ありふれてない冒険 (花咲爺)
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神様のダイスロール
蜥蜴神官が好みです。
ここからずっと遠くてずっと近い場所から神様は今日も盤上を覗いています。
先日始めた魔神王の復活という
とはいっても最近は調整を間違えた感満載な勇者のお陰で毎度のごとく
これ以上快進撃を続けるのはちょっとマンネリだぜ、と言った神を筆頭にもう少し普通の冒険はないものか…そうして勇者という最高級に慣れてしまった神様達に贅沢な悩みが生まれてしまいました。
神様たちは盤上の他の冒険を色々と探しますがどれもまたそこまで面白くありません。
先が見えない、という点では良いものがありますがその変なのは徹底的に運要素を潰すので神様達に骰子を振らせてくれないのです。
なら新しく作ってしまえばいいのでは?とある神様が言いました。
良いねそれ、と他の神様がそれに便乗し、どんどん案を出してきます。
「筋肉ムキムキの
「くーるびゅーてぃな
「賢さが足りてない
どれもとても面白そうなことになる予感がびんびんです。
そうなったら良いなの精神でまず駒を配置し、骰子を転がしてみるとなんとどれもこれもが良い目で神様たちはご満悦。
彼彼女らは神様達が思い描いた素晴らしい体を手に入れました。
しかし、個性が強すぎるというのも困りもの。
尖った性能の駒は見てる分には面白いのですがハマらなければ長生きできません。
そこのカバーを何かしらしてあげないとろくなことにならないのは神様の殆どが体験していました。
ならそこそこ優秀な「只人の戦士」でも頭目にして一党を作れば個々の能力を活かせる面白いものが出来るのでは?。
それに良いね!と周りの神様も賛成して条件に合うものを探しました。
盤上で相応しい者を探すと騎士のような姿が印象的な銀等級の冒険者を見つけ、彼ならいいんじゃないかと神様がピックアップしてみれば、なるほど確かに性能も性格も及第点です。
神様達はその駒を頭目にすることに決めました。
それぞれに
さぁ、どんな冒険が始まるのでしょう。
幻想はもう待ちきれないとばかりに盤上に身を乗り出しています。
それを手で制しながら最初が肝心なんだと真実は
ここは
神様達の期待を乗せた怪物…どこかの神様がゴクリと唾を飲み込みました。
そして置かれた駒に目を向けると、そこには
ヒャッホーイとちょっぴり小踊りする神を横目にこれには真実も丁度いい駒が出て来てくれたとにっこりです。
舞台は整いました。
神様達は再び盤上に目をやります。
託宣は出しましたし、どちらにも中々強い駒を置きました。
結果は怪物たちの健闘を称えるのか、それとも冒険者たちに栄光が与えられるのかあとは冒険を待つばかり。
さぁ始まりです!
なんかこの一党どことなく変なのに似てないか、と言うどこかの神の呟きは歓声で掻き消えました。
書いておいてなんだけどこれ絶対失踪するゾ…
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只人戦士の小鬼退治
「まったく、
ドス黒く血に濡れた魔剣を握りし男はそう呟き、地面に転がるそれへ蹴りをくれてやった。
ガスッと肉が揺れる音がするが、それ以外に音が鳴ることは無い。それもそのはず胴体と下半身が泣き別れをしている者が声など発せる訳がないからだ。
結果として切断面からさらに血が吹き出て
「あぁあああ!
