大洗のボーイッシュな書記会計 (春日闇夜)
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戦車道再開編 何故か男装をさせられた私

初投稿作品です。よろしくお願いします。


 まったく、会長が安請け合いしただけなのに、なんで私がこんな格好を……。

 二年生に上がって、生徒会もそのまま続行。書記会計という役職はあるが、実態はワガママな先輩方が押し付ける雑用だった。

 

「おおー、やっぱり似合ってるねぇ、仙道ちゃん」

 

 にかっと小悪魔的な笑みで私を満足そうに見つめるツインテールの小柄な先輩は大洗女子学園生徒会長の角谷杏。

 広い学園艦を一手に管理する手腕は素晴らしいの一言。その上、この人は私の恩人だ。

 私は彼女を尊敬していた。こんなことをしなければ……。

 

「会長、やはり、いやどう考えてもこの格好は変ですって。なんで、私が男物のタキシードを着て、こんな髪型にしなきゃいけないんですか?」

 

 私は会長命令で男装をさせられていた。真っ黒のタキシードにショートカットヘアを無造作な感じにセットされて……。

 なんでも、演劇部のポスターの撮影に協力してほしいってことらしいんだけど。書記会計の私がそんなことをする理由が分からない。

 

「まぁまぁ、これは生徒会にも必要なことだから。それにしても、違和感ないねぇ、多分河嶋辺りなら仙道ちゃんって気付かないよぉ」

 

 会長は満足そうに頷きながら、男装姿を褒める。違和感ないって言われても普通の女子高生は嬉しくないからね。

 確かに身長は180近いし、地声がかなり低いから私服だと男に間違われてトイレで悲鳴を上げられたこともあるけど……。

 

 でも、さすがに長いこと一緒に仕事をしてきた私をいくらあの河嶋先輩でも、見間違えるなんて――。

 

「会長、この間の件ですが――。はっ、お客様がいらしてましたか」

 

 生徒会室のドアが開き、どこで買ったのか聞いてみたいけど、聞けてない片眼鏡(モノクル)をかけた聡明そうな女性が入ってきた。

 

 彼女は河嶋桃先輩、生徒会広報。見た目は有能、中身はドジっ子。これが彼女を表現する全てだと言っていい。

 後輩の私が何度、彼女の仕事を押し付けられたことか。ていうか、せめて私だって気づいてよ。

 

「あっ、あの河嶋先輩?」

 

 ひと目で気付かれなかったショックが大きくて、私はつい彼女の肩を掴んで顔を近づけてしまった。

 

「ひゃうっ/// かっ会長ぉ。この方、誰ですかぁ」

 

 顔を真っ赤にした河嶋先輩は、涙目で会長に助けを求める。

 あっ、これはホントに気付かれてないヤツだ……。さすが、河嶋先輩……、私の想像なんて軽く超えている。

 会長は会長でニマニマ笑って楽しそうにこちらを見ている。

 

「先輩、私です。玲香(レイカ)ですって」

 

 情けない気持ちを必死で隠して、先輩に私の名前を告げる。

 

「何っ、玲香だと? 玲香の兄ってことか? あいつに兄など居たのか……」

 

 どーして、そうなるの? 大丈夫なのかなぁ? 今更だけど……。どうも先輩の頭の中では今の私=玲香という構図が取れないみたいだ。

 

「じゃなくてですね。私自身が仙道玲香なのですよ。私=仙道玲香です。オッケー?」

 

 小学生に説明するようなゆっくりとした口調で諭すように教える。

 

「あなた、イコール、仙道玲香?」

 

 なんでカタコトになってフリーズするんだよ……。そんなにショックか? 私の方がショックだよっ!

 

「はぁ? おっお前が玲香だとっ? どうしてそんな格好をしてるんだ?」

 

 フリーズ状態が解除されて、途端に元気なった先輩が指をさしてブンブン振る。なんか、可愛いなこの人……。

 

「私が仙道ちゃんにお願いしたんだよー。()()のポスターの撮影に使おうと思ってね」

 

「ああ、アレですか。確かにこのクオリティなら女子受けは間違いなさそうですが……」

 

 会長の一言で河嶋先輩は納得した。というか、アレって何? これは演劇部のポスター撮影じゃないの?

 

「ああ、気にしないでいいよー。あとお楽しみってことでっ」

 

「気になりますよっ!」

 

 いつもの軽いノリで流されて――猛烈に嫌な予感がするがこれ以上は怖くて突っ込めない。

 会長のやりたいことの邪魔は出来ない。これは1年生のときに悟ったことだ。まさに暴君……。

 

「嫌だなぁ、暴君だなんてさ」

 

「えっ、口に出してました?」

 

「あー、やっぱり暴君だって、思ってたんだー」

 

 やっぱり、この人には敵わない……。

 

「こら、玲香っ! 先輩には敬意を持て!」

 

 河嶋先輩はさっきの醜態がなかったかの如く私に悪態をつく。この切り替えの早さは見習わなくては。

 

「そうですね。尊敬する先輩の仕事が終わりそうじゃないな、なんて思うのは失礼だと思いますので、敬意を持って手伝うことを止めにします」

 

「ええーん、玲香ちゃーん」

 

 涙目で縋ってくる先輩。小山先輩が見てたら、私が睨まれるんだから、程々にしてください。

 最近、河嶋先輩と絡んでいるときの小山先輩の視線が怖い……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「いいですねー。さぁ、もう一枚撮りましょう!」

 

 演劇部の先輩は私を見るなりハイテンションでパシャパシャとポスターの撮影を開始した。

 

 背景は大空の下にⅣ号戦車D型が佇むというハリボテ。

 なんでも戦車道をテーマにした演劇らしい。

 

 だから、なんで淑女の嗜みの戦車道の演劇のポスターに紳士のコスプレした女が写らなきゃならんのだ? という、疑問を素直にぶつけてみた。

 

「女子校で人を集めるには、イケメンの力が必要なんです!」

 

 おっおう……。演劇部の先輩の迫力に負けて私はこれ以上は意見を出さなかった。

 今の私って、イケメン――なの? 解せぬ……。

 

 

 

「貴重な時間をありがとうございまーす!」

 

 恥ずかしいポーズを取らされて、昔、写真に写ると魂が抜けるという現象を体感したと思っていたら、ようやく地獄から解放された。

 

 さあ、早くこんな格好、着替えてしまおう。

 私は足早に生徒会室へ向かった。

 

 それにしても、戦車道ねぇ……。中学時代を思い出すな。

 

 中学生の頃、私は戦車道にどっぷり浸かっていた。あの頃は背丈も小さくて髪も伸ばしていたから見た目はもっと女の子っぽかったと信じたい。

 

 中学最後の全国大会は決勝まで勝ち進むぐらい頑張った。まぁ、決勝で常勝軍団の黒森峰女子の中等部に負けたけど……。

 思い出すなぁ。対戦校の隊長の顔。彼女は本当に強かった――。

 

 私はその後、事故で両腕に大怪我を負って戦車道を出来ないと診断された。

 だから、未練を断ち切るために戦車道の無いこの学校に進学した。

 

 結局、その診断、誤診だったんだどなっ!

 

 高1のとき、会長に紹介してもらった大洗のブラックジャックとかいう怪しげな医者に診てもらい、私の両腕は奇跡の復活をした。

 死ぬほど辛いリハビリはやったけど、両腕はほとんど完治したんだ。

 

 あー、治るんだったら推薦来てた黒森峰に行けば良かった。まぁ、大洗に来なきゃ、そもそも腕は治ってなかったんだけど……。

 

 めっちゃ、戦車道やりたーい。大学に行ったら絶対にやる! 私はそんな誓いを密かにたてていた。

 

 生徒会室に戻る途中、ふと私はかなり時間が経っていたことを思い出した。

 

 時間を確認するために、ポケットの中の携帯電話を取り出そうとゴソゴソと探ると、ポロンとお気に入りのストラップが地面に落ちてしまう。

 

 両腕が包帯でグルグル巻きになっているクマのキャラクターのストラップ。アンコウの帽子を被っている大洗限定のレア物だ。

 

 名前は――。

 

「ああーっ、ボコだぁ!」

 

 栗毛の女の子が目を輝かせてストラップを拾って見つめていた。



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西住みほさんとの馴れ初め

「ああ、ごめんね。それ、私のなんだ……」

 

 私は栗毛の女の子に声をかける。

 なんだか、ゆるい感じの雰囲気の子だなぁ。どっかで見た気もするのだが、思い出せぬ……。

 

「ふぇっ、こっこれ、お兄さんのなんですか?」

 

 私が声をかけると彼女は頬を紅潮させて、ワタワタとした様子で私とボコのストラップを見比べた。

 おっ、お兄さんって、そんな……。確かに男装はしてるけど、はっきり言われると少し傷つく……。

 

「あははっ、こんな格好をしてるから、気づけなかったのは無理はないけどね、私はここの生徒(女子高生)なんだよ」

 

 私は恥を忍んで性別を告げた――つもりだった――。

 

「ええっ、大洗女子学園って共学になったんですかぁ!」

 

 なんでだよっ! えっ? 私が男の可能性のほうがこの学校が共学になっていた可能性よりも高いの?

 

「ごめん、言い方が悪かったね。私の性別は――女なんだ……。ははっ……」

 

 断腸の思いで声を絞り出す。やっぱり髪を伸ばそうかなぁ……。

 

「えっ、えっ? ええーっ、ごめんなさい。ごめんなさい。私、てっきり――俳優さんか何かかと……。その……、ええーっと……」

 

 頭をペコペコ下げて、アワアワと謝罪する栗毛の彼女。ははっ、小動物みたいで可愛いなぁ。

 

「玲香だ。仙道玲香、普通科2年生。男に間違えられるのはよくあるから気にしないでいいよ」

 

「えっと、その、仙道さんですね。ごめんなさい。普通科、2年A組の西住みほです。本当に私その、仙道さんのことを……」

 

 彼女は顔を茹でダコみたいに真っ赤にして涙目で謝罪を続ける。そうか、そうか、同級生だったか。

 しかし、同級生で知らない顔なんて、ほとんど居ないはずなんだが……。もしかして、転校生か?

 ん? 西住みほって名前……。ていうか西住って……。ええーっ!?

 

「西住みほさんって、まさか、えっと、西住流の?」

 

 私は中学時代に対戦した隊長の顔をもう一度、思い出してみた。確かに――似ている……。もっと、その、凛々しい感じだった気もするが……。

 

「あっ、その、はい。そうです……」

 

 暗くなったその顔を見て私は自分の発言が軽率だったと悟った。

 彼女が戦車道のないこの学校に黒森峰から転校して居る意味を考えればすぐに予測がついたじゃないか。

 おそらく、去年の全国大会の決勝であった、あの事件がきっかけで前の学校に居られなくなったのだろう。

 軽々しく西住流の話題を出すなんて私はなんて無責任だったんだろうか。うわぁ、どうしよー。

 

「あげようか? そのストラップ。好きなんでしょ? ボコ――」

 

 気まずくなってしまって、私は話題を変える。物で釣って単純に機嫌が治るとは思わないが……。

 

「うわぁ! ほっ本当に良いんですか! こっこれ、限定品ですよねっ!」

 

 訂正しよう。簡単に治った。

 目をキラキラさせて、途端に笑顔になった。

 

「構わないよ。ボコ好きな友達いないし、私は同じモノをまだ持ってるから。お近づきの印に……」

 

 私は何気なく『友達』という言葉を使った。しかし、その言葉は西住さんには衝撃的だったみたいだ。

 

「ふぇぇっ! わっ私と友達!?」

 

 うわっ、びっくりした。そんな変なこと言ったかな?

 というか、友達になろうって、そんなオーバーリアクション取ること? まぁ、転校して来てあまり友達が出来なくて不安なのかもしれないが……。

 

「ははっ、さっきも言ったけど周りに誰もボコのこと話せる子が居なくてさ、西住さんさえ、良かったら友達になってほしい。そしたら、一緒にボコの話とかグッズを見せ合ったり出来るだろ?」

 

 私は右手を差し出してゆっくりと声をかけた。

 西住さんは、ハッとした表情になって両手で私の右手を握ってくれた。柔らかいな……、それに小さい……、こんな可愛らしい手で生まれたかったぞ。

 

「えへへ、私、転校してきたばかりなんだけど、全然クラスメイトと友達になれなくて……。だから、仙道さんが友達になってくれるって言ってくれてとっても嬉しい!」

 

 西住さんは、はにかみながら上目遣いで私を見つめる。まさか、初めての友人とは……。

 新学期始まってそれなりに経っているんだけどなぁ。お嬢様だから、シャイなのか?

 

「そっか、でも、西住さんは可愛いからすぐに沢山友達が出来ると思う。うん、その顔なら間違いない」

 

 グイッと顔を近づけて西住さんの顔を見つめる。羨ましいくらい可愛らしい。同じ女なのにこんなに違うかね……。

 

「あっあのう、せっ仙道さん。近いよぉ……。それに、可愛いなんて……」

 

「えっ? 近い? ごめん、つい顔をよく見たくってさ。ははっ」

 

 いかん、いかん。つい羨ましくて、じぃーっと見ちゃったよ。

 私は笑って誤魔化しながら顔を離した。

 

「ところでさ、西住さんは何でまた放課後にこんなところに居るんだ?」

 

 ずっと気になっていることを質問してみた。2年生が生徒会室付近に用事ってあまりないと思うんだけどな……。

 

「ええーっと、そうだった。職員室に転校後に必要な書類を今日届けなきゃいけなくて、迷っちゃったんだ」

 

「えっ? 職員室? ああ、ちょっとわかりにくい所にあるよね。普通科の先生の職員室はこっちなんだ。案内するよ」

 

 私は西住さんを職員室に連れて行くことにした。そして、少しあとに後悔する――生徒会室で着替えてから案内すれば良かったと……。

 職員室までの道のり、周囲の視線が痛かった――。

 

 

 

「ここが職員室だ。まっ、そんなに来ることはないと思うけどね。生徒たちのための運営は基本的に私たち生徒会がやってるからさ」

 

 西住さんを職員室に連れて行った私はそう説明した。ていうか、生徒会の仕事多すぎ……。会長や小山先輩が居なくなったらどうしよう――。河嶋先輩は……、まぁあれとして……。

 

「へぇー、仙道さんって生徒会に入ってるんだぁ。だから頼りがいがある感じなんだねー」

 

 西住さんは感心したような表情で私を見ている。そんなに、大層なことじゃあないんだけどな。私は下っ端だし……。

 

「玲香……。玲香って呼んでくれ。名前で……、呼んでほしいんだ……」

 

 よく男に間違えられる反動で、私は苗字より名前で呼んでほしいと友達に頼んでいる。

 うん、無駄な努力なのはわかっているよ。

 

「なっ名前で? 良いの? 本当に!? すごーい、本当に友達みたーい! じゃあ、玲香さんって呼ぶね!」

 

 すごいテンションで西住さんは喜んでいた。そんなに喜ぶことかね?

 

「ああ、よろしく頼む。私もみほって呼ぶよ。その方が(西住流を意識しなくて)いいだろ?」

 

 私は西住さんに名前で呼ぶ了承を取ろうとした。

 

「うっうん。名前の方がいいかな。なんか、ドキドキするね! えへへ」

 

「そうかなぁ?」

 

 何故かまたまた真っ赤な顔になる西住さんが不思議だったが、あんまり引き止めても悪いのでスルーすることにした。

 

「じゃあさ、本当は一緒に出かけたりしたかったんだけど、今日は生徒会の仕事が残っているからここで……。連絡先とか交換出来たら嬉しいんだけど……」

 

「生徒会って大変なんだねー。れっ連絡先? えっと、携帯電話は……」

 

 ガサゴソと携帯を探し出してもらい、西住さんとメアドと番号を交換した。本当にこういうのに慣れてなさそうだなぁ。

 

「じゃあ、また。今度美味しい店とか紹介するよ。気をつけて帰ってね」

 

 私は手を振って西住さんとお別れした。ふぅ、余計なことを言ったフォローは出来たから良かったよ。

 西住さんが平穏な学園艦生活を送れるように力を貸そう。私の想像どおりなら彼女の心には大きな傷があるだろうから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「仙道ちゃーんお疲れー」

 

 私が着替え終わったのを確認すると会長が声をかけてきた。

 まったく撮影中よりも往復するときの視線がキツかったんだけど。写メも何枚か撮られたし。

 

「もう、あれっきりにしてくださいよ。本当に恥ずかしかったんですから」

 

 私は河嶋先輩の処理する書類を半分手元に置いた。

 

「まぁまぁ、いいじゃない。仙道ちゃんって、間違いなく大洗女子学園で1番男前なんだから。自信持ちなー」

 

「そんな自信欲しくありませんって」

 

 いつもの調子でイジってくる会長にツッコミを入れながら、私は仕事を開始しようとした。

 

「そうそう、頑張ってくれちゃってる仙道ちゃんにー、朗報があるんだー」

 

 思い出したように会長が声を出した。

 朗報? なんだろう。干しいも半額セールでも始まったのかな?

 

「今学期から必修選択科目で戦車道を復活すっから。もちろん仙道ちゃんは取るよね?」

 

「はっ? せっ戦車道を復活! かっ会長、それは本当ですか!」

 

 ガタッと立ち上がり、会長の元に近づく。

 信じられない! 高校で戦車道は諦めていたのに……。本当に嬉しい! ちょっと、涙が出てきたよ。

 

「本当だよー。どう、仙道ちゃん、嬉しいっしょっ。ずっとそのためにリハビリしてたんだもんねー」

 

 にかっと小悪魔のような笑みを浮かべて会長は笑った。いや、この笑顔も今は天使の微笑みにすら見えるよ。

 

「とっても嬉しいですよ! 諦めてましたから! よしっ、どうせなら全国大会に出ましょう! 任せてください、私が必ずや1回戦くらいは善戦出来るように鍛えて――」

 

「それじゃ、足りないんだよねー。どーせ、やるなら、優勝しなきゃ」

 

 喜びの舞を踊っている私の耳にとんでもない発言が飛び込んできた……。

 へっ? 優勝?

 

「いや、会長。ご存知ないかもしれませんが、優勝というのはですねぇ」

 

「私たちは絶対に優勝しなきゃいけないんだ。だからさ、仙道ちゃん、あの子を誘ってよ。さっき親しそうに話してたでしょ、西住ちゃんと……」

 

 ニマニマといつもの笑顔で私を見つめて命令を下す会長。

 

 あっ、やっぱりこの人、天使なんかじゃない。悪魔だったわ……。

 



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どこか変な先輩たち

ようやく原作1話の内容です。よろしくお願いします!


「会長、みほと話していたのを見ていたのですか? というか、会長なら知ってるでしょう。みほが転校してきた理由も……」

 

 戦車道を開始するにあたって西住さんを誘おうとするってことは、彼女が何者なのか知っているということ。

 それなら会長は絶対に知っている。西住さんが転校した理由を。

 

 それなのに、私に勧誘させようなんて――なんて残酷なんだ……。

 

「うん、知ってるよー。でもさー、優勝するには必要なんだよねー。西住ちゃんと仙道ちゃんの力がさー」

 

 会長は飄々としながら間延びした声を出す。いや、西住さんが居ても優勝とか無理だから……。

 やめてあげて、西住さんの平穏を壊さないで。その尖兵隊に私を入れないでよー。

 

「無名の新参がぽっと出て優勝出来るほど戦車道は甘くないですよ。楽しくやるんでしたら、経験者は私が入れば十分です。そもそも、なんで優勝したいんですか?」

 

 私はそもそもの疑問点をあげてみた。いくら思い付きが大好きな会長でもバカじゃない。荒唐無稽な話の裏には何か理由があるはずだ。

 

「それは内緒だよーん」

 

「また、貴女はそんな意地悪を……。とにかく、みほを誘うのはダメですからね。私はやりませんよ」

 

「うーん。やっぱりダメって言うかー。まっ、仙道ちゃんのキャラならそだよねー。わかった、仙道ちゃんに頼むのは諦めるよー」

 

 会長は手を振ってこの話題を終えた。

 思ったより早く引き下がって意外だったけど、良かった。

 

 戦車道かー。勘を取り戻すのは大変だろうけど頑張ろう。

 

 

 しかし、会長は全然諦めてなんてなかった。私はすぐにそれを知ることになった――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 翌日の昼休憩の終わり時、会長が河嶋先輩と小山先輩を引き連れて生徒会室を出ていった。

 

「さっきも3人でコソコソと何か話していたみたいだし、妙だな……」

 

 何か嫌な予感がした私は会長たちの跡をつけてみた。

 

 予感は的中した――案の定、3人が入った教室は2年A組。西住さんのクラスだ。

 

 私は会長を止めようと教室に駆け込む。しかし遅かった――。

 

「やぁ西住ちゃん、必修選択科目だけどさぁ、戦車道取ってね。仙道ちゃんも履修すっから」

 

 さり気なく私を巻き込む形で会長は西住さんに悪魔のような宣告をする。

 西住さんの顔からみるみる生気が消えていく。

 

「かっ会長! 昨日と約束が違うじゃないですか」

 

 私は会長に詰め寄って抗議する。諦めるって言ってたのに。

 

「うん、仙道ちゃんに勧誘してもらうのを諦めたんだー。嘘はついてないよー」

 

「なんだ、玲香。お前がムキになるなんて、珍しいな。とにかく、会長の邪魔をするな!」

 

「河嶋先輩は黙ってください!」

 

「ひぃっ、柚子ちゃーん」

 

 私がひと睨みすると、河嶋先輩は副会長の小山先輩に泣きついた。相変わらず豆腐メンタルだな。

 

「あっ玲香さん。あのう、必修選択科目って、自由に選べるんじゃあ……」

 

 泣きそうな顔で私を見つめる。

 

「そうだよっ、無理に選ばなくても――」

 

「河嶋ー、小山ー、仙道ちゃんを連れて帰るよー。んじゃ、西住ちゃん、頼んだよー」

 

「くっ、先輩たち! 何するんですか!? やめてください!」

 

 河嶋先輩と小山先輩に両腕をガッチリ掴まれて、私は無理やり教室から退場させられる。

 

 西住さんや、多分友達になったのであろう、二人のクラスメート(確か武部さんと五十鈴さんだったかな?)も呆然として私がズルズルと引っ張られる様子を見つめていた。

 

 まぁ、強制じゃないんだし、大丈夫だろう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「先輩たちには、失望しましたよ……。そりゃあワガママなところもありますが……、人の嫌がることを強制するような人ではないと思ってました」

 

 生徒会で私は3人の先輩にくってかかった。

 会長は私のために医者を見つけてくれたし、小山先輩は仕事を優しく教えてくれた、河嶋先輩だって、リハビリを応援したりしてくれた。

 

 そんなところを知ってるからこそ、私は今回の先輩たちの()()()()()動きが信じられなかった。

 

「玲香! 口が過ぎるぞ! 会長はな!」

 

「桃ちゃん!」

 

 河嶋先輩が何かを言おうとしたとき、ポニーテールのナイスバディな女性、小山先輩がそれを止めた。

 小山先輩は三人の先輩の中で一番優しくて穏やかな人だ。会長と河嶋先輩はともかく、小山先輩が西住さんの勧誘に協力してるのは一番解せなかった。

 

 しかも、今、河嶋先輩の言おうとしたことを必死に止めてたし……。

 

「小山先輩、今、河嶋先輩が言おうとしたことを教えてくれませんか?」

 

 私はあえて、小山先輩に尋ねてみた。

 

「ごめんね。玲香がいくら大切な後輩でもそれは言えないの」

 

 やっぱりいつもの優しい先輩の表情だ。それだけで私は理解した。先輩たちには何かとんでもない理由があって、戦車道の大会で優勝しなくてはならないと思っていることに……。

 

「そうですか。先輩たちには、何か大きな事情があることは理解できました……。私が全力で戦車道の大会で優勝を目指せるように約束もします。ですから、みほのことはほっといて――」

 

 私は戦車道に全面協力することを約束し、その代わりに西住さんの勧誘を止めるように説得しようとした。

 

「それは出来ない」

 

 静かに、きっぱりとした口調で会長が否定する。

 

「なぜですか? 理由は?」

 

 私は納得できないという表情をした。

 

「中学のときに仙道ちゃんは西住ちゃんに負けてる上に、ブランクがある。どう考えても、黒森峰の副隊長だった西住ちゃんの方が戦力は上だ――」

 

「……っ」

 

 いきなりの戦力分析に私は思わず声が詰まる。確かに、中学時代、私は西住みほに完敗した。

 唐突にその事実を突きつけられて私は絶句してしまったのだ。

 

「それにさ、仮に仙道ちゃんの方が西住ちゃんより強くてもさ、戦力を放っておく理由は私には無いんだよねー」

 

 更にごもっともな正論を吐く会長。先にそれを言えば良いのに、私の痛いところを突くなんて……。やっぱりこの人には口で勝てる気がしない。

 

「そうそう、次の授業が終わったらさ、必修選択科目のオリエンテーションをするから。仙道ちゃんも手伝ってよ」

 

「はぁ、わかりました……」

 

 正攻法で説得は無理だと悟った私は――会長の言葉に頷くだけに留めた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 全校生徒を生徒会の名のもとに、集合させて、説明も程々に映像が流れる。

 内容は戦車道のPRだ。

 

「戦車道、それは伝統的な文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれて来ました。礼節のある、淑やかで慎ましい、そして、凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸でもあります。

 

 以下省略

 

さぁ、皆さんも是非とも戦車道を学び、心身ともに健やかで美しい女性になりましょう。来たれ!乙女達!」

 

 破裂音とともに煙が吹き出して、映像は終わる。ナニコレ? 宗教の勧誘? こんなのに今どきの女子高生が釣られるかね?

 

 私が映像が終わったことを確認して、生徒たちの反応を伺っていると、『わぁっ』という歓声が急に上がった。

 

 なんだろう? また、ビジョンに何か写し出されたのか……。えっ? あれって、まさか……。

 

「なんで、あのポスターが?」

 

 私が振り返ると目に入ったのは昨日演劇部が撮影したポスターがデカデカと引き伸ばされたモノだった。

 それは、私が薔薇をくわえながら、キメキメのポーズをとっている一番恥ずかしいヤツである。

 

 その後、小山先輩が戦車道履修者には特典を説明しだした。

 なになに、「食堂の食券100枚」「通常授業の3倍の単位」「高級学生寮への入寮」「遅刻見逃し200日」「74アイスクリーム食べ放題券20回分」だって? 盛りすぎでしょ、何考えてるんだろう。

 

「更にさらに、こちらの戦車道特別指導教官ポスターももれなくプレゼントといたします!」

 

「おおーっ!」

 

「へっ? 小山先輩? えっ?」

 

 最後の特典に私はギョッとしてしまった。

 いや、どう考えてもおかしいでしょう! 私のポスターを配るってなんだよっ! というか、戦車道特別指導教官ってキャラだったの?

 

「せっかくの出来だったからついつい量産しちゃったよー」

 

 悪びれることもなく会長はニヤリと笑う。

 

 はぁ、これが同級生の家にあるとか考えるだけで憂鬱なんだけどなー。

 

 果たしてこれだけ特典をつけて、何人集まることやら、西住さんの問題もあるし……。

 

 私は胃と頭が痛くなっていた……。




2次創作って、口調とか仕草を表現するのが難しいですね。


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戦車道、始めます

ネタバレタイトル……。原作1話の終わりの方まで。


 翌日の昼休憩、私はどーしても気になって西住さんの様子を見ようと彼女を探した。

 

 ちょうど食堂で武部さんと五十鈴さんと食事をしているみたいだったので、話しかけてみることにした。

 

「やぁ、みほ。それに、ええーっと武部さんと五十鈴さんだっけ? 一緒に座っても良いかな?」

 

 私は出来るだけフレンドリーに声をかけた。

 

「あら、貴女は確か、昨日教室に来られていた、生徒会の書記会計の――」

 

「みほを説得しようったって駄目なんだからね! もう香道を選択したんだから!」

 

 五十鈴さんが生徒会と口にした瞬間、武部さんが西住さんを守るように捲し立てる。

 良かった。この二人はとても良い子みたいだ。西住さんの事情をどこまで知っているか分からないが守ってあげている。

 

 私はかなり安心した。なんだ、やっぱりいい友達がすぐに出来たじゃないか。

 

「あの、武部さん、五十鈴さん、違うの。玲香さんは私の友達」

 

 西住さんははっきりとした口調で『友達』を強調した。ちょっと元気がなさそうだけど、大丈夫そうだな。

 

「みほの……」

「お友達ですか」

 

 二人は顔を見合わせた後、私を見た。

 

「あっ、いや、そのう。先輩たちが昨日はすまないことをした。私はみほの味方だから、無理やり戦車道を履修させるのには反対してるんだ。武部さんや五十鈴さんには、要らない警戒をさせてしまって悪かった」

 

 私は頭を下げた。そりゃ、昨日のあの感じを見たら私は生徒会の手先に見えるのは無理ない。

 

「いえいえ、わたくしこそ、タイマンをはって叩き潰そうとか思ってしまい申し訳ありませんでした」

 

「ちょっと、華、発想が怖いから。あははっ、ごめんねー。つい、大声出しちゃって」

 

 五十鈴さんと武部さんは笑って許してくれた。あー、良かった。

 ついでに私はみほの隣に腰掛ける。

 

「でも良かったよ。みほにちゃんと友達が出来ていて。心配してたんだ」

 

「玲香さん、心配してくれてありがとう。それで……、昨日の話なんだけど、玲香さんは戦車道をとるの?」

 

 西住さんは意外にも自分から戦車道の話題を振ってきた。嫌な話だからこれ以上するつもりはなかったんだけどな。

 武部さんと五十鈴さんも首を傾げていた。

 

「うん。取るよ。みほには、あまり言うつもりはなかったんだけど、私は凄く戦車道がやりたかったんだ……」

 

 私ははっきりと宣言した。友達には嘘は付けないからね。

 

「えっと、仙道さん。そんなに戦車道がやりたかったのに何でまた、戦車道のなかった大洗女子に入ったの?」

 

 武部さんが興味深いといった表情で質問した。まぁ、そこは気になるよねー。

 

「うん、大洗女子に入った理由はね。戦車道が無かったからなんだ」

 

 私は矛盾した答えを告げた。武部さんと五十鈴さんは訳の解らないという表情をしている。

 

 そして、西住さんは――。

 

「えっ? 私とおんなじだ……」

 

 ポツリと呟いていた。

 

「中学時代は戦車道をやってたんだけどね。引退試合の直後に両腕に大怪我を負ったんだ。医者にはもう戦車道は出来ないって告げられてさ、凄く戦車道が好きだったから、未練を断ち切るために戦車道の無い高校を選んだっていうわけ」

 

 私は腕まくりをして、両腕の手術の跡を見せた。三人はドン引きしていた――しまった、余計なことしちゃった。

 

「ごめん、変なもの見せちゃったね。でも、結局それは誤診でね。手術とリハビリで両腕はこの通り、完治したんだよ。セカンドオピニオンって大事なんだって思ったね。まぁ、その医者を紹介してくれたのが生徒会長だったりするんだけど……。だから、せっかく戦車道が出来るようになったから、全力で頑張りたいんだ。後悔しないように……」

 

 私が長々と話している間、みんなは黙って聞いていた。なんだろう、自分語りってすごい恥ずかしい……。

 

「仙道さんって、苦労したんだねぇ。大丈夫、苦労した女ってモテるよ!」

 

 武部さんがサムズアップしながら、戯けた声を出した。うーん、リハビリ頑張ってモテるものかね?

 

「わたくしたちは、戦車道をしませんが、仙道さんのご武運を祈りますわ」

 

 五十鈴さんはなんか、戦場に私が足を踏み入れるのと勘違いしてるんじゃないかしら? まぁ、応援してくれるのは嬉しいけど……。

 

「玲香さん、私は――」

 

『ピンポンパンポーン、普通科2年A組、西住みほ、普通科2年A組、西住みほ、至急生徒会室に来ること――』

 

 河嶋先輩の声が放送され、西住さんは生徒会室に呼び出された。はぁ、やっぱりこうなるか。

 あの、会長と戦うんだったら私にもそれなりに覚悟が必要だな。

 

「みほ、私が守るよ。君に戦車道を強制させたりはしない。絶対に……」

 

 私は真剣な目でまっすぐに西住さんを見つめて宣言した。

 

「玲香さん……」

 

 西住さんは何か言いたげな表情をしていたが黙っていた。

 

「みほ、私も付いていくよ。大丈夫だから」

「ええ、わたくしたちが、みほさんには付いています」

 

 武部さんと五十鈴さんも一緒に生徒会室に来てくれるみたいだ。よし、みんなで戦おう。先輩たちと……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「西住、これはどういうことだ?」

「何で選択しないかなー?」

「我が校はこれでオシマイです!」

 

 三者三様の反応。ちょっと待って、小山先輩、なんか変なこと言ってない? 我が校が終わりとか……。

 

「勝手なことを言わないでください!」

「そうよ、みほは戦車道やらないから!」

 

 五十鈴さんと、武部さんは強気の態度だ。二人とも友達想いの良い人だなぁ。

 

 

 

「そんなこと言ってるとさぁ――あんた達、学校にいられなくしちゃうよ?」

 

 はっ? なんか、会長らしくない感じのセリフだなぁ。冗談でこんなこと言うタイプじゃないんだけど……。

 

「おっ脅すなんて卑怯です」

 

 五十鈴さんは憤慨して抗議した。

 

「脅しなんかじゃない。会長はいつだって本気だ」

 

 河嶋先輩が冷淡な口調でそう告げる。ここで、私が睨んで河嶋先輩を怯ませることは簡単だけど、先輩の言っていることって本当なんだよなー。

 

 会長は本気だ。多分、学校に居られなくなるのも本当。でも、それはおそらく戦車道を取らなかったから報復としてじゃない……。

 

 私は嫌な想像をしていた。でも、だからといって、西住さんに戦車道を強制させる理由にはならない。

 

「今の内に謝ったほうが良いと思うよ? ねっ、ねっ」

 

 小山先輩もすっごく嫌な態度だ。私には演技だって判るから、見てて辛かった。

 もう、嫌だ。こんな争いもう止めよう。

 

 

「先輩たち! いい加減にして下さいっ! これ以上、みほに戦車道を強要しようとするんだったら、私はもう一度両腕を潰します!」

 

 私は大声を張り上げた。

 

 先輩たちも私の異常な宣言に面食らったようだ。

 

「玲香っ! お前、何をバカなことを言っている?」

 

「そうだよ、玲香。あんなに頑張ってリハビリをしたじゃない。おかしなことを言わないで」

 

 河嶋先輩と小山先輩はオロオロとした態度に変化した。そりゃあ、後輩が腕を潰すなんて言ったらそうなるだろう。

 

「仙道ちゃーん。まさか、このあたしを脅すのかなー」

 

 ただ一人、会長だけはいつもの態度にすぐに戻っていた。その精神力は流石だ……。

 

「脅しなんかしませんよ。あいにく、会長と同じで私もいつだって本気ですから」

 

 そう、私は本気だ。じゃないと、この会長から妥協案はもぎ取れないんだから。

 

 無言で見つめ合う私と会長。不敵な視線は強靭な彼女の意思を象徴している様だった。

 

「ふーん、まさか、仙道ちゃんに負ける日が来るなんてねー。しょうがないなー、西住ちゃんは諦め――」

 

「あっ、あのっ! 私!」

 

 会長が諦めた様に表情を緩めたとき、西住さんが急に大声を出した。

 

「私! 戦車道、やります!」

 

「「ええーっ!?」」

 

 私と武部さんと五十鈴さんは揃って驚きの声を出す! えっ、今、会長諦めるって言おうとしてたんだよ? いや、会長も危なかったー、みたいな顔しないでよ。

 

 というか、痛い発言して先輩を困らせた私がめっちゃ恥ずかしいんだけど……。

 

 でも、まぁ、あれだけ西住さんの戦車道の勧誘をやめさせようとしてた私だが、彼女の突然の心変わりが正直言ってちょっと嬉しかったりする。

 だって、中学時代の最後の試合で強烈な印象を与えてくれた西住みほと共闘できるんだ。ワクワクするじゃあないか。

 

「みほ、本当にいいのか? 戦車道をすることが辛かったんじゃ……」

 

 私は西住さんにゆっくりと意志を確認してみる。

 

「うん、大丈夫だよ。私ね、もう一度やってみたくなったんだ。玲香さんや、みんなと戦車道を……。さっき、玲香さんが頑張りたいって言ったとき、すっごく応援したくなったの。武部さんや、五十鈴さんが本当はやりたいのに庇ってくれたとき、すっごく嬉しかったの。だから、私はやるよ、戦車道!」

 

 この顔だ……。目にはっきりとした意志が込められた、この凛々しい顔つきこそ、私があの日に見た西住みほの本当の素顔だ。

 美しいと思って憧れた――あのときの顔なんだ。

 

 そう思うと、体の芯から熱くなってきて、震えてしまっていた。

 きっと、これは――武者震い。私の高校戦車道は今日から始まった。




次回から登場人物がすっごく増えるから不安で仕方ないです。
頑張ります!


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スタートラインは戦車探し

やっぱり、登場人物増えてカオスになりそうなんで、少しずつ紹介していく感じで進めます。難しくなってきた。


《みほサイド》

 

 まさか、もう一度戦車道を始めるなんて思わなかったな。

 

 でも、戦車道をやりたいのに私に合わせてくれた武部さんと五十鈴さん。

 そして、一度は戦車道を諦めて、今から必死で戦車道を頑張ろうとしている玲香さん。

 

 3人が私なんかの為に、あんなに本気で助けようとしてくれるなんて……。ビックリしたよ。

 

 誰も私のことなんて見てくれないって思ってた。でも、初めて友達になってくれた玲香さん。クラスメートで最初に声をかけてくれた武部さんと五十鈴さん。

 みんな、私を西住流じゃなくて、西住みほとして見てくれる。だから、一緒にやりたいって思ったの。もう一度、戦車道を……。

 

 そういえば、玲香さんのポスターっていつ貰えるんだろう。飾る場所、今から考えないとなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 放課後、西住さんたちにアイスクリームを食べに行かないかと誘われたが、生徒会の仕事と説教があったので丁重に断って生徒会室に向かった。

 

 

「まったく、お前は独断専行で妨害した上に、あんなことを――」

 

 案の定、生徒会室に入るなり私は河嶋先輩からお説教をくらうハメになってしまった。

 

「すみません。先輩、もうあんなこと言いませんので――」

 

 私も先輩方を脅すようなことをしたのは事実なので平身低頭で謝罪する。

 

「西住さんを庇いたくなる玲香の気持ちは分かるけど、もう自分を傷つけるなんて言わないで。玲香のこと、私たちは大事におもっているんだよ」

 

 小山先輩も厳しい顔つきで私に言葉をかける。知っているよ。だからこそ、最後の手段で賭けに出たんだ。

 

「まぁまぁ、河嶋も小山もその辺にしときなー。これから仙道ちゃんと西住ちゃんにはさー、いろいろと働いて貰うんだからねー。優勝するために」

 

 会長はへらへらと干しいもを噛りながら、二人の先輩を諌めてくれた。本当は1番この人が怒ってるんだろうなー。

 いつもよりも笑顔が怖い。

 

「やっぱり優勝しなきゃいけないんですか?」

 

 私は確認するように質問した。

 

「当然だ。やるからには優勝出来るように動け、考えろ」

「玲香、頼りにしてるよ。なんとか優勝出来るように頑張ってみて」

「優勝しなきゃ、戦車道復活させた意味ないからねー」

 

 3人は口々に優勝へのこだわりを話した。うん、マジみたいだね。

 

「わかりました。で、戦力を把握したいのですが、今、我が校には戦車って何台あるんですか?」

 

「わかんない」

 

「はぁ?」

 

 私は素っ頓狂な声が出てしまった。

 

 会長曰く、戦車道を当校がやめた時に戦車はほとんど売りに出されていたみたいだが、残り物の戦車はあるはずなのだとか。

 でも、その場所はⅣ号戦車以外不明という状況なので、今度の必修選択科目の授業のときにみんなで探そうという計画らしい。

 

 えっ? 何なのこの状況。

 こんなの見つかった戦車がそこそこ使えるもので、その上、初心者たちが戦車を簡単に乗りこなす超絶ハイスペック集団でもなきゃ、1回戦だって勝ち抜くの無理じゃん。

 

 私は思った以上に過酷なスタートラインだということに気付いて、頭が痛くなっていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「戦車なんだから、きっと駐車場にあるよねー。イケメン教官って、あのポスターの人かなー。ああ、早く会ってみたいよー。プロポーズされたらどーしよー」

 

 カッコいい教官が来るという言葉で戦車探しに1番乗り気になっている武部さん。あのポスターの話は早く忘れてしまってほしい。

 

 戦車道履修者は生徒会を含めて全部で22人。戦車は全部で5両必要な計算となり、我々は手分けして必要な4両の戦車を探すことになっていた。

 

 なんで、生徒会は私しか動いてないんだよっ! 河嶋先輩、偉そうに教官の来る明後日までに探してこいって無茶ぶりだろ!

 

 私は西住さん、武部さん、五十鈴さんと共に戦車探しに学校を探索している。

 駐車場に戦車は無いんじゃないって、今更なツッコミを五十鈴さんが入れてるところだ。西住さんも苦笑して同意してる。

 どうやら私と武部さんだけが真剣に駐車場を探していたようだ……。

 

 探すって言ってもなー、ノーヒントだとは思わなかったよ。あれ? 西住さん、急に後ろを向いて何かあったのかな?

 

「あの! 良かったら一緒に探さない?」

 

「ええっ? いいんですかぁ!?」

 

 モジャモジャっとした癖毛の女の子が目をキラキラさせてこちらを見ていた。なんだろう。ドラクエで「モンスターが仲間になりたそうにこちらを見ている」って表現あったけど、こんな感じなんだろうか? 

 えっと、ねぇ、この子は確か、秋山さんだったはず。

 

「あっあの、普通科2年C組の秋山優花里と申します! ふつつか者ですがよろしくお願いします」

 

 モジモジとしながら自己紹介を決める秋山さん。おおっ、合ってた。一応、生徒会として同級生の顔と苗字くらいは頑張って覚えたんだよねー。

 

 うん、はっきり言って半分もしない内に後悔した。けど、謎の義務感で最後まで覚えた。

 でも、役に立ったことは一度もない!

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。五十鈴華です」

「武部沙織ー」

 

 五十鈴さんと、武部さんも自己紹介する。順番的には西住さんの次で良いだろう。

 

「あっ、私は――」

 

「存じております。西住みほ殿と、そちらの方は仙道玲香殿ですよね!」

 

 秋山さんは西住さんと私の名前を知っていたようだ。ふむ、生徒会やってる私の名前を知っているのは分かるけど、西住さんのことを知っているってことは――。

 

「秋山優花里さんだね。よろしく。私のことを知ってくれていて光栄だよ。生徒会を頑張ってて良かった」

 

 私は秋山さんに右手を差し出した。

 

「うわぁ、仙道殿と握手出来るなんてこちらこそ光栄です。一昨年前の中学戦車道大会で白髪鬼(ホワイトヘアーデビル)という異名を馳せて決勝まで勝ち抜いた仙道殿を、戦車道ファンなら知らないはずありませんよ」

 

 いや、知らないと思うよ。そんな恥ずかしい、どっかのバスケチームの監督やってそうな異名もマイナーな中学戦車道のことも。

 

「まぁ、随分とお強そうな異名ですねー」

「てか、玲香って有名な選手だったんだ」

 

 五十鈴さんと武部さんが興味深そうにこちらを見ている。

 

「えっ、二年前? 玲香さんって……」

 

 西住さんも何かに気付いたみたいだ。

 

 とにかく、秋山さんが結構な戦車道のファンということは理解できた。私すら知っているんだから、西住さんのことは大いに知っているに決まっている。

 

「ええ、仙道殿も有名ですが、こちらの西住殿も――」

 

「さっ、早く探しに行こう! また、河嶋先輩に怒鳴られるのは嫌だからさ!」

 

 私は秋山さんの言葉を遮って戦車探しに話を戻そうとした。

 幸いみんながハッとした顔をして真面目に作業を開始したので、西住さんの話題には誰も触れなかった。多分、秋山さんも何かを察してくれたんだろう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「五十鈴さん、すっごいなぁ。マジで匂いで戦車見つけちゃったよ……」

 

「いえいえ、大したことありません。少しだけ嗅覚が敏感なだけですから」

 

 戦車が五十鈴さんの匂いセンサーに捕まって簡単に見つかったので私は目を丸くしていた。

 いや、少しなんてものじゃないから。この特技でご飯食べれるようになるんじゃないかなー。

 

「普通に華道で食べていきたいのですがー」

 

 そんなことを言って盛り上がっていたら、五十鈴さんにまっとうなツッコミを頂いた。

 そりゃあそうだな。五十鈴さんは華道の最大流派の五十鈴流の家元だ。

 将来性ばっちりのお嬢様だもんな。大道芸で飯食う必要なんて皆無だ。

 

 見つかったのは38t軽戦車。秋山さんがすっごくイキイキしてうんちくを述べている。めっちゃ詳しいじゃん。

 

「はっ、(t)って、チェコスロバキア製ってことで重さの単位じゃないんですよー!」

 

「今、イキイキしてたよ……」

 

 若干引き気味で苦笑いしてる武部さん。ほっといてあげて、好きなものを見つけて興奮するのは普通だから。早口になるのだって多分普通だよね?

 

『ご苦労、運搬は自動車部に依頼しておくので、引き続き捜索を続行せよ』

 

 河嶋先輩に見つかったことを報告すると、このような返事が……。相変わらず手伝う気は皆無らしい。

 会長はきっとふんぞり返って干しいもかじってるんだろうなー。

 

 

 まぁ、そんなこんなで、水没した戦車とか、断崖絶壁にあったらしい戦車とかどうやって見つけたのか謎すぎるが、とにかく無事に4両の戦車が見つかった。

 

「89式中戦車後型、38t軽戦車、M3中戦車リー、Ⅲ号中戦車F型、それからⅣ号中戦車d型、どう振り分けますか?」

 

「見つけたもんが見つけた戦車に乗ればいんじゃない?」

「そんなことでいいんですかー?」

 

 自動車部に運搬してもらった戦車を見て、生徒会の先輩たちがそんなことを話していた。

 ふーん、でも、38tには5人は多いけどなー。

 

「お前たちはⅣ号で……」

「えっ、あっ、はい」

 

 そんな私の思考を読み取ったのか、河嶋先輩が私たちにⅣ号に乗るように指示をする。

 

「では、Ⅳ号、Aチーム。89式、Bチーム。Ⅲ突、Cチーム。M3、Dチーム。38t、Eチーム」

 

 淡々とチームを作る河嶋先輩。じゃあ、私はAチームだな。同級生しか居ないし、気楽だ。

 

「ちなみに、玲香。お前はこっちだ」

 

 またまた、私の思考を読み取ったのか、河嶋先輩がこっちに来いと手招きする。なんでなん? 38tって生徒会チームだったの?

 

「えっ? でも、Ⅳ号の方が搭乗人数が……」

 

 私は抗議した。あっちに乗ると戦車の中でも下っ端扱いだ。それに多分狭い。

 

「口答えは許さん。経験者をバラすのは当然だろうが」

 

 意外な正論にぐうの音も出ない私。泣く泣く同級生チームからパワハラ先輩チームに移動することになった。

 

 というわけで、私の搭乗車両は38t。うーん、まっいいかー。




他のチームの人たちはおいおい掘り下げます。大雑把な感じで次回軽く紹介する予定です。


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これが私の洗車道

アニメだと数分間の描写が文字にするとエライことに……。
二次創作って色んなことに気付かせてくれるんですねー。
登場人物の説明は不要かもしれませんが、一応少しだけ出してみました。
磯辺典子さん、好きです。玲香の顔の系統も似た感じでイメージして頂けたらわかりやすいかもしれません。178cmの磯辺さんってバレー選手の適性ありすぎですよねー。


「はぁ、まさか戦車を洗車するハメになるとは……」

 

「おっ、上手いねぇ。座布団1まーい」

 

「洒落じゃないですよ……」

 

 今、戦車道履修者の全員で戦車を洗っている。相変わらず会長はダラダラして干しいも食ってるけど……。つーか、この人いつも干しいも食ってるな。

 

「会長がだらけてるのは、まぁいいとして――」

 

「えっ? いいのー? さすがは、仙道ちゃん。諦めが早いねー」

 

「それ、褒めてないですよね? せめて戦況の見極めが良いと言ってくださいよ。――あと、なんで、小山先輩は水着なんですかー? えっ、あれですか? 私に対してあてつけてるんですか?」

 

 私はセクシーな水着姿で洗車をしている小山先輩を指さした。何あの、豊満なボディ。泥んこプロレス大会のときも思ったけど、ズルいと思うんだ。

 

「にゃはは、仙道ちゃんは壁だもんねー。まさか、あたしより無いなんてさー」

 

「やかましいです。さすがに会長よりは、よりは……」

 

 クソっ、背ばっかり成長しやがって。女性ホルモン仕事をサボるな!

 

「こら、玲香っ! 馬鹿なこと言ってないで仕事しろ!」

 

 恨めしそうに、小山先輩のバストを眺めてたら河嶋先輩に叱られた。そんな河嶋先輩もスタイルだけは良い。性格とかは置いといて……。

 そんなことを思ってたらポカンと顔面に河嶋先輩がチョップしてきた。

 

「痛っ、何するんですか!」

 

「黙れっ! お前がその顔をしているときは大抵、私の悪口を考えている時だ!」

 

「いっ、いっ、言いがかりですよー」

 

「あからさまに動揺するな! 先輩を敬え!」

 

「玲香、ちょっと……。こっち側をお願いするね――」

 

 私と河嶋先輩がじゃれてたら、小山先輩がニコリと笑って私に指示を出してきた。

 寒っ! こっこれは殺気? 小山先輩から重戦車もびっくりなくらいの強烈なプレッシャーを感じて、私は洗車作業に戻った。

 小山先輩、会長とじゃれてても何にも言われないんだけどなー。解せぬ……。

 

 

 

「仙道ちゃーん、Aチーム以外がちょっと洗車に手間取ってるみたいだからさぁ。みんなとの交流がてら教えちゃって来てよ」

 

 私が作業を開始してしばらく経ったとき、会長は他のチームを手伝えと指示を出してきた。

 ふむ、確かに戦車道履修者の人となりは知っておく必要もあるし、行ってくるか。

 

 そんなわけで、私はB、C、Dチームに出張してきた。

 

 

 最初に訪れたBチームは簡単に言うとバレー部だ。正確には元バレー部メンバーだけど……。

 

 他のメンバーからキャプテンと呼ばれる小柄なショートカットが特徴の磯辺典子さんは2年生。なんか、身長以外はちょっと私と似た系統なのでシンパシーを感じる。

 

 他は1年生で、近藤妙子さん、河西忍さん、佐々木あけびさんの3人。みんな、バレー部らしく高身長だ。

 まぁ、私よりは低いけど……。あれくらいなら、まだ可愛い女の子って感じだもんなー。

 なんせ、みんなスタイルがいい。1番控えめな河西さんだってスレンダー美人って感じで十分だ。はぁ、磯辺さん見て落ち着こうっと。

 

 

 Cチームはあれだ、そのう、面白コスプレ軍団もとい、歴女チームだ。全員が2年生。

 私の2年生の苗字を全部覚えた努力を無駄にした人たちでもある。

 

 さっき、名前を呼んでも反応しないから不思議に思っていると、赤いスカーフを身に着けた、本名鈴木貴子さんが、こう言った。

 

「我々はソウルネームで呼び合っている。願わくば、そちらで呼んでくれ。私はカエサルだ!」

 

 そのセリフに私があ然としていると、一通りソウルネームとやらで自己紹介を受けた。

 

 ローマ風の格好をしてるのが、カエサルさん。

 ドイツ軍人風の格好のエルヴィンさん。

 真田幸村風の格好の左衛門佐さん。

 坂本龍馬風の格好のおりょうさん。

 

 あーっ、きっと、この前のポスターのときってこんな風に見られてたんだろうなー。

 とまぁ、こんな感じ……。

 

 Dチームは簡単明快。可愛いらしい仲良し1年生チームだ。全員で6人いる。

 

 一応、リーダーっていうか1番しっかりしてそうな子が澤梓さん。感じが良くて、西住さんに似たタイプの子に見える。

 

 以下、スタイルが1番いい山郷あゆみさん、頭がちょっと弱そうな大野あやさん、「はい」が「あい」になる謎の癖がある阪口桂利奈さん、すげぇエロそうな声にびびった宇津木優季さん、そして何考えてるのか全く読めない無口な丸山紗希さんだ。

 

 ちなみに、丸山さんの名前は阪口さんに聞いた。一人だけぼーっとどこか違うところを見てたのでなんか怖かった。いやマジで。

 

 

 そんな感じで皆のことを知るために洗車のやり方を教えながら各チームと交流してたら、小山先輩がグロッキーになっていた。

 

 ほとんど任せてしまって申し訳ない。でも、私も戦車道チームを少しでも強くするためにみんなの人となりを知らなきゃと思って時間を敢えて長くとったんだ。

 

 おかげさまで、丸山さん以外とは全員と話すことが出来て、想像以上に濃いキャラが集まったということが分かった。

 戦車道ってもしかしたら変わり者ホイホイなのかもしれない。

 ――いや、私はいたって普通だし、そりゃあないかー。

 

 ていうか、さっき河嶋先輩が後は自動車部にメンテナンスを任せると言っていたけど、明日までに間に合うのかな? 自動車部のメンバーって4人しか知らないんだけど……、他に人数いるのか?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「はぁ、港はどっちかなぁ?」

 

「ああ、そろそろ陸に上がりたい。アウトレットで買い物もしたいしー」

 

「今度の週末は寄港するんじゃ?」

 

「どこの港だっけ? 私、港みなとに彼が居て、大変なんだよねー」

 

「それは行きつけのカレー屋さんでしょ」

 

「へぇ、武部さん、カレー屋に詳しいんだ。今度、美味しいところ教えてよ」

 

「もう、華のせいで、彼氏とカレー屋さんでダジャレ言ってるみたいになっちゃったじゃん」

 

 海を眺めながらAチームのメンバーと私で雑談をする。久しぶりに生徒会で居残りせずに済んだな。

 

「あっあの!」

 

 そんなとき、意を決したように秋山さんが言葉を出す。

 

「良かったら、ちょっと寄り道しませんか? 駄目――ですかね?」

 

 いや、構わないけど、どこだろう?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 秋山さんが寄り道したかった場所は“せんしゃ倶楽部”っていう戦車関連の品が置かれているお店だった。久しぶりに来たなー。

 

 中にはズラリと戦車グッズが陳列されている。そんな様子を見て、武部さんはポロッと本音をこぼした。

 

「でも、戦車ってみんな同じに見えるー」

 

「ちっ違いますー、全然違うんです。どの子もみんな個性というか特徴があって、動かす人によっても変わりますし」

 

「華道と同じなんですね」

 

「うんうん、女の子だって、みんなそれぞれの良さがあるしねー。目指せモテ道!」

 

 必死で戦車の魅力を語る秋山さんに対して華道も通ずるところがあると感心する五十鈴さん。

 ここまでは会話は成立してた気がしなくもない。

 

 最後のモテ道ってなんだ。サムズアップしてキランと決めているけど、よくわからないことになっているぞ。

 

「会話が噛み合っているような、ないような……」

 

 西住さんは困惑気味で苦笑いしている。安心してくれ、それが正常な反応だから。

 

 

 戦車のバーチャルゲームをしている秋山さんとそれを見物している武部さんと五十鈴さん。

 

 私と西住さんは、ふとテレビで放送されていた戦車道の話題を見ていた。あれって、西住さんのお姉さんじゃ……。

 西住まほ選手――高校戦車道の最強と称される選手だ。

 黒森峰に行ってたら、一度手合わせしたかったんだけどなー。

 

 インタビューに答えてるみたいだな。どれどれ。

 

『戦車道の勝利の秘訣とはなんですか?』

 

『諦めないこと、そして、どんな状況でも逃げ出さないことですね――』

 

「あっ――」

 

 キリッとカメラ目線で最後のセリフを決める西住まほさん。いやぁ、取材慣れしてるんだなー。

 

 ありゃ、西住さん、お姉さんのインタビュー聞いて落ち込んじゃったみたいだな。しょぼんとしてて分かりやすい。

 

「私はたまには逃げても良いと思うけどなー」

 

「えっ? 玲香さん?」

 

「大体さー、戦略的撤退って言葉もあるし、名将ってのは引き際こそ大事にするものじゃない? それにね――」

 

 私は西住さんの顔にグイって自分の顔を近づけた。

 

「これだけ前進すると、ほら、何にも見えなくなるでしょ」

 

「ふぇっ、あっあの、玲香さん、息が当たってるよ?」

 

「ああ、ごめん、ごめん。何が言いたいかと言うとさ。ほら、こうやって後進すると、さっきまで見えてなかったものも見える。うん、ここからならみほの全体が見えるよ。――だからね、後ろに引くのも新しい発見があるかもしれないし、悪くないって思っても良いんじゃないかな?」

 

 私は何歩か引いて、西住さんに持論を展開した。気休めかもしれないけど、私は逃げることを悪だなんて思えない。

 

「うっうん。ありがと、玲香さん」

 

 なぜか真っ赤な顔になっている西住さんは上目遣いでお礼を言った。ちょっとは元気出たかな。

 

「あっあと、不謹慎だけど、これは私の本音。みほが逃げ出してくれたから、私はみほと友達になれた。それがすっごく嬉しいんだ。ははっ、ごめんね。自分勝手で。また、逃げたくなったらいつでも言いな、私くらいはみほの逃げ場になるよ」

 

 私はちょっと照れながら本音を言ってみた。だって、中学時代に戦ってさ、黒森峰の推薦で進学しようと思ったのは、西住さんと戦車道がやりたかったからなんだもん。

 大声では言えないがラッキーとまで思っている。

 

「あら、みほさん。熱があるのではないですか? 凄く顔が赤くて煙が出そうになっていますよ」

 

 五十鈴さんがいつの間にか近くにいて西住さんの顔を眺める。えっ? 風邪? 大変、早く帰らなきゃ。

 

「西住殿、市販の薬でよければ風邪薬持っていますよー」

 

 秋山さんがどこからか風邪薬を出してきた。すごいな、薬を持ち歩いているんだ。

 

「ぽーっ……。えっ? 風邪じゃないよ……、大丈夫だから」

 

 ぼーっとしていた西住さんは、ふと我に返って、いつものようにアワアワとした動作で否定した。

 良かった。風邪だったらどうしようかと思ってた。

 

 そのあと、なんやかんやあって武部さんの提案により、西住さんの家で食事会が開かれることになった。

 

 あー、放課後に友達の家に行くなんて何ヶ月振りだろう。あれ? 今の発言って女子高生らしくないなー。生徒会って結構なブラックな職場なのかもしれない――。

 

 うん、考えないようにしよう!




原作の二話が終わる気がしない。ラストの方から始まる模擬戦の描写がちゃんと出来るのかがめっちゃ怖いです。
次回も頑張ります!


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女子力と撃破率

2話のラストちょっと前まで。やはり、2話を最後までは無理でした。
日間51位になっていました。お気に入りも100超えてたし、やはりガルパンの力は偉大。
応援ありがとうございます!


「散らかってるけど、どうぞー」

 

 私たちは西住さんの部屋にお呼ばれした。途中でスーパーに寄って晩御飯の買い出しをして。

 

「うわぁ、可愛い」

「みほさんらしい部屋ですねー」

 

 武部さんと五十鈴さんがそれぞれ感想をもらした。

 

「おっ、これって、限定版のボコじゃん。【ボコVS会長】のボコでしょ。耳と目をどっちもギャンブルで賭けちゃう」

 

「あー、やっぱり玲香さん気づいてくれたねー。これ最近、1番気に入ってるんだー」

 

「普段とは違うギャンブルでもキッチリと負けてくれるところが堪らないよねー」

 

「うん。それがボコだから……」

 

 私と西住さんがボコ談義をしてると、武部さんが可哀相な人を見るような目で見てきた。

 

「玲香、みほ、そんな会話を外でやったらモテないよ……」

 

 いや、モテないのは自覚してるから……。う、うん、自重します……。

 

「おおっ、これは玲香殿のポスターですねー。西住殿、きれいに飾ってますねー」

 

 秋山さんの言葉にギョッとしてベッドの方の壁を見る。すると、薔薇を咥えて決めポーズ取ってる男装した私のポスターがデカデカと飾られていた。

 

 だぁーっ、なんで西住さん、私の恥ずかしいポスターこんなところに飾ってるのー!

 友達のポスターって普通飾るっけ? いや、友達がポスターになったこと無いから知らんけど。

 

「ええっ? これって玲香だったの? イケメン教官は、居なかったってことー?」

 

「あらあら、残念でしたねー」

 

 うん、武部さんだけ気付いてなかったパターンだね。五十鈴さんは知ってて黙ってくれてたんだ。

 というか、飾ってること自体はスルーなんだね。五十鈴さんの食べる量と同じで……。

 

「玲香、これはモテるよー! てか、私が付き合ったどんな男よりもイケメンじゃん」

 

「付き合った方、居ましたっけ?」

 

 あの、イケメンでモテても嬉しくないんだけど。あー、すっごく恥ずかしくて顔が熱くなってきた。

 

「玲香さん、大丈夫だよ。カッコいいもん」

 

「おっおう……」

 

 何のフォローかわからないが、これ以上は触れちゃいけないような気がしてポスターの話は終わりにした。

 

 

「よし、じゃあ作ろっか。華はジャガイモの皮むいて」

 

「では、私はご飯を炊きましょう。 ふふーん♪」

 

 武部さんの号令により、調理が開始される。私は飯ごうの準備をしている秋山さんに目が行ってしまった。

 

「えっ、秋山さん。わざわざ、飯ごうのセット持ち歩いてるの?」

 

「ええ、いつでも野営出来るようにー」

 

 ケロッとした顔で答える秋山さん。いつでも野営って、何? コンビニ帰りに、今日はちょっと野営したい気分――みたいになるってことかな。

 

「痛っ。すみません、花しか切ったことないものですから」

 

「えっと、絆創膏どこだったかなー」

 

 包丁で指を切った五十鈴さんの様子を見て絆創膏を探す家主の西住さん。

 うん、一度は言ってみたい日本語だね。「花しか切ったことない」って。お嬢様だなー。

 

「みんな、意外と使えない……。よしっ!」

 

 意を決してメガネをかける武部さん。おおーっ、普段はコンタクトだけど、メガネもかけるんだー。

 

「いや、武部さん。私だって料理くらい多少はできるから。何か手伝えないかな?」

 

 私は使えない人認定が嫌だったので指示を仰ぐことにした。

 

「玲香、男子厨房に入るべからずだよ……。ここはお姉さんに任せなさい」

 

「えっと、どこからツッコミを入れれば良いのかなー」

 

 私は苦笑いした。さっきのポスターのことまだ弄ってくるのか。武部さん、恐るべし。

 

 

 まぁ、色々とトラブルもあったが、私や秋山さんの作業などほとんど意味の成さないくらいの手際の良さで武部さんは素晴らしいご馳走を作ってくれた。

 

「じゃあ、食べようか!」

 

「「いただきまーす」」

 

 私たちは手を合わせて、食事を始める。

 やばっ、美味いわこれ。絶対に武部さんの旦那さんになる人幸せだよ。

 

「やっぱ男の人の胃袋掴むには肉じゃがだよねー」

 

「掴んだことあるんですか」

 

「いいじゃん。何事も練習だしー」

 

 五十鈴さんの切れ味抜群のツッコミも笑えたけど。うん、これは練習の成果出てるよ。

 

「いや、武部さん。いいお嫁さんになると思うよー。こんなの作って待っててくれたら、旦那様は毎日ハッピーだよ」

 

「えっ、本当? でしょ、でしょ、ほらー」

 

 渾身のドヤ顔をする武部さん。あっ、その顔はちょっと腹立つな。

 

「玲香さん、あまり沙織さんを煽てないでください。すぐにこうなるのですから」

 

「はっはぁ、すみません」

 

「てか、本当に男子って肉じゃが好きなんですかねー」

 

 それはどうだろう。カレーとか唐揚げとか好きそうだよなー。いや、知らんけど……。

 

「だって、雑誌に書いてあったもん」

 

「「ふーん」」

 

 これは誰も興味ないやつですわ。それはそれで日本の少子化が心配される事態だけど。

 

「お花も凄くきれい」

 

「こんなことしか、出来なくてすみません」

 

 五十鈴さんが一輪挿しをして飾ってくれたのだが、なかなかどうして、流石に侘び寂びがあって見事なものである。うん、これで飯食ってけるな。

 

「ううん、とても部屋が明るくなったよ」

 

「あっありがとうございます!」

 

 西住さんが素直な感想を言ってくれたおかげで料理で戦力外認定されて落ち込んでいた五十鈴さんが笑顔になった。

 

 あー、美味しかったー。そして、楽しかったなー。

 

「それじゃあ気をつけて帰ってねー」

 

 ご機嫌な西住さんに別れを告げて、我々は帰路についた。

 

 また、こんな集まりをしたいものだ。河嶋先輩の仕事を手伝うのを控えよう……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 今日は戦車道の指導教官が来る日。私はドキドキしていた。

 久しぶりに戦車に乗れるからというのはもちろんだが、先ほど会長から聞いた教官の名前が原因である。

 

 教官は蝶野亜美さん。私がもっとも尊敬する戦車乗りだ。

 彼女の監修した戦車道の教本【目指せ撃破率120%(民明書房)】は私のバイブル。ちょっとニュアンスで説明しがちだけど、実践主義で頭より体で覚えるというやり方は戦車道において実に的を射ていた。

 手っ取り早く成長するには彼女の教えが最適だろう。

 

 

「遅刻なんて、珍しいねー」

「えへへ、ちょっとね」

 

 本当だ、西住さんが遅刻なんて珍しいな。何があったんだろう?

 

 そんなことを気にしていると、爆音が鳴り響き輸送機が飛んでくる。

 

「えっ? 何あれ?」

 

 そこで私は凄惨な光景を目にすることになる。

 輸送機から戦車が落ちてきて、学園長の車に直撃。そして、さらにそれをペチャンコに踏み潰して、戦車は我々の目の前に到着する。

 

 あれ? ここはギャグ漫画の世界にでもなったのかね? なんで誰もツッコミを入れないの? スルースキル高いの?

 

 あっ、良かった。小山先輩だけ青ざめた顔をしてくださっている。やっぱり、先輩だけは常識人だ。

 

 

 

「特別講師の戦車教導隊。蝶野亜美教官だ」

 

「みんなー、こんにちはー」

 

 河嶋先輩の紹介で戦車から出てきて挨拶をしたのは、軍服の似合う凛々しい顔つきのお姉さん。私の尊敬する蝶野亜美さんである。

 まぁ、さっきの衝撃で尊敬の念が吹き飛びそうになったけど……。

 

「戦車道は初めての方が多いと聞いてますが、一緒に頑張っていきましょーねー!」

 

 ケロッとした顔で、挨拶をする教官。ふむ、この心臓の強さこそ戦車道において必要な物なのか……。いや、違うか。

 

「あら、西住師範の娘さんじゃないですか。師範にはお世話になっているんです。お姉様はお元気?」

 

 さらにノータイムで西住さんの地雷を踏みに行く蝶野教官。やはり恐ろしい――。

 

 西住さんも困ってらっしゃる。

 

「西住師範?」

「それって、有名なの?」

 

 そして、主に1年生たちがざわつきだした。

 

 西住流って、知らないもんなんだ。割と常識だと思ってた。よく考えたら武部さんも五十鈴さんも知らなかったらしいし、戦車道の家元って知名度そんなものなんだなー。

 

「西住流はね、戦車道でもっとも由緒ある流派なの」

 

 そうそう、戦車道最強は西住流か島田流っていうくらいの2大流派。

 だから、西住みほという人間が西住流という重圧に苦しんでいるのだ。

 

「教官、教官はやっぱりモテるんですかー」

 

 挙手をして、武部さんは、いつもの武部さんを全面に出す。きっと、西住さんの不穏な空気を感じ取ったのだろう。もちろん、モテるかどうかは気になってるんだろうケド……。

 

「うーん、モテるっていうより、狙った獲物は逃さない。撃破率は120パーセントよ!」

 

 出た名言。まさか、こんな質問で聞くとは思わなかったよ。

 

「教官、本日はどのような練習を行うのでしょうか?」

 

 続いて秋山さんが質問をする。これで完全に西住さんへの注意は反れた。

 

「そうね、本格戦闘の練習試合、早速行いましょう」

 

 おおー、やっぱりか。こりゃあ、楽しみだな。周りの子たちは大変だろうけど……。

 

「えっ、あの、いきなりですか?」

 

「大丈夫よ、何事も実戦、実戦! 戦車なんてガーッと動かして、バーっと操作して、ドーンと打てば良いのよ!」

 

 小山先輩の常識人らしいツッコミを蝶野流の名言で返す。まぁ、割とコレなんだよなー。

 習うより慣れろとはよく言ったもので、一回実戦するのと、しないのじゃ経験値の入り方がマジで違う。

 

 いい加減そうだけど、実はすごく合理的な考え方なんだ。

 

「それじゃ、それぞれのスタート地点に向かってね。うふっ」

 

 凛々しい顔で微笑む蝶野教官。やっぱり、この人カッコいいや。

 まぁ、車を踏み潰すというマイナスがまだ私の頭の中をグルグルしてるけど。

 

 

 

 私たちは自分たちの車両に向かう。

 会長が戦車に上れず、河嶋先輩を踏み台にしてるけど気にしない。私だったら簡単に持ち上げること出来るけど面白いから気にしない。

 

 本格戦闘の練習かー。つまり、西住さんと戦えるってことだよなー。

 

「ふっ、ふふっ……」

 

 私はついつい、口角が釣り上がってしまっていた。

 

「なんだ? 玲香、何が面白い?」

 

 河嶋先輩が私の様子を見て声をかけた。

 

「えっ、ふふっ。面白くないわけありませんよ。私がどれだけ、どれほどの間、この日を待ちわびたことか……。それに、西住みほ! 私の最後の対戦相手と練習とはいえ戦えるのです! あの日から私はブランクがある。みほは、高校で経験を積んでいる。今の私がどこまで戦えるのか! 差はどれくらいなのか! それが測れるだけでも楽しくって仕方がないですよっ!」

 

 私は愉快で仕方がなかった。大笑いしたいのを必死で堪えた。体の震えが止まらない! 胸の高鳴りが止まらない! ああ、西住みほと、もう一度戦えるなんて!

 

「へぇ、熱いねー。仙道ちゃーん。でも、その目は差を測ろうって目じゃないよねー」

 

 会長が見透かしたように私を見た。ははっ、やっぱり誤魔化せないか。この人の目は……。

 

「ええ、私とて、戦車乗りの端くれ。西住みほに勝つつもりで挑みますよ! ブランクなんて言い訳にするつもりありませんから!」

 

「さぁすが、仙道ちゃん。やっぱ正解だったよー。2人ともに戦車道を履修させてさー」

 

 私の長い間我慢に我慢を重ねた闘争心が今、解放された――。

 




次回、模擬戦開始!
当たり前ですが、戦車の試合を書くのは初めてなので上手く書けるかどうか心配です。
銀英伝の艦隊戦とかよりはきっと楽なはず!


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仙道玲香VS西住みほ その1

感想や誤字報告ありがとうございます。

いよいよ、オリ主が主人公に挑みます。
戦車の戦闘描写って難しい。


「んじゃ、役割決めてこうー。仙道ちゃん、どうするー?」

 

 戦車に乗り込んだ私たちは先ずは役割分担をすることにした。

 

「セオリー通りにするなら、車長は通信手兼任、それで後は装填手、砲手、操縦手を決めれば良いでしょうね。今回は通信手いらないですけど……」

 

 私は当たり障りのない意見を出した。まぁ、場合によっては装填手あたりが車長を兼任とかもあるかもしれないけど……。

 

「なるほどねー。仙道ちゃんは何が得意とかあるのかなー?」

 

 会長はさらに質問する。うーん、ブランクあるから一概にわからないんだよなー。

 

「一応、中学3年時は隊長ってポジションも兼ねてましたので、車長を。しかし、それまでは色々やってましたので一通り出来ます。特に砲手は得意でした。今ならパワーもあるので装填もまぁまぁこなせそうです。操縦はセンスが無かったですね」

 

 私は簡単に自分の中学時代の経験を話した。

 まぁ、最初だし私は何をやってもいいんだけど。

 

「会長が当然車長だな」

 

 河嶋先輩は当然という顔つきで頷いた。まー、会長なら状況判断とか得意そうだし良いと思う。

 

「えーっなんか面倒だなー。まっいいけどー」

 

 前言撤回、この人、絶対にサボる。

 

「私は砲手というのをやってみたい。良いだろ?」

 

 河嶋先輩は砲手が希望みたいだ。一抹の不安はあるが、口を出すと煩そうなので頷いておく。

 

「じゃあ、小山先輩。私が装填でもいいですか? 多分、私のほうが力は強いので……」

 

「うん、私は構わないよ。じゃあ、私が操縦手だね」

 

 小山先輩が頷いて、役割分担が全部決まった。まぁ、最初から戦車の操縦はなかなか難しいと思うけど、先輩は頭も良いし直ぐに覚えるだろう。

 

 

 ――うん、私は見誤っていた。小山先輩の力を……。

 

「会長、快調に進んでおります」

「座布団1まーい」

 

「えっ、小山先輩、凄くない?」

 

 私が少しだけ操作方法を教えただけで、スイスイ進む。辛そうな表情だけど、すでに戦車の操作はほとんど出来ている。

 私がこれくらい運転出来るまで何時間かかったっけ?

 

 

 そして、特にトラブルもなく私たちはスタート地点に到達した。

 

 

『みんな、スタート地点に着いたようね。ルールは簡単。全ての車両を動けなくするだけ。つまり、ガンガン撃って、バンバン倒せばいいってわけ』

 

「いやー、随分ざっくりっすねー」

 

 会長が蝶野教官のセリフにツッコミを入れる。ブーメラン刺さってますよ、先輩。

 

 それにしても、この短時間で全チームがスタート地点に着いたのか。

 まさか、1年生たちのDチームも……。各チームの様子見をしてたとき、大野さんは「先ずは服を脱ぎます」とか言ってたんだぞ。

 

 もしかして、戦車道履修者がハイスペックだらけって事は――。

 いや、それはないか。だって河嶋先輩も居るし……。

 

「おい、玲香。お前、私の悪口を考えて無かったか?」

 

「まさか、ありえませんよ」

 

 危ない、危ない。なんで、こんなセンサーだけ敏感なんだよ。

 

「そんなことよりさー、どーする。仙道ちゃんは何か作戦あんのー」

 

 会長は楽しそうに私に声をかける。

 

「そうですね。とりあえず、軽戦車は軽戦車らしくこっそり様子を見ましょう。多分、B、Cチームあたりは先ほどの蝶野教官がみほのことをアピールしたこともあり、経験者の居るAチームを狙い撃つと思いますから」

 

 Dチームはそこまで頭が回らなそうだけど、1番強そうな敵を結託して倒そうとするのは基本的な戦略だ。この展開予想はかなり自信があった。

 

「しかし、玲香。お前とて経験者だろう。洗車をした際に他の履修生もそれは知っているはず」

 

 河嶋先輩が私の考えに口を出す。まぁ、当然の疑問だよね。

 

「ええ、しかし、蝶野教官があれだけ西住流を称賛したのです。ただの経験者と、西住流の家元の娘。力関係は傍から見ても一目瞭然でしょう」

 

 肩をすくめながら私は説明した。

 

「ほう、理屈はわかった。しかし、影からコソコソして漁夫の利を得るような姑息な作戦で戦おうとするとは思わなかったぞ。先ほどの玲香の覇気はそんな感じじゃなかった」

 

「いいえ、勝つために全力を尽くす。これが私なりの礼儀ですよ。先輩たちだって、負けたくはないでしょう? 後輩たちに――」

 

 河嶋先輩の言葉に対して私は自分の意見をはっきり宣言する。西住みほに対して無策で挑むなんて、失礼だ。なんせ、以前の私は策という策を尽くしてコテンパンにやられたんだから。

 

「無論だ。私だって勝つつもりだ」

「玲香と桃ちゃんがやる気なら、私も協力するよ。何でも言ってね」

「いやぁ、若いって素晴らしいねー」

「桃ちゃんって言うなー!」

 

 先輩たちの一連のノリが聞けて私は緊張が解れる。なんだかんだ言って、生徒会の雰囲気が身にあってるんだよなー。

 先輩たちはみんな信頼できる尊敬すべき人たちだから……。

 

「それじゃ、そろそろ行きましょうか? どうやらDチームがコチラに近づいて来たみたいですし」

 

 私は外に顔を出して履帯の音を聞き、M3リーの接近を感じ取る。

 

「どうする? 迎え撃つのか?」

 

 河嶋先輩が緊張した声を出した。

 

「いや、放っておきます。戦闘を開始するのは撃たれた後でいいです。まぁ、両方の車両が動いている状態では当たりませんよ」

 

 行進間射撃は超高等技術。ただでさえこっちは軽戦車だし、動きながら当てるなんて初心者にはまず不可能だ。

 

「ふーん、なるほどねー。小山ー、とりあえず橋のところを目指すよー」

 

「わかりましたー。会長、橋のところってどうしてですかー?」

 

「うん? なんとなくに決まってんじゃーん」

 

「あははっ、そうですかー」

 

 会長はいつものようにおちゃらけて指示を出す。しかし、そのポイントは私が隠れて狙い撃ちしようと考えていた場所と一致していた。

 

 偶然なわけ――ないですよね? 会長――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 さてさて、目標地点にもうすぐ到達というところで私たちは恐ろしい光景を目にすることになる。

 

 橋の上でⅣ号はバランスを崩していた。

 そこを予想通りⅢ突と89式が手を組んで狙い撃ちをしようとしていたところだった。

 

「さすがに初心者だらけだと、みほでも、力を活かすことは出来なかったみたいですね。残念ですが……」

 

 私はAチームの敗北を予感した。

 

 ――しかし……、奇跡が展開された。

 

「はぁ? なんだ? あの動きは……」

 

 突如、絶妙な操作でバランスの崩れた橋の上で完璧な移動をこなすⅣ号。

 ちょっと待て、あんな動き初心者じゃ絶対に無理だぞ! まさか、西住さんが操縦を? 

 

 そして、Ⅲ突の砲撃を避けて砲頭を回転させ、一撃……。停止射撃とはいえ、Ⅲ突をきっちりと一発で葬る。

 

『Cチーム、行動不能』

 

 あの砲撃も初心者離れしてるな。

 

「河嶋先輩、小山先輩。最大のチャンスが回ってきます。Ⅳ号は間違いなく89式を倒します。その瞬間が無防備になるチャンスです。出来るだけ接近して一撃で決めましょう」

 

 私は戦況を見極め指示を出す。とにかく操縦手はあっちがはるかに格上だ。

 河嶋先輩の砲手の腕はわからないけど、多分砲手の実力もあっちには及ばないだろう。となると、今のⅣ号と38tだと圧倒的な戦力差があるといっても過言じゃない。

 

 だから、Ⅳ号が89式を仕留める瞬間が最大にして唯一のチャンスなのだ。

 

 Ⅳ号が89式に狙いを定める。ここだ、この瞬間だ。

 

『Bチーム、行動不能』

 

 砲撃の音に紛れさせ急発進してⅣ号に肉薄させる。きっちりと停止してゆっくり狙おう。

 

「撃て!」

「ふっふっふ、ここがお前らの死に場所だ!」

 

 ドンピシャ! 最高のタイミングだ。やったか!?

 

 ――否、やってなかった。というか、かすりもしてなかった。

 

「桃ちゃんここで外すー?」

 

「小山先輩! バックして、全速で!」

 

 私は敬語も忘れて大声を上げた。

 小山先輩はさすがの処理能力で指示に従う。

 

 『ズドーン』という破裂音と共に大きな揺れを感じた。くっ、ちょっと、かすったか。0.5秒遅かったらやられてたな。

 

「さすが、みほだ。こっちへの反応速度が並みじゃない。てことは、考えたくないけど、操縦はみほとは別人だ……。秋山さんか、五十鈴さん、それとも武部さんか?」

 

 あの反応と指示は熟練の車長のそれだ。まさに化物クラス。西住さんに間違いない。

 

「河嶋先輩、私と砲手を代わってください。勝つ可能性があるとすればそれしかありません」

 

 今の一撃で解ってしまった。河嶋先輩には砲撃の才能はない。並以下だ。悪いけど……。

 

 このままだと、車長も操縦手も砲手も相手以下になってしまう。

 で、Aチームの3回の砲撃見たり、感じたりして分かったけど、向こうの砲手は動いている相手への対応はまだ出来ていないようだ。

 まぁ、そんなもの初日に出来るもんじゃないんだけど……。

 

 操縦手は明らかに初日の動きじゃない……、天才かな?

 

 私が砲手になれば一応、砲撃の1点だけは向こうを上回れるってわけ。

 操縦手だと、恥ずかしいけど互角以下だろうなー。多分、向こうの操縦手はニュータイプ。「いきまーす」とか言ってるやつ。

 

「なっ、何ぃ? 玲香、お前、私が足手まといとでも言うのか?」

 

 案の定、河嶋先輩が食ってかかる。長い付き合いだから分かってたよ。

 

「先輩が足手まといなわけ無いですよ。でも、ちょっとくらい私にカッコつけさせてください。リハビリ応援してくれた先輩に恩返ししたいんです」

 

「なっ……玲香……。ふん! 勝手にしろっ! 馬鹿玲香! 負けたら承知せんぞ!」

 

「ええ、勝って先輩の威厳を守ってみせますよ」

 

「当たり前だ。さっさと変われ!」

 

「はいっ! ありがとうございます。小山先輩、出来るだけジグザグに動いてとりあえずⅣ号と距離を取ってください。いくら向こうの指示や操縦が優れていてもそうそう当たらないはずです」

 

 こうして、私と河嶋先輩は席を交代した。

 

 さて、西住さん。第二ラウンドを開始しよう!




やはり、あんこうチーム(Aチーム)は強かった。
しかし、展開は原作とは異なる方向に……。桃ちゃん砲手のままも考えたけど、1ミリも勝てる可能性がなくなるから……ごめん。


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仙道玲香VS西住みほ その2

AチームとEチームの戦いが決着します。
戦車乗りとしての玲香を頑張って書いたつもりですが、いかがだったでしょうか?


《みほサイド》

 

 ふぅ、危なかったなぁ。

 89式を砲撃するタイミングを突いて、38tがいきなり近くに出てきて攻撃するなんて――絶対に玲香さんの指示。

 

 それにしても、絶好のチャンスで敢えてかすりもさせないなんて、何か意味はあるのかな?

 

「きっと玲香殿の挑戦状です! スキを突いて勝っても面白くないって考えているんですよー」

 

「あー、わかるー。玲香って結構プライド高そうだからそういうところありそうだよねー」

 

「正々堂々、タイマンで決着。実に素晴らしいじゃありませんかー」

 

「ただ、砲手が下手なだけじゃないのか? まぁ、あれだけ近距離で外すのは余程のノーコンだろうが」

 

「もう、麻子ったら!」

 

 挑戦状かぁ。玲香さんはカッコいいなー。私だったらそんな怖いことできないよー。

 

 玲香さんからの挑戦状。うん、これはちゃんと受けなきゃ駄目だよね。本気で戦わなきゃ、前にエリカさんに怒られた時みたいになっちゃう。

 玲香さんと本気で戦うのは気が引けるけど――軽蔑されるのは、もっと嫌だ!

 

 私、全力で戦うよ? 玲香さん――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――ゾクッ、今、なんか凄いプレッシャーを感じたんだけど……。

 

「とにかく、逃げますよ。逃げて、逃げて、逃げまくりながら、私が仕留めます!」

 

 行進間射撃――ブランクのある私にはキツイけど――1 発くらいは決めてみせる!

