウラの熱弁が続くかと思っていると突然、黙りこんでしまう。

 

「どうした?・・・」

 

「何故、教官はあんなヤツの為に・・・名誉を捨てたんだ?・・・」

 

その言葉に対して俺はありきたりな事でしか返せなかった。

 

「人の価値は人それぞれだ、織斑先生にとって名声や名誉よりも大切だったのが肉親である一夏だったってだけだ」

 

「私には・・・それが分からない・・・」

 

ラウラに肉親はいない・・・だから家族の大切さというのが分からないのだろうか。

 

「私はどうしたらいいのだろうか・・・教官やエンゲルベルト大佐にはきっと愛想を尽かされたに違いない・・・」

 

さっきまでの勢いは何処へやら、ショボンと頭を垂れベンチに体育座りで。・・・というかソル、大佐なのか。

 

「それもこれも、全て織斑 一夏がいたから・・・」

 

「それは、違うんじゃないか?」

 

再び、一夏へのバッシングが始まる前に止める。

 

「なんでだ?」

 

「一夏が誘拐されなかったらお前と織斑先生は会わなかったんじゃないか?」

 

ソルの話しとラウラの話しをまとめるとやはり一夏が誘拐された事により織斑先生がラウラと出会う事になる。

 

「それを否定するとお前が救われなくなっちまうだろ?それは織斑先生だって望まない筈だ」

 

「・・・・」

 

矛盾。ラウラが一夏を否定する事は自分が救われる事を否定する事でもある。

 

ラウラは俺の言葉を聞いて体育座りの体と足の間に頭を抱えこんでしまう。

 

「わかってる・・・わかってるさ・・・」

 

「なら、なんで」

 

「ただ・・・アイツの顔を見た瞬間・・・あんな事があったのにヘラヘラ笑っている顔を見た時・・・なんだか、ムシャクシャしたんだ、だから殴った・・・」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の中でのラウラの考え方が変わった。

 

最初は軍人やら遺伝子改良で産まれた人間だったりただの織斑先生に妄信的な子として見ていたが・・・

 

感情で動いた、この子は何か特別な人間なんかじゃない、何処にでもいるただの一人の女の子なんだ。

 

なら、色々とやり易い。

 

「ほら」

 

ラウラにある物をあげる。

 

「・・・これは、なんだ?・・・コーヒー?」

 

顔をあげたラウラは俺から缶コーヒーを受け取る。

 

「さっき買って来たんだ、そしてただのコーヒーじゃないぞブラックコーヒーだ」

 

「なんでこんな物を?・・・」

 

ラウラがまじまじと缶コーヒーを見つめる。

 

「日本の願掛けってヤツだ、おむすびの結果を結びつけるだったり、鰹節の勝つだったりな」

 

「ああ、前に教官もそんな事を言っていたな・・・だが、コーヒー?」

 

ラウラが疑問そうにこちらを見てくる。

 

「コーヒーは「苦い」だ、この苦いブラックコーヒーを飲み込む事が出来たらきっと現実の苦い事も飲み込める・・・そう思って考えた」

 

「・・・・」

 

アホかコイツって目で見てくるなこの子・・・

 

「バカだろ貴様、飲み物一つで解決するほど現実は甘くない」

 

「甘くないんだろ?ならなおさら苦いだ」

 

「ぬ・・・」

 

手に持つブラックコーヒーに目を落とすラウラ。そこから少し考えてくれて。

 

「・・・わかった飲んでみよう」

 

プシュっとプルタブの開く音が鳴る。

 

「イッキだぞ、現実に二口目は無いからな」

 

「くっ・・・一口でだと・・・」

 

ラウラは躊躇しながらもコーヒーに口を付け・・・そして、イッキに飲んだ。

 

「ッ・・・プッハァ!・・・に、苦い・・・」

 

「飲めるじゃないか」

 

「これで今の状況が解決するか?」

 

「きっと解決するって事さ、どんな解決の仕方かはわからないけどな」

 

「ふん・・・所詮は神頼みか、結局意味がないではないか・・・ん?お前も飲むのか?」

 

飲み干した後、俺の右手にあるもう一缶のブラックコーヒーにラウラが気づく。

 

「まぁ、俺もお前と同じように色々抱えてんのさ」

 

「そうなのか・・・」

 

鴉堕との決闘の事、サファイアの恋人絡みの事、後、後輩達のいざこざの事。ちょっと気が緩んだ瞬間に何だって色々抱え込んじゃうだか・・・。

 

「よし、私も飲んだのだ、貴様もイッキに飲め」

 

「わかってるって俺が決めた事だし・・・」

 

プシュっとプルタブを開け俺は一瞬の躊躇いもなくブラックコーヒーを飲み・・・

 

「・・・・」

 

「どうした?」

 

