インフィニットオルフェンズ2 (モンターク)
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第1話編
再始動(リブート)


本編ノベライズなので初投稿です。


初っ端から飛ばしていくぞお前ら!
一周年でも止まるんじゃねえぞ……


IS学園寮

三日月・一夏の部屋

 

 

三日月「……ん?」

 

ゴソゴソ

 

三日月が眠りから目覚めると、ベッドの布団の中に自分ではないもう一人の誰かが紛れ込んでいた。

 

「……」

 

侵入者とあればすぐさま警戒する三日月だが、今朝の彼は全く警戒する様子もない。

 

それもそのはず……

 

ラウラ「うっ……」

 

その布団の中に侵入していたのは()のラウラだったからだ。

 

「もう…朝か……?」

 

「ラウラ、おはよう」

 

「ううっ、また寝てしまった……夫であるならば起きてなければならないのだが……」

 

ラウラは寝ぼけ眼をこすりながら、こう続ける。

 

「横になってるといつの間にか眠ってしまっていた……ふあああっ…」

 

大きなあくびをする彼女を優しい眼差しで眺めながら、三日月はこう言った。

 

「別に良いよ?眠たいなら寝ていれば、休みだし」

 

「そうはいかん、今日は……」

 

ラウラは何かを言いかけたが、その前に三日月がとあることに気付く。

 

「ん?今日は裸で来てないんだね」

 

「ああ!よくぞ聞いてくれた!」

 

ラウラはベッドの上で、えっへんと仁王立ちをする。

ラウラの服装は学園指定の水着──いわゆるスクール水着というものだ。

 

「優秀な副官からのアドバイスだ!これを着ていけば大丈夫だと」

 

「ふーん……」

 

「どうだ?どうだ?」

 

「可愛いと思うよ」

 

「そ、そうか///」

 

その三日月の真っ直ぐな好意の言葉に嬉しさを隠せず、赤面するラウラ。

 

数秒程、恥ずかしがっていた彼女だが、時が経つにつれ、冷静さを取り戻してきて、自分がここ(三日月と一夏の部屋)に来た目的を思い出す。

 

「あ、そうだ!これを伝えておかなければ……」

 

ラウラは胸のところから一枚のチラシを取り出した。

 

「ん?これって……」

 

「ああ、アミューズメントプールのイベントだそうだ……鉄華団の親睦を深めるためにぜひ行きたいのだ」

 

「ふーん……」

 

三日月はラウラの取りだしたアミューズメント施設『ニューレインボーアイランドプール』のチラシを眺め、そのチラシ一文を声に出して読む。

 

「へー……縁日広場で浴衣のレンタル?」

 

「あ、ああ……浴衣を着てみたいのだ……///」

 

「……うん、じゃあ行こう…皆で」

 

「そうか!」

 

ラウラの喜びの声か、ただ単に朝日で目覚めただけなのか。

三日月のルームメイトである織斑一夏が目を覚ました。

 

一夏「んん……ふあああっ……!?」

 

一夏は起きるなりスクール水着姿のラウラを目撃し、驚きから一瞬で目が冴える。

 

「あ、イチカおはよう」

 

「おはようだ、イチカ」

 

「ラウラ、お前またミカのところに潜り込んだのかよ!」

 

「別に良いだろう?私達は夫婦なのだから」

 

「うん」

 

三日月とラウラのバカップル振りに頭を抱える一夏。

「はぁ…」とため息をつきつつ、彼は少し声を荒げる。

 

「だったら同室の俺のことも少しは考えてくれよ……仲がいいことは良いけど…それでも!」

 

「まぁまぁ、そう怒るな。これを見せてやろう」

 

ラウラは声を荒げる一夏をそうあやしつつ、三日月に見せたチラシを一夏にも見せる。

 

「ん?これって……今年できたアミューズメントプールのイベントか!ここ行ってみたかったんだよなぁ……」

 

「あぁ、鉄華団の皆で行こうと思っているのだが、お前も行くか?」

 

「ああ!いいぜ!楽しそうだしよ」

 

「そうか!」

 

「よかった。じゃあイチカはホウキとリン誘っておいて」

 

「おう!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

IS学園 食堂

 

俺──オルガ・イツカはシャル、ミカ、ラウラの三人と一緒に食堂で朝食をとっていた。

俺とシャルは朝のランチを、ミカとラウラは購買で買ってきたあんぱんを食べている。

 

ったく……相変わらず好きだな、それ。

 

 

その食事の途中でミカとラウラが俺とシャルに遊びの提案をしてきた。

 

どうやらアミューズメントプールっつーところに鉄華団の皆で行きたいらしい。

 

三日月「明日ここに出かけたいんだけど、良いかな?」

 

せっかくの長い休みだ。

こういう時こそしっかり遊んでおきてぇな!

イチカの家に押しかけた時以降、あんまり遊びらしい遊びはしてねぇしよ。

 

オルガ「良いんじゃねぇの?なぁ、シャル」

 

シャル「うん、良いよ!折角の夏休みなんだから皆で思いっきり遊びたいしね!」

 

ラウラ「そうか!」

 

 

その後、希望の花ではなく、他愛もない雑談に花を咲かせていると、シャルがふいに手を叩き、こう言った。

 

「あ、そうだ!皆、今日時間ある?」

 

「ああ、あるぞ?」

 

「うん」

 

「特に用事はねぇな……」

 

俺たちの今日のスケジュールを確認した後、シャルは嬉々とした愛らしい笑顔でこう提案する。

 

「ならデパートに皆で買い物行こうよ!ラウラの洋服も買いたいし」

 

あぁ……そういうことか。ラウラのやつ、制服か軍服くらいしかちゃんとした服ないらしいもんな。シャルに聞いたぜ。

前のイチカの家行った時も、一人だけ制服だったしよ……

 

「何を言っている。服なら軍支給の……」

 

「うん、ラウラにはもうあるよ?」

 

ミカのやつ、こういうのには疎いんだよなぁ……ったく、しょうがねぇ。

 

「いやそういうわけじゃねぇだろ。……つかラウラのそれは軍服ってやつだろ?」

 

「うん、それで外出したら変に見られたり、本国の人に怒られちゃうかもしれないよ?」

 

「だ、だが……」

 

その時シャルが何かラウラに耳打ちした。

 

「……もしかして三日月君にそれ以外の服装、見せたくないの?」

 

「い、いや…そういうわけではないが…」

 

「もっともっとアタックできるチャンスかも知れないよ?……いいのかなぁ?」

 

「それは……!」

 

「ね?夏休みも終わらないうちに行こうよ」

 

「あ、ああ……」

 

 

俺とミカには聞こえないように注意しながらヒソヒソと何やら話してやがる。

疑問に思ったらしいミカが俺に小さな声でこう聞いてきた。

 

「何の話してるの?」

 

「女同士の会話ってやつじゃねぇのか?こういうのはあんまり邪魔しないほうが良いんじゃねぇの?」

 

「…ふーん」

 

俺の答えに納得したらしきミカと二人でシャルとラウラの内緒話が終わるまで大人しく待つ。

 

すると、話を終えたらしきシャルがスケジュール帳を広げて何やら確認した後、こう言った。

 

「……じゃあ10時位に出るので良いかな?」

 

「…わ、わかった…」

 

「良いんじゃねぇの?なぁ、ミカ」

 

「うん、良いよ」

 

「じゃあ、待ち合わせ場所はいつもの駅で!」

 

「うむ」

 

「うん。わかった。早速準備しなきゃね、オルガ」

 

「あぁ…行くぞ、ミカァッ!」

 

ということで、俺たちはラウラの服を買いに行くという名目でダブルデートに出掛けることとなった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

10時頃

モノレール IS学園前駅

 

シャルが指定した()()()()()に到着した俺とミカ。

そこにはすでに準備を終えたシャルが待っていた。

 

「おぉ、シャル早ぇな」

 

「うん。オルガと遊びに行くのも久々だしね。張り切って準備しちゃった///」

 

「おぉ、サンキューな」

 

なんだよ……可愛いこと言ってくれんじゃねぇか……

 

そう言うシャルの服装は自身のイメージカラーでもあるオレンジの半袖シャツの下に白いチューブトップ?っつーんだっけか? そんで下はデニムショートパンツだ。

 

相変わらずオシャレだな、シャルは。

 

 

「ラウラは?」

 

「うーん……。あっ!来たみたい!」

 

シャルがそう言って、俺とミカもラウラの来た方向へと振り向く。

 

すると、そこにはIS学園の制服を着たラウラの姿が見えた。

 

「どうだ!外出用に着替えたぞ!」

 

「うん、良いんじゃない?」

 

ミカはそう言ってるが……

 

「結局制服なんだね…」

 

シャルは困り顔でそう言った。

 

 

……それに名瀬の兄貴が言ってた「女は太陽」だって「太陽がいつも輝いてなくちゃ、男はしなびちまう」って。

 

女を輝かせる要因の一つが服なんだと俺は思う。

 

「やっぱそれはな…」ピキュ

 

ラウラのその服に無頓着な面を否定しようとした時、急にミカが胸ぐらを掴んできた。

 

「…ヴェ?」

 

「俺の女をバカにしないで」

 

「……」

 

ミカは見ただけで誰でも殺せるくらいの殺気を込めた目で俺を睨みつけてくる。

 

勘弁してくれよ……

 

だけど、ミカのやつ……前より感情が出るようになったじゃねぇか……あの時より……

 

「フッ…」

 

「何?」

 

ミカが感情豊かになってきているのが嬉しくてつい顔に出ちまった。

 

ミカはラウラのためを思って怒ってるんだ。ここは笑うとこじゃねぇよな……

 

「いや、悪りぃな」

 

「……良いけど、次はやめてね」

 

「ああ、もう言わねぇよ。約束だ」

 

それにあの目は本気だからよ……あんまり言わねぇほうが良いな。

下手するとまだ銃弾が飛んできそうだしよ……もしそうなったら俺は確実に殺されるぞ。

 

 

「オルガと三日月君ってたまに僕たちでも入れないような時あるよね?」

 

「ああ、まるで何かを隠しているかのように……だな」

 

「あんまり昔の話とかも聞かないしね……いつかは僕たちにも教えてくれるのかな?」

 

「そうだな、だがそのためにはもっと親睦を深めなければな…」

 

「うん……」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「あ、え…な、なんでもないよ!オルガ!」

 

「そっか……」

 

シャルとラウラがまた内緒話をしていたが、食堂の時みてぇに楽しそうな感じじゃなく深刻そうな感じだったから今度は尋ねちまった。

 

……けどまぁ一応何もねぇんならそれでいいか。

重い話なんて今日は置いといて……

 

「さーて、張り切って……ん?」

 

「行くぞー」とそう言いかけたが、駅のホームに立っていた他の女子生徒たちの大きな声が俺の声を止めた。

 

「ねえねえ」

 

「何?」

 

なんだ?なんかあるのか?

 

俺が耳をデカくして聞き耳を立てると、こんな噂話が聞こえてきた。

 

「臨海公園で幻のクレープの噂、知ってる?」

 

「知ってる知ってる!好きな人とミックスベリー味を食べると恋が叶うって!」

 

「!」

 

「そうそう!でもいっつも売り切れなんだって!」

 

ミックスベリー……!

もしかしたらそいつを使えばシャルと…!

 

どうやらミカも同じく女子生徒たちの噂話を聞いていたようだ。

 

「ミカ、これは最高に上手い話なんじゃないか?」

 

「ああ、それが本当ならラウラともっと夫婦になれると思う」

 

ミカもノリノリじゃねぇか…!

そうと決まれば……ってまずは買い物が先だな。

 

「……よし、まずは買い物いくぞぉ!」

 

「「おー!」」

 

 

 

(ミックスベリー……その噂が本当だったらオルガと…///)

 

この時、シャルロットもオルガと全く同じ思考でその噂話を聞いていたのだが、そんな事をオルガは知るよしもなかった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わって鈴の部屋

 

鈴の祖国『中国』では夏の最高気温は上がったとしても28℃。それに対してこの国の真夏日は30℃を軽く超える。

 

彼女は中学の頃からこの国の『夏』という季節が大の苦手だった。

 

そのせいか彼女はブラ一枚とショートパンツというラフすぎる格好でベッドに寝転がり、一人でアイスを食べていた。

 

鈴「はぁ…夏休みも中盤なんだし、早く一夏と思い出を……。っていうか帰国しないでこっちに居てやってるんだから、一回くらいアイツが誘ってくれても…」

 

未だに想い人と思い出らしき思い出も作れていないためか、彼女は愚痴をかなり言い始めていた。

 

自分から誘えばいい、と分かってはいるが、想い人から誘ってほしいという儚くも美しい純粋な乙女心に揺らされ、彼女は悶々と頭を振る。

 

(オルガとシャルロットも、三日月とラウラも……二カップルともホント羨ましいわ…)

 

「……はぁ」

 

ため息を漏らし、溶けかけて小さくなったアイスをみじめな自分と重ね合わせ、口へ運ぼうとしたその時。

 

部屋のドアがコンコン、と2回ノックされて彼女はドアの方へと目を向けた。

 

一夏「おーい、鈴!」

 

ノックの音の後に聞こえた声の主は彼女のその想い人、織斑一夏であった。

 

彼女は自分の格好を見て、ハッ、と重大なことに気づいてしまう。

だらしないどころの格好ではない。

もしもこのような姿を一夏に見られれば……

 

脳みそがその事態の大きさに気づいた途端、彼女は冷や汗を噴き出し、ベッドから飛び降りる。

 

「えっ…えっ?…一夏!?」

 

「入るぞー?」

 

「ちょ、ちょっとまって!」

 

(鍵が開けっ放しなのに…これじゃ!)

 

こんな格好を一夏にみられるわけにはいかない。

 

ドアを閉めようと駆け込む彼女であったが、その制止も間に合わず……

 

ガチャッ

 

「ん?……」

 

ドアを開けた一夏の目に止まったのはラフな格好をした鈴の姿だった……

 

「………」

 

「………」

 

その沈黙の中、一夏は鈴をガッツリと見ていた。…否、見ていない……思考停止である。

 

「うっ……あああああああっ!」

 

バシンッ!

 

もちろん一夏は鈴に全力でビンタされ、一夏の視点は暗転する。

 

「ぐあっ!?」

 

 

 

 

その様子を双眼鏡で密かに覗いていた一人の男がいた。

 

アグニカバエルバカ、とオルガたちの間で馬鹿にされている金髪の男、マクギリス・ファリドである。

 

マクギリス(あれがオリムラ・イチカの第二の幼馴染のファン・リンイン……か)

 

そして鈴のその()()()()()を見て彼はこう心の声を漏らす。

 

(……300アルミリアポイントだ)

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

「邪魔するぜぇ?」

 

俺たちはモノレールから降り、大きな百貨店とやらに来た。

 

そしてまずはラウラの服選びということでそのまま女性服売り場へ足を進める。

 

 

すると、女性服売り場の店員がすぐさま声を掛けてきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「よろしければ、新作の試着などいかがでしょうか?」

 

その店員にシャルが対応する。

 

「えっと、とりあえずこの子に似合う服を探してるんですが、いいのありますか?」

 

「こちらの銀髪の方ですね!今すぐ見立てましょう!」

 

そんなシャルの後ろで俺はミカにこう言った。

 

「……シャルに色々服の話も聞いちゃあいるが…やっぱ女性服ってのはわかんねぇな」

 

「だね、ここはシャルロットに任せたほうが良いと思う」

 

「ああ」

 

その会話を店員と話しつつも聞いていたらしきシャルが振り向いてこう言った。

 

「うん。任せといてよ!」

 

 

──数分後──

 

 

「へぇ、薄手でインナーが透けて見えるんですね……ラウラはどう?」

 

「うーん…白か…悪くはないが…今着ている色だぞ?」

 

「んー?ならこれとか?」

 

「うっ……かわいいようなやつか…」

 

「せっかくだから色々試着してみたら?」

 

「いや…面d…」

 

「面倒臭いは……なしで」

 

「……」プクー

 

服選びを渋っているのかラウラはプクー、と頬を膨らませた。

 

そんなラウラの姿を見たミカが大きく目を見開く。

 

「……!!」バキューンッ!

 

ピキュ!

 

「ヴェ?」

 

急にミカが俺の胸を掴んできた。

え?なんか俺悪いことしたのかよ…?

 

「…かわいいでしょ?」

 

「ェ?」

 

「ねぇ、かわいいでしょ?」

 

「お、おう……」

 

ミカお前……

 

けどまあ、感情を表に出せれるようになってきたのはいい傾向だからよ……

 

でも……怖ぇぞミカ……

 

 

シャルは色々と服を持ってラウラに渡し、ラウラは渋りながらも試着室へと入っていった。

 

まぁシャルの押しには勝てねぇよな……

 

ってか、さっきミカも緑色のパーカーをラウラに渡してたな……

 

 

そんでまぁ、俺たちはラウラが試着するのを待つことにする。

 

……つかなんか集まってくる野次馬多くねぇか?

 

ガヤガヤガヤ

 

……いくらシャルとラウラが物珍しい外人だからってここまで来るのかよ…?

 

まぁ俺とミカはその外人ですらない異世界の火星人というやつだがよ……

 

「……」ソワソワ

 

「ミカ、そんなにラウラのこと気にしてんのか?」

 

「……別に」ソワソワ

 

否定してても体に出てるぞミカ……

よほど気にしてるみてぇだな。

 

カシャッ

 

と言ってる間に着替え終わったらしい。

 

 

試着室から出てきたラウラは黒いドレス風の袖無しワンピースを着ていた。

 

「!!!」

 

「うわー!かわいい!」

 

「綺麗だ…」

 

「妖精みたーい!」

 

野次馬も色々と言ってんな…

…ったく、シャルのほうがかわいいってのによ……

 

「ラウラ、これ」

 

「靴まで用意したのか?驚いたぞ」

 

「せっかくだもん、ね?」

 

「あ、ああ……」

 

ラウラはシャルからヒールだっけか…?の靴を受け取り、その場で履き始めた。

 

「う、うわっ!」

 

だが慣れないヒールのせいなのか、そのままラウラは姿勢を崩す。

 

「……危ない」

 

しかし、それをミカが間一髪で支えた。

 

瞬時に夫の危機に向かえるなんて……

 

しかもラウラがあまり痛がらねぇように、負担のかからねぇ場所に腕を回して抱えてやがる……

 

……すげぇよ、ミカは……

 

「み、ミカ……」

 

「大丈夫?」

 

「あ、ああ……その…ど、どうだ…?」

 

「………」

 

「や、やっぱりダメ…か?」

 

「……かわいくて、綺麗だと思うよ」

 

「……な、なっ!?///」

 

ラウラはミカに言われるなりそのまま赤面しちまった。

 

……ごちそうさまってやつか?

 

 

そんなミカとラウラのやり取りを聞いて、黙って見ていた野次馬共が一斉に騒ぎ出す。

 

「うわあああ!?なにこの尊さ!」

 

「写真撮っていいかしら!?」

 

「くっ、一眼レフカメラもってくればよかったわ!」

 

カシャカシャカシャ!

 

そのままミカとラウラは野次馬共の撮影の餌食となってしまった。

 

「あ、ああ……」

 

「はははは……確かに撮りたいって気持ちもわからなくはないけど…」

 

苦笑いするシャルだが、そこも可愛い。

クソッ!なんだって俺はこう言う時にシャッターを切る勇気が出て来ねぇんだ!

シャルの色んな表情や色んな服、そういうのを写真に収めて……と、思ってはいるが、なかなか行動に移せない自分がいる。かっこわりぃな……。

そう心の中で思いながらも俺は無難にシャルに返事をする。

ついでにシャルの表情を目に焼き付けておかねぇとな。

 

「ま、そうだな…」

 

 

「………オルガ」

 

野次馬共に写真を撮られながらも、ミカが俺に声を掛けてくる。

 

「ん?」

 

「写真撮っていいから、あとで俺とラウラに送って。思い出にしたいから」

 

「お、おう……」

 

ミカに頼まれ、俺はバッグからカメラを取り出し、シャルに向けてぇ気持ちを抑えつつもミカとラウラのツーショットにシャッターを切る。

 

ちなみにこのカメラはイチカからもらったもんだ。あいつ写真撮るの好きだからよ……

 

そして、俺はファインダーにミカとラウラの姿を収め、シャッターを切る。

 

カシャ!

 

おお、結構お似合いカップルって感じでいいじゃねぇのぉ…なぁ……

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

所変わって剣道場

 

箒「……ふーっ…」

 

シャワールームから制服姿で出てきた箒。

洗ったばかりのためか、まだ髪も結んでいない。

 

(今日も剣術をしっかりと磨くことができた……だがまだまだ未熟だ。

福音の時には私が足を引っ張ってしまい、そして結果、三日月が負傷してしまった……。

あの時のことはもう繰り返したくはない……もっと己を鍛えなければな…)

 

今までのことを回想しながら、箒は決意を新たにする。

そんな彼女に一夏が声を掛けてきた。

 

一夏「箒、いいか?」

 

想い人からの予期せぬ声が届き、驚きと嬉しさが混同する。

 

「い、一夏か?シャワーから出るのを待っていてくれていたのか?」

 

「まあな」

 

「そうかそうか!そうか…私を……」

 

一夏が自分を待っていてくれたと言う事実に箒の表情は嬉々としたものへと変わっていく。

そんな笑顔の箒に首を傾げながらも、一夏は早速、本題を切り出す。

 

「箒?」

 

「///……そ、その私に何か用なのか?」

 

「ああ、これに誘いたくてな」

 

一夏はラウラからもらったアミューズメントプールのチラシを箒に見せる。

 

「ん?これは今年できたばかりのやつか…」

 

「ああ、思い出つくりたいから鉄華団の皆で行こうって話になったからよ!箒も行こうぜ!……まぁ、急だから無理にとは言わねぇけど……」

 

「あ、ああ!いいぞ!」

 

(い、一夏が私を誘ってくれた///)

 

箒は天に舞い上がれるくらい嬉しかったようだ。

 

(ふ、二人っきりのデートではないのが仕方ないが…皆とも遊びらしい遊びもしてなかったからな……これはいい機会だ!)

 

 

そしてマクギリスは遠くから再び双眼鏡でその光景を覗いている。

 

マクギリス(ほう…あれがオリムライチカの幼馴染であり、シノノノタバネの妹でもあるシノノノホウキ…か)

 

マクギリスは鈴の時と同じく、双眼鏡のレンズを胸の方へと下げる。

 

(……なんとも虚しい胸だ)

 

お気に召さなかったのか、双眼鏡で見るのをすぐにやめて、服の内側に双眼鏡をしまい込むマクギリス。

 

そんなマクギリスの様子を見ていた織斑千冬が後ろから声を掛けた。

 

千冬「……何をしている」

 

「これはミス・オリムラ……私は単純に鉄華団の団員の様子を見ていただけだが?」

 

「だったら何故双眼鏡を持ち込む必要がある?」

 

「い、いやこれは……」

 

「問答無用だ。来い」

 

ズルズルズル

 

そのままマクギリスは後ろ襟を引っ張られ、千冬に連行されてしまった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

そしてラウラの服を買って、野次馬たちの写真攻撃も止んだ後、他の必要なものも買い終えた俺たちは昼飯も兼ねてカフェに居る。

 

「せっかくだからそのまま着てればよかったのに……」

 

「い、いや…今は良い…汚れては困る」

 

「もしかして三日月君との二人っきりのデートに取っておきたいとか?」

 

「な、なっ!?ちが…わない…が…///」

 

シャルとラウラが三度(みたび)内緒話を始める。

今回は食堂の時と同じような感じで、ラウラが顔を真っ赤にしたり、シャルがふふん、と言わんばかりの顔をしたりして話している。

 

女同士の会話ってやつは邪魔しちゃいけねぇ。食堂の時にそうは言ったが、やはりミカは気になるようで、ラウラにこう尋ねた。

 

「どうしたの?ラウラ」

 

「!?……べ、別に……なんでもないぞ///」プイッ

 

「?」

 

ミカがラウラに話しかけてもラウラはプイッ、と顔を背けるだけだった。

 

と、そこにカフェの店員が声を掛けてきた。

 

「ねぇそこの彼女さん達」

 

「ん?」

 

「バイトしない?」

 

「え?」

 

 

 

シャルとラウラはカフェの店長(店員かと思っていたが店長だった)にそのまま連れられ、奥の方に行ってしまった。

 

どうやら少し人手が足りないらしく、シャルとラウラに手伝って欲しいのだそうだ。

 

バイトとか言ってたが……ここは店員が執事姿かメイド姿をしている……

 

シャルとラウラもそれに着替えてんだろうなぁ……

 

ってことは……

 

シャルのメイド姿が見れるじゃねぇか!

 

「へへっ……」

 

「?」

 

ミカはまだラウラがメイド服を着てくる、ってのを理解できてねぇみたいだな。

けどラウラのメイド服を見たらミカも大喜びだろうよ……

 

そして、数分後。まずはラウラが着替えを終えて、奥から戻ってきた。

 

「待たせたな!」

 

「あ、ラウラ」

 

「どうだ!このメイド服とやらを着てみたぞ!どうだ!」

 

「うん、可愛いと思う」

 

「そ、そうか!嫁が喜んでくれて私も嬉しいぞ!///」

 

そして、ラウラに続き、シャルも出て来る。待ってたぜ!

 

「おまたせ……」

 

「おお、シャル……え?」

 

シャルが恥ずかしそうな声を出しながら俺に声をかけてきたからなんだと思いきや……

 

 

「は?」

 

 

……執事服…だと?

 

 

 

……クソ!クソ!クソ!

なんでシャルに今更男装させねぇといけねぇんだ!

なんでシャルにメイド服を着せねぇんだよ!

 

「………なぜ僕は執事の格好なんでしょうか?」

 

「だってそこいらの男よりずっと綺麗でカッコいいもの」

 

「は?」

 

シャルはカッコいいとかじゃねえ、なんつーか……その…

 

あんた頭おかしいんじゃねえのか…?

 

「おばさん、あんた正気か?」

 

俺がカフェの店長に目を見開いて全力で睨みつけながら言うと、店長は怒りを露にし、思いっきり俺の頭を殴りつけた。

 

ドガッ!

 

「グッ……グアアッ!」

 

その時、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

キボウノハナー

 

「だからよ……妙齢の女性におばさんとか言うんじゃねえぞ……」

 

「オルガ!?」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

シャル(確かに僕って中性的に見える時もあるからなぁ……仕方ないのかな…)

 

シャルロットはメイド服で給仕をしているラウラのほうに視線を向けていた。

 

(でも僕もラウラみたいにメイド服着たかったなぁ…)

 

複雑な乙女心を持て余しながら、シャルロットはラウラをジーっと、横目に眺め続ける。

 

すると、そのシャルロットの視線にラウラが気付いた。

 

ラウラ「ん?なにか考え事しているのか、シャルロット」

 

「な、なんでもないよ!さあ、さっさと終わらせよ?」

 

「ああ」

 

シャルロットはそう言って、慌てて仕事に戻る。それに対して、ラウラも少し疑問に思いはしたが、あまり気にせずに仕事に戻った。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

シャルとラウラが働いてるのを見ながら、俺はシャルのメイド姿が見れなかったことを悔やみ続けていた。

 

「クソクソクソ!」

 

そんな俺の前に座るミカはカメラを片手に働くラウラへ正確にピントを当てて写真を撮ろうとしていた。

 

店の注意書きに『執事・メイドスタッフの撮影禁止』って書いてあるんだがなぁ……

 

「オルガ静かにしてて、ラウラを撮るのに邪魔になるから」

 

「ミカお前……」

 

……まぁ、いいか。

 

こんなミカ、この世界に来られなきゃ見れなかったかも知れねぇ。ここは無粋なことは言わず、好きに撮らせればいい。

 

だけど、ミカのやつなんで急に写真なんて……

 

そう疑問に思った俺はミカにこう聞いた。

 

「……でも急に写真なんか撮りはじめてどうしたんだ?」

 

「思い出を残したいんだ……ラウラと俺の…夫婦としての」

 

「…そっか」

 

ミカも色々と考えてるんだな…すげぇよミカは……

 

 

その時、事件が起こった。

 

「全員動くんじゃねぇ!」

 

ドアを破るようなの勢いで店に入ってきた覆面の男三人がそう言いながら、天井に向けて銃を発砲する。

 

バン!

 

その銃声に喫茶店内の店員や客が悲鳴を発した。

 

「「きゃああああああああっ!」」

「騒ぐな、静かにしろ!」

 

ちっ、見る限り、強盗ってやつかよ…こんなときに……

 

「オルガ、これって…」

 

ミカが銃を片手にそう聞いてくる。

昔のお前ならすぐに撃ってたんだろうな……

 

「ああ、間違いなく強盗だ……面倒なことになっちまったな」

 

「この世界の日本は治安良いところだと思ったけど、こういうこともあるんだね……」

 

「まぁ、俺らが居たところよりかはずっとマシだがよ…」

 

「そうだけど……あっ、ラウラが!」

 

俺とミカがしゃがみこんで小声で話している時、強盗共がラウラに向け、銃を突きつける。

 

強盗共以外にただ一人ラウラだけが店内で立っていたのだ。

 

「おい、そこのお前、喉が渇いた。メニューをもってこい」

 

「……ふん」

 

ラウラは頷くでもなく、男たちを一瞥(いちべつ)するとカウンターの中に入っていく。

 

そして、持ってきたのは氷が満載された水だった。

 

「なんだこれは」

 

「水だ」

 

「は?」

 

「さあ、飲むが良い……飲めるものならな!」

 

「ラウラ……そういうことか……っ!」

 

ん?どういうことだ?

 

次の瞬間、ラウラはその冷水を強盗たちにぶちまけた。

 

「がっ!?」

 

「ミカ!」

 

「何だおま」

 

「うるさいな…」

 

「まっ!?」

 

ラウラの合図にミカはすかさず拳銃に手をかけ……

 

パンパンパンパンッ!パンパンパンパンッ!パンパンパンパンッ!

 

「ぐ、ぐおおおっ……!」

 

「ぐああっ……」

 

「ち、ちくしょ…うっ…!」

 

バタンッバタンッバタンッ

 

強盗三人組は為す術もなくそこで倒れた。

 

「全制圧終了…流石だミカ」

 

「うん、ラウラも上手くやったよ」

 

「助かった…」

 

「ありがとう!」

 

助かったんだという実感を得たからか突然店内はわっと騒がしくなる。

 

そんな店内の様子にシャルが安堵の息を漏らした。

 

「よかった、皆無事で」

「同感だ。……でもよぉ…」

 

俺はミカに一つ確認を取る。

 

「ミカ…その銃は…実銃じゃねえんだな?」

 

「ああ、これ?ラウラが用意してくれたゴム弾を発射する銃だよ」

 

「殺傷力はないものだが……距離によってはプロボクサーのパンチに匹敵するものだ。護身用に黒うさぎ隊から取り寄せておいて正解だったようだな」

 

「まあそうだな……実銃だと色々と面倒だしよ……」

 

そう言って、俺は少し外を見た。

 

外では強盗たちを追い詰め、店を包囲していた警官隊がおり、その店内の様子から状況に決定的な変化があったのかと読み取り、突入態勢に入っていた。

 

「ふむ、日本の警察は優秀だな」

 

「ああ、だがここから退散したほうが良いみてぇだな」

 

「うん、僕たちが公になると面倒になりそうだしね」

 

「じゃあとっとと行こうか」

 

「ああ、失敬するとしよう」

 

 

 

その後、俺たちはそそくさと退散し、そのままの足で臨海公園に行った。

もちろん『ミックスベリー』目当てだ。

 

シャルが店員に注文を頼む。

 

「すみませーん、クレープ四つくださーい…ミックスベリーで!」

 

「あーごめんなさい、今日ミックスベリー終わっちゃってて」

 

「あ!?」

 

何だと!?

 

「……!」

 

ミカも少し怒ってるみてぇだ……

 

これは許しちゃおけねぇな…!

 

「ああ、そうなんですか……」

 

「待ってくれ!俺ならどうにでも殺してくれ!なんどでも殺してくれ!首を跳ねてそこらに晒してくれても良い!ソイツだけは…!」

 

「い、いや…そうは言われても……」

 

もちろん、そんなことは通るはずもなく、断られちまった。

わかってんのにな……ラスタルの時も駄目だったしよ……。

 

「そんな……!だがそれでも!」

 

「オルガ、クレープ屋さんが困ってるよ……流石に命乞いまでしなくても大丈夫だよ?」

 

「す、すまねぇシャル……」

 

クソッ…かっこわりぃな……俺。

 

「まて、ミカ……これは…」

 

「……そういうこと?」

 

「ああ」

 

ラウラとミカはクレープ屋の中の厨房を見ていたのか何かに気付いたようだ。

 

ん?二人共どうしたんだ?

なにか変なのでも見ちまったのか?

 

「ん?二人共もどうしたの?」

 

「いや……では注文は、イチゴのやつを二つを貰おうか」

 

「ブルーベリーのやつ、二つで」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

「?」

 

「?」

 

俺とシャルが顔を見合わせる。

 

一体……どうしたんだ、ミカとラウラ?

 

 

 

クレープを受け取り、ベンチに座る俺たち四人。

俺とミカはブルーベリーのやつを、シャルとラウラはイチゴのやつを食うことにした。

 

「で、一体何に気付いたんだ?ミカとラウラは」

 

「ああ、あのクレープ屋にはミックスベリーはそもそもないぞ?」

 

「え?」

 

「そもそもメニューにもなかっただろう、なぁミカ?」

 

「うん、あと厨房の中それなりに見てみたけど、ミックスベリーのソースらしいものはなかったよ」

 

「そうなの?二人共よく気付いたね」

 

「当然だ。あれがもしテロリストの偽装だったらどうする。あの距離でグレネードが起爆でもすればISを緊急展開しても命に関わるからな」

 

「そ、そういう観点から見てたんだね…」

 

「ラウラの観察力は凄いからね。俺もラウラに言われるまでわからなかったよ」

 

「すげぇよ……」

 

「だが、ミックスベリーは確かに()()()だろう?」

 

「どういうことだ?」

 

「……あ!ストロベリーとブルーベリー!」

 

「そういうことだ……よし、やるぞミカ!」

 

「うん」

 

ミカとラウラは自分が持っているクレープをその相手の口のところに持っていった

 

「はむっ……うむ、美味しいな」

 

「うん、美味しい」

 

「……これで更に夫婦になれたのか?私達は」

 

「わからないけど……」

 

確かにストロ()()()とブルー()()()を交互に食べればミックスベリーになるじゃねえか……

 

「よし、僕達もやろ!」

 

「お、おう」

 

ミカとラウラがやっていたように互いに食べさせ合う。

 

「はむ……うん、おいしい…よ///」

 

「うっ……お、おう……///」

 

……全く味がわからねぇじゃねぇか……

 

あっ

 

「…///」

 

シャルの口元にクリームが……そうだ!

確か前に見たマンガとやらではこういう時は……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

『シャル、クリームついちまってるぞ』

 

『ふぇ?…あっ!』

 

『んんっ……結構うめぇじゃねぇか…』

 

『もぅ……オルガったら…』

 

『悪いな、だけど今度から気ぃつけろよ?』

 

『ふふっ…』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

よし!想像通りにやって、最高に粋がってカッコいいオルガ・イツカってのを見せてやる。

と、俺が人差し指を伸ばしてシャルのクリームを取ろうとしたその時……

 

「お、お……」

 

「シャルロット、クリームがついてるぞ?」

 

ペロッ

 

「え?…ふぇ!?///」

 

「……え?」

 

ラウラが先にシャルロットの口元のクリームを()()()()()

舐めとったのだ。指すら使わず、舌で……

 

「なにやって……ぐっ…!」

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

そのまま、俺は項垂れた。

 

「なんか、ごめん」

 

……ミカに謝られても何も意味ねぇぞぉ……

 

 

 

 


 

 

 

 

一方、その頃……

 

北アメリカ大陸北西部にあるとされている軍の極秘施設『地図にない基地(イレイズド)

軍内部でも一部のごくわずかな関係者以外にはその存在すら知らされていないこの場所に、今はけたたましく警報と銃声が鳴り響いていた。

 

《侵入者確認!6-Dエリアに至急応援求む!繰り返す!侵入者確認!6-Dエリアに至急応援求む!

侵入者は()()!ただちにこれを迎撃せよ!何としても最終防衛ラインの突破は許すな!》

 

薄暗い廊下を所狭しと完全武装の軍人達が駆け回る。

アサルトライフルにショットガン、更には軽機関銃(ライトマシンガン)やロケットランチャーを携え、たった二人の標的めがけそれらが一斉に火を噴く。

 

だが、それでも倒れ伏していくのは鍛え抜かれているはずの兵隊のみ。

しかし同時におかしな部分も幾つかあった。

 

まず、先ほどから火砲を向けられ続けている侵入者は、黒衣の少女と白衣の男性の二人組。

一見、黒衣といってもそれは羽織っている外套のみで、その下には紫のIS用インナースーツのようなものを身に着けているのだが。

 

むしろ異質なのは相方らしき白衣の男。

重武装の屈強な軍人達に対し、拳銃一つで確実に仕留めていく技量も確かに凄まじいが……この男の一番に目を引く点は……

 

────顔が、白い仮面で隠されている事である。

 

「……お互い、退屈な初任務になると思っていたのだがね。ここまで丁重な歓迎とは」

 

「無駄口はよせ。お前は私の代わりにトドメを刺すことに専念しろ」

 

「勿論そうしているさ。何せ君は本作戦加入の条件として一部条件下で人を殺せない。そして命令違反を起こせば体内の監視用ナノマシンにより死に至る。だからこそ私がこうしてグレーゾーンとなっている。むしろ礼の一つでも言うべきではないかね、お嬢さん?」

 

「フン……。今の状態なら接触しない筈だが、それでも加減の慣らしとしては常にやる方が楽だ。まったく………面倒だな」

 

こうして軽口を互いに叩きつつも、二人は合計三つの拳銃のみで次々と進軍を続けてゆく。

そして、どういう訳か負傷・行動不能に留めている少女に代わり、制圧した兵に対して仮面の男が念入りにとどめを刺す。

結果、彼らの通った後の道はただひたすらに紅く染まっていた。

 

やがて、ようやく二人の歩みを止めうる可能性を持つものが到着する。

分厚いはずであろう通路の壁を壊し、人の倍はあろう虎模様(タイガーストライプ)の巨体が姿を現した。

 

「……?!」

「ほう…ようやくのご到着か」

 

「ああ。散々やってくれたようだな。ここまで大勢の仲間達をよくも……!

だがこいつはアメリカ合衆国!第三世代型IS、『ファング・クエイク』!

そして私は国家代表、イーリス・コーリング!

言っとくが、超つえーぞ? だから撲殺前の最後に聞いておいてやる。──目的は何だ?」

 

兵士達を討たれた怒りと、自身の力量に自信が混じった女性の声。

重装甲・高機動・高安定が特徴の最新鋭第三世代型ISが、二人の前に立ちふさがる。

 

しかし──

 

「この基地に封印されているIS、『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』をいただく。

丁度、雑兵ばかりで飽きていたころだ。……展開」

 

全くそれに怯む様子もなく、黒い少女の淡々とした声と共に、少女の全身は光に包まれ、紫の蝶のような装甲に覆われる。

一方、仮面の男は巻き込まれぬよう様子見といった風合で数メートルほど引き下がる。

 

「へぇ、面白ぇ。そっちも第三世代、奪われたっていう『サイレント・ゼフィルス』か!

んな実験機でこっちのほぼ完成品に勝てるわけねーだろぉーがよぉー?!」

 

────サイレント・ゼフィルス。イギリス製の第三世代型試作IS。

何者かによって盗まれたという情報が裏で出回っていた、特殊武装・BT兵器搭載二号機。

 

噂に聞いていたそれが目の前に現れ、

『けれど同じ実験機といえど、稼働効率重視のこっちと違い、向こうは所詮未完成品』

とイーリスは嗤い、ファング・クエイクの両手の単分子結晶ナックルをぶつけて鳴らし、殴りかかる。

 

「…ッ!」

 

突き出された拳を、ゼフィルスは瞬時に左手に呼び出したナイフで受け止める。

重い一撃にナイフは大きくひび割れるが、形は保ってるのでそれはまだ使えると踏み、今度は右手に大型銃『スターブレイカー』を展開。

その身の丈以上の長銃身の側面を思い切り叩きつけ、クエイクを弾く。

 

「がっ!」

 

「速攻で終わらせる」

 

勢いよく壁に叩きつけられ、クエイクの周囲を粉塵が覆う。

そしてその中へと向け、ゼフィルスは特徴ともいえる装備、BT兵器を射出。

宙に浮かんだ幾つもの子機からビームを発射、壁にめり込んだであろうクエイクに追撃を加える。

 

少なくとも直撃の感触はした。

何せ煙の中からさらに爆発が起きたのだから。

 

「……やったか」

 

「リ……バー………スト……!」

 

「…ん?」

 

爆煙の中から、かすかに声が聞こえる。それと同時に、何かが空回りするような音も鳴る。

それが何かは、次の瞬間、すぐに判明した。

 

「ああくそ!個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)!!!」

 

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)

第三世代型IS、『ファング・クエイク』に搭載された特殊装備。

先ほど一回試みて失敗したように、成功率は40%とこれに関しては未だ不安定だが、4基のスラスターを連続で稼働させることにより他の追随を許さぬ超加速を行うことができる。

その力が最も猛威を振るうであろう直線軌道に拳を乗せ、普通では目に見えぬほどの速さでゼフィルスを穿とうと突き進む。

 

「ーーーグ…!!!」

 

「エムッ!」

 

しかしやはりそこは直進。何か来ると瞬時に理解したゼフィルスはひび割れたナイフと、一号機にはない盾の機能が付いた子機の二重の防御を張り、結果ナイフは粉々に砕け、ビームシールドの子機も爆散。

直撃は免れたが衝撃でゼフィルス自身は大きく吹き飛ばされ、地面に背を打つと同時に引き下がっていた仮面の男とフルフェイスのバイザー越しに目が合う。

 

「……大丈夫かね?」

 

「心配するなら、アイツをどうにかしろ…!」

 

「フッ、それもそうか。全く、手のかかる娘だよ、君は」

 

「うるさい…」

 

仰向けに倒れるゼフィルスを見つつ、仮面の男は前へと歩みだす。

イーリスはその様子にほんの少しの疑問を抱く。

 

「あぁ?次はお前か?そっちのISといい、仮面舞踏会でも流行ってんのか。大体、ISを前に男一人で何が出来る?そっちも大した事ないが、今度は秒で終わらせてやる」

 

「済まないが、()()()()()()、どうやら。今の私にこの仮面はあまり意味がないのだがね。それでも今度はこれが仕事の道具となったのならば、身に着けるほかにあるまい?」

 

「な、何を言って…?」

 

訳が分からない、といった様子のイーリスを前に、男は不敵に笑み、

その顔を覆う仮面に手をかざす。

 

 

 

 

 

「──起動せよ。神意(プロヴィデンス)

 

男の体は少女と同様、光に包まれ、ファング・クエイクを身に纏うイーリスの眼前には……

 

神意・あるいは天帝(プロヴィデンス)と呼ばれた『それ』が現れた。

 

 

 

「なん…何だお前?!まさか、()()()()……!!!」

 

「ほう、もう()()()()いるのか。私は新参者でね。その辺りは掴み切れていなかった。情報提供、感謝する。……では、消えてもらおう」

 

『それ』は身体の各所、特に背部からゼフィルスと似て非なる子機を射出。

クエイクに向けられると思いイーリスは防御の姿勢を取るが、子機達はなぜか壁や天井へと突き刺さっていく。

 

「……あぁ?!何だよ、ヘタクソか?!やっぱりISは女のモンだ!テメーなんぞに!満足に動かせる訳がない!舐めやがってぇ!一発でぶち壊してやる!

