ハイスクールD×D 異世界帰りの赤龍帝 リターンズ (ヴァルナル)
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第一章 入学式のシスターズ
1話 兵藤家の次女


四月に入ってすぐの朝のこと。

俺、兵藤一誠が目を覚ますと、そこには―――――。

 

「スー………」

 

穏やかな寝息をたてる妹の美羽。

いつもの可愛らしいパジャマ姿で眠る美羽は、俺の手を握っていてだな。

しかも、鼻先がくっつくんじゃないかと思うくらいに顔が近い!

少し顔を動かせばキスが出来るんじゃないだろうか!

 

ま、まぁ、美羽とのキスは今に始まったことじゃないけど。

おはようのキスに始まり、おやすみのキスまでしてるしなぁ。

でも、可愛い妹からのほっぺにチューって、何回されても幸せな気分になれるんだよね!

 

美羽も最近はお姉さんになってきたんだなぁって感じることが多くなったけど、「お兄ちゃん♪」って言って甘えてくるし………。

うむ、やはり新年度に突入しても我が妹の可愛さは変わらないと言うことだな。

 

今だって、

 

「ん………お兄ちゃん………大好き」

 

「ガッハァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

んもう、なんでそんなこと寝言で呟くかな!

可愛すぎて悶絶しちゃうでしょうが!

お兄ちゃん、年度明けから悶え死ぬよ!

ニュースで流れるんじゃないの?

こんな感じで―――――

 

『○月×日の早朝、駒王学園に通う高校三年生の兵藤一誠君が血塗れの遺体で見つかりました。死因は可愛い妹の可愛い寝言による悶死と思われ、警察は「これはしょうがない」と―――――』

 

とか!

あり得そうだよ!

警察もうんうんって頷いてるよ、きっと!

 

さて、このまま美羽について小一時間………いや十年、三十………やっぱ、一万年くらい語れそうなのだが、

 

『語りすぎだろ、このシスコン』

 

なんだ、ドライグ?

語ってほしいのか?

仕方がない、そこまで言うなら一億年くらい―――――

 

『ええい、語るな! 相棒が美羽について語り始めると止まらなくなる! というか、シスコンが酷くなっていないか? 前はまだ………いや、気のせいか』

 

ドライグがなにやら深くため息を吐いているがスルーしよう。

 

確かに、このまま美羽について語り続けても良いのだろう。

俺としても一向に構わない。

だが、妹に関して語るのであれば、もう一人の妹についても語らねばなるまい。

そう、それこそ―――――。

 

「んにゅ………ねぇね………」

 

いつの間にか俺と美羽の間に挟まるようにして眠っている、紫色の髪が特徴の美少女。

ディルムッド………いや、今はその名前ではないな。

ディルムッドというのは彼女が、彼女の持つ魔槍と魔剣と共に継いだ先祖の英雄の名だ。

彼女の本名はサラ・オディナ。

 

初めて出会った時、サラは英雄派に所属していて、その時は敵として対面した。

だが、英雄派が壊滅した後、色々あって兵藤家に住むことに。

そういや、あの時は美羽の唐揚げの味に感動したらしく、美羽の下僕になろうとしていたなぁ………。

 

でだ、そこから先を細かく語り出すと面倒なので省くが、美羽だけでなく、俺にも心を開いてくれたサラは、美羽のことを『ねぇね』、俺のことを『にぃに』と呼んでくれるようになった。

昔、サラにはお姉さんがいたらしく、美羽がそのお姉さんに似ていたとのことだが………。

まぁ、そんなわけで、なんやかんやありつつも俺に二人目の妹が出来ました!

 

………と、ここまでは皆もご存じだろう。

 

実はその後にちょっとしたイベントがあったんだ。

 

 

 

 

三月のある日。

俺があの戦いの後に目覚めてから数日後のことだ。

期末テストの全科目追試という過去にない激戦を無事に突破し、留年を免れた後、俺の回復祝いが行われた。

兵藤家の地下にあるトレーニングルームをパーティー用に開放して、新旧オカルト研究部の面々だけでなく、新旧生徒会メンバー、デュリオ、サイラオーグさん、加えてヴァーリチームとチーム『D×D』のメンバーが集まっていて………。

 

グラスを手にしたリアスが言う。

 

「それじゃあ、皆にグラスが行き渡ったところで………。イッセー、退院おめでとう。本当に良かったわ」

 

リアスの言葉に皆が「そうだね」「本当に良かったです」とうんうんと頷いているが、俺は苦笑しながら返した。

 

「いや………なんというか、心配かけてごめん。というか、俺の退院祝いでここまで集まってくれるとは思ってなくて………色々と申し訳ない」

 

この退院祝いのパーティーにはチーム『D×D』のメンバーのほとんどが参加してくれている。

今回、参加できなかったシーグヴァイラさんもリアスにメッセージを託してくれていて、俺の回復を祝ってくれた。

嬉しい気持ちもあるのだが、それと同時に色々と申し訳なく感じてしまう。

皆も予定があっただろうに………。

 

すると、デュリオが骨付き肉にかぶり付きながら言ってきた。

 

「いんやぁ~、イッセーどんは………もぐ………ある意味、このチームの中心的存在だし………もぐもぐ………。そのお祝いをするとなれば、ソッコーで駆けつけるよ………もぐもぐもぐ」

 

「デュリオ、気持ちは嬉しいけど、食うか喋るかどっちかにしようぜ」

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ………」

 

おぉう………こいつ、コミュニケーション放棄したぜ。

あ、グリゼルダさんがデュリオの頬を引っ張り始めた。

やっぱり、天界のジョーカーもクイーン・オブ・ハートには敵わないのね。

 

すると、ソーナが言ってきた。

 

「彼の言う通りですよ、イッセー君。私達がこうしていられるのはあなたのお陰と言っても過言ではありません。それに仲間の回復を祝うのは当然のことです」

 

「そうだぞ、兵藤。ダチなんだから、変に気を使うなって」

 

そこに木場もやってきて、微笑みながら言ってきた。

 

「イッセー君が僕達の立場なら同じことを言うんじゃないかな?」

 

それを言われるとね………。

確かに俺が祝う側の立場なら、匙達が言ってくれた言葉をそのまま言っていたのかもしれない。

 

俺はクスリと笑うと三人に言った。

 

「ああ。ありがとな」

 

ソーナが言う。

 

「退院したとはいえ、まだ体力は万全ではないと聞いています。しばらくは安静にしていないとダメですよ?」

 

「回復したら、また修行をつけてくれよな」

 

「そうだな。今度は俺が師匠から受けた修行をそのままやってやるよ」

 

「おい、それは前に言ってたアレだろ………。崖から蹴落とされたり、山が吹き飛ぶようなパンチで殴られたりしたという………」

 

「うん」

 

「馬鹿か!? 死ぬわ!」

 

「匙なら生身でも出来るさ、多分!」

 

「多分ってなんだ!? 確実にアウトなやつじゃねーか! つーか、おまえの師匠、ハンパなさすぎだろ!?」

 

「そりゃ、向こうの世界じゃ『武術の神』って呼ばれてるからな」

 

パワーもテクニックも尋常じゃないぞ、あの爺さん。

俺の錬環勁気功なんか足元にも及ばないし。

 

「それほどの強者がアスト・アーデという世界にはいるのだな。興味深い」

 

なんて言って会話に入ってきたのは、スパゲティーの乗った皿を片手にしたヴァーリだった。

ミートスパゲティーにアサリパスタ、ナポリタン………こいつ、本当に麺類好きな。

 

俺は麺をすするヴァーリに半目で言った。

 

「ひょっとしなくても、うちの師匠と手合わせしたいとか思ってるよな」

 

「元々はただの一般人に過ぎなかった君を、そこまで鍛え上げた存在だ。その話を聞いて昂らないわけがない」

 

「まぁ、おまえならそう言うよなぁ………。でも、やめとけ。あの爺さん、おまえが想像しているような人物じゃないから」

 

「というと?」

 

「あの爺さん………普段はただのスケベ爺だから。鼻くそほじりながら、ゴロゴロして、スケベビデオ見てるだけだから」

 

あの爺さんにヴァーリを関わらせたら、また変な方向に興味を持ちそうで怖いんだよ。

前もアザゼル先生に言われて、俺と一緒にエロビデオ見に来たしな!

あげくの果てには駄女神さまの言うT・O・S(ツイン・おしり・システム)について考え始めたし!

つーか、おしりってどうするの!?

どうすればツインになるの、駄女神さま!?

 

「最近、T・O・Sとやらをどうするべきか真剣に考えているのだが………。兵藤一誠、君の意見を聞きたい」

 

「ヤメロォォォォォォォォォ! 死ぬぞ! アルビオンが!」

 

おまえもオッパイザーみたいなのとドッキングさせられることになっても良いのか!?

マジで死ぬよ、アルビオン!

うちのドライグさんなんて、発狂してたからな!

 

「T・O・S………か。俺も一考するべきだろうか」

 

「やめてください、サイラオーグ様。絶対に真似しないでください」

 

ハンバーグを片手に呟くサイラオーグさんと、冷静に言うクイーシャさん。

どうしよう………駄女神システムがあちこちに広がろうとしてる。

止めるべきだよね、これ。

俺に責任あるんだよね、これ。

とりあえず、サイラオーグさん………絶対にやめてください。

シリアスな顔でそんなシリアルなこと呟かないでください。

 

………あれ?

こんな会話をしているのに入ってくる様子がない、だと?

まさかと思うが、あの駄女神―――――。

 

「ひゃん! ちょ、やめてくださいぃ!」

 

「たまにはシトリー眷属の女の子ともスキンシップしたかったのよ。ほらほら、良いではないか♪」

 

「あ~れ~!」

 

なんか、仁村さんが駄女神の餌食になってる!

後ろから抱き付いて、あんなところやこんなところに手を入れていってる!

 

「おいぃぃぃぃぃぃぃ! やっぱりか! やっぱりなのか!」

 

「私は常に平常運転よ♡」

 

もうヤダ、この駄女神!

ついにシトリー眷属にも犠牲者が出てしまった!

 

ソーナが目元をヒクつかせながら言う。

 

「イッセー君、これは………」

 

「諦めましょう、ソーナ。イグニスは誰にも止められないの。………私もされたし」

 

親友の肩に手を置いて、深くため息を吐くリアス!

 

ゴメン!

ほんっとゴメン!

うちの駄女神が申し訳ございません!

 

あの戦いで本当の名前を明かしてくれた時は、正に女神って感じだったのにね。

今はもう、そんな女神様はどこにもいなくて………いつものエロエロな駄女神が戻ってきてしまった。

お願いだから、あの時の女神モードに戻ってくれ、あの百分の一でも良いから。

 

そんなやり取りをしていると、部屋に転移魔法陣が展開される。

転移の光と共に現れたのはアザゼル先生だった。

 

「遅れてすまんな、おまえ達」

 

「アザゼル様、向こうの処理は終わったのですか?」

 

レイナの問いにアザゼル先生は頷く。

 

「大体はな。後は他の連中に任せてきた」

 

「投げたんですね?」

 

「投げてねぇよ! ちゃんと、自分の仕事はやってきたってーの! どんだけ信用ないの、俺!?」

 

普段がアレだからな………。

サボるし、グリゴリの資金を変なロボット製作費に当ててるし、教員会議もロセに投げてくるし。

 

アザゼル先生はコホンと咳払いすると、改めて俺達に向けて言った。

 

「おまえ達には改めて礼を言わねばならん。俺がこうしていられるのは、おまえ達が先の戦いで気張ってくれたからだ。本当なら俺もサーゼクスもミカエルも、こちら側には残れなかったんだからな」

 

あの戦いの時、各勢力の首脳陣はある極秘の作戦を実行しようとしていた。

それが隔離結界という新たに開発した結界の中で、自分達とトライヘキサを閉じ込め、トライヘキサを滅ぼしきるまで戦い続けるというもの。

その作戦は、予め首脳陣の作戦を想定していたアセムがトライヘキサを取り込んだために、実行されることはなかったが………。

ここにアザゼル先生がいない、なんてことも考えられたわけで。

 

アザゼル先生が言う。

 

「問題はまだ山積みだが、今はイッセーの退院祝い………というか、留年回避祝いも兼ねてるのか、これは?」

 

「ええ」

 

「リアス!? なに頷いてるの!? これ、留年回避祝いも含まれてるの!?」

 

「ま、まぁ………一応ね?」

 

そうですか!

このパーティーには俺の留年回避祝いも含まれてたのね!

涙が出てくるぜ、コンチクショウ!

 

悲しい事実に俺が半泣きになった時だった。

 

「フッフッフッ………それは違うよ、リアスさん!」

 

と、やたらとハイテンションの美羽がリアスに待ったをかけた。

皆の視線を受けながら美羽が言う。

 

「今回、お兄ちゃんには重大な発表があります」

 

「重大な発表?」

 

「うん。実はお父さんとお母さんとは話し合ってたんだけどね。折角だから、お兄ちゃんが退院して落ち着いたら話そうって決めてたんだ」

 

父さんと母さんと話し合った?

その口ぶりだとリアス達、他のメンバーは知らない感じなのか?

リアスに視線を向けると、首を横に振ってるし、アリスに視線を向けても首を傾げている。

他のメンバーも同様だ。

 

美羽は微笑むと、後ろにいる人物―――――サラに目配せして、俺の前に立たせた。

 

「ほら、サラちゃんの口から言ってあげて? その方が絶対にお兄ちゃん喜ぶから」

 

「う、うん………」

 

美羽にそう言われると、顔を赤くして、モジモジし始めるサラ。

美羽の隣では父さんと母さんが何やら応援していて、

 

「頑張れ、サラちゃん!」

 

「サラちゃんなら出来るわ!」

 

な、なんだ、あの二人の盛り上がりようは?

アーシアがうちに来たときを彷彿させるんだけど………。

 

美羽、父さん、母さんの後押しを受けたサラは少し息を吸うと、俺を見上げて、一言―――――。

 

「………ひ、兵藤………サラ」

 

「え………」

 

サラが発した言葉に、俺は思わず聞き返してしまった。

聞き逃したとか、そんなんじゃない。

確かに聞こえ、その意味を理解した。

でも、それはあまりに―――――。

 

サラが緊張した声音で言う。

 

「あのね………私、この家の娘になりたい。にぃにが眠っている間に、私の気持ちをお父さんとお母さんに話したの」

 

「それで、兵藤サラ………?」

 

俺の問いにサラは小さく頷いた。

 

最初に出会った時、彼女は酷く冷たい雰囲気を纏っていた。

誰も寄せ付けず、心を開かず、孤独に生きる、そんな感じの娘だった。

今思えば、あれは仮面だったんだ。

強く生きるために仮面を被って、本当の自分を隠し続けてきたんだ。

 

「ねぇねがいて、お父さんがいて、お母さんがいる。そして、にぃにも………。私、ここに来て、ずっと胸の奥に隠してた感情を取り戻すことができた。………本当は昔みたいに皆と一緒にいたかった。………やっと………ここなら、皆と一緒なら………私は………」

 

でも、その仮面はもうない。

うちに来て、美羽に心を開いた時にはもう脱げていたのだろう。

本当は何よりも家族の温もりを欲する、甘えん坊な女の子。

 

「良いかな………? 私、この家の娘になっても………にぃにやねぇねと同じ名前になっても………良いかな?」

 

どこまでも健気で純粋な願い。

俺に受け入れてもらえるのか、不安で泣きそうになりながら、告げられたその想いに俺は―――――。

 

 

 

「うっ………ううぅぅぅぅぅっ………グスッ」

 

号泣していた。

それはもう滝のような涙を流し、穴という穴から体液をぶちまけていた。

そして、立ったままの姿勢からそのまま後ろに倒れ、後頭部が床に直撃した。 

 

「イッセー君!?」

 

「兵藤、後頭部からすんごい音したけど大丈夫か!?」

 

慌てて駆け寄ってくる木場と匙。

俺は震える手でダチ二人に触れて、

 

「ごめん、皆………俺、もうダメかもしんない」

 

「なんでだよ!? これ、おまえの回復祝いだろ!?」

 

「今の俺には耐えられない破壊力だった………。もう、サラたん可愛すぎて、健気で………無理。………死ぬ、感動で死んじゃう。こ、こんな………サラたん、最………高………」

 

「イッセー君、しっかりするんだ! 目覚めて早々にシスコンで死ぬつもりなのかい!?」

 

「そ、それはそれで………本望………!」

 

「なんで、キメ顔で言ってるんだよ!? おい、兵藤!? 兵藤ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 

 

と、そんなことがありました。

 

あの後、シスコンの彼方から帰ってきた俺は、改めてサラを家族として受け入れた。

兵藤家の次女『兵藤サラ』。

俺の可愛いもう一人の妹だ。

今、サラは美羽に抱き付いて眠っているのだが、その寝顔は本当に安心しているのだと分かるほど、安らぎに満ちている。

 

美羽とサラ。

俺はこの可愛い妹達をこれからも愛でていくぜ!

 

そんなことを考えていると、俺の左手に何やら柔らかい感触が………って、いつの間にかサラちゃんのおっぱいに俺の左手がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

そうか、兄妹三人で川の字になって寝ていたから、寝返りをうったときに揉んじゃってたのか!

マズい、サラちゃんはエッチなことが苦手なんだ!

名残惜しいが、ここは早急に手を離して―――――。

 

「ん………にぃに………?」

 

アウトォォォォォォォォ!

タイミングを見計らったようにサラちゃんのお目覚め!

 

サラちゃんは自身の胸に置かれた俺の左手を見るやいなや、顔が真っ赤になって、

 

「やっ………!」

 

ガバッと跳ね起きて、両手で胸を隠してしまった! 

乳の宴とかいう未だに訳の分からん儀式を乗り越えたとはいえ、恥ずかしいもんは恥ずかしいよね!

当然の反応だよ!

 

「あ、ご、ごめん! これはワザとじゃなくて、その………起きたら揉んでたというか………あの………」

 

涙目で見てくるサラちゃんに俺は慌てて言い分けを言うが………。

どうしよう、これ、また槍を出してきたりしないよね?

前にトイレで遭遇したときは涙目で槍を振るってきたし………。

流石に今回はそれはなしにしてほしい!

頼む、にぃにのこの想い届いてくれ!

今回のは本当にワザとじゃないんだ!

 

すると、

 

「………にぃに」

 

「は、はい!」

 

「………にぃにのエッチ」

 

その一言に悶絶したのは言うまでもない。

 



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2話 花咲く入学式です!

四月の上旬。

駒王学園はもうすぐ春休みが終わり、新学期に入る。

本当ならまだ学生として終わり寸前の春休みを謳歌できる俺だが、今日は朝から出かける準備をしていた。

 

「朝から悪いな、美羽。着替え、手伝ってもらって」

 

片腕のない俺は着替えるのも一苦労で、美羽に頼んで着替えを手伝ってもらっていた。

美羽が俺の頼みを快く引き受けてくれたお陰で、俺もスムーズに仕度を済ませることができた。

 

美羽は俺の服装に乱れがないか、チェックしながら言う。

 

「これくらいお安いご用だよ。うん、これで大丈夫。カメラは………」

 

「それは父さんが用意してくれてるよ」

 

「そっか。それじゃあ、サラちゃんの方は………」

 

「そっちは母さんが既に終わらせてる」

 

「流石というか………二人も張り切ってるよね」

 

そう言って苦笑する美羽。

 

まぁ、俺と美羽の時も前日の夜から張り切って準備してたもんな。

そりゃあもう、親バカ全開でなぁ………。

でも、そんな二人の気持ちは俺も理解できている。

だって、今日は―――――。

 

「今日はサラちゃんの晴れ姿が見れる………。これを逃すことなど出来んのだよ!」

 

「その通り!」

 

キラーンと目を輝かせる俺と美羽。

そう、今日は―――――駒王学園の入学式の日だから!

 

 

 

 

駒王学園は初等部、中等部、高等部、大学部に別れており、それぞれ敷地が違うところにある。

違うところにあると言っても、そこまで離れている訳じゃないんだけどね。

 

初等部から大学部の入学式は、同じ日にそれぞれの敷地内で行われる。

そのためか、通学路もいつもより人が多く、新入生やその保護者で一杯だ。

 

周囲の新入生達を見て、美羽が言う。

 

「ボク達の時もそうだったけど、やっぱり多いね」

 

「まぁ、ここは初等部、中等部、高等部、大学部に入学する人のほとんどが一斉に通る道だからな。あの時ははぐれないように手を繋いでたっけ」

 

「そうそう。今みたいにね」

 

美羽が微笑みを向ける先には我らが妹サラちゃん。

 

今の状況を説明しよう!

現在、俺と美羽の間にはサラちゃんがいて、三人並んで手を繋いでます!

なんで、こんな状況になったかって?

それは、サラちゃんが家を出た後―――――。

 

 

『ねぇね、にぃに、手を繋いでも………良い?』

 

 

なんてことを言ってきたからさ!

そりゃあもう、堪らなく可愛いお願いでした!

俺も美羽も危うく悶え死ぬところだったぜ!

 

兄妹三人仲良く手を繋いで歩く。

美羽と二人で手を繋いだことは何度もあった。

でもね、今はあの時とはまた違う感覚で―――――。

 

「うぅぅ………! なにこの光景! なにこの気持ち! お父さん、私………!」

 

「ああ、分かるぞ、母さん! もう既に涙と鼻血が止まらなくなってる!」

 

俺達の周囲をグルグル回りながら、カメラを構えて写真を撮っていく父さんと母さん。

一枚撮っては、まるで瞬間移動のような動きで場所を変え、更にパシャリとシャッターを切っていく。

周囲の人からの視線が凄いが、これで人様の交通の邪魔をしていないというところが、二人の凄いところ。

この光景を見て、後ろを歩くメンバーは、

 

「ねぇねぇ、イッセー君。イッセー君のご両親って能力者だったりする?」

 

イリナがそんなことを言ってくるほどだ。

アリスが苦笑しながら言う。

 

「お母様に関してはほぼほぼ能力者よね。見ただけでスリーサイズとか分かっちゃうし」

 

「ティアさんも驚いてたもんね」

 

アリスの言葉にうんうんと頷くレイナ。

 

うん、あれは完全に何かの異能だよね。

見ただけでスリーサイズから足のサイズまで把握して、瞬く間にピッタリの衣服を仕立ててしまうんだから。

あれには龍王最強もビックリだよ。

 

ふいにあることが気になった俺は、アーシアに訊ねた。

 

「なぁ、アーシア。ゼノヴィアは先に行ってるのか?」

 

「はい。朝早くにロスヴァイセさんと一緒にお家を出ていかれました。生徒会の皆さんも入学式の準備があるらしくて」

 

ゼノヴィアは駒王学園高等部の生徒会長に就任してからは、オカ研から離れ、生徒会の仕事に従事にしている。

最近は入学式の準備とかで、春休みの間も学校に顔を出したりして忙しそうにしていたのをよく覚えている。

まぁ、ゼノヴィアにとってはやりがいがあることで、楽しんでやってるんだろうけどね。

ちなみに、オカ研から離れたと言っても暇なときは部室に遊びに来ていたりする。

 

そんなやり取りをしていると、横から声をかけられた。

 

「これは皆さま。おはようございます」

 

紳士的な振る舞いで声をかけてきた若い男性―――――アーサー。

そして、その周りにはヴァーリ、美猴、黒歌、ルフェイ、それから………フェンリル。

 

レイナが目元をひくつかせながら言う。

 

「あの………流石に人の往来で、フェンリルを堂々と連れて歩くのは………」

 

確かに今のフェンリルは大型犬サイズなので、歩いていても「あ、大きな犬がいる」程度の認識で済むだろう。

でもね、ただの犬じゃないんだよ。

神をも殺す牙と爪を持つ最強クラスの魔物なんだよ。

そんなヤバい奴をこんな場所で堂々と連れて歩くなんて………お説教してやろうか!?

 

ヴァーリがフッと笑いながら言う。

 

「心配するな。流石にこんな場所で暴れたりしないさ。それに、見られても問題ないように首輪もつけてる。ほら」

 

そう言ってヴァーリが見せてきたのは一本のリード。

リードはフェンリルの首に巻かれた首輪に繋がっていて………。

 

「………クゥン」

 

フェンリルゥゥゥゥゥゥゥゥ!

そんな悲しげな声で鳴くなよぉぉぉぉぉぉぉぉ!

こっちが泣きたくなるだろうが!

なに、これ!?

俺はどうすれば良いの!?

どう反応してやれば良いの!?

慰めてやれば良いのか!?

初めて戦った時に見せた、底の知れない感覚はどこに行ったの!?

 

つーか、ヴァーリチームの奴ら、なんでフェンリルに首輪つけてるの!?

確かに着けてた方が、一般人が見ても違和感ないけど!

伝説にして最強クラスの魔物に何してんだ!

 

ルフェイが苦笑しながら言う。

 

「えっと、今日は私の入学式ということもあって………フェンリルちゃんも私の入学式を見てみたいとのことだったので」

 

あー、なるほどね。

実はルフェイも駒王学園の高等部に入学することになった。

なので、サラとは同学年になる。

もう一つ付け加えるなら、シトリー眷属のベンニーアも今日の入学式で駒王学園の生徒になる。

 

今朝、ルフェイが俺達よりも先に家を出たのは、ヴァーリ達と合流するためだったんだな。

家で合流すれば良かったのに。

 

ヴァーリが言う。

 

「うちのメンバーに関わることだからな。祝うくらいする」

 

「私はまだ眠いにゃ………ふぁぁぁ」

 

瞼を擦って眠そうにする黒歌。

そういや、こいつもルフェイと一緒に出ていたな。

 

「ちなみに、フェンリルの首輪は昨日、そこの店で買ってきた安いやつだぜぃ」

 

美猴のくれた情報は俺を更に悲しい気持ちにさせた。

フェンリル………元気だせ!

俺はおまえを応援するぞ!

 

俺がヴァーリチーム内でのフェンリルの扱いに涙していると、アーサーが言ってきた。

 

「赤龍帝。あなたには改めてお礼を言います」

 

「なんだよ、突然?」

 

聞き返すと、アーサーはルフェイに視線を向けながら言った。

 

「妹がこうして学校に通えるのも、あなたとの関わりが大きい。裏の世界に関わる以上、普通の暮らしが出来るとは言えませんが、それでも、あなたとの繋がりがあれば、それに近い暮らしは出来るでしょう。感謝します」

 

「いやいやいや、俺、何もしてないぞ? ルフェイと契約はしたけど………」

 

そりゃあ、駒王学園に入学できたのは、俺達との関わりがあることは否定できない。

でも、無事に入学できたのはルフェイ自身の力でもある。

 

「とにかく、そんな感謝をされるようなことは何もしてないよ」

 

「そうですか。フフフ、ならばそういうことにしておきましょう」

 

ルフェイの格好は、サラと同じく駒王学園の制服姿。

確か、この制服はアーサーが用意したんだっけか。

 

俺はルフェイに言う。

 

「うんうん、ルフェイの制服姿もバッチリだな。可愛いよ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

いやー、朝から笑顔が眩しいな!

そりゃあ、こんな可愛い妹のためなら、制服の一つや二つ用意しちゃうよな!

 

ん………?

アーサーが肩にかけてる鞄の中に見覚えのあるものが………。

 

俺はそれを指差しながら、アーサーに訊ねた。

 

「アーサーもビデオカメラを?」

 

そう、鞄の中には、我が家も愛用しているものと同じ製品のビデオカメラが入っていた。

しかも、よく見ると奥の方にデカいカメラまである!

 

俺の問いにアーサーが眼鏡をくいっと上げて答えた。

 

「ええ。父と母からの指示で、ルフェイの晴れ姿を記録してこいと。まぁ、私も元からそのつもりだったのですが」

 

「なるほど、な………」

 

やはり、こいつは………アーサーは俺と同類!

妹のためなら、何でもしてしまう兄の鑑!

 

「アーサー、後で話そうか」

 

「ええ。私もそろそろよい頃合いだと思ってました」

 

気づけば、俺達は互いに手を伸ばし、握手を交わしていた。

まるで同胞を称え会うような視線を向け、強く手を握りしめた。

 

そして―――――。

 

「うわぁ、イッセーのシスコン仲間が増えちゃった………」

 

「アーサーのシスコンが酷くなってるにゃ」

 

アリスと黒歌が何か言ってた。

 

 

 

 

ヴァーリチーム達と合流した後、俺達はそのまま駒王学園に向かい、新入生組と保護者組で別れることになった。

俺達保護者組は先に講堂に入り、保護者席にて新入生が入場してくるのを待っている。

 

「あれ? フェンリルは?」

 

いつの間にか姿を消したフェンリルについて訊ねると、ヴァーリは苦笑しながら言う。

 

「ルフェイの影の中に隠れてしまった。どうやら、首輪がお気に召さなかったらしい」 

 

「そりゃそうでしょうね!」

 

美猴が言う。

 

「というより、学園内はペット禁止なんだろぃ?」

 

「それが分かってて、なんで首輪つけたんだよ………」

 

「面白いだろ?」

 

フェンリル、後でこの猿、噛んで良いと思うよ。

多分、許されるはずだから。

 

すると、ヴァーリが俺達を見渡して訊いてきた。

 

「他のグレモリー眷属はどうしたんだ? 何名かいないようだが」

 

「ああ、ここにいないメンバーは大学部の方にな」

 

大学部の方ではリアスと朱乃の入学式も行われている。

ここにいないメンバー―――――木場、小猫ちゃん、ギャスパーはそちらの方に向かったから、こちらにはいないんだ。

俺もリアスと朱乃の入学式に顔を出したかったんだけど………。

リアスは気にしなくて良いと言ってくれてな。

帰ったら、改めて祝いの言葉を送りたいと思う。

 

 

~一方その頃、大学部では~

 

 

サーゼクス「うぅぅ………リーアたん、立派になって………!」

 

ジオティクス「リアス、こっちを向いておくれ!」

 

セラフォルー「あぁぁぁぁぁ! ソーナちゃぁぁぁぁぁぁん!」

 

バラキエル「ああ、朱璃よ! 私達の娘はあんなにも美しくなって………! うぉぉぉぉぉぉん!」

 

号泣する兄、姉、父。

 

ヴェネラナ&グレイフィア「「はぁ………」」

 

嘆息する母と義姉。

そして、

 

リアス&ソーナ「「ああ………恥ずかしい………」」

 

朱乃「あらあら」

 

複雑な気持ちの本人達だった。

 

 

~一方その頃、大学部では 終~

 

 

そういや、サーゼクスさん達もこっちに来てるんだっけか。

後で会うかもね。

 

『新入生、入場』

 

司会の先生の言葉に講堂の扉が開き、そこから新入生が入場してくる。

音楽が流れると同時に俺達、保護者席に座る人達は立ち上がり、拍手を始める。

中にはビデオカメラを回す人もちらほら見受けられる。

 

こうして見ていると、やっぱり皆、初々しいな。

次々に新入生が入場してくるが、見てる感じでは今年も女子の比率が多そうだ。

 

美羽が新入生に拍手を送りながら言ってくる。

 

「ボク達もこんな感じだったね」

 

「美羽は結構、緊張してたな? 名前呼ばれた時も声が上ずってたし」

 

「もう、言わないでよぉ………。ボクにとっては恥ずかしい記憶なんだからね?」

 

俺にからかわれてプクッと頬を膨らませる美羽が―――――か わ ゆ い。

 

新入生を見ながらアーシアが言った。

 

「私は転入という形だったのですが、やっぱり緊張するものなのですか?」

 

「まぁ、人によるかな? 来年になったら分かるよ。アーシアも大学部に進学するんだし。………アーシアは美羽と同じ反応しそうだけど。名前呼ばれた時に噛みそうだ」

 

「はぅ! ちゃんと返事が出来るように今から練習しておきますぅ!」

 

「いや、アーシアさん。それはやりすぎだと思うな………」

 

そんな会話をしていると、ルフェイとベンニーアの姿が見えた。

その瞬間、

 

「さて、この新型のビデオカメラの実力。見せてもらいましょうか」

 

などと言いながら、アーサーがビデオカメラを構える!

眼鏡の向こうから覗かせる瞳がキラリと光る!

 

それから、数秒後。

ついにサラちゃんが講堂に足を踏み入れて―――――。

 

「「「「来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」」」」

 

俺、美羽、父さん、母さんがテンション高めに、周囲の迷惑にならない程度に叫ぶ!

ガッツポーズで!

ビデオカメラとカメラを構えて!

緊張しているのか分からないけど、ほんのり頬を染めてるサラ!

あぁ、クソッ………可愛いなぁ!

そんな表情で歩かれたら、俺は………にぃには………!

 

「うぅぅぅ………グスッ。おめでとう、サラ………ほ、本当に………ズピッ」

 

「い、イッセー君。一旦、落ち着こう。回りの人、引いてるから、一旦落ち着こう? ね?」

 

レイナが宥めるように言って、ハンカチを手渡してくる。

ゴメン、ゴメンね、レイナちゃん。

でもね?

感動で涙が………! 

 

新入生の入場が終わり、会場の全員が着席する。

それを確認して、司会の先生がプログラムを進めていき、

 

『新入生、歓迎の言葉。生徒会長ゼノヴィア・クァルタさん、お願いします』

 

「はい」

 

ゼノヴィアが生徒会長として、新入生の前に立った。

緊張している様子はなく、堂々と登壇する姿は格好いいと思える。

ゼノヴィアは新入生を見渡すと、口を開いた。

 

「温かい春の日差しとともに夢が膨らむ今日、 新たな一歩を踏み出す新入生の皆さん、 ご入学おめでとうございます」

 

壇上に立ったゼノヴィアはあいさつから始まり、生徒会長としての祝いの言葉を述べていく。

 

「新しい環境、これから始まる高校生活に期待や不安、様々な思いがあると思います。慣れるまで少し時間もかかるでしょう。………ですが、これからこの学園で経験できることは、皆さんにとって、かけがえのないものになると思います」

 

ゼノヴィアはそこで一拍置くと、深く息を吐いた。

 

「すまない、色々と丁寧に話していたが、こういうことは本当の自分の言葉で伝えたい」

 

そう言うと笑顔で言葉を続けた。

それはいつものゼノヴィアの言葉で、

 

「――――――ここには今しか出来ないことがある。だから、全力で高校生活を楽しんでくれ。もちろん、楽しいことばかりじゃない。辛いこともあると思う。友達とケンカしたり、自分が嫌になって泣きたくなる時もあるかもしれない。でも、そんな時は一人で抱えないでくれ。そして、遠慮鳴く私達を頼ってほしい。君達の回りにいる人はいつだって、君達に手を差しのべてくれるんだ」

 

だから、

 

「これから始まる三年間を心から楽しんでほしい。これが、私が君達に送る言葉であり、願うことだ」

 

そう述べて生徒会長としての言葉を締めくくった。

 

今の言葉にはゼノヴィアがこの学園に来てから感じたこと、経験したことが乗せられているのだろう。

友達とケンカすることもあった。

先代を超えられるか不安になることもあった。

自分の限界を超えられなくて嫌になることもあった。

それでも、周囲にいる皆がゼノヴィアを支えてくれた。

だからこそ、今のゼノヴィアがあるんだ。

 

生徒会長からの歓迎の言葉が終わり、入学式は無事に終わりを迎えた。

 

 

 

 

入学式を終えて、再び合流した俺達は正門の前に集まっていた。

ここにはゼノヴィアの姿もあって、

 

「ゼノヴィアらしい挨拶だったな」

 

「さっき、先生に少し注意されてしまったけどね」

 

入学式の挨拶でいつもの言葉遣いはダメだったか。

 

「でも、俺は良かったと思うぞ? って、生徒会の仕事は良いのかよ?」

 

「集まって写真を撮るのだろう? 帰るのが少し遅くなりそうだったからね。先生に事情を話して、休憩時間を貰ったから問題ないよ。………それよりも、イッセーの父上殿と母上殿は凄まじいな」

 

ゼノヴィアが向けた視線の先では、入学式とかかれた看板の前にサラを立たせて、写真を撮りまくる父さんと母さんの姿。

更にはルフェイとベンニーアもサラの隣に並んだものだから、

 

「ええ、良いですよ、ルフェイ。ですが、もう少し斜めを向いてみてください」

 

高そうなカメラを構えるアーサー。

アーサーも撮影し出したので、シャッター音が余計に激しく………。

 

そうこうしている内に、リアス達も合流。

新入生と新旧オカルト研究部員が集まる形に。

となるとだ、当然、撮影者も増えたわけで―――――。

 

「「「「「皆、笑って! こっち向いて!」」」」」

 

父さん、母さん、サーゼクスさん、ジオティクスさん、バラキエルさん、アーサーがカメラをこちらへと向ける!

 

アリスが苦笑しながら言う。

 

「なんというか、凄い光景よね。魔王に堕天使の幹部に、聖王剣の使い手が勢揃いでカメラマンするって………」

 

「別にいいんじゃね?」

 

「それはあんたがあの人達と同類だから言えることでしょ」

 

それはそうかもしれない。

まぁ、それはそうと、

 

「よーし、皆! カウントするぞ! スリー、ツー………」

 

父さんがカウントを始めて、皆は一斉にブイサインをカメラに向け―――――。

 

「「「「ワン………ピース!」」」」

 

こうして駒王学園は桜の花が舞う中で新しい始まりを迎えた。

 




平和な日々(シスコン)(シリアル)のはじまりはじまり~


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3話 悪友との関係

休み明けの授業。

それは学生にとって、ハードなものであり、避けられないもの。

休みが長いとその反動なのか、始まった授業がいつもの数倍キツく感じてしまう………なんてことは、恐らく全国の学生のほとんどが感じていることだろう。

 

今の俺がまさにそれだった。

 

「サザエさんのエンディング聞くと、休みの終わりって感じするよね」

 

「それは分かるけど、俺が言いたいのはちょっと違うよ。あと、さらっと心の声を読まないでくれ、美羽」

 

春休みが終わった駒王学園はさっそく授業がスタート。

進学校でレベルの高いうちの授業は、とにかく進むのが早い上に内容が濃い。

特に三年生になると、大学進学に向けて一層難しくなっている。

 

微分? 

積分? 

ナニソレオイシイノ?

三角関数?

サイン、コサイン、タンジェント?

いつ使うんだよ?

………なんて考えてしまう俺は心が荒んでいるのかもしれない。

 

「お兄ちゃんは数学苦手だしね………」

 

「うん。我が妹よ、後でさっきのところ教えてくれ」

 

「アハハ………帰ったら、一緒に復習しよっか? 分からないところはボクが教えてあげるよ」

 

「うぅぅぅ………ゴメンね、こんなダメダメなお兄ちゃんで………」

 

俺、この学園に入学してからずっと美羽に教えてもらってて………!

勉強面に関しては美羽の足元にも及ばない!

お兄ちゃんとして、それはどうなんだ!?

妹にカッコ悪いところばかり見せてるけど、俺はそれで良いのか!?

 

ダメダメな自分にブルーになっていると、美羽は俺の頭を撫でて、微笑みながら言った。

 

「大丈夫。お兄ちゃんは全然ダメダメなんかじゃないし、カッコ悪いなんてことない。ううん、それどころか、ボクにとっては格好良い最高のお兄ちゃんだよ」

 

「美羽………おまえ………!」

 

う………うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!

妹が、我が愛しの妹が良い娘過ぎて辛い!

冷えきった俺の心を温かく包み込んでくれる!

 

「ありがとう、美羽………! 俺、頑張る!」

 

「うん! 一緒に頑張ろ!」

 

そんな会話をする俺達の状況を説明しておこう。

今、俺と美羽は高等部校舎のなんて中庭にあるベンチにいて、俺は美羽に膝枕をしてもらっている!

この太股の感触!

見上げると素晴らしいおっぱい!

そして、美羽の微笑み!

美羽の全てが俺を癒してくれているのだ!

 

そこへ―――――。

 

「「イッセー、貴様ぁぁぁぁぁぁ!」」

 

むっ、背後から奴らの気配が!

俺はすぐに立ち上がり、振り下ろされた拳を受け止め、流す。

流された拳―――――松田の拳は元浜の顔面へ、元浜の拳は松田の顔面へめり込んでいく。

互いの拳を受けた二人は鼻を抑えながら踞りながらも、俺に指差して叫んできた。

 

松田が怒り心頭の表情で言う。

 

「この裏切り者め! 美羽ちゃんとイチャイチャしやがって!」

 

今度は元浜が、鼻血と血涙を流しながら俺の襟首を掴んで叫んだ。

 

「そうだ! おまえだけにそんな甘いシチュエーションがあってたまるものか! このリア充め! 忘れたのか! 七夕の日は三人で『彼女が出来ますように』と願ったあの頃を!」

 

「いやー、そういえばそんなこともありましたな」

 

「ありましたな、じゃねぇよ!」

 

七夕の日は町の広場で開かれる七夕祭りに三人で行って、短冊に願いを書いたもんだ。

『彼女が出来ますように!』ってデカい文字で書いたのは遠い過去の記憶だ。

 

まぁ、俺もこいつら二人と合わせて学園ではエロ三人組で通ってる。

共にエロDVDを観賞もしたし、エロゲーもやった。

思春期の男子らしく、互いの性癖、エロスについて熱く語り合ったもんだ。

 

松田が興奮した様子で言う。

 

「しかも、上級悪魔ってのは一夫多妻が許されるんだろ? それはハーレムが作れるってことで………!」

 

「つまり、おまえは同居してるリアス先輩や朱乃先輩、アーシアちゃん達を………! クソッタレめ! 俺は認めんぞぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

アセムとの戦いの後、目が覚めた俺は一つの決心をしていた。

それは俺の正体をこの二人に話すことだ。

 

あの戦いでイグニスの真の力―――――エクセリアの力を使った俺は、一時的に世界の意思を受け止める器となった。

それは世界中の人達の想いを繋げて、俺自身の力にする。

もちろん、代償は大きかったわけだが。

 

あの虹の輝きで世界を繋いだ時、俺は松田と元浜の声を聞いたんだ。

つまり、二人に俺が戦っている時の声が聞こえたということ。

俺が眠っている間に、各勢力が人間界の混乱を避けるために、大規模な記憶改竄を行ったとのことだったが、二人には夢という形でその時の記憶が残っていたみたいだ。

それに前々から俺が二人に隠し事をしていたことに気づいていたようで………。

 

無論、そこは隠し続けることが出来たし、そうすることが正しいことなんだと思う。

それでもだ、二人が俺が話してくれるのを待つと言ってくれた以上、その想いに答えなきゃいけない。

美羽から見舞いに来た二人の言葉を聞かされた時、俺は強くそう思った。

 

だから、俺は二人に話した。

俺が異形―――――悪魔であることを。

この世界には様々な異形が存在すること、更には異世界についても。

もちろん、全てを話した訳じゃない。

あまり多くのことを語ると混乱するからだ。

 

俺が語った話をこいつらはただ黙って聞いてくれた。

そして、驚きはしていたものの、今はこうして普通に接してくれている。

 

「おまえらさ、本当に変わらないよな」

 

不意に俺はそう呟いてしまった。

受け入れてくれたのは嬉しいことなんだけど、今までと変わらない接し方なので、逆にこっちが驚かされる。

 

すると、元浜が眼鏡をくいっと上げて言った。

 

「美羽ちゃんにも聞いたが、イッセー。おまえ、おっぱい好きか?」

 

「当たり前だろ? おっぱいは命より重い………ッ!」

 

元浜の問いに拳を握り締めて返す俺。

 

俺がおっぱいに飽きるとでも思ったのか?

そんなことはあり得ん!

俺はおっぱいを愛し、おっぱいのために戦い続ける!

なにせ、俺はおっぱいドラゴンだからな!

 

俺の言葉を聞いて松田が吹き出しながら言った。

 

「じゃあ、結局は悪魔だろうが、何だろうが変わらないだろ。今度はほら」

 

松田が制服の懐を探り、あるものを取り出した。

それは一本のDVD。

そのDVDはもしや………!

 

「なん、だと………!? それは『真救世主伝説 乳王伝』じゃないか! 今はもうどこにも売ってない幻のDVDをどこで見つけたんだ!?」

 

「フッフッフッ、ちょっとしたツテでな。おっと、どこの誰とは教えられないな。提供元を教えない約束なんでな」

 

「ちくしょうめ!」

 

おのれ、松田め!

斜め四十五度のキメ顔なんかしやがって!

そんなツテがあるなんて聞いてないぞ、羨ましい!

 

松田がDVDを仕舞いながら言う。

 

「この反応見てたら悪魔とか言われてもなぁ」

 

「まぁ、悪魔の翼とかも見せてもらったし、美羽ちゃんの魔法も見せてもらったから信じちゃいるけどな。というか、中三の時の謎が解けたからしっくりきた」

 

あー、そういや、中三の夏休み明けに学校行ったら、俺の体格が変わってたから驚かれたっけ。

身長はやたら伸びてるし、筋肉ついてるし。

異世界のことを知ったから、その辺りも納得できたってことか。

 

元浜が言う。

 

「それに悪魔とか言っても、別に俺達を取って食おうって訳じゃないんだろ? むしろ、俺達を守ってくれるって言うなら怖がることじゃないじゃないか」

 

「そうそう。この間あったっていう戦いの話し聞かされたらさ、世界のために戦うヒーローって感じで格好いいと思うぞ」

 

うんうんと頷く二人。

 

「とにかく、イッセーはイッセーだろ」

 

「おっぱい大好き野郎のな」

 

………こいつらも桐生と同じこと言うんだな。

確かに驚きもしたし、自分達とは違う存在なんだってところも理解していると思う。

それでも、変わらない関係でいてくれる。

 

俺は改めて自分が幸せ者だと思う。

長い人生でもそうは巡り会えない悪友が二人もいたのだから。

 

俺はフッと小さく笑んで二人に言った。

 

「なぁ、今日帰りにカラオケでも行かないか?」

 

「予定はないから、別に良いけど………おまえ、悪魔の仕事があるんだろ?」

 

「あることはあるんだけどさ。この間、一段落したところだから、今日は時間があるんだ」

 

「なるほど。じゃあ、駅前のカラオケにするか。あそこ、新曲すぐに入れてくれるしな。確かクーポンが何枚かあったはず………」

 

財布の中を漁り始める元浜を置いて、松田が美羽に訊いた。

 

「美羽ちゃんも来れる? というか、来てくれ! 俺はイッセーよりも美羽ちゃんに来てほしい!」

 

「それは激しく同意だ!」

 

「てめぇら、そりゃどういう意味だぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「「そりゃあ、男よりも美少女の方が良いだろ!」」

 

それは分かる!

分かるけど、今のシーンでそれを言ってほしくなかったぞ!

 

俺達のやり取りに美羽が苦笑する。

 

「うん、それじゃあ、ボクも行こうかな。あっ、それなら、アーシアさん達も誘おうか。多分、時間あると思うし」

 

「なに!? まさかうちのクラスのアイドル達が集合するというのか!」

 

ちなみに、三年生になってからのクラスだが、俺、美羽、アリス、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナ、木場とオカルト研究部の三年生が同じクラスに集まったことになる。

で、クラスのアイドルというのは、このメンバーから俺と木場を抜いた女性陣のこと。

 

目を見開く松田の言葉に美羽が頷く。

 

「うん、木場君も誘おうと思うけど」

 

「あー、木場はいいかな。イケメンは敵だ」

 

「そうなると、やっぱりイッセーもハブるか」

 

「なんでだよ!?」

 

提案者ハブるってどういうこと!?

流石に酷くない!?

 

すると、元浜が再び血涙を流して言ってきた。

 

「イッセー、おまえが悪魔で、俺達と違う存在になっても俺達は構わない。だがな! やっぱり、ハーレムが作れるという点は許せんのだぁぁぁぁぁぁ!」

 

「元浜の言う通りだ! 上級悪魔羨ましい過ぎるわ! 俺もなりたい!」

 

「いやいやいや、上級悪魔も結構大変だからね? 俺、何度も死にかけた………というか、一回死んだことあるからね? この間の戦いでも死にかけて、右腕無くなったし」

 

上級悪魔はハーレムOK。

ここだけ切り取れば羨ましく思えるだろう。

でも、権利を与えられる分、色々な義務が生じてきてだな………。

特に俺はチーム『D×D』のメンバーだから戦いに赴くことが多いし、その殆どが死線。

まだまだ新米の上級悪魔だけど、こいつらに言えることがあるとすれば、

 

「ハーレム作りたいなら、物理的に死ぬ覚悟がいるぞ」

 

そう言うと二人は顔を青くして、

 

「うん、やっぱやめとくわ」

 

「流石に手足がもげる覚悟は持てない」

 

こうして、二人は上級悪魔に対する憧れを捨てたのだった。

 

 

 

 

それから、数分後のこと。

何気ない話を四人でしていると、ふいに元浜が美羽に訊ねた。

 

「ところで、美羽ちゃん。最近、噂で『兵藤兄妹は毎晩合体してる』っていうのがあるんだけど、本当?」

 

「そうなの!? ボク達、そんな毎晩なんてしてないよ!? ………あっ」

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

 

凍りつく空気。

俺に集まる二人の憎しみと悲しみが籠められた視線。

そう、この時、俺は今まで築いてきた関係が一瞬で崩れ去る音が聞こえたのだ。

どんなに弁明したとしても許せないものがそこにはある。

触れてはいけない領域、俺は二人のそれに触れてしまったのだ。

ドラゴンよりも恐ろしい童貞の逆鱗に―――――。

 

…………オワッタ。

 

「「イッセェェェェェェェェェェェッ! 貴様ァァァァァァァァァァァッ!」」

 

この直後、どんな悪鬼よりも恐ろしい顔をした悪友達が飛びかかってきた。

更に―――――。

 

 

イッセー撲滅委員会が俺を襲撃してきたのだった。

 

 

 



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4話 新しい嗜好

今回もほのぼのと


入学式から数日が経った日のこと。

 

「今日の授業はここまでです。お家に帰ったらしっかり復習してください。ここ、テストで出しますからね? それから、皆さん、ちゃんと将来のことは考えないとダメですよ? 今のうちから、自分がやりたいことを深く考えて、それに向けて勉強しましょうね」

 

今日の授業範囲を終えたロセが教室を見渡して、そう言った。

そこでちょうとチャイムが鳴り、今から昼休みとなる。

 

教室を離れ、屋上に場所を移した俺達はそこで弁当を広げていると、

 

「将来のことかぁ」

 

美羽が春の空を見上げながらそう呟いた。

 

ロセの言っていた将来のことというのは、大学卒業後の進路のことだ。

俺は既に上級悪魔に昇格した身だ。

近い将来、グレモリーの領地を任されることになると思うから、それに向けて勉強しておこうとは考えている。

だけど、余裕が出来たら、他のことに取り組んでみるのもありだろう。

悪魔の生は長い。

まぁ、俺の場合は先の戦いで相当生命力を使ってしまったため、ちょっと問題があるのだが………それでも、治療を続けて回復すれば、人間よりも遥かに長く生きることになる。

アザゼル先生なんて、趣味で釣りに時間を費やしていたこともあったらしいし、最近では自分で蕎麦の店を出そうか、なんてことも言っていた。

俺の趣味の一つにプラモデル製作があるし、いっそのこと冥界にプラモデル屋でも出してみるか?

冥界は元々、娯楽が少ない。

プラモデルなら安い趣味だし、凝ったらとことんまで作り込める。

案外、流行るんじゃないだろうか。

 

そんなことを考えながら俺は美羽に訊ねてみる。

 

「美羽は何かやりたいことあるのか? あ、俺の手伝いとかは別にして」

 

俺の質問に美羽は頬に手を当てて、うーんと考え込む。

 

「マンガ家さん………かな?」

 

「マンガ家?」

 

「うん。ボクがこっちに来てから、日本のマンガには感動させられたからね。読むのはもちろん好きだけど、今度は自分で書いて誰かに読んでもらうのもありかなって」

 

なるほど………。

こっちの世界に来てから、美羽は日本のマンガにハマった。

最初は俺から借りて読んでいたのが、今ではちょっとした本屋を開けるくらいの本が、美羽の部屋にはある。

それを将来は読む側から書く側になりたいのか。

 

「そういや、たまにマンガの絵を模写してたりしてたな」

 

「ボクって、特に絵のセンスがあるわけじゃないからね。ああやって、上手い人の絵を見て練習してるんだ。いつかはオリジナルのキャラクターとか書いてみたいけど………まだまだかなぁ」

 

「ハハハ、時間はたっぷりあるんだ。焦る必要もないさ。美羽なら実現できそうだし、俺も応援するよ」

 

こっちに来たばかりの時は電化製品が全然ダメだったのに、今じゃ料理、洗濯、掃除と家事全般をこなせるまでになったんだ。

唐揚げも絶品だしな。

美羽なら他のことでも成し遂げられると思う。

 

今度は隣に座るアリスが指をモジモジさせながら、恥ずかしそうに言った。

 

「私はその………小料理屋とか………良いかなって」

 

アリスが小料理屋!

マジでか!

 

「イッセーのお母さまに料理習っている内に自分でも楽しくなってきて………。それに誰かに美味しいって言ってもらえるのが嬉しいから………」

 

顔を赤くしながら、段々小声になっていくが………。

そっかそっか、そういう風に考えてたのね。

昔は城のキッチンでボヤ騒ぎを起こして、ワルキュリアから追い出されたあのお転婆姫が………。

 

「なんで泣いてるのよ?」

 

「いや、なんかこう可愛い夢だなって。昔を知ってるだけに感動で涙が」

 

「ふ、ふんだ。笑いたきゃ笑えば良いじゃない」

 

「笑わないよ。アリスの料理の腕も上達してきてるのは知ってるし、アリスの作った肉じゃが、俺は好きだぞ?」

 

俺がそう言うとアリスの顔がパァっと明るくなって、

 

「うん、ありがと………。また作ってあげる」

 

ぐっ………そんな可愛い表情見せられたら、色々と抑えきれなくなっちゃうだろうが!

抱き締めたくなるだろ!?

つーか、抱き締めて良いですか!?

 

しかし、アリスが小料理屋か。

和服着て料理するところなんて、様になってて綺麗なんだろうなぁ。

お酒とか注いでもらったりすると、グッとくるのかもしれない。

 

「僕もやってみたいことはあるかな。そのためにはリアス姉さんの仕事を手伝いつつ、資金を蓄えようと思ってる」

 

そう言ってきたのは、俺と美羽よりも少し遅れて屋上に来た木場だった。

実は三年生に進級後、この高等部校舎の屋上は、俺達オカ研メンバー三年生の昼食の場になっていたりする。

木場に続いて、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイナとオカ研メンバーが俺の回りに集まり、弁当を開いてく。

 

「資金? 何かやるのか?」

 

俺の問いに木場は両手でジェスチャーをした。

ボウルの中の何かを泡立て器で、かき混ぜる仕草だ。

 

「駒王町にケーキ屋を建てるのもいいかなって。そのためには資金を貯めないとね」

 

ケーキ屋か!

木場がケーキ屋の主人………イケメン店主!

えぇい、女の子がますますキャーキャー言いそうだ!

というか、こいつのケーキって絶品なんだよなぁ。

特にチーズケーキが最高だったりする。

まぁ、木場も料理全般出来るから、他にも色々やれそうだな。

 

今度はゼノヴィアが言う。

 

「私は………何かを教える仕事に就きたいな」

 

ほほぅ、そうきましたか。

意外な答え………のように見えて、そうでもないのかな?

生徒会長目指してからは勉強も頑張っていたし。

 

「進学を目指す生徒のために、塾を人間界や冥界に作るのもありかなと思ってる。まぁ、まだ具体的な案はないんだけどね」

 

ゼノヴィアが塾を建てる!

驚きの野望だが、これまでのゼノヴィアを見ていると、そういう考えにもなるのだろうと思えてくる。

 

四人の将来の話を聞いて、イリナは難しそうに首を捻っていた。

 

「案外、私の回りの同級生って、将来のことを考えているのよね」

 

「イリナさんはどうするの? やっぱり、天界関連?」

 

レイナが訊ねる。

レイナはグリゴリの役職に就くんだろうな。

今も色々と職務をこなしているみたいだし。

その例で考えるとイリナも天界、教会関連の仕事に就きそうなイメージだが………。

 

「駒王学園の大学部には行くけど、その先は教会関連のところに携わるか、それ以外かで迷っているかなーってところね。ミカエル様からは非常時の招集に駆けつければ大丈夫って言われているの。だからと言う訳じゃないけど………その」

 

イリナは先程のアリスのように恥ずかしそうに続けた。

 

「将来、パン屋さんとか良いかなって………」

 

イリナはパン屋ときましたか!

ホームベーカリーを大切にしていたけど、今度は本格的に作りたくなったのか!

 

ゼノヴィアが続く。

 

「イリナの進路希望調査の紙に、そう書いているところを見て驚いたぞ。本気的な店を目指すんだろう?」

 

「ええ。実は最近勉強しているの。リアスさんや朱乃さんに習っているのよ。………食卓に出すのはもう少し待っていてね?」

 

兵藤家にはパンを焼くプロ仕様のオーブンが備えられていたりする。

リアスと朱乃もパンを作れるから、イリナは二人に習っているようだ。

ちなみに、屋上にはピザを焼く釜まで作られて………今更ながら何でもありだな、現兵藤家。

 

ゼノヴィアはイタズラな笑みを見せて、こうも述べる。

 

「ちなみにイリナの第二希望はお嫁さんだったな。すぐに消ゴムで消していたが」

 

「ちょ、ちょっとゼノヴィア!? バ、バラさないでよ!」

 

イリナが慌ててゼノヴィアの顔を抑えるが、

 

「大丈夫だ、イリナ。イリナは俺が嫁にもらう!」

 

俺は親指を立ててそう言った!

そうさ、イリナも俺の嫁なのだ!

誰にも渡さんよ!

 

すると、途端にイリナの顔は真っ赤になって、

 

「イ、イッセー君………そんなに見つめられると、私………堕ちちゃうぅぅぅぅ!」

 

「なんでだよ!? なんで、このタイミングで翼を白黒させてるの!?」

 

「だ、だって………色々思い出しちゃって………」

 

おいおいおいおい!

やっぱ、あの子作り部屋は、使った時よりも使った後の方が問題あるぞ!

思い出して堕天しかけるってどんだけ!?

 

すると、ゼノヴィアが肩をすくめながら、

 

「流石はイリナだ。『性欲のエロ天使』と呼ばれるたけのことはある」

 

「どんな二つ名よ!? せっかく、リーシャさんが『聖翼の清天使』って、格好良くて私にピッタリの二つ名を考えてくれたんだから、変に改造しないで!」

 

聖翼の清天使―――――。

オートクレールの力を纏い、触れるもの全てを浄化するイリナの新形態とも言えるものだけど………ゴメン、イリナ。

俺、『性欲のエロ天使』でもあながち間違ってないと思っちゃったよ。

だって、イリナって結構エロ思考してるんだもの。

よくここまで堕天せずにやってこれたもんだ。

 

「イッセーさん、あーんしてください」

 

アーシアが弁当から、タコさんウインナーを箸でつまんで食べさせてくれる。

以前に右腕が使えなくなった時もそうだったけど、今回もまたアーシアや美羽の世話になっていたりする。

美少女からのあーんは嬉しいし、最高だ!

だけど、やっぱり不便なものは不便で………。

 

木場が訊ねてくる。

 

「義手はまだ出来ないのかい?」

 

「ああ。アザゼル先生も作ってくれているみたいだけど、まだまだ忙しいみたいだしな」

 

失われた俺の右腕は、冥界の医療技術を用いて完全に再生される予定なのだが、単に右腕を生やすだけならともかく、ある程度、失う前の状態の腕を作るには少し時間がかかるという。

それまでは義手で過ごすことになっていて、その義手はアザゼル先生が作ってくれているようだが、まだ完成の報告は届いていない。

 

で、今は骨折した時に使うギプスをはめて、周囲からは右腕があると認識されるようにしている。

右腕がないのに、ある時、急に生えてきたら事情を知らない一般人は驚くからな。

というわけで、ギプスで偽装を施しつつ、周囲には右腕を骨折したと伝えてある。

 

おにぎりを食べながらレイナが言う。

 

「ごめんね、イッセー君。うちも人手不足だから、そっちに人を回せなくて………。アザゼル様も、戦後処理以外にも色々と動いてるから、あまり時間が取れないの。でも、そろそろ完成するようなことは言ってたわ。数日中には連絡があるんじゃないかな?」

 

おお、マジですか!

義手とはいえ、やっと右腕が使えるようになるのか。

いやー、それは本当に助かる。

着替えも一人じゃ時間がかかるから、手伝ってもらってる状態だしね。

 

その情報に美羽がボソリと呟いた。

 

「そっか。それじゃあ、ボクもお兄ちゃんの着替えを手伝うことはもう出来ないんだね」

 

「美羽? なぜに残念そうにしてるの?」

 

「な、なんというか、お兄ちゃんの着替えを手伝うの、結構楽しくて。『ばんざーい』とか言いながらお兄ちゃんに服を着せていくのがね。それに、お兄ちゃんの体が………。あっ、なんだか色々と思い出してきちゃった………」

 

「なにを!?」

 

なんで顔を赤くしてるの!?

俺の着替えに何を思い出してるの!?

 

ゼノヴィアがうんうんと頷きながら言う。

 

「美羽の気持ちは分かるぞ。イッセーは良い筋肉のつき方をしているからな。細すぎず、だが、太過ぎでもない。ちょうど良い筋肉の加減が最高だ!」

 

ゼノヴィア、おまえ、筋肉フェチだったのか!

なに、おまえも興奮気味に語ってるんだよ!?

 

そこへ―――――。

 

「僕もイッセー君の体は理想的だと思うな」

 

「木場ぁぁぁぁぁぁぁぁ! そのホモホモしい発言は止めろと言ってるだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

おまえのその発言が学園の腐女子共を刺激してるんだよ!

 

「特に胸から腕にかけての筋肉の流れが―――――」

 

「わざとか!? おまえ、わざとやってるのか!? いい加減にしないと、アグニ撃っちゃうぞ!?」

 

もうヤダ、このイケメン男子!

なんでちょっと頬紅くなってるんだよ!

ぶっ飛ばすぞ!?

 

ぜーはーと息を荒くする俺はアーシアが入れてくれたお茶を飲み干して、深く息を吐いた。

 

「俺の体はそういう風に作られてるんだよ。瞬発力と持久力を兼ね備えた筋肉がつくようにな。師匠が武術の神だけあって、そのあたりは徹底されたよ」

 

うちの師匠は滅茶苦茶な修行内容だったが、そのあたりはキッチリとしていた。

細くしなやかで柔軟性を持ち、かつパワーを引き出せるように、効率的な肉体作りをさせられたもんだ。

普段はただのスケベ爺さんだが、そういう点は流石に武術の神様だけはある。

 

ゼノヴィアがふむと頷く。

 

「なるほど。それでサイラオーグ・バアルよりも細身でありながら、同等以上のパワーを生身で出せるわけか………じゅるり」

 

「今、じゅるりって言った? じゅるりって言ったよね?」

 

「………ゴクリ」

 

「レイナちゃん、今ゴクリって言った? ゴクリって言ったよね?」 

 

「どうしよう。私、堕ちる! 堕ちちゃうぅぅぅぅ!」

 

「なんで、堕天しそうになってるの!? 君達、新しい嗜好に目覚めた!? 目覚めたの!?」

 

「「「「ゴクリ」」」」

 

「なんで全員で喉鳴らしてんだぁぁぁぁぁぁぁ!? 木場、おまえはマジでぶっ飛ばすぞ!?」

 

この時、俺は皆がちょっと怖く見えた。

 

 




ほのぼのとシリアル!


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5話 新生オカルト研究部!

放課後、俺達はオカ研の部室に集まり、部活動に入る………のだが、今日はいつも通りというわけじゃなかった。

四月に入り、まず行われる恒例行事、それは―――――新入部員の勧誘だ。

新年度に入ると、どこの部活もすぐに新入生を取り込もうと、あの手この手で誘いをかけ始める。

敷地のあちこちでは、今も立て札をもった二年生、三年生がアピールをしていたりする。

野球部やサッカー部などの運動部から、吹奏楽部や将棋同好会のような文化部まで、多くの部活動が存在するこの駒王学園では、毎年この時期は勧誘で賑わっている。

………で、たまに熱くなりすぎた部員達の間でいざこざがあったりするのだが、

 

「去年はソーナが見事に説得していたけど、今年はゼノヴィアだからな。どうなることやら」

 

「アハハ………」

 

生徒会に所属しているメンバーは見回りを強化し、生徒達の仲介役になるのがこの時期の主な仕事だったりする。

去年はソーナが理論立てて、生徒達を説得、納得させていたが、今年はゼノヴィアだ。

確かにゼノヴィアは仕事熱心だし、この学園のことが好きであることには間違いない………けど、あいつの場合は拳で語り合わそうとするからなぁ。

以前もそんなことがあって、匙が泣きついてきたことがあったんだよ。

今回はそうならなきゃ良いけど………。

 

それは置いておいて、オカルト研究部について話を戻そう。

俺達も当然、新入部員を募っている。

しかし、悪魔、天使、堕天使と異形の存在、裏の世界に関わる者が集うこの場所に、一般の学生を参加させるわけにはいかない。

まぁ、本音を言えば、いつかそんな日が………という夢はあるが、それはまだ先になりそうだしな。

それで、今年度の新入部員として我らがオカルト研究部に入部したのは―――――。

 

「こちらが今年度から私達と一緒に部活をすることになった三人です。皆さん、仲良くしてあげてください」

 

アーシア部長の紹介を受けて、ペコリと頭を下げる三人の女生徒達。

 

「ルフェイ・ペンドラゴンです。よろしくお願いします」

 

《ベンニーアと申やす。改めてよろしくお願いしやすぜ》

 

「兵藤サラです。よろしく………お願いします」

 

三人の自己紹介に俺達先輩部員が拍手を送る。

いやー、三人とも制服が似合っていて、まさにピカピカの一年生って感じだな!

こうして新しい後輩が出来たということは、とても嬉しいことだけど、先輩として頼られるようにしっかりしなきゃだ。

特にギャスパーなんて、滅茶苦茶気合いを入れているようで、

 

「僕にも後輩が………。頼れる先輩になれるよう頑張りますぅ!」

 

「ギャー君、すごい汗かいてる」

 

二年生になったギャスパーは、自分にも初の後輩ができたとのことで、先輩らしく振る舞えるか緊張していた。

人前に出ても逃げなくなったし、戦っている時なんて、俺を真似て拳で殴りあってるんだ。

初めは戸惑うかもしれないけど、ギャスパーだって、先輩らしくなれるさ!

………多分!

 

「イッセー先輩! 多分とか言わないでくださいよぉ! 僕だって先輩なんですから!」

 

「おまえも本格的に、俺の心を読む術を身につけやがったのか」

 

なんなんだよ、どいつもこいつも俺の心ばっかり読みやがって!

そんなに分かりやすいのか、普段の俺は!?

俺のプライベートは!?

 

「「「「ないない」」」」

 

「なんで、ハモってんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

泣くぞ!

割りとマジで!

まぁ、もう毎度のことだけどさ!

 

とにかく、ギャスパーは先輩らしく見えるよう頑張れや!

とりあえず、そろそろ男の娘は卒業しても良いんじゃないだろうか!

 

俺がツッコミをする中、アーシアが続ける。

 

「それから、中等部からトスカさん。初等部からは九重さんが放課後に遊びに来ることになりました」

 

ルフェイ達に続いて紹介されたのは、中等部の制服姿のトスカさんと、初等部の制服姿の九重だ。

流石に部員としてではないが、それぞれ、授業が終わった後にこの部室に遊びに来ることになっている。

 

九重は前々からこの学園に通いたいという申し出があったので、リアスの手配もあり、無事に初等部に通えることになったんだ。

今は通学の都合もあって、兵藤家にホームステイしている。

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

緊張気味に挨拶するトスカさんに続き、九重が元気よく言う。

 

「よろしく頼むのじゃ! イッセー、高等部の敷地は広いのぅ! 私も早く大きくなりたいのじゃ!」

 

ハハハ、九重が高等部に通うまではもう少し時間かかるかな?

しかし、高校生の九重か………。

きっと、八坂さんに似て、おっぱいが大きく育つに違いない!

うーむ、そうなると九重の成長が待ち遠しいな!

 

『いっそのこと、八坂ちゃんを押し倒してみるのもありじゃないかしら?』

 

イグニスさんや、流石にそれは九重に怒られるんじゃないだろうか?

つーか、京都の妖怪達を束ねる九尾の御大将に下手なことしたら、色んな人から怒られそうな気がするんですけど。

 

『大丈夫じゃないの? というか、私が色々と妄想しちゃってて我慢できないのよ。八坂ちゃんを喘がせたい………!』

 

この駄女神、とんでもないこと言ったよ!

娘さんも目の前にいるんだぞ!?

確かにあのおっぱいは生で拝んでみたいけど!

 

俺の横では、トスカさんが木場に話をしていて、

 

「イザイヤ、後で漢字を教えてほしいのだけど、良い?」

 

「それじゃあ、後で一緒に勉強しようか、トスカ」

 

トスカさんも木場と同じように普通に学校に通いたいとのことで、こちらもリアスの手配もあり、中等部への転入が決まった。

教会育ちの彼女には新鮮で、分からないことも多いだろうけど、そこは皆でサポートしていけば良いさ。

同じ教会育ちのメンバーだって、そうやって今に至るのだから。

 

というか、木場!

おまえは特にトスカさんを支えてやれ!

そんでもって、金輪際ホモホモしい発言をするんじゃないぞ!

お願いだから!

 

新入部員と部室に遊びに来ることになった二人の紹介が終わると、部室の奥からレイヴェルがティーカートを押しながら姿を見せる。

ティーカートの上にはケーキと人数分の紅茶が用意されていて、

 

「アーシアさんに頼まれて、ケーキを焼きましたの。紹介も終わったことですし、これから歓迎会といきましょう」

 

おおっ、レイヴェル手作りのケーキか!

レイヴェルのケーキも美味いんだよな!

 

アーシアが微笑みながら言う。

 

「私がオカルト研究部に入部した時を思い出します。あの時もこうやって、リアスお姉様がケーキを焼いてくださいました」

 

そういや、アーシアが来たときもリアスが手作りケーキを用意してくれて、歓迎会をやったっけか。

あの時は歓迎される側だったアーシアが、今ではオカ研を率いる部長だもんな。

こうして改めて見ると、アーシアが凄く逞しくなったように見えてだな………。

 

「イッセーさん? どうしたのですか?」

 

じっと見つめる俺を怪訝に思ったのか、アーシアが首を傾げながら訊いてくる。

そんなアーシアの頭をポンポンと撫でながら俺は、

 

「アーシア、立派になったな………グスッ」

 

ちょっと感動して、涙が出てきた。

 

「あんたはお父さんか」

 

すかさずアリスのツッコミが飛んできたのは、良い流れとも言えよう。

 

木場も苦笑しながら言う。

 

「まぁ、イッセー君は僕達よりも年上だからね」

 

「改めて考えると二十歳の高校生って凄いわよね。イッセー君、今年で二十一になるけど」

 

木場とイリナの言葉が俺の心を抉っていく! 

地味に気にしてるんだから、そういうこと言わないでくれませんかね!?

 

「ああ、そうだよ! 俺は今年で二十一歳の高校三年生だよ、馬鹿野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 

ダァンッと床に拳を叩きつける俺!

泣きながら!

 

でもね、仕方ないじゃん!

異世界での三年がこっちの世界じゃ一瞬だったんだもん!

どうすることも出来ないじゃん!

こんな俺でもね、戸籍上はまだ十代なんだよぉぉぉぉぉぉ!

 

床に突っ伏して泣く俺の肩に、アリスが手を置いて微笑みを見せる。

 

「でも、新入生見たときに『若いなぁ』って思ったでしょ?」

 

「それな!」

 

中学を卒業し、高校生になった新入生を見て、俺とアリスは感じてしまったんだ。

―――――二十代と十代の違いというものを。

俺にもあんな時期があった、俺もあんな風に初々しい時期があったと感じてしまった途端に思い知らされる。

時の残酷さを、俺達はあの頃には戻れないということを………!

 

私達(二十代)はきっと彼女達(十代)とは別の存在なのよ。もっと色々やっておけば良かったなぁ………グスッ」

 

「諦めよう、アリス。俺達はもう………グスッ」

 

「いやいや、二人とも大袈裟すぎるよ。というより、まだ若いんですから、そういうこと言う歳じゃ………」

 

「「君も………いつか私と同じ絶望に突き当たることになる!」」

 

「どんな絶望!? それほどのことなのかい!?」

 

新生オカルト研究部でも、木場のツッコミは冴えていた。

 

 

 

 

歓迎会で盛り上がる最中、俺はあることに気づいた。

それはサラの表情に少し曇りがあるということ。

今は美羽と話していて、いつも通りのように見えるが、時折、暗い表情を見せていた。

アーシア達と話すときも変わりはないので、ここの居心地が悪い、というわけじゃなさそうだが………。

 

気になった俺は隣に座るルフェイに訊ねてみた。

 

「なぁ、ルフェイ。サラってさ、クラスで何かあったのか?」

 

俺の問いにルフェイは少し困り顔で話してくれた。

 

「ディルムッドさん―――――サラさん、実はクラスに馴染めてなくて………。他の方から嫌われているという訳じゃないんです。サラさんと話したいという方はいるのですが、サラさんの雰囲気が近寄りにくいらしくて………」

 

最後の言葉に俺は「ああ、なるほど」と納得してしまった。

サラはかつて自身に起きた出来事から、周囲との関わりを極力絶ってきた。

今は俺や美羽、家に住むメンバーには心を開いてくれていて、以前と比べると良く話すようになっているが、それ以外ではそうでなかったりする。

例えば『D×D』メンバーにしても、サラ個人があまり付き合いのないメンバーとは、かなり短い言葉で会話を終了させてしまっている時がある。

更に言えば、サラの方から話しかけることはほとんどない。

それは別に嫌っているとか、話したくないとか、そういうことじゃないんだ。

 

「サラ自身が周りとどう接すれば良いのか分からないってことか」

 

「そうみたいです。今まで、誰とも深く関わろうとしなかった方ですから………クラスメイトに話しかけられると、どう返したら良いのか分からずに、緊張してしまっているようでして」

 

その緊張した状態が話しかけにくい空気を作ってしまい、結果、クラスに馴染めずにいると。

いやはや、参ったね。

美羽が中学に入った時も緊張はしていたが、そういうことはなかったからなぁ。

サラの生い立ちがここに来て、大きな障害になってしまったということか。

特に一般人と話す時は何を話したら良いのか、話題が見つからなくて困っているというのもあるのだろう。

 

ここはお兄ちゃんとして一肌脱いでやらねば………!

と言っても、どうしたものかね?

アドバイスをしたとしても、余計に緊張して状況が悪化する、なんてこともあり得る。

サポートをするならば、自然な流れで会話を持っていく方が良い………はず。

だけど、俺とサラでは学年も違うのでサポートしにくいってのもあるんだよ。

となるとだ………。

 

「ルフェイ、サラのことサポートしてやってくれないか? 多分、ルフェイと一緒なら、クラスの子とも話しやすいと思うんだ」

 

ルフェイは愛嬌もあるし、とても話しやすい性格だ。

今だって、もうクラスにも馴染んでいるみたいだしな。

それなら、ルフェイが仲介役を担ってくれれば、サラも話しやすくなるんじゃないかな?

 

俺のお願いにルフェイは微笑みながら頷いてくれた。

 

「はい、お任せください。私で良ければいつでも力になりますから」

 

 




イッセー「『サラちゃん、友達百人出来るかな?』計画を発動する! 美羽軍曹よ、準備は良いか!」

美羽「大丈夫であります、お兄ちゃん隊長! サラちゃんのためなら、ボクは脱ぐよ!」

イッセー「『一肌』が抜けてるぞ、美羽軍曹!?」

美羽「あっ………はぅぅ」



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6話 赤龍帝眷属の平和な一日

活動報告でサラちゃんのイラスト(鉛筆書き)を載せてみました。


部活が終わり、夜になると俺達の仕事が始まる。

そう、悪魔としての仕事だ。

兵藤家から徒歩二十分ほどのところにある学習塾、その地下に設けられた『兵藤一誠眷属事務所』に俺達赤龍帝眷属は集まり、その日の仕事に取り掛かる予定になっている。

 

上級悪魔に昇格した今でも、俺はリアスの『兵士』なのだが、緊急の案件やよっぽど大きな問題が起こらない限りは別行動だ。

なので、部活終了後には俺を含めた赤龍帝眷属メンバーと、大学部に進学したリアスと朱乃の二人が入れ替わりに部室に入るという風になっている。

 

エレベーターで地下に降り、事務所の扉の前に立った俺は扉を開ける。

すると事務所には既に数名がいて、

 

「おー、お疲れさん。今日の学校はどうだった?」

 

冥界の新聞を広げ、煎餅をかじるモーリスのおっさん。

 

「あら、お帰りなさい。こちらで進められる分については、ある程度終わらせてありますよ、イッセー」

 

ソファに座り、紅茶を飲むリーシャ。

机には全面揃えられたルービックキューブが置かれていて………さっきまでやってたのかな?

 

「イッセー様、皆様。今日も学業に励まれたようで。今、皆様のお茶を淹れますね」

 

キッチンにてお茶の準備に取り掛かるメイド服姿のワルキュリア。

 

「待ってたよ、お兄さん。お帰りなさい♪」

 

そう言って、抱きついてくるのはニーナ!

くぅぅぅ………おっぱいがこれでもかと押し付けられてくる!

この柔らかな感触!

長い髪から漂ってくる良い香り!

これだけでも、疲れが吹き飛ぶし、悪魔の仕事へのやる気も出てくるってもんだ!

でもね、ニーナちゃんはそれだけでは終わらない。

ニーナちゃんは抱きつくと同時に、ほっぺにお帰りのチューをしてくれるのだ!

もうね、言葉を失うくらいに幸せだよ!

お兄さん、色々とはち切れそう!

 

「おう、ただいま。………相変わらずくつろいでるなぁ、皆」

 

事務所の中を見渡して苦笑する俺。

 

俺の眷属はほとんどが異世界アスト・アーデの住人だったのだが、俺が頼み込んだ結果、こうしてこちらの世界に来て、赤龍帝眷属の一員になってくれている。

でだ、こちらの世界には向こうの世界には無いものがたくさんあるためか、見るもの聞くもの全てに興味津々で………。

モーリスのおっさんに至ってはテレビゲームにハマり始める程だ。

この間も小猫ちゃんとゲームしてたけど、端から見てると孫娘と遊ぶお爺ちゃんって感じだった。

 

「おっさんは今日、何してたんだ?」

 

「俺か? 俺は喫茶店でご近所のマダム達とのんびりお喋りしてたさ。あとは本屋行ったり、親父狩り狩りしたり」

 

「ちょっと待って。今、親父狩り狩りって言った?」

 

「言った。良く分からんが、おまえ達くらいのガキが、中年のおっさん相手にかつあげしててな。まとめて拳骨してやったのさ。他にもそういう連中がいるって言うんで、ガキ共が集まる場所に行って、全員しばいてきた。下らんことをする奴ってのはどこの世界にもいるもんだねぇ」

 

そう言って湯呑みに口をつけるおっさん。

 

それ………手加減したよね?

おっさんが本気出すと、ほとんどの相手が死ぬからね?

木場なんて修行で精神崩壊しかけたし。

つーか、なんなんだよ、『親父狩り狩り』って!?

親父狩りを逆にハントすると!?

聞いたことねーよ、そんな単語!

 

ま、まぁ、人助けしてるし、しばかれたのもそいつらの自業自得みたいなところはあるし。

おっさんも素人相手の加減くらい分かってるだろうしね。

 

すると、ワルキュリアが言った。

 

「最終的には全員を縄で縛り上げて、警察というところに放置してきました。『私達は親父狩り犯です』という張り紙付きで。皆さん、最初は泣き叫んでましたが、警察署の前に着いた途端、安堵の表情を浮かべていましたね」

 

「うぉい!? 警察署に連れていかれて安心するって何した!? ひょっとして拷問とかした!? つーか、ワルキュリアも一緒にいたのかよ!?」

 

「いえ、私は偶々、モーリス様と出会しまして。元々は公園で幼女の観察………もとい、公園の警備に当たっていました」

 

「それは警備していたの!? 逆に職質されそうなんですけど!?」

 

「どこの世界でも幼女は素晴らしいですね。あの無垢な瞳、白い肌。穢れを知らない存在………そう、幼女とは純粋を体現した存在と言っても過言ではなく………じゅるり」

 

「お巡りさーん! ここに不審者がいますぅぅぅぅぅぅ!」

 

一見、真面目な性格のワルキュリアだが、一つ大きな欠点がある。

それは重度のロリコンというところだ。

向こうの世界でも暇な日は、一日公園で幼女の観察をしていた。

ベンチに座って幼女を見守る、それだけ。

フリーの日には、朝から夕方までそれだけで過ごしていたこともある。

 

ワルキュリアが汚物を見るような目で俺に言う。

 

「イッセー様には言われたくありませんね。城にいた頃、メイド達の着替えを覗いて、何回アリス様に黒焦げにされていたことか。このド変態」

 

「そうだね! 俺も人のこと言えないね!」

 

確かにメイドさん達の着替えを覗いたこともあったね!

城の人達はその手のことに寛容だったから、ついつい欲望に身を任せてしまいました!

その結果、アリスから鉄拳制裁をくらったのは懐かし………そうでもないや。

今もたまに鉄拳制裁されてるし。

 

「そ、それはあんたが戦場のど真ん中で私の胸を………その………吸ったりしてくるから」

 

モジモジしながら、ボソボソと言うアリス。

 

禁手に至った時もアリスの乳首をつついたし、こっちの世界に来てからはT・O・S(ツイン・おっぱい・システム)だの『乳の宴』だので、戦場の真ん中でおっぱいを吸うことになったし………。

普通に考えたら、殴られてもおかしくないことしてるわ。

それでも吸わせてくれたアリスに感謝してるよ!

 

「お姉ちゃんはツンデレデレだもんね」

 

「デレ一個多いし! わ、私、そんなにデレデレしてないし!」

 

とにかくアリスさんはツンデレということだな!

可愛いぞ、アリス!

 

………ワルキュリアの方はもうツッコミしないでおこう。

反撃されて言い返せなくなるし。

というか、ワルキュリアさんって俺の眷属ですよね?

時々、俺に向けられる視線や言葉が眷属のそれじゃないんですけど。

 

「いえいえ、私も普段は普通に接していますよ。ただ、イッセー様が変態的な行為をしなければ、ですが。あなたは主の前に女性の敵ですから」

 

主の前に敵って言われたよ!

それでも言い返せない俺って………。

ゴメンね、洋服崩壊(ドレスブレイク)とか使っちゃって!

 

「この間も転んだ拍子に胸を揉まれましたしね。あなたは本当におっぱい大好き変態野郎ですね。やはり、股間に生えているものを取り除いてしまった方が良いのかもしれません」

 

「ホンット、スイマセンでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ! それだけは勘弁してくださいぃぃぃぃぃぃ!」

 

あの時のワルキュリアさん、超怖かったです!

ニコニコしながら、ナイフ構えてたもん!

無言の圧力が半端じゃなかったもん!

 

でも、おっぱいはとてもとても柔らかかったです!

ありがとうございました!

 

俺は話題を切り換えるべく、今度はリーシャに話を振った。

 

「リーシャは今日一日、何をしてたの?」

 

すると、返ってきた言葉は俺の予想を少し越えてくるものだった。

 

「私は冥界に………ソーナさんの学校に行ってきました」

 

マジでか!

ソーナの学校ということはアウロス学園に行っていたと!

確か、クリフォトが起こしたあの事件の後でも、ちょくちょく見学会を開いているとのことだったが………。 

 

「今日はちょうど見学会の日でして。私もソーナさんから魔法の講師として声をかけられていたので、一度見ておこうかと」

 

そういや、リーシャを眷属に誘った時にそんな話を聞かされたな。

リーシャが微笑みながら言う。

 

「良いところでしたね。本格的な授業を始めるには、もう少し時間や人材が必要だとは思いますが、ソーナさん達の熱意があれば、きっと良い学校になると思います」

 

アスト・アーデの魔法学校で教師をしていたリーシャがこう言うなら、ソーナの学校も上手くいくのだろう。

まだ時間も、人も、知識も不足しているところはある。

だからこそ、彼女達は冥界の子供達の未来のために、自分達が出来ることを最大限に実行していくと思う。

そして、日々の研鑽は、きっと彼女達の夢を叶えてくれるだろう。

 

ふと、俺はあの二人についてリーシャに訊ねることにした。

 

「サリィとフィーナは?」

 

リーシャは二人の妖精と契約している。

それが火の妖精たるサリィと水の妖精たるフィーナだ。

二人共、凄い妖精さん達なのだが………見た目も性格も子供なんだよね。

グリゴリの研究施設の見学に行った時なんて、まるで遊園地に来た子供みたいにはしゃいでいたし。

 

俺の質問にリーシャが答える。

 

「あの二人なら、イッセーのお母さんとハンバーグを作っていますよ」

 

「あ、今日の晩飯はハンバーグなのね」

 

 

 

~その頃、兵藤家キッチンでは~

 

 

サリィ「ペーターペーターペッタンコー」

 

フィーナ「見てください、こんなに大きなのが出来ました!」

 

咲「ああ………孫ってこんな感じなのかしら………。どうしよう、ニヤニヤが止まらない………!」

 

エプロンを着け、テーブルの上で生地を捏ねるサリィとフィーナ。

そして、それを見守る咲。

 

ハンバーグを捏ねるはずだった咲の手はカメラを構え、二人の少女達を撮影している。

そして、鼻からは真っ赤な川が流れていて、

 

サリィ「どうしたの、サキ? 鼻血出てる」

 

フィーナ「大丈夫ですか?」

 

咲「大丈夫大丈夫。それより、二人共、一回だけで良いから『お祖母ちゃん』って呼んでみてくれる?」

 

咲のお願いに二人は顔を見合わせて、一言。

 

サリィ&フィーナ「「お祖母ちゃん………?」」

 

可愛らしく首を傾げて言う二人に、咲は―――――

 

咲「Yahhhhhhhhhhh!!!! Magooooooooooo!!!! Fooooooooo!!!!」

 

 

~その頃、兵藤家キッチンでは 終~

 

 

多分、孫孫言いながら可愛がってるんだろうなぁ。

母さん、小さい子供を見る度に呟いてるし。

ホント、どんだけ孫が欲しいんだよってツッコミたくなるけど、年取ったらそういう風になるのかね?

 

美羽がニーナに訊ねる。

 

「ニーナさんはこっちの生活に慣れた?」

 

「まだ慣れないところはあるけど、すっごく楽しいですよ。今日も朝はお家で家事の手伝いをして、お兄さんのお母さんと、サリィちゃんとフィーナちゃんの四人で買い物に行ったりしてましたし。………たまに自動ドアにビクッてなるけど………」

 

なるほどなるほど、ニーナも自動ドアはまだ慣れていないのね。

その辺りはアリスと同じ反応だな。

流石は姉妹。

 

一部、不穏な発言があったものの、うちのアスト・アーデから来てくれた眷属メンバーは平和な一日を過ごしていたようだ。

こっちの世界にも大分と慣れてくれたようだし、主としては何よりかな?

 

俺はふと、疑問に思ったことをニーナに訊ねてみた。

 

「ニーナはこっちの学校に通うつもりはないのか?」

 

俺の問いにニーナは「うーん」と腕を組んで悩み顔で言った。

 

「興味はあるし、通ってみたい気持ちはあるんだけど………」

 

そう言って、ニーナがチラッとアリスを見た。

 

「お姉ちゃんが歳をごまかして、お兄さんと同じ学年になってるから、すっごく行きにくい」

 

「んなっ!? べ、別に良いでしょ………? そんなの関係なしに通えば良いじゃない」

 

「私、十七なんだよ? 今年で十八。つまり、普通に通えばお兄さん達と同じ高校三年生になるわけ。でも、そこに本当は二十歳のお姉ちゃんがいる。もし、私が通い始めたら、ややこしいことになると思わない?」

 

ニーナの言うことは最もだ。

もし、ニーナが学園に通うとすれば、三年生から転入という形になるだろう。

しかし、そこには実姉のアリスがいる。

名前からして、二人が姉妹なのは明らかだし、俺と美羽の時みたいに双子と思われるだろう。

事情を知らない人からすれば、別に何と言うことはないかもしれないが、身内の俺達にとっては違和感しかない。

じゃあ、アリスと同じように歳をごまかして、下の学年に入れば良いのか、と問われるとそれはそれで………。

 

ニーナがため息を吐く。

 

「あーあ、お姉ちゃんが歳をごまかすから、面倒なことになっちゃった」

 

「うぅぅ………」

 

妹に言われて申し訳なさそうにする姉。

この件に関して、俺はどう助太刀してやれば良いのか分からないや。

 

肩を落とすアリスに、ニーナはイタズラな笑みを浮かべて言う。

 

「いいよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんが学校でお兄さんとの時間を作る分だけ、お兄さんとのイチャイチャタイムを貰うから。お風呂とか寝るときとか」

 

「ちょ、ニーナ!? そ、そんな等価交換あり!?」

 

「ありありだもーん♪」

 

アリスの抗議を華麗にスルーしていくニーナ。

この姉妹、いつも妹が主導権握っていくな………。

 

ニーナが言う。

 

「まぁ、通うことになった時は、双子ってことにするしかないかな」

 

「その時はリアスに相談してみようか」

 

学園のことはリアスに相談するのが一番!

ということで、ニーナが通いたくなったら、リアスと話し合って決めよう。

 

俺は鞄を置いて椅子に座ると、レイヴェルから資料を受け取り、ざっと目を通していく。

すると、ある書類に目が止まった。

 

「アセムが構築した世界の調査依頼が来てるな」

 

俺の言葉にレイヴェルが頷く。

 

「はい。あの世界の権限はイッセー様がお持ちなので」

 

アセムが創造したあの世界は、門が閉じた今でも存在しているらしく、その管理権限は俺にある………というか、アセムの奴が勝手に俺に譲渡していたらしい。

あの野郎、どこで茶目っ気だしてるんだ!

それは茶目っ気と言って良いのか!?

 

「つーか、あの世界って地球の三分の一の大きさがあるとか言ってなかった? それを俺達に調査しろと?」

 

ちょっと絶望してみても良いかな?

良いよね?

依頼書には隅から隅まで調べて、出来るだけ情報がほしいって書いてるけど………無理。

だって、広すぎるんだもの!

そもそも、何をどう調べたら良いわけ!?

 

「なぁ、レイヴェル………これって、拒否は」

 

「ダメです。魔王様方からの直接の依頼ですから。それに各勢力からも情報の提供を求められているので、下手に断るわけにはいきませんわ」

 

「デスヨネー」

 

今までは俺が意識を失っていたり、入院したりしていたから、待ってくれていた。

しかし、ある程度回復したのだから、調べてほしいと言われるのは当然のことで………。

 

「オ、オーケィ………。そ、そんじゃあ、今度、アザゼル先生と日程を確認しようか」

 

「それでは、今後のスケジュールを調整しておきますわ」

 

うぅぅ………レイヴェル、やっぱり仕事には厳しいなぁ。

俺、寝込みそうだよ………。

そのうち、アリスみたいに「仕事やだー!」ってごねてしまいそうだ!

 

涙目になる俺。

そんな俺の耳元でレイヴェルは小さな声で囁いた―――――。

 

「無事に終わった時はその………わ、私の胸を好きなだけ触って良いですわ」

 

「今日も張り切っていこうか!」

 

デキるマネージャーは、俺のヤル気スイッチを押すのも上手だった。

 




というわけで、今回もほのぼのです。
アセム戦の後の物語なので波乱よりも、ほのぼのな話が話が書きたいこの頃(笑)

特別編の方も書いてはいるのですが、もう少し時間がかかりそうです。
もう暫しお待ちを!m(_ _)m


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7話 気を遣うのは難しい

「あぁ~」

 

湯船に肩まで浸かり、声を漏らす俺。

悪魔の仕事を終えた後の風呂は格別だ。

温かいお湯が体の芯から疲れを取り除いてくれる。

家を改築した後では風呂場の広さも公衆浴場並に広くて、足を伸ばしてゆっくり浸かれるので、風呂は俺の楽しみの時間だったりする。

それに―――――。

 

「はぁぁ………今日も一日が終わったね~」

 

俺の隣に入ってくる美羽。

美羽は湯船に腰を下ろすと、俺の肩に頭を置いて、甘えるような仕草をしてくる。

 

兄妹の混浴はいつものこと。

こうして、二人で寄り添って一日の疲れを取るのは、ほとんど習慣とも言える。

でもね………この時間が最高なんだよぉぉぉぉぉぉぉ!

これが無ければ、一日は終えられない!

それくらいに、美羽との混浴は外せないものなのだ!

 

お湯に浮かぶおっぱい!

白くて眩しい太もも!

胸の谷間に流れていく水滴がとってもエッチで………!

それに加えて、美羽の甘えモードが堪らなく可愛いんだよ!

 

おっと、言っておくが、ここにいる女の子は美羽だけじゃないぞ?

アリス、ニーナ、レイヴェル、リーシャと眷属の女の子達も俺と一緒に混浴だ!

背中の流し合いをしている光景はいつも平和的で、

 

「あれ~? お姉ちゃん、また育ったんじゃないの? ちょっと感触が―――――」

 

「ひゃっ! ニ、ニーナ、あんた、わざと………ふぁぁん!」

 

「ふむふむ、感度も良い感じに………やっぱり、お兄さんにいつも揉まれてるからかな?」

 

「あ、あんたねぇ………! いい加減にしないと怒るわよ!?」

 

「えへへ~。お姉ちゃんのおっぱいムニムニ~」

 

「やっ、そこ………ダメぇ………あんっ!」

 

うむ、元王女姉妹は今日も平和だ。

レイヴェルとリーシャだって、こんな感じで、

 

「リーシャ様は相変わらず綺麗なお肌をしていますわ。それにスタイルも」

 

「うふふ、ありがとうございます。でも、レイヴェルさんも可愛いですし、胸もイッセー好みになってきていると思いますよ?」

 

ワルキュリアはサリィとフィーナを寝かしつけるとかで、今はいないけど。

あと、いないのは………。

 

「サラちゃんはやっぱり恥ずかしいみたい」

 

と、美羽が苦笑しながら教えてくれた。

 

サラちゃんは元々こういうのが苦手みたいだしね。

心を開いてくれたとは言え、流石に男との混浴は難しいか………お兄ちゃんとしてはちょっと残念!

 

俺はふと、美羽に訊ねてみた。

 

「なぁ、美羽。サラのことなんだけど」

 

「あ、お兄ちゃんも気付いてた? 最近、学校であまり元気がないからボクも気になってたんだよね」

 

美羽もサラの様子が気になっていてようだ。

俺はルフェイから聞いた話を美羽に話してみる。

学校でのサラの悩みを知った美羽は、小さく息を吐いた。

 

「そっか………。サラちゃん、クラスではそんな感じなんだね。サラちゃんはこの家に来るまではずっと一人だったし、そうなるのも仕方がないのかな………」

 

「ああ。本人はなんとかしようとは思っていると思う。でも、どうすれば良いのか分からない、そんな感じなんだろうな。美羽が初めて学校に通った時とはまた違うんだよなぁ」

 

「………ボクも色々あったけど、一人って訳じゃなかったしね。それに、お兄ちゃんが同じクラスにいたし、松田君や元浜君もサポートしてくれたから、クラスに馴染めたんだよね」

 

「まぁ、美羽の性格もあるけどな。美羽も緊張はしてても、人を惹き付けるところがあるから。サラの場合はその逆なんだよな」

 

緊張してしまった結果、昔の冷たい雰囲気を出してしまう。

それに、今まで関わってきた人は裏の人間ばかり。

何を話せば良いのか、どういう風に接すれば良いのか分からないんだ。

 

人を寄せ付けない空気を出してしまう、これを改善できれば、解決に向けての一歩になると思うけど………そこが難しいんだよね。

ルフェイにもサポートをお願いしてみたものの、サラ自身が改善できなければ、後々も引きずることになるかもしれない。

 

「おっさんか先生に相談してみようかね………」

 

「モーリスさんとアザゼル先生に?」

 

「あの二人なら人生経験も豊富だし、この手の解決方法も分かるかもしれないしな」

 

ただ、教えてもらったとして、そいつを俺がサラに伝えられるか………。

友達の作り方を教えるって以外と難しいもんだな。

 

美羽が微笑みを浮かべて言う。

 

「気長に見ていこうよ。高校生活は始まったばかりだしね。これからまだ三年もあるんだから、クラスの人と話す機会なんていくらでもあるよ。そうすれば、ほんの少しのきっかけで友達は作れると思うな。それに………」

 

「それに?」

 

俺が聞き返すと、美羽は親指を立てて言った。

 

「サラちゃんの外見と内面のギャップ萌えってのもあると思うんだ!」

 

「意義なし!」

 

それは十分にあり得る話だ!

つーか、俺もそれにやられた!

クールな外見だが、中身は甘えん坊な妹キャラってだけで、あらゆる者のハートを撃ち抜いていくんだよ!

 

なるほど、美羽の言う通りだ。

三年もあれば、何かと話す機会はあるもんだ。

その中でサラの性格を知れば、誰もが印象を塗り替えられるだろう。

 

………いや、ちょっと待てよ。

もし、そこでクラスの男子共がサラちゃんの魅力にやられて、告白でもしたら………。

 

許しません!

にぃにはそんなの許しませんよ!

そりゃあ、サラが好きになって、本当に幸せになれるのなら、血涙を流しながらでも認めるしかないが………。

だが、一回でもサラたんを泣かせてみろ、にぃにが本気出すぞ、この野郎!

 

まぁ、その話はともかくだ。

これからは長い目で見守っていく方向でいってみよう。

そして、サラがこれからの三年間を楽しめるよう、可能な限りのサポートをしていく。

これで決まりだな。

 

胸の中のモヤモヤが晴れた気がした俺は、背を伸ばす。

 

「美羽と話してスッキリした気がするよ。………っと、そろそろ上がらないと。小猫ちゃんを待たせてるし」

 

「いつものやつ?」

 

「そうそう、いつものやつ」

 

 

 

 

「………どうですか?」

 

「うん、気持ちいいよ」

 

風呂から上がった俺は、小猫ちゃんの部屋にいた。

ベッドの上では、上半身裸になった俺の胸に抱かれる形で寄り添う、猫耳モードの小猫ちゃんとの二人きりだ。

まぁ、二人きりといっても、こいつはそういうものではない。

これは仙術による治療だ。

 

先の戦いで、俺は生命力を極限まで使い果たし、肉体も精神も危機的状況に陥った。

皆の協力もあって、今はこうして普段通りの生活を遅れているが、完全に回復した訳じゃない。

 

例えば、ここに水の入った容器があるとする。

水が生命力、水が入っている容器を生命の泉としよう。

俺の場合、あの戦いでこの水をほとんど使い果たし、ほとんど空になってしまっていた。

更にはガラスのコップにも全体にヒビが入り、崩壊寸前だったんだ。

 

多くの人達が、俺に生命力を分けてくれたのだが、肝心の器がボロボロでは意味がない。

そこで、今は美羽とアリスの擬似神格を一時的に俺に戻し、器の崩壊をギリギリのところで止めている。

分かりやすく言えば、全体にヒビの入った容器を外側からテープで固定、保護しているようなイメージだ。

 

………で、小猫ちゃんがやってくれているのは、この器の修理になる。

仙術を用いて、器に入っているヒビの一つ一つを修復し、元の状態へと戻す。

これが俺が受けている治療の一つになる。

 

錬環勁気功で気を操作できるなら、自分で治せるんじゃないかと思う人もいるだろうけど、これに関しては無理だ。

外科医が自分の手術は出来ないのと同じようにね。

 

なので、俺は毎晩、風呂上がりに小猫ちゃんに仙術治療を施してもらっているのだ。

………薄い生地の白装束を着ている小猫ちゃんにな!

 

「朱乃さんにもらったこの衣装は特別製なので、良い気が練られるんです」

 

小猫ちゃんがそう説明をくれるが………。

 

いや、分かるよ?

俺も気の操作に関する知識や技は会得してるし。

この白装束も見たときに、特別製なんだなってのは理解できた。

でもね………生地が薄すぎて、小猫ちゃんの体の感触がほぼダイレクトに伝わってくるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

今の小猫ちゃんは小柄で、おっぱいも小さい………だがしかし!

そこに確かな柔らかさと儚い存在感があるのだよ!

治療をしてもらっているのに、こういうことを考えるのはなんだけど、この感触をずっと楽しんでいたい!

 

頬をほんのり染めながら、小猫ちゃんが言ってくる。

 

「………イッセー先輩、あんまり動かれると色々と擦れて………くすぐったいです」

 

今の小猫ちゃん、白装束の下は何も身に着けてないから………ゴクリ。

いやいやいや、落ち着け、俺。

今は小猫ちゃんを抱き締めて癒されるだけで十分じゃないか。

 

小猫ちゃんが言ってくる。

 

「今のイッセー先輩の生命力は、すごく不安定な状態です。普通に生活するだけなら、問題はありません」

 

今の俺は応急処置で生きているにすぎない。

小猫ちゃんの言う通り、普通に生活するだけなら問題もないのだろう。

でも、この先、何が起きるか分からない。

もし、強い力を使えば、その時は―――――。

 

「イッセー先輩は私が絶対に治してみせます。そして、今度は私がイッセー先輩を守ってみせます」

 

だから、と小猫ちゃんは続ける。

俺の背中に手を回して強く抱きついてくると、目元を潤ませて―――――。

 

「もう………いなくならないでください。イッセー先輩がいなくなったら、私は………」

 

そう言うと、小猫ちゃんの頬に涙が伝った。

 

………そうだよな。

俺、皆に二回もそういうところを見せてるんだよな。

一回目はロスウォードに殺された時、二回目はアセムとの戦いの時だ。

 

俺は小猫ちゃんの頭を撫でて微笑んだ。

 

「何度も辛い思いをさせてごめんな? でも、何があっても俺はいなくならないよ。約束しただろ、小猫ちゃんのこと、お嫁に貰うって。幸せにするまで死ねないよ」

 

「………ダメです。幸せになっても、一緒にいてくれないと嫌です」

 

「そうだな………訂正するよ。ずっと一緒だ」

 

俺の答えに小猫ちゃんは最高に可愛い笑顔で、

 

「………はい!」

 

ちょ………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!

小猫ちゃん、そのスマイルはズルいって!

治療中に昇天しそうになっちゃうでしょうが!

イッセー先輩の死因、悶死になっちゃうよ、小猫ちゃん!

 

俺が小猫ちゃんの可愛さに悶えていると、小猫ちゃんが顔を真っ赤にしながら言ってきた。

 

「………先輩、やっぱりあの方法を試そうと思うんですけど」

 

「そ、それはもしや、房中術というやつでは………?」

 

俺が聞き返すとコクりと頷く小猫ちゃん。

 

房中術というのは、気の使い方に長けた女性が男性に気を分け与えることで………男女が一つになることで、仙術使いである女性から直接、男性の体へ気を送る術のことだ。

この提案は、治療が始まった時にも提案されたことなのだが、

 

「い、いや、小猫ちゃんとも経験はあるし、その申し出は嬉しいけど………。それって、確か避妊具は―――――」

 

「な、なしです」

 

うん、それはマズいだろう!

小猫ちゃんが発情期に突入した時だって、子供が出来たら母子共に危ないから、色々と大変なことになったわけでして!

 

「で、でも、それでイッセー先輩が治るのなら私は構いません!」

 

小猫ちゃんんんんんんんんっ!

なんで、そんな気合い入れてるのぉぉぉぉぉぉぉ!?

 

「おおおおおお落ち着こう! 俺の治療なんて、多少時間かかっても良いから!」

 

「善は急げで………!」

 

「だから、急いじゃダメだって! って、小猫ちゃん!? 何してるの!? なんで、俺の寝巻きに手を………あぁっ!? 下着まで持っていかれたぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

どうしよう、俺、後輩の女の子にスッポンポンにされちゃったよ!

つーか、変なスイッチ入ってませんか!?

 

「にゃぁぁ………イッセー先輩………」

 

「はぅっ!?」

 

突然のくすぐったい感触。

見れば、小猫ちゃんが俺の体を小さな舌でペロペロと舐め始めていて………!

俺の感じるところを絶妙な舌加減で攻めてくる!

えぇい、流石は猫又と言ったところなのか!

小猫ちゃんの内に眠る、猫又のエロエロな本能がこれでもかと、俺の体を刺激してくる!

 

これ、何してたんだっけ!?

治療してたんだよね!?

俺、完全に襲われてるんですけど!

これはあれですか、エロビデオとかでよくある、入院中にナースさんからエッチな治療をされてしまう、あの展開なんですか!?

ナース服じゃないけど!

 

「先輩………イッセー先輩………ここ、気持ちいいですか?」

 

ヤバいヤバいヤバい!

このままでは本格的に子作りになってしまう!

 

よし、こうなったら我が左手よ!

今は亡き右腕の分まで、おまえが働くしかない!

おまえが小猫ちゃんを止めるんだ!

俺の指令を受けて、左手は動き出し―――――。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ、俺の左手ぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 

ぷにゅん

 

 

 

左手は吸い込まれるように、小猫ちゃんのおっぱいへ。

 

「にゃんっ! イッセー先輩、そんなにクリクリされると………んっ………にゃぁぁ」

 

おぃぃぃぃぃぃ!

俺の左手、何やってんだぁぁぁぁぁぁ!

揉むどころかクリクリしちゃってんじゃねぇか!

ピンポイントで攻めちゃってるだろうが!

直球ストレート、ど真ん中ストライクだろうが!

 

「イッセー先輩………!」

 

「うおっ!?」

 

物凄い力でベッドに押し倒された俺。

その上に小猫ちゃんがまたがってきて―――――キスしてきた。

唇を放すと小猫ちゃんは恍惚とした表情で、

 

「もう、我慢………できません」

 

肩からスルッと脱げていく白装束。

その時―――――。

 

 

「にゃふふふー。白音もかなり大胆になったにゃ」

 

 

突然聞こえてきた第三者の声!

慌てて声のした方を見ると、ベッドの下から覗き込んでいる黒歌の姿が!

姉の登場に小猫ちゃんも理性を取り戻したようで、

 

「ね、姉さま!? な、なんでここに………」

 

小猫ちゃんの問いに、黒歌は呆れたように言う。

 

「なんでって、赤龍帝ちんの治療は私もすることになってるの忘れたの?」

 

………そうでした。

俺の治療、小猫ちゃんと黒歌の猫又姉妹で引き受けてくれてるの忘れてたわ。

ま、まぁ、黒歌が時間通りに来てくれないってのもあるんだけど。

 

「いつからいたの?」

 

「白音が『もう………いなくならないでください。イッセー先輩がいなくなったら、私は………』って言ってる時にゃん」

 

「結構、前からいたんじゃないか! 止めてくれても良いだろ!?」

 

「いやー、面白そうだったから。赤龍帝ちんと白音の子作り見るのもありかなって」

 

妹の子作りシーンとか普通、気まずくなると思うんですけど!

この猫又のお姉さんは本当にエロエロですね!

ま、まぁ、このタイミングで出てきてくれたのは、小猫ちゃんを止めるためだと思うんだけど………。

 

黒歌はイタズラな笑みを浮かべると、着物をはだけさせて、ベッドに上がってくる。

そして、先程の小猫ちゃんのように俺にまたがってきて、

 

「まぁ、白音はまだ早いし、房中術するなら、私の方が良いにゃん♪ 私は強い子を授かれるし、赤龍帝ちんは治療できるし。一石二鳥にゃん」

 

「あ、あのなぁ………これは一石二鳥とか、そんな考えでするもんじゃないからな?」

 

「ぶー。赤龍帝ちんは意外と真面目にゃん」

 

黒歌の一言にガクッと肩を落とす俺。

なんか、どっと疲れたというか………。

とりあえず、小猫ちゃんも落ち着いてくれたし、良かったのかな?

 

 

………ここで俺は完全に油断していた。

 

 

「確かに一石二鳥なんて考えは良くないわ。やる時はそう、相手の全部を自分のものにするくらいの気概でやらないと!」

 

どこからか現れたイグニス!

出現するやいなや、黒歌の着物を剥ぎ取ってしまった!

 

揺れてる!

剥かれた瞬間にブルンブルン揺れてるよ!

脳内保存しとかなきゃだな!

相変わらず凄いおっぱいだ!

 

「にゃー!? なにするにゃ!?」

 

一瞬で剥かれた黒歌の抗議に、駄女神は指を横に振って、不敵な笑みで告げた。

 

「この流れですることといえば、決まってるじゃない。―――――4Pよ!」

 

「おぃぃぃぃぃぃ! いきなり出てきてなに言ってんだぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「だって、さっきまで子作りの話してたし」

 

「そうだとしても! なぜに、おまえが出てくる!? つーか、おまえがやろうとしてるのは一方的なハント!」

 

「ちょっとくらい良いじゃない。大丈夫、その代わりにイッセーには猫又姉妹丼を経験させてあげるから。というか、猫又姉妹丼を皆が待ってる! 大丈夫、私がほどよく導いてあげるわ!」

 

「『イグニス、私を導いてくれ………!』って、なるか馬鹿! つーか、皆って誰だよ!? ほどよくってどんな感じ!?」

 

ホンット、急に入ってくるのやめてよね!