「オロロロロロロロロッ!」

 

「なぁーッ!?」

 

ベンチの隣にあった植木鉢にブラックコーヒーを吐いた。

 

「飲めないのか貴様ッ!?」

 

「いやよくよく考えたら俺ブラック無理だわ、ミルクないと無理、飲めないこんな苦いの」

 

「何故飲めないのに提案したのだ貴様は!?」

 

「すまんノリと勢い」

 

「適当すぎる!!」

 

怒られた。俺は正座させられガミガミと後輩から説教をうける事になった。

 

もっと考えて行動しろだったり、少しでも感心した私の心を返せだったり。まぁ色々お説教をうけた。

 

「全く、貴様はッ!・・・」

 

「?」

 

長々と続くお説教は突然途切れたので顔をあげて見る。

 

「貴様は・・・変なヤツだ・・・」

 

そう言って、ラウラは寮の中へと続く階段に向かい帰ってしまった。

 

俺は正座を崩し、地面にあぐらをかく。もう夕日は無くなっていて辺りは真っ黒だ。

 

最後のラウラの顔、俺の見間違えでなければ少し笑っていた気がする。

 

「はぁ・・・少しは変わったかな?」

 

あの子の今がとてもとても苦いもので飲み込めなかったのなら、俺が少しでもその現実をミルクのように柔らかく出来たのであれば幸いだ。

 

 

 

行き詰まった時には息抜きを・・・人間にはそれが必要だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だぁ〜、まだブラックコーヒーが口の中に残ってるな。

 

ラウラが去った後、俺も自分の部屋に戻るべく寮の廊下を歩く。

 

さっきも思ったけど、俺の周りの悩み事多いな・・・鴉堕の件にサファイアの件、最後に後輩達の件。

 

自分自身が解決しなければならない事は一つだけだが、他の事も出来れば解決してあげたい。

 

「ま、そう簡単に事は進まないか・・・」

 

今日も疲れた、コーヒーの味が残る口の中を濯いでとっととベッドインしよう。

 

そう思いながら部屋の前に付きいつも通りにドアを開けようとするが。

 

そういや、一夏がこれからはノックしてから入れって言ってたな、別に男同士なんだから気にしなくても・・・いや、男同士でも入って来られちゃマズイタイミングもあるな・・・うん、しっかりノックして入ろう。

 

「おい、入るぞ」

 

「あ、先輩!?気を付けて下さい!恥女が!ブヘェ!?」

 

「一夏!?大丈夫!?」

 

箒がいた時のようにノックを二回してから入ろうとすると中から慌ただしい音がする。

 

何言ってんだかアイツは・・・

 

一夏妄言を聞きつつもドアを開け普通に入る。

 

「仮にも世界最強レベルの警備を誇る学園だぞ?恥女なんているわけ・・・」

 

「お帰りなさい薪君、私にする?私にする?それとも?わ・た・し?」

 

ドア開けた先には楯無が裸エプロンで俺の帰りを待っていた。

 

野生の恥女が現れた!

 

「楯無ぃぃ!!これ以上俺に悩み事を増やさせないでくれぇぇ!!」

 

「も〜う、やっぱり薪君そういう反応しかしない〜」

 

「同級生が突然裸エプロンで部屋の中に居たら!誰だって、そいつの頭を心配するわ!」

 

4つ目の悩み事に、最近友達が恥女になりはじめて来た。が追加された。

 

「頼むから、常識を逸脱した事をやるのは止めてくれ、もう俺は疲れてんだよ」

 

「そんな事言っちゃって〜、本当は嬉しいでしょ?女の子がこういう事してくれて」

 

「そういうのは、せめて時と場合を選べ、後輩の前でそんな姿晒して恥ずかしくないのか?」

 

「そう言って直ぐ誤魔化す・・・それとも?薪君はこういう経験がないから、億劫になっちゃってるのかな?」

 

そう言いながら楯無はエプロンの肩紐を片方だけ外れるか外れないかのギリギリの所まで持っていき、挑発的にこちらを見てくる。

 

 

 

「童・貞・さん?」

 

 

 

ブチッと俺の頭で何がが切れる音がした。

 

「分かった・・・お前がそこまで言うなら・・・」

 

楯無の手を素早く掴むと強引に引き寄せる。

 

「キャ!?ッえ?・・・ま、薪君?・・・」

 

楯無の驚く顔を見た後、掴んでいない方の手を楯無の腰に回して逃げられないようにする。

 

「あ、え、ちょっ・・・薪く・・・」

 

「どうした?」

 

「ちょっと、流石に、いきなりって言うか・・・わ、私、心の準備が・・・それに、織斑君達も居るし、ねッ?」

 

楯無の顔がみるみる赤くなっていき、困惑した顔からは焦りが見て取れる。

 