 

はぁあああっ!!!個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)ォオォオ!!」

 

「全く…弱い者ほど、うるさく飛び回りたがる。エム、参考までに見ておけ。こういった武装は、このように使うのだ」

 

針のような子機が抜け、無防備のような状態になった『それ』目掛け、再び一直線に超高機動でナックルをぶつけようと迫るファング・クエイク。

実際、『それ』は他には手に持つ大型のライフル以外にめぼしい武装は見当たらず、高い破壊力を持つ拳が迫っているにもかかわらず、防ごうとも、避けようともする様子はない。

 

 

 

 

 

必要が無いからだ。

 

 

 

 

「消え失せろ。天帝(プロヴィデンス)の力の前にな」

 

「…へ、な…?あぁああああああああっ!!!!」

 

高加速での直進、敵への直撃コース。

その進路上に突如、光の…否、()()()()()()出現する。

細かく、そして高出力のビームの塊で作られた網の壁。

もちろんファング・クエイクは高速移動の最中で、ブレーキなど効く筈が無く。

 

一番前に突き出した拳を始点とし、全身くまなく夥しい量のビームの中へと勢いよく突っ込んだ。

 

 

結果、第三世代型IS、ファング・クエイクは見るも無残にバラバラとなり、その破片は光の網の向こう、辺り一面に広がった。

……あれだけの巨体が、今では細かな破片のみ。

ここまで派手に撒かれては、恐らく貴重なコアも含めて修復不能だろう。

 

「…完全に破壊してくれたな。これではこいつは拾って帰れないぞ」

 

「そのようだ。少々やりすぎたかね?」

 

「だが、確かに勉強にはなった」

 

「では、見られたからには後に報告されても困る。このまま片すとしよう」

 

「…っぐ…畜、生………!!」

 

ISの基本機能、絶対防御。その守りで果てた機体から辛うじて弾き出され、それでも重傷を負い、意識を失ってゆくイーリス・コーリングが最後に見た映像は……

 

()()()()()()()を収納した仮面の男が、彼女に向け懐から拳銃を取り出す瞬間だった。

 

 

 

 

 

やがて。

基地の最奥にて、量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』の残骸が積み上げられた頃。

 

「こちら襲撃部隊。任務を達成した」

 

目的の物(福音のコア)を手にする黒衣の少女、エムを横目に、仮面の男は自身の所属する、あるいは……自身が掌握したのかもしれない組織の幹部『スコール』と呼ばれる女性に連絡を行っていた。

 

《こちらも映像で確認したわ。思ったよりも早かったわね。

戦闘に使うのは二人とも初めてというのに、手際も中々…いえ、貴方に関しては凄まじいわ。

国家代表が来たときは下がらせようとも思ったけど、あんな簡単に仕留めるなんて。

私たちが敵対を選ばなかった事につくづく安堵しているわ。ホント、恐ろしい男ね》

 

「いえ。エムの手柄です。彼女がいなければ私もどこまで渡り合えたか。部下としてとても優秀な少女だよ。今後も共闘したいものだ」

 

《謙遜を…。どこまで演技なのやら》

 

「フッ…」

 

「…おい」

 

退屈そうに奪取したコアを眺めるエムは、通信を終えた仮面の男に問いかける。

 

「私は組織でISを使う条件として、いくつかの制約をかけられている。

それをなぜお前はわざわざ打ち消す真似をし、そして私の手助けをする?」

 

「何、この程度は構わんさ。その昔、私は軍人として戦場にいてね。そして大勢を手にかけた。今更多少増えた程度、何の苦も無い。

だが、君はまだ未熟。このような事に慣れる必要性は薄いと思うがね。

特に……きちんと決めている『相手』がいるのだろう?ならば初めは尚の事大切にすべきだ。乙女とは一般的にそういうものだと、私は伝え聞いているが?」

 

「…フン。ならば勝手にしろ。邪魔はするな」

 

「ああ。恐らくお互い、これからも組むことになるだろう。よろしく頼むよ」

 

破壊され尽くした基地、そのにまみれた道を帰路とし、二人は闇の中へと消えていった。

ここは元々機密扱いの場所であることもあり、更には情勢を崩しかねない不祥事という事情も相まって。

大勢の死傷者を出したにも拘らずこの事件は表沙汰にされず、わずかな筋にのみこう伝えられた。

 

 

 

 

 

───『亡国機業(ファントムタスク)、活動を開始』───

 




途中で雰囲気が変わったと気づいたあなた
そのとおりでございます。

こんな感じの合作で2期ノベライズは進行します。
(やっぱ雰囲気変わりすぎィ!)


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一夏(ひとなつ)の思い出

今回はラブコメ強めで補完もマシマシなので初投稿です。

ちなみにこの小説は動画版の内容の他に原作小説のエピソードも書く予定ですが、一部はカットの予定
具体的には空母とか…(Nyose)

前回の話で後半部分を中心に原作6巻より逆輸入&追加した内容が見られましたがそんな感じです。
あと日常パートでも原作でのセリフを拾ってたりします。

……キツさはなんとか緩和したい



俺たち鉄華団はラウラとミカから誘われた『ニューレインボーアイランドプール』って名前のアミューズメント施設に遊びにやって来た。

 

そして、プールで他の皆と別れ、俺はシャルと二人で遊んでいた。皆、サンキューな。

 

プールサイドを二人で並んで歩いているとシャルがプールの真ん中にあったでっけぇ山みてぇなとこを指差す。

 

シャル「ねぇ、オルガ。あれ」

 

オルガ「ん?どうした?」

 

「このウォータースライダー、ペア滑りコースってのがあるよ」

 

あの山みてぇなのに、巻き付いてるチューブは『ウォータースライダー』っていうらしい。

 

公園にある滑り台のプール版みてぇなもんだってシャルに教えてもらった。

 

「ホントか!?面白そうじゃねぇか!」

 

「うん!オルガ、一緒に行こ?」

 

「ああ!」

 

俺とシャルは早速ペア滑りの出来るウォータースライダーとやらに向かった。

 

 

長い行列に並びながら、階段を登り終え、山の頂上に辿り着くと、そこで待っていた係員が説明を始めた。

 

係員「それではペア滑りのご説明をさせていただきます。まず男の子がここに座って」

 

「あ、はい」

 

俺は係員の説明通りにウォータースライダーのスタート台に座る。

 

「そして女の子は足の間に座ってですね」

 

「は、はい!」

 

そして、シャルが俺の足の間に座r…………え?

 

「え、あの……こうですか?」

 

「ゑ?」

 

「で、男の子は後ろからぎゅっとするんです」

 

「ェ?」

 

え………ハイ

 

「もう…危ないですから、しっかりとくっついてくださいね?」

 

まてよ、待てって…いって

 

「はい、いってらっしゃ~い♪」

 

そのまま俺は軽く押され……

 

 

アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

 

シャルと密着しながら滑り落ちていく……

 

「う、うわあああああああああっ!?」

 

 

やばい!?

 

このままじゃ……シャルのお尻…感触…が……っ!?

 

駄目だ…シャルでそんなことはしちゃいけねぇ…!

 

こんなところじゃ……

 

「アアアアアアアアアアアアッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあっ?!」

 

バシャンッ!

 

 

(ああああああああああああああああああっ!?)

 

 

俺はそのまま全力で泳ぎ、高速でプールから上がり、そのまま近くのお手洗いのところに飛び込んだ。

 

「はぁはぁはぁっ……」

 

個室に駆け込み、鍵をしめ、

そして自分の水着の状態を確認。

 

俺はその()()()()()()()()()で自己嫌悪に陥った。

 

(イッちまったあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!)

 

この時の俺の心の叫びは、あのビスケットを失った時と同じ…いや、それ以上かもしれねぇ…………とにかく…情けねぇ……

 

「俺は……!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

オルガが自責の念を抱き、項垂れる数分前。

 

オルガとシャルロットをデートに送り出し、ミカとラウラも別行動を取り始めた後……

 

一夏を巡り、喧嘩を始めた箒と鈴をなんとかしようとしたセシリアがこう言ったのだ。

 

セシリア「お互いに10分ずつ、交代で一夏さんと回ってはどうですか?」

 

そのセシリアの案を飲んだ二人がじゃんけんをして、勝った箒が今、一夏と二人きりで並んでプールサイドを歩いていた。

 

 

箒はその嬉しさからつい鼻歌を漏らす。

 

箒「~♪」

 

一夏「機嫌いいな、箒」

 

「そ、そうか?そう見えるか?……別にいつもと変わらんぞ、うん」

 

「鈴にじゃんけんで勝ったのがそんなに嬉しかったのか?」

 

(違うわ、バカモノ。……いや、違わないのだが……本当にこの朴念仁は……)

 

箒は心の中でそう思ったが、せっかく鈴から勝ち取った二人きりの時間。

それを悪い雰囲気にする訳にはいかないと判断し、お茶を濁す。

 

「ま、まぁ……そんなところだ」

 

「ふーん、そっか。良かったな!んで、次はどこ行く?」

 

「そうだな……」

 

入り口でもらったアミューズメントプールのパンフレットを広げながら、どこに行こうか悩んでいる二人の耳に大きな声が届いた。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

その声は……我らが鉄華団団長──オルガ・イツカの声だった。

 

「ん?この声は…オルガか?」

 

「そうみたいだな、確かあっちはウォータースライダーだから……そうだ!せっかくだからそこ行こうぜ!ペア滑りが出来るってこのパンフレットにも書いてある!面白そうだしよ!」

 

「あ、ああ!仕方ない!せっかくだからな……一緒に滑ってやってもいいぞ!」

 

箒はいつもの調子ではあるが、機嫌がいいのを隠しきれず声も弾んでいた。

 

 

そんな時、一夏のISの待機形態であるガントレットより着信音がした。

 

オモイハハネヲヒロゲテ♪

 

「ん?」

 

「どうしたんだ?一夏」

 

「あ、いや…先行っててくれ、着信が入っちまった」

 

「うむ、そうか……」

 

一夏は一件の新着メールを確認する。

そのメールの差出人はオルガだった。

 

 

差出人:オルガ・イツカ

件名 悪いことは言わねぇ

 

ウォータースライダーのペア滑りするときは、後ろだけはやめておけ

確実に死ぬぞ

 

 

(……後ろだけはやめておけ?)

 

 

そのメールの意味を理解した訳ではないが、とりあえず言うことは聞いておこうと心に留めた一夏であった。

 

 

 

係員「それではペア滑りのご説明をいたします。まず男の子が座ってですね……」

 

先に並んでいた箒と合流し、ウォータースライダーのスタート台までやって来た一夏達もオルガ達と同様、係員から説明を受ける。

 

(確かオルガは後ろはやめとけって言ってたな……なら)

 

一夏は箒にこう提案を投げかける。

 

「なぁ箒、俺の後ろに座ってくれないか?」

 

「ん?そうか……わかった」

 

オルガの忠告(?)を律儀に守り、一夏が前で箒が後ろとなる。

 

「えっと……こうか?」

 

「!?」

 

だがその忠告が仇となったのか、一夏の後ろから、箒のその圧倒的なボリュームの胸を押さえつけられる。

 

(ほ、箒!?……ま、まさかあの忠告ってこれを見越してなのかよ!?)

 

オルガは一夏と箒の仲を取り持つために…などとは微塵も考えておらず、本当に親切心からの忠告であったのだが、そんな事は一夏の知る所ではなかった。

 

「では、いってらっしゃ~い♪」

 

「「「うわああああああああっ!!?」」」

 

そして、係員に軽く押された二人はそのままウォータースライダーを滑り落ちていった。

 

 

 

 

 

バシャンッ!

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

ラウラ「うむ……波の出るプールとはまるで本当に波が出ているようだな」

 

三日月「だね」

 

「これは軍の訓練にも使えるのではないだろうか……?後でクラリッサに連絡してみるか……」

 

一方こちらは三日月とラウラの狼・黒兎カップル。

こちらもこちらでプールを楽しんでいるようだ。

 

「「うわあああああああああっ!!」」

 

「ん!?これはイチカとホウキの悲鳴……まさか敵襲か!?」

 

「?」

 

三日月はその悲鳴が消えた方向を見る。

そこにはウォータースライダーより滑ってきたと思われる一夏と箒の姿が見えた。

 

「違うよラウラ、多分あの二人、ウォータースライダーを滑ってきたからだよ」

 

「そ、そうなのか?……あんなに悲鳴を発しているということは…そんなに刺激的ということなのか?」

 

「……気になる?」

 

「うむ、気になるぞ」

 

「じゃあ、俺達も滑ってみようよ」

 

「そうだな!では行くぞ!」

 

「うん、行こう」

 

 

そして、このカップルもウォータースライダーに(いざな)われた。

 

 

係員「……というわけですね」

 

係員の説明も一通り終わる。

 

三日月「…俺が後ろで良いよね?」

 

「あ、ああ……!」

 

三日月の前にラウラが座り……

 

「…こうしないと危ないから」

 

そう言って、三日月はラウラを後ろから抱きしめる。

 

「あ、ああ!///」

 

「じゃあ、行くよ……」

 

「う、うわあああああああああああっ!」

 

二人はそのまま下の方に滑り落ちていった。

 

 

バシャンッ!

 

 

「ふーっ……なるほど…こういうものなのか……!」

 

「大丈夫?ラウラ」

 

「ああ!これは凄く面白いぞ……!もう一回行くぞミカ!今度は私が後ろになろう!」

 

「うん、わかった」

 

(ラウラ、楽しんでてよかった)

 

はしゃいでいるラウラを見て、ここに来てよかったと思う三日月であった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

鈴「むーっ……」

 

そんなカップル達をよそに、むくれている鈴の姿があった。

 

セシリア「あら、じゃんけんに負けたのがそんなに不服ですの?」

 

日光浴をしながら、そんな鈴の様子を見たセシリアがそう言うと、鈴は慌てて否定する。

 

「べ、別にそんなんじゃないわよ!……」

 

「好きな殿方と一緒にいる時の10分はほんの一瞬なのに、待ってる時の10分はものすごく長く感じますものね」

 

「そうなのよ……って、好きな人もいないアンタに言われたかないわよ!!」

 

「あら、ワタクシにも好きな殿方はおりましてよ」

 

そんなセシリアの言葉に鈴が思わず聞き返す。

 

「はぁ?誰なのよ?」

 

「もちろん、三日月さんですわ!」

 

「いや…それは……まぁいいわ」

 

(アンタの三日月への想いは少なくとも「恋」じゃないわよ)

 

そんな心の中の言葉を思わず口に出しかけた鈴だが、それを言うのはあえてやめておいた。

 

 

そこにふと声を掛ける者がいた。

 

一夏「鈴、セシリア、戻ったぞー」

 

「う、うわっ!?」

 

いつの間にか鈴の後ろにいたのは、一夏だった。

セシリアと鈴の間の机に置いてあるタイマーはまだ10分を過ぎていない。まだ8分超えたあたりで2分ほど時間はある。

戻ってくるのは10分過ぎてからだと思っていた鈴は驚きから声を上げてしまう。

 

「いつの間に……箒は?」

 

「ああ、箒なら疲れたから少し休んでるって……」

 

「そろそろ10分経ちますものね」

 

(もっと回っててもいいのに……箒ったら余計な気をつかっちゃって……)

 

「あぁ!だからそろそろ鈴とも回ろうと思ってさ!お前も滑るか?ウォータースライダー」

 

実は鈴はこのプールに行くという話を聞いた時から、ウォータースライダーのペア滑りに目をつけており、一夏と一緒に滑りたいと昨日から楽しみにしていたのだ。

 

「え、え?……いいの!?」

 

「おう、鈴もここに来た時滑りたがってただろ?」

 

「あ、うん……見てたんだ」

 

「ああ、幼馴染だからな」

 

「///……し、仕方ないわね!いくわよ!」

 

言葉とは裏腹に、嬉しさを微塵も隠そうとしない満面の笑みを浮かべ、一夏の腕を掴んだ鈴はウォータースライダーのほうへと歩いていく。

 

(ファイトですわ、リンさん)

 

そんな鈴にセシリアは心の中でエールを送った。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

千冬「全く…こんなところにまできて奴らと遭遇することになるとはな……」

 

鉄華団の面々がこの場に居ることに気付き、遠目でその光景を見ていた千冬は心底面倒くさそうに呟く。

 

山田「織斑先生、一夏君のところには行かなくて良いんですか?」

 

「なっ!?」

 

山田先生の言葉に少し動揺し、サングラスをずらすが、千冬はすぐにそのサングラスを元の位置に直し、冷静さを保つ。

 

「せ、せっかくのオフがあいつらと関わると台無しにされる」

 

そんな言葉の裏を感じ取ってか、否か

山田先生はただ笑みを浮かべるのみだった。

 

「ん…ふふっ」

 

「はあっ……」

 

そんな山田先生の笑みを見て、ため息を溢した千冬の携帯に着信が入る。

 

タドリツクバショサエモ~♪

 

携帯を手に取り、掛かってきた電話に応対する。

 

「私だ」

 

《謝罪、受け取ってもらえないだろうか?》

 

その言葉を最後まで聞くでもなく、千冬はすぐさま電話を切る。

そして、再び千冬はため息を漏らす。

 

「全く…またか」

 

電話での二人のやり取りを隣で見ていた山田先生は千冬にこう聞いた。

 

「織斑先生、もう許してあげても良いんじゃないんですか?()()()()()()の事」

 

「いや、しばらく頭を冷やしてもらおう…授業中に生徒達を不純な目で見てもらっては困る」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 

千冬の電話の相手、職員寮のマクギリスの部屋のドアには『謹慎中』という紙がデカデカと貼ってあった。

 

マクギリス「全く…困った女だ」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

夕方

 

プールで目一杯遊んだ次は縁日広場で遊ぶことにした。

 

俺──織斑一夏とミカ、オルガの男組三人はレンタルした浴衣に着替えて、女組の着替えを待つ。

 

「「おまたせ!」」

 

オルガ「お、おう!」

 

そこには浴衣姿のあいつらが居た。

 

 

「結構似合ってるじゃねぇか…シャル」

 

シャルロットの浴衣は薄い水色の紫陽花柄の浴衣だ。

 

シャル「よかった……どれが良いかなって悩んでこれに決めたんだ~♪」

 

 

三日月「ラウラのは他の皆と少し違うんだね」

 

ラウラは黒とピンクのスカートタイプの浴衣だった。

 

ラウラ「ああ!こうしたほうが動きやすいのでな!どうだ!」

 

「うん、かわいいよラウラ」

 

「かわ…そ、そうか…///」

 

オルガとシャルロット、ミカとラウラ。

両カップルとも彼女の浴衣を彼氏が褒めている。

……うん、あいつらはいつも仲良いな。

 

 

箒「い、一夏!私のは……」

 

一夏「ん?……おっ」

 

オルガ達の様子を見ていた俺に後ろから声を掛けてきた箒の浴衣は白地に薄い赤色で花の模様が付いている浴衣だった。

また、赤と花柄……やはり、紅椿を意識しているのだろうか…?

前、箒と一緒に花火に行った時も赤い浴衣に花柄だった。

前回は濃い赤色の浴衣で大人びた印象を受けたが、今回は薄い赤なので涼しげな印象も感じ取れる。

どちらにせよ普段の箒よりも大人っぽく見えるのは変わらない。

 

「結構似合ってると思うぜ。箒にはやっぱそういう和装が一番だな!」

 

「そ、そうか///」

 

そんな俺と箒の間に割って入るように鈴も浴衣の感想をねだってきた。

 

鈴「ちょっと、アタシの浴衣はどうなのよ一夏!」

 

鈴は黄色い紅葉柄の浴衣だ。

涼しげな印象と落ち着いた雰囲気を醸し出す箒の浴衣とは違い、派手な黄色。下の足の方は緑色になっている。

子供っぽ……いや、鈴らしい浴衣と言えばいいか。

まぁ鈴に似合ってはいるので、俺は素直にこう答えた。

 

「鈴のもよく似合ってるぜ!」

 

「もうちょっと気のいい言葉は……まぁいいわ」

 

実際こういう和装は箒が一番似合ってると俺は思う。

 

 

 

 

 

一夏のその反応の悪さに「やはり自分には浴衣は似合わない」と少し落胆する鈴であったが、すぐさま頭を切り替える。

 

(アタシはやっぱ中華よ中華!いつかチャイナドレスとか着て、一夏をギャフンと言わせてやるわ!)

 

そう心の中で叫びながら、目をギラつかせる鈴を見て、一夏は首を傾げた。

 

「?」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

鉄華団はとりあえず屋台を回ることにした。

アミューズメントプールの縁日広場と言っても、普通の神社の縁日と規模は変わらず、様々な屋台があった。

片っ端からいくぞ!というオルガの声もあり、食べ歩き始める。

 

まずは、『たこ焼き』

 

一夏「んめぇなこのたこ焼き!ソースとマヨネーズもうめぇ!」

 

鈴「やっぱ定番はこれよね!」

 

箒「うむ、久しぶりに食べたが美味いな」

 

一夏、鈴、箒といったアジア勢がバクバクと平気で美味しく食べる中、

 

シャル「ううっ…プルプかぁ…」

 

セシリア「オクトパスはちょっと……」

 

オルガ「……うまいのかこれ」

 

外国人(と火星人)のシャルロット、セシリア、オルガの3人は食べるのに難色を示していた。

ヨーロッパでもタコを食べるところはあるにはあるが、それでも食べないところが圧倒的に多い。

イギリスなどでは特に「悪魔の魚」と呼ばれ、避けられてきた歴史があるまで……

そして、火星は言うまでもなくそういう魚が入ってくることはないためそもそも食べ慣れていない。

3人の箸は進まず、止まってしまっていた。

 

 

ラウラ「んんっ…なかなかいけるな」

 

三日月「だね」

 

だが同じく外国人(と火星人)であるラウラと三日月は平気で食していた。

 

「よ、よく食べられるね……」

 

「確かにクラーケの見た目は少しアレだ。だがこれはなかなかに美味しいぞ!シャルロット達もどうだ?」

 

「うん、冷めたらあんまり美味しくなくなるよ」

 

「そうだね……じゃあ…」

 

シャルはふーふーして冷まして、箸でたこ焼きを口に持っていった。

 

「ぱくっ…んんっ……うん、これ美味しいよ!」

 

「そ、そうですの…?」

 

「うん、タコの食べる感触はちょっとアレだけど、味とかは別に良いと思う」

 

「か、感触……」

 

その感想を聞いてセシリアは顔が真っ青になる。

一方、オルガもまだたこ焼きを食べることに躊躇していた。

 

「ミカお前……前までそういうのに抵抗あったんじゃねぇのか?」

 

「食べたら結構いけたよ?好き嫌いはよくないよオルガ」

 

「お前…くっ!」

 

(ああ、わかったよ!食えば良いんだろ!食えば!)

 

「………」

 

そのままオルガはたこ焼きを黙視する。

そして、箸でたこ焼きを挟み、そのまま口に持っていった。

 

「……あつっ?!ぐっ!」

 

「オルガ!?」

 

「だからよ…やけどには気をつけろよ…」

 

その熱さに驚いてオルガは希望の花(ワンオフアビリティ)咲かせ(発動させ)てしまった

 

「冷ましたほうがいいよ、オルガ」

 

「うっ……そうだな、ミカ…」

 

その光景を見たシャルロットがこう提案した。

 

「そ、そうだ!じゃあ僕が食べさせてあげるよ!」

 

「……え?」

 

「だめ、かな…///」

 

「お、おう……いいぞ…?」

 

「じゃあ…」

 

シャルはオルガの割り箸を持ち、たこ焼きを挟む。

 

「ちゃんと冷まして……ふーふーっ」

 

「はい、あーん」

 

オルガの口の中にそれを持っていった。

 

「あ、あーん……」

 

そして──

 

「…なんだよ……結構美味ぇじゃねぇか……」

 

「よかった……僕と同じくオルガもこういうタコとかには慣れてないんだね…」

 

「ああ、火星には…」

 

「かせい?」

 

「いや、と、とにかく……俺が育ったところにもタコとかいうやつはなかったからよ…」

 

「ふーん…そうなんだ。オルガも僕と同じだね」

 

「ワタクシとも同じですわよ!」

 

「セシリアは早く食べたら?」

 

「み、三日月さんに言われずともこのセシリア・オルコットは悪魔の魚と言えど、完食してみせますわ!」

 

「全部残さず食べてね、 絶 対 に 」

 

「は、はい……!」

 

その後、三日月の気迫に押されたからかセシリアはなんとかたこ焼きを食べ終えた。

なお、気迫に押されるがまま食べたからかほぼ味も何もわからなかったのは言うまでもない。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

ある程度食べ歩きをした後は皆で射的をすることとなった。

 

「射撃はワタクシの得意分野ですわ!」

 

パンッ!

 

セシリアが放った射的銃のコルクはそのまま景品のぬいぐるみへ当たり、下へ落ちた。

 

「すげぇな…セシリアは…よし、俺も隣で……」

 

一夏も射的を始めるが……

 

パンッ!

 

カスッ

 

「当たらねえな…もう一回!」

 

パンッ!

 

カスッ

 

「くっ…!もう一回!」

 

何度撃っても当たらない一夏の射撃に見かねた鈴が手本を見せる。

 

「全く、一夏は射撃相変わらず下手よねぇ…こうすんのよ!」

 

パンッ!

 

ポンッ

 

「おお!凄ぇよ鈴!」

 

「これくらい朝飯前よ!」

 

鈴はえっへんと胸を張っている。

 

(くっ……負けていられん!)

 

箒もよく狙って、引き金を引くが……

 

パンッ

 

カスッ

 

惜しいところで外してしまった。

 

「くっ、店主、もう一回だ!」

 

「俺にも頼む!あれだけは絶対に落とす!」

 

 

 

そのまた隣では、オルガがぬいぐるみを当てた。

オルガはその景品のぬいぐるみをシャルロットにプレゼントする。

 

「ありがとうオルガ、ぬいぐるみ取ってくれて」

 

「こんくれぇなんてこたねぇよ…シャルとの射撃訓練の成果ってやつだ」

 

「そ、そうかな……///」

 

「お、おう……そ、そうだ!ミカとラウラのほうはどうだ?」

 

三日月とラウラの射的を見ると…

 

「うぐぐぐっ…なんとしてもアレだけは…!」

 

ラウラが大きな招き猫を落とすために苦戦しているようだ。

 

「なんなんだよありゃ……」

 

「大きいね……」

 

「いくら当たってもアレだけは落ちないのだ!こうなればお小遣いすべて使ってでも私は……!」

 

「いやいや、いくらなんでも使いすぎだよ!他のにしようよ」

 

「だがしかし…!」

 

「……ラウラ、ちょっと貸して」

 

その様子を見て三日月は射的銃を持つ。

 

「あ、ああ…いいぞ」

 

「………ここらへん…かな」

 

三日月は狙いを定め、引き金を引いた。

 

パンッ!

 

ドテッ

 

そして──その招き猫はやっと倒れた。

 

「おお!凄いぞミカ!」

 

「凄えよ、ミカは……」

 

「ラウラが何回も当ててくれたから落ちたようなものだから…ラウラのお陰だよ」

 

「そ、そうか……///」

 

 

 

 

 

そんなこんなで時間は過ぎていき……

 

日も落ち、皆で帰路に着く。

 

 

その帰り道、三日月がオルガにこう話しかけた。

 

「オルガ」

 

「どうしたんだ、ミカ?」

 

「……このまま続くと良いね」

 

「…あぁ、けどまだ色々と野暮用が増えるかも知れねぇ…」

 

「……わかるの?」

 

「いや、なんとなくだ…今まで色々と巻き込まれちまったからな。気ぃつけとけよ、ミカは福音で一回やられちまってるからよ…」

 

「うん、でもオルガも気をつけてね」

 

「ああ、わかってる……」

 

(……「約束」のためにもな)

 

 

 


 

 

 

IS学園 第三アリーナ

 

「さて、こんなどこの馬の骨ともわからない私を教師にしてくれたのは礼を言おう」

 

「良いのよ良いのよ、せっかく世界で四例目の男性のIS操縦者だもの…確保しておかない理由はないわ。あなたがどんな人でもね。あとは単純に男の教師がほしかったのもあるけど」

 

「……別の目的もあるのではないのかね、生徒会長さん?」

 

「…それはどうかしらね?」

 

「アメリカのIS基地が「亡霊」により襲撃された直後に私を呼び寄せるとは……偶然とは思えないがね」

 

「……あら、そこまで知っていたのね。どこでそれを?」

 

「今は少し「商い」をしているのでね……そのツテを使っただけだが?」

 

「ふーん……だったら話は早いわね。じゃあ早速……」

 

二人はISを展開。

アリーナの真ん中で二機のISは激突した。

 




動画版ではなかったウォータースライダーのミカラウシーンを始め、色々と盛り込んでみた。
やっぱカップリングは…最高やな!


次回第二話編ではNyoseさんがかなりたっぷり書いた前編からスタート予定です!
乞うご期待!


追記
次はかなり間が空くゾ(Nyose)


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第2話編
始まりはいつも突然に(ニュー・セメスター・ニュー・ウエポン)


さあついにお待ちかね!新装備の出番だよー!
外伝前提の話で申し訳ないがアレ見とくとより楽しめるゾ
(Nyose)


濃い内容だと思う
動画版からの追加内容が半端ない。
(モンターク)


9月3日 明朝

長く慌ただしかった、俺たち鉄華団にとって初めての夏休みも終わり、今日から新学期って奴が来た。

思えばここまで自由な時間も、今まであったっけか……?

まぁ、名残惜しいがそいつも昨日までだ。

今日からは夏休み前に逆戻り──再び勉学の日々ってやつだ。気ぃ引き締めていかねぇとな。

 

オルガ「…さて、と…」

 

確か、新学期最初の授業は……いきなりのISか。まだ朝も早ぇえ。ノートとかの用意を……。

 

しようとした、そんな時だ。朝っぱらからノックが数回。俺の部屋のドアを誰かが叩く。

 

「…あぁ?誰だ…?っと、んなら最低限身だしなみを整えておかねぇと。シャルだったら寝起きでカッコ悪りぃとこ見せちまうからな。あー!待ってくれ!今準備する!」

 

ちと時間が早ぇえ気もするが、夏休みが終わってから初の客人みてぇだ。

どんな奴だろうと失礼の無いようにしておかねぇと。

 

髪型を整え、寝間着からIS学園の制服に着替える。つっても、そんな数分もかけなかったが……。

よし!大丈夫だ。身だしなみは完璧。いつも通りのかっこいい鉄華団団長、オルガ・イツカだ。

 

「すまねぇ!待たせちまったな、開けるぞ!」

 

念のためまだ戸の向こう側に人の気配があることをそれとなく確認し、やや慌てた様子を見せながら扉を開く。

すると、そこに待っていたのは……

???「会えて嬉しいよ。オルガ団長」

「………」

 

俺はそっと扉を閉めた。

 

銀の髪、黄色の尖った仮面、黒いタキシードのような服装で誤魔化しちゃいるが、んな見慣れた変装じゃあ一発で分かる。

 

「………マクギリスじゃねぇか…」

 

途端、今度はまるでMS用マシンガンの掃射みてぇに激しく間隔の短いノックが響く。

ドンドンドンドンドンドンドンドン

ものすげぇ勢いと音!アイツの手首どうなってんだ?ほっといたら千切れねぇかな。

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

いや、そうなる前に俺がうるささで希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せかねねぇ。

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

「あぁ分かったよ!!!用件は何だ?!うるせぇな!!!」

 

今度は荒っぽくドアを開ける。

するとマクギリス(この格好の時は確かモンタークって呼べとかぬかしてやがったか)の奴は仮面越しでもわかる涼しい顔で、こう言った。

 

「……私もこの後すぐに予定が詰めていてね。急ぎ受け取ってほしい荷物があるのだが」

 

はぁ?荷物だぁ?面倒な宅配屋だな……。

確かによく見てみれば、マクギリスの背後には、角が丸くて業務用の冷蔵庫みてぇな大きさの白いコンテナ?箱?が置かれていた。

んなデカさのもんどうやってこの寮の中に持ち込んだのかはこの際どうでもいい。

 

「……うちはセールスお断りだ」

 

「代価を払う必要性は無いよ。それにこれは君についたスポンサーからの贈り物だ」

 

「スポンサー?そんな契約した覚えがねぇな。どうせアンタがなんか仕組んだんだろ?」

 

「残念だが、私ではない。とにかくこれを受け取ってもらえないだろうか」

 

右手首につけた腕時計にたまに目を向けつつ、マクギリスはそう催促する。

……怪しい。明らかに怪しい。

 

「……中身は何だ?まずはそっから判んねぇとな」

 

「手早く済ませたいのだがね……。まぁ、私を警戒するのも無理はないか。では、心して聞いてほしい。この箱の中身は……」

 

……急いでるって言ってやがったのに勿体ぶって。何のつもりだ……?

 

「……君のIS、『獅電』用の特別な機能特化専用換装装備(オートクチュール)だ。

もちろん私は一切手を付けていない。きちんと『アクタイオン・インダストリー社』から、我がモンターク商会を通じて、オルガ団長に届けるよう依頼を受けた物だ」

 

……待った。色々聞き慣れない単語が幾つか出てきやがった。

オートクチュールは何となく覚えがある。その専用機のみに設計された特別な拡張装備……パッケージだったか?

んでもう一つ……IS関連の会社みてぇだが、こっちに関しちゃあ初耳だ。

 

「……知らねぇトコだな。アンタの知り合いか?専用装備たぁずいぶんと豪勢な事してんな」

 

「私も、ISの武装を専門とするメーカー以上の情報は知らない。

そもそも私ではこれを作る方法が無いさ。

 

何せ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

などという離れ業はさすがの私も専門外だ。どこかに凄腕のハッカーでもいるのだろう。

それも、君に対して何か感謝か、あるいはお詫びの気持ちを持っている、ね」

 

「……」

 

なるほど。それならこの大荷物を寄こしてきやがった心当たりは一つしかねえ。……アイツだ。

 

「……分かった。コイツは受け取っておく。量子変換(インストール)は……ちと手間がかかりそうだが、授業にゃ間に合うな。武装の把握だけして、後は……多分模擬戦だろ。ぶっつけ本番で試すしかねぇか……」

 

マクギリスの真後ろにあるコンテナを開け、装備を確認する。

中にあった機械から立体映像のスクリーンが現れ、各種データが表示された。

 

【獅電専用砲戦型換装装備 カラミティ・サブナック】

……これが装備の名前みてぇだな。

 

コイツをつけることで俺の獅電は『カラミティ獅電』って呼び名になる、か。

中々図々しいな……勝手に決めんなよ……。

だが、砲戦装備……か。()()()の経験から気ぃ回されたってとこか。

 

確かにあん時俺の機体は殆ど何もできなかった。

俺の獅電は元は汎用機。だがここ最近の経験でもそうだが、あまりに()()()()()

この装備の意図からも分かるが『とりあえずの方向性』をつける点については、まさに俺の需要にピッタリって訳だな。

 

「…悪くねぇ」

 

「喜んでもらえて何よりだ。では、私は行くとするよ。この後も、予定がつかえていてね。おそらく、またすぐに会えるだろう。では、しばしの別れだ。オルガ団長」

 

「ああ。こいつを届けてもらった点は礼を言う。……てかあんた旅館はどうし……」

 

言い終わる前に、マクギリスの奴はさっさと歩いて姿をくらました。

 

その後しばらく廊下のど真ん中でISに装備を取り込むのに四苦八苦し、

用意も遅れるわで新学期早々遅刻しかけたが、量子変換(インストール)し終えたとたんなぜかバカでけぇコンテナも泡みてぇに消えたし、何とか立つ鳥跡を濁さずって奴だ。

 

さて、いよいよ最初の授業。果たして何が起こるんだろうな……。

朝っぱらがこんなだし、なんか疲れる一日になりそうな予感がするぜ……。

 


 

一夏「で」

オルガ「で?」

「なんでこうなるんだよぉーーーっ!?」

IS学園の第3アリーナにイチカの声が響き渡る。

 

「知らねぇ。とりあえずやんぞ、イチカァ!」

 

予想通り、二学期最初のIS教科は実戦演習。んで、問題は今現在こうなった流れだ。

 

事の始まりは、()()()の影響で専用機持ちの半数が未だ修理・整備の状態で、特にミカのバルバトスが修理中、っつー知らせはクラスメイトの多くが驚いていた。

俺的には、大破したシャルのリヴァイヴが元通りになるかが心配だが。まぁ直るらしいけどよ。

 

あの日学園に戻った後、千冬先生に俺らがISぶっ壊したのが速攻でバレ、

しかもそいつが怪しい誘いに乗ったせいっつーのもあって、全員正座で並べられ、

みっちり長時間の説教をゲンコツのおまけつきで食らったのは、

完璧な俺らの自業自得って奴なんだがな。

 

つーわけで、普段通りに演習しようにも専用機持ちの多くがほぼ見学状態。

本来なら機体が無事だったイチカとリンでやる予定だったが、ここでクラスメイトの一人がこう呟いた。

 

「どうせならいつもと違う雰囲気の組み合わせが見たいなー」

 

まずはそっから火がついた。始まる議論。

 

そして、かすかに聞こえた

 

「強い人は大体わかってるけど逆はどうなんだろう?」

 

という声。そして今、

 

 

 

────俺とイチカで『専用機最弱決定戦』が始まろうとしている。

 

 

「だから!どうして!そうなるんだよ!?」

 

「俺もまさかこんな不名誉な戦いになるなんざ思ってもみなかったよ。

だがイチカァ…、こいつはチャンスだ。ここでお前を倒せば、俺がただの弾よけじゃねぇってことが証明できるっつーわけだ。

それに実際、イチカとは一度やってみたかったんだ。

……どっちが強ぇえか、試してみようぜ?」

 

「ああもう………俺はもう知らないからな!?」

 

経緯があまりに不名誉なのが気に食わねぇのか、イチカはずっとぼやいていやがる。

そんなら先手は俺がいただく。

 

既にお互いISを纏い睨みあう中、まずは俺が右手にパルチザンを展開し、白式へと突っ込んだ。

 

「のわっ!ぶっ!ねぇなぁっ!」

 

突進の勢いを乗せた一撃を、白式は間一髪取り出したエネルギー刃の刀、『雪片二型』ではじく。

こちらが武器を両手に持ち、向こうは片手…右手で跳ね返した。やっぱパワーは劣ってんな。

そして白式の左手はまだ空いている。

 

「へっ…。けども!そらっ!お返しだ!」

 

のけぞる俺に対し、イチカは白式の左腕に搭載された武装『雪羅』による荷電粒子砲を発射────

 

しようとしたところで、

 

「読めてんだよ!」

 

ギリギリ間に合った俺の蹴りによって射線を逸らす。放たれた光弾はアリーナの壁を砕いた。

 

「……へぇ。結構やるな!オルガ!俺も負けてらんねぇよ」

 

「ようやくやる気出したか、イチカァ!んじゃ次、行くぞぉ!!」

 

「おう!」

 

俺は再びパルチザンを振り下ろし、イチカはそいつを雪片で受ける。すぐ後にその逆。

イチカも俺も、今までのあれこれで実力が自分が思うよりも伸びてんのか、

互いに距離をとる隙を与えることなく、接近戦を維持。

近接武装の打ち合いがしばらく続き、前半戦はそのまま引き分けで終わった。

 

……すると、何やらアリーナの客席から聞こえてくる。

────────────────────────────────────────────

 

実戦訓練の前半戦を終え、オルガと一夏の戦いぶりを見た少年少女達は、

大方がすぐに希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せてオルガが敗れるだろうと踏んでいたが故に、

まさかの「引き分け」という結果に驚きを感じていた。

 

鈴「へー……。アイツら、結構昔より強くなってんじゃない?

ま、アタシならどっちもまだまだ余裕でブッ倒せるんだけどね!」

 

鈴はそれでもまだまだ、と余裕と自信を見せ、

 

シャルロット「でもあの調子なら、僕達もうかうかしていられないんじゃないかな?

……僕の場合、まずはリヴァイヴが直るか不安なんだけどね……布仏さん曰く大丈夫みたいだけど……」

 

シャルロットは自分たちも頑張らないと!と奮起し、

箒「うむ。奴等に負けぬよう、我らも日々精進しなくてはな。特に一夏には。

いや、別にあいつが私に勝ってもよいのだが……。

こう……越えられる、というのは、最もな成長の体感だからな!うん!それは、それで……」

 

箒は一夏の成長を内心喜び、

 

セシリア「箒さんはもう少し素直になってよろしいと思いますわよ?主張がとっちらかってますわ」

 

「ほ、ほっといてくれ……」

 

「まあ、ワタクシ的には…三日月さんの戦いが見れなくて残念ですわね……。

ブルーティアーズも整備中ですし…」

 

セシリアは隣で見学している『二人目』の男性操縦者の活躍が無い事を惜しみ、

 

三日月「あーむっ…。バルバトス、結構壊れたもんね。もしゃもしゃ」

 

自分の機体が壊れてて正直暇な三日月は普通にナツメヤシをほおばりながら観戦。

ラウラ「嫁よ。そのヤシ少し貰ってもよいか?」

 

「ん。いいよー」

 

「では……」

 

ラウラはヤシを一つ取り、口の中に放り込む

 

「…よし…今回はあたりのようだ」

 

どうやら不味いハズレではなくアタリのヤシだったようで嬉しそうにヤシを食べている。

 

「もぐもぐ……うむ、良い…!イチカ、オルガ団長!訓練とは言え気を抜いてはいかんぞ!射撃も使え!」

 

そしてラウラはヤシを頬張りながらも二人にエールを送る

「おう!最低でも下から二番目にはなっときたいからなー!」

「は?お前状況わかってんのか?誰がここの一番か…ハッキリさせてやろうじゃねぇか!」

「言ったな?見てろよ?次は必ず勝つからな!」

お互いの視線をバチバチぶつけるアリーナの男二人を見て、ラウラは純粋に微笑んだ。

「ふふっ……見る側、というのも中々いいものだな」

 

「……あんぱんもあるけどいる?」

 

「うむ!流石は嫁だ!手際が良いぞ!」

 

────────────────────────────────────────────

 

 

少しの休憩を挟んで、いよいよ後半戦の始まりだ。

ラウラは射撃も使え、って言っていたし、俺も雪羅の使い方をもう少し慣らしたい。

 

こいつはわかる範囲だとさっき使った荷電粒子砲の他に、クロー、シールドといった風に、

エネルギーの形を自在に変えられる万能装備だ。なら他にも使い道があるのかもしれない。

例えば射撃形態時、出力とかそのへんを適当にいじったり……。

 

雰囲気としてはホースから水が出るイメージ。出口を触って形を変える。

そうしたらいつも単発で撃ってるこいつも、長細いレーザーっぽい感じや、散弾にできるかも。

特に散弾は使えそうだ。なにせオルガ相手にはこっちが一発当てれば実質勝ちだからな!

そうと決まれば!早速実験開始だ!

 

「行くぞオルガ!ラウンド2だ!」

 

「ハッ!何考えてっかは大体予想つく。近寄らせやしねぇよ!」

 

俺が接近しようとする前から、既に獅電はライフルを構えてこっちに撃ってきた。

あいつ…っ!しかも連射かよ!自分でよく言っているように「結構当たる」から厄介だ。

上のほうへ引き下がりながらだし、突っ込むのは難しい。

 

「ぐっ!シールドっ!」

 

雪羅の形状をエネルギーシールドに変えつつ、なるべくスピードを出して小刻みに移動。多少は避けられているが、当たるもんは当たっちまう。

……が、盾にしたおかげで何とかなっている。

やっぱ便利だな!…これなら!

 

(イチカの奴、雪羅の使い方を色々試すつもりだな?……なら、こっちも『今』だな…)

 

ライフルによる射撃が一瞬止んだ。リロードか?

多分好機だ。この隙に一旦シールドを解除して、俺は一気に獅電の懐へ飛び込もうとした、

その時だ。

「こいつは、どうかな?」

 

オルガの…獅電の姿が光に包まれ、その次に瞬きした途端、その姿はほんの少し変わっていた。

 

背中からは筒のような、恐らくキャノンが二つ生えており、右手にはバズーカ。左手には砲のようなものがついた盾。

それらはすべて白い獅電へ後付けしたんだろうな、というのが一目で分かる翡翠色をしていた。

 

「……?!何だよ、そ…!」

 

俺が言い終わる前に、その『未知なる獅電』は背中から生えた2つのキャノン砲から……

何と、()()()()()()()()()

それまで武装を実弾で固めていた、あの獅電からだ。

 

驚きはしたが、だからといって怯むわけにはいかない。とにかく宙を飛び回って、幾つも放たれる高出力の光弾を回避。

 

「うぉおおおおおおっ!!へいやっ!」

 

今度はうまくいった。回避機動そのままに、俺は獅電の間近へと迫り、雪片を振るう。

とっさに謎の新装備を解除した獅電は、それと入れ替えでパルチザンを展開。

雪片の刃が本体に触れる直前にガードするも、衝撃であいつは弾き飛ばされる。理由は当然、パワーはこっちが上だからだ。

 

「そうだ!いいぞイチカァ!」

せっかくの新装備での脅しが効かなかったのが地味に嬉しいのか、

なにやら歓喜の声をあげるオルガ。

フッ、そんな場合か?この一瞬で形勢は逆転しつつあるんだぜ?