おまえが来るとツッコミが追い付かないんだよ!

今だって、気づいたら全裸になってるし!

いつ脱いだの!?

 

すると、途端にイグニスは俯いて、悲しげな声で言った。  

 

「だって、しょうがないじゃない。私、あなたに神名を明かした時に、一生分のシリアスを使いきってしまったんだもの………」

 

「あれだけで!?」

 

「頑張っても、三秒しかシリアス顔出来なくなったのよ?」

 

「頑張れよ! もうちょっと頑張ろうよ!」

 

「無理だピョン☆」

 

「諦めるなぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺のツッコミが部屋に響いた時だった―――――。

扉が開き、部屋に入ってくる者がいた。

 

「お兄ちゃん、大変だよ! ………あっ」

 

「イッセー様、大変ですわ! ………あっ」

 

美羽とレイヴェルだった!

慌てて入ってきた様子の二人だったが、部屋の中を見て、急に言葉を詰まらせた。

 

うん、そりゃそうなるよね。

この部屋には俺、小猫ちゃん、黒歌、イグニスがいて、全員が全裸でベッドの上にいるんだもの。

そんなところに飛び込んできたら、気まずくなるよね。

 

美羽はレイヴェルの肩にポンッと手を置くと、レイヴェルは顔を赤くしながら頷いた。

そして、二人ともすごすごと部屋から出ていき、

 

「これ、必要だったら使ってね」

 

扉を閉める直前、美羽がコ○ドーム三十個入りの箱を部屋の中に置いていった。

パタンと扉が閉まった瞬間―――――。

 

「それ、どんな気遣いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 



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8話 鋼はロマン、男の夢

お待たせしました!


翌日、兵藤家の最上階にあるVIPルームに俺達は集まっていた。

部屋の正面にあるスクリーンには映像―――――冥界のニュースが映し出されており、部屋にいる全員がニュースキャスターの言葉に集中している。

映像のニュースキャスターがこう述べていく。

 

『―――――と、ついに発表されましたレーティングゲームの国際大会ですが、各神話勢力との話し合いはついているようでして、各地で予選大会の準備も既に始まっているとの情報も入ってきております。こうなりますと、予選を突破してくるチームの予想が―――――』

 

ニュースの字幕スーパーはこう映されている。

『各勢力に激震! レーティングゲーム国際大会、ついに発表!』、と。

 

レイヴェルがタブレットを片手に言う。

 

「ご存知かと思いますが、昨日、各勢力の首脳陣から緊急で発表会見がありました。今年、全勢力をあげてのレーティングゲームの国際大会を開催すると」

 

そう、昨日、美羽とレイヴェルが部屋に駆け込んできたのはこれが理由だった。

 

―――――レーティングゲームの国際大会。

元々は悪魔だけが行っていたものだが、それを天使、堕天使だけでなく、全ての神話勢力、全ての種族が参加出来るようにし、競い合えるようにしたんだ。

しかも、その中には神も参加できてしまうという、トンデモ大会になってしまっている。

 

そういや、前にアザゼル先生が言ってたっけな。

将来的には出来たら良いって。

今回、アザゼル先生や他の首脳陣の考えが形になったと言うことか。

 

リアスが言う。

 

「前々から話が進んでいたのは知っていたけれど、まさかこんなにも早く………しかも、このタイミングで仕掛けてくるなんてね。既に参加表明している人もいると聞くわ」

 

その言葉にレイナが頷いた。

 

もう参加を宣言する人がいるのか………。

いや、それは不思議なことではないのかもしれないな。

伝説上の存在同士が、公式にぶつかり合える場を用意してもらったんだ。

見たいと思う者はいるはずだ。

天使と悪魔、どちらが強いのか。

北欧神話の神とギリシャ神話の魔物がぶつかればどうなるのか。

想像、妄想するしかなかった組み合わせが、公式に可能になった。

その結果、昨晩に発表されたことなのにも関わらず、全世界で見たいと言う声が上がっている。

 

ゼノヴィアが冥界の新聞を読みながら言う。

 

「大会運営委員のトップがアザゼル先生にアジュカ・ベルゼブブとシヴァだ。こちらも別の意味で注目されているようだね」

 

今回の大会を運営するのは各勢力のトップ陣だ。

冥界からは四大魔王とアザゼル先生、北欧からはオーディン、ギリシャからはゼウスと主神が主催側に回っている。

その中で注目されているのはインド神話の破壊神―――――シヴァ。

今まで何があっても動かなかった破壊神が、レーティングゲームの国際大会運営に乗り出すということは、誰も予想できなかったそうだ。

 

「復興も終わっていないのに、大会を開くことに反対の声もあったんだけどね。大会で得た利益は各勢力の復興に充てるということで同意を得られたみたい。大会運営費も運営側のポケットマネーが使われてるって」

 

その言葉にモーリスのおっさんがヒュゥと口笛を吹く。

 

「そりゃあ、とんでもない額が動くことになるな。儲けも相当なものになるだろ。それを全額復興資金に回すと宣言されたんじゃ、否定もしにくいだろうよ。それに、こんな状況だからこそ、大会を開く意味があるもんさ」

 

リーシャが頷く。

 

「あの戦いでの死者数はゼロ。しかし、被害者は数えきれません。傷を負い、治療を受ける者もいれば、心に傷を負った者もいます。上手くいけば、この大会は彼らを励ますことだってできるでしょうね」

 

アセムは消滅する直前、自らに刻み込んだ術式を発動させ、あの戦いで命を落とした人達を生き返らせた。

よって、あの戦いによる死者はいない。

だが、傷を負い、今でも治療中の人は大勢いる。

 

今回のレーティングゲーム国際大会は、そんな人達を勇気づけることだってできるはずだ。

人間の世界だって、誰かが頑張る姿に、自分も頑張ろうと思える人だっているのだから。

 

すると、不意に部屋の扉が開いた。

部屋に入ってきたのはアザゼル先生だった。

 

「珍しいですね、魔法陣で来ないなんて」

 

俺が尋ねると、アザゼル先生は肩を竦めながら言った。

 

「ああ。ちょいと所用で近くに来ていたもんでな。たまには良いかと歩いてきたのさ。そしたら、おまえのお袋さんとそこの角で会ってな。そのまま、お邪魔させてもらったのさ。おまえ達は………当然、この話題だろうな」

 

先生は視線を一度、スクリーンに向けて言う。

 

「俺は大会運営側にいることは伝わっていると思う。実はな、昨日の発表会見だが、本当なら先月に行おうと思っていた」

 

「先月に? なぜ時期をずらしたんですか?」

 

木場が疑問を口にする。

その疑問に先生は俺に視線を移して、

 

「まぁ、色々と理由はある。戦後処理もまだ終わっていないし、アセムの構築した世界の調査も進んでいないしな。だが、一番の理由はイッセー、おまえだよ」

 

「俺?」

 

俺のために発表時期をずらしたってことか?

なんで、そんなことをする必要があるんだ?

レーティングゲーム国際大会は、世界規模で行われる一大イベントだ。

それを一個人のために開催時期を変更するって………。

 

頭に疑問符を浮かべる俺にアザゼル先生は言う。

 

「今回の大会開催にあたり、運営委員の中から提案があったんだよ。兵藤一誠の回復を待ってから行ってはどうか、と」

 

「すいません、その説明だけじゃ分からないんですけど」

 

「そういうところは相変わらず鈍い奴だな、この二十代の勇者様は」

 

「喧嘩売ってる!? ねぇ、喧嘩売ってます!?」

 

二十代って言わないでくれます!?

留年の危機があったもんだから、そこのところ敏感なんですけど!?

 

先生はやれやれと息を吐く。

 

「まぁ、単純な話だ。今回の大会、おまえの出場を願う連中が多い。おっぱいドラゴンのファンもそうだが、それ以上におまえと一戦交えたいと思っている野郎がいるんだよ。心当たりはあるだろ?」

 

俺との戦いを望む人………か。

確かに心当たりはいくつもある。

というか、リベンジマッチを望んできた野郎共がいるんだよね。

ヴァーリにサイラオーグさんに、匙にライザー。

あとは―――――。

 

「………」

 

じっと視線を向けてくる木場。

瞳には熱いものが宿っていて、静かに燃えているのが分かる。

 

「そういうことだ。俺も他の運営委員も、おまえが率いるチームがどんな戦いをするのか見てみたいと思っている。だが………」

 

先生はそこで言葉を止めると、真剣な声で続けた。

 

「俺としてはおまえが参加することに半分賛成で、半分反対でもある。イッセー、現状で禁手はどれくらい維持できる?」

 

「………普通の禁手で三分。他の形態―――――天武、天撃、天翼なら一分。EXAなら補助付きでも五秒もないと思います」

 

「変革者の力は使えない。英龍化も当然無理か」

 

「使えたとしても、あの力は大会向きじゃないですよ。チートも良いところです」

 

「おまえ、チートの自覚あったのか」

 

変革者の力は簡単に言えば、他者の想いを自身に宿して、力を引き出すものだ。

大会ではそれぞれのチームに応援する人がいるし、アセムとの戦いで見せた力は出せないだろうな。

あれ程の力が出せるとすれば、本当に世界の危機って時だが………そんなにポンポン世界の危機が来てたまるか!

つーか、来るな!

 

納得した様子の先生。

リアス達はこのことを知らなかったので、非常に驚いていた。

 

「力が落ちていることは知っていたけど、そこまでだったなんて………」

 

「俺も正確に時間を計ったのがつい最近だったんだよ。まさか、禁手を維持する時間がここまで短くなっているとは思わなかった」

 

俺の魂はまだ不安定な状態だ。

それ故に、魂と直接繋がっている神器も十分に扱えない状態になってしまっている。

まぁ、通常の状態で神器を使う分には問題ないから、生身で戦うのはそこまで厳しい訳じゃない。

 

俺の情報に先生は口を開く。

 

「この大会は神仏も参加できるものだ。体力、気力共に不安定な状態で参加することを俺は勧められない。そんな甘い大会ではないことは分かっているはずだ。何も第一回で終わる訳じゃない。俺達運営も今回の結果を踏まえて、二回、三回と開催していくつもりでいる。だから、おまえは回復が進んでからの参加でも良いと思う」

 

その後、先生は「無論、おまえの意思を尊重するつもりでいるがな」と付け足した。

 

今の俺で戦いを勝ち抜けるか?

神仏を相手に戦い抜けるのか?

普通に考えれば、そんな体の状態じゃないことくらいは事情を知る者には明らかだ。

先生は俺の意思を尊重すると言った。

参加するか否かは俺の気持ち次第と言うことだ。

それじゃあ、俺は………どうしたいんだろう?

いや、違うか。

自分の気持ちなんて分かりきっている。

俺が悩むとすれば―――――。

 

「エントリー締切まではまだ日がある。ゆっくり考えてみてくれ。………っと、おまえに知らせることがあったんだった」

 

先生は笑みを浮かべて、こう続けた。

 

「待たせたな、おまえの義手、ついに完成したぜ」

 

「おおっ!」

 

それは待ちに待った知らせだった!

 

 

 

 

場所を移して、俺は駒王町にあるアザゼル先生のラボを訪れていた。

室内は整理されているが、相変わらず訳のわからない機材やら道具やらが並べられている。

 

「前よりも物が増えましたね」

 

「まぁな。新しい機材も入ってきたんだが、それ以上に失敗作とかお試し品が多くてな。この間はタケコプターを作ってみたが失敗した」

 

「それいりますか!? あんた、空飛べるでしょ!?」

 

「そうなんだが、テレビのチャンネルを変えたらちょうどやっててな。なんとなく作ってみたんだよ。だが、作ってみると以外に難しくてな。何度かやってみたんだが、回転が強すぎて首がネジ切れそうになるんだよ。ありゃ、タケコプターというよりはクビモゲターだな」

 

「どんな名前!? 首は大丈夫なんですか!?」

 

「問題ない。首をやられたのはサハリエルだ。俺じゃない」

 

「あんた、完全に他人事じゃねーか! サハリエルさんは無事なのか!?」

 

「それも問題ない。アーシアに治してもらったからな」

 

「何度か昼休みにアーシアがいなくなることがあったけど、それが原因か! あんた、どんなタイミングでアーシアを呼び出してるの!?」

 

「しょうがねぇだろ、サハリエルの奴が泡吹いてたんだから」

 

えぇい、やはり、この人は悪人だ!

マッドサイエンティストだ!

だって、向こうの棚にタケコプターが一号から八号まであるんだもの!

少なくとも数人は首やられてるよ!

つーか、この人、大会の運営委員だよね!?

そんなアイテム作る暇あるの!?

 

俺のツッコミを軽くスルーして、アザゼル先生が部屋の奥から何かを持ってきた。

それは白い布にくるまれていて、

 

「それが俺の義手ですか?」

 

「そうだ。サイズは問題ないはずだが………一度、取り付けてみるか。フッフッフッ、期待していいぞ。こいつは過去最高の出来だと自負している」

 

そう言って、先生は布を巻いて、中身を露にしていく。

 

義手とはいえ、ようやく腕二本ある生活に戻れるのか。

アーシアや美羽からのあーんが減ってしまうのは少し寂しい気もするが、流石にこれ以上、手間をかけさせるわけにはいかないだろう。

特に美羽には服を着せてもらったりして、日常生活の面で世話をかけてばかりだ。

義手は今日中に取り付けることが出来るみたいだし、これで、以前のような生活を―――――。

 

「先生、これ………なんですか?」

 

布の中から姿を見せたそれを指さしながら、俺は訊ねた。

俺の問いに先生は静かな口調で、

 

「義手だが?」

 

そうか、義手なのか。

確かに形はちゃんとした腕だ。

でもね―――――

 

 

なんか、メタリックなんですけど。

 

 

鈍く光る鋼色!

細かく別れたパネルライン!

関節の部位を覗けば見えるコードらしきもの!

少し動かすだけでガシャガシャ聞こえる金属音!

 

「どこの錬金術師ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「どうだ、カッチョ良いだろ!」

 

「なに、子供みたいな笑顔してんだ! やり直せぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 




リターンズは月一くらいのペースで投稿できれば良いな~と考えてます


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9話 おっさんは渋く決めたい時がある

早めに書けたので投稿します!("`д´)ゞ


「美羽ぅぅぅぅぅ………」

 

「よしよし、大丈夫だよ。まぁ、アザゼル先生だもんね」

 

アザゼル先生のラボから移動し、自分の事務所へと戻った俺は先に来ていた美羽に抱きついて………頭を撫で撫でしてもらっていた。

ソファに座る美羽に膝枕をしてもらい、これでもかという程に撫でてもらっている。

 

なんでそんなことしてるかって?

そんなもん決まってる。

 

美羽が俺の右手を見て苦笑する。

 

「これ、完全にあれだよね。マンガであったやつ。主人公が幼馴染みの技師につけてもらってたやつ」

 

そう、あの後、先生が男のロマンだか何だかで作ったメタリックな義手を装着して、そのまま戻っていた。

俺は作り直せと言ったのに、あの未婚オタク元総督は「今はこれしか用意してない」とか言ってきたんだ。

更には折角だから着けてみろだとか、おまえには鋼の良さが分からんのかとか、メタリックな義手について長々語り始める始末。

悪魔の仕事もあったから、渋々、装着したけど………。

 

とりあえず、ラボを出た直後にレイナに泣きついておいた。

あの未婚オタク元総督は今頃、レイナちゃんによるお説教タイムに突入していることだろう。

 

あれ………そういや、イグニスどこ行った?

まぁ、家でゴロゴロしてそうだけど。

 

 

~一方その頃、未婚オタク元総督は~

 

 

アザゼル「お、おい! これからやることがあるんだぞ!? こんなことしてる場合じゃ―――――」

 

朱乃「アザゼル先生、これは罰ですわ」

 

レイナ「そうですね。イッセー君の義手、かなり費用がかかってますね………。元々はこれの三割くらいで済んだはずでは?」

 

アザゼル「あー………いや、そのなんだ。作ってたら、止まらなくなってな」

 

レイナ「そうですか。この事はシェムハザ様に報告しておきますね」

 

朱乃「父様にも当然」

 

アザゼル「やめろぉぉぉぉぉ! あの二人に知られたら、俺の小遣いが………! 俺のロボがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

レイナ「それじゃあ、後のことはお任せしますね―――――イグニスさん」

 

イグニス「朱乃ちゃんの誘いで来ちゃった☆ さーてさてさーて、アザゼル君はどんなプレイがお好みかな☆ まずはダウンフォール・ロープ・プレイでいきましょう!」

 

アザゼル「ダウンフォール・ロープ・プレイってなんだぁ!? 長く生きてきたが、聞いたことねぇや、そんなプレイ! あっ、待て………あぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

駄女神(イグニス)のロープが未婚オタク元総督(アザゼル)を昇天させる―――――。

 

 

~一方その頃、未婚オタク元総督は 終~

 

 

「あ、今、アザゼル先生の断末魔が聞こえたような………」

 

「うん、ボクにも何か聞こえたような………」

 

兄妹揃って、アザゼル先生の悲鳴を拾ったと言うことか。

アザゼル先生、しっかりお仕置きを受けてくれ。

それから、もっとまともな義手をお願いします。

 

「アザゼル、おまえは良い奴だったよ………プッ」

 

煎餅をかじりながら冥界の新聞を読むモーリスのおっさんだった。

 

俺が美羽に頭を撫でられる光景にアリスが言う。

 

「あんた、美羽ちゃんには結構、甘えてるわよね」

 

確かに俺は基本的に甘やかす方だ。

しかしだ、たまにはこうして妹に甘えたい日もあるのだよ。

だって………美羽に撫でられるの、最高に気持ち良いんだもの!

膝枕までしてくれて………!

最近はこれを無くして、一日を過ごすことができません!

 

美羽が微笑みながら言う。

 

「ボクはこうして甘えられるのも良いかな。こうしてると、お兄ちゃん可愛いな~って」

 

なんだろうな………美羽がどんどんお姉ちゃんになっている気がする。

少し前までは頬を膨らませたり、頭を撫でてもらいたくて甘えてきたのに、最近の美羽は一層大人な感じがして………。

これも成長したということなんだろうな。

でも、根っこは変わらなくて、やっぱり美羽は美羽って感じがお兄ちゃんは嬉しいぞ!

 

と、そんな感じで美羽に甘えていると、ニーナがソファの前でしゃがみこんで、顔を覗いてきた。

ニーナは少しふてくされた表情で言う。

 

「妹に甘えたいのなら、私もいるのに」

 

「ニーナの場合は甘えたいと言うより、ひたすら撫で撫でしたいと言うか」

 

「むー」

 

あ、ニーナちゃんが更に不機嫌に………。

 

「………今度、甘えさせてください」

 

「うん!」

 

俺の言葉に機嫌を戻してくれたのか、美羽と揃って俺の頭を撫でてくるニーナ。

 

ニーナの手もまた良きものなり………という感想もあるのだが、それ以上に気になるのは胸元。

広く開いた胸元から見えるおっぱいがまた刺激的で………!

というか、さっきからメッチャ揺れてるんですけど!?

もしかして、ノーブラだったりする!?

えぇい、お兄さんは元気になってしまうではないか!

 

そこへ―――――。

 

「にぃにの………エッチ」

 

「ガフゥッ!」

 

サラちゃんのトドメの一撃!

サラちゃんは俺の視線がニーナのおっぱいに向けられていたことに気づいていたらしい!

ゴメンね、エッチなにぃにで!

でもね、今の言葉で逆に元気出たよ、にぃには!

 

モーリスのおっさんが新聞を畳んであくびをする。

 

「シスターズトライアングルに沈んでるところ悪いが、そろそろ本題に入ろうや。イッセー、おまえは大会に出るのか?」

 

ストレートな質問に皆の視線が俺に集まる。

事務所に集まったのは、今夜の仕事のためだけではなく、レーティングゲーム国際大会に参加するか否かを話し合うためだ。

俺は上半身を起こすとレイヴェルに視線を向ける。

 

レイヴェルが言う。

 

「私としてはアザゼル先生の意見に賛成ですわ。それは出場に反対側の意見として。イッセー様のカルテ見させていただきました。正直、神クラスが参戦する中、今のイッセー様ではかなり厳しい戦いになるでしょう。おっぱいドラゴンの参加は大勢の人達が望んでいます。ですが………」

 

「下手な試合を見せるくらいなら、今回は見送る方が良いってことか?」

 

俺の問いにレイヴェルは苦しげに頷く。

 

「はい。もちろん、イッセー様のお体も大事です。私としても今は治療に専念してほしいと思っています」

 

レイヴェルに続き、アリスが言う。

 

「私も同じ意見よ、イッセー。あの戦いの傷が残る以上、しばらくは安静にしておくのがベストよ」

 

二人の意見を受けて、美羽、リーシャ、サラに視線を向けてみるが、三人も同じ意見のようだ。

 

今回の大会は絶対に参加しないといけないものじゃない。

あくまでも個人の自由であり、ここに冥界の未来だとか、世界の運命だとかは全く関係ないものだ。

アザゼル先生が言っていたことだが、俺の状態は既に色々な人達に伝わっている。

だから、棄権したところで、仕方がないと納得してくれるだろう、と。

レイヴェルやアリスが言う通り、下手な試合を見せるくらいなら、今回は見送って、次回に備えるというのも一つの手だ。

 

すると、ニーナがこう聞いてきた。

 

「お兄さんはどうしたいの? 体の状態とか、そんなのは関係なしにして、お兄さんの気持ちはどうなのかな?」

 

「えっ………」

 

「だって、葛藤しているように見えるから。自分の気持ちと周囲の気持ちの間ですごく悩んでるよね? だから、お兄さん自身の気持ちはどうなのかな?」

 

俺の気持ち、か………。

それは―――――。

 

俺は顔を上げて、内にある気持ちを皆に告げた。

 

「俺は出場したいと思ってる。今の俺がどこまで戦えるか分からないけど………それでも、やれるところまでやってみたい。だけど………それで良いのかって思ってしまうんだ」

 

「どういうこと?」

 

「大会にはヴァーリもサイラオーグさんも、曹操も参加すると思う。あいつらは………俺をライバルと呼んでくれる奴らは俺を待ってると思うんだ。だからこそ、考えてしまう。―――――今の俺はあいつらが待ち望む俺なのかなって」

 

あいつらは常に最高の俺を求めてきた。

初めて戦った時も、レーティングゲームで戦った時も。

最高の俺と戦うことを心から楽しんでくれた。

じゃあ、今の俺は?

最高の状態とは程遠い。

そんな俺と戦うことをあいつらは望むのか?

心から楽しめるのか?

 

「今の俺はあいつらの求める俺なのか………そんなことを考えちまう」

 

天井を見上げて呟くように言う俺。

その言葉を聞いて、アリス達もしんと静まり返る。

 

すると―――――

 

「んだよ、そんな理由で悩んでたのか」

 

馬鹿らしいと、首を振るモーリスのおっさん。

おっさんは俺に指を突きつけて言う。

 

「おまえなぁ、そんな理由で悩むくらいなら、嫁さんを手玉に取る方法とかで悩めよ。その方がよっぽど有意義だぞ」

 

「えっ、そんな方法あるの!?」

 

大体が女性陣のペースに持っていかれる俺にとっては、ものすごい情報なんですけど!

そんな方法があるなら是非とも教えてほしい!

 

「教えるか、馬鹿。そこは経験を積んでなんぼだろうが」

 

「おっさんのケチ! 今、結構期待したんだぞ!?」

 

「おまえは永遠に嫁の尻に敷かれる運命なのだ! ファーハッハッハッハッ!」

 

悪人のように笑うおっさん!

やはりこのおっさんもアザゼル先生と同類か!

良いもん、自分で見つけてやるもん!

俺だって成長するんだぞ!?

 

『しかし、相棒はどう足掻いても尻に敷かれる運命だった』

 

ドライグ、おまえもボケに回るのか!?

おまえはツッコミ側だったはずだ!

つーか、悲しいこと言わないでくれます!?

あり得そうで怖いわ!

 

モーリスのおっさんはひとしきり笑ったところで話を戻す。

 

「イッセー、おまえの力ってのはおまえ個人だけのものか? 違うだろう? おまえの力は、俺達を含めた仲間も含めてのものじゃないのか?」

 

「………っ」

 

言葉を詰まらせる俺。

おっさんは俺の表情を見ながら続ける。

 

「万全の力が出せない? それがどうした。おまえが十の内、一の力しか出せないと言うなら、俺達が残りの九を補ってやる。互いに補い合うことができる、それが仲間だと教えたはずだ」

 

モーリスのおっさんは俺から視線を移し、アリス、美羽、レイヴェル、リーシャ、サラ、ニーナと他の眷属メンバーを順に見ていく。

 

「おまえ達もなーに消極的なこと言ってんだ。そこは『主の分まで私達が!』くらい言ってみせろよ。確かにこいつは万全には程遠いし、ガチで神クラスとやり合える力なんてないかもしれん。だが、忘れてないか? おまえ達の主が何者なのか。今まで何を成してきたのか。―――――兵藤一誠は不可能を可能にしてきた勇者様だろう?」

 

おっさんはそこで一拍置いて、静かに語りかける。

 

「おまえ達はこいつを信じて着いていくと決めたんだろう? なら、こいつの意思を組んでやれ。主のために、眷属である自分達が成せることを最大限に考えろ。おまえ達がいれば、こいつは神だろうが魔王だろうが倒してみせるさ」

 

それからもう一つとおっさんは付け加える。

 

「イッセー。おまえをライバルと呼ぶ奴は、そんなことを気にする奴と思うか? そいつらは寧ろ期待しているはずだ。絶対的に不利な状況下でおまえがどう戦うのか。大会運営側がおまえの回復を待ったのは、その辺りも含まれると思うがね」

 

最後におっさんはフッと笑んでこう言った。

 

「難しいことは気にするな。おまえはおまえの心のままにやれば良い。先も言った通り、ここにあるもの全てがおまえの全てだ。やれるだけやってみろ」

 

そう言うと、おっさんは煙管に火をつけて、煙を吹かした。

 

「おっさん、あのさ………」

 

輪のような煙が昇っていくのを見つめて、俺は―――――

 

 

「………ここ、禁煙なんですけど」

 

 

ジリリリリリリリリッ!

 

 

激しく鳴る鐘の音と共に発動するスプリンクラー!

天井から降ってきたスプリンクラーの水がおっさんへと降り注ぐ!

 

「うわっぷ!? 冷てぇ!? ここ禁煙だったのかよ!?」

 

「そりゃあ、うちの眷属、おっさん以外は吸わないし」

 

「もっと早く言えよ! 見ろ、せっかくおじさんが渋く決めてたのに、全部台無しじゃねーか!」

 

この後、盛大にくしゃみをするおっさんだった。

 

「ぶえっっっくしょぃぃぃぃぃ!」

 



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10話 本当に良い男は男からもモテる

オカルト研究部の部室にて。

 

「あー………いー………うー………えー………おー………」

 

「なんだか憂鬱そうだね。というか、壊れ方が独特と言うか………」

 

俺の状況を見て、木場が苦笑する。

今の俺は―――――とってもだらけていた。

ソファにうつ伏せになって寝そべり、義手の腕をだらんと垂らしている俺。

まるで全身の力を全て抜ききったようにする俺は、ここ数年で一番だらけているのだろう。

 

だらけている理由?

そんなもん、一つしかない。

 

「まともな義手………まーだー………?」

 

そう、俺の精神を磨り減らしているのは、だらしなく垂らしている、このメタリックな義手が原因だ。

この義手をつけてから数日が経つが、アザゼル先生は未だにまともな義手を持ってこない。

なので、この数日間は長袖を着た上で、手袋をはめることで、メタリックな義手を隠しながら生活していた。

美羽の魔法で隠すという手もあることにはあるが、何かしらの拍子で魔法が解けたら騒ぎになるので、一番無難な方法で誤魔化している。

 

木場が訊いてくる。

 

「ま、まぁ、とりあえずは不便なく過ごせてるようだし、良いんじゃないかな?」

 

確かに腕があるとないのでは天地の差だ。

食事も、着替えも美羽達の助けなしに出来るようになったしな。

想像以上に自分の意思通りに動かせるのは流石はアザゼル先生お手製と言ったところだろう。

でもね………。

 

「………なぁ、木場よ。人差し指の先から刺身醤油が出てくるんだぞ? そんな指で平穏に過ごせると思うだろうか?」

 

「なんで刺身醤油!? もしかして、ワサビも出てきたりする!?」

 

「よく分かったな。人差し指の第一関節から練りワサビが出てきてな。第二関節からは甘ダレが出る」

 

「完全にお寿司を食べようとしてるよね!? どんな特化装備!?」

 

いや、全くその通りだよ。

俺も知ったときは木場と同じツッコミしたもの。

 

仮にだよ?

授業中に誤作動を起こして、指先から刺身醤油が出てきたら………と考えてしまった時のハラハラ感が分かるか?

無理だろうな。

俺だって自分で言ってて意味分からないもの。

どんなハラハラ感?

 

「もうどーでも良いよ。やってらんねーよ」

 

「イ、イッセー君の目が死んでるわ」

 

「あ、ああ。ここまでやさぐれたイッセーを見るのは初めてだな」

 

引きつった顔で俺を見るイリナとゼノヴィア。

ごめんね、二人とも。

俺はもうあの頃の俺には戻れないのかもしれない。

 

すると、アーシアが部長の椅子から立ち上がってこう言った。

 

「元気を出してください、イッセーさん! その装備も必ず使い道があるはずです!」

 

「………どんな?」

 

「え、えっと………お寿司の出前を注文した時に、お店の人がお醤油を入れ忘れた時とか………?」

 

「結局、寿司限定じゃないかぁぁぁぁぁぁ! うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

聞いといてなんだけど、なに、そのピンポイント過ぎるシチュエーション!?

そんなの滅多にないよ!?

 

イリナが俺を宥めるように言う。

 

「心配は無用よ、イッセー君! ほら、ワサビが少なく感じた時とかも使えると思うの!」

 

「だから、寿司限定じゃないかぁぁぁぁぁぁ! 確かにワサビが少ないと感じる時はあるけども! そんな時に、人差し指の第一関節からワサビ出してる人を見て、君はどう思う!?」

 

「どうかしているわ!」

 

「どうかしているよ!」

 

想像するだけで摩訶不思議な光景が広がってくるよ!

 

更にゼノヴィアが続けて、

 

「甘ダレが足りないときも使えるぞ!」

 

「だから、寿司しか使い道ないじゃん!」

 

んもぉぉぉぉぉ! 

なんで、こんな限定的な使い道しかない装備つけた!? 

 

ギャスパーが訊いてくる。

 

「え、えーと、他の指には何か装置はないんですか? 今のところ、人差し指にしかついてなさそうなんですけど………」

 

「ないよ。この義手、人差し指以外の部位は出汁醤油とワサビと甘ダレを製造する装置になってるから」

 

「なんでですか!?」

 

「俺が聞きたいよ! なんでなんだよ!?」

 

あの未婚オタク元総督、どこに技術を注ぎ込んでるの!?

それを堕天使の技術力と誇っても良いのか!?

 

美羽がなんとも言えない表情で呟く。

 

「ロケットパンチとかミサイルが出るよりはマシだったんだよ、きっと」

 

「美羽ちゃん、ちょっと諦め入ってない?」

 

「うん、アザゼル先生だもの」

 

「………そうね」

 

美羽の言葉にどこか納得してしまうアリス。

 

ねぇ、君達………本人より先に諦めに入るのやめよう?

そこは励ましてくれよ!

 

そんな時だった。

ふいにコンコンと部室のドアがノックされた。

 

「はーい」

 

アーシアが応じると、扉を開けて入ってきたのは一人の男子生徒だった。

男子生徒は書類を手にしていて、

 

「失礼します。ここに会長が………って、やっぱりここにいた」

 

彼は言うなり、ゼノヴィアを発見して息を吐いた。

 

「ゼノヴィア会長、ここにいらしたんですね。例のレポートが纏まったんで確認お願いします」

 

ゼノヴィアに書類を渡す男子生徒。

ゼノヴィアも書類を受けとると、目を通していく。

こいつのこう言うところ見ていると、生徒会長なんだなって改めて認識できるな。

 

ゼノヴィアの確認を待つ間、男子生徒は俺達に視線を送り、物珍しげに部室全体を見渡していった。

それに気づいたゼノヴィアが問う。

 

「もしかして、皆とはあいさつはまだか?」

 

「ええ、いつか紹介してやると言われて、それっきりですよ」

 

苦笑いでそう返す男子生徒は再び深く息を吐いた。

 

「すまんすまん。ちょうど良いから、今紹介しておこう」

 

苦笑するゼノヴィアは男子生徒を横に並ばせて、改めて紹介をし始める。

 

「こいつはうちの生徒会に所属する書記。二年生の―――――」

 

「百鬼勾陳黄龍です。皆さんの噂は色々と伺ってます」

 

と、生徒会書記の二年生である百鬼が挨拶をくれた。

 

俺も名前自体は新生徒会メンバー発表時に知っていたし、ゼノヴィアが新生徒会メンバーを引き連れて歩いている時に見かけたこともある。

まぁ、新生徒会が動き始めて暫く経つのに、名前と顔が一致したのは今なんだけどね。

 

「長い名前だな」

 

ついそんな風に訊ねてしまう俺。

百鬼は軽く説明をくれる。

 

「勾陳は諱、ミドルネームみたいなものです。百鬼黄龍で構いません」

 

なるほど、そういうことね。

俺が納得している横では、同じ学年のレイヴェルとギャスパーが反応していた。

 

「ここでお会いするなんて珍しいですわ」

 

「百鬼くん、こんにちは」

 

声をかける二人に百鬼も手をあげて返す。

 

「よっ、いつもの三人組」

 

小猫ちゃんがビスケットを食べながら訊ねる。

 

「コーチン、仕事?」

 

「ああ、会長に用があってね。………というか、その呼び方はやめてくれ。名古屋コーチンみたいで嫌なんだよ」

 

美味そうではあるけど、流石にそのあだ名はなぁ。

でも、そこは「俺は食い物か!」くらいのツッコミをだな………。

 

「イッセー先輩、コーチンをツッコミの道に誘おうとしてますね?」

 

鋭いよ、小猫ちゃん!

というか、ツッコミ要員増やしちゃダメですか!?

 

俺はコホンと咳払いすると、百鬼に問う。

 

「百鬼というと、五大宗家の筆頭だったか。確か、黄龍って名前は百鬼家が司る霊獣と同じだったよな?」

 

「はい。俺は百鬼家の次期当主ということになってます。現状は」

 

次期当主………やっぱりか。

霊獣の名前を継ぐのは次期当主だって聞いたことがあったから、なんとなくそんな気はしていたよ。

 

ゼノヴィアが腕を組んでうんうんと頷きながら言った。

 

「黄龍はかなり凄いぞ。何せ、魔王アジュカ・ベルゼブブのもとで、重要な役割をいただいているみたいなんだ。残りの神滅具の調査だったな?」

 

マジか。

アジュカさんのもとで神滅具の調査と来ましたか。

残りの神滅具というと『蒼き革新の箱庭』と『究極の羯磨』だな。

アザゼル先生も行方を追っていると言っていたけど、あの二つはまだ捕捉できていないのか?

 

百鬼は複雑そうな表情で言う。

 

「なんて言いますか、あの魔王さまには厄介事専門家として結構無理させられるといいますか………」

 

「ま、何かあれば出来る範囲で手を貸すよ」

 

苦笑しながら言う俺。

すると、百鬼は俺の前に立って、急に姿勢を正した。

 

「赤龍帝の兵藤一誠先輩」

 

「ん? どうした?」

 

なんだなんだ、突然改まって。

もしかして、俺に用があったりしたのか?

 

そんなことを思っていると―――――百鬼は俺に向かって頭を下げてきた。

 

「俺、あなたを目標にしているんです」

 

「俺を?」

 

「はい。あなたのこれまでの経緯は俺も聞いています。神滅具を宿していたとは言え、元々は普通の一般人だった。けど、あらゆる困難を乗り越えて、勇者とよばれるまでに至った。俺はあなたのような心も体も強く、そして運命に逆らうくらいに強くなりたいと思っています」

 

下げた頭を藻とに戻した百鬼の表情は真に迫るものがあり、真っ直ぐな目で俺を見ていた。

いやはや、どうしたものか………。

 

俺は苦笑して返した。

 

「そんな大したもんじゃないさ。俺はただがむしゃらに生きてきただけだ。もし、俺のことを強いと思うなら、それは俺に仲間がいたからだと思う。俺一人じゃ、多分、とっくの昔に尽きていたさ」

 

「………そうですか。いえ、そうだからこそ、兵藤先輩は大勢の人から、それこそ神からも認められる存在なんだと思います。俺、あなたに教わりたいことが山ほどあるんです。もし何かあったら、言ってください。俺もあなた方の力になりますので。アジュカさんも許してくれるとは思います」

 

うーむ、黄龍は俺に何か特別な想いでも抱いてるみたいだな。

まぁ、目標にしてるとは言っていたし、自分で言ってしまうのもあれだが、俺に憧れに近いものをもっているとか?

 

ゼノヴィアがクスリと笑いながら言う。

 

「黄龍はずっとイッセーに会いたがっていたんだ。まぁ、私が紹介すると言っておきながら、忘れていたせいで遅くなってしまったが。黄龍、この書類をここに持ってきたのはイッセーに会うためでもあったんだろう?」

 

「あ、いや、それは………」

 

ゼノヴィアの指摘に顔を赤くして、口ごもる黄龍。

どうやら図星のようだ。

こういう反応は年相応かな?

同じく後輩男子のギャスパーとはまた違った感触だ。

 

俺はフッと笑むと左手を差し出した。

 

「ありがとう。俺に何が教えられるかは分からないけど、何でも聞いてくれ。これからよろしく頼むよ」

 

「はい、こちらこそ。よろしくお願いします」

 

俺の手を取り、力強く頷く黄龍。

 

………この手のゴツゴツした感触。

相当に鍛え込んでいるな。

黄龍も相当に修羅場を潜り抜けてきたんだろう。

 

などと考えていると、またまたドアがノックされた。

今度入ってきたのはリアスだった。

 

「イッセーはいるかしら………って、いたわね」

 

「いるけど、どうしたの?」

 

俺が問うと、リアスは頷きこう言った。

 

「あなたにお客さんが来ているの。町の地下まで付き合ってちょうだい。アリスさんとレイヴェルもお願いできるかしら?」

 

話を振られたアリスは自信を指差して聞き返した。

 

「レイヴェルさんは分かるけど、私も必要なの?」

 

「ええ、アリスさんはイッセーの『女王』だもの。会っておいた方が良いと思うの」

 

 

 

 

部活を抜けだした俺はアリス、レイヴェルと共にリアス先導のもと、駒王町の地下に用意されている空間の一つを訪れていた。

空間に辿り着いた俺達を待っていたのは―――――十メートル程のドラゴン。

そのドラゴンはどこか覚えのある風貌をしており、感じる気の質もある人物と似たものだった。

 

ドラゴンは俺を確認すると、深く頭を下げて、ひれ伏した。

 

「お初にお目にかかりまする。某は魔龍星タンニーンが三男ボーヴァと申します」

 

「―――――っ!」

 

ドラゴンの言葉に驚いた。

もしやと思ったが、本当にタンニーンのおっさんの息子だったのか!

いや、アザゼル先生とかからそれとなく息子がいるという話は聞いていたし、姿や気の質も似ていたから、気づいたけども!

でも、タンニーンのおっさんの息子が俺を訊ねてくるとは予想すらしてなかった!

 

おっさんの三男―――――ボーヴァは改めて俺に言う。

 

「赤龍帝、兵藤一誠様にお願いがございまして、この場に参じております。ぜひ、某めをあなたの臣下にしていただきたく、参上つかまつりました!」

 

空間に響くボーヴァの声。

俺は一瞬、思考が止まり、ボーヴァの言葉だけが頭の中で何回もリピートされていた。

 

えーと………え?

え、ちょっと………え?

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 臣下ぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

驚愕の声をあげる俺とアリス!

だよね!

驚くよね!

だって、初対面でいきなり臣下にしてくれって言われたんだもの!

 

アリスが俺とボーヴァを交互に見ながら言う。

 

「イッセーの臣下って………。あー、それで私も着いてきた方が良いと。なるほどね」

 

リアスに言われたことを納得したのか、息を吐くアリス。

アリスは俺の『女王』だからな。

こういう眷属全体に関わってきそうな話には着いてくるのが『女王』の役割でもある。

まぁ、『王』と『女王』揃って、まだまだ知識が不足していることもあるので、『僧侶』にしてマネージャーのレイヴェルも同行することが多いんだけどね。

 

隣のレイヴェルが耳打ちしてくる。

 

(………『破壊のボーヴァ』という蔑称がつくほどの冥界では有名な荒くれ者ですわ。ドラゴン達に敬愛される父君タンニーン様のご子息とは思えないほど、素行の悪さで知られています)

 

今度はリアスが耳打ちしてくる。

 

(ただ、タンニーン様のご子息の中では最強とされるのもまた事実よ)

 

『破壊のボーヴァ』、冥界の荒くれ者、元龍王の子供達の中で最強。

これだけ聞くと凄いドラゴンが訪れてきたものだなと認識できる。

 

しかし、おっさんの息子が来るなら、事前におっさんから連絡があっても良いと思うんだけど………おっさんには内緒で来ているのかね?

ここはおっさんに連絡した方が良いような気もするが………どうしたものか。

 

すると、アリスがボーヴァに訊ねた。

 

「臣下というのは、イッセーの眷属になりたいということ? イッセーの駒、あと『騎士』の駒一つしかないけど」

 

眷属かぁぁぁぁ………。

そうなるとかなり考えないといけないから、この場での判断は難しいぞ。

 

アリスの問いにボーヴァは大袈裟に手を振って、答えた。

 

「いいえっ! そのような大それたものではございませぬ! 兵藤一誠様はご眷属を女人で構成されたいという願望をお持ちであられると、某の耳にも入っておりますゆえ、それを望むわけにもいきませぬっ! ただの部下、ただの兵として、お近くにお仕えできれば幸いだと思っておるのですっ!」

 

と、ボーヴァは言うが………。

 

「モーリスが入ってる時点でもうイッセーの願望は崩れてるけどね。まぁ、うちの眷属で最高戦力でもあるけど、あのチートおじさん」

 

「というか、おっさんの場合、俺達の保護者ポジションなんだよなぁ。昔からそうだし」

 

「「ねー」」

 

顔を合わせて声を揃える俺とアリス。

 

悪魔になりたての頃は「上級悪魔になったら、眷属を女の子で固めてやる!」って思ってたけど、いざ上級悪魔になると、昔の仲間ともう一度っていう気持ちが上回ったんだよね。

現に今の眷属は昔の仲間がほとんどだし。

 

とまぁ、この話は置いておいてだ。

今は目の前のドラゴン―――――ボーヴァの対応について考えないといけない。

デカい図体で、纏うオーラもタンニーンのおっさんのものなんだけど………どう見ても緊張してるんだよね。

冥界の荒くれ者とは思えないほどに、それはもうガチガチだ。

緊張しすぎて、体が震えているほどだ。

 

そんな中でボーヴァは更にだめ押しとばかりに言ってきた。

 

「どうか、某めをお側に置いてはくだされませぬか?」

 

………今日は百鬼といい、ボーヴァといい、真っ直ぐに俺を見てくる奴が多いな。

勇者と呼ばれていた頃は色々な感情の視線を向けられていたが、その中には俺に対して憧れを抱いているのも確かにあった。

最初の頃は目の前の現実に必死であまり応えることが出来なかったけど、今はもっと考えられるようになってるはずだ。

 

「なぁ、ボーヴァ」

 

「はっ!」

 

俺が声をかけると、応じるボーヴァ。

俺は腕を組んで、少しの間、瞑目した後に口を開いた。

 

「まぁ、正直なところ、俺はボーヴァのことを知らないし、ボーヴァも普段の俺のことは知らないだろう。だから、臣下云々は少しの間、保留にしたいと思う。その代わり、見学期間を設けたい」

 

「見学期間、でございますか?」

 

「そうだ。暫くは俺の事務所に通ってもらう。流石に一日中、時間を共にすることは無理だけど、日常の中で互いのことを見極めていく。その方が俺にとっても、ボーヴァにとっても良いだろう」

 

アリスも頷いて言う。

 

「臣下になるってことは、自分の人生を捧げるに等しいわ。だから、あなたも自分の目で見て、イッセーのことをよく知った上で決めてほしいの。私達もあなたのことをよく知った上で仲間にしたい。その方が、将来的により良い関係を築けると思うの」

 

今すぐには臣下にするかどうかは決めない。

お互いのことをよく知った上で話していきたいんだ。

俺に憧れやそれに似た感情を持ってくれているのなら尚更だ。

伝聞や映像の中の俺じゃない、素の俺を知ってもらいたい。

その上で、ボーヴァには判断してほしい。

 

俺の出した答えにボーヴァは―――――涙ぐんでいた。

 

「某のことを真に考えていただけるとは………! 思慮の深さ、懐の深さに感服しました! そのお言葉を頂けただけで、十分ですっ!」

 

な、なんつー大袈裟な。

感涙しちゃってるよ………。

 

この後、今後のことについて少し話した後、ボーヴァは冥界に帰っていった。

よい返事が聞けたと言うことで、最後はメチャクチャ喜んでたけど、なんというか子供っぽい反応だったな。

とにかく、明日からうちの事務所に足を運ぶことになったから、臣下にするかどうかはそれからということで。

 

ボーヴァが帰った後、俺達も戻ろうかとなった時、レイヴェルが呟いた。

 

「先日、モーリス様が仰っていましたわ。本当に魅力のある殿方は男性をも惹き付ける、と」

 

アリスがポンっと手を叩く。

 

「その点、うちの主様は満点ね。男性からモテるもの」

 

「確かに」

 

リアスもうんうんと頷いているが………。

 

「野郎からなんてモテたくねぇよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

俺の心からの叫びだった。

やっぱり女の子からモテるのが最高なんだよ!

 

 



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11話 忘れないように

「よーし、今日はじゃんじゃん釣るぞ! 分からないことがあったら、俺に聞いてくれ!」

 

『おおー!』

 

父さんの声に反応する俺達。

今日は父さんの企画で無人島に釣りに来ていた。

この無人島はグレモリー家の関係者が管理している島であり、良い魚がたくさん釣れるという。

 

今回の企画が行われた理由だが、数日前のある晩にテレビで釣り特集を見ていた父さんが、

 

『よし、釣りにいこう』

 

などと急に言い出したのだ。

更に、

 

『良いですね。私もご一緒しますよ』

 

と、意外にもリーシャが父さんの言葉に乗ってしまったのだ!

これには俺も「え、マジで?」となったのだが、リーシャの言葉をきっかけに他のメンバーも行きたいとなり、話が大きくなった。

その結果―――――

 

「ごめんなさいね、イッセー君。私達もお邪魔してしまって」

 

と、申し訳なさそうにするソーナ。

そう、今回の海釣りには兵藤家に住む者の他にもシトリー眷属の面々からヴァーリチーム、デュリオ、他にも数名と中々の大人数が参加しているんだ。

 

デュリオが親指を立てて言う。

 

「俺は皆が釣り上げた魚を食う係りね」

 

「よし、おまえは俺達が食っているのを遥か遠くから見つめる係りだな」

 

「イッセーどん、俺に対する当たり強くない!? なんで、そんなに遠くから!?」

 

そんなデュリオをスルーして、俺はソーナに言う。

 

「まぁ、こういうのは人数が多いほど楽しいしね。というか、皆の竿とか用意してくれたのリアスだし」

 

釣り好きの父さんでも流石にこの人数の釣り道具一式を揃えるのは無理なので、そこはリアスにお願いしてグレモリー家に用意してもらっている。

というか、この海釣り企画、実は―――――

 

「よぉし、今日は私も張り切りますぞ! 私も昔、この辺りの海で釣りをしたことがありましてね。それで――――」

 

意気揚々と語るのは紅髪のダンディーな男性。

そう、この海釣りにはリアスパパことジオティクスさんまで参加しているのだ!

 

色々、準備をしてもらっておいて言うのもなんですけど、今日来ても大丈夫なんですか!?

ヴェネラナさんに許可は貰ったんですか!?

以前に公爵の仕事そっちのけで、ゆるキャラの修行とかして、奥さんに怒られてましたよね!?

そこだけが本当に心配です!

 

リアスが苦笑しながら言う。

 

「今日はちゃんと休みを取ったそうよ。後でお母様も来るらしいわ」

 

「あ、そうなのね………」

 

それは良かった。

ヴェネラナさんといい、グレイフィアさんといい、グレモリー家の奥様方は怒ると怖いからなぁ………。

 

「お腹が空いたら言ってちょうだいね。おにぎりもお菓子も用意してあるから」

 

と、母さんが大型のバスケットを指してそう言った。

母さんは無人島の浜辺でパラソルを開いて、陣を敷いており、美羽とサラ、ワルキュリアも色々と準備をしてくれていた。

今日みたいな日でもワルキュリアのメイド気質というのは変わらないらしい。

いつものメイド姿で、メイドとしての役割を果たして―――――

 

「………サリィ様、フィーナ様。フフフ、スクール水着というものは大変素晴らしいものですね」

 

前言撤回!

スク水姿の幼女を眺めているただのロリコンメイド長でした!

と、とにかく小休止したくなったら、母さん達のところに行けばいいんだな。

 

釣りにノリノリな女子達も多い。

ゼノヴィアとイリナは釣竿片手に張り切っていた。

 

「ゼノヴィア! どちらが多く釣り上げるか勝負よ!」

 

「望むところだ、イリナ!」

 

アーシアの手を引いて、ゼノヴィアとイリナは浜辺をダッシュして、釣りのポイントの探索に入った。

 

「私はダイビングしながら捕ってきます」

 

ロセはウェットスーツに銛という装備で海に潜っていった。

ロセが銛とはまた意外だけど、銛で捕るのも面白そうだな。

 

今回の企画に一番に名乗りを挙げたリーシャはというと、

 

「私も釣ってきますね」

 

「うん、それは良いんだけどさ………その手に持っているのはなに?」

 

俺は目元をひくつかせながら、リーシャの手に握られたもの―――――狙撃銃を指差した。

俺の問いにリーシャは気合いの入った表情で言う。

 

「これで魚を狙い撃ってみせます!」

 

「違う! それ、釣り違う! それもう、ただの魚の暗殺!」

 

魚を狙い撃つってなに!?

どんな釣り方!?

 

「ウフフ、冗談です。ちゃんと釣竿で釣ってきますよ」

 

「じゃあ、その狙撃銃はなんだったの!?」

 

「たまには私もボケというものをやってみようかと思いまして」

 

「お願いだからやめてくれ! リーシャはいつまでもそのままのリーシャでいてくれ!」

 

これ以上、うちの眷属でボケに走るメンバーを増やされてたまるか!

もうボケの飽和状態なんだよ!

 

俺のツッコミを聞いたところで、リーシャはちゃんとした釣竿を持って、アリスとニーナ、サリィ、フィーナと共に浜辺を歩いていった。

ちなみに、モーリスのおっさんだが、こちらは父さんとジオティクスさんの二人と釣糸を垂らしている。

 

異世界メンバーが楽しんでいるのを確認できたところで、俺はヴァーリに声をかけた。

 

「おまえが来るなんてな」

 

「たまにはこういうのも良いさ」

 

ヴァーリチームが参加した経緯だが、たまたま兵藤家を訪れていたヴァーリに父さんが企画を話して誘ったんだ。

そうしたら、ヴァーリチームの面々も参加したいとのことで、今に至る。

 

近くではヴァーリチームの面々が複数のグループに別れていた。 

一つ目は黒歌、小猫ちゃん、レイヴェル、ギャスパー、ヴァレリーのグループ。

二つ目はルフェイとアーサーの兄妹のグループ。

三つ目は美猴とフェンリルのグループで、

 

「へへへ、ま、大勢での釣りってのも乙なものかもしれねぇな。おい、おまえも海に入って捕ってくりゃーいいんじゃねぇのかぃ?」

 

美猴がペシペシとフェンリルの頭を叩き、そして―――――

 

「ガルルルルルルルルルルッ!」

 

「いってぇぇぇぇぇ! 噛みやがった、このクソ狼ぃぃぃぃぃ! おまえの牙はシャレにならねぇだろうがよぉぉぉぉぉぉ!」

 

見事に噛まれていた。

うん、そりゃそうなるわ。

 

まぁ、一部を除いてヴァーリチームも平和な釣りを楽しんでいるようだ。

そんな光景を見ながら、俺も釣りのポイントを探すことにする。

こうして楽しむための釣りも久しぶりかな?

美羽をこっちの世界に連れてきた後に、家族で何度かしたけど、最後にしたのは結構前だ。

 

そうして歩き出した俺の隣に着いてきたのは―――――ヴァーリだった。

 

「今回は君に付き合おう」

 

 

 

 

「おっ、さっそく一匹目か」

 

俺、ヴァーリで釣りを開始して数分。

最初のヒットを当てたのはヴァーリだった。

 

「やるな」

 

「アザゼルによく連れてこられたんでね。まぁ、キャンプの時に役立っているかな」

 

「そっか。そういや、アザゼル先生も一時期、釣りにハマってたって言ってたな」

 

今回の釣りにはアザゼル先生も誘ってみたんだが、予定が入ってて来られなかったんだよね。

今は色々と忙しいみたいだし、また今度誘ってみようかね?

 

釣り竿の穂先を見ながら、俺はふと、ヴァーリに問う。

 

「アザゼル先生から聞いたぞ。おまえ、最上級悪魔になったんだって?」

 

「やはり知っていたのか。まぁ、俺も一度は断ったんだが、冥界で活動するには色々と特権がつくとアザゼルに勧められたんだ」

 

ヴァーリは釣竿を一旦、下に置くと懐から丸く巻かれた書類を出して、俺に渡してきた。

俺は高貴な装いの羊皮紙を広げると、そこには悪魔文字の文章が書かれていた。

小難しい内容だが、とある一文に俺は注目した。

 

 

―――――汝、ヴァーリ・ルシファーを最上級悪魔とする。

 

 

俺はその一文を見て、フッと笑んだ。

 

「おめでとさん。これでおまえも最上級悪魔の仲間入りってな。だけど、やっぱり儀式とかはなしなんだな」

 

「あくまで秘密裏に与えられた地位なんでね」

 

「なるほど」

 

俺が羊皮紙を返すと、ヴァーリは懐にしまいながら言ってきた。

 

「だが、兵藤一誠。君もそろそろ最上級悪魔に昇格しても良い頃だと思うぞ」

 

「俺が?」

 

俺が聞き返すとヴァーリは頷いた。

 

「悪魔に転生後、約半年で昇格。しかも異例の飛び級だ。君の場合は特殊であり、様々な思惑もあると思うが。上級悪魔に昇格後すぐにリゼヴィム率いるクリフォト、伝説の邪龍、そして異世界の神アセム達との戦いだ。先の戦―――――所謂『次元戦争』と呼ばれるものだが、あれは君の力なしでは到底勝てなかった。君の存在がなければ、今頃、この世界は無くなっていたかもしれない。つまり、君は冥界の英雄どころか、この世界そのものを救った英雄になったわけだ。これ程の存在が上級悪魔の位で留まるはずがないだろう?」

 

「………アザゼル先生にも似たようなことを言われたよ」

 

最上級悪魔、か。

正直、今の俺にそんなことを言われても困るな。

 

悪魔に転生して、ちょうど一年が経つ。

転生後すぐに堕天使とのいざこざに巻き込まれたし、エクスカリバーを巡る事件にも遭い、堕天使幹部との戦いもあった。

その後も、悪神ロキに襲撃されるわ、修学旅行先では最強の神滅具を持つ野郎と戦うわ、冥界の魔獣騒動でも戦った。

昇格後も邪龍だの、ルシファーの息子だのとも戦って………。

これに加えて、異世界絡みでも色々あった。

 

「自分でもヤバい一年だったと思うよ。全部乗り切ったからこそ、こんな漠然とした感想になるけどな」

 

「それも仕方がないことだ。この一年で起きたことは、どれもこれも歴史が変わるレベルのことだ。このようなことは過去の歴史を探っても、ほぼ例がないだろう。フフッ、俺達はとんでもない時代に生きているな」

 

「楽しそうに言うんじゃねーよ。全部、死線ばっかりだったじゃねぇか」

 

「ああ、そうだ。だからこそ、自然と格も上がって当然とも言える。君が昇格の話が出た時に、困った表情をするのは、下級悪魔、中級悪魔、そして上級悪魔。これらを体験し尽くす前に話が出るからだろう」

 

「そうなんだよなぁ………」

 

上級悪魔に昇格する話が出た時も感じたことだ。

悪魔になって日の浅い俺が昇格しても良いのかって。

もちろん、周りが俺を認めてくれた証しでもあるし、それは素直に嬉しいことだ。

でも、今になって思えば、もう少しだけ、下級悪魔や中級悪魔としての経験をしてみたかったと思う。

まぁ、昇格の話が少ない中、贅沢な悩みでもあるんだけどね。

 

俺がため息を吐いていると、ヴァーリは可笑しそうに言った

 

「異世界で勇者と呼ばれていたんだ。これくらい今更なんじゃないのか?」

 

「それとこれとは話が別だろ」

 

「そうなのか?」

 

「そうだよ。………つーか、おまえさ。段々、アザゼル先生に似てきたな。話し方と言うか、雰囲気と言うか」

 

「………そうなのか?」

 

「そうだよ」

 

「「………」」

 

俺達は少し無言になった後、軽く噴き出した。

笑いながら、ヴァーリが言う。

 

「まぁ、最上級悪魔への昇格も決まった訳じゃない。まだ可能性の話だ。だが、それもそんなに遠い話じゃないだろう。それまでにある程度、考えていた方が良い」

 

「ああ、何となくでも考えておくよ………っと、俺も当たりだ」

 

話している間にちょうど、俺の竿にもヒットし、糸を巻き上げていく。

中々の大物なのか、魚が強い力で抵抗してくる。

俺が上手いこと、糸を引くタイミングを合わせていると、ヴァーリが聞いてきた。

 

「話は変わるが、君は出るのか?」

 

「レーティングゲームの大会か? ………さて、どうしたものかね。そっちは当然出るんだろ?」

 

「出るさ。これは好機だ。何せ、既に登録された顔ぶれには神クラスが何柱もいる。公式に神々に挑戦できる機会はそうない。初代孫悟空から預かっている者達にも働いてもらいつつ、チームを構築するさ」

 

国際大会では、広く募集しており、あらゆる種族、神仏が参加できる。

祭りとしての側面が強いようで、ルールなども本来のレーティングゲームと比べると変わっている部分がある。

 

まず、チームは最大十六名。

『王』と『女王』が一名、『戦車』『僧侶』『騎士』が二名、『兵士』が八名のチーム構成だ。

ここは本来のルールから変わらないが、ここからが違う。

チームメンバーは眷属でなくても良いんだ。

例えば、悪魔のチームに天使や人間が入って良く、所属チームが二重にならなければ、どんなチーム構成でも許される。

他にも『僧侶』として駒をもらって転生悪魔になった者でも、大会では他の駒として参加できる。

『僧侶』のアーシアが大会では『騎士』として出場できるということだ。

まぁ、アーシアが前衛で剣を振り回す光景なんて、想像できないけど………。

 

既に各勢力のあらゆる者達、中には神クラスも参加表明をしている。

神々との戦いを望んでいたヴァーリにとって、これ以上ない大会だろう。

 

「これで昂らなければ嘘だろう?」

 

と、嬉々として語るヴァーリ。

本当に楽しみにしているようだ。

 

ヴァーリが真正面から言ってくる。

 

「曹操、サイラオーグ・バアル、デュリオ・ジェズアルド。あの温厚な鳶尾ですら、『王』としてチームの登録を済ませてある。リアス・グレモリーも出場するのだろう?」

 

「リアスとソーナも登録は済ませたって言ってたな」

 

俺の呟きにヴァーリは頷いた。

 

「俺が知る強者達の中で、登録を済ませていないのは君だけだ、兵藤一誠。………君の場合、体調のこともあるのだろうが」

 

最後にそう付け加えたヴァーリの目はどことなく寂しげに見えた。

出会った頃のこいつなら、強引に「出ろ」って言ってたんだろうけど、随分と優しくなったものだな。

ここは落ち着いたと言うべきなのか………こう、丸くなった気がする。

 

「よっと………へへっ、どうよ。おまえよりもデカいのを釣り上げてやったぜ」

 

釣り上げた魚を手にイタズラな笑みを浮かべる俺。

ヴァーリが釣った魚よりも大きなサイズだ。

 

すると、今度はヴァーリの竿が海面に引っ張られた。

一気に釣り上げるヴァーリ。

上げられた魚は俺が釣った魚よりも大きい。

 

ヴァーリはニヤリと笑みを浮かべて言う。

 

「これで逆転だな?」

 

「なにおう!? こっちも次の当たりが来てるんだよ! うぉりゃぁぁぁぁぁ!」

 

などと叫びながら、糸を巻き上げる俺。

見事に釣って見せたが、ヴァーリのものよりも小さくて………。

ふと横を見ると、ヴァーリはフッと笑っていやがった!

ちくしょうめ!

 

俺はやれやれと息を吐くとヴァーリに問う。

 

「知っての通り、今の俺は万全には程遠い。禁手すらまともに維持が出来ない程にな。出たところで情けない姿を見せることになるかもしれない。そんな俺でも………おまえは望むか?」

 

仮にこいつと当たった場合、俺達はサシの戦いになる。

ヴァーリもそれを望むだろうし、俺もやるなら誰の邪魔の入らないサシでやりたい。

だけど、そうなった場合、今の俺がヴァーリと戦ったとして、勝てる確率は相当低いだろう。

十に一つあるかどうか………いや、それ以上に低いか。

 

俺の問いにヴァーリは静かに口を開いた。

 

「君は絶対的な危機を前にして、あらゆる手を使って越えてきたはずだ。十に一つ、万に一つだったとしても、君はその一を引き当ててきた。情けない姿と言ったが、俺はそうなるとは思わない。むしろ、今の君なら、これまでにない緊張感と衝撃を与えてくれると思っているよ」

 

そう言うと、ヴァーリは拳をこちらに突き出してきて―――――。

 

「俺は今の君と―――――今の兵藤一誠と戦いたい。これでも君の意思は固まらないか?」

 

「………っ」

 

………この野郎、言ってくれるじゃないか。

俺の心の内を見透かしたように言うなんて、益々、アザゼル先生に似てきやがった。

しかし、なんだ………今の一言で迷いが晴れた。

モーリスのおっさんが言っていた通り………いや、言われなくても分かってはいたんだ。

俺のライバル達はこういう奴らだって。

でも、もしかしたら俺はその言葉を本人から直接聞きたかったのかもしれないな。

 

俺は一度目を閉じると、心を完全に切り替えた。

 

「いいぜ。魅せてやるよ、明星の白龍皇ヴァーリ・ルシファー。とことんまでやってやろうじゃないか」

 

「楽しみにしているよ、我がライバル。異世界帰りの赤龍帝兵藤一誠」

 

不敵に笑む俺達は互いの拳を合わせた―――――。

 

 

 

 

日が沈む夕方。

今晩の夕食は釣り上げた魚を捌いてバーベキューだ。

皆でワイワイ騒ぎながら、準備をしていると、

 

「あら、たいへん。醤油を持ってくるのを忘れたわ」

 

母さんの言葉に皆の視線が俺に集まった。

そして―――――

 

「イッセー、出番だぞ!」

 

「イッセーさんのお醤油を!」

 

「メタリックな義手の数少ない出番よ、イッセー君! さぁ、人差し指から醤油を出して!」

 

「うるせぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! なんで、醤油忘れるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ! ちゃんとチェックしとけよぉぉぉぉぉぉ!」

 

島全体に響くほどの叫びをあげた俺は、泣きながら人差し指から醤油を出した。

 

 




皆さん、忘れ物をしないようにチェックをしましょう。


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12話 条件と相談と

「俺は―――――大会に出る」

 

ヴァーリとの会話を終えた後のことだ。

釣りに出かけていたメンバー全員の前で俺はそう宣言した。

 

反対されるかもしれない、そう思っていた。

うちの眷属だって、今回は見送った方が良いと言っていたんだ。

他のメンバーからも同様の意見が出てもおかしくはない。

 

だけど、皆は反対することもなく、驚くこともなく、ただ黙って俺の宣言を聞いてくれていた。

まるで俺の答えが分かっていたかのように。

 

そして―――――

 

「とりあえず、イッセー。醤油出してくれない?」

 

「このタイミングでそれ言うぅぅぅぅぅぅ!?」

 

俺の宣言は醤油に流された。

 

 

 

 

帰宅して、入浴後。

俺は自室のベッドにダイブしていた。

 

朝から夕方までぶっ通しでの釣りは流石に疲れました。

十分に楽しんだからこそ感じられる疲れなんだけど。

あと、よくよく考えると悪魔の俺達が炎天下のもと、釣りをするっておかしな状況だったよね。

まぁ、そんな野暮なことは口に出したりしないけども。

 

俺は一分ほど枕に顔を埋めると、同じく隣でゴロゴロしていた美羽に話しかけた。

 

「なぁ、さっきの話なんだけど」

 

「………」

 

さっきの話というのはもちろん、俺がレーティングゲーム国際大会に参加することなのだが………俺はまだ眷属の皆からハッキリとした答えは貰っていない。

 

俺の問いかけに美羽は無言のまま、足をベッドの上でバタバタさせる。

そして、少し間を開けた後、美羽が顔を上げた。

 

「お兄ちゃんの気持ちは分かってたよ。皆が参加するんだもの。自分も大会に出たいってなるのも普通なんだと思う。そこにライバルからの言葉もあれば、自然とそういう答えになるんだってことも。でもね………」

 

そこで言葉を一度途切れさせると、美羽は俺の目をじっと見て言ってきた。

 

「ボク達の気持ちはどうなるのかな?」

 

「………っ」

 

言葉を詰まらせる俺に美羽は静かな口調で続ける。

 

「お兄ちゃん達は男の子だもん。そこには譲れないものも、ライバルだからこその感情もあると思う。そこはボクも理解してる。この間、モーリスさんが言っていたことは正しくて、眷属のボク達は主であるお兄ちゃんの気持ちを考えて、支えなきゃいけない。でもね、ボクは………お兄ちゃんの眷属である前に、家族なんだよ? ボク達がお兄ちゃんを心配してるってことは忘れてほしくないな」

 

今回の参加表明は自分の気持ちを優先させた結果だ。

元々は美羽やレイヴェル、他の眷属メンバーも体調を考えて、見送るべきだと言っていたんだ。

それを俺は、自分も出場したい、ライバル達と戦いたい、俺を待ってくれている奴らの想いに応えたい、そんな想いで、美羽達の想いを無視することと等しい行為をしてしまった。

 

「ごめん………」

 

俺は美羽と向き合うと、頭を下げた。

すると、美羽は俺の手を取って首を横に振った。

 

「怒っているわけじゃないんだよ? ただ、お兄ちゃんを待っている人がいるように、お兄ちゃんを心配している人がいることを忘れないでほしいだけで」

 

そう言うと美羽は優しく微笑んでくれた。

 

レーティングゲーム国際大会。

今までのように命をかけた戦いじゃないけど、危険はある。

神々も参加するんだ、その危険度はこれまでに行われてきたゲームとは比べ物にならないだろう。

ゲームだからと、侮っちゃいけない。

心配してくれる人がいることを忘れてはいけないんだ。

 

美羽は人差し指をこちらに向けると、注意するようにいった。

 

「お兄ちゃんがゲームに参加するなら、ボク達もそれに従うし、全力で支える。でも………参加するに当たって、お兄ちゃんには条件があります!」

 

「じょ、条件?」

 

俺が聞き返すと、美羽は頷いた。

 

「うん。実はね、レイヴェルさん達と話し合っていたんだ。お兄ちゃんが大会に参加したいって言うのは何となく分かっていたからね。だから、お兄ちゃんが参加表明をした時は条件を付けようって」

 

そう言うと美羽は指を三つ立てて、その条件とやらについて説明していく。

 

「一つ、無理はしても無茶はしないこと! 神クラスも参加するゲームだから、易々と勝てるはずがないのは分かるけど、命を削るような力は使わないこと!」

 

「ま、まぁ、それは最初からそのつもりだけど………」

 

「二つ、体に異常があった時はすぐに申告して、ゲームを棄権すること! たとえ、ゲーム中であったとしても!」

 

「ゲーム中でも!?」

 

「当たり前だよ! ケガはしょうがないとしても、お兄ちゃんの場合、生命力や魂が不安定なんだから! 深いところで異常があったら、絶対に棄権すること! 絶対だからね!」

 

「は、はい!」

 

「三つ、過激な特訓はしないこと! 対戦相手が強いからといって、無理な修行は禁止です! オーバーワークにならないよう、適度な範囲で修行すること!」

 

「いや、それは前々からそうしてるけど………」

 

オーバーワークにならないようにするのは基本だしね。

そのあたりは日々、自分にあった分量をこなしてきているよ。

 

今、美羽が挙げた条件はどれも俺の体の状態に関するものだ。

ようするにゲーム中のケガはともかく、生命力を削るような真似をするなってことだな。

 

まぁ、現在進行形で治療中の身だし、ゲームに参加すると言ったものの、その辺りは気を付けるようにすると決めていた。

ライバル達との約束があるとはいえ、命を削るような戦いをするつもりはないよ。

というか、俺の可愛い嫁さん達を幸せにした後も生き続けるって約束もしてるし、死んでたまるかってんだ!

 

美羽は更に話を続けた。

 

「以上、この三つのことが守れなかった場合、お兄ちゃんは一ヶ月おっぱい禁止! 見るのも、触るのも、語るのも禁止だよ!」

 

「マジでか!?」

 

見るのも触るのも語るのも禁止!?

しかも、一ヶ月もだと!?

そんなの死活問題じゃないか!

おっぱい欠乏症で死ぬぞ!?

 

「ちなみに、なんで一ヶ月?」

 

「おっぱいドラゴンの仕事があるからね。スケジュールの調整がギリギリ利く範囲で」

 

なるほど、おっぱいドラゴンの仕事がある以上、おっぱいに視線がいくしなぁ………。

レイヴェル、君は俺への罰もスケジュール管理に入れてるんだね。

どこまで有能なマネージャーなんだ………!

 

「更に!」

 

「これ以上にまだあるの!?」

 

おっぱい禁止以上の罰があるというのか!?

今日の美羽ちゃん、なんか厳しくないですか!?

 

美羽は深く息を吸うと、肩を震わせた。

そして、物凄く決心した顔でこう言った。

 

「もし、お兄ちゃんが条件を守れなかった時は―――――ボクとサラはお兄ちゃんの妹をストライキします!」

 

「な………なぁぁぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

俺の妹をストライキするって………え!?

ちょ、マジでか!?

マジなのか!?

そんなの冗談でも………って、美羽の目が本気だ!

 

う、嘘だ………。

俺の可愛い妹達が………妹をやめるっていうのか?

もう、『お兄ちゃん』とも『にぃに』とも言ってくれなくなるのか?

そんなの………そんなのって―――――

 

「世界の終わりじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

『そこまでのことか!?』

 

そこまでのことなんだよ、ドライグ!

 

美羽とサラが妹じゃなくなるんだぞ!?

こんなの、世界………宇宙の終わりに等しいことだ!

 

くっ………もう体中が震えてるし、動悸もする!

もう死ぬのかな?

ねぇ、もう死ぬのかな、俺?

 

『しっかりしろ、相棒ぉぉぉぉぉぉぉ! それは気のせいだ! 気のせいだから、深呼吸しろ!』

 

む、無理だ………。

妹ストライキをくらった俺はもうダメだ。

 

『いや、ストライキされるのは条件を破った時ということで、今くらったわけじゃないぞ!?』

 

そ、そうか………。

俺はまだ妹ストライキをくらった訳じゃないんだな。

 

美羽は涙目になって言う。

 

「ボクだって、お兄ちゃんの妹をストライキするなんて嫌だけど………こうでもしないと、お兄ちゃんは無理すると思ったから………。だから、ボクは自分の心を殺してでも言うよ。条件を守れなかったら、ボクとサラは三時間、お兄ちゃんの妹をストライキする!」

 

『なんだ、その中途半端なストライキは!? 三時間なんぞ、一瞬ではないか!』

 

「それ以上はボクが我慢できなくなる!」

 

『それはストライキというのか!?』

 

「うわぁぁぁぁぁぁん! 三時間も美羽とサラが妹じゃなくなるのかぁぁぁぁぁぁぁ! 死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

『相棒は三時間すら我慢できんのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

「無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 美羽、俺は絶対に約束守るから! だから、ずっと俺の妹でいてくれぇぇぇぇぇぇ!」

 

「うん! ボクもお兄ちゃんに無理させないように頑張るから! お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

「美羽ぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

『えぇい、このシスコンブラコン兄妹がぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

ドライグのツッコミを無視して、俺と美羽は号泣しながら抱き締めあった。

 

 

 

 

大会に出場するための条件を呑んだ後、部屋の扉がノックされた。

 

「にぃに、少しいいかな?」

 

そう言って入ってきたのは―――――猫パジャマ姿のサラだった!

 

「「ガフッ! こ、これが一日のご褒美なのか!」」

 

吐血する俺と美羽!

だよねだよね!

そうなるよね!

ちょっと照れたサラが可愛いよね!

 

俺は立ち上がって言う。

 

「この猫パジャマのチョイスをしたのは誰か!」

 

「ボクであります! お兄ちゃん隊長!」

 

「やはりな! 出かしたぞ、美羽軍曹!」

 

感動の涙を流しながら、敬礼する長男と長女!

 

流石は美羽、自分用とアリス用に猫パジャマを用意していたように、サラ用も購入していたか!

しかも、紫色の生地だから、サラのイメージにピッタリじゃないか!

 

ちくしょう、今から寝るつもりだったのに、バッチリ目が覚めてしまったじゃないか!

なんなら、これから撮影会でもしちゃう!?

ヤッフゥゥゥゥゥゥゥ!

 

ふと見ると、いつの間にか美羽も猫パジャマ(黒色)に着替えていて、

 

「どうかな、姉妹の猫だよ~? にゃーん」

 

「に、にゃーん………」

 

美羽に続いて、恥ずかしそうに言うサラ。

 

こ、これは………あの時の再現じゃないか。

初めて、美羽とアリスが猫パジャマを披露した時のあの―――――。

 

「ガッハァァァァァァァ!」

 

ダメだ、この姉妹、お兄ちゃんを殺しにきている!

お兄ちゃんを萌え殺す気だ!

でも、これで死ねるなら俺は本望だよ!

『死因:妹に萌え死』でも一行に構いませんよぉぉぉぉぉぉぉ!

 

っと………ゲフンゲフン。

一旦、落ち着いた方がいいな。

サラは何か用があったみたいだし、まずは話を聞いてあげないと。

 

「どうしたんだ? 何か相談か?」

 

そう問うと、サラはコクリと頷いた。

サラの反応に美羽が言う。

 

「お兄ちゃんに相談なら、ボクは外すよ?」

 

「ううん、ねぇねにも聞いてほしいかなって」

 

その言葉に顔を見合わせる俺と美羽。

俺達三人はベッド上に座ると、互いに向き合った。

 

サラの相談………まぁ、なんとなく内容が分かるよなぁ。

美羽も気付いているようで、こっちに視線を送ってきている。

 

サラは言葉を出そうとしているが、凄く言いにくそうにしているので、俺が話を切り出した。

 

「………学校のことか?」

 

俺の問いにピクッと体を震わせるサラ。

 

「その………クラスメイトとどう接したら良いのか分からなくて………」

 

そこからサラは話を続けていく。

 

内容は大方、ルフェイから聞いていた通りだった。

クラスの子とどんな話をすれば良いのか分からない、どうやって話しかければ良いのか分からない。

話しかけられると、緊張してしまうせいで、相手が話しにくい雰囲気を作り出してしまう。

そのせいで、自分に話しかけてくれる生徒が少なくなってしまった。

 

話を一通り聞いたところで、俺はサラに問う。

 

「サラは友達作りたいのか?」

 

「………分からない。友達ってどんな感覚なのか、いまいち分からなくて………」

 

そもそもの問題がそこかぁ………。

そういや、サラもまだ小さい時は体が弱くて、家に引きこもってたって聞いたな。

英雄派に入ってからは言わずもがなだし。

 

美羽が言う。

 

「でも、仲良くしたいとは思ってるんだよね?」

 

「………うん」

 

小さくうなずくサラに美羽は微笑んだ。

 

「それじゃあ、友達の意味を理解するよりも、仲良くなってみる方が早いかな? まぁ、その仲良くする方法をサラは聞いてるんだけど」

 

「まずは緊張を解すところからか? それが無くなれば、もっと簡単に………。サラはなんで自分が緊張すると思う?」

 

親しい人を作ってこなくても、人と話すことくらいは普通にやってこれたはずだ。

英雄派にいたときもそうだっただろうし、兵藤家に住むようになってからも、会話で緊張しているような様子はなかった。

まぁ、美羽以外にはあまり自分から話しかけようともしてなかったけども。

 

すると、サラはこう言ってきた。

 

「………怖い、から」

 

「怖い?」

 

話すのが怖い?

どういうことだ?

 

俺が聞き返すとサラは俯きながら、小さな声で返してきた。

 

「私、これまでは冷たい言い方しかしてこなかったから………。もし、そんな言葉で誰かを傷つけたらって考えると言葉が出てこなくなって………。傷つけてしまった時のことを考えると………怖いの」

 

………そういうことか。

自分の言動がクラスメイトを傷つけるのではないか。

何をどう話せば良いのか分からない状況に加えてそれだ。

知らず知らずの内に他者を傷つけてしまうこともあるだろう。

事情を知る俺達はともかく、一般の生徒に対してはあり得る話だ。

だから、サラは話せないのか………。

 

「にぃに、ねぇね………私、どうしたらいいの?」

 

サラは今にも泣きそうな顔でそう訊いてきた。

 

俺はそんなサラの頭に手を置いて、ポンポンと撫でた。

 

「よく話してくれたな。ずっと悩んでいただろうに、助けてやれなくてゴメンな?」

 

そう言うと俺は話を続けた。

 

「サラは他人を傷つけてきたって言うけどさ、そんなことはないと思うぞ? だって、俺達を助けてくれただろう? 父さんと母さんが拐われそうになった時も、命をかけて助けてくれたじゃないか」

 

俺達の危機にこの子は駆けつけてくれた。

父さんと母さんがリゼヴィムの野郎に捕まりそうになった時も全力で阻止してくれた。

サラは誰かのために力を使える、強い女の子なんだ。

 

俺の言葉に美羽が続く。

 

「サラは自分が思っている以上に強くて優しい子なんだ。大丈夫、ありのままのサラでクラスの子達と触れあえば良いんだよ」

 

ここで美羽が人差し指を立てた。

 

「と言っても、いきなりは難しいだろうから、まずは手助けからやってみようよ」

 

「手助け?」

 

首を傾げるサラに美羽は言う。

 

「そう。困っている人を助けてあげること。プリントを運んだりでも良いし、教室の清掃でも良い。とにかく、困っているクラスの子を手伝ってあげるんだ」

 

なるほど、それは良い。

そうすれば、自然な形で話せるだろうし、サラの優しさを知ってもらえる機会にもなるだろう。

ゼノヴィアも色々なところで助っ人をしていたこともあって、学園での支持も高かったしな。

 

俺はうんうんと頷いた。

 

「慌てなくて良い。ゆっくりでも良いから、まずはサラのことを知ってもらうんだ。そうすりゃ、皆、サラのこと好きになってくれるよ」

 

でも、いきなり告白する男子とかいたら、にぃには絞めちゃうかもしれないぜ☆

 

俺達の―――――兄と姉の言葉にサラは、

 

「私、やってみる………。時間がかかるかもしれないし、上手く出来るか分からないけど………やってみる」

 

「「よし、頑張れ!」」

 

決心したサラに親指を立ててエールを送る長男と長女だった。

 

 

 

 

「にぃに、ねぇね、もう一つだけ良い?」

 

「ん? まだ悩みがあるのか?」

 

俺が聞き返すとサラは枕をギュッと抱いて、こう言ってきた。

 

「今日も一緒に寝て………良い?」

 

「「オッケィ! ヘイ、カモーン!」」

 

今夜も兄妹三人で川の字になって寝た。

 

 

 




ここまではプロローグ(笑)!
次回からは………


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13話 開幕、アザゼル杯!

お待たせしました!
ついに国際大会開幕です!


[木場 side]

 

 

四月の下旬に差し掛かった。

今日、この日、レーティングゲーム国際大会の開会式が行われる。

 

僕達リアス・グレモリー眷属が訪れているのは、開会式の会場となる冥界魔王領に新設された大会用のスタジアムだ。

とてつもなく巨大な施設で、東京ドーム十個分の広さを有するとか。

上空ではメディアのヘリが飛び、既に撮影がされている。

スタジアムの至るところにもカメラが設置されていて、冥界だけでなく、各勢力にも生中継で報道されているようだ。

この日のために全勢力から観客が訪れており、この巨大なスタジアムの観客席を全て埋め尽くすほどだ。

 

ゼノヴィアが観客席を見渡して言う。

 

「ここまで人が一杯なのは生まれて初めてだ。バアル戦の時よりも多いんじゃないか?」

 

「あの時とは文字通り規模が違うからね」

 

バアル戦の時も観客の多さに圧倒されそうになったけど、今回はあの時の遥か上を行く。

そして、それは出場する選手達の多さも同様だ。

 

小猫ちゃんが言う。

 

「参加チームは千を超えているそうです。確か、千四十五チームとかって。とはいえ、チームメンバー全員が来ている訳じゃないですけど」

 

そう、この開会式はチームから『王』と『女王』に相当する者、どちらかが出ていれば良いということになっている。

うちはほぼ全員が参加しているけどね。

ほぼ、というのは新しく引き入れたメンバーがこの場に来ていなくて………まぁ、試合になれば姿を見せてくれるだろうけど。

いや、あの性格だと、よほどの強者でない限り、合流しないかも………。

 

さて、ここで大会の概要を簡単に説明しておこう。

まずは参加資格だが、これは特に制限はなく、悪魔は眷属でない者を加えての参加ができる。

確実に登録が必須なのはチームの中核たる『王』。

残りは設定された試合の前に登録さえすれば、人数に制限はあるものの、メンバーを入れ換えるのは可能だ。

しかし、『王』だけは変更不可となっている。

また、選手は二重登録は不可とされており、発覚すれば、その選手は参加資格を失い、起用したチームにもペナルティが発生する。

つまり、この大会に限り、後からメンバーを入れ換えることも、追加することも可能だということだ。

 

次にチーム構成のルールだが、こちらは本家と同様。

『王』と『女王』が一名ずつ、『戦車』『僧侶』『騎士』が最大二名ずつ、『兵士』が最大八名となっている。

先も述べたとおり、チーム構成は自由なため、悪魔としては『騎士』でも、大会では『戦車』の選手として参加しても良い。

駒ランクの特性も試合開始時に発動するようになっているようで、『騎士』で登録した選手は開始と同時に速さを手に入れられる。

駒を使用している悪魔は、本来の駒と違う駒ランクで出場した場合、試合開始と同時にゲーム限定で駒の特性が塗り替えられる。

 

それともう一つ、駒に関して重要なルールがある。

それは駒価値についてだ。

悪魔の駒を複数使用した悪魔であっても、神クラスでもない限り、駒一個に換算されることになる。

 

例えば、『僧侶』の駒を二つ消費して転生した黒歌は、今回のルールでは駒一つ扱いになる。

そのため、ヴァーリは『僧侶』枠に黒歌とルフェイさんを置いたそうだ。

 

件の神クラスは各『戦車』『騎士』『僧侶』にて、一柱で二個扱いになる。

ただでさえ、強力な神クラスがこれらの駒で二枠も取られたら、ゲームバランスが大きく崩壊してしまうだろう。

 

『兵士』に関しては他の駒よりも制限が厳しい。

『兵士』の特性であるプロモーションは、大会でも使用可能になっているからだ。

例えば、最上級悪魔クラスが『兵士』に八名配置され、全員がプロモーションで『女王』になったら、ゲームは酷い有り様になる。

それ故に『兵士』枠は大会側が用意した測定器を元に大会用の駒価値を出し、それに基づいて配置することになっている。

 

参加する神クラスは全チーム数からすると、一割にも遠く及ばない極少数だ。

だが、今大会では最も油断できない相手になることは間違いない。

それはこれまで神クラスと戦った僕達だからこそ言えることだろう。

神はその一振りで地形をも変えてしまう一撃を放つ。

そんな存在がチームを組んだとなれば、その脅威は計り知れない。

今までは仲間や数多くの援護があったからこそ、戦い生き残ることができたが、この大会では少数で神クラスのチームと真正面からぶつからないといけない。

果たして、どれだけのチームが神クラス相手に戦えるか………。

 

参加するチームでも特に注目されているのは帝釈天が率いるチームだろう。

帝釈天が参加を表明した時に参加を断念した神クラスも出たほどだ。

 

他には阿修羅神族の王子マハーバリが率いるチーム、初代孫悟空が率いるチーム、更には魔物の王テュポーンが『王』を務めるチームまでいる。

このあたりは神クラスのチームの中でも別格なのだろうね。

 

大会の開催が発表されてから短期間で、これだけの参加チームが集まったのは、大会優勝チームに贈られる『優勝賞品』だ。

 

その内容とは―――――あらゆる願いを可能な限り叶える。

 

グリゴリの研究、天界と冥界の技術、北欧の世界樹なぉ、各神話勢力の神秘を集結させることで、優勝チームの願いを叶えようというのだ。

これが参加者増加の大きな理由なのは間違いない。

当然ながら、世界に混乱をもたらす願いは不可とされている。

 

しかし、本選に出られるのは十六チームと予選に参加するチーム数からすると、非常に狭き門だ。

途中で棄権するチームも出てくるだろうが、それでも本選に進むには険しい道のりになることに違いはない。

 

予選のシステムだが、これは従来のレーティングゲームと同じてあり、勝敗によって得られるポイントで競い合う形式となっている。

大会開催時、各チームは1500という数値から始まり、そこからどれだけ多くのポイントが得られるかで決勝トーナメントに進めるかが決まる。

自チームよりもポイントの高いチームに勝てば、高いポイントが得られるが、ポイントの低いチームに負ければ、数値も下落を強めてしまう。

 

予選でのゲーム参加は各々の判断に任せており、戦いたいと思ったら、運営に登録を済ませることになっている。

そして、同時期に試合をしたいチームとマッチングとなる。

つまり―――――

 

「チーム全体の調整が何よりも重要でしょうね。勝ち星が決め手ではない以上、無闇に連戦をすれば良いというわけではないわ」

 

リアス姉さんがそう言った。

 

そう、重要なのは予選最終日までに稼いだポイントだ。

勝ち星が多くても保有するポイントが低ければ、決勝には進めない。

もちろん勝ち星が多いことにこしたことはないが、無闇に連戦を続けた結果、ポイントが低いチームに敗北してしまえば、大きくポイントを落としてしまう。

なので、チーム全体のコンディションを考慮した上で、試合に臨む必要がある。

 

大会について確認していると、アナウンスが流れた。

 

『まもなく開会式を始めます。参加者は中央に集まり―――――』

 

そのアナウンスにフィールドに散らばっていた参加者がフィールド中央へと移動を開始する。

僕達も移動を始めながら、辺りを見渡した。

 

リアス姉さんが呟く。

 

「イッセー達、遅いわね。もう開会式が始まってしまうわ」

 

開会式には最低でも『王』か『女王』が出席しなければいけない。

しかし、いつまでたってもイッセー君達が姿を見せない。

 

ギャスパー君が心配そうに言う。

 

「何かあったのでしょうか。イッセー先輩の具合が悪くなったとか………」

 

「それはないよ、ギャー君。昨日もイッセー先輩の治療をしたけど、体調そのものは良かったから」

 

と、小猫ちゃんがギャスパー君の言葉を否定した。

 

小猫ちゃんは毎日欠かさずにイッセー君の診察をしてくれている。

その小猫ちゃんがそう言うのなら、その心配はないのだろう。

では、イッセー君は一体何をしているのだろう?

大会に参加する意思は示していたし、会場に来れない事情でも出来たのだろうか。

いや、その場合は『女王』であるアリスさんが開会式に来なければいけないが、そのアリスさんの姿もないのだ。

 

「連絡を取ってみましょうか」

 

朱乃さんがそう言った、その時だった。

 

「お、おい! なんだあれは!?」

 

誰かの言葉に会場がざわつき始めた。

周りを見ると、皆が空を見上げていたので、僕達も気になって、視線を空へと向けた。

すると、そこには巨大な物体―――――超巨大な赤い飛行船だった!

一体、何メートルあるのか………。

まるで、ロボットアニメに出てくる戦艦みたいだ。

 

メディアのカメラもそちらを捉えており、スタジアムに設置してある超特大モニターに、船の様子が映し出された。

そこには赤い長羽織を羽織ったイッセー君の姿があった!

 

リアス姉さんが映像を見て叫ぶ。

 

「イッセー!? じゃあ、あれはスキーズブラズニル!?」

 

そうか、あれはイッセー君の使い魔であるスキーズブラズニル!

初めは模型のような大きさだった船があそこまで巨大化するとは!

スキーズブラズニルは所有者の成長率に合わせて進化すると言われている。

今は使えないとは言え、変革者や英龍化と神の次元すら超えたイッセー君ならあれくらいの成長を遂げても不思議ではないのかな?

 

イッセー君が指を鳴らすと飛行船は煙と共に消える。

飛行船から降りたイッセー君達はそのまま降りてきて、スタジアムの中央―――――出場者達が集まるど真ん中に降り立った。

 

イッセー君は僕達に気づくと、手をあげた。

 

「おっす、待たせたな!」

 

軽い挨拶をくれると、こちらに歩み寄ってくるイッセー君達。

 

アーシアさんがイッセー君の格好を見て言う。

 

「イッセーさんのあの服装はもしかして………」

 

黒い上下に赤龍帝の紋章を刻んだ赤い長羽織。

羽織の上からは青い帯を巻くというイッセー君の格好。

もしかして、あれがイッセー君が勇者と呼ばれていた時に身につけていたものなのか………?

その後ろに並ぶメンバー―――――アリスさん、リーシャさん、モーリスさんも向こうの世界で身につけていた服装だ。

つまり、これがかつての勇者パーティの姿なのだろう。

美羽さん、レイヴェルさん、ニーナさん、ディルムッドことサラはイッセー君に合わせた赤いユニフォームだ。

 

イッセー君の近くで片膝を突いているのはタンニーン様のご子息のボーヴァだろう。

こうして彼の近くにいるということは臣下にすることになったのだろうか?

 

リアス姉さんがイッセー君に言う。

 

「もうすぐ開会式が始まる時間よ? 何をしていたの?」

 

その問いにイッセー君が答える。

 

「色々と作業をしていたらギリギリになっちゃってさ。主に書類とか書類とか書類とか………グスッ」

 

「キツかったよぉ………」

 

涙目になる赤龍帝眷属の『王』と『女王』。

よく見ると目元にうっすら隈が出来ている。

 

………こんなギリギリまで仕事してたんだね。

なんというか、お疲れ様です。

この眷属はマイペース過ぎる。

こんな一大イベントでも変わらないのは相変わらずとしか言いようがない。

 

「来たか、兵藤一誠」

 

イッセー君の登場にフィールドのあちこちから、見覚えのある者達が歩み寄ってきた。

まずはサイラオーグさんが前に出てきた。

 

「おまえなら出てくると思っていたぞ」

 

「ええ。色々悩んだり、忠告もされましたけど。また、最高の殴り合いがしたいですよ」

 

今度は曹操だ。

 

「これでリベンジの機会が出来たな」

 

「おう、いつでもかかってこいよ。真正面からぶっ飛ばしてやるさ」

 

そして、次はヴァーリだ。

 

「待っていたぞ、兵藤一誠」

 

「あそこまで言われたんじゃな。とことんまでやろうぜ、ヴァーリ」

 

サイラオーグさん、曹操、ヴァーリ。

加えて、デュリオやライザー、匙君までもがイッセー君の元に姿を見せていた。

ここにいるのはイッセー君に魅せられた者達ばかりだ。

当然、僕も同じで―――――。

 

イッセー君が彼らと言葉を交わしていく中、僕は彼の前に立った。

僕は真っ直ぐに彼と向き合う。

 

「イッセー君、君と真剣にやり合える機会を得た。願ってもないことだよ」

 

僕はフェニックス戦に向けての特訓から、彼に稽古をつけてもらうようになった。

言ってしまえば、イッセー君は僕の師の一人になる。

 

僕はイッセー君に憧れていた。

彼のようになりたい、彼のような強さを身に付けたいと。

でも、異世界アスト・アーデに向かい、彼の過去を知ってからは、少し変わった。

 

―――――いつか、彼の隣で戦える男になりたい。

 

それが僕の目標で、今も変わっていない。

気づけば、僕は胸に秘めた想いを口にしていた。

 

「僕は君に憧れた。君のように強くなりたい、君の隣で戦える男になりたいとずっと思ってる。でも、この機会を得て、もう一つ。―――――僕は君を超えたい。僕はリアス・グレモリーの剣として、君を倒してみせる!」

 

僕の宣言にイッセー君は拳を突き出した。

そして、笑みを浮かべて言った。

 

「こいよ。全力で相手になってやる!」

 

その言葉に、僕も笑みを浮かべて、彼の拳に自分の拳を当てた。

 

そして、開会式開幕を告げるアナウンスが流れる。

 

『時間になりました。レーティングゲーム国際大会『アザゼル杯』の開会式を始めたいと思います』

 

高校生活、最後の一年。

この大会は僕にとって、忘れられないものになるだろう―――――。

 

 

 

 

「悪魔さんにょ」

 

 

 

 

…………え?

 

それはあまりに唐突だった。

聞き覚えのある声。

そして、その声はあまりにインパクトのありすぎる記憶を呼び覚ました。

 

イッセー君がギギギ………と錆びたネジのように首を回転させて、そちらを向くとそこには―――――。

 

「なんで、ミルたんがここにいるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

そう!

あれは正しく、まごうことなく、どこからどう見ても、あのミルたんさんだった!

 

イッセーくんの叫びにミルたんが言う。

 

「ここに来たら魔法少女になれるって聞いたにょ」

 

「なれねーよ!? だって、もう無理だもの! あんた、肉弾戦に特化し過ぎてるもの! つーか、誰だ、あんたにこの大会の存在教えたやつ!? いや、ミルたんなら、この大会で勝ち抜けそうだけども!」

 

「それより、見てほしい技があるにょ」

 

「人の話聞いてます!? とりあえず、帰って―――――」

 

イッセー君が彼女(?)に帰るよう説得しようとした瞬間、ボンッとミルたんが煙に包まれた!

煙が晴れるとそこには―――――

 

「「「「「多重影分身の術、だにょ!」」」」」

 

「ミルたんが増殖したぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? あんた、それ魔法というより忍術じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

数十人に増えたミルたんさんに、イッセー君のツッコミが炸裂した! 

 

 

こうして、僕達の大会が始まったのだった………。

 

 

 




一体、いつから―――――シリアスだと錯覚していた?


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14話 お土産は買うときが一番テンション上がる

[木場 side]

 

 

国際大会が始まってから十日が過ぎようとしていた。

僕達「リアス・グレモリー」チームは兵藤家の一室に集まり、他のゲームの中継を見つつ、今後の作戦を話し合っている。

 

「今のところは順調ね。一部予想と違う結果もあるのだけれど」

 

リアス姉さんがタブレットを操作しながらそう言った。

タブレットにはこの数日の間に行われてきたゲームの勝敗や映像が記録されている。

既に多くのゲームが行われているが、その結果は大方予想通りといったところで、名のある強者や神々がポイントを稼いでいた。 

リアス姉さんの言う『一部』とは、ルールの相性などにより、本領を発揮できず、敗北しているチームのことだ。

レーティングゲームは実戦とは違う。

実戦慣れしていたとしても、特殊なルールが設けられたゲームではそれを活かしきれずに終わってしまうというのはよくある話でもある。

特にゲーム初心者ではその傾向が顕著であり、ルール違反により、ペナルティを受けた選手も少なくない。

 

僕達のチームはというと、今のところ順調に勝ち星を得ており、ポイントを増やしていた。

 

小猫ちゃんが言う。

 

「私達のレートは全体から見れば上の方ですが、上位に入り込むにはまだ足りませんね」

 

「今はそれで良いのよ、小猫。あまりハイペースでの出場は後に響くわ。今は他のチームの実力を確かめながら、確実に勝ち星を得ていくのよ。大会もまだ始まったばかり。あせる必要はないわ。それに―――――私達はまだ『彼』を出場させていもの」

 

大会メンバーとして『兵士』に登録している新メンバー。

大会では『ミスター・ブラック』という名前で登録しており、「リアス・グレモリー」チーム唯一、単独の『兵士』でもある。

つまり―――――大会ルールでの駒価値が8もあるということ。

これがいかに脅威的であるか、他のチームも気づいているはずだ。

彼は既に神クラスすらも―――――。

 

だが、僕達は未だに彼を出場させずに試合に臨んでいる。

その理由は二つある。

一つは彼が興味を持つようなチームと当たっていないこと。

そして、もう一つは―――――。

 

「これは客観的に見た評価。これまでの激戦を潜り抜けてきた私達の力は既にこの大会においても、高いレベルにあるのは間違いないわ」

 

リアス姉さんはそう僕達に告げた。

 

流石に神クラスで編成されたチームと勝てるのかと問われると難しいところだ。

だけど、戦えないわけではない。

 

今はまだ神クラスと対戦は予定されていないが………倒してみせるさ。

神クラスだろうと何だろうと。

これはチームの意気込みでもあり、僕個人の気持ちでもある。

だって、僕の目標は神などではなく、もっと高みにいる彼なのだから。

 

テレビに映る映像をじっと見ていると、朱乃さんが微笑んだ。

 

「あらあら、祐斗君の頭の中はイッセー君のことで一杯みたいですわね」

 

「もう、祐斗は気が抜けるとすぐにイッセーの試合を見るのだから。気になるのは分かるけれど、今は目の前の試合に集中しなければ、ダメよ?」

 

「アハハ………すいません」

 

リアス姉さんに注意されて、苦笑する僕。

 

うん、自分でもここまで彼に熱中するとは思ってなかった。

ふと気を抜くと、いつもイッセー君のことを考えてしまっている。

 

リアス姉さんが肩をすくめながら言う。

 

「まぁ、そういう私も似たようなものね。やっぱり、イッセーの試合は気になるもの」

 

イッセー君が率いる『異世界帰りの赤龍帝』チーム。

チーム名については、そのままで、適当に決めたとアリスさんが言っていた。

人間界では記憶の改竄が行われていることもあり、超常の存在も含め、異世界のことは完全に隠されている。

だけど、僕達のような裏の世界の存在には知れ渡っており、大会で賑わっている中でも、時おり異世界に関する番組が報道されているほどだ。

といっても、詳細は各勢力の上層部、首脳陣しか知らないので、専門化同士の議論や予想が語られるだけなんだけどね。

その辺りの詳しい説明は省くけど、そういうわけで、イッセー君達のチーム名はなんとも分かりやすいものになっている。

 

それで、その『異世界帰りの赤龍帝』チームの戦績だけど、こちらも全勝だ。

ゼノヴィアがタブレットの記事を目で追いながら言う。

 

「あのメンツだからな。早々、やられはしないだろう。と、というより………モーリスだけで十分じゃないのか?」

 

そう言うと顔を青くするゼノヴィア。

 

………分かるよ、ゼノヴィア。

モーリスさんの特訓は本当にキツかった。

地獄の特訓とはまさにあれのことを言うのだろう。

僕だって今でも鮮明に覚えているよ、あの感覚を。

笑いながら、振り下ろしてくるあの剣を………。

 

「あ、あれ………おかしいな。思い出しただけで、体の震えが………!」

 

「祐斗先輩、どうしたんですか!? 全身が震えてますよ!?」

 

「ちょっと、祐斗!? モーリスは祐斗達に何をしたの!? トラウマ刻まれてるじゃない!」

 

ごめんね、ギャスパー君。

ごめんなさい、リアス姉さん。

この記憶は、あの恐怖は、しばらく消えないと思うんだ。

 

リアス姉さんが目元を抑えながら息を吐く。

 

「モーリス………。分かっていたけれど、彼は何というかもう滅茶苦茶だわ」

 

見ると目元はうすく涙が浮かんでいた。

きっと思い出してしまったのだろう。

僕やゼノヴィアだけではない、リアス姉さんも少し嫌な記憶がモーリスさんにはあった。

それはイッセー君達の初戦のことで―――――。

 

 

 

 

開会式の翌日。

この日から大会はおおいに盛り上がりを見せた。

各チームの真剣勝負、種族を越えたぶつかり合いを見ようと観戦のチケットは売り切れが続出しているらしい。

聞けば冥界では、レーティング・ゲームが観戦できる飲食店があるとのことで、そこは朝から満席だそうだ。

 

僕達「リアス・グレモリー」チームとイリナさん、レイナさんは兵藤家のリビングに集まり、次に始まる試合を見る準備をしている。

テレビをつけて、冥界の番組を流しながら、それぞれが携帯やタブレットで冥界の記事をチェック中だ。

小猫ちゃんが冥界のSNSに書かれている記事を見ながら言う。

 

「やっぱりと言うか、注目されてますね、イッセー先輩」

 

記事のタイトルには『「異世界帰りの赤龍帝」チーム初戦 今夜七時』と書かれている。

記事に目を通していくと、対戦相手のことはもちろん、ゲームルールの予想から、勝敗の予想まで書かれている。

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「アセムとの戦いを終わらせたことで、イッセー君は既に冥界どころか、この世界の英雄的存在になっていますからね。元々はおっぱいドラゴンとしての人気もあるのでしょうが、今では更に注目を集めているようです」

 

ギャスパー君も更にこう付け加える。

 

「イッセー先輩が勝つ方に予想する人が多いですね。先輩のチームは皆さん、地力が高いですし。あの戦いでも大暴れしてましたから」

 

イッセー君を含め、赤龍帝眷属の面々は一人一人の力が高い。

一対一の戦いでも強いのだが、彼の眷属はチーム戦になれば、より高い力を発揮する。

モーリスさんという強力過ぎる前衛にリーシャさんによる後衛からの狙撃。

アリスさんは『騎士』としての特性が高い『女王』なので、高い魔力を放出しつつ、スピードで撹乱できる。

美羽さんの『僧侶』としての能力が非常に高く、アーシアさんほどではないとはいえ、ある程度の回復魔法が使える。

レイヴェルさんはフェニックス故の不死の特性があり、イッセー君の眷属になってからは、彼女自身もメキメキと実力を伸ばしている。

ディルムッドことサラは魔槍と魔剣の特性を活かした戦いが上手く、特に魔力や魔法を霧散させる魔槍ゲイ・ジャルグは非常に厄介だ。

魔槍ゲイ・ボウの攻撃はアーシアさんの能力でも治癒できないので、注意が必要だろう。

今回、チームメンバーとして参加するボーヴァはあのタンニーン様のご子息だけあり、パワーは相当なものだと聞く。

そして、主であるイッセー君だが―――――

 

「高火力に加え、武神のもとで鍛えられた武術。更には籠手によるサポートもできる。私達もイッセー君の力には何度も助けられましたわ」

 

パワー、スピード、テクニック。

加えてサポート。

彼の力はどれをとっても超一流の部類だ。

弱まっているとはいっても、十分な実力―――――最低でも最上級悪魔クラスはある。

 

今挙げた理由により、イッセー君のチームが勝つという予想をする人は多いようだ。

しかし、逆の予想もある。

 

「問題は特殊なルールやフィールドに制限がかけられた時に対応できるかということね。実戦とレーティングゲームは似ているようで違うもの。実戦経験が多い者ほど、ルールに戸惑うことはよくあるもの」

 

「専門家の意見にもそれを示唆する人はいるようですね。プロの経験があるレイヴェルさんがいるとはいえ、彼女以外は未経験。主のイッセー君もバアル戦の一回だけなので、お世辞にも経験豊富とはいえませんね」

 

リアス姉さんとロスヴァイセさんの言葉に僕達は頷いた。

力だけではレーティングゲームは勝てない。

果たして、彼はどんなゲームをするのか………。

 

そうこうしている内に、試合開始時間が来る。

テレビでは、観客で満員になっているスタジアムを背景に、実と解説の人が映し出されていた。

実況の人がテンション高めに言う。

 

『注目の一戦が今始まります! 冥界の英雄! 皆のヒーロー! 大会の初戦はどんな試合を見せてくれるのか! おっぱいドラゴン率いる「異世界帰りの赤龍帝」チームの入場です!』

 

スタジアム西側の門が開くと、派手な演出と共にイッセー君達が姿を見せた。

特徴的な赤い長羽織を着たイッセー君を先頭にチームの面々も堂々とした歩みを見せてくれている。

彼らの入場に観客席は大きく盛り上り、立ち上がり声援をあびせる人も目立つ。

 

今夜イッセー君達と戦うのは上級悪魔が率いるチーム。

解説が言う。

 

『対戦相手が現役のプロということで、ルール次第では厳しい戦いになるかもしれませんね。そこをどう乗り越えるかがポイントに―――――』

 

そう、今回の対戦相手は現役のプロが率いているんだ。

しかも、ランキングでは上から数えた方が早いという、間違いなく高い実力を持ったチーム。

試合数もイッセー君達とは比べ物にならない程にこなしてきた、ベテランとも言える相手だ。

解説の言うようにルール次第では、苦戦を強いられる可能性もある。

 

両チームの入場により、盛り上がるスタジアムでは、今回の競技が開示される。

 

『おおっと! 今回における競技の種類は「ダイス・フィギュア」! ダイスを振るって出た目の範囲内で選手を出して戦う、いたってシンプルなものですが、どのタイミングで、どの選手を出すかが非常に重要になる競技です!』

 

ダイス・フィギュア!

イッセー君が初めて出場した時のルールじゃないか!

まさか、このルールがいきなりくるとは!

 

リアス姉さんもこれには少し驚いたようで、

 

「これも運命なのかしら? 上級悪魔になって初めての試合がこの競技だなんて………。でも、面白そうではあるわね」

 

あの時はリアス姉さんの眷属として、今はチームを率いる者として。

こんなにも分かりやすい比較ができる競技は他にない。

 

ダイス・フィギュアは両チームの王がダイスを振り、出た目の合計で出せる選手の基準が決まる。

そして、その基準の範囲内で出せる選手を互いにぶつけ合うものだ。

駒価値は『兵士』が1、『騎士』と『僧侶』が3、『戦車』が5、『女王』が9であり、『王』は事前に審査委員会に出された評価によって、出場できる数字が決まる。

基準の範囲内であれば、出せる選手は複数でもよく、今大会であっても、この競技にルールの変更はないようだ。

 

スタジアムのスクリーンに今回の競技における両チームの『王』の駒価値が発表される。

相手の『王』は駒価値8、イッセー君は―――――駒価値12。

 

小猫ちゃんが言う。

 

「流石はイッセー先輩………と言いたいところですが、これはこれで厳しくなりましたね」

 

「そうだな。イッセーは単独でしか出場できないのに対して、相手は複数の出場が可能。あの時の逆だな………」

 

ゼノヴィアが過去を思い出すように言った。

 

バアル戦ではサイラオーグさんが駒価値12で、僕とゼノヴィア、ロスヴァイセさんの三人で戦うことになった。

あの時は腕一本を切り落とすのが限界で、僕達三人は敗北してしまったが………。

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「しかし、イッセー君のチームは個々の実力が飛び抜けていますからね。しかも、大会仕様で複数の駒を使用した者の制限が緩くなっています」

 

最後の一言に僕達は体をビクッと震わせた。

今回の大会では、悪魔の駒を複数使用した眷属悪魔でも駒を一つとして扱われる。

『兵士』に関しては異なるが、このルールにより、「異世界帰りの赤龍帝」チームは―――――

 

 

・王    兵藤一誠

・女王   アリス・オーディリア

・戦車   モーリス・ノア

・戦車   未登録

・騎士   ディルムッド(リングネーム)

・騎士   ワルキュリア・ノーム(本来は『兵士』)

・僧侶   レイヴェル・フェニックス

・僧侶   兵藤美羽

・兵士『5』 リーシャ・クレアス

・兵士『3』 ボーヴァ・タンニーン

・補欠   ニーナ・オーディリア(兵士『1』だが、登録のみ)

 

………お気付きだろうか。

一名ほど、納得がいかない人物がいることに。

 

「なんで、モーリスが駒一枠なのよ!? 神クラスは駒複数分じゃなかったの!?」

 

リアス姉さんが涙目で叫んだ!

キャラなど忘れて!

駄々っ子のように嫌々と!

