ラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神 (衛置竜人)
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序章『恐竜の楽園』
第1話『機械仕掛けの戦女神』


元々こっちで掲載する予定はなかったのですが、要望があったのでヴァルキリーロンドと繋がっている本作を掲載する事にしました。
尚、此処で掲載するのはヴァルキリーロンドへと繋がるルートのみとなります。


スクールアイドル…それは学校生活を送りながら、アマチュアで活動するアイドル達。

全国各地に存在し、若者を中心に人気を集め、今やスクールアイドル専門のグッズショップが存在する程で、彼女達の中には本格的なプロのアイドルになる者もいる。

 

そんなスクールアイドルの歴史を語る上でA-RISEと共に欠かす事の出来ないグループが『μ's』という9人組のユニットである。

 

 

伝説と化した彼女達だが、人々には知らていない事もある…

 

 

彼女達…μ'sには幻の10人目と呼ぶべきマネージャーが存在していることだ。

 

これは、そんな“彼女”物語である…。

 

 

 

―side:???―

 

 

私が始めてこの地に来たのは今から何年も前、小学校へ入学する前だ。

 

仕事でよく転勤をしていた私達だったが…今回は結構長期に及ぶらしい。

母親によると其処には母方の従姉妹―同い年と二つ下の従姉妹が住んでいると聞いた。

引っ越してきて荷物を運び終えた後、訪れたのはその従姉妹が住んでいる家で、とある和菓子屋だった。

両親がその家の人に挨拶をする中、二人の少女―私の従姉妹がじっと私を見ていた。

そして、その内の一人が笑みを浮かべて自己紹介をした。

「始めまして!私、高坂穂乃果!宜しくね!」

高坂穂乃果、それが同い年の従姉妹の名前だった。

「俺―じゃなくて私は頼尽あかり!此方こそ宜しくお願いしましゅ!」

始めて会った時、ガチガチに緊張して噛んだ。

というか“素”が出てしまった。

「宜しくね!あかりちゃん!」

とそんな私に彼女は笑顔で手を差し伸べた。

二つ下の従姉妹―穂乃果の妹である雪穂も自己紹介を終わらせた後

「そうだあかりちゃん!この街を案内するよ!」

穂乃果ちゃんはそう言って私の手を取った。

「お母さん!おばさん!あかりちゃんと出掛けて来るね!」

 

穂乃果は私にこの街の事を色々と教えてくれた。

「―じゃあ、次は私の友達を紹介するね!」

「友達…?」

「うん!こっちだよ!」

穂乃果が連れていってくれたとある公園。其処には既に二人の少女の姿があった。

「ことりちゃーん!海未ちゃーん!」

「あっ、穂乃果ちゃん!」

「お待たせ~」

「穂乃果、その子が昨日言ってた…」

「うん、そうだよ!」

「は、始めまして!頼尽あかりです!宜しくお願いします!」

「南ことりだよ!宜しくね、あかりちゃん!」

「園田海未です!宜しくお願いします!」

こうして私は南ことりと園田海未と知り合った。

 

それから私達は音ノ木坂小学校へ入学して6年間同じクラスだった。

私達はずっと一緒、ってその時は何時になるかわからないけど将来転勤がある事を忘れてそう思ってた。

だけど、小学6年生の冬休みが明けたある日、両親の仕事の都合でアメリカで暮らす事が決まった。

「えっ、本当なの…」

「うん、小学校を卒業したら…」

「そんな…」

「寂しいものです…」

「だ、大丈夫だよ!何年後になるかわからないけど、私はみんなの元へ帰って来るよ!」

 

 

そして、小学校を卒業して数日後―私が日本を旅立つ日が来た。

見送りに穂乃果、海未、ことり、そして雪穂が来た。

「本当に、行っちゃうんだね…」

「あかり姉…」

「名残惜しいものです」

「帰ってくるよね…」

幼なじみである4人に

「約束は出来ないけど…私自身としてはきっと帰ってくるつもりだよ」

と私はそう返す。

「じゃあ、飛行機の時間があるからそろそろ行くね…っと、その前に記念撮影しよ?」

私はデジカメを父親に渡し、撮影を頼む。

私達は寄せ合いカメラに向かってピースするのだった。

 

 

その時はまだ…その先に待ち受けている運命など知る余地もなかった。

 

 

 

 

アメリカ、特殊災害対策機関《ネスト》の訓練施設。

そのシミュレーションルームにあるシミューレーターにてぶつかり合う二つの機影があった。

白銀のボディにオレンジの差し色が入った10メートル近くある巨大なロボットが二機、剣を交えていた。

『流石、ヴェル。此処まで剣の腕が上達するとは思わなかったよ』

と告げるは脚部にタイヤが配置されたロボットだ。

『あかりが日々成長するように私も成長するんだよ』

と返すは両肩に恐竜―その形状からジュラ期の肉食恐竜たるアロサウルスと推測される恐竜の頭部が付いたロボットだ。

両者は互いに良き親友にして好敵手である。

時にこうして競い合い、時に手を取り合い、時にたわいもない話をしたりする―これが“彼女達”の日常だ。

両者の剣がそれぞれ胴体に向かって振りかざされた時だった。

『そこまでだ!』

響き渡る第3者の声。その声に両者は腕を止める―振りかざされようとしていた剣はそれぞれ胴体に接触する寸前であった。

 

先程、剣を交えていた二人はシミュレーションを終了、シミューレーターから出る。

「お疲れ様、ヴェル」

「あかりの方こそ」

脚部にタイヤが配置されたロボットを“操って”いた茶髪をツインテールにした少女と両肩にアロサウルスの頭部が配置されたロボットを“操って”いた長い銀髪を持つ少女はハイタッチを交わす。

16歳の茶髪の日本人の少女―頼尽あかりと14歳のロシア人とアメリカ人と日本人の血を引く少女―風見ヴェールヌイ(ヴェル)は本来なら“戦士”にならず平凡な人生を送っていただろう。

だが、彼女達は訳あって平凡からかけ離れた人生を送り、自らの意志によって“戦士”となる道を選んだ。

「二人とも、お疲れ様」

と二人にコーラを渡すのは二人の上司であるレノックス少佐である。

「ありがとう、レノックス」

「いただきます」

と二人はレノックスから受け取ったコーラを飲み始める。

「後で話があるから俺の所に来てくれ」

と告げてレノックスは去っていった。

「話…?話って何だろう?」

と頭を傾げるあかりにヴェルも同じ様に考えていた。

 

 

レノックスのオフィス。

「話と言うのは…実はある島にある施設へ視察に行く事になった」

「ある島…?」

あかりの言葉にレノックスは頷き、こう続けた。

「その島はコスタリカにあるイスラ・ヌブラル島」

「という事は視察するのはジュラシック・ワールド」

ヴェルの言葉にレノックスはそうだ、と返した。

 

 

嘗てジョン・ハモンドという名の男がいた。

インジェン社を仕切る男であった彼はあるテーマパークをコスタリカのイスラ・ヌブラル島に作り出した。

 

 

“生きた恐竜”達が闊歩するテーマパーク―『ジュラシック・パーク』。

 

だが、ジュラシック・パークはプレオープン時のシステムトラブルと恐竜の脱走による“事故”によってその計画は白紙に戻され、島は10年近くも放置される事になった。

 

 

そんなパーク崩壊から12年後、インジェン社を買収したマスラニ・グローバル社の社長にしてハモンドの友人であったサイモン・マスラニの手により新たなテーマパークが建造された。

 

 

 

 

それが『ジュラシック・ワールド』である。

 

 

 

 

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第2話『ジュラシックワールド』

宿泊施設、恐竜の科学施設も兼任するテーマパークであるジュラシックワールドは開園1ヶ月目で9万8120人の訪問客が訪れたとされており、年間1000万人の観光客が訪れていた。

「いやぁ~、楽しみだよ!何たって生きた恐竜、しかも今回は一般公開されてないラプトルにも会えるなんて」

「一番好きな恐竜だったか、ラプトルは。私はアロサウルスだな」

そんなイスラ・ヌブラル島へ向かう船の中、あかりとヴェルは談笑していた。

年も近く、趣味趣向も似通っているこの二人は気が合うらしく基本的には二人一緒に行動している。

「楽しみにするのは結構だが、本来の目的を忘れるなよ」

「分かってるよ。私だって仕事を忘れる様な馬鹿じゃないよ」

と頬を膨らませるあかりにレノックスは苦笑いを浮かべてこう返した。

「分かってるってあかり。それに一応、俺も楽しみなんだからな、生きた恐竜に会えるのは」

レノックスを始め今回の仕事に参加しているネスト隊員達もまた生きた恐竜を見れるのを楽しみにしていたのだ。

「改めて今回の仕事内容の確認だ。

今回の仕事はジュラシック・ワールドの視察―特に新しく生み出された恐竜―インドミナス・レックスをな」

「インドミナス・レックス…制御不能な獰猛な王」

そう呟くあかりにレノックスは解説をする。

「パークの新たな目玉として生み出された恐竜らしい」

「だが、そんな名前の恐竜…見たことも聞いた事も…」

「もしかして“1から作り出した”んじゃ…」

ヴェルとあかりの言葉に頷き、レノックスは続けた。

「その通り、話によると基本的なDNAはティラノサウルスらしいが…他にどんなDNAを使ったかは不明だ。

奴ら、最低限の情報しか提示しなかったからな」

手元にある資料を二人に見せるレノックス。

「う~ん、頭部はT-レックスと言うよりはギガノトサウルスっぽい気が…」

「確かに…T-レックスはもっと厚みがある。

長い腕は…テリジノサウルス辺りか?こんなのを展示するって正直嫌な予感しかしない」

「脱走したら、どうするんだって話だよ。トランステクターやモビルスーツ…MSがあればともかく、今回は“トランステクターやMSが使えない”し」

あかりの言うとおり―今回の仕事はトランステクターやMSの使用をインジェン社からの圧力で禁じられているのだ。

立場的には政府の組織であるネストの方がインジェン社より上なのだが…正直に言って揉め事を起こすのはネスト側にとっても面倒である為、トランステクターやMSの使用禁止という条件を渋々ではあるが了承したのだ。

「隊長、そろそろ到着します」

隊員の一人がレノックスに報告する。

「わかった。それじゃ、各自準備をしておけ!スケジュールは渡した資料通りだ!」

 

 

島に上陸して、まずあかりとヴェル、レノックス達が向かったのは一般公開されていない施設である。

その施設では元海兵でレノックスの友人のオーウェンという人物が“ヴェロキラプトル四姉妹”を躾ているらしい。

因みにラプトルは本来“五姉妹”だったらしいが、一羽が攻撃的な非常に危険な性格だった為、安楽死による処分となったらしい。

「此処がラプトルの…」

あかりの呟きに頷くレノックス。

「ハラショー…本当に躾てる…」

ラプトル四姉妹はオーウェンの指示に合わせて動いていた。

 

訓練終了後、オーウェンがキャットウォークの上から降りて来た。

「オーウェン!久し振りだな!元気してたか!?」

「あぁ、バリー共々、何とかな!」

と握手を交わす二人。

「―で、其方の日本人とロシア人のお嬢さん二人は?」

オーウェンはレノックスの後ろにいるあかりとヴェルの事について問う。

「彼女らは俺の部下だ」

レノックスの促され、あかりとヴェルはオーウェンの前に立つ。

「ネスト特殊隊員の頼尽あかりです!」

「同じく風見ヴェールヌイです。ヴェルと呼んでください」

「俺はオーウェン・グレイディ。元アメリカ海軍所属でレノックスとは軍にいた頃からの仲だ。宜しく」

オーウェンはあかりとヴェルと握手を交わす。

「此方こそ、お会いできて光栄です。オーウェンさん」

「暫くの間、宜しくお願いします」

「あぁ、此方こそ。あと、さん付けとかは止めてくれ。何かむず痒いからな」

「うん、わかったよ」

「改めて宜しく、オーウェン」

 

 

 

 

「それじゃ、ラプトル達を紹介しよう」

オーウェンは日向ぼっこをしているラプトル四姉妹を紹介する。

「まず、青銀色の模様の個体が長女の“ブルー”。ベータの代わりさ。

緑色に近い色の次女が“デルタ”。

三女がオレンジや赤に近い体色に黒い縞模様が特徴の“エコー”。

“チャーリー”は四女で緑色の体色に黒い縞模様の個体だ」

「じゃあ、アルファは?」

「俺がアルファさ」

とヴェルの疑問にオーウェンは答えた。

「あれ?お前の相方は?」

オーウェンは何時の間にかあかりの姿が見たらない事に気付き

「あぁ、名前を聞いた後、檻の中に入っていった」

とヴェルは檻の中を指差す。そんな檻の中では

「お~よしよし良い子だねぇ~」

あかりがラプトル四姉妹を優しく撫でてて四姉妹は警戒心を抱いてない所か懐いているという光景が繰り広げられていた。

「おいマジかよ…」

愕然とするオーウェンに

「本当に良い子達だね!オーウェン!」

と満面の笑みを浮かべるあかり。

「あ、あぁ…そうだろ?それに生まれた時には刷り込みをやってる」

と返すオーウェンに

「あかりが一番好きな恐竜なんだ、ラプトルは。

今回もラプトルと会うのを楽しみにしてたし」

とヴェルは苦笑いを浮かべる。

「なる程な…だが、どうやって檻の中に入ったんだ?まさか飛び越えたのか?」

「そのまさかさ。私達ならあの高さの檻飛び越えて入るのは容易い」

と言った後、ヴェルはあかりの元へ―檻の中へ飛び越えて入っていった。

そのヴェルもあかり同様、あっと言う間にラプトル達と仲良くしている。

「なぁ…レノックス。あの二人はもしかして…」

「あぁ、お前が想像している通り、あの二人は普通の人間じゃない。

脳以外の身体の部位を金属細胞による義体に置き換えたアデプトテレイターだ」

「やはりアデプトテレイターだったか…」

「二人ともおよそ2年前に重傷を負い、その際にアデプトテレイターになった。

当時、あかりは13歳、ヴェルは11歳だ」

「その年でアデプトテレイターになったって事は…相当な訳ありなんだろ?」

「その通りだ」

オーウェンはあかりとヴェルに内心驚いていた。日本人はアメリカ人と比べて小柄(最もヴェルは血筋の1/2がロシア人、1/4が日本人、1/4が日本に帰化したアメリカ人なのだが)と言われているが、目の前にいる二人は身長154cmとそれに輪をかけて小柄だ。

“背中に接続されたパックパックにマウントされている銃”さえなければ部外者だと思ってしまった程だ…

 

 

 

 

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第3話『狂気の女王』

「ブルー!こいつはお前のだ!」

最後に1番大きな餌をオーウェンは掲げ、ブルーと目と目をしっかり合わせる。

そして、オーウェンが投げた餌をブルーは上手くキャッチして食べた。

「よし!」

オーウェンの掛け声にラプトル達は一斉に走り出すのだった。

「実際に見るのは三度目だが…相変わらず凄いな」

「そうだね、ヴェル」

と訓練を見ていたあかりとヴェルはそう口にした。

「オーウェン、いやはや素晴らしいものを見せてもらったよ」

とオーウェン達に近付くのはヴィック・ホスキンス。インジェン社の危機管理部門の責任者である。

「お嬢さん達もちょっと良いかい?」

あかりとヴェルを呼ぶホスキンス。

正直に言えばあかりとヴェルは“ある点”からホスキンスの事が気に食わなかった。

「で、何の用です?」

と問うオーウェンに

「野外テストだ」

とホスキンスは返す。

オーウェンとバリーはまたか、と言いたげな表情を浮かべながらあかりやヴェルと共にキャットウォークを後にする。

「まぁまぁ、せめて最後まで話を聞けよ」

「あいつらは野生動物だ。危険過ぎる」

「だが、俺は今この目でしっかり見た…恐竜と人との絆を。

軍は人間の犠牲なしで戦える手段を欲しがっている。

ドローンに頼ろうとする者達もいるがデメリットも多い。だが、奴らはそのデメリットが少ない。ハッキングの影響は受けないしモビルスーツが入れないトンネルの中にも侵入して敵を殲滅できる」

と言うホスキンス。

「ドローンは共食いをしませんよ。恐竜達は共食いをする上に主導権を握ろうとしてくるかもしれない」

と告げるオーウェンにホスキンスはこう返した。

「その時は利口な奴だけを生かし、利口じゃない奴は見せしめに殺す。

そうすれば、残ったやつも反旗を翻そうとは思わないだろう」

その言葉にあかりとヴェルはホスキンスに怒りと呆れを持った。

あかりとヴェルがホスキンスの事を気に入らない理由―それがこの“支配者気取りで恐竜を生命体としてではなく道具の様に見ていて舐めている”点だ。

逆らう者は欠陥品として処分する―そんなホスキンスの考えをあかりやヴェルは気に入らないのだ。

「ホスキンスさん、忠告しておくよ。どうなっても知らないよ、ってね」

「右に同じく」

あかりとヴェルはラプトル達やオーウェンにまた後で、と言ってその場を後にするのだった。

 

 

数時間後、あかりとヴェルはオーウェンと共にインドミナス・レックスが飼育されている施設を訪れていた。

「これは…私の想像以上にヤバいかも…」

「飼育環境とかな…」

と言うのがあかりとヴェルの意見だ。

「どういう事かしら?」

と問うたのはクレア・ディアリング。パークの運営管理者である。

「二人の言うとおり、この環境はあまり良くない。

動物を隔離して育てるという事はリスクが大きい。

ラプトルも隔離して育てているが…彼女達には姉妹がいる。社会性を学んでいるが―」

「あの子は一人ぼっちなんだよ。社会性というのを学んでない」

あかりの言葉を受けて

「じゃあ、お友達をあげろって?」

と意見するクレアにオーウェンはこう尋ねる。

「もう手遅れかもしれない。それで、こいつに加えたDNAは?」

「ベースはT-レックス。…後は知らされてないの」

「職員にもか?」

「私はただ資産を受け取って公開するだけ」

クレアはオーウェンにそう返した後、管理主任に

「餌を降ろして!」

と指示を与える。

管理主任はパネルを操作、それによって大きな肉の塊がクレーンで降ろされるが…インドミナスは現れない。

「どうしたのかしら?」

「地下にでも行ってるんじゃないのか?地下や娯楽部屋はあるのか?」

「いいえ、そんなものないわ」

クレアはパネルを操作し、赤外線センサーでインドミナスを探し始めた。

ふとオーウェンはあかりとヴェルのいる方を向いた。

何かを見上げている二人にオーウェンは声をかける。

「どうしたんだ?二人共」

「あれを見て」

オーウェンはあかりに呼ばれ、二人がいる窓ガラスの前まで行き

「これは…!」

壁に付けられた爪痕に気付くのだった。

 

 

 

 

赤外線センサーでインドミナスを探すクレアだったが『熱反応なし』とモニターに表示され、警報が鳴り響く。

「嘘よありえない!」

と焦り始めるクレアにヴェルは

「クレアさん、あの爪痕は何時からあったんだい?」

と尋ねる。

「昨日来た時はなかったわ…まさか…一刻も早く捕まえないと…!」

脱走、という可能性が頭によぎり、顔を真っ青にするクレアは管制室へ向かって走り出した。

 

数分後、オーウェン、管理主任、職員、あかり、ヴェルは熱反応がないインドミナスの檻の中に入っていた。

「こんな高い壁を15メートル近くの恐竜が登れると思いますか?」

「それはインドミナスに埋め込まれたDNAによる」

管理主任の言葉にオーウェンがそう返したその時、管制室から通信が入るが、電波が悪く途切れ途切れで聞き取りづらい。

「こちら、管理主任。どうしました?」

管理主任に対し管制室のオペレーターは焦って口調でこう言った。

『檻の中にまだ恐竜がいる!』

その言葉とオーウェンの逃げろという言葉の後、皆は一斉に出口に向かって走り出した。

その時、あかりの感が“何か”を察知した

「待って!そっちは―」

あかりが言い終えるより先に、白い前足が職員を捕まえる。

「罠に嵌まったか…!」

舌打ちするヴェル。

そして、その前足の持ち主―インドミナスは職員を喰らう。

あかりは一瞬だけ視線をインドミナスに向け、ある事に気付いた。

インドミナスの瞳に狂気と共に涙を浮かべている事に。

(そっか…この娘は憎しみに…狂気に捕らわれてる…嘗ての私みたいに)

そんな中、オーウェン達は急いでUターンしてゲートへと向かい、あかりとヴェルも後を追う。

指紋認証式のゲートを管理主任が慌てて開け、管理主任が出た後、管制室が操作したのかゲートが閉じ始める。

オーウェンとあかり、ヴェルはギリギリで通り抜けるものの、ゲートが閉じ終える前にインドミナスは己の身体を挟み込ませてゲートを破壊する。

オーウェンとあかり、ヴェルは停車されてた大型クレーンの下に潜り込み、管理主任は工事用のピックアップトラックの影に隠れる。

だが、インドミナスはピックアップトラックを軽々投げ飛ばし、隠れていた管理主任を喰らった。

「鼻が利くようだな」

「厄介だな」

「うん、これは匂いを紛らわせた方が良いね」

オーウェンとあかり、ヴェルはベルトからナイフを取り出し、ガソリンの配管である耐油ゴムチューブを切断、こぼれ落ちるガソリンをそれぞれ振りかけ、インドミナスが去るのを息を殺して待つ。

 

数秒後、インドミナスは此処にはもういないと判断したのか一吼えしてその場を去るのだった。

 

「ふう…何とかなったね…」

「しかし良く思い付いたな」

「同じ事を考えてたんじゃないか?」

というあかりの言葉にオーウェンはまぁなと返す。

「それによく冷静でいられたな」

「まぁ、人が死ぬ所はテレイター化する前に見たからね…両親と妹か弟になるはずだった者が殺される所を…」

「私もだよ…それに、私自身も…この身体は“罪を犯した代償”みたいなものでもあるから。

あの子は…インドミナスは嘗ての私なんだよ…憎しみに…狂気に捕らわれている」

オーウェンは敢えて深く追究したりしようとはしなかった。

「しかし熱探知から逃れられたり擬態能力を持ってるとは聞いてなかったぞ」

オーウェンの言葉にあかりはある考えに至った。

(赤外線無効化に擬態能力…どれも各種探知機から逃れるのに適した能力…まさか…!)

そのまさかが的中する事になるとは、この時、あかりはまだ知る余地もなかった。

「オーウェン、彼女を―インドミナスを止めよう。

“人間の傲慢の被害者”たる彼女に私はこれ以上、罪を背負って欲しくない」

 

 

 

 

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第4話『命の重さ』

管制室。其処にはオペレーターだけでなくマスラニやクレア、ヴェルの姿もあった。

「おい!あれは一体どういうことだ!

あいつは赤外線センサーにも引っかからなかった。にも関わらずアレはあの中に居た!」

クレアに問うオーウェン。

「それは…機械の誤作動に違いないわ」

「そんな訳ないだろ?君も見ただろ、あの壁に刻まれた爪痕を。あいつは逃げ出したと見せかけて、俺達がゲートを開けるのを待っていたんだ」

オーウェンの意見に続けてあかりは自身の推測を述べる。

「あの子には体温調整によって赤外線センサーを騙せる能力を持っているし、擬態能力も持っている。

あんな巨体の生物が見つからなかったとしたらそれしかない」

「それだけだったらまだ良いが…嫌な予感しかしない」

とあかりに付け加えるヴェル。

(優れた観察能力だ…それにどこかで見覚えが…)

マスラニはあかりの姿にある人物の姿を、数年前に亡くなった友人の一人とその姿を重ねる。

 

(頼尽…まさか…!?)

 

その“まさか”である事をマスラニはこの後、知る事となる。

「私たちが話したいるのは動物のことよね?」

「ああ、高度な知性を持った動物の、な」

クレアの言葉にオーウェンはそう返した。

「―ビーコン発生源まで400メートルまで接近」

そう告げる女性オペレーター。

スクリーンには隊員達の姿が映し出されていた。

「電撃ライフルに麻酔銃に電気ショック槍、ネット銃…えっ、本当に?」

思わずそう口にするあかり。

「殺傷能力のある武器がない」

「あの資産には2600万ドルがかかっている。簡単に殺す訳にはいかない」

ヴェルの言葉にマスラニはそう返すが

「幾ら彼らが精鋭隊員だったとしても…このままじゃ全滅だ」

とヴェルは言い返した。

「ビーコンまで300メートル」

再びオペレーターが状況を告げる。

「隊員たちを呼び戻せ!今すぐ作戦を中止するんだ!」

「此処の責任者はあなたじゃないわ!」

オーウェンの言葉はクレアに届かなかった。

スクリーンの中では暫くして捕獲チームのリーダー格であるハマダが何かを見つけた。

「あれは何だ?」

と問うマスラニにオーウェンはこう答える。

「奴の体の中に埋め飲んでいた追跡装置です。鉤爪で抉り取ったのでしょう。

血がまだ凝固していない事から近くにいる可能性が高い」

「でも、何故分かったの?」

「多分、覚えてたんじゃないのかな?

全く、とんでもない存在を生み出してくれたものだよ…

赤外線無効化に擬態能力―」

とあかりが分かっている範囲でのインドミナスの能力を挙げていると

「ちょっと待って!擬態能力って!?」

とクレアが待ったをかけて問う。

「あの巨体で体色も白。普通だったらジャングルの中に潜入するのには向いてない…なのにインドミナスは見つからない」

「なる程…擬態能力で身を隠しているのか!」

とヴェルの言葉を聞いてマスラニが、その言葉を聞いた者達が納得した時だった。

 

モニターの向こうで体色を緑へ変化させていたインドミナスが1番近くにいたハマダを捕らえ、高く持ち上げたのだ。

『俺に構うな!撃て!撃つんだ!』

勇敢にも隊員たちは次々と槍や殺傷力のない弾を撃ち込んでいくが、インドミナスには効果がなく、次々と殺されていく。

モニターに映されている心電図は次々と直線となり、心配停止を知らせる音が鳴り響く。

「これで分かったろ?今すぐ殺傷能力の高い武器を用意させて奴を倒すんだ。観客も避難させろ」

「ここには家族連れだって居るのよ。貴方はここを戦場にでもする気?」

「とっくに戦場だ」

「グレイディさん、我々の助けになってくれないなら、ここから出ていって」

クレアの言葉を受け、オーウェンは苛立ちを隠せずに出て行ってしまった。

そして、あかりが管制室を出ようとした時だった。

「あかり君、ちょっと良いか?」

マスラニはあかりを呼び止める。

「君はもしかして頼尽夫妻の―」

そして、マスラニはある二人の友人の名を口にする。

「―はい、私はその娘です。そして両親はもうこの世には…」

「そうか…御両親の御冥福を祈るよ」

「ありがとうございます。マスラニさん」

そして、あかりはマスラニにある事を頼む。

「インドミナスの情報について詳しく知りたいです。彼女を作った奴らからの情報収集を頼めますか?」

「ああ、任せてくれ」

「恩にきます」

そう言ってあかりは去り際に一言忠告をして、オーウェンの後を追って行った。

 

 

 

 

「マスラニさん…このままじゃ本当に客にも被害が及ぶよ」

去り際のヴェルの警告にマスラニは

「クレア、リゾート区より北部を閉鎖するんだ」

と指示を出し、クレアは頷く。

「フェーズ1発動!」

クレアがそう指示を出すと、オペレーター達は各所に伝達する。

 

一方のビジターセンター。

そこであかりとヴェルがオーウェンと合流した後だった。

「オーウェン!」

クレアが三人の元へやってきた。

「クレアさん、どうしたの?」

「私の甥の兄弟がまだパークの中に居て帰って来ないのよ」

「何処にいる?」

クレアに問うオーウェン。

「ジャイロ・スフィアの谷よ」

それを聞いたオーウェンは

「クレア、あかり、ヴェル。探しに行くぞ」

と三人に呼び掛け、三人は頷く。

あかりは管制室にいるレノックスへ連絡を入れる。

「レノックス、私とヴェルは要救助者の救助に向かいます」

『了解。管制室は任せろ。何かあったら知らせる』

 

 

クレアの甥―ザックとグレイの兄弟はクレアの秘書で彼らの面倒を任せていたザラを出し抜いて大人気アトラクションのジャイロ・スフィアを堪能していた。

暫く移動していると

『ライド休止』

と小型モニターにされ、速やかに戻るよう警告を受けた。

インドミナスの脱走が原因なのだが、二人はそんなこと露知らず。

「戻れって…」

「俺達はVIPだぜ?少しくらい無視したって大丈夫だ」

そして弟が悲しい顔をするのを見たくなかったザックは警告を無視する。

グレイも段々乗り気になる。

そして、兄弟は立ち入り禁止エリアに入ってしまった。

「ほら見ろよ。お前の好きな恐竜が4頭も居るぜ」

「アンキロサウルスだよ。それに5頭だよ」

「何言ってんだ。4頭だろ?」

「ここに5頭」

グレイが指差したスフィアに写り込んだ恐竜―それはインドミナスだった。

「お兄ちゃん、動かして!」

スフィアを移動するよりも早く、インドミナスはスフィアを蹴り飛ばす。

インドミナスに気付いたアンキロサウルス達も逃げ出し始めるが、その内の一頭が滑り転んだ結果として逃げ遅れ、せめて他の仲間達が逃げ切るまでの時間を稼ごうとインドミナスと対峙する。

ザックはインドミナスがアンキロサウルスに気を取られている隙に逃げ出そうとスフィアを操作するが、運が悪くアンキロサウルスの尻尾が当たってしまう。

さて、アンキロサウルスの堅牢な上皮はインドミナスでも噛み砕けない硬さである。

だが、そんなアンキロサウルスも腹部や首は流石に柔らかいものである。

その事を察したインドミナスはアンキロサウルスを仰向けにし、上皮に対して“柔らかい”首を噛みつき、アンキロサウルスは絶命した。

 

衝撃で逆さまになっていたスフィアの中、衝撃で落としてしまったザックのスマホが鳴り始める。

叔母のクレアからの着信を受け取ろうと手を伸ばすザックだが、手が届かない。

「お、お兄ちゃんお兄ちゃん!」

グレイに呼ばれ前を向くザック。

インドミナスはザックとグレイの姿を見据えていた。

インドミナスは前足の爪でスフィアを覆うガラスに穴を開け、スフィアを回してザックとグレイの身体の前面が真上に向く位置にした後、大きく口を開けてスフィアに噛み付き、何度も地面に叩き付ける。

やがてスフィアのガラスの一部が割れ、兄弟はシートベルトを外し、地面へと落ち、隙を突いて逃げ出す。

インドミナスは兄弟を追い掛ける。

そして、滝に辿り着いた。

「グレイ!飛び込むぞ!」

ザックの言葉にグレイは頷き、滝の中へ飛び込んだ。

暫くして水面から浮かび上がった兄弟は陸に上がる。

「僕達、生きてる?」

「あぁ、生きてる、大丈夫だ」

兄弟は崖の上のインドミナスを見上げる。

川の広さが自分が飛び込み、そして泳ぐには不充分な広さだと理解したインドミナスはそのまま立ち去るのだった。

 

 

ジャイロ・スフィアの谷に到着したオーウェン達を乗せた車は“あるもの”の近く車を停車させる。

車から降りた一向の目の前にいるもの―それは瀕死の重傷を負い、今にも息絶えそうなアパトサウルスだ。

「これは酷い…」

と呟くヴェル。

「アパトサウルスは此処にいた他の恐竜達と比べて重量があるからね…」

あかりの推測通り―アパトサウルスは足が遅い恐竜である。それ故にインドミナスの襲撃を受けてしまったのだ。

オーウェンやあかり、ヴェルはアパトサウルスの頭や喉元を優しく撫でる。

そしてクレアもアパトサウルスの喉元にゆっくりと触れていき、優しく撫でる。

その時、アパトサウルスは力を振り絞り首を上げ、立ち上がろうとする。

「よせ!頑張らなくて良いんだ!…楽になれ」

オーウェンの言葉を聞き入れたのか、アパトサウルスは力を抜き、首と頭を地面に着かせた後、静かに息を引き取った。

アパトサウルスに黙祷を捧げる4人。

ふとあかりの視界にクレアの顔が入った。

クレアはこれまで恐竜を“命はあるが単なる展示物”として見ていた。

だが、それは“命を軽んじる愚行”であった。

その事にクレアは漸く気付き、そして涙を流すのだった。

 

 

 

 

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第5話『脱出』

黙祷を捧げた後、立ち上がるオーウェン達が見たのは他のアパトサウルス達の亡骸だった。

「肉を食べた跡がない。“殺し”を楽しんでいる」

「彼女は食物連鎖に於ける自分の立ち位置を理解したんだろう」

そう推測するオーウェンとヴェル。

「彼女を…インドミナスを必ず止めよう。散っていったこの子達の命を無駄にしない為にも」

あかりの言葉に三人は無言で頷くのだった。

 

 

インドミナスとアンキロサウルスが交戦した地点に辿り着いた四人が目にしたのは大破したジャイロ・スフィアだった。

「そんな…嘘よ嘘よ嘘よ!」

と、動揺するクレアに対し

「これはインドミナスの歯か?」

「間違いないと思う」

冷静に状況整理を行う三人。

「ヴェル!オーウェン!これを!」

あかりが見つけたのは足跡だった。

足跡を辿った先は滝だった。

「飛び込んだのか…なかなか度胸あるな」

感嘆するオーウェン。

「ザック!グレイ!」

大声で二人の名を叫ぶクレアに

「大声は止すんだ!」

とオーウェンは注意する。

「あなたの飼っている恐竜じゃないの!」

「落ち着くんだ。二人は生きている。

だが、大声を出したら奴に居場所がバレて俺達の身が危ない」

オーウェンの言葉に従うクレア。

「あかり、手分けして探そう。私は崖の下に降りて探す」

「うん、私はオーウェンやクレアさんと一緒に探すよ」

そう言ってヴェルは崖の下へ軽々と降りていき、崖の下で見つけた足跡を辿って行くのだった。

ヴェルの“人間離れした身体能力”にラプトルの檻で見たオーウェンはともかくクレアは驚愕していた。

「あの崖から飛び降りて無事だなんて…あなた達は何者なの?」

「ネスト所属の特殊隊員―脳以外の身体の部位が金属細胞による義体となったアデプトテレイター」

クレアに対しそう返すあかりであった。

 

 

一方、崖の下の森の中。

兄弟はそこをさ迷っていた。

兄弟が見つけたのはボロボロのヘルメットや大破した車―そう、インドミナスとの交戦によって全滅した討伐隊の持ち物だった。

「使うのは無理そうだ」

とザックが討伐隊の車を見てそう言った時だった。

何かが草村を掻き分けて近付く音がし、兄弟は警戒するが

「君達がクレアさんの甥だね」

現れたのはヴェルだった。

「クレア叔母さんの知り合い?」

ザックに頷いて返すヴェル。

「私は特殊災害対策機関《ネスト》所属の特殊隊員、風見ヴェールヌイだ。

ヴェルと呼んでほしい」

「俺はザック。で、こっちが弟のグレイ」

ザックとグレイと握手を交わした後

「ザック君、グレイ君。君達を探していたんだ。クレアさんに頼まれて、ね。ついて来てくれ」

ヴェルはそう指示する。

「ついて来てって…何かあるんですか?」

グレイの言葉にヴェルは頷く。

「地図で確認した所、この辺りには嘗てのジュラシック・パーク―旧パークのビジター・センターがある。もしかしたら何か使える物があるかもしれない」

 

 

暫く歩いていて、旧パークのビジターセンターに到着した三人。

「まるで遺跡みたいだ」

と呟くザック。

「20年も放置されてたからこうもなるさ」

ヴェルは力ずくで扉を開け、三人は中に入る。

「ねぇ、これ見て」

グレイが発見したのは段幕らしき布だった。

「グレイ、マッチ持っているか?」

そう尋ねるザックの手には肋骨らしき棒が握られていた。

ザックは段幕を棒に巻き付け、松明代わりにした。

暫くして三人はガレージに辿り着く。

ガレージには工具や部品

「20年位前の型のジープか…」

2台の職員用ジープがあった。

「なぁ、グレイ。昔、爺ちゃんのボロ車を修理したことを覚えているか?」

「うん、覚えているよ」

「やってみるぞ」

兄弟は工具を集めてジープの終了を始める。

一応、ヴェルもインドミナスが来ないか警戒しつつ手伝っている。

「ハラショー、MF(メンテナンスフリー)バッテリーか」

と呟くヴェルにザックは尋ねる。

「“お姉さん”はロシア人なんですか?」

「半分は、ね。4分の1はそれぞれアメリカ人と日本人。それと、私は一応まだ14歳だよ」

その言葉に驚く二人。

「雰囲気が大人びててたからてっきりお兄ちゃんと同じ位かと…」

「まぁ、話すとちょっと長くなるけど、私ともう一人の同僚は“色々”あって“護られる側の”じゃなくて“護る側”として戦っているから」

 

 

修理を始めて数分後。

「グレイ、エンジンかけてみてくれ」

ザックの指示にグレイは頷き、イグニッションキーを回すと、エンジンがかかったのだ。

「ハラショー、大したものだ」

と感心するヴェル。

「ザック君、運転は出来るかい?」

「ザックで良いよ。運転なら出来るよ…路上試験で落ちて免許はないけど」

「非常事態だ。免許はなくても運転さえ出来れば大丈夫さ。

私は後ろであのハイブリッド恐竜―インドミナス・レックスが追って来ないか見張るから運転を頼む」

ヴェルの言葉にザックは頷き、修理したジープの運転席にザック、助手席にグレイ、後部の荷台にヴェルが乗り込んで一向はガレージを後にするのだった。

 

 

 

 

一方の管制室。

インドミナスを生み出した存在からインドミナスの事を聞き出しに行っていたマスラニが帰ってきた。

「マスラニさん、何か分かったんですか?」

尋ねるレノックス。

「残念ながらほんの少し―インドミナスに使われている遺伝子の一部が何なのかしか分からなかった」

マスラニはレノックスにその使われている遺伝子について話す。

「なる程…アマガエルの遺伝子が体温調整を、コウイカの遺伝子が変色による擬態能力を与えた、という事か…」

とレノックスが納得した時だった。

「インジェン社だ!」

ホスキンスが管制室に入ってきた。

「ボス、事態は一刻を争う。私が立てた作戦なら奴を叩くことが出来る」

「で、その作戦とは?」

「ラプトルです。我々は彼らを従わせることに成功しました。

彼らを使ってインドミナスを―「生憎だが許可出来ない」何故です?

このままでは大勢の人が奴に殺されることになる」

「ラプトルがあなた方を襲わないという保証はありませんよ」

とレノックスは言う。

「だったら君の所にいる嬢ちゃん達にも協力して貰えば良い。

嬢ちゃん達もラプトルを従えているし、それに嬢ちゃん達自身も戦力になる」

「生憎ですが、彼女達はあなたの命令に従わないと思いますよ」

とレノックスは言い返し、ホスキンスは舌打ちをして管制室を出て行った。

 

 

ヴェル達が脱出して数十分後の旧パーク、ビジターセンターのガレージ。

あかり達もまたガレージに到着していた。

「―うん、分かったよ。じゃあ、また後で」

あかりはそう言って通信を切る。

「ヴェルからか?」

「二人を保護して今はリゾート区画に向かってるって」

あかりの言葉に安心して胸をなで下ろすクレア。

「それにしても…一体どうやって20年も放置されていたこのポンコツを直したって言うんだ!?」

とオーウェンがツッコミを入れた時、足音が響いた。

インドミナスが来る、と察した三人は物影に息を殺して隠れる。

クレアは恐怖で涙目になってる。

「大丈夫、私達がついてる」

とあかりはクレアを励ました時、インドミナスがガレージに入り込んできた。

インドミナスはジープに顔を近付けて、揺すったりして探った後、居ないと判断したのかガレージを去った…かに見えた。

ガレージの天井が崩れ、インドミナスが覗き込んでいたのだ。

インドミナスはあかりの姿をじっと見つめていた。

「私が注意を引きつけるから二人は逃げて!」

とあかりはインドミナスの前に姿を現す。

「クレア、走れ!」

オーウェンの言葉に従い、クレアは通路へと走る。

一方のあかりは

「…インドミナス!やめて」!

インドミナスを説得しつつガレージの外へと誘導する。

一方のインドミナスはあかりを“襲おうとしなかった”のだ。

何故襲おうとしないのか―それはインドミナス自身もよくわからなかった。

だが、目の前にいる頼尽あかりという名の少女はこれまで彼女が見てきた人間とは明らかに違う何かを感じる、その事は理解していた。

 

そんな中、“ヘリのプロペラ音”を聴いたインドミナスは上空を見上げる。

ヘリの開いている扉からは備え付けられたガトリング銃がインドミナスに標準を合わせており、それを見たインドミナスは森の方へと走り出す。

ガトリング銃から銃弾の雨がインドミナスに降り注ぐ中、あかり達はひとまず高台まで逃げてきていた。

「なぁ…あかり…奴が逃げている方角は…」

「うん、インドミナスは闇雲にヘリから逃げている訳じゃない…“あれ”があると分かってあの方角から逃げてる」

あかりは管制室に通信を繋ぐ。

『あかり君かい!?』

応答したのはマスラニだった。

「マスラニさん!大至急ヘリを戻して欲しい」

『どういう事だい?』

マスラニの言葉にあかりはこう返した。

「インドミナスの進行方向上にあるのが…翼竜の住むドームだからだよ」

 

一方の管制室。あかりの言葉の後

「ロウリー!今すぐヘリを呼び戻すんだ!」

「了解!管制室からヘリへ!今すぐに帰還しろ!」

マスラニはオペレーターの一人であるロウリーに指示を出し、ロウリーはその指示をヘリに伝えるが…先にインドミナスがドームを突き破り、侵入した。

「あ~マズいマズいマズい!」

と焦るロウリー。

モニターの中にて突然の来訪者にざわめく翼竜達は鳴いたり翼を羽ばたかせて威嚇するが、インドミナスは咆哮し返し、翼竜達はインドミナスが侵入した所から次々と出て行ったのだった。

 

 

 

 

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第6話『地獄絵図』

空を舞う翼竜達を見てあかりはこう口にした。

「翼がある奴って厄介なんだよね」

あかりは背中のパックパックにマウントしていたアデプトテレイター用スナイパーライフルを展開、ヘリに近付く翼竜達を予め準備しておいた麻酔弾で撃っていく。

あかりの援護射撃によってヘリは何とか脱出に成功するものの翼竜達は南に向かって飛んでいった。

「マズいな…あっちはリゾート区画だぞ!」

オーウェンの言うとおり―南には客が避難しているリゾート区画があるのだ。

「急ごう!」

とあかりの言葉に二人は頷くのだった。

 

リゾート区画の広場。其処に到着したヴェル、ザック、グレイだったが、その広場は翼竜達の群れが次から次へと集まっていた観光客を襲っては連れ去っていくで大パニック状態の地獄絵図だった。

「お兄ちゃん!何この恐竜の群れ!?」

「俺が知るか!」

「二人共、あれは恐竜じゃない。翼竜―プテラノドンとディモルフォドンだ」

「「冷静にツッコんでいる場合じゃないよ(だろ!)」」

「まったく…空を飛べる奴は逃げ出した時に厄介だな…」

と呟きながらもヴェルは両腕に銃を装備、麻酔弾で翼竜達を撃ち落としていく。

「やっと見つけた!」

そう言って近寄ってきたのはクレアの秘書のザラだった。

そして一体の翼竜がザラを掴み、上空へ連れ去ろうとする。

「させないよ!」

だが、ヴェルはその翼竜に麻酔弾を撃ち込む。

ザラは割と低い所から落ちたので、軽い擦り傷だけで済んだ。

「大丈夫かい?」

と声をかけるヴェル。

「えぇ。あなたは?」

「ネスト所属の特殊隊員―風見ヴェールヌイだ」

ヴェルは自己紹介をしつつ翼竜達を次々と撃ち落としていく。

「ザック!グレイ!」

四人が声のした方を向くと此方に漸く到着したクレアが台の上に立って必死な表情で叫んでいた。

「「叔母さん!!」

クレアの元へ向かう兄弟だったが、一羽の翼竜が兄弟を狙う。

それに気付いたあかりとヴェルは翼竜に麻酔弾をほぼ同時に撃ち込み、翼竜はその場に落ちた。

 

一方のオーウェンにも翼竜―ディモルフォドンが襲いかかってきていた。

オーウェンが麻酔弾を撃つよりも早く押し倒したディモルフォドンはオーウェンの頭に噛み付こうとするが、オーウェンはそれを回避し、ディモルフォドンの首を絞める。

そして、そのディモルフォドンに対しクレアは麻酔弾を何発か撃った。

クレアに支えられ、立ち上がったオーウェンはクレアを抱き寄せ、互いにキスを交わす。

その様子を兄弟は呆然とした表情で見ていた。

「なぁ…ヴェル、あの人…誰なんだ?」

オーウェンの事について尋ねるザック。

「彼女の仕事仲間さ。…お似合いなカップルだな」

「だね。いっそのことそのままくっついちゃえ」

そう言うあかりに

「お姉さんは?」

と尋ねるグレイ。

「私は頼尽あかり。ヴェルと同じネスト所属の特殊隊員だよ」

「因みに年は彼女の方が2つ年上だ」

ヴェルがそう付け加えた後

「お二人さん、いちゃつくのは良いけど此処から離れるよ」

とあかりはオーウェンとクレアに呼びかけるのだった。

 

同じ頃、管制室では…

「ヘリは何とか逃げ延びたが…問題は…」

「インドミナスが翼竜のドームに突っ込んでくれたばかりに広場はパニック状態」

「一刻も早く、あのハイブリッド恐竜をどうにかしないと被害は…」

マスラニ、ロウリー、レノックスは現状について話し合っていた。

そんな時、ホスキンスが何人かの部下を引き連れて管制室に入ってきた。

「何の用だね、ホスキンス」

「あなたが腹をくくらないので私の方で動こうかと想いましてね」

「勝手な真似は許さん…ぞ…」

マスラニはホスキンスの部下の男に後頭部を殴られ、意識を失った。

「何のつもりだ?」

ホスキンスに銃を向けるレノックス。

「このままいてもらっては邪魔だからな。大人しく眠って貰おう。それにあんた、俺に手を出して良いのか?」

「それはこっちの台詞だ」

静寂の中、睨み合う両者。

「此処で撃ち合っても良いが…周りにも被害が及ぶかもしれない」

先に静寂を破ったのはホスキンスだった。

「それに彼奴を止めるのが先決だろ?協力しないのなら出て行って貰おうか」

悔しいが確かにその通りだ、と考えたレノックスは銃を下ろす。

「よく覚えておけ。あんたら、ただで済まされないぞ」

 

「ロウリー、今からそっちに向かうわ!」

広場にてクレアはスマホでロウリーと連絡をしていた。

『それは止しといた方が良い』

「どうして?」

『今、管制室はインジェン社の危機管理部門の支配下にある。代表はホスキンスって男だ』

『マスラニ社長はそいつの部下に気絶させられ、俺も監視されて身動きが取れない状況だ』

と伝えるレノックスは悔しそうであった。

『それにホスキンスはラプトルを使う気らしい』

その言葉を聞いたオーウェン、あかり、ヴェルの頭の中の“何か”がプチン、と切れた。

「あのクソッタレが!」

「ねぇ、ヴェル。あのゴミ屑、血祭りに上げて良いかな?」

「落ち着けあかり。面倒な事になるぞ…それにやるならバレないよう徹底的にやるべきだ」

三人―特に後者二名の発言に彼らを怒らせてはならない、と思ったクレア達だった。

 

 

 

 

ラプトルのパドックにあかり達が到着した頃には辺りは真っ暗になっていて、既に準備が始まっていた。

「ザラ、子供達をお願い」

クレアの言葉に頷くザラ。

「私達はちょっとあのゴミ屑に話を付けてくるから」

あかりはオーウェンやヴェルと共に車から降りる。

「パパの御到着だな」

それに気付いたホスキンスはフレンドリーな態度で近付いてくる。

あかりとヴェル、オーウェンは気に入らないどころか怒りを混じらせていた。

「オーウェン!嬢ちゃん達!待ってた―」

ホスキンスが言い終えるよりも早くオーウェンはホスキンスの顔面を殴り、あかりはホスキンスの股間を蹴り上げる。

「ごめんごめん、蹴るとこ間違えたよー」

蹴ったあかり本人は棒読みである。

ホスキンスの部下の兵士達が銃をオーウェン達に向けるが、あかりとヴェルは地面を踏みつけ、小さなクレーターを作る。

「生憎、私達は脳以外の身体の部位を義体化してるんだよね」

「だから、この程度の事など容易い事だ」

人間離れした力を見せ付ける二人に睨み付けられた兵士達は戦意喪失していた中、ホスキンスは不適な笑みを浮かべていた。

 

テントで作戦会議を行った後、オーウェン達は準備を始める。

「あかり!ヴェル!お前らもバイクで良いんだよな?」

バリーに対し

「うん!OKだよ!」

と返すあかり。

「お前ら本当にバイク乗れるのか?あかりはともかくヴェルは本来はまだ免許取れる年齢じゃないのに」

と尋ねるバリーに

「問題ない。私達は仕事柄、年齢制限とったものがない“特例免許”を持っている。

それに、あらゆる事態に対応できるよう、様々な乗り物の操縦などもネストの訓練校生時代に訓練している」

皆の準備も終わり、先頭にてバイクに跨がっているオーウェンの頷きを合図にキャットウォークの上にいたラプトルの飼育員の一人がゲート解放のスイッチを押す。

ゲートが開くと同時にラプトル四姉妹は勢い良く飛び出して行き、オーウェン達はその後に続いていった。

暗い森の中、無造作に伸びている草が生い茂る整備されてない道を部隊は警戒しつつ進む。

ラプトル達は育ての親であるオーウェンに視線を寄越しながらも併走し、部隊を導くと共に匂いを頼りにインドミナスを探す。

段々近付いて来ているのかラプトル達のスピードも減速していく。

暫くしてラプトル達は広い草地で立ち止まった。

オーウェン達もバイクや車から降りて身を屈めて銃を構えたりする中、足音が聞こえてきた。

足音は段々大きくなっていき、その主―インドミナス・レックスが姿を現した。

ラプトル達がインドミナスに攻撃を仕掛けると同時にオーウェン達が援護する…筈だったが、ラプトル達は攻撃を開始しようとしなかった。

「おい、あいつら何かおかしくねぇか?」

ラプトルの異変に気付いたバリー。

「まるで会話をしているみたいだ」

ヴェルの言うとおり、その様子はまるで“会話”をしているかの様だ。

ふと、あかりはある可能性に気付いた。

高い知能とラプトルと“会話”している姿。

「オーウェン、まさか…」

「あぁ…奴ら肝心な事を隠してやがった」

オーウェンも同じく気付いた。

「何だ?」

と尋ねるバリーにあかりはこう答えた。

「インドミナスは複数の恐竜や生物の遺伝子を使ったハイブリッド。…そして、その中に―」

「「ラプトルの遺伝子が含まれている」」

あかりとオーウェンが声を揃えてそう言うと同時にラプトル達はオーウェン達の方を振り向く。

『何をしている!撃て!!』

管制室にいるホスキンスからの指示を受け、兵士達は攻撃を開始。

銃撃の中、ラプトル達とインドミナスは森の中へ退避する。

「背後に気をつけろ!ラプトルを味方に付けたぞ!」

とオーウェンは注意を促した。

 

 

オーウェンの言葉通り、兵士達は味方“だった”ラプトル達に次々と襲われ、現場では兵士達の悲鳴や断末魔の叫びが飛び交うのだった。

 

 

 

 

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第7話『因果応報』

管制室ではラプトル達や兵士達に装備された暗視カメラの映像が映されていたのだが…兵士達に装備された分のカメラは次々と暗転していった。

「うぅ…此処は…」

「マスラニさん、目が覚めましたか」

「レノックス隊長…状況はどうなっている?」

「ホスキンスがラプトルを使ってインドミナスを討伐しようとしましたが…ラプトルがインドミナスの側に付きました」

「何だと…で、ホスキンスは?」

「部下と共に逃げました。今まではあいつに従うしかありませんでしたが…これでその必要もなくなりました。

私はここであかり達のサポートをします。マスラニさん、あなたは他の職員と共に脱出を」

「いや、責任者として此処に残って見届けるよ。ところで、ロウリー君も残るのかい?」

「はい、誰かオペレーターが残る必要がありますし…それに…」

…ロウリーは他の職員が脱出する際に思いを寄せていたオペレーター娘に告白したのだが…その娘には彼氏がいる事が発覚、その真実に彼は落ち込んでいるという訳である。

「…訊かないでやってください」

というレノックス(実は既婚者である)の情けの言葉にマスラニは困惑しつつも頷くのだった。

 

オーウェンとあかりは合流後、慎重に森の中を進んでいた途中、ラプトル四姉妹の末っ子―チャーリーと遭遇した。

オーウェンとあかりは銃を降ろし、チャーリーも襲うかどうか迷っている様子で、首を傾げている。

そんな中、あかりの視界にチャーリーにロケットランチャーの標準を合わせる兵士の姿が写る。

このままじゃオーウェンやチャーリーが危ない、その“可能性”に気付いたあかりは

「ごめんなさい!」

と日本語で言って左腕に装備していた銃から麻酔弾を兵士に―ロケットランチャーが発砲されるよりも早く撃ち込む。

麻酔弾を撃ち込まれた事によって兵士は倒れ、ロケットランチャーは標準から大幅に外れた地点に発砲した後、完全に意識を失った。

「大丈夫かい?オーウェン」

「あぁ、助かったよ。で、麻酔弾を撃って良かったのか?」

「多分、暗闇でこっちは見えてなかったと思うし、誤射という事で」

それで良いのかと思いつつも内心ではチャーリーが無事な事にオーウェンは安心し、あかりに感謝していた。

そのチャーリーはオーウェンとあかりに近付き

「くすぐったいだろ、チャーリー」

鼻をオーウェンに擦り付け、舌で顔を舐め始めたのだ。

オーウェンをひとしきり舐めた後、今度はあかりに同じ事をする。

「一旦クレアさん達の元に戻って態勢を立て直そう」

その言葉にオーウェンは頷き、二人は麻酔で意識を失った兵士を安全な場所へ移動させてからそれぞれバイクに乗り、チャーリーはそれについて行くのだった。

 

パドックの付近に止まっているトラックに乗っているクレアとザラはモニターでオーウェン達の様子を見ていた。

「そんな…ラプトルが寝返るなんて…」

とクレアが呟いた時、クレアの真横に位置する窓が真っ赤な血で濡れた手で叩かれたのだ。

二人が短く悲鳴を上げた後

「早く…逃げろ…」

とラプトルにやられた血塗れの兵士がずり落ちていった。

クレアはトラックのキーへと手を伸ばし、エンジンを指導させる。

その血塗れの兵士はザックとグレイが乗っている荷台の扉を開き、荷台に乗り込もうと兄弟が息を呑む中、手を伸ばすが追い付いてきたラプトルによって引きずり降ろされてしまった。

「しっかり捕まってるのよ!」

とクレアは皆に呼び掛けた後、トラックを急発進。

ラプトル達もそれを追い掛け、先頭を走っていたラプトルは運転席の窓ガラスを突き破って侵入しようとする。

しかし、クレアがアクセルを思いっ切り踏み込んだ事によってトラックのスピードが上がり、ラプトルは振り落とされてしまった。

 

その一方、別のラプトルは開いている扉から荷台に飛び乗って兄弟を襲おうとしていた。

荷台に侵入しようとするラプトルをザックは

「これでも喰らえ!」

と電気ショック槍で応戦、ラプトルは一時的に麻痺し、トラックから落とされた。

 

暫くしてオーウェンとあかりが追い付いてきた。

「オーウェンさん!あかり姉ちゃん!」

と手を振ってはしゃぐグレイ。

ザックも安堵の表情を浮かべるが、二人と併走するチャーリーに気付き、顔を真っ青にする。

「オーウェンさん!あかり!横!横!」

「大丈夫、この子は味方だよ!」

あかりの言葉を肯定するが如く吼えるチャーリー。

「あかり!オーウェン!」

「ヴェル!無事だったんだな!」

「私を甘く見ないで欲しい。チャーリー、戻ってきてくれたか…」

とオーウェンにそう返した後、チャーリーに目を向けたヴェル。

オーウェンはスピードを上げ、運転席の位置でトラックと併走する。

「メインエリアへ戻るぞ」

とオーウェンはクレアに提案、一向はメインエリアへと向かうのだった。

メインエリアの遺伝子研究所の中をオーウェン達は進んでいた。

そして、そこで鉢合わせたのは

「これはこれはオーウェンに嬢ちゃん達じゃないか」

ホスキンスだったのだ。

 

 

 

 

「ほう、そいつは戻ってきたのか。

なぁ、オーウェン。今までの事は水に流してまた一緒にやってこうじゃないか。そいつとな」

「ふざるんじゃねぇよ。それにこいつは―こいつだけじゃない…あいつらは俺にとっては“家族”だ」

二人のやり取りの中、グレイはパソコンのディスプレイに映し出されたインドミナスのデータに目が止まった。

「これって…あのインドミナスって恐竜だ」

「素晴らしいだろ?現代兵器をも欺く能力。こいつの戦力は何千という兵士に匹敵する」

ホスキンスに皆が軽蔑の視線を向ける中

「テメェ、ふざけるのも大概にしろよ」

あかりはホスキンスに明確な殺意を向けていた。

「ふざけてなんかないさ」

と殺意を受け流すホスキンス。

「三人目だよ」

「何が三人目だ?」

あかりに問うホスキンス。

「“俺”が殺したいと思った人間以下の屑。

一人目と二人目は俺の両親を“殺した”連中、三人目がテメェだ」

「嬢ちゃん、本当に俺を殺す気か?そうすれば嬢ちゃん自身も嬢ちゃんが言う“屑”になるんだぞ」

「そんな事、知った事か。俺は既にお前が言う“屑”になっている。

だから、お前みたいな屑を殺す事自体に躊躇いはない。だが、今回は俺より適任なのがいる」

あかりがそう言った後、扉からラプトル―エコーが現れた。

「ま、待て。俺達は仲間だろ?」

とエコーを躾ようとするホスキンスだが、エコーに右手を噛まれる。

「んじゃ、行こうか」

とあかりは皆に呼び掛ける。

「ま、待ってくれ!」

と助けを求めるホスキンスに対しあかりは中指を、ヴェルは親指を下に立てその場を後にした。

「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

ホスキンスの言葉に誰も応じない。

因果応報、ホスキンスは兵器として見ていて、逆らうなら殺すと言っていたラプトルに殺されるのだった。

あかり達は研究所の外へ出てきたが、其処で待ち受けていたのはブルーだった。

「ブルー…」

ブルーの名前を呟くオーウェン。

更に遅れてデルタやエコーも現れる。

「あかり、ヴェル。俺に任せてくれ」

オーウェンがこれから“何”をしようとしているのかに気付いたあかりとヴェルは

「勿論だよ」

「私達はオーウェンの選択に従う」

と返す。

「俺達仲間だろ?」

オーウェンはブルーに優しく声をかけつつ、彼女の頭に取り付けられていた機械を取り外す。

「これ、嫌だったんだろ?もう付けなくていいんだ」

そして、同じ事をデルタやエコーにもする。

この時点でブルー、デルタ、エコーにはオーウェン達を殺すという選択肢はなかった。

そんな中、重圧な足音が響く。

「みんな下がってて」

「インドミナスが来る…!」

そして、インドミナスはあかり達の前に姿を現した。

「インドミナス、“人間の傲慢”の被害者である君にこれ以上罪を犯して欲しくない…だから…」

あかりの言葉が通じたのか否か―インドミナスの目から涙が流れていた。

そして、短く唸る。まるで

『ごめんなさい…もう遅かったの…』

と言わんばかりに。

インドミナスの心は“壊れていた”のだ―閉鎖的な空間に閉じ込められて過ごし、罪のない多くの命を奪った事によって。

インドミナスの瞳は再び狂気に支配され、彼女は天高く向かって咆哮する。

「ヴェル、オーウェン。彼女を解放してあげよう…苦しみから」

あかりの言葉にヴェルとオーウェンは頷くのだった。

 

 

 

 

 

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第8話『王者』

インドミナスはまず人間であるオーウェン達に目を付ける。

その事に気付いたブルーは注意を引こうと立ち向かうが、テリジノサウルス由来の長い前足で払いのけ、ブルーは石柱に激突、地面に落ちて気絶する。

激昂したデルタ、エコー、チャーリーはインドミナスに飛びかかろうとする。

それに対しインドミナスは尻尾でデルタを叩き飛ばす。

飛ばされた先にはレストランのグリルがある。

もしグリルが誤作動したらデルタは焼け死んでしまう。

「マズい!あのままじゃ!」

その事に気付いたヴェルは

「腕部及び脚部のサーボモーター、リミッター解除!」

腕部と脚部のサーボモーターの(負荷軽減用)リミッターを解除する。

それによってヴェルは飛ばされるデルタとグリルの間に立ち、デルタを受け止めた後、彼女を安全な場所に寝かせる。

だが、そこへチャーリーもインドミナスの尻尾で叩き飛ばされてきたのだ。

ヴェルはチャーリーも受け止め、デルタとチャーリーを抱えて距離を取る。

「この子達を頼む!」

とヴェルは傷だらけで気絶している二羽をクレア達に任せてあかり達の元へ戻る。

続いてインドミナスはエコーを前足で捕らえ、噛み付こうとする。

「させないよ!」

それに対しあかりも腕部と脚部のサーボモーターのリミッターを解除。

インドミナスの下顎を無理やり持ち上げ、オーウェンがインドミナスの前足に向けて発砲し、衝撃によってエコーから手を離した隙に

「「ヴェル!!」」

ヴェルはエコーを抱えてデルタやチャーリーを寝かせている場所に避難させる。

それを確認したオーウェンはインドミナスの首辺りに発砲、痛みで頭を持ち上げた隙にあかりは離脱する。

「流石ハイブリッド…手強い相手だ」

と呟くヴェル。

「ヴェル姉ちゃん、大丈夫?」

「あぁ、今の所は、な…だが…こっちも弾が少なくなってきた。なくなるのも時間の問題だ」

「じゃあ、どうすれば…」

と呟くザックにヴェルはこう呟いた。

「戦況を変えられる…強力な力を持つ奴がいれば何とかなるかもしれない」

だが、トランステクターの使用を禁じられている中、そんな力を持つ存在はいるのだろうか?

「いるよ」

そう言ったのはグレイだった。

「強い奴ならいるよ!」

その強い奴が誰なのか―それに気付いたクレアは発煙筒と非常用通信機を手に

「此処で待ってて。“彼女”を呼んでくるから」

と言って、その“彼女”がいる場所へと向かった。

 

管制室にいるロウリーにクレアからの通信が入った。

『ロウリー!?まだ管制室にいる!?』

「あぁ、管制室にいるよクレア!」

『良かった…あなたに頼みがあるの!』

「頼みって何だい!?」

『“9番パドック”を開けて!』

「“9番パドック”だと…まさか…」

クレアがどうしようとしているのか気付いたマスラニ。

「本当にやる気かい?クレア」

クレアに問うロウリー。

『えぇ、もうこれしかないわ。ロウリー、今こそ男を見せる時よ』

「何で今それを言うのかな…全く、卑怯な女だよ」

スクリーンに映るクレアは非常用通信機を投げ捨てる。

そんなクレアの姿を見ながらロウリーは恐る恐る“9番パドック”のゲートのスイッチを押す。

クレアは発煙筒を作動させ、ゲートが開き終えるのを待つ。

そして、ゲートが開くと共に暗い茂みの中から“彼女”が地響きと共にその姿をゆっくりと現した。

 

 

 

発煙筒の光を視界に捉えた彼女は昔の事を思い返していた。

今から凡そ25年前、イスラ・ヌブラル島のある研究施設。

「~よしよし、ワシがパパじゃよ~」

卵の殻を割った“彼女”が最初に見たのは老人―ジョン・ハモンドだった。

“彼女”にはハモンドが何を言っているかは分からなかったが、この者が親ではないという事は直感で理解していた。

 

それからは人間達の実験に付き合わされ餌を貰う毎日が続いた。

その餌も成長するにつれて肉塊から牛や山羊といった生き餌へと変化したものの、電気柵に囲まれた狭い空間の中、空腹が満たされるだけ。

狩猟本能が満たされる事などない、自由などない毎日―人間達による実験に、人間達の“強欲”に利用され、誇りを侮辱される毎日に“彼女”の怒り・不満は日に日に増していた。

 

そんな日々に変化したが生じたのはある雨の降る日だった。

その日も“彼女”は餌を食べに行ったのだが、違和感を感じた。

違和感の正体―それは電気柵が作動してなかった事だった。

“彼女”は漸く外の世界へ出る事が出来き、自由を漸く手にした。

やがて“彼女”は楽園の頂点に立つ王となった。

 

“彼女”はこれまでの鬱憤を晴らすかの様に自由を満喫した。

 

 

だが、その自由な生活は突如として終わる事となった。

 

 

“彼女”は再び人間に自由を奪われ、再び怒りや憎しみが湧き上がった。

 

そんなある日、“彼女”は空を飛ぶ翼竜を目にした。

“彼女”が壁の外が騒がしいのを―何かが起きているのを感じた時、閉じ込めていた扉が開かれたのだ。

 

 

 

 

茂みの中から現れた“彼女”をクレアは発煙筒でインドミナスの元まで誘導する。

 

インドミナスに牽制射撃を行い、クレアが“助っ人”を連れてくるまでの時間を稼ぐオーウェン、あかり、ヴェル。

「弾が切れる…!」

舌打ちをするオーウェン。

一方のあかりとヴェルも残弾数があと僅かとなっていた時

「オーウェン!あかりヴェル!」

発煙筒を持ってクレアが走って戻ってきた。

「逃げて!」

とクレアは三人に忠告し、発煙筒をインドミナスに投げ捨てた。

そして、展示されてたスピノサウルスの骨格標本を砕き“彼女”はインドミナスの前に姿を現した。

「ハラショー、これまたとんでもない助っ人だな」

「だけど、この上なく頼もしい助っ人だよ」

あかりやヴェル、オーウェンやクレア、兄弟やザラの視線の先、そしてインドミナスの前に現れた“彼女”。

約6500万年前の白亜紀後期の北米にて生態系の頂点として君臨していた種族。

日本語で“暴君竜”という意味で世界で最も有名なその恐竜の名は

 

 

 

 

『ティラノサウルス・レックス』

 

 

 

 

そして、彼女こそ20年近くイスラ・ヌブラル島の頂点に君臨していた本物の王たるティラノサウルス・レックス。

 

 

 

 

名は『レクシィ』である。

 

 

 

 

対峙するレクシィとインドミナスをあかりやヴェルは余計な手出しなどせずに見守る。

ここで手出しする事―それは王たるレクシィへの侮辱だからだ。

互いに睨み合い、先制攻撃を仕掛けたのはレクシィであり、インドミナスの首に噛み付く。

抵抗するインドミナスに何度も噛み付くレクシィ。

20年近く培ってきた経験と元々の能力は彼女の大きな武器であり、彼女の方が優勢だったが、相手のインドミナスはティラノサウルスを始めとする様々な種の遺伝子を持つハイブリッドであり、純粋な能力面ではインドミナスの方が上回り、徐々に形勢はインドミナスの優勢へと逆転していく。

インドミナスはその長い前足と鉤爪でレクシィに傷を負わせていき、とうとうレクシィは地に倒れてしまった。

インドミナスは右後足で胴体を、左前足で頭部を、右前足で首の根元を抑える。

「マズい…このままじゃ…!」

あかりは残弾数を確認する。

此処でレクシィという戦力を失うのはかなりつらい―あかりやヴェルもサーボモーターのリミッター解除を行った為、長期間戦うのはキツいという状況だ。

「インドミナスみたいな大型の恐竜に対しては威力が低くて牽制程度にしかならないし…王への侮辱かもしれないけど…ここで彼女を失う訳にはいかない…やるしかない」

そう呟きつつあかりがインドミナスに標準を合わせ、一方のインドミナスがレクシィにトドメを刺そうとしたその時、鳴き声が響いた。

レクシィの首に噛み付こうとしていたインドミナスは、立ち上がったあかりとヴェルは、少し離れた場所で戦いを見守っていたオーウェン達は鳴き声がした方を向く。

美しい青銀色の模様のラプトル―ブルーが全速力で走って来て、インドミナスの頭部に飛びかかり攪乱する。

その隙を突いてレクシィは立ち上がり、インドミナスの首に噛み付く。

インドミナスがレクシィに仕掛けようとするとブルーが攪乱し、その隙にレクシィがインドミナスに攻撃を仕掛ける。

二匹の猛攻にインドミナスはラグーンまで追い詰められた。

それでも尚インドミナスが反撃しようと立ち上がった時だった。

ラグーンから水しぶきと共に飛び出してきたモササウルスにインドミナスは逃げる間もなく右足を噛み捕まれてしまったのだ。

「インドミナス!」

飛び出して助け出そうとするあかりだったが、サーボモーターの負荷のかかりすぎで暫くは身体が動かしづらいという状況であり、間に合わない。

引きずり込まれそうになるも必死に抵抗するインドミナスはあかりの声に顔を向け、その瞳に涙を浮かべて短く吼えた。その鳴き声があかりにはまるで

 

 

『…あなたにもっと早く会いたかった…』

 

 

と言っているかのように聞こえた。

インドミナスはモササウルスによってそのまま水の中へ引きずり込まれてしまった。

人間の“傲慢”の被害者であり、“狂気”に支配されて苦しんでいたインドミナス・レックスは漸くその“苦しみ”から開放されたのだ。

 

 

 

 

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第9話『終わりと始まり』

「インドミナス…」

涙を浮かべるあかりを抱いて慰めるのはこれまで一緒に戦ってきた戦友―ヴェルだった。

「君はインドミナスを…最後に苦しみから開放して救ったんだ…」

ヴェルはあかりを抱き締め、あかりはその中で涙を流して泣いていた。

ヴェルはそんなあかりを優しく撫でつつ視線をレクシィに向ける。

人間に憎しみを抱くレクシィが自分達やオーウェン達を襲わないとは限らない。

「誇り高き王―レクシィよ!」

ヴェルの声にレクシィは静かにヴェルを見据える。

「君には私の言葉が分からないかもしれないが言わせてくれ!

人間がこれまで君にして来た事は許される事じゃないのは分かっている!だけど、身勝手だとは思うが私の願いを聞いてほしい!