 

「はぁっ!」

 

そして俺のお待ちかね、雪羅をエネルギー拡散状態、つまり散弾で放った。

単発だと読んでいたオルガは両腕にガントレットシールドを出すが、

大量に撒かれた光弾を完全に抑えられる筈もなく、全身で浴びることとなる。

「ヴヴッ!」

 

流石に一つ一つは分散してるから弱いのか、即座に希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せ……

──ずに、姿勢を崩した獅電は地面に向かって落下していく。

 

「ヴヴヴヴァアアアアァァァァ!!!」

「行けるっ!!」


 

IS学園第3アリーナ・管制室

 

そこでは今回の色々あった実戦訓練を見守る、二人の教師──

山田真耶と、織斑千冬の姿があった。

 

「二学期初の実戦訓練、最初はどうなるかと思いましたけど、気合い入ってますね、二人とも」

 

「ああ」

 

「この試合は、織斑くん優勢ですね」

 

「いや、あの馬鹿は何も考えずに飛ばし過ぎだ」

 

「……順調そうに見えますけど?」

 

「よく見ろ。雪羅を撃つ時もだが、先ほどから左手が閉じたり開いたりしている。

あいつの昔からのクセだ。あれが出るときは、たいてい簡単なミスをする」

 

「へぇ……流石ご兄弟ですねー!そんな細かいことまでわかるなんて」

 

その何気ない真耶の言葉に千冬は少しハッとし、少し目をそらしながらも答えた。

 

「………まあ、あれでも一応は私の弟だからな」

 

「でもよく見てないとそんなの気づきませんよ、やっぱりかなり気にして」

 

真耶のその言葉を聞いた瞬間、ギロッと睨む表情となる千冬

 

「ひぃ!?」

 

「……試合に集中しましょうか、()()()()

 

「は、はいぃぃ……」

思わずガタガタと震えることとなった真耶であった。


 

 

「よし!このまま押し切るっ!!」

 

次は出口を絞って……

よし!一気に放射だ!これでケリがつ……

 

く、と思った矢先。確かに雪羅から長細い光線はほんの一秒程度、出たが、

その直後に俺の視界にはとある表示が現れる。

 

≪ENPTY NOT SHIELDED≫

 

「…え?」

 

表示に気を取られたさらに一瞬後。

 

「ぐわっ!」

 

エネルギーが切れてシールドの無い状態の俺に、獅電のパルチザンが投げつけられる。めっちゃくちゃ痛い。

だが、これが来たってことは…。

 

 

 

「さて、と……」

 

 

「?!」

 

やはり、獅電が体勢を立て直していたらしい。

再び謎の新装備を纏い、気づいた頃には俺の目の前。

 

「あ…!」

 

オルガが新装備の…よく見れば、腹?の辺りにあった砲口を向ける。

そして、その場所からは高出力の赤くて太いビームが放たれた。

 

当然避けられる筈もなく。今回は俺の負けである。

「ふへっ……」

オルガは勝ち誇った笑みを俺に浮かべていた……。ちっくしょう……。

 

 




彼等の成長が窺える良戦闘
なお新ギミックは活用されるのか私も知らん
(Nyose)

次回は打って変わって多分平和です。
お楽しみに
(モンターク)


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恋スル☆舌下錠(ハート・ペインキラー)

今回は平和なはずなので初投稿です。

バエルバカ本格登場の巻
こいつが居ないとネタが足りん

真面目に挨拶してるだけで笑えてくるのは何故だろう?


ISの実戦演習の授業を終えた後、

俺たちは着替えを済まし、体育館へと向かった。

どうやら全校集会とやらがあるらしい。

俺たち一年一組以外の生徒も全員体育館に集まっていた。

 

本来ならSHR(ショートホームルーム)と一限目の半分くらいを使って全校集会をやるらしいんだが、今回は生徒会の準備に時間を要したらしく、二限目を丸々使って、全校集会を行う事となった。

 

……しかし改めて思ったがやっぱ俺とミカ、イチカしか男は居ねぇんだな……。

右も左も女子ばかり、騒がしさを通り越した(かしま)しい話し声がそこかしこから聞こえちまう……。

 

一夏「はぁ……」

 

三日月「お疲れ、二人共凄かったよ」

 

イチカとミカと俺はちょうど同じ列なので、話しやすかった。

これで変に離れてたら息が詰まっちまってたかもな……。

まぁ、その分女子生徒からの視線も集中するんだけどよ……。

 

オルガ「へっ、だがミカにはまだ及ばねぇよ……」

 

「ああ、だけどなんだよあのビーム兵器!オルガもついに追加パッケージとか言うのを貰ったのかよ!」

 

「あぁ……まぁな、あん時の戦いの副産物ってやつだ」

 

「へー、すげぇな……俺もあんなのが欲しいぜ…」

 

「イチカはセカンドシフトで新しい武装が手に入ったじゃん」

 

「そうだけど…あれ、燃費が悪くてさ……」

 

 

そんな俺たちの会話や女子生徒たちの姦しい声を遮るかのように司会役の生徒が静かにこう告げた。

 

「静かにしてください」

 

その声で、生徒たちの話し声がさーっと、引き潮のように消えていく。

 

「では今から全校集会を始めます、まず最初は……」

 

そして、そのまま全校集会が始まった。

 

よくわかんねぇ先生の話が長々と始まっている。

正直なところ寝てぇ気分だ……朝から模擬戦やってたしよ……。

 

「オルガ、イチカ、寝ちゃダメだよ」

 

「ああ、わかってる……」

 

「わ、わかってるけど……こういうのやっぱ慣れねぇよ……」

 

ウトウトとしながらも、何とか眠気を押さえ、先生の長ったらしい話を右耳から入れて、左耳から外に流していると、数分でその話は終わった。

 

「……では次に二学期より着任した新しい先生のご紹介です」

 

「へー、二学期に先生入ってくるんだな、珍しい」

 

どんな先生だよ……

いいから早く終わってくれ……

 

「ではどうぞ」

 

 

その声と共に壇上に上がってきたのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やけに見覚えのある()だった。

 

「……あ!?」

 

「あ、チョコの人…」

 

ミカがそう口にする。

 

チョコの人、バエルバカ、アグニカバカ……金髪のいけ好かねぇあいつは……!

 

「マクギリスじゃねぇか……!?」

 

「旅館の人?」

 

イチカは旅館で出会ったマクギリスのことを覚えていたようだ。

 

しかし、なるほど……。合点がいった。

朝、俺に【カラミティ・サブナック】を渡しに来た時、やけに急いでると思ったが、それは全校集会の準備に時間を追われていたからっつーことか……。

 

俺が一人で納得していると、周りの女子生徒のヒソヒソ話が耳に届いてきた。

 

「え、嘘?」

「男よ!しかも金髪のイケメン!」

「外国の方かしら…?」

 

 

体育館の壇上の真ん中に立ったマクギリスはゆっくりと口を開く。

 

……また、いつもみたいに「聞け!ギャラルホルンの諸君」ってバエル宣言でもするつもりじゃねぇだろうな……?

 

マクギリス「やあ、私はマクギリス・ファリド……今学期よりここに来ることとなった教師だ。よろしく頼む」

 

「「「きゃあああああああああああああああああああっ!!」」」

 

予想と違ったまともなマクギリスの自己紹介に俺とミカが驚いたその刹那、女子生徒たちの黄色い悲鳴が体育館に響き渡った。

 

「すごーい!」

「この学園には用務員のおじさんくらいしか男の大人の人なんて居なかったのに!」

「男子が入ってきたことに加えて、今年度は間違いなく奇跡の年だわ!」

「えぇ!奇跡の世代だわ!!」

「うるさい!お前ら、少しは静かに出来んのか!」

 

オリムラ先生のその声に再び体育館に静寂が訪れる。

 

その静寂の中、マクギリスが話を再開した。

 

「ちなみにすでに三人、男がISを動かしていることが確認されているが……私は四人目となる」

 

「私のISは『ガンダム・バエル』アグニカ・カイエルのモノだ」

 

そのマクギリスの発言に生徒たちのどよめきがまた大きくなる。

……確かに旅館のあんときにISを動かしてたな。

シノの姉ちゃん──タバネが召喚したダインスレイヴで撃墜されちまったが……。

 

「えっ!?」

「ISを動かせる男の先生!?」

「アグニカ・カイエルって何?」

 

 

「なお私は特にクラスは持たない講師であるが、生徒会を受け持つことになっている。なおISの授業には各学年全てにどこかで顔を出すことになるが、その時はよろしく頼む。以上だ」

 

そのままマクギリスは舞台袖へと退場していった。

 

「まさかアイツが来ることになるなんてな……」

 

「うん、まぁ良いけど」

 

「ところでオルガとミカってあの人をよく知ってるみたいだけど、なんかあったのか?」

 

「まあ……な」

 

「ちょっとね」

 

「ふーん」

 

 

女子が静まり返った後、再び会が進行する。

 

「では次に生徒会長のお話です」

 

その司会の声とともに壇上に立った女子──二年生のリボンをしたソイツが口を開く。

 

楯無「さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君達生徒の長よ。以後、よろしく」

 

「生徒の長……つまり火星の」

 

「多分違うよオルガ」

 

「……なんだよ」

 

その小言の話し声が聞こえたのか

あの生徒会長はこっちの方向を向いて、ウィンクをした。

 

「え?」

 

「俺達男が珍しいからか……目をつけられちまったな」

 

「頑張らなくちゃね」

 

「お、おう……」

 

「では、今月の学園祭だけどクラスの出し物を皆で頑張って決めるように」

 

生徒会長がそう言うと、扇子を出し、それを開く。

そこには「締切間近」という文字が書いてあった。

 

 


 

 

オルガ「邪魔するぜ?」

 

昼休み

 

他の生徒や職員が色々と忙しそうにしている中、俺とミカは用があり、職員室に来た。

 

マクギリス「福音の時以来だな」

 

職員室に来た理由は一つ。

このバカ……マクギリスが気になったからだ。

 

三日月「って言うかなんでチョコの人がいるの?」

 

「そうだ、あんたは何がしたいんだ?俺へ追加パッケージを送ってくれたのは感謝してもいいが、なんで教師なんかに……」

 

「言葉にすれば大した話でもないのだろうが、君達鉄華団とはいい関係で居たいからだ」

 

「ふーん」

 

なんとなく話を濁された気がするが……まぁいい。

俺は朝、こいつに聞こうとして聞けなかったあの事について質問をした。

 

「それで?前の仕事はどうしたんだよ?あの『場亜流』とかなんとか言う旅館は……」

 

「問題ない、あそこには頼りになる味方もいる」

 

「誰だそいつは?」

 

「あれは……天使だ」

 

「は?」

 

「私はその子に天使の姿を見た。私は3億アルミリアポイントを全て差し出し、妻を手に入れ、誰に反対されることもなく、愛せる世界の扉を……」

 

「帰るか」

 

「うん」

 

このバカは放っておいて、教室に戻ることにした。

 

この調子じゃ、意味わかんねぇ話が永遠に続きかねねぇ……。

 

何企んでんのかは知らねぇが、とりあえず今は詳しく聞かねぇことにする。

 

 


 

 

その頃、旅館『場亜流』では将棋のタイトル戦の一つ『竜王戦』が開催されていた。

 

竜王戦は全国各地を転々としつつ、一局を二日に分ける『二日制』。

それを七回。つまり七番勝負で行われている。

 

そして、竜王と挑戦者の対局は現在、ともに三勝三敗。

 

この旅館『場亜流』は最終局の舞台に選ばれたというわけだ。

 

竜王戦の最終局────そのプレッシャーはすさまじく……挑戦者『九頭竜八一』はトイレに駆け込み、洗面台で激しく空嘔吐(からえず)きを繰り返していた。

 

「……がはっ!……ううっ……ううう……」

 

(持ち時間も残り僅か……早く戻って指さないと……)

 

そう焦る八一だが、焦れば焦るほどに目眩がし、膝に力が入らなくなる。

 

平衡感覚を失い、文字通り這ってトイレから出る。

 

対局室までは三十秒もかからない。だが、一直線の廊下も今の八一にはまるで地球から火星までの距離のように遠く感じられた。

 

(このまま、時間切れで負けるのか……?)

 

八一がそう思ったその時──

 

「あの~?」

 

一人の幼き天使が八一に声を掛けた。

 

 

その天使は床に這いつくばる八一の前に膝をつくと、小さな両の手で持ったガラスのコップを差し出した。

 

「お水です」

「……っ!?」

 

その水を天使に(ほどこ)された八一は……

 

「……あ、ありがとう」

 

そう言って水を飲み、立ち上がった。

 

そんな八一にはいつのまにか、震えも目眩も消えていた。まるで魔法のように……。

 

そして、八一はしっかりとした歩みで対局室へと足を進めていった……。

 

 


 

 

昼食を食堂で済ませた後、教室で放課後の特別ホームルームが開かれ、俺たちのクラスの学園祭での出し物について色々と出し合っていた。

 

一応俺もクラス代表なんだがよ……「俺に任せとけ!」とイチカがやると自分から胸張って行ったからイチカが進行役になっている。

 

なお今出ている案は──

 

「織斑一夏のホストクラブ」

「織斑一夏とツイスター」

「織斑一夏とポッキーゲーム」

「織斑一夏と王様ゲーム」

 

……イチカ大人気じゃねぇか……。

 

まあいつの間にか黒板に書かれていた

 

「オルガと三日月はNG!!」

 

というのが大きくあったからか俺とミカが巻き込まれる案は出なかったんだけどよ……。

 

ラウラ「…ふん、こうしておかないと何かしら面倒なことになりそうだからな、なぁシャルロット?」

 

シャル「ははははは………そ、そうだね…」

 

……間違いなくラウラが書いたやつだが、「圧」があるからか誰も指摘しねぇ。

 

まあこっちとしてはああいう「ホストクラブ」とやらはよくわかんねぇし……。仕方ねぇっちゃ仕方ねぇんだが……。

 

イチカがとばっちりをくらっちまったな……。

 

一夏「えーっと…ウチのクラスの出し物の案ですが……全部却下!」

 

「「「えー!!」」」

 

そのイチカの拒否でクラスからは不満の声が上がった。

 

「アホか!だいたい誰が嬉しいんだこんなもん!」

 

イチカよりもっともな意見が出るが……

 

「あたしは嬉しいわね、断言する」

「は!?」

「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務をまっとうせよ!」

「んな義務ねぇよ!」

 

女子たちの反論は凄まじい勢いだった。

 

この状況で俺がやれることと言えば……

 

「イチカァ!」

 

「おうオルガ!なんか言ってやってくれ!」

 

「どこにも逃げ場はねぇぞ!」

 

「この野郎!」

 

ファイトだイチカ

 

この流れじゃ俺にはエールくらいしか送れねぇ……。

 

止まんねぇ限り、道は続くからよ……

 

 

「ミカ、お前もなんか言ってくれ!」

 

モグモグ

 

「ミカァ!?ヤシ食ってないでなんか言ってくれ!」

 

ゴクン

 

「……別に普通でしょ?」

 

「ミカお前…!」

 

俺たちに助け舟を出させようとしたイチカだが、それは実らず、女子からの意見投下は続く。

 

「織斑一夏は共有財産である!」

「「「そうだ!!」」」

 

イチカは助けを求めて、視線を動かすが、すでにオリムラ先生はいない。

 

『時間がかかりそうだから、私は職員室に戻る。あとで結果報告に来い』

 

とだけ告げて、すぐさま教室を出ていった。それでこの有り様だ……。

 

「ぐっ……山田先生!ダメですよね?こういうおかしな企画は……」

 

いないオリムラ先生の代わりにイチカはヤマダ先生に助けを請う。

 

「え、ええっと……まあ本人が(いや)って言ってますから……」

 

ヤマダ先生は冷や汗を出しながらなんとか声を出したが……。

 

「せんせー、王様ゲームは良いですよねー」

「まやちゃん、そう硬いこと言わずに…」

「そうだそうだ!」

 

「うっ……ううっ……」

 

「山田先生!」

「せんせー!」

 

「ぐっ……うっ……わたしからは…なんとも……」

 

ヤマダ先生はイチカと女子たちに挟まれ、閉口しちまった。

 

「はぁはぁ……とにかくもっと普通な意見をだな!」

 

「えー!」

「なら一夏君が鬼の鬼ごっことかでいいよー」

「ポッキーゲームが一番だってばー」

 

「そういうのじゃねぇ!……はぁはぁ……」

 

完全にツッコミ疲れのイチカ

 

「あの…意見は良いだろうか…?」

 

そんな混乱したこのホームルームに静かながらも確かな声がした。

 

──シノじゃねぇか

 

「ほ、箒……なんか…あるのか?」

 

箒「まあ大した事ではないが……その…一夏のそれらの案は少し…止めたほうが良いのではないだろうか…?

普通のごく一般の方は来ないとは言え、来賓の方々や招待券をもった一般客は来る…んですよね、山田先生?」

 

「は、はい!この学園祭にはISの開発企業や各国の軍関係者は来場することになっていて一般客の入場は原則できませんが、生徒一人につき一枚配られるチケットでその来てほしい方に渡せば来れるようになっています」

 

「だからその……あまりに身内がノリ過ぎるのは…よくはないと思うのだが……?」

 

シノらしい真面目な意見が出てきたじゃねぇか……。

 

シノの助け舟にイチカもどこか嬉しそうだ。

 

 

「箒……」

 

「い、以上だ!」

 

「ぐっ、そうだった……」

「あーそういえばそうだったね~」

「嫁からストップがかかってしまった……ううっ…無念!」

 

クラスメイトのその声にシノが顔を真っ赤にして否定する。

 

「よ、嫁などではないっ!!///」

 

そのクラスメイトとシノのやり取りにイチカはただ首を傾げるのみだった。

 

「相変わらず鈍感だね」

 

「ああ」

 

 

少し大人しくなった教室で再びイチカがまとめ始める。

 

「……じゃあ他になにか案あるか?普通ので」

 

ここで手を上げて、意見を言ったのは──

 

「ならば私が答えよう……メイド喫茶というのはどうだ?」

 

ラウラじゃねぇか……。

 

 

ん?メイド喫茶って…あの夏休みの時に行ったところみたいなやつか?

 

「客受けは良いだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える。そして外部から人を招待状で招き入れるのなら、休憩場としての需要も少なからずあるはずだ」

 

「うん、良いと思うよ、ラウラ」

 

そのラウラの意見をミカが真っ先に肯定する。

 

「そうか!」

 

「うん、良いんじゃないかな?男子には執事か厨房を担当してもらえばオーケーだよね?」

 

シャルもラウラの意見に賛成する。

 

いいんじゃねぇのぉ~なぁ……!

 

……って

 

……ん?それじゃ……!

シャルのメイド姿が見れる……ってことか?

 

 

ずっとバカにされて

 

足蹴にされて

 

良いように使われてばかりだった

 

俺のアガリじゃねぇのか?

 

 

「メイド服どうする?」

「私縫えるよ!」

 

クラスの皆も結構ノリノリになってきたな!

 

よし、こういう時こそ俺の出番だ!

 

「よしお前ら、一年一組の大仕事だ!気ぃ引き締めていくぞぉ!」

 

「「さんせーい!」」

 

よし、皆良いみたいだな。

これで決まりだ!

 

「……まぁ、変わった衣装の喫茶店だと思えばいいか……」

 

「そう湿気た声すんなよ、イチカ!意外と楽しいかもしれねぇぞ?」

 

「お、おう……そうだな…じゃあ俺は織斑先生のところに報告してくる…」

 

「じゃあ俺も付き合うぜ」

 

「うん俺も行くよ」

 

「おお、サンキューな!オルガ、ミカ!」

 

 

 

 

 

『夏休みは見れなかったシャルのメイド服がやっと見れる!』

 

という嬉しさからか俺は顔がニヤついちまった……。

 

んで、それを隣で見てたミカからこう言われちまった……。

 

「オルガ、気持ち悪い顔してるよ」

「ミカ……勘弁してくれよ……」

 




一箒はいいぞ!(大声)
オルシャル、ミカラウに重点置きがちだが私は一箒を見捨てるつもりはない…

それはまさしく愛だ!!(グラハム感)


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生徒会長は最強の証

忘れないように頑張るので初投稿です。

今回はTHE・生徒会長回です。
1番扱いが厳しい会長さんな気がする。


IS学園 職員室

 

一夏「……というわけで、一組は喫茶店になりました」

 

俺は千冬姉に一年一組の学園祭の出し物について報告をしていた。

 

千冬「また無難なものを選んだな。……と言いたいところだが、どうせ何か企んでいるんだろう?」

「いや、その……えっと……。執事・メイド喫茶で……ようは、コスプレ喫茶みたいなものです」

「立案は誰だ?田島か?リアーデか?まぁ、あの辺の騒ぎたい連中だろう?」

「えーっと……」

 

ニヤニヤ笑う千冬姉に本当の事を言うか若干ためらったが、意を決して俺はこう言った。

 

「……ラウラです」

 

俺の出した提案者の名前が意外過ぎたのか、千冬姉は呆気に取られる。

 

それから二度まばたきをして、千冬姉は盛大に吹き出した。

 

「ぷっ……ははははっ!!ボーデヴィッヒか!!あいつが?メイド喫茶?くっ!……ははっ!!よくもまぁ、そこまで変わったものだ」

「やっぱり、そう思いますよね。俺も意外でした」

「やはり、女は男が出来ると変わる、ということか。三日月には感謝しかないな」

「そうですね。ミカには俺も色々と助けられてます」

「しかし、いつまでも三日月に頼りっきりでは良くないぞ」

「それは……分かってるつもりです」

 

前の福音戦の時も、俺の無茶のせいで、ミカに重傷を負わせちまった。

 

あんな事がないように俺も今まで以上に強くならなきゃな……。

 

 


 

 

職員室前でイチカを待つ、俺とミカ。

なにやら、オリムラ先生の笑い声が聞こえてきたが、とりあえず怒られてはいないみてぇだ。

 

そんな時、ミカが鼻の辺りを触り始めた。

 

オルガ「ん?どうした?」

 

そう聞いた瞬間、ミカは「くしゅん!」とくしゃみをする。

 

オルガ「おぉ、ミカ……風邪か?」

三日月「そんなんじゃないよ。……誰かが噂でもしてるのかもね」

「あーそうか。体調崩してねぇんならいいけどよ」

 

俺もミカもイチカも、この世界では珍しい男性IS操縦者だからな。

噂くらいはされるだろう。

 

そうこうしている内に、イチカのやつが職員室から出てきた。

 

「……はぁ」

「お疲れ」

「おう、イチカ、どうだった?」

 

俺はイチカに学園祭の出し物の報告が通ったかどうかの確認をする。

シャルのメイド姿が見れるかどうかの瀬戸際なんだ!黙っちゃいられねぇ!!

 

「ちゃんと報告したぜ。大丈夫だってさ。織斑先生からはメイド喫茶の提案がラウラだってことで凄く驚かれたけどな」

「さっきの笑い声はそれだったんだ」

「何だよ、聞こえてたのか?」

「バッチリ聞こえてたぜ」

「マジか…」

 

そう言いながら、イチカはガントレットの時計で時刻を確認する。

 

「さて…時間は……」

 

4時2分

 

「やべ!もうこんな時間だ!」

「あ、ホントだ」

「急ぐぞ!」

 

俺たちがアリーナの方向に全速で駆けようとした時……

 

「やあ」

「君達、ちょっといいかな?」

 

後ろからそう声を掛けられた。

 

 

俺たちに声を掛けたソイツらは……

 

「生徒会長とマクギリスじゃねぇか……」

「ファリド先生と生徒会長……」

 

楯無「水臭いなぁ、楯無でいいよ?」

 

「は、はい……」

 

仮にも火星……じゃなくて生徒の王とかいうやつだよな?

それに上級生でもある……。

一応礼儀は正しくしておかねぇとな……。

 

「何のようですか?楯無さん」

 

イチカがそう尋ねると生徒会長はなんでもないかのように自然にこう告げた。

 

「当面、君達二人のISコーチをしてあげようと思ってね」

「は?」

「二人って…俺とオルガのことですか?」

 

イチカが再び尋ねると、生徒会長は静かに頷く。

 

「うん、そうだよ。全体朝礼の準備は他の生徒会のメンバーとファリド先生に任せて、私は君達の朝の模擬戦を見させてもらってたんだけどね。二人共かなり欠点があるの」

 

欠点?イチカはエネルギーの使い過ぎだろうけど、俺はなんだ?

死にやすいとかか?でもそりゃ仕方ねぇだろ。そーゆうモンなんだからよ……。

 

「一夏君はエネルギーを使いすぎ、そしてオルガ君は射撃の精度をもっと上げた方がいいわね」

 

「ぐっ…」

「うっ…」

 

まぁ、確かに「結構当たんじゃねぇか……」と俺は言ってはいるが、シャルやセシリア、ラウラとかに比べたらまだまだだ。

 

これからあの砲戦パッケージ【カラミティ・サブナック】を戦いに使っていくっつーことになるだろうし、射撃の精度を上げんのは重要なことだろう。

 

イチカも自分の欠点をしっかり自覚しているようで、俺とイチカはただただ言葉をつまらせることしかできなかった。

 

 

「これじゃこれからの事にも色々と対応できなくなることは確定だから、特別コーチをしてあげるわ」

 

ん?

 

俺は生徒会長の言葉の一つに引っかかるところを感じ、そこについて説明を求める。

 

「これからの事?なんなんだよそれは……」

 

「まあ、色々とね」

 

「はぁ……」

 

言葉を濁されちまったな……。

よくわかんねぇが、あまり詳しく聞かねぇ方が良さそうだ。

 

「君達はどうしたい?このまま我流で戦うのか、会長のコーチを受けるのか」

 

今まで生徒会長の隣で黙っていたマクギリスが俺とイチカにそう問いかける。

 

「……」

 

俺は────

 

「俺はこの話乗りてぇと思ってる。もっと…もっと強くなりてぇんだ」

 

「何故?」

 

決まってる。

 

シャルを……絶対に傷つけないために……

 

 

──汚え大人や障害から守るために……

 

 

こんなところで立ち止まるつもりはねぇ……!

 

 

約束だ」

 

 

俺のその言葉にマクギリスはご満悦の様子。

次にマクギリスはイチカにもこう聞いた。

 

「そうか……では君はどうしたい?オリムライチカ」

 

「……俺もこの話乗るよ。あの時の俺の無茶のせいでミカが大怪我をした……そして他の皆も危険に晒しちまった……」

 

イチカは拳を強く握る。

 

「俺はここで立ち止まりたくない…もっと強くなって、皆が危険な目に合わないようにしたいんだ!」

 

イチカお前……

 

そっか……お前も夏休み中、色々と特訓してたからな。

 

部屋に戻らねぇ時もあって……夜勤だったオリムラ先生に怒られた時もあったな。

 

「じゃあ、決まりね」

 

生徒会長がそう言って、手を叩く。

 

そこでミカのやつも口を開いた。

 

「ねぇ、俺も見学してって良い?」

「良いわよ、別に見せられないものじゃないわけだし」

「ん?ミカは特訓しねぇんだな?」

「いくらお姉さんでも三日月君に教えられることはないわよ?強いて言えば…まぁ、少しはあるけれど、それは織斑先生からの指導のほうが的確だしね」

「まぁ…そうだな」

 

ミカはもう『一年生最強』の称号を持っちまってるからな。

 

生徒会長のほうがIS歴は長いかもしれねぇが、戦場で命張ってきたのは間違いなくミカの方だからな。

 

実戦に勝る訓練はねぇってやつか?

 

最近は殺さないようにすることもできつつあるしよ……

どっちにしろ俺じゃ全くミカの相手にならねぇし……

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

というわけで武道場に来た。

 

…ん?

俺たちはISの特訓に来たんだよな?

どうして生身で武道場なんかに?

 

「えーっとこれは?」

「うん、袴だよ?」

「知ってますよ、それくらい!だからどうしてここに?ISの特訓じゃないんですか?」

 

道着と袴を着て、生徒会長と対峙するイチカが俺の思っていたことを代弁してくれた。

 

「まぁ、確かにISを展開して特訓というのも大事だけど、ISはそもそも操縦者の身体能力が高ければ高いほど、ISも力を発揮できるのよ。織斑先生だって生身の時でものすごく強いでしょ?」

「うっ、確かにそうだ……」

「ああ……」

 

拳骨の一撃で俺の希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せるところまで追い込むくらいだしよ……

 

「というわけで、まず一人ずつ私と勝負して生身の戦闘力を図ろうってわけなの。形とかは関係なくね」

 

なるほど……。

言ってることはごもっともだ。

 

「ということで、まずは一夏君から」

「わかりました」

「頑張れよイチカ」

「頑張って、イチカ」

「おう!」

 

俺とミカの声援を背中に受けたイチカと生徒会長はそのまま向かい合う。

 

「さて、その勝負の方法だけど、私を床に倒せたら君の勝ち」

「え?」

「逆に君が続行不能になったら私の勝ちね。それでいいかな?」

「え、いや…それって」

 

え?ソイツは……

 

「それって生徒会長のほうが不利だと思うけど」

 

俺とイチカが言う前にミカが言ってくれた。

 

そう、生徒会長のほうが不利になっちまう。

 

──なにか仕組んでいるのか?

 

そう俺は疑ったが、生徒会長はただこう言うだけだった。

 

 

「どうせ私が勝つから大丈夫」

 

 

分かりやすい挑発だ……。

 

しかし、イチカはその挑発に少し憤りを覚えたようで……

 

「……それじゃあ、本気で行きますよ」

 

そう言って、イチカは構えを取った。

 

 

「またそうやって挑発を……困った女だ」

「マクギリス、どう見る?」

 

俺がマクギリスにこの試合の結果をどう予想するか聞いてみたが、その答えは俺が思ってんのと全く同じ答えだった。

 

「彼は勝てんよ…」

「だろうな…」

「だよね」

 

安い挑発に乗って良い試しはねぇからよ……。

 

 

「えい!」

 

イチカはそのまま生徒会長に突撃する。

 

体育の授業でやった──「柔道」っつーんだったか?

その基本に忠実なすり足で生徒会長との間合いを詰め、掴み掛かるが……

 

「ふっ」

 

クイッ

 

そのまま軽く受け流され、イチカは地面に叩きつけられちまった。

 

なんだ?あの技、授業で習った背負い投げ、払い腰、外刈り、内刈りでもなきゃ、巴投げでもねぇ。

足技を一切使わずに、手だけでイチカを投げやがった……。

 

ただ、ミカは何やったのか見えたみてぇだ。

感心して「へぇ~」と声を漏らしている。

 

 

後で聞いたが、あれは古武術の奥義の一つ『無拍子』っつーやつらしい。

 

 

「ぐあああっ!くっ…うおおおおおっ!」

 

イチカはすぐに立ち上がり、再び掴み掛かるも……

 

「!?」

 

一瞬にして返され、そのままイチカの体は畳にしたたかに投げ落とされちまった。だが、今度は俺にも分かる。あれは大内刈りっつー技だ。

 

 

「くっ…ううっ…!」

「IS学園において、『生徒会長の肩書き』はある一つの事実を示しているんだよね」

 

生徒会長はイチカの必死な掴みをほとんど受け流しながら話し始める。

 

「くっ、うおおおおおっ!!」

 

「生徒会長、すなわち全ての生徒の長たる存在は……」

 

「うっ、うわああああああっ!」

 

()()()()()、とね」

 

「はぁはぁはぁ……」

 

そして、イチカは生徒会長に背負い投げされて、畳に叩きつけられ、大の字でくたばってしまった。

 

 

ん?

 

その生徒会長の言葉を聞いて、俺はこう感じた。

 

「だったら次はミカが会長ってことになりそうだな」

 

今の所この学園には他に強いやつはいねぇし、つーかこれから増えることも多分ねぇだろうし……

 

「そっか……俺、やってみようかな」

「良いんじゃねぇの?」

「なら、もっともっと頑張らないと」

「そうだな」

 

ミカが会長になったら、一体どうなるんだろうな……

 

……少なくともラウラらへんは喜びそうだが

 

「俺もまだまだ頑張らねぇと……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

イチカの負けっぷりを見て、マクギリスがこう言った。

 

「さて、そろそろチェックメイトか?タテナシ」

 

しかし、生徒会長は小さく首を振る。

 

「まだ、みたいよ……」

「くっ……俺は……!」

 

一方のイチカは最後の力を振り絞って

猛勝負にかけた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

イチカはさらに加速して、そのまま殴りかかるような勢いで生徒会長に掴みかかった。

 

 

────すると

 

 

「…あっ!」

「きゃっ!」

「あれは!?」

 

せ、生徒会長の胸が……

 

道着が開かれたことにより、よく見えちまっている……!

 

「これは…!」

 

俺はすかさずカメラを……

 

って俺は何を!?

 

「ダメだよ、オルガ」

 

ゴンッ!

 

ミカが突如展開したソードメイスで思いっきり俺をぶん殴った。

 

なんだよ、きちんと風紀委員してるじゃねぇか……

 

その時、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

「ああ、わかってる……だからよ、胸が見えても盗撮しようとするんじゃねぇぞ……」

 

────────────────────────────────────────────

 

そして生徒会長の道着を脱がしかけた張本人のイチカは……

 

「ぐ、ああっ……ガクッ」

 

生徒会長にボコボコにされ、本当に再起不能になっていた。

 

「……この調子じゃオルガ君の戦闘力を測ることはできないわね…」

「どっちにしろミソッカスだからよ……多分生徒会長には勝てねぇぞ……」

 

残念だが、イチカみたいに生徒会長に挑んだらワンオフアビリティがいくつあっても足りねぇ……。

 

戦う前に負けを認めたかねぇが……もう死んじまったからよ…無理だ……。

 

「まあいいわ。それよりそれがオルガ君の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)『希望の花』ね」

 

その問いに俺が答えようとする前にマクギリスがこう回答する。

 

「ああ、そのオルガ団長の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)はISを展開していないにも関わらず発動する前例のないものだ」

「規格外ね……でもこれなら()()にも対抗できるわね」

「ああ、どれだけ死んでも生き返るものだからな。敵にとってかなり厄介なものだ」

「試合ならすぐに死んじゃうからアレだけどね~」

 

お前ら……一回死んで生き返るって軽く言うけど、一回死ぬくらいの痛さなんだぞぉ……

 

死ぬほど痛いって言うのが地で行くんだぞ……

 

お前らは────

 

 

 

 

 

────ん?

 

 

一瞬、スルーしかけちまったが……

 

 

俺は生徒会長とマクギリスにこう聞いた。

 

「今言ってたその()()に対抗できるってなんだ?」

 

その質問に生徒会長とマクギリスは少し考える仕草をしたが、数秒の逡巡の後、こう答えた。

 

「それは……まだ君は知らなくて良いものだ」

「そうね、情報漏洩とか怖いしね」

 

よくわかんねぇが、やっぱりコイツら…なんか隠してやがんな……

 

 


 

 

一夏「はぁはぁ……」

 

一夏は疲れた体を引きずりながら、なんとか自室の前に辿り着く。

 

「疲れた……確か、ミカは先に戻ったんだっけ……」

 

(確かに生徒会長のコーチは的確だけど……オルガは毎回死んでたし、かなりキツい…)

 

そう思いながら、一夏は自室のドアノブに手を掛け、扉を開ける。

 

 

ガチャッ

 

楯無「おかえりなさ~い」

 

「ん?……!?」

 

そこには裸エプロン姿の楯無が居た。

 

 

「ご飯にします?お風呂にします?それとも……わ・た・し?」

 

 

まるで新婚の妻みたいなことを言い始めていた。

 

「あ、あ…あああ!?」

 

一夏は疲れでうっかり部屋を間違えたのかと思い、すぐに表の表札を確認するも……

 

 

1025

 

 

つまり、一夏と三日月の部屋であることに変わりはなかった。

 

「…あ、あれ?」

「おかえり♪」

「え、ええ!?…くっ!」

 

一夏が外に誰も居ないことを確認し、すぐに部屋に入り、ドアを閉めた。

 

「はぁはぁ……何を考えているんですか!?」

「え?特別コーチだから……寝食を共にして……波長を合わせていくの…」

「あ、あの……」

 

一夏が楯無にツッコミをいれようとした時……

 

「あっ」

 

楯無が姿勢を崩す。

 

 

「あ!?」

 

思わず目を閉じようとする一夏だが……

 

「ふふふっ……」

「え?」

 

楯無が着ているモノ──それは……

 

「じゃーん、水着でした~♪」

「あ、ああ…はぁ……」

 

そのまま壁に(もた)れ込む一夏。

そんな一夏の様子を見た楯無は彼を揶揄(からか)うようにこう言った。

 

「一夏君は反応が可愛いね~」

「くっ……!」

 

(なんなんだよこの生徒会長!?……)

 

楯無のペースに完全に乗せられ、ツッコミをしようにも追い付かず、また照れくささもあって、どうすればいいか分からず困惑する一夏。

 

(とりあえず、楯無さんを何とか部屋から追い出さないと……。ミカと同室だから、流石にこの部屋に住み着く訳じゃないだろうけど……)

 

そこまで思考して、一夏はこの部屋の同居人である三日月の存在を改めて認識する。

 

「ん?そういえば…ミカもここにいるはずだけd……」

 

そう言おうとした時、

 

三日月「……」

 

楯無の後ろにはナイトキャップを被った三日月が居た。

 

(み、ミカ!?)

 

その三日月の纏うオーラに一夏はこう悟った。

 

(……間違いなく楯無さんは地雷踏んだな)

 

「あぁ、三日月君は…」

「うるさい……なぁ!」

 

三日月はソードメイスを部分展開し、楯無に殴りかかる。

 

ガンッ!

 

楯無は瞬時にISの装備だと思われる槍を展開し、メイスを受け止めた。

 

「あらあら怖い怖い……ごめんね~寝てる所を邪魔しちゃって」

「だから、あんた何?俺達の居場所を邪魔するのは許さない」

「あ、あわわっ!?」

 

一夏の目の前で槍とメイスの鍔迫り合いが始まってしまった。

 

 


 

 

「…………」

 

すたすたと一年生寮の廊下を歩いているのは箒だった。

手に包みを持っていて、時折それを見ては笑みをこぼしている。

 

「…ふふっ」

 

今回の作った料理の出来はかなり良かったらしく、その自信作を一夏が食べたときの反応を予想しながら、自然と速くなる足取りはもう抑えようがない。

 

(……しかし、変わるものだな)

 

箒が転校する前の一夏は当然だが子供じみていた。

 

それが今ではあの頃の面影を残しつつ落ち着きのある大人の雰囲気を少しずつ身につけている。

 

そしてオルガや三日月の影響もあり、男らしさも昔よりかなり上がっていた。

 

それもあってか箒は昔よりさらに一夏に恋心を抱くようになった。

 

(う、うむ……私も私で女を磨かなければな……あいつ好みの女がどういうものかはわからない…が、磨いておかない理由はないからな!)

 

胸に秘めた思いを再確認し、その高鳴りを心地よく受け止める。

 

(一夏はオルガとの模擬戦で散々な結果だったし、少しくらい気分の盛り上がる差し入れの一つも必要だろう。うむ、うむうむ)

 

そう思いながら足を速く進めていくと……

 

「はぁはぁ……はぁ……」

 

 

ちょうど部屋の前で一夏が倒れ込んでいた。

 

 

「い、一夏!?」

 

箒はもちろん一夏に駆け込む。

 

「どうしたんだ!?どこか怪我でもしたのか!?」

「と、止めてくれ……あれを……!」

 

 

一夏が指したその部屋の中では……

 

「くっ、じっとしてろ……!」

「だからそこまで怒らなくてもいいじゃない~」

 

ガンガンッ!

 

楯無と三日月が戦っていた。

 

楯無が部分展開した槍を持ち、三日月も同様にメイスを握り締め、激しく己の武器をぶつけ合っている。

 

「あ、ああ……」

 

思わず絶句する箒。

 

「い、一夏、私でもあれを止めるのは無理だ!……と、とにかく先生を連れてこなければ…!」

「た、頼む……俺はもう体力が……ぜぇぜぇ…」

 

箒はそのまま走り出した。

 

(一夏が私を頼っているのだ!すぐにでも連れてこなければ……!)

 

その後、箒が織斑先生を連れてくるまで

風紀委員と生徒会長の戦いが終わらなかったのは言うまでもない。

 




というわけで2話編終了です。

マクギリスは書いてて楽しい
追加描写も楽しいなぁ……


次回はある意味問題回の3話編です。
引き続きモンタークが担当です。

ボチボチと……進められると良いな


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第3話編
オーバーチュア・デ・フェイト


というわけで3話なので初投稿です(久しぶり)

相変わらず波乱なIS学園である。
なんとかしろオルガ……


なんやかんやあって……楯無さんは部屋に居座ってしまった。

 

この部屋は実は以前、俺とオルガとミカ、そして箒の四人で暮らしていた時期があって、その時の名残でベッドは一応四つあるのだ。二つは小さい折り畳み式のベッドではあるのだが……。

 

ちなみに折り畳み式ベッドがあって四人部屋にもなる部屋はこの一室だけだったらしく、人数の関係で一人あぶれた箒がこの部屋にねじ込まれたらしい。

 

シャルロットとラウラが転校してきて、空き部屋が作られた時にオルガとシャルロットがその空き部屋に、箒は退学者が出て一人となった部屋へと移動した。

 

その後、また空き部屋が一つ出来たことから千冬姉の部屋に一時的に住んでいたラウラと女子であることが発覚したシャルロットがその空き部屋に移動となった。

 

……とまぁ、そんな経緯があったこの部屋なので、三人で住むことも出来なくはない。

 

そして「生徒会長権限」というジョーカーを切られてしまったので、退去させようにもさせられない。

 

一夏「はぁ…」

 

寝る前の歯磨きをしながら、俺はため息を溢す。

 

ミカと同室だから、流石にこの部屋に住み着く訳じゃないだろうと甘い考えでいた先日の自分を殴りたい……。このまま楯無さんのペースに乗せられ続けていたら、俺の胃が死ぬ……。

 

一方、ミカのほうは「邪魔しなければ……別に」と特に否定もせずにまあ受け入れたようだ。

 

そんなことを回想していると、楯無さんの俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

楯無「一夏くーん」

 

「ん?……って、うわああっ!?」

 

 

歯磨きを止めて部屋に戻ると、ベッドの上で寝転んだ楯無さんが足を泳がせていた。

 

──いや、それは良い。

 

問題はそのラフ過ぎる格好で、下着は薄紫のパンツのみ、上はワイシャツ一枚でブラもしていない。そしてそのワイシャツのボタンも全て開いている。

 

……かなり露出していた。

 

 

それを見た俺は慌てて洗面所へと戻る。

 

「あれぇ?どうしたの、一夏君」

「ど、どうしたのじゃないですよ!ちゃんと服着てください!」

「え?着てるわよ?」

「ズボンを穿いてください!あとシャツのボタンも閉めて!!」

 

ガチャッ

 

楯無さんは洗面所のドアを開けようとする。

もちろん俺が押さえているため、開くことはない。

 

「もう!観念して上手いと評判のマッサージを私にもしなさい!」

「はぁ!?」

 

楯無さんのあの体をほぼ直に触ってマッサージをしろと!?

まぁ……って、いやダメだ!

なんかまた嫌な予感がする…!

俺は自分の全体重を掛けて、ドアを必死に押さえる。

 

「開かないわね……これ以上抵抗するなら、無理にでも開けるわよ!」

「ぐぬううっ……。そうはいきません……!」

 

絶対に開けさせるものか……!

……っていうか、それ以前に生徒会長が器物損壊はダメだろ!?

 

「開かぬなら、解体(バラ)してしまえ蝶つがい!」

 

ISを部分展開させる時の独特の音とともに楯無さんの川柳のような掛け声が聞こえる。

アンタ、生徒会長でしょうが…!

生徒会長自ら校則違反は……

 

と、そんなことを思考していると──

 

 

ガーンッ!

 

 

凄まじい重い鈍器がぶつかる音の後、俺はドアごとふっ飛ばされた。

 

「ぐおっ!?」

 

 

 

数秒後、部屋に舞い上がった土煙が引いていく。

 

「うっ……」

 

すると俺の目の前には楯無さんの胸があった。

 

「うわっ!?」

「っ……ううっ……!」

 

そして俺に倒れ込んでいるような形で楯無さんが居た。

 

──のだが、その楯無さんの頭部には大きなたんこぶが出来ていた。

 

「…あれ?」

 

てっきり楯無さんがISを部分展開してぶっ壊してきたと思ったのだが……その楯無さんがやられてる……。

 

──ってことは

 

 

「ミカ…か?」

 

洗面所の入り口のところには、一年生最強として名高い風紀委員で俺の仲間のミカが居た。

 

「ねぇ」

「な、なんだ?」

「そいつ迷惑なんだけど。邪魔するなって言ったよね」

 

ミカは睡眠を邪魔されたからか、ひどく眠たそうだった。

あまりにも楯無さんが騒いでたからだろうか……。

まぁ確かに結構な大声だった。ここが防音設備もガタガタだったら俺やミカもかなりヤバかったかもな……。

 

「追い出せないの?これ」

 

仮にも生徒会長に「これ」と言う時点でミカの怒りも限界のようだ。

まあ事実だし、俺も突っ込まないけど

 

「追い出せねぇよ……一応生徒会長権限とかで追い出したところでまた這い上がってくるよ」

「動けないように縛りつけて放り出しても?」

「いやその場合は俺達が社会的に死ぬことになるからやめたほうがいいぞ……」

「……そっか。でもとりあえず放置してていい?」

「うん、それくらいなら……ミカがメイスでぶん殴ったお蔭で気絶してるみてぇだしな」

 

──ん?