 

でも、気持ちは分かる!

分かってしまう!

だって、あの人はもう神クラスでも良いだろう!?

『戦車』の駒二つ分じゃなければ、おかしいだろう!?

あのチートおじさんが駒一つで済むと、大会運営は本気で思っているのか!?

 

小猫ちゃんがボソリと呟く。

 

「これが現場を知らないということですね」

 

「酷い! 酷すぎるわ、こんなの! 私、運営に抗議してくる!」

 

「マスター・リアス! 私も行くぞ! これはあまりにおかしい! あのような存在が許されてなるものか!」

 

「リアスお姉さま、ゼノヴィアさん、落ち着いてくださいぃ!」

 

「止めてはダメよ、アーシアさん! 私もミカエル様になんとか修正してもらえないか聞いてみるわ!」

 

「イリナさん!?」

 

駒の一つや二つでここまで荒れることがあるだろうか?

いや、普通はない。

でも、こればかりは認めたくないのだ。

絶対に譲れないものがそこにはあるのだ。

だから、僕は、僕達は願う。

 

 

―――――今からでもいいので、あのチートおじさんに制限をつけてください! それも厳しく!

 

 

僕は切にそう願いながら、レイナさんに聞いてみる。

 

「このこと、アザゼル先生はなんと?」

 

「………無言で返されちゃった」

 

「………そう、なんだ」

 

「………ゴメン」

 

両手で顔を覆うレイナさんに、何も言えなくなった。

 

あまりの理不尽、摩訶不思議な現象(?)に嘆いていると、リビングの扉が開いた。

 

「ふぅ、なんとか間に合った!」

 

ドタバタしながら、部屋に入ってきたのはニーナさんとイッセー君のご両親。

彼女達は買い物で外出していて、ちょうど帰ってきたところだった。

 

ニーナさんがこちらに駆け寄ってくる。

 

「えっ、もう始まってるの?」

 

「ルール説明だけね。試合は今から始まるところよ」

 

テレビではちょうど、それぞれの王が台の前に立ち、審判の掛け声を合図にダイスを振っているところだった。

 

出た数字は―――――イッセー君が5、相手の『王』が4。

つまり、合計は9だ。

この場合、『女王』を出すことも出来るし、『戦車』一名と『騎士』一名のように駒を組み合わせて、複数名出すことも出来る。

作戦タイムに入ると、両陣営が作戦漏洩防止用の結界に覆われ、更にスタジアムの大型スクリーンには各選手の口元に読唇術防止策として暈しがかかっていた。

作戦タイムは五分。

 

『まもなく時間です。試合に出場する選手は専用の魔法陣の上に立ってください。その魔法陣から別空間に用意されたバトルフィールドへ転送されます。なお、フィールドに転送されるまでの間、両陣営の陣地は結界により不可視の状態になります』

 

五分が経ち、アナウンスが聞こえてくる。

こうして見ると、なんだか懐かしい光景にも見えてくる。

バアル戦では僕が一番手として、眷属の道を切り開く立場だった。

イッセー君のチームでは誰が―――――。

 

テレビの映像が変わり、選手が転送されるフィールドが映し出された。

そこは荒廃した町で、廃屋らしきものがいくつも並んでいた。

なるほど、この障害物を活かしながら戦えということなのだろう。

 

フィールドに転送された選手は四名。

相手は『戦車』『騎士』『兵士』を一名ずつと、序盤から大盤振る舞いだ。

リアス姉さんが言う。

 

「イッセー達の行動を予測しての結果でしょうね。イッセーが出すのは………」

 

イッセー君の陣営から出てきたのは―――――モーリスさんただ一人だけ。

 

「イッセー達のゲーム経験が少ない以上、まずは様子見をするはずよ。様子見に出せて、かつ勝利できるような人物となると決まっているわ」

 

「相手もそれを読んだと?」

 

「ええ」

 

確実に相手を倒すために、あえて序盤から数を出したということか。

まぁ、相手がモーリスさんなら、数で押すには戦力不足になると思うけど………。

 

モーリスさんについて、一つ気になることがある。

僕はリアス姉さんに訊ねた。

 

「そういえば、モーリスさんの剣は修復できていませんでしたよね?」

 

アセムとの戦いでモーリスさんの双剣は二本とも折られてしまった。

修復をアザゼル先生に依頼したとのことだったが、まだ修復は出来ていないらしい。

モーリスさんの剣はよく斬れること以外は普通の剣だ。

名刀ではあるが、聖剣でも魔剣でも神剣でもない。

グリゴリの技術ならすぐに修復出来そうだが………。

 

「ええ。なんでも少し厄介なことになってるそうよ。天界の技術者も呼んで、議論していると聞いたけれど」

 

「厄介なこと?」

 

「詳しくは分からないのだけど、修復には時間がかかると聞いたわ」

 

「となると、モーリスさんの得物はなにを………?」

 

まさか素手ということはない………こともないか。

アセムの眷獣を素手で投げ飛ばしていたし。

 

「ワルキュリアの武器じゃないかしら? たくさん持っているのだし」

 

なるほど。

ワルキュリアさんは剣や槍、短剣をメイド服の中に隠し持っている。

どうやって収納しているのかは教えてくれないけど、どれかを借りて出場しているのかも。

 

そんなことを思い、テレビに目を戻す。

そこではモーリスさんが得物を抜き、いつものスタイルで構えていた。

 

「え………ウソ………?」

 

突然、僕の横でリアス姉さんが立ち上がった。

何事かと僕達が首をかしげていると、リアス姉さんは目を見開き、次第に体を震わせはじめた。

 

何が起きたのだろう?

モーリスさんの得物に心当たりでもあるのだろうか?

 

すると、映像の向こうでモーリスさんがハツラツと、元気よく言った。

 

『さぁて、暫くおまえ達には世話になるぜ。張り切っていこうか―――――「熱海」! 「草津」!』

 

モーリスさんが抜いた得物。

それは二振りの木刀。

柄に「熱海」、「草津」と彫られた名入の木刀だった。

 

それを確認した瞬間、この場のメンバーはハッとなった。

その木刀には見覚えがあったんだ。

だって、その木刀は―――――。

 

「イヤァァァァァァァァ! それ、私の木刀ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

リアス姉さんがテレビに向かって泣き叫んだ。

そう、あの木刀は―――――リアス姉さんがお土産屋で買い、ヴェネラナ様に廃棄されたはずの木刀だった。

 

 




シリアスになどしてたまるものか


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15話 絶対不変の正義

今回こそはシリアス


[木場 side]

 

 

昨年、僕達が修学旅行から帰ってきた後のことだ。

僕達はリアス姉さんのお母さん―――――ヴェネラナ様に呼び出しを受けたんだ。

なんでも、リアス姉さんの眷属である僕達に頼みたいことがあるとのことだった。

その頼みたいことの内容というのが―――――リアス姉さんの部屋の掃除。

 

詳しくは省くけど、リアス姉さんの部屋は物で埋め尽くされていて、足の踏み場がないくらいだった。

部屋に置かれたものは日本のお土産ばかりで、『ボブ』『大吉丸』『レオン』と名付けられた木彫りの熊達から、金閣寺と銀閣寺の模型、そして各地の温泉を巡った時に買ったという木刀が何本も。

コレクションと称して買われていたお土産物は明らかに無駄遣いしていたもので、これについてはヴェネラナ様はおろか、節約に厳しいロスヴァイセさんまでお怒りだった。

それで、僕達はヴェネラナ様の命令のもと、リアス姉さんのコレクションを廃棄した………はずだったんだけどね。

 

僕はテレビ画面を指差して問う。

 

「あの………あの木刀はもしかして、一度回収したんですか?」

 

僕の質問に皆の視線がリアス姉さんに集まった。

既に涙目のリアス姉さんは僕達の視線から逃れるように後ろを向いて一言。

 

「だって………木目が綺麗なのを一生懸命選んで買ったんだもん」

 

「その理由、前にも聞きました」

 

なんということだ。

処分したものを回収していたというのか。

あの大掃除の日も色々と駄々を捏ねていたけど………。

 

リアス姉さんが言う。

 

「きっと、お母様にバレたのね………」

 

映像の向こうを見るにそうなんだろう。

モーリスさんが握っている二本の木刀は間違いなく、リアス姉さんが買ったものだし。

 

すると、イッセー君のお母さんが言った。

 

「ああ、あれね。ヴェネラナさんが私経由でモーリスさんに渡したの」

 

「お義母様が!?」

 

なんと!

ここにその当事者がいたとは!

というか、お二人は本当にママ友なんですね!

まさか、ヴェネラナ様がイッセー君のお母さんにそんなことを頼んでいたとは!

 

驚くリアス姉さんにイッセー君のお母さんは苦笑しながら言う。

 

「ヴェネラナさんがね? 『リアスの部屋で埋もれるくらいなら、必要としている人が使った方がいいでしょう』って。モーリスさんも程よい武器を探していたらしくて………。グッドタイミングだったわね!」

 

「一言教えてくれても良かったのでは!?」

 

「ヴェネラナさんが、リアスさんにはバレないようにしてほしいって」

 

「そんな!」

 

これはヴェネラナ様からの罰なんだろうね。

不必要に物を増やしたり、無駄遣いをすれば、こうなるという………。

いや、まぁ、これに関してはリアス姉さんが悪いかな?

 

朱乃さんも「あらあら」とニコニコしているだけで、フォローに回る気配もなく、その他のメンバーも同様。

そう、この件に関して、リアス姉さんの味方は一人としていなかった―――――。

 

「いいもん! 私、グレてやるもん!」

 

「では、リアスは放置して観戦しましょうか」

 

「朱乃!?」

 

朱乃さんの言葉に頷き、テレビに目を戻す僕達。

映像の向こうでは、モーリスさん(木刀装備)と相手チームの『戦車』『騎士』『兵士』の三名と対峙している。

フィールドは廃屋が並ぶ小さな町のような場所。

普通なら、この廃屋を利用して戦うことになると思うが………。

 

『第一試合、開始してください!』

 

審判の合図により、試合が始まる。

相手チームの三人はフォーメーションを組み、『戦車』と『騎士』が前衛、『兵士』は後ろに回り『僧侶』にプロモーションした。

 

過去の試合によると、あの『兵士』はサポート能力が高いようで、自身も魔法による攻撃を行うが、基本は誰かと組んで、魔法による味方の強化係を務めていた。

『女王』にプロモーションしなかったのは、下手に役割りを増やすよりは自身に最も合った駒の方が上手く立ち回れると判断したからだろう。

『僧侶』にプロモーションした『兵士』は魔法により、味方に強化を施す。

赤、青、緑の三つの魔法陣が『戦車』と『騎士』に展開された。

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「赤色がパワー、青色がスピード、緑色が魔力の強化ですね。かなりの使い手のようです。過去の記録でも、あれが決着を左右したものもあります」

 

「『騎士』がパワーを、『戦車』がスピードを得る。それだけで厄介ね」

 

リアス姉さんが真剣な表情でそう言った。

 

確かに、パワータイプの者がスピードまで得てしまったら、それだけで攻撃の威力は桁違いにあがる。

僕の禁手第二階層―――――騎士王形態もそうだ。

スピードタイプの僕が破壊力を得ることによって、攻撃力は劇的に変わったからね。

だけど………。

 

「モーリスさんですからね」

 

「相手の選手が気の毒すぎますぅ!」

 

小猫ちゃんの呟きとギャスパー君の言葉に頷く僕達。

そう、そこなんだよ!

あの人には常識が通じないんだよ!

というか既にあの人はやらかしていて―――――。

 

『な、なんだ、このおっさんは!? 私の剣技をこうも容易く!?』

 

『俺の攻撃が通じないだと!? えぇい、この木刀は普通の木刀じゃないのか!?』

 

『というか、僕の魔法が気合いだけで消し飛ばされましたよ!? どういう理屈なんですか!?』

 

炎を纏った剣は木刀で捌かれ、スピードに加えて魔力の乗った拳も木刀で弾かれる。

後方からの魔法攻撃は気合いでかき消されて………。

あぁ………また被害者が増えてしまう。

 

とりあえず、彼らの疑問に一つ一つ答えるとしよう。

そのおじさんはチートおじさんです。

その木刀は普通の、温泉街で売ってるお土産物の木刀です。

どういう理屈か?

理屈なんてないんです。

魔法すら無に返すただの気合いなんです。

 

『ふはははははは! おらおらぁ! 元気が足りねぇぞ、おまえらぁ!』

 

笑いながら振るわれる、木刀の一撃。

地面を割り、フィールド上の建物は豆腐のように斬られ、相手の攻撃の悉くを制していく。

普通の木刀による常軌を逸した攻撃は、ただ相手を恐怖させ、見る者全てに様々な疑問を持たせた。

 

おじさんってなんだっけ?

木刀ってなんだっけ?

気合いってなんだっけ?

魔法?

ナニソレオイシイノ?

 

「もうやめて! もうこれ以上、彼らをいじめないで!」

 

「これ以上やると死ぬぞ! 心が!」

 

イリナとゼノヴィアの心からの叫び!

あれを経験しているからこそ、分かってしまうんだ!

今まで自分が磨いてきた技は、力は一体なんだったのか!

信じていたはずの自分を疑ってしまうんだ!

 

ふいにモーリスさんが腰を沈めて―――――。

 

『必殺☆草津神剣!』

 

ふざけた技名と共に、束に『草津』と彫られた木刀を横凪ぎに振るう!

次の瞬間―――――フィールドにあった物全てが上下に分断された!

建物が崩れる音がフィールドに轟く!

 

「「「ええええええええええええっ!?」」」

 

驚愕の声をあげる僕達一同!

 

「あれ、本当に温泉街で買った木刀なんですか!? 買ってから魔改造とかしてませんよね!? グレモリーの技術を結集させた兵器とかじゃないですよね!?」

 

「してないしてない! あれ、観賞用に買ったのよ!? もう! なんで、私が疑われるのよ!? というか、グレモリーの技術はそんなところに使わないわよ!」

 

「それより、相手は無事なの!?」

 

身内の応援よりも相手の心配をしちゃってるよ!

でも、気持ちは分かる!

 

分かっていた!

分かっていたけど、あの人、無茶苦茶だ!

狭いフィールドとはいえ、フィールド上全てのものを斬るって!

しかも、木刀で!

あの人、またパワーアップしていませんか!?

 

相手選手は―――――

 

『『『…………』』』

 

三人とも白目を向いて、その場で固まっていた!

完全に気絶している!

そのまま三人を淡い光が包んでいった!

 

審判が戸惑い混じりの声で告げる。

 

『え、えーと………第一試合、勝者「異世界帰りの赤龍帝」チーム………』

 

勝者を宣言するが、会場の誰一人拍手をする者はなく、ただ呆然とフィールド上に佇むチートおじさんを眺めていた。

ちなみに、主のイッセー君はというと―――――。

 

両手で顔を覆い、相手チームに対して申し訳なさそうな雰囲気を出していた。

 

 

 

 

波乱と理解不能な戦いを繰り広げられた第一試合。

その後は比較的まともに試合は進んだ。

第二試合はアリスさんが出場し、勝利。

第三試合は美羽さんが出場し、こちらも勝利。

第四試合はリーシャさんが出場。

相手は『戦車』一名で一対一の戦いだったのだが―――――

 

『第四試合、始めてください!』

 

 

パァンッ!

 

 

審判の合図がされると同時に鳴り響く銃声。

一瞬、何が起きたのか理解できなかったが、すぐに気づいた。

リーシャさんの手にハンドガンサイズの魔装銃が握られていることに。

魔装銃は相手選手に向けられており、銃口からは煙が上がっている。

それを理解して数秒後、相手の『戦車』はリタイアの光に包まれていき―――――。

 

相手選手が完全にフィールドから消えても審判は動かない。 

あまりに早すぎる決着に唖然としているからだ。

 

リーシャさんが微笑んで言う。

 

『うふふ、終わりましたよ?』

 

『あ、はい! すいません!』

 

慌てて勝者の宣告する審判だった。

 

色々と言いたいことはあるが、第一試合以外はまともな試合だったと思う。

問題は次の第五試合で起きた。

 

次の試合で出す選手を決めるべく、両チームの『王』が同時にダイスを振るう。

出た目は―――――イッセー君が1、相手の『王』が2。

合計は3だ。

 

相手チームは既に『女王』、『戦車』二名、『僧侶』一名、『騎士』一名、『兵士』一名を失っている。

イッセー君達は全勝の無傷。

この局面で出すのは誰か………。

 

時間になり、フィールドに選手が転送される。

相手は『騎士』。

対してイッセー君の陣営は―――――ディルムッド。

つまり、『騎士』対決になる。

 

イリナが言う。

 

「これはまともな試合になりそうね」

 

「イリナ、それはフラグというやつではないのか?」

 

「えっ!?」

 

ゼノヴィア、不吉なことを言わないでくれ。

そんなこと言われると、本当にそう思ってしまうじゃないか。

でも、ディルムッド一人だし、そんなシリアスを壊す展開には―――――。

 

『それでは第五試合、始めてください!』

 

審判の合図により、『騎士』同士の対決が始まる。

相手は剣を抜いて構える。

しかし、ディルムッドはインカムでイッセー君とやり取りしているようで、

 

『にぃに………本当にやるの? うん………うん、分かった。やってみる』

 

何やら顔を赤くして頷いていた。

なんだろう?

そんなに恥ずかしがるような作戦なのだろうか?

義妹を溺愛しているイッセー君がそんな酷いことはさせないと思うけど………。

 

ディルムッドの様子に相手の『騎士』も怪訝な表情を浮かべている。

すると、ディルムッドが口を開いた。

潤んだ目で、顔を赤くして、今にも泣きそうな表情で、一言――――――。

 

『ディルと………戦う、の?』

 

ズキュゥゥゥゥゥゥンッという音が聞こえた気がした。

いや、気のせいではないのだろう。

なぜなら、

 

『む、無理だ………俺には出来ない………』

 

相手の『騎士』は震えた声を発して、剣を落としたのだ。

そして―――――。

 

『俺にはディルたんを傷つけるなんてできなぃぃぃぃぃぃ!』

 

『なんでだぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

相手の『騎士』の叫びと『王』のツッコミが炸裂した!

 

『おまえ、なにやってんの!? しかも、今、ディル「たん」って呼んだよね!? ふざけてるの!? 温厚な俺でも怒るよ!?』

 

『無理です、我が主! ディルたんは………こんな可愛い妹を傷つけるなんて私には無理ぃぃぃぃぃぃ!』

 

『いや、その娘、おまえの妹じゃないし! 他所様の妹だし! ハッ! そうか、それがその娘の能力か、赤龍帝!』

 

相手の『王』から受けた言葉にイッセー君は冷静な声で答えた。

 

『能力? 違うな。こいつはそんなものじゃない。なぜ、あんたのところの眷属が力を振るえなかったか。それはな、そこに正義があったからだ』

 

『正義だと?』

 

『そうだ。世の中には色々な正義があると思う。所属している組織によっても違うし、その時代ごとに正義ってのは別れると思う。だがな、この世界にはいつの時代、どんな奴でも変わらない、そう絶対不変の正義がある。それは―――――「KA WA I I」だ!』

 

『はっ!?』

 

混乱気味に返す相手の『王』に対して、イッセー君は高らかに叫ぶ。

自分の陣営から身を乗り出して!

思う存分シスコンを発揮させて!

 

『見よ、うちのディルちゃんを! うちのディルちゃんはなぁ! 容姿も、心も、仕草も何もかもが可愛いんだ! いいか、よーく聞けぃ! 「KA WA I I」はあらゆるものに勝る最強の存在! それを体現したうちのディルちゃんは最強なのだ! この「KA WA I I」を突破できるというのなら、やってみるがいい! 相応の覚悟と信念がなければ、うちの「KA WA I I」を倒すなんて不可能なんだよぉぉぉぉぉぉ! ディルちゃんんんんんんんんん!』

 

『あぅ………にぃに、恥ずかしいよ………』

 

顔を更に赤くするディルムッドに相手の『騎士』が悶え始める!

 

『ぐぅぅぅ! また、そんな可愛い表情を………! 我が主! やっぱ無理です! 私にはこの「KA WA I I」を突破できる程の覚悟も信念もありません!』

 

『おま、自分でそれ言うか!?』

 

『だったら、あんたは突破できるのかよ!?』

 

『あ、この野郎、あんた呼ばわりしやがったな!? よぅし、分かった! そんな小娘の「KA WA I I」など、容易く―――――』

 

フィールドにいるディルムッドに視線を向ける相手の『王』。

それから数秒間、無言を貫いた後―――――

 

『ごめん! 俺が悪かった! うぉぉぉぉぉぉ! ディルたぁぁぁぁぁぁぁん!』

 

なんで!?

なんでそうなる!?

 

何をどうツッコミをしていいのか分からないでいると、リアス姉さんが言った。

 

「初代英雄ディルムッドは女性を虜にしてしまう魔法の黒子を、妖精に付けられていたと聞くわ」

 

「そういえば、最近、サラちゃんに泣き黒子が出来ていましたわね。もしかすると、初代にかけられていた魔法が変質して、『女性を虜にする魔法の黒子』から『相手をシスコンにする魔法の黒子』になった………?」

 

どんな変質化!?

なんなんですか、相手をシスコンにする魔法の黒子って!?

 

というかね、イッセー君!

君の上級悪魔としてのデビュー戦がこんな感じで良いのかい!?

すっごくグダクダなんですけど!

 

「これがイッセー先輩クオリティ………」

 

小猫ちゃんの呟きに、思わず泣きそうになった。

 

こんな調子で、イッセー君達のレーティングゲーム国際大会は続いていくのだった。

 

 

 

 

~一方その頃、大会運営のアザゼル先生~

 

 

「主が妹大好きおっぱいドラゴン、ツンデレ女王、ブラコンシスコン妹、チートおじさん、狙い打ちたがりスナイパー、夜のマネージャー、ロリコンメイド長にムッツリ事務員。加えて、シスコン製造機か………。やべぇな、このチーム。まともな奴がいねぇ」

 

赤龍帝眷属の酷すぎる試合にアザゼル先生は鼻水を出した。

 

 

~一方その頃、大会運営のアザゼル先生 終~

 

 

 




シリアス?
ナニソレオイシイノ?


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16話 反省会

最近思うんです。

………シリアスってなんだっけ?


休日。

兵藤家の俺の部屋に集まる『異世界帰りの赤龍帝』チームのメンバー。

この集まりは今後の試合について話し合いをするためのものだ。

 

今、全員の視線はテレビに映る冥界のニュースに向けられていた。

それは―――――ニュースは俺達の紹介となっていたからだ。

始まってもうすぐ二週間となるところで、これまでに行われてきた試合を紹介していくコーナーで名シーンから注目のチーム、選手を取り上げている。

その中には俺達も入っていた。

 

『冥界のホープ「異世界帰りの赤龍帝」チーム、予選開幕から五戦全てを勝利で飾っておりますが、専門家の間では厳しい評価を受けており―――――』

 

映し出される試合風景。

俺達は今のところ出場した試合の全てにおいて勝ち星を上げている。

倒したチームの中にはプロのレーティングゲーム選手もいて、評価としては高くなるはずだった。

だが―――――試合内容があまりに酷すぎたらしい。

 

映像の中で映し出される俺達。

木刀と気合いで相手選手にトラウマを植え付けるチートおじさん。

巨乳の女性選手を集中的に狙うツンデレ女王様。

対峙した瞬間に脳天を撃ち抜いてくる早打ちスナイパー。

何もないところでスッ転んで、相手の女性選手のおっぱいを揉んでしまうおっぱいドラゴン(俺)。

幼女(見た目が犯罪級に幼い女性選手)に興奮し過ぎて、リタイアしてしまうロリコンメイド長。

相手をシスコンの彼方へと誘ってしまう兵藤家の次女。

そして、チームの奇抜過ぎる行為にツッコミを叫ぶ兵藤家長女とフェニックス家のお姫さま。

 

映像が一段落したところで、専門家が一言。

 

『ふざけてますね』

 

「ふざけてないし! 俺達は大真面目だっての!」

 

映像の向こう側にいる専門家に向けて抗議する俺!

確かにふざけてるように見えるかもしれない!

俺もラッキースケベ連発しちゃってるしね!

でもね、俺達も一生懸命なんだよ!?

そこは分かってほしいな!

 

そんな俺の想いなど届くはずもなく、スタジオではアナウンサーと専門家のやり取りが続いていく。

 

『一般的なルール、特殊なルールとルールを問わずに素晴らしい試合を見せてくれているのですが、時折………というかほぼ毎回のシリアル劇場は相手チームを酷く困惑させているようですね』

 

『彼らは普段からそういった面が強いと聞いています。この国際大会でも変わらないというのは、平常心を保てているということなのでしょう』

 

『なるほど。ちなみにモーリス選手について、一般的の方からは「笑いながら木刀を振るうのは怖すぎる」という意見もあり、中には泣いてしまったお子さんもいるとか』

 

『ええ。試合中でもモーリス選手と対峙した選手は半分泣いていましたから。魔法も、魔力も、妖術も何もかもがただの木刀の一振りで無に帰る。このショックにより、試合後、寝込む選手が出たそうです』

 

アナウンサーと専門家の情報を聞いて、俺達の視線はテレビからモーリスのおっさんへと移された。

当のおっさんはというと、立ち上がって、

 

「よぅし。そんじゃ、そいつらのところ行って、部屋から引きずり出してくるわ」

 

再起不能を更に再起不能にしようとしていたので、チーム全員で全力で引き止めた。

 

それからも俺達の紹介は続くのだが、それはもう酷評………というよりほとんど苦情の嵐。

 

『胸の大きい女性選手は「異世界帰りの赤龍帝」チームとの対戦を避けようとしているみたいですね』

 

『巨乳絶対殺すマンみたいなアリス選手がいますからね。加えて、兵藤一誠選手のラッキースケベ症候群が発動して、試合どころではなくなりますから。というか、ラッキースケベ症候群ってなに?』

 

『知らないです』

 

専門家の言葉に今度はチームメンバーの視線が俺とアリスに向けられた。

美羽が訊いてくる。

 

「アリスさん、なんで巨乳の選手ばかり集中砲火?」

 

「だ、だって、目の前でバインバイン揺らしてくるから………」

 

続いて、美羽は俺に問いかけてくる。

 

「アリスさんのは想像していた通りの答えだったけど………。お兄ちゃんはなんで毎回、何もないところで転ぶの? なんで、相手の女性選手のおっぱいにダイブしちゃうの?」

 

「い、いや、あれは事故でして」

 

本当に事故なんです!

俺もおかしいとは思ってるんです!

大会が始まってからというものの、美女美少女と対峙すると、なぜかラッキースケベが発動してしまうんだ!

何もないところで転んで、おっぱいにダイブしたり、ぶつかった拍子に服を脱がせてしまったり!

 

すると、実体化したイグニスがテンション高めに言った。

 

「これぞ、私の修行の成果よ!」

 

「おまえのせいだったの!? 俺に何をした!?」

 

「夜寝ているときに色々と。まぁ、元々、ラッキースケベの才能あったし、遅かれ早かれこうなってたわよ」

 

色々ってマジで何したの!?

そもそも、ラッキースケベって才能と言って良いの!?

ま、まぁ、天界でイリナに発動したこともあったけど!

他にも色々やらかしたこともあったけども!

今まで才能ないだの何だの言われてきたけど、認められた才能がそれって悲しすぎる!

 

イグニスの言葉に美羽が真っ先に反応した。

 

「あっ、もしかして………最近、寝ているときのお兄ちゃんが凄いのって」

 

「凄い!? 俺、寝ているときになにしてるの!?」

 

アリスが胸を手で隠すようにしながら言う。

 

「え、えっと………なんかパジャマ脱がしてくる」

 

レイヴェルもスカートを手で押さえながら、

 

「そ、それから………全身をその………」

 

全身をなに!?

脱がした後に何をしてるの、俺は!?

まさかと思うけど、リアス達にも凄いことしちゃってます!?

 

 

 

~一方その頃のリーアたん ~

 

 

リアス「ね、ねぇ、朱乃。最近、イッセーの寝相………凄くなってない?」

 

朱乃「ええ、その………凄いですわね」

 

凄いことになっていたらしい。

 

 

~一方その頃のリーアたん 終~

 

 

 

「………」

 

「ごめん! 自分が何をしたのか知らないけど、本当にごめん! だから、俺から離れないで、サラちゃん! にぃにを見捨てないでくれぇ!」

 

無言で距離を取ろうとするサラに泣きすがる俺だった。

 

そんなやり取りをしている横では、番組による俺達の紹介が続いていく。

録画映像が流されており、それは俺達の三回目の試合だった。

映し出された映像には俺と相手チームの数人が映っている。

俺と相手チームのメンバーは言い合いをしていて、

 

『赤龍帝! 貴様だけは絶対に許さん!』

 

『そうだ! 私達はあなたに抗議する!』

 

『オラは怒ったぞぉぉぉぉぉ!』

 

怒り心頭といった様子の彼らは俺に告げた―――――

 

『『『ディルたんから「にぃに」と呼ばれる貴様だけは絶対に許せんんんんんん! 「ディルたん見守り隊」が貴様に鉄拳制裁をしてくれるぅぅぅぅぅ!』』』

 

たった数回の試合。

その数回の中で、我らが妹はあちこちにファン………というより、シスコンを量産してしまったらしい。

 

だがな、俺にも譲れないものがある。

絶対に守らなきゃいけない、俺の全てをかけても。

 

映像に映る俺はフッと笑むと―――――カッと目を見開いて叫んだ。

 

『上等だオラァァァァァァ! かかってこいやぁぁぁぁぁぁ! 真なるにぃにの力、見せつけてやるわぁぁぁぁぁぁ!』

 

そこから先は兄としての存在をかけての戦い………というより蹂躙だった。

シスコンパワーを発揮した俺は相手をちぎっては投げちぎっては投げの繰返し。

最終的には自分でも見事だと思えるほどのジャーマンスープレックスで相手を沈めていた。

 

「フッ、やはり俺が最強のお兄ちゃんだ。美羽とサラは誰にも渡さん。俺こそが二人のお兄ちゃんなのだ………!」

 

「いや、お兄ちゃんなのは良いとしても、シスコンが悪化してるだけだから。というか、試合中にシスコン発揮しすぎじゃない?」

 

ニヒルに決める俺にツッコミを入れるアリス。

 

アナウンサーが録画映像の感想を述べた。

 

『………これは酷い』

 

「うるせぇ! これは兄として当たり前だろ!?」

 

「お兄ちゃん、向こうには聞こえないよ?」

 

「うん、知ってる! 知ってるけど、叫ばずにはいられなかった!」

 

ちなみに、専門家はというと、

 

『ハァハァ………ディルたん』

 

『よし、あんたも手遅れだ。帰れ』

 

辛辣な言葉がアナウンサーから放たれていた。

 

 

 

 

番組中で俺達の紹介が終わったところでレイヴェルが咳払いをする。

 

「ま、まぁ、これに関しては今に始まったことではありませんので、スルーしましょう」

 

「していいんだ………」

 

「気にしたところで、どうしようもありませんから」

 

アリスの言葉にレイヴェルが諦めが入った表情で答えちゃったよ!

もう俺達は手後れと!?

 

レイヴェルはそんな表情から一転、真剣な言葉で俺達に話していく。

 

「しかし、今のところ余裕を持った試合を出来ています。個々の実力もさることながら、咄嗟の対応力に優れているのは流石です。実戦とゲームは似て非なるもの。しかし、実戦で培われたものはゲームでも活きてくるのもまた事実」

 

特殊なルールをつけられるとやりにくいというのはある。

だけど、対応できないほどじゃあない。

それに、フィールドに罠が仕掛けられていたりしても、すぐに突破できているからな。

 

レイヴェルが言う。

 

「このチームの基礎能力はハッキリ言って異常です。本選に出場することも可能でしょう。ですが、体力気力マックスで予選期間全てを戦い抜くことは厳しいでしょう。今回の大会で重要になるのは勝ち星ではなく、レートのポイントです。予選突破をかけた時期を見定めて、稼げるときに一気にポイントを獲得する。無理な戦いは極力避けた方がいいでしょう」

 

無理な戦い―――――特に神クラスとの戦いだ。

大会のシステム上、当たったら仕方がないのだが、次の試合を見越して、ある程度温存できるようにはしておきたい。

ま、その辺りは状況次第だな。

 

モーリスのおっさんが言う。

 

「試合ペースに関しちゃ、おまえらに任せるよ。無理だと判断すれば止めれば良いし、行けると思ったら行けば良い」

 

おっさんは基本的に俺達の作戦に口を出してこない。

会議の時も横で俺達を眺めているくらいで、作戦に関しては俺達に一任してくれている。

おっさん曰く、

 

『若い連中に年寄りがあーだこーだ言うのも問題だろ? なにより、俺が指示を出してたら、おまえらが育たん。相談には乗るが、基本、俺はおまえらの指示に従って動く』

 

更におっさんは俺に対してこう告げていた。

 

『それから、このチームの大将はおまえだ。俺じゃない。大将だったら、最終的な判断はおまえがしろ』

 

とのことだ。

なんだかんだで、俺達のことを考えてくれてるらしい。

おっさんからしたら、俺達はまだまだ未熟ってところなのかね?

………ま、まぁ、試合中は誰よりもはしゃいでるけど。

ゲームの時も、俺達の中でも一番テンション高いし。

 

俺はチームメンバーに言う。

 

「ほどほどに、のんびり行こうぜ。こいつは命懸けの戦いじゃない。祭りなんだから。でも―――――試合に出る以上は勝ちに行く」

 

アリスが親指を立てて、頷いた。

 

「ええ。無理のない範囲で、だけど全力でやるわ。お祭りは楽しまないとね」

 

ミニドラゴン化しているボーヴァが平伏して言う。

 

「某、全力であなた様に勝利を届けまする!」

 

これまた大袈裟なリアクションだが、これにも少し慣れてきた。

見学期間を設けたはいいけど、それによってボーヴァの俺の臣下になるという意思は益々強くなってしまったらしい。

そんな大したことはしてないんだけどね。

特別にやったことと言えば、軽い修行に付き合ってもらったくらいだ。

結局、眷属ではなく、臣下として側に置くことになった。

一応、この件についてはタンニーンのおっさんには報告済みだ。

 

俺はボーヴァの肩を叩いて言う。

 

「おう! 頼むぜ、ボーヴァ!」

 

「ハッ!」

 

「めり込んでる。頭、床にめり込んでるって」

 

更に頭を下げるボーヴァへの美羽からのツッコミだった。

 



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17話 イチャイチャも程々に

今年ラストの投稿です!


ミーティングが終わった時、コンコンと部屋の扉がノックされた。

応じると、入ってきたのは―――――ルフェイと九重、それとリリスだった。

 

「あ、あの、会議は終わりましたか?」

 

ルフェイが恐る恐るそう訊いてくる。

手にはトレイ。

上にはお茶が置かれてある。

 

「ちょうど終わったところだよ。お茶を持ってきてくれたのか? ありがとな」

 

俺がそう言うと、九重がトレイで運んできた紅茶を皆に配ってくれる。

 

「お疲れさまなのじゃ、イッセー」

 

「おー、九重もサンキューな。それからリリ―――――いや、リースも」

 

いつの間にか俺の膝の上に乗ってくるリリス。

前々から俺の膝の上は小猫ちゃんとレイヴェルが取り合いをしていたが、新たにリリスも参戦してしまっていた。

 

リリスはリゼヴィムとの戦いの後、兵藤家で預かることになった。

オーフィスの例もあってか、隠すならここだろうとなったんだ。

流石にリリスやオーフィスの存在を公にするわけにはいかないので、一般的には先の戦いにて行方不明と発表されている。

 

そんでもって、九重の前ではオーフィスと同様にリリスも名前を出せないので、『リース』と呼ぶことに。

 

「ケーキケーキ」

 

当の本人の興味はケーキに向けられており、ルフェイから受け取るなり、パクパクと食べてしまった。

オーフィスもそうだが、こちらも食い意地が張っている。

 

ルフェイはリリスに渡した後、皆にチョコケーキを配ってくれた。

 

「皆さんもどうぞお上がりください」

 

このチョコケーキはルフェイお手製だ。

実はミーティングの前にキッチンで焼いてるのを見てたんだよね。

 

九重はケーキを食べながら言う。

 

「小難しい話ばかりでは脳みそが沸騰するぞ。程々に休むのじゃ!」

 

とは言うものの、俺達と遊べなくて暇だったから、口実が欲しかったのだろう。

 

「小難しい話なんてしたっけ?」

 

「う、うーん………ボケとツッコミしかなかったような………」

 

アリスと美羽が何か言っているが、聞かなかったことにしよう。

俺達のミーティングは始めから終わりまで至極まともなものだった。

そうだった………ことにしよう!

 

「これは美味しい………! おかわりを!」

 

リリスのようにパクパク食べているサラ。

色々とキャラは変わったけど、食べてる時は再開した頃と変わってないんだよなぁ。

あれが素だったのね。

 

それから、ルフェイと話すときは結構フランクだ。

今もおかわりを要求してるし。

 

「ア、アハハ………はい、おかわりはあるので、ゆっくり食べてくださいね?」

 

苦情するルフェイ。

そして、その横では―――――

 

「はぁ………はぁ………はぁ………。ケモミミ幼女にゴスロリ幼女………! たぎる………! これはイケます………!」

 

「そこのヤバい目をしたメイド長を誰か摘まみ出せぇぇぇぇぇ!」

 

「じゅるり」

 

「じゅるりって言った! じゅるりって言ったよ! もう、怖ぇよ! ワルキュリアのロリコン、こっちの世界に来てから悪化してるよね!?」

 

「ああ………! あのお召し物を一枚ずつ脱がして、あの柔肌を丁寧に洗いたい………! あの小さなお背中を………ウフフフフフフ」

 

「ヤベーよ、このお姉さん! 目が完全にイってる人なんですけど!? よくこんなのがメイド長になれたな!?」

 

嫌な汗が止まらない俺にニーナが言う。

 

「まぁ、仕事は超一流だしね。公私混同もしないし、問題も起こしてないし」

 

じゃあ、あれですか。

試合中にロリロリ美幼女に遭遇してダウンしたけど、試合中はプライベートだったと。

試合よりも幼女優先だったと。

もうヤダ、このメイド長。

 

俺はロリコンメイド長を放置して九重に訊ねた。

 

「九重、学校はどうだ?」

 

「うむ、さっそくお友達ができたのじゃ! こっちの者は意外にも気さくに話かけてくれるのじゃな」

 

そういや、九重が放課後にオカ研に顔を出さない日があったけど、友達と遊んでいたのか。

お姫様ってこともあって、少し心配していたけど杞憂だったようだ。

 

我らが妹サラちゃんはというと、少しだけ変化があったらしい。

数日前、寝る前にサラから言われたことがあって、

 

『あのね………日直で一緒になったクラスメイトと話せたよ』

 

とのことだった。

日直で一緒になるクラスメイトと話すなんて、普通のことかもしれないが、サラにとっては大きな一歩だ。

 

と、ここでルフェイが耳打ちしてくれた。

 

(先日のお昼はクラスメイトの何人かと一緒に食べたんです)

 

おおっ!

なんと、いきなりそこまで進歩していたのか!

 

(まだ会話の内容に困っているようですが、少しずつ話せるようになってきていると思います)

 

(ふむふむ。ちなみに今はどんな話してるの?)

 

(家族のことでしょうか。兵藤義兄妹は学園の中で有名ですので)

 

あー、なるほどね………。

まぁ、俺と美羽は色々と目立っているからな。

美羽は男子人気高いし、俺はイッセー撲滅委員会に狙われてるし。

その俺と美羽の義妹なのだから、そっちの方面で訊かれるのか。

家族の話なら、サラでも問題なく話せると思う。

しかし、ルフェイは何とも言えない表情を浮かべていた。

 

(ただ、少し厄介というか………困ったことになってまして)

 

(えっ? どうしたの?)

 

(実は―――――)

 

ルフェイが答えようとしたとき、部屋の扉が開いた。

 

「我、登場」

 

登場したのはオーフィスだった。

 

「お、フィス殿! 屋上の社から帰られたのじゃな」

 

「日向ぼっこ、完了」

 

九重にブイサインで返すオーフィス。

 

兵藤家の屋上にはオーフィス専用のミニ社がある。

オーフィスはそこで日光を浴びるのが習慣になっている。

たまに家に住むメンバーもお参りして、賽銭箱にお金を入れている。

それがオーフィスのお小遣いになっていたり。

 

オーフィスも俺の隣に座るなり、ルフェイからケーキを受け取り、あっという間に平らげていく。

オーフィスとリリスが並ぶ姿は微笑ましいものがあり、そこに九重まで加わると可愛い×3って感じになるな。

 

「あうっ! ここに来てゴスロリ幼女がもう一人………! アリス様、ニーナ様、申し訳ございません。ワルキュリアはここまでのようで………す」

 

興奮のあまりパタリと倒れてしまうワルキュリアに対し、二人はというと、

 

「あーはいはい。お疲れー」

 

「とりあえず、隅っこの方に退けておこうかな」

 

「………お二人とも私の扱いが酷くなっているのは気のせいでしょうか?」

 

「「気のせいじゃないない」」

 

ワルキュリア(ロリコン末期)はもう無視しよう。

それから、俺はただただ微笑ましい三人に癒されていた。

 

 

 

 

対戦チームの確認を終えた俺は一息入れるためにリビングに向かった。

 

「イッセー君、もうミーティングは終わったの?」

 

そう声をかけてきたのはソファで寛いでいた朱乃だった。

 

解散後、レイヴェルとワルキュリア以外のチームメンバーは殆どが外出してしまい、リアスや母さんも出掛けているため、家の中は静かなものだ。

 

「まぁね。かなりテキトーな感じになっちゃったけど」

 

「あら、余裕ですわね。リアスはあなたをどう攻略するか、色々と考えているみたいよ? 特に祐斗君なんて、イッセー君との対戦を目指して特訓に励んでますわ」

 

「へ、へぇ………」

 

リアスってば、既に俺との対戦を視野に入れているのね。

それに木場の奴も燃えていると。

最近はレーティングゲームのライバルって理由で、一緒に修行をしていない。

だけど、これまでの試合を見るに相当、実力を伸ばしているのは確かだ。

 

例えばチームリーダーであるリアスの場合だと、滅びの魔力の運用方法を見直したのか、色々と技のバリエーションを増やしてきている。

他のメンバーも少し見ない間に意外な戦法を繰り出していたりしてだな………。

こいつは当たった時には一筋縄じゃいかなそうだ。

 

俺は朱乃の隣に腰を下ろした。

 

「朱乃も何か新技とか考えてるんだろ?」

 

「うふふ、それはイッセー君にも内緒ですわ。対戦したときのお楽しみです」

 

「だよなぁ」

 

この様子だと朱乃も隠し玉があるんだろうなぁ。

俺だって新技なりチームの連携なりは考えてないことはない。

今朝だって、モーリスのおっさんに修行をつけてもらって………はい、ボコボコにされました。

短時間とはいえ禁手も使ったのに負けました。

 

木場、ゼノヴィア、イリナのオカ研剣士三人組は次元戦争の直前に本気の修行をつけてもらったらしいが………よく最後まで耐えれたな。

本当に頑張ったと思うよ、三人とも。

あれは普通に泣くわ。

俺だって泣くもの。

 

それはともかくリアス達のパワーアップは仲間としては頼もしくもあり、対戦するライバルとしては考えると恐ろしくもあるな。

 

俺がただ苦笑していると、朱乃がイタズラな微笑みを浮かべた。

そして、俺の耳元で囁いてきた。

 

「私のお願いを聞いてくれたのなら、少しくらい教えても構いませんわ」

 

「お、お願い………? というか、教えて良いの?」

 

「うふふ、ヒントくらいなら大丈夫でしょう」

 

ヒントくらいなら大丈夫なんだ!?

後でリアスに怒られない!?

そんな俺の心配など気にしないと、朱乃は俺の手を握ると顔を赤くして迫ってきた!

 

「最近、イッセー君と過ごす時間が減って辛いの。イッセー欠乏症になってるようなの。私もイッセー成分を補給したいですわ」

 

以前のリアスに続き、朱乃も同じこと言い出したよ!

朱乃もイッセー欠乏症になったのか!

 

実は俺も朱乃とのスキンシップが減ったと感じていたんだ。

大会が始まる前と比べると、チームのこともあってか、変な空気になることもあった。

だが、たまにはそんなことは関係なしに思いっきりイチャイチャしたい時もある!

 

試合?

ライバルチーム?

否、それ以前に朱乃は俺の嫁なのだ!

 

俺は朱乃の手を握り返すと、真っ直ぐ目を見て言った。

 

「それ、俺からお願いしていい?」

 

俺のお願いに朱乃はクスリと笑った。

 

「もちろんですわ。でも、そうなると私がイッセー君の言うことを聞いた方が良いのかしら?」

 

「なら―――――膝枕をお願いします」

 

キリッと無駄に決め顔で懇願する俺。

朱乃は頷くと、自分の太ももをポンポンと叩いた。

それに導かれるように俺は頭を朱乃の太ももにパイルダーオン!

絶妙な柔らかさと温もりが生み出すこの寝心地!

この安心感!

やはり膝枕は最強だな!

 

久しぶりの朱乃の膝枕に感涙していると、不意に朱乃に手を握られ―――――朱乃のおっぱいへ!

 

「サービスですわ♪」

 

昼間からそんなサービスありなんですか!?

いや、ありなのだろう!

何を躊躇うことがある!

例え昼間だろうと、おっぱいを求め続ける。

それが―――――おっぱいドラゴンだ!

 

今、リビングには俺と朱乃の二人きりだが、家の中には他のメンバーもいる。

もし、このタイミングでリビングの扉が開けば、俺が朱乃に膝枕をされながら、おっぱいを揉んでいるところをガッツリ見られてしまうことになるだろう。

だが、その時はその時だ。

 

義手である右手では十分に堪能できない。

故に左手よ、右手の分まで朱乃のおっぱいを堪能し尽くすのだぁぁぁぁぁぁぁ!

 

左手に力が入った、その時―――――

 

 

「こちらでお待ちください」

 

「ああ、すまない。ん? ここにいたのか、朱乃。近くに寄ったから顔を見に―――――」

 

 

レイヴェルに案内されたバラキエルさんがリビングに入ってきた。

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「兵藤一誠君」

 

「は、はい」

 

「その、なんだ………。君のことは認めているし、朱乃を託すのに値する男だとは思っているが………節度を持った付き合いをしてほしいとも思っている。確かに孫は望んでいるが………せ、せめて夜にしてくれないだろうか」

 

「………すいません」

 

ここでバラキエルさんが来るとは予想外だった。

 

俺、ソファの上で正座してるんですけど。

さっきから嫌な汗が止まらないんですけど。

バラキエルさんからの圧が半端じゃないんですけど。

バラキエルさんの後ろに『ゴゴゴゴゴ………』ってのが見えるんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!

 

バラキエルさんは一つ咳払いをする。

 

「今日は朱乃の顔を見に来たのだ。大学での生活も気になっていたのでな。だが、君がいるのなら、ちょうど良い」

 

「ちょうど良い、と言いますと?」

 

バラキエルさん、俺にも何か話があったのか?

そんな疑問を持っていると、俺の問いにはレイヴェルが答えた。

 

「先程、運営から連絡がありましたわ。次の対戦についてです」

 

「おっ、次の試合決まったのか………って、もしかして―――――」

 

俺の言葉にレイヴェルが頷いた。

 

「チーム名は『雷光(ライトニング)』。バラキエル様が率いるチームですわ」

 

「―――――っ!」

 

そうきたか。

多くのチームが参戦するこの国際大会。

確率的には低いが、身内と当たる可能性がない訳じゃない。

ここでバラキエルさんのチームと当たるとは………。

 

バラキエルさんが言う。

 

「そういうことだ。君の状態は聞いている。だが、私は全力で君と戦わせてもらう。私もグリゴリの代表として、ゲームを全力で楽しむつもりだ」

 

「ええ。手加減はいりません。俺も全力でバラキエルさんを倒しにいきます」

 

男同士、チームを率いる立場として、戦意を体から滲み出していた。

しかし、朱乃はというと少し困った様子で、俺とバラキエルさんの顔を交互に見ていた。

 

「あらあら、イッセー君と父様の試合だなんて………どちらを応援したらいいのやら」

 

バラキエルさんが恥ずかしそうに娘に問う。

 

「あ、朱乃はどちらか一方を応援するとしたら………どっちを応援するのだ?」

 

期待してる!

それはもう父として娘に何かを期待する目をしていらっしゃる!

高等部の卒業式、大学部の入学式と鼻水を流して号泣していたこの人のことだ。

俺を選んだら、色々とヤバいことになるに違いない!

本音を言えば、朱乃には俺を応援してほしいが、ここは父親を立てて………。

 

しかし、朱乃は俺に抱きついて、満面の笑顔で答えた。

 

「当然、イッセー君ですわ♪ だって、私の旦那様ですもの」

 

「………ッ!」

 

あ、朱乃ぉぉぉぉぉぉぉ!

わざとだよね!

絶対にイタズラ心をだしたよね!

 

見てよ、バラキエルさんのあの顔を!

血の涙を流してるよ!

完全に俺に対して嫉妬と怒りを抱いてるよ!

 

「お、おのれぇぇぇぇ! 娘の心を全部持っていったな、義息子めぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

「うぁぁぁぁ!? ちょ、待っ、おち、落ち着きましょう、バラキエルさ………お義父さん! ああっ、雷光撒き散らさないで!」

 

試合を前にして俺とバラキエルさんの取っ組み合いが始まった。




~あとがきミニストーリー~ 

イグニス「朱乃ちゃんへの夜這い回はまだなのかしら? オラ、ムラムラすっぞ!」

イッセー「何言ってんの、この駄女神!?」


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18話 VS雷光チーム 試合開始!

明けましておめでとうございます~。
今年もよろしくお願いします!

新年になり、リターンズもバトルに突入!
シリアスバトルスタートです!


試合の日程が決まってから数日後の今日。

ゲーム当日だ。

 

俺達が向かったのは冥界―――――堕天使の領土に新設された大会用の大きなスタジアム。

既に席は満席とのことで、スタジアムの外にいても、その熱気が伝わってくるほどだ。

スタジアムの名称は『アザゼルスタジアム』。

スタジアムの入り口にはアザゼル先生の銅像が建てられていたのだが………。

 

「ちょっと格好よくしすぎじゃね? 落書きしてきて良いか?」

 

爆笑しながら、そんな冗談をモーリスのおっさんが言っていた。

正直、俺も少しイタズラしてやろうかと思ったのは言わないでおこう。

 

スタジアムの中央―――――フィールドには今回対戦する両チームが向かい合っている。

あちらのチームはバラキエルさんを『王』として、『女王』には同じく幹部の―――――。

 

「グリィィィィゴリィィィィイイイ! 久しいな、おっぱいドラゴォォォォンッ! グハハハハ!」

 

豪快に笑うのは特撮幹部ことアルマロスさん!

この人も大会に出てるんだよね!

この人、俺が特撮に出てるものだから、変な対抗意識燃やしちゃってさ。

俺を見かける度にこんな感じに話しかけてくる。

 

バラキエルさん率いる『雷光(ライトニング)』チームには激戦を潜り抜けてきた堕天使の猛者が揃っている。

バラキエルさんやアルマロスさんのような幹部から上級の堕天使、更に―――――

 

「イッセー君に皆! 今日は負けないから!」

 

ビシッと人差し指を突き付けてくるのはレイナ!

そう、レイナもバラキエルさんのチームメンバーとして今大会に出場していた!

 

まさかレイナと戦うことになるとはね。

この対戦が決まった時から分かっていたことだけど、こうして向かい合うと色々と複雑な気分になってしまう。

 

両チームが睨み合うなかで、アナウンサーと解説者がマイクを震わせる。

 

《さぁ、本日の一戦は注目のカードとされている「異世界帰りの赤龍帝」チーム対「雷光」チームとなっております! どちらも三大勢力からの強力なチームであり、各関係者は息を呑んで見守っております! 解説は悪魔サイドからリアス・グレモリー姫のお父上に来てもらっております! それでは、グレモリー卿、今日はよろしくお願い致します》

 

マジですか!?

てっきり、アザゼル先生あたりと思っていたら、ジオティクスさん来ちゃったの!?

対戦相手が朱乃パパで、解説者がリアスパパですか!

今日はお父さんの日とでも言うのか!

 

《いえいえ、こちらこそ、よろしく頼みます。心情的には娘のフィアンセ、兵藤一誠君を応援したいところですが、今日は厳正に解説できたらと思います》

 

丁寧に挨拶をするジオティクスさんだが………フィアンセって言ったよね?

いや、間違ってはいないけども。

 

アナウンサーが今日のルールについて説明していく。

 

《今回の種目は「オブジェクト・ブレイク」! 制限時間内にゲームフィールド上にある対象物をより多く壊した方が勝ちとなります! なお、従来のルール同様、フィールド全域はチェスボードのマス目のようにエリアが区切られております》

 

巨大モニターにエリアが表示される。

エリアはチェス盤のように区切られていた。

 

試合では、専用のバトルフィードに転移してからの対戦となる。

フィールドはとてつもなく広大で、端から端まで並の悪魔が全力で空を飛んで三十分かかるとのことだ。

 

《ゲームフィールドに用意された「オブジェクト」の数は13。これを制限時間内にフィールド上から探し出して相手チームより多く破壊すれば勝利です! また、基本的なルールと同様、相手チームの『王』を倒しても勝利となります!》

 

オブジェクト・ブレイクはより多くの「オブジェクト」を破壊したチームが勝利する。

用意された「オブジェクト」の数は13なので半数以上、先に7つ破壊すれば、その時点で勝敗が決まる。

 

《配置されている「オブジェクト」はそのままの状態で置かれていることもありますが、物陰に置かれていたり、思いもよらない場所に隠されています。両チームは広大なフィールドを駆け抜け、相手チームの選手と競い合い、戦いながら、これらを探し出して破壊しなければなりません。なお、制限時間である十二時間を超えて、両チームか破壊した「オブジェクト」の数が同数だった場合、その時点で引き分けとなります》

 

アナウンサーが続ける。

 

《過去のレーティングゲームでは、単純な力量差で格上のチームに対して、同数の「オブジェクト」を破壊することに成功し、そのまま引き分けを狙って制限時間一杯まで防戦に徹したチームもいます》

 

ジオティクスさんが言う。

 

《制限時間内に両チームが全ての「オブジェクト」を探しきれなかったこともありますな》

 

《ええ。「オブジェクト」の配置は完全にランダムですので、見つからない場合があります。その時、チームによっては相手チームの撃破に移ることもあるわけです》

 

これだけ広大なフィールドだ。

目的の「オブジェクト」が見つからなかった場合、相手を倒した方が早いという場合もあるのだろう。

「オブジェクト」を探して破壊するか、それとも相手を倒すかは状況次第だな。

 

《補足としましては、「オブジェクト」が破壊された場合、そのエリアに特殊なルールが敷かれます。各チームの『王』はそのエリアに侵入が不可能となるのです。つまり、ゲームが進み「オブジェクト」の破壊数が増えていくと、その分だけ『王』が動ける領域は狭まることになります》

 

《過去の試合では戦況が進むにつれて『王』の逃げ場がなくなったという試合もありましたね》

 

「オブジェクト」を破壊したエリアに『王』は進入できなくなる、か。

このルールは『王』である俺にとって厄介になるな。

さて、その場合はどうしたものか………。

 

その展開になった場合の対処方法を考えているとレイヴェルが小声で言ってきた。

 

「どうしても確認しておかねばならないことがありますわ」

 

「確認?」

 

俺が聞き返すと、レイヴェルは頷いた。

 

「―――――『オブジェクト』が動かせるか否かです。『オブジェクト・ブレイク』に用意される『オブジェクト』には動かせるものと、そうでないものがあります。もし、今回の一戦が動かせるものだとしたら、厄介になりますわ」

 

なるほど、そういうことね。

先程のルールを聞いた後だと、確かにそいつは厄介に感じてしまうな。

 

《さぁ、ゲームスタートとなります! 各チーム転移後、今回の「オブジェクト」の形を確認しだい、試合開始です!》

 

 

 

 

 

転移した先にあったのは広大な自然だった。

目の前に広がる山々と遠くに見える湖。

一帯は木々で覆われており、開けた場所は湖の周囲くらいにしか見えない。

 

俺達の本陣となるのは切り立った崖の上だ。

崖には本陣用の卓と椅子が並べられており、宅にはフィールドのマップが表示されている。

転移する前の説明でもあったように、表示されているフィールドにはチェス盤と同じく8×8のマス目が敷かれていた。

 

俺はマップを見て言う。

 

「中央線から北側がバラキエルさんの陣営の領域、南側が俺達の領域か。回復ポイントは………ここだな」

 

「両陣営に一ヶ所ずつ配置されているようね」

 

今回の大会ではフェニックスの涙が支給されない代わりに、フィールドには回復ポイントが設けられている。

傷を受けた場合、回復ポイントに行けば傷を癒すことが可能だ。

だが、回復ポイントをどう利用するかも戦略に組み込むこともある。

相手の動揺を誘うために破壊する、罠を仕掛ける、回復に来たところを狙う等、回復以外にも利用価値のある場所でもある。

 

卓上には今回使用される「オブジェクト」の形を知らせるために、立体的に映し出されている。

「オブジェクト」の形は悪魔と堕天使の翼を生やした女性の像。

 

像を見て、美羽が言う。

 

「これって朱乃さんだよね?」

 

そう、この像の女性は朱乃を思わせるものだった。

悪魔と堕天使の翼、長い髪に、あの大きなおっぱい。

 

これを俺とバラキエルさんで奪い合えと。

運営は狙ってやったのか?

もしそうなら、このデザインを決めたのはアザゼル先生あたりだろう。

 

モーリスのおっさんがからかうように言ってくる。

 

「良いねぇ。こいつは向こうの親父さんも燃えてくるだろうな。なぁ、義息子さんよ?」

 

「やめてくれよ………」

 

この間なんて、血の涙と雷光を撒き散らしながら襲われたんだぞ?

あれが父親としての嫉妬と怒りなんだと、強く認識したね。

マジで消されるかと思ったもん。

あの時のバラキエルさんを思い出すだけで、体が震えるよ………。

 

と、ここで開始を告げる鐘の音がフィールド全域に鳴り響いた。

両チームが「オブジェクト」を確認したので、試合開始の合図をしたのだろう。

 

俺はチームメンバーを見渡した。

 

「―――――そんじゃ始めるか。作戦を決めようぜ」

 

 

 

 

開始して一時間半ほどが経過した。

作戦を話し合った結果、まずは「オブジェクト」の探索として、本陣に待機するメンバーと探索メンバーに別れることに。

俺はボーヴァと共に本陣の西側の探索を行っていた。

空を飛んで上空から見て回ってもそれらしいものはなく、木の影や谷の下、流れる川のほとりを探しても見つからない。

この広いフィールドだ、そう簡単には見つけられないか。

 

『イッセー、見つかりましたか?』

 

通信を送ってきたのはリーシャだった。

リーシャは本陣で待機組だ。

 

「いいや。サイズも分からないし、もう少しかかるかも」

 

「オブジェクト」のサイズだが、実は伝えられていない。

大きいのか、小さいのか。

小さいのなら、探し出すのにかなり苦戦することになるだろう。

 

ため息を吐く俺はリーシャに聞き返す。

 

「そっちはどうだ? なにか変化は?」

 

『いいえ。私の狙撃を警戒しているのか、空には上がってきませんね』

 

リーシャが本陣に残ってもらっている理由だが、単純に上に上がってきた相手チームのメンバーを狙撃してもらうため。

俺達の本陣である崖はある程度、フィールド全体を見渡せる場所にあるため、狙撃に向いているんだ。

相手チームもそれを理解してか、中々姿を見せないようだ。

 

この障害物だらけのフィールドはリーシャと相性が悪い。

障害物を貫通させて当てることは出来ても、この広大で隠れる場所も多いフィールドでは、リーシャの魔法眼でも相手を見つけ出すことは困難なんだ。

 

まぁ、リーシャの存在により、フィールドの制空権はこちらが得たも同然なので、それだけでも大きいんだけどね。

リーシャには戦況に応じて移動してもらうことになるだろうな。

 

すると、今度はインカムを通して、おっさんの声が聞こえてきた。

 

『おっ、こいつは………!』

 

「どうした、おっさん。もしかして見つけたのか?」

 

『エロ本を発見したぞ!』

 

「なんでだよ!?」

 

なんでエロ本がフィールドに落ちてるんだよ!?

つーか、この大自然の中にエロ本!?

 

『美人人妻特集………むぅ、こんな罠を仕掛けてくるとはな。俺好みの物を罠にするたぁ、やってくれるじゃねぇか。これがレーティングゲームの恐ろしさってやつなんだな。うし、持って帰ろ』

 

『なにを染々語ってますの!? そんなものすぐに捨ててくださいまし!』

 

ほら、あまりのことにレイヴェルもツッコんだよ!

ちょっとお怒りだよ!

 

『………』

 

おっさん黙り込んだんだけど………もしかしなくても読んでる!?

腰を下ろして熟読してませんか!?

 

『イッセー、モーリスを発見しました。ニヤニヤしてるので、狙い撃っても良いでしょうか?』

 

「気持ちは分かるけど、ダメだって!」

 

 

ジャキン、ガシャ

 

 

「ねぇ………今、構えてる?」

 

『ロック………オン』

 

「リーシャ姉ストォォォォォプ! レイヴェル、リーシャを止めろ!」

 

『いえ、今のはリーシャ様の冗談ですわ。銃口は相手の領域に向けられていますので』

 

「そーなんだ! 紛らわしいことしないでよね!?」

 

『ウフフ、テヘペロです♪』

 

んもう!

試合とは全く関係ないところでヒヤヒヤさせられるよ!

たまに眷属の主ってなんなのか見失いそうになります!

あと、リーシャのテヘペロは可愛いと思います!

 

ここで、アナウンスがフィールドに木霊する。

 

《「雷光」チーム、「オブジェクト」の破壊を確認。1ポイント獲得です》

 

こっちがギャグかましてる間に先手を取られた―――――。

 

 

 




シリアスになんてなるわけねぇだろぉぉぉぉぉ!


~あとがきミニストーリー~

イグニス「ついに試合が始まったわね! 朱乃ちゃんを巡る義親子の戦い! そして、脱がされるレイナちゃん! 見所満載ね!」

レイナ「脱がされるの確定なんですか!?」

イグニス「次回『脱がされる運命』。絶対見てね☆」

レイナ「イッセーくーん!? この女神様、人の話を聞いてくれないんだけど!」


(注)駄女神が勝手に言ってるだけです。


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19話 諦めと悟りは紙一重

お待たせしました~

あと、個人的なことですが、RGトールギス3を組みました。
やっぱ、カッコいいっすわ………。


《おおっと! 最初に「オブジェクト」をブレイクしたのはチーム「雷光」となりました! 試合はまだまだこれからです! 次の「オブジェクト」を破壊するのはどちらだ!》

 

煽るアナウンサー。

こっちがぐだぐだやってる間に先手を取られたか!

 

冷静なレイヴェルの通信が耳に届く。

 

『焦らずに。まだ1ポイントを取られただけですわ』

 

「わかってる。皆も焦る必要はない。そのまま捜索を続けてくれ」

 

俺は皆にそう言い聞かせた。

正直言って、先手を取られたことは悔しいが、そこまで焦ることもないだろう。

先手を取られたと言っても、まだ1ポイント。

追い付き、追い抜くことも出来る範囲。

アナウンサーの言うようにゲームはまだこれからだ。

 

と、程なく吉報も耳に届いた。

 

『「オブジェクト」を見つけたわ。大きさは三十センチくらいね』

 

本陣の東側探索担当のアリスからの通信だった。

どうやらこちらの陣営も見つけることができたらしい。

 

レイヴェルが言う。

 

『了解ですわ。まずは破壊前に動かせるか確認してください』

 

『………動かせるわね。破壊せずにキープしとく?』

 

今は壊さず、動かして、自分達の有利な地形で「オブジェクト」を壊すと言うことだ。

ルール上、「オブジェクト」を破壊したエリアに『王』は進入できない。

こいつは、いざという時に相手の『王』に対しての武器として使える。

 

レイヴェルが言う。

 

『そうですわね………。このゲームでは「オブジェクト」をどう扱うかで展開が変わってきますわ。もしかしたら、相手も既にいくつか見つけていることも考えられます。一つだけ破壊しておいて、あとは保持し、時が来たら使う。そういったケースも過去の試合で見られます』

 

ふむふむ、なるほど。

見つけたら即破壊よりは、いざという時の武器として、あるいは駆け引きの道具として使った方が相手に対して揺さぶりを掛けられるか………。

 

しかし、とレイヴェルは続ける。

 

『このフィールドの広さから言いますと、経過時間からして、よほど運が良くないと、三個めは考えにくいでしょう。けれど、二個目を持っている可能性は高いです』

 

「それじゃあ、相手は既に三個目まで確保していると考えて動いた方が良さそうだな」

 

俺の言葉をレイヴェルは肯定する。

 

『はい。アリス様が見つけたものは保存しておきましょう。皆様は引き続き、二個目の探索をお願いします。美羽様はアリス様と合流して、「オブジェクト」の解析に移ってください』

 

『うん、分かった』

 

『了解よ』

 

レイヴェルの指示に美羽とアリスが応じた。

 

美羽の魔法で「オブジェクト」を解析して、フィールドで広く探索できる魔法術式を構築してしまおうという算段だ。

それが完成すれば、一気に探索を進められる。

 

美羽が言う。

 

『出来るだけ急ぐけど、少し時間がかかると思う。魔法が苦手なメンバーもいるし、全員が使えるようにしないと』

 

『ハッハッハッ、いやーすまんな』

 

「………ゴメンね」

 

軽く笑うおっさんと、ガックリ肩を落とす俺。

うちのメンバーで魔法適正が低いのは俺とおっさんの二人だ。

全く使えないという程ではないが、他のメンバーのように上手く使うことは出来ない。

悪魔に転生して、その辺りもマシにはなってるけど………それでも泣きたくなるレベルなんだよね。

 

レイヴェルが俺とボーヴァに指示を送る。

 

『イッセー様とボーヴァさんは時折で良いのでミニドラゴンとなって、相手の陣地を探ってみてください。変化があれば、連絡をくださいまし。ただし、深くまで潜り込まないように』

 

『了解です』

 

「了解だ」

 

俺とボーヴァは探索も兼ねての偵察メンバーでもある。

たまに相手陣地に入り込み、相手の様子を探るついでに「オブジェクト」を探す。

俺は気を消して、相手から察知されないように出来るし、ボーヴァはミニドラゴン化すれば、かなり小さくなるので、相手から見つかりにくい。

 

それから更に二時間半ほど時間が進んだ頃、ワルキュリアが二個目を発見した。

俺はワルキュリアに指示を送り、壊してもらうことに。

 

《赤龍帝チーム「オブジェクト」の破壊を一つ確認。1ポイント獲得です》

 

すると、

 

《雷光チーム、「オブジェクト」の破壊を確認。1ポイント獲得です》

 

相手チームが二つ目を破壊したことを知らせるアナウンスが流れた。

 

こちらが破壊してすぐに向こうも破壊したか………。

こいつは確実に向こうも複数キープしてるな。

向こうのキープは残り一つか、それとも二つか。

 

そんでもって、こちらを煽ってきている。

こっちが壊したと同時にキープを破壊して、焦りを生ませる、か………。

さてさて、どうしたもんかね?

 

それから少しして、ワルキュリアから報告が入った。

 

『こちらワルキュリア。相手からの襲撃を受けました』

 

ついに仕掛けてきたか!

 

俺はワルキュリアに言う。

 

「無理はするなよ? キツそうなら防戦、撤退してくれ」

 

相手は上級の堕天使。

それも激戦を潜り抜けてきた猛者ばかりだ。

ワルキュリアも強いが、得意分野は暗殺もしくはサポート。

単純な力だけなら中級悪魔クラスといったところ。

真っ向から上級の堕天使とやり合うにはかなり厳しいだろう。

 

『ええ、そうさせていただきます』

 

俺の指示に応じるワルキュリア。

しかし―――――。

 

『こちらも攻撃を受けています』

 

その報告はサラからだった。

ワルキュリアに続き、サラも襲撃を受けたってことは、向こうは探索から攻撃に切り替えてきたってことだ。

 

「いけるか?」

 

『問題ないよ、にぃに』

 

「そっか。なら、任せる!」

 

『うん!』

 

こういう時に言うのもなんだが………通信越しに『にぃに』って言われるのも悪くない!

サラたん、きゃわいい!

 

すると―――――

 

『イッセー、こっちも来たわ!』

 

アリスからの通信!

アリスも襲撃を受けたというのか!

 

なんだ、この違和感………。

ワルキュリア、サラに続きアリスも戦闘になった。

これだけ広大なフィールドで、こうも連続して戦闘になるものなのか?

しかも、三人が戦闘に入ったのはほぼ同時だ。

偶然なのか、それとも………。

 

思考を巡らせていると、不意に目の前の草木か揺れた。

影から出てきたのは

 

「レイナか」

 

「まさか、私の相手がイッセー君になるなんてね」

 

そう言って息を吐くレイナ。

今の口ぶりから察するに俺との遭遇は偶然だったということか。

俺を含め次々に遭遇戦が起きているのは、バラキエルさんの作戦………?

 

いや、その前に気になることがある。

それは―――――

 

「とりあえずツッコミしていい? なんで軍服? なんで頭に草つけてるの!?」

 

今のレイナの格好―――――迷彩柄の軍服に身を包み、頭には深く被った帽子。

帽子にはその辺で採取したのか、枝付きの草がテープで巻き付けられている!

なに、そのマシンガンでも持ってそうな格好!?

どこの軍人!?

 

「マシンガンもあるわ!」

 

「いや、持ってるんかいぃぃぃぃぃぃ!」

 

ホントだ!

背中に背負ってるやつ、マシンガンだ!

なんでた!?

なんで、レイナが軍服来てマシンガン持ってるの!?

意味分からないんですけど!

 

ツッコミを入れる俺にレイナが説明をくれる。

 

「人間界でサバゲーってあるでしょ? それをうちでもやってみようって話になったのよ。そうしたら、グリゴリでプチ流行しちゃって」

 

それとこれと関係ある!?

そもそもなぜにサバゲーをやろうと思ったの!?

 

「最近、グリゴリの新たな収入源を増やそうという試みがあって。その一つがこのサバゲーなの」

 

「おいおい、まさかと思うけど、この大会で宣伝しようって言うんじゃ………」

 

「その通り!」

 

そう言うと、レイナはくるりと回って、片手でマシンガンを構えた。

そして、ウインクと片手ピースで言った。

 

「モデルガンはお近くのグリゴリショップで販売予定! 皆、一緒にレッツサバゲー!」

 

「ああっ!? 宣伝した!?」

 

可愛いけども!

美少女の軍服姿ってちょっと良いなって思うけども!

つーか、グリゴリショップなんてものがあるの!?

 

どうしよう、モーリスのおっさんにツッコミしてたら、今度はレイナちゃんにツッコミしなきゃいけなくなった!

このゲームのツッコミは俺がしなきゃダメなんですか!?

 

「レイナってそんなキャラだっけ!?」

 

「良いの………もう色々諦めてるから」

 

フッと軽く笑むレイナ。

なんか、影があるんだけど………。

この宣伝やらせたの、絶対アザゼル先生だろ。

 

 

 

~一方その頃、アザゼル先生~

 

 

アザゼル「おおっ! 早速問い合わせの電話がきやがった! これは来てる! やはり、宣伝役にレイナーレを使ったのは間違いじゃなかった! おまえら、一発当てるぞ!」

 

グリゴリサバゲー同好会一堂「「「おおおおおおおおお!」」」

 

 

~一方その頃、アザゼル先生 終~

 

 

「まぁ、この服って宣伝も兼ねたイッセー君対策なのよね」

 

「俺対策?」

 

聞き返すとレイナは頷いた。

レイナは軍服の上から着ているベストを指差して言う。

 

「これだけ着てたらイッセー君のラッキースケベも防げるよね?」

 

「―――――っ!」

 

その言葉に俺は目を見開いた。

 

確かに、あのベストの上からではおっぱいを揉むことは難しい。

更に今日のレイナはスカートではなく、ズボン!

ズボンはベルトで締めているので脱がすことも難しいだろう!

レイナのこの格好には俺のラッキースケベ対策も含まれていたのか!

 

レイナは顔を赤くしながらボソボソと言い出す。

 

「わ、私もイッセー君なら………でも、流石にこんな公の場は恥ずかしいと言うか………。そもそも、対戦チームだし………」

 

うん、それが普通の反応だよね!

そんな格好させたのはアザゼル先生の指示だろうけど、半分は俺のせいか!

ゴメンね!

 

レイナは首を振って迷い(?)を振り払うと、マシンガンを構えた。

 

「イッセー君! 普段は仲間でも今はライバルチーム! だから、あなたを討つわ!」

 

そう言って、レイナは引き金を引く。

次の瞬間、銃口が火を吹いた!

放たれたのは―――――無数の光の弾丸だった!

 

「うおっ!? ちょ、それってモデルガンじゃないの!? 思いっきり光力籠められてるけど! 悪魔の俺、ダメージ受けるんだけど!」

 

「これは試合用に用意したものよ! まぁ、形状は宣伝も兼ねてるけど!」

 

「えぇい、そういうところは本当に手を抜かないな、あの未婚元総督!」

 

俺はツッコミながらも、ばら蒔かれる光の弾丸を回避していく。

しかし、腕、足、脇腹と何発か掠めてしまっていた。

光力が籠められているため、掠めただけでも地味にダメージが与えられる!

 

展開的にはふざけているが、この弾幕を避け続けるのは骨だ。

だが、これだけ撃ちまくっていたら、いつかは弾切れを起こす。

ここは回避に徹して、弾切れするのを待つか?

弾切れと同時に突っ込めば………。

 

避け続けながら打開策を練っているとレイナが不敵な笑みを浮かべた。

 

「弾切れを待つのは無駄よ!」

 

言うなり、マシンガンのカートリッジを素早く抜いて、新しいカートリッジを差し込んだ!

マジか!?

俺が距離を詰めようとする前にリロードを終えやがった!?

 

「フフフ、宣伝のために練習させられたからね! これくらいは朝飯前ってね!」

 

「いや、それはそれで悲しくならない!?」

 

宣伝のために高速リロードの練習させられたの!?

グリゴリは新規事業の展開にそこまで力を入れていると言うのか!

というか、レイナになんでもかんでもやらせすぎじゃない!?

 

一定の距離を保ちながら移動していると、レイナが言う。

 

「それにしても、流石はイッセー君ね。これだけ撃ちまくっても、中々当たらないなんて」

 

この手の武器は銃口の向きと視線に注意を払えば、避けることはそう難しくない。

それに飛んでくる弾丸の弾速、次弾との間隔もこれだけ撃たれ続ければ、こちらも慣れてくる。

 

今の単調な攻撃では通じないと判断したのか、次にレイナは光の槍を周囲に作り出した。

 

「これくらいは想定内。じゃあ、今度はこれで行くわ!」

 

レイナがパチンと指を鳴らした瞬間、光の槍が放たれる!

放たれた光の槍は木々を避け、複雑な軌道を描きながらこちらへと向かってくる!

 

「ちぃ!」

 

俺は気弾を放って相殺する………が、生じた爆煙を突き抜けて次の槍が飛んできた!

光の槍が先程まで俺がいたところに突き刺さる!

俺は更に後退していくが、それでも光の槍は障害物を避けて追いかけてきた!

 

俺は光の槍を殴り付けて言う。

 

「光力の遠隔操作が上手くなったな!」

 

「そりゃあね! 必死に修行したもの! この手の技術はイッセー君にだって負けないわ!」

 

「言ったな? それなら、面白いもの見せてやるよ!」

 

俺は地面を蹴って大きく後ろに飛ぶと、左手首を右手で掴み、気を集中させる。

すると、ブゥンと音を立てて、左の掌にバレーボール大の気弾が浮かび上がった。

 

見た目はただの気弾。

だが、こいつは普段使うものとは一味違う。

俺は腰を落とし、気弾を投球した!

 

「速い!」

 

高速で迫る気弾をレイナは横に飛んで回避する。

放った気弾はレイナには当たらず、向こうの方へ飛んでいく。

 

「今のがとっておき? 確かに速いけど、あれぐらいじゃ―――――っ!?」

 

ぎょっと目を見開くレイナ。

なぜなら―――――遥か向こうに飛んでいったはずの気弾が再びレイナ目掛けて迫っていたからだ。

 

「わっ!?」

 

咄嗟に屈んで避けるレイナ。

気弾はレイナの頭上を通り抜け、また当たることはなかった。

しかし、避けられた気弾は空中で軌道を変えて、再びレイナに襲いかかった!

 

レイナが驚愕しながら言う。

 

「これ、追尾するの!?」

 

「その通り。隠れても無駄だぞ? そいつは俺がコントロールしてるからな。隠れても気を消さない限り、俺には見つかってしまう。意味は分かるよな?」

 

隠れたところで、俺に位置を捕捉される以上は追尾される。

つまり、逃げようが隠れようが無駄と言うこと。

 

レイナはマシンガンを手放すと、手元に光力を集中させ、濃密な光力を籠めた槍を作り出す。

 

「だったら、撃ち落とすまで!」

 

レイナは光の槍を投げ付けて、迫る気弾を迎撃した。

即座に迎撃に回ったのは良い判断だ。

だが―――――

 

「この状況で俺に背を向けたのは失敗だったな!」

 

気を循環させて、脚力を大幅に上げた俺はトップスピードでレイナに肉薄する。

完全に間合いは詰めた!

 

「ここは俺の距離だ!」

 

「しまっ―――――」

 

振り返って迎え撃とうとするが、もう遅い。

俺の手は既にレイナに迫り、

 

 

「あれ?」

 

 

不意に生じる浮遊感。

ふと足元を見ると、俺は足を滑らせていて、

 

「おわぁ!?」

 

「きゃっ!?」

 

俺はレイナに突撃する形で盛大に転んだ。

 

こ、腰打った………!

咄嗟に受け身は取ったけど、地味な痛みはあって………って、そんなこと言ってる場合じゃない!

このタイミング、このアクシデント!

嫌な予感がする………というより、既に状況は起きていた!

だって―――――

 

「ひゃぁ!? い、いいいいいイッセー君!? どこに顔を突っ込んで………ふぁぁん!」

 

顔にのし掛かる確かな重み。

そして、この柔らかさ。

最初はまた無意識に服を抜がして、おっぱいに顔を埋めてしまったのだろうと思った。

 

だが、よく見るとそんなレベルではおさまらないもので―――――。

 

「な、なななななんで、転んだだけで、ズボンを脱がしてるの!?」

 

顔にのし掛かっていたのはおっぱいではなかった。

状況を確認しよう。

俺の顔を挟むのはスベスベの太股。

ズボンなど完全に脱げてしまっているせいで、俺の顔はレイナのパンツにめり込んでいる状況だ。

更に、俺の手はレイナの服に手を突っ込んでいて、おっぱいをガッツリ揉んでいた。

この感触、どうやらブラを通り越して生で揉んでいるらしい。

 

「そっか………ここまで来たんだな、俺」

 

「なに悟った顔してるの!?」

 

レイナがあれだけ着込んでいて、この状況。

多分、今の俺なら無意識に女の子を脱がせることが出来るんじゃないだろうか。

それも洋服崩壊を使わずに。

 

「もう俺も俺自身を諦めたというか、悟ったというか。抗っても、駄女神が知らず知らずの内に開発を進めてたラッキースケベの才能には抗いきれないような気がして………。とりあえず、暫くこのままでも良いですか?」

 

「良くないよ!? 完全にアウトだもん! ほとんどR-18な状況だもの!」

 

涙目で顔真っ赤にして叫ぶレイナちゃん。

こんな状況でも冷静でいられる俺って、もう色々手遅れのような気がする。

 

そう思った俺は―――――急に、とっても素直になれた気がした。

 

 

 

「おっす。オラ、ムラムラすっぞ」

 

「イッセー君!? それもうヒーローの台詞じゃないよね!? ねぇ!?」

 

 




~あとがきミニストーリー~

アセム「やっ! 皆大好きアセム君でーす!」

イッセー「おまえ、なんでここにいんの!?」

アセム「いや、僕って死んだじゃん? だから、もう出番ないしー。そうなると、僕の出番ってここだけかなーって。あと単純に暇だから」

イッセー「そんな理由!?」

イグニス「イッセー、出番は大事よ。少しでも出番を増やすことが、キャラグッズの販売に繋がるのだから!」

イッセー「そんな展開、絶対に来ませんけど!?」

アセム「アハハ♪ とにかく、暇な僕はたまーにここに来るんで、よろちくびー」

イグニス「よっろちくびー♪」

イッセー「うわぁぁぁぁ! 面倒な奴に面倒な奴が加わったぁぁぁぁぁぁ!」





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20話 義父VS義息子!

あとがきがメイン


「………ごめんね」

 

「い、いえ………」

 

気まずい空気の中、背を向けて会話する俺達二人。

冷静になった俺達は一旦、戦闘を中止して身なりを整えることになった。

後ろではレイナが、俺が脱がしてしまったズボンを履いていて………。

 

『半脱ぎがポイントだったのだけれど………。いいえ、後ろで生着替えというのも興奮するわね!』

 

うるさいよ、駄女神!

ちょっと黙っててくれませんかね!?

なに、鼻息荒くしてるの!?

 

『そう言いつつ、イッセーもレイナちゃんの太股の感触思い出してるくせに~♪』

 

「イッセー君!?」

 

「してないしてない! 今は申し訳なさで胸一杯です!」

 

『胸………つまり、レイナちゃんのおっぱいね!』

 

「イッセー君、試合中なのよ!?」

 

「もうマジで黙ってろや、駄女神ぃぃぃぃぃぃ!」

 

確かにおっぱいの感触も、太股の感触も何もかも残ってる!

でもね、今はそっとしておいてくれよ!

 

『えー、少し前なら問答無用で洋服崩壊してたでしょ?』

 

それはそれ、これはこれなの!

そういう雰囲気な時ならともかく、結構、真面目な雰囲気だったから申し訳ないの!

俺も真剣にやってたし!

試合開始からシリアス壊し続けてたんだから、あそこはシリアスでいたかった!

 

すると、レイナは指をもじもじさせながら言ってきた。

 

「その………ああいうことは夜にしてくれたら………」

 

夜なら良いんだ!

既に一線越えてるんだし、今更かもしれない。

でも、改めてそういう風に言われるとこっちもその気になっちゃうよぉぉぉぉぉぉぉ!

 

………いや、待て。

落ち着くんだ、俺。

そうだ、深呼吸しよう。

今は試合真っ只中。

多くの人がこの試合を観戦しているんだ。

これ以上、シリアスを壊すわけにはいかない。

もう、シリアスブレイクはお腹一杯のはずなんだ。  

 

レイナとは夜にしよう………!

俺はちょっと夜を想像しながらも心を落ち着かせ、冷静に口を開いた。

 

「よし。レイナ、これからはシリアスに―――――」

 

 

むにゅん

 

 

「ひうっ………!」

 

振り返り様に俺の左手はレイナちゃんのおっぱいを揉んだ。

服の上からだと言うのに伝わる確かな柔らかさ。

 

え………ナニコレ、ヤダコレ。

今、俺、普通に振り返ったよね?

なんで、おっぱい揉んでるの?

 

「やっ、あんっ………い、イッセー………君、そこはぁ………っ」

 

なんで、レイナちゃん悶えてるの?

なんで、左手が勝手に動いてるのぉぉぉぉぉ!?

 

すると、イグニスがテンション高めに叫んだ。

 

『うふふ! ついに会得が近づいてきたわね!』

 

会得!?

おまえ、俺に何かしたのか!?

 

イグニスは無駄に誇るように言う。

 

『意識と肉体を切り離し、無意識に体を任せることによって、どんなスケベ現象も起こしてしまう。そう、これが―――――「ラッキースケベの極意」。略して「ラキスケの極意」!』

 

意味はわからないんですけどぉぉぉぉぉ!

知らない間に、そんな意味不明な極意を会得させられていたの!?

 

『これから経験値を積めば、スキルレベルも上がっていくわ』

 

そんなゲーム感覚で上がるものなの!?

 

ツッコミが止まらない間にも左手はレイナのおっぱいを揉み揉みしている!

 

「あぅ………イッセー君、もう………私………ダメになり、そう………はぅぅ」

 

ダメになる!?

こんなところでダメになっちゃダメだって!

夜にしよう、夜に!

 

俺は慌てて左手を離そうとした―――――その時。

 

 

「なにを………やっているのだ?」

 

 

茂みの奥から聞こえてきた声。

その瞬間、嫌な汗が大量に流れ始めた。

 

ヤバい………ヤヴァいよ、これ。

だって、今の声って間違いなく―――――。

 

振り向くとそこには、静かに雷光を滲ませたバラキエルさんが立っていた。

 

 

 

 

風が静かに草木を揺らす。

耳を澄ませば、遠くの方で戦いの音が聞こえてくる。

そうだ、皆も戦っているんだ。

俺も―――――

 

「帰って………良いかな………?」

 

「ダメでしょ!?」

 

ボソリと呟いた内容にレイナがツッコミを入れる。

 

分かってるんだよ、こんな理由で退散するのはダメだって。

でもね?

目の前にいるバラキエルさんが滅茶苦茶怖いんだ。

ただ静かに睨まれるってさ、激しく攻め立てられるより怖いんだぜ?

このゲームから早く脱して、バラキエルさんの目が届かないところまで逃げてしまいたくもなるよ。

 

バラキエルさんが言う。

 

「こ、このような場所で………女性の………む、胸を揉むなど………どうかと思うのだが。それから、レイナーレ。君ももう少し控えた方が………。いくら恋仲とはいえ、今はレーティングゲーム中。しかも、対戦チームなのだからな」

 

「「は、はい………すいませんでした」」

 

バラキエルさんに言われて、ガクリと頭を垂らす俺達。

ホント、何やってんだろ、俺達。

これは言われても仕方がない。

 

バラキエルさんはレイナに言う。

 

「彼のことは私が引き受ける。君は『オブジェクト』の捜索を続けてくれ」

 

「はい! それじゃあ、イッセー君。このゲーム勝たせてもらうからね!」

 

そう言うなり、レイナは茂みの向こうへと姿を消した。

ここはレイナを追いかけて、妨害したいところだが、そうはいかない。

バラキエルさんがこうして立ちはだかった以上、そこまでの余裕はないしな。

 

軽鎧に身を包み、腕には鈍い銀色のガントレットを装備している。

他に装備は見られないが………。

 

《おおっと! 羨ましい状況から一転して、『王』同士のバトルです!》

 

《これは楽しみですね。彼がね、うちの娘のフィアンセなんです、フィアンセ。ふふふ、赤い羽織が格好いいですね》

 

ジオティクスさん、何を解説してるの!?

といか、これは解説なのか!?

フィアンセ連発しちゃってるよ!

 

内心ツッコミを連発しつつも、俺は腰を落として構えをとった。

バラキエルさんも応じるように構える。

 

堕天使バラキエル。

ロキの時に共闘したが、その実力はとてつもないものだった。

流石はグリゴリの幹部にして、『雷光』の二つ名を持つ歴戦の戦士。

あれから随分と間が空いたが、今のバラキエルさんはあの時よりも力を付けているだろう。

 

バラキエルさんが言う。

 

「鎧は纏わないのかね?」

 

「ええ。使える時間が限られているので。ここぞと言うときに使わせてもらいますよ」

 

「そうか。ならば―――――いくぞ!」

 

言うなり、バラキエルさんは腕に稲光を発生させて、豪快に振るった!

放たれた雷光が凄まじいスピードで迫る!

 

横に飛んで避けるが、外れた雷光は地面に着弾し、破壊する!

地面に大穴が空いた!

こ、これは当たったらマジで死ぬかも………!

 

雷光の威力に旋律しながらも、俺は地面を強く蹴って、間合いを詰める。

 

『Boost!!』

 

同時に籠手を展開して、倍加もスタート。

錬環勁気功を発動、身体中の気を高速循環させて―――――

 

「らぁっ!」

 

気の乗った拳でバラキエルさんを殴り付ける………が、バラキエルさんは片手でそれを受け止めていた。

 

バラキエルさんは言う。

 

「重い一撃だ。君の拳を受けたのは初めてだが、禁手なしにここまでとは………。だが、この程度では私は倒せんぞ、兵藤一誠君。いや―――――義息子よ!」

 

受け止めた手から雷光が発せられる!

俺は瞬時に拳を引いて、それを回避するが………。

 

なんだか、今日は色々なプレッシャーを感じるんだけど。

『フィアンセ』とか『義息子』とかバトルとは別のプレッシャーを感じるんだけど!

これ、下手な試合をしたら「やっぱり娘はやらん!」みたいは展開になったりするのかな!?

 

バラキエルさんなら放たれる雷光と、それとは別のことにことに恐々としながらも俺はバラキエルさんとの肉弾戦に突入していく。

 

バラキエルさんの戦闘スタイルはかなりシンプルだ。

遠距離は雷光を放ち、近距離では雷光を纏い、己の肉体を駆使しての肉弾戦。

鍛え上げられた肉体から放たれる拳は、それだけで凄まじい破壊力を誇る。

やはり、厄介なのは雷光だろう。

悪魔にとって光とは猛毒だが、そもそもの出力が高過ぎため、弱点とか関係なしに触れたら消し炭にされる。

俺は雷光に触れないよう、バラキエルの攻撃を紙一重で避けながら反撃に出ていた。

 

木々の間を駆け巡りながら幾度とぶつかる俺達。

俺は拳や蹴りを主体に、時には気弾を交え、更には木々を利用して縦横無尽に飛び回り、バラキエルさんを攪乱しにかかる。

そんな中でバラキエルさんが訊いてきた。

 

「ところで、朱乃とは最近どうなのだ!」

 

「ふぁ!? なんですか、いきなり!?」

 

あまりに突然すぎる質問に変な声を出してしまった!

最近どうって訊かれても………俺はどう答えれば良いんだ!?

 

「あれからどこまで進んだのだ!? デートをしているところも見た! 未遂に終わったが、こ、子作りしようとしているところも見た! 先日の昼間から朱乃の、む、胸を揉んでいるところも見た! 学生の内から、そんな淫らなことをするのはどうかと思うが………ま、孫はどうなのだ!?」

 

「子作りを注意したいのか、促進させたいのかどっちなんですか!?」

 

「………ど、どっちもだ!」

 

「どっちも!? ハッキリしてくださいよ!」

 

「父親にそんなことを聞くんじゃない!」

 

「いや、バラキエルさんが訊いてきたんじゃん!」

 

えぇい、なんでこうなる!

というか、バラキエルさんに俺と朱乃が一線越えたこと伝わってなかったのね!

伝わってたら伝わってたで色々と気まずくなりそうだけども!

 

この時、俺は嫌な予感がした。

ここ最近、出番が少なかったあいつが、この話題で出てこない訳がない。

俺の思考がそこへ至った時にはもう遅かった。

 

『イッセーと朱乃ちゃんは○○○(バキューン)とか△△△(ドキューン)とか、挙げ句の果てには×××(チュドーン)するまで至っているわ。心配しなくても、近い将来、孫の顔は見られるわよ、バラキエル君♪』

 

周囲に聞こえる声で、イグニスがとんでもない発言をしやがった!

 

「お、おおおおおおまえ! 何言ってくれてんの!?」

 

嫌な汗を大量に流しながら叫ぶ俺にイグニスは特に詫びる様子もなく言ってきた。

 

『最近、出番少なかったじゃない? やっぱり、私ってこういう時こそ前に出てこないとって。それに皆もこの展開を期待していると思うの。キリッ』

 

「こういう時こそ黙っててくれる!? つーか、皆って誰よ!?」

 

「世界中にいるイグニス教徒。愛とエロの力を信じる人達よ………!』

 

「イグニス教徒、世界中にいねーし! 広めるな! 布教するな! 歴代の先輩達だけで十分じゃぁぁぁぁ!」

 

そもそもイグニス教ってなに!?

なにするところなの!?

今のところ、無駄にシリアスを壊すか、宴会しかしてませんけど!?

アセムの腹筋崩壊させただけですけど!?

 

突然わいてきた駄女神にツッコミの嵐を浴びせていると、バラキエルさんが震えた声を出した。

 

「そ、そんなふしだらなことになっていたのか………! まさか、◇◇◇(アハーン)とか☆☆☆(ウフーン)に加えて◎◎◎(イヤーン)までしていただなんて………!」

 

「いや、うちの駄女神もそこまでえげつないこと言ってないんですけど。俺達、そんなプレイしてないんですけど」

 

何言ってるの、この人。

俺と朱乃がどんなことになってると思ってるの。

 

バラキエルさんはワナワナと肩を震わせ、全身にかつてないオーラをたぎらせた。

バラキエルさんの上空に暗雲が立ち込め、雷が光る。

雷雲をバックにバラキエルさんは目に強すぎる炎を宿しながら言ってきた。

 

「………孫が見られそうなのは良いとしよう」

 

あ、いいんですね。

じゃあ、ここまで引っ張らなくても良かったんじゃ………。

 

「そうと決まれば、名前を考えなければならん!」

 

「早すぎるでしょ!?」

 

「私は男の子だろうと、女の子だろうとどちらでも構わん!」

 

「人の話聞いてます!?」

 

「いや………その前に色々と試さねばならないな!」

 

「試すってなにを!?」

 

ツッコミすら出来ない程にバラキエルさんは猛烈な攻撃を浴びせてくる!

一撃一撃がシャレにならない威力!

 

俺は錬環勁気功のギアを上げて、猛スピードで駆け抜ける。

雷光を避け、懐に潜り、気を乗せた拳で殴りかかった。

幾度も拳を交えながら、移動していると、不意にバラキエルさんが距離を取った。

そして―――――バラキエルさんから特大の雷光が飛ばされてきた!

俺は大きく上に飛んで回避すると同時に、籠手の能力で高めていた力を解放する!

 

『Explosion!!』

 

身に纏うオーラが爆発的に膨れ上がる。

右腕に気を集中させると、ジェット機のような甲高い音が鳴り響き、

 

「アグニッ!」

 

右腕から赤い光の奔流が放たれた―――――

 

 




~あとがきミニストーリー~

イグニス&アセム「「デュエル!」」

イッセー「なにか始まった!?」

アセム「僕のターン! ドロー!」

イッセー「えっ、なにこれ!? カードゲームしてる!? カードゲームしてるの!?」

アセム「『可哀想な騎士・木場(ツッコマナイト)』をボケ表示で召喚!」

木場「アハハ………ツッコミなんて、もう………」

イッセー「なんで召喚されてるの!? つーか、ボケ表示というより、壊れ表示じゃねーか! しっかりしろ、木場ぁぁぁぁぁぁ!」


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21話 父として

久し振りの連続投稿!


俺が放ったアグニはバラキエルさんを捉え、一帯を吹き飛ばした。

地面には巨大なクレーターが咲き、辺りに生えていた木々を消し飛ばし、薙ぎ倒してしまっている。

今の俺でもこれくらいの威力は出せるし、手応えはあった。

だが―――――。

 

「今のは危なかった」

 

土煙の中から姿を見せるバラキエルさん。

装備していた軽鎧は変形し、衣服はボロボロ。

バラキエル自身も体から血を流していた。

ダメージはそれなりに受けたらしいが、倒せる程じゃなかったようだ。

恐らく、アグニをくらう直前に雷光を放出してダメージを軽減したのだろう。

 

バラキエルさんは口に滲んだ血を拭った。

 

「流石だ。たとえ、全快でなくともここまでの戦いを見せてくれるとは」

 

「はっ、はっ………伊達にここまでやってきてませんよ」

 

肩を上下に動かして汗を拭う俺。

やばいな、今ので結構スタミナを持っていかれた。

ダメージは今のところ受けていないが、このままだと確実に捕まる。

やられるとは時間の問題だ。

一旦退くか、それとも―――――。

 

バラキエルさんが言う。

 

「この不利な状況下。退くか否かを考えているのだろう? 正しい判断だ」

 

バレてるな………。

 

今の俺とバラキエルさんの単純な力量差は大きい。

だが、逃げようと思えば逃げ切れないことはない。

攻撃しながらも撤退に徹し、身を潜める。

そうすれば、この場をやり過ごせるだろう。

バラキエルさんを撒いた後はアリス達と合流して、相手を迎え撃つ………そんな展開も頭にあったんだけどな。

それがバレてるとなると、そう簡単には逃がしてくれないだろう。

 

バラキエルさんが言う。

 

「このゲームはルール上、先に『王』を倒しても勝敗が決する。こうして君と遭遇した以上、逃がす手はないだろう。他のメンバーもこちらへはこれないようだが?」

 

「なるほど………。アリス達が立て続けにそちらと遭遇したのは俺を孤立させるためだったと」

 

どうりで遭遇戦が連続して生じたわけだ。

 

向こうのチームメンバーも歴戦の堕天使が勢揃いだ。

幹部に、それに近い実力を持った者もいる。

いくらアリス達でもそう簡単には倒させてくれないだろうな。

援護は見込めないか………。

となると、俺は何としてでもこの状況から一人で脱しないとな。

今の俺が真っ向からやって、この人に勝つのは至難の技だ。

 

作戦を頭の中で巡らせていると、バラキエルさんが言ってきた。

 

「この戦い、私は君を殺す気でやっている」

 

「そ、それは真っ昼間から朱乃とイチャイチャしてたからですか!?」

 

「いや、そうではない!」

 

「朱乃が俺を応援すると言ったからですか!?」

 

「………そ、それも違う!」

 

今、言葉を詰まらせたよ!?

ちょっとそれもあったよね!

やっぱり、相当ショックだったんだ!

 

バラキエルさんは一度、咳払いをすると真剣な表情を見せた。

 

「先程、私は君を試すと言った」

 

「ええ。一体、俺の何を試すと言うんです?」

 

俺の問いにバラキエルさんは一拍置いてから答えた。

 

「この先、君が朱乃を本当に守れるかどうかだ」

 

俺が朱乃を守りきれるか………だって?

絶対に幸せにしてみせると誓ったんだ、何がなんでも守りきる。

それはバラキエルさんにも宣言したことだ。

バラキエルさんはこのゲームを通して、その誓いに変わりがないのか見ようと言うのだろうか?

 

「君が朱乃を想う気持ちは本物だということは分かっている。朱乃も君のことを本気で好きなのだということもな。だから、私は君達の仲を認めた。だが………たまに不安になるのだ」

 

「不安?」

 

俺が聞き返すとバラキエルさんは頷く。

 

「私は妻と娘を守れなかった男だ。もっと私が早く駆けつけていれば………そんな、もうどうしようもないことを何度も考えてしまう。今度こそ………いや、もう二度と朱乃にあんな辛い思いはさせたくない」

 

「そのために俺を試す………と?」

 

「そうだ。今の君が酷く弱っているのは分かっている。それも世界を救った代償であることも。そんな君にこんなことを言ってしまうのは酷であり、卑怯だとも思う。だが、大切な存在を託す身としては確認しておきたいのだ。君はどんな時でも、どんな状態だろうと朱乃を守れるのだろうか? この先、君が家庭を持ち、親となるならば尚のこと確かめておきたい」

 

朱乃はバラキエルさんにとって、かけがえのない存在。

それを俺に託すと言うんだ。

絶対に、何がなんでも、何が起きても守りきって欲しいと願うのは当然のこと。

たとえ守るという強い意思があったとしても、それを実行できる力がなければ意味はない。

だから、俺が力を失い、不安定な今だからこそ、バラキエルさんは俺を試そうしているんだ。

 

俺はまっすぐ、バラキエルさんの目を見て答えた。

 

「分かりました。全力で今の俺を確かめてください。俺も全力で朱乃を守れる男であることを証明します」

 

「いい答えだ」

 

バラキエルさんはそう言うと、拳を握り、両腕に装着しているガントレットをぶつけた。

火花が散ったと思った瞬間―――――ガントレットから強い波動が放出され始めた!

 

「なんだ………!?」

 

あれは神器か何かか?

アザゼル先生はファーブニルと契約して、自分専用の人工神器を使っていた。

もしかして、バラキエルさんも専用の神器を?

だけど、この波動はドラゴンのものじゃ………。

 

驚く俺にバラキエルさんは言う。

 

「これは私専用の人工神器『蒼雷の籠手(ライトニング・アームド・ギア)』。複数の上位ドラゴンと契約して作られたものだ。まぁ、試作ゆえに出力はそこまで高くない上に不安定なものだが」

 

複数のドラゴンと契約して作った!?

それだけでヤバそうな臭いがプンプンするな!

 

そんなことを考えていると、バラキエルさんは静かに言葉を発した。

 

「―――――禁手化」

 

刹那、閃光が一帯を照らす!

眩しすぎて目が開けられないほどだ!

 

『………気を付けろ、相棒。バラキエルは本気だ』

 

ドライグがそう警告してくる。

 

分かってるよ。

だって、感じられるこの波動、このオーラ………これはヤバい!

 

閃光がおさまり視界が戻ってくる。

すると、白煙の中からバラキエルさんが姿を見せて―――――

 

「『蒼雷の(ライトニング・ウォーロード)武鎧(・アナザー・アーマー)』」

 

見た目はサイラオーグさんの禁手に近く、戦国武将のようにも見える。

周囲には蒼白いスパークが飛び交い続けていて、落ちてきた木の葉が触れた瞬間、消し炭へと変えた。

 

ドライグが言う。

 

『この波動は蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)のものか』

 

アーシアの使い魔、ラッセーと同じ種族のドラゴン!

そういや、タンニーンのおっさんの配下にもいたよ、でっかい蒼雷龍。

あのドラゴンと契約しているのか!

雷光のバラキエルさんに蒼い雷撃を司るドラゴン!

相性バッチリじゃないか!

 

『四、五………いや、もっとか。俺やアルビオンと比べると劣るだろうが、上位ドラゴンの力が複数合わさるとなるとかなり強力だ。堕天使幹部が複数の蒼雷龍の力を纏う。これは想像以上にキツくなるぞ』

 

ドライグの解説に嫌な汗が流れる。

 

断言は出来ないけど、バラキエルさんの性格からして、あまり複雑な能力ではないはずだ。

それに鎧を纏うタイプの神器はパワーを底上げしてごり押しするものが多いしな。

………ま、まぁ、単純なごり押しだけでも相当ヤバいけどね。

 

『だが、複数のドラゴンの力を使用しているということは、ある程度波長が合わなければ相応の力は発揮できないだろう。神器はそんなに簡単なものじゃない。向こうの力が乱れた時が狙い目だな』

 

なるほどね。

試作って話だし、そもそも不安定らしいからな。

こちらで上手く乱すか、それとも時が来るのを待つか。

でも、向こうもそれを分かっているはずだ。

恐らく、短期決戦を仕掛けてくると思う。

制限時間があるとして、俺はその制限時間を生き残ることができるか………?

 

バラキエルさんが拳を引いて、構えた。

 

「構えたまえ」

 

「………っ!」

 

短く発せられた言葉から凄まじいプレッシャーを感じる!

まるで、見えない壁が迫ってくるような圧迫感!

 

俺はすぐに構えを取って―――――

 

「遅いぞ」

 

一瞬でバラキエルさんに顔を捕まれた俺は成す術なく、そのまま吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

バキバキバキバキ………と何本も木をへし折りながら森を突き抜けていく俺。

 

「止まれ………ぇ!」

 

俺は籠手からアスカロンを抜き放ち、地面に突き刺した。

突き刺さったアスカロンを両手で握ることで、ようやく勢いが止んだ。

 

ふぅ、と息を吐く………が、休んでいる暇はない。

バラキエルさんが蒼白い稲妻を放出させながら、とてつもないスピードで突っ込んできているからな!

 

俺が動くよりも早く、バラキエルさんは距離を詰めてくる!

一瞬で間合いを殺された!

雷光の乗った拳が俺の鳩尾にめり込んでくる!

 

「ガッ………ァァァァァァァッ!」

 

吐血すると同時に絶叫する俺。

体に響く衝撃に、肉体を焼く雷撃!

悪魔の肉体を蝕む光の力! 

たった一発で何もかもが消えそうになる!

そんな俺目掛けて、更に拳が降り注ごうとしていて、

 

「させる………かよ!」

 

痺れる体に鞭打って、バラキエルさんの拳をアスカロンで受け止める。

だが、連続攻撃は防いだものの、受け止めた時の衝撃までは流しきれない。 

 

「ぬんっ!」

 

バラキエルさんが拳を振り抜くと、俺はそのまま吹き飛ばされる!

このままじゃ、受け止めては吹き飛ばされるの繰り返しになる。

俺は吹き飛ばされた勢いに身を預けながら、気弾を幾つか放った。

気弾は全てバラキエルさんに命中するが………全く効いていない。

体を包む雷光がこちらの攻撃を完全に打ち消しているんだ。

 

「咄嗟に放ったとは言え、牽制にもならないか………!」

 

こいつは、リーシャの魔法狙撃も当たったところでダメージを与えるのは難しそうだ。

何とか体勢を整えた俺は木々の間を縫うように走り出す。

真っ向からやり合うのはこれまで以上に分が悪すぎる。

ならば―――――。

 

俺はバラキエルさんの追撃から逃げながら、足を使って、小さな気弾を地面に配置していく。

置いていった気弾の数は十。

気弾は地面の中に埋め込まれているので、相手からは見えない。

バラキエルさんが気弾の上を通過した瞬間―――――地面が爆発する!

一つの気弾が弾けた瞬間、連鎖的に他の気弾も弾けていき、一帯を破壊する大爆発を引き起こした!

 

「機雷型の気弾。上手くダメージを与えられるか………?」

 

倒すまではいかないだろうが、多少のダメージは通っていてくれよ?

そう切に願いながら燃え盛る爆炎に視線を向ける。

すると、

 

「これだけかね?」

 

パンパンと埃を払いながら姿を見せるバラキエルさん。

あまりに平然とした様子に俺は苦笑する。

 

「いやいやいや………無傷ですか?」

 

「無傷だとも。君の攻撃は少しも私にダメージを与えてはいない」

 

ハッキリと言われて肩を落とした。

これ、アグニ撃っても、倒すまではいかないんじゃないか?

どうしたものか………。

 

バラキエルさんの対策を練っているところに、通信が入る。

 

『イッセー様! 美羽さんのところにアルマロス様が向かわれましたわ! 襲撃を受けています!』

 

マジか!

美羽は相手に気づかれないよう、隠れて『オブジェクト』の解析に当たっていたはずだ。

なんで、場所がバレた………?

 

そんな俺の疑問に答えるようにバラキエルさんが言った。

 

「アルマロスは対魔法、対魔術のスペシャリスト。広いとは言え、この限定されたフィールドだ。僅かな魔法反応を感じることさえ出来れば、見つけることなど容易い。更に―――――」

 

バラキエルさんが言葉を続けようとした時、実況が叫んだ。

 

『アルマロス選手、なんとアンチマジックフィールドを発動! 兵藤美羽選手の魔法が完全に封じられたぁぁぁぁぁ!』

 

美羽の魔法を封じただと!?

アンチマジックフィールドって、発動させるのにそんな短時間で発動できたか!?

 

バラキエルさんが言う。

 

「特定の相手のみに発動するアンチマジックフィールド。彼女の魔法力や彼女の特性を完全に解析することで、即時発動できるものだ。無論、対象の人物以外には効果を出さないが」

 

「美羽の特性の解析? こんな短時間で………いや、違うな。日常から美羽を観察していなければ、こんな芸当はできない。そんなことが出来るのは―――――」

 

レイナしかいない。

兵藤家に住み、生活を共にしているレイナなら、美羽の魔法力を観察することができる。

バラキエルさんは事前に美羽を封じる手立てを得ていたんだ。

 

バラキエルさんが言う。

 

「彼女を責めないでやってほしい。私がやらせたことなのだからな」

 

「最初から俺達の対策をしていたってことですか」

 

「ああ。この大会で君と当たることもあるだろうと考えていたからな」

 

そう言って、バラキエルさんは雷光を放ってくる。

俺は再び回避に徹しながら、反撃の隙を伺う。

 

なんてこった。

バラキエルさんはこの大会が始まった時から、俺と戦う時に備えて準備していたのか。

 

俺は飛んでくる雷光を避けながら、メンバーに通信を入れる。

 

「美羽、無事か?」

 

『かなり厳しい! 完全に魔法を封じられて………今は魔力で対応してるけど、このままじゃやられる!』

 

魔法は無理でも魔力は使えるのか。

そこだけは救いだ。

 

「いいか、無理に戦うな。魔法が使えるようになるまで逃げに徹しろ。………リーシャ! 美羽に一番近いのは?」

 

美羽は『オブジェクト』解析の要。

ここで撃破されたら、探索が難しくなる。

つまり、俺が討ち取られた場合は敗北が決定するが、この場を凌げたとしても、美羽が討ち取られたら、俺達の敗色が濃くなる。

このゲームに勝つには俺と美羽、二人が生き残る必要があるということだ。

 

リーシャからの返事が返ってくる。

 

『モーリスですね。私の魔法狙撃は全て弾かれました』

 

「リーシャの狙撃も?」

 

『ええ。ですが、発動自体は出来ていますし、アルマロスさんの着ている鎧に触れてから霧散していました。恐らく、装備にアンチマジックが施されているのでしょう』

 

アルマロスさんがアンチマジックの研究者なのは知っているが、異世界の魔法も封じてくるとは………。

流石に研究者気質の戦士が多いグリゴリの幹部だな!

