アトリエ世界に転生したお兄ちゃん達 (堕ち虎)
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ロロナの兄貴はブラック社畜
第一話 元社畜は妹達と再会する


 記念すべき第一話はロロナのアトリエにしました。
 理由は、一番最初にトロコンしたゲームの上初めてゲームで5回も周回して全エンディングを回収した一番記憶に残るシリーズだからです。
 
 現代世界でブラック企業の社畜と化していた兄貴をロロナ世界にぶち込んでみました。


 「仕事は有りますか?」

 

 王宮の受付に入ってくるなり第一声にこんなことを抜かしたのは、今王国からのアトリエ取り潰しを防がんと奮闘しているアトリエの現店主、ロロライナ・フリクセル(通称ロロナ)の双子の兄、ラーシャ・フリクセル。

 短く切りそろえられた茶髪に王宮騎士顔負けの筋肉質な肉体、加えて幼さを残しながらも14歳とは思えぬ凛々しい顔立ちを見せるラーシャは、目の下に濃く出来た隈さえなければアーランド王国中の女性が振り向きそうな程に男らしい出で立ちであった。

 

 そんなラーシャに声を掛けられた受付担当のエスティは、ふっっっっかい溜息を吐くと半目でラーシャを見据える。

 

 「・・・ねぇラーシャ君。私、前回依頼報告の時に何て言ったっけ?」

 「?えっと、ちょっと働きすぎだから、少しくらい休めーっておっしゃってましたよね?」

 「ちゃんと覚えてるわねー。じゃあ、それからどの位たったと思う?」

 

 エスティの問いに、心底不思議そうに首を傾げながらもラーシャは口を開いた。

 

 「一日ですよね?」

 

 目の前で腕を組みつつ「あれ?」ときょとんとした顔をしているラーシャを見て頭を抱えた。

 このラーシャという少年。双子の妹のロロナと違って錬金術の才能が無い代わりに戦闘能力に秀でていたため、素材採取も兼ねて討伐依頼を任させるようになったのだ。

 しかし「休む」という言葉を知らないのか、討伐場所が全く異なる複数の依頼を同時に受けては休憩なしで全てこなそうとするため、いつもひどい隈を作り帰ってくることから逆に心配になった王国側が受付担当のエスティを介して休暇を与えていたのだ。

 

 「まぁ休みの日数を伝えてなかった私も悪いんだけどね・・・。ラーシャ君は少なくともあと4日は依頼受けられないわよ」

 「えっ、じゃあその間何をしていればいいんですか?」

 「休みなさい」

 

 目の前で「休むとは・・・?」と深刻な顔で考えているラーシャに呆れつつ、エスティは提案を持ちかける。

 

 「ラーシャ君しばらくロロナちゃんに会ってないんでしょ?久しぶりに顔を合わせてみたら?」

 「いやでも、依頼とか錬金術の勉強とかで忙しいでしょうし」

 「絶対にアーシャ君よりは時間あるから安心しなさい」

 

 さりげなくロロナに対して失礼ではあるが、ぶっちゃけその通りである。なんなら錬金しながらでも会話できる余裕があるため、ロロナが忙しさで立て込むような事態は滅多に起きないのだ。

 エスティの物言いに苦笑いしつつ、ラーシャはその提案を受けることにした。

 

 「はは・・・。そうですね、なら久しぶりに顔でも見せてきますよ」

 「そうしなさい。ロロナちゃんと会うのは何時ぶりになるの?」

 「うーん、多分5カ月ぶりじゃないですかね」

 「あー、それならロロナちゃんが落ち込むのも無理ないわね」

 「落ち込む?」

 

 エスティの言葉にラーシャは首を傾げる。依頼で立て込んでいたラーシャは知る由もないが、いつもエスティに依頼報告に来ていたロロナが回数を重ねるに連れて元気を無くしていく様子に、王宮の騎士達も心配そうにしていたのだ。それは幼馴染組も例外でなく、クーデリアは慰めようと遊びに連れ出したり、イクセルは料理で元気付けようとしたり、あのアストリッドでさえ王宮にラーシャを休ませるよう話を持ち掛けたほどだ。