 

仮にもISの装備でよくたんこぶのレベルに抑えられたなミカ。

 

俺がそのことについて聞いてみると、ミカはこう答えた。

 

「………殺さないようにはしたからね」

 

すげぇよ、ミカは……。

 

俺ももっとISを扱えるようにしねぇとな!

 

 


 

 

今日は学園祭当日だ。

俺たちも色々と事前の準備をしている。

 

「オルガ、似合ってるよそれ」

「勘弁してくれよ……」

 

俺もイチカやミカと同じく執事服を着るってわけだ。

 

正直あんまり着慣れてねぇがよ……。

 

──まぁ、接客とかはイチカの野郎が殆どやってくれるだろうし、俺は会計に集中するわけだがよ。

 

ちなみにシャルはメイド服に着替えている最中だ。

 

──今度こそ…今度こそだ……!

 

「お、お待たせ!」

「お、おう……シャルじゃねぇ…か!?」

 

シャルの声がした方を向くと──

 

そこにはメイド服姿のシャルが居た。

 

「お、オルガ……ど、どうかな……?」

 

まるで……天使のような……いや、天使なんて生易しいもんじゃねぇ……とにかく綺麗だ。

 

なんとも言い表せねぇ……

 

「お、お……くっ……」

 

思わず涙が出てしまいそうだからよ……なんとかそれを手で抑える。

 

これが感激ってやつなのか……

 

「だ、大丈夫?……やっぱ僕には似合ってなんか」

「そんなことはねえぞ……学園一…いや、世界一似合ってるぞぉ……」

 

間違いねぇ、これだけは間違いねぇ!

俺は倒れないように力強く言う。

 

「そ、そんなに……かな……///」

「ああ、だからよ……胸張っていいんだぞぉ……間違いはねぇからよ……」

「……ありがとう、オルガ」

 

照れながらもお礼の言葉を口にするシャル……やっぱ可愛い。

 

そんな時、クラスの他のやつがシャルを呼んだ。

 

「デュノアさーん、こっち手伝ってもらってもいいかなー」

「うんわかった!じゃあまたねオルガ」

「おう、頑張れよ…シャル」

 

シャルはそのまま上機嫌に軽くスキップしながら準備に入っていった。

 

「……オルガ?」

「お、おう……どうしたミカ」

「ラウラのメイド姿、どう?」

 

ミカが指さした先には教室内の飾り付けをしているメイド服姿のラウラが居た。

 

「どうって……いいんじゃねぇの?」

 

ピキュッ!

 

「え?」

 

俺の返答がお気に召さなかったのか、ミカはすぐに俺の胸元を引っ張ってきた。

 

「かわいいでしょ?」

「お、え……」

 

ミカお前……また同意してほしいのかよ?

確かにまぁいいかもしれねぇがよ……

 

だが今回は譲るつもりはねぇ!

 

「あ?お前状況わかってんのか!?シャルのほうが良いって言ってるだろうが!」

「別に……普通でしょ?」

「ミカお前……!」

「……何?」

 

今回だけは絶対にシャルだ!これは譲れねぇ!

 

そして、俺とミカで一触即発になろうとしたその時──

 

 

ゴンッ!

 

 

「ぐぉっ!?」

 

俺の頭に出席簿が直撃し、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

「だからよ、喧嘩するんじゃねぇぞ……」

 

間違いねぇこれは……

学園教師勢最強の──

 

「全く……こんな時から喧嘩とは相変わらずお前らは元気が有り余ってるようだな」

 

オリムラ先生じゃねぇか……!

 

「すみませんでした」

「別に……」

 

俺とミカはオリムラ先生に怒られて少し萎縮しちまった。

ミカまで萎縮させられるなんて……すげぇよ、オリムラ先生……。

 

「全く、学園祭だからといってはしゃぎ過ぎるな。あくまでも学園の授業の一環だということを忘れるなよ」

「は、はい……」

「うん、わかった」

 

オリムラ先生からのお叱りもあり、俺とミカは静かに他の準備をすることにしたのであった。

 

オリムラ先生が去った後、ミカが俺を呼び止めた。

 

「あと、オルガ」

「あ?」

「さっきはごめん」

 

ミカが謝ってきた。だが、俺にも悪いとこはあったんだ。ここは筋を通さねぇといけねぇな……

 

「ああ、こっちも悪かった……。しかしやっぱ今日は気分悪いのか?ミカ。寝不足みたいだしよ……」

「生徒会長が色々邪魔してるせいで上手く寝れてない……ラウラも最近これなくなったし……」

「そうか……」

 

確かミカとイチカの部屋にあの生徒会長が同棲……つか無理やり乱入してきたとか言ってたな。

大変だな……ミカもイチカも……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

一方の一夏もせっせと準備の手伝いをしていた。

 

「よいしょ……こんなんでいいか」

 

(これで俺の仕事は一段落だな、後は他の手伝いに……)

 

「一夏!」

「ん?」

 

その様子を呼び止める聞き慣れた声……

ふと一夏が顔を見上げるとセカンド幼馴染の鈴が居た。

いつもの制服姿とは違い、チャイナドレス姿だ。

 

「お、鈴か!どうしたんだ?」

「ちょっと偵察に来たのよ。一組はメイド喫茶をやるって聞いたから」

「ああ、俺はもちろんメイドじゃなくて執事だけどな」

 

鈴は一夏の執事服を見定めるように上から下へと目を動かす。

 

「ふーん……結構似合ってるじゃない」

「そうか?動きにくくて結構疲れるんだけどな……ところで鈴のそれって……」

「ええ、チャイナドレスよ。今回二組は中華喫茶をやるから」

 

そのチャイナドレスは一枚布のスカートタイプでかなり大胆にスリットが入っており、真っ赤な生地に龍があしらわれ

金色のラインも入っている。

なお髪型もいつもとは違い、いわゆる両把頭というシニョンの一種で、二つのお団子としてまとめられている。

 

「へー、相変わらず似合ってるな!」

「そ、それはまあ、中国人としての嗜みっていうか…なんというか……」

 

少し照れながら言い淀む鈴。

そんな鈴の様子に一夏が首を傾げていると、鈴はこう言った。

 

「と、とにかく!がんばりなさいよ!」

「お、おう!」

 

そして、鈴はそのまま顔を赤くしながら、逃げるように二組のほうへと走っていった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

所変わり生徒会室

 

ここではバエルのプラモデルを磨くマクギリスと相変わらず扇子で仰いでいる楯無が居た。

 

「全く……また君は……。三日月・オーガスの睡眠を邪魔するのは得策ではないだろうに」

「あら?良いじゃない……まあここまで来るとは思わなかったけど。早々に私の学園最強の看板も狙えるくらいよ?」

「だろうな……私が知る限りでも彼はかなりの()()を踏んでいるからな」

「ふーん……まあその強さは是非「組織」との戦いに使ってほしいものね」

「ほう?ではあの「亡霊」の次の目標はここになると?」

「ええ、私の情報筋によれば…ね。まぁ男性IS操縦者を三人……いや、先生も合わせたら四人ね。ともかく貴方達(男性IS操縦者)をここに置いている以上、今襲撃してきてもおかしくはないくらいだわ」

「つまりこの「学園祭」で襲撃してくる……と?」

「ええ、その可能性は高いわ。一応警備は強化してあるけど、あいつらは必ずそれを掻い潜ってくるはず……先生も警戒をお願いね」

「ああ、そのつもりだ。……ところで一つ気になっていたのだが」

「なにかしら?」

「まだ生徒会の出し物について何も聞いていないのだが……何にするつもりなのかね?」

「……まあちょっと趣向をこらしたものよ。鉄華団の面々を「少し」巻き込んじゃうけど」

「ほう、そうか……」

 

(全く、また騒動を起こすつもりか……?困った女だ)

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

つーことで、俺たち一年一組のこの催しは盛況で、結構大忙しになっちまった。

ラウラの読みもあたったみてぇだ。

すげぇよ、ラウラは……。

 

「いらっしゃいませ!」

 

シャルはにこにこと元気よく接客をしている。

メイド服を着れたことが相当嬉しいみてぇだ。

 

「オルガ、シャルばかり見てないで仕事して」

「お、おう……」

 

ミカに怒られちまった……。

仕方ねぇな、俺も俺で与えられた仕事を……

 

しようとした時、何やらイチカの困った声が聞こえてきた。

 

「巻紙礼子……さん」

 

「あ?」

 

あの様子じゃ……こりゃ間違いなく変な連中に絡まれちまったか……?

そしてイチカの向かいに座っている人をよく見ると、女が座っていた。

 

聞き耳を立てて、その女が何を話してんのか確認する。

 

「はい、織斑さんの白式に是非我が社の装備を使っていただけないかなと思いまして」

 

いかにも胡散臭いおばさんだ。

どうやらこのおばさんはIS装備の開発企業の奴らしく、イチカにIS装備を売り込みに来たらしい。

 

まぁ、それ自体はよくあることらしいがよ……

 

「オルガ?」

 

おばさんを睨んでいる俺に気付いたミカが小さな声で俺に話し掛けてきた。

 

「ミカ、あのおばさん、胡散臭すぎる」

「……うん、なんか怪しい」

「ミカもそう思うか……」

 

やっぱミカもおんなじ事考えてたみてぇだ……。

 

「イチカも困ってるし……どうする?オルガ」

「なら……」

 

とにかくあいつからイチカを離さねぇといけねぇ。

なら……一芝居打っちまうか……

 

「こちらの追加装甲や脚部ブレードもついてきます」

「いや、あの……」

 

困り顔で笑うイチカを俺は大声で呼ぶ。

 

「イチカァ!なんかここの数あわなくねえか?」

 

「あ、悪い!すぐ確認する!」

「あの……」

「すみません、仲間が呼んでいるので失礼します」

 

イチカはあのおばさんに断りながらも席を立ち、俺たちのところに向かってくる。

助け舟を出すことに成功したみてぇだ。

 

「…………チッ」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「ふぅ……助かったぜオルガ」

「へっ、それよりイチカもあんなおばさんの相手に疲れてねぇか?」

「これくらいなんてことはねぇよ!まだまだ行けるぜ!」

 

そう言って一夏は肩を回す。

 

「ならいい……あのおばさんも諦めてどっか言っちまったみてぇだしな」

「うん、もう大丈夫だと思うよ」

「そっか、なら仕事に戻るとするk……」

 

そう言って仕事に戻ろうとしたその時──

 

「ぐっ!?」

 

突然、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

 

「オルガ!?」

 

倒れたオルガの後ろに居たのは、何故かメイド姿になっていた楯無であった。

 

「じゃじゃーん」

「うわ!?た、楯無さん!?」

「オルガ、また死んでる……」

 

「だからよ……急に扇子でぶっ叩くんじゃねぇぞ……」

 

どうやらオルガは楯無の扇子でぶっ叩かれて希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せたらしい。

 

「んふっ、時にその男子三人……生徒会の出し物「観客参加型演劇」に協力しなさい!」

 

「は!?」

「え?」

「あんた何いってんの?」

 

楯無からの急な協力要請(?)に首を傾げる三人。

 

「いいからいいから。お姉さんと来る~♪」

「え?」

「はい決定!オルガ君と三日月君も第4アリーナに集合ね♪」

 

そのまま一夏は楯無に引っ張られていってしまった。

 

「どうする?オルガ」

「どうするもなにもねぇよ……協力しろってなら受けるまでだ。いくぞミカ」

「………うん、オルガが言うなら」

 

取り残された二人もクラスメイトに事情を話し交代を頼んだ後、一夏を追いかけようとした。

 

しかし、教室を出たその時──

 

 

「まて、三日月・オーガス」

 

 

聞き慣れた声が呼び止めてきた。

ご存知バエルバカことマクギリスである。

 

「マクギリス……ウチのミカになんか用か?」

「ああ、少し大事なことを話しておきたいのでな……」

「………わかった、オルガは先行ってていいよ」

「ああ……じゃあ後でな」

 

オルガはそのままアリーナの方へ向かった。

オルガが去ったのを見計らい、ミカはマクギリスへ口を開く。

 

「……で、話って何?」

 




色々とカオス気味だけどなんとかしてる……多分!


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硝子少女(シンデレラ・ガール)の透色和音

初心を忘れずに初投稿です。





第4アリーナ 更衣室

 

楯無「じゃあこれに着替えたらステージに来てね」

 

一夏とオルガが楯無から手渡されたモノ──

 

それは演劇用の衣装であった。

 

ファンタジー映画などで王子様が着るような青いコートに白いシャツとズボン。コートには金の宝飾があしらわれており、袖には赤い宝石が、肩には金の肩章(けんしょう)も着いている。

そして、白いスカーフ、赤い大綬(だいじゅ)も同時に手渡される。

 

どうやらこれを着ろと言っているらしい。

 

一夏「え?」

オルガ「は?」

 

もちろん唐突に言われたため、二人は困惑している。

 

「それと……大事なのが……はい、王冠」

 

最後に手渡されたのは金の王冠。前と後ろにそれぞれ大きな赤い宝石一つと小さな青い宝石が二つ埋め込まれている。

 

それを渋々受け取りながら、一夏は楯無にこう尋ねた。

 

「あの……脚本とか一度も見てないんですけど……」

「そうだ、一体どんな内容なんだぁ?」

 

二人がそう聞くと、楯無は『心配無用』と書かれた扇子を広げながら、こう言った。

 

「大丈夫大丈夫、基本アドリブのお芝居だし、必要な指示はこっちからも出すから」

「は?」

「それじゃあよろしくね♪」

 

楯無は劇の準備のためか、そのまま更衣室から出ていった。

 

「イチカ……基本アドリブの芝居なんかあるのか?普通」

「いや、俺も聞いたことないな……つかプロでも無理だろこれ」

「バカじゃねぇか?あの生徒会長」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

二人は仕方なく王子服に着替え、ステージに立つ。

 

≪さあ、幕開けよ!≫

 

その楯無のアナウンスと同時にアリーナの屋根が完全に閉鎖され、辺り一面が暗くなる。

 

そして、すぐに映写機が動き出した。

 

≪昔々、あるところにシンデレラという少女がいました≫

 

「え?」

「……はぁ?」

 

≪否、それは名前ではない≫

 

「あ?」

 

≪幾多の武闘会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰塵(かいじん)を纏うことさえ厭わぬ、地上最強の兵士達≫

 

投影されている映像からはどう見てもシンデレラのものではないものが流れている。

 

「は?」

 

≪彼女らを呼ぶに相応しい称号…それが灰被り姫(シンデレラ)

 

「は!?」

「やっぱりバカじゃねぇか……」

 

(いくら俺でも本来のシンデレラはこんなんじゃねえってわかるぞ…)

 

火星育ちで童話すら知らないオルガも流石にこれは異常だとわかってしまう。

 

それだけ無茶苦茶なものであるからか。

 

≪王子の冠に隠された軍事機密を狙い、少女たちが舞い踊る!≫

 

「「きゃああああああああああああっ!」」

 

観客席から生徒の歓喜の声が響く。

 

「ちょっと待て!それじゃ……」

 

オルガが言いかけた後……

 

辺り一面の照明が付く。

 

「え?……なぁオルガこれって…」

「勘弁してくれよ…」

 

一夏とオルガは勘づく。

 

≪今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる…≫

 

そして、オルガは……こう言った。

 

「イチカ、俺たちは確実に殺されるぞ!」

「ええっ!?」

 

「一夏ああああああああっ!!」

 

次の瞬間、鈴が上から剣で一夏に襲いかかってきた。

 

「うわっ!?」

 

一夏はなんとか回避する。

 

「鈴、急に何したいんだよ!?」

「一夏、その王冠を今すぐ渡しなさい!」

「な、なんでだよ!急に剣なんか振り回して…説明しろよ!」

 

『大丈夫!ちゃんと安全な素材で出来てるから』

 

「そういう説明じゃねぇ!」

「だからいいから早く渡して!」

 

(早くしないと箒に取られちゃう…なんとしても奪わないと……!)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

数時間前 一組教室にて

 

楯無は鉄華団の女子五人を集め、あることを話し始めていた。

 

楯無「もし、そのオルガ君・一夏君・三日月君の王冠を取ったら、その取った相手の男子と同居できる権利をプレゼントしようと思うの」

 

箒「なに?」

シャル「でもそんなことって……」

「ふふっ、大丈夫……生徒会長権限で可能にするわ」

 

シャルと箒の疑問に答え、扇子をパタパタさせる。

 

ラウラ「ほう……だがそのように生徒会長権限とやらを濫用してよいのか?」

 

「生徒会長だから良いの♪」

 

ラウラの質問には答えになっていない答えを返していた。

 

鈴(なによそれ……)

 

なお、鈴は少し呆れている

 

「じゃ私は準備があるから……頑張ってね~♪」

 

そして楯無はそのまま教室から立ち去る。

 

箒(はぁ……まあ鈴より先に一夏の王冠を取ればいいということか…な、なに!別に私は同居したいというわけじゃないが……そうだ!最近一夏は疲れているからな、その世話をしたいというだけだ!)

 

鈴(まあ箒より先に一夏の王冠を取ればいいわけね……よし、このチャンス…気合い入れるわよアタシ!……って別にそんな好きに同居したいわけじゃないから!仕方ないから!)

 

シャル(オルガ、僕に王冠渡してくれるかな……もし…もし同居したら………ってそんな破廉恥なこと考えちゃダメだよ!)ブンブンブン!

 

ラウラ(ミカならすぐに王冠を渡してくれるであろう……同居できるようになれば今までのように潜入する手間が省けて起こしに行ける……更に私とミカの絆は深まるかも知れないな!)

 

一夏を狙う幼馴染二人とすでにほとんどゴールインしている二人が燃えている中

唯一あの三人に惚れてもいないセシリアは全く気が進んでいなかった。

 

セシリア(はぁ……別にワタクシはそんな権利に興味はありませんけど……棄権したいですわ……)

 

そんなことを考えているセシリアに鈴がこう話を持ちかける。

 

「そうだ!セシリア、王冠取るつもり無いならアタシを援護しなさい!」

「え?ワタクシは……」

「いいから!」

「はぁ……まぁ、わかりましたわ…」

 

鈴の気合いに押され、受けざるを得なくなったしまったセシリア

 

(まぁ、こうなってしまいますわね……)

 

「はぁ……」

 

再びセシリアはため息を付いたのだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

第4アリーナ 舞台上

 

(くっ、リア充組は良いわよね…取ることは確約されてるんだから)

 

そんなことを考えながら、ドレス姿の鈴は一夏とオルガに対して剣を振り回していた。

 

(だけど一夏はまだ……)

 

パンッ!

 

「グッ!?」

 

その時、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

「だからよ…止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

オルガの希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せたのは、一発の銃弾だった。

 

「この遠距離射撃は……セシリアか!」

 

一夏は希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せたオルガを心配して、声を掛ける。

 

「オルガ!大丈夫か!?」

「こんくれぇなんてこたぁねぇ……」

「ちっ……とにかくこっちに逃げるぞ!」

 

オルガをなんとか引っ張って壁となりそうなドアの方に逃げ込む一夏。

 

「ちょっとセシリア!なにオルガに当てちゃってるのよ!あくまでも威嚇射撃って言ったわよね!?」

「だって仕方ないですわ、どう撃ってもオルガさんに当たりそうですもの……」

 

(はぁ……なんでワタクシはこんなことしなければなりませんの…?)

 

セシリアは楯無から支給された演劇用のスナイパーライフルを構え、スコープを覗きながらも……迷っていた。

 

(三日月さんと同居できる権利は少し羨ましいですけど、あの方にはラウラさんがもういらっしゃいますし……)

 

パンパンパンッ!

 

(あとどう考えてもこれってほとんど実銃と同じくらいの威力…壁にめり込んだり、木製のドアに普通に貫通してますわね……)

 

パンパンパンッ!

 

「おわっ?!」

「勘弁してくれよ……」

 

(あの生徒会長さん、これが安全と考えていらっしゃいますの…?三日月さんなら間違いなく突っ込みますわ……)

 

「だから勘弁してくれよ……」

 

(はぁ……どうしてワタクシはこんなことを……三日月さんとラウラさんはどこに…?まぁ、あの二人ならきっと大丈夫だとは思いますけれど……)

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

 

「くっ!どうすれば……!」

 

ドアが完全に壊れ、突破されれば、間違いなく鈴が襲いかかってくる。

 

万事休すかと思われた…が

 

「オルガ!一夏!こっちこっち!」

 

そんなところにシャルロットという天使が舞い降りた。

シャルロットはオルガと一夏にむかって手を降っている。

こちらに来ても良いというサインのようだ。

 

「おお!シャルじゃねえか!」

「シャルロット!」

 

上から飛び降りる二人。

 

「恩に着るぞシャル!……じゃあさっさと逃げちまうか……」

「あぁ、ちょっと待って!」

 

逃げようとするオルガをシャルロットが引き止める。

 

「ん?」

「その……オルガ…。できれば僕に王冠を置いていってくれると嬉しいな……」

 

シャルロットのその『お願い』を二人は聞き入れる。

 

「あ、あぁ…いいぞ…?」

「じゃあ俺も」

 

そして、二人とも王冠を取ろうと、頭の上に手をかける。

 

「ああ!一夏は待って!」

 

そんな一夏をシャルロットが止める。

 

「え?」

「その……一夏の王冠は箒か鈴に渡したほうが良いと思うから…」

「お、おう……そう…なのか」

「じゃあ俺だけ取ればいいんだな?」

 

オルガは王冠に手をかけ、頭から取る。

 

 

──が、その直後に再び生徒会長の声が聞こえ始める。

 

≪王子にとって国とはすべて≫

 

「は?」

 

≪その重要機密が隠された王冠を失うと……≫

 

「あぁ?」

「失うと…?」

 

次の瞬間──

 

「ぐあああああああああああっ!?」

 

オルガの体に文字通り、電撃が走る。

 

その時、希望の花(ワンオフアビリティ)咲いた(発動した)

 

 

≪自責の念によって、電流が流れます!≫

 

「オルガ!?」

 

「だからよ……電撃でも普通に死ぬことを忘れるんじゃねぇぞ……」

 

もちろんオルガは希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せてなんとか生き返る。

 

≪ああ、なんということでしょう!王子様の国を想う心はそうまでも重いのか……≫

 

わざとらしい声でそう言う楯無。

 

≪しかし、私達には見守ることしかできません!ああ、なんということでしょう!≫

 

「二度も言うんじゃねぇぞ……」

「う…ううっ……また僕のせいでオルガが……」

「シャ……ル?」

「僕…そんな風になるなんて知らなかったから……」

 

シャルロットはオルガを再び傷つけてしまったという自責の念で顔が暗くなってしまった。

 

「大丈夫だシャル……悪いのはあの会長だ……」

 

そんなシャルを心配させまいと、元気に立とうとするオルガ。

一回死んだが、ワンオフアビリティでなんとか回復したといういつものことである。

 

「オルガ……あんまり無理しちゃダメだよ…?命は大事にしよ…?」

「ああ、わかってる……あの会長をぶっ潰すまでは死のうにも死ねねぇ!」

 

(後で確実にぶっ潰す……!)

 

雲海での一件以来、怒ることがあまりなかったオルガですら、会長の度重なるおかしい行動により、もう沸点の限界を越えてしまっていた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

(まさかそういう仕掛けだったなんて…ワタクシ達鉄華団をなんだと思っていますの!?)

 

その楯無のアナウンスを聞いたセシリアも怒りが徐々にこみ上げてくる。

 

(……一夏さんを逃がす必要がありますわね……でしたら!)

 

「そこまでですわ!」

 

パンパンパンッ!

 

「くっ!」

 

シャルロットはどこからか取り出した強化ガラス製の盾で難なく防御する。

 

「セシリアお前……!」

 

(……ん?あの光…)

 

セシリアはスナイパーライフルのフラッシュライトをパカパカと光らせていた。

何かの信号のようであった。

 

(なるほど、そういうこと!)

 

シャルロットはセシリアの意図に気付く。

そして、一夏にこう指示を出した。

 

「一夏、先に逃げて!」

「お、おう!サンキュー!」

 

一夏は裏の方に走り出した。

 

シャルロットとセシリアの考えにピンとこないオルガは小さな声でシャルロットにこう尋ねる。

 

「…ん?どういうことなんだ?」

「僕、オルガとセシリアで派手に撃ち合いして生徒会長の気をそらす作戦だよ」

 

シャルロットはセシリアがスナイパーライフルのフラッシュライトを使った信号で提案された作戦をオルガにも伝える。

 

「そして他の皆が逃げれるようにって…そして僕達は頃合いを見て徐々に奥の方に……」

「お、おう…そうか」

 

オルガも拳銃に手を取り、セシリアに撃ち返し始めた。

 

「あぁ、わかったよ!やるよ!」

「ワタクシの射撃を舐めないでくださいまし!」

 

(なるべく当たりそうで当たらないところを狙っていきますわ……!)

 

パンパンパンッ!

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

楯無のアナウンスを聞いた鈴は一夏を狙うのを止めて、舞台裏へと戻っていた。

 

「くっ……あの生徒会長……!」

 

(なによ……権利を取る取らない以前に、王冠取っちゃったら一夏にも電流が流れるってことでしょ!?)

 

鈴もセシリア同様、怒りに身を震わせていた。

 

(ふざけんじゃないわよ……いくら一夏は唐変木だからって、そこまで傷つけるつもりはないわよ!)

 

そう心の中で叫びながらも、先ほどの自分の行動を思い出し、鈴は少し反省する。

 

(……まぁ、アタシも少しやりすぎたことも多々あったのは事実だけど……。はあ……もっと素直になれたらなぁ……)

 

そんな鈴に声を掛けつつ、走って近付いてくる者が一人。

 

「鈴!」

「箒!こっちに居たのね」

 

それは鈴と同じく、一夏との同居権を狙う箒だった。

 

「あぁ……でさっきの電流の話は聞いたか?」

「もちろんよ……オルガはそれで一回死んでたわ」

「やはりな……しかしいくらなんでもやりすぎだ!これでは一夏が……」

 

この状況、誰が敵で誰が味方なのか。

それが分からぬ二人ではない。

 

「あの生徒会長、男が入ってきたからそれで遊んでるのよ…きっと」

「だろうな……」

 

(くっ……あの生徒会長…私達鉄華団を舐めているのか…!?)

 

(私達の「仲間」を物珍しい遊び道具かのように……許さない…!)

 

二人の怒りはもう爆発寸前だ。

 

「……そうだ、一夏は?」

「確か私とは別方向で逃げていったはずだから、もうそろそろでこっちに来ると思う」

「そうか……なら一夏と合流してあの電流を流す仕掛けをなんとかしなければな…」

「ええ」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

その頃、三日月とラウラは……

 

「……ミカ?」

「ラウラ?」

「その…どうしたのだ?宇宙服のような格好は……」

「……いたずら対策」

「そ、そうか……」

 

三日月のその格好は前世で良く着ていた黄色いパイロットスーツであった。

 

その頭の上にはもちろん王冠がある。

 

「で、王冠を渡せば良いんだっけ?」

「あ、あぁ……だがその王冠を取るとミカに電流が…」

「大丈夫」

 

三日月はそう言うと、ヘルメットのバイザーをはめ、王冠を上から取る。

 

オルガのように電撃が来るかと思いきや、三日月のその体には不思議となにも起こらなかった。

 

それもそのはず、パイロットスーツは極限環境の宇宙でも使えるようになっているため、外側の素材は絶縁体で作られている。

 

つまり基本は何も通さない。

 

おそらく王冠と服で何かしらの仕掛けが施され、王冠を取ると服から電流が流れるような仕掛けになっていたのだろう。

 

だが、パイロットスーツだとそもそもその仕掛けを通さないため、機能しなかったのである。

 

「……うん、良いよ」

「あ、ああ……」

 

三日月はラウラにその王冠の手渡す。

 

「ありが…とう……」

「……ならこれで大丈夫かな」

 

そして三日月は邪魔だったパイロットスーツを脱ぐ。

 

「あ…ああっ!」

 

 

そこには……「王子様」が居た。

 

 

「ふーっ…やっと」

「み、ミカ…!」

 

三日月の王子様姿にラウラは言葉を奪われる。

 

(これは……確かクラリッサが言っていた……「白馬の王子様」というやつではないのか!?)

 

「ん?」

「さ、流石私の嫁だ……凄く……その…似合ってるぞ!///」

「よかった、これ動きにくかったけどラウラが喜んでくれるなら…」

 

(わ、私のために…///)

 

「その、なら私の格好は…どうだ?やはりこういうのにはあまり慣れないが……///」

「……ラウラのその衣装もかわいいしよく似合ってると思う」

「そうか…///」

「………」

 

チュッ

 

「んん!?」

 

オ~ルフェ~ンズナミダ~♪

 

三日月の唇でラウラの唇は塞がれた

その後、三日月は唇を離す。

 

「み、みか……急に……///」

「かわいいと思ったから……良いよね?」

「あ、ああ…!もっと…してもいい……ぞ///」

「た、確か王子様とお姫様はいつもキスしていると聞いたこともあるしな!うん、いいぞ///」

「うん、わかった」

 

愛し合う二人──お互いに戦場しか知らなかった王子様と灰被り姫(シンデレラ)

 

彼と彼女を平穏を止める者は誰一人いなかった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

三日月とラウラが愛し合っている頃、一夏はなんとか舞台裏までやってきた。

 

「はぁはぁ……ここまでくれば……」

 

そんな一夏を呼ぶ二人のドレス姿の少女達。

 

「一夏!こっちだ!」

「こっちこっち!」

 

箒と鈴の手招きに呼ばれ、一夏は彼女らの元へと急ぐ。

 

「箒!鈴!……もしかして俺を追ってここに来たのか!?」

「違うわよ!もうそんなことする気ないから!そもそも取ったら一夏に電流流れちゃうじゃない!」

 

鈴のその言葉に少し、安堵の息を漏らしながらも一夏はこう言う。

 

「あ、ああ……楯無さんもなんでこんなことをするんだよ……」

「わからん……だが確実に許せないということは確かだ」

「ええ、後で引っ叩いてやるわ……」

 

その二人の気合いに押され、一夏は少し萎縮してしまう。

 

「お、おう…そうか……まぁ、確かにこれはやりすぎだよな……オルガ死んじゃってたしよ」

 

そんな一夏を見て、箒と鈴は小声でこう話し始めた。

 

「全く、あれでもまだ怒らないとは……一夏はやはり優しすぎる……」

「同感ね……まぁ、それが一夏のいいところなんだとは思うけど」

「ああ……確かにそうだな」

 

小声で話し合う彼女らを見た一夏はただただ首を傾げるのみであった。

 

「とにかくここは少し危険だ、この梯子を登ろう。その先なら安全のはずだ」

「お、おう!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

三人は難なく梯子を登り、上に着いた。

 

「はぁはぁ……結構キツイなこれ……」

「これやっぱ動きづらいわよね………ああ、しんど」

「ああ、やはり重いな……」

 

三人が疲れてそのまま座っていると、一夏が口を開く。

 

「ところでさ、思ったんだけど」

「どうした?一夏」

「なんでこの王冠を奪い合う必要があるんだ?なんかあるのか?」

「そ、それは……///」

「そ、そうだな……///」

 

言葉を濁す二人。

当然だ、景品が「その王冠を持ってる男と同室になれる権利」である。

恥ずかしくて口が裂けても言えなかった。

 

「もしかして……」

 

「!」

 

「!?」

 

「高級スイーツ食べ放題とかそういうやつか!?」

 

「「………え?」」

 

なんとも的外れなその一夏のセリフに二人は呆れてしまう。

 

「ん?違うのか?」

 

しかし、彼のその鈍感さは今だけは渡りに船だった。

 

「い、いや……そうだ!」

「そ、そうよ!そういうのよ!」

「なるほどなぁ……だから必死こいて俺の王冠を……食べ物の景品は欲しいからなぁ……」

 

そのまま納得する一夏。

生まれつき鈍感の利点(?)がここで発揮されたようだ。まさに渡りに船である。

 

(はぁ……一夏が鈍感でよかったわ)

 

(まさかここで鈍感に助けられるとはな……)

 

もちろん箒と鈴は安堵している。

 

「と、とにかく、今は一夏のそれをどうにかする方法が先だ!一夏は……」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「ふぅ……」

 

一方の三日月とラウラはキスを終えたところだ。

ラウラは少し火照っているが、三日月はなにか警戒している。

 

「……み、か?」

「ごめん、ラウラ。ちょっと行ってくる」

「そ、そうか……」

 

ラウラは少し残念がる。

もう少しこの感じに浸っていたいのだが、「嫁」にそんなわがままは言えなかった。

 

何故なら三日月の目はすでに戦場にいるくらいの警戒した目になっていたからだ。

 

「また後でね、ラウラ」

「ああ……何か来るのか?」

「うん、チョコの人の話が正しければだけど」

「そうか……」

「じゃ」

 

そのままラウラは三日月を送り出した。

 

そしてラウラも調子をいつも通りに整えて、騒がしい表の方向に歩き出す。

 

(……何かが来る…か)

 

 


 

 

一方の楯無はアリーナの管理ブースからその様子を見守っていた。

 

『こんなところじゃ、終われねぇ!』

 

『逃しませんわ!』

 

『こっちからもなんとか撃つから、オルガは後方に移動して!』

 

『わかった!』

 

もはやシンデレラなどではなく、本職顔負けの撃ち合いが始まっていた。

 

三人の迫真な演技に観客である生徒たちは見入っている。

 

「凄いわね……さすが鉄華団ってところかしら?」

 

そして楯無も珍しく舌を巻くくらい見入っていた。

 

「ん?そういえばなにか忘れているような……あ」

 

ここでやっと楯無にとっての本題に気づく。

そう、オルガは目の前のモニターにしっかり写っているのだが一夏と三日月は居ない。

 

「もう、一夏君と三日月君はどこに行ったの?」

 

ピッピッピッとモニターの映像を次々と切り替えていく。

六つほど押した後、一夏と箒と鈴がその場にいる映像が映し出された。

 

「どれどれ……どんな修羅場になってるのかなぁ?」

 

音量を上げていくと……三人の声が聞こえてきた。

 

『つまり、アタシと箒が陽動を行って』

 

『そのうちに一夏が裏に逃げて、その服を脱ぐということだ』

 

『ええ、確かオルガの電撃流れた時、王冠が外された時に服から電撃が流れたように見えたからきっとその服を脱げば解決するはずね』

 

『変に装飾多いから重いと思ってたんだが、そういうのも入ってたからか……』

 

「………え?そういう方向になっちゃうわけ?」

 

三人共冷静になっているのを見て、楯無は拍子抜けしてしまった。

 

てっきり争奪戦で口論になっていると思いきや、二人は一夏の安全を考慮して

共闘して逃がそうという状況になっていた。

 

「ふーん……」

 

(ってことはあの撃ち合いも演技かしら……)

 

今もなお続く、オルガ、シャルロット、セシリアの三人の迫真の撃ち合い芝居。

 

その意図に楯無はやっと気づいたようだ

 

「鉄華団の絆ってのを甘く見てたわね……けど」

 

楯無は不敵な笑みを浮かべ、ポチッと何かのボタンを押す。

 

「お姉さん、そんなに甘くないわよ?」

 

 


 

 

「ん?」

 

一夏と箒と鈴、三人に聞こえるなにかが開いた音。

 

「この音は……なに?」

 

「わからん……だが何か嫌な予感がするぞ」

 

そして次の瞬間、楯無のアナウンスが再び流れ始める。

 

≪さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!みなさん、王子様の王冠目指して頑張ってください!!≫

 

「はぁっ!?」

 

その音の方向から騒がしい声が聞こえてくる。

間違いなく、他の生徒たちであった。

 

「まさかこれって……」

「あぁ、間違いない……」

 

箒と鈴は顔を見合わせ、お互いに頷く。

 

「え?え?」

 

そんな中、上手く状況を飲み込めておらず混乱する一夏。

 

「早く逃げろ!一夏!」

「逃げなさい!一夏!」

 

幼馴染の二人は一夏にそう発破をかけた。

 

「お、おう!」

 

そして、一夏は少なくとも自分の身が危ないということだけは確かだと判断し、そのまま全速力で逃げ始める。

 

「織斑くん、おとなしくしなさい!」

「私と幸せになりましょう、王子様!」

「王冠を頂戴!」

 

女子達のその声からなんとか遠ざかりながら……

 

「うわあああああああああああっ!」

 

「おりむー、待ってよ~」

 

(と、とりあえず裏手に回ってそして……ん?)

 

 

足を止めずに逃げ続けていると……急にその足がなにかに引っ張られ……

 

「うわああああああっ!?」

 

そのまま一夏はその下へと転げ落ちていった。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「はぁ……はぁ…ここは……?」

 

一夏が落ちた先は先程使っていた更衣室だった。

 

そして目の前には……教室で一夏にISの装備の営業をしてきた巻紙礼子が居た。

 

「ここなら見つかりませんよ?」

 

「ど、どうも……あれ?どうして巻紙さんが……!」

 

教室で話した時のニコニコとした表情とは打って変わって、不敵な笑みを浮かべる彼女。

 

「はい。この機会に()()()()()()()と思いまして……」

 

「……はぁ?」

 

未だ状況を飲み込めておらず、混乱する一夏。

 

そして、巻紙礼子はその口調を乱暴なものへと変え、こう叫びながら一夏へと襲いかかった。

 

「いーからぁ…とっととよこしやがれよォッ!!」

 




今回はかなりのオリジナル場面を追加しました。
なるべく説得力というかツッコミどころを減らそうとしたゆえに……大分優しくなってる気がする……。
あと鉄華団の絆というものも改めて再確認っと…。


次回はバトルバトルバトル!の3連打です。
言うまでもなく激しいですので乞うご期待。


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第4話編
交差運命・重複世界(デュエット・エンカウント)


戦闘しかないので初投稿です(モンターク)


おまたせ!戦闘シーンしかないけどいいかな?
多分皆さんの欲しい展開しかない!ぜ! 今回は私の脚本です(Nyose)



文化祭の最中、演劇と称して楯無さんのよく分からない策略に乗せられた俺は、

これまた唐突に大勢の女子生徒達に追われることになった。

 

それを助けてくれたのは、ほんの数時間前に名刺をくれたセールスマンの巻紙礼子さんだった。

けれども礼子さんも、ビシッと決まったビジネススーツ姿は先ほどの記憶と変わらないものの、その表情はニコニコとした笑顔はどこへやら……不敵なものへと変貌していた。

 

そして──

 

礼子「はい。この機会に白式を頂きたいと思いまして……」

 

一夏「……はぁ?」

 

今まさに、変な冗談のような事を言われた。頭の処理が追い付かない。

…なんで?こんなの欲しいか?そんな性能良くないぞ?

確かに白式は俺にとって大切な物だが、ここには素人目でももっとすごいもんは沢山ある。

その中でよりによってコイツを選ぶのか…?他のでも大概断るけどさ。

こうも急な事が短期間に連続し続けると人間誰しも混乱する。しなくても俺はする。

 

「いーからぁ…とっととよこしやがれよォッ!!」

 

さらには口調がとても荒々しいものに変わった。

そのギャップにぽかんとしていると、礼子さんのスーツは背のほうから裂け、 長細く鋭利な枝のようなものが幾つも現れる。……多分、蜘蛛の脚だろう。

 

これが俺へと叩きつけられようと伸びた時、ようやく俺はこの女が『敵』である事を認識した。

 

だがその判断はあまりに遅く、間近に迫った黄色と紅色の装甲脚は、平和ボケしていた俺を容赦なく──

 

 

 

ドゴォォオオオオン!!

 

 

 

響く轟音。どうやら俺の体はそうとう派手に砕け散って……。いや待て。

人体からはこんな建造物が崩れるような音はまずしない。

そもそも俺の意識がはっきりとしている。

 

って、事は、だ。

 

「ゲッホッ!ゴホッ!」

 

俺とこの女がいたアリーナ下のロッカールームは大きな衝撃と共に粉塵に包まれる。ちょっと吸った。苦しい。

 

「テメェどっから入った?!今ここは全システムをロックしてんだぞ?……あぁ?天井ぶっ壊して来やがったのか?イカれてんのか!?何なんだよテメェはよォッ!!」

 

一方の礼子さ…敵はその姿を完全に異形の物へと変化させた。

 

どうやらさっきの装甲脚の全体像は見たことのないサイケデリックなカラーをしたフルフェイスタイプのISのようだ。

敵はそのISを身に纏い、見た目の通り蜘蛛の如く壁に張り付いている。

 

そして、狼狽え様からして、声をかけている相手は俺ではなく。

 

先ほどの襲撃を防ぎ、俺の目の前に立っている人物。

 

「………大丈夫?」

 

「お、おう」

 

そのISの姿は、物語に語られるような重い鎧を着こんだ戦士。

向こうが幾つもの長細い手足を持つ大蜘蛛、女郎蜘蛛のような姿を持つためか、さながらファンタジー物の一風景のような様相を醸し出していた。

 

ガンダム・バルバトス。俺たち鉄華団の仲間であり、親友である三日月・オーガスのISだ。

幾つかある姿のうち、今回はたまに『第六形態』と呼んでいる装甲多めの状態となっている。

 

三日月「あれが敵?…なんか変わった形。クモみたいだ」

 

一夏「…知ってるか?蜘蛛ってのはチョコみてーな味がするらしいぜ」

 

「へぇ…今度チョコの人に持っていこうかな」

 

「チョコの人ってファリド先生か。やめとけ、びっくりするだけだと思う」

 

「そっか」

 

とりあえず命が拾えた安心感からか、つい敵の目の前で談笑してしまう。

もちろんこんな余裕しゃくしゃくな様子を見て向こうは黙っちゃいない。

 

「ッッッ…!テッメェ!!何とか言えこのガキがぁ!!!」

 

正体不明の敵ISは、六本の装甲脚を傘の骨のように展開。

それぞれの脚の先端からエネルギー弾を連続で発射。

狭い空間で分厚い弾幕を張り出した。

 

「うわっ!……来い!白式!!」

 

流石にこうなってはもう生身のままでいられない。

俺もISを展開し、素早く雪羅のエネルギーシールドで攻撃をしのぐ。

 

 

一方ミカは──

 

なんと、室内を埋め尽くさん勢いで放たれるこの猛攻の中へ突撃。

直撃すれすれのところを目にも留まらぬ速さで掻い潜り…ん?

むしろ多少当たろうが構わず突っ込んでいく?!…やっぱすげぇよ、ミカは。

 

撃ちまくっても一直線に向かってくる相手にはどうすることもできず、敵はそのままバルバトスが懐に入ることを許してしまう。

突進の勢いを乗せた白く大きな特殊メイスの振り上げを敵は回避しそこね胴を掠めた。

掠めたといっても、絶大な威力を誇るバルバトスの一撃。

余波だけでも腹から胸にかけて装甲表面が裂けたような傷が浮かび上がる。

 

「…ッ!」

 

「そういう対策くらいするよ。……チョコが」

 

「ハッ!やるじゃねえか、ガキ。この『アラクネ』相手に…よォッ!」

 

アラクネ。たぶんISの名前だろう。

蜘蛛のモンスターによくある、ぴったりな名称だ。

 

そのアラクネはマシンガンを右手に呼び出(コール)し、バルバトスに向け発砲。

ミカはこれを避けるためいったん距離を離す。

状況は振り出しに戻った。

 

一夏「あいつ…そっか、脚に加えて腕も。じゃあかなり普通と比べて手数が多く使えるんだ」

 

三日月「明宏のより腕いっぱいあるなぁ…。どうする?あいつ、面倒な相手だよ」

 

「…?あ、ああ!もちろん倒す!攻撃特化のアタッカー二人、むしろ互角だろ?」

 

「んじゃあ~…行くかぁ!!」

 

今、なんか聞こえた気がしたけど、気のせいだろ。とにかくこいつを何とかしないと…!

 

 


 

 

IS学園。第三会議室。

 

めったに使われることのないこの会議室の椅子に一人で座るIS学園教師、マクギリス・ファリド。

彼はそこでIS学園生徒会長、更識楯無と通信を取っていた。

 

楯無≪私のデータ、役に立ったでしょ?≫

 

マクギリス「ああ。三日月・オーガスならば、すぐに片付くだろう。彼にのみ、衣装と共に通信機を渡しておいたのは正解だった」

 

≪ふぅ~ん…≫

 

この二人は、今回の襲撃を予め見越していた。勿論、それは懸念で済めばよし、

そうでなくても被害を防ぐ手段にぬかりもない。

だが、未然に済ます気もなく、それ故に小型通信機にて三日月に敵襲を知らせた際、あわよくば捕縛し尋問できるよう、レンチメイスが持てる形態での展開を指示した。

 

どうせ杭が出るのなら、いっそ打つついでに引っこ抜く。それが今回の作戦だ。

 

(しかし…まだ戦力があると見て間違いない。この状況は、楽観できたものではないだろう)

 

≪…ねえ、本当にこれが私の情報通り、亡国機業の仕業なら…この程度で済むのかしら?≫

 

「そうだな。楯無。君の意見を――」

 

 

 

ドオォォオオオオン!!