 

 小山先輩はぎこちないがジグザグに動き森の中を突っ走る。案の定、Ⅳ号は追いかけてきた。

 速いなおいっ! 完全に追いつかれるまで5分、いや4分30秒ってところか。それまでに勝負を決めないとな。

 砲塔を回転させ、相手との距離とスピード差を測り、追いつかれるまで時間を概算した私は照準を定める。

 

「先ず一発目!」

 

 砲手に代わってからの最初の一撃を繰り出す。

 破裂音とともに繰り出された砲弾はⅣ号の履帯を掠る。ちっ、やはり簡単に当たってくれないか。

 

「河嶋先輩、ドンドン行きますよ。装填お願いします!」

 

「言われるまでもない!」

 

 相手の砲撃はさすがに動きながらだと全然こちらに当たらなかった。まぁ、普通に初心者だとそうなるよね。

 

 私はちょっとずつ調整しながら砲撃を続けた。嬉しい誤算は河嶋先輩の装填が上手かったことだ。

 えっ? これはイケるじゃん。どんな人にも特技ってあるんだなー。

 

「お前! 今後に及んで私を――」

 

「違いますって、河嶋先輩、間違いなく装填の才能ありますよ。すごく撃ちやすいです」

 

「えっ、あっ玲香? そうか、ふーん、別にお前になんかに褒められたって嬉しくないんだからなっ!」

 

 ん? ツンデレ? まぁいいや。なんか、小山先輩から禍々しいオーラを感じるから黙ってⅣ号倒そうっと。

 

 射撃の精度を高めるには先ずは集中力だ。

 いい砲手ってクールな性格の人が多いけど、それって何事にも動じない鋼のメンタルの影響なんだよねー。

 高校生最強の砲手って言われるサンダースのナオミさんや、プラウダのノンナさんって、やっぱキャラ的にクールキャラだもん。

 

 残念ながら私はそんなキャラじゃない。だから精度にはムラがあった。燃えてるか燃えてないかで――ふふ、西住さんと追いかけっこしてて、今、私は最高に燃えてるよ。

 

 

 ――ズドンという音から手応えを感じる。よしっ、やっと車体に一撃入れることが出来た。白旗判定は出てないけど、少しはあちらさんの顔色を変えることが出来ただろう。

 

 ニヤリと口角を上げたのは尚早だった。一撃与えたことがきっかけでⅣ号の動きが不規則なジグザグを描くように変わったのだ。

 くそっ、なんだよアレ? 西住さん、初心者に無茶ぶりするなよ。そして、操縦手それに応えないで下さいます? チートじゃんあんなの……。

 

 あと、1分くらいか? それならもう一発くらいは――。

 

「きゃっ、何これ? ぬかるみ?」

 

 小山先輩が悲鳴を上げたのと同時に戦車の動きが止まる。

 くそっ、こんな時にぬかるみに嵌まるなんて「ツイてない」!

 

 ん? 「ツイてない」だって? 待てよ、こっちって確か、Aチームのスタート地点付近……。

 まさか西住さんは、逃げてるつもりの私たちをここに誘導した? 全然当たってない砲撃はコチラを狙ったのではなく、この場所に誘い出すものだったのか……。

 

 鳥肌がブワッと立った。そして見えてしまった、車長として、いや、戦略家としての私と西住みほとの次元が違う大きな差を……。

 

 Ⅳ号はもう目の前、くそっ、万事休すか……。

 

「諦めるな、腑抜けがっ! さっさと撃たんか!」

 

 河嶋先輩の声で私はハッとする。なんと、先輩はバランスを崩した車内で装填をやってのけていたのだ。嘘だろ。河嶋先輩をすごいって初めて思ったよ。

 

「お前――こんな時に――」

 

「いや、素直に凄いです。愛してますよ、河嶋先輩」

 

「なっ! 早く撃て馬鹿者」

 

 ――そして、Ⅳ号と38tは同時に砲撃した……。それは――永遠に近い時間に感じられた……。

 

 

 

 

『Eチーム行動不能! よって、Aチームの勝利!』

 

 はぁ、及ばなかったか。あと20cm中央に寄せなきゃ駄目だったなー。まぁ、ぬかるみに追い詰められた時点で完敗だけど。

 

「そういえば、Dチームってどうしたんですか?」

 

「およっ、仙道ちゃん、集中しすぎて全然聞いてなかったんだねー。Dチームはとっくに行動不能になってたよー」

 

「へぇ、いつの間に……」

 

 私はそう言葉をもらした瞬間、グワッと負けたっていう実感が体を襲ってきた。

 

「玲香、お前……。泣いているのか?」

 

 河嶋先輩に指摘されて私は涙を流していることに気が付いた。えっ、恥ずかしっ! 練習で泣いたことなんてないのに……。

 

「余程悔しかったんだね、玲香……」

 

 小山先輩が優しく声をかける。

 

「えっ、いや、そうじゃないんです。何というかその、これは嬉し泣きというか……」

 

「はっ? 負けて嬉しいのか? お前は……」

 

 私の発言に河嶋先輩と小山先輩が不思議そうな顔をする。

 

「にしし、よっぽど戦車道が出来て嬉しかったんだねー、仙道ちゃんは」

 

 会長は即座に私の心境を見抜いた。

 

「ええ、負けた実感をしたとき、同時にハッとしたんですよ。私、あれだけやりたかった戦車道が出来てるって。そして、もう1つ、やはり凄かった西住みほと一緒に戦車道が出来るということに感激したんです」

 

 私は自らの心情を素直に話した。

 

「会長、みほは凄い人です。この大洗女子戦車道チームは最高の選手を手に入れることが出来ました。私は彼女のライバルには成り得ませんが、サポートは出来ます。だから――」

 

 ひと呼吸おいて、会長に進言した。

 

「西住みほを我々の隊長にして下さい。私が副隊長をやります……」

 

「なっ、玲香! 調子に乗るな! 隊長は我々3年生が――」

「ん? いいよー、元よりそのつもりだしー」

「かっ会長ー?」

 

 河嶋先輩の抗議を軽くかわして、会長はあっさりと許可を出す。

 

「会長、玲香も西住も2年ですよ! 我々の威厳が!」

 

「河嶋ー、威厳じゃ勝てないんだよねー。2人の実力は抜きん出てる。考えてもみなー、一昨年前の中学戦車道の優勝、準優勝の隊長同士がタッグを組むんだよー。なんか面白いじゃーん」

 

 最後は会長らしい面白いからって理由だったけど、彼女がプライドなんて投げ捨ててでも優勝したいという心は伝わった。

 これが私の高校戦車道の第一歩目だ。こんなに嬉しい敗北は初めてだった――。

 

 

 

「みんな、グジョブ・ベリーナァイス! 初めてでこれだけ乗れるなんて素晴らしいわー」

 

 いや、全くもってその通り。

 

「特にAチーム――と、Eチーム。あれだけの戦いが練習で出来るならきっと強くなるわよ! すっごく興奮しちゃった!」

 

 蝶野教官は満面の笑みで私たちを称えてくれた。まぁ、私なんて途中から練習ってこと忘れてたからなー。

 戦車に乗ってハイになってたし、思わず「ヒャッハー、最高だぜぇ!」って叫びそうになってたよ。

 

 

 蝶野教官の連絡先とちゃっかりサインを手に入れてルンルン気分で今日の練習を終える。

 ボロボロに汚れてしまったので、西住さんたちとお風呂に入ることになった。

 

 その道中というか、ずいぶん前に気づいていたんだけど、なぜ冷泉麻子さんがAチームに居るのか。

 

 学年主席、冷泉麻子。いつも眠そうな顔をして学校にいる小柄な彼女は私のクラスメートだ。話したことほとんどないけど。

 そして、重度の遅刻魔である。低血圧が原因らしいが――医者に行ったほうがいいんじゃない?

 

 なんと、彼女がⅣ号の操縦を後半ずっとやってたらしい。なんでも五十鈴さんが砲撃のショックで失神したからだそうだ。

 

 あれだけのドライブテクニック、もしかしたら経験者かと思っていたら、なんでも未経験らしい。マニュアル読んだだけなんだって。なんだそりゃ、やっぱニュータイプだろ。

 

「さすが学年主席」とか言ってるけど、いや、そんなの理由にならないから。その理屈だと東大生が戦車道最強になっちゃうから。

 

 とまぁ、冷泉さんが運転していたのはわかったが、彼女は戦車道を履修していない。別の科目のはずだ。

 

 欲しい。副隊長として彼女は絶対に欲しい。明らかに天才だ。常軌を逸した存在である。

 そんなこんなで私の中では冷泉麻子獲得したい願望が最高潮に上がっており、勧誘の機会を虎視眈々と狙っていながら、お風呂まで歩いていたのである。




本当はお風呂からの麻子加入まで入れたかったけど、多くなりすぎるのでここまで。
グロリアーナ戦を書くのが怖い。一応、流れは考えてるけど、伝わるように書けるかどうか。
もっと言えば、この模擬戦も伝わってるかどうか怖いです。


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スカウトと申し込み

いつも感想をありがとうございます!
とても励みになります!
ちょっと原作とは時系列は前後しますが、玲香が副隊長になった影響ということで……。


「なんかさ、玲香って本当に女の子だったんだね」

 

「へっ?」

 

 湯船に浸かって早々に私の心を抉る一撃が武部さんより放たれる。

 

「うふふ、なんだかわたくし、混浴の気分になってきました」

 

 五十鈴さんまで、酷い。気にしてるのに……。

 

 そんな感じで2人のスタイルを見せつけられ、私は先ほどの練習試合以上の敗北感を感じていた。

 

「大丈夫だよ。玲香さんはカッコいいもん」

「うっうん? ありがとう?」

 

 私は西住さんの謎フォローにお礼を言う。いやぁ、激戦後の風呂は気持ちいい。

 

 

「でもさぁ、やっぱり車長はみほがやってよね」

 

「ふぇっ?」

 

 そう、後で聞いたのだが、車長は武部さんだったらしい。西住さんは後半装填をやりながら指示を出していたんだそうだ。まぁ、私も装填や砲撃をしながら指示出してたし、同じようなものか。

 

「わたくしたちでは、やっぱりー、戦車のことよく分かりませんし」

 

「西住殿は頼りになりますし」

 

「えっ、そんな、無理だよー」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくぅ!」

 

「よろしくお願いします。西住殿!」

 

「はっはい。こちらこそ、よろしくお願いします。よろしくお願いします! ううぅ」

 

 小さな勇気を振り絞って西住さんは車長を引き受ける。あー、車長でこの反応だけど、どーしよ、ついでに言っとくか。

 

「みほ、ついでに言うけどみほが隊長だから――」

 

「ふぇっ? えっ、えっ、えーっ! それは、それは無理だよ玲香さん! 無理無理、隊長なんて私なんかが……」

 

 案の定、西住さんは手をぶんぶんバシャバシャさせながら首を振った。やっぱ、戦車を降りるとキャラ変わるよなー。エグい戦略立てるのに……。

 

「大丈夫だよ。私が副隊長だから。一緒に大洗女子の戦車道チームをまとめよっ! てか、みほじゃなきゃ、駄目だよ」

 

「玲香さんと……、一緒に? 私じゃなきゃ駄目なの? 私じゃなきゃ……。――うっうん! 私、隊長になるよ! 玲香さん、一緒に頑張ろう! 一緒に! えへへ」

 

 ん? 意外と素直だなぁ。性格的にもうちょっとモジモジすると思ったけど……。何故か、満面の笑みだぞ。

 

 私は急にやる気になってくれた西住さんに驚いた。まぁ、やる気なら良かった。

 

 西住さんが車長と隊長に就任したのをきっかけに、Aチームの役割分担の話題になった。

 

 コミュニケーション力の高さを活かして武部さんは通信手に。

 アクティブなことに憧れる五十鈴さんが砲手に。

 戦車ならオールマイティになんでもこなしそうな器用な秋山さんが装填手になる。

 

 五十鈴さんが砲手やりたいとは意外だけど、この中じゃ1番メンタル強そうだから適任か。

 秋山さんも初めての砲撃であんな感じなのにあっさりと装填やるって、まさか才能の塊なのか?

 

「あとは、操縦手か。冷泉さんって、戦車道やってくれそうな感じあるかな?」

 

 私は冷泉さんスカウトに動き出した。

 

「うーん。どーだろ。麻子って面倒くさがりだからー」

 

 冷泉さんと幼馴染という武部さんは首を傾げる。そうなんだよなー。クラスで見てても孤高の天才タイプで協調性が無さそうな感じなんだよねー。

 

「ねぇ、麻子ー、操縦手お願い!」

 

 風呂からちょうど上がった冷泉さんに武部さんが話しかける。

 

「もう、書道を選択している」

 

 いや、あなたサボってたでしょ。

 

「あっあの、冷泉さんが操縦してくれると、助かります」

 

「先ほどの操縦はお見事でした。お願いします!」

 

 西住さんと秋山さんも揃ってお願いする。

 

「悪いが無理……」

 

 ちょっ……、クールすぎるだろ。唯我独尊って感じだな。仕方ない、あの手を使うか。

 

 

「やあ、冷泉さん。ちょっと良いかな? 君の遅刻日数の件で話があるんだけど……」

 

「ん? 仙道さんか……。生徒会の人間の説教なんて聞かないぞ」

 

「いや、説教なんて、まさか。その逆だよ。戦車道の履修者には遅刻200日免除が与えられるのは、知ってるだろ?」

 

「えっ? そうなの?」

 

「麻子寝てたでしょ……」

 

 武部さんが呆れた顔をする。

 

「冷泉さんが戦車道を履修してくれて、かつ、いい成績を残してくれたら特別に遅刻をその倍の400日免除しよう。どうだい? 冷泉さんの成績なら卒業確定だろ?」

 

「……!?」

 

 やっと冷泉さんは私の目を見てくれた。

 

「あら、玲香さん、そんな特別扱い出来るのでしょうか?」

 

 五十鈴さんが不思議そうな声を出した。いや、すでに戦車道履修者かなり特別扱いだからね。

 

「そうだ、そんなのそど子が許すはず……」

 

「そど子さん? ああ、風紀委員長の園先輩のことか。大丈夫、彼女は結局のところルールを守る側の人なんだ。その点、こっちはルールを作る権力持ってる側の人間だから何も言わせないよ。私は次も生徒会やるし、冷泉さんの卒業が確定するまで保証できるよ」

 

 本当は絶対に園先輩に私が怒られることになるが、そんなのは後の話だ。今はとにかく冷泉さん獲得が最優先。

 

「ふーん。よし、引き受けよう。西住さんには借りがあった」

 

「いや、絶対に遅刻免除に釣られたでしょ……」

 

 まぁ、なにはともあれ、冷泉麻子という天才がAチームに加入した。あれ? Aチームかなり強くない?

 

 

 このあと私は仕事の残りを片付けるために生徒会室に、Aチームのメンバーは仲良くお買い物に出かけて行った。うっ羨ましい……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「仙道ちゃーん、さっそく練習試合を組むよー。副隊長として、試合申込の電話をしてくれないかなー?」

 

 戻ってきて早々に会長から指示をいただく。

 

「えっ? 練習試合ですか? 新参の私たちなんて相手にしてくれますでしょうか?」

 

「大丈夫ー。絶対に引き受けてくれるところあっから。ここにかけといてー」

 

 会長が悪戯っぽく笑って番号の書いた紙を渡す。はぁ……、一体どこの高校なんだ? 私は番号を入力方法して電話した。

 

『はい、こちら聖グロリアーナ女学院の――』

 

 ええーっ!? ぐっグロリアーナ? 私はその瞬間心臓の鼓動が早くなり受話器を落としそうになった。とにかく、練習試合のしたいという旨を、その前に自己紹介か?

 

『大洗女子学園、戦車道が復活しましたのね。それはおめでとうございます』

 

 何とか隊長のダージリンさんに繋げてもらい、私は心臓のバクバクと戦っていた。

 聖グロリアーナ女学院は紅茶の名前持ちが幹部クラスっていう変わった学校だ。

 

「ええ、ありがとうございます。先ほども別の方にお話しましたが、ワタクシ、大洗女子学園戦車道チームの副隊長をしております。大洗女子学園の2年生、仙道玲香です。ダージリンさんの高名は伺っております。お話出来て光栄です」

 

『まぁ、嬉しいことを仰ってくれますのね。白い鬼さん――わたくしも貴女のことは存じておりますのよ。ふふっ』

 

「えっ、あっ、そんな。まさかダージリンさんに覚えて頂けているなんて思ってもいませんでした」

 

『あの、決勝戦の戦いを見たことのある戦車道選手なら貴女を知らないはずがありませんわ。もし、ウチに来てくだされば、今頃アールグレイ先輩の名前は貴女が継いでいたでしょう』

 

「ははっ、さすがにリップサービスは英国式なのですね。あのう、折り入ってダージリンさんにお願いがあるのですが――」

 

 私はダージリンさんに練習試合の申し込みをした。

 

『練習試合、よろしくてよ。わたくし、挑まれた勝負からは逃げませんの。大怪我をされて戦車道を引退されたと聞いていましたが、復帰したのですね。貴女の実力を楽しみにしていますわ』

 

 ダージリンさんは寛容にも新参の私たちの挑戦を受けてくれた。会長の仰ったとおりだ。

 

「練習試合を受けていただいてありがとうございます。私は長いブランクで実力は落ちているかもしれませんが――戦車道への情熱は忘れたことはありません。よろしくお願いします」

 

 実力はやはり鈍っていた。これからどれだけあの時の実力に近づけるかわからないけど、頑張るしかない。

 

『玲香さん、こんな言葉をしっているかしら? 《その人がどれだけの人かは、人生に日が当たってない時にどのように過ごしているかで図れる。日が当たっている時は、何をやってもうまくいく》』

 

「はぁ? ええーっと勝海舟でしたっけ?」

 

 欧米人の格言をよく言ってる方なのは有名なので知ってたけど、まさか幕末とは……。

 歴史は苦手なんだよなー。この前、教育番組で偶然見てたからわかったけど……、ダージリンさんも見てたのかな?

 

『私は怪我を克服して再起した貴女が弱くなっているとは想像していないわ。ぜひ、大洗女子に紅茶を送りたいものね――』

 

「えっ、ダージリンさん。それはどういう――」

 

『それでは、練習試合を楽しみにしていますわ――』

 

 こうして我々大洗女子の最初の対戦相手は聖グロリアーナ女学院に決定した。

 聖グロリアーナ女学院は準優勝経験もある強豪校だ。もっと言えば、戦車道の四強の一角である。

 

 日本の戦車道の四大強豪校といえば、一昨年まで9連覇していた黒森峰を筆頭に、去年の優勝校プラウダ高校、戦車保有台数日本トップのサンダース大学付属高校、そして、この聖グロリアーナ女学院なのだ。

 

 はっきり言って勝つのは厳しい。こちらに合わせて5対5の殲滅戦(全ての戦車を行動不能にさせたほうが勝ち)というルールだけど、勝利を掴むのは難しいだろう。

 

 うーん、『人生に日が当たってない時にどのように過ごしているかで図れる』かぁ、私は怪我を乗り越えて強くなれたのだろうか――。

 

 まぁ、とりあえず、ダージリンさんを失望させては駄目だな。勝つつもりで挑まないと。

 私は聖グロリアーナ戦の戦略を自分なりに練りながら生徒会の雑務をこなしていた。




次回、ヘンテコ戦車とか色々。グロリアーナ戦を上手く書けるかどうかが、全国大会編を書ききれるかどうかに直結すると思うので、自分的にも練習試合です。


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大洗の隊長と副隊長

はっきり申し上げます。作者は根っからの理系で歴史の成績は最低でした。センター試験(死語になるかも)は倫理を選択したほどです。
なので、歴女チームのオリジナルのかけ合いは今回で最後にします。ごめんなさい。


「かっ、会長こっこれは……」

 

「うん、いいねー」

 

 私の目の前にはゴールデン38tが止まっていた。あれ? これはなんていう復活のF? ピコ太郎?

 目立たなくて、隠密性に優れた軽戦車がなんでこんなに自己主張してんのさ。

 

「いいねー、じゃ、ありませんよ! こんなん、グロリアーナに見せたら、ダージリンさんに『随分、個性的な戦車ですわねぇ』とか言われてクスクスされるに決まってるでしょ!」

 

「およっ? 仙道ちゃん、ノリが悪いねー」

「玲香! お前、会長の趣向に文句つける気か!」

 

 会長はいつもの小悪魔スマイルで取り合ってくれないし、河嶋先輩は会長を全肯定してるから話にならない。はぁ、今日が副隊長初日なんだけど大丈夫かなー?

 

「あの、玲香。すごく伝えにくいんだけどね……」

 

 最後の砦にして大洗の常識人、小山先輩が苦笑いしながら指をさしていた。

 

「えっ、えっ? ええーっ!?」

 

 私の目に飛び込んで来たのはとんでもない光景だった。

 まっピンクなM3リー、悪ふざけしたミニ四駆みたいなカラーリングに加えて、【のぼり】が車高の低さを台無しにしているⅢ突、もはやバレー部の宣伝カーになっている89式……。

 

 あかん、戦車道舐めてるって絶対に思われるやつだ。これは正さないと。

 

 よし、先ずは隊長である西住さんと連携を取って指導を――。私は西住さんの元に走った。

 

「――なんか別物にぃー、あんまりですよねー? 西住殿ー」

 

「クスクス、ふふふっ、私、戦車をあんな風にするなんて初めて見ちゃった。なんか楽しいねー(天使の笑顔)」

 

 おう、ジーザス。隊長自ら認めちまったら何も言えないよ……。

 

「あっ、でもⅣ号戦車はまともなカラーリング保っているんだ」

 

 私はそのままのカラーリングのⅣ号を見て安心した。だってさ、あのノリだとシルバーⅣ号とか、スーパーⅣ号ロゼとかになってそうだったんだもん。

 

「はぁ、Ⅳ号も危なかったんですよ玲香殿……」

 

「ああ、秋山さんがマトモな感覚で救われているよ……」

 

 私と秋山さんは何も言わずに握手した。

 

 まぁ、最初から貴重な戦車道履修者のモチベーションを落とすわけにはいかないから、このままやろう。でも、全国大会は許さん!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そんじゃ、今日から私たちの戦車道チームの隊長と副隊長になる2人を紹介するよー。隊長は西住ちゃーん、んで、副隊長は仙道ちゃーん」

 

「「おおーっ」」

 

 拍手の音に促されて私と西住さんはみんなの前に立った。

 

「じゃあ、就任の挨拶をしろ! まずは西住!」

 

 河嶋先輩がいつもの尊大な大度で西住さんに挨拶を促す。

 

「あっ、あの、西住みほです。よろしくお願いします!」

 

 本当に普通の自己紹介をしただけの西住さん。こういうところは可愛い。守ってあげたくなる。

 

「もっと、抱負とか色々あるだろ!」

 

「ふぇっ、ほっ抱負ですか? え、ええっーと、玲香さんと一緒に! 頑張りますので、よろしくお願いします」

 

 なんか、「一緒に」というところをやたら強調してる気がするけどまぁ良いか。

 

「うーん、まぁいい。次は玲香! お前は生徒会なんだから、ちゃんとしろよっ!」

 

 ハードルを上げつつパスをする河嶋先輩。

 

「どうも、仙道玲香です。まぁ、その、知っている方はあまりいないでしょうが、私は腕に怪我をして戦車道を出来ない体になっていました。でも、何とか回復して昨日久しぶりに戦車道をやることが出来てすっごく幸せだったんですね」

 

 ふぅ、と私はひと呼吸おく。

 

「で、私が副隊長になって、みんなに何が出来るか考えたけわけですよ。結論としてはですね、これだけ魅力的な戦車道の楽しさを伝えたい! もちろん、勝つことも大事ですが、それだけじゃない。チームで一丸となって戦う楽しさをみんなに実感してもらいたい。だから、至らないところは多々あるけど、一回信じて、私と西住さんに付いてきて欲しい。よろしくお願いします!」

 

 私は頭を下げて、みんなにお願いした。

 

「「パチパチパチパチ………」」

 

 みんなが拍手をしてくれた。私と西住さんは認められたんだ。よし、これから頑張るぞ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「玲香先輩、シュトリヒ計算ってなんですかー? エビ料理ですかー?」

「彼氏が砲弾持ったら筋肉ついて嫌だっていうんですけどぉ」

「…………」

「あいっ! 先輩! 砲弾に当たるのが怖いです」

「止まって撃つタイミングなんですけど――」

「ちょっと、みんな、一斉に話したら先輩困っちゃうよ」

 

 私と西住さんは全体練習の後、手分けして各チームを回って指導することにした。

 練習試合ではいいところが無かったDチーム。まだまだ甘いところから抜け出せてないが、素直でいい子が多いので実に教え甲斐がある。

 

「玲香さん! バレー部に入ってください! 玲香さんの高さがあれば全国を目指せます!」

「キャプテン、玲香先輩ならあの伝説のフライングドライブスパイクを――」

「いや、雷獣サーブを――」

「いやいや、オーロラカーテンが……」

 

 Bチームはバレー部だった。

 

 しかし、私はこのバレー部の才能に驚かされた。全員、全国の猛者に勝るとも劣らない才能の持ち主。

 特に砲手の佐々木さんの才能はノンナさんやナオミさんに負けないんじゃないかなー。シュトリヒ計算を体感で正確にやってのけるし、精度も初心者離れしている。

 

 うーん、89式に乗せるのは勿体ないような。でも、多分、戦車性能最低の89式を乗りこなせるチームは彼女らだけだし……。とにかく凄い人たちだった。

 

「Ⅲ突は砲身が回転しないから待ち伏せが基本的な戦術です。まぁ、持久戦というか、我慢比べですねー」

 

「ふむ、東部戦線か……」

「いや、カンナエの戦いだろう」

「信玄の木曽攻め!」

「まさに河井継之助の戦術!」

 

「「それだ!」」

 

「………」

 

 前学期の歴史の期末テストで34点を叩き出した私にはついて行けない人たちだった。

 今気付いたけど、大正デモクラシーって、灯台下暗しと似てるよねー。

 

 ダメ元でのぼりを取れないかと質問したところ、「魂を奪うつもりか?」と4人にマジの顔で言われた。

 とはいえ、エルヴィンさんの戦車の知識は中々のもので、古今の戦術にも詳しかったので様々な作戦への理解度は高かった。

 

 

 

 うん、どのチームも色々問題は浮き彫りにはなってるけど、光るところがある。

 強くなる。間違いなく……。

 しかし、時間が足りるのかどうか、そこが問題なんだよなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「皆さん、お疲れ様です。まだ、始めたばかりなのに良く動かせていたと思います。明日も頑張りましょう」

 

 西住さんが練習の終わりの挨拶をする。

 

「「ありがとうございましたー!」」

 

 こうして私達が隊長、副隊長に就任して最初の練習が終わった。

 ふぅ、可能性が見えた練習だったな。さて、アレを伝えなきゃね。

 

「あっ、ゴメン。ちょっといいかな! 突然だけど、今度の日曜日に練習試合をすることになった。相手は聖グロリアーナ女学院!」

 

「聖グロリアーナ女学院! 玲香殿、それは本気ですか!」

 

「聖グロリなんとかって、強いのー?」

 

「強いなんてものじゃありませんよー。準優勝経験もある強豪校ですよ。勝てるわけが……」

 

「勝てるわけがないかな? 秋山さん、忌憚のない意見を言ってくれ」

 

 私は学校の名前に唯一反応した秋山さんに質問した。

 

「はい。申し上げにくいのですが……。すみません……」

 

 しょんぼりした顔で秋山さんは答えた。

 ああ、しまった。なんか、威圧的になっちゃった。背丈が高いから言葉遣いには気を付けなきゃ。

 

「あー、ごめんごめん。秋山さん、私もそう思ってるから、そんな顔しないでくれ。あはははっ」

 

 私は出来るだけ笑顔を作って秋山さんに話しかけた。

 

「何! 玲香! 勝てる自信がないとはどういう意味だ!?」

 

 そんなことを言ったら河嶋先輩が横槍を入れる。いや、ゴールデン38tじゃ無理でしょうよ。普通に考えたらね。

 

「まぁまぁ、待ってくださいよ河嶋先輩。でもね、秋山さん。今は私はそう思ってるけど、明日は分からないんだ。ワンチャン勝てるかもって思うかもしれない。明後日には10回に1回くらいはイケるかもとか思ってる可能性もある」

 

 私がそこまで言うと秋山さんがハッとした顔になる。私の言いたいことが伝わったらしい。

 

「まっ、自信なんてやらなきゃ付かないんだ。だから、明日からはちょっとでも《勝てるかも》って思う回数を増やせるように頑張ろうね。あっあと、今度の日曜日は朝の6時に集合だから遅刻には気を付けるように」

 

 そう言って私は練習試合の連絡を締めた。みんながちょっとでもやる気になればいいなー。

 

 

 

「私、やっぱり戦車道辞める! 短い間だったが世話になった!」

 

 って、思ってるそばから辞める宣言って冷泉さん、貴女は鬼ですか? 白髪鬼もびっくりですよ!

 

「人間が朝の6時に起きられるか!」

 

 ビシッと、撃破率120%ばりのキメ顔で冷泉さんが断言する。 

 

「いや、集合が朝の6時ですから、それより1時間は早く起きないと……」

 

 無慈悲な秋山さんのツッコミがトドメとなり、冷泉さんは「やっぱり無理!」と言って帰ろうとする。

 

 

 しかしまぁ、幼馴染の武部さんの「おばぁに怒られるよ」の一言で踏みとどまってくれたので、事なきを得た。

 

 危ない、危ない。冷泉さん居なくなったらガチで勝率ゼロパーセントになるところだったよ。「おばぁ」に感謝! 今度、菓子折り持って行こう。

 

 

「玲香さんはすごいなー。今は勝てないと思ってるけど、勝てるかもって思えるように練習しようって良い考え方だねー」

 

 西住さんと後片付けを一緒にしていると、彼女は思い出したようにそう言った。

 

「そんな、大層なことは言ってないさ。それに私は嘘を付いたし」

 

「えっ?」

 

 西住さんは首を傾げた。

 

「実は勝率は10パーセントくらいあると思っているんだ。私と西住さんなら……。初めての共闘だね。どうせだったら、勝ちたいなー」

 

「玲香さんと……、共闘かぁ。うん、私も楽しみ! 玲香さんが勝ちたいんだったら、私も勝ちたいな! えへへ」

 

 はにかみながら笑う西住さん。黒森峰で共闘するものだと前は思っていたけど、何が起こるのか人生分からないものだなー。

 

 そして、時間は車長を集めた会議まで進んだ――。




次回、いよいよグロリアーナ戦スタート!?
よろしくお願いしまーす。


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作戦会議と試合開始

いよいよ、練習試合開始です。
原作とは違う展開の上にツッコミ所満載かと思いますが、ご用者ください。


「聖グロリアーナは強固な装甲を利用した浸透強襲戦術が得意だ。まぁ、簡単に言えば、ちょっとやそっとじゃ傷つかない車体を盾にして、じわじわと侵攻して戦力を削るスタイルだね」

 

 私は聖グロリアーナ女学院の特徴を話した。

 

「まぁ、主力のマチルダⅡは100m以内の至近距離の砲撃じゃないと撃破は無理だから、何とか近づいて攻撃したいところ。それで、どうするんだ? って話なんだけど、1台が囮になってキルゾーンに誘きよせて、高低差を活かして攻撃する作戦を実行しようと思う」

 

 ぐるりとホワイトボードに書かれた地形図のキルゾーンに丸をつけながら説明した。

 

「「おおーっ」」

 

 車長たちが感嘆の声を上げる。

 

「ほう、さすがは玲香だな。私が考えた作戦と同じだ――」

 

 河嶋先輩が自信満々の表情でふんぞり返る。やめてください。ここからの話がやり辛いから。西住さん、オロオロしちゃうから。

 

「で、この作戦の弱点は何だと思う? 西住さんならわかるでしょ?」

 

「なにっ! 弱点だと? 完璧な作戦じゃないか!」

 

「河嶋先輩、発言は後で受付ますから。西住さん、お願いします」

 

「むっ、玲香のクセに……」

 

 河嶋先輩はしぶしぶ引き下がる。

 

「あっ、はい。すみません。聖グロリアーナは当然囮作戦を想定してくると思います。裏をかかれて逆包囲されるかもしれません」

 

 そして、打ち合わせ通りに西住さんはこの作戦の問題点を話してくれた。

 

「そゆことー。まっ、みんなが考えそうなことは向こうも想定してるって訳だよ」

 

 とりあえずセオリーと、それに対して相手がやりそうなことは話して置かないとね。

 

「なるほどー」

「そっかー」

 

「ちょっと待て! それじゃあ何か! 私が凡人の考えだとでも言うのか!?」

 

 河嶋先輩が顔から煙を出して怒りだす。

 

「そうではありません(そうです)。ただ、強豪のグロリアーナには河嶋先輩クラスの知将が居ることくらいは想定しなきゃダメってことです」

 

「ん? 知将かぁ、ふーん。まぁいい……」

 

 こっちは長い間この人の後輩やってるんだ。扱い方くらいは心得ている。

 

「にゃるほどねー、じゃあ、当然西住ちゃんたちには、それ以上の作戦があるわけだー。囮作戦は結局やらないのー?」

 

 干しいもを食べながら会長が身を乗り出す。

 

「いえ、囮作戦はやります。ここからは玲香さんと話し合った作戦なのですが――」

 

 西住さんは自分の考えた作戦を話し出した。

 正直言って私はまたまた西住みほの戦略家としての才覚に驚かされた。

 本当にこの子は人畜無害な小動物みたいな顔してるのに考えることが大胆だよ。勝てないわけだ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「なるほどー。それは面白いねー、うん、大好きだよ、そういうのー」

 

 得意の小悪魔スマイルで会長は干しいもをぷるぷるさせる。

 ああ、こういうのはこの人好きそうだもんなー。

 

「しかし、リスクがありますね。失敗したときは――」

 

 小山先輩は不安そうな表情だ。まぁ、失敗したらボロ負け確定だからなー。

 

「しかし、成功すれば我々の勝ちが見えてくる。圧倒的に優位だ」

 

「西住先輩、すごいですよー。こんな作戦思いついちゃうなんて……」

 

「スーパーサーブでサービスエースだ!」

 

 各車長たちは乗り気になってくれたようだ。

 うん、これが決まれば勝率は40パーセントくらいにはなると思う。まったく、西住さんには驚かされる。

 

「んじゃあさー、勝つ可能性が出てきたんだからさー。もし勝ったら西住ちゃんと仙道ちゃんには豪華賞品プレゼントしちゃおうかなー」

 

「えっ、会長。豪華賞品ってなんですか?」

 

 私は即座に反応した。珍しいな。会長からプレゼントなんて。

 

「高級干しいも3日分!」

 

「「……」」

 

 場が凍るってこういう事を言うんだなー。日本語にまた一つ強くなったよ。

 

「えっ、じゃあ、もし負けたら?」

 

 磯辺さーん、それは地雷だから。絶対にダメなヤツだから。嫌な予感がする。

 

「そだねー、大納涼祭であんこう踊りでも踊って貰おうか」

 

「あー、よかった。なんだーそんなことか。会長、驚かせないで下さいよ。――って、あれ?」

 

 シンと、静まりかえった会議室。ん? さっきより静かなんだけど。

 

「「えーっ!」」

 

 そして、ドン引きした表情の各車長たち。あ然としている西住さん。

 私の反応ってもしかして間違ってるの?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あっあんこう踊りー、恥ずかしすぎるー! あんなの踊ったらお嫁に行けないよー」

 

 カランと飲みきったジュースの缶を落としながら武部さんは絶叫する。

 

「絶対にネットにアップにされて、全国的な、さらし者になってしまいますー」

「一生言われますよね」

 

 秋山さんも五十鈴さんも顔を青くした。

 

 えっ? そういうもんなの? 寧ろ私は好きなんだけど、あんこう踊り。衣装も男装よりも可愛いし。

 もしかして、私は生徒会にいる間に10回くらいお嫁になれなくなってる? 感覚麻痺してるの?

 

「そんなにあんまりな踊りなんだ……。玲香さんがまったく動じてなかったから分からなかったよ」

 

 私が無反応だったせいで、西住さんは話が思ったよりも重いことに気付いたような顔をした。ごめん、西住さん。私が不感症になったせいで……。

 

「つか、勝とうよ! 勝てばいいんでしょう!」

「負けたら私もあんこう踊りを踊ります! 西住殿と玲香殿だけに辱めは受けさせません!」

「わたくしも踊ります!」

「私も!」

 

「みんな――ありがとう!」

 

 うっ美しい友情。

 みんな――ごめん、私はもう手遅れだよ。でも、西住さんは共に守ろう。

 

「つか、私は麻子がちゃんと起きれるかどうかの方が不安だよ」

 

 いや、まったくもってそのとおり!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 そして、そして、時間は一瞬で過ぎて去って遂に対峙する聖グロリアーナ女学院と我々、大洗女子学園。

 

 冷泉さんが遅刻しそうって連絡来たときはヒヤリとしたけど、無事に間に合ってよかった。

 

 私の目の前には金髪の淑女、聖グロリアーナ女学院の隊長であるダージリンさんがいる。

 人見知りな西住さんがどうしても挨拶を変わってほしいと言ったから、私が隊長代理として挨拶をすることになった。

 

「私たちの申込みを快諾してくださってありがとうございます。ダージリンさん、お会い出来て嬉しいです」

 

「ええ、私も貴女に会えるのを待ちわびてましたのよ。それにしても、個性的な戦車ですわね」

 

 予想したとおりの困ったような笑顔でダージリンさんはジャブを入れてくる。もっ申し訳ない。私が至らないばかりに……。

 

「えっ、そうですよね。はははっ、でも、やる気無くしたりしないでくださいよ。せっかく聖グロリアーナ女学院さんと戦える機会をもらって楽しみにしてましたので、本気でお願いします」

 

「うふふ、安心なさって。わたくしたちは、どんな相手にも手は抜きませんの。サンダースやプラウダのような下品な戦い方は致しません。騎士道精神でお互い頑張りましょう」  

 

 ダージリンさんはそう言うと右手を差し出した。私はそれを握る。うわー、ダージリンさんと握手しちゃったよ。

 

「ええ、ダージリンさんの期待に応えてみせますよ!」

 

「うふっ、楽しみにしてますわ。貴女のファンとしても――中学生の頃より、その、素敵な方になりましたわね」

 

 本当に英国式のリップサービスがすごいなー。ファンなんて言われて本気に受け取るはずがないだろうに。

 

「それでは、これより、聖グロリアーナ女学院と大洗女子学園の試合を開始する。一同、礼!」

 

 さて、試合開始だ。作戦を開始しようとしますか。みんな、頼むぞ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おおー、さすがは聖グロリアーナだねー。あんなにキレイに隊列組むんだー」

 

「まぁ、練度が違いますからね。なんせ、彼女らは戦車の中で紅茶飲んでますから、激しく揺れてたらカオスな状態になりますよ」

 

 私と会長は偵察に出ていた。今回の囮役は我々、Eチーム。重大な任務を担っている。

 

「んで、勝てんのかなー。あたしたち」

 

「さぁ、戦術と腕だけじゃ難しいでしょうねー」

 

「あっそうなのー?」

 

「戦車道にマグレなしって言葉もありますけど、今回はマグレにも期待しちゃいましょう」

 

「いいねー、仙道ちゃんのそういうとこ好きだよー」

 

 そんな軽口を叩きながら、私たちは足早に戦車に戻った。

 

「さて、挨拶をさせていただきますよ。グロリアーナの皆さん……」

 

 私は照準を定めて、砲撃を放つ。よしっ、手応えあり!

 

「おおー、当たったねー、さすがは仙道ちゃーん」

「うむ、見事だぞ玲香!」

 

 1番手前のマチルダⅡに砲弾は直撃してくれた。うん、今日の私は調子が良いみたいだ。

 まっ、ちょっと隊列が乱れたくらいの効果しか無いんだけどね。この距離だと。

 

 だけど、当てた意味はある。こっちの射撃の精度が高いと知ると軽々にグロリアーナは私たちに近づかないだろう。そうなると囮作戦の成功率はグッと上がる。

 

 さらに大洗の力をこれで過大評価してくれれば尚良い。全ての車両に気を割くようになれば、スキも突きやすくなる。

 

「小山先輩、練習通りで大丈夫です。ジグザグに走行して、団体さんをキルゾーンまでご案内してください!」

 

「うん、自信ないけど、やってみる」

 

 小山先輩が操縦を開始する。さてさて、追いかけっこの始まりだ。

 前回もそうだけど逃げてばっかりだな。

 

 苛烈な砲撃が私たちを襲う。まぁ、そうそう当たらないけど、Ⅳ号とかと違って耐久力は低いから戦々恐々である。

 

 しかし、小山先輩の走りは安定していて、キチンとグロリアーナの戦車たちを【あの場所】に誘き寄せている。小山先輩って気弱そうな顔をしてるけど、度胸はあるんだよなー。

 

「どう? 玲香、ちゃんと計画通りに行けてるかな?」

 

「ええ、大丈夫です。会長、みほに連絡を。あと2分であちらに着きます」

 

「オッケー。あっ、もしもーし、西住ちゃん元気ー。うん、あと1分30秒くらいでさー、お客さん着くから、おもてなし宜しくー」

 

 会長はいつも通りの口調で西住さんに連絡した。こういうとこ、尊敬するなー。

 

 そして、私たちは無事にキルゾーンへの誘導を果たした。よし、ここまでは作戦通りだ。

 

 小高い丘で待っているのはⅣ号ただ一機のみ。

 そう、待ち伏せするのは私たち2両だけだ。

 

 つまり、Ⅳ号と38tでまずは聖グロリアーナ女学院の5両と一戦交える! まったく、西住さんは大胆なことを考える。

 真正面でまともに聖グロリアーナ女学院の練度についていけるのがAチームとEチームだけなら、初めから2両で迎え撃とうだなんて――。

 

 確かにグロリアーナの人たちは5両で待ち伏せしてると思っているから2両しか見えないとなると、少なからず注意力が散漫になって、スキが生まれやすくなるはずだもんな。

 

 だけど、考え付いて実際にやらないだろう。2対5なんて状況をわざわざ作るなんて。本当に敵にも味方にもエグい作戦だよこれは……。

 あー、怖すぎる。本当に……。

 

 名付けて《こそこそしてるフリ作戦》! 

 

 圧倒的な戦力差に私と西住さんのコンビが対決を挑んだ――。




実際にこの作戦は悪手なのかもしれませんが、みほと玲香の共闘を全面に出したかったのでこんな展開にしました。
次回もよろしくお願いします。


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大洗女子学園VS聖グロリアーナ女学院

いつも、感想や誤字報告をありがとうございます!
すみません。切るところが分からなくて過去最大文字数になりました。一応、決着まで。
戦車のスペックとか本当にザックリなので、違和感が多いと思います。言い訳はここまでとして、よろしくお願いします!


《ダージリンサイド》

 

 大洗という無名校から電話が来たときは特に興味を抱きませんでしたわ。しかし、『仙道玲香』の名前を聞いて、わたくしはあの日の胸の高鳴りを思い出しましたの。

 

 一昨年前の中学戦車道全国大会決勝の舞台。こちらの戦力としてスカウトできるような逸材と将来のライバルになるような逸材。

 両方を確認するためにわたくしは試合を見ていましたの。

 

 そのとき、わたくしは1人の隊長に目を奪われました。白く長い髪をなびかせる、少女に――。

 そして、その華奢な風体からは想像できないような苛烈な戦闘センスに……。

 

 残念ながら彼女は負けてしまいましたが、わたくしは直ぐに先輩たちに《仙道玲香》獲得を進言し、彼女に推薦のお話を送りましたの。

 

 しかし、彼女は怪我を理由に戦車道を引退してしまいました。わたくしはがっかりしましたわ。有能な後輩が手に入らなかったのですもの。

 

 だからこそ、今日、彼女に会えてとても幸せな気分になりましたわ。

 それに、大きく成長されていて素敵になっていたので、わたくしとしたことが、少々緊張してしまいましたの。

 ふふ、玲香さん、ぜひともわたくしを悦ばせて下さいね。

 

『くっ、被弾しましたー』 

 

「あらあら、随分と派手なご挨拶ね。玲香さん……。挑戦状、確かに受け取りましたわよ……」

 

「あの距離から正確に当ててくるなんて、大洗の砲手のレベルは高いのですね。ダージリン様」

 

「それはどうかしら? あの38tの砲手はおそらく仙道玲香。大洗のチームで彼女だけは特別なの。ねぇ、アッサム」

 

「仙道玲香、中学時代のデータですと、砲手としてはムラがある方ですね。調子に乗っている日は恐ろしい命中率になっています。車長としても、黒森峰女子中等部を相手に7両を撃破。これには、驚きましたね」

 

「なっ7両をですか? なぜ、そんな選手が無名校に居るのでしょうか?」

 

「彼女には事情があるのよ。しかし、今回は随分とわかりやすい囮作戦ですわね」

 

「データですと、大洗の戦力から考えて囮を使って高低差を活かした待ち伏せをする確率97.5パーセントとなっております。ダージリン、乗ってあげるのですか?」

 

「当然ですわ。ここまで華麗に挑戦してきてくれましたのに、それに応えないなんて騎士道精神に背く行為ですから――」

 

 

 

 

『丘の上にⅣ号中戦車発見、待ち伏せをしていたようです! 砲撃してきました!』

 

「やはり待ち伏せ――のようですね」

 

「それにしては、攻撃が手薄の様ですが……」

 

「姿が確認できるのはⅣ号と38tのみ、ふふっ、面白い奇策ですわね、しかし、手は緩めませんことよ。逆包囲して差し上げなさい」

 

 チャーチルとマチルダ2台は右から、残りのマチルダ2台は左から上り包囲殲滅しましょう。攻撃が緩い意図はわかりませんが、こちらが止まってさしあげる理由もありませんから。

 

『きゃあっ、こちら、履帯をやられました!』

『同じく、履帯を! うわぁっ、いえ、撃破されてしまいました!』 

 

「えっ!?」

 

 わたくしとしたことが、ティーカップから手を離してしまうとは……。そうでしたの、玲香さん。してやられましたわ。最初から貴女は待ち伏せなどするつもりはなかったのですわね。

 

「ふふっ、おやりになるわね……」

 

 いけませんわ。如何なるときも優雅さを忘れては――でも、わたくしにだって……、熱くなる日はありましてよ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 戦いはつまるところ数。少数が多数を破るって逸話があるけど、逸話ってことはそれだけ回数が少なかったってこと。

 2対5の戦いというリスクを負う作戦。私は最初は乗り気じゃなかった。でも、西住さんはケロッとした顔で平然とこう言ったのだ。 

 

《2対5? ううん、2対2だよ玲香さん。だって――》

 

 そう、セオリー通りに5両の戦車が逆包囲するのだったら当然二手に別れる。つまり、3両と2両に別れるのだ。

 

 だったら、2両の私たちは5両の到着を待つ理由はない。向かってくる2両の迎撃に向かえば良いってわけ。まぁ、手早く2両倒さなきゃ死ぬけど……。

 

「おおう、やってきたよー、仙道ちゃん。右手側のルートからマチルダ2両ねー」

 

「ありがとうございます。では、小山先輩、手筈通りにお願いします」

 

「さっきから怖い運転ばかりで、手汗が酷いよ……」

 

「こら、柚子っ! 怯むな!」

 

 EチームとAチームは右手側から来るマチルダ2両に向かって突っ込んだ。

 

 ジグザグに不規則に動きながらなら、たとえ近づいて行ってもそうそう当たらない。

 それに相手は待ち伏せを予測しているはずなので真っ直ぐ向かって来られたら、絶対に怯むはずだ。正常な判断を失った砲手の精度は著しく悪くなる(経験談)

 

 まぁ、例えばノンナさんクラスの砲手が相手だったら諦めよう。あの人はお化けが出ても物怖じしなさそうだし。

 

 案の定、マチルダ2両は砲撃を一瞬ためらった。私たちを相手にするんだったら、その瞬間が命取りってね――。

 

「行くよ、みほ――」

 

 私はまずは、手前のマチルダの履帯を狙う。

 

「おおっ、命中したぞ! 玲香っ! お前、本当にすごいな! はっ、まぁまぁだ。うむ、調子に乗るな!」

「にしし、やっぱやるねぇー」

 

「河嶋先輩、そんなのいいんで、装填してください」

 

「ちっ、もう絶対に褒めん!」

 

 先ずは1両目の履帯を壊して――もう一台っと!

 

「すごーい。玲香、なんで最初に桃ちゃんに砲手やらせたの?」

 

「うるさいな! 柚子!」

 

 さて、動きは止めたんだ、撃破は頼んだよ。Ⅳ号さん。

 

 火力の弱い38tでマチルダの動きを封じて、火力のあるⅣ号で仕留める。これが、我々のユニゾンアタックである。

 おっ、五十鈴さん、やるじゃん1両撃破したか。んで、2両目は狙うのか――。

 

『こちら、Aチーム。この領域から離脱しましょう。嫌な予感がします』

 

「なんだ、もう一両はやらんのか? 日和るな! やれっ!」

 

「小山先輩、全速力で市街地に向かってください!」

 

「なにっ、玲香! お前も日和ったか?」

「まぁまぁ、河嶋ー。隊長命令には絶対だよー」 

 

 会長が諌めるとさすがに河嶋先輩は黙った。ふーん、なるほど。思ったよりもかなり早くダージリンさんのチャーチルが近づいていたのか。

 さすが、キューポラから身を乗り出して、全体の確認を怠らない西住流。家を嫌っていても、やっぱり西住さんは家元の娘って部分もちゃぁんと持ち合わせているよ。

 欲張らずに正解だな、これは――。じゃあ、行ってみよう。

 

「「もっと、こそこそ作戦!」」

 

 私たちは遭遇戦を仕掛けるべく、仲間たちが先に行って待っている市街地へと向かった。

 

 マチルダ1両撃破のうえ、もう1両の履帯はすぐには直らないはずだから、最初のほうは実質5対3で遭遇戦ができるはず。

 これは恐ろしいくらいこちらが有利だ。

 しかし、油断は大敵。奇襲は成功したとはいえ、相手は遥かに格上なのだから――。

 

 

 

 懸念通り、というか本気にさせてしまったダージリンさんはやはり強かった。

 

 まず、Ⅲ突がやられた。理由はのぼりが目立ってしまったから。やっぱりだよ、チクショウ! アレが無かったら1両は倒せたかもしれんのに……。Cチームにはいい薬になったと願いたい。

 

 そして、砲撃をゼロ距離から成功したっていう報告をしてくれたBチームは撃破失敗で返り討ち。うん、誰も悪くない。悪いのは89式のスペックさ……。これは言いづらいな、本人たちに……。

 

 Dチームは目の前でCチームが無惨な姿を晒したのを見て、全員外に出ちゃった。いわゆる現場放棄ってヤツ? 無人のM3リーはもちろんその後スタッフが美味しく頂きましたとさ。

 

 あーあ、いつかこうなるとは思ってたんだよねー。

 あんなの初心者には日常茶飯事。いくらカーボンで安全安心って洗脳してもマトモな感覚だと被弾の恐ろしさからは逃げたくなる。

 

 ていうか、私も逃げたことあるし。だから、彼女たちは責められないな。ここから、精神的に強くなるのを望むだけ。

 だから、身を乗り出して戦車に乗ろうって指導する西住流はマジで恐ろしいところです。はい。

 

「これで、我々は2両、相手は3両でいずれは4両に増える予定。うーん、実力差が露骨に出てきましたねー」

 

「のんきに言っとる場合か! なんか考えろ! 副隊長だろっ!」

 

 また、河嶋先輩が無茶振りを……。考えてるよ、目一杯ね。

 

「ありゃあ、なんかさー、ピンチっぽいよ西住ちゃんのところー」

 

 会長のひと言でふと注意深く前方を見ると、マチルダ2両とチャーチルに追い詰められそうなAチームを見つけた。

 

「小山先輩、とにかく急いでください! ここで我々はともかく最強のAチームを失うわけにはいきません!」

 

「だったらさー、あたしに良い考えがあるんだけどー、仙道ちゃん試してみてよー」

 

「はぁ……」

 

 

 

「こんな言葉を知っている? 英国人は恋と戦争には――。きゃっ」

 

『被弾しました! いえ、撃破されましたー!』

 

 なんかダージリンさんが喋ってたけど、マチルダ1両の履帯を破壊し、天才的な反応でAチームはそれを撃破して戦線を離脱する。

 私たちは置いてきぼりでチャーチルのど真ん前に陣取る。こりゃあ私らも年貢の納めどきだな。まぁ、会長の悪ふざけには乗ってみるけど。

 

 私は急いでキューポラから顔を出した。

 ダージリンさんと目が合う。

 

「ダージリン、君は可愛いな。愛してる。オレの女になれよ――」

 

「――なっ」

 

 ダージリンさんの顔がみるみる真っ赤になって、ティーカップを車内に落とす。「ダージリン、何をやってるの!」って怒声が車内から聞こえた。

 これ、ダージリンさんをめっちゃ怒らせたやつじゃん。ごめんなさい、ダージリンさん。会長命令は絶対なんです。

 

 でも、砲手に紅茶がかかったからなのか知らないけど、砲撃は来ない。

 

「小山ー」

「はいっ、会長ー」

 

 そんなわけで私達も戦線を離脱してAチームと合流できた。

 

 これで2対3しかも、今のところ実質2対2である。

 

『玲香さん、長期戦になると数が少ない私達が不利です。広い通りに出て決着をつけましょう』

 

 西住さんの指示で大通りに移動する。うむ、ここで2対2の戦いに持ち込むのだな。

 

『私達がチャーチルを倒します。38tでは厳しいかもしれませんが玲香さんたちはマチルダをお願い出来ますか?』

 

「みほ、お願い出来ますか?じゃないよ」

 

『ふぇ?』

 

「君が隊長なんだ、命令してくれ。マチルダを倒せって」

 

『うふふ、やっぱり玲香さんはカッコいいなー。じゃあ、お言葉に甘えて。マチルダを倒してください』

 

「オッケーだ。隊長、私に任せろ!」

「言われるまでもない」

「にしし、ラストバトルだねー」

「玲香、どう操縦すればいい?」

 

 私たちは再びタッグを組んでグロリアーナと最後の戦いに挑んだ。

 

「小山先輩、無茶を承知でお願いします。マチルダに、あのマチルダに、どのような角度でもいいです半径3メートル以内に入ってください。そうすれば、必ず私が撃破します。河嶋先輩は装填、もっと早く出来ますよね? わかってます、本気の先輩は当然もっと速い」

 

「うん、やってみる。玲香、頼んだよ!」

「うっ、そっそうだ! よく気づいたな、玲香。私の本気を見せてやろう!」

 

 いくぞ、大洗女子学園の生徒会の力を見せてやる。私たちは目標を達成するためには手段を選ばない凶暴な集団なんだぞ! 温室育ちのお嬢様なんて、食ってやるからな!

 

 ゴールデン38tは日光で輝きながら、マチルダに突撃を開始した。

 

「小山先輩、右です! くっ、さすがに硬い! 履帯を破壊しまくってるのがバレたから軽々に狙わせてくれないな。あのマチルダは他の連中とは一味違う。ん? あれは……B チームが砲撃を当てた跡か?」

 

 私はマチルダの補助燃料タンクが破壊された跡を見つけた。ふーん、なるほどねー。派手に燃えたから、最初撃破したって勘違いしたんだ。

 

 報告だと、不意討ちの罠にかかったと聞いている。車長は優秀だけど、素直な性格なのかも。

 

「河嶋先輩、装填をやめてください。小山先輩は一旦近づくのを止めたフリをしてください」

 

「はぁ? 玲香! 何を考えている!」

 

「しばらく空砲を使います。そしたら、向こうは無防備で突っ込んで来るでしょう」

 

 私はマチルダから距離を取って空砲を鳴らすという動作を2、3回繰り返した。

 

「なるほどー、仙道ちゃんって、いい性格してるじゃーん」

 

「はぁ、昔はいい子だったんですけどねー、誰かさんに似て悪巧みが好きになっちゃったみたいです」

 

「おりょ、そんな誰かさんに一度会ってみたいもんだねー」

 

 狙いどおりマチルダはこっちに無警戒で突っ込んできた。

 

「小山先輩、チャンスです。河嶋先輩も装填急いで!」

 

 マチルダの砲撃が車体を掠める。掠っただけでかなりの衝撃だ。だけど、向こうの装填時間を計算すると――チェックメイトだ!

 

「もらったぁぁぁぁ!」

 

 この瞬間、私は高校戦車道で初めての撃破を達成した。

 

「弾薬が切れちゃった作戦成功だねー。いやぁ、この土壇場で空砲を連発するなんてよくやるー」

 

 会長は私の策を見抜いたみたいだ。まっ、こういう悪巧みはこの人の専売特許みたいなもんだからな。

 

 さて、西住さんはどうなった。って、なんだあの動きは? 冷泉さんの操縦ってどうなってんの?

 

「小山先輩、チャーチルに突っ込んで! 急いで!」

 

 ドリフトのような動きをするⅣ号にあ然としながら早口で指示を出す。敬語を忘れて……。

 

 ほぼ同時にチャーチルとⅣ号は砲撃をする。どちらも被弾してるようだ。砂埃のせいでよく見えないけど――。

 

『ごめんね。玲香さん、撃破出来なかった……』

 

「ちっ、やっぱりチャーチルは硬いのか――。でも、Aチームの神業は無駄にしない!」

 

 小山先輩が全速力でチャーチルに突撃する。そして、私はⅣ号が当てた部分の故障ヶ所を狙って射撃をした――。

 

 

 

 

 

「玲香、ごめん……」

 

 泣きそうな小山先輩の声。いや、小山先輩のせいじゃないよ。私の指示ミスだ。

 

『残存車両確認、残存車両、大洗女子学園0、聖グロリアーナ女学院1、よって聖グロリアーナ女学院の勝利!』




念のためですが残存車両は最初に置いてきぼりになったマチルダです。
全国大会もこれくらいのクオリティになると思うのですが、大丈夫でしょうか?
次回はダージリンさんとみほの視点も含めて結末をお届けします。ぜひ読んでみてください!


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練習試合の結末、そして……

原作の4話の終わりまで。
感想にモチベーションを支えて貰ってます。いつもありがとうございます!
今回、みほの心理描写を書いていると、シンフォギアの「歪鏡・シェンショウジン」が頭の中で流れてました。あれって最高の百合ソングだと思うんです。


《ダージリンサイド》

 

 わたくしは大きな勘違いをしていたようですわ。大洗女子学園は《仙道玲香》以外は取るに足らないと……。

 もっと疑問を持つべきでした。なぜ彼女が隊長ではなく()()()という地位に甘んじているのかを……。

 想定するべきでした。彼女()()の実力者の存在を……。

 

 そもそも、わたくしが彼女の獲得を焦ったのにはある予感がしたからですの。この二人を同じ高校に入れてはならないという……。

 

 あの決勝戦を勝利した方の隊長である西住みほ。彼女は当然、黒森峰の高等部に進学する。

 そして、その黒森峰を相手に大立ち回りをした仙道玲香を来年隊長になる、まほさんが放って置くはずがない。

 西住みほと仙道玲香が3年間、一緒に黒森峰に居るなんて想像すると、黒森峰は10連覇どころか12連覇する姿が容易に想像が出来て目眩がしたものです。

 

 とにかく、あの二人の戦車道は敵同士の状態ですら、どこか噛み合うように見えていて、危険に思いましたの。

 

 小さなスキを見逃さずに簡単にマチルダを撃破するⅣ号と西住まほを彷彿とさせるように、半身をキューポラから乗り出して戦う栗毛の少女……。わたくしの記憶が正しければ彼女はおそらく――。

 

 とにかく、あのⅣ号も危険ですわ。確実にここで仕留めませんと……。

 

「一か八かの突撃に見せているのは、フェイク。おそらく側面に回り込もうとするはず。――アッサム、そこを狙えるかしら?」

 

「任せてください。ダージリン――」

 

 ある程度の動きは予測出来ましたが、あの動きは予想以上でしたわ。

 Ⅳ号が砲撃を開始する前に決めようと思っていましたのに、砲撃はほぼ同時……。チャーチルの装甲をこれほどありがたいと思ったことは無かったかもしれませんの。

 

「ふぅ、これで厄介なⅣ号は――」

 

 と、安心したわたくしは自分の無能さを呪いましたわ。

 あるはずの無い衝撃音に驚いたとき、我がチャーチルから白旗が上がっていました……。

 

 まさか――仙道玲香がこれほど早くマチルダを、ルクリリのマチルダを38tで撃破したと言いますの?

 

 ――敗北!?

 

 この2文字が頭に過ったとき、アナウンスがわたくしの鼓膜まで届きましたわ。

 

 

『残存車両確認、残存車両、大洗女子学園0、聖グロリアーナ女学院1、よって聖グロリアーナ女学院の勝利!』

 

 勝利したのは我が校。しかし、これほどまで敗北感を覚えた勝利は初めてですの。

 新参校に隊長車両が撃破されるなんて、OG会が聞いたら何を言われるかわかったものじゃありませんわ。

 

 でも、全国大会前に戦えて良かったです。あの子たちはもっと強くなる。

 うふふ、強力なライバルが誕生しましたのに、なんでしょう、わたくしは彼女たちのファンになってしまいましたわ。

 

 それにしても、あの時の仙道玲香さんの告白――本気で受け取ってよろしいのでしょうか? あの時、きっとわたくしは、はしたない顔をしていたのでしょうね。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《みほサイド》

 

 まともに攻めてもチャーチルの装甲を抜けるまで接近できない。だったら、側面に回り込むしかない――。冷泉さんなら、それができるはず。

 

 期待どおり冷泉さんはフェイントを入れながら、きれいに回り込んでくれました。

 

「撃てー」

 

 号令と共に五十鈴さんが見事な砲撃を披露します。しかし、こちらも被弾してしまい撃破されてしまいました。

 せめてチャーチルを撃破出来ていれば、玲香さんが何とかしてくれるはず。お願い!

 

 

 私の祈りは虚しく、Ⅳ号の砲弾はチャーチルの撃破判定を出すまでには至りませんでした。

 ごめんなさい、玲香さん。私、負けちゃったよ……。

 

「にっ西住殿、玲香殿がチャーチルを!」

 

 秋山さんの言葉と共に破裂音が私の耳まで届きました。なんと、38tは見事にⅣ号が砲撃した場所を正確に撃ち抜き、チャーチルを撃破したのです。

 

 私は玲香さんに憧れていました。そして、その理由が今、わかりました。

 

 玲香さんはお姉ちゃんに似ている――。

 

 

《諦めないこと、そして、どんな状況でも逃げ出さないことですね――》

 

 お姉ちゃんがインタビューで答えたことを笑って実践している玲香さん。

 

 あのとき、玲香さんは「逃げてもいい」って言ってくれてたけど……、ずるいよ、玲香さんは逃げたりしてないのに……、優しすぎるよ――。

 

『残存車両確認、残存車両、大洗女子学園0、聖グロリアーナ女学院1、よって聖グロリアーナ女学院の勝利!』

 

 決めた! 私はもう逃げないよ。戦うよ。玲香さんの隣に立って今度は勝てるように――。

 だから、私の側に居て――玲香さん……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「本当にごめんねー、玲香ー」

 

 涙目で謝る小山先輩。いやいや、先輩は全然悪くないですよ。本当に私が悪いから。

 

 今回の戦いで誰が1番消耗したのかと言うと、ダントツで小山先輩だ。

 最初の囮作戦から、ここまで初心者離れしたドライブテクニックで私の期待に応えてくれた。

 

 でも、私は失念していた。先輩とて普通の人間。度重なる戦いは知らず知らずのうちに小山先輩の体力と精神力を大幅に削っていただろう。

 

 そして、最後の射撃のタイミングで先輩の色んなところに限界が来た。

 そう、先輩は走行中に失神したのだ。そして、全速力でチャーチルに肉薄した38tはそのまま激突。我々も結局チャーチルと運命を共にしてしまったのである。

 

 はぁ、勝ちに焦ってしまって仲間の異変に気が付かないなんて……。最悪だ……。

 西住さんに合わせる顔が無いよ……。

 

「ねぇ、玲香。まさか私に対して責任を感じてない?」

 

「こっ小山先輩?」

 

「体調が悪いって言わなかったのは私のせい。ふふっ、私はね、玲香が戦車道を出来るようになって凄く嬉しかったんだよ? だから、先輩として好きで玲香のために無理したの。後輩のために無理するのは先輩の特権なんだから、これからも無理させてね!」

 

 小山先輩はにっこりと私に笑いかけてくれた。

 

「先輩――ありがとうございます。私、大洗に、生徒会に入って、本当に良かった……」

 

「馬鹿玲香が、今ごろ素直になりおって」

 

「あれぇ、なんで河嶋が泣いてんのー」

 

「かっ会長、別に私は泣いてなどおりません」

 

 会長に茶化されて顔を隠す河嶋先輩。

 ありがとう、先輩方。

 

 なんで戦車道で優勝したいのかまだハッキリと分かりませんが、必ず私と西住さんとで優勝をもぎ取ってみせます。

 

 それくらい恩返ししなくちゃ――先輩方に悪いですからね……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あなたが隊長さんですわね? あなた、お名前は?」

 

 試合が終わり、整列をして挨拶をしたあと、ダージリンさんが後ろにチャーチルの乗員を引き連れて西住さんに話しかけていた。

 

「えっ、あっ、はい。西住みほです」

 

「やはり西住流の――ふふ、随分とまほさんと違うのね」

 

 不敵な笑みを浮かべたダージリンさんは楽しそうだった。

 

 

「どうも、ダージリンさん。いやぁ、こちらに台数も合わせてもらって、その上、ホームだったにも関わらず完敗でした。おかげさまで、今日はいい勉強が出来ました」

 

「あら、わたくしたちの車両を撃破しておきながら完敗とは――過剰な謙遜も嫌味に聞こえますわよ」

 

「謙遜したつもりはなかったのですが――。実際に結果以上の差を実感しましたし……」

 

「練習試合で貴女たちと戦えたことは聖グロリアーナ女学院としても収穫でした。また、成長した大洗女子学園と戦いたいものですわね」

 

 そう言い残してダージリンさんは帰ろうと背を向けた。あれ、これはダージリンさんが大洗女子学園を好敵手として認めてくれたってことかな?

 

「いやー、惜しかったけど、負けちゃったねー。どんまーい」

 

「玲香、西住、約束通り踊ってもらおうか、あんこう踊り」

 

「「えぇーっ」」

 

「まぁまぁ、こういうのは連帯責任だから……」

 

「えっ、会長まさか……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 私たちは一生懸命あんこう踊りを踊った。

 

 

 はっきり言って、めっちゃ楽しかった! もう、みんなでダンスとかって体育祭みたいで本当に好きー! ちょっと、興奮しちゃって悪ノリしたけど気にしないようにしよう。

 

 

「なんか、お嫁に行けなくなるとか考えるのが馬鹿らしくなったよ――」

 

「私はあんこう踊りで黄色い歓声を聞くのは初めてです。玲香殿がまさかあんなキレッキレのダンスを踊るとは――」

 

「あんこう踊りってあのようなアクティブなモノでしたっけ?」

 

「眠気が覚めてしまったぞ――」

 

「玲香さん、やっぱりカッコいいなー」

 

 なんか、全力であんこう踊りを踊って、ついでにバク宙を決めたら予想外に盛り上がった。

 

 河嶋先輩に「お前には罰ゲームになってない! 不平等だっ!」って責められた。頑張ったら怒られるなんて……、解せぬ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 あんこう踊りの後はみんな夜の出港まで自由時間だ。

 えっ? 私? 練習試合の後処理とか色々と雑務がありますけど何か? やはり、生徒会はブラック企業だ。有給くれ、有給。

 

 Aチームのみんなは仲良くお出かけいってらっしゃい。羨ましいぞ、コノヤロー。

 

 そんなこんなで雑務をこなしていたら、生徒会に勝るとも劣らない働き者に声をかけられた。

 

「仙道さん。ちょっといいかしら――」

 

 声の主は風紀委員の伝統のオカッパヘアーの似合う先輩。園みどり子先輩だ。

 これは、怒ってるときの先輩だな。

 

「あっはい。園先輩じゃないですか。お疲れ様です! 私は今ちょっと忙しいので――」

 

「ちょっといいかしら?」

 

「はいぃ! 大丈夫です!」

 

 迫力に負けて私は姿勢を正した。

 

「この前、生徒会から届いた戦車道履修者の特権の項目に目を通させてもらったわ。遅刻200日免除、この件、私がどんな気持ちで了承したかわかってる?」

 

「さっ、さぁ……。たははっ」

 

「さぁ? まぁいいわ、あれは角谷会長の名前で出ていたから。断腸の思いで飲み込んだのよ。そしたら、更に特別項目を追加ぁ? しかも、あの冷泉さんの遅刻は400日見逃せって、貴女の名前で書類は提出されていたわよ! 何考えているの! そもそも、ルールというのは――」

 

 このあとめっちゃ園先輩に説教された。

 

 そして、学校全体を強制参加させる風紀委員主催のルールを守る大事さを語ってもらう講習会を開催することを約束してこの件は折れてもらった。

 

 

 夜も遅くなり出港時間が近づいてきた。『おばぁ』とやらに会いに行ったという冷泉さんはすでに戻っているが、Aチームの他のメンツが戻っていない。

 心配して園先輩の傍らで冷泉さんと待たせてもらうと、涙目の角刈りの男が人力車で4人を乗せて爆走していた。

 

 園先輩の小言が終わったタイミングで理由を聞いてみたら五十鈴さんが戦車道のせいでお母さんから勘当を言い渡されたらしい。

 

「えっ? 五十鈴さん、それって大丈夫なの?」

 

「はい、これが私の新たな門出ですから――」

 

 凛とした表情で返事をする五十鈴さん。メンタル強っいなー。こういう所が砲手の適性だな。Aチームはまだ強くなる。

 

 

「西住隊長、玲香副隊長! 戦車を放り出して逃げ出したりしてすみませんでした!」

 

「「すみませんでしたー」」

 

 なんと、Dチームの1年生たちが頭を揃って下げていたのである。

 

「先輩たちカッコ良かったです」

「すぐ負けちゃうとおもったのに」

「私達も次は頑張ります」

「絶対に頑張ります!」

 

 甘かった目つきが変わったな。これはこの先、Dチームは化けるかもしれないぞ。それだけで今回の負けは価値がある。

 

「まぁ、あたしたちも次はもっと頑張るからさー。この次もこの調子で頼むよー。んでこれ――西住ちゃんと、仙道ちゃんに……」

 

 小山先輩と河嶋先輩が1つずつバスケットを持ってきた。あれは、まさか……。

 

 バスケットの中身は思ったとおりティーセットだった。

 

《今日はありがとう。貴女のお姉様との戦いより面白かったわ。また公式戦で戦いましょう》

 

 ふむ、西住さんの手紙にはまほさんとの比較が書いてあったか。さて、私のは――。

 

《素敵な告白をありがとう。わたくしでよろしければいつでも待っているわ。愛してるって初めて言われたから》

 

 私は手紙を速攻で閉じた。なんか、これは不味い気がする。

 

「玲香さん、手紙には何て書いてあったのー?」

 

 西住さんが顔を覗いてきた。これは、わからないけど、見せたら色々と終わりそうな気がする。

 

「似たような内容だよ。あははっ、聖グロリアーナは強敵と認めたところにしか紅茶を送らないんだよ。ねー、秋山さん」

 

 私は秋山さんにパスを回した。

 

「はい! しかも、2つ送った高校はおそらく無いと思いますよー。昨日の敵は今日の友ですねー♪」

 

「公式戦は勝たないとねー」

 

「はい、次は何としてでも勝ちたいです! 玲香さんと一緒に!」

 

「公式戦?」

 

「はいー、戦車道の全国大会ですー!」

 

 ふぅ、話題が反れて良かった。しかし、いよいよ全国大会か。

 もう、二度と私は負けないぞ。1回戦までに全盛期の状態まで強くならないとな……。

 

 

 そして、時間はあっという間に進み、全国大会の抽選会にAチームと私たち生徒会は足を踏み入れた。




次回は抽選会からスタート。
いよいよ、カレー好きなお姉ちゃんとハンバーグ好きな銀髪さんが出てきます!
実は書くのが楽しみな2人です。


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黒森峰の隊長と副隊長

短いシーンなのに、オリ主がでしゃばってしまい長くなってしまいました。
よろしくお願いします。


『大洗女子学園8番』

 

「「やったーっ!」」

 

 抽選会でクジを引いた隊長の西住さん。ふーむ、1回戦はサンダースか。

 サンダース大学付属高校の子たちが喜んでいるな。気持ちは分かるがマナー違反だろ。

 

「ふぅ、初戦はサンダース大学付属高校か。みほは、クジ運が良いのか悪いのか……」

 

 私は抽選結果を見て感想をもらした。

 

「サンダース大学付属高校って強いのー?」

 

「優勝候補の一つですよー」

 

「えっ、それって大丈夫なのー?」

 

 秋山さんが武部さんにサンダースについて教えてあげてる。

 

 サンダース流の物量で押す戦術は中学時代も苦戦したなー。あの時の隊長、アリサさんは中々の切れ者で素直だった当時の私とは相性が悪かったんだよねー。

 

 今の3年で気をつけるのは有能な隊長のケイさんと砲手で副隊長のナオミさんだろうな。

 

 特にナオミさんは大会ナンバーワン砲手争いをするほどの人だから要警戒だ。正直言って、ファイアフライは勘弁して欲しい。

 

 とか色々と考えていたら抽選会は終わっていて、私はAチームのみんなと一緒に戦車喫茶ルクレールでお茶をするっていう女子高生っぽいことをすることになった。

 

 なんだろう。すごく嬉しい……。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

 スイッチから砲撃の音が流れて店員さんがやってくる。てか、店員が来るスピード早くない? 見聞色の覇気でも修得してるのかな?

 

「ケーキセットでチョコレートケーキを3つと、いちごタルト、レモンパイにニューヨークチーズケーキを1つずつお願いします」

 

「承りました。少々お待ちください」

 

 あー良かった。ボーッとしてたけど、五十鈴さんがみんなの分を代表して頼んでくれたんだ。てっきり、全部五十鈴さんの分かと……。

 

「わっ、何これ?」

「ドラゴンワゴンですよー」

「かわいいー」

「ケーキもかわいいー」

 

 ケーキも注文してすぐに届いた。やたら、みんなって可愛いって言葉使うよねー。まぁ、確かにケーキは可愛いけど……。

 

「1回戦から強いところにあたってごめんね」

 

 しょんぼり顔の西住さん。いや、割と高確率で4強のどこかにはあたるから。

 

「まぁ、強豪の中ではラッキーな方だよ。初戦でサンダースは。ねぇ、秋山さん」

 

「はい、サンダースは確かに強豪で優勝候補ですが、それはとってもリッチな学校だからなんですー。なんせ、戦車の保有台数が日本一ですから」

 

「それが1回戦ってことと何か関係あるのー?」

 

 秋山さんのセリフに武部さんが質問する。

 

「つまりこういうことだ。レギュレーションで1回戦に使用できる戦車の数は10台までって決まっている。つまりね、たくさん戦車があるって優位を1番活かしにくいんだよ」

 

 秋山さんに代わって私が説明する。

 

「それでも、我が校の2倍ですねー。タイマンで2つずつ倒さなくてはなりません」

 

「ははっ、大丈夫。全国大会はフラッグ戦というルールだからフラッグ車っていう1台を先に撃破したチームが勝ちなんだ。だから、2倍くらいの戦力差なら何とか覆せるよ。大変なのは間違いないけどね」

 

「玲香さん……。うん、私もサンダースに勝てるように頑張るよ」

 

 西住さんは決心したように頷いた。

 

「なぁ、玲香さん、負けたら単位はどうなるんだ?」

 

「えっ、えっとねぇ。とりあえず、勝ったら保証するから。ねっ? 冷泉さん。ははっ」

 

 負けたら単位どころじゃない予感がしている私は笑って誤魔化した。

 

「ふーん、後で詳しく聞かせてもらうぞ」

 

 冷泉さんはムスッとしてケーキをパクついた。

 

「ねぇねぇ、全国大会ってテレビ中継されるんでしょ。モテちゃったらどーしよー」

 

「生放送は決勝戦だけですよ」

 

「じゃあ決勝目指して頑張ろー」

 

 無謀とも言える武部さんの発言は知らないからこそだろうな。

 

 まぁ、知ってて優勝を目指すバカがここにいるが……。

 私はケーキをおいしく食べていた――。

 

「副隊長? ああ、元副隊長でしたねぇ」

 

 通路の方から女の人の声が聞こえた。こちらに話しかけてるのかな? ていうか、この人たちって、まさか……。

 

「おっお姉ちゃん……」

 

「まさか、まだ戦車道をしているとは思わなかった」

 

 現れたのは、西住まほさんと逸見エリカさん。戦車道の王者、黒森峰女学園の隊長と副隊長。西住まほさんは、西住みほさんの姉である。

 

 西住さん、ああ、妹の方ね。気まずそうな顔してるなー。

 ていうか、生の西住まほさん凛々しくて、カッコイイー、サイン貰えないかな? ファンなんだよね、実は……。

 

「お言葉ですが、あの試合のみほさんの判断は間違ってませんでした!」

 

 おおっ、秋山さん。立ち上がって抗議するとは思わなかったぞ。

 

「部外者は黙ってて」

 

 逸見さんの無慈悲なひと言。

 

「すみません……」

 

 あっ、座っちゃうんだ。うーん、このまま言われっぱなしはねー。

 

「部外者じゃないさ。私たちは、ね。黒森峰の()()()()の逸見エリカさん」

 

 通路側に座っていた私が立ち上がった。

 こういう時って背が高いと無駄に威圧感出るよねー。

 

「なっ、何よあなた。というか、誰よ」

 

 逸見さんはギョッとした顔をした。あっ、ごめん。怖がらせてるね。これは……。

 

「いや、すまない。私は仙道玲香。大洗女子学園の副隊長でみほの友人だ。みほは、あの試合が原因で大洗にきた。それで、私たちと知り合い再び戦車道を始めた。つまり、この2つの出来事は繋がってるんだ。だから、友人である私たちは部外者ではないんだよ」

 

「知らないわよ。そんなこと……。あなたが元副隊長の友達だから何なの! 私は弱小校でのうのうと温い戦車道やってるこの子が許せないって言ってるの」

 

「そっか、なるほど。そりゃあ、悪かった。まぁ、貴女の気持ちもわかるよ。すまないね、私たちがみほを取ってしまって。でもさ、1つだけ訂正させてもらえるかい? 大洗女子学園は弱小じゃないよ。優勝を狙ってるからさ」

 

 私は逸見さんが何に対して怒っているのか理解した。だけど、弾みとはいえ弱小呼ばわりしたことにはカチンときてしまった。

 あーあ、昔から損な性格だよなー。

 

「へぇ、優勝? ジョークの大会じゃないのよ。待って、あなた、どこかで見たことあるわ……」

 

 逸見さんは首を傾げている。まぁ、対戦したからね。結構前に……。

 

「仙道玲香、白髪鬼(ホワイトヘアーデビル)だな。後輩を苦しめた君は覚えている。上層部に君を推薦するように進言したのは私だからな」

 

「あっ――あのときの白髪の……。いや、あの女は私より小さかったような……」

 

「エリカも撃破されていたな」

 

「あれは、油断というか――今なら負けません!」

 

 黙ってたまほさんが口を開いた。おおっ、まほさんが私のこと知っててくれたなんて感激だな。

 

「お姉ちゃんが玲香さんを……」

 

「ねぇ、みほ、すごくない? あの西住まほさんが私のこと覚えててくれたんだって。うわぁ、嬉しいなー! いやぁ、まほさん、その節はすみません。すごく黒森峰に行きたかったんですけど怪我をしまして……」

 

 私は感激して、まほさんにペコリと頭を下げた。

 

「ふん、隊長にちょっと覚えられてたからっていい気にならないでね。どうせ、黒森峰に来れば楽に大会を勝ち上がれるとかしか、考えてなかったんでしょ」

 

「うーん、いや、黒森峰でやりたかったのは、みほと戦車道することだから――」

 

「なっ――この子と?」

「そんな、玲香さんが私なんかと……」

 

 私は逸見さんの言ったことを訂正した。正直、みほが居なかったら、サンダースかグロリアーナを選択肢に入れてた可能性もある。プラウダは――ほら、寒いとこ苦手だから。

 

「あー、やりたいことって、もう一つあったか。別に黒森峰じゃなくても出来るけど……。西住まほさん、貴女に勝ちたかったです。戦車道で……。黒森峰行ったら2年で隊長になろうって目標を立ててましたから」

 

「ほう、私に勝ちたいか。ふふっ、後輩からまっすぐそんな事を言われたことは無かったな。みほにも、エリカにも……。良いだろう、大洗女子学園を対等なライバルだと思っておこう。みほ、逃げ出した惰性で戦車道をやってるのではないのだな?」

 

 まほさんは凛々しく微笑み、西住さんを見つめた。やっぱり、この人は妹のこと――。

 

「うん、お姉ちゃん。私はもう逃げ出さないよ。玲香さんと一緒に勝ち上がるつもり。私の戦車道を見つけて!」

 

 西住さんはまっすぐにまほさんを見つめ返した。いつものオドオドした感じではなく、覇気に満ち溢れていた。

 

「あなた――本当にみほなの?」

 

「そうか。では、私は西住流の名をかけて叩き潰そう。行くぞ、エリカ……」

 

 まほさんは逸見さんを連れて出ていった。あー、熱くなって西住さんに余計なことをしてしまった。

 

「ごめんね、みほ。私がベラベラと話すべきじゃなかった」

 

 私は西住さんに謝罪した。あー、思い出したら恥ずかしくなってきた。

 何、西住まほさんに喧嘩売ってるんだ私は……。

 今気づいた、会長の煽り癖が感染ってしまってる。性格が悪くなってるー。私、大洗に来る前はこんなキャラじゃなかったのに……。

 

「ううん、玲香さんのおかげで私は踏ん切りがついたよ。私は大洗女子学園の西住みほとして頑張るから――」

 

「そっか、でもさ、落ち着いたら、まほさんや逸見さんともちゃんと話した方がいいよ。多分、みほのせいで負けたから怒ってるとかじゃないから」

 

「えっ? そーなの?」

 

 実はさっきの会話でわかったことがあった。

 

 西住姉妹と逸見エリカ、この3人には共通点がある。それは――。

 

 コミュニケーション能力が低いということである。これは大した話じゃなくても拗れるやつだ……。

 

「それにしても玲香殿は豪胆ですよねー。あの西住まほ殿を相手に優勝宣言とは――」

 

 秋山さんが目をキラキラさせながらそんなことを言う。

 

「えっ? 私はそんな大それたこと言ったっけ?」

 

「はっきり言ってたぞ。副隊長とかいう子に弱小校じゃない、優勝を狙っているって――」

 

 冷泉さんはケーキをパクつきながら言った。

 

「なるほど、それは確かに優勝宣言と取られても仕方ありませんね」

 

「よーし、みんなで優勝目指して頑張ろー」

 

 五十鈴さんと武部さんが優勝を目指すことに同調してくれてこの話は終わった。

 

 今回の教訓は間違いなくこれ、《口は災いの元》。おしゃべりは控えようっと。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 さてさて、抽選会から戻って次の日、私は授業を休んである人に会いに行っている。

 

 案内によればこの部屋に居るみたいだけど……。

 

 私は部屋に入った。すると、聞きなれた人の声が聞こえた。

 

「第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります」

 

「偽物だぁー!」

 

「「ざわざわ……」」

 

 なんでサンダースの制服着た秋山さんがここに居るんだ? しかも、走ってこっちに来てるし。

 

「やぁ、優花里。なんでここに居るんだい?」

 

「ええっ? 玲香殿こそなんで堂々と大洗の制服でここにいるのですかー?」

 

「なんでって、隊長のケイさんにサンダースのこと教えてもらおうと思って――携帯で電話したらこっちに会いに来てくれって言われたから来たんだけど……」

 

 そう、私はサンダースの隊長であるケイさんの客としてここに来てる。

 秋山さんはポカンとした顔で私を見ていた――。

 




サンダースとの戦いも原作とは違う感じにしようと思ってますが、これからの展開が受け入れられるか不安です。
次回もお願いいたします!


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サンダース大学付属高校に来ております

サンダース大学付属に行って帰ってくるだけのお話。
ですが、原作と展開が変わってきます。


 なんでも、秋山さんは西住さんと話しているときに会長たちから必ず勝てと釘を刺された彼女を不憫に思い、役に立つためにスパイとしてサンダースに潜入したらしい。

 

「すごいなー、制服まで用意して。ちなみにどうやってここまで来たんだ?」

 

「いやぁ、お恥ずかしい話なのですが、コンビニの輸送船に乗って潜入しました」

 

「はぁ? 優花里って行動力が半端ないな。常識を超えているぞ。ちょっと凡人の私には理解できない……」

 

「すみません――。しかし、玲香殿はどうやってこちらに?」

 

「えっ? そりゃあ、普通に生徒会のヘリを使って――」

 

 去年の年末。私の両腕のリハビリが終わったということで、会長がどこかの国とギャンブル……ごほん、どこかの国のご好意によって中古のヘリコプターを譲ってもらってきてくれたのだ。

 まぁ、誰も免許持ってなかったから、死ぬ気で私が取ったけど……。

 

「ええーっ? 玲香殿はヘリコプターを操縦出来るのですかー!? ていうか、そんな玲香殿に常識云々言われたくないですよー!」

 

 えっ? どう考えてもコンビニの輸送船で密航するよりヘリを操縦する方が常識的だと思うのだが、どうだろうか?