 

「どっちにしてもリーシャの援護が出来ないのは痛手だな………。よし、とりあえず、モーリスのおっさんは美羽の援護に向かってくれ!」

 

俺の通信におっさんが言う。

 

『ふぁぁぁ………寝みぃ。へいへい、任されたぜ』

 

何とも緊張感のない返事ですね!

あくびしてたぞ、このおっさん!

俺がツッコミを入れようとした時、アナウンスが流れる。

 

『「雷光」チーム、「兵士」三名リタイア』

 

おおっ、うちのメンバーが倒したのか!

しかも三名も!

誰が倒したんだ?

 

『へっ、俺を足止めするには実力不足だな』

 

「いや、あんたが倒したんかいぃぃぃぃ!」

 

このおっさん、あくびしながら、しかも木刀で上級の堕天使三人倒しちゃったよ!

大丈夫かな、堕天使の人達!?

トラウマ刻まれたりしてないよね!?

 

アリスから通信が入る。

 

『それより、あんたはどうなのよ? かなり厳しい状況みたいだけど………。「王」がとられたら、負けなのよ?』

 

分かってる。

このゲームは『オブジェクト』を多く破壊するか、相手の『王』を討ち取れば勝敗が決する。

このままだと、俺が取られる可能性は高い。

『王』と『戦車』を入れ替える『キャスリング』を使いたいところだが、バラキエルさんの追撃がする暇を与えてくれない。

 

「一、二………いや、三か」

 

俺は周囲を見渡しながらそう呟いた。

なるほど、バラキエルさんの作戦が読めてきたぞ。

 

バラキエルさんから逃げるのも限界がある。

このゲームはこうなった以上、絶対に負けられない。

となると………しょうがない、か。

 

「皆、すまん。アレを使う。今から言うことを聞いてくれ」

 

そう言うと俺は懐から赤く輝くそれを取り出した。

 

 




~あとがきミニストーリー~ 


イグニス「私のターン! ドロー!」

イッセー「前回から続くのか!? えぇい、木場の次は誰が犠牲になるんだ!」

イグニス「『可哀想な英雄・劉備(ネームミスヒーロー)』をツッコミ表示で召喚!」

曹操「いや、曹操ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

イッセー「おまえかいぃぃぃぃぃ!」


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22話 穿て! 究極の力!

ついにイッセーVSバラキエル決着!


[木場 side]

 

 

イッセー君とバラキエルさんのゲームが行われている試合会場―――――アザゼルスタジアムに設けられた関係者用の観戦ルームで試合の行方を見守っていた。

 

「押されているわね。イッセー達も歴戦の戦士が揃うチームだけど、それはバラキエルのチームも同じ。今回はバラキエル達の方が相性も含めて、上手く試合を有利に運んでいるわ」

 

モニターを凝視するリアス姉さんは難しい表情を浮かべていた。

 

バラキエルさんが自分専用の人工神器を作っていたことにも驚いたが、何よりも衝撃だったのは『雷光』チームの『女王』枠であるアルマロスさんだろう。

彼は美羽さんが『オブジェクト』の解析に当たった直後、真っ直ぐ、美羽さんのいる位置を目指して進んだ。

そして、美羽さんと対峙した瞬間に懐からある物を出した。

それは黒い箱のようなものだった。

アルマロスさんはその箱を美羽さんの目の前で破壊して………。

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「最初から………イッセー君達との試合が決まった時点で、美羽さんの魔法を封じる作戦だったのでしょう。どのようなルールにしろ、美羽さんの魔法を封じるだけで、戦力の大幅ダウンになりますからね」

 

ゼノヴィアが言う。

 

「しかも、今回はゲームの仕様上、美羽を封じられるのはかなりの痛手だ。イッセー達にとっては最悪のタイミングだ」

 

両チームの『オブジェクト』の探索はバラキエルさん達がリードしている。

映像で見る限りは恐らく、解析も既に済んでいるようだ。

対して、イッセー君達の解析はまだ済んでいない。

ここで美羽さんを取られれば、破壊した『オブジェクト』の数の競い合いにはほぼ確実に敗北するだろう。

 

イリナが言う。

 

「だからこそ、モーリスさんを向かわせたのよね?」

 

「そうだな。美羽が何とか持ちこたえさえすれば、そちらは大丈夫だろう。だが………」

 

ゼノヴィアの視線はバラキエルさんと戦闘中のイッセー君に向けられる。

人工神器の禁手である鎧を纏うバラキエルの攻撃をなんとか回避しようとするイッセー君。

だけど、イッセー君は既にボロボロだった。

頬や腕には血が伝い、体の表面には火傷の痕も見られる。

衣服は切り裂かれたかのように破けていた。

誰がどう見てもイッセー君は追い詰められている。

それでも、イッセー君が討ち取られていないのは、磨かれた戦闘技術、これまでの経験によるものだろう。

 

「………」

 

二人の戦いを悲痛な表情で見つめる朱乃さん。

愛する人がこうして自分の父親と戦っている。

ゲームとはいえ、ボロボロになりながらだ。

 

バラキエルさんが戦う前に言った言葉は僕達も映像を通して聞こえていた。

バラキエルさんはイッセー君が本当に朱乃さんを守ることが出来るのかを、このゲームを通して確認しようとしている。 

どんな手を使ってでも。

 

「朱乃………」

 

リアス姉さんが口を開こうとしたその時、部屋に一つの気配が現れた。

皆で振り向くと、そこにはアザゼル先生がいた。

 

僕達と目があったアザゼル先生は唇を尖らせる。

 

「なんだ、こっそり入ってきたつもりだったのに気付いたのかよ。前はイッセー以外、気付かなかったのによ」

 

そういえば、そんなこともありましたね。

あれは去年の夏、リアス姉さんが里帰りの予定を話していた時だったかな?

 

僕はアザゼル先生に問う。

 

「先生、運営の方は良いんですか?」

 

「今日はオフなんだよ」

 

ロスヴァイセさんがジト目でアザゼル先生を見る。

 

「とか言いつつ、抜けてきたんじゃないですか?」

 

「相変わらずそっち方面、信用ねーな。つーか、俺がいなきゃ、大会が回らないわけでもないんだ。多少、抜けたところで問題ない」

 

「「「この人、どっかでサボろうとしてる!」」」

 

この場にいたメンバーの心は重なったようだ。

 

あまり歓迎されないまま入室したアザゼル先生はモニターに目を移すと、やれやれと息を吐いた。

 

「ったく………バラキエルのやつも心配性だねぇ」

 

「アザゼル先生はこのことを知っていたんですか?」

 

僕が問うとアザゼル先生は苦笑しながら答えた。

 

「まぁな。この大会が始まってからすぐだったよ。自分専用の人工神器を作ってくれなんて頼んできやがった。イッセーと当たった時のためにあいつは準備していたのさ」

 

そう言うとアザゼル先生は朱乃さんに話しかけた。

 

「バラキエルがここまでしたのは朱乃、おまえのためだ」

 

「それは分かっています。でも………」

 

じっとモニターを見続ける朱乃さん。

 

モニターに映るイッセー君は両手に気を集中させて、連続で気弾を放っていた。

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

一発一発が重い一撃なのはモニター越しでも伝わってくる。

しかし、そんなイッセー君の攻撃をバラキエルさんは悉く撃ち落として、イッセー君に迫る。

閃光のごときスピードで距離を詰めたバラキエルさんはイッセー君の腕を掴むと、持ち上げ―――――力のまま地面に叩きつけた!

 

『ガッ!』

 

苦悶の声を漏らすイッセー君。

そこへバラキエルさんの蹴りが、イッセー君のボディーへと撃ち込まれる!

宙に浮かび上がったイッセー君に対し、更に雷光を纏った拳と蹴りを叩き込まれていく!

バラキエルさんの攻撃は目を背けたくなるほど、苛烈だった………。

 

朱乃さんが声を震わせて言う。

 

「父様は………ここまでイッセー君を痛め付ける必要があるのですか? 今のイッセー君は以前のように戦えないのに………それを知っているのに、こんな………!」

 

朱乃さんの言うことは最もだ。

ここまでするなら、もうバラキエルさんの最大の一撃で、トドメをさした方がイッセー君も楽になるだろう。

実際、それが可能な力の差があるのだから。

でも、目の前で行われているのはバラキエルさんのラッシュがイッセー君を滅多打ちにしている光景で………。

 

アザゼル先生が言う。

 

「あいつはな、朱乃。本当におまえが大切なんだ。そして、ああは言ったが、イッセーならおまえを守れると確信もしている」

 

「だったら、なんで………!」

 

「だからこそだよ」

 

朱乃さんの言葉を遮るようにアザゼル先生は言葉を続けた。

 

「今のイッセーの状態は既に世界中が知るところだ。各神話勢力の神から英霊、その他の戦士達までな。もし、仮にだ。今後、おまえ達に害意、敵意を向ける者が現れたとする。イッセーはチーム『D×D』の中核的存在。それが容易く討ち取れるとなれば………」

 

「私達にちょっかいを出してくる者が増えると?」

 

リアス姉さんの問いにアザゼル先生は頷く。

 

「先のアセムとの戦いで、イッセーはあれだけの力を示した。それは希望であり、あいつを危険視する者からすれば、脅威だ。討つなら今と考える奴も出るかもしれん。だが―――――」

 

アザゼル先生はイッセー君の戦いを見つめる。

 

バラキエルさんの猛攻から脱出したイッセー君はアスカロンを抜き放って応戦する。

籠手の力で身体能力を高めて、バラキエルさんと激しい戦いを繰り広げていく。

恐らく現状で高められる目一杯まで上げているはずだ。

そんなイッセー君の攻撃を神器を纏ったバラキエルさんには通じていない。

 

そんな中でもアザゼル先生はどこか確信を持った声で言った。

 

「今の弱ったイッセーでも力を―――――神すらと屠れる力や手段を持っているとすればどうだ? そいつらは認識を改めざるを得なくなる」

 

アザゼル先生は続ける。

 

「バラキエルはこのゲームを通して、世界に示そうとしてるのさ。たとえ、弱体化していたとしても兵藤一誠は健在であり、おいそれとちょっかいを出して良い相手ではないとな」

 

激しい撃ち合いの末、後ろに吹き飛ばされるイッセー君。

彼は空中で姿勢を整え、地面に着地を決める。

 

すると、小猫ちゃんが僕の隣で呟いた。

 

「イッセー先輩が………笑ってます」

 

「え?」

 

そう言われて見ると、イッセー君は不敵な笑みを見せていた。

息はあがり、もうフラフラだと言うのに、闘志は消えていないというのか。

 

バラキエルさんがイッセー君に問う。

 

『なにがおかしいのかね?』

 

『結構やれるもんだなって。今のバラキエルさんを相手にここまで良く保ったと』

 

『まるで諦めたような口調だが………その目は諦めてなどいないな。むしろ、私を倒そうとあの手この手を考えている目だ』

 

『ええ。誰が諦めてやるもんですか。言ったはずです。全力で証明してやるって』

 

『ならば………証明してもらおうか!』

 

バラキエルさんの腕にすさまじい力が宿る!

映像越しに見ていても身震いするような、凶悪な光の力!

あれだけの雷光を受けてしまえば、イッセー君は………!

バラキエルさんが腕を横凪ぎに払い、これまでにない規模の雷光を放つ!

 

雷光がイッセー君に迫った―――――次の瞬間。

 

『この時を待ってたんだ!』

 

イッセー君がアスカロンで雷光を受け止めた! 

雄叫びを上げながら、彼は両足で強く踏ん張っている!

 

『ぐぎぎぎぎぎ………! ドライグ、頼むッ!』

 

『任せろ!』

 

周囲に聞こえる声で応じるドライグ。

すると、イッセーが赤いオーラを纏い―――――鎧姿となった!

 

リアス姉さんとギャスパー君が立ち上がる。

 

「禁手! ここで使うのね!」

 

「しかも、いきなり天武(ゼノン)ですぅ!」

 

そう、彼はこの局面でたった一分しか使えない禁手の第二階層を使用したのだ!

籠手からけたたましく、倍加の音声が鳴り響く!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

『回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れ回れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

自分に言い聞かせるように叫ぶイッセー君。

すると、彼は右足を軸にして、体を回し始め―――――受け止めた雷光をアスカロンで巻き取った!

 

『Transfer!!!!』

 

高めた力がアスカロンに巻き取られた雷光に譲渡された瞬間、

 

 

ドンッ! バチチチチチチチチチチチチッッ!

 

 

力が膨れ上がった衝撃で、フィールドが激しく震え、飛び散るスパークが二人の周囲にある木々の全てを焼き付くしていく!

イッセー君はアスカロンを両手で握って、

 

『ブースト・カウンタァァァァァァァァ!』

 

赤龍帝の力が譲渡された状態で、雷光をバラキエルさん目掛けて放った!

これにはバラキエルさんも予想外だったのか、目を見開き、慌てて回避行動をとった。

バラキエルさんに当たることはなかったが、イッセー君が放った雷光は辺り一帯を滅茶苦茶に………それこそ、神々が放つ攻撃のごとく、地形を塗り替えてしまっていた。

 

誰が想像しただろうか。

今の彼がこれほどまでの攻撃を仕掛けるなど。

いや、誰もいない。

あまりの威力に観客席や実況すらも唖然としていると―――――イッセー君とバラキエルさんのいるエリアが結界で囲まれた。

 

《赤龍帝チーム、「オブジェクト」の破壊を三つ確認。3ポイント獲得です》

 

《雷光チーム、『兵士』一名、『騎士』二名、リタイア》

 

なっ………!?

雷光チームが三名もリタイアした!?

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「リタイアした『雷光』チームのメンバーはイッセー君を囲むように動いていました。そして、今のイッセー君のカウンター攻撃は周囲を広く巻き込む形で放たれていました。イッセー君はこれを狙っていた………?」

 

「だとしても、『オブジェクト』を持っているか分かるなんて………。しかも、こんな荒業で『投獄(インプリズメント)』を狙うなんて可能なの………!?」

 

リアス姉さんが言う『投獄』とは相手チームの『王』を誘導し、『オブジェクト』の破壊エリアによる進入不可能エリア発生を利用して封じるという、『オブジェクト・ブレイク』で使用される戦術だ。

 

そして、今『オブジェクト』が破壊されたのは『a4』『a6』『b5』。

つまり、イッセー君とバラキエルさんは『a5』に取り残される形で行動を制限されたことになる!

 

バラキエルさんが問う。

 

『君は最初からこれを狙っていたのか?』

 

肩を上下させながらイッセー君が答える。

 

『最初からじゃないですけどね。俺の回りをそちらのメンバーが囲むように動いていたんで、バラキエルさんの作戦を察したんですよ』

 

元々、バラキエルさんが『投獄』を仕掛けるつもりだったのか。

それをイッセー君は利用したと。

バラキエルさんに追い詰められながらも、周囲の動向を逃さないとは流石はイッセー君。

 

『そうか、君は相手の気を読むことができたな。なるほど、私と戦いながらそこまで探れるとは思わなかったよ』

 

『生憎、乱戦は慣れてるんで。だけど、俺の作戦はまだ仕上がってませんよ?』

 

『なに?』

 

イッセー君の言葉にバラキエルさんが片眉を上げた。

すると、更にアナウンスが流れて―――――

 

《雷光チーム、『戦車』二名リタイア》

 

バラキエルさんのチームメンバー、『戦車』二人が撃破されたことを知らせるアナウンスだった。

 

イッセー君が笑みを見せる。

 

『これでバラキエルさんはこのエリアから逃げ出せない』

 

そうか、イッセー君はバラキエルさんの脱出手段―――――『キャスリング』を封じたのか!

時折、他のメンバーに指示を出していたが、その内の一つが『戦車』の優先撃破!

 

撃破したのはアリスさんとワルキュリアさんだ。

アリスさんは真っ向から倒していたけれど、ワルキュリアさんの方はというと、

 

「罠を張っている場所に誘導してからの撃破。しかも、罠も魔法や魔力の類いではなく、ただのワイヤートラップ。魔法、魔力の戦いに慣れてしまった奴じゃ、不意打ちみたいなもんだな」

 

そう、ワルキュリアさんは敵を罠のある場所まで誘い込んでから撃破していた。

自分を追いかけてきた相手を、木々の間に張り巡らされた極細のワイヤーで絡めとる。

ワイヤーには麻痺毒が塗ってあったようで、捕まった堕天使は完全に動けなくされていた。

ワルキュリアさんはそこを………。

彼女の戦いを見ていて、魔法や魔力よりもあの手の攻撃が一番恐ろしいのではないかと思ってしまったよ。

 

「ワルキュリアさんって戦い方が恐いよね」

 

顔をひきつらせるイリナの一言に頷く僕達だった。

 

次々に手を打っていくイッセー君に、バラキエルさんも苦笑を浮かべた。

 

『やられたな。これで私はこのエリアから抜け出せなくなった。だが、どうする? 君もまたこのエリアに閉じ込められたぞ』  

 

バラキエルさんの言う通りだ。

イッセー君の『戦車』モーリスさんは健在だが、バラキエルさんが『キャスリング』をする時間を与えるとは思えない。

禁手の使用時間は残り僅か。

その中でバラキエルさんを倒すのは難しいはずだ。

『キャスリング』が出来なければ、撃破される可能性が高いのはイッセー君となる。

 

しかし、イッセー君は首を横に振った。

 

『いいえ。勝つのは俺です。仲間が色々お膳立てしてくれましたから』

 

『それは………?』

 

バラキエルさんの視線がイッセー君の左手に向けられる。

イッセー君の左手には赤い………クリスタルが握られていた。

大きさはピンポン玉ほどだろうか。

 

イッセー君が答える。

 

『こいつは俺の血を使って、リーシャと美羽、イグニスが作ってくれた魔術結晶ってやつで………まぁ、触媒みたいなものです』

 

イッセー君が赤いクリスタル―――――魔術結晶をバラキエルさんに向けると、強く握りしめた。

そして、呪文を口にする―――――。

 

『我が身に宿る紅蓮よ。我が剣に宿る真焱よ。真理を読み解き、今、顕現せよ。敵を穿ち、万象の一切を灰塵と化せ』

 

イッセー君が詠唱を始めると正面に何十、何百もの魔法陣が展開していく。

なんて数の魔法陣だ。

しかも、描かれた魔法陣の全てに僕が知っているものはない。

 

ロスヴァイセさんが驚愕の声をあげる。

 

「イッセー君が魔法を!? しかも、なんですか、あの魔法陣は!? あんな複雑で訳の分からない魔法を使えるようになってただなんて!」

 

イッセー君は魔力や魔法を扱うのは苦手としていたはずだ。

使えるのは転移や通信といったもので、ロスヴァイセさんでも分からないような魔法を使えるようになったとは思えない。

ということは………、

 

「あの魔術結晶とやらが、それを可能にしたってことだろう。しかも、イッセーの血で作ったのなら、あれは完全にイッセー専用の魔法なんだろうよ。つーか、あの女神の名前が製作者の一人にあがっていたよな? その時点でヤバい代物だろ」

 

アザゼル先生が顎に手をやりながら興味深そうに魔術結晶に目を向けていた。

 

『さぁ、魅せよう。我らが輝きを―――――』

 

イッセー君が呪文を唱え終わると、体を赤いオーラが包み込む。

その外側を錬環勁気功の奥義を使った時に現れる黄金の気が覆った。

更にはジェット機のような甲高い音………アグニを撃つときに発せられる音が鳴り響いた。

もう、あれを止めることは不可能だろう。

バラキエルさんもそれを既に察しているのか、動揺する素振りは見せていなかった。

 

イッセー君が語り出す。

それは自分の過去を振り返るようだった。

 

『俺は足りないものだらけでした。力もない、知恵もない、才能もないのないない尽くし。でも、だからこそ、足りないものの補い方を知っている。失わないように、絶対に守れるようにするには自分がどうすれば良いのか。今の俺にはそれが出来る力もある。そして、支えてくれる仲間がいる』

 

イッセー君はバラキエルさんの目を見て言う。

 

『バラキエルさん、改めて誓います。俺は何がなんでも、どんな時、どんな状態だろうと朱乃を、家族を守りきってみせます。絶対に幸せにしてみせます。俺は―――――朱乃が大好きです』

 

真っ直ぐ宣言するイッセー君。

 

展開された魔法陣が更に強い輝きを放ち始め、フィールドを照らしていく。

それは神々しく、見る者を畏怖させる光。

赤と黄金が入り交じった、燃え盛る炎のようなオーラが高まっていく―――――。

 

『こいつはこの触媒に刻まれた女神の魔法、錬環勁気功、そして赤龍帝の力が合わさって放てる究極魔法――――』

 

そして、イッセー君はその魔法の名前を叫んだ。

 

『―――――イクス・バースト・レイッッッッ!!!!!』

 

イッセー君が放った超極大の魔法は前方にあるもの全てを無に返しながら突き進んでいく。

逃げ場を失ったバラキエルさんは成す術もなく呑み込まれていった。

しかし、その表情はとても穏やかなものだった。

 

 

 

《雷光チーム、『王』リタイアを確認。「異世界帰りの赤龍帝」チームの勝利です!》

 

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

兵藤一誠が行使した魔法は大会に関わる者達を震撼させた。

大会開催時には彼は弱体化したと、先の戦いにより神を超える力は失ったと言っていた者達もその認識を改めざるを得なくなった。

 

 

 

なぜなら―――――

 

 

 

兵藤一誠が放った魔法はフィールドの半分近くを破壊し尽くしたのだから。

 

 

[三人称 side out]

 

 

 




~あとがきミニストーリー~

アセム「流石は原初の女神。良いカードを引いてくる。だけどね、僕も負けてられないのさ! いくよ、僕のターン! ドロー!」

イッセー「もういいよ! 長いよ! なんで三回連続同じ流れ!? もう飽きてるから! 皆、飽きてるから!」

アセム「『可哀想な騎士・木場(ツッコマナイト)』を生け贄にして」

イッセー「あぁぁぁぁ! 木場がなにもしないまま消されたぁぁぁぁ!」

アセム「『ケツ龍皇シリビオン』を特殊召喚!」

アルビオン「………」

ヴァーリ「………なにをしているんだ、アルビオン」

アルビオン「ヴァーリ………助けてくれ」

ヴァーリ「………」

イッセー「いや、黙るなよ! 助けてあげようよ!」

イグニス「やるわね。じゃあ、私は『乳龍帝オパイグ』を召喚してあげるわ!」

ドライグ「………グスッ」

イッセー「ドライグゥゥゥゥゥゥ!」





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23話 強くなる可能性

最近は中々良いペース(^ー^)


[木場 side]

 

試合終了後、観戦ルームを出た僕達一行はイッセー君が治療を受けている医療室に向かっていた。

アザゼル先生によると、試合に勝利した後、体調を崩してしまったようだ。

 

小猫ちゃんが言う。

 

「最後の大技、錬環勁気功を最大限まで使って撃っていたので、その反動が来ているのかもしれません」

 

錬環勁気功の奥義は自身の限界を超えて、周囲の気を取り込むせいか、使用後は体が痛みで動けなくなるらしい。

以前、京都で英雄派と戦ったときにも辛そうにしていたしね。

 

ちなみにアザゼル先生はバラキエルさんの方に向かった。

倒された雷光チームのメンバーもイッセー君とは別の医療室で治療を受けており、そちらの見舞いに行っている。

 

………どちらに行くか聞かれた朱乃さんは迷わずイッセー君と言っていたけど。

バラキエルさん、多分ショックを受けると思うので、後で行ってあげてくださいね?

 

そうこうしている内に目的の場所に到着。

リアス姉さんがノックをしようとすると、中から声が聞こえてきた。

それは美羽さんのもので、

 

『うぅぅ………ごめんね。ボクが足を引張ったからこんな………』

 

『いやいや、気にすることないって。あれは俺のミスでもあるし』

 

『でも、ボクがもっとしっかり対応できていれば………お兄ちゃんがこんな姿になることなんてなかった!』

 

その言葉に僕達は嫌な予感がした。

さっきの戦いでそこまで深いダメージを受けたと言うのか!?

只でさえイッセー君のコンディションは万全には程遠いのに、そんな………!

 

リアス姉さんや朱乃さん、他の皆も顔面蒼白になっており、完全に血の気が引いてしまっていた。

いてもたってもいられなかったのか、リアス姉さんはノックをすることも忘れ、部屋の扉を勢いよく開く。

 

「イッセー! 体に何か影響が―――――っ!?」

 

ベッドの上にいるイッセー君を視界に捉えた瞬間、リアス姉さんは言葉を詰まらせる。

なぜなら、

 

「ごめんね、お兄ちゃん………。うぅぅぅ………でも、やっぱり、ちっちゃいお兄ちゃんは可愛いなぁ………グスッ」

 

「ね、ねぇ、美羽ちゃん。私もそれしたいんだけど………」

 

「うふふ、イッセーは小さくなるとこんなにも可愛くなってしまうのですね」

 

「い、イッセー様! 私にもその………抱っこさせてください!」

 

ベッドの上で美羽さん達に抱き締められ、まるでぬいぐるみのように扱われるイッセー君。

そう、イッセー君は―――――また小さくなってしまっていた。

今度は小学生くらいに。

 

「「「「あぁぁぁぁぁぁぁ! ズルいズルいズルいズルい!」」」」

 

ダッシュで駆け寄るリアス姉さん達だが………とりあえず、僕の心配を返してほしい。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

「なんでぇ、モテモテじゃねーか。良かったな、イッセー」

 

どっかりと椅子に腰掛け、バナナを食べながらそう言ってくるモーリスのおっさん。

 

モテモテ?

モテモテだと?

この状況が?

確かに女の子達の間で取り合いになっている状況ってのは、モテモテと言われてもおかしくはない。

でもさ、今のこれは明らかにそれと違っていて………。

 

「やーん、イッセー可愛いわ!」

 

「リアス、私にもイッセー君を貸してほしいですわ。あぁ、イッセー君ったら、こんな………うふふ」

 

「イッセーさん、欲しいものがあれば、なんでも言ってください!」

 

リアスの手から、朱乃の手へ。

朱乃の手から、アーシアの手へと渡される俺。

 

………うん、なんか久し振りだわ、これ。

このぬいぐるみとか、ペット的な扱いされるの。

これは俺が思うモテモテじゃない。

これはペットショップで、可愛い子犬を発見した時の反応だよ。

 

「グスッ………ごめんね、お兄ちゃん。あぁ、でも………可愛いなぁ」

 

美羽に至っては涙を浮かべながらも、小学校低学年くらいになった俺の頭を撫で撫でしてくるほどだ。

 

「謝るのか可愛がるのかどっちかにしようか、美羽。いや、別に謝る必要もないんだけども」

 

美羽が追い詰められたのは、そこまで思考が至らなかった俺のミスだ。

アルマロスさんが美羽対策をしてくるとは思っていたが、完全に封殺してくるとは予想外だった。

 

モーリスのおっさんが言う。

 

「俺が間に合ってたから何とかなったしな。それに、その後すぐにイッセーがバラキエルを倒したんだ。結果オーライってことで、そこまで気にしなくても良いんじゃね? まぁ、実戦だったら、ヤバかったがな?」

 

「うっ………ごめんなさい」

 

最後の言葉にズーンと沈む美羽。

モーリスの言うことはある意味正しくて、これが実際の戦闘だったら、やられていたかもしれない。

まぁ、その時はその時で、俺が美羽のところに駆けつけていただろうけども。

 

リーシャも顎に手を当てて、考え込むように言う。

 

「私もあそこまで対策されているとは思いませんでした。術式を読まれないように、速攻で勝負を決めてきたと言うのに………。こちらの世界の研究者も侮れませんね」

 

リーシャがこれまでの試合でスピード勝負をしていたのは理由がある。

それは魔法狙撃の術式を読まれないようにするため。

術式が分かれば、今回のようにアンチマジックで防がれる。

そうなっては狙撃の意味がない。

まぁ、リーシャの魔法狙撃を解析するなんて、アルマロスさんクラスの研究者でないと難しいんだけども。

 

リーシャが言う。

 

「やはり、アレの製作は必須ですね。これから先のゲームでは神クラスとの対戦も考えられますし」

 

「そうだな。ルフェイには頼んであるよ。あとはヴァーリの了承のみだ」

 

リーシャが神クラス対策として作ろうとしているものはルフェイの協力なしでは作れない。

ルフェイの力を借りるなら、チームリーダーであるヴァーリの許可が必要だけど………あいつのことだから即了承してくれるだろう。

 

今度はアリスが言ってきた。

………俺を膝の上に乗せたままで。

 

「というか、あんたもヤバかったんだからね? あの技、本選まで取っておくんじゃなかったの?」

 

「うっ………すいません」

 

美羽と同じくズーンと沈む俺。

 

今回、俺が使った魔法『イクス・バースト・レイ』はイグニスの協力もあり、とてつもない威力を誇る魔法となっている。

その威力は折り紙つき、神クラスもビビるような威力。

 

木場がテレビを見ながら言う。

テレビでは先程のゲームのダイジェストが流されていた。

今はちょうど、俺が魔法を使ったシーンをやっていて、

 

「イッセー君が魔法を使ったことにも驚いたけど………射線上のものが跡形もなく消え去るなんてね。フィールドも一部、破壊されているし」

 

イクス・バースト・レイはフィールドの強度を超えていたようで、破壊され、崩れた向こうには次元の狭間が見えた。

うん、我ながらえげつない破壊力!

 

だが、高過ぎる威力ではあるが、いくつかデメリットはある。

まず、この技は錬環勁気功を限界まで使うので、使用後は身体中に痛みが走る。

これは錬環勁気功で痛みを和らげることはできるが、根本的な治療にはならないので、時間の経過を待つか、気を扱う技―――――例えば仙術で、外部から乱れた気を整えてもらう必要がある。

 

次に消費する気の量が尋常ではないこと。

使用後は体内の気が著しく減少するため、今みたいに体が縮んでしまう。

こちらは時間の経過による自然回復を待つしかない。

まぁ、これくらいなら、一日寝れば回復するけど。

 

この魔法の欠点はまだある。

それは発動するのに魔術結晶が必須であること。

魔術結晶は俺の血を原料にリーシャと美羽が製作し、イグニスが俺専用に作ってくれた魔法を刻み込んでいる。

だが、これは魔法発動ごとに壊れてしまうので、完全に使い捨てになる。

ちなみに、この魔法は俺以外には使えないものになっている。

 

以上の欠点から、イクス・バースト・レイは撃てて一日に一発。

しかも、使った後は身動きが取れなくなるので、本当にここぞと言う時にしか使えない。

外せば終わりだ。

と言っても、かなりの広範囲に撃てるから避けられる可能性も低いが。

ただ、念のため、ある程度、状況を揃えてから撃つのがベストだ。

 

今回のゲームでは、バラキエルさんを狭いエリアに封じたこと、『キャスリング』による退路を絶ったことで、確実に当てられる状況に持っていけたので、発動させた。

 

まぁ、こんな感じで欠点が多いからギリギリまで………出来れば、本選まで使いたくなかったんだよね。

チームともその方向で話を進めていたし。

 

アリスが俺の頬をムニムニしながら言う。

 

「隠し玉がバレた以上、また別の手を作っとかないとね。あの魔法の欠点だって、どうせすぐに広がるだろうし」

 

ふぉうらな(そうだな)いひよー(一応)かんふぁえへるよ(考えてるよ)ちゅーか(つーか)いふまれやっへんらよ(いつまでやってんだよ)?」

 

「もう暫く。これ、癖になる。イッセーのほっぺ、気持ちいい」

 

完全におもちゃじゃん!

ゼノヴィアとイリナもさっきから腹の辺りをペタペタ触ってくるし!

『王』っぽいこと言っても全然締まらねぇ!

 

すると、サラが髪を鋤くように俺の頭を撫でた。

 

「にぃに、可愛い………」

 

「うん。もうちょっとガッツリ撫でて良いよ」

 

「美羽、勝手に許可を出さないでくれ」

 

俺がそう言うと、サラは目元を潤ませながら

 

「ダメ………?」

 

「全然良いよ!? もっと、気が済むまで撫で撫でしてくれぃ!」

 

そんな目で見られたら断れるわけないじゃん!

にぃに、黙って撫でられるしかないじゃん!

ズルいぞ、サラ!

きゃわいいんだから!

 

ロセが俺とリーシャに訊いてくる。

 

「ライバルチームの私が聞くのもどうかと思いますが、まだ強化プランがあるのですか?」

 

イリナも少し驚くように訊いてくる。

 

「このチーム、これ以上強くなるの!?」

 

二人の問いにリーシャは頷く。

 

「強くなる、というよりは手札を増やすと言った方が正しいですね。もちろん、私達の地力も上げるつもりではありますが。このチームで神クラスと真っ向から戦えるのは現状、モーリスだけですからね」

 

「まぁ、そうよね。イッセーはまともに禁手使えないし、私と美羽ちゃんは神姫化できないし」

 

アリスもうんうんと頷いていた。

 

レイヴェルも続く。

 

「チーム全体の強化のため、合宿も考えていますわ。実現にはもう少し時間が必要になりますけど」

 

そう、実はチームメンバーの強化のため、短期集中特訓も考えていたりする。

今はレイヴェルが修行に適した良い場所がないか探してくれている。

 

「某、主のため、全力で修行に励みまする!」

 

気合いを入れるミニドラゴン化したボーヴァ。

うんうん、頼もしい限りだ。

 

モーリスのおっさんが首を鳴らして言う。

 

「よーし、おじさんもまだまだパワーアップできるところを見せてやろうじゃねぇか」

 

「「「「あんたは今でも十分チート!」」」」

 

全員がツッコミを入れた時、ガララッと部屋の扉が開いた。

 

「イッセー。素晴らしい試合だったぞ。流石は私の認めた―――――」

 

「イッセー君、ゴメンね! バラキエル様の指示とはいえ、やっぱり―――――」

 

入ってきたのはティアとレイナだった。

ティアはアジュカさんの付き合いで、この大会の運営側にいる。

多分、この会場のどこかで試合を観ていたのだろう。

レイナはバラキエルさんのところに行っていたのかな?

 

そんな二人と小さくなり、リアス達に抱っこされている俺との視線が合った―――――。

 

「「ああっ!? ズルいズルいズルい!」」

 

………小さくならない手札を増やそう。

俺はぬいぐるみのように扱われながら、そう誓った。

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

リアス達と別れた俺はバラキエルがいる医療室を訪れていた。

部屋に入ると………包帯でグルグル巻きになったミイラ男がいた。

 

予想外の姿に思わず俺は吹き出した。

 

「ブハッ………酷くやられたな」

 

「ふんっ」

 

そっぽを向くミイラ男、もといバラキエル。

俺はそんなバラキエルを面白く思いながら、椅子に腰かけた。

 

「完全にオーバーキルだな。治療は受けたんだろう?」

 

「ああ。しかし、傷は塞がったものの、体力が回復するまでは絶体安静を言いつけられた」

 

「ほう」

 

不安定とはいえ、人工神器の禁手を使ったバラキエルにここまでダメージを与えるか。

 

この大会で使用されるゲームフィールドは神クラスの参戦に応じて、かなり強固な作りになっている。

壊せるのは上位の神クラスくらいかそれ以上だろう。

それをイッセーのやつは破壊しやがった。

禁手もまともに使えない状態で、だ。

 

「それでどうだった? 直接殴り合った感想は?」

 

俺の問いかけにしばし黙るバラキエル。

バラキエルは掌を見つめながら言った。

 

「………強かった。神器を使わなくても十分過ぎるほどに。あのまま、彼と殴り合えば勝っていただろう。だが、もう少し時が経てば、勝てなくなるだろうな」

 

「それはイッセーが神器を使わなくても、おまえを追い越すということか?」

 

「そうだ」

 

………っ!

おいおい、マジか。

 

バラキエルは頼もしそうに言う。

 

「彼はまだまだ強くなるぞ。たとえ、神器が使えずとも魔王や神にだって勝つほどに」

 

「冗談………じゃあないな。あいつなら、マジでその領域に達しそうだ」

 

考えてみれば、おかしな話じゃない。

あいつの使う錬環勁気功は異世界の神の世界で確立されたもの。

それだけで、神を倒せる可能性は十分に秘めているんだ。

 

それだけじゃない。

あいつの周りにいる奴らはあいつに魅せられて、より強くなろうとしている。

このまま行けば………ハハッ、想像しただけで笑みが零れちまう。

 

「いつか、俺達古い世代は必要ないと言われる日が来るのかねぇ」

 

「その時は縁側でのんびり茶でも飲めばいい」

 

「『神の雷光』と呼ばれた男の台詞じゃないな。だが………」

 

―――――そういうのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

「そういや、イッセーかおまえの見舞いに行くってなった時、朱乃は迷わずイッセーを選んだな」

 

「ぬぁぁぁぁぁぁ! 義息子めぇぇぇぇぇぇ! おっぱいドラゴンめぇぇぇぇぇぇ! 次は絶対に勝ぁぁぁぁぁぁぁぁつッッッ!」

 

この後、暴れたバラキエルはナースにこっぴどく絞られた。

そして、俺は―――――その光景をカメラにおさめた。

 

 

[アザゼル side out]

 

 




この章はもうちっと続くんじゃ


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24話 ギャップ萌えって良いよね

リターンズ第一章の最終話!

サブタイは適当だぜぃ!



ゲームを終えて帰宅後。

体力を使い果たした俺は飯をたらふく食べ、すぐに風呂に入った。

今はただ体を休めることに徹する。

奥義使ったせいで、全身バキバキだからな。

 

だけど………

 

「エヘヘ………やっぱり、良いなぁ」

 

「もう、美羽ばかりズルいわ。私だって小さくなったイッセーを膝の上に乗せて、頭を撫でたいの」

 

「そうだぞ、美羽。小さいイッセーを見ていると、無性に抱き締めたくなるんだ。これが母性というものだろう」

 

美羽を羨ましそうに、かつ代わるように急かすリアスとゼノヴィア。

 

はい、帰ってからも俺はこんな扱いです。

え?

そんなやり取りは飽きた?

そんなことを言われても仕方ないじゃないか。

だって、離してくれないんだもの。

 

女の子に抱きつかれたり、体を洗ってもらったり、あーんをしてもらったりするのは嬉しいさ。

でもね?

こういうことじゃないんだよ。

男として扱われるのと、子供として扱われるのは大きな違いがあるんだよ。

 

「早く大きくなりたいよぉ………」

 

と、そんなことを無意識に呟くと、

 

「「「もう少しこのままでいて!」」」

 

「なんで皆でハモってんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

早く大きくなりたいぃぃぃぃぃぃぃ!

 

 

 

 

そんな感じで帰宅してからも休む暇もなかった俺は、なんとかぬいぐるみ扱いから逃げ出して、部屋で一人ダウンしていた。

 

「あー………疲れた」

 

ドライグが言ってくる。

 

『ご苦労だな、相棒』

 

そりゃあね。

激戦の後も激戦過ぎて………。

 

続けてイグニスが言ってきた。

 

『ウフフ、ハーレム王になるのなら、これくらい片手であしらえるようにならないとね♪』

 

えっ、ハーレム王の項目にチビッ子化は含まれてるの?

片手であしらうどころか、抱っこされて、お着替えさせられたんですけど。

完全に母性に目覚めた目で撫で撫でされたんですけど。

 

『甘いわ、イッセー。真のハーレム王ならば、おねショタも経験しておかないと! これは必須科目。取れなければ、単位はあげられないわ!』

 

なんで、ハーレム王に大学の卒業項目みたいなのがあるんだよ!?

初耳だわ!

 

『えーと、あとイッセーが満たしていないのは………寝とりと、母娘丼と、調教は………まぁ、それなりね。あとは―――――』

 

ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!

この駄女神のエロ思考は性欲の権化と呼ばれた俺を遥か上回ってるよ!

だって、さっきからとんでもないこと言ってるもの!

つーか、寝とりはダメだろ!?

 

『グレイフィアちゃんを………ムフフ』

 

俺がサーゼクスさんに殺されるわ、この駄女神ぃぃぃぃぃぃぃ!

 

『あ、母娘丼はオッケーと。とりあえず、八坂ちゃんと九重ちゃんをペロペロ―――――』

 

えぇい、ドライグ! 

さっさと、その駄女神を黙らせろぅ!

これ以上、喋らせたら取り返しのつかないことになるぞ!

 

『無理だな』

 

即答か!

予想通りだけどね!

 

ちくしょう………俺にもっと気力があれば、もっとツッコミを入れられるのに!

疲労困憊のせいで、これ以上のツッコミが出てこねぇ………。

 

ドライグがやれやれと息を吐く。

 

『ほとんど生身で堕天使幹部とやりあっていたからな。よくやったと言ってやりたいところだが』

 

今後の相手―――――神クラス、特に上位の神ともなると今のままじゃキツいか。

 

『禁手を使えばそうでもないが、制限時間付きでは話にならん』

 

EXAがまともに使えれば、上位の神だろうと倒せる。

だけど、EXAは保って数秒。

神クラスがその程度で倒せないのは、これまでの経験でよくわかる。

 

なんとか継続時間を元に戻したいが、治療中の身では難しいな。

となると―――――

 

「錬環勁気功を見直すか………」

 

俺は掌を見つめながら、そう呟いた。

 

ドライグが訊いてくる。

 

『師―――――グランセイズのところに行くのか?』

 

まぁな。

アセムが構築した世界の調査もあるし、アスト・アーデとの関係も築いていかないといけない。

アセムによると『E×E』のとんでもない邪神がこの世界に攻めてくるかもしれないんだろ?

これから先、アスト・アーデとの協力は必須。

そのためには向こうの世界に行く必要もあるんだ。

ついでだし、師匠に鍛え直してもらうとするよ。

 

『一応聞いておくが、どこを目指すつもりだ?』

 

一先ずは―――――神器を使わない状態で神クラス。

それぐらいにならないと、いつか来る敵に対抗できないだろ?

 

『相棒の目に映るのは今後、来る敵か。だが、相棒がその次元に足を踏み入れるとなると、俺も出来る限りのことはしておいた方がいいな』

 

そりゃそうだ。

俺が強くなるなら、おまえにももっと強くなってもらわないと困るぜ?

 

『ハハハハ! 俺にも更なる力を求めるか! 良いだろう。俺も再び赤を越え、紅になってやろうではないか、イッセー!』

 

頼むぜ、ドライグ!

二人で強くなれば、最強ってな!

 

………そんな感じで盛り上がってはいるが、今は体を休めないとどうにもならないわけでして。

というかね、今の俺、チビッ子なんですよ。

強くなる以前の問題なんだよね。

 

現状に涙していると、ベッドが少し沈んだ。

 

「うふふ、小さいイッセー君と添い寝ですわ♪」

 

ニコニコ顔で俺の横に寝そべった朱乃。

 

「ご機嫌そうですね」

 

「ええ。こんなに可愛らしいイッセー君を前にしてご機嫌にならないはずがありませんわ。それに………嬉しかったから」

 

「?」

 

俺が頭に疑問符を浮かべていると、朱乃は俺の頬に触れた。

 

「イッセー君が父様に言った言葉………。私を大好きだって言ってくれたこと。私、どうにかなりそうなくらい嬉しくて」

 

「まぁ、前にも宣言はしてたんだけど、改めてね?」

 

今になって思うけど、試合中に、しかも世界中が見ているゲームの場で大胆な告白だったと思うよ。

テレビでもそこが切り取られて放送されてたりもしてだな………。

明日の新聞が怖ぇ。

 

実は皆が見舞いに来てくれた後、落ち着いた俺は朱乃と一緒にバラキエルさんのところに行ったんだ。

バラキエルさんは俺が放った魔法のせいで、ミイラ男みたいになっていたけど………。

 

俺を見たバラキエルさんは多くは言わず、ただ手を差し伸べてきて、一言。

 

『これからも娘を頼む。兵藤一誠君………いや、イッセー君』

 

呼び方が皆みたいにフランクな感じになっていた。

今までみたいにフルネームで呼ばれるよりは、近く感じられるし、良かったのかな?

 

バラキエルさんと握手を交わした時に感じたあの重みはまだこの手に残ってる。

本当に朱乃を託されたのだと感じた。

 

俺は朱乃の手を握って、笑んだ。

 

「好きだよ、朱乃。大好きだ」

 

「私も。大好きだよ、イッセー」

 

朱乃も微笑んで頷いてくれた。

そこにお姉様的な雰囲気はなく、年頃の女の子がただ嬉しそうに笑顔でいてくれて。

 

あー………色々あったけど、この笑顔が見れただけで頑張って良かった。

チビッ子になるくらい消耗したけど、良しとしよう!

 

そんな具合で満足していると、朱乃が言ってきた。

 

「イッセー君は早く元の姿に戻りたいのですよね?」

 

「そりゃあもう!」

 

自然にしてても一日くらいあれば、元には戻れるだろう。

だが、早く戻れるのであれば、それに越したことはない!

俺は………早く大きくなって、男として扱われたいのだよ!

 

即答する俺に朱乃は「あらあら」と微笑む。

 

「私、実はイッセー君が大きくなれる方法に一つ心当たりがあるの」

 

「なんですと!?」

 

マジですか!

そんな手段があったとは!

 

今の状態は体を維持する気の量が激減しているために、起きているものだ。

なので、外部から気を取り込めば解決はできる。

というのも、ここまで体が小さくなってしまった場合、錬環勁気功による回復は反って肉体にダメージが残ってしまうんだ。

気が激しく乱れている状態で、更にそれを操ろうとしているからね。

よって、これを回復させるには、自然回復が一番。

更に言えば、よく食べ、よく眠ることが近道だったりする。

 

そんな状態なので、下手なことはしない方が良いのだが………。

というか、朱乃の目が何か企んでいるというか………そのニコニコ顔が凄く怪しい。

一体、何をしようとして―――――

 

「私のおっぱい、吸います?」

 

「えっ!?」

 

俺の耳元で囁く朱乃!

そして、目を見開く俺!

 

そうか、その手があったか!

前にも小さくなった時で、俺の記憶が一時的になくなっていた時に、皆のおっぱいを吸って元に戻ったと聞かされた!

 

って、朱乃がもう上半身下着姿になってるぅぅぅぅぅ!

早い!

早いよ!

俺、まだ何も答えていませんが!?

 

「うふふ、小さいイッセー君と………。これがおねショタプレイというものなのでしょうか。いけない道に踏み込んでしまいそう」

 

ついにはブラジャーまで外してしまう朱乃!

生乳がぁぁぁぁぁぁぁ!

朱乃の生乳がこれでもかと、俺の前に突き出されてくるぅぅぅぅぅぅ!

 

朱乃は戸惑う俺の上にまたがると、揺れるおっぱいを手で持ち上げた!

 

「イッセー君、私のおっぱいで大きくなってみませんか?」

 

「あ、うっ………」

 

この展開のスピードに頭が追い付いてこない!

試合で疲れているからなのか、チビッ子になっているからなのか、思考が、体が動かない!

そんな俺をからかうように朱乃は俺の体の上であんなポーズやこんなポーズをとって誘ってくる!

小さくなったせいか、いつも以上に朱乃のおっぱいが大きく感じる!

右に左に揺れるおっぱいに目が!

目がぁぁぁぁぁぁぁ!

 

俺の中でイグニスが言ってきた。

 

『イッセー、よく聞きなさい。ハーレム王たるもの、おねショタの経験は必須。今こそ―――――身も心もショタになりなさい!』

 

身も心も!?

既に身に関してはショタなのに、これに心もショタ化しろと!?

 

だが………なぜだが分からないが、イグニスの言うことが正しく思えてしまうのは疲れているからなのだろう。

もう、いっそのこと、この疲れに任せて―――――

 

「朱乃………お姉ちゃん………」

 

「あぁん! もう、イッセーったら可愛いんだからぁ!」

 

悶える朱乃。

そして、抱っこされる俺。

 

 

結論―――――俺は朱乃のおっぱいで大きくなりました。

 

 

 

 

翌日。

 

「もう少し小さくなってても良かったのに………」

 

それはそれは残念そうにため息を吐く美羽。

俺は美羽以上に深いため息を吐いた。

 

「おまえなぁ………。つーか、あのままだと俺はお兄ちゃんじゃなくなるだろ?」

 

「心配ないよ? その時は弟として撫で撫でするから!」

 

「おいおい………」

 

本当に勘弁してくれ。

もう女性陣の着せかえ人形になるのはごめんだ。

俺が小さい頃の服を態々、押し入れの奥から引っ張り出して撮影会が開かれるんだぞ?

精神は通常だけに、中々キツいものがある。

 

というかね。

俺もそろそろ美羽に仕返しの一つでもしてやろうかと思うのよ。

美羽を小さくして―――――

 

「ゴファッ!」

 

「お兄ちゃん!? なんで、いきなり吐血!?」

 

ち、小さくなった美羽を想像したらヤバすぎた。

絶対可愛いやつだもの!

小さくなった美羽に『おにいちゃん』とか言われたら俺は!

俺はぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「ゴフゥァァァッ!」

 

「どれだけ吐血するの!? というか、何を想像したの!?」

 

「い、いや、気にしないでくれ。ちょっと幸せな光景を想像………妄想しただけだから」

 

今度、アザゼル先生に美羽を小さくする装置でも作ってもらおう。

 

そう心に決めた俺は美羽と共に目的の場所を目指して歩みを進める。

ここは駒王学園の新校舎。

そして、俺達が目指すのは―――――

 

「むむっ! サラちゃん発見!」

 

咄嗟に階段の影に隠れる俺達。

そう、俺達はサラの様子を見に一年の教室がある階に来ていたのだ。

 

ルフェイからサラの学園生活について、色々と話は聞いている。

最近、少しずつだがクラスメイトと話せるようになってきたと。

今のところ順調だと。

ルフェイがそう言うならそうなのだろう。

 

だが、家族として、兄として、妹がクラスに馴染めているのか気にならないわけがない。

この目で見て、妹が上手くやれているのかを確認しなければ………!

 

美羽と一緒にそっと、階段の影から覗き込むとサラと二人の女子生徒が並んで歩いていた。

三人の会話が聞こえてくる。

 

「手伝ってくれてありがとう、兵藤さん。あれ運ぶの頼まれたんだけど、重くて二人じゃ大変だったの」

 

「気にすることはない。声をかけてくれれば、いつでも手伝おう」

 

どうやら、サラは何か重たいものを運ぶのを手伝っていたらしい。

今は手ぶらだから、運び終えた帰りなのだろう。

 

美羽が言う。

 

「むー。クラスメイトと話すときはクールな雰囲気だしてるね」

 

「そうだな」

 

俺達が出会った頃の話し方だ。

だけど、今の雰囲気を見るに警戒しているとか、クラスメイトに心を開いていない訳ではなさそうだ。

家でルフェイと話すときもあんな感じだしな。

 

女子生徒がサラに言う。

 

「兵藤さん、細いのに力持ちだし、カッコいいから憧れちゃうな。しかも、モデル体型だし」

 

「だよねー。純日本人の私達とは違うわ」

 

まぁ、サラはクール系美少女に高い身長、加えて胸も年齢の割には………というか、普通に大きい。

サラの歳を知った時のアリスの落ち込みようが凄かったからな。

 

サラが女子生徒に問う。

 

「そんなに羨むものなのか?」

 

「そうだよ! 私達持たざる者にとって、どれだけ羨ましいか………! 実際、裏では男子からもモテモテじゃん!」

 

「そうよそうよ! 既に男子の中にはファンもいるんだからね! 何人の男子が兵藤さんに踏まれたいと思ってることか!」

 

ちょっと待てぇぇぇぇぇ!

なんか、男子生徒が何人か目覚めてるんですけど!?

大会であちこちの人をシスコン化してたけど、今度はM化!?

 

俺の中でイグニスが唸る。

 

『なるほど。基本、サラちゃんは黙っていれば完全クール系。最近は見せなくなったけど、サラちゃんが向ける冷たい視線は完全に女王様のそれだった。それで………』

 

何を考察してるんだ、この駄女神!

いかん!

いかんぞ!

サラちゃんはノーマルなの!

エッチなことが苦手な女の子なの!

 

俺は認めない!

お兄ちゃんは―――――にぃにはそんなの認めませんよぉぉぉぉぉぉ!

 

サラは困り顔で口を開く。

 

「そ、そんなことを言われても………あっ」

 

「「あっ」」

 

不意に目が合ってしまったサラと俺、美羽。

一年生の階を訪れていたことに少しビックリしたのか、一瞬、目を丸くするサラだったが、すぐにいつもの表情に戻って、

 

「ねぇね、にぃに! どうしたの? なにかあった?」

 

と、いつもの妹モードになって、こちらに声をかけてくるサラ。

すると、サラの隣にいた女子生徒が声をあげた。

 

「ねぇね!? にぃに!?」

 

「えっ、ちょっと待って………兵藤さんって、お姉さんとお兄さんのこと、そんな風に呼んでるの!? クール系と思わせといて、まさかのガッツリ妹キャラだったの!?」

 

よほど衝撃だったのだろう。

サラのにぃに、ねぇね発言に騒ぐ女子生徒二人。

そして、その騒ぎは他の生徒にも伝播していき―――――

 

「うぉぉぉぉ! マジか! あの兵藤さんが『にぃに』『ねぇね』って………!」

 

「完全に女王様的存在だと思っていたところにこれは!」

 

「なんというギャップ! だが、それが良い!」

 

悶える男子生徒達!

なんということだ、サラの内面を知ってしまったせいで、一年生のフロアは大騒ぎだ!

やはり、こうなってしまったか………!

サラの外見と内面のギャップが他の生徒達を魅了してしまっている!

 

とうのサラはというと、顔を赤くして早足でこちらに歩み寄ってきた。

よほど恥ずかしいのか美羽の胸に顔を埋めてしまうほどだ。

 

男子生徒の一人が言う。

 

「あれは兵藤さんのお兄さんとお姉さんじゃないか!」

 

「むっ! あれがシスコンブラコン兄妹!」

 

「あの二人がいるならば、やることは一つ!」

 

男子生徒達は教室から飛び出してくると俺と美羽の前に来て―――――

 

「「「お兄さん! お姉さん! サラさんを! 妹さんをください!」」」

 

「却下だ、馬鹿野郎共ぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ギャップ萌え―――――これだけでサラは学年の人気者になったのだった。

 

 

 

 

 

「あぅぅ………」

 

「んもう、サラちゃんは可愛いなぁ!」

 

俺が一年男子と格闘している後ろでは美羽がサラを超撫で撫でしていた。

 




―特報―

「な、なんだ………町の皆が!?」
――――紅の騎士王 木場祐斗


異変は突如として現れた。


「この現象は各地で起きているそうよ」 
――――紅髪の滅殺姫 リアス・グレモリー


それは既に世界を蝕んでいた。


「新規神滅具の所有者か………」 
―――――明星の白龍皇 ヴァーリ・ルシファー


現れた新たな神滅具。



「冗談みたいな存在だな。相性最悪だ」
―――――英雄派のリーダー 曹操


どんな異能よりも厄介極まりないものだった。



「嘘だろ!? 皆、あれにやられちまったのかよ!?」
―――――黒き龍王 匙元士郎


崩壊するチーム『D×D』。
広がる絶望。
世界は混沌へと落とされていく。

かの者を止められる者はいるのか―――――
 

「へっ、どいつもこいつも………。やってられねぇよ、ちくしょう。皆、滅んでしまえばいい! 労働なんてやめちまえばいいんだ! おまえ達も終わらない夏休みを味わえばいい! 俺の神滅具『労働意欲霧散(ニートメーカー)』でな!」
―――――汚いグラサンの男 長谷川(無職)


男は競馬で全てを失い、世界を呪った。

全てを無に帰そう。

人類も異形も全て職を失えば良い。

ニート―――――皆でなれば怖くない。


「それなんて人類補完計画!? つーか、ただのマダオだろうがぁぁぁぁぁぁ!」
―――――ツッコミ帝 兵藤一誠


最凶(ニート)との戦いが今、始まる!


新章『逆襲の魔堕男(マダオ)編』開幕




※嘘です。
ニートとの戦いは始まりません。
マダオとの戦いも始まりません。

いつからシリアスな特報と錯覚していた?


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番外編 逆襲のイッセー

Beyond the timeは流れません


[木場 side]

 

 

「イッセー君の様子がおかしい?」

 

放課後、授業を終えた僕達は部活のため、オカルト研究部がある旧校舎に向かっていた。

その中で、アーシアさんが妙なことを言い出したんだ。

 

僕の問いにアーシアさんが頷く。

 

「はい。今日のイッセーさん、何か怖い顔をしていて………」

 

アーシアさんの言葉にイリナも頷いた。

 

「あ、私も見たかも。ダーリンってば、何かこう鬼気迫る用な………覚悟を決めたような顔をしていたわ。話しかけても、こっちの声が届いてなかったもの」

 

覚悟を決めたような顔を?

イッセー君に何かあったのだろうか。

 

特に心当たりのなかった僕はアリスさんに話を振ってみた。

 

「アリスさんは何か知っていますか?」

 

僕の問いにアリスさんは首を横に振った。

 

「私も知らないのよ。ただ、少し前から一人で考え込んでるようだったわ。一応、私も声をかけてみたけど、教えてくれなくて………」

 

『女王』たるアリスさんにも教えていないのか。

だが、言われて思い返せば、ここ数日のイッセー君の様子はどこか変だった。

一見、普段と変わらない様子だけど、時々、上の空になっているのか、会話が続かない時があったんだ。

どうしたのかと訊いても、「あー、なんでもないんだ。ゴメンゴメン」と言われてしまって………。

 

レイヴェルさんが肩を落として、深く息を吐く。

 

「悩みがあるのなら、頼ってほしいのに………。私は頼りにならないのでしょうか………」

 

「そんなことないよ、レイヴェル。イッセー先輩がレイヴェルを頼りにしているのは皆、知っているよ」

 

「そうですよ! イッセー先輩はいつもレイヴェルさんは頼りになるって言っていました!」

 

落ち込むレイヴェルさんに、小猫ちゃんとギャスパー君が声をかける。

 

イッセー君はいつも「レイヴェルを頼りにしすぎていてなぁ………」「レイヴェルがいなきゃ、うちの眷属マジで終わってる」と言っていたほどだ。

イッセー君にとって、レイヴェルさんの存在が大きいのは周知の事実。

むしろ、レイヴェルさんに少しは休んでほしいとも言っていた。

 

レイナさんが訊いてくる。

 

「そのイッセー君はどこに?」

 

「さぁ? 気づいたらいなかったし。あれ? そういえば、美羽ちゃんもどこ行ったのかしら? 授業終わるまで、二人ともいたのに」

 

話しているうちに僕達は部室の前に到着。

部長であるアーシアさんが扉を開けて、部屋に入った―――――その時。

僕達は目を見開いた。

 

「な、何、これ………!?」

 

イリナが驚愕に満ちた声を出した。

 

僕達の視界に入ってきたもの。

それは夥しい量の血だった。

床に広がった血の海。

見ると壁や天井にまで血が付着している。

まるで殺人現場のような光景だ。

 

なんだ………!?

何があったというんだ!?

昨晩、悪魔の仕事で使用した時はこんなものはなかった。

つまり、僕達以外の誰かがここで………?

 

緊急事態に思考が加速されていく中、不意にあるものが目に移った。

それは―――――血の海に横たわるイッセー君だった!

 

「イッセー君!?」

 

慌てて駆け寄る僕達。

イッセー君は白目を向き、ビクンビクンと体を痙攣させていて………。

 

「イッセーさん、しっかりしてください!」

 

アーシアさんが治癒を施していくが、イッセー君の鼻から流れる血は止まる気配を見せない。

アーシアさんの力でも治せないなんて………!

 

僕は小猫ちゃんに言う。

 

「今すぐリアス姉さんに連絡を! もしかしたら、イッセー君の体に異常があったのかもしれない! 病院の手配をしてもらうんだ!」

 

僕の指示に小猫ちゃんは頷き、すぐにリアス姉さんに連絡を入れる。

その間にもイッセー君の出血は激しさを増していく。

 

そうか………きっと、イッセー君は体の異常に気づいていたんだ。

近々、自分の体がこうなると分かっていた。

だからこそ、僕達に心配をかけまいと、一人で何とかしようとしていたんだ………。

 

僕は震える手でイッセー君の体を抱いた。

 

「すまない、イッセー君! 近くにいたはずなのに君を助けることが出来なかった………! 僕は………僕は………!」

 

仲間が苦しみ、悩んでいたのに僕は気づけなかった………!

助けることが出来なかった!

イッセー君は僕達に心配をかけまいと必死に苦しみを堪えていたはずなのに!

 

レイヴェルさんも涙を流しながら叫ぶ。

 

「嫌です、イッセー様! 私、まだイッセー様のお役に………! お願いです、私を置いていかないでください!」

 

「イッセー先輩!」

 

「ダーリン! お願い、目を覚まして!」

 

「イッセー君!」

 

ギャスパー君、イリナ、レイナさんが叫ぶ。

しかし、アリスさんの口からは衝撃の言葉が出された。

 

「そこのバカは放っておきましょう。さー、部活を始めましょー」

 

―――――っ!?

アリスさんがそんなことを言うなんて、信じられなかった。

今にも死にそうになっているイッセー君を置いて、部活を始めようとするなんて………!

 

イリナがアリスさんに食って掛かる。

 

「アリスさん! あなた、ダーリンのことどうでも良いの!?」

 

すると、アリスさんは小さく息を吐いて言った。

 

「だって、それ―――――小さくなった美羽ちゃん見て、興奮しただけだもの」

 

「「「「え………?」」」」

 

揃って間の抜けた声を出す僕達。

 

アリスさんが指を指した方を見ると―――――小さな少女。

イッセー君に気をとられ過ぎて気づかなかった。

歳は五歳くらいだろうか。

艶やかな黒髪の可愛らしい少女が一人、ポツンと立っていた。

少女はどこか面影があって………。

 

「あ、あはは………。え、えっと………美羽です」

 

美羽と名乗った少女のすぐ側には見覚えのあるものが落ちていた。

確かあれはアザゼル先生の発明品。

イッセー君が小さくなった時の―――――。

 

この時、僕達は全てを理解した。

そして―――――

 

「「「「ただのシスコンだろうがぁぁぁぁぁぁあ!」」」」

 

 

全員でイッセー君にハリセンを叩き込んだ。

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

「ゴフゥッ! ゲハッゴボッ! 可愛い………可愛いぞ、美羽ぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「いや、血吐きすぎでしょ! どれだけ血吐くの!?」

 

鼻血を滝のように噴き出す俺にレイナのツッコミが入る。

 

確かに今の俺はいつも以上に血を吐いているのかも知れない。

もう制服はおろか、部室中が俺の血で染まっている。

 

だがな、これは………これだけはしょうがないんだ!

だって―――――

 

「おにーちゃんってば、興奮しすぎだよ………」

 

小さくなった―――――ロリ美羽が目の前にいるんだものぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

細く小さな体!

全身から醸し出される儚げな雰囲気!

無垢を体現したような存在!

そんなのに「おにーちゃん」なんて言われたら、俺は………!

俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「ブッフォォォォォ!」

 

吐血するしかねぇだろぉぉぉぉぉぉぉ!

イヤッフゥゥゥゥゥゥゥ!

 

「小さい美羽先輩を見るために態々、アザゼル先生に頼んで、こんな装置まで作ってもらっていたなんて………。まずは私達の心配を返してください、シスコン先輩」

 

小猫ちゃんが蔑みの目で俺を見てくる!

イッセー先輩じゃなくて、シスコン先輩になってる!

 

「そうだね。今回ばかりは僕も呆れてしまったよ」

 

腕を組んで壁にもたれる木場!

なんか、氷のような視線を向けてくるんですが!?

 

アリスが煎餅をかじりながら言う。

 

「あんたバカでしょ。大バカ者でしょ。本当、どれだけシスコンを発揮すれば気が済むのよ?」

 

「無論死ぬまで」

 

「小猫ちゃん、何か言ってやってよ」

 

「とりあえず部屋の掃除をしてください、シスコン」

 

おぅふ!

小猫ちゃんからの鋭い一撃!

ついに『先輩』って付けられなくなったよ!

 

木場が言う。

 

「最近、イッセー君の様子がおかしいって話をしてたけど………まさか、小さくなった美羽さんを妄想していただけだなんて。というか、ただでさえ重度のシスコンなのに、小さい美羽さんを見たらこうなることくらい予想できたよね?」

 

「うん。実は死ぬ覚悟もしてた」

 

「どんだけ!?」

 

俺は窓際に肘を置くと、沈む夕日を見つめながら言った。

 

「自分のことは自分が一番良く分かっている。ただでさえ可愛い美羽の幼少期なんて見てしまえば………更に『おにーちゃん』なんて言われてしまえば、俺は興奮しすぎて死ぬかもしれない。すごく悩んださ。美羽を小さくするか、しないか。だが、俺は何が何でも生きてやるって決めたんだ。何が起きても死にはしない。だから………やっぱり美羽を小さくしてみることにしました」

 

「絵面だけは渋いけど、言ってる内容はただのシスコンだからね!? しかも、最終的に欲望に負けてるよ!」

 

「フッ………悪魔は欲に生きる存在だからな」

 

「魔王様! 八つ目の大罪としてシスコンの罪を付け足してください!」

 

「無理だな。四大魔王のうち二人がシスコンだもの。妹ラブだもの」

 

「そうだったぁぁぁぁぁぁ!」

 

ダァン!と床を叩く木場。

 

七つの大罪にシスコンは加えられません。

だって、罪じゃないもの。

兄貴が妹を愛でる、これは至って普通の行為。

撫で撫でするのも、アルバムを作るのも当たり前だろ?

可愛さのあまりに血を吐くのも不思議なことじゃないよな?

 

木場が嘆いている横ではイリナが美羽に訊ねていた。

 

「美羽さんもよくオッケーしたよね」

 

「ま、まぁ、なんというか………ボクも小さいおにーちゃんで色々と暴走しちゃったし」

 

美羽の言葉にこの場の女性陣はハッとなった。

 

俺は小さくなる度に美羽に、アリスに、リアスに、皆に弄られてきた。

抱っこされたり、服を着替えさせられたり、まるでぬいぐるみのように扱われてきた。

だからさ―――――

 

「フハハハハ! 分かったか、君達! これはこの俺、兵藤一誠の逆襲でもあるのだよ! 故に、正義は我にありぃぃぃぃぃぃ!」

 

「イッセー先輩のキャラが変わってますぅ!」

 

「ギャスパー君! これは僕にも捌ききれない! ツッコミを頼んだよ!」

 

「ひぃぃぃぃ! 僕には無理ですぅぅぅぅぅ! アリス先輩、助けてくださいぃぃぃぃ!」

 

「なんで、私!?」

 

木場が、ギャスパーが、アリスがツッコミの擦り付け合いをしているが、今の俺にとってはどうでも良いこと。

今の俺にはやるべきことがたくさんあるのだ。

 

 

パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 

 

「今のうちにロリ美羽の写真を撮っておかねば!」

 

高速でシャッターを切る俺!

ソファにちょこんと座るロリ美羽が可愛くて可愛くて可愛くて!

 

「ちぃ! カメラのメモリーが! だが、予備はまだまだある!」

 

 

ガシャン ジャキン!

 

 

「今の何の音!? 弾丸のリロードした!?」

 

「問題ない。こいつはアザゼル先生に頼んで作ってもらったカメラ。早撃ちならぬ早撮りができる」

 

「それ必要!?」

 

木場のツッコミをスルーして、俺は様々な角度から撮影した。

お菓子を食べるロリ美羽、あくびをするロリ美羽、横になった時のロリ美羽…………。

 

「ゴフゥゥ!」

 

「もう吐血は良いよ! しつこいよ、いい加減!」

 

木場のツッコミが全力投球される。

すると、美羽があることを提案した来た。

 

「ねぇねぇ。折角だから、サラちゃんにも小さくなってもらう?」

 

全身に衝撃が走った。

 

なん、だと………!?

サラちゃんを小さくする、だと!?

 

良いのか、そんなことして。

お兄ちゃん、マジで天に召されるぞ。

興奮しすぎて体が破裂するかもしれないぞ。

北斗○拳のモヒカンキャラみたいになってしまうぞ。

 

サラに視線を向けると、サラは指をモジモジさせながら言った。

 

「え、えっとね。にぃにがしたいなら………良いよ?」

 

いかん、この段階で既に可愛い。

抱き締めたくなる。

 

だが、サラの許可は得た。

俺は迷わず、息をするようにアザゼル先生の発明品にあるボタンを押した。

カッと眩い光が部室を照らす。

光が止むと、そこには―――――

 

「うぅ………服ダボダボ………」

 

小さくなった体には大きすぎる制服に戸惑う紫色の髪の幼女がいた。

まるで子犬のような雰囲気があり、今すぐにでも抱き上げたくなるそんな………。

なに、この儚さの化身みたいな存在。

こんなの見せられたら俺は―――――

 

「くっ………俺の命もここまでか………」

 

「だから、なんでそうなる!?」

 

「いや、可愛いすぎるだろ………見ろよ、木場。おまえ、ロリサラたんを見て何とも思わないのか?」

 

俺に言われてロリサラたんを見る木場。

数秒後―――――

 

「ふぅんっ!」

 

木場は自身の側頭部を全力で殴り付けた!

 

ギャスパーが叫ぶ。

 

「祐斗先輩、何をしているんですか!? 凄い音しましたよ!?」

 

「………危うく向こうの世界に旅立ってしまうところだったよ。ここで僕がボケに回るわけには………!」

 

なんてやつだ………!

木場め、自分を痛め付けることでシスコンゲートから逃れやがった!

シスコンの道は走らないというのか!

 

イリナが感嘆する。

 

「なんてツッコミに対する責任感なの! 流石よ、木場君!」

 

「いや、この状況的にもうボケ側だと思うけど」

 

小さくなった美羽がサラに目配せする。

二人は俺の両サイドに来ると、甘えるように腕に抱きついてきた。

そして、二人は俺の顔を見上げて、

 

「おにーちゃん」

 

「にーに」

 

そして―――――

 

「「大好き!」」

 

その後の記憶はない。

ただ、後で聞いた話によると、興奮しすぎて気を失った俺は床の上を魚のようにビチビチ跳ねていたという。

 

 

 

 

後日、サーゼクスさんと話す機会があったのだが………。

 

「アザゼルから聞いたよ。妹を小さくする装置を貰ったそうだね。そこで、相談がある。………リーアたんを! リーアたんを小さくしてくれないか! あの頃のリーアたんをもう一度、この目に!」

 

この事をリアスに言ってみたところ、

 

「却下よ」

 

却下されました。

 

 

 




~あとがきミニストーリー~

イグニス「体は子供、頭脳は大人! その名は――――」

アセム「おねショタイッセー!」

イッセー「よぅし、おまえら表出ろ。まとめて説教してやらぁぁぁぁぁぁぁ!」


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第二章 球技大会のジョーカー
1話 疲れた時は寝ろ!


超絶お久し振りです!
今年から社会人ということで、中々書く時間を取れませんが、ボチボチのスピードでこれからも投稿していきます。
では、記念すべき(?)社会人になったヴァルナルの一話目をどーぞ!(笑)


※久し振りに書いたので異世界帰りの雰囲気が出てないかもしれません。
これからリハビリしていきます~


[木場 side]

 

 

《さぁ、色々な意味で注目を浴びている『異世界帰りの赤龍帝』チームの一戦! 果たして、彼らの滅茶苦茶な戦いを止められる者はいるのでしょうか! というか、そろそろ止めてくれないと苦情が来るので、本当に止めてください! お願いします!》

 

『おい、司会! ゲームの時くらい、平等なアナウンスしろよ! そんなに俺らのゲームは不満か!?』

 

《うるせぇよ! だったら、もう少し真面目にゲームしろよ、このシリアスブレイカー集団!》

 

などとテレビの向こうで言い合いをするゲームの司会とイッセー君。

 

そう、これからイッセー君達のレーティングゲームが始まるんだ。

………始まる前からゴタゴタしてるけど。

 

リアス姉さんが額に手を当てて深くため息を吐いた。

 

「イッセーったら………」

 

「アハハ……」

 

いや、もう僕達は経験済みだし、既に手遅れかもしれない。

だけどね、イッセー君。

この大会が始まってから君達のハチャメチャっぷりに磨きがかかっていると思うのは気のせいかな?

あまりに奇抜過ぎるバトルで専門家達を引かせているのは気のせいかな?

気のせいじゃないよね?

 

切実に願う程のことじゃないけど、それでも、真面目な視聴者の想いの数パーセントは受け取ってくれても良いと思うんだ。

 

ロスヴァイセさんが苦笑して言う。

 

「まぁ、今回の対戦相手はヴァルハラの英霊とヴァルキリーのチームです。いくらイッセー君達でもそう簡単にはいかないと思いますよ?」

 

今回の相手はヴァルハラの猛者が集まるチーム。

神クラスは在籍していないけど、確かな実力を持ったチームであることは間違いない。

その証拠に相手のチームも、これまでのゲームで全勝している。

 

しかし………

 

「ロスヴァイセさん、それはフラグだと思います」

 

「えっ!?」

 

小猫ちゃんの呟きに僕はそっと目を閉じた。

 

うん、分かってる。

彼らに常識なんて通用しないことくらい。

 

妹大好きおっぱいドラゴン

ツンデレ女王

ブラコンシスコン妹

チートおじさん

狙い打ちたがりスナイパー

夜のマネージャー

ロリコンメイド長

ムッツリ事務員

シスコン製造機

 

これだけのメンバー。

何か起こらない訳がないんだ。

というか既に荒ぶっている人もいて―――――

 

『よぅし、あの「僧侶」は私がやるわ!』

 

『アリスさん、落ち着こう? 一旦落ち着こう? ね?』

 

ゲームフィールドに転移する前からターゲットに狙いを定めるアリスさん。

狙われている『僧侶』枠のヴァルキリーの女性はもう涙目なので止めてあげてください。

 

ゲームフィールドだが、今回は海上。

広大な海のフィールドには大小様々な形の島が幾つも点在している。

対戦する両チームは東西の最も端にある島にそれぞれ転移しており、そこが彼らの陣地となる。

 

リアス姉さんが言う。

 

「移動する時が危険ね」

 

見たところ島と島の間には障害物が少ない。

島を移るときに狙い撃ちされる可能性もあるだろう。

 

「狙い撃ちと言えばリーシャさんの独壇場になりそうだけど、相手もそれを理解しているはず。何かしらの対策はしているでしょうね。イッセーはこれをどうやって………えっ?」

 

「えっ?」

 

リアス姉さんの呆気に取られた声につられて声を漏らす僕。

改めてテレビに視線を戻すと、そこには僕達の理解を遥かに超えた物が映っていた。

そして、僕達は全く同じ疑問を浮かべた。

 

 

―――――なに、あのカタパルトデッキみたいなやつ

 

 

いつの間にか、イッセー君の陣営に設置されていた黒く輝く長大な装置。

形状はアニメでよくロボットが射出されるカタパルトデッキに良く似ている。

中央にはレールが敷かれており、幅は人が一人立てるくらいだろうか。

更にレールに足を置くための土台のようなものがあって………。

 

レイナさんが口を開く。

 

「ねぇ、なんでモーリスさんが乗ってるの? ねぇ、なんで腰を屈めてるの?」

 

ゼノヴィアが冷や汗を流しながら、震えた声で言う。

 

「い、いや、流石に無いんじゃないか? だって、そうだろう? もしそうなら、地獄絵図になるぞ」

 

しかし、とイリナがゼノヴィアに返す。

 

「でも、ゼノヴィア。あれってそうよね? や、やっぱりそうなのよね?」

 

「ぼ、僕は無理ですぅ! こんなの見ていられません!」

 

涙を流すギャスパー君。

ギャスパー君、僕も同じ気持ちだよ。

この後の展開が読めてしまうだけに、もうテレビを切ってしまいたくなる。

 

「私はあの方達のために祈ります! アーメン!」

 

目を開いて現実と向き合うアーシアさん。

なんて強い心の持ち主なんだ!

 

そうだね、アーシアさん。

これは紛れもなく現実。

逃げるわけにはいかない。

僕達にはその義務(?)がある!

 

アリスさんが白雷をレールに走らせる。

リーシャさんが望遠の魔術を使って、レールの向きを調整した。

美羽さんが風の魔法を起こして―――――

 

 

『オールグリーン。発進どうぞ』

 

『モーリス・ノア、行ってくるぜぇぇぇぇぇぇ!』

 

 

無慈悲とも思えるイッセー君の合図によって、チートおじさんが射出された。

そう、相手チームがいる島に向かって―――――

 

 

[木場 side]

 

 

 

 

「ねぇ、なんで皆して泣いてるの? ねぇ、なんで勝ってきたのに誰もハイタッチしてくれないの?」

 

勝利と共に帰ってきたはずの俺達を迎えたのは………なぜか涙ぐんでるリアス達だった。

俺達の勝利が嬉しくて泣いてる感じじゃないよね?

どっちかと言うと『おまえら、何をしたのか分かっているのか?』って訴えてくる目をしてるもの。

 

目元を赤くした木場が俺の両肩に手を置いてきた。

強く置かれた両手は震えていて、

 

「………君は、彼らにあんなことを………!」

 

「落ち着け、木場。俺はルールに従い、正々堂々、スポーツマンシップに乗っ取って戦っただけだ。俺達は悪くない………はず」

 

「はずって言った! はずって言ったよ! イッセー君! 君は彼らがどれほどのトラウマを刻まれたのか理解しているのか!?」

 

「おおぅ!? お、落ち着け、木場ぁ!」

 

なんか号泣しながら体揺らしてくるんですけど!

ちょっと苦しいからやめて!

落ち着こうか、イケメン王子!

 

た、確かに非情な作戦だったかもしれない。

ゲーム終わった後で見に行ったら、相手チームの皆さん、廃人みたいになってたしな。

真っ白に燃え尽きてたもんな。

 

ロセが聞いてくる。

 

「あれは何なのですか?」

 

あれとは俺達がゲームで使った装置のことを言っているのだろう。

その質問にはリーシャが答えた。

 

「あれは型式番号SK-01風魔電磁式強襲用無双叔父様射出装置。通称おっさんカタパルト。モーリスを相手に向けて発射する装置です」

 

「すいません、理解が追い付かないのですが。というか、名前長すぎませんか? 型式番号なんてあるのですか?」

 

「口頭では分かりにくいので図を書いて説明しましょう。まず、あれの原動力はアリスの白雷で作り出した電磁力です。その力でデッキを高速で動かし、モーリスを射出します。私の望遠魔術を使いレールの向きを合わせることで正確な方角に放つことが出来るのです。更には美羽さんの風の魔法で気流を整えることで、横風によるズレを無くす他、空気抵抗を抑えて―――――」

 

「いえ、そういうことを聞きたいのではなくて………」

 

「あっ、材質ですね? まずメインとなるフレームにはアザゼルさんが趣味で作っているロボットを参考にして―――――」

 

「そういうことでもないですのですが………」

 

どこからホワイトボードを取り出して、図で説明するリーシャに戸惑うロセ。

 

「ちなみに別名はおっさんミサイル、おっさんパトリオットとも言うわ」

 

「そこは別にどうでも良いんですが!?」

 

アリスの発言に対し、即座にツッコミを入れる木場。

今日も良いツッコミだ。

 

美羽が人差し指を立てて言う。

 

「ちなみに型式番号のSKはシリアスキラーの略だよ」

 

「確信犯じゃないか! 端からシリアス壊しにきてるよ、この人達!」

 

「無双戦士叔父ダム!」

 

「美羽さんのテンションがおかしなことになってる!?」

 

「昨日、遅くまでダンガム見てたから………」

 

「試合前日に余裕だね………」

 

「ちょっと寝不足で反省してます」

 

「………」

 

もうツッコミすら出てこないようだ。

 

あのカタパルトはリーシャが作製したものの一つだ。

レーティングゲームでは市街地から森林、海上と様々な地形が舞台となる。

今回の大会から追加された新しいフィールドも幾つかある。

その中でいかに勝利するか、その作戦の一つがリーシャお手製のアイテムだ。

地形にあったアイテムを作り、展開を有利に進めるつもりでいる。

いくつか用意するつもりだが、当然、全てに活かせるとも思ってないし、使う機会の方が少ないだろう。

 

「さーて今日も気持ちの良い運動ができたし酒だ酒」

 

プシュッと泡が弾ける音がしたので、振り返るとモーリスのおっさんが缶ビールを開けてグビグビ飲んでいた。

 

おっさんの発言に木場が目元をヒクつかせる。

 

「ヴァルハラの精鋭達と戦って、良い運動って………」

 

肩を落とす木場に俺は優しく声をかけた。

 

「なぁ、木場よ。このやり取りもいい加減飽きただろう? 実は俺もなんだ。どうせ、俺がいくらツッコミを入れたところで何も解決しないのはよーく分かった。だから思うんだ。もう良いかなって。俺はただあのチートおじさんを相手に放り込めば、それで」

 

「諦めた果てがそれなのかい!?」

 

「うん」

 

今日使ったおっさんカタパルトだって、最初にリーシャから見せてもらった時は俺もツッコミを入れたんだよ?

でも作ってしまったものはしょうがないし、おっさんも飛ぶ気満々だったんだよ。

それじゃあ、俺はただ黙って見守るしかないじゃないか。

飛んでいくチートおっさんが相手にトラウマを刻んでいくのを。

 

俺は窓から外を覗き、フッと笑んで一言。

 

「もう知らね」

 

「投げないでよ、イッセー君! 君からツッコミを無くしたら何が残ると言うんだ!」

 

「それはそれで酷いツッコミだな!」

 

ツッコミが無くても色々残るわ!

おまえには俺がどう見えてるんだ!

 

すると、レイヴェルが俺の横に並んで窓の外を見た。

 

「私ももう色々疲れましたわ」

 

「レイヴェルまでツッコミを放棄したぞ!」

 

「ああ、もうダメだわ! 主よ! 私達はどうすれば良いのですか!」

 

後ろで膝をつくゼノヴィアと天に祈るイリナ。

 

試合が終わっても俺の周りは休むことなぐ賑やかだ。

きっと、次の試合も、その次の試合も、そのまた次の試合でもこんな光景が見られるのだろう。

 

 

………どうしてこうなった。

 

 

なんか、俺の思い描いていたレーティングゲームと違うんですけど。

レーティングゲームってこんなんだっけ?

強豪やライバルとしのぎを削るそんな場だと思っていたんだけど、俺達が出る度にボケとツッコミの世界に早変わりするんだ。

まぁ、俺も何もないところで転んで、女性選手のおっぱいに顔を埋めたりしてしまっているので、何も言えないんだけどさ。

つーか、それにしたってあの駄女神が俺の中を何やら弄くり回したせいだったよな?

 

いや、もう考えるの止めよう。

 

「風呂入って寝るか」

 

「ですわね」

 

全てに疲れた俺とレイヴェルが風呂に向かおうとした時だった。

玄関から帰ってきた母さんに声をかけられた。

 

「イッセー、あんたに会いたいって子が来たんだけど」

 

そう言う母さんの後ろにはフードを深く被った小柄な人。

その来客はフードを取り払い、その顔を見せていく。

それは見知った吸血鬼の―――――

 

「あっ、クマさんパンツ!」

 

俺の後ろからひょっこり顔を出したアリスがそう声に出した。

その言葉に彼女は顔を赤くして、

 

「エルメンヒルデです! またあなたですか、もう!」

 

そう、彼女はエルメンヒルデ・カルスタイン。

吸血鬼の貴族、カルスタイン家のお姫様だ。

 

うん………久し振りの登場なのにこういう扱いになってゴメンね。

 

エルメンヒルデはコホンっと咳払いした後、一礼して挨拶を述べる。

 

「ごきげんよう、皆さま。試合を見させていただきました。その上で一つお願いがあります」

 

言いながら彼女は俺のもとに歩み寄り、その赤い眼でじっと見つめてきた。

そして、エルメンヒルデは真正面から俺に告げていく。

 

「―――――兵藤一誠様、私をあなたのチームに入れていただけませんか?」

 

「えっ……?」

 

思いもよらない言葉は今日一日の疲れを忘れ去るには十分だった。

 

 

 

「あらー、今日はクマさんじゃなくて、大人っぽいパンツじゃない。しかも新品。ウフフ、イッセーに会うから気合い入れてきたのかしら♪」

 

「な、ななななな何をしてるんですかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

エルメンヒルデのスカートをめくりあげてパンツを覗く駄女神に俺は今日一日の疲れを思い出したのだった。

 

 




~あとがきミニストーリー~

イッセー「最近また暑くなったよなー。こうも暑いと喉が渇くよ」

イグニス「仕方ないわね。アーシアちゃん、今出るかしら?」

アーシア「えっ!?」

イッセー「おまえはアーシアになんつー変態プレイをさせようとしてんだぁぁぁぁぁ!」


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2話 対戦カード決定!

ほのぼのといきたい今日この頃


美羽と買い物から帰ってきた俺を待っていたのはあまりに悲しくなる光景だった。

 

「リーシャ………何やってるの?」

 

兵藤家のリビングにて、カーペットの上に座り込むリーシャ。

そして、リーシャの正面にはフェンリルがいた………仰向けの状態で。

リーシャが帰宅した俺達に微笑みながら言う。

 

「おかえりなさい、イッセー、美羽さん。今はフェンリルちゃんの歯磨きをしているのです」

 

そう言って、フェンリルの口を手で開けるリーシャ。

フェンリルはというと、ただ口を開き、なんとも言えないといった表情で黙っていて………。

 

「はーい、まずは歯石を取りましょうね~」

 

「………」

 

専用の道具を使い、リーシャはカリカリとフェンリルの歯石を取っていく。

 

………なんだろうね、この気持ち。

最初に会った時はとてつもないプレッシャーを放っててさ、背筋が凍ったくらいだったんだよ。

俺も美羽もこいつの牙と爪にやられて、死にそうになったんだよ。

最強の生物、神すらも殺す狼のはずなんだよ。

 

それが今、床に仰向けの状態で寝転がされて、口を開かれて、カリカリ歯石取りをされている。

 

俺のこの気持ちが分かるか?

悲しくてちょっと泣けてきたんですけど。

 

美羽も憐れみを含んだ目でフェンリルを見ていて、

 

「泣いても良いと思うよ。許されると思うから」

 

「………キュゥン」

 

フェンリルゥゥゥゥゥゥ!

そんな鼻をピスピスさせながら泣くなよぉぉぉぉぉぉぉ!

俺も涙が止まらなくなっちまったじゃねぇかよぉぉぉぉぉぉぉ!

 

悲しみの涙で目を濡らす二人と一匹を置いて、リーシャはニコニコ顔でフェンリルの牙を磨いていく。

 

「立派な牙ですね。ですが、やはり日々のケアは必要ですよ? ちゃんと毎日、歯磨きをしないとです」

 

なんて言いながらペットショップで買ってきたと思われる犬用の歯磨き粉を歯ブラシに着けてゴシゴシしている。

 

どうしよう………どうしたら良いんだろう。

俺はフェンリルに何をしてやれるんだろう。

ドライグ、伝説の存在同士だろ?

こういう時、どうすれば良いと思う?

 

『泣けば………いいんじゃないのか』

 

俺達はただ泣き続けることしか出来なかった。

 

 

 

 

「うふふ、フェンリルちゃんはとても大人しい子ですね。こんなに大人しい子は久し振りかもしれません」

 

フェンリルの歯磨きタイムが終わり寛ぐリーシャ。

紅茶を飲み優雅に決めているが、片方の手はフェンリルの毛並みを楽しむようにモフモフしている。

 

大人しいというより、全てを諦めただけじゃないだろうか。

リーシャのペースにされるがままだったもんな。

 

ここでキッチンから茶菓子を運んできたルフェイが会話に入ってくる。

 

「お疲れさまです。すいません、リーシャさん。私がしなければならないことをお任せしてしまって」

 

「いえいえ、私も好きでやってることですし」

 

あぁ、フェンリルが完全にただのペット扱いされてる………。

フェンリルもよく怒らないよね。

ルフェイとリーシャのように純粋な気持ちでやってくる人には怒れないんだろう。

これが黒歌や美猴なら絶対噛んでるよ。

 

リーシャがフェンリルの肉球を揉みながら言ってくる。

 

「これも私達のチームには必要なことなのですよ、イッセー」

 

「あー、例の件ね。一応、確認しておくけど、良かったんだよな、ルフェイ?」

 

俺が尋ねるとルフェイは頷いた。

 

「はい。ヴァーリ様も快く許可をくれましたし、私も問題ないと思います」

 

実はリーシャがフェンリルの歯を磨いたりしているのはちゃんとした理由がある。

それは俺達のチームに関わることだったりする。

だけど、必要以上にフェンリルをモフモフしているのは完全にリーシャの趣味だ。

 

リーシャがフェンリルの体に顔を埋めながら言う。

 

「ふぁぁぁ………この時間が至福ですぅ………。この毛並み、ちょうど良い大きさ。添い寝をしてくれたらどれだけ幸せなことか」

 

どうしよう、リーシャが何かに目覚めちまった。

俺達が帰ってきてからも、ずーっとモフモフしてるもの。

離す気配がないもの。

 

綺麗な女性が大型犬を撫でている光景って、すごく絵になると思うんだけど………これは何か違う。

そもそも神をも殺す伝説の狼はモフモフしていい存在じゃないと思うんだ。

 

などと思っていると、リビングにリアスが入ってきた。

 

「あら、イッセー。お帰りなさい………って、何このすごい光景」

 

目元をひきつらせるリアス。

それもそうだろう。

リーシャがフェンリルを転がして超モフってるんだから。

 

俺は苦笑しながら言う。

 

「ただいま。もう、これに関してはそっとしておいて。俺もツッコミ出来ないくらいだから」

 

「そ、そう。それより、イッセー。そろそろ大会のスケジュールが発表される時間よ」

 

「あっ、そんな時間か」

 

これから国際大会に関する冥界の特別番組が放送されるのだが、そこで当面のスケジュール―――――組み合わせが発表される。

俺のチームも昨日には数試合分の参加登録を済ませてある。

昨日に参加登録した各チーム分のスケジュールが、今夜一気に発表されるらしい。

 

時間になり、リビングに俺とリアス、それぞれのチームメンバーが集まった。

テレビでは番組が始まり、司会の人が番組を進行させていく。

そして、いよいよ組み合わせが発表されることになった。

画面には組み合わせ表が表示されており、『VS』表記を中心にして、左右のチーム名が出され、対戦カードが決まっていく。

 

徐々に発表される組み合わせ。

既に発表された中には俺達の次の試合、更にその次の試合が含まれていた。

 

アリスがおつまみをポリポリしながら言う。

 

「あ、このチームの試合は前に見たっけ?」

 

「そうですわね。油断しなければ大丈夫でしょう。心配なのは相手チームの棄権でしょうか」

 

レイヴェルがチラッとモーリスのおっさんに視線を向ける。

おっさんはというと、父さんと母さんが作ったタコわさを酒のあてにしていた。

 

「ま、それも作戦だろう。無理して消耗するよりは良い。親父殿、飲め飲め」

 

「モーリスさんこそ、空じゃないですか。ささ、どぞどぞ」

 

二人で酒を注ぎ合い、グビグビと飲んでいて………。

うん、仲良いな、二人とも!

別に良いことなんだけどさ!

 

出場メンバーなのに、我関せずなおっさんを放置して、俺は再びテレビに視線を戻す。

試合の組み合わせが進む中で、あるマッチングに注目が集まった。

会場のアナウンサーもその対戦カードに思わず大きな声をあげていた。

 

『おおーっと! ここでこれらのカードが決まるとは! 今回行われたマッチングでは、大注目の組み合わせになりそうです!』

 

映し出された二つの組み合わせ。

それは―――――

 

 

「紫金の獅子王」サイラオーグ・バアルチーム

        VS

「天帝の槍」曹操チーム

 

 

「異世界帰りの赤龍帝」兵藤一誠チーム

        VS

「天界の切り札」デュリオ・ジェズアルドチーム

 

 

このカードが発表され、テレビの向こう側に映る会場では怒号のような歓声が鳴り響いた。

 

ここでこの組み合わせが来るかよ。

俺とデュリオが戦うなんてな!

参加する以上はいつかはチーム『D×D』のメンバーと当たることになる、それは分かっていたが………。

 

モーリスのおっさんが言う。

 

「ほう、こいつは面白い。あの兄ちゃんが率いるチームか。イッセー、気合い入れとけよ? こいつらは今まで当たった連中とは一味も二味も違うぜ?」

 

「分かってるよ。デュリオとはガチのバトルになりそうだ。おっさんも油断すんなよ?」

 

「はっ、言うようになったじゃねぇか。だが、今までの対戦相手はどうにも本気じゃあなかったからな」

 

おっさんの言葉に木場が訊ねる。

 

「というと?」

 

「多くの神々が、神に匹敵する猛者が集まるこの大会だ、自分達が最後まで勝ち残れると本気で思っちゃいねぇ。運良く滑り込めたら良い、記念参加程度に考えている奴らがいたのさ。見たところ、この大会に出ている大半がその程度だろう」

 

おっさんはテレビに視線を移して続ける。

 

「たとえ神だろうが、魔王だろうが、最強のドラゴンだろうが倒してみせる。本選に駒を進め、最強の名を手にするのは自分達だと信じて進む。そんな気概で臨んでいるのは極僅かだろうよ。まぁ、この大会自体が祭りみたいなもんだし、俺達もそこを楽しんでいるところはある。だが―――――」

 

「そこには決定的な違いがある、ということね?」

 

リアスの言葉におっさんはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「そういうこった。さっきも言ったが、この大会のルール的にも、神との戦いを避けるのも本選に進むための一つの手だ。だが、裏を返せば通じるのは予選まで。本選に入ってからは間違いなく神との戦いになるんだよ。作戦は作戦、気持ちは気持ちだ。無理して強豪とやり合う必要もない。それでも、心は常に高く持っていた方が良い。今の段階でそんな消極的な心の在り方じゃぁ、どのみち本選には辿り着けまいよ」

 

おっさんはリアス達を見渡して言葉を続けた。

 

「自分の手で運命をねじ曲げようとする、そんな奴ら程に手強いものはない。おまえ達も経験あるだろう? そういう奴らには手は抜けねぇよ」

 

力が相手より劣っていても、それでも何とかして勝利を掴もうとする。

最後の最後まで抗おうとする人達には共通して、諦めの悪さ、信念や執念がある。

過去に戦った強敵は全員が何かしらの強い意思を持っていたもんだ。

そして、俺達の仲間もそうだ。

 

美羽が微笑みながら言ってくる。

 

「嬉しそうだね、お兄ちゃん」

 

「あ、分かる?」

 

「だって、すごく顔に出てるもん」

 

デュリオとの対戦が待ち遠しすぎて、バレバレだったらしい。

まぁ、事実そうなので否定はしない。

 

俺はレイヴェルに言う。

 

「後で作戦会議でも開くか」

 

「そうですわね。どんなに奇抜なチームでも、他のチームに研究され、対策を講じられれば封殺されます。恐らく、向こうもこちらを徹底的に研究してくるでしょう。こちらも対策を考えなければ」

 

すると、小猫ちゃんがボソリと呟いた。

 

「イッセー先輩達の場合は奇抜過ぎて研究し難いと思います」

 

リアスが苦笑しながら訊いてくる。

 

「もしかして、これまでのゲームって、自分達が研究されないように、わざとああいうことをしているのかしら?」

 

「「「「………」」」」

 

リアスの疑問に黙り込む俺達チーム一同。

俺は冷や汗を頬に伝わらせながら、口を開いた。

 

「そ、そそそそそそうだよぉー。バ、ババババババレちゃったかぁー」

 

しばらく乾いた笑いが続いた。

 

 

 

 

作戦会議が終了後、俺は一息つくべく自室に戻っていた。

しかし、部屋に入った途端、俺を急激な脱力感が襲う。

 

「あっ………やべ………」

 

視界がかすみ、頭がクラクラする。

倒れそうって程じゃないが、体が重く感じてしまう。

 

「大丈夫?」

 

不意に体を支えられた。

俺の体を抑えてくれたのは美羽だった。

美羽は心配そうな顔で俺を見上げてくる。

 

「問題ない………って、言っても無駄かな?」

 

「足元おぼつかない姿で言われてもね」

 

苦笑する俺に美羽は深く息を吐いた。

美羽にベッドへと連れて行ってもらった俺は、ベッドに座り込み、受け取った冷たいお茶を一気に飲み干した。

 

美羽が言う。

 

「ねぇ、やっぱり、試合のペースをもう少し落とした方が良いんじゃ………」

 

「かもな。でも、今でも結構落としてる方だしなぁ」

 

今、俺達のチームは出場するペースを参加した当初に比べると落としている。

その原因は俺だ。

 

今の俺は非常に疲れやすくなっている。

肉体的にも精神的にも。

激しい戦いを繰り広げた後、傷を治してもらったとしても、暫く重たい疲労感に悩まされ続けるんだ。

これに気づいたのは―――――チーム『雷光』とのゲームの後だ。

 

ドライグが言う。

 

『バラキエルとの一戦。あれは死闘にも近いものだった。あれだけの戦いをすれば、今の体では暫くの間、蓄積されたダメージを引きずることになる。肉体もそうだが、魂にもな』

 

籠った一撃は魂の奥深くに響くもの。

あの試合で受けた拳は、時間が経った今でも、この身に残っている。

小猫ちゃんや黒歌にも治療を続けてもらっているから、日に日にマシにはなっているけど………。

 

俺は息を吐くと、ベッドに仰向けに倒れた。

 

「参ったな………」

 

今回の大会において、本選に進むのに重要なのは勝ち星ではなくポイントだ。

そのため、無闇に連戦をする必要はない。

だが、ポイントを稼ぐにはある一定の試合回数が必要になってくる。

休んでいる間にも他のチームはポイントを稼いでいくからな。

それに―――――

 

「あんまり心配かけたくないんだよ。リアス達もそうだけど、俺との戦いを望んでいる奴らにもな」

 

極端に試合ペースを落とせば、当然、俺の状況に気づく者も出てくる。

ヴァーリ辺りは特にそうだろう。

これから戦うであろうライバル達に変な気を使わせたくないんだ。

 

「美羽、怒るの承知で頼むよ。このままやらせてくれ。もちろん、大会に出場する条件のことは守るし、命を使うような真似はしない。だから―――――」

 

「怒らないよ」

 

俺が言い切る前に美羽は即答した。

 

「それがお兄ちゃんの望みなら、ボクはそれを支える。というか、最近の試合じゃ、お兄ちゃんを前に立たせないようにしてるし」

 

「まぁ、そう言われるとそうか」

 

最近の試合じゃ、モーリスのおっさんやアリス、ボーヴァが前に出てくれているので、俺はレイヴェルと一緒に後衛で指示を出すことになっている。

試合をこなしながらも、俺の体力、気力を少しでも回復させるためだ。

………というか、今更ながら『王』がガンガン前に出るのも考えものだよね。

前にアザゼル先生がリアスに言ってたけど、俺も同じか。

 

美羽は俺の頭を撫でながら言う。

 

「ボク達はお兄ちゃんが望む最高の舞台を用意する。その時が来るまで我慢、だよ?」

 

まるで子供に聞かせるような言い方だが、俺のワガママに付き合って貰っている以上はしょうがないか。

 

「アハハ………主想いの眷属を持って俺は幸せ者だよ」

 




あとがきミニストーリー


イグニス「うぇぇぇぇん!」

イッセー「ど、どうした!? なんで泣いてるの!?」

イグニス「もっと出番がほーしーいー!」

イッセー「いや、おまえが出ると色々壊れるし………せめて、エクセリアになって出てきてくれない?」

アセム「うわぁぁぁぁん!」

イッセー「今度はおまえか!」

アセム「僕も出番がほーしーいー! もっとボーケーたーいー!」

イッセー「黙って寝てろ、このアホ神!」

リーシャ「フェンリルちゃんのモフモフがたまらないですぅ」

イッセー「フェンリルゥゥゥゥゥ!」



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3話 自分らしく

トランザム投稿開始!(活動報告参照)


悪魔の仕事に加え、大会の試合をこなす中で、駒王学園での日々も進んでいく。

教壇に立つのは、三年B組の担任―――――ロスヴァイセ先生だ。

 

「というわけで、球技大会が迫っています。クラス対抗戦は負けられませんよ!」

 

気合い満々のロセは進級した俺達のクラスの担任となっている。

クラスの同じ班になった松田と元浜がロセの姿を微笑ましく見ていた。

 

「ロスヴァイセちゃん、気合い入ってんな」

 

「初めてクラスを受け持った手前、負けるわけにはいかないんだろうよ」

 

などと言う松田と元浜。

 

そう、ロセにとってこのクラスは初めて受け持つクラスになる。

元々責任感が強いので気合いを入れているってのもあるだろうが、教師の仕事が心底楽しいのだろう。

生徒という立場で見ても、今のロセは楽しそうだ。

 

この三年B組だが、松田や元浜だけでなく、オカルト研究部のメンバーが揃っている。

つまり、去年のメンバーに木場がクラスメイトとして加わったんだ。

これは有事の際、すぐに集団で動けるようにと学園側―――――主にアザゼル先生やロセが手を回してくれたおかげだ。

グレモリーに縁のある三年を一ヶ所に集めたのだ。

ちなみに、C組には匙をはじめ、シトリー眷属が集まっている。

 

隣の席のいる美羽が言う。

 

「クラス対抗と部活対抗、どちらも負けられないね。新生オカ研としては特に」

 

俺の後ろの席に座る木場が頷く。

 

「そうだね。僕達の世代になって負けたなんてこと、卒業生に言えるわけないもんね」

 

木場が張り切り気味にそう言う。

 

こいつも今ではオカ研の副部長だ。

部長のアーシアを支え、部を引っ張る立場として、今回の球技大会に燃えているのだろう。

 

そんな木場を見て、俺はフッと軽く笑んだ。

 

「どうしたんだい?」

 

「いや、去年のことを思い出してな。前の球技大会の時はボーッとしていたろ?」

 

ちょうど一年前、木場は聖剣の事件で深刻になっていた。

木場はその生い立ちもあってか、球技大会なんてそっちのけだった。

まだ教会に属していたゼノヴィアやイリナに突っ掛かるわ、あげくの果てにはリアスのもとからはぐれようとするわで結構荒れてたよなぁ。

まぁ、そうなってしまうのも無理はなかったのだが………。

 

今思うと木場ってしっかりしているようで、色々危なっかしいところがあったよね。

あの時の木場はなんというか………手のかかる弟?

あっ、俺の方が年上か。

泣けるな。

 

俺の言葉に木場が赤面する。

 

「………それは言わないでよ、イッセー君。というか、なんで、そっちがダメージ受けてるの?」

 

「気にするな、木場。ちょっと根本的なところを思い出して泣いてるだけだから」

 

「いや、それっていつものことだよね?」

 

うるせーよ。

俺だって毎回毎回、同じことで泣きたくなんてないんだよ。

 

近くの席のゼノヴィアが済まなさそうに言う。

 

「私は生徒会チームで出るからな。申し訳ない」

 

ゼノヴィアはオカ研に所属したままだが、現生徒会長だ。

生徒会長が生徒会チームに参加しないわけにもいかないだろう。

そういうわけで、今回の球技大会でゼノヴィアは俺達のライバル的なポジションになるな。

 

イリナがサムズアップしながらゼノヴィアに言う。

 

「全然問題ないわ! ゼノヴィアなんて、私が倒しちゃうもの!」

 

「じゃあ、イリナだけは徹底的に倒すか」

 

「なんですと!」

 

火花を散らすゼノヴィアとイリナ。

エクスカリバーの事件でこの二人と出会ったが(イリナは子供の頃に遊んでた仲だけど)、まさかまさか、同じクラスになった上に、片方は生徒会長になるとはね。

あの頃は思いもしなかった。

 

美羽が微笑みながら言う。

 

「ライバルになった以上は全力でやらなきゃだね?」

 

「ああ、こちらも全力で倒させてもらうさ」

 

不敵な笑みを浮かべて返すゼノヴィア。

 

「……そうですね、負けられません」

 

ぼそりとアーシアがそう漏らす。

 

………なんだか、思い詰めてそうな顔だな。

そういや、最近、家でも学校でも物思いにふけることが多くなっているけど………。

 

桐生がアーシアのほっぺをむにゅむにゅさせながら訊く。

 

「アーシア、妙な迫力がついちゃってるけど、大丈夫?」

 

「ら、らいひょうふれす! う、うちょうれすから、負けられまひぇん!」

 

よし、とりあえず、今のアーシアの顔が超可愛かったので心のフォルダに仕舞っておこうか。

 

まぁ、しかしだ。

部長になってからはアーシアも色々と気負ってるみたいだ。

三年生になってからは特にで、最近じゃ、最後まで部室に残って作業するくらいだ。

その時は俺達もアーシアに付き合って、一緒に作業してるけど。

 

「いいですか、B組ファイトです! 目指せ優勝!」

 

『おー!』

 

アーシアについて考えている中、周囲では気合いの入ったロセと若干気の抜けたクラスメイト達が声をあげていた。

 

「うーん、若いなぁ」

 

「やめろ、また泣きたくなるだろうが」

 

アーシアやロセを見て、しみじみと呟くアリスに俺はただ涙した。

 

 

 

 

「あ、そっちでも影響出てたか」

 

一日の予定を終えて帰宅後、俺は最近のアーシアの様子について、リアスと話していた。

家や学校でも考え込んでいたアーシアのことだ、悪魔の仕事でも何かしら影響が出ているのではと思った俺はリアスにそちらの話を聞いてみたのだが案の定だった。

 

リアスは小さく息を吐くと、何枚かの用紙を手渡してくれた。

それはアーシアの仕事ぶりに関してのアンケートだった。

 

「この頃、アーシアへのお客様からの評価があまり良くないの。まぁ、内容は不満ではなくて心配の声なのだけど。アーシアが依頼を受注中に難しい表情で考え事をしていたり、無理な願いを聞き入れて失敗してしまったりで、普段のアーシアには考えられないような失敗もあるらしいの」

 

リアスの言葉を聞きながら、俺はアンケートに眼を通していく。

リアスの言うように、アンケートに記された内容は、どれもこれもアーシアを心配するものばかり。

中にはアーシアを気づかって、暫くは召喚を控えようとする人も見受けられる。

アーシアに依頼する人達の中には、アーシアに癒しを求める人も少なくない。

そのアーシアが今の調子ではこうなってしまうのも仕方がないだろう。

 

俺はリアスに訊ねた。

 

「このことはアーシアに?」

 

「いいえ、伝えていないわ。あの子のことだから、余計気にして、悪い方向に向かってしまうでしょうし」

 

確かに。

アーシアがこのことを知れば、悪い意味で気合いが一層入ったり、意気消沈してしまうだろうな。

 

家の生活でも、オカ研の活動中でもアーシアは妙に気合いを入れている。

今日、行った球技大会の部活対抗戦についての話し合いでも鬼気迫るものがあった。

「負けません!」「勝ちます!」と、アーシアらしからぬ力の入り方だった。

最近、オカ研の部長として、必要以上に力みすぎているように思える。

 

リアスが言う。

 

「部長としての振る舞い方、部活動の在り方を模索しているのでしょうけど………」

 

リアスの席を継ぐことに、自分自身にプレッシャーをかけてるってことか。

 

アーシアは責任感の強い子だ。

任された以上はやり遂げたいと思っているはずだ。

でも、いざ部長の席についてみるとどっと、不安が押し寄せてくるのだろう。

本当にこれで良いのか、リアスならもっと上手くやれるんじゃないのか………なんてことを考えてしまうんじゃないかな?

 

リアスが訊いてくる。

 

「もしかして、アーシアは私と自分を比較してしまっているんじゃないかしら?」

 

「そうだな。時々、そういう面が見られるよ。でも、自分でも何か違うって思っているみたいだった」

 

リアスは自分とは違うオカルト研究部の在り方、『リアス部長』ではなく『アーシア部長』が率いる部活にしてほしいと思っている。

そこはアーシアも理解しているのだろう。

そのためか、時々見せるリアスのような振舞いをしてしまった時は、ハッとなって、自分で抑えようとしている。

 

俺は小さく息を吐く。

 

「まぁ、こればかりはな。フォローは出来ても、最終的に気付くのはアーシアだ。自分らしいやり方なんて、早々見つけられるもんじゃないし、周囲から言われて身に付けるものでもないさ」

 

俺の言い方が気になったのか、リアスは不思議そうに訊ねてくる。

 

「あら、身に覚えがあるの?」

 

「まぁね。今だって自分らしくやれてるのか分からないくらいだ。それが合っているのか、間違っているのかなんて特にだ。そこは周りの評価を見てみないとな」

 

俺は背伸びをしながら言う。

 

「自分らしいやり方なんて、最初は誰も分からないよ。失敗して、学んでの繰り返し。その積み重ねが『自分らしいやり方』ってのを段々と構築していく。そんなもんじゃないかな?」

 

最初から出来るやつなんて、そうはいない。

何かしらの指標があり、それをこなしていく内に、段々と自分なりのやり方が見えてくるものだ。

 

リアスも身に覚えがあるのか頷いた。

 

「そうね。そうかもしれないわ」 

 

「アーシアも最初は分からないことだらけだ。だから、今は分かる範囲で自分なりのやり方を模索すれば良いと俺は思う。そうすれば、いつかは『リアス部長のオカルト研究部』が『アーシア部長のオカルト研究部』になるんじゃないかな? まぁ、この考え方が正しいのかってのも分からないけどね」

 

そう言って俺は苦笑する。

 

ただ、実際にアーシアに何かを伝えるのはちょっと難しい。

先に言ったように、下手にアドバイスをすると、余計に気合いが空回りしたり、意気消沈してしまうかもしれない。

以前、ロセにも人生相談っぽいことはしたけど、あれはただの受け売りだ。

それを伝えることも大切とは言うが、この場合には適していないだろうし。

 

うーむ………人の悩みを解決するのって難しいよなぁ。

俺にもっと人生経験があれば!