 

 

 

マクギリスの言葉を遮り、代わりに楯無の通信に響いたのは崩落音。

 

事実、マクギリスは天井のほうから突如発生した爆発にのみ込まれた。

 

≪?! ねえ!大丈夫?どうしたの?!≫

 

「……私の動向が、どこからか、漏れたようだな」

 

咄嗟にIS『ガンダム・バエル』を展開したマクギリスは煙の中から姿を現す。

 

流石にまだこの学園に来たばかりの自分が襲われることは想定外だったらしく、その顔には少しばかりの緊張の汗が流れていた。

 

まずは未だ晴れぬ爆煙の先へと向かい、いるであろう『相手』を探す。

それらしき機影はすぐに見つかった。

 

同じく煙から姿を現した襲撃犯は、彼の予想を遥かに越えたモノだった。

 

 

 

「……ッ!?あれは、ガンダム・フレーム……?」

 

 

 

マクギリスが目にしたのは、自らの元居た世界で起きた『厄災戦』の記録で見たことのない、けれどもそれにのみ該当しうる形をした『ガンダム』の姿であった。

 

 


 

 

一夏・三日月と巻紙礼子を名乗る襲撃者、マクギリスと謎のガンダムが戦闘を始めたのと時を同じくして、アリーナでは──

 

 

ラウラ「状況終了だな」

 

鈴「よくやるわね……」

 

箒「なにはともあれ、やっと収まったようだな」

 

参加型演劇、とかいう滅茶苦茶な事態はやっと収まりかけている。

途中で他の女子共も乱入してきちまったし一時はどうなるかと思ったが

ラウラが天に向けて銃撃を3発ほどやった後、まるで海の潮ってやつが引いていくかのように女子達が逃げていったためなんとか収まったんだがよ……。

 

ん…?そういやイチカの姿が見えねえが…

 

オルガ「そういや、イチカのやつはどうした?」

 

「一夏なら裏へ向けて全速力で駆け出していったぞ」

 

「ほんと逃げ足の速さだけは上手いのよねアイツ……」

 

どうやらイチカはうまく逃げてれたらしい

じゃあイチカの所に……って

 

……え?

シノ…ラウラ…その格好…はっ!?

 

シャルロット「と、ところでいいかな?箒、ラウラ…」

 

俺が今ラウラを見て思ったことと同じことを考えてたのか、さりげなくシャルがシノやラウラに聞いてみる。

 

なぜか二人の服装はその、やけにワイルドっつーか、色々と破れて際どくなっていてあまり見れねえ。

 

箒「ん?ああ、この服か。その……あの揉み合いの中で色々と引っ張られて破けてしまってな……しかし……また大きくなったのか……うむむ……」

 

鈴「じゃあその大きいのを斬り落としてあげようか…?」

 

戦場でも滅多に感じねえレベルの殺意を剥き出しにしてリンがシノを睨む。

それに気づいたシャルが慌てて鈴を背後から抑え込んだ。

 

シャルロット「どーどー!おちつこう?ね?」

 

「ぐるるるる………はぁっ…」

 

リンはある程度吠えた後諦めたかのように溜息を付いた。

………あんまり気にすんじゃねえぞ……。

 

セシリア「で、ラウラさんはどうしたんですの?せっかくのいい生地…あ、やっぱそれっぽいだけの安生地ですわ。の、ドレスが酷い有様ですけれども」

 

ラウラ「よくぞ聞いてくれた。折角のお姫様衣装というやつだ!姫というからには、いわゆる姫始めをするのだろう?何より先ほど嫁と会ってから、火照りが微妙に止まらんのでな!邪魔なので引き裂いた!」

 

「……ラウラ?そういう事は堂々と言うもんじゃないんだよぉ~……?!」

 

「むっ……何だ…どこを間違えた…?」

 

「全部だよぉ!!」

 

「……だがミカは危機を察知してすぐにどこか行ってしまった」

 

「え?……どこかに?」

 

「うむ……「何かが来る」とは言ってはいたが……」

 

ミカが?

そういやミカの奴はISを出してなぜか地面に穴空けて去ってくのがチラリと見えたが、関係あんのか?

 

 

 

こうして情報を交換していると突如として警報が鳴り響いた。

 

……なんか、あったみてぇだな。

 

俺も含めて全員の表情が真剣なものへと切り替わり、続いて来るだろうアナウンスを待つ。

 

そして残っていた観客の群衆も、急に聞こえたサイレンにビビってあっという間に姿を消した。ここら辺は今まであった襲撃とかでみんな学んだんだろうな。

危険予知が出来て、自分達ですぐ逃げてくれんなら、護りながら戦う必要はねぇ!思いっきり暴れられるっつーわけだ。

と、んなことより……

 

オルガ「あぁ?…おい、マクギリス!どうなってんだ?」

 

何か知ってるだろうと思ってマクギリスに連絡したが……通信に出ねぇ。

 

代わりにアリーナのスピーカーからアナウンスが聞こえてくる。

 

山田≪ロッカールームに、未確認のIS出現。白式とバルバトスが交戦中。専用機持ちはただちにISを展開。状況に備えてください≫

 

聞こえてきたのはヤマダ先生の声。

……どうやらマジに敵襲らしいな。

指示通り、俺ら全員は一斉にISを身に纏う。

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

「Ride on……!」

 

なんでこんな大ごとに生徒が対応すんのか、と一瞬だけ思ったが、んなもん簡単な答えだ。

教師陣が使うのは基本量産型だ。んで、やっぱ一番強えぇのは専用機。

しかも貴重な実戦データも採れるっつーわけで、危険も伴うが、その分のメリットもデカくて最高にスマートな解決法って訳だな。

…で、あってるといいが。

 

 

千冬≪今の所、敵は二人に任せておいて大丈夫だ。よって最優先は増援の警戒とする。オルガ、オルコット、凰は空中で哨戒につけ!篠ノ之、デュノア、ボーデヴィッヒはアリーナ内を探索し、敵の逃げ道を塞げ!≫

 

セシリア「はいっ!」

 

オルガ「分かった!」

 

今度聞こえてきたのはオリムラ先生の声。成程な……。

内と外を固めるっつーわけだな。そうとわかりゃひとっ飛びするとするか。

 

下にはミカもいるし大丈夫だろうが、マクギリスへの連絡ができねぇ。

どうやら相当キナくせえ事になってるのは確かだ。

 

……一体、何が起こってやがる…?

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

オルガ「……そっちのほうはどうだ?!」

 

鈴「右舷前方、クリア」

 

セシリア「こちらも異常ありませんわ」

 

オルガ「そっかー!」

 

学園の上空を飛び回り、外部から近寄ってくるものがないか見張る。

 

ISのセンサーは優れてんな。三機だけでもこの広い敷地のほとんどをカバーできるみてぇだ。

 

……他の専用機持ちは何してんだろうな。

おおかた別の場所で待機か。全部いっぺんに出すのはそれはそれで愚策だろうしな。

 

今の所敵影らしきもんは見当たらねぇから、いったん切り上げようとした、そん時だ。

 

≪高速で移動中のISを補足!≫

 

「…来やがったか」

 

狙撃機で一番目のいい筈のセシリアより先に、学園側のレーダーが敵を捕らえたらしい。

改めて辺りをよく見てみると、空の彼方についさっきまでなかった光点が一つ。

 

千冬≪油断するな≫

 

セシリア「はい!わかりましたわ」

 

全員が武器を取り出し構えた時、視界に『警告』の二文字が浮かび、これから敵が現れることを知らせていた。

 

オルガ「さぁーて……」

 

鈴「食い止めるわよ…!」

 

光点は数秒後には影へと変わる。

影は色を帯び形を現し、やがて人のような姿となる。

 

……あいつが、敵って訳だな。

 

全体的に紫色をした流線形の装甲。背部に装備した大型のユニットはちと分厚いが蝶の羽のよう。

頭についた顔を覆うヘッドギアから延びる細い角も合わさって、ますます昆虫、特に蝶のような印象が強いデザインをしている。

 

高速でこちらへ接近しているようだが、まだ交戦可能距離からは少しある。

 

念のため望遠で眺めてデータを解析。

結果はすぐに出た。

 

「……IS反応を確認!ただちに急行!みんな行くわよ!」

 

間違いねぇ。あの蝶が敵の増援だ。

 

俺らは迎撃の構えを取る。

まずはセシリアがライフルを向けた。

 

「先手必勝ですわ!」

 

この中で最も射程のあるブルー・ティアーズのレーザーが三発、未だ遠くの敵向け走る。

狙撃がうまくいきゃ御の字。そうでなきゃ今度は近寄って俺らで対処。さて、どうなっかな。

 

数秒後、遠くでレーザーが弾けた。当たりはしたみてぇだ。

 

但し、奴の周囲を飛んでいるビームの盾に、だが。

すげえ正確な防御。あの射撃に対して、的確に盾の真ん中できっちり受けてやがる。

 

「クソッ!なんなんだよありゃあ!まるで…!」

 

「そんな…何故ですの…?!あれは、サイレント・ゼフィルス!」

 

「セシリア?知ってるの?!」

 

「ええ…何せあれは、BT二号機。わたくしのブルー・ティアーズのデータを用いて、二番目に作られた物ですわ……。なんで、よりによって敵が持っているんですの…?!」

 

「考えんのは後だ!セシリア!もっと撃て!」

 

「っ!はいっ!ならば、こちらも…っ!」

 

そう言ってセシリアはブルー・ティアーズの脚部にある二本の砲身を起こす。

レーザーはさっき防がれた。なら次は確実性をとってミサイルビットを使う。

安定して動作する実弾で、確か弾道が操作できるっつてたな。

事実発射されたミサイルは直後にそれぞれ上下に移動。

人間の視界で捉えにくい二方向から同時に敵へと向かっていった。

 

それに対し、サイレント・ゼフィルスは迎撃にと子機を放ちレーザーを発射。

セシリアの意思で操作可能なミサイルはこれを回避しようとするが……

 

ゼフィルスのレーザーはジグザグと軌道を変えこれを追尾。

二発のミサイルはほぼ同時に光線に貫かれ空中で爆発した。

 

「今のは……BT兵器の、偏向射撃(フレキシブル)…!そんな事…?!現在の操縦者ではわたくしがBT適性の最高値の筈…それがどうして?」

 

ラウラん時土壇場でセシリアがモノにした偏向射撃を、こいつも扱えんのか。

なるほど同型機同士の戦いらしくなってきやがった。

誘いに乗るようにセシリアも自らのBT兵器を射出。

それと同時に敵方のビットはこっちに向けてレーザーを撃つ。

 

相殺を狙いブルー・ティアーズ側のビットもまた射撃を行う。

2、3回ほど軽いカーブを描きながら、真っ直ぐ飛んでいく敵の攻撃を下から穿とうとした。

 

 

しかし──

 

 

「ハァ?!」

 

「えっ…何よ、今の動き…?()()()()()()()()()()?!」

 

当たる直前で敵のレーザーはセシリアの攻撃を回避し、すぐ元の軌道に戻った。

さらに今度は大きく空中で一回転半、向かう先は宙を上へ通り過ぎるセシリアのレーザー。そいつを真後ろから追いつき、貫く。

あいつの放った方の攻撃は上書きされるように消滅した。

んでもって次は急降下し、さながら蛇か何かみてぇに細かくしなって動きながらこっちへ向かい、あっけにとられていた俺の肩を抜いて減衰消滅。

 

俺は希望の花(ワンオフアビリティ)咲か(発動さ)せた。

 

「だからよ、止まるんじゃねえぞ……」

 

 

「……何ですの…?今の………レーザーの減衰ギリギリまでわざわざ操作して……。

というか…ワタクシと比べて、()()()()()()()()()()()()()()()()()!?

 

まるで…魔弾の射手…!

 

急いで俺は蘇生から戻り、沈んでいた高度から浮上する。

 

次に俺がサイレント・ゼフィルスを見た時、奴はビットを多数バラ撒いた。

 

……あんなのが今度は複数来るって事かよ!!

 

「回避だ!セシリアーッ!」

 

「セシリア逃げて!!!」

 

「ッ!!!」

 

急いで俺らは避ける為に速度を上げて辺りを飛び交うが、敵のビットはそれを追いながら射撃を連続、つまり子機とレーザーの2重追尾を行う。

瞬く間に俺らを追う光線の数は十数本以上となり、その全てが相当生きのいい蛇かミミズみてぇに宙を這い回る。

 

必死に逃げ回りながらセシリアは迎撃にビットを射出するも、出した瞬間から潰され時間稼ぎにもならねぇ。

 

「……あの男の教え通りにしてみたが、役に立つものだな……。だが流石に出し過ぎたか。次はもう少し控えよう。撃ちながら動けん……」

 

ようやくレーザーが減衰してきた頃、既にゼフィルスは俺らを通り抜けて学園に向かっていた。

 

「クソッ!!待ちやがれ!!!」

 

 

 


 

 

 

三つに分かれた戦場で彼らの運命は交差する。

 

少年達が野生を解き放ち、鉄と血にまみれた戦場を駆けたあの世界(Post Disaster)と、

一人の少年が自由を目指し、空を掛けたあの世界(Cosmic Era)

その二つの世界が彼らの本当の居場所(この世界)で重なり合い……

 

そして、戦いは混沌を極めていく──

 




次回、バエル戦闘シーン増量 バルバトスも凄まじい激戦を繰り広げるぞう
期待し、そして期待せよ(Nyose)

三世界クロスだもんなぁこれ………(モンターク)


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乾坤一擲・君子殉名(オーバーラップ・デスティネーション)

大ボリューム増量!もりもりしましたので欲しいアレやコレが見れると思う
多分毎回言ってんな(Nyose)

仮面はだいたい胡散臭い(モンターク)


IS学園 第4アリーナ ロッカールーム

 

 

俺とミカの二人で、ずらりと並ぶロッカーの間を飛び交う形で敵IS『アラクネ』を撹乱。

そんな調子でまずは様子を見ているものの、正直、余り状況は好転していない。

完全に状況は向こうが有利だ。あの自在に動く多脚には上も下も関係ないらしい。

 

俺が斬りかかろうと、ミカが殴りつけようと、それはあくまで「線」の動き。

一方向からに対し、相手は二方向三方向から攻めることができ、しかも壁や天井に張り付けるから姿勢は問わないときた。

つまり正面からでも挟み撃ちでも、向こうは「面」での対応ができる。

なにせ手数が全然違う。刃を交えてさらに分かったが装甲も硬い。

 

そんな状況をなんとか好転させようと、ミカが再び敵に接近し、白くて大きな特殊メイスを振り下ろす。

だが、アラクネは脚を合掌させ、まるで網かあるいは剣道の面具のような形をとる事で、本来とてつもなく重い筈の一撃を弾いていた。

 

それに続いて、俺も雪羅をクロウモードで展開。

雪片弐型よりも直接的に使えるこっちの方が、反応や大きさといった取り回しの面で優れている。今必要なのは速さだ。

 

脚が全部使われている今なら、真横から狙えば…!

そう思い、俺は右側へ突っ込んだ。

 

一夏「うらあああっ!!」

 

アラクネの操縦者「甘ぇんだよ!!」

 

女は柵と化した脚の隙間から、マシンガンを右手から左手へと投げ渡し、牽制で弾丸をばら撒く。

 

「うわっ!」

 

悪い条件反射がついてんなぁ……。

間近に迫る弾丸を俺はエネルギークローでかき消す。

その一瞬の間に相手はこちらへと距離を詰め、リーチに勝る装甲脚での突きを食らわせてきた。

 

突くついでで俺をキック台にし、素早い身のこなしで飛び退いたアラクネは、再び壁へと張り付き、数本の脚を前へと向け射撃の用意を整える。

 

が、

 

そこへスラスターを噴射したバルバトスが急接近。

 

「んなトロい攻撃当たるわけが……!」

 

俺もこの女も、正面からメイスを叩きつけると思っていた。

 

だが、それは違った。

 

 

メイスが抉ったのは確かにアラクネめがけて。だが、狙い始めは壁から。

つまり、壁面を削りながらスイングしたのだ。

 

「なっ!?」

 

頭や胴ではなく脚の接地面を周辺ごと砕くことで、姿勢を安定させないつもりか。

なら、俺は奴が飛び出した瞬間の空中でぶった切る!

 

急いで雪片弐型を呼び出し、予想通りバルバトスから離脱したアラクネめがけブースト。

 

「ここだぁああっ!」

 

「チイッ!」

 

すんでのところで姿勢を逸らされた為、雪片弐型の刃は本体に直撃こそしなかったものの、脚の一本、その先端部分を斬り落とすことに成功した。

 

「ハッ!やるじゃねえか!ガキ共!」

 

「何なんだよ、アンタは!?何者だ!」

 

「アタシを知らねえのか?悪の組織の一員って奴だよ!」

 

真後ろから迫ったバルバトスの一撃をかわしながら、女は答える。

悪の組織?なんだそりゃ。周知の事実みたいに言っているが、さっぱり分からない。

 

一夏「ふざけてんのか?!」

 

オータム「ふざけてねーよ!ガキが!亡国機業(ファントムタスク)の一人、オータム様っつたらアタシの事だ!」

 

三日月「なんでもいいよ。どうせここで消える名前だ…!」

 

なおも猛攻を加えようとミカは接近。

だが繰り出されたメイスの一撃を、オータムと名乗った女は右側の多脚で衝撃を受け流し、左側の多脚を束ねてバルバトスを逆に殴りつける。

吹き飛ばされたミカは、その先にあったロッカーを幾つも薙ぎ倒しながら離れていった。

 

三日月「ッ――!」

 

一夏「ミカッ!!」

 

オータム「ついでにいぃ~事教えてやんよぉ~…。第二回モンド・グロッソ…!」

 

一夏「?!」

 

オータム「あん時、お前を拉致したのはうちの組織だ。感動のご対面だなぁ?ええ?アタシみてぇな美女達にだぜぇ?会えて嬉しいかぁ?コラァ!ハハハハハ!!」

 

こいつ等が…?!

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で怒りが爆発するように沸き上がった。

こいつ等のせいで、あの時、千冬姉が…!そのあとの色々が…ッ!

 

「そうかよ…てめえが…!テメエ等がぁあぁあーーーーっ!!!」

 

俺は雪片弐型と雪羅のクローの二刀流状態となり、オータムへと突撃する。

これに対し敵は装甲脚を展開。真正面からの殴り合いが始まった。

 

こっちも手数を増やしてひたすらに武器を振るう。

だが俺が幾ら叩き込もうと、向こうは脚の一本一本を攻撃や防御と巧みに扱い、

ダメージが増えていくのは俺の方ばかりであった。

 

「ぐっ!くううっ!!らああああああっ!!!」

 

「どうしたどうしたどうしたぁ!!」

 

「お前はああああっ!!」

 

「そぉらッ!」

 

「がふぅっ!」

 

しばらく続いた剣戟の末に蹴りを食らい、俺は背後のロッカーに叩きつけられる。

姿勢を整えようとオータムは俺から距離を取ろうと後退するが、

 

 

 

 

そっちには、アイツがいた。

 

 

 

オータム「………!」

 

 

天井すれすれを飛び、口のような部分が開かれた特殊メイスを、大きく振りかぶって迫るミカ。

 

よし、いいぞ!あの距離と速度なら直撃コースだ!防御姿勢を取る暇もない!

気配に気づいたオータムが腕を構えるも、防御は間に合う筈が────

 

 

「……フッ」

 

 

瞬間、俺はオータムが、フルフェイスのバイザー越しに嗤っているのを感じ、

アラクネの腕から『何か』が放たれた。

 

三日月「…?!」

 

その何かを受けたらしいミカは、突如姿勢を大きく崩し、空中から急降下。

ロッカーをまた薙ぎ倒して地面へ突っ込んでいった。

 

一夏「…何が、起きた…?」

 

あのミカが攻撃の一つ食らってここまでなるだろうか。

俺はまず、バルバトスが墜落して隕石の落下跡みたいに抉れた床を見やり、次についさっきまで飛んでいた辺りへと視界を映す。

 

……見ると、天井に何か、棒のようなものが刺さって…いや、違う。

あれはバルバトスが持っていた特殊メイス…レンチメイス、だったか?

それがしかも、刺さっているのではなく、『何か粘性の高いもの』で固められ……。

 

結果、加速の勢いにいきなりブレーキをかけられてミカはド派手にすっ転んだのだ。

 

「ハハ、蜘蛛なら糸吐くっつーのは常識だろうがよ。少し焦ったが楽勝だぜ、まったくよぉ!」

 

「糸…?そんなの使えるのか…だがっ!」

 

ロッカーにめり込みかけている体を起こし、すぐ近くに落とした雪片を拾い上げ、再び俺は眼前の敵と相対する。

 

今まで、たぶんオルガやミカ達みんなと比べれば少ないだろうが、俺は色んな相手と戦ってきた。

 

けれど、だけどもだ。初めてだよ、ここまで『俺が倒したい』と思えるのは。

こいつと多分、それ以外にもいるんだろう。組織って言ってたからな。

 

亡国機業(ファントムタスク)

 

確かに、ああ嬉しいさ。会えて嬉しいに決まっている。

いたんだな、俺が立ち向かうべき『因縁の相手』って奴が。

 

ならば、後は、一つだ。

 

 

 

「―――あんただけは…落とすっ!!」

 

「あぁ?!やってみろよォ!!!」

 

オータムは俺に向け装甲脚を展開。射撃の雨を降らせる。

それを上に飛んで回避。すると奴は次に両腕を突き出し糸を発射。

そんな見え透いた拘束、喰らう筈が……。

む、狙いが俺じゃない?…まさか!

 

「ぐあああああっ!」

 

アラクネが糸を飛ばしたのは俺向けてではなく、左右に連なっていたロッカーの束。

かなりのパワーで腕を交差させ、結果、鉄球の如く迫ったそれを叩きつけられ挟まれる。

 

「へッ。こいつぁ使えるな。テメェにも喰らわしてやんよォ!」

 

「や…め、ろぉ…ッ!」

 

俺の動きが封じられたのを確認すると、再び手近なロッカー塊の一つに蜘蛛糸を張り付け、今度はミカがいるだろう辺りへと勢いよく投げ込む。

 

 

しかし、ロッカーはバルバトスの墜落地点へぶつけられる直前で、()()()()()()()()()

 

「何ィッ?!」

 

 

 

「…お前……消えろよ…!」

 

 

バルバトスの右手に握られていたのは、先ほど手放したメイスではなく、太刀。

あの横に伸ばした右腕。残心の構えからして、繰り出したのは居合切りだろう。

それでロッカーを一刀両断したのだ。

 

オータムを睨みつつ、太刀を両手で握りなおし、姿勢を低くする。そして──

 

瞬時加速(イグニッションブースト)

 

それも普通のそれを上回るかなりの速度。向かう先は、俺の方向。

 

「うわあっ?!危なっ!」

 

繊細に振るわれた斬撃により、俺の動きを封じていたほぼ瓦礫のロッカーは砕け散る。

よし。これで俺も自由だ。

……ちょっとでも下手に動いてたら巻き添えで斬られてたけど。

 

「ありがとな、ミカ!…へぇ。武器、お揃いだな。刀」

 

「だね。んじゃ、そろそろこいつ片付けよう」

 

「ああ!」

 

「くたばんのはテメー等だろうがああああぁぁ!!」

 

もう見慣れてきたアラクネの一斉射撃。

俺とミカはそれを掻い潜り、距離を詰めていく。

 

順調に行くと思っていたが、向こうにはまだ手札が隠してあったらしい。

 

「しまっ――」

 

「イチカ!」

 

撒かれるエネルギー弾の中に、糸が混ぜられていたのはわかっていた。

けども避けようとしたその糸の塊が目前で開き、蜘蛛の巣状に広がるのは予想しきれなかった。

反応が遅れた俺をかばい、ミカが胴に蜘蛛の巣を浴びる。

 

「………はあっ!」

 

全身へと糸が絡まろうとしたその瞬間、バルバトスは上半身についていた追加装甲をパージ。

蜘蛛の巣による拘束を外し、身軽になったその状態でさらに加速。

 

「何だと?!」

 

多少射撃が掠めようとも止まる気配を見せず、そのまますれ違いざまにオータムを一閃。

強烈な斬撃をモロに食らわせることに成功した。

 

「うぐああああっ!!おのれッ!ガキ共、があっ!」

 

「イチカ、今」

 

「分かってる!!うわああああ!

 

 ―――ここから、出ていけぇーーーっ!!!

 

ミカの一撃をまともに受けて、姿勢を崩している隙を狙い、俺は雪羅を最大出力で発射。

マグナムのように放たれた荷電粒子砲の直撃により、オータムは爆発を起こして吹っ飛び、天井に穴を開けて姿を消した。

 

「…やった…のか…?」

 

「へぇ…まだ生きてる。追いかけよう。もっと叩いておかないと、また来るよ」

 

「お……え、お、おう!」

 

いつもなら引き止めたいが、今回は俺の事情もある。念のためもう少し追撃しよう。

借りは必ず返す男でありたいからな。なんであれ。

 

 


 

 

一夏と三日月がなんとかオータムを一時撤退まで追い込んだその数分前──

 

マクギリスは自身を襲撃してきた謎の…未知のガンダムと対峙していた。

 

(私の世界には、あのようなガンダム・フレームの存在は無かった。まさか、彼らが先日遭遇したという……)

 

『異なる』ガンダム同士が睨み合う。

 

自身の見たことのない『似て非なる物』と対面したマクギリスは彼ら──鉄華団が雲海の煌めく山で相対した無人IS(ストライク)と同様かと疑いを掛ける。

 

その未知のガンダムへと剣を向け、マクギリスはこう問うた。

 

マクギリス「……何者だ。もしや君か?キラ・ヤマト」

 

後光のように目立つ武装ポッドを背負った、未知なる灰色のガンダム。

右腕で大型のライフルを担ぎ、左腕は通常の形ではなく、甲羅のような形状をしている。

腹部はシリンダーが露出していない為、バエルと比較して些か太い体形といった印象。

 

鉄華団から聞いた話を基にしマクギリスが知人の名を挙げる。

 

予想はすぐに外れた。

応える声は男の物、だがやはり機体の外観同様、知らない声であった。

 

「ほう。彼もまたここへ来ているのか。いや、導かれたというべきかな?……ではやはり私がこの場に居るのは偶然などではなく、全ては必然だという事か」

 

僅かだが線が繋がった。挙げた名を知っている。

……マクギリスは余計な事を口走ったようだ。

しかし求めた答えではない。

 

「……彼の知り合いか?なぜこのような…」

 

「君こそ何をしている?その機体。その力。私と同じ。有らざるもの。同じここに本来あるべきではない者でありながら、君は何ゆえに?何を成そうと?」

 

「投降しろ。私と君が同じような存在であるというのであれば、異なる世界の者同士で戦うほど無為な事は無い筈だ」

 

「―――あってはならない存在だというのに!」

 

「バエルを持つ私に逆らうか―――」

 

未知のガンダムが担いだライフルを撃つ。

放たれたのは銃弾ではなく、ビーム。

この時点で相手が異世界のガンダムであることが確定した。

ISとして変換されている今のバエルに耐ビームの装甲はない。

マクギリスはこれを避ける。

 

次にバエルは高く飛翔。

右手の剣を振りかざし、降下の勢いを乗せ敵へと向かう。

 

向かい来るバエルを見つめる敵は、背部の武装ポッドから子機のようなものを射出。

 

(…?!BT兵器?いや、これは『何か』が違う)

 

警戒したマクギリスはすぐに接近をやめ下がろうとする。

だが反応するのが遅かった。ほんの一秒先でいたであろう地点を幾つものビームが通り過ぎ、避け損ねた一筋の閃光が、バエルの右足首を貫く。

 

「…ッ!」

 

「察するに君が『4人目』なのだろう。会えて嬉しいよ。むしろ私と共に来ないか?それほどの力、ここで終わらすには惜しい」

 

「断る。この世界は私にとって、居心地の良い場所でね。貴様のような者に乱される訳には…!バエルッ!!」

 

翼のスラスターから炎を煌めかせ、二本の剣を横一閃に払う構えでバエルが突進。

敵はこれを上昇して回避。ついでに頭と胴に搭載されたバルカンを斉射して反撃する。

計四門から同時に撃たれる弾丸を、マクギリスは左手のバエルソードで受け防ぐ。

決して折れぬと謳われていた黄色の刀身は、中ほどからあっさりと砕けた。

 

急上昇してバエルは右手の剣で斬りかかるが、またしても敵は避け、幾つかの子機がビームを放つ。

バエルは右へ左へとかわし羽の電磁砲で応戦。

敵はその攻撃を一切意に介することなく子機の射撃に加えて、右腕のライフルと左腕の砲からもビームを織り交ぜ射線の数を次々に増やしてゆく。

子機も背の他に腰にもついていたものが追加で射出され、やがてバエルの四方八方から弾幕は襲い来るようになった。

 

元の世界では他の追随を許さぬバエルの圧倒的な機動力で、ギリギリ攻撃は掻い潜れている。

子機の排除も試みるも、電磁砲は細かく動きまわる小さな的を狙うに適さない。

即座に本体を直接狙う方針に切り替え、左手の折れた剣を敵ガンダムへ投げつける。

空を切って進む刀身は、真横から延びた子機のビームに阻まれ回転しつつ地面へと落ちていった。

 

「ハッ!他に武装はあるのかな?」

 

「……アグニカ・カイエルの意思が宿るこの機体に、過度な武装は必要ない」

 

「ならとくと味わうがいい。プロヴィデンスの力を…」

 

バエルめがけ無数の光線が放たれる。

空中で大きく縦に円を描くような飛行で避け、ついにバエルはプロヴィデンスの懐へ辿り着く。

突き出された剣は、相手の胴を貫くかに見えた。

 

だがプロヴィデンスはバエルソードを左腕で防ぐ。盾の機能がついていたようだ。

剣は弾かれ、敵の左腕からはさらにビームの刃が伸びる。

そのまま返す動きで、バエルは一太刀を浴びた。

 

「くっ!」

 

「ふぅむ…君は見なかったか?この世界もまた歪な姿をしていると」

 

「人は誰しも歪みを抱えている。その人が織り成す世界もまた、歪みは必ず存在しているものだ。どの世界でも変わらんさ。故に私は、純粋な物のみが輝きを放つ、真実の世界を作り出す!!」

 

「だが世界はどれも輝きに包めるような優しい物ではない」

 

「バエルッ!奴を圧倒させうる力を!」

 

バエルの刃とプロヴィデンスの刃がぶつかりあう。

幾度も続いた激しい剣戟は、左右から迫った子機のビームをバエルが避ける事で途絶える。

距離を離した事で、マクギリスは再び敵のみの射程内に収まる形となった。

 

再度接近を試みバエルはスラスターを噴射する。

斜め上からの射撃を仰向けにスライドして回避。直後真下から来たので上昇、さらに真後ろからの二連撃を回転して避け、連続した回避で勢いを殺された為、

弧を描きUターン。また距離を取る。

 

退くバエルを眺めプロヴィデンスは一旦子機を各部に収納し、牽制にビームライフルを発射。

射線を潜り抜け、マクギリスは体勢を整えようとしたその時だった。

 

逆にプロヴィデンスの方から接近。

左腕から延びる大型のビーム刃を振り下ろす。

素早くバエルは剣で防御。刀身に触れたビームが弾け、激しく火花のように飛び散る。

しかし相手は真面目に剣の斬り合いをするつもりはない。

鍔迫り合う片手間に子機を射出。

うち一つをバエルの真上へと運び、射撃。

先ほどからの傾向から予測をつけていたマクギリスは急速に離脱。回避する。

 

だが、飛び退いた先でどうなるかまでは考えが及ばなかった。

 

距離を取ったまさにその場にあったのは、上下左右360度のほとんどをカバーした状態で待ち伏せていた子機。

完全なる死角。想像もつけきれぬ所に置かれていた敵の罠にどっぷりと漬かった。

 

「…バッ?!」

 

次の瞬間、バエルは一斉に放たれたことで形成されるビームの檻に全身を貫かれ、指一本動かすレベルの抵抗もできぬまま、なすすべもなく爆散した。

 

「ふむ。異界の戦士とはこのようなものか。これであれば彼やあの男のほうがよほど……」

 

墜落してゆくバエルは、真下にあるIS学園のどこかの天井を崩し、床に激突したところで解除された。

 

「扉が…俺の……目指した……世界の扉が……」

 

「心配しなくていい。扉はじきに開かれる。但し、君のではない。私のだがね。今回はこのぐらいにしておこう。脅威は他の者に伝えねば恐怖たりえん」

 

「ハァッ……ハァ…グウッ……」

 

蹂躙されたマクギリスは、ただ敵に見下ろされながら地べたを這うことしかできず……

視界に入ったエレベーターへ辿り着くころ、未知のガンダムはいずこかへと姿を消していた。

 

 


 

 

オータム「ちく……しょうっ……!」

 

いた!オータムはさっきの攻撃を受けてまだISの展開を保っているようだが、

既に八本の脚は震えが止まらない状態で、立っているのがやっとだというのが見て取れる。

多少加速すればすぐに到着できる距離。今ここでとどめをさせばコイツを捕らえて、もっと色々聞き出せるかもしれない。

そうすれば、あの時の真実だとか、そういうのが分かる。

何としてでもコイツを逃す訳には…!

俺はミカと共に武器を構えてスラスターを噴射。奴めがけ急速に接近する。

 

が、

 

オルガ「ヴヴアアアアアアアアアアッ!!!」

 

真上から聞こえてくる男の叫び声。

直後、真っ逆さまにオルガの獅電が俺たちとオータムの間に墜落。

それとほぼ同時に紫色の大出力レーザーが地面に叩きつけられ、俺とミカの行く手を阻む。

 

一夏「?!」

 

三日月「………新手か?」

 

見上げればアリーナの天井には大きな穴が空いていて、その穴の向こうには人のような、蝶のようなシルエットが浮かぶ。

多分あれもISだろう。……それも、敵の。

 

≪迎えに来たぞ。オータム≫

 

ずいぶんと大胆なのか、オープン回線で通信が聞こえてくる。

女……それも少女の声だ。

 

「テメェェ~ッ……!!私を呼び捨てにするんじゃねぇっ!!!」

 

オータムが返事をする。やっぱりコイツの仲間みたいだな。

今ボロボロのオータムを回収させるわけにはいかない。

身動きできない方は後回しにして、この増援の敵を何とかする方が賢明か?

 

一応、判断を仰ごうとミカにアイコンタクトを試みる。

バルバトスの頭部装甲に覆われて表情は外側から窺い知れないが、視線は俺の目を見た後に一瞬だけ上を向いて、また俺の方を見る。

 

……意見は一致したようだ。

なら、後は行動あるのみ。

 

三日月「……逃がすか!」

 

俺は地面を蹴って、三日月はスラスターを大きく噴射して飛翔。

真上に佇む新たな敵を迎え撃つ。

エネルギーの残量はだいぶ危ういけれど。

 

「……あっ」

 

アリーナを出ようとする間際、三日月が何かに気付く。

 

……多分下にみんながいたとか来たとか、そんな感じだろう。任せておこう。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「チッ…ウゥッ……!」

 

大破しかけているアラクネで、引きずるように歩くオータム。

その機体は今にも崩れ落ちそうな様相。

しかし捕まるわけにはいかないと、目の前の二人が上へ向かった隙をつき移動を試みる。

だがその歩みはすぐさま止まった。いや、止められた。

 

ラウラ「貴様…逃がさん」

 

AIC。ラウラ・ボーデヴィッヒのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』に搭載された特殊機能。

静止結界とも呼ばれるそれは、一定範囲の動体を停止させる特殊な力場を放つことができる。

この状態になってしまえば、いかなるISであろうと、大概はもう動くこともままならない。

 

シャルロット「往生際が悪いよ」

 

箒「これまでだ」

 

次いでアラクネの左右それぞれに剣先と銃口が向けられる。

篠ノ之箒の『紅椿』、シャルロット・デュノアの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。

計三体の専用機に囲まれ、ついにオータムは完全に身動きを封じられた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

一夏「ぐっ!うぅっ!」

 

アリーナの上空に出て早々やってきたのはレーザーを放ってくる子機。

見た感じ、セシリアの機体と同じ種類の武装、BT兵器だろう。

 

だが偏向射撃の精密性が圧倒的に違う。零落白夜で光線を無力化する為、雪片弐型を振ろうとするが、レーザーは剣を避けて俺へと向かってくる。

かといって回避しようとすれば、今度はフェイントだ。

右に避けた直後に曲がるとか、いくらなんでも対応しようがない。

あんなんどうしろと……。

 

しょうがないので俺にできるのは撃ってくるレーザーをひたすら視界に収め、視界の外(主に真後ろ)に向けて一瞬だけ雪羅をシールドとして使用。

意外とこれで凌ぐ程度は何とかなっている。

 

だがこのやり方も問題がない訳じゃない……。

 

回避と防御に俺の神経はすべて使用されている為、敵本体に近づくどころかどんどんと離れていっているのだ。

 

つまり──

 

「…こいつ…滅茶苦茶強い…!」

 

一緒に来てたはずのミカはいったいどこに行ったんだ…?!

 

 


 

 

マクギリス「…ハァッ……ハァーッ………これ程とは……!」

 

マクギリスはIS学園内のどこかのエレベーター内を血まみれにし、壁にもたれかかる状態でようやく辛うじて立っていた。

念のため手には拳銃を握りしめているが、それでもとても戦える状態ではない。

 

完膚なきまでに、敗れた。

 

メッセンジャーとして、敢えて生かされた。

 

バエルの剣が、折れた。

 

機体の相性、元居た世界では見たことのない初見の攻撃等、敗因は幾らでも浮かぶ。

恥を忍んでただ逃げる事しかできない事実も相まって、彼は心身共に死に体ともいえる状態であった。

 

一応、性格的にバエルを適量与えてしばらくすれば回復するだろうが、今はそんな余裕はない。

とにかく今は、適当な下層階へ逃げ延び、傷を癒さねば……。

 

「ハーッ……ハァッ…ハァ……ッ…!」

 

やがてエレベーターの扉が開き、おぼつかぬ足で廊下へと歩む。

朦朧とする彼の目の前には人影が立っていた。

 

楯無「……大丈夫。お姉さんがいるからここは安全よ」

 

マクギリス「…あぁ……」

 

マクギリスを待ち受けていたのは、彼の協力者である、更識楯無。

重傷を負い崩れ落ちる彼を受け止め抱きかかえ、見るからに敗れたのであろう様子を確認する。

 

「だったら…私の、出番のようね」

 

懐からISの待機形態である扇子についた飾りを取り出し、戦う用意をする彼女に向け、マクギリスが絞り出した言葉は意外なものであった。

 

「……君では、勝てんよ」

 

「えっ?でも…」

 

「三日月・オーガスならば、あるいは…いや、それでも………」

 

 


 

 

アリーナ上空に出て数秒で敵との交戦が始まった一夏。

彼が複数のビットに襲い掛かられているのは三日月から見ても明らかであった。

複雑かつ緻密な偏向射撃に苦戦していることも。

 

「…やらせるか…ッ!」

 

当然、加勢に向かおうとする。

バルバトスの形態を変更、バルバトスルプスにし、腕部砲を展開。突撃の構えをとる。

 

「…ハッ?!」

 

瞬間、三日月は『何か嫌な気配』を感じ取り、前進しようとした所を急速後退に変更。

 

予感は的中し、ルプスのあと少しで進んでいたであろう目と鼻の先に、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………!?」

 

──直前まで、気づかなかった。

 

すんでのところで気配を感じていなければ、あの複数伸びたビームが全身を直撃していただろう。

三日月の顔に珍しく冷汗が流れ、慌てて数度首を振り、周囲を見渡す。

 

右を見上げると、空に佇む機体が一つ。

 

大きな背負いものをした、バルバトスとは『つくり』の異なるガンダム。

 

「……フッ」

 

そこにいたのは、プロヴィデンス。

機体の内側で、金髪と仮面の男が静かに嗤った。

二機は互いに睨みあう。

その衝突は『最後まで』続くと、認識した瞬間に悟った故に。

だからこそ、微動だにすることができなかった。

 

(……こいつ、やばいな)

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

一夏「ぐっ!うっ…はあっ!」

 

縦横無尽に襲い来る光線の群れを、俺はとにかく必死にかわし、防ぎ、半ば逃げるかのような形になりながらも何とかビット相手のドッグファイトを耐えていた。

全くもって攻勢に出る余裕が一切与えられない。

 

雪片弐型も雪羅も全部使って盾代わりにしなければ急カーブで向かってくるのに耐えられず、やっとマシな回避方法として使えたのが、避ける際にアクセル全開の連続ブースト。

空中をぐるぐる、いやジグザグか?無我夢中でどういう飛び方をしてるかすら分からない。

 

当然そんなやり方をしていれば自分の現在地も認識できない訳で、今しがた辛うじて見えていた敵影も視界から消えていた。

 

焦って動きを止めた直後、真後ろから勢いよく長細い脚での鋭い蹴りが叩きつけられる。

 

「ぐわああああっ!!」

 

衝撃でついに姿勢制御を失い、落下。

 

網膜投影からはシールドだとかのエネルギー表示がごっそりと消えてなくなっている。

これでは態勢を立て直すのはかなり難しいだろう。

俺は真っ逆さまに墜落してゆき、真下にあるアリーナの天井に二つ目の穴を開け、さらには演劇の舞台に使われていた城の壁に突っ込むような形で不時着した。

 

「がはっ…!」

 

てかこれハリボテじゃねぇ…のかよ……。

 

くそっ、身動きがもう取れそうに無い……!

打ちどころも悪かったのか、意識も…途切れ……。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「「「一夏っ!」」」

 

墜落した白式を目撃し、アラクネを囲む箒、シャルロット、ラウラが叫ぶ。

 

何があった、と見上げれば、そこには悠然とサイレント・ゼフィルスが舞い降りる姿。

 

ゼフィルスは三人の頭上で静止し、ビットを射出。

周辺に向けてレーザーによる爆撃を行う。

 

辺りを薙ぎ払われ、箒とシャルロットは後退し、ラウラは意識の集中を乱され、AICを解除させられる。

これでオータムは自由となった。

 

ラウラ「くっ……!」

 

残ったラウラはゼフィルスを睨む。だが即座に反撃というわけにもいかない。

 

オルガや一夏を一蹴し、姿が見えないセシリアや鈴も恐らく倒してここまできたのだろう相手。

 

そういった状況証拠だけでもこのISが尋常ではないレベルの強者であることは明白だった。

 

下がらずにこちらを睨みつけてくる様子から何かを感じたのか、数度空をゆらめいたのち、ゼフィルスはラウラの目の前に着地する。

 

「……この程度か。ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)

 

「貴様…何故それを知っている!」

 

「言う必要はない。それとも…戦って吐かせるか?」

 

「……ッ!」

 

知る者がそうはいない己の出生を蔑まれ、ラウラは怒りに震える手で眼帯に手をかける。

だが、同じく武器を取ろうとしたゼフィルスに通信が入り、動きが止まる。

 

≪撤退する。デルタゼロに集結しろ≫

 

男の声、その指示を聞きゼフィルスはまず周囲の状況を確認する。

 

アリーナの中央を占領している城、その壁に空いた穴をまず見やる。

 

一夏「うっ…うう…!」

 

気を失っていたと思しき一夏は目を覚ました。

 

尤も、もう白式には展開を維持する程度にしかエネルギーは残されていないが、

そんなことはゼフィルスを身に纏う少女、エムには知る由もない。

 

次に一応、仲間であるオータムに目をやる。

ダメージの蓄積が酷く、とても戦える様子ではない。

そして、周囲には高性能な専用機…いくらかは蹴散らせど、まだ複数が目の前にいる。

練度からしてみればエムにとって大した脅威ではないが、オータムも巻き込みかねない。

ここはひとまず、『あの男』の指示に従う事にする。

 

「フン……。帰投するぞ、オータム。その壊れかけで動けるか?」

 

「あぁ?…そう、だな。こいつらにプレゼントでもくれてやるか。私を運べ!」

 

「早くしろ」

 

「そうはさせ―――ッ!」

 

逃すまいとラウラ達は武器を構えるが、ビットからの連続射撃に阻まれ、その隙をついてオータムはアラクネの多脚ユニットを取り外し、ISのコアを回収する。

灰に鈍く輝く球体を手に、オータムはゼフィルスに捕まり、飛び去ってゆく。

 

オルガ「あ……ぐ…あぁ……あ…いっ…てぇ…あ…?!」

 

墜落したのち、気絶していたオルガが目を覚ましたのはこの時だった。

 

ぼやけた視界に映るのは、コアを抜かれた上で自立稼働する、アラクネの多脚武装ユニット。

 

人間部分がなくなったことでますます蜘蛛そのままといった印象をうける物体が、ピッ、ピッと電子的なカウント音を鳴らしながらシャルロット達の所へ歩んでゆく。

 

シャルロット「これって…もしかして」

 

ラウラ「分かりやすい爆弾だ!シャルロット!箒!逃げるぞ!恐らくかなり高性能の物が使われている!並のISでも耐えれる威力ではない!」

 

箒「だが追ってくるぞ!?壊すか?」

 

シャルロット「それだと結局爆発しちゃうよ!」

 

僅かに話し合う間にも、自爆しようと迫る蜘蛛は歩みを止めない。

逃げるのは間に合わないと思われたその時だった。

 

蜘蛛の動きが止まる。理由は簡単だった。なぜならば……

 

オルガ「足を止めるなぁっ!」

 

シャルロット「オルガ!?待って!!」

 

既に重傷を負っている身で、オルガが獅電を再展開。

シャルロット達と蜘蛛の間に割って入り、敵の置き土産の動きを抑え込む。

 

一夏「オルガよせ!逃げろぉっ!」

 

三日月「ッ!?オルガ?!オルガ!!」

 

慌てて一夏も壁面から飛び立ち、三日月が降下。とても間に合う距離ではない。

周囲の焦りに呼応するように電子音は激しくなり、()()()()であることを告げる。

 

 

「なんて声、出してやがる……!俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ……!