 

「ちょっと、あなたたち! 人の学校に堂々と偵察に来て出されたジュースを当たり前のように飲んでるんじゃないわよ」

 

「何を言っている。私は今日一日ここの客人になったのだ。アリサさんに文句言われる筋合いはない」

 

 ツインテールのサンダースのNo.3、アリサさんが文句を言ってきた。

 

「あなた図々しくなったわね、玲香。中学時代はもうちょっと可愛げがあったけど」

 

「まぁ、色々とあったからね。でも、ようやく君との再戦の約束が果たせそうだ。お互い隊長ではないけどね」

 

「へー、一応覚えててくれたのね。今度こそ完璧に貴女を術中に嵌めてやっつけてやるわ」

 

 アリサさんと私は中学時代に2度対戦している。中学2年のときはケイさん率いるサンダース大学付属中学校に全国大会で敗北。

 中学3年のときに全国大会準決勝でリベンジを果たした。

 

《これであなたとは1勝1敗ね。先輩たちはあなたにサンダースに入ってほしいと言っているけど、私は別々の高校で決着を付けたい。べっ別にどうしてもだったら一緒のチームでも我慢してあげるけどね》

 

 私は怪我をしたとき、この約束が気がかりだった。

 

「両腕のリハビリを頑張れたのも、高校では無理でも大学で君との約束を守ろうと思ってたからという部分が確かにあった。だから、感謝してるよ、アリサさんには」

 

「ふん! 良かったわね。私たちにそのおかげで負けることが出来るのだから」

 

 アリサさんはプイっとそっぽを向いた。

 

「ヘイ! ホワイトデビル&オッドボール。サンダースはあなたたちをウェルカムするわ! それにしてもホワイトデビルはサプライズさせてくれるわねー。確かに『いつでもサンダースはウェルカムだから、来てくれたら何だって教えてあげる』とは言ったけど、まさかこの時期にそれを言ってくるなんて。一本取られちゃった」

 

 そう言いながらケイさんは私を後ろから抱きしめた。

 

「ワォ! それにしてもビッグサイズになってるわねー! それで、何が知りたいの? 戦車の編成かしら?」

 

 ケイさんは上から背伸びして覗き込むように私を見た。

 

「それを聞きたかったんですけどね。こっちの優花里が全部ネタを仕入れてくれたんで、実は知りたいことがもう無くなっちゃったんですよー」

 

「オウ、そういえば作戦会議をオッドボールは全部撮影してたんだもんね。大丈夫よ、チェンジなんてしないから。ウチはそういうのオープンにしてるの。正々堂々と戦いましょ」

 

「ええ、私もまたケイさんとアリサさんと戦えるって考えると腕が治って良かったってしみじみ思うんです。スパイしといて正々堂々もありませんが、本番は小細工なしで行きますのでよろしくお願いします」

 

 私とケイさんはガッチリと握手をした。

 

「オッドボールも、ほらっ」

 

 ケイさんは秋山さんにも手を差し出す。

 

「ええっ、サンダース大附属のケイさんと握手出来るなんて感激ですー」

 

 秋山さんは目を輝かせながらケイさんと握手していた。

 

「なによっ、もっもう帰っちゃうの? ゆっくりしていくんじゃなかったの?」

 

 アリサさんが帰る雰囲気になっている私に声をかけてきた。あれ? さっきは迷惑みたいなこと言ってなかったっけ?

 

「まぁ、そのつもりだったんだけどね。一応、ほら、私って生徒会だからさ、自分のところの生徒が勝手に学校休んで他校の学園艦に潜り込んでいるのを放置出来ないんだよ」

 

「ううっ……面目ありませーん。玲香殿ー」

 

 秋山さんは叱られた犬みたいな表情でしょんぼりしている。

 

「いや、だからさ、今度から潜入するときは、キチンと生徒会に声かけてっていう話なんだけど……」

 

「へっ? 玲香殿?」

 

「だってさ、そうすれば、こっちは生徒会の予算で君をサポート出来るし。学校の授業の単位も操作したりも可能だ。大体、結構金がかかったでしょう? 制服代とか……。後で金額を教えてくれ、生徒会の雑費から出すから」

 

 秋山さんの好意なのかもしれないが、書記会計として一生徒である彼女が自腹をきって諜報活動をしているのは見逃せなかった。

 

「えぇーっ、そんな、私が勝手にやったことなのに。恐れ多いですよー」

 

「いやいや、そもそものきっかけはウチの先輩だろ? 良いんだよ、貰っとけば。別に私のポケットも痛まないし、何だったら先輩なんて、もっと酷い理由で私に予算で落とせとか無茶言うし……」

 

「そっそうですか。ありがとうございます。というか、玲香殿も色々と苦労しているんですねー」

 

「そうなんだよっ! 聞いてくれよ、優花里ぃ! この前なんてさぁ――」

 

 このあと、秋山さんをヘリに乗せてめっちゃ先輩たちの愚痴を話した。すまん、秋山さん。経費に色付けとくから許して! 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《アリササイド》

 

 今度の大会は先輩たちの最後の大会……。隊長は有能だけど、お人好しすぎるし、キレイ過ぎる……。

 でも、そんな隊長だからこそ、最後の大会は優勝してほしい! その為だったらどんな手段でも使ってみせるわ!

 

 そう思って――この無線傍受機を内緒で購入したんだけどね――。

 

 何でこのタイミングであの子が現れるのよ、仙道玲香!

 

 最初に戦ったときは、ギリギリ勝てたわ。隊長はその時からめちゃめちゃ気に入っていたけどね。

 そして私が隊長になって中学最後の全国大会に挑んだとき、あいつは化物になっていた……。

 

 あいつ一人に次々と撃破される我が校の戦車。白髪鬼(ホワイトヘアーデビル)のあだ名はそのとおりだった。

 

 そんな化物が怪我をして戦車道をやめるって聞いたときは理不尽を感じたわ。だってそうでしょう、私はあいつより楽しそうに戦車に乗るヤツを知らない。

 

 今日、怪我が治ったあいつが来た。嬉しそうに私が負け惜しみで言った約束が守れるって話してた。

 

 ――これは先輩たちの最後の全国大会なのに。どうしてなの? どうして、私は自分勝手にも真正面からあいつと戦いたいって思ってるのよ!

 

 くっ、くそっ! せっかく買ったのに、無線傍受機(これ)は使えなくなったじゃない! 腹いせにあいつをボコボコに撃破してやるわ!

 

 

 

 

 ――えっ、タカシ。その女誰よ? ちょっと雑音多いわね。えっと、周波数を調節っと……。

 

 はぁ!? 一緒に映画? 断るよね、タカシは絶対に断るよね? 嘘……。これはいけないわ! 絶対に阻止しなきゃ……。

 

 タカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシタカシ……………。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 秋山さんを学校で予備の制服に着替えさせて、彼女が自宅でサンダースの映像をさらに編集したいと申し出たので、私も彼女に付いていった。

 へぇ、理髪店だったんだー。

 

「またまた、優花里に友達ぃ!?」

 

 パンチパーマのオジサンが現れたときは、ちょっと驚いた。秋山さんのお父さんってこんな感じの人だったんだー。

 

「まぁ、よくいらして下さいました。他のお友達も上にいて待っていますよ」

 

 秋山さんに似た美人のお母さんが笑顔でそう言った。他の友達って――まぁ、大体察しはつくけど……。

 

 

「うぉぉっ、皆さん、来てくださっていたのですかー」

 

 秋山さんはAチームが集合していたのに驚いていたみたいだ。

 

「ゆかりん! それに、何で玲香も居るの?」

 

「みんな、秋山さんが居なくて、心配したてたんだよ。玲香さんも一緒だったんだ。てことは、生徒会の用事?」

 

 武部さんと西住さんが秋山さんに声をかける。ほらね、勝手に居なくなるからこんなに心配かける事になるんだよ。

 

「すっすみません……。でも、ちょうど良かったです。本当は後でお見せしようと思っていたのですが、一緒に見て頂けませんか?」

 

 

《実録! 突撃サンダース大学付属高校(なんかアメリカンなBGM♪)》

 

『私は今、サンダース大学付属高校に来ております。それでは潜入を開始します!』

 

 サンクス(どこか懐かしく感じる)の店員の格好の秋山さんが映っている。

 

「これ、どうしたの?」

 

「帰る途中で軽く編集したんですよー。まだ、テロップも仮なんですけど」

 

「そういう意味じゃなくて……」

 

 あー、なんか私の愚痴をヘリで聞きながら色々とやってたけどコレだったのね。てか、作業早くない? 秋山さんってやはり才能の塊なのでは? 生徒会に欲しくなってきた。

 

 サンダースの制服に着替えた秋山さんは、途中でサンダースの自慢のアメリカ産戦車、シャーマンを撮影したりして、実に楽しそうだ。

 

 そして、大胆に作戦会議室に潜入する。

 ケイさんが戦車の構成を読み上げる。ふむ、さすがに油断はないようだ。ファイアフライも出てくるか。

 

 フラッグ車の護衛が居ないのは朗報だな。さすが、秋山さん。見つかるリスクを背負っても必要な情報は手に入れようとする。

 西住さんの為なら危険も犯すということか。忠犬タイプだね。参謀か補佐に回ると非常に力を発揮してくれるだろう。

 

 

『第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります』

 

『偽物だぁー!』

 

『やぁ、優花里。なんでここに居るんだい?』

 

『ええっ? 玲香殿こそなんで堂々と大洗の制服でここにいるのですかー?』

 

『なんでって、隊長のケイさんにサンダースのこと教えてもらおうと思って――携帯で電話したらこっちに会いに来てくれって言われたから来たんだけど……』

 

 映像はここで終わった。

 

「えっ、なんで最後に玲香が?」

「というか、玲香さんが普通に入って行けるなら秋山さんが潜入する意味はなかったと言えるが……」

 

 ギョッとする武部さんと辛辣な冷泉さん。

 

「いやいや、秋山さんは良くやったよ。私だったら、直接ケイさんに聞けたけど、絶対に遠慮して聞けない部分もあるから。そもそも、撮影なんて出来ないしね」

 

 私は秋山さんのフォローを入れる。本当に想像以上だった。すごいなこの人は……。

 

「西住殿、まだ仮編集のレベルですが、少しは参考になりますか?」

 

「うん、とっても参考になったよ。必ず勝てるように何とか作戦を考えてみるね! ありがとう!」

 

 おっ、秋山さん。西住さんにありがとうって言われた瞬間、褒めてもらった犬みたいな顔してるな。そういうとこ、可愛いね。

 

 と、まぁ、こんな感じでサンダースの情報は集まった。私と西住さんはこれを元に作戦を練ることになる。

 

 P.S.秋山さんの小学校時代のパンチパーマにドン引きしました。武部さんの友達いない理由はそれなのではってツッコミは正しいけど、黙っててあげてと思いました。




玲香のせいでサンダースとガチンコ勝負が決定!
結局、原作で大洗が勝てたのってアリサのアシストが大きいですよねー。ケイのルー大柴っぽい言葉遣い難しいっす。
味方も強化するけど、敵も強化してしまうオリ主あるあるが好きなのでこの展開で頑張ります!
次回もよろしくお願いします!


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西住みほの強さ

いつも感想や誤字報告ありがとうございます!
今回はほとんどオリジナルエピソード。
踏み込んで良い距離感が難しかったです。


「しかし、ルクレールではカッコつけて『覆せる』とか言っちゃったけど、改めて見るとエグい戦力差だなー」

 

「ええっ? 玲香さん、カッコつけてたのー? 何もしなくてもカッコイイのに……」

 

 放課後、私は西住さんの部屋で2人で作戦会議をしている。いやいや、結構私はダサいから。

 多分、西住さんは転校ばかりで私の醜態を見てないからそんなことを言うんだな。

 体育祭や文化祭なんて、あんこう踊りどころじゃ無かったんだぞ。

 泥んこプロレス大会なんて思い出したくない!

 

「カッコつけるのはタダだからねー。それでいい方向に動くならいくらでもつけるさ。大体、副隊長の私が弱気じゃ締まらないじゃないか。人の上に立つときは、たとえどんな不利な状況でもそれは顔に出さないようにしてるんだ」

 

 これは会長にならっている部分が大きい。まぁ、あの人はそもそもピンチにならないように動くタイプだけど。

 

「へーそうなんだ。あっ、でも、なんで私にはそんなことを言ったの?」

 

 西住さんは首を傾げて不思議そうな顔をした。

 

「そりゃあ、みほは隊長だろ? 上には虚勢を張る必要ないからねー」

 

「むぅー。私は玲香さんの上だなんて思ってないのに……。でも、私には無理だなー、虚勢を張るなんてしたことないよー」

 

「みほは、そんなことをする必要ないさ。君は素で強いから。みほは自分らしい戦車道をすれば良いんだ」

 

 そう、西住さんは強い。本人は自覚してないが、同世代の中では圧倒的に強い。だから、そのままでいい。

 西住さんの強さを見せるだけで、人は付いていく。私がそうなったように……。

 

「私らしい戦車道? 前にお姉ちゃんにも言われたけど、よくわからないや」

 

 西住さんはやはり自分の恐ろしさや強さを、そしてその根源をよくわかってないみたいだ。

 

「うーん、私が答えを教えることは不可能だけどね。ちょっと昔の話をしようか――この前も話に出たけど、私と西住さんは隊長同士で一度戦っているんだ。あのときのこと、覚えてる?」

 

 私は一昨年前の全国中学校戦車道大会の決勝の話をした。苦い思い出だけど、そこに私は西住みほという人間に付いていきたいと思った理由があった。

 

「うん、覚えてるよ。玲香さんの見た目が全然違ったから大洗で出会ったときは思い出せなかったけど」

 

「ははっ、腕を怪我して、怪しいリハビリをしていたら身長がアホみたいに伸びたからね。まぁ、それはいいや。私はどうしても優勝したかった。それで、黒森峰の前の試合を偵察して勝つ方法を考えたんだ」

 

 実際、高校ほどではないが中学戦車道も黒森峰は抜きん出てた。私の母校は古豪と言われていたけどベスト4から遠ざかっていたし、黒森峰の絶対的な有利は間違いなかった。

 

「この前会った逸見エリカさん。みほには悪いけど、私には逸見さんの強さがよく目に止まった」

 

「うん。エリ、逸見さんは中学のときから強かった。私なんかよりずっと……」

 

 名前を何で言い直したんだろう? というか、この前も逸見さんのことガン無視してたような……。

 まぁ、個人間の確執だから触れないようにしとこう。

 

「とにかく逸見エリカさえ撃破すれば黒森峰は揺らぐ。そう信じた私はフラッグ戦にも関わらず執拗にフラッグ車でもない逸見さんの車両をマークして、彼女の撃破に尽力した。その過程で他の車両を6両撃破は出来過ぎたけど、何とか彼女を倒すことが出来た」

 

「覚えてる。あのときの玲香さん、すごく強かった。お姉ちゃんと同じくらいかもって思ったもん」

 

 西住さんは、当時の私を過大評価する。ただ、あの日はなぜか神経が異常に研ぎ澄まされて実力以上の力が出ていたのは確かだ。私が戦車道をやっていて最も強かった日はあの日だと言い切れる。

 あの日みたいな力が出せる日が高校生のうちにあるかどうか……。

 

「あはは、西住まほさんと比べられると格段に下だよ。でね、何が言いたいのかというと、実は私は後悔したんだよ。逸見さんを撃破してしまったことを……」

 

「えっ? あんなに活躍してたのに?」

 

「原因はみほ、君だよ……」

 

「わっ私?」

 

「あのとき、みほはどう思った? 逸見さんが撃破されたとき。黒森峰がピンチになったとき……」

 

「えっと、そのう。負けられないって思った。私たちが負けたら逸見さんが責任を感じちゃうって思ったから――」

 

 西住さんの答えは思った通りの答えだった。自分のことよりも、まずは友人を大切に想う。仲間のために際限なく強くなる誰よりも優しい戦車道……。

 

「あの後のみほは凄かった。個人としても強かったけど、指示もまさに軍神って感じで裏を何回かかれたことか……。結果は私たちの惨敗。虎の尾を踏むって言葉を実感したね」

 

「そっそんなことないよー。勝てたのはみんなが頑張ってくれたからだもん」

 

 西住さんは手をブンブン振って否定した。

 

「いや、それもあるかもしれないが、些細なことさ。勝ったのは間違いなく君の力だよ――。そして、そんな君だから敵だった私も君のいる黒森峰で一緒に戦車道がしたいと思ったんだ」

 

「玲香さん……、そんな前から私なんかと……」

 

「『私なんか』なんて言ったら駄目だよ。私はあの時にね、みほに憧れたんだ……。そうだなぁ、恋い焦がれたと言っていい程にね。君と同じ高校で戦車道をするのをどれほど待ちわびたことか……」

 

「えっ? 今、恋って……? えっと、玲香さんが私に、ひゃうぅぅ……」

 

 あー、やってしまったー! 調子に乗って何を言ってるんだ私は……。つい、比喩表現を間違って使ってしまった! 絶対に西住さん引いてるよ……。

 

「………」

 

 俯いて顔を真っ赤にさせてる西住さん。これ、怒らせたんじゃないかしら……。いや違うって。そんなつもりじゃなかったんだ……。

 ただ、凄く憧れてたから、恋に似てるなって言いたくて……。

 

 気まずい……。めっちゃ気まずい。目の前に私の決めポーズポスターが睨んできている。

 

「なーんて、ね! あはははっ、何バカなこと言ってるんだろうねー? 私は……。ごめん、ごめん。今度、どこかに遊びに行ったとき何か奢るからさ。許してくれ――」

 

「えっ? 本当に!? 玲香さんと2人でお出かけ出来るの?」

 

 ガバッと顔を上げて上目遣いで私を見る。いや、思ったより回復早いな!

 

「う、うん。サンダース戦が終わったらどっかに遊びに行こうよ。みんなも誘う?」

 

「たまには玲香さんと2人だけがいい」

 

「そっそうか。了解だ……。じゃあ、2人でサンダース戦の祝勝会をやろうじゃないか。ははっ……」

 

「わかった。うわぁ、なんだろう……。色々と作戦が思いつくような気がするよー」

 

 このあとの西住さんはあの時の軍神のようなオーラに包まれて、対サンダース戦の作戦を次から次へと考え出してくれた。

 

 

 

「――ふぅ、これで大まかな作戦は決まったね。玲香さん。ごめんね、いろいろと相談に乗ってもらって」

 

「いやいや、やっぱり西住さんが隊長で良かったよ。私じゃ、絶対に行き詰まる。間違いない。じゃあさ、これは私のワガママで実現可能かどうか教えて欲しいんだけど――」

 

 私は西住さんに『あること』が出来るかどうか質問した。

 

「――うーん。Aチームのみんなと相談しなきゃわからないけど……。面白いと、思う。私はやってみたいよ」

 

「そうか、じゃあ、みんなに了承を取って練習後にちょっと戦車を使ってさ――」

 

「うん、そうしよう」

 

 これが出来ればサンダースだけじゃなく、今後に戦うであろう強豪校に対しても武器になるかもしれない。こうして、1回目の隊長、副隊長の作戦会議は終わったのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「はぁ、カメさんチーム……か?」

 

「うん、かわいいでしょ?」

 

 戦車のカラーリングを戻す際、アルファベットのチーム分けじゃあ無骨すぎるという意見が出て、各戦車のチーム名を考えようって話になった。

 

 私の出したチーム名【エクスカリバー】とか【バハムート】とかは却下され【カメさんチーム】になってしまった。解せぬ……。

 

 

 うーん。『【エクスカリバーさんチーム】は【バハムートさんチーム】と合流、【ダークドレアムさんチーム】の援護に向かってください』とか言いたかったのに。

 

 他のチーム名は……。

 みんな仲良しⅣ号チームが【あんこうチーム】。

 

 バレー部89式チームが【アヒルさんチーム】。

 

 歴女の集いⅢ突チームが【カバさんチーム】。

 

 かわいい1年生M3リーチームが【ウサギさんチーム】である。

 

 それぞれのチームの戦車に各チームを象徴したキャラクターのエンブレムが描かれて、みんな自分の戦車に愛着が出てきたようだ。

 

 さらに背中にチームエンブレムが描かれたパンツァージャケットも完成。

 

 ええ、採寸をしたとき色んな意味でダメージを受けたのは内緒だ。西住さん――意外とあるのな……。

 

 さらに、西住さんと最初の作戦会議をした、あの日から、あんこうチームとカメさんチームは合同で居残り練習し、私が提案した『あること』は現実味を帯びて来たのだった。

 

 

 

 

 そして――いよいよ、戦車道全国大会が始まる。1回でも負けたら終わりのトーナメント。

 

【第63回戦車道全国高校生大会1回戦】

 

 大洗女子学園 VS サンダース大学付属高校

 

 試合開始まで――あとわずか……。

 




ついに全国大会が始まってしまいました。
全国の強豪校と原作とは違う展開でどう渡り合うのか、楽しんで頂けると嬉しいです。


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全国大会編 大洗女子学園VSサンダース大学付属高校 その1

グロリアーナの時よりすっごく大変でした……。
一応、展開は考えていたのですが文章にすると、こうも難しいのかと思い知りました。
よろしくお願いします!


「よしっ、みんな準備は良いか! 今日は大事な緒戦だ! 万全を期して戦おう!」

 

「「はーい!」」

 

 大洗女子学園陣営は試合準備に追われていた。

 

「あー、砲弾忘れてたぁ」

「それ、一番大事なやつじゃーん」

「「あはははっ」」

 

 ウサギさんチームの宇津木さんが早々にボケをかまして不安になる私。

 

「ちょっと、玲香。大丈夫なの? こんなゆるふわ系引き連れて、負けた言い訳にするつもり?」

 

 サンダースのアリサさんとナオミさんが私たちの陣営まで足を踏み入れていた。

 

「うわぁ、ナオミさんじゃないですか! 砲手として尊敬しています! 握手してください!」

 

「あっああ。構わないわよ……」

 

 ボーイッシュなイケメンお姉さんのサンダースのナオミさん。砲手としての腕前は超一流で尊敬する選手の一人だ。握手しちゃった嬉しいな。

 

「ちょっと、無視するんじゃないわよ!」

 

「おう、アリサさん。元気ー? てか、何しに来たの? 特技の嫌味?」

 

「誰の特技が嫌味よ! ライバルとして不甲斐ない戦いをしないように忠告しにきたのよ!」

 

「ナオミさん、そうなんですか?」

 

「いや、試合前に交流も兼ねて食事にでもと思っただけよ……」

 

「へぇー、いいねぇ」

 

 ナオミさん曰く、ケイさんが私たちと試合前の交流がしたいからってぜひ食事でもって言っていたから誘いに来てくれたらしい。会長は不敵に笑って頷いて、私たちはサンダース陣営に向かうことになった。

 

「すごっ……」

 

「救護車、シャワー車、ヘアサロン車まで………」

 

「ホントにリッチな学校なんですねー」

 

 私たちはサンダースの贅沢な陣営に驚嘆していた。久しぶりに見たけど、金持ち校はいいなー。生徒会の会計になったらやりたい放題出来そう。

 

「ヘーイ、アンジー、それにホワイトデビルも!」

 

「角谷杏だからアンジー」

「なんか、玲香のあだ名いかついな……」

 

「後生だから、聞かなかったことにしてください……、河嶋先輩」

 

「オッケー、オッケー、おケイだけにねー」

 

「あっはっはっは、ナイスジョーク」

 

「アリサさん。笑ってやってくれよ。ウチの会長に恥をかかせないでくれ……」

 

「無茶ぶりはヤメなさい! 隊長にウケたんだから十分でしょっ!」

 

 うーん。やっぱりアリサさんのツッコミは心地よい。なんか、落ち着くんだよなー。

 

「ハーイ、オッドボール三等軍曹! この前は楽しかったわー! また、いつでも来てね。ウチはいつでもオープンだから!」

 

 秋山さんの肩を組みながら笑顔でリップサービスするケイさん。こういうコミュニケーション能力の高いところは、黒森峰の子たちも見習えばいいのに……。

 

「フレンドリーだな」

「隊長はいい人そうだね」

 

「アリサさん、()()()いい人そうだって、良かったな」

 

「やかましいわね! どうせ、私たちはいい人じゃないわよ!」

「えっ? 私にも飛び火してる?」

 

 こうして試合までの僅かな時間、サンダースのメンバーと交流した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『それでは、サンダース大学付属高校と大洗女子学園の試合を開始します!』

 

「あなたとは3年ぶりの試合ね。悪いけど、今回もウィンするのは私たちだからね」

 

「はははっ、いやぁ、参ったな。勘弁してくださいよ。――ケイさん……、勝ちますよ。私は……」

 

「へぇ……。クスッ、ナァイス! いい眼をするじゃない。お互い、エンジョイしましょ!」

 

 試合前の挨拶をすると、ケイさんはウィンクをして去っていった。ふぅ、こっちは殺気を撒き散らしてるのに、爽やかなんだよなー。

 でも、一瞬だけケイさんは獰猛な視線を私に向けていたのは見逃さなかったよ……。

 なんだかんだ言ってあの人も強豪校の隊長なんだよなー。

 西住まほさんやダージリンさんもそうだったけど――なんで強豪校の隊長は怖いはずなのに……、こんなにも昂ぶらせてくれるんだろうねぇ。ふふっ……。

 

 さあ、試合開始だ!

 

「調子はどうですか? 緊張はしてますかねー? 特に河嶋先輩……」

 

「おい、こら! どういう意味だ? 玲香!」

 

「いや、先輩って肝心なところでガチガチになるんで――」

 

「仙道ちゃーん。今回はフラッグ戦だよねー。ウチらフラッグ車だけど、本当にあの作戦で良いのー」

 

 河嶋先輩の緊張を解したタイミングで会長が作戦を確認する。

 

「ええ、先ほどみほが説明したとおり、相手は戦車のスペックも台数もこちらよりも上です。じゃあどうするか? 1.上手く相手の攻撃を避けつつ、火力のあるⅢ突やⅣ号の前におびき寄せて敵の総数を地道に削る。2.フラッグ車は護衛無しで隠れているので、なるべく早く見つける。出来れば敵に悟られず。――とまぁ、この2つを前半は実行したいわけですね」

 

 私は大まかな作戦を確認すべく声に出した。

 

「そのおびき寄せ役だが、フラッグ車が撃破されたら終わりなんだぞ! なぜ、我々なんだ?」

 

 河嶋先輩は何度も説明したことを再び聞いてきた。仕方ない、もう一度話しておくか。

 

「だからですよ、河嶋先輩。全然懐かない野良犬でも、美味しそうなお肉をチラつかせてやれば尻尾振ってやってくるんですから」

 

「にしし、あたしらは、さしずめ高級肉ってことだねー」

 

「まぁ、そうですね。毒入りですから、食べたらお腹壊しちゃいますけど――」

 

 そう言いながら私と会長は凶悪な笑みをこぼしながら笑いあった。

 

「もう、会長は玲香とこういうときは気が合いますよねー」

 

「いやー、後輩が素敵な性格になってくれたから、あたしは幸せだよー」

 

 しまった――また、会長の悪癖が伝染って――。もしかして私って手遅れ?

 

「お前、この期に及んで良い子ちゃんになりたいのか……」

「玲香、ピュアだったあなたはとっくに居なくなったんだよ……」

 

 河嶋先輩と小山先輩に憐れみの目で見られてしまった。嫌だー。

 可愛げのある女子高生になりたーい。西住さんみたいな、愛されキャラクターになりたーい。

 

「じゃっ、河嶋先輩! しばらく私は車長をやるんで、装填と砲撃お願いしますねー。ああ、当てる作業はありませんのでご安心ください。ただ、間違ってもフレンドリーファイアだけはしないでくださいよ」

 

「何っ! 私に仕事を押しつけるとはいい度胸だな! そもそも車長は会長が――」

 

「おりょっ、楽できるなんて、助かるねー」

 

 会長は車長席を譲ってくれた。とりあえず、前半は囮に集中するために車長に専念しよう。

 細かい指示や敵の位置の察知は砲手席からじゃ無理だからね。

 

「西住流――なんちって……」 

 

 私は西住さんに倣ってキューポラから半身を乗り出して五感を研ぎ澄ます。ふぅ、この感じ久しぶりだなぁ。

 

 右後方300メートル地点にあんこうチームとウサギさんチーム――。左後方450メートル地点にカバさんチーム――。

 

 我らカメさんチームは先陣を切って前進している。

 

 また、アヒルさんチームは別行動でフラッグ車を探してもらっている。

 けして戦力外扱いしてる訳じゃない。

 相手が3両の小隊で活動しているなら、なるべく、こちらはそれ以上の数で対抗したい。

 

 ならば、戦闘に不向きな89式だけは分かれて静かに別の場所を探索した方が得だと判断したのだ。

 

 ふーむ、前方に森か――。

 

「小山先輩、あの森の中に入ったらなるべくエンジン音を響かせないようにゆっくり進んでください。会長、これから森に入ることをみほに連絡してください」

 

 今回のステージは随所に森がある。私と西住さんはサンダースのフラッグ車は森に隠れていると予測を立てている。これは、もちろんアヒルさんチームにも伝えていて、戦闘はなるべく起こさずに、静かに森を探索するように指示を出した。

 

 つまり、相手がそういう考えならこちらも同じ考えで森にフラッグ車を隠すと想定して小隊が分散し森を探索してるのではと読んでいるのだ。

 

 西住さんはサンダースのスタート地点に一番近い森を最初の囮作戦の実行位置に選んだ。

 

「じゃあ森に入るよ……」

 

 小山先輩が恐る恐るという口調で戦車のスピードを落とした。

 

 

 

「この辺で良いですよ。一旦、停車してください――」

 

 私は森の中央付近で停車の指示を出した。

 

「こちらカメさんチーム。予定の地点に到達――。西住ちゃーん、どうするー、何分くらい待っちゃう?」

 

『とりあえず10分を目安に待機してください。恐らくかなりの確率で小隊が現れるはずです――』

 

 西住さんは自信がありそうにそう言った。まぁ、敵がここを調べない理由が――ん? 履帯の音が複数……? ビンゴだな。さすが西住さん。

 

「河嶋先輩、右手側に20度ほど砲頭を回転させて合図と共に撃ってください。ああ、当てなくていいんで気楽にやって下さい」

 

「うるさいな! そんなことを言うんだったら本当に適当に撃ってやる!」

 

「構いませんよー、別にー」

 

 私は河嶋先輩で少し遊んで緊張を解す。

 

「小山先輩、私が合図したら最初は待ち伏せ地点ではなく、300メートルほど離れたこの位置を目指して下さい」

 

「えっ? それじゃあ合流出来ないんじゃあ……」

 

「大丈夫です。シャーマンからの砲撃が必ずありますから、逃げると見せかけて徐々に合流ポイントへ進路変更の指示を出します。あくまでも、追い詰められて、あの地点にたどり着いたと演出するのです」

 

 まったく、西住さんの注文はこちらが名優にならなきゃいけないから神経を使うよ。私も必死で逃げる演技をしなきゃな。

 

 おっと、お客さんが到着したようだ――。

 

「小山先輩、エンジンかけてください! 河嶋先輩――今です! 撃てー!」

 

 

 

「――なっ、はっ! 小山先輩! スタートしてください!」

 

 なんという奇跡! ミラクル! 河嶋先輩が適当に放った一撃はシャーマンの履帯に直撃し、一台の動きを止めるに至った。

 

「よし! 今日はいける! 宝くじに当たるくらいのミラクルが起こった!」

 

「聞こえてるぞ、馬鹿者!」

 

 河嶋先輩の怒声を聞き流して、私はシャーマン2両と鬼ごっこを開始した。

 

「奇跡ではないことを見せてやる!」

 

「あー、まぁ弾薬は無駄にしたくないですが、一応、必死さを演出したいのでお願いしまーす!」

 

 予想は裏切られなかった。このあとは1度もかすりもしない河嶋先輩の砲撃。やっぱり奇跡か……。

 私は弾丸の雨を感覚を研ぎ澄まして安全地帯を割り出して、小山先輩に指示を出す。

 もちろん待ち伏せポイントへの誘導も忘れない。

 

 フラッグ車が囮というのは効果が絶大で、シャーマンは弾薬を惜しみなく使い、必死で追いかけてくる。

 

 よし、あと少し、あと少しなんだ。大した距離じゃないのに――時間がゆっくり過ぎるように感じる。

 

 森の外に出た! 頼んだぞ、西住さん――て、早っ!

 

 待ち伏せしていたⅣ号は既に準備万端でシャーマンを確実に側面から撃破する。

 

 もう一台のシャーマンは逃げようとしたが、その逃げ道を先読みし待ち構えたⅢ突が砲撃を当て、こちらも撃破!

 

 サンダースとの最初の遭遇は、こちらは被弾なしで、相手側は撃破2両、履帯破壊1両という戦果で幕を下ろした――。

 

 このとき、私は勝てると思ってしまっていた。

 しかし、その考えは水飴よりも甘かったのだった――。

 

 アリサの策謀、ケイさんの指揮、そしてナオミさんの砲撃――サンダースはただの物量があるだけの高校では決してなかったのだ……。

 

 




原作とは異なり序盤戦は大洗優勢か!?という感じにしてみました。
いかがでしたでしょうか? つい、アリサをいじってしまう……。
次回もよろしくお願いします!


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大洗女子学園VSサンダース大学付属高校 その2

決着まで一気に書いたら長くなってしまいました。ごめんなさい。
よろしくお願いします!


『やったな、我らの初撃破だ! はーはっはっは』

 

『スゴーイ! いきなりやっつけちゃうなんて。西住流半端なーい』

 

 開始早々に戦果を上げることが出来て盛り上がるカバさんチームと、優勢なことを喜ぶウサギさんチーム。

 

 いやぁ、こんなに見事に西住さんの計画通りに行くとは思わなかったよ……。サンダースのシャーマンを2両もこうもあっさり――ん? なんか、あっさり過ぎる気がする……。

 

『全員、急いで森の中へ! 緊急回避!』

 

 西住さんの声が通信機から響き渡る――と、同時に砲撃音が複数響き渡った。

 

 まさか、嘘だろ――なんでこんな大胆なことを……。

 

 サンダースは()()()()フラッグ車以外の9両を全て投入していた!

 

 それも、3両を陽動に使って、待ち伏せを見抜いたかのように、回り道をして6両の2個小隊はこちらが撃破に気が緩んでいるときを狙って、進軍を開始してきたのだ。

 

 バカな何で分かった? ケイさんの作戦か?

 ――いや、これはアリサの奴だ。あいつの研ぎ澄まされた『女の勘』ってヤツだ。

 アリサさんが絶好調なとき、これが恐ろしいほど当たるみたいなんだよ。まるで、こちらの陣営の盗聴でもしているように……。

 

 とにかく、森の中へ逃げてやり過ごさないと……。ナオミさんのファイアフライはマジでヤバイから……。

 アヒルさんチームもさすがにこんなに早くフラッグ車を見つけられないだろうし……。

 

 4両は森の中に入り、カメさんチームを守るような隊列で逃亡を開始する。

 

「会長、車長をお願いします! 私は砲手に戻ります! 森を抜けても、逃げ切れなかった場合、シャーマン軍団と1戦交える可能性がありますから!」

 

「あいよっ、と」

「早く来い! 手遅れになっちゃうだろうが!」

 

 会長は短く返事をして、河嶋先輩はすでに涙目で私に砲手席を譲る。

 

 それにしても、カバさんチームもウサギさんチームもきっちり付いてくるな。この短期間でこれだけ成長するなんて、グロリアーナからの敗戦は勝ち以上の意味があったのかもしれない。

 

 ――だからこそ、勝ちたい!

 

 ピンチっていうのはチャンスなんだ。乗り越えた先に希望があるのだから……。

 

『すっすみません。鼻が長いのに、やられちゃいましたー。――良いところを見せられなくて先輩方に申し訳が立ちません』

 

 無念そうな声を出す澤さん。いや、君がカメさんチームの盾になるように動く指示を出していたのは分かっているから――。しかも相手はナオミさんだ……、仕方ない。

 

 生かすべきは何なのか、功績を上げるより優先することは何なのかが、こんなに早い段階でわかって指示を出せる君はきっと私よりもいい選手になれる――。

 

 だけど、気持ちは痛いほど分かるから――私は何としても君たちが挽回する機会を勝ち取るよ!

 

『玲香さん! このまま逃げ切るのは難しそうです。リスクはありますが、1戦交えます。逃走する上でもっとも厄介なファイアフライを、この地形を利用して撃破しましょう――』

 

 西住さんが覚悟を決めたというような声を出した。うん、私もそう思ってたところだよ。

 

 なんせ、ナオミさんのファイアフライは全国で屈指の驚異だ。高校生のレベルを超えた命中精度と、それに応える凶悪な火力。今だって、森の木々が邪魔してるはずなのに確実に行進間射撃で撃破している。

 

 当てるだけでも大変なのに、一撃で撃破するところに彼女の恐ろしさが見える。こんなの平地で戦ったら1両に全滅させられるまであり得る。

 

『我らの歴史に幕が下りる――』

 

 カバさんチームも巧みな操縦でシャーマンの砲撃を躱していたが、再び放たれたファイアフライの一撃に沈む。すまない、私の動きが遅かったが為に……。

 こちらは残り3両……。アヒルさんチームと別行動は失敗だったか?

 

「さっさと、下準備させてもらおう……。ファイアフライの次の装填までに……」

 

 私は砲塔を回転させて狙いを定める。上手く出来れば良いんだけど……。集中して――発射っ!

 

 放った砲弾は上手く木の根本に当てることが出来て、シャーマンの進路を塞ぐように木が倒れる。

 

 さらに、もう一発だ!

 

 ニ撃目も上手く木を倒すことが出来た。これで森を抜けたとき6両全てに囲まれる事態は避けられそうか。

 

「玲香、森を抜けちゃうよ。アレを、やるつもりなんでしょう?」

 

「ええ、仕掛けるタイミングは、ファイアフライがおそらく邪魔な木を砲撃で破壊して進路を作るはずなので、その瞬間です。Uターンして一気に行きます! 会長、Ⅳ号の大体の位置を教えてください。後は私が脳内で補完するんで。河嶋先輩、腕が千切れるくらい本気で装填お願いします!」

 

「わかった、指示お願いね」

「まっかせといてー」

「なんか、私への指示だけ雑じゃないか?」

 

 

 格別に大きな破裂音が聞こえる――今だっ!

 

 先日、テレビで大学選抜の試合をボーッと見ていた。その中で、私は『バミューダ・アタック』と呼ばれている、3両の戦車の連携に目を奪われたのだ。

 

 まるで、3両が一台の戦車の如くスームズに移動する美しい連携。おそらく、ノーサインでお互いの動きを全て把握しなくてはならない神業――。この技を成し遂げた大学選抜の3人の中隊長はバミューダ三姉妹と呼ばれているそうだ。

 この人たちとも一度手合わせしたいと思った。いつか戦えないかなー。

 

 

 それをキッカケに私は3両は無理として、2両でこれを真似ることは出来ないものか考えたのである。

 

 私と西住さんの戦車道はなぜか噛み合う。私は彼女の動きが、西住さんは私の動きがなんとなく読めるのだ――お互いを見なくても……。

 

 会長に大まかな場所さえ教えて貰えば、小山先輩に指示が出せる。どこに、どのタイミングで砲撃すれば良いのか分かる――。

 

 ――信じてるよ、西住さん。行くぞ、ナオミさん。これが、大洗の【双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)】だっ!

 

 2両の戦車が並走しながら、ウネウネと曲線を描きファイアフライへ接近する。他のシャーマンは一瞬怯んだが、こちらに向かって砲撃をする。

 

 しかし、2両が並走し曲線を描くことにより、並の砲手では狙いを定めるのに迷いが生じ、砲弾がこちらに着弾することはなかった。

 

 そして、同時にコンマ1秒のズレもなく、2両の戦車はカーブを描きファイアフライの両側面へと回り込む。

 

「くらえっ!」

『撃てー!』

 

 私の叫びと西住さんの砲撃の指示が重なり合って繰り出される2発の凶弾。

 

 双頭の蛇の牙はサンダースの誇る最強火力の車両の急所を確実に食い千切ったのだった――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《ケイサイド》

 

 グレイトな逸材と最初に会ったのは私の中学時代の最後の全国大会の時だったわ。

 

 どんなに劣勢になっても諦めずに、こちらの急所を確実に狙って砲撃を続ける砲手がどーしても気になっちゃったのよねー。

 

 中学2年のとき、すでに仙道玲香は劣勢でもネバーギブアップの精神を持つスーパーガールだったわ。

 

 そして、才能が開花した3年時の彼女はアメージングとしか言えなかったわ。ウチの後輩のじゃじゃ馬ガールたちがなす術も無く負けちゃったのは悲しかったけど、それ以上にホワイトデビルの戦車道を間近で見てみたくなったのよ。まぁ、アリサはリベンジしたかったみたいだけどね。

 

 今日のリベンジに燃えているアリサは冴えてたわ。陽動に使った小隊がほとんど全滅してしまったのはサプライズだったけど、彼女の読みどおり、この森に全戦力を投入して正解だった。

 

 おかげで開始早々、大洗の主力を追い詰めることが出来たから、チャンス到来って感じ。

 

 アリサに何でそんなことまで分かっちゃうのって聞いたら、『女の勘』だって――本当にクールなんだから、笑っちゃったわよ。

 大事な後輩がこんなに成長して嬉しいわ! あとで目一杯、抱きしめて褒めてあげなきゃ!

 

 

 M3リーがフラッグ車を見事に守ったときは、初心者たちをここまで育てた玲香を称賛したかったけど、ナオミの砲撃はいつもどおり冴えてる。悪いけどこちらの勝利は時間の問題よ――。

 

 

「ワァオ、玲香はサプライズが上手になったわね――」

 

 彼女の38tは砲撃で木々を倒し、私たちの進行を阻もうとしていた。劣勢を機転で切り抜けようとしているのね。

 

 ――でも、そのくらいじゃあエスケープ出来ないわよ!

 

「ナオミ、道を切り開きなさい」

『イエス、マム――』

 

 精神を集中させるために噛んでいるチューインガムの咀嚼音とともに彼女の沈着な返事が戻ってくる。こういうとき、彼女は本当に頼りになるわ。

 

 轟音とともに木っ端微塵に木の破片が舞い上がり、森の出口が見える。残念だったわね、チーム大洗……、なかなかエキサイティングな試合だったわよ――えっ? 何かしらこの胸騒ぎ……、こちらの優位は揺るがないはずなのに――。

 

 

 

 

「オウ、ノー。あの子たちは悪魔(デビル)なんてもんじゃない。魔王(サタン)よ――まさか、ナオミだけじゃなくて、私もルーザーになっちゃうとはね……」

 

 でも、負けてない。頼んだわよ――アリサ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《みほサイド》

 

 コンビネーション攻撃の練習をしようって言われたときは本当に驚いた。

 でも、玲香さんに大学選抜の方々のプレイを動画で見せてもらったとき、こういうことが一緒に出来たら素敵だなって思ったの。

 

 本当は戦車を見つけた日、同じチームになりたかったし、練習のときの玲香さんを見ていると生徒会の先輩たちにちょっと嫉妬していた。

 だから、一緒に練習というだけでも楽しかったし、玲香さんの戦車を感じるだけで私はとても幸せだった。

 

 目を瞑っても、通信機なんて使わなくても手に取るように玲香さんの動きが分かる。そして、玲香さんも同じように私の動きを察してくれる。

 

 2人で1つになるってこんなに気持ちのいいことなんだね――。今の私たちならどんな戦車にも負けない!

 

「撃てー!」

『くらえっ!』

 

 心が重なり合って、コンマ1秒のズレもなく、2両の戦車から砲弾が放たれる。うん、分かっているよ――ここで終わりにしたら勿体無いよね――。

 

 続けてケイさんの乗る隊長車両のシャーマンに肉迫してもう一撃――そして撃破……。

 

 こんなに撃破することが嬉しかったことは無かった。1人より、2人でするってこんなに気持ちが違うんだね――玲香さん。 

 

 最後に示し合わせてないけど、あんこうチームとカメさんチームから発煙筒が同時に投げられて、私たちは戦線を離れた。ここまで来たら、勝つよ、絶対に――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《アリササイド》

 

「はぁ? はぁぁ? はぁぁぁぁぁぁ!?」

 

『てことで、指揮権はあなたに譲るわ! というか、来年の隊長はアリサ、あなただからファイト! ネバーギブアップ!』

 

「えっ、ちょっ、隊長!?」

 

 えっと、どうなっているの? 私の作戦がきっちり決まったって報告があったわよね?

 

 こんなに嬉しくない次期隊長の指名なんて考えても見なかったわよ――。

 

 なんで、隊長とナオミの車両が撃破されてるのよー!

 

 これで、我が校の戦車は6両……。

 

『すみません! 撃破されましたー!』

 

 言ってるそばから残り5両……。

 

 ちょっと待ちなさい。10対5で、こっちは大洗のポンコツ戦車と違って、シャーマンを使っているのよー! 5対3って、なんでこんなに差を詰められてるのー!

 

 5万輌も作られた大ベストセラーよ! 丈夫で壊れにくいし、おまけに居住性も高い。馬鹿でも乗れるくらい操縦が簡単で、馬鹿でも扱えるマニュアル付きよ!

 

 どういうことなのよー! とにかく見つからないようにしなければ……。ん?

 

「「あっ?」」

 

 あれって大洗の89式? ええーっと、それで今、私は見つかっちゃったわけね――。

 

「右に転回急げっー!」

 

「蹂躙してあげなさーい!」

 

 たかが89式! こいつは一瞬で撃破してやる!

 

 くっ、ふらふらと動いて! イライラするわね! しかも、煙幕ってなんて姑息なの!?

 

 なんで、格下相手にこんなに翻弄されるのよっ! だから玲香(あいつ)の所と戦うのは神経使うの!

 ふふっ、もういいわ。どうせ、フラッグ車の位置がバレたのなら、89式を見逃したところで問題ない。逆にこっちが単独で敵とぶつかる方がリスクが高いわ――。

 

 もう、隊長もナオミも居ないのだから――クールにならなくちゃね。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ぷはぁー、生きた心地がしないっ!」

 

 制限時間付きでナオミさんのファイアフライに突撃って、それって、なんて自殺行為?

 

 しかし、ケイさんの車両もスキが見えたから狙ってみたけど、さすがはみほだな。こちらのしてほしい連携をちゃんとしてくれる。

 

 あとはフラッグ車だけど――。

 

『アヒルさんチームから連絡がありました。フラッグ車を見つけたそうです。いま、0615地点に誘導をしてもらってます!』

 

 よくやってくれた! アヒルさんチームはやっぱり有能だ! 信じて、単独行動させた甲斐があった!

 

「よしっ、みほ! 決着をつけるぞ! 私たちの全力をぶつけよう!」

 

 

 

 

 0615地点でアヒルさんチームと合流したが、磯辺さん曰く、フラッグ車は撤退したらしい。89式を相手に逃げを打つとは意外だったな――。

 

「とりあえず、引き返した時間から推察すると、まだそんなに遠くに行っていないはず、見つけよう!」

 

 

 フラッグ車を見つけるのに時間はかからなかった――なぜなら向こうもまた、こちらを探していたからだ。

 

 シャーマンが5両、こちらにきれいな隊列で向かってきていた。そうか、アリサ――真正面からぶつかって最後の決着をつけたいってことか。ふふっ、やっぱり君はそういう熱いところも残っていたか。面白い!

 

「みほっ! 数でこちらは負けている! 一気に短期決戦で決着をつけたい!」

 

『うん、もう一度やろうよ! 私たちの――』

 

「「双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)」」

 

 

 砲弾が飛び交う戦場に双頭の蛇が牙を剥き出しにして大立ち回りを繰り広げる!

 

 アヒルさんチームは巧みな砲撃で撃破は出来ないまでも、シャーマンの操縦や砲撃の邪魔をする。

 

 

「やはり、アリサの車両は上手いな。初見でこの攻撃を対処しようとしている――でも、だとしても、勝つのは――」

 

「ここだ!」

 

 私はフラッグ車の履帯を正確に射抜き、バランスを崩させる――後は頼んだぞ――あんこうチーム!

 

 

『サンダース大学付属高校、フラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!』

 

 アナウンスが流れた瞬間、私は大洗に来て、高校で戦車道を再開して、遂に初勝利を手に入れたのだった――。




本当に長くなって申し訳ありません! 読んでいただけて感謝しかありません。
今回はかなり力を入れてサンダース戦の、玲香の初勝利までの道筋を入れたい要素全部詰め込んで書いてみました。

次回もよろしくお願いしますm(_ _)m


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1回戦のその後のお話

いつも感想と誤字修正、ありがとうございます!
1回戦が終わって、今回からちょっとだけオリジナルエピソードが玲香を中心に続きます。



「あなたが隊長?」

 

「えっ、あっ、はい」

 

「エキサイティング! とっても素敵な試合だったわ」

 

「あわわっ……」

 

 

 試合終了の挨拶をしたあと、ケイさんから熱い抱擁を受けてアワアワする西住さん。

 

「ウチもベストを尽くしてファイトしたんだけどねー。あなた達の方が強かったわ」

 

「いえ、ファイアフライの砲撃があと一発当たっていれば、こちらが負けていました」

 

「――でも、勝ったのはあなたたち! 頑張って勝ち抜いてね! エールを送るわ!」

 

「はいっ!」

 

 ほう、さすがはケイさん。あの歩く人見知りの西住さんをもう懐柔するとは――抱擁こそ百万の言葉にも勝るって誰かが言ってたけど、そうなのか。

 

「なーに、微笑ましいって表情してんのよ。ほら――」

 

 アリサさんがそっぽを向きながら手を差し出してきた。

 ん? これは――どういうことだ?

 

 私はしばらく無言でアリサさんの手のひらを見ていた。

 

「握手よ! 握手! バッカじゃないの?」

 

「へっ? 握手? あははっ、そうか、そうか――意外だな。アリサさんはそういうの嫌いだと思ってた」

 

「負けちゃったけど――そのっ、楽しかったわ。隊長の最後の全国大会だから、どうしても勝ちたかったけど――最後の最後で、隊長がフェアプレイに拘ってた意味が、やっとわかったのよ……。あんたたちのおかげよ。感謝してあげるわ……」

 

 アリサさんは目を反らしながら、恥ずかしそうにそう言った。

 なっ、なんてこった。あの、アリサさんが、3年の時を超えてデレるとは……。

 

「そっか、でも素直になっていいんだぞ。悔しい気持ちもあるんだろ? ほら、胸くらい貸してやるよ」

 

 私は手を大きく広げてアリサさんにそう声をかける。悔しくないわけないもんな――。

 

 

「ぐえっ……。痛っ! 何するんだ?」

 

 アリサさんの拳が私の鳩尾にめり込む――。

 

「あーはっはっは、馬鹿玲香! 無い胸なんて貸せないでしょう! あんたに弱みを見せるほど落ちぶれちゃいないのよ! 来年、あんたたちの息の根を止めてあげるから待っていなさい!」

 

「ちっくしょー! ああ、待ってるからな! 返り討ちにするけど――。バーカ、バーカ」

 

「そっちこそ、間抜けなのよ。なーにが、胸を貸すよ! 臭すぎるったらありゃしないわ!」

 

「「ふん!」」

 

 こうして、私とアリサさんは顔を背けて別れて行った。まったく、素直じゃない奴め。目から水が垂れてるぞ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 試合が終わって、学園艦が出発する時刻まで自由時間だ。もちろん、生徒会以外はだが……。

 

 私は制服に着替えて、大会の運営委員に挨拶をしに行って来た。

 結構遅くなったな。もう夕方じゃないか。

 

 しかし、まいった。携帯電話をロッカーに忘れてしまって連絡がみんなと取れなくなってしまった。何も無ければいいんだけど。

 

 

「ちょっと、あなた!」

 

「はい?」

 

 私は声のした方を振り返った。誰もいない……。おっかしいなー、疲れてるのか?

 

「ちょっと、ふざけてるの! こっちだって、言ってんでしょうが!」

 

 大きな声がする方向を向いて目線をグイッと下げてみると、小学生くらいの可愛らしい、金髪の女の子が怒りを剥き出しにしていた。

 

 あれ? この子ってもしかして――あの……。

 

「ええーっと、私に何か用事ですか?」

 

「迷子になったの――」

 

 あー、気のせいかー。あの人と背格好が似てるけど、まさか迷子になるなんてあり得ない。でも、どう見てもこの制服は――。

 

「そっかぁ、じゃあさ。迷子センターがあるから、そこから保護者の人を――」

 

「バカっ! なんでカチューシャが迷子なのよ!? 迷子なのはカチューシャの連れよ」

 

「かっカチューシャさん? カチューシャさんって、あのプラウダ高校の隊長の?」

 

 うわっ、やっぱりカチューシャさんだったか。姿が月刊戦車道で見たまんまだったもん。迷子になるとは思わなかったけど。

 生で見ると凄く可愛い。なんか、イケナイ扉が開きそうになるくらい可愛い。

 

「あら、カチューシャのこと知ってるなんて、あなた中々見どころがあるじゃない」

 

 カチューシャさんはフフンと胸を張って、上機嫌そうな顔をした。

 

「もちろん存じてますよ。同じ戦車道を進む高校生として、昨年の優勝校の隊長を知らないはずがありません。私もカチューシャさんの戦術は参考にさせてもらってます」

 

 プラウダの強さは旧ソ連戦車の性能だけではない。この地吹雪の異名をもつカチューシャの変幻自在の戦術こそがプラウダ高校の真骨頂だ。

 

「へぇ、じゃあ、あなたがさっきの大洗の戦いを……」

 

 そう伝えた瞬間にカチューシャさんの目つきが鋭くなる。さっきは可愛いと思ってたのに――ダージリンさんやケイさんにも勝るとも劣らないプレッシャー……。

 

「ええ、一部は副隊長の私が考えました。フラッグ車を囮にして敵戦力をおびき寄せる作戦です」

 

「そう、あなたが大洗の副隊長なのね。――ダージリンが言ったとおり、中々見どころがあるじゃない。仙道玲香だっけ? 喜びなさい。カチューシャ直々が褒めてあげるわよ」

 

「ほっ本当ですか! いや、嬉しいです! 尊敬するカチューシャさんがまさか私を褒めてくれるなんて、自慢話が出来ましたよ」

 

「そっそぉ? ますます可愛らしいわね。いいわ、あなた、ちょっとかがみなさい!」

 

 カチューシャさんはとても気の良さそうな顔をして私に命令する。

 屈むって、こうすればいいのかな?

 

 って、カチューシャさん? どうして私の肩に!?

 

 

「さぁ、立ち上がりなさい! ちょうどいい大きさの貴女に声をかけて良かったわ! それに、ノンナよりも大きな女の子も初めて見たわよ! 貴女をノンナ捜索隊の副隊長に任命してあげるわ!」

 

 なんか、よくわからん内にノンナさん捜索隊の副隊長に任命された私はカチューシャさんを肩車することになった。

 

 うーん、そんなに私は暇じゃないわけだが、この状態でカチューシャさんを置いていく非道な真似は出来ないし、さっさとノンナさんを見つけよう。

 

 私は観念して歩き出した。カチューシャさんは高いところが好きらしく上機嫌で体を揺らしていた。ふぅ、ノンナさんって苦労してそう……。

 

 

「ねぇ、貴女……。カチューシャのこと尊敬してるって言ってたわよね?」

 

 しばらくして、高さに慣れたのか、飽きたのか、カチューシャさんは私に質問をした。

 

「ええ、もちろん。貴女は体格のハンデをものともせずに優勝校の隊長にまでなった方です。その気高さと戦車道に捧げる姿勢は見習いたいと思っていますよ」

 

「へぇ、随分と殊勝なことを言ってくれるじゃない。じゃあ、車長の居ないフラッグ車に攻撃命令を出す隊長ってどう思う?」

 

「――っ」

 

 肩の上から、またすごいプレッシャーを感じるぞ。そういえば、さっきダージリンさんに私のことを聞いたとか言ってたな。

 そうか、この人は私たちの隊長が誰なのか知っているんだ。

 

「そりゃあ、どう思うって、当たり前のことをしたって思いますよ。逆に狙わない方がどうかしてますねー」

 

「あらぁ、ちょっと意地悪な質問をしたつもりなのにそんな風に返すのね。あなたの所の隊長が聞いていてもそう言うのかしら? あなたのお友達が――」

 

「ああ、みほが居たらですか? 出来れば、今のみほはそのことがキッカケでちょっとナーバスなので控えていて欲しいですねー。でも、私は答えを変えませんよ。ただ、ふたつ付け加えるだけです」

 

「ふーん、何を付け加えるっていうの?」

 

「まずは、みほに危ない真似はするな。少しは自分の心配をしろって伝えます。でも、ああ見えてみほって身体能力が異常だからなぁ。大して危なくなかったかもしれません。あとはですね、もし、私がみほと同じ車両に居たら。車長が居なかった程度で撃破なんてされなかったでしょう――って付け加えます。ついでに優勝も貰って帰ったりして――。まぁ、仮定の話ですけどねー」

 

「へぇ……優勝ねぇ」

 

 だぁーっ、しまったー! 西住まほさんに続いてカチューシャさんに向かって何を言ってるんだ私はー! 肩越しに伝わるプレッシャーがさらに跳ね上がってるー! 戦闘力53万くらいになってるー!

 

「くすっ、くすくす……。あーはっはっはっは! 良いわねぇ、もう貴女、最っ高じゃない! 意地悪な質問をしたのに、このカチューシャに向かって、そんな啖呵を切るなんて――。しかも、貴女からは微塵も嘘っぽさを感じなかったわ。貴女って馬鹿な子ねー」

 

 突如、大声で笑いだしたカチューシャさん。よかった。怒られるのかと思ったよ。

 危なかった。口は災いの元なんだから気を付けなきゃ。

 

「そんなに笑わなくたって――」

「あっ、ノンナを見つけたわ! ノンナー、ノンナーっ! こっちよー!」

 

 カチューシャさんが手を振る方向に、長い黒髪の美女にしてプラウダ高校の副隊長。ブリザードの異名をもつ、ノンナさんが歩いていた。

 

 うわぁ、近くで見るとなんて美しい人なんだろう。それにキリッとしていてカッコイイ。西住さんもこういう人やナオミさんみたいな人を見てカッコイイって言えば良いのに。

 

「探しましたよ。カチューシャ……。一体どこへ行って迷子になったのですか?」

 

 やっぱり迷子だったんじゃないか。

 

「うっ煩いわね! ノンナがカチューシャの手を握り忘れたのがいけないのよ!」

 

 カチューシャは文句を言っている。

 

「あっ、プラウダ高校の副隊長のノンナさんですね。私は――」

「存じてます。大洗女子学園、戦車道チームの副隊長。仙道玲香さんですね」

 

 間髪を入れずに冷静な口調でノンナさんは私の名前を答える。

 

「あのブリザードのノンナさんに覚えていただけて光栄です。今日はダージリンさんから誘われて来られたのですか?」

 

 私はカチューシャを降ろしてノンナさんに話しかける。

 

「ええ、なんでもダージリンさんによれば番狂わせが起こる可能性が高いと言われましたので――準決勝でぶつかる最有力のサンダースが負ける可能性があるなら、一度その学校を見ようと思いまして……、カチューシャと……」

 

 ダージリンさん、余計なことを……。プラウダに警戒なんてされたくないよ。

 

「珍しくダージリンがマトモなことを言ったわね。仙道玲香――だっけ? カチューシャが貴女たちを敵として認めてあげるわ! 準決勝まで上がってきなさい、叩き潰してあげるから」

 

「ええ、そうですね。カチューシャ。軽々しくカチューシャを肩車するような人間は磔にして砲弾の餌食にしてあげましょう」

 

 こっ怖い……、噂通りめちゃくちゃ怖いんだけど。

 

「ノンナ、後輩に向かって情けないわよ」  

   

「失礼しました。玲香、カチューシャを連れてきてくれて感謝します。それでは、私たちはこれで……」

 

 ノンナはカチューシャの手を引いて歩き出した。 

 しかし、すぐにこちらを振り向いてニコッと笑った。

 

「そうそう、貴女と西住流の連携技を見せてもらったけど。カチューシャとの戦いのときはあんなもん使うんじゃないわよ、弱点だらけじゃない」

 

 カチューシャさんが私の表情を読み取るように、顔を見てくる。揺さぶるなぁ、この人は本当に……。まぁ、隠しても仕方ない。

 

「あははっ、バレちゃってます!? そうですね、あの連携の弱点は私ですから。十分分かってますよ。そっかー、流石はカチューシャさん。敵わないなー」

 

 そう言って笑顔を作ると、カチューシャさんはニッコリ笑った。

 

「ほらねー、ノンナ。この子って面白いでしょ、戦うのが楽しみね――それじゃ、また、ピロシキー」

 

до свидания(ダスビダーニャ)(また会いましょう)」

 

 そう言って2人は去って行った。

 

 はぁぁぁぁぁぁ、すっごいなぁ、カチューシャさんは――見抜いていたか、双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)の弱点を……。

 

 プラウダと戦うことになったら骨が折れそうだ。まったく、もう!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 とにかくお腹がすいた私はやっと仕事が終わり、手早く携帯電話を回収して食事を出来るところを探しながら歩いた。

 着信履歴を見ると、秋山さんからアホみたいに履歴が入っていて慌ててかけ直した。

 

 どうやら、冷泉さんの『おばぁ』とやらが倒れて、急いで大洗に行かなくてはならなくなったが、船はすぐに出ない。だから、私にヘリコプターを出して欲しかったらしい。

 

 くそっ、私は肝心なときに使えない無駄ヘリコプター免許女だ! 困ってる友達の危機に携帯を忘れてカチューシャさんと雑談していたなんて。

 

 それで、大丈夫なのか確認したところ、なんと西住まほさんが黒森峰のヘリコプターを貸してくれたらしい。逸見エリカさんの操縦で冷泉さんと武部さんは病院に向かったとのことだ――。

 うん、私もお見舞いに行こう。せめてもの罪滅ぼしに……。

 

 それにしても、なんだ、やっぱりいい人じゃん。西住まほさんも、逸見エリカさんも。安心したよ。あとは西住さんに勇気があれば仲直り出来そうだな。

 しかし、黒森峰には借りが出来てしまったな。なんとか返したい。

 

 ふーむ、とりあえず、腹が減ったのでここで食べよう。

 

 私は食事をすることにした。

 

「甘口で納豆トッピングでお願い!」 

「店主、4辛で頼む。トッピングでソーセージを――」

 

 ん? この声ってまさか――西住まほさん?

 カウンター席で黒森峰の隊長と隣り合わせになってしまった。




カチューシャとノンナの関係が好きすぎて、カチューシャのようなキャラクターを魔王にして、副官をノンナのような魔剣士にしたファンタジー小説を書いた黒歴史があります(笑)
また、次回もよろしくお願いします!


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黒森峰の隊長と副隊長、再び……

気付けば、連載を開始してちょうど一週間。
思ったよりも読んでいただけているので、読者様には感謝しております。
一週間で、9万字投稿って自己最速ですけど、多分サイト内でもクオリティは置いといて速い方ですよね?
質も上げられるように頑張ります!

今回もオリジナルエピソード。まほのキャラクターは半分妄想なので、ご容赦を……。
それでは、よろしくお願いします!


「にっ、西住まほさん! 何をしているんですか?」

 

 私はさっき秋山さんからヘリコプターを貸してくれたと聞いていたので、その本人が隣に居て驚いた。

 

「何って、見ればわかると思うが……。カレーを食べようとしている」

 

 まほさんは当たり前だと言わんばかりの表情でカレーが運ばれて来るのを見ていた。

 

「あっああ、そうですよね。これは、失礼しました――ええーっと、もしかしてウチの生徒にヘリコプターを貸したので、学園艦に戻るのが遅れているのでしょうか?」

 

 私がそう尋ねると、まほさんのスプーンがピタリと止まった。ビンゴのようだ。

 

「申し訳ありません! あのう、待たせてしまっては悪いので、よろしければ私にヘリコプターで黒森峰の学園艦までお送りさせていただけないでしょうか?」

 

「――何? 君はヘリコプターを操縦出来るのか? そうか、なら私は余計なことをしてしまったな」

 

 まほさんはそう言うと、カレーを黙々と食べ始めた。

 

「いや、そのう。私にも連絡が来ていたみたいなのですが、携帯を忘れてまして――さっきまで気付いてなかったのですよ。ですから、ぜひとも送らせてください」

 

「結構だ。私はエリカの帰りを待つ――」

 

「最近のみほの日常の話もしたいのですが――」

 

「早く食べなさい。冷めてはカレーは美味くないぞ。みほの話が特に聞きたいと言うわけではないが、そこまで君が言うのなら無碍にするわけにもいくまい。黒森峰まで頼もう」

 

 早口でまほさんはそう言うと、素晴らしいスピードでカレーを平らげた。

 それに圧倒され私も納豆を殆どかき混ぜることなく、ぶっかけて味わう暇もなく平らげる羽目になった。

 

 先日、薄々感じていたことがある。

 

 西住まほさんは妹が大好きだ――かなりの高確率で……。

 しかし、口下手で不器用だから、勝手に西住さんが怖がっているのだ。

 まぁ、怖いよね、この人。無駄に威圧感があるし。

 生徒会に入って反社会勢力的な人を追い出す作戦とかに参加してなかったら、びびってたもん。

 

「さぁ、まほさん。ここが大洗の学園艦ですよ。どうですか? みほに会って行きます?」

 

「ふぅ、君は余計なことをしなくて良い。早くヘリコプターまで案内しなさい」

 

「はぁ、素直じゃないですねー」

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ、何も言ってませんよー」

 

 素直になれないまほさんをヘリコプターに乗せて、私は思いもよらない形で憧れていた黒森峰女学園に行くことになったのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ヘリコプターの中で黙っているまほさんに、私は聞かれてもない西住さんの日常の話をしていた。

 まほさんは、黙って聞いていただけだったが、どこか顔が安らいだように見えた。

 

 

 

 そして、私はきっちりと黒森峰の学園艦に着陸することが出来た。

 

「ご苦労だった。君の友達を送り届けたエリカにも直接学園艦に戻るように伝えた。直に戻って来るだろう」

 

「それはよかったです。では、私はこれで……」 

 

 私は大洗に戻るためにヘリコプターに再び乗り込もうとした。西住まほさんとも、(一方的に)おしゃべり出来たし、とっとと寮に戻るとしよう。

 

「待ちたまえ」

 

「えっ?」

 

 私はまほさんの言葉に振り返る。あれ、何かヘリコプターの中に忘れ物でも? 

 

「せっかく黒森峰に来たんだ。君も志望校だったと言っていたし、少し見学していくか?」 

 

 まほさんは腕を組みながら私にそう尋ねた。

 えっ、マジで? 黒森峰の学園艦を見ていっても良いの? よしっ、この機会を逃してなるものか!

 

「うわぁ、とても嬉しいです! なんせ、ずっと憧れていましたから――」

 

「そっそうか。わかったから、ちょっと顔を離してくれ、近いぞ……」

 

「すっすみません。つい……」

 

 私はまほさんの肩を掴んで、ずぃっと顔を近づけてしまっていたので、慌てて離れた。

 

「とはいえ、部外者の君に見せられるのは限られているがな。付いて来なさい」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 私は黒森峰を案内してもらうことになった。ここが西住さんがこの間まで通っていた高校か……。そして、私が怪我をしなければ入学していた――。

 

 部外者には見せられない場所が多いとは言われつつも、割とガッツリ戦車や演習場は見せてもらえた。えぇ……。決勝って確か20両までオッケーなんだよね。

 ティーガーやパンターを中心に重戦車がズラッと並んでるんだけど。私たちは5両でどうすりゃいいんだよっ!

 

 あれっ? これって、もしかして私に現実を見せて心を折る作戦なのかな?

 

「どうしたんだ? 何を考えていた?」

 

「いえ、どうやって5両で黒森峰に勝とうか考えていただけです」

 

「ほう? 5両で、私たちに?」

 

 いやいや、違いますって。考えて無理ゲーって素直に思ってただけです。やめてください。いい度胸だな、お前って表情するの。

 

「今日の試合を見させて貰ったよ。サンダース大学付属高校に完勝した君らは確かに強いと認めてもいい。特に仙道玲香、君はやはり強い――」

 

「はぁ、ありがとうございます。黒森峰の隊長からそう言ってもらえるとは……」

 

 私はまほさんのまっすぐな視線を受け止めて目をジッと見ていた。

 

「どうだ? ウチに転校して来ないか? 次の隊長はエリカに任せようと思っているが、副隊長になりそうな人材には迷っていてね。君になら、エリカの副官を任せてもいい――」

 

「私をダシにみほを連れ戻す気ですか?」

 

 黒森峰の隊長がいきなりそんなことを言うとは思わなかったので、西住さんを連れ戻す目的で私を利用しようとしていると思った。

 

「そうか、なるほど。そういう手もあるのか……」

 

「えっ? まほさん?」

 

「いや、何でもない。みほは戻らないだろう。そもそも我が校の戦車道に合ってなかったのかもしれない。しかし、君は違う。仙道玲香の戦闘スタイルはどう考えてもこっち側だろ? 勝利への渇望と執念、そしてその為に獰猛な獣へと変わる君の戦い方は黒森峰にこそよく馴染むはずだ」

 

 まほさんはかなり饒舌に私の戦い方の分析を語った。いや、よく見ていらっしゃる。負けず嫌いの私の戦い方を……。

 

 確かに、あの重戦車を自在に動かせたら――とはよく思った。しかし――。

 

「ダシに使うとは言い過ぎました。過分な評価を頂きありがとうございます。でも、もう私は大洗の水がたまらなく好きになってしまったのです。今さら別の場所の水を飲む訳にはいきません――」

 

 そう、私は大洗が、生徒会が、戦車道チームが大好きだ。離れるつもりはない。

 

「ふむ、大洗の水というが……、学園艦の水はどこの学園艦も海水をろ過したものではないのか――」

 

 まほさんは真顔で答える。なんか、凄く恥ずかしいんだけど……。また、生真面目なツッコミを――。

 

「いえ、まぁ、そうなんですけど。それは比喩表現というか、なんというか――。それに――」

 

「それに? なんだ?」

 

「それに、今はみほは大洗にいます。私は彼女のいい友であり、いい仲間で居たい。あと、まほさんや逸見エリカさんは、なんていうか、そのう、ライバルでいたいなっていうか、勝ちたいっていう感じですね。今の私は、この大洗の戦車道チームでどうやって()()するか、それだけしか頭にはありません!」

 

 あっ、今、また言っちゃったわ。優勝って確かに言っちゃってる。なんで、こう、私は――。

 

「そうか――君は面白いな。ふふっ、ライバル、それに優勝か。普通は身の程知らずと言われるようなことでも、中々どうして、君が言うと、あり得てしまうのではないかと思ってしまう。非礼はこちらにあったようだ。優勝チームの副隊長になるやもしれん人を、準優勝校の副隊長の地位で釣ろうとしたんだからな――」

 

「いえ、そういうわけでは……」

 

 私は手をブンブン振って否定した。いくらなんでも、そんな大それたことを言ったつもりはない。

 ていうか、まほさんって自虐的なことも言うんだ。

 

「そうかな? まぁいい。では、質問を変えよう。その、どうかな――私とそのう、友達とやらになるっていうのは?」

 

「はいぃ?」

 

 えっと――耳が悪くなったのかな? 今、まほさんが友達になってくれって言ったように聞こえる。

 

「いや、やはりダメか。君のような友人が欲しかったのだが――」  

 

 めっちゃ、しょんぼりしてる。えっ、そういうところ西住さんと似てるんだけど。

 

「もちろん、いいですって。むしろ、ウェルカムっていうか、嬉しいです。私もまほさんと友達になりたいですよ」

 

「ほっ本当か?」

 

「ええ、ぜひともお願いします。じゃあ、これからは私のことを玲香って呼んでください! 携帯の番号を交換しましょう、ほら――」

 

「番号を交換? ああ、これだな。どうすればいい? まいったな、こういうのはエリカにさせているのだが――」

 

「ええっと、ですね。ここをこうして――」

 

「ほう、なかなか便利なんだな」

 

「まほさんって、戦車道一筋って感じで、ゲームとかもしなさそうですよね」

 

「ゲームくらいはするぞ。将棋は得意だ!」

 

「えっ、本当ですか。私も得意ですよー。今度、勝負しましょうよー」

 

 こうして、私は西住さんのお姉さんのまほさんと友達になった。私にはどう考えても口下手ないい人にしか見えないんだけどな。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ちょっと、あなたがなんで黒森峰にいるのよ! 何してるの!」

 

 逸見さんの声が黒森峰の隊長室で響き渡る。

 

「えっと、将棋をしてるんだけど。むむ、やりますねぇ。ここはどうですか? 王手ですっ!」

 

 パチリと私は駒を移動させる。うへぇ、まほさん棋力知らないって言ってたけど、本当に強い。私は一応アマ5段なんだけどなぁ。

 

「見たら分かるわよ! なんで、あなたが当たり前のような顔をして黒森峰に居て隊長と将棋をしているの? って聞いてるの!」

 

「エリカ、ご苦労だった。玲香は友人としてここに招いた。――なるほど、では、こうしよう」

 

 まほさんは盤面を凝視しながら答えた。

 

「友人? あれ、私の耳がおかしくなったのかしら。隊長が友人など作るわけが……」

 

 さり気なく、それは失礼じゃないか? 気持ちは分かるけど……。

 

「このノリで逸見さんも友達にならないか? ハンバーグ好きなんだってね、美味しいところ知ってるよ。――むむ、これでどうでしょう?」

 

「誰があんたなんかと! 隊長も勝手に人の話をしないでください」

 

「しかし、私はまほさんと友達だからね。聡明な逸見さんなら言ってること分からないか? 私は割と友達の言うことを聞くタイプだよ。大体、君と私はなーんにも蟠りのない、フラットな関係のはずだろ?」

 

「……」

 

 逸見さんは少し黙った。そして……。

 

「じゃあ、例えば……」

 

 しばらくして、私に耳打ちした。ああ、やっぱりこの人、まほさんのこと――。

 

「うん、全然いいよー。そんなの簡単じゃん。約束するよ」

 

「そっそう? じゃあ、友達になってあげてもいいわよ」

 

 逸見さんは目を背けながら、そう言った。この人からはアリサさんと似た匂いを感じる。

 

「じゃっ、エリカ! よろしくね! あっ、これで詰みですよ、まほさん」

 

「ちょっと、いきなり呼び捨てって馴れ馴れしくない?」

 

「ええー、そうかな? エリカさんって呼んで欲しいの?」

 

「それは、それであの子みたいで嫌ね。エリカでいいわよ」

 

「じゃっ、それで! 私は玲香って呼んでくれ」

 

 私は逸見さんと友達になった。まずはこの人のことをよく知ってみよう。なぜ、西住さんとの関係に亀裂が入ったのか? 

 それも親しくなれば分かるだろう。

 

「ふむ、負かされるとはな。これで1勝1敗か……。もう一戦やるか?」

 

「いやー、さすがにそろそろ帰らないとまずいです。今度、決着をつけましょう。その前に全国大会の決勝で戦うかもしれませんが!」

 

「そうだな。楽しみにしよう。君のポテンシャルはまだあんなものじゃあないはずだ」

 

「1回戦はまぁまぁだったわね。でも、5両じゃ2回戦は勝てても準決勝は無理じゃないの?」

 

「そうなんだよなー。正直、厳しいです。友達のエリカよ、何とかパンターかティーガー貸してくれ」

 

「無茶言わないで頂戴! たっ隊長! ダメですからね! 考える仕草を止めてください!」

 

 やはり逸見さんには才能がある。ツッコミの才能が! 

 好きなんだよなー、河嶋先輩やアリサさんみたいなタイプ。会長のせいだ絶対。

 

「じゃあ、次はいつ会えるかわからないので、写真を撮りましょう。友達ってそういうもんですから」

 

「そっ、そうなのか? すまない、こういうことには疎くてな」

 

 まほさんは真面目な表情でそう答える。本当に西住さん以上に浮き世離れしてるな、この人は。

 

「そうですよ、ねぇ、エリカ?」

 

「えっと、えっ?」

 

 逸見さんはキラーパスを送られてしどろもどろになっていた。

 

「エリカ、もう、いっそのことまとめて3人で撮ってもいいかな?」

 

「はっ――。――ええ、そうね。隊長に時間を取らせるわけにはいかないわ。ちゃっちゃと撮りなさい!」

 

 てな訳で、自撮りを3人で密着して撮ったわけで――それと引き換えに逸見さんの連絡先を手に入れたのだった。

 

 

 こうして、私はヘリコプターに乗り込み、もうとっくに出発した大洗の学園艦を目指したのだった。

 

 なんか、今日は凄く濃い1日だったような気がするぞ――。




やっとオリジナルエピソードが大体終わって本編に戻れそう。
残っているのはみほとの約束くらいですね。
コミカルな感じを目指して今回は書いてみました。如何でしたでしょうか?

次回もよろしくお願いします!
多分、明日の昼過ぎには投稿します!


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お見舞い、そして次に向かって……

今回は原作7話のダイジェスト的な感じに玲香を織り交ぜたような感じです。
戦車探しはネタが思い付かなかったのでカットしました。それではよろしくお願いします!


「ここが冷泉さんのお祖母さんの病室か」

 

 西住さん、秋山さん、五十鈴さんの3人と冷泉さんのお祖母さんのお見舞いに大洗の病院に来ている。

 

 私服のみんなを見るのはもしかして初めてかも。よく考えたら、ずっと制服だったな私たち。

 というか、私はサイズがないからメンズファッションばかりしか私服を持ってない。その上、こだわりもない。

 今さらだが、適当にラフなTシャツとジーンズを選んで着たのは間違いだったか? さっき、女の看護師さんに連絡先を聞かれたが、仕事をしろと言いたい。

 

 なぜか、西住さんはいつもよりテンションがなぜか高かった。お見舞いに行くんだからもうちょっと自重してほしい。

 

「では、行きましょう」

 

 花束を抱えた五十鈴さんが病室のドアを開けようとする。

 

 しかし、そのとき――。

 

『いいから、もう帰んな! いつまでも病人扱いするんじゃないよ! あたしのことはいいから、学校行きな! 遅刻なんかしたら許さないよ!? ――なんだい? その顔? 人の話を聞いてんのかい! まったく、お前は返事も愛想も無さすぎなんだよっ!』

 

『そんなに怒鳴ると、また血圧上がるから――』

 

 お年寄りの女性の叫び声と冷泉さんの声が病室から聞こえる――ふむ、大声を出してるのは冷泉さんのお祖母さんか。

 

「帰りますぅ?」

 

 秋山さんがドン引きした顔をしている。潜入とかはするけど割と気が弱いんだ。

 

「いえ、ここは突撃あるのみです」

「良かったじゃん。元気そうで。これなら、気楽に入れるな」

 

 五十鈴さんと私は同時に答えた。

 

「五十鈴殿って肝座ってますし、玲香殿ってやたらポジティブですよね」

「くすっ……」

 

 秋山さんのツッコミに西住さんが微笑む。

 

「失礼します」

 

 五十鈴さんが先頭で病室に入る。中には冷泉さんと武部さんと冷泉さんのお祖母さんが居た。

 思ったとおり気の強そうなお祖母さんだ。

 

「あっ、華! みぽりんもゆかりんも、れいれいも、みんな来てくれたんだー」

 

 武部さんは微笑みながら声をかけた。君だけなんだけど、『れいれい』って私を呼ぶの。定着は勘弁して欲しいかも。

 

「誰だい? あんた達?」

 

「戦車道を一緒にやってる友達」

 

「戦車道? あんたがかい?」

 

「うん……」

 

 訝しいような表情でお祖母さんは私たちを一瞥し、戦車道というワードを聞いて目を丸くする。

 

「あっ、西住みほです」

「五十鈴華です」

「秋山優花里です」

「仙道玲香です」

 

「私たち、全国大会の1回戦勝ち抜いたんだよー」

 

 私たちは自己紹介をして、武部さんが情報を付け加える。

 

「1回戦くらい勝てなくてどーすんだい? あれ? 麻子、あんたの所の高校って女子校じゃなかったのかい? どうして男の子と戦車道してるんだい!」

 

 あはは……、久しぶりにこうなったか。スカートにすりゃ良かった。

 

「おばぁ、あの人、一応女の子……」

 

 おいっ! ()()はおかしいだろ! 戸籍謄本かパスポート持ってこようか?

 

「ふぅーん、無駄に男前だねぇ! あんたは戦車道より、宝塚にでも行けばいい!」

 

 無駄にって……、はははっ、まいったな。

 

「んなこたどーでもいいや、んで、戦車さんたちがどうしたんだい?」

 

「試合が終わったあと、おばぁが倒れた連絡があって、みんな心配して来た」

 

「あたしじゃなくて、あんたのことを心配して来たに、決まってるだろ! ちゃんと、お礼を言いな!」

 

「みんなわざわざ、ありがとう……」

 

「もっと愛想よく出来ないのかい!」

 

「ありがとう……」

 

「さっきと同じだよっ!」

 

 ふぅ、凄いお祖母さんだな。唯我独尊の冷泉さんがタジタジだ。そりゃあ、武部さんの『おばぁ』に言うよっていうのが、最終兵器になるはずだ。

 間違っても遅刻400日見逃しとか言わない方がいいな。

 

「お祖母ちゃん、昨日まで意識が無かったんだけどね。今朝起きるなりこれなんだ……」

 

 マジか、それはそれで心配だな。

 

「お花を飾りたいのですが、花瓶あります?」

 

「ここにはないけど、ナースセンターにあるかも、行こっ」

 

 うん、私は連絡先聞いてきた、看護師さんが怖いからいいや。

 

「あんたらもこんな所で油をさすぐらいなら、戦車に油をさしな」

 

 会長なら、座布団いちまーいって言ってる。意外とひょうきんなのだろうか?