 

「心配しなくても、私達よりは人生経験あるわよ?」

 

「なんか、悲しくなる言葉を投げられたよ! しかも、心の声を読まれた!」

 

「いつものことじゃない」

 

確かにいつものことですね!

皆、ナチュラルに俺の思考を当ててくるもんな!

えぇい、相変わらず俺のプライバシーは皆無か!

 

リアスは微笑む。

 

「アーシアのこともあるけど、そろそろ寝ましょうか。ウフフ、久しぶりにイッセーを独占できる」

 

と言って、俺に抱きついてくるリアス!

スケスケのネグリジェを着たリアスが密着してくる!

 

「今日は『フリーの日』。少しズルい気がするけど、ここは一つ抜け駆けさせてもらうわ」

 

少し前から女性陣の中で俺と寝る順番を決めているようなのだが、寝ている間に一人、また一人と忍び込むためか、朝目覚めた時にはベッドの上が一杯になっていたりする。

というか、寝相の悪いメンバー(主にゼノヴィア&アリス)に蹴飛ばされて、床の上で目覚めたり、寝相の悪さに危うく天に召されかけたこともある。

 

いや、女の子と一緒に寝られるのは嬉しいし、そうやって向こうから来てくれるのは大歓迎だ。

だが、流石に身が持たない。

パワフル過ぎる女の子達と寝るのは結構、命懸けだ。

 

ちなみに、リアスが言った『フリーの日』は順番が決まっていない空いた日のこと。

この日には早い者勝ちと言わんばかりに俺の横を確保するべく、女性陣達の争奪戦(?)が行われる。

 

しかし、今回、リアスは俺と『王』としての大事な話があるということで、皆には二人きりにしてほしいと予めお願いして、部屋に誰も入らないようにしていたようだ。

間違いではないが、リアスのこの表情から察するに………八割くらいはこっちが目的のような気がする。

 

まぁ、そこまで想われていると思うと、たまらなく嬉しいし、ギュッとしたくなるんだけどね!

 

リアスの手が俺の寝巻きをそっと掴んだと思うと、顔を俺の胸に埋めてきた。

暫くそのままでいた後、リアスは俺を見上げて―――――

 

「イッセー………」

 

「………か」

 

 

 

可愛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 

 

 

俺は心の中で盛大に発狂した!

だって、そうだろう!

さっきまでは眷属であり、妹分でもあるアーシアを想う姉の顔をしていたのに、今は完全なる甘えモード!

久しぶりに二人きりになったからか!?

ちくしょう、胸の高鳴りがおさまらねぇ!

どうすればいい!

俺はこの可愛いお嫁さんをどうすればいい!

 

 

『ここはベッドの上。難しいことは考えなくていいの。―――――ギュッとしてあげなさい』

 

 

舞い降りる女神様からのアドバイス。

我らが女神様もこう仰っている。

ならば、俺は女神様に従うのみ。

 

俺だって、たまには仕事もバトルも、ボケもツッコミも忘れて、女の子とイチャイチャしたい。

俺もリアスも『王』で、眷属を従える立場。

でも、だからこそ、こういう時間が欲しいのだ。

 

リアスの背に手を回して、体をより密着させる。

すると、自分の鼓動に加えて、リアスの鼓動までもが聞こえてきた。

リアスは静かに顔を近づけてきて―――――

 

 

「これが噂に聞くマスターリアスの甘えモードか」

 

「ええ、このギャップがイッセー君にはドストライクだったのよ!」

 

「リアスお姉さま可愛いです!」

 

 

顔を覗かせてきたゼノヴィア、イリナ、アーシアの教会トリオ!

あまりに突然のことに俺とリアスは声を出せずにいた。

すると、俺の背中に極上に柔らかいものが押し当てられた!

 

「うふふ、リアスの企みなんてお見通しですわ」

 

朱乃がこれでもかとおっぱいを押し付けてきているぅ!

しかも、この感触………いつものことながら、ノーブラだ!

 

朱乃まで登場したことで、我に戻るリアス。

リアスは顔を真っ赤にして、

 

「もう! 皆のバカァァァァァァァ!」

 

 

 

凛としたリアスも良いけど、こういうリアスも良いと改めて思いました(まる) おっぱいドラゴン・兵藤一誠

 

     

 

~一方その頃、ブラコンシスコン妹~

 

 

 

美羽「作文んんんん!? ………なんで、ボクはこんなツッコミを………」

 

サラ「スー……スー……」

 

熟睡中の妹の横で何故かツッコミを入れる美羽だった。

 

 

 

~一方その頃、ブラコンシスコン妹 終~

 

 

 




~あとがきミニストーリー~


イグニス「エロの呼吸、参ノ型―――――乳乳舞い!」

イッセー「おまえ、またパクってきやがったな!?」

 


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4話 修行と課題

とある休日、俺はタンニーンのおっさんが治める領地を訪れていた。

その理由はというと………

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!」

 

空高く飛び上がり、気弾を放つ俺。

バスケットボール大の気弾は勢いよく、モーリスのおっさん目掛けて降っていくと―――――軽々と真っ二つにされた。

 

おっさんは木刀で肩をトントンと叩く。

 

「おらおら、そんなショボい攻撃じゃあ、ハエがとまるぞ!」

 

などと言って、目にも映らぬ速さで木刀を振るい、斬撃を飛ばしてくる!

ただの一振りによる一撃は阻むものを全て両断しながらこちらに迫ってくる!

俺は更に気弾を連続で放って迎撃するが、打ち消すどころか、勢いを弱めることすら出来なかった!

 

辛うじて避けることは出来た………が、当たったら確実にアウトだ。

 

「危ねぇな! 俺を殺す気か!?」  

 

俺の苦情におっさんは耳をほじりながら言う。

 

「あー? おまえが厳しめに修行つけてくれって頭下げてきたんだろうが。しかも、こんな山奥まで来てやったんだ。ありがたいと思って泣いて感謝しろ」

 

そう、俺がここに来ている訳とはつまり修行のためだ。

普段なら兵藤家地下のトレーニング室や、グレモリーの地下に作られた修行場を使うところだが、今は俺もリアスも別チームでレーティングゲームに参加している。

同じチーム『D×D』のメンバーとは言っても、今はライバル同士。

修行中を覗いてしまったりしてはお互いに良くないだろうとのことで、俺のチームは修行場所を変えることにした。

そのため、俺はタンニーンのおっさんにお願いして、誰も住んでいない領地の一角を修行場として借りることになったと言うわけだ。

 

リアスからはグレモリー領に別の修行場を設けることも提案されたんだけど、今回は断らせてもらった。

………以前、タンニーンのおっさんとティアに修行相手をしてもらった時、戦闘の衝撃が近くの町まで響いていたらしいしね。

 

うちのチーム専用の修行場についてはレイヴェルが手配してくれているようで、もう少ししたら、そちらを使えるようになるとか。

別荘も作ってくれるそうで、完成が待ち遠しいよ。

 

それはさておき………。

 

「もう既に泣いてるよ! 修行お願いしたの、ちょっと後悔してるよ! だって、修行じゃないもの、これ! 一方的な蹂躙だもの!」

 

更にレベルアップをするべく、おっさんに修行を頼んだものの、ただただボロボロにされている現在。

こちらの攻撃は全て断ち斬られ、向こうの攻撃は一撃一撃が死を覚悟されるレベル。

しかも、おっさんの得物は相変わらずリアスの木刀という理不尽。

 

本当になんなの、このチートおじさん。

なんでこんな強いの?

なんで日に日に強くなっていってるの?

もう意味分からないくらい強いんですけど。

 

アセムとの最終決戦前に木場達剣士三人組はこのチートおじさんに修行つけてもらったらしいけど、よく生き抜いたと思うよ。

世界の終わりが始まる前に自分が終わってしまいそうになるもの、これ。

そりゃ、あの三人も強くなるはずだわ。

今、木場とガチで戦ったら勝てるかどうか………。

 

おっさんが言う。

 

ちょっと(・・・・)後悔する程度か。じゃあ、まだまだやれるな。フッフッフッ、死ぬほど後悔させてやるぜ」

 

「その笑顔やめろ! 怖すぎるから! あんた、ゲームを見てる人から、その笑顔が怖いって言われてるの知ってるだろ!?」

 

「泣く子は更に泣き叫ぶ、チートおじさんとは俺のことでぃ」

 

「自覚あるんかい!」

 

質悪いな、このおっさん!

 

おっさんは木刀を軽く振るう。

 

「そら、お喋りする余裕があるなら、俺に参ったと言わせてみな」

 

このチートおじさんにそんなこと言わせた時には、俺もチートの仲間入りってか。

変革者や英龍化が使えたらいけるだろうど、今の俺じゃあ、かなりハードルが高そうだ。

でも―――――

 

「やってやろうじゃねぇか!」

 

地面を蹴って飛び出す俺。

 

チーム『雷光』とのゲームでバラキエルさんに誓った通りだ。

俺はもっと強くなる。

そして、大切な皆を………大好きな皆を―――――

 

「ぜぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!」

 

 

 

―――――数時間後。

 

 

 

「グスンッ………ねぇ、皆、僕を慰めて………」

 

修行場に作ってもらった山小屋で俺はぐったりしていた。

おっさんとの激しい修行の結果―――――ボコボコにされて終わりました。

あれから接近戦に持ち込んだり、遠距離からアグニ撃ったりしたけど、ぜーんぶ木刀で斬られました。

 

神層階まで行って、武神のもとで修行してきたのにこれか。

泣けるな。

というか、もう泣いてる。

 

「頑張ったね、お兄さん。今はゆっくりして、私にいーっぱい甘えてくれて良いんだよ?」

 

そう言って天使のような笑顔を見せてくれるニーナ。

俺はコクリと頷いて、ただただニーナの胸に顔を埋めた。

 

「あのね、あのおっさんチートなの。僕の攻撃、なにも効かないの。もうヤダ、帰りたい」

 

「よしよし。でも、諦めちゃダメだよ? お兄さんはやれば出来る子だもの。後ででも良いから、もう少し頑張ろっか。ニーナも応援してるから、ね?」

 

「うん………グスッ」

 

色々トラウマ刻まれた気がするけど、ニーナが見守ってれるなら頑張れる気がする。

また泣かされると思うけど、俺、頑張る。

あと、ニーナのおっぱいが柔らかくて、凄く良い匂いがして、元気出てきました。

 

そんな感じで俺がニーナに慰めてもらっていると、山小屋の扉が勢いよく開かれた。

振り向くと、そこには俺と同じくボロボロになったアリスが立っていて、

 

「うぇ………うぇぇぇぇぇぇぇん! ワルキュリアぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ワルキュリアに泣きつくアリス。

なるほど、アリスもおっさんにやられたらしい。

 

今日はニーナとワルキュリア以外のチームメンバーがローテーションでおっさんに修行をつけてもらっている。

これまでのゲームを経て、おっさんが全員の立ち回りや弱点を見直してくれているのだが………多分、というか確実にほぼ全員泣かされることになるだろう。

 

とりあえず、今はニーナに甘えよう。

辛い記憶をおっぱいで消し去るんだ!

 

その後、残りのメンバーも修行を終えて帰ってきたが、予想通り全員泣きながら帰ってきた。

なお、ボーヴァは白目をむいて気絶していた模様。

 

 

 

 

「一通り終わったところで、振り返りといこうか………って、なんだよ、その目は?」

 

前に立つおっさんに向けてジトーっとした視線を向ける俺達泣かされた組。

 

アリスが言う。

 

「モーリス、もう少し手加減しても良いんじゃない? あんた、これを木場君達にもしたのよね?」

 

「当然。本気で強くなりたきゃ死ぬ気でやれ。つーか、これでもそこそこに加減してるんだぞ? 今の俺が本気だしたら、こんなもんじゃ済まねぇ」

 

「イッセー。あんた、よくこのおっさんを眷属に出来たわね」

 

「俺も本当にそう思うよ………」

 

自分自身不思議だよ。

よくもまぁ、このチートおじさんを眷属に出来たなと。

 

レイヴェルが言う。

 

「イッセー様の場合、潜在能力が高いことも考えられますわね。変革者やその先の領域………龍神クラス以上の力を秘めていますから。まぁ、それを踏まえても、モーリス様の力は常軌を逸していますわ」

 

「なんだよ、レイヴェルまで。俺を化け物か何かと思ってるんじゃねぇだろうな?」

 

「実際、化け物じみた強さよ、あんたは」

 

「ハハハ………」

 

唇を尖らせるおっさんにため息混じりに返すアリスと苦笑する美羽。

 

「某、まだまだ未熟であることを思い知らされました………! 主の力になるため、精進せねば!」

 

ボーヴァは気合いを入れているが………。

凄いよ、この子。

おっさんとやり合って心を折られてないんだもの。

 

リーシャがボーヴァのおでこに絆創膏を貼りながら言う。

 

「モーリスが日に日に強くなっていってるのは、普段から隠れて修行しているからですよ。以前、グレモリー家が所有している島に釣りに行ったでしょう? モーリスは時々、あの島で鍛練しているのですよ」

 

マジでか!

おっさん、俺達に隠れてそんなことをしていたと!

つーか、あの島大丈夫!? 

環境破壊とかしてないよね!?

島を真っ二つにとかしてないよね!?

 

「俺、そろそろ時間とか斬れそうな気がする」

 

何言ってるの、このおっさん。

時間斬るってどういうこと?

 

そんなやり取りの後、おっさんは各自の課題を告げていく。

 

「イッセー。おまえは体の状態を気にするあまり、相手の裏をかこうとしているのが丸分かりだ。視線や呼吸、細かな体の動き、それにオーラの動きから読めちまう」

 

そう言われて思い当たる節がいくつかあった。

実力が格上の相手に対して真っ向から挑むのはリスクが高い………が、今の俺は必要以上に正面からの戦いを避けていた。

 

「フェイントにフェイントを重ねて相手の隙を作るのが悪いとは言わん。だが、今のままではおまえの長所を殺してしまっている。弱点を守るために長所を殺すのではなく、弱点を補い長所を活かす戦いをしろ」

 

「弱点を補い長所を活かす戦い、か……」

 

おっさんの言葉を復唱する俺。

確かに、それが出来ればベストではあるけど、いざやってみると難しいよね。

 

そんな俺の心を見透かしたようにおっさんが言ってきた。

 

「簡単だ。今の手札で出来ないのなら、手札を増やせば良い」

 

「手札を増やす? イクス・バースト・レイみたいな?」

 

「アホか。あんな撃ったら即ガス欠になる欠陥技をホイホイ増やしてどうする? そこに繋がるまでの手段を増やせってことだよ。おまえの基本スタイルは体術と剣術、加えて気弾撃ったり、後ろからの砲撃とか。砲撃を除けば、現在の手段は三つってところだ」

 

「あー………そうやって言われると少ないような」

 

しかし、おっさんは首を横に振る。

 

「いんや、実力的にもこれだけあれば事足りし、おまえは意外と機転が利く。むしろ、これだけ出来れば上出来だ。いや、上出来だったといった方が正しいな。今までは禁手をフルで使えたからこそ今の手段で神々相手でも生き残れた。だが、この先、今のままで神クラスやそれに準ずる猛者とやり合うことを考えると、手段は増やしておいた方がいい。俺からの課題は二つある。まず、一つ目は体術と剣術以外に近接戦で使える技を持て」

 

体術と剣術以外?

近接戦で他に出来ることがあるとすれば………槍とか?

 

おっさんはニッと笑む。

 

「残念ながら、おまえが考えている方向とは違う。イッセー、ワルキュリアから暗器を教えてもらえ」

 

「えっ!?」

 

俺が!?

暗殺術を身に付けろと!?

 

おっさんの発言には他の皆も驚いたようで、目を見開いていた。

美羽が言う。

 

「え、えっと、暗殺術ってこと? それってお兄ちゃんに合わないような………」

 

「違う違う。暗器と言っても色々ある。その中で自分に合う得物を見つけるのさ。拳や剣のような真正面からぶつかるものじゃなく、相手の虚を突ける意外なものをな。そいつを使って必殺の一撃までの道を増やすんだよ」

 

なるほど、そういうことか。

ワルキュリアが扱うものの中には隠し武器というか、身に付けていても違和感のない、武器と分からないものもある。

おっさんの言うように相手の虚を突くにはもってこいだ。

これを機に特訓してみるか。

 

俺が納得していると、おっさんは二つ目の課題内容を言った。

 

「続いて二つ目だが、こっちは神器の方だ」

 

「神器の?」

 

聞き返すとおっさんは頷いた。

 

「禁手の使用時間がかなり短くなっているのは、もう周りに知られてしまっていることだ。おまえが鎧を纏った瞬間に長期戦に持ち込まれたらアウト。ま、おまえもそこを分かっているからこそ、バラキエルとの戦いでは、ここぞという時に使っただろ?」

 

禁手を維持できる時間はマックスでも三分。

第二階層まで力を引き上げると一分程度だ。

この僅かな時間で決着をつけるとなると、使うタイミングを上手く合わせないとキツい。

 

おっさんは人差し指を立てて言う。

 

「使える力に制限があるのなら、効率良く使えるようにすればいい。鎧の各形態、それぞれの攻撃力、防御力、スピードといったパラメータを調節して、必要な時に必要な分の力を発揮できるようにしろ。それがおまえにやる課題だ」

 

各形態―――――第二階層『天武(ゼノン)』と『天撃(エクリプス)』、第三階層『天翼(アイオス)』はそれぞれの方面に特化しているとはいえ、攻守とスピードのバランスが良い形態であり、完成した力と言っても良い。

これをあえて崩して、より状況に応じた形態にさせる。

基礎能力を上げることを考えてきたけど………その発想はなかった。

 

「流石は『剣聖』。チートおじさんで無茶苦茶でドSで、マジで容赦なくて、結構スケベで、たまに仕事サボったりしるけど、ちゃんと見てるってことか」

 

「おいコラ。そういうことは思っていても口に出すんじゃねぇ。修行ついでにまた泣かしてやろうか?」

 

ソレダケハカンベンシテクダサイ。

 

 

 




~あとがきミニ~


サイラオーグ「兵藤一誠。俺の修行の成果を見てほしいのだ」

イッセー「修行の成果?」

サイラオーグ「ああ、いくぞ―――――なんでやねん!」

イッセー「いや、『なんでやねん!』ってあんたがなんでやねん!?」

サイラオーグ「最近、ツッコミの修行を始めてな」

イッセー「それ、結局ボケに走ってるだけですけど!?」




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5話 頑張るエルメンヒルデ!

やっと書けた………!


「なん、だと………!?」

 

目の前の事実に、俺はただただ驚愕するしかなかった。

 

その日、俺は用事があって、レイヴェルと冥界に行っていたんだ。

用事というのはおっぱいドラゴンのショーが近々開かれるので、あちらのスタッフとの打ち合わせなんだが………。

打ち合わせを済ませて、事務所に戻ってきた俺を迎えたもの。

それは―――――

 

「「「お帰りなさいませ、旦那様!」」」

 

出迎えてくれたのはアーシア、ゼノヴィア、イリナの教会トリオ。

疲れて帰ったところに、こうして元気よく「お帰り」を言ってもらえるのは嬉しい。

だが、この三人の行動がそのレベルで終わるわけがない。

  

―――――ケモミミに水着、だと………!?

 

アーシアはウサギ耳に、スクール水着。

ゼノヴィアはヒョウの耳に、布面積の少ない大胆なビキニ。

イリナは白い犬の耳に、ゼノヴィアと同じくビキニ。

イリナの水着はゼノヴィアほど大胆ではないが、十分過ぎるほどエッチな格好だ!

 

言葉を失う俺にゼノヴィアが勝ち誇ったかのようにフッと笑む。

 

「どうだ、イッセー。私達のケモミミ水着姿に言葉も出ないだろう?」

 

出ないよ!

テンション上がり過ぎて、逆に声が出ないよ!

声ってどうやって出すんだっけ!?

声ってなに!?

声ってどんな字!?

みたいになっちまっただろうがよぉぉぉぉぉぉ!

 

ああ、クソッ!

ほとんど紐みたいな水着だから、ゼノヴィアのおっぱいがブルンと全部見えてしまいそうだよ!

 

堂々と体を見せつけるようにするゼノヴィアとは対照的に、少し恥ずかしそうにするアーシアとイリナ。

 

「え、えっと、イッセーさんがお疲れのようでしたので………」

 

「こうすれば、ダーリンが元気になるって、イグニスさんが………」

 

イグニスゥゥゥゥゥゥゥ!

あんた、マジで最高か!

以前、アリスが裸エプロンで出迎えてくれた時といい、今回といい、いい仕事してくれるぜ、女神様!

 

 

~その頃のイグニスさん~

 

 

イグニス「えーと、ここをこうして、あそこをあーしてっと」

 

リアス「イ、イグニス? これはいったい………」

 

アリス「なんで、私達、裸にされて、上からリボンで巻かれているの………?」

 

イグニス「イッセー出迎えプランパート2よ☆」

 

ダブルスイッチ姫をリボンでデコレートする女神様だった。  

 

 

~その頃のイグニスさん~

 

 

後でお礼を言おう。

俺、今だけはイグニス教に入ってもいいかもしれない。

 

レイヴェルが冷や汗を流しながら後ずさる。

 

「そんな………帰ったら私がしようと思っていましたのに。先を越されるなんて………!」

 

マジですか、レイヴェルさん!?

君もケモミミ水着をしてくれる予定だったと!?

俺の心のケアもしようとしてくれるなんて、どこまで支えてくれるというのだ、このマネージャーは!

 

ゼノヴィアが言う。

 

「共にイッセーの女となった身。だが、イッセーがマスター・リアスのもとから独立してしまっている以上、レイヴェル達の方がイッセーと過ごす時間は長い。つまり―――――子作りする時間が多いということだ」

 

「いや、違うからね!? 俺達、結構真面目に仕事してるからね!?」

 

「『休憩室』と『ラブルーム』があるじゃないか」

 

「九重が家に住むようになってからは、使えてません!」

 

そもそも『休憩室』と『ラブルーム』も新造した地下に移動させた上に封印しました!

九重も事務所に遊びにくるんだもの!

「この部屋はなんなのじゃ?」なんて聞かれた時にはなんて答えたら良いかわからないもんね!

 

しかし、ゼノヴィアは「ほぅ」と何やら見透かしたように言ってくる。

 

「だが、倉庫で卑猥事をしているはずだが?」

 

「最近はして………おい、ちょっと待て。なぜにそれを知ってる………?」

 

確かに倉庫でそういうことをしたことはある。

相手はレイヴェルになるが………他のメンバーは知らないはずだ。

これに関しては俺とレイヴェルの二人だけの秘密………というか、誰にも言えねーよ。

となると………。

 

俺は隣にいるレイヴェルに視線を向けるが、レイヴェルは顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振った。

俺でもレイヴェルでもない。

まさか………!

 

ゼノヴィアがニヤリと笑む。

 

「やはりな。そんな気はしていたんだ」

 

「あっ、カマかけやがったな!?」

 

こいつ、戦闘の時は脳筋プレイが目立つのに、こういうところで頭を使ってきやがる!

それで良いのか、聖剣使い!

 

俺がゼノヴィアに抗議しようとすると、それよりも早くアーシアが食いついてきた!

 

「イッセーさん! お仕事の時にそんなことを!? お家ではダメなのですか!? わ、私もその………お家以外の方が良いのでしょうか!?」

 

お家でも良いんだよ、アーシアちゃん!

いや、まぁ、お家以外というのも良いと思うんだけどね!

ただ、例のドアノブで不意打ちだけはやめてね!

トイレの時は割とマジで困るからね!

 

イリナはというと、赤くなった頬を両手で隠すようにしながらボソボソと呟いていて、

 

「わ、私はその………ラブルーム使っちゃったし………あの、だから………」

 

「おいいいいいいい! 翼が点滅してるだろうが! 早く妄想を止めろぉ!」

 

「あわわわわわ! お、落ち着くのよ、私! 私はミカエル様のエースで、天界の戦士で………ダーリンのお嫁さん………」

 

「ちょぉぉぉぉぉぉ! 点滅スピード上がってるだろうが! なにトラマン!?」

 

「流石はイリナ。『性欲のエロ天使』と呼ばれるだけはある」

 

「呼ばれてないし! それ言ってるのゼノヴィアだけだもん! そうだよね、イッセー君!」

 

「………」

 

「え、なんで、目をそらすの!? 嘘でしょ!? アーシアさん、レイヴェルさん! ち、違うよね………?」

 

「「………」」

 

「どうして、二人とも目をそらすの!? 私、泣くよ!?」

 

涙目になるイリナ。

いや、うん、そこは今更なような気がしてるし、もう否定も何も出来ないと思うんだ。

無言を貫く俺、アーシア、レイヴェルに加えてうんうんと頷くゼノヴィアにイリナが本格的に泣きそうになった時だった。

 

「あ、あの………お茶を淹れたのですが」

 

俺達の光景に戸惑うエルメンヒルデがいた。

 

 

 

 

エルメンヒルデ・カルスタイン。

吸血鬼―――――カーミラ派の上級吸血鬼カルスタイン家のお嬢様。

そのお嬢様は今日、駒王学園の制服を着ている。

彼女は俺達と行動することになっており、そうなると同じ格好の方が都合が良いということで服装は合わせてもらっている。

人形のように整った顔立ちとスレンダーな肢体が馴染みの制服を着ているとギャップがあって新鮮だ。

 

彼女は先日、突然、兵藤家を訪ねてきたと思ったら、いきなり、チームに入れてくれと申し込んできた。

その申し込みには流石に驚いたよ。

事情について、実はまだ詳しく聞けていないが、どうやら、再興中の故郷を救うために俺達のもとを訪ねてきたようだ。

国際大会の優勝チームには世界を混乱に導くような願いではない限り、あらゆる願いを可能な限り叶えるとされている。

エルメンヒルデはそこに掛け、藁をもすがる気持ちで俺達のもとを訪れたのかもしれないが………。

 

まぁ、こちらとしてはそう簡単にメンバー入りさせるわけにはいかないんだけどね。     

その理由は二つ。

一つは大会が危険を承知としたものであること。

彼女はカーミラ派の吸血鬼のエージェントだ。

国から許可は得ているとのことだが、預かる以上、彼女を早々危険には晒せない。

二つ目は、メンバー入りしても、今の彼女では俺達のペースに着いてこられないということだ。

彼女がチームに入ったとして、肩を並べて戦えるかと問われると恐らくそれは無理だ。

メンバーの力量や癖、連携が分からない以上、今はまだ戦わせるわけにはいかない。

彼女のカバーをしながら戦えない訳でもないが、それで勝ち残れる程、この大会は甘くはないんだ。

 

というわけで、彼女には暫くの間は記録係としてメンバーの動きや性格を見てもらっている。

加えて、日々の修行にも参加してもらい、ある程度の実力をつけてもらうことにしており、彼女も進んで修行に励んでくれている………が、修行をつけるのはあの人なわけで―――――

 

「あ、あのさ、エルメンヒルデ、その………大丈夫か?」

 

「………あんなに泣いたのは久しぶりでした」

 

俺の問いに目元に薄く涙を浮かべるエルメンヒルデ。

 

俺達がいない間、彼女に修行をつけているのはモーリスのおっさんだ。

つまり、鬼教官によって彼女も俺達と同様に泣かされたのだった。

 

おっさん、もう少し加減してあげてよ………。

いや、これでもかなり手加減してるんだろうけどさ。

それをおっさんに言ったところ、

 

『肝心な時に泣かないように、日頃から泣くほど全力でやるんだろうが。そんな覚悟のないやつが勝てるわけねーだろ』

 

ド正論で返された。

 

だけど、エルメンヒルデも本気で勝ちたいんだろう。

泣かされてもおっさんに向かっていっているようで、そこはおっさんも認めているらしい。

まぁ、おっさんも相手の力量と限界を見極めてやってるからオーバーワークにはならないんだけどね。

実際、泣かされても体を壊すことにはなってないし。

………精神は壊れそうになるけど。

だって、あのおっさんの得物、相変わらず木刀だもの。

温泉街のお土産で魔力とか魔法とか斬ってくるんだものぉぉぉぉぉ!

 

ちなみに、エルメンヒルデは兵藤家にホームステイすることになっている。

厄介になる以上は何かしら手伝うと言って、彼女はお茶汲みや書類の整理などを手伝ってくれている。

まぁ、そのあたりは普段、ワルキュリアやニーナがやってくれているのだが、エルメンヒルデの気持ちを組んでか、幾らか仕事を任せているようだ。

 

また、彼女はギャスパーやヴァレリーのように日中平気なデイライトウォーカーではないため、日中、外出する際にはフードを深く被り、肌を露出しない格好をしている。 

無論、住む部屋も日差しの入らない地下となった。

 

日に当たっても映画みたいに即死するわけではなく、能力が著しく低下するだけらしいが、アザゼル先生に相談したら何か作ってくれるかな?

今度相談してみるか。

 

そんなエルメンヒルデがトレイにお茶を載せて皆に配っていく。

 

「ああ、ありがとう………って、ちょっと待ってちょっと待って!」

 

俺はエルメンヒルデの動きを見てつい声をあげてしまった。

エルメンヒルデはどうにもこの手のことが苦手らしく、今回もトレイをぷるぷる震わせながら忍び足で室内を巡っていく。

毎回こんな調子なんで、お茶を淹れてもらう度に肝が冷える。

生粋のお嬢様だからエルメンヒルデもお茶を配るなんてことはしたこともなく、トレイに乗ったお茶を配るのも一苦労している。

そのくせ気位の高さもあり、俺達の厚意を突っぱねることもあって………

 

「こ、これぐらい、た、大したこと、ありま………せんっ! わ、わわわわわわ!」

 

足がもつれて体勢を崩し、あわやトレイの上のお茶が全部飛んでいくという、お約束の展開!

だから、言ったじゃん!

 

しかし、その刹那―――――ゼノヴィアが何もない空間からエクスカリバーを瞬時に取り出した。

 

「ふんっ!」

 

聖剣を持って念じると投げ出されたトレイと湯呑茶碗がその場で一時停止させられたかのように宙で浮いたままとなる。

ゼノヴィアがエクスカリバーを動かすとそれに合わせて湯呑茶碗も宙を移動し、机の上に見事たどり着く。

 

その様子にイリナとアーシアが拍手を送った。

 

「今のって支配の力よね? 以前と比べると使えるようになってきたんじゃない?」

 

「私もあの地獄の特訓を受けた身だ。これくらいならね」

 

イリナの言葉にそう返すゼノヴィア。

 

ゼノヴィアは統合されたエクスカリバーの力―――――七つの特性を使いこなそうとしていた。

ただ、相性もあるようで、苦手な特性は習得が難しいようだったのだが………今くらいのことなら、咄嗟の対応でもなんとかなるようだな。

 

でも―――――

 

「ティーカップついでにエルメンヒルデも止めてほしかったかな………」

 

「え?」

 

俺の呟きに間の抜けた声を出すゼノヴィア。

 

ゼノヴィアは確かにティーカップの落下を防ぎ、惨事が起きるのを防いでくれた。

だが、支配の力で止めてもらえなかったエルメンヒルデはそのままスッ転んだのだ。

そして………

 

「………今日はクマさんじゃないんだ」

 

「な、ななななななんでこうなるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺の顔を座布団にするエルメンヒルデ。

彼女は転んだ勢いで俺に飛び付いてきたのだが、なぜか俺の顔の上に座るという現象が起きている。

エルメンヒルデの太ももは少しひんやりしているが、そこにあるのは女の子の柔らかさで、心地良い。

しかしだ………なぜにこんなことが起きる?

なにがどうなれば、エルメンヒルデのお尻が、ソファに座っていたはずの俺の顔にめり込むという現象が起きるわけ?

もう意味がわからないんですけど。

 

「ねぇ、ダーリン。ダーリンのそれってもう物理法則とか魔法すらも無視してそうなんだけど………そう思うのは私だけ?」

 

「大丈夫だ、イリナ。俺もそんな気はしてたんだ」

 

「あなた達、この状況でよく落ち着いて話ができますね!? これがこのチームに入るということなのですか!?」

 

吸血鬼のお嬢様の苦難は色々な意味で続きそうです。




~あとがきミニストーリー~

アセム「たとえ多くのシリアルをはらんでも存在し続ける! それが、生きることだと! そう言ったのは君のはずだ!」

イッセー「言ってませんけど!?」

アセム「トランザム!」

イッセー「おまえがやったらボケが3倍になるだけだろうが!」

 


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6話 顔合わせします!

お待たせしました!


「とりあえずはこんなもんか?」

 

「よっこいせ」と椅子に腰かけた俺はレイヴェルにそう尋ねた。

長いテーブル、テーブルの両サイドに並べられたいくつもの椅子。

その数は左右の列合わせて四十ほどある。

 

俺の問いかけにレイヴェルが答える。

 

「そうですわね。予定の人数よりも少し多めですが、準備しておいても問題ないでしょう。予定の時間までもう少し時間もありますし、少し休憩なさってください」

 

これから兵藤家にとある客がくることになっている。

その客とは次の対戦相手―――――デュリオ率いる『御使い』のチーム『天界の切り札』だ。

今回、彼らとは試合前の顔合わせということで、色々と話すことになっている。

まぁ、話すと言っても、簡単な挨拶程度だ。

お互いに面識のないメンバーもいることだし、改めて自己紹介をしたり、試合の意気込みを話したり、あとは適当に雑談しようということになっている。

 

家に来るということで、リアス達と一緒に挨拶をしようと思っていたのだが、あちらも試合が近いということで特訓中だ。

時間があれば、こちらにも顔を出すと言っていたので、後で来るかもしれないけどね。

 

俺はレイヴェルに言う。

 

「オッケー。しかし………やっぱ、家になるのね、集まるの」

 

俺の言葉にレイヴェルは苦笑する。

 

「仕方がありませんわ。いくら同盟関係にあると言っても、悪魔が教会の施設に集まるわけにもいきませんし」

 

悪魔、天使、堕天使は同盟関係にあり、トップの交流も深い。

これまでも色々と交流をしてきてはいるが、まだ抵抗を持つ人もいる。

チームメンバーのほぼ全員が悪魔で構成されている俺達が教会の施設にずかずか入り込む訳にもいかないだろう。

かと言って、その逆は………というとあちらが遠慮してしまうので、話し合った結果、『D×D』の集合場所になっている兵藤家ということになった。

 

部屋の扉がノックされ開かれると、美羽とニーナが入ってきた。

 

「お兄ちゃん、とりあえずお茶菓子持ってきたよ」

 

「おっ、サンキュー………って、エルメンヒルデ」

 

ニーナの後ろについて入室してきたエルメンヒルデ。

ティーカップを乗せたおぼんを運んでくれているのだが………。

 

「な、なんですか、そ、その目は………あわわわ」

 

メッチャプルプルしてる!

今にも転びそうなんですけど!

この間の惨劇が繰り返されそうで怖いんですけど!

 

美羽は苦笑する。

 

「これも練習だから、ね?」

 

「そうそう、私も昔はこういうの下手だったしね~」

 

「あれ? ニーナってそうだっけ?」

 

昔からニーナってそのあたり出来ていたような………。

俺の疑問に気づいたのか、美羽がニーナに尋ねた。

 

「ちなみに昔って何歳くらい?」

 

「え? 五歳くらいだけど?」

 

五歳の時は下手に入らないと思うぞ、ニーナ。

というか、五歳のニーナと比べられているエルメンヒルデが凄い苦い顔してるよ!

ま、まぁ、誰でも得意不得意はあるだろうし、そもそもやる必要もなかったんだ。

美羽の言う通りこれから出来るようになればいいだろう。

 

ニーナが言う。

 

「私の場合はワルキュリアお姉ちゃんに仕込まれたってのもあるんだけどね。姫だから、王族だからとか関係なく人として出来るようにって」

 

なるほどね。

流石はワルキュリア、最近はロリコンの症状が悪化の一途を辿るばかりだけど、やるときはやる優秀なメイドさんだ。

ちなみに、ワルキュリアは母さんと買い物中だ。

チームメンバーとして今回の顔合わせには出席する予定なので、時間には帰ってくるだろう。

 

と、ここでアリスが部屋に入ってきた。

 

「イッセー、デュリオさん達、もう少しでこっち来るんだって」

 

 

 

 

 

デュリオ達は兵藤家地下にある魔方陣でやって来た。

俺達は家に上がった彼らを顔合わせようにセッティングしたVIPルームに案内した。

長いテーブルの真ん中の席に座ると、あちらの『王』―――――デュリオが対面に座る。

俺の左隣には『女王』のアリスが、右隣にはレイヴェルが座った。

本来、『王』のサポートをするのは『女王』の役目と言われているが、アリスには『女王』としての経験が不足している。

レーティングゲームに関しても、俺を含めうちのチームメンバーはほとんど素人みたいなものだ。

そういう理由もあり、サポート役としてレイヴェルを俺の隣に座るように配置したんだ。

 

お互いのチームメンバーを紹介するということだが、あちらはフルメンバーというわけではない。

『王』であるデュリオに、四大セラフのAと代表的な選手のみ。

あと、一部のメンバーと『天界の切り札』チームの監督も来るとのことだが、少し遅れてくるようだ。

 

デュリオ達は俺達と違い、チームの監督を別枠で雇っていた。

ルール上、それは問題なく、プロのレーティングゲームでも監督を雇うこともあるらしい。

バアル戦でのアザゼル先生みたいな立ち位置だな。

 

ま、プロのほうでは監督は雇わず、『王』として自分で指揮することがほとんどみたいだけどね。

プロのプレイヤーには貴族が多く、プライドが高い人が殆どだ。

誰かに指示されたりするのが嫌だったりするのだろう。

それに加えて、監督をやろうと言う人が少ないのも理由の一つだろう。

悪魔の寿命は長く、肉体年齢もそう歳はとらないので、生涯現役を貫ける。

生涯現役なら、引退して監督業をやろうと思うプレイヤーも出てこないのだろう。

 

一方で今回の国際大会では、監督を採用するチームもちらほら出ている。

そのチームの一つが『天界の切り札』チーム。

彼らはとある有名なプレイヤーを監督に招き入れたんだ。

それもあるのか、彼らのチームも俺達と同様、連戦連勝を重ねている。

神クラスとはまだ相対していないようだが、神話に登場する魔物混成の強豪チーム、準神クラスの相手に彼らは完勝、余裕の勝利だった。

 

デュリオが言う。

 

「もう少し遅れるみたいだから、先に始めてだってさ」

 

「了解だ。じゃあ、全員集合ってわけじゃないけど、『天界の切り札』チームの皆さん、ようこそ、兵藤家へ。今回は互いの顔合わせと親睦を深めるために色々と話せたらと思います。まずは互いの自己紹介なんだけど、俺から―――――」

 

そう挨拶をしながら、俺はレイヴェルから顔合わせ前に言われたことを思い出す。

 

『今回の顔合わせは戦術的駆け引きをする場面もあるかもしれません。和やかな会合の水面下では相手チームとの情報戦が始まっていると思っても構いませんわ。なにせ、相手チームの監督は―――――』

 

『天界の切り札』チームの監督、その名と顔はまだまだ悪魔業界に疎い俺でも知っている。

というか、レーティングゲームに少しでも触れれば知ることになる人物だ。

レイヴェルが警戒するのも分かる。

 

まぁ、顔合わせでガチガチの緊張ムードでやるってのも違うだろうし、相手のメンバーにはデュリオを含めて知った顔もある。

そんな雰囲気でやる方が色々と勘ぐられるだろう。

レイヴェルの意見を頭の片隅に入れて、いつも通りにやる方が良いと思う。

 

俺の挨拶が終わると『女王』のアリスに移り、それから準に自己紹介を終えていく。

次は『天界の切り札』チームの番だ。

 

デュリオが言う。

 

「ここにいるのが『御使い』の主要な面子であり、うちのチームメンバーだよ、イッセーどん」

 

そうして転生天使側の紹介が始まる。

デュリオの紹介でまず最初に立ち上がったのは―――――

 

「はいはいはい! ミカエル様の『A』紫藤イリナです! イッセー君、よろしくね!」

 

「うん、いつも会ってるけどね」

 

そう、実はイリナもデュリオのチームメンバーだったりする。

いつも顔会わせてるどころか、一緒に住んでるから顔合わせも自己紹介も必要ないんだけど、一応、形式的にということで。

 

イリナの次は黒髪の長身男性だ。

髭を生やしており、神父の服を纏っているが、服の上からでも分かるガッシリした体格だ。

相当鍛え込んでいる。

彼が手の甲をこちらにむけるとAの文字が浮かび上がる。

 

「はじめまして、皆さん。私はディートヘルム・ヴァルトゼーミュラー。ラファエル様の『A』を任されております。以後、お見知りおきを」

 

ディートヘルム・ヴァルトゼーミュラー。

情報では神器持ちで、その能力は―――――回復。

そう、アーシアと同じように傷を癒すことができるんだ。

ただ、アーシアと決定的に違うのは彼の能力は信徒、つまり天界に準ずる者限定にしかその能力が使えないということだ。

そのため、神器システムに弊害を生まず、アーシアのように追放されるようなことはなかった。

 

次の転生天使は―――――

 

「俺はネロ! ネロ・ライモンディさ! ウリエル様の『A』だ! 趣味は困っている人達を救うこと! 特技は悪魔と吸血鬼をぶっ飛ばすことだぜ!」

 

と、元気よく名乗りをあげるハリネズミみたいな尖った金色の髪が特徴の少年神父。

 

俺達、とりあえず悪魔なんだけど………まぁ、素でこんな感じなんだろうな。

悪意も敵意も感じないし。

 

隣ではディートヘルムさんが片眉を吊り上げていた。

 

「ネロ、目の前の方々にそんな物言いでどうする?」

 

「ハハハハハ! 細かいことは言いっこなしだ、ディートヘルムの旦那! まぁ、悪いもの退治が得意ってことで一つよろしく頼むぜ!」

 

そう言うとネロは俺の方に視線を向けるとニッと笑んだ。

テンション高めの彼は懐から何やら取り出す。

それはヒーローものの覆面だった。

 

「これは『キャプテン・エンジェル』! どんな時でも絶対に引かないチビッ子達の味方さ! 俺のもう一つの姿だ! ぜひとも『乳龍帝おっぱいドラゴン』と対決して………いや、共演したいところだぜ!」

 

キャプテン・エンジェル。

試合の中継でも見たけど………天界も特撮、ヒーローものに手を出したらしい。

どうやら、おっぱいドラゴンを受けて、天界でも信徒達向けのヒーローがいてもいいだろうという話になったそうだが………。

 

なんか、これから先、あちこちでこういう特撮ものが作られるような気がしてきた。

冥界、天界ときて、次はギリシャとか北欧とか。

各勢力のトップ陣って、結構そういうの好きみたいだからあり得る話だ。

 

デュリオが言う。

 

「実はうちのところの子供たちに結構ウケてるんだよね」

 

「デュリオ! そこはもっと大きく言って良いんだぜ! 目指せ『おっぱいドラゴン』! 超えろ『おっぱいドラゴン』! てな感じでよろしくな、おっぱいドラゴン!」

 

「お、おう。よろしくな?」

 

うん、すんごくテンション高いな、この子。

俺、このエンジン全快の子についていけるかな?

 

元気な少年神父の次は黒いシスター服を着た美少女さん!

デュリオ達が来てからずっと気になってた子だ!

確か名前はミラナさんといって、ロシア出身だったはず!

灰色がかった青の瞳がとても綺麗だ。

 

自分の番になり、頬を赤く染め、恥ずかしがりながらシスターさんが言う。

 

「………わ、私はミラナ・シャタロヴァ………ガブリエル様の『A』をしております。いちおう、正教会でシストラをしています。よろしくです………」

 

ちくしょう、声まで可愛いじゃないか!

声といい、仕草といい、うちのアーシアちゃんに匹敵するポテンシャルを持っているということか!

 

しかも、ガブリエルさんのA。

Qのグリゼルダさんをはじめ、ガブリエルさんの『御使い』は全員が美女美少女揃いと聞く。

なんて素晴らしいんだ!

ぜひとも、全員とお知り合いになりたいよね!

 

そんな心の声が顔に出ていたのか、デュリオが俺に言ってくる。

 

「ちなみにミラナはとっても胸が大きいって、女性転生天使の間でも有名なんだよね」

 

「うんうん、多分、リアスさんくらいはあるんじゃないかな?」

 

などとイリナも追加情報をくれる!

 

リアス並だと!?

その情報を聞いて、俺の目が彼女の胸元に行かないわけがない!

体型を隠してしまうシスター服の上からでは計測できないが………。

俺は悔しさに拳を震わせた。

 

くそぅ、これが俺のスカウターの限界というのか!?

目の前に凄いおっぱいがあるというのに、それを透視することが出来ないのか!?

否!

俺はおっぱいドラゴンだ!

やるときはやる男なのだ!

目覚めろ、俺のドラゴニックパゥワァァァァァァァァ!

ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

持てる全てを両の眼に注ぎ、新たな力を開眼させようとする俺!

そんな俺に―――――

 

「いや、どんだけ目に力入れてるのよ!?」

 

「ぶべらっ!?」

 

炸裂するアリスパンチ!

拳が頬にめり込み俺を席から吹き飛ばした!

 

さ、流石はアリスさんだ………!

相変わらずの破壊力!

 

アリスはミラナさんの胸をチラッと見たあと、腕を組んで胸を隠すようにして、

 

「………イッセーのバカ」

 

「ご、ごめんなさい………」

 

どくどくと流れる鼻血を押さえる俺

 

しかし………可愛い。

やはりアリスのツンデレ気質は最高だと改めて実感した出来事だった。

 

俺達がそんなやり取りをしている横では、ミラナさんも恥ずかしがりながら胸を両手で隠しており、

 

「デュリオ、それはセクハラになりますよ?」

 

と、グリゼルダさんからツッコミを受けるデュリオだった。

 

 

 




ヴァルス「国語の問題です。『~のようだ』を使って文章を作りなさい」

ベル「………見ろ、人がゴミのようだ!」

ヴァルス「ベルたん、それ好きですね」


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7話 他人から言われると恥ずかしいことってあるよね

エヴァ見に行かなきゃ


両チームの自己紹介は進んでいった。

兵藤家に訪れた転生天使の紹介は全て終わったが、ジョーカーに四大セラフのA、それ以外の者も相当な実力者ばかりだ。

だが、この場で紹介されたのは一部のメンバーだけだったりする。

 

「他のメンバーも呼べばよかったのに。そのために席も揃えたんだぞ?」

 

俺がそう言うとデュリオが苦笑する。

 

「イッセーどんのお家がいくら広いと言っても、流石に大所帯でお邪魔するわけにはいかないからね。それに、他のチームメンバーも遠慮しちゃって」

 

デュリオが言うには『この面子に比べたら自分達は力不足だ』と今回の顔合わせを辞退したらしい。

 

「彼らも十分強いのよ?」

 

と、イリナもここにいない同僚達をフォローしていた。

 

転生天使に選ばれる者は元々、エクソシストとして名を馳せた猛者ばかりだ。

実力、素質をミカエルさんを初めとする天界のトップに選ばれたんだし、弱いはずがない。

事実、あの次元戦争でも転生天使達は活躍していたしな。

 

まぁ、折角の機会だったので、多くの転生天使と顔見知りになっておきたかったが………。

こうして、これだけのメンバーと一同に顔を合わせることもそうないだろうし。

レイヴェル的には存在が噂されている「もう一人の切り札」―――――エキストラ・ジョーカーの行方が気になって仕方がないようだ。

デュリオのチームには所属していないようだが………。

 

茶を啜りながら、モーリスのおっさんが言う。

 

「そいつらも謙虚だねぇ。ま、ここに並ぶメンバーと比べちゃあ、そういう感想になっちまうのかね? どいつもこいつもバカみたいに強い奴らばかりだしな」

 

 

――――――あんたが言うな、このチートおじさんが!

 

 

この時、おっさん以外の心は一つになったそうな。

 

だが、おっさんの言うこともまた事実でもある。

ここに集うメンバーなら、最上級悪魔とその眷属を含めて真っ向から倒せる戦力だ。

並の上級悪魔では歯が立たない、時代が時代なら冥界に攻め込むのかってレベルの顔ぶれなのだろう。

 

天使側の紹介が終わったところで、デュリオが言う。

 

「とまぁ、こんな感じかな。遅れてるメンバーが来るまでは歓談といくかい?」

 

「そうだな」

 

そこからはわりと穏やかな時間が続いた。

俺のチームはアリスをはじめとしてのほほんと過ごしている。

試合で戦う相手とはいえ、仲間であることには変わりないので、最初からピリピリしたムードを作る気はないんだ。

 

「ねぇねぇ、ミラナさんって何か好きな歌とかある?」

 

「あ、私は―――――」

 

美羽なんて初対面の相手にメチャクチャフレンドリーに話してるしね。

そんな感じで和気藹々と話が進んでいくなかで、ドアがノックされる。

 

「イッセー、遅れてきたっていうお客さんを連れてきたわよ?」

 

母さんがドア越しにそう言ってきた。

例の監督だろう。

ドアが開けられ、その人物達が顔を見せた―――――

 

「これは失礼。日本の地理には疎いものでね」

 

その人は最上級悪魔だった。

銀髪に正装という格好で、欧州の顔立ち、見た目も二十代後半と若い男性だった。

暗緑色の瞳からは底の知れ無さを感じさせる。

男性は薄く笑みを浮かべて、挨拶した。

 

「はじめまして、『異世界帰りの赤龍帝』チームの皆さん。私は『天界の切り札』チームの監督をしております―――――リュディガー・ローゼンクロイツという者です。今後ともよしなに」

 

リュディガー・ローゼンクロイツ。

人間からの転生悪魔にして、最上級悪魔の一人。

レーティングゲームでも活躍し、上位ランカー―――――7位をキープしている。

悪魔として、レーティングゲームのプレイヤーとしても超一流の人物。

そして、この人がデュリオ達のチーム監督だ。

この人とはバアル戦で審判役を勤めてもらって以来になるが………。

 

いやはや、まさかこういう形で再会するとはね。

彼がデュリオ達の監督をするという話を耳にしたときは流石に驚いたよ。

というか、冥界メディアでも大騒ぎしてたし。

 

俺は立ち上がり、挨拶をする。

 

「『異世界帰りの赤龍帝』チームの『王』、兵藤一誠です。こうして直接お話しできて光栄です」

 

「こちらこそ。バアル戦では見事な試合を見させてもらったよ。私としても良い刺激になった」

 

そう言って、俺達は互いに握手を交わす。

こうして面と向かってリュディガーさんに色々と感じるところはある。

………が、その前にもう一人の客人にも挨拶をしなければならない。

 

リュディガーさんと共に入室してきた祭服姿の老人。

二メートルはあろう背丈、太い首、分厚い豪腕。

 

「ようこそ、兵藤家へ―――――ストラーダ猊下」

 

そう、リュディガーさんと共に入室してきたのはヴァスコ・ストラーダ!

最強のデュランダル使いにして、モーリスのおっさんと共にトライヘキサを取り込んだアセムと真っ向からやり合った怪物!

 

俺はひきつりそうな顔を何とか抑えながら、デュリオに言う。

 

「遅れてくるメンバーって言ってたけどさぁ………これは先に言ってくれても良いんじゃねーの?」

 

「ハハハ、びっくりした?」

 

「するわ!」

 

一瞬、心臓止まりかけただろうが!

マジで!?

マジでなの!?

ストラーダの爺さん、デュリオのチームに入ってたの!?

俺、全然知らなかったんですけど!

 

見てみろ、うちのレイヴェルちゃんの顔!

目が点になってるだろうが!

あのレイヴェルですら、思考止まってるだろうが!

 

ストラーダの爺さんがにこやかに笑いながら俺に話しかけてくる。

 

「あの戦い以来だが、元気そうでなによりだ、赤龍帝ボーイ」

 

「さっき、また寿命が縮むかと思いましたけどね………?」

 

「フフフ、君なら死しても復活しそうな気もするがね」

 

ま、まぁ、身に覚えはありますけど。

 

デュリオの両隣に座っていたメンバーが立ち上がり、リュディガーさんとストラーダの爺さんに席を譲る。

俺も席に戻ると、盛大にため息を吐いた。

 

「いやいやいや、リュディガーさんが監督でストラーダの爺さんがメンバーって………鬼か!?」

 

「んにゃ、天使だよ?」

 

などと返してくるデュリオ。

 

ストラーダの爺さんが来たのは驚いたが、教会の大物で、デュリオ達の師でもある。

弟子達と大会に出場したとしてもなんらおかしな話でもない。

どちらかと言うと、組み合わせ的にリュディガーさんの方が意外すぎるだろう。

 

レイヴェルが言う。

 

「ストラーダ猊下はともかく、リュディガー様がそちらのチームの監督をすることになるとは………」

 

冥界メディアの意見をそのままのことをレイヴェルが口にする。

その通りで、冥界の悪魔にとって、あのリュディガー・ローゼンクロイツが選手としてではなく、監督として参加するとは―――――と、未だに大会の注目の的になっている。

 

これにリュディガーさんが軽く笑む。

 

「ふふふ、まぁ、偶然と言うか、不思議な巡り合わせでね。彼らと私のゴールが一致したため、今回の大会で手を組むことになった。まぁ、何はともかく、ひとつお手柔らかに頼むよ、兵藤一誠君」

 

「それはこちらの台詞ですよ」

 

微笑むリュディガーさんに俺も笑みを浮かべて返すが………。

この人と目を合わせているとどうにも内側を見透かされているような気がしてならない。

なにせ、この人の二つ名は―――――。

 

などと考えていると、モーリスのおっさんが茶菓子を摘まみながら言ってきた。

 

「よう、イッセー。二人に茶をだしてやれや。客人に何もなしってのは失礼なもんだぜ?」

 

「そうですわね。ケーキを焼いてありますので、それをお持ちしましょう。あと、お茶のおかわりも」

 

それに反応して美羽が立ち上がった。

 

「じゃあ、ボクが言ってくるよ。下からお茶とケーキを持ってくるね」

 

「ねぇね、私も行く」

 

「あ、私も手伝うわ!」

 

美羽とサラに続き、転生天使チームのイリナも一緒に下に行ってしまった。

 

リュディガーさんは俺達のチームの顔ぶれを一人ずつ確認していき―――――モーリスのおっさんと目を合わせた。

じっと、おっさんを見るリュディガーさんに、おっさんが言う。

 

「どした? 俺の顔に何かついてるかい?」

 

「失礼。いえ、聞いていた以上に自由な方のようだ。試合では楽しんでおられるようで」

 

「そりゃあ、祭りなんだ。楽しまなきゃ損だろう?」

 

「フフフ、それはそうだ」

 

飄々と返すおっさんにリュディガーさんは面白そうに笑みを浮かべた。

うちのチートおじさんと言葉を交わして、この人は何を思ったのだろう?

 

おっさんがストラーダの爺さんに視線を移す。

 

「まさか、あんたが出てくるとは………いや、こいつは当然と言うべきか?」

 

おっさんの言葉にストラーダの爺さんが言う。

 

「あの戦い、そして此度の大会で、血がたぎってきたのだ。一人の戦士として存分に力を振るえる。世界中の強者と、まだ見ぬ強者としのぎを削れる。フフフ、私にもまだまだこのような熱が残っていたらしい」

 

「ああ、この大会でたぎらなきゃ嘘だろう? 良いじゃねぇか。お互い良い歳だが、弟子と共に踊るのも楽しいもんだ」

 

「全くですな」

 

そう言って、笑いあう二人。

 

こ、この二人が試合でぶつかったらどうなるんだ………?

アセムと戦っていた時、ストラーダの爺さんは若返りの薬を使い、全盛期の姿となっていたが、異次元の強さだった。

『この世界、最強の剣士は誰か』と問われれば、間違いなくこの人の名が挙がるだろう。

そして、モーリスのおっさんもまたアスト・アーデ最強の剣士。

異なる世界の最強と最強………想像するだけで身震いしてしまう。

 

すると、ふいにリュディガーさんが俺に尋ねてきた。

 

「兵藤一誠君、体の調子はどうだろうか? まだ回復しきれていないと聞いているが」

 

こちらの心配をしてくれている………というよりは探られてるなこりゃ。

顔には出していないが、今の質問にレイヴェルが手をぎゅっと握っていた。

 

俺はティーカップに口をつけた後、その問いに答えた。

 

「ぼちぼちってところです。情報もある程度出回っていると思うんで、正直に言いますが、禁手も長時間使えなくなってます」

 

「そうか。君にはこの世界を救ってもらった。感謝してもしきれないだろうが、君の回復を願っている」

 

「ありがとうございます」

 

流したつもりではあるが、今のやりとりで何を感じ、何を思ったのか気になるところだな。

 

美羽とサラ、イリナが戻り、全員にお茶のおかわりとリュディガーさんとストラーダの爺さんにケーキを配る。

三人が戻り、改めて全員が揃うとリュディガーさんは美羽とサラに話しかけた。

 

「確か、二人は兵藤一誠君の義理の妹さんだったね。美羽さんが彼と仲睦まじいことはよく耳にするが、やはりサラさんもお兄さんとはが良いのかな?」

 

「サラもお兄ちゃんと仲良しですよ。ね、サラちゃん」

 

美羽の言葉にコクリと頷くサラ。

二人の反応にリュディガーさんも微笑みを浮かべた。

 

「それは何より。ところで、サラさんは高校にご入学されたとのことだが、学校にはもう慣れたのかな? クラスには馴染めそうだろうか」

 

「ああ………いえ、最近は友人も増えました。にぃ………兄と姉、それからルフェイのおかげです」

 

サラの返答にリュディガーさんは頷いた。

 

「そうか。学校という場は学問を学ぶことも大事だが、友人を作ることも大切だ。特に今という時は一度過ぎれば戻っては来ないからね。これまで学べなかったことを今の学校で学んでほしい。といっても、無理は禁物だがね」

 

これまで学べなかったこと、か………。

よく調べているな。

今の口ぶり、サラの過去を調べたということか?

しかも、学園でのサラの様子も知っている………?

 

「………」

 

ふとおっさんの方を見ると、横目でリュディガーさんを見ながら茶菓子をつまんでいた。

リュディガーさんの言葉、挙動に何かを感じているようだが、特に口を出す様子はない。

リーシャも同様だ。

 

アリスが言う。

 

「サラちゃんのこと、よく調べているみたいね。その様子だと私のこともかなり詳しそうね」

 

アリスの問いにリュディガーさんは朗らかな笑みで返す。          

 

「ええ、それなりに。アリスさんは料理が上達してきたらしいが、今でも兵藤一誠君とお弁当を作ったりしているのかな?」

 

そんなことまで知ってるの、この人!?

いや、確かにアリスの料理も上達してきたし、朝から弁当を一緒に作ったりしてるけど!

俺達のプライベート丸裸にされてない!?

 

冥界のメディアとかに情報流してないよね!?

『激写! おっぱいドラゴンのプライベート映像!』みたいなことになりませんよね、リュディガーさん!?

 

流石のアリスも今のカウンターは予想外だったらしく、顔を赤くしてしまっていた。

 

「わ、私は別に、その………ま、まぁ、料理は前よりも上手になってきたけど………」

 

可愛い反応を見せるアリスにリュディガーさんが追い討ちをかけにくる。

 

「アリスさんは陰で努力するタイプなのだろう。将来、良い奥方になりそうだ。兵藤一誠君と君ならば、楽しいご家庭を築けるだろうね」

 

「「はぅあっ!?」」

 

俺の方にも飛んできたよ!

 

なんか、メッッッッチャ恥ずかしい!

アリスは俺のお嫁さんだし、イチャイチャしたりしてるけど、こういう風に予想外の人から言われると顔が熱くなって仕方がない!

 

どうしよう、リュディガーさんの顔が見れねぇ!

だって、すっごく良い笑顔なんだもの!

 

「ハハハハハ! 随分、ピュアな反応するじゃねぇの、お二人さんよ。普段からあんだけイチャコラしといて今更かよ?」

 

うるさいよ、おっさん!

チートおじさんは黙って茶でも啜ってろい!

あんたまで茶化しにくるんじゃないよ!

 

リュディガーさんがおっさんに問いかける。

 

「お二人は長い付き合いのようだが、昔からこういう雰囲気なのかな?」

 

「そうだな………いや、アリスが素直になった分、前よりイチャイチャしているさ。昔、寝ているイッセーにアリスがキス―――――」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ! モーリス、あんた何言っちゃってくれてんの!? つーか、なんでそのこと知ってるのよ!?」

 

「ちょっと待って! 昔、アリスが寝てる俺に何しようとしたって!? そこ詳しく! もっと詳しく!」

 

「あんたは黙ってて!」

 

「ぶべらっ!?」

 

その後、顔合わせそっちのけでギャーギャーと騒ぐ俺達に、デュリオだけでなくリュディガーさんまで爆笑していたのはまた別の話だったりする。

 

 

 




~あとがきミニ~

イグニス「イキなさい、イッセー! 誰かのためじゃない、あなた自身の願いのために!」

イッセー「言う人が違うだけで卑猥に聞こえるんですけど!?」

イグニス「敏感なイグニスお姉さんだゾ☆」

イッセー「頭に『流行に』をつけてくれる!? 意味変わってくるから!」



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8話 最強への挑戦

顔合わせが終わり、デュリオ達を玄関で見送った時のことだった。

 

「今日はありがとうございました。デュリオも今日は楽しかったよ」

 

「俺もだよ、イッセーどん。相変わらずイッセーどんの周りは賑やかだったよね。うちの監督見て緊張するかと思ったら夫婦漫才始めたもんねぇ」

 

「アハハ………」

 

苦笑する俺と、微笑む『天界の切り札』メンバー。

俺とアリスのやり取りは回りから見ると夫婦漫才に見えるのね………。

いや、否定はしないけどね?

俺の発言にアリスパンチが飛んでくるのはいつものことだもの。

 

「だ、だって、イッセーがあんなこと言ってくるんだもん」

 

顔を赤くしてそっぽ向くアリス。

その顔はズルいよ、アリスさん。

後でギュッてして良い?

良いよね?

可愛いお嫁さんをギュッてするのは夫としての権利であり義務だよね?

 

リュディガーさんが言う。

 

「フフフ、こちらもすっかり毒を抜かれた気分だよ。これが赤龍帝………兵藤一誠と戦うということなのかな?」

 

「以前にも似たようなこと言われましたよ………」

 

バアルとのレーティングゲームの前に行われた記者会見の時もサイラオーグさんに言われたっけなぁ。

俺のレーティングゲームって、こんなんばっか………。

ま、まぁ、俺達が原因だから何も言えないんだけどね。

 

リュディガーさんが言う。

 

「次に会うときはゲーム当日になるだろう。と言っても私は監督なので、実際に相対するわけではないが。それでも全力でやらせてもらうよ。では、これで失礼する」

 

そう言ったリュディガーさんに続き、メンバーも挨拶と共に家を出ていく。

最後に残ったデュリオも彼らに続き、この場を後にしようとする。

すると、デュリオは玄関を出る直前に立ち止まり、こちらを振り返った。

そして、真っ直ぐに俺の目を見てきた。

 

「どうしたんだ?」

 

怪訝に思った俺は首を傾げた。

デュリオは少し沈黙を続けた後、口を開いた。

 

「イッセーどん、俺はこの大会で優勝するよ。そこには俺の願いでもあり、チームの、監督の願いでもある」

 

「………ああ」

 

大会で優勝すれば、世界に混乱をもたらすような願いでない限り、叶えられるとされている。

大会に出場する以上、大なり小なり何かしらの願いはあるだろう。

デュリオにも優勝してでも叶えたい願いがあるのだろう。

 

「次のゲーム、絶対勝つよ」

 

俺は不敵な笑みを浮かべた。

 

「俺が勝つさ。絶対に負けねぇよ」

 

デュリオ達が帰った後、俺達は先程の顔合わせについての意見を交換しあうことにした。

レイヴェルは冷や汗を流して言う。

 

「噂通りの恐ろしい方ですわ、リュディガー様は。ゲームの前に相手の情報を調べあげるのは当然のことです。ですが、あちらは私達の普段の生活、その隅々まで把握しているようでした」

 

リュディガーさんはアリスやサラの日常、何気ないところまで知っているようだった。

こちらの癖や弱点も既に把握しきっているとすれば、次のゲームではそこを突いてくるかもしれないな。

 

レイヴェルが鋭い顔つきで言う。

 

「もう戦いは始まってますわ。あの方がここに来られたのは最終確認です。こちらの顔、態度、生活、空気、雰囲気をご自身で見に来られたのでしょうね」

 

「怖い話だな」

 

「上位ランカーたる七位まで上がったのがあの方です。リュディガー・ローゼンクロイツ様は相手の精神まで摘み取り、ゲームを詰ませると言われてますわ。あの方にゲームで心を砕かれた元七十二柱の上級悪魔は数知れません」

 

弱点を作られるなんて話も聞いたことがある。

過去に完璧に近い運用をしていたチームが、とある選手の抱えていた精神的な脆さを相手チームに巧みに突かれて、チームバランスが崩壊した……なんてこともあったらしい。

 

俺やここにいるメンバーは経験豊富と言って良いだろうが、相手が相手だ。

顔合わせじゃ、自分でも気づかない弱点を見つけられたなんてこともあるかもしれないな。

 

加えて、あのストラーダの爺さんも向こうのチームにはいる。

こりゃあ一筋縄ではいかないだろうな。

 

次のゲーム、どう立ち回るか思考を巡らせているとモーリスのおっさんが顎に手を当てながらじっと俺を見てきた。

 

「おっさん? どうしたんだよ?」

 

「……強敵、か」

 

「「え?」」

 

おっさんの言葉に聞き返す俺とレイヴェル。

 

「確かにあのリュディガーもストラーダの爺さんも油断ならねぇ相手だ。だがよ、イッセー。おまえにとって真の強敵になり得るのは別にいるんじゃねぇか?」

 

「デュリオのことだろ? もちろん、デュリオも凄い奴だし油断できる相手じゃないのは分かってるよ」

 

つーか、あのデュリオ相手に油断できる訳がない。

間違いなく強敵の一人だ。

 

俺の言葉におっさんはやれやれとため息を吐く。

 

「合ってることには合ってるがそうじゃねーんだよ。……おまえ、もうちょい自分の立ち位置を考えた方が良いぜ?」

 

「それってどういう……?」

 

首を傾げる俺の頭に手を置いておっさんは言う。

 

「そこは自分で考えな。俺の口から言っても意味がねぇ」

 

その言葉に俺達は怪訝に首を傾げるだけだった。

俺の立ち位置ってどういうことだ……?

 

 

 

 

 

明くる日、俺は隣県にある船着き場に来ていた。

そこの堤防にてリフレッシュのため釣りをしている。

釣りには一人で来たわけではなく、二人ほど誘っていた。

 

「まさかキミから誘われるとはね」

 

隣でそんな風に言いながら釣糸を垂らすのは―――――ヴァーリだ。

こいつが一人目だ。

 

「なんとなくな。木場達は試合が近いから呼べないしなーっと」

 

リールを巻きながら俺はそう返した。

こいつとは大会前にも一度、こうして釣糸を垂らした仲だしな。

思い付きではあるけど誘ってみたんだ。

 

というわけで、一人目はヴァーリ。

そして、もう一人はというと―――――。

 

「だからって、このメンツはないだろ……。二天龍に俺って……」

 

更に隣で竿を握るのは匙だ。

ちょうど、俺の家に用事があって来たところを捕まえて強制的に俺のリフレッシュに付き合ってもらうことにしたんだ。

どうやら、同伴しているヴァーリのことが気になって仕方ないようで、少し落ち着かない感じだった。

 

「そういや、このメンツで集まるのは初めてか。というか、匙ってヴァーリのこと苦手なのか?」

 

俺が訊くと、匙はジト目でヴァーリに視線を送り、

 

「苦手というか何というか……まともに話したこともないしな」

 

確かに匙とヴァーリが話してるところって見たことないかも。

 

ヴァーリが一匹釣り上げてから言う。

 

「五大龍王なのだから気後れする必要もないだろう、匙元士郎?」

 

「俺の名前、知ってたのね」

 

「とりあえずはね」

 

「とりあえずは、ね……」

 

俺を挟んでの二人の会話は独特の壁があるな。

せっかく、一緒に釣りに来たんだし、これを期に仲良くしてもらいたいものだ。

 

俺は餌を釣り針に刺しながら言う。

 

「家に来たとき、モーリスのおっさんのこと聞いてきたけどさ。おっさんに何か用事があったのか?」

 

家の前で会ったとき、匙はモーリスのおっさんはいるかと聞いてきたんだ。

おっさんはアザゼル先生のところに行っていたので、今日は留守だったんだけど。

 

俺が訊くと、匙は言いにくそうにしながら、髪をかいた。

 

「あー………実はさ、俺、あのおっさんに修行つけてもらってたんだわ、個人的に」

 

「マジでか!?」

 

匙、モーリスのおっさんに鍛えてもらっていたのかよ!?

俺、そんな話なんにも聞いてないんだけど!?

 

「いつから?」

 

「前にシトリー眷属がしごかれただろ? 全員グロッキーになったやつ」

 

「皆、生まれたての小鹿みたいになってたやつか」

 

「そうそう。あの後、頼み込んで、ずっとマンツーマンで鍛えてもらってたんだよ。ちなみにソーナさんも知らない」

 

ソーナも知らないって………まぁ、ソーナのことだから、聞かないだけで何となく察してそうな気がするけど。

 

おっさんがこっちの世界に来てからは、チーム『D×D』のメンバーか集まって修行を見てもらうことがあった。

だけど、大会が始まってからは集まる機会もなくなったので、メンバーが修行をつけてもらう機会もなくなったんだ。

そんな状態なので、匙がおっさんと修行していると聞いて驚いたよ。

というか………。

 

「おまえ、よく生きてこれたな」

 

「………修行頼み込んだの、何度も後悔した」

 

薄く涙を浮かべる匙。

きっと、何度も泣かされたんだろう。

 

だが、今の話を聞いて納得した。

大会中、シトリー眷属の試合動画は何度も見た。

その中で匙の動きは以前よりも数段、レベルアップしていたんだ。

あのチートおじさんにずっと鍛えてもらっていたのなら、そりゃ強くなるわな。

 

「凄いな、おまえ」

 

俺が呟くと、匙は首を横に振った。

 

「そんな大したものじゃないって。ただ、目標に届きたかっただけだ」

 

「目標って大会で優勝することか? それにしては随分、早い段階から………」

 

匙の話では修行を始めたのは大会開始宣言の前だ。

優勝を目標に修行を始めたと考えるのは違うか。

それじゃあ、匙の目標って………。

 

その時、俺はある解答に辿り着いた。

 

「そうか! セラフォルーさんに勝つためか! そういや、ソーナと付き合うってなった時、自分より強くないとダメとか言ってたもんな!」

 

「違ぇよ!? いや、それもあるけどよ! つーか、それあの戦いの時じゃねーか! どのみち、時期が違うし!」

 

「あ、そっか」

 

セラフォルーさんにバレたの、アセムとの戦いの時だっけか。

じゃあ、違うな。

 

すると、ヴァーリがフッと笑んだ。

 

「―――――兵藤一誠を超えるため、だろう?」

 

ヴァーリの言葉に俺は匙と顔を見合わせた。

 

「ったく、白龍皇に言われるなんてな」

 

匙はそう呟くと、深く息を吐いた。

 

「兵藤、おまえは悪魔の同期で同じ『兵士』。それなのに、おまえってばメチャクチャ強くてよ。転生したてなのに上級悪魔は倒すし、あのコカビエルも倒した。だから、思ってたよ。なんで、こんなに差があるんだってな」

 

でも、と匙は続ける。

 

「おまえの過去を知ったとき分かったんだよ。おまえが戦う理由、強くなった理由も。それを知った時、俺の中でおまえは目標になったんだ。おまえみたいに強くなりたい、おまえみたいに誰かを守れるくらいにって」

 

そんなのことを考えていたのか………。

大会開催の際にも木場にも言われたっけ。

 

俺は木場や匙にとって、ライバルであり、目標―――――超えたい人間ってことか。

 

ヴァーリが言う。

 

「先日、この先のマッチングが決まったんだったな。シトリー眷属と兵藤一誠達がぶつかることになるとはね。匙元士郎、君にとっては願ったり叶ったりと言ったところなんじゃないか?」

 

そう、俺達のチームとシトリーチームは後日ぶつかることになる。

試合はデュリオのチームとの対戦の後だ。

こうも連続で身内と当たるとはね。

 

「本当はもっと雰囲気作ってから言おうと思ってたんだけど………もう、こうなったら言ってやる!」

 

匙は俺と向き合うと、真っ直ぐに言ってきた。

 

「兵藤! 今度の試合、俺は絶対に勝つからな! おまえのチームがどんだけチート揃いでも、俺は、俺達は負けねぇ!」

 

いや、チートなの、おっさんだけなんだけど………。

まぁ、そこは良いか。

 

匙の宣戦布告に俺は内側が熱くなるのを感じた。

こんな風に宣言されて、燃えないわけがない。

俺も匙と全力のバトルをしたい。

 

匙の宣言に俺は応えなきゃいけない。

でも、その前に知りたいことがあった。

 

俺は水平線の向こうを見つめながら口を開いた。

 

「なぁ、匙。それからヴァーリにも訊きたいことがあるんだ。………二人にとって、俺はどういう存在なんだ?」

 

俺の問いにヴァーリが訊いてくる。

 

「質問の意図がよく分からないな」

 

「この間、モーリスのおっさんから言われたんだよ。自分の立ち位置を考えろって。俺は、おまえ達をライバルだと、負けられない相手だと思ってる。そして、おまえ達もそう思ってくれているんだとも。でも、なぜかそれだけじゃない気がして………」

 

おっさんの言葉がずっと引っ掛かっていた。

匙の宣言を聞いて、それは確かなものに変わった。

俺は皆にとって―――――。

 

俺の言葉にヴァーリと匙は笑った。

 

「フフフ、今更、訊いてくるなんてね。そんなもの、決まっているだろう? なぁ、匙元士郎?」

 

「ああ。多分、この大会でおまえと当たる奴等は皆思ってるよ。兵藤、おまえは俺達にとって―――――」

 

匙とヴァーリは言葉を揃えて一言。

 

「「―――――最強」」

 

二人は静かにそう告げた。

 

ヴァーリは言う。

 

「大会の前にも言ったな。君が万全の状態でなくとも、俺達の認識は変わらない。あの戦いで誰もが魅せられたはずだ。確かに、今の君では全盛期のオーフィスや赤龍神帝グレートレッドには遠く及ばないのだろう。だが、君の力は単純な力量だけでは測れない」

 

「どんな奴が相手でも勝つ。不可能を可能にしてきた最強の勇者様。それがおまえだろ、兵藤。そんなおまえを超えたいんだよ、俺達は。兵藤一誠を―――――最強をな」

 

………最強、か。

ライバルに挑む、目標に挑む。

それも強い覚悟が必要だ。

だけど、最強に挑むとなると、また別の熱が入るのだろう。

 

ライバルであり、目標であり、最強。

それが俺に対する皆の認識。

なら、俺は―――――。

 

「来いよ。俺は絶対に負けねーぞ?」

 

不敵に言う俺。

 

「いや、俺が勝つね」

 

「じゃあ、俺は二人に勝つな」

 

匙、ヴァーリとそう続き、それから俺達はひとしきり笑った―――――。

 

 

 

 

 

「ところで、最近、ソーナとはどうなんだ?」

 

「レヴィアタン様に勝つまでは手も繋げねぇ………」

 

「色々頑張れ」

 

「おっと、また一匹……どうした、青い顔をしているぞ、匙元士郎?」

 

 




イグニス「我が敬愛する赤龍帝チームメンバー達よ、今や相手チームの半数がアリスちゃんのおっぱい・レイによってリタイアの光に消えた。この輝きこそおっぱいの正義の証である。決定的打撃を受けた相手チームにいかほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である。敢えて言おうカスであると!」

アリス「おっぱい・レイってなに!? 今度は私に何をさせる気なの!?」

イグニス「ジーク・おっぱい!」

アリス「人の話聞きなさいってぇぇぇぇぇ!」


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9話 次世代の神々

「釣れるかい?」

 

俺と匙、ヴァーリの三人で釣りを続けていると、後ろから声をかけられた。

 

振り向くと、そこには二人の男性の姿がある。

一人は北欧の顔立ちをしており、歳は二十代くらいだろうか。

白金色の髪に金色の瞳で、無精髭を生やしている。

スラリとした長身で、白のスーツをカッコ良く着こなしている。

 

もう一人は黒い巻き毛のキリッとした顔つきの男性で、オレンジ色の瞳が特徴的だ。

布を体に巻き付ける服装………確か、キトンってやつだ。

古代ギリシャ人のような格好をしていた。

 

「いやいやいや………マジですか」

 

二人の男性に俺は思わずそう口にしていた。

この二名の顔は知っている。

というか、知らない方がおかしいくらいの人物だ!

 

ヴァーリが白金色の髪のイケメンにため息を吐いていた。

 

「………ヴィーザルか。こんなところに来て良いのか?」

 

ヴァーリの言葉に男性―――――ヴィーザルさんは軽く笑う。

 

「おいおい、それが義理とはいえ兄ちゃんに対する態度かよ? 可愛くないねぇ。まぁ、そういうところがあの親父好みなのかもしれないがな」

 

そう、このイケメン、ヴィーザルさんはあのオーディンの爺さんの息子であり、北欧の神の一人だ!

しかも、この人は―――――

 

ヴィーザルさんは俺と匙に手を挙げて挨拶した。

 

「俺はヴィーザル。アースガルズの主神オーディンの息子だ。んでもって、次の主神になることになっちまった………って、知ってるか」

 

そう言うヴィーザルさんに続き、巻き毛の男性も挨拶する。

 

「同じく、私はアポロン。オリュンポスの主神ゼウスに代わり、新たな主神になる」

 

オリュンポスの次期主神、アポロン!

つまり、次期主神となる二柱が揃って俺達の前に現れたということだ!

 

匙は声を震わせる。

 

「あわわわ、ヴィーザル! アポロン! で、伝説の神様が………!」

 

仰天する匙だが、それもそうだろう。

つーか、俺も匙と同じ気持ちだよ!

こんなところで、こんな大物二人に会うなんて誰が予想できたよ!?

 

驚く俺と匙にヴァーリが説明してくれる。

 

「ヴィーザルは北欧の神で唯一フェンリルが恐れた存在。そちらのアポロンは太陽を冠する神であり、芸能、芸術も司る光明神だ。どちらも次代の主神としては申し分ないだろう」

 

ヴァーリの言葉にヴィーザルさんが笑う。

 

「白龍皇が誉めてくれるなんて、雪でも降るのかね? まぁ、俺としちゃ次期主神にはトールの兄貴が相応しいと思ってたんだが、知っての通り、先の戦いでどこの神話体系もズタボロでな。若くて元気のある俺に回ってきたのよ」

 

アセムが起こした全世界を巻き込んでの戦争において死者数はゼロ。

あの絶望的な戦いで、奇跡のような数字だが、これはアセムが自身とトライヘキサ、そしてアセムが作り出した世界を器にして彼らを甦らせたからだ。

しかし―――――そこに消滅した神々は含まれていない。

消滅した神々は甦ることなく、そのままとなっている。

 

なぜ、アセムは神々を甦らせることをしなかったのか。

そのことについて、アザゼル先生はしなかったのではなく、出来なかったのではないかと考えている。

 

神はあらゆる事象を司る特別な存在だ。

力の大小に関係なく、人間はもちろん、俺達、悪魔や天使、堕天使とは在り方が大きく異なる。

 

それに、一人の人間を生き返らせるだけでも相当な力を使うものだ。

あれだけの死者の復活となるとどれだけの力を使うことになるか………。

 

ヴァーリが言う。

 

「信仰が戻れば消滅した神々もいずれ復活するだろうが、どのくらいの年月が必要になるのかは分からないからな」

 

ヴィーザルさんも頷く。

 

「その通り。それに無事に生還した神も力をほぼほぼ使い果たしている者もいてな。そちらも回復までには少し時間がかかる。………ってなわけで、早々に回復した神に神話を仕切ってもらおうってなったんだが………」

 

心底嫌そうにため息を吐くヴィーザルさん。

よっぽどやりたくないんだな、この人………。

 

アポロンさんがヴィーザルさんの肩に手を置いて言う。

 

「それは言っても仕方がないだろう? それに元々、オーディン殿も引退を考えていたそうじゃないか。先の戦いを期に、他の神話でも神々の代替わりを検討していると聞く。古き神々が我々、若い世代に次を託そうと言うのだ。光栄に思って、慎んで主神を務めるのだな」

 

「はぁぁぁぁ………一々言われなくても分かってるっての」

 

ガックリと肩を落とすヴィーザルさんだが………この光景、見覚えがあるんですけど。

まるで山積みの資料を前にしたうちの『女王』みたいなんですけど。

 

 

~一方、その頃のアリスさん~

 

 

アリス「へっくち!」

 

ニーナ「お姉ちゃん、風邪?」

 

アリス「さぁ? 誰か私の噂してるのかも? って、あんたは何してるのよ」

 

ニーナ「え? お兄さんのベッドの下からこんな本見つけたから読んでるんだけど………あれ? お姉ちゃんどこ行くの?」

 

アリス「………ちょっと、あのドスケベ勇者を探してくるわ」

 

ニーナ「この本に乗ってる人達、おっぱい大きいもんね」

 

アリス「………」

 

 

~一方、その頃のアリスさん 終~

 

 

 

「………ッ!?」

 

「どうした、兵藤?」

 

「い、いや、なんか悪寒が………」

 

な、なんだ、今の感じ………?

とてつもない殺気が向けられたような気が………。

 

俺が両肩を抱いて、体の震えを抑えている横ではヴァーリがヴィーザルさんに問いかけていた。

 

「それで、今日はどういう用事だ?」

 

ヴィーザルさんはヴァーリに歩み寄り、親しげそうに首に腕を回した。

 

「そう冷たくするなよ。兄貴が義弟に会いに来ても何も不思議なことじゃないだろう? それに噂のおっぱいドラゴン君にも会いたかったしな。今日は龍王君もいたけど」

 

アポロンさんも頷く。

 

「貴公らとはこれから付き合いが永くなるだろうからな。今のうちに会っておいて損はないと踏んだのだ」

 

次期主神になる二人だし、オーディンの爺さんみたく、俺達『D×D』と関わる機会も増えるだろうな。

二人の口ぶりだと今回は俺とヴァーリ―――――二天龍に会いに来たって感じだけど。

 

ヴィーザルさんはヴァーリから離れると俺達に訊いてくる。

 

「俺達がゲームに参加していることは知っているよな?」

 

「ええ。というか大会に参加していて、知らない方がおかしいですよ」

 

ヴィーザルさんの問いにそう返す俺。

 

大会に参加している神クラスは一通りチェック済みだ。

神々で構成されているチームはいくつかあるが、この二人はその中でも注目されている方だろう。

何て言ったって、この二人は―――――

 

ヴァーリが言う。

 

「オリュンポスとアースガルズの次期主神が同じチームに参加しているんだ、知らない者はいないだろう。一部で問題になっているようだがな」

 

主神ってのはつまり、国のトップ。

普通なら自国の選手に激励を送ったり、観戦する立場だろう。

それがゲームに参加して大暴れしてるって言うんだからあり得ないよな。

まぁ、各勢力の神々が大会に参加している時点でとんでもないことなんだけどさ。

 

それと、この二人が同じチームに所属しているということ以外にもう一つ、注目されていることがある。

 

ヴィーザルさんがそれを口にする。

 

「うちは俺とアポロンを筆頭に神クラスの若い連中で構成されたチームだ。ま、大将はテュポーンなんだけどな。大将は誰でも良かったんだが、あいつが『王』をやりたいって言うもんだから、俺アポロンも譲ったんだよ」

 

「我がギリシャ神話的には長年敵対していたテュポーンと和平を結べたのは良いのだが………わがままなところは変わらずでな。『王』の件については別に気にしていないが」

 

苦笑するヴィーザルさんとため息を吐くアポロンさん。

 

そう、彼らのチームにはあの魔物の王と称されるテュポーンが『王』についている。

テュポーンといえば、各勢力の中でも最強クラス、全勢力でトップ10に入る実力の持ち主。

目の前であの巨体に暴れられたと思うとゾッとするな。

 

人によってはこの大会をある意味、神々の戦争と評しているが、その通りだと思うよ。

帝釈天は四天王をチームに入れてるし、テュポーンとアポロンさん、ヴィーザルさんは同じチームにいるし、試合のバランスが崩壊するくらいの滅茶苦茶っぷりだ。

既に行われている神々の試合では、大雨を降らせて洪水は起こすわ、フィールド全体を火の海にするわで、強固なフィールドを破壊し尽くしていた。

 

「この大会、マジで色々ぶっこわれてるよなぁ」

 

顔をひきつらせる俺だったが、ヴィーザルさんがおかしそうに笑う。

 

「おいおい、おまえがそれを言うのかよ、おっぱいドラゴン。俺から言われるとおまえのチームも大概ぶっ壊れてるよ、色々な意味で」

 

「アハハハ………すいません」

 

ま、まぁ、俺達も色々やらかしてるんで、人のことは言えないんですけどね。

いや、反省はしてるんですよ、割りとマジで。

でも、チートおじさんは相変わらず相手にトラウマ製造してるし、ツンデレ女王は巨乳の女性選手には容赦ないし、ロリコンメイド長はやっぱりロリコンだし。

昔はこんなんじゃなかったんですよ?

なんでこうなったの?

 

あれですか、祭りってことでエンジョイしてるんですか?

役職退いて自由になったんではっちゃけてるんですか?

全責任を俺に擦り付けようとしてません?

特にチートおじさんとツンデレ女王様。

 

もうヤダ、うちのチームメンバー。

………そう言う俺も何もないところで転んで、女性選手のおっぱいにダイブしちゃってるから、どうしようもないんだけどね。

これについては駄女神が俺の中をなにやら弄くり回した結果らしいけどね。

 

あれ?

なんだか泣けてきたぞ?

 

「『王』って大変ですよね………グスンッ」

 

「おまえの感じてる大変さは、他の『王』の大変さとイコールじゃないからな? つーか、ベクトルが違いすぎるだろ」

 

匙の冷たいツッコミだった。

 

ヴィーザルさんが言う。

 

「謝るほどのことじゃない。というより、俺としちゃあ、あのデカい舞台であれだけ自由にやれるおまえ達に未知のものを感じるよ。ぶっちゃけ、見てる分には全然楽しいしな。いいぞ、もっとやれ」

 

「他人事じゃん! いや、事実、他人事なんだけども!」

 

これ以上、やったら取り返しのつかないところまでいきそうなんですけど!

どうなるの、うちのチーム!?

なにをやらかすの!?

 

アポロンさんが顎に手を当てて真剣な顔で呟いた。

 

「おっぱいドラゴンだからな………ゲーム中、女性の乳を吸って覚醒するかもしれん。先の戦いでも『乳の宴』とやらで異世界の神を倒していた。この世界は乳によって救われたわけだが………もし、我々がおっぱいドラゴンと戦うとなると、女性の乳を吸わせる隙を作らないようにしなければな」

 

「吸いませんよ!? 試合でそんな状況になるとでも!?」

 

「だが、世界の命運をかけた戦いでも吸っていたのだろう?」

 

「そうでしたね! 何も言い返せねぇよ、こんちくしょう!」

 

「今大会において、他のチームも貴公が女性の乳を吸うことを恐れているほどだ。一部の評論家の間でも議論されているぞ」

 

「なにを恐れてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

天を仰いでツッコミを入れる俺!

おっぱいドラゴン、ピンチの時には乳を吸うってか!

いや、会ってるんだけどね!

でも、恐れるところおかしくない!?

議論するところおかしくない!?

 

匙が言う。 

 

「ソーナさんもおまえとアリスさんの組み合わせは危惧しているけどな。おっぱいドラゴンとスイッチ姫だし」

 

「ソーナも!?」

 

なんてこった………!

ソーナもそんなところを深く考えているなんて!

 

「味方だと心強いけど、敵に回ると謎過ぎて怖いんだよ、おっぱいドラゴンとスイッチ姫」

 

「「分かる」」

 

匙の言葉にうんうんとヴィーザルさんとアポロンさん!

そんなに怖いのか、俺達が!

 

ヴァーリが呟く。

 

「おっぱいドラゴンと乳………か。やはり、俺もT・O・S(ツイン・おっぱい・システム)を………」

 

「おまえはどんだけT・O・Sに興味もってんの!?  そんなに導入したいのか、あの駄女神システムを!」

 

「強くなれるのなら、俺は試してみたい」

 

「試すな! ここでそんな真っ直ぐな目をするな! まずはおっぱいの素晴らしさを理解してこい!」

 

「なるほど。では、兵藤一誠、またあのビデオを一緒に………」

 

「断固断る!」

 

また、スケベビデオを見ながら解説しろってか!

あの地獄をもう一度やれってか!

誰がやるか、バカ野郎!

 

一連のやり取りにヴィーザルさんが腹を抱えて爆笑し始める。

 

「アッハッハッハッ! おっぱいドラゴン、やっぱりスゲーよ! つーか、ヴァーリ、その手のビデオが見たいのなら、今度うちに見に来るか?」

 

「持ってんの!?」

 

「そりゃあ、健全な男子だからな。そこに人も神もない」

 

なるほど、流石はあの爺さんの息子だ!

エロを求める心は種族を越えるということなんだな!

 

それでも、ヴァーリを誘わないで!

こいつを変な方向に導かないで!

 

ヴィーザルさんが親指を立てて、爽やかな顔で言った。

 

「こういう義兄弟のスキンシップもある」

 

「どんなスキンシップだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 




~あとがきミニ~

アザゼル「イグニス、なにしてるんだ?」

イグニス「んー、ヴァーリ君にオススメのエッチなビデオ探してるんだけど………」

アザゼル「これでいいんじゃね?」

イグニス「ダメよ。ヴァーリ君みたいなピュアな子にはこのあたりのシンプルなエロで―――――」

アザゼル「いやいや、ここはこういう激しいので―――――」

イッセー「だから、ヴァーリをどうしたいの、あんた達は!?」



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10話 リアス・グレモリーチームの真価

「イッセー様! こちらにいらしたのですね」

 

「ああ、さっき着いたところだよ」

 

レイヴェルに声をかけられ、そう返す俺。

 

ヴィーザルさんとアポロンさん―――――次期主神の二人という超大物の電撃来訪の後、俺はヴァーリ、匙と共に冥界にあるレーティングゲームの会場に来ていた。

 

その理由は試合を―――――リアスのゲームを観戦するため。

釣りを止めて、試合会場に足を運んだのはリアス達の応援というのはもちろんあるのだが、少し前にとある情報が入ったのだ。

 

レイヴェルと合流した俺は関係者用の入り口から入り、専用の観戦ルームにたどり着く。

席に座り、俺はレイヴェルに訊いた。

 

「リアスが例の『兵士』を使うんだってな?」

 

「はい。つい先程、公開された情報なのですが、既に各方面から注目を集めています」

 

リアスの本来の『兵士』は俺だが、今は一人の『王』として大会に臨んでいるため、リアスの『兵士』には別の者がついている。

今大会では本来の眷属以外からもメンバーを募り、大会に参加している悪魔もいるし、そこは問題じゃない。

だが、大会が始まって以降、リアスの新たな『兵士』に関して多くのチーム、評論家から物議を醸していた。

 

『リアス・グレモリー』チーム『兵士』の駒価値―――――8。

 

この神々が参戦する大会において、その駒価値がどれだけ脅威的なことか。

その駒価値だけ見れば、下手な神クラスなどよりも遥かに超越した力を持っているのは間違いない。

 

だが、リアスはこれまでその『兵士』を出場させてこなかった。

それを、遂に披露するというのだ。

ここまで謎とされていた『リアス・グレモリー』チームの『兵士』がついに秘密のベールを脱ぐ―――――。

 

ゲーム開始のブザーが鳴り、試合が始まる。

対戦相手のチームは最上級悪魔の『王』が率いる強豪チームだ。

『王』もそうだが、その他のチームメンバーもかなり地力が高い。

 

今回のフィールドは広大な海上。

以前、俺達が経験した小島が多いフィールド(チートおじさんを射出した時のやつ)ではなく、ただ海が広がるフィールドだ。

特殊なルールがなく、地形を活かした戦術もできないとなると、ガチンコの力比べになる。

 

そう思っていると、リアスチームから先行して飛び出す者が目に映った。

黒いコートを着た長身の男性だ。

黒と金の入り交じった髪をしており、身に纏うオーラも同様の色をしている。

 

「マジかよ………ッ!」

 

驚愕した俺はつい言葉を漏らしていた。

 

フィールドでは、男性が海上を進んでくる相手チームに対して手を突き出す。

掌には尋常ではないほどのオーラがたぎりだし始めた。

圧縮に圧縮を重ねた濃密過ぎる力の塊。

 

男性を見て、アナウンサーが叫ぶ。

 

《な、なぁぁぁぁぁんと! これまで謎に包まれていたリアスグレモリーチームの『兵士』ミスターブラックの正体が、まさかまさかの、クロウ・クルワッハだったぁぁぁぁぁぁぁ!》

 

男性―――――クロウ・クルワッハが突き出していた手から、オーラを放つ。

次の瞬間、奴のオーラが前方の景色を丸ごと覆い、全てを破壊し尽くすレベルの大爆発が生じる!

今の一撃により、レーティングゲームのフィールドを覆う特殊結界は壊滅的打撃を受ける。

爆発による閃光が治まると、フィールドの所々に大きな穴が空き、次元の狭間が見え隠れしているほどだった。

大会では神クラスがとんでもない一撃を放って、ゲームフィールドを覆う結界すらも壊してしまうこともあったが、クロウ・クルワッハが放ったものは正に神クラスのもの。

無論、今の攻撃により、相手チームの選手は為す術もなく、一気に五名がリタイアの光に消えた。

 

アナウンサーが吼える。

 

《フィ、フィールドが消し飛ばされましたぁぁぁぁぁぁぁ! 神クラス………それ以上と言っても過言ではありません! ドラゴンと言えば、兵藤一誠選手によるあの凄まじい砲撃が思い起こされます!》

 

俺の砲撃………イクス・バースト・レイ、か。

そりゃあ、威力だけなら今大会に出場している選手、神々を含めてもダントツの威力になるだろう。

なんと言っても、あの魔法には最強の女神様が一枚噛んでるからな。

 

だが、あれは使えても一日一発が限度。

一撃必殺と言えば聞こえは良いが、使えば俺は一気にガス欠になる。

モーリスのおっさんが言うように、外せば終わりの欠陥技だ。

 

ドライグが言う。

 

『クロウ・クルワッハめ。わざとフィールドを消し飛ばしたな。先日の相棒の戦いに感化されたか』

 

ヴァーリが笑う。

 

「クロウ・クルワッハ自身の演出か、それともリアス・グレモリーの提案か。いや、どちらもあるのだろうな。兵藤一誠、あれは彼からの挑戦状だ。君や、この大会に出るありとあらゆる強者に見せつけたんだよ。フフフ、面白いじゃないか。これでこそ、この大会は盛り上がる」

 

俺への挑戦状ね。

 

ドライグはどう思う?

俺はあいつと戦えると思うか?

 

『万全の相棒ならば問題はないな。あの姿になれば、無限のオーフィスやグレートレッドすらも超える。変革者やその上の領域、英龍化出来れば、この世界において相棒の右に出るものはいないだろう。だが―――――』

 

あの力が使えれば、の話ってことだな。

 

『そうだ。今の相棒では真正面からまともに撃ち合っては勝ち目はないな』

 

ハッキリ言ってくれるぜ。

まぁ、実際にはその通りなんだけども。

 

クロウ・クルワッハには下手な小細工は通用しないだろうし、かと言って、今の俺じゃあやられるのは目に見えてる。

 

ドライグが言う。

 

『リアス・グレモリーが奴を勧誘したのは間違いなく、神クラスや二天龍対策だろうよ。無論、ギャスパー・ヴラディとの関連性もあるのだろうがな。強者との戦いを求めるクロウ・クルワッハとしても勧誘は願ったり叶ったりというわけだ』

 

互いの利害が一致したってことだな。

 

ったく、リアスもやってくれるぜ。

流石は我らが『王』だ。

 

苦笑しかない俺にレイヴェルが言う。

 

「イッセー様、クロウ・クルワッハも脅威ですが、リアス様のチームは彼だけではなく―――――」

 

「ああ、わかってる」

 

俺は静かに頷いた。

 

確かにクロウ・クルワッハの登場に頭を持っていかれていたが、リアスのチームはそれだけじゃない。

リアスのチームがこれまで勝ち続けてきたのはどうしてだ?

そう、あのチームにはあいつらがいるからだ―――――。

 

《フィールドが漆黒の闇に包まれていくぅぅぅぅぅぅ! こちらも出ました! 伝説の魔神バロールの力を宿したギャスパー選手による超広範囲に及ぶ闇の領域だぁぁぁぁぁぁぁぁ!》

 

アナウンサーの声と共に黒い魔獣と化したギャスパーが闇を広げ、海上を包み込んでしまう。

相手チームの攻撃は全て闇に呑まれてしまい、ギャスパーに届くことはなかった。

そして、相手選手の攻撃は全く通じないまま、数名が闇に消えていった―――――。

 

次に映るのはゼノヴィアだった。

デュランダルとエクスカリバーの二刀流で、相手チームの剣士と激突している。

相手は最上級悪魔の眷属ゆえ、相当な実力者だ。

しかし、そんな相手をゼノヴィアは圧倒的なパワーで追い込んでいた。

振り下ろされたデュランダルを受けきれず、弾き飛ばされる相手選手。

相手選手が悪魔の翼を広げて空中で体勢を整えようとした瞬間、聖なる波動が相手選手を呑み込んでいった。

 

―――――クロス・クライシス。

デュランダルとエクスカリバーから十字に放たれた聖なるオーラは瞬く間に相手選手をリタイヤさせ、フィールドにその斬撃を刻み込んだ。

 

同じくリアスの『騎士』である木場は禁手の第二階層を展開、騎士王形態となっており、超高速移動で相手を翻弄。

相手は木場のスピードに全くついていけず、動けないでいるところを聖魔剣で斬り刻まれリタイアした。

 

小猫ちゃんは白音モードで火車を操り、相手を燃やし、朱乃は巨大な雷光龍で相手の『女王』を叩き伏せる。

ロセは後方でアーシアの護衛をしつつ、魔法のフルバーストを放ち、相手の逃げ道を確実に無くしている。

更にアーシアは禁手『聖龍姫が抱く慈愛の園』を展開すると、その絶対的な回復のフィールドにより、チームメンバーを相手の攻撃から守護していた。

 

リタイア、リタイア、リタイアと次々とアナウンスが流れ、相手チームはほぼ壊滅状態となっていた。

 

そして、リアスが相手の『王』の前に立ちはだかる。

相手の『王』は先程のクロウ・クルワッハの攻撃により、ダメージを受けているとはいえ、今のリアスを相手にして勝ち目はない。

放った魔力攻撃は悉く、滅びの魔力により相殺、突破されてしまう。

やがて、力を使い果たした『王』は投了し、リアス達の勝利が決まった―――――。

 

試合終了を告げるブザーと共にアナウンサーが興奮気味に叫ぶ。

 

『決まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! リアス・グレモリーチームの勝利です! 圧倒的! 圧倒的過ぎる! ミスター・ブラックことクロウ・クルワッハによる一撃も凄まじいものでしたが、ゼノヴィア選手を始め、圧倒的なパワーで相手の悉くを討ち取っていきました!』

 

ヴァーリが楽しげに言う。

 

「君が抜けたリアス・グレモリーのチームは脱け殻だなどと評されていたが、これを見せられて彼らは同じことが言えるだろうか? 君が彼女にとっての最大の戦力であったことは間違いないが、そんなものは関係ないと言わんばかりの試合だった」

 

―――――圧倒的。

誰が見てもそのような感想になるのだろう。

クロウ・クルワッハの一撃に目を奪われるが、その他のメンバーが強力すぎた。

圧倒的な火力とアーシアという絶対の防御。

最上級悪魔のチームが手も足も出ていなかったが無理もない。

 

「最上級悪魔程度のレベルじゃ、今のあいつらには勝てんだろ」

 

不意に後ろから声をかけられた。

振り向けば、アザゼル先生が笑みを浮かべて立っていた。

 

アザゼル先生はこちらに歩み寄り、歓声を受けるリアス達を見下ろした。

 

「昇級試験の後、木場におまえの才能は破格だと言ったんだが、どうにも俺の想像力は足りてなかったらしい。あいつらは既にそんな次元すらも越えようとしている。言葉は悪いが、化物クラスの強さに足を踏み入れ始めてるよ」

 

「自分の生徒に酷い言いようだな」

 

ヴァーリの言葉にアザゼル先生は肩をすくめる。

 

「それを言われるとな。だが、事実は事実だ」

 

化物クラスの強さ。

まぁ、アザゼル先生の言う通りなんだよね。

今のリアス達には上級悪魔はおろか、最上級悪魔のチームでも相手にならないだろうしな。

 

アザゼル先生は言う。

 

「この一年、歴史が変わるような出来事が立て続きに起きた激動の年だった。そんな日々とイッセー、おまえがあいつらを強くしたんだよ。おまえが側にいたからこそ、あいつらはここまで来られた。………おまえのこと、強者製造機って呼んでいい?」

 

「卵かけご飯製造機みたいなノリで言わないでくれます!?」

 

途中までしみじみと聞いてたのに最後で台無しにしやがったよ、この人!

 

「おまえのところ、シスコン製造機もいるしちょうどよくね?」

 

「やかましい! サラちゃんから『にぃに』と呼ばれていいのは俺だけなんだい!」

 

どれだけの奴らがサラちゃんの魅力にとりつかれて、シスコン化したとしても、サラちゃんは誰にも渡しません!

うちの可愛い末っ子なんだよ!

 

ヴァーリが言う。

 

「今回の試合、火力で押しきったのはクロウ・クルワッハの出場に合わせたのだろうが、結果的にチーム全体の地力の高さを見せつけるものになったな」

 

「そこが狙いだろうさ。クロウ・クルワッハだけでもインパクトがデカいってのに、ここまで大暴れしたんじゃな。おまえの嫁さんはとんでもねぇよ、イッセー」

 

「ハハハ………」

 

ただでさえ、神クラスの力に恐れおののいている大会参加者から更に気力を削いだってところかね?

何にしろ、これを見てヴァーリのようにたぎる連中もいれば、試合を辞退する者も増えてくるだろう。

 

アザゼル先生が訊いてくる。

 

「おまえからすれば、色々と思うところがあるんじゃないか?」

 

「そう、ですね………」

 

リアス達と出会った時、俺は皆を鍛える立場だったんだ。

こう言ってしまうのは自分でもどうかと思うが、あの頃の俺とリアス達じゃレベルが明らかに違っていた。

リアス達全員と戦ったとしても、俺が勝っていただろう。

 

それが今、リアス達は最上級悪魔すら寄せ付けない程に強くなった。

ライバルとなった俺を本気で倒そうともしている。

そして、それを可能とする力を身に付けている。

 

俺は掌を見つめ、ぐっと握りしめた。

 

おめでとう、リアス。

でもな、俺だって負けないぜ?

 

リアス達の試合が終わり、満足したのか、ヴァーリは席を立つ。

 

「俺はこの辺で帰らせてもらおうか」

 

「あ、俺も帰るわ」

 

匙もこれに続いて立ち上がった。

 

「二人とももう行くのか?」

 

俺が問うと、匙が言う。

 

「試合も終わったしな。一応、敵チーム同士だし、近々おまえんところと試合もあるし」

 

「それもそうか」

 

俺がそう返すと、匙が拳をこちらに突き出してきた。

 

「兵藤、絶対勝つからな?」

 

「ああ、かかってこい。こっちも全力で勝ちにいくからよ」

 

拳を合わせる俺と匙。

挑戦されたんじゃ、受けないわけにはいかない。

仲間とはいえ、試合は試合。

向かってくるなら、全力で迎え撃つのみだ!

 

ヴァーリが言う。

 

「兵藤一誠、決勝トーナメントで会おうか。それまで負けるなよ?」

 

「そりゃこっちの台詞だ」

 

ニッと笑んで不敵に返す俺。

ヴァーリも笑みを見せると、この場を後にした。

 

ありがとよ、ヴァーリ、匙。

それにリアスも。

おまえ達のおかげで色々と腹が括れたぜ。

 

俺はこの大会―――――負けるわけにはいかねぇな!

 

 

 

 

試合を見届け、帰宅した俺とレイヴェル。

リビングに上がると賑やかな声が聞こえてきた。

木場やギャスパーの声も聞こえるから、祝勝会でもしてるのかね?

ライバルチームとはいえ、仲間だ。

祝いの言葉を言わなきゃな。

 

そう思い、リビングの扉を開けた―――――。

 

 

 

「ロスヴァイセさん………私があげた魔装銃、使ってくれませんね。私、ちょっと寂しいのです」

 

「え、えっと、すいません。最近、使うタイミングが………。わ、忘れてたとかじゃないんですよ、リーシャさん?」

 

「………忘れてたんですね………グスンッ」

 

体育座りしてズゥゥンと落ち込むリーシャと宥めるロセ。

 

「うぇぇぇぇん! イッセーがまた胸の大きい人の本買ってきたぁぁぁぁ!」

 

「まぁまぁ、アリスさん。イッセーだし、ね?」

 

「うふふ、イッセー君はアリスさんのおっぱいも好きですわよ?」

 

机に突っ伏して泣くアリスと、それを慰めるリアスと朱乃。

 

「こいつはな、こう焼くと美味いんだよ」

 

「モーリスさん、料理得意なんですか!?」

 

「い、意外な特技ですぅ!」

 

モーリスのおっさんの隠れた特技に驚く木場とギャスパー。

 

それ以外にもゲームをする美羽と小猫ちゃんだったり(美羽は惨敗している模様)、なぜか腕相撲をしているゼノヴィアとイリナだったり(審判はレイナ)、九重、オーフィス、リリスのロリ三人組に悶えるロリコン(ワルキュリア)だったりと、家の中はワイワイと賑やかになっていた。

 

「あ、お帰りなさい、イッセーさん、レイヴェルさん!」

 

俺達の帰宅に気付いたアーシアが駆け寄ってくる。

 

「た、ただいま………。ア、アーシア、これ、どうしたの?」

 

「え、えっと………」

 

答えにくそうにするアーシア。

すると、ニーナが眩しいくらいの笑顔で言ってきた。

 

「大丈夫! いつも通りだから!」

 

なんか、いつも通りらしいです。

 




~あとがきミニ~

アセム「こ、これはいったい!?」

イグニス「汎用棒型決戦性機エロンゲリヲン―――――通称『エロ』よ!」

アセム「すごい動き方………! 親父が夢中になるわけだ!」

イッセー「おまえら何の話してんの!? つーか、親父って誰!? そろそろ通報されそうなんで、やめてくれませんかね!?」

イグニス「初号機、発射!」

イッセー「発射するんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」



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11話 新しいチームメンバーです!