こんくれぇなんてこたぁ―――――」

 

 

オルガが台詞を最後まで言い終わる前に、カウントダウンは終わりを告げる。

 

 

周囲は閃光に包まれ、シャルロット達は充分な距離へと逃げ延び……

 

 

 

 

 

大蜘蛛はアリーナの中央で大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

密着していたオルガを巻き添えに……

 

 

 

 

 

「嘘…ねえ…オルガ……

 

オルガァァァァァァ――――――ッ!!!」

 




敵つよない?と思うあなた 一夏くんもそう思ってますので安心してね!マッキーは機体相性差でもよう頑張った(nyose)


いつもオルガは死ぬ
これは異世界オルガの摂理……(モンターク)


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彼と彼女の誓い

300年ぶりなので初投稿です。

皆下がれ!はやく!オルガ団長が爆発する!!


オータムと名乗る女性が自らのIS『アラクネ』からコアを抜き取り、『サイレント・ゼフィルス』を駆る仲間に連れられ撤退した後──

 

コアを抜き取られたまま自立稼働するアラクネの多脚武装ユニットに積まれた時限式の爆弾が動き出し、その爆発から鉄華団の皆を護るため、オルガはその蜘蛛の如き多脚武装ユニットを抑え込んだ。

 

一夏「オルガよせ!逃げろぉっ!」

 

三日月「ッ!?オルガ?!オルガ!!」

 

 

オルガ「なんて声、出してやがる……!俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ……!こんくれぇなんてこたぁ―――――」

 

 

その台詞を最後まで言い終えるより先に、その蜘蛛に積まれた爆弾が起動し──

 

 

シャルロット「嘘…ねえ…」

 

 

────爆発。

 

 

「オルガ……オルガァァァァァァ――――――ッ!!!」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

それから数分後、遅れてようやく出撃した教師達の捜索も虚しく、襲撃犯はその後見つかる事は無かった。

 

今回の亡国機業(ファントムタスク)によるテロは、目標であった白式の奪取に失敗した為、結果的にはIS学園の勝利という形にはなったが……

 

 

中国代表候補生『凰 鈴音(ファン リンイン)

イギリス代表候補生『セシリア・オルコット』

 

彼女ら両名は敷地内で墜落したと思しき所を救助、軽傷。

 

 

IS学園教師『マクギリス・ファリド』

 

彼は重傷を負い、専用IS『ガンダム・バエル』も大破。

 

 

その他アリーナを始めとする学園施設に多少の破損。

 

 

……被害はけして微々たるものではなかった。

 

 

 

そんな事件の後でも学園祭は一部を除き、通常通りに行われたのは、この学園の異常さ故か……。

 

 

 

そして、この襲撃で重傷を負った被害者がもう一人。

 

────彼の名は鉄華団団長『オルガ・イツカ』

 

 


 

 

オルガは夜になっても目覚めなかった。

 

織斑先生や楯無会長曰く──

『あまりにも強いダメージを受けたことにより回復に時間がかかる』らしい。

『中途半端に生き残ったせいで治りづらい』……だったかな?よく覚えてない。

 

一応、あのシンデレラの劇の約束は本当だったみたいで、いま僕とオルガは念願の同室になっている。

 

かなり酷い怪我をしたという事で、学園に一台だけあった

『IS技術応用のナノマシン治療器(試作品)』

に担ぎ込まれたファリド先生と違い、外傷そのものは単一仕様能力(ワンオフアビリティ)のおかげで無くなっている。

 

とはいえ、やはりこうして意識が戻らない様子を眺めるのはちょっと辛いものがある。

 

でも、私達を護ってくれる為にここまで頑張ってくれたのは、素直に嬉しい。

 

でも……悔しくもある。

 

「……まったく、オルガってば…」

 

 

ふと、今までのことを思い出す。

 

 

性別を偽っていたことがオルガに知られたあの時……あの夜に……

 

オルガが僕に──

 

『約束』

 

してくれたんだよね。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「此処にいたい……!僕は…此処にいたいよ…!鉄華団として、皆と一緒に…っ!オルガと一緒にいたいよぉ…っ!」

 

「──あぁ、解ったよ!そいつが本心の言葉だってことは!よぉく解ったよ!なら──護ってやるよ!」

 

「え──っ?」

 

「そいつがお前の本心だってんなら、俺が護ってやるよ!──これからの人生、例え途中に、どんな地獄が待っていようと……!お前を──俺が!!護ってやるよおッ!!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

あの時、初めて自分が誰かに必要とされた気がした。

 

僕はいまだ意識を取り戻さず、目を瞑って静かに寝ているオルガにこう囁きかける。

 

「あの時から…オルガを意識し始めたんだよ……

 

大浴場でも言ったよね。

 

オルガが護るって言ってくれた時、すごく嬉しかった。

オルガが僕を…僕達鉄華団を見たことのない場所に連れていってくれる。そう信じてるから、僕は此処にいたいと思えた。

 

オルガが僕の居場所だから……

 

だから僕も護られるだけじゃ嫌なんだよ。

 

僕もオルガを護りたい。

『護り護られる』

そういう関係になりたいって…そう思ってるんだよ」

 

そう……()()()()

 

でも、現実はそう上手くいかない。

 

前のキラさんが操ってた無人ISとの戦いの時にも……

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ヴヴッ!(♪希望の)シャルッ、俺に構わヴッ!(♪はな)止まるんじゃ(♪繋いだ)ねえっ(♪絆を)ぞヴヴッ!(♪力にして)だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

「くっ!……待ってて、オルガ!何とかする!必ずオルガは僕が護るから!!

 

って……

 

………えっ?嘘…。おる……が………」

 

「シャル?……シャルゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

あの時も…今回も…僕がオルガに護られた。僕はオルガを護りきれなかった。

 

別に護らなくても……オルガにはあの単一仕様能力(ワンオフアビリティ)があるから…大丈夫だっていうのは分かってるけど……。

 

あの単一仕様能力(ワンオフアビリティ)は使わないで欲しい。

僕がオルガを護りたい……。

 

でも、やっぱりこういうのはどうしても、いざって時はうまくいかないものだよね。

 

想いだけでも、力だけでも。

 

 

だから────僕は誓う。

 

今度こそ、また何かあった時、次こそは僕がオルガを護る!

『護りたい』って思うだけじゃダメなんだ!

僕がオルガを護らないと!

 

当然のように身を投げ出すその姿を、見ないで済むように。

 

僕も頑張って強くなろう。力も、心も。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

にしてもまったく起きない。

 

……寝ている今なら、いいかな?

 

白雪姫の物語がふと浮かぶ。

眠った姫は、王子のキスで目を覚ましたという。

……ひょっとしたら、起きたりして……な、なんてね……ふふっ。

念のため試してみようと、僕はベッドで眠るオルガに顔を近づける。

 

「ウッ……ウゥ…ッ!」

 

「へ?」

 

「…ハッ?!」

 

あ、オルガが起きた。

 

目を開いて最初に見えるのは、間近に迫る僕の顔。

 

「ヴヴヴヴヴァアアアアアアアア!!!!」

「うわぁああっああっ!」

 

当然びっくりするよね……

驚いた拍子に暴れ出し、ついでに僕もベッドから飛び退いてしまうのでした。…残念…?ま、またの機会…?

 

と、とにかく目覚めてよかったよ!……うん!

 


 

 

オルガが目醒める少し前。

IS学園。学園長室

 

その扉の前に立っていたのはIS学園の生徒会長である更識楯無。

 

彼女はフゥ…と息を整えた後、学園長室の扉をノックした。

 

楯無「失礼します」

 

「待っていたよ。楯無くん」

 

学園長室の重厚な扉を開けると、そこには長い髭を生やした総白髪の好好爺が待っていた。

 

表向きは彼の妻がIS学園の学園長を務めているが、実務を仕切っているのはこの老爺──轡木(くつわぎ)十蔵(じゅうぞう)である。

 

十蔵は先ほどまで読んでいたA4レポート用紙の束を机に置き、黒い老眼鏡を外しながら、学園長室に入ってきた楯無へこう言った。

 

十蔵「もらった報告書は読ませてもらった。それでも…やはり直接聞きたい話が多くてのう」

 

楯無「私もこれは直接お話するべきだと判断致しました」

 

十蔵は立派な机の上に置いてある、お茶を一度啜った後、楯無に言葉を促す。

 

「それでは、早速報告に入ってもらえるかの?」

 

「はい。まずは織斑一夏君とオルガ・イツカ君ですが、彼らの訓練については順調です。一夏君は第二形態移行(セカンド・シフト)して得た『雪羅』を組み込んだ戦術を実戦で活かせるようになってきています。オルガ君に関しても、追加パッケージ『カラミティ・サブナック』のお陰もあり、順調に力をつけています」

 

「雲海の一件も大分彼らに影響を与えておるようじゃのう」

 

「篠ノ之博士の気まぐれも大概にしてもらいたいとは思いますけどね」

 

一夏達が楯無のこの言葉を聞いたら、即座にツッコミを入れていたであろうが、ここには彼女と十蔵しかいない。

 

十蔵は湯呑みの中に立つ茶柱を見つめながら、楯無の報告に耳を傾けるのみであった。

 

「次に『亡国機業(ファントムタスク)』ですが、確認しただけでも三機のISを所持していました。うち一機はコアを抜き取っていたので、すぐに再襲撃があることは流石にないでしょう。

しかし、『地図にない基地(イレイズド)』で福音のコアも奪われています。警戒の手は緩める訳にはいきません」

 

「そうじゃのう。福音のコアを何に使うのかわからんが、警戒しておくに越したことはない。……それと『5人目』か……」

 

「はい。『亡国機業(ファントムタスク)』の襲撃者の中に一夏君、オルガ君、三日月君、ファリド先生に続く五例目の男性IS操縦者を確認しました」

 

楯無のその報告を受け、十蔵は彼女にも聞こえないような小さな声でこう呟く。

 

「『5人目』というのはそちらの意味ではないのじゃがな……」

 

その後も楯無の報告は続いていった。

 

 

「それと最後になりましたが、鉄華団…いえ、専用機持ち各員とも『亡国機業(ファントムタスク)』と充分に渡り合える実力はあると、今回の襲撃で判断しました。まだまだ力不足な点も見受けられますが、それはこれから力をつけて行けばいいと私は思います」

 

「すまんのう。楯無くんには苦労をかける」

 

「いえ。今回は出られませんでしたが、私の『ミステリアス・レイディ』にも実戦経験を積ませられますし」

 

「あぁ、ロシアの。完成したようでよかったのう」

 

「仕様については開発室の方々からご指摘を受けましたが、当面は現状のまま使おうと思います」

 

「それについては君に任せる。それで専用機持ちの力量についてはどう高めていくのかの?」

 

「それについては考えがあります」

 

そう言って、楯無は一枚のレポート用紙を十蔵に差し出した。

 

そのレポート用紙は『行事開催報告書』

 

 

そこに書かれていたのは

 

『全学年専用機持ちタッグマッチ』

 

という文字であった。

 

 


 

 

 

数日後

 

マクギリス「会えて嬉しいよ、オルガ団長」

 

オルガ「お前いつもそれだな…。ずいぶんと無様な姿じゃねぇか。アンタともあろう奴がよ」

 

マクギリス「もう二、三日安静にしていれば、また今まで通りさ」

 

三日月「……クモの形のチョコいる?」

 

マクギリス「いただこう。三日月・オーガス」

 

俺らが呼び出されたのは医務室。

くたばってたマクギリスが目覚めて早々、俺らをご指名だ。

普段の飄々としたすまし顔はいつも通りだが、体には包帯が巻かれ、今の所はベッドから動けねぇ様子だった。

傷自体はもう残ってないらしいが、逆を言えば傷が塞がっただけのような状態らしい。

寝床の横についた机には、やはりというかなんというか、バエルの人形が何個か飾られている。

 

奴は見舞いの品としてミカが持ってきた菓子を嬉しそうに受け取った。

にしても蜘蛛の形だなんてよく見つけたな。通販で買ったみてぇだけどよ。

 

……この間戦った敵の姿ってのは、まあ…ミカのセンスか…?

 

「……さて、俺らを呼び出した用件を聞こうか」

 

「はむ…ん、そうだな。君たちには伝えねばならない事がある。ん…もぐ…」

 

即座に菓子を開封し、頬張りながらマクギリスは語り始めた。

重要そうな話をチョコ食いながらする気かよ。

 

「あむ…く…先日の襲撃犯についてだ」

 

「ああ、何なんだ?あんな連中がいたのかよ」

 

「敵でしょ?ならまた来たら叩き潰せばいい」

 

「敵を知り、己を知るといったような言葉もある。話しておいた方が円滑に事が進むだろう。

 

──奴等の名前は『亡国機業(ファントムタスク)』。

この世界に古くから存在していたとされている、端的に言えば……悪の組織、といった所だ。

君達で言う所の…そうだな、ノブリスのような者達による組織と考えるのが妥当か」

 

コイツにしては珍しくわかりやすい例えが来た。なるほど。

それだけであの連中がどんだけ薄汚ねえ連中なのかがよくわかった。

 

「そん中の一人に、アンタはやられたって訳か」

 

俺がそう言うと、マクギリスはチョコを口に運ぶ手をピタリと止め、表情が一気に神妙そうな、険しいものに変わる。

 

「恐らくは構成員の一人だろう。……私の知らない『ガンダム』がいた」

 

「―――ッ!あいつか…!」

 

「…ミカ、お前も見たのか。……だが、そうか。イチカ達抜きで、俺とミカだけ呼んだ理由はそこだな」

 

「ああ…」

 

俺が出くわしたやつも相当な強さだったが、さらにガンダムがいて、しかもそいつがマクギリスを倒した…?

こいつもこんなだがかなりの腕の筈だ。

それを墜とすっつーのは…とんでもなくやべぇ相手だってのは容易に想像がつく。

 

が、同時に一つ脳裏に浮かんだ。

マクギリスが知らねえっつーガンダム。

 

俺らも夏休みの終わりに、キラの奴が操作してた『知らねえガンダム』に出くわした。

 

……もしやと思い、聞いてみる。

 

「……どんな奴だった?フレームの露出してねぇ、背負い物してる奴か?」

 

「やはり君たちが以前戦ったものと特徴が一致していたか」

 

「てこたぁ…キラか?んな連中に手ェ貸すようには見えねぇが……」

 

「彼ではないよ。…だが……」

 

つまんだままにしていたチョコを食べ、マクギリスの奴がうつむく。

 

「だが…何だよ?」

 

 

 

「…………彼の名を出した時、反応があった。少なくとも同じ我々とは別世界──そこからの転生者。そしてキラ・ヤマトの知り合いだと見ていいだろう」

 

 

「…成程、な…。ミカ、お前はどう見た?」

 

「あいつ、ヤバい。……俺も下手したらチョコみたいになってたと思う。ずっと見るしかできなかった」

 

「そんなにか。……こりゃいっぺん、あいつに話を聞く必要があるみてぇだな…」

 

突然現れた強敵。どうすりゃあいいのか、鍵を握んのはキラ・ヤマト。

 

そして多分、あいつら……ファントムペイン…?ちげぇな…ファントムタスクだ……。

十中八九あいつらはまたやってくる。俺は、今度もあいつらを、シャルを護れんのか…?

今はただ、まだ残る戦いの疲れを癒すことに集中するしかなかった。

 

ようやくたどり着いた本当の居場所を、失くさねぇように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ところで、私の部屋から取ってきて欲しい物があるのだが、頼めるかな?

見ての通り、今は動けなくてね」

 

「あぁ?何だよ」

 

「夏の、ある祭りで手に入れた本さ。それには沢山の天使達が描かれていてね……」

 

「………ッ!誰が持ってくっかよ?!自分で取ってこい!!!」

 




真面目タイムは一時中断。
次回は混沌の中からお送りします。

なんで原作はあんな5話作ったんですかね……。


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第5話編
止める者のいない祝祭(げんきをだして) その1


変則的に初投稿です。

5話編につきましては4分割でお送りします。
メイン執筆はNyoseでお送りします。


深く、黒い、闇の中。

 

そこに一筋の光が差す。

 

照らされ姿を見せたのは、織斑一夏。

彼は椅子に座らされた状態で、つい先ほどまで意識を失っており、たった今目覚めた。

 

「…っ……!何なんだ?」

 

椅子にはベルトのような拘束具がついており、手足の自由はない。

一夏の視界に広がるのは自身の周囲のみにある明かりと、一面の塗りつぶされたような暗黒。

 

何故、今、彼がこのような状態にあるのか。

 

 

 

 

その始まりを知るには、少し時を遡ることとなる。

 

 

 

 

_

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

激戦となった文化祭襲撃から数日。

ようやく落ち着きを取り戻し、いつもの喧騒が戻ってきたIS学園の食堂。

織斑一夏はその片隅にて、暗い顔をしながら昼食の秋刀魚をつついていた。

少し前から見物にくる女子生徒も段々といなくなり、比較的静かな食事風景を手に入れた彼だが、

最近はそれに加え、友人の箒やオルガ達も近寄らせず独りで食べるようになってきた。

その為、静寂はさらに増しており、また虚ろな目をした彼の口に運ばれる旬の食材や、丁寧に作られた料理の味も、あまり感じられているようには見えない。

 

「よう一夏!今日も一人か?最近冷てぇじゃねえか」

 

「…悪いオルガ。今日もちょっと…」

 

「あー……分かった」

 

親しい仲であるオルガ・イツカが気さくに話しかけるが、本日もフラれてしまう。

落ち込んだ様子からあまりしつこく誘う事も出来ず、

オルガは一夏のいるテーブルに置こうとしたガパオライスの乗ったトレイを運び、「今日も失敗しちまった」と呟きながら、近くに集まるシャルロット達の方へと向かう事にした。

 

「あいつ、結局今日も一人飯?

 なんだか日に日に老け込んでいくみたいだし、どうにかなんないのかしら?」

 

「まぁ、無理もなかろう。襲撃犯の目的が自分自身で、それにより鈴とセシリア、

 そしてファリド先生がああまでなったとあってはな……」

 

「わたくしも鈴さんはかすり傷程度ですし、すぐ治りましたので問題ないとは申しましたのに…」

 

「そこが一夏のいい所でもあり、悪い所でもあるって感じかなぁ。

 前も似た事で落ち込んだりしたことあった気がするけど、今回は長引きそうだね…」

 

「うむ。見ていられんな。しかしこれではおちおち相談にも乗れん」

 

実際、今の一夏は彼女達すら中々寄せ付けず、一度三日月が少し話し合った程度が現状である。

その三日月も先の一件は重く考えており、想いを共有こそすれ気持ちを変えるには至らなかった。

 

「……俺ももっと強かったら…」

 

「ミカ!お前までしょぼくれてどうすんだ…。けどよ、確かにあいつらは尋常じゃねぇ。

 だからといってずっとビビってもいられねえ。ん…次が来たときにやられちまうだけだからな。

 …何とかしてハッパかけてやんねえと。あむ…荒療治でも試してやるか?」

 

「「「「「荒療治?」」」」ですの?」

 

ガパオライスを食べながら語るオルガの言葉に、箒達は一同に首を傾ける。

だが、周囲の様子を気に留めることなくオルガは話を続ける。ついでに、見慣れない名前だったので試しに注文した料理が気に入ったのか、スプーンも止めない。

 

「ま、つっても何をどうやる、てのはあんま決めてねえんだけどな。

 俺らでアイツの心を癒せれたらな、っつー感じだよ。手あたり次第なんかいい思いぶつけりゃあ、少しはマシになんねえかなって思ってさ」

 

「成程…。オルガにしては良い判断だ。私もやってやらんではない」

 

「ただな、やんならいつ頃がいいか正直ピンと来ねえんだ。ほら、準備とか色々時間かけた方がいいだろ?だがかけすぎんのもどうかってな」

 

オルガの言う「荒療治」が日程で悩んでると聞いたその時、ほんの数秒考えて箒が口を開く。が、

 

「…もうすぐあやつの誕生…」

「そういえばアイツの誕生日、もうすぐね。まさにベストタイミングじゃない?

 どうせズボラで鈍感な一夏の事だから忘れてるだろうし、いいと思うわよ?」

 

言おうとした台詞をほぼ同時に発した鈴に取られてしまった。

悔しそうに睨む箒だが、この手の瞬発力はどうしても鈴には及ばない。

 

「わ、私も今それを言おうとしたのだ!」

 

「へー。ならなおさらね。決まりよ決まり!」

 

「ぐぅぅ……!」

 

完全にリードを取られた箒はそれまで静かに食べていた親子丼を豪快にかっ込み始める。

真横のシャルロットが引き気味に眺めているが、

そんな事を箒は知る由もない。視界が丼で塞がっている故に。

 

「…と、とりあえずその為にも色々用意しなきゃだね…?ほら、一夏を癒すといっても何が心に刺さるか、みんなで色々試してみたいし…」

 

「私は常に嫁の喜ぶものを把握している!つまりは男子の喜ぶ物だ!心得はあるぞ!」

 

「わ、わたくしも出来ることがあれば何なりとお申し付けくださいまし!」

 

「みんな…!すまねえ!恩に着る!悪りぃが一夏の為に一肌脱いでくれ!」

 

オルガは両手を膝に置き、座ったまま頭を深く下げる。

鈴やシャルロットは皆笑顔と二つ返事で応えるが、

 

ただ一人ラウラのみ、

 

「うむ分かった!」

 

と自信に満ちた顔で立ち上がり、即座に衣服を脱ぎ捨てた。上下、同時に。

恐らく、言葉を文字通りの意味で受け取ったのだろう。

 

「「「今脱がんでいい!!!」」」

「意味が違う!!」

 

「…可愛い……」

 

「ヴウッ!!」

 

周囲がざわつく中、オルガは目の前で突如として露わになったラウラの姿に驚愕し、

その刺激で鼻から血を流しながら、希望の華を咲かせた。

 

「だからよ…急に脱ぐんじゃねぇぞ……」

 

その直後、

 

 

「――面白そうな話をしてますねぇ~」

 

どこから話を聞いていたのか、皿の横に倒れ伏すオルガの背後から見慣れた人物が現れた。

いつも変わらぬ眼鏡と黄色のスーツが印象深いIS学園教師、山田真耶。

その顔は興味深そうに微笑んでおり、手には食べ終わった皿の乗ったトレイを持っている。

 

「や、山田先生?!気付かなかったぁ…いつの間に…」

 

「とりあえず、ラウラさんは服を着てください。イツカ君が困ってますよ?」

 

「ん、んむ…!」

 

流石に教師に言われたのでは逆らえず、ラウラは渋々脱ぎ捨てた制服その他を身に着けてゆく。

 

「さ、イツカ君、もう大丈夫ですよ?顔を上げてください」

 

「お、おう…すまねぇな。山田先生」

 

「綺麗だったのに……」

 

「三日月くんも!…そ、そういうのはその…公衆の面前ではよくない…ですよ…?」

 

「えーっと……それで、山田先生。私達に何か用ですか?」

 

「あ、そうそう!そうでしたね!」

 

脱線しかけたところで鈴が戻し、慌ててトレイを机に置いた真耶は本題へと入る。

 

「それでですね、私も今の一夏君の状態は正直…ちょっと先生としても心配なんです。

 いまのところ授業への影響はまだ少ないようなんですけど…。ほら、常に顔が上の空で。

 このまま放っておいたら成績が下がったり…あと……その~…。

 と、とにかく最近の一夏君は見ていて不安です!なので、先生も手伝わせてください!」

 

意外な発言。瞬時にオルガ達は揃ってそう思った。

普段の素行は言わずもがな、専用機持ちだからと色々と誤魔化されている手前、この手の企みは最低でも止められるか、軽く注意されるものだとやや警戒していたのだろう。

 

「て、手伝う…ってぇ…え?!」

 

「はい!こうなったらもう大々的に!どっかーんと一夏君を回復させる、最強の大会を開きましょう!

 大丈夫!先生が資金面とか、全面バックアップです!なんでも言ってください!」

 

「おい、それ色々大丈夫なのか?」

 

「もちろん貴方たちはいつもの事ですから、過激な事とか色々やりすぎちゃうでしょうし、ちゃんとチェックはしますよ?」

 

「いや、そういう話じゃなくて…ん?」

 

鈴は何となく嫌な予感を感じたが、それはそれとして、『費用を無視して好き勝手出来るのでは?』と考えた為、周囲に承諾するよう耳打ちする。

その話を聞いた箒も、空となった丼を置いてうなずいた。

 

「うっしゃ…決まりね。それじゃあ山田先生…」

 

「すまねえが、今回は俺達の側に乗ってくれ」

 

「はい!喜んで!」

 

「く、くれぐれも一夏には内緒にして下さいね?」

 

「山田先生、口軽そうだし」

 

「う…き、気を付けます!」

 

なぜか真耶は生徒達に次々と釘を刺され、どちらの立場が上なのかよく分からないやりとりが続く。

 

だがそれもすぐに終わり、各々は食事を済ませ一時解散することにした。

放課後に再び集まり、作戦会議を行う約束をして。

 

そして、そんな会話が行われている裏で、

 

「…なんか向こうが騒がしいな。どっか静かなところでも探すか…ごちそうさま」

 

一夏は全く彼女達の動向に気付くことなく、食堂を後にした。

 

 

 

_

 

 

「で、集合場所の空き教室に来たはいいんだがよ」

 

「何かな?」

 

「なんでチョコの人がいるの?」

 

放課後、俺達は山田先生の指定したIS学園で使われてない教室に集まった。

が、待っていたのは山田先生ではなく、相変わらず何を考えてやがるのか全く分からねえにやけ顔をした、マクギリスの野郎だった。

 

「職員室の方で少々不備があってね。文化祭の事後処理関係の書類が、何らかの手違いでまだ大量に残っていたことが判明した。彼女は他の先生達とそれの消化に奔走していてね。代わりに私が来たのさ。概ねの話は聞かせてもらったよ」

 

「………サボりか?」

 

「……………」

 

マクギリスの奴は何も答えない。…図星かよ…。

大丈夫なのかコイツ。向こうは一大事なんだろ?

 

「と、とりあえず!ファリド先生!私達、最近ずっとあんな様子の一夏の為に、サプライズで誕生会を開いて元気づけようと思ってるんですけど、まず何から始めようか…」

 

シャルが一応念のため尋ねる。…どうせまともな返事じゃねえだろうけどな…。

 

「ふむ。ならばまず用意すべきは、劇的な舞台とそれに相応しい、劇的な演出だろう」

 

「は?」

 

「私と山田先生でステージを用意する。君たちはそこで各々に割り振られた舞台で、それぞれ好きなように彼を喜ばせうる事を行えばいい。一種の波状攻撃だ」

 

「何だそりゃ、随分とデカデカとやるんだな。…山田先生は大会をやるとか言ってたけどよ」

 

「誕生会も兼ねているのだろう?ならばなおさら、通常とはかけ離れた形で行う事こそが意味を持つ筈だ」

 

んな形でやってもあいつの頭じゃ混乱するだけじゃねえのか?と、俺は前髪をいじりながら喋るマクギリスを睨むが、周りの連中は、

 

「おお…!」

「へぇ、面白そうじゃない」

「うむ!腕が鳴るというものだ」

「ふーん」

 

と、かなり乗り気だ。ミカも興味持ってるみてぇだし…。ここはうだうだ言わずコイツの案に乗っておくとするか。実際、一番の目当てはアイツに刺激を与えられる思い出作りだ。その点で言えば効果はありそうだろ。

 

「それならわたくしは裏方で皆様を支えることにいたしますわ。小道具大道具など、山田先生と共に調達や設営のお手伝いを」

 

「すっかり奉仕が板についてんな、セシリアは…。いいのか?何かやりてぇだろ」

 

まぁ、最初に会った頃に比べたらすげぇいい変化だとは思うけどよ。

 

「いいえ、結構ですわ。正直その…あまりそういった芸には明るくありませんし…。

 一夏さんがああなった一因はわたくしにもありますもの。あまり顔向けできませんわ。

 …ですので!わたくし今回は、影で皆様が輝けるよう務めさせていただきます!」

 

「では…お嬢さんの代わりに私が出よう。彼の好みは既に把握している」

 

「は?」

 

何言ってんだコイツ。なんつー図々しい教師だ。

 

「では、セシリア嬢。君のツテの管轄外になりそうなものはこの紙にまとめておいてくれ。

 そのあたりは私や山田先生で対処する事としよう。あの様子だと長くかかるだろう」

 

「はいですわ!」

 

「彼女には書類仕事の合間に私が混ぜて渡しておく。どのような物だろうと、よく確認せずに発注してくれるだろうさ」

 

そう言って、マクギリスは懐から出した紙とペンをセシリアに渡した。

いいのか?それでいいのか? あー…もう考えるだけ面倒くせぇ。

 

コイツと話してると頭が痛くなりそうだ…ここはセシリアに相手を任せておいて…。

……隣でずっとヤシをほおばるミカと目が合った。聞いてみるとするか。

 

「んじゃ…ミカ、お前はどうすんだ?」

 

「ん……俺?そうだなぁ…。オルガのしたいことにするよ」

いつも通りのミカだ。だが、今回は状況が状況だ。ちょっとそうはいかねえ。

 

「や、実を言うと俺もあんまネタが浮かばねえんだ。てなもんで、シャルの手伝いにでも行こうかな、ってよ」

 

「そっか」

 

「ふぇっ!?」

 

一応は授業中とかに色々と考えてはみたんだがな。こういうのは俺なんかよりうんと気配りできて、しっかりしてるシャルについてったほうが確実だと思ってよ。

だったら俺は、そういうのが得意なアイツの傍で手助けしたほうが一夏の為にもなる…っつーか。

ほんと、シャルはいい女だよな…。優しくて、明るくて。俺みてぇなのにもこんなに…。

 

「オ、オ、オルガッ!くち、言葉が口にでてるよぉっ?!」

 

「あっ」

 

いつからか分かんねえが、思考が口に出ていたらしい。

気が付けば近くにいたシャルが恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。

 

「わ、わりぃわりぃ…その…。と、とりあえず、俺はシャルと組みてぇんだが…良いか…?」

 

「も、勿論…だよ…?」

 

「そ、そっか…」

 

「んじゃあ、それなら俺はラウラのとこいくよ。…そっちどう?ラウラ」

 

「あぁ!少しばかり大仕掛けを予定している。

 ミカ、手伝ってくれるならば後で色々頼むとしよう。丁度私も尋ねようと思っていた所だ。

 ついでに、皆に少しばかり提案がある!」

 

「ん?何よラウラ」

 

「先ほど言っただろう?心得があると。まずは衣装から攻めるべきと私は判断する」

 

自信に満ちた笑みで語るラウラ。何だろうか、すげぇ変な予感がする…。

朝といい…いや、ここはアイツを信じよう。

 

「…確かに、パーティでいつもの制服では、少し代り映えしないな。良い案だ」

 

箒もこう言ってるしよ。うん。

 

(ラウラの言葉だと不安しかないわね…)

 

「で、ラウラ、その…大丈夫なんだよな?」

 

「ああ!勿論だ!今こそクラリッサから聞き、ミカで実践した知識を活用するときが来たのだ!」

 

「うん。すごく良かった。大丈夫だよオルガ」

 

「っっ~~~~…」

 

「心配ないよ。無難なやつにしとくから」

 

「あー、信じてっからな、ミカ……」

 

「ラウラ……その意識を少しでもコスプレじゃなくておしゃれに向けたほうがいいよ……」

 

「確か、山田先生はその手の物に詳しい。そちらのルートで取れないものがあれば手配させよう。

 …私は遠慮しておくよ。この服装は一応、正装も兼ねているのでね」

 

「わたくしも裏方なので…。ハロウィンも近いから仮装は良いと思いますが…。」

 

「そっか。残念」

 

…マジで頼むぞ、ミカ。

 

あと予定を聞いていないのは…箒と鈴か。

ちらりと見た様子では、箒はもう決めてんのか、特に変わった様子もない。

一方の鈴は……拳を口に当てて考え込んでいる。料理とかはいつも出してたもんな。

今回は趣向を凝らしてそれ以外で、となると中々出てこねぇのかもしれねえ。

 

「あー…鈴?そっちはどうだ?やるもん決めたか?」

 

「うぇっ?!あ、あぁ~~…。も、もちろんよ!当日を楽しみにするといいわ!

 もうすっごい、アレだから!うん!一夏なんてイチコロなんだから!うんっ!!」

 

「…ならいいが。箒は見た感じ、イケそうだな」

 

「うむ。皆が派手に暴れまわるのは目に見える。私は静かなやり方でいかせてもらおう」

 

「よし。んじゃ、今日はこのへんにして、明日からは準備だ。

 こっからは皆それぞれ練習なり道具の調達なりって事で行こう。一夏の為だ!頑張ろうぜ!」

 

「「「「おーっ!!」」」」

 



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止める者のいない祝祭(げんきをだして) その2

続き所さんです。


日々意気消沈していく一夏へのサプライズパーティ準備は過酷を極めた。

 

無我夢中で必死に書類を片付けていた真耶は、マクギリスによってその中に混ぜられた小道具や衣服の注文書に気付かずサインをし、

後日大量にモンターク商会から自身の名義で来る大小さまざまな荷物に混乱。

さらに後日そのことを思い出したマクギリスによって事の仔細を知る。

 

ちなみに突如職員室に発生した書類の山も、噂を聞きつけパーティに参加したかったマクギリスの工作によるものであり、

あまりに怪しかったため真実を解明した千冬によってしばき倒される事となった。

 

_

 

「ふふ…。まさか馬乗りで殴られるとはね。流石は、ミス織斑だ」

 

「ノックアウトされたって聞いたわよ?そんなになるって分かってても、やりたい事があったの?」

 

千冬に殴り倒された後、再び保健室で手当て(軽傷)を受けることとなったマクギリスは、

暇を持て余していた楯無の話相手をしていた。

 

「あぁ、楯無には言っていなかったか。実は近々、一夏君を元気づけようと誕生会を開く予定でね」

 

「えー!それって、すっごい楽しそうじゃないの!?ワタシもまーぜーてっ!」

 

「勿論構わないさ。人数も多い方が、彼も喜ぶだろう。飛び入りで参加するといい」

 

「やたっ!お姉さんうれしー!」

 

「…ところで、私のバエルの様子はどうなっている?」

 

突如はしゃいでいた楯無の動きが止まる。

露骨にマクギリスから目を逸らし、誤魔化していたのがバレた、といった風の震え声で、

 

「あーー……。正直、お手上げかな~……?」

 

と応えた。

 

「…何?どういう事だ?」

 

「実はね、バエルの修理パーツが……無いのよ。

 前見た時はあったような……。そもそも元から無かったような……とにかく、無いの。

 調達も試したんだけれど、同じ第四世代型でも紅椿とは違い、規格が特殊なバエルは純粋に合うパーツを用意するのはちょっと難しいみたいでねぇ…」

 

「では、先日の損壊した状態のまま、と」

 

「んまあ、そうなっちゃうね~。…そこで、お姉さんから提案」

 

「?」

 

 

そう言って楯無は懐からリモコンを取り出し、空中にスクリーンを表示させる。

映し出されたのは幾つものISのデータ。但し―――

 

 

 

 

 

  ―――大きく、『コンペッション落選』の文字が表示されていた。

 

 

 

「各国が研究・開発している第三世代型IS。その中にはある程度まで作ったりなんだりして、そこそこ実働データとか取ったりした上でどれを作るか、そうやって幾つかの候補から選んだりする事もたまによくあるの。

 コアの数も限られている事だしね。ほぼ完成しても没でポイ、パーツ抜いて初期化して。

 普通は処分されるんだけど、残してるのもあるの。倉庫の肥やしってヤツ?

 

 ウチの力を使えば、そういうのを取り寄せてバエルの強化改修に利用するって事もできるわよ?」

 

「…ならば普通に修復で良いのではないかね?あの機体の外見はあまり変えたくないのだが」

 

「もちろん、ちゃんと形は合わせるわよ?でもフツーに他の機体のパーツでやっちゃったら、

 余りがちな第二世代型を使う事になる。ただ性能を落とすだけになるわ。そ・こ・で!

 こういった試作品の第三世代型を取り入れることで性能低下は最小限。

 更にはバエルに特殊装備を搭載させることも夢じゃないのよ!いい話だと思うけれど?」

 

「成程。…そこまでの事をする、というならば、私に何か条件を?」

 

「ないない。私と貴方の仲でしょう?お祭りにご招待してくれたし。いつものお礼よ」

 

「そういう事であれば…頼もう。完璧なバエルを、私に見せてくれ」

 

「りょーかい。楽しみに待っててね」

 

「では、私も行くとしよう。彼への贈り物の準備があるのでね」

 

何時の頃からか交流のある二人は、互いに心を躍らせながら保健室を後にした。

こっぱみじんに大破したバエルの改修と、一夏の面白そうな反応を夢見ながら。

_

 

同じ頃、セシリアは――

 

「ぜーっ…はーっ…はーーっ……。フ、ファリド先生の意見を参考に設計したはよいのですが…。

 基本、荷運びや大きな作業はISを使ったり、レーザーの溶接でいけますから、まだいいですわ。

 

 でもこれ、一人でするにはやることが多すぎるんじゃないですのーーー?!!」

 

『大仕掛けの使用を前提とした』舞台の製作に勤しんでいた。

始めはそれこそ、「英国面呼ばわりされないように」と気を使っていたものの、

現在組み上げている舞台の形は恐らくそう言われうる物になりつつあるという事実。

だが今更それを直す余裕もなく続行する。

そして何かしらを披露する順番も、まだ未定の為『どの階』にでも置けるよう大道具の手配。

 

大雑把な作業はISを用いることで何とかこなせてはいるが、細かな部分はとても人手が足りていなかった。

かといって準備に忙しい、あるいは集中したいだろう箒やシャルロット達を呼ぶのも気が引ける。

そんな迷いがセシリアの作業の手を遅らせていた。

 

「まぁ…こうしてBTを細かい調整で使う事自体は、いい訓練になるのですけども。

 あの時はしてやられましたが、今度はそうはいきませんわ」

 

そう言いながらセシリアは宙に幾つか浮かせているBTを器用に箸の如く使い、建材を配置。

 

「確かに、凄まじい精密動作でしたが、今のわたくしなら……はあっ!!」

 

適度な位置にしたそれらに向け、偏向射撃《フレキシブル》を行う。

 

結果、

 

 

 

 

 

―――焼いてつなげる予定の建材には穴が開いた。

 

 

 

「……………はぁーーーー…………ぁ」

 

「よう、そっちはどうだ?」

「調子は…微妙なようだな」

 

「ほへ?オルガさん?箒さん?どうしてこちらへ?」

 

俯くセシリアの視界にオルガと箒が突如として姿を現す。

大きな溜息が聞こえたか不安になるも、とりあえず疑問をぶつけて有耶無耶にした。

 

「ま、休憩がてらに他所の様子見ってとこだ。箒とはたまたまタイミングが合った」

 

「見た所、随分と苦戦しているようだな。手伝おうか?」

 

「い、いえ!それに、わたくしの方に行きますとだいぶ時間を割かれる事になりますわ。

 確かに、猫の手も借りたいところですが…。

 あ、三日月さんはどうしていらっしゃいますの?」

 

「ん、ミカか。あいつはな…」

 

_

 

 

『くっ!二号機も失敗したか!排出途中で引っかかるとは…』

 

『中でぐるぐるする仕組みは難しいかもね』

 

『ようミカ、ラウラ。調子はどうだ?』

 

『オルガ。まぁ、ぼちぼちってとこ』

 

『一号機は周辺機器との接続がうまくいかず、二号機はこれだ。

 だが、概ねの欠点はこれで改善できるだろう。三号機で恐らく完成というところだ!』

 

『随分と…でけぇモン用意してんだな…』

 

『黒ウサギ式のもてなしだ。盛大に楽しませてやるぞ…!』

 

『こうやって何か作るの、野菜以外はあんまやったことなかったんだけど、結構楽しいよ』

 

『そっかー!ならいい。うんと楽しくやりゃいいさ。んでよ、こいつ、名前とかあんのか?』

 

『あぁ勿論だとも!完成すれば、このマシンの名は―――』

 

_

 

「とまあ、うまくいってるみてぇだ。しかし…この規模をセシリア一人、っつーのは酷だな」

 

「うむ。しかし私達も準備が…。オルガは確か、シャルロットと料理、であったか」

 

「オルガさんがお料理?!」

 

 

「あー、まぁな。初めてなんで基礎から教わってんだ。案外奥深いもんでよ、中々こっちも楽しんでる。…なんかわりぃな…」

 

「いえ、しかしどういたしましょう…。細かな作業が得意で、基本空いてそうな人がいればよいのですが…」

 

セシリアが要求する人材の条件を聞いた途端、オルガはピクリと眉を動かし、何かを思い出したかのように考え込み始めた。

 

「…!? なんか、いたよな。そんな奴がよ。あーれーはー……。あぁ!!!」

 

「うわっ!急に大声を出すな!」

 

「丁度いい!箒!!携帯出せ!!アイツを呼ぼう!!確か知ってたよな?!」

 

「む、え?へ?…ああー!!いたぞ!確かに!」

 

「…?」

 

隣にいた箒も、はじめは困惑するもすぐに合点がいったのか、手早く携帯を取り出し何らかの操作を始める。分からないのはセシリアのみ。彼女はただ、急に騒ぎ始めた二人の様子に目を点にしていた。

 

「よし!あった!かけるぞ…!」

 

(電話……ですの?誰に…?)

 

_

 

 

 

≪放つ光♪ 空に墜ちる♪

 

          望むだけの♪ 熱を捧げて♪≫

 

「キラくんキラくぅーん。ケータイ鳴ってるよう」

 

「あ、本当だ。すみません、ちょっと」

 

「はいはーい。いってらっしゃっぴー」

 

この世界のどこかにあるという、篠ノ之束の研究室。

作った直後に飽きて用途すら忘れられたガラクタが散乱している開発スペースにて。

キラ・ヤマトと束の二人は今日も余人の目には全く分からない物体の制作に勤しんでいた。

尤も、とにかく指示を叩きつけられているだけのキラも何をしているのかは知らない。

そしてそんな最中、キラは携帯の着信音に応じ、束から距離を取ってどこからかの電話に出る。

 

≪もしもし、私だ。箒だ。いつも姉さんが世話になっている…いや、本当…≫

 

「箒さん?どうかしたの?」

 

≪実はだな―――≫

 

箒は大まかに今の状況を伝えた。

 

「なるほど…。…え?僕なんかでいいんですか?その…」

 

≪構わん。むしろ、他に適任がいないというか…まぁ…そんなところだ。まだあと何日かはかかるが…。その辺り、一応姉さんに話しておいてくれ。

 ただし!流石に来られるとまた何か起きかねん。くれぐれも内密に、それとなく、だ!≫

 

「分かった。束さんにはなるべくバレないよう気を付けるよ。用意したらすぐに行くね」

 

≪頼む≫

 

「うん、じゃあ」

 

通話を切り、キラは束の元へと戻る。

 

「あっ、おかえりー」

 

「束さん、これからちょっと、何日か出掛けないといけなくなっちゃって」

 

「お友達ー?」

 

「ん、はい…」

 

「そっかそっか。いってらっしゃーい」

 

「…え?」

 

あまりに、話が早すぎる。

普段の底知れぬ束であれば、急に日をまたいで出る、と言えばごねるか怪しむ筈だとキラは踏んでいた。

しかしまるでいつもと変わらぬ日常会話のように、基本ラボの外へ出るのもせいぜい買い出しぐらいしか許可が下りないというのにも関らず、あっさりと許しが下りた。

 

「…あの、行先とか…」

 

「ちゃんとキラ君いない間もごはんは食べるし歯も磨くよん。まあ、束さんはそこらへんも別次元の生命体だからぶっちゃけあってもなくても大差ないんだけどねぇ!