どうか彼らを…此処にいる人達やラプトル達は見逃してほしい!頼む!どうか…!」

その言葉の後、ヴェルを見据えていたレクシィは彼女に背を向けてその場を後にした。ヴェルのその願いが通じたのか…それともブルー達を共に島を守った同士として見たのか…戦い疲れて襲う気すらしなかったのか…それはレクシィのみぞ知る。

 

暫くしてデルタ、エコー、チャーリーも意識を取り戻し、ブルーと共にオーウェンの元に集まった。

「みんな傷だらけだな…手当てしてやらないとな」

 

ひとしきり泣いて漸く落ち着いたあかり。

「ありがとう…ヴェル」

「『どういたしまして』」

とヴェルはロシア語で返す。

立ち上がったあかりはふとある物を発見した。

「これは…インドミナスの歯か…さっきの戦いで折れ落ちたんだろう」

ヴェルの呟き通り―それはインドミナスの歯だった。

あかりにはそれがインドミナスが残した忘れ形見に思えて、大切に握り締めるのだった。

こうしてイスラ・ヌブラル島の長い1日は漸く終わりを告げた。

 

 

イスラ・ヌブラル島の避難所には昨日の時点でフェリーに乗れなかった観光客が大勢いた。

其処でザックとグレイが両親と再会したり、パークの職員やネスト隊員達は負傷した観客達の治療を行われており、其処から離れた場所―ラプトル達のパドックで職員達が片付けられている最中、あかり、ヴェル、ラプトル四姉妹は寄り添って眠っていた。

「微笑ましい光景だ。こうして見ると彼女達も年頃の女の子だ。兵士として戦っている姿が信じられない」

とバリーは暖かい視線で彼女達を見守りなが呟いた。

「本来なら兵士として戦うべきじゃない…“護られるべき立場”なのに彼女達はそうせざる負えなかったとは言え“護る立場”として戦っている。

だからこそ俺達は彼女達が出来るだけ自由に動けるようにサポートをするんです」

とレノックスは返し

「ちょっと失礼」

スマホを取り出してカメラに二人と四羽の顔が収まる位置に移動して、彼女達を撮影した。

「後で彼女達にあげるさ」

と言うレノックスにバリーも微笑みを浮かべる。

あかりの手にはインドミナスの歯が優しく握らていた。

 

その後、ネスト隊員の一人が調査結果などをレノックス達に報告する。

「―ホスキンスは死亡、インドミナスを作ったウー博士達は未だに逃走中です。

今後、インジェン社にはガサ入れを行う予定です」

ネスト隊員の報告の後、レノックスはオーウェンに問う。

「彼女達を―ラプトル達を今後どうする?」

それに対するオーウェンの答えは決まっていた。

「彼女達を自由にさせたい」

その言葉を聞いたレノックスは頷くのだった。

 

数分後、目を覚ましたあかりとヴェルにオーウェンは自身の意志―ラプトル達を自由にする事を伝える。

「そっか…でも、それがあの子達の為でもあるよ」

「あぁ、彼女達は何事に縛られずに自由に生きていくべきだ」

あかりやヴェルも賛成している中、オーウェンはラプトル達の頭を一羽ずつ優しく撫でながらこう伝えていく。

「もうお前達を縛るものは何もない。

これからはお前達の好きに―自由に生きろ」

オーウェンの言葉にラプトル達は寂しそうな表情を浮かべるが、彼の気持ちを汲み取ったのか、別れを惜しむかの様に擦りよる。

「これからもずっと愛してるぞ」

オーウェンの言葉にラプトル達はこう返すかの様に鳴いた。

 

 

『私達もパパの事、ずっと忘れないよ。今までありがとう』

 

 

朝日が無人になった島を照らす中、最後のフェリーと軍の輸送船は島を離れていく。

「ヴェル!あれ!」

軍の輸送船に乗るあかりが指差した先にいたのはヘリポートの上に立つ“王”の姿だった。

「誇り高き“王”に我々も敬意を払わないと」

ヴェルの言葉にあかりは頷く。

「「誇り高き“王”に、敬礼!!」」

 

 

『あの子らの様な者もいるとは…“あの種族”も捨てたものではないか』

離れ行くフェリーと輸送船を見据えながら王はそう思っていた。

あの二人の少女の姿は彼女に強く印象に残っていた。

そして、“王”の目に二人の少女が今、自分に敬意を示し敬礼を送っている姿が見えた。

『さらば、小さき戦士達よ…汝らに幸あらん事を…』

そう願った後、“王”―レクシィは自分を閉じ込めた者達にこう告げるかの様に咆哮した。

 

 

『欲深き者達よ!此処は我々の楽園だ我々の楽園に近付くな!』

 

 

 

 

ジュラシック・ワールドでの騒動から数日後。

基地ではサーボモーターのリミッター解除を行ったあかりとヴェルの義体のメンテナンスが行われた。

と言っても彼女達の義体に使用しているのはトランスフォーマーの身体を構成している金属細胞なので、多少のダメージなら自己修復されてしまうのだから、メンテナンスというよりは検査といった所である。

「―よし、出来た!」

と机に向かっていたあかりは腕を伸ばした。

「これはペンダントか?」

と顔を覗かせるヴェル。

「うん、これなら何時でも持ち歩けるよ

あかりの机の上にあるペンダント―それはあのインドミナス・レックスの忘れ形見たる歯を加工したペンダントである。

「防腐・防塵・防火・防水もバッチリだよ!」

「徹底する所は徹底する…相変わらずだな」

ヴェルの言葉にあかりは笑みを浮かべる。

そんな時だった。

『あかり、ヴェル。ちょっと良いか?』

レノックスからの呼び出しが来た。

 

「よく来たな二人共。腰を掛けてくれ」

レノックスのオフィスにてあかりとヴェルはレノックスの指示通りにソファに腰を掛ける。

「レノックス“少佐”、話とは一体…?」

と問うあかり。

「ネスト日本支部からの要請があってな。

アデプトマスターを一人、日本支部に配属する事になった。

最近、日本で“ジーオス”の動きが活発化しているのは聞いているな」

「はい、噂でかねがね」

あかりがそう返した後、レノックスは続けた。

「つい先日、ジーオスの市街地への出現が確認された。

被害は最小限に済んだが…“モビルスーツ”の多くが大破、またジーオス自体もこれまでよりも強力な個体だったとの事だ。

今後もこの様な個体が出現する可能性、そして市街地への出現の可能性は極めて高いだろう。

そこで、モビルスーツよりも“強大な戦力”たるトランステクターとそのアデプトマスターを配備する事になった、という訳だ」

「それに私のはともかく、あかりのトランステクターならビークルモードに変形する事で街中でも目立たずスムーズに動ける」

ヴェルの言葉にレノックスは頷き、あかりにある指令を出した。

「頼尽あかり、君にネスト日本支部への転属を命ずる」

 

 

「転属、って本当に急だよ」

と言いつつあかりは転属の準備を行っていた。

「寂しくなるな…あの出会いからほぼ毎日一緒だったのに…」

「そうだね…」

あかりは一泊置いてこう続けた。

「でも、今生の別れじゃない。会おうと思えば会いに行けるし、何時でも連絡を取り合える」

「…それもそうだな」

とヴェルは笑みを浮かべるのだった。

 

 

あかりはネスト日本支部に配属されると同時に「ついでに高校生としての生活も楽しんでこい」というレノックスの計らいからある高校の“入学試験”を受け、見事に首席合格となった。

「ヴェル!満点合格したよ!」

「ハラショー、相変わらず凄いな。あかりは」

「それ程でもないよ。それに、ヴェルだって凄いよ。色んな国の言語を話せるし」

「読み書きも出来て流暢に話せるのは日本語と英語、ロシア語だけだ。後は日常会話程度しかできない」

「それでも凄いよ」

 

 

そして、時はあっという間に過ぎていき、あかりが日本へ旅立つ日が訪れた。

「…今日で離れ離れになってしまうな…」

と空港にてあかりとの別れを惜しむヴェル。

「そうだね…でも、前にも言った通り、今生の別れじゃないしまた会えるよ」

「…それもそうだったな。会いに行こうと思えば会いに行ける」

ヴェルの言葉に私は頷く。

「ヴェル、見送り、ありがとう。それじゃ、互いの健闘を祈って」

「あぁ、互いの健闘を祈って」

「「また何時か、どこかで」」

 

 

そして、あかりを乗せた飛行機は日本へと旅立っていった。

 

 

その飛行機を見上げながらヴェルはこう呟く。

「あかりの故郷…いつか、私も行こう…今度は私から会いに行く」

その言葉が現実になるのはもう少し先の話である。

 

 

「―だいたい4年振り、か…帰って来るのも…」

インドミナスの忘れ形見たる歯を加工したペンダントを手に、あかりは飛行機の窓から見える外の景色を見つめる。

「みんな、どうしてるかなぁ…」

思い浮かぶはあかりの幼なじみ達の顔。

不安もない訳ではないが…今彼女が言いたいのはこの言葉だった。

 

 

 

 

「帰ってきたよ、私は」

 

 

 

 

―side out―

 

 

 

 

Pre-stage

 

 

end

 

 

 

 

To be continue 1st stage…



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第1章『戦女神、マネージャーになる』
第10話『帰国、廃校の危機』


本作に登場するモビルスーツはあくまでもガンダムに登場するモビルスーツに(形だけが似た)兵器であり、サイズも異なります。


「遠方からの入学試験、ねぇ…」

と音乃木坂学院の南理事長は呟いた。

彼女が目を通しているのは遠方―アメリカから届いた書類と入試問題の解答用紙だった。

「あの子達には秘密にしておきましょうか…彼女が来る日まで」

と理事長は笑みを浮かべるのだった。

 

 

あかりは新たな住居に荷物を運び終えた後、4月から通う事になる音ノ木坂学院を訪れた。

時刻としては朝の9時頃―つまりまだ始業式が始まったばかりである。

あかりは新入生であり、入学式は翌日である為、まだ生徒ではない為、校舎に入る際に入校許可証を貰って理事長室へと向かったのだ。

「理事長、お久しぶりです」

「“何時もの様”に呼んでくれて良いのよ、あかりちゃん」

「はい、おばさん」

理事長は幼なじみの一人の母親である事から自然と交流も多かったのだ。

「でも、流石ね。まさか満点合格するとは思わなかったわ」

「まぁ、“仕事”には支障をきたさないようにテストの点数は確保したいですからね」

「“ことり達”にはもう会ったの?」

「いえ、まだです。

サプライズで行きたいと思ってるので」

と返すあかり。

「“仕事”の事も私の“身体”の事も秘密にしてください。

言うときが来たら自分の口から言うので」

とあかりは付け加えてその場を後にするのだった。

あかりが去った後…

「あの子達は受け入れられるのかしら…あの子の過去を…」

理事長の机にはネストから提出された『頼尽あかりの過去に関する自己報告書』が置かれていた。

 

続いてもう一人の幼なじみの母親の元を訪れて挨拶をし、その後は従姉妹の家―和菓子屋『穂むら屋』を訪れた。

「あら、いらっしゃい―って、あかりちゃんじゃない!久しぶり!」

「はい、お久しぶりです、おばさん」

「何時日本へ?」

「昨日、到着しました。

明日からは音ノ木坂の一年生になります」

「学年的に穂乃果の後輩になっちゃうわね」

「変な感じですよ」

と苦笑いを浮かべるあかりに

「そうだ!今日の夕御飯はウチで一緒にどう?」

「良いんですか?じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

その日の昼過ぎ。今日の音乃木坂とは始業式のみで昼からは放課後となる。

そんな中、3人の少女が帰路に就いていた。

この3人は幼なじみ同士である。

「お母さんが今日の夕飯は海未ちゃんとことりちゃんもどう?って」

そう二人に言ったのは高坂穂乃果。あかりの従姉妹である。

「そう言えば、お母さんから今日は穂乃果ちゃんの家で夕飯を食べて来いって連絡が…」

「私の方にも母から同じような連絡がありました」

そう返したのは南ことりと園田海未。二人とも穂乃果やあかりの幼なじみである。

「急にどうしたのでしょうか…?」

「さぁ…?」

三人は頭を傾げている。

「とりあえず、ウチに来る?」

穂乃果の言葉に海未とことりは頷いた。

 

「ただいまー!」

「「お邪魔します」」

「おかえり、穂乃果。

ことりちゃんと海未ちゃんもいらっしゃい。どうぞ上がって」

穂乃果の母親の言葉に従って三人が上がると、穂乃果の妹の雪穂が二階から降りてきた。

因みに雪穂が通っている音乃木坂中学も今日は始業式のみで昼からは放課後である。

「雪穂、お母さんどうしたの?」

「お姉ちゃんの部屋に行けば分かるよ」

と雪穂はニヤリと笑みを浮かべる。

何なんだろうと思いつつ3人は二階にある穂乃果の部屋に向かう。

「何かパリってポテチを食べる音が聞こえるよ」

誰かいる、では誰がいるのか―穂乃果は勢い良い扉を開けた。

「あっ、久し振りだね!穂乃果、海未、ことり」

座って箸でポテチを食べながら漫画を読んでいたあかりの姿があったのだ。

「嘘…あかりちゃん…」

 

「嘘じゃなくて正真正銘本物のあなたの従姉妹の頼尽あかりですよー」

「本当にあかりなのですか…!?」

「だから本当に頼尽あかりだって言ってるよ」

「本当の本当にあかりちゃんなんだね…」

「本当の本当に頼尽あかりだから安心して」

3人の問いにあかりそう返して数秒後。

「あかりちゃぁぁぁぁぁん!」

「あかり!」

「あかりちゃん!」

3人はあかりに思いっ切り抱き付いた。

「言ったでしょ?帰ってくるつもりだって」

「何時帰ってきたんですか?」

「昨日の昼過ぎ位にこっちに着いたよ。で、準備やら何やらしてたら挨拶が今日になったという訳」

「その制服、音ノ木坂のだよね」

「うん、4月から音ノ木坂の一年生として入学するよ。

まぁ、3人と同い年なのに後輩って変な感じだよ」

「とにかく、お帰り!あかりちゃん!」

「うん、ただいま!穂乃果!」

 

 

 

 

その日の夜、あかりの自宅。

「―うん、それじゃまたね」

とあかりは父方の従姉妹との電話をした後、ヴェルにメールを送ってベッドに寝転がる。

「でも、流石に言う訳にはいかない、か…」

あかりがネスト所属のアデプトテレイターである事を理事長は立場上知っているが、穂乃果達は知らない―いや、話してないのだ。

「もし知ったらどう思うんだろう…」

ある意味では“似たような境遇”であるヴェルは自分の事を受け入れてくれたが、穂乃果達はどうだろうか…

彼女達の事だから受け入れてくれるかもしれないが、もしもの場合―彼女達から突き放される可能性も考えると怖いのだ。

「考えるのは止めて今日はもう寝よう…」

と呟き、消灯して眠りに就こうとした時だった。

『ジーオス出現』

とセンサーがジーオスの姿を捉えてあかりのスマホに連絡を飛ばしたのだ。

あかりはすぐさまベッドから起き、支度を済ませた後、部屋の片隅の本棚の5段目の左端にある辞書程の厚さの本を手前に引く。

するとポスターが貼られた左隣の壁が後ろに下がり、本棚の奥行きより1センチ程下がった後、壁は右側に開いて隠し通路が出現する。

あかりは隠し通路の入り口にあった靴を履いて通路の奥を進んでいき、専用のガレージへと到着、停車しているトレーラートラックに乗り込み発車させるのだった。

 

 

「だ、誰か助けて…」

と小泉花陽は助けを願っていた。

友人の家から自宅へと帰る途中、偶然にもジーオスの姿を目撃、ジーオスに目を付けられてしまい囲まれているのだ。

ジーオス達が花陽で“遊ぼう”とした時、鳴り響いたクラクション音を聞いてジーオス達は思わずその方向を向いた。

花陽もその方向を向くと、あかりの“運転する”トレーラートラックが迫って来ていたのだ。

「バルバトスマグナス、トランスフォーム」

変声器を通したあかりの静かなかけ声によってトラックは“あかりをコア”として変形を開始する。

ボンネットが腕部に、後部の荷台が脚部に、ルーフが踵へ、運転席周りが胴体へと変形する。

それは花陽を始めこの地球の普通の人間達が知るMSとは異なる存在。

「あれはモビルスーツ…じゃない…!」

平均的なMSよりも大きい、10メートル近くはあろうかという巨体のロボット―トランステクター“バルバトスマグナス”はジーオスとの交戦を開始する。

マグナスは刀を手にジーオス達を次々と斬りつけていく。

だが、ジーオス達も片腕・片翼が斬られたとしても口からエネルギー弾を発射するなどしてまた襲ってくる。

それに対しバルバトスマグナスはハンドライフルやショルダーランチャーを発砲する事でエネルギー弾を相殺し、一気に近付いてジーオスの首を刀で切断する。

ジーオス達を殲滅した後、バルバトスマグナスは呆然と見上げている花陽へ

「この事は誰にも言うな」

と変声器を通した声でそう言い、トラックに変形して去っていった。

 

 

入学式の翌日、掲示板のに貼られていた貼り紙を見た穂乃果、ことり、海未、あかりは驚愕していた。

「は、廃校!?」

「それってつまり―」

「学校がなくなるという事ですか!?」

「私、昨日入学したばかりなんだけど!」

廃校の知らせに

「わ、私の輝かしい高校生活が…!」

穂乃果はショックの余り倒れてしまい

「穂乃果!」」

「穂乃果ちゃん!」

3人の呼び掛けも虚しく気を失ってしまうのだった。

 

 

 

 

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第11話『スクールアイドル』

「学校が無くなる学校が無くなる学校が―」

穂乃果は机に伏してひたすら同じ単語を呟いていた。

「穂乃果ちゃん、すごい落ち込んでる…。

そんなにこの学校が好きだったなんて…」

「違います。勘違いしてるんです」

ことりの言葉に海未はそう否定した後

「どーしよう!?ぜんっぜん勉強してないよー!!

この学校無くなったら別の学校入らなくちゃいけないんでしょ!?今から試験の勉強なんて間に合わないよぉ!」

穂乃果はまくし立てる。

「やはりですね…」

予想通りの結果で溜め息をつく海未。

「海未ちゃんやことりちゃん、それにあかりちゃんは良いよー!成績良いんだから!それに比べて私はっ!」

「あかりちゃんと私達を同じ土俵で比べるのは…何せ“神童”って呼ばれてた位だし…」

苦笑いを浮かべることり。

未だに騒ぎ立てる穂乃果に

「落ち着きなさい!私達が卒業するまで学校は無くなりません!」

海未はそう言うのだった。

 

 

「―なる程、そんな事がねぇ…」

あかりは今朝の出来事を海未とことりから聞かされていた。

穂乃果は海未の懇切丁寧な説明によって『現在いる生徒達が卒業してから正式に廃校となる』という現状を漸く理解した。

「そうなら早く言ってよ~!いやぁ~!今日もパンがウマいっ!」

現金な穂乃果にもはや怒る気が失せた海未。

「でも、正式に決まったら、一年生は入ってこなくなって、来年からは二年生と三年生だけ…」

「私達一年生は卒業まで後輩無しってことになるんだよね…廃校まで最短で後三年、か…」

二年生はともかくあかり達一年生は確実に人がいなくなっていく音ノ木坂学院を見ることになるのだ。その心境は計り知れない。

「―ねえ、ちょっと良い?」

そんな中、4人に声を掛けたのは生徒会長の絢瀬絵里だった。

あかりは驚いた表情を浮かべていたが、絵里に対してではない。

「希…?」

「もしかしてあかりちゃん…?」

隣にいた生徒副会長―東條希に対してである。

「希、その新入生と知り合い?」

「うん、何年か前にアメリカで」

希の言葉にそう、と返した絵里は本題に移る。

「南さん」

「はいっ!」

「貴方、確か理事長の娘よね?…理事長、廃校の件について、何か言ってなかった?」

「…いえ、私も今日初めて知りましたので…」

そう、と呟いた絵里はその場を去ろうとする。

「あの!本当に学校、無くなってしまうんですか?」

穂乃果は絵里を呼び止めてそう問うが

「貴方達が気にすることじゃないわ

と絵里は返すのだった。

 

その日の放課後。

「ほな、また明日」

「えぇ、また明日」

生徒会の業務を終えた希は生徒会室を後にする。

校門まで歩くと一人の人物の姿があった。

「あかりちゃん…どうしたん?」

「この後、ちょっと良いかな?」

 

とある焼肉店。

「今日は私が奢るよ“仕事”で儲かってるし」

「ありがとう。でも、どんな仕事なん?」

「それは…今は言えない。言える日が来たら言うよ」

というあかりの言葉に希はこれ以上の詮索を止める。

話の流れを変えようとあかりは話を切り出した。

「まさかこの学校に入学してたなんて思わなかったよ」

「ウチにこの学校を教えたのはあかりちゃんやろ?」

「そうだったね。それと…もしかしてキャラ変えた?」

「うん、色々あってな。…で、訊きたい事があるんやろ?」

「うん、廃校の件について」

「ウチら生徒会も昨日聞かされたんよ。

今の音ノ木坂の生徒数は少なく、一年生に関しては一クラスだけ。

それに秋葉原にはUTX学院があって、其方に生徒を奪われているのが現状やしね」

「廃校になるのも分からなくはない、か…」

「そう言えば、あの3人とは知り合いなん?」

「うん、前に言ってた幼なじみだよ。

同い年なのに学年は私の方が下って何か変な感じだよ」

確かにそう言ってた、と希は思い返していた。

「そっちも大変じゃないかな?見た感じ、あの生徒会長さん、結構焦ってたというかかなりピリピリしてたというか何というか…」

「生徒会長…ウチはエリチと呼んでるんだけど、エリチは学校への思い入れが強いんよ。

多分、その所為もあるんやと思う」

「なる程、ね…。まぁ、手伝える事があれば手伝うよ」

「ええんか?ウチとしては嬉しいけどあかりちゃん、仕事とか…」

「大丈夫大丈夫。私の“仕事”は基本的に呼び出されるまでは待機という名の自由行動だから。

その代わりに私“達”の方も何かあったら協力して欲しいかな」

「“達”ってあの子達の事も入るん?」

希の言葉に頷くあかり。

「恐らく、3人も廃校阻止に向けて動くと思う。

特に穂乃果―高坂穂乃果の行動力はすごいからね。

あの子はまるで思い立ったが吉日を地で行く様な子なんだよ。

もちろん私も何とか廃校を阻止するために出来る限りの事を色々やってみるつもりだよ。

それでも私は穂乃果が何か“ドでかい”事をするんじゃないかと楽しみでもあって期待してる。

だから、もし何かあったら彼女達に協力して欲しい」

あかりの言葉に希は

「面白そうやね。ウチも協力するで」

と笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

翌日の昼休憩。

あかりは穂乃果達のクラスへ向かったのだが…

「あかりちゃん!スクールアイドルだよ!スクールアイドル!」

穂乃果に手を引っ張られ、空いた席に座らせられた。

スクールアイドルって最近何かとブームになってる学校で結成されたアイドルの事である。

あかりは昼食のコンビニで買ったおにぎりを食べながら穂乃果が持ってきた雑誌をめくる。

「なる程、だいたいわかった。

まさかとは思うけどスクールアイドルをやるって事じゃ―」

「その通りだよ!あかりちゃんもスクールアイドル、やらない?」

と誘う穂乃果。

「実は今朝、私とことりもスクールアイドルをやろう、キラキラしている、等と調子の良いことを散々言われ…」

「海未ちゃんったら、『アイドルは無しです!』なんて言って怒るんだよ!

あかりちゃん、酷いよね!」

「…う~ん、まぁ、いきなり

『アイドルやろうぜ!』

って言われて

『Oh yeah!やろうぜヒャッハー!』

なんて答えられる人はあまりいないんじゃないかな…」

苦笑いを浮かべるあかり。

「大体!穂乃果は何も分かっていないんです!

今朝も言いましたかあの雑誌に載っている彼女達は然るべき努力を積んでいるんです!

好奇心だけで始めても、上手くいくはずありません!」

「海未ちゃん落ち着いて…

穂乃果ちゃんも何か考えがあって言ってるって私は思う」

ことりは海未を宥める。

この3人のやり取りを懐かしいなと思いつつあかりは穂乃果に問う。

「じゃあ、何で穂乃果はスクールアイドルをやりたいの?」

「だってアイドルってキラキラしてるし、歌だってダンスだってすごいんだよ!?

あかりちゃん、『A-RISE』ってスクールアイドルのグループを知ってる?」

「(知ってるどころか私はそのリーダーとは父方の従姉妹だったりするんですけど)う、うん。知ってるよ」

「私ね、今朝UTX学院に行ってA-RISEがパフォーマンスしているの見て来たんだ!

それを見て『これだっ!』って思ったんだよ!」

穂乃果のお気楽さに

「話になりません!」

「あっ、海未ちゃん!」

海未は我慢の限界を超えてしまったようで

「もう一度ハッキリ言います。アイドルは無しです!」

そう言い残して教室を出て行った。

「海未ちゃんも別に意地悪したくて言っている訳じゃないと思うよ」

ことりは拗ねている穂乃果を宥める。

拗ねた穂乃果は頬をぷくーっと膨らませる。

「ことりちゃんはどうなの?スクールアイドル」

「私は良いと思うなぁ。可愛い服着られるし」

穂乃果に対し笑顔で返すことり。

「あかりちゃんは!?あかりちゃんはやるよね!」

と詰め寄る穂乃果にあかりは首を横に振る。

「悪いけど、私は“仕事”の都合とかあるし、それに…いや、何でもない。とにかく、私がやる訳にはいかないんだよ」

「それってどういう―」

と尋ねようとすることりに

「ごめん、その理由は今は話せない」

あかりはそう返し、二人は落ち込んだ表情を浮かべる。

「だったらマネージャーとかでも良いから!」

穂乃果の言葉にあかりは暫く考えてからこう口にした。

「非常事態だし、私も廃校は嫌だからね…“廃校を阻止”するまではマネージャーとして手伝っても良いよ」

「本当!?ありがとう、あかりちゃん!」

と穂乃果は笑顔で返すのだった。

自分の教室に戻る途中、あかりはこう思っていた。

(“血塗られた存在”たる私がスクールアイドルをやるわけにはいかないんだよね…

とりあえず廃校を阻止する為に穂乃果ちゃんに協力する、でもその後は…いや、今は廃校を阻止する事を考えよう)

 

 

 

 

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第12話『奏でられる音色』

「海未ちゃんも別に意地悪したくて言っている訳じゃないと思うよ」

ことりは拗ねている穂乃果を宥める。

拗ねた穂乃果は頬をぷくーっと膨らませる。

(二人のいがみ合い、仲直りするまで苦労するんだよねぇ…

私がいなかった間、ことりはどんだけ苦労したんだろうか…)

南ことりという人物は基本的に自分の意志をしっかり伝える方ではなく、二人から一歩離れた立場で物事を眺めているタイプである為、こんな感じに二人の板挟みにあうのだ。

「ことりちゃんはどうなの?スクールアイドル」

「私は良いと思うなぁ。それに可愛い服着られるし」

穂乃果に対し笑顔で返すことり。

そう言えば昔からかわいい服とか好きだったなぁ…とか考えていたあかりだったが

「おっと、そろそろ時間だから私は教室に戻るね」

「うん!じゃあまた後で!」

 

 

スクールアイドルを始めるに当たってやるべき事はグループ名は勿論の事、練習場所や曲の作成など多いのである。

グループ名や曲は穂乃果達に任せるとして、あかりは練習場所を探した。

「やっぱり此処かなぁ…雨が降ると使えないけど、広くて音を気にしなくて良いし」

とあかりが屋上を見回してそう呟くいた後

「これは…ピアノの音…?」

聞こえてくるピアノの音を探って辿り着いたのは音楽室だった。

中で演奏していたのは赤毛の女生徒。

“学年”はあかりと同じ一年生であり、その演奏する姿は幻想的でとても美しかった。

演奏が終わるのを見計らい、あかりは音楽室に入った。

演奏を終えた少女にあかりは拍手を送った。対する少女はあかりの存在に驚くと同時に自身の演奏を聴かれていた事が恥ずかしかったのか顔を少し赤くしていた。

「確か…頼尽さん、でしたよね?」

「うん、そうだ。西木野さん、何時も此処で演奏してるの?」

あかりの言葉に少女―西木野真姫は頷いた。

「それにしても凄かったよ~!思わず見とれちゃったよ!」

「あ、ありがとうございます…」

照れる真姫。

「う~ん、こんなに上手いなら歌手やミュージシャンとして充分にやっていけると思うよ」

「…さっき来た2年生にも同じ事を言われましたよ」

「2年生?」

「はい、さっき2年生の人が来たんです。

…その人は私にアイドルやってみないって勧誘しに来たんですよ」

あかりの頭にある人物の姿が浮かび上がってくる。

勧誘なんて事をしてくる人物はあかりの知ってる中で一人ぐらいしかいない。

「そ、そうなんだ~それはそうと同じ学年なんだしもうちょい砕けた喋り方でもOKだよ」

「えっ、うん…わかったわよ…」

それから二人は世間話をし始めた。

世間話と言っても殆どあかりが一方的に話して、真姫が相槌を打つといった感じである。

帰ろうと思えば帰れたかもしれないが、真姫は付き合う事にした。

西木野真姫という少女は何だかんだで押しに弱い所があるのだ。

「いや~、やっぱり帰国子女だからとか年齢が年齢だからとかでみんな遠慮してるからなのか同学年の子から中々話しかけられないんだよね。

まぁ、話しかけづらいと思ってる私の方に問題があるかもだけど」

あかりは他のクラスメートより1歳年上―普通に学生生活を送っていれば二年生になっていた筈である。

「…昼休憩は何をしてるの?」

「基本的には同い年の従姉妹や幼なじみとランチタイムか生徒会副会長とトーキングタイムかな」

「副会長と?」

「そう、アメリカで知り合ってね。

あっそうだ、真姫。さっきの曲、もう一回引いてもらって良いかな?」

「…じゃあ、一回だけよ。それが終わったら私はもう帰るから」

「ありがとう!」

あかりは真姫の演奏を聴くのに脳を集中させる。

あかりは真姫の演奏にすっかり魅了されていたのだ。

 

 

 

 

演奏終了後、真姫自身も満足したのか帰ってしまった。

「じゃあ、私も帰るかな」

余韻に浸っていたあかりも立ち上がり帰ろうとする。

「って、どうしたの?希」

「生徒会としてちょっと頼みたい事があるんやけど聞いてくれへん?」

希から頼まれ事―生徒会の仕事を手伝って欲しいという事を聞いたあかりは希と共に必要な物を取りに生徒会室へ向かった。

 

「頼尽さん?何か用でも?」

絵里はあかりに問うが…絵里の言葉には少しながらも苛立ちが含まれていた。

疑問を浮かべるあかりに希は事情を説明する。

「実は理事長の所に行ってきたんよ。

それで廃校を阻止するために、生徒会独自で活動するための許可を貰いに行ったら却下されてしまったんや」

「なる程、だから機嫌最悪なんだね。さて、話を戻しますが、生徒会の手伝いに来ました」

「生徒会の…?私は頼んでないわよ」

「ウチが頼んだや、エリチ」

希は手伝いを頼んだ事を話し、絵里も「助かるわ」と言って了承した。

あかりが仕事に取りかかろうとした時

「失礼します!」

「…穂乃果ちゃん!?」

生徒会室に現れたのは、穂乃果と海未、ことりであった。

海未もまた穂乃果の頑張る姿を見て一緒にスクールアイドルになることを決めたのだ。

「あかりちゃん!?どうして此処に?」

ことりの言葉に

「希に頼まれて生徒会の仕事のお手伝い」

「なる程…ところで気になっていたのですが、副会長とはどういう知り合いなんですか?」

「アメリカにいた時に知り合ったんだよ」

と海未の疑問にあかりはそう返した。

本題を思い出した穂乃果はある書類を絵里に提出する。

「…これは?」

「アイドル部設立の申請書です!」

「それは見れば分かります」

「では、認めて頂けますね?」

「―いいえ」

絵里はそれをきっぱり否定した。

あかりは希とアイコンタクトを取り、様子見する事にした。

「部活は同好会でも、最低五人は必要なの」

「ですが、校内には部員が五人以下の所も沢山―」

「どの部も設立時は五人以上いたわよ。だから―」

「あと一人やね」

「誰の事を入れているんですか?」

「え、書いてあるやん?」

絵里が持っていた申請書を覗き込んだあかりが面食らったのも無理はない。

その申請書のメンバーには自分の名前も入っていたのだ。

「もちろんあかりちゃんもアイドル部のメンバーだよ!」

「(穂乃果の笑顔が眩しい)まぁ、マネージャーならやるって言ったからね…」

あかりは呟く。

「あと一人…分かりました!あかりちゃん、また明日~!」

「うん!また明日~」

立ち去ろうとする穂乃果達を

「―待ちなさい!」

絵里は引き止めて問う。

「何故今の時期にアイドル部を始めるの?

貴方達は二年生で、頼尽さんは一年生でしょう?」

「廃校を何とか阻止したいんです!スクールアイドルって、今すごく人気があるんですよ?だから―

「だったら五人以上集めて来ても、認める訳にはいかないわね」

―何故ですか!?」

「部活は生徒を集めるためにやるものじゃないからよ。

思いつきで行動したって、この状況はそう簡単に変えられることは出来ないわ」

絵里が言った事も間違いではなかった。

「変な事を考えている暇があるのなら、残り二年、自分のために何をするべきかよく考える事ね」

絵里は申請書をつき返し、穂乃果達も生徒会室を後にした。

「さっきの台詞、どっかの誰かさんに聞かせたい台詞やったな」

希はそう呟いた。

「…頼尽さん、貴方はどう思っているの?彼女達がアイドル部をやることに対して」

「私は彼女達に協力しますよ。“仕事”の関係もあるのでバックアップ面で、それも廃校を阻止するまでですけどね」

 

 

 

 

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キャラクター紹介


・頼尽あかり(らいじん―)
種族:人間/アデプトテレイター/アデプトマスター
所属:特殊災害対策機関《ネスト》日本支部
誕生日:12月18日
血液型:A型
μ's結成時の年齢:16歳
好きな食べ物:うどん
嫌いな食べ物:栗以外の果物(特に柑橘系)全般
好きな戦車:Ⅳ号戦車
好きな恐竜:アロサウルス
高坂穂乃果の母方の従姉妹にして(A-RISEのリーダーである)綺羅ツバサの父方の従姉妹である少女。
穂乃果とは同い年でもある。
両親の仕事の都合でアメリカへ留学していたが、諸々の理由から日本へ帰国、音ノ木坂へ入学した。
編入試験ではなく入試を受けたので学年自体は穂乃果達の一つ下(本人曰わく高校ぐらいは三年間ちゃんと過ごしたいとの事であったが今にしてみれば穂乃果達と同い年なのに学年が一つ下って変な感じとの事)。
また、希とはアメリカで知り合っており、その時に仲良くなった。
両親は既に他界しており、“仕事”の都合もあって現在は一人暮らしをしている。
両親の影響もあってか特撮怪獣映画やアニメが好きなオタクでもある。


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第13話『始める為の準備』

翌日の昼休憩。

「ポスター…集客しないととか思ってたけど行動が早いですなぁ…」

あかりは掲示板に貼られたポスターを発見しつつ、穂乃果達の教室に到着する。

教室ではことりがスケッチブックに何かを描いていた。

書き終わったことりは描いた絵を見せる。

ピンクのワンピース風の衣装を着た穂乃果のイラストだ。

「何これかわいい!」

「ことりちゃん!これかわいいよ!凄く良いと思う!」

「あかりちゃん、穂乃果ちゃんありがとう!

ちょっとだけ難しい所があるけど、頑張って作ってみるよ!海未ちゃんはどう?」

恥ずかしがり屋である海未は固まっていた。

「…このスゥッと伸びている二本のこれは…?」

「脚だよ」

「即答だね、ことり。というか海未よ、これが脚じゃなかったら何だって言うんだい?」

「大丈夫だよ!海未ちゃん、そんなに脚太くないよ!」

「人の事言えるのですか!?」

海未の指摘に穂乃果は自身の下半身を触り

「よし、ダイエットだ!」

「二人とも大丈夫なんじゃないかなぁ…」

「あかりちゃんは…小学校を卒業した頃からあまり変わらないよね」

「ま、まぁね。それはそうと、グループ名はあるの?」

固まる3人に大丈夫かこの子達…と思うあかりは次の話題を持ち出す。

「あっ、それはそうと練習場所は確保したよ~。まぁ、屋上なんだけど…一応生徒会からOK貰ったから問題なく使えるけど…」

「雨が降ると使えない、ですか」

海未の言葉にあかりは頷く。

「でも、音を気にせずに練習できるよね!」

穂乃果の言葉に「Yes!」とあかりは返した。

「それはそうと曲の方はどーなの?」

「一年生にすっごく歌とピアノが上手な子がいたんだよ!

作曲も出来ると思うから明日私の方から頼んでみるよ!」

「もし作曲してもらえるなら作詞は大丈夫だよね、って穂乃果ちゃんと話してたんだ」

そう言った後、ことりは穂乃果と顔を合わせ

「海未ちゃんさ、中学校の時、ポエムとか書いてたよね…?」

海未に迫った。

「えっ!?」

「ポエム?」

頭を傾げる海未。

あかりもを首を傾げるが直ぐに大体の事を察した。

「私達に読ませてくれたことも、あるよね」

ニヤニヤしながら海未に迫る穂乃果とことり。

何を言うのか察した海未はその場からの脱出を試みるが…あかりに捕まる。

「嫌です!中学の頃のなんて恥ずかしいんですよ!」

と抵抗する海未に

「海未ちゃん…おねがぁい!」

ことりは渾身のおねだりを決行。

「もう…ことりはズルいです…」

海未は観念して作詞を引き受ける事になった。

 

放課後、1年生の教室。

「練習メニューはざっとこんな感じ、かな?」

とあかりはシャーペンを下ろす。

穂乃果達には先に帰る様にと言った彼女が書いていたのは練習メニューの内容である。

主に体力づくりの為の基礎トレーニングについて書かれている。

(一年のピアノの上手い子って十中八九、真姫だろうなぁ…)

と考えていた時だ。

「あれ?頼尽さん?」

あかりは声がした方を向く。其処にいたのは眼鏡をかけた生徒―小泉花陽である。

「小泉さん、どうしたんだい?」

とあかりは花陽に問う。

「ちょっと、忘れ物を取りに…頼尽さんは?」

「練習メニューを考えてた」

「練習メニュー…?」

と首を傾げる花陽はあかりが書いたメニュー表を覗き見る。

「これって運動部か何かの…?」

「ううん、スクールアイドルの、だよ」

スクールアイドル、という言葉に花陽は反応した。

この娘―花陽はスクールアイドルに興味がある、そう察知したあかりは言葉を続ける。

「従姉妹と幼なじみがスクールアイドルを始める事になってね、私はその手伝いをする事になったんだよ」

「マネージャーみたいな感じ?」

「うん、そんな感じ。そうだ、ライブを新入生歓迎会の後、午後四時から行うから来てみてよ」

あかりはそう言ってメニュー表を鞄の中に仕舞い

「あっ、私は皆より年が一つ上だけど、学年は同じなんだし、私も気にしないから畏まらなくて良いよ」

「う、うん…わかったよ。えっと、あかりちゃん」

二人がそう話していた時だった。

「かよちん、遅いにゃ~」

短髪の女生徒が花陽に声を掛けてきたのだ。

「あっ、ごめんね。凛ちゃん。あかりちゃんと話をしてたら長くなっちゃって…」

「あかりちゃんって、もしかして頼尽さん…?」

「うん、もしかしなくても頼尽あかりだよ~

君は星空凛さんだね」

「そうですにゃ」

と頷く短髪の女生徒―星空凛。

そんな凛を興味深そうにあかりは見つめる。

「どうかしましたか…?」

「うんうん、個性があってかわいいよ!」

その言葉に凛は照れていた。

「さぁ、凛も遠慮せず話して貰って良いよ~」

とサムズアップをするあかり。

「う、うん、わかったにゃ!」

凛がそう言った後

「んじゃ、二人共、これから宜しくね!」

あかりはそう言ってその場を後にするのだった。

 

 

 

翌朝の神田明神・男坂門前。

あかりはジャージに着替えて片手にストップウォッチを、片手に記録用紙とペンを持って立っていた。

そう、今日からファーストライブまでの朝と晩はここの階段で基礎体力を付ける練習―あかりが考案した練習メニューをこなす事となった。

「…キツイよぉ~!」

「足が、もう…動かないよぉ~!」

(私からしてみるとこれでも訓練校のメニューに比べたらまだ優しいレベルなんだけね。

海未は弓道部で鍛えられているから問題はないけど穂乃果とことりは…

まぁ、普段から積極的にスポーツとか運動するってタイプじゃなかったからなぁ~)

普段から弓道部で鍛えられている海未はともかく穂乃果とことりは普段は積極的に運動している訳ではないので息が上がっていた。

尤もこの男坂は400段近い急階段である為、この結果もあかりの想定の範囲内であった。

あかりは二人にスポーツドリンクを渡しつつ今後―ファーストライブ後の活動プラン等について色々考えていた。

「もう一度言いますが、今日からライブまでの朝と晩、ここでダンスと歌とは別に、基礎体力を付けてもらいます」

一方の海未は穂乃果にそう言った。

「一日二回もやるのぉ~!?」

「やるからにはちゃんとしたライブをします!

そうじゃなければ生徒を集めれません」

海未の言葉にやる気になった穂乃果とことりがもうワンセット行こうかとした時だった。

「君達」

呼び掛けてきたのは巫女服を身に纏った希であった。

「あっ、希!巫女服も似合ってるよ~」

「ありがとうな、あかりちゃん」

「アルバイトしているんですか!?」

穂乃果の言葉に希は頷いた後、こう続けた。

「そう、ここでお手伝いしてるんや。神社は色んな気が集まるスピリチュアルな場所やからね。

それはそうと四人共、階段を使わせてもらってるんやからお参りの一つでもしてき?」

希の言葉に従い、四人は拝殿へとお参りをしに歩いていった。

四人の姿を見て希はこう呟いた。

「あの四人、本気みたいやな」

だからこそ自分も出来る限りの事はしよう、と改めて思いながら。

 

 

 

 

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第14話『We are called“μ's”』

神田明神での基礎練習終了後、あかりはあるスーパーを訪れていた。

アデプトテレイターであるあかりは食事を取らなくても一応は生きていけるが、彼女自身食べる事が好きである。

…苦手な食べ物もある事から目を背けて。

さて、そんな彼女が何故スーパーを訪れているのか…それは特売日だからである。

食材など安く大量に手には入るに越したことはない。

「―さて、食べたい食材も手には入ったし帰るとしますかな」

とあかりはレジへ向かおうとしたが…

「この私が何という不覚…」

と呟く同い年位の黒髪をツインテールにした少女の姿を発見した。

あかりは少女の制服から音ノ木坂の3年生である事を確認した。

「あの~」

とりあえずその少女に声をかける

「何よ?」

「この中に欲しい食材とかありますか?」

ツインテの少女はあかりの持つ買い物かごを物色する。

「―これとこれが欲しいわね。でも、本当に良いの?」

「はい!何やら困ってた様でしたので放ってはおけなかったですし」

「ありがとう。良かったら一緒に夕食でもどう?」

「良いんですか?」

何だかんだでその誘いにあかりは乗る事になった。

「あっ、自己紹介がまだでしたね。私は頼尽あかり。音ノ木坂の一年生です」

「私は矢澤にこ。音ノ木坂の三年生よ。

まさか、噂の一年生に会えるなんてね」

「噂ですか?」

あかりの言葉にツインテの少女―矢澤にこは頷く。

「そう、アメリカからの帰国子女の一年生がいるっていう噂をね」

「そ、そうでしたか…」

とあかりは苦笑いを浮かべる。

色々話をしている間ににこの自宅(マンション)へと到着した。

その後、にこの妹二人―こころとここあや弟―虎太郎に迎え入れたあかりは最初は少し警戒を持たれていたが次第に仲良くなっていった。

一緒に食事を作り、食事を取った後、あかりはにこと食器を洗いながら話をしていた。

「―そうですか、お父さんは…」

「そう、虎太郎を産んですぐに交通事故に遭って…

あんたはどうなのよ?今は一人暮らしなの?」

「何故一人暮らしって思うんですか?」

「何となくそんな感じがしたからよ」

「…まぁ、一人暮らしなのは正解です。

両親は何年か前にアメリカで“事故”に遭って…私は何とか生き延びたんですが…」

「…悪いことを聞いたわね」

「いいえ、気にしないでください!私は両親の分まで生きるって決めたんですから!」

と笑顔を浮かべるあかり。

片付けが済んだ後

「今日はありがとうございました!」

「ううん、こっちこそありがとう」

「また来ても良いですか?」

「えぇ、勿論歓迎するわ!」

にこに送られあかりは帰路に就くのだった。

 

 

翌日の昼休憩。

「あかりちゃぁぁぁぁぁん!」

昼飯べ終えたあかりは穂乃果に呼び出された。

「どーしたの?」

「グループ名だよ!グループ名を書いてくれた人がいたんだよ!」

穂乃果からピンク色のメモ用紙を受け取り、それを広げる。

「『μ's』…この場合は恐らく薬用石鹸の方じゃなくてギリシャ神話の女神からだね」

「『μ's』…そうだ、μ'sだ…今日から私達はμ'sだよ!」

嬉しそうな表情を浮かべる穂乃果に対しあかりは『μ's』と書かれたメモ用紙を眺めながらある事を考えていた。

(μ's…私が知る限りこの名前を思いつくのは一人しかいない…という事はこのユニットは“9人”になった時に始めて完成する…)

 

 

日も暮れて辺りも暗くなってしまった中

「すっかり遅くなってしまったわね…」

絵里はそう呟きながら家路を急ぐが…

「■■■■■■■■■!」

目の前にワイバーン型の怪獣―ジェネラル級ジーオスが現れたのだ。

「あれが噂の…」

絵里はある噂を思い出した。

MSが行動するのが難しい街中にジーオスが現れた場合に現れるMSとも異なる鋼鉄の“変形”する巨人―トランスフォーマー。

トラックから変形したトランスフォーマー―バルバトスマグナスはハンドライフルでジーオスを牽制しつつ接近戦に持ち込んで相手を切り裂いた。

ジーオスの機能停止を確認したマグナスはトラックに変形し、そのその場を後にした。

 

 

 

 

翌朝。

「なるへそね…海未を誘った時みたいにお断りしますって言われたのか?

あかりは穂乃果からの現状報告を聞いて

(穂乃果には悪いけど予想通りの結果だね)

と考えていた。

穂乃果が誰に作曲を頼んだのかも分かっている。

同じクラスだからあかりが頼むのもありなのだが…今回の件は穂乃果に任せている。

「でも、諦めないんでしょ?」

「うん!これからまた頼みに行くつもりだよ!」

「そうそう、諦めずにトライだよ!」

 

 

放課後、神田明神に集合した四人。

穂乃果によると交渉はまた断られたが、一応歌詞は渡したとの事であった。

話し合いをしている中、希があかりを手招きしたのだ。

巫女装束の姿と手にしている箒を見るにこれから掃除をするのだろう。

あかりは三人に断りを入れ、その場を離れ希の元へ向かう。

「順調?」

「まぁね。あとは作曲と振り付けを考えるだけだよ。作曲に関しては…問題ないと思う」

「何故そうだと言い切れるん?」

「ただの私の勘だよ。それに“彼女”を信じているからね。それと―」

希はあかりが何を質問しようとしているのか分かった。

「何故わかったん?」

「筆跡を見て何となく、ね。それに私が知る限りであんな名前を思いつくのは一人だけだよ。

あっ、穂乃果達には言わないから安心して。

じゃあ、穂乃果達が待ってるから行くね。

“企み”についても今は聞かないでおくよ」

「“企み”?ウチが何を企んでるって言うん?」

「ミューズはギリシャ神話の詩・音楽・芸術などを司る九人の女神の事。

そんなミューズの名を冠したと言うことは…。

まぁ、私の方も何人か“メンバーに欲しい”って思って目星をつけてた子達もいるからね」

と言ってあかりは穂乃果達の元へ向かった。

 

 

翌日早朝、穂乃果は三人を屋上へと召集した。

何でも高坂家のポストに宛名無しの封筒が入っていて、封筒の中にはレーベル面にμ'sと書かれたCDが入っていたのだ。

あかりはそれが何なのか分かった瞬間に思わずニヤリとしてしまったのだ。

「皆、行くよ…!」

穂乃果は件のCDをことりが持ってきたノートパソコンに挿入する。

再生ボタンを押すと僅かな間の後からピアノの旋律が流れ出し、ある人物の歌声がピアノが奏でる旋律と共に響き渡る。

「これが私達の―」

「ええ、これが私達の―」

「歌!私達の歌だよ!」

再生中にディスプレイ上に小ウィンドウが現れた。

それはスクールアイドルのグループの殆どが登録しているランキングである。

μ'sも当然そのランキングにエントリーしていたが、今まで一票も入っていなかった為『圏外』だった。

しかし、それが今『999位』へと変わったのだ。

「さあ……練習しよう!」

穂乃果の言葉に海未とことりは頷くと同時に立ち上がる。

あかりは空を見上げながらこう呟いた。

 

 

 

 

「Thank you.This song is very nice…!」

 

 

 

 

To be continue



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第15話『START:DASH』

曲の存在は大きかった、とあかりは思っている。

曲が出来上がって目標は明確に定まった事により、練習の質は大幅に上がったのだ。

今までの基礎体力アップも引き続き行われているが、曲が出来てからは振り付け練習も行われている。

「ワンツースリーフォー!穂乃果ちょい早い!

ファイシックスセブ、ことりそこちょい遅れてるよ!」

マネージャーであるあかりは手拍子でリズムを取り、ダンスの振り付けがちゃんと出来てるかなどを見ていた。

リズムも時計の様に正確に刻み、ダンスも振り付け表を貰ったその日の内に頭の中に叩き込まなければならないが、ある事情から“普通の人間”でないあかりにとっては造作もない事である。

「はいフィニッシュ!みんなお疲れ様!だいぶいい感じになってきたよ!」

あかりは3人にスポーツドリンクを手渡し、自身も微糖の缶コーヒーを一気に飲み干す。

この缶コーヒーはコーラに並んであかりの愛飲している飲み物の一つである。

何かをする前に気合いを入れたい時や一息ついてリフレッシュしたい時にピッタリなのだ。

「ええ。穂乃果がここまで真面目にやるとは思いませんでした。

寝坊してくるものとばかり思ってましたし」

「大丈夫!その代わり授業中に沢山寝てるし!」

「それは大丈夫じゃないから」

さり気なくツッコミを入れるあかり。

「あ!」

立ち上がった穂乃果は何かを見つけ、階段下へ駆け出す。

「お~い!西木野さ~ん!真姫ちゃ~ん!!」

「大声で呼ばないで!」

「何で?」

!恥ずかしいからよ!」

「あっ、そうだ!あの曲、三人で歌ってみたから聴いてみてよ!」

あかりから音楽プレイヤーを受け取った穂乃果は真姫に勧める。

「はぁ?何で?」

「真姫自身が作った曲なんだし聴いてみなさいな」

「だから、私じゃないって何回言えば…!」

あかりの言葉を否定する真姫。

「真姫、私の耳は誤魔化せない、その歌声でバレバレだよ」

あかりはそう言った後、穂乃果の方を向いてアイコンタクトを取り、頷いた穂乃果は真姫の右耳に手早くイヤホンの片側を入れる。

「海未ちゃん!ことりちゃん!」

穂乃果の呼びかけに

「μ's!」

駆け寄ってきた海未と

「ミュージック!」

ことりも加わり

『『スタート!』』

四人の掛け声に合わせて音楽プレイヤーはその曲を再生するのだった。

 

 

翌日の昼―新入生歓迎会当日の昼。

「―了解」

あかりは通話を切るがその様子は不機嫌だった。

こんな重大なタイミングで仕事が入ったのだ。

「…ごめん。…急用が入った」

とあかりは三人に謝罪する。

「私、今はμ'sのマネージャーなのに…皆に迷惑をかけて…大事なライブにも遅れるかもしれない…」

あかりの顔は悔しさや申し訳なさでいっぱいだった。

「迷惑なんかじゃない!あかりちゃんは私達の為に一生懸命に頑張ってくれてるよ!」

「此処は私達に任せてあかりは行ってください」

穂乃果と海未の言葉に

「…ありがとう!ライブに間に合うようにちゃちゃっと終わらせてくるよ!」

あかりは礼を言い

「あかりちゃん、私達、あかりちゃんが必ず来るのを信じてるから行ってきて!」

ことりの励ましに

「約束する!」

と返してあかりは現場へと向かった。

 

 

郊外の廃工場。其処に怪獣―ある者達がジーオスと呼んでいる怪獣達が巣を作っていた。

現場から一番近くにいたのはあかりであった。

他が来るまで少々時間がかかるだろう。

あかりはジーオス達の姿を視認すると

「アデプタイズ!バルバトスマグナス、トランスフォーム!」

運転しているトラック―正確にはトラック型トランステクターと合体、トラックは8メートル程の鋼鉄の巨人―バルバトスマグナスへと姿を変えた。

ジーオス達は巣作りを中断して攻撃を開始する。

「今日はな、大切な日なんだよ…あいつらのファーストライブなんだよ…

なのに…こんな大切な日に…重大なタイミングに現れやがって…」

マグナスの殺気に後ずさるジーオス達。

「空気を読みやがれ屑鉄共がぁぁぁあ!」

ジーオス達がこの日に現れたのは運の尽きであっただろう。

ジーオス達のエネルギー弾をマグナスはハンドライフルや両肩のショルダーランチャーで相殺しつつ

「ガラクタのスクラップがぁぁぁぁ!」

接近戦に持ち込んで刀でジーオスの首を切断し一頭を討伐。

「金属のゴ○ブリ共め!」

別の個体に罵声とショルダーランチャーによる砲撃の雨を浴びせる。

また別の個体がエネルギー弾を放つが、マグナスは首を切断した個体の胴体を盾代わりにし

「Fu○k!」

放送禁止用語を言いつつ盾代わりにした個体を投げ捨てて先程エネルギー弾を放った個体の口にハンドライフルを何発か撃ち込む。

「“俺”の手で地に落ちろ!」

最後に残った個体を刀で真っ二つにして現場にいたジーオス達を殲滅し、作りかけの巣も破壊するのだった。

トランステクターと分離したあかりは上司に通話する。

「…こちら頼尽あかり。現場に出現したジーオスの殲滅完了しました」

『了解したよ』

「これから所要につき“私”は撤収します」

あかりの上司はそう返し、あかりは急いで音ノ木坂へ戻るのだった。

 

 

あかりがジーオス達と交戦していた頃、穂乃果達もライブの準備を進めていた。

照明や音響、呼び込みは穂乃果の友達のヒデコ、フミコ、ミカがやっている。

緊張でガチガチな状態だった海未もチラシ配りなどで吹っ切れていつも通りの落ち着いた状態で穂乃果やことりと共にリハーサルを行った。

 

そして、開演まで残り1分程。

「こんな時って何て言えば良いのかな?」

「さぁ…」

「うーん、なんだろう…」

「μ's!ファイ、オー!とか?」

「穂乃果、それじゃ運動部です」

「穂乃果ちゃんらしくて良いけどね」

「あ、そうだ!確か、番号を言うんだよ。やってみようよ!」

「番号ですか?」

「面白そう、やろうよ!」

一泊置いて

「1!」

穂乃果が

「2!」

ことりが

「3!」

海未が

「「「μ's!ミュージックスタート!」」」

掛け声を上げるのだった。

 

 

開演時間ギリギリであかりは間に合った。

「あかりちゃん、やっと来たね」

「うん、仕事を速攻で終わらせてきたよ。それで、ライブは…!」

あかりの問いに希は自分の目で確かめて、と言わんばかりに親指で講堂の扉を指し、あかりは講堂の扉をそっと開けた。

 

誰もいない客席。

 

ステージでは穂乃果が、あの元気が取り柄の穂乃果が今にも泣きそうな表情を浮かべていた。

「穂乃果…」

「穂乃果ちゃん…」

それは海未とことりも同じだった。

「そりゃあ、そうだ!」

穂乃果は泣きたい気持ちを我慢しようと

「世の中そんなに甘くない!」

涙を堪えて無理にでも明るく振る舞おうとするが…その姿はあまりにも悲しく、痛々しさを感じる。

この日のライブの為に、廃校を阻止する為にこれまで頑張ってきた。

その見返りがこれだとは現実は厳しく、残酷だった。

 

 

ライブを中止にすべきか、あかりはその可能性も考えたその時

「あれ?ライブは?」

希望の光が灯った。

 

 

「かーよちん、陸上部の見学に行こう!」

凛は花陽を引き連れて陸上部の見学に行こうとしていた。

だが、花陽は本当は穂乃果達μ'sのファーストライブを観に行きたかったのだが、なかなか言い出すことが出来なかった。

「ごめん凛ちゃん!」

それでも花陽は勇気を振り絞って単身講堂へと向かった。

「あれ?ライブは?」

そして現在、ライブがまだ始まってない状況に花陽は戸惑っていた。

穂乃果も花陽と面識があったらしく、花陽ちゃん…、と呟いた後、穂乃果の表情が変わった。

「ことりちゃん、海未ちゃん、やろう!この日の為に頑張ってきたんだから精一杯やろうよ!」

ことりと海未の方を向いて言った。

「穂乃果…。そうですね」

「私も、2人と一緒に歌いたい!」

穂乃果はあかりの方を向く。

あかりは頑張れ、と言う代わりに無言で頷く。

そして、音楽が流れると共に三人のファーストライブが始まった。

 

他の有名なプロのアイドルと比べるとまだまだかもしれない。

だが、彼女達の“輝き”はどんなグループにも負けていなかった。

そんな“輝き”に引き寄せられる者達がいた。

何時の間にか花陽の隣に凛がいた。

真姫と希が立って見ていた。

にこは半目だが真剣な眼差しで見定めるかの様に穂乃果達を見つめていた。

 

あかりは涙を浮かべながらこう呟いた。

「Excellent…」

ライブが終わった後、暖かな拍手が三人に送られた。

 

放送室から出てきた絵里。拍手が止んだ中、彼女は穂乃果に問う。

「どうするつもり?」

それに対する穂乃果の答え。

「続けます!」

「何故…?これ以上続けても意味は無いと思うけど」

「やりたいからです!

私、今、もっともっと歌い…踊りたい…そう思ってるんです!

こんな気持ち初めてなんです!

やってて良かったって本気で思えるんです!

この気持ちをみんなに伝えたい…。

このまま見向きもされないかもしれない、応援されないかもしれない…。

…でも、一生懸命この気持ちをみんなに届けたいんです!

いつか、いつの日か必ず…ここを満席にしてみせます!」

その宣言が穂乃果の答えであり決意だった。

 

 

今回のライブは完敗であると言って良い。

だが、これで終わりではない―此処からがスタートなのだとあかりはそう思っていた。

 

 

 

 

To be continue 2nd stage…



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第2章『集う女神たち』
第16話『あと6人は…』


ファーストライブの翌日、昼休憩の屋上。

「やっぱりメンバーが欲しいなぁ…」

あかりは缶コーヒーを飲みながらそう呟いた。

「部が認められるにはあと一人。活動自体、認められているものの部が認められない限り、部費も貰えませんし…」

海未の言うとおりである。

現在の四人の最重要課題はメンバーの確保であった。

最低でもあと一人はいないと部活として認められないというのが部の設立規則である。

現状では活動自体認められているものの部費がないのは少々つらいのだ。

「(二人…いや“5人”には目星は付けてるけどね)一刻も早く探さないと…」

あかりの言葉に

「そう思って、もう学校中にメンバー募集のお知らせをしたんだよ!」

「今日の朝、穂乃果ちゃんと海未ちゃんとで新しいポスターに貼り替えたんだ」

「あとは地道な勧誘ですね」

「よし、じゃあ私も目星をつけている子達に話しかけてみるよ」

あかりの言葉に

「どんな子達なの?」

尋ねることりに

「それはまだ秘密。それに、話を受けてくれるかどうか分からないし、まぁ此処は私に任せておいてよ」

とあかりは返した。

 

(まずは彼女にアタックを仕掛けてみるか…)

授業を真面目に受けつつあかりは勧誘しようとしている人物の事を考えていた。

(西木野真姫…作曲能力はさることながら歌唱力の面でもかなりの戦力になる…)

あかりが勧誘しようと考えている人物―その一人目は真姫であった。

 

 

放課後。あかりは真姫の元を訪れた。

「真姫、ありがとうね」

「何の話よ?」

「μ'sの曲の話だよ」

「だから私じゃないって」

「いやいや、私の耳は誤魔化せないよ。正直に白状しないと…と思ったけど、まぁそう言う事にしておくよ。

ねぇ、真姫。またピアノ、弾いてくれないかな?」

あかりの言葉に真姫は頷き、一曲を弾き始める。

演奏が終わった後、あかりは拍手をして本題を話し始めた。

「ねえ、真姫」

「今度は何よ?」

「μ'sに入る気はない?」

その言葉に真姫は迷っているかの様に見えた。

「迷ってるのかい?」

「どうしてそう思うのよ?」

迷っているのは事実だが、真姫は何故そう聞いてきたのか気になったのだ。

「いや、ただの感だよ、感。μ'sの曲―『START:DARH!!』の作曲だって最終的には引き受けてくれたしもしかしたら…って思ってね」

「生憎だけど、私、大学は医学部って決めてるのよ。両親の意志を継ぐために。だから、私の音楽はもう…」

「じゃあ、何故此処でピアノを弾いてるんだい?」

あかりの言葉に真姫は言い返せなかった。

「まだ音楽を続けたい、そう思っているからピアノを弾いているしゃないかな?」

あかりは静かに立ち上がる。

「まぁ、どうするかは真姫自身の自由なんだけど、“私みたい”に後悔だけはしない様にね」

去ろうとするあかりを

「待って!」

と真姫は引き留める。

「あかりは後悔している事があるの…?」

「取り返しのつかない後悔をした、それだけだよ」

そう返すあかりは何処か悲しげに見えた。

 

「後悔しないように、か…」

あかりが帰った後、真姫はμ'sのポスターを見つめながらそう呟いた。

「スクールアイドル…μ's…」

あかりの言うとおり音楽を続けたいという思いはあった。

真姫はチラシを一枚、素早く鞄の中に仕舞い、その場を後にした―生徒手帳を落としたのと花陽に見られていたのに気付かずに。

 

その日の晩。

「おっきい…」

花陽はただただ驚くしかなかった。

放課後、花陽はμ'sの『メンバー募集』のポスターとチラシの前に立つ真姫の姿を目撃し、真姫が去った後、花陽は真姫の生徒手帳を拾ったのだ。

そして、花陽はその生徒手帳を真姫に届けようと彼女の自宅へと向かったが…西木野家は花陽の想像を超えた大きさの家だったのだ。

インターホンを鳴らす花陽。

『はい』

「に、西木野さんと同じクラスの小泉、です…」

玄関から出て出迎えたのは真姫の母親だった。

『あら、真姫ちゃんのお友達ね。ちょっと待っててね』

真姫の母親にリビングまで案内された花陽。

「真姫ちゃんは今、病院の方に顔を出しているけどもう直ぐ戻ってくる筈だから」

「病院…?」

「あぁ、うちは病院を経営しているのよ。あの子も“その道”に進む予定なの」

その説明を聞いて花陽はこの家の大きさに納得した。

「ただいま~。誰か来てるの?」

「友達が来てるわよ」

「友達?」

母親の言葉を聞いた真姫はリビングに行く。

「ど、どうも」

 

 

 

 

「あの、これ…」

花陽は真姫の生徒手帳を渡す。

「あっ…別に明日でも良かったのに…」

「そ、そうだよね。ごめんなさい、お邪魔しちゃって…」

「そういうんじゃなくて…ありがとう」

「う、うん」

暫くの間、沈黙という名の少々気まずい空気が流れる。

「そういえば西木野さんはスクールアイドル興味あるの?」

「ヴェえ!?」

「その生徒手帳、μ'sのポスターの前に落ちてたから…」

「えぇと、その…そ、それより、あなたの方こそアイドルやってみたいんじゃないの?

いつもあのポスター見てるじゃない。

それにこの間のライブも夢中になって見てたし」

「西木野さんもあのライブを?」

「たまたま通りかかっただけよ!それより、あなた歌声綺麗なんだからやってみなさいよ」

「で、でも…私、可愛くないし…アイドルなんて…」

「でも、やってみたいんでしょ?だったらやってみればいい。やりたいこと諦めたら後悔すわよ」

「え、う、うん。じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

花陽は去り際に

「私も人の事は言えない、かしらね」

という真姫の呟きを耳にするのだった。

 

 

その日の夜。翌日は土曜日―つまりは休日である。

「…よし!」

真姫は登録件数が少ないスマホのアドレス帳からあるアドレスを引き出し、通話をかける。

『は~い、もしもし』

「あかり、明日の朝、ちょっと良い?」

呼び出したのはあかりである。

実は何度かあかりが訪れた際に連絡先も交換してたのだ。

『うん、良いよ~』

「随分とあっさりね」

『まぁ、明日のμ'sの練習は朝9時ぐらいからだけど…真姫の“用の内容”も大体は察しているから』

あの少女は何処まで想定してたのやら、と思う真姫。

「じゃあ、その時間帯に行くわ。それじゃ、また明日」

『うん、また明日~』

 

 

「うん、また明日~」

そう言ってあかりは真姫との通話を切る。

「これでμ'sは4人…あと5人だね」

あかりは既に確信していたのだ。

「それじゃ、明日を楽しみにしつつ寝ます―」

寝ようとした時、レーダーにジーオスが引っかかったという連絡があかりのスマホに入る。

「全く、相変わらず空気読めない連中だなぁ」

とあかりは立ち上がり、ジーオス殲滅へと向かうのだった。

 

 

真夜中の東京湾。

「バルバトスマグナス、トランスフォーム!」

マグナスはロボットモードに変形し、ジーオスとの交戦に入る。

「これはもしかして変異種、って奴なのかな?」

そのジーオスは通常のジーオスとは異なり、その姿は飛竜と言うよりはプレシオサウルスといった首長竜を彷彿とさせている。

さしずめジーオスマリナーといったところだ。

「まぁ、さっさと殲滅するか!」

マグナスはショルダーランチャーを発砲、ジーオスマリナーもエネルギー弾で応戦する。

「こちとら水陸両用なんでね!」

マグナスはジーオスマリナーの背中に飛び乗るが、ジーオスマリナーもマグナスを振り落とそうと口からエネルギー弾を連射する。

「たっぷり味わえ!」

とマグナスは首長竜型ジーオスの頭部にショルダーランチャーを連発して仕留めた。

「ふう…いっちょ上がり…とまではいかないか」

と呟いた時、上空からジェネラル級ジーオスが現れた。

マグナスは刀でジーオスの首を切断するが、切断されたジーオスの首は再生を果たした。

「再生した!?まさか…」

マグナスはある可能性を思いつくと、ジーオスの首を再び切断し、ショルダーランチャーによる集中放火を切断面に浴びせていく。

すると赤く輝く正二十面体の物体が露わになったのだ。

マグナスは刀でその物体を切り裂くとジェネラル級ジーオスは活動を停止させたのだ。

「やはり…あれはコアだったのか…ジーオスマリナーにコア持ちのジェネラル級…厄介な事になりそうだ」

 

 

戦闘から夜が明けた朝の神田明神。

あかりは穂乃果達よりも早めに来ていた。理由は勿論…

「やっと来たね、真姫」

あかりの視線の先には真姫の姿があった。

「先輩達は?」

「そろそろ来るよ…って噂をすれば何とやら、だね」

「おーい、あかりちゃーん!」

海未とことりを連れた穂乃果が手を振っている。

「あれ?真姫ちゃん?どうして此処に?」

と尋ねる穂乃果。

「あ、あの…!その…!」

真姫は一泊置いてその言葉を告げる。

「私はもっと音楽を続けたい…このメンバーで…!だから…私をμ'sのメンバーにしてください!お願いします!」

真姫のその言葉に穂乃果、海未、ことりは驚きつつも互いに顔を見合わせて頷き、穂乃果はこう言った。

「こちらこそ、宜しくね真姫ちゃん!」

 

 

 

 

こうしてμ'sのメンバーは3人から4人へとなったのだった。

 

 

 

 

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第17話『やってみたい気持ち』

『ジーオスマリナーにコア持ちのジェネラル級か…』

「うん、この間始めて見たけど…ジーオスマリナーとコア持ちのジェネラル級はおそらく今後も現れると思う」

あかりは先日の首長竜型ジーオスの事についてヴェルと話をしていた。

『100年近くも戦いが続いているとはいえ奴らは未だに未知数の存在だ。そいつらがこっちにも現れるかもしれないし更に進化したのが現れるかもしれないな…』

「海上安全整備局や各学園艦にも注意は促したらしいけど…」

『今後は戦闘機やヘリだけでなくMSを配備した空母も増えるだろうな』

「そうだね」

 

 

真姫がμ'sに入って数日後の月曜日。

「あ、真姫おはよー」

「おはよう、あかり」

と挨拶を交わす二人にクラス中が驚いた。

人を寄せ付けない雰囲気を持つ真姫と一人だけ年上で話すのが躊躇われるというか話し辛いと(周囲は)思いがちなあかりが親しげに話をしているのだ。驚くのも無理はない。

だが、当の本人達はそんな事など気にせず話を続ける。

 

その日の放課後。

「お邪魔します」

あかりは穂乃果の部屋の扉を開ける。

「あかりちゃん、遅いよー!」

「ごめんごめん、急な“仕事”が入っちゃってね」

穂乃果にそう返答したあかりは珍しい来客に気付く。

「花陽?どうしたんだい?」

「お菓子を買って帰ろうかと思ったら穂乃果先輩に呼ばれて」

と返す花陽。

「あかりちゃんを待ってたんだよ。

今、ちょうどあの動画見つけたところだったし」

とことりはあかりに言う。

「あの動画?」

あかりはことりのノートパソコンの画面を覗き込むとこの前のファーストライブの動画が再生されていた。

「本当に誰が撮ったんだろうか…(まぁ、“誰か”は予想つくけど)」

「ここ!綺麗に出来たよね!」

「何度も練習してたところだったから決まった瞬間ガッツポーズしそうになっちゃってたよ!」

「あ、今の所は―」

穂乃果、ことり、海未は3人でファーストライブの反省会を始めていた。

一方の花陽は動画を食い入る様にして見ていた。

その瞳には憧れや感動といった様々な感情が含まれており、とてもキラキラしていた。

そんな花陽に視線を向けているあかりはこう口にした。

「花陽、スクールアイドル、本気でやってみないかい?

私、花陽に目を付けてたんだよね。この子をμ'sに欲しい!って」

「でも、私…人前に出るのが苦手で…向いてないですから」

「私も人前に出るのは苦手です。向いているとはとてもではないが思えません」

「私もたまに歌詞忘れちゃったりするし、運動も苦手なんだ」

「私はすごいおっちょこちょいだよ!」

「で、でも…」

海未の、ことりの、穂乃果の言葉に揺らぐ花陽。

「スクールアイドルはやりたいって気持ちがあれば出来る!って私は思うな」

ことりの更なる後押しに花陽は揺らぐ。

「尤も練習は厳しいですが」

そう言った海未はすぐさま穂乃果に叱責された。

「さて、花陽にある言葉を授けよう。

アメリカにいた時に知り合いから言われてた言葉があるんだよ。

『やりたい事ならやってみろ。

あの時やっとけば良かった、って50年後に後悔しない為にも』

私も後悔しない様に行動しているつもりだよ」

「ゆっくり考えて、答え聞かせて?」

あかりと穂乃果の言葉に、ことりも続いた。

「私達はいつでも待っているから!」

 

翌日、あかりは授業中に花陽をこっそりと観察すると…花陽はやはり考え事をしている―迷っているようであった。

放課後になり、あかりは屋上へ行く道中、中庭の樹の下に座って考え事をしている花陽の姿を目撃、彼女に話しかける。

「考え事かい?」

「う、うん…正直…私、まだ…そう言えばあかりちゃんはどうしてμ'sのマネージャーを?」

「う~ん、そうだねぇ~廃校を阻止しようと必死に頑張っている従姉妹と幼なじみ達を全力でサポートする為、とでも言っておこうかな。

まぁ、私は私に出来る事をやってるって事だね」

「スクールアイドルをやろう、とは思わなかったの?」

花陽の言葉に

「私じゃ駄目なんだよ…。“仕事”の関係もあるし、それに…いや、これ以上は止めとこう」

あかりはどこか悲しげな表情を浮かべた。

「まぁ、私の事は良いんだよ!それよりも、花陽!」

あかりは立ち上がって花陽の肩に手を乗せ、真面目な表情をする。

「は、はい!」

「昨日も言った通り、後悔だけはしない様にね!…んじゃ、私は屋上へ行くね」

あかりは去り際、花陽に見えぬよう立ち上がった時に遠目に見えた真姫にウィンクをする。

先程から花陽と話をしたそうなオーラが出ている彼女の邪魔をする気はあかりにはないからだ。

 

あかりは屋上へと向かう道中、凛と遭遇した。

「あっ、あかりちゃん。かよちんを見なかったにゃ?」

「うん、中庭にいるけど…今は止しておいた方が良いと思うよ」

「どうして?」

と怪訝な顔をする凛。

「今、お取り込み中だからね。まぁ、そんな事より…凛、スクールアイドルをやってみない?」

「スクールアイドルを…?凛が…?」

「うん、この間のライブ、花陽と一緒に目を輝かせて見ていたのを見てたよ~」

「見られてたんだ…で、でも凛は髪も短いし可愛くなんか…」

とネガティブになる凛の頭をあかりは優しく撫でる。

「あかりちゃん…?」

「髪が短いとか関係ない…前にも言ったように凛は可愛いよ」

「あかりちゃん…」

「んじゃ、私はそろそろ屋上へ行くね。穂乃果達を待たせちゃってるし」

あかりは去り際にこう付け加えた。

「放課後は大抵屋上か神田明神で練習してるから良かったら遊びに来てよ」

 

 

 

 

一方、中庭では花陽と真姫が話をしていた。

「さっき、あかりと何を話してたの?」

「うん、後悔だけはしないようにって…

でも、私なんか…」

「自分を過小評価しすぎよ。あなたは声も綺麗なんだし、後はちゃんと声が出てれば問題ないんだから。

歌の方は私が幾らでもレッスンしてあげるわよ。μ'sの曲は私が作ったんだし」

「えっ、そうなの!?」

花陽の言葉に真姫は頷き、こう続けた。

「それに、私はμ'sのメンバーになったんだから」

「えっ、えぇぇぇぇぇぇ!?」

花陽が驚くのも無理はない。

「私、大学は医学部って決めてて私の音楽はもう終わってると思ってた。

でも、音楽を続けたいって気持ちもあって…そんな時にあかりからどうするかは自由だけど後悔だけはしないようにって言われたの」

「後悔しないように…」

「そして、あなたがウチに来た後、私は決心したの。音楽を続ける事を、μ'sのメンバーとして音楽を続ける事を。あなたもやってみたい気持ちが少しでもあるのならやってみたらどうかしら?」

真姫は言いたい事を言い終えたからか、その場を後にするのだった。

 

 

「あっ、真姫。話は済んだかい?」

あかりの言葉に真姫は頷く。

「後は本人の判断待ちね」

「二人とも、何の話なの?」

と尋ねる穂乃果に

「いや、何でもないよ」

「そんな事よりも練習を始めるわよ」

 

 

「後悔だけはしないように…」

その言葉に噛み締める花陽は屋上へと向かう。

「かよちん…」

その道中、凛と合流する。

「凛ちゃん…」

二人は顔を見合わせて頷いた後、共に屋上へと向かう。

 

 

穂乃果達が練習をしていると屋上入り口の扉が開き、“彼女達”が現れた。

「どうしたんだい?」

やっと来たか、とワクワクする気持ちを抑えつつあかりは彼女達に問う。

「あのっ!」

まず声を発したのは花陽だった。

既に決心をした花陽は感情が高ぶったからかうっすらと涙を浮かべていたが、その瞳に迷いはなかった。

「私、小泉花陽と言います!