薄暗い洞窟の中はカビ臭く、糞尿の匂いや汚辱の香りで満ち満ち鼻がもげそうになる。
ゴブリン、ひいて怪物と言うものは何故こんな環境で過ごしたがるのだと彼は怒り混じりに吐き捨てた。
「GOBBBO!!!」
吐き捨てればそれを聞いたのか知らないがゴブリンが湧いて出る。
怒気と汚らしい垂涎を撒き散らしながらこちらへと錆びた剣を突き出してくるゴブリン。
失敗から生まれるだったか、それとも他者への悪口から生まれるだったかと正しき俗説はどちらだと頭の中にふと疑問を浮かべた男であったが
「やってられんな!」
そう獰猛に歯をむきだして彼は右手の剣をブンと振った。
悩みもゴブリンも吹き飛んで消えた。
―――――――
「どうしてこうなった……」
洞窟の中を少し肩を落としながら歩く男はこの日何度目かになる呟きを発した。
最近続いてた護衛依頼に嫌気が差したことを口実に、手慰みで受けた依頼がゴブリン退治。酔っていたとは言えもう少しマシな依頼を受ければよかったものを…と溜息ばかりが出てしまう。
臭くてじめじめして暗いし、横穴だったり毒濡れの武器への注意が欠かせない、駆け出しの頃を思い出さなかったのかと今更ながらに彼は後悔した。
だが
しかも微妙に道が長いと来ている所が面倒臭さを助長していた。
これならばマンティコアか
恐らく芯を得ている答えにたどり着くが、達成出来ないのは経歴に傷どころの話ではない。
まぁさささっと済ましてギルドでエールだなと新たに現れたゴブリンへ怒りの矛先を変えて男はぐんぐん進んでいく。
ここまで11、さて残りは如何程だろうか。
確か以前聞いた話ではこの位の規模だと20匹程だと言われたが長さが長さである。
何やらもっと潜んでいる気がしてきた男は顔を引き締め進んでいった。
その後10秒も経たぬ内に新しいのが出て彼の額へ更に皺が刻まれることなる。
「GOBURRROOO!!」
「GIBOUUUUUUNN!!!」
「おー、団体様じゃぁねぇの」
兜の下で鈍く光る
だが、彼の握る
主人とみなした者に魔神王と張り合えるほどの力を与えるとか言う意思ある剣ではなく、一たび抜けば必ず三つの命を奪ったり、形あるものであれば全てを切り裂く鋭さを有している訳でもない。
この世のなにより硬く、壊れない「
その切れ味や効果はそんじょそこらの鋼の剣と同程度。
だが魔剣、そう、魔剣なのだ。使い手に力さえあれば…
「壁ごと死になぁああああ!!」
洞窟からゴブリンまでをも切り裂く力を持たせることも可能な魔剣に化けることもあった。
「GOB……!?」
汚らわしい声は一度、二度剣を振るごとに減っていく。
男はゴブリンの腰布で返り血を拭きながら道すがらいくつかの壁へ剣を深く刺し、くぐもった汚い声を聞いては進んでいく。
と、ようやくそこそこな大きさの場所に出たが、これほど嫌な気持ちになったのは中々にない事だった。高く積み上げられた糞尿に、その奥で力なく横たえている囚女達、体の要所要所が切り裂かれていて見るのも無残である。
元は戦士だったのであろう引き締まった体を持つ女に至っては踝から下そのものが切り取られている。
これでは良い奇跡を受けなければ歩くこともままならない。
この世界にありふれていることながら何とも無慈悲なことだ。
男は女から目線を外し、周りを見る。
どこも怪物だらけ、種類は一つだけだがその特性やら大きさやらは存外に多くいる。
田舎者2、呪文使い2、英雄は……いないが田舎者の内一体は体が一回り大きい。
他にもゴブリンがそこそこに多くいた。
彼は
「呪文使いは速攻ってなぁ!」
一飛びで肉迫した男の斬撃がまだ何が起きたのかと目を白黒させているゴブリンシャーマンの首を見事に撥ね飛ばす。
きっと何が起こったかも分かっていないであろうゴブリン達に一瞬目をやり、もう一体のシャーマンへ盾と壁のサンドイッチをブチかました。
「HOOBIBURRRRR!!!!」
次に彼はようやく敵襲だと気づき、喚きながら突進してくる
一瞬でやられたシャーマンを間近で見て恐慌したのか雑な挙動で繰り出された棍棒を左手の盾で受け流し、お返しに咆哮と共に剣を振るう。
剣筋は恐ろしく重く速く、
もう一体のホブは人質にでもしようとしたのか虜囚の首根っこを掴みかけたところで首へ剣を深く突き刺されて死んだ。
「ったく、ここまで来るのが面倒くさかった割に歯応えねぇなぁ…」
まぁ
その時になって胴鎧へ金の認識票がチリンチリンと音を立ててぶつかった。
「47!あ48!49と50、51ィ!!!っしゃァ!終わりぃ!!エールだぁあああああ!!!!」
そして、そんな彼のゴブリン退治はものの1刻半程で終わることとなった。
誰が何と言おうがゴブリンが最弱な魔物だと言う証拠だった。
鉄兜の魔剣使い
孤児院出身の男。
素質(信仰心)がなかったため冒険者となった。
メインウエポンは剣。一応他のもある程度使える。
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