 兎にも角にも角煮の豚も、お友達のお誘いなら乗ってあげるが青春だー!

 きちんと私の所に帰ってくる事だけ、約束してくれるなら好きにしていいよ~」

 

「…大丈夫。僕の居場所はここですから。必ず帰ります」

 

「…そっか…。それでこそ、私の助手、だね☆…行ってらっしゃい、キラくん」

 

「はい!行ってきます」

 

 

リュックに手早く工具や端末などを詰め込み、ラボの外へと歩むキラ。

見送る束の笑みは、普段のものとは少し違っていた。

彼女のお気に入りは、ここが辿り着いた場所なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、と。そういやそうだったねぇ。忘れてたけどいっくんの誕生日だっけ。

 束さんからもなにかしてあげないとなー。うーんうーん。……おっ、そうだ」

 

キラがいなくなった後、何かを思いついた束はポケットから携帯を取り出した。

 

「もしもししもしもー?わたし束さーん。いまあなたのうしろにいるのーっ。

 …やろうと思えばできるけど冗談だよう。ちょっとやってほしい事があってー、日時指定でー。

 んでねー、IS学園にはねー、

 工事の時にだけ使われて、今は誰も知らない地下通路とかが……――――」

 



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止める者のいない祝祭(げんきをだして) その3

やっと動画本編部分です。
キツいぞぉ…(モンターク)

動画部分ようやく開始
いや、波乱しかないでしょ 多分原作よりひどいぞ!やったね!(Nyose)


9月 27日。

今日は特に何もない一日だった。

最近は箒も鈴も、あんまり俺のところに来なくなってきた。

 

…そりゃ、そうだよな。あの時俺は、目の前の相手にカッとなってこだわりすぎて、それでみんながどうなってるかまで頭が回らなかった。

そのせいで、鈴とセシリアが怪我して、ファリド先生は本当に死にかけた。俺のせいだ。

俺が狙われたりなんかしたから……。俺も、やったんだよ。必死に。その結果がこれだ。

 

「ホント、情けねえよな………」

 

で、箒達もいよいよ来なくなったのを皮切りに、ついに俺は一人静かに過ごすべく、学園の敷地ギリギリの隅にてひたすら空を眺めることにした。

 

ここは本当に人が来ない。静かだ。それまで地図くらいでしか認識していなかったが、こういう場所があることで滅茶苦茶に広い学園だっていうのを実感する。実際使う場所なんてごく一部なんだな。

 

…あぁ。俺は本当に馬鹿だ。自分が傷つくのはいい。でも、俺のせいで傷つく奴がいるのは本当に嫌だ。色んな目にあった気もするけど、あいつらは俺の大切な仲間たちだ。

箒も、セシリアも、鈴も、シャルも、ラウラも、オルガも、三日月も。

それに、千冬姉、山田先生、ファリド先生。みんな大切だ。

 

あの時、俺が大人しく白式を渡していたら……いや、それはなかっただろう。

でも、あの時戦った礼子さ…アラクネも、サイレント・ゼフィルスも、ファリド先生をやった奴も、とてつもない強さだった。福音の時は1機だったからみんなで倒せたようなものだ。今回は違う。相手もチームで、それぞれが凄まじい力を持っていた。

 

これから先、幾ら特訓したって、あんな連中に届くまでになれるのか?

あいつらは次に来るとしたら、それはいつなんだ?

……今度は、俺はみんなを守り切れるのか?

考え出したら、震えが止まらない。もうここのところずっとそうだ。

 

 

空を眺める。

何もない空だ。

 

空を見つめる。

雲が流れてく。

 

空を目に映す。

遠くに薄く星がある。

 

 

 

 

飛べば、届くだろうか。

 

 

 

「……白式」

 

俺は白式を喚び出し、身に纏う。

どうせここは誰も見ない。ばれやしないだろう。

 

少し、ほんの少しだけ、飛びたくなった。

 

ブースト全開。最後に着地ができる分くらい残ればいいだろう。

最高速度で、ひたすら上へ。

 

 

シールドバリア越しの感触で、風が打ち付ける。

とにかく上へ、ただただ飛んでみた。

 

雲を抜けた頃、少し頭がクリアになったような、そんな気がした。

けれども星は掴めそうにない。元々ISは宇宙開発用。本当だったら、今頃はあの星で動いていたのだろうか。

 

高度が何千メートルかになって、エネルギー残量の警告が出る。そろそろ降りよう。

 

こうして脳をまっさらにしながら白式を動かしていると、なぜか頭の中に1つの言葉が浮かぶ。

いつもオルガが言ってたやつだ。

 

『俺達にたどり着く場所なんていらねえ。ただ進み続けるだけでいい。止まらねえ限り、道は、続く。俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねえ限り、その先に俺はいるぞ!だからよ…止まるんじゃねえぞ…』

 

……そう、だよな。

俺はずっと止まってた。止まろうとしてた。それじゃ、終わってるのと一緒だ。

そんなんじゃあいつらとは戦えないし、みんなを守れない。

俺の道を、俺が閉ざしてどうすんだよ。

 

みんなも、俺を守ろうとしたんだ。それはみんなが選んだ道だ。

なら、俺も止まらずに、進み続けなきゃいけない。例え勝てなくても、挑もうと思うのが大事なんだ。

怯えてたって何か変わるわけじゃない。俺はただ止まらなきゃいいんだ。

いつでも来やがれ、亡国機業。今度は絶対、ブッ倒してやる。ブッ倒せなくてもブッ倒してやる。

 

「……よし!!」

 

長かったような、短かったような空の散歩は終わり、元居た場所へ戻る。

そんで、箒達にまずは一言いわなきゃだ。ごめんって。きっと殴られたりするんだろなあ。

なんでかわからないけど。

 

その為にもまずは……帰るか!

 

_

 

寮へ向け歩き始めて数分。

 

「ん?」

 

ラウラだ。なんか、探してるみたいにきょろきょろしている。

何かはしらないが、丁度いい。

 

「おーい!!ラウラー!!!」

 

 

「……!」

 

びくっと反応した。小動物みたいに。いや実際ウサギみたいな所があるが。

そんでそのまま、一直線に俺の所へ駆け寄り、

 

 

 

 

 

 

 

「すまん!死ぬほど痛いぞ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

ジャンプして俺のうなじのあたりに一撃。

衝撃の後に痛み、そこから秒もかからず俺は意識を失った。

 

 

 

「こちらラウラ。一夏を確保した。これより連行する。皆、集合してくれ。

 

 

 作戦を、開始する」

 

 

_

 

 

 

暗く冷たく広い空間に、ライトが灯る音が響く。

 

強い光に照らされて、俺は目を覚ました。

 

「……っ!…ここは……?」

 

気が付けば、俺は椅子に座らされていた。

動こうと思ったが、手足はベルトで椅子に拘束されている。

 

次に辺りを見渡した。一面、張り付いたような、塗りつぶされたような黒の真っ暗。

俺のいる辺り1メートルくらいだけが真上の明かりで色がついている。そんな状況だ。

 

「……何なんだ!?」

 

…どうしてこんな事になってるんだ……?…ダメだ、眠る直前くらいの記憶がない。

たしか、寮に戻ろうとして…いや、今はそれよりもこの状況だ!

どう見てもヤバイだろ、これ!動けない!

 

「くっ!なんでこんな―――――」

 

とにかく暴れようとした、その時。

 

急に笛の音がした。それも普通のじゃなく、戦国武将とかかなんかが吹く、貝みたいなアレだ。

 

そして次にどん、どん、どん、と太鼓の音が響き、その度に闇の中から3回、赤い文字が現れる。

 

 

 

 

『厄災』

 

 

 

『戦』

 

 

 

『開幕』

 

 

「……?」

 

こちらに迫っては消えていく文字にあっけにとられていると、

 

 

 

 

「深層電脳楽土へようこそ、織斑一夏くん…!フフフフ…!

 

 

 それでは、始めましょう!

 

 

 ISーーーーーーー!チャンネルーーーーーーー!!」

 

 

「へぁ?!」

 

今度は聞き覚えのある声とともに、IS学園のマークが表示される。

少なくとも敵じゃないみたいだ。

…ん?マークの下に何か、文字みたいなものが…?

 

『now hacking…』

 

 

 

 

『now hacking……』

 

 

 

 

『now hacking………』

 

 

 

 

 

『 O K ! 』

 

『Are you enjoying this』

 

 

 

『 織 斑 一 夏 に サ ー ビ ス 対 決 』

 

 

 

「何だよ、それ!?」

 

一連の表示が終わった直後、なぜか月の裏側を連想する、軽快ながらも怪しげな音楽が流れ始め、

周囲に明かりがついて室内の様子が明らかとなる。

目の前の広い空間には、幕が下りた劇場の舞台が設置されていた。なんだこれ。

 

舞台に立っているのは、やや露出多めの、乳牛みたいな恰好をした山田先生の姿。

そして少し視点を手前にやると、片隅でDJブースで忙しそうに操作をしているキラ・ヤマトが。

…あの人なんでここにいるんだ?なんだか毎度の事のような気がするが、疑問は尽きない。

 

「さーて、ついに始まりました!織斑一夏にサービス対決!進行は私、山田真耶!

 そして、音楽その他もろもろのアシスタントを務めるのは~?!」

 

「どうも。キラ・ヤマトです……」

 

「や、山田先生……。あとキラ、何してるんだ…?」

 

「色々あって…。あ、今回は僕一人だから、心配しないで。あの人はいないよ」

 

「はぁ……」

 

いや、その辺は聞いていないんだが。束さん抜きが確定したのは一安心だけども。

 

「内容は各自自由!織斑くんを、一番楽しませた人が勝ちです!さて、それでは早速…」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!何なんですか、一体!ちょっ…」

 

「まずは、エントリーナンバー1番!篠ノ之箒さんの登場でーす!」

 

山田先生は俺の言葉には一切耳を傾けることなく、ノリノリな様子で司会進行をしてステージから降りて行った。…ん?箒?

 

全くもって状況が未だつかめぬ中、舞台の幕が上がり、その向こう側が明らかとなる。

 

「……へ?」

 

現れたのは、並んだ障子。白い部分にスクリーンが投影され、鹿威しのある庭園や、桜、ススキと満月の映像が流れる。

一緒に音楽も切り替わり、和をイメージした落ち着いたものとなった。

やがて障子が開き、隠されていた部屋が今度こそ露わとなる。

 

床は畳が何畳か。壁は襖。奥には昔の時代の夜景みたいな絵。

だが何よりも目を引くのは……

 

 

いつもとかなり変わっている、箒の姿だった。

 

白いニーソは脚を細長く見せ、もさもさと触り心地の良さそうな狐の尾と耳が生えていて、

服装はいわゆる巫女のそれだが、上の辺りがやや着崩されており、肩は完全に、胸も際どいギリギリの辺りまで露出している。あと、なぜか首に鈴がついてる。…猫?耳としっぽは狐なのに?

 

「…ほ、箒?」

 

…なんか、ベタな漫画みたいな恰好だけど、実際に見てみると凄まじい威力があるな。

普段箒はこういう…巫女の姿はたまに神社の手伝い等で見るが、コスプレみたいな事は絶対にしないと思っていた。要するに、すごい。とても似合っている。

本人の恥ずかしそうな顔から、やはりこの格好自体は本意ではないのは何となくわかる。

だが珍しいので、俺は今の箒をしっかり目に焼き付けようと試みた。

 

「はぇ~…」

 

「……あんまり……じろじろ、見るな…」

 

「いや、しかし……」

 

そもそも動けないので他に見れるものがないのである。

何となく向こうも分かったのかどうなのか、しばらくすると躊躇いを振り切るような目に切り替わり、

 

「…っ!一夏!ステージに上がって来い!…もっ…もてなしてやる!」

 

と言った。どう見ても俺は動けないと思うのだが。念のため、勇気を出して言ってみる。

 

「……?!お、おぉ…?じゃあまず、これ取ってくれないか…?」

 

「…!そ、それもそうだな…待っていろ…」

 

やっと気付いてくれたのか、箒は舞台から降り、俺の所へ来ていそいそと拘束具を外し始めた。

ようやく自由になれる…。

 

「心配すんな、逃げないから。ここに座ればいいんだな?」

 

「あ、あぁ…」

 

 

…で、俺もステージに上がって、箒の指差す座布団の上に正座してみたとこまでは、よかったんだが。箒も目の前に座ってから、だ。

 

いざ近くで見てみると…やっぱ目のやり場に困るな…。

どうやって状態を維持してるのか知らないが、はだけかけの胸の辺りなんか今にも…。

ええい、どこだ!どこなら安全に見れる……!

 

「………」

 

「…………」

 

箒も緊張しているのか、一切口を開かなくなった。

くっ…!何か、何か…言った方がいいよな、これ?

とりあえず、落ち着こう。落ち着いて…。そう、なにか心を落ち着かせれるものは…。

 

 

 

あった。箒の、頭の上。ついている耳!

 

さっきからすっげぇぴょこぴょこしている。

前に弾辺りに聞いたことがある。最新型の付け耳や尻尾は脳波を読んで自在に動くという。

あの噂は本当だったんだな。しかもとても触り心地が良さそうだ。もふもふ耳だ。

とても作り物とは思えない精巧なもふ耳。可愛いな…。そして触りたい。

 

「……な、なんか…撫でたくなるな…」

 

「あ……あんまり……見るな……」

 

見るなと言われて素直に視線を下にずらす。その先にあるのはさっき避けた胸の辺りだ。

…う、うわぁ……箒…あんまもじもじするなよ…。見え…。

 

_

 

「ふんっ!!!」

 

一方その頃。鈴とオルガは舞台裏にて二人の様子を隠しカメラで覗いていた。が、

今、映像を映していたスクリーンは苛立った鈴の拳によって割られる事となった。

 

「あんの馬鹿!胸ばっか見て!!」

 

「カッカするなよフフッ…。…ぐっ!あぁ…ぁっ」

 

なんとなく苛立った原因に察しがついたオルガは、つい笑いながら鈴を煽ってしまう。

すると哀れ無言の鉄拳を顔面に食らい、希望の華を咲かせた。

 

「…だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

_

 

とりあえずお互い落ち着こう、ということで箒がお茶を淹れてくれた。

お茶といっても、急須で出してくる本格的『っぽい』感じだ。

っぽい、と言うのは、あんま正式な作法には詳しくないので何となくとしか…。

お、注ぎ終わったらしい。差し出してきた。湯気が出ていて熱そうだな…。

 

茶を受け取ろうと俺が箒の手に触った、その時だ。

 

「…っ!」

 

びくっ、と箒が震え、容器の中のあつあつのお茶が溢れ、俺の脚にこぼれる。

 

「うわっち!!」

 

「うあ、あ、すまない!………大丈夫か?」

 

慌てて箒はハンカチを取り出して濡れた部分を拭く。…ちょっとシミが怖いが、温度はちょっとした風呂の湯くらいだ。大したことない。

 

「いや…このくらい」

 

「すまない…緊張して…しまって…。

 

………こんな格好、初めて…だから……」

 

今にも消えそうな声で、箒は呟いた。

 

「その……恥ずかしくて、だな。火傷、しなかったか?」

 

何だろう。今日の箒は……いつもと、本当にいつもと違っていて…。

 

「あ、あぁ……」

 

こいつ、こんなに…可愛かったっけ。

俺を心配してる様子だとか、こんな恰好、無理して着てくれたりだとか…。

なんか……なんだか…。

 

 

 

 

 

 

どぉおぉ~~~~~ん

 

「はい。時間終了でーーーすっ」

 

唐突になるドラの音。もう少しで別の音というか音楽が流れていただろうというのに。

山田先生の声で、俺と箒ははっと我に返る。何だろう、この、無情な感じは。

 

「な、何ぃっ!早すぎるのでは?!」

 

「すみません。後がつかえてますので~」

 

「…っ。すまなかったな」

 

「ああ、もう大丈夫だ。ありが…」

 

お礼を言おうとした直後、急に部屋の照明が落とされまっくらになる。

 

「セシリア、行って」

「分かりましたわ」

「うわぁっ!もう少しだけ!よいではないか!折角…わぁ!放せーっ!!」

「終わりましたわ、次!キラさん!そっち!お早く!」

「あ、はい!せーので行こう!」

「「せーのっ!!」」

 

「…何だ?」

 

暗闇の中、小さな声と何かどたばた動き回るような音がする。ついでに俺の座っていた位置が少し舞台の手前の方に引っ張られた気がした。

かすかに鈴の音が遠のいていくのも聞こえた。箒の首についてたのだと思うが、どこへ運ばれた?

 

数秒の静寂の後、再び明かりが灯る。

俺の真隣に立っていたのは運ばれたと思しき箒ではなく、マクギリス・ファリド先生だった。

…いつのまに。

 

「…先生?」

 

「……会えて嬉しいよ、一夏君。君の趣味は、プラモデルだったかな?ならば、

 私は私の所有する――」

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

プラモ!確かに、昔はバイト漬けで殆どやれなかったけど、それでも少し実家に飾ってあるくらいには好きだ。最近のはすげぇよく動くしな!

…色々調べるのが得意な人だとは、前にオルガに聞いた気がする。ってことは、まさか!

俺がこの近くの店を探し回って全く見つからない、アレも…!

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

「もしかして、HGシルヴァバレトサプレ―――」

「HGガンダム・バエルを差し出そう。受け取ってもらえないだろうか」

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

―――ですよねー。

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

「いや、俺はシルヴァ・バレト…」

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

「さらにフルメカバエル、かんたんバエル、バエルコーヒー、バエル饅頭、バエルカップ、バエル充電器、バエルポスター、バエル紋章(シジル)刻印フライパン、バエル包丁、バエルまな板、バエルタオル。バエル!バエル…。バエル!バエル。バエルゥ…!」

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

ファリド先生は大量のバエルグッズを差し出してきた。そしたら、何か…急に、頭が…!?

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

ってか、なんで途中から妙に…実用性上が…ぐ…!バ…バエ…。

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

バエルバエルバエルエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエル

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バエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエルバエ

 

ぴぴーっ!

 

「はっ!?」

 

山田先生が鳴らした笛の音で、俺は我を取り戻す。

危なかった…!なんというか、もう少しで頭の中が一色に染め上げられるところだった。

 

「教師が生徒を洗脳するのはどうかと思います!教育的指導です!強制終了です!」

 

レッドカードを突き出し終了を告げる山田先生。…ありがとう!助かったよ!

しかしファリド先生は同僚の言葉に眉をひそめ、

 

「バエルに逆らう…」

「うるさい…!」

 

抵抗しようとしたところで三日月の声が聞こえ、場は暗転。

思い切り何かでどつく音もしたので、背後から襲ったなりしたのだろう。

で、この時俺の座っていた場所が「動き」、バランスを崩した俺は頭からすっころんだ。

 

「いてててて…」

 

「俺の…目指した…世界に…」

「うわああああ~~~っ!照明つくのまだ早いよぉ~~~!」

 

顔をあげると再び部屋が点灯しており、ついでにシャルの声がする。

振り返ってみれば、先ほどまでいた場所は「上へ」移動しており、「下から」シャルとオルガが立っている部屋が迫ってきていた。

 

「エレベーターかよ…」

 

しかも舞台の両端をよく見てみれば、

 

「えっさ!ほいさ!えっさ!ほいさ!」

「ぜー…ぜー…セシリアさん、ちょっ…間に合ってな…はーっ…はーっ…ぜー…はー…」

「キラさんがバテてるからですわ!山田先生も!つけるのが早いですわ」

「急なトラブルでしたから~」

 

キラとセシリアの二人が必死にレバーを回していた。え?手回し式?このご時世に手動エレベーター?どんな設計だよこのステージ。

セシリアはまだ元気そうだが、既にキラはバテバテの状態である。向いてなさそうだもんな…。

 

そんなこんなで、次はシャルとオルガの番らしい…って…!?

 

「…え?」

 

「えへへ…。一夏、楽しんでもらえてる?」

 

この二人、さっきの箒みたいな、いや、それ以上に凄い恰好をしている。

まずシャルだ。かなり布地が少ない水着みたいな、だけどももこもことした暖かいのか寒いのかよく分からない服を着ている。頭の側面にはもこもこの塊みたいなのが左右に2つ。背後には細い尻尾みたいなものも見える。とりあえずシンプルに目のやり場に困る恰好だ。シャルの白い肌がほぼ全身みえてるようなものだ。

 

しかし、まだいい。オルガに比べたら正直シンプル過ぎて驚きがそちらに持っていかれた。

 

オルガの方は一見して普通のカッコいいコスプレだが、雰囲気が違う。

下は黒の革靴に黒のパンツズボン、金と黒で鎖のついたベルト。全身には蛇のように絡みつく紫のファーストール。背中には三対の大きな蝙蝠の羽根。問題はこの次だ。

上半身は裸の上に薄い紫の模様がついたドレスシャツ。この時、胸と腹は大きく開かれボタンは中ごろで1つ止められているのみ。

つまり鍛え上げられ引き締まったオルガの胸筋と腹筋が惜しげもなく大胆に披露されているのだ。

 

そう、シャルの格好は『分かりやすく露出が激しい』。

だから俺はどこを見ていいか分からず、必然的にオルガを見る事となる。そこに罠があった。

オルガは緊張のせいか、やや汗ばんでおり、その結果強調されている筋肉が妙に艶っぽい。

しかしてシャルを見るわけにもいかず、オルガをじっと見てしまう。

むんむんと醸し出されるフェロモンだとか、肉体美だとか、そういうのに引っ張られ視線がさらに向かう。二人ともなんて刺激的な服なんだ…!

 

「…何の格好なんだ、それ?」

 

「フレンチプードルだよぉ」

 

「破廉恥プードル…最高じゃねえか。そして、俺は……!堕天使、らしいぞぉ………ッ!」

 

シャルは後ろを向いて尻尾を振り、それを見たオルガは鼻血を垂らしながらポージングを決める。

ううむ、二人とも俺には刺激が強すぎる…!

しかも堕天使だって?男なら誰しも憧れるワードじゃないか!カッコイイな!オルガ!

確かにそれならこのセクシー具合も納得だ。

 

「僕らはね、一夏にクッキー焼いてきたんだ」

 

「他にも色んな菓子があるぞ!ほら!どれでも好きなの選べ」

 

強烈な恰好と裏腹に出てくるのはまっとうだ!確かに、近くのテーブルにはクッキーをはじめ、様々な焼き菓子が皿に盛られていた。…ん?見慣れない奴があるな。

 

「…なあ、これなんだ?見たことないけど」

 

形はさしずめパイ生地の太巻きというか…筒だな。中にクリームが詰めてあって、端のところには赤い球体…大きさ的にさくらんぼか?珍しい焼き菓子だな…。

 

「あぁ、そいつはカンノーリっつてな」

 

「イタリアのお菓子らしいから僕も詳しくなかったんだけど、オルガと一緒に頑張ったんだぁ」

 

「へぇ、こういうのがあるんだ。知らなかったな」

 

「実は俺、パティシエでね」

 

「え?!本当か?!」

 

「冗談だ。本当はコイツ、思い出の味って奴でよ…。調べたらレシピがあったんだ」

 

「作るときも言ってたね、オルガ」

 

「まあな。いい機会だからやってみたんだ。…シャルのおかげであん時と同じ…いや、もっとうまく出来たかもな。懐かしいな…すげぇ苦労してさ、その後のもてなしで食わして貰ったんだよ」

 

「へぇ……」

 

珍しく聞けた、オルガの昔話。想い返すその顔は、どこか遠くの空の向こうを見上げていた。

 

「ま、水くせぇ話はここまでだ。とにかく食え食え!遠慮しねぇで思いっきり楽しめよ!」

 

「おう!」

 

「フフフッ」

 

それから俺は、とにかくオルガとシャルの作った焼き菓子をむさぼりまくった。

このごろあんま腹に詰めてなかったからな。優しい甘さのスイーツががつがつ喉を通っていく。

 

_

 

すぐ下の階

 

「あ」

 

「ミカ?どうした?」

 

「オルガのとこ、セシリアのジュースがあったような」




マクギリスあたりの文章ドラッグすると一夏の頭痛の原因がわかると思います
小ネタはいくつわかったかな?(Nyose)



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止める者のいない祝祭(げんきをだして) その4

わざと唐突に出す。
異論は認めん。byラウラ


「よーし!今日はとことんまでいくぞぉー!」

 

どうやら飲み物もあったらしい。

いつのまにかオルガがジョッキいっぱいのジュースを持っていた。

そして、それを一気飲みした、その時だ。

 

「ヴヴッ!!」

 

顔を真っ青にして、希望の華を咲かせた。

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…!」

 

「こ、これ、セシリアの作ったジュースだ…!山田先生!照明落としてー!次ー!」

 

「あ、は~い」

 

異物混入によりオルガが倒れ、部屋は暗転。

俺は床の動かない部分に移動し、『次の階』を待つ。

横目で見た時飲んでたエナジードリンクが効いたのか、キラの体力も回復し、エレベーターは早めに到着した。

 

「…今度はまた、すっごいな…」

 

部屋1つ1つでもこう何回も移り変わると旅してる気分になるな。

今度は風船がいっぱい飾り付けられてて、部屋の右側にはダーツの台が3つ並んでいる。今までと違ってかなり派手な装いって感じだ。

 

「フフン!黒ウサギ隊の本領発揮というやつだ!」

 

待っていたのはラウラと三日月。どちらも黒いウサギの耳を頭につけていて、

ラウラはバニーガール。三日月はタキシードでバニーボーイってとこか?結構似合ってる。

 

(ラウラのバニー…可愛いな…。すごい興奮する…!)

 

…三日月のラウラを見る目が血走っている気がしたが、きっと見間違いだろう。

 

「てか、なんだこのセット…」

 

右側にダーツ3台、左側には明らかに不自然な空きスペース…。

見た感じ、ゲームをやるみたいなのは確定のようだが…。

 

「フッ…どうやら大仕掛けが気になるようだな、一夏!ならば今こそ見せよう!あるべき姿を!」

 

「ラウラと頑張って作ったんだ。楽しかった」

 

やっぱなんか出るんだな!面白そうだ!

 

「試作2回を経て完成した、私と嫁の愛の結晶に驚くがいい!

 

 

 ―――出でよ!サンダルフォン!!」

 

ラウラが叫ぶと同時に地面を思い切り蹴ると、それまで空いていた部屋の左側の床が開き、

中から勢いよく巨大なガチャガチャが現れた。上部はぎっしりとカプセルが詰まっているケースとなっているのは勿論だが、ついでに大きな赤い文字で『夢』と書かれている。関連性はよくわからない。

さっき言った名前は、多分この機械のものだろう。…名前つけるほど気に入っているのか?

でもデカいもんが下から現れる構図、ってのは俺の好む演出だ!

 

「おぉ~!でっけぇ!」

 

「というわけで一夏!ダーツで勝負だ!」

 

(かわいい)

 

「ああ!ダーツはやったことあるぞ!」

 

(俺は…よくわかんないけど。ラウラの真似しとこう)

 

俺が経験者だと分かると、「なら話は早いな」とラウラは早速ダーツの矢を俺と三日月に手渡してきた。

三日月は初めてなのか、物珍しそうに弄っているが…何とかなるだろ。

 

(これ使いづらそうだな…)

 

「なんと豪華景品付きだ!空くじ無しだぞ」

 

「へぇ…あれ、クジってやつなんだ」

 

どうもこの矢を的に当てるとあのガチャガチャが動く仕組みらしい。ハズレ無しってのはいいな!

一応、未経験っぽい三日月もいるので、最初はラウラが手本を披露するようだ。

 

整った指先で矢を構え、狙いすまし、最小限の動作での投擲。

軍にいた頃、ナイフ投げでもやってたのだろうか。ダーツの矢はきれいにまっすぐ的の中心に刺さっていった。

すると、横のガチャガチャがにぎやかな音と光を出し、ちょっとしたゴムボールくらいの大きさのカプセルを排出した。

ラウラがそれを手に取り開けると…何だ?折りたたまれた…長い紙?

 

「おお!食堂の日替わり食券!一週間分だ!」

 

「いいねぇ…それ」

「おぉ~~~!すっげぇ~豪華!」

 

一週間分飯タダだって!?いいなあ!ああいうのが出るのか!

何の催しか知らないが、これはありがたい!よし、次は俺が…。

 

「じゃあ、俺も」

 

後ろで声がする。三日月がやりたがっているらしい。ここは譲っておこう。初めてみたいだしな。

 

「ん、あ、あぁ。いいぞ…へ?え?」

 

返事ついでに振り向くと、三日月はとんでもないもんを手に持っていた。

…あれ、いつも使ってるメイスだよな。何で?

 

「…こっちの方が使いやすい。…行くぞ!」

 

いやいやいや!色々ぶっ壊れるって!やめとけ!!

 

「待て待て!!!そんなもの投げたら―――」

 

しかし、三日月は止まらず。的に向けて思い切りメイスをぶん投げた。

びゅおん!とか言ったぞ。投げた瞬間に衝撃波出たぞ。どんな速度出してんだ…。

 

直後、大口径の砲が直撃したかのような轟音が響き、実際、辺りが爆発した。が、

ガチャガチャは正常に作動。

 

「…えっ!?」

 

「どうした?もちろん、嫁の一撃も受け止められるよう作っているぞ?」

 

「いや…そっか…」

 

想定済み…流石は二人、通じ合ってるんだな…。

っと、カプセルを取りに行った三日月が固まっている。どうしたんだ?

 

 

[光る!喋る!バエル像交換券]

 

「………消えろよ…!」

 

「あ、あははは…」

 

うん、ドンマイ。「空」はないって話だからな…。

 

「よ、よし!それじゃあ俺も!」

 

いよいよ俺の番だ。二人はそつなくこなしていたが、俺はやったことあるといってもあるってだけだ。うまくやれるかな…。狙いを、慎重に、つけ…て…っと!

 

…よし!うまいこと真ん中にいった!別に多少ずれても出そうなもんだが、こういうのは気分だ。

真ん中のほうがいいもの出そうな気、するもんな!

 

どれどれ、カプセルの中身は…っと!

 

 

…黒くてなめらかな…布?

 

「―――――ッ!」

 

「………なんだ、これ?」

 

「んなっ!?そ、それは!私の水着!…どっ…ど、どういうことだ!」

 

急に取り乱して山田先生に問いかけている辺り、どうやらカプセルの中身はラウラ達も把握しているわけではないらしい。

 

「ファリド先生のグッズ製作に予算の殆どを持ってかれちゃったので、一部は私物を使用させていただいてます」

 

「―――――!」

 

山田先生の言葉を聞いた途端、三日月は俺の目の前に音を出さず、けれども異様な速さで歩み寄ってきた。

 

「え?」

 

「………………」

 

大きく、鋭い目が俺を見る。睨みつけている。

放たれる凄まじい圧。物凄い念。さすがの鈍い俺でも、彼が求めているのが何かはすぐ分かった。

というか、断ったら俺が危ない。あの目は裏切れない。

 

「えー…っと…ええっと…ラウラ…」

 

「……お、お前が欲しいというのなら…」

 

 

ありがとうラウラ。おかげでもう少しで俺を貫く勢いだった殺気が消えた。今度お礼にうまい店紹介するよ。

 

何とか命拾いした後、冷や汗をかきながら三日月に水着を渡した、次の瞬間。

 

照明が落とされる。だが、何か様子が変だ。

 

「な、何?!まだ時間はある筈だ!」

 

「ぁ……あ…?」

 

暗闇の中でラウラが狼狽える。

どうやら予定と違う事が起きたらしい。

こういう時は慌てず騒がず落ち着いて…あと暗くて分からないのでじっとして…。

 

 

 

 

 

 

「い・ち・か・君…!こっちこっち~!」

 

「おぉ?!えぇっ?えっ…ちょっと!」

 

どこかで聞いたような、聞きたくないような声がして、俺はいきなり何者かに手を引かれた。

やはりというかなんというか、女性の手だが妙に強い力のため、抵抗する余裕もない。

 

「ぐあっ!」

 

歩いた道筋からして、恐らくはステージの舞台裏。変な色のライトが薄く照らす物置に連れていかれ、ついに何者かによって押し倒された。

…こういう事してくるのは…まあ、あの人しかいないよな…。

 

「――――、」

 

やっぱりそうだ。楯無会長。しかも…何だあの格好!?

白い猫耳猫尻尾。さらに白い…ビキニ?サイズが合っていないのか、上下ともにパッツンパッツンで、只でさえ殆ど露出しきっているような状態なのに、今にも服装が弾け飛びそうになっている。

 

だがそんなことこの人にとってはどうでもいいのか、獲物を捕らえた獣の如く舌なめずりをしつつ、顔を俺の間近へと近づけて……。

 

 

 

 

 

何度目かの唐突な点灯。暗かったり明るかったりの繰り返しで目がちかちかしてきた。

 

「あぁ~ん!もう!残念」

 

この人は何を悔しがっているのだろうか。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!!」

 

また聞き覚えのある声が近づいてきた。

でもこの、突進時の雄叫びのような感じ、そしてかすかに混じる風切り音。

叫びは聞こえ始めて秒も経たずにこちらへと近づき、

 

最初に目に映ったのは、足。次に布と…内側がちらりと見え、最後に鈴の顔が確認できた。

って、こっちに向かって猛スピードで飛び蹴りかよ!?

 

「どわぁああ!?鈴?!」

 

俺の危機察知よりも早く、会長は素早く俺の真上から飛び退き、

さっきまでまさに会長のいた辺りの空間を、弾丸のように飛ぶ鈴が通り過ぎて行った。

あっぶな!…身軽なのは知ってたが、どうやったんだあれ?凄い身体能力だなあ。

 

「アタシの衣装!返しなさいっ、よぉっ!!」

 

奇襲を外したと確認した鈴は、なおも鬼気迫る表情で会長に襲い掛かる。

衣装を返せ、と言うように両手で身を覆う布をつかんでいる為、蹴りを主体に猛突進。

まるで刀か槍でも振っているかのような、鋭く速く幾度も繰り出されるキックを、

会長はほぼ自然な動作と変わらない最小の動きで避けていく。

 

「ごめんねぇ、鈴ちゃん。楽しそうだったから~仲間に入れてもらいたいな~って思って。

 でもやっぱり、胸元がか~なり苦しいわねぇ~。この衣装~」

 

ならどうして鈴の服を選んだんだろうか。

 

「こっ、このおっ!」

 

「と、とにかく落ち着け!鈴!」

 

「うるさいっ!!元はといえば、アンタが胸ばっか見てるから、油断しちゃったのよ!!」

 

「何のことだよ…?」

 

見せてきたのは向こうなのではないだろうか、と疑問に思った隙を突かれ、

いきなり会長が俺の腕にくっついてきた。

 

「あら一夏くん?見てたじゃない?…―――!」

 

会長の表情が変わる。視線の先には、騒ぎを聞いて駆けつけてきた重武装のバルバトス。

形勢不利と判断したのか、すぐさま会長は上へと跳躍。ほぼ同時に俺の目の前で三日月が急停止した。

 

「――ッチ!」

 

「それじゃあ一夏く~ん!今の続きはまた後日~!」

「マジでやめて」

 

上にあったゴンドラに乗り『撤退』の文字が書かれた扇子を見せ、

会長はいつも通り楽しそうに去っていった。…何だったんだ…あの人は……?

 

「ぁぁ…」

 

どぉお~ん

 

「……?」

「………?」

 

騒ぎを起こした人が去り、残った三人で揃って唖然としていると、ドラの音が聞こえてきた。

 

≪皆さ~ん!ステージに戻ってください。ラストイベントが残っています!≫

 

「ふぇ?」

 

…まだあるの?

 

_

 

 

鈴と三日月に連れられ、何とかステージに戻ってきてみると、他のみんなも集合していた。

裏方のセシリアとキラを除き、皆やけに過激な衣装はそのままだが、

表情はやや不安げに見える。…みんなも知らないのか?

全体を知ってるのは山田先生だけなのだろうか。それはそれでどうなんだ。

 

「それでは一夏君。ステージに上がってください!ただいまよりラストイベントです!」

 

「一体何が…」

 

「いいですから!ほらほら」

 

「うわわっ」

 

完全にこちらの意見を無視する山田先生に引っ張られ、壇上に上がる。すると、

 

パンパンパン!

 

と、どこにあったのかクラッカーが鳴り、ステージはまばゆい光を放ち始めた。

 

「…何だぁ?」

 

さらに舞台の床が開き、中から大量のライトがついた巨大な輪のような大道具が上がってきて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

その中心には、片手にフルーツパフェを持ち、メイド服を着た千冬姉が立っていた。

 

 

 

「「「ええぇーーーーっ!?!」」」

 

どうしていきなり千冬姉?!それにその恰好……。

 

「無理すんなよ」

「あ”?」

「すみませんでした」

 

「…口を開けろ」

 

「ほ?」

 

もう開いてます。むしろこの謎の現象を目の当たりにしてるので塞がらない。

 

向こうも伝わったのか、無言で持っていたパフェにスプーンを使い、そして、

わずかに開いている俺の口に突っ込んできた。

 

「あむぁ…ん」

 

千冬姉が俺にパフェを食べさせた直後、

天井近くのスクリーンの文字が、それまでずっと表示されていた

『織斑一夏にサービス対決』から、

 

 

 

 

『織斑一夏バースデーパーティー』へと切り替わり、壮大な音楽が流れた。

 

「…そういえば、今日って……」

 

色々あってそれどころじゃなかったけれど、確かに、俺の誕生日だ…ったな…。

 

再びクラッカーの音がする。今度のはどこぞに仕掛けられていたのではなく、

みんなが手に持って使った物の音だ。ついでに、服装もみんないつもの制服に戻っている。

 

 

 

「「「「「ハッピーバースデー!一夏!!」」」」」

 

そっか…!なんか今日はみんな急にどうしたんだろう、って思っていたけど、いわゆるサプライズパーティーだったんだな。全く気付かなかった。

…そうだよな。ここんとこ俺、落ち込んでたし。みんながこうして元気づけようとしてくれてたのか。…普通でいいのに。でも、凄く嬉しい。

 

こうして大人数に祝ってもらえるのもなんだか初めてのような気もするし、本当に…

 

「…みんな!サンキュ!」

 

ありがとう。それしか言葉が浮かばない。

…でもやっぱ、回りくどいやり方だったよなぁ…。

 

 

「誕生日、僕も加わってよかったのかな……?」

 

みんなの影から、ひょっこりとキラが顔を出して言う。

雰囲気から見るに、元々手伝いか何かで呼ばれたんだろうけど……確かに、普段束さんといる人だし、こういう場にいていいかは不安になるよな。

 

「そういやなんか色々やってたな…ありがと!音楽のチョイスとか、良かった!

 全然気にしてねえよ。今日は一緒に楽しもう!」

 

「なら、良かった……あっ、そうだ!これくらいしかあげれそうなもの、なかったんだけど、プレゼント。良かったら……」

 

キラはそう言って小走りで近くから何かを取ってきた。

きちんと梱包された……なんか、結構大き目の箱だな。

 

「みんなみたいに変わった渡し方じゃないけど、これ、どうぞ」

 

「いや、普通が一番いいよ…。すげえデカくて…重いな。聞いて良いか?中身」

 

「メタルビルドの、エールストライクガンダム。大したものじゃなくてごめんね」

 

「…へ?」

 

……確か、万円くらいかするやつじゃなかったか?それ。

少なくても俺の財布じゃ届かないレベルの代物のシリーズだぞ…?それをポン、と…!

 

「えっ……ええ!?」

 

「日頃のお詫びも兼ねてるけど…大丈夫だったかな?」

 

「いや……す~~~~っげぇ嬉しい!!ありがとな!!滅茶苦茶大切にする!!!」

 

「なら…良かった」

 

 

 

 

「…素敵だったよ、レディ」

 

「…む…貴様、そういえばあれは何だ?生徒を洗脳とはいい度胸だな」

 

「アグニカに目覚めれば、彼も悩みや苦しみから解放され、ただひたすら力を求める…!

 と、思っていたが、私の筋違いのようだ…」

 

「それにしても、よく千冬姉まであんな格好を…」

 

「……っ…」

 

あ、やっぱ恥ずかしがってる。そうだよなあ。千冬姉、ああいうのは絶対に着ないもんな。

つまりすっげえ貴重な瞬間が見れた…写真に収めればきっと…いや、やめておこう……。

 

「ホラホラ!主役が何やってんだ!今日はとことんまで行くぞぉーっ!」

 

「っと、そうだな!かんぱーい!」

 

_

 

その後出、されたケーキやら何やらを食い終わり、パーティーも落ち着いてきた。

…まあ、こんくれぇが丁度いいかもな。

 

「わり、一夏、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

「私も同行しよう」

 

「俺も。キラもくるでしょ」

 

「え、え?」

 

「なんだ?みんなツレションか?俺も…」

 

「いや、アンタは主役だろ、みんながまだ構って欲しそうにしてんぞ。行ってやれ」

 

「ん、あ、あぁ…」

 

これでよし。

準備のごたごたで呼んだはいいが中々切り出せなかったが、今ぐらいがいいだろう。

俺らはキラを少し離れた場所へと連れて行った。

 

 

 

―――先日の件について、聞くためにな。

 

 

「……さて、と…。なぁ、キラ。文化祭の日、俺らがよく分かんねぇ奴等に襲撃された事、

 もちろん知っているよな?」

 

「…うん。でもあれには、束さんはまったく関係してない」

 

「信用できねえな……いや、まあ、そっちじゃねえんだ。今回はな」

 

「え…?」

 

「その件については事前に千冬が確認を取っている。本題は、襲撃グループの中に、

 我々の知らない『ガンダム・フレーム』が存在していた事だ」

 

「ガン…ダムが……!?」

 

キラの表情が驚きに染まり、手に持っていた白い缶のエナジードリンクを落とす。

『俺らが知らないガンダム・フレーム』 その単語の意味はこいつが一番よくわかる筈。

まさにそのものを、夏休みの終わりに束の指示でけしかけてきたんだからな。

 

「ああ。そいつにマクギリスがやられた。ISの……いや、モビルスーツの腕ならミカ並の、こいつがだ。形も俺らのってより、アンタの知っている形だろうよ。ミカ、写真出せるか?」

 

「ん」

 

ミカがIS待機形態の腕輪をつつくと、襲撃時のバエルから抜き取った画像が空間に表示される。

シリンダーの露出していない腹部、小さくまとまった頭部のアンテナ、武器化している左腕。

一際際立つ、背中の大型装置。

 

「!!?……こ、れは………あの人が…!?あの人が……来てる…?」

 

キラの顔が真っ青になる。やっぱ知っているみてぇだな。

この反応からしても、確実にとんでもねぇヤベぇ奴だってのは伺える。

だが手がかりはこいつだけだ。聞かねえことには始まらない。

 

「試しに君の名前を出した所、反応があった。…あまり良いものではなさそうだが、

 単刀直入に尋ねよう。『彼』は君の知り合いか?」

 

「…分かりました。全部、お話します。僕のいた所。この世界に来るまで。

 貴方たちも、そうなんですよね」

 

「こっちも言っとこう、オルガ。その方がいいでしょ」

 

「…だな」

 

そしてキラは、尋常じゃない程に眉間にしわを寄せながら、自分自身の…『転生前』について話しはじめた。

 

「…コズミック・イラ。僕のところの紀元はそう言われてます。

 色んな化学がここより発達してて…。特に、コーディネイターっていって、遺伝子操作技術が施された人間と、そうじゃない、ナチュラルと言われてる普通の人達と、二種類のヒトがいるんです。

 …ここでいうラウラさんみたいな。…僕も、その一人」

 

「へえ…。ラウラと、アンタ…ふぅん」

 

「我々の世界は、ポスト・ディザスターという。

 300年前に起こった、モビルアーマーとの戦い…厄祭戦によって文明が一度崩壊し、

 宇宙の秩序を守る組織ギャラルホルンにより統治されている、平和な世界だよ」

 

おいマクギリス、どの口が言うんだ。どの口が。

 

「えっ。300年も前に大きな戦争が終わっている、平和な世界なんですか?

 モビルアーマーって…飛行機とか、そういうのの大きい物とかじゃなくって?」

 

「全く違う。人を自動で殺戮し続ける、無人兵器だ。

 これによって当時の人口の4分の1が失われた」

 

「へえ…。でも、復興したんですよね?」

 

「しかし文明が」

 

「大量の核がコロニーに撃たれたり、その核を止める装置で地球が酷い事になったり、

 大規模破壊兵器とかが短い間に幾つも作られたりは。全部人同士です」

 

「…………~~~っ!」

 

「もうよせマクギリス!歴史オタクのアンタが違う世界と張り合いてぇのは予想できたが、

 多分勝ち目ねぇぞ!キラ、お前も……その…悪かった!もういい、言わなくて…」

 

「…あの機体の名前は、プロヴィデンス。乗っているのはラウ・ル・クルーゼという人です。

 ………僕は、あの人と相打ちになりました。束さんに会ったのは、その後です」

 

「そうか。…ありがとな」

 

「気を付けて。あの人は…僕のいた世界での…色々な、良くない部分を、一番見てきた人です。

 だから強い。もしあの憎悪が、この世界にも向けられるなら、それは止めないといけない。

 

 だって…この世界は……なんというか、『似ている』んだ。コズミック・イラと。

 

 今の僕には、力がない…だから、頼めるのは、オルガさん、三日月さん。貴方たちだけだ。

 どうしたら、なんて僕にも分からない。ただ、気を付けて……」

 

「…分かった。んじゃ…」

 

 

「みなさーん!まだチキンが残ってましたー!食べましょー!」

 

遠くで山田先生の声がする。

多分、俺らも呼んでんだろうな。

 

「………もちっと食うか!」

 

ここはとにかく食って、気持ちを一旦切りかえておくに限る。

さっきの話のせいでキラの顔も暗くなった。…食い物詰め込んどきゃ、誤魔化せるよな…?