 

「まったく、この子なんてなーんの役にも立ってないだろう?」

 

「いえ、冷泉さん。いつも試合のとき冷静で助かってます」

 

「へぇ、この子がかい?」

 

「それに凄く戦車の操縦が上手いんですよー」

「うん、麻子の操縦は天才の領域ですから。それでご飯食べれるくらいですね」

 

「ふん、戦車の操縦が出来たって、どーせ、おまんま――食べれるのかい!?」

 

 私のご飯食べれる発言がよほど驚いたのか、お祖母さんは目を見開いて、こちらを見た。

 

「――ええ、まぁ。戦車道は近々プロリーグが出来ますから。麻子の才能なら、このまま戦車道を続ければ日本トップクラスの操縦手になれるでしょう。となれば、プロのドライバーになることも可能かと」

 

「ふーん。この子がねぇ」

 

 お祖母さんは孫が褒められて、少し嬉しそうだった。

 

 そして、帰りがけにこう言い放った。

 

「あんな、愛想のない子だけどね、よろしく頼むよ――」

 

 冷泉さんが部屋から出たあと、私たちにだけ聞こえるように……。本当に、冷泉さんのことを大切に思ってるんだな。

 

 

 

 

 

 

 寝てしまった冷泉さんを背負いながら、大洗の学園艦を目指す。

 先日のカチューシャさんといい、なんか小さな子を肩車とか背負うとか運搬役をしていると、母性に目覚めるというか、和む。

 今度、会長に頼んで肩車させてもらおうかしら。

 レイーシャとアンナみたいな――ん? それじゃ逆か。

 

 その道中で武部さんから聞いた話によれば、なんでも冷泉さんのご両親は事故で亡くなられて、お祖母さんが最後の身内らしい。

 だからこそ、冷泉さんはきちんと卒業してお祖母さんを安心させたいのだそうだ。

 

 そうかぁ、そりゃあ単位を気にするよな。遅刻回数取り消しは魅力的になるよな。何だか、戦車道の成績云々関係なく、遅刻くらいなんとかしてあげたいと思ってしまった。流石に出来ないけど……。

 

 戦車道の成績って言っても連帯責任だからな。私も優勝を目指すことで冷泉さんを後押ししよう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「そう――だよね。勝たなきゃ意味ないよね……」

 

 ちょうど昼過ぎに戦車でも見ながらご飯を食べようとしていたら、あんこうチームと合流して一緒に格納庫で食べることになった。

 西住さんは勝てるかどうかのプレッシャーでナーバスになってるみたいだ。

 

「そうでしょうか?」

 

「えっ?」

 

 キョトンとした顔で答える秋山さんと不思議そうに見つめる西住さん。

 

「だって、楽しかったじゃないですかー。サンダース戦も練習試合のグロリアーナ戦も、模擬戦だって、整備だって、練習後の寄り道も!」

 

 ニコニコと語るのは、私たちの今日までの軌跡。そうだな、私も楽しいを通り越して幸せだった。

 

「そういえば、私も今はみんな一緒に戦車に乗れて楽しいと思うようになった。前は勝たなきゃって思ってばかりいたから――だから、負けたときに逃げ出したくなったんだ」

 

 あー、去年の試合かー。まぁ、あれは特殊なケースだろ。負けたのは西住さんのせいだけじゃないし。そもそも、西住さんは――。

 

「私、あの試合見てました」

 

 秋山さんも当然去年の試合はチェックしているよね。だからルクレールで立ち上がったんだし。

 

「私は西住殿の判断は間違いでは無かったと思います。――前にも言いましたが、きっと助けてもらった乗員は西住殿に感謝していると思いますよ!」

 

 ニコリと笑って秋山さんはこう締める。まぁ、西住さんは感謝されたくてあの行動を起こしたわけじゃないんだろうけど、それは真だろうな。

 

「秋山さん――ありがとう」

 

 憑き物が落ちたように微笑む西住さん。

 

「うわぁ、すっすごい! 西住殿にありがとうと言われちゃいましたー」

 

 ウネウネと照れる秋山さん。すっごい嬉しそうだな。

 

「戦車の道は一つだけじゃないのかもしれませんね」

 

「私たちの通る道がそれが戦車道になるんだよー」

 

 五十鈴さんと武部さんが話を盛り上げる。私たちの道が戦車道かー。腕を壊して絶望して復帰してそして、私はどこへ向かうのだろうか――。まぁ、西住さんが元気になったのなら良かった。

 

「ごめんね。弱気になって――玲香さんが本当は勝ちたいのはわかってるから――」

 

「げっ――」

 

 私は心を見透かされたような西住さんの視線にドキッとした。

 

「ちょっと、れいれいー。空気読みなよー」

「本当ですよ。ちょうど綺麗にまとまりかけていたではありませんか」

 

 武部さんと五十鈴さんから非難めいた視線を感じる。

 

「やはり、玲香殿は勝たなきゃ意味ないって思っているのでしょうか?」

「単位取得も勝利が条件だった――」

 

 秋山さんや冷泉さんからも冷ややかに見られる。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。ああ、確かに私は負けるのは嫌いだ! だからといって勝利至上主義ってわけじゃないぞ。ただ、世話になった先輩たちが何故か死ぬほど勝ちたがっているんだ。それなら、私くらい本気にならなきゃいけないだろう――。たとえ、見苦しくってもな」

 

 多分、めっちゃ早口だったと思う。だけど、今回は勝たなきゃ嫌な予感がするんだよ。

 あの先輩たちが、あんな強引に西住さんに戦車道をさせようとしたのだから。余程のことなんだ。

 

「ふふっ、大丈夫だよ。玲香さん」

 

「へっ?」

 

「私、玲香さんの為に勝とうとするの――大好きだよっ」

 

「みほ……」

 

 多分、そのとき――私の顔は真っ赤だったと思う。大好きって言われたとき、西住さんの顔がとても眩しかったから――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ごめん、ごめん、五十鈴さん。書類の整理を手伝ってもらってさ」

 

「いえ、いつも玲香さんが居残りをしていて不憫に思っていたので、手助け出来て嬉しいです」

 

「五十鈴さん――本当にありがとう! 本当に河嶋先輩に五十鈴さんの爪の垢を煎じて飲ませたいよ!」

 

「聞こえてるぞ、馬鹿者!」

 

 戦車道の練習にチームが一丸となって、今まで以上に本気で取り組むようになったのは良かったが、副隊長として全員の指導を西住さんと見ていたら、生徒会の仕事が溜まってしまった。

 

 それはもう、書類が東京タワーもびっくりなくらい積まれているのである(半分は河嶋先輩が丸投げしたやつ)。

 

 それを不憫に思った五十鈴さんが、書類の整理を手伝ってくれると申し出てくれた。

 もう、五十鈴さんマジ天使!

 

「あら? 戦車がまだ残っているみたいな記述があるのですが――」

 

「えっ? 本当かい?」

 

 五十鈴さんが見せてくれた書類には、確かに大洗の学園艦に戦車が残っている痕跡があった。

 

 こうしちゃいられないな。

 

 ――というわけで、捜索隊結成!

 

 まぁ、途中で武部さんとウサギさんチームが迷子になるというトラブルもあったが、戦利品は確かに手に入った。

 

 まず、戦車が2両。

 

 ルノーB1bisとそして、あの何だっけ? 凄そうなやつだ。ど忘れしたけど……。

 

 更に75mm砲が何故か見つかった。これで、Ⅳ号戦車が強化されるぞ! やったね! なんか、カバさんチームから秋山さんがグデーリアンって呼ばれてるけど何があったんだ? まぁ、戦力が強くなって良かった。

 

 駆け足でこの出来事を語ったのには理由がある。

 私は今、それどころじゃない窮地に立たされているのだ。

 

 これは――サンダース戦以上に辛いのだが……。

 

 しかし――確かに会長の命令は聞かないとならないし、西住さんとの約束も守らなきゃならない……。

 

 だから……、私は西住さんに声をかけた。

 

「なぁ、みほ――頼みがあるだ……」

 

「うん? なーに? 玲香さん」

 

 西住さんは笑顔で私に顔を向ける。

 

「そのさ、明日なんだけど……、私と――デートしてくれ!」

 

「ふぇ? デート? ふぇぇぇっ!」

 

  西住さんは顔を真っ赤にさせて絶叫した……。

 

 

 




目新しい感じが無くてすみません。
次はオリジナルエピソードなので、よろしくお願いします!


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仙道玲香と西住みほ、デートする 前編

オリジナルエピソードのデート編。思ったよりも長くなったので前後編に分けます。
楽しい内容になっていれば良いのですが……。
それでは、よろしくお願いします!


 昨日――生徒会室にて……。

 

「仙道ちゃーん、2回戦の相手ってもう知ってるっしょ?」

 

「ええ、アンツィオ高校ですよね? 戦力的には恐らく問題なく勝てる相手です」

 

 私はアンツィオに対しての戦力分析を述べた。

 

「へぇ、そりゃあ頼もしいねぇ。でもさ、ちょっと情報が入ってさー、なんでも新しい戦車を購入したらしいんだー」

 

「なるほど。それを探りたいということですねー。わかりました。秋山さんに――」

 

「いや、今回は仙道ちゃんに頼むわー。潜入の手配はしてるからさー」

 

 ふむ、私が潜入かぁ。別に構わないけど……、妙だな。

 

「ああ、そうそう。潜入任務の都合上、西住ちゃんと2人で行って欲しいんだー」

 

「えーっ? みほと潜入ですか?」

 

「聞いたよー、冷泉ちゃんのお祖母ちゃんのお見舞いに行ったから、まだデートする約束守れてないんだってねー。まぁ、潜入は口実でさ、いつも頑張っている隊長と副隊長に1日くらい休んで欲しいって考えてるんだよー」

 

 会長はニカッと小悪魔的な笑みを浮かべてそう言った。別にデートっていうか、二人で出かける約束をしただけなんだけど。

 ふーん、会長が私と西住さんに休息ねぇ……。

 

「でっ? 会長は本当は何を企んでいるのですか?」

 

 私は知っている。この会長の顔は悪巧みをしているときの顔だ。きっと面倒なことを言うに違いない。

 

「にしし、仙道ちゃーん。察しが良すぎるのも問題だと思うんだけどねー」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ごめん、西住さん。会長の思いつきに付き合わせちゃって……。嫌だったら、一度会長に……」

 

 私は男物の黒ジャケットに黒シャツ黒パンツというお酒のコードネームがありそうな服装をしていた。

 

 さらにシルバーのネックレスとゴールドのブレスレット、おまけにサングラスを身につけ、どこからツッコミを入れれば良いのか分からない格好になっていた。

 

 髪型は秋山さんのお父さんに淳五郎特性ホスト風ヘアスタイルにセットされ、もはや別人と化してしまっていた。

 

「ぽーっ。――はっ、いいよ! 玲香さん、すっごくいいと思う! 私、まだ何をするか知らないけど、なんでもやるよ!」

 

 どう考えてもチャラ男にしか見えない格好を良いと言う西住さんに一抹の不安を抱きながら、今回の任務を話すことにする。

 

「いいかい、今回の任務はアンツィオ高校が新たに購入したという戦車を特定することだ。で、私たちは観光客の戦車道好きなカップルとして潜入する(すでに意味が分からないが)。何とかデートをするカップルという体裁を保ちアンツィオの秘密を探るという内容だ」

 

 絶対に半分以上が会長の悪ノリだ。しかし、西住さんと二人で出かけるって約束も果たしてないし……。

 待てよ、そもそも、西住さんはこんなふざけたことを提案を拒否するので――。

 

「わかった! えへへ! 頑張ってみるよ!」

 

 うっ、西住さん、なんでこんなにやる気に満ち溢れているんだ。

 まるで戦車について語っている秋山さんくらいイキイキしてるぞ。

 

「そして、このサングラスは映像を大洗に送ることが出来て、さらに骨振動を利用して通信も出来るらしい。どうやら、会長からの指示を実行しながら任務をこなすということみたいだ」

 

 ええ……。これが1番心配な点。絶対に私たち会長の悪趣味のオモチャにされるよ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 観光客用に出ている船に乗り込んで、私と西住さんはアンツィオ高校に堂々と正面から入り込んだ。ちなみに西住さんは顔が売れているので、麦わら帽子と伊達メガネを着用している。

 これで誤魔化せるのか不安ではあるが……。

 

 アンツィオ高校はイタリア風の学校で、資金難らしく、観光にも力を入れている。

 

 構内にはにはスペイン階段風階段や、三神変形合体教会、さらにトレヴィーノの泉などイタリアにあるような無いような怪しい建造物が揃っていて、観光客からの人気は高い。まさに『テンション上がるなぁ。テーマパークに来たみたいだぜ』って思える学園艦だ。

 学園長曰く「ローマよりもローマ」なのだとか、うーん、よくわからん。

 

 そんなわけで、観光客が堂々としていても問題ないのだ。

 

『仙道ちゃーん、やっぱりさー。カップルっていうからにはラブラブな感じが必要なわけだよー。西住ちゃんに腕を組むように頼んじゃってよー』

 

 はぁ? 何言ってんだ?

 

『まぁまぁ、もちろん西住ちゃんが嫌だって言ったら、やらなくてもいいからさー。一応、頼んでみてよー』

 

 まぁ、頼むだけなら……。仕方ないな。

 

「みほ、そのう……、腕を組んで歩かないか? 一応、オレたち、恋人同士だろ?」

 

 会長の命令によりアンツィオにいる間は男口調を強制させられている。

 

「えっ、えっと、その……、そうだね。うん……」

 

 あれれぇ? おかしいぞぉ? 殺人現場で何かを発見したコナン君みたいな声が出そうになった。

 

 西住さんは私の腕にしがみつくように、くっついて顔を肩に当てている。まるで、本物のカップルみたいに……。

 

 なんか西住さん、今日は香水つけてるのかな。甘い匂いがするんだけど――。

 あれっ? なんか変だな――どうして私はドキドキしているんだ?   

 これが、西住さんの演技? みほ、恐ろしい子――月影先生もびっくりだ。

 やはり、西住流というのは潜入術も訓練するのだろうか。

 

「ねぇ、玲香さん。これから、どうするの?」

 

「みほ、忘れるなよ。オレの名は仙道レイだろ? レイって呼んでくれ……」

 

「うん、わかったよ。レイくん」

 

「それでいい。そうだな、これから情報収集に向かいたい。ちょっと見晴らしの良いところでも行こうか? あそこなんてどうだ? あれは多分、スペイン階段風階段とかいうやつだろう」

 

 ローマのスペイン階段を丸パクリした建造物を指さして私はそう言った。ローマの休日ごっこが出来るね。

 

「うわぁー、本当の恋人みたーい!」

 

 西住さんは危ない発言をする。まったく、注意しなきゃだめだな。

 

「駄目だよ、みほ。今はオレたちは本当の恋人だろ?」

 

 私は西住さんにコッソリ耳打ちした。潜入任務の間は私たちは本当のカップルとして完全に演技しなくてはならない。

 だから、『みたい』とか言ったらダメなのだ。さっきは上手い演技だと思ったのだが……。

 

「そっ、そうだね。本当の恋人……えへへ」

 

 西住さんの腕の力が強くなる。そう、そうだ。演技に身が入ったみたいなので私は安心した。

 

 

 

「うわぁ! 見晴らしがいいねー」

 

「ああ、だけど――目的の場所は見つかりそうもないな」

 

 1番上まで行ったけど、確かに見晴らしは良いが、怪しい場所は見当たらなかった。

 てことは、ここから見えない場所か。うーむ。

 

「あっ、姐さん! すっごくまぶい、美男美女のカップルっすよ!」

 

「ばっ馬鹿っ! ペパロニ! 指をさすな! 失礼だろうが!」

 

「確かに、芸能人みたい。特に男の方なんて、俳優さんっぽいわねー」

 

 こちらの方に向かってくる3人組――真ん中の女性、ドリルツインテールと黒いリボンには見覚えがある。確か、アンツィオ高校の戦車道の隊長――安斎千代美さんだ。

 

 なんという幸運。しかし、直接接触しても良いものか……。

 

『そりゃあ、接触するしかないっしょ。まぁ、新しい戦車について聞くタイミングは任せるけどー。バレちゃいけない本命だ。イチャイチャするのは忘れないでねー』

 

 まぁ、妥当な指示だな。答えが近づいているのに離れる理由がない。

 

「みほっ、よく聞いてくれ」

 

「ひゃっ、ひゃい。レイくん……」

 

 私はヒソヒソ話をするために西住さんを抱きしめて、耳に口を近づけて話しかける。これなら、向こうからみれば、カップルがイチャついているようにしか見えないだろう。

 西住さんは潜入術を極めていると思われるので、これくらい問題なかろう。

 

「今、アンツィオの戦車道の隊長が近づいている。オレは彼女に接触しようと思っている――。話の流れはオレが作るからみほは合わせてくれ」

 

「う、うん……」

 

 みほは顔を紅潮させて、小さく返事をした。ふむ、この照れる演技……。なんか、かわいいな。

 

 では、接触してみるか……。

 

「やぁ、お嬢さん方! この学校の生徒だね? ちょっとさ、お伺いしたいことがあるんだけどいいかな?」

 

 私はくるりと振り向き、サングラスを外しながら話しかけた。

 

「ナンパっすよ! アンチョビ姐さんっ! よくわかんないっすけど、自分、目が合わせられないんすけどっ!」

 

「彼女さんの前でナンパはしないとおもうけど……」

 

「なっ、なんだ? 私たちに何の用だ!」

 

 3人は警戒心を剥き出しでこちらをみる。

 そりゃあそうだ。黒ずくめの男が女子高生に話しかけるんだ。自分で言ってて悲しいが、怪しい。

 

「ははっ、驚かせちゃってすまないね。いや、オレも彼女も観光でいろいろ見せて貰って楽しんでるんだけどさ。実は二人とも戦車道のファンでね。確かアンツィオ高校は全国大会で1回戦を突破しただろ? そんな強豪校の戦車をぜひ見たいと思って探してるんだー」

 

 できるだけ笑顔を作りながら私は話しかける。今のこの有様を西住さんに見られてるのは凄く恥ずかしい。

 

「ねっ姐さんっ! ウチらいつから強豪に、なったんすか?」 

 

「あっああ、1回戦をギリギリ、じゃなかった、順当にマジノ女学院に勝って突破したんだ。やはり反応が違うのだろう。ここまで――長かった……」

 

「ドゥーチェ、感慨深そうな顔をしてますねー」

 

 ああ、つい強豪なんてお世辞を言ってしまったが、安斎さんはジーンとしているな。

 確かこの人、愛知のスター選手で私と同様に強豪校からの推薦が結構来てたはずだ。

 それを蹴って、戦車道の衰退したアンツィオを建て直すためにわざわざ入学って、とんでもないバイタリティだと思う。

 それだけに先日の勝利は格別だったんだろうなー。

 

「よしっ、君たち気に入った! この、ドゥーチェが特別に我が校の戦車道の練習を見せてやろう! 見学するが良い!」

 

 安斎さんは上機嫌そうに笑って、私たちに練習を見せてくれると言ってくれた。なんか、上手く行き過ぎて、申し訳ないなー。

 




男装玲香再びって感じの本格デートアンドスパイ作戦です。
アンツィオだと、ペパロニは絶対に男装が似合いますよねー。
後編は20時12分に投稿予定ですので、お暇でしたら是非!


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仙道玲香と西住みほ、デートする 後編

デート編、めちゃめちゃ長くなってしまいました。
アンチョビはいいキャラクターですよね。人気者なのがよくわかる。
それにしても、あっさりと10万字を超えるとは……。終わるときは何文字になっているのやら……。

それでは、よろしくお願いします。


 案内されて歩く間も私と西住さんは会長からの命令により、恋人繋ぎを強制されていた。

 指を絡ませて、西住さんと手を繋ぐ。いいなぁ、西住さんの手は小さくてかわいいもんなー。

 

 西住さんは上機嫌でにこにこしている。まぁ、久しぶりに休憩みたいなリラックスができて楽しいのかな? 私みたいに男装してるわけじゃないしね。

 

「そういえば、君たちの名前を聞いてなかったが……」

 

 安斎さんが思い出したように質問した。うん、ここは打ち合わせたどおりに。

 

「ああ、失礼したね。オレは仙道レイ。一応、役者の卵で20歳だ。よろしくな」

 

「清水みほです。18歳で専門学校に通ってます」

 

 予め会長が作ってくれたプロフィールを告げる私たち。西住さんはともかく、私は成人ってことになるけど、大丈夫なのかなー。

 

「そうか、じゃあこちらも自己紹介しよう! 私がこのアンツィオ高校の偉大なる指導者! ドゥーチェ、アンチョビだっ!」

 

「ウチはペパロニっす。よろしくー」

「私はカルパッチョ。ペパロニと一緒に副長をしています」

 

 ん? アンチョビ、ペパロニ、カルパッチョ? あんまり知らんかったけど、アンツィオもグロリアーナシステムを採用してるのかな?

 

 まぁいいか。それにしてもこの三人がアンツィオのトップ3か。なるほど、キャラが濃いなー。

 

 私たちもコードネーム付けようか。ジンとかラムとかウォッカとか……。

 

「アンチョビさんに、ペパロニさんに、カルパッチョさんですねー。素敵な名前ですね」

 

 西住さんはいつもの天使のスマイルで、名前を褒める。お世辞ではなく、割と本気で言ってるからこちらとしても困惑することがある。

 

「なぁ、なぁ、清水の姐さん! 聞いても良いっすかー」

 

 ペパロニが西住さんに話しかけた。なんか、清水の姐さんって任侠っぽいな。

 

「ん? なーに?」

 

 西住さんは機嫌よく返事をする。

 

「キスって、どんな感じなんすかねー。ウチら全員そういうのに疎くて、気になっちまったんすよー!」

 

「きっキス?」

 

 途端に西住さんの顔がハバネロくんぐらい赤くなって、火が出そうになる。すでに煙くらいは出てそうだ。

 

 まずいな。初心(うぶ)な西住さんにはキツい話題だったか。いや、私だって知らんよ、キスなんか。何とかフォローせねば。

 

『面白いじゃーん。やって見せてやりなよー』

 

 会長、あんたは、そろそろ限度を知れっ!

 ええい、仕方ないな!

 

「みほ、恥ずかしがらなくったって、良いじゃないか。キスくらい、いつもやってるだろ?」

 

「ふぇっ……」

 

「「「うわっ……」」」

 

 

 

 

「ねっ姐さん! すごいっす、やばいっす! なんかわからないっすけど、体がムズムズするっすよ!」

 

「うっうっうるさいな。わっ私だってこんなに近くで見たのは初めてなんだぞっ!」

 

「大人って大胆なんですね……」

 

 3人は口々に私と西住さんのキスの感想を言っている。

 

 

 もちろん、私は西住さんの唇を奪ってはいない! この場を切り抜けるために、角度を上手く見せて、キスをしてるように錯覚させたのだ。これが私の始解、鏡花水月――ではなく、まぁ、よく演劇やドラマで使う手である。

 

 いつから、キスしていると、錯覚していた?

 

「みほっ、落ち着いたか……」

「あわわ……」

 

 ふむ、すぐには落ち着かないか。まぁ、3人もちょっと興奮してるみたいだし、西住さんの動揺には気付かないだろう。

 

「おっと、すまないね。お嬢さんたちには、まだ刺激が強かったかな?」

 

「「…………」」

 

 会長が罰ゲームはあんこう踊りって発言した時くらい場が凍った。まぁいいか。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ここが我々の練習場のコロッセオだ! そして! これがっ! 我が校が毎日のおやつを気が遠くなるほどの時間、削って、削って、やぁっと私の代で買うことが出来た、秘密兵器! P40だっ!」

 

 安斎さん、もといアンチョビさんがドヤ顔した瞬間、ペパロニさんとカルパッチョさんにより、ベールが剥がされ、イタリアの誇る重戦車P40が顔を出す。

 

 なるほど、1回戦には出てなかったようだが、本当に補強されてたんだな。会長の情報網恐るべしってやつだ。

 

 よし、任務完了、帰りまーす。なんてことは出来ないよな。

 だって今、アンツィオの戦車道の履修者が続々と集まってるもん。

 

 それでさ、謎なんだけど――なんで私と西住さんはセモヴェンテM41に乗せられそうになっているんですかね?

 

 

「いやー、カルパッチョに急用が出来ちまってさー。丁度いいからその代わりに、姐さんと兄さんに戦車道の練習を体験させてやれってアンチョビ姐さんが言っちゃっててよー。これから、アンチョビ姐さんのP40チームと模擬戦をするっすっ! 姐さんと兄さんには装填と砲撃頼むっす! マニュアルそのへんにあるから読んどいてー」

 

 おいっ! どこの世界にマニュアルをチラ見しただけで戦車を動かせる奴がいる。ああ、居たなー。天才が一人……。

 

 どっちにしろ、適当にやり過ごすしかないなー。本気でやるのは馬鹿らしい。

 

「うふふ、レイくんと初めて一緒の戦車に乗れるなんて楽しいなー」

 

 西住さんは上機嫌である。そういえば、同じ車両は初めてだな。まぁ、新鮮だけど、私たちはただの観光客って設定だから。

 

「勝てるように、全力で頑張ろうね! 私も頑張るから」

 

 あれぇ? 西住さんってこんなキャラだったっけ? この前、勝つだけが戦車道じゃないって、そんな結論になりませんでしたっけ?

 

『にしし、面白いことになってんじゃーん。後のことは適当に考えて、本気でやってみたらー? 仙道ちゃーん』

 

 えっ? 会長までそう言うの? 本当に知らないぞ! マジでやるからな! 絶対、責任取ってくださいよ!

 

「よし、頑張ろう! じゃあ、ペパロニ。車長は装填手兼任でみほにやらせるが、構わないか?」

 

「そりゃあ、構わないっすけど。なんか、兄さん、雰囲気変わったっすね。めっちゃ、気合い入ってるじゃないっすか!」

  

 ペパロニはニカッと笑って嬉しそうな声を出す。そりゃあ、本気を出すからだよ。大洗の隊長と副隊長が同じ車両でね……。

 

 

「悪いなっ、お客さんたち! でも、戦車道の魅力を伝えるにはやっぱり戦車に乗ってもらうのが一番だ! みんな! そうだろー!?」

 

「「「ドゥーチェ! ドゥーチェ!」」」

 

 コロッセオで響き渡るドゥーチェコール。すげぇ統率力だな。このドゥーチェことアンチョビさんのカリスマ性は要注意だぞ。

 

「じゃあ、観光客相手には申し訳ないが、P40を使った初めての実戦練習だ! 本気で行くぞ!」

 

 いや、だったら部外者が居ないときにやってください。おかしいだろ、絶対に。

 

 アンチョビさんチームはP40とCV33が2両。

 

 ペパロニさんチームはセモヴェンテ1両、CV33が2両である。

 

 ルールはフラッグ戦らしいが、撃破されると整備に金がかかるからダメらしいので、車両に急所となる半径20センチメートルほどの丸型のポイントを三ケ所作って、特殊なペイント砲弾をいずれかのポイントに当てれば撃破判定というルールだ。

 

 

 うん、これって機銃しかないCV33は何も出来ないやつだね。せいぜい邪魔をするくらいか。

 まぁ、実戦でも何も撃破出来ないのは似たようなもんか。89式は危ないかもだけど……。

 

 

 戦車に乗り込む私と西住さん。ちょっと楽しくなってきたのは内緒だ。

 セモヴェンテってⅢ突と同じタイプだからな。慣れてないから、当てるのはちっとばかり大変そうだ。

 まぁ、まずはペパロニさんの操縦技術はどんなものか見させてもらおう。

 さぁ、練習開始だ!

 

 

 

「右に曲がると見せかけて、まっすぐに――。そこで左です! 撃てー!」

 

 西住さんは冷泉さんにいつもしているような無茶振り指示をペパロニさんにも容赦なくだす。

 

 しかし、ペパロニさんの操縦は確かな実力で、冷泉さんに引けを取らない感じだった。アンツィオを見くびっていたかもしれないな。

 

 西住さんの指示も的確ですでにCV33を1両屠り、P40にも私が的を外したのがいけなかったが、一撃加えている。

 

 うーん、仕留めたと思ったのになー。アンチョビさん、さすがに車長としては超一流ってわけか。

 

 ふっふっふ、燃えてきたよ!

 

「みほっ、装填ちょっとだけ早くしてくれ!」

「うんっ! わかった! ペパロニさん、そこで右折!」

 

「あいよっ! うひゃー、アンチョビ姐さんの砲撃をこんなに簡単に躱したことないっすよー」

 

 セモヴェンテはうねりながらP40ににじり寄る。

 

 さすがに、この位置では外さないよ!

 

「撃てーっ!」

 

 私は西住さんの号令で砲弾を撃ち出す。よくわからない状況だけど、楽しいってことだけはよくわかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「いやー、まさか、お客さんに完敗するなんてなー! はっはっは」

 

 練習を終えてアンチョビさんが笑顔で私と西住さんのところに歩み寄る。

 

「いや、運が良かった。まさか、偶然砲弾があたるなんてな」

 

「ええーっ? 兄さん、あれ、まぐれだったんすかー!」

 

 ペパロニは驚いた声を出す。そんなわけ無いでしょ。

 

「いや、本当に素晴らしいぞ! 西住みほに仙道玲香! さすがは大洗女子学園の隊長と副隊長だ!」

「えっ? 姐さん、どういうことっすかー?」

「説明しただろ!? もう忘れたのか!?」

 

「「!!」」

 

 しっしまった。バレてたんだ。とっくに……。そりゃあ、そうだよな。戦車に普通は乗せないもん。

 

「逃げるぞ、みほっ!」

「えっ、玲香さん!?」

 

 私は西住さんをお姫様抱っこして走り出す。めちゃくちゃ恥ずかしいけど、走るのが速い私が抱えて逃げた方がいい。

 

『あー、仙道ちゃーん。大丈夫だよー。ちゃんと、チョビ子には許可取ってあるから、逃げなくてもー』

 

 はぁ? はぁぁぁぁ!?

 何を言ってるんだ? あのクソチビツインテールは!?

 

 

「玲香さん、ごめん。騙しちゃって……」

  

 会長の通信を聞いて憤慨してる私を見て、西住さんがすまなそうな顔をして衝撃の告白をする。

 

「ええっ、嘘だろ……。みほも知ってたの?」

 

 私は膝から崩れ落ちそうになった。

 

「うん。玲香さんがデートに誘ってくれた、すぐ後にね。生徒会の皆さんが、1回戦勝利のご褒美だから玲香さんとアンツィオでデートを好きに楽しんでって言われたの。任務なんて本当はないけど、アンツィオとの約束を守るために玲香さんには黙ってて欲しいって、そのとき口止めされたんだ。ごめんね、嫌だったよね。私と一緒になんか――」

 

 西住さんは泣きそうな顔で私を見ていた。その顔は申し訳なさと悲しさが同居するなんとも言えない表情だった。

 

 はぁ、西住さんには敵わないなぁ。

 

「嫌なわけなんてあるか。私はいつだってみほのこと好きだよ」

「ふぇっ? 玲香さん……」

 

 私は西住さんをおろして、抱きしめながら頭を撫でた。なんで、こんな行動をしたのかわからない。でも、たまには感情を優先させたっていいじゃないか。

 

 

「おーい、角谷から話聞いたかー? もう演技しなくていいんだぞー」

 

 CV33に乗って追いかけて来たアンチョビさんが私たちに声をかけた。

 

「あっ、すみません」

「えっ、あっ……」

 

 私は西住さんを引き剥がして、アンチョビさんの方を向いた。まったく、してやられたよ。

 この人も役者だなー。

 

 

「一体どういうことですか? 全部知ってたって、どうして手の内を見せるような真似をされたのですか?」

 

 私は率直に1番の疑問点を質問した。会長から話を振られてもメリットがなきゃ引き受けないはずだ。

 P40の存在って隠したかったんじゃないのか?

 

「もちろん、隠すつもりだったさ。でもな、君たちの1回戦の様子を動画で見させてもらって、考えが変わった。今のままじゃP40があっても勝てない、じゃなかった、勝つのが難しい……。だから角谷の案に乗ったんだ。情報と引き換えに大洗の隊長と副隊長の実力を目の前で見せてもらうっていう提案を――」

 

 なるほど、こっちもこっちで情報を与えていたってわけか。ん? だったら、おかしいぞ。

 

「だったら、普通に交流って感じで良かったんじゃないですか? なんで、私が男装させられているんですかー?」

 

 これじゃ、無駄に辱めを受けてるだけじゃないか。まったく、意味わからんぞ。

 

「ああ、そのことか。いや、さすがに私もそれだけじゃ割に合わんと言ったら、角谷の奴が――」

 

《知ってるよー、今、アンツィオってさー。カップルの観光客を増やそうって力を入れてるんだってねー。いいPRの仕方を教えてあげるよー》

 

 うん、話を聞くだけで、会長の悪い笑みまで想像できたわ。

 つまり、私たちは終始どこからか撮影されていたみたいだ。そして、その映像と画像を無制限に使って良いと、本人に何の承諾もなしに、我が校の生徒会が許可を出したらしい。

 

 マジでそろそろ辞表を提出してやろうかな?

 

「あっはっは、おかげでいい映像が取れたぞ! さて、お客様! これで帰るなんて言わないでくれよ!」

 

「「えっ?」」

 

 私と西住さんは不思議そうに顔を見合わせた。

 

「お客様には最っ高のおもてなしをするっ! それがっ! アンツィオの流儀だーっ!」

 

 アンチョビさんが一声かけると、なんと、アンツィオ校の生徒たちが雪崩のような勢いで調理を開始して、瞬く間にそこは立食パーティーの会場に変化した。

 

 ははっ……。すごいな。この人は――。なんというか、豪快だ――。

 

「さぁ、好きなだけ食べてくれ! 2回戦は私たちは善戦するぞ、じゃなかった、ギリギリ勝つ!」

 

 ニカッと笑うアンチョビさんたちと交流を深めつつ、私と西住さんはとても美味しい料理に舌鼓を打ったのだった。

 

「玲香さん、とっても楽しいねー。私、玲香さんに出会えてすっごく幸せだよ」

 

 西住さんが私の腕に寄りかかって、甘えるような声を出す。おーい、西住さん。もう演技は終わってもいいんだよ。

 

 

 

 そして、あっという間に時は流れて、ついに始まる第2戦! もちろん、負けられないぞ!

 

 

【第63回戦車道全国高校生大会2回戦】

 

 大洗女子学園 VS アンツィオ高校

 

 試合開始まで、あと少し!




次回予告!

やめて! マカロニ作戦がバレてしまったら、ドゥーチェ、アンチョビが必死に立てた作戦が水の泡になっちゃう!
お願い、負けないでアンツィオ高校! あなたたちが今ここで負けたら、ベスト4、じゃなかった優勝の悲願はどうなっちゃうの?  戦車はまだ残ってる。ここを耐えれば、大洗にだって勝てるんだから!

次回、「大洗女子学園大勝利! ベスト4進出決定!」
デュエル・スタンバイ!

すでに誰かがやったネタかもしれませんが、どうしてもやりたかったので……。

結構いろんなガルパンの創作は読んだのですが、ネタっぽく瞬殺か、マカロニ作戦が成功して原作よりピンチになるというパターンが多かったんですね。
出来れば被りたくないなーって思いましたので、こういう展開にしたのですが、どうでしょうか?
次回、果たして大洗の運命は? 是非ともご覧になってみてください!




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2回戦とあんこう鍋

スミマセン!アンツィオ戦はより一層ワンサイドゲームになりそうだったので、ダイジェストにしました。
いやー、P40が2台とか新オリジナルキャラとか考えたんですけどねー。
プラウダ戦は力を入れますので、許してください。
それではよろしくお願いします!


「――全力でねぎらう! これがアンツィオの流儀だぁー!」

 

 デジャヴではありません。現実です。

 私たちはアンツィオ高校に圧勝してしまった。

 

 アンツィオの『ノリと勢いがあり、調子に乗せると手強い』という前評判は確かだった。

 

 まず、デコイを利用したマカロニ作戦に見事に引っかかった私たちはアンツィオの戦車に包囲された。

 ピンチに陥った私たちだったが、私と西住さんの連携技である【双頭の蛇の牙(ウロボロス・ファング)】で強引に道を切り開く。

 さらにアヒルさんチームの佐々木さんが覚醒し、行進間射撃で確実に豆戦車のCV33のエンジン冷却部を破壊するという神業を何度も披露した。

 

 また、カバさんチームのカエサルさんこと鈴木貴子さんは、なんとカルパッチョさんと幼馴染だった。お互いのことを「たかちゃん」、「ひなちゃん」と呼ぶ彼女たち。カエサルさんの知られざる一面を発見したという感じだ。

 

 彼女の乗るセモヴェンテとカバさんチームのⅢ突は激戦を繰り広げることになったのである。勝負は引き分け。お互いの砲撃を受けて白旗を上げる結果となった。

 

 まぁ、そうこうしている内に、アンチョビさんのP40はカメさんチームとあんこうチームの2つを同時に相手にしなくてはならなくなって――P40は善戦するも、あえなくⅣ号の凶弾の餌食となってしまったのだ。

 

 ごめんなさい。アンチョビさん。正直、この前の練習の時点で『勝てるっ絶対に勝てる』って死亡フラグが怖いくらいの自信を持ってしまいました。

 

 でも、アンチョビさんは素晴らしい選手ですし、尊敬すべき先輩だと思います。ぜひ、上に立つ者としての精神を見習わせて頂きたいです。

 

 こうして、大洗女子学園は戦車道が復活したその年に準決勝に進出するという快挙を成し遂げたのだった。

 

 しかし、誰もが思っているだろう――大洗女子学園はここまでだと……。

 なんせ、準決勝の相手は――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「長砲身つけて、外装もそれに合わせて変えておきましたー」

 

 作業着姿の小柄なショートカットの女性。自動車部のナカジマさんがⅣ号に先日見つけた75mm砲身を付けてくれた。

 

「おおーっ、F2っぽいですねー!」

 

 思ったとおり秋山さんは目をキラキラさせて反応していた。

 

「ありがとうございます!」

 

「いえいえ、大変でしたけど、やりがいがありました」

 

 西住さんのお礼にも、謙虚に微笑んで返す自動車部の面々。正直、私の嬉しい誤算はこの自動車部の超人ぶりである。

 私たちが無茶な練習でボロボロにしても、一晩で修理や整備をしてくれる。たったの4人で、だ!

 

 死ぬほど大変なはずなのに、ケロッとした顔でニコニコと楽しいそうに整備している、仏様のような方々である。さらに、現在、絶賛レストア中のアレに搭乗してくれることも決定している――。

 

「砲身が変わって、新しい車両が1両……」

「そこそこ、戦力の増強が出来たな。どうだ、勝てそうか?」

 

 河嶋先輩が私に尋ねる。

 

「どうでしょうかねー。勝負は時の運と言いますから――」

 

「そこは勝てるって言わんか! 玲香!」

 

「まっ、善処しますよ。安心してください。河嶋先輩」

 

 私は河嶋先輩の背中をポンポンと叩いた。わかってますって、勝てるように頑張りますから。

 

「そっそうか――って、先輩にポンポンするなー!」

 

「ルノーに乗るチームは?」

 

 西住さんが気になる点を聞いてきた。そういや、私も知らない……。会長はあてがあるって言ってたけど。  

 

 そんなことを考えてると――格納庫におかっぱ頭の3人組が入ってきた。

 

 えっ――会長はどうやって彼女たちを……。

 

「今日から戦車道を履修する風紀委員長の園みどり子と風紀委員の2人です」

 

 園先輩と、私が生徒会に入った同時期に風紀委員に入った2人の同級生、後藤モヨ子と金春希美である。

 

 会長から園先輩は略してそど子だと紹介され、ついでに2人の二年生もゴモヨとパゾ美と略されてしまった。

 

「じゃあさー、何チームにしよっか」

 

 会長は風紀委員のチーム名を決めようと案を募集した。

 

「魔剣グランドリオンチー」

「ルノーって、カモっぽいですよねー」

 

「じゃあ、カモチームで……」

 

 くっ、どうして私は無視されてるんだ? なんか、あっちでは冷泉さんが園先輩と小競り合いをやってるな。あの二人ってなんだかんだ波長が合うようにみえる。

 

 まぁいいや、とりあえず準決勝の相手の話でもしよう。

 

「みんなが頑張ってくれたから、次はいよいよ準決勝だ! で、次の相手は去年の優勝校プラウダ高校に決まった。今までと比べて苦しい戦いになると思うけど、何とかして勝てるように頑張ろう!」

 

 そう、次はプラウダ高校。あの、カチューシャさんが隊長の高校だ。正直言って、戦力を分析すると勝率は……、先日のグロリアーナとの練習試合よりも低いだろう。はぁ、気が重い……。

 

「そうだ、絶対にお前ら勝て! 次は無いと思えっ!」

 

 河嶋先輩が無駄にプレッシャーをかけるようなことを言う。だから、そういうのは逆効果だと何回言えば……。

 

「次が無いって、どーしてですかー? 来年があるじゃないですかー」

「だって前回の優勝高ですよー」

「そうそう、胸を借りるつもりでー」

 

 1年生が当然の疑問を口にする。私もずっと気になってる。あえて聞かないようにしていたけど……。

 

「次は無いんだ!」

「ちょっと、桃ちゃん!」

 

 河嶋先輩が怒鳴り、小山先輩が諌める。前にもあったな。こんなこと。

 

「勝たなきゃ駄目なんだよねー」

 

 会長が静かにそんなことを言う。

 

 えっ? どうしてですか? いつも余裕たっぷりな貴女が……、なんでそんな顔をしてるのですか……。

 

 おそらく、長く付き合ってる私でないと気付かないほどの会長の顔色の悪さ。いつも自信に満ち溢れてた貴女が、なんでそんなに弱々しい表情(かお)をしてるのですか?

 

「ふん、西住! 指揮!」

 

「えっ、あっ、はい! それでは、今日の練習を開始します!」

 

 河嶋先輩に促されて、練習が始まった。まさか、でも――それしか……。私の疑問はすでに確信になっていた。しかし……、どうして、そんなことに……。

 

「西住ちゃーん、仙道ちゃんと練習後に生徒会室に来てくれる? 大事な話があっから」

 

 会長が西住さんに練習後に私と一緒に生徒会室に来るように言ってる。そうですか、ついに話してくれるのですね……、先輩……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「いやー、寒くなってきたねー」

「北緯50度を越えましたからね」

「次の会場は北ですもんねー」

「まったく、試合会場をルーレットで決めるのはやめてほしい」

 

 ルーレットは公平性を出すためだから、仕方ないが、プラウダ相手に雪原フィールドか……。多分、去年の決勝よりも手強いぞ。

 雪の戦いこそプラウダ高校の真骨頂だからな。

 

「あっあの……何の話で……」

 

 何で呼ばれたのか分かってない、西住さんが困った顔をしている。

 

「まぁまぁ、あんこう鍋でも食べてー」

「会長のあんこう鍋は最高なんだよー」

「まずは、あん肝をじっくり炒めるのがコツなんだー。そこに、味噌をいれて……」

 

「いや、鍋の作り方はいいですから」

 

 割りとスルースキルの高い、西住さんのツッコミ。

 

 まぁ、言い出し辛いから話が切り出せないんだろう。

 私の嫌な予想が当たっているのなら……。

 

「コタツ暑くない?」

 

 小山先輩がそんなことを尋ねる。今、それ訊かなきゃいけないことかね?

 

「これ、仙道ちゃんがねー、予算をやりくりして買ったんだよー」

 

「へぇ、玲香さんが!」

 

 何故かコタツの話しに西住さんは飛び付いた。

 

「仙道ちゃんってば、ダメ元で予算出すように頼んでも結局うまーく屁理屈を作って買ってくれんだよねー」

 

「それを今、言うことですか?」

 

「いろいろ買ったよなー」

 

「冷蔵庫とか、電子レンジとか、ホットプレートとか……」

 

「体育祭とか文化祭とかの前日はよくここにみんなで寝泊まりしたなー。去年は仙道ちゃんがカレー好きだって言ったから、大カレー大会をやってだなー」

 

「会長が唐突に好きな食べ物を聞いてきて答えただけです。私が発案みたいに言わないで下さい」

 

「あのう、思い出話も良いですけど……」

 

 西住さんは相変わらず困った顔をしていた。

 

「あっ、私たち3年は1年のときから生徒会でね。そこに去年は玲香が入ってきて、4人で頑張ってきたんだよ」

 

「よしっ、面白いもの見せてやるよー。ほらっ、河嶋が笑ってるー。こっちは去年の――ほら、玲香がこんなに小さいんだー」

 

 会長は一昨年と去年に校門前で撮った写真を西住さんに見せていた。

 

「わぁー、玲香さん。かわいいですねー」

 

「みほ、恥ずかしいからあまり見ないでくれ」

 

「玲香、1年で私と桃ちゃんの身長をあっという間に抜いちゃったもんねー」

 

「これは仮装大会の写真、これは夏の水掛け大会、そしてこれは笑えるぞー泥んこプロレス大会だー」

 

 だぁーっ、それ見せちゃダメなやつ。良い子には見せられないやつじゃん! もしかしたら、R-18扱いになっちゃうかもしれないやつじゃん!

 

「楽しそうですねー」

 

 西住さんは私の醜態をスルーしてくれた。

 

「うん、本当に楽しかった――」

「楽しかったですね」

「あの頃は――」

 

 しんみりしてる先輩たち。やめてください。もう、確信してます……。この学校は……。

 

「ん?」

 

 西住さんは不穏な空気にいたたまれないという反応だ。

 

「鍋、煮えてますよ」

「そうだな食べよっ」

「はいっ」

 

 えっ、この空気で飯食うの? ちょっと、大事な話を言わないのですか……。

 

 

 

 結局、誰も大事な話をしなかった。

 鍋パーティー?はそのまま解散となったのだった。

 

 

「結局、何の話だったんだろうね? 玲香さん」

 

 西住さんは狐につままれたような表情だった。うん、言えなかったな先輩たち……。くそっ! 変なところで……。

 

「西住さん……、ごめん、ちょっと生徒会室に……、忘れ物してきた……、先に帰っていて……」

 

「えっ? 玲香さん? 待って……」

 

 

 

 

 

 私は走って生徒会室に戻って、扉を開けた。

 

 生徒会室にはまだ、先輩たちは残っていた。私はつかつかと河嶋先輩に近づく。

 

「なんだ、玲香か? どうした?」

 

「河嶋先輩……、なんで……、学校が……、無くなるのですか?」

 

「なっ、玲香……、なぜそれを知って――」

 

「河嶋ぁ!」

 

 会長の大声は遅かった。河嶋先輩の答えよりも何よりも、3人の顔色が私に対する答えだった。

 

「はぁ、仙道ちゃーん。1番ボロを出しそうな河嶋に不意討ちって、そういうところ、誰に似たのかねー? でっ? いつから知っていたんだ?」

 

 珍しく真剣な顔をした会長が、私に尋ねてきた。

 

「みほを戦車道に強引に誘ったときからオカシイと思ってました。《我が校は終わり》とか、《学校にいられなくする》とか、変なことをいってましたから……」

 

 私はずっとこの可能性を頭に入れていて考えないようにしていた。だけど、この先輩たちが必死になるのはいつも学校の為だった。だからこそ、私の不安は大きくなる一方だった。

 

「そんな前から――」

 

 小山先輩が青ざめる。

 

「で、会長……、話してくれますよね……」

 

「ああ、大洗女子学園は今年度をもって、廃校が決定した――」

 

 会長は私の目をまっすぐに見つめて淡々とした口調で非情な宣告をした。私の心の中で何かが弾けたような音がした。

 




玲香に非情な言葉が……。
生徒会と関わりが深い玲香は学校にも格段に思い入れがあると勝手に思ってます。
これまで、ポジティブで強い性格だった玲香ですが、果たして……。
次回もよろしくお願いします!


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絶望と希望と決意

廃校の事実をついに知ってしまった玲香。
いままでメンタルの強さが強調されていましたが、今回は違うみたいです。
それではよろしくお願いします。


 会長は話した。文科省は維持費のかかる学園艦の統廃合を進める計画を立てており、大洗女子学園は「学校としての活動実績に乏しく、生徒数も減少傾向にある」からその計画遂行のターゲットとなったらしい。

 

 そのことを告げた役人が「昔は戦車道が盛んだった」と口にしたので、会長が大洗女子学園の戦車道復活を提案し、全国大会の優勝を条件に廃校の撤回を約束したのだそうだ。

 

「とても辛いです……」

 

 私は話を一通り聞いて、そうこぼした……。

 

「そうだな。学校が無くなるというのは――」

 

「そうじゃない!」

 

 河嶋先輩の言葉に私は叫び声を上げた。

 

「玲香……」

 

「なんでっ! どうして! 私にそれを仰ってくれなかったのですか! そりゃあ、私は下っ端で、年下でっ、まだまだ頼りないところはありますよ! 1年遅れて入った生徒会ですがっ! 私は先輩たちのことを仲間だと、誰よりも近い存在だと、信じてたのに! 今は言えなくてもっ! きっと、腹を割って話してくれるって! 信じてたのに! 私だって、先輩に負けないくらい! 大洗女子学園を愛してるんだからぁぁぁ!」

 

 涙で顔がぐちゃぐちゃになる。心がバラバラになりそうだ……。戦車道が出来なくなった日よりも辛い。

 そりゃあそうだ。私にとってすでに生徒会は、この学校はもっと大事なものなんだから……。

 

「ごめんねー。あたしら、仙道ちゃんがさ、戦車道を再開出来るのが凄く嬉しかったんだよねー」

 

「玲香には何の気負いもなく戦車に乗って楽しんで欲しかったの」

 

「お前は憎たらしいところもあるが、そこが可愛い後輩だからな。心に負担をかけたくなかった」

 

 先輩たちは悲痛な顔をして私を見た。わかってる。先輩が、あれだけ私のためにしてくれた先輩が、私を軽んじるはずがないことくらい。

 

 でも、それでも……。

 

「プラウダ高校は強いです。去年、優勝したときよりも確実に。カチューシャさんは本気で叩き潰すと宣言してます。慢心からの油断は無いとみて良いでしょう。でも、負けたら、この学校は終わりなんですよね……。ふふっ、馬鹿みたいです。勝手に真相を知って、私はびびってます……。もうダメかもしれません……」

 

 私は自分の行動で自分を潰してしまった。先輩が隠すのも当然だ……。私は河嶋先輩を笑えないくらいの豆腐メンタルだったらしい……。

 

 

 笑えてくる、どんなときも諦めなかったのに……。さっきまで、どこにも負けないつもりだったのに……。なんで、急にこんなに弱気になってるんだ?

 漠然と学校に危機が迫ってるっていう認識と、確固たる事実を知るってことはこんなにも違うんだ。

 

 

 えっ? 先輩たちはこんな重圧の前で毎日私たちの前に立ってたの? 笑っていられたの?

 私が下手をうつと学園艦が無くなる――そう考えるだけで震えが止まらなくなるのに……。

 

 

 

 

 フラフラになりながら私は生徒会室を出て、雪がしんしんと降る中を傘もささずにびしょ濡れになりながら歩いていた……。

 

「れっ玲香さん、風邪引くよ……」

 

「えっ? みほ、なんで? 先に帰ったんじゃ……」

 

 今、一番情けない姿を見られたくない人に見られてしまった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《みほサイド》

 

 生徒会室にいるときから玲香さんの顔色は良くなかった。いつも明るくて、元気なのに不思議に思っていた。

 

 話があるという角谷先輩から、結局何も聞かされずに食事が終わり、私たちは家に帰ることになった。

 

 玲香さんはずっと思い詰めた顔をしていて、ふと、顔を上げると忘れ物をしたと言って生徒会に戻って行った。

 

 私はそのまま帰ろうと思ったんだけど、なぜか途中から胸騒ぎが凄くなって、戻ろうかどうか迷ってしまった。

 そんな中、雪が強くなったので、やっぱり心配になって戻っていると傘もささずに身体中が雪まみれになっている玲香さんが力なく歩いていた。

 

 私は自分の目が信じられなかった。いつも強くてカッコいい玲香さんが、まるで亡霊のようにフラフラと歩いている。

 ショックだった。そして何より不安だった。あの玲香さんがこれほど憔悴しているなんて……。

 

「れっ玲香さん、風邪引くよ……」

 

 恐る恐る、玲香さんに私は声をかけてみた。

 

「えっ? みほ、なんで? 先に帰ったんじゃ?」

 

 玲香さんは動揺して私からすぐに目を背けてしまった。やっぱり、生徒会室で何かあったんだ。

 

「とにかく、こんなに冷えてちゃダメだよ。私の家が近いからお風呂に入って行って……」

 

 私は玲香さんの手を握って家に連れて行こうとした。手を握ったとき目を見開いてしまってた。生気のないくらいその手が冷たかったから。

 

 

 

「ごめんね、玲香さん。サイズは合わないと思うけど、このスウェットなら多少は伸びると思うから置いておくねー」

 

 玲香さんを半ば強引にお風呂にいれた。じゃないと体温も全部なくなってどこかに行ってしまいそうになる気がしたから……。

 

 

「悪いな。みほ、心配をかけた。もう、大丈夫だから……」

 

 お風呂から出て、サイズの合わないスウェットを着た玲香さんが弱々しい笑みを浮かべて私を見ていた。

 

「全然、大丈夫そうに見えないよ」

 

「――そうかな?」

 

「うん、そうだよ」

 

 それだけ話すと玲香さんは苦笑いして黙ってしまった。多分言いづらいことがあったのだと思う。私は話が下手だけど、玲香さんは違う。

 そんな彼女がこれだけ話さないのだから、余程のことだと思った。

 

「これ、ホットミルク。暖かいよ。ベッドに座って飲んでね」

 

「そっか、ありがとう。いただくよ」

 

 ベッドに座って私が渡したカップに口をつける玲香さん。私は隣に座った。

 

「「……」」

 

 しばらく沈黙が時間を支配した。どれくらい時間が過ぎたのか分からないけど、玲香さんは口を開いた。

 

「みほは、何も聞かないんだな……」

 

 ボコのぬいぐるみを見ながら玲香さんは声を出す。

 

「ふぇっ、聞いて良かったの?」

「ん?」

 

 私は変な声が出てしまった。気になっていたけど、聞いちゃいけないって思ったから聞けなかったんだ。

 

「ははっ、みほらしいな。本当に優しいみほらしい。好きだよ、そんなところに私は癒やされるんだ」

 

「むぅー。玲香さんにね、好きとか言われたり、抱きしめられると、恥ずかしいんだよ。嬉しいけど……」

 

 前もそうだったけど、玲香さんに好きだと言われてとってもドキドキした。

 最近、思うことがある。玲香さんへの気持ちは友達に対する気持ちとは違うの。沙織さんたちとは違う感情なの。

 

「そっか、でもごめん……」

「あっ……」

 

 玲香さんが急に覆いかぶさって、抱きしめてくる。彼女の吐息が耳に当たる。やっぱり変だよ、いつもの玲香さんじゃない。

 

「ごめんね。みほ、何もしないから……、しばらくこのままで居させてほしいんだ」

 

 ベッドの上で玲香さんに抱きしめられながら時間はまた過ぎていった。私はなぜか冷静だった。

 

「みほ、私のことをよくカッコいいって言ってくれてたね。でもそれは虚像だ……。私はイキっているだけの、小心者だったのさ……。さっきまで全然平気だった。でも今は怖い……。負けるってことが、とてつもなく怖くなったんだ」

  

 震えながら弱々しい声で玲香さんは弱音を吐いた。それは私にはとても衝撃的なこと。

 でも、少しだけ嬉しい気持ちもあった。玲香さんが、自分の逃げ場所に私を選んでくれたから。

 

「私は怖い……。この両手が治って、戦車道が出来るようになって、幸福だった。でも、その幸福を与えてくれた先輩たちに恩を返すことが出来なくなるのが、とてつもなく怖いんだ。プラウダに――黒森峰に――負けたらって考えるだけで頭の中がグチャグチャになって震えてしまう。こんなんじゃ戦えない……」

 

 小刻みに震えながら玲香さんは弱音を吐く。私は自然に玲香さんの両頬を撫でながら口を開いた。

 

「そっか、玲香さんはそんなになってまで負けたくないんだね。じゃあ、私も少しだけ背負いたい。こんな頼りない私だけど、玲香さんの負けられない事情を話して欲しいな」

 

 そう言って私は玲香さんの唇を自分の唇で塞ぐ。どうしようもなく、衝動が抑えられなくなってしまったから――。

 

 

 

「みほ……、なっなっ何を……?」 

「ひゃっ、えっと、ごめんなさい……」

 

 しばらく経って冷静になった玲香さんがいつもの口調で声を出した。

 

「ふぅー、驚いたぞ。いや、別に良いんだけど。初めてだったから、うーん、まぁいいや。何か色々と吹き飛んだよ……。覚悟してくれよ――」

 

「えっ、あっ、うん。キスしちゃったもんね――ええーっと、覚悟って?」

 

 私は頭の中に結婚とか浮かんだけれど、恥ずかしくって口に出せなかった。

 

「いや、キスは関係ないんだけど……。さっきさ、話を聞いてくれるって言ったじゃないか。背負ってくれるんだろ? みほは、私の重圧を」

 

「うっうん。玲香さんの嫌なことは、一緒になって悩みたいもん!」

 

 私がそう言ったら、玲香さんは苦笑いして話してくれた。それは、想像よりもずっと重たい話だった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――っとまぁ、こんな感じで、全国大会で優勝出来なかったら我が校の廃校は決定しちゃうんだってさ」

 

 あーあ、やっちゃった。秘密というのは守れないもんだね。私は真実を知って動揺し、結局みほに全部話してしまった。

 

 だって、みほが聞きたいって言うし。それに、私の緊張を解すためにキスまでしてくれたんだ。

 

 いやー、生徒会の雑務に追われて女子高生らしいこと何一つやれてないような気がするけど、友達にキスって普通なんかな? まっ、そうじゃなきゃ、恥ずかしがり屋の西住さんがするわけないかー。

 

「それは、大変っていうか。すごい話だね」

 

「すごいな、みほは。簡単に受け入れるんだ。怖いだろ? 負けたら廃校なんだぞ」

 

「うっうん。すっごく怖いし、玲香さんがあんなになる理由も理解できたよ。だから、私が何とか安心させてあげられないかなって考えたんだけど……。勝つしかないっていうことしか思いつかなかったんだー。えへへ」

 

 私はハンマーで頭を殴られたような衝撃だった。『勝つしかない』という当たり前の結論を笑って受け入れる西住さん。

 私が知ってる彼女とは少しだけ変わった様に感じた。

 どうしてかわからないが、その笑顔を見たとき、私からは恐怖が無くなり、負ける気もしなくなっていたのである。

 

「あれ? 玲香さん、どうしたの? また、怖くなっちゃった? んんっ……」

 

「――ぷはぁっ。ん? さっきのお返し。いやー、キスって結構勇気いるんだな? あれ? どうしたんだ? みほ、顔が真っ赤じゃないか」

 

 はい、このあと、友人に軽々しくキスをしてはいけないと説教されました。いやだって、あなたがさっき――解せぬ……。

 

 

 

「しかし、この事実をみんなに話すべきかどうか……」

 

 私は自分がガクブルした経験から、戦車道チームのみんなに廃校の事実を告げるかどうか迷った。

 

「私は話した方が良いと思う。何も知らずにダメだったら絶対に後悔するもん。少なくとも、一緒に戦車に乗ってる沙織さんたちに黙っておけないよ」

 

 西住さんの言うことには説得力があった。確かに無駄に緊張するリスクはあるが、逆にただでさえ戦力差が激しいこれからの戦い、負けられない精神力は共有したいところはある。

 

 よし、話すぞ。うん、何かあったら……、そのときに考えよう。

 

「――そうだな。明日みんなに話そう。ありがとう、みほのおかげで凄く楽になった……。あれ? なんか急に眠気が……」

 

「えっ、れっ、玲香さん?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 西住さんの部屋で一泊してしまった。しかも、目が覚めたら西住さんの寝顔とご対面。

 すっごく罪悪感がありましたとさ。

 

 制服はもう乾いていて、きれいにしてくれてた西住さんに感謝しつつ、2人は揃って学校に行く。昨日はあんなことがあったのに、西住さんは何故かとても上機嫌だった。

 

 

 

 そして、戦車道の授業が始まった。生徒会の先輩はちょっと私に話しかけ辛いのか、今日は一言も話していない。

 まったく、ずっと黙ってた先輩にはちょっとした仕返しっぽくなるけど仕方がない。

 私は言っちゃうぞ。だって、会長からも口止めされてないもん。

 

 

「あー、みんな! 練習の前に大事な話があるんだ。この戦車道の全国大会だけどね、負けたらこの学校は廃校になってしまう!」

 

「おいっ! 玲香!」

「あちゃー、まぁ、こうなるよねー」

 

 みんなは何を言っているというような表情だった。当たり前だろう。おかしなこと言ってるし。

 

 だから、私は昨日会長から聞いた話をそのまま、みんなに伝えた――果たしてこの行動は正しかったのか? それは次の戦いまで分からない。

 

【第63回戦車道全国高校生大会準決勝】

 

 大洗女子学園 VS プラウダ高校

 

 試合開始までの日にちはもう、差し迫っていた。




戦車道履修者たちのリアクションは次回。
キスシーンはもうちょっと色気を出したかったのですが、申し訳ありません。次のチャンスはもっと頑張ります。
いよいよ、強敵プラウダ高校との戦いです。

プラウダはもしこの学校が本気で戦っていれば――ってなるくらいの強敵ですよね。
しかし、あの、あんこう踊りのシーンは大好きだけど書けそうにないのが悲しいです。
次回もよろしくお願いします!


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大洗女子学園VSプラウダ高校 その1

いよいよ始まってしまった、プラウダ戦。
テレビアニメ原作では1番の難所だと私は思ってます。実際、ナメプしなきゃプラウダの勝ちでしたし。
それだけに本気のプラウダとの戦いを描くのは難易度高いです。
楽しく出来ていれば良いのですが……。
それではよろしくお願いします!


 やっちまったのかもしれん……。

 廃校の事実を告げると格納庫内の空気は一気に暗くなった。

 

 ウサギさんチームなど泣き出す始末である。

 

「この学校がなくなったら、みんなはバラバラになっちゃうの?」

「そんなの絶対に嫌です」

 

 武部さんと五十鈴さんはみんなと一緒にいられないことを悲観した。

 

「単位取得は夢のまた夢か」

 

 冷泉さんは単位か……、まぁ1番の目的だもんな……。

 

「バレー部復活……」

「これで我らの生きた証が……」

 

 とにかく暗い、めちゃめちゃ暗い。

 

「優勝なんて無理だよ!」

 

 誰かかそんなことを口にした。そして、それに対して、真っ先に反論したのは――。

 

「そんなことはありません。優勝できる可能性は十分にあります。やれるだけやってみましょう」

 

 西住さんだった。誰よりも強くて誠実な彼女の言葉は重みがあった。

 彼女のこの一言でみんなの顔がパッと明るくなったのである。よし、私も副隊長として言葉を出さねば。

 

「うん。もちろん私も優勝以外の結末を考えてない。でもね、そのためにはみんなの力が必要なんだ。力を貸してくれれば勝機はある。だから私たちと一緒に戦ってくれ! 必ず勝利まで連れていくことを約束するから!」

 

「「はいっ!」」

 

 戦車道履修者たちが声を合わせて返事をしてくれた。誰一人かけることなく(多分丸山さんも)。私は昨日何をビビってたんだ……。こんなにも居るじゃないか、頼もしい仲間が……。

 

 そして――準決勝へ向けての練習が開始された。

 

 私と西住さんは時間を見つけては作戦を練った。プラウダは火力装甲ともに高い戦車が多い上に、カチューシャさんの戦術が加わってくる。

 あらゆる可能性を考慮する必要があったので、私たちもいろんなパターンに合わせた戦術を想定する必要があったのだ。

 だけど、私も西住さんも絶望してなかった。話し合いに話し合いを重ねて、それなりに自信が持てるようになっていたのだった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「まったく、お前の独断専行は相変わらずか。あんな顔して出てったくせに次の日にはケロッとした顔で暴露しおって」

 

 放課後の生徒会室で河嶋先輩に小言を言われている。

 

「でも、ずっと黙っておくなんて無理ですよ。そもそもプラウダを相手にするにはこちらの慢心は消しておくべきです」

 

 私は静かに答えた。そもそも、2回戦に勝って以来、どこか浮足立った空気を感じていたのだ。

 勝つという確率を上げるのなら、この機に言うのはベストかもしれない。

 試合が開始してしまったら、のんびり語ってる時間なんて貰えるはずがないのだから。

 

「私は罪悪感がすごかったから、言ってもらえて良かった」

 

 小山先輩が常識人らしさをだす。

 

「いやー、悪いねー。後輩に嫌なこと押し付けちゃってさー」

 

「悪いと思ってるんでしたら、何かご褒美でもくださいよ」

 

「ん? そだねー。じゃあさ、このあと、ちょっと付き合ってよー」

 

 会長はいつもの口調で答えたが、表情は凛々しかった。

 

 

 

 そのご褒美は“希望”だった。会長、あなたはいつの間にこれほどの――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「うぅー、死ぬー、寒いぃぃぃ」

 

 私は寒さでガチガチに震えていた。暑いのは平気なのだが、寒いのは凄く苦手なのだ。だから、進学先にプラウダの選択肢はなかった。

 

 というか、雪の中でパンツァージャケットにスカートなのだから寒いに決まってる。 なんでみんな元気なの?

 

 ウサギさんチームは雪合戦してるし、カバさんチームはなんか凄いクオリティの雪の像を作ってる。楽しそうだな、おい。

 

 そんな中、カモさんチームが緊張した顔で立っていた。そりゃ、最初の試合で負けたら廃校って言われてるんだから、そんな顔になるわな。

 

「園先輩、ごめんなさい。最初からキツい戦いになります。緊張するな、とは言いませんが、困ったら頼ってください」

 

「わっわかったわ。仙道さんを頼ればいいのね」

 

「まぁ、私はもちろんですが、特に操縦などを教えた麻子を頼るといいでしょう。なぁ? 麻子!」

 

 私は近くにいた冷泉さんの両肩を叩いた。

 

「んっ……。いつでも無線で質問してくれ、そど子……」

 

「だからぁ、そど子って呼ばないでよ! 私の名前は園みどり子!」

 

「わかった……そど子……」

「全然わかってないじゃないのー!」

 

 青筋をたて怒っているそど子先輩、じゃなかった園先輩だったが、緊張はほぐれてるみたいだ。

 

 ――ありがとう。冷泉さん……。

 

 

 

「あら、よく見ると随分と弱そうな戦車じゃない。これは、練習で使った物資は無駄だったかしら?」

 

 先日聞いたばかりの高飛車な声……。カチューシャさんだ。ノンナさんと一緒に歩いてきている。

 

「かっカチューシャさん、どうしたんですか?」

 

 私はカチューシャさんに驚いて目を丸くした。

 

「やっほー、レイーチカ。カチューシャが直々に挨拶に来てあげたわよ。ノンナっ!」

 

 カチューシャさんは挨拶に来てくれたらしいのだが、私を見上げるなりノンナさんに肩車をさせた。レイーチカって私?

 

「あなたたちはね、すべてがカチューシャよりも下なの! 戦車も技術も身長もねっ!」

 

「あははっ、ノンナさんも大変ですねー」

「いえ、これは私が好きでさせてもらってますから……」

 

「ちょっと、何とか反応しなさいよ! あら……」

 

 カチューシャさんは玩具を見つけたような顔をして西住さんを見つめた。

 

「西住流の――ふふっ、去年はありがとう。あなたのおかげで優勝が出来たわ。こんな子と一緒なんてレイーチカも災難ねぇ、今年もよろしくね、家元さん」

 

 揺さぶるなぁ。この人はどこまでも――。しかし、私の大切な人がここまで言われて黙ってるほど……、お人好しじゃないぞ。

 

「カチューシャさん、先ほど、物資が無駄になったかどうか気にされてましたよね。気にする必要は皆無ですよ……」

 

「ん? どういうことよ?」

 

「温存する必要がないからです。なぜなら、今日勝つのは私たち、大洗女子学園です! 今年のプラウダ高校の戦績は準決勝敗退ってことですよ。ですから、物資は惜しみなく使っちゃって大丈夫です!」

 

 満面の笑みを作って私はカチューシャさんに宣言する。まぁ、怒って冷静さを欠いてくれたら儲けもんってことで……。

 

「ふふっ……、あーはっはっは! やっぱり、レイーチカは最高ね。カチューシャに向かってそんな態度を取るからには、つまらない試合をしたら、シベリア送り25ルーブルにしてやるわよっ!」

 

 うっ、うん? よくわからんけど怒らせるのは失敗かな?

 

「あなたたち、運がいいわ! そこにいるレイーチカのおかげで、カチューシャたちプラウダ高校の本気を見ることが出来るのだから! じゃあねー、ピロシキー」

 

до свидания(ダスビダーニャ)(また会いましょう)」

 

 やたら上機嫌になって、カチューシャさんたちは去っていった。あれ? 煽ったのって逆効果?

 

「やっちゃったねー。仙道ちゃーん。煽る相手を選ぶことは、そろそろ覚えなよー」

 

 会長は私の腰をポンポンと叩いて師匠らしい一言をくれた。はーい、精進しまーす。

 

 さあて、試合開始だ。ここを勝ち抜いて、先に決勝戦進出を決めている黒森峰と戦うんだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《カチューシャサイド》

 

 ダージリンから「面白い選手がいるから、番狂わせが起こるかもしれないですわ」と声をかけられ、本来は見るまでも無い1回戦の観戦に足を運んだわ。つまらなかったら文句を言うつもりでね。

 

 意外なことに試合は最初からなかなか楽しかったわ。特にあの、38tが囮になる作戦は練度はまだまだお粗末だったけど、カチューシャの作戦に似ている。

 なかなか見どころがあるやつがいるみたいじゃない。

 

 ダージリンから聞いた話だと、去年のフラッグ車を放ったらかしにした西住流の娘が隊長になってるみたい。だから何って話だけど、そんな甘っちょろい奴だけじゃ、あの作戦は実行しないと思うのよね。

 だとすると、もう一人のほうね。ダージリンが妙に気にしている大洗の副隊長――。

 

 試合が終了して、ちょっとだけ一人で歩いていたらノンナが居なくなっちゃったの。

 

 そんなときよ、私が彼女に出会ったのは、ムカつくくらい大きな体躯の白髪の女――仙道玲香にね。

 

 玲香は面白い奴だったわ。カチューシャを尊敬してるって可愛げがあるし、答え難そうな意地悪な質問もケロッとした顔で答えるの。

 しかも、去年の決勝戦のフラッグ車に自分が乗っていたら、あのトラブルの中でも撃破されなかったと言ってのけたわ。そんな答えを普通、カチューシャの目の前でする?

 

 短い間だったけど、気に入っちゃったのよねー。だからこそ、可愛がってあげるわ。レイーチカ、せいぜいカチューシャを楽しませなさい。

 

「さぁ、お腹が空く前に決着をつけるわよ! この試合は出し惜しみをするつもりは無いわ! 敵はたったの6両よ、カチューシャたちの全戦力をつぎ込んで雪崩込むだけで簡単に潰せるわ」

 

「スチームローラー戦術……、それほどの相手ですか? 大洗は……。決勝を考えると無駄に撃破されるのは避けたいところですが……」

 

 カチューシャの作戦にいつもみたいな仏頂面で意見するノンナ。はぁ、貴女の冷静な意見には助けられていることは認めてあげるけど、今日は意見を変えないわよ。 

 

「だったら、撃破されないように努力するのね。そうだわ、撃破なんてされたら、ツンドラで強制労働、30ルーブルよ! 許さないんだから!」

 

yразуметно(ウラズミェートナ)(了解しました)」

 

 カチューシャの最も得意な戦術で文字通り潰してあげるわ!

 

 

 全車を大洗女子学園の陣営に向けて進行させる。向こうがどんな策を用いるのか、それなりにわくわくしてるわ。

 

 さあて、西住流、そしてレイーチカはどう迎え撃つのかしら。

 

『隊長、敵を発見しました。道幅が狭くなっている場所に6両全てが集結して、鶴翼の陣のような隊列で待機しております。おそらく、包囲出来ない場所に陣地をとったのかと』

 

 偵察のために少しだけ先行させていた車両から報告がくる。なるほど、待ち伏せをして、こちらの動きに合わせて対応するつもりね。

 そして、カチューシャの得意の包囲殲滅戦法も潰そうとしてきた。

 

 まぁ、このカチューシャに多彩な戦術があるってレイーチカは知っているみたいだし、後出しをして有利を掴もうって魂胆ね。

 

「甘いわね。甘いわ……。こんなものだったのね……」

 

 浅はかな手にイラッときたわ。あーあ、買いかぶり過ぎたみたいね。今日のお昼は早く食べられそうだわ。

 

「一気に殲滅しなさい。フラッグ戦とか関係ないわ。実力の差を思い知らせなさい!」

 

 全車両に命令を出して大洗陣営に攻撃を指示する。はぁ、カチューシャが出る幕はなかったか。

 

『38tのみ、いち早くこちらに気付き逃げ出しました』

 

「構わないわ! 他の車両から倒しなさい。38tはフラッグ車なの?」

 

『いえ、フラッグ車ではなかったようです』

 

「ん? 変ねぇ。どうして先に逃げるような……」

 

『カチューシャ様っ! 大洗の車両はここには居ません! 車両はすべて張りぼての看板でした!』

 

「なんですって! くっ、やられたわ! こっちの出方を38tに偵察させて、その逃亡時間を稼ぐためにデコイを使うなんて! やるじゃない! 全車両前進! 38tを追うわよ! その先に大洗の本隊があるはず!」

 

 なかなか面白い手を使うじゃない! でも、逃さないわよ!

 

 カチューシャたちは全速力で38tを追う。でもそれは狡猾な罠だった……。

 

『カチューシャ様、雪ですっ! 雪の中からⅣ号戦車がっ! きゃっ、撃破されました』

 

『こちらも謎の砲撃より、撃破……』

 

『履帯を破壊され、動けません!』

 

『後方より砲撃! どうしますかっ!』

 

「なっ、まさか……。この極寒の中……エンジンを切って、雪の中に隠れてたとでも言うの!?」

 

 大洗の38t以外の戦車は雪の中で隠れていて、カチューシャたちをやり過ごし、背後から攻撃をしてきた。

 

 はぁ、認めるしかないわね。大洗女子学園は強敵――カチューシャが本気の本気で叩き潰す甲斐がある敵だわ!




マカロニ作戦ツヴァイ+原作のプラウダ戦の最後に雪の中で待ち伏せたアレです。ちなみにデコイは自動車部が一晩で作ってくれました。
圧倒的な戦力差の中で一撃を加えることの出来た大洗でしたが、いかがでしたでしょうか?
激戦は始まったばかりですが、続きもぜひご覧になってください!


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大洗女子学園VSプラウダ高校 その2

いつも、感想や誤字報告ありがとうございます。
感想はすごくモチベ上がりますし、誤字報告のおかげでとっても読みやすくなっています。

プラウダと大洗の中盤戦!
大洗の先制がカチューシャを100パーセントの本気にさせました。
それではよろしくお願いします!


「じゃっ、なるたけ防寒具を用意するぞ。カイロもたくさん用意しておくように」

 

 西住さんの発案により自動車部にアンツィオが使ったような車両のデコイを用意してもらった私たちは、雪の中に戦車を隠す準備をしていた。

 

 カチューシャさんが囮を使うのか、それとも真っ向勝負で来るのかわからない以上、私たちは待ち構えるという戦術を取るほかなかった。

 

「カメさんチームだけぇ、外に出てるなんてぇ、ズルくないですかぁ?」

 

 宇津木さんがいつもの妖艶な話し方で文句を言ってきた。

 

「いや、別にウサギさんチームでも良いけど、その後、大変だぞ?」

 

「優季、わがまま言わないの。玲香先輩、1番危険な仕事をお願いします」

 

「澤さんはキチンと全体が見れられるようになってるね。私が教えたこともよく覚えているし、嬉しいよ」

 

 私は澤さんの頭を撫でながら素直に褒めた。私と西住さんが卒業したとき、みんなをまとめる器があるのは彼女かもしれない。

 

「先輩……」

「ああ、梓赤くなってるー」

 

 大野さんがニヤニヤしながら澤さんの顔を覗き込む。

 

「なっなってない! あやっ、変なことを言わないでよっ!」

 

 ウサギさんチームは仲がよろしくて何よりだ。

 

「おいっ! 玲香よ、上手くいったとして、その後どうする? 仲間と合流は後回しにして逃げるのか?」

 

「逃げませんよ。プラウダの戦車をかき分けてみんなと合流するつもりです」

 

「えっ……、玲香。私の操縦のスキル買いかぶってない? 大丈夫なの?」

 

 私の大胆なプランに小山先輩が気の弱そうな顔をする。

 

「大丈夫ですって。今日はナマケモノが働き者になってくれるみたいですし」

 

「へぇ、そりゃあよかったねー。仙道ちゃーん」

 

 会長の目がキラリと光っていつもの小悪魔スマイルを見せてきた。信じてますからね、先輩方。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 おおっ、奇襲が成功してT-34を3台撃破した上に1両も履帯を破壊できたか。さすが、西住さん、狙いも、引き際もばっちりだ。

 

 しかし、さすがプラウダ高校だな。まさか、IS-2どころか圧倒的な火力のKV-2まで用意しているとは……。

 フラッグ車は7両あったT-34/76の内の1両だったか。さっきの奇襲じゃさすがに倒せなかった。うーん、残念。

 

「あーあ、これで試合終了だったら楽だったんですけどねー。おそらく、フラッグ車はもう前線に出さないでしょうし……」

 

「何を言ってる。まだ始まったばかりだろ!」

 

「ええ、それでは会長。お願いしますよ」

 

「そんな期待されると、真剣にやらなきゃいけないじゃん」

 

「会長、まるでいつもは真剣ではないみたいですよ……」

 

 会長の言葉に小山先輩が疲れた表情でツッコミを入れる。まったく、そのとおり。この人、今日まで

ほとんど働いてない。

 

「だってさー、仙道ちゃんってば、砲手やりながら車長も頑張っちゃってたからねー。それを邪魔するのも悪いじゃん」

 

 悪びれもせずに会長はそう言って、砲手席に座る。そう、今回は会長が砲手で私が車長に専念する。

 

「まぁ、勝てたら許しますよ。会長の怠け癖……。勝てたらですけど……」

 

「およっ、そりゃあ許してもらえるようにやる気出さなきゃねー」

 

 ふぅ、また1回戦の最初と同じで車長かぁ。

 しかし、あのときとは違う点がある。それはもちろん砲手に会長が入ったことだ。

 

 先日、放課後に砲撃の練習場にカメさんチームのみんなで行った。

 そのときに会長が見せてくれた砲撃は恐ろしい命中精度だった。私と比べても大差ないほどの砲撃に、舌を巻いてしまった。

 

 いつそんな練習をしたのか全然知らない。会長に聞いても『いやー、いつの間にか出来るようになってたんだよねー』と煙に巻かれてしまった。

 

 その結果、私は車長に専念できる。これは大きい。全体の様子が見渡せて的確な指示を送ることが出来れば、戦車自体の戦力の増加は著しい。

 

 つまり、私が十全に力を振るうことが出来るのだ。

 仙道玲香は車長になって変わったと言われたことがある。私が白髪鬼(ホワイトヘアデビル)と呼ばれるようになったのも車長に専念するようになってからだ。

 

 強力な砲手を手に入れたカメさんチームはあんこうチームほどではないにしろ、今までとは別格の強さを手にすることが出来たのだ。

 

「では、みほたちの所に帰りましょう。全チームが揃う必要がありますから……」

 

 私は西住さんに倣って半身をキューポラから乗り出して、全体の様子を確認する。

 

 うん、かなり隊列が乱れているな。さすがにあれだけ荒らされたら、カチューシャさんも簡単には統率できないか。

 

「小山先輩、なるべく相手の戦車に密着してください。同士討ちを怖れて手を出され難くなるので、逆に安全です。会長、私からも指示は出しますが、スキがあれば、私がグロリアーナ戦でやったみたいに履帯を狙って動けなくしてください。ゼロ距離なら撃破も狙っていいです」

 

「わかった。やってみるね」

「ほいほーい。でも、なるべく指示は頂戴ねー」

 

「あっ、河嶋先輩は頑張ってください」

 

「おいっ! ついでっぽい雑な指示をやめろ!」

 

 T-34などの旧ソ連製の戦車の群れに飛び込む私たちカメさんチーム。

 カチューシャさんはこちらに気付いて、目を見開いた。

 

「小山先輩、右手側にフラッグ車です。あちらに行くと見せかけて、左端から抜けましょう。あっ、会長、今です!」

 

 38tの砲撃がT-34の履帯を破壊する。そんな挑発が効いたのか、4両ほどのT-34 が砲撃を開始する。

 案の定、フレンドリー・ファイアとなってしまった凶弾。ラッキーなことに1両が撃破判定を受けたようで、カチューシャさんはものすごい目付きで睨んでいた。

 

 そして、この指揮系統が混乱している中でこれ以上荒らされるのが嫌だったからなのか、それ以降は砲撃も控えめになった。

 

 このまま抜けたらノンナさん辺りから砲撃を受けそうなので、最後に煙幕を張ってから逃げだした。多目に煙幕を用意しといてよかった。

 

「ふう、なんとか抜け出せた――小山先輩! 停車!」

 

 私はあわてて停車の指示を出す。

 

 なんと、まだ煙幕で視界が悪いままなのに、かなり離れたプラウダ本隊から砲弾が飛んできたのだ。

 

 IS-2からだな……。砲手はノンナさんに違いない。行進間射撃でこれほどの精度。

 もう少し視界が良かったり、私が車長に専念出来てなかったら撃破されてたかもしれない。

 やはり、プラウダの《個の力》で一番警戒すべきはノンナさんだな。

 どうにか彼女は撃破しときたいよなー。

 

 しかし、本気で追いかけて来ないところを見ると、隊列を整えて、次の作戦を準備してからスタートするつもりなんだろう。さすがカチューシャさんは冷静に判断している。

 並みの隊長なら激怒して突っ込んで来るだろうに。知波単とか特に……。 

 それから追撃はなく、私たちはプラウダ本隊と距離を置くことに成功した。

 

 

「やっほー、みほー、ただいまー。心配した?」

 

「あっ、お帰りなさい。玲香さん。ううん、玲香さんのこと、信じてたから……」

 

「そっか、ありがとな。信じてくれて……。じゃあ次の作戦に行くとするか……。一か八かの作戦になるが……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《カチューシャサイド》

 

「やってくれたわね! レイーチカに、西住流! 何両やられたの!」

 

「撃破された車両は4両です。さらに今、2両が履帯を修理中です」

 

 一方的にカチューシャたちの車両だけ奇襲でやられちゃうなんて、ホントに屈辱だわ。フラッグ車が無傷でホント良かった。

 でも、あなたたちの活躍はここまでよ。粛清(しゅくせい)してやるんだから!

 

「ムカつくわね。ここまでカチューシャをバカにしたやつらは初めてよ。ノンナっ聞いてる?」

 

『はい、カチューシャ。いかがなさいますか?』

 

「とりあえず、フラッグ車は隠すわ。全車を投入するなんて、まだカチューシャはあいつらを侮っていた証拠だもの。あいつらが勝つにはスキを突いてフラッグ車を狙うしか手はない。だったらカチューシャたちはその可能性を確実に握り潰せば、勝手に勝利はカチューシャのもとに転がり込んでくるの」

 

『フラッグ車に護衛は?』

 

「そおねぇ、かーべーたんをつけようかしら。後は――」

 

『なるほど、随分と慎重になりましたね。カチューシャ』

 

「まぁねー。久しぶりにゾクゾクする相手との勝負だもん。レイーチカのことは頼れる同志たちの次に認めてあげてもいいわ」

 

 さぁ、第二ラウンド開始よ。レイーチカ、西住流!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おいっ、玲香。さっきの作戦だがあれはどういうことだ?」

 

 西住さんから、全車両に作戦が伝えられて、私たちはその下準備を行っている。

 どーするもこーするも、私たちはボスの指示に従っておけばいいんだけどねー。

 

「いいですか、河嶋先輩。4両撃破は出来ましたけど、相手は残り11両。ようやく倍くらいの戦力差です。しかも、相手の得意な雪原で火力も技術も平均値で言えば確実にプラウダが上です。だったら、私たちはどうやって勝てばいいんですか?」

 

 私は河嶋先輩に質問を質問で返した。

 

「うーむ、根性?」

 

「先輩はいつからアヒルさんチームになったんですか……。 会長はどうです?」

 

 私は会長に話を振った。いやー、それにしてもさっきの砲撃も見事だったなー。撃破には至らなかったけど、履帯は確実に貫いた。これならあんこうチームとの『あの技』も……。

 

「まぁ、まともにやって無理なら搦手しかないよねー。スキを突いてズドーンってフラッグ車をやっつけるみたいなー」

 

「正解です。さすがは会長」

 

 会長は当然状況の把握は出来ていた。

 

「だったら、さっきみたいに雪の中に隠れるか? デコイはまだあるのだろう?」

 

「はぁ、あの前回優勝校の隊長であるカチューシャさんに、そんな単細胞みたいに同じ手が効くわけないですよ。それに、カチューシャさんはもうフラッグ車を前線に出しませんよ。どこかに護衛でも付けてひっそりとさせてます」

 

「はぁ? じゃあ、勝てないじゃないか! というか、誰が単細胞だ! 玲香!」

 

 もう、だから河嶋先輩に説明するのは嫌なんだ。

 

「あのね、桃ちゃん。だから、フラッグ車を探す部隊と本隊を足止めする部隊に分かれたんだよ」

 

 ここに来て小山先輩がようやく河嶋先輩にツッコミを入れた。

 そう、私たちは2手に分かれた。フラッグ車を見つける《納豆小隊》と本隊を足止めする《干しいも小隊》の二つに……。

 

 《納豆小隊》はカバさんチーム、カモさんチーム、そしてフラッグ車のアヒルさんチームの3組。

 

 《干しいも小隊》はあんこうチーム、カメさんチーム、ウサギさんチームの3組だ。

 

 《納豆小隊》はフラッグ車の撃破が無理だった場合、逃げを優先してこちら側と合流するように伝えている。

 距離を十分に取るように伝えているし、逃げ方はこの日のために徹底的に練習をした。

 

 

「さて、納豆小隊がフラッグ車を探す時間を作って上げなきゃな。みほ、今度は『アレ』を使おう。ノンナさんのIS-2には注意しなきゃな」

 

「うん、撃破にはこだわらなくていいけど、攻める気持ちは見せないと怯んでくれないもんね」

 

 みほと私は戦車から半身を乗り出して会話する。お互いが車長として共闘するのは、初めてだ。

 

 プラウダは何両で来るのかな? 戦力差が2倍以上なのは間違いないだろうが……。

 

 

 その答えは間もなくわかった。プラウダの主力が姿を現したからだ。

 車両は全部で8両。T-34が7両に、IS-2が加わる形だ。まともにぶつかれば勝てないだろうが……。フラッグ車の護衛は2両だけということが分かり少しだけ安心した。

 

 出来るだけ引っ掻き回して時間を稼ぐぞ!