一年生で、背も小さくて、声も小さくて、人見知りで得意なものは何も無いです…

…でも、アイドルへの想いは誰にも負けないつもりです!」

「凛はかわいいのとか…自分がアイドルに向いてるのかわからないし自信ないけど…それでも挑戦してみたい!」

そして、二人は息を揃えてこう口にした。

「「そんな私達ですが、μ'sのメンバーに入れてください!お願いします!」」

二人の決心に対する穂乃果達の答え―それはあかりにはわかっていた。

「こちらこそ、よろしく!」

 

 

翌日の早朝。

「朝練って毎日あるんだね」

「当然でしょ」

神田明神の男坂を登りながらそうやり取りをしていた凛と真姫。

上には既に花陽がダンスの練習をしていた。

「かよちんおはよ~!」

「おはよ~!」

と振り向いた花陽は何時もの眼鏡を着けてなかった。

「あれっ、かよちん、眼鏡は?」

「コンタクトに変えてみたんだ。変、かな?」

「ううん、すっごく似合ってるよ!」

「その通り、似合ってるわよ」

「凛ちゃん、西木野さん、ありがとう」

「…あのさ、コンタクトに変えたついでに私の事、名前で呼んでよ。

私も名前で呼ぶから…花陽、凛」

照れながらそう言う真姫に

「うん、真姫ちゃん!」

花陽は頷き

「真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃ~ん!」

凛は真姫に抱き付いた。

「な、何回も呼ばないで!」

「良いじゃん真姫ちゃ~ん!」

「だ、抱き付かないで!」

と言う真姫だったが、まんざらでもないようであった。

 

 

 

 

To be continue




用語解説


・ジーオスマリナー
ジーオスの派生種の一つ。
水上戦に特化した個体で、首長竜をモチーフとしている。


・コア持ちジェネラル級ジーオス
外見は通常のジェネラル級ジーオスと変わらないが、体内に赤い正二十面体のコアが存在する個体。
コアを破壊されない限り再生する事が可能。


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第18話『アイドル研究部』

真姫、凛、花陽がμ'sに入って数日後、時期的には梅雨入りを果たした頃である。

 

三人がμ'sに入ってからあかりにもあるちょっとした変化が訪れた。

今まで昼食は穂乃果達と一緒に食べるか希と一緒に食べるかで基本的には自分の教室で食べたりはしなかったあかりであったが、最近では教室で真姫、凛、花陽と一緒に食べる事が多くなったのだ。

その事もあってか他のクラスメートからも少しずつだが話しかけられる様になった。

年上だからか相変わらず“さん付け(まきりんぱなは除く)”なのだが。

また、時には穂乃果達も加えて7人で食べる事もあったりする。

 

さて、前置きが長くなったが、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の騎士はある日の放課後のμ'sとあかりから物語を始めるとしよう。

「それでは!新生スクールアイドルμ'sの練習を今から始めます!1!」

「2」

「…3」

「…4」

「5!」

「6!」

穂乃果、ことり、海未、真姫、凛、花陽の順での点呼。

海未と真姫に関しては少々呆れ気味だが…

「いいね!いいね!なんかアイドルっぽいよね!」

「…それはもう二週間前のことですよ?」

海未は穂乃果にツッコミを入れる。

「だってだって嬉しいんだもん!」

最初の覚束なかった頃と比べたら流石に(毎日やってる分)慣れたものであった。

勿論、この後に穂乃果がどう言うのかあかりには予測できていた。

「―それはそうと…何であかりちゃん、やってくれないのー!やってよー!」

「だが断る。何回も言った通り、私はあくまでもアイドル部(仮)の部員にしてμ'sのマネージャー。μ'sのメンバーじゃないんだよ」

「私達、そんな事気にしてないよ?」

ことりの言うとおり、気にしているのはあかりのみ。

(…μ'sの“9人”の中に私が入る余地は微塵もないんだよね…)

確かにμ'sは9人揃って漸く完成するユニットだが、あかりはその中に入る気など微塵もなかった。

「いや、私が気にするから。まぁ、私は戦隊でいう番外戦士ポジっていう事で置いといて、これで6人!6人だぜヒヤッハー!」

「そうだね!このメンバーが後には神シックスだとか、仏シックスだとか言われるかもだよ!」

「毎日同じことで感動できるなんて羨ましいにゃー」

穂乃果に対しさり気なく毒舌を吐く凛。

「仏シックスって…死んでるみたい…」

同じく穂乃果に対しツッコミを入れる花陽。

「それにメンバーが増えれば踊りや歌を間違えても誤魔化すことも―「穂乃果」じょ、冗談!

冗談だよ、海未ちゃん!」

「そうだよ。ちゃんとやらないと、また今朝みたいに怒られちゃうよ」

ことりの言うとおり、実は今朝、穂乃果とことりは神田明神で練習していたら黒髪ツインテールにサングラスをした中学生くらいの少女に「解散しなさい!」と言われたのだ。

あかりには希から得た情報もあってかその人物が誰なのかわかっていた。

「でも、それだけ有名になったってことだよね!」

ことりの言うとおり、μ'sの知名度は少しずつ上がってきていた。

「そんなことより練習。どんどん時間無くなるわよ!」

「真姫ちゃんやる気まんまんだにゃー!」

「べ、別にそんなじゃなくて…」

「またまたぁ~凛知ってるよ~!真姫ちゃんがお昼休みに1人でこっそり練習してたの」

「あ、あれは…あれはただ、あのステップがかっこ悪かったから、変えようとしてたのよ!

あまりにも酷かったから!」

「そうですか…」

そんな真姫の言葉に負のオーラを纏わせている者がいた。

「あのステップ、私が考えたのですが…」

その人物―海未は髪を弄りつつ視線を宙に彷徨わせてイジケていた。

「真姫ちゃんは恥ずかしがっているだけにゃ!さぁ、練習いっくにゃー!…あっ」

窓から外を見ると雨が降っていた。

「まぁ、今は梅雨入りまっしぐらだからね」

と呟くあかり。

μ'sの面々は凛を先頭に屋上入り口の扉まで上がっていったが、あかりは付いて行かなかった。

「さ~て、“7人目”はどの様にして引き入れようかなぁ~ねぇ、希」

「そうやねぇ…って、何でウチがいるってわかったん?」

物陰から出て来たのは希だった。

「鍛えられた私の“感”を舐めてもらっちゃ困るよ~」

鍛えられた、と言うのが少々気になるが気にしない事にした。

そんなやり取りをしていた中

「…どうやらあの子達は止めるつもりはないみたいやで、にこっち」

希は歩いてきたにこに言った。

「希…まさかあかりと知り合いだったなんてね…」

「中学校最後の夏休みにアメリカで知り合いになったんよ」

希の言葉にふぅん、と返しにこは去っていった。

「さて、彼女をどうやって陥落させ―いや、引き入れますかな」

去っていくにこの背中を見ながらあかりは呟くのだった。

 

 

 

 

翌朝。

あかりは穂乃果からの召集を受け、彼女と海未、ことりと共に部設立の申請書を提出すべく生徒会室を訪れていた。

因みに穂乃果は昨日、バーガーショップでハンバーガーを食べてる時に部員が5人以上である事に漸く気付いたとの事である。

穂乃果は申請書を絵里に差し出す。

「…部員は揃えてきたみたいね。でもこの学校には既にアイドル研究部と言うものが存在します」

絵里の返答にあかりはやはりか、と呟く。

「アイドル研究部…?」

「アイドルに関する部で、内容がアイドル部(仮)と被っちゃっているんだよね」

やけに詳しいあかりに海未は疑念を浮かべていた。

「まあ、今は一人だけの部やけどね」

「でも、この前部活には五人以上って…」

「…確かに設立は五人以上必要。しかし一回設立してしまえば、後は何人になろうが問題はない」

「頼尽さんの言うとおりよ。

とにかく、生徒の数が限られている中、いたずらに部を増やすことはしたくないんです。

アイドル研究部がある以上、貴方達の申請を受け付ける訳にはいきません。

これでこの話は終わり―「―になりたくなければ、アイドル研究部とちゃんと話を付けてくることやな」っ希…!?」

希の視線に“何が言いたいのかその意図を理解した”あかりは不適な笑みを浮かべるのだった。

「つまりは二つの部が一つとなればそもそも設立申請書を出す必要がなくなり、この問題はなくなる。

更に部室と“新たな部員”を得る事が出来る」

 

 

放課後。

μ'sの面々とあかりはアイドル研究部の部室へと向かっていた。

「あかり、貴方は知っていたいたんですか?」

「アイドル研究部の事かい?」

「えぇ。やけに詳しい様でしたので」

「まぁ、その質問に対する回答はYesだね。

ファーストライブのちょっと後に希から聞いたんだよ。

尤もそのアイドル研究部の“部長”と知り合ったのはグループ名が決まる前日だけどね」

「じゃあ、何で今までその事を黙ってたのよ?」

真姫の問いに

「タイミングを計ってたんだよ。アイドル部(仮)として何れは“彼女”と会うことになるから、その接触するタイミングを、ね」

あかりはそう返答する。

「おっ、噂をすれば何とやら、丁度良いタイミングだね」

あかりはその視界に“アイドル研究部部長”の姿を捉えた。

「にこ先輩、ちょっと良いですか?」

「あぁ、あかりじゃ…っ!?」

アイドル研究部部長―にこはμ'sとあかりが一緒にいて、一緒に来た事に驚いていた。

「あーっ!!じゃ、じゃあ、もしかして貴方が、アイドル研究部の部長!?」

前に出て来た穂乃果も驚いていた。

「あかり、どういう事よ…!何故そいつ等と一緒にいるのよ!」

「何故って、彼女達はμ'sのメンバーであると同時に方の従姉妹と幼なじみと私のクラスメートでもあるんですが、何か?」

にこはとりあえず逃げよう、と考え行動に移そうとするが

「この私から逃げられると思います?」

あかりに先回りされ

「な、アンタ何すんのよ!?というか何て馬鹿力なのよ!」

「私の力を舐めてもらっちゃ困りますよ~みんな、こっちだよ~!」

あかりは片腕でダンボール箱を抱える要領でにこを抱え、先程から面食らって突っ立ってる穂乃果達をアイドル研究部部室へと誘導するのだった。

 

 

 

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第19話『なくてはならない存在』

全員がアイドル研究部部室に入ったのを確認したあかりは鍵を閉める。

そして、穂乃果達は部室内に置いてある沢山のアイドルグッズやDVD、CDを見て感嘆の声を上げていた。

特にドルオタである花陽は目をキラキラと輝かせ機敏な動きで棚にある物を次々と見ている。

一方のにこは椅子に座って不機嫌そうな表情をしていた。

「こ、これは!?“伝説のアイドル伝説”通称伝伝伝の全巻BOX…!?持っている人に初めて会いました!」

あるDVD-BOXを手に取り、その身体を震わせている花陽の言葉に対し少し得意げな表情を見せるにこ。

「家にもうワンセットあるわよ」

その言葉に更に震撼する花陽。

「そんなにすごいの?」

「すごいなんてもんじゃないですよ!」

穂乃果の言葉に花陽は怒鳴り気味にそう返し、手近のパソコンを立ち上げると同時にそのBOXの解説を始めた。

その情熱的でいてかなり詳細に解説する姿は普段の温和な彼女とまるで別人であった。

因みにそんな花陽の幼なじみである凛は

「凛はこっちのかよちんも普段の大人しいかよちんも好きだにゃ~」

と落ち着いていた。

一方、ことりはあるサイン入り色紙を見ていた。

「気付いた?アキバの伝説のカリスマメイドの“ミナリンスキー”さんのサインよ。

まぁ、ネットで入手した物だから本人に直接会ったことは無いけど」

にこの言葉に何故か安心した様な表情をすることりにあかりは疑念を抱くが、とりあえず胸の中に仕舞う事にした。

 

その後、一同はテーブルに着いて話し合いを始めた。

「部長さん!」

「にこよ」

穂乃果の言葉に冷たく簡潔に返すにこ。

「にこ先輩!私達スクールアイドルをやってまして―」

「知ってるわよ。…どうせ希にでも話付けて来いって言われたんでしょ」

「なら―「お断りよ」えっ?」

「私達はμ'sとして活動できる場所が欲しいだけなんです。

なのでここを廃部にして欲しい訳ではありません」

「だからお断りだって言ってんの!アンタ達の行動はアイドルへの冒涜よ!」

「でも!ずっと歌もダンスも練習してきて―」

「そういうことじゃない!」

にこの気迫にあかり以外の面々は押されて黙り込む。

「…あんた達、ちゃんとキャラ作りしてんの?」

「キャラ…?」

首を傾げる穂乃果。

「そうよ!お客さんがアイドルに求めるのは夢の様な楽しい時間!

ならそれに相応しいキャラってもんがあるに決まっているじゃない!

仕方ないわねぇ…!見てなさい」

にこは立ち上がり、後ろを振り向く。

そして、“スイッチ”を切り替えた。

「にっこにこにー!貴方のハートににこにこにー!笑顔届ける矢澤ににこ~!にこにーって覚えてLOVEにこ!」

2年生組は何を言えば良いのか分からず硬直し、あかりは気合いが入ってて相変わらず大したものだと感心し、花陽は真面目にメモを取り、真姫は気だるそうな目で「私無理」と言ってたり、凛に至っては―

「ちょっと寒くないかにゃー?」

禁句たる言葉を堂々と口にしていた。

「アンタ今、寒いって言った…?」

「い、いえ!そんなことないです!すごく可愛いと思います!最高です!」

凛がそう言った後、2年生組もにこを持ち上げ始めるが…本心からにこを尊敬しているのは花陽とあかりのみだった。

「アンタ今、寒いって言った…?」

「い、いえ!そんなことないです!すごく可愛いと思います!最高です!」

凛がそう言っ後、μ's全員がにこを持ち上げ始めるが…本心からにこを尊敬しているのは花陽のみだった。

あかりはただその様子を黙視している。

我慢の限界を超えたにこは

「出てって」

μ'sの面々を追い出すのだった。

「で、何でアンタはまだ居ずわってるわけ?」

「そりゃ話があるからじゃないですか」

「…まぁ、良いわ。私もアンタに話があったし。で、あいつ等とはどういう関係よ?

「言ったじゃないですか。従姉妹と幼なじみとクラスメートって」

「それだけじゃないでしょ。あいつ等とグルなんでしょ?」

「Yes、と言っておきましょう。尤も私はあくまでもマネージャーとして協力しているだけであって、μ'sのメンバーになる気なんて微塵もないんですけどね」

「…その理由は?」

にこの問いにあかりは一泊置いてから口を開いた。

「にこ先輩、いつぞやか言いましたよね。

『アイドルは皆に笑顔を与える存在だ』って。

…にこ先輩や穂乃果達と違って私にはそんな資格―アイドルになる資格はそもそもないんですよ。

貴女方とは違い私は罪を犯した“血塗られた”存在だから…」

そう語るあかりはどこか悲しげにも見えた。

「さて、それじゃ私もそろそろ行きますね。

だけど、予め言っておきます。

あの子達は簡単に諦めるような子達じゃありません。

それに、彼女達にとって貴方は必要な存在である、とも」

そう言ってあかりは退室した。

 

 

 

 

「…何が必要な存在よ…私はアイツ等が妬ましい…」

思い起こすは1年生の時。

にこは他のメンバーと共にスクールアイドルをやっていた。

だが、真剣にアイドルをやろうとしていたにこに対し他のメンバーにとっては遊びでしかなかったらしく、結局は裏切られてしまい、一人になってしまい、それからずっとアイドル研究部を守り続けてきた。

3年生となった今年にμ'sが現れた。

「あかり(アイツ)の言うとおり、ただの遊びとしか考えてない者は、少なくともあのメンバーにはいない…あいつ等は本気でやってる。

それがわかるから余計に妬ましいのよ…妬ましくて羨ましい…!

もっと早く彼女達みたいな人間と出会えたら…。

何でこんな時期に…3年生になって現れたのよ…ふざけるんじゃないわよ…」

にこは涙を流しつつ帰宅した。

 

 

帰り道にて

「にこ先輩にあんな過去があったなんて…」

海未は部室から追い出された後、希から聞いたにこの過去を思い返していた。

「にこ先輩はアイドルが好きでアイドルをやりたいんだよね」

「どうしたの?穂乃果ちゃん」

「これってこの公園でことりちゃんや海未ちゃんと友達になった時と同じだよね!」

穂乃果の言葉に頭を傾げる二人。

「あぁ!確かにそうだよね!」

穂乃果との出逢いをことりは思い出した。

生まれつき左脚が弱く、幼い頃に手術により治療した過去があることり。

退院して数日後、公園でリハビリしている時に

『ねぇ、友達になろうよ!』

と声をかけてきたのが穂乃果だった。

最初は戸惑いがあったが、何回も会って、そして遊んでいく内に親しくなっていき、何時の間にか親友になっていたのだ。

「…確かにそんな事もありましたね」

海未も穂乃果との出逢いを思い出し、笑みを浮かべる。

恥ずかしがり屋な性格からなかなか同年代の子に声をかけられなかった海未。

ある日、公園で同年代の子達が鬼ごっこして遊んでいるのを木の陰から見ていた海未だったが…

『次、あなた鬼ね!一緒に遊ぼう!!

と言って自分を見つけ、強引に誘ったのが穂乃果だった。

 

それから何時の間にか穂乃果やことりと親友になり、穂乃果の従姉妹であるあかりとも親しくなった。

あの時穂乃果が声を掛けてくれたから今の自分がある、だからこそ穂乃果には感謝しているのだ。

「そうだ!」

ある“作戦”が浮かんだ穂乃果は海未とことりに話し、電話であかりにも話した。

因みに“作戦”の詳細を聞いたあかりは“単純明快なそのやり方”に思わず大笑いし

『良い考えだ』

と作戦に賛同したのだった。

 

 

にこは今日も“誰もいない”部室へと向かう。

鍵を開けようとするにこだったが…何故か部室の鍵がかかっていなかった。

閉め忘れたか?とにこが疑問に思いつつ部室に入った途端、突然明かりがついて

『『お疲れ様です!』』

μ'sの面々とあかりが出迎えたのだ。

「お疲れ様です部長!お茶をどうぞ!」

穂乃果はにこにお茶を差し出す。

「部長!?」

面食らったのも無理はない。

「部長!ここにあったグッズ、邪魔だったんで全部片付けときました!」

続いて凛が

「今年の予算案です!部長!」

ことりが

「部長のオススメの曲貸して。参考にしたいから」

真姫が

「だったら迷わずこの伝伝伝を!」

「だからそれはダメだって言ったでしょ!」

花陽に対しにこはツッコミを入れる。

「部長!今度の曲なんですが、もっとアイドルを意識した曲にしようかと思いまして!」

海未がそう言った後、にこはとりあえず一旦冷静になって

「あんた達…コレで押し切れると思ってんの?」

と発言する。

「押し切る?私達はただ、相談してるだけですよ。μ'sの“7人”で歌う次の曲の事を“μ'sの7人目のメンバー、矢澤にこ先輩”に」

「言ったじゃないですか。貴方はμ'sに必要な存在―なくてはならない存在だと」

穂乃果とあかりの言葉を受け

(私…このメンバーと一緒にスクールアイドルを…μ'sをやって良いんだ…)

にこは嬉しさの余り泣きそうになるがそれを堪え、後ろを振り向いて

「厳しいわよ」

と穂乃果達に言う。

「わかってます!」

そう返す穂乃果。

「ダメね、全然わかってない!アイドルは笑顔を作る仕事じゃない、お客さんを笑顔にする仕事なのよ!それをよく覚えておきなさい!」

『『はい!』』

 

 

本気でスクールアイドルをやれる仲間と巡り会えたにこはその事が嬉しくて堪らなかった。

 

 

基礎練習をする7人を見ながらあかりはこう呟いた。

「これでにこ先輩は攻略したし、正式な部になれた。あと二人だね…」

 

 

 

 

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第20話『Girl meets sisters』

ある日の音ノ木坂中学、高坂雪穂のクラス。

「え~、今日は皆さんに転入生を紹介したいと思います」

転入生、という言葉にクラスがざわつく。

「じゃあ、入って」

担任教師は扉の向こうにいる生徒に呼びかける。

扉を開けて入ってきたのた美しい金髪と碧眼の少女だった。

「絢瀬さん、自己紹介をお願いします」

「はい!絢瀬亜里沙と言います!祖母がロシア人で、ロシアから転入してきました。皆さん、よろしくお願いします!」

 

 

 

 

ある日のあかりの自宅。

「ん~7時か~」

今日―土曜日は休日。

あかりはベッドから身体を起こし

「身体の簡易検査っと…」

端末を操作し、スキャナーで自身の身体を検査する。

「各部、問題なし、っと」

あかりは着替えた後、朝食を作って食べる。

朝食は白米と味噌汁に限る、というのがあかりの考えである。

朝食を食べ終えたあかりの元に連絡が入る。

「ちっ、朝っぱらからジーオスか」

あかりは悪態をつきながらも準備をして出掛けるのだった。

 

 

人里離れた場所にジェネラル級ジーオス(2頭)が巣を作ろうとしていた。

「最近、巣を作ろうとする奴が多いなぁ~

まぁ、どの道討伐するんだけどね!アデプタイズ!バルバトスマグナス、トランスフォーム!」

あかりはトラック型トランステクターと融合、バルバトスマグナスへと姿を変える。

「さぁ、狩りの始まりだ!」

武器の刀を構えるマグナスにジーオス達も威嚇、エネルギー弾で間合いを取ろうとする。

一方のマグナスもハンドライフルで相殺、接近戦に持ち込む。

刀を振りかざすマグナスにジーオスは後ろに下がって交わすが、マグナスは両肩のショルダーランチャーでジーオスにとどめを刺した。

続いてもう一頭にハンドライフルを連射しつつ接近したマグナスはジーオスの腹部に刀を上向きにして突き刺し、そのまま上方向へと振り上げた。

「ジェネラル級ジーオス2頭の討伐、完了」

 

ジーオスを討伐し、一旦帰宅したあかりは

「今日は腹いせにショップ巡りにでも行こうかな」

と出掛ける準備をした。

μ'sの面々はそれぞれ用事があって今日の練習はお休みなのだ。

 

「ん…あれは…」

あかりの視界にある少女の姿が映った。

美しい金髪に碧眼、年は中学生ぐらいだろう。

(無茶苦茶かわいいじゃないですか…!っていかんいかん!私にはヴェルという嫁が…!)

と少女に見とれていたが

(あれ?誰かに似てるような…)

とも感じていた。

そうやって考えてたら少女もあかりに気付いたようで走り寄ってきた。

「あの、もしかして頼尽あかりさんですか?」

「もしかしなくても私は頼尽あかりだよ。

でも、どうして私の事を?」

「それは―「お~い、亜里沙~!」あっ、雪穂~!」

少女―亜里沙は雪穂に手を振る。

「って、あかり姉(ねぇ)!?どうして此処に?」

「いや、今日は休日だかしみんな忙しかったりで練習もお休みだからのんびり散歩でもって思ってね。

それはそうと、このお嬢さんと知り合い?」

「うん、ウチのクラスに転入してきて、今日はこの辺りを案内しようって思ってて」

ちょっと置いてきぼりになっている亜里沙に気付いたあかりは

「おぉっと、ごめんね。改めて自己紹介を。

私は頼尽あかり。音ノ木坂学院の1年生でアイドル研究部の部員兼μ'sのマネージャーだよ」

「絢瀬亜里沙と言います!ロシアからこっちに来ました!」

絢瀬、と言う名字に聞き覚えしかないあかりは

「もしかして…絵里先輩の身内とか…」

と訊いてみた。

「はい、妹です!この動画もお姉ちゃんが撮ってきてくれて―」

亜里沙はあかりにある動画を見せる。

 

それはμ'sのファーストライブの動画だった。

よく見るとネットに上がってた動画にはない部分もあった。

(動画を撮影したのは絵里先輩だと分かったけど…

絵里先輩はμ'sの存在に否定的な筈…だったら何故…?)

と動画を見て真剣に考えているあかりに

「あかり姉…?」

雪穂は声をかける。

「あぁ、ごめんごめん。考え事をしちゃったよ」

とにかく後で希に訊いてみるか、と思いつつあかりはこの疑問を胸の中に仕舞った。

「そう言えば、あかりさんってアメリカに住んでたんですよね!」

「うん、そうだよ~小学校を卒業してからだから、かれこれ4年位はね。あっ、そうだ!

《一応話せたりもするんだよね》」

あかりが話した英語でも日本語でもない言葉に亜里沙は驚きを隠せない。

「《ロシア語も話せるんですか!?》」

「《アメリカに住んでた時にロシア人の血を引く友達と知り合ってね。

日本語があまり話せなかったその子に日本語を教える代わりにその子からロシア語を習ったんだよ》

尤もロシア語は日常会話程度しか出来なくて、そこまで流暢には話せないんだけどね」

あかりの意外な特技に二人は驚くしかなかった。

「そうだ!あかり姉も一緒にどう?」

「良いの?」

「はい、是非!」

「んじゃ、お言葉に甘えて。昼は私が奢るよ~」

「良いんですか?」

「うん、こんなかわいい後輩達のお誘いだからね、この位はさせてよ」

あかりの言葉に二人は顔を赤くしつつも秋葉探索へと出発するのだった。

 

 

 

 

三人は色んな所を回ったりした。

あかりの奢りで昼食を食べた後であった。

「そうだ!今度はあかりさんが行きたい所に行ってみたいです!」

「えっ、私が行きたい!?」

「その鞄、明らかにどっかで買い物に行く予定だったように見えるよ」

雪穂はあかりが背負っている容積がかなり大きい鞄を指差す。

「んまぁ、二人が言うなら構わすに行くよ」

 

あかりが二人を連れて向かったのはとあるリサイクルショップだった。

「ブッ○オフ・オフハ○ス・ホ○ーオフ…?」

「全国でチェーン展開しているハー○オフグループの店舗だよ。

ブッ○オフは主に古本などを、オフ○ウスは主に家電、ホ○ーオフは主に玩具やホビーを扱ってるんだよ。

それぞれ一つの店舗として展開している店舗もあるけど、ここみたい複合して展開している店舗もあるんだよ」

「ハラショー…」

驚きのあまりそう呟く亜里沙。

「んじゃ、行こうか」

それから買い物を始めた三人。

「このキットが入荷してたとは…良いタイミングじゃないか!丁度二つ目を改造したいと思ってた所なんだよね!さて、これをカートに入れますか!」

というあかりの声やら

「雪穂、あかりさん、これかわいい!」

「へぇ、こんなのもあるんだ~」

「何なら二人にプレゼントするよ」

「えっ、良いの!?」

「うん、この位なら良いよ~」

「あかり姉、ありがとう!」

「ありがとうございます、あかりさん!」

といったやりとりもあったりしつつその店舗での買い物も終了してその日は解散となった。

二人と別れた後、あかりは

「さてと、訊いてみますかね」

希に通話する。

『もしもし、あかりちゃん、どうしたん?』

「あっ、希。この後、会って話をしたいんだけど良いかな?」

『うん、ええよ』

「んじゃ、何時もの焼き肉屋で、私が奢るよ」

 

 

そして、とある焼き肉屋にて。

「それであかりちゃん、訊きたい事とは?」

「実は今日、絵里先輩の妹の亜里沙ちゃんと会って、彼女からあの動画―ファーストライブの動画を撮ったのが絵里先輩だと知ったんだよ。

しかし、絵里先輩はμ'sの存在に否定的。

なのに何故かなと思ってね…希なら何か知ってるんじゃないかと思ってね」

「ウチの知ってる、分かってる範囲内で話すよ」

あかりの言葉に希はある動画を見せる。

 

 

その動画にあかりは驚くと同時に衝撃を受けた。

 

 

動画を見終えたあかりは

「これだ…」

不適な笑みを浮かべる。

「どうやら、“その気”なんやね」

「うん、“その気”だよ。正直に言えば彼女が欲しいね…彼女が入る事で“9人”が揃い、“μ's”というユニットが完成する」

「で、その一人はともかく、もう一人とは?」

「言わなくてもわかるでしょ?それに端からそのつもりだったんでしょ?あのμ'sというユニット名を考えた時点で」

「お見通しだった、というわけやね」

「んじゃ、肉も来たし食べようか」

「そうやね」

 

 

 

μ'sの9人が揃う日もそう遠くはないだろう、とあかりは楽しみでしょうがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

「今日は楽しかったなぁ…」

ベッドの上であかりは今日の事を思い返していた。

「…ヴェルと一緒にこんな感じにお出かけして遊びたいなぁ…」

思い起こすは相棒たる少女の顔。

「電話とかじゃなくて直に会いたいよ…ヴェル…」

 

 

 

 

 

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第21話『リーダーに相応しいのは』

これまでのラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神は…(side:Akari)

 

 

μ'sも7人となり、残すはあと一人となった。

そんな中、私は絵里先輩の妹である亜里沙と知り合い、彼女をきっかけにファーストライブの動画を撮影した人物が絵里先輩だと知る。

あと二人のメンバーに見当がついた中…

 

 

―side out―

 

 

現在、アイドル研究部ではある議題について緊急会議が開かれていた。

「リーダーには誰がふさわしいか…私が部長に就いた時点で考え直すべきだったのよ」

「私は穂乃果ちゃんで良いと思うけど…」

「リーダー、ねぇ…言い出しっぺの穂乃果で良いんじゃね?」

にこの意見にそう発言することりとあかり。

あかりは溜め息を吐いた。

事の発端は前日。

あかりは希から―というよりかは生徒会の依頼で部活動紹介のビデオを作成の手伝いをする事となり、その材料集めとして取材をする事になったのだ。

見返りとしてPV撮影にカメラを貸して貰える事となったのだが…

そこで、撮影に参加してた希がある疑問を上げた。

『どうして穂乃果ちゃんがμ'sのリーダーなん?』

その一言に今日は練習を休んで会議が開かれる事となったのだ。

「駄目よ。今回の取材でハッキリしたでしょ?

この子はリーダーには向いてないの」

にこの意見にあかりはそうかなぁ、と思ったが、口に出さなかった。

「そうとなったら早くリーダーを決めた方が良いわね。PV撮影もあるし」

真姫の言うとおりである。リーダーが変わる、それは次の曲のセンターが変わる事を意味していた。

「でも、誰が…一年がやる訳にはいかないし…」

と消極的な意見の花陽。

その意見を聞いたにこは

「リーダーとは熱い情熱を持って、皆を引っ張っていけること!

そして、器が大きくメンバーから尊敬される存在である事!

その条件を満たしているのは―「海未先輩かにゃ?」って何でやねーん!」

「私がですか!?」

「おお!海未ちゃんなら向いてるかも!」

「それで良いのですか!?リーダーの座が奪われようとしているんですよ!」

「μ'sを皆でやっていくのは一緒でしょ?」

「でも!センターじゃなくなるかもですよ!?」

このセンター争いの話に筋金入りのドルオタである花陽は熱くなっていた。

一方の穂乃果はセンター云々にこだわりはないようであった。

「じゃあ、ことり先輩は…副リーダーって感じだよね」

まぁ、凛の意見もわからなくはない。

「じゃあ、あかりは?」

「あかりちゃん、リーダーやってよ!」

穂乃果の頼みをあかりは

「だが断る。私はあくまでもアイドル研究部に属するマネージャーであってμ'sのメンバーじゃないって言ったじゃん。

だからさ、この中で一番の年上で部長のにこさんで良いんじゃね?」

とにこを推薦する。

推薦されたにこの笑顔はこの上ないものであったのは言うまでもない。

 

話し合いの結論だが、なかなか決まらないので、にこの提案により『歌とダンスが一番上手い者がセンター』になる事となった。

まずはカラオケで歌唱力を判断するのだが…殆ど90点台、真姫に至っては98点だった。

「そうだ!あかりちゃんも歌ってみたら!」

「穂乃果、私はこの勝負にそもそも参加してないんだけど…」

「そんな事言わずに歌ってみるにゃ!」

凛からマイクを渡されるあかり。

「う、うん…まぁ、マイクを渡されたし歌うけど…おっ、この曲は…!」

あかりは曲を選ぶと、その曲のイントロが流れはじめ、その曲を歌うのだった。

因みにあかりの点数は…97点と8人の中で第2位の成績だった。

 

 

続いて一行はゲームセンターへと場所を移した。

にこはある筐体を指差す。

「次はダンスよ!使用するのはこのマシン!アポカリプスモードエキストラ!」

そのモードは難易度が割と高い事で有名であった。

(プレイ経験ゼロの素人がまともな点数を出せる訳がないんだから)

何やら不適な笑みを浮かべるにこにあかりは見なかった事にしよう、と心の中で呟いた次の瞬間、筐体の方から歓声が上がった。

「あっ、何か出来ちゃったにゃ~」

トップバッターの凛の成績はハイスコアを更新する程の好成績だった。

「よ~し、やるぞ~!」

穂乃果、海未、ことり、真姫、花陽、にこの順でゲームをしたが、皆そこそこの好成績だった。

「最後はあかりちゃんだよ!」

「えっ!?私もやるの?」

「当然です」

穂乃果と海未に急かされたあかりは曲を選び、集中してゲームをプレイするのだった。

因みにあかりの成績は凛を上回るスコアだった。

驚愕する面々にあかりは

「た、たまたまだよ、たまたま」

と苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

「歌もダンスも決着が着かなかった以上、最後はオーラで決めるわ!

歌もダンスも下手なのに人を惹きつけるアイドルがいる」

「わ、分かります!何故か放っておけないんです!」

にこに同意を示す花陽であったが、他の面々(あかり除く)はいまいちピンと来ないらしい。

「でもそんなものどうやって競うのですか?」

「これよ」

にこが皆に手渡したのはライブのチラシだった。ざっと20~30枚くらいだろう。

「あかり、アンタはマネージャーだから勝負関係なく宣伝して貰うわよ」

「了解で~す」

散り散りになりチラシ配りを始める面々。

殆どのメンバーは順調に配っていったが、海未はやはりチラシ配りにまごついていた。

一方のにこはキャラを作りすぎた事が災いして避けられていた。

そんな中、一番に配り終えたのはことりだった。

手慣れ“過ぎた”様子でチラシを配っていくことりにチラ見したあかりは少々気になったが、とりあえず胸の中に閉まってチラシ配りを続行するのだった。

 

 

チラシ配りの後、一行は部室に戻り結果発表を行った。

一通りやってみた結果だが、皆似たり寄ったりな点数で、各々の得意不得意がはっきりと別れる結果となった。

具体的には花陽はダンスの点数が悪かったものの歌の点数が良く、逆に歌の点数が悪かったことりはチラシ配りの点数が良かったといった具合である。

「にこ先輩も流石です。全然練習してないのに同じ点数だなんて」

「あ…当たり前でしょ」

凛に対しそう返すにこであったが…

・高得点が出やすい曲をあらかじめリサーチ

・熟知したダンスマシンでの勝負

と不正しているようなものなのだが、本人の名誉の為にもこの事には目を瞑っておこう。

「一応、あかりの点数も記録したのですが…

総合的にトップはあかりなんですよね」

海未の言うとおり、総合的にトップなのはあかりだった。

歌唱力は真姫に次ぐ2位、チラシ配りもことりに次ぐ2位でダンスに至ってはダントツで1位だ。

「やっぱりあかりがリーダーの方が―」

真姫の言葉を

「それじゃダメなんだよ。私じゃ、駄目なんだよ」

あかりは遮った。

じゃあ、誰がリーダーに相応しいのか…

「じゃあ…無くっても良いんじゃないかな?

今までリーダー無しでも練習してきて、歌も歌ってきたんだから平気だと思うよ?」

その意見を出したのは穂乃果だった。

「ならセンターはどうするのですか?」

「うん、それなんだけどさ、私、考えたんだ。

皆で歌うってどうかな?

皆で順番に歌い、皆で一つのステージを作っていく。

それで良いんじゃないかな?」

「良いと思うよ。μ'sらしいやり方だと思う。皆はどう?」

穂乃果の意見を肯定するあかりの言葉に

「まあ、歌は作れなくはないですが」

「そういう曲、無くはないわね」

海未と真姫も賛成し、ことり、凛、花陽も同じく賛成する。

「…仕方ないわね。ただし、にこのパートはかっこよくしなさいよ?」

「よーし!じゃあ早速練習しよう!」

穂乃果を先頭に部室を飛び出し、練習をしに屋上へと向かうμ'sの面々の姿に

「何者にも囚われず、目の前の目標に一直線で…そんな彼女の周りには常に人がいる。

やっぱり、μ'sのリーダーは穂乃果なんだよ」

とあかりは呟くのだった。

 

 

 

 

撮影に校舎全体を使用し、穂乃果達のクラスメートやあかりのクラスメート、更に放送部などの協力もあってμ'sの新曲『これからのSomeday』のPVが完成した。

メルヘンチックな衣装を纏い、装飾された校舎内を楽しそうに歌い踊る7人の姿は“一度は暗黒面(ダークサイド)に堕ちた”あかりにとっては余りにも眩しすぎるものであった。

 

 

 

 

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第22話『ラブライブへの道』

さて、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神はある日の生徒会室から物語を始めるとしよう。

 

「…希、何を言ったの?」

現在、ノートパソコンに流されている『これからのSomeday』を見た絵里は希に問う。

「ウチは思ったことを素直に言っただけや。

どこかの誰かさんとは違って。

もう、認めるしかないんやない?エリチが力を貸してあげれば、あの子らはもっと―「なら希が力を貸してあげれば良いじゃない!」」

「―いえ。あなたの力も必要なんですよ、絵里先輩」

そう言ったのは同席していたあかりだった。

「曲のバリエーションも真姫、花陽、凛が入ったおかげで広がりました。

スクールアイドルとしての意識もにこ先輩が入ったおかげでより良くなりました。

ですが、それだけじゃ駄目なんです」

「頼尽さん、何が足りないと言うの?」

「ダンスです。ダンスを次の段階へと上げないと…このままではμ'sは不完全なままで、埋もれた存在と化してしまいます。絵里先輩、話は訊きましたよ」

「何故あなたが知ってるの…!」

「ある日―あなたの妹さんに会った時にファーストライブの動画を撮影したのがあなただと知って、一つ疑問に思ったんですよ。

『ファーストライブの動画を撮影したあなたが何故そこまでμ's、スクールアイドルを否定するのか』と。

それから心当たりがないかと希から話を訊いたんです。あなたが嘗てバレエをしていた事を」

絵里は幼い頃にバレエをしていた。

希から見せられた動画に映る幼き日の絵里はその時点でμ'sを凌駕していた。

だからこそμ'sに絢瀬絵里という存在が欲しい、とあかりは考えたいるのだ。

「…わかっているようだけど、ハッキリ言わせてもらうわ。

私にとって、スクールアイドル全体が素人にしか見えない。

実力があるというA-RISEでさえ…素人にしか見えない」

「…それは彼女達に対する侮辱だと思いますが、今は置いておきましょう。

あなたはそれだけの事を言える程の“もの”を持っているし、あなたの眼から見れば素人呼ばわりも当然だと思います。

だからこそμ'sには絵里先輩が必要なんですよ。

では、私はやるべき事があるのでこれで失礼します」

 

その後、部室へと向かったあかりであるが…その部室は何やら騒がしかった。

「あっ、あかりちゃん」

「穂乃果、何の騒ぎ?」

「“ラブライブ”です!」

それに答えたのはパソコンに向かってあるサイトを開いている花陽だった。

「ラブライブとは言わばスクールアイドルの甲子園!

出場出来るのはスクールアイドルランキング上位20組!現在第1位のA-RISEは出場確実として…

あぁ~チケット発売はいつなんでしょうかぁ~」

「花陽ちゃん、観に行くつもりなの?」

「当たり前です!アイドル史に残る一大イベントなんですよ!見逃せません!」

ことりにそう返答する花陽。

「花陽の言うとおりよ!これは見逃す訳には行かないわ!」

そんな花陽に同意するにこ。

「花陽…やっぱりキャラ変わり過ぎよ。にこ先輩は…何時も通りね」

「凛はこっちのかよちんも好きだにゃ」

平常運転な真姫と凛。

「なぁーんだ。てっきり『ラブライブ出場に向けて頑張ろう!』っていうことかと思っちゃったよ」

「そ、そそそんな、おおお恐れ多いこと、でで出来ません!」

「だからキャラ変わり過ぎよ…」

「凛はこっちのかよちんも好きにゃー」

結局どんな花陽も好きなんだな、あかりは微笑ましくも思っていた。

「でも、私達もスクールアイドルなんだし目指してみても良いんじゃないかなぁ?」

「ていうか目指さなきゃダメだよ!」

穂乃果の言葉に同意することり。

「でも、現実はそう甘くないですよ。前に見た時はとても狙える様な順位では―」

海未の言うとおり、以前確認した時のμ'sの順位は3桁台だった。

穂乃果はスマホでμ'sの現在の順位を確認する。

「これ見て!」

現在のμ'sの順位は2桁台となっていた。

『いつも楽しく見ています!7人になったんですね!』など多くのコメントが寄せられていた。

「コメントもいっぱい来てる!これなら出場も夢じゃないよね!」

穂乃果の言うとおり、出場できるの可能性は高くなった。

「それじゃあ早速申し込むにゃ!」

「ちょっと待って!申し込むには学校側の許可がいるの」

「つまり、理事長に許可を貰わないといけないってことね。

でも大丈夫でしょ?此処に親族がいるわけだし」

真姫はことりの方をチラッと向く。

「甘いわよ。その前に厄介なのがいるわ」

「生徒会、ですね」

海未の言葉に頷くにこ。

「私達を嫌ってるあの生徒会長が許可すると思う?」

「だったら生徒会じゃなくて直接理事長に許可を貰いに行けば良いんじゃないかな?」

穂乃果はにこの言葉にそう返した。

「確かに校則に直接理事長に許可を貰ってはいけないとはありませんね…」

「とりあえず、話をしてみるだけしてみようか」

あかりの言葉にμ'sの面々は頷き、理事長室へと向かうのだった。

 

 

 

 

一方、絵里は希を連れて理事長の元へ訪れていた。

「どうしましたか?」

「今日こそ、我が生徒会が廃校阻止の為に活動許可を頂きに来ました」

「…何度来ても、答えは変わりませんよ」

「何故ですか!生徒会の活動は許されないのですか!?」

アイドル研究部の活動は許しているのに'[')

「分からない?」

理事長の言葉に言い返せない絵里は悔しげな表情を浮かべ、背を向け理事長室を出ようとした時だった。

[あれ?みんなお揃いでどうしたん?」

扉の向こうにいたのはμ'sの面々とあかりだった。

「何の用ですか?」

「理事長にお話があって来ました」

絵里の問いにそう返す海未。

「各部の理事長への申請は生徒会を通す決まりよ」

「申請とは言ってないわ。ただ、話があるの」

「真姫、相手は上級生だから此処で止めとかないと厄介な事になるよ」

あかりの言葉を理解している真姫は悔しげな表情を浮かべつつ引き下がった。

「私達はただ理事長と話がしたいだけです。

校則には理事長と直接話をしていけないとはありませんからね」

あかりはそう言った後、ラブライブの事を話した。

「ラブライブねぇ…?」

「はい、本選はネットで全国に中継されます」

「もし出場出来れば、学校の名前をみんなに知ってもらうことが出来るって思うの!」

「私は反対です。理事長は、学校の為に学校生活を犠牲にする様なことはすべきでは無いと仰いました」

穂乃果達と絵里の言葉に対する理事長の答えはこうだった。

「良いんじゃないかしら?」

「ありがとうございます理事長!」

礼を言う穂乃果に対し

「何故彼女達の肩を持つんですか!」

絵里は理事長に抗議する。

「別にそんなつもりはないけれど」

「では、生徒会にも学校を存続させる為に活動をさせて下さい!」

「それはダメよ」

真剣な表情で返す理事長。

「意味がわかりません…!」

「そうですか?簡単なことだと思いますよ」

「…失礼します…!」

理事長の言葉に絵里は苛立ちを隠せず、そのまま理事長室を後にした。

絵里の退室を見届けた理事長は改めて穂乃果達に向いてこう告げた。

「―ただし、条件があります」

いくら娘やその友人の頼みとはいえ簡単に出場を許可するわけにいかない。

「勉強が疎かになってはいけません。

今度の期末試験で一人でも赤点を取るようなことがあったら、ラブライブへのエントリーは認めません。良いですね?」

その条件ににこと凛は崩れ落ち、穂乃果は床に手をついてorzというポーズを取り、絶望感を醸し出していた。

 

部室に戻った一行だったが…

「大変申し訳ありません!」

「ません!」

穂乃果と凛が机に手をつき、土下座をした。

「…小学校の頃から知ってはいましたが、穂乃果…」

「数学だけだよ!小学校の頃から算数苦手だったでしょ!?」

「あ~そう言えばそうだったね…」

「凛ちゃんは?」

「英語!英語だけはどうしても肌に合わなくて…大体何で日本人の凛達が外国の言葉を勉強しなくちゃならないの!?」

ことりにそう返す凛の言葉に対し真姫が立ち上がる。

「屁理屈言わない!これでラブライブにエントリーできなかったら恥ずかしすぎるわよ!」

「ま、真姫ちゃん怖いにゃ~」

「全く、やっと生徒会長を突破出来たって言うのに…!」

「そ、そうよ!あ、赤点なんか絶対と、取るんじゃないわよ…!」

そう言うにこだったが…明らかに声が震えており、教科書の向きも上下逆である。

「問題なのは穂乃果、凛、にこ先輩だね」

「そ、そういうあかりはどうなのよ!?随分と余裕そうなんだけど!?」

その言葉ににことあかり以外の面々は信じられないという表情を浮かべた。

「に、にこ先輩、それ本気で言ってるんですか…!?」

花陽の言葉に頭を傾げるにこ。

「あかりに関しては問題ないわよ…多分、この中で一番頭が良いのは…」

「あかりちゃんだにゃ~」

「あかりはこの音ノ木坂学院に全教科満点で首席入学してきた程の学力を持っています」

「ご両親の仕事の都合といってもアメリカに何年も留学してた程だし…」

真姫、凛、海未、ことりの言葉に

「首席…入学ぅ!?」

にこが驚くのも無理はない。

にこはあかりに関して『アメリカからの帰国子女』とは知っていたが、首席入学に関しては知らなかった。

「それにあかりちゃんって小学生の頃は神童って呼ばれてた程だから私達とはそもそも次元が…」

穂乃果の言う通り、小学生の頃のあかりは神童と呼ばれていた…そしてそれは今でも変わらないのだ。

「私の事は良いから、それよりも問題は穂乃果、凛、にこ先輩だよね」

にこに付きっきりで教えるのも一つの手だが、何時“仕事”が入るのか分からないし、穂乃果や凛の方も見ておきたいと言うのがあかりの考えだ。

「にこっちはウチが担当するわ」

そんな時、希が救いの手をさしのべるのであった。

 

 

 

 

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第23話『ピンチとチャンス』

あかりにとって希がサポートに入ってくれたのはかなりありがたかったが…

「やる気がねぇなおい…」

と誰にも聞こえない声であかりは頭を抱えて呟いた。

海未達の解説は分かりやすいものだとあかりは思うが…

だが、その解説も穂乃果、凛、にこの三人にとっとは子守唄になってしまっているらしい。

「これじゃ本当に出場が危ぶまれるなぁ…っと」

そう呟いたあかりの元へジーオスの襲撃を知らせる連絡が入った。

「ちょいと“仕事”が入ったから抜けるね」

そう言ってあかりは現場へと向かった。

 

 

「ことり、私はこれから弓道部に顔を出さなければならないので後はお願いします」

海未が弓道部の方へ顔を出し、その弓道部の練習を終えて帰宅しようとした時だった。

「この曲…『START:DASH』?」

何処からかμ'sがまだ3人だった頃に初めて歌った曲『START:DASH』が聴こえてきたのだ。

そこにいたのはイヤホンを音楽プレーヤーに繋いで、聴こえてくる曲に合わせて口ずさんでいる亜里沙だった。

海未は亜里沙が見ている動画を覗き見る。

「ネットに上がってない部分も…」

海未がそう呟くと、その亜里沙は海未に気付き

「あの、園田海未さんですよね!」

「は、はい…そうですが…」

「私、大ファンなんです!握手してもらっても良いですか!?」

亜里沙の要求に答え、握手をした海未。

「この動画、ネットにない部分もありますが…」

「お姉ちゃんが撮ってきてくれたんです!」

「亜里沙、お待たせ」

「あ、お姉ちゃん!」

そこへ現れたのは

「貴女…」

「生徒会長…」

絵里たった。

 

 

場所を変え、公園で話をする事になった海未と絵里。

亜里沙は現在飲み物を買いに行っている。

「飲み物をどうぞ!」

海未が面食らったのも無理はない。

亜里沙が持って来たのはおでん缶だったのだ。

「亜里沙、これは飲み物じゃないのよ。新しいの買ってきてくれる?」

絵里の言葉に従い、亜里沙は自販機へ向かった。

「ごめんなさい、あの子はまだ日本に馴れてないの」

「馴れてない…?」

「私達の祖母はロシア人で亜里沙はまだ日本(こっち)に来て間もないの」

と返す絵里。

「まさか、あなたに“も”バレるなんてね」

「“も”って事は…」

「頼尽さんには既にバレているわ」

後であかりに事情を訊こう、と海未は思いつつ動画の件について絵里に尋ねる。

「動画の件ですが、前々から気になってたんです…誰が撮ってたのか…

あの動画には感謝してるんです。アレがなかったら、今の私達はなかった―「やめて」…!?」

「あの動画をネットに上げたのは、貴女達の為じゃない…むしろ逆。

貴女達のダンスが如何に人を惹きつけることが出来ないかを知ってもらう為…。

だから、見向きされないどころかメンバーが増えているという今のこの状況は私にとって予想外…。

私からすれば、スクールアイドルだなんてただの遊び…あのA-RISEだって素人にしか見えないわ。

そんなものに学校の命運を背負ってほしくないの」

 

 

その日の夜。

「あかり、貴方は知っていたのですね?あの動画を撮影したのが誰なのかを」

『…Yesだよ。亜里沙―絵里先輩の妹に会った時に知ったんだよ』

「どうして言わなかったのですか?」

海未の言葉に

『タイミングを見てたんだよ、タイミングをね』

と返し、通話を切るのだった。

 

 

翌日の放課後。海未の様子がおかしい事に気付いた―いや、その元凶たるある映像を見せた希は海未に問う。

「ショックを受けたんやろ?エリチの踊りに」

「はい。正直…かなりショックでした…。

自分達が今までやってきたことは…何だったんだろうって思いました…」

海未は昨日あかりと通話した後、神田明神でバイトをしてた希の元を尋ね、ある映像を見せて貰ったのだ。

その映像があかりも見たバレエを踊る幼き日の絵里の映像であった。

この映像を見て海未もあかりと同様、自分達の踊りがまだまだである事に気付いてショックを受けると同時にある考えを抱いていた。

「だからこそ…学びたいんです…!あんなに上手い人からダンスを…!」

「考えとた事はあかりちゃんと大体同じやね。

でも、最初にやるべき事があるんやないかな?」

「やるべき事…?」

「件の試験。まずは全員が赤点を回避しないと事は始まらんよ」

希の言葉で自分のやるべき事に気付いた海未は希に礼を言い、穂乃果がいるアイドル研究部部室へと向かう。

「穂乃果、今日からあなたの家に泊まり込んでみっちり勉強を教えます!」

 

 

 

 

そして、期末試験があった週の翌週の火曜日。

その日はテストの結果が全て帰ってくる日だった。

そして、あかりは希と共に理事長に呼び出され、理事長室にいた。

「―で、あかりちゃんは皆と一緒にいてあげなくてもええんの?」

「私なら大丈夫だよ。全教科満点だったし」

「ウチ、あかりちゃんは入ってくる学校を間違えたんじゃないかって思う時があるんよ」

「そうかな~融通が利いたりと色々と条件に見合っててピッタリだと思うんだけどなぁ~

それに、此処に入ったから希ともまた会えたんだし」

そうやって話をしていたら絵里も理事長室に入ってきて、理事長は話を始めた。

「お話とは何でしょうか?」

「3人に来てもらったのはね、言わなくちゃならないことがあったからよ。

単刀直入に言います。今度のオープンキャンパスの結果が悪かったら、音ノ木坂学院は…廃校とします」

理事長のその言葉にあかりは一瞬思考停止した。

そして、あかりが詳しい事を訊こうとする前に絵里は理事長に詰め寄った。

「どういう…ことですか?」

「言葉通りの意味です。見学に来た中学生にアンケートを取って、結果が芳しくなかったら廃校にします」

「そんな一方的な…!」

「これは決定事項なの。結果次第で、音ノ木坂学院は来年から生徒募集を止め、廃校とします」

「待ってください理事長…理事長!」

絵里が言葉を続けようとした時、扉が開け放たれ

「今の話、本当ですか!?」

穂乃果が理事長に詰め寄った。後ろには海未とことりも続いている。

「貴方…っ!」

「本当に廃校になっちゃうんですか!?

みんな赤点を回避してラブライブにエントリー出来る様になったんです!

もうちょっとだけ待ってください!あと一週間…いや、二日で何とかします!!」

「廃校にするというのはオープンキャンパスの結果が悪かったらって話なの。オープンキャンパスで来てくれた中学生達にアンケートを実施して、その結果が良ければ廃校は1度保留になるの」

その話に穂乃果の表情も今にも泣きそうなものから安堵の表情へと変わった。

「な、な~んだ…」

「穂乃果、安心している場合じゃないんだよ。オープンキャンパスは二週間後の日曜日。

もし結果が悪かったら全てが終わって私達の今までが全部水の泡となる…!」

焦りの表情を見せるあかりに現状を思い知らされる穂乃果達。

「理事長。オープンキャンパスの時のイベント内容は生徒会で提案させて頂きます!」

「止めても聞く耳はなさそうね」

理事長の許可に絵里は一礼し、その場を後にした。

 

 

その後、希に呼び出されたあかりは廊下で話をしていた。

「何か考えてるみたいやね」

希はあかりに問う。

「本当にピンチだよね…」

「でも、あかりちゃんが考えてるのはそれだけじゃないんやろ?」

希の言葉にあかりは頷く。

「時としてピンチとチャンスは表裏一体でもある。この現状はこの学校―そして私達にとってピンチであると同時に私達―いやμ'sにとってチャンスでもあると思う。9人揃い、“μ'sというユニットが完成する”チャンスだと」

 

 

 

 

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第24話『9人の女神』

生徒会の今回の議題は無論『二週間後のオープンキャンバスのイベントについて』である。

「…これより生徒会は独自に動きます。

何とかして廃校を喰い止めましょう」

絵里の言葉の後、書記の子と会計の子が顔を見合わせる。

その顔は何か言いたげな様子であった。

「どうしたん?もしかして何か考えがあるん?」

「い、いや…そういう訳じゃ…」

「言いたいことあるんだったら、言った方が良いよ」

希の後押しを受け、書記の子が口を開いた。

「あの、これってこの学校の入学希望者を増やすためにはどうしたらいいかっていう話ですよね?」

「ええ、その通りよ」

「だったら楽しいことを沢山紹介しませんか!?

歴史とかも大事だと思いますが、今までの生徒会は何と言うか…堅い感じがしてましたし…」

「例えばこの学校の制服ってかわいいともっぱらの評判なんですよね!」

「それに、スクールアイドルとかも今流行っているよね!」

「そうだよね!あ、そう言えば東條先輩はμ'sのマネージャーの頼尽さんと仲良いですよね!頼尽さんを通して皆にライブを―」

「待ちなさい!まだ決まっていないでしょう!?…他には?」

絵里のその言葉に盛り上がっていた役員達は黙ってしまった。

 

 

その日の放課後、とあるハンバーガーショップにアイドル研究部の8人は集まっていた。

「生徒会長に!?」

「えぇ、生徒会長にダンスを教えてもらえないか頼もうかと」

凛の言葉に海未はそう返した。

「私は反対よ!あの生徒会長は私達を目の敵にしているのよ!

何をされるかわからないわ!」

「生徒会長、ちょっと怖い…」

にこや花陽の言い分もわからなくはない。

「穂乃果はどうする?」

「私は受けようと思う」

「即答、だね」

「だって、上手い人から教わろうって事でしょ?」

あかりにそう返す穂乃果。

「まぁ、私も海未と同じ様に頼もうかと思ってたんだよね。正直に言って今のμ'sは不完全な状態で、このままじゃきっと中学生を感動させるのはちょっと難しいかなぁと思う」

あかりが言う事も最もである。

翌日、二年生組とあかりは生徒会室を訪れ

「貴方達…」

「おはようございます!生徒会長に、お願いしたいことがありまして!」

ダンスのコーチを頼みに行った。

「私達に、ダンスを教えてくれませんか!?」

「…私がダンスを?貴方達に?」

「お願いします!私達、上手くなりたいんです!」

絵里は一瞬だけ海未との視線がぶつかり合った後

「…分かったわ。貴方達の活動は理解できないけど、人気があるのは間違いようだし、引き受けましょう。

ただし、やるからには私が許せる水準まで頑張ってもらいます」

 

 

あかりは練習風景を眺めつつオープンキャンバスでのライブの計画を練っていた。

一方の絵里はまず基礎練習を行わせていた。

「痛いにゃあああああ!」

絵里に背中を押され悲鳴を上げる凛。

「身体硬過ぎ!少なくとも、足を開いた状態で床にお腹が付くぐらいにはならないと!

柔軟性を上げることは全てに繋がるからまずは全員がコレを出来る様に。でないと本番は一か八かの勝負になるわよ!」

絵里の言うとおりであった。

そんな中、ことりは見事足を開いた状態で腹部を床に付け、他のメンバーは感心していた。

「感心してる場合!?ダンスで人を魅了したいんでしょ!?このくらい出来て当然よ!」

その後も基礎練習は続く。

平行感覚を鍛える為の片足立ちをやっている時、花陽がバランスを崩して倒れた。

あかりはすぐさま花陽の元へ駆け寄り、花陽の身体に異常がないか確認する。

異常なし、とあかりが判断した後、絵里はこれ以上は無理だと判断し

「もういいわ…今日はここまで」

と告げた。

「何よそれ!?」

「ちょっと、そんな言い方ないんじゃないの!?」

真姫とにこの言葉に

「私は冷静に判断しただけよ」

絵里はそう返す。

絵里を非難するμ'sの面々の気持ちもわからなくはないが、自分も同じ判断を下していただろうというのがあかりの考えであり、だからこそ口出ししなかった。

「今度のオープンキャンパスには学校の存続が掛かっているの。

もし出来ないのなら時間がもったいないから早めに言って」

絵里が立ち去ろうとした時

「あの!」

穂乃果は絵里に声を掛け

「ありがとうございました!また明日もよろしくお願いします!」

礼を言ったのだ。

『『お願いします!』』

他のメンバーも礼を言う。

絵里は驚かずにはいられなかった。

こんなにも冷たくしているのに何故礼を言うのか…そんなにも強い目を持っているのか、と。

その“目”から逃げるかの様に絵里はその場を後にした。

 

 

 

その日の夜。絵里はリビングから自室に戻る途中で亜里沙の鼻歌が聴こえてきて、亜里沙の部屋へ入った。

『これからのSomeday』のPVを見ている亜里沙は夢中になって見て聴いていた。

「お姉ちゃん?」

「貸して、亜里沙」

絵里は亜里沙が右耳に着けていたイヤホンを借りて自分の右耳に着ける。

「亜里沙ね…μ'sの歌を聴くと元気をもらえるんだ」

「元気をもらえる…?」

「うん!」

「こんな素人レベルのパフォーマンス…」

「お姉ちゃんから見たらダメダメかもしれない。

でも、μ'sのみんなが楽しく歌って踊っているところを見ると元気を貰えて、亜里沙も頑張ろうって、そう思えるの!」

 

翌日の早朝。

絵里は屋上への入り口のドアの前まで来たが…楽しそうに、だけど真剣に練習に取り組む穂乃果達の声が聞こえてきてドアを開ける気になれなかった。

「…生徒会長?」

階段を上がってきた真姫。

真姫に押される形で屋上に出る絵里。

「あ、生徒会長!今日もよろしくお願いします!」

『『よろしくお願いします!』』

穂乃果が挨拶をし、他のメンバーもそれに続く。

「貴女達、辛くないの…?これからオープンキャンバスまでずっと同じことが繰り返し続いていくのよ。

貴女達を嫌ってる私にやらされて、上手くなるかも分からないのにこんな事を続けて、とても意味が有るとは―「やりたいからです!」…え…?」

穂乃果は続ける。

「確かに練習はキツイです…身体中痛いです!でも、学校を救いたいっていう気持ちがあるから乗り越えられるんです!

それに…私はスクールアイドルが、μ'sが大好きなんです!

μ'sの…アイドル研究部のみんなと廃校を阻止することが、私のやりたいことだからです!」

(やりたい事をやっている彼女達に対し自分はどうなの?)

自分の事が惨めに思えてきた絵里はその場にいるのに耐えきれなくなって逃げ出した。

 

 

急な“仕事”が入ってきて来るのがちょっと遅れたあかりは屋上へ向かう途中、絵里と希の姿を見て思わず物影に隠れた。

「ウチな、エリチと友達になって、一緒に生徒会をしてきて、ずっと思っていたことがあるんよ。

エリチの本当にやりたいことは何なんやろうって…。

一緒にいるとわかるんよ。エリチが頑張るのは何時も誰かの為ばっかり…だから何時も何かを我慢している様で…」

「そんなこと―「学校を存続させようとするのも、生徒会長としての義務感なんやろ!?

だから理事長もエリチの事を認めなかったと違うん!?」っ…!?

何よ…何とかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!

私だって、好きな事をやるだけで良いならそうしたいわよ!

私は彼女達に嫉妬してた…そして何時の間にか魅了されてて…私も同じ場所に立ちたい…μ'sに入りたいと思う様になっていた!

だけど…今更アイドルを始めたいってあの子達に、今まで散々酷い事を言って否定してきたのに言えると思う…?

こんな私なんかに彼女達と同じ舞台に立つ資格なんて…!」

絵里は希に背を向け逃げる様に走り出した。

だが希は、そしてあかりは絵里が涙を流していた事を見逃してなかった。

「―盗み聞きをする気はなかったんだけどね」

あかりは希の前に顔を出す。

「あかりちゃん、ウチが今どうしたいかわかる?」

「当然」

あかりは希と共に屋上へ向かった。

 

 

今は誰もいない教室。

(これからどうすれば良いのかしら…)

空を見上げ呆然とする絵里へ差し伸べられた穂乃果の救いの手。

μ'sのメンバー、更にあかりと希の姿があった。

「生徒会長…いえ、絵里先輩!μ'sに入って下さい!スクールアイドルとして、一緒に歌って欲しいんです!」

続いて海未はこう言った。

「絵里先輩の力が私達には必要なんです」

「私の力…本当に…?」

絵里の言葉に皆が頷く。

「前に私が言ったじゃないですか。貴方の力が必要だって」

そして、あかりの言葉に涙を流す絵里。

「今までごめんなさい…そして、ありがとう…」

絵里は涙を拭い、差し伸べられた穂乃果の手を握るのだった。

「これで“9人”揃い、遂にμ'sというユニットが完成した」

あかりの言葉に問わずにはいられない穂乃果。

「それってどういう事なのあかりちゃん!?」

だが、それに答えたのは希だった。

「あかりちゃんの言うとおりの意味や。ウチを入れてμ'sは9人となり完成した。占いで出てたんよ。このグループは9人になった時に完成し、未来が開ける。

だから付けたんよ…9人の歌の女神『μ's』って」

「えぇっ!?あの名前を付けてくれたのって希先輩だったんですか!?」

驚きのあまりそう言わずにはいられない穂乃果。。

「あかり、貴方は気付いてたのですか…!?」

「筆跡とその手の知識を持っているという点でとっくの昔に気付いてたよ」

「希…“あかり”…全く、貴方達に呆れたわ」

絵里はそう言った後、ドアの方へ歩いていき笑顔で皆に呼びかけた。

「さぁ、練習始めるわよ!」

『『はい!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰宅後、あかりはベットの上に寝転がってこう呟いた。

「ヴェル…後は廃校を阻止するたけだよ…ヴェル、一緒に学園生活を送りたいな…ヴェル…」

あかりのスマホにはヴェルの写真が表示されていた。

 

 

 

「あかり…何時になったら会えるのか…」

一方のヴェルもネストの基地の宿舎でそう呟いた。

「あかり…1日でも早くまた会いたい…」

 

 

 

 

 

To be continue 3rd stage…



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第3章『狂う戦女神』
第25話『自分を変えたい』


「何がともあれこれで一安心だよ」

と一番乗りで誰も来ていない部室の中、あかりはネットに昨日アップしたばかりのある動画を見ながら安堵の表情で呟いた。

その動画とはμ'sが9人揃い“完成”してから初めての新曲『僕らのLIVE 君とのLIFE』のPVである。

この曲は昨日のオープンキャンバスで初披露した曲である。

「さてと休憩もそろそろ終わりにしてやるべきことをちゃちゃっとやっちゃいますかな」

アイドル研究部の部室の隣には空き教室があるのだが、アイドル研究部の部室の一部としてその空き教室の使用許可が正式に認められたのだ。

あかりはその空き教室をさっさと掃除をしていると

「あかりちゃーん!ビッグニュースだよ!」

穂乃果達が部室に来たのだ。

「オープンキャンパスのアンケートの結果、廃校の決定は保留になったそうです」!

「つまり見に来てくれた子達が興味を持ってくれたってことだよ!」

海未とことりの言葉通り、オープンキャンバスでのライブはμ'sの“勝利”である事を意味していたのだ。

「そして部室が広くなったよ!良かった良かった!」

くるくる周りながら掃除を終えたばかりの空き教室に入る穂乃果。

「安心している場合じゃないわよ。とりあえずは廃校が先延ばしになっただけで、生徒が沢山入ってこない限りはまだ廃校の可能性が付き纏うのよ?」

「う、嬉しいです!まともなことを言ってくれる人がようやく増えました!!」

強力な牽引役でもある絵里の加入により海未の(主に精神的な)負担は大幅に減った。

だからこそ、こんな感じに海未は絵里を引かせるレベルで感動した表情を見せるだ

「まるで凛達がまともじゃないみたい…」

「まぁまぁ、皆が揃い次第練習を始めようか」

希の言葉で練習の士気も上がってきた中

「あ、あの…今日は私、ちょっと…ごめんなさいっ!」

ことりはそう言ってそのまま部室を後にした。

「ことりちゃん、最近どうしたんだろう?」

「さぁ…あかりは何か知りませんか?」

「いや?私も何も…っと」

そう返したあかりの元に“仕事”の呼び出しが入ってきた。

「ごめん、私も“仕事”が入ったから今日はこれで!」

あかりもまた急いで部室を後にするのだった。

「あかりの仕事も何なのかしらね」

「何も話してくれないんだよね」

真姫と花陽の言葉にその場にいた皆は頷くのだった。

 

「さて、帰りに何か買い物でも…Oops…」

仕事を終えたあかりが面食らったのも無理はない。

彼女の視界に入ったのは赤い縁のサングラス、顔下半分を覆い隠すマスク、ピンクのマフラー、厚手のコートを着たμ'sの面々(ことり除く)の姿であった。

「どー見ても不審者にしか見えねぇよ…」

と呟かずにはいられないあかり。

「あっ、あかりちゃーん!」

あかりに気づいた穂乃果はサングラスやマスクなどを外して近寄ってきた。

「穂乃果、私でも流石にあの格好は引くよ…」

「誤解だよあかりちゃん!着たくて着たんじゃないんだよ!」

「あーうん分かってるよ」

棒読みである。

「…あれ?そういえば凛と花陽はどこへ?」

その疑問ににこは親指で最近出来たアイドル専門店を指差す形で答える。

よく見たら店の入り口辺りで凛が手招きをしていた。

「ねえ見て見て!この缶バッジの子かわいいよ!まるでかよちんみたい!」

「というか凛、そのかわいい子はどっからどう見ても花陽ご本人だぜ」

あかりの指摘に凛も漸く気付き、ただただ驚いた。

そして、凛がその缶バッチを発見したのはμ'sのコーナーだった。

「人気爆発中とは…」

あかりが感嘆してると

「あれっ!?にこのグッズはどこ!?あ、あった!」

にこは自分のグッズを探し、発見した物を並べて記念撮影をする。

そんなこんなでそれぞれが感想を言い合っている中、穂乃果はある写真をじっと見ていた。

「あれ…?」

「穂乃果、どうした?」

「これ…この写真の子、ことりちゃんだよね」

「うん…誰がどっからどう見てもメイド服を着たことりだね」

と二人が話をしていたら

「―あの!すいません!」

良く知る声が聞こえてきて、二人が顔を向けるとそこにはクラシカルなメイド服を身に纏ったことりの姿があった。

 

 

 

 

「あのっ!ここに私の生写真があるって聞いて!

あれは駄目なんです!今すぐに無くしてください!」

μ'sの面々やあかりの視線がことりに注がれていたが、当のことり本人は切羽詰まったいるらしくこちらが全く見えていないようであった。

「こ、ことりちゃん?」

声を掛けた穂乃果に

「ピィッ!」

ことりは奇声を上げ、皆の方を向くが…その動きはまるでギギギという擬音が聞こえてきそうであった。

「何を…しているのですか?」

ことりは海未の追及に答えようとせず、しゃがみ込んで、手近にあった半球とかした開封済みカプセル1セットを手に取ってそれらを両目に被せた。

「KOTORI?Whats?ドナタデスカシラナイヒトデスネ」

「が、外国人だにゃ!?」

「凛、どっからどうみても日本人の音ノ木坂学院2年生兼μ'sのメンバーの南ことりさんだよー」

凛に対し棒読みでそう言うあかり。

「ことりちゃんだよね?」

「違いマァ~ス!ソレデハ、ゴキゲンヨウ…ヨキニハカラエ、ミナノシュウ~……サラバ!」

「待ってことりちゃん!」

かくしてことり捕獲作戦(命名:頼尽あかり)が始まるのだった。

 

 

数分に及ぶ逃走劇の末、ことりは希の手によって捕獲された。

「…ここが私の働いている所です」

ことりが案内したのはシンプルさが魅力的なメイドカフェだった。

その店の奥で面々はことりへの事情聴取を行っていた。

「えっと…ことりちゃん、どうして逃げたの?」

「ごめんね穂乃果ちゃん、皆…」

「ことり、私達は別にことりを責めている訳ではないんです」

「ただ、事情を聴きたいのよ」

絵里の言葉の後、あかりは購入した例の写真を出した。

「この写真を回収すべくショップに来たんじゃないかな?」

「あ、あかり!そそそ、それって!?」

その写真に反応し驚愕したのはにこだった。

「秋葉のメイド界隅で有名な―“伝説”と呼ばれしメイドがいる。

あの写真を見た時にわかったよ。

その秋葉の伝説のメイド―ミナリンスキーの正体はことりだって事に」

一泊置いて八人から妙にシンクロした驚きの声が上がった。

「そうです…。私がミナリンスキーです…」

「酷いよことりちゃん!言ってくれればジュースとかケーキとかご馳走になったのに!」

「そこ!?」

花陽のツッコミは尤もである。

「じゃあ、この写真は?」

絵里はあかりが持っている写真を指してことりに問う。

「そ、それは…店内のイベントで歌わされて…撮影禁止、だったのに…」

マナーを守れよとあかりは心の中で憤慨する。

「何時からバイトを始めたのですか?」

「丁度μ'sが結成された頃に…秋葉原を歩いていたらスカウトされて…

断るつもりだったんだけどメイド服が想像以上に可愛くて…

それに…ずっと“自分を変えたい”って思ってたんだ…

私は穂乃果ちゃんみたいに前へ進んでいけないし、海未ちゃんのようにしっかりしてないし、あかりちゃんみたいに完璧じゃない…

私はいつも三人の後ろを付いて行ってるだけで何もないから…そんな自分を少しでも変えたかったから…」

ことりの言葉にあかりは一泊置いてから口を開いた。

「ことり、間違ってる事がある。私はことりが思っているような完璧超人なんかじゃない。

それにさ、穂乃果には穂乃果なりの良さがある様に、海未には海未なりの良さがある様にことりにはことりなりの良さがあるもんだよ」

 

 

 

帰り道にて。

「意外だなぁ、ことりちゃんが“自分を変えたい”って悩んでたなんて……」

「意外と皆、そうなのかもしれないわね。

自分の事を優れた人間だなんて思う人は殆どいないんじゃないかしら?だから、努力して足掻くのよ」

「確かに、そうかもしれませんね」

「そうやって成長して、成長した周りの人を見て、また成長していく。

…ライバルみたいな関係なのかもね、友達って」

絵里の言葉にあかりはある人物の姿が思い浮かんでいた。

アメリカに住んでた頃、時に支え合い、時に競い合った仕事仲間である少女―風見ヴェールヌイ。

ヴェルは今どうしているだろうか、彼女に会いたいとあかりは思った…いや、何時も思っている。

「絵里先輩にμ'sに入ってもらって、本当に良かったです!」

海未の言葉に絵里は思わず苦笑いを浮かべる。

「明日から練習メニュー軽くしてーだなんて言わないでよ?」

それから、別れ道で穂乃果と海未と別れた後、あかりは

「絵里先輩、これからちょっと“お散歩”に付き合って貰えませんか?」

と絵里に提案し

「えぇ。勿論良いわよ」

絵里はあかりの提案に承諾するのだった。

 

 

 

 

To be continue



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第26話『Wonder zone』

「『完璧超人なんかじゃない』ね…」

絵里はあかりがことりに言った事を思い返し、そう呟いた。

「さっき絵里先輩が言ったじゃないですか。

『自分の事を優れた人間だなんて思う人は殆どいない』って。私だってそう…私も足掻いてるんですよ。

あっ、この事は穂乃果達には御内密に」

「わかってるわよ。それにしても…変えたいから、ね…ねぇ、あかり。ちょっと思いついた事があるんだけど」

「奇遇ですね~私もですよ」

二人は笑みを交わし、ある場所へ向かうのだった。

 

神田明神にてバイトをしていた希だったが、そこへ絵里とあかりがやってきた。

「あれ?エリチ、あかりちゃん、どうしたん?」

「希、ちょっと良いかな?」

あかりは希の腕をしっかりと掴んで目的の場所―秋葉原へ向かった。

「また戻ってくるなんてどうしたん?」

「ちょっと思いついたことがあって。さっき、あかりと二人で街を歩いていて思ったのよ」

「次々と新しいものが生まれ、それを取り込んでいって、毎日目まぐるしく変化して新しくなる。そこが秋葉原の凄い点なんだよ」

「この街は、どんなものでも受け入れてくれる一番ふさわしい場所なのかなって。私達の“ステージ”に」

つまり9人となって完成したμ'sのライブをこの地でする―その意見に対する、希の返事は決まっていた。

「ええやん、それ。面白そう!」

「これから忙しくなるわね」

「新しい曲の作戦にライブの場所を抑えたり、ね」

 

 

翌日。あかりは“仕事”のコネなどを駆使しつつライブの場所―とあるビルの前の場所を抑える事ができた。

勿論、ビルを管理する不動産や警察への許可はとってある。

場所を抑えた、までは良いのだが…問題は曲の方だった。

作曲は何時もの様に真姫だが、今回の作詞はことりが引き受けていた。

「秋葉に相応しい曲を書くのなら、秋葉を良く知る人物が良いと思うの」

というのが絵里の弁である。

勿論、あかりも賛成なのだが…肝心のことりは初の作詞に加え相当なプレッシャーで作詞に難航しているらしい。

そこで穂乃果は

「私に良い考えがあるよ!秋葉の事を書くなら、秋葉で考えて書けば良いんだよ!」

と発案。

かくして穂乃果、海未も期間限定だが一緒になって働く事になった。

因みにあかりも働かされそうになったが

「いつ急な“仕事”が入るか分からないし遠慮しておくよ」

と断った。

 

そんなこんなで働いている穂乃果達を客席で眺めていたら通話が入ってきて、あかりはそれに出た。

「もしもし、ツバサ。どうしたんだい?」

『今どうしてるかなって思って。

“面白い事”の準備は順調?』

「うん、順調に進んでいるよ~。今度、“二人”も連れて見に来る?」

『えぇ、勿論そのつもりよ。

それと、勧めてくれた例の映画、“二人”と一緒に見たわ』

例の映画とは、今から一世紀近く前に製作された日本初の特撮怪獣映画である。

因みにその怪獣映画は大ヒットを飛ばして配給会社の屋台骨を立て直し、続編やリブート作が次々と作られ、更にはハリウッドでの映画化という快挙も成し遂げた長寿シリーズである。

『私もだけど“二人”も感動して泣いちゃったわ』

「気に入ってくれて何よりだよ。んじゃ、また良い作品があったら紹介するね」

そう言ってあかりは通話を切るのだった。

 

 

 

 

あかりがツバサと通話をしていた頃、穂乃果とことりは休憩時間に入っていた。

「それにしても、ことりちゃんやっぱりメイド喫茶にいる時って活き活きしているよね!