 



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第6話編
乙女の矜持(ザ・シークレット・ベース)(前編)


気合いを入れたので初投稿です。
なお序盤部分を除き、これより私の単独執筆となります。



「うっ……ゲホッゲホッ……ハァーッ……っぐぅぅ…」

 

「オルガ、大丈夫?」

 

長めのトイレから帰ってくるなり、オルガはとにかく暴飲暴食をし始めた。

ついでに、口にありったけの肉を詰め込まれてダウンするキラの姿は惨憺たるものだったが、オルガ達はあっちで何をしていたのだろうか。

まあ、今現在の油と炭酸でゲホゲホいってるオルガには聞きようもないし、また今度にしよう。

 

「あはは…でも、楽しかったなあ」

 

「だね」

 

盛り上がったパーティーも終わり、俺達は今日という長い一日を終えるべく帰路についている。

なんか色々と訳の分からない部分はあったけど、本当に楽しかった。

大勢の人に祝ってもらえる、っていうのはすごく良いもんだ。…来年は、普通にしてほしいけど。

 

 

―――ふと、背後から草木の揺れる音がした。

 

「……!」

 

「んお?」

 

気になって振り向いてみると、薄暗い中に人影が2つ、佇んでいた。

視界に入れるなり三日月は素早く懐の拳銃に手をかける。

 

「誰だっ!」

 

ご丁寧に俺の呼びかけに応えてくれているのか、2人はゆっくりとこちらに歩み寄り、

近くにあったライトの光が姿を照らしてゆく。

 

「アイツ……あの時の……」

 

一人は、白い服を着た仮面の男。そして、もう一人は…。

 

「ち…千冬姉?」

 

「どういう事だ?」

 

黒い外套を身に纏った、千冬姉…但し、身長は低く、まるで少女のような…。

小さい、千冬姉?…少なくとも、顔は全く同じ。

 

だが、

 

「………いや。私の名前は、織斑マドカだ」

 

そう俺の言葉を否定して、少女はニヤリと微笑んだ。

 

 

 

 

「…えっ?」

 

織、斑…?その苗字、俺と、千冬姉と同じ…!

しかし脳が疑問を浮かべるより早く、少女は動いた。

 

「私が私たるために、お前の命を貰う!」

 

外套の下から拳銃を取り出し、俺に向けて火を放つ。

瞬間、

 

「クソッ!!」

「うわあっ!」

 

オルガが俺を庇い、希望の華を咲かせる。

 

「ヴヴッ!止まるんじゃねえぞ…!」

 

次いで三日月がバルバトスを起動。直後に少女に向け思い切りメイスを投げつけた。

 

 

 

 

―――が、届く寸前でどこからか飛来した幾つもの緑のビームに撃ちぬかれ溶解。

迎撃されたメイスは空中で爆ぜる事となる。

 

「何っ?!」

 

「今の……あの時の、やばい奴だ…!」

 

上を見上げると、射出したであろう子機を背部に戻す、『ガンダム』の姿。

バルバトスの攻撃を瞬時にいなせるのなんて、そうそういる筈がない。つまり、あれは…!

 

「……マクギリスをやった奴か!!」

 

≪熱くなり過ぎだぞ、エム。ここは退きたまえ!≫

 

「……分かった」

 

恐らく仮面の男があの『ガンダム』だろう。その指示に応じ、織斑マドカと名乗った少女は、

IS…同じくあの時、文化祭を襲った『サイレント・ゼフィルス』を身に纏い、飛び去ってゆく。

 

残った『ガンダム』は、俺の方を見て、

 

≪…一夏くん、君の兄妹には、随分と世話になっているよ…≫

 

「な、何?!」

 

「どういう事だ…?」

 

≪フッフッフッフッフ……!≫

 

そう言い残し、ゼフィルスを追うようにして、夜闇の中へと消えていった。

 

「はぁっ……ふぅっ…」

 

敵は去り、緊張が解けた三日月は、あのガンダムに対してものすごいプレッシャーでもあったのか、まるで深い水底から上がってきたかのようにどっと疲れた様子を見せ、

残された俺達は、突然の出来事にただ、立ち尽くすしかなかった。

 

――――――――――

 

一夏は先程起こったファントムタスクに襲われたことを駆けつけた千冬に報告していた。

なおミカとオルガは他にファントムタスクの追手が居ないかを他の生徒や教師陣とともに学園内を警戒中であるためにすでにこの場には居ない。

そして頷いていた千冬の口が開く。

 

「全く、お前は危機管理が甘すぎる。オルガと三日月が居なければ今頃お前はこの場には居なかっただろうな」

 

「ま、まあそうだけど……」

 

一夏は肩を落とす。

当然ながらあの場でオルガが一夏を庇い、三日月がバルバトスを展開して迎撃しなければ

一夏は最低でも重傷、最悪死に至っていた可能性があった。

自分の無力さが改めて身にしみていた。

 

「お前自身もきちんと身を守れるようにな。三日月やオルガ任せでは駄目だぞ」

 

「は、はい……気をつけます……」

 

「……で、以上か?」

 

「えーっと……あ、そうだ千冬姉」

 

「織斑先生だ。……と言いたいが幸い今は本来はオフの時間帯だ。続けても構わん」

 

「お、おう……」

 

(敬語で喋らなくていいのか……はぁ……ちょっとは慣れたけどあんまり千冬姉にこう喋るのはやっぱキツイな……)

 

やれやれと一夏は少し思った後、再び口を開く。

 

「その襲ってきたやつは千冬姉に似ていたんだ」

 

「ほう…私に?」

 

「ああ、背は小さかったんだけど……なんか千冬姉そっくり…みたいな。あと「オリムラマドカ」って名乗ってたんだ」

 

「「オリムラマドカ」……」

 

「…一体なんだったんだ……?」

 

一夏が首をかしげている。

親は一夏が幼い時に千冬と一夏を捨てて失踪

そして親は親戚づきあいもなかったらしく、めぼしい親戚なども存在しない…つまり天涯孤独だったと一夏は千冬から聞かされていた。

そんな中、自分と同じ名字を名乗り、千冬によく似ていた「敵」が現れたことにより、一夏は混乱していたのだ。

 

「大方、敵の狂言と策略だろう。それより一夏、お前はそろそろ寮に戻れ

あとは我々が後始末をする。明日は早いぞ?」

 

「あ、そうだった!じゃあまたな千冬姉」

 

千冬姉に促され、一夏は寮の方に帰っていった。

そして一夏が去った後、千冬は一言だけ呟いた

 

「……あいつ…か」

 

―――――――――――

 

その数日後、シャルロットと一夏はある護衛任務に動員されることとなり、任務自体は特に問題はなかったものの、終盤での敵の悪あがきにより一夏のISはかなりの損害を被った。

そして現在は一夏とそのISを解析しているところである。

教員の千冬、山田そしてマクギリスが同席しており、任務に同伴していたシャルロットも当然ながらこの場にいる。

 

一夏の解析が終わると山田先生はデータを確認しながら、こう話し始めた。

 

「織斑君の体には一切問題はありません。ですが白式の量子変換に異常が認められます」

 

「そうか、量子変換の異常……か」

 

「原因は?」

 

マクギリスは頷く中、千冬は山田先生に原因を尋ねる。

 

「いえ、まだわかっていません。詳しく検査してみないことには……」

 

「精密検査ということか」

 

「はい、なので織斑君には……」

 

「織斑、白式を検査に回す。暫く外してもらおう」

 

「え?……は、はい」

 

一夏は少し躊躇うが、白い腕輪を腕から取り外し、千冬にそれを託す。

 

(………こんな感じの腕だったっけ…)

 

一夏は腕を軽く回わしている。

今までつけ慣れていたものを外したというのはやはり違和感があるようだ。

 

「それで良い……お前は着替えて教室に戻ってろ」

 

「は、はい」

 

一夏はISスーツから着替えるために部屋を出て、更衣室のほうに向かっていった。

そして千冬はガントレットを見ながらも、再び口を開く。

 

「……さて、問題はこれを小娘共が知ったら…か」

 

「大騒ぎになりますよね……色々な意味で……」

 

千冬と山田先生はそれに頭を抱えている。

一夏、オルガ、三日月そして教員を含めるとマクギリスとIS操縦者で在籍する男が4人となっているIS学園だが

依然として一夏の人気は高く、このことを知ったら我先へと一夏の護衛を買って出る生徒が多く出るだろう。

そんなことになったら間違いなく争奪戦となり。最悪の場合、授業や一夏自身への妨害が多発することは間違いなかった。

 

「しかし、彼には危害が及ばないようにしなければならない」

 

「ああ……頭が痛いな……」

 

「ここはイツカ君とオーガス君にだけ教えてなるべく気を張ってもらえるようにしたほうが良いかもしれません」

 

「ああ、そのほうが良い。オルガ団長と三日月・オーガスなら間違いはないからな」

 

「うむ……私もなるべく織斑へ気を向けるようにするが……私も委員会への一連の騒動の書類提出や授業で手が回りきらない以上、やはりオルガと三日月に頼むのが良かろう」

 

 

「そうですね。ではそのように……」

「待ってください!」

 

山田先生の言葉を遮るように、シャルロットはその判断に待ったをかけた。

 

「ん?どうかしたのかね?」

 

「皆には知らせないでください。イチカは僕が守ります!」

 

「ほう…君が……」

 

「待ってください!いくらデュノアさんでも…」

 

山田先生はそのシャルロットの決意に反対するが、マクギリスはその言葉を遮り、山田先生に言葉をかける

 

「私は構わないと思うがね、シャルロット・デュノアの決意は固いと見る。そして彼女なら任務を遂行できるほどの腕はある」

 

「ですが……!」

 

「最悪は私も援護に回る。オリムラ先生やヤマダ先生よりは暇がある……私のバエルもやっと治ったのでね」

 

「ふっ…」

 

千冬は少し微笑むとシャルロットに改めて声をかけた。

 

「デュノア、織斑の護衛任務を頼む」

 

「わ、わかりました!」

 

ピシッと背筋を伸ばし、シャルロットはしっかりと答える。

その様子を見た千冬は表情を緩め、「先生」ではなく「姉」として話し始めた

 

「……弟を頼む」

 

「は、はい!」

 

(……オルガみたいに僕も……誰かを守れるようにならないと……!)

 

シャルロットはそう決意するのであった。

 

 

昼休み

IS学園 1年1組教室にて

 

「お怪我はありませんの?イチカさん」

 

「全くトロいんだから……」

 

「油断大敵だぞ、一夏」

 

「バカ野郎が、聞いた話によるとイチカのほうは結構なお出迎えを食らっちまったみたいじゃねえか。ハラハラさせやがって……」

 

「まあな、こんくらいなんでもねえぜ。ちょっと擦り傷出来たくらいだし」

 

「全く…今度から気ぃつけろよ?」

 

「わかってるって」

 

昼休みの時間、一夏とシャルロットの任務について聞いた箒、鈴、セシリア、ラウラ、オルガ、三日月といった面々が二人の元に集まってきた。

心配そうに声を掛けてきたが、一夏は何時も通りに返している。

 

そしてシャルのほうにもオルガが話しかけてきた。

 

「シャルのほうはどうだ?どこか怪我しちまってねえよな?」

 

「あ、うん…僕は……大丈夫だよ」

 

「お、そうか……ならいいんだけどよ……」

 

だがシャルはどこかぎこちなく返す。

一夏がISを展開できないということを隠すためにそんな反応を取っているが

嘘をつきれていないのかオルガからは少し目をそらしている。だがオルガ自身はそれに気づいていないようだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

昼休み

 

「ミカ!」

 

「ん?どうしたの、ラウラ」

 

「これを見てくれないか?」

 

ラウラが三日月に見せたのはなんと女性誌の下着の特集コーナーであった。

 

「な!?ラウラ!」

 

「こんなところでなに見せてるのよ!?」

 

「どうしたのですの!?」

 

「なにしてんだよ!?」

 

「勘弁してくれよ……」

 

その場に居合わせた箒、鈴、セシリア、一夏、オルガの5人はもちろん驚いている。

一方の三日月はそのラウラが見せに来たのに興味を持ったのか、マジマジと見ている。

 

「私は嫁の趣味を聞いているだけだが?」

 

「「「嫁の趣味?」」」

 

一同は首をかしげる

そしてラウラは手を広げ、その女性の下着について力説し始めた。

 

「クラリッサは言っていた……!この縞パンこそが男の好感度を上げる至高の下着だそうだ!」

 

「は、はあ……」

 

その一同はもちろん呆れているが、ラウラ的には本気のようだ。

そして当人は――

 

「黒とかいいと思うよ?」

 

とくに気にせずに普通に選んでしまっており、ラウラもそれをメモしているようだ。

 

「ふむふむ……ならばこれとこれなら……」

 

三日月とラウラがズレているがゆえにこんなやり取りをしている中、鈴と箒はもはやツッコむことを止めてこう思い始める。

 

(なにこの超次元なやり取り……ある意味二人らしいけど……)

 

(親しき仲にも礼儀ありなのでは……?)

 

そしてラウラは意見を求めて席に座っていたシャルロットにもその雑誌を見せる。

 

「そうだ、シャルロットならどんな下着が良い?」

 

「え……」

 

ラウラに突然振られて少し困惑するシャルロット。

 

「ら、ラウラ……そういうのはこういうところで開いちゃいけないと……ん?」

 

もっともなことを言おうとしたシャルロットであるが、何かに気づいた…いや驚いたのか急に会話を切り上げた。

 

「!?」

 

「どうしたシャルロット?」

 

「ご、ごめん……ちょっと!」

 

そう言うとシャルロットは勢いよく走り出して、教室を後にした。

ラウラはもちろんはてなを浮かべている。

 

「急にどうしたのだ?シャルロットは」

 

「どうしたんだ……?」

 

オルガももちろんはてなを浮かべていた。

 

――――――――――――――――

 

学園の玄関に出たシャルロットは誰もいないことを確認して、柱に隠れる。

そして自分の「違和感」について改めて確認をすると――

 

「う、うそ!?」

 

(な、なんでいきなり下着が!?)

 

そうシャルロットが着ていた下着――パンツがいつの間にか消えてしまったのだ。

物凄く突拍子もないことに普段は冷静なシャルロットが珍しく戸惑っていた。

 

(も、もしかして僕の下着にも白式と同じことが……!?……で、でもISの装備じゃないのになんで……)

 

いろいろな可能性をなんとか考えてみるも当然ながら断定することはできない。

 

(と、とりあえず……なんとかしないと……!)

 

全速力で(スカートがめくれないようにしながらも)部屋へ戻り、今度は別のパンツを履いてみるも――

 

「!?」

 

(また!?)

 

それもまた消失してしまった。

なんどやっても結果は同じであった。

 

(ど、どうしよう!)

 

そんな時にコンコンとドアを叩く音

 

「ひゃっ!?ど、どうしたの?」

 

「何言ってやがる。授業始まっちまうぞ?」

 

その声はオルガであった。

どうやらもうそろそろで休み時間が終わり、授業が始まることから、シャルを呼びに来たらしい。

 

「あ、ごめん!」

 

その声を聞き、シャルはそのまま部屋の外へ出て……なんとオルガと手が繋がった。

 

「え!?」

 

「とっとと行くぞ!少しでも遅れたらオリムラ先生に確実に殺される…!」

 

どうやらオルガは千冬に怒られるのを恐れて急がせるためにシャルロットを引っ張っているようで、怒られるのを恐れているからか、その「事」には気づいていなかった。

オルガにとっては「前」の時の半身付随となったミカを引っ張るような感覚だからであろう。

 

「あ…ああ……!」

 

そして急いでいる上に、シャルロットもその状況やらで足取りがおぼつかなくなり、最終的には――

 

「うわああ!?」

 

「おわあっ!?」

 

二人共寮の廊下で転んでしまった。

そしてオルガが気がつくと

 

「……え?」

 

(なんか……あたたかいの……が…!?)

 

奇妙な現象であった。

オルガが手を引っ張ってシャルが後ろに居たはずが、何故かラッキースケベのごとくシャルの股のところにオルガが埋まっていたのである。

そして今のシャルロットは()()()()()()……想像するまでもなく、この後は――

 

「あ……いやああああああああああああああああああ!?」

 

「ぐふおっ!?」

 

感情に身を任せ、シャルロットはISの腕を部分展開してオルガをそのままぶん殴ってしまった。

 

言うまでもなくオルガはその場に倒れた。

彼は生身の際でも発動するワンオフアビリティ「希望の花」で言うまでもなく死なないが、オルガは脳内での処理が追いついていないのか、ブルースクリーンのコンピューターのように固まったままだ。

 

「あ………ああ…」

 

なおシャルロットも脳内での処理が追いつかず、完全にテンパっており

逃げるようにしてこの場から立ち去った。

優等生たる彼女であるが、あくまでも少女である。

下着消失やこのラッキースケベが重なってしまえば、こうなってしまうのはしょうがないことであった。

 

 




面を食らったのも無理はない(cv政宗一成)


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乙女の矜持(ザ・シークレット・ベース)(後編)

今回はペース早めに初投稿です。

オルシャルはいいね。オルシャルはさ……。


――――――――

 

「はあっ……」

 

その後、なんとか教室についたシャルロットは千冬からのオルガに対することへの問いかけも誤魔化してそのまま授業を受けていた。

そしてその授業も終えることができたのだが……。

 

「しかしオルガはどこに行ったんだ?」

 

「どうせどっかで行き倒れて死んじゃってるんじゃないの?」

 

「うむ……団長のことだ。最悪の場合、転んで死んでいる可能性もあるな…」

 

「いや、そこまでヤワじゃないでしょ……」

 

箒、鈴、ラウラがそう話す中…シャルロットは引き続きため息をついていた。

 

「はあっ………」

 

相変わらず自分のパンツは消えたままであり、相談しようにも恥ずかしいことこの上ない。

 

その後、先生より荷物持ちを頼まれた。

シャルロットはそういうことは断りにくいため、引き受けたのだが、両手でそのまま持つため、言うまでもなくスカートを抑えられない……。

つまり風が吹いたら物凄くマズイのである。

オルガ的に言えば「確実に殺されるぞ!」であった。

 

 

「なんでこういう時に限って頼まれちゃうんだろ……」

 

その時、突如どこからから爆発音が響き、突風が吹き荒れた。

 

「え?……うわっ!?」

 

「ぐおっ!?」

 

そしてその荷物を不意に落とし、階段であったため、そのまま落下し

下に居た一夏がまとも食らってしまった。

 

「い、イチカ!?」

 

「だからよ……止まるんじゃねえぞ……」

 

どうやらオルガのいつものアレが感染ったのか、同じように倒れてしまった一夏であった。

 

 

―――――――――――

 

「ごめんねイチカ、手伝ってもらっちゃって…」

 

「良いってことよ。ところでオルガは一緒じゃねえのか?こういう荷物とかはオルガに頼んだほうが…」

 

「あ、うん。たまには僕が持たないとね!ほら、体が鈍ったりしたらいけないし!」

 

「ふーん、なら良いけどよ」

 

そうすると一夏は倉庫から立ち去る。

どこか別のことで頭を抱えていたようで、少しため息を付いても居た。

だが今のシャルロットにはそこに構うような余裕はなかった。

 

(僕らしくもない……さっさとオルガを守りに行けばいいのに……)

 

「はあっ……でも一夏を守らないといけないし……IS」

 

シャルロットもため息を付きブツブツと言いつつも、倉庫から出ると……そこにはちょうど箒と鈴が居た。

 

「あ……」

 

「今、一夏のことを言ったか?」

 

「いや……僕は……その……」

 

「そういえば…一夏、いつもの腕輪つけてなかったけど、なんかあったの?」

 

「えっと……その……」

 

2人の幼馴染の熱いその視線、それを誤魔化し切るのはいまのシャルロットには到底無理なことであった。

 

―――――――――――

 

その後の1年1組教室では、案の定箒と鈴が一夏を問い詰めていた。

 

「なんでもっと早く言わなかったんだ!?」

 

「あんた狙われている自覚あんの!?」

 

「いや……こういうことに箒達を巻き込んじまうのは…その……」

 

幼馴染2人の追撃からタジタジとなってしまう一夏

そこへセシリアが助け舟を出そうとする。

 

「まあまあ…お二人とも落ち着いてください。イチカさんは2人のことを考えてそうしているわけで…」

 

「考えているのはいいが、甘すぎるんだ!」

 

「そうよ!私達のこと信用していないわけ!?」

 

だがセシリアのその抑えも幼馴染2人にとっては不発となった。

思いが強すぎるゆえに…か。

 

その後、ヒートアップして、どちらが一夏を守るか…になった。

 

「一夏を守るのは私だ!」

 

「いやアタシよ!ISにはあんたよりは乗り慣れてるのは実際アタシだし」

 

「期間など関係ない!第一私には今、赤椿がある!」

 

「あ、あの……」

 

バチバチしている中、今度はシャルロットが止めに入ろうとするが、そこに別の重々しい音が聞こえてきた。

 

「え?」

 

「ねえ……」

 

振り向くとそこにはガンダムバルバトス第6形態……つまり三日月がその場に居たのだ。

しかも鉄血太刀を構えつつである。

 

「喧嘩か?……俺は嫌だな……」

 

「あ……」

 

あまりにも殺気が強いので、箒と鈴はそれに押され、自分が出していたその血の気が失せてしまった。

 

「み、三日月さん?そんなに怒ってどうしたのですか?」

 

セシリアのその問いに三日月は不機嫌になりつつ、こう答える

 

「……別に……でも……次は潰す…」

 

「はひ?」

 

「いや、気にしないほうが良い……生徒会長が色々とな」

 

「は、はあ……」

 

なんとか三日月のお陰でこの場は収まった。

だがシャルロットはこの騒動で少し忘れていたことをすぐに思い出した。

 

「……あ!オルガ!」

 

そしてシャルロットは一目散に駆け出した。

 

(あ、み、見えちゃう!)

 

もちろん、スカートに滅茶苦茶気を配りながら――

 

―――――――――――

 

 

なおオルガはまるで走馬灯のごとく前世の出来事を思い出していた。

 

(……懐かしいな……)

 

『僕達で…鉄華団を……』

『連れてってくれるんだろう?』

『ギャラクシーキャノン!発射ァ!!』

『何やってんだよ!団長!』

 

一部は苦い思い出だが、今では懐かしさを感じる。

だがそう思っているとオルガは――

 

(そういや…俺……まだシャルに「前」のことを話してねえな……)

 

 

「オルガ!」

 

そう思っていた時に聞こえる声。

 

「……ぐっ……しゃ、シャル……?」

 

「ご、ごめん。さっき思いっきり殴っちゃって……そのまま置いてきて…」

 

「な、殴った?……そんなこと……いってえ、頭が……!」

 

どうやら先程の衝撃で記憶が一部欠落してしまったようだ。

つまりシャルの股間に埋まったことを含め、オルガは忘れてしまった。

 

「………」

 

(何やってるんだろう…僕……オルガを守らないといけないのに……今度は僕がオルガを傷つけちゃった……雲海の時も、前の襲撃の時も……僕は上手くできなかったのに……)

 

いつもオルガに色々と負担をかけて、自分は役に立っているとは言い難いとシャルロットは思っていた。

そして今度は自分の動揺のせいでオルガに迷惑をかけてしまった。傷つけてしまった。

その罪悪感がシャルロットを蝕む。

 

「………」

 

オルガが先程の出来事を忘れているなら、シャルロットとしては別にこのまま隠し通すのは構わないことである。

そうすれば自分の弱さを隠すことができるからだ。

だが、シャルロットはその選択肢を選ばず――

 

「…オルガ、ちょっと来て」

 

「ゑ?」

 

シャルロットはオルガを引っ張り、邪魔にならないようなところに行くことにした。

今日起こったことをすべて話すために……。

 

―――――――――――

 

オルガとシャルロットは人気もそうない寮の裏側に来た。

つまり誰にも気づかれないような場所である。

 

「……実は…」

 

そしてシャルロットはこれまで起こったことを正直に話す。

自分の下着が謎の現象で消えて、今は「はいていない」ということ

それで自身がテンパってしまい、結果オルガをISの腕でぶん殴ったこと

その後、そのまま暫くオルガを放置してしまったこと…とにかく全てであった。

 

「……ゑ?」

 

オルガはもちろんこんな声を出して驚くしかなかった。

間違いなく突拍子もないことであろう。

 

「な、ぱ…し、下着が消えちまった……?」

 

「うん……だから今はまだすーすーする」

 

「す、すー……ヴェ?」

 

「うん……突拍子もないし、こんなことは馬鹿げてるのはわかる……でも本当のことなんだ…」

 

「しゃ、シャルがそう言うならそうじゃねえか……イチカのやつが展開できなくなったから…それと同じ現象…ってやつじゃねえか……?」

 

オルガも滅茶苦茶テンパっている。

前世では絶対ありえないことであろう。

クーデリアやメリビットなどがそんなことになったら、洒落にならない。

それ故に、自身の脳内の処理も追いついていない。

 

「ごめんね……もっと早くにオルガに伝えればよかった…そうしたらオルガが数時間も気絶することもなかったのに…」

 

「い、いや…これを伝えられないのは仕方ねえぞ……言えるわけがねえ…」

 

「う、うん……でも……」

 

そうするとシャルロットはあることを思いついた。

 

「……もしかして、まだ疑ってる…よね?」

 

「…いや…ただわかんねえというか……いや、俺はわからなくても良いかもしれねえから…」

 

パンツが消失しているというのはつまり、シャルロットの今は……そういうことである。

オルガには当然想像なんかつくはずがなかった。

 

「そうだよね……やっぱり「見ない」とわからない…よね」

 

「……え?」

 

シャルロットは思いつめた表情であり、オルガはその言葉で急にあることがよぎった。

そして精一杯首を横に振り始めた。

 

「た、短気を起こすんじゃねえぞ!?」

 

「ううん…そもそも僕が悪いし……見せないとわからないし……」

 

「だ、だから…んなもん見せる必要なんかねえ…!」

 

(そういうことはいけねえぞ!?待てって!)

 

だがシャルロットはオルガの制止を避け、スカートの端を持った。

その表情は既に真っ赤であった

 

「僕が悪いから……僕が……」

 

シャルロットの表情は更に思いつめていた。

 

「待てよ……待てって…!待てって言ってるだろうg」

 

そして次の瞬間

 

 

そのスカートは()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「ヴァアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

その次の瞬間はオルガは希望の花を咲かせ、その場に倒れ込んだ。

 

「………」

 

そしてシャルロットはそのままめくったが、シャルロットはある感覚が戻った。

そう、そのスカートの中にはオレンジ色のパンツが再び有ったからだ。

どうやらエラーが消えたらしい。

 

「よ、よか……ってオルガ!?」

 

「だからよ……見せるんじゃねえぞ………」

 

オルガがそれを見ないようにするために、自ら希望の花を咲かせたのだ。

その希望の花は今までより輝いて見えた。

 

「ま、また僕は……」

 

「大丈夫だぞぉ……俺は…鉄華団団長、オルガ・イツカだからよ……」

 

「ううっ……ごめんね……」

 

シャルロットはオルガを起こして、なんとか落ち着かせる。

 

「大丈夫?」

 

「あ…こんくれえなんてこたねえ…!」

 

とりあえずこの件は解決したようである。シャルロットにとっては……。

 

(シャルも話したってのに、俺も隠し事したままってのは筋が通らねえよな………)

 

ふとそう思った彼は、シャルを引き止める。

 

「ん?どうしたの、オルガ」

 

「いや……俺も話さねえといけねえことがある」

 

「話さないといけない…こと?」

 

シャルロットはオルガの真面目そうな雰囲気を読み取った。

そして――

 

「いいか、ここから言うことは突拍子のねえことかもしれねえ……だが事実だ」

 

「事実…?」

 

そう言うとすっと息を吸って、意を決してこう話した。

 

「俺は……この世界の人間じゃねえ……異世界人なんだ」

 

 

 

 

「あ…うん……」

 

だがシャルロットはあまり驚かなかった。

 

「…え?」

 

それにオルガは拍子抜けした。

かなり驚かれると思ったからだ。

 

「いやあの…実は……ラウラから……聞いちゃってて……」

 

「ゑ?」

 

『シャルロット』

 

『どうしたの?ラウラ』

 

『オルガ団長とミカ、異世界人だったそうだ』

 

『え?』

 

「こんな感じで不意に……」

 

「………」

 

(ミカお前……!)

 

どうやらミカはあっさり彼女に話してしまったようだ。

それに怒りともなんとも言えない感情をオルガは浮かべていた。

 

「いや、あの…ごめん!こういうのやっぱ驚いたほうがいいのかな…?いや、驚いてはいるんだけど……えっと…えっと…」

 

「しゃ、シャルのせいじゃねえぞ……」

 

「……でも、オルガが異世界人だろうとも、僕は……」

 

「僕は…?」

 

ハッとしたシャルロットは急に顔が赤くなり、咳払いする。

 

「え、あ……あ!オルガがいた世界ってどんな世界なのかな?」

 

「俺が居た世界?色々とあるが……あんま面白くねえぞ?」

 

「いいから聞かせて!」

 

「お、おう……」

 

なんとか本音を出す前にごまかすことに成功したシャルロットであった。

二人の距離が縮まるにはまだ時間が必要であった。

 

―――――――――――

 

一方その頃、マクギリスは職員寮の自分の部屋である方とテレビ電話をしていた。

 

「石動、旅館のほうはどうだ?」

 

『はっ、竜王戦の開催も終了し、通常営業へ戻ったところです。なお買収した支店のほうも営業を開始し、その他事業も問題ありません』

 

その相手は石動・カミーチェ。

前世におけるマクギリスの副官であり、転生したこの世界でも同じくマクギリスを補佐する役割をしている。

現在はIS学園へ赴任したマクギリスの代理として、旅館「場亜流」とモンターク商会の経営を担っている。

もちろん、それだけではない。

 

 

「そうか……それと、「亡霊」の件の調査についてはどうだ?」

 

石動は前世と同じく、諜報の役割も担っていた。

 

『様々なルートを使い、情報収集に当たりましたが、正体を追いきれませんでした。オータム、エム…そして「仮面の男」についても……』

 

「組織に所属する人間の素性を完全に闇に隠す。あの時のエリオン家ではないが、厄介なものだ」

 

亡国機業(ファントムタスク)はあとどれだけの手駒を隠し持っているのでしょうか…』

 

「わからん、だがまだ隠し玉はあると見た。では引き続き調査を頼む」

 

「はっ!」

 

そしてマクギリスがテレビ電話の通信を切ると、後ろからドタドタとベッド上で足踏みをするある少女。

何故かシャツと下着姿になっている生徒会長の楯無が居た。

 

「やっと終わったの?」

 

「ああ……だが、何故私の部屋にいる?」

 

「三日月君をちょっと怒らせちゃってね。だから避難ってわけ」

 

「全く……まだ亡霊の尻尾を掴みきれてないのだが…」

 

マクギリスは珍しく呆れている。

そんな様子をよそに楯無は引き続きこう述べる。

 

「でも当分の危機は去ったんでしょ?暫くは大丈夫よ」

 

「ああ…だが君という学園の危機はあるのだがな」

 

「え?」

 

そうするとマクギリスはどこからともなく書類の束を楯無の目の前に持ってきた。

それらにはすべて「校内備品修繕費用請求書」と書かれていた。

 

「愚かにも程がある……いくら生徒会長と言えど、ここまでの行為は許されるものではない」

 

「それはちょっと……ね?」

 

楯無は目を泳がせている。

楯無の発端による校内の備品や設備の破損はかなりの数になり、いくら生徒会長特権でも流石に許容しにくくなるものであった。

 

「楯無」

 

「うっ……あーそうだ!用事を思い出して」

 

「楯無」

 

マクギリスは更に楯無に圧をかける。

余程怒っているらしい。

 

「う、ううっ……」

 

そして楯無はそれに対し、暫く冷や汗をかくしかなかった。

今までの傍若無人な行動がすべて返ってきたようであった。

 

 




これで二人の話には一旦区切りがついたと思う。

なお現在並行連載中の鉄血のプリンセスコネクト! Re:Diveにはインフィニットオルフェンズキャラが一部ゲスト出演しています。
現在はラウラだけですが、もう少し後でシャルロットも……行けるといいな(遠い目)
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第7話・第8話編
距離を詰める方法


300年ぶりなので初投稿です。

とりあえずまあまあなんとか飛ばしていきます。
7話と8話は章区分としては統合します。
9話10話は流石に独立するはず。


「やっほー」

 

俺とイチカ、シノが授業の休み時間の談笑している時にこの1組に現れたのは2年の先輩の黛薫子先輩だった。

 

「おはようございます」

 

「黛さん、どうしたんですか?」

 

「いやぁ、ちょっと二人に頼みたいことがあって…」

 

一瞬俺のほうかと思ったが、先輩はイチカとシノのほうをちらほら見ながら言っている。

どうやら俺ではねえらしい。

なんだよ……。

 

「私と一夏にですか?」

 

「うん、そう。あのね、私の姉って出版社で働いているんだけど、専用機持ちとして二人に独占インタビューさせてくれないかな?あ、ちなみにこれが雑誌ね」

 

先輩からシノに雑誌が手渡される。

あんま見たことねえやつだな…元々雑誌ってやつはあんま見なかったし、こっちに来てからも精々イチカと一緒に見る漫画雑誌くらいしか見てねえしよ……。

 

そしてシノは雑誌をめくって中身を確認する。

 

「あの…この雑誌、ISと関係なくないですか?」

 

「ああ?」

 

俺も雑誌を横から見るが、確かにISのあの字もねえ。

いわゆるファッション雑誌な中身だった。

当然ながら俺には全く縁がねえ代物だ。

 

「えっとね。専用機持ちってタレント的なこともするのよ。アイドルって言うか主にモデルだけど」

 

「はあっ…」

 

つーことは俺やミカもそういう依頼ってのが直に来るってことか?

まあこの世界じゃ珍しい男操縦者だしよ……。

 

「ちなみにファリド先生が載ってるやつもあるよ」

 

「は!?」

 

「え、あの先生が…なのか?」

 

「勘弁してくれよ……」

 

何やってんだよ!マクギリス!

そして手渡されてたその雑誌にはデカデカと表紙にマクギリスが載っていた。

服装は白ベースのスーツであるが、ところどころに青の配色がなされている。

つーかバエル色じゃねえか……

確かにあいつはイケメンと言われたらイケメンだろうが、中身がひどすぎるのは言うまでもねえ…!

 

「モデルなら私の写真みせてあげるわよ」

 

そう話していると今度はリンが話に入ってくる。

またやけに自信満々じゃねえか……

 

「いや、遠慮しとくよ」

 

「ああ?いいじゃねえか?見るくらいはよ」

 

「だってお前、変にカッコつけてるんだろ?どうせ」

 

「なんですって…じゃあ見てみなさいよ!すぐ見なさいよ!今見なさいよ!」

 

そしてリンは自分のスマホを持ち出し、自分のモデル写真を俺達に見せる。

 

「へー」

 

「いいんじゃねえの?」

 

良さはよくわかんねえんだがよ……。

だがそうこうしている内にチャイムが鳴り、先輩はとっとと退散したが、リンは――

 

「あとね、これもね」

 

「何をしている…」

 

「え?」

 

あまりにも見せるのに夢中になっていたため、授業しに来たオリムラ先生にげんこつを食らわされ、俺の「希望の花」みたくなっちまった。

……つか、俺の真似か?

 

「真似じゃないわよ!」

 

真似じゃねえのか……

 

―――――――――――

 

「なあ箒?」

 

「なんだ!」

 

その後、一夏と箒はいつも通り、武道場で剣の特訓に励んでいた。

三日月とオルガはその光景を見学している。

 

「黛さんが言っていた件だけど、どうする?」

 

「ふっ!…断る。見世物など私の主義に反する」

 

「やっぱりそうか…」

 

(だろうな…シノらしい)

 

(だよね…でもこれは受けてもらわないと)

 

いかにも箒らしい理由であった。

だが三日月とオルガはちょっとした思惑があるようで…。

 

「やっほーおまたせ」

 

「それでね取材の件なんだけど…」

 

「それは…」

 

断ろうとする箒に三日月が耳打ちする。

 

「デートのチャンスだよ?」

 

「……!」

 

その事実に気づいた箒は黛が何かを差し出そうとする前に

 

「受けましょう!」

 

「ええ!?」

 

「じゃあ決まりね。今週の日曜日に取材だからよろしくね」

 

「あの…えっと…」

 

一夏はただ呆気にとられてしまった。

幼馴染のあまりにも早い方向転換に驚いたようだが…。

 

(…まあ、箒が良いって言うなら良いか…)

 

特に問い詰めることなどはしなかったそうな。

 

一方のオルガ達は数ヶ月前の花火のバイトの際に箒が一夏へ告白しかけたところへ花火を打ち上げるという物凄い大ヘマをやらかしており、そのためのリターンマッチという点もあった。

 

「落とし前はきっちりつけんぞ!ミカ!」

 

「ああ、邪魔するやつは全部敵だ」

 

…色々とベクトルが違う気がするがそれに突っ込むやつは誰も居なかった。

 

―――――――――――

 

 

そしてその日がやってきた。

 

「どうも、インフィニットストライプスの副編集長の黛渚子よ。今日はよろしく」

 

「あ、どうも…織斑一夏です」

 

「篠ノ之箒です」

 

「俺は…鉄華団団長、オルガ・イツカだぞぉ…」

 

「三日月・オーガスです」

 

「ってなんで団長とミカが…?」

 

「あいつに頼まれちまってな…」

 

「うん。暇だったし」

 

「へー…」

 

半分本当だが半分嘘な二人であった。

 

「それじゃあ先にインタビューからはじめましょうか」

 

―――――――――――

 

 

そうしてトントン拍子に撮影等は進んでいく。

オルガも特にやらかしていない。

なるべく二人を邪魔しないというのもあった。

もちろん細々な押しはしていたが……。

 

「…///」

 

「えっと…///」

 

途中顔が赤くなるようなこともありつつ、撮影も無事終了した。

 

「お疲れ様。その服はあげるから。ホント、今日はありがとね」

 

どうやら服はそのまま身につけてて良いものらしい。

 

「か、帰るか…」

 

「そ、そうだな…」

 

なお二人の顔は終始真っ赤になりっぱなしだったのは言うまでもない。

 

「へっ、初々しいな…」

 

「オルガも人のこと言えないよね?」

 

「ぐっ…!いやミカみたいなのはかなり例外だぞぉ…」

 

「別に…普通でしょ?」

 

「ミカお前…!」

 

―――――――――――

 

そして帰り道を歩く一夏と箒。

その後ろで様子を見るオルガと三日月。

 

「いい感じじゃねえの?なあ」

 

「うん…あ」

 

三日月が気づいた瞬間、箒がマンホールでハイヒール故に足をくじいてしまった。

そして一夏に抱きついた形になったためにこけることはなかった。

 

「お、おい大丈夫か…?」

 

「どっか痛めたのか!?」

飛び出そうとするオルガを難なく掴み抑える。

 

「駄目だよオルガ。それは駄目だ」

 

「ミカ……」

 

そこは邪魔してはいけないのであった。

 

「慣れない靴履いたから仕方ないよ」

 

そういって一夏はかがんだ。

 

「ほら」

 

「え…」

 

そして一夏が箒を背負い、そのまま帰り道を歩く。

どうやらこの試みはこれにて大成功であったといえる。

 

「…帰るか」

 

「だね」

 

その光景を見たオルガと三日月はその場を後にした。

 

―――――――――

 

「ふぅ…疲れた…」

 

「お疲れさん」

 

「お、おう。先帰ってたんだな。ふたりとも」

 

「うん」

 

そしてオルガの部屋に一夏と三日月は邪魔をする。

オルガは一人部屋故にたまにこうして何気ない話をしようとしていたのだが…。

 

「うわ!?」

 

「待てミカ!」

 

なんと楯無会長が部屋の中に居たのだ。

恐らくまた不法侵入ということもありミカは即座に切れてISを展開したが、オルガがなんとか抑える。

いつものからかいかと思われたが、今日は違ったようで…

 

「その…妹をお願いします!」

 

「は!?」

 

オルガへ向けて楯無はそう言ったのだった。

 

――――――

 

「えーっと…この子なんだけど…」

 

楯無は妹の写真を提示する。

 

「名前は更識簪」

 

「はぁ…」

 

「へぇ…会長さんによく似てますね」

 

「あのね。ちょっとその…暗い子なのよ…」

 

「なんだそれ?」

 

「でもね。実力はあるのよ?日本の代表候補生なんだから…」

 

「代表候補生…つまりあいつらと同じってわけか」

 

「そうそう」

 

オルガはふと前のトーナメントの表を思い出す。

確かにそんな名前があったようなと思い出していた。

 

「でも休んでたと聞いたぞ?」

 

「あーうん…それはね…実は専用機がないのよ。開発の倉持技研が一夏君の専用機の解析や開発に人員を割きすぎたせいで…完全に後回しで…」

 

「え?俺の!?」

 

「一夏のか?」

 

「なにそれ…」

 

バルバトスを身に纏って監視していた三日月も呆気にとられた。

完全に開発元の怠慢のせいである。

だがこれにも一応理由があるようで……

 

「もちろんその件に関しては生徒会長としてクレームは言ったのよ?でも「一番上」のほうから白式の解析が最優先事項と命令されちゃったみたいで…」

 

「上って…政府ってやつか?」

 

「ええ。白式は確かにその技研が開発してたんだけど製造途中で判明した欠陥に対応できずに頓挫してたのを「篠ノ之束」がどこからともなく現れて完成させたものだから…ここ最近では珍しい「篠ノ之束製」ってこともあってその技術を吸収しようとしてるみたいなのよ……まあその篠ノ之束製も「紅椿」が増えちゃって更にてんてこ舞いみたいだけど」

 

「あいつか…!」

 

篠ノ之束。

言うまでもなくウサギなあいつである。

まあここに突っ込んでもきりがないということでとりあえず置いておくことにした。

 

「つまり…俺のせいか?」

 

「いえ、一夏君は悪くないのよ?でも当の本人はそう考えてくれなくてね…今じゃ一人で完成させようとしてるんだけど…進んでなくて…開発元の人も来てくれてないみたいだし…」

 

「だろうな……で、あんたは俺に何をさせたいんだ?」

 

「その…今度のタッグマッチでぜひ簪ちゃんとペアを組んでほしいの。この通り…!」

 

そして手を合わせてもいる楯無である。

 

(お前な……!)

 

だが言うまでもなく乗り気ではないオルガであった。

今までの仕打ちも相まって彼女に対してはいい印象などミジンコ一匹分すらない。

そこらへんの虫へのほうがまだ良い印象を持っているほどである。

 

「ミカ、お前は」

 

「嫌だ」

 

「だろうな」

 

散々安眠妨害してきたやつにいまさら頼まれても受けられるはずがなかった。

 

「それがオルガの命令でも嫌だな」

 

「…!」

 

だがその一言でオルガは今までの三日月のことを思い出していた。

三日月は基本オルガのことを信頼…悪く言えば盲信しており、基本何でもやるということを貫いていた。

だがこの異世界で成長した三日月はオルガの言うことを断れるほど成長していたのだ。

 

「そうか…」

 

それに喜んだオルガは改めて

 

「…ああ、引き受けてやる」

 

貧乏くじを引く決意をしたようであった。

 

「え?それじゃあ、いいの?」

 

「ああ…だがこれでこの前の迷惑料がチャラになったわけじゃねえぞ。落とし前は改めてつける」

 

「そ、それはちょっと…ほら、お姉さん、今ちょっと修復費用とかですっからかんで…」

 

(自業自得じゃねえか…!)

 

オルガは色々な意味で突っ込みかけたがなんとか飲み込んだのであった。

 

 

「…オルガ…?」

 

だが三日月にはオルガのその笑みの意図がわからなかったという。

 




楯無が一夏君のせいでは流石に改変。
簪→オルガの件は次の話に回します。

ぶっちゃけその件をどう書くか悩んだせいで何ヶ月も経った()


Q オルガ死んでないじゃん
A 仕様です


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