 干しいも小隊! 突撃だ!

 




お互いの思惑が交錯した中盤戦でしたが、いかがでしたでしょうか?
小隊の名前はセンスがなかったかもしれません。安直すぎた気がします。
次回はいよいよ決着か!?
大洗の運命に注目してあげてください。


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大洗女子学園VSプラウダ高校 その3

激闘もここで終止符。
なんとか、プラウダ高校との準決勝の決着まで書ききれました。
大まかな終わり方だけ考えて、あとは書きながら展開を考えるスタイルなので、今回の展開が一番苦労しました。
それでは、よろしくお願いします!


 私たち3両に対して旧ソ連の誇る高性能戦車が8両……。まさに壮観といった感じだった。

 

「みほ、どうしてだろうか? 私はすごく今、楽しいんだ。強敵が目の前にいて、廃校の危機が迫っているのに、君の隣で戦車に乗っていると思うと――胸が昂ぶる」

 

「あはは、玲香さんって……、やっぱりカッコいいよ。でも、私も落ち着くよ。玲香さんと一緒に戦えると考えたら、すぅーっと、頭が冷えて景色が広がって見えるの」

 

 ニコリと微笑んでお互いに頷きあって前を見る。カチューシャさんの肝を少しくらい冷やしてやる!

 

 私の戦車での戦い方はすべてを焼き尽くす灼熱の業火。苛烈な攻撃で敵を怯ませて、さらにスキを容赦なく攻めるスタイルだ。

 

 西住さんの戦い方は氷のような冷静な戦況判断から確実に相手の急所を一撃で仕留めるスタイルだ。

 

 炎と氷の相反するスタイルは奇跡的に噛み合い、プラウダの戦車群を圧倒した。

 

 さらにここに来てウサギさんチームが覚醒する。

 元々要領の良かった彼女たちは、自分たちの実力をキチンと把握してその上で最善の行動を実践することが出来ていた。

 それも状況に合わせて『自分たちで考えた上で』である。

 

 強豪校にありがちな指示待ち人間でもなければ、弱小校にありがちな無謀な人間でもない。

 このバランス感覚はある意味で才能だ。気配りが出来る澤さんを中心によく回っているグッドプレイヤーの集まり、それがウサギさんチームである。

 今さらだが、第一印象で頭が弱そうとか思っていてすまなかった、大野さん。

 

 敵陣の真っ只中で暴れるあんこうチームとカメさんチーム。主戦場から距離をおいて外からの砲撃で援護するウサギさんチーム。

 

 3つのチームがここぞとばかりに奇跡的な連携をして、プラウダの主力の8両を相手に善戦していたのだ。

 

「みほ!」

「玲香さん!」

 

「「真・双頭の蛇の牙(ウロボロスファング)」」

 

 以前、カチューシャさんに指摘された弱点は私が砲手をしているがために、全体の状況判断が出来なかったことだ。

 

 そのため、敵の攻撃を躱すことに関しては半分運任せとなる。

 もちろん、変わった動きで翻弄しているので、並の砲手相手ならそれで十分に被弾は避けれるが、ナオミさんやノンナさんクラスになるとそうはいかなくなる。

 

 なんせ、彼女らの心はその程度では揺るがない。

 特にノンナさん、彼女の精神力は高校生の領域を遥かに超えている。

 

 私が車長に専念出来れば、敵の砲撃にも十分に注意ができる。つまり、この技の完成形を披露することが出来るのだ。

 

 私たちの狙いは最初からIS-2だった。ノンナさんを倒すことが出来ればプラウダの士気は低下する上に遠距離からの脅威はなくなる。

 だから、ここで確実に彼女だけは仕留めておきたかったのだ。

 

 IS-2から凶弾が放たれた。すごいっ、冷泉さん! ここに来て、あんなフェイントで躱すとは! これなら、装填時間内に十分だ!

 

「会長!」

「あいよっ!」

 

 38tの砲撃でIS-2がバランスを崩す。これなら、あんこうチームは確実に仕留めるだろう。

 停止時間1秒未満の早撃ち……、そう、五十鈴さんの並外れた集中力は一撃必殺である。

 パワーアップしたⅣ号の砲撃がプラウダ高校の最強の1両を確実に屠る。

 

 こうして、私たちはプラウダの主力の中の主力であるIS-2を仕留めることに成功したのだ――。

 

『西住隊長、フラッグ車を見つけました!』

 

 そして、そのタイミングで朗報! よくやったぞ、納豆小隊! 最高のタイミングだ!

 

『カバさんチームを中心に撃破を試みてください。しかし無理はせずに、少しでも攻め込まれそうでしたら、退避をお願いします。こちらも直ぐに向かいます。アヒルさんチームは出来るだけ安全圏まで退避してください』

 

 西住さんは的確な指示を出す。

 

 勝利の天秤は確実にこちらに傾いていた。

 

 

 しかし、カチューシャさんからのプレッシャーは依然として強く――統率の乱れは全くない。

 

 依然として数では劣る私たちなので、包囲網を突破して納豆小隊と合流するのはなかなか難しそうだった。

 

 ノンナさんを倒せば多少は揺らぐと思ったのに――去年の優勝校は伊達ではないと言うことか……。

 

 そんな中、凶報が届く。

 

『こちら、カバさんチーム。撃破に失敗した。護衛のT-34がこちらに向かって攻撃を開始したので、戦線を離脱する』

 

 うん、冷静な判断だ。逃げに徹すれば、1両から追われたくらいでは、そうそう撃破されないだろう。

 

 だが、それが楽観だったことに気付いたのはすぐあとであった。

 

『こちら、カバさんチーム。すまない、撃破されてしまった。恐ろしい狙撃精度だ……』

 

 行進間射撃でこうも簡単にⅢ突がやられた? おりょうさんだって、相当逃げる練習は積んだのに……。

 砲塔が回転しないⅢ突だから、彼女はドライビングテクニックを身に着けようとかなり努力していた。それが、あっさりと……。

 

『カモさんチーム、撃破されてしまいました。アヒルさんチームの健闘を祈る!』

 

 続けてカモさんチームも!? そんな……、そこまで凄い精度の砲手って――まさか……。

 

 私はやけにあっさりとIS-2を撃破出来たことを今さら疑問に思った。そして、その後のプラウダの落ち着きぶりにも……。

 

『玲香さん……』

「ああ、間違いない……」

 

 ノンナさんはまだ……、撃破されてない……。

 

 入れ替わったんだ、砲手が……。

 

 IS-2から護衛のT-34にノンナさんは乗り換えた。フラッグ車を狙う奇襲部隊から屠るために……。

 

 カチューシャさんはここまでの展開を全て読み切っていたんだ。

 さすがは、その頭脳の1点のみで優勝校の隊長の地位を勝ち取った人間だ。

 

 今までいろんなタイプの人と戦ったことがあるけど、これ程までに見事に策にハマったのは西住さんと戦ったとき以来だ……。

 

「みほ! アヒルさんチームを助けに行ってくれ! 私たちが食い止める!」

 

『うん、玲香さん。負けないでね……』

 

 西住さんは心配そうな声を出した。負けないと言いたいが、7両をウサギさんチームと相手にするとして、こちらが撃破されるのは時間の問題だろう。

 

 そんなとき――。

 

 M3リーが飛び出してきた。「あいあいあーい」という叫び声が聞こえるように……。

 

『西住隊長、玲香先輩、ここは私たちだけで食い止めます。先輩たちはアヒルさんチームを助けてください。2両で駆けつけた方が【勝つ可能性】が高いです』

 

 澤さんの声が聞こえた瞬間、M3リーから煙幕が放たれる。プラウダ陣営は意表をつかれて一瞬硬直する。

 

「みほ、行くぞ!」

『うん、澤さん。ありがとう!』

 

 まさか、最初の練習試合で逃げ出した彼女たちが、ここまで成長するなんて……。

 最初は誰よりも弱かった、大洗のムードメーカーだった彼女たちがいつの間にか、背中を預けられる頼りがいのある仲間になっていた。

 

 あんこうチームとカメさんチームは走る。フラッグ車であるアヒルさんチームを助けるために――そして、勝つために――。

 

『すみません……。もう撃破されちゃいました……』

 

 申し訳なさそうな澤さんの声が聞こえた。

 

 西住さんが怪我はないか、確認している。よかった、みんな大丈夫みたいだ。

 ありがとう。1年生で廃校という重圧に耐えてよく働いてくれた。

 終わったら嫌というほど抱き締めてやりたい。愛してるぞ――みんな!

 

 しかし、距離を取って逃げている上に相手がIS-2ではないとはいえ、ノンナさんからアヒルさんチームはどれだけ逃げられるだろうか?

 

 戦車捌きで言えば、河西さんの操縦は冷泉さんに近い実力だ。シャープさで言えば小山先輩よりも上手い。

 

 八九式という不利にポジティブに挑み、不退転の意志の強さでここまで戦ってきたアヒルさんチーム。

 根性の強さの可能性――信じてるよ……。

 

 

 

 そして、彼女たちは私たちの信頼に応えてくれた。アヒルさんチームは雪にまみれながらも、生き残ってくれていたのだ。

 

 

 

 アヒルさんチームはもうすでに煙幕を使い果たしていたので、1分間だけT-34からこのまま離れてもらって、その後、Uターンするように指示をする。

 

 この1分でノンナさんを倒して、カチューシャさんたちから逃げ切りつつ、フラッグ車を討つ!

 

「小山先輩、TS-34の砲手は化物です。私の指示は複雑になりますが、何とかついてきてください」

 

「大丈夫だよ、玲香。もう気絶なんてしないから。なんでも言ってね」

 

 いつもどおりの優しい口調で小山先輩が返事をする。先輩の優しさに今までどれだけ救われてきたことか……。

 

 T-34は私たちに狙いを定めたみたいだ。精神を集中させて、砲弾の軌道と発射の瞬間を予測する。今だ――!

 

「先輩! 右斜めに一瞬だけフェイント、そして左に思い切り!」

 

 言葉足らずの指示でも、ニュアンスで察してくれる先輩。本当に頼りになる。

 

「装填最速で!」

「言われるまでもない!」

 

 いつも、ドジで泣き虫で自分勝手なしょうがない先輩。だけど、頑張り屋で情に脆くて、正義感が誰よりも強い。

 そして何よりも私を大事な後輩だと1番可愛がってくれた河嶋先輩。

 

 いつの間にか、言葉なんてなくても通じるようになっていた。悔しいけど、頼りにしちゃってるよ、先輩。

 

 

「にしし、あのT-34ってなんとなーく意地悪してやりたいって思うなー」

 

 いつもふんぞり返って、干し芋ばかり食べてる困った生徒会長。

 

 でも、大洗の学園艦を誰よりも大事に思って、その持ち前の行動力でそれを体現してきた。

 

 今回も人知れず努力して恐ろしい射撃を身につけてくれた。

 

 気付いたら会長に憧れて真似をするようになっていた。ちょっと可愛くなくなったから後悔はしてるけど、私が一番尊敬しているのは貴女です。

 

 角谷先輩――あとは任せました。

 

 会長の放った砲弾と同時にⅣ号からも砲弾が放たれ、T-34から白旗が上がる――。

 

 私たちは今度こそ、ノンナさんの搭乗車両を打ち破ったのだ!

 

 でも、ここからが大切だ。この先に控えるのはギガントと呼ばれた怪物――KV-2 そして、フラッグ車。

 

 さらに後ろからはカチューシャさんの本隊が追ってきている。アヒルさんチームにだって十分に守りがない状態だ――。だから、油断せずに行かなくては……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

《カチューシャサイド》

 

 なっ、どうなっているのよ!

 

 カチューシャは万全を期して布陣を敷いたはずよ。

 

 なんたってフラッグ車の護衛にノンナを付けたの。

 こっちのIS-2の凄さを印象付けた上で相手が罠にかかってくれるのを待つためにね。

 

 案の定、あいつらは部隊を半分に分割した。3両にカチューシャたちが結構な時間を足止めされたのは賞賛してあげるけど、それも想定の範囲内だった。IS-2が撃破されたことも含めてね。

 

 淡々と伝えてくるノンナからの撃破報告。さすがノンナ、もうフラッグ車を追い詰めているのね。なんか、Ⅳ号と38tが今さら逃げたけど、もう遅いわよ――。

 

 しかし、待てども来ないノンナからのフラッグ車を撃破した報告という、プラウダ高校の勝利の瞬間……。カチューシャを待たせるとはいい度胸ね……。

 

  

 

 嫌な予感がした頃に届いたのはあり得ない報告だったわ。

 

『申し訳ありません、カチューシャ。撃破されてしまいました』

 

ムカツクくらいの静かな淡々とした声でノンナは凶報を伝えた。

 

 そっか、ノンナでもダメなら、あの子は克服したのね、弱点を……。

 

 やるじゃない。レイーチカ、西住流……。このカチューシャが本気で考えた作戦を真正面から打ち破るなんて――。

 

 きっと、もう時間の問題ね。かーべーたんは確かに強いけど……。今日のあの子たちは、おそらくもっと――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「今だみほ! T-34の動きは止めた! KV-2は装填に時間がかかる! ここで決めてくれ!」

 

『華さん、今です! 撃てー!』

 

 Ⅳ号から放たれる砲弾はまっすぐにプラウダ高校のフラッグ車の急所に衝撃を与えた――。

 

 白旗が上がった瞬間、私は声が出なかった――代わりに涙が止めどなく出ていた。

 

 絶望した。希望を信じた。そして、奇跡は起こった――。

 

『プラウダ高校、フラッグ車、走行不能を確認。よって大洗女子学園の勝利!』

 

 巨大な試合会場の電子掲示板に私たちの最高の母校の勝利が記されていた――。

 

 




本気のプラウダ高校との戦いはいかがでしたでしょうか?
今回は心理的描写と仲間との絆に重きをおいて書いてみました。
それでは、次回もよろしくお願いします!


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準決勝終了、その後の話……

嵐のような準決勝が終わり、今回はちょっとしたオリジナルエピソードです。
よろしくお願いします!


「やったぞ! みほ! みんなぁ! 私たちはあのプラウダに勝ったんだ!」

 

 全員が集合したとき、私は勝ったという実感が急に湧いてきて西住さんに抱きついた。

 

「きゃっ、ううっ、玲香さん。力が強いよー」

 

「みぽりん、顔が赤いよー」

「あらあら、風邪でも引きましたか? さむかったですからねー」

「うわぁ、早く風邪薬を見つけないとー。西住殿が大変なことにー」

「違うと思うぞ……、単純に西住さんは玲香さんのことを……」

 

「麻子さん! 違うからっ……」

 

 冷泉さんが何か言おうとした瞬間に西住さんは彼女に駆け寄って首を振っていた。何だったんだろう。

 

 おや、カチューシャさんとノンナさんだ。肩車好きだねぇ。

 

 

「はぁ、カチューシャの得意な戦術を次から次へと噛み千切るなんてね……。それに……、まさかノンナまでやられるとは思わなかったわ」

 

 カチューシャさんがそっぽを向きながら話していた。

 

「私もそう思います」

「えっ?」

 

「だって、カチューシャさんの作戦はどれも凄かったから……」

 

「…………そう。とっとにかく貴女たち、大したものよっ! ちょっとだけ認めてあげるわ! ノンナっ!」

 

 カチューシャさんはノンナさんから降ろされて地に足で立つ。少しだけ涙ぐんでいるような……。

 

「んっ……」

「はいっ!」

 

 そして、差し出される小さな手。それを握る西住さん。

 

「レイーチカも、前にカチューシャが指摘した弱点を克服してたみたいね。あんなのずるいじゃない。褒めてあげるわ」

 

「尊敬するカチューシャさんに褒めてもらえるなんて、身に余る光栄です。先ほどは失礼しました」

 

「ああ、一応気にしてたのね。でも……、本当になっちゃったわ……」

 

 今にも泣きそうになるカチューシャさん。すっごく、小さい子いじめた感が出て罪悪感が酷い!

 

「カチューシャさん、失礼!」

「わっ、何を! レイーチカ!」

 

 私はおもむろにカチューシャさんを肩車した。

 

「ありがとうございます! カチューシャさんのおかげで、またウチは1つ強くなれました! このまま私たちは優勝します! カチューシャさんに高みに押し上げてもらった勢いに乗って!」

 

「ふふっ、本当に馬鹿な子ね。そうよっ! カチューシャたちに勝ったんだから、負けるなんて許さないんだから! 決勝戦見に行くから、カチューシャをがっかりさせないでよ!」

 

 上機嫌に笑うカチューシャさん。良かった、泣かないでいてくれて……。

 そして今、ノンナさんの凍てつく視線に殺されそうです。

 

 こうして、私たちは前回優勝のプラウダ高校を破り、新参校がいきなり決勝に進むという快挙を達成したのである。

 

 ただし、まだゴールにはたどり着いてない。

 

 最後に私たちを待ち受けるのは――絶対王者・黒森峰女学園! おそらく、今回以上に苦しい戦いになるだろう……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ううっ、寒いなぁ。さすがにあの格好は耐えられなかったので、ジャージに着替えて大会運営委員に挨拶を済ませてきた。

 

 お客さんも続々と出ていっているな。あれ、あの人は……。

 

 

「あっ! まほさーん! 見に来てくれてたんですね! ありがとうございます! ところでトイレの前で何で立っているのですか?」

 

「玲香か。先ほどの試合は見事だった。1回戦のときよりも強くなったな。ちょっと人を待っているだけだ、君は気にしなくていい」

 

 まほさんはどこか気まずそうな顔をしていた。ははーん、逸見さんを待っているな。みほのことがあるから、ちょっと思うところがあるんだろう。

 

「大丈夫ですよ。別にエリカが居ても――」

「まほ、待たせましたね。ところで、その男性はどちら様ですか?」

 

 長い黒髪の美人がキチッとしたスーツ姿で出てきた。うわぁ、この人、西住流の家元だよね? 確かに雑誌やテレビで見たときはこんな感じだった気がする。てことは、西住姉妹のお母さんか。

 

「あっ、お母様、この方は私の友人でして……」

 

「そう、あなたにもボーイフレンドが出来ていたのですね。しかし、あなたは今、大事な時期です……」

 

「いえ、違うのです。消してそのような浮ついた者ではなくてですね」

 

「浮ついていない? そうですか。結婚を前提でお付き合いしたいとまで考えているのですね? 確かに私も恋愛結婚でしたし、早くにあなたを生みました……」

 

 アカン、まほさんがコミュニケーション下手なせいで、家元の勘違いが加速していっている。なんか聞いてはいけないこと赤裸々に語っている。

 

「あっあのっ! まほさんのお母様! 違うのです! よく間違われるのですが、私の性別は女ですよ! 自己紹介が遅れました、私は大洗女子学園の2年生、仙道玲香です!」

 

「「…………」」

 

 文字通り、場が凍ってしまった……。家元は私の顔を凝視していた。

 

「そうですか、あなたが……」

 

「はいっ! まほさんやみほさんとは、仲良くさせてもらってます。しかし、お二人が羨ましいです。お母様がこんなに若くて美人だなんて……。一瞬、まほさんのお姉様だと思いましたよー」

 

「あっあなたは何を……。――まほ、帰りますよ」

 

 一瞬だけ、西住さんのように顔が紅くなった家元は直ぐに何事もなかったようにまほさんを引き連れて帰って行った。

 あとから、まほさんから「死にたいのか? 無謀なことはやめなさい」とメールが来た。何のことなのかさっぱりである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ってことがあったんだー。なんかまずかったかなー? エリカ」

 

「まずいというか、あなたの正気を疑うわよ。西住流の家元に向かってなんてこと言ってんの?」

 

「そっか、失礼なのか。商店街のオバちゃんは喜んでくれたし、義援金集めにも協力してくれたんだけどなー。あっ、美味しいねコレ。さすが、まほさんのオススメカレーだ」

 

「で、ずっと聞きたかったんだけど、どーしてあなたが黒森峰の食堂でウチの制服着てカレーを食べてるのかしら」

 

「あー、決勝で黒森峰と戦うことになったからねー。スパイ活動?ってやつかな。まっ、もちろん、まほさんの許可取ったけどさー」

 

 そう、私は再び黒森峰に来ている。決勝戦で勝つためのヒントを得るために。  

 まぁ、さすがに決勝の対戦相手の制服で乗り込むのは不味いので黒森峰の制服を着用していた。いやー、1回だけ着てみたかったんだよねー。

 

「どこの世界にこんなに堂々とスパイ活動するバカがいるのよっ! 隊長もなんで許可出してるの?」

 

「だよねー。まほさんってある意味、みほ以上にスキがあるから気をつけたほうがいいよ」

 

「頭痛くなってきたわ。もう考えるのを止めましょう。で、ウチに勝てる策でも見つかったのかしら?」

 

「いや、無理ゲーっぽい。大体、プラウダにだって20両出されたら勝てたかどうか……」

 

「15両に6両で勝つのもどうかしてるわよ。言っとくけど、ウチに油断はないわよ。隊長は過去最強の敵に挑む覚悟を持てってやる気出してるから。もちろん、私も本気で潰す気よ」

 

「はぁ、それは怖いな――」

 

 私はため息をついて、感想を漏らした。本気同士で戦うのは望むところなのだが、負けたら廃校って状況なら慢心して手を抜いてほしい。

 プラウダ戦で私は思いっきりそう思った。カチューシャさんを本気にさせたことを何回後悔したか覚えていない。

 

「なぁ、親友のエリカー。やっぱり、パンター5両くらいはウチに譲ってもバチは当たらないと思うんだ」

 

「いつの間に親友にランクアップしてるのよ! それ、絶対に隊長に言っちゃダメだからね!」

 

 逸見さんはいつもどおりの感じで接してくれる。お互いが決勝の対戦相手の副隊長なのに。やっぱり、いい人だよなー。

 

「あれ? エリカさん、この方は? 見かけない人ですが……」

 

 ショートカットのくせ毛の女性がこちらに話しかけてきた。

 

「どうも、エリカの親友です!」

 

「えっエリカさんに親友?」

 

「そんな訳ないでしょ! でも、意外そうな顔は腹立つわ!」

 

 逸見さんの怒声が食堂で響き渡る。ちょっとはトーンを抑えてほしいな。みんな見てくるし……。

 

「あははっ、ごめんごめん。私は大洗女子学園の戦車道チーム、副隊長の仙道玲香です。決勝では、よろしくお願いします」

 

「えっ、えっ、なぜ大洗の副隊長が黒森峰に居るのですか? まぁいいか。私は2年生の赤星小梅です。よろしくお願いします、でいいのでしょうか?」

 

「隊長の許可取ってきてるみたいだし、いいんじゃないの? でもあなた、順応早くない?」

 

 もう諦めたような表情で逸見さんはそっぽを向く。結構、逸見さんも順応早いと思うけどなー。

 

「大洗ということは、その、みほさんとも――」 

 

「ん? もちろん、みほとも友達ですよ。赤星さんはみほと繫がりがあったのですか?」

 

「ええ、もちろんです。みほさんは、私の恩人でしたから――」

 

 へぇ、なるほど。この人があのときの――。

 

 私は赤星さんと少しだけ話し込んだ。

 去年の決勝戦で川に落ちたこと、西住さんに救われたこと、お礼を言う前に西住さんがいなくなってしまったこと――。

 

「――そうでしたか。でも、気に病まなくて良いですよ。これだけは保証します。みほは、あのときの行動を微塵も後悔していないです。きっと、同じことが起こればまた同じことをするでしょうね。彼女の友人として、それは誇らしいことです」

 

「そうですか……、ありがとうございます。少しだけ、楽になりました」

 

「決勝の挨拶のときにでも、声をかけてくださいよ。どうせ、エリカが嫌味ったらしいことくらいしか言わないんです。それに比べたら、幾分お互いに雰囲気が良くなると思います」

 

「ちょっと、それどーゆー意味よ!」

 

「えっ、だってエリカって、みほを前にして、『弱小校なら、あなたみたいなのでも隊長になれるのね』っとか言いそうじゃん」

 

「あー、エリカさんなら確かに言いそうです」

 

「ちょっと、待ちなさい! さすがに公式戦の場所でそんな礼儀のなってないこと言わないわよ!」

 

 その後、しばらく雑談をして私は帰った。

 

 あー、なんにも黒森峰対策見つからなかったよ。チクショー、戦車が、戦力が足りんのだよ!

 危機感しか持ち帰れなかったが、翌日の作戦会議から戦力増加への兆しが見えたのだ。

 まだ、諦めないぞ! 必ず優勝するからな!

 




物語の進行的にはまったくいらないのですが、ちょっと思いついて書いてしまいました。
いよいよ、決勝戦が近づいて来ました。
アニメ原作はもうそろそろ終わりですねー。
これが終わったら劇場版をやって、それから……。
とりあえず、皮算用せずにアニメ原作終了を目指します。
次回もよろしくお願いします!


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決勝戦に向けて

いつも感想や誤字報告に助けられています。
さて、今回の話は原作の第10話の中盤辺りまでです。
決勝戦を控えた大洗を描きます。
それではよろしくお願いします!


「決勝戦は20両までいいそうだから、ティーガー、パンター、ヤークトパンター。これでは余りにも戦力の差が……」

 

 西住さんは自分の元々いた学校との戦力差に顔を曇らせる。

 やっぱりきついな。そもそも、私たちの38tではまともにダメージが与えられん。

 黒森峰の様子を見てもみんなやる気満々、王座に何としても返り咲くつもり満々だった。

 プラウダ以上に士気は高かった気がする。

 

「玲香、新しい戦車の購入は無理そうか?」

 

「頑張って義援金集めたんですけどねー。中古の安物すら無理っぽいです。今ある車両の強化に使ったほうが現実的に戦力アップが見込めそうですよ」

 

 私は会計資料を河嶋先輩に見せながら説明した。戦車ってなんであんなに高いのかねー。

 

「そうだ、西住、88mm搭載のアレはどんな感じだ? アレさえ使えるようになれば、かなりの戦力アップが見込めるはずだぞ」

 

「今、自動車部の皆様がレストアされてますが、いつになるのかは――」

 

 このタイミングで小山先輩の携帯の着信が鳴る。

 

「――はい、はい。わかりました。――レストア完了です」

 

 大洗陣営に希望が訪れた瞬間である。

 

 

「うわぁ!」

「すっごーい!」

「強そーう!」

 

 素直に目を輝かせるウサギさんチームの面々、こういう可愛らしいところ、昔の私にもあったと信じたい。

 

「あー、これ、レア戦車ですよねー」

 

 そんな1年生たち以上に目を輝かせていたのは、もちろん大洗の戦車博士、秋山優花里さんである。ウキウキが止まらないって感じで、散歩に出かけたがる柴犬のようだった。

 

「ポルシェティーガーか。なんで、また、大洗に……。本当に意味がわからん」

 

 私はちょっと前にレストア中のこの戦車を見せてもらったから嫌な予感はしていた。マジでなんで、こんな世界に10両くらいしかないレア物がここに?

 

 しかも、この戦車は困ったことに……。

 

「まぁ、地面にめり込んだり……」

「過熱して炎上したり……」

「壊れやすいのが難点ですけど……」

 

 秋山さんが言ったことは、稼働して1分もしない内に起きてしまった。

 

 これって、その、いわゆる……。

 

「欠陥品だよな、完全に……」

 

「玲香殿ぉぉ! そんな辛辣なこと言わないでくださいよー。マニアにはたまらない逸品なんですよー」

 

 秋山さんに肩を揺らされながら抗議を受ける。ははっ、だってこんなのマトモに動かせる連中なんているわけがないじゃないか。

 

「そうだ、ヤフオクに出せば、きっとマニアから高値が!? 相場を調べて、そこから購入できる戦車を……」

 

 私はおもむろに携帯電話を取り出して出品の準備に取り掛かった。任せてくれ、書紀会計として1年間鍛えたこの金銭感覚で必ずや大洗の窮地を……。

 

「ああーん、玲香殿! そんな現実的な話をしないで下さいよ! もっと夢を見ましょう! このポルシェティーガーが戦場で大活躍する夢を!」

 

「夢ならアニメでいくらでも見れる! 私は現実を突き進む! ええい、()()優花里!」

 

「ええ、いくらでも()()ます! このポルシェティーガーの魅力を!」

 

「そうじゃない! 離せと言ってるんだ!」

 

 私と秋山さんが小競り合いをしていると、消火活動をしていた、自動車部のナカジマさんとツチヤさんがこちらに歩いてきた。

 

「玲香さん、大丈夫ですって、この子は私たちが乗りこなしますよ。ツチヤのドライビングテクニックを信じてあげてください!」

 

「ちょっと今は手間取っちゃってるけど、そのうちドリフトくらいは出来るようになるよー」

 

 どうやら自動車部の皆さんはこのポルシェティーガーをとても気に入ってしまったらしく、搭乗することが楽しみになっているらしい。

 

 私としても大恩のある自動車部の懇願に対してノーと突っぱねることなど出来るわけもなく、快く了承するしか選択肢はなかった。

 

 まぁ、なんか自動車部なら不可能を可能にしちゃいそうな気もしたし、本心としては秋山さんと同様にポルシェティーガーの活躍が見たかった。頼みますよ、自動車部の皆さん。

 かくして、大洗の最強火力チーム、レオポンさんチームが誕生した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「とりあえず、ヘッツァー改造キット買ったから」

 

 会長がどんなルートで買ったのかわからないが38tをヘッツァー仕様に改造するための部品を購入してくれた。

 はぁ……、これで貧弱な火力から解放される。黒森峰の重戦車にもそこそこダメージが与えられるだろう。撃破するには基本ゼロ距離って何の罰ゲームかと思ってたし。

 最近、妙に調子が良いから決勝戦ではもっと研ぎ澄まして頑張りたい。

 

「あとは、Ⅳ号にシュルツェンでも取り付けますか?」

 

「おおー、河嶋先輩にしてはまともなこと言ってますねー」

 

「お前はいちいちうるさいぞ!」

 

「いいなー、河嶋先輩は玲香さんと仲良くて……」

 

「「えっ?」」

 

 私と河嶋先輩は顔を見合わせて首を傾げた。

 時々、西住さんがよくわからない。天然なのかな?

 

 ともかく、Ⅳ号がパワーアップ。

 追加装甲のシュルツェンを加えることで攻防力共に急上昇したH型に改造されたのだ。

 

「あのぉ、西住さん?」

 

「あっ、猫田さん」

 

 蚊の鳴くような声で西住さんに声をかけたのは同級生の猫田さんだ。グルグルっとしたメガネとネコミミのカチューシャが特徴の金髪の女性である。

 

「ボクも戦車道、今から取れないかな?」

 

「えっ?」

 

「ぜひ、協力したいんだ。その、操縦は慣れているんだ」

 

「本当! ありがとう! でも、余っている戦車がどこを探してもないの。ねぇ、玲香さん」

 

「うん、今、カモさんチームとウサギさんチームが血眼で探してくれているんだけどねー。期待は薄いかな?」

 

 ダメ元で私たちは戦車の捜索を行っている。あとは船底ぐらいしか――いや、あんな無法地帯探せるはずない。

 

「あの戦車は試合では使わないのかな?」

 

 猫田さんは戦車の場所に心当たりがあるみたいだ。すごく探したんだけど、一体どこだろうか?

 

 

 ――駐車場だった。マジか……。ここって、ウサギさんチームが……。

 

「あれぇ、この戦車使えるんですかー」

 

 阪口さんがポカンと口をあけてそんなことを言う。

 

「ずっと置きっぱなしだったから使えないんだと思ってましたー」

 

 大野さんもポカンとした顔だった。

 

 うん、君たちはとりあえず報連相から覚えようか。

 

 かくして三式中戦車チヌが新たに大洗の戦車道チームに加わった。

 

 搭乗員は猫田さんの仲間というがどんな人だろうと思っていると――。

 

「「わぁ、かっこいいー」」

 

「みんな、オンラインの戦車ゲームしている仲間です」

 

「ねこにゃーです」

 

「おおっ、ももがーです」

「ぴよたんですー」

 

「うわぁっ、ももがーさんとぴよたんさん……。リアルでは始めましてです……」

 

 桃の形の眼帯をした茶髪のヘソ出しルックの女性が1年生のももがーさん。

 デカイ(もはや、説明不要)、3年生の銀髪の女性がぴよたん先輩だ。

 

「ちょっと待ってくれ、まさか戦車の操縦に慣れてるってゲームのこと?」

 

「「はいっ!」」

 

「はぁ!? お前ら戦車道をゲームかなんかと勘違いしとりゃあせんか?」

 

「ちょっと……、玲香さん?」

 

 私の中の白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)が目を覚ました。

 

「走れっ!」

 

「「えっ?」」

 

「戦車の洗車は私がやるっ! 終わるまで、グランドをランニング! そのあとは私が徹底的に君たちを鍛える! 安心しろっ! 君たちを決勝戦までに完全なソルジャーに育て上げてみせる! ほらっ! 走った、走った!」

 

 ネトゲチーム、改めアリクイさんチームが誕生した。この子たちは急いで育てないと開始早々撃破される。多少はスパルタで特訓しなくちゃ。

 

「西住さん、ちょっと彼女たちは別メニューにするから、私に任せてくれ」

 

「玲香さん、目が怖いよぉ」

 

「大丈夫、人の限界を見極める作業は得意だから」

 

「余計怖いなぁ……」

 

 隊長の許可を得て、アリクイさんチームの専属コーチに私は就任した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 アリクイさんチームの強化に勤しんでいると、時はあっという間に過ぎて、明日は遂に決勝戦だ。

 

 その間にあったことはというと、冷泉さんのお祖母さんが退院したという朗報を聞いたり、五十鈴さんの華道の作品が展覧会で見られるというので見に行ったりした。

 

 五十鈴さん、お母さんに認められて和解できたみたいで良かった。心配だったからなー。

 そんな五十鈴さんを寂しげな顔で見ている西住さん。

 まほさんのメールによれば、家元は西住さんの勘当を考えてるらしい。そんなに拗れていたとは知らずにこの前はやらかしたなー。

 西住さんは私がずっと支えようと誓った瞬間だった。

 

 てなわけで、最後の練習を終えて私は戦車道履修生たちの前で生徒会を代表して、また副隊長として、話をしている。

 

「明日はいよいよ決勝戦だ。まぁ、優勝なんて荒唐無稽だと思ってたけど、正直言って驚いてる。君たちがここまで強くなったことに……。確かに黒森峰は強敵だし、世間も私たちが勝つとは思ってないだろう。しかし、私たちも強いんだ! きっと、プラウダ戦で見せたような奇跡はもう一度起こる! 勝って、私たちの母校を私たちの手で守ろうじゃないか!」

 

「「おおーっ!」」

 

 みんなは拳を天に突き上げた。

 

「よしっ、最後は隊長のみほだっ! ほら、出てきて話してくれ!」

 

「えっ、私? うっうーん……」

 

 西住さんが私に促されて前に出てくる。

 

「明日対戦する黒森峰女学園は、私がいた学校です。でも、今はこの大洗女子学園が私の大切な母校で、だから、あの、私も一生懸命、冷静に落ち着いて頑張りますので、皆さんも、頑張りましょう!」

 

「「おおーっ!」」

 

 西住さんは微笑みながら演説した。不思議とやる気と力が湧いてくるような話だった。

 そして、私たちは更に天高く拳を振り上げた……。

 

 明日は勝って、みんなで泣いたり笑ったりしたい――。

 大洗の学園艦は私たちのみんなの家なのだから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おい、玲香は良いのか? 西住たちにご飯に誘われていたみたいだったが……」

 

 生徒会のみんなで下校をしていると、河嶋先輩はそんなことを聞いてきた。

 

「ああ、それなら河嶋先輩が泣いちゃうからって断っておきましたよ」

 

「馬鹿者、誰が泣くか!」

 

 いつもの調子で河嶋先輩は激怒する。

 

「冗談ですって。だって他のチームがみんな全員揃ってるのに私だけ他のチームにお邪魔なんて出来ないじゃないですか」

 

「それもそうだね。玲香はあんこうチームと仲が良かったから、あんまり気にしてなかったよ」

 

 小山先輩が気がついたような声を出す。

 

「それに――私が一番この学校で過ごして来たのは生徒会ですから。学校の命運が決まる決戦前の食事くらい尊敬する先輩と取りたいですよ」

 

 まさに私の大洗女子学園での青春は生徒会にずっと振り回されていた。

 

 腕に力がほとんど入らなくなり、思うように動かなくなってイラついていた入学当初。干しいもをかじりながら妙に絡んでくる先輩と出会って運命が変わったんだ。

 

 バカみたいな事にバカみたいに一生懸命になり、バカみたいに笑った日々。いつだって私たちは本気だった。

 

 そして、高校での戦車道を諦めていた私に、打算があったとはいえ、復帰のチャンスを与えてくれた。生徒会(ここ)は私の一番大切な居場所のひとつだ。

 

「あたしらも負けないくらい、仙道ちゃんに感謝してるんだからね。まったく、仙道ちゃんはあたしらにゃ勿体ないくらい、いーい後輩だよ。なぁ、河嶋ー、小山ー」

 

「もう二度と言わんが、お前を後輩に持って私は幸せだと思ってる。まったく、最近は腹立つほど会長に似てきたがな」

 

「玲香が入ってきたおかげで、会長に文句が言える人間が出来たからね。私たちじゃ、言いにくいことも言えるし、年下だけど、いつも頼りにしてたよ。感謝してる」

 

 先輩たちは口々に私を泣かそうとするくらいのことを言ってきた。こっこれって、会長のドッキリでは?

 

「ドッキリじゃないよー」

 

「あっ、違いましたか」

 

 心の中を読まれることにも慣れた自分が怖いなー。

 

 さあ、勝負前日には必ず来る店に着いたぞ。

 

 カツカツ食べて、明日も勝つぞ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 うぷっ、食べすぎた。河嶋先輩、自分のキャパぐらい計算して注文してくださいよ。

 頼み過ぎた上に大将がサービス盛りとかするから――。

 

 会長は全然手伝ってくれずに、「仙道ちゃんは、ほら、タッパがあるからさー。イケるっしょ」とか言ってるけど、普通ですからね。五十鈴さんみたいな異次元ブラックホールじゃないですから。

 

 はぁ、随分と遅くなってしまったな。ちょっと作戦を復習したら寝よっと。

 ん? こんな時間に着信? 西住さんからか。なんだろう?

 

『あっ、もしもし、玲香さん? ごめんね、遅くに電話しちゃって』

 

「ん? 大丈夫だよー。どした?」

 

『うっうん。なんでもないんだけどね。これから会えないかな? 少しだけでいいから』

 

 西住さんから、思い詰めたような声がしたので、私は自転車を西住さんの寮まで飛ばして行った。

 一体、どうしたというのだろうか?

 

【第63回戦車道全国高校生大会決勝】

 

 大洗女子学園 VS 黒森峰女学園

 

 試合は翌日に迫っていた。

 




いよいよ明日は決勝戦の前に少しだけオリジナルエピソードを……。
でも、そんなに長くないので、次回はいよいよ黒森峰女学園との決勝戦が始まります。

今まではナメプを消すことで激戦を演出しましたが、原作の決勝戦は割と全力だったんですよねー。
なんとか、原作に負けないくらいの熱戦をお届け出来るように頑張ります。


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大洗女子学園VS黒森峰女学園 その1

決勝戦の前に甘いモノをどうぞ。
今回は原作の10話の最後くらいまでです。
よろしくお願いします!


「あっ、玲香さん。ごめんね、こんな時間に呼び出して。どうしても玲香さんに会いたくなったの……。部屋に入って、お茶を出すから」

 

 西住さんはうつむきながらモジモジしながら、そう言った。

 一体どうしたんだろう。確か、あんこうチームは西住さんの部屋でご飯会をしてたはずだけど……。

 

「みんなはもう帰ったんだな。どうしたんだ? なんか、思い詰めたような声だったけど……」

 

「うん……、ちょっとね……」

 

 西住さんはお茶を出してくれた。これって、グロリアーナ戦のあとに貰ったやつ?

 前みたいに二人で並んでベッドに座る。

 

「沙織さんがね、私に『彼氏のひとりでも作ってみなさいよ』って言ったの……」

 

「そっかー、まぁ、みほは可愛いからな。出会いがあれば直ぐに彼氏なんか出来るだろ」

 

 武部さんは相変わらずだなー。でも、西住さんが誰かと恋愛なんて今のところ想像できないなー。

 

「そんなことないよ。それに――」

 

「ん? それにどうしたんだ?」

 

「それに、あの、玲香さんは気持ち悪いって思うかもしれないけど……、私が、誰かとね、付き合うとか……、そのう……、恋愛するって、想像するとき、あっ相手が……」

 

 みるみる内に西住さんの顔が真っ赤になる。一体どうしたんだろうか?

 

「みほの想像の相手がどうしたんだ?」

 

「うっうん、その相手がね……、玲香さんなんだ……」

 

 そこまで言うと西住さんはうつむいて泣きそうな顔になった。

 えっ? それって、どういうこと?

 西住さんが恋人を想像するとき、私を想像するってこと? えっええーっ!

 

「ごめんなさい。気持ち悪いし、引いちゃうよね……。ずっと気になっていて、あの日、玲香さんがここに泊まった日に自分の気持ちに気付いてからは、玲香さんの顔を見るたびに胸のドキドキが止まらなくて……。沙織さんの話を聞いて、明日の試合で全てが決まるって考えたら……、どうしても気持ちを伝えたくて……」

 

 西住さんは頭を上げて、まっすぐに私を見つめた……。

 

「玲香さん、あなたが好きです。友達としてではなくて、恋愛対象として……」

 

 目がウルウルと涙目になりながら、真剣な顔で西住さんは私に気持ちを吐き出した。

 本気なんだろうな……。そっか、あの日のキスって、そういう……。私は自分の唇を指で触って、その時のことを思い出した。

 うわっ、私はなんてことしたんだっ! 西住さんの気持ちも知らずに……。

 

 それより、私の気持ちはどうなんだ? 西住さんのことは確かに好きだ。愛おしいとすら思っている。

 でも、恋愛対象としては……。

 

 私は西住さんの目をジッと見つめた。泣きそうな瞳に吸い込まれそうになる。

 

 そうか、私は――。

 

「ごめん、みほ……、私はバカみたいに鈍感だったみたいだ……。君から告白されて、気付いたのだが……、どうやら、私はどうしようもなく、みほのことが好きらしい」

 

「えっ?」

 

「だから、その……、そういうことだ。みほと同じ気持ちってことだよ。好きなんだ、みほのことが……。なんか恥ずかしいな……」

 

「玲香さん……」

 

 西住さんがガバッと抱きついて来た。私はそれを受け止めてギュッと抱き締めた。

 

「みほってなんか抱き心地がいいな。うん、癒やされる……。マイナスイオンでも出てるんじゃないか?」

 

「もう、玲香さんったら。――私、すごく幸せなんだよ。嫌われるかもって思ったから……」

 

「そうか? だったら、決勝戦前にこんなこと言わないと思うけどなー。ホントは自信があったんだろ?」

 

「玲香さんは意地悪だなぁ。えへへ」

 

 そのあと、しばらく見つめ合って、そしてお互いの唇を重ねた――。あー、コレは抜け出せなくなるやつだ。人をダメにするやつだな。

 

 結局、私はそのまま西住さんの家に泊まって。早朝に自分の部屋に戻って準備することになった。

 

 いやー、決勝戦に遅刻するなんて洒落にならないから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ごきげんよう、玲香さん」

 

「あっあれ? ダージリンさんじゃないですか? 来てくれてたんですねー」

 

 私は笑ってダージリンさんの手を握った。

 

「えっええ。あなた達の応援に……、ねぇ、ペコ」

 

 ダージリンさんは耳の辺りが少しだけ赤くなり、オレンジペコさんに話を振った。

 

 そして、なぜか西住さんに腕を引っ張られてダージリンさんから引き離された。なんかちょっと不機嫌になってる……。あれ?

 

「まさか、あなた方が決勝戦まで残るとは思いませんでしたわ……」

 

「私もです」

 

 オレンジペコさんの言葉に微笑んで返す西住さん。さっきの不機嫌な感じは気のせいだったらしい。

 

「くすっ、そうね、あなた方は毎回、相手の全力を引き出しつつそれを上回るような戦い方を見せて、わたくしたちの予想を覆してきた。今度はどんな戦いを見せてくれるのかしら?」

 

「頑張ります!」

 

 ダージリンさんの激励に頷く西住さん。わざわざ大洗の陣営まで応援に来てくれるなんていい人だなー。

 

「みほー、ホワイトデビル!」

 

 ケイさんたち、サンダースの面々も来てくれた。

 

「また、エキサイティングでクレージーな戦いを見せてね! 期待してるわ!」

 

「玲香! あんまり無様にやられると私たちも弱いって思われちゃうから、せいぜい頑張るのね!」

 

 ケイさんはみほに、アリサは私に一声かけて行ってしまった。

 

「ミホーシャ、レイーチカ……、カチューシャ様が見に来てあげたわよ。黒森峰なんてバグラチオン並みにボッコボコにしちゃって」

 

 カチューシャさんとノンナさんまで、激励に来てくれるなんて……。

 

「じゃっ、頑張ってね。ピロシキー」

 

до свидания(ダスビダーニャ)(また会いましょう)」

 

 これだけの面子に応援されたらやる気が出ないわけないな。

 

「あなたたちは不思議ね、戦った人たちとなぜか仲良くなってしまう」

 

 ダージリンさんは爽やかな笑顔でそんなことを言う。まー、確かに気持ちのいい試合が多かったしなー。

 

「えっと、それは皆さんが素敵な人たちでしたから……」

 

「まっ、人に恵まれたのは確かだな。黒森峰ともそうなれば良いのにな」

 

「玲香さん……」

 

 私と西住さんは今までの対戦を思い出しながら答えた。

 

「貴女たちにイギリスのことわざを送るわ……、四本足の馬でさえ躓く。強さも勝利も永遠じゃないわ」

 

「はいっ!」

「じゃっ、最強さんを転ばせに行こっか?」

 

 私と西住さんは同時に返事をした。

 よしっ、優勝しちゃうぞ。西住さんと一緒に。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 

『両チーム、隊長と副隊長は前へ』

 

 審判の号令により、私と西住さんは試合会場の中央に進む。

 

 向こう側からまほさんと逸見さんが歩いてくる。

 

「久しぶりね、貴女がどれだけ本気なのか見てあげるわ」

 

「……」

 

「おい、みほ、なんか答えてあげなよ。エリカのやつ、スゲー大きな独り言を言ったみたいになってるから……」

 

「ちょっと、玲香! 恥ずかしいフォロー入れないでよ!」

 

「ああ、エリカは独り言を言っていたのではなかったのか。安心した……」

 

「たっ隊長?」

 

 まほさんの思わぬ天然炸裂に逸見さんは困り顔をしていた。

 

「あれ? 仲良くない? 玲香さんと逸見さん……」

 

 西住さんは不思議そうな顔をする。

 

「ああ、あれだ。私とエリカは友達になったからな。たまにメールもしてるぞ……」

 

「ふぇ、エリじゃなかった、逸見さんと友達に!? 玲香さんが!?」

 

「ああ、ちなみにまほさんともお互いの好きなカレー屋さんを教え合う仲だ」

 

「お姉ちゃんとも!? というか、お姉ちゃんって友達いたんだ……」

 

「なんか、姉に対して意外と辛辣なんだな……」

 

「むぅー、お姉ちゃんにも、逸見さんにも、玲香さんは渡さないよ!」

 

 西住さんから謎の宣言が飛び出し苦笑いする私。そっか、さっきからそんなことを心配してたのか。  

 

「あんた、何を宣言してるの……」

 

 これには逸見さんも唖然である。

 

「あの、そろそろ試合を始めたいのだけど……」

 

 審判長の蝶野さんが遠慮がちに話しかける。ああ、申し訳ない。

 

「両チーム、代表者、礼!」

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 さて、挨拶も済んだし、そろそろかな……。

 

「みほさんっ!」

 

 赤星さんが西住さんに駆け寄る。あのときのお礼を言っているみたいだ。

 

 彼女はあのことがきっかけで西住さんが戦車道をやめないか、どうかが気になっていたようだ。

 

「私はやめないよ! 戦車道!」

 

 西住さんは力強く答える。

 この宣言は実は私も嬉しかったりする。これから先、西住さんと一緒に進んで行けるんだ……。更に高いところへ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「相手は先日のプラウダと同様におそらく火力に物を言わせて一気に攻め込んできます。ですから、出来るだけ早く陣地を獲得して長期戦に持ち込みましょう。相手とはスタート地点がかなり離れていますから、すぐに遭遇することは無いと思います。ですから、試合開始と共に速やかに207地点へ移動しましょう」

 

 西住さんは作戦の最終確認を終える。いよいよ開始か。体が溶けそうなくらい熱い。早く戦いたいなー。

 

「では、みなさん! 各車に乗り込んでください!」

 

「「はいっ!」」

 

 そして、私たちは自分達の車両へ乗り込んだ。

 

 さあ、いよいよ最後の戦いが始まるぞ。絶対に優勝旗を大洗に持って帰るんだ。

 

「みほ、いよいよだな。これに勝ったらさ。今度こそ本当のデートしような。好きだよ、みほ」

 

 私は西住さんに耳打ちする。

 

「ふぇっ、そっそうだね。玲香さん……、不意打ちは酷いよ……」

 

「ははっ、みほにはマトモに行っても勝てないからな。試合ではスキを見せるなよ」

 

「むぅー、絶対に約束守ってね。私、頑張るから!」

 

 そう言って、私はヘッツァーに、西住さんはⅣ号に向かって歩いた。

 

 

 

 

「仙道ちゃーん。今日は何だかイキイキしてるじゃん。緊張はないのー」

 

 ヘッツァーに全員が乗り込むと、会長はにへらと笑いながら尋ねてきた。

 

「うーん、今日は凄く寝覚めが良かったんですよね。そしたら、何か怖いとか、負けたらとか、そういう感情がどっかに飛んで行ってしまって……、今は感覚が研ぎ澄まされて、何両でも撃破出来そうな気分です。今日の私は調子がいいですよ! 準決勝よりも!」

 

 私は今朝、西住さんと同じベッドで目覚めたわけだけど、妙に高揚した気分がずっと続いていた。

 でも、頭の中はスッキリしていて、ちょうど中学時代の決勝戦のときの万能感に似た感覚を再び体験していたのだ。

 

「ほう、それは頼もしいな。期待してるぞ、玲香」

 

「ええ、私も頼りにしてますよ。先輩」

 

 そう言うと、河嶋先輩は変な顔で私を見つめた。

 

「お前、本当に玲香か? 軽口を叩かないなんて……、変なもの食べたのではないか」

 

「なんですか、藪から棒に……。劣勢になってもいつもみたいにパニクるなとか、ちょっと有利だからって増長するなとか。諦めてすぐ泣くなとか、まだ色々とありますが、どれを言ってほしかったのです?」

 

「玲香! おっお前というやつは! だが、それでこそお前らしい! 今日は特別に許す!」

 

 河嶋先輩が腕を組んで顔を背けた。へぇ、いつもと雰囲気が違うんだな。

 

「小山先輩にも、今日は無茶ぶりが多いかと思いますが、今日だけは無理をしてもらいます」

 

「うん、構わないよ。どんな要求にだって答えるから、安心してね」

 

 安定感のある小山先輩の一言に癒やされながら、遂に試合は開始されら私たちは出発した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『こちらはあんこうチーム、207地点まであと2キロ。今のところ黒森峰の姿は見えません。ですが、皆さん油断せずに行きましょう。交信終わります』

 

 アマチュア無線2級をいつの間にか取得したという武部さんからの通信を聞き、最初の目的地が近いことを意識する。

 しかし、本当に何もないのだろうか?

 

 

 ――そんなことを思っていた時だ。左側面から砲撃を受ける。

 

「森の中をショートカットしてきたのか!」

 

 河嶋先輩の言うとおり、黒森峰は森の中を突っ切って最速でこちらに強襲を仕掛けた。

 はぁ、まほさんらしい苛烈な戦術だな。なんで、私たちは想定しなかったのだろう。

 

「まっ、仕方ないですね。来ちゃったんだったら逃げるしかないですし」

 

「呑気なこと言う取る場合か」

 

『各車両、なるべくジグザグに動いてください』

 

 西住さんからの指示により、私たちは逃げの一手を取ることになった。

 

「小山先輩、左側120度曲がって。会長、あの不届き者を威嚇してあげてください」

 

「わかった」

「あいよ!」

 

 私はあんこうチームからは死角になる位置からフラッグ車である彼女らを狙うティーガーⅡを威嚇射撃する。

 

 砲弾はティーガーⅡの車体を掠めるだけだったが、あちらからの砲撃をブレさせることに成功してあんこうチームへの不意打ちは失敗に終わった。

 

「じゃっ、逃げますか。そろそろ、私たちは逃げだけは一級品だって自信を持って良いはずですよねー」

 

「そういや、そうだねー」

 

「そんな情けない自信など要らん!」

 

「はいはい、桃ちゃん。でも、今は逃げるときだから……」

 

 いつもの調子のカメさんチーム。しかし、やはり砲撃の威力が上がったのは大きいな……。

 そんな中、私は小さな手応えを感じていた。

 

 黒森峰、もう少し後で存分に私たちの力を見せてやる!

 

 決勝戦はまだ始まったばかりだ……。

 




とりあえずアリクイさんチームはまだ生き残りました。
さて、ここから徐々に原作と変わった展開をお見せしたいところです。

次回もぜひ、よろしくお願いします!


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大洗女子学園VS黒森峰女学園 その2

原作の第11話の真ん中くらいまでです。
まだまだ序盤っぽいですけど、主にカメさんチーム視点なので、どのくらいの長さになるのか書いておきながら予想できないです(笑)
それではよろしくお願いします!


『もくもく作戦開始!』

 

 大洗の車両から煙幕が展張されて黒森峰の車両の目を遮る。

 これで軽々には撃って来ないだろうし、あちらの重戦車よりフットワークは軽いから追いつかれないだろう。

 鈍足のポルシェティーガーもワイヤーでしっかり固定して引っ張って運んでるし。

 

「おいっ、玲香! 大丈夫なのか! 置いてかれたぞ!」

 

「私たちは奇襲するから別行動って、さっきの作戦会議でも言ってたでしょう。楽しい時間を貰えたんです。頑張りましょう」

 

「あれは楽しいとは言えないんじゃない?」

 

「いいよねー。スリルがあってー」

 

「みほは、履帯破壊くらいでいいって言ってましたけど、撃破したいですねー」

 

 そんなわけで、私たちは回り道をしつつ、黒森峰が通るであろうルートを予測して、森の中に身を潜めて待ち伏せをしているのである。

 

 

「さすがにここからフラッグ車は無理っぽいですねー。まほさんスキがなさ過ぎ……。会長、今です――」

 

 まずは一撃目でヤークトパンターの履帯破壊。

 

「もう一発行けます!」

 

 そして次はパンターG型の履帯に命中。さすがは会長。停車状態だとホントに外さないな。

 

「そろそろこっちも狙われてるよー」

「んじゃ、バックしながらもう一発。ほら、勇み足でこっちに向かおうとしてる粗忽者を狙ってください」

 

 そして、後ろに下がりながら、威嚇のつもりで放った一撃が見事にパンターG型の履帯を貫く。

 

「一応、逃げるふりしときましょう。そうしないと、みほたちのお客様の到着が遅れちゃいますから」

 

 そして我々は森の奥に撤退して身を潜めた。案の定こちらを深追いすることなく、履帯を破壊された車両以外はウチの主力が待ち構える高地へと向かって行ったのだ。

 そっちの健闘を祈る。こっちはこっちで――。

 

 

 

 

「さて、207地点で戦闘が開始されました。次の作戦まで少々時間がありますから、やり残した仕事を片付けましょう」

 

「ああ、いいねー」

 

 私の言葉に反応して、会長はニヤリと笑う。割と危険な仕事でも肯定的に楽しんで捉えてくれる会長とは、本当に気が合う。

 

「玲香、隊長はそこまでしなくてもってー」

 

 小山先輩が不安そうな声を出す。

 

「はい、後は私の判断に任せるって、みほは言ってました。まぁ、履帯を壊された3両なんてプラウダに包囲されたときよりマシですって。それに……、最後の最後で黒森峰の戦力を少しずつ削ったことの意味が絶対に出てきます。数の差はすなわち連中の自信。戦力差が減っていくというのは中々の恐怖なんです」

 

「なーんて言ってるけどさー。本当は抑えられないんでしょー。仙道ちゃん、凶悪な顔になってるよー」

 

「あははっ、バレちゃいました? まっ、危険に感じたら無理せずに撤退しますんで、ちょっとだけ私のワガママに付き合ってくださいよ」

 

「まったく、何かと理屈を並べてると思ったら、ストレス解消とは」

「ストレス解消に黒森峰の戦車を撃破って、怖い後輩を持ったなー」

 

 そんなことを言いつつ、小山先輩は履帯破壊されたヤークトパンターたちのところまで戦車を走らせてくれた。

 

 案の定、のんきに履帯を直してた黒森峰の選手たち。ちっとは警戒してると思ったんだけど……。

 

 しかし、こちらの接近に気づくと、さすがに迅速なスピードで戦車に乗り込んだ。うーん、修理に時間のかかっているヤークトパンターを守ろうって感じだな。じゃあ、まずは前の2両のパンターG型から……。

 

「大きく左に……、そして、少しだけ右にフェイントをいれて、もう一回左! 停車! そして、右です! 撃てっ!」

 

「一瞬だけ後方に下がり、全速前進! 左にフェイントかけて、右! そして、停車から、左! よし、装填時間内は撃たれません。まっすぐに近づいて、停車! 撃てっ!」

 

 今朝から感じていた鋭敏な感覚は相手の戦車の動きを手に取るように教えてくれて――。外に顔を出せば、まるで光の道が出来るように安全地帯が頭の中に浮かんでくる。

 私はそのレールに案内するだけでいい。最速で最短の撃破へのルートがそれだからだ……。

 

 ヤークトパンターの履帯修理が終わったとき。2両のパンターG型からは白旗が上がっていた――。

 

  

「なっ、あんたらなんてことしてるのー!」

 

 ヤークトパンターの車長がぎょっとした顔でこちらを見ていた。

 そんなことより、守るべきものがあるよね?

 

「会長ー」

「あいよー」

 

 私の号令でヤークトパンターの履帯をとりあえず破壊しとく。頑張って直したところ、悪いね。

 

「ウチの履帯は重いんだぞー」

 

「そうですか。もう修理する必要ありませんよ」

 

「えっ!?」

 

「左側から背後に回り込んで、密着! 会長!」

 

「ほいさっ!」

 

 ゼロ距離からの砲撃でヤークトパンターの背後を目掛けて強烈な一撃を加える。

 うーん、黒森峰って個人の判断で行動するの遅いなー。大会終わったらまほさんに教えておこうか。いい車両に乗っているのに消極的過ぎる。

 

『玲香さん、大丈夫ですか?』

 

「ん? みほか。こっちは3両撃破しといたよー」

 

『さすがは玲香さん。そろそろ、こちらは撤退しようと思ってます』

 

「オッケーだ。じゃあ始めるか」

 

「「おちょくり作戦開始!」」

 

 

 

 

 高地は黒森峰が大戦力で侵攻中だった。

 うわぁ、先日見せてもらった重戦車たちがウチの戦車たちに容赦なく襲いかかってるなー。

 

「小山先輩、要するにプラウダの時と同じです。戦車に密着しとけば、あいつら攻撃しませんよ。してくれたらありがたいって感じです。ルートは責任を持って私が指示を出します。会長も砲撃準備は怠らないでください。河嶋先輩は頑張って」

 

「わかったよ。やっぱり怖い」

「小山ーガンバだよー」

「もう頑張ってる! 馬鹿者!」

 

 軽口を叩きながら、私たちは黒森峰の重戦車軍団に突入を開始した。

 

「右です、そこは左によって、少しだけ右、ちょっとだけバックでもしてみます? はい、左から、直進しばらく、そして右」

 

 ウネウネと黒森峰の戦車の間を縫って走り、時々トリッキーな動きで挑発する。

 ちょっとふざけた動きをしながら、満面の笑みで黒森峰の戦車に手を振ってあげると、割と挑発に乗ってくれて、砲撃してきてくれた。

 

 格下に挑発されるのって名門校の子には有効かなって思ったけど、思った以上の効果で怖い。この子たちはよく訓練されてるが、突発的な事態に対処するのは著しく苦手のようだ。会長に撃たせるまでもないな。

 同士討ちまでするとは……。

 

「やっ、お疲れ様! 思ったよりも策にハマってくれてるね」

 

 最後に煙幕をはって逃げ出すことに成功し、我々はチームと合流する。

 

「うん、このまま、あの場所に向かうけど……」

 

「追ってきてるな。ティーガーⅡが……。任せろ、私が止めてやる。なんだったら撃破だって……」

 

「でっでも、これだけ走ればきっと足回りに……」

 

「まぁ、その可能性もないことは無いが……。偶然の産物に頼るのはなるべくやめよう」

 

「それでも、ヘッツァーだけじゃ……。だって、あのティーガーⅡは多分……」

 

「エリカだろ? それくらいは分かるよ。あれは、他の車両とは別格で強い。だったらさ、1両借りて行っても良いか?」

 

「えっ? あっ、うん。どのチームを?」

 

「アリクイさんチームだ。ここ最近は彼女らと特訓してたから、連携が取りやすい」

 

「わかった。玲香さんに任せるよ。頑張って」

 

「うん、行ってくる」

 

 西住さんの目を見つめながら微笑んで、彼女も同様に見つめ返す。

 ははっ、全然心配してないなー。信じてもらえてるってことで良いのかな? じゃあそれに応えなきゃな。

 

 

 

 1両だけで先行して追ってくるティーガーⅡを待ち受ける、カメさんチームとアリクイさんチーム。

 アリクイさんチームに搭乗する3人に共通した弱点は体力不足とパワー不足だった。

 

 砲弾は重いし、操縦するにも力と体力がいる。車長には特に必要ないが、不測の事態には役割交代だってあり得るので、とにかく体を鍛えることから始まった。

 

 玲香副隊長による、レイカ・ザ・ブートキャンプである。生徒会で体育祭前に悪ふざけで買った、酸素カプセルや様々なプロテインが役に立つときが来たのだ。

 

 とにかく、通常の訓練に加えて、筋トレを徹底的にさせた。

 そして、アリクイさんチームは目覚めた、鋼の肉体に! えっと……、その、片手で砲弾掴んでいるんだけど……、短期間でこんなにパワーってつくのかね? すごいね、人体……。

 

「基本的に私たちが引っ掻き回すが、アリクイさんチームも止まらずに的を絞らせないように動いてくれ。当てることに拘らなくて構わないから、ドンドン数を撃って気を逸らせて。それだけでもかなりのストレスになるから」

 

 どうせ狙って当たるもんでもないから、手数を優先してもらった。当てるのはこっちの仕事だし。

 

『れっ、玲香さん……、ボクらを見捨てないで鍛えてくれて……、ありがとう。みんな、やる気満々だよ……』

 

「お礼を言いたいのはこっちだ。慣れないことを強制させてすまなかった。ちょっとハードだったよな」

 

『うっうん。ちょっとどころか、控えめに言って地獄だったし、みんなで玲香さんを呪おうってネットで呪いの藁人形を注文したりしたけど……、今、戦車を動かせて……、感謝してるよ……』

 

「ん? 今、聞き流せないようなこと……」

 

『あっ、ティーガーが来たみたいだね。頑張ろうね、玲香さん』

 

 今度があるなら、少しだけ優しくしよう……。

 

 さて、久しぶりだね。逸見さんと戦うのは……。

 

 

 

「まさか、あなたが待ち伏せてるなんてね……」

 

「悪いね、エリカ。君を止めるのに2両使わせてもらうよ」

 

「舐めないでもらえる! 貧弱な車両が2両揃ったところで、私を止められるものか!」

 

「うーん、舐めてるのは、たったの1両でノコノコ現れた――君の方だろ?」

 

「なっ、調子に乗るなよ! 玲香ぁぁぁ!」

 

「かかってこいよ、エリカぁぁぁ!」

 

「「撃てっ!」」

 

 同時に号令して、戦いの幕が切って落とされた。

 

 

「右です、その後、砲撃来ますが、左に逃げつつ前進! 会長!」

 

 相手の動きを読んだ上で放たれる凶弾――しかし、黒森峰の副隊長は伊達じゃない。瞬時に車体の角度を変えてこちらの攻撃を装甲の厚いところで受け止める。やるなぁ、最短の防ぎ方だ……。

 

 アリクイさんチームは装填手と砲手が兼任なのにも関わらず、なかなかのペースで砲撃を続ける。いや、短時間でよく成長してくれた。恨まれてるんだろうけど……。

 

 グズグズしてると、黒森峰の本隊がこちらに来て袋叩きにされちゃうな。

 

 仕方ない、一度しか使えない手を使うか。

 一流の戦車乗りを相手にしか使えない必殺技を――。

 

「やるなぁ! エリカ! 中学のときよりずっと強い!」

 

 私は大声でエリカに声をかけた。

 

「当たり前よ! 話しかけて気を逸らそうとしても無駄よ!」

 

 逸見さんが私を睨みつける。そして、私も睨み返す――。

 

「そうか! なっ、まさか!」

 

 私は驚いた顔をして、視線を遥か遠くに追いやる!

 

「えっ?」

 

 逸見さんは私の目に注目していたがために、突然の私の反応に反射的に応えてしまって、視線を追った――。

 

「スキみっけた。会長!」

「あいよー!」

 

「しまっ……! 撃てっ!」

 

 大きな破裂音が2つほぼ同時に発生する。

 ヘッツァーの砲弾は見事にティーガーⅡの履帯を破壊して動きを止めた。

 

 ふぅ、これで追われることはなくなったか。早く離脱しなくては……。

 

『すみません、玲香さん。ボクたち……、撃破されました……』

 

 ねこにゃーさんの悲痛な声。なんと、三式から白旗が上がっていたのだ。

 逸見さん、あの瞬間に……、なんて判断力だ……。

 

 相手の思った以上の強さに舌を巻きながらも、アリクイさんチームに怪我の有無を尋ねる。よかった、全員無事か。

 

「はじめての戦いで、よく頑張ったね。君らが居なかったら、この足止めは失敗して大ピンチになっていたよ。ありがとう、無駄にしないから――」

 

『うん、学校を守ってね。みんな……』

 

 アリクイさんチームが脱落して私たちは残り7両となった。依然として戦力差は厳しいけど……。負けないからな……。

 

 逸見さんのティーガーⅡの足止めに成功した私たちは、追ってくる黒森峰本隊から身を隠しつつ、先に行っている大洗本隊との合流を目指す。

 

 そして、その先に待ち受けるのは、まさに死闘であった――。




戦車の知識が皆無なので調べながら書いてます。変なところがあったらすみません。
地団駄エリカなど、居なかった。
私はナンバー2同士の戦いって好きなんですけど、どうですか?
最後の玲香の切り札は『はじめの一歩』の青木勝の得意技のひとつの『よそ見』みたいなものです。

それでは、次回もよろしくお願いします。


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大洗女子学園VS黒森峰女学園 その3

主人公をカメさんチームに入れて良かったと思ったのは、決勝戦の前半、単独行動が多かったことですね。
そのおかげで色んなエピソードを挟みやすかったです。
それでは、よろしくお願いします!


 何とか黒森峰本隊から身を隠した私たちは、チームとの合流を目指して急いでいた。

 何事も起こらなきゃいいけど、時間はそこまで余裕があるわけじゃないし……。

 

「予定なら、そろそろあの川を越えていると思ったのですが……、変ですね……」

 

 私たちは身を隠しながら、川越えをしようとしてる、仲間たちの異変に気がついた……。

 

『エンジンがかかりません!』

 

「なっ……、ウサギさんチームに……、エンジントラブルか……」

 

 川の中央でウサギさんチームがエンストして動けなくなってしまったみたいなのだ。

 

「なるほど、セオリーなら、ウサギさんチームはここで――」

 

「切り捨てると言うのか?」

 

 河嶋先輩は何とも言えない表情で私を見た。

 

「普通はそうでしょう。1両のために全てが危険に晒されるなんて、愚かですから。でも、みほは見捨てませんよ。絶対に……」

 

 私の信じたとおり、西住さんはウサギさんチームを見捨てたりしなかった。

 戦車をいなばの白ウサギのように飛び移って、M3リーまで辿り着いたのだ。

 

 そして、必死になってワイヤーを使って、他の車両と連結させて逃げる準備を行っていた。

 

 そうこうするうちに、黒森峰の本隊も履帯を直した逸見さんも追いついてきて、あちらの様子を窺っている。

 

「そうか、負けを覚悟しても仲間を救うか……、私たちの隊長は馬鹿なのだな」

 

「似たようなもんじゃないですか、私たちはみんな。だから、毒のある役回りは私らが引き受けてるんですよ。誰よりも優しくて、仲間のためにこそ強くなる、それがみほの戦車道ですから。だから、私はみほに憧れて、共に戦車道をやりたいって思ったんです」

 

 良かった……。無事に川を越えられそうだ……。

 こんなの見せられたら、廃校とか関係なく負けられないじゃないか。

 

 

 

 みほ、君の戦車道の強さ――私が証明して見せるよ――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 もう一回、スキを見て黒森峰の車両に一撃を与えようとしたら、まほさんと目が合っちゃった。

 

 笑顔で手を振ってやり過ごそうとしたら、まほさんったら、他の車両を先に行かせて私を追いかけて来た。

 ティーガーⅠとヘッツァーがにらめっこしている。

 

「ちょっと、まほさん! フラッグ車の隊長が何やってるんですか?」

 

「どうするもこうするも、不穏因子には消えてもらおうと思ってな。プラウダ戦を見て思った。玲香よ、君をみほの元へは行かせない。エリカで無理なら私が出るのが一番被害が少なかろう」

 

 まほさんから獰猛な猛獣のような殺気が迸る。やばい、あれはやばい……、高校戦車道最強と言われる黒森峰の隊長が殺る気満々だよ――。

 

 

 その時の私の気分と言ったら、なんていうか、そのう――。

 

 

「もう、最っ高です! 私も貴女とはずぅーっとヤリたいと思ってましたから! じゃあ、優勝旗を頂いちゃいますねー!」

 

「ふっ、私も君と戦ってみたかった。しかし、玲香――君はまだ私やみほには及ばない……」

 

「会長!」

「撃てっ……」

 

 ヘッツァーとティーガーⅠのタイマンが始まった。相手はフラッグ車だ。倒せば、大洗女子学園の優勝! つまり、廃校は撤回されるんだ!

 

 

 

 

「左に2回、右に1回フェイント入れて、左に回り込みます! ――なっ、どうしてこっちに砲塔が!? 緊急回避!」

 

 何度もティーガーⅠの意表を突くために、先輩たちに指示を出して挑むが、まほさんの野生の動物のような鋭い視線からは逃れられない。

 

 くそっ、化物めっ! 逸見さんには悪いけどさっきの戦いとは格が違う……。

 

「参りましたね……。どうにも、勝てないっぽいです」

 

「呑気に情けないこと言っとる場合か!」

 

 いやいや、私の認識が甘かった……。観戦するだけじゃあ全然分からなかった……。

 

 まほさんが強いのはもちろん知ってたけど、こんな異次元とは思わなかった。先読みの深さと洞察力が半端ないんだ。

 フェイントにも全然引っかからない上に、こっちが動こうとする位置に砲撃を先回りさせる。

 

 未来予知と読心術が使えるみたいだ……。

 そういえば、西住さんも似たような部分がある。こりゃあ、将棋も独学でやってあれだけ強いわけだ……。

 

「ちっ、先読みがなんだっ! こっちのフェイントが通じないなら、真正面から突っ込んで捨て身で一撃食らわせてやる! とにかく、ノーダメージで帰すわけには――」

 

 私は小山先輩にジグザグに動きつつティーガーⅠに突撃するように指示を出した。

 

 ――そのときである。頭に浮かんだのは金髪の少女の笑顔であった。

 

『レイーチカには笑わせてもらったわ! フラッグ車を囮に出したら、飢えたヒグマみたいに簡単に罠の前に出てくれるんだから。こんなに仕留めやすい獲物ったら無いわ』

 

「全速後退! 会長っ!」

 

 小山先輩に咄嗟に後退の指示を出し、会長に威嚇射撃させる。ティーガーⅠからの砲撃はかなりズレたところに着弾した。

 

 まほさん、これは予測してなかったみたいだな。

 まさか、こちらの殺気を読んでいるのか? だから、攻める気がない動きはそこまで正確には読めない……。

 

 しかし、まだまだピンチだ……。どうしよう……。

 

 頭の中に金髪の紅茶を飲んでいる淑女の姿が浮かぶ……。

 

『玲香さん、こんな言葉を知っているかしら、《勝つべからず者は守なり》。戦力が足りないと自覚するのなら、守りを重視するものよ』

 

「小山先輩、もう一度、アタック仕掛けると見せかけて急旋回! 会長! その間に一発撃ち込んでください!」

 

 私は逃げを選択した。実力不足を実感するのは、死ぬほど悔しい。でも、ここでもし撃破なんてされたら死んでも死にきれない!

 

『ホワイトデビルっ! あなたを待っている仲間が居るんでしょ! チーム一丸となっての強さ、それがあなたたちのストロングなところじゃない!』

 

「煙幕をはって逃げます! 小山先輩出来るだけ広範囲に煙が撒かれるように大きく蛇行してください!」

 

『今は敵わなくても、次は負けない、じゃなかった、絶対に勝つって思えるように頑張ればいいんだ。今の自分に出来ることを冷静に考えろ』

 

 なんで、こんなピンチのときに――思い浮かぶのは、敵だった先輩たちの顔なのだろうか……。

 

 はぁ、なんとか撃破されずに逃げ切れたか……。

 

「このまま、市街地を目指して、チームと合流を試みます。冷静に考えれば、まほさんが指揮を放ったらかしにして、本気で私を追いかけて来るはずないんだ。でも、フラッグ車という餌で私を釘付けにして仕留めようと考えた……。くそっ、1回戦で自分が使った手で窮地に陥るとは……」

 

 敗北感と苦い気持ちを噛み締めながら、合流を目指す。序盤で感じていた妙な万能感は跡形もなく消し飛んで、自信は砕かれていた。

 

 まほさんの目的はこれもあったのかな? 

 

 相手の心を折るほどの、徹底的な勝つための戦車道――撃てば必中、守りは堅く、進む姿に乱れなし――西住みほとは違い、彼女は西住流そのものだった――。

 

「まだわかんないよー。今の戦いは別に仙道ちゃんが負けたわけじゃないしねー」

 

「えっ? 会長?」

 

「だってさー、姉住ちゃんの目的はヘッツァーの撃破っしょ? あたしらは、ちゃんと逃げ切っているからねー。つまり、相手の目的を挫いてやったってこと。今頃、あっちも悔しがってると思うよー」

 

「うん、玲香と西住さんを合流させない目的なら、チームと合流した時点でこっちの勝ちだよ」

 

「勝ちたいという気持ちを抑えて、冷静に判断したんだ。良くやったぞ、玲香」

 

 私が気分を落としているのを察した先輩たちは優しい言葉をかけてくれる。

 

 そうだよね。今の私の役割はフラッグ車の撃破ではない。

 それに、西住さんと一緒に戦えたら――。

 

「すみません。ちょっと鼻がへし折られて、ナーバスになっていました。もう大丈夫です! 勝てるように実力に見合った行動で最善を尽くしましょう!」

 

 私はどうにか立ち直り、勝利のために自分の役割を果たす決意をした。待っててくれ、西住さん、みんな……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 市街地にたどり着き、チームとの合流ポイントに向かう――。今のところ静かだけど……。

 

 そんなとき、少しだけ離れた位置から巨大な砲撃の音が聞こえた。えっ? ありえない大きさだったけど……。

 

「なっ、何なんだ? 今、とんでもない轟音が聞こえたぞ……」

 

 慌てて音のした方角に向かうと、ひっくり返って白旗を上げているルノーB1bisの姿と、ボロボロになって白旗を上げているⅢ突の姿が見えた。

 さらに逃げ腰になっているチームのみんなの砲塔の先を見てみる……。

 

 あははっ、いくらなんでも大人気ないような……。まさか、超重戦車のマウスまで出てきたとは……。

 

「なんかすごいタイミングで合流したなー」

 

『あっ、玲香さん。良かった、無事だったんだね』

 

 西住さんから嬉しそうな声で通信が入る。まぁ、良かったのかなー。これって大ピンチっぽくないか?

 

「うーん、アレどうしよっか? あまり時間かけられそうにないぞ……」

 

 とりあえず、スキだらけで煽っていたⅢ号を屠ってから私は西住さんと相談した。

 あのマウスは正面から全チームの砲撃をマトモに受けてもケロッとしてる。あんなのチートすぎる。

 

『幾ら装甲の厚いマウスでもスリットに至近距離から当てることが出来れば、Ⅳ号の砲撃でも撃破出来るけど……、狙っているうちにこっちがやられちゃう……』

 

「だったらチームプレーだな。私たちがマウスの攻撃を無力化させよう――。あんなデカいのぶら下げてるんだ。スキをつけば私なら……」

 

『――わかりました。玲香さんを信じます』

 

「会長、砲手を代わってください。行進間射撃ですが、鈍足のマウスくらい任意の場所に当ててみせます」

 

 

 ヘッツァーとⅣ号が縦列に並び、マウスに向かって走る。

 こちらに砲塔が向いて砲撃が放たれる刹那、同時に2台は揃ってマウスの左側面側の坂を登る。

 

 マウスの砲身がこちらを向く……。まだ遠いな――。精神を集中……。

 

「小山先輩……今!」

 

 マウスの砲撃の瞬間を見極め指示を出し、寸前で最短の動きで避ける。爆風で車体が揺れる……。あんなの喰らえば即撃破されてしまう。だから……。

 

「上から、この至近距離なら――その自慢の150mm砲を――破壊できるっ! 今だっ!」

 

 私は狙いを定めて砲弾を放った――。

 ヘッツァーの砲弾はマウスの長い主砲の砲身を上方から潰すように直撃して曲げることに成功する。

 

 まだ、終わってないぞ――。今度は……。

 

「小山先輩、また来ます……」

「わかってる」

 

 副砲からの攻撃のタイミングを読み切り、これもギリギリで躱す。

 

「副砲は砲身が短いけど――集中……」

 

 精神を集中させて、狙いを定める。多分、これは今の大洗で私にしか出来ないことだから――。必ず成功させる……。

 さらにもう一発! 

 

 時々、放った瞬間に命中を確信することがある。まさにこの一撃はそんな砲撃であった――。

 

 マウスの主砲と副砲を封じることに成功……。

 

 

 自慢の攻撃力を失ったマウスなど、恐れるべくもなく……。

 

『撃てー!』

 

 Ⅳ号が上から正確にスリットを射抜き――超重戦車マウスは白旗を上げる結果となったのだ。

 

 

 

 ふぅ、なんとか遭遇戦を開始する前に強敵を撃破することに成功したな。私たちは市街地で待ち伏せて黒森峰の主力との戦いに備える。

 

 ええーっと黒森峰の残りって、向こうは11両くらいだっけ? しかも、エレファントにヤークトティーガー、エリカのティーガーⅡに、まほさんのティーガーⅠまでいる。

 

 こちらの戦力はあんこう、カメさん、ウサギさん、アヒルさん、レオポンさんの5両。

 戦車のスペックも上、数は倍以上で遭遇戦をせねばならない。

 

 西住さんの作戦は最終的に敵のフラッグ車とあんこうチームとの一騎打ちに持ち込むことだ。

 

 それには超えなくてはならないハードルがまだまだ多いけど、決まっていることがある。

 この遭遇戦ですべての決着がつくということ。

 

 つまり、大洗女子学園の命運が決まるということである。

 

「みほ、最後の戦いだ。悔いのないようにな」

 

『うん、玲香さん。一緒にがんばろう』

 

「ははっ、みほと一緒に戦えて私は幸せだよ」

 

『ありがとう。玲香さん……』

 

 

 

 そして、黒森峰女学園の主力部隊がついに、市街地へと足を踏み入れた。

 




マウスの倒し方、正直に言いますと思い付きませんでした……。
あの戦車強すぎるし、だからといってカメさんチームはまだ撃破されるわけにはいかない……。少し強引で申し訳ありません。

まほVS玲香はやりたかったエピソードだったので、挟むことが出来て満足です。
次で決勝戦は終わりです。アニメ原作が無事に終わりそうなので少しだけ安堵しています。

次回もよろしくお願いします!


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死闘の結末

いよいよ原作の決着までやります!
長くなりましたが、よろしくお願いします!