ヴァーリ達と釣りをしてから二日ほど経った日のことだった。

授業が終わり、放課後。

俺達はレイヴェルが焼いてくれたクッキーを食べながら、部室でまったりと過ごしている。 

 

「美味い。レイヴェルのクッキーはいつも美味いよな。いくらでも食えるよ」

 

そう言う俺。

ほどよい甘さだし、プレーンのものからチョコレート、紅茶のクッキーと幅の広いバリエーション。

ただ美味いだけじゃなくて飽きが来ないってところが凄いところだ。

 

俺のコメントに美羽が頷く。

 

「うんうん。ボクも作ってみたけど、ここまで上手くはできないもん。流石はレイヴェルさん」

 

「そう言っていただけると、作り甲斐がありますわ」

 

俺達に誉められ、微笑むレイヴェル。

すると、俺の隣から皿に盛られたクッキーに手を伸ばす者がいた。

 

「ほぅ。こいつは大したもんだ。良い嫁さんになるぜ、レイヴェル」

 

そう言うのはモーリスのおっさんだった。

更に―――――

 

「本当に美味しいです」

 

「レイヴェル様もやりますね」

 

と、リーシャ、ワルキュリアもおっさんに続き、感想を述べていく。

部室には他にもニーナやミニドラゴンと化したボーヴァもいて、部員以外のメンバーがくつろいでいる。

 

実は今、部室にはうちのチームメンバーが全員集合しており、他の部員であるアーシアや木場達には席をはずしてもらっているという状況だ。

その理由はもちろん、大会に関することで、

 

「うちの戦力増強っていうけど、誰が来るんだろうね」

 

美羽がそう訊ねてきた。

 

そう、うちに新しいメンバーが入るかもしれないんだ。

現在のチーム構成では『戦車』の枠が空席になっている。

今のままでも十分すぎる程の戦力があると言われるだろうが、空席を遊ばせるのは勿体無い。

それに今後、神クラスのチームと相対することを考えると少しでも戦力を増やしておきたいんだ。

 

部室で待っていると、まずは厚手の服装のエルメンヒルデが到着する。

彼女もうちのチームメンバー候補なので、集まってもらったんだ。

まだ日が昇っているので、エルメンヒルデはフードを深く被っている。

 

それから少し待っていると、部室に三人ほどが入ってきた。

一人は新生徒会役員である百鬼勾陳黄龍だ。

五大宗家筆頭百鬼家の次期当主。

快活そうな雰囲気を持つ駒王学園の二年生男子だ。

百鬼が挨拶する。

 

「兵藤先輩に皆さん、お邪魔します」

 

「お疲れ、百鬼。それとミラーカさんも」

 

俺は百鬼とその隣に立つ女子生徒に声をかけた。

彼女は全身を覆うほどの厚着と、フードを深く被っており、エルメンヒルデのような格好をしていた。

ただ、瓶底のようなメガネ、首にまいたマフラー、スカートの下にジャージ、更には両手に手袋という、徹底的に肌の露出を避けた服装で、エルメンヒルデ以上の完全防備だ。

 

この厚着の女子は百鬼同様、新生徒会役員である二年女子のミラーカ・ヴォルデンベルグさん。

実は彼女、純血の吸血鬼であり、カーミラ派の主柱を担うヴォルデンベルグ家のお姫さまだという!

初めて聞いた時は流石に驚いたよ。

前々から俺達以外にも異形の存在がいることは分かっていたけど、まさかのお姫さまだもの!

つーか、この学園、お姫様だとか元女王だとか貴族多くない!?

アリスと美羽に関しては俺が連れ帰ったんだけども!

 

彼女が厚着をしているのは吸血鬼だからだ。

彼女もエルメンヒルデ同様、デイライトウォーカーではないため、日中の活動がしんどいらしい。

 

聞けば、彼女は百鬼と共にアジュカさんが取り仕切る『ゲーム』に参加しており、謎とされている残りの神滅具―――――「蒼き革新の箱庭」と「究極の羯磨」を調査しているという。

 

厚着の女子―――――ミラーカさんがエルメンヒルデを確認するなり、飛び付いた。

 

「エルメだ!」

 

飛び付かれたエルメンヒルデはミラーカさんの行動に驚くが、面識はあるようだ。

 

「ミ、ミラーカ? こ、こんなとろに何をしにきたのよ?」

 

エルメンヒルデがそう訊ねると、ミラーカさんは少し離れて不思議そうする。

 

「あれ? 私が駒王学園に通ってるって、母国から連絡来てるよね?」

 

「それは知っているわ。そういうことではなくて、ここは兵藤一誠様のチームが会合される場よ? 見学?」

 

「そんなところかな? 私はついでで、先輩達に用があるのはこっちの人達」

 

そう言ってミラーカさんが指差したのは百鬼と―――――綺麗な青髪のお姉さん。

その人はこっちに手を振ってくる。

 

「最近、会ってなかったが元気そうだな、イッセー」

 

「まぁ、ボチボチやってるよ、ティア」

 

百鬼、ミラーカさんと続き、最後の一人はティアだった!

久し振りの登場ですね、ティア姉!

なんかしばらく見てなかった気がするよ!

 

そんなことを思った瞬間、ティア姉はこっちにツカツカ歩いてくると―――――俺の頬を掴んで引っ張ってきた!

 

「それは! おまえが! 私を! 呼ばないからだろう!? いったい、いつぶりの登場だと思っているんだ!? 一応、私はおまえの使い魔なのだぞ!? その設定、忘れてないか!?」

 

「イダダダダダ! ちょ、ティア姉、力強すぎ!? わ、悪かったよ! こっちも大会とか色々あったし………ほら、そっちもアジュカさんの手伝いもあったじゃん!? つーか、心を読まれた!?」

 

「四六時中手伝ってるわけないだろ! 暇な時はとことん暇なんだよ! あと、おまえが心を読まれるのはいつものこと!」

 

「マジでプライベートないな、俺!? って、ギャァァァァァァァァ! ほっぺが! ほっぺがちぎれるぅぅぅぅぅぅぅぅ! 誰か! ヘェェェェェルプゥゥゥゥゥゥ!」

 

悲鳴をあげる俺!

だって龍王に頬を引っ張っられてるんだもの!

悲鳴ぐらいあげるよ!

 

美羽が宥めるように言う。

 

「まぁまぁ、ティアさんも落ち着いて。出番が少ないのはいつものことだし、ね?」

 

「そういえば、使い魔的なことってあんまりしてなかったような……」

 

「それはフォローしているつもりか!?」

 

美羽に続いて漏らしたアリスの言葉を聞いて、頬を引っ張る力が強くなる!

これ以上、ティアを荒立てないで!

被害受けるの俺だから!

 

「えぇい! お姉さんはもう怒ったぞ!」

 

ティアは涙目になりながら言うと、俺を後ろから羽交い締めにしてきた!

なんだ!?

何をするつもりだ!?

 

「おまえがそんなことを言うのなら、こっちにだって考えがある!」

 

「俺、何も言ってませんけど!? なにするつもり!?」

 

「こうなったら、おまえをチビッ子化させて永遠に養ってやる! 一生を私の抱き枕として過ごすがいいわ!」

 

「………」

 

ティアに言われて、ふむと考える俺。

 

チビッ子化は嫌だが、どうだろう。

スタイル抜群のお姉さんに養われ、寝るときは抱き枕にされる。

恐らく、おっぱいに顔を埋めながら眠ることになるだろう。

ティア姉のことだ、きっと俺を甘えさせてくれるはずだ。

………それはもはやご褒美ではないだろうか?

チビッ子化というマイナスはあるが、余裕でプラスになる。

 

思考がそこへ辿り着いた時、俺は顔をあげた。

 

「俺、ティア姉に養ってもらうことにする」

 

「お兄ちゃん!? 凄く良い顔してるけど、言ってることはダメな人のそれだからね!?」

 

「私はヒモになりたい」

 

「それ、貝の間違いだよね!?」

 

「私は貝ヒモが食べたい」

 

「いや、それもうおつまみ食べたいって言ってるだけ!」

 

「貝ヒモ美味いよね」

 

そんななんの脈絡もないボケをする俺とツッコミをする美羽だった。

 

百鬼はなんとも言えないといった表情を浮かべている。

 

「………ティアさん、兵藤先輩達といる時ってこんな感じなんですね」

 

「こんなとはなんだ、こんなとは」

 

抗議の声と共に百鬼を小突くティア。

その様子を見て、俺は百鬼に訊ねた。

 

「百鬼とティアって知り合いなのか? アジュカさん繋がり?」

 

「そんなところです。今回の話もティアさんから言われて………」

 

ティアに視線を送る百鬼。

 

今回の戦力増強の話、元々はティアから提案されたものだったりする。

前々からの知り合いみたいだし、ティアも百鬼の実力を評価しているからこその提案だったんだろう。

 

ティアは百鬼を指差して言ってきた。

 

「おまえのチームも空席があるだろう? 私が入っても良いが、これでも大会の運営側なんだ。流石にそれは不味いだろう。そこで、リュータを空席に放り込んでやろうかなと」

 

「と、まぁ、そういうことみたいなんです。………俺もティアさんには借りがたくさんありまして………頼まれたら断れない身の上なんです」

 

ガックリと肩を落とす百鬼。

龍王に借りって………いったい何があったんだか。

 

すると、ティアはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ほう? 嫌なら良いんだぞ? 他にもアテはあるからな。そもそも、リュータが『あのイッセー先輩のチームに入れたら、どれだけ光栄なことか!』とか言っていたから、私は―――――」

 

「ごめんなさいごめんなさい! 嘘です嘘! それ以上は恥ずかしいんでやめてください!」

 

「素直でよろしい」

 

ハハハ………。

百鬼が俺を尊敬してくれているのは知っているけど、そこまで言われるとこそばゆいな。

 

「リュータってのは百鬼のあだ名なのか?」

 

なんとなく気になった俺は本人に訊いてみた。

 

「………いえ、俺の本名『竜太』です。『黄龍』を継承する前の。ティアさん的にはそっちの響きの方が良いらしくて、そう呼ばれてます」

 

なるほどね。

『黄龍』ってのは家が司っている霊獣を継承した時に名乗るものってことか。

 

美羽が言う。

 

「リュータにコーチン………百鬼君の名前はいっぱいあるね」

 

「古いしきたりを持つ家に生まれた者の宿命ってやつです。好きなように呼んでください」

 

じゃあ、俺は『百鬼』でいっか。

一番呼びやすいし。

 

名前の呼び方は各自に任せるとして、話を本題に戻すか。

 

「百鬼のチーム入りだけど、ティアの推薦なら俺は良いと思うが………レイヴェルはどうだ?」

 

龍王のオススメなら実力は間違いないだろうが、一応の確認はしておくか。

 

レイヴェルは懐からスマホを取り出すと、アプリを起動して百鬼に翳した。

画面には百鬼が写し出されており、写真撮影のような感じになっていた。

 

「では、百鬼さん。ちょっと計らせてもらいますわね」

 

百鬼をパシャリと一枚。

これは大会が配信した大会専用のアプリで、このアプリで写真を撮ると相手の駒価値(大会基準)が即座に判明するというものだ。

 

百鬼の測定結果が画面に表示され、その結果にレイヴェルは驚いていた。

 

「ッ!? イッセー様、百鬼さんの大会駒価値を『兵士』枠で換算すると『5』ですわ! 予想を上回りました………!」

 

「マジで!?」

 

大会基準の駒価値で『5』なら相当なもんだぞ!

ティアの推薦とは言え、人間でその数字だなんて、流石に驚いた。

しかも、駒価値『5』ってのはリーシャと同じ数字だ。

こいつはとんでもない逸材が来たのかも………。

 

ボーヴァがスマホを画面を覗きこみ、全身をワナワナと震わせた。

 

「こ、こんな小僧が、某よりも上だというのか………!?」

 

ボーヴァは兵士枠で駒価値『3』だ。

つまり、百鬼の実力はボーヴァよりも高いということになる。

まぁ、見た目的には百鬼は普通の男子高校生だし、ゴツいドラゴンのボーヴァの方が強そうではある。

だが、それを言ってしまうとだな………。

 

「おいおい、人の実力ってのは見た目で判断するもんじゃねーぞ? そいつを言えば、俺なんかヨボヨボのおっさんだぜ? 見ての通り、貧弱だろ?」

 

「どこがヨボヨボ!? ヨボヨボの意味を調べてこい、このチートおじさんめ!」

 

あんたがヨボヨボなら、世界はとっくに滅んでるわ!

肉体逞しすぎて貧弱の『ひ』の字すら見えてこねーよ! 

 

つーか、モーリスのおっさんって、修行中、ボーヴァを片手であしらってなかったっけ?

ドラゴンを片手であしらうってどんだけ!?

見てて怖かったんですけど!

 

モーリスのおっさんに言われ、ボーヴァはかつての悲劇を思い出したのか、肩を震わせた。

 

「た、確かに………。うっ、あの時の振り下ろされた木刀が………!」

 

「ボーヴァに何したのおっさん!? またトラウマ植え付けたな!?」

 

「いんや? ちゃんと加減はしてるって。ちょっと後ろの背景が真っ二つになっただけで」

 

「あ、あれを受けていたら某も真っ二つに………」

 

「ほらほら、デカい図体してんだし、過去のことズルズル引きずるなよ。大丈夫だって。おまえも徐々に強くなってきてる。俺を相手にあそこまで粘れるなら、この先もやっていけるさ。どうしても心配なら深呼吸すれば良い。はい、吸ってー吐いてー」

 

「スー……ハー」

 

「吐いてー吐いてー、更に吐いてー、もっと吐いてー」

 

「ハー……ハー……ハー……ハー……うぷっ」

 

「いや、ボーヴァも付き合わなくて良いから! えづきはじめんじゃねーか!」

 

おっさんも真面目なボーヴァで遊ばないであげて!

俺達が言うこと信じて実行しちゃうから!

 

ツッコミを入れているとモーリスのおっさんが言ってきた。

 

「これも修行だぞ? 無呼吸状態で動けるかどうかの」

 

「修行だったの、これ!?」

 

「んなわけあるか。嘘だバカ」

 

「このクソオヤジィィィィィィィ!」

 

このおっさん、俺を舐めてるな!?

いっちょ、ここいらで痛い目に………あ、無理だわ。

このおっさん、チートおじさんだった。

ちくしょう!

このおっさんをボコボコにできる奴はいないというのか!

 

ティアが笑みを浮かべて言う。

 

「モーリスは無茶苦茶だが、鍛えられた奴らは間違いなく腕を上げている。そこは信頼しても良いだろう?」

 

「そりゃそうなんだけどさ」

 

おっさんも相手の実力を把握した上で、それに合った修行を課しているので、体が壊れたりなんてことはない。

ただね………ひたすらに怖いんだよ。

実戦的な修行じゃ、毎度毎度、死を感じさせる一撃が飛んでくるんだぞ?

修行終わったときの脱力感が分かるか?

分からないだろうな、経験者以外は。

 

ティアは百鬼の肩を叩いて言う。

 

「そういうわけだ。リュータがイッセーのところに入ればトラウマは刻まれるだろうが強くなれる。イッセーはリュータという戦力が手に入る。これぞWIN-WINの関係だ」

 

「兵藤先輩の下で鍛えられるのは嬉しいけど、モーリスさんの修行についていける気がしない………」

 

俺、色々な意味で後輩を守らないとな………。

 

こうして、百鬼は『異世界帰りの赤龍帝』チームに入ることになった。




~あとがきミニ~

イッセー「な、なぁ、ヴァーリ? 両手に持ってるウネウネ動く棒みたいなやつって……」

ヴァーリ「これか? これを持つと強くなれると聞いたんだ。こんなものに効果があるか怪しいが、とりあえず試してみようかと思ってね」

イッセー「ちなみに誰から?」

ヴァーリ「君のところの女神だが?」

イッセー「あんの駄女神がぁぁぁぁぁぁ! ヴァーリに何やらせてんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ウィンウィンウィンウィン……


ヴァーリ「どうした、兵藤一誠?」

イッセー「おまえはモビルスーツみたいな音出しながら来るんじゃねぇぇぇえぇ!」


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12話 ボケとエロのエクスタシー

たまにはさ エロに振っても ええやんか

             ヴァルナル心の俳句


その日は悪魔の仕事を終えてから、モーリスのおっさんと一緒にアザゼル先生のところに行った後、風呂に入るために地下の大浴場に向かった。

美羽達チームの女性陣は先に汗を流したようだ。

リアス達は先に仕事を切り上げて既に帰ってきていたようで、明日も早いためか、もう寝てしまっている。

ちなみにモーリスのおっさんはアザゼル先生と飲むとのことで、今日は帰ってこないという………。

 

風呂場で洗面器に水を貯めながら、俺はホロリと涙を流した。

 

「ちゃんとした義手………まだかなぁ………」

 

鈍い鋼色に輝く右腕。

細分化されたパネルラインに隙間から見えるコードらしきもの。

そう、俺の義手は未だにこの鋼の義手だった。

 

皆はどう思うだろうか。

世界の命運をかけて戦い、その代償に失った右腕。

そして、その代わりとして用意されたのが趣味全開の鋼の義手というこの仕打ち。

しかも、指先からは醤油が出るという謎ギミックが搭載されている。

 

今日もラボに乗り込んでみたは良いが、大会が忙しいとやらでまともな義手はもらえず。

 

そろそろ怒って良いよね?

あのラスボス先生、カラッと揚げて手羽先にしても許されるよね?

俺は許されると思うんだ。

きっと、我らがレイナちゃんならゴーサインを出してくれると思うんだ。

数秒しか使えないけど、いつでもEXA形態が使えるようにスタンバってるからね、俺。

いつでもシャイニング・バンカーできるようにしてるからね、俺。

 

深くため息を吐きながら、俺は髪を洗おうとシャンプーに手を伸ばした。

すると――――――

 

 

ウィィィィン カシャ にゅぅぅぅ………ぶりぶりぶりぶりぶり………

 

 

なんか手の甲が開いて、シャンプー出てきたんですけど。

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺は一人、風呂場でシャウトした!

なんで、手の甲からシャンプー出てきた!?

なんで、こんなタイミングで新機能が発見された!?

なんで、指先からは醤油出るのに手の甲からはシャンプー!?

意味分かんないんだけど!

 

意味不明な新ギミックにパニックになっていると、開いた装甲の裏になにやら文字が書かれていることに築いた。

そこにはこう書かれていて、

 

『イッセーへ。この義手は神器研究の末の成果の一つだ。所有者が強く望めば、新たな力を発揮する。まぁ、どういった力に目覚めるかは作った俺にも分からんが、きっと役に立つだろう。―――――皆大好きアザ☆ゼルより』

 

「こんな新機能、望んでませんけどぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

指先から醤油が出て、手の甲からシャンプーが出る機能を誰が望むっていうんだよ!?

いねーよ、そんな奴!

馬鹿なのか!?

あの人、馬鹿だろ!?

つーか、何に研究成果使ってんだ!

卵かけご飯といい、カップ麺といい、もっと他に使いどころあるだろ!?

そもそも望んでない機能が出てきてる時点で失敗作確定だよ!

 

ん?

よく見るとメッセージに続きが………。

 

『P.S. おまえって椿派? ヴィダルサスーン派? 俺は椿派』

 

「知ぃぃぃぃぃるぅぅぅぅぅかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

あんたが使うシャンプーとか超どうでも良いんですけど!

椿でもなんでも使ってろや!

つーか、ハゲろ!

毛根から死滅しろ、あの未婚オタク元提督!

なんならイグニスの火力で焼いてやろうか!

 

なにが悲しくて俺は風呂場で一人ツッコミを叫ばないといけないのか。

泣けてくるんですけど。

 

「これなら、腕が再生するまで美羽達の世話になってた方が良かったかも………いや、それはそれで手間かけさせて悪いか」

 

着替えや食事、日常生活で結構、時間取らせたからな。

流石にそれは申し訳ない。

それに、俺も出来る限りは自力でやりたいし。

となると、この謎ギミック搭載の義手としばらく付き合わないといけないわけでして………。

 

そんなことを考えていた時だった。

 

「あらあら、イッセー君のお世話なら喜んでさせていただきますわよ?」

 

突然、後ろから抱きつかれた!

背中に伝わる極上に柔らかな感触!

吸い付くようなこの感触は………!

 

「あ、朱乃!? いつの間に!?」

 

振り向くと、全裸の朱乃が俺に抱きついていた!

 

いつの間に風呂場に入ってきたの!?

ツッコミに気をとられていたとしても、俺に気配を感じさせないってどんだけ!?

もしかして仙術覚えましたか!?

 

朱乃はイタズラな笑みを浮かべる。

 

「大好きな人を独り占めするためなら、なんだって出来ますわ♪ 恋する乙女ですもの」

 

「そ、そうなんですか………」

 

恋する乙女は最強なんですね!

というかですね、『大好きな旦那様』なんて言われると、俺も高鳴るものがありまして………。

 

そもそも、全裸で抱き付かれている時点で色々元気になってしまう!

機動戦士になってしまうよ!

 

今にも起動しそうな自分を抑えながら、俺は朱乃に訊ねた。

 

「え、えっと、先に寝てたんじゃ………?」

 

「お背中を流そうと思って、起きていたの。ずっと待っていたのよ?」

 

「お、遅くなってすいません………」

 

俺が謝ると朱乃はニッコリ笑んだ。

朱乃はボディーソープをタオルに染み込ませて、泡立て始める。

 

「でも、こうして旦那様を独占できるのなら、起きていた甲斐がありました」

 

泡立てたタオルでゴシゴシと背中を流していく朱乃。

 

旦那様、か………。

そう呼ばれるとまだ少し恥ずかしいというか、こそばゆいというか。

ま、まぁ、嬉しいんだけどね!

俺だって、朱乃をお嫁に貰うって決めてるし、将来も誓い合った仲だしね!

 

「こうやって、ずーっと、イッセー君の背中を流せると思うと幸せで、幸せで………」

 

声を弾ませる朱乃は俺の背中だけでなく、腕や脇もゴシゴシと洗っていく。

朱乃が動く度にぴたりぴたりとおっぱいが当たってきて………!

たまらんです!

 

朱乃のおっぱいに頭を持っていかれている俺に気がついたのか、朱乃はクスリと笑んだ。

そして、泡立てたボディーソープを自分の胸に塗り―――――俺の背中に押し当ててきた!

 

「イッセー君はこういうのが好きなのよね? 疲れた旦那様を癒すのは妻としての役目ですわ」

 

そのまま上下に動き始める朱乃!

 

な、なんてこった!

お、おっぱいで背中を洗われているぅぅぅぅぅぅぅ!

むにゅうっとした感触と、その中にある少し硬いもの!

更にボディーソープのヌメりも合わさって、背中がとんでもない状況になっていく!

 

好きか嫌いかと聞かれたら、好きだと即答しよう!

それ以外の言葉なんて出てきません!

 

「んっ………旦那様の逞しい背中が擦れて………あんっ」

 

なんて官能的な声を耳元で囁いてくる!

それから、朱乃の手が前に伸ばされてきて―――――。

 

「前もお流ししますわ」

 

「い、いや、前側はいいかな!? 流石に、ね!?」

 

「うふふ、今更恥ずかしがる必要はないでしょう? もう、あんなことやこんなことまでした仲なのに」

 

そうなんですけどね!

今日はもう風呂入って寝るって感じの完全オフモードだったから、ついていけてないの!

ああっ、耳までハムハムしないで、朱乃さん!

バラキエルさんとの試合があってから、以前にも増して積極的になってませんか!?

 

大会ではライバルチームということもあり、リアス達との時間が以前よりも少なくなった中、朱乃だけはあの試合の後からアプローチが一気に増えている。

寝る時にベッドで添い寝してきたり、俺が悪魔の仕事中に事務所に遊びに来たり、今回みたく風呂場に入ってきたり。

俺と二人きりの時には、学園のお姉様の顔だけでなく、全力で甘えてきたりするから、そこが堪らなく可愛くて………。

そう思っていたら、今回みたいにエロエロな雰囲気で迫ってきたりもしてまして!

 

朱乃が言う。

その視線は俺の下半身へと向けられていて………、

 

「それに………旦那様の体は正直者みたいですよ?」

 

ここまでされたら、そうなるよ!

リトルイッセー君も目覚めますよ!

オフモードから気持ちが切り替えられていない俺をおいて、完全起動しちゃってるよ!

 

落ち着け、リトルイッセー!

一端、待機モードに移行しようか!

 

「ま、まだ試合もあるし………一応はライバルチームだしなぁ」

 

なんとか頭に浮かんだ制止の言葉を口にする俺。

しかし、

 

「それはそれ、これはこれですわ。大会ではライバルチームでも、今は恋人………夫婦の時間でしょう?」

 

なんというド正論。

朱乃の言う通り、それはそれ、これはこれだ。

バトルする時は全力で戦い、イチャイチャする時は全力でイチャイチャする。

やっぱりメリハリって大事だと思うんだ!

おまけに………夫婦の時間、そんなたぎる言葉を言われてしまえば、もう俺に返す言葉はない。

 

くっ………あれですか!

もういけと!

もうこのまま風呂場で二人揃ってヌルヌルになれと!

そういうことで良いんですよね!?

R-18タイムに突入しても良いんですよね!?

 

 

『お風呂場で ヌルヌルのまま トランザム  ―――――イグニス心の俳句』

 

 

うちの駄女神様もこう言ってきてるもの!

俳句詠んでるもの!

というか、それは俳句って言って良いの、駄女神様!?

怒られませんか!?

 

いや、もう何も言うまい。

何を悩むことがある、兵藤一誠!

男だろ、夫だろ、おっぱいドラゴンだろ!

そこにお嫁さんのおっぱいがあるのならば、ルパンダイブするべきだろう!

トランザムするべきなんだろう!

 

そこに思考が至った瞬間、オフモードだった俺の電源は切り替わった―――――。

 

 

 

~一方、その頃の脱衣場では~

 

 

美羽「さ、流石は朱乃さんだ………! お兄ちゃんを完璧に誘導している………!」

 

リアス「ズルいわ、朱乃! わ、私だってイッセーと………」

 

アリス「で、でもあそこに割り込むのはちょっと………」

 

ニーナ「完全に二人だけの世界になってるもんね」

 

レイヴェル「な、なるほど。朱乃さまはあんな感じで………」

 

アーシア「はわわわ、あ、あんなことまで!」

 

ゼノヴィア「勉強になるな!」

 

イリナ「ちょ、ゼノヴィア!? 何をメモしているの!?」

 

ロスヴァイセ「うわぁぁぁ……」

 

小猫「凄いです、朱乃さん」

 

レイナ「………ヌルヌル」

 

 

一部の女性陣(ほぼ全員)はバッチリ現場を目撃していたそうな。

 

 

~一方、その頃の脱衣場では 終~

 

 

 




~あとがきミニ~

長谷川(無職)「これが『労働意欲霧散(ニートメイカー)』の禁手―――――『輪廻する(フォーエバー)玉と馬船の(パチンコ・ギャンブル)無限魔堕男(マダオスパイラル)』」

アザゼル「やべぇぞ、こいつは……。働きたくても働けないなんて……!」

イッセー「あんた、いつもサボってんじゃん! 神滅具のせいにするなよ!? つーか、神滅具って認定して良いの、あれ!?」



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13話 教会ガールズ

朝の修行を終えた俺は、家のシャワーで汗を流してから、一階のキッチンに向かった。

 

「今日はっと………フルーツにすっか」

 

冷蔵庫からフルーツ牛乳を取り出し、豪快に飲んでいると、リビングに客が来ていることに気づいた。

ソファに腰かけている白と黒が混じった髪をアップにしている少女。

名前は確か―――――

 

「えーと、リントさんで良かったかな?」

 

「いえいえ、リントで良いっスよ、赤龍帝のお兄さん」

 

少女―――――リント・セルゼンさんが軽い口調で返してくる。

 

彼女は教会から駒王町に派遣されてきた戦士だ。

イリナやデュリオといったチーム『D×D』の天使メンバーが大会で忙しいため、いつでも動ける人員としてこちらに配置された。

………というのは建前で、チーム『D×D』に入り、経験を積み、見聞を広げることを目的にミカエルさんが送ってくれたそうだ。

なんともミカエルさんらしい。

 

彼女の顔を見ていると、いつぞやの神父を思い出すが、こちらはあいつに比べて可愛いげがある。

 

「君がここにいるってことはイリナに用事か?」

 

「用事ってほどじゃなくて、ただ遊びに来ただけっスよ。あ、言うのが遅くなりましたが、お邪魔してるっス」

 

「ハハハ、いいよいいよ。くつろいでいってくれ。そういや、その格好は………」

 

以前見かけた時には教会の戦士の格好、ゼノヴィアやイリナが着ているような女性用戦闘服という出で立ちだったが、今日はなんと駒王学園の女子生徒の制服を着ていた。

 

リントさんは制服を引っ張りながら言った。

 

「この町を日中動き回るなら、戦闘服より、こっちの方が良いそうっス」

 

確かにな。

あんな格好で日中動いていたら色々目立つ。

ま、まぁ、去年の今頃、戦闘服姿でこの町を闊歩していた二人組がいましたけどね。

路銀が尽きて町中で物乞いまでしていて………あれ?

思い出すと泣けてくるな。

 

俺は別のソファに座り、訊ねた。

 

「確か、ヴァチカンの戦士育成機関の一つ………白髪の戦士を育成しているところの出身だって聞いたけど」

 

フリードや英雄派のジークフリート、他にも教会の戦士達との一件でも白い髪をした人達を見かけた。

いくつかある戦士育成機関の一つに白い髪の戦士を育成しているところがあったと耳にしていた。

今は再編成されたとも。

 

俺の問いにリントさんは頷く。

 

「イエスイエス。フリードのアニキやジークのセンセと一緒でございやす」

 

「あ、いや、フリード達を引き合いに出すつもりはなかったんだが………」

 

しかし、彼女は手を振って言った。

 

「気にしないでくださいな。自分は自分なんで。あー、二人がご迷惑をかけたことは、あの機関を代表して謝ります。すみません」

 

「いいって。もう済んだことだし、君が悪いわけではないしさ。あいつらはあいつら、君は君………だろ?」

 

「ラジャーっス」

 

俺の言葉にリントさんは敬礼のポーズを取る。

 

そこから、無言の時間がしばし流れた。

うーむ、話題が見つからねぇ………。

イリナ達の話でもしようか?

色々勉強してはいるが、教会の話は分からないしなぁ。

 

などと思っていると、リントさんの方から口を開いた。

 

「自分が所属していたのは『シグルド機関』というところでしてね。英雄シグルドの血を引く者達の中から、魔帝剣グラムを扱える『真のシグルドの末裔』を生み出すのが目的だったわけですわ」

 

「ってことは、君はフリードやジークフリードと親戚ってこと?」

 

「複数の遺伝子パターンから作られてるんですけど………まぁ、親戚みたいなもんですかね。あー、フリードのアニキとはほぼ同一の遺伝子なので、同一人物と言えばそうなるのかなー」

 

同一の遺伝子、か。

信徒である教会が神の教えに反するような真似をしていたと。

バルパーって例もあるし、教会にはそういうことを考える奴が何人もいるのかね?

まぁ、少し前までは悪魔、堕天使とは敵対していたし、少しでも敵を滅する力を欲して、そういう考えになるのかもな。

自身の欲を満たすのではなく、本気で教会のことを考えて、禁忌と分かっていても手を出してしまう人もいるのだろう。

今はかなり改善されているようで、怪しい研究をしていた機関を解散させており、研究員には別の組織を紹介していると聞く。

 

しかし、それならリントさんがフリードと似ているのも当然か。

同一の遺伝子から生まれた白髪の子供達………。

 

「いわゆる試験官ベイビーってやつっスな」

 

簡単に言っちゃうね、この子!

結構重たい話だと思うんですけど!

 

「ハハハ、同盟組む前は混沌としていましたからなー、ヴァチカンも。教えに反していようとも、天のため、神のためになるのならっていう狂信者、強欲に駆られたお偉いさんがたくさんいたらしいっスわ」

 

ちょっとちょっと!

そんなに明るく教会の闇を語って良いの!?

ミカエルさんが知ったら渋い顔するよ!?

 

そんなことを思っていると、不意にリントさんは遠い目をした。

 

「結果的にジークのセンセがグラムを扱えましてね。その時点で機関の長年の宿願は完遂。ま、ジークのセンセはそのあと意気揚々とヴァチカンからおさらばして、テロりまくっていましたけど」

 

「うん。テロりまくってたわ、あいつ」

 

英雄派で曹操と組んでやらかしてくれましたよ、あのイケメン。

その結果、同じ教会出身の木場に倒されるという結末を迎えたわけだが。

 

リントさんは続ける。

 

「グラムを扱える人が出ちゃったんで、機関は残された自分らに対して方針を変えたんス。『英雄シグルドの子孫がどこまでやれるのか試してみよう作戦』~ドンドンパフパフってね。今じゃ、そのグラムも木場きゅんパイセンに渡っちゃってますけど」

 

木場、おまえ「木場きゅんパイセン」って呼ばれてるのか。

リントさんがふいに人差し指を一本立てる。

すると、指先から紫色の小さな火が出現した。

 

「これのことはご存じで?」

 

「ああ、紫炎だろ? 『D×D』メンバーなら全員知ってるよ」

 

リントさんの指先に浮かぶ紫炎。

それはあのヴァルブルガが持っていた神滅具『紫炎祭主による磔台』だ。

ゼノヴィアかヴァルブルガを倒した後、神滅具は三大勢力により回収された。

聖遺物でもある神器はアザゼル先生が管理して、天界側と今後の使い道について協議していたそうだ。

それがアセム、トライヘキサとの戦いの際に必要になり、ヴァレリーが持てるように調節していたんだ。

まぁ、それはあくまで一時的な処置。

 

『紫炎祭主による磔台』は本来何者かの意思で宿主を渡り歩くそうだ。

次の宿主も神器が選ぶという他の神器とは異なるものだった。

リントさんが扱えるというということは、神器が彼女を選んだということだ。

 

「グリゴリが紫炎を扱える者を探すなかで、自分にも話が及んで、偶然にも、いんや、必然的に自分が選ばれてしまったわけなのですよ」

 

飄々と語るリントさん。

指を一本一本、順に立てていくと、指先に次々と紫炎が灯っていく。

更に掌を上に向けると、五指に灯った紫炎が一つの塊になって煌々と輝き始める。

この様子を見るに既に結構使いこなせるみたいだな。

しっかし、色々と凄いことを軽いノリで言ってくれるなぁ。

 

「ところで、セルゼンを名乗っているのは機関にいた頃に上から与えられたから?」

 

フリードと同じ遺伝子とはいえ、姓まで揃える必要はあるのかね?

フリードといえば、教会を裏切ったはぐれ神父。

その奴の名を名乗れば、周囲から勘繰られたりするだろうに。

 

リントさんは掌の炎を消して言う。

 

「うーん、まぁ、色々な意味がありますな。ま、自分くらいはおっ死んだアニキの分まで生きてやろーかなとか、アニキが悪さした分を自分が償えればなーとか」

 

軽い口調はフリードを思い出してしまうが、心根は優しい子のようだ。

まぁ、アザゼル先生やミカエルさんが神滅具を託すような子だしな。

 

俺は微笑んで言う。

 

「まぁ、気楽にいこうぜ」

 

「うっスうっス。のんびりやっていきますよ」

 

ニパッと笑んだリントさん。

その時だった。

 

「リントさんお待たせ………って、ダーリンも一緒?」

 

リビングにイリナとゼノヴィアが姿を見せた。

二人を確認するとリントさんは立ち上がり、嬉々として話しかける。

 

「おおっと、紫藤パイセンとクァルタパイセン待っていましたぜ。お誘いに甘えて、早速、ガールズトークしに来たっスよ」

 

リントさんはイリナに誘われて家に来たらしい。

そういや、初めて紹介された時も教会の関係者、特に教会所属の戦士ってこともあって、色々話してたっけか。

今年で十七って言ってたし、イリナ達と歳も近いし、女子同士で話に花が咲いたんだろう。

 

俺はイリナに訪ねる。

 

「短期間で随分仲良くなったな。流石はイリナ」

 

「だって、年下だし、ちょいと先輩としても後輩のことを知りたくなっちゃうじゃない?」

 

楽しそうに言うイリナにゼノヴィアが続く。

 

「それに同郷の者としても、話をしたくてね」

 

あ、そっか。

ゼノヴィアと同じ出身だっけか、リントさん。

 

イリナがリントさんに言う。

 

「今日はね、アーシアさんとミラナさんも呼んでるの!  歳の近い信徒でガールズトークといきましょう!」

 

「おおっ! これは自分、トモダチが増える感じですか? いやー、感謝感激っス!」

 

そんなふうにして、イリナ、ゼノヴィアはリントさんを連れてアーシアの部屋に向かってしまった。

 

というか、誰か来てるなと思っていたら、ミラナさんだったのね。

こりゃ、教会トリオが三人組から五人組になったりするかも?

リントさんともう少し話してみたかった気もするが、ガールズトークに混じるわけにはいかないか。

そんなことを思っていると、イリナがドアの向こうからひょっこり顔を出してきて、

 

「混じりたかったら、ダーリンも一緒にどう? ほら、あの性転換銃で女の子になって―――――」

 

「嫌だよ!? さっさとガールズトークしてこい!」

 

なんで女子の輪に入るのに、態々、女体化しなきゃいけないんだよ!?

そもそも入る気ないし!

変な気は使わずに女子同士で仲良くやりなさい!

 

俺がツッコミを入れていると、イリナはペロリと舌を出した。

 

「うふふ、冗談よ♪」

 

「ったく………」

 

そもそも俺の女体化をさせる時、結構マジで来るから冗談に聞こえないんだよ!

なんであの姿がお気に入りなの?

なにが君達を掻き立てるの?

チビっ子化といい、女体化といい、俺で遊びすぎじゃない?

 

「私のオススメは小学校一年生くらいのダーリンかな?」

 

「なんでだよ!?」

 

イリナのオススメは小学生くらいにチビっ子化した俺ですか!

小学校一年生くらいの俺で何をするつもりだ!?

もしや、また着せ替え人形にするつもりじゃあるまいな!?

 

すると、イリナは頬を少し赤く染めて言った。

 

「でね、私もその………同じくらいに小さくなって、昔みたいにダーリンと………イッセー君とまた遊んでみるのもアリかなって」

 

「え?」

 

思いもよらないイリナの返答につい聞き返してしまった俺。

小さくなった俺とイリナで遊ぶ?

 

「ほら、私って小さい時にイギリスに引っ越しちゃったでしょ? だから、再会するまでの思い出がないわけで………だからと言うわけじゃないけど、もし、私が日本に留まっていたら、イッセー君とどんな感じになったのかなーって」

 

「あーなるほどね」

 

そう言われると少し気にはなるかな。

もし、イリナが日本に留まっていたら、ずっと一緒に幼馴染みと過ごしていたら俺達はどうなっていたか。

今みたいに互いに想いを伝え合ったかもしれないし、違った道を歩んだかもしれない。

 

「もしかしたら、ショタイッセー×ロリイリナちゃんという組み合わせがあったかもしれない………そういうことね?」

 

「なんで、おまえが会話に入ってきてんだよ、この駄女神ぃぃぃぃぃぃ!」

 

もしもな俺達の光景を想像していたのに、何をとんでもないことを捩じ込んできてるの、この駄女神!?

今、そんな雰囲気じゃなかったじゃん!

つーか、どんな組み合わせだ!?

 

イグニスは顎に手を当てて言う。

 

「ショタ化したイッセーと、ロリ化したイリナちゃん。無垢な二人が思い出の場所で………深いわね!」

 

「なにが!? なにが深いの!? おまえのボケか!? それだったらマリアナ海溝よりも深いよ!」

 

「一見、ツルペタな二人にエロな要素はないのかもしれない。でも、そこにある背徳感は無から有を作り出す。そう、そこにはあるのよ、エロが!」

 

「人の話聞けよ!? つーか、言ってることも意味わからないんですけど!」

 

しかし、イグニスは俺のツッコミをスルーして、イリナの肩に手を置いた。

 

「イリナちゃん、諦めなければ夢は叶うわ!」

 

「そんな夢は持った覚えないんですけど!? 私はただ、イッセー君との思い出を―――――」

 

「ええ、思い出はつくれるわ。その上でイッセーとの愛を深めるのよ」

 

「あ、愛?」

 

戸惑うイリナにイグニスは続ける。

 

「二人の体の時を戻し、小学生、中学生、高校生と変化させていくの。そして、あり得たかもしれない二人の時間を想像する」

 

「う、うん」

 

「小学生の時は公園で遊んだ、中学生の時は下校中に買い食いして………。後で作った偽りの思い出だとしても、そんな自分達を想像しながら二人で辿れたら………素敵じゃない?」

 

い、いや、言わんとすることは分かるよ?

体を過去に戻して、もしもな俺達を想像するってのはやってみたい気はする。

だけどね?

 

「なぜに、それがショタ×ロリに繋がる!? もしもな思い出辿るだけで良いじゃん!」

 

「何を言うの、イッセー。ショタイッセー×ロリイリナちゃんもあり得たかもしれないじゃない」

 

「そんなの―――――」

 

「無いって言い切れる? 絶対にそんなことは無い、そう言い切れる?」

 

「うっ………」

 

な、なんだ、その目は………?

なんで、そんなに真っ直ぐな目で見てくるんだ?

 

だ、だが、俺はエロエロだし、イリナも堕天しそうになるくらいエロ思考だし………な、ないとは言い切れない、か?

 

「小さい私と小さいイッセー君………はわわわ!」

 

イリナが何か呟いたと思うと、一気に顔が赤くなっていった!

おいおいおいおい!

 

「おいぃぃぃぃぃぃ! 堕天するぞ、イリナァァァァァァァ!」

 

「ど、どとどどうしよう、ダーリン!? 小さい私達で想像すると、私………!」

 

「いや、なぜにそれで堕天しそうになる!? 微笑ましい光景で良いじゃん!」

 

ホントによく堕天しかけますね!

性欲のエロ天使って言われても無理ないよ!

 

イグニスが親指を立ててイリナに言う。

 

「次の試合、頑張れば私がセッティングしてあげるわ!」

 

「わ、私、次の試合頑張る! イッセー君、負けないからね!」

 

「頑張る理由がそれで良いのか!?」

 

 

 

 

~一方その頃、教会ガールズトークメンバー~

 

 

ゼノヴィア「流石はイリナ、性欲のエロ天使だ」

 

リント「ほほぅ、紫藤パイセンはそういうのがお好みなんスねー」

 

アーシア「イ、イリナさん、まさかそんなことまで考えているなんて………。私も負けられません!」

 

ミラナ「す、凄い………」

 

教会ガールズトークメンバーが扉の向こうから覗いていた。

 

 

~一方その頃、教会ガールズトークメンバー 終~

 

 




~あとがきミニ~

モーリス「イリナ、おまえにピッタリの技を教えてやるよ」

イリナ「ホント? どういうの?」

モーリス「オートクレールの浄化の力を最大限に活かした技だ。その名も『不破舞利髄(ふぁぶりーず)』! あらゆる菌を除菌できる技だ! どうだ、凄いだろ!」

イリナ「私のオートクレールで何しようとしてるの!? 聖剣で除菌ってどういうこと!?」

モーリス「いくぜ! 不破舞利髄(ふぁぶりーず)ッッッ!」

イリナ「イッセー君! ツッコミ! ツッコミィィィィィィ!」


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14話 後輩との手合わせ

グレモリー領の地下に設けられた広大なトレーニング空間、そこで俺達は各々修行に取り組んでいた。

この空間は以前にグレモリー眷属で使っていたところとは別の場所になっている。

実はつい最近、俺は専用のトレーニング空間を用意してもらっていた。

これまではリアス達と共有で使っていたので、お互いに時間が被らないように調整していたんだけど、リアスのお父さん――――ジオティクスさんが気を利かせて作ってくれたんだ。

 

『ハハハ、義息子のためなら、これくらいお安いご用だよ』

 

笑いながらそうジオティクスさんに言われたんだが………。

そろそろ、俺もジオティクスさんのことを『お義父さん』と呼ぶべきなのだろうか。

バラキエルさんには何度か言ってるしなぁ………。

こういうの、タイミングに迷うの俺だけじゃないよね!

俺、身体的な修行に加えてお婿さん修行もした方が良いのかな!?

モーリスのおっさんにもそんなこと言われたしね!

 

「よっしゃ、いっちょやるか」

 

俺は屈伸をしながらそう百鬼に言った。

今回はチームの新メンバーたる百鬼との手合わせがメインだ。

 

「兵藤先輩、稽古お願いします」

 

「おう」

 

開始前、互いに一礼する。

 

俺はトレーニング用のジャージ、百鬼はアスリート用のロングスリーブシャツにファイトショーツという格好だ。

 

「気合入ってるな」

 

「ええ、兵藤先輩とは前々から拳を交えてみたかったんです」

 

百鬼は体に濃密な闘気をまとい、更には霊獣『黄龍』とも契約しているためか、強大なドラゴンのオーラまで発している。

霊獣『黄龍』は『地』を司る。

大地には龍脈が流れており、百鬼はそこから『気』を借り受け、自身の闘気に加算できるらしい。

その土地の豊かさしだいだが、条件が揃えばほぼ無尽蔵で『気』を借り受けられるとのことだ。

さて、そんな百鬼の戦闘力は―――――。

 

地を蹴って猛スピードで駆けてくる。

闘気で自身の身体能力を引き上げているため、攻撃防御スピード、全てを増大させている!

このスピード、上級悪魔クラスでもついていくのは難しいだろうな。

それだけのものだ。

 

俺へと詰め寄った百鬼はその勢いを乗せた蹴りを打ってくる。

俺はかわすが、その蹴りは―――――地面を大きく破壊し、巨大なクレーターを生み出した!

こりゃ、まともにくらえば結構なダメージを受けそうだ!

 

大きく飛び上がった俺に対し、百鬼は闘気とドラゴンのオーラを混ぜ込んだ波動を次々と撃ち込んでくる!

打撃以外もかなりの威力を持っているな!

 

俺が迫ってきた波動を弾き返すと、百鬼もまた空に飛び上がり、再び迫ってくる。

深く引き、撃ち込まれる拳。

インパクトの瞬間に捻りが加えられており、相手を抉るような攻撃だ。

そんな攻撃を連打してくる。

更に拳打から蹴りにかけての流れるような動きや相手を惑わすフェイント、高速移動による撹乱まで。

良い動きだ。

 

攻撃は十分。

次は―――――。

 

「守りはどうだ?」

 

俺はそれまで徹していた防御を解くと、百鬼の拳を流し、顔面目掛けて拳打を放った。

首を傾げて避ける百鬼。

俺はそこから追撃を仕掛ける。

 

拳に赤いオーラを纏わせて、至近距離で拳の弾幕を張る。

こっちの一撃も衝撃波だけで地面を割るレベルだ。

並の相手ならこれだけでもビビってしまうだろう。

だが、百鬼は拳の弾幕を潜り抜け、冷静に対処して見せた。

俺の拳を、蹴りを難なく受け止め、流し、反撃してくる。

しかも、俺の攻撃をくらっても耐えられるほど頑強だ。

守りも十分だろう。

この歳でここまで鍛え上げるなんてな………!

 

俺は百鬼の拳を受け止めると、ニッと笑む。

 

「やるな、百鬼。ここまでやれるとは思わなかったよ」

 

百鬼もまた俺の拳を受け止めた状態で答える。

 

「いえ、兵藤先輩が手加減してくれているからですよ。兵藤先輩が本気を出せば、俺なんて足元にも及ばないでしょうから」

 

「謙遜すんなって」

 

俺達は弾かれたように互いに後ろに跳び、着地した瞬間、更にギアを上げる。

高速移動しながら、俺達はぶつかり合った。

 

しかし、後輩との打ち合いは楽しい。

前はギャスパーや小猫ちゃんともこういう修行をしていたんだが、大会中は中々、二人と修行ができなくて寂しく思っていたんだよね。

百鬼も肉弾戦オンリーなもんで、同じく肉弾戦をする身としては嬉しいね!

 

俺達から少し離れたところではモーリスのおっさんとボーヴァがこちらと同じく模擬戦………じゃないな。

一方的にしごかれてるよ、ボーヴァ。

 

「なんのこれしきぃぃぃぃぃ!」

 

「おっ! やるじゃねぇか、ボーヴァ! よぅし、一段………いや、三段くらい上げてみっか!」

 

「望むところです! ぬぁぁぁぁぁぁ!」

 

す、凄ぇ………!

あのおっさんに食らいついてやがる!

俺やアリスが数えきれないほど泣かされたあのおっさんへ果敢に向かっていくなんて!

ボーヴァ、おまえは本当に凄いドラゴンだよ!

木刀で殴られて、たんこぶメッチャできてるけど!

ドラゴンの大きな瞳に涙浮かんでるけど!

背負い投げで、綺麗に投げ飛ばされてるけど!

 

百鬼が目元をヒクつかせて呟く。

 

「あ、あれが泣く子はもっと泣き叫ぶというチートおじさん………」

 

「うん」

 

ボーヴァが(泣きながら)頑張っている横では美羽とリーシャが魔法陣を展開して、今後の試合に向けてあれやこれやと術式の改良、開発をしている。

それから―――――

 

「はぁ、はぁ、はぁ………」

 

肩で息をするエルメンヒルデ。

彼女はジャージ姿でただただ走っていた。

 

チーム入りを望むエルメンヒルデだが、基礎体力が足りておらず、今のままでは俺達と並んで戦うのは厳しい。

というわけで、まずは基礎中の基礎。

体作りをメインに頑張ってもらっていた。

メニューはモーリスのおっさんが組んでいるので、とんでもない内容………と思うだろうが、実はそんなことはない。

ま、エルメンヒルデが数日ほど筋肉痛に悩まされるくらいだろう。

 

「ほらほら、まだへばるには早いわよ」

 

などとエルメンヒルデに声をかけるのは同じくジャージ姿のアリスだ。

アリスはレイヴェルと一緒にエルメンヒルデのトレーニングに付き合い、彼女と走り込みをしている。

 

「わ、わかってます! あなたに言われなくたって………!」

 

アリスに言われて、前屈みだった上半身を起こし、ペースを上げるエルメンヒルデ。

どうやら、エルメンヒルデはどこかアリスに対抗心があるらしい。

あれだけ『クマさん』言われてたらそうなるんだが………アリスはそこを利用してエルメンヒルデを発破かけているみたいだ。

なんだかんだ言いつつも、アリスは面倒見が良い。

たまに挑発的な発言もしているが、エルメンヒルデのペースに合わせて付き合ってるみたいだしね。

エルメンヒルデもそんなアリスに文句を言いつつ、今のところ順調にトレーニングをこなしていっている。

少し前の小猫ちゃんとレイヴェルみたいな関係だな。

 

レイヴェルといえば、彼女も日頃から自主トレをしているから、お嬢様ながら体力あるんだぜ?

今となっちゃ俺達のペースに余裕でついてこられているからな。

 

『夜の体力も凄いものね!』

 

黙らっしゃい、駄女神!

今、そういう話してねーんだよ!

レイヴェルはマネージャーは体が資本って言って、有言実行してるんだよ!

俺のために頑張ってくれてるの!

 

『夜のマネージメントも頑張ってるわよね!』

 

だぁぁぁぁぁぁぁぁ!

何を言っても夜に繋がるんですけど!

なんでもかんでもエロエロな方に話進めないで!

エロエロな俺でも困るから!

えぇい、駄女神は無視だ、無視!

今は百鬼との手合わせに集中しよう!

 

『ふんだ、イッセーのけちんぼ。いいもん、ドライグ君で遊ぶから』

 

『イヤァァァァァァァァァ!』

 

ドライグゥゥゥゥゥゥゥゥ!

なんか悲鳴聞こえてきたんだけど!

大丈夫なの!?

 

『『『拝啓、ドライグ様。その面白い姿は忘れません。歴代赤龍帝一同より』』』

 

いや、何があったの!?

面白い姿ってなに!?

俺の相棒はどんな姿になったの!?

つーか、止めろよ、歴代赤龍帝一同!

 

「なるほど、教会から来たというあの女子はそういう境遇でしたか」

 

ツッコミを入れている俺に百鬼はそう話しかけてきた。

そうそう、リントさんについて話をしていたんだった。

ドライグ、後で助けに行くからね!

それまでは、その面白い姿とやらで耐えてくれ!

 

「どこの所属だったかは今度聞いてみるさ」

 

百鬼の腕を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。

宙に浮く百鬼の体。

しかし、地面に叩きつけられる直前に両足で踏ん張り、その体勢から反撃まで仕掛けてきた。

本当、よく鍛えられてるな。

 

俺から離れて拳を構える百鬼が言ってくる。

 

「いつもは木場きゅん先輩と模擬戦しているんですよね。凄腕の剣士と聞いています。俺も手合わせ願いたいです」

 

「おー、良いんじゃないか? あいつ、剣の腕も凄いけど、最近は神器の能力をフルで使ってくるから、色々な技に対応する修行になるよ。………それよりさ、その『木場きゅん先輩』ってのは流行っているのか ?」

 

俺は訝しげにそう訊いた。

このあいだ、リントさんも「木場きゅんパイセン」とか呼んでたし。

 

百鬼が言う。

 

「あー、二年女子の間では、なぜか『木場きゅん先輩』って呼ばれてますね。だからか、二年男子からもそんな感じ呼ばれてて、略して『きゅんパイ』とか言われたりもしてます」

 

………なぁ、木場。

おまえの人気はどこに向かってるんだ?

 

近くで槍の稽古をしていたサラが言ってくる。

 

「そういえば、クラスでそう呼ばれてるのを聞いたかも」

 

「………」

 

………うん、木場よ。

おまえはそれで良いのか?

何かしらアクションを起こした方が良いと思うのは俺だけだろうか?

 

百鬼が冗談混じりに言ってくる。

 

「兵藤先輩も『兵藤きゅん先輩』とかどうですか?」

 

「やめてくれ。語呂も悪いし」

 

そもそも、俺は木場みたいに人気ないだろ。

エロ三人組の一人だしな。

 

サラが首を傾げて不思議そうに言う。

 

「にぃに、人気あるよ?」

 

「えっ、マジで!?」

 

俺、人気あるの!?

初耳なんですけど!

 

百鬼が顎に手を当てて思い出すよう煮いう。

 

「そういえば、誰か言ってたような………。兵藤先輩、近所の不良から恐れられてますし。変な人から声をかけられなくなったとか」

 

「あー、そんなこともあったな」

 

一年の時、美羽とクラスの女子が帰宅中絡んできた不良生徒を駆けつけた俺がしめたっけ。

あの時は美羽が魔法を使わなくても済むように俺が出張ったんだが………。

その時にしめた奴らの中に、近所の不良グループのリーダー的な存在がいたとかなんとか。

 

「兵藤先輩って、近所の不良からは『シスコン鬼神』とかって呼ばれてますよ」

 

「えっ、なにその二つ名。恐れてるのか、バカにしてるのかハッキリしてくんない?」

 

「それは不良達に言ってください。まぁ、そんなわけで、うちの生徒が不良達から絡まれる件数が減った理由として、兵藤先輩の存在があるんですよ。駒王学園のシスコン鬼神を相手にしたら五体満足では帰れないって。それで、一部の女子生徒からは前々から人気があるらしいです」

 

それ、人気があるんじゃなくて、虫除けアイテムみたいな扱いをされてるだけなんじゃ………。

どうしよう、泣けてくるんですけど。

 

「お兄ちゃん、普通に女子生徒から人気あるよ?」

 

そう言ってきたのはリーシャと魔法の意見交換を終えた美羽だった。

美羽はジャージの上着を脱ぐと準備運動をし始める。

 

「元々、高身長でルックスも悪くないって言ってたよ? エッチなこと言わなくなってからは評価も上がってて、今じゃワイルド系で、いざという時に守ってくれそうな男子ってことで、女子の間でちょくちょく話されてるよ」

 

「なん、だと………!? そ、それじゃあ、エロエロなことを控えていたら、俺って………」

 

「うん。モテモテだったと思う」

 

美羽の一言に俺はその場に膝をついた。

 

俺、自らモテ期を遅らせていたというのか………!

教室でエロ本読んだり、エロトークをしなければ、もっと早くに彼女が出来ていたかもしれないというのか………!

欲が先走って目標から遠ざかっていたなんて!

俺のバッキャロォォォォォォォォォ!

 

い、いや………お、落ち着け、俺!

仮に早くに彼女が出来ていたとすると、今みたいに美羽達とイチャイチャラブラブな生活は送れていないかもしれないんだ。

そう考えるとエロエロでも良かったんだよ。

これからは少し気をつけて、エロは控えめに、女子生徒からの人気度を上げていけば良いのだ!

うん、そうしよう!

 

膝をつく俺の前に美羽はしゃがみこむと、微笑んだ。

 

「大丈夫! エッチなお兄ちゃんもボクは大好きだよ!」

 

「うぅぅぅ………! 美羽ぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

なんて嬉しいことを言ってくれるんだ! 

ダメなところも、エロエロなところも、全て受け入れてくれる!

やっぱり、美羽は最高の妹だと思うんだ!

あ、美羽に頭を撫でられるの気持ちいい………。

 

泣きつく俺の頭を撫でながら、美羽は百鬼に言う。

 

「百鬼君、ボク達のこと呼ぶとき名前でも良いんだよ? 『兵藤先輩』だとお兄ちゃんとボクでややこしくなりそうだし」

 

美羽の提案に俺も乗る。

 

「それもそうだな。小猫ちゃんとかギャスパーも名前で呼び分けてくれてるし、百鬼もそれで良いよ」

 

百鬼って、俺達二人を前に話すときフルネームで呼んでたからな。

それだと長いし、少し距離も感じる。

これから同じチームでやっていく以上、名前で呼んでくれた方が分かりやすいし、打ち解けやすいだろう。

 

俺の言葉に百鬼は少し照れながらも頷いた。

 

「えっと………そうですね。それじゃあ、お言葉に甘えてイッセー先輩、美羽先輩って呼ばせてもらいます」

 

 

 

 

ちなみに、

 

「あれ? ニーナとワルキュリアは?」

 

「あっち」

 

美羽に指差され、そちらを見てみると――――

 

「も、もう………げ、限界………」

 

「ニーナ様。たまには運動もなさらないと、将来、太りますよ?」

 

ジャージ姿でへばっているニーナと、そんなニーナを団扇で扇ぐワルキュリアがいた。

ニーナの場合、修行というよりは、運動不足の解消から始めないとな………。

 

 




アセム「おっす! オラ、アセム!」

イッセー「またその口調か!」

アセム「試合に向けて準備を進める赤龍帝チーム。そんな中、彼らの前に現れたのはアドバイザーを申し出る女性だった! 勇者君に近づいてきた彼女の目的は一体………。次回、おっぱいボールZ『新たなおねショタ』! 絶対見てくれよな!」

イッセー「おぃぃぃぃ! 今の流れでなんでおねショタに繋がるの!? しかも、俺、またチビッ子化されるの!? つーか、おっぱいボールZってなに!?」

イグニス「オラ、ワクワクすっぞ!」

イッセー「おまえまで入ってくるじゃねぇぇぇぇぇ!」


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15話 新しい出会い

修行を終えた後はメンバー全員揃ってのミーティングだ。

メンバー全員が特訓空間の一ヶ所に集まると、レイヴェルが揃えてくれた資料を囲んで話し合う。

転生天使の特性、トランプ――――ポーカーの役について。

これについては試合が決まってからずっと話していたことではあるが、改めて確認だ。

向こうはあるカードが揃うことでメンバーの力が爆発的に上がる。

悪魔の駒のように個々の力ではなく、チーム全体の戦力を引き上げられるのは大きなポイントだ。

 

「加えてストラーダの爺さんにリュディガーさん、か………。鬼だな、この組合せ」

 

俺はワルキュリアが入れてくれたコーヒーを飲んでそう漏らす。

 

ストラーダの爺さんの力は間近で見ていたからよく分かっているつもりだ。

モーリスのおっさんと二人がかりとはいえ、トライヘキサを取り込んだアセムと真っ向からやりあっていた怪物クラスの猛者。

モーリスのおっさんと同じく、チートと呼ばれてもおかしくはない、理不尽な存在だ。

 

「これうま」

 

………うちのチートおじさんはのんびり饅頭食べてます、はい。

ボーヴァとあれほど激しく動いてたのに汗一つかいてないって、どういうこと?

 

「あんた、本当凄いと思うわ」

 

「勿体なきお言葉です!」

 

アリスの言葉に深く頭を下げる絆創膏だらけのボーヴァ。

マジで根性の塊だな………凄いよ、君!

 

それはともかく、こっちのチートおじさんと勝るとも劣らない人に加えて、相手のブレインも厄介だ。

レイヴェルが相手チームの監督であるリュディガーさんの写真付き資料を取り出した。

 

「リュディガー・ローゼンクロイツ様。人間からの転生悪魔の中で唯一レーティングゲームのトップランカーに名を連ねた方。『番狂わせの魔術師(アプセッティング・ソーサラー)』の二つ名で冥界でも屈指のプレイヤーとされています」

 

これにボーヴァも続く。

 

「ええ、あの方の戦術、戦略は王者の喉元まで迫ったほどです」

 

王者――――ディハウザー・ベリアル。

レーティングゲームの絶対王者。

アグレアスで手合わせした時はリゼヴィムの目を欺くため、彼はわざと俺に負けたが………。

本気でやり合っていたらどうなっていたかは分からないな。

無論、パワーでごり押すことも出来るだろうが、相手は歴戦の悪魔。

そう簡単には勝たせてくれないだろう。

特殊なルールが設けられるゲームではなおのこと。

こちらがどこまで食らいつけるかって感じになるだろうな。

 

レイヴェルは説明を続ける。

 

「元は魔法使いの組織のひとつ『薔薇十字団(ローゼン・クロイツァー)』の創設者一族に生まれた魔法使いでしたが、悪魔になる前はそれほど目立った術者ではなかったようです」

 

元は上位魔術師の一人。

それだけでも実力者として見られるのだが、今のような影響力はなかったみたいだな。

 

ボーヴァも追加情報をくれる。

 

「私も父からリュディガー氏のことは聞いております。転生後は『番外の悪魔』の一つ、マモン家の前当主の『僧侶』だったそうです」

 

「悪魔に転生した後、功績を立てた結果、上級悪魔に昇格したのですが………」

 

「彼の武勇伝はレーティングゲームに参加してからってことで良いのよね?」

 

アリスの問いにレイヴェルは頷く。

 

ボーヴァが苦い顔で言う。

 

「レーティングゲーム参加して、僅な年月でトップランカーに名を連ねた傑物です。父も何度か試合をしたのですが、非常にやりづらいと言っていました」

 

「元龍王のおっさんがそう言うのか。ちなみに勝敗は?」

 

俺の問いにボーヴァは答えづらそうにして、

 

「勝ったことはあります………ですが、負け越したままです」

 

タンニーンのおっさんが負け越したまま、か。

なんとなく、その試合を語るおっさんの表情が目に浮かぶな。

多分、今のボーヴァ以上に苦い顔をしていたんだろう。

 

レイヴェルがこう言う。

 

「うちの一番上の兄もリュディガー様を語るときは厳しい表情ばかりでしたわ。そんな方がこの大会では監督として参加すると表明した時は冥界はもちろん、人間界の魔術師達の間でも大きく話題になったそうです」

 

「そりゃあ、現役バリバリの一流プレイヤーがいきなり監督だもんな。しかも、天使チームの監督ともなれば………」

 

悪魔のチームならいざ知らず、まさかまさかの天界側。

同盟を組んでからは友好的になっているとはいえ、天使チームの監督をするなんて誰も思わないだろう。

 

美羽がリュディガーさんの記事に目を通しながら、ふと呟いた。

 

「でも、リュディガーさんとデュリオさんが組んだ理由ってなんだろう? 以前から面識があったとか?」

 

美羽の言葉にレイヴェルが答える。

 

「詳しい理由は不明ですが、両者の間で目的が一致した結果、行動を共にしているのは間違いないでしょう」

 

デュリオ達の様子を見るに、あちらのチームメンバーは監督であるリュディガーさんを信頼しているようだ。

確かにリュディガーさんは一流の監督になる得るだろうが、それを理由に天使達が悪魔の彼に監督を頼むかと考えると………なんとも言えないところだ。

 

俺と美羽、レイヴェルが深く考えていると、そよ横でアリスが「ん~」と背中を伸ばした。

 

「そこは当人同士の問題なんだし、考えてもしょうがないんじゃない? 今、話すべきなのは彼らの攻略法でしょ」

 

リーシャもそれに続く。

 

「そうですね。彼らには彼らの事情があるようですが、それはそれです。次の試合、彼らは全力で来る宣言しています。ならば、私達も全力で迎え撃つための準備に集中するべきでしょう」

 

二人の言う通りだな。

あれやこれやと考えても、どうせ答えなんて見つからないだろう。

それに、彼らの目的や願いを知ったところで、やることは変わらない。

試合はただ全力でぶつかる。

それだけだ。

 

それより、俺が気になるのは―――――

 

「リーシャ………なんで、フェンリルがここにいるの?」

 

腰を下ろしたリーシャの横にはなぜかフェンリルが寝そべっており、リーシャはフェンリルの頭を撫で撫でしているという構図。

色々ツッコミたいところはあるけど、まず最初に聞いておかなければいけない。

ヴァーリのとこのフェンリルがこの場にいる理由をな!

 

俺の問いにリーシャはフェンリルをモフモフしながら、微笑んで、

 

「モフモフしたかったのです」

 

「答えになってないけど!?」

 

どんだけモフモフしたいの!?

家でもモフモフしてるじゃん!

 

「最近、ヴァーリさんのところも試合で忙しいようでして。フェンリルちゃんと触れ合う時間が取れなかったのです。それが先程、フェンリルちゃんの時間が空いたとルフェイさんから連絡がありまして、それで」

 

「レンタルしたってか!? 伝説の魔獣、モフモフしたいがためにレンタルしたってか!?」

 

伝説の魔獣だよ!?

神をも殺す牙を持った最強クラスの狼だよ!?

モフモフしたり、それを目的にレンタルしてもいい存在じゃないと思うんだ!

 

つーか、そろそろフェンリルも怒って――――

 

「………」

 

あれ?

なんか、怒ってないような………。

怒るどころかリーシャにピッタリ寄り添ってるし。

頭撫でられて気持ち良さそうに目を細めているのは気のせいだろうか。

 

フェンリルはリーシャの手をペロペロと舐めると――――ゴロンと寝転がり、リーシャにお腹を見せる格好となった!

 

これにはリーシャも目をキラキラ輝かせて、

 

「はぅぅぅ! フェンリルちゃん、可愛すぎですぅ!」

 

そのままフェンリルに抱きついてしまった!

なにこの状況!?

なにこの未知過ぎる光景!?

 

フェンリルの胸に顔を埋めながらリーシャが言ってくる。

 

「イッセー! フェンリルちゃん、私が面倒を見ても良いでしょうか!」

 

「飼うってか! フェンリルちゃんを飼うってか!」

 

「ちゃんとご飯もあげますし、お散歩も連れていきますし、ブラッシングもしますから!」

 

ペットをねだる子供か!

ヴァーリに聞きなさい!

フェンリルも何か反応しないと、リーシャのペットにされてしまうぞ!

それで良いのか!

 

「………ワフッ」

 

フ、フェンリルが堕ちたぁぁぁぁぁぁぁ!

何かおさまるところにおさまったような顔してる!

戦いを離れ、心から安らげる居場所を見つけたような目になってる!

 

モーリスのおっさんが言う。

 

「ちょうど良いし、犬語の翻訳でもしてみるか」

 

「えっ、そんなことできるの?」

 

「おう。俺に任せりゃ余裕だよ」

 

そう言っておっさんが懐から取り出したもの。

それは―――――

 

『我、真の居場所を見つけたり』

 

という文字が画面に映し出された携帯サイズの機械。

昔、CMとかで見たことがあるもので、

 

「犬語翻訳機じゃねぇか!」

 

「面白そうだからペットショップで買ってみた」

 

「謎のチョイスだな! つーか、完全に懐いてんじゃん! リーシャのこと居場所とか言ってるし!」

 

フェンリル、おまえの居場所はヴァーリのところだろ!?

美猴と黒歌が嫌だったのか!?

などと思っていると犬語翻訳機に新たな文字が浮かび上がる。

 

『カップ麺、嫌』

 

「伝説の魔獣がカップ麺って、そりゃないわな!」

 

納得しました!

あいつのチーム、ルフェイがいなきゃ、カップ麺ばかり食ってるって言ってたもんな!

確かにそれは嫌だわ!

 

更に犬語翻訳機の文字が変わる。

 

『頭撫で撫で良き』

 

「結局、堕ちてるんかい!」

 

リーシャによるモフモフアタックはフェンリルをも堕とすのか!

えぇい、リーシャが凄いのか、フェンリルがダメだったのか分からないぞ!

 

リーシャが言う。

 

「まぁまぁ。イッセーも言ってくれたら、いつでも撫でてあげますよ?」

 

そう言って、ポンポンと俺の頭を撫でてくるリーシャ。

美人で優しいお姉さんによる撫で撫でか。

うん、これは堕ちる。

ついついペットになりたくなるのも分かってしまう。

このままずーっと、リーシャに愛でてもらえるならそれもありかもしれない。

 

そんなことを思った時だった。

 

「ガルルルルルッ!」

 

唸り声をあげたフェンリルがいきやり噛みついてきやがった!

 

「イダダダダダッ!? なにしやがる、この野郎!?」

 

「ガゥッ!」

 

「ガゥッ! じゃねぇ! おまえの牙は洒落にならねぇんだよ!?」

 

さっきまでのんびりしてたじゃん!

なんで噛みついてくるの!?

俺、何か悪いことしましたか!?

 

美羽が苦笑する。

 

「リーシャさんを取られると思ったのかも」

 

「なにおう!? リーシャ姉は俺のお姉さんだぞ!? おまえになんかやるかよ!」

 

「ガルゥ!」

 

「よーし分かった! こうなったらとこんまでやってやらぁ! 天龍なめんなよ!?」

 

その場から駆け出す俺とフェンリル!

一人と一匹は激しいオーラを纏い、激しい戦いを繰り広げた―――――。

 

 

 

 

暫くして。

 

「ぜーはー………ぜーはー………」

 

息を荒くする俺とフェンリル。

リーシャを巡る俺達の戦いは決着がつかず、睨み合いになっていた。

 

その時、ふいに修行空間に転移の魔法陣が出現する。

この場所を知っているのは俺達のチームとリアス達のチーム、アザゼル先生とティアくらいだ。

だが、今出現している魔法陣は皆が使うものとは全くの別物。

この紋様は確か―――――。

 

咄嗟に立ち上がる美羽達をレイヴェルが制する。

 

「実は今回、私達にもアドバイザーをつけることになりまして………いえ、付けざるを得なくなったと言った方が正しいのでしょうか………」

 

その魔法陣から現れたのはスリットの深い妖艶なドレスを着た美女!

見た目は二十代後半くらいだろうか。

頭から生えた二本の角とウェーブのかかった長いピンク色の髪が特徴的だ。

なにより、目を引くのはその抜群のスタイル!

括れた腰に豊満なおっぱい!

初対面なのにガン見してしまう!

 

現れた美女には見覚えがあった。

というよりは、冥界に住む者、レーティングゲームを知っている者ならば誰もが知るであろう人物だ。

 

女性は素敵な微笑みと共に挨拶をくれる。

 

「ごきげんよう、赤龍帝と、そのチームの方々。私はロイガン・ベルフェゴールといいます」

 

ロイガン・ベルフェゴール!

レーティングゲーム元二位にして、最強の女性悪魔プレイヤーと称された人物だ!

 

王者の告発と共に『王』の駒使用による不正が明るみにされた。

駒の使用者には彼女の名前も挙がっていたんだ。

彼女はその事実をいち早く認めた人物でもあり、やけくそになって暴れまわった『王』の駒不正使用の上位ランカー達を鎮圧して回っていたという。

 

アリスが言う。

 

「確か、不正が見つかって、ゲームのタイトル返上、ゲームも当面参加できなくなった………だっけ?」

 

ロイガンさんは肯定するように頷き、肩をすくめた。

 

「加えて『王』の駒も機能停止させられたわ。ベルフェゴール家も追われ、最上級悪魔の地位も剥奪されたの。今はただの上級悪魔ね」

 

なるほどね。

『王』の駒を使用した者達は冥界各地で暴れまわった結果、鎮圧され、今は拘束されている。

各種地位を剥奪されたとはいえ、こうして動けるのは混乱鎮圧に回ったことによって得られた恩赦なのだろう。

 

ロイガンさんはレイヴェルに視線を送る。

 

「ルヴァル君に新しい就職先を斡旋してもらっているところでね。ここへの訪問もその一つよ」

 

レイヴェルも複雑な表情で頷いた。

 

「うちの長兄――――ルヴァルお兄様からの頼みでして………。事前にお伝えできず、申し訳ありません」

 

「まぁ、事情が事情だからなぁ。そこは気にしてないけど………しかし、ロイガンさんがうちのアドバイザーを?」

 

俺の問いにロイガンさんは皮肉げに笑った。

 

「暇なのよ。唯一の楽しみだったゲームは奪われてしまったから、自堕落な生活になっていてね」

 

そう言うとロイガンさんは置かれていた資料を勝手に手に取り、視線を落とした。

 

「リュディガーが監督をしているチームと戦うのでしょう? 直接は力になれないせれど、私が記録していたゲームの資料をあなた達にあげるわ。これは追加の資料ね」

 

ロイガンさんが指を鳴らすと、魔法陣が出現し、そこから紙の資料が山のように現れた。

レイヴェルが資料を確認し、目を通していく。

 

「痛み入ります、ロイガン様。実は少し前にもロイガン様からは貴重な資料をいただいておりますわ。これに『御使い』に関する資料を照らし合わせながら、相手チームへの対策を練ろうと思います」

 

「分かった。とりあえずは皆で資料に目を通してみるか」

 

これだけあれば何かしら対策を寝れるだろう。

ま、相手が相手なんでどこまで通じるか分からないけどね。

 

ロイガンさんが言う。

 

「監督としてアドバイスできれば良いのだけれど、監視されているから、下手に動けないのよね」

 

監視ね。

ある程度は動けても、あまり自由がきかないってことなのかね?

 

しかし、監督か………。

こんなに妖艶なお姉さんに監督してもらえたら、俺的には張り切りそうだ!

あんなことやこんなことまで監督されて………なんてね!

 

ムフフなことを考えていると、ロイガンさんが俺に近づいてきて………超至近距離まで迫ってきた!

近い!

もう少しで鼻先がくっついてしまいそうだ!

 

「うふふ………なるほどなるほど」

 

「え、えっと、なんでしょう?」

 

覗き込んでくるロイガンさんに戸惑う俺。

すんごく良い香りが、鼻をくすぐってきて………!

 

ロイガンさんはしなやかな指で俺の顎をくいっと上げる。

そして、艶のある笑みを浮かべて、こう言ってきた。

 

「赤龍帝は可愛い顔をしているのね。率直な感想としては――――好みだわ」

 

なん、だと………!?

俺がロイガンさんの好みのタイプだというのか!?

 

ヤバい!

こんなお姉さんに突然そんなこと言われて、顔が熱くなってしまっているのが分かる!

 

アリス達がヒソヒソと話し出す。

 

「えっ、これってそういうこと? うちの旦那様、また増やすの?」

 

「うーん、そういうことになるのかな? でも、これ以上はお兄ちゃんの体が持つかどうか………」

 

「ねぇね、それって………」

 

「うふふ、イッセーはモテモテですね」

 

「しかも、ロイガンさんもおっぱい大きいし、凄く美人だし、お兄さん好みだよね」

 

「このままいくと、イッセー様も枯れるかもしれませんね」

 

アリス、美羽、サラ、リーシャ、ニーナ、ワルキュリアがそんなことを話している!

俺、枯れちゃうの!?

怖いこと言わないでくれますか、ワルキュリアさん!

 

レイヴェルがアリス達に言う。

 

「そういえば聞いたことがあります。――――ロイガン様は無類の年下好き。特に十代から二十代の人間の男性が好みだと」

 

す、素晴らしい情報だ!

年下好き!

二十代OK!

自分で二十代って言ってしまうこの悲しさは………。

 

いやいやいや、今はそんなことどうでも良くて!

こんな素敵なお姉さまのストライクゾーンに入っているという事実が肝心なんじゃないか!

思わず小躍りしそうになるよ!

 

ロイガンさんは小首を傾げて微笑む。

 

「うふふ、赤龍帝は年上の女性は範囲外なのかしら? まぁ、あなたからしたら、私なんて百歳を超えたおばあちゃんになってしまうのだけれど」

 

「いえ! 大歓迎です! ロイガンさんのような素敵なお姉さんなら、年齢なんて関係ありません!」

 

おばあさんだなんて思うわけない!

どうみても二十代のお姉さんだし、そもそも悪魔にとっちゃ、百歳くらいの歳の差は些細なものだしね!

 

俺の告白を聞き、ロイガンさんは嬉しそうにする。

 

「それは嬉しいことを言ってくれるわね。これは本気にしてもいいのかしら」

 

本気にしちゃってください!

 

舞い上がる俺を横に、美羽が何やらメモしていて、

 

「ロイガンさんも追加と………」

 

「やっぱり、美羽ちゃんがイッセーの女性関係を握ってるのね」

 

あ、うん。

相変わらず義妹によってハーレム計画を進められております。

 

ロイガンさんはフッと微笑むと、話題を切り替えた。

 

「まずはリュディガーが監督をしている転生天使チームの試合に勝たないとね。相手は間違いなく強敵。普段、人間を見下す上級悪魔のプレイヤーが唯一、畏怖したのが彼だもの。あなた達が規格外の強さを持っているとしても、油断は禁物よ」

 

その言葉に対し、俺は不敵に笑んだ。

 

「勝ちますよ、絶対に」

 

「強気ね。でも、そういう気持ちも大切だわ」

 

そう言うなり、踵を返して転移の魔法陣を再展開する。

ロイガンさんは魔法陣の中心に立つと、こちらに手を振った。

 

「応援しているわ。立場上、あまり良いアドバイスは出来ないけれど、ゲームを経験してきた者として一つだけ。どんな結果になろうとも試合は楽しまなきゃダメよ?」

 

そうして、ロイガンさんは転移の光に消えていった――――。

 

 




~あとがきミニ~

Q,昨晩は何を食べましたか?

ヴァーリ「カップ麺の焼きそば(88円)」

フェンリル「リーシャ特製オムレツ(犬用・塩分控えめ)」



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16話 遠回り

O☆MA☆TA☆SE


[三人称 side]

 

レーティングゲームを目前に控えたその日の夜。

キッチンの方から漂ってくる香りに誘われて、アーシアは部屋の扉を開けた。

 

「モーリスさん? 何を作っているのですか?」

 

扉を開けたアーシアの目に入ってきたのはエプロン姿に三角巾を身につけたモーリスだった。

剣の鬼、泣く子は更に泣き叫ぶチートおじさん等と言われているモーリスだが、実は料理ができるという隠れた特技を持っていた。

意外な事実に木場やギャスパーが驚いていたのは記憶に新しい。

 

モーリスは三角巾の結び目をほどくと、なにやら自信満々の笑みと共にアーシアを手招きした。

首を傾げるアーシアは呼ばれるままモーリスの側に寄っていく。

 

「こいつを見てくれ」

 

そう言って、モーリスが指差した先には―――――ウサギの形をした饅頭が並べられていた。

雪のように白い生地、その上に描かれたクリクリとした目とウサギの象徴ともいえる耳。

その可愛らしい姿にアーシアは感嘆の声を漏らした。

 

「これをモーリスさんが?」

 

アーシアに尋ねられ、モーリスは得意気に鼻を鳴らす。

 

「どーよ、この出来映え。本職にも負けてねーだろう?」

 

「はい、凄く可愛いです! モーリスさんはお菓子も作れるんですね」

 

「どっちかというと、飯より菓子の方が得意なんだよ。せっかく、騎士団長とかいう面倒な肩書きがなくなったんだし、こっちの世界でもチャレンジしてみたんだ。………ま、ちょいとばかし興が乗りすぎたがな?」

 

苦笑するモーリスの視線の先には、モーリス作の和菓子がいくつか並べられていた。

どれもこれも見事な出来だが、明らかに一人で食べられる量ではない。

 

「今日、おまえ達が冥界に出掛けたついでに晩飯も食ってきたんだろう? イッセーの親父さんとお袋さんも今日は夫婦水入らずで外食ときていてな。誰もいない分、調理場を好きに使えたんで、ついついやり過ぎちまった」

 

「ウフフ、モーリスさんにもそういうところあるんですね」

 

「面目ねぇ。………少し相談なんだが、アーシアよ。おまえ、腹減ってないか?」

 

「え? い、今からですか?」

 

「別に明日でも良いんだが、こういうのは作りたてが美味いだろう? 調度良いタイミングでアーシアが来たからな。まぁ、無理にとは言わんよ」

 

外は真っ暗、空には月が浮かび頭上から町を照らしており、そろそろ寝てもおかしくない時間だ。

夜の甘味は女子の敵。

モーリスの言うように明日にしても良いのだが………。

 

「………」

 

アーシアの視界に映るなんとも美味しそうな和菓子の数々。

漂ってくる桜の葉の香りがアーシアの鼻腔を擽ってきて、

 

「え、えっと、少しくらいなら大丈夫ですよね?」

 

顔を赤くしながら言うアーシアに、モーリスは笑む。

 

「すまんな。だが、味の方も期待してくれ。菓子作りならレイヴェルにも負けない自信はある」

 

そんなことを聞かされては、余計に食べたくなるのは甘味好きの性。

 

(あ、あとで運動すれば………た、食べすぎてしまっても………大丈夫………?)

 

そんなアーシアの心の内を察したのか、モーリスが言う。

 

「一日くらいなら平気だろうよ。よーし、そうと決まれば、屋上行くか」

 

「屋上で食べるんですか?」

 

アーシアに聞き返され、モーリスは窓の外を見て言う。

 

「こんだけ綺麗なお月様が出てんだ。綺麗な景色も合わせりゃ、更に美味くなるってもんだ。なぁ、エルメの嬢ちゃんもそう思わないかい?」

 

「え!?」

 

最後の言葉に驚くアーシア。

モーリスの視線を追って、扉の向こう見ると、そこにはこっそりと隠れて二人の様子を伺っていたエルメンヒルデがいた。

 

モーリスに言われて、エルメンヒルデは罰が悪そうな表情で部屋に入ってくる。

 

「き、気付いていたんですか?」

 

エルメヒルデに訊かれて、モーリスは笑う。

 

「まだまだ修行不足ってことだな。俺に気取られないようにするには四十六億年は早い」

 

「あ、あなたが言うと冗談に聞こえませんね」

 

目元をひきつらせるエルメンヒルデ。

モーリスはそんな彼女の表情を気にせずに言う。

 

「覗き見ついでにエルメの嬢ちゃんも付き合ってくれ。―――――色々と相談にも乗れると思うしな?」

 

全てを見透かしたように言うモーリスに、エルメンヒルデは小さく息を吐いた。

 

彼はこちらの世界に来てから間もない。

自分達吸血鬼の事情はおろか、転生した悪魔の事情についても十分に把握しているとは言い難い。

だが、それでも、目の前の人物は自分のことなど全て見通している………そんな風に感じてしまう。

 

エルメンヒルデは少しの間、じっとモーリスの目を見つめると口を開いた。

 

「そうですね。年配の方ならではの助言もいただけるかもしれません」

 

 

 

 

屋上に移動した三人はシートを敷き、モーリス作の菓子を囲んでいた。

 

「モーリスさん、これ凄く美味しいです!」

 

「む、本当………意外ですね」

 

二人の感想にモーリスは上機嫌に笑う。

 

「見た目だけじゃねーってことだ。味も一級品なんだよ」

 

饅頭を頬張り、淹れたての茶を啜ったモーリスは小さく息を吐く。

 

「こうして誰かに振る舞うのもいつ以来かねぇ」

 

そう呟くモーリスにアーシアが尋ねる。

 

「お菓子作りは昔からしていたんですか?」

 

エルメンヒルデもその問いに続く。

 

「剣の鬼みたいな人だから、こういうのとは無縁だと思っていました」

 

モーリスといえば、神すらも斬り捨てる最強クラスの剣士だ。

教えを乞えば、命の危険すら感じるほどの無茶苦茶な修行(もちろん死なないように加減されている)が行われる。

そんな彼が菓子作りという、剣とは全く関係のないものを嗜むなど、彼と近しい者以外は誰も思わないだろう。

 

二人の問いにモーリスは答える。

 

「まぁ、元々はこういうのとは無縁だったさ。昔の俺はおまえ達が思っている通り、剣、剣、剣ってな。誰よりも強くなりたくて、俺なりに何かを守れるようになりたくてな。ガキの頃から親父達の背中を追いかけてたんだ」

 

「それでは、なぜ?」

 

エルメンヒルデの問いにモーリスはフッと笑んだ。

空に輝く満月を見上げ、遠い過去を思い出すように口を開く。

 

「アーシア、俺に嫁さんがいたことは知ってるか?」

 

「はい」

 

アセムとの最終決戦で発覚したモーリスの結婚歴。

戦いの最中に話すことではない筈だが、なぜかカミングアウトされたので、あの場にいたメンバーはそのことを知っている。

 

「俺の嫁さんは体が弱くてな。病床に伏せることが多かったんだよ。仕方がないとは言え、あいつにとっちゃ外に出られなくてつまらない毎日だったんだが………そんなあいつに何がしてやれるかなって考えたのさ」

 

己を鍛え上げ、誰かを守れるくらいには強くなった。

だが、絶大な力を持っていたとしても病は治せない。

病で苦しむ者にとって、モーリスの剣士としての力は全くの無意味だったのだ。

 

「部屋に籠りっぱなしで、暗くなっていくあいつを見たくなかった。じゃあ、どうすれば良いのか。色々考えた結果、行き着いたのが料理だった。始めた理由はそれだけだ」

 

モーリスは可笑しそうに笑う。

 

「まー始めた頃は酷かったよ。嫁さんのを見よう見まねでやっていたんだが………砂糖と塩を間違えるわ、配分は間違えるわでな。挙げ句の果てには鍋から火が出て、嫁さんに長々と説教くらったもんさ」

 

「え、えーと………げ、元気な奥さんだったんですね」

 

「それだけ酷かったってことだな。なにせ、火加減間違えて料理が爆散した程だ」

 

「何をしたらそんなことに!?」

 

「分からん。分からんがとにかく爆散した。凄いだろ、えっへん」

 

「自慢するところじゃないですよ!?」

 

アーシアの貴重なツッコミシーンだった。

彼女も知らず知らずのうちにイッセーのツッコミを覚えてきているらしい。

 

「とにもかくにも最初はそんなだったんだが、何度も練習していると、上達していってな。まともに食えるものが出来たんだ。今でも覚えてる、初めて『美味しい』って言ってくれたあいつの顔はな。久しぶりに見た、あいつの笑った顔は忘れられねぇ」

 

「大好きだったんですね、奥さんのこと」

 

「ああ。心底惚れてたさ、今も昔もな。………って、おっさんの惚気話を聞いても楽しくないか」

 

苦笑するモーリスにアーシアは首を横に振る。

 

「私はもっと聞いていたいですよ?」

 

「そうかい。じゃあ、気が向いたら、また話してやるよ」

 

そう言って湯呑みに口をつけるモーリス。

モーリスはじっと空を見つめた後、アーシアに視線を戻した。

 

「まぁ、料理にしかり、部長にしかり最初は失敗が付き物ってことだ」

 

「………っ」

 

唐突に降ってきた単語にアーシアは目を見開いた。

少し驚いた表情のアーシアにモーリスは言う。

 

「アーシアが悩んでいることは見りゃ分かる。というか、アーシア自身、イッセー達が気にかけていることも知っているんだろ?」

 

「あ、あの、すいません」

 

「別に謝ることじゃない………が、話してみな。悩みにしろ、愚痴にしろ、誰かに言うことでスッキリすることもある。俺みたいな部外者だからこそ、気にせずにぶちまけられる。それに――――」

 

モーリスはニッと笑む。

 

「おっさんとしちゃ、若い奴の話を聞いてお節介するのも楽しみの一つなんだ。どうだ、ここはおっさんの趣味に付き合ってみねーか?」

 

そう言って、ウインクするモーリス。

悩みを聞くにしては軽い雰囲気。

だが、笑みを浮かべるモーリスの瞳は相手の目をじっと見つめており、何を話しても真摯に受け止めてくれる、そんな雰囲気も感じさせた。

 

気付けば、アーシアは吐露し始めていて、

 

「………私、いつも不安なんです。部長としてやれているか。リアスお姉さまと自分を比べてしまうんです」

 

時にはリアスのように振る舞おうとした時もあった。

アーシアにとって、リアスは姉のような存在でもあり、憧れでもある。

リアスのようになれればと、思ったこともあった。

だが、不意に感じてしまう――――何かが違うと。

 

「木場さんは朱乃さんの後任として、副部長の役目を立派に果たしています。でも、私は何も………。だから、木場さんが部長の方がよかったのではと思うこともあって………」

 

「ほう? じゃあ、祐斗に部長をやってほしいと?」

 

モーリスの問いにアーシアは首を横に振る。

 

「いえ、そうじゃないんです。私もリアスお姉さまの後任として、その役目を果たしたいです。リアスお姉さまは私なら出来ると信じて、オカルト研究部を託してくれました。だからこそ、私もその想いに応えたいんです」

 

アーシアは言葉を続ける。

 

「リアスお姉さまはリアスお姉さまならではのスタイルがありました。そして、私は私なりのスタイルでの部長を目指すべきもので、リアスお姉さまもそれを望んでいると思うんです。ゼノヴィアさんは会長を立派に務めていらっしゃいますが、かといって、ソーナ前会長のやり方ではなく、ゼノヴィアさんのやり方で生徒会を運営しています。イッセーさんも自分なりに、『王』としてのやり方を模索しています。友達や好きな人がそれを目指したなら――――私も目指したいんです」

 

アーシアは乗り越えようとしている。

自分で考え、自分で答えを見つけ、悩みを、壁を乗り越えようとしているのだ。

アーシアの強い意思を感じたモーリスは言う。

 

「なんだ、俺が何かを言うまでもなく解決してんじゃねーか。せっかく、おじさんが悩める若者を華麗に導いてやろうと思ってたのによー」

 

唇を尖らせるモーリスにアーシアは慌てて両手を振る。

 

「そ、そんなことないです! モーリスさんに話せて、頭の中を整理できたと言うか、スッキリできたというか………。でも、自分のスタイルというものをどうやって見つけるかはまだ分かってないんです」

 

小さく息を吐くアーシア。

そんなアーシアにモーリスはハッキリ言う。

 

「まぁ、いきなりは見つからんさ」

 

モーリスは湯呑みに茶を酌みながら言う。

 

「始めてのことってのは、最初は分からないことだらけだ。それをいきなり『自分なりのやり方』でやれと言われても、難しいだろうさ。ゼノヴィアみたいに良くも悪くも思いきりの良い奴はとにかく突っ走って獲得するだろうが………。リアスも部長に成り立ての頃は手探りでやってただろうし、当時は『自分なりのやり方』なんてものは分かってなかったんじゃないかね」

 

モーリスは言葉を続ける。

 

「こう言ってしまっては、アーシアの決意に水を差しそうなんだが、最初は模倣でも良いと思うぞ。あえてリアスのやり方を真似てみるのもありだな」

 

「でも、それだと………」

 

アーシアの言葉を遮るようにモーリスは言う。

 

「言いたいことは分かるが、まぁ聞いてくれ。真似ると言ったが、最初だけだ。リアスのやり方をなぞっていくと、感じるはずだ――――自分には合わないってな。ここはこうした方が良いんじゃないか、こういうやり方があるんじゃないか、そうした点を変えていくんだよ。まぁ、変えたせいで失敗することもある。だが、それはそれだ。失敗すりゃ、またやり直せば良い。するとだ、いずれはそれが『自分なりのやり方』ってやつに仕上がっていくんだ」

 

モーリスとて、自分が最初から出来ていたとは思っていない。

誰かの真似をして、自分に合うやり方を探してきた。

無論、失敗したことも多々ある。

しかし、失敗が終わりじゃない。

失敗から学び、次の糧にする。

そうすれば、いつかは模倣から離れていくものだ。

 

「アーシアは学校は、部活は楽しいか?」

 

「はい、とても」

 

微笑み、即答するアーシア。

モーリスは笑む。

 

「なら、思いっきり楽しめ。ぐだぐだ言ってしまったが、今のアーシアに足りないのはズバリ経験だ。失敗しても良い、やりたいように思いっきりやってみな。皆が、そして、アーシア自身が楽しめるようにな。そうすりゃ、いつの間にか、自分らしいやり方が何なのか辿り着いてるもんだ」

 

そう言って、モーリスはアーシアの頭を撫でた。

 

「遠回りなのかもしれない。だが、遠回りした分だけ、近道をしたやつより多くのことを学べる。こいつは部活の部長だけじゃなく、この先の人生でも活かされると思うぜ?」

 

僅かな時ではあるが、モーリスもアーシアのことは見てきた。

アーシアは守られる立場だったのだろう。

一誠やリアスの背中を追いかけて来たのだろう。

しかし、今は違う。

自分の意思で、自分の足で立とうとしている。

 

(この娘も近い将来、イッセー(あのバカ)の横に立つ日がくるか。いや、いっそ抜かれたりしてな?)

 

そんなことを考えるとついつい、笑みが溢れた。

 

 




~あとがき~

イグニス「十五人……候補も入れて二十人。うーん、足りないないわね」

イッセー「なに悩んでるんだ?」

イグニス「イッセーのお嫁さん達でアイドルユニット出来ないかなって考えたんだけど、あと四人足りないのよ」

イッセー「うん、ツッコミの準備はしておくぞ? ちなみにユニット名は?」

イグニス「え? TKB48だけど?」

イッセー「お願いだから、やめてくれませんかね!? あちこちから怒られるから!」


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17話 長く、広い

今回はシリアス!

異世界帰りを読んでる人はもう分かってるよな!


[三人称 side]

 

「やっぱり、モーリスさんはイッセーさんのお師匠様ですね」

 

「ん? どういうことだ?」

 

首を傾げるモーリスにアーシアは微笑んで言う。

 

「強いところも、優しいところも、困っている人をほっておけないところも。そっくりですよ?」

 

「そうかい………ま、誉め言葉として、ありがたく受け取っておこうか」

 

フッと軽く笑むモーリス。

 

お節介とはよく言われる。

放っておけば良いのに、ついつい気にかけてしまうところも否定はできない。

 

「それじゃあ、お節介の続きといこうか。エルメンヒルデ、おまえも話してみないか? 別にイッセーやレイヴェルに言うつもりは無いからよ」

 

その問いかけにエルメンヒルデは、モーリスの顔を見上げる。

 

「よろしいのですか? あなたは彼の眷属なのでしょう?」

 

「別に良いんじゃねーの? ここじゃ、俺はおまえ達の愚痴聞きサンドバッグだ。悩みも不安も怒りもぶつけて発散して良い。それを一々、あいつらに報告する必要もないだろ」

 

モーリスは饅頭を摘まみながら言う。

 

「おまえも分かってるんだろ? ここにいるには、チームに入るには自分の口から話さなきゃいけないってな」

 

以前からエルメンヒルデは一誠とレイヴェルにチーム入りの懇願をしていたが、それはまだ受け入れられていない。

それにはいくつか理由がある。

 

一つは実力。

彼女は純血の吸血鬼だけあってか、高い能力を有している。

だが、今の彼女では一誠達の連携に合わせられないのだ。

 

「ま、単純な力量だけなら問題ないだろうよ。もう少しすれば、なんとかなる。………が、力をつけても今のおまえには背中を任せられない。理由は分かるな?」

 

もう一つの理由。

これが一誠達が未だ、彼女をチーム入りさせていない一番の理由だ。

 

エルメンヒルデがなぜ、大会に出ようと思ったのか。

なぜ一誠のチームを志願したのか。

初対面の時はあれほど高圧的な態度で、純血の吸血鬼以外は否定的な考えを持っていた彼女が、一誠達を訪ねた時には丸くなり、価値観すら変わっていたのだ。

何があったのか知りたいのは当然のことだろう。

 

チームに入ると言うことは、自分達の背中を任せるということ。

チーム入りを懇願しながらも、本心を語ろうとしない、そんな彼女を信頼して、背中を任せることなどできない。

 

モーリスの言葉にエルメンヒルデは俯きながら、小さく頷いた。

 

「………分かっています」

 

「別に責めてる訳じゃない。無理に話す必要もない。だがな、エルメ。現状を打ち破りたいなら、一歩踏み出す覚悟がいる」

 

モーリスはじっとエルメンヒルデの目を見て、言葉を続ける。

 

「おまえは変わりたくて、何かを変えたくて、ここに来たんだろう? おまえはもう行動に移してるんだ、その覚悟は出来ている。俺はそう思うがな」

 

以前、エルメンヒルデの真意について尋ねられた時、カーミラのため、故国のためだと答えていた。

しかし、それら建前であり、本音は他のところにあることを一誠達は感じていた。

そして、エルメンヒルデ自身もそこのところは理解していた。

 

「………モーリスさん。あなたは吸血鬼の世界に起きたことをご存じですか?」

 

「そこそこにな。エルメがうちに来てから、イッセー達に事情は聞いてるよ」

 

リゼヴィムの悪意が引き起こした惨劇により、吸血鬼の世界は崩壊。

対立していた二つの派閥――――男性の真祖主義のツェペシュ派、女性の真祖主義のカーミラ派のどちらにも壊滅的なダメージを受けたのだ。

 

クリフォトは両派閥の上流階級の吸血鬼にも甘言を用いて、根深いところまで内政干渉を行っていた。

そのあげく、裏切り者達はその体を作り替えられ、血と誇りを重んじる上流階級の貴族が、邪龍に成り果てたのだった。

 

エルメンヒルデは語る。

 

「国に戻った私が見たのは、おぞましくも、もの悲しい結末でした。………なにせ、共に純血の吸血鬼であること、真祖カーミラ様の力であることを誇りにしていた同志が邪龍になり果てていて………。叔父や従兄………カルスタインの一族の者、幼い頃から一緒だった友人ですら、クリフォトと繋がっていたのです」

 

カーミラ派では、各貴族の当主には代々女性が就くことになっており、男性は当主を支える立場にある。

しかし、カーミラ派に属していた男性は、表面上では女性吸血鬼に支配されることを受け入れていたが、裏では女に支配されることに耐えがたいものを感じていたという。

そして、男性の吸血鬼を重んじるツェペシュのやり方に憧れていたのだ。

 

――――そこをクリフォトに突かれた。

カーミラ派の裏切り者の大半は男性貴族だったのだ。

 

この事実にカーミラの女性達は心底衝撃を受けた。

恋人や夫、兄弟、男性の身内と上手くやっていたと思っていたのは彼女達と一部の男性だけだった。

 

あの事件によって、カーミラ派が打ち立てていた理念に同調していた純血の吸血鬼達の価値観に揺らぎが生じ、裂け目ができることになった。

しかし、それ以上にエルメンヒルデの価値観を崩したのは―――――友人達の裏切りだった。

 

同性の友人達は男性貴族達に同調し、国を裏切った。

彼女達は男に支配されることを願っていたのだった。

 

全ての女性が強い訳ではない。

男性よりも力の弱い女性が男性の上に立つには、相応の気力、覚悟が必要だ。

その重荷に耐えられなかった女性吸血鬼は男の支配を求め、裏切り、邪龍と成り果てた。

この中にはエルメンヒルデの友人の姿もあって――――

 

「私が国のために尽力していた裏で、友人達は悩みを抱え、吐き出せないでいた。彼女達の悩みに気づいてあげられなかった自分に怒りを感じても、当時の私では彼女達を否定する以外の答えが生まれなかっただろうということも分かって………結局、私では救えなかったという事実で押し潰されそうになりました」

 

語りながら深紅の瞳から涙を溢れさせるエルメンヒルデ。

 

「だから、国を出た………か」

 

「……あのまま、国にいては、私は………私の心は壊れてしまいそうで………っ!」

 

そう言って泣き崩れるエルメンヒルデ。

彼女が国を出て各地を回ったのは、崩壊した故国の復興のため、というのも事実だ。

しかし、それは本当に建前。

彼女は少しでも離れたかったのだ。

家族の、友人達の裏切りを、どうあがいても彼女達を救えなかった自分を思い出したくなかったから。

 

「辛ぇな………」

 

彼女の話を聞き終え、呟くように言うモーリスに、エルメンヒルデは小さく頷いた。

 

初めて、この町に訪れたときのような彼女は、そこにはなかった。

あの時はまだ、純血の吸血鬼である誇り、信念があり、自分が信じていたものが正義だと生きていた。

しかし、それらは全て打ち砕かれた。

一族の者、友人は悩み、それを打ち明けられないまま、心も体も歪ませて、国を裏切った。

リゼヴィムの扇動があったとはいえ、その手を取ってしまったのは紛れもない彼らだ。

裏切る者が悪い………そう割り切ることができれば、どれだけ楽なことか。

 

モーリスはエルメンヒルデに問う。

 

「この大会に参加したい理由ってのは、やっぱりそういうことか」

 

「………多種多様な種族が参加する大会であれば、何かを得られるような気がして」

 

自分は今まで純血の吸血鬼の――――カーミラ派の世界しか知らなかった、見てこなかった。

故に世界を回り、自分を変えようと、強くなろうとした。

エルメンヒルデが大会出場を決めたのもそれが理由だった。

彼女もまた自らを変えようとしているのだ。

 

「おまえも苦労してるな。その歳でそれだけのことがあれば、否が応でも変わりたくもなるか」

 

「私は………強く、なりたいです」

 

強くなりたい、またあの悲劇を繰り返さないためにも。

失ったものは返らない。

それは分かっている。

だから、もう二度と失わないように――――。

 

エルメンヒルデの小さくも、籠った声にモーリスは笑む。

 

「なれるさ。俺が断言してやる。身体的な強さだけじゃない。ここもな」

 

モーリスは自身の胸を親指で指して言う。

 

「テキトーなことを言ってるんじゃないぞ? 根拠はある。目を閉じて、俺との修行を思い出してみろ」

 

そう言われて、エルメンヒルデは目を閉じた。

目蓋の裏に映るのは駒王町に来てからの光景で――――

 

 

『おらおら、シャキッとしろ! シャキッと!』

 

飛んでくる剣圧。

 

『そんなショボい攻撃じゃあ、当たる前に消されるぞ!』

 

放った攻撃をかき消してくるただの気合い。

 

『んー、まだ元気はあるようだな? よっしゃ、もう一段階上げてみっか』

 

無慈悲な言葉の数々。

 

自ら望んで教えを乞うた。

しかし、何度も後悔した。

あれは修行なんて生易しいものじゃない。

あれは―――――

 

「あ、あれが本当の地獄………!」

 

「大丈夫ですか!? 震えてますよ!?」

 

「でぇじょうぶだ。ドラゴ○ボールで生き返れる」

 

「そういう問題じゃないですよ!? というか、エルメンヒルデさん、生きてますけど!?」

 

震えるエルメンヒルデ、ボケるモーリス、ツッコミのアーシア。

 

モーリスは軽く笑いながら言う。

 

「何度転ぼうとも何度泣かされようとも、おまえは向かってきただろう? あれだけの根性があれば、これからもやっていけるさ。………だがな、おまえさんはもう少し肩の力を抜いてみろ」

 

「………え?」

 

不意に言われた言葉につい聞き返してしまったエルメンヒルデ。

モーリスは続ける。

 

「家族をダチを助けてやれなかった、裏切りを止められなかった。そのことで、おまえが心を痛めたことは無理ない。もう二度と同じ悲劇を繰り返さないためにがむしゃらになるのも分かる………が、抱え込み過ぎだ」

 

モーリスは茶を啜って、息を吐く。

 

「人が一人で出来ることなんざ、たかが知れてる。どんなに力があろうと、どんなに賢かろうとな。特に、おまえの背中は全部を背負うには小さすぎる」

 

だから、

 

「おまえはもっと、誰かを頼ることを覚えろ。おまえが素直に頼れば、必ず手を差し伸べてくれる奴らがいる。だろ?」

 

そう言って、モーリスはアーシアにウインクする。

アーシアもそれを受け、笑顔で頷いた。

 

「もちろんです。私も、イッセーさんも、皆さんもエルメンヒルデさんのお力になりますよ」

 

「アーシアさん………」

 

エルメンヒルデはここに来るまで、その想いを誰にも吐き出さず、一人で抱えてきた。

しかし、この町に来て、モーリスのように自身の想いを引き出してくれる人物に会った。

アーシアのように手を取ってくれる者にも出会った。

そして、一誠達もこの手を取ってくれるだろう。

 

「そういうこった」

 

モーリスは笑み、二人の頭を撫でた。

 

「――――おまえ達の人生は長く、この世界は果てしなく広い。焦らなくて良い、ゆっくりでも良い。自分が信じられる奴らと一緒に強く、学び、そして、変わっていけば良いのさ」

 

 

 

 

それから少しして。

三人で月見をしていると、モーリスがエルメンヒルデに訊ねた。

 

「で? おまえはイッセーのどこが良いんだ?」

 

唐突に投げられた問い。

エルメンヒルデの思考が停止すること数秒。

 

「むぐっ!?」

 

思考を取り戻した途端、エルメンヒルデは饅頭を喉に詰まらせた。

慌ててお茶で饅頭を流し込むと、エルメンヒルデは顔を赤くして、モーリスに言った。

 

「な、なにを!? 私はそんなんじゃありません!」

 

「え? イッセーがいるからここに来たんだろ?」

 

「ち、違います! そんな理由では――――」

 

「ほほう? なら、他に理由があるのなら、それを聞かせて貰おうじゃねーか」

 

「な、なぜ、私があなたに!? なんで、ニヤニヤしてるんですか!?」

 

「チームに参加するってのなら、志望動機は必要だろ? 就職にもあるし、そんな感じで」

 

「就活!? チームに参加って就活なんですか?」

 

「よし、それじゃあ、面接を始めるぞ」

 

「始めるんですか!? 私の意思は!?」

 

「では、エルメンヒルデさん。イッセーさんのチームを志望した動機を教えてください」

 

「アーシアさんッッ!?」

 

こうして夜は更けていくのだった。

 

 

 




~あとがきミニ~

アザゼル「こいつが新開発した神器――――『無限の卵製(アンリミテッド・タマゴ・ワークス)』。卵かけご飯用の卵を永遠に製造し続ける人工神器だ」

イッセー「いや、それもうただの卵製造器! つーか、人工神器って言えばなんでも許されると思ってません!?」

ヴァーリ「アザゼル、それを譲って貰いたいのだが」
 
小猫「卵かけご飯用卵………ゴクリ」

イッセー「君達も卵かけご飯に釣られないで、ツッコんでくれませんかね!?」 


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18話 望むもの

超絶お待たせしました!