そんな楯無を更に引き寄せ顔を耳元に近づけ囁く。

 

「お前が私にする?って言って来たんだろ?なら・・・お前を頂きたいな」

 

「い、言った・・・けど・・・」

 

「じゃあ、いいだろ?」

 

「え・・・えぇぇぇ!?」

 

楯無は完全なパニック状態に陥って。いつもなら俺が掴みかかっても簡単に身を翻してよけるのに動けなくなっている。

 

腰に回していた手でエプロンの結び目をほどくとシュルリと音を立て外れる。

 

「楯無・・・」

 

「ま、薪・・・君・・・」

 

ギッュと目を瞑り、こちらに顔を向け待つ楯無・・・

 

俺はその薄紅色の唇を・・・

 

 

 

ポイ

 

 

 

「へ?」

 

楯無の着ていたエプロンを剥ぎ取り、部屋の外へと投げ捨てる。

 

「じゃあな楯無、エプロンの下に季節外れのスク水を着て安全圏に逃げていた罰だ。スク水姿で二年生寮まで帰る羞恥プレイでもやってるんだな」

 

「ちょっ!?薪君!?」

 

「サファイアに蹴られた腕のお返しだ」

 

な〜にが、童貞さんだ、お前も処女じゃねぇか。

 

騒がしいだけの友人はとっとと外に捨てるべきだ、そしてここは一年生寮下手に騒げば・・・

 

「薪君!私にこんな事して!ただですむと!・・・」

 

「おい!更識!二年生のお前が一年生寮で何やってる!そしてそこは男子部屋だ!というか何故、スクール水着を着ている!?」

 

「げ、関羽!?ッ・・・薪君!覚えてなさいよ!この仕打ちは必ず!・・・」

 

「待て更識!」

 

ドタドタと廊下で走る音が聴こえる。はぁ、どうやら無事に巡回するターミネーターに見つかったようだな。

 

これで邪魔者は消えたから俺はようやくぐっすり眠れるわけだ。

 

「よし、とっとと・・・どうした、おまえら?」

 

部屋の中に振り替えると顔を真っ赤にした一夏と顔を両手で覆いながらも指の隙間から見ているシャルルがいた。

 

「あ、いえ・・・その・・・大人だなって・・・」

 

「・・・・」ブンブンブン

 

顔をそらして頭をかく一夏とそれを頭で頷いて全力で肯定するシャルル。

 

「は?・・・」

 

やっぱり初心だなコイツら・・・

 

果たして一夏はいつ踏み切る事が出来るのであろうと考えていると、ドアがノックされる。

 

「おい、今いいか?」

 

織斑先生の声だ。

 

「はい、今開けますよ」

 

ドアを開け織斑先生を見る。どうやら楯無は逃げ切ったらしい・・・スク水で・・・

 

「さっきここから更識が出てきた筈だが・・・大丈夫だったか?」

 

「はい、何ともないですよ」

 

「そうか・・・アイツは一年生の頃から色々やらかしてたからな・・・また、何かやったと思った」

 

いえ、思っいっきりやらかしてますけど・・・というか織斑先生に一年生の頃から目付けられてんのか、なんでそんなヤツが生徒会長に?・・・そうか、単純に強いからか・・・

 

「所で・・・そのフリルが付いたエプロンはなんだ?」

 

「・・・・」

 

「まさか・・・お前が着るわけでもあるまいな?」

 

どうしよう・・・楯無の水着エプロンを見て調子に乗って新婚夫婦みたいな事してましたとか言えねぇー、ましてやそれを弟さんの前でやりましたとか死んでも言えねぇー・・・正直に言ったら死あるのみ。マジでラウラが言っていた通りに織斑先生の武勇伝が俺に直撃するかもしれない。

 

「えーと、ですね・・・」

 

「なんだ?」

 

「・・・そうだ!先生へのプレゼントです!!」

 

「・・・・」

 

マジかコイツと言った目で俺を見てくる織斑先生。

 

「はぁ・・・まあ、いい受け取っておく」

 

「どうぞ!どうぞ!」

 

「じゃあな・・・今日はもう寝ろ・・・いや、待て、風見野」

 

織斑先生がドアを締める直前に一言だけ言った。

 

 

 

「ありがとな」

 

 

 

バタンとドアが閉まる。

 

最後に見た顔はどこか嬉しそうな顔をしていた。

 

それがプレゼントの笑顔なのかそれとも別の笑顔なのかは分からなかった。




ラウラってオリ主二次小説だとだいたい論破されて凹んだ後オリ主にベタ惚れするのがテンプレ感あるよね。

なのでウチの薪には出来る限り優しく論破したあと変なフォローを入れて見ました。先輩らしさが出てるといいな。

楯無の水着エプロンは早めに出しました、こっからは更に過激な責めにしていく予定です。


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