『こちらは5両です。向こうはまだ11両。ですが、どちらもフラッグ車は1両です。向こうの狙いはフラッグ車である私たちあんこうチームです。皆さんは相手の戦力を出来るだけ分断してください』

  

 隊長の西住さんから最後の作戦指示が出される。

 

『みんな挑発するぞー!』

『おおっー!』

 

 アヒルさんチームからは気合の入った声が出る。

 

『あんこうは敵フラッグ車との1対1の機会を窺います。レオポンチームの協力が不可欠です』

 

『心得た』

『燃えるねー』

 

 この作戦の肝はレオポンさんチームのテクニックにかかっている。出来るだけ私もサポートしたい。

 

『前方はもちろんですが、後方のヤークトティーガー、特にエレファントの火力に十分注意してください』

 

『隊長、後続の方任せてもらっていいですか?』

 

『お願いします』

 

『よっしゃー!』

『やったるぞー!』

 

 ウサギさんチーム、まさか、後続の重戦車とやり合うつもりか? ふむ、信じて任せるか。

 

『カメさんチーム、出来るだけ皆さんのサポートをお願いします。1両でも多く撃破してください。玲香さんならできます!』

 

「みほにそこまで言われちゃあ、やらない訳にはいかないな。今、4両撃破だから、中学時代みたいに7両撃破を目指して頑張ろうかな」

 

『お願いします』

 

 西住さんは私の戯言も平然と受け止めてくれた。ふふっ、本当に頑張っちゃうぞ。

 

『麻子さん、袋小路に注意して敵を撹乱してください! 沙織さん、互いの位置の情報の把握を密にしてください! 華さん、優花里さん、HS0017地点までの発砲は極力避けてください! それでは、最後の作戦、ふらふら作戦を開始します!』

 

 あんこうチームのみんなに西住さんが声をかけ、最後の作戦が開始された。

 

 

 ウサギさんチームは黒森峰の最後尾につけることに成功と連絡が入る。

 

 アヒルさんチームが挑発して黒森峰がほっとけば良いのに、挑発に乗って追いかけようとしてたから、とりあえず2両ほど撃破しておいた。

 

 ウサギさんチームは大活躍だった。なんと、黒森峰の誇る強力な重戦車、ヤークトティーガー、エレファントを倒すという大金星をあげたのだった。撃破されこそすれ、私は彼女らの成長が嬉しかった。

 

 そんな中、あんこうチームは上手く黒森峰のフラッグ車、ティーガーⅠを引きつける、が、ティーガーⅡもくっついて離れない。

 

 というか、逸見さんは執拗にあんこうチームを狙っているから、引き剥がせる見込みがなかった。

 

「みほ、エリカは私が何とかするから、HS0017地点へは4両で入ろう。なあに、1対1が2対2になるだけだ。私とみほなら逆に有利かもしれないぞ」

 

『――わかりました。玲香さん、一緒に戦いましょう。レオポンさん、その方向でお願い出来ますか?』

 

『了解!』

 

 目的の地点にあんこう、カメさん、ティーガーⅡ、ティーガーⅠの順番で入り込み、ポルシェティーガーが大きな車体を活かして、唯一の出入口を塞ぐように停車する。

 

 これで、2対2か……。

 

 大洗と黒森峰の隊長と副隊長が対峙する。

 嵐の前の静けさなのか、心臓の鼓動の音が聞こえる……。

 

「さあ、最後の戦いだ」

 

「うん、玲香さん。一緒に勝って大洗に帰ろう」

 

「まさか、こんな状況を作るとはね。でも、この勝負だったら、私たちの勝ちだわ」

 

「西住流に逃げるという文字は無い。こうなったらここで決着をつけるしかないな」

 

「「受けて立ちます!」」

 

 

 それが合図だった。4両は一斉に動き出して戦闘に入る。

 

 逸見さんはⅣ号を分かりやすく狙っている。だったら……。

 

「会長、狙うのはティーガーⅡです。どうせ、ティーガーⅠには簡単に当てられませんから……」

 

「潔いねー! 勝てそうな方から狙うってわけだねー!」

 

 4人の車長はキューポラから半身を乗り出して互いを牽制する。

 ダメだよ逸見さん。2対2なのに、そんなに1両ばっかり見ちゃ……。

 

「エリカっ、つれないじゃないか! もっとこっちを見ろよ!」

 

 ヘッツァーの砲弾がティーガーⅡの車体を掠める。ちっ、浅かったか。

 

「くっ、最悪の口説き文句ね、玲香。でも、確かにあなたとの決着はまだだったわ。先に撃破した方がお互いの隊長の救援に行けるって訳ね。分かりやすいわ!」

 

「そういうこと。私さ、今日は絶好調でね、今、6両撃破してるんだ! 2年前と同じでエリカが7両目になりそうだよ!」

 

「はぁ? 寝言は寝て言いなさい!」

 

「撃てっ!」

「会長!」

 

 最初の戦いと同様にヘッツァーとティーガーⅡは同時に砲撃をして、互いにそれを回避する。

 やる気になった逸見さんと隊長車の救援を賭けて勝負となった。

 

「河嶋先輩! 装填時間をあと少しだけっ!」

「ちっ、任せろ!」

 

「小山先輩! もっと鋭角に曲がらないとフェイントに引っ掛かりません!」

「うん、やってみる」

 

「会長! 停車時間、0.5秒程度しか取れませんが、当てられますか?」

「どーだろ、やってみないとわかんないねー」

 

 すでに指示を通り越して無茶振りの領域なのだが、先輩たちはこの瞬間に強くなってくれた。

 

 それでもティーガーⅡは強敵でなかなか致命傷を与えることが出来ない。

 

「元々のスペックが違うのよ! あなたは、よくやったわ。でも、これで終わりね!」

 

 ヘッツァーの砲弾を至近距離で避けたティーガーⅡは砲身をこちらに向ける。

 

「なっ……」

 

 しかし、砲弾は飛んでこなかった。

 なんせ、後ろにはティーガーⅠがちょうど、あんこうチームと対峙していたからだ。

 逸見さんは誤って隊長車を狙撃するかもしれないという不安が一瞬、狙撃を躊躇ったのだ。

 

「会長!」

「あいよっ!」

 

 その間に河嶋先輩は装填を終わらせて、こちらから一撃を放つ。

 

「くっ!」

 

 逸見さんは顔を歪めて回避行動を指示する。

 

 今の私には西住さんの動きがわかるだけでなく、その相手のまほさんの動きも何となく感じることが出来るようになっていた。

 

 だから、逸見さんと対峙するとき、あえて背中にティーガーⅠがくるようなポジションを選んで動いていたのだ。

 

 私の特技は反射神経でも先読みでも、ましてや作戦を考えることでもなかった。並外れた空間把握能力こそが自分の武器だということに、この瞬間気付いたのである。

 

 しかし、この陰湿な手は長くは使えなかった。

 

「くっ、隊長がそう簡単に砲撃を受けるはずがないっ! 私は隊長を信じるっ!」

 

 逸見さんは意を決して、砲撃を躊躇なく行うようになった。

 さすがにこの程度で消極的になってくれないか。

 

 しかし……。

 

「小山先輩、ティーガーⅡに回り込むと見せかけて、出入口の方まで逃げることって出来ますか? 逃げてる感じを出さずに……」

 

「玲香、それって、頓知(とんち)かな?」

 

「何発か挑発で狙撃すればいけそうだよー」

 

 ヘッツァーがフェイントを織り混ぜ、ティーガーⅡの背後に回り込まずに――出入口をめざす。

 

「会長!」

 

 砲撃は相変わらず当たらないが、逸見さんは凶暴な笑みを浮かべてティーガーⅡを操り、こちらに向かってきた。

 

 

「河嶋先輩!」

「もう終わった!」

 

「会長! 合図と共にお願いします!」

 

 停車してティーガーⅡの接近を確認しつつ、出来るだけ、否、限界まで引き付ける。

 もっとだ、まだ足りない……、もっと引きつけろ……。

 

「今っ!」

 

 放たれるのは、おそらく今日最後の――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《エリカサイド》

 

 どう考えてもこちらの方が圧倒的な戦力だった。

 だけど、連中は今までずっと劣勢を覆してきた。

 

 まさか、私たちも2対2の状況に追い詰められるなんて……。

 

 もちろん負ける気はなかったわ。

 元副隊長、いや、みほの車両を撃破すれば私たちは王座に返り咲ける。

 

 なんとしてでもフラッグ車を倒したかった。

 

 それなのに――あいつが邪魔をする。仙道玲香……。

 

 中学時代に煮え湯を飲まされた相手。

 でもいろいろあって、友達になった。

 憎たらしいところもあるけど、戦車道にはまっすぐで、気持ちのいいやつでもあった。

 

 まぁ、敵にするとやっぱりムカつくんだけどね。

 

 隊長の援護をしようにも執拗に私を狙う彼女に辟易して、まずは彼女を倒して援護に向かうことを決めた。

 

 勝った方がお互いの隊長を助けられるっていう風にした方が分かりやすいでしょう?

 

 玲香の全体を把握する力は凄かったわ。なんせ、後ろに目がついているように隊長を背後にして動いていたから。

 

 それで、私は砲撃を少し躊躇ってしまった。

 

 やることが陰湿なのよ、まったく。

 

 しかし、そんな理由で撃たないなんて馬鹿らしすぎる。覚悟を決めてドンドン砲撃していくと、やはり戦車のスペック差は大きくて、私は憎たらしいヘッツァーを追い詰めた。

 

 

 だけど、玲香は大胆な行動に出た。回り込むと見せかけて、大きく距離を取り、停車時間を長くとったのよ。

 

 彼女は私を7両目の餌食にしたいみたいだけど、甘かったわね。そう簡単に私は撃破出来ないわよ。

 

 彼女の挑戦に応えるために、ジグザグに動きながらヘッツァーに接近する。

 

「撃てっ!」

 

 私の号令と共にヘッツァーに砲弾が放たれて、向こうからも砲弾が飛んでくる――。

 

 しかし、あちらの砲弾はティーガーⅡの車体を若干揺らしたが、致命傷には至らなかった。

 逆にこちらの砲弾は相手に直撃し、白旗が上がったのを確認したの。

 

 やったわ。ざまあみなさい! 中学時代のリベンジを果たしたわよ!

 何が私の車両が7両目よ? 笑わせないでくれる?

 

「さあ、早く隊長を……」

 

 私は向きを変えて、隊長の元へ駆けつけようとした。

 

 しかし、そのとき――。

 

『黒森峰フラッグ車、走行不能――よって、大洗女子学園の勝利!』

 

「はぁぁぁ? まさか、隊長が……」

 

「ふぅ、どうやら賭けに勝ったみたいだな」

  

 白旗が上がっているヘッツァーから、憎たらしいくらいに清々しい顔をした白髪の女がそんなことを嘯いていた。

 

 あの女ぁぁぁぁっ、やられたわ――。やっぱり、この子は敵に回すと陰湿なことばかりするわね……。

 

 玲香は最初から私のティーガーⅡを撃破する気なんてなかった。

 

 みほが隊長を倒すと信じきって、それまでの時間を稼いでいたのね……。

 確かに、最後に待ち構えていたとき、撃破されるリスクが高いのに、妙にこちらの接近を許すと思っていたわ。

 出来るだけ、私たちをヘッツァーに引きつけることで、隊長たちから遠ざけて、私の気を逸らそうとしたのね……。悔しいけど、あの瞬間だけはあなたとの勝負に集中してしまっていたわ。

 

 そう、私はあなたにどうしても勝ちたくなるように仕向けられていたんだ……。

 

 私がヘッツァーに肉薄したとき、もうすでに私の負けは決まってた……。

 私が戦車での勝負に彼女に勝ったと思わされたとき、心理戦では完敗してたのよ……。

 

 何が「7両目はエリカになりそう」よ! 白々しい……。それも玲香がこちらを撃破しようという意思を見せることで、1対1の戦いを強調する為のブラフ……。まったく、本当に口八丁なんだから! 戦車道なんだから、戦車を使って戦いなさいよ!

 

 私の敗因は彼女の撃破にこだわってしまったこと……。まんまと乗せられたわ……。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おいっ、何をやってる! 撃破されたじゃないか!」

 

「いやー、やっぱりエリカのやつ強かったですねー」

 

「言ってる場合か! 馬鹿! あーもう駄目だよー、柚子ちゃーん!」

 

 河嶋先輩が滝のように涙を流している。

 大丈夫ですよ、先輩。みほは必ず勝ちますから――。

 

『黒森峰フラッグ車、走行不能――よって、大洗女子学園の勝利!』

 

「ふぅ、どうやら賭けに勝ったみたいだな。だけど、みほのやつ……、私がまったく歯が立たなかったまほさんに勝っちゃうなんて嫉妬しちゃうじゃないか」

 

「賭けだとぉ! どういうことだ!」

 

「いや、みほから最後の攻撃を仕掛けるって通信が入ってきて、出来るだけ邪魔されないようにティーガーⅡを遠ざけろって命令も入ってきたんですよ。そもそも、こちらはみほがフラッグ車を1対1で撃破することを前提で動いてますから。時間さえ稼げれば、こっちは撃破されても問題ないんです。上手くエリカをおびき寄せることが出来て良かったです」

 

 私は河嶋先輩にことの経緯を説明した。

 

「そんな通信いつの間に……」

 

「普通に入ってたぞー。河嶋ー」

「桃ちゃん、必死になると周りの声が聞こえなくなるクセを治したほうがいいよ」

 

 いや、でも間一髪だった。さり気なく逸見さんを煽っといて正解だった。

 煽り方を会長から学んでおいて良かったー。

 

「じゃ、じゃあ……、勝っだのか? 私だちば……?」

 

 涙と鼻水を流しながら河嶋先輩は確認する。

 

「何をいまさら……。勝ちましたよ、私たちは……。ほら、ハンカチです。顔を拭いてください」

 

 私は河嶋先輩の背中を優しく叩いてそういった。そしてハンカチを渡す。

 

「仙道ちゃん、お疲れ様。あんがとね」

 

「私よりみほを労ってください」

 

 会長はニカッと笑って私にお礼を言った。でも、ここまで頑張ってくれたのはみほだから……。

 

「そだね。でもさ、その役目は仙道ちゃんに譲ったげるよ。その方が西住ちゃん、喜ぶっしょ?」

 

 会長は私の腰をバンバン叩いて軽口を言う。この人、私とみほの関係にとっくに気付いてそうだなー。

 

「玲香……、学校守れて……、本当に……」

 

「ええ、感無量ですね。小山先輩……」

 

 勝ったという実感が湧いたとき、私たちはしばらくの間、戦車の中でひとしきり泣いてしまった。

 会長は相変わらずニンマリ笑っていた。もう、素直じゃないんだから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ヘッツァーとⅣ号は仲良く牽引されて、大洗のみんなが待っている場所まで運ばれた。

 

 仲間たちは口々に称賛の声を出してこちらに近づいてくる。

 ふぅ、厳しい戦いだったなー。

 

 西住さん、ふらついてるな。かなり体力を消費したんだろう。

 本当に戦車を降りると普通の可愛い女の子なんだよなー。

 

 そんな西住さんに涙ぐみながら河嶋先輩は声をかける。

 

「西住! 今回の活躍、感謝の念に…………、うわぁぁぁん……」

 

 やっぱり泣いちゃったか。さっきも泣いたのに……。まったく、しょうがない先輩だな。小山先輩もウルウルしちゃって……。

 

「ここはやっぱり、仙道ちゃんにお願いするよー」

 

 バンと背中を押されて、私は西住さんの前に立つ。

 

「あっ、玲香さーん」

 

 西住さんの顔が明るくなった。私はそんな西住さんの目を見つめる。

 

「みほ、まずは学校を代表して礼を言うよ。私たちの大好きな母校を守ってくれて、ありがとう……」

 

「そんな、玲香さんが居たから私は……」

 

「ううん、みほのおかげだよ。最後まで結局、君に頼ってしまったね」

 

「そっそうかな?」

「うん、そうだよ……」

 

「で、今度は私個人から……」

 

 私はみほを力一杯抱きしめた。そして、お姫様抱っこして、顔を見つめた。

 

「この学校は、私の思い出がいっぱい詰まってて、1番大事な居場所なんだ。みほと一緒に守れたことが誇らしい。君の隣に立てたことが嬉しいよ」

 

「ありがとう、玲香さん……。でもぉ……、恥ずかしいよぉ……」

 

 あれ? こういうのって、今のテンションならアリかと思ったけど……、ダメなのかしら?

 

「うわぁ、玲香殿って情熱的ですね……」

「それはモテるけど、こんなに大勢の前でやることじゃないよー」

「あらあら、大胆でアクティブでいいじゃあございませんかー」

「正直、静かな誰もいない場所でやってほしい……」

 

 散々な反応であった……。愛情表現には気をつけよう……。

 

 私は気まずい顔をして、西住さんを降ろした。

 すると、ちょうど、まほさんたちが帰るところみたいだったので、慌てて彼女は姉のもとに駆け寄った。

 

 どうやら、西住さんは自分の戦車道を見つけたらしい。多分、迷いがなくなった分、もっと強くなるんだろうなー。

 勝てないまでも、私だって隣に立てるように、もっと強くならなきゃな。まほさんにも逸見さんにも、結局勝てなかったのだから……。

 

 

 

『優勝! 大洗女子学園!』

 

 西住さんに優勝旗が渡されて、あんこうチームがそれを支える。

 

 戦車道を始めて、私と西住さん以外は初心者だらけで、強豪校を次々と倒して優勝するなんて――人はそれを奇跡って呼ぶだろう。

 

 でも、私たちは何もしなかったわけじゃない。本気で動いて、本気で悩んで、本気で戦った――。

 

 だから優勝できた。そして、私たち全員の大切な家である、学園艦を守れたのだ……。

 

 さぁ、帰ろう……。私たちの大好きな大洗へ……。

 




アニメ12話の終わりまで書けました!
すっごく達成感があります!
玲香がティーガーⅡを撃破するか迷ったのですが、チームの勝利のために個人の勝ちへのこだわりを捨てるっていうのと、会長を見て成長したって部分を強調したかったので、あのような感じにしました。

基本的に原作の流れにそって、仙道玲香という人物を入れるだけという、捻りのないシンプルな作品なのですがどうだったでしょうか?
一言でもよろしいので、ぜひ感想をお聞かせください。

今後の予定ですが、割とすぐに劇場版に入るつもりです。
それが終わってどうするかは、まだ考え中ですが、次回も是非ともよろしくお願いします!


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宴会のその後と会長からのご褒美

今回は短いです。
劇場版を始める前に、少しだけオリジナルエピソードを挟みます。
玲香以外のオリキャラも出ます。今回は名前だけですが……。
それでは、よろしくお願いします。


 それから、翌日は大洗で凱旋パレード。優勝旗を掲げてみんなで戦車に乗って町中を回った。

 いやー、マジであのボロボロの戦車を1日でレストアした自動車部のみなさんには感謝しかないよー。 

 

 その夜はみんなで祝勝会をした。

 各校からお祝いが届いたり、各チームでかくし芸大会をした。

 

 カモさんチームのネタは笑ってるの私だけだった。

 アリクイさんチームの筋肉クッキングのネタは大いにウケた。

 ウサギさんチームの組体操は可愛いくて、癒やされた。

 カバさんチームはいつも通りだった。

 アヒルさんチームよりもイキイキしてる五十鈴さんが気になって仕方なかった。

 レオポンさんチームの手品、あれって途中何かとんでもないことがあったような……。

 あんこうチームは私が悪役をやったら、みほが攻撃出来ないとか言い出したから、会長と交代した。まったく、可愛い奴め。

 

 ええ、カメさんチームはバレエをやりましたよ。会長は面倒くさがって何もしてくれないから、3人で。

 王子のコスプレは好評でした。似合いすぎだって。

 西住さんが着替えないでって無茶なことを言うから、宴会が終わるまでずっと王子の格好だった。まぁ、大洗を救ってくれた隊長のわがままくらい聞かなきゃね。

 

 

 宴は大いに盛り上がり……、そしてお開きになった。

 

 私は西住さんと2人きりで帰路についている。

 

「ふぅ、終わったんだなー。お疲れ様、隊長」

 

「うん、玲香さんこそ……、お疲れ様……」

 

 並んで歩く夜道は風が涼しくて気持ちが良かった……。

 

「なんか、今でも信じられないよ。わざわざ、戦車道の無い大洗女子学園を選んで入学したのにさ、戦車道やって、優勝したんだぞ……。人生ってわかんないな」

 

「そうだね。私も黒森峰から戦車道がないから大洗女子学園に転校したんだもん。こうやって、玲香さんと一緒に楽しんで戦車に乗れてるって、よく考えたら不思議かも」

 

「うん、本当に不思議だ。本当に嬉しいよ、廃校が無くなったからさ、来年もこうやって一緒に戦車道できることが。目指せ2連覇ってとこかな」

 

「あはは、気が早いよー」

 

「そうだな、気が早かったか。それじゃ、今できることを先に済ませるか」

 

 

 私はこの大会に優勝したらやろうと思っていたことがあった。

 ずっと憧れていた、栗毛の英雄に言いたかったことだ。

 

 

 私はみほの両肩を掴んで、顔を見つめる。

 

「決勝戦の前だからさ、ちょっと有耶無耶になっちゃったけど……、こういうのって、ケジメがいるだろ?」

 

「えっと、玲香さん?」

 

 西住さんは少しだけ戸惑っているみたいだ。

 

 

「だからさ、なんだー、その、こんな頼りないデカイだけの色気のないやつだけどさ。付き合ってくれないか? ずっと一緒に居たいんだ。君が大好きだからさ……」

 

 

「……はい、こんな私で良かったら、よろしくお願いします。私も玲香さんと居たいから。えへへ、改まって好きって言われると、やっぱり恥ずかしいね」

 

「バカ、言う方が恥ずかしいに決まってる……」

 

「うん……、大好きだよ、玲香さん。……んっ」

 

 

 そして、私とみほは、静かに口づけした。

 月明かりが妙に幻想的に感じる夜だった……。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 翌日の早朝、私と西住さんは生徒会室に呼ばれた。

 なんだろう、今日はさすがに戦車道は休みにする予定なんだけど……。

 

「いやー、西住ちゃん、仙道ちゃん、昨日までお疲れ様ー。2人が居なかったら、この学校無くなっちゃってたからねー。ホントに感謝だよー。干しいも食べるー?」

 

 いつもの調子で会長はニンマリとした表情で飄々としている。

 なーんか、また、変なこと考えてないか?

 

「でさ、2人に何かご褒美あげたいなーって、思ったんだー。やっぱりあたしも、西住ちゃんには特に無理矢理、戦車に乗せちゃった負い目もあるからさー」

 

「いえ、私は別に。今は再開できるきっかけをくれた生徒会に感謝してるぐらいですから」

 

「私に至っては自分のために頑張っただけなので、大丈夫ですよ、何もなくても」

 

 モーレツに嫌な予感しかしないので、私は回避する方向で話を進めた。

 

「ええーっ、そうはいかないよー。もう準備しちゃったしー。優勝のご褒美として、西住ちゃんと仙道ちゃんには今から4泊6日のイギリスに旅行に行ってもらいまーす。着替えとか、そういうの全部こっちで用意してっから、行ってらー」

 

「「ええーっ」」

 

 私と西住さんは顔を見合わせて驚いた。んな、バカな……。会長がマトモなご褒美を用意する……だと……。

 

「ああ、あとさ、最終日の前日にはあっちの大学のオープンキャンパスに行けるようにしてあげたよー。ボービントン大学って知ってるっしょ? 世界でも有数の戦車道が盛んな大学で、そこのエースって人が日本人とのハーフみたいなんだ。日本語わかるらしいから、案内してもらえるように頼んどいた。日本の優勝校の隊長と副隊長に興味があるんだってさー」 

 

 会長はボービントン大学を見学できるように手配してくれたらしい。

 確かに、あそこはイギリスのプロ戦車道選手を毎年何人も出してる名門だ。うわっ、本当にすごいご褒美じゃん。

 

「あのさ、仙道ちゃーん、先輩がご褒美を渡してるだけなのに、ビクビクするのやめてくんないかなー。今回は、なーんも、ホントにないからさ」

 

「本当ですか?」

 

「ホントにホントさー。どうせ、2人でデートしようとか約束してたんでしょー? だったら、派手に応援したげるよー」

 

「「……!?」」

 

 ストレートに会長に約束のことがバレていたので、顔を見合わせて2人とも顔が真っ赤になる。

 

「いやー、若いねー。まぁ、せっかく優勝したんだからさ、ここからもっと強くなりたいじゃん。ボービントン大学で学んだことを隊長と副隊長として活かしてもらうよー。あーあと、さっき言ってたハーフの選手の名前なんだけどー」

 

 そうそう、向こうの大学に日本人とのハーフ選手のエースがいるなんて知らなかった。なんて人だろう。

 

「アリシア=シマダって名前だったよ。21歳の大学3年生なんだってさー」

 

 アリシア=シマダ……、島田アリシア……、島田って、あの……。

 

「うん、どうやら島田流の家元の従姉妹らしいよー。まぁ、本人があまりメディアに出たがらないらしくって、日本では全くの無名だけど、近々ある世界大会のイギリスチームの代表候補になってるみたいだ。どう、興味あるでしょ?」

 

「それは、確かに……、どんなに凄い人なのか楽しみではありますね。てか、どんなコネでそんな人にガイドなんて頼んだのですか?」

 

「にしし、内緒だよー」

 

 会長はいつものように悪い笑みを浮かべて、不敵に笑っていた。

 はぁ、この人はいつもこうだ。

 

「でも、玲香さんと海外旅行なんて、とても楽しみだよ。えへへ」

 

「まぁ、私も楽しみだよ、みほと一緒だし。会長のことだから、戦車道の公欠扱いにしてくれるだろうし」

 

「うん、そのへんは任せといてー。んじゃ、楽しんできなよー」

 

 そんなわけで、私たちはイギリスへと旅立って行ったのだ。

 

 この異国での出会いが、あの激戦の始まりになるとはまだ……、思いもよらなかった……。

 




察しの良い方は気づいてるかもですが、大学選抜の強化イベントみたいなものです(笑)
あのままの戦力で玲香を加えても盛り上がりに欠けるので……。

というわけで、次回からの大学選抜編はオリジナルエピソードのイギリス旅行からスタートです。


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大学選抜戦編 イギリス旅行とキャンパス見学

今は改めてますが、最初に投稿した段階で大学を見に行くのを最終日にしていましたが、最終日前日に変更しました。
イギリスというか、キャンパス見学が思った以上の長さになってしまって1話に収まらなかったので2話にします。
オリジナルエピソードですが、よろしくお願いします。


「なんていうか、その、長かったな……、ここまで……。安いからって飛行機を乗り継ぐことになるなんて……」

 

「でも、空港のラウンジって広いんだねー。海外って初めてだから楽しかったよー」

 

「えっ、初めてなの? それでも、パスポートは持ってたんだ」

 

「うん! 黒森峰にいた時、本当はお姉ちゃんとドイツに短期留学する予定だったから、そのときに作ったんだー」

 

 西住さんは終始テンションが高かった。まぁ、私も西住さんと旅行に行けて楽しいけど……。

 しかし、もう夕方か。ロンドンはサマータイム中だから、日本とは時差が8時間。

 なんか、時差ボケとか気分が高揚しててよくわからん。

 

「とりあえず、観光は明日からにして、ホテルにチェックインしよう。夕飯はその後でいいだろ?」

 

「うん、それでいいよー。玲香さんは何か食べたいものあるかな?」

 

「ん? カレー」

 

「あー、玲香さんはカレーが好きだもんねー。じゃあ、カレーが食べれるとこ探そうかー」

 

 いかん、冗談でカレーって言ったんだけど、西住さんには通じなかったか。

 武部さんあたりだったら、「そんなプランじゃモテモテになれないよー」とか言うんだろうけど……。

 

「ははっ、冗談だよ、みほ。せっかくなんだ、せっかくなんだイギリスっぽいものを食べに行こう。ほらっ」

 

 私はみほに手を差し出した。

 学校だとまだ堂々と恋人って言うのは恥ずかしいから内緒にしとこうって話し合った。

 だけど、ここは海外だ。思う存分、恋人として堂々と振る舞えるぞ。

 

「うん! やっぱり楽しいねー」

 

 西住さんは笑顔で手を握ってくれた。あー、会長、ありがとうございます。

 

 およそ2時間後……、私たちは本当にカレーにしておけば良かったと、後悔することになる。

 ごめん、イギリスのレストラン……、口に合わなかったよ……。

 

 その話は置いといて、会長の悪意を感じたのは、ホテルの部屋をツインではなくダブルベッドルームで取っていたことだ。やっぱり、会長は知っている……。

 なぜ知っているのか考えると頭痛がするので考えないことにした。

 

 とりあえず、食事も済んだし、シャワーも浴びたから、寝る前に明日回るところでも話そうかとガイドブックをごそごそと探していたら、西住さんはスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。

 

 まぁ、ついこの前まで戦場の中に居たようなものだった上に、長距離の移動で疲れたのだろう。飛行機でもあまり寝れなかったし。

 

 じゃあ……、私が調べて……置くか……。

 

 イギリス旅行、初日……、思いっきり寝る……。

 

 

 駄目だー、せっかく海外に来て寝るって、何考えてんだー。

 

「えへへ、玲香さんと一緒に寝たら、すっごくよく眠れたよ(天使の笑顔)」

 

 海外に来て、思いっきり寝過ごして、この余裕とは――西住さんの強さの秘密がわかった気がした。

 

 とりあえず、ベッタベタな観光名所を2日かけて見て回った。ビッグ・ベンとか、バッキンガム宮殿とか、タワーブリッジとか……。

 

 生徒会や戦車道で忙殺されて気付かなかったが、私たちって本当に遊び慣れてない。こういうとき、武部さんのありがたさがよく分かった。

 

 ロンドン・アイっていう観覧車で私たちは新しい戦術について話し合うって、とことん戦車道から離れられないんだなと、実感した。

 

 そんなこんなで3日目は遂にボービントン大学の見学である。

 ロンドンから片道2時間以上かけて広大な敷地にそびえる歴史のありそうな大きなキャンパスにたどり着く。

 イギリスの戦車道の人口は日本の3倍以上と言われて、プロリーグがあるのでレベルは日本よりも高い。

 スター選手ともなると、契約金だけで数十億円と言われて、CMなどにも出ているのでスポンサー契約も含めるととんでもない年収という噂だ。

 

 なので、戦車道ドリームを掴むために幼いときから英才教育なんてざらにあるのだ。

 

 だからこそ、欧州の戦車道のレベルを体感出来れば、私たちがこの先、練習メニューを考える上で大いに参考になるだろう。

 

「確か正門の前で待ち合わせだったな。緊張するよなー、こっちの大学のエースに会えるなんて」

 

「うん、私は人見知りだからちゃんと話せるか不安だよー」

 

「ははっ、確かにみほは怖がりだもんなー。いい人だったら良いな」

 

 そんなことを話していたら、キャンパスの方からこちらに手を振って歩いてくる銀髪のポニーテールの女性が見えた。

 

「ごめんなさいねー。ちょっと遅かったかしら? あなたたちが角谷さんが言っていた大洗の子達ね。特徴を聞いていたから、すぐにわかったわ」

 

 凛々しい顔つきでアメジストのような瞳の色白の美人が声をかけてきた。

 

「そうです。私は大洗女子学園の戦車道チームで副隊長をやっております。仙道玲香です」

 

「はっ初めまして。大洗女子学園の戦車道チームで隊長をしてます。西住みほです」

 

 私たちは少し緊張して頭を下げた。

 うわー、大人っぽい人だなー。しかも、女優さんみたいに綺麗な人だ……。

 

「うふふ、日本の高校の大会での優勝校の隊長と副隊長に会えて嬉しいわ。あたしはアリシア=シマダよ。アリシアって呼んでくれて良いわ。今日1日、あなたたちにこの学校を案内するからよろしくね」

 

 ニコリと微笑むアリシアさんはとても感じのいい人だった。

 もっと偉そうな人かと思ったから安心したよ。西住さんも安堵してる。

 

「さっそく案内してあげたいんだけど、もう一組、一緒にまわる子たちが居るから、少しだけ待ってくれるかしら?」

 

 アリシアが言うにはキャンパス見学にもう一組、彼女にガイドを頼んだ人たちがいるみたいだ。

 

 なので、私と西住さんはしばらく正門の前でもう一組の到着を待つ。

 

「それにしてもさ、イギリスの大学って言っても、日本とあんまり学生の感じは変わらないな。てっきりグロリアーナの生徒みたいな人ばかりだと思ってたよ。紅茶を持ってさ、こう、『みほさん、こんな話を知ってるかしら』っみたいにさー」

 

「あはは、玲香さん、似てるー」

 

 西住さんにダージリンさんの物まねがウケた。

 だって、あの学校はイギリスをイメージしてるって言ってたからてっきり本場はもっとすごいって思ったんだもん。

 

「玲香さん、こんな言葉を知っているかしら? 《別れの痛みは、再会の喜びに比べれば何でもない》」

 

「チャールズ・ディケンズ(英国の小説家)ですね」

 

「うわぁぁぁ! ダージリン様ぁぁぁ! バカでっかい大学であそばされるですわー」

 

 聞き覚えのありすぎる声に私と西住さんはギョッとして振り返った。

 まさか、アリシアさんが待っている、もう一組って……。

 

「お久しぶり、というほどではありませんね。玲香さん、みほさん。まさか、異国の地で貴女たちと巡り会えるなんて思いませんでした」

 

「ダージリン様が留学される大学の候補を一緒に見て回っていたのですが、まさか、大洗の方々と再会できるなんて驚きましたわ」

 

「あー、この方々はー! 優勝校の人たちですわねー! こっちの方、くっそイケメンであらせられますわー!」

 

 ダージリンさんとオレンジペコさん、そして何だか落ち着きのないピンクのウェーブがかった髪の女の子がアリシアさんの元へ歩いていく。

 

「来たわね、聖グロリアーナ女学院の皆さん。あなたがダージリンという方? こっちで勉強したいって中々やる気があるわね。アリシア=シマダよ。よろしくね」

 

「ええ、よろしくお願いしますわ。アリシア様とお会いできて光栄ですの」

 

 ダージリンさんはアリシアさんに礼儀正しく頭を下げた。随分と畏まった感じなんだな。

 

「もう、堅苦しくしなくていいわよ。日本人と会うのは久しぶりなの。もっとフランクに話したいわね」

 

 イギリス人は二枚舌だと言うが、これはどちらなんだろう?

 

「ダージリン様、この方、超絶美人ですわー! わたくし、ローズヒップと言いますのー。よろしくですわー」

 

 落ち着きのないピンクの子はローズヒップというらしい。紅茶の名前持ちってことは幹部なんだろうけど、大丈夫か?

 

「ローズヒップ。あまり、はしゃいではなりませんよ。人を指さしては失礼です。申し訳ありません、こちらのローズヒップが失礼を……」

 

「あら、元気があって、あたしはこの子のこと好きだわ。ダージリンさんも肩の力を抜いて、せっかく来てくれたんだから、楽しく回りましょう」

 

 アリシアさんは楽しそうに笑い、さっそく構内を案内してくれることになった。 

 

「ここが、戦略資料室よ。実際の戦争での戦略資料はもちろんだけど、世界中の戦車道における戦いの歴史資料もどこよりも多く取り揃えているわ。やっぱり、新しいことも大事だけど、ある程度パターン化されている部分もあるから、昔のことを知っておくって大事なの」

 

 市の図書館くらいの大きさのフロアにずらりと並ぶ資料集を見て、私たちは圧倒されてしまった。

 

 知識の面でも私たち、日本の戦車道の選手は大きく遅れを取っているのかもしれない。

 

「ここは、シミュレーションフロアよ。今はVRを利用した本格戦闘訓練が出来るから、室内で実戦さながらの練習が出来るわ。AIも実際のプロ選手からデータを取っているから、かなり高水準の戦いを披露してくれるしね。やっぱり、こなした戦闘回数が物を言う世界だから、これからさらに重要になってくるはずよ」

 

 なんか、ゲームセンターみたいに見えるが違うようだ。色々な戦車の中を再現した小さな部屋がいくつも並んでいて、チームで利用できるようになっている。

 確かにこれなら戦車が壊れたりしないし、体力的にも楽だから実戦に近い練習としては、かなり効率が良さそうだ。

 でも、こんな設備、大洗女子学園じゃ買えないだろうな。私がどんなに予算をやりくりしても……。

 

「そして、お待たせしたわね。ここが大訓練場よ。まぁ、ここはあまり貴女たちの学校と代わり映えしないでしょうけどね。今は5対5の殲滅戦を3つのグループに分けてやっているの」

 

 大訓練場は高地や草原があったり、市街地をモチーフにした場所があったりと、様々な場所を想定した訓練が可能となっていた。

 そしてとにかく1つの町なのかってほど大きい。

 

 アリシアさん、私の学校とは代わり映えしまくるから……。

 

「うわー、大きいねー。玲香さん」

 

「ああ、何かこう、スケールの違いを実感するなー。世界観が変わったよ」

 

 西住さんと私は訓練場の大きさに感嘆していた。

 

「あら、あれはセンチュリオンですわね。わたくし、あの車両が一番好きですの」

 

 ダージリンさんが見ている方向には、イギリスの誇る高性能戦車、センチュリオンが動いていた。あれって、確か、ギリギリルール内でセーフの戦車だっけ? 世界大戦時に設計図は出来ていたからオッケーみたいな。

 

「ああ、あたしの車両もセンチュリオンよ。車長をやってるの」

 

「あら、そうでしたの。アリシア様が羨ましいですわ――」

 

 ダージリンさんが実感の籠もった声でそう言った。何か悩みでもあるのかな?

 

「アリシア様、5対5の殲滅戦の練習にはどのような意味があるのですか?」

 

 オレンジペコさんがアリシアさんに訓練内容の意味を質問した。

 

「ああ、それは世界大会を意識してるのよ。世界大会は5両同士の殲滅戦を最大3セットやって2セット先取した国の勝ちっていうルールが採用されることが濃厚になっているから」

 

 アリシアさんが説明をする。

 ふーん、世界戦はやっぱりプロ仕様の殲滅戦になるんだ。なんか、聖グロリアーナとの練習試合を思い出すな。

 

「貴女たちの決勝戦での戦いを見せてもらったわ。最後のフラッグ車同士の戦い、見事だったわよ。でもね、フラッグ戦は所詮は欠陥のある戦なのよ。やっぱり偶然、弱いチームが勝つってことがあり得るから。だから、貴女方もプロを意識するなら殲滅戦に慣れておいた方が良いわよ」

 

 殲滅戦こそがチームの総合力を顕著に表すかー。確かに全国大会のルールが殲滅戦だったら、優勝なんて絶対に無理だったもんなー。

 

「さあ、貴女たちも見てばかりじゃつまらなかったでしょう? どう、これから殲滅戦の訓練に混ざらない? 日本の高校生の力を知りたいの」

 

 アリシアさんが私たちを練習に誘ってくれた。うわぁっ、イギリスの名門大学の練習に混ざれるなんてまたとない経験だぞ。

 

「アリシアさんっ、日本人の高校生なんて入れるつもりなの? 止めなさいよ! 自信喪失させちゃうわよ!(英語です)」

 

 突如、アリシアに大声で注意する大柄な金髪のショートカットの女性が現れた。うわっ、私より大きい女の子初めて見た。180cm以上は軽くあるな、さすがは欧州……。

 

「シンディ、彼女たちは日本の優勝校とベスト4にまで行った子たちよ。才能豊かな子たちだから大丈夫よ(英語です)」

 

「はっ、どうだか? 私もあなたと決勝の動画見たけど、あんなの負けた隊長が無能の雑魚だっただけじゃない。あの子、日本の最大流派のニシズミ流とかいうところの家元の娘なんでしょ。それがあの程度なんだから、やるだけ無駄よ(英語です)」

 

 ちなみに、私は英語はネイティブレベルである。だから、まほさんの悪口は聞こえたし、聞き捨てならなかった。

 ダージリンさんも憮然とした表情みたいだから、分かっているようだ。

 

「だったら、試してみます? ああ、でも恥ずかしいですよねー。散々、日本の高校の戦車道を馬鹿にして撃破されるのは……(英語です)」

 

 私はシンディとかいうデカイ女に向かってそう言った。

 

「はぁ? 日本のガキが生意気言ってんじゃないわよ! いいわ! やってやろうじゃない。アリシアっ! 日本人との実力の差を見せつけるわよ!(英語です)」

 

 シンディは思ったとおりに挑発に乗り、私たちと戦う意思を見せた。そして、また私はやってしまったと後悔をしていた。

 

「あははっ、玲香さんって面白い子ね。この大学は1軍と2軍に別れているけど、シンディは1年生ながら1軍にいるくらい強い子よ。そうねぇ、戦車のスペックで差が出ても詰まらないわね。マチルダだけを使って殲滅戦の練習試合をしましょうか。シンディに是非とも、ひと泡吹かせてね。じゃあ、15分ほど時間をあげるから貴女たち5人の役割を決めておいてちょうだい」

 

 アリシアさんは上機嫌になって練習試合を提案した。よし、日本の高校生の力を見せてやるぞ! 

 

 こうして、西住さんと私の大洗女子学園の隊長と副隊長と、さらに聖グロリアーナ女学院の3人が1つの戦車で一緒に戦うことになった。

 

 イギリスの名門大学の実力はどんなものか分からない。

 しかし、私はまほさんや、日本のライバルたちを軽んじたことは撤回してもらえるように全力で戦おうと誓ったのだった。




大洗、聖グロ連合誕生です。
ライバル同士が手を組むって展開好きなんですよねー。
だからこそ劇場版は本当に好きです。
全国大会では思ったよりも聖グロとの絡みが出来なかったので、楽しんで書いてます。

世界大会のルールは適当に考えただけなんで、今のところは気にしないでください。
次回もよろしくお願いします!


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イギリスでの殲滅戦

ジャブ程度のプロローグのつもりが、とても長くなってしまいました。多分過去最長です。
イギリス編はこれで終了です。
大洗と聖グロの連合軍の戦いをご覧ください。



「すみません、聖グロリアーナのみなさん、あのシンディって人のあまりの言動に我慢が出来ませんでした」

 

「よろしくてよ。わたくしも、少しだけ不快感をおぼえましたから。貴女方と同じ車両に乗るのも興味深いですわ」

 

 ダージリンさんは凛々しい顔つきで、少しだけプレッシャーが増しているように見えた。

 やはり腹に据えかねるモノがあるのだろう。

 

「ごめんね、玲香さん。お姉ちゃんをあの人が悪く言ったから、代わりに怒ってくれてたんでしょ?」

 

「みほも気付いていたのか?」

 

「うん、完全には聞き取れなかったけど……、お姉ちゃんが悪く言われているのは何となく……」

 

「ああ、まほさんだけじゃない。あれはつまり、日本の高校戦車道のライバルたちを軽んじるような言い草だ。許せるはずがない!」

 

 私は腹が立っていた。でも、よく考えてみると、あんなすごい設備で鍛えてる人に喧嘩を売ったのは無謀とも思っていた。

 

「ダージリン様、役割分担はどうしますか?」

 

「ペコ、貴女は当然、装填手をおやりなさい。あとは……、ローズヒップ! こちらへ!」

 

「お呼びになられましたかー! ダージリン様ぁぁぁぁっ!」

 

 アリシアさんの説明中も勝手にどこかに行ったりしていた、ローズヒップさんが走ってダージリンさんの元にやってきた。

 うん、この子はよく躾けられた子犬だと思おう、ちゃんと呼ばれて来てくれるんだからエライじゃないか。

 

「操縦手はこの、ローズヒップが務めます。よろしいですわね」

 

 ダージリンさんが確認をするように、私と西住さんを見た。そりゃあ、私たちはお世辞にも言えないほど2人揃って操縦が下手くそだから文句はないけど……。

 

「なるほど、ローズヒップの実力をご存じないのね。彼女は我が校の誇るクルセイダー隊の隊長ですのよ。操縦の技術はわたくしが保証します」

 

 まぁ、ダージリンさんがそう仰るのなら……、問題ないか。

 

「玲香様ー、ご一緒に頑張ろうであらせられますわー!」 

 

 ローズヒップさんは私の手を掴みブンブン振って、すごく元気だった。

 聖グロリアーナってお嬢様学校――だよな……。

 

「じゃあ、砲手は私がやろう。あれ? 砲手で思い出したけど、アッサムさんは来てないんですね」

 

「ええ、アッサムは時差ボケで体調を崩しましたの。けして、わたくしがローズヒップの面倒を押し付けたからではありませんわよ」

 

「本当ですか? オレンジペコさん」

 

「ご想像にお任せしますわ」

 

 気まずそうに目をそらすオレンジペコさんを見て、私は全てを察した。アッサムさん、イギリスまで来てお気の毒に……。

 

「じゃあ、ダージリンさんとみほで車長か通信手を……」

 

「そうねぇ、でしたら、みほさん。貴女が車長をおやりなさい」 

 

 意外にもダージリンさんは、西住さんに車長をやるように促した。性格的に車長以外のポジションに甘んじるタイプじゃないと思ってたのになー。

 

「ふぇっ? ええーっ、無理ですよー。私は先輩のダージリンさんがやるものかと思っていました」

 

 西住さんは性格的に当然、この反応である。

 まぁ、でも他校の先輩だし、やり辛いところもあるよなー。

 

「みほさん、貴女を車長に推す理由は2つありますわ。1つは日本の高校戦車道の強さを示すには優勝校の隊長がリーダーをすべきだと言うこと。そしてもう1つは、他の車両との通信は当然英語です。ならば、完璧に会話の出来るわたくしが通信手を務めるほかありませんの」

 

 ぐうの音も出ない正論を語るダージリンさん。

 なるほどねぇ、言われてみればそのとおりだなー。

 

「わかりました。車長を頑張ってみます! 皆さん、よろしくお願いします!」

 

 西住さんはキリッとした凛々しい隊長モードの顔つきになった。

 よく考えたら、すごい話だよなー。

 高校の全国大会の優勝校の隊長とベスト4の隊長が同じ車両なんて……。

 しかも、グロリアーナってウチが唯一負けたところだし……。

 

「役割が決まったようね! じゃあ付いてきてちょうだい。殲滅戦を始めるわ!」

 

 ということで、役割が決まった私たちはアリシアさんに連れられて訓練場の中に足を踏み入れた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「これは……、どういうことなのですか? アリシアさん……」

 

 私はアリシアさんの趣向に疑問をもった……。これでは、あまりにも私たちが……。

 

「あら、ごめんなさい。不愉快にさせちゃったかしら? でも、さすがにあたしもシンディも何のハンデもなく、高校生と戦うほど大人気なくないわ。こっちは2両、貴女方は5両のチームに入ってもらいます。他の4両は2軍の選手だけど……、勝てば1軍に上がれるって条件を出したから必死で戦ってくれるはずよ」

 

 そう、我々が参加する殲滅戦の練習はハンデつきだったのだ。

 こちらが5両に対して、向こうはアリシアさんとシンディさんの2両のみ。

 フラッグ戦ならまだしも、殲滅戦でこれは……。しかも、全部同じ性能の車両なのにっ……。

 

 

「これで、日本の戦車道ごっこしてるガキには十分だっていってんのよ! 文句は勝ってから言いなさい!(英語です)」

 

 シンディさんは厳しい顔つきでそんなことを言う。なんか、逸見さんとかアリサさんが可愛く見えるくらいのヒールキャラだ。

 

「私たちの練習にもなるから、今回はこれでお願いね。決して貴女たちを侮っているわけじゃないから……。それじゃあ、よろしく――」

 

 アリシアさんはニコッと笑っていたが……、「よろしく」と言った瞬間、目つきが冷たい感じに変化した。やはり、ただの感じのいい人じゃなかったか。

 

 

 

 

 

 

 そして、5対2の殲滅戦が開始された。

 

「こちらの方が数が多いですので、1両に対して複数で翻弄して撃破を狙いましょう」

 

 西住さんはそのような作戦を立てた。まぁ、普段と違って数の有利が使えるんだから、それを利用しない手はないよなー。

 

「わたくしも、それがよろしいとおもいますわ。他の車両ともコミュニケーションを取っておきましょう」

 

『あー、日本の高校生が記念に練習に参加してるんでしょ、安心してあなたたちは後ろで見物してれば良いから(英語です)』

 

『そうそう、私ら1軍に昇格がかかってんだー。だから君らには悪いけど構ってらんないから(英語です)』

 

「――ということらしいですわ」

 

 ダージリンさんは他の車両からの厳しい言葉を伝えた。あらら、味方からまったく相手にされないなんてなー。

 

「そうですか。でしたら、私たちに出来ることをしましょう。後方からスキを見つけて援護に徹します。ローズヒップさん、シンディさんの車両を狙っている2両の後ろについてください。なるべくジグザグに動いて的を絞らせないように」

 

「おっ任せくださいですわー!」

 

 マチルダは走り出す。かつて練習試合で見た優雅な操縦とは程遠い荒っぽい動きであったが、スピード感があり、シャープな洗練された操縦でもあった。

 これ、車両が快速のクルセイダーだったら相当の脅威なんじゃ……。センスは冷泉さん並か……。

 

 西住さんが立てた作戦と同じ作戦なのか、4両の車両は2両ずつに別れてシンディさんとアリシアさんの車両をそれぞれが狙っている。

 

 さて、シンディさんのところに先に2両が到着したな。同じ車両で1対2というのは、結構辛いところもあると思うんだけど……。

 

「これは想像以上だな……。撃ち合いなら、単純に数が少ない方が不利なはずだが……」

 

 そう、目の前で繰り広げられるのは単純な砲撃戦。しかし、ダメージを与えて確実に撃破しているのはシンディさんの車両だった。

 自らは装甲の厚いところで砲撃を受け、もしくは避け、そして相手の弱点を確実に狙う。

 

 単純だけど、理にかなった動きを冷静に、数の不利をものともせずに撃破する姿は機械のようでもあった。

 

(スピア)……、優れた戦車乗りの出す指示により、的確に相手の弱点を突き刺す砲撃は英国では【スピア】と呼ばれていますの。優雅で無駄のない戦車道こそ英国式戦車道の真骨頂ですわ」

 

 ダージリンさんは流石にイギリスの戦車道に詳しいみたいだ。

 

「無駄なく弱点ねぇ。だったらみほも負けてないな」

 

「ええーっ、あんなにきれいには無理だよぉ」

 

 西住さんは謙遜しているが、私はシンディさんよりも西住さんが劣っているとは思えなかった。

 

「ダージリン様、やはり1対1は避けてアリシア様のところに向かう方がよろしいのでしょうか?」

 

 オレンジペコさんが不安そうな声でダージリンさんに質問する。

 

「ペコ、今は車長はみほさんよ。わたくしたちは車長の指示に従います」

 

 ダージリンさんは諭すように答えた。ふむ、西住さんはどう判断するかな。

 

「シンディさんの撃破を目指しましょう。リスクは高いですが、撃破出来れば3対1という状況が作ることが可能かもしれません」 

 

 西住さんは意志を固めて声を出した。よしっ、そうこなくっちゃな! そもそも、シンディさんに腹が立ってるし……。

 

「ローズヒップさん、右にフェイントを入れてから、左から回り込みます。玲香さん、フェイントの瞬間に当てなくてもいいので、なるべく狙いを定めて砲撃をお願いします。オレンジペコさん、砲撃後の装填、大変だと思いますが早めにお願いします」

 

 日本高校生チームはシンディさんの車両めがけてタイマン勝負を挑んだ。

 

 

 威嚇で射撃をすると、挑発に乗ってくれて正確な砲撃がこちらを襲う。しかし、やはりローズヒップさんの操縦は大したもので、シャープな動きで回避しつつ左側から相手の側面に回り込む。

 そして、この強い遠心力のかかる状況にもかかわらず、オレンジペコさんは手慣れた動きで素早い装填を行った。

 2人ともいずれ敵になると考えると恐ろしいなー。

 

「さて、と。みほ、狙うのは()()()だな……。ここまでお膳立てしてもらったら……、外さないさ!」

 

 慣れないマチルダでも、撃った瞬間に感じられた手応え……。

 シンディのマチルダから、白旗が上がる。

 

 我々は英国の名門大学、ボービントン大学の1軍選手の車両を撃破する快挙を達成した。

 

 

「素晴らしい砲撃でしたわ。玲香さん。やはり、聖グロリアーナに欲しい逸材……」

 

「むぅー、ダージリンさん。玲香さんは渡さないよ……」

 

 西住さんからメラメラと炎が立ち昇る。思わぬ圧力に対して、ダージリンさんは……。

 

「じょ、冗談ですわ。みほさん、そのような怖い顔もなさるのですね……」

 

 若干、ドン引きしていた。

 

 

 さあて、残りは1両。こちらは3両だ。普通なら有利なんだけど、相手はエースで島田流の家元の従姉妹だ。簡単な相手ではない。

 

 こちらの2両がようやく、アリシアさんの車両の前にたどり着く。

 

「「えっ?」」

 

 私たちが気付いたときには2両から白旗が上がっていた。

 アリシアさんの車両はまるですり抜けるように迅速に2両の死線を通りすぎただけに見えた。

 

 一切の無駄のない、最小限に研ぎ澄まされた動き。個人技の究極系とも呼べる戦車捌きだった。

 一発で仕留めるのは当然のこと、それを動きながら、最速でやってのける――。とんでもないものを見せてもらった……。

 

「アリシア様は英国では究極の(スピア)の使い手だと言われていますわ。【神槍(グングニール)のアリシア】これが、この国での彼女の異名です。あの規格外の動きも彼女にしてみれば当たり前の動作なのです」

 

 すっかりと、解説役におさまっているダージリンさんが汗をひとすじ流しながら、少しだけ興奮気味に語っている。

 

 神槍(グングニール)とはまた大仰な異名を……。だけど、あの動きは西住さんとも、まほさんとも違う……。

 まさに、個が多を打ち破ることを前提とした殲滅戦に特化した動きだ……。

 これがニンジャ戦法とも言われた島田流の真髄なのか……。

 

 

「みほさん、どうします? 技術勝負になると結果は見えていますわ」

 

 ダージリンさんは西住さんに作戦を尋ねる。さすがに西住さんでも、あのアリシアさんには――。

 

「相手が無駄のない動きをするのなら、ある程度の攻撃箇所は読めます。まずは相手の一撃を耐えてから、装填時間内に決着をつけます。ローズヒップさん、誤って曲がり損ねた感じを出した瞬間に全速力で真っ直ぐに――。その後、背後に回り込んでください。玲香さん、停車時間はかなり短いですが、一撃で仕留めてください。チャンスは一度きりです」

 

「わっかりましたわー! ぶっ飛ばしてさしあげますわー!」

「任せてくれ!」

 

 マチルダとマチルダが交錯しようとする。

 

 ここで、ローズヒップさんは絶妙な戦車の操縦で乗っている私たちが錯覚するくらいの演技を披露する。上手いな、本当に……。

 

 これなら、さすがに釣られ――なかった。

 こちらの狙いを見透かしたように、砲撃は無かったのである。

 

 それでも、予定は変えられず、背後に回り込もうとマチルダは動く。

 作戦は読まれたかもしれないが、この速度でこの角度なら、相手の砲撃よりも早く当てられることができるはずだ!

 

 と、思ってたのも束の間、相手のマチルダは後進しながら逆にこちらの背後に回り込もうと動く。なんでもありか、このっ!

 

 私も必死で食らいついて、砲撃し――。

 

 

 

 

「はぁ、あんなの反則じゃん」

「うん。すごいね、大学生って……」

「完敗ですわね。いい勉強にはなりましたわ」

「戦車とはあんなにも自由自在に動けるものなのですね、ダージリン様」

「うぇっ? いつの間に動けなくなりましたのー!」

 

 気付いたときには、こちらの車両は白旗判定が出ていた……。はぁ、久しぶりに完敗したなー。

 

 しかも5対2の殲滅戦で負けちゃったし……。

 

 相手はイギリス代表候補とも言われてる大学生。

 私たちが負けて当然なのかもしれないが、悔しくて仕方がなかった。いつかリベンジしたいなー。世界大会かー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「うふふふ、シンディったら、本当に撃破されてるじゃない」

 

 アリシアはニコニコ笑いながら、気まずそうにしているシンディを見ていた。

 

「くっ……、まさか装甲の厚いところを当てられて撃破されるなんて(英語です)」

 

「そこがスキでしたからね。わたくしたちは、敢えて不合理な動きをしましたのよ。他の車両からダメージを与えられて弱くなっている点があるなら、そこを狙わない手はありませんことよ(英語です)」

 

 ダージリンさんは流暢な英語で、こちらの狙いをシンディさんに伝えた。

 効率のいい動きに長けているなら、それを利用する。西住さんらしい、采配だった。

 

「くっ……、完敗だ……。これで許してくれ(英語です)」

 

 シンディさんは土下座した。ちょっと、そこまでしなくても。

 

「アリシアさんから、日本では、これが謝罪のポーズだと聞いた。あと、ハラキリも……。日本の戦車道のレベルも上がっていると認識を改めよう(英語です)」

 

「ちょっと、アリシアさん。なんてこと教えてるんですか!」

 

「あら、冗談を言ったつもりだったんだけど。ふふっ、まぁ、面白いから良いじゃない!」

 

 あっ、結構この人っていい人そうだけど、お腹の中黒いかもしれない。敵に回すと信じられないくらい強かったし。

 

「あの、アリシアさん。とても強かったです。全然敵わなくて、でも、すごく勉強になりました」

 

 西住さんが珍しく積極的に話しかけている。よほど、感じるところがあったのだろう。

 そりゃあ、1対1でまほさんにも勝ったのに、サシ勝負で完敗したんだもんなー。本人は自覚してないかもしれないが、悔しい感情もあるのかもしれない。

 

「いいえ、貴女方はお世辞なしで強いわ。あたしの車両に砲弾を当てた高校生なんて初めてよ。それに、みほさん、貴女がもしも乗りなれた車両で急造チームじゃなかったら、あたしも危なかったかもしれないわ! ううん、貴女たち全員がこの先、世界で戦えるだけの才能を持っている。あたしはこの戦いでそう思ったの」

 

 アリシアさんから贈られたのは称賛だった。

 私たちが……、世界で? ははっ、全然想像できないや。

 

 

 

 

 

「では、日本の高校のみなさん、またお会いしましょう。貴女たちと再会出来ることを祈ってるわ。あと、これを貴女たちに……」

 

 練習試合のあと、色々とイギリス式の鍛錬方法を教わった私たちは遂にお開きとなった。

 アリシアさんは大学のロゴが入ったティーセットを私たちに渡してきた。

 

「貴女たちをライバルだと認めるわ。いつか、公式戦で戦える日を待ってるわね」

 

 そう言って、アリシアさんは手を振って去っていった。いやー、すごい人だった。本当に……。

 

「この紅茶を渡すスタイルって、英国式なんですね。ダージリンさん」

 

「ええ、あちらの伝統を我が校で取り入れたの。ボービントン大学から紅茶をいただけるなんて名誉なことですわ」

 

 ダージリンさんは嬉しそうにしていた。

 

 聖グロリアーナの面々はもう1つ大学を見に行く予定らしいので、お別れして、私たちはロンドンに戻った。

 

 

 

「みほ、世界って広いんだなー。でも、それを知ったら、俄然やる気が出てきたよ」

 

「うん、今日は負けちゃって残念だったけど、頑張ろうって思えたよ。アリシアさんもいい人だったし」

 

 私と西住さんは世界の大きさの片鱗を知って、その余韻に浸っていた。

 そして、結構な時間が経ったあとに、みんなへのお土産を買い忘れたことに気が付いて、ダッシュでお店に向かった。

 あー、こんな時にしっかり者の秋山さんや五十鈴さんが居ればなー。冷静な冷泉さんなら、とっくの昔にツッコミを入れてただろうなー。武部さんは言うまでもなく、モテグッズを探そうと叫んでいるだろう。

 

 こんな時に思い出すのは大洗の仲間たち――。

 

 少しだけ、故郷の仲間が恋しくなったころ、私と西住さんの二人きりの旅行は幕を閉じたのだった。

 

 

 とても楽しかったし、忘れられない経験ができました。

 

 素敵なご褒美をありがとうございます――会長……。

 




劇場版に入る前のプロローグ的な感じで入れてみたイギリス編はいかがでしたでしょうか?
オリジナルキャラを出したかったのと、ダージリンさんとみほを同じ車両に入れるっていうシチュエーションができて満足してます。

次回からはいよいよ劇場版の話に突入します。
もちろん、オリキャラのアリシアも絡ませますので、その点も注目してください。


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大洗優勝記念エキシビションマッチ その1

いつも、誤字報告や感想をありがとうございます!

いよいよ劇場版に手を付けてしまいました。
エキシビションマッチから、登場人物の多さにドン引きしていますが、面白く出来るように頑張りますのでよろしくお願いします!


 旅行から帰ってきたらすぐに夏休みがやって来て、私たちはようやく学園艦が守れたと実感していた。

 

 しかし、夏休みだろうと生徒会の仕事は無くならない。それどころか準決勝前あたりから溜まっていった仕事がタワーを作っていて、私たちは毎日遅くまで学校で業務に勤しんでいた。

 

 あんこうチームのみんなや、時には西住さん一人が生徒会にやって来て仕事を手伝ってくれた時には、泣きそうになるくらい感謝した。

 

 あまり西住さんとはデートに行けなかったが、よくお互いの家に泊まったりはしていた。

 しかし、泊まった日は寝すぎてしまって遅刻しそうになり、会長にニヤニヤした顔で見られたりした。

 

 みんなが助けてくれたおかげで、仕事にも余裕が出てきた夏休みのある日……。

 

「エキシビション……、ですか?」

 

 私と西住さんが会長に話があると言われて聞いてみれば、『大洗優勝記念エキシビションマッチ』の企画の話を出された。

 

「そ、せっかく優勝したからさぁ、それを全面に押し出して大洗女子学園を盛り上げたいんだよねー。でさー、各校に予定を聞いてみたら、プラウダ高校と聖グロリアーナ女学院と知波単学園が協力にオッケーしてくれたんだー」

 

 ふーむ、プラウダとグロリアーナは関わりがあるけど、知波単はあまり知らないんだよねー。

 やたら、無謀な突撃をする学校ってことぐらいしか……。

 

「知波単の隊長は仙道ちゃんや西住ちゃんと同じ2年生が新たに務めるみたいでねー。優勝校の隊長、副隊長が同じ学年ってことで是非とも勉強させてほしいってはりきってたよー」

 

 へぇー、そうなんだ。どんな人だろう。楽しみだなぁ。

 

「じゃあ、4校が一緒に試合をするのでしたら2校ずつに分けて混成チームで戦う感じになりますかね?」

 

「それなんだけどさー、聖グロリアーナもプラウダも大洗と戦いたいって引かなかったんだよー。だから、ウチは知波単と組んでやることになったよー」

 

 強豪から完全にマークされてるのか……。光栄だけど、来年はさらに厳しい戦いになるんだろうなー。

 

「ダージリンさんとカチューシャさんが手を組むなんて、想像したくないな。だけど、私たちも簡単に負けるんじゃ、優勝校として情けないから――勝つつもりで挑もう。なっ? みほ」

 

「うん、エキシビションだから、あまり勝敗にこだわりすぎるのも良くないけど、手を抜いたら失礼だもんね。一緒に作戦を考えようね、玲香さん」

 

 私と西住さんは顔を見合わせて頷いた。また、カチューシャさんやダージリンさんと戦えるのかー。

 今回は負けたら廃校とかじゃないから、精神的に楽だ。

 てか、もう二度とあんな馬鹿みたいな緊張感で試合なんてやりたくない。

 

 

 

 と、言うわけで戦車道チームのみんなは夏休みだというのに快くエキシビションへの参加を了承してくれて、練習も真夏だというのに熱を入れて頑張った。

 

 あー、この学校で戦車道がやれるなんて、やっぱり幸せだなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 あーしまった……不覚だ……。明日の作戦を練っていたらアラームかけずに寝てしまって、寝坊したー! 西住さんから電話が無かったら完全に試合に間に合わなかったぞー。

 

 集合場所に走る私、ん、あの人――財布を落としたぞ……。

 

「あっ、あのう、財布を落としましたよ……」

 

 私は黒い高そうなスーツを着た眼鏡の男性に声をかけた。

 急いでいたけど、見過ごす訳にはいかないからね。

 

「これは、どうも……」

 

 眼鏡の男は会釈をして財布を受け取った。

 こんな暑い休日にスーツを着て仕事なんて大変だなー。

 

「暑い中、大変ですねー。お仕事ですかー? 私なんてこんな涼しい格好でもヘトヘトになりそうですよー」

 

「ええ、まぁ。お嬢さんは夏休みではないのですか?」

 

「あははっ、ご存知かもしれませんが、これから戦車道の試合をやるんですよー。私はその選手なんで、これから試合に出るんです」

 

「ほう、そうでしたか」

 

 戦車道という言葉を聞いて、眼鏡の男は一瞬ビクッと動いた気がした。戦車道のこと嫌いなのかな。

 

「それでは、私はこれで……。お仕事頑張ってください!」

 

 私が笑って手を振ると、彼は小さく振り返してくれた。

 いやー、こんな猛暑でもちゃんとお勤めしてる人って偉いなー。

 私もああいう大人を見習わなきゃ。遅刻する副隊長なんて本当にダメだ。

 

 

 

 

「ごめーん、みんな、遅れちゃったよ」

 

「れいれい遅いよー。もうみんな集合してるよ」

 

「すまない、おっ沙織、リップグロス変えた? いい感じゃん」

「変えてないよ……。でも、いい感じって言ってくれてありがとう」

 

 適当なこと言ってすまん。

 

「あー、玲香さん。よかった、間に合って。こちら、知波単学園の隊長の西絹代さん。西さん、こちらは大洗女子学園の副隊長の仙道玲香です」

 

 西住さんの隣には、凛々しい顔つきの黒髪のロングヘアの女性。知波単学園の隊長、西絹代さんがビシッと姿勢を正して直立していた。

 

「西絹代です。今日は勉強させていただきます!」

 

「ああ、西さんですね。みほからの紹介もありましたが、大洗女子学園の戦車道チームで副隊長をやってます。仙道玲香です。玲香って呼んでください」

 

 私は右手を差し出して、なるべく緊張を解そうと笑顔を作った。

 

「……はっ、玲香副隊長ですね。よろしくお願いします!」

 

 西さんは少しだけ顔を赤くしてフリーズしていたが、ハッとした表情で両手で私の右手を握った。

 

「まぁ、そんなに固くならないでいいよ。ウチは隊長も副隊長も2年生なんだし、もっと気楽にいこう」

 

「いえ、そういうわけには……」

 

 西さんの背中を叩いて、そう声をかけた。彼女は少しだけ困ったような笑顔を向けていた。

 いやー、知波単はお嬢様学校と聞いていたけど、同じ礼儀正しいでも、グロリアーナとも違う感じだな。なんというか、大和撫子って感じだ。

 

「ミホーシャ、レイーチカ、久しぶりね。カチューシャ様が戦いにきてあげたわよ!」

 

「みほさん、玲香さん、イギリスで会って以来ですね。今日はいい試合をしましょう」

 

 カチューシャさんとダージリンさんがこちらの陣営に挨拶に来てくれた。もちろん、ノンナさんとオレンジペコさんを引き連れて。

 あれ? ノンナさんの隣の金髪の人って誰だろう? どう見ても海外の人だよな。

 

「カチューシャさん、ダージリンさん。今日はわざわざ大洗までありがとうございます。エキシビションですが、勝つつもりで挑ませてもらいますので、よろしくお願いします」

 

「さすがはレイーチカ。堂々と勝利宣言なんていい度胸じゃない! でも、勝つのはカチューシャよ。ねっ、ノンナ、クラーラ」

 

「「Да(ダー)(そうです)」」

 

 へぇ、金髪の女の子はクラーラさんっていうのか、ロシアの人かな?

 

「わたくしも負けるつもりはありませんの。素敵な戦いを期待してます」

 

 ダージリンさんははっきりと宣言した。

 闘志を迸らせながら、二人の隊長の目が光る。やっぱり、煽るクセどうにかしないとなー。

 

【大洗女子学園優勝記念エキシビションマッチ】

 

 大洗女子学園・知波単学園VS聖グロリアーナ女学院・プラウダ高校

 

 試合開始!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ふぅ、どうにか作戦がハマってくれたなー。知波単学園の子たちも普通に上手いし、全国大会も黒森峰が相手じゃなきゃいい所まで行けたんじゃないか? 噂じゃ突撃ばかりの、考えなしって聞いていたけど……」

 

「そだねー。今日は楽できそうだよー」

 

 干しいもかじって、ふんぞり返っている会長。今日はニートスタイルみたいだ。

 だから、私は砲手と車長を兼任している。

 廃校の件がないからって露骨に手を抜かないで欲しい。

 

「しかし、知波単の連中はパンツァー・フォーの意味もわからんみたいだったぞ」

 

「まっ、あんなのドイツ語ですからねー。どこの学校も使ってるわけじゃないですよ。私なんて、中学のときは普通に戦車前進って言ってましたから、こっちで始めたばかりの頃は慣れなかったです」

 

 河嶋先輩が知波単学園に対してボヤキを入れたので、フォローしておく。

 

 

 しかし、西住さんは全国大会以降、さらに腕を上げたな。今回は今までにないくらい鮮やかに作戦がキマって聖グロリアーナの戦車をゴルフ場のバンカーに釘付けにしている。まさか、あんな手があるなんて……。

 

 そして、今、大洗知波単連合は砲撃の準備を整えてるところだ。

 

『大洗知波単連合、攻撃部隊準備整いました。守備隊の様子はどうですか?』

 

『じわじわ来てるよー。ええーっと……、あと、5分だって。でも、どっちにしても長く保たないからねー』

 

 西住さんが、守備隊としてプラウダを抑えているレオポンさんチームたちの状況を確認する。どうやら抑えられる時間は大体5分と言うところらしい。

 まぁ、5分あればなんとかなるでしょ。

 

 

『……ふぅ、砲撃開始!』

 

 

 西住さんの号令で砲撃が開始される。

 

 よし、狙いを定めて……っと。私はマチルダを狙って砲弾を放つ。

 あれま、今日は調子悪いみたいだなー。当たんないぞ、まったく。

 こういうときって、至近距離まで近付いて、スリルでも与えて貰わなきゃ精度上がんないんだよねー。

 

 くぅー、突撃したいなー! この当たらないモヤモヤっとした状況が私の中の闘争本能を誘惑する。

 まぁ、さすがに命令を無視って突撃かましたりはしないけどねー。

 

 おおーっ、さすがは五十鈴さん。見事に当てるなー。もはや私よりも安定感を含めると優れた砲手になってるだろう。

 まったく、あんこうチームは天才揃いだから困る。それと比べてウチの正砲手ときたら……。

 

「ん? 仙道ちゃん、干しいも食べるー」

 

 はぁ、今日は期待しないでおこう。

 

「玲香! お前、一発も当たってないぞ! このノーコンが!」

 

「はぁ? よりによって河嶋先輩にノーコンって言われたくないんですけど。逆に百発百中のクセに!」

 

「なんだとっ! 馬鹿玲香!」

 

「もー、桃ちゃんも玲香も、こんな時に喧嘩しないでよ」

 

 私と河嶋先輩が言い争いを始めると、小山先輩がそれを止める。うーん、それにしても今日は不調だぞ。困ったな。

 

 知波単の子たちがマチルダを撃破して異様に盛り上がっている。なんか、写真撮ってるし、すげー年代モノのカメラだな、それ……。

 

 というか、どうしたんだ? 知波単学園の人たち、えっ? なんでグロリアーナ目がけて突っ込んでんの? この状況でそんなことできるなんて――。

 

「ふふっ、面白いじゃん。いいねー、知波単学園。好きだよ、私はそういうの。会長、みほと繋いでください」

 

「あいよっ!」

 

『玲香さん、どうしましたか?』

 

「いや、知波単の子たちがさ、突っ込んで行ったから、私も突撃しちゃって良いかなって、許可貰おうと思ってさ。面白いと思うんだよね、どうせ、グロリアーナに致命傷与えられないんだったら、リスキーでも攻めるだけ攻めるのも……」

 

『ふふっ、玲香さんらしいですね。では、お願いしても良いですか? くれぐれも無理はしないでください』

 

「了解! てことで、小山先輩、得意の戦車の中への突撃をお願いします。大洗の切り込み隊長の力を見せてやりましょう」

 

「玲香? いつから、私の特技は戦車たちの中への突撃になったのかな? そりゃ、基本ゼロ距離を強制されてたけど……」

 

「にしし、仙道ちゃん、いい口実が出来て良かったねー」

 

「はて? なんのことやら、わかりませんね」

 

 と言うわけで、私たちも知波単の戦車に混ざって突撃を開始した。

 

 うーん、このスリル、緊張感、生存本能が掻き立てられて集中力増してきた――。

 

 炎天下の中で開始したエキシビションマッチはまだ始まったばかりである――。




働き者の黒スーツ眼鏡を応援する玲香。果たしてこの男の正体は誰なのでしょう?

西さんの口調が意外と難しい……。
前回はローズヒップに苦労しましたが、それ以上かも。

全国大会で玲香は割と突撃ばかりしてた気がするので、今回のような感じにしてみましたが、いかがでしたでしょうか?

次もよろしくお願いします!


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大洗優勝記念エキシビションマッチ その2

2話でエキシビションマッチ終わらせるつもりが、無理でした。
さて、突撃を敢行した玲香の運命は?
それでは、よろしくお願いします!


「しまった、遅かったか……。しかし、びっくりするくらい素直に真っ直ぐに突っ込んで行くんだな……。なるほど、こういうところが、問題ってわけか……」

 

 次々とマチルダとチャーチルの2台の砲撃によって撃破される知波単の九七式……。結構な惨劇だ……。

 あれだけ上手いのに勿体ない。

 

「会長、やっぱり、少しだけ砲手頼みます。私はちょっとだけ、外に顔出しますから」

 

 そう言い残して、私はキューポラから顔を出してどうにか撃破を逃れた西さんに声をかけた。

 

「やぁ、西さん。独断専行で動いた上にずいぶんな惨状じゃないですか。西さんは隊長でしょ? なんで、こんなことが起こったかわかりますか?」

 

 私は敢えてキツイ口調で西さんに質問した。

 

「くっ、面目次第もありません。突撃をする場面を見誤ったとしか……」

 

「違いますよ。突撃のやり方を誤った……。まぁ、人それぞれやり方ってあると思いますが、私の突撃は死にたがりの戦術じゃあないです。生存本能を覚醒させて、集中力を増し、ギリギリで挑む駆け引き――。そして、研ぎ澄まされた感覚による必殺です。つまり、殺られる前に必ず殺すっていう気概が足りないのですよ。美しく散るとか考えてちゃ、ただの的になるだけです」

 

「玲香副隊長……。貴女は……」

 

 西さんは困ったような顔で私を見た。ふむ、迷ってるんだろうな、この人は……。このままで良いのかどうか。

 

「私はこの場面でフラッグ車を逃がすつもりはないですよ。今から私はマチルダとチャーチル目がけて――突撃をします! 小山先輩!」

 

 小山先輩に声をかけて私はバンカー目がけて突っ込んで行った。そう簡単に逃してたまるかぁ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《ダージリンサイド》

 

 正直、優勝した大洗女子学園の力を見誤っていましたわ。

 バンカーに追い詰められ絶体絶命の窮地に立たされてしまい、困ってしまいましたの。

 

 茶柱が立っていたので素敵な出会いがあると出ましたのに、なかなかのどうして、砲弾の雨ばかりしか来ないのでしょうか?

 

 と、思っていましたら、知波単学園の車両がこちらに真っ直ぐに突撃を仕掛けて参りましたの。なるほど、面白くなりましたわ。

 

「スコーンが勝手に割れましたね」

 

「あとは、美味しくいただきますか――」

 

 アッサムの砲撃が確実に九七式を撃破します。

 ルクリリも上手くやっていますし、カチューシャもこちらに近づいている。この場から離れられそうですわね。

 

 

 

 

 

 そう思っていましたが、忘れていましたわ。素敵な出逢いの予感を……。

 

 玲香さん、貴女はやって来るのですね。確かに貴女がこのチャンスを黙って見過ごすなどあり得ません……。

 

 ああ、玲香さん、貴女のその凛々しい顔つき――。やはり、そそりますわ……。

 また、わたくしを悦ばせてくださることを期待してしまいます。

 

 

 カチューシャとの合流の前にひと仕事増えましたね……。

 

「アッサム、ヘッツァーは知波単の車両とは一味違うわよ。集中して必ず当てなさい」

 

「データによると、このあと左にフェイント後、右から回り込みます――おそらく、チャーチル狙いと見せかけて、マチルダを先に撃破するつもりでしょう」

 

 アッサムのデータ通り、ヘッツァーは左にフェイントを入れて、右に……。

 

 

 ふふっ、やはり貴女はあの時から更に成長していましたか……。

 

 

「まさか、あそこから、正直に左から来るなんて――」

 

 アッサムの砲弾は見事に逆をつかれて回避されてしまい、ヘッツァーはチャーチルに肉薄する。

 ルクリリのフォローも間に合わない……。まさか、こんな早い段階で敗北するなんて――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「よしっ、上手くアッサムさんのデータを裏切ってやったぞ。こっちの先読みをしてるって知ってるなら、それを逆手にとればいい! やっぱり窮地って勘が冴える。フラッグ車を撃破だ! 今だ!」

 

 私は完全に撃破したと思ってた。

 この距離で会長は外さない。だから――。

 

 

「……」

 

 えっ、なんでこの至近距離であり得ない場所に砲弾が飛んでいったの?

 

「全速力で回避! 撤退してください! バックしながら、曲がって、なんでもいいから早く逃げてください!」

 

 私は青ざめた表情で逃げを指示した。こんなところで撃破されたら、どや顔で突撃について語った私がバカみたいじゃん。

 いつの間にか、カチューシャさんたちもこっちに到着してるし……。

 くっそー、会長め、面倒だからって河嶋先輩に砲手やらせたな。

 

 私は涙目でチャーチルとマチルダの凶弾を掻い潜り、プラウダの車両の接近を肌でビリビリと感じ取りながら戦線を離脱した。

 ダージリンさんが撤退とカチューシャさんとの合流を優先してくれて助かったー。でも、河嶋先輩と会長は許さん。

 

「どういうことですか? 会長が撃っていれば試合は終わってましたよ」

 

「まぁまぁ、仙道ちゃん。たまには河嶋だって撃ちたい日もあるさー」

 

 悪びれもせずにニヤニヤと笑う会長。あれ? 敵って基本的に戦車の外にいるもんじゃないの?

 

「そんな勝ちを溝に捨てるような話を聞きたくないのですが……」

 

「おいっ! 玲香! どういう意味だ!」

 

「えっ? 聞きたいのですか?」

 

「もう、玲香、落ち着きなよ。エキシビションなんだよ。大洗の応援をしてくれた人に楽しんでもらう企画なんだから、早く終わってもつまらないでしょう?」

 

 はぁ、そういうことか。こっちが最速で優勢になった瞬間、会長が非協力的になったのは……。

 

「会長の狙いは分かりました。でも、この先は無しです。河嶋先輩が砲手なんて、相手に失礼ですから」

 

「お前、最近、遠慮が無くなってきたな……」

 

「すみません。言い過ぎました。とにかく、ここからは遊び無しですからね」

 

 河嶋先輩に謝罪して、私は気を取り直して戦いに集中することにした。

 あー、西さん呆れてるんだろうなー。「イキリ副隊長さん、ちーっす」とか言われないか心配だよ……。

 すごく気まずい……。

 

『山を下ります。下りましたら敵の戦力の分散に努めてください』

 

 西住さんは冷静に次の指示を送る。かなり戦力に差が出来ちゃったな。

 ふぅ、結局、遭遇戦になったか。まぁ、私たちらしいよなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

《西サイド》

 

 我が校の伝統の突撃。しかし、私は悩んでいる。果たしてこのままで良いのかどうか。

 

 マチルダ撃破に盛り上がった仲間たちは、今こそ突撃を敢行すべきだと進言した。

 確かに聖グロは追い込まれている。これは好機である。

 西住隊長からの指示がないことに一抹の不安は覚えるが、この機を逃すわけには行かない。

 

 勇猛な仲間たちに続き私も吶喊――。

 

 

 しかし、どういうわけか、仲間たちは次々と撃破されてしまい、私も窮地に立たされる。

 そんな中、ヘッツァーがこちらに駆け寄ってきた。

 

 車長は先ほど挨拶をした、大洗女子学園の副隊長、仙道玲香さん。私と同じ2年生という彼女は男性と見紛うほど精悍な顔立ちで、挨拶をしたとき私は、その、少しだけ目を奪われてしまった――。

 

 そんな彼女から送られたのは厳しい言葉だった。

 彼女の『この惨状をどう思うのか?』という質問に対して、私は『突撃の場面が悪い』と返してしまう。本当は突撃という作戦が良くないのではという、疑問を圧し殺しながら……。

 突撃の否定だけはどうしてもできない――それが知波単の魂そのものなのだ。それだけは私には無理なことだった……。

 

 玲香副隊長は我が校の突撃を否定するだろう。なんせ、好機を台無しにしたのだ。辛いが覚悟を決めよう。私はそう思い、息を飲んだ。

 

 しかし、返ってきた彼女の言葉は突撃の否定ではなかった。

 突撃のやり方が誤っているという目から鱗が落ちるような持論であった。

 

 私は突撃とは、命を散らす覚悟で不退転の意志で吶喊することだと思っていた。

 しかし、彼女の精神は真逆であった。死地に近づいても尚、生きたいという気持ちを研ぎ澄ませて、相手よりも先に必殺の一撃を当てるために集中して挑む境地――。

 これこそ、突撃を武器にする真髄だと語ったのだ。

 

 そして、玲香副隊長は勇敢に1両でマチルダとチャーチルに突撃を敢行した。

 私も後に続きたかったのだが、思考が追いつかなくて動けなかった。これも初めての体験だった。

 

 洗練された、まるでその空間を支配するような動き……。彼女の言う生存本能があのような先読みを可能としているのだろうか?

 

 そして最後のあの動き……。チャーチルに行くと見せかけて、マチルダへ向かうという見事な陽動だと私は思った。しかし、実際はチャーチルにヘッツァーは向かっていた。

 

 玲香副隊長はギリギリで生きようと、その全身を使って敵どころか私まで騙されるくらいの動きを披露したのだ。

 

 その見事な手腕に私は完全に目を奪われ、気持ちまで引き込まれてしまっていた。

 なぜか、チャーチルに砲弾が当たらないという現象が起こっていたが、関係ない。

 

 彼女は私の迷いを完成形を見せることで、晴らしてくれたのだ。戦いが終わったらお礼を言いに行きたい。そして――出来るのなら――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 カチューシャさんもダージリンさんも有利だからって油断なんてしてくれない。

 こちらの狙いが戦力の分散ということを見抜いて、各個撃破の対象になろうなんて愚は起こさずに、固まって行動しているのだ。

 まー、あの決勝戦を見てたら、バラけるのは避けたいって考えるよね。なんせ、指示出してるのはカチューシャさんだもん。

 

 そうこうしているうちに、ウサギさんチームまで撃破されてしまい、私たち大洗勢も油断できない状況であった。

 そんな中、アリクイさんチームは初撃破できたみたいで、なんかお礼を言われた。うん、恨まれるくらい鍛えて良かったよ。

 大会が終わっても努力していたし、慢心してたウサギさんチームとの差が出たな。

 

 しかし、それでもこちらの不利は明らかだ。目の前ではアヒルさんチーム、アリクイさんチーム、そして西さんの九七式が追い詰められていた。

 

 こちらもカモさんチームと応戦中で、私はそろそろ後退しないとまずいと思っていた。

 

『そろそろ後退するよー』

 

 戦況の見極めを任せていた、ナカジマ先輩の指示で後退を我々は開始する。

 しかし、そんな中でアヒルさんチームと西さんがもたついているのが気になった。

 

「小山先輩、何かトラブルかもしれません。いつでも出られるようにして下さい」

 

 私は嫌な予感がして、小山先輩に進軍してきてるプラウダの戦車の軍勢とマチルダの方を意識するように話しかけた。

 

「玲香、あそこに飛び込めなんて言わないよね?」

 

「やっぱり、西さんが飛び出したか! さっきよりも、真っ直ぐじゃないだけマシだけど、あれは無謀だ! 助けますよ、小山先輩! 河嶋先輩、装填マッハでお願いします!」

 

「まったく、お人好しめ!」

 

 西さんはさっき私がやっていたのと同じように不規則に動きながら突撃をしていたが、相手はノンナさんのIS-2を含む多勢……。これでは、やられるのは時間の問題……。

 

「え? 西さん、すごっ……」

 

 なんと、西さんの九七式が至近距離からのIS-2の砲撃を躱した……。あれは、さっき私がやった、2重のフェイント? 小山先輩とかなり練習して、やっと実践できたのに、1回見せただけで真似たんだ……。

 もしかして、西さんの練度は西住姉妹にも劣らないんじゃ……。

 

「小山先輩、目標はIS-2の側面ですっ!」

 

 とりあえず、西さんの作ってくれたチャンスは活かす!

 

 私はこの好機を逃さず、IS-2の側面に回り込み、これを撃破した――。

 よし、これで厄介なノンナさんは倒せたぞ……。

 

 しかし、未だに敵の数は多く、長く留まるのは危険な状況だった。

 

「西さん! 逃げますよっ!」

 

 私は砲手席に会長を無理やり投げてから顔を出す。

 

「玲香副隊長……先ほどはありがとうございます。しかし、敵に背中を見せるのは……」

 

 ふむ、嫌だって言うのか。だったら仕方ないな。

 

「わかった、じゃあ敵の中を突っ切って抜け出そう! 私についてきて!」

 

 口論する時間はないので、手短に話して、私たちは敵陣の中に切り込んで行った。

 

 いきなりの行動に面食らい、しかも、同士討ちもあり得る状況なので砲撃は止み、割と無傷で私たちはT-34とマチルダの間をすり抜けることに成功した。ノンナさんを撃破してたのはラッキーだったな。

 途中、撃破出来そうだから、砲撃の指示を出したら、ありえない角度に砲弾が飛んでいった。会長……、どんだけ働きたく無いんですか?

 

 それにしても、準決勝、決勝といい、安全策とはいえ、なんで私たちは無謀なことばかりするんだろう? 

 まぁ、無事に逃げ出せて良かった……。

 

 

 

「いやぁ、玲香副隊長の勇猛果敢な動きには感服しました。新しい突撃の境地が開けそうです!」

 

 西さんは凛々しく、晴れやかに微笑みながら私にそう話しかけた。うーん、ちょっと無謀なところもあるけど、これはこれでアリなのかなー。

 

「確かに、生き延びなければと思えば、感覚が研ぎ澄まされて、相手の砲撃がいつどこに飛んで来るのか、なんとなく分かるようになりました。なるほど、皆さんの強さの秘訣がわかった気がします」

 

 さらっと恐ろしいことが出来るようになったと宣言する西さん。

 えっと、私の変なアドバイスで強力なライバルを作り出してしまった感じですかね?

 

 

 エキシビションマッチは最終局面へと向かっていた――。




今回のエキシビションマッチは主には西さんの強化イベントです。
厳しいことを言う玲香ですが、自分も結構な無茶をする人なのを棚に上げてます。
次回、エキシビションマッチが決着!
是非ともご覧になってください!