 

 「まぁここでいつまでも話すより、実際に行ってみた方が早いわよ」

 「分かりました。それじゃあ、失礼します」

 

 そういって立ち去っていくラーシャの後ろ姿を眺めながら、エスティは再び溜息をこぼした。見れば、近くに居た同じ王宮の騎士達もラーシャの後ろ姿を眺めて、苦笑いや呆れ顔を浮かべている。中にはラーシャと再会したロロナがどんな反応をするのかを楽し気に予想し合う者達までいた。結局のところ、皆がロロナと同様にラーシャの事も心配していたのだ。

 

 「ラーシャ君用に、依頼制限と休暇期間を作った方がいいわね」

 

 エスティの言葉に、その場に居た王宮騎士達は全員一致で賛同した。

 

 

 

場面転換 視点《ラーシャ》

 

 エスティさんの言いつけに従って、俺は妹のロロナが運営しているアトリエに向かっていた。

 通りを抜けてアトリエに向かう道中、すれ違う人達からお礼と一緒にお菓子や薬をもらった。どうやら王宮に依頼をした人達のようで、報告と共に俺が達成したことを王宮の人達から聞いていたらしい。むず痒さを感じながらもつい顔が緩んでしまい、喜んで受け取っていった。

 ・・・それとは別にほぼ100%の確率で「隈大丈夫?」って言われるんだけど、そんなに今の俺はひどい顔をしているんだろうか。いつも鏡なんて見ないし、正直自分の顔つきにもそこまで興味ないから気にしてなかったけど、会うたび心配されるのも結構心に来るな・・・。

 内心かなり複雑な気持ちになりつつ、ついにアトリエの前までたどり着いた。

 

 聞きなれた複数人の声にどこか懐かしさを感じつつ、俺はアトリエに入っていく。どうやらアストリッドがクーデリアをいじり倒していたらしく、それをロロナが仲介している最中だった。

 ロロナはアトリエに入ってきた俺に気づくと、驚いたのもつかの間にトタトタと此方に駆け寄り抱き着いてきた。ロロナを丁寧に受け止めつつ、声を掛ける。

 

 「よう、久しぶり。元気だったか?」

 「おにいちゃあぁぁぁん!!」

 

 俺とロロナは少ししか身長が違わないため、ロロナは俺に抱き着きつつ肩に顔を押し付けるようにして泣いていた。いかにロロナを心配させていたのかを知った俺は内心反省しつつ、慰めるようにロロナの帽子をずらして優しく頭を撫でてやる。

 そこで俺の存在に遅れて気づいた2人も此方にやってくる。

 

 「よう、クーデリア。久しぶりー」

 「久しぶりー、じゃない!あんた、どんだけロロナの事心配させたと思ってるのよ!」

 「あはは・・・。それは本当にごめん」

 「それにあたしだって・・・」

 「ん?ごめん、今なんて言った?」

 「~~~っ!!何でもない!」

 

 いや何でもなくはないと思うんだけど。やっぱり気になってしまったのでもう一回聞こうとした時、突如頭に衝撃と遅れて鈍い痛みが走った。どうやらいつの間にか近づいてきたアストリッドさんが拳骨を振り下ろしてきたらしい。おそらく加減はされていると思うが、めっちゃ痛え・・・。

 

 「痛いです、アストリッドさん・・・」

 「痛くしたからに決まっているだろう、この阿呆が。5ヵ月も妹ほったらかして出かける奴があるか」

 「心配かけさせてしまったようで、本当にすいません」

 「全くだ。おかげでアトリエ内が辛気臭くなって、満足に惰眠もできなかったぞ」

 「いやそこはちゃんと起きててくださいよ」

 「断る!私はもうアトリエの店主ではないのでな」

 

 アストリッドさんのだらけっぷりに呆れていると、落ち着いたのかロロナが顔を上げて未だ目元を赤くした状態で此方に向き直った。抱き着いたまま。

 いや一旦離れよ?抱き着いたまま顔上げたせいでめちゃくちゃ顔近くなったんだけど。いや別にロロナの顔は見慣れてるから今更照れたりはしないけど、これはちょっとまずいんじゃないかなー?もしかして他の人達にもこんな距離感で接してるの?男相手でも?よしそいつ殺そう。俺が認めない限り交際なんて認めませんとも。

 

 「お兄ちゃん、なんで会いに来てくれなかったの・・・?」

 

 あっ、この姿勢のまま続けるんですね?