まるで別人みたいだよ!」

「なんかこの服着ていると何だか“出来る”って思えるんだ。

この街に来ると、不思議と勇気がもらえるの。

もし自分を変えようとしても、この街なら受け入れてくれる気がするってそんな気がするんだ!だから私、この街が好き!」

その言葉を聞いた穂乃果は何かを思い付き

「ことりちゃん!今のだよ!今の気持ちをそのまま詩にするんだよ!」

そう提案するのだった。

 

その提案に他のμ'sの面々は勿論、あかりも賛同したのだった。

 

 

 

 

数日後、遂に路上ライブの日が訪れた。

今回のステージ―ビルの前には何かイベントがあると嗅ぎつけた通行人やチラシなどによって前々からイベントを知っていた人達が集まっていた。

その中には当然、雪穂や亜里沙の姿もあった。

「さて、今の時間は…っと」

あかりは時刻を確認する。

ライブ開始まであと5分。

μ'sの面々はビルの前で既にスタンバイをしている。

因みに今回の衣装は秋葉が舞台ということもあってメイド服であったりする。

「あかりちゃん!」

あかりに声を掛けてきたのはあかりの“父方の従姉妹”にして“A-RISEのリーダー”である綺羅ツバサであった。

後ろにはA-RISEのメンバーである統堂英玲奈や優木あんじゅの姿もあった。

因みに3人共、今日は周囲にバレないよう変装をしていたりする。

「ツバサ!英玲奈とあんじゅもありがとう!」

「せっかくの友人からのお誘いだからな。断るわけにはいかないさ」

と返す英玲奈。

「それに、“彼女達”は前々から気になってたのよ。

リーダーの従姉妹がマネージャーをしているという点を差し引いても、ね」

あんじゅの言葉―それはA-RISEの3人がμ'sに興味を持っている事、そしてライバルとして意識している事を意味していた。

「んじゃ、そろそろ始めようか」

開始時間となった事を確認したあかりは穂乃果達に合図を送るのだった。

 

 

 

 

「皆さんこんにちは!μ'sです!」

あかりの合図を確認した穂乃果は挨拶を始めた。

「今日は私達の事を皆さんにもっと知って貰いたいと思って路上ライブをする事になりました!是非、最後まで楽しんでいってください!」

その後、穂乃果は脇へと移動し、先程穂乃果がいたセンターへことりが移動する。

 

 

そして、ことりの歌い出しから『Wonder zone』という曲が始まった。

ことり曰わく『どんなものでも受け入れてくれる街』である秋葉原。

あらゆる物を押し流してしまう過酷な地であると同時にあらゆる物を受け入れる暖かな地でもあるこの街。

そんなまるで“生きている”かの様に日々変化しているこの街で『自分を変えたい』ということりの気持ちが詰まった曲である。

(『自分を変えたい』、か…)

ライブを撮影しつつあかりはふとことりが言った言葉を思い返していた。

 

 

 

 

(私の場合、どうなんだろうか…私はあの頃から変わっているのか…)

 

 

 

 

“輝き”の中、楽しく歌い踊るμ'sの姿があかりにはとても眩しくて手の届かないもの―そして“血塗られた存在たる自分が触れてはならないもの”の様に見えたのだった。

 

 

 

 

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第27話『先輩禁止令…?』

さて、今日のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の騎士はとある駅から物語を始めるとしよう。

「さて、みんな揃ったわね」

絵里はμ'sの面々とあかり達9人を見渡す。

「それじゃ、合宿に行く前に一つ提案があるんだけど―」

さて、何故合宿に行くことになったのか…それはつい先日に遡る。

本格的に夏へ突入し、最近炎天下が続いている状況下、屋上での練習はかなり過酷なものへとなっていたのだ。

このままでは身が保たないという事で提案されたのが合宿であった。

夏休みなので時間はある、資金面も問題はない。

だが、問題は場所であった。

そんな中、真姫は両親(娘のアイドル活動を知っているらしく全面的に応援してるとか)へ別荘の使用許可について交渉し、使用許可が下りたのだ。

さて、経緯はこの位にして駅でのやり取りに戻るとしよう。

「―これからは先輩禁止で行こうと思うんだけど…どうかしら?」

あかり以外の他のメンバーというか一年生と二年生から驚きの声が上がっるのも無理はない。

絵里の口から学校での最上級生に対する礼儀である“先輩”を禁止する提案がなされたのだ。

「もちろん、先輩後輩の関係も大事だけど、踊っている時にそういうことを気にしちゃ駄目だと思うの」

「“絵里”の言うとおりだね。

三年生だから、って感じてわ意見を飲み込んでしまう場面が多々見受けられるよ」

早速実践するあかり。

「あかりが言う事も尤もですね。私も三年生に合わせてしまう所がありますし」

「にこはそんなこと感じないんだけど?」

「それはにこ先輩は上級生って感じがしないからにゃ」

凛の言葉にそれじゃ何よと問うにこだったが…

「うーん、後輩っぽい何か?」

「ていうか子どもっぽい何か?」

「マスコットっぽい何かかと」

というのが穂乃果と凛と希の返答だった。

「そう言えば、あかりは希の事を先輩後輩抜きで接しているわよね?」

にこの疑問―それは希とあかり以外の面々が以前から抱いていたものだった。

アメリカで親しくなった、というのは知っているがそれを除いても希はあかりより一つ年上である。

「あぁ、それはえっと―」

「あかりちゃんはウチの事を同い年かと思ってらしいんよ。でも、始めて会った時は丁寧口調やったで」

と希は笑みを浮かべてそう言い、あかりは苦笑いを浮かべながらこう続けた。

「ま、まぁ…アメリカにいた頃は歳上だろうが呼び捨て上等な人が周りにはいっぱいいたからね…その頃の癖が今も残っているから歳上でも呼び捨てする事に抵抗はないのかも」

「じゃあ早速始めるわよ、まずは穂乃果」

「は、はい!…え、絵里ちゃん…!」

「ハラショー!」

緊張しながらも名前で呼ぶことが出来た穂乃果に絵里は笑顔を向ける

「凛も凛も!えっと…ことりちゃん?」

「うん!よろしくね、凛ちゃん!真姫ちゃんも!」

皆の視線は真姫の方へ向くが

「べ、別にわざわざ呼んだりするもんじゃないでしょ!?」

真姫はそう返すのだった。

 

 

「Wow…It's so big…」

真姫以外のメンバーは別荘の大きさにただただ圧倒されていた。

「そう?普通でしょ」

真姫の言葉に

「いや、普通じゃないよ」

とツッコミを入れるあかりだが…もしこの場に理事長がいたら

『無人島を余裕で買えるどころか普通に過ごせば一生遊んで暮らせる分の金を持っているあなたがどの口を言うのかしらね』

と言ってただろう。

「真姫ちゃん、お金持ちにゃあ…」

 

 

その後、各自荷物を部屋に置き、集合時間になるまで自由行動をする事になった。

「あかりちゃんも見学?」

「そう言う希も?」

あかりの言葉に頷く希。

「あら、希にあかりじゃない」

「絵里も見学?」

「えぇ、大体内部は把握したわ。それにしても、あかりは慣れているわね」

「う~ん、“あっちの学校”では少人数で学年も“一学年”しかなくて、更に年上に囲まれてて同年代は私のみ、後は私より二つ年下の子が一人だったからね。

女子は私とその子だけだったよ。小学生時代も気に食わない者は上級生だろうが逆らってたし…

普段は平穏に過ごそうとしていたその性もあってか何時の間にか怒らせてはならない『鬼女』なんて渾名を貰っちゃってたよ。

まぁ、そんなこんなで年云々で上下関係とかはあまり気にしないし、あっちで慣れちゃった分、学年云々も気にしないどころかあまりピンと来ないかな。

あっ、『その子からロシア語を習ったんだよ、私が日本語を教える代わりに、ね』」

と後半はロシア語でそう返したあかり。

「『亜里沙から話は聞いてたけど、本当に話せるみたいね』

それにしてもここは本当に良い場所ね。真姫に感謝しなくちゃ。それに、練習も出来そうだし」

「エリチ、もしかして歌の練習もするつもり?」

「勿論。ラブライブ出場枠が決定するまであと一か月もないんだもの」

「やる気やね。…ところで、花陽ちゃんはどうしてそんな隅っこにいるん?」

「ひ…広いと何だか落ち着かなくて…」

「その気持ち、わかるかも。ウチも広い場所はちょっと慣れへんし」

「そう言えば、これから練習だよね」

花陽の言葉に絵里は頷く。

「ええ、この合宿中の練習メニューは海未が考えてくれているわ」

「ああ…だから妙に張り切っていたんだね…」

あかりは嫌な予感を感じていたが…その予感は当たる事となった。

 

 

 

 

 

海未は周囲から大和撫子のイメージを体現したという印象だと評価されがちだが、実際には体育会系であり、こういった時には普段以上の気合いが入る。

「これが練習メニューです!」

(やっぱり予感的中か…)

とメニュー表を見たあかりはそう思いつつ頭を抱えた。

「って、海は!?」

「…私ですが?」

「この場合、海未じゃなくて“海”の方、“sea”の方だよ」

穂乃果のツッコミにボケる海未にツッコむあかり。

海未以外の皆が引いたり顔をしかめたりするのも無理はない。

練習メニューの内容は

・ランニング10km

・腕立て腹筋20セット

・精神統一

・発声

・ダンスレッスン

・遠泳10km

で1日の円グラフが全部埋まっているという常人離れした内容だったのだ。

「最近、基礎体力を付ける練習が減っています。折角の合宿ですし、ここでみっちりやっておいた方が良いかと思いまして!スポーツ関係の本を読み、皆が身体を壊さない程度の練習量を弾きだした結果がこれです!」

「え、遠泳10キロって…」

「その後にランニング10キロ…!?」

絶望感を抱く穂乃果とにこ。

「みんなもつかしら…?」

と疑問に思う絵里に

「大丈夫です!熱いハートさえあれば!」

と生き生きした良い笑顔で海未はそう返す。

「わー海未の笑顔が眩しー。(人間を卒業した私はともかく)普通の人間じゃ無理です多分身体が悲鳴を上げますよー」

もはや棒読みであるあかり。

一方の穂乃果は凛とアイコンタクトを取り、即座に行動へと移した。

「あー海未ちゃん!こっちこっちー!ほらあそこー!」

凛が海未を遠くに引っ張り出した隙に絵里、希、真姫、あかり以外の面々が海の方へ走り出したのだ。

「これはしてやられたねぇ~海未」

ニヤニヤするあかりの言うとおり、これは海未の負けである。

「まあ、仕方ないわね」

「良いんですか、絵里先ぱ…あっ…」

片目を瞑って口元に人差し指を立ててた絵里に海未は頭を下げた。

「μ'sはこれまで部活色が強かったから、こうやって遊んで先輩後輩の垣根を取り去るのも大事な事よ」

「絵里の言うとおりだよ、海未。

今日ぐらいは羽を伸ばして休もう?」

絵里やあかりがそう言った後、花陽が手を振って呼んだのであかり達も海へと向かうのだった。

 

海辺で楽しそうに遊ぶμ'sの面々をあかりはPVの材料を確保する為、自前のオーダーメイドである“特殊な防水加工”を施したビデオカメラでその様子を撮影していた。

 

 

殆どメンバーが楽しそうに遊ぶ中、真姫だけはピーチパラソルの下で寛いで本を読んでいた。

「真姫は難しそうね」

そう呟く絵里に対し

「いつぞやかの誰かさんにそっくりやな」

「そうだね」

希とあかりはμ's加入前のお堅い生徒会長時代の絵里の姿を思い浮かべながらニヤニヤしていた。

そんな二人に絵里は

「否定はしないわ」

と笑みを浮かべて返すのだった。

 

 

 

 

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第28話『思い入れ』

あかりは一人暮らしである為、食事も自分の手で用意しなければならない。

外食やコンビニなどで買った弁当で済ませる事もあれば自分で料理して食べる事も当然ある。

そんなあかりでも料理スキルに関してはにこに後れを取っていた。

「あかり!そっちはどう!?」

「もうちょいでサラダは完成」

「ご飯の方は!?」

「うん、今丁度炊けたよ」

それぞれの役割は厳正なくじ引きで決められ、不公平が内容にしている。

本来、食事当番はことりであったが、丁寧さを要求されるサービス業でのやり方に慣れてしまっていることりのやり方じゃ時間がかかり、遅くなると判断したにこはことりの代わりに料理当番、あかりはそのサポートとなったのだ。

(流石にこだよ…まぁ、丁寧さとか気にしてたら時間がどんどんなくなってしまうような家庭にいるからね…)

とこの面子の中で唯一にこの家庭環境を知っているあかりは心の中で呟いた。

「ん~まぁ、ちょっと作りすぎたこれで良いでしょ」

「にこお疲れ様~」

「あんたもなかなかやるじゃない」

「いやいや、にこには負けるって」

というやり取りもありつつ夕食の時間である。

因みに今日の献立はカレーライスとサラダである。

「はぁぁ~!お米がキラキラ輝いているよぉ~!」

花陽の目はこの中で一番輝いていた。

尚、花陽本人の希望により、お茶碗にご飯を一割増し多くよそってたりする。

「花陽ちゃん…それ…」

「気にしないでください」

穂乃果の言葉にきっぱりそう返す花陽。

「無茶苦茶こだわってるねぇ~」

とあかりは苦笑いを浮かべる。

「あれ?でもにこちゃん、料理したこと無いって言ってたよ?」

「言ってたわよ。いつも料理人が作ってくれるって」

ことりと真姫の指摘に冷や汗をかくにことこの中で唯一事情を知っているあかり。

「ににににこ嘘―「―あああああかり?おかわりはどうする?」いただこうかな~!」

とりあえずこの事に触れてはならない、と感じた8人であった。

 

食事も終わって皆のお腹も良い具合に膨らんだ時、凛がある提案をした。

「よーし!花火をするにゃー!」

「良いね良いね~ここは私が引き受けるから皆も行っておいでよ!」

「駄目よ、そういう不公平は良くないわ。

皆も、自分の食器は自分で片づけてね」

流石、現生徒会長の絵里である。

「それに、花火よりも練習です」

海未の発案に皆は固まる。

「でも…そんな空気じゃないっていうか、穂乃果ちゃんはもう…」

ことりの言うとおり、穂乃果はソファーに寝転がって挙げ句の果てにはこの場にいない妹にお茶を要求していた。

「じゃあこれ片付けたら私は寝るわね」

「えー!真姫ちゃんもやろうよー花火ー」

凛のその言葉の後、花火派の凛と練習派の海未との言い争いが始まった。

「かよちんはどう!?」

凛の助けの声に対する花陽の返答。

「わ、私はお風呂に…」

ここで第3の意見である。

「私に良い考えがある!ここは寝よう!」

「あかりちゃんの言うとおりや。今日は皆疲れてるし、練習は明日の早朝、花火は明日の夜にやるってことでどう?」

「凛はそれでも良いにゃ」

「…まあ、そちらの方が効率が良いですね」

両者とも希とあかりの意見に合意する。

 

その後、バスタイムになったが…あかりは皆に後で入るから先に入っててと言って先に風呂へ入らせた。

表向きはやるべき事が残っているからというのであり、これも事実なのだが…

(流石にこれを見られるのは、ね…)

あかりは自身が人間でない証拠―“トランステクターとの接続端子”や自身の過去を物語る傷痕や痣・火傷の痕を見られたくなかったからと理由があったから皆へ先に入るように言ったのだった。

 

 

 

 

「ねえ、ことりちゃん」

「なーに、穂乃果ちゃん」

「眠れないね」

「あー確かに眠れないかも」

「そうやって話しているといつまでたっても眠れないわよ?

海未とあかりを見てみなさい。ぐっすり寝てるわよ」

規則正しい生活を心掛けている海未と休める時に休むという考えが身に付いているあかりは熟睡していた。

「…真姫ちゃん、起きてる?」

「何よ…?」

「本当にそっくりやな」

「…何なの?さっきから」

回りくどい希の言葉に若干イラつく真姫はその言葉の意味についてぼんやりと考えながら眠りに就こうとしていた。

だが、その時、煎餅か何かを“食べる”音がしたのだ。

「な、何さっきから…?誰か電気付けてくれる?」

絵里の言葉に従い真姫が電気をつけると…

「…穂乃果ちゃん、何美食べてるの?」

「何か食べたら寝れるかなぁって!」

花陽に対しそう返答する穂乃果。

穂乃果の片手には煎餅が入った袋があった。

「もぉ…何よ、うるさいわねぇ。いい加減にしてよ」

皆が面食らったのも無理はない。

何せにこの現状をざっくり言えば顔面パックを貼り付け、しかも輪切りのピクルスまで貼り付けていたという良い子にはトラウマになりかねない状況だったのだ。

「これは、美容法よ。び・よ・う・ほ・う!」

「こ、怖い…」

花陽の気持ちもわからなくはない。絵里に至ってはハラショーと呟いている。

寝ようとしたにこの顔面に突き刺さった物―それは枕だった。

枕を投げた張本人である希は一瞬ニヤリとして

「あー!真姫ちゃん、何するのー!?」

「な、何を言っているの…?」

再び枕を投げる。

その枕は凛に当たり、合宿恒例の枕投げ合戦が始まった。

徐々にヒートアップする中、ぶつかり合って勢いを失った枕が寝ている海未へ落ちていったのだ。

この時、穂乃果とことりはまずい、と感じていた。

「―何事ですか?どういうこと…ですか、これは…?明日、早朝から練習すると言いましたよねぇ…そう、決めたはずですよね…?ふ、ふふふふふ…ふふふふふ…」

その姿は恐ろしいとしか言いようがなかった。

海未はまず手元に落ちていた枕をにこに向かって投げ、にこは寝かされてしまう。

「海未ちゃん、寝ている時に無理やり起こされると機嫌がとても悪いんだよー!こ、こうなったら戦うしか―」

続きを言いかけた穂乃果も海未が放った枕で寝かされてしまった。

「「だ、ダレカタスケテ~!」」

片隅で怯える凛と花陽に迫り来る海未。

海未が両手に持った枕を凛と花陽に投げようとした時だった。

絵里、希、真姫が投げた枕が海未の後頭部に命中、海未は再び寝息を立てはじめた事でこの枕投げ合戦は終了した。

「それにしても真姫ちゃん…」

口に手を当てまるで悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべる希。

「なっ、元々は希が―」

希は返事代わりに枕を投げる。

「何すんのよー!」

「自然に呼べるようになったやん、名前」

希の言葉に顔を赤くする真姫。

真姫との距離感を狭める―その為に希は枕投げ合戦を始めたのだ。

「それにしても…こんな状況であかりちゃんはよく寝てられるにゃ」

凛の言うとおり、あかりはこの合戦の間ずっと寝ていたのだ。

「―…―マ…パパ…ママ…」

「これは…寝言?」

花陽の言うとおり、あかりは寝言を言い始めたのだ。

「幸せそうね」

真姫の言うとおり、あかりは最初は幸せそうに寝ていたのだが…徐々に表情が変化していったのだ。

「パ…パ…マ…マ…!…―…!…―…―!―!」

まるで何かに苦しみ、悲しんでいるかの様だった。

 

更に何やら英語で寝言を言い始めたのだ。

希と絵里は顔を見合わせ、あかりの布団に入り

「大丈夫よ、あかり」

「ウチらがついとるで」

と絵里はあかりの背中を、希はあかりの頭を優しく撫でる。

その姿はまるで子をあやす親の様であった。

暫くしてあかりは安心したのか、穏やかな表情で眠り始めたのだった。

 

 

 

 

翌朝、真姫は一人浜辺に佇んでいたが、そこへ希がやってきた。

「早起きは三本の特やで」

「希、どういうつもりなのよ?」

その言葉に対し希はどこか真剣な表情でこう答える。

「…ねぇ真姫ちゃん、ウチな、μ'sのメンバーの事が大好きなん。

本人は口では否定しとるけどその中には勿論あかりちゃんも含まれてる。

ウチはμ'sの誰にも欠けて欲しくない。

μ'sを作ったのは穂乃果ちゃん達だけど、ウチもずっと見てきた。

何かあったらアドバイスもしてきたつもり。

それだけ思い入れがある」

「めんどくさい人ね、希」

真姫の言葉に希は

「否定はせえへんよ」

と笑みを浮かべる。

「おーい!希ちゃーん!真姫ちゃーん!」

皆を連れた穂乃果の呼ぶ声に二人も穂乃果達の元へ向かうのだった。

 

 

 

 

合宿の帰りの電車。

殆どのメンバーが疲れて寝ている中、希と絵里は二人で話をしていた。

「希、あかりの御両親って確か“事故”で亡くなったって言ってたわよね」

「うん、そうやけど…

やっぱり何かおかしい…“嘘”をついているか…或いは何かを“隠している”…そんな気がする」

二人はあの時、あかりが英語で言った寝言についてずっと考えていた。

あの寝言を希と絵里は聞き逃さなかったのだ。

「本人に直接訊く、と言ってもなかなか自分の事を話さないのよね…あかりは」

絵里の言葉に希は頷く。

「『憎い、殺してやる、地に墜ちろ』か…

あかりちゃん、今までどんな経験をしたんやろうか…それに『助けてヴェル』…一体誰の事なんやろうか…」

「あかりが前に年の近い娘からロシア語を習ってたって言ってのよ。恐らくそのロシア語を教えた娘がヴェルって娘だと思う」

 

 

 

 

『憎い、殺してやる、地に墜ちろ』

それはあかりが言った寝言を翻訳したものである。

 

 

 

 

あかりの“過去”とその言葉の真実が如何に“残酷”で“理不尽”で“血塗られたもの”であるのか…この時、μ'sの面々はまだ知る余地もなかった。

 

 

 

 

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第29話『後悔』

(最近、ことりの様子が何かおかしい)

と言うのがあかりが思っている事だった。

まるで何かを隠しているいる様な…そんな感じである。

(まぁ、私も人の事は言えないし本人の口から言うのを待つかな…)

だが、その選択が大きな過ちである事をこの時のあかりはまだ知る余地もなかった。

 

 

夏休みも終わり、音ノ木坂学院は学園祭の準備が始まる時期となった。

勿論、μ'sの面々もライブをする気満々である。

今回のライブはラブライブへの出場を不動のものとする為の最重要事項である。

「さて、私も出来る限りの事をしないと…ツバサ達に負けてられないし!」

7日間連続ライブを行うツバサ達A-RISE、そして他の多くのスクールアイドル達もまた残り二週間のラブライブ出場枠決定に向けて最後の追い込みを掛けていた。

そんな中、μ'sの面々が練習している屋上へと向かうのだが…μ'sの面々はお通夜ムードと言わんばかりに落ち込んでいた。

 

「なる程…講堂使用のくじで外してこうなったんだね…」

絵里から事情を聞かされたあかりは何故μ'sの面々が落ち込んでいるのかを理解した。

音ノ木坂の学園祭での講堂の使用はくじ引きで使用出来るか、使用時間は何時かが決まるシステムになっているのだが…

アイドル研究部はハズレを出してしまい講堂が使用出来ないのだ。

「みんな、気持ちを切り替えましょう。

講堂が使えない以上、まずはどこでライブをするかだけど…」

絵里の呼びかけに各自候補を出すがなかなか決まらない。

「だったら…屋上で良いんじゃないかな?」

穂乃果の発案から屋上でライブを行うことになり、更に一曲目に新曲を披露することになったのだが…

 

ある日の夜、あかりの元に海未から着信が入ったのだ。

「穂乃果の様子がおかしい?」

『はい。最近の穂乃果は明らかに“頑張り過ぎ”だと思いませんか?』

μ'sがランキングで19位になった頃から穂乃果は家に帰った後もランニングをするなど練習に“頑張り過ぎ”ているのだ。

「うん、確かにそうかも…とりあえず穂乃果の方には私からも無理はしないようにと言っておくよ。

それと、ことり事について訊きたいんだけど…」

『ことりの事ですか?』

「うん、何か様子がおかしい気がするんだよ…海未は何か知らないかなって…海未?」

あかりの言葉に海未は暫く黙っていたのだ。

『あっ、いえ!』

「…何か言えない事情があるなら私は追求しないよ。

私も言えない秘密があるからね」

『すみません…あかり…』

「良いって事だよ!とにかく今は目の前のライブに集中だよ!」

そう言うあかりであったが、(最近、ジーオスの出現頻度がこれまでより高くなっている分)緊急出動が多く、その分の披露が溜まっているからか完全に油断をしていた…そして、その油断が仇となるのであった。

 

 

学園祭前日の夜。雨が降りしきる中、穂乃果はランニングをしようと玄関のドアを開けると

「あれ?あかりちゃん?どうしたの!?」

傘を差したあかりが雨の中立っていたのだ。

「仕事の帰りで近くに寄ったんだよ。

それより、あれだけ忠告したのにこんな雨が降る中、練習する気なの?」

うん、だって明日本番だから―「…呆れたよ」それどういう意味かな」

「明日が本番だからだよ。本番だからこそ休息を取って体力を温存し、万全の状態でステージに挑めるよう備える。

それに、この雨の中、外に出て走るなんて風邪を引きたいの!?ライブを滅茶苦茶にしたいの!?

これは穂乃果だけの問題じゃないんだよ!」

あかりの言葉に穂乃果は何も言い返せなかった。

「もし外に―「わかった!わかったよ!」わかれば良いんだよ」

穂乃果は靴を脱ぎ、家へ上がる。

「あかりちゃんも上がって!」

「うん、お邪魔するよ~」

そして、あかりは流れで高坂家に一泊する事になったのだった。

 

 

翌日―つまり学園祭当日。

あかりの存在もあって穂乃果は遅刻せず無事学校に到着するが…

「雨、止まないわね…」

衣装へと着替えた絵里は窓の外を見て呟く。

雨は一向に止む気配がない。

「これじゃお客さんも…」

花陽の言葉の後、皆は暗い表情を浮かべる。

「やろう!全力で歌おう!その為に頑張ってきたから!」

そんな中、皆に活を入れたのが穂乃果の言葉だった。

「今日のライブ、今までで最高のライブにしよう!」

穂乃果の言葉に皆の志気も高まった中

「ことり…良いのですか…」

「うん…みんなの志気が高まったいる時に水を差したくないから…ライブが終わったら…」

海未とことりの様子がおかしい事にあかり以外の面々は気付かずにいた。

あかりもライブが終わってから話を聞こう、今はライブに集中、と気持ちを切り替えた。

 

豪雨という最悪なコンディションの中、今回初披露となる新曲『No brand girls』を皮切りにライブは始まった。

その後も順調にライブは盛り上がり、そして進行し、誰もが無事に終わると思っただろう。

アンコールを受けて『これからのSomeday』を披露しライブは終了する…筈だった。

「皆さん!今日は雨の中、本当にありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

(何とか無事に終わったね…)

とあかりが安堵し、油断していた時だった。

「次の曲でラストです!次…の曲…は…あれ…」

雨が降り続けている舞台の上で穂乃果は“崩れ落ちた”のだった。

 

 

 

 

あかりは急いで穂乃果の元へ向かい、穂乃果の身体を抱き上げ、額へ手をやると同時に密かに簡易スキャナを作動させる。

「酷い熱…まさか今までの疲労が…クソっ!ここまで疲労が溜まってる事に気が付かなかった…」

完全に油断していた自分を恨みつつ次どうするかを試行錯誤する。

「あかり、ライブは…」

「うん、このままじゃ穂乃果の身が危ない…」

絵里とのやり取りの後、あかりが出した決断。

「皆さん、申し訳ございません!メンバーにトラブルが起きました!

再開の見込みは現時点では分かりません!ですのでライブは中止です!」

「私が穂乃果を保健室へ連れて行く!皆この場をお願い!」

あかりは穂乃果を背負い、急いで保健室へと向かうのだった。

 

 

 

 

ライブから二週間後、あかりと絵里は理事長に呼び出され

「無理をし過ぎたのではありませんか?このような結果を招くために、アイドル活動をしていたのですか?」

と予想されていた正論を言われた。

スクールアイドルである前に自分達は学生であり、無理をして倒れたらそれこそ本末転倒だ。

そして、穂乃果を除いた9人で話し合い、“エントリー辞退”という結論に至った。

一方でライブの後もジーオスの出現頻度はライブ前よりも徐々に増しており、あかりはアイドル研究部に顔を出せずにいた。

尤もそれだけではない…どう顔を出せば良いのか…あかりは分からないのだ。

その日もジーオスを討伐した後、あかりの元に絵里から着信が入ってきた。

『あかり、今日も穂乃果のお見舞いに来なかったみたいだけど…?』

「ごめんね、最近は仕事が本当に忙しくて…

…そう言えば、穂乃果にあの事言ったんだよね?」

あかりの言葉を肯定する絵里。

「ごめんね…嫌な役を任せちゃって…

それにさ、皆に心配かけちゃってるよね…本当にごめんね…それじゃ」

あかりはそのまま通話を切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第30話『亀裂』

あかりがジーオスと交戦していた頃、μ'sの面々は穂乃果のお見舞いに来ていた。

「みんな…心配をかけてごめんね…」

「謝ることじゃないわ。みんな気にしてないわよ」

絵里は笑みを浮かべてそう返す。

「あの…今回のお詫びにまたライブをしたいんだけど良いかな?ラブライブも近いし…」

穂乃果の言葉に絵里は言いづらそうな表情を浮かべるが、決心して言った。

「穂乃果、ラブライブには出場しない事になりました。

理事長に言われたの…無理をしてたんじゃないかって…

出場や順位に拘って無理をしたから今回の事態の間接的な原因になったんじゃないかって…

だから、9人で話し合って決めたの。

ラブライブへの出場は辞退するって。

ランキングに私達の名前はもう…」

それは穂乃果にとってとてもショックな事であった。

一人になった時、穂乃果は涙を流し泣いたのだった。

 

 

数日後、体調も回復した穂乃果はラブライブのポスターを見ると未練がましくそれを見ていた。

「あんたも諦め悪いわね」

「だって…」

にこに言い返そうとする穂乃果。

「はぁ…希」

にこの言葉に希は頷き、穂乃果の胸を揉むのだった。

「ちょっ、希ちゃんやめて~!」

「穂乃果ちゃんが元気にしてればウチらも気にせえへんよ」

「それとも気を使って欲しいの?」

「わ、わかったよ…」

希は穂乃果への拘束を解く。

生徒玄関に到着した穂乃果達の前に

「だ、ダレカタスケテー!」

花陽が慌てた様子で来たのだ。

「花陽ちゃん?」

「タ、タスケテじゃなくて大変です!」

花陽に言われ掲示板を見ると…

『来年度生徒募集のお知らせ』

と見出しにそう大きく書かれた紙が貼ってあったのだ。

「つまり廃校を取り消すって事だよね…!やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

穂乃果は喜びの声を上げるが、その思いは皆同じであった。

「あっ、あかりちゃぁぁぁん!」

「穂乃果…ごめん…私の判断ミスだよ…

私がもっと気をつけてればライブも台無しにならなかったのに…」

「ううん。悪いのは体調管理を怠った私だから、あかりちゃんのせいじゃないよ。

それよりこれは見た?」

穂乃果はあかりに件のポスターを見せる。

「学校…存続だと…!?本当だよね…!夢じゃないんだよね!?」

あかりの言葉に皆は頷き、あかりもまた大喜びすると共にこう思っていた。

(これで私もお役目御免だね…)

 

それからμ'sの面々はあかりも加えて部室でパーティーをする事となり、盛り上がっていたのだが…

海未とことりの様子は他の面々と異なり、深刻な表情を浮かべていたのだ。

「ことり…」

「でもみんな楽しんでる時に…」

ことりが言えないなら自分が、と考えた海未は

「皆さん、重大なお話があります」

と立ち上がり、皆に呼びかけたのだ。

「突然ですが、ことりが留学する事になりました」

その言葉に皆はショックを受ける。

「…前から服飾について勉強したいって思ってて…そしたら、海外にいる有名なデザイナーの元で勉強してみないかって話が来て…」

「いつ日本を…」

「来週には…」

と花陽の言葉にそう返すことり。

「どうして…どうして言ってくれなかったの…!ずっと、ずっと一緒だったのに…!」

穂乃果はことりに問う。

「何度も、言おうとしたよ…でも、穂乃果ちゃん、ライブやるのに夢中で…ラブライブに夢中で…

聞いてほしかったよ!穂乃果ちゃんには…!一番に相談したかった…!」

ことりは泣き出して走り出ていったのだった。

「…ずっと迷っていたみたいです。行くかどうか…

むしろ、行きたがっていなかったように見えました。

ずっと穂乃果の事を気にしてて、穂乃果に相談したら何て言うか…そればっかりで…

本当にライブが終わったらすぐに相談するつもりだったんです…

…ことりの気持ちも、分かってやってください」

「そんなの…そんなの…」

穂乃果は誰も寄せ付けないかの様にふらふらと教室を後にした。

「あかり、今まで言えなくてすいませんでした」

「いいや、どうするかなんて本人次第だからね、私からは何も言うことはできないよ」

そう言いつつあかりの頭の中にある考えが浮かぶのだった。

(私は……そもそも廃校を阻止する為に協力しているだけ…目的は達せられた…その後どうするかはみんな次第…だが…こんな結末、私は…)

 

 

 

 

翌日、ことりを除いた9人は屋上に集まっていた。

「ライブを…?」

穂乃果の言葉にあかりを除いた7人は頷く。

つまり、ことりが出発する前にもう一回ライブをしようという事であった。

「思いっきり賑やかなのにして、門出を祝うにゃー!」

穂乃果の返答は…

「私がもっと周りを見ていれば、こんなことにはならなかった。自分が何もしなければ、こんなことにはならなかった!」

それは穂乃果が今までしてきたこと―そしてμ'sを全否定するものであった。

「そうやって自分一人で全てを背負い込もうとするのは傲慢よ。

それに、言った所で何も始まらないし、誰も良い思いはしない」

「ラブライブだって、きっと次があるわ」

「そうよ。今度こそ出場するんだから、落ち込んでいる暇なんてないわよ!」

絵里や真姫、にこの言葉を穂乃果は拒否する。

「出場してどうするの?もう学校は存続できたんだから、出たって意味ないよ。

それに無理だよ…いくら練習してもA-RISEみたいになれっこない…」

「…あんたそれ、本気で言ってる?本気だったら許さないわよ?」

沈黙を貫く穂乃果。

その穂乃果ににこは我慢の限界を超えていた。

「許さないって言ってるでしょ!?」

「にこちゃん駄目!」

真姫はにこを押さえているが、解放されたらにこは真っ先に穂乃果に手を上げるだろう。

「にこはねぇ!あんたが本気だ思ったから!あんたが本気でアイドルやりたいんだって思ったからここに懸けようって!

そう思ったからにこは!

あんたはそれをこんなことくらいで諦めるの!?こんなことくらいでやる気を無くすの!?」

にこの言葉に黙秘を貫く穂乃果。

「じゃあ、穂乃果はどうしたいの?」

絵里の問いに穂乃果はこう返答した。

「辞めます…スクールアイドル、止めます」

穂乃果は発言を撤回しようとせず、それどころかこの場を立ち去ろうとした。

そんな穂乃果の手を掴んだ海未。

穂乃果が振り向くと海未は穂乃果の頬にビンかましてこう言った。

「貴方がそんな人だとは思いませんでした…

貴方は…貴方は最低です!

 

 

その日からμ'sは廃校阻止やラブライブ出場という目標がなくなった今、その存在についてもう一度見つめ直そうという事になり、活動停止となった。

ことりは留学の準備の為に長期休みに入り、穂乃果と海未は会話が少なくなった。

 

 

その海未はあかりと二人で話をしていた。

「海未ちゃんはこれからどうするの?」

「私がスクールアイドルを始めたのは、穂乃果とことりが誘ってくれたからです。

その二人がいなくなるのなら私は…

今回、穂乃果に辞めると言わせたのは私の責任です。あかりはどうするのですか…?」

「私は…まずは私の好きにする。まずはそれからだよ」

 

 

あかりは仕事を片付けた後、ことりの元を訪れていた。

「さっきまで海未ちゃんも来てたんだよ」

「そっか…」

「私はね…“私自身”としてはこんな展開、望んでないんだよ。

ことり、本当にこれで良いの?」

言葉を返そうにも言葉が出て来ないことりにあかりはこう言った。

「アメリカにいた時、知り合いがこう言ってたんだよ。

『何年も何十年もその先に後悔しない為にも“選択”を誤るな』

と。

ことり、後悔しない様に選択だけは誤らないように、ね…」

そう言うあかりはどこか悲しげでもあった事にことりは気付くのだった。

 

 

 

 

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第31話『決断』

一方、穂乃果のクラスメートであり、友人であるヒデコ、フミコ、ミカの三人は意気消沈している穂乃果を励まそうと彼女を誘って遊びに出かけた。

 

 

その中、ゲームセンターにあるダンスゲームをする事になった。

穂乃果の番が来るのだが、彼女の脳裏にμ'sの面々とダンスの練習をしている光景が浮かび上がり、立ち尽くしていた。

「穂乃果!始まってるよ!」

「あっ!」

指摘され、遅ればせながらもプレイを開始する穂乃果。

その記録はかなりの高得点で、序盤のミスがなければハイスコアを更新していたかもしれないものだった。

「穂乃果凄いじゃん!やっぱりダンスをずっとやってた人は違うね!」

それから4人は色んな所を回り

「それじゃあ、また明日!」

「うん!バイバーイ!」

解散した後、穂乃果は何となく神田明神へと向かった。

 

 

其処では花陽と凛が基礎練習を行ったいた。

「あっ、穂乃果ちゃん…」

穂乃果に気付いた凛は声を掛ける。

「二人共、練習してたんだ…」

「当たり前でしょ!続けてるんだから!」

そう返したのはにこであった。

「続けてる…?」

「そうよ、私達は続ける事にしたのよ」

μ'sは活動停止した中、にこは花陽と凛を誘ってアイドル活動を継続する道を選んだ。

「でも、どうして…」

「好きだからよ!にこはアイドルが大好きなの。みんなの前で歌って、ダンスして、みんなと一緒に盛り上がって…

また明日からがんばろうって、そういう気持ちにさせることができるアイドルが、私は大好きなの!

いい加減な気持ちで辞めた穂乃果と違う「いい加減なんかじゃない!」」

穂乃果の言葉に反論しようとするにこであったが花陽に宥められ、抑えた。

「あかりちゃんにも言ったんだけど、実は今度、私達3人でライブをする事になったの」

「穂乃果ちゃんが来ると盛り上がるにゃー!」

「って言うかアンタが始めたんだから、絶対に来なさいよね!」

 

 

穂乃果の自宅―つまり和菓子屋『穂むら屋』の前。

「雪穂、これはシュークリーム?」

「違うよ、これは饅頭だよ」

興味深そうに饅頭を見る亜里沙に雪穂はそう返し

「ハラショー…」

と亜里沙は呟いた。

「すみません、わざわざ送ってもらって…」

「良いのよ。それに私も来たいって思ってたから」

礼を言う雪穂に絵里はそう返した。

「そうだ!上がっていってください!お姉ちゃんも喜びます!」

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう、穂乃果」

客間にて絵里は穂乃果が差し出した茶を飲んで一息つく。

「私ね、よくしっかりしているとか言われるけど…本当はそうじゃないの。

あの頃は何かに追われてる様で…とにかく廃校を阻止しなきゃって死に物狂いになってた。

でも、そんな時に私は穂乃果に大切なことを教えて貰ったの。

変わることを恐れないで、突き進む勇気…。

私はあの時…あなたの手に救われた」

絵里は穂乃果を抱き締め

「ありがとう…穂乃果…」

感謝の言葉を述べた。

「私の方こそ、絵里ちゃんには助けられてばかりだよ」

穂乃果も抱き締め返すのだった。

そして、穂乃果の中である決心がついたのだった。

 

 

 

 

翌日。あかりと海未は穂乃果に呼び出され、講堂にいた。

「ごめんね二人とも、急に呼び出したりして」

「いえ…」

「別に構わないよ」

「…ことりちゃんは?」

「今日、日本を発つそうです」

「そう、なんだ…」

暫くの沈黙の後、穂乃果は口を開いた。

「あのファーストライブの時にね、私もっと歌いたい、踊りたいって思ったんだ。辞めるって言ったけど、気持ちは変わらなかった。

学校の為とか、ラブライブの為とかじゃない…歌うのが大好きだから!だから、ごめんなさい!

夢中になり過ぎちゃってこれからも迷惑をかけるかもしれないけど、それでも私は追いかけていたい!」

穂乃果の思いを聞いたあかりと海未だったが…思わず笑ってしまった。

「ちょ、海未ちゃんあかりちゃん!?私、真剣なんだよ!」

「sorry,ちょっと、ねぇ海未」

「えぇ、あかりの思っている通りです」

二人の反応に頭を傾げる穂乃果。

「穂乃果、はっきりと言いますが穂乃果には昔からずっと迷惑かけられっぱなしですよ。

どんなに止めても夢中になったら何も聞こえてなくて…

だいたいスクールアイドルだって…私は本気で嫌だったんですよ?

どうにかしてやめようとしましたし、穂乃果を恨んだりもしました。

ですが、穂乃果は連れて行ってくれるんです。

私達じゃ行けない様なすごいところに。

穂乃果に振り回されるのはもう慣れっこなんです。

あの時、穂乃果に怒ったのは穂乃果が自分の気持ちに嘘を付いているのがわかったからです。

穂乃果、私達の知らない世界へ連れて行ってください!それが穂乃果のすごいところなんです!

私もことりもあかりも、μ’sのみんなもそう思っています!」

「さぁ、穂乃果!ことりが待ってるよ!迎えに行って!」

「えぇ!?でも…」

「ことりは穂乃果から我が儘思いっきり言ってもらいたいんだよ」

「我が儘ぁ!?」

「有名デザイナーに見込まれたのに“残れ”って我が儘を言えるのは穂乃果しかいない!」

そして、あかりは穂乃果にタクシー代を渡しこう続けた。

「だから、後悔しないように、ね」

 

 

一方、とある空港ではことりが搭乗する予定の旅客機への搭乗時間が刻一刻と近付いていた。

ことりがロビーにあった椅子から立ち上がり、移動しようとしたその時だった。

「ことりちゃん!」

「穂乃果ちゃん…!?」

穂乃果はことりの手を掴んでいたのだ。

ことりが振り向くと同時に穂乃果はことりを思いっ切り抱き締めた。

「ことりちゃんごめん!私スクールアイドルやりたいの!いつか違う夢に向かう時が来るとしても…!行かないで!」

穂乃果のありったけの思い。

「ううん、私の方こそごめんね…私…自分の気持ち、わかってたのに…!」

ことりは思いっ切り泣いた後、穂乃果と共にタクシーに乗って音ノ木坂学院へと向かった。

 

 

同じ頃、あかりはライブの準備を海未に任せて理事長の元を訪れていた。

「それは本当なの?」

「彼方には私から話をして高校卒業まで待って改めてどうするか答えを聞く、と期間を延長してもらいました」

あかりがそう言った時、彼女のスマホに穂乃果からのメールが入った。

『ことりちゃんと一緒に向かってる』

「ことりは決心したそうです。穂乃果達と一緒に歩んでいく道を」

あかりのその言葉に

「こうなる可能性も薄々考えてはいたけれど…全く、あなたには適わないわね。流石は“神童の鬼女”ね」

「買い被り過ぎですよ。私はただ後悔しないよう―あの子達が後悔しないよう動いただけに過ぎません」

「まぁ、そういう事にしておくわ。とりあえず、向こうには私の方からもう一度話をしておくわね」

「ありがとうございます」

そう言ってあかりは理事長室を後にして講堂へ向かうのだった。

 

 

「開演まであと10分…本当に間に合うわよね…!」

「心配しなくても大丈夫だよ」

にこに対しあかりがそう返した時だった。

「うっわぁぁぁ!」

廊下に繋がっている扉が開いて穂乃果が走りながら入ってきて

「いったぁぁぁぁい!」

尻餅をついたのだ。

「みんな!遅れてごめんね!」

「おかえりなさい、ことり。さて、全員が揃ったところで部長、一言」

絵里はにこを指名し

「えええっ!?な~んてね!今度はちゃんと考えてあるわよ」

にこは突然の指名に声を上げるがすぐにその表情は余裕の色を見せる。

以前―合宿の時はグダグダになってしまったが、流石に同じ手は二度も喰わないようである。

「良い!?今日皆を、一番の笑顔にするわよ!」

円陣を組み、それぞれのピースサインが合わさったそれは、大きな一つの星となり

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

!5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

『『μ's!ミュージックスタート!』』

点呼を行い、ステージへと移動する。

「皆さんこんにちは!μ'sです!」

ライブは穂乃果の挨拶から始まった。

「私達のファーストライブはこの講堂でした!」

(…μ'sはこの講堂で、3人のライブから始まった…

完敗からのスタートだったのが今や講堂は満席で立ち見する人がいる程…)

あかりはファーストライブの事を思い返していた。

「その時、私は思ったんです!いつか、ここを満員にしてみせるって!

一生懸命頑張って、今私達がここにいる…この思いをいつか皆に届けるって!その夢が今日…叶いました!」

だが、その夢はまだ終わらないという事をあかりは分かっていた。

「だから私達は、また駆け出します!新しい夢に向かって!!」

9人揃っての『START:DASH』。ここからが9人の新たな始まりだった。

舞台袖からライブを見ていたあかりは楽しそうに踊り、輝いている9人に手を伸ばす。

 

 

(あぁ…其れで良い…眩しいな…私怨で血塗られた私とは正反対の輝かしい存在…)

 

 

あかりも既に決断を下していた。後はその決断―いや既に決めていた事を告げるだけである。

 

 

ライブ終了後、あかりは希と絵里にある書類を提出した。

「あかり、これは何の冗談なの…?」

「冗談なんかじゃない。…私はそもそも廃校を阻止するまでという条件でμ'sのマネージャーとして協力していた。

その目的が達せられたから…それに皆は私がいなくてもやっていけるよ。

それに私は本来は“輝いている”みんなと一緒にいちゃいけないから…だから私は決断を下したんです」

 

 

 

 

あかりが提出した書類。それは『退部申請書』であった。

 

 

 

 

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第32話『咎人』

さて、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の騎士は前回のラストから物語を始めるとしよう。

ライブ終了後、あかりは希と絵里にある書類を提出した。

「あかり、これは何の冗談なの…?」

「冗談なんかじゃない。…私はそもそも廃校を阻止するまでという条件でμ'sのマネージャーとして協力していた。

その目的が達せられたから…それに皆は私がいなくてもやっていけるよ。

それに私は本来は“輝いている”みんなと一緒にいちゃいけないから…だから私は決断を下したんです」

あかりは『退部申請書』を出して、絵里や希の制止を聞かずに講堂を後にした。

 

 

そして、翌日放課後のアイドル研究部部室。

「皆に集まってもらったのは他でもない…あかりの事よ」

絵里は話を切り出した。

今回の議題は“昨日の頼尽あかりの退部”についてである。

「あかりにこの事を訊こうとしても逃げられたりはぐらかされたりして…」

と現状を言う真姫。

「私達…あかりちゃんの事を殆ど知らないよね…」

「…そうですね…私達はあかりの事を…」

穂乃果の言葉を肯定する海未。

「ただ、わかるのはアメリカから帰ってきてからずっと何かを隠している様な気がする事、だよね…」

ことりの言うとおりであった。

「…実はな、あの合宿の時…あかりちゃんが寝言を英語で言ってたんやけど…」

「寝言…ですか?」

「えぇ、海未は知らないかもしれないけど、枕投げをした後、あかりが悪夢にうなされているかの様に苦しんでたのよ」

と返す絵里。

「その時に言ってた事を翻訳するとこうなるんや…『憎い、殺してやる、地に墜ちろ』」

その言葉に皆は驚愕した。

「あかりの御両親は事故で亡くなったって聞いたけど…

あかりは“嘘”をついているか…或いは本当だとしても何かを“隠している”…そんな気がするのよ」

絵里の言葉の後、穂乃果はこう口にした。

「私、あかりちゃんの家に行ってくる」

「穂乃果、あかりの家が何処なのか知っているのですか!?」

海未の言葉に穂乃果は首を横に振る。

「けど、行かなきゃならない!」

「ならば、私達も行くわ!それに先ずはあかりの家の場所を聞き出すのが先よ」

「ウチらは知らなければならない…頼尽あかりの抱えている“もの”を」

にこと希の言葉に皆は頷くのだった。

 

 

理事長。

「失礼します」

絵里の言葉に続いてμ'sのメンバーだっが、理事長室には先客がいたのだ。

「どうしたの?絢瀬さん」

「頼尽さんに“今日中に渡したいもの”があるんですが頼尽さんの家の場所が分からなくて…」

「待ってて。今、地図を印刷するわ」

理事長がパソコンを操作していた間、先客がμ'sのメンバーに話し掛けてきた。

「君達がμ'sだね。噂はかねがね聞いているよ」

「えっと…あなたは…」

穂乃果の言葉にその先客はこう答えた。

「私は国連特殊災害対策機関《ネスト》の日本支部総司令官の立木亜里火だ」

「ネストって怪獣などの特殊災害の…ても、なんでそんなお偉いさんがどうして…」

希の言葉に亜里火はこう答えた。

「私の部下が世話になっているからね」

「部下…」

頭を傾げる穂乃果に亜里火はこう口にする。

「君達もよく知る人物だよ。最近まで君達μ'sのマネージャーをしていたからね」

亜里火の言葉にμ'sの面々は驚くしかなかった。

「まさか…あかりちゃんか…」

「でも、あかりがネスト隊員ってどういう事なのですか…?」

ことりと海未の言葉に亜里火はこう続けた。

「君達はアデプトテレイターという存在は知っているか?」

殆どの者が首を傾げる中、真姫だけは違っていた。

「何かしらの事情によって身体の殆ど…例えば脳や脊髄など以外の身体の部位を機械の義体にした者達或いは"ある生命体の細胞"…金属細胞と一体化した者達の事…

ただ、義体や金属細胞との適合率の問題からその数は少なく、また誰がアデプトテレイターなのか…そもそも実在するかわからない存在…」

「だいたいそれで合っているよ。流石はあの西木野先生の娘だよ」

「でも、どうしてあかりがそのアデプトテレイターになったのよ…」

にこの言葉に亜里火はμ'sの面々に問う。

「彼女の身に何が起きたのか知りたいか?」

その言葉にμ'sの面々は静かに頷く。

「…良いだろう、君達を信じて話そう。但し、これだけは約束してほしい。彼女を“拒絶”する事だけはしないでほしい…もししたのなら私は君達を許さない」

亜里火はμ'sの面々にあかりの過去について語る。

「―これが、頼尽あかりの過去だ。さて、君達はこれからどうする?」

亜里火の言葉に穂乃果は皆を代表して答えた。

「あかりちゃんに会いに行きます。もう一度、友達になる為に」

その答えに満足したのか亜里火は笑みを浮かべるのだった。

 

時を同じくして、あかりは自室のベッドの上で寝転がっていた。

「これで良かったんだよね」

と呟くあかりはベッドの近くにある写真を見詰める。

アメリカを立つ前に穂乃果達と撮った写真やアメリカで希と撮った写真、そしてオープンキャンバスでのライブの後に撮った写真…。

それらを眺めていたあかりの元に連絡が入る。

「―了解、すぐに現場へ向かいます」

今回も近くにジーオスが出現したという連絡だった。

あかりは地下格納庫へ行き、トランステクターに乗って出発するのだった。

 

 

「ここがあかりちゃんの家…?」

「えぇ、地図によると間違いなく此処よ」

穂乃果に対し絵里は地図をもう一度確認して言った。

「こんな広い所に一人で住んでるなんて…」

「でも、何だか寂しいにゃ」

花陽と凛がそう言った後、警報と共に門が開く。

「何が起きてるのよ!?」

にこが言うのと同時に

『発車します、門から離れてください』

という警報が鳴る。

数秒後、車庫から銀色のトラックが発車した。

その時、穂乃果は運転席に座っている人影を見逃さなかった。

「今の…あかりちゃんだった…みんな!あのトラックを追い掛けよう!」

穂乃果はそう言ってあかりを乗せたトランステクターを追うのだった。

 

「やっぱり、走って車に追い付くのは無理があるわね…」

真姫の言うとおりであった。

結局、μ'sの面々はあかりを見失ってしまった。

「どこに行ったのかな」

花陽の言葉の後、爆発音とジーオスの鳴き声が響き渡った。

「みんな、行くわよ。…あかりは恐らく彼処にいる」

絵里の言葉に皆は頷くのだった。

 

 

 

 

一方、その爆発現場ではバルバトスマグナスとなったあかりとジェネラル級ジーオス達との戦いが繰り広げられていた。

「はぁぁぁぁぁ!」

マグナスが振りかざした刀によってジーオスは真っ二つにされ、機能を停止させた。

「ジーオスの殲滅を確認」

『了解。此方でも反応の消失を確認』

オペレーターとの通信を切り、ビークルモードに変形しようとしたマグナスだったが…

「待って!」

声がした方を向くとそこには穂乃果が、μ'sの面々の姿があった。

「あかりちゃん…だよね?」

穂乃果はマグナスにそう問うのだった。

 

 

「この辺りの筈ですが…」

海未の言葉通り、μ'sの面々は爆発現場―マグナスとジーオスが交戦している場所の近くにいた。

「みんな!あれ!」

花陽は皆を呼び、皆は花陽が指差す方向を見る。

「あれが亜里火さんが言ってた…」

ことりがそう言った後、マグナスはジーオスを真っ二つにし、戦闘は終了した。

少しして、その場を去ろうとするマグナスを

「待って!」

穂乃果は飛び出して引き止める。

その後に続いてμ'sの面々もマグナスの前に姿を現す。

「あかりちゃん…だよね」

穂乃果の問いに

「仮にそうだとして何故そうだと思う?」

とマグナスは問い返す。

「トラックに乗って家を出るあかりちゃんを見たから」

「それに、その姿からあのトラックへ変形する姿を私と花陽は見てる。亜里火さんから話を聞いたわ。あなたがアデプトテレイターだって事を」

絵里の言葉の後、暫く黙っていたマグナスだったが、ボイスチェンジャーを解除してこういった。

「今さら隠し通せないか…」

マグナスはしゃがみ込んだ後、胸部を展開させる。

そして、あかりはマグナスというトランステクターから分離して9人の目の前に降りる。

「あかり、どういう事なの…?あの退部申請書は何なの…?何故あれを出したの…?」

絵里の問いにあかりは一泊置いて答えた。

「…私のせいなんだよ…

あの時…私がもっと考えて行動していれば学園祭のライブは失敗せずに済んだ…μ'sが解散の危機に陥る事もなかった…

…3年前のあの時だってそうだ…

…“俺”がよく考えてれば…俺があの時期に我が儘なんて言わなければパパやママは死なずに済んだ!」

あかりは今の顔を誰にも見られたくないから後ろを向いて言葉を続けた。

「司令官から話を聞いたのなら分かるだろ…俺から見たらな、みんなは輝かしくて眩しい存在なんだよ…

…こんな血塗られた咎人である俺とは正反対の存在…

…俺にとってみんなは触れていいような、一緒にいて良い存在じゃないんだよ…

そもそも俺は廃校を阻止するという目的の為にマネージャーという形で協力していたに過ぎない」

あかりの声は震えていた。

「だから、役目が終わったから、あの書類を出したの…?」

絵里の問いにあかりは首を縦に振る。

「前々から言ってた様に元々廃校を阻止するまでという条件だったからね…」

一拍置いてからあかりはこう口を開いた。

 

 

 

 

「…あれは3年前の春だった」

あかりは自ら語り始める。

 

 

 

自身の血塗られた過去―あまりにも残酷で理不尽で悲しい過去を…

 

 

 

 

To be continue



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第33話『鋼鉄の戦女神』

今回の話は少し残酷な描写を含みますので予めご了承ください。


―side:Akari―

 

 

3年前の4月某日。あの頃、パパやママは仕事で忙しくて私は家に一人でいる事が多かった。

寂しく感じていた私は両親にある我が儘を言った。

「最近は仕事ばっかりだよね、偶には息抜きも必要だよ?」

「う~ん、それもそうね…」

「なら、次の日曜日は二人で休暇を取るか!」

「わーい!パパ)ママ!ピクニック行こうよ!川に行って魚とか釣ろうよ!」

その我が儘がすべての―私の“罪”の始まりだった。

 

ピクニックへ行く日。私達は近くの川へ歩いて向かっていた…この後に何が起きるのかを知らずに。

“何か”がぶつかって飛ばさた大きな音がした。

その“何か”が“パパ”で、ぶつかって来たのがピックアップトラックである事に気付くのに数十秒かかった。

そのピックアップトラックから二人の男が降りてきた。

「あ~あ、やっちまったぜ」

「おいおい、どーすんだよ?」

「そいつは山の中にでも棄てとけ。その二人は…目一杯楽しませて貰おううぜ」

 

 

奴らは指名手配中の強盗犯だった。私達は奴らに脅されて無理やり車に乗せられ、山の中にある小屋へと連れて来させられた。

“パパだったもの”は山の中に棄てられ

「さぁ、お楽しみはこれからだぜ」

 

 

私とママは奴らに服を無理矢理引き剥がされ、強姦された。

 

 

痛かった。いくら私が止めてほしいと思っても奴らは止めなかった。

 

 

一方のママはパパを失い、奴らに犯された事で完全に精神崩壊してしまった。

「あ~あ、こいつもう駄目だわ」

「娘の方はまだ大丈夫なのによ」

「んじゃ、始末するか」

「そうだな」

そして、ママは奴らに拷問されて死んだ。

 

 

この時から私は“奴らを殺したい”と思うようになり、“奴らをどう殺すか”考えていた。

 

 

ママの死から3日ぐらい経った日の夜。

奴らは盗んだらしい酒を飲んで酔っ払って寝ていた。

(チャンスは今しかない…!)

私は近くに落ちていた―と言うよりは隙を突いて予め隠していたナイフで両腕を縛っていたロープを切断する。

それから私は奴らが所持していたワルサーP38とその弾薬、そしてチェーンソー、ハンマー、スタンガンを回収する。

(これで準備が出来た…後は殺すだけだ…!)

私はまずスタンガンを奴らの首元に当てて気絶させ

「先ずは動けなくする為に手足を奪わないとね」

チェーンソーで奴らの手足を切断した。

流石の激痛で起きてしまったけれど、どうせ動けないし問題はない。

「クソッ!何しやがるんだこのメスガキ!」

「何しやがる…それはこっちのセリフなんだよ」

私は奴らの内の片方―私を犯した奴の腹を思いっきり踏みつける。

「俺から大切な物を奪っておいて…お前ら、覚悟は出来てるんだよな」

「おい寄せ止め―」

私はそいつの口の中に銃口を突っ込んで引き金を引いた。

「こ、この人殺し!」

もう片方―パパを牽き殺しママを犯して殺した奴がそうほざく。

「どの口がほざくのかね」

私は奴の股間にある“それ”をナイフで根元から切断した。

「これがママを壊した物だね

私は切断した奴の“それ”を奴の顔の隣に投げ捨て、そして奴が見ている中で“それ”をハンマーで叩き潰した。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい―」

この期に及んで謝罪―命乞いとかみっともない。

「はい、許しますって言うとでも思った?」

私はゆっくりと銃口を奴の口の中へ突っ込む。

「さ~て、これで憎い奴ともおさらばだね。殺してやる…俺の手で地に堕ちろゴミ!」

私は引き金を引いて、奴らへの復讐を終えた。

 

 

だけど、私にも“天罰”が下った。

パパやママを死なせるキッカケとなり、どんな屑であろうが人を殺した事への天罰。

 

 

私の目の前に空から怪獣―ジェネラル級ジーオスが着陸してきて、私を叩き飛ばした。

 

 

―side out―

 

 

 

 

「―幸いにもすぐにネストのMSが来てジーオスを殲滅したから私は一命を取り留めたけど…このままでは二度と身体は動かないだろうと医者に言われた時、ある提案を受けた。

アデプトテレイターになれば自由に動けるようになるし、政府のジーオスといった怪獣などへの対策機関―ネストへ入れば私の刑罰―殺人罪も帳消しになる。まぁ、その事はどうでもいいけどね。

ただ、一生動けないのもあれだし私は人間を卒業してアデプトテレイター、その中でも鋼鉄の鎧―トランステクターとの融合によってトランスフォーマーへとなれる存在―アデプトマスターとなってジーオスと戦う道を選んだ」

あかりが両親の死から殺人を犯した事、そしてアデプトマスターとなった経緯までを話し終えた後、希はあかりに質問した。

「じゃあ、ウチと初めて会った時には…」

「既にアデプトテレイターになってた。

あの病院にいたのは手術後でまだ慣れない義体に慣れる為のリハビリをする為だったんだよ」

「どうして…今までそんな大切な事を…」

穂乃果の問いにあかりは振り向いて…笑みと涙を浮かべて泣きながらこう答えた。

「言えるわけないよ…私が私怨で殺人を犯した人殺しだって…人間じゃなくなってるって…

可笑しいよね…奴らを殺した事に後悔はないって思ってたのにみんなと会って人殺しになった事に後悔している…矛盾しているよね…」

この時、μ'sの面々は気付いてしまった。

 

 

“頼尽あかり”という存在は既に、両親を失った時には既に“壊れていた”という事に。

ヴェルと一緒にいた事で均衡を保っていた精神は彼女と離れた事で再び不安定となったのだ。

 

 

「“俺”はな、そんな矛盾だらけのあいつらと同じ最低な屑なんだよ。だからこそ皆と一緒にいる資格なんてない。

お前らとは関わらない方が良いんだ―「あかりちゃんの馬鹿!」っ!」

穂乃果の怒鳴り声にあかりは驚く。

「あかり、確かにあなたがした事は許される事じゃない、人として最低の行為だわ。

そんな真実を知れば軽蔑され嫌われると思ったから、見離される自分から離れようとした…違う?」

にこの言葉を否定できないあかりににこはこう続けた。

「私を甘く見るんじゃないわよ!私達はそんな事であんたを軽蔑しないわ!だから私達は此処にいるのよ!」

「にこの言うとおりよ。過去はどうあれ、あかりは私達にとって大切な仲間である事、親友である事に変わりはない。

それに私はあなたがアイドル研究部を辞める事を認めないわ」

「凛ね、あの時のあかりちゃんの言葉があったからμ'sのメンバーとして今此処にいるんだよ…あかりちゃん、ありがとう」

「エリチもあかりちゃんにずっとお礼が言いたかったんよ。

あの時、あかりちゃんと出会ったから音ノ木坂を知って、みんなと…掛け替えのない大切なみんなと出会う事が出来た。ありがとう、あかりちゃん」

「私、もっとあかりちゃんと話がしたい…!

アイドルの事…それからあかりちゃんが好きなアニメにも興味が出てきたから…その事でもっと話がしたい!だから辞めないで!」

「あかり、貴女は…その…私にとって初めて出来た“親友”なのよ!

そんな貴方に私のピアノをもっと聴かせたい!

だから、勝手に辞めるんじゃないわよ!」

「こう言うのも恥ずかしいですが…あかり、貴方は私にとって憧れの人物で目標なんですよ。

そして、今でも憧れの人物で目標である事は変わっていません」

「あかりちゃん、あかりちゃんはあかりちゃん自身が思ってる様な最低な人じゃないよ。

あかりちゃんは優しい人だよ…それは昔から今でも変わらないよ」

絵里、凛、希、花陽、真姫、海未、ことりの言葉にあかりの心を包んでいたどす黒い殻にヒビが入っていく。

そして穂乃果はあかりを抱き締めた。

「あかりちゃん…ごめんね…苦しんでいる事に気付けなくて…」

「すべては私がやった事への罰だから…私は咎人だから」

「違う!あかりちゃんは咎人じゃない!

過去は関係ない、今のあかりちゃんは皆を守る為に戦ってるんだよね!

だったらあかりちゃんは咎人じゃなくて戦女神なんだよ!」

「私が戦女神…それで良いのか…?」

あかりの言葉をμ'sの面々は肯定する。

「私は…俺は…良いのか…みんなといる資格があるのか…」

「資格なんか関係ない。一緒にいて良いんだよ…だからこれ以上、自分を責めないで」

心を覆っていたどす黒い殻が完全に割れたあかりは思いっきり泣いた、今まで溜めていたものを吐き出すかの様に泣き続けた。

 

 

 

 

暫くして落ち着いた頃

「みんなからも救われる事になるなんてね…でも、私は届を出した筈なんだけど…」

あかりはふと思った事を口にした。

「その届けなんやけど―」

「実は受理する前、うっかり水溜まりに落としてボロボロになって拾おうとしたら破れちゃったのよ。ごめんなさいね。

それに言ったでしょ?あなたが辞める事を認めないわ、って」

希と絵里の言葉と水に濡れて破れた退部届にあかりは唖然し、そして“端っから受理する気がない”事に気付いて大笑いした。

「全くどいつもこいつも!ドジっ娘のお節介者のお人好しめが!…まぁ、そんな所、嫌いじゃないんだけどね!」

そして、あかりは皆に対し敬礼し、改めて自己紹介をする。

 

 

 

 

「俺は特殊災害対策機関《ネスト》所属特殊隊員兼音ノ木坂学院一年生、頼尽あかりだ!

ネストでの現階級は大尉!

趣味は…話すと長くなるから省略!

今まで以上にマネージャーとしてビシバシやってくから今後とも宜しくな!」

 

 

 

 

それは9人の女神と鋼鉄の騎士の新たな“始まり”であった。

 

 

 

 

To be continue 4th stage…



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第4章『夢を再び』
第34話『新たな始まりの歌』


アメリカにあるネストの訓練施設。

其処では銀色の巨人―ドレッドバイトが二体の巨人と戦いを繰り広げていた。

方や胴体や脚部がバルバトスマグナスと同じ形状の黒い巨人、方やドレッドバイトに似ながらも胸部と頭部、肩の恐竜の頭部の形状が異なる巨人である。

二体の巨人の攻撃をドレッドバイトは回避し、剣―ENソーブレードを振りかざすが、その一撃は二体に当たる寸前で止まった。

「…今日は此処までだ」

ドレッドバイトの言葉に

「「ありがとうございました!」」

二体の巨人は頭を下げた。

 

ドレッドバイト―風見ヴェールヌイは現在、後輩たる二人のアデプトマスターの教官として面倒を見ていた。

一人が黒い巨人―アルタリマスのアデプトマスターである岬風明乃、もう一人が恐竜型の巨人―ホルンファングのアデプトマスターである知名谷もえかである。

 

 

 

一方、音ノ木坂学院では…

「音ノ木坂学院は、入学希望者が予想を上回る結果となったため、来年も生徒を募集することとなりました。

三年生には残りの学園生活を悔いの無いよう過ごす事、一年生、二年生にはこれから入学してくる後輩達の善き手本となる様に―」

講堂の壇上にて理事長が挨拶し降壇した後

「理事長、ありがとうございました」

今回の進行役であるヒデコが会を次へ進める。

「続きまして、生徒会長の挨拶。生徒会長、お願いします」

その言葉を受け、観客席から絵里は立ち上がるのだが、絵里は壇上へと上がらず、他の誰かを待っているかの様にただ小さな拍手をする。

舞台袖から徐々に姿を見せるその人物に生徒達の黄色い歓声が上がり、その人物は壇上のマイクまでやってきて言葉を発した。

「皆さん、こんにちは!この度、新生徒会長となりました、スクールアイドルでお馴染み!」

その者は一旦言葉を区切り、いきなりマイクを掴んで高く高く放り投げたのだ。

無事にマイクをキャッチしたその人物は遂に名乗った。

「高坂穂乃果と申します!」

 

 

―これまでのラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神(side:Akari)―

 

 

私は頼尽あかり。ジーオスを始めとする怪獣などへの政府の対策機関―ネストに所属する特殊隊員にして音ノ木坂学院に通う高校一年生!

 

日本へと帰国し、音ノ木坂に入学したは良かったけど、その音ノ木坂は生徒数の現象から廃校の危機に陥ってしまう。私達一年生に関しては1クラスだけなんだよ!

 

そこで廃校を阻止しようと母方の従姉妹の高坂穂乃果が立ち上がった。

穂乃果は今話題のスクールアイドルとなって学校をアピールする事で入学希望者を増やそうと考えた。

 

そして、穂乃果が立ち上げたスクールアイドルに幼なじみの南ことり、園田海未、私と同じ一年生の西木野真姫、小泉花陽、星空凛、三年生の矢澤にこ、東條希、絢瀬絵里が集まり、私も彼女達―μ'sのマネージャーとして廃校を阻止するまで協力する事なった。

 

合宿や学園祭のライブ、ことりの留学騒動などを経てμ'sは結束力をより深めていった。

 

 

そして、“血塗られた咎人”であった私は彼女達の存在、そして彼女達の言葉に救われた。だからこそ私は決めた。

 

 

私はμ'sのマネージャーにして“鋼鉄の戦女神”として廃校を阻止した後も彼女達を支えていくと!