[三人称 side]

 

ヨーロッパのとある国。

とある地方都市にある丘に小さな墓標が立っていた。

その前に立つのはレーティングゲーム7位であり、『天界の切り札』チームの監督、リュディガー・ローゼンクロイツだった。

彼は墓標に花と――――ロボットのおもちゃを手向けた。

 

この小さな墓の下には、彼の息子が眠っている。

リュディガーが悪魔に転生してから、長い年月が経ち、ようやく生まれた第一子だったのだ。

 

純血の悪魔と比べれば転生悪魔は子供が生まれやすい。

だが、それでも子供が出来るまでには長い時がかかると言われており、リュディガーも同様だった。

 

念願の我が子。

しかし、彼の息子は持病を抱えて生まれてきた。

 

名のある病なら、なんとでもなっただろう。

完治はしなかったとしても、冥界の医療技術、悪魔の妙技、魔法使いの魔術である程度の対応は出来たはずだから。

 

彼の息子が抱えていたのは神器だ。

人間の血を引いているため、神器を宿すことは考えられた。

実際にそういう事例は何件かあったのだ。

だが、そこは問題ではない。

 

問題なのは―――――息子の体は神器に対する抵抗力が弱かったことだ。

彼の子は神器の持つ力に、時が経つにつれ、体を蝕まれていった。

神器は無闇に取り出すことも出来なければ、封印する方法も死の危険性がある。

 

長くない命。

たとえそうだとしても、出来るだけのことをしようとリュディガーと妻は決めた。

欲しいものは何でも与え、行きたい場所には連れていった。

息子が体調を崩したときはレーティングゲームの試合を辞退したこともあった。

 

しかし、宿った神器は確実に息子の命を削っていった。

外出も困難になり、病室から出られなくなった息子を見て、リュディガーは自身の無力さを呪った。

レーティングゲームで勝ち進もうと、最上級悪魔に名を連ねようと、家族を――――最愛の息子を救えないのだから。

 

ある日、リュディガーは息子に何か欲しいものはぬきかと尋ねた。

すると、彼の子は病室の窓から冥界の空を見上げて、小さく呟いた。

 

――――天使に会ってみたい。

 

リュディガーの子は同年代の子供と比べて、変わった子だった。

周りの子供がおっぱいドラゴンに熱中する中、白い翼を持つ天使に会いたいと言ったのだ。

それも、天界の切り札たるジョーカーにだ。

 

天使に会うこと自体は不可能ではないだろう。

昔と違い、三大勢力で同盟を結んだ今なら叶う望みはある。

しかし、ジョーカー、デュリオ・ジェズアルドとなると話は変わってくる。

天界の中でも有数の実力者であり、今や三大勢力の精鋭チーム『D×D』のメンバーだ。

スケジュールも切迫しているだろう。

 

それに、息子と同じような症状を持つ子供は教会の施設に多くいると聞く。

彼は天使で、こちらは悪魔。

同盟を結び、友好的な関係になろうとも優先度に違いがある。

彼も教会の施設の子供達を第一に考えるだろう。

 

それでも我が子の願いだ。

可能性はゼロに近いが、リュディガーはわらにも縋る思いで手紙を綴り、天界に送った。

 

すると数日後―――――。

 

「はじめまして。俺に会いたい子がいるって聞いたので、飛んできちゃいました」

 

彼は来てくれた。

天界の切り札と呼ばれた男は我が子のために冥界まで来てくれたのだ。

生気を失いかけていた我が子が、デュリオと元気に話す姿は今でも覚えている。

 

その後もデュリオは暇を見つけては我が子に会いに来てくた。

他にも見て回る子供がいる。

対処すべき仕事も多い。

それらを全てこなし、自らの時間を削ってまで、我が子の元に来てくれたのだ。

 

息子は医者が宣告した余命よりも長く生きた。

奇跡だった。

それでも、死だけは避けられなかった。

けれど、我が子は満足そうな顔で逝った。

最後のその時までデュリオと話せたのが、本当に嬉しかったのだろう。

 

息子を見送った後、リュディガーはこれまでのお礼を言おうとした。

その時―――――

 

「………もっと生きたかったよな? やりたいこと、行きたいこと………夢だってあったよな? 神様からの贈り物で、苦しい思いをして、大人になれなくて………理不尽だよな」

 

デュリオは我が子のために涙を流してくれていたのだ。

悔しそうに、切なそうに。

最後まで息子の側にいてくれたデュリオにリュディガーは感謝の涙を溢れさせた。

 

レーティングゲーム国際大会『アザゼル杯』。

大会の開催が決まった後、デュリオは参加を表明した。

大会の優勝賞品は世界に混乱をもたらさない限り、あらゆる願いを叶えるというもの。

デュリオと彼に続いた転生天使達の願いは――――神器システムの改善。

これ以上、神器に苦しむ者が出ないように、もう二度と子供達を失わないように。

神器システムに干渉するのは天使長ミカエルでさえ躊躇った禁忌の領域。

だが、世界中のあらゆる神秘をかき集め、それを使えば叶えられるはずだ。

 

そんな彼らの想いを聞いたとき、リュディガーは決めた。

リュディガーはジョーカーチームの監督に自ら売り込んだ。

 

「あ、来ていたんだね、監督」

 

声に振り返ると、そこにはデュリオがいた。

手には花束とおもちゃ。

デュリオは時間を見つけては息子に会いに来てくれている。

聞けば、他の子供達の墓にも時折訪れているようだ。

 

墓に花束とおもちゃを添えるとデュリオにリュディガーは尋ねる。

 

「この間は珍しく熱くなっていたな」

 

「ハハハ、さっすが監督。良く見てる」

 

デュリオは頬をかきながら苦笑する。

 

「イッセーどんって不思議な男なんだよね。彼は色んな人を惹き付ける力がある。だからかな、イッセーどんの周りはいつも賑やかだ」

 

「そのようだな。彼が悪魔に転生してからの日々は歴史的な事変の連続だ。彼は常にそこの中心にいた。味方にしろ、敵にしろ、大勢の者を惹き付けるのは彼の才能なのだろう」

 

「………勝てると思うかい?」

 

「勝つつもりなのだろう? 最強を相手に」

 

「まぁね」

 

兵藤一誠は最強の存在だ。

異世界の神との戦いで魅せた絶対的な力は失われたのかもしれない。

以前のように十全に戦えないのかもしれない。

それでも、彼の背中は変わりなく大きい。

運命すらもねじ曲げる強い意思は未だ彼の中に宿っている。

 

――――勝たせてみせる、この男を。最高の天使を。

 

最強に勝たせる。

これが今のリュディガー・ローゼンクロイツの目標だった。

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

大会当日。

俺達、『異世界帰りの赤龍帝』チームは試合開始時間よりも数時間ほど早く会場入りしていた。

余裕をもって会場に来たため、ウォーミングアップだけじゃなく、軽く会場を回ることもできた。 

 

今回の会場はアスタロト領にある『アジュカ・スタジアム』だ。

魔王アジュカ・ベルゼブブを記念して造られたこのスタジアムだけあってか、この会場はかなり近代的な造りをしている。

 

「あちこちにル○バがあるのも気になったけど、それよりも会場の横にあった展示ブース。ゲームの宣伝してたよね。おっぱいドラゴンのゲーム」

 

「これを機に財源の拡大をしようとしてるな、あの人」

 

なんて会話をさっき美羽としていたくらいだ。

ちなみに、あの人というのはアジュカさんではなく、ヴェネラナさんのことだったりする。

なんでもアザゼル先生が作った試作ゲームが目に止まったらしく、そのままおっぱいドラゴン関連グッズに取り込み、展開を広げようとしているとか。

ゲームの内容はいくつか種類があるようで、ブースでは興味を持った子供から大人までが体験版をプレイしていた。

特撮にしかり、ゲームにしかり冥界はどんどん人間界の娯楽を取り入れていくなぁ。

 

会場はかなりの大きさだが、控え室も広大だ。

通常時は人間サイズになっている大型巨人の選手が元のサイズに戻っても大丈夫なほどで、うちのメンバーではボーヴァも元の大きさに戻っている。

 

控え室には関係者も多く訪れていて、

 

「頑張るのじゃぞ、イッセー!」

 

九重も駆けつけてくれている。

 

「おう! 応援よろしくな!」

 

ニッと笑みを見せて返すと、九重もブイサインで返してくれた。

九重以外にも応援に来てくれている人達はいて、

 

「美羽、サラ、頑張れよ!」

 

「応援はしてるけど、無理しちゃダメよ!」

 

はい、うちの両親も駆けつけてくれています。

母さんお手製の段幕を掲げて、愛娘達の手を握ってますよ。

 

「二人とも来てくれて、ありがとう。相手は強敵だけど絶対に勝ってみせるよ。ね、サラ」

 

「うん、私も頑張る。お父さん、お母さん」

 

美羽とサラが笑顔でそう返すと、父さんと母さんは肩を震わせて―――――滝のような涙を流し始めた!

 

「どうしよう、母さん! 娘達が、娘達が可愛すぎるぞ!」

 

「ええ! もう悔いはないわ!」

 

うん、落ち着こうか二人とも!

つーか、毎回毎回、応援に来る度に同じ展開に成ってるんですが!?

ほら、ワルキュリアなんてモップで床掃除始めたよ!?

当然のように二人の涙で出来た水溜まりを片付け始めたよ!?

 

「これもメイドの仕事ですから」

 

クールに言われちゃったよ!

ごめんね、うちの両親が仕事増やしちゃって!

 

「もう慣れましたので」

 

「流石はデキるメイドのワルキュリアさんだ! というか、俺の心読まないでくれる!?」

 

いつものことですけどね!

 

アリスが娘二人を抱きしめてる父さんと母さんを見て言う。

 

「この光景も毎度のことだけど、お二人も少しは慣れてくれたのかしら?」

 

「それなりにかな?」

 

大会が始まってから、試合の度に二人は応援に来てくれている。

だけど、最初は応援する気持ちよりも心配する気持ちの方が大きかったみたいだ。

 

俺達の話を聞いて、モーリスのおっさんが先程まで読んでいた冥界の新聞を畳ながら言ってきた。

 

「命の駆け引きじゃない試合とはいえ、大事な息子、娘が神だの巨大な魔物だのと戦うんだ。親としちゃ、心配せずにはいられんだろうよ。特に二人の場合は、一度襲撃を受けてその恐怖を体験してる分、尚更な」

 

おっさんの言うように、二人はニーズヘッグの襲撃を受けて、異形の怖さを身をもって知ってしまった。

しかも、あの時はサラがボロボロになりならがら、二人を守るために戦う姿を見せられている。

………心配するなと言う方が無理か。

 

しかし、とモーリスのおっさんが言う。

 

「この大会はあくまで祭りだ。危ないこともあるだろうが、おまえ達が楽しんでるところを見せてやれば、多少は和らぐだろうさ」

 

おっさんの言う通りかもね。

そうなると、俺達は全力で楽しんでるところを見せないとだ。

 

ふいに視界にエルメンヒルデが映った。

彼女は今回も出場はせず、記録係として参加してもらっている。

エルメンヒルデも日々の修行で俺達のペースに大分ついてこられるようになってきている。

元々、純血の吸血鬼だし、潜在能力は高いんだ。

もう少しすれば、選手として活躍できる日も来るだろう。

 

俺はおっさんに言う。

 

「エルメンヒルデとアーシアのこと、ありがとな」

 

「へっ、こっそり聞き耳を立てたんだろう?」

 

ありゃ、バレてら。

実を言うと、おっさんと二人の会話は途中からだけど、聞いてしまっていたんだよね。

どうやら、悩み相談をしていたみたいだけど、あれから二人の表情が晴れている。

俺もおっさんには色々世話になってきたけど、今回も二人を助けてくれたようだ。

 

「まぁ、色々とお節介をしたくなる年頃なんだよ。可愛い女子とも話せて役得ってな」

 

「二人の悩みを聞いてくれたのは助かったけど………アーシアは俺のお嫁さんだからね?」

 

「ばっきゃろ。俺は昔からかみさん一筋なんだよ」

 

 

 

 

「そろそろ、時間ですわ」

 

レイヴェルの言葉に頷き、俺達は準備を始める。

俺、アリス、美羽、レイヴェル、サラ、モーリスのおっさん、リーシャ、ワルキュリア、ボーヴァ、それと百鬼だ。

百鬼は今回からの参戦で、『戦車』枠での出場だ。

 

俺は百鬼に問う。

 

「緊張するか?」

 

俺の問いかけに百鬼は不敵に笑む。

 

「いえ、腕が鳴りますよ」

 

巨大なスタジアムを埋め尽くす観客達が放つ熱気がこの控え室まで届いている。

これだけの熱に当てられても、笑みで返してくるとは………やっぱり、百鬼は凄いやつだ。

ティアが推薦するだけはある。

 

俺達は控え室をあとにして、グラウンドを目指す。

入場口まで行くと、ちょうど相手チーム『天界の切り札』の面々と出くわした。

入場はここから両チーム同時にグラウンドに入ることになっている。

 

アナウンサーに呼ばれるまで待機していると、デュリオが話しかけてきた。

 

「イッセーどん、観客席は『おっぱいドラゴン』ファンでいっぱいだ」

 

入場口からスタジアムを見るデュリオ。

観客席はおっぱいドラゴンのグッズや応援旗を手に持つファンで埋め尽くされている。

俺達が大会で勝ち進む程、ファンの熱気も増しているようだ。

 

「デュリオ達のファンもいるぞ」

 

「スタジアムの端に少しだけだけどね」

 

確かに俺達を応援してくれるファンの数に比べると、一ヶ所のみ。

会場はおっぱいドラゴンファン一色と言ってもいいくらいだ。

でも―――――

 

「誰かが見てくれている。応援してくれている。たとえ数人でも、一人でも、それは力になる………だろう?」

 

「そうさ。あの子達の声がイッセーどんのファンにかき消されるかも知れないって、仲間の天使達は言ってたけどね。俺はそんなことはないって信じてるよ」

 

俺の問いにデュリオは笑みを浮かべながら答えた。

デュリオが訊いてくる。

 

「イッセーどん、試合直前だけど一つ良いかい?」

 

「なんだ?」

 

聞き返すと、デュリオは少し間を置いて、口を開いた。

 

「もし、アーシアちゃんが普通のシスターとしての人生を送れていたら、今よりも幸せだっただろうか………なんてことを考えたことはあるかい?」

 

「ないと言えば嘘になるな」

 

シスターとしての人生。

本来なら、アーシアは今でも教会のシスターとして過ごしていただろう。

それが悪魔をも癒せる神器を宿していたことにより、教会から追放された。

神器さえなければ、アーシアは―――――

 

「それでも、アーシアはここにいて幸せなんだと思うよ。というか、俺がアーシアを全力で幸せにするって決めたしな。こいつは絶対だ」

 

悲しいことも辛いこともあっただろう。

だけど、今はリアスやゼノヴィア、イリナと出会い、学校では普通の女の子としてクラスメイトと話をして、遊んで、笑っている。

あの笑顔に陰りなんてない。

アーシアは今、本当に幸せなんだと俺は感じているよ。

まぁ、今よりもっとずっと幸せにするんだけどね!

 

俺の言葉にデュリオは笑う。

 

「イッセーどんらしい答えだね。うん、それで良いと思うよ。これからもアーシアちゃんの側にいてあげれば良い。きっとそれが一番なんだって俺も思うからさ」

 

そう言うとデュリオは観客席に視線を向ける。

 

「神器の不備があったからこそ、落とした命もあれば、不備があったからこその今の生き方がある。アーシアちゃんも、祐斗やトスカちゃん、ギャー君にヴァレリーさん、シトリー眷属の子達。不備による不幸、不幸から一転した今の生き方が………。でもね、新しい生き方を得られないまま、遠い空の向こうに行った子達の方が圧倒的に多い」

 

なるほどな。

デュリオや転生天使のチームが優勝賞品に何を望むのかが見えてきた。

それはデュリオがずっと気にかけてきたことだ。

 

デュリオは拳を突き出してくる。

 

「勝つよ、イッセーどん。俺達は君を倒す」

 

俺の目を真っ直ぐに見つめてくるデュリオ。

あくまでそれは自分達の目標であり、気を遣わず、本気でやり合おうってか。

不敵なその笑みがこれから始まるゲームを楽しみにしていることの証だ。

 

俺も笑みを浮かべ、拳を合わせた。

 

「いーや、勝つのは俺達だ。全力で来い。こっちも全力全開でいかせてもらうからよ」

 

「そいつは楽しみだ」

 

俺達のゲームが今、始まる――――。




~次回予告~

ゼノヴィア「ついに始まる赤龍帝チームとジョーカー率いる転生天使チーム。どちらが勝ってもおかしくない激しい戦いがついに始まる。だが、試合が進む中、イリナの翼が点滅しだして………。次回おっぱいボールZ、『エロ天使堕つ! 紫藤イリナ最後の白翼』! 見逃すんじゃないぞ!」

イリナ「なにその次回予告!? 私の身にいったいなにが!?」

ゼノヴィア「私はイグニスから渡された台本を読んだだけなんだが……。まぁ、イリナならあり得る展開だな。エロ天使だし」

イリナ「エロ天使じゃないもん! 私、堕ちないもん!」

イッセー「つーか、おっぱいボールZってなに!?」
 


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19話 VS『天界の切り札』チーム!

《さぁ、選手の入場ですっ!》

 

アナウンサーに促され、グラウンドに出た俺達を迎えたのは観客席からの声援だった。

 

「おっぱいドラゴン!」

 

「ずむずむいやーん!」

 

なんて子供達の声が聞こえてきてさ。

少し恥ずかしさもあるけど、応えなきゃってなるよね。

俺が観客席に向けて手を振ると声援は更に大きくなって返ってくる。

 

一方、転生天使チームの方も声援に対し、手を振って応えていた。

 

「天使さまー!」

 

「負けるなよ、デュリオ!」

 

おっぱいドラゴンファンに負けないくらいの大きな声だ。

 

グラウンドの中央に両チームが一列に並ぶ。

当然だが、この場にいるのは選手のみで、相手チームの監督であるリュディガーさんはここにいない。

試合前に作戦と戦術を選手に託し、どこかでゲームを見守っているのだろう。

 

ゲームが始まる前にアナウンサーが解説者を紹介する。

 

《本日の解説には魔王アジュカ・ベルゼブブ様、そして大天使ミカエル様をお迎えしております! ベルゼブブ様、今日はよろしくお願い致します》

 

《ああ、今日は実に楽しみだ》

 

《ええ、こちらこそよろしくお願いします》

 

見上げると、大型モニターにアジュカさんとミカエルさんが映し出されていた!

ここはアジュカさんの故郷であるアスタロト領だし、スタジアムも自身の名前を冠しているから呼ばれても不思議ではない。

ミカエルさんは、転生天使チームが出場する試合だからかな?

 

アナウンサーが更に紹介を進める。

 

《実は今回、もう一人、ゲストをお呼びしております! 『天界の切り札』チームの選手である紫藤イリナ選手のお父様――――紫藤トウジさんです!》

 

「「えええええええええええええっ!?」」

 

思わぬ人物の紹介に目が飛び出すくらい驚く俺とイリナ!

 

ホントだ!

ミカエルさんの横に座ってるのイリナのお父さんだ!

なんで、そこに!?

 

トウジさんは朗らかに言う。

 

《はじめまして、イリナの父です。今日はミカエル様からお誘いいただきまして、解説席から娘達の応援をすることになりました》

 

《紫藤イリナ選手といえば、兵藤一誠選手と幼馴染みと伺っています。今日は幼馴染み対決となるのでしょうか》

 

《いえ、幼馴染みであり、恋人対決となります。二人は会う度に仲睦まじい姿を見せてくれていまして、孫も秒読みなのかな? しかし、そんな二人が戦うなんて………。もちろん、応援はするけど、お父さんは複雑だよ! マイエンジェル!》

 

頭を抱えるトウジさん!

そこは普通に娘の応援をしてやってください!

あくまで試合なんで!

 

つーか、ミカエルさん!?

なぜにトウジさんを解説席に連れてきたの!?

観客席で良かったじゃん!

 

《彼ならお二人の解説を色々としてくれると思いまして》

 

「色々ってなに!? 何を解説させるつもりなんですか!?」

 

俺がツッコミを入れていると、トウジさんは何かを取り出した。

それは―――――俺とイリナの幼い頃を記録したアルバムだった!

 

《これは二人が近くの公園で遊んでいる時のもので、イリナちゃんは―――――》

 

「いやぁぁぁぁぁぁ! そんな昔のことを公衆の面前で晒さないでぇぇぇぇぇ!」

 

耳をふさいで踞るイリナ!

だよね!

そうなるよね!

小さい頃の失敗とか、周りから見ると微笑ましいものでも、晒されると恥ずかしいよね!

俺だって恥ずかしいよ!

 

すると、横で美羽がボソリと呟いて、

 

「あっ、あの写真、ボクの知らないやつだ。後で貰わなきゃ」

 

「なんで!?」

 

「お兄ちゃんの小さい頃のありとあらゆる写真は収集してるからね!」

 

「そんな自信満々に言われても困るんだが!?」

 

えぇい、どれだけ俺の小さい頃に興味を持ってるんだ、我が妹よ!

 

《それでは、『異世界帰りの赤龍帝』チームと『天界の切り札』チームの選手が勢揃いした中で、試合の種目を決めるルーレットが回ります!》

 

スタジアムの巨大モニターに今回の種目を決めるルーレットが回りだす。

様々な種目タイトルが回転していくと、次第に回転のスピードが落ちていく。

そして――――

 

《決まったぁぁぁぁぁ! 今回の対戦種目は『ランペイジ・ボール』だぁぁぁぁぁぁぁっ!》

 

アナウンサーが叫び、会場の熱気が強くなる。

この種目がくるとは………。

 

アナウンサーが『ランペイジ・ボール』の説明を始める。

 

《ルールは簡単! チェスのボードに見立てた広大なゲームフィールドのどこかに現れるゴール目掛けて、両チームがボールを投げ入れる競技です! 点数はゴールへ投げ入れた選手の駒価値に準じます。たとえば、『騎士』一枠の方がゴールを決めた場合、点数は3となります。『戦車』の方の場合は5点となります。そのため、誰がゴールを決めていくのかもポイントになります!》

 

一番点数が高いのが『王』の10、次が『女王』の9。

つまり、俺かアリスがゴールを決めると高い点数が取れるのだが、そう上手くはいかないだろう。

相手もそれを分かっている以上、俺達のゴールは阻止してくるだろうし。

 

アナウンサーが更に説明していく。

 

《ゴールは点が決まった後、その場で消えてしまいます。次はゴールはフィールドのどこかにランダムで出現します。選手達はボールを奪い合いながら、再びゴールを目指していくという競技です!》

 

アリスがレイヴェルに訊く。

 

「ゴールの位置はすぐに分かるのよね?」

 

「はい、この競技専用のアイテムでどこに出現したのかが伝えられます。選手はボールを奪い合いながら、フィールドを駆け回らなければなりません。問題はスタミナ管理ですわ」

 

そう、レイヴェルの言う通り、この競技はスタミナが重要視される。

なにせ、点を取ったら、次のゴール目掛けて走り、相手よりも早くたどり着かなければいけない。

時間がくるまで走り続けなければいけないんだ。

 

アナウンサーがルールの続きを語る。

 

《この競技では選手が攻撃を受けたダメージによりリタイアしてしまっても、一定時間でフィールドに復帰できます。つまり、負傷によるリタイアはないということです》

 

この競技は相手を倒したとしても、時間経過により復活する。

しかも、相手を倒しても点数にはならない。

完全体力勝負になる。

 

モーリスのおっさんがげんなりした顔で言う。

 

「おいおい、おじさんにはちぃとキツい競技だねぇ。帰っていいか?」

 

「帰さねーぞ? おっさんにはやってもらわないといけないことがあるしな」

 

ワルキュリアとリーシャが難しい表情で言う。

 

「相手をただ倒すより難しいですね。これは参りましたね」

 

「ええ。私達には少々厳しいルールになるかもしれません」

 

ワルキュリアは暗器きよる相手の不意を突いた戦いを得意としている。

相手が復活してくる以上、手の内を知られてしまってはワルキュリアの攻撃は通じにくくなるだろう。

 

リーシャが得意としているのは狙撃。

今回みたいに走り回る競技にはそもそも向いていない。

 

だが―――――やりようはある。

 

《では、両チーム、バトルフィールドに転移となります! 『D×D』の悪魔代表と天使代表がぶつかる一戦! どのような試合になるのか、非常に楽しみです!》

 

そうして、俺達のチームとデュリオのチームは転移の光に包まれていった―――――。

 

 

 

 

俺達が転移した先は何もない真っ白な空間だった。

ただただ広いその場所は俺達が使用している修行用の地下空間に近い。

 

メンバーを展開し、俺は皆に言う。

 

「ルール上、相手を無理に倒す必要はない。少しすると復活してくるからな」

 

俺の言葉にアリスは頷いて言う。

 

「ええ。ようするにリタイアさせる必要はないってことで良いのよね?」

 

「そういうこと」

 

俺はニッと笑みを浮かべて返す。

 

今回の審判の声がフィールド中に響き渡る。

 

《では、試合開始前にそれぞれのチームにフィールドの見取り図を投影できる装置を二つずつ提供致します》

 

審判がそう言うなり、俺達の近くに腕時計のような装置が二つ送られてきた。

それを俺とレイヴェルが腕に装着した。

弄ってみると、宙にこのフィールド全体こ見取り図が投影される。

フィールドはチェスボードのように8×8のマス目に区分されており、このどこかにゴールがランダムで出現する。

………最悪、端から端まで全力疾走する場面もあるのか。

こいつは中々にハード。

フィールドは何もなく、見通しが良い分、隠れる場所もないので、完全真っ向勝負だ。

 

 

審判が言う。

 

《それでは『異世界帰りの赤龍帝』チームと『天界の切り札』チームの試合を始めます! 制限時間は二時間! ボールは最初のゴールに現れます! それでは―――――試合開始です!》

 

フィールドに試合開始の合図を告げるブザーが鳴り響く。

 

俺とレイヴェルが投影装置を確認すると、最初のゴールはe4に表示されている。

e4―――――フィールドのほぼ真ん中か!

 

俺達がいるのはd1、デュリオ達はe8。

反対の位置にいる俺達のちょうど中間にゴールがある。

よって、最初の点は早い者勝ちになる!

 

「最初はe4だ! いくぞ!」

 

『おう!』

 

一斉に飛び出していく俺達。

先頭を走るのは俺とアリス、サラと機動力に長けた者。

その他のメンバーは先の三名に続く形でゴールを目指した。

空を飛ぶボーヴァの背中にはリーシャが乗っており、遠方の様子を伺っている。

 

望遠の魔法により瞳を赤く輝かせたリーシャが言う。

 

「ボールとゴールを確認しました。相手チームも迫っています」

 

「狙えるか?」

 

「もちろん」

 

そう言うとリーシャは魔装銃を構え、引き金を引いた。

銃口が一瞬、光ったと思うと前方で炸裂音が響く。

 

リーシャが言う。

 

「狙撃を弾かれました。やはり、距離がある以上、私の攻撃は読まれてますね。ですが、足を遅らせることぐらいは出来そうです………ね!」

 

刹那、魔装銃の銃口が連続して輝きを放つ。 

それとほぼ同時に前方で炸裂音が鳴り響く。

リーシャの狙撃を弾いたとしても、これで相手の進行スピードは落ちてくる。

その隙を狙う!

 

それから一分もしないうちに、金色に輝く巨大な輪が見えてきた。

あれがゴールだ!

そして―――――

 

「あそこにあるのがボールだ! 誰でも良い! 掴んだら、直ぐにゴールに放り込め!」

 

『了解!』

 

皆が気合いを入れる。

可能なら俺がゴールに入れた方が多く点数を得られる。

だから、まずは俺が―――――。

 

そう考えた時だった。

上空に、広範囲に渡って雨雲が発生する。

本来、このフィールドに天候の変化は起こらない。

こいつはデュリオの神器の能力!

 

雨雲は雷雲となり、大雨と雷を降らせ、嵐を巻き起こす!

狙撃のお返しと言わんばかりに、大嵐が俺達の歩みを邪魔してくる!

 

豪雨にさらされ、雷を避けながらどうにかボールを掴もうとする俺達の前にシャボン玉に包まれた相手チームの面々が現れる。

なるほど、天候操作がデュリオの能力なら、同じデュリオの能力であるシャボン玉で天候の影響を無効化できるってことか!

 

「やってくれるな!」

 

「いやいや、いきなり遠距離狙撃してくるイッセーどんも中々だよ?」

 

舌打ちする俺にデュリオは笑って返す。

 

アリスが白雷を纏うと、金髪が白へと変わる。

白雷を迸らせたアリスがスピードを上げた。

 

「私が行くわ!」

 

現状、俺達の中で最も速いのはアリスだ。 

白雷を纏うアリスは降り注ぐ大雨や雷をものともせず、真っ直ぐにボールをへ迫る!

 

すると、そんなアリスに急接近する天使がいた!

 

「キャプテェェェェェンッ、エンジェルッッ! 先手は取らせねぇぜ!」

 

アメコミ風のヒーロー衣装と覆面をしたのはウリエルさんのA、ネロだった!

ネロがボールを掴もうとするアリスに襲いかかる!

だが―――――

 

「おっと、やらせねーよ? うちの『女王』様の邪魔はさせないってね」

 

瞬時に鎧を―――――天武(ゼノン)の鎧を纏った俺はアリスを追い越し、ネロの前に立ち塞がる。

 

俺の登場にネロは嬉しそうに言う。

 

「おっぱいドラゴンッ! いいね、キャプテン・エンジェルとおっぱいドラゴンの夢の共演だッ!」  

 

嬉々として、俺に拳を撃ち込んでくるネロ!

そういや、顔合わせの時にも共演したいとか言ってたっけか。

早速そうなるなんてね!

だが―――――

 

「盛り上がってるところ悪いが、鎧姿は一旦終了だ」

 

俺はネロの攻撃を捌きながら禁手を解除した。

おっぱいドラゴン、赤龍帝と戦えると燃えていたネロはショックを受けたように言う。

 

「ええっ!? 元に戻るのかよ!?」

 

「知っての通り、あんまり長くは維持できないんだ。今はこれで我慢してくれ………よっと!」

 

「うおっ!?」

 

ネロの拳を受け止めた俺は、攻撃の勢いを利用した背負い投げでネロを投げ飛ばす!

更に追撃として宙に浮かぶネロへ、気弾を放った!

 

ネロは回避できずに直撃を受けてしまう。

しかし、

 

「流石の攻撃だ! だが、ありがたい!」

 

ネロは笑みを浮かべ、感謝の言葉を返してきた。

その理由はある。

ネロは―――――

 

『なるほど、若くしてMを目覚めさてしまったと。将来有望ね!』

 

違うわ、駄女神!

何でもかんでもそっちに繋げるんじゃない!

なに期待に満ちた声だしてるの!?

そうじゃなくて、ネロは攻撃を受けると――――

 

『発情する、と。わかるわ!』

 

「なんにも分かってねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁッ!」

 

もうやめて!

純粋な男子になんてこと言っちゃってるの、駄女神!?

ウリエルさんに怒られるよ、俺が!

 

レイヴェルが言う。

 

「ネロさんの神器『聖者の試練(スターディ・セイント)』。攻撃を受けると防御力が向上する。所有者が倒れない限り、その効果は続きますわ!」

 

解説ありがとう、レイヴェル!

よくぞ駄女神の流れを変えてくれたよ!

 

そう、ネロは攻撃を受ける度に頑強さが増すということ!

決して、Mだとかそういうのじゃないぞ!

 

この能力は単純ではあるが、基礎能力が高い奴が使うと脅威になる!

 

「それだけじゃないぜ! こいつはストラーダ猊下直伝――――」

 

ネロが拳に聖なる波動を集めて、俺へと放つ!

 

「聖拳ッッ!」

 

「ッ!?」

 

放たれる聖なる波動!

俺は回避しきれず、命中する直前に弾き飛ばした。

弾いた聖なる波動が地面に着弾し、激しい爆風を巻き起こす!

 

「ハハハッ! このキャプテン・エンジェルは鋼の肉体と聖なる拳が最大にして最高の武器なんだぜ、おっぱいドラゴンッッ!」

 

試合開始直後から俺達は激しく衝突する―――――。

 




~あとがきミニ~

イグニス「ネロ君は攻撃を受ければ受けるほど防御力が上がる。それはつまり――――硬くなるということね!」

イッセー「間違ってないけど、おまえが言うと別の意味に聞こえるんだが!?」

イグニス「ちょっとネロ君で遊んでくる!」

イッセー「やめてあげて! お願いだから、やめてあげて!」



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20話 一度あることは二度ある

メリークリスマス!(予定なし!)


「とったわよ、イッセー!」

 

先にボールを掴んだアリスが高らかに叫ぶ。

片手で霊槍アルビリスを握り、もう片方の手でバスケットボール程の大きさがあるボールを抱える。

 

ボールを持ったことにより、相手はアリスへと集中する。

アリスに接近する二つの影――――『天界の切り札』チームの『騎士』であるイリナと真羅清虎さん!

 

清虎さんはその名字から分かる通り、五大宗家の一角、真羅家の出身だ。

だが、クリスチャンに目覚めた後、単身ヴァチカンに乗り込み教会の戦士として戦ってきた実力者。

信仰心とその実力を認められ、転生天使――――熾天使メタトロンの『J』に選ばれるほど。

 

イリナの実力は言わずもがな。

仲間の俺達がよく知るものだ。

 

そんな実力者二人が一斉にアリスへと飛びかかる!

振り下ろされるイリナの聖剣と清虎さんの霊剣ッ!

スピードはアリスの方が早いが、ボールを抱えたままで二人の相手は厳しいだろう!

 

「アリス! パスしろッ!」

 

「ッ! 了解!」

 

アリスは近くにいたリーシャへとボールを回す。

リーシャはうまくキャッチするが、瞬時に相手チームの選手がリーシャへと狙いを変える。

 

リーシャは相手の攻撃を体捌きで上手くかわしながら、ゴールへの接近を試みる。

リーシャだってなにも完全遠距離専門って訳じゃない。

近距離戦での立ち回りだって心得ている。

しかし、流石に近距離戦では分が悪いか!

相手の剣がリーシャの頬を掠めた!

 

「なんのこれしきです!」

 

リーシャは屈んで、相手の剣戟をすんでで避けると、片手で拳銃サイズの魔装銃を腰のホルスターから取り出し、相手の太股に銃口を突きつける。

そして――――引き金を引いた!

撃ち出された魔弾が相手の太股を撃ち抜ぬく!

 

「うぐっ!?」

 

悲鳴をあげ、足を止める相手選手。

その隙にリーシャは相手選手を抜けて、一気にゴールへ向かい――――

 

《ゴォォォォォォォォォォォルッ! 最初のゴールは赤龍帝チームの女性スナイパー! リーシャ・クレアス選手が決めたぁぁぁぁぁぁ!》

 

アナウンサーの熱が入った実況が響き渡る!

リーシャが華麗にゴールを決めてくれた!

 

戻ってきたリーシャとハイタッチする俺達。

これで俺達のチームに先制ポイントが入った!

駒価値5の『兵士』であるリーシャがゴールを決めたことにより、フィールド上空に表示されている点数は『5―0』となっている。

 

ゴールをしたボールはゴールを決めた側の選手のものになる。

リーシャがボールを回収した後、再開のブザーが鳴り、次のゴール目指して移動を開始する。

 

新たに表示されたゴールの位置はb1。

フィールドのほぼ中央に現れた最初のゴールから、今度はほぼフィールドの端に移動することになる。

 

リーシャは動きめると同時に、サラへとボールを回す。

このゲームは誰よりもゴールに向かう必要があるので、スタミナ以外にも機動力が重要になってくる。

そうなると、最も機動力のあるアリスを中心に動いていきたいところではあるが、相手はアリスにマークをつけているため、ボールを回すのは難しそうだ。

 

レイヴェルが言う。

 

「アリス様は高ポイントが狙える『女王』。加えて機動力もあるとなれば、相手にとって最も注意するべき存在ですわ」

 

俺が常時、禁手を使えていたら話は別だったかもな。

いや、どのみち俺も徹底マークされているから同じかね?

なにせ俺をマークしているのはデュリオだからな。

 

「そりゃあ、イッセーどんは無視できないでしょ。なにしてくるか分からない相手だし」

 

「酷い言われようだな!?」

 

「アリスさんもスイッチ姫だしねぇ。イッセーどんとならんだ時なんて脅威以外の何者でもないよ」

 

「私のマークが厳しめなのってそういう理由!?」

 

デュリオの言葉に衝撃を受けるアリス!

俺とアリスへの警戒はそういうことだったのか!

 

《おっぱいドラゴンとスイッチ姫が揃うと世界の法則すら無視する現象が起きると聞く。警戒するのは当然だろう。彼女の胸は赤龍帝チームにおいて最大の武器になるな》

 

なんて解説をするアジュカさん!

そうですか、アリスのおっぱいは俺達最大の武器ですか!

 

アリスが涙目で叫ぶ。

 

「私がこんな目に会うの、全部イッセーのせいだからね!?」

 

「ちくしょう! 事実そうだから言い返せねぇ!」

 

ホンットごめんね!

 

『王』と『女王』がそんなやりとりをしている間にも試合は激しさを増していく。

 

サラと百鬼の先輩後輩コンビがボールを回しながら進んでいると、二人の前にイリナと『僧侶』のミラナさんが立ち塞がる!

二人は光の矢でサラ達を攻撃し、連携を崩していく。

 

「ミラナさん、援護お願いね!」

 

「………分かりました」

 

オートクレールを構えてサラ達に突貫するイリナ!

天使の翼を広げ、飛んでくるイリナはボールを持つサラを翻弄するように複雑な軌道を描きながら飛んでくる。

『騎士』の特性も加わったおかげで、普段よりも速い!

 

イリナだけなら、なんとか捌ききれるだろう。

しかし、そこにミラナさんの光の矢も加わるとなると、サラでも対処は難しい。

悪魔に転生したことにより、当然、サラも光が弱点となる。

掠めたるだけでもダメージを受け、精神力を削られる。

特にミラナさんの光力は特別で―――――

 

「ミラナ・シャタロヴァさんの光力には気をつけてください! あの方がガブリエル様のAに選ばれた理由は光力の密度です!」

 

これにデュリオも同意する。

 

「へへっ、ミラナの一発は最上級悪魔でも直撃すれば溶けるって言われるくらい濃いんだよね!」

 

そんなもんくらったら、この長丁場で持つわけがない!

サラもそれを理解しているからこそ、ミラナさんの攻撃を受けないよう立ち回っている。

しかし、ミラナさんの攻撃ばかりに気を取られていると、イリナの高速の動きに対応できなくなって、

 

「もらったわ!」

 

光の矢を避けた直後を狙って、イリナはサラからボールを掠め取っていった!

ボールを持ったイリナはその勢いのまま、ゴール目掛けて駆けていく!

 

「やらせん!」

 

「ここは通しませんよ、紫藤先輩!」

 

百鬼とボーヴァがイリナの妨害に出る。

だが、

 

「「っ!?」」

 

目を見開く二人。

イリナは瞬く間に二人を捌いてみせたのだ。

 

イリナは百鬼が伸ばした手をステップで避けた後、体を大きくして待ち構えていたボーヴァの足元をスライディングで潜り抜けていった。

 

百鬼もボーヴァも相当な実力を持っている。

そんな二人を軽く突破してしまうとは!

イリナのやつ、あんな動きが出来るようになってたのか!

 

イリナを追いかけながら、百鬼がボーヴァに問う。

 

「今の見えたかボの字!」

 

「途中まではな。だが、一瞬で消えた! なんなのだ、今の動きは!」

 

二人はイリナの動きを捉えられなかったのか。

 

アリスが二人に言う。

 

「足捌きの一つね。緩急をつけた足捌きで動きを読みづらくするの。加えて、相手の視線を読んで、死角に入ることで、自分の姿を見えなくさせることができるわ。すんごく難しいわよ、あれ」

 

アリスの言う通りで、イリナが見せたのは高度な技術によるものだ。

体捌きにより、自身の存在を相手の認識の外へ逃がす技。

俺やアリスも修得するのに時間がかかったんだが、それをイリナはやってのけた。

仕込んだのはこの人で――――。

 

「フッフッフッ、ありゃ教えた奴が凄かったってことだな」

 

ドヤ顔で言うモーリスのおっさん!

ワルキュリアが言う。

 

「そういえば以前、例の修行空間から出てきた時、死んだ魚の目をしていましたね」

 

「トラウマ修行の賜物じゃねぇか!」

 

アセムとの決戦に向けて、木場、ゼノヴィア、イリナの三人がモーリスのおっさんに鍛えれたとは聞いていたけども!

あのトラウマ製造機にみっちりしごかれたんなら、そりゃあ上達もしますよ!

 

《ゴォォォォォォォル! 今度は『天界の切り札』チームの紫藤イリナ選手が華麗に決めたぁぁぁぁぁぁ!》

 

アナウンサーの実況に会場が再び沸いた。

 

ゴールを奪い返したイリナはというと俺に視線を送り、不敵な笑みを見せてくる。

 

「ダーリン相手でも手加減なんてしないんだからね!」

 

ブイサインと共にそんなことを言ってくるイリナ。

俺はニッと笑みを返す。

 

「そりゃこっちの台詞だ、ハニー。まだまだ負けるわけにはいかねーな」

 

レイナの時と同じだ。

普段は仲間で家族でも、今はライバルなのだから。

 

しかし、先制ゴールを決めた直後に取り返されたか。

イリナは『騎士』枠なので転生天使チームの点数は3。

フィールドに表示されている点数は『5-3』と、まだこちらが優勢ではあるが………。

 

イリナがゴールを決めたことにより、ボールを奪われたサラが落ち込み気味に言う。

 

「にぃに、ごめんなさい………」

 

俺はそんなサラの頭を撫でて微笑んだ。

 

「いや、むしろよくあの攻撃を避けきったよ。ゴールは決められたけど、まだまだ序盤。下手に消耗するよりは全然良いさ。こっちには回復役もいないしな」

 

俺は相手チームの『女王』ディートヘルムさんに視線を向けた。

ディートヘルムさんの神器はアーシアのような回復能力。

アーシアと違い、回復できる対象は天界に準ずる者に限られるが、この試合においてはその欠点は無いにも等しい。

リーシャの攻撃でダメージを負った選手も彼の能力により、瞬時に傷を回復させていたところを見ると、その回復能力は相当なものだ。

 

相手に回復役がいるってのは中々やりづらいな。

アーシアがいてくれるありがたみを改めて実感できる。

 

イリナがゴールを決めたため、今度はイリナがボールを持った状態で試合が再開される。

次にゴールが出現した場所はf3。

結構、近い場所だ。

短い距離の間にボールを奪う必要があるな。

 

俺はぐっと腰を落として、走り出す準備をする。

そして、サラの背中に手を当てて言う。

 

「止まってる暇はないぞ、サラ。ゲームはここからだ!」

 

「うん!」

 

俺達は再び走り出す。

そう、ゲームはまだまだ序盤。

今はお互い様子見といったところだろう。

激しくなるのはこれからだ。

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

イッセー君率いる赤龍帝チームとデュリオさん率いる転生天使チームの試合が始まり十分ほど経っただろうか。

彼らが鎬を削り合う中、僕達リアス・グレモリーチームは関係者専用の観覧席から両チームの試合を見ていた。

 

モニターに映るイッセー君を見ながら、小猫ちゃんが言う。

 

「接戦ですね」

 

その言葉にゼノヴィアが頷く。

 

「取られては取り返すの繰り返し。二人とも一歩も譲らないな。だが、まだイッセーもデュリオも本気を出していないだろう?」

 

試合は一進一退の激戦。

相手のリードを許さない激戦に観客席も大いに盛り上がっている。

 

しかし、彼らのことを良く知る僕達から見ると、まだまだ本気を出していないことは明らかだった。

無論、体力温存のためでもあるのだろう。

今回のルールはスタミナ管理が重要とされているのだから。

 

「単純に様子見ってところね。お互い、相手が相手なのだから、何も用意していないということはないでしょう」

 

後ろからの声に振り返ると、所用で席を外していたリアス姉さんが戻ってきていた。

 

僕はリアス姉さんに問う。

 

「そろそろですか?」

 

「そうね。もう少ししたら行きましょうか」

 

実はこの後、僕達はある人物を訪れることになっている。

その人物とは滅多に会うことがないので、これを機に話をしてみたいと、リアス姉さんの要望だった。

 

戻ってきたリアス姉さんは席に座ると、手元のタブレットを使って、試合のハイライトを流した。

タブレットにはちょうどイッセー君にボールが渡ったところが映されていて、

 

「時間制限のある禁手を分割して使うことで消耗を抑えているのね。しかも、急激に力を上昇させることで、相手のペースも乱す………。使うタイミングを自由にできるのなら、普通に禁手を使われるより厄介かもしれないわ」

 

イッセー君は基本的には生身の状態で駆け回っているが、ボールを奪う瞬間や相手の妨害をする時に、一瞬だけ鎧を纏うという戦法をとっている。

チーム『雷光』との試合でもバラキエルさんを相手に最後の最後で天武の形態となっていたが、今回はあの試合よりも鎧を纏う時間が短い。

一回に纏う時間は五秒もないだろう。

 

ロスヴァイセさんが言う。

 

「イッセー君なりの節約術というところでしょうか」

 

「色々と探っているようだったけど、その一つが禁手の分割使用なのでしょうね。この手は何度も使っているとデュリオ達も慣れてくるでしょうし、他にも何か隠し持っているかもしれないわ」

 

試合では天翼の鎧を纏ったイッセー君がフェザービットを駆使して、相手の動きを封じ、ボールを奪取していた。

そして、そのスピードを活かして、ゴールを決める。

 

《決めたぁぁぁぁぁぁぁ! 一瞬! 一瞬の内におっぱいドラゴンがゴールを決めましたッッッ! 『王』のポイントは10! またまた逆転だぁぁぁぁぁ!》

 

イッセー君が決めたことで、点数は『37-32』。

これで赤龍帝チームが再びリードする形になった。

 

再開のボールはイッセー君へと渡り、試合が続行される。

イッセー君は迫り来る転生天使達を掻い潜り――――その人物へとボールをパスした。

 

『おっ、今度は俺か』

 

イッセー君が投げたボールを片手でキャッチするモーリスさん。

彼がボールを持ったことで、転生天使達の間に緊張が走る。

 

チートおじさん、トラウマ製造機。

ただの木刀で何もかもを斬り、ただの気合いで魔法をかき消すという摩訶不思議現象を叩き出す人物だ。

ボールを奪おうにも、近づけばどんなトラウマを植え付けられるか分からない。

だから、動けない。

 

モーリスさんは人差し指の上でボールを回して言う。

 

『おいおい、そんな及び腰じゃあ、俺からこいつは奪えんぜ?』

 

 

チートおじさんが前に出る―――――その時。

 

 

『ならば、奪ってみせよう』

 

その声が聞こえた瞬間、モーリスさんの眼前にその人物が立ち塞がった。

祭服を身にまとった身長2メートルはある白髪の巨漢。

あのアセムを相手に一歩も引かなかった、もう一人の剣士。

「教会の暴力装置」「天界の暴挙」「ヴァチカンのイーヴィルキラー」「ミスター・デュランダル」「本当の悪魔」「力の権化」「人間の極限」と恐れられる生ける伝説――――。

 

《モーリス選手の前にヴァスコ・ストラーダ選手が立ったぁぁぁぁぁ! 互いに「チートおじさん」「教会の暴力装置」と呼ばれた最強剣士が相対しています! これ、フィールド持つのでしょうか!?》

 

フィールドの崩壊を危惧するアナウンサー!

これまでフィールドが破壊される試合といえば、神クラスのものばかりだ。

あの二人がぶつかれば、軽くフィールドを斬ってしまいそうだ!

ぶつかる前からそんな光景が想像できてしまうよ!

 

『つーか、俺とストラーダの爺さんの二つ名に差を感じるのは俺だけか? もうちょい良い名前つけてくれてもいいんじゃね?』

 

何か抗議しているチートおじさんをスルーしても良いと思うのは僕だけではないだろう。

 

目の前に立つストラーダ猊下にモーリスさんが嬉しそうに言う。

 

『やっと、あんたと剣を交える時が来たな。あの薬は持ってきているんだろう?』

 

ストラーダ猊下は懐を探り、小瓶を一つ取り出した。

それはアセム戦で猊下が飲んだという若返りの薬だ。

 

『この通り。アザゼル前総督の協力もあり、前回よりも持続時間が向上しているとのことだ』

 

そう言うと猊下は小瓶の蓋を開けて、中身を一気に飲み干した。

刹那、全身から煙が放出され始める。

煙が強く、濃くなる程に彼の体は大きく、肌に艶も戻っていく。

そして、煙が止んだ時――――そこには五十代頃にまで若返った猊下の姿があった。

 

モーリスさんが言う。

 

『アザゼルも良い仕事するじゃねぇか。だがよ、得物はあるんだろうな、爺さん? デュランダルのレプリカとやらは折れちまったろう?』

 

アセムとの戦いで猊下が使用していたデュランダルのレプリカは折れてしまっている。

折れたレプリカについては教会の錬金術師が修復、もしくは改良しているのだろうけど。

 

モーリスさんもあの戦いで双剣が折れてしまったため、代わりにリアス姉さんの木刀を使用しているが………というか、猊下を相手に木刀で戦うつもりですか!?

手に握っているのが『熱海』の文字が刻まれた木刀なんですけど!

 

若返った姿となった猊下は静かに言う。

 

『私もあなたとの戦いを心待ちにしていたのだ。―――――全力でやろう』

 

「「「ッ!」」」

 

猊下の目がモニターに映った瞬間、体が震えた。

モニター越しだというのに、こちらにまで戦慄が走るなんて………!

 

猊下が剣を鞘から抜き放つ―――――。

 

『これがこの時のために用意した新たな剣。私の新たなパートナーだ』

 

『ッ! そいつはまさか………!』

 

猊下の握る剣にモーリスさんが目を見開く。

同時に僕達も驚愕してしまった。

 

馬鹿な………!

あれは既に失われたはずだ!

あれは………あの剣は………ッ!

 

猊下は剣を高く掲げてその名を叫んだ。

 

 

『参る! ゆくぞ―――――『洞爺湖』ォォォォォォッ!』

 

 

「いや、それ私の木刀ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」

 

リアス姉さんの悲鳴。

そう、それはヴェレラナ様に処分されたはずの、リアス姉さんの木刀だった――――

 




~次回予告~

モーリス「あんたもそいつが獲物とはな! 盛り上がってきやがった!」

ストラーダ「フフフ、ここまでの昂りは久しぶりだ。楽しませてもらおう!」

アセム「二人の最強がついに衝突! 僕と渡り合ったその力、全世界に見せつけてやるが良いさ! 次回『イリナ堕つ! エロ天使最後の白翼!』」

モーリス「絶対見てくれよな!」

イリナ「今の流れでなんでそのタイトル!?」

イッセー「まぁ、イリナだしな………」

イリナ「なんで納得気味!? ツッコミは!?」


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21話 技名は語呂が大事

新年初投稿!

祝 ブリーチ千年決戦篇アニメ化!


「参る! ゆくぞ―――――『洞爺湖』ォォォォォォッ!」

 

 

新たな剣を携えたストラーダの爺さんが、その名を呼ぶ。

 

褐色に染まった刀身。

芸術品のような見事な木目。

そして、柄には『洞爺湖』と名前が彫られていて―――

 

「あんたも木刀なんかいぃぃぃぃぃぃぃッ!」

 

俺のツッコミがフィールドに響き渡った!

 

チートと呼ばれる剣士二人がこれから衝突しようって時に!

相対する二人に皆が緊張を走らせてる時に!

なんで、木刀なんだよぉぉぉぉぉぉぉ!

 

しかも、その木刀って明らかにリアスのだよね!?

お土産屋で買ったって言ってたやつだよね!?

大掃除の時に見たことあるもん!

そんでもって、ヴェレラナさんに捨てられてたやつじゃん!

リアスはこれも回収してたの!?

 

混乱する俺にデュリオが言う。

 

「うちの監督経由で猊下に渡ったんだよね、あれ。教会の錬金術師がデュランダルのレプリカを作ってるんだけど、満足いくものが出来てないらしくてねぇ。出来るのを待ってる間に――――」

 

「だからって渡すなよ!? 他にもあっただろ!?」

 

「猊下もそっちのチートおじさんが木刀ならって」

 

「そんなところで対抗しないで! こっちのノリに合わせなくていいから! つーか、前々から思ってたけど、爺さんってば、結構お茶目なところあるよね!」

 

アセムと戦ってる最中におっさんがロッキーっぽい曲を流した時も口ずさんでたしね!

意外とノリが良いよね!

 

ストラーダの爺さんは木刀を軽く振るう。

すると、地面には今放ったのであろう斬撃が刻まれていて、

 

「この手に馴染む感触………それにこの斬れ味。日本の武器は素晴らしいものだ。しかし、このような業物が土産として売られているというのは驚きだ」

 

「だよなー。おっかねぇところだぜ」

 

「違うよ!? 木刀で斬鉄剣とか出来るのあんた達だけだから! 日本の土産屋は武器屋じゃないからね!? おっさんも頷かないで!」

 

日本は無法地帯ではございません!

自分達のチートを基準に勘違いしないでください!

あんた達が土産の木刀を使うと魔剣になるんだよ!

木刀に斬れ味とかないから!

 

ツッコミが止まらない俺を他所にチートを体現した二人が好戦的な笑みを見せ合う。

モーリスのおっさんが口を開く。

 

「若返りの薬も飲んで………歳は俺くらいか? 得物も同じ。大会だと爺さんも『戦車』の特性を得ている。ということはだ」

 

「後は互いの技量のみの比較となろう。ここでは主も、信仰も関係ない。ただ――――」

 

 

「「強い剣士ととことんやり合う。それだけだろう?」」

 

 

二人の言葉が重なった――――次の瞬間。

凄まじいプレッシャーが俺達を襲った!

可視化するまでの闘気が二人を覆い、空間で激しくぶつかり合っている!

 

「まだ動いてすらいないのにこの圧力………!? 化け物か………!?」

 

あまりの圧力に両チームのメンバーの中には後退るする者まで出ていた。

化け物、そう称してしまうのも無理はない。

二人とも人の身で異形を、下手すれば魔王や神でも屠ることの出来る実力者。

あのアセムですら、二人の共闘には一時的に追い込まれていた程だ。

それが今――――ぶつかる!

 

二人の体が一瞬ぶれた。

この場にいる者がそれを認識した時には、二人の木刀が既に振るわれた後だった。

 

少し間を置いた後、先に動いたのはストラーダの爺さんだった。

木刀を上段に構えて、振り下ろす。

フェイントもない単純な動きだ。

それでも、振り下ろされた一太刀に籠められた力は尋常ではない。

振り下ろされた木刀の先を見ると、フィールドの端まで地面に斬られた跡が刻まれていた。

 

一方、モーリスおっさんはというと、少し体を反らすだけで、今の攻撃を軽く避けてみせていた。

おっさんはストラーダの爺さんの一撃に驚くこともなく、間髪いれずに反撃に出た。

一歩、強く踏み込み―――――神速の一撃を爺さんにお見舞いする!

 

放たれた一撃をストラーダの爺さんは腰を屈めて避けてしまうが、斬撃は空間に裂け目を入れている。

 

ただの一撃が必殺となり得る剣戟。

だが、今のやり取りはまだ小手調べといったところだろう。

ここから二人の戦いは――――一気に加速する!

 

「「オォォォォォォァァァァァァッ!」」

 

轟く雄叫び!

それと同時に響く剣と剣がぶつかり合う音!

目にも映らぬスピードで振られる剣が激しく火花を散らすッ!

二人はその場からほとんど場所を変えずに、至近距離での打ち合いを繰り広げていく!

 

『す、凄まじい打ち合いだぁぁぁぁぁぁぁぁ! 彼らの打ち合いにフィールドが悲鳴をあげています!』

 

アナウンサーが言うように、二人の周囲の空間にはヒビが入っており、僅かにではあるが次元の狭間の光景を見ることができた。

 

実況席にいるミカエルさんが言う。

 

『ストラーダはここに来て、人生で初めて好敵手を得ました。それが彼をここまで昂らせるに至ったのでしょう』

 

『全盛期の彼が冥界に攻め込んできていたらと思うとぞっとするな。天界の暴挙とは良く言ったものだ』

 

ミカエルさんに続き、そう口にするアジュカさん。

 

以前、コカビエルがストラーダの爺さんとやり合ったことがあると言っていたが、よく生き残れたものだと思うよ。

もし、全盛期の爺さんと対峙したとして、無事に帰ることができるか。

この試合を見ている悪魔、堕天使は思うはずだ。

もし、同盟が結ばれず、あの刃が自身に向けられていたら、と。

 

激しい剣戟の応酬から一転、鍔競り合いの状態で拮抗するモーリスのおっさんとストラーダの爺さん。

すると、ストラーダの爺さんが左腕を振り上げ、拳を握り――――拳に聖なる力を宿した!

 

「ぬぅんッ!」

 

放たれる聖拳ッ!

超至近距離から繰り出されたそれを回避するべく、おっさんは大きく後ろに跳ぶ。

 

おっさんは木刀で肩を叩きながら言う。

 

「流石に片手でやり合うにはキツい相手だな………ん? ちょっと待てよ………。そういや、良いもんもってたんだった!」

 

ニヤリと笑むと、左手に持っていたボールを――――ストラーダの爺さん目掛けて投球した!

良いもんってボールのことかよ!?

まさかのボールで攻撃!?

そんなのありか!?

とんでもない速度で投げられたボールが爺さんへと迫る!

 

爺さんは木刀を手放すと、両手を構え、真正面からボールを受け止めにかかる。

爺さんがボールをキャッチした瞬間、周囲の空気が激しく揺れた!

今の投球にどんだけ力籠めてんの!?

 

ストラーダの爺さんが言う。

 

「体の芯に響く攻撃は久しぶりだ。ならば、此方も返そうかッ!」

 

そう言うと、爺さんの腕があり得ないくらい膨れ上がる!

聖なるオーラが腕を纏っていて―――――こちらからも凄まじい豪速球が放たれた!

聖なるオーラを纏ったボールがおっさんを襲う!

 

「ぐおっ!? やりやがったな、爺さんッ!」

 

お返しにとばかりに投げ返すおっさん!

 

「フフフ、まだまだッ!」

 

更に投げ返す爺さん!

 

「うおらぁ!」

 

更に更に投げ返すおっさん!

 

「ぬあぁっ!」

 

更に更に更に投げ返す爺さん!

 

「ずおぉりゃぁ!」

 

更に更に更に更に投げ返すおっさん!

 

「うぉぁっ!」

 

更に更に更に更に更に投げ返す爺さん!

そこからも砲撃のようなボールの投げ合いが続く!

 

 

ズドォォォォォンッ!

バゴォォォォォンッ!

ズガァァァァァンッ!

ズドドドドドドドッ!

 

 

もうミサイルを投げているのか、ボールを投げているのか分からないような音が響く中、俺は叫んだ。

 

「あんたら、それもうドッジボールじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!」

 

音とか全然違うけど、完全にドッジボールやってるよね、それ!?

俺が知ってるやつじゃないけど、ドッジボールだよね、それ!?

競技用のボールで何始めてんだよ!?

 

ボールを投げ合いながら、おっさんが言う。

 

「気にするな! 人にボールを投げるという点では間違っちゃいねぇ!」

 

「パスするならな! 種目変わってるからね、これ!」

 

「赤龍帝ボーイ、男には引けぬ時があるのだ!」

 

「それ今じゃないよね!?」

 

このツッコミしか出てこないドッジボールに男の何をかけてるの!?

俺にはおっさん二人がボケ合ってる光景にしか見えません!

 

俺のツッコミにおっさんが舌打ちする。

 

「ったく、しょうがねぇな。そこまで言うなら、こいつでどうだ!」

 

おっさんは柄に『熱海』の文字が刻まれた木刀を握り、ボールを打ち返した!

 

「鋭いな! こちらも―――――ぬんッ!」

 

ストラーダの爺さんが柄に『洞爺湖』の文字が刻まれた木刀で跳ね返す!

それからおっさんがボールを木刀で打ち返し、更にそのボールを爺さんが木刀で打ち返す!

 

「さっきとなにか変わりましたかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ドッジボールからほぼ変わってないんですけど!

素手か木刀かの違いしかないんですけど!

 

「ボールの威力が段違いになったろ」

 

「だからなんだ!?」

 

ボールの威力が変わっても状況はなんにも変わってないんだよ!

おっさん二人が木刀でボールの打ち合いしてるってどんな状況だよ!?

試合が進んでないんですけど!

 

アナウンサーが声をあげる。

 

『二人のドッジボールに会場が沸いています! すごい声援が送られていますッ!』

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

まさかのおっさん二人のドッジボールを応援!?

てっきり苦情がくると思ってたんですけど!

 

『盛り上がっているのは主に中年男性のようですが、これはやはり?』

 

アナウンサーの問いにアジュカさんが答える。

 

『うむ。二人の激闘に自分を重ねたのだろう。歳を取ってもまだやれるのだと。若者にはまだまだ負けないくらいの力が中年にはあるのだと。彼らの戦いは多くの中年男性の心に火を灯したようだ』

 

眠れるおっさん達の心に火をつけたと!?

そんな馬鹿な!

 

「凄すぎる………あの威力でも壊れないなんて! 競技用ボールの耐久性は化け物か!」

 

「そこじゃねぇだろぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

誰だ今のコメント言ったやつ!

確かに怪物二人の攻撃に耐えるボールも凄いけれども!

今呟くべきコメントじゃないよね!

つーか、俺以外も誰かツッコミしろよ!

 

俺は美羽に視線を送ってみる。

だけど………

 

「え、えーと………」

 

あ、美羽のやつ向こうの方向きやがった!

 

よぅし、それならアリスだ!

我らが『女王』にツッコミをしてもらおう!

 

「ピ~ピピピ~ピュゥゥゥ~♪」

 

「口笛吹いてごまかすなよ!?」

 

ツッコミ放棄しやがった!

 

リーシャとワルキュリアはそんなキャラじゃないし、サラもツッコミは無理だ。

ならば、期待の新星に頼むしかねぇ!

俺は百鬼とボーヴァの方を向いて―――――

 

「ボの字、よく見ておいた方がいい。あれが先輩の師匠の戦い方だ」

 

「主の臣下としては見逃せない戦いだ」

 

真面目かッ!

ダメだ、新人二人はなんでもかんでも真面目に受け止めすぎている!

 

激しいボールの打ち合いの中、モーリスのおっさんが笑む。

 

「大分、体が暖まってきやがった。ここいらでいっちょうやってみるかい?」

 

おっさんの問いにストラーダの爺さんが言う。

 

「大技か! 望むところ!」

 

次の瞬間、二人のオーラが爆発的に膨らみ始める!

二人は両の手で木刀を強く握り、振り上げた。

木刀の刀身にオーラが集まっていく!

 

 

「熱海―――――」

 

「洞爺―――――」

 

 

 

 

「「天衝ッッッッッ!!!!!!!!」」

 

「大技っていうか、ただのパクり技だろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺のツッコミが轟く中、壮絶なパクり技がぶつかった―――――

 




~あとがき~

イグニス「領域展開――――『魔乳羅魅亜守(まにゅーらみあす)』」

イッセー「またパクってきたな!? つーか、それ技というより人の名前じゃね!?」

イグニス「効果は領域内にあるおっぱいの乳揺れを確実に見れるというものよ。おっぱいだろうとちっぱいだろうと、何でも揺らしてみせる!」

イッセー「なにその自信に満ちた表情!? ………いや、待てよ。体育の授業とかで使えば、もしかして…………」

アリス「あんたはあんたで有効活用しようとしてんじゃないわよ!?」


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22話 番狂わせの魔術師

メッッッチャシリアス


[木場 side]

 

 

イッセー君達の試合が進む中、僕達は先程までいた関係者用の観覧席から離れ、とある場所を目指していた。

そこは僕達に用意されたものとは別の場所に設けられた観戦ルームだ。

 

リアス姉さんが探していた人物を視界に映す。

相手もこちらに気付き、笑みを浮かべていた。

 

「これは思わぬお客様のようですな」

 

そう言うのは男性――――リュディガー・ローゼンクロイツ。

そう、デュリオさん率いる『天界の切り札』チームの監督を務める人物だ。

 

「ごきげんよう、リュディガー・ローゼンクロイツ様。席をご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

リュディガー氏は手で隣の席に招く。

リアス姉さんが彼の隣に座り、僕を含めた他のメンバーも二人の近くに座った。

 

試合は中盤に差し掛かっており、両チームが熾烈な戦いを繰り広げていて―――――

 

 

『いくぜ! 貝の呼吸、一の型―――――|牡蠣の酒蒸し!』

 

『ならば、こちらも! お茶の呼吸、参の型――――午後のティータイム!』

 

 

なんかとんでもないパクり技を繰り広げてる!?

貝の呼吸ってなに!?

お茶の呼吸ってなに!?

あなた方は何柱になろうとしているのですか!?

 

イッセー君がチートおじさん二人に叫ぶ!

 

『あんたら、何柱になろうとしてんだぁぁぁぁぁぁ!』

 

どうやら、イッセー君も僕と同じツッコミのようだ!

 

試合を見ながらリアス姉さんが問う。

 

「リュディガー様、お訊きしてもよろしいかしら?」

 

「話せる限りならば」

 

「………あの木刀はお母様から?」

 

「ええ」

 

短く返された返答に顔を覆うリアス姉さん。

うん、なんでリアス姉さんのお土産の木刀は強者に気に入られてるんだろう。

なんでそんなに分散しているだろう。

 

リュディガー氏が楽しげに言う。

 

「猊下を招いた時点で、モーリス・ノアとの戦いは想定していたが………いやはや、ここまでとは。悪魔どころか神々も青い顔をしているのが目に浮かぶ」

 

それはそうだろう。

一人は人間の極限とまで称された戦士。

魔王ですら怖れた生ける伝説。

かたやアセムの配下であるヴァルスを降し、あの猛者揃いの勇者パーティーの師だ。

お二人の力は実際に師事を受けた僕達の知るところでもある。

 

だけど、僕達には一つ疑問があった。

 

「猊下をどのように口説いたのかしら?」

 

猊下はトライヘキサ、アセムとの戦いの後、地方で隠棲していたと聞く。

あの戦いを最後に、余生を過ごそうとしていたらしい。

国際大会の開催が宣言されてからは、そんな猊下のもとを訪ねる人は絶えず、猊下も全ての誘いを断り続けていた。

しかし、今はこうしてデュリオさん率いる転生天使チームの一員となっている。

 

その問いにリュディガー氏が答えた。

 

「なにも特別なことをしたわけではありません。私は猊下の心残りを明確にしたまで」

 

「心残り?」

 

リアス姉さんが聞き返すと、氏は頷いた。

 

「姫に仕える聖魔剣の騎士に、デュランダルを継ぐ騎士。白い龍と共にいる聖王剣の使い手。そして、異世界の剣士がこの大会でその剣を振るっている」

 

 

――――世界中のありとあらゆる強者が出場する中、あなたはここで終わるつもりなのか。彼らと戦ってみたいと思わないのか、と。

 

 

氏のその言葉は、燻っていた猊下の火を大きくするには十分だった。

猊下は思い出していたはずだ。

アーサー・ペンドラゴンと剣を交えた時のことを。

神すらも斬り伏せるモーリス・ノアの剣技を。

 

「彼は教会の信徒。しかし、彼もまた一介の剣士だったということです」

 

これまで猊下を訪れた者達は自身のチームを強化を目的にただ勧誘していただけだったのだろう。

しかし、この人はあえて猊下を煽ったんだ。

まだ見ぬ強者と戦ってみたいという猊下の心残りを見抜いて。

 

リアス姉さんがフッと笑んだ。

 

「恐ろしい方ですわ」

 

「仮に姫が私よりも先に猊下に面会していたら、取られていたでしょうな。姫も私と同じことを言うでしょうから」

 

試合では未だ二人の剣士が激しい戦いを繰り広げている。

ボールは既に他の選手に渡っているのに止まる気配が感じられない。

彼らは試合を他所に二人だけの世界に入り込んでしまっているのだろう。

そして、両チームのメンバーもそれを良しとしているようだ。

先達の熱気が両チームの熱を上げていく――――

 

『規格外の二人に呼応するように両チーム激しく衝突しております! ボールの奪い合いが止まりませんッ!』

 

フィールドでは聖なる波動や赤い龍のオーラがぶつかり、フィールドの各地を破壊していく。

更には魔法の打ち合いや剣と槍の応酬が繰り広げられ、ゴールの奪い合いは更に苛烈さを増していた。

 

ゼノヴィアが呟く。

 

「彼らを侮っているわけではないが、まさかイッセー達とここまでやり合えるなんてね。まったくの互角じゃないか」

 

――――互角。

そう、転生天使チームのメンバーはあの赤龍帝チームを相手に一歩も引いていない。

デュリオさんやストラーダ猊下といった指折りの実力者が集っているとはいえ、赤龍帝チームが優勢だろうという予想は多かった。

しかし、試合は一進一退の状況。

この状況を作り出している一つの理由として挙げられるのは転生天使の持つ札の特性だ。

彼らは特定の役を揃えることで、力を底上げすることができる。

 

《ゴォォォォォォォルッ! デュリオ選手、兵藤一誠選手からボールを奪い、シュートを決めたぁぁぁぁぁぁ!》

 

アナウンサーが吼える。

場面はちょうど、デュリオさんがゴールを決めたところだった。

 

アナウンサーが言う。

 

《転生天使の連携攻撃は他の種族に見られない爆発力がありますね》

 

解説のベルゼブブ様がそれに答えた。

 

《効果の大きい組み合わせを揃えるのは難しいが、成った時の力は凄まじいな。それにしても、彼らは使い方が上手い》

 

彼らはこれまでボールを奪う際や、相手の攻撃を潜り抜ける際、一瞬だけ札の特性を発動させていた。

急激な力の上昇は相手の反応を遅らせるのに十分な効果がある。

しかも任意で発動できるようなので、いつ、どのタイミングで発動させられるかが分からない。

そんな彼らを相手にする以上、精神力もかなり削られるはずだ。

そして、それは赤龍帝チームも例外ではない。

 

《おおぉぉぉぉと! 兵藤一誠選手が膝をついてしまいました! かなり辛そうな表情をしています!》

 

イッセー君は膝をつき、肩を激しく上下に揺らしていた。

まさかこれは―――――

 

リアス姉さんが言う。

 

「札の特性を何度も使っていると思っていたけれど、なるほど。イッセーに禁手を使わせるためね?」

 

その問いにリュディガー氏が返す。

 

「彼の力は強力ではあるが、制限時間が付いてしまっている。ならば、使わせない手はないでしょう?」

 

イッセー君の禁手に制限時間があることは誰もが知っていることだ。

だからこそ、イッセー君と戦う者は禁手が使われるタイミングを最大限に警戒していた。

しかし、リュディガー氏はあえて使わせることでイッセー君の力を削ぎにかかったんだ。

 

リアス姉さんが言う。

 

「イッセーはチームの柱。『王』としても、それ以外の意味でも。ここから崩れるわね」

 

禁手を使いすぎたせいか、動きが鈍くなっているイッセー君。

そんなイッセー君を美羽さんとサラさんがサポートに回る。

 

「兄妹愛の強い彼女達なら、真っ先に彼のサポートに回るでしょう。だが、守りながら戦うというのは隙が生じやすい。特に兵藤サラはね」

 

サラさんはイッセー君の方に意識を取られたせいか、ボールを持った選手の突破を許してしまった。

 

「兵藤サラにとって、兄と姉、家族はようやく得た安寧の場所。何よりも守ろうとするだろう。故に彼らに迫る脅威には過敏に反応してしまう節がある」

 

アセムの配下であるヴィーカとベルとの戦いでも、美羽さんを守るため、彼女は命をかけて戦っていた。

彼女にとってイッセー君や美羽さんは絶対に失いたくないものなんだ。

だからこそ、二人に危機が迫った時には守ろうとする。

たとえ、レーティングゲームの中だったとしても。

 

次に映るのはイッセー君の臣下であるボーヴァさんだ。

なんとかしてボールを奪おうと動きまくり、炎を出すが、相手選手達は彼を徹底的にスルーし、相手にしていない。

この行為がボーヴァさんを苛立たせているのが映像越しにでも分かった。

 

これを見てリュディガー氏は言う。

 

「ボーヴァ・タンニーンは兵藤一誠に心酔し、優秀な上の兄弟や父親に今の自分自身を見せたいために功を急ぐ傾向にある。兵藤一誠から指示を受けて行動し、それかま叶わなかった場合、苛立ちを隠せず、より一層焦るようになる」

 

レイヴェルさんやアリスさんに宥められるボーヴァさんだが、やはり天使達にスルーされ、怒りが増し、炎を吐き散らす。

その炎が仲間の邪魔になってしまい、相手に点数をとられてしまった。

 

「自身の行為が仲間の邪魔になった。そうすると感じるのは自身の無力感だ。誇り高いドラゴンにとって、その感情は耐え難いものだろう」

 

試合が進むなかで、天使達の体が淡い光に包まれる。

同時にボールの奪い合いで傷ついていたダメージが癒されていく。

ラファエル様のAことディートヘルム・ヴァルトゼーミュラー氏の神器の能力―――――『救護聖人に夜再起』による回復だ。

相手に前もって能力をかけておくと、一定時間、あるいはダメージを受けた時に自動で回復が発動するという。

禁手『十四救護聖人による救済』では効果範囲と治せる症状が格段に広がり、対象が信徒であれば病ですら癒せるらしい。

 

イッセー君のチームには回復の神器を持ったメンバーはいないが、美羽さんが応急処置レベルではあるものの、回復魔法で傷を治している。

また、リーシャさんやワルキュリアさんといった仲間の支援を得意としたメンバーが全体のアシストに入っているため、相手チームに大きなリードは許していない。

 

『イッセー、あんたは休んでなさい! レイヴェルさん!』

 

アリスさんがイッセー君を下がらせ、レイヴェルさんに指示を仰ぐ。

白雷を纏ったアリスさんはボールを抱えて、前に出ていく。

 

「アリス・オーディリア。赤龍帝眷属の『女王』。彼女は自身が『王』の代理であるという認識を強く持っている。兵藤一誠が動けない時は自分が彼の代わりに、彼の分まで動かなければならないのだと」

 

リュディガー氏の言うように、アリスさんにはそういう傾向がある。

『女王』としての役割を意識しているのだろうか、イッセー君と自分、二人分の行動を取ろうとする。

 

「熱くなるのは『王』である兵藤一誠に影響されているのか、生来のものか。どちらにせよ、彼女は自ら負担を背負おうとする」

 

アリスさんは相手の包囲を突破してゴールを決める。

だが、やはり二人分の負担は大きく、肩で息をしている状態だ。

あのペースでは試合終了まで駆け回ることは叶わないだろう。

 

モニターにレイヴェルさんの姿が映る。

肩で息をしており、背中の炎の翼も小さくなってきていた。

 

「レイヴェル・フェニックス。彼女は非常に優秀です。盤面をよく捉え、フィールドの両チームの動きを頭の中に描いて指示を出しているのでしょう。チームメンバーの技量もよく把握し、適切な動かし方ができている。だが――――」

 

リュディガー氏は続ける。

 

「彼女は麒麟児、天武の才がある。しかし、まだ十代の子供。自分よりも力も、経験も上の彼らを指揮するにはまだまだ未熟すぎます」

 

「今のレイヴェルではイッセー達の軍師は務まらないと?」

 

リアス姉さんの問いにリュディガー氏は首を横に振る。

 

「今の彼女でも十分に務まっていると言えるでしょう。しかし、チームとして、それ以上の力を発揮させるにはまだ時が足りていないということです。彼女もそこを理解しているからこそ、今もああして精神的に追い込まれているのですよ」

 

イッセー君達、異世界組は歴戦の戦士だ。

レーティングゲームの経験は無くとも、単純な力、実戦での経験も僕達よりもずっと上だ。

側で見ていたからこそ分かる自分との実力差。

そんな彼らの指揮をするのだから、レイヴェルさんの感じている不安やプレッシャーは大きいだろう。

 

リアス姉さんはなんとも言えない表情になっていた。

 

「耳が痛い話ね」

 

「あたな方は間違いなく強い。ですが、木の股から生えたわけじゃない。人並みの喜びや悩みを抱えている。私はそこを突くだけ。自分を完璧だとも、優れた戦術家だとも、思ったことは一度もありませんよ」

 

リュディガー氏は懐から、『僧侶』の駒を取り出し、掌で遊ばせながら言う。

 

「私がゲームで勝ち進めたのは、上級悪魔が合理主義と貴族社会にどっぷり漬かっていたからに過ぎない。彼らは駒を駒として見ていなかった。ゲームフィールドもチェスボードと同じとしか考えていなかった。リアス姫ならばお分かりでしょう。眷属とはチェスの駒ではない。思考があり、心を持つ生き物だ。そんな当然のことを、悪魔の貴族達は理解していなかった。いや、理解しようとしなかったと言うべきか。彼らはレーティングゲームを自身の眷属――――駒を使うリアルなチェス程度としか見ていなかった」

 

リュディガー氏は駒を肘掛けに置き、こう断言した。

 

「異形の最たる存在と自負している悪魔の傲慢な面、その全てがレーティングゲームに映し出されていた」

 

「そして、それを塗り替えたのがリュディガー様だと」

 

リアス姉さんの言葉にリュディガー氏は悲哀に満ちた表情となる。

 

「それは世辞にもなりませんよ。私は普通に競技をしたかっただけです。ディハウザーをはじめ、トップランカーはその辺りを理解した上でゲームをしていました。まぁ、上からの余計な介入も多々ありましたが……純粋な試合に臨める時は楽しかった」

 

そう言う彼の表情は切なそうで、どこか誇らしげだった。

 

と、ここで試合に変化が訪れる。

フィールドのあちこちに無数のシャボン玉が出現したからだ。

それを見て、リュディガー氏はニヤリと意味深な笑みを浮かべる。

 

「どうやら、あれをやるらしい」

 

あれ………?

何か策を授けていたということだろうか。

 

《な、なんと! フィールドに無数のシャボン玉が出現しました! これはデュリオ選手の能力でしょうか! どうやら、シャボン玉の一つが猛攻を仕掛けていたアリス選手の頭を包み込んでいるようです!》

 

モニターがアリスさんを映す。

アナウンサーの言うように、シャボン玉の一つがアリスさんの頭をすっぽり包み込んでいる。

しかし、そこに攻撃の気配を感じないのか、アリスさんは戸惑っているようだった。

 

『これって………えっ? あれ………? え…ええええええええええええッ!?』

 

突如、驚愕の声をあげるアリスさん。

信じられないようなものを見たのか、大きく目を見開いていた。

 

フィールドにいる選手達の視線がアリスさんに集まる中、彼女は涙を浮かべながら、嬉しそうにイッセー君に叫んだ。

 

『イッセー! 見て見て見て見て見て! 私の胸が大きくなってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!』

 

 

 

 

「「「「………ほぇ?」」」」

 

リアス姉さん達が変な声を出した。

 




~あとがき~

イグニス「私が考えたおっぱい技コ~ナ~♪ ドンドンパフパフ~♪」

イッセー「なにこれ!? 新コーナー始まった!?」

リアス「私達が被害を受ける気しかしないのだけど………」

アリス「まぁ、止められないしね。というか、おっぱい技って前にもどこかで言ってなかった?」

イグニス「ウフフ、皆分かってるじゃない☆ それじゃあ、いきましょう! 今回はこの技――――」



   おっぱいに座せ――――乳輪丸ッ!



イッセー「いきなりアウトなやつ来たァァァァァ!」



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23話 幻か現実か

シリア……スorル


[木場 side]

 

『イッセー! 見て見て見て見て見て! 私の胸が大きくなってるぅぅぅぅぅぅぅぅ!』

 

涙を浮かべ、本当に嬉しそうに言うアリスさん。

試合の最中、彼女があんなことを言いだしたのは、デュリオさんの能力によって生み出されたシャボン玉に頭を覆われてからだ。

 

突然のことにイッセー君ですら、反応できていなくて、

 

『え? は? ア、アリス? どした? 何を言って………?』

 

『何じゃなくて! 見てよ、これ! ほら! ついに私も皆みたいに揺れる胸を手に入れたわ!』

 

そう言って、その場で軽くジャンプするアリスさん。

しかし――――アリスさんの体には何も変化はなかった。

そう、アリスさんの胸は揺れてもいなければ、大きくなってもいなかったのだ。

 

リュディガー氏が言う。

 

「近頃、人間界ではVRというものが流行っているようだが、デュリオの神器でも似たようなことができる」

 

その言葉にリアス姉さんが何かに気づいた。

 

「まさか………アリスさんの目には自分の胸が大きくなっているように見えている、ということ?」

 

リアス姉さんの問いに頷くリュディガー氏。

 

なるほど、あのシャボン玉の内側ではアリスさんだけが見える映像が映し出されているのか。

そして、その映像とは自身の胸が大きくなっている映像………。

本人はそのことに気付いていないのか、試合などそっちのけでおおはしゃぎをしている。

 

リアス姉さんが戸惑いながらも、リュディガー氏に問う。

 

「し、しかし、映像だけというなら、触れば分かるのではないかしら?」

 

「フフフ、当然、そのあたりもぬかりはありませんよ、リアス姫。彼女が触れても分からないよう、二つのシャボン玉を胸に当てている」

 

言われて見てみると、確かにアリスさんの胸にはシャボン玉が二つくっついており、アリスさんはそれを揉んだり、腕で持ち上げたりしていた。

 

『えへへ………これで私も………』

 

過去に見たことがないくらい喜んでいるアリスさん。

うん、なんというかこれは………、

 

「残酷です」

 

「うっ、ううっ………アリスさん」

 

涙ぐむ小猫ちゃんとアーシアさん。

リアス姉さんや朱乃さんでさえ、悲しい表情を浮かべていた。

 

僕にも分かる。

これがどれだけ残酷なことなのか。

彼女が自身の胸についてコンプレックスを抱いているのは周知のことだ。

アリスさんが胸のことについてからかわれた時に、荒れ狂うのはこれまで何度も見てきたし、その光景に何度もツッコミを入れてきた。

だからこそ分かるんだ。

 

『見て見て、イッセー! すっごく弾むわ! これが私の本当の姿なのね!』

 

彼女の胸は揺れもしなければ、弾みもしない。

揺れているのも弾んでいるのもシャボン玉だ。

それをアリスさんは自身の胸だと思い込んでいる。

 

………残酷だ。

見ているこちらが泣けてくるほどに。

 

『うぅぅぅっ! ゴメン………! ゴメンな、アリスゥゥッ!』

 

イッセー君は地面を叩き、自分を責めるように嘆く!

 

『アリス………そこまで拗らせていたなんて! こんなことになるなら、たくさん牛乳を飲ませるべきでした!』

 

リーシャさんでさえ、どこか悔しそうに唇を噛んでいた!

牛乳は関係あるんですか!?

 

リュディガー氏は言う。

 

「彼女の闘志はコンプレックスである胸の大きさから来ている。まぁ、もちろんそれだけではないだろうが。だが、そこを無くせば、彼女の闘志はいくらか失われることになるだろう。これで――――赤龍帝の『女王』を取った」

 

―――――ッ!

これが、これがレーティングゲーム七位の戦略!

なんということだ!

VRであの白雷姫を落としてしまうなんて!

 

レイヴェルさんが叫ぶ。

 

『イッセー様! アリス様の頭を覆うシャボン玉を割れば、残酷な幻から解放されます!』

 

『そうか! いや………待ってくれレイヴェル』

 

『イッセー様?』

 

『あのシャボン玉は本当に割るべきなんだろうか?』

 

『何を言っているのですか、イッセー様! このままでは―――――』

 

レイヴェルさんの言葉を遮るようにイッセー君は叫ぶ。

 

『分かっている! 分かってはいるんだ! それでも! 見てくれ、アリスのあの嬉しそうな顔を! 長年の悩みが解消されたんだ! たとえ幻だとしても! 俺は………あいつの主として、夫として、アリスをあの幻を見せ続けた方が良いんじゃないのか………?』

 

頭を抱えるイッセー君。

この試合、勝つためにはアリスさんの力は必須だ。

しかし、それでもイッセー君はアリスさんのために、アリスさんのコンプレックスを解決してあげるために………。

 

イッセー君の想いにレイヴェルさんも慈愛の目をアリスさんに向ける。

 

『イッセー様、アリス様………』

 

レイヴェルさんも悩んでいるのだろう。

もしかしたら、アリスさんはこのまま残酷な幻の中にいる方が幸せなのではないかと。

 

――――その時だった。

 

パァンッと音を立ててシャボン玉が破裂した。

ワルキュリアさんが問答無用でクナイを刺したからだ。

 

『『『ああああああああああああああッ!?』』』

 

重なるイッセー君、レイヴェルさん、そしてアリスさんの悲鳴!

イッセー君が叫ぶ!

 

『割るか!? 今の流れで割るか!?』

 

ワルキュリアさんは半目でイッセー君に言う。

 

『バカなんですか』

 

『なにおぅ!?』

 

『あのまま無駄な悲劇を続けても話が進まないではないですか』

 

『いや、進むよ!? 少なくともアリスの今後は!』

 

『進みませんよ。それにアリス様の貧相な胸は成長してもリアス様のようにはなりません』

 

『断言してやるなよ! アリスも頑張ってるの! 可能性はゼロじゃない!』

 

『ゼロです』

 

『ゼロじゃない!』

 

『ゼロです』

 

『ゼロじゃないッッ!』

 

なんか、イッセー君が必死だ!

言い合うイッセー君とワルキュリアさんの横ではアリスさんが膝をついていて、

 

『うぇ………うぇぇぇぇぇぇぇ! ひぐ、グスッ………私の胸がぁぁぁぁぁぁ! びぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

ああっ!

アリスさんが大泣きしてしまっている!

滝のような涙を流して、彼女の周囲に水溜まりができてしまっている!

 

ワルキュリアさんは淡々と言う。

 

『イッセー様。本当にアリス様を想うのなら、現実を受け入れさせ、支えるべきなのではないですか?』

 

『ッ!? それは………』

 

『アリス様に自身の貧乳を認めさせ、共に成長を目指す。アリス様の夫を名乗るのなら当然のことです。その程度の覚悟もなしにあなたはアリス様の夫を名乗るおつもりですか?』

 

ワルキュリアさんの言葉にイッセー君は反論する。

 

『違う! 俺は、おっぱいの成長に急ぎすぎもしなければ、貧乳に絶望もしちゃいない! アリスと一緒におっぱいを育てていく覚悟はある! 絶対に大きくしてみせる!』

 

声に熱が籠るイッセー君。

イッセー君、僕は………僕達は!

僕達は何を見せられているのだろうか!

試合は!?

胸の話が始まってから全く進展がないんですけど!

アリスさん、ボールも槍も放り投げてるんですが!

 

リュディガー氏は言う。

 

「ふむ、赤龍帝なら割らないと思っていたが。彼は面白い眷属を持っているようだ。それはともかく、これでアリス・オーディリアは巨乳の自分を失った喪失感で暫く動けなくなるだろう。結果オーライというところか」

 

結果オーライなんだ!?

それで良いんだ!?

 

アリスさんがダウンしたことで、イッセー君は体に鞭を打って立ち上がる。

 

『よくもうちのアリスさんに残酷な夢を見せてくれたな! さっきから涙が止まらないんだけど! 流石に俺もお怒りだぞ、デュリオ!』

 

怒るイッセー君にデュリオさんは言う。

 

『いや~監督の指示だったんだけどね。思っていた以上に効いていたというか、見てて悲しくなったというか………ごめんね、イッセーどん』

 

謝ったよ!

やっぱり、デュリオさんも申し訳なかったんだ!

 

試合はアリスさんを置いて動き出す。

戦力を削られたとは言え、流石は歴戦の戦士が揃う赤龍帝チーム。

リーシャさんの援護やレイヴェルさんの的確な指示のもと、ゴールを決め、点数を稼いでいる。

彼女達の奮闘もあってか、転生天使チームとの点差はあまり開いてはいない。

だが、言い換えれば、逆転できないでいるということ。

 

イッセー君がボールを持ち、転生天使達の間を潜り抜けようとする。

禁手は使っておらず、今は通常の籠手と錬環勁氣功で戦っている。

体力の消耗が激しい中、彼らと渡り合えているのは経験によるところが大きいのだろう。

転生転生達の包囲を抜け、ゴールまで駆けるイッセー君。

そんなイッセー君の前に立ちはだかるのは――――イリナだ。

 

イリナが言う。

 

『凄いね、ダーリン。まだこんなに戦えるなんて』

 

『そりゃな。ここまで来たら最後までやってやるさ。というか、絶対に勝つって宣言した以上、へばってられねーよ』

 

腰を落とし、構える二人。

イリナはオートクレールを片手に、天使の羽を大きく広げ、イッセー君を迎え撃とうとする。

二人はジリジリと距離を詰め―――――駆け出した。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』

 

『やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

雄叫びをあげて迫るイッセー君とイリナ!

二人の拳と、剣がぶつかる―――――と、思ってました。

ええ、ここまでそう思ってたんです。

 

思い出してほしい。

これまでのイッセー君の試合を。

堕天使チームとの試合で起きた出来事を。

この場面、この展開。

見覚えはないだろうか?

 

二人が衝突する直前、イッセー君が転びました。

 

『ひぅっ!?』

 

転んだ拍子に、イッセー君はイリナを押し倒してしまった。

顔をイリナの胸に押しつける形で。

 

イッセー君が叫ぶ。

 

『ここで!? ここでこうなる!?』

 

それはこっちの台詞だよ!

なんで毎度毎度このタイミングなんだ!

 

「ま、まぁ、イグニスさんの加護………かな?」

 

経験者のレイナさんが語る!

それは加護と言っていいのだろうか!

 

すると、ここで転生天使達に動きがあった。

彼らは転んだ二人を囲むと手元に光力の輪を出し、それを投げつけた!

光の輪は二人の体の各部に当たり、腕と腕、足と足、そして腰と腰を結びつけてしまった!

これは一体………?

 

リュディガー氏は言う。

 

「兵藤一誠のラッキースケベは女性に対して脅威だ。しかも、本人の意思に関わらず発動するので予測もしずらい。しかし、発動した直後は必ず動きが止まる。そこを狙えばこの通り。彼の動きを完全に封じることに成功する」

 

「「「―――――ッ!!!!!」」」

 

彼の言葉に僕達は戦慄した。

リュディガー氏はイッセー君のラッキースケベすら戦略に組み込んだと言うのかッ!

この作戦ではイリナも動きを封じられるが、これで『女王』に続き『王』も封じたことになる!

 

「冥界屈指のプレイヤーが用意したイッセー封じ………! なんと恐ろしい戦術なの!」

 

リアス姉さんもこの反応だ!

僕はなんとコメントしたら良いのか!

 

イリナが言う。

 

『ごめんね、ダーリン。残りの時間は私とこうしていてもらうわ』

 

『ッ! 舐めるなよ、イリナ! こんな拘束、力を出せば――――』

 

『やっ………あっ………ダーリン、そこダメ………』

 

『ああっ、ゴメン! 痛かったか?』

 

『い、痛くはないけど、その………ダーリンの体が熱くて………んっ』

 

『ちょ、イリナ!? もぞもぞされるとおっぱいが! おっぱいが顔を挟んで………!』

 

『あんっ! ダーリン、そんなにされると! あぁん!』

 

静まり返る室内。

リアス姉さん達、ボールのことなど忘れて、二人の絡みに夢中になってる!

 

《おぉぉぉとぉ! 兵藤一誠選手と紫藤イリナ選手、試合の最中、イチャイチャし始めたぁぁぁぁ!》

 

吼えるアナウンサーにイッセー君が講義する。

 

『イ、イチャイチャなんてしてないんですけど!?』

 

解説者席にいるイリナのお父さんがテンション高めに言う。

 

《おおっ! イリナ! イッセー君! たくさん愛を育んでおくれ!》

 

『どこで育ませようとしてるんですか!?』

 

更に解説者のベルゼブブ様とミカエル様が言う。

 

《戦うべき相手だったとしても、愛は生まれる。これが青春か》

 

《愛には種族も、立場も関係ないということです。二人には是非とも天界と冥界の架け橋になっていただきたいですね》

 

『ちょぉぉぉぉぉ! ここで期待するのやめてもらえませんっ!? どう反応すればいいの!? どうツッコめば良いの!?』

 

すると、解説席から、

 

《もうとことんまでラブラブしちゃいましょう! 子作りしちゃいましょう! レッツいちゃラブ!》

 

『なんで、おまえがそこにいるんだ、駄女神ぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

 

なぜか解説席にイグニスさんが出現している!

あなたはどこまで進出してるんですか!

 

イグニスさんが言う。

 

《カメラさん、もう少し二人の顔をアップにできない?》

 

『なに指示してんの!?』

 

《あ、そうそう! 斜め上からの! そう、そこ! 二人の表情がもっと分かるように! そうそう、いいわよ~!》

 

『いや、本当になにしてんだ!? なにカメラワークにまで口出してんの!? つーか、カメラさんも言うこと聞かなくて良いよ!』

 

イグニスさんの指示により、映像は二人の顔をアップで映す。

角度も指示通り斜め上からだ。

 

見ると、イリナは顔を赤くしていて、どこか艶があるようだった。

あれ………作戦、だよね?

なんか楽しんでると言うか、喜んでいると言うか………。

 

「うん、流石はエロ天使だな」

 

ゼノヴィアのコメントに女性陣は深く頷いた。

 




~あとがき~

イグニス「我が敬愛する赤龍帝チームメンバー達よ、今や相手チームの半数がおっぱい・レイによってリタイアの光に消えた。この輝きこそおっぱいの正義の証である。決定的打撃を受けた相手チームにいかほどの戦力が残っていようと、それは既に形骸である。敢えて言おうカスであると!」

イッセー「おっぱい・レイってなんだ!? つーか、その演説言いたいだけだろ!?」


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24話 流れを変えろ!

RGハイニュー作るのに夢中な今日この頃


《ゴォォォォォルッ! またまた『天界の切り札』チームが決めたぁぁぁぁぁ! 赤龍帝チームとの点数が広がっていきます!》

 

俺、兵藤一誠は追い込まれていた。

リュディガー・ローゼンクロイツ。

レーティングゲーム七位にして『番狂わせの魔術師』とまで呼ばれる男が用意した戦術はこちらの弱点――――精神面の弱さや不確定要素までもを利用して、戦力を確実に削ぎに来ている。

ボーヴァは苛立たせることでミスプレーをするように誘導させられ、サラは俺や美羽を守ろうとする感情を利用され思うように動けなくされている。

更にアリスは巨乳の自分を見せることで戦意を喪失させられた!

デュリオのシャボン玉が割れた今でも、巨乳の自分を失ったことで大泣きしていて、試合どころではない!

なんて恐ろしい作戦なんだ!

 

そういう俺も彼らの術中にはまり、イリナと体を拘束されてしまった!

俺はイリナと向かい合う体勢のまま、腕と腕、足と足、そして胴体を光力の輪で拘束されているため、全く身動きが取れない!

力付くで光の輪を外そうとしても――――

 

「あっ………ダーリン、そこは………っ」

 

なんてことをイリナが言ってくるから、それも叶わない!

なんでそんな声だしてるの!?

エッチなことしてないよね!?

俺、変なことしてないよね!?

 

ああ、もうっ!

イリナがそんな声出すもんだから、こっちも色々意識しちゃうでしょうが!

密着してるからイリナの鼓動もダイレクトに伝わってくるし、呼吸も聞こえるし、おまけにどこもかしくも柔らかいしぃぃぃぃぃぃ!

 

「お兄ちゃん、早くその拘束といて!」

 

美羽が魔法をぶっ放しながら言ってくる。

 

「すまん! ちょっと動けない!」

 

「そんなに強い拘束が!? ………って、お兄ちゃん、その顔」

 

こっちを見た美羽が急にジト目になる!

えっ、なに!?

どうしたと言うんだ、妹よ!

 

戸惑う俺に美羽が言ってくる。

 

「すごーくエッチな顔してる」

 

「なぬっ!? いくら俺でも、こんな時にそんなこと――――」

 

反論しようとする俺だったが、気付いてしまった。 

顔に当たる二つの柔らかい感触に、ついつい顔を埋めてしまっている自分に。

イリナが身に付けているのはボディーラインが浮き彫りになる、あのピッチリとした戦闘服だ。

しかも、下着を着けていないのか、ほぼそのままの感触で―――――

 

「くっ! これがレーティングゲーム七位の策か! 恐ろしい限りだぜ!」

 

「いや、策と言うか、いつも通りのお兄ちゃんなんだけど!?」

 

美羽のツッコミが入る中、レイヴェルが言ってくる。

 

「イッセー様! イリナ様には申し訳ないですが、洋服崩壊で脱出を!」

 

「ッ! その手があったか!」

 

洋服崩壊!

なるほど、光の輪をイリナが身に付けているものとして認識すれば、バラバラにすることができる!

まさか、レイヴェルの口からその技の名が聞けるとはな!

それだけ追い詰められていると言うことだ!

 

「よし! 洋服崩――――」

 

技を叫ぼうとした時、不意に視線を感じた。

途端にのし掛かってくる凄まじいプレッシャー。

これは、まさか………!

 

俺は震える声でレイヴェルに言う。

 

「だ、ダメだ。今は、出来ない………ッ!」

 

俺の口から出た予想外の回答にレイヴェルは目を見開いた。

 

「イッセー様!? どうしたと言うのですか! 普段なら躊躇なく発動させるではないですか!?」

 

ぐはっ!

そんな風に思われていたのか!

ま、まぁ、その通りなんだけどね!

 

レイヴェルの言葉にダメージを受けながら、俺は答える。

 

「レイヴェル………解説者だ」

 

「解説者? ………まさか!?」

 

レイヴェルも気づいたようだ。

そう、解説者にはトウジさん――――イリナのお父さんがいることに!

 

レイヴェルは驚愕するように言う。

 

「リュディガー様はこうなることを見越していた………? イッセー様を拘束する役にイリナ様を起用したのはこれを狙っていたのですか………?」

 

なんてこった!

リュディガーさんは俺の洋服崩壊を封じる策まで用意していたと!

流石の俺もお父さんの前で娘さんを全裸にすることなんて出来ないもんね!

とことんこちらの精神的弱点をついてくる!

これがレーティングゲーム七位!

見事としか言いようがないぜ!

 

俺はガクリと崩れ落ち、イリナのおっぱいに顔を埋めた。

 

「このままイリナの――――ハニーのおっぱいを堪能するしかないというのか!」

 

「バカなこと言ってないで、さっさと抜け出してくださいまし!」

 

レイヴェルもちょっとお怒りだ!

 

だが、確かに俺もこんなところでやられるわけにはいかない。

ヴァーリには自分と当たるまで負けるなよと言われたばかりだ。

俺も絶対に負けないと宣言した。

俺自身のために、仲間のために、そして俺をライバルと呼んでくれる奴らのためなも、ここで止まるわけにはいかない!

 

俺はチームメンバーに言う。

 

「皆! 少しだけ持たせてくれ! 必ず戻る!」

 

更に俺は踞るアリスに告げる。

 

「アリス! 俺はアリスのおっぱい大好きだぞ! というか昔よりも確実に成長してるんだ! 自信を持ってくれ!」

 

ブラも前より大きくなってるしな!

それに――――

 

「大きくするなら、全力で手伝う! おっぱいマッサージだって毎日やってやるさ!」

 

「そんなこと大きい声で言うな、バカァァァァァ!」

 

涙を拭って立ち上がるアリス!

復活してくれたか!

 

転生天使達に囲まれているメンバーが見える。

ボーヴァと百鬼だ。

二人ともかなり疲労しており、ボーヴァは片膝をついてしまっている。

しかし、ボーヴァは膝を震わせながらも立ち上がる。

 

「フフフ、我が主はまだ勝利を信じている。ならば、臣下たる某は立たねばなるまい。さぁ、どうした天使よ。教会の戦士達よ。この程度では某は倒せぬぞ?」

 

「まだ立つのか、タンニーンの息子よ」

 

その問いにボーヴァは雄々しく吼える。

 

「俺は赤龍帝の第一の臣下なのだ! 某は赤龍帝の牙! ここで折れるわけにはいかぬのだッ!」

 

特大の火球を幾重にも吐き出すボーヴァ。

吐き出された炎は天使達の包囲を崩そうとす。

そのボーヴァの背後に向けて、天使の一人が光の槍を投げようとするが、そこを百鬼が横から蹴りつけて、その天使を吹っ飛ばした、

 

百鬼は大きく深呼吸した後に、首を鳴らす。

 

「どうやら、まだ動けるようだな、ボの字」

 

「余計な真似をするな、百鬼家次期当主! これは俺の、主への忠誠を示す戦いなのだ!」

 

「そう言うな、俺だって先輩を勝たせたいんだ。それにそこで散れば、それこそ先輩に恥をかかせるぞ?」

 

百鬼はボロボロになった服を脱ぎ捨てる。

細身だが鍛え上げられた肉体がそこにあった。

 

ディートヘルムさんが言う。

 

「君が日本の異能集団、五大宗家の筆頭。百鬼家の次期当主か」

 

「その通りですよ、大天使ラファエルのA殿。今は赤龍帝の兵藤先輩のチームメイトですけどね。故に――――」

 

そう言う百鬼の体を闘気とドラゴンのオーラが覆う。

 

「今は赤龍帝の拳として戦わせてもらおうかッ!」

 

百鬼は凄まじいスピードでディートヘルムさんとの距離を詰め、鋭い拳を放つ!

ディートヘルムさんは体捌きでいなそうとするが、避けきれずに一撃を顔面に受け、大きく仰け反った。

 

「典型的なパワータイプか! ならば!」

 

その場から後方に飛び退いて、手元に光の槍を複数出現させるディートヘルムさん。

近距離を得意とする百鬼に対し、遠距離で対応しようとしているんだ。

 

しかし、百鬼は動じずに手招きするような動作を見せた。

 

「じゃあ、そっちから来てもらおうか」

 

百鬼が全身から闘気を解き放つと、それに応じるように周囲の地面が動き波打っていく。

波は広がっていき、ディートヘルムさんの足元までうごめきだし、ディートヘルムさんを百鬼の方へと運び出した!

 

「なっ!? 地属性の術を操るとは聞いていてたが………!」

 

百鬼は大地を司る霊獣「黄龍」と契約しているため、ああやって大地を操ることができる。

今は地面を操ってディートヘルムさんを自身のもとへと引き寄せたようだ。

距離を一気につめた百鬼は、拳にオーラを纏わせて、

 

「もう一発だ!」

 

百鬼の拳はディートヘルムさんをぶっ飛ばした!

 

俺も修行中に初めてあれをされた時は対応が遅れたしな。

初見の者が驚くのも無理はない。

 

百鬼は地面に足をつけている間、龍脈から大地の気をほぼ無制限に借りることができるため、無尽蔵の闘気を扱える。

今も疲労は大きいが、闘気自体は弱まっていない。

更に――――

 

「ついでにあんた達が掴んでいない奥の手を披露してやるよ」

 

言うなり、百鬼の闘気が膨れ上がり、一気に爆発する!

弾けた闘気がやみ、そこにいたのは――――人型のドラゴン。

首や腕、足は太く、背丈も胸板の厚みも増しており、一回り以上はサイズアップしていた。

 

《ななななななんとぉ! 百鬼選手がドラゴンのような姿に変化したぁぁぁぁぁぁ!》

 

アナウンサーも百鬼が出した奥の手に驚愕していた。

 

百鬼が言う。

 

「龍脈から力をもらい続けていると、俺自身にもこうした変化が出ちまうんだよ。――――龍鬼人ってところかな」

 

霊獣『黄龍』を自身に顕現させた姿!

あの姿になった百鬼はスピードもパワーも一気に跳ね上がる!

 

百鬼は自身の体を見ながら言う。

 

「赤龍帝の拳を名乗るにはピッタリの姿だろう? 俺としては先輩の鎧の方がカッコ良くて好きだけどな」

 

百鬼の変化にボーヴァが言う。

 

「ククク、人間………いや、コーチン。その姿ならば、俺の大暴れにもついこられよう。俺にうっかり踏み潰されぬよう、精々気を払って動き回るといい!」

 

「コーチンって呼ぶなって!」

 

二体のドラゴンが飛び出す!

ボーヴァは腹部を大きく膨らませ、特大の火炎を吐き出し、百鬼は両手に莫大な闘気の塊を作り出し、それを放っていく!

二人の攻撃は対峙する天使達が放つ光力を撃ち破り、彼らを襲う!

 

「そこをどけ!」

 

「赤龍帝の拳と牙がお通りだッッッ!」

 

抜群のコンビネーションで天使達を蹴散らす二人。

ったく、あいつら………!

本当に頼もしいよ!

 

アリスが言う。

 

「新人二人が頑張ってるんだから、私達もだらしない姿は見せられないわね!」

 

白い雷を身に纏い、駆け抜けるアリス。

ボーヴァと百鬼の勢いに乗るように美羽達も攻めの手を激しくさせる。

デュリオ達からボールを奪い、次々にゴールを決め、点を稼いでいく!

 

《赤龍帝チームの勢いが完全に戻ってきました! 開いた点差を確実に埋めていきますッ!》

 

アナウンサーが興奮気味に叫ぶ!

その実況に俺は服の笑みを浮かべて呟いた。

 

「さーて………そろそろかな」

 

「ダーリン?」

 

俺を拘束しているイリナが怪訝に首を傾げる。

そんなイリナに俺は言う。

 

「もう暫くこのままでいたいけど………悪いな、ハニー。おかげで十分回復できた」

 

「でも、この拘束はそう簡単には外せないわよ? ま、まさか、私の服を………!?」

 

ま、まぁ、洋服崩壊するとイリナの戦闘服ごと弾け飛ぶからね。

イリナの裸は拝みたいが、流石にお父さんの前では俺もできんよ!

だが、

 

「半分当たりだ。いくぜ、俺の新技―――――洋服崩壊・中破バージョンッッッッ!」

 

新たな技の名前を叫ぶと、イリナの戦闘服は攻撃を受けたようにボロボロになり、俺達の体を拘束していた光の輪にもヒビが入る!

俺は即座に手足に力を籠め、光の輪を破壊した!

 

イリナが驚くように言う。

 

「ウソ!? 洋服崩壊使ったのに服が残ってるなんて!」

 

確かに今までの洋服崩壊ならイリナの服を全て消し飛ばし、全裸にしていただろう。

そして、イリナのお父さんであるトウジさんとも気まずい雰囲気になっていたに違いない。

だが、しかし!

この中破バージョンなら全てを解決できる!

程よく身に付けている物を破壊し、程よく服を破ることで全裸の二、三歩手前の状態にキープできるのだ!

結構キワドイ格好だが、決して裸ではない!

 

俺はブイサインをイリナに送る。

 

「ちなみに今考えた技だ!」

 

「今!?」

 

「今! 半裸のイリナを妄想しながら作りました!」

 

全裸ではない。

だが、全裸よりエロいんじゃないだろうか!

見えそうで絶妙に見えないが、そこがイイ!

幼馴染みの下乳は最高です!

 

この光景を目に焼き付けつつ、俺は羽織っていた長羽織をイリナにかける。

 

「他の奴に可愛い嫁さんの裸を見られるのは嫌だからな。それ着ておいてくれ。あ、少しでも動くと色々見えそうなんで、そのままじっとしておいてくれよな!」

 

「まさかのここで私の動きを封じられた!?」

 

動けなくなったイリナを置いて、俺は動き出す。

さぁ、ここからが勝負だ!

 

 



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25話 切り札

[木場 side]

 

激しいゴールの奪い合いが続く中、試合は新たな局面に突入しようとしていた。

天使達の放った光の輪によりイリナと拘束されていたイッセー君が光の輪を破壊したのだ。

 

リアス姉さんが興味深げに言う。

 

「洋服崩壊の出力を調整することであんな使い方ができるのね。もし、特定の部位を指定して破壊できるようになるのなら、色々と応用が効きそうだわ」

 

洋服崩壊のパワー調整。

それが出来るのなら確かに様々な使い方が出来そうだ。

例えば、相手の武器のみの破壊、身体に施された魔法や呪いの破壊のようなこともできるのかもしれない。

まぁ、それも女性限定になるんだけどね。

 

それはともかく、今回の新技だけど、

 

「卑猥な技、最低です」

 

小猫ちゃんの意見には僕も同意見かな?

全部ではないとはいえ、イリナの服を半壊させたわけだし。

 

すると、レイナさんが何かに気づいた。

 

「ねぇ、イリナさん、イッセー君の羽織の匂い嗅いでない?」

 

「嗅いでいるな。イリナめ、羨ましいことを」

 

「ゼノヴィアさん!?」

 

女性陣が何か言っているけど、僕は聞かなかったことにするよ。

 

モニターの向こうでは復帰したイッセー君を天使達が囲んでいた。

天使の一人が言う。

 

『赤龍帝が復活したか!』

 

『既に禁手の制限時間は過ぎたと見た。このまま彼を倒せば、赤龍帝チームの勢いは確実に落ちる』

 

確かにイッセー君には禁手を発動できる時間はもう過ぎているだろう。

拘束されている間に体力を回復させたとはいえ、彼らを相手にどこまで持つか。

しかし、イッセー君は不敵に笑む。

 

『悪いが、俺も一人で戦ってる訳じゃないんだ。やるぞ、美羽! サラ!』

 

その呼び掛けに応じるように、美羽さんとサラがイッセー君の隣に降り立つ。

美羽さんが言う。

 

『そういうこと。お兄ちゃんを簡単に取らせるわけにはいかないかな』

 

『ここからが本番だ。赤龍帝チームの底力を見せてやろう』

 

美羽さんは魔法陣を幾重にも展開し、各種属性の魔法を打ち出す!

サラは両手に槍を握り、天使複数名と剣撃の火花を散らし始める!

 

『決着をつけようぜ、おっぱいドラゴンッッッッ!』

 

乱戦の中、イッセー君目掛けて飛び出すのはヒーローの格好をしたネロ・ライモンディだった。

イッセー君も応じるように前に出る。

 

『元気なやつだな! 散々走り回ってるのによ!』

 

『俺の自慢がそれだからな!』

 

その姿にスタジアムの観客席からも子供達の声が上がる。

 

『いけー、キャプテンッ!』

 

『勝って、キャプテン・エンジェル!』

 

彼を精一杯応援する教会の子供達。

 

ネロ・ライモンティ。

大天使ウリエルのAに選ばれた者。

聞いた話によると、神器に抵抗力のない妹さんを始め、神器に苦しむ子供達を励ますためにヒーローの格好を買って出たという。

あの格好は、彼の強い覚悟そのものを表しているのだろう。

 

ネロ君の拳がイッセー君に届く――――その時だった。

二人の間に割って入り込み、その攻撃を受け止めた人物がいた。

アリスさんだ。

 

イッセー君がアリスさんに言う。

 

『ここで入ってくるのかよ』

 

『まぁね。ここは私が抑えとくから、ちゃちゃっと点数を稼いでくださいな』

 

『簡単に言ってくれるな』

 

『最強を名乗るならそれくらいやってくれないとねぇ?』

 

イタズラな笑みで言うアリスさんの言葉に、イッセー君は肩をすくめる。

 

『それ言ったの他の奴らなんだけど………いいぜ。やってやろうじゃねぇか』

 

それだけ言い残すと、その場をアリスさんに任せて離れるイッセー君。

アリスさんはネロ君と向き合うと、雷のオーラを放出する。

 

『悪いけど、主様の邪魔はさせないわ。あなたの相手は私よ、ネロ・ライモンディ君。それとも、赤龍帝の「女王」では不服かしら?』

 

画面越しでも分かる凄まじいオーラ。

威風堂々と立ちはだかる彼女の姿は正に歴戦の戦士のそれだ。

 

ネロ君は頬に汗を伝わせながらも、嬉々として言った。

 

『凄いな、あんた! とんでもない迫力、流石はスイッチ姫ってところか! 相手にとって不足なしってなッ!』

 

『スイッチ姫言わないでくれる!?』

 

激突する赤龍帝の『女王』とキャプテン・エンジェル。

白い雷と光の力がフィールドを目映く照らし、周囲を焦がしながら駆け抜けていく!