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大洗優勝記念エキシビションマッチ その3

エキシビションマッチの決着とその後までです。
やはり登場人物の多い戦いは難しいですね。
大学選抜戦はかなり頑張らなくてはと、気合が入りました。
それでは、よろしくお願いします。


 試合は終盤、西住さん率いるあんこうチームは集中的に狙われていたが、相手チームの戦車を翻弄し、未だに単独で逃げ切っていた。

 

 まったく、この安定感は他校にしてみりゃ脅威だろうな。こっちがいくら不利でもあんこうチームさえ健在なら何か起こせそうな空気になるもん。

 

「さて、西さん。これから、フラッグ車であるチャーチルを探します。突撃もいいですが、まぁ、ほどほどにお願いしますよ」

 

「ええ、殺る前に殺れば良いんですね。なるほど!」

 

 何がなるほどなのか、私が言ったことが伝わっているのかどうか、わからないが、確認するのも面倒なので、チャーチルを探そう。

 多分、西住さんはチャーチルを探しつつ、敵を分散して少しずつ削っているはずだ。

 

 見つけたら合流して叩けばいい。多分、IS-2を倒した今なら戦力差もかなり詰まってるはずだから、いい勝負が出来るはずだ。

 

 

 

 

 そんな感じでダージリンさんが行きそうな場所を探っていたら、美味しそうに紅茶飲んでる彼女を発見、会長に通信で居場所を伝えるようにお願いする。

 

「おーい、フラッグ車、見つけたよー。呑気に外でお茶飲んでた」

 

『わかりました。合流します』

 

 さて、みんなで合流して叩くことが出来れば勝機はあるぞって、西さーん、何を聞いていたんですかー?

 

「吶喊!」

 

 単独でチャーチルに突っ込む西さん。あっけにとられた、私は助けることもできなかった。

 

 西さんはフェイントを入れて突撃したが、動きが先程よりも大雑把な上に、同じ手に2回ひっかかるほど、アッサムさんも下手なはずもなく、あっさりと九七式は撃破されてしまう。

 

『すみませーん、撃破されてしまいましたー。面目次第もございませーん!』 

 

 さっきは、見事な動きだと思ってたんだけど、ひどいムラだな……。まぁ、集中力不足だったんだろう。

 

 とっとにかくチャーチルを見失うわけにはいかない。追いかけねば――。

 

 

 海岸を逃げるチャーチルを追う私たち。途中、海から出てきたKV-2がとんでもない破壊力の砲撃を見せつけたりということもあったが、結局、KV-2は砲塔の重みでバランスを崩して自爆したので大した被害にはならなかった。

 

「最後くらい働いてくださいよ、会長」

 

「疑り深いんだからー、大丈夫だって、仙道ちゃーん」

 

「むむっ、誰のせいで疑心暗鬼になっていると……」

 

 おそらく、本気でやり合わないとダージリンさんやカチューシャさんには敵わない。

 だから、私は車長に専念することを選んだ。

 

 チャーチルは水族館の駐車場へと登っていき、カモさんチームが先陣を切ってそれを追った。

 

 あらま、上から砲撃とは――。撃破されたカモさんチームを見て、私は現在の状況を悟った。

 

 フラッグ車を囮におびき寄せ、上から刈り取るかー。カチューシャさんだな、これは……。

 

 チャーチルの両サイドにはT-34。片方にはカチューシャさんが乗っているみたいだ。

 

「どうやら決着がついたようねー。どうするー? 謝ったらここで許してあげてもいいわよ」

 

 カチューシャさんの勝利宣言。

 私と西住さんを相手にそれは……、ちょっと早いんじゃあないのかなー?

 

「小山先輩! 今です! 登ってください!」

 

 私の号令とともにヘッツァーが、そして、西住さんの号令とともにⅣ号がチャーチル目がけて駐車場へ突っ込む。

 

 よし、あんこうチームは上手くチャーチルに肉薄したな。

 私も援護をしなくては……。

 

 しかし、ふと不安が過ぎる……。会長のあの顔だ……。しかし、今さら確認する時間もないし……。

 

「とにかく、Ⅳ号から離れないで! 近付いてください」

 

 唯一信頼している小山先輩にお願いして、後方から得意の空間把握能力で各車両の動きを読む――。

 ん? クルセイダーか……。しかし、あの勢いで飛び出したら、吹っ飛ぶんじゃ……。無視だな……。

 

 案の定、クルセイダーは明後日の方向に行ってしまったので無視で正解だった。

 

 チャーチルの動き、カチューシャさんのT-34の動き、ふむ、()()()、あんこうチームからは見えないんじゃ……。

 

「小山先輩、会長も河嶋先輩も信用出来ないので、先輩だけが頼りです……。お願いがあるのですが――」

 

「どういう意味だ! 私だって初撃破を! あっ……」

 

 語るに落ちたな、河嶋先輩、そして会長。今日は徹底してるなぁ。

 

「もう、桃ちゃんも会長も玲香をあまり困らせないで……。玲香、出来ることなら、何でもやるよ」

 

「ありがとうございます! 小山先輩、大好き!」

 

「それって、西住隊長に言ってもいいのかな? 玲香副隊長?」

 

「すみません。忘れてください……。それで、頼みというのは――」

 

 私は小山先輩に作戦を伝えた。おそらく、これでこの戦いは――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《ダージリンサイド》

 

 カチューシャの作戦に従い敵を駐車場までおびき寄せることに成功し、わたくしたちは、勝利を引き寄せたことを確信しましたの。

 

 しかし、安堵したのも束の間、みほさんのⅣ号と玲香さんのヘッツァーがこちらに向かっていらっしゃいました。

 

 なるほど、みほさんは密着して戦うことを選びましたのね。

 確かに今日の玲香さんのヘッツァーは狙撃の精度がよろしくないようですので、単独で撃破を狙うのは仕方のない選択ですわ。

 

 玲香さんもいつものような苛烈さが失せているように見えます。

 まぁ、調子を取り戻されると厄介ですので早めに、優雅に勝負を決めさせてもらいましょう。

 

「カチューシャ、お願いできる?」

 

『仕方ないわねぇ』

 

 これで、チェックメイト。ホームで敗北させるなんて、みほさんたちには悪いですが、わたくしも、カチューシャも、後輩に華をもたせるほど大人ではなくってよ――。

 

 階段を上りきったあと、チャーチルとⅣ号が対峙します。

 Ⅳ号はその瞬間を狙ってくるでしょう――。

 

 

 予想通り――みほさんのⅣ号はこちらに向かって素晴らしい早撃ちを披露していただきました。しかし、チャーチルには届きません。

 

 何故ならカチューシャのT-34が盾になって下さっていますので……。

 装填は間に合いませんよ――。

 

「アッサム、お願い」

「はい」

 

 これでわたくしたちの勝利です――。

 

 

 チャーチルの砲弾はⅣ号を確実に捉えた――はずでしたのに……。

 

 

「なっ、なぜ、貴女がここに居るのですか? 玲香さん……」

 

 わたくしは目の前の光景が信じられませんでした。確かに黒森峰との決勝戦では見事な空間把握能力だと驚きましたが……。

 

 チャーチルの砲弾はⅣ号の前に突然出てきたヘッツァーに阻まれてしまっていたのです。

 

 なるほど、貴女には見えていましたのね……、わたくしとカチューシャの動きがすべて……。

 

 玲香さん、貴女のその精悍な顔立ちを見ていると、お姫様を救うために颯爽と現れた騎士(ナイト)のように感じられてなりません。

 

 みほさんが羨ましいですわ。

 わたくしもあのように勇ましく守って貰えればきっと――。

 

 今日は完敗ですね。みほさん、玲香さん……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『聖グロリアーナ・プラウダ、フラッグ車走行不能、よって大洗・知波単の勝利!』

 

 私たちの勝利を宣言する蝶野さんのアナウンスが響き、私は安堵した。やっぱり、地元の応援の中で負けたくないからね。

 

「ふぅ、間一髪だったな、お疲れ様」

 

「うん、負けたかと思ったから、急に玲香さんが出てきて驚いたよ」

 

 私たちがあんこうチームの盾となり、チャーチルの攻撃を防ぎ、その好機をきっちり活かした西住さんはフラッグ車であるチャーチルを撃破してくれた。

 

 カチューシャさんの動きに気づいて、小山先輩を急かして正解だった。本当に紙一重の勝利だったぞ。

 

 そもそも、会長が働いてればもっと楽だったんだけどな。まぁいいかー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「本日はみんなお疲れだった。まずは参加を快諾してくれた、聖グロリアーナ、プラウダ、知波単の皆様には感謝の念を――」

 

 

 河嶋先輩の長ったらしい挨拶を聞き流しながら、私は湯船に浸かっている。

 まぁ、みんなでお疲れ様ってことで、お風呂に入っているのだ。アリクイさんチームはなんか、ゲームやってるみたいだけど……。

 

 

「西住隊長、玲香副隊長、今日は本当に勉強になりました! 特に玲香副隊長には突撃とは何たるかを教えていただき、この先も突撃と共に我が校の戦車道を盛り上げようと決心ができました!」

 

「いえいえ、私たちは何も……、というより、玲香さんは一体、西さんに何を教えたのでしょうか?」

 

 西住さんは西さんの突撃を極めるという宣言に若干苦笑いしながら、私を横目で見てきた。

 まるで、私にいらないことを言って責任は取れるのか、訴えるように……。

 

「西さん、いやぁ、突撃は確かにいい攻撃手段だけどね、私は別にそれだけを……」

 

「いえ、あのときの勇猛果敢にチャーチルへ突撃する様子や、フラッグ車を守るために身を呈してチャーチルの砲撃に割り込む突撃……。やはり、突撃はこうも奥深いということを、実践という形で我々に指導してくれた玲香副隊長は我々の師匠と言っても過言ではありません!」

 

 澄みきった純粋な瞳から力強い視線を受けて、私はもう何も反論できなかった。

 

 うん、知波単は突撃で強くなればいい。何かが生まれるかもしれないし……。責任は取れないけど……。

 

 

 

 

「あと一週間で新学期ですねー」

 

 気持ち良さそうな顔をして秋山さんがそうつぶやく。なんか、休んだ感なかったな。

 

「ああ、宿題まだ終わってないー」

 

「私もやってないよ。沙織、一緒にやらなきゃ怖くない!」

 

 私は仲間を見つけて喜んでいた。

 

「あのね、玲香さんは生徒会なんだから、ちゃんとやったほうがいいよ。私もほら、手伝ってあげるから」

  

 西住さんが優しい言葉をかけてくれる。でもなー、生徒会の仕事で手一杯だし、宿題まで手伝ってもらうのは悪いし……。

 

「宿題……、みほ、それは人生において大切なことかな?」

 

「継続の隊長さんかな?」

 

「おー、みほはミカさんのこと知ってるんだ。いやー、今回のエキシビションの話を振ったみたいなんだけど、断られちゃったみたいでねー」

 

 ふと、現在、継続高校の隊長のミカさんを思い出してモノマネをする私。

 あの人気まぐれだったもんなー。強かったけど……。

 私は中学時代に練習試合で対戦して負けた上にチームの弁当を根こそぎ奪われたことを思い出した。

 

「また、毎朝起きねばならんのか、いや、玲香との約束で遅刻はあと200日近く見逃してもらえるはず……」

 

 そうなんだよねー。そど子先輩、いや、園先輩はまだ渋い顔してるけど……。

 

「麻子、そんなこと言ってると、碌な大人になれないよ。おばぁに言うから」

 

「むっ、やはり学校など無くなればいいのに……」

 

 おいおい……。ちょっと前まで、シャレにならなかったから。冗談でもやめてくれ。

 

「廃校を免れたばかりなんですから」

 

 そうそう、もうあんな絶望するなんて御免だよ。私はきっちり卒業したいし、先輩のように大洗女子学園を盛り上げていきたい。

 

 と、思っていた矢先、放送のアナウンスが流れた。

 

『大洗女子学園の生徒会長、角谷杏様、至急、学園にお戻りください。繰り返します、角谷杏様、至急、学園にお戻りください』

 

 会長が学園に呼び出し? なんだろう? 滅多にないんだけど……。私は胸にざわついた感覚が込み上げてきた。

 

 面倒なことが起こらなきゃいいけどな……。

 

 

 そんなことを思いつつ、しばらくしてお開きになり、我々も学園艦に戻る。なんか、運送屋のトラックが近くにやたらと停車していて異様な雰囲気だった。

 

 そして、大洗女子学園に着いたとき、私たちは驚愕することになった。

 

 私たちの目に飛び込んだのは【keep out】の文字が描かれたテープが巻かれて閉まっている校門――。

 

 なんだこれは? 質の悪いイタズラか?

 

「何よ! これっ!? 勝手にこんなことするなんてー!」

 

 園先輩が怒りの声を上げる。うん、まったくそのとおりだ。意味がわからない。

 

「キープアウトってどういう意味だっけ?」

「体重をキープする?」

「してないじゃーん、アウトー」

「あっ、ひっどーい」

 

 うん、酷いのは君たちの語彙力だから……。てか、本当になんのつもりだ……?

 

「君たち、勝手に入られては、困るよ……」

 

 今朝、聞いた声が突然後ろから聞こえた。

 あの黒スーツのメガネの人って、財布落とした人だよね?

 

「あのっ、私たちはここの生徒です!」

 

 困ったような顔で河嶋先輩が声を出す。

 

 しかし、淡々と黒スーツのメガネ男は非情な宣告をする。

 

「もう、君たちはここの生徒ではない」

 

 はぁ? どういうことだ? それは……。

 

「どういうことですかー?」

 

 私の気持ちを代弁するように、悲痛な声を園先輩が上げる……。

 

「君から説明しておきたまえ」

 

 そういうと男は去っていき、後ろから会長が出てきた。いつものような余裕綽々の表情は消えて――まるであの日のような――。

 

「会長! これはどういうことですか! 学園はっ! この場所は! 大丈夫なんですよね!」

 

 祈るような気持ちで、私は会長に叫びに近い声を上げた。

 

 しかし、会長は表情をそのままに、事務的な口調で最悪の事実を告げた……。

 

「大洗女子学園は、8月31日付けで……、廃校が決定した……」

 

「「ええっ」」

 

「廃校に基づき、学園艦は解体される――」

 

 最初は驚きの声が上がり、そして――私たちは絶望に支配された――。

 

 これが夢なら……。醒めてほしいと……、私は切実に祈っていた……。

 




エキシビションマッチは原作よりも玲香プラス分の差で大洗・知波単連合の勝ちとなりましたが、いかがでしたでしょうか?
そして、ついに2度目の廃校宣告。
ここからストーリーが動きますが、次回も是非ともご覧になってください!


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さよなら大洗女子学園

劇場版で最も悲しい学園艦から追い出されるシーンです。
書き置きを残してるところがジーンときますよね。
それではよろしくお願いします。


「戦車道大会を優勝したら、廃校を免れるって……」

 

 誰もが最初に思ったことを武部さんは代弁した。そうだ、そういう約束だったんだろ?

 

「あれは確約ではなかったそうだ。存続を検討してもいいという意味で、正式に取り決めたわけではないそうだ」

 

 んな、理不尽な……。じゃあ、あのとき、私たちが死にものぐるいで成し遂げたことがバカみたいじゃないか。

 

「それにしても急すぎます!」

 

 磯部さんが声を出す。そう、本来は今年度までのはず……。河嶋先輩もそこを質問していた。

 

「検討した結果、3月末では遅いという結論に至ったそうだ」

 

「なんで、繰り上がるんですかー」

 

 河嶋先輩は膝から崩れ落ちて泣いてしまった。

 今回は泣きたい気持ちはわかる。くそっ、なんでこんなにも――私たちが……。

 

 

「じゃあ、私たちの戦いはなんだったんですか? 学校が無くならないために頑張ったのに」

 

 澤さんも怒りを顕にしてそう言った。

 みんなが一丸となれたのは大好きな学校のためだったからだ。守れたと思ってたのに、それを裏切るなんて、本当にありえない。

 

「納得できーん」

「何する気?」

 

「学校に立てこもるー!」

 

 河嶋先輩はガシガシと校門を叩いた。いや、そんなことをすれば……。

 しかし、周りのみんなはざわ付いて騒がしくなってきた。

 

「残念だがっ! 本当に廃校なんだ! 我々が騒ぎを起こせば、艦内にいる一般の職員の再就職は斡旋しない、全員解雇にすると、そういわれた」

 

 まぁ、そのくらいは手回しするだろうな。しかし、こうもあっさり手のひらを返されるとは……。

 まったく、大人ってのはやり口が汚いな。

 

 

 余りにも酷い現状に悲観する我々。

 風紀委員もバレー部復活も、学園艦GPも1年生も全部消えてなくなる。

 この学校にあるものが全てなくなるんだ。

 

 口々にみんなは無念の言葉を吐いていた。

 

「みんな静かに! ()()落ち着いて指示に従ってくれ」

 

 ん? 「今は」ですか? 会長……。あなたはまだ……。私は会長の言葉に頭を上げた。

 

「会長はそれで平気なんですか」

 

 違うよ、河嶋先輩、会長の目は死んでない……。ねぇ、小山先輩……。

 

「みんな、聞こえたよね? 申し訳ないけど、寮の人は寮で、自宅の人は家族の人と引っ越しの準備をして下さい」

 

「あっあの、戦車はどうなるのですか?」

 

「全て……、文科省の預かりとなる……」

 

「戦車まで取り上げられるんですかー」

 

 西住さんの質問に答えた会長の言葉に秋山さんが泣きそうになる。

 徹底してるな。私たちの戦いの証を取り上げるか……。

 

「すまない……」

 

 会長が謝罪する。しかし、私は信じてますよ。会長はまだ諦めて――ませんよね?

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 私は自らの引っ越し準備は後回しにして、生徒会室の整理整頓に勤しんでいた。

 なんせ、この生徒会室こそ私たちの学生生活の証そのものだったから、蔑ろにするわけにはいかない。

 

「予算案や会計資料、はぁ、こいつらにどれだけ睡眠時間が削られたことか……」

 

「そんなこと言わないの。一緒に徹夜したりしたのも、いい思い出だったでしょ。まさか、この学校とこんな形でお別れするなんてね……」

 

 小山先輩と書類の整理をしながらそんな会話をしている私たち。

 

「柚子、玲香! 出来るだけ持っていくぞ。これは我々の歴史だ!」

 

 河嶋先輩はいつになく真剣な顔で一番頑張って掃除や整理をしていた。

 空回って仕事を増やすことも多い先輩だけど、一生懸命さはみんなが認めていた。

 

「この椅子も持っていくからなー」

 

 会長はいつもの調子を取り戻して、掃除をサボってた。まったく、ちゃんと後で働いてくれるんでしょうね?

 

「会長、信じてますからね」

 

「んー、仙道ちゃんってば、何を期待してんのかなー? そうそう、小山ー、この資料ちゃんとした形で作っといてくれるー。あー、仙道ちゃんはねー、サンダースのアリサちゃんと仲いいでしょ? ちょっと連絡とってくんない――」

 

 資料? アリサさん? ああ、なるほど……。

 

 小山先輩に作ってほしいという資料のサンプルを見て私は自分のすべきことを察した。

 やはり、会長はきちんとやるべきことを考えている。

 

 私は携帯を取り出してサンダースの友人に連絡をした。

 

「――ハロー、ボク、タカシ………。あっ、待って待って、冗談だって、嫌だなぁ、私とアリサさんの仲じゃないか――」

 

 危うく切られそうになった、私は慌てて用件を話した。ちょうど、ケイさんやナオミさんも側に居たらしく、話は早かった。

 

 ふぅ、これで、大事なモノのうちの1つは守れそうだ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「悪いね、みほ、私の引っ越しの手伝いまでしてもらってさ……」

 

 生徒会室の整理に追われて自分の部屋の片付けが疎かになっていた私だったが、西住さんが手伝いに来てくれて、なんとか作業が終わった。

 

「ううん、私は早く終わったから」

 

 西住さんは暗い顔をして、そう答えた。

 

「そっか、でもありがとう。みほが居て良かったよ」

 

 私は西住さんの肩を抱きよせて、頭を撫でた。こうやって肌を寄せ合うと不安な気持ちが少しだけ緩和される気がする。

 

「ねぇ、玲香さんはこれからどうしようって思ってる? 私ね、このままだと――」

「大丈夫だよ、みほ……。私はまだ諦めてないから――。また戻れるよ、必ずここに」

 

 私は西住さんを抱きしめて背中を優しく叩く。彼女の頑張りを無駄にするわけにはいかない……。

 

「でも、本当に学園艦は解体されるって――」

 

「それでも、何とかするさ。会長がね、『今は』従ってくれって言ったんだ……。角谷杏という人がわざわざ『今は』というような言い回しをしたってことはね、未来(さき)には逆転の一手があるってことだ」

 

 私は会長には何か考えがあると確信していた。そして、廃校阻止のために動こうとしていることも。

 ならば、私はそれを信じる。そして、そのために協力することを惜しまない。

 

「ふふっ、玲香さんがそんなにはっきり大丈夫って言うなら、私も信じるね」

 

 西住さんは私の胸に顔を押しあてて、少しだけ元気そうな声を出した。

 

 

 

「むぅー、でもよく考えたら、少しだけ妬けちゃうよ。玲香さんが角谷先輩をそんなに信じてるなんて」

 

 しばらくして、西住さんはそんなことを言い出す。いや、別に私の会長への信頼は違うベクトルなんだけど……。

 

「バカ、みほのことも信頼してるよ。それに、私が愛してるのはみほだけだよ――」

 

「ごっごめん。えへへ、変なこと言っちゃったね。私も玲香さんのことを、愛して――んっ」

 

 ダンボールだらけの部屋で唇を重ねる私たち……。この瞬間だけは、束の間の幸福感を感じることができる。

 何も解決しないし、会長のことは信じてるけど、私も本当は不安でいっぱいなんだ。

 

 

 

「話してる途中だったんだよ。それなのに玲香さん……」

 

 西住さんがいきなりキスをしたことに不満を述べた。まぁ、照れ隠しだったんだよね。妙に気分も高揚してたし、それに――。

 

「ごめん、みほが可愛すぎたからさ、つい……」

 

「玲香さんって……、ずるいよ……」

 

「ああ、そうだ……。私ってずるいんだよ、みほ……」

 

 西住さんは顔を真っ赤にさせて目をそらす。

 そのあと、もう一度キスして、私たちは学校へ一緒に向かった。約束の時間が近づいていたから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 学校へ着くと、戦車道チームのみんなが何故かほとんど集合していた。やっぱり、みんな戦車のこと好きなんだなー。

 

「うわー、やっぱり隊長も玲香先輩も!」

 

「みんな、来てますよー」

 

 澤さんたちウサギさんチームのみんなは仲良く揃っていた。こんな時でも後輩が笑顔なんだから、私もシャンとしなきゃな。

 

「あっ、みぽりんとれいれいが居たー」

 

「お部屋まで伺ったのですが、こちらに向かわれた後だったんですねー」

 

 武部さんと秋山さんの声がしたので振り返ると、あんこうチームのみんながこちらに歩いてきた。

 

「みなさんもお揃いみたいですねー」

 

 五十鈴さんが嬉しそうな声を出した。

 

「あはっ、麻子さんここで寝るつもりなのー?」

 

 西住さんは枕を抱えている冷泉さんを見て笑った。

 

「むぅ、もう……、お別れかもしれないしな……」

 

 冷泉さんは枕に顔を埋めながら寂しそうな顔をした。うん、冷泉さんはよくⅣ号で昼寝してたもんな。脱水が心配でスポーツドリンクを差し入れしたものだ。

 

 

 感傷に浸っていたとき、学園艦の上に爆音が鳴り響く、サンキューアリサさん、約束の時間通りだ。

 

「サンダース大付属のC5Mスーパーギャラクシーですぅ」

 

 秋山さんが興奮気味でグラウンドに着陸した輸送機に駆け寄った。いやー、ありがたい。

 

「サンダースでウチの戦車を預かってくれるそうだ」

 

 元気を取り戻した河嶋先輩が腰に手を当てながら微笑んでいる。

 

「えっ、大丈夫なんですか?」

 

「紛失したという書類を作ったわ」

 

 当然の心配をする五十鈴さんに対して小山先輩が答える。ははっ、隠蔽工作に関しては小山先輩の右に出る人はこの学園艦にはいないよ。

 私もあの技術を盗まねば……。悪用はするつもりはないけど、いつか必要になるかもだし。

 

「これで、みんな処分されずに済むね」

 

 会長はやはり頼りになる。私たちに的確な指示を与えて、最速で戦車を守ってくれた。

 

「みんなお待たせー」

「まったく、玲香のやつ。久しぶりに連絡きたと思ったら、輸送機貸せってタクシー感覚で言うんじゃないわよ」

 

 ケイさんとアリサさんが輸送機から出てきた。なんだかんだ言って協力してくれて嬉しい。

 

「サンキュー、サンキュー!」

 

「こんなのお安いご用よー。さぁみんなっ! ハリーアップ!」

 

 飛び跳ねて喜ぶ会長にお人好しな笑顔で応えるケイさん。ホント、ケイさんって人間できてるよなー。

 

 というわけで、輸送機にみんなで戦車を運び込む作業を開始した。

 

 そして、すべての戦車を輸送機の中に収納して、私たちは離陸を見守る。

 

『確かに預かったわ。じゃあ、移動先がわかったら教えてちょうだい』

 

「はいっ、ありがとうございます」

 

 西住さんは笑顔でケイさんの通信に返事をする。

 

『届けてあげるわ……』

 

 ナオミさんの力強い言葉とともに、無事に輸送機は離陸して、空高く舞い上がった。

 サンダース大付属には恩が出来てしまったな。いつか返せればいいけど……。

 

「よかった、学校は守れなかったけど、戦車は守ることが出来ました」

 

 秋山さんの言葉を聞き、私は思う……。

 そうじゃないよ、これから学校も守るんだ。きっと、必ず。

 だって、ここは私たちが帰ってくるところなんだから――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 学園艦から降りた私たちは、港で出港を見守る。

 

「全員、揃ってるな」

「はい」

 

 生徒会の私たちの目の前に並ぶ戦車道チームのみんな。

 学園艦と別れなくてはならないので、悲壮感が漂っている。

 

 汽笛の音もいつもより寂しく聞こえた。

 

「出港してしまうんですね」

「これでお別れなんですか……」

「さらば……」

 

 別れを惜しむ私たち。いざ、出港してしまうと半身が抉られるような気持ちになる。

 

「こんなの彼氏と別れるより辛いよー」

「別れたこともないのに?」

 

 こんな時も辛辣なツッコミを忘れない五十鈴さん。実に安定した精神力だ。今日くらいほっといて差し上げて……。

 

「行かないでー」

「笑って見送ろーよー」

「ありがとーう」

「元気でねー」

 

「「さようならー!」」

 

 ウサギさんチームが走って学園艦を追いかける。辛いよな……。みんな……。

 

 

 さようなら、私たちの大洗女子学園……。また、必ず会おう……。




玲香とみほのシーンを強引に足すという力技でした。
ここからも、いろいろとオリジナルシーンを足したり、原作とは違う感じにしながら大学選抜戦まで持っていく予定です。
次回もよろしくお願いします。


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実家とボコミュージアム

タイトル通りボコミュージアムまで。
玲香の実家の設定はいろいろと考えた結果、あまり捻らないことにしました。
最初は忍者の末裔とか、遺伝子操作で作られたとか考えてたのですが、面倒なので没に……。
それではよろしくお願いします。


「転校の振り分けが決まるまで、ひとまず、ここで待機となります」

 

「クラスごとに教室が割り当てられているー。速やかに移動しろー!」

 

「ええーっと、君はB組だから、この先の階段を上がってもらって――」

 

 学園艦の生徒は多いので、それぞれ別れて待機となった。戦車道チームはまとめて同じ待機場所である。

 私たちは廃校となった学校の跡地にひとまず腰を落ち着けていて、生徒会がこの場所の生徒たちを取りまとめている。

 

「河嶋先輩、大丈夫ですか? 随分と落ち込んでいたみたいですが……」

 

「お前に心配される必要はない。こういう時こその生徒会だ。それに、会長がなんとかしてくれる」

 

「そうですね。私たちが信じなきゃですよね」

 

「桃ちゃんも玲香も大丈夫みたいね。一緒に踏ん張ろう」

 

 私たち3人はこんなときこそ、何とかしてくれるって会長をとことん信じてる。

 ただ、干しいもかじって怠けてるだけじゃないって分かってるから……。

 

 

 生徒たちの教室への割り当てがある程度終わり、仮の生徒会室で雑務的な処理を開始しようとしたとき、空から轟音が聞こえた。

 

 

 その音に反応したのは戦車道チームの仲間たち……。

 慌てて私たちは外に出ると空からサンダース大付属のスーパーギャラクシーが高度を下げていた。

 

 そして、次の瞬間、次々と落下する戦車たち。思ったよりも大きな音がしたから、少しだけ不安だったが、そんなことくらいで参るくらいのヤワな戦車ではない。

 すべての車両が無事にサンダース大付属のおかけで届けられたのだ。

 

『約束通りちゃんと、送り届けたわよー』

 

「ありがとうございます」

 

 西住さんに輸送機から通信が送られる。

 

『この借りは高くつくわよ』

「えっ?」

 

『この借りを返すために戦車道を続けなさい。今度は私たちがあなたたちをコテンパンにするんだから』

「はいっ!」

 

 さすがアリサさん、ツンデレが板についてきたな。アリサさんには、今度、お礼に恋愛成就のお守りを買ってあげよう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「とりあえず、当面はここで生活出来そうだなー」

 

 仮の生徒会室で会長はセンスで仰ぎながら余裕のある表情でそんなことを言った。

 まぁ、特にトラブルもなくまとまってはいるから、生活する分には大丈夫そうだよね。

 

「いいんですか? このままここに居て……」

 

「こんな場所だが、学園艦と同じように全員無事なのを確認するように」

 

 河嶋先輩の質問には答えずに指示を出す会長。

 

「わかりました」

 

 それでも、河嶋先輩は会長を信じているから返事だけをして部屋から出ていった。

 どうやら風紀委員を探しているらしい。

 なんか、さっき風紀委員を見たとき、すごくやさぐれていたんだけど、大丈夫かなぁ?

 

 

「それで、会長、本当のところはどうなんですか? そろそろ、お考えを拝聴したいのですが」

 

 河嶋先輩が離れたのを確認して、私はこっそり会長に質問した。

 

「んー、内緒に決まってるよ、仙道ちゃん。――あっ、でも、もしかしたら近いうちに仙道ちゃんに動いてもらうように頼むかもしれないから、そのときは頼んだよー」

 

 会長はいつものような小悪魔スマイルでニカッと笑ってみせた。

 ふぅ、なんだってやりますから、是非とも任せてください。

 私は会長の笑みを見て安堵した。

 

 

『ぜーんいんしゅーごー』

 

 気だるそうな園先輩の放送で生徒たちはグラウンドに集まる。

 

 

 私たちがグラウンドに出ると、案の定やさぐれて、だらけきった表情の風紀委員の3名が、出欠を取りに出てきた。

 

「顔くらい洗えっ! そど子!」

 

「はいはい、どうせ私はそど子ですよー」

 

 まさかの冷泉さんにツッコミを入れられる始末。しかも、投げやりな態度で返してるし。こりゃ、普段真面目な分の反動が来てるな。

 

「出欠を取ります。全員いるわねー、はい終了」

 

「随分とアバウトな出欠ですわねー」

 

 五十鈴さんもこれには唖然である。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「れいれいですら、キチンと撮っているのに、これはないよー」

 

 Ⅳ号戦車に無理やりお邪魔させてもらってあんこうチームと買い物に出かけている。

 

 話題は冷泉さんの眠そうな顔で写っている戦車の免許だ。しかし、私ですらっていうのは聞き流せないぞ。

 

「私のなんかお見合い写真にも使えるよー」

 

「無駄に写真が気合い入ってて少しだけ引くな。なぁ、みほ」

 

「えっ、うーん。沙織さんらしくて、かわいいから、良いんじゃないかな」

 

 おのれ、西住さん、裏切ったな。これじゃ私が悪者じゃないか。

 

「そういえば、時刻表を確認しなくては……」

 

「ん? 優花里はバスに乗る予定なんてあるのか?」

 

「明後日に一度、親のところに帰るのですよ。転校手続きの書類にハンコを貰わなきゃなりませんし」

 

 なるほど、そういえばそうだ。

 

「私も明後日に親のところに帰ろうかなー。麻子はおばぁのとこに行かなきゃね」

 

「また、小言を言われるに決まってる。憂鬱だ……」

 

「あはは、冷泉さんのお祖母さん強烈だもんな」

 

「あれっ? れいれいの実家ってどんな所なの?」

 

 武部さんは思い出したように質問してきた。あー、そういえば話してなかったな。西住さんには言ったことあるけども。

 

「えっ、ウチの実家の話? いや、別に普通だよ。両親共に劇団で芝居やってるくらいで――。みほや、華みたいな面白い実家じゃないよ」

 

 私の両親は二人とも役者やってる。まぁ、だからといって私が演劇に興味があると言えばそうでもない。

 ただ、変わった衣装を着させられるのは慣れてるから耐性はある。男装は嫌だけど……。

 

「あら、そうだったのですね。玲香さんはわたくしの実家を面白いと思っていたとは知りませんでしたわ」

 

「うん、私も……」

 

 いや、その面白いっていうのは、いわゆる興味深い的な意味で……。

 

「いや、ふたりの実家は面白いぞ……」

 

「そうだねー、華の実家ってお屋敷だったし」

 

 冷泉さんと武部さんが援護射撃してくれた。そうだよなー。面白いよね。五十鈴さんの実家には行けなかったけど……。

 それにしても、みほの顔が暗いな。

 

「みほ、実家って熊本だろ? 一緒に行ってもいいか? 実はまほさんに一度遊びに来いって言われてるんだ」

 

 きっと実家で家元と話すのが怖くて暗い表情だと思い、私は気を利かせた。まぁ、社交辞令的な感じでまほさんから遊びに来いって言われたのは本当だ。

 

「えっ、そんなぁ。玲香さんに悪いよぉ。でも、お願いしてもいいかな?」

 

 西住さんはうつむきながら、そう言った。

 最近、割と素直になってくれているので嬉しい。

 

「もちろんだよ。前に家元に会ったときにちょっと失礼なこと言っちゃったからね。それも謝りたいし……」

 

「ああ、あんなことお母さんに言うなんて、お姉ちゃんも生きた心地しなかったろうな……」

 

 この件は西住さんにもかなり叱られた。西住姉妹に揃って「死にたいのか?」と言われたのである。

 友人の母親に「若く見えてキレイ」って普通に言わないですかね?

 

 ということで、私は西住さんの実家に付いて行くことになった。何気に楽しみである。

 

 秋山さんが羨ましいと言ったところ、今度みんなで遊びに行くことになった。これも楽しみだ。

 

 

 

 戦車でそんなことを話しながら車道を走行していると、西住さんが急に「停車」と叫んだ。

 

「後方へ移動してください。ストップ!」

 

 何事かと思い、西住さんが見ている方向の看板を見ると、私と西住は目を輝かせて同時に声が出てしまった。

 

「「うわぁ、こんなところがあったなんて」」

 

 

 学園艦解体とか廃校とかを一瞬忘れそうなくらい、私と西住さんは興奮していた。

 

 目の前にそびえるのは《ボコミュージアム》という、なんでもっと全面的に宣伝しなかったのか、地元のボコファンの私ですら知らない夢の国であった。

 

 入口からサプライズが訪れる。なんと、生ボコに会えたのだ。うわぁ、マジでかわいい!

 

「おおー、よく来やがったなお前たち! オイラが相手をしてやろう! ボッコボコにしてやるぜ」

 

「ねぇねぇ、玲香さん、生ボコだよぉ! かわいい!」

「おっ落ち着け、みほ、一緒にしゃっ写真を撮るぞ!」

 

 

 私は生ボコの前で緊張して、震える手でブレブレの写真を撮った。見かねた秋山さんが親切にも私と西住さんのツーショットを撮ってくれた。

 

「うわぁ、何をする! やめろー! や・ら・れ・たー! 覚えてろよ!」

 

「だから、何もしてないって」

「粋がる割に弱い……」

 

「「それが、ボコだから!」」

 

 と、二人で力説したら可哀想な人を見るような目で見られた。

 てなわけで、予定そっちのけでボコミュージアムで遊ぶことになった。

 

 実に斬新なアトラクションが多数あって、興奮冷めやらないとはこの事だと思った。

 

 イッツアボコワールド、ボコーデッドマンション、スペースボコンテンという素晴らしいアトラクションに私も西住さんもウッキウキである。

 

 まぁ、スタッフも客もほとんど居なくてどうやって経営が成り立っているのか謎だが、そういうことは些細なことである。

 

 そして、勇敢な生ボコの武勇伝が鑑賞できるボコショーを今はみんなで楽しんでいる。

 

 例のごとく、小さな理由で喧嘩を売ったボコがボコボコに殴られるという内容で、私たちも必死に応援した。

 

 そして、声援を力に変えたボコが敵に挑み、きっちりとボコボコにされるという、ファンなら感涙する出来の最高の舞台であった。

 

 応援したのは私たちもだが、他にも観客はいたみたいで、少しだけ離れた場所から声援が聞こえた。

 なんか、聞いたことある声も混ざってた気がするけど、気のせいだよね。

 

 

 そして、私たちはボコグッズ売り場を練り歩くことにしたのだ。

 

「すごく頑張ってたな、ボコ」

「うん、とっても頑張ってた」

 

「なんか、会話についていけない私が変なのかなぁ?」

 

 沙織さんは首をかしげながら私たちを見ていた。

 

「おっ、あと1つみたいだぞ、これは私は持ってるから」

「えっ、本当? じゃあ、私が」

「それって、そういう手なんじゃない?」

 

「「あっ……」」

 

 残り1つのレアボコに西住さんが手を伸ばすと、ベージュ色の髪の毛に黒いリボンが特徴的な小中学生くらいの女の子が同時に手に取った。

 

 あら、手を放してお互いに遠慮してるよ。

 

「いいの、いいの、私はまた来るから」

 

 西住さんは笑顔で女の子の手にボコの人形を渡した。うん、西住さんはやっぱり西住さんだ。

 

 しかし、女の子は気まずそうな顔をすると、ボコの人形を片手に走り去ろうとした。

 うむ、お礼くらい言えばいいのに……。

 

 そんなことを思っていたら、またもや聞き覚えのある声がした。

 

「こら、愛里寿。ちゃあんと、お礼を言いなさい。そのぬいぐるみ、譲ってもらったんでしょう」

 

 その声は先日私たちがイギリスで会った、銀髪の大学生――。

 

「奇遇ね、こんなところで会うなんて。みほ、玲香、元気にしてた?」

 

 アリシア=シマダさんである。なんで、イギリスのボービントン大学に通うアリシアさんが日本にいるんだ?

 

思わぬ再会に私と西住さんは驚きの表情を隠せなかった。

 




アリシアが早くも再登場。
愛里寿の保護者的な感じになってますね。
さらに、玲香が西住家に訪問が決定。これも書きたいエピソードの1つでした。
次回もよろしくお願いします。


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仙道玲香、西住家に行く

みほの実家に玲香がついて行く話。
それではよろしくお願いします。


「あっ、アリシアさん日本に来てたのですか?」

 

 私は突然の再会に驚いていた。イギリスで会ってからまだそんなに経っていないからである。

 

「あはは、あの後すぐにどうしてもって頼まれて、こっちの大学に短期留学してるのよ。日本の大学選抜チームの隊長の補佐をしてって頼まれちゃってねー」

 

 アリシアさんはニコリと笑いながら、日本にいる理由を話した。

 大学選抜チームの隊長の補佐かぁ。確か、島田流の家元が大学戦車道連盟の理事長だったから、そういう繋がりかな?

 

 

「アリシア姉様、この方たちと知り合い?」

 

 アリシアさんの背中に隠れて不安そうな表情の愛里寿と呼ばれた少女。

 この子は妹か何かなのか? でも、アリシアさんはイギリス人とのハーフだけど、愛里寿って子は純粋な日本人っぽいぞ。

 

「ああ、この子は従姉妹のチヨ姉さんの娘よ。愛里寿っていうの。愛里寿、こちらは、高校生の戦車道の大会で優勝した学校の子で、西住みほさんと仙道玲香さんよ、ご挨拶なさい。あと、そのぬいぐるみのお礼も……」

 

 アリシアさんは愛里寿と呼ばれた少女の肩を優しく抱いて、私たちの前に立たせる。

 アリシアさんの従姉妹の娘さんってことは、まさか、島田流の家元の娘ってことか。

 

「島田愛里寿……、です。譲ってくれてありがとう……」

 

 西住さんみたいな、人見知りな彼女は伏せ目がちになりながら、自己紹介をした。

 

「私は西住みほです。そのボコは愛里寿ちゃんのところに行きたいって言ってたから、愛里寿ちゃんのものだよー」

 

 西住さんは腰を落として、愛里寿さんの顔を見てニッコリと笑ってみせた。

 

「仙道玲香だ。よろしくね、愛里寿ちゃん」

 

「…………」

 

 愛里寿さんは私の顔を見るなり、顔を真っ赤にして、アリシアさんの背中に隠れた。

 待って、何か変なことしたかな?

 

「もーう、この子ったら、チヨ姉が心配するわけだわ。ごめんなさいね、本当はもっとお話したかったんだけど……。このへんで失礼させてもらうわ。また戦車で試合しましょうね。それじゃあ」

 

 アリシアさんと愛里寿さんは去って行った。

 また、戦車で試合か……、でも今の私たちは……。

 

「西住殿、玲香殿、今の方ってもしかして、先日話されていた、ボービントン大学のエースっていう?」

 

「ああ、そうそう、なんか日本に短期留学してるんだってさ」

 

「あー、やっぱりそうだったんですねー。もっと早く気付いていれば、サイン貰っていたのにー」

 

 秋山さんが頭を抱えて悔しがった。ブレないのは彼女らしいなー。

 

「優花里さん、またきっと会えるよー。元気出して」

 

 西住さんはそんな風に慰めるけど、大学生だし、短期留学と言ってたから、なかなか会うのは難しいだろう。

 とりあえず、ボコミュージアムを見つけられて良かったなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「なんか、みほには悪いけど、こうして二人きりで出かけられて、ちょっと嬉しい」

 

 船の椅子に腰掛けながら、私は西住さんに話しかけた。

 

「ううん、悪くなんてないよ……。私も玲香さんと一緒で嬉しいから」

 

 西住さんは私の肩にもたれかかって返事をした。周りに誰も居ないけど、最近スキンシップが大胆になってきてるよな。

 

「そっか、でもよく考えたら西住流の家元の家に行くんだから、もっときっちりとした服装にすれば良かったな。いつもどおりのラフな感じにして後悔してるよ」

 

「ええー、玲香さんはそういう感じのほうが似合うよー。カッコいいもん」

 

 私服のメンズファッションに対して西住さんはそんな感想をいう。彼女は私が私服を着るとテンションが上がる。

 そういうもんなのかな?

 

 時間をたっぷりかけて熊本にたどり着き、さらに少しだけ時間をかけて西住さんの実家の前に立つことができた私たち。

 

 予想通りの大きな家であった。旧家のお屋敷って感じ。

 

 入ろうかどうか、さすがに少しだけ躊躇っている西住さんに声がかかる。

 

「みほ、おかえり……」

 

 犬の散歩から帰って来てた、まほさんに声をかけられた。

 うわぁ、あの犬は柴犬かな? すごく尻尾振ってる。

 

「お姉ちゃん……」

 

 西住さんは少しだけ安堵した表情になった。

 私はまほさんが犬の散歩ってだけで何でこんなにもシュールに見えるのだろうとか考えてた。

 

「玲香もよく来てくれたな」

 

「あはは、やっぱり、みほやまほさんの家って興味ありましたから。あと、家元にも先日の件をお詫びしたいと……」

 

「本当に、この前のようなことはやめてくれ。あの後、私に真顔で姉妹に見られるくらい自分が若く見えるか客観的に答えなさいとか無茶なことを言われたのだぞ。わかるか? そのときの私の気持ちが?」

 

 まほさんにそのように釘が刺されて、若干罪悪感に沸いて、申し訳なくなる。

 

 

 そして、私たちは何故かこっそりと裏門の方に案内される。ああ、いきなり家元と西住さんを会わせないようにする配慮か。

 

 しかし、家元の部屋を通り過ぎるとき、気配を感じたからなのか、声がかけられる。

 

「まほ、お客様ですか?」

 

「がっ学校の友人です……」

 

 チラッと私を見てからそう答えるまほさん。うん、嘘は付いていないな、同じ学校とは言ってないもん。しかし、そんなに自信なさそうにしなくてもいいじゃないか。

 

 

「うわぁ、あのときのままだー」

 

 実家の西住さんの部屋に入ると、きれいにされており、彼女が出ていったときのままであるようだ。

 うーむ、埃とかもないし、定期的に掃除はされているみたいだけど……。そんな小姑みたいなことを思っていると、まほさんが西住さんに転校の書類を受け取っていた。

 

 あー、家元にまほさんから頼むつもりなのかな? 厳格そうだから本人じゃないと取り合ってくれなさそうだけど……。

 

 

 しばらくすると、まほさんは戻ってきたみたいだ。手には、家元のサインと判子が押されていた。

 

「お姉ちゃん、これ?」

 

「しーっ」

 

 指を口元に当てるまほさん。あー、この人は西住さんのために自分で……。

 

「あっ、ありがとう」

 

 そう言って、書類を受け取ろうとする西住さん。いや、ちょっと待ってね。

 

「駄目だよ、みほ。生徒会としての立場的にこれは見逃せないよ」

 

 嘘、見逃せる。こちとら、戦車紛失の書類だって捏造してるんだから、見て見ぬふりは出来る。でも、これは西住さんのためにならないから見逃せない。

 

「玲香、知っていると思うが、みほは……」

 

「知ってます。だけどね、みほ。君は勇気を振り絞ってここまで来たんだ。私はそれを応援しにきた。だったら、自分がどうすべきかわかるだろ? ほら、これが予備の書類だ」

 

 私は念の為に用意した、転校書類の予備を西住さんに手渡した。

 

「玲香さん、私……」

 

 私の反応に面食らったのか、西住さんは書類を手にして泣きそうな顔をする。ふむ、思ったよりも恐怖が強いか。

 

 そんなとき、私の携帯のバイブが振動する。

 ん? 会長からか……。

 

「まほさん、電話に出ても?」

 

「ん? それは、構わないが……」

 

 了承を得て、私は電話に出た。会長からということは何か動きがあったのかもしれない。

 

『やぁ、仙道ちゃーん、今どこー?』

 

「先日話しましたように、みほの実家にお邪魔してますよ。何か、急ぎの用件でしょうか?」

 

『おっ、さすがにいいタイミングでいい所に居るねー。じゃあさ、前に言ってた頼みごとをしたいんだけど、大丈夫かな?』

 

「はぁ、頼みごとですか? もちろん、私に出来ることなら、何なりと……」

 

『うん、仙道ちゃんならそう言ってくれると信じてたよー。頼みっていうのは――』

 

 会長からの用件を聞く私。なるほど、会長は日本戦車道連盟にかけ合って居たのか。ふむ、西住流の家元が文科省主催のプロリーグ設置委員会の委員長に……。

 なるほど、さすがは会長だ。これなら、逆転の一手をかけれるかもしれない。

 

「わかりました。その任務は必ずや私が達成してみせます。ええ、大丈夫ですよ。私だって会長の背中をぼんやり眺めていただけじゃありませんから」

 

『そっか、んじゃー、待ってるよ。あんがとね、仙道ちゃん』

 

 会長から大任を預かった私はどうしようもなく嬉しかった。背中を見てただけだった会長に、託されたんだ。大丈夫、私ならやれる。

 

「みほ、すまないが、君よりも先に私が家元と話さなくてはならなくなったようだ……」

 

「えっ、玲香さん? 角谷先輩から何を?」

 

 西住さんは私の発言に驚きを隠せないでいた。まぁ、無理もないか……。

 

「廃校を撤回させるための道が見えたんだ。そのためには、西住しほさん、つまり君のお母様の力がどうしても必要になった。――まほさん、友人としてお願いします。貴女のお母様のお時間を少しだけ頂戴出来るように口添えをしていただけませんか?」

 

 私は西住さんに話したあと、まほさんにお願いをした。

 

「ふむ、まだ話が掴めないが、それくらいなら容易い。私も同席しよう。みほはここで、待っていなさい」

 

 まほさんは快諾してくれた。ありがたい。

 

「待って、私も行くよ。私だって大洗女子学園の一員だもん。廃校が無くなるかもしれないなら、お母さんにだってなんだって怖くないよ――」

 

 西住さんは戦車に乗っているときのような凛々しい顔つきになる。うーん、ここまで腫れ物扱いされてる家元って?

 

 とにかく、娘さん2人が援護してくれるなら母親として無碍にはしないだろうと打算も働いて、私たち3人は西住しほさんの元に向かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 大きな和室で、テーブルを挟んで私たちと家元が対面する。

 怖くないと言っていた西住さんはやはりというか、仕方ないのだが、俯いて目をそらしている。

 

「本日は急なお話にも関わらず、貴重なお時間をいただけたことを感謝しております。また、先日は失礼な言動をしてしまい――」

 

「前置きはいいです。手短に用件だけお話ください」

 

 ピシャリと挨拶がシャットダウンしてしまった。まぁ、それでも話ができるのだからありがたい。

 

「承知しました。それでは、大洗女子学園の生徒会会長代理としてお話をさせていただきます。現在、大洗女子学園は文科省の進める学園艦統廃合の計画の対象校となってしまい、廃校の危機に瀕しております。しかし、我々はそれに納得できておりません。なぜなら、今年の戦車道全国大会に大洗女子学園の戦車道チームが復活して参戦した理由が、優勝した場合、廃校は撤回されるという約束があったからです」

 

 私は簡単に状況の説明から開始した。

 

「なるほど、優勝という条件を達成したにも関わらず、約束を反故にされたということですね。しかし、お気の毒とは思いますけど、私には関係のない話に思えますが……」

 

 まぁ、そうなるよね。さて、ここから会長ならどう攻めるか……。

 

「ええ、家元が懇意にされているのは黒森峰女学園です。しかし、高校戦車道連盟の理事長としてはどうですか? 優勝するほど強い学校が廃校というのは損失だとは思いませんか?」

 

「損失といえば損失でしょうね。しかし、だからといって文科省の取り決めに口を出すほどではないと言っているのですよ」

 

 ふむ、なかなか手強いな。こういうことはあまり言いたくないのだが……。

 

「そうですか。実はそう言われる予感はしていたのですよ。来年の全国大会の優勝候補の筆頭である大洗女子学園が無くなったほうが、家元個人としてはありがたいと考えるのではないかと……。なんせ、黒森峰女学園にとって有利ですからねー」

 

「ちょっと、玲香さん……」

 

 私の挑発とも取れる言動に西住さんは顔を青くする。ごめん、不安にさせて……、でもこれは賭けだから……。

 

「そうきましたか。仙道玲香さん、でしたっけ? 貴女はもし大洗女子学園が来年も存在していれば、連覇できるとお考えなのですね?」

 

 少しだけ、ピリッとした空気を感じながら、私は家元の質問を身に受ける。

 

「戦力的には有利だと思っております。大洗女子学園の戦車道チームは私とみほさん以外は初心者で立ち上げました。その初心者軍団がサンダース、プラウダ、黒森峰を打ち破り優勝したという事実。そして、私もみほさんもまだ2年生で来年も出られます。引退されるまほさんと違ってです。さらには、プラウダのカチューシャさんも引退される。この差は大きいと思いませんか?」

 

 私は来年に大洗女子学園残った場合の優勝への見通しを話した。実際、本当にそんなに甘く思ってるわけじゃない。大洗女子学園だって居なくなる人材は多いし、少数精鋭だったからこそ、居なくなる人間による戦力の低下は著しく大きい。

 

「貴女の意見はわかりました。最後に、みほ、貴女はどうなの? 来年も優勝する自信があなたにはありますか?」

 

 げっ、いきなり西住さんへキラーパスとは、この人は侮れないな。

 

「わっ、私は……、玲香さんと一緒なら……、来年も……、優勝できると……、思う……」

 

 西住さんは絞り出すような声ではっきりと優勝への見通しを語った。

 勇気を出して、言いにくいことを、よく言ってくれたね。

 

「――ふぅ、大洗女子学園が無くなると、来年の優勝候補を黒森峰が叩きのめすことが出来なくなりますね……」

 

「そっそれでは……」

 

「ええ、貴女と共に一度、文科省と話してみましょう」

 

「あっありがとうございます! ご協力に感謝いたします。また、数々の無礼な言動があったことをお許しください」

 

 やりましたよ、会長。無事に家元を味方にすることができました。

 私は会長から言い渡された任務を無事に遂行することができて自分が誇らしかった。

 

 よし、廃校回避へ1歩前進だ!




交渉の場でも得意の煽りは健在の玲香です。
この辺も劇場版のシーンを書く際にやりたかったことですね。
会長に背中を預けられる玲香を書きたかったのです。

いよいよ、大学選抜戦が迫ってきました。
書きたいシーンは何個もあるのですが、繋ぎをどうしようかと考え中です。

次回もよろしくお願いします!


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廃校撤回への道

いよいよ、文科省との交渉です。
試合が近づいてまいりました。
それではよろしくお願いします。


 その後、しばらく私と家元は文科省へ行く日取りや時間を確認したりした。そして、話はうまくまとまった。

 

「そういえば、玲香さん、貴女は確か、全国大会の決勝戦でもティーガーⅡを挑発して足止めをしたと聞いております。誰に習ったのかわかりませんが、あの場面でチームの勝利を優先させ、あのような動きができることには感心しました。そんな貴女だからこそ、お願いがあります。――みほのことをよろしくお願いします」

 

「お母さん……」

 

 娘の母親として頭を下げる家元を見て、西住さんは信じられないという顔をしていた。

 多分、この方は西住さんが思ってるほど怖い人じゃないと思うよ。

 ただ、不器用だから、いろんな立場があって、人間として上手く立ち回れないだけなんだ。

 

 まぁ、母娘の問題は当人たちのことだから、私がでしゃばる気はないけどね。

 だけど、少しだけ、パスをするか。

 

「みほさんの事はどの友人よりも大事に思っておりますので、その点だけはお任せください。あっ、そういえば、みほさんは転校手続きの書類って出さなきゃならないんじゃ? そのために今日来たのだろう? すまないね、私の用事が先になってしまって」

 

「ふぇっ、れっ玲香さん?」

 

 いきなりパスを回されて、動揺する西住さん。

 ここが案外踏ん張りどきかもしれないぞ。

 

「まほさん、少しだけお話したいことがあるのですが……、外で話せないでしょうか?」

 

「えっ? ふむ、それは大丈夫だが……」

 

 まほさんはちょっとだけ迷った顔をした。しかし――。

 

「そうだな。お母様、しばらく玲香と席を外します」

 

「じゃっ、みほさん。ちゃんと、判子もらっておいてね。まぁ、廃校は阻止するつもりだけど、万が一ってこともあるからさ。さっ、行きましょう、まほさん」

 

 私とまほさんは一緒に中庭で雑談することにした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「まったく、君というヤツはよく口が回る。お母様を挑発って、私の方が緊張したぞ」

 

 まほさんはずっと固い表情だったが、ようやく安心した顔になった。心配をかけて申し訳ない。

 

「あはは、手段を選んでられなくなってますからねー。確かに厳格な西住流の家元には多少の恐怖はありましたけど、譲れないモノの為ならなんだってやりますよ」

 

 実際、相手が相手だからいつも以上に挑発には神経を使った。やり方を間違えるとオシマイだし。

 

「みほに、甘くしてしまって申し訳なかった。確かにあれではみほの為にはならないかもしれない……」

 

「いえ、まほさんが妹を大事に想っている気持ちはとても良く伝わりました。私の方こそ出過ぎた真似をしてしまったと、思っております」

 

 実際にまほさんとは初対面の頃から、西住さんへの気遣いというか、暖かい感情があることには気付いていた。

 多分、妹を守れなかったことを悔やんでいるんだろうな。

 

「人間って、誰だって後悔することはあると思うんですよ」

 

「どうした、藪から棒に?」

 

 まほさんが不思議そうな顔をした。

 

「でも、私もそうなんですけどね、反省っていうのは中々難しいんです。過去のダメだった部分を省みて、正すって大変なことなんですよ。大抵はダメだ、ダメだ、って後悔するだけで成長できてないのですから。だから、私も同じ失敗ばかりやっちゃいます――」 

 

「そうか……。じゃあ、反省できる人間にならないとな」

 

「ええ、私たちには未来(さき)がありますからねー」

 

 そう言いながら、私とまほさんは少しだけ笑って、最近のオススメのカレーのトッピングに話は移った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「それでは、長居をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

 西住さんが無事に判子とサインをゲットしてくれたので、私たちは大洗へ戻ることになった。とはいえ、家元とはまたすぐに会うことになるが……。

 

「いえ、またいらしてください。まほとみほの友人として……」

 

 家元はかなり表情が柔らかくなったように感じた。西住さんと話したからだろうか?

 

「はい、是非ともお伺いさせていただきます!」

 

 私はニコリと笑ってみせた。いろいろとあったが、楽しかったな。

 

「あと、間違っていたら申し訳ないのですが、貴女のお父様は舞台俳優の仙道玲次郎様ではありませんか?」

 

 えっ? なんで、家元がウチの父親のこと知っているの?

 

「はぁ、確かに父は舞台俳優を演ってますが……。まさか、ご存知とは……」

 

 テレビには出ない劇団の役者だからそんなに知ってる人居ないんだけどな。私が物心ついたときからは主演だってほとんどなかったし。

 

「道理で見た目が若い頃の玲次郎様にそっくりなはずです。姓が同じなのでもしやとずっと思ってました。昔はよく舞台を拝見させていただいたものです。主演をされた際には花も送らせていただきました。今も年に1回は見に行っています」

 

 私の幼い日の記憶にアホみたいに大量の花が送られて、苦笑していた父の顔を思い出した。

 そっか、昔は確かに若い女性のファンがそれなりに居たとか言ってたな。見栄だとばかり思ってた。

 

 というか、急にグイグイ来たな、家元は……。あの毎日薄くなった髪の毛ばかりイジってる親父のどこが良いのかさっぱりだ。

 

「そうなんですね。この足で実家に判子を貰いに行く予定ですので、父に伝えておきますよ。きっと喜ぶと思います」

 

「そっそうですか。でしたら、その――」

 

 家元は顔を少し赤くして私にお願いをした。まぁ、別にそんなのは簡単だけど……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 まほさんにⅡ号戦車で駅まで送ってもらえた私たちは大洗を目指して帰宅中である。

 

「まさか家元にウチの親父のサインを頼まれるとは――」

 

 私は家元のまさかの頼みごとに驚いた。何でも、若い頃、恥ずかしくてサインを本人に頼めなかったらしい……。

 シャイなところは西住さんのお母さんって感じだな。

 

「玲香さんのお父さんなんだから、きっとカッコいいんだろうなー」

 

 西住さんはそんなことを言っているが、至って普通の顔である。昔はモテたとか言っているが、全然信じられない。

 

「そんなことより、お母さんとちゃんと話せたんだろ? エライじゃないか」

 

 私はみほの頭を撫でた。よく頑張って勇気を出したな。パスは出したけど、実はかなり不安だった。

 

「もう、玲香さん、子供扱いしてる……。ちゃんと話したよ。西住流としては、私の戦車道は認められないけど、親としては応援してくれるって……。あと、お正月には帰って来なさいって言われたよ」

 

 西住さんは、淡々と、しかし嬉しそうに話してくれた。

 良かったじゃん。だったら尚更このまま廃校は受け入れられないよな。

 

 文科省との交渉は必ずや成功させなくては――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 というわけで、大洗女子学園からは私と会長。

 そして、日本戦車道連盟の理事長と日本戦車道プロリーグ強化委員である蝶野亜美さん。

 さらに、西住流戦車道の家元である西住しほさん。

 

 5人で文部科学省学園艦教育局長である辻廉太さんと話し合いを開始した。

 

 

 まずは家元が鋭い目付きで辻さんを睨み付ける。辻さんはすでにちょっとだけ顔が引きつっていた。

 

「若手の育成なくしてプロ選手の育成はなしえません。これだけ考えに隔たりがあってはプロリーグ設置委員会の委員長を私が務めるのは難しいかと」

 

 最初から文科省の弱いところを攻撃する家元。ふむ、勝つために徹底的に攻めている。これが西住流か……。

 

「いや、それは……。今年度中にプロリーグを設立しないと戦車道大会の誘致ができなくなってしまうのは先生もご存知でしょう」

 

 なんとか穏便に話を進めたい辻さんは、穏やかな口調で諭すように話していた。

 やはり、家元の迫力に押されているようだ。

 

「優勝した学校を廃校にするのは文科省が掲げるスポーツ振興の理念に反するのではないでしょうか?」

 

 この矛盾点は私も思ったが、子供が言うのと家元が言うのでは意味合いが違う。

 

「しかし、まぐれで優勝した高校ですから」

 

「戦車道にまぐれなし! あるのは実力のみ!」

 

「ひっ……」

 

 ダンっとコップをテーブルに叩きつけて、家元は激高する。

 まぐれかぁ……。さすがにそれは私たちだけじゃなくて対戦相手全員の侮辱と取られてもおかしくないセリフだよね。

 

「どうしたら実力を認めていただけるのですか?」

 

「まぁ、大学強化選手に勝ちでもしたら…」

 

 今、言ったね? 私は確かに聞こえたよ。ねぇ、会長――。

 

「わかりました。勝ったら廃校を撤回してもらえますね?」

 

「大学選抜が相手だろうと、私たちは勝ちますよ!」

 

 会長と私はここぞとばかりに捲し立てる。

 

「ええっ……?」

 

 辻さんは私たちの反応が意外だったらしく、困った表情をした。

 今回はこれだけの面子の中で言質をとったから大丈夫だと思うけど……。

 

「今ここで覚書を交わしてください!」

 

 会長が《せいやくしょ》を片手にサインペンを渡そうとする。

 

「噂では口約束は約束ではないようですからねぇ?」

 

 私が尊敬し、憧れた角谷杏先輩が絶好調のときの小悪魔的なスマイルだ。

 この笑顔の会長はノリに乗っている。みんなに力を与えてくれる。

 

「暑い中、お仕事をされるのは大変かと思いますが、今度は、ぜひ私たちの強いところを見てくださいね」

 

 私もニコリと笑って、辻さんにひと言添えた。

 

 そんなわけで、大学選抜と大洗女子学園の戦車道の試合が決定した。

 

 大学選抜にはアリシアさんもいる。厳しい戦いになるに決まっているが、今回は負けられないぞ。

 

 

 

 ちなみに家元、《西住しほさんへ》と名前を入れた、私の親父のサインを渡したら、すごく大事そうにしまって、可愛い方だと思ってしまいました。

 今日は本当にありがとうございます。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 

 私と会長はその後、試合を決行するために関係する組織を回って許可と判子をもらい、吉報を届けにみんなの元に戻った。

 

 河嶋先輩をあまりにもほったらかしにしていたので、私と会長が戻ってきたとき泣かれてしまって困った。

 

 そして、戦車道チームは体育館に呼び出された。いい加減に泣き止んでくださいよ、河嶋先輩!

 

「みんな。試合が決まった!」

 

「試合?」

 

「大学強化チームとだ」

 

「ええっ……」

 

「大学強化チームとの試合に勝てば今度こそ廃校は撤回される」

 

 会長から先ほど決まったことが話される。戦車道チームは急な話に騒然となる。

 

 

「文科省局長から念書もとってきた。戦車道連盟、大学戦車道連盟、高校戦車道連盟の承認ももらった」

 

「さすが、会長ー」

 

 念書を掲げる会長に飛びつく河嶋先輩。先輩も会長のことずっと信じてたんだもんな。

 

「もう隠していることはないですよね?」

 

 カエサルさんが念を押す。これで、さらにサプライズがあったら泣くよ私……。

 

「ない!」

 

 会長は胸をはってはっきりと答える。

 

「勝ったら本当に廃校撤回なんですね?」

 

 磯部さんがさらに念を押す。

 

「そうだ!」

 

 堂々とした宣言に私たちは沸いた! 

 

「無理な戦いということは分かっている……。だが必ず勝ってみんなで大洗に学園艦に帰ろう!」

 

「「おぉぉぉ!」」

 

 今、再び、私たちの心は1つになる。

 

 奇跡が再び起ころうとしていた――。




会長の見せ場までは奪えなかった玲香。
さて、いよいよ大学選抜との試合が開始されます。
原作以上に強力な敵にどう挑むのか? ぜひ次回もよろしくお願いします。


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大洗女子学園VS大学選抜チーム その1

いつも、感想や誤字報告をありがとうございます。

各校が駆けつけて来るシーンなのですが、原作どおりだと、玲香には駆け付けてくるライバルたちの言葉は半分以上が聞こえないんですね。
それを再現すると凄く味気なくなっちゃったんで、車内の会話を全部スピーカーで駄々漏れにしていることに、改変しました。
それでは、よろしくお願いします。


「おいっ、みほ。見てくれこれ……」

 

 私は大学選抜チームが社会人チームを打ち破ったという記事をみんなに見せた。

 

「やっぱり、アリシアさんがいるチームだから強いんだねー」

 

「いや、違うんだ。みほ、アリシアさんはこの戦いに出ていないみたいなんだ。それより、これを見てくれ……」

 

「この子はボコミュージアムで会った……」

 

 大学選抜チームの隊長の写真に映っていたのは、黒いリボンをした少女、島田愛里寿さんだった。

 

 愛里寿さんは大学生だったのか……。そして、彼女は確か……、島田流の家元の娘さんのはずだ……。

 

 会長によると天才少女と呼ばれて飛び級で大学生になっているらしい。そして、大学選抜チームの隊長もやっているのか……。

 

 そりゃあ、家元の娘が隊長ならアリシアさんほどの人が補佐をするのも頷ける。

 

「つまりこの戦いは島田流VS西住流の戦いでもあるんだな……」

 

 会長が記事を見ながらそう呟いた。まぁ、当人たちがそんなことを思ってなくても大人はそう思うだろう。

 

 だとすると――社会人チームとの試合には出て来なかったアリシアさんまで出てくる確率は高い……。

 

 しかも問題はそれだけじゃない。

 

「相手の車両は何両出てくるのですか?」

 

「30両……」

 

 磯辺さんの質問に顔を青くして答える西住さん。黒森峰との決勝戦よりも10両も多い……。

 

 試合に勝てば廃校は免れると約束したが、こんなの卑怯じゃん。あの眼鏡の野郎、どうしても私たちの高校を廃校にしたいらしいな。

 

「もうダメだぁ。西住からも勝つのは無理だと伝えてくれー」

 

 すでに弱気の河嶋先輩。頼むから士気が下がることは言わないでくれ。

 

「確かに今の状況では勝てません。ですがこの条件をとりつけるのも大変だったと思うんです。普通は無理でも戦車に通れない道はありません。戦車は火砕流の中だって進むんです。困難な道ですが勝てる手を考えましょう!」

 

 西住さんは力強く答えた。そうなんだ、これは私たちに残された最後の一手だから……。負けられないんだ。

 

「みほの言うとおりだ。私たちは今まで敗色濃厚の戦いを全て勝ち上がってきた。全員が1つにまとまって邁進すれば、奇跡は必ず起こる。自分たちの力を信じよう!」

 

 私だって勝つ自信はない。しかし、諦めてしまったらそれでオシマイだ。

 だから、私は絶望はしない。逆転を最後まで信じる。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あの、30両に対して8両でその上突然殲滅戦ていうのは……」

 

「予定されるプロリーグでは殲滅戦が基本ルールになっておりますのでそれに合わせていただきたい」

 

 辻さんの淡々とした宣告に、西住さんの顔がさらに曇る。

 

「いや、プロリーグだったら同数で戦ってるじゃないですか!」

 

 私が大声でツッコミを入れる。どんだけ大人気ないんだ。大学選抜だって、そんな袋叩きみたいな作業やりたくないだろう。

 

「大会の準備はもう殲滅戦で進めてるんだって……」

 

 日本戦車道連盟の理事長さんが、気まずそうな顔をしていた。

 殲滅戦って……、8両でどうやって30両を……。

 

「辞退するなら早めに申し出るように」

 

 勝ち誇った顔をして辻さんは去って行った。くっ、何かないのか? 勝つための作戦が……。

 

 そして、決戦前夜。私と西住さんは地形の確認に出ていた。

 

「いやー、きつい戦いになりそうだなー」

 

「うん、相手の方が練度も数も上だから……、正直言って勝つのは……」

 

 さすがの西住さんも勝つとは言えないか。

 いや、私もそうだから仕方ないよ。こればっかりは……。

 

「でも、棄権はしないんだろ?」

 

「それはないかな。退いたら道は無くなっちゃうもん」

 

「ありがとう。みほが一緒なら、どんなに無茶な戦いでもさ、奇跡が起こせる気がするよ」

 

「わっ私も玲香さんとなら、きっと」

 

 私と西住さんは見つめ合い、そして――。

 

「おーい、みぽりーん。れいれーい、あれ、何かしてたー?」

 

 お互いの顔が触れそうになったとき、武部さんの声が聞こえて、慌てて私たちは離れた。

 

 あんこうチームのみんながこっちに近づいてきている。

 

「なっなんでもない。ちょっとさ、みほの目にゴミが入ったみたいだから、そのっ……」

 

「そうなの。なっなんでもないよ」

 

 私たちは顔を真っ赤にしながら、誤魔化した。

 まずいな。最近は油断して場所を考えずにこうなってしまう……。バレるのも時間の問題かもしれない。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 決戦の日、私たちは隊長と副隊長として挨拶に向かう。

 

 目の前には大学選抜チームの隊長の愛里寿さんと、隊長補佐のアリシアさんが先に審判長の蝶野さんのそばに立って待っていた。

 

「相手を山岳地帯におびき寄せて分散させて各個撃破できれば勝機はみえるはず……」

 

「ふむ、しかし、そう上手くは分散できないか……」

 

 そんなことを話しながら私たちは前へと進む。それは処刑台への道にも思えた……。

 

「まさか、再戦がこんな形になるとはね。貴女たちには同情するわ」

 

「でも、私たちを倒すのでしょう。アリシアさんは……」 

 

 私はアリシアさんのアメジストのような瞳を見据えてそう言った。

 でないと、この場に立たないはずだ。

 

「いいえ、貴女たちは私が動くまでもなく……、負けるでしょうね。私はチヨ姉に、いや島田流の家元に、愛里寿が動くまで、攻撃されない限りは動くなと命じられている――。そして愛里寿はこの試合を自分が動くまでもなく終わらせる気でいるの。引導を渡せなくて残念だわ」

 

「なっ――」

 

 愛里寿さんは動くまでもなくこちらに勝つつもりだって? それは島田流の力を見せつけるためなのか?

 

 舐められている。しかし、この二人が動かなくても戦力差は……。

 

「ではこれより大洗女子学園対大学選抜チームの試合を行います」

 

 蝶野さんの呼びかけで私と西住さんは並ぶ。ついに有効な作戦は思いつかなかった。こうなれば、無心になって1両でも多く撃破するしかない。

 

「礼」

 

「「よろしく…」」

 

 私と西住さんが蝶野さんの号令で挨拶をしかけたその刹那。

 

 思いもよらない奇跡が展開されたのだ――。

 

「待ったあああああ!」

 

 えっ? この声はまほさん?

 あっ、あの車両は黒森峰のティーガーにパンター?

 

「おねえちゃん」

「まっまほさん。ついでにエリカまで……」

 

 私たちは目を丸くして信じられない光景を見ていた。これは――どういうこと? なんで、まほさんと逸見さんがウチの制服を着ているんだ?

 

「大洗女子学園、西住まほ」

 

「同じく逸見エリカ。――玲香、ついで扱いするなら帰るわよ」

 

「以下18名、試合に参戦する。短期転校の手続きは済ませてきた。戦車道連盟の許可も取り付けてある」

 

「おねえちゃん。ありがとう」

 

「礼には及ばない。大事な人たちを今度はどうしても守りたくなっただけだ」

 

 まほさんは優しく微笑みながら西住さんの肩を叩いた。

 

「エリカ、よく来てくれた。さすが親友だ」

 

「だから、いつ親友にランクアップしたのよ。相変わらず都合がいいわね」

 

 この援軍は大きい。まほさんも逸見さんも高校生のレベルを超えてるからな。

 

 なんか、向こうで辻さんが抗議してるけど、理事長の態度から見ると大丈夫そうだ。

 

 そして、援軍は黒森峰だけじゃなかった。

 

『私たちも転校してきたわよー』

 

『今からチームメイトだから』

 

『覚悟なさい!』

 

 サンダースのケイさん、ナオミさん、アリサさんが駆け付けてきた。

 

 アリサさんまで、助けに来てくれるなんて……。戦車を預かって貰った借りも返してないのに……。

 

 サンダースの戦車も軍列に加わり、私たち大洗女子学園の戦力はさらに上がった。

 

『一番乗り逃しちゃったじゃない!』

 

『お寝坊したのは誰ですか』

 

『まあ別に来たくて来たわけじゃないんだけどね』

 

『でも一番乗りしてカッコいいところを見せたかったんですよね』

 

『いちいちうるさいわね!』

 

 カチューシャさんに、ノンナさん……。来てくれて、ありがとうございます。

 

『やっぱり試合にはいつものタンクジャケットで挑みますか』

 

『じゃあなんでわざわざ大洗の制服をそろえたんですか』

 

『みんな着てみたかったんだって』

 

「聖グロリアーナやプラウダのみなさんまで!」

 

 ダージリンさんたちまで来てくれたのか……。

 

 次々と集まるライバルたちの車両に私と西住さんの胸は高鳴った。

 

 

 

『大洗諸君! ノリと勢いとパスタの国から総統(ドゥーチェ)参戦だ! 恐れ入れ!」

 

『今度は間に合ってよかったっすね』

 

『カバさんチームのたかちゃーん。きたわよー』

 

 アンツィオのアンチョビさんたちに加えて――。

 

『こんにちはみなさん、継続高校から転校してきました』

 

『なんだかんだいって助けてあげるんだね』

 

『違う。風と一緒に流れてきたのさ』

 

 まさか、継続高校のミカさんたちまで来るとは……。一番驚いたぞ……。

 

『お待たせしました! 昨日の敵は今日の盟友! 勇敢なる鉄獅子22両推参であります!』

 

 えっと、西さんが来てくれたのはいいけど……。22両って多くない?

 

『増援は私たち全部で22両だって言ったでしょ。あなたのところは6両』

 

 ダージリンさんが慌てて注意する。他校の人にああいう口調のダージリンさんって新鮮だな。

 

『すみません! 心得違いをしておりました! 16両は待機!』

 

 爽やかに謝罪する西さん。この人は悪気が無いだけに質が悪いかも。

 

「みほ、すごいな。こんなにも沢山の人たちが助けに来てくれたぞ。これなら、なんとかなる!」

 

「うん。みんなに感謝しなきゃ」

 

 しかし、この異常事態、そもそも試合直前での選手増員はルール違反じゃないのか、と辻さんは抗議してる。

 

 実は私もそう思っていた。

 

「異議を唱えられるのは相手チームだけです」

 

 蝶野さんはケロッとして答えた。

 

「我々は構いません。受けて立ちます」

 

「あたしもいいですよ。殲滅戦で車両の数が少なくて勝っても島田流の強さのアピールが出来ないですから」

 

 愛里寿さんとアリシアさんはあっさりと車両と人員の増加を認めて、大洗女子学園は30両の大所帯となった。

 

「これだけの猛者たちが仲間になったんだ。絶対に勝とうな、みほ!」

 

「うん! 玲香さん!」

 

 

 

 さて、これだけの戦力を使ってどう戦うか……。

 まずは作戦を練らなくてはな……。

 




今回は割りと原作通りです。
ただ、改変のポイントとしては、愛里寿とアリシアはよほどのピンチまで動かないことを先に宣言していることですね。
ちなみに2人とも車両はセンチュリオンです。
次回もよろしくお願いします!


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大洗女子学園VS大学選抜チーム その2

大学選抜戦の序盤はほぼ原作通りに玲香を絡ませる感じですが、徐々にストーリーは変わっていきます。
その点に注目して頂けたら嬉しいです。
それではよろしくお願いします!


 現在、大所帯となった大洗女子学園チームの作戦会議中。

 

「このとおり3個中隊の編成でいきたいと思います」

 

 現在は30両を3つの中隊に分けたところだ。

 

 大洗からは隊長の西住さんと生徒会長である角谷先輩、そして作戦会議の書紀は私がやっている。

 

 また、各校の隊長や副隊長も作戦会議には当然参加している。

 

 

【チーム編成】

 

1:あんこうチーム、カモさんチーム、アリクイさんチーム、アヒルさんチーム、レオポンさんチームとグロリアーナと継続とアンツィオの車両。

 

2:カバさんチーム、カメさんチームと黒森峰とプラウダの車両。

 

3:ウサギさんチームとサンダースと知波単の車両。

 

 つまり私はプラウダや黒森峰と同じ中隊だな。

 

「オッケー」

 

「中隊長は?」

 

 ケイさんがニコリと微笑み、ダージリンさんは相変わらず紅茶を飲みながら質問をする。

 

「それぞれおねえちゃ…西住まほ選手、ケイさん、それから私で」

 

 まぁ、各校の隊長のみなさんが仕切るのは当然だろう。しかし、それだと――。

 

「西側ばかりじゃない」

 

 カチューシャさんあたりはやっぱり不満だろうなー。

 資質としては十分だし……。

 

「ご不満?」

 

 知っているくせに、ダージリンさんはそんなことを聞く。

 

「隊長やりたいんですか?」

 

 ノンナさんまで、そんなことを聞く。

 

「私がやらなくてどうするのよ!」

 

 カチューシャさんはヒートアップする、仕方ないな。

 

「カチューシャさんは、もちろん副隊長だろ? やっぱり、頼りになるし、頭の回転も早い。副隊長をやってくれたら盤石だ」

 

 私はカチューシャさんを褒めつつ西住さんにパスを出す。

 

「えっと、そうですね、副隊長はぜひカチューシャさんにと、考えてました」

 

「あ、そう? レイーチカはやっぱりカチューシャを尊敬してるだけにわかってるわね。仕方ないから、やってあげるわ」

 

 急に機嫌を良くしたカチューシャさんは快く副隊長になってくれた。

 

「ダージリンさんと西さんも副隊長をお願いします」

 

 さらに西住さんはダージリンさんと西さんを副隊長に指名した。まぁ、妥当な人選だろう。みんな隊長だし。

 

「よろしいわ」

 

「誠心誠意努力します」

 

 ダージリンさんと、西さんは承諾してくれた。

 

「大隊長はみほだな」

 

「あなたについていくわよ」

 

「大隊長、部隊名の下知をお願いします」

 

 当然のように西住さんが私たちのトップである、大隊長になる。そこは、大洗女子学園の隊長だからね。

 

 そして、3つの部隊の名前を西住さんに決めるように、西さんはお願いをした。

 

「みほ、ここはやっぱり、シヴァ、イフリート、ラムウなんて……」

 

「――じゃあ、西住まほチームは《ひまわり》、ケイさんのところが《あさがお》、うちが《たんぽぽ》でどうでしょう?」

 

 いつもは反応してくれる西住さんはネーミングの時だけ私を無視する。悲しくなんてないんだからね……。

 

「よろしいんじゃない」

 

 ダージリンさんが肯定して、ひまわり中隊、あさがお中隊、たんぽぽ中隊が誕生した。

 私たちカメさんチームはひまわり中隊に所属で、まほさんが隊長で、カチューシャさんが副隊長だ。

 

「作戦はどうする!」

 

 アンチョビさんのひと言でようやく作戦を考えることになった。

 

「行進間射撃しかないんじゃないかしら。常に動き続けて撃ち続けるのよ」

 

 ダージリンさんがまずは提案する。

 それはどうかな? まともに当てられるのノンナさんとナオミさんくらいじゃ……、会長や五十鈴さんでも結構キツイんだよね、行進間射撃だと……。

 

「楔を打ち込み浸透突破で行くべきよ!」

 

「優勢火力ドクトリンじゃない? 1両に対して10両で攻撃ね!」

 

 続けて逸見さんとケイさんが意見を出した。

 うーん、いまいち勝てるイメージが沸かない……。

 

「二重包囲がいいわ。それで冬まで待って冬将軍を味方につけましょう! 殲滅戦は制限時間ないんだし」

 

 それは、本気で言っているのかな? カチューシャ先輩、冬には卒業寸前ですけど大丈夫ですか?