 

 

―side out―

 

 

数十分後の生徒会室。

「あぁ~疲れたぁ~!」

「穂乃果ちゃん、お疲れ様。良い挨拶だったよ」

机に突っ伏して呻く穂乃果にことりは労いの言葉を掛ける。

「あれのどこが良い挨拶ですか!言いたいことがありますが―」

そう言って海未は大量の書類の束を穂乃果の前に置いた。

「今日はこれをすべて処理して帰ってください!」

「え、ええっ!?もう!少しくらい手伝ってくれてもいいんじゃん!海未ちゃん、副会長なんだし!」

穂乃果が生徒会長になったという事は海未とことりも役員になるのは必然的でもあった。

海未が副会長、ことりが書記である。

さて、穂乃果の助けを受けた海未であったが…他にも仕事があるのでバッサリと切り捨てた。

ことりに助けを求めようとするが海未がそうさせないのだ。

「ふえぇ~…生徒会長って大変なんだねぇ…」

「分かってくれたかしら?」

「ふっふっふ。頑張っているかね、君達~?」

そう言って入って来たのはからかい交じりに笑みを浮かべた絵里と希である。

「大丈夫?挨拶、だいぶ拙い感じだったわよ?」

実はあの挨拶、名乗るまでは良かったが…その後がグダグダになってしまったのだ。

「うぅ…すみません…それで、今日は?」

「特に何かあるって訳じゃないけど、私が推薦した手前、どうしているか心配で」

余談だが絵里はあかりを生徒会に推薦しなかったのだが、これは彼女がμ'sのマネージャーであると同時にネストの特殊隊員である事を考慮したからだったりする。

 

 

そんなあかりだが…部室でμ'sの今後のスケジュールを考えていた。

しかし其処へ何やら焦っているμ'sの面々がなだれ込んできた。

「What!?みんなどうしたの!?」

「あかり!もう一度ラブライブがあるわよ!」

にこの言葉にあかりもまた驚愕するのだった。

 

 

 

 

その後、ある程度落ち着いた面々はテーブルに着き、花陽が説明を始める。

あかりなりに簡潔に纏めると

・A-RISEの優勝と大会の成功で終えたラブライブ、その第二回大会が早くも決定。

・今回は前回を上回る規模になり、ネット配信やライブビューイングまである。

・今回は前回の様なランキング制ではなく各地で予選が行われ、各地区の代表になったチームが本選へ進める

という事である。

「現代がアイドル戦国時代なら、これはまさにスクールアイドル戦国時代!

予選のパフォーマンス次第では本大会に出場できる!下克上です!」

「でも、待って…地区予選があるっていう事は私達、A-RISEとぶつかるってことじゃない…?」

絵里の指摘に皆の士気は下がった。

そんな空気を切り裂くかの様に海未は口を開いた。

「確かにA-RISEとぶつかるのは苦しいですが、だからと言って諦めるの早いと思います」

「そうそう、やる前から諦めてたら何も始まらないよ」

「あかりの言うとおり、エントリーは自由なんだし、やってみましょう!」

絵里の言葉に皆の士気は再び上がるが…

「ぷはぁ~」

一人だけ雰囲気が違っていた。

呑気に茶を啜り、ほっこりしている穂乃果へ皆からの視線が集中する。

一拍置いて穂乃果は言い放った。

「出なくても、良いんじゃない?ラブライブ、出なくても良いと思う!」

その言葉にμ'sの面々は信じられないと言わんばかりの反応をするが…あかりは穂乃果がどういう思いでそう言ったのか考えていた。

 

 

その後、穂乃果の提案で寄り道をする事になった。

「これは…?」

ゲーセンのとある機械に?を浮かべる絵里。

「えぇ!?プリクラを知らないの!?」

そして、プリクラの機能に絵里は『ハラショー』を連発、あかり曰わく『ハラショーのバーゲンセールだなおい』である。

 

その後、穂乃果以外のメンバーは通話による話し合いをしたが、ラブライブに出たいという結論で収まったのだった。

 

その日の話し合いの後、あかりは穂乃果の元を訪れた。

「あかりちゃん、どうぞ」

「ありがとう、いただきます」

お茶を飲み、ほむまんを食べて一息吐くあかり。

「ねぇ、あかりちゃん。あかりちゃんもやっぱり出た方が良いと思う?」

「…う~ん、そうだねぇ…其処は穂乃果自身がこの先後悔しない為にもよく考えて決めるべきだよ。

それと、“一人は皆の為に、皆は一人の為に”だよ。

みんなは迷惑だって思ってないし、それどころか穂乃果のやりたい事に協力するよ。勿論、私もだよ」

 

 

 

翌日の放課後、μ'sの面々とあかりは神田明神に集まっていた。

「良い!これから二人でこの石段を競争よ!」

石段の下ではジャージ姿になった穂乃果とにこが並んで、それぞれストレッチをしている。

 

事の始まりは昼休憩。

 

生徒会の資料を運んでいた穂乃果ににこが勝負を申し込んだのだ。

(比喩表現抜きで皆の一生の後悔となるかならないかの分岐点だね)

あかりはそう考えつつ成り行きを見守る。

穂乃果とにこはクラウチングスタートの姿勢を取り

「よ~い―ドン!」

とにこはまさかのスタートの早出しである。

先頭をキープするにこに追い付こうと穂乃果も石段を駆け上がるが

「にこちゃん!」

にこが石段に躓いて転んだのだ。

「もう、ズルをするからだよ」

「…うるさいわね。ズルでも何でも良いのよ!ラブライブに出られれば!」

まるでにこの心の涙を代弁するかの様に雨が降り始めた。

 

「―そう、三月になったら私達は卒業、こうして一緒にいられるのはあと半年。

それにスクールアイドルでもいられるのも在学中のみ。

つまりこの9人でラブライブに出られるのは―今回が最後になるわ」

絵里の口から告げられる避けられない、避けようもない事実であった。

「やっぱり、皆…」

「私達もそう。例え、予選で落ちちゃったとしても、私達が頑張った足跡を残したい!」

花陽の言葉―それは凛と真姫の意志でもあった。

「私は穂乃果ちゃんの意志に従うよ。これからもずっと」

ことりの意志―それは彼女らしいものであった。

「また自分のせいで、また皆に迷惑を掛けてしまうと、心配しているんでしょう?

ラブライブに夢中になって、周りが見えなくなって、生徒会長として学校の皆に迷惑を掛けるようなことがあってはならないと」

海未に図星を突かれた穂乃果は苦笑いを浮かべる。

「…あはは、全部お見通しなんだね。

スクールアイドルを始めたばかりの頃は何も考えずに突っ走ることが出来たけど、今は何をやったらいいのか分からなくなる時がある。

でも、一度は夢見た舞台だからやっぱり出たい!

生徒会長やりながらだから、また皆に迷惑掛けちゃうかもだけど、ほんとは物凄く出たいよ!」

「穂乃果、“一人は皆の為に、皆は一人の為に”って言っただろ?」

あかりの言葉の後、皆は歌を紡ぐ。

己の可能性を信じ、後ろを振り向かず進んでいく者へのエールたるその歌を噛み締め、穂乃果は雨空の下へ走り出し、思いっきり深呼吸して叫んだ。

「雨、止めー!」

すると偶然なのか穂乃果の思いが通じたのか…本当に雨が止んだのだ。

あかりは楽しみでしょうがなかった。

μ'sという9人の女神が目指すその先を。

 

 

 

 

「本当に止んだ!人間その気になれば何だって出来るよ!

ラブライブに出るだけじゃもったいない!

この皆で出せる最高の結果を…優勝を目指そう!!

ラブライブのあの大きな会場で精一杯歌って、私達…一番になろう!!」

 

 

 

 

To be continue



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第35話『スランプ』

さて、今日のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神はアイドル研究部部室から物語を始めるとしよう。

「ラブライブの予選で発表できる曲は、今までの未発表の物に限られるそうです!」

「何…だと…」

花陽の説明にあかりを始め皆は震撼する。

参加希望チームが予想以上に多かったらしく、中にはプロのアイドルのコピーをしているチームまでエントリーを希望していたのが理由らしい。

「つまり、此処で篩にかけようという訳やね」

「そして、残りの期間で新曲を作れって事でもある…」

希とあかりの言うとおりである。

「しょうがないわねぇ。こんなこともあろうかとこの前作詞したにこにーにこちゃんで―」

「こうなったら作るしかないわね…」

にこの意見をスルーして絵里は発言する。

「ど、どうやって…?」

「答えは簡単よ穂乃果。真姫!」

「ヴェ!?もしかして…」

「ええ。次の連休に合宿よぉぉぉぉぉぉぉ!」

テンション高い絵里に

(あぁ、加入前のお堅い生徒会長というイメージがすっかり消えちゃったなぁ…これじゃ賢い(笑)かわいいエリーチカだよ…)

とあかりはしみじみ思うのだった。だが、同じ事を他の面々も思っていた様だ。

そして、続いて皆の視線があかりの方へ向けられる。

「な、何かな…みんな…」

「あかりちゃん!私達を別荘まで乗せてって!」

「乗せてってってそれはどういう意味なのかな…穂乃果」

まさか…と思っているあかりだったがそのまさかであった。

「勿論あかりちゃんのトランステクターにだよ!」

「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

かくしてμ'sの面々とあかりは真姫の別荘へと向かった

…流石にあかりのビークル時のマグナスには最大2人しか乗れないので、μ'sの面々はトラックが牽引しているトレーラー(人員輸送用)に乗っている。勿論、安全に配慮をしている。

 

 

そして、真姫の別荘へと到着した。

「Wow…It's so big…」

「希…私の台詞を取らないで…」

「あ~ごめんな、あかりちゃん」

「時間がもったいないから早く行くわよ」

真姫は別荘の扉を開け、中を軽く案内した。

ピアノやおら金持ちの家で良く見る天井の回る扇風機の羽みたいなアレに

「暖炉だ!」

「初めて見たよ~!早速火を付けてみるにゃー!」

暖炉である。

穂乃果と凛に真姫はバッサリ言った。

「つけないわよ。まだ寒くないし、それに冬になる前に暖炉を汚すとサンタさんが入りにくくなるって、パパが言ってたの」

真姫の言葉に顔を見合わせる穂乃果と凛。

「素敵なお父さんですね」

海未の言葉に気を良くしたのか、真姫は更に説明を続けた。

「ここの煙突はいつも私が綺麗にしていたの。

去年までサンタさんが来てくれなかったことはないんだから。証拠に、中見てみなさいよ」

穂乃果と凛が暖炉の中を覗くとサンタのイラストとメッセージが描かれていた。

そんな中…

「ぷぷっ…あんた…真姫がサンタ―」

「にこちゃん!」

「それ以上は駄目よ!」

にこへ詰め寄る花陽と絵里にあかりも加担する。

「にこ…それは純粋な少女の一生を左右しかねない重罪だよ…

もしそれ以上口にしたら…コイツで手足を縛った後、監禁プレイしてたよ…」

あかりは笑顔でそう言うが…目が笑ってないどころかどこから持ってきたのか細めの縄を持っていた。

にこはまた一つ学んだ…あかりを怒らせてならない、彼女は鋼鉄の戦女神であるが“鬼女”たる彼女も未だ健在である、と…

 

だが、そんな暖炉に火が付く事になった。

と言うのもにこのリストバンドがリスに盗られてしまい、にこがそれを追い掛けていたら坂道に入って、助けに入った凛も巻き込んで全速力で坂を降りた結果、岸から飛び降りて深めの川に落ちたしらしい。

暖炉で暖まる面々に花陽はお茶を入れて来た。

「それじゃあ、海未ちゃん達には私が持っていくよ」

「私もついて行くよ」

そう言って穂乃果とあかりは二人分のお茶を持って海未とことりが作業している部屋へ向かった。

「…うわぁ、やっぱり静かだね。皆集中してるんだなぁ」

「そうだね…あっ、ことりの分は私が持って行くよ」

あかりは穂乃果からことりの分のお茶を持って、ことりがいる部屋をノックする。

「ことり、入るよ~っ!?」

部屋にことりの姿がなかった。お茶を机の上に置いて探していると…

「こ、これは…」

額縁の絵に“タスケテ”という文字が貼られていたのだ。

「あかりちゃん!海未ちゃんの部屋にこれが!」

飛び込んできた穂乃果が見せてきたのは“探さないでください”と書かれた貼り紙だった。

二人は窓にロープの様に束ねられて垂らされている布を見つけ、外を見ると、木陰に体育座りをして溜め息を吐いている三人の姿が見えた。

 

 

 

 

結論を言えば三人はスランプに陥った。

ラブライブに出場できるかどうかを左右する重要な予選。万が一にも予選を敗退することになったら…その重圧が三人に圧し掛かってきたのだという。

皆は話し合った結果、流石に三人に任せきりは良くないと言う結論に至り、ある案が実行されたのだ。

「―で、こうして三班に別れて離れて曲作り、だね」

「えぇ、そうよ。ありがとう、あかり」

テントの設営を手伝うあかりに絵里は礼を言う。

「この位、マネージャーとしては当然だよ!

それにしても山の中でテントを張ってって言うのがあのサバイバルキャンプを思い出すなぁ~」

「それってネストの訓練校時代の?」

「そうそう。私とヴェルはトランステクターでの別途訓練もあったけど、一般隊員と同じ様に通常訓練を受けたりしたよ。

それで、その訓練の一環として基地の近くの山でサバイバルキャンプをしたんだよ」

「具体的にはどんな内容だったの?」

「まずは各班ごとに別れて自給自足として食糧を手に入れて調理。

他には森の中で班対抗の模擬戦といったところかな。終わったら皆でバーベキューをしたよ!」

「あかりはヴェルと一緒の班?」

「うん、そうだよ~ヴェルと一般隊員が3人の5人編成だったよ。

テントに関しては私とヴェルの二人で入ったけどね」

そう言ってあかりは絵里にスマホの画面を見せ、にこと真姫も覗き込む。

スマホの画面に映っていたのはカメラに向かってピースをする迷彩服を身に纏ったあかりともう一人のアデプトマスターの画像だった。

「この子が例のヴェルって娘ね…なかなかかわいいじゃない」

にこの言葉にあかりは頷く。

「今頃どうしてるかなぁ…」

「暇があったら会いに行きたい?」

真姫の言葉に

「まぁね」

あかりは照れながらそう返した。

「んじゃ、他の班の様子を見てから私は別荘に戻るよ」

そう言ってあかりは絵里達のいるテントを離れ、穂乃果とことりと花陽がいるテントへ向かった。

 

 

「こりゃ脳がとろけそうというか何というか…良い絵をいただきましたよ」

そう言ってあかりはカメラのシャッターを押し、三人の姿を撮影した。

三人は川の字になってすやすやと寝ている。花陽の近くには綺麗な白い花が入ったザルが置いてあった。

「んじゃ、次は海未達の所だけど…多分、彼処かなぁ…」

あかりは集合時の海未の装備―登山用の装備と彼女の性格から推測して山にいると判断し、其処へ向かうのだった。

 

 

「やっぱりだったか~」

「やっぱりだったんよ~」

とあかりの言葉に希はそう返した。

あかりは泣いている凛に尋ねる。

「凛、良かったら泣いている理由を訊かせてくれないかい?」

「無理やり連れて来させられたんだにゃ!来たくなかったのに!凛達、作詞に来た筈にゃ!?」

凛が言うことは尤もである。

「わ、私は山を制覇したことによる充実感を創作の源にしようと…」

「気持ちは分かるけど、ここまでにしといた方が良いよ。

山で一番大切なんは何か知ってる?チャレンジする勇気では無く、諦める勇気。…分かるやろ?」

「それもそうですね。すみません」

希の言葉に納得した海未。

下山の準備を始める海未、希、凛の姿を見届けたあかりは一足先に下山し、別荘へ戻るのだった。

 

 

 

 

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第36話『One for all,All for one』

―side:Akari―

 

 

およそ3年前の10月。

全身義体にも慣れてきて、人並みの生活が出来るようになった私はネストの訓練校へ送られた。

「えー、この俺がお前達の教官となるレノックスだ。階級は少佐だ」

「同じくアーマーハイド。元サイバトロン軍、種族はオートボット。まずはお前達の自己紹介だ」

二人の教官―レノックス少佐とアーマーハイドの指示に私達は自己紹介を行った。

「私は頼尽あかりと言います!日本人でアデプトテレイターです!宜しくお願いします!」

そして、最後―私の後に自己紹介をしたのが

「風見ヴェールヌイです。亡くなった父がロシア人、母がアメリカ人の血を引く日本人のクォーターです。宜しくお願いします」

美しい銀髪の少女―風見ヴェールヌイだった。

 

「君達二人はこの部屋で一緒に暮らして貰う。

それと、君達に関しては通常訓練のカリキュラムに加えてトランステクターを使った訓練も行うのでそのつもりで」

レノックス少佐はそう言って部屋を後にした。

そして、流れる気まずい空気。

「えっと…風見さん…」

とりあえず何か話をしないと…

「ヴェールヌイで構わないですよ」

「うん!じゃあ、私の事もあかりって呼んでね」

ヴェールヌイは頷いて答えた。

暫くして夕飯の時間となり、私達は食堂へ向かった。

食堂はメニューが豊富で、ラーメンやうどんといった麺類もある事に驚いた。

「じゃあ、私はこの豚骨ラーメンで!ヴェールヌイは?」

「う~ん、このきつねうどんという物で」

注文した物が届いて、隣同士となって私達は夕飯を食べる。

「なかなか美味しいじゃん!」

ラーメンの味は日本のラーメン屋さんにも引けを取らない旨さだった。

一方のヴェールヌイは興味津々にきつねうどんを見て、それから麺を口にして驚いていた。

「ハラショー、これが母上が言っていたうどんという物か…」

 

最初は会話もあまり多くはなかったけど、私の方から積極的に話しかけた。

てっきり周りは年上だけかと思ってたから年の近い子がいて、尚且つその子と同じ部屋・同じ班で同じアデプトマスターである事が嬉しかった。

 

 

そして、訓練が始まってある程度の月日が流れた。

その日は近くの山でテントを設営したりしてサバイバル訓練を行っていた。

「あかりは何故アデプトテレイターになったんだ?」

その日の夜、ヴェールヌイはそう訊いてきた。

「そう言うヴェールヌイはどうしてなの?」

「…私は家族をジーオスに殺された。私自身もジーオスに重傷を負わされ、その時にアデプトテレイターとして奴らと戦う道を選んだ」

「なる程ね…」

「で、あかりはどうなんだ?話しにくいなら別に話さなくても良いんだが…」

「あれはね―」

それから私はあの日の事―両親を殺され、私自身も殺した連中を殺した事を話した。

「…すまない、悪い事を訊いてしまった」

「ううん、良いんだよ!あっ、そうだ!これはから“ヴェル”って呼んで良い!?」

「別に構わないが…だったら私に日本語を教えて欲しい。

私は日本人の血を引いていながら…日本語が話せない。両親は基本的にロシア語か英語だったからな」

「それくらいなら全然OKだよ!じゃあ、私にもロシア語を教えてくれないかな!?」

「あぁ、勿論だ」

それから私はヴェールヌイを“ヴェル”と呼ぶ様になり、彼女に日本語を教える代わりに彼女からロシア語を教わった。

 

私達はこの3年間、時には互いに協力し合い、時には互いに教え合い、そして互いに競い合った。

 

それから私は日本支部への配属が決まり、それと同時に音ノ木坂の入試を受け、満点の首席合格を果たした。

勿論、ヴェルにもこの話をした。

「ヴェル!満点合格したよ!」

「ハラショー、相変わらず凄いな。あかりは」

「それ程でもないよ。それに、ヴェルだって凄いよ。色んな国の言語を話せるし」

「読み書きも出来て流暢に話せるのは日本語と英語、ロシア語だけだ。後は日常会話程度しかできない」

「それでも凄いよ」

 

そして、時はあっという間に過ぎていき、あかりが日本へ旅立つ日が訪れた。

「…今日で離れ離れになってしまうな…」

と空港にてあかりとの別れを惜しむヴェル。

「そうだね…でも、前にも言った通り、今生の別れじゃないしまた会えるよ」

「…それもそうだったな。会いに行こうと思えば会いに行ける」

ヴェルの言葉に私は頷く。

「ヴェル、見送り、ありがとう。それじゃ、互いの健闘を祈って」

「あぁ、互いの健闘を祈って」

「「また何時か、どこかで」」

 

 

日本へ帰国した私は従姉妹や幼なじみと再会、音ノ木坂学院に入学しアイドル研究部の部員にしてμ'sのマネージャーとなり、そして彼女達に救われた。

 

 

―side out―

 

 

 

 

「そっか…あれからもう半年以上経つんだよね…」

仮眠から目が覚めたあかりはそう呟いた。

あかりにとって“あの娘”はμ'sの面々と同じ位大切な人となっていた。

今頃何をしてるんだろうか、と窓の外に映る夜空に浮かぶ星達を眺めてたら足音がした。

そして、あかりがいる部屋―ピアノが置いてある部屋に海未、ことり、真姫の三人が入ってきた。

「それで、答えは見つかったのかい?誰の為の曲なのか…その答えは」

あかりの言葉に三人は頷く。

実はあかりは三人が何故スランプに陥ったのか…大体の理由は察していたが、その答えは自分で気付かなければ意味がないのであかりはその答えを言うつもりはなかった。

恐らくにこや希、絵里も気付いているだろう。言ったかどうかは別の話なのだが。

「この曲は皆の為の曲です」

「三年生を勝たせる為でも三年生の為でもない」

「私達が心から楽しめる曲だからこそ皆の心に響く曲になる」

海未、ことり、真姫の出した答え。その答えにあかりは笑みを浮かべてこう返した。

「…正解だよ。One for all,All for one―一人は皆の為に、皆は一人の為に。

それじゃ、始めようか…“私達の為の曲”作りを」

あかりの言葉に三人は頷き、曲作りを始めた。

互いに支え合い、互いにアイデアを出し合う光景にあかりはヴェルと過ごした訓練校時代を思い出さずにはいられなかった。

 

 

翌朝。海未やことり、真姫の姿が見当たらない事に気付いた六人はもしやと思い別荘へと戻ってきたのだ。

「これは…」

絵里は眠っている四人の姿を見て呟いた。

海未とことり、あかりはソファで寝ており、真姫はピアノにもたれ掛かるように眠っていた。

そして、テーブルには楽譜と歌詞、衣装のスケッチと空になったコップが置いてあった。

「…皆、四人が起きたらすぐに練習よ?」

「でも今はゆっくり寝かせておいてあげようか」

絵里と希の言葉に皆は頷くのだった。

 

 

全ての準備―もう少しで始まるラブライブ第2回大会第1予選への準備は整ったのだった。

 

 

 

 

アメリカの某所。

「■■■■■■■■■!」

迫り来るジェネラル級ジーオス達に立ち向かう影があった。

「トランスフォーム!」

ジュラ紀を代表する肉食恐竜―アロサウルスを模したトランステクター―ドレッドバイトは形を変え、ロボットモードとなる。

ドレッドバイトは大剣を振りかざして次々とジーオス達を切り裂いていく。

「ビーストモード、トランスフォーム」

ビーストモードへ戻ったドレッドバイトはジーオスの首に噛み付き、そのまま噛み砕く。

その付近ではアルタリマスとホルンファングがジーオスと交戦していた、暫くしてジーオス達は殲滅された。

そんな中、ドレッドバイトの元に通信が入った。

「―了解、今すぐ戻ります」

ドレッドバイトは通信を切り

「ジェットモード、トランスフォーム!」

もう一つの変形形態であるジェット機へと姿を変え、基地へ戻るのだった。

 

 

「さて、君に報告したい事がある」

「報告…ですか?」

ヴェルの言葉に彼女の上司は頷く。

「実は日本支部からジーオスの出現頻度がこれまで以上に増しているという報告と人員増強の要請が来た。

また、報告によると巣を作ろうとしているジーオス達も多いとある」

「それで人員増強を要請している、と」

ヴェルの言葉に上司は頷く。

「それで、君はどうするんだい?」

「どうする、とは…?」

「しらばくれるな。本当は行きたいんだろ?」

「…お見通し、ですね」

「で、どうする?」

「勿論、行きます」

 

 

 

 

ヴェルは日本にいる親友にして戦友たるあかりに思いを馳せながら日本へ行く準備を始めるのだった。

 

 

 

 

ヴェルが去った後…

「話さなくて良かったのかい?将軍」

ヴェルの上司たる将軍に話しかける人物がいた。顔付きから10代に見える彼女ではあるが、実際はネスト内でも上位の立場にいる存在である。

立木つばめ―そう名乗る彼女はネストの立ち上げに大きく関わった立木一族の者であり、トランステクターやMSの開発を行っている立木財閥技研の責任者でもある。

「何をですか」

将軍の言葉につばめはこう続ける。

「頼尽あかりが精神的に不安定になった事…その一件が本来なら来年春に日本支部へ配属予定だった風見ヴェールヌイが予定より大幅に早く配属される事になったのだということを」

「無暗に心配はさせたくはありませんし、それに彼女も早く会いたいと言ってたから好都合でしょう」

「…それもそうだね」

つばめは納得した表情でそう呟いた。

 

 

 

 

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第37話『ユメノトビラ』

さて、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神は秋葉原から物語を始めるとしよう。

「さぁ~て本当にどうしようものか…この辺りは人が多いし…」

「それにここはA-RISEのお膝元よ?下手にやれば喧嘩売っているとしか思われないわよ」

あかりとにこの言うとおりであった。

今回の予選は参加グループの多さから指定会場以外の場所でもライブを行う事が出来るのだ。

そして、現在μ'sの面々とあかりはライブの会場になりそうな場所を探していた。

何時も使っている校内では目新しさがないと考えた面々はこうして秋葉原を探索していたのだ。

そんな中、穂乃果はふとUTX学院のモニターの方を見上げた。

モニターにはA-RISEのPVが映されており、それを見た穂乃果が

「負けないぞ」

呟いた時だった。

「―高坂さん」

PVに重なる様に現れた人物―それはA-RISEのリーダーであるツバサだった。

声を上げようとする穂乃果の口を塞いだツバサは穂乃果の手を取って走り出した。

そして、それに気付いたあかりも

「何やら面倒な事が私に来そうだよ」

とこれから起きるであろう事を予測しつつ二人を追い掛けるのだった。

 

UTX学院のカフェスペース。其処にはμ'sの面々とA-RISEの三人、そしてあかりの姿があった。

あかりは内心冷や汗をかいていた。

何せμ'sの面々には言ってない事があるのだ。

ツバサとは父方の従姉妹で、英玲奈やあんじゅとも友人である事…もしドルオタであるにこや花陽に知られたらどうなる事やら…それを考えただけで恐ろしくなったのだ。

周りを見回した絵里は

「素敵な学校ですね」

と一言を言い、ツバサは礼を言った後、こう口にした。

「同じ地区のスクールアイドルをやっている者として、一度挨拶したいと思っていたのよね。高坂穂乃果さん」

穂乃果は動揺しているが、英玲奈は構わず彼女への評価を述べた。

「人を惹きつける魅力、カリスマ性とでも言えば良いのだろうか。九人で居ても、なお輝いている」

誰に訊いたのやらと疑問に思うμ'sの面々だが…実はあかりから訊いた事である。

「私達ね、貴方達の事をずっと注目していたの。

前のラブライブでも貴方達は一番のライバルになると、そう思っていたの」

「ま、まぁ…前のラブライブは色々あって辞退したからね…」

ツバサとあかりの言葉の後、A-RISEの面々は他のメンバーの評価を述べた。

「絢瀬絵里。ロシアでは常にバレエコンクールの上位だったと聞いている」

「西木野真姫は作曲の才能が素晴らしく―」

「園田海未はそんな曲に合う素直な歌詞を書く」

「星空凛のバネと運動神経は全国のスクールアイドルの中でもトップクラスね」

「小泉花陽はの歌声は個性あるメンバーに調和を齎す」

「東條希はメンバーを包み込む包容力を持つ」

「南ことりはかの秋葉のカリスマメイド―ミナリンスキーその人である」

残すはにこのみ。ツバサの視線はにこに向けられる。

「そして、矢澤にこ…いつもお花ありがとう!」

μ'sの面々が面食らったのも無理はない。

「み、μ's結成前からファンだったのよ~」

とにこは笑ってごまかした。

「グループになくてはならない小悪魔であり、なかなかの根性の持ち主と聞いたわ」

何故ここまでに詳しいのか―メンバーを代表して絵里はツバサに問うが…

「前々から興味があったと同時にある人から訊いていたのよ。

μ'sの持つその力を余すことなく発揮させようと尽力する敏腕マネージャー。

“神童の鬼女”にして“鋼鉄の戦女神”たる私の“父方の従姉妹”にね。あかりちゃん」

ツバサの言葉にμ'sの面々の視線が一斉にあかりの方へ向けられた。

その表情は驚きに満ちていた。

「あかりちゃん…本当なの…」

穂乃果の問いに

「い、yesだよ…穂乃果は“母方”の従姉妹でツバサは“父方”の従姉妹なんだよ」

とあかりはもうどうにでもなれといった表情で返した。

そして、にこはあかりの肩に手をやって笑顔でそう言うが…目が笑ってなかった。

「あかり、後で詳しい話があるからそのつもりで」

あかりは無言で頷く。

「私達は貴方達を注目していたし、応援もしていた。そして何より…負けたくないと思っている」

真剣な目で言うツバサ。

「でも、貴方達は全国一位で―」

「それはもう過去の事の事よ」

「私達はただ純粋に、今この時一番お客さんを喜ばせる存在でありたい。ただ、それだけだ」

海未の言葉にあんじゅと英玲奈はそう返し、ツバサはこう締めくくった。

「お互い頑張りましょう。だけど、私達は負けません」

その言葉に穂乃果は

「私達も負けません」

こう返した。

去り際にツバサはある提案をした。

「ねえ、もし歌う場所が決まってないのならウチでライブをやらない?

屋上にライブステージを作る予定なの」

ツバサの提案に対する穂乃果の答え。

「やります!」

その後、その場は解散となったが…あかりにμ'sの面々から追求があったのは言うまでもない。

 

 

 

 

数週間後。遂に予選の日が訪れた。

「みんな似合ってるよ!」

「当たり前でしょ。なんたって今日は勝負なんだから」

あかりに対しそう返すにこ。

「でも、本当に良かったのかなぁ…A-RISEと一緒で…」

不安げなことりの言葉にあかりはこう返した。

「これで良かったんだよ。それにさ、一緒にライブをやるって決めてからみんなはこの二週間、集中して練習することが出来た」

「あかりの言うとおり、この提案を受けた事は正解よ」

絵里がそう言った時

「こんにちは」

と衣装を纏ったツバサが笑みを浮かべて入ってきた。後ろには既に衣装を纏ったあんじゅと英玲奈の姿もある。

「あ、こんにちは!」

「いよいよ予選当日。今日は同じ場所でライブが出来て嬉しいわ。予選突破を目指して、互いにベストを尽くしましょう」

「はい!よろしくお願いします!」

穂乃果とツバサは固い握手を交わし、ツバサはあかりの方を向く。

「私達のステージ、楽しみにしててね」

「勿論だよ」

 

 

そして、屋上。μ'sの番はA-RISEの次である為、終わったら直ぐに始められる様にとA-RISEのステージを見るべくμ'sの面々は舞台袖にいた。

そして、開始時刻となり、A-RISEのパフォーマンスが始まった。

「流石A-RISE…スクールアイドルの頂点というのも伊達じゃない…」

あかりはA-RISEのパフォーマンスに圧倒されていた。

あかりはμ'sの面々の方を向く。μ'sの面々も直に見るA-RISEのパフォーマンスに圧倒されていた。

殆どのメンバーが自分達との実力差に愕然とする中…穂乃果とあかりだけは違った。

「A-RISEのライブが凄いのは当たり前だよ!」

「折角のチャンスを無駄にしないよう、全力でぶつかっていこう!」

二人の言葉に皆は頷き、穂乃果は皆を集めて円陣を組む。

それぞれが出したピースは一つの大きな星を象る。

「A-RISEはやっぱりすごいよ。こんなすごい人達とライブが出来るなんて…自分達も思いっきりやろう!μ's―」

穂乃果が掛け声をしようとした時。

「穂乃果!」

μ'sの面々とあかりが振り向いた先にはヒデコ、フミコ、ミカの三人―ヒフミトリオを始めとした音ノ木坂の生徒達がいた。

彼女達の存在はμ'sの面々とあかりにとってどれだけ心強いものであったか。

彼女達の手伝いもあってステージの準備もあかりの予想以上に早く終わった。

 

 

そして、μ'sのパフォーマンスが始まった。

 

 

『ユメノトビラ』という題名のこの歌は夢へ向かって駆け出し“扉”に笑顔で挑んでいく彼女達の決意が込められた歌である。

 

 

「すごいわね…彼女達」

「More than meets the eye…」

「目に見える以上のものが其処にある、ね」

ツバサの言葉にあかりは頷くのだった。

 

 

「ファーストライブの時に穂乃果は言ったよね…このまま見向きもされないかもしれない、応援されないのかもしれないって…でもね、皆見てくれてるよ!だから全力を見せてあげて!」

懸命に、そして楽しそうに踊り舞うμ'sの面々の姿を見てあかりはそう呟くのだった。

 

 

 

 

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第38話『アイドルと最高のファン』

さて、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神はアイドル研究部部室から物語を始めるとしよう。

この日は予選の結果が出る日…予選を通過出来るのは各地域ごとに4グループである。

「き、来ました結果発表!」

すぐさま花陽は読み上げる。

A-RISEはやはり予選通過、続いて2組目、3組目と読み上げられ…

「四チーム目はミュー―」

皆の間に緊張感が走る。

「―ズ」

そして、花陽は感情を抑えきれない声で最後のチーム名を読み上げた。

「最後のチーム…音ノ木坂学院高校スクールアイドル…μ'sです!!」

「石鹸じゃ、ないよね?」

「当たり前でしょ!?」

真姫の言葉で皆は状況を漸く理解し、大事な人へ報告すべく部室を飛び出していった。

「っと、またジーオスか…」

あかりはその場に残っていた海未に仕事に出ると伝えて現場へと向かった。

 

 

さて今日も本来ならラブライブ最終予選に向けて厳しい練習をする予定で皆の士気も高まっていた…だが、にこだけが練習の欠席したのだ。

そして希、絵里、あかり以外のメンバーはスーパーの近くに隠れて買い物をするにこの様子を窺っていた。

「…普通に買い物しているみたいですね」

「なーんだ!ただの夕飯のお買いものか!」

「でも、それだけで練習を休むのかな…?」

「さぁ…誰か大切な人がいるとか?」

「も、もしかして矢澤にこ熱愛発覚!?」

「ダメです!それは禁忌です!それだけはダメです!」

そう話し合う海未、穂乃果、ことり、真姫、凛、花陽に気付いたにこは買い物かごをゆっくり置いて逃げ出した。

 

かくしてにこ捕獲作戦が始まった。

 

一方、仕事を終えたあかりは散歩をしていた。

「あかりさんではありませんか!」

「こんにちは、こころ。お出かけかい?」

「はい!でもそろそろ帰ろうかと思って」

「んじゃ、送ってくよ~」

そして暫く歩いていたら…

「あかりちゃん、そのちっちゃいにこちゃんは何者だにゃ!?」

μ'sの面々とばったり会ってしまった。

「この方たちはもしかしてμ'sの方達ですか?」

「うん、そだよー」

こころはμ'sの面々の方へ向き直り

「皆さん、いつも姉がお世話になっています。矢澤こころと申します!」

と丁寧に自己紹介をした。

μ'sの面々は驚きつつも詳しい話を訊くために矢澤家へと向かった。

あかり自身は“この問題”を解決しておきたいと考えていた。

「皆さん?あかりさんがちゃんと警戒してくれているから堂々と歩けていますが、あかりさんがいないときに来られる場合はちゃんと連絡をください!」

「えっと…何で?」

「何でって、皆さんはスーパーアイドル矢澤にこのバックダンサーなんですから!」

あかりはその予想された一言に頭を抱えた。

こころが言った事をざっくりと纏めると

・にこの指導の下、アイドルを目指している候補生

・駄目は駄目なりに8人集まれば何とかデビューぐらいにはこぎ着けるだろう

といった感じで、それを訊いたμ'sの面々の反応は呆れからの「にこはにこだった」という結論だった。

「あかりちゃんはこの事知ってたん?」

「まぁね。始めて会った時から度々遊びに行ってたし。そこら辺の詳しい話は着いてからで」

 

 

「お姉さまは普段、事務所が用意したウォーターフロントのマンションを使っているのですが、夜になると帰ってくるんです」

「どうしてこんなに信じちゃってるんだろう…?」

ことりを始めとした皆の疑問に対しあかりは無言でμ'sのあるポスターを指した。

「あれ?何かおかしいにゃ!?」

凛の指摘通り、ポスターは本来の物と異なっていた。そのポスターは本来は穂乃果がセンターなのだが…穂乃果の顔がにこの顔にすげ替えられ、にこの顔が穂乃果の顔にすげ替えられていた。

その後、あかりは皆をにこの部屋へ案内する。

にこの部屋にあるポスター達はどれも目立つ位置に“にこの顔”が貼り付けられており、涙ぐましさすら感じる程だった。

そんな中、にこが買い物から漸く帰ってきた。

「なっ…あんた、達…!?」

にこはすぐさま以前から事情を知っていたあかりの方を向く。申し訳なさそうな表情を浮かべるあかりに大体の状況を察したにこは玄関先に買い物袋を置いて逃げようとするが…

「にこ、これを味わいたくはないよね」

あかりは(μ'sの面々の)護身用として持ち歩いているスタンガンをにこに向けて脅し、にこは観念するのだった。

 

 

 

 

「大変申し訳ございませんでした。この矢澤にこ、皆様に嘘を吐いておりました」

にこは土下座してμ'sの面々に謝罪した。

「嘘に関してはこの際どうでも良いのよ…問題はバックダンサーって事よ」

「うっ…!?そ、それは…」

絵里の言葉の後、にこはあかりの方を向く。

「これはにこ自身の問題だよ。

だけど、予め言っておくけど私はにこちゃんを信じているからこそ言ってないんだよ」

あかりの言葉の意図を読み取ったにこは

「…元からよ。元から家ではそういうことになっているの。…別に、家で私がどう言おうが勝手でしょ?

…お願い。今日は帰って。あかり、皆を頼むわよ」

「うん、わかった」

 

 

帰り道。

「元からってどういうことなんだろう?」

「にこちゃんの家では元々私達はバックダンサー?」

花陽と穂乃果の疑問に対し希は自分の推測を述べる。

「多分、元々からスーパーアイドルだったってことやないかな?あかりちゃん、違う?」

「正解だよ、希」

希は推測を交えつつにこの過去を話し始める。

「にこっちは一年生の時に一度スクールアイドルとして活動してた。その時に妹さん達に“アイドル”になったんだって言って妹さん達もそんなにこっちに誇りを持ってたんやないかな?」

「だからこそ期待を裏切れず挫折した事を言えなかった…“綺麗な部分”だけを見て欲しいという一種のプライドで」

あかりの言葉の後、絵里は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「私、一年の時にその時のにこを見たことがあるわ。

その時の私は生徒会があったし、アイドルにも興味が無かったから…あの時、話掛けていれば何か変わってたかも…」

「過去は悔やんでも変わらない。だから、今どうするかを考えよう」

過去に大きな“過ち”を犯し、悔やんでいるあかりの言葉には説得力があった。

「そうだ!私に良い考えがある!」

穂乃果は思い付いた案を皆に話し、皆も同意するのだった。

 

 

翌日。穂乃果に強制的にある場所へ連れてこさせられたにこはある衣装を着させられた。

「これは…」

その衣装はことりの監修を受けつつ、あかりと希と絵里が作った可愛らしさ溢れる衣装だった。

「やっぱり私達の目に狂いはなかったね」

「そうやね。にこっちには可愛い衣装が良く似合うよ!」

やがて屋上への入り口たる扉に到着。

「さぁ!この扉の先には世界中の誰よりも、にこのライブを心待ちにしている“最高のファン達”がいるわ!」

絵里の言葉に表情を引き締めるにこの姿はまさしく“プロ”であった。

 

 

そして、屋上に“三人の為”に用意された特設ステージに“アイドル”と“8人のバックダンサー”が姿を現した。

アイドル―矢澤にこはこのステージの観客―妹と弟であるこころ、ここあ、虎太郎に呼び掛ける。

「こころ、ここあ、虎太郎。歌う前に、話があるの!

“スーパーアイドルにこ”は今日でお終い…これからは此処にいるμ'sの皆でアイドルをやっていくの!

宇宙ナンバーワンアイドルにこちゃんとして宇宙ナンバーワンユニットμ'sと一緒に輝いていくこと―それが今一番大切な夢で私のやりたいことなの!」

 

 

その時の『にこにこにー』は、世界で一番幸せそうで、今までで一番輝いていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、とある旅客機に一人の少女が乗っていた。

美しい銀髪と碧眼を持つ少女―ヴェルこと風見ヴェールヌイは窓から映る景色を見て呟いた。

「此処が日本…」

ヴェルはスマホに映し出された画像を眺める。

 

 

 

 

「私の方から会いに来たぞ、あかり!」

 

 

 

 

To be continue



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第39話『天使と花園』

さて、今日のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神はにこが屋上の特設ステージにてこころ、ここあ、虎太郎の為のライブをした直後から物語を始めるとしよう。

「―それは本当ですか!?」

ライブ終了後、あかりの元に上司から連絡が入った。

あかりは前々から人員増強を要望してたのだが、遂にその要望が通ったのだ。

「はい!わかりました!」

あかりは嬉しさを隠しきれないまま通信を切る。

「あかりちゃん、良いことでもあったん?」

「それがね、前々から人員増強を要望してたんだけど、その要望が叶ったんだよ!」

この時、希は何となくあかりが喜んでいるのはそれだけではないと密かに考えていた。

 

 

翌日の放課後の部室。

「さて、最終予選に向けての当面のスケジュールだけど…やっぱり世間にアピールして注目度を上げる事が大切なんだよ」

「あかりの言うとおりね。で、その当面のスケジュールは決まっているのだけれど…あかり、頼むわよ」

「まずはショッピングモールのリニューアルオープンのイベントでのステージが数日後に、それから数週間も先にはファッションショーもあるけど…

その時期は二年生の修学旅行があるんだよね」

因みにこれらのイベントはあの予選を見てくれたそれぞれの担当があかりへコンタクトを取ってきて、あかりが即決したものである。

「ファッションショーのイベントは色々と条件が付加されてるけど、ショッピングモールのイベントは基本的にこっちの自由にして良いって。時間的には3~4曲かな」

「あかりちゃん、張り切ってるにゃ~」

「そりゃなんたって私はμ'sのマネージャーだからね!

それでなんだけどさ…ショッピングモールで歌う曲の内の1~2曲の作詞は私にやらせてほしい」

あかりの要求に皆は驚く。

「あかり、どうしてまた作詞をしたいのですか?」

作詞担当である海未はあかりに問う。

「どうしてもその時の1曲は自分の手で作詞したいんだよ」

 

「なぁ、エリチ。あかりちゃんの様子、何かおかしいと思えへん?」

「そうね…テンションが妙に高かったり…急に作詞をしたいだなんて…」

帰り道、絵里と希はあかりの事について話をしていた。

「あかりを疑う訳じゃないけど…間に合うのかしら…」

「ちょっとあかりちゃんの家に突撃する?」

希の誘いに絵里は乗るのだった。

 

 

「相変わらずやけど…“一人暮らし”にしては―」

「大きいわよね…」

あかりの自宅に苦笑いを浮かべる希と絵里。

まぁ、トランステクターの格納庫が地下にあったりするので分からなくもないのだが…

とりあえず絵里はインターホンを鳴らす。

「あかり、居るー?」

「居るんやったら返事をしてー」

絵里と希の呼び掛けに

『絵里…希…』

何故か涙声のあかり。

「あかりちゃん、どないしたん?」

『た、タスケテェ…Help me…』

「えぇ、ちょっと待ってて」

とりあえずあかりの自宅へ上がる二人だった。

 

 

「何だかんだであかりの家に上がるのは始めてね」

「始めてあかりちゃんの家の前まで来た時はそれどこじゃなかったしね」

あかりの部屋へ上がる道中、二人はそんな会話を繰り広げつつ

「此処があかりの部屋ね…」

あかりの部屋の扉の前まで辿り着いた。

「二人共~、部屋の鍵なら掛かってないから入って来て~」

扉の向こうからのあかりの声に従い部屋へと入る二人だったが…

「あかり、どうしたのよ…本当に…」

絵里がそう尋ねた後、机の上に伏していたあかりは二人の方を向く。

「作詞する!とかドヤ顔で言ってたけど…小説やレポートを書くのとは勝手が違って…いつぞやの路上ライブの時のことりの苦労がはっきりとわかるよ」

「あかりちゃん、どうして作詞したいって言ったん?もしかして、人員増強の報告と何か関係があるん?」

「逆に訊くけど何故人員増強の報告の事と関係があると思ったんだい?」

「あかりちゃんのあの喜び様…何かそれだけじゃない様な…そんな気がしたんよ」

「…わかった、白状するよ…」

かくしてあかりは事情を二人に話すのだった。

 

「なる程…そう言う事だったのね…」

あかりの話に納得する絵里。

「あかりちゃん、その子の事が大切なんやね」

「そりゃそうだよ!俺にとってヴェルは親友で好敵手(ライバル)で…μ'sのみんなと同じ位大切な存在で大好きなんだよ!」

照れながらそう返すあかり。

「じゃあ、私達も手助けするわ。困った時はお互い様、でしょ?何なら皆も此処に呼ぶ?」

絵里の言葉にあかりは頷くのだった。

 

 

 

 

絵里からの招集を受け、穂乃果達もあかりの部屋へ訪れた。

「あんたも水臭いわねぇ~」

「そうだったらそうって言いなさいよ」

と言うにこと真姫に対し

「二人には言われたくないにゃ」

とツッコミを入れる凛。

「いっぱい飾ってあるね…」

と圧巻されている陽。

「あっ…この写真!」

「ことりちゃん、どうしたの?―ってこれはあの時の!」

「懐かしいものですね…」

ことり、穂乃果、海未はある写真―4年前にあかりが日本を発つ前に雪穂も含めた5人で撮った写真を見る。

「こっちはオープンキャンバスの時ので…こっちのは希ちゃん?でこっちは―」

「あっ、それは…!」

顔を赤くするあかり。

「もしかして、あかりちゃんが言ってたのって―」

穂乃果はある写真に写っているある少女を指した。その写真はあかりがアメリカを発つ前にヴェルと撮ったものだった。

「そう、その娘がヴェルだよ…!」

あかりは照れながら頷くのだった。

それから昔話に話を咲かせたりしつつ色々言葉を交わし、気が付けばあかりは二つどころか三つの曲を作詞し終えた。

 

 

そして、ショッピングモールでのイベント当日。

「此処があかりが言ってたショッピングモールの…」

ヴェルは今回のライブの会場たるショッピングモールのイベント会場の最前列の席へ到着した。

すぐさまあかりの元を尋ねようとしたのだが…そのあかりから『今日はとても忙しくて、家には直接寄らずにこのショッピングモールのこの場所へ来て』というメールとショッピングモールの位置を示した地図データ等が送られてきたのだ。

 

一方、あかりは舞台袖から観客席を覗いていた。

「お客さんも集まってきたし…そろそろ時間だね…みんな準備は良い!」

あかりの言葉にμ'sの面々は頷く。

「あかりちゃんが言ってた“あの娘”は?」

穂乃果の言葉にあかりはこう返した。

「最前列の真ん中にいるよ。ヴェルに皆のステージを…輝きを見せてあげて!」

 

 

そして、開始時刻となりショッピングモールでのライブが始まった。

 

一曲目―ことりがセンターの楽曲『Wonderful Rush』の後、凛と真姫、希と絵里は舞台袖へ下がり、次の曲への“準備”を始める。

「皆さんこんにちは!音ノ木坂学院のスクールアイドル―μ'sです!

さっき披露したのは『Wonderful Rush』という曲です!」

穂乃果達がMCをしている間、舞台袖で衣装を着替え終えた4人。

「準備完了よ!」

「何時でもいけるにゃ!」

「んじゃ、真姫と凛は直ぐに準備を!絵里と希も準備してて!」

とあかりは的確に指示を送り、真姫と凛の準備が完了したのを見て穂乃果達に合図を送った。

 

「それでは次の曲の準備も終わったそうなので次の曲にいきましょう!」

「次の曲ともう一曲は今回だけの特別編成です!それではどうぞ!」

海未と花陽の言葉の後、ステージに残ってた面々は舞台袖に下がり、凛と真姫がステージ中央へと移動し、二曲目が始まった。

 

 

二曲目は真姫と凛によるデュエット曲『Beat in Angel』である。

 

 

曲の終了後、真姫と凛がMCをして時間を稼ぐ。

「普段は海未ちゃんが作詞をするんだけど今回のイベントの三曲は何時も私達を支えてくれているマネージャーが作詞した曲なんだにゃ!」

「今日はマネージャーの大切な友人の誕生日との事で、ちょっとした誕生日プレゼントね」

真姫の言葉にステージを見ていた“あの娘”は驚きや嬉しさ等を隠しきれず、目頭が熱くなった。

「それじゃあ、次の曲の準備も出来たとの事で…希ちゃん!絵里ちゃん!後は任せるにゃ!」

そして、凛と真姫は舞台袖に下がりつつ希と絵里にハイタッチし、希と絵里はステージ中央へと移動し、二人のステージが始まった。

 

 

そして、今回のライブの締めを括るのが希と絵里によるデュエット曲『硝子の花園』である。

 

 

 

 

そのライブを見届けながらあかりはこう呟いた。

 

 

 

 

「さぁ…素敵なパーティーはまだまだ終わらないよ!」

 

 

 

 

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第40話『暖かな場所』

「終わったー!」

ある日の夜、μ'sの面々の強力もあってあかりはショッピングモールでのイベントで歌う三曲の作詞を作り終えた。

「皆のお陰だよ!ありがとう」

「いえ、私達はただ口を挟んだだけです」

と謙遜する海未。

「そうだ!ライブの後、あかりちゃんの部屋で歓迎会&誕生日パーティーとかどうかな!?」

穂乃果の提案に

「良いやん!面白そう!」

と賛成する。

「んじゃ、賛成の人~」

にこの言葉に皆手を上げる。

「決まりね。じゃあ金曜日は練習した後、あかりの家に集合して部屋の飾り付けね」

絵里の言葉に皆は頷き、ショッピングモールでのライブに向けて練習をする傍らパーティーの準備も行うのだった。

 

イベント前日、パーティー会場たるあかりの家のリビングでは飾り付けが行われていた。

「まさか、A-RISEの皆さんも参加するとは思いもしませんでした」

海未の言葉に対し

「そりゃ大切な従姉妹の友人ですもの。それにこういったパーティーは人が多い方が盛り上がるでしょ?」

ツバサはそう返すのだった。

「私達も一緒で良いのかな…?」

と疑問に思う雪穂に

「良いんだよ~!因みに“あの娘”は雪穂や亜里沙と同い年だよ」

とあかりは返し

「そうなんですか!?てっきり年上かと…」

と亜里沙は驚きを顕わにするのだった。

 

 

そして、イベント当日。

『Wonderful Rush』を歌い終えた後、凛、真姫、絵里、希は舞台袖へ移動し、すぐに次の曲の準備を始める。

「準備完了よ!」

「何時でもいけるにゃ!」

「んじゃ、真姫と凛は直ぐに準備を!絵里ちゃんと希ちゃんも準備してて!」

とあかりは的確に指示を送り、真姫と凛の準備が完了したのを見て穂乃果達に合図を送った。

その後、穂乃果達と入れ替わる形で凛と真姫がステージへと移動する。

「お疲れ様!あっ、絵里と希はスタンバイしてて!」

それから凛と真姫による『Beat in Angel』とMCへと続いていき、希と絵里の番が来た。

舞台袖へと移動する凛と真姫、ステージへと移動する希と絵里はハイタッチを交わす。

「後は任せるにゃ!」

「うん、任されたで!」

そして、希と絵里による『硝子の花園』の後、二人が観客に挨拶をしてイベントのライブは終了した。

 

イベント終了後

「みんなお疲れ様!皆は先に行ってて!時間を稼ぐ!」

あかりはそう言ってヴェルの元へ向かった。

「じゃあ、私達も行こう!」

穂乃果の言葉に皆は頷き、μ'sの面々はライブを観に来ていた雪穂と亜里沙、A-RISEの面々と共にパーティーの最終準備の為にあかりの家へ向かうのだった。

 

「ご飯炊けたよ~」

「ケーキも出来たよ!」

花陽とことりの報告に

「よし!じゃああかりちゃんに連絡するよ!」

と言って希はあかりのスマホへ連絡を送る。

するとすぐさまあかりから

『了解。こっちもそろそろ着くからクラッカーとか準備をお願い』

というメールが来た。

「写真で見せてもらった事はあるけど…どんな娘なのかしらね…」

「それは会ってからのお楽しみだよ!」

「それもそうね」

と絵里と穂乃果は口にするが…それは他の面々も同じだった。

数分後

「みんな、お待たせ!」

あかりがそう言って入って来た。

「クラッカーの準備は良い?」

クラッカーを手にしたあかりに皆もクラッカーを手にして頷く。

「来るよ…3…2…1!」

あかりのカウントが終了すると同時に扉が開き、ヴェルの姿が顕わになると同時にクラッカーを鳴らし

「ようこそ日本へ!そして―」

『お誕生日おめでとう!』

あかりの掛け声に合わせて言うのだった。

 

 

 

 

数分前、イベント終了後のショッピングモールにてあかりはヴェルと合流した。

「どうだった?」

「凄かった…思わず魅了されたよ」

「正に“More than meets the eye”だよね」

「そうだね…ところであの曲はあかりが作詞したって本当?」

「うん!ちょっとした誕生プレゼントだよ!」

「そうか…あかり、ありが―」

そう言いかけた時、あかりはヴェルの唇に人差し指を当てる。

「それを言うのはもうちょっと待ってて」

「うん…分かった」

疑問に思いつつあかりの言葉に従う事にした。

「んじゃ、帰ろっか」

「うん、お世話になります」

「そんな畏まらなくても良いんだよ!前にも言ったよね?」

「…そうだったな」

二人は色々話をしながら帰路へ就くのだった。

 

「確か…結成してからマネージャーをしてたんだっけ?」

「うん、そうだよ」

「でも、どうしてマネージャーを引き受けたんだい?」

「廃校を阻止しようと必死に頑張っている従姉妹と幼なじみ達を全力でサポートする為、かな」

「廃校?そう言えばそんな話を聞いたな…」

「結局断りきれなくて…最初は廃校を阻止するまでって条件で引き受けてあれから色々あったよ…

穂乃果―私の母方の従姉妹でμ'sのリーダーである娘がスクールアイドルを始めるって言って…幼なじみのことりと海未が加わって三人になって…

それから同じクラスの真姫や花陽、凛が加わって六人になって…

そして三年生のにこや希、絵里が加わって九人となってμ'sは漸く“完成”した。

私はすぐ側でマネージャーとして皆をずっと見てきたけど…“血塗られた咎人”である私には皆が眩しくて輝かしくて…

目的も達せられたし、皆から離れようとも考えた…けれど…」

あかりは一泊置いて続きを言った。

「彼女達は“血塗られた咎人”である私を受け入れてくれた…それどころか私の事を戦女神って言ってくれた…」

あかりの言葉にヴェルはしっかりと聞いていた。

「その事が本当に嬉しかった。それから穂乃果の妹である雪穂や絵里の妹の亜里沙、私の父方の従姉妹でA-RISEのリーダーのツバサやそのチームメイトのあんじゅや英玲奈にも打ち明けた…彼女達も同じ様に私を受け入れてくれた。

だからこそ、私は決めたんだよ。私はμ'sのマネージャーとして彼女達を支えていくと同時に“鋼鉄の戦女神”として皆を護る為に戦うって」

「…私の事も受け入れてくれるだろうか」

その言葉の後、隣を歩いていたあかりは“あの娘”の前に立って笑顔でこう言った。

「大丈夫!皆優しい子達だし受け入れてくれるよ!私も受け入れてくれたんだから!」

あかりの言葉にヴェルも笑みを浮かべる。

すると、あかりの元に準備が完了したという希からのメールが届き、あかりも

『了解。こっちもそろそろ着くからクラッカーとか準備をお願い』

というメールを送った。

暫く歩いて二人はあかりの家に到着した。

あかりにとってはもう数ヶ月も住んでいる見慣れた自宅であり、これからはヴェルと一緒に住む家。

「じゃあ、合図をするまでちょっと待っててね」

と言ってあかりは先に上がる。

暫くしてあかりから

『良いよ!リビングにいるから来て!』

というメールがスマホに届いた。

それからヴェルはこれからの住居へと上がり

「此処がリビング…」

リビングへの扉を開いた。

すると、クラッカーが鳴り響き

「ようこそ日本へ!そして―」

『お誕生日おめでとう!』

あかりの掛け声に合わせて皆が祝福するのだった。

「これは…」

突然の事に驚くヴェル。

「素敵なパーティーはまだまだ終わらないよ~」

あかりの言葉に皆も笑みを浮かべる。

「これ…みんな私の為に…?」

「言ったでしょ?みんな受け入れてくれるって」

あかりの言葉にヴェルは

「スパシーバ…!」

とロシア語でありがとうを意味する言葉の後、自己紹介をした。

 

 

 

 

「本日付けで特殊災害対策機関《ネスト》の日本支部に配属された風見ヴェールヌイ、今日で15歳となりました。

不束者ですがどうか宜しくお願いします」

 

 

 

 

その日のパーティーは大盛況に終わった。

あかりとヴェルはグラスに注がれたコーラを片手に夜空を見上げながら話をしていた。

「みんな受け入れてくれるって言った通りだったでしょ?」

「あぁ…そうだな…そして暖かかった」

笑みを浮かべてそう言うヴェルにあかりもまた笑みを浮かべる。

「みんなには私の過去を話した。みんなは私怨で血塗られた私を受け入れてくれた。そして、ヴェルに対しても同じように受け入れた」

「まさか、私の過去も話したのか…?」

「私の過去を受け入れてくれた彼女達ならヴェルの過去も受け入れてくれる、そう信じて話したんだよ」

「まったく…あかりは御節介者だな」

「褒め言葉として受け取っておくよ。まぁ、その…改めて誕生日おめでとう、ヴェル」

「スパシーバ、あかり。これからも宜しく」

「うん、宜しく。…ねぇ、ヴェル。乾杯しようか」

「飲み物はコーラだけど…まぁ良いか」

二人は向き直り

「「乾杯!」」

互いの―そして皆の健闘を祈り乾杯するのだった。

 

 

 

 

美しい夜空の中、二人の首から吊り下げてある認識票が光を反射して輝いていた。

 

 

 

 

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第41話『自分の殻』

さて、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神はある日の生徒会室から物語を始めるとしよう。

 

「海未の分は綺麗に整理されてるから処理しやすいけど…穂乃果の分の書類ェ…流石の私でも書類の整理ぐらいはちゃんとするよ」

と愚痴をこぼしつつあかりは生徒会の書類の処理を行っている。

と言うのも二年生組は現在修学旅行へ行っており、その間の生徒会業務は絵里と希、あかりが引き受けていた。

「あかり、ありがとうね」

同じく生徒会の書類を処理している絵里はそんなあかりに礼を言う。

「ううん、気にしないで!それはそうと今週は…」

「例のイベントね。あれ、この書類…抜けているわね…」

「どんな書類?」

あかりは絵里に書類の種類と抜けている書類について聞き、今部室に遊びに来ているヴェルにメールを送る。

「それなら部室にあるってヴェルが言ってたよ」

「ほな、部室に行こうか。ヴェルちゃんに礼を言わへんと」

「私も行くわ」

「んじゃ、私も」

 

 

一方の部室では真姫、凛、花陽、ヴェルが談笑をしていた。因みににこはスーパーへ買い物に行っている為、欠席である。

「そう言えば、ヴェールヌイちゃんは中学校には通わないの?」

「ヴェルで構わない…ません。中等教育は通信教育で済ませてますしこの残り数ヶ月しかないのに通うというのも何というか…どうせなら一年通して学園生活をじっくり満喫したいですし…

もう何ヶ月か早かったら中学校には通ってたかもしれませんが…」

ヴェルの言葉に『編入を選ぶよりもじっくり学園生活を満喫する為、わざわざ入学試験を選んだあかりと似た者同士だな』と思わずには居られない真姫、凛、花陽であった。

「やはり学園生活に憧れるにゃ?」

「はい、“普通じゃない人生”を送っている身としては…」

丁寧口調なヴェルに三人は苦笑いを浮かべ

「ねぇ…ヴェールヌイ…そんな畏まらなくて良いのよ」

「はい、いや、うん…」

とヴェルは困惑しつつも何かを考えた後

「じゃあ、私もヴェルと呼んでほしい」

と上目遣いで三人に頼む。

三人の心にクリーンヒットである。

「わかったよヴェルちゃん!改めて宜しくにゃー!」

4人が和気藹々としている時

「お~三人がヴェルに落とされたのかヴェルが三人に落とされたのか…いや~和みますなぁ~でも何か妬いちゃうなぁ~」

そう言ってあかりが絵里や希を連れて部室に入ってきた。

「和むのは良いけどやることはやっておかないとね」

ヴェルは見つけた書類を絵里に渡す。

「ありがとうね、ヴェールヌイ」

「ヴェルで良いですよ」

「じゃあ私達も畏まらずに」

「はい…いや、うん分かった」

そう頷くヴェルの頭を絵里は撫でる。

「もしかしてまた練習、凛達だけー!?」

「今週末には件のファッションショーでのステージがあるんだし、気合い入れていこう」

あかりの言う通り―件のファッションショーは今週末開催である。

しかし、開催日は二年生組が修学旅行から帰ってきた直後。

そこで穂乃果達がやりやすい様に彼女達抜きで練習をする事になったのだ。

 

部室を出た後

「あかり、考えている事があるんだけど…」

「奇遇だね~私もだよ」

「ウチもや」

と笑みを浮かべる3人。

「多分穂乃果も同じ事を言うんじゃないかな」

絵里は穂乃果に連絡を取り、数分に渡るやり取りの後、通話を終えて親指を立てる。

途中、絵里が不思議そうな顔をして首を傾げたのだから一体どんなやり取りが繰り広げられてるのやらと思う二人だったが…とりあえず胸の中に閉まっておく事にするのだった。

「んじゃ、早速皆に話を付けとかないとね」

「にこっちにはウチの方から連絡しとくよ」

 

 

(尤も本人は否定しそうなんだけどね)

とあかりはそう思うのだが、あかり自身は…いや、あかりだけでなく絵里や希や穂乃果もまた彼女が“相応しい”と思ったからこそ彼女を選んだのだ。

 

 

「り、凛がリーダー!?」

「えぇ、これからのμ'sの事考えたり、暫定的でもリーダーがいた方が練習の方向性も定まると思ったのよ」

「期限は穂乃果達が帰ってくるまでの間だよ」

絵里とあかりの言葉を受けても凛は断固拒否する。

「そ、それなら真姫ちゃんとかが良いんじゃない!?ほら、歌も上手いし、ダンスだって!」

その言葉からあかりは

「凛、やってみた方が良いよ。…この機会に“自分と向き合ってみたら”どうかな?」

そう言い

「そ、そこまで言うなら…」

凛は不承不承ながらに了承するのだった。

 

 

 

 

その後、あかりと真姫は花陽から凛の事について話を聞いていた。

「凛が引っ込み思案なのって…」

「うん…昔からね…それに“あの事”をまだ引きずってるのかも…」

花陽の言葉にやはりか、と以前に凛の過去について聞いていたあかりは呟いた。

中心にいるよりも傍らで一緒になって騒ぐタイプ―それが星空凛という少女だった。

「もしあの場に私がいたらそいつ等を血祭りに上げてたよ…」

「あかり、発言が物騒よ」

真姫はあかりにツッコミを入れる。

「ごめんごめん。…とにかく、今回の件にとっては凛にとって試練であると同時に“自分の殻”を破るチャンスでもある。

…私はみんなのおかげで“殻”を破る事ができた。だったら、今度は私が支える番だね」

「私達、でしょ?」

真姫の言葉と花陽の表情に

「それもそうだね」

とあかりは返すのだった。

 

 

凛をリーダーにして1日が経過したのだが…練習はお世辞にも順調とは言えなかったのだ。

凛はリズムを上手く取れずダンスのテンポを崩してしまう事が多く、またにこと真姫がステージの使い方について議論して意見を求められた時にもあやふやな返答をして逆ににこに怒られてしまった。

彼女なりに頑張ってはいるだろうが…やはり難しい問題であった。

 

 

更に想定外のアクシデントが発生した。

 

 

その日の夜。穂乃果からの通話の後、あかりは

「台風の野郎!少しは空気を読みやがれやクソッタレが!」

と台風に対しブチ切れていた。

「これまた不機嫌だね…で、あっちから連絡が?」

ヴェルの言葉にあかりは

「面倒な事になったよ」

と返した。

 

翌日の部室。

「―という訳だよ」

あかりは皆に穂乃果からの連絡について話した。

 

昨夜掛かってきた穂乃果からの電話の内容―台風の影響で飛行機が欠航になるという事。

それはつまり穂乃果達はイベントに出れないという事を意味していた。

「あかりの言うとおり、穂乃果達はファッションショーには間に合わない。

だからこそリーダーである凛がセンターを努めてもらうことになるわね」

「そういう事。そして、あっちからからセンターの人に着てほしいっていう衣装が届いたよ」

そう言ってあかりが皆に見せたのは女の子達の“憧れ”の集合体たるウェディングドレスをイメージした衣装だった。

「こ…こここ、これを…り、凛が…!?はは、はははっはははは!」

“凛が壊れたbyあかり”である。

にこが近づくと、凛はと猫のように威嚇して部室から逃げ出そうとした。

「あ、あれ!?何で扉が!?」

「な~んでだと思う~?それはね、あんたに何時もやられっぱなしだからよ!」

にこの言葉を受けても尚も逃げようとする凛だったが

「私達から」

「逃げられるとでも?」

と行く手をあかりとヴェルに阻まれてしまうのだった。

 

 

 

 

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・風見 ヴェールヌイ(かざみ―)
種族:アデプトテレイター/アデプトマスター
所属:特殊災害対策機関《ネスト》日本支部
誕生日:10月3日
血液型:O型
年齢:15歳(ショッピングモールでのライブ時)
好きな食べ物:ビーフストロガノフ、うどん
嫌いな食べ物:栗以外の果物(特に柑橘系)全般
好きな戦車:T-34
好きな恐竜:アロサウルス
あかりと同じ全身義体型テレイター―アデプトテレイターにしてアデプトマスターである少女。
ロシア人の父親とアメリカ人(日本に帰化したらしい)と日本人のハーフである母親との間に生まれたハーフであり、アメリカやロシアで暮らしてたのもあってロシア語と英語は難なく話せるが、両親の会話も基本的に英語かロシア語中心だったのもあって日本語はあかりから教えてもらうまではあまり上手く話せなかった。
今では問題なく話せる。
また、あかりにロシア語を教えた張本人でもある。
ジーオスの襲撃により家族を失い、自身も重傷を負った後、アデプトテレイターになって家族の仇たるジーオスと戦う道を選んだ。
あかりとはネストの訓練校時代からの同期であり、親友にしてライバルでもある。
あかりが日本支部へ配属された後もアメリカでジーオスと戦っていたが、日本支部からの人員増強の要請もあって日本支部へ配属、あかりと一緒に住む事になった。
中等教育は通信教育で行っているのと学園生活はじっくり年単位で味わいたいという考えもあって中学校には通っていないが、学年的には雪穂や亜里沙と同級生に当たる。
まだ音ノ木坂の生徒ではないものの、アイドル研究部の外部協力者として部室に出入りしている(勿論、理事長からの許可は得ている)。
愛称はヴェル。
尚、声や外見が何処ぞかの駆逐艦娘に似ている様な気がしないでもないが気にしてはならない。


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第42話『憧れ』

「無理だよ。どう考えても、凛には似合わないよ…!」

部室の隣の練習部屋にて凛はぼそりと呟いた。

「そんなこと―「そんなことあるの!」」

絵里の言葉を遮り、凛は続ける。

「だって凛…こんなに髪が短いし…」

「髪が短いお嫁さんって多いわよ!」

真姫の言葉も

「でも!凛は…!とにかく、μ'sの為にも凛じゃない方が良い!」

凛は受け入れない。

(これは思ってた以上に根深い、か…)

あかりは心の中でそう呟くと同時に自分の事を思い出した。

あの時までは…μ'sの面々に自身の過去などについて打ち明ける前はあかり自身もまた“血塗られた咎人”として己を過小評価していた。あかりもある意味では臆病だったのだ。

そして、目の前にいる凛も自分自身に自身がなくて臆病になってしまっているのだ。

「でも確かにあの衣装は穂乃果ちゃんに合わせて作られたから凛ちゃんだと手直ししなくてはならないんよね」

凛の気持ちを汲み取ったのか、希はそう口にし、言葉を続けた。

「…近いサイズだったら…花陽ちゃん?」

「私っ!?」

「確かに…急にリーダーになった凛一人に全てをやらせるのも頂けないわよね。…花陽、どう?」

花陽が候補に挙がった途端

「そうにゃ!かよちんならきっと似合うにゃ!」

と凛は明るい表情で花陽を誉めだした。そんな凛に花陽は

「でも凛ちゃん…良いの?」

と問い返すが

「良いに決まってるにゃ!」

凛はそう返した。

その後、時間も惜しいため絵里と希は早速衣装合わせをするために作業に取り掛かり始めた。

そして、凛は練習部屋を出ようとするが…一瞬だけ衣装を纏う花陽に顔を向け、花陽へ笑みを浮かべてそのまま練習部屋を後にした。

だが、凛が一瞬だけ浮かべた表情―“憧れ”を含んでいた表情をあかりや花陽は見逃してなかった。

 

 

(凛…そんな顔をしたって説得力ないよ…)

 

 

その日の夜、あかりとヴェルは花陽の部屋にいた。

この様な事態になったのは…仕事を終えて夕飯の買い物をしようとしたら母親と買い物をしていた花陽と遭遇、『娘がお世話になっている』と花陽の母親から夕飯に招待され、そのまま泊まる事になったからである。

因みに花陽の母親は嘗てアイドルを志望しており、とあるアイドルグループの研究生だった過去があるらしく、結婚と同時に引退したらしい。

だからこそスクールアイドルである娘達を誇りに思い、その活動を応援しているのだ。

「やっぱり不安があるんかい?」

「うん…穂乃果ちゃんと話し合って私なりに考えて決めてみたんだけど、もし凛ちゃんを傷つけてちゃったら…あかりちゃんやヴェルちゃんはどうなのかな…」

「それは花陽が決めるべき事だよ」

「右に同じく。最終的な判断は花陽が下すべき」

「穂乃果と同じ答えだね」

と苦笑いを浮かべる花陽に

「だってそうなんだもん。その人物の最終的な決断はその人自身がするものなんだよ。

私達もそうなんだよ」

「“選択肢”がそれしかなかったとはいえその最終的な決断―アデプトテレイターとなる決断は私達自身で決めた事だからな」

「まぁ、そういうことなんだよ。私達は花陽の選択に口を挟む気はない」

「だが、私達は花陽の選択―その勇気と優しさに従う」

「だからさ、花陽は後悔しない選択をしてね」

あかりとヴェルの言葉に花陽の中から不安は消え、ある決心が浮かんでいた。

「…その顔は…どうやら決心がついたみたいだね」

「うん、ありがとう。あかりちゃん、ヴェルちゃん」

「いや、私達は大切な友人が後悔しないようにただ思っている事を口にしただけだよ。

…それに私はあの時、みんなに救われた。だから、今度は私の番だよ」

「私も同じ気持ちだ。私を暖かく受け入れてくれた皆に恩返しがしたい」

そして三人は希、絵里、にこ、真姫に連絡を取るのだったのだ。

 

 

 

 

ファッションショー当日。

あかりやヴェルは今までこの様なイベントとは無縁の世界で生きてきたと言うのもあってか人生初のファッションショーはとても新鮮なものであった。

何がともあれ、あかり達は控室に通された。

「じゃあ皆、着替えて最後にもう一度踊りを合わせるにゃ!」

凛の言葉に皆は頷く。

「あっ、凛の衣装はあっちに用意してあるよ」

「あかりちゃんありがとう!」

あかりに言われ、カーテンを開いて中を確認する凛。

「えっ…」

そして、凛が驚いたように声を上げた。

 

 

そこにあったのはセンター用の衣装―あのウェディングドレス風の衣装だったのだ。

 

 

何かの間違いかと思った凛は

「あかりちゃん…これ衣装間違って―」

皆の方を向くがウェディングドレス風の衣装を着る予定だった花陽がタキシード風の衣装を身に纏っていた。

私服を着ているヴェルが、音ノ木坂の制服を着ているあかりが、タキシード姿の絵里が、希が、にこが、真姫が、そして花陽が暖かな視線を凛に向けていた。

「間違ってないよ」

「貴方がこれを着るのよ、凛」

花陽と真姫の言葉。

「でも、急にセンターを変えたら…」

凛の言葉に対し絵里はこう返した。

「それなら心配は無用よ。凛がセンターで歌えるように皆で調整したから」

そして、花陽は一番大切な親友へ―生まれて始めて出来た親友である幼なじみへ思いを告げる。

「凛ちゃん!私ね、凛ちゃんの気持ちを考えて、困っているだろうなって思って引き受けたの。

でも、思い出したよ!凛ちゃん出会った時の事、そして私の背中を押してくれた時の事を!

あの時、一人ぼっちだった私に凛ちゃんが声をかけてくれたから今の私が此処にいる。

そしてあの時、凛ちゃんが背中を押してくれたから今の私が此処にいる。

だから、今度は私が凛ちゃんの背中を押す番!凛ちゃんはかわいいよ!」

花陽に続き真姫はこう言った。

「皆が言ってたわよ。μ'sで一番女の子っぽいのは凛だって」

そして、真姫の言葉にあかりは続いた。

「凛ちゃん、あの時、言った言葉―かわいいよって言葉。

あれはお世辞なんかじゃない。本当に似合ってる、かわいいと思ったからそう言ったんだよ」

「あかりちゃんの言うとおりだよ!