 

スピードはアリスさんの方が上回っており、雷の残像を残しながら相手を翻弄。

槍による斬撃がネロ君の体を傷つけていく。

一方、ネロ君も引いていない。

刃が触れる直前に体を反らして致命傷を避けている。

しかも、拳で槍を弾いてから距離を詰め、アリスさんの間合いの内側に潜り込んでからの接近戦まで仕掛けているほどだ。

一度潜り込んだら決して逃がさないと言わんばかりに放たれる拳の乱打。

それらをアリスさんは体捌きによる回避と槍のガードで確実に防いで見せていた。

 

ネロ君の猛攻にアリスさんが唸る。

 

『うちの主様と同じタイプ。体術も大したものだわ。だけど――――』

 

ネロ君の拳を流して、アリスさんは後ろに飛び退く。

そして、槍を正面に突き出して、その名を呼ぶ!

 

『起きなさい、アルビリスッッ!』

 

刹那、槍から莫大なオーラが解き放たれる!

そのあまりにも圧倒的な力はネロ君の勢いを完全に止めてしまうほどだった。

 

アリスさんが言う。

 

『この槍の力についてはあんまり情報がないんじゃない? ま、私自身、使ってこなかったからしょうがないんだけれど』

 

アリスさんは白いオーラを身に纏ったまま、槍を振るい――――その一撃は前方の地面を大きく抉り、地形を変えてしまった!

あまりの威力にネロ君も思わず下がってしまうほどだ!

 

『これが異世界の霊槍の力か!』

 

驚く彼にアリスさんは言う。

 

『今の私ならこの程度。私もまだまだ修行中の身だから、これから更に伸びる予定よ』

 

不敵に笑むアリスさん。

 

アリスさんの中にあった疑似神格は今、イッセー君の魂と肉体を保つために元の場所へと戻されている。

そのため、神姫化は使えなくなっているのだが、そこを補うために槍の力を引き出そうとしているようだ。

 

イグニスさん曰く、アリスさんは槍の力を使わなかったというよりは、まだ使える段階ではなかったとのこと。

つまり、イッセー君の眷属となり、数多の強敵達との戦いによって、今はそのステージに立っているということだ。

彼女が槍の力を完全に使いこなせるようになった時、どれほどのものなのか、想像もつかない。

 

アリスさんは指で挑発しながら言う。

 

『さーて、ここから先は加減は出来ないわ。覚悟があるならかかってきなさい』

 

その挑発にネロ君は楽しそうな笑みを見せる。

 

『俺はキャプテン・エンジェル、どんな時も引かない男さ! それにな、俺にも必殺技があるんだ!』

 

叫ぶと同時にネロ君の体が白銀の輝きを放つ!

明らかにオーラの雰囲気が変わった。

あれが彼の禁じ手―――――

 

ネロ君は豪快に笑う。

 

『こいつが俺の禁手「聖者の試練に次ぐ試練(スターディ・セイント・ウィズスタンド)」! 能力は単純明快! 攻撃を受ければ、更に一層固くなるだけだ! いくぞ! 聖ッ拳ッッッッ!』

 

互いに奥の手を発動したアリスさんとネロ君の攻防は更に過激になっていく――――。

 

フィールド内での戦闘が激しさを増す中、肝心のボールはイッセー君の手にあった。

既にデュリオさん達にマークされており、彼らからボールを守りながら切り抜けようとしているところだ。

 

『えぇい、ここに来て俺のマーク多くね!?』

 

『相手がイッセーどんなら妥当な数だと思うけどね。回復したのなら尚更さ。それに――――』

 

デュリオさんがイッセー君の左腕に視線を向ける。

そこにあるのは赤龍帝の籠手だ。

 

『Boost!!!!!』

 

籠手から発せられる倍加の音声。

禁手の制限時間を越えても通常の状態であれば能力は使えるらしい。

復活してからずっと倍加による力の増大が発動している。

 

デュリオさんが問う。

 

『何か大技でも出してくるのかな?』

 

『さーて、そいつはどうかな?』

 

意味深に笑むイッセー君。

 

この状況を覆す奥の手があるのだろうか。

ふと思い付くのは『雷光』チーム戦で見せたイクス・バースト・レイだ。

赤龍帝の力と錬環勁氣功、そして特殊な触媒を使用して発動する超高火力の大技。

頑丈なフィールドを破壊し尽くすあの技をくらえば、神クラスとてリタイヤは免れない。

だが、

 

「リタイヤは無意味。イッセーもそれはわかっているはずよ」

 

リアス姉さんが言うように、今回のルールでは相手を倒したとしても、それは点数にならない。

時間内にどれだけ点数を取れるかが勝敗を決める。

体力勝負のようなところもある以上、消耗が大きい技は避けるべきだ。

イクス・バースト・レイは消耗が大きく、使った後は体が小さくなり、戦闘不能になるという致命的な欠陥を抱えてしまっている。

一撃必殺ではあるが、この試合では意味を成さない。

 

ならばどうするのか。

デュリオさん達もそこを警戒しているはずだ。

 

と、ここでイッセー君は不可解な行動に出る。

イッセー君はその場に立ち止まると、ボールで軽くドリブルを始めたんだ。

相手に囲まれる中、そんな隙を見せる行為を………?

その行為に訝しげな表情を浮かべる天使達だが、イッセー君は笑みを浮かべる。

 

『こいつが欲しいんだろ? だったら、取らせてやるよ! そぉぉぉらッッッッッッ!』

 

言うなり、イッセー君は真上にボールを放り投げ、完全に手放してしまう!

思いもよらない行為に一瞬、動きが止まる天使達だったが、すぐに我に返り、ボールを奪いに前に飛び出した――――その時。

 

イッセー君は両手を大きく広げて、手を叩く動作をした。

両手が合わさる瞬間、

 

 

『Transfer!!!!!!』

 

 

刹那―――――フィールドにとてつもない爆音が鳴り響いたッ!

爆音が生み出した衝撃に試合を映していた映像にノイズが走る!

観戦ルームにいた僕達にもスピーカーを通して、室内に爆音がと轟くほどだ!

 

ゼノヴィアが耳を抑えながら言う。

 

「な、なんだ、今のは?」

 

「わ、分からないけど………今のは手を叩いた音?」

 

突然のことに試合を見守っていた僕達ですら、状況が理解できていない。

それどころか、スピーカーを通して聞こえてきた爆音に耳をやられそうになった。

イッセー君は一体、何を………。

 

状況を確認しようとモニターを見た僕の目に映ったのは―――――崩れ落ちる天使達の姿だった。

 

『ぐっ……あっ……』

 

『な、なにが………』

 

『あ、足が……立てな………』

 

耳を抑え踞る者や、足をフラつかせ転んでしまう者がいて、いずれも手にしていた武器を落としてしまっていた。

この状況を作り出した張本人であるイッセー君はというと、少し辛そうな表情だが、なんとかその場に立っているようだ。

 

《これはどうしたことでしょうか! 兵藤一誠選手の周りにいた転生天使達が倒れていっております! ベルゼブブ様、兵藤一誠選手は何をしたのでしょうか?》

 

アナウンサーの問いにベルゼブブ様が答える。

 

《手を叩き音を出したんだ。ただし、赤龍帝の力を使って何倍にも大きくしてな。大きな音を近場で聞いてしまうと、人はショックで動けなくなることがある。特に人間の場合だと、鼓膜が破れたり、三半規管が狂うことにより平衡感覚を乱される。赤龍帝はそれを利用したんだろう》

 

ベルゼブブ様の解説に答えるようにイッセー君が言う。

 

『転生天使も元人間だ。体の作りは人間とほぼ同じ。なら、こういう手も使えるって訳だ。ちなみに俺は事前にリーシャの魔法で耳栓をしておいたから、この通り。まぁ、全くダメージがないってわけでもないけどね』

 

そう言うイッセー君も周囲の天使達程ではないにしても少し体がフラついている。

今のは自身もダメージを受ける諸刃の剣だったのだろう。

しかし、音を利用した予想外の攻撃は天使達に大きなダメージを与えることに成功した。

 

ベルゼブブ様が言う。

 

《ダメージ量からして彼らはリタイヤにはならない。狂わされた感覚はしばらく元に戻らないだろうな。回復の神器で傷は癒せても、平衡感覚までは回復させるのは無理だろう》

 

リタイヤはしないが、復帰までに時間がかかるということ。

しかも、神器でも回復しきれないとなると、ディートヘルムさんの能力が効かないということだ。

僕達のような元人間の転生者にとって厄介な技だ。

 

ロスヴァイセさんも頬に冷や汗を流していて、

 

「倒すことが無意味なら、動けなくすれば良い。理屈は分かりますが、こんな手を打ってくるなんて………!」

 

モニターの向こうではイッセー君は既に呼吸を整えており、先程放り投げていたボールをキャッチしていた。

 

『切り札ってのは何も大技じゃなくても良い。こういう意外な手段が切り札になり得るんだぜ?』

 




久し振りにまともなバトルだった気がする


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26話 勝利の行方

お待たせしました!


デュリオ達との試合が始まり二時間近くが経った。

試合ももうすぐ終了時刻が近づいてきている。

 

俺は息を整えながら得点を確認する。

 

『155―154』。

一度は引き離されたが、逆転している。

今はほんの僅かな点差でリードしているといったところだ。

ここまで巻き返せたのは槍の力を解放したアリス、百鬼とボーヴァの新人コンビの奮闘によるところだ。

加えて、転生天使達を一時的に無力化できたことも大きい。

あの技が決まれば、神器でも回復しきれない。

数名の動きを完全に封じることに成功したため、一気に攻勢に回ることができた。

 

それでもこの長丁場。

広いフィールドを駆け回りながらの戦闘。

正直、せっかく回復させた体力もまた尽きかけている。

おまけに行動不能になっていた天使達も試合に復帰してきている。

次にあの技をやろうとしても、今度は決まらないだろうな。

あんなのは初見殺し。

デュリオ達のような実力者にそう何度も通じるものではない。

 

「イッセー様、次は再びf6ですわ」

 

レイヴェルが新たに出現したゴールの場所を報告してくれる。

俺達は限界に近い体を引きずってそこを目指す。

 

現状では俺達の点数が上だ。

しかし、たったの一点。

次のゴールを決める者によっては、容易に逆転される点差だ。

 

止まれない。

ここで止まるわけにはいかない。

俺は、俺達は―――――

 

「絶対勝つぞッッッッッ!」

 

『おおおおおおおおっ!』

 

俺の気合いに続くように仲間も大声で呼応してくれた。

 

ボールはデュリオ側にある。

彼らはボールを持ったまま、次のゴールを目掛けて飛び出していく。

俺達も全力で追いかけ、ゴールの阻止、ボールの奪還に出る。

残り時間は僅か。

お互いゴールを決められる機会も数回だろう。

だが、試合終了のその時まで少しでも多くの点を取って、この試合絶対に勝つ!

 

ボールは相手の『女王』であるディートヘルムさんが持つ。

サラが奪いにかかるが、相手の『兵士』達に妨害を受け、ボールまで辿り着けないでいる。

サラの援護に百鬼とボーヴァのコンビが加わるが、相手の猛攻も凄まじく、中々突破できない。

 

アリスはネロを相手に優位に立ち回っているようで、突貫してくるネロを、そのスピードで制していた。

しかし、何度も突撃してくるネロを捌きながらボールを奪還するのは難しそうだ。

 

リーシャとレイヴェルは遠距離からの狙撃、業火の魔力で相手のパスを妨害していく。

しかし、そんな二人の前にグリゼルダさんを含めた数名の女性転生天使が立ちはだかる。

彼女達は堕天使の幹部クラスの光力を放ち、二人の遠距離攻撃を相殺しにかかっていた。

 

美羽はイリナ(いつの間にか戦闘服を修復していた)と魔法と光力の応酬を繰り広げていて、

 

「ねぇ、美羽さん! 前々から聞きたかったんだけど!」

 

「なに!」

 

「私ってダーリンのお嫁さんなんだし、そうなると美羽さんは私の義妹ってことになるのかな!?」

 

「それってここで聞くこと!?」

 

なんてやり取りをしていた!

イリナ、それは今聞くことなのか!?

 

美羽は魔法を撃ちながら「うーん」と悩み始める。

 

「確かにそうなると、ボクはイリナさんの………? でも、そうなるとリアスさん達もボクの義姉ちゃん? いやいや、ボクもお兄ちゃんのお嫁さんだし………あれ? こういう場合どうなるんだろう………って、あーもう! こんな時に聞かれるから頭こんがらがってきたぁぁぁぁ!」

 

頭を抱える美羽!

いいんだよ、ここで答えを出さなくても!

つーか、そこは今まで通りで良くない!?

 

そんなこんなで義妹と幼馴染みの激しいバトルは続く。

 

この激戦の中、俺はボールを奪い取ろうと、ディートヘルムさんに襲いかかる。

ディートヘルムさんは俺と対峙すると、即座に光の矢を放ち、こちらとの距離を取ろうとする。

放たれた光の矢はどれもこれも濃密な光力が籠められており、気を纏った腕で撃ち落とすが、光のダメージが体を蝕んでいく。

 

しっかりガードしているはずなのに、貫通してくるなんてな!

俺の体力が限界に近いってことか………!

 

「だったら………!」

 

腕に気を纏うのを止め、その分を足へ集中させる。

そこから更に脳へ錬環勁氣功を使い――――『領域(ゾーン)』へと突入させた。

その瞬間、俺の視界から色が消え、目の前の光景がスロー再生されたようになって、

 

「なにっ!?」

 

爆発的に加速した俺はディートヘルムさんとの距離を瞬時に詰め、眼前に立つ。

ディートヘルムさんが咄嗟に後ろへと退こうとした時、俺は彼の手元を蹴り上げ、ボールを弾き飛ばした!

宙に舞うボール!

 

「もらったぁッ!」

 

ボール目掛けて跳躍しようとした、その時だった。

 

「ボールは渡さないよ!」

 

と、横から走ってきたデュリオがボールを拐っていく!

デュリオがボールを片手に俺と対峙することになる。

 

「ちっ、もうちょいだったのに」

 

悔しげに舌打ちする俺に、デュリオは頬を流れる汗を拭いながら言う。

 

「言ったでしょ、俺達が勝つって」

 

そこへ、

 

「詰めが甘ぇな、イッセー?」

 

「良いタイミングだったな、デュリオ」

 

俺とデュリオの隣にモーリスのおっさんとストラーダの爺さんが並び立ち、『王』と『戦車』、互いの師弟が向かい合う格好となった。

 

モーリスのおっさんとストラーダの爺さんが身に付けていたものは俺達以上にボロボロになっており、頬や腕に幾つもの斬り傷ができていた。

体からは汗と共に蒸気が出ていて、その熱気が伝わってくる。

 

俺は額に流れる汗を拭いながら、おっさんに言う。

 

「随分盛り上がってるみたいだな?」

 

おっさんは獰猛な笑みを浮かべる。

 

「ここまで本気でやり合えるのもそうないんでな」

 

ふと見るとフィールドのいたるところに無数の裂け目があり、そこから次元の狭間を覗かせている。

二人の得物って、木刀だよね?

温泉街のお土産だよね?

この強固なフィールドを木刀で切り刻むって怪物過ぎるだろ、この二人。

いや、知ってたけども。

 

デュリオも苦笑しながら言う。

 

「猊下もハッスルしてるねぇ」

 

ストラーダの爺さんもまた、おっさんと同様に好戦的な笑みを見せていて、

 

「私も思う存分、愉しませてもらっているぞ。ここまで血沸き肉踊る戦いは長い人生、そう味わえるものではない」

 

爺さんも同じ感想らしい。

これ、二人にデュランダルとか持たせたら、フィールド消し飛ぶんじゃないだろうか?

 

などと思っていると、突然、おっさんが俺の背中をバンッと叩いてきた。

 

「バテてる暇はねーぞ? 勝つんだろう? だったら、おまえの持てる全部出せ。燃えカス一つ残さないようにな」

 

ストラーダの爺さんもデュリオに言う。

 

「デュリオ、心のままに行くと良い。師として、後押しくらいは出来よう」

 

師達による後押しだった。

全力も全力、最後まで全てを出し尽くす。

悔いのないように、今この時を全力で楽しめと。

 

俺とデュリオは視線を交わすと、互いに気合いを入れ直す。

弱まっていたオーラが再び、俺達の体を覆い――――一気に膨れ上がるッ!

 

「「ハァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!」」

 

 

 

 

[木場 side]

 

 

モニターに映る光景に僕は思わず手を強く握っていた。

 

フィールドの中央にそびえ立つ赤いオーラと金色のオーラによる二つの柱。

イッセー君とデュリオさんから溢れ出す力の奔流がモニター越しでも眩しい程に輝きを放っていた。

 

両者が放つ輝きにアナウンサーが興奮気味に吼える。

 

《両チームの「王」から凄まじいオーラが解放されたぁぁぁぁぁぁぁぁ! 試合終了となるこの土壇場、どこにそんな力が眠っていたのでしょうか!?》

 

眠っていたわけじゃない。

隠していたわけでも、温存していたわけでもない。

絞り出しているんだ。

残された全ての力を、ここでぶつけるつもりなんだ………ッ!

 

先に動いたのはイッセー君だった。

両の目で真っ直ぐにデュリオさんを見据えて、地面を蹴って飛び出す。

 

対してデュリオさんは手をかざし、特大の炎の塊を放つ。

放たれた炎弾がイッセー君にぶつかり、大爆発を起こす!

 

「イッセー!」

 

思わずリアス姉さんが立ち上がってしまう。

しかし、立ち上る爆煙を切り裂いてイッセー君はデュリオさんへと殴りかかった!

 

『避けることすらしないなんて、イッセーどんは無茶苦茶だねっ!』

 

『へっ! 時間もねぇんだ! 避ける時間すらもったいねぇってな!』

 

イッセー君の拳がデュリオさんの頬にめり込む!

後ろに吹っ飛ばされるデュリオさん。

しかし、足で踏ん張り、体勢を戻すとイッセー君へと向かっていく。

 

デュリオさんの翼が黄金に輝くと十二枚となり、頭上に浮かぶ光輪も四重となる。

体を覆う光のオーラも一層濃密になり、彼の周囲には特大サイズの光の槍が複数出現する!

 

ゼノヴィアが冷や汗を流しながら呟く。

 

「なんて大きさだ。あんなものまともにくらえば悪魔の私達はひとたまりもないな」

 

天界の切り札が放つ全力の光力なんだ。

光が弱点の悪魔には致命的な一撃には違いない。

体力を失っているイッセー君も例外ではないだろう。

 

対し、イッセー君はというと、両腕に籠手を展開して真っ向から迎え撃とうとしていた。

 

恐らく禁手を両腕のみ展開しただろう。

あれなら全身鎧を纏うより消耗が少ないだろうからね。

しかし、僕のこの予想は少し外れていたようで、

 

『Accel Booster!!!』

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBoost!!!!』

 

籠手からけたたましく鳴り響く倍加の音声!

加速された倍加―――――天武(ゼノン)の力かッ!

本当に後先考えずに戦うつもりなのか!

 

イッセー君は高めた力で、デュリオさんから放たれた特大の光の槍を殴り、砕いた!

 

『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!』

 

間髪いれずにデュリオさんへと飛びかかろうとするイッセー君。

しかし、この結果を予測していたのか、デュリオさんもまた真正面からイッセー君へと飛び出していった!

 

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!』

 

ドラゴンのオーラが籠った拳と、光力の籠った拳が交差して互いの顔に深く撃ち込まれていく!

二人共、鼻血を噴き出すが、互いに引かず、更に殴り合う!

デュリオさんの拳がイッセー君の頬にめり込み、吹き飛ばしたと思うと、今度はイッセー君のアッパーがデュリオさんの顎を打ち上げる!

 

肉弾戦の応酬!

イッセー君はともかく、あのデュリオさんがこ

れに応じるなんて!

 

これには僕やリアス姉さんだけでなく、朱乃さんやロスヴァイセさん、他の皆までが拳を握り頬に汗を伝わせていた。

 

「………」

 

そんな僕達とは違い、リュディガー氏はただじっと二人の殴り合いを見ていた。

奇抜な戦術も、相手の精神的弱点を突くような策もない、ただの殴り合い。

己の全てをかけた、真っ向勝負を彼はどう見るのだろうか――――。

 

《ゴォォォォォルッッ! 転生天使チームがここに来て決めたぁぁぁぁぁぁぁ! 逆転! ゲーム終盤、終了一分前での逆転だぁぁぁぁぁぁ!》

 

アナウンサーの実況が轟く。

二人の戦いに魅せられてしまったが、まだゲームは続いているんだ。

試合終了までにより多くの点を決めたチームが勝利する。

 

決めたのは―――――イリナだった。

 

『よくやってくれた、天使イリナ!』

 

『ハァ………ハァ………やっ………た!』

 

チームメンバーに声をかけられ、親指を立てて返すイリナ。

そんな彼女は地面に膝をつき、体力を限界まで使いきったという様子だった。

それもそうだろう。

あの美羽さんを相手にしながら、ボールを奪い、点を決めたのだ。

恐らくイリナにとって最後の特攻だったのだろう。

 

イリナがゴールを決めたことにより、『155―157』と転生天使チームが逆転したことになる。

点差は2点。

試合もあと僅かで終わろうかというところで2点はあまりに大きい。

残り僅かな時間、デュリオさん達も逆転されないようより気を引き締めてくるだろう。

 

『そんな………』

 

美羽さんやレイヴェルさん、百鬼君、ボーヴァの表情に暗い影がさした。

彼女達も分かっているんだ。

残り時間はもう一分もない。

そんな中、彼らの守りを突破するのは困難きわまりない。

イリナを止められなかった美羽さんが膝を着きそうになった―――――その時。

 

『まだ終わってねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!』

 

フィールドを赤い閃光が駆ける。

閃光は通った場所を焦がしながら、一直線にボールへと迫っていった。

 

ボールを掴んだイッセー君が叫ぶ。

 

『止まるな、美羽! まだ勝負はついてねぇ!』

 

全身に赤いスパークを纏うイッセー君は彼を阻止しようとする転生天使達を弾きながら、ただ真っ直ぐにゴールへと突き進む。

 

『イッセーどんも諦めが悪い! いや、それでこそってとこかな!』

 

『そういうこと! 分かってるじゃないか!』

 

黄金に輝く翼を広げたデュリオさんがイッセー君を追いかける。

二人は並び、これまで以上に激しい撃ち合いが始まる!

放たれた赤いオーラと黄金のオーラがフィールドを破壊しながらデッドヒートしていく!

 

そして、イリナのゴールにより止まりかけていた各々のチームメンバーも動き始める。

 

『私達も止まっていられません! デュリオの援護を!』

 

『『『『はいッッッ!』』』』

 

シスター・グリゼルダの指揮に応じる転生天使達。

その中には今にも倒れそうだったイリナもいた。

一方、赤龍帝チームの方はアリスさんがチームメンバーに向けて言葉を発していた。

 

『私達の『王』の命令よ! あいつが止まるなって言うなら、私達もそれに続くまで! 後悔も反省も後よ! 気合い入れなさい!』

 

『『『『おうッッッ!』』』』

 

両チーム共に各々の王に続くように戦闘を再開する。

彼らの戦いもまたこの長い試合の中で最も燃え上がっていて、

 

《なんということでしょう! 試合終了二十秒を切っております! それなのにフィールドではこれまで以上の戦いが繰り広げられています! 観覧席の皆さんも立ち上がって、両チームを応援しております! ここに来て試合は最高潮に盛り上がって参りましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!》

 

アナウンサーが言うように観覧席では皆が立ち上がり、声援を送っており、このスタジアム全体に彼らの声が響き渡っていた。

おっぱいドラゴンを応援する者から、デュリオやキャプテン・エンジェルを応援する者の声。

大人から懸命に声を上げる子供の声までハッキリと聞こえてくる。

 

『『勝つのは俺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』』

 

彼らの声に応えるようにイッセー君とデュリオさんが雄叫びを上げる!

互いにボールを奪い、殴り合い、オーラの砲撃を撃ち合いながらゴール目掛けて駆けていく!

ここでどちらかの『王』が決めれば、そこで勝負は決する!

 

《試合終了のカウントを始めます!》

 

会場では試合終了のカウントが始まる!

残り五秒!

イッセー君とデュリオさんはゴール目前!

 

二人は同時に飛び上がり――――――

 

 

 





メッチャバトルしてた……! 
勝利するのはどっちだ!


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27話 決着

 

けたたましいブザーの音が鳴り響く。

それは試合終了を告げる合図。

 

《タイムオーバーッ! 試合終了です! 勝者――――》

 

審判が名を告げた。

 

《――――『異世界帰りの赤龍帝』チーム!》

 

そのアナウンスに会場が沸いた。

点数は『165―157』。

 

最後の最後、デュリオとの一騎討ちを経て、ギリギリでゴールを決めることができた。

イリナによって、逆転の点を入れられたラスト二十秒。

なにがなんでも取り返すということしか頭になかった。

あの状況、デュリオが追加の点を入れて、そのまま引き離されるということもあっただろう。

でも、そんなことは一切考えてなくて、ただ我武者羅だったんだ。

 

改めて点数を見る。

それは先程と変わらない点数だ。

 

………そうか、勝ったのか。

 

結果を再度確認した途端、体から力が抜けて、俺はフィールド上に大の字で倒れ込んだ。

 

「ハッ………ハッ………ハッ………」

 

粗い呼吸と激しく打つ鼓動の音しか感じられない。

限界だ。

もう立てそうにない。

腕どころか指先一つ動かせる気がしない。

 

そんな俺のところへ一つの影がやってくる。

 

「へへっ、まいったよ」

 

俺を覗き込むようにして、そう言ってきたのはデュリオだった。

 

「勝ったと思ったんだけどね。最後の最後で持っていかれちゃったかな」

 

「まぁ、勝った方がこの様じゃカッコもつかないんだけどなぁ。とりあえず起こしてくれる?」

 

デュリオは俺が伸ばした手を取ると引っ張って、上体を起こしてくれた。

ぐったりと座り込む俺の横に、デュリオはどかっと座る。

デュリオは一息吐くとポツリと言う。

 

「最強を超えるにはまだまだ足りなかったか」

 

「そうか? どう見ても紙一重だっただろ」

 

「そういうところも含めてさ。勝ちたかったなぁ………」

 

どうやら本気で落ち込んでいるらしい。

そこまで言われると、どこかむず痒いような気がするけど………まぁ、悪い気はしない。

 

俺達『王』がそんなやり取りをしている一方では、アリスとネロが話していて、

 

「やっぱり強かったな。流石はスイッチ姫だ」

 

「スイッチ姫言うな! ま、あなたもかなりのものだったわ、ネロ………いいえ、キャプテン・エンジェル君?」

 

そうして笑顔で握手を交わす二人。

また一方ではモーリスのおっさんとストラーダの爺さんも握手を交わしていた。

 

「いやー、今日は愉しかったな」

 

「ここまで盛り上がったのはいつ以来だろうか。感謝する、モーリス殿」

 

「そりゃこっちの台詞だ。どうだい、この後は? 一杯やらないかい?」

 

「剣を交えた後は酒を酌み交わす。これも粋というものですな。是非に」

 

「んーとりあえず連絡先を交換したいんだが………ん? ん? これどうすりゃいいんだ? なんちゃらコード?」

 

「それはここを押して、画面が切り替わったら私のスマホの画面を読み取って――――」

 

「おぉう!? 爺さん、あんた詳しいのかよ!?」

 

「フッフッフッ、この手のものは扱えないと不便ですからな」

 

「ッ! なんか負けた気がするぞ………」

 

ガックリと肩を落とすモーリスのおっさん。

どうやらスマホの扱いにおいてはストラーダの爺さんに軍配が上がったらしい。

とにかく、二人はこの後も交流が続くようだ。

 

更には美羽とイリナも互いに手を取り合っていて、

 

「ボクの完敗だよ」

 

「うぅん、私もギリギリだったし、後先考えずに突貫しただけだったから」

 

「でも、あの大事な局面で力を発揮できたのは凄いことだよ? 流石はイリナさん。………ちなみにあの質問なんだけど」

 

「え?」

 

「いや、ほら、ボクの立ち位置的にイリナさんの義妹になるのかどうかって………あれ、ややこしくなるから今まで通りでも良い?」

 

なんて会話をしていた。

うん、俺もそれで良いと思います。

 

他のメンバー達も互いの健闘を称え合っていて、この試合を通して得るものは多かったようだ。

 

メンバー達の交流を眺めていると、デュリオが訊いてくる。

 

「そういえば、イッセーどんがゴールを決めた時なんだけどさ」

 

「ん?」

 

俺が聞き返すと、デュリオは自分の頬を指して尋ねてきた。

 

「ここに何か出てたんだけど、あれはなんだい?」

 

「ここに………? あー、なるほどね」

 

デュリオに言われて俺はポンっと手を叩いた。

それに心当たりがあったからだ。

 

「あれはまだ修行中でな。今はちゃんと使えないんだ。今回は感情の昂りで無意識に少しだけ出てたようだけど」

 

恐らくデュリオが見たものというのは、今、修行中のものだろう。

だけど、あれは未完成も良いところで、まだまともに使えるような段階じゃない。

 

「多分、無理に使ってたら、今回の結果にはなってなかっただろうな。だから、これが今の俺の全力だよ」

 

「そっか。じゃあ、次はそれを完成させたイッセーどんと戦いたいね」

 

その言葉に俺達は視線を交えて、少し黙り込む。

少しの沈黙を経て、フッと笑むと、俺達は互いの手を取った。

 

「次も負けない」

 

「次は負けない」

 

言ってくれるじゃないか。

だけど、それでこそ天界の切り札、『D×D』のリーダーだ。

次やる時は俺ももっと力をつけて――――。

 

こうして、『異世界帰りの赤龍帝』チームと『天界の切り札』チームの一戦は、俺達『異世界帰りの赤龍帝』チームの勝利で幕を閉じた。

 

 

 

 

試合を終えて俺達はチームの控え室に戻ってきていたのだが、その空気は勝利に浮かれた陽気なものではなく、暗く重いものだった。

暗いオーラを発しているのは美羽、レイヴェル、百鬼、ボーヴァの四名。

なぜ、この四人がこんなにも暗い表情をしているかというと………。

 

「勝てたとは言え、最後の最後で無様な姿を晒してしまいました。これではイッセー様の眷属失格です………」

 

自身を攻めるように言うのはレイヴェル。

 

イリナによって逆転されたその後。

残り二十秒もない僅かな時間だったとは言え、止まりかけてしまった。

四人はそんな自分達を攻めているようだ。

 

ボーヴァは広大な控え室の壁に何度も頭をぶつけていて、

 

「某は………! 俺は! 我が主の! 赤龍帝の牙になるのではなかったのか………! それがあんな………!」

 

同じく百鬼もベンチに座り、深く息を吐いていて、

 

「先輩のようになりたいと思っていたのですが……体、なにより精神面がまだまだ足りなかったようです」

 

更に美羽はというと、部屋の隅っこに足を抱えて座り込んでいて、

 

「………チーズ蒸しパンになりたい」

 

なんてことを呟いていた!

どういう願望!?

大丈夫なのか、それ!?

ちょっと病んでないかい!?

あまりに衝撃的な内容にサラちゃんもオロオロしてるんですけど!

 

なんて重たい空気だ………!

部屋からズーンという効果音が聞こえてくる!

俺達勝ったんだよね!?

 

アリスに視線を向けると苦笑しながら、やれやれと首を横に振っていた。

俺はコホンと咳払いすると、四人に向けて言う。

 

「反省すべきところはあるだろうけど、程程にな? まずは勝利の喜びを噛み締めようぜ」

 

そう言って俺は四人へ言葉を続ける。

 

「レイヴェルの指揮がなかったら、あそこまで上手くやれなかったし、百鬼の隠し球、ボーヴァの奮戦、美羽のサポート。どれか一つでも欠けていれば、今回の結果には繋がらなかったはずだ」

 

デュリオにも言ったが、今回の試合は本当にギリギリの勝負だった。

正直、運というところもあっただろう。

しかしだ、その運を引き寄せるにも相応の力がいる。

運も実力の内とは言うが、ここにいるメンバーだからこそ掴めたと言っても良い。

 

「反省はある。後悔もある。けど、これが最後じゃない。次がある。だからさ、今日の反省を次に活かせば良い。その時には俺達はもっと強くなってるさ」

 

俺も今回の試合で見えたこともあるしな。

まぁ、まずはアレ(・・)を完成させたいところではあるんだが………。

 

アリスがスポーツドリンクを片手に言う。

 

「大体、この手のルールで残り数十秒って絶望的過ぎでしょ。そこから逆転狙うなんて、この馬鹿くらいじゃない?」

 

馬鹿とはなんだ、失礼な。

ここは頑張った俺に称賛をくれよ。

 

すると、先程からスマホを弄っていたモーリスのおっさんが言った。

 

「イリナに決められた直後、おまえも突撃しようとしてたけどな」

 

「あんた見てたの!?」

 

「ホント似た者夫婦だな。血気盛んなところと脳筋なところは特に」

 

横で聞いていたリーシャとワルキュリアがうんうんと頷いていて、

 

「諦めの悪さはイッセーと良い勝負です」

 

「お二人とも心底負けず嫌いですからね」

 

「う、うううううっさいわね!?」

 

顔を赤くするアリスさんだが………。

こいつも突っ込もうとしてたのね。

似た者同士ってのは否定できない。

 

アリス達のやり取りに場が和んだためか、四人の表情も少し明るいものとなった。

 

百鬼はタオルで顔をゴシゴシと拭った後、正面から俺に言う。

 

「俺、もっと強くなります。もう二度と諦めません。最後まで全力でやり抜いてみせます。そして、勝ってみせます。たとえ、相手が神だろうと」

 

ボーヴァも熱の入った声で続いた。

 

「某も最後まで主様と共に! 赤龍帝の牙として、敵を蹴散らしてみせましょう!」

 

「ああ、頼んだぜ!」

 

俺は二人に親指を立てて笑顔で返す。

レイヴェルと美羽も立ち上がり、その場で宣言する。

 

「あのような姿はもう晒しません。イッセー様の眷属として相応しい戦いをしてみせますわ」

 

「ボクももっと強くならなきゃね」

 

二人の言葉に俺は頷く。

 

「一緒に強くなろう。俺達はまだまだ伸びるさ」

 

そう、俺達は強くなる。

今の自分を乗り越えたその先へ―――――。

 

「『イッセー、チーム励ましナウ』っと」

 

「そんなもんメールで送らなくてもよくね!?」

 

ストラーダの爺さんとのメールに勤しむおっさんにツッコミを入れた。

 

 

 

[木場 side]

 

 

試合を観戦し終えた僕達は、イッセー君の勝利に安堵しながらも、それを認識すると同時にとてつもない疲労感に襲われた。

今の今まで席から立ち上がり、手を強く握りしめながら試合を見ていたリアス姉さんも、脱力するように席に腰を下ろし、大きく息を吐いた。

 

これにはリュディガー氏も目を細め、微笑みを見せた。

 

「応援疲れですかな?」

 

「ええ。見ている側が疲労で倒れそうになるなんて、試合を頑張っていた彼らには聞かせられないわ」

 

「それだけ彼らの試合に魅せられたということでしょう。どうやら、私の小賢しい策など、兵藤一誠には届かなかったようだ」

 

皮肉げに言うリュディガー氏。

その言葉に、リアス姉さんは首を横に振る。

 

「いいえ、あなたの戦術は確かにイッセー達に届いていた。実際に用意されていた数多くの策によって、これまで圧倒的だった彼らは追い込まれていたもの」

 

しかしと、リアス姉さんは続ける。

 

「最後の最後。あれは戦術など入る余地のない意地と意地のぶつかり合いだった」

 

「ええ、その通りです。赤龍帝チームは強力だ。故に様々な警戒をしていた。敵も味方も熱くさせてしまう『王』の影響力は特にね。しかし、あれだけはどうやっても崩せなかった」

 

イッセー君の影響力。

これまで彼と相対してきた者、例えばヴァーリや曹操が良い例だろう。

敵としてではなく、乗り越えたい目標、心の底から勝ちたいと強く思う男。

デュリオさんもそう思っていたはずだ。

それ故に最後はあのようになったのだろう。

 

帰る準備が整ったリュディガー氏は小さく笑う。

 

「リアス姫、彼は良いご伴侶です。将来のグレモリー家の強い礎になるでしょう」

 

彼は一度、フィールドにいるイッセー君に視線を向けると、そのまま扉の方に歩いて行く。

退室する寸前、振り返りながらこう述べた。

 

「グレモリーの皆さん、もし試合で当たりましたら、その時はよろしくお願いします。それと彼には伝言を。―――――次は勝つとね」

 

それだけ言い残すと彼は観戦室から去っていった。

 

 

 



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28話 更に向こうへ

ジョーカー篇ラスト!



 

「いけいけ、そこだ!」

 

「パス回せ、パス!」

 

体育館、グラウンドの各所で応援の声が飛び交う。

今日は球技大会の日。

あらゆる生徒がクラス対抗戦、あるいは部活対抗戦に参加しており、校内は非常に盛り上がっていた。

 

今年の部活動対抗戦はバスケットボール。

俺達、新生オカルト研究部はレギュラーを俺、木場、小猫ちゃん、イリナ、そしてアーシアという布陣。

メンバーは部長のアーシア以外はくじ引きでの選出となった。

で、くじから漏れたメンバーは応援に回っているのだが、

 

「ぶっちゃけ反則と言っても過言ではないわよね」

 

「アハハ……」

 

アリスの発言に苦笑する美羽。

普通の人間と悪魔じゃ身体能力に差がありすぎるからな。

確かに反則みたいなもんだ。

だけど、

 

「目指すは優勝! そして、生徒会に勝つことです!」

 

リーダーのアーシア部長が打倒生徒会に燃えてるんだ!

俺達部員は部長に続くまでってな!

 

オカルト研究部は順調に勝ち進み、ついに決勝戦。

俺達と同様に勝ち進んできたゼノヴィア率いる新生生徒会と相対することになる。

 

体育館の中央、バスケットボールのコートに両陣営の面々が並び立つ。

 

「アーシアちゃん頑張れ!」

 

「アーシアちゃんんんんん! ファイトォォォ!」

 

気合いの入ったアーシアへの応援。

分かりやすかったのもあるけど、アーシアが悩んでいたのはクラスメイトも気づいていた。

だからか、この球技大会でアーシアを応援する声は多い。

 

「木場きゅん!」

 

「木場きゅん先輩ぃぃぃぃ!」

 

………木場を応援する女子の声もずっと多かったけど。

 

「なぁ、木場。おまえはどこに向かってるんだ?」

 

「ハハハ………僕が聞きたいくらいだよ」

 

本人も複雑みたいだ。

 

「アーシアもゼノヴィアっちも気張りなさいよ!」

 

桐生も両チームを応援してくれていた。

 

お互いのリーダーであるアーシア部長とゼノヴィア会長が顔を合わせる。

 

「ゼノヴィアさん、負けません!」

 

「勝たせてもらうよ、アーシア!」

 

あちらのレギュラーはゼノヴィア、匙、百鬼、巡さん、仁村さんと油断できないメンバーだ。

 

匙が俺に言ってくる。

 

「やる以上は負けないぜ」

 

「こっちもだ」

 

つい先日のゲームで活躍してくれた百鬼は今回は相手方ということで、複雑な表情だ。

まぁ、それはそれ、これはこれってことで。

今回のは部活動対抗戦だし、仕方ない。

 

いつの間にか、体育館は観戦に来た生徒でいっぱいになっていた。

 

「皆さん、勝っても負けても悔いのないように!」

 

ロセも応援に駆けつけており、アザゼル先生も体育館の隅っこの方で試合の見物をしていた。

 

審判が一礼を確認し、選手が散らばったのを見て、開始の笛を鳴らす。

開始の合図と共に両チーム動き出すが、もちろん悪魔や天使、異能は使わず、純粋な身体能力のみで試合に臨む。

 

木場が高速でドリブルをすれば、マークについていた百鬼が木場に負けないスピードでくらいつく。

ゼノヴィアが生徒会メンバーへと鋭いパスを回そうとすれば、それをイリナが弾く。

俺にパスが回ってくると、俺をマークしていた匙とのガチンコ対決が始まる。

こちらが点を入れれば、相手チームも負けじとゴールを決めるという展開が続き、得点は拮抗状態となっていた。

 

後半、試合終了の時間が近づいてきた時、小猫ちゃんのアシストによって、ボールがアーシアへと渡った。

 

――――フリーだ。

 

球技大会に向けて、アーシアがシュートの練習をしていたのは俺達は知っている。

リアスのチームでレーティングゲームに取り組む傍ら、夜遅くまで自主練をしていた。

アーシアなら決められる!

 

しかし、それを理解しているからこそ、ゼノヴィアがさせまいと猛烈にアーシア目掛けて突っ込んでいく。

ボールを放とうとしていたアーシアの前にゼノヴィアが立ち塞がった!

 

しかし――――アーシアがボールを放つことはなく、体勢を変えて、ドリブルを始めた。

アーシアがゼノヴィアのディフェンスを潜り抜けた!

 

ゴールに近づいたアーシアがジャンプして、シュートを放って―――――。

 

 

 

 

「イタタタタ………」

 

「もう、無理しちゃ駄目って言ったのに」

 

部活動対抗戦が終了後。

俺は美羽、アーシアの三人で帰路についていた。

 

俺は美羽に鞄を預けて、片手で謝る。

 

「ゴメンゴメン。匙が思ってた以上にくいついてくるからさー」

 

「いくらお兄ちゃんでも、この間の疲労も抜けきってない状態で匙君の相手は辛いでしょ」

 

この間のレーティングゲーム、限界以上に錬環勁氣功を酷使したから身体中がバキバキなんだよね………。

それは美羽達も似たようなものなんだけど。

 

「今日は悪魔の仕事も休むようにレイヴェルさんから言われてるんだから、しっかり身体を休めること。良い?」

 

「ははぁー」

 

土下座をするようなポーズをする俺。

 

美羽は俺の見張り役ってことね………。

最近、兄妹の立場が逆転してきている気がするのは気のせいだろうか。

まぁ、しばらくはゆっくり身体を休めるとするよ。

また身体に負荷をかけた結果、チビッ子になって、美羽達の着せ替え人形にされるのは勘弁してほしいし。

 

それはさておき、俺はアーシアが手に持っているものに視線を落とす。

 

「同率とはいえ、優勝したな」

 

結局、生徒会チームとの試合は延長戦をしても決まらず、その後はフリースロー対決になったが、それでも決着がつかなかったため、最後は時間切れ。

同率での優勝となった。

 

アーシアが言う。

 

「これでリアスお姉さまに良い報告が出来そうです」

 

同率とはいえ、優勝したんだ。

リアスも喜んでくれるだろう。  

しかし、アーシアがゼノヴィアを相手にあそこまで粘れるとはね。

ゼノヴィアも驚きながらも、どこか嬉しそうだったっけ。

二人の対決が白熱するものだから、チームの俺達もやらなきゃってことで、両チーム一歩も引かなかったんだよな。

フリースローでも決着がつかなかった時は審判と実行委員も困り果てていたくらいだった。

 

部活動対抗戦の感想を三人で話していると、

 

「うわぁぁぁぁん」

 

と、子供の泣く声が聞こえてきた。

声のした方を向くと、公園で、小さな男の子が擦りむいた膝を抱えて泣いていた。

 

アーシアはすぐに駆け寄り、子供の膝を見る。

 

「大丈夫? 男の子ならこれくらいで泣いてはダメですよ?」

 

優しい微笑みと共に、アーシアは神器の力で子供のケガをあっという間に治してしまった。

この光景は――――。

 

「懐かしい光景だね」

 

「あれから一年か」

 

俺と美羽がアーシアと出会ったあの日も、アーシアは今みたいに子供のケガを治していた。

 

「はい、もう大丈夫です」

 

痛みがなくなったことに不思議ごる子供だったが、すぐに頭を下げてお礼を口にした。

 

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

言うなり男の子はダッシュして去って行く。

男の子の背中を見送りながら、俺は口を開く。

 

「ありがとう、だってさ」

 

「うふふ、今度はちゃんと日本語分かりますよ」

 

そうだな。

あの時は分からなかった日本語も今では理解できる。

 

ふいにアーシアが真正面から俺に言ってきた。

 

「イッセーさんや皆さんと出会えた、神様からの素敵な贈り物ですよ」

 

初めて出会った時、アーシアは複雑そうに自身の能力について語った。

教会の信徒でありながら、悪魔をも癒す力を持ってしまったが為に教会を追放されたんだ。

当時、教会での生活が全てだったアーシアには辛い出来事だった。

 

あれから一年。

アーシアは俺達と激動の一年を送ってきた。

そして今、アーシアはあの時とは比べ物にならないほど、素敵な笑顔を見せてくれていた。

 

そんなアーシアに俺は言う。

 

「強くなったな」

 

あの時は俺や皆が守る存在だった。

だけど今は違う。

アーシアはもう守られるだけの存在じゃない。

 

アーシアは少し照れながら、

 

「ありがとうございます。だけど、まだまだです」

 

そう言うと、アーシアは真っ直ぐに俺を見てきた。

 

「先日の試合を見て思ったんです。私ももっと全力でやってみようって。今はまだイッセーさんやリアスお姉さまのようには出来ないかもしれないけど。それでも、失敗しても前に向かって進みます。そうすれば、いつかは――――」

 

アーシアは満面の笑顔で言葉を繋げた。

 

「隣に並んで歩けるようになれますよね」

 

「――――っ」

 

本当に強くなったよ。

体も、心も。

前から分かってはいたんだ。

でも、こうして改めて見ると、俺が感じていたよりずっと―――――。

 

「アーシア、俺達はまだまだ強くなれる。だけど、焦らずじっくりいこうぜ。なにせ俺達は悪魔だからな」

 

悪魔の寿命は数千年とも数万年とも永遠とも言われてる。

それだけ時間があれば十分だろう?

 

差し出した俺の手をアーシアは取って、

 

「はい!」

 

頷くアーシア。

美羽もそれに続くように俺の手を握ってきた。

 

「ボクだっているんだからね?」

 

「分かってるよ」

 

フッと笑む俺達兄妹。

俺達は互いの手を握り、歩き始める。

 

行こうぜ、まだ見ぬ先へ。

更に向こうへ―――――

 

 

 

「あっ! イッセーの野郎、美羽ちゃんとアーシアと手ニギニギしてるぞ!」

 

「なんだと!? イッセーめ、なんて羨ましいやつ! 行くぞ、松田!」

 

「おうよ、元浜!」

 

「「天誅ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」」

 

「なんで、てめぇらがここで入ってくるんだ、馬鹿野郎共ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

帰路につく中、俺は悪友二人に襲われたのだった。

 

 

 

 

部活対抗戦が終わっても、大会は続いていく。

既に決まっている組み合わせは、サイラオーグさんと曹操のチームであったり、俺達とシトリーチームだったり、身内での対戦も増えてきたところだ。

予選は更にヒートアップしており、本選出場の十六枠を巡って各チームが激戦を繰り広げている。

 

今夜は新たな組み合わせが発表されるため、俺達のチームはテレビの前に集まっていた。

次々と試合の組み合わせが決まっていく中、俺達も今後の日程が決まっていく。

今のところ全勝、保有ポイントも高めではあるが、本選に進むにはまだ足りない。

確実に勝利してポイントを稼いでおきたいところではあるが、果たしてどうなるか。

 

今後の試合展開について考えていると、テレビにはある二つの組み合わせが表示される。

その内の一つは――――

 

 

『リアス・グレモリー』チーム VS 『明星の白龍皇』ヴァーリ・ルシファーチーム

 

 

発表された組み合わせに俺は深く息を吐いた。

 

「なるほど。そう来たか………」

 

リアスとヴァーリがぶつかるか。

ルシファーと白龍皇の力を解放したヴァーリは絶大だ。

神を殺す牙を持つフェンリル、猫又であり最上級悪魔クラスの黒歌、孫悟空の子孫である美猴、聖王剣の使い手のアーサー、巧みな魔法を駆使するルフェイとチームメンバーも強者揃い。

『禍の団』時代、各勢力の追手をあしらってきた腕前は確かなものだ。

 

しかし、リアス達が遅れを取るかと言われるとそうではない。

二つの神器を使いこなす木場を筆頭に高い火力を備えたバランスの良いチームだ。

しかも、今はクロウ・クルワッハもいるしな。

 

「こりゃ、どっちが勝ってもおかしくないな」

 

リアスとヴァーリの試合を想像していると、横でレイヴェルがため息を吐いた。

 

「イッセー様。リアス様の試合が気になるのは分かりますが、今は自分達の試合のことを考えてください」

 

「うん。ごめんね、現実逃避してた」

 

俺の目に映るもう一つの組み合わせ。

それは―――――

 

 

『異世界帰りの赤龍帝』兵藤一誠チーム VS 『王達の戯れ』テュポーン、アポロン、ヴィザール同盟チーム

 

 

神クラスが相手。

しかも、今大会の優勝候補の一角だ。

 

アリスが言う。

 

「魔物の王テュポーン、オリュンポスの主神アポロン、アースガルズの主神ヴィーザル。これまた荒れそうね」

 

「ハハハ、参りましたね」

 

百鬼も笑うしかないようで、額を手で叩いていた。

 

そういう反応になるよな。

次代の主神が二柱に、伝説の魔物の王が相手だ。

だが、遅かれ早かれこうなっていただろう。

優勝目指すなら、世界でも指折りの強さを持った神々とぶつかることになる。

 

そんなことを考えているとニーナが俺の顔を覗き込むようにしてきた。

 

「現実逃避とか言いながら、お兄さんはやる気満々って感じだね」

 

どうやら見透かされていたようで。

俺は肩をすくめて言う。

 

「どのみちやるしかないしな。ここで逃げちゃらしくないだろ?」

 

俺の言葉におっさんが笑う。

 

「言うようになったじゃねぇか」

 

「俺も色々と負けてられないってことだよ」

 

さて、優勝候補の一角をどう攻略するか。

今の俺達が真っ向からやり合うのは正直、難しいところではあるが………。

 

「リーシャ、あれってもう完成して――――」

 

俺がリーシャに問いかけようとした時だった。

不意にドアがノックされ、俺達の視線はそちらへと集まった。

部屋に入ってきたのは母さんで、

 

「どうしたの?」

 

「イッセーにお客さんよ。悪魔の方だとは思うんだけど、頭に角が生えてるし。イッセー、あんな美人な女性とどこで知り合ったのよ?」

 

そう聞いて、なんとなく思い当たる節があった。

角の生えた美人な女性で、ここを訪ねてくるとなるとあの人だろう。

しかし、理由が分からない。

 

とにもかくにも会ってみようということで、俺達は下に向かう。

降りた俺達を待っていたのは頭部に角を生やした桃色の髪の美女、ロイガン・ベルフェゴールさんだった。

 

「やっぱり、ロイガンさんでしたか」

 

「夜分にごめんなさいね。突然押し掛けてしまって」

 

「いえ、それは良いんですけど………どうしてここに?」

 

こんな美女が訪ねてくれるならいつでも大歓迎ではあるが、どうにもデートのお誘いって感じではない。

ロイガンさんは玄関から外に出ると、無言で指を鳴らす。

すると、家の庭で魔方陣が複数展開し、そこからマントとフードを被った面々が現れる。

 

「この人達は?」

 

「私の眷属よ」

 

ほうほう、ロイガンさんの眷属達ですか。

それでなんで、ここに呼んだんだ?

まさか俺達とレーティングゲームがしたいとか言わないよな?

 

疑問しかない俺だったが、ロイガンさんは真剣な表情で言う。

 

「これは決意表明よ」

 

「へ?」

 

決意?

なんの?

 

俺を含め、レイヴェル達も首をかしげていると、ロイガンさんは俺の正面に立って――――跪いた!

それに合わせるように眷属の皆さんも俺に跪いてくる!?

 

「赤龍帝、兵藤一誠様。この私、ロイガン・ベルフェゴールを臣下に加えていただきたく、馳せ参じました。私の全てをあなたに捧げます。どうか、考えていただけないでしょうか」

 

は………?

え、ちょっと待って?

ロイガンさんが俺の臣下?

 

 

 

「「「「ええええええええええええっ!?」」」」

 

思いもしなかった申し出に、大会の組み合わせのことを一時的に忘れてしまう俺だった。

 




というわけで、リターンズ第二章はこれにて完結!

次の章は……ちょっと色々悩み中なので、投稿に時間がかかるかもしれませんm(_ _)m


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第三章 復活再臨のイービルゴッド
1話 久しぶりの再会? いいえ、久しぶりのボケです


超超超超超超超超超超絶お久しぶりですッッッッ!
お待たせしすぎて、異世界帰りのことなんて忘れられているかもしれませんが、新章開幕です!
(。・ω・。)ゞオッパイ!!


[三人称 side]

 

数ヵ月前。

まだ一誠達がアセムとの最終決戦に挑む前の話だ。

 

霧が立ち込める森林の中を彼―――――アセムはいた。

霧のせいで、視界は真っ白。

自分の手足すら見えなくなるほど濃い霧の中をアセムは懐かしさを感じながら、歩みを進めていく。

 

アセムが懐かしさを感じるのは当然だ。

ここはアスト・アーデ。

彼が神として生まれた場所であり、彼が全てを破壊する呪いを振り撒いた場所でもあるのだから。

 

普通なら間違いなく迷うであろう場所を、アセムは目的地に向かって最短のルートを取っていた。

周囲に漂う不思議な気配、自身へと向けられる視線を感じてはいるが、アセムは気にも止めなかった。

 

暫く歩いた後に目的の場所に到着した。

高い崖の上にある小さな山小屋。

壁は丸太で組まれ、屋根には煙突がある。

煙突から見える煙を見てアセムはその人物がいることを確認した。

 

小屋の扉を軽く叩くと、中から入るように促す声が届いた。

老人の声だ。

その声に応じてアセムは小屋の中に入った。

 

「久しいの。まさか生きておったとは驚きじゃい」

 

「運が良かった………いえ、ここまで来てしまえば運命と言うべきだったのでしょうね。というより、彼から僕のことは聞いていたのでしょう?」

 

「まぁの」

 

床に胡座をかいて、茶を啜る白髪の老人。

老人は短パンにタンクトップというラフ過ぎる格好をしていた。

―――――拳神グランセイズ。

アスト・アーデの神にして、一誠の師だ。

 

アセムはグランセイズの前に腰を下ろす。

 

「他の神々に手を出さぬように言いつけましたね?」

 

「なんじゃ気づいておったか」

 

「あれだけ監視されれば誰でも気づきますよ」

 

アセムがこの神々が住まう領域―――――神層階に足を踏み入れたことはグランセイズを含めた上位神は気づいていた。

かつて、多くの神々を屠り、アスト・アーデを無茶苦茶にしたロスウォードの生みの親が帰ってきたのだ。

当然、排除しようと動き始めた神もいた。

だが、それをグランセイズは制したのだ。

 

「バカ弟子から聞いとるわい。えらく、イッセーに執心しとようじゃのぉ。あやつをここへと導いたのはお主じゃな?」

 

数年前、兵藤一誠は神層階に足を踏み入れた。

神層階に踏み入る方法を下界の者は知らない。

仮に知ったとしても、辿り着くまでには多くの障害が立ち塞がる。

当時の一誠の力では辿り着くのは不可能のはずだった。

 

アセムが言う。

 

「彼がここまで辿り着いたのは殆ど彼自身の力。僕の手助けなんて、ほんの少しだけですよ」

 

「そう言うことにしておこうかの。しっかし、お主は随分、あやつを買っておるようじゃの?」

 

グランセイズの言葉にアセムはフッと軽く笑みを浮かべた。

 

アセムは表情を変えると、静かに告げた。

 

「遠くない将来、この世界に脅威が訪れるでしょう」

 

「ほう?」

 

アセムの言葉にグランセイズは片眉を上げた。

アセムは続ける。

 

「来る脅威に対抗するため、あなた方の力を彼に貸してほしいのです。あちらの世界とこちらの世界。二つの世界が手を結べば対抗できましょう」

 

「ふむ………それほどの者が?」

 

「ええ。今のあなたでも勝つのは難しいかと」

 

「そりゃ参ったの」

 

軽い口調で返すグランセイズ。

 

今のグランセイズの実力はロスウォードをも超える。

かつて神層階の神々がロスウォードに敗北してから、生き残った神々は力を伸ばしてきたのだ。

そして、極一部の神々はロスウォードに並ぶまでに力を伸ばした。

 

しかし、前回、ロスウォードが復活した時に対処出来なかったことには幾つか理由がある。

まず、一つ目の理由として、神々の数が昔よりも減ってしまったことが挙げられる。

アスト・アーデにおいて、神は世界を支える柱のような存在だ。

柱が失われた場合、世界は不安定になる。

この世界には強き神もいれば、弱き神もいる。

弱き神だろうと神は神。

仮に再びロスウォードと戦い、その時、弱き神が狙われたら、世界がどうなるか分からないのだ。

 

二つ目の理由は下界で神の力を解放すれば、どのような影響が出るか分からなかったためだ。

相手はあのロスウォード。

強力な神が赴き倒せたとしても、戦いにより下界は無茶苦茶になっていただろう。

 

更に三つ目の理由として、神層階で決められた掟がある。

神の間では信仰の奪い合いが絶えず、かつては下界に降り、自身の力を示す神も多かった。

ロスウォード誕生も元を辿れば、世界の覇権を手にしようと企んだ悪神達の野望からだった。 

無駄な争いや邪な企みを生まないため。

更には下界に降りたロスウォードと交戦し、これ以上、神が失われないようにするため、神達の間で下界に降りることを厳しく禁じたのだ。

この掟は絶対であり、破ることは許されない。

 

グランセイズが深く息を吐いた。

その表情は明らかにめんどくさそうな顔をしていて、

 

「掟を変える必要があると。面倒じゃのぉ。ワシはともかく、頭の固い神が頷くかどうか………。乳はやわこい癖に、頭カッチカチの女神とかおるしのぉ」

 

「フフフ、そこはあなたの手腕に期待していますよ」

 

「えー………ワシ、スケベ動画見ながらゴロゴロしたい」

 

心底嫌そうにするグランセイズにアセムは微笑む。

 

「恐らく、次に彼があなたを訪れる時には僕は存在していないでしょう。だからこそ、あなたに後のことを頼みたいのです。今の神層階を統べる者達―――――アスト・アーデ最高神会《真央の五柱》。その一柱たる武神グランセイズ様にね」

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

国際大会に参戦してから時間が経ち、各地で熱狂が続く中。

試合も回数を重ねているせいか、選手側も運営側も少し落ち着いた表情になってきていた。

それは俺達も同様………まぁ、うちのチームは少々特殊だけど似たようなものだ。

 

少し落ち着いたところで、俺はいよいよ行動を起こすことにした。

それは―――――アセムが構築した世界の調査。

今までは俺の体調のことや大会関係でバタバタしていたので、保留にしてもらっていたが、あまり長引かせるわけにもいかない。

そこで俺はアザゼル先生と相談して、調査チームを組ませてもらった。

今、俺達はアザゼル先生のラボに集まっていて、

 

「はぁい、皆ちゅうもぉく!」

 

「なんで金八先生? なんでカツラ被ってるの!?」

 

カツラを被ったアザゼル先生にツッコミを入れる俺!

なにしてるの、この人!?

 

「教師と言えば金八先生だろ? 一回、やってみたかったんだよ」

 

「そうかもしれないけど! なぜにこのタイミング!?」

 

「そりゃあ、今から遠足………もとい調査に行くんだからな。引率としては当然だろ?」

 

「遠足って言ったよこの人! 違うし!」

 

「腐ったミカンじゃないんです!」

 

「もう黙れよ! 意味わかんねーよ! つーか、腐ったミカンはあんた! 他のミカンを救うために放り出してやろうか! こんのバカちんがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

脈絡の無さすぎるボケにツッコミ続ける俺。

そんな俺達の光景に―――――

 

「流石はイッセー君だ。ツッコミのキレが違う」

 

「僕には無理な領域ですぅ!」

 

「やかましい! おまえらもツッコめよ、ツッコミ要員!」

 

おのれ、木場!

おのれ、ギャスパー!

この場のツッコミを全て俺に投げようとしてやがる!

先日の仕返しとでも言うのか!

 

アザ八先生は放置して、話を進めよう。

今回の調査に参加するのは『D×D』メンバーだ。

俺の眷属、グレモリー眷属、シトリー眷属、加えてヴァーリチームが調査に向かう。

まずは俺達でアセムが構築した世界に赴き、危険がないかを確かめた後で各勢力の研究員を連れていこうという流れになっている。

無論、今回の調査だけで完全に安全かどうかは分からないだろう。

なので、複数回に分けて安全確認を行いつつ、研究員を導入していくつもりだ。

 

「用心するに越したことはない。一応は警戒をしておいてくれ」

 

アザゼル先生の言葉に皆が頷いた。

 

まぁ、ここに来てアセムの奴が敵意を籠めた罠を仕掛けるとは俺も思ってはいない。

ただ、未知の場所に行くということで、一応の注意をしておくだけだ。

 

ヴァーリが訊いてくる。

 

「それで、どうやって向こうの世界に行くんだ? 通路となる『門』は完全に閉じているのだろう?」

 

黒歌がそれに答えた。

 

「赤龍帝ちんが権限持ってるんじゃなかったかにゃ?」

 

アセムは消滅する直前、俺に無断で(・・・)あの世界の権限を譲渡したらしい。

なので、実は俺もその権限をどうやって使うか分からないんだよね。

その事を皆に伝えてみた。

 

「なによそれ。私達、集まり損じゃない」

 

「そうだにゃ。私、今日はゴロゴロする予定だったのにー」

 

「全くだぜぃ」

 

と、アリス、黒歌、美猴の三人からブーイングの嵐。

こいつらサボりたいだけじゃね?

だが、ただ今の話を聞かされれば、それも当然の反応だ。

 

俺は三人を宥めながら言う。

 

「行き方が分からないのに皆を集めるほど俺も馬鹿じゃない。ちゃんと解決策は用意してるって」

 

「解決策?」

 

「そうそう。じゃあ、登場してもらおうか。おい、出てきても良いぞ」

 

物陰に話しかける俺。

すると、暗闇の向こうから突風が吹いた。

風と共に現れたのは―――――

 

「我が名はヴァルス! あらゆる者を見通す最強のレジ打ち!」

 

「我が名はラズル! あらゆる麺を打てる最強の麺職人!」

 

「我が名はヴィーカ! あらゆる家電を愛す最強の家電愛好家!」

 

「我が名はベル。あらゆる………なんだっけ………?」

 

「「「「四人揃って、アセムファミリー! なお、父は死滅、母はいない模様!」」」」

 

ビシッとヒーロー戦隊のようなポージングを決めるヴァルス、ラズル、ヴィーカ、ベル!

そう、解決策とはアセムの子供達であるこの四人だった!

 

それはさておき、とりあえず俺はツッコミを入れる!

 

「いや、おまえら、もうちょい静かに登場してくんない!? ツッコミどころ満載過ぎるわ! つーか、ベル! 自分の口上忘れてるし!」

 

「ん。ベルのキャラじゃない、から?」

 

「だよね! ベルのキャラじゃあないよね! もう一つツッコミ入れて良い? なんだよ、『父は死滅、母はいない模様』って!? なに、複雑な家庭に見せようとしてるの!?」

 

俺のツッコミにヴァルスが顎に手を当てて答えた。

 

「いやぁ、ファミリーって名乗るなら『えっ? 父親と母親は?』みたいな疑問も出るかなと思いまして」

 

ラズルが言う。

 

「一応、『アセム兄弟姉妹』って案もあったんだけどよ。なんか語呂が悪い上に兄弟を先にするか姉妹を先にするかでもめてなぁ」

 

ヴィーカが続ける。

 

「一週間くらい議論した結果、今の形に落ち着いたのよ」

 

「「「「ねー」」」」

 

ダメだ、こいつら。

久しぶりの登場でテンション上がってやがる。

というか、そんな下らないことに一週間も費やしたの!?

 

「ムッ、下らないとは失礼な。我らにとっては重要なことなのですぞ、勇者殿」

 

「うるせーよ。勝手に心を読まないでくれる、ジミー」

 

「グハッ! ひ、酷い………」

 

ズーンと肩を落とすジミーことヴァルス。

こいつ、やっぱり能力と精神が合ってないよね。

 

平常運転のヴァルス達だが、リアス達はそうはいかない。

こちらは目を見開き、四人の登場に目を見開いていた。

 

リアスが言う。

 

「イッセー!? なぜ、彼らがここに?」

 

ソーナも続く。

 

「あの戦いの後、彼らと話をしたことは聞いています。ですが、彼らは全勢力にとてつもない爪痕を残した存在。そう易々と懐に招き入れるような真似はどうかと思いますよ?」

 

ソーナの言うことは最もだ。

アセムの配下が生き残っていること、復活したことは俺達を覗けば各勢力のトップしか知らない極秘事項となっている。

もし、生きていることが広まれば、世界が混乱するのは目に見えているからだ。

 

俺が二人に自分の意見を伝えようとすると、その前にヴァーリが口を開いた。

 

「別に良いじゃないか。彼らからは敵意を感じないし、兵藤一誠やアザゼルがここに招いたということは彼らは協力者として信じられると言うことなのだろう? 少し前の俺達みたいなものだ」

 

「あ、おまえがそれを言っちゃうのね」

 

ロキが襲撃してきた時も、『禍の団』に所属していたヴァーリチームと手を組んだりしたしな。

ヴァルス達とは敵対していて、死闘を繰り広げた仲ではあるが、信用できるところはある。

それに、今回の件はこいつらの協力が必要なのは間違いないことだ。

 

ヴァルスが微笑む。

 

「我々を警戒するのは当然ですし、こうして会うことがあなた方にとって良くないことも分かります。まぁ、ここで信用しろなどとは言いません。我々と手を結べと言うつもりもありません。私達が勝手に協力して、あなた方はただそれを利用しただけです」

 

そんなことを言ってくる。

少し無茶のある論法かと知れないが、俺達には必要なことだ。

 

アザゼル先生が息を吐いた。

 

「後始末は俺がしておいてやる。おまえ達は気にせず調査に向かってくれ」

 

それを聞いてアリスが親指を立てた。

 

「それなら安心ね! 私達がやらかしたことは全部、このおじさんが責任持ってくれるって!」

 

「おい、イッセー! おまえの『女王』はよーく見張っとけ! 何をするか分からんぞ! つーか、流石にそこまで面倒見切れねぇよ!」

 

冷や汗を流すアザゼル先生。

そんな先生にモーリスのおっさんが言う。

 

「ま、そういうことだ。よーし、今日は好き放題やってやろうぜ。皆でアザゼルを泣き顔にするぞー」

 

「おまえら、ドSか!? 俺を苛めてそんなに楽しいか!」

 

「「うん」」

 

「てめぇらぁぁぁぁぁぁ!」

 

なんというか………頑張ってください。

俺にはこの二人の制御は無理です。

赤龍帝眷属の『王』とか主とか言ってるけど、名ばかりなんです。

あれ………なんだか泣けてきた。

 

ギャーギャーと騒ぐ連中を横目に木場が訊いてくる。

 

「ところで、イッセー君はどうやってヴァルス達とコンタクトを取ったんだい? 彼らは各地を回るって言っていたけど」

 

「あー、それな。実はな」

 

俺が答えようとした時、ヴァルスが間に入ってきた。

 

「その件については私から説明しましょう。勇者殿と出会ったのは数日前。壮絶な再会でした」

 

ヴァルスは俺と再会した時のことを語り出した。

 





~あとがきミニストーリー~


イグニス「3ねーん……P組ぃぃぃぃ!」

一同「イグニスせんせぇぇぇぇぇ!」

イッセー「どこから出てきた、この一同!? つーか、3年P組ってなに!? アウトじゃないけど、限りなくアウトに近いよね!?」

イグニス「少子化が解決された世界よ!」

アザゼル「冥界の少子化解決は頼んだぞ、イッセー」

イッセー「俺一人ですか!? そんな無茶な!?」




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2話 伝説の配管工

[三人称 side]

 

その日、ヴァルスはラズル達と別れ、一人で別行動を取っていた。

それはある情報を仕入れたからだ。

ヴァルスは急ぎ足で道を進みながら、自身の装備を確認する。

 

「全て揃っていますね。後は状況次第といったところでしょうか」

 

準備は念入りに行ったのだ。

たとえ、そこに何が待ち受けていようとも失敗は許されない。

歩みを進める中、ふいにアセムの言葉が脳裏に過る。

 

『ヴァルス。僕がいなくなった後は、君が三人を引っ張っていくんだ。長男なんだしね』

 

父アセムと交わした最後の言葉。

アセムは己の全てをかけて、二つの世界の未来を守ろうとした。

強引過ぎるやり方だったのは間違いない。

秘術を使い、あの戦いで命を落とした者達を蘇生させたとはいえ、多くの人々の心に傷を残したのも確かだ。

恨まれても良い、世界から拒絶されても、自らが滅びようともアセムは未来を守るために動いたのだ。

 

そのアセムが、偉大なる父が自分に弟妹を託して逝った。

ならば、自分も覚悟を決めるしかないだろう。

この先、何が起きようとも家族を守る。

父の意思を継ぎ、二つの世界を守ってみせる。

 

ヴァルスは己のやるべきことを見定め、情報にあった場所に辿り着いた。

そして―――――目の前に広がる光景に驚愕した。

 

「よもや既にここまでとは………!」

 

嫌な汗が流れた。

心臓の鼓動が速まり、今が危機であることをヴァルスな告げる。

 

それらは既に群れと化していた。

十数………いや、もっといるだろう。

何かに群がり、狂ったような声をあげている。

あまりの光景に思わず後ずさった程だ。

 

ヴァルスは頭を振って、生じた恐怖を振り払った。

 

「ここで怯んでいるようでは話になりませんね。ここで行かねば、次はないのだから………!」

 

ヴァルスは足に力を籠め、飛び出した。

全ては父の意思を継ぐため。

大切な家族を守るため―――――

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ! もやし一袋一円んんんんんんんんんッッ!」

 

カートに群がる主婦達にダイブするヴァルス!

どんな戦闘民族よりも戦闘民族なセール時の主婦達の戦闘力は神をも超える!

 

「くぅぅ! 心が読みきれない!」

 

相手の心の内を読む能力を発動しても、聞こえてくるのは主婦達の燃え尽きることのない闘志のみ。

一瞬先の未来を見たとしても、主婦の肘打ちが自分の頬にめり込む未来しか見えてこない!

それでも、ヴァルスは諦めない!

 

「この戦いに私達の未来(今晩の食事)がかかっている! 絶対に負けられないのです!」

 

本日の標的。

一袋一円のもやし、一パック百円の牛肉、ベルのおやつ、その他。

ルーレットで自分が買い物係りに任命された以上、何がなんでも食材は手に入れなければならないのだ。

 

果敢に立ち向かうヴァルス。

だが、この場において、主婦達の方が戦闘力は高かった。

分厚い肉の壁がヴァルスを弾き、容赦のない肘打ちがヴァルスの鳩尾を撃ち抜く!

 

「ぐぼお!?」

 

体の芯に響く一撃!

あまりの衝撃にヴァルスは膝を着いた。

 

想いの籠った一撃は相手の魂にまで響くという。

この戦況下、主婦達の拳にはあらゆるものを打ち砕けるほどの想いが籠められていた。

 

「定期的に開かれる大安売り………話には聞いていましたが、これ程のものとは………! だが! この『覗者』ヴァルスを舐めてもらっては困り」

 

「もう! 邪魔よ!」

 

「ぶべらっ!?」

 

突き飛ばされ、床に伏せてしまうヴァルス。

絶対的な戦力差が、自分の非力さがヴァルスを追い詰めた―――――その時。

 

「「………なにしてんの?」」

 

「ほへ?」

 

これが兵藤兄妹とヴァルスの再会だった―――――。

 

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

「「「「散々引っ張ってどんなオチだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」

 

「ぐぶぉあ!」

 

ヴァルスの話が終わった直後、木場達の飛び蹴りが炸裂した!

木場が叫ぶ。

 

「どこが壮絶な再会!? ただ買い物で出会っただけじゃないですか!」

 

匙が続く。

 

「語りが長いんだよ! 二行で終わる話だったじゃねーか!」

 

その横ではソーナが眼鏡をくいっと上げながら呟いていて、

 

「彼をそこまで追い詰めた主婦の方々のパワーに驚きです」

 

そこか!

君が気になるのはそこか、ソーナ!

確かに、悪神の眷属をものともしないセール時の主婦の戦闘力は驚異的だと思うけども!

 

流れる鼻血を抑えながらヴァルスが言う。

 

「あ、あれほどの戦闘力。もしかしたら、主婦の方々の力を合わせば、いずれ来る脅威も何とかできるかも………」

 

「主婦のパワー半端無さすぎだろうが!」

 

「もしかしたら、今後、世界を動かしていくのは神や異形の者達、人間ではなく―――――主婦かもしれない」

 

「主婦の人達、人間扱いされてないんですが!?」

 

「もういっそのこと、主婦という種族を作ってもいいのかもしれない」

 

「「どんな種族!?」」

 

ヴァルスのボケと匙&木場によるツッコミの応酬。

アザゼル先生が俺に訊いてくる。

 

「おまえはツッコミしなくても良いのかよ?」

 

「大丈夫です。もうしましたから」

 

「このやり取り、まさかの二周目!?」

 

実は木場と匙のツッコミは俺と美羽が一回やっていたりする。

なので、この件に関して、俺はツッコミを入れない。

 

俺は大きく咳払いした。

 

「とにかくだ。この先の調査はこいつらの力は必要なんだ。思うところはあると思うけど、今は呑み込んでほしい」

 

モーリスのおっさんが続く。

 

「こいつらが悪さをしようとしたら、そんときゃ、止めてやるよ。俺と相棒―――――『草津』と『熱海』がな!」

 

「イヤァァァァァ! 私の木刀返してぇぇぇぇぇ!」

 

涙目になるリアス!

ごめん、リアス。

ヴェネラナさんに木刀を返さないよう約束してるから、俺も手を貸すことは出来ないんだ。

もし、何がなんでも取り返したいなら………

 

「力ずくで奪ってみな、将来有望な若手悪魔様よ。俺を倒したなら、返してやらぁ」

 

「グスンッ………イッセェ………」

 

潤んだ瞳で見てくるリアス!

そんな目で俺を見ないで!

こればかりは俺にもどうしようもないんだ!

ヴェネラナさんにも言われてるし!

約束を破った時のことを考えると、後が怖すぎるんです!

 

 

 

 

 

ヴァルス達のことを認めてもらったところで、話を進める。

アザゼル先生がヴァルスに尋ねた。

 

「それで? アセムの世界に行くために、イッセーは何をすれば良いんだ?」

 

アセムの眷属であった四人でも、あの世界について知っているのはヴァルスのみらしい。

そもそも、あの戦いで決着がついた後、アセムの秘術で皆を生き返らせるという計画もヴァルスしか知らなかったようだ。

というのも、他の三人が計画のことを知れば顔に出てしまう………とのことだった。

この四人の結束というか、家族愛が強いのは見ていえ分かる。

ラズルなんてアセムの計画を事前に知っていれば、全力で反対しそうだしな。

 

アセムから全てを聞かされているヴァルスが皆に言う。

 

「父上が作り出した世界。ここは『境域世界』とでも名づけておきましょう。あそこはこの世界とアスト・アーデの中間地点に作られた世界ですから。知っての通り、あの世界への入り口は既に閉じており、それを開くことが出来るのは現状、勇者殿ただ一人です」

 

「現状? まさか、他の者でも世界の門を開くことが出来ると言うのか?」

 

アザゼル先生の問いにヴァルスは頷く。

 

「現に父上は勇者殿に権限を譲渡していますからね。勇者殿が望めば可能でしょう」

 

なるほどな。

俺もアセムがしたように、他者に権限を譲渡することが出来るってことか。

渡すとすればアザゼル先生………いや、あんまり簡単に決めていい話じゃないな。

これだけ大きいことになると、各勢力に話を通しておく必要があるだろう。

そうなると、今は俺が管理しておくのがベストか?

 

納得している俺にヴァルスが言う。

 

「門を開くに当たり必要なのは強く念じることです。まずは自身の内側に意識を向けてみてください。父上の力の波動を感じられるはずです」

 

言われた通りに俺は自身の内側に意識を向ける。

感覚で言えば、神器に潜る時と似たようなものだ。

少し経つと、目の前に真っ白な空間が広がった。

その空間の真ん中には鍵のようなものが浮いている。

 

こいつが、アセムが俺に与えた権限………か?

鍵から感じるのはアセムの波動だし、あいつが俺に施した何かであることは間違いないないとおもうけど。

 

俺はその鍵を手にして―――――

 

「………ッセー………イッセーってば!」

 

「っ! な、なんだよ!?」

 

突然、アリスに肩を叩かれ、俺は意識を戻した。

何事かと思う俺だったが、理由はすぐに分かった。

 

―――――目の前に佇む巨大な門。

鈍い銀色の輝きを放つそれは、この研究室の天井に届いていて………

 

「うぉい!? 天井にめりこんでんだろうが! やめろ! 俺のラボを破壊するつもりか!?」

 

届くどころか完全に突き破っていた。

アザゼル先生が悲鳴をあげる。

 

「ちょ、マジでやめて! あの戦いで重要な研究資料は燃えちまったんだからよ! これ以上、失ったら研究が進められん! 小さく! もっと小さくしろ、イッセー!」

 

そんなこと言われても、出した俺もどうやれば良いのか分からないんですけど。

そもそもどうやって出てきたのかすら理解してないのに。

 

そんなことを思いながら、俺は扉に手をかざし、とりあえず念じてみることにした。

すると、現れた門に変化が起こる。

 

 

メキメキメキメキ…………

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! デカくしてどうすんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

「あ、いっけね」

 

「『いっけね』じゃねぇだろ、おい! おまえは俺に恨みでもあるのか!?」

 

「思い当たる節はいくつか」

 

「そうだな! 俺もいくつか心当たりあるわ! ちくしょうめ!」

 

 

ゴゴゴゴゴ………

 

 

「おいおいおいおい! 扉が開こうとしてるぞ! この状態で開くな! 分かった! 俺が悪かった! 全部俺が悪かったから! 頼むから小さくしてから開いてくれぇ!」

 

崩壊していく研究室に慌て、叫ぶアザゼル先生。

 

………なんだろうな。

今までこの人には色々なことをされたからか、少し楽しい。

もっと門を大きくしてから開いてやろうか、そんなことすら思えてしまう。

 

朱乃が呟く。

 

「イッセー君、凄くSな顔をしていますわ」

 

「ああ。あのイッセーを見ていると、体が熱くなってしまう………。どんなことをされてしまうのだろう」

 

ゼノヴィア、おまえはどこに向かってるんだ。

 

今の騒ぎで足元に散らばる資料の数々。

その内の一枚を手にして、レイナがアザゼル先生に訊ねた。

 

「………『超魔力合体マオウガー三号機』ってなんですか?」

 

「………」

 

無言のアザゼル先生。

レイナから顔を反らし、滝のような汗を流している。

 

そんなアザゼル先生にレイナは坦々と言葉を投げ掛ける。

 

「前々から資金の一部が謎の使われ方をしていましたが、なるほど」

 

「………」

 

「三号機ってなんでしょう? 一号と二号はどこにいったんですか?」

 

「………」

 

黙秘を続けるアザゼル先生。

だが、沈黙は是だ。

あの資料がレイナの手に渡った時点で決着は着いていた。

 

レイナはニッコリ微笑んで、俺に言う。

 

「その扉、思いっきり開けちゃって☆」

 

「一号と二号は世界の果てに飛んで行ったんだ! 本当、勘弁してくれ!」

 

とまぁ、マオウガーのことは置いて話を先に進めよう。

なお、アザゼル先生はこの後、シェムハザさんを交えてお説教タイムが来るとのことだ。

 

俺はヴァルスに教えてもらいながら、なんとか現れた門の調整に成功する。

今は天井にギリギリ届かないくらいの高さになっているため、これ以上、アザゼル先生の研究室を破壊することはないだろう。

 

俺は一度、皆と視線を合わせると、扉に手を翳した。

そして、開くように念じる。

俺の念じに応じた扉は再び重たい音を部屋に響かせながら開いていく。

扉の隙間からは白い光が―――――。

 

「これは………」

 

誰かが言葉を漏らした。

 

扉を通じて繋がった世界は確かにあの激闘が繰り広げられた世界なのだろう。

しかし、そこは既にあの血のような世界とは大きく異なっていた。

 

青い空に白い雲。

 

広がる草原。

 

優しく吹く爽やかな風。

 

空に幾つも浮かぶ黄金に輝くコイン。

 

草木の横に生える巨大なキノコ。

 

地面から生えた緑色の土管。

 

そうか、アセム。

この世界って―――――

 

「「「ただのスーパーマ○オだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」」」

 

激戦が繰り広げられた地に、俺達のツッコミが帰ってきた。

 

 

 




テデッデ デデッデ デーン


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3話 海賊版を許すな

「何が世界を作り替えてるだ!? ただパクってただけだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

なんでコインが浮いてんだ!

なんで見覚えのあるキノコが生えてんだ!

世界を作り替えるってこういうことだったの!?

 

俺はヴァルスの頭を鷲掴みして言う。

 

「おいコラ。こちとら色々忙しい中、来てるんだぞ? なんでスーパーマ○オ? なんでスーファミの世界になってるわけ?」

 

「い、いえ、それを私に言われてもですね………。まぁ、あれです。いつものやつです。父上の茶目っ気ですな!」

 

「いらんわ、こんな茶目っ気!」

 

「あうっ!? 勇者殿!? あ、頭が! 頭が割れそうです! 誰かヘェルプ! 木場殿!」

 

「なんで僕を指名するんですか!?」

 

「ほら、昨日の敵は今日は味方ってことで! 私達も剣を交えた仲ではないですか!」

 

ヴァルスの言葉に、後ろで黙っていたモーリスのおっさんが反応した。

 

「最終的にやり合ったの俺だけどな。祐斗が倒したのはおまえさんの分身とやらじゃなかったか?」

 

「もう剣聖殿でも誰でも良いからヘェルプゥゥゥゥゥ!」

 

涙目で叫ぶヴァルスに手を差しのべる者はいなかった。

 

とりあえず、スッキリするまでヴァルスを泣かせた後、俺は改めてスーパーマ○オと化した世界を見渡した。

俺達が門を潜って出た場所は小高い丘の上。

ここからは辺り一面を見渡せる。

パッと見は山あり谷あり、草原ありの緑豊かでのどかな場所だ。

昔、ライトに連れて行かれた、あいつがお気に入りの場所を思い出させるそんな光景でもある。

アセムと最後の戦いをした時とは真逆で、あの時のような不気味なおどろおどろしい雰囲気はどこにもなく、ただただ静かな、平和な世界。

これは希望ある未来を望んだアセムの心の内を表したものなのだろう。

だが―――――

 

「マジでふざけてるわね。あの悪神様、一発殴りたいんだけど」

 

俺の隣でアリスが拳を構えて呟いた。

アリスの視線を辿った先には宙に浮かぶ茶色いボックスがあり、側面には『?』と書かれている。

 

美猴が言う。

 

「下から頭突きしたらアイテム貰えんじゃね?」

 

出てきたとしても、ろくなもんじゃないだろう。

 

「アセムの心の内を表した世界、か。これ、あいつの余計な内面も出てるよな?」

 

アザゼル先生の問いにヴァルスが未だダメージが残るこめかみを押さえながら答えた。

 

「そういえば父上は生前、スーパーマ○オにはまっていたような………。父上は最近の映像が綺麗なゲームよりも昔のドット派だったので」

 

「気持ちは分かる………が、それとこれは別問題だろ」

 

「父上は色々なものに手を出していましたからね。それで真相心理にも影響があったのでしょう。えーと、ゲーム、アニメ、映画にプラモデル。あとはネットサーフィンしてそれから―――――」

 

「遊んでばかりじゃねぇか!」

 

あの野郎、こっちが異世界関連の仕事で必死になってるときに遊んでやがったな!?

うちの眷属が忙しくなったの、大半があいつのせいなんだぞ!?

 

俺は拳を構えて言う。

 

「よし、とりあえず一発だけ殴らせろジミー。おまえ、色々と託されたんだろう? じゃあ、このイライラも託されてくれよ」

 

「そんなもの託された覚えがないのですが!? それは父上に言っていただかないと! というかですね、私に手を出したら知りませんよ!? ベルたんが黙っちゃいませんよ!? 最強のロリッ娘の力、再びその目に焼き付けてあげましょうか!」

 

などと言い、ヴァルスはベルの方へと視線を向ける。

ヴァルスの視線にベルは、

 

「しゅぴー………」

 

ヴィーカにおんぶされたまま熟睡していた。

 

ヴィーカが苦笑する。

 

「話が長くて寝ちゃったみたい」

 

「ベルたんんんんんんんんん!」

 

ガクッと膝を落とし、地面を叩くヴァルス。

どうやら、あの長く無駄な回想が災いしたらしいな。

本題に入るまでに時間をかけ過ぎたせいで、最強のロリッ娘は夢の世界に旅立ってしまった。

 

俺はヴァルスを嘲笑うように言う。

 

「フッ、二行で済ませられる話を長々語ったその罰だな」

 

「良いじゃないですか、長々語っても! 久し振りの登場なんですから、私にも語らせてくださいよ!」

 

「最近、ツッコミばかりでもう疲れてんだよ。これ以上、ボケを増やされてたまるか」

 

もうね、これ以上ボケを増やされたら捌ききれないんだよ。

おまえが口を開いても、どうせボケまみれなんだろう?

もう、口にチャックつけて基本は黙っててくれない?

 

「酷い! 私を何だと思っているのですか! 利用するだけ利用して、あとはポイですか!?」

 

「えっ、利用するだけ利用しろって言ったのおまえじゃん」

 

「そうだったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

「さらば、ジミー。また会う日まで」

 

その後、ヴァルスの悲鳴がこの境域世界に響いたのだった。

 

 

 

 

「さ、さて、落ち着いたところで調査と参りましょうか」

 

涙目のヴァルスを先頭に俺達は境域世界の探索を始める。

作り替えられたこの世界に何が存在しているのかはヴァルスにも詳細は分からないらしい。

 

辺り一面に広がる草原を見渡しながら、アリスが言う。

 

「何もないんだけど。ここ、ホントに重要拠点になり得るの?」

 

ソーナが言う。

 

「いずれ来るという邪神との戦いの場として用意したのなら、逆に何もない方が良いと考えたのかもしれませんね。話を聞く限りでは、先の戦いよりも規模が大きくなるかもしれませんし」

 

「考えたくないわね」

 

その意見にリアスは額に手を当てて、深く息を吐いた。

あの戦いは文字通り、世界中を巻き込んだ。 

アセムが復活の術式を発動していなければ、ここまで平和な日常はなかっただろうし、国際大会なんてものを開催する余裕なんてなかっただろう。

 

熟睡するベルを背負ったヴィーカが言う。

 

「お父様のことだから、何も無いってことはないと思うけれど」

 

「それはシリアスなやつ? ブレイクするやつ?」

 

「どっちもじゃない?」

 

どっちもあるのかよ!

まぁ、俺もそんな気はしてたけどね!

そもそも既にスーパーマ○オな世界だったしね、ここ!

 

「………」

 

「どうしました?」

 

レイヴェルが小猫ちゃんに問いかける。

振り向くと、小猫ちゃんはある方向をじっと見ていて、

 

「レイヴェル、知ってる? スーパーマ○オではキノコを食べると大きくなれる」

 

「っ! まさか、あのキノコは!」

 

「そのまさか。あれを食せば私達は大きくなれる可能性がある」

 

いやいやいや、ちょっと待とうか二人とも!

ゲームではそうだったけども!

あんなキノコ拾い食いしちゃダメだって!

きっと腹壊すよ!?

 

すると、美羽が、

 

「火を通せばいけるかもよ?」

 

「美羽はなんでフライパン持ってるの!?」

 

「お兄ちゃんの醤油もあるし」

 

「さっさとまともな義手作ってくれませんかね、アザゼル先生!」

 

醤油が絡むシーンになるといじられるのもう嫌なんですけど!

醤油でいじられる赤龍帝って歴代で初じゃないの!?

 

アザゼル先生が言う。

 

「乳でパワーアップする赤龍帝なんだし、義手から醤油を出す赤龍帝も良いだろ。なーに心配するな。今度は波動砲が撃てる義手を作ってやる」

 

「そんな無駄機能はいらん!」

 

「乳首からビーム撃つスイッチ姫もいるし、義手からビーム出すおっぱいドラゴンがいても良くね?」

 

「全然良くないんですけど!?」

 

先生がそんなこと言うもんだから、リアスもアリスも顔伏せちゃったよ!

まともに前見られなくなってるよ!

お願いだから、チクビームの件は触れないであげて!

 

俺が二人のフォローに回ろうとしていると、探索メンバーの誰かが声をあげた。

 

「あれはなんでしょう? ドーム……?」

 

その声に皆がある方向に視線を向ける。

視線の先には白いドームのような建物が一つだけあった。

建造物には特にこれといった装飾はなく、シンプルな形状をしている。

ただ………

 

「でけぇ………何メートルとかで済むか、あれ?」

 

匙の言うようにただただ大きい。

今、俺達がいる場所から建造物まではかなりの距離がある。

それなのに目の前にあるかのような錯覚を起こすほど、それは巨大だった。

 

アザゼル先生が言う。

 

「あれがこの世界の中心、俺達が目指す場所ってことで良いのか? あの神様のことだ、何かしらの機能はあるんだろう?」

 

ヴァルスがその意見を肯定する。

 

「恐らくは。詳細は実際に見てみないと分かりませんが、私の考えが正しければ、あれは――――」

 

なにか心当たりがあるようだな。

これまでの流れで、もう帰りたくなっていたメンバーも真剣な顔つきになる。

 

「行こう」

 

俺達は互いに頷くと、ドームを目指して歩き始めた。

 

ここまではスーパーマ○オの世界だったが、これからが本番。

あそこにはあるはずだ。

俺達の世界とアスト・アーデを守るため、いつか来る敵を迎え撃つために用意したなにかが。

アセムが俺達に託したものが―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

《おっぱいドラゴン、はっじまるよー!》

 

《おっぱーい!》

 

 

 

白いドームに入った俺達を迎え入れたのは「おっぱいドラゴンの歌」だった。

高い天井を見上げると、そこには巨大なモニターがあり、おっぱいドラゴンになった俺が子供達と踊るシーンが流れている。

 

「「「………」」」

 

無言のまま右手側を見ると、おっぱいドラゴンの等身大フィギュアが並んでおり、テレビで放送されていた幾つかの形態(今のところ天武、天撃まで)もあった。

向こうにはジオラマがあり、木場が演じる敵役『ダークネスナイト・ファング』との激戦をこれまでかと再現していた。

爆炎から火花といったエフェクト、鎧や剣についた汚し表現も見事なものだ。

左手を見るとおっぱいドラゴン関連のグッズがあり、綺麗に飾られていた。

 

「「「………」」」

 

皆の顔を見ると目が点になっていて、ヴァーリだけが「ほぅ」と辺りを見渡していた。

 

うん、分かるよ皆。

言いたいことは凄く良く分かる。

だけど、ここは俺に任せてほしい。

ここは俺が責任を持ってツッコミをしよう。

俺は深く息を吸って――――――

 

「おっぱいドラゴンの展覧会じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!」

 

ここまで来てなんで、おっぱいドラゴンの展覧会!?

なんで、おっぱいドラゴンが流れてんの!?

なんで、グッズが並べられてんの!?

なんで、販売されてない等身大フィギュアが飾られてんだぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

俺はヴァルスのこめかみを掴み、ドスの効いた声音で言う。

 

「おい、マジいい加減にしろよ? 俺達、この世界の調査に来たんだぞ? 展覧会に来たわけじゃないんだけど? つーか、なんだこの品数は? おっぱいドラゴン関連グッズコンプリートしてるじゃねーか」

 

「いやいやいやいやいや、それは私に聞かれても困ります! 父上の趣味ですからね、これ! 私無実無関係! 冤罪ですよ!?」

 

無実を主張するヴァルス。

すると、横にいたアリスがとある物を指差した。

 

「へぇ、じゃああれなに?」

 

アリスが指差したのは1/1ジオラマの一つ。

敵と戦うおっぱいドラゴンのワンシーンを切り取ったものだ。

その作品カードを読んでみると、

 

『爆煙の表現に拘りました! 製作者:ヴァルス』

 

なんてコメントが書いてあった。

 

「どう見ても有罪だろ」

 

「いえいえいえいえ! 作っていたことは認めますが、ここに展示したのは父上ですよ!?」

 

作っていたこと認めやがったぞこいつ。

俺達がテロ対策だの、異世界関連の資料作りだので忙しいときに渾身の一作を製作してたってか。

 

「………ふざけないでください」

 

低い声音で言葉を発したのはレイヴェルだった。

レイヴェルは肩をワナワナと震わせながら、ヴァルスにゆっくり詰め寄る。

あまりの迫力にあのヴァルスでさえ気圧されそうになっていて、

 

「マネージャーたる私に無許可で展覧会を開くなんて許せませんわッ!」

 

「いや、そっちぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

レイヴェルの言葉に続いて、俺のツッコミがドームに響く!

レイヴェルが怒ってるのそこ!?

 

レイヴェルは鋭い視線をヴァルスに向ける。

 

「だいたいなんですの、あのフィギュアは? あのような商品はまだ販売されていないというのに、どうしてここにあるのですか? まさか海賊版として販売しようとしていた、なんて仰るつもりではないでしょうね?」

 

海賊版!?

レイヴェルの口からそんな単語が飛び出てくるなんて!?

 

レイヴェルの身体から魔力が吹き出し、彼女の背後に炎を纏う不死鳥が現れる。

そんな彼女の横にもう一人、物騒な魔力を纏う者がいて、

 

「全くね。おっぱいドラゴンの版権はグレモリーにあるの。こんなこと、お母様に知れたらどうなるか」

 

リアスまでこんなことを言い出しちゃったよ!

確かにそうなんですけど!

ヴェネラナさんに知れたらえらいことになりそうだけども!

 

並び立つ版権元の関係者に睨まれ、ヴァルスは真っ青な顔で手を振った。

 

「ち、違います誤解です! あれはあくまで趣味の範疇で製作したものでして! 決して、営利目的のものではございません!」

 

「それともう一つになることが。これだけの商品を、しかも同じ物を買い込んだりして………。もしや、今、人間界で流行している転売をしようとしているのでは!」

 

リアスが言う。

 

「そういえば、そんなことをやっている人達もいるようね。お母様も冥界で同じことが起きないように対策はすると言っていたわ」

 

転売!?

おっぱいドラゴングッズで転売が危惧されるようになるなんて思ってもなかったよ!

 

「そ、そのような事は一切考えていません! ヤ○オクだのメ○カリにも出品したことも、することもありません! ファンとしての矜持………私のおっぱいドラゴン愛に誓いましょう!」

 

どこに誓ってるんだよ!?

おまえら、ホンット自由奔放だな!?

 

ヴァルスの言葉にレイヴェルは小さく息を吐く。

そして、

 

「その言葉が偽りであった場合―――――」

 

レイヴェルの眼光が光り、

 

「版権元として、あなたを徹底的に業界から葬りますわ」

 

「ひっ!?」

 

どうしよう、なんか俺まで怖くなってきたんですけど!

うちのマネージャー半端ねぇ!

あの悪神の眷属が震えるほどのプレッシャーを放ってるんだもん!

 

「………」

 

不意に後ろを見ると、アザゼル先生が滝のような汗を流していた。

 

「先生、まさかと思いますが」

 

「やってないやってない! おっぱいドラゴン商品で個人的に儲けようとか一切考えてないって!」

 

その後、レイヴェルの追及はアザゼル先生にまで及んだ。

 

 

 




~あとがき~

木場「モーリスさん、時代劇にはまってるんですか?」

モーリス「リアスに薦められてな。最近はよく見てるんだよ。ああいう台詞は言ってみたいもんだ」

木場「台詞? それってどういうのです?」 

モーリス「――――安心せい、袈裟斬りじゃ」

木場「安心できる要素ないんですが!? 峰打ちの間違いですよね!?」

モーリス「角さん、助さん、滅多打ちにしてあげなさい」

木場「御老公、そんな物騒な台詞言いませんが!?」

ゼノヴィア「この聖剣エクスカリバーが目に入らぬかー」

木場「ゼノヴィアもボケる、だと…!?」


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4話 再会

 

散々ツッコミをくらったヴァルスは強く咳払いして、場を改める。

 

「コホン! ………とまぁ、展覧会はまた後程に楽しむとして」

 

「おいコラ」

 

あれだけボケを撒き散らしといて、まだボケたいのか。

つーか、おまえ達ってお尋ね者になってもおかしくないからね?

俺達が黙ってるから、各勢力に生存を知られてないだけだからね?(各勢力のトップ陣に情報は伝わっているが)

 

アザゼル先生が言う。

 

「これだけでかい場所なんだ。おっぱいドラゴンの展示コーナーだけで終わるってことはないだろ。ここはほんの一角ってことだ」

 

確かにこの展示コーナーも相当な広さではあるが、外から見たあのドームの大きさを考えると、ほんの僅かな空間だろう。

東京ドーム何個分とかの規模だしな。

だから、アザゼル先生の言う通りだと思う。

というか、その通りであってくれ!

お願いだから!

 

いきなりズッコケてしまったが、流石に帰るわけにもいかないので、先に進むことにした。

ここまでグダグダなためか、皆の空気も緩んできている。

しかし、この空間を出た後、俺達は呆気に取られることになる。

 

「マジか」

 

ポツリと言葉が漏れた。

俺達を出迎えたのは先の部屋よりも遥かに広大な空間だ。

いや、空間というよりは一つの町と言うべきだろう。

立ち並ぶ大小様々な建造物、広場らしき開けた場所、そして中央には巨大な城が佇んでいる。

その光景はまるでアスト・アーデで見た城下町のようだ。

 

ヴァーリが上を見上げる。

 

「あれは太陽か?」

 

ここはあの白いドームの中だ。

本来ならドームの天井があるはずだ。

しかし、見上げた先には太陽が眩しいほどに町を照らしている。

 

アザゼル先生が言う。

 

「内側から見ると外の光景が見えるのか。それともドームに空を映し出しているのか。どちらともありえるか」

 

リーシャが太陽に向けて掌を翳す。

 

「屋内のはずですが………熱を感じますね。それに風も。これは外部から取り込めるようにしているのでしょうか? でも、そうなるとあの天蓋は? 特定のものだけを選択できるようにしているとなると――――」

 

「アセムのことだ、レーティングゲームの技術も活用してるのか? いや、しかしそれにしては―――そうなると、あれは――――」

 

「なるほど。あの神の力であれば――――と――――」

 

ぶつぶつと呟いて自身の中で思考を巡らせていくリーシャとアザゼル先生。

 

オーディリアにいた頃、リーシャは魔法学校の教師であったと同時に技術屋でもあった。

術式というソフトの面から、魔法を行使するための道具というハード面まで。

特にハード面に強く、部屋に籠っては何かしら弄っていることが多かった。

そんな気質だからかアザゼル先生とも結構気が合ってたりする。

俺達の世界に来てからは先生の研究室に入り浸ることも多々あるほどだ。

 

「これは調査のしがいが出てきましたね」

 

うん、すんごく目を輝かせてるよね。

この場所の調査は捗りそうだ。

 

リアスが言う。

 

「ひとまずはあそこを目指すということで良いのかしら?」

 

リアスが指差すのは町の中央に建つ巨大な城。

恐らく、あの城がこの境域世界の本当の中枢になるのだろう。

ドームはあくまでこの町を囲む城壁ってところなのかね?

いや、先程の二人の会話を聞くにあのドームにも色々と仕掛けがありそうだ。

 

他にも見るべきところはあるかもしれないが、リアスの言う通り、まずは目立つ城を目指すことにした。

俺達は城へと通じる大通りらしき道を進みながら周囲を見て回る。

石と木で造られた家屋に、石畳の道。

流れる川に、漂ってくるこの香り。

どこか懐かしさを感じさせるここは、見れば見るほどアスト・アーデで見た町並みにそっくりだ。

 

だが、町とは言ったものの、当然ながら人なんて住んでないし、そのような痕跡もない。

一言で言えばハリボテの町だ。

だけど、綺麗に整えられたこの場所は住もうと思えば問題なく暮らせるだろう。

 

アセムは何を思ってこんな場所を作ったのか。

俺に管理権限を渡してきてるし、ここに住めってことなのかね?

 

ヴァルスが言う。

 

「これは………父上の趣味ですね」

 

「趣味にしては気合い入れすぎじゃね!?」

 

「凝り性でしたので」

 

「聞いてねーよ!?」

 

確かにそういう奴だったけどな!

 

アザゼル先生が言う。

 

「ここが二つの世界間の中間地点というのなら、拠点として、生活可能な機能を付与したと言うのはあり得る話だ。いずれ来るだろう連中との戦いが長期に渡るなら尚更な。トライヘキサとの戦いだって、元々は数百年以上かかると踏んでいた。だから、隔離結界領域に入った後は物資を送ってもらう手筈だったんだよ」

 

隔離結界領域、か。

アセムがトライヘキサを取り込んだことで、使うことがなかったけど、本来ならアザゼル先生達はそこに入ってトライヘキサが消滅するまで戦い続ける予定だったんだ。

外部から物資を送ってもらわないと戦おうにも戦えないか。

 

アセムは長期戦を見据えて、こんな場所を作ったかもしれないと。

考えたくもないが、備えは必要ってことだな。

境域世界もかなり広大だし、この場所以外にも似たような場所を作るのもありだろう。

 

「………?」

 

違和感を感じた俺は足元にふと視線をやる。

気になり、石畳に手を置いて違和感の正体を探ってみた。

 

境域世界に踏み込んでから感じていたが、何かが地中を動いている。

この場所に来てからは特にだ。

ここは流れているといった方が良いのか?

魔法的な何かではなく、もっと自然な感じ。

俺達の世界で言うならこいつは――――。

 

俺の思考に続くようにヴァルスが言う。

 

「龍脈ですね。父上のことです。ただ場所を用意しただけでなく、土地自体に何かしらの力を持たせているのでしょう」

 

龍脈は大地における力の流れだ。

巨大なエネルギーを有しており、大小あれど流れる土地には様々な恵みがあったりする。

更に龍脈を利用して凄まじい効果を発揮する技や術式なんてものも存在する。

かく言う俺が使う錬環勁氣功だって、自然の気を取り込んで爆発させて自身の力に変えていたりする。

 

自然の力ってのはそれだけに大きく、強い。

で、アセムはそんな力を作りやがったと。

龍脈そのものを作るとかどういうこと?

いやね、世界創造なんてしてるから、出来るんだろうけども、ホントに無茶苦茶な奴だよ。

チートだよチート。

 

だけど、そんなチートっぷりを楽しんでる男もいてだな、

 

「レーティングゲームのようにただフィールドを作るだけに止まっていないか。とことん規格外の神だな。なんとか復活させられないだろうか? また戦ってみたいものだな」

 

好戦的な笑みを見せるヴァーリ。

 

「どれだけバトルマニアなんだよ、おまえは。あの戦いで散々やりあったじゃん」

 

「美味しいところは君が持っていっただろう? もし、叶うなら今度は俺一人で倒してみたいのさ。あれほどの高みだ。やりがいはあるだろう」

 

こいつも変わらないもんだね。

俺は嫌だからな、あいつと戦うの。

だって、すぐボケ空間が始まるじゃん。

 

『そこなのか』

 

ドライグさんよ、俺がどんだけツッコミしたと思ってるの?

アセムはボケるは、モーリスのおっさんもボケるは、あげくイグニスもボケて大変だっただろ。

 

『………そう、だな。相棒も禁手化(シリアスブレイク)などと叫ばなくて済むか』

 

マジで勘弁してください。

 

ヴァーリがアザゼル先生に言う。

 

「それにアザゼルもあの神とは話したいことがあるだろう」

 

不敵に言うヴァーリとは対照的にアザゼル先生は少し嫌そうな表情を浮かべる。

 

「あいつの持ってる技術には興味はあるが………。復活したらしたで、厄介なことになりそうだ」

 

オーフィスを匿う時も苦労してたっけ。

仮にアセムが復活したとして、戦うことはなさそうだけど、その時は―――――

 

 

~アセムが復活した世界~

 

 

アセム「やっほー! 皆大好き、アセム君でーす! あっ、レーティングゲーム国際大会? 面白そうじゃん、僕も混ぜてもらおっかな~♪」

 

イッセー「えっ、ちょ待っ!?」

 

アセム「アセム、ガン○ムいっきまーす!」

 

イッセー「そのロボなに!? どっから持ってきた!?」

 

アセム「まだだ! たかがメインカメラをやられただけさ!」

 

イッセー「おいぃぃぃぃぃ! 話を聞けぇぇぇぇぇ! つーか、その台詞どっかで聞いた覚えあるよ!? パクったろ!?」

 

 

~以上、アセムが復活した世界をお送りしました~

 

 

あー………うん。

ハチャメチャになるのが容易に想像できるわ。

アザゼル先生に匿われてるのを忘れて、大会に出て大暴れしそうだ。

 

町を探索しつつ、俺達は城に辿り着いた。

アスト・アーデで見てきた城と似たような造りだ。

向こうで長く見てきたせいか、親しみすら感じる。

 

正面に立つ巨大な城門。

門は俺達を迎え入れるように開き始めた。

 

アリスが言う。

 

「何が待っているやら。流石にもうツッコミ疲れたわよ」

 

「それ、俺の台詞な」

 

おまえ、今回ほとんどツッコミしてないじゃん。

俺がどんだけツッコミしてると思ってるの?

誰か頑張ってる俺を労ってくれよ。

 

などと思っていると頭に誰かが手を置いてきた。

振り向くとサラが俺の頭を撫でていて、

 

「にぃに………ファイト」

 

「ガッハァァァァァァァッ!」

 

盛大に血を吐き出す俺!

ここに来て『にぃに』をいただいてしまったぜ!

ちくしょう、その少し照れてるような表情はズルいだろぅ!?

さてはにぃにを悶死させようとしているな!?

 

「サラちゃん可愛いィィイイイイイイイアッ!」

 

「みんなー、イッセーを放置して先に進むわよー」

 

自らの血溜まりの中で悶える俺を放置して、皆は先を進むのだった。

 

 

 

 

場内は至って普通の造りだった。

冥府の時にはあちこちに罠が仕掛けられていて、進むのにだいぶ苦労をさせられたが、今回はそういうことはないようだ。

あの時は巨大球体が転がってくるわ、上から聖剣だの魔剣だのが降ってきて命がけだったっけ。

まぁ、アセムのことだ。

おふざけでなにかしらの仕掛けはしているだろう。

あいつはそういう奴だよ。

 

アリスが言う。

 

「どうせ上からタライとか落ちてくるんじゃないの?」

 

「紐を見つけても絶対引くなよ? フリじゃないからな? マジで引くなよ?」

 

前回みたく、巨大球体に追い回されるのはごめんだぞ。

 

なんてことを考えていたが、特にそれらしきものは見当たらなかったので少し拍子抜けしてしまった。

城門を潜ってただまっすぐに長い廊下を進んだ先にあったのは装飾が施された扉。

扉の向こうからは何かの気配を感じることができる。

 

「ここだな」

 

この気配………魔法?

いや、それにしてはどこか神が放つような独特の波動すらも感じる。

どうやら今度こそ当たりのようだ。

 

俺は扉に触れて、ゆっくりと力を籠める。

重たい音と共に扉が開いていき――――

 

 

 

 

 

「やぁ、随分遅かったじゃないか」

 

 

 

 

 

聞き覚えのある声が扉の内側から聞こえてきた。

 

「ここに来るまで楽しんでもらえたかな?」

 

俺は目を見開く。

俺だけじゃなく、アザゼル先生や皆、ヴァルス達ですら驚いていた。

だってそうだろう?

こいつがここにいるなんて思わないじゃないか。

 

「なんで、おまえがここにいるんだよ………ッ!?」

 

驚く俺達を笑みを浮かべながら迎えたのは――――アセムだった。

 




あとがき

アセム「久しぶりの出番! ここからはずっと僕のターンさ!」

ヴァーリ「面白い。ならば付き合ってもらうぞ、異世界の神よ!」

イグニス「異世界の神っていうなら、私も付き合わなきゃ♪ ヴァーリ君、お姉さんとも遊ぼ~♪」

イッセー「逃げてぇぇぇぇぇぇ! ヴァーリ、超逃げてぇぇぇぇぇぇ!」


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