 さりげなく体を離そうとするが、ロロナがより強く抱き着くため早々に断念した。この子こんなに力強かったっけ?

 

 「あー、ロロナ?話す前にいったん離れてくれると助かるんだけど・・・」

 「ダメ」

 「アッハイ」

 

 だめでした。これ絶対なに言っても離してくれないだろうなー・・・。

 仕方なく離れるのを諦め、言葉を選びながら事情を話すことにした。

 

 「んー・・・。ほら、前に決めたろ?錬金術で力になれない代わりに、魔物討伐の依頼を中心に引き受けてロロナの負担を減らすって」

 「うん・・・」

 「で、実際やってみると意外に討伐関係の依頼が多かったんだよ」

 

 ロロナが国から最初の依頼を受けるのと同時に依頼を受けようとしていた俺は、そのあまりの多さに驚いた。調達依頼や調合依頼なんかも勿論あったのだが、それでも外での魔物による被害は後を絶たず王宮騎士達が携わっていても減らない程に数が多かった。

 国近辺ならどうとでもなるが、距離が離れている地域となるとどうしても人手が足らず魔物の繁殖を防ぐことができていないのが現状だった。

 

 「だから、俺はなるべく遠くの地域を中心にして討伐の依頼を受けてたんだよ」

 「それでも会いに来る機会はいくらでもあっただろう?」

 「いやー。それが実際やってみるといくら討伐しても依頼が減らなくて・・・

 

 

 だったら根絶しない程度でいっぺんに危険な魔物を狩り尽くそうかなと」

 

 「「「 は? 」」」

 

 これが、俺が約五ヵ月もの間ロロナに会えていない理由だった。遠く離れている地域への行き来はどうしても日にちがかかってしまうし、魔物を狩り尽くすのも一日でできるはずがない。しかもどの地域も魔物の繁殖がかなり進んでいたため、一地域の魔物を狩り尽くすのに最低でも2週間はかかってしまった。

 一地域ごとに帰るようにはしているが、元々の性分なのか『中途半端な状態』というのがどうしても我慢ならず、一日だけ休んで身支度を整えると次の日から別の地域へ向かっては魔物を狩るというサイクルを繰り返していた。

 そこまでを話すと、ロロナは何故か死んだような目で此方を見ていた。えっ怖。俺こんな顔したロロナ初めて見るんだけど。視線だけあとの2人に向けると、クーデリアもロロナ同様死んだような目で此方を見据え、アストリッドさんは心底呆れ切った目で此方を見ていた。あれ、俺なんか変な事言った?

 内心首を傾げているとアストリッドさんはため息を吐き、再び質問を投げてくる。

 

 「お前がロロナとは別のベクトルでバカだったことは置いといて、もう一つ聞くぞ」

 「いやバカって・・・」

 

 ひどい言われようである。異議を申し立てようじゃないか。まぁ実際しようといて滅茶苦茶アストリッドさんに睨みつけられたけど。ヒェッ。

 

 「お前、依頼中もちゃんと休んでるんだろうな?」

 

 どうやらアストリッドさんは俺の顔にできた隈について聞きたいらしい。正気(?)に戻ったクーデリアとロロナも同じく気になるらしく、ジッと俺を見据えてきた。

 いやまぁ俺自身はまだ自分の顔よく見てないから、どれくらいの隈が出来てるのか分かんないんだけどさ。でもアストリッドさんがそんな事を聞くのは意外だったな。だって・・・

 

 「はっはっはっ。仕事中に休みがある訳わけないじゃないですかー」

 

 仕事中は休んだらいけないなんて、子供でも知ってることですよ?ましてや魔物が