私、凛ちゃんの事、抱きしめちゃいたいって思うくらい可愛いって思ってるもん!」

「花陽の気持ちもわかるわ。見てみなさいよ、あの衣装!一番似合うわよ。凛が!」

花陽は真姫と共に凛の背中を押す。

あの時、花陽の背中を押したのは真姫と…そして凛だった。

そして、今度は押してもらった花陽が凛の背中を押す。

背中を押された凛はその衣装に手を触れる。

そして、凛はあかり達の方を向いて頷いた。

 

 

そして、いよいよライブ本番。司会者による紹介の後、ステージにいる6人にスポットライトが照らされる。

「皆さんこんにちは!音ノ木坂学院のスクールアイドル『μ's』です!」

凛がそう言うと、観客達が皆「かわいい!」と凛へ言い、そんな観客達に対し凛は

「ありがとうございます!」

と笑顔で返し、言葉を続ける。

「本来なら9人なのですが、今回は都合により6人で歌わせていただきます。

でも、今日はこの場にいない3人の分まで精一杯歌います!」

そして、凛は一泊置いてライブ―『Love wing bell』という曲のスタートを告げた。

 

 

 

 

「それでは!一番かわいい私達を、見ていってください!」

 

 

 

 

二年生組が修学旅行から帰ってきた翌日の屋上。μ'sの8人とあかり、ヴェルは屋上で練習をしたりそれに付き合っていたりした。

其処へ扉を開いて現れたのは

「…え、えへへ…ど、どう…かなぁ?」

今までの練習着とは異なり、スカートを履いた凛だった。

「Wow…it's so cute…!」

思わずあかりはそう呟き、皆もより一層可愛らしくなった凛の姿に盛り上がっていた。

 

 

 

 

「よーし!さあ、今日も練習いっくにゃ~!」

 

 

 

 

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第43話『個性』

さて、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神はバーガーショップから物語を始めるとしよう。

『『ハロウィンイベント?』』

所要でいない海未とことり以外の面々は声を揃えて言いつつ首を傾げた。

「そうそう。実は今年このアキバをハロウィンストリートにしようっていう計画があるんだよ。

そこで、地元のスクールアイドルであるμ'sとA-RISEも出演依頼が来たって訳。勿論、テレビ局も入るぜ!」

その言葉に殆どの者が盛り上がり、にこの一声が更に盛り上げさせた。

「皆、A-RISEよりもインパクトのあるパフォーマンスをお客さんの眼に焼き付けるのよ!」

「おお!これからはインパクトの時代だよ真姫ちゃん!」

「それよりも…良いの、穂乃果?こんなとこにいて?」

「生徒会の仕事があるんじゃ…」

真姫と花陽の言葉もごもっともである。

「へえ…これからは“インパクト”ですか?良いですねぇ」

ことりを連れてそう言って穂乃果の後ろに立つ海未は笑顔を浮かべていたが…目が笑ってなかった。

 

 

『μ'sにはインパクトが無い』

昨日のバーガーショップで話し合った結果、この様な流れになってしまった。

更にその翌日から始まったハロウィンイベントにμ'sも出演したものの後に出てきたA-RISEによって一気に持って行かれた―それはつまりμ'sは出汁に使われたという事である。

其処で“良い考え”が浮かんだ海未は早速実行するのだったが…

((嫌な予感しかしない))

とあかりとヴェルは思っていた。

そして、校庭に呼び出されたあかりとヴェルは海未に頼まれ“撮影”をする事になった。

「貴方の想いをリターンエース!高坂穂乃果です!」

テニスウェアを着た穂乃果から始まり

「誘惑リボンで狂わせるわ!西木野真姫!」

新体操をする人の様な格好をした真姫がリボンを回し

「剥かないでー!私はまだまだ青い果実…小泉花陽です!」

みかんの着ぐるみを着た花陽に

「スピリチュアル東洋の魔女、東條希!」

バレー部のユニフォームを着た希へと続いて

「恋愛未満の化学式、園田海未!」

「私のシュートでハートのマーク付けちゃうぞっ!南ことり!」

「キュートスプラーッシュ!星空凛!」

「必殺のピンクポンポン!絢瀬絵里よ!」

と白衣を着た海未やらラクロス部のユニフォームを着たことり、競泳水着を着た凛、チアガール姿の絵里へと続いた後

「そして私!不動のセンター矢澤にこにこー!」

にこ“らしき”剣道着を着た人物がラストを飾り、皆で決めポーズを決める。

あかりとヴェルの二人が面食らったのも無理はない。

「ねぇ…ヴェル。加入前の自分を時々でも良いから思い出して欲しい絵里やら顔が見えなくて『誰だお前!?』って言いたくなるにこやら色々とツッコミたいけど…」

「つっこんだら負けだろうな…」

と二人で話し合っている中

「どうでしたか?」

と海未は問う。

「部活系アイドルっていうコンセプトは悪くないと思うが…」

「ざっくり言ってちょっとμ'sらしくないと思う」

実はあかりの中で意見は決まってたりするが…これもまた経験であると考え合宿の時と同様、言うつもりはまだなかった。

 

 

続いては屋上。あかりはビデオカメラを持たせられ、撮影を任されてしまった。

「おはようございます~あっ、ごきげんよう」

まず、海未の練習着を着た穂乃果が扉を開けて

「海未、ハラショ~」

「絵里、早いですね」

絵里の練習着を着たことりと共に

「「そして、凛も」」

凛の格好をした海未の方を向く。

「なっ…うぅぅ…無理です!」

「ダメですよ!海未。ちゃんと、凛になりきってください!

あなたが言い出したのでしょ!空気を替えてみた方が良いと!さぁ、凛!」

「うぅぅ…にゃぁぁぁぁ!今日も練習行くにゃぁぁぁぁ」

吹っ切れた海未に対し真姫の格好をした凛が出て来てこう言った。

「何それ、イミワカンナイ」

「真姫、そんな話し方はいけません!」

「面倒な人」

そこに、希の格好をした真姫が出て来た。

「ちょっと、凛!それ、わたしの真似でしょ!やめて!」

「お断りします!」

「なぁ…!」

「おはようございます。希」

「あ~喋らないのはずるいにゃ~」

「そうよ、みんなで決めたでしょ」

「べ、別にそんなこと…言った覚えないやん…」

「お~希、凄いです」

続いて出て来たのはにこの格好した花陽だった。

「にっこにっこに~あなたのハートににこにこに~笑顔届ける矢澤にこにこ、青空もにっこ!」

この花陽版にこにーはあかりとヴェルの心にクリーンヒットした。

「ハラショ~。にこは、思ったよりにこっぽいよね」

今度は、ことりの格好したにこが出て来た。

「にこちゃん~にこちゃんはそんな、感じじゃないよ~」

メンバー中最もクオリティが高い物真似である。

続いては穂乃果の格好した希が出て来た。

「いや~今日もパンがうまい」

「穂乃果、また遅刻よ」

「ごっめぇ~ん」

「え…わたしって、こんな…」

穂乃果の言葉に皆は頷く。

最後は、花陽の格好した絵里が出て来た。

「大変です!」

「どうしたのです?」

「…みっ、みんなが…みんなが…変よ!」

((ですよね~))

そう思わずにはいられないあかりとヴェルだった。

因みにこの映像はせっかくなのであかりとヴェルはそれぞれ個人用で取っておく事にし、スマホやパソコンに記録しているとか。

 

 

 

 

再び部室。あかりとヴェルは仕事が入ったのでこの場にはいない。

絵里はある提案をした。

「ねえ、ちょっと思ったんだけど…

いっそのこと、一度“アイドルらしい”ってイメージから離れてみるって言うのはどうかしら?」

「離れてみる…って言ったら、“かっこいい”?」

「それ以上だったら…“荒々しい”とか?」

凛とことりの言葉に絵里は頷く。

それから話し合いは斜め上の方向に盛り上がり、穂乃果がある提案をした。

「よーし!私に良い考えがあるよ!」

 

 

あかりとヴェルは仕事を終え、まだみんながいるだろう部室へ向かった。

「あれ?いない…」

「という事は…」

ヴェルは隣の練習部屋の扉を開ける。

「―クァァ!皆さん、お久しぶり!我々はスクールアイドルμ'sである!!…こんな感じかな!?」

あかりとヴェルが面食らったのも無理はない。

何せ彼女達の目の前にいたのはパンクというかメタルというかそんな“奇抜”なスタイルへと変貌したμ'sの面々だった。

「あかりちゃん!ヴェルちゃん!おかえり!どうかな?私達なりに考えてみたんだけど…」

穂乃果の言葉に対しあかりは

「整列!」

とμ'sの面々に指示を出す。

「番号!」

あかりの言葉に何時もの点呼順で番号を言うμ'sの面々。

「これはどういう事なのかな…」

笑顔でそう言うあかりとヴェルの目は笑ってなかった。

「ヴェル、このまま外に出たらどうなる?」

「不審者扱いされて呼び出され、今後の活動に支障をきたすおそれがあると思われる

「その通り」

そして、あかりはμ'sの面々の方に向き直る。

…そしてその手には護身用荷持ち歩いているスタンガンが握られていた。

「諸君、言い残した事はあるか?」

トラウマになるやもしれない恐ろしいオーラにμ'sの面々は

『『すみませんでした、サー!』』

と土下座をした。

「さっさと元の制服を着る!」

『『イエス、マム!』』

 

 

そして、お馴染みのバーガーショップ。

責任のなすりつけあいが行われたりする中

「あかり、ヴェル!あんた達の意見はどうなのよ!」

にこは二人に問う。

「このままで良いんだよ」

とあかりは自身の意見を述べる。

「みんなはただでさえ個性的で奇跡的なバランスで成り立っている。だからこそ今までの結果があるんだよ」

「私も同意見だ。下手にバランスを崩そうとするのは良くない」

あかりとヴェルの言葉に皆は思い当たる節があるからか顔を伏せる。

「私も…皆が着て、似合う衣装が良いなと思うんだ。だからあまりインパクトは…」

そんな中、沈黙を破ったのはことりだった。

 

その後、話は打ち切りにして一向は外に出た。

「穂乃果、どうしたんだい?」

店を出た後、皆の背中を見つめる穂乃果にあかりは問う。

「あかりちゃんとヴェルちゃんの言葉について考えてたんだ。

A-RISEがすごいから、私達も何とか新しくなろうと頑張って来たけど…多分、私達は今のままが一番良いんだよ。だってあかりちゃんの言うとおり、皆、個性的なんだもん!

時間を掛けてお互いの事を分かって、受け入れて、それで今の自分達がある。

そんなμ'sが私は好き!」

穂乃果の言葉にあかりは笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「私もだよ…!私は…μ'sのみんなは何時までもそのままのみんなでいて欲しいと思ってるんだよ!」

 

 

 

 

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第44話『成長』

この間のハロウィンイベントで披露した『Dancing stars on me!』の動画は

「A-RISEに強力なライバル出現!」

といった評価が上がっている程に好評であった。

その事実にμ'sの面々の志気は上がっており、そして何より今まで通りの自分達のスタイルを貫いた事は正解であった事を証明していた。

 

そんな矢先にある問題が起きたのだった。

「まあ、あれだけ何かを食べたらそうなるわなぁ…」

ジャージ姿の穂乃果と花陽を見て、海未から事情を聞いたあかりは呟いた。

そう、穂乃果と花陽は“ダイエットをする必要”がでてきたのだ。

「そう言えば、あかりとヴェルはそこそこ食べるのに太らないわよね」

真姫の疑問に対しあかりとヴェルは声を合わせて言った。

「「アデプトテレイターだから太らないですし」」

「そう言えば…そうだったわね…」

三人がそんな会話を繰り広げている一方でジャージ姿の穂乃果や海未、ことりは溜まっている書類の処理を行っていた。

因みにあかりも手伝っていたりするが…あくまでも雑務のみである。

もうすぐ予算会議という事もあって予算申請を既に出している部はそこそこいる。

「失礼します、美術部です。急いだ方が良いと思って直接予算申請書を持ってきました!」

「ありがとうございます。今、内容を確認しますね」

そう言って、海未はすぐに書類に不備がないかを確認すると、それを受理、美術部は一礼をして生徒会室を後にした。

「おっと、仕事か…仕事が終わったらそのまま帰らせてもらうね!」

「ええ。今日もありがとうございました。あかり。ヴェルも気をつけて」

 

 

この後、厄介な事が起ころうとは誰も知る余地はなかった。

 

 

翌日の昼休憩。

絵里や希に生徒会室まで呼び出されたあかりは事情を二人から聞いた。

生徒会室には穂乃果達もいたのだが…落ち込んでいた。

「なる程ね…まぁ、“手出し”はしないけどアドバイス出来る事はするよ」

「ごめんなさいね、あかり」

話を簡単に整理すると…あの時、ことりが海未から受け取った美術部の予算申請書をそのまま承認箱に入れてしまったので、ストレートに予算が承認されてしまったという事である。

「すみませんでした!」

「注意はしていたつもりだったのですが…」

「海未ちゃんが悪い訳じゃないよ!」

それぞれ責任を被ろうとする穂乃果、海未、ことり。

「三年生に美術部OGの知り合いがいるから、私からちょっと話してみるわ」

「そうやね。元生徒会長の言う事だったら協力してくれるかもしれないしね」

絵里の提案に賛成する希だったが

「それじゃ駄目だよ」

とあかりは反対した。

「さっきも言った通り、アドバイスくらいは良いけど手出しするのは駄目だよ。

此処で手出しして丸く収めちゃったら穂乃果ちゃん達の力にはならないし、もし再びミスが起きたらそれに対する心構えが持てなくなる」

そんなあかりの意見に穂乃果も続ける。

「あかりちゃんの言うとおりだよ。私達で何とかしなきゃ駄目だと思う。

自分達のミスだもん。自分達で何とかする。だって…今の生徒会は私達がやっているんだから」

穂乃果の言葉に希と絵里は了承し

「何かあったら教えて」

とあかりはそう言うのだった。

 

一方のあかりはあかり自身が考案した特訓メニューをこなしている花陽達の方へ顔を出していた。

「調子はどうだい?」

「あかりちゃん、これ、結構ハードだよ…」

息切れしつつもそう返す花陽。

「まぁ…確かにハードかも…

それでも私やヴェルが受けてた基礎訓練メニューよりはイージーになってるんだけどね」

「これよりハードって、流石軍人だにゃ~」

一緒になって特訓メニューをこなしている凛はそう返す。

「まぁ、我々の仕事は下手すれば命を落としかねない物だからな。

…いくら不完全な不老不死の存在だとしても死ぬ時は死ぬ。だから“不完全”なんだよ。だからこそ不完全不老不死生命体よりも不老生命体と呼ぶべきか」

とヴェルは返した。

「まぁ、無理はしないようにね!無理して身体を壊したら元も子もないから!」

とあかりは二人にそう言うのだった。

 

 

 

 

そして、予算会議当日。

既に各部の部長が集まっている中、定刻となったのを確認した穂乃果は予算会議の始まりを告げた。

「では、各部の代表も揃ったようなので、予算会議を始めたいと思います。まずは私から―「はい。その前にまず、美術部の件について説明してもらえませんか?」」

美術部の代表から例の件について問われる。

「無い袖は振れません!」

穂乃果の直球な言葉に殆どが同様する中、穂乃果は説明を始める。

「美術部の件ですが、これは生徒会のミスです。

誤って承認箱に入れてしまい、弁解のしようがありません。

ですが、本来予算会議前に予算が通る事などあってはならない事です。

美術部には謝罪をすると同時に取り消しをお願いします。

今、音ノ木坂学院は廃校を免れたばかりの状態です。はっきり言って予算も少ないのが現状です。

そこで、勝手ながら生徒会で予算案を作成させてもらいました」

穂乃果はことりと海未に目くばせをし、ことりは席を立って生徒会作成の予算案を各部の代表へ配り始めた。

「各部去年の予算と、本年度提出されている希望額から暫定で振り分けてみました。

各部とも希望額の8割となっていますが、この予算案であれば、各部の今年度の活動に支障をきたさないと考えます。

来年度、生徒が増えることを信じ…ご理解いただければと思います!」

そして、三人は席を立って

「生徒会として、精一杯考えました!」

「至らぬところもあると思いますが」

「どうか、お願いします!」

頭を下げた。

少しの間、沈黙が続く中

「…この予算案に賛成の人~」

沈黙を破り、手を挙げてそう口にしたのはにこだった。

そして、にこにつられて美術部を始め各部の代表が手を挙げ始めるのだった。

 

 

 

 

「それで予算通っちゃったのぉ!?」

花陽の驚きの声に穂乃果達は頷く。

「いや~、一時はどうなるかと思ったよ~

あかりちゃんもアドバイスとかありがとう!」

穂乃果の言葉に

「いやいや、例をされる程の事じゃないよ。結果的には穂乃果達自身の力で解決しただけだよ」

あかりは謙遜する。

「さて、後は穂乃果のダイエットだね」

「あっ、その事なんだけどね、さっき計ったら戻ってたの!

生徒会業務に没頭していたら食べることを忘れて…いつの間にか体重が戻っていたんだよ!」

「何ともまぁ都合が良い話というか出鱈目じみているというか…まぁ、それが穂乃果か」

 

 

 

 

一方、絵里と希は遠巻きに穂乃果達の様子を見ていた。

「生徒会、大丈夫そうやね」

「そうね、とりあえずは一安心ね」

絵里の言葉に希は頷いた後、ふと夕焼け空を見上げる。

 

 

 

 

その時の希は絵里の目にはどこか切なげで儚げに見えたのだった。

 

 

 

 

―side:Nozomi―

 

 

中学生最後の夏休み。

“私”は両親と一緒にアメリカへと旅行に訪れていた。

―と言っても両親は仕事で訪れているのもあるけれど…

 

 

その日も両親は仕事で手が空かなくなり、“私”は一人で散歩をしていた。

そして、アメリカ・ニューヨークの近くに病院があるとある公園に着いた時…

「あれは…」

私の目に入ったのは一人の日本人の少女が“リハビリ”をしている姿だった。

「何をやってるの?」

私はその子に声をかける。

「リハビリをしてるんです。此処なら近くに病院もあるのでもしもの時に対応できるから」

とその子は返した。

「事故に遭ったの?」

「はい、“事故”に遭って…私は生き延びたんですが、両親は事故で死んでしまい…」

「あっ、ごめん」

「気にしないでください」

それから私は少女といろんな事を話した。

少女は元々東京・千代田区に住んでたらしいが、両親の仕事の都合で小学校卒業後にアメリカへ留学してきたらしい。

「今頃、4人はどうしてるかなぁ…」

彼女には4人の幼なじみがいる―その中の3人は同い年で、3人の中の1人とその妹は母方の従姉妹らしい。

「いつかまた会えると良いね」

「うん!」

私の言葉に少女は笑顔で頷いた。

「あっ、自己紹介がまだだったね。私は東條希」

「頼尽あかりだよ。宜しくね、希!」

彼女―頼尽あかりは私の方が一つ年上と知って驚いたりした。

私は時間を見つけては彼女に会いに行った。

彼女のリハビリも順調に進んだ。

「私ね、高校生になったら日本に帰国して通いたい高校があるんだ」

「通いたい高校?」

「音ノ木坂学院。歴史ある女子校で、私は昔から彼処に通いたいって思ってたんだよ。彼処に通うお姉さんに憧れたりして…」

私は興味が出た。彼女が憧れてるという音ノ木坂学院に。

 

それから数日後、その日は帰国する日だった。

彼女は見送りに来てくれた。

「短い間だったけど、ありがとうね」

「ううん、こっちこそ。…あかりちゃん、また会えるかな…?」

「それはわからないし断言は出来ないけど…会えそうな、そんな気がするんだよね」

「そっか…それじゃまたいつか、会える時まで」

「うん、またいつか、会える時まで」

 

 

 

 

日本へと帰国した私は音ノ木坂の入試を受けて合格。春からアパートで一人暮らししながら音ノ木坂に通う事になった。

音ノ木坂に入学した私―いやウチはエリチやにこっちに出会い…

 

 

 

 

そして、入学から2年後に彼女と―あかりちゃんと再会を果たした。

 

 

 

 

―side out―

 

 

 

 

To be continue



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第45話『面倒くさい者同士』

さて、今回のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神はアイドル研究部部室から物語を始めるとしよう。

 

 

最終予選でどの曲を歌うか。「新曲を歌う」という意見を出したのは絵里だった。

「歌える曲は一曲だから、大事に決めたいわね」

「なる程…予選じゃ新曲のみって条件だったから、ここでも新曲でやると人々の印象に残るかも」

あかりも絵里の意見に賛成である。

新曲はどんな曲にするか…話し合いが行われる中、希の意見で空気が変わった。

「例えばやけど…このメンバーでラブソングを歌ってみたらどうやろか?」

希の意見に花陽は熱く語り始めた。

「確かにアイドルにラブソングは鉄板中の鉄板!だけどμ'sには女の子同士のラブソングにしてデュエット曲の『硝子の花園』しかなかった…!」

花陽の言葉に穂乃果はある疑問を持った。

「そういえば…どうして、今まで『硝子の花園』以外のラブソングは無かったんだろう?」

「それは~…」

ことりの視線―そして皆の視線が作詞担当たる海未に向けられる。

「…私ですか!?」

自覚なしかよ、とあかりはそう思った。

「だって海未ちゃん、恋愛経験ないんやろ?」

「な、なんで決めつけるのですか!?」

「「あるのっ!?」」

穂乃果とことりが海未に詰め寄る。

皆が詰め寄った頃、海未はとうとう白状した。

「―ありません」

その言葉に皆はホッとするが…皆似たようなものだとつっこんでは駄目である。

「そう言えば、あかりって恋愛経験とかあるの?」

にこの疑問に対しあかりはさらっとこう答えた。

「現在進行形であるよ。まぁ、相手は“同性”だけどね。

…あんな事があったから流石に異性には…」

その言葉に皆の空気が重たくなる。

あんな過去―アデプトテレイターになる前に異性に強姦された過去ががあったから異性に恋愛感情が湧かないのも無理はない。

「ごめん…」

「もう過ぎた事だから気にしなくて良いんだよにこ!」

あかりは笑みを浮かべてそう言った。

 

話し合いの中、真姫はある意見を出した。

「―にしても、今から新曲なんて無理じゃない?」

真姫の言うとおり―現実的に考えれば今から新曲を作るのは難しい話である。

このままラブソングという案は没になる空気だったが…

「でも、諦めるのはまだ早いんじゃない?」

そう意見を出したのは絵里だった。

そんな絵里に

(何かある…)

と思ったあかりは

「絵里の言うとおりだよ!挑戦してみるのもありだと思うしラブソングの存在はやっぱり大きいと思うよ!」

と絵里の意見を肯定したのだった。

 

 

放課後、あかりの部屋にμ'sの面々は集まっていた。

「そう言えばヴェルちゃんは?」

ヴェルの姿を見かけない事に気付いた凛はあかりに尋ねる。

「ヴェルなら雪穂や亜里沙の所に行くって。

勉強会とかの付き添いなんじゃないかな?」

「まぁ、ヴェルも頭が良いしね…」

真姫の言うとおり―ヴェルもまた頭が良いというか―あかりに匹敵するレベルであった。

「んじゃ、そろそろ勉強会でも始めようか」

かくして恋愛について学ぶ勉強会が始まったのだった。

「ことり、例の物持ってきた?」

「うん、持ってきたよ!」

ことりが取り出したのはとある恋愛映画のDVDだった。

「さて、見る前に…ごめんね、海未!」

あかりは海未を気絶させ、手近にあったロープで海未の手足を縛る。

「こうでもしないと良い所で強制終了させかねかいからね」

解説の後、さっそく恋愛映画を観賞し始めた。

 

内容自体はありきたりな内容の作品なのだが…泣けるものは泣けるもの。

みんなハンカチを握り締めていた。

「はっ!此処はあかり!」

海未が漸く目覚めた。

「海未静かに!今、良いとこだから!」

「良いとこ…?」

あかりの言葉に首を傾げ、テレビを見る海未だったが…

現在、映画はこれまた恋愛映画ではお馴染みのラブシーン―男女が互いに向き合い、女の方がそっと目を閉じてそれを見た男が徐々に顔を近づけていくというシーンだった。

当然、“こういうの”に耐性がない海未は顔を赤くして狼狽している。

殆どの面々がそのシーンで黄色い歓声を上げてたが…そう言うのに興味がないのか否か、穂乃果と凛は熟睡していた。というか開始5分で寝ていた。

一方のあかりは塩味のポップコーンとコーラを片手に映画を見ていた。

本人曰わく

「映画を見る時にポップコーンとコーラは必需品。

因みに好きなポップコーンの味は塩味かのりしお味」

だかららしい。

 

 

 

 

そのシーンも終わり、あかりが海未の方を向くと…恥ずかしさのあまり気絶していた。

終わるまで穂乃果や凛と同様、そのままにしておく事にしたあかりであった。

 

そして、件の恋愛映画もエンドロールを迎えた頃

「あれ~、終わってた~?」

漸く穂乃果が目覚めた。

「穂乃果ちゃん、開始5分で寝てたよ」

そう苦笑いを浮かべることりに

「いや~何だかのんびりとした映画だな~って思ってたら何時の間にか寝ちゃってたよ」

と穂乃果は返した。

 

その後、凛と海未も目が覚めたようで早速話し合いが始まった。

 

だが、なかなか上手くはいかないと言うのが現状であった。

「やっぱり難しいものだね

と呟くことり。

「でも、もうちょっと頑張ってみたいわね」

と言う絵里の言葉に

「もう諦めた方が良いんじゃない?これ以上は時間が勿体ないわ。

振り付けも作曲も諸々、このままだとただ完成度が低くなるばかりよ」

と真姫は意見を出し

「確かに…それにラブソングにも頼らなくても自分達には自分達の歌がありますし…」

海未も肯定する。

「で、でも―「確かに皆の言う通りや。今までの曲に全力を注いで頑張ろっ!」でも希…」

「ええんや。一番大切なのはμ'sやろ?」

絵里と希のやり取りにあかりと真姫は“何か”が引っかかる感じがしていた。

 

そんなやり取りの後、作戦会議はお開きとなり、それぞれが帰路に就くが…

「花陽、凛。先帰ってて。私はちょっと用があるから」

真姫は希と絵里への尾行へ向かった。

だが、二人へ尾行しようとしていたのは真姫だけじゃなかった。

「真姫、奇遇だね」

「あかりも気付いてたんじゃないの?」

「Yesだよ。だからこうして二人の後を追ってタイミングを狙ってた…真姫もそうなんじゃないの?」

あかりの言葉に真姫は頷く。

 

 

そんな二人の尾行に気付かず絵里と希は話していた。

「―でも!ずっとやりたいって言ってたでしょ!それが希の夢だって!」

「でも、大切なのはμ'sやろ?」

 

 

一方、あかりと真姫はタイミングを狙っていた。

「ねぇ、真姫」

「何よ?」

「面倒くさいのが多いよね。μ'sは」

笑みを浮かべながらそう言うあかりに

「確かにそうよね…でも、あかりも人の事は言えないんじゃないの?」

真姫はそう返す。

「まぁ、自分が面倒くさい奴だって事は否定しないよ。

だから時にぶつかり合ったりして互いの事を理解していき、“絆”が生まれる、そうなんじゃないかな?」

「そうね…面倒くさい者同士、時間をかけて互いの事を理解していく―それが私達よ」

「んじゃ、そろそろ行くよ」

あかりの言葉に真姫は頷くのだった。

 

 

 

 

「そこのお二人さん、ちょいと良いかな?」

「あかりちゃん…真姫ちゃん…どうしたん?」

頭を傾げてそう言う希に真姫は思っている事を吐き出した。

 

 

 

 

「前に私に言ったわよね?面倒くさい人間って。…自分の方がよっぽど面倒くさいじゃない!」

 

 

 

 

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第46話『雪の光暈』

「前に私に言ったわよね?めんどくさい人間って。…自分の方がよっぽどめんどくさいじゃない!」

真姫の本気の言葉と真剣な表情に

「気が合うわね。同意見よ」

絵里は肩をすくめてそう言った。

「エリチ…」

「ねぇ…希、ちょっと家へお邪魔して良いかしら?」

絵里の言葉と目―そして真姫とあかりの目にもはや逃げる事は出来ないと察した希は頷いた。

 

 

希が暮らしているアパート。

そこに案内されたあかり、絵里、真姫。

お茶を淹れる為のお湯を沸かしている希に真姫は問う。

「一人暮らし……なの?」

「うん」

そして希は語り始める。

 

 

―side:Nozomi―

 

 

今まで“私”は一人ぼっちだった。

 

小学生の頃から転校ばかりで友達がいなかった。

 

最初は行く先々で友達を作ろうと頑張った。

 

 

けれども…

「ごめんな、希。また転勤が決まったんだ」

“なりかける”って所で転校が決まり、友達になりかけてた子達に何となく見送られる日々。

 

 

「こんな思いをするなら、友達なんていらない」

何時の間にかそう思う程に私は疲れていた―、それどころかその思いすら摩耗していって何も思わなくなった。

 

 

そんなある日の―中学生最後の夏休み。

両親の仕事の都合で暫くの間、アメリカ・ニューヨークに住む事になった。

私からしてみれば旅行の様なものだ。

アメリカには何度か来たことがあるし英会話に関しては日常会話程度なら出来るので差し支えない。

そんな中、一人散歩してたら一人の日本人の少女に―あかりちゃんに出会った。

どうせまた“なりかけ”の所で別れる…だったら話しかけずに…って思ったのに何故か話しかけずにはいられなかった。

 

穂乃果ちゃん達から遠く離れた異国の地で暮らし始め…そして両親を失い、ネストに入ってヴェルちゃんに出会うまでの空白の期間のあかりちゃん。

始めて会った時に気付いた―この子もまた“孤独”なのだと。だから話しかけたのかもしれない。

 

たわいもない―何ともない話をあかりちゃんは興味深々に聞いていた。

 

「同じ年頃の日本人の少女とお話が出来て嬉しい」

ある日、彼女はそう言った。あかりちゃんはある意味、始めて出来た“親友”だったのかもしれない。

 

「私ね、高校生になったら日本に帰国して通いたい高校があるんだ」

ある日、ふとあかりちゃんがそう言った。

「通いたい高校?」

「音ノ木坂学院。歴史ある女子校で、私は昔から彼処に通いたいって思ってたんだよ。彼処に通うお姉さんに憧れたりして―」

私は興味を持った―彼女が憧れてるという音ノ木坂学院に。

 

 

それから日本へ帰国した私は音ノ木坂に入学すべく受験勉強をして…入試で合格を果たして、春から一人暮らししながら音ノ木坂に通う事になった。

「絢瀬絵里です、宜しくお願いします」

そして、その音ノ木坂で出会ったのは自分を大切にするあまり、周りと距離を置いて、上手く溶け込めない―自分にズルが出来ない、まるで自分と同じ様な人だった。

思いは人一倍強く、不器用な分、周りとぶつかる子。

「あの!」

「あなたは?」

「私―ウチ、東條希!」

その日、私は―ウチはその子と友達になった。

 

それから色んな子に出会った。

同じ思いを持つ人がいるのにどうしても手を取り合えない、どう繋がっていいのかが分からない子。

そんな子達が此処にも、此処にも。

 

 

そんな時、大きな力で繋いでくれる存在が現れた。

 

残したかった―思いを同じくする者がいて、繋げてくれる者がいる。

 

 

それを必ず何かしらの形にしたかった。

 

 

―side out―

 

 

 

 

「そして、あかりちゃんと再び会うことが出来た。

久々に会えたあかりちゃんはある意味―ウチと似てる様な気がした。

どこか寂しげで、悲しげで…その“答え”を知ったのはあかりちゃんがアデプトテレイターだって知った時やったんだけどね」

図星を突かれたがあかりは何も言わず、ただ黙って希の話に耳を傾けていた。

「だけど、その答えを知る前からこう思ってた…あの時、ウチを“救って”、音ノ木坂と…μ'sとみんなと巡り合わせてくれたたあかりちゃんを今度はウチが手助けをする番だって…あかりちゃんを救いたいって」

そして、絵里もまた心優しい様子で続けた。

「そんな希の夢だったのよ―皆で曲を作りたいって。

ラブソングが作りたいんじゃないの。一人一人の言葉を紡いで、想いを紡いで、全員で作り上げた曲。そんな曲でラブライブに出たい」

「だから希と絵里は…」

「ええ。上手く、行かなかったけどね」

「…夢なんて大それたものやないの。ただ…曲じゃなくても良い、十人が集まって力を合わせて何かを生み出さればそれでよかったんよ。

だって…この十人は奇跡で…一番の夢はとっくに…

だからこの話はお終い。それでええやろ?」

この話を聞いてあかりはある考えが浮かんでいた。

どうやら絵里や真姫も同じ事を考えていたらしい。

「お終いにする―だが断る。此処でお終いになんかしないよ」

あかりの言葉に絵里と真姫は笑みを浮かべて頷き、それぞれが携帯を取り出した。

そして、何をしようとしているのか気付いた希は

「まさか、皆をここに集めるの?」

と問い、真姫はこう返した。

「良いでしょ。一度くらい皆を招待しても。“友達”、なんだから」

 

 

 

 

数分後。あかり、絵里、真姫に呼び出さた皆が希の部屋に集まった。

「ええ!?やっぱり作るの!?」

穂乃果の驚きの声にあかりは笑みを浮かべて返す。

「Yes!やっぱり作るしかないよ!」

「あかりの言う通りよ。それに、これはちょっとしたプレゼントなの。μ'sから“μ'sを作ってくれた女神様”へ」

それから絵里、真姫、あかりはその“方法”について説明する。

「皆で言葉を出し合って、かぁ…」

そう呟く凛。

「…何かあったの?」

小声でそう尋ねてきたことりに

「まぁ、色々とあって、ね」

とあかりは返した。

そうやって話をしている中、花陽はある物に気付いた。

あの日―あかりが“本当の意味”でμ'sのマネージャーとなった後に皆で撮った写真やヴェルの歓迎兼誕生日パーティーの時に皆で撮った写真。

どの写真も皆、とても楽しそうで、笑顔を浮かべていた。

それらの写真を希は恥ずかしいからか奪取して胸に抱える。

「そういうの飾ってるなんて意外ね」

そう言うにこに

「べ、別にいいでしょっ。…友達、なんやから」

希は頬を少し赤く染めてそう返す。

その姿が愛おしく思った皆は希に抱き付こうとする。

「もう!笑わないでよ!」

珍しい―そしてあかりにとってはアメリカで別れて以来久々に聞く希の標準語をあかりは逃す筈がなく…すぐさま“録画”する。

「おぉ~希の久々で珍しい標準語、頂きました」

「ちょ、どさくさ紛れに何やってるのあかりちゃん!」

「こらこら、からかわないの」

と絵里は希を優しく抱きながら皆を宥める。

 

 

その後、ふと窓の外が目に入った穂乃果が外を指差した。

「見てー!雪だよー!」

 

外に出ると、舞い落ちる粉雪―その粉雪は初雪だった。

 

 

そんな舞い落ちる粉雪の中、“9人の女神”は楽しそうに舞い、“鋼鉄の戦女神”はそんな女神を暖かく見守る。

そして、雪と月明かりに照らされた女神達は言葉を―脳裏に浮かんだ言葉を口にする。

 

 

「想い」

 

「メロディ」

 

「予感」

 

「不思議」

 

「未来」

 

「ときめき」

 

「空」

 

「気持ち」

 

「好き」

 

 

 

 

その眩しく、そして幻想的な光景にあかりもまた言葉を口にした。

 

 

 

 

「雪の光暈…Snow halation」

 

 

 

 

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第47話『Lost Memory Ⅰ』

―side:Akari―

 

 

12月某日。

私―頼尽あかりはラブライブ最終予選に於けるライブの演出について考えていた。

曲は現在製作中だ。みんなで言葉を出し合って、それを海未が纏めて一つの歌詞を作っている。

真姫も海未と相談して作曲しているし、ことりも衣装をデザインしてそれを形にしている。他のみんなはそれを手伝っている。

「う~ん、何かギミックが欲しいなぁ…」

「ギミック?」

とエリチカこと絵里が私に声をかけてきた。

「うん。ギミック。私も私に出来る精一杯の事がしたいからね。

今回のライブを引き立てるギミックを仕掛けたいけどどうしたものかな、って」

「なる程ね…」

とエリチカが呟いた時、私のスマホが鳴った。

発信者は私の“仕事”の上司である亜理火さんからだった。

「もしもし亜理火さん」

『あかりちゃん、調子はどう?そっちは順調に進んでる?』

「まぁ、ぼちぼち進めてますよ。それで、今日はどうしたんですか?」

『忙しい時に悪いんだけど、ヴェルちゃんと一緒に今からこっちに来てくれないかな?今日中には終わる案件だから』

今日中には終わる案件?どゆこと?

「まぁ、とりあえずは了解しました。今からそっちへ行きます」

とりあえず私はそう言って電話を切る。

さてと…みんなにも言わないとね…

「絵里、悪いけどヴェルと一緒にちょいとネスト日本支部に顔を出して来るね。今日中には戻って来るとは思うけど…多分遅くなると思うからみんなには泊まっていってって伝えておいてね」

「えぇ、わかったわ。いってらっしゃい」

「いってきます」

 

…みんなは、μ'sのみんなは私が全身義体型不完全不老不死生命体―アデプトテレイターの中でもトランステクターを“纏う”事でトランスフォーマーとしての力を得られるアデプトマスターだって事を知っている。

 

μ'sが一度解散の危機に陥って再スタートして…その時、私はμ'sのマネージャーを辞めようとした。

 

 

そもそも廃校を阻止するまでという条件で引き受けたし、解散の危機に瀕しているのは間接的には私のせいであるからその責任を取るというのもあるが…それとは別に血塗られた存在―如何なる理由があろうと殺人を犯した私がそういったのとは無縁の世界にいる彼女達と一緒に居て良いのだろうかと思ったからだ。

 

 

だけど、彼女達はそんな私を受け入れてくれた。

 

 

その事にどれだけ救われたか…それはヴェルも同じだったらしい。

 

 

“普通でない私達”に取って受け入れてくれるのはまさしく救いなのだ。

 

 

 

 

ネスト日本支部。

「亜理火さん、一体何の用が…」

まぁ、ヴェルの言うとおりだね。

そんなこんなで私達は亜理火がいる司令官室への扉をノックする。

「どうぞ」

「「失礼します」」

部屋に入るとその奥にあるデスクに手を置いて高そうな椅子に座っている亜理火さんの姿があった。

「まぁ、二人ともソファに座ってよ」

「わかりました」

「お言葉に甘えて」

私達がソファに座るのを確認した亜理火さんは用件について話し始めた。

「まぁ、用件についてなんだけど…あるアデプトテレイターをしばらく君達の元に預けようって思っている」

「あるアデプトテレイターとは一体…」

ヴェルの質問に亜理火さんは一泊置いてこう口にした。

「1週間程前かな、静岡県の某所にてある少女が発見されたんだよ。

彼女について分かるのは名前とアデプトテレイターである事ぐらい。

彼女がどこから来たのか、どの様にしてアデプトテレイターになったのか…それがわからないんだよ」

亜理火さんの言葉を聞いて私はある可能性に辿り着いた。

「記憶喪失…ですね」

「そういう事だよ、あかりちゃん。それと、あくまでも私の推測なんだけど、あの娘はこの地球ではなく、別の地球出身で、何かしらの出来事があってこっちに飛ばされてきたんじゃないかなって事かな」

そう言うと亜理火さんは立ち上がり

「彼女の元まで案内するよ」

と私達を連れてある部屋へと向かった。

 

 

隊員用宿泊室にその娘がいるらしい。

「初めて見た時は私も驚いたよ。その娘は君達の“後輩の一人”と外見が瓜二つどころか名前すら一緒だったからね。名字は違ってたけど」

後輩の一人?つまりミケモカのどっちかとそっくりさんって事?そう言えば、あの娘達って今はアメリカの方へ研修に行ってるんだったな…私は日本に経つ数ヶ月前に会ったぐらいだけどね…

そう言えばヴェルが日本に来るまではヴェルにしごかれてたけど…今頃はレノックス達にしごかれているかな?

と何かしら考えてたら、亜理火さんはその部屋の扉をノックして

「入るよ」

と部屋の中に入っていった。

 

 

私達もその後に続いて部屋の中に入った。

 

 

その部屋の中には茶色い長髪の少女がこちらを見つめていた。

彼女を見て、私もヴェルも何故この娘の面倒を見る事になったのかを理解した。

 

 

この娘はまるで嘗ての私の様だったからだ。いや、ヴェルやミケモカもそう思うだろう。

何もかも失って絶望の中にいる―そんな目をしていた。

 

 

私達はとりあえず彼女の目線の高さまで屈んで

「はじめまして、私は頼尽あかり。貴女と同じアデプトテレイターだよ」

「同じく風見ヴェールヌイだ」

私達が挨拶をした後、少女はこう名乗った。

 

 

 

 

「みさき…あけの…岬崎明乃です」

 

 

 

 

その少女―岬崎明乃は私達の後輩の一人―岬風明乃と瓜二つの少女どころか名前まで一致してた。

 

 

 

 

かくして、私達は記憶喪失の少女を預かる事になった。

 

 

 

 

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第48話『Lost Memory Ⅱ』

―side:Akari―

 

 

さて、この岬崎明乃を私達が預かる事になったわけだが…

 

 

何を話せば良いのかわからない!ヴェル、助けて~って、ヴェルも同じだった!明乃明乃ちゃんで何を話そうか困っているみたいだし…結局明乃は外の景色を眺めているという…

「綺麗…」

明乃はふとそう呟いた。

「もうクリスマスシーズンだからな。各所でイルミネーションが付いている」

ヴェルの言うとおり、もうクリスマスシーズン。

という訳で、各所にイルミネーションが付いて…付いて…

「…これだ…これだよヴェル!」

「ど、どうしたんだあかり?」

「ギミックだよ!ライブの!イルミネーションの中には光が2色以上の物もあるでしょ?」

「あぁ、あるな」

「それを使うんだよ!一番の盛り上がり、ラストのサビで照明の色を変えるんだよ!」

「なかなか良いアイデアじゃないか…だが」

「だが?」

「彼女が置いてきぼりになってて頭に疑問符を浮かべているぞ」

あっ、ヴェルの言うとおりだった。明乃が頭を傾げている。

「あぁ!ごめんね!私、こう見えてスクールアイドルのマネージャーをやってるんだよ」

「スクールアイドル?」

もしかして知らないか…仮に別の地球出身だとしたら知らなくても当然かもだけど。

「スクールアイドルって言うのは学校で結成されたアイドルで、学校生活を送りながらアマチュアで活動しているんだよ。

わかりやすく言うなら部活みたいな感じでアイドル活動をしているって事かな」

「あかりがマネージャーを務めているグループは今人気を集めている。これから会うことになるけどな」

ヴェルの言うとおり皆は私達の家にいる。

とりあえずヴェルが明乃の相手をしている間に私はスマホの着信履歴でμ'sのメンバーの中で一番上にあった番号に電話する。

『あっ、もしもしあかりちゃん』

電話に出た人物は私の従姉妹にしてμ'sのリーダーたる穂乃果である。

「穂乃果、今帰っているところだから、皆にライブのミーティングをしたいから集まるように伝えてくれないかな?」

『うん、わかった!』

さて、と…このアイデアを聞いたらみんなどう思うかな…?

 

 

―side out―

 

 

―side:Akeno―

 

 

何もない、思い出せない。

 

 

気が付いた時、私が目にしたのは見知らぬ天井だった。

見知らぬのも当然…そもそも覚えていないのだから。

 

 

覚えているのは自分がアデプトテレイターである事と自分の名前が『岬崎明乃』だって事くらい。

知識はあるけどその知識をどの様にして得たのかはわからない。

 

私を保護したのは特殊災害対策機関…通称ネストの日本支部の芳角本拠基地という所らしい。

私は立木亜理火さんから色んな事を教えてもらった―ジーオスやアデプトマスター、トランスフォーマー、トランステクターの事。

トランスフォーマーの事に関してはどこかで会ったような…そんな感じがするけど思い出せない。

 

 

そこで私はある事を伝えられた。

「実は君を私の部下に預けようかなって思っている」

「部下…?」

「君と同じアデプトテレイター―そしてアデプトマスターである存在だ。彼女達なら君の力になる事ができるだろう」

特に断る理由もないし流されるままに話を了承した。

それから暫くして…

「入るよ」

例の人―立木亜理火さんって人に続いて入ってきたのは銀髪ロングヘアの人と茶髪をツインテールにした人だった。

「はじめまして、私は頼尽あかり。貴女と同じアデプトテレイター」

「同じく風見ヴェールヌイだ」

茶髪の人―頼尽あかりさんと銀髪ロングの人―風見ヴェールヌイさんは自己紹介をする。

「みさき…あけの…岬崎明乃です」

 

 

それから私はある車に乗せられた。

この車―トラックはあかりさんのトランステクターらしい。

 

それから暫くの沈黙が続いた。

何を話せば良いのかわからない…そんな時、私の目に外の光景が目に入った。

様々なイルミネーションが輝く光景。

「綺麗…」

と思わず口にしてしまった。

「もうクリスマスシーズンだからな。各所でイルミネーションが付いている」

「…これだ…これだよヴェル!」

「どうしたんだあかり?」

「ギミックだよ!ライブの!イルミネーションの中には光が2色以上の物もあるでしょ?」

「あぁ、あるな」

「それを使うんだよ!一番の盛り上がり、ラストのサビで照明の色を変えるんだよ!」

「なかなか良いアイデアじゃないか…だが」

「だが?」

「彼女が置いてきぼりになってて頭に疑問符を浮かべているぞ」

ヴェルさんの通り…何の話をしているのかわからない…

 

 

 

 

あかりさんはスクールアイドルというアイドル達の中でも人気あるグループのマネージャーをやっているとの事らしい。

それで、次のライブの演出について考えてて、さっきアイデアを思いついたらしい。

 

 

そんなこんなで私達はあかりさんとヴェルさんが住んでいるという家に到着した。

「ただいまー」

「あかりちゃん、ヴェルちゃん、おかえり」

出迎えたのは長いおさげにある部分が大きな人だった。多分、この人があかりさんがマネージャーを務めているというスクールアイドルのメンバーなんだろう。

「で、そっちの子は?」

「暫くの間預かる事になったアデプトテレイターだ」

ヴェルさんがそう返すとおさげの人は私の目線の位置に合わせてちょっと屈み込んで

「ウチは東條希。よろしゅうな」

と名乗った。

「えっと、岬崎明乃です」

「岬崎明乃ちゃんか…じゃあ、ミケっちやね」

み、ミケっち?なんでミケ…って、あぁ、“み”と“け”が入っているからか…

「ミケか…私の後輩に同じ渾名の後輩がいるんだよね」

「そうなんや」

「あぁ、名前もこの子と一致してたし容姿も瓜二つだ。

我々の司令官は『他の地球出身で、何かしらの理由でこの地球に来たんじゃないか』って推測している」

「推測って…」

「私、記憶がないんです…どうしてアデプトテレイターになったのか、何故此処にいたのか…覚えているのは名前とアデプトテレイターだって事くらいで…」

そう言った時、希さんは私を突然抱いた。

「ミケっちは記憶を取り戻したいん?」

「…どちらかと言えば取り戻したいです…でも、思い出せなくて…」

「無理に全部思い出そうとしくても、少しずつ思い出していけばいいんやないかな?」

少しずつ…

「何かあったらウチらに相談して、ね?」

「はい…!ありがとうございます…!」

 

 

―side out―

 

 

―side:Akari―

 

 

流石は希、包容力やら母性が溢れてますなぁ~

それにしてもミケ、か…うん、紛らわしいから私は明乃と呼ぼう。

 

でも、まぁ希の言うとおりだね。

無理に全部思い出さなくても少しずつ思い出していけば良いんだよ。

それはそうと…早くご飯作ってミーティングをしないと!

「そうだ!希、ご飯作るからみんなに待っててって―」

「あぁ、それならにこっち達が作ったし、みんなあかり達を待ってるんよ」

仕事早いですってにこにー先輩!

…まぁ、流石にこだよね。達って事は他に手伝いが入ったのかな?

ことりとか花陽辺りかな?

「じゃあ、ご飯にしようか…みんなに紹介しないとだし」

私は隣にいる明乃に視線を向けるのだった。

 

 

 

 

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第49話『Lost Memory Ⅲ』

―side:Akeno―

 

 

あかりさんがマネージャーを務めているスクールアイドルの人達ってどんな人達なのかなって思っていた。

 

最初に会った希さんみたいに優しい人なのかな…

「みんなただいま~」

あかりさんがそう挨拶すると

「全く、遅いわよ!」

と私と同じ位の身長の黒髪ツインテールの人があかりさんにそう言った。

「ごめんごめん。夕飯、ありがとうね。しかも鍋とは本当にありがたい」

「それってどういう意味よ?」

「一人追加する事になった」

とヴェルさんは私を皆さんの前へ出した。

「―という訳で、今日から此処でアデプトテレイターの子を一人預かる事になった」

ヴェルさんはそう言うと私に視線を向けてくる。挨拶しろって事なのかな…

「えっと、今日から此処でお世話になる岬崎明乃と言います!宜しくお願いします!」

私が頭を下げた後、手を叩く音が聞こえてきた。

顔を上げると皆さんが拍手をしていた。

その後、皆さん―μ'sの皆さんも自己紹介をして、私達は夕飯を食べる事になった。

今日の寄せ鍋はにこさんが中心となって作ったらしい。

話によるとにこさんは自宅では4人姉弟の長女さんで、お母さんも仕事で多忙であることから家事の殆どを担当されているとか。

「それにしても良く食べるわね」

と真姫さんは呟く。

真姫さんはお医者さんの娘で、ピアノも弾けるμ'sの作曲担当らしい。

「あっ、ごめんなさい…」

「気にしないで良いわよ。好きなだけ食べて」

と絵里さんは言う。

絵里さんはロシア人とのクォーターらしく、同じくロシア人の血を引いているヴェルさんとロシア語の会話を繰り広げる事があるとか。

「明乃ちゃんはどんな事を覚えているの?」

そう訪ねるのはことりさん。μ'sの初期メンバーの一人で、衣装担当。メイド喫茶という所でバイトもしていたらしい。

「自分の名前とアデプトテレイターである事、後はある程度の知識がある位です。その知識を何処で得たのかは覚えて居ませんが…」

「では、その知識は何処までの範囲なのですか?」

と疑問を投げかけたのは海未さん。μ'sの初期メンバーの一人で、μ'sの作詞担当。家は日本舞踊の家元らしい。

「保護した時に学力テストをしてみたらしいけど、どうやら小学5~6年生ぐらいかなって事らしい」

とあかりさんは皆さんに説明する。

「小学生くらいか…確かにそう見えるかも…」

と呟くは花陽さん。にこさんと同様、筋金入りのアイドルオタクで、お米(特に日本の白米)が大好物らしい。

「私も同じ位の年には既にアデプトマスターになっていたからな…外見はその時から変わってない」

とヴェルさんは返す。

「身長は…見た感じにこちゃんと同じ位かにゃ?」

と私とにこさんを見比べる凛さん。花陽さんとは幼なじみの関係で、身体能力はスクールアイドルの中でもトップクラスだとか。

「何よ、私が小さいとでも言いたいの?」

「いやいや、にこっちはにこっちでかわいいと思うよ」

と返す希さんは加入前からあかりさんと共にμ'sを支えてきた存在らしい。μ'sの名付け親も彼女だとか。

「そ、そう?」

にこさんと希さんがそんなやり取りをしていたら

「そうだ!明乃ちゃんに見せてあげようよ!私達の歌を!」

と皆さんに提案するのが穂乃果さん。あかりさんの従姉妹で、μ'sの発起人にしてリーダーである存在。実家は和菓子屋さんだそうです。

「それは良いアイデアだね。んじゃ、打ち合わせついでに今の段階で通してやってみようか。小休憩を挟んだ後に、ね」

あかりさんの言葉に皆さんは頷くのだった。

 

 

 

 

小休憩が終わって皆さんは倉庫に集まっていた。

「よし、通してやってみて。それを撮影するから後でみんなで確認しながらミーティングを行うからね」

とあかりさんは皆さんに指示し、ビデオカメラのセッティングをする。

私はヴェルさんと共にその様子を見ている。

「よく見ていろ…彼女達の姿を」

ヴェルさんは私に言い聞かせる。私はμ'sの皆さんをじっと見つめる。

「じゃあ、始めるよ!μ's、ミュージックスタート!」

穂乃果さんの掛け声の後、あかりさんはプレイヤーの再生ボタンを押し、スピーカーから音楽が流れる。

μ'sの皆さんはそれに合わせて歌い踊る。

「凄い…」

私は圧倒された。彼女達の存在感に、彼女達の“輝き”に。

彼女達はとでも楽しそうに歌い踊っているのが私にも分かった。

でも、これはあくまでも練習。本番はどれだけ凄いのだ

 

曲が終わった後、私は拍手をしていた。

「凄い…凄いです!」

「ありがとう、明乃ちゃん」

と穂乃果さんは笑顔でそう言う。他の皆さんも笑みを浮かべていた。

「じゃあ、今撮影した映像を見ながらミーティングを行うよ」

とあかりさんは皆さんに呼びかけ、スクリーンの前に集合する。

あかりさんはパソコンを操作し、先程のダンスを撮影した映像を再生しながら要所要所で止めてはμ'sの皆さんと意見を交換しあう。

「―で、此処なんだけど、此処であるギミックを入れようと思う」

「ギミック…どんなギミックなん?」

「照明の色を変更するってギミック。

此処までは照明の色は雪をイメージして白にするけど、このタイミングで照明の色を橙色に変える」

「出来るにゃ?」

「問題ないよ。こっちでタイミングを見て変更するから」

それからもあかりさんは彼女達とあれやこれや話し合い

「よし、風呂に入って今日は寝よう!」

と数十分後に漸く終わった。

 

 

―side out―

 

 

―side:Akari―

 

 

「う~む、構造自体は私達のに近いかな」

私は明乃の背中にある“外付けユニット接続ポート”を見てそう呟いた。

此処の風呂は少々広いと言ってもせいぜい3人が限度だ。

という訳で3人1組で風呂に入り、今は私達の番だって事。

「だが、端子の構造が私達と同じかはわからないぞ。端子ぐらいなら手術で簡単に我々のと同じ物に変えられると思うが」

ヴェルの言うとおりだね。

 

私達アデプトテレイターの背中には外部ユニットなどとの接続ポートがある。

例えば、この接続ポートの端子とトランステクターを繋げる事で、ロボットモード時における脳波コントロール―言わば脳で考えて動かす事で自分の体の様に動かす機能が働く。

 

そのポートが明乃にもあった。

 

 

彼女も前いた地球ではアデプトマスターで、何かしらの要因でトランステクターを失ったのか、それとも端からなかったのか…

 

 

 

 

私が、いや私達がその答えを知るのはもう少し先のお話。

 

 

 

 

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第50話『Snow halation』

12月某日―いよいよラブライブ最終予選の当日を迎えた。

 

あかり達がは除雪機を使って庭や格納庫に積もっている雪を除雪していた。

「こういう時、ビーストモードではサイズを変化できるヴェルのトランステクターって便利だよね。お陰で予想より早く済むよ」

「そうですよね」

「ありがとう、あかり、明乃。ドレッドバイト!後少しだ!頑張ろう!」

ヴェルの言葉に等身大サイズへ“変身”しているヴェルのアロサウルス型トランステクター―ドレッドバイトは返答する代わりに短く吼えた。

そうやって三人と1機が雪掻きをしていると

「あかりちゃ~ん!」

門の向こうで穂乃果が手を振っている。隣には海未とことりもいる。

「三人とも、おはよう!いよいよ今日だね!」

「はい!…私達もここまで来たんですね。これまで色んな事がありました…」

「海未ちゃん、その言葉は最終予選を通過した時に取っておこう、ね」

「ことりの言うとおりだよ!三人はまず説明会だよね?」

「うん!あかりちゃん、皆の事頼むよ!」

「頼まれたよ!」

続いてはヴェルが三人にエールを送る。

「最終予選、みんなと一緒に応援している。頑張って!」

「うん!ヴェルちゃんもありがとう!」

「そうだ、ヴェルも説明会に来るんですよね?」

「うん、行く」

ヴェルは少々照れながらそう返すのだった。

 

 

「Wow…此処がラブライブ最終予選会場…これまたデけぇステージだなおい…!」

皆驚きのあまり言葉が出ない中、あかりはそう呟いた。

何重にも設置されたアーチと雪の結晶をイメージした装飾にところどころに設置された照明―そう、此処こそがラブライブ最終予選の会場なのだ。

「…ラ、ラブライブの最終予選なんだから、気合いが入らない方がおかしいわよ…!」

「にこさん足震えてますぜ」

「うっさいわよ!」

そんなやり取りをしていたら

「―こんにちは、μ'sの皆さん。そしてあかりちゃん」

A-RISEの三人がやってきて、あんじゅが挨拶をした。

「三人、いないようだが…?」

首を傾げる英玲奈にあかりはこう返す。

「ちょっと野暮用で遅れてるんだよ。でも、穂乃果達は必ず来る」

「穂乃果さん達に伝えておいて。互いにベストを尽くしましょうって」

「了解」

「楽しみにしてるわ。そして、私達は…絶対に負けない」

「それは私達もだよ、ツバサ」

A-RISEの三人が控え室へ向かうのを見送ったあかりはこう呟いた。

「吹雪がなければ良いんだけど…」

 

 

だが、そんなあかりの願いは裏切られる事となった。

「吹雪も少しは空気を読み上がれやクソッタレ!」

吹雪いてきた事にあかりは思わず舌打ちをした。

あかりは穂乃果達と通話している絵里の方を向くが…絵里は首を横に振る。

「交通網は麻痺してやがるか…これじゃ俺のトランステクターも動かせない…

流石にロボットモードやヴェルのトランステクターで行くわけには行かないし…」

ロボットモードのバルバトスマグナスやヴェルのトランステクター―ドレッドバイトなら交通網をある程度無視して行けるが…それだと余計な騒ぎが起きて交通網が更に混乱するのは確実だ。

「考えられる選択肢は“走ってくる”しかないのか…」

何か良い案がないのかと考えるあかり。

「いや…ある!走ってくるなんて選択肢は選ばせないぜ!」

あかりは6人に

「穂乃果達を迎えに行ってくる」

と言う。

「迎えに行くって、どうするつもりなのよ?」

「あ、危ないよ…」

「そうにゃ!収まるまで待とう?」

真姫や花陽、凛の言う通り、今出歩くのは危険だ。

「そうは問屋が卸さないんだよね。それに、皆は忘れたのかい?

―俺が“アデプトテレイター”だって事をな!

この程度の吹雪、問題ない!

μ'sのマネージャーとして…いや“鋼鉄の戦女神”として誓おう!必ず連れてくると!」

 

あかりはそう言って急いで自宅の地下格納庫へと行き

「さて、此処から全速力で行くか」

本来は工具運搬用であるリアカーを牽いてトランステクター用とは別のエレベーターで地上の格納庫入り口まで上がり、シャッターが開くと同時に穂乃果達の元へと走っていくのだった。

 

 

 

 

音ノ木坂へ向かう途中、あかりはある事に気付いた。

(やけに道が綺麗だ…)

そう思っていると

「あかりちゃーん!」

声がした。あかりは声がした方を向く。

「ヒデコ!?フミコにミカも…みんなどうして…!?」

ヒフミトリオだけじゃない―周りには音ノ木坂の生徒達が雪掻きをしていた。

「μ'sのみんなとあかりちゃんは音ノ木坂を廃校の危機から救ったくれた。

だから、今度は私達があかりちゃん達を助ける番だよ!」

「みんなにあかりちゃん達を助けて、って呼びかけたんだよ。そしたら来たよ…全校生徒が!」

その言葉にあかりは目頭が熱くなると同時にこう返した。

「ありがとうみんな!」

あかりは音ノ木坂の生徒が作った道を行く―その優しさや思いやり、エールをその身に受けながら。

そして、視界に穂乃果達の姿を捉えると同時に叫んだ。

「穂乃果ぁぁぁぁぁぁぁ!海未ぃぃぃぃぃぃ!ことりぃぃぃぃぃぃ!」

 

 

穂乃果達は吹雪の中を進んで行く。

「諦めちゃ、駄目!」

「そう、です!やりたいんです!私も、誰よりも!ラブライブに出たい!

九人で、最高の結果を出したいのです!!」

「うん…行こう!ラブライブに出るために…!」

ことりが、海未が、穂乃果が諦めずに吹雪の中を進んで行く―その時だった。

「穂乃果ぁぁぁぁぁぁぁ!海未ぃぃぃぃぃぃ!ことりぃぃぃぃぃぃ!」

あかりの呼ぶ声がした。

その声に三人の顔が緩んだ。

「あかり…ちゃん!?」

「どうして此処に…?」

「それにそのリアカーは…?」

穂乃果、海未、ことりの言葉にあかりは笑みを浮かべて返す。

「なぁ~に、困っている“女神様達”を迎えに行くのも“鋼鉄の戦女神”の仕事さ。さぁ、乗った乗った!」

あかりの言葉に三人は頷き、リアカーに乗り込む。

「間にあったんだな、あかり」

そこへヴェルが雪穂や亜里沙を連れて歩いてきた。

「まぁ、何とかね。まだ分からないけど」

「二人の事は私に任せてあかりは三人を乗せて先へ」

「うん、ありがとうヴェル」

あかりはヴェルに礼を言った後、リヤカーに乗っている穂乃果達に声をかける。

「原チャリ位の速度は出るかもしれないからしっかり掴まってて!」

あかりは進行方向を向き

「脚部のサーボモーターのリミッター解除」

と呟いて脚部のサーボモーターに掛かっているリミッターを解除し、こう叫んだ。

「頼尽あかり!Roll out!」

 

音ノ木坂の全校生徒達の激励に穂乃果達は涙を滲ませながら手を振り返す形で答える。

あかりはその中をがむしゃらに進んで行くのだった。

 

 

「―こんな感じだけど、皆、準備は良い?」

舞台袖にてあかりは衣装に着替えたμ'sの面々に問い、μ'sの面々は頷く。

「勝ち負けとかそんなのは関係ない。皆の思いを…全力でぶつけて来い!」

 

 

 

 

「みなさんこんにちは!これから歌う曲はこの日に向けて新しく作った曲です!

沢山の“ありがとう”を込めて、曲にしました!

だからこれは…皆で作った歌です!」

『『聞いてください!』』

 

 

(学校が大好きで―)

 

(音楽が大好きで―)

 

(アイドルが大好きで―)

 

(踊るのが大好きで―)

 

(メンバーが大好きで―)

 

(この毎日が大好きで―)

 

(頑張るのが大好きで―)

 

(歌うことが大好きで―)

 

(μ'sが…大好きだから―)

 

 

その曲の名は『Snow halation』。

それはありがとうという思いを伝える歌。

 

 

(もうすぐだね…)

あかりはタイミングを見計らっていた。

実はこの曲、ある“仕掛け”が施されていて、あかりはその“スイッチ”を手にしている―μ'sの面々に託されているのだ。

(3…2…1…今だ!)

 

 

穂乃果のソロパートに入ると共にライトの“白い輝き”が“橙色の輝き”へと変化する―これが、この曲の“仕掛け”なのだ。

 

 

 

 

(皆の思い…きっと届いているよ)

あかりは最後まで彼女達が歌い踊る姿を見届けるのだった。

 

 

 

 

To be continue 5th stage…



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第5章『女神達の答え』
第51話『戦女神と邂逅した日』


12月17日の夜―ラブライブ最終予選から数日後。

『―当日の段取りはこんな感じだ。

皆が入れる様にしておくから、私が引き付けている間に準備を頼む』

「うん、わかったよ!ヴェルちゃん!」

そう言って穂乃果はヴェルとの通話を切った。

「飾りは出来てますし…あとは明日の料理や飾り付けですね」

海未の言葉にその場にいたμ'sの面々。

翌日―本人は忘れているが、12月18日は頼尽あかりの誕生日だった。

そこでヴェルは嘗て自分がしてもらった様にサプライズパーティーを企画、μ'sの面々やA-RISEの面々、明乃、雪穂や亜里沙に協力を要請したのだ。

 

そして、翌日の朝。

「あかり、今日だが…デートに行かないか?」

ヴェルの突然の言葉にあかりは口に含んでいたお茶を吹いた。

「きゅ、急にどうしたんだい?ヴェル」

「いや、この所ラブライブ最終予選で忙しかったりしただろ?」

「まぁ、そりゃそうだけど…」

そう言うあかりだが、その顔はどう見ても行きたいって顔をしていた。

「“ラブライブ本選”に向けての準備も必要だが…英気を養うのも大切だぞ?」

「それもそうだね」

 

 

ラブライブ最終予選・関東ブロック優勝『μ's』。

 

 

それは紛れもない事実である―μ'sはスクールアイドルの頂点たるA-RISEに打ち勝ったのだ。

 

 

だが、今回に関してはこの事は一旦頭の隅に置いておいてパーティーに専念するというのがμ'sの面々やヴェル、明乃の考えだった。

「それじゃ、この朝食を食べたら直ぐに行くか」

というヴェルの言葉にあかりは頷くのだった。

 

 

『作戦決行』

というメールが届くと同時に

「それじゃ皆…始めるわよ!」

と絵里の言葉に皆は頷く。

先ずはあかりの自宅に入り、予め用意しておいた飾りを運び込む。

にこ、ことり、花陽が料理を作る。

それ以外の面々は飾り付けや掃除などを行う。

タイムリミットはあかりとヴェルが帰って来るまで。

「ツバサさんももう知ってるんですよね、あかりちゃんがアデプトマスターだって事に」

「えぇ、本人から聞いたわ…あなた達に話された後に、ね。

でも…過去は変えられないし、過去がどうあれあかりちゃんはあかりちゃんである事に変わりはない。

私達も彼女の過去を知った上で彼女を受け入れた」

とツバサは返した。

「それはそうと訊いてみたい事があるの」

「訊いてみたい事…?」

「あなたとあかりちゃんの出会いがどんなものだったのか、そんな感じのよ」

 

 

―side:Honoka―

 

 

私が彼女と―あかりちゃんと出会ったのは小学校に入る前の事だった。

お母さんから従姉妹がこっちに来て住む事になると聞いた。

その従姉妹はお母さんの血筋の従姉妹で、私と同い年らしい。

勿論、この事をことりちゃんや海未ちゃんにも話した。

「穂乃果ちゃんの従姉妹か~どんな子なんだろう」

ってことりちゃんは楽しみにしていた。

「怖い子じゃなかったら良いのですが…」

って海未ちゃんはちょっと心配してた。

 

そして、その日が来た。

「始めまして!私、高坂穂乃果!宜しくね!」

「俺―じゃなくて私は頼尽あかり!此方こそ宜しくお願いしましゅ!」

始めて会った時、あかりちゃんはガチガチに緊張してたなぁ…

「あかりちゃん!この街を案内するよ!」

私はあかりちゃんの手を握って

「お母さん!おばさん!あかりちゃんと出掛けて来るね!」

私はあかりちゃんにこの街を案内した。

「―じゃあ、次は私の友達を紹介するね!」

「友達…?」

「うん!こっちだよ!」

私はあかりちゃんを連れて何時もことりちゃんや海未ちゃんと遊んでいる公園へと向かった。

 

公園には既にことりちゃんと海未ちゃんがいた。

「ことりちゃーん!海未ちゃーん!」

「あっ、穂乃果ちゃん!」

「お待たせ~」

「穂乃果、その子が昨日言ってた…」

「うん、そうだよ!」

「は、始めまして!頼尽あかりです!宜しくお願いします!」

「南ことりだよ!宜しくね、あかりちゃん!」

「園田海未です!宜しくお願いします!」

 

それから私達は音ノ木坂小学校へ入学して6年間同じクラスだった。

私達はずっと一緒、って思ってた。

だけど、冬休みが明けたある日…

 

「えっ、本当なの…あかりちゃん…」

「うん、小学校を卒業したら…」

あかりちゃんは両親の仕事の都合でアメリカへ留学する事になった。

「そんな…」

「寂しいものです…」

「だ、大丈夫だよ!何年後になるかわからないけど、私はみんなの元へ帰って来るよ!」

あかりちゃんは笑顔で私達にそう言った。

 

そして、私達が小学校を卒業して数日後―あかりちゃんが日本を旅立つ日。

「本当に、行っちゃうんだね…」

「あかり姉…」

「名残惜しいものです」

「帰ってくるよね…」

私達の言葉に

「約束は出来ないけど…私自身としてはきっと帰ってくるつもりだよ」

とあかりちゃんは笑顔でそう返した。

「じゃあ、飛行機の時間があるからそろそろ行くね…っと、その前に記念撮影しよ?」

あかりちゃんの言葉に私達は頷き、カメラに向かってピースした。

 

 

夕陽が眩しいその日、あかりちゃんはアメリカへと旅立った。

 

 

―side out―

 

 

 

 

「―そして、約束通りあかりちゃんは帰ってきた。

久々に会うあかりちゃんはあの頃と変わらない様で…あの頃より大人びててた様な…そんな感じがしたんです。

その答え―あかりちゃんの身に何が起きたのかとかアデプトマスターになってた事を知ったのはそれから何ヶ月も先の話、なんですけどね」

と穂乃果は苦笑いを浮かべた。

「それで、ツバサさんは何時頃あかりちゃんと知り合ったんですか?」

「そうね…始めて会ったのは小学校始めての夏休み…

あかりちゃんが両親と一緒に当時私が住んでいた所に旅行で来て、その時に知り合ったのよ。

それから来た時には一緒に遊んだりしたわ」

とツバサは昔を懐かしみながらそう返した。

そんな話をしていたらヴェルからメールが届いた。

「みんな!ヴェルちゃんが『状況はどう?』だって!」

穂乃果の言葉に

「料理はOKよ!」

「掃除も終わりました!」

「飾り付けも出来たわよ!」

とにこ、海未、絵里はそう返した。

「じゃあ、ヴェルちゃんにOKだって伝えるね!」

 

一方のあかりと“デート”をしていたヴェルはあかりが会計を済ませている隙を突いて穂乃果にメールを送っていた。

「返信早いな…」

とあかりに聞こえない様に呟いたヴェルは

『了解、これから帰還する』

と返した。

「お待たせ~」

「あかり、そろそろ帰るか」

「うん、そうだね」

帰路に就く二人。

「こうして二人で出歩いたのも久し振りだね」

「あぁ。何回か休暇を貰ってニューヨークを散策して以来だ」

「ねぇ、ヴェル」

「なんだい?」

「日本に来て良かったでしょ?」

「あぁ、そうだな。色んな人達と出会い…友達が…護りたい者が増えた」

ヴェルの言葉にあかりは笑みを浮かべるのだった。

 

 

そして、二人は自宅へと到着する。

「さぁ、あかり。開けてごらん」

「急にどうしだの?まぁ、遠慮せずに開けるけど…」

そう言ってあかりがリビングのドアを開けると…

『『誕生日おめでとう!あかり(ちゃん)!』』

クラッカーが鳴り響くと同時に皆が声を揃えて言う。

一方のあかりは驚きのあまり呆然としていた。

「えっと…これは…」

「な~に、ちょっとしたサプライズさ。

今日が自分の誕生日だって忘れてたのかい?」

「うん…いろいろあって忘れてたよ…」

「それに、いつぞやかのお返しでもある」

とヴェルは悪戯が成功して喜んでいる子供の様な笑みを浮かべる。

「今回のパーティー、ヴェルちゃんが考えたんだよ!」

と返す穂乃果。

あかりは涙を浮かべつつもそれを拭い去り

「みんな…ありがとう!」

と返すのだった。

 

 

 

 

「―全く、してやられたよ」

パーティー終了後、あかりはそう口にした。

「似た様な目に遭うとは思ってもみなかっただろ?」

そう言うヴェルに対し

「まぁね」

とあかりは苦笑いをする。

 

 

「それじゃ、改めて。誕生日おめでとう、あかり」

「ありがとう。ヴェル」

 

 

 

あかりとヴェルはあの時―ヴェルの歓迎会兼誕生日パーティーの後の様にコーラが入ったグラスで乾杯するのだった。

 

 

 

 

To be continue



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第52話『突き動かしている原動力』

「あっ、あかりちゃん達だ!あけましておめでとう!」

「おめでとう!」

「おめでとうございます!」

と挨拶をする穂乃果、ことり、海未にあかり達も

「あけましておめでとう!」

「おめでとう」

「おめでとうございます」

と返すのだった。

 

年が明けて新年となった。

穂乃果達は初詣をしに神田明神へと向かっていて、途中で真姫、凛、花陽と合流する予定だ。

希はその日はバイト神田明神におり、絵里とにこはその手伝いをしているらしい。

そして、向かう道中

「あっ、ツバサさん英玲奈さん!あんじゅさん!」

初詣を終えたA-RISEとばったり会った。

「あけましておめでとうございます!」

「あけましておめでとう!」

両グループのリーダーが代表して挨拶をする。

「そっちは初詣の帰り?」

「えぇ、此処は地元の神社だからね」

とあかりの言葉に返すツバサ。

去り際に彼女は穂乃果達に

「ねぇ!ラブライブ!優勝しなさいよ!」

とエールを送り

「はい!頑張ります!」

と穂乃果は返すのだった。

 

 

数日後のアイドル研究部の隣にある練習部屋。

「―自由?選曲が?」

穂乃果の言葉に

「Yes、選曲だけじゃなくて衣装も踊りも曲の長さも全部自由なんだよ」

あかりはそう返した。

柔軟体操をしているμ'sの面々にあかりはラブライブ本選について説明していた。

「それで、出場グループの間ではいかに大会までに印象付けておけるかが重要だと言われてるらしくて―」

「全部で五十近くのグループが一曲ずつ歌うのは良いけど、当然見ている人達全てが全部の曲を覚えてるとは限らないわ」

花陽や絵里の言うとおりである。

「それどころか、ネットの視聴者はお目当てのグループだけを見るって人もいるわ。

私らはA-RISEを破ったグループって事で他より注目はされてるけど―」

「それも本戦の2月末までにどうなっているか…やね」

にこの言葉に続ける希。

「そうなんだ…それで、事前に印象付けておく方法ってあるの?」

穂乃果の疑問にあかりはこう返した。

「キャッチフレーズさ」

「キャッチフレーズ…?」

「出場チームはチーム紹介ページにキャッチフレーズを付けられるんだよ」

その後、皆は部室に移動、花陽はパソコンを起動しラブライブページを開いての出場チームをクリックする。

「『恋の小悪魔』『はんなりアイドル』『With 優』…なるほど、皆良く考えてるのね…」

感嘆する絵里。

「当然、ウチらも付けておいたほうがええって訳やね」

「はい、μ'sを一言で言い表すような…」

「μ'sを一言でかぁ…あかりちゃんは何か良いキャッチフレーズは思いついた?」

穂乃果の言葉にあかりはこう返した。

「一応は、ね」

と返す。

「それってどんなキャッチフレーズ!?」

「生憎…それは教えられないよ」

「何で何でー!」

「こういうのは私に頼らず皆自身で見つけなきゃ意味がないんだよ。あっ、そうだ」

あかりはある歌詞表を皆に手渡す。

「一応、こっちも練習しといてね。“もしもの時”に備えて、ね」

“その曲”はつい先日行われたラブライブ本戦での各グループの歌う順を決める抽選会でμ'sの番が決まった後、あかりが海未や真姫、ことりに相談しながら作った曲である。

「さぁ!練習を始めますよ!」

海未に促されて練習を始めるμ'sの面々の姿を見守りながらあかりはこう呟いた。

「トリを飾るって事は…もしかしたら“あるかもしれない”からね」

 

 

―side:Akari―

 

 

「―正解だ。次の問題に行くぞ」

「はい、わかりました」

現在、ヴェルは明乃に勉強を教えている。

明乃も覚えが良く、ヴェルや私が教えた事を次々と吸収している。

そんなこんなでヴェルと明乃を微笑ましく思っているとチャイムが鳴った。

「んじゃ、ちょっと出てくるね」

とヴェルと明乃に告げ、私は玄関で来客を迎える。

「ツバサ、どうしたの?」

「ちょっと様子を見に来ただけよ」

「まぁ、上がってよ」

 

リビングにて私はツバサに茶をもてなす。

「ありがとう。明乃ちゃんはお勉強中?」

「うん、私とヴェルが交代で教えてる。物覚えが良くて本当に助かるよ。

ただ、彼女に関しては未だに謎が多い。わかっているのは名前とアデプトテレイターである事、そしてこの地球とは別の地球から来たこと」

「どうしてこの地球とは別の地球から来たって断言できたの?前に聞いた時は“かもしれない”だった筈なのに」

「証拠は明乃の背中にある外部ユニット用接続ポートの端子だよ。

私達アデプトテレイターにはトランステクターといった外部ユニットへの接続端子とポートがあるんだけど、私やヴェルみたいなこの地球の立木財閥が関わっているアデプトテレイターの端子は皆共通なんだよ。

だけど、明乃は接続ポートの形状自体は私達のと似ていたけど、端子の構造は私達のとは違うって事がわかったんだよ。

ネストに保護された当初は警戒されてて調べるどころじゃなかったみたいだからね。

最終予選後に漸く検査と接続ポートや端子を私達のと共通にする手術を引き受けてくれたんだよ」

と明乃の話題から始まり、μ'sの方はどうかって話になり、それからツバサはある事を聞いてきた。

「あの時、私達は全てをぶつけて歌った。そして、μ'sに潔く負けた。その事に何のわだかまりもない…と思っていたけど、ちょっとだけ引っかかっていたの…何で負けたんだろうって」

「確かに皆はファンの心を掴んでいたし、パフォーマンスも今までの中でも最高クラスだった」

「そう。だから結果が出る前にはもう勝敗は『私達の完敗』だって確信していたわ。でも…どうしてそれが出来たのか分からない。努力もした、練習も積んできたのは分かる、チームワークもね。

だけど、それは私達も同じ―寧ろ私達は彼女達よりも強くあろうとしてきた」

「だから負けるはずが無いと―そう思っていた、そんな所かな?」

「流石あかりちゃん、お見通しって事ね。

ねぇ、μ'sを突き動かしているモノ、原動力たるモノって何なの?」

「そうだね…穂乃果に聞いてみると良いよ」

 

 

 

 

「穂乃果さんに…?」

「うん、そう。私は確かに結成当初からμ'sを見てきたけど、あくまで私はマネージャー。

全ての始まりはμ'sのリーダーである穂乃果なんだよ。穂乃果ちゃんが音ノ木坂の廃校を阻止すべく海未とことりの3人で結成し、それから皆がメンバーになった。

穂乃果がいなければμ'sは存在すらしていなかった。

だからこそ、私より穂乃果の方がその答えを返すに相応しい」

「その感じだと例え知ってたとしても答える気がないみたいね」

「バレちゃったか…まぁ、その通りだよ。まぁ、その答えに関しては穂乃果が答える方が良いって言うのは事実だし、仮に知らないって事になっても穂乃果ならその“答え”に辿り着けると信じているからね」

その言葉に偽りはない。

 

私は穂乃果ならμ'sを突き動かしている原動力が何なのか―その“答え”に辿り着けると本当に信じている。

 

 

―side out―

 

 

その日の練習が終わった後、帰宅しようとしていた穂乃果はツバサと会い

「話があるの、ちょっと良いかしら?」

と言われ、あるベンチに座って話をする事になった。

「改めて、ラブライブ最終予選突破おめでとう」

「ありがとうございます!」

「練習はどう?」

「皆、とっても熱が入ってて、本戦に向けて頑張ってます!」

穂乃果の言葉にツバサはそう…と呟いた後、言葉を続けた。

「あの時、私達は全てをぶつけて歌った。そして、あなた達に潔く負けた。その事に何のわだかまりもない…と思っていたけど、ちょっとだけ引っかかっていたの…何で負けたんだろうって。

確かにμ'sはあの時、ファンの心を掴んでいたし、パフォーマンスも素晴らしかった。

正直、結果が出る前にはもう勝敗は『私達の完敗』だって確信していたわ。

でも…どうしてそれが出来たのか分からない。努力もした、練習も積んできたのは分かる、チームワークもね。

だけど、それは私達も同じ―寧ろ私達は貴方達よりも強くあろうとしてきた。

だから負けるはずが無いと―そう思っていた。

ねぇ、μ'sを突き動かしているモノ、原動力たるモノって何?」

「ごめんなさ!実はよくわからなくて…」

「そう…実はね、あかりちゃんに同じ質問をしたんだけど何って言ったと思う?」

「えっと…」

「『穂乃果に訊いてみると良い。彼女が教えてくれる』って」

「そんな…私もμ'sのキャッチフレーズが何なのか自分らで考えろって言われて考えてる最中ですし…」

「キャッチフレーズ、ねぇ…

もしかして、そのキャッチフレーズと“μ'sを突き動かしている原動力”って結び付くんじゃないかしら?」

「μ'sを突き動かしている原動力がキャッチフレーズのヒント…?」

 

 

―side:Akari―

 

 

翌日。μ'sの皆と練習をしてたけど、仕事が入り、私はそっちへ向かう事にした。

エリチカ曰く

「後は私達で行うからあかりは仕事の方に集中して」

との事である。

理解者がいるのは本当に嬉しい事だね!