 

「私、さまざまな可能性を鑑みましたがここは突撃するしかないかと」

 

 西さんはもう戻ってこれないな。脳内メーカーやったら、【突撃】の文字で埋め尽くされるだろう。

 

「とりあえずパスタを茹でてから考えていいか?」

 

「そうですね。お腹空きましたし、アンツィオのナポリタン美味しかったですよ」

 

「そうか、あとでペパロニにも言ってくれ、喜ぶと思うぞ」

 

 私は作戦が当分、纏まりそうになかったので、アンチョビさんと雑談してた。

 

「みんなみほに従うと言っただろう?」

 

 見かねて、まほさんが助け舟を出す。やはり、お姉さんは妹に甘い。

 

「まほさんもこう言ってるんだし、みほの意見は私も聞きたいよ」

 

 すかさず、私は援護射撃する。この機は逃さない。だって終わりそうにないし……。

 

「はい、判りました。ひまわりチームを主力としてあさがおとたんぽぽが側面を固めてください。また、連携がとれる距離を保ちつつ離れすぎないよう注意してください」

 

 なるほど、意外とオーソドックスに攻めるのだな。まぁ、この面子は高校選抜って言っても良いほどの集まりだ。

 下手に奇策を使うよりも、力を出しやすく動いたほうがいいかもしれないね。

 

 

「で、ここからが肝心なんだけど……。――作戦名はどうします?」

 

 なんか、楽しそうなダージリンさんがウキウキしながら作戦名を考えようと提案した。

 

「三方向から攻めるんだから三種のチーズピザ作戦!」

 

「ビーフストロガノフ作戦がいいわ。玉ねぎと牛肉とサワークリームの取り合わせは最高よ!」

 

「フィッシュ&チップス&ビネガー作戦と名付けましょう」

 

「グリューワインとアイスバイン作戦!」

 

「フライドチキンステーキ、ウィズ、グレービーソース作戦」

 

 各校の隊長や副隊長が意見を出すが、なんか分からないけど、食べ物の名前ばかりだ。

 

「とりあえず、グリューワインとかは嫌だなー」

 

「うっさいわね! あんたにセンスを否定されると何かムカツクのよね! じゃあ、どんな作戦名がいいのよ!?」

 

 私がつぶやくと、逸見さんの地獄耳が反応した。どんな作戦名が良いかと言うと……。

 

「あんこう干し芋フォアグラ作戦!」

 

「こういう、作戦名かな? さすが会長」

 

「大洗の生徒会って大丈夫なの!?」

 

 会長のセンスを否定するとはいい度胸だな。

 

「間をとってすき焼き作戦はどうですか」

 

 そんな中、西さんはマイペースに意見を出していた。

 

「好きな食べ物と作戦は関係ないだろう」

 

「えっ、まほさんのことだから、人参とじゃがいもと牛肉カレー作戦とか言うのかと思いましたよ」

 

「玲香、最近、君は私のことをただのカレー好きだと思ってないか?」

 

「そんなこと、思ってるはずないじゃないですかー」

 

 私はまほさんから目を逸らした。すみません、思ってました……。

 

 

「埒があかない。大隊長、決めてくれ」

 

 私の反応を見てまほさんは諦めたようにそう言った。

 

「じゃあ、こっつん作戦で。相手を突き出して、えいって攻める作戦なので」

 

「何それ。迫力ないわね」

 

「グリューワインとかアイスバインとか言ってたくせに、何言ってんだ?」

 

 私は逸見さんの作戦名を復唱した。

 

「もういいわよ、こっつんで。だんだん恥ずかしくなってきたからそれは忘れて頂戴!」

 

 顔を真っ赤にした逸見さんは顔を背けて、こっつん作戦に納得した。

 

「こっつんですか。なるほど」

 

「いいんじゃない?」

 

 概ね、西住さんの作戦名は受け入れられ、《こっつん作戦》の開始の段取りが話し合われる。

 

「では右側面がたんぽぽ、左にあさがお、中央にひまわりでお願いします。こっつん作戦開始します! パンツァー・フォー!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 さあて、作戦開始だ。いやー、今回はさすがに会長も最初から本気モードで自ら砲手席に座ってくれた。こんな当たり前のことが嬉しいなんて……。

 

「しかし、憧れてた、まほさんやカチューシャさんと同じチームで戦えるなんて嬉しいですよ」

 

 私はキューポラから顔を出してまほさんやカチューシャさんに挨拶した。

 

「レイーチカはカチューシャの側に居なさい。いろいろと勉強をさせてあげるわ」

 

「玲香、君は空間把握能力が優れている。偵察や陽動では君の力が我々以上に役に立つはずだ。よろしく頼む」

 

 まほさんとカチューシャさんからそんな言葉をいただき、私はとても嬉しかった。

 よし、私は出来ることを十全に出して、勝利に貢献するぞ。

 

 

 そして、警戒して動いていたのだが、ひまわり中隊は高地ふもとにあっさりと到着した。

 

 とりあえず、私たちカメさんチームは偵察に出る。うーん、敵は見当たらないんだけど……。

 

「小山先輩、一度ふもとまで戻ってください。気になることもありますから」

 

 私はそう指示を出してふもとまで戻り状況を説明する。

 

「まったく、敵の気配を感じませんでした。不気味なほどに……。この高地を取ろうと動かないのに作為的なものを感じます」

 

 私は率直な意見を出した。アリシアさんはしたたかな人だった。それに愛里寿さんも無能のはずがない。

 

「レイーチカ、慎重なのもいいけど、M26なんて登るの遅いし、ここはいくしかないわよ!」

 

「とれば戦術的に優位に立てますね」

 

 カチューシャさんとノンナさんはこのまま登る方が良いという意見だった。

 

「確かに優位だが、玲香の報告を聞くとわざと山頂を空けている可能性も捨てきれない」

 

「大丈夫よ。あなた、なんだかんだ言って妹のこと信じてないのね。ノンナなんてどれだけ私のことを信じているか……。私が雪が黒いと言えば黒いというほどよ」

 

「はい」

 

「信じることと崇拝は違う」

 

 カチューシャさんの挑発的な言動にまほさんは持論を展開する。

 

「そうですね。私も尊敬し尊重しているからこそ、間違っていたら正そうと意見は言いますよ。みほにだって、会長にだって、小山先輩にだって……」

 

「こらっ! わざと私を飛ばしたろ! 聞こえてるぞ!」

 

 私がまほさんの言葉に同調したら、河嶋先輩に怒鳴られた。こういう時だけ耳が良くなるんだから……。

 

「そっそう? でも、ノンナは……」

 

「まぁ、カチューシャさんとノンナさんみたいな一心同体って関係も素敵だと思いますけどね。大丈夫です。今日はカチューシャさんが間違っていたら私が注意してあげますよ」

 

「ふふっ、相変わらず生意気なんだから。でも、そのときは頼んだわよ、玲香」

 

 私とカチューシャさんは小さな約束をした。

 

 そして、冷静に意見を出し合った結果、やはり不確定な予感だけで有利な地点を捨て置けないということで、細心の注意をして私たちは高地を登ることにしたのである。

 

 

 登っている最中にあさがおとたんぽぽは交戦を開始したという知らせを受けた。

 くっ、私が変に迷ったせいか。早く上にたどり着かなきゃな。

 

 

 そして、ようやく高地頂上に私たちひまわり中隊は到着した。

 

「こちらひまわり。高地頂上に達した」

 

 まほさんが、大隊長の西住さんに連絡をする。

 

『ひまわりは二手に別れて、上からあさがおとたんぽぽの援護をお願いします』

 

「了解、北に敵集団確認、警戒しつつ支援にあたる」

 

 まほさんが西住さんの指示を受け止める。よし、みんなを守るぞ。特に、あさがお中隊はピンチみたいだ。

 敵集団があさがおを突破してこちらに向かっているという報告が来ているからだ。

 

『あさがおを援護するわよ。蹴り落としてやる! 準備はできた?』

 

 

『準備完了です!』

 

 

『射点につきました!』

 

 

 カチューシャさんが確認したとき、私たちは全ての方位を取り巻いて攻撃できるようにしていた。

 

 私たちの車両はカチューシャさんのT-34の隣である。

 

 

『――撃てー! うわぁぁぁ!』

 

カチューシャさんが砲撃の指示を出した刹那、あり得ないほどの大きさの爆発音がして、周囲に土が舞い上がった。

 

 はぁ? 今、上からとんでもない大きさの砲弾が……。あの大きさは普通じゃない。

 

「こちらひまわり。みほ、優花里に聞いてくれ! 規格外の大きさの砲弾に心当たりはないかと? おそらく500mmは下らないデカさだ」

 

『えっ? わかりました。優花里さん――』

 

 

 私は感じたままの大きさを西住さんに伝えて、秋山さんに確認してもらうように依頼した。

 

 そして、また轟音が響き渡り、気付けばパンターが2両、白旗を上げていた。

 

 くっ、2発目か……。

 

 

 これ以上ここにいるのは的になるようなものだ。下らなくては……。

 

「前方の敵、砲撃開始!」

 

 エリカの悲痛な叫び……。そりゃあ、罠に嵌めたんだ、タダで済むはずがない。

 

ひまわり中隊はすでに包囲されていた……。

 

『前方斜面をこのまま降りる、中隊全速前進!』

 

 当然、まほさんは撤退を指示する。急いで逃げなくては……。

 

 あれっ? カチューシャさん、顔を出して何か言いたげだぞ?

 

「カチューシャさん、早く逃げないと……。どうしました?」

 

「ウチの砲手がさっきの衝撃のショックで気を失ってしまったのよ……。私は代わりが出来ないし……」

 

 何ということだ、それじゃあ撤退戦は無理だ。しかし、カチューシャさんの車両を失うわけには……。

 

「会長、私の居ない間、ヘッツァーの指揮を頼めますか?」

 

「ふぅー、仙道ちゃんの頼みごとを断るわけないじゃーん。ちゃんと、後で帰ってくるんだよ」

 

「もちろんです。では、お願いします」

 

 私はヘッツァーを織りてカチューシャさんのT-34に乗り込む。

 

「レイーチカ、貴女……」

 

「ははっ、ノンナさんほどじゃありませんが、私も多少は砲撃に自信があります。一緒にこの場を切り抜けましょう」

 

「やっぱり、貴女は最高よ。ありがと、レイーチカ……」

 

 私は急遽、T-34に乗り込み、撤退戦を開始した。

 まさしく、死闘が始まろうとしていた――。

 




まさかの玲香がカメさんチームから離脱するという序盤戦。
カチューシャの車両の砲手となった玲香の撤退戦はどうなるのか?
次回もよろしくお願いします!


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大洗女子学園VS大学選抜チーム その3

玲香INプラウダで何が起こる?
原作と違ったオリジナル展開です。
それではよろしくお願いします!


「私たちが殿(しんがり)ですねー。うわっ、見てくださいよ、カチューシャさん、パーシングがあんなにいっぱい」

 

「あなた、いつもこんなに呑気なの? こっちは集中的に狙われてるのよ。まさか、全国大会で私たちの戦車に囲まれたときも、ヘラヘラしてたとでもいうのかしら?」

 

「えっ、いやぁ、そのう、基本的に包囲されたり、追っかけられて逃げたりが多かったので慣れちゃったんですよ」

 

「車両数が少ない学校だからこその経験ってわけね」

 

 カチューシャさんに呆れられた顔をされながら、私はとりあえず1発撃ってみる。

 

「凄いわね、レイーチカ。初めてのT-34での砲撃なのに行進間で最初から当てるなんて」

 

「いやー、履帯を狙ったんですけどねー。まっ、慣れればもっと何とかなりそうです。普段はあの扱いにくいヘッツァーで狙撃してるんで」

 

 そんなこと言いつつ。うじゃうじゃ沸いて出てくるパーシングたちに少しだけ辟易していた。

 

 ノンナさんとクラーラさんは何かロシア語で通信している。うーん、こっちが追い詰められている状況なんだから、日本語で話してほしい。

 せめて、英語ならわかるんだけど……。

 

  

「日本語でしゃべりなさいって何度言ったら分かるの!」

 

 そんなことを思っていると、カチューシャさんは何度も似たような経験があったらしく、憤慨する。

 

 あれっ? 急にクラーラさんの車両が停車したぞ……。

 何を考えてるんだ。

 

「え?」

 

『カチューシャ様。お先にどうぞ、それではごきげんよう』

 

「何!?  その流暢な日本語!」

 

 急にクラーラさんがきれいな日本語を使う。って、日本語使えるのかよ。

 

 

『クラーラは日本語が堪能なんです……』

 

 

「もっと、先に言いなさいよ! ――何する気?」

 

「カチューシャさん、クラーラさんは突撃するつもりです! させたくないんでしょ! てか、みんなで戻るつもりですよね?」

 

「えっ、突撃? そうよ、レイーチカ。それは許さないわ!」

 

『カチューシャ様、一緒に戦うことができて光栄でした』

 

 クラーラさんの車両は突撃していく。いかん、アレが飛んでくる。

 

「止めますよ」

 

 私はクラーラさんの車両の足回りを狙撃し、バランスを崩させて一瞬だけ動きを止めた。

 

 間一髪で、停車してくれたおかげで、謎の巨大な砲弾はクラーラさんの目の前で爆発し、その爆炎でパーシングの追撃も一瞬緩まった。

 

「レイーチカ! あなた……」

 

「カチューシャさんが殿を務めてて、独断専行した不届き者に喝を入れただけですよ。さぁ、彼女に戻るように命令してください。みんなで無事にみほのところに帰りましょう」

 

「そうね、クラーラ。命令よ、戻ってきなさい」

 

『カチューシャ様。申し訳ありません。あなたの力を私は見誤っていました』

 

「クラーラ! バカね、私を誰だと思っているの! 頼れる同志を一人だって欠けるようなマネはさせないわよ!」

 

 依然として、状況は悪い。だけど、わたし達は全員無事で戻ってみせる。

 カチューシャさんと私は顔を見合わせて頷くのだった。

 

『カチューシャ、しかしこの状況、敵に追いつかれて囲まれるのは時間の問題かと』

 

 ノンナさんが現実的な話をする。うーん、雨が強いから視界も悪いし、ノンナさんですら離れた的は当てにくいみたいだな。

 

 しかも、道幅が狭いから敵の攻撃は避けにくいときてる。

 

「やっぱり、道を塞ぐとか、敵の接近を邪魔する方法とかないですよねー」

 

「道を塞ぐですって? ――ちょっと待ちなさい!」

 

 カチューシャさんがハッとした表情でキューポラから顔を出して、周りを確認する。

 

「かーべーたん、ノンナっ、クラーラっどれでもいいわ。敵の上方にある木々をどんどん撃ち落としなさい。敵の進路を塞ぐわよ」

 

『『了解!』』

 

 私たちはどんどん木々を狙撃して道に落とすことで敵の進路を塞ぎ、接近を妨げる。

 

 しかし、それでも進軍を遅らせることが出来る車両は限られていて、角度的に進路を塞ぐことができなかった3両のパーシングがかなり接近してきた。

 

「仕方ないですね。やっつけちゃいますか?」

 

「そうね、リスクはあるけど、頼めるかしら……」

 

 私とカチューシャさんは踏みとどまって、応戦しようとした。

 

『お待ちください。カチューシャ。あなたはこの試合に必要な方です。あなたはウラル山脈より高い理想とバイカル湖のように深い思慮を秘めている。ここは、私が引き受けます。ですから早く撤退を!』

 

 ノンナさんのIS-2が私たちの車両を追い抜いて、敵陣に突っ込んで行った。すごい迫力だな……。1両撃破して、体当たりで1両止めるか。

 

『カチューシャ、私がいなくともあなたは絶対に――勝利します……』

 

 ノンナさんは相打ち覚悟で食い止めようとしている。

 

 

 

 

『――はっ、カチューシャ……、なぜ?』

 

 ノンナさんは、自分が体当たりした車両から白旗が上がって驚いたようだ。

 ふぅ、ようやく狙撃に慣れてきたぞ。

 

「ノンナはバカねぇ。あなたが居なくても勝利は出来るわ。でも、カチューシャはノンナを守れないほど、弱くないのよ。レイーチカっ」

 

「了解です――カチューシャさん」

 

 私の狙撃でノンナさんを狙っていたパーシングを撃破する。これで、追ってくる車両からかなり距離が取れた。

 

「カチューシャが全員で戻ると言ったら、全員で戻るのよ! わかった? ノンナ」

 

『了解です。カチューシャのお気遣い感謝します』

 

 ノンナさんの声は淡々としたものだったが、少しだけ明るいように感じた。

 

『カチューシャ、何をしている!』

 

 もたもたしてたら、まほさんが見かねて通信してきた。

 

「うるさいわね! すぐに戻るわよ! こっちは大変だったんだから!」

 

 こうしてプラウダ勢は1両も欠けるようなこと無く、撤退することに成功した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 危うく私は乗り換えた車両で撃破されるところだったなー。ホッと肩をなでおろし、私はカチューシャさんたちと共にたんぽぽ中隊との合流を目指した。

 

 あの謎の砲撃の正体はカール自走臼砲だったらしい。

 あんなのオッケーなの? 戦車なの?

 道理でバカみたいな火力だと思ったよ。

 ていうか、撃破したの会長みたいなんだけど、どうやったんだろう? どう考えてもヘッツァーで倒せるモノじゃない気がする……。

 

 ミカさんの率いる継続高校のBT-42はカールの護衛のパーシングを2両撃破してくれたけど、自らも撃破されてしまったらしい。やはり、ミカさんは只者じゃなかったか。

 いや、本当にありがたい。弁当泥棒のことは忘れてあげよう。

 

 

 そうこうしてる内にたんぽぽ中隊の姿も見え、このT-34の砲手さんも目を覚ました。

 

「じゃあ、私はヘッツァーに戻りますね。カチューシャさんと一緒の車両で戦えて勉強になりましたよ」

 

「そっそう? レイーチカはもう私の頼れる同志よ! あなたがピンチのときはいつでも助けてあげるわ!」

 

「ははっ、もう助けられてますよ。カチューシャさん……」

 

 私はカチューシャさんの目を見つめて、笑いかけた。

 

「レイーチカ……」

 

『玲香、もうカチューシャの車両には用事はないはずです。速やかに出なさい』

 

 ノンナさんから、急かすような通信が入ってきた。

 よくわからないけど、迷惑かけてるのかな?

 

 

「会長、お疲れ様です。まさか、カールを倒すとは……」

 

「んー、あんなの大したことないよー。良かったねー、仙道ちゃんは無事で」

 

「そうですねー、あのまま帰らぬ人になるとこでした。あははっ」

 

「笑い事じゃないだろっ!」

 

 ヘッツァーに戻った私は再び車長になった。

 ちょっとしか離れてなかったけど、なんか落ち着くなー。

 

 

「すまないね、みほ。心配をかけた」

 

「ううん、玲香さんなら無事に戻ってくるって信じてたよ」

 

 ヘッツァーをあんこうチームの側に並走させて、私は西住さんたちに話しかけた。

 

「BT-42、パンター2両、チハ新旧1両ずつ、合計5両が撃破されました」

 

「でもでも、こっちはカールとパーシング5両を撃破したよ」

 

「これで25対24ですね」

 

 秋山さんが大洗の撃破された車両を数えて、武部さんがこちらの撃破した車両を数えた。

 五十鈴さんの言うとおり、相手の策にハマったわりには、こちらの車両数のほうが多いという意外な結果だった。

 もっとやられてもおかしく無かったんだけどなー。

 

「ずいぶん減ったね」

 

「いや、こちらの数が多いんだ。持ちこたえたというより、大健闘と言ったところだろう」

 

「継続さんとカチューシャさんが2両も撃破してくれて、頑張ってくれましたよね」

 

「うちもなー」

 

「もちろんです!」

 

 秋山さんの言葉に、アンチョビさんが反応する。

 

「バレー部さんと会長さんたちのおかげです」

 

 カルパッチョさん曰く、アンツィオとアヒルさんチームとカメさんチームが連携してカールを倒したらしい。ますます想像できない……。

 

 

 

「西住さん、我が校は2両も戦列を離れてしまい誠に申し訳ございません」

 

「いえいえ」

 

 知波単の隊長であり、あさがお中隊の副隊長でもある西さんが西住さんに謝罪した。

 まぁ、相手が上手だったし、仕方ないんじゃないかな。突撃もしたんだろうし……。

 

「うちは全員健在よ! 当然だけど」

 

 カチューシャさんはドヤ顔でニコリと笑った。

 

「危うく、全滅しかかったと聞いているわ。油断大敵よ、カチューシャ」

 

「分かってるわよ!」

 

 ダージリンさんがカチューシャさんの痛いところをつく。うん、この場に私たち全員が居なかった可能性もある。

 

 数では偶々上回っているが、内容では完全に負けていた。

 

 

「すみません、私の責任です。最悪の結果は免れましたが、みなさんを危険に晒しました。もう少し上手くことが運ぶと思ったのですが……」

 

 西住さんもそれを感じて、少々気落ちしているみたいだ。

 

「定石通りやりすぎたな。らしくもない。みほの戦いをすればいいんだ」

 

「そういうこと、私たちらしい戦い方のほうが、相手は嫌がるかもしれないよ。まだ、みほには沢山の仲間がついてるんだ。好きに指示を出してくれ」

 

 まほさんに、続けて私もみほに話しかける。

 

「お姉ちゃん、玲香さん……」

 

 西住さんはこちらを見て頷く。

 

「それで、ここからの作戦は?  大隊長」

 

 ケイさんが西住さんにこれからの方針を尋ねる。西住さんなら、恐らくは……。

 

「局地戦に持ち込んで個々の特徴を生かしてチームワークで戦いましょう」

 

「急造チームでチームワークぅ?」

 

「急造でもチームはチームだ。互いに足りないところを補いあって戦うしかない」

 

 やはり西住さんは、得意の局地戦を選択した。少数で戦ってきた経験が多い西住さんには、そっちのほうがやりやすいんだろう。

 

 逸見さんは、余計な口出しをして、まほさんに怒られてしょんぼり顔をしている。

 

「エリカ、君って黙ってしおらしくしてると可愛いよな」

 

「なっ、何を急にバカなことを! あんたも喋りすぎて失敗ばかりしてるくせにっ!」

 

「玲香さん、作戦行動中にナンパはしないでね……」

 

 逸見さんを元気づけようとしたら、怒鳴られた上に、西住さんに怖い顔で睨まれた。

 あんな顔も出来るんだ……。

 多分、逸見さんに『可愛い』と言ったのがNGなんだな。

 

 自分だって武部さんとかに可愛いって言うじゃんとか、言い訳したら、「玲香さんが言うと生々しいから駄目だよ」って注意された。解せぬ……。

 

 

 

「チームを再編成してあそこを目指します。あの中だと遭遇戦がやりやすくなります」

 

 西住さんはあの場所を次の戦いの場所に選んだか。なるほど、楽しくなりそうだ……。

 

 とにかく、アリシアさんが動くまでに、出来るだけ多く倒しておかないと。

 イギリスで見たあの異次元の動き――間違いなく今回の敵の中で最も厄介だ……。

 

 

「パンツァー・フォー」

 

 西住さんの号令で私たちは進む。第二ラウンドは遊園地での遭遇戦だ!




補足ですが、アリシアが入った代わりにカールの護衛を1両減らしました。岩に潰された可哀想なパーシングは居なかった……。

玲香の熱血と狙撃力でプラウダ勢は全員が無事でした。
原作のカチューシャの為に散っていくシーンも好きなんですけどねー。
カール撃破はその代わりにカット。あんな面白すぎる展開は絶対に超えられないので(笑)

数で上回る大洗は遊園地で原作と同じく遭遇戦に突入です。
次回もよろしくお願いします!


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大洗女子学園VS大学選抜チーム その4

いつも、感想や誤字報告をありがとうございます。
ついに遊園地での戦いが開始されました。
大学選抜チームとの戦いの中盤って感じです。
それではよろしくお願いします。


 というわけで、遊園地の中に突入した大洗戦車道チーム。

 

 うーん、隠れる場所はたくさんありそうだ。逃げながら倒すには最適だな。

 

「こんなへんぴなところまで撤退するとは」

 

「違う玉田。これは転進だ」

 

「なるほど!転進ですか」

 

 知波単の子たちはやはり引くという精神が苦手みたいだね。西さんの言う、転進とは言い当て妙なのか?

 

『面白い戦いになりそうね』

 

『お言葉ですがデータの上では厳しい戦いになりそうです』

 

『覚悟の上じゃないですか』

 

『運命は浮気者。不利なほうが負けるとは限らないわ。ね、隊長?』

 

「はい。私たちは私たちにできる戦いをしましょう」

 

 ダージリンさんの言葉に西住さんは頷く。

 そうだ、まだこちらの方が数が多いし、相手がどんなに強力でも――私たちは負けない。

 

「私もみほを出来る限りサポートする。大丈夫、私たちが一緒に戦えば勝てない戦いはないさ」

 

「うん、一緒に頑張ろう。玲香さん」

 

 私と西住さんは目と目で合図して、遊園地の中を進軍して行った。

 

 東通用門にて、私はダージリンさんたちと待ち伏せをする。

 どうやら、敵はまほさんたちが守りを固めている南正門に集中しているらしい。

 

 こちらは、ハズレだったか――。

 

 しかし、南正門からの情報を整理するとどうも、攻撃が緩いというか消極的なのだそうだ。

 

 

 妙に思っていると、偵察をしていたアンチョビさんから通信が入る。

 

「くそっ、騙された! 隊長、陽動作戦だ! あの煙は煙幕だ!」

 

 派手に土煙をあげて南正門に大軍を送っているように見せたのはフェイク。

 本命は別のところからというわけだ。

 

 ということは、こちらにも間もなく――。私は外に顔を出して周囲の気配を探った……。

 履帯の音が聞こえる……。これは、まずい……。

 

「いざ尋常に勝負!」

 

 ローズヒップさんのクルセイダーが音の方へ突っ込む。

 

「駄目だ! ローズヒップさん、退いて!」

『戻りなさい! ローズヒップ!』

 

 私と同時にダージリンさんも戻るように指示を出す。

 

 

 くっ、こんなものまで来るのか……、マウスと同じく、超重戦車――T-28重戦車がお出ましとは……。

 

 こんな狭いところでやり合うのは無理だろう。とりあえず、引くか……。

 

 私たちは砲撃をするが、思ったとおり、T-28の装甲は固いのでダメージを与えられない。

 

『こちらドゥーチェ、こりゃ間違いなくこっちが主力だぞ!』

 

『サンダースのみなさん東通用門に向かってください』

 

 西住さんの指示でこちらに援軍が送られる。

 

 敵の狙いは戦力を分散し各個撃破だろう。それなら、私たちは常にまとまって行動することを意識する他ない。

 

「2ブロック後退――」

 

 T-34の火力と硬さは凄まじく、おおよそ弱点を見つけることが出来ない。

 ダージリンさんの指揮がなくては、とっくに私たちはバラバラになっていただろう。

 やはり、強固な守りに定評のある聖グロリアーナ女学院の隊長だ。この人が味方で心強い。

 

「あら、玲香さん。私の顔に何かついてまして?」

 

「いや、ダージリンさんが味方で良かったって単純に思っていただけです。だってこんなに美しくてきれいな(指揮)んですから」

 

「…………」

 

「ちょっとダージリン、ティーカップを落としてますわ!」

 

 アッサムさんの怒声が聞こえる。

 ダージリンさんが手を滑らせてティーカップを落としたみたいだ。なんか、前にもこんなことあったような……。

 

 私たちは何とか主力部隊の攻撃を流しながら、敵の戦力を削っていた。これならなんとか、まとまって行動し続けることは可能だな――。

 

 いや、待てよ、現在は超重戦車によって圧倒されている気もするけど、主力部隊が来て、まだ1両も撃破されていないなんて変な気がするなー。他のチームもほとんど被害を受けてないのは、

 単純にこちらが上手くまとまっているからだけなのだろうか?

 

 私は外の様子を見つつ、頭の中の全体の地図と今ある情報を照らし合わせて、未来の動きを予測する。

 これが、こっちに動いて……、そして、こう攻めると――。

 

 詰め将棋のように一手ずつ、ジグソーパズルのように1ピースずつ、相手の狙いを考えてみる――。

 

 このまま行くと――その先はあそこだ!

 

 この仮説が真ならば、連中の狙いはマズイ……。一見派手だけど、手ぬるい攻撃の意図、それは――。

 

 私は西住さんに通信を繋ぐ。

 

「みほ、急ぎの話だ。これは仮定の話なのだが、聞いてくれるか――」

 

 私は西住さんに自分の考えを話した。

 ちょっとだけ、人よりも空間を見渡す力があるからこそ、今のこの状況にざわついてならない。

 私たちは現在、地獄へと誘われているのでは? そんな仮説が私に出来上がったのだ。

 

「アンチョビさんなら、この仮説が当たってるかどうか、多分わかるはずだ! 確認を頼む!」

 

『うん、もうCV33に通信は繋げてるよ』

 

『玲香! ビンゴかもしれんぞ! 上から見ると連中は確かにYO地点に誘導して、包囲網を敷こうとしてる可能性がある』

 

「やはり……。だが、これはチャンスかもしれない。みほ、この状況を逆に利用できないかな?」

 

『うん、恐らく、相手もこんなに早くこちらが狙いに気付いているとは思わないはず。気づかれないように伏兵を忍ばせて――』

 

 ちょっとした無茶振りだと思ったが、西住さんは私が感じたちょっとした仮定から、見事な作戦を考えてくれた。

 

 西住さんが作戦指示を出そうとする少し前に、まほさんとダージリンさんから通信が届く。

 

『こちら正門チーム。チャーフィーの動きに仕組まれた何かを感じる。通用門組は注意せよ』

 

『こちら最後尾。追尾攻撃は散発的。妙ね』

 

 私の仮定を裏付けるような違和感をまほさんとダージリンさんが感じ取ったらしい。

 

 予想は大当たりで大学選抜チームはYO地点、野外ステージの低いところに私たちを押し込み、高い場所から包囲しようとしていたのだ。

 

「ふぅ、向こうの隊長さんは見事な用兵家だよ。ここまで鮮やかに誘導するなんてね。危なかった……、あと少し気付くのが遅かったら勝負は決まっていたかもしれない――」

 

『各車両、YQ地点に向かって一斉に動いてください。KV-2、IS-2、ファイアフライは活路を開くために一斉に砲撃をお願いします』

 

 予め、3両には先に狙撃地点に待機してもらい、こちらはおびき出されるフリをずっとしていた。

 

 パーシングが包囲網を敷こうとしてることが予めわかっているなら、逃げ道を最初から決めて、そこに集中砲撃を加えて穴を開けてやれば良い。

 

 狙い通り、突然の伏兵による砲撃によって、逃走通路が確保出来た私たちは、包囲網の完成を阻止して、逃げおおせることが出来たのだ。

 

 さらに嬉しい誤算が生まれた。

 

 慌てて私たちを追う大学選抜チームの主力部隊の車両だが、なんとそのタイミングで遅れてこちらにやって来た知波単の子たちが突撃を敢行したのだ。

 

「突っ込め!」

 

 遠くからでも聞こえる、西さんの威勢のいい掛け声とともに最高の場面での必殺の突撃。

 

 

 大学選抜チームは後ろを突かれるという形になり、4両の知波単車両に2台のパーシングが倒されるという事態が生まれた。

 

 ここからの私たちはまさに大学選抜チームを圧倒していた。

 

 各自が部隊を再編成させて、独自の判断で動いて撃破を重ねたのである。

 

 ちなみに、今の私は西住さんと巨大迷路でパーシングと応戦中である。

 

「みほっ!」

「玲香さんっ!」

 

 アンチョビさんのナビゲートのおかげでもあるが、私たちが完全に空間を掌握して、パーシングを2両葬った。

 

 こちらは依然として25両が健在。一方大学選抜は遂に9両まで数を減らしてしまっていた。

 

 2倍以上の車両数の差がつき、私たちの有利は磐石の形となり、大学選抜チームは窮地に立たされたと私はおろか、西住さんも、そしてまほさんを始めとする各校の隊長たちも思ったであろう。

 

 しかし、私たちは痛感することとなる。

 チーム戦が基本の戦車道――その戦局を圧倒的な【個の力】が全てをひっくり返すという理不尽を……。 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

《アリシアサイド》

 

「ほらね、最初からあたしたちが出ておけば良かったのよ。みほさんや玲香さん、それにダージリンさんたちもみんな強いんだから」

 

 あたしはタブレットを凝視しながら、自分の立てた策が破られたことを確認している愛里寿に声をかけた。

 

「アリシア姉様、彼女たちはまるでボコね。何度もボコボコにしたつもりだったけど、倒れずに起き上がってきた」

 

「えっと、ボコってその人形? そっそうね、諦めないネバーギブアップの精神力は認めなきゃ。そして、チームとしての力と機転も……」

 

 ボコのことはよくわからなかったが、愛里寿が大洗の子たちに興味を持ち始めたことは伝わった。

 

「やってやる、やってやる、やーってやるぜ! いーやな、あーいつをボーコボコにー」

 

「あっ愛里寿?」

 

 突然歌い出した、妹分に少し驚きながらも、ついに動くのだということを察して、私は嬉しかった。

 ようやく、大洗の人たちと戦えるので、気分が高揚していた。

 

「行くよ――アリシア姉様」

 

「ええ、愛里寿。油断してると足元を掬われるわよ」

 

 

 私と愛里寿の2両のセンチュリオンは遊園地へと入って行った。

 

「二手に別れる。アリシア姉様もその方が戦いやすいでしょ?」

 

「あら、付き添いは要らなかったかしら。歯医者には付いてきてほしいと、涙目だったのに」

 

「子供扱いしないで……」

 

「ふふ、そんなにほっぺたを膨らまさないの。愛里寿の言うことをちゃんと聞くわよ。あなたが隊長なんだから。ところで、彼女たちは、放っておいても大丈夫なのかしら?」

 

「3人で集まって、車両の撃破にあたるように伝えておいた」

 

「そう、わかったわ。じゃあ、あたしもなるべく多くの車両を倒せるように頑張るわね」

 

 単独行動はよくあることだけど。日本では初めてね。

 さぁ、楽しませて頂戴。大洗女子学園さん。

 

 

 

 私が入っていったエリアはウェスタンの舞台のようなセットがある場所だった。

 ちょっと前に交戦していたみたいね。

 

 あら? 珍しい戦車じゃない。ポルシェティーガーなんて初めて見たわ。そして、三式中戦車……。あとはロシアのKV-2にT-34ね。

 

 この前は日本の高校生の力に驚かされたわ。さあて、この子たちはどのくらいの実力なのかしら? お手並み拝見といかせてもらうわ。

 




観覧車は無事でした(笑)
そして、ついに動き出すセンチュリオン。
9両しか残っていない大学選抜チームが大洗女子学園に反撃します。
次回もよろしくお願いします。


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大洗女子学園VS大学選抜チーム その5

今回はほとんどオリジナルエピソード。
大学選抜チームとの戦いもいよいよ終盤です。
それではよろしくお願いします。


《アリシアサイド》

 

 きれいな動きをするT-34、装填速度が異様に早い三式が前に出てきて、火力のあるKV-2とポルシェティーガーが牽制をしてくる。

 

 攻撃のタイミングも実に素晴らしい。こちらの動きをよく見ている。

 なるほど、日本の高校生の力は確かに世界の水準まで上がってるかもしれないわ。

 

 でも――まだ、甘いわね。

 

 T-34の素直な砲撃を避けて撃破。三式が突撃してくるけど、装填時間内――。至近距離から、相手が撃つ前に一撃で葬る。

 

 ふふっ、ポルシェティーガーの操縦手はかなりやるわね。

 あの車両をここまで操るなんて、面白い。

 

 KV-2の火力はすごいけど、私の相手としては遅すぎる……。ポルシェティーガーの前に撃破しておきましょう。

 

 さぁ、1対1になったわよ。どうするの?

 

 えっ? 急加速? あんなスピード出るなんて知らないわよ、そんなの……。

 

 思いがけないスピードに驚かされたけど、予想以上なだけで、対応不可能ってわけじゃない。

 

 神の槍なんて大袈裟な異名だと思っているけど、私の槍は一撃で確実に車両を葬る必殺なのよ――。

 

 間違いなく、貴女たちも世界で通用する才能があるチームだったわ。

 まったく、チヨ姉の命令じゃなかったら、躊躇っちゃうところよ。

 

 きれい事だけど、戦車道は続けてほしいわ。

 その方がきっと面白くなるから――

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《ダージリンサイド》

 

 アッサムのデータによると、T28の弱点は車体の下部にあるとのこと。

 優雅とは程遠いですが、今回は聖グロリアーナとしてではなく大洗としての戦いです。

 ファイアフライの協力の元、わたくしたちは下から狙撃をして、T28の撃破に成功したのでした。

 

「成功ね。アッサムのデータ主義もたまにはいいものね」

 

「ですがデータによりますとこのあとの生還率が……」

 

 皆まで言わなくてもよろしくてよ。この状況ではいい的になるだけですから。

 

「みほさん頑張って。戦いは最後の5分間にあるのよ」

 

 わたくしたちの仕事はこれで終了。迫りくるパーシングによって――。

 

「突撃ー!」

 

 目の前でパーシングが九七式からの凄まじい特攻を受けて撃破されました。

 あれは、知波単の隊長さん?

 

「いやー、ダージリン殿ではありませんか。少しトラブルがありまして、共に戦っていた子たちと逸れてしまいまして……」

 

「そうでしたの。とにかく、あなたのおかげで助かりましたわ」

 

 まさか、彼女に助けられるとは思いませんでしたわ。エキシビションのときは無謀な突撃をする子だということくらいしか印象は無かったのですが……。

 他の知波単の子と離れたと仰っていますけれど、あら、また通信が入りましたわ……。

 

「西さん、悪い知らせです。貴女のところの車両は全滅です。ついに動き出したようですわね。島田流が……」

 

「我が校の勇士たちが、この短い間に……」

 

「ちょっと待ってくださる? また、通信が……」

 

『ダージリン、合流するわよ。少し離れている内にカチューシャの同志たちがほとんどやられちゃったの! レイーチカが言ってたアリシアってやつがとんでもないわ!』

 

 ポルシェティーガー、三式中戦車、T-34、KV-2が2分足らずで次々と撃破されていたのは、アリシア様の仕業でしたのね。

 

「わかりました。戦力を出来るだけまとめて挑みましょう。みほさん達には伝えたのですか?」

 

『ミホーシャは交戦中、レイーチカもね。とにかく、そこら中でこっち側の撃破が相次いでいるの。もう包囲される心配はないから、YO地点に近くの仲間を集めましょう。戦力を一点に集めるの』

 

「確かに、このまま分散し各個撃破されるのを黙って見ておく手はありませんわね」

 

 わたくしはカチューシャに同意をして再びYO地点に戻ることを決めました。西さんのおかげで残業が確定しましたわね。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ちっ、みほと分断されたかと思うと、中隊長たちに捕まりそうになるとは……」

 

「とにかく逃げるわよ、隊長たちの援護に行くのはその後よ」

 

 西住さんと共に迷路でパーシングを倒したのち、バミューダ三姉妹と呼ばれる大学選抜チームの3人の中隊長が集まったところに遭遇してしまう。

 西住さんと応戦しようとしたら、近くで愛里寿さんのセンチュリオンとまほさんと逸見さんが丁度ぶつかっていた。

 

 4対4で戦うと思いきや、バミューダ三姉妹はちょうど並んでいた私と逸見さんを狙い撃ちしてきて、見事に分断されてしまう。

 

 私と逸見さんはひと目見ただけで、彼女らが自分たちよりも格上だと判断し、逃走を開始したのだ。

 

『YO地点に戦力を集中するわ。レイーチカはここまで来れそう?』

 

 そんな中、先ほど交戦中だと伝えたカチューシャさんから、再び通信が入った。

 

「厳しそうです。エリカと2人で中隊長3人から追われてまして……」

 

『わかったわ。2両、強力なのをそっちに送るから、あなたたちは協力してそいつらをケチョンケチョンにしちゃいなさい! そのあとこっちに来るのよ。サファリパークで合流すること。何とか持ちこたえて、そこまでは来なさい』

 

 カチューシャさんがサファリパークまで救援を送ってくれるみたいなので、私はその言葉を信じて、合流地点へ急いだ。

 

「エリカ、もう少し砲撃頻度を上げられないか?」

 

「無茶言わないで! ウチの装填手の腕を折るつもりなの?」

 

 まだ、サファリパークまではまだ2000メートルは距離がある。しかし、バミューダ三姉妹はもうすぐそこに迫っている。

 

「もうダメだー! カチューシャはなんでもっと先まで助っ人を出さなかったんだー」

 

 河嶋先輩が泣き言を叫ぶ。そりゃあ、待ち伏せをするためだろ。

 移動距離とスピードを瞬時に計算して勝率の高いポイントを考えた結果だ。

 

 問題は私と逸見さんが思った以上に逃走に手間取っていること。

 

 バミューダ三姉妹は実に嫌なポイントを突いて狙撃してくる。

 

「エリカ、君のほうが私よりも強い。15秒くらいなら足止めできる。先に行ってくれ……」

 

「はっ、それは格好つけているつもりなの? あなたが居なきゃ勝てないでしょう。バカなこと言ってないで逃げるわよ!」

 

「しかし……」

 

 バミューダ・アタック……。あの連携を出されると、私たち2両では対応できない。

 後ろを意識すると、すでに準備は整っているのか、きれいに一列に並んでいる。

 

 ――ダメだ……。終わった……。

 

 自分たちの撃破を予感した刹那、私と逸見さんの死線を2つの砲弾が横切り、バミューダ三姉妹のパーシングの動きを見事に止める――。

 さすがに被弾はしなかったが、避けるのに大きく進路が乱れて、私たちは逃げ切ることができた。

 

 まさか、あの2両が助けに来てくれるなんて……。

 

 遠距離から正確に私たちの後ろの車両を狙うなんて真似が出来る砲手なんて高校戦車道には彼女たちしか居ない。

 

 シャーマン・ファイアフライのナオミさんと、IS-2のノンナさんがサファリパークにて私たちと合流してくれた。

 

 大学選抜チームの3人の中隊長、アズミさん、ルミさん、メグミさんに挑むのは、私たち、4人の副隊長だ。

 

 サファリパークエリアの戦い

 

 バミューダ三姉妹(パーシング3両)VSカメさんチーム、エリカ、ノンナ、ナオミ

 

 必ず勝って、仲間を助けに行くぞ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《カチューシャサイド》

 

 YO地点に付近の仲間を集めたんだけど、レイーチカと黒森峰の野良犬みたいな目付きの子が追われてるみたいだから救援を出したわ。

 

 だから、今はこの場にいるのは5両だけ。

 カチューシャとダージリン、そしてケイと西とアンチョビ。

 

 いつの間にか私たちのチームは生き残っている車両が一気に減ってしまった。

 

 ここにいる5両。サファリパークにいる4両。そして島田愛里寿と交戦中の西住姉妹の2両の合計11両だけになっていたのよ。

 

 そう、二人の島田流は出会う車両を一瞬で葬っていて、島田愛里寿とアリシアは6両ずつ撃破している。

 

 あとの2両も今、レイーチカたちが交戦中のバミューダ三姉妹とかいう中隊長に倒されてしまったわ。

 

 偶然なのか必然なのか生き残った車両は全て各校の隊長か副隊長……。

 

 つまり、高校戦車道のトップというわけ。

 まぁ、カチューシャほどじゃないけど、ダージリンたちもまぁまぁ頼りになるから……。きっと勝てるわ。

 イギリス代表だか、なんだか知らないけど、イギリス人なんてダージリンに毛が生えたようなものでしょ。

 

 だったらカチューシャたちの敵じゃないわよ! ボコボコにしてあげるわ。

 

「作戦指揮はわたくしがとりますわ。1度ですがアリシア様と戦闘した経験がありますから」

 

 5両で固まって、作戦を立てようとしたときダージリンがそんなことを言い出したわ。

 

「誰に向かって口を利いている? 西住ならまだしも、なぜこの総帥(ドゥーチェ)が貴様の言うことを聞かねばならん」

 

「そうよ、ここに集合させたのはカチューシャよ。あなたたちは黙ってカチューシャに従えばいいの!」

 

「よくわかりませんが、私はいつでも突撃をする準備は整ってます」

 

「オッケー、オッケー! だったら、全員フリーダムに動きましょ! その方がエキサイティングに戦えるかもしれないわ!」

 

 まったく、みんなワガママなんだから。でも、ぎこちない連携ほど脆いものはないわ。ケイの意見に従うのは気に入らなかったけど、結局、各々が好きに動いて戦うことにしたわ。

 

 

 さあ、来たわね……。センチュリオン……。

 

『聞きなさい、カチューシャ。彼女は最速で最小限の動きでこちらの急所を貫くわ。迂闊に近づくと早死するわよ』

 

「うるさいわね! 自由に動くことにしたんじゃないかしら?」

 

『ええ、だから自由にアドバイスを送っているの』

 

「屁理屈が好きね。ダージリン……」

 

 まったく、お節介で嫌味な友人をもつと大変よ。でも、カチューシャは優しいから、少しだけ話を参考にしてあげるわね。

 

 野外ステージの戦い

 

 アリシア(センチュリオン)VSカチューシャ、ダージリン、ケイ、アンチョビ、西

 

 カチューシャたちが負けるはずがないわ。でも、早く来なさいよ、レイーチカ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《みほサイド》

 

 玲香さんと一緒に移動していると、大学選抜チームの3人の中隊長と交戦しそうになった。

 

 そこから、愛里寿さんとお姉ちゃんとエリ、逸見さんが交戦しながら、こちらに近づいて来た。

 

 どういうわけか、3人の中隊長は玲香さんと逸見さんを狙いだして、私とお姉ちゃんは2人と分断されてしまう。

 

 玲香さんと逸見さんは即、逃げを判断した。

 あの負けず嫌いな二人が無理をしないなんて、それだけ本気で戦っているってことだよね?

 

 私とお姉ちゃんは愛里寿さんと対峙する。

 多分、愛里寿さんもイギリスで戦ったアリシアさんと同じくらい強いはず。

 

 でも、私は負けない。必ず玲香さんと、みんなと一緒に大洗の学園艦に帰るよ。

 

「みほ、私が合わせる。思うように動くんだ」

 

「ありがとう、お姉ちゃん。助けに来てくれて、とっても嬉しかった」

 

「当たり前だ。もうみほを守れなくて後悔したくないからな。私は反省したんだよ」

 

「お姉ちゃん……」

 

 中央広場の戦い

 

 島田愛里寿(センチュリオン)VSあんこうチーム、西住まほ

 




ロシア人のクラーラがT-34に乗ってるのはアリシアは知らないので、日本扱いということで……。

いよいよ、この殲滅戦も最終局面です。
これから、3つの激闘が繰り広げられます。
次回もぜひとも読んでみてください!


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大洗女子学園VS大学選抜チーム その6

今回は短めです。
副隊長たちがバミューダ三姉妹に挑みます。
そして、アリシアと戦闘を開始した隊長たちは?


 パーシング3両がこちらに向かっており、サファリパークエリアで対峙する私たち。

 

「あの3両の連携は強力ですが、逆に言えば1両でも減らせば攻撃力は格段に下がります。まずは4両で協力して1両を撃破しましょう」

 

「そんなに簡単にいくかしら? あの人たちだってわかってるんでしょ? それくらい」

 

『承知した。しかし、あの動き……、的が絞りにくいわ』

 

『以前に準決勝で試合をしたとき、玲香さんはあの動きをみほさんと真似していましたね』

 

「まぁ、参考にさせてもらったことはあります。ですが、私たちと違って3両でしかも同じ車両があそこまで息を合わせられると、動きを見切るのは至難でしょうね」

 

 理屈はわかっていても止められない動きというものがある。

 

 私たちは当然、4両が1両に的を絞ろうとする。しかし、3両は縦横無尽に動き、こちらのぎこちない連携を嘲笑うように攻撃をしてきて、的を絞ることすらさせてくれなかった。

 

「ちょっと、エリカ! 狙うのはそっちだろ? 黄色のひし形のやつ」

 

「はぁ? 何言っているの? さっきはこの車両を……。えっ、赤の四角形……、いつの間に?」

 

 長年戦車に乗っている私たちでも、付いているエンブレム以外に違いを見分けることの出来ない。

 エンブレムだって走り回っていたら当然だけど見えなくなるし、丁寧に確認なんてしようと気をそらすと殺られる。

 

 高校最高峰の砲手であるナオミさんとノンナさんすら当てられない。

 ましてや、私と逸見さんなんて翻弄されるばかりだった。

 

『これが精一杯だったわ――』

 

 そんな中、こちら側に最初の犠牲者が出た。

 ナオミさんだ……。

 1両を集中して狙うのは私だけではなく、敵もおなじだった。

 最初に3両によるバミューダ・アタックで狙われたのがファイアフライだったのだ。

 

 最後に放ったファイアフライの砲弾は青色の三角形のエンブレムが付いた車両を掠めたが、撃破には至らず、逆に撃破されてしまった。

 

 早くも3対3になってしまったな……。しかも、狙撃で頼れるのはノンナさんだけだ……。

 

 ただ、ナオミさんのおかげで青色のエンブレムのパーシングに大きな砲弾が掠めた傷跡が出来て、少しだけ判別がしやすくなった。

 

「はぁ、目印みたいなのが出来たけど、こっちの車両が減って厳しさは増してるじゃない」

 

「いや、チャンスは活かそう。私があの車両をマークする……」

 

 私はようやく目が慣れてきて、黒森峰との決勝戦の時のように、ファイアフライが傷付けた車両がなるべく自分の前に来るようにポジションを取って動けるようになった。

 

『かなり狙いやすくなりました。玲香さん、このまま牽制をしていてください。確実に仕留めます――』

 

 ノンナさんは一流の砲手らしく、その言葉からは大きな自信を感じられた。

 

「ちっ、嫌なこと思い出させるじゃない。まったく、陰湿なあなたらしい動きね」

 

 逸見さんも、そんなことを言いつつ上手く青色エンブレムの車両への狙撃指示を出していた。

 

 しかし、それだけで攻撃の手を緩めるほど大学選抜チームの中隊長たちは甘くない。

 

 バミューダ三姉妹の次の狙いは、ノンナさんだった。

 私とエリカの車両よりも格段に上の狙撃技術を警戒したからだろう。

 

「ノンナさんっ! 今、助けます!」

 

『玲香さん、あのときカチューシャと共に助けていただいてありがとうございます。安心してください、私は外しませんから――』

 

 そのときのIS-2の砲撃は1つの芸術にすら見えるほど美しかった。

 パーシングが砲弾にわざと当たるために動いているようにすら見えるほどの先読みと狙撃精度……。

 

 ノンナさんの決死の一撃により3人の中隊長の内の一角が落とされた。

 

 しかし、残りの2両による凶弾が至近距離よりIS-2に放たれてしまい、ついに私たちは2両のみになってしまった。

 

「エリカ、2対2になってしまったな。どうやって勝とうか?」

 

「さあ、チームワークで勝つしかないんじゃないかしら?」

 

「急造チームなのに?」

 

「そうよ、急造チームでもチームはチームなんだから――」

 

 ティーガーⅡとヘッツァーはパーシング2両と戦闘に入った。

 

「小山先輩! 一旦後退しながら、右に回り込んで、会長っそこです! 河嶋先輩、装填遅くなってますよ!」

 

「ぜぇぜぇ、分かってる!」

 

「次の指示は! 玲香!」

 

「ありゃー、外しちゃったかー。もう少しなんだけどなー」

 

 今までで最長の戦いとなった今回の戦い。体力には自信のある生徒会だったが、さすがに疲れが出てきて本来の力が出ない。

 

「エリカっ!」

 

「わかってるわ!」

 

 ティーガーⅡと連携してパーシングにスキを作ろうとする。

 しかし、3両のときほどではないが、大学選抜チームの中隊長が弱いはずがなく、練度で言えば西住姉妹と遜色のないくらいの強さに感じた。

 

 格上だから何だっていうんだ! 今回は殲滅戦だ。絶対に倒さなきゃダメなんだ。

 

「玲香! こんなことっ! あなたに死んでも言いたくなかってけど――後は頼んだわよ!」

 

 逸見さんは絶妙なタイミングで突撃からの体当たりを赤色のエンブレムのパーシングに仕掛けてゼロ距離からの砲撃で見事に撃破した。

 

 しかし、そのタイミングで残りのパーシングの砲撃が当たってしまい……。ティーガーⅡも白旗を上げることになった。

 

 これで1対1か。この勝負は責任重大だな。逸見さん、ノンナさん、ナオミさんから託されているんだから――。

 

 

「みほ……、私に力を貸してくれ――」

 

 私は覚悟を決めた。確実に敵を倒すにはアレしか思いつかなかったのだ。

 

「河嶋先輩、装填時間を一度だけで良いです。最速でお願いします。大丈夫ですよね?」

 

「当たり前だ!」

 

「会長、0.5秒程度の停車時間ですが、お願いします」

 

「何かするつもりだねー。オッケー」

 

「小山先輩、あのときの麻子のように、全速力で正面から一気に後部まで回り込めますか?」

 

「玲香……、大丈夫よ。あの決勝戦の映像は何度も見たわ。今回だけは冷泉さんのようにキレイに決めてあげるよ。大丈夫、ヘッツァーの方が小回りは効くから」

 

 生徒会の先輩たちの精神力は誰よりも強い。河嶋先輩だって、今回の戦いに負けられないって気持ちが最後には弱気を上回ってくれたようだ。

 

 

 これは、みんなの思いを乗せた一撃――。

 あの決勝戦で、あんこうチームのみんなはこんな気持ちだったのだろうか?

 

 

「前進っ!」

 

 パーシングにヘッツァーは全速力で肉薄する。

 

 1発目は牽制――そして、ここから小山先輩があの時の冷泉さんを彷彿とさせるテクニックで、滑るようにパーシングの後部に回り込む――。

 河嶋先輩も大きな遠心力がかかる中、素早い装填を完了させる――。

 

 勝負は一瞬……。頼みますよ、会長! 

 

 くっ、先手はとれたが向こうも撃ってきたか……。

 

 

 

 

 

 

 パーシングの砲弾はヘッツァーのカメのエンブレムを少しだけ傷付けただけだった。

 

 そして、会長の放った砲弾は見事にパーシングの急所を射抜き、撃破したのだった。

 

 

 

 

 ふぅ、履帯にかなり負荷がかかったはずだけど、切れてなさそうだな。

 一応見ておくか、カチューシャさんのところに行くのはその後だな……。

 

 

 大洗女子学園、残り車両8両。大学選抜チーム残り車両2両。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《アリシアサイド》

 

 CV33、T-34、九七式、チャーチル、シャーマンの5両が私の前に立ち塞がる。

 

 なるほど、圧力をかけてステージの下に追い込んで包囲する作戦かしら?

 

 そう思って身構えていると、九七式がまっすぐに突撃してきた。

 もう少し連携してくると思ったけど、意外ね。

 

 もちろん迎撃しようと砲撃するわ。

 

 

 あら、面白い動きね。私が攻撃をしようとすると、それを感じ取るように方向を転換させるの。

 

 なかなかの先読みの鋭さ――。無駄に撃たなくて良かったわ。

 

 とりあえず、1番スキが大きそうなT-34を狙う。

 うん、手応えありだけど――。

 

 チャーチルがまさかT-34を庇うとは思わなかったわ。装甲の厚さを利用した見事な動きよ。

 

 そして、この砲撃の瞬間にシャーマンが側面に回り込んで攻撃するなんて……。

 

 とっさに後方に動いて避けたけど、少しだけ驚いたわ。

 

 どうやってサインを出しているのか分からないけど素晴らしい連携だわ。T-34がスキを作ったのも囮だったようね……。

 

 この3両の車長さんはウチの一軍と比べても遜色がないくらいの実力者だと見ていいかもしれないわ。

 シンディだったら今の連携で負けてたでしょうね。

 

 

 面白いじゃない。こんなに素敵な戦車乗りと戦えるなんて、日本に来て良かったわ。

 

 今度はT-34とシャーマンの連携ね。どちらも好き勝手に動いているように見えるけど、息がピッタリあっている。

 

 なかなか上手に動くから、的を絞らせないわ。

 

 でもね、やっぱり車長だけが有能な車両にありがちなんだけど、動きながらの砲撃の精度が悪いから、必ずいい狙撃ポイントで停車するのよね。

 

 次の貴女たちの停車ポイントは……。

 

 

「ここと、ここね……。ファイア!」

 

 

 これで残り3両ね。さて、次はどの車両にしようかしら?

 

 大洗女子学園、残り車両6。大学選抜チーム、残り車両2

 




もう少しで大学選抜チームとの戦いも終わりますねー。
この次はどうするか? 番外編的なものをするか、オリジナル展開の世界ユース大会編でも書くか悩み中です。
とりあえず劇場版が終われそうな目処が立ってきて良かったです。
次回もよろしくお願いします!


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激戦の果て

これで大学選抜戦は終了です。
長いし、敵も味方も多いので、頭の中で整理するのが大変でした。
それでは、よろしくお願いします!


 私がそこに辿り着いたとき、目の前では恐ろしい光景が繰り広げられていた。

 

 カチューシャさんとケイさんの動きは完璧な連携に見えた。

 確実に、センチュリオンの両側面を狙撃して、撃破に至らしめると私は確信していた。

 

 しかし、アリシアさんは予め停車のポイントを知っていたかのように、砲身と車両を動かして、2回の砲撃でT-34とシャーマンを討ち取ったのだった。

 

 神槍(グングニール)とイギリスで呼ばれている彼女の無駄のない動きは、私の目には人間の所業には見えずに、ただ唖然としてしまった。

 

『玲香さん、ボーッとしてはなりませんわ。とにかく動きなさい。さもなくば、何のためにここに居るのかわかりませんよ』

 

 ダージリンさんの言葉にハッとした私は、小山先輩に的を絞らせないように不規則に動いて、近づくように指示を出す。

 

 しかし、アリシアさんのセンチュリオンは全くスキが無い。

 停車しようとすると、必ずその前に砲身がこちらを捉えようとする。

 

 先ほどの攻撃を見ていなかったら迂闊に止まって狙い撃ちされて終わりだっただろう。

 

 ダージリンさんのチャーチルも常に動きながら砲撃をするが、アッサムさんでもセンチュリオンの動きに合わせて当てることは難しいらしく、私たちは撃破どころか命中させることすら出来ずにいた。

 

 そんな中、西さんの九七式の動きだけはセンチュリオンの狙いのさらに上を行っているように見えた。

 突撃で至近距離まで近づいているにも関わらず、アリシアさんは西さんの動きだけは捉えられていない。

 

 

「吶喊!」

 

 西さんは雄叫びを上げてセンチュリオンに食らいつく。しかし、それに合わせてアリシアさんの神槍(グングニール)が九七式を容赦なく襲おうとしていた。

 

「西さんは本当にセンチュリオンの動きが読めている――」

 

 私は目を疑った。あれほど、私やダージリンさんが攻撃しても当てることが出来なかったセンチュリオンに対して、ついに西さんは一撃を与えることが出来たのだ。

 それもアリシアさんのセンチュリオンの攻撃を躱した上でだ……。

 

 旧砲塔の九七式であるから、ダメージ自体はそこまでではないが、これは大きな戦果である。

 

 アリシアさんとて、無敵ではないのだ。

 

 小さな希望が生まれるような気がした。

 

 そして、私は方針を変更する。西さんの動きに合わせようと……。

 

 タイミングさえ間違えなければ、私たちでも当てることが可能なのではないのかと……。

 

 西さんの動きを感じ、センチュリオンの動きも同時に感じる。

 私の空間把握能力をフルで活かす――。

 

「右です! 会長っ!」

 

 止まるとアウトなので、行進間射撃となるが、小山先輩と会長になるべくシンプルな指示を出す。

 

「後方から左に回り込んで、右!」

 

 よしっ、初めて砲撃が当たった。次は撃破を目指さなくては……。

 

 もっと、もっと、研ぎ澄ませ――。

 

 限界を超えるんだ――。

 

 今度はチャーチルの動きも感じて、砲撃を避けるタイミングを狙う。

 

 くそっ、警戒心が強くなった。動きが鋭くなる……。

 

 

「吶喊!」

 

 西さんの突撃がセンチュリオンに肉薄する。

 

 しかし、ついに九七式はセンチュリオンに捉えられて被弾し、撃破されてしまう。

 

「今だ! 会長!」

 

 その動きを追っていた私は側面からセンチュリオンの車体の攻撃を指示する。

 会長もこの戦いで徐々に狙撃精度を増していて、成長していた。

 

 センチュリオンから煙が上がり大きなダメージを与えたという実感がこもった。

 

 しかし、撃破判定には至らず、まだ動ける状態にあるようだ。

 

 装填は間に合わない。砲身はこっちを向いている。

 チャーチルがセンチュリオンに砲撃したが、それも避けられた――。

 

 そして、無慈悲な砲撃が我々を襲った――わけではなかった。

 

 

『どいつもこいつも、この総統(ドゥーチェ)を完璧に忘れてたろ!』

 

 そうだった、アンチョビさんたちのことすっかり忘れていた。

 

 CV33が身を呈してヘッツァーを砲撃から救ってくれたのだ。ひっくり返りながらも堂々と存在感をアピールするアンチョビさんを見て、総統(ドゥーチェ)としての器の大きさがわかるような気がした。

 

『今ですわ! 玲香さん!』

 

 チャーチルとヘッツァーは中破したセンチュリオンを再び攻撃しようと動き出す。

 

 しかし、今のアリシアさんを相手に普通に動いても当たらないような気がしてならない……。

 

「仙道ちゃーん、アレをしようよ――」

 

 会長が楽しそうな声を出した。まったく、この人ときたら……。

 

「ダージリンさん、最後の作戦です。協力をお願いします――」

 

『――なるほど、なかなか面白いですわね。よろしくてよ』

 

 チャーチルは私が指定したポイントに移動してセンチュリオンに特攻しながら砲撃する。

 

「さて、最後の賭けだっ! 小山先輩! 河嶋先輩! 会長!」

 

 私たちは最後の攻撃をすべく舞った――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《アリシアサイド》

 

 九七式の動き……、すごいわ。

 日本には『死中に活を求める』という言葉があるらしいけど――それを体現しているのは初めて見るわね。

 

 まさか、私が読み負けた上に一撃を当てられるなんて――。

 

 日本で無駄玉を消費したのは今回が初めてだわ。

 

 どんどん、あたしの予想を超える高校生たち。こんなに面白い試合はイギリスでも滅多に無かったわ。

 

 あら、今度は玲香のヘッツァーの動きが急に良くなったわね。あたしの動きに付いてきてる。

 やっぱり、あの日に彼女たちから感じた強さは錯覚なんかじゃなかったのね。

 近い将来、ライバルになりうる可能性。

 

 西住みほや仙道玲香から感じたのはそんな可能性だった。

 

 くっ、玲香さん、今の動きは上手かったわ。九七式に意識が持っていかれた一瞬を逃さないなんて……。

 

 あたしももっと集中しなくちゃ……。

 

 チャーチルも上手く邪魔をするわ。ダージリンさんはイギリスに留学希望だったわね。

 彼女も才能豊かだから、きっと直ぐに頭角を表すでしょう。

 

 でも、負けるわけにはいかないの。

 

 島田流と愛里寿のために、私はここで負けてあげるわけにはいかない!

 

 九七式の突撃――それはもう何度も見たわ。

 今度はあたしが読み勝って、九七式の撃破に成功する。

 

 なっ、なんですって? 玲香さん、貴女はどこまで強くなるの? いや、玲香さんというより、砲手の実力がここに来て格段に上がっている……。

 

 戦いの中でチーム全体が成長するなんて、ちょっとびっくりね。

 

 でも、ここであたしを仕留めきれなかったのは不運ね。悪いけど、これで最後よ――。

 

 

 

「参ったわ、完全に忘れていた。CV33、この瞬間までずっと気配を消して機を窺っていたのね……」

 

 攻撃力が皆無のCV33は偵察や陽動、ナビゲーションと大いに活躍していたのは、報告から聞いていた。

 

 車長は勝負勘が優れていて、全体を見るいい目を持っているわ。多分、面倒見のいい子ね。

 

 思わぬ邪魔が入ってきたけど、次は無いわよ。私は今度こそヘッツァーとチャーチルを撃破しようと動き出す。

 

 

 チャーチルがまっすぐに特攻? 作為的なものを感じるけど、どの方向からの攻撃にも対応してみせるわ。

 

 あたしはチャーチルを撃破しつつ360度すべての方向に最大限に集中力を高めて、迎撃の準備をしていた。

 

 さぁ、ヘッツァーはどうするのかしら? どこからでも来なさい――。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、何よコレ? 信じられないわ……。まさか、上から攻撃されるなんてね……」

 

 あたしは声を失ったわ。まさか、ひっくり返ったCV33をジャンプ台にして、ヘッツァーが飛んで来るなんて……。

 上からのほとんどゼロ距離からの砲撃に、センチュリオンも耐えることは出来なかったわ。

 

 まぁ、何とかこっちの砲撃もギリギリ当てることが出来たから相討ちになったけど……。

 正直言って高校生に撃破されたショックの方が大きわね。

 

 まったく、大したものだったわ。日本の高校生たちは……。

 

 

 でも、とーっても楽しかった。また戦いたいわ、貴女たちと……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「まったく、撃破車両をジャンプ台にするって、会長の発想には驚きました」

 

「まー、一回実践してたからねー。あのときは大ジャンプのために履帯を動かしてもらわなきゃいけなかったけど、今回は角度さえあればなんとかなるかなーって」

 

 カール撃破のとき一回やった事あるからって、あの土壇場でもう一度やろうって提案出来るか? 

 廃校がかかったあの場面で……、この人はずっと諦めずに勝つ方法を突き詰めてたんだ……。

 

 まったく、敵いませんよ、会長……。

 

「玲香、やられたわ。まさか、こっちで撃破されちゃうなんてね」

 

「本当にまさかですよ、撃破出来るなんて、あははっ。あー良かった、さすがにみほも連戦はキツイでしょうから」

 

 実際、相討ちでも大金星だ。実力でも車両のスペックでも負けてたからなー。

 まぁ、こんなことがあるから戦車道は面白いんだけど。

 

「あら、あなたは愛里寿が負けると思っているのね。残念だけど、あの子はあたしなんかよりもずっと才能豊かな天才よ。すでにあの年齢であたしと実力が変わらないんだから」

 

「それでもです。私はみほが負ける姿を想像出来ません。それに、今の彼女には頼りになる、最強のパートナーがいますから」

 

 そう、私は西住さんが負けるなんて微塵も思ってなかった。

 まほさんと一緒に戦っているんだ。きっと、私たちの隊長は大洗女子学園を救ってくれるに決まっている。

 

 私たちはみんなと西住さんとまほさんの戦いを見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『目視確認終了! 大学選抜、残存車両なし。大洗女子学園、残存車両1――』

 

 審判からのアナウンスが流れる――。

 

 

 ありがとう、信じてたよ……、みほ。

 

 まぁ、驚いたけどな。あんなやり方で勝つなんて――君の戦車道はいつも私の想像を遥かに超える。

 

 

 

『大洗女子学園の勝利!』

 

 蝶野さんの元気な声で私たちの勝利が決定する。

 仲間たちはみんな両手を挙げて喜んだ。観客席に応援に来てくれたみんなも一緒に飛び上がって歓喜した。

 

 

 

 

「これで、廃校はなくなった!」

 

 ニカッと笑う会長。今回は改めて働き者になった先輩の凄さを知りましたよ。

 まだまだ、追いつくには遠い背中です。

 

「うわぁぁぁぁぁん!」

 

 号泣する河嶋先輩。弱音を吐いてばかりだったけど、結局、最後まで頑張ってくれました。

 頑張り屋の先輩だから、涙も一番出るんだと思います。

 

「ぐすっ……よかった……」

 

 静かに涙ぐむ小山先輩。正直言って、毎回のことながら一番無茶ぶりをしてしまって悪かったなと思ってます。

 でも、先輩は優しいからつい甘えてしまうんです。

 

 

 

 そして、私たちの元にティーガーⅠに牽引されたあんこうチームのⅣ号が帰ってくる。

 

 

 Ⅳ号から降りてきた西住さんたち、あんこうチーム。

 ごめん、みんな。これだけは誰にも譲れない。

 

 一番最初に、私たちの最高の隊長を労うことだけは……。

 

「みほ、また助けてくれて、ありがとう」

 

「玲香さん、私だけじゃどうにもならなかったよ。みんなで頑張ったから――ふぇっ?」

 

 私は我慢できなくて、力いっぱい西住さんを抱きしめる。

 

「それだとしても、私は君に感謝を伝えたい! みほ、もう一度言うよ、ありがとう!」

 

「もっもう。玲香さんったら、みんなが見てるのに……」

 

 顔を真っ赤にした西住さんに注意されて、私はようやく彼女を解放した。

 

「そっそろそろ、いいかしら? 大洗流のスキンシップはすごいのですね……。みほさん、おめでとう」

 

 ダージリンさんが少しだけ呆れながら祝福の言葉をくれた。

 

「えー、あれくらいウチでは普通よ。おめでとう! エキサイティングだったわ」

 

「レイーチカって、情熱的なのね……、まっ、おめでとう」

 

「おっお前ら、前のあれは演技じゃないのか? まぁいいか。いい試合だったぞ」

 

 ケイさんやカチューシャさん、アンチョビさんも祝ってくれた。

 

 そして、西住さんはみんなの方を向いて挨拶をした。

 

「みなさん、本当にありがとうございました!」

 

「「ありがとうございました!」」

 

 私たち大洗勢は西住さんの後に続いて頭を下げた。

 

「こちらこそお礼を言わせていただきたいです!」

 

 西さんが私たちに頭を下げる。あれ? 私たち、何かやりましたっけ?

 

 

 おや? 大学選抜チームの愛里寿さんが何故か遊園地のクマの乗り物に乗ってこっちに向かってきてるぞ。

 

 どうしたのかな? アリシアさんもこっちに歩いて来てるし。

 

 愛里寿さんはポケットからボコミュージアムで西住さんに譲ってもらったぬいぐるみを、取り出した。

 

「私からの勲章よ」

 

「ありがとう。大切にするね」

 

 ニコリと微笑んでボコのぬいぐるみを受け取る西住さん。

 なんだか、愛里寿さん照れ臭そうにしているな。

 

「今回は楽しい試合だったわ。愛里寿にも、いい刺激になったみたい。負けるって経験がこの子には無かったからね」

 

 そんな愛里寿さんの両肩を後ろから優しく掴むアリシアさん。

 

「アリシア姉様、私は別に……」

 

「またまたー、嬉しかったんでしょう? ライバルができたんだから」

 

 顔を赤くした愛里寿さんはアリシアさんの背中の後ろに隠れてしまった。

 

 そして、私たちはみんなとしばらく雑談をして、帰り支度を始めた。

 

「玲香さん、私ちょっと、お姉ちゃんと話してくるね」

 

「ん、ああ。いってらっしゃい」

 

 帰りの船の出港前に西住さんはまほさんと何やら話があるみたいで、ふたりきりで会話をしていた。

 

「みぽりん、何話してるのかなー?」

 

「んー、まほさんの編み出した1日寝かせたカレーをより美味しく食べる方法だろーな」

 

「あら、それは興味深いです。どのような食べ方なのですか?」 

 

「絶対に違うと思うが……」

 

「あー、それ知ってます。玲香殿もこの前の教育番組見ていたんですねー」

 

 あんこうチームのみんなと雑談しながら、西住さんが戻るのを待っていた。

 

 

「お待たせ! みんな、ごめんね。待たせちゃって」

 

「気にしなくていいさ。さぁ、帰ろう。私たちの学園艦(ウチ)に……」

 

 私たち、戦車道チームを乗せた船は出港する。大好きなあの場所に帰るために……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「仙道ちゃん、改めてお疲れー」

 

「会長、お疲れ様です。いやー、戦って勝ったあとの食事って美味しいですよねー」

 

「うん、わかるー。ジャンジャン食べよう!」

 

「玲香、お前……、元気そうだな……」

 

「河嶋先輩? なんで、そんな抜け殻みたいな顔をしてるのですか? まさか、宿題を終わらせてないとか?」

 

「違うわ! いや、宿題はやってないけど、疲れただけだ!」

 

「桃ちゃん、全然誇れることじゃないよ……」

 

 あー、こうやって平和な話ができるって幸せなことなんだなー。

 会長の笑顔と小山先輩の疲れた顔、そして河嶋先輩の困った顔を見ると、私は日常が取り戻せた気がして嬉しくなった。

 

「にしし、仙道ちゃん。やっと、帰れるね」

 

「はいっ!」

 

 私は力強く、会長の言葉に返事をした。

 

 

 

 

 生徒会のみんなでご飯を食べたあと、私は風に当たるためにデッキに一人で出ていった。

 ああ、潮風が気持ちいい……。

 

 

「玲香さん! ふふっ、玲香さんも風に当たりに来たんだね」

 

「ああ、みほか。みんなは?」

 

「うん、疲れて寝ちゃったみたい」

 

「そっか、あんこうチームも戦いっぱなしだったもんなー」

 

 私たちはしばらく肩を並べて夜空の星を二人で見ていた。

 

「なぁ、みほ……。私たち、付き合ってまだ全然経ってないけど……、いや、こんなこと言っていいかわからないんだが……」

 

 私は西住さんの両肩を抱いて、瞳をジッと見つめた。

 

「えっ、何かな? もしかして、私のこと嫌になっちゃった? そうだよね、玲香さんにはもっと……」

 

 何を勘違いしたのかわからないが、西住さんの顔が曇りしょんぼりした顔をした。

 

「いっいや、全然違うっていうか、何ていうか……。その、みほのことが好きすぎて、もっと一緒に居たいから……、一緒に住まないか? ルームメイトってことでさ。この機会に二人でちょっと大きめの寮に引っ越したいなって思ってて」

 

 私は恥ずかしい気持ちに耐えながら、思っていることを伝えた。

 試合に勝ったら言おうと思ってた。だって試合前だとフラグっぽくなるから。

 

「えっ……、一緒に住む? すっ好きすぎるって……、もう、玲香さん……、やっぱりズルいよぉ」

 

 頬が月明かりに照らされて桃色なのがわかる。時々、素直に思ったことを言うと、西住さんはこんな反応をする。

 

「ああ、ごめんね。まだ早かったよな。でもいつかは……」

 

「ううん、いつかは嫌だよ。すごく素敵な提案だと思った。私も玲香さんと一緒に住みたい」

 

 やった。これで毎日帰っても西住さんの顔が見ることができる。

 こうして、私と西住さんはルームシェアをする約束をした。

 

 そして、またしばらく肩を寄せ合って星を眺めて、私たちはようやく眠りについた。

 

 

 

 翌朝、戦車道チームのみんなでデッキに集合した。

 

 私たちはもう一度、試合終了後と同じくらいの歓声をあげる。

 

「あれをみんなで守ったんだよな。すごいな、やっぱり……」

 

「うん、やっぱり近づくと実感できるね」

 

 

 大洗女子学園の学園艦が、私たちの家が、日光に照らされて――私たちを出迎えてくれた。

 

 

 廃校を告げられた日、私たちは二度目の絶望に潰れかけた……。

 

 起死回生の試合が決まり、不利な条件を突き付けられたとき、私たちは諦めかけた……。

 

 だけど、這い上がろうと誰一人として脱落することなく、足掻き続けた……。

 

 だからこそ、そんな私たちだからこそ、再び大きな奇跡を起すことが出来たんだ!

 

 

 ハッピーエンドを掴み取り、私は今、幸福という甘美な言葉を噛み締めていた――。

 

 

「ただいま」

 

 全てはこの一言のために、私たちは本気で戦い抜いたのだった……。

 

 そして、勇者たちは最高の母校に帰還した――。

 

 




ここまで、ご覧になっていただいて、本当に感謝しかありません。
劇場版を稚拙な文章力なりに一生懸命書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?
本当に劇場版は原作の出来が良すぎたので改変するのが非常に難しかったです。

でも、テレビシリーズと劇場版に玲香を投入して描くという最初の目的は達成出来ましたので、満足出来ました。
初めての二次創作で難しいところもありましたが、楽しかったです。

もし、お時間がありましたら、一言でも結構ですので、感想なんてあれば狂喜乱舞して舞い踊ります!

あと、これが最終回とかじゃないので、次回もよろしくお願いします。


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愛里寿・ウォー

タイトル通りそのまんまの番外編OVAネタですね。
これは本編後にどうしても書きたかったので、書いてみました。
思ったよりも長くなってしまいましたが、楽しい話になっていれば……と、思います。
それではよろしくお願いします。


「「本当ですかー?」」

 

 私と西住さんは同時に驚きの声を上げた。

 まさか、ウチに彼女が転校というか、入学するって……。

 

「いやー、急に連絡があってねー」

 

「それはウチに入学するってことですか? いや、彼女は大学生だったはず」

 

「飛び級したから、高校行ってないんだって。だから、ぜひ高校生活を送ってみたいそうだよ」

 

「そういうことなら、ウチは大歓迎だけどねー」

 

「いいか、西住、玲香! 島田愛里寿に絶対にウチに入学してもらうぞ! ウチのいい所を見てもらうんだ!」

 

「とりあえず、私が愛里寿だったらエラソーな先輩は嫌だなーって思いますね」

 

「どーいう意味だ!? 玲香!」

 

「もー、河嶋先輩ったら、スマイルですよ、スマイル」

 

 島田愛里寿さんが高校生活を送りたいらしく、その行き先に我が大洗女子学園を選んでくれそうらしい。

 だから、河嶋先輩に優しくなってもらおうって言ったら怒られた。

 

「西住ちゃーん、仙道ちゃーん、頼んだよー」

 

「あ、はい」

 

「善処しますね」

 

「気合が足りーん! もっと、絶対に入学させようって気概を持て!」

 

「いや、やる気を出したところで、上手くいくもんじゃないでしょ。河嶋先輩の狙撃と一緒です」

 

「何だと! お前というやつは!」

 

「うまいねー、仙道ちゃーん。座布団一枚」

 

「全然上手くないです! 会長ー」

 

 ということで、私と西住さんは愛里寿さんに入学してもらうために頑張ろうってことになった。

 まぁ、愛里寿さんが入ってくれたら来年も優勝は固いだろうなー。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「いやー、すごいじゃないですか! 島田殿が転校して来るなんて」

 

 秋山さんが目を輝かせてこの話に飛びついた。

 島田流の家元の娘と西住流の家元の娘が通う学校ってなると凄いことになるよな。

 これ、宣伝次第で来年、戦車道希望の新入生めっちゃ増えるんじゃ……。

 いや、それだけじゃない。島田流の家元は娘に激甘だからな。

 センチュリオンくらいは寄付してくれそうだぞ。それにお金も……。

 

 私は頭の中でそろばんを弾いて皮算用をしていた。

 

「ちょっと、れいれいー。何考えてるの? なんか、悪いこと考えてる顔してるよ」

 

「えっ? 愛里寿さんが入ってきたら後に貰えそうな寄付金の計算だけど……」

 

「考えることがゲスいよ! てか、少しは隠そうとしようよ!」

 

「そんなこと言われてもだなー。沙織、この学校の予算はカツカツなんだ。破産して廃校とか嫌だろ?」

 

「あら、そんなに大変なんですか?」

 

「ああ、だから五十鈴流の家元にも是非!」

 

「玲香さん! 話が脱線してるよ!」

 

 いかん、金の話をしてたら愛里寿さんのことを忘れて寄付金のことしか考えてなかった。

 

 

「でも、みぽりんもれいれいも良かったじゃん。ボコ仲間ができるよー」

 

「喜ぶところはそこなのでしょうか?」

 

「まだ、決まったわけじゃないけど、確かに一緒にボコミュージアム行ったり、ボコのDVD見たり、ボコグッズ見せあったりできるかなー」

 

「うん、いつも二人だけでそれやってるから、マンネリしてきたもんな」

 

「みほさんと玲香さん、一緒に暮らすようになって、いつもそんなことをされてるんですかー?」

 

 五十鈴さんが呆れたような声を出す。えっ、そんなことって言われるレベルのことかな?

 

「どうやったら入学してくれますかねー」

 

「麻子も考えてよー」

 

「島田愛里寿は子供だから、お昼寝タイムを入れてはどうだ? これを機にシエスタ制を導入する、もしくは午後から授業。愛里寿シフトを敷くのだ」

 

「それは、麻子シフトでしょ!」

 

 冷泉さんは眠気で頭が回らないのか、とにかく寝たいのか、そんなことを言う。

 

「高校で戦車道をやりたいというより、高校生活を送りたいから転校して来るのですよね? では、この高校がどんなに素敵で楽しいかをわかってもらえばいいのでは?」

 

「さすが、五十鈴さん、いいことを言う! そうだよ、この学校の魅力をアピールするんだ。簡単じゃないか」

 

 五十鈴さんのまっとうな意見に私は賛同した。そうそう、良い所を見せればいいのか。

 

「簡単とは言いますが、玲香殿、どのような点をアピールすればいいと思いますかー?」

 

「そりゃあ、優花里、あれだ、あれ。うーんと、生徒会に入れば権力を思いのままに……」

 

「他に何か良い点は無いかな?」

 

 ナチュラルに西住さんに無視されて、この話に結論は出なかった。

 愛里寿さん、生徒会に入ってくれないかな? そしたら、予算が……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「じゃあ、各チームで考えてもらった、島田愛里寿さんの獲得作戦を教えてもらってもいいかな?」

 

 生徒会を代表して私がみんなの前に立って質問した。

 愛里寿さんが入ってもらえるような方法を戦車道チームのみんなに発表してもらうのだ。

 

「「はい、はい、はーい」」

 

「それじゃ、ウサギさんチーム、どんな方法かな?」

 

 元気のいいウサギさんチームに一番手を頼む。

 

「はい、すごくかわいい制服に変えたら良いと思います!」

 

「うん、いい意見だね。しかし……、すっすまない……。我が校には、よっ予算が……、予算が……、ねぇ、小山先輩……」

 

「それは予算的に無理かな……」

 

「本当に甲斐性のない、情けない先輩で申し訳ない……。かわいい後輩の意見を採用したいのだが……。君たちが頑張って考えてきた案を実行したいのだが……」

 

 私は頭を深く下げて謝った。

 

「いえ、先輩……、頭を上げてください! あのう、私たちこそ、軽率な考えで申し訳ありませんでした……」

 

 澤さんが涙ぐみながら頭を下げる。

 

「「すみませんでした」」

 

「いや、君たちは悪くないから。非常時だからと戦車道にばかり予算を回してた私が悪いんだ……」

 

 最初の意見からなんとも言えない重苦しい空気に包まれてしまった……。

 

 

 

「はいっ!」

 

 そんな中、空気を変えようとしてくれたのか、磯辺さんが元気に挙手をしてくれた。

 

「よし、気を取り直して次だな。アヒルさんチーム!」

 

「バレーボール大会を開いたら良いと思います!」

 

「なるほど、楽しいレクリエーションだな。みんなでスポーツをすれば交流が深められる」

 

「でもぉ、この前ぇ、バレー部さんのスパイク見たんですけどぉ。体育館の床に穴が空いて大変そうでしたぁ」

 

 宇津木さんによると、バレー部の本気のサーブやスパイクは凶器らしい。さすがに愛里寿さんに怪我はさせられないな。

 

「カバさんチームは何かありますか?」

 

「全員歴史上の人物の仮装をして迎える」

 

「なるほど、それは楽しそうだな。いいんじゃないか?」

 

「ほう、玲香はどの隊士の衣装にするぜよ? やはり、鬼の副長と呼ばれた土方歳三あたりが……」

 

 おりょうさんが新選組の衣装を取り出してきた。なんかスゲー男装させられそう。

 やっぱり却下で……。

 

「さあて、カモさんチームはどうです? 園先輩」

 

「入学したら名誉風紀委員に」

 

「ダメです」

 

「他のところと比べてどーしてウチは即却下なのよー」

 

「愛里寿さんは我々生徒会がもらいます」

 

「そんなの横暴よ横暴ー」

 

「横暴は私たち生徒会の特権ですからねー」

 

 ということで、カモさんチームの意見は却下となった。

 

 そして、レオポンさんチームの24時間耐久レースとアリクイさんチームの24時間耐久ネトゲ大会も少女には体力的に辛いだろうということで却下となった。

 

「いやー、個性があっていいねー」

 

「それがみんなのいいところですからねー」

 

「おい、玲香! お前は、さっきから呑気なんだよっ! 西住! 何かないのか! 隊長だろっ!」

 

 見かねて、河嶋先輩が西住さんに意見を求める。

 

「あの、普通でいいんじゃないでしょうか? 島田さんは特別じゃなくて普通の生活をしにウチに来るんですし」

 

「いつもと変わったことをやる必要はないかー。確かにそうだねー。ありのままのウチを見てもらえればいいんだよねー。んじゃあ、西住ちゃん、出迎えの仕切りよろしくー」

 

 てなわけで、生徒会と西住さんで愛里寿さんを出迎えることになった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「愛里寿さん大丈夫?」

 

 島田愛里寿さんを迎えた私たちはさっそく困っていた。

 

「申し訳ない……、少し船に酔ったようだ……」

 

 愛里寿さんがまさかの船酔いである。思わぬ落とし穴だ。

 あんな異次元の動きの戦車内で平気なのに、船酔いになるものなんだな。

 

 確かに中高だけが学園艦だから、愛里寿さんが自分の体質に気付いてなかったのは仕方ないだろう。

 

 河嶋先輩が民間療法をいろいろと模索してるが、そんなので治るものなのか?

 

「ここは、大洗に伝わるやり方を試してみよう!」

 

 って、会長? 干しいもをおでこに貼ってどうするんですか?

 

 

 

 

「治った……」

 

「んな、馬鹿な……」

 

「額の干しいもが気になって、船酔いしてることが気にならなくなった」

 

「さすが、会長です!」

 

「いやー」

 

 世の中には科学では解明出来ないことがある……。それを知った今日であった……。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「よく似合ってるよ。愛里寿さん!」

 

 大洗の制服を着た愛里寿さんを見て感想を口にする西住さん。

 

 学校に来る前にアンツィオの方々がどこから聞きつけたのか愛里寿さんを横取りしようとしたが、彼女はイタリアンは苦手らしく事なきを得た。

 

 勝手に我が校の敷地で商売をしていたので、売上の10パーセントを生徒会に納めるということで手を打ってあげた。

 うん、私って優しい。

 

「じゃあ、校内を案内するよ、愛里寿さん」

 

 私が愛里寿さんに近づいて、微笑みかける。

 今は必修選択科目だから、きっと楽しめるはずだ……。

 

「…………」

 

 愛里寿さんは無言で目を逸らして顔を赤くした。アリシアさんが、人見知りって言っていたから照れてるのかな?

 

「どうしたんだ? 愛里寿さん、一緒に学校を見て回ろう」

 

 私は腰を落として愛里寿さんの目をジッと見つめた……。

 

「あっ、あまり見ないでくれ……」

 

 きっ嫌われてる……。まさか、私が愛里寿さん獲得の懸念材料になるとは……。

 

「こらっ! 玲香! 愛里寿さんに嫌われたら転校してもらうからな!」

 

「ええーっ!」

 

「まぁまぁ、仙道ちゃんは別に嫌われてないよー。でも、仙道ちゃんの悪いところが出てるんだよねー」

 

 会長はフォローなのかそうじゃないのかわからないことを言っていた。私の悪いところってなんだ?

 

「玲香さんは、いい加減に自覚してもらいたいな」

 

 西住さんにも冷たい目で見られていた……。解せぬ……。

 

 

 

 茶道、仙道、忍道と順番に見てもらう。

 ちなみに私と仙道は全く関係ない。1年のときも絶対に仙道だけは選択しようって思わなかった。

 「仙道が仙道履修してるー」とか言われると思ったから。

 

「どれも、面白そうだ」

 

 愛里寿さんはとても興味深そうに授業を見ていた。いや、でも、やっぱり来てもらった以上はねー。

 

「いやいや、やはり戦車道を選択してもらわねば!」

 

 河嶋先輩がはっきりとそう伝えた。

 

 

 

「以前にお話したとおり、島田愛里寿さんが見学にいらっしゃった! 自由に見学してください、質問があればなんなりと!」

 

 ということで、我が校の戦車道を見てもらう。

 

「じゃっ、戦車道チームを順番に見てこうか」

 

 私と西住さんとで愛里寿さんを案内することになった。

 

 アヒルさんチームは思ったとおりバレー部の宣伝かと思えば、好きなことを聞いて、それとバレーをつなげようとしたらしい。

 

「好きのことは何?」という質問に対して、愛里寿さんは「戦車道」と答える。

 当たり前といえば、そうだけど、戦車道がはっきり好きって言えるのは大事なことだと思った。

 

 カバさんチームは愛里寿さんを「オクシュアルテス」とか呼んでた。

 ソウルネームは良いけど、歴史の成績が悪い私にはなんのことやらさっぱり。

 でも、変にツッコミを入れるとグデーリアンの時のようにアホみたいに長い話を聞かされるので、「オクシュアルテスね、知ってるよ、アレだろ