「アデプタイズ!バルバトスマグナス、トランスフォーム!」

「アデプタイズ!ドレッドバイト、トランスフォーム!」

私達はトランステクターを身に纏い、ジェネラル級ジーオスとの交戦を開始した。

 

私がこっちに来て9ヶ月ぐらい…一時期は出現頻度が減ったけど、今年に入ってまた徐々に出現頻度が上がってきている。

亜理火さんは「ひょっとしたら近い内に大量に出るかもしれない」との事で、MSの準備等を進めている。

 

私達はただジーオスを殲滅するだけ…被害を最小限に留める為に!

 

 

―side out―

 

 

あかりとヴェルがジーオスと交戦していた頃、μ'sの面々は基礎練習をしていた。

「μ'sを突き動かしている原動力がキャッチフレーズのヒント?」

「うん、昨日ツバサさんと話をしていたらそうなんじゃないかって…」

絵里の言葉に穂乃果はそう返した時だった。

「みんなこっちきて!」

ことりに呼ばれ、皆がある場所に集まった。

その場所は鈴生りの絵馬が奉納されている場所だった。

「これを見て!」

ことりが指差したのはある絵馬だった。

「これ…このイラストって私達…!?」

それはμ'sのイラストが描かれた絵馬―μ'sを応援する絵馬だったのだ。

μ'sを応援する絵馬は他にもあったのだ。中には雪穂と亜里沙、ヴェル、明乃の4人が奉納した絵馬もあった。

それらの絵馬を見て穂乃果は

「そっか…これだ!」

ある“答え”に辿り着いた。

「これがμ'sの原動力なんだよ!」

頭を傾げる面々に自身の考えを伝える穂乃果。

「私達が此処まで来れたのは私達だけの力じゃない。

音ノ木坂学院の皆が…それだけじゃない。色んなところでμ'sを見てくれた人達も皆、一生懸命応援してくれる…その応援があったから私達は此処まで来たんだよ!

だから、μ'sのキャッチフレーズは―」

 

あかりとヴェルは仕事を終え、穂乃果達の元へ向かおうとしていた頃…

『もしもしあかりちゃん!?』

「どうしたんだい?」

『決まったよ!μ'sのキャッチフレーズ!』

「ほほう…んじゃ、訊かせて貰おうか」

そして、穂乃果はμ'sのキャッチフレーズを伝える。

その答えにあかりは笑みを浮かべてこう返した。

「これ以上に私達に相応しいキャッチフレーズはないね!それでいこう!」

その後、通話を切ったあかりはヴェルにこう言った。

「昨日、穂乃果にね、μ'sのキャッチフレーズに付いて何か良い案がないかって訊かれたんだよね」

「それで…何と答えたんだ?」

「一応は、って返した。だけどね、それは“嘘”なんだよ。

μ'sの原動力が何なのか―これまで一歩引いた立ち位置からμ'sを見てきた私にはそこまでしかわからなかった。

ただ、それを明確な形に―キャッチフレーズにする事が出来なかった。

あっ、この事は誰にも言わないでよ。ヴェルだから言える事だから」

「わかっているさ。だけど、そんなあかりでさえ辿り着けなかった答えに辿り着くとは…大したものだな」

「昔からそうなんだよ。

『More than meets the eye』…目に見える以上の力を―魅力を持っている。

それが高坂穂乃果という存在なんだよ」

 

 

 

 

後日、あるモニターにてラブライブ本戦出場グループの名前とキャッチフレーズが紹介された。

(なる程…それが“答え”なのね)

μ'sのキャッチフレーズを見たツバサは納得の表情を浮かべた。

 

 

 

 

『みんなで叶える物語』

 

 

 

 

それがμ'sのキャッチフレーズであった。

 

 

 

 

To be continue



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第53話『決めた答え』

さて、今日のラブライブ!9人の女神と鋼鉄の騎士はある日曜日の秋葉原から物語を始めるとしよう。

「―で、いきなり日曜に呼びつけてどうしたの?」

絵里の言葉に希とにこは頷く。

「ほら、この十人揃って遊びに行った事ってないでしょ?だから、偶にはこういうのも良いかなって」

穂乃果の言葉に頷く二年生組と一年生組。

「それで、どこへ行くの穂乃果?」

「皆の行きたいところに行こうよ!それで、今日は思いっきり遊ぼう!」

穂乃果の「出発進行!」というかけ声で遊びに行く面々だったが…

(“終わりの始まり”、か…)

とあかりは心の中でそう呟いた。

あかりは―いやあかりだけでなく、一年生組と二年生組は今回の提案の“真の目的”を知っていた。

事の始まりは先日の新入生合格発表の日。

雪穂、亜里沙、ヴェルが音ノ木坂に合格(因みに理事長の話によるとヴェルは満点の首席合格らしい)した。

つまり新年度からは彼女達新一年生が入る―それは現在の三年生が卒業する事でもある。

 

 

そして、避けては通れぬ問題―今まで見て見ぬ振りをして来た問題に向き合わなければならなくなったのだ。

 

 

一年生組も二年生組も既に“覚悟”を決めている。

 

 

その覚悟にあかりは口出しする気などなく、彼女達の選択に従うのだった。

 

一行はゲームセンターやアイドルショップ、美術館や遊園地に行ったりアヒルボートに乗ったりした。

「次はあかりの行きたい所ね」

「んじゃ、案内するよ」

絵里の言葉の後、あかりは皆を連れてある場所に向かった。

「此処があかりちゃんが行きたかった場所なん?」

「そうだよ。正確には此処の地下1階にだけど」

あかりが行きたかった場所―そこは国立科学博物館の上野本館だった。

そして、そこの地下1階に展示されているのは

「恐竜だ…」

穂乃果の呟き通り―恐竜の化石だった。

「恐竜って興味深い存在なんだよ。多種多様に進化していき…その内の一部は今も鳥類という形に進化して生きている。

恐竜は今も多くの人々を魅力して止まない。

ある者達は化石から彼らを探求し、またある者達はある島に“生きた彼らの楽園”を作ろうとした。後者は潰えてしまったんだけどね」

「イスラ・ヌブラル島…ジュラシック・パークとジュラシック・ワールドですね」

海未の言葉にあかりは頷いた。

「ヴェルやネストの訓練校の仲間と一緒に行ったんだよ―しかもその日はジュラシック・ワールドが閉園した日だった。

色んな恐竜や古生物がいて…

一般公開されてないラプトル四姉妹にも会ったよ。

そこの調教師―オーウェンって言う人とラプトル達の間には種族を越えた“絆”が結ばれている様に私には見えた。

その一方、一般公開されてた雌のティラノサウルス…レクシィって名前らしいんだけど…彼女はまるで人間を憎んでいる様だった」

「どうしてなのかな…?」

花陽の言葉にあかりはこう返した。

「あくまでも私の推測だけど―彼女から自由を奪ったからだと思う。

彼女はジュラシック・パークが崩壊してジュラシック・ワールドが建造されるまでの20年近くの間を自由に暮らしてたから…“ある偉人”が言ってた言葉を思い出したよ。

『自由とは全ての生き物が持つ権利である』って言葉を」

「閉園した日に居たって言ったわよね?という事は…」

にこの言葉にあかりは頷く。

「騒ぎを止めるべく私達も協力したよ。

騒ぎの原因はハイブリッド恐竜―インドミナス・レックスの脱走。

彼女の手によって多くの職員や恐竜達が命を落とした。

私とヴェルはオーウェンさんとパークの責任者のクレアさんと一緒にクレアさんの甥二人の救助に向かってて、道中でインドミナスの被害にあった一頭のアパトサウルスの死を看取ったんだよ。

肉を食べてない様子からインドミナスは“殺し”を楽しんでいる様だった。

だけどね、そのインドミナスもまた人間の“傲慢”の被害者でもあったんだよ。

生体兵器として生み出されて、隔離されて育てられて…

私達はそんなインドミナスを止めるために…そして“苦しみ”から開放する為に彼女と戦った…ラプトル四姉妹やレクシィと共に。

戦いの結果、私やヴェル、ラプトル四姉妹やレクシィは生き延びたけど、インドミナスはモササウルスに水の中に引きずり込まれて…食べられて死んでしまった」

そう語るあかりはどこか悲しげでもあった。

「レクシィやラプトル四姉妹はどうなったにゃ?」

あかりはスマホに保存されたある画像―あかりやヴェルに寄り添って眠るラプトル四姉妹の画像を見せる。

「これからは自由に暮らせ―オーウェンさんはラプトル達を優しく撫でながらラプトル達を見送ってラプトル達は今頃自由に暮らしているだろう。

一方のレクシィは島を出る時に島の高台にいたのを目にしたよ。

その時の咆哮はまるで『ここへは二度と近づくな』って訴えてるみたいだった。

以上がジュラシック・ワールドが閉園した日に起きた事だよ。ご静聴ありがとうございました」

「此方こそ、貴重な話をありがとう。あかり」

絵里の言葉にあかりは笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

暫く博物館を見て回った後

「それじゃ、後は穂乃果ちゃんが行きたい所だけやね」

希の言葉の後、穂乃果は自分が今行きたい所を言った。

 

「私は…海に行きたい!」

 

後は穂乃果の行くだけとなった。

穂乃果が選んだ場所―そこは誰もいない、海が見える場所だった。

「誰もいない、自分達だけしかいない景色が見たい」

それが穂乃果があの場所を選んだ理由だった。

その理由と言葉に三年生組以外の面々は全てを察した。

(いよいよ、か…)

あかりはそう考えつつ皆と一緒に上野駅へと向かうのだった。

 

 

電車でその海辺へと向かう途中、あかりは穂乃果に問う。

「穂乃果、準備は良いかい?」

「うん、大丈夫だよ」

あかりの言葉に穂乃果はそう返した。

 

 

そして、件の海辺。波打ち際で戯れる皆を穂乃果と共に眺めるあかり。

「穂乃果」

「なーに?あかりちゃん」

「ありがとうね…μ'sを作ってくれて。

穂乃果が…μ'sの皆が集まって…μ'sがいたから…今、私はこうして此処にいる…こうして“鋼鉄の戦女神”としていられる」

あかりの言葉に穂乃果は言葉を返す代わりに笑みを返す。

 

 

そして、二人は皆の元へと赴く、十人は自然に手をつないだ。

「あのね、私たち話したの。あれから、七人で集まって絵里ちゃんや希ちゃん、にこちゃんが卒業したらμ'sをどうするか…。

一人一人で答えを出したの。そしたらね、皆一緒だった同じ答えだった!

…だからそうしようって、決めたの。

言うよ!せーっ」

感情が高ぶって上手く言えなかった穂乃果。

(頑張れ…穂乃果!)

あかりの思い。

握り合う互いの腕に力がこもる。

「言うよ!せーのっ!」

そして、穂乃果が、海未が、ことりが、真姫が、花陽が、凛が自分達の出した“答え”を口に出した。

 

 

 

 

『『大会が終わったら、μ'sはおしまいにします!』』

 

 

 

 

その言葉を受け入れるかの様に絵里は頷き、希はこう言った。

「そんなの、当たり前の事やん…。ウチがあかりちゃんと一緒に皆を、μ'sをどんな思いで見て来たか…

この9人がいてあかりちゃんがいて…

誰かがいなくなった代わりに誰かが入ってきたらそれはもう“μ'sじゃない”んよ」

「分かってるわよ!そんなこと!でも、だけど、だって!私がどんな思いでスクールアイドルをやってきたか、分かるでしょ?

三年生になって、諦めかけていた時、こんな奇跡に巡り合えたのよ!

こんな素晴らしいアイドルに、“仲間”に巡り合えたのよ!それを―「だからアイドルは続けるわよ!」」

真姫はにこの前に立って言葉を続ける。

「何があっても続けるわよ!でも、μ'sは!μ'sだけは自分達だけのものにしていきたいのよ!

にこちゃん達がいないμ'sなんて嫌なの、私が嫌なのっ!」

涙が溢れて止まらない真姫の姿に花陽と凛も堪えきれなくなる。

「あー!もう電車が出る時間だよ!」

「ささ、みんな早く行こっ!」

穂乃果の言葉の“意図”と涙が滲んでいた瞳に気付いたあかりは彼女と共に皆を急かす。

 

電車乗り場までやってきた絵里は

「これ、まだまだ先じゃない」

と指摘する。

「いや~ごめんごめん。でもさ―」

「あの場にいたら皆泣いちゃいそうだったから」

あかりと穂乃果の言葉に

「全く、二人には適いませんよ」

と笑みを浮かべる海未。

そして、暫くして…我慢できなくなって皆は涙を流して…声に出して泣いた。

 

 

 

 

この皆といる楽しい時間が永遠に続いて欲しい―だけど、それは無理な話なのだ。

 

 

 

 

ひとしきり泣いて落ち着いた後、穂乃果はある提案をした。

「そうだ!記念に写真撮ろうよ!」

「良いね!撮ろう!私達だけの写真!」

あかりの言葉の後、穂乃果は

「あれで撮ろうよ!」

証明写真撮影用の機械を指差す。

元々一人用の機械に10倍の人数は入り切らず窮屈だろう。

だが、その窮屈さが却って良いようにあかりには思えた。

今までの色んな思い出が詰め込める…そんな気がして。

「皆、この際だからさ、言っておくね」

あかりは満面の笑顔でこう言った。

 

 

 

 

「私は―俺は皆の事が大好きだ!」

 

 

 

 

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第54話『輝きの向こう側へ』

「もしかして、今日って最後の練習だったんじゃ…」

その事に気付いた花陽はそう口にした。

いや、何人かは気付いていたがあえて口にはしなかったのだ。

 

ラブライブ本戦の前日。

その日もまた練習を行っていたが―今日は最後の練習だった。

みんなで神田明神へお参りしてその場は解散となったが…

 

まだこの時間を終わらせたくないという思いがあるからか結局自然と全員が集まってしまった。

「どうする?このままじゃ何時まで立っても…」

にこの言葉に

「そうだ!私に良い考えがあるよ!」

と穂乃果はある事を提案するのだった。

 

 

「あの、私もご一緒で本当に良かったんですか?」

「構わないよ。それにあかり姉やヴェルがいなかったら一人になっちゃうでしょ?」

「だから、明乃も一緒に、ね?」

「二人の言うとおりだ。何も気にする事はない」

明乃の言葉に雪穂、亜里沙、ヴェルの3人はそう返した。

μ'sの面々とあかりが学校で合宿する事になった一方で、4人は音ノ木坂に一番近い穂乃果の家でお泊まり会を行い、穂乃果の父親の車に乗って現地に向かう手筈となっている。

「それじゃあかり達にメールでも送ってみるか」

ヴェルはそう言ってスマホのカメラで自分と3人を撮影し、あかりにメールを送る。雪穂や亜里沙も同様にメールを送ったりしてラブライブ前夜を楽しんだのだった。

 

時は遡り数分前…

「いや~、まさかこの提案が通るとは流石の私でも思わなかったよ」

あかりは練習部屋に並べられた十床の布団を見てそう呟いた。

穂乃果のアイデアを聞いた後、あかりはことりと共に理事会へ直談判をしに行った。

あかりはダメかもしれないという可能性も考えていたが…

「―本当は二週間前に申請しないと行けないのだけれど…ひょっとしたら私が見落としてただけなのかもね」

と柔軟に取り計らってくれて、こうして合宿もといお泊まり会が出来たのだ。

「つくづく、おばさんは本当に話が分かる人だなって思うよ!

まぁ、私がこの学校に来たのってある程度融通が利くからってのもあるんだけどね」

「ほんと、理事長には感謝しないと」

「絵里も加入前と比べて随分と変わったよね」

「そうかしら?」

「加入前はどこか近寄り難い様な…そんな印象があったけど今はノリノリだったりで…より魅力的になったと思うよ」

「…ありがとう、あかり」

あかりの言葉に照れる絵里だったが、その時二人のスマホにメールが届く。

「あっ、ヴェルからだ」

「亜里沙からね」

二人はそれぞれメールを読む。

『雪穂と亜里沙とお泊まりなう』

『そっちはどう?こっちはお泊まり会だよ!

明日、頑張って(≧∇≦)』

「あっ、これドヤ顔だ…」

とあかりは写真の中でドヤ顔をしているヴェルにそう呟く。

「まぁ、楽しそうで何よりじゃない?」

「それもそうだね」

と談笑をしていら

「ちょっと!家庭科室のコンロの火力弱すぎじゃないの!?」

中華鍋を持ったにこが入ってきた。

「流石にこさん。家庭科室の設備で麻婆豆腐を作るとは…いやはや恐れ入りましたよ」

しかも本格的だった。

「花陽!ご飯は!?」

「炊けたよぉ~!」

そう言って炊飯器を抱えて炊きたてのご飯を見せる花陽の笑顔はこの上ないものであった。

それからご飯食べ終えた後

「見て!星が出てるよ!」

窓の外を見た穂乃果は星が出ている事に気付き、皆で屋上へと向かった。

 

「It's so beautiful…」

とあかりは呟く。

皆もまた美しい夜空に見とれていた。

「みんなー!私達のステージ、見ていてねー!」

と不意に穂乃果が叫んだ。

そして、皆が空に向かって叫んだ。

『『みんなー!見ていてねー!』』

 

 

そして、ラブライブ本戦・当日。

「―てな訳で私はあのファーストライブの時、空気読めねージーオスに『空気読めよクソッタレが!』って八つ当たりしたり罵声を浴びせたりんだよね」

あかりは皆の緊張を解すべく思い出話を皆に訊かせていた。

「あんた…キレたらとことん口が悪くなるわよね」

とツッコミを入れるにこ。

「まぁ、私だけじゃなくてヴェルもなんだけどね」

それからも話は続き

「んじゃ、いい感じに緊張も解れたみたいだし、みんなにメッセージを送ろう。

勝ち負けとか気にせずに悔いがないよう楽しんでいこう!」

あかりのエールにμ'sの面々から“緊張”というものは消え失せていた。

 

 

 

 

 

夜となり、他のスクールアイドル達の発売も終わって残すはμ'sの番のみ。

着替えも終わり、後は出る時を待つのみ。

「みんな!かわいいよ!思わず抱き締めたくなる程にかわいいよ!」

「本当!?ありがとうあかりちゃん!」

あかりの言葉に穂乃果は満面の笑みを浮かべる。

「海未ちゃん、緊張する?」

ことりは海未に問う。

「えぇ。でも…この緊張感を楽しむのがすっかり癖になってしまいました」

と海未は返す。

「にこはどうだい?」

と問うあかりに

「私を誰だと思ってるの?」

とにこは返し

「早くあのステージに立ちたい…ただそれだけよ」

「私は、緊張しちゃうけど…でも、早くあのステージを楽しみたい!」

「凛は早く踊りたいんだにゃー!」

と真姫、花陽、凛は続ける―その思いは同じ。

「今日のウチは遠慮しないで前に出るから覚悟しといてね!」

「なら!私もセンターのつもりで目立ちまくるわよ!」

希と絵里も気合いが入っていた。

皆の気合い・盛り上がりは充分―いや、溢れる程だ。

「そろそろ時間だよ!」

とあかりは皆に告げる。

「皆、全部ぶつけよう!今までの気持ちと、想いと、ありがとうを全部乗せて歌おう!」

穂乃果の言葉に皆は頷き、恒例の儀式―ピースサインを合わせて星を作り出す。

そこにあかりは加わる気などなかった。

「あれ?あかりちゃん?」

穂乃果の言葉にあかりは何時もの口調ではなく“素の口調―本来の口調”でこう返した。

「前にも言っただろ?俺は“歌の女神”を護る“鋼鉄の戦女神”だってな!」

笑顔でそう言う“鋼鉄の戦女神”の言葉に頷く九人。

「なんて言ったらいいか分からないや」

穂乃果はそう口にした。

「だって本当にないんだもん。もう全部伝わってる。

もう気持ちは一つだよ。感じていることも、考えていることも同じ」

その言葉に同意するが如く皆が頷く。

「μ'sラストライブ!全力で飛ばしていこう!1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

『『μ's!ミュージックスタート!』』

 

 

 

 

奇跡のその先にある“光”へと辿り着き、その“光”の中、現在(いま)という時を全力で楽しもう―そんな思いがこの曲『KiRa-KiRa Sensation!』に込められていた。

 

 

 

 

曲が終わった後、何時もの点呼の順で名乗り、最後に

「音ノ木坂学院スクールアイドル“μ's”!ありがとうございました!」

『『ありがとうございました!』』

穂乃果の言葉に続けて皆はこれまでの感謝の意を込めて締めの挨拶をした。

 

 

本来なら―ラブライブ本戦の規定通りならこのまま終わる…筈だった。

『アンコール!アンコール!』

観客席からその声が響き渡り、次第にその声は大きくなっていく。

(『このまま見向きもされないかもしれない、応援されないかもしれない…。

…でも、一生懸命この気持ちをみんなに届けたいんです!』

ファーストライブの時に穂乃果はそう言った。

完敗だったあの時と比べて今は大きなステージに立ち、沢山の人々が応援してくれる。

それは彼女達の気持ち―思いが人々に届いた事を意味している)

観客席でライブを見守っていたあかりは“ある物”を取りに行く。

「あかり」

そうあかりに声をかけるのはヒフミトリオを連れているヴェルだった。

4人の手にはあかりが取りに行こうとしていた“ある物”が入った袋を持っていた。

「『あかりは“こういったもしもの場合”に備えてる』ってヴェルちゃんが言ってたよ」

「その“もしも”が―」

「今なんじゃないかな!?」

ヒフミトリオの言葉にあかりは笑みを浮かべてこう返した。

「Yes!」

 

 

ステージが終わり、その余韻に浸っていたμ'sの面々。一人、また一人とやり切ったと涙を流す。

そして、“アンコール”の声が響き渡り、その言葉に穂乃果はふと自分が嘗て言った言葉を思い出した。

 

 

『このまま見向きもされないかもしれない、応援されないかもしれない…。

…でも、一生懸命この気持ちをみんなに届けたいんです!』

 

 

ファーストライブの時に言った言葉。

完敗だったあの時と比べて今はどうか?

こうして大きなステージに立ち、沢山の人々が応援してくれる。

それは自分達の気持ち―思いが人々に届いた事を意味していた。

そう思った穂乃果の瞳には大粒の涙が溢れていた。

その時

「その涙は取っておくべきだよ、穂乃果!」

あかりの声に穂乃果は振り向く。あかりが、ヴェルが、ヒフミトリオが其処にいた。

「こんな事もあろうかと準備して置いて良かったよ」

「あかり…まさか、こうなるのを…」

絵里の言葉にあかりは頷く。

「トリを飾る、って分かった時からこうなるんじゃないかって思ってたよ」

「じゃあ、もう一曲を練習しておけっていうのは―」

希の言葉にあかりは頷き、こう返した。

「備えあれば憂いなし、ってね」

あかりの笑みに

「全く、あかりには適いませんよ」

と海未は返す。

 

 

あかりが差し出した袋―その中に入っていた衣装を涙を拭った穂乃果は受け取る。

「さぁ!みんな!楽しんできて!あの“輝きの向こう側”へ!」

あかりの言葉に皆は力強く頷いた。

 

 

 

 

前へ向かって進んでいき、輝きを追い求め続けた彼女達の軌跡。その軌跡をあかりが自身なりに綴った曲。

 

 

 

 

 

その曲の名は

 

 

 

 

『僕らは今のなかで』

 

 

 

 

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第55話『Lost Memory Ⅳ』

―side:Akeno―

 

 

ライブが終わってからの帰り道。私達は色々話をしながら帰路についていた時だった。

「ジーオスが現れただと…」

と舌打ちするヴェルさん。

「場所は…よりにもよって此処だと…」

あかりさんがそう言った後、“それ”は上空から私達の目の前に落ちてきた。

「■■■■■■■■!」

ジーオス。この地球に於いて度々人類を襲い、被害を齎している怪獣。

「みんなもいるから安全に気をつけつつ速攻で倒すよ、ヴェル!」

「あぁ、あかり!」

「「アデプタイズ!」」

「バルバトスマグナス、トランスフォーム!」

「ドレッドバイト、トランスフォーム!」

あかりさんとヴェルさんはトランステクターを身に纏い、ジーオスとの交戦を開始する。

 

 

『トランステクター』『怪獣』『アデプトテレイター』

 

 

そうか…私は…私は…

 

 

―side out―

 

 

―side:Akari―

 

 

ジェネラル級ジーオスとの戦闘終了後

「あかりちゃん、ヴェルちゃん」

私達に声をかける穂乃果ちゃんは何やら困っているようだった。

「どうしたの?」

「明乃ちゃんの様子がおかしくて…」

と返すことりちゃん。

明乃は絶望しているかの様な目をして泣いていた。

「…とりあえず家に帰って本人から話を聞いてみよう。みんなはもう遅いから帰って―」

「私達もあかりちゃん達について行く!」

穂乃果ちゃんは真剣な眼差しで私を見る。

「私達にも知る権利があるわ…彼女の事について」

まぁ、エリチカの言うとおりだね…

「良いよ。じゃあ、みんな今日は家に泊まって」

 

 

 

 

その後、軽い食事を済ませ、私達は明乃から話を聞く事にした。

ヴェルにはこの話を録音しておくようにお願いしている。

私の予想が当たれば明乃はおそらく…

「明乃、何があったのか話してくれないかな?」

「…思い出したんです」

そう返す明乃の声は弱々しかった。

「あかりさんとヴェルさんがジーオスと戦っているのを間近で見て思い出したんです…私がどうしてこの地球に飛ばされてきたのか…何故アデプトテレイターになったのかを…」

やはり…か。

「私は“アイツ”が第34太陽系の地球と呼んでいた地球出身なんです」

第34太陽系の地球…確か前に亜理火さんから原因不明の爆発で消滅したって聞いたけど…

「一つ質問していい?」

私の言葉に明乃は頷く。

「“アイツ”とは誰なの?」

「“アイツ”の名は…“トクスレイダー”」

トクスレイダー…確かこの名も亜理火さんから聞いた事がある。

元デストロンの科学者であるディセプティコンのトランスフォーマーで、非人道的な研究で多くの惑星の生命を奪ったとして指名手配されているもののその所在は未だに掴めずにいる。

「私はトクスレイダーの実験によって改造されたアデプトテレイターなんです」

 

 

 

 

そして、明乃は何を見てきたのか、今まで何が起きたのかを語り始める…

 

 

 

 

それは一人の少女が背負うには余りにも重く悲しい過去だった。

 

 

―side out―

 

 

 

 

―side:Akeno―

 

 

およそ6年前、第34太陽系の地球。降りしきる豪雨、激しく波打つ海原。

私と両親が搭乗していた旅客船は豪雨の中、嵐と激しい波によって座礁、沈没の危機に瀕していた。

「明乃、こっちだ!」

父親に手を引かれるままに私は連れていかれる。

「さぁ、此処から飛び降りるんだ」

「そんなのできないよ!」

「良いから飛び降りるんだ!如何なる時もお前は

俺達の分まで生きろ!」

私は父親に押し飛ばされる形で海に放り出された。

船から爆発が生じたのはそのすぐ後だった。

 

 

海難事故から一夜が明けた朝。警察に被害報告している救助隊員の足元には青いシートが敷かれていて、その上にある“何か”を青いシートで被せてあった。

その中に見覚えのある腕が覗いているのが見えて、私はそのシートの元へ駆け寄る。

 

「お父さん!お母さん!」

捲り上げたシートの下にあったのは…最早すっかり見分けがつかなくなった、二体の人間の変わり果てた姿だった。

 

 

これは両親じゃないんだ…両親はまだ帰ってきてないんだと私は心の中で二人が帰ってくるんだ…そう思っていた。

 

 

翌朝、私は両親が“いる”と聞いて、沢山の木箱が置かれている避難所の中でも大きな部屋を訪れていた。

あちこちから人々の様々な泣き声が聞こえて来る中、私は其処にいた係員と思わしき大人に

「お父さんとお母さんはどこ」

と尋ねる。

彼は黙ってある二つの木箱を指差した。

「君のお父さんとお母さんはこの小さな箱の中に…いや、もういないんだよ」

 

 

今回の事故で家族や家財をすべて失い、私は帰る場所を失った。

 

 

静かに燃え尽きた世界にたった一人、私は取り残された。

 

あの時、二人の言うとおりに躊躇なく海に飛び込んでいれば両親は死なずに済んだのかもしれないという後悔と罪悪感、そして一人だけ生き残った自分を許せないという怒りが私の中で渦巻いた。

 

 

 

 

その後、私はある孤児院に入れられ、其処で暮らす事となった。

孤児院にいた子達はとても優しくて、私を暖かく受け入れてくれた。

しかし、私達は親無しとして一般家庭の子達からいじめを受けるようになっていた。

いじめっ子に立ち向う子もいた中、私は(孤児院の仲間がいじめを受けていたらいじめに立ち向かって助けるが)自分に対してのいじめの場合は向かう気などなかった―これはただ一人だけ生き残った自分への天罰なんだ、そう思ったから。

 

 

 

 

私達が小学校へ入学してもそれは変わらなかった。

ある日は下駄箱に入れていた上靴の中に画鋲を入れられていた。

 

ある日、上靴や体操服を隠された。

 

ある日、提出したプリントやノートを受け取ると…落書きをされていた。

 

周りの子は私達を見て見ぬふりをする…関わって自分達もいじめられたくない、そう思わんばかりに。

私はともかく他の孤児院の子達は教師にいじめを訴えたりした。

訴えてしばらくはいじめが止んだかに見えても…また数日後にはいじめが再開するという繰り返し。

教師達は警察沙汰にしたくなかったのかいじめを行っている生徒達には軽く注意するだけで親も呼び出しての厳重注意を行おうとしない。

 

 

小学5年生になった数ヶ月経ったある冬の日。

孤児院の仲間で大人しい子がいじめに耐えかねて自殺した。

その日、彼女は両親の形見として大切に持っていたアクセサリーを粉々に破壊されたという出来事が起きていた。

私は彼女と格段に親しかった―そんな彼女を失った時、私はこう思った。

 

 

守れなかった…私に暖かな居場所を与えてくれた仲間を守れなかった…

 

もうあんな悲劇は二度と繰り返してなるものか…

 

その為には自分が強くあればいい…あいつらよりも。

 

 

 

 

その為になら…私は悪魔にでもなる。

 

 

 

 

翌日の登校時間。

「―でさ、ほんと笑っちゃうよね」

呑気に会話しているいじめっ子の一人を視界に捉えた私は彼女の元へ向かう。

「何よアンタ―」

私は彼女が言い終える前に腹部を殴り

「こいつ!」

後ろから来る者に対しては肘打ちをお見舞いする。

肘打ちを食らった者は悶え苦しみ、倒れる。

「死ねや!」

更にモップで殴りかかろうとする者に対してはモップを奪い、そのモップで頭を強く叩く。

私は頭を叩かれた者が意識を失っている間に悶え苦しんでいる者の頭を強く蹴り、その者は靴箱に衝突、その衝撃で靴が散乱し、血が付いている。

その後、腹部を殴られ悶えている者と肘打ちを食らって悶えている者の頭を掴んでぶつけるのだった。

 

 

 

 

私が復讐を果たしたのと同じ頃。

 

この第34太陽系の地球で各地が核爆発が起きるという事件が発生していた。

原因は何者かによる核ミサイル保管所や核廃棄物処理場、原子力発電所の爆破。そしてその犯人は人間ではなく…宇宙人―巨大な金属の身体を持つエイリアンだった。

「こいつも違う…どいつもこいつも適合率が低すぎる。何年もかけて準備をして、今日実行に移したのに結果はこれか」

そのエイリアンはそう言いながら各地を爆撃し、刃向かう者は勿論、逃げ惑う無抵抗な人々からも次々と命を奪っていく。

「トクスレイダー様、各国の軍事施設の制圧、完了しました」

「トクスレイダー様、こちらへ」

そのエイリアン―後にディセプティコンのマッドサイエンティスト『トクスレイダー』だと知る事になる奴は“適合者”を探していた。

「ほほう…こんな所に適合者がいるとは…連れていけ」

「わかりました」

トクスレイダーの配下のドローンに麻酔弾を撃たれ、私は意識を失った。

 

 

次に目覚めた時、私はトクスレイダーの実験場にいた。

話を聞くにトクスレイダーは私をアデプトテレイターと呼ばれる存在へと改造し、“ある兵器”のパーツに使うらしい。

「今までアデプトテレイター化への適合率が高く、アデプトテレイター化した者でもこいつを―ディノスレイドを制御できた者はいなかった」

「その人達はどうしたの…?」

「処分した。お前も適合率が低ければ処分する」

トクスレイダーはそう言って私をその兵器―ディノスレイドに接続する。

接続された瞬間に複数の地球やトクスレイダー達の実験場、アデプトテレイターやトランスフォーマー、トランステクターなど様々な情報が私の頭の中に流れる。それと同時に今まで接続した者達がどうなったのかも頭の中に流れてきた。

ある者は動かす事すら出来ず、またある者は発狂して暴走した。

そんな事はどうでも良い。

まず、私は腕を動かしてみた。するとディノスレイドの腕は私が思った様に動いた。

「成功か…」

私はトクスレイダーの部下であるドローンの方に目を向け、その腕でドローンを捕獲する。

「何をする」

ドローンが喚くが、そんなの気にせず握り、そして引きちぎる。

「何のつもりだ」

トクスレイダーはそう問う。

こいつが今までに何をしてきたのかは流れてきた情報で知っている。

こいつは今までにもある地球の文明を滅ぼしている。

そして、この地球の文明ももはや機能していない―多くの人々がこいつらに殺されたからだ

今の私には守るべき者など誰もいない…倒すべき相手は精々こいつくらいだ。だから…

「あなたを倒して…私も死ぬ」

「やってみるがいい」

私―ディノスレイドはまず一気に駆け出してトクスレイダーとの間合いを狭め、殴りかかる。トクスレイダーはそれを回避し、私に向けてレーザーを放つ。

私はそれを同じくレーザーで相殺し、トクスレイダーに接近する。

「戦い方が素人だな」

トクスレイダーも私に近づき、ディノスレイドから私を“引きちぎって”強引に接続を解除した。

「サイバトロン共に嗅ぎ付けられて逮捕されて技術を奪われる訳には行かないからな…だからこそこの“実験場”を処分する。お前は精々この地球と運命を共にするんだな」

そう言ってトクスレイダーは端末を操作し、“ある物”を開き、ドローン達と共にその中へ入っていった。

流れてきた情報の中にあったスペースブリッジだ。

トクスレイダーの言うとおり、此処で死ぬのも良いだろう…そう思っていたのに…

 

 

『お前は俺達の分まで生きろ』

父親のその言葉が頭を過ぎった。

 

 

「ごめんなさい…お父さん…お母さん…」

私はスペースブリッジへと向かう。

あちこちで爆発が相次ぐ中、スペースブリッジも円形から不定形な形となっている。あんな状態じゃ無事にくぐり抜けたとしてもトクスレイダー達が向かった先とは別の場所に飛ばされるだろう。

でも、そんなのどうでもよく感じた…もはや考える事すら面倒になっていた。とにかくあの向こう側へ…ただそれだけだった。

 

 

 

 

スペースブリッジに入ったと同時に私は爆風によってどこかへ飛ばされてしまった。

その飛ばされた場所こそが第46太陽系の地球だった。

 

 

 

 

To be continue



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第56話『受け入れること』

―side:Akari―

 

 

彼女―岬崎明乃の過去は私達が想像してた以上に重く悲しいものだった。

「なんで今まで忘れてたんだろう…」

と涙声で震えながら明乃は泣いていた。

 

あらゆるものを失い、心がボロボロになっている…それが岬崎明乃という人物なんだろう。

 

そんな彼女に私は嘗ての自分をだぶらせていた。

 

私も一度は何もかも失った。

 

恐らくヴェルも同じようにだぶらせているだろう。

 

だからこそ、私は立ち上がり、明乃を優しく抱きしめた。ヴェルも同じように明乃を後ろから抱きつつ頭を優しく撫でている。

「辛かったんだな…」

ヴェルが声をかける。

「お前はよく頑張ったよ…ここまでよく頑張った」

私もそう声をかける。

「此処には“俺”がいる。ヴェルがいる。みんながいる。

お前が望むなら、お前が帰るべき暖かな場所になろう」

思わず“素の口調”になったが、そんなのどうでもいい。

今の明乃に必要なのは帰るべき暖かな場所となる者達だ。

 

嘗て“俺”がヴェルやμ'sのみんなに救われた様に今度は私が、私達が明乃を救ってみせる…

 

 

 

 

あれからどれくらい時間が経ったのだろうか…明乃は漸く落ち着いたようだった。

「落ち着いた?」

「はい…ありがとうございます」

「こう言うのも何だけど…明乃はいじめっ子を“殺して”はないんでしょ?」

私の言葉に明乃は無言で頷く。

「だったら私やヴェルよりはマシだよ」

その言葉に明乃は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべる。

「私やあかりは…形はどうあれ殺人を犯している」

そして、私とヴェルは明乃に対し自分達の過去を話すのだった。

 

 

―side out―

 

 

―side:Vernyi―

 

 

私がアデプトマスターになる1ヶ月程前のロシアのとある銀行。

私はその日、両親と共にその場にいた。

「動くな!」

そんな時、銀行強盗が押し掛けてきた。

「お前ら人質だ!動くなよ!」

2人組の強盗はその場にいた者達を脅し、銀行員に金をバッグに詰めるよう脅しをかける。

見たところ…拳銃を持っているのは一人だけのようだった。

「ほら早く急げ!」

「親分、警察の連中が来ますぜ!」

「クソッ!早く金を詰めろ!」

強盗達が出入り口の方を向いた一瞬の隙をついて、銀行員が拳銃を持った男にタックルを食らわせる。その拍子に男が持っていた拳銃が手から離れ、私の前に落ちる。

「このやろう!」

男は銀行員の股間を強く蹴り飛ばし、銀行員は悶え倒れる。

一方の私は拳銃を手にしていた。

家族を守りたい…父親を…母親を…そして、母親のお腹の中にいる妹になる命を。

「そいつを返して貰おうか、メスガキ」

私に迫ってくる男は次の瞬間、私に飛びかかろうとしたが…

 

 

その男が私に飛びつく事はなかった。

 

 

大きな銃声。反動で飛ぶ私の身体。そして…男の鳩尾に命中した銃弾。

 

 

 

 

その後、強盗犯は警察に逮捕されたが…拳銃を持っていた男は死亡した。

私が殺したんだ…私がその男を殺したんだ…

私と私の両親は過剰防衛として厳重注意されるだけで済んだが…それから私は家に引きこもった。

周囲から人殺しとして軽蔑されるのが怖かったからだ…。

「ヴェル、お腹の中の子が生まれたら引っ越しましょう。私達を知らないどこか遠い場所へ」

母親が私にそう提案した数日後だった。

 

 

私達一家はジーオスの襲撃を受けた。この襲撃で私は重傷を負うだけで済んだが…両親と私の妹になる筈だった命は失われてしまった。

ネストの面々が到着したのは私達が襲撃を受けた数十秒後だった。

意識を取り戻した私は泣き叫んだ。

「もっと早く来てよ&もっと早く来ていれば両親と妹は…!」

 

 

この襲撃で私は自身の四肢と家族の命を失った。

何もかも失い、絶望していた時に私はネスト隊員達の話からアデプトマスターの存在を知った。

私はアデプトマスターになる事を強く望んだ―家族の命を奪った奴らに復讐する為と私の様な者を一人でも多く減らしたい為に。

 

 

アデプトテレイターとなった私は義体に慣れる為のリハビリを行うと共にPTSDの治療を行った。

銃器を見るとあの時の事をどうしても思い出してしまう…だが、戦うと決めた以上は銃に対するトラウマを克服しなければならない。

だから、私は義体に慣れる為のリハビリを行う時間や食事、睡眠の時間以外の時間はほぼ全てトラウマを克服する為の治療を行う時間に費やした。

周りから無茶をしていると言われる事もあったが、続けたおかげで義体に慣れ、ネストの訓練校に入った頃にはトラウマを完全にではないが克服出来ていた。

 

 

 

 

「えー、この俺がお前達の教官となるレノックスだ。階級は少佐だ」

「同じくアーマーハイド。種族はオートボット。まずはお前達の自己紹介だ」

二人の教官―レノックス少佐とアーマーハイドの指示に同期の者達は自己紹介を行う。

「私は頼尽あかりと言います!日本人でアデプトテレイターであります!宜しくお願いします!」

そして、最後―私の前に自己紹介をしたのがあかりだった。

 

 

「君達二人はこの部屋で一緒に暮らして貰う。

それと、君達に関しては通常訓練のカリキュラムに加えてトランステクターを使った訓練も行うのでそのつもりで」

レノックス少佐はそう言って部屋を後にした。

そして、流れる気まずい空気。

「えっと…風見さん…」

「ヴェールヌイで構わないですよ」

「うん!じゃあ、私の事もあかりって呼んでね!」

私は頷いて答えた。

暫くして夕飯の時間となり、私達は食堂へ向かった。

食堂はメニューが豊富で、ラーメンやうどんといった麺類もある事に驚いた。

「じゃあ、私はこの豚骨ラーメンで!ヴェールヌイは?」

「う~ん、このきつねうどんという物で」

注文した物が届いて、隣同士となって私達は夕飯を食べる。

「なかなか美味しいじゃん!」

あかりが美味しくラーメンを食べている隣で私は興味津々にきつねうどんを見て、それから麺を口にして驚いていた。

「ハラショー、これが母上が言っていたうどんという物か…」

最初は会話もあまり多くはなかったが、あかりの方から積極的に話しかけてきた。

 

そして、訓練が始まってある程度の月日が流れた。

その日は近くの山でテントを設営したりしてサバイバル訓練を行っていた。

「あかりは何故アデプトテレイターになったんだ?」

「そう言うヴェールヌイはどうしてなの?」

「…私は家族をジーオスに殺された。私自身もジーオスに重傷を負わされ、その時にアデプトテレイターとして奴らと戦う道を選んだ」

「なる程ね…」

「で、あかりはどうなんだ?話しにくいなら別に話さなくても良いんだが…」

「あれはね―」

それからあかりはあの日の事―両親を殺され、私自身も殺した連中を殺した事を話した。

「…すまない、悪い事を訊いてしまった」

「ううん、良いんだよ!あっ、そうだ!これはから“ヴェル”って呼んで良い!?」

「別に構わないが…だったら私に日本語を教えて欲しい。

私は日本人の血を引いていながら…日本語が話せない。両親は基本的にロシア語か英語だったからな」

「それくらいなら全然OKだよ!じゃあ、私にもロシア語を教えてくれないかな!?」

「あぁ、勿論だ」

「あぁ、勿論だ」

それからあかりは私を“ヴェル”と呼ぶ様になり、彼女にロシア語を教える代わりに彼女から日本語を教わった。

それから、私もアデプトテレイター化する前の…銀行の事件も話した。あかりはそんな私を暖かく受け止めてくれた。

そして、更に月日が流れ、私はμ'sの皆を始め多くの人々に暖かく受け入れてもらった。

 

 

彼女達と出会えたのはあかりがいたからだ…だからあかりには感謝している。色々なものを私に与えてくれた彼女に…

 

 

―side out―

 

 

―side:Akari―

 

 

「―と、こんな感じだ」

ヴェルは自身の過去を話し終えた。

「すみません…辛い過去を思い出させてしまって…」

「気にしないでいいよ。あの事件があったからこそ今のアデプトマスターである自分がいるし、みんなが受け入れてくれたから今こうして私達はいる。

私達にとってみんなは帰るべき暖かな場所なんだよ

私達は明乃の事を受け入れる…帰るべき暖かな場所になる。だからさ、明乃も私達の事を頼って良いんだよ」

「…はい!」

私のそう返す明乃は笑顔でとても愛らしかった。

 

 

 

 

To be continue



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第57話『奇跡と軌跡』

ラブライブ本戦の結果発表後…

「頼尽あかり、君の噂は聞いているよ。幼少期は“神童の鬼女”と呼ばれ、現在はネスト特殊隊員にしてμ'sを影で支える敏腕マネージャー」

「買い被り過ぎですよ。私はただやりたいようにやっているだけです」

とあかりは“その人物”にそう返した。

事の始まりは結果発表も終わり、皆で帰ろうとした時。あかりと理事長だけがラブライブ実行委員のスタッフに呼び出され、此処まで―ラブライブ実行委員長の元まで案内されたのだ。

理事長はあかりと実行委員長のやり取りを見守っていた。

「さて、此処に君を呼んだのは君と―μ'sにある依頼をしたいからだ」

「依頼…ですか?」

実行委員長はあかりにその依頼の内容を話し、あかりは驚愕し

「えぇ、わかりました。喜んで引き受けます」

と笑みを浮かべて返した。

「ありがとう。この件は“正式発表”をするまでは“μ'sの皆さん”にも御内密に」

「了解しました」

あの完敗からのスタートから此処まで大きくなるとは、とあかりは感慨深く思いつつ返答したのだった。

 

 

そして、ラブライブ決勝から数日後。

「さて、今日の午後…正式発表だね」

あかりはスマホで時刻を確認しつつある画像―『ラブライブ優勝』と書かれた大きな旗に、トロフィーを持っている穂乃果を中心にμ'sの面々やあかり、ヴェル達が写った記念写真を表示させた。

 

 

彼女達の輝き―それは『ラブライブ優勝』という形で伝説となったのだ。

 

 

「あと一時間位、か…」

優秀なスタッフのお陰で卒業式の準備はほぼ完了していた。

「さて、“今日から”最高のサプライズを皆にプレゼントするよ」

あの“依頼”を受けてからあかりはこの日をずっと楽しみに待っていたのだ。

そんなワクワクを隠しつつ、あかりは中庭に探していた人物の姿を発見した。

「何時もの希も素敵だけど、今日はかなり魅力的ですなぁ」

「あかりちゃん…」

立ち上がる希。

何時もの髪型とは異なり、三つ編みのおさげにして一つに束ね、それを左側に垂らしていた。

「あかりちゃん、改めてありがとう。この学校を教えてくれて。

あかりちゃんがこの学校の事を教えてくれたお陰でウチはエリチやにこっち、μ'sの皆に会えた。

ウチにとってこの三年間は“奇跡”やった」

あかりはそうかい、と返した後、改めてこう口にした。

「卒業、おめでとう!」

 

希と一旦別れた後、あかりはある人物がいるであろう生徒会室へと向かった。

「やはりあなたも此処に来たのね、あかり」

「此処にいるんじゃないかなって思って、ね。あなたも、って事は穂乃果辺りが来たんかい?」

あかりの言葉に絵里は頷く。

「もしあなたや穂乃果達と出会っていなかったら、私はこんなに清々しい気持ちでここを卒業できなかったと思うの。

廃校阻止って普通なら成し遂げられることじゃないし」

「だけど、現実になった―この奇跡が起きたんだよ。この奇跡は一人でも欠けてたら起きてなかったんだろうね」

それもそうね、と絵里は返し、礼を言った。

あかりは去り際に絵里にこう言った。

「希には言ったし、にこや二年生&一年生組にはこれから言いに行くけど卒業式が終わったら話があるから部室に来てね!」

 

そして、部室。

「にこ、一人でどうしたんだい?」

「三年間居続けた此処にいる、ただそれだけよ」

にこの言葉にあかりはそっか、と返した。

「あんた達には感謝してるわ。私にとって皆に出会えたこと、そしてラブライブに優勝できたこと―それまでの全部は奇跡なのよ。だから、ありがとう」

にこの言葉にあかりは笑顔を浮かべた後、絵里や希に伝えた事をにこにも伝える。

「希や絵里には言ったし、穂乃果達にはこれから言うつもりだけどね。

卒業式が終わったら話があるからこの部室に来てね」

「話って何よ?」

「それはまだ秘密。でも、ヒントだけはあげる」

あかりは一泊置いてそのヒントを口にした。

「これまで歩んできた皆の軌跡―その先を見たいとは思わない?」

 

 

 

 

卒業証書の授与も終わり、理事長が挨拶を終えた卒業式。

「送辞!在校生代表、高坂穂乃果!」

次は生徒会長による送辞である。

「卒業生の皆さん!御卒業おめでとうございます!

実は今日になるまで何を喋れば良いのかわからなくて、何度も送辞を書き直して気付いたんです。

私、そういうのが苦手だったんだってことに。

子供のころから、言葉より先に行動しちゃう方で、時々周りに迷惑を掛けちゃうこともありました。自分を上手く表現することが苦手で、不器用で…でもそんな時!私は歌と出会いました!

気持ちを素直に伝えられる、歌うことで同じ気持ちになれる、歌うことで心が通じ合える。

そんな歌と出会い、そんな歌が何よりも大好きなんです。

先輩、皆様方への感謝と、これからのご活躍を心からお祈りし、これを贈ります!」

穂乃果の言葉の後、何時の間にかピアノの方に移動し座っていた真姫は鍵盤に指を置いて、旋律を奏で始める。

全てに感謝とありがとうを伝える曲。

穂乃果が、海未が、ことりが、凛が、花陽が、あかりが、そして皆が一つとなって“ありがとう”と、精一杯歌った。

 

 

卒業式後のアイドル研究部の部室。

「で、話って何よ?あかり」

にこはあかりに問う。

「う~ん、それを伝えるまで“まだ時間”があるから…先に決めなきゃいけない事を決めないと」

という事でアイドル研究部の部長や副部長、リーダーを決める事になった。

因みに満場一致で部長には花陽、副部長には真姫、リーダーには凛が就任した。

それからまだ時間があるから、とあかりは皆を連れて色んなところを回った。グラウンドや講堂、アルパカ小屋…この学校の全てには思い出が詰まっていた。

そして、最後に寄ったのは“μ'sの全て”と言っても良い場所だった。

「最後はやっぱりここね」

絵里の言葉に皆が頷く。

屋上―最後の最後に訪れるに相応しい場所。

「練習場所がなくて、ここに集まったんですよね…」

海未の言葉通りであった。

時に喜び合い、時にぶつかり合った場所。

ふと、穂乃果は何かを思いついたらしく、バケツとモップを持ってきた。

「穂乃果、どうするの?」

あかりの言葉に穂乃果はこう返す。

「見てて!えーい!!」

穂乃果がモップで描いたもの―それは巨大な『μ's』の字だった。

「この天気だから、すぐ消えちゃうわよ…?」

どこか悲しげな表情を浮かべる真姫。

「それで良いんだよ。それで」

穂乃果がそう返した後、皆はタイミングを合わせた訳でもないのに並んで、声を揃えて言った。

 

 

『『ありがとうございました』』

 

 

その後“あかりの話”がまだあるため、部室へと皆は向かい、屋上を出る中、穂乃果とあかりは立ち止まる。

 

 

 

「穂乃果、やり遂げられたかい?」

 

 

その言葉に穂乃果はこう返した。

「やり遂げたよ、最後まで!」

 

 

 

 

そして、再び部室。

「さて、そろそろだね」

と時間を確認するあかり。

「あかりちゃん、いい加減に勿体ぶらずに教えてよ!」

と言う穂乃果。

「まぁまぁ…よし、来た!花陽、パソコンを立ち上げてごらん!」

「えっ!?う、うん!」

困惑しつつも花陽はパソコンを立ち上げる。

すると、あるメッセージが届いていた。

そのメッセージを読む花陽だったが…

「え、えぇぇぇぇぇぇ!?ダレカタスケテェェェェェェェェェ!」

花陽の声に何事か、と思ったあかり以外の面々がパソコンの画面を覗き見るのをあかりはサプライズ大成功、と言わんばかりにニヤニヤしていた。

 

 

そして

『えぇぇぇぇぇぇ!』

案の定、驚きの声を上げるμ'sの面々。息ピッタリである。

 

 

「あ、あかりちゃん…これって…!?」

動揺しつつもそう尋ねる穂乃果にあかりは

「皆、ラブライブ本戦の後、私と理事長が運営スタッフに呼び出されたのは覚えているかい?」

と問い返す。

「確かにそんな事があったような」

と呟くことり。

「で、案内されたのがラブライブ実行委員長の元だったんだよ」

「それで、何で呼び出されたんだにゃー!?」

「“今回の件”についてとある“依頼”について。

正式発表まではみんなにも黙っているようにって言われてたんだけどね」

「じゃあ、卒業式が終わったらウチらに話があるのって…」

希の言葉に力強く頷いた後、あかりは依頼を受けたあの日から言うのをずっと待ち望んでいた言葉を遂に言うのだった。

 

 

 

 

「これまで皆が歩んできた軌跡。ラブライブ優勝で終わると思ったら大間違いだよ!

皆の“軌跡”はまだまだ終わらないよ!」

 

 

 

 

To be continue Final stage…!



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最終章『未来の行く末』
第58話『世界へ』


「“今回の件”についてとある“依頼”について。

正式発表まではみんなにも黙っているようにって言われてたんだけどね」

「じゃあ、卒業式が終わったらウチらに話があるのって…」

希の言葉に力強く頷き、こう続ける。

「これまで皆が歩んできた軌跡。ラブライブ優勝で終わると思ったら大間違いだよ!

皆の“軌跡”はまだまだ終わらないよ!」

「私達の奇跡…」

穂乃果の呟きにあかりは頷く。

「ラブライブ第三回の開催が決まり、その会場としてアキバドームでの開催を予定している」

「アキバドームって、あの何時も野球をやってるドームかにゃ?」

「そうだよ。ただ、アキバドームでの開催は確定じゃないんだよ。

幾らスクールアイドルが人気だとはいえ今の実績だけじゃ難しい。

其処でみんなに―μ'sに白羽の矢が立ったって事だよ。

で、依頼の内容だけど…ラブライブ実行委員会と海外のある会社からの依頼で、その依頼先の海外会社の傘下にあるテレビ局が日本のスクールアイドルを紹介したいから、向こうでライブをして欲しいって事だよ」

「か、海外!?これまた大きく出たわね…」

真姫がそう驚いた後、あかりはこう言った。

「因み既に依頼は引き受けちゃったから皆に拒否権はないよ」

「ないんかい!」

ツッコミを入れるにこは置いておいてあかりはみんなにこう言った。

「でも、みんなもどの道受ける気だったんでしょ?」

 

 

その言葉に皆は笑みを浮かべて頷くのだった。

 

 

―side:Akeno―

 

 

音ノ木坂学園の卒業式から数日後。

「じゃあ、留守の間頼んだよ」

「あぁ、任せろ」

とあかりさんとヴェルさんはハグを交わす。

μ'sの皆さんはこれからアメリカのニューヨークでスクールアイドル史上初の海外ライブを行う事となった。あかりさんはμ'sのマネージャーとして一緒に行くことになっている。

「じゃあ、お土産とか楽しみに待っててね~」

とあかりさんは手を振りながらμ'sの皆さんと共にニューヨーク行きの飛行機へ乗るのだった。

「さて、私達は帰るか」

「はい!」

見送りを終えた私達は帰宅し、あかりさん達が帰ってくるまでの間、二人(時折雪穂さんや亜里沙さんが遊びに来て4人)でゲームをしたり、勉強したり、アニメや映画を見て過ごしたりした。

 

 

―side out―

 

 

 

数時間後のアメリカ・ニューヨーク。

「これから“車”に乗ってホテルまで移動する。ついて来て」

あかりの指示通りについて行く穂乃果達。

だが、あかりはバス・タクシー乗り場をスルーする。

「あかり、バスやタクシーに乗らないのですか?」

海未の質問にあかりは頷くと共にこう返した。

「ホテルまでの移動の足はあっちが準備してくれてる」

 

そして、駐車場。

「どうやらお迎えはもう来ているみたい。仕事が早いよ」

あかりはあるトレーラートラックに近付いていき、μ'sの面々もその後に続く。

トレーラーから降りてきたのはインド人の男性だった。

「あかり君!久し振りだな!」

「マスラニの旦那!元気してたかい!?」

あかりとインド人の男性―マスラニは握手を交わす。

「君のおかげでこの通りさ」

「大体一年ぶりだね。今回のお誘い、どうも」

「私も興味があったからね。君がマネージャーを務めているスクールアイドルに」

と談笑する二人。

一方のμ'sの面々は驚いていた。

「あの人、テレビで見たことあるにゃ…」

サイモン・マスラニ…世界的に有名な大富豪にしてマスラニ・グローバル社のCEO…」

「そんな人と知り合いってあかりちゃんは一体…」

と思い思いに言う一年生組。

あかりは手招きでμ'sの面々を呼ぶ。

「みんなに紹介するよ。彼はサイモン・マスラニ。

マスラニ・グローバル社のCEOで、今回の海外ライブを依頼した人なんだよ」

「やぁ、μ'sの皆さん。噂は聞いているよ。私がサイモン・マスラニだ」

とマスラニは日本語で自己紹介をする。

「立ち話も何だし乗ってくれ」

マスラニに促され、一行はトレーラーへ乗り込むのだった。

 

 

トレーラーの中はまるで高級ホテルの部屋の様であった。

中央に置かれたテーブルを左右から挟み込む形でソファが配置されている。

右側のソファに前方から海未、穂乃果、ことり、花陽、凛が座り、左側のソファにはあかり、希、絵里、にこ、真姫が座る。

マスラニは一人用のソファに座る。

「あの、マスラニさんってあかりちゃんとお知り合いのようですけど…どの様な関係なんですか?」

そう尋ねるのはことりだ。

「友人さ。それにあかり君は私の“命の恩人”でもある」

「もしかして…ジュラシック・ワールドの件ですか?」

「あぁ、良く知ってるね」

と絵里にマスラニはそう答えた。

「以前、あかりが話をしたんです。ジュラシック・ワールドでの出来事を」

と付け加える海未。

「日本語、お上手ですね」

花陽に対しマスラニはこう返した。

「日本語はあかり君の両親が教えてくれたり独学で学んだりしたよ。

あかり君の両親とは仕事仲間で、友人でもあった。

それがまさか、その娘であるあかり君とジュラシック・ワールドで出会う事になるとは思いもしなかったよ。

彼女やヴェル君が居なかったらあの事件の犠牲者はもっと多くなっていたかもしれないし…私も生きていなかっただろう」

マスラニはそう言った後、あかりにある事を尋ねる。

「そう言えば、“あれ”はまだ持っているのかい?」

「勿論だよ。だってこれはあの子の忘れ形見だからね」

そう言ってあかりが胸元から取り出したのはあるネックレスだった。

「ネックレス…?」

「これって歯よね?」

穂乃果とにこの言葉にあかりは頷く。

「うん、そうだよ。これはインドミナス・レックスの歯。

ヴェルが見つけたんだよ…あの子が死んだ後に」

あかりの脳裏に“インドミナスの最後”が過ぎる。

「それからはこうしてペンダントに加工して肌身話さず持ち歩いているんだよ…あの子の事を忘れない為にも」

 

 

 

 

それから一向はホテルへ到着、マスラニは仕事があるからとあかり達と別れた。

「さて、今回のライブに関してだけど、どこでするかは自由よ」

「どこでライブをすればμ'sらしいライブになるか、よく考えてライブ場所を選ばないと」

絵里とあかりの言うとおり―ライブ会場の指定はないのだ。

「という訳で当日までは午前は練習、午後からは場所探しって事で良いかな?」

あかりがそう言った後

「あかりの意見に賛成の人~」

というにこの言葉に皆は手を挙げて賛成の意を示す。

「それじゃ、次は部屋割りやね。部屋割りはくじ引きで」

希はそう言ってくじを出す。

「二人部屋と三人部屋がそれぞれ二部屋ずつ、くじには1~4の数字が振ってあるから同じ番号の人と同じ部屋になるって事や」

そして、くじを引く面々。

結果、二人部屋にはことりと海未、凛と花陽が割り当てられ、三人部屋には希と真姫とあかり、穂乃果とにこと絵里が割り当てられた。

 

希・真姫・あかりの部屋。

「真姫ちゃん、あかりちゃん、ジュース買ってきたよ~」

「ありがとう、希」

「ありがと~」

希は冷蔵庫へ、あかりにコーラを渡した後、真姫の分のジュースを冷蔵庫に入れる。

「あっ…」

「どうしたんだい?」

「これ…」

希が発見したのは真姫の作曲ノートだった。

早速読み進める二人。

今まで歌った楽曲の楽譜も多い中

「この曲…あかりちゃん、何か知ってる?」

「いや、これは私も始めて見たよ」

二人が見つけたのは二人の知らない曲の楽譜だった。

何見てるのよ?」

シャワーから出て来た真姫が二人に問う。

「「ごめん」」

謝る二人に

「別に良いわよ」

と返す真姫。

あかりはこの曲について訊こうとするが、先に

「真姫ちゃん、この曲…」

希が口を開いた。

「これは私が好きで描いてる曲だから」

と返す真姫だったが…

(やはり真姫は…)

あかりは真姫が作ったこの“二つの新たな曲”をどこかで使いたい、とそう思っていた。

(スクールアイドルとして活動出来るのは在学中まで。

4月からは完全に新学年に移行するから―μ'sの“スクールアイドル”としての活動のリミットは今月末まで…よし、だったら…)

この時からあかりはある計画を立てていた。

 

 

 

 

(…μ'sの“本当”のラストライブ、やらないとだね…!)

 

 

 

 

これより綴られるのは9人の歌の女神たる少女達とある鋼鉄の戦女神たる少女の最後の物語。

 

 

 

 

血塗られた咎人であった己を救ってくれた彼女達に尽くそうと決心した鋼鉄の戦女神が彼女達と共に歩んできた話。

 

 

 

 

今、最後の―彼女達の物語の最終章のページが開かれるのであった。

 

 

 

 

To be coninue



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第59話『出会ったのは…』

翌日の朝。μ'sの面々はランニングをしている。

出発前、穂乃果とにこは絵里に対し何やら微笑ましい眼差しを向けていたが…何があったのだろうか、とあかりは思ったが聞かない事にした。

 

あかりは皆の後方に続きつつ4月1日に行う予定のラストライブまでの日程を考えていた。

(日本に帰ったら準備しないと)

と考えていたら、凛が何かを発見したのだ。

「屋外ステージだね。よくミュージシャンとかが此処で演奏してたよ」

と皆に解説するあかり。

「ねぇ!ステージに立ってみない?」

穂乃果の提案に皆は頷く。

「いや~やっぱり皆が並ぶと絵になりますなぁ~」

と感嘆するあかり。

「何だか踊ってみたくなっちゃうね」

「じゃあ、踊ってみる?」

花陽の言葉を受け、絵里はそう提案した時

「Hello!」

大学生くらいのアメリカ人女性三人組が声をかけてきた。

「は、ハロー~」

と返す穂乃果。

「『あなた達、日本から来たの?』」

と問う女性。

「イ、イェ~ス!ウィーアージャパニーズスチューデント!」

と返す穂乃果。

「『あなた達、ミュージシャンとかアイドルか何かなの?』」

「うぇ!?えぇと…」

「何て言ってるのですか?」

「どうやら怒ってはないみたい」

「それは見てればわかります」

そんな中、助け舟を出したのは

「『そうだよ!私達はスクールアイドル!私達はμ'sってグループなの!』」

希だった。

「『スクールアイドル…?』」

頭を傾げる女性達。

「『スクールアイドルとは、今日本で大流行しているアイドルグループ達の事だよ。

事務所に所属してるんじゃなくて学校に属している。

彼女達はこれでも日本で有名なスクールアイドルなんだよ。

そして、私は彼女達のマネージャーさ』」

とあかりは付け加える。

「『スクールアイドル…面白そうね!

そうだ!この街には他にも素晴らしい場所があるから見て回ってみてね!じゃあね~』」

「『うん!ありがとう!』」

と希はその場を後にする手を振る。

「他にも素晴らしい場所があるから見て回ってみて、だって」

と皆に伝える希と

「だって」

「だってばさ」

会話の内容を理解していた絵里とあかり。

「流石、南極に行ったるするだけの事はあるにゃ…」

と希に対しそう呟く凛だった。

「よし!今日はここでちょっと練習してから予定通り見て回ろうよ!」

穂乃果の言葉に皆は頷いた。

それから一行は街を見て回った。

「このマジソンスクエアガーデンで200匹近くのジラが…」

と呟くあかりがいたりしつつ皆はニューヨーク観光を楽しんだ。

 

その日の夜。

「素敵な場所が多くてなかなか決まらないね」

と呟く穂乃果。

「そうか…わかったよ!この街って少し秋葉に似ているんだよ!」

「凛ちゃんもそう思ってたんだね!」

ことりの言葉に凛は頷く。

「毎日少しずつ変化していき、どんなものも受け入れる、それはこの街も同じなんだよ」

「流石あかり、何年もこの街に住んでただけの事はあるわね」

そう言う絵里に対しあかりはまぁね、と笑みを浮かべて返し、穂乃果はこう続けた。

「だからこそ、どんな場所もμ'sのステージに相応しいんだよ!」

穂乃果がそう言った後、あかりはこう提案した。

「ねぇ、みんな。私、ある事を思いついたんだよ。

ライブなんだけどさ、私の思い出の場所があるんだけど其処でやらない?」

「あかりの思い出の場所…?」

「それってどこなのよ?」

真姫とにこにあかりはこう返した。

「みんな、私がこの体に慣れるまでこの街でリハビリをしてて、希と出会ったって話、覚えてる?」

「えぇ、覚えてます」

「ある日、“その場所”に希と一緒に行って、とても綺麗だなって心に強く印象に残った場所があるんだよ。

それでさ、今回の話を受けた時に今度はμ'sのみんなと見たいなって思ったんだよ」

その言葉に希は“その場所”での出来事を思い出す。

「あかりちゃん、まさか…」

希の言葉にあかりは頷き、こう提案した。

 

 

 

 

「ライブの会場…タイムズスクエアでどうかな?」

 

 

 

 

その提案に反対する者は誰もいなかった。

 

 

 

 

ある日の夕方。

「花陽ちゃんが…泣いている…」

穂乃果の言葉通り、花陽は泣いていたのだ。

「にこちゃん!かよちんを泣かせた事したのかにゃー!?」

「私は何もしてないわよ!」

そんなやり取りはさておき、絵里は

「どうしたの?具合が悪いの?」

と尋ねるが花陽は首を横に振った。

「―いが…」

何やら言い始めたが、声が小さくて聞き取れなかった。

「白米が食べたいんです!此処に来てからというもの、毎日パン!パン!パン!白米を食べてないんです!」

そう、花陽はお米―というか白米に対し強い拘りを持っているのだ。

「でも、“ライス”ならこの前付け合わせで―」

という海未の言葉を

「白米は付け合わせじゃなくて主食!パサパサのサフランライスとは似て非なるもの!」

バッサリと切り捨てた。

その後も白米に対する熱弁が続く。

「凄い…白米への拘り…」

「ホームシックならぬライスシック…いや白米シックか?」

熱弁に対する穂乃果とあかりの感想である。

「真姫ちゃん、あかりちゃん。“ご飯”が食べれる店、知らない?」

そう尋ねる希に

「知らなくはないけど…」

「いや~彼処には何度かお世話になったよ」

と真姫とあかりは返した。

 

かくして一行は日本食レストランで夕飯を食べる事なった。

花陽は待望の“白米のご飯”を食べられて満足していた。

「まさに白米の天使」

と言うのはあかりの談だ。

 

 

 

 

その後、皆は地下鉄に乗ってホテルへ帰る予定だったのだが…

 

 

 

 

「もしかして…地下鉄、乗り間違えた?どうしよう!?」

と頭を抱える穂乃果。

 

 

実は改札を通る時にもたついてしまい、急いで地下鉄に乗った…のだが、ホテル前の駅に着く電車とは別の電車に乗り間違えたのだ。

「うぅ…ホテルの周辺ってこんな感じじゃなかったし…」

穂乃果は怯えていた。

見知らぬ土地で皆と離れて一人ぼっち。

言葉も通じないから頼る事も出来ない。

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

歌が聞こえた。

 

 

 

 

それを歌っているのは日本人らしき少女だった。

年は自分より少し下だろうか…

 

 

少女は街中を楽しそうに歌いながら歩いていた。

 

 

その歌声を耳にした人々の中には気になって彼女の方を振り向く者もいる。

続いて彼女が歌い出したのはある日本語の曲だった。

 

 

穂乃果はその曲に聞き覚えがあった。

以前、あかりが聴かせてくれた曲―あるアニメの主題歌だ。

 

 

 

 

少女が歌い終えた後、穂乃果は彼女とふと目が合った。

穂乃果は少女に拍手をして

「歌、上手だね!」

と誉める。

「ありがとうございます」

と少女は笑みを浮かべて返すのだった。

 

 

 

 

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第60話『Angelic Angel』

「まぁ、偶にいますよ。あなたみたいに迷子になってしまう人」

少女―立木絢弥と名乗ったの言葉に恥ずかしさで顔を赤くする穂乃果。

穂乃果は絢弥に自分は今迷子であると話し、少女はホテルやその周辺の特徴について尋ねて、その場所まで案内する事にしたのだ。

「しかしホテルの名前もわからないとは…」

「め、面目ない…でも、絢弥ちゃん凄いね!大きな駅の大きなホテルって言っただけで分かるなんて!」

穂乃果のリアクションに絢弥はクスクスと笑う。

首を傾げる穂乃果に絢弥はこう返した。

「あなた、リアクションがオーバーですね。

あっ、そのホテルには大きいシャンデリラがありましたか?」

「うん!あったよ!」

「でしたら彼処です。この辺りは仕事で住んでいますから分かります」

「こっちに来て結構長いの?」

「そうですね。数年くらいになりますね」

一泊置いて唐突に少女は問う。

「あの、今“迷って”たりしますか?」

「えっ、どうしてそれを…」

「何となく顔を見てたら」

絢弥の言うとおり―穂乃果は“迷って”いる―いや“矛盾する願い”を持っているのだ。

μ'sは三年生の卒業を以て終わりにする―そう決めた筈なのに今では皆とμ'sとしていられる時間が永遠に続いて欲しいという“決意”と矛盾した願いを持っている。

「うん、そうなんだよ…皆で話し合って決めた筈なのに…それと矛盾する願いを抱くようになって…

私、仲間と一緒に日本でスクールアイドルをやってて…三年生の卒業を以てそのグループとしての活動を終わりにするって皆で話し合って決めて納得したのに…

何故か最近になってこの時間が―皆と一緒に活動していく時間がこれからもずっと…永遠に続いて欲しいって思う様になって…」

「続ければ良いんじゃないんですか?スクールアイドルという枠に捕らわれずプロのアイドルとしてデビューする道もありますよ」

「でも…」

「あっ、勘違いしないでくださいね。あくまでもそういう選択肢もあるってだけですから。

“願い”を優先して続ける道を選ぶか、それとも“決意”を重んじて解散する道を選ぶかはあなた達の自由であなた達自身で選ばなければなりません。

だから、私がとやかく言う権利はないんですが…

これだけは言わせてください。後悔だけはしない様に」

「絢弥ちゃんは後悔していることがあるの…」

穂乃果の言葉に絢弥が一瞬だけ表情を暗くし

「はい…あります。…あっ、でも今の生活は幸せですよ」

笑みを浮かべた後だった。

「穂乃果!」

自分を呼ぶ声をした方を向くと海未が―皆がいた。

「みんな~!」

皆の元へ駆け寄る穂乃果に

「何をやってたんですか!」

と海未は怒鳴る。

「どれだけ…心配したと思ってるんですか…」

と涙目で言いながら海未は穂乃果を抱き締める。

「うん…ごめんね」

「全く、穂乃果は昔から忘れた頃に今回みたいなうっかりを起こすんだから」

と言うあかりに穂乃果は言い返せない。

「そうだ、実は此処まで案内してくれた子が―」

と穂乃果は絢弥を紹介しようとしたが…彼女の姿は既になかった。

「いたんだけど…」

「う~ん、もう行っちゃったんじゃないかな」

とあかりは推測する。

「とりあえず、明日も早いしそろそろ寝ましょう」

絵里の言葉に皆は頷き、ホテルへと入って行く前

「ねぇ!みんな!」

穂乃果は呼び止める。

「今日は心配をごめんなさい!」

「皆、気にしてないわよ。その代わり、明日のステージはあなたが引っ張って最高のステージにしてよね」

と笑みを浮かべていう絵里に穂乃果は笑顔で頷いて返すのだった。

 

 

 

 

翌日、ニューヨークのタイムズスクエアではライブへの準備が行われていた。

μ'sの面々はホテル内にあるジムでリハを行ってからこちらに来る予定だが、あかりは先にタイムズスクエアに来て準備を先導していた。

「『それはこの位置にセットしてください』」

と英語でスタッフに指示を出すあかり。

あかりの的確な指示とスタッフの迅速な対応によってステージはあかりの想定してたよりも早くセット出来た。

「ふぅ…思ってたよりも早く済んだね…後は本番を待つのみ」

と呟き、あかりは時刻を確認する。

時刻は丁度お昼時。

どこかで昼食を済ませておこう―と考えていた時だった。

「『あかり』!」

と聞き覚えのある声に思わず振り向くあかり。

「『オーウェン!クレアさん!レノックス!』」

アメリカにいた時の上司とイスラ・ヌブラル島で共に戦った仲間がいたのだ。

「『元気してた?』」

と問うクレアに

「『うん、何とか元気してたよ~今日は来てくれてありがとう!』」

「『共に戦った戦友の誘いだ。断るわけないだろ?』」

とオーウェンは言う。

ふとあかりはオーウェンとクレアの指にはめられた指輪に気付く。

「『その指輪…まさか…!?』」

「『あぁ、そのまさかさ』」

「『お腹の中には赤ちゃんもいるのよ』」

「『オーウェン、クレアさん、おめでとう!』」

とあかりは二人を祝福する。

「『今日のステージ、楽しみにしているぞ』」

レノックスの言葉に

「『うん、楽しみにしててよ!』」

あかりはそう返したのだった。

 

 

あかりはレノックス達と昼食を食べ終えた後、最終チェックを行い始める。

「あかりちゃーん!」

振り向くと穂乃果が手を振っていた。

「皆、ステージの方は準備万端だよ!」

「これまた凄いステージやね」

「もうちょいステージのセッティングに時間がかかるかと思ったけど、スタッフの皆さんが優秀で予想より早く済んだよ」

「それじゃ、私らも準備に取り掛かるわよ~」

にこの言葉に皆は頷いた後、控え室へと向かい、今回の衣装へと着替える。

 

そして、夜になり、ライブが始まった。

まずこのライブに備えて作った曲『輝夜の城で踊りたい』を披露した後、次の曲のセンターである絵里が挨拶をする。

「『皆さん、こんばんは!今日はお集まりいただきありがとうございます!

私達はμ'sという日本で活動しているスクールアイドルです。

ところで“スクールアイドル”を皆さんはご存知ですか?

スクールアイドルとは、その名の通り学校で結成されたアイドル達の事です。

今日はそのスクールアイドルの素晴らしさをみなさんにお伝えしたくて、日本からライブをしにやってきました。

それでは、最後までよろしくお願い致します!』」

絵里の挨拶の後、照明は暗転し、μ'sの面々はそれぞれの各々の定位置へと移動し、静かに曲の始まりを待つ。

 

 

そして、曲の始まりと共に彼女達は舞い始める。

 

 

 

 

着物をイメージした衣装に黄金に輝く扇子を持って舞うμ'sの面々。

その扇子を作ったのはあかりで、徹夜して作った自信作だ。

扇子が夜の街の光を反射して残像を残す光景はどこか幻想的でもあり、そんなステージの上で心から楽しそうに舞い踊る彼女達に人々は魅了される。

 

 

 

 

このライブの為に作られたその曲の一つ『Angelic Angel』。

 

 

 

 

その日、“9人の歌の女神”達は言葉の壁を越えて人々の心を魅了し、人々は“9人の歌の女神”に惜しみない拍手喝采を送るのだった。

 

 

 

 

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第61話『決意、決めし者と迷いし者』

音ノ木坂学院・アイドル研究部部室にμ'sの面々やあかりは集まっていた。

ニューヨーク・タイムズスクエアでのライブは大盛況に終わり、日本へと帰国したμ'sの面々とあかりだったが…

「まさか、此処まで大人気になるとは…」

今のμ'sの人気っぷりはあかりですら想定してなかったレベルだった。

 

帰国するなり空港で大勢のファンに出待ちされ、海外ライブがライブ中継されたことで秋葉原だけではなく全国から注目されているのだ。

「ファーストライブから今までの動画の再生回数も大幅に上がってるし…本当に有名人じゃん」

と感想を漏らすあかりだったが…

「でも、これだけ人気が出ると…次のライブを求められるのは必然ね」

絵里の言うとおりなのだが…

「実はその事なんだけどね…私に考えがあるんだよ」

皆の視線があかりに向けられる。

「実はニューヨークでずっと考えてたんだよ。

μ'sの“本当のラストライブ”の日程とかね」

「ラストライブ…!?」

穂乃果の言葉にあかりは笑みを浮かべて頷く。

「μ'sは終わりにするって、私達以外には知られてない事だし、このラストライブで皆に発表して綺麗さっぱり終わりにする。

丁度、真姫が相応しい曲を作ってたからね」

「そうやね…しかも二曲も」

その言葉に知らなかった者達は驚く。

「でも、終わると分かっててどうして…?」

と疑問に思うことり。

「あれで終わりって思ったけど…あの後色々あったでしょ?

だから、私なりのけじめとして…

ただ、発表する予定はなかったのよ…其処の二人に知られるまでは」

そう言って真姫は愛用の音楽プレイヤーを出し、その二曲を順に再生する。

 

その二曲に皆は『この上なくμ'sのラストに相応しい曲である』と感じた。

 

「こんなに良い曲があるならやらないともったいないよ!

海未ちゃん、この歌に詩を作れないかな?」

「実は、私もアイデアを書きためてて…今すぐにでも始められます!」

「実は私も向こうで衣装ばっかり見てたんだ~」

海未とことりの言葉を聞いた後、穂乃果はあかりの方を向き

「あかりちゃん、当日のスケジュールとかお願い!」

「やるんだね」

あかりの言葉に皆は頷く。

「んじゃ、会場はまだ決まってないけど、ライブは3月31日に行う予定だからそのつもりで宜しくね!」

 

 

“本当のラストライブ”に向けて皆の志気が高まっていた時だった。

 

 

「ちょっと、良いかしら?」

と理事長は穂乃果、あかりを呼び出した。

 

「続けて欲しい…?」

「えぇ。スクールアイドルの中でも圧倒的な知名度と人気を誇るA-RISEとμ's。

ドーム大会を実現する為にはあなた達の力が必要不可欠―だからこそμ'sには活動を続けて欲しいと皆が思っているのよ。

スクールアイドルとしての活動が難しいのなら別の形でも構わないから」

 

理事長からの話の内容を穂乃果とあかりは皆に告げる。

「これからラストライブに向けての話をしてたのに…」

と呟く花陽。

「私は反対よ。確かに私達が此処まで来れたのもラブライブの存在が大きいけれどそこまでする義理はないわ」

「真姫の言うとおりよ。それに、あの時決めたじゃない!終わりにするって…あの時の決意を無駄にしたくない」

と継続か解散かで悩む面々。

「あかりちゃんはどうなん?」

「私には決められないし決める訳にはいかない。私は助言くらいなら出来るけど…最終的な判断を下すのは皆自身だからね。

だけど、忘れないで?私は皆の決断に従うよ…ただ、本当にその決断で良かったのか…後悔しないように考えてね」

そう言った後、あかりは仕事が入ったので其方へ向かった。

「後悔しないように、ね…あかりが言うと重みが違うわね」

と呟く絵里。

あかりは“選択を誤り”、それによって両親を失うという大きな後悔を抱えて生きてきた。

だからこそ、此処にいる誰がそれを言うよりもその言葉に重みがあるのだ。

 

 

 

 

解散か存続か…そのまま決まらずその場は解散となった。

ことりは念の為にラストライブ用の衣装を、海未は真姫が作った二曲に歌詞を書いたりしていた。

一方の穂乃果は自宅で“選択”を迷っていた。

「お姉ちゃん、ちょっと良いかな?」

部屋に入ってきたのは雪穂だった。

「お邪魔します!」

と亜里沙も続く。

「亜里沙ちゃん、ロシアには帰らなかったんだね」

「はい、これからスクールアイドルを始めるって時なのにおちおち帰れません!」

「で、二人ともどうしたの?」

「実は、練習場所について相談したいんだけど…どこが良いかな?」

「う~ん、そうだねぇ~

やっぱり屋上かな?広いし音を気にしなくて良いし!雨が降ったら使えないってデメリットもあるけど…」

「でも、屋上はお姉ちゃん達が…」

「大丈夫だよ!」

と返す穂乃果なのだが…少し元気がなかった。

「楽しくないですか?」

「楽しい…?」

「私、μ'sの皆には楽しくいて欲しいです!楽しそうに歌って踊って…私はそんなμ'sが大好きなんです!」

 

 

同じ頃、仕事を終えたあかりとヴェルはバーガーショップを訪れていた。

「どうしたんだい、あかり。浮かない顔をして」

「うん…実はμ'sのファイナルライブの話をしてた時に理事長から続けて欲しいと頼まれたんだよ」

「それで、解散か存続かで迷っている…そんなところか」

「流石ヴェル。お見通しって事かな」

「何年の付き合いだと思ってるんだい」

「まぁ…そうだね」

「それで、あかりはどうするんだい?」

「私は…皆の選択に従う。マネージャーである私が決めるべき事じゃなくて皆が決める事だから。解散しようが存続しようが私は皆の意思を尊重する」

「そっか…あかりがそうしたいのならそうすれば良い。どんな結果になろうとも私はあかりの味方である事に変わりはない」

「ヴェル…」

(もう、そんな事言われたら惚れちゃうって…結構前から惚れてたけど。

だって前々から思ってたけどヴェルは美人でかわいくてかっこいいんだよ!嫁にしたいぐらいだよ!)

「それでなんだが…あかり。一つ相談したい事がある」

「相談って?」

「うん…実は雪穂と亜里沙から一緒にスクールアイドルをやらないかと誘われた」

「ほほぅ…で、何と返したんだい?」

「考えさせて欲しい、って返した…仕事もあるし…それに…」

「でも、スクールアイドルの活動に興味あるんだよね?」

あかりの言葉に頷くヴェル。

「私は“私怨で血塗られた存在”だからアイドルになる資格はない、って思って穂乃果ちゃんからのスクールアイドルを一緒にやらないかって誘いを断った。

でも、彼女達の力になりたい―そう思ったから私はμ'sのマネージャーになって…一度は止めかけたけど、皆が私の事を―私怨による復讐で血塗られた私の事を受け入れてくれたから私は“本当の意味”でマネージャーになろうって決心した。

だけど、形はどうあれ誰かを守る為に行動したヴェルは私怨で手を汚した私とは違う。ヴェルはヴェル自身のやりたい用にやったら良いんだよ。

スクールアイドルとして雪穂ちゃんや亜里沙ちゃんと一緒にやっていくのもありだし、私みたいにマネージャーとして支えていくのもありだし…

でもね、どんな選択をしようと私はヴェルの味方である事には変わりはないからね」

その言葉を聞いたヴェルは決心がついたのか清々しい笑顔で

「ありがとう、あかり」

と礼を言い、雪穂と亜里沙の元へ向かって走り出した。

 

「雪穂!亜里沙!」

と呼び止めるヴェル。

「ヴェル…どうしたの?」

「どうしても話したい事が…直接会って話したい事があったからこうして来た」

「話って?」

亜里沙の言葉の後、ヴェルは自身の決意を述べる。

「あの時…二人は誘ってくれた…スクールアイドルをやらないか、って。

私は迷ってた…仕事の事もあるし…形はどうあれ私も罪を犯しているから…でも、色々考えて分かった事がある。

私はあかりの様に皆を支える立場に…マネージャーになりたい。

仕事をやりながらだから二人に迷惑をかけるかもしれない!だが私は」

ヴェルが続きを言う前に雪穂と亜里沙はヴェルを抱き締めた。

「迷惑だなんて、そんな事、私達は思わないよ」

「ヴェルちゃん、一緒に頑張ろうね!一緒に楽しもうね!」

暖かい二人の言葉にヴェルは涙を浮かべてこう返した。

「スパシーバ…!」

それはロシア語でありがとうを意味する言葉であった。

 

 

 

 

一方、穂乃果は迷い続けていた。

「あぁ~!どうすれば良いのぉ!」と頭を抱えていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

 

 

 

穂乃果は万世橋にて明乃と瓜二つの少女―岬風明乃と知名谷もえかと出会ったのだった。

 

 

 

 

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第62話『見つけた答え』

穂乃果が偶然出会った二人のアデプトテレイター―岬風明乃と知名谷もえか。

と苦笑いを浮かべる“彼女”。

「明乃ちゃん…?どうして此処に…?」

「どうして私の名前を…?」

と驚きの表情を浮かべる明乃。

「私だよ!高坂穂乃果だよ!!」

穂乃果の言葉で二人は状況を把握し、こう言った。

「えっと、明乃違いですね…私はネストの特殊隊員の岬風明乃です」

「同じく知名谷もえかです」

二人はその後、あかりやヴェルに会いに行くついでに街を探索している事を話した。

「なるほど、そうだったんだね。ごめんね、勘違いしちゃって」

「いえ、普通そうなりますから気にしないでください」

「それより穂乃果さんはどうして此処に…?」

「実は…」

穂乃果は帰宅しながらμ'sを解散させるか存続させるかで悩んでいる事を話した。

「そうたったんですか…あっ、そうだ!モカちゃん、つばめさんが暇潰しに作ってくれたのがあるよね」

「うん、あかりさんやヴェルさんにも感想を聞いて欲しいって頼まれたあれが!」

もえかはリュックサックからある装置を取り出し、それを明乃に渡した。

「目を瞑ってみてください」

穂乃果は明乃に言われた通りに目を瞑ると機械音が響き、目を見開くと大きな水溜まりがあった。

「あなたの脳内イメージを勝手ながらスキャンしてみました。簡易的なシミュレーターです」

「これ…」

と呟く穂乃果の脳裏に幼い頃のある光景が浮かぶ。

幼い頃、大きな水溜まりを見つけたら必ず飛び越えようとした。

たとえそれが無意味だとしてもだ。

ことりは無理だと言い、海未やあかりは何も言わず見守るのみ。

そんな中、穂乃果は何度も挑戦した。

何度も失敗して泥んこまみれになったとしても、どれだけ膝を擦り剥いたりしても、最後の最後には、飛び越える。

スクールアイドルの活動だってそうだ。

最初は完敗からのスタートだった。だが、穂乃果は諦めず進み続けた。

そんな彼女の元に一人、また一人と集まっていった。

困難が待ち受けようとも乗り越えてきた。そして、此処まで辿り着いたのだ。

 

穂乃果は走り出す。あの水溜まりを飛び越える為に。

そんな穂乃果に明乃はエールを送る。

 

 

 

 

「「飛べるよ!いつだって飛べるよ!」」

 

 

 

 

翌日。穂乃果の元にメールが届いていた。

『穂乃果、元気?絵里です。

あれから私と希、にこは集まって話をしました。

ラブライブの力になれる事、とても嬉しく思います。

そして、μ'sを続けるか否か―話し合ったら答えは三人とも一緒でした。

μ'sを続けるつもりはありません。なぜなら―』

その後に続く理由。

それは昨日、穂乃果の出した答えと同じだった。

いや、同じ事を海未やことり、真姫、凛、花陽、そしてあかりも思っているだろう。

「私達はスクールアイドルである事に拘りたい、その通りだよ、絵里ちゃん」

そして、この場にいない“彼女達”に伝えるかの用に穂乃果は呟いた。

「見つけたよ、私の答え。

私はスクールアイドルが好き―お互いが競い合い…そして、手を取り合っていく。

そんな、限られた時間の中で精一杯輝こうとするスクールアイドルが大好き!だから―」

穂乃果は走り出す。皆が待っているであろう音ノ木坂学院の屋上へ向かって。

屋上では案の定、皆が待っていた。

「そろそろ練習を始めないと、ね?」

絵里の言うとおりである。

そんな中、あかりは穂乃果に問う。

「穂乃果、決まったんだね「

「うん、決まったよ。μ'sはスクールアイドルであればこそ…だから、此処でおしまいにする」

「でも、私達が辞めたらドーム大会は―」

と花陽が続きを言おうとした時

「それも実現させる!」

と穂乃果は言った。

皆が驚く中、あかりは

「考えがあるんだね」

と尋ね

「うん、最高に楽しいライブをやるんだよ」

穂乃果は自身のアイデアを皆に語る。

皆は驚き、あかりに至っては大笑いし

「まさか、こんなアイデアを思い付くとは…最高のアイデアだよ!全く、穂乃果には適わないよ!」

と感想を述べる。

「こ、これは凄いイベントに…!」

「花陽、これは凄いってレベルじゃないわよ!」

「にこの言うとおりさ!このイベントはスクールアイドル史―いや、アイドル史に残る“伝説”となる!」

「伝説…良い響きにゃ!」

「面白そうやね!」

「これは準備が大変になるわね」

「スケジュールとか決めないといけませんね」

「あかりちゃん、スケジュールは大丈夫?」

ことりの言葉にあかりはこう返した。

「私が立てたプランだとそのライブをラストライブの一週間前に行う。だから、あまり時間はないし皆にとってハードなスケジュールになるよ」

あかりの言葉に皆は賛成の意を表して頷く。

「大丈夫!私達ならいけるよ!」

「じゃあ、さっそく準備に取りかかろう!まずは協力者を増やさないとね!」

 

 

 

 

UTX学院の応接室。

「ライブを?」

ツバサの言葉に穂乃果とあかりは頷く。

「はい、私達μ'sはやっぱり此処でおしまいにします。でも、このライブが成功すれば―」

「私達がいなくなってもラブライブのドーム大会は実現する。なる程、面白いアイデアね」

とツバサも賛成していた。

「ライブの決行はμ'sのラストライブの一週間ほど前に行う予定だよ。

ツバサ、協力してくれる?」

あかりの言葉にツバサはこう返した。

「えぇ、勿論よ。だけど、条件があるわ。

皆で―スクールアイドル皆で歌う曲をあなた達に作って欲しい。

私達も協力するけれど、あなた達が中心になって作って欲しい」

ツバサの条件に穂乃果とあかりは勿論、引き受けた。

その後、穂乃果はμ'sの面々にその事を伝えに行き

「それじゃ、私もマネージャーとしてやるべき事をやりますかな」

とあかりは呟いた。

 

今回のライブは秋葉の路上で行う―それにはまず警察の許可が必要だ。これはネストの“仕事”のコネがあるのですんなりクリアした。

次は今回のライブには他のスクールアイドル達も参加する―その中には当然遠方から来るグループもいるから彼女達が止まるホテルが必要となる。

これに関してだが、実はマスラニ社の傘下にある会社のホテルが秋葉にはいくつか存在するのでマスラニに掛け合う事にした。

「もしもし、マスラニの旦那」

『おぉ!あかり君か!そっちはどうだい?今、μ'sは凄い人気なんだろう?』

「うん、そうなんだよ~それで、実は秋葉の路上で全国のスクールアイドル達による大規模合同ライブを行う事になったんだよ」

『そいつは凄い事になったなぁ!で、それ関係で頼みたい事があるんだろ?』

「流石旦那、察しが良くて助かるよ。そのライブの件なんだけど、遠方から来るスクールアイドル達のホテルが必要で…確か秋葉には旦那の会社の傘下にある会社が経営するホテルがあったんだよね」

『あぁ、幾つかあるぞ。ホテルの確保と必要な物資の調達は任せてくれ』

「本当に良いのかい!?」

『勿論、協力するさ。後日また連絡しよう』

「本当に助かるよ、ありがとう旦那」

ジュラシック・ワールドの件で大損害を食らったとはいえ、流石世界有数の大富豪だ。

今では他の事業でジュラシック・ワールドの件で失った損害を回復しただけの事はある。

後は物資の調達や遠方から来るスクールアイドル達の移動手段の提供などもあるが…これも仕事のコネをフル活用してクリアした。

この時以上に仕事で出来たコネに感謝した事はない、と後のあかりは語る。

 

 

「―と言うわけで会場や遠方から来るスクールアイドル達が泊まるホテル、物資の問題はクリアしたよ」

「流石あかりちゃんやね」

「仕事の関係でいろんな所にコネがあるからね。

でも、問題は参加してくれるスクールアイドル達だね」

あかりの言うとおり、問題は参加するスクールアイドル自身だ。

二つ返事でOKしてくれるグループもあれば話を聞いてから、というグループもある。

「まぁ、急に参加してくれって言われても困るわよね…時間もあまりないし」

にこの言うとおり―そのライブまで残り一週間しかない。

それまで準備をしなければならないのだ。

更にあちら側の都合もあるだろうから二つ返事でOKする訳にはいかないグループもあるのだ。

そんな中、穂乃果がある提案をした。

「だったら、直接会って話をしようよ!

行ける範囲は限られるけど、行けるだけ行って話をしようよ!」

「でも、どうやって行くのよ?」

と真姫は問うが…穂乃果の視線が真姫とあかりに向けられ、それに合わせ皆の視線も二人に向けられる。

「みんな…まさかとは思うけど…」

あかりの言う“まさか”であった。

「真姫ちゃん!あかりちゃん!電車賃と移動の足をお願い!」

穂乃果の言葉に続いて

『『なる程!』』

と皆が言い

「なる程じゃないわよ!」

「やっぱりそう来たかぁぁぁぁぁぁ!」

と真姫とあかりはツッコミを入れたりするのだった。

 

 

 

 

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第63話『SUNNY DAY SONG』

あの後、真姫やあかりが用意した電車賃やあかりやヴェルが用意した移動の足(運転は特例免許を持っている彼女達が行う)に乗ってμ'sの面々は会える範囲にいるスクールアイドル達に会って直接話をした。

そんな地道な活動もあって参加グループは増えていった。

その一方であかりもライブを行う準備を引き続き行っていた。

物資やホテルの問題をクリアし、曲や衣装の方も順調に進んでいる。

全国のスクールアイドルから集まった“言葉”を作詞担当の海未は英玲奈と相談しながら詩にしていき、作曲担当の真姫はツバサとアイデアを出し合いながら作曲を順調に進めている。

「あの二曲を歌うんじゃないの?」

そんな真姫の姿を見てにこは疑問を希にぶつける。

「ウチもその事を言ったんやけど…あの二曲はμ'sの為の曲やから、って」

 

一方、部室と隣の練習部屋では…

「良い衣装ね」

「ありがとう~穂乃果ちゃんやあかりちゃんに言われて急いで作ったんだ」

そう言うことりに対し

「お互い、強引な相棒を持って大変よね」

とあんじゅは笑みを浮かべる。

だが、曲はともかく衣装は人数分やもしもの時に備えてある程度の予備を用意しなければならない。

「援軍を連れてきたぞ」

そう言って入ってきたのはヴェルだ。ヴェルの後ろには何人かの女子高生―スクールアイドル達がいた。

「皆、衣装担当だ。人手は多い方が良いだろう」

部室と練習部屋を使い、各グループの衣装担当やヴェルは衣装の製作に取り掛かった。

中には家事スキルがかなり高いにこの姿もあった。

 

一方のあかりは現場に立って皆を指揮していた。

「それはこの場所に設置してもらえるかな?」

見取り図やメモを見せては指示を与え、その的確な指示に合わせて皆は秋葉の街という巨大なステージを飾っていく。

出店の方も売上は順調だ。

出店ではスクールアイドル達が考案した料理やデザートを提供している。

その中には花陽が考案した白米スムージーなんていうのもある。

気が付けばスクールアイドル達やこれからスクールアイドルになろうとしている者達だけでなく、ヒフミトリオを始め多くの人々が参加し、ステージを作り上げたりしていた。

 

 

その日の夕方。ステージの設営も終わり、後は翌日の本番を待つまでだ。

多くのスクールアイドル達が本番に向けて盛り上がる中

「穂乃果、言うなら今だよ」

とあかりは穂乃果にある事を促す。

「ねぇ!みんな!」

穂乃果の呼び声にμ'sの面々は並び立ち、皆の視線はμ'sに向けられる。

一泊置いて穂乃果は自分達の決意を述べる。

「私達μ'sはこのライブの一週間後にやるラストライブを以て活動を終了する事にしました」

その言葉に前々から事情を知らなかった者達―あかりやヴェル、A-RISEの以外の面々は動揺する。

「私達はスクールアイドルが好き。

お互いが競い合い…そして、手を取り合っていく。

そんな、限られた時間の中で楽しんで、精一杯輝こうとするスクールアイドルが大好きだから、私達μ'sはスクールアイドルである事に拘りたい」

その決意に涙を流し始める者達もいた。

「―だからこそ明日は“終わりの歌”を歌いません!

明日はみんなで最高に楽しいライブをしたいから!」

 

 

(穂乃果、よく頑張ったね)

感情が高ぶって涙を浮かべていた穂乃果にあかりは心の中でそう呟くのだった。

(明日は最高のステージにしよう!)

 

 

その日の晩。あかりは明日に備えての準備を行っていた。

「こんな夜遅くまで準備か?」

そう声をかけてきたのはヴェルだった。

「うん、明日が本番だからね」

「無茶はするな…って人の事は言えないか」

ヴェルはそう言いつつあかりにエナジードリンクを手渡す。

「ありがとう。ヴェル」

私は一旦手を休め、夜景を眺めつつエナジードリンクを飲む。

「あの時…両親を殺され連中を殺して…アデプトマスターになった時は二度と“日常”に戻れないって思った…

だけど、今や一躍有名なスクールアイドルのマネージャーをやってて…“日常”と“非日常”の間を行き来している。何が起きるかわからないね」

「あぁ、その通りだな。私も…こんな日々が訪れるとは思わなかった」

一泊置いてヴェルはこう口にした。

「なぁ…あかり。ありがとう。今までハーフ&クォーターとして友達が出来ずひとりぼっちだった私にとってあかりは始めて出来た同年代の親友で…あかりからは大切なものをいろいろと、いっぱい貰った」

「いや、そんな…私の方こそヴェルには感謝しきれないよ…」

「なぁ、あかり。キスして良いか。ディープなやつ」

「(ちょ、この子はいきなり何て事を言うの!?かわいいけど!)でも、私はアイツ等に…」

「良いんだ。私はあかりが良いんだ」

「じゃあ…優しくしてね」

あかりとヴェルは唇を合わせ、そして互いの舌を口の中で絡ませる。

その時、二人は時間が長く感じたのだった。

 

 

(明日、ライブが終わったらヴェルと話をしよう…自分の思いと私達の“これから”の事を)

 

 

 

 

 

合同ライブ当日。あかり達は最終確認を行っているなか…

「…それにしても、私もこの衣装を着て良かったんでしょうか…」

「そうだよね…私達はスクールアイドルでも―」

「マネージャーでもないのに…」

と呟く二人の明乃ともえかに対し

「私だって着てるんだし問題ないよ」

「そういう事だ。今日1日中はそれを着るんだ」

「ハラショー!かわいいよ!」

「うん、似合っているよ」

とあかり、ヴェル、亜里沙、雪穂は言った。

他のスクールアイドルの皆さんも朝早く起きては最終確認やら準備を進めている。

「みんな、そろそろμ'sが来るよ!」

とあかりが呼びかけるとスクールアイドル達は整列し、μ'sの皆さんが来るのを待った。

 

 

μ'sの面々は街のある一角に集まったいた。

「昨日、言えて良かったわね。私達の事」

「これで心置きなくライブを楽しめるよ」

真姫に対し穂乃果はそう返した。

「そう言えばあかりはどうしたのよ?まさかの遅刻?」

「あかりなら準備したい事があるから先にUTX学院へ行ってると」

にこの疑問に海未はそう返した。

「それじゃ、誰が一番にUTX学院に着くか競走よ!」

最下位の人はジュース奢りね!」

絵里の言葉の後、皆はUTX学院に向かって走り出す。

穂乃果もまた走り出そうとしたが、ふと足下に落ちていた花びらを気付く。

(そう言えば、入学式の日もこんな感じに花びらが舞い落ちてたっけ…)

入学式の日の光景を思い起こしつつ、穂乃果は走り出す。

(あの頃はこうなるなんて、思いもしなかったなぁ…)

廃校の危機から始まった物語。

(私は学校の為に歌を―アイドルを始めた。そんな中で気付いた。私は歌う事が大好きなんだって)

その思いを胸にしつつ走っていた時だった。

「穂乃果!」

あかりの声に穂乃果は立ち止まり、その方角を向いた。

 

 

其処にいたのは今回のライブの衣装を身に纏ったスクールアイドル達の姿だった。

あかりやヴェル、A-RISEの面々、雪穂や亜里沙が、そして百人は越えるであろうスクールアイドル達が穂乃果を―μ'sが来るのを待っていたのだ。

「皆、穂乃果達の呼び掛けに応じて全国から駆け付けてくれたんだよ!」

あかりと

「あかりちゃんの言うとおり―あなた達の思いがこんなにも多くの人達の心を突き動かしたのよ」

ツバサと

「現在進行形でスクールアイドルである者達やこれからスクールアイドルになる者達、マネージャーなど陰で支える者達…

いろんな者達がいるが、今の我々は―」

ヴェルの言葉の後、この場にいる皆が口を揃えて言った。

 

 

『『私達はスクールアイドル!!』

 

 

皆の言葉に穂乃果は目頭が熱くなり、皆に呼び掛けた。

「みんな、本当にありがとう!

今日は大会と違ってみんなで作るライブです!

みんなで伝えよう!スクールアイドルの素晴らしさを!」

 

 

 

普段は互いに競い合うライバル同士―だが、今はみんな一つ。

 

 

 

 

多くのスクールアイドル達が―応援してくる人達も楽しそうに踊る。

 

 

 

 

みんなが一つになる曲。

 

 

 

 

それが『SUNNY DAY SONG』という曲だ。

 

 

 

 

ライブ終了後の夕方。

「みんな行くよ~」

あかりはカメラのタイマーをセットし、“皆の中”に入る。

皆は楽しそうにはしゃぐ。

「それじゃ、練習したあれ、行くわよ!」

ツバサは皆に呼び掛け、カメラのシャッターが切られると同時に合い言葉を口にした。

 

 

『『ラブライブ!』』

 

 

ライブの余韻を楽しむ面々。

「あかり」

ヴェルはあかりを呼び止める。

「最高に楽しいライブだったな!」

とこれまでにないヴェルの笑顔にあかりは魅了されつつこう返した。

「うん!最高のライブだったよ!」

 

 

だが、そんな空気を切り裂くかの様に警報が鳴り響き、あかりとヴェルの元に“連絡”が入る。

 

 

「全く、あいつらも少しは空気読みやがれってんだよ」

「同意見だ」

あかりとヴェルはすぐさま戦闘服に着替え

「みんな、この衣装を頼むよ。流石に汚したくはないからね」

と穂乃果達に自分達が着ていた衣装を託し、もしもの場合に備えて通信機を渡す。

「あかりちゃん…ヴェルちゃん…」

心配そうに見つめる穂乃果達。

「大丈夫!私達は皆の元に帰ってくるって約束するよ」

とあかりは笑みを浮かべて戦場へと向かう。

 

 

「ねぇ、ヴェル」

「どうしたんだい?」

「この戦いが終わったら話したい事があるんだよ」

「奇遇だな、私もだ。…死亡フラグ、立ててしまったな」

「でも、死ぬ訳にはいかないから、その死亡フラグ、へし折ろうよ!」

「あぁ…そうだな!」

 

 

 

 

そして、二人は標的がいる方向を向く。

 

 

 

 

相手はこれまでのジーオスとは比べ物にならないほどの強大な相手だ。

 

 

 

 

「行くよ、ヴェル!アデプタイズ!バルバトスマグナス、トランスフォーム!」

「あぁ、あかり!アデプタイズ!ドレッドバイト、トランスフォーム!」

 

 

 

 

鋼鉄の戦女神達は戦場へと赴く。

帰るべき場所を―護りたい者達を護る為に。

 

 

 

 

To be continue



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第64話『東京湾決戦』

日本・東京の街中。誰もいない街の中でそのトランスフォーマーは佇んでいた。

「古代の失われた世界が遺した生体兵器…それは未完成のままデータが遺されていた。

それを元に金属細胞を組み込む事で完成せし存在…ジーオス。

さぁ、始めようか…無限の可能性を秘めし失われた世界の怪獣たちよ」

そのトランスフォーマー―トクスレイダーは静かに不適に笑みを浮かべるのだった…。

 

 

東京湾に建造中だった人工島の一角にはジーオス変異種―ジーオスXと命名された個体が佇んでいた。

その人工島へと向かうバルバトスマグナスとドレッドバイト。

ジーオスXは彼女達―そしてネストの現主力MSであるストライクガンダムや戦闘機、戦車などの各種機体に搭乗したネストの隊員達やトランスフォーマーの姿を確認すると、無数のジェネラル級ジーオス達に攻撃命令を出す。

「こんな数のジェネラル級ジーオスなんて見たことないぜ!」

ジーオス達を切り裂きながらそうぼやくマグナス。

「奴がそれだけ異質だって事だろ!」

とドレッドバイトはジーオスを噛み砕きながらそう口にした。

 

 

一方、避難所となっている音ノ木坂学院では

「あかりちゃん…ヴェルちゃん…」

穂乃果達はあかりが繋いでくれたモニターから戦いの様子を見ていた。

「二人なら大丈夫です…」

「きっと、帰ってくるよ…」

海未とことりの言葉の後

「みんな、あかりちゃんとヴェルちゃんを信じよう」

と希は続けた。

「私達のトランステクターはまだなのかな…!」

と呟く岬風明乃。彼女ともえかのトランステクターは現在メンテナンス中だった。

「つばめさん達ならきっと間に合わせてくれるから、私達は何時でも出れるように準備しよう」

ともえかの言葉に岬風明乃は頷いた。

 

 

無数のジェネラル級ジーオスに加えジーオスXも触手を駆使してマグナス達に応戦していた。

「やはり奴を何とかしないと…」

とマグナスが呟いた時

『ジーオスXの解析結果が出ました!

ジーオスXの胸部に強大なエネルギー反応を確認、おそらくそれがコアです!』

というオペレーターからの報告。

「だったら…そのコアを破壊すれば奴は機能停止になる…

あかり!お前がコアを破壊するんだ!他のジーオス達は我々が何とかする!」

「OK、ヴェル!みんなも任せたよ!」

マグナスの言葉に皆は了解だ!と返し、マグナスは単身ジーオスXの元へ向かっていく。

ジーオスXは近付くマグナスを触手で攻撃、それをマグナスは回避しつつジーオスXに接近する。

 

 

空中では飛行ユニット“エールストライカー”を装備したストライクガンダムや飛行能力を持ったトランスフォーマー達、そして何機もの戦闘機が、陸上では近接攻撃特化の白兵戦用ユニット“ソードストライカー”や砲撃戦に特化した“ランチャーストライカー”を装備したストライクガンダムやトランスフォーマー達、そして無数の戦車達がジェネラル級ジーオスと交戦していた。

「さて、と…此処は私達で何とかするしかないか…」

と呟くドレッドバイトは迫り来るジェネラル級ジーオスを次々と切り刻んでいく中、ジェネラル級に混じって見たことないジーオスがドレッドバイトに襲いかかる。

「何だこのジーオスは…見たことないタイプだ…」

そのジーオスは翼がない代わりに前腕部が発達しており、まるで陸上戦闘に特化したかの様な個体だった。

「さながら陸戦特化型ジーオス―ジーオス・ランダーと言った所か」

陸戦特化型ジーオス―ジーオス・ランダーの攻撃をドレッドバイトは後方に下がりつつ回避、だがジーオス・ランダーも負けじと前腕部や尻尾、エネルギー弾でドレッドバイトに襲いかかる。

そうやって戦っていた時だった。

『緊急事態発生!東京湾から通常より巨大なジーオス・マリナーを中心とする別働隊が出現!奴ら本土へ上陸しようとしています!』

「クソっ!こっちで足止めして本土に上陸するつもりだったのか!」

と舌打ちするドレッドバイト。

だが、此処を離れて向かうのは困難である。

どうすれば、と考えていた時だった。

『本土に上陸しようとするジーオスは―』

『私達に任せてください』

突如としてヴェルの元へ届けられる岬風明乃と知名谷もえかの声。

「お前達…メンテナンスが終わったんだな!」

『先程終わりました!』

と答えるもえかにヴェルが

「そっちは任せたぞ!」

と言うと

『はい!任せてください!』

と岬風明乃は返した。

 

 

 

 

本土の海岸。岬風明乃と知名谷もえかは上陸しようとするジーオス達の姿を見据えていた。

彼女がそう言った後、現れる二機のトランステクター。

「「アデプタイズ!」」

「アルタリマス、トランスフォーム!」

「ホルンファング、トランスフォーム!」

そして彼女はトランステクターと融合する。

新たな敵の出現にジーオス達は警戒心を最大限にしてそのトランスフォーマーに襲いかかる。

アルタリマスは左手にハンドガンを、右手に刀を装備して次々とジーオス達を撃ち抜いては切り刻んでいく。

ホルンファングは斧やハンマーで切り裂いたり叩き潰したりする。

ジーオス・マリナーから次々とジェネラル級ジーオスが即座に生み出されては発進していき、海岸でジーオス達と応戦している二人に襲いかかる。

「やっぱりまずはジーオス・マリナーを仕留めないと…」

ホルンファングがそう呟いた時だった。海中から一機の航空機型トランステクターが現れ

「トランスフォーム!」

鋼鉄の巨人へと姿を変える。

更にそれに続くかの様に赤いMSが現れ、両腕の剣で切り裂く。

「明乃ちゃん!もえかちゃん!お待たせ」

「随伴機の小型マリナーは殲滅した」

「つばめさん!」

「絢弥ちゃん!」

合流してきたのは2機のアルタリマスに似た外見のトランステクター―ザンライを駆る立木つばめとその妹である立木絢弥だった。

「残ったマリナーは馬鹿でかいこいつだけだな…四人で仕留めよう」

「了解!」

「「はい!!」」

彼女達はジーオス・マリナーを見据える。

その後、アルタリマスとホルンファングは海岸にいる何機もの戦車達の援護を受けつつ水上をスケートするかの様に滑走しつつそれぞれの刀や斧で近付くジェネラル級ジーオスを切り裂いていき、ザンライ達はブラスターでジーオス・マリナーの背中にある次々とジェネラル級ジーオスを産み出しているプラントに

「砲撃始め!」

「ファイア!」

集中砲火を浴びせ、それによって装甲は溶かされていく。

「見えた!」

「奴のコア!」

そして露出したコアをアルタリマスとホルンファングはそれぞれの刀や斧で切り刻んでいき、それによってジーオス・マリナーは機能停止するのだった。

 

 

一方、人工島では…

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

ドレッドバイトとジーオス・ランダーの戦いが続いていた。

ジーオス・ランダーは右前足でドレッドバイトの大剣を掴み、それを奪い取って投げ捨て、左前足でドレッドバイトを殴り飛ばす。

「武器がなくなったとしても!」

ドレッドバイトは踏ん張り

「まだ拳がある!足がある!」

と蹴る殴るを繰り返し

「そして牙がある!」

ビーストモードへ変形し、ジーオス・ランダーの首に噛み付き

「ヒートファング!」

口内―特に牙に高熱を帯びさせて相手を溶かしながら噛み砕くヒートファングでジーオス・ランダーの首を溶かし、噛み砕き

「トランスフォーム!」

ロボットモードへと変形、そしてジーオスランダーのコアを引きずり出してそのまま両手で握り潰した。

「あかり…」

ドレッドバイトは他のジーオスの相手をしながら戦友の身を案じるのだった。

 

 

 

 

To be continue




用語&機体解説


・ネストの戦力
MSなども保有しているが、幾ら予算が潤沢と言っても生産コストやメンテナンス性など様々な問題でMSの配備数は戦車と比べると圧倒的に少なかったりする。
ネスト全体での配備数は
戦車全体>戦闘機全体≧MS全体=駆逐艦・空母などの艦船>トランステクター全体
となっている。
トランステクターの配備数が少ないのはアデプトマスターしか使えないからである。


・ストライクガンダム
元ネタは『機動戦士ガンダムSEED』の同名の機体。
ネストの主力MSであり、元ネタ同様ユニットの換装によって様々な戦況に対応可能な汎用機である。
前述の通り、元ネタよりも小さい(6~7メートル程)し装甲もPS装甲ではない。あと、基本カラーはトリコロールカラーではなくディアクティブモードに近い。


・エールストライカー
ストライクガンダム用の換装ユニットの一つ。
空中戦用の飛行ユニットである。
元ネタはストライクガンダムのストライカーパックの一つからで、大まかな点は元ネタと同じ。


・ソードストライカー
ストライクガンダム用のユニットの一つで、近接格闘戦に特化した白兵戦用ユニット。
大まかな点は元ネタと同じ。


・ランチャーストライカー
ストライクガンダム用のユニットの一つで、遠距離射撃による砲撃戦用のユニット。
大まかな点は元ネタと同じ。


・ザンライ
立木つばめと立木絢弥が使用するトランステクター。
モチーフはトランスフォーマープライムのダークガードオプティマスプライム。


・大型ジーオス・マリナー
通常のジーオス・マリナーよりも二回り以上も巨大な個体。
プラントと呼ばれるジェネラル級ジーオスを産み出せる器官を持つが、小回りが利かないといった弱点もある。
擬態能力の有無は不明。
モチーフは首長竜と空母。


ジーオスランダー
ジーオス派生種の一つ。空陸両用なソルジャー級やジェネラル級みたいな翼がなく、完全に陸上戦闘に特化した個体。
また、コア持ちジェネラル級と同じく体内にコアを有する。
外見上の元ネタはモンスターハンターシリーズのジンオウガから。



・ジーオスX
ジーオス派生種の一つ。
エネルギー弾だけでなく触手を使った攻撃も行う。
また、そのサイズは通常のジーオスの比ではなく、30メートル近くとバルバトスマグナスの3倍程の大きさがある。
元ネタやゴジラシリーズのビオランテや平成ガメラ三部作のマザーレギオンから。


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最終話バッドエンド『戦女神の想い』

ジーオスXは嘲笑うかの様にバルバトスマグナスに猛攻を浴びせ、度重なる猛攻にマグナスのボディはボロボロになっていた。

「俺は負ける訳にはいかない…約束したんだ…必ず帰ってくるってな!」

力を振り絞り尚も立ち上がるマグナス。

ジーオスXはそんなマグナスを触手で拘束、エネルギー弾の雨を浴びせる。

 

一方、μ'sのメンバーはネストの隊員が用意してくれた各種カメラからの映像で戦いを見ていた。

エネルギー弾の雨を受け悲痛な叫びを上げるマグナス。

「あかり…お願いよ…生きて…」

と願う真姫。

だが、その願いも虚しく画面の中のマグナスは意識を失ったのか倒れてしまった。

「どうすれば良いのよ…」

と呟くにこ。

「こんな時、何の力になれないのが悔しい…!」

と絵里は拳を握り締める。

「力…」

絵里の言葉を受け、穂乃果は何かを思い付いたかの様に呟いた後

「ねぇ、みんな」

皆に呼び掛ける。

「私達に出来る事をしよう」

「出来る事って…」

「何をするんだにゃ?」

花陽と凛の言葉に穂乃果はこう返した。

「あかりちゃん達に歌を届けるんだよ…これを使って!」

穂乃果はあかりからもしもの場合にと受け取った通信機を掲げる。

「歌を届ける…私達らしいやり方ね」

とツバサは返す。

穂乃果は立ち上がり、避難していたスクールアイドル達に呼び掛ける。

「みんな聞いて!」

皆は穂乃果の方を向く。

「今、東京湾で私達を護ろうと戦っている人達がいる。

私達が今出来る事は高が知れてるかもしれない…けれども、ううんだからこそ私達は私達に出来る事をしよう!

少しでも彼らに力を与えられる様に歌を届けよう!」

穂乃果の呼び掛けに応じて一人、また一人と立ち上がる。

「みんな…ありがとう!」

穂乃果は―μ'sの面々は穂乃果を中心にして互いに手を繋ぐのだった。

 

 

 

 

ジーオスXの猛攻を浴び、マグナスの、あかりの意識は朦朧としていた。

(…俺はこのまま倒れる訳にはいかないんだよ…!)

マグナス―あかりの脳裏に穂乃果達の顔が過ぎった時だった。

通信回線が開かれ、穂乃果達の歌声が響き渡る。

(これは…!)

不思議と力が溢れて来る。

(本当に負ける訳にはいかないよね…ありがとう…みんな!)

そして、皆の歌声を受けてマグナスは力を振り絞り立ち上がった。

「負けてたまるか…負けてたまるかぁぁぁぁぁぁ!」

その叫びに呼応するかのようにマグナスは“光り輝く粒子―エナジリウム粒子”を身に纏い始めたのだった。

「ショルダーランチャーユニット、パージ!」

マグナスは破損しているショルダーランチャーをユニットごとジーオスXに向けて飛ばし、ショルダーランチャーユニットはジーオスXに命中する。

ショルダーランチャーユニットをパージした後、マグナスの肩アーマーが翼の様に展開、更に肩アーマー周辺のエナジリウム粒子が翼の様な形となるのだった。

 

 

光り輝くエナジリウム粒子をマグナスの様子はμ'sの面々が見ている映像にも映し出されていた。

「綺麗…綺麗ね」

と呟く絵里。

「バルバトス…ソロモン72柱に於いて序列8位に置かれる悪魔で、人間同士の諍いを調停してくれると言われ、ロビン・フッドの化身や力天使だったとも言われている存在…」

希がそう言った後

「今のバルバトス・マグナスは…ううん、あかりちゃんはまるで天使や戦女神みたいね…」

「そうね…まさにそうよ…」

真姫とにこが続く。

「あかりちゃん…」

「あかり…」

「私達…信じてる…」

「あかりちゃんを…」

ことりが、海未が、花陽が、凛が

「ファイトだよ…あかりちゃん!」

そして穂乃果は呟いた。

 

 

 

 

再び人工島。

「はぁぁぁぁぁぁ!」

マグナスはジーオスXに猛攻を浴びせる。

「砕けろぉぉぉぉぉ!」

胸部を何度も殴っては蹴る、刀で斬るを繰り返す。

ジーオスXの分厚い胸部装甲にひびが入り、それが広がってやがては砕け散り、コアが露出する。

「あれか!」

だが、ジーオスXも負けじ生き残っている触手で応戦する。

「俺には護りたい人達が…場所がある。

穂乃果達は血塗られた俺の事を受け入れてくれた所か戦女神って言ってくれた…

そんな戦女神がこんな所でくたばる訳にはいかないよな!」

マグナスは刀を構え、力を込める。

「俺には護りたい人達がいる!帰りたい場所がある!」

そして、マグナスの纏うエナジリウム粒子がより一層光り輝く。

「だから、俺の大切な者達に手を出すなぁぁぁぁぁぁぁ!」

全力を振り絞り、ジーオスXのコア目掛けて突撃する。

 

 

 

 

だが、ジーオスXはその顔に不適な笑みを浮かべた。

 

 

 

(まずい!!)

マグナスの嫌な予感は的中することとなる。

ジーオスXも最後の力を振り絞って触手でマグナスの腕部を拘束する。

(奴にまだ余力があったなんて…)

ジーオスXに思っていたほどのダメージを与えられていなかった事を察したマグナス。

そんなマグナスに魔力弾を浴びせるジーオスX。

(やばい…これは流石に…)

マグナス―あかりの意識は朦朧としていた。

(…いろいろ、あったなぁ…)

あかりの脳裏にこれまでの出来事―穂乃果達との出会いと別れ、両親との死別、ヴェルとの出会い、ジュラシックワールドでの出来事、ヴェルと別れ日本に帰国して穂乃果達と再会してμ'sのマネージャーになって奮闘したこと、ヴェルとの再会、ラブライブ優勝に海外ライブにスクールアイドル達の合同ライブといった思い出が走馬灯の様に次々と浮かび上がる…

「壊…させない…みんなの…日常を…俺の命と…引き換えに…しても…!」

あかりはヴェルのトランステクターたるドレッドバイトに時間指定メッセージを送った後、全ての通信を遮断し、あかり涙混じりに呟いた。

「…ごめんね…」

あかりはマグナスの目の前にエナジリウム粒子を集中させる。

「お前も…道連れだ…ビオラ○テもどき…!」

集まったエナジリウム粒子はマグナスとジーオスXを飲み込み、爆発した。

 

 

 

ジーオスの大群との戦闘が終わった後…

「あかり!あかり!何処だ!!」

ヴェルはマグナスとジーオスXが交戦していた地点であかりの姿を探していた。

周囲にはジーオスXやマグナスの残骸が散らばっている。

「あかり…返事をしてくれ…あかり…」

涙を流しながらあかりの姿を探すヴェル。

「ヴェルちゃん!」

其処へ穂乃果達μ'sのメンバーがやってくる。

彼女達はネストの隊員に無理を言って此処へ連れていって貰ったのだ。

「あかりちゃんは…」

「さっきから探しているが…見つからない…」

希の言葉にそう返すヴェル。

その時、ヴェルの服を等身大サイズのドレッドバイトが引っ張る。

「どうしたんだドレッドバイ―!?」

ヴェルは、μ'sの面々は言葉を失った。

ドレッドバイトの腕に抱えられていたのはあかりだった…いや、あかりだった物だった。

手足は焼けてなくなり、辛うじて残っていた胴体や頭も所々焼きただれていた。

「あかり…あかり…あかり…嘘だろ…」

ヴェルは、μ'sの面々は信じたくなかった。目の前の光景を。

そんな中、ドレッドバイトが時間指定メッセージを受信する。

『…このメッセージが再生されている時…俺は…もうこの世に…いない…だろう…』

それはあかりが死に際に送ったメッセージだった。

『穂乃果…海未…ことり…真姫…花陽…凛…にこ…希…絵里…ごめんね…μ'sのマネージャーとして…まだやるべきことが…ラストライブがあったのに…ラストライブを…見届けたかった…』

死に際でもあかりはμ'sのラストライブの事を考えていたのだ。

『ヴェル…ごめんね…死亡フラグを折れなかったよ…

俺…戦いが終わったら…ヴェルに…告白しようと思ってた…結婚しよう…って…女の子同士だけど…愛さえ…あれば関係ないよね…ってね…

ヴェル…後は頼んだよ…愛し…てる…よ…』

メッセージは其処で終了した。

「あかり…私も言おうとしてた…結婚しようって…愛してるって…!」

ヴェルはあかりだった物を抱き締め涙声でそう叫ぶ。

 

 

その場で皆が…ヴェルが…穂乃果が…海未が…ことりが…真姫が…花陽が…凛が…にこが…希が…絵里が…ひとしきり泣いて、涸れるまで泣いた後、穂乃果は静かに…だけど力強くこう口にした。

「みんな…やろう…ラストライブを…」

その言葉に反対の意見はない…皆が賛成していた。

応援してくれたファンの為に…そして支えてくれた仲間であるあかりの為に…

 

 

 

―side:Vernyi―

 

 

あれから一週間後。人工島は深刻な被害を受けたが、本土への被害は最小限で済んだ。

 

 

 

戦いが終わってからはμ'sはファイナルライブに向けた準備で多忙だった。私はあかりの後を次いで…というのもあれだか、μ'sのマネージャーとしてライブの準備を進めた。

明乃、雪穂、亜里沙、そしてツバサを初めとした多くのスクールアイドル達など多くの人々との協力によってライブ前日に準備は殆ど終わり、当日を迎えた。

「穂乃果、掛け声を」

「うん、ヴェルちゃん。みんな!いよいよ本当のラストライブだよ!

このライブを楽しんで…そして届けよう!ファンのみんなに…そして天国で見守っているあかりちゃんに」

穂乃果の言葉に皆は頷き、何時も様にピースで星を作り出す。

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

何時もの点呼順で皆が言った後

『10!』

どこからかあの声が…私の愛した人の声がした気がした。

それは皆も同じだったみたいだ。

μ'sの面々は笑みを浮かべてその後に続く掛け声を発した。

『『μ's!ミュージックスタート!』』

 

 

 

「『MOMENT RING』を聴いていただきました!

この曲と次に披露する最後の曲は私達九人と結成当初から私達を何時も支えてくれた…そして今はいない十人目の仲間と一緒に作った曲です!」

『『聴いてください!《僕たちはひとつの光》!』』

 

 

 

 

―side out―

 

 

 

 

秋葉での合同ライブの影響もあってかラブライブは第三回大会以降、本選はアキバドームで行われる事となった―つまりμ'sは実行委員会からの依頼を達成したのだ。

毎年、全国のスクールアイドル達はアキバドームでの本選を目指し、日々奮闘している。

このアキバドームでのライブを以てμ'sは正式に解散。彼女達は将来に向けてそれぞれの道を歩き出した。

 

 

だが、解散してもμ'sは多くのスクールアイドル達にとって伝説の存在であり、憧れである事に変わりはない。

彼女達の“輝き”に触れてスクールアイドルになり、その“輝き”を受け継いだ者達も多い。

 

 

「いよいよだよ!亜里沙!」

「精一杯楽しもう!」

此処にも。

 

 

「あの人達が目指した場所を私も目指したい…私も輝きたい!」

こんな所にも。

 

 

 

また、スクールアイドルの他にも自分の夢や目的、目標に向かって頑張っている人々もいる。

 

 

 

 

 

 

だが、それを脅かす存在もいる。それは時には怪獣であり、時には人・組織である。

“鋼鉄の戦女神”の意志を継いだ“戦女神”達は今日もどこかで“輝き”を護るべくそれらと戦い続けていたのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―side:Vernyi―

 

 

東京湾でのジーオスXとの戦いから100年…あのスクールアイドル達は全員寿命を迎えてもういない一方、私は今もこうして戦場に出て戦っている。

この100年の間にこの第46太陽系の地球ではテロリスト達がアデプトテレイターを使ったテロを敢行し、多くの人命を奪った事によって私達アデプトテレイターの存在は公になってしまった。

 

この事態に一部関係者を除いてアデプトテレイターの存在を秘匿していたネストはアデプトテレイターが存在することを公にするしかなくなり、更にあの東京湾でのジーオスXとの大規模戦闘に於いてもアデプトテレイター達が活躍したと発表したのだが、世間はアデプトテレイター擁護派と反アデプトテレイター派に別れ、反アデプトテレイター派の中にはアデプトテレイターを殺害する者達まで現れた。

 

この事態にネストは嘗てのような影響力を失っていた。

 

「なぁ…あかり…私はどうすれば良いんだろうか…」

私の声に返す者はいない。分かっている事だ…あかりはいない。

「穂乃果…ことり…海未…真姫…花陽…凛…にこ…希…絵里…雪穂…亜里沙…君達は今のこの世界を見てどう思うんだろうか…」

彼女達も返さない…いや、返せない…彼女達も今や墓の中で骨となって静かに眠っている。

彼女達の最期も私は看取った…もう何年も前の話だ。

「明乃…もえか…つばめさん…すまない…」

100年前のジーオスXとの戦いを経験したアデプトテレイターも今や私だけ…他のアデプトテレイター達はこの100年の間に生まれたが"改造"された者達だ。

「ヴェルさん!此処に居たんですね!」

そう声をかけてくるのは私と同じアデプトテレイターの娘だ。

彼女からの報告を聞き、迫り来る"敵"へ対処する準備を始める。

 

今でも…いや今はあの頃以上に色々と悩んだりする。

しかし、それでも私は戦い続ける。

 

 

 

私が守りたい者達を守る為に…

 

 

 

 

Love Live!~Nine goddess & Iron valkyrie~

 

 

 

 

The end

 

 

 

 

Thank you for your reading…

 

 

 

To be continue "Valkyrie Rondo"…



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最終話トゥルーエンド『9人の女神と鋼鉄の戦女神』

ジーオスXは嘲笑うかの様にバルバトスマグナスに猛攻を浴びせ、度重なる猛攻にマグナスのボディはボロボロになっていた。

「俺は負ける訳にはいかない…約束したんだ…必ず帰ってくるってな!」

力を振り絞り尚も立ち上がるマグナス。

ジーオスXはそんなマグナスを触手で拘束、エネルギー弾の雨を浴びせる。

 

 

 

一方、μ'sのメンバーはネストの隊員が用意してくれた各種カメラからの映像で戦いを見ていた。

エネルギー弾の雨を受け悲痛な叫びを上げるマグナス。

「あかり…お願いよ…生きて…」

と願う真姫。

だが、その願いも虚しく画面の中のマグナスは意識を失ったのか倒れてしまった。

「どうすれば良いのよ…」

と呟くにこ。

「こんな時、何の力になれないのが悔しい…!」

と絵里は拳を握り締める。

「力…」

絵里の言葉を受け、穂乃果は何かを思い付いたかの様に呟いた後

「ねぇ、みんな」

皆に呼び掛ける。

「私達に出来る事をしよう」

「出来る事って…」

「何をするんだにゃ?」

花陽と凛の言葉に穂乃果はこう返した。

「あかりちゃん達に歌を届けるんだよ…これを使って!」

穂乃果はあかりからもしもの場合にと受け取った通信機を掲げる。

「歌を届ける…私達らしいやり方ね」

とツバサは返答する。

穂乃果は立ち上がり、避難していたスクールアイドル達に呼び掛ける。

「みんな聞いて!」

皆は穂乃果の方を向く。

「今、東京湾で私達を護ろうと戦っている人達がいる。

私達が今出来る事は高が知れてるかもしれない…けれども、ううんだからこそ私達は私達に出来る事をしよう!

少しでも彼らに力を与えられる様に歌を届けよう!」

穂乃果の呼び掛けに応じて一人、また一人と立ち上がる。

「みんな…ありがとう!」

穂乃果は―μ'sの面々は穂乃果を中心にして互いに手を繋ぐのだった。

 

 

 

 

 

ジーオスXの猛攻を浴び、マグナスの、あかりの意識は朦朧としていた。

(…俺はこのまま倒れる訳にはいかないんだよ…!)

マグナス―あかりの脳裏に穂乃果達の顔が過ぎった時だった。

通信回線が開かれ、穂乃果達の歌声が響き渡る。

(これは…!)

不思議と力が溢れて来る。

(本当に負ける訳にはいかないよね…ありがとう…みんな!)

そして、皆の歌声を受けてマグナスは力を振り絞り立ち上がった。

「負けてたまるか…負けてたまるかぁぁぁぁぁぁ!」

その叫びに呼応するかのようにマグナスは“光り輝く粒子―エナジリウム粒子”を身に纏い始めたのだった。

「ショルダーランチャーユニット、パージ!」

マグナスは破損しているショルダーランチャーをユニットごとジーオスXに向けて飛ばし、ショルダーランチャーユニットはジーオスXに命中する。

ショルダーランチャーユニットをパージした後、マグナスの肩アーマーが翼の様に展開、更に肩アーマー周辺のエナジリウム粒子が翼の様な形となるのだった。

 

 

 

 

光り輝くエナジリウム粒子をマグナスの様子はμ'sの面々が見ている映像にも映し出されていた。

「綺麗…綺麗ね」

と呟く絵里。

「バルバトス…ソロモン72柱に於いて序列8位に置かれる悪魔で、人間同士の諍いを調停してくれると言われ、ロビン・フッドの化身や力天使だったとも言われている存在…」

 

希がそう言った後

 

「今のバルバトス・マグナスは…ううん、あかりちゃんはまるで天使みたいね…」

「そうね…まさにそうよ…」

真姫とにこが続く。

「あかりちゃん…」

「あかり…」

「私達…信じてる…」

「あかりちゃんを…」

ことりが、海未が、花陽が、凛が

「ファイトだよ…あかりちゃん!」

そして穂乃果は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び人工島。

「はぁぁぁぁぁぁ!」

マグナスはジーオスXに猛攻を浴びせる。

「砕けろぉぉぉぉぉ!」

胸部を何度も殴っては蹴る、刀で斬るを繰り返し、やがてジーオスXの分厚い胸部装甲にひびが入り、それが広がってやがては砕け散り、コアが露出する。

「あれか!」

だが、ジーオスXも負けじ生き残っている触手で応戦する。

「私には護りたい人達が…場所がある。

穂乃果達は血塗られた俺の事を受け入れてくれた所か戦女神って言ってくれた…

そんな戦女神がこんな所でくたばる訳にはいかない!」

マグナスは刀を構え、力を込めるとマグナスの纏うエナジリウム粒子がより一層光り輝く。

「だから、俺の大切な者達に手を出すなぁぁぁぁぁぁぁ!」

全力を振り絞り、ジーオスXのコア目掛けて突撃する。

 

 

 

 

だが、ジーオスXはその顔に不適な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

(まずい!!)

マグナスの嫌な予感は的中することとなる。

ジーオスXも最後の力を振り絞って触手でマグナスの左腕の下腕部を拘束、マグナスは咄嗟に刀で左肘から下を切断する。

(奴にまだ余力があったなんて…)

 

 

一方、その頃ドレッドバイトはジーオスランダーを倒した後も数多くのジーオスを討伐していた。

(何か胸騒ぎがする…とてつもなく嫌な予感が…)

そう考えていたドレッドバイトはマグナスの元へ急ぐのだった。

 

 

そしてマグナスは形勢を逆転されて不利な状況にあり、今は攻撃を相殺するので精一杯だったのだ。

「このままじゃ…こうなったら…」

マグナスが自爆でジーオスXを道連れにする事を考えたその時…

「ドレッドバイト、トランスフォーム!」

空中から駆け付けてきたドレッドバイトがジェット機からロボットモードへ姿を変えてジーオスランダーとの戦いでは使わなかったブラスターを発砲する。

「あかり、大丈夫か!?」

「ありがとう、ヴェル。ちょっとヤバかった所だったよ」

マグナスとドレッドバイトはジーオスXの方に向き直る。

コアを覆っていた装甲は再生を始めている。

「急がないと装甲が完全に再生する…」

「あかり、私が奴を牽制するからその間に」

「わかったよ、ヴェル」

そしてドレッドバイトは迫り来る触手をブラスターで撃ち落としたり大剣で切り伏せてマグナスを援護し、マグナスは再びジーオスXとの距離を詰めて再生しかけていた装甲に刀を突き刺すとそれを蹴りで食い込ませる。

刀はコアに到達はしたが、破壊まではいっていない…先端が刺さった程度だ。

「私一人じゃ無理かもしれないけど…私は一人じゃない!ヴェル!」

マグナスがそう言った後、ドレッドバイトは突き刺された刀の柄の先を何度も殴って刀を更に食い込ませるが、それでもジーオスXのコアは破壊されない。しかし…

「まだだ!」

マグナスはドレッドバイトが刀を食い込ませている間に右拳に出来るだけ多くEN粒子を集中させてそれを刀の柄の先に叩き込む。

刀全体がコアに突き刺さると同時にマグナスの拳からEN粒子による砲撃が放たれ、それによってジーオスXのコアは遂に破壊され、ジーオスXは活動停止し、崩壊するのだった。

 

マグナス―あかりとドレッドバイト―ヴェルはジーオスXの活動停止を確認すると機体との一体化を解除する。

「あかり!」

ヴェルはあかりの元へ駆け寄る。

「ヴェル。死亡フラグをへし折れたよ」

無事だったあかりを抱き締めるヴェル。

「ヴェル、ありがとう。ヴェルがいなかったら私は…」

あかりは一拍置いてこう口を開いた。

「ねぇ…ヴェル。出撃前に話があるって言ったよね?」

「あぁ、私もだ」

「ヴェル…私と…頼尽あかりと結婚してくれますか!」

あかりのプロポーズに

「あぁ、私も同じ事を言おうとしてたよ」

とヴェルは受け入れ、二人は熱く深いキスを交わすのだった。

 

 

―side:Akari―

 

 

 

あれから一週間後。人工島は深刻な被害を受けたけど、本土への被害は最小限で済んだ。

 

マグナスはあの戦いで無茶をさせ過ぎた結果、修復に膨大な時間がかかってしまう羽目になった。まぁ、幸いにもジーオスの襲撃も一先ず収まったから長い休養だと思えば良い事だしね。

 

戦いが終わってからはμ'sのファイナルライブに向けた準備で物凄く忙しかったけど、多くの人々が協力してくれたおかげでライブ前日に準備は殆ど終わり、当日を迎えた。

今日のライブにはマスラニの旦那やレノックス、オーウェン、クレアさん、ザック、グレイ、亜理火さんと多くの人々が招待に応じて来てくれた。

 

 

そして、私はμ'sの皆に呼び掛ける。

「皆、お待たせ!よし、準備は良い?」

その言葉に皆は頷く。

多くは語らない…通じ合っているから。

 

 

今まで本当に色んな事があったなぁ、と思う。

このメンバーと巡り会えて本当に良かった…

 

 

「穂乃果、掛け声宜しくね」

「うん、あかりちゃん。みんな!いよいよ本当のラストライブだよ!全力で楽しもう!」

穂乃果の言葉に皆は頷き、何時も様にピースで星を作り出す。

「ほら、あかりちゃんも!」

「あぁ、そうだな!」

今回はその中に私も加わった。

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

何時もの点呼順で皆が言った後

「10!」

私はそれに続き、皆であの合い言葉を言った。

『『μ's!ミュージックスタート!』』

 

 

 

「『MOMENT RING』を聴いていただきました!

この曲と次に披露する最後の曲は私達九人と結成当初から私達を何時も支えてくれた十人目の仲間と一緒に作った曲です!」

『『聴いてください!《僕たちはひとつの光》!』』

 

 

 

―side out―

 

 

 

今回の秋葉での合同ライブの影響もあってかラブライブは第三回大会以降、本選はアキバドームで行われる事となった―つまりμ'sは実行委員会からの依頼を達成したのだ。

毎年、全国のスクールアイドル達はアキバドームでの本選を目指し、日々奮闘している。

このアキバドームでのライブを以てμ'sは正式に解散。彼女達は将来に向けてそれぞれの道を歩き出した。

 

 

だが、解散してもμ'sは多くのスクールアイドル達にとって伝説の存在であり、憧れである事に変わりはない。

 

彼女達の“輝き”に触れてスクールアイドルになり、その“輝き”を受け継いだ者達も多い。

 

 

「いよいよだよ!亜里沙!」

「精一杯楽しもう!」

此処にも。

 

 

「あの人達が目指した場所を私も目指したい…私も輝きたい!」

こんな所にも。

 

 

 

また、スクールアイドルの他にも自分の夢や目的、目標に向かって頑張っている人々も多い。

 

 

 

 

だが、それを脅かす存在もいる。それは時には怪獣であり、時には人・組織である。

“鋼鉄の戦女神”達は今日もどこかで“輝き”を護るべくそれらと戦い続けている…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある部屋の写真立て。

そこにはファイナルライブを終えたばかりのμ'sとあかり達の姿を収めた写真とウェディングドレスを着た二人の少女と二人を祝福する少女達の姿を収めた写真が飾られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Love Live!~Nine goddess & Iron valkyrie~

 

 

 

 

The end

 

 

 

 

Thank you for your reading!

 

 

 

and To becontinue next stories…

 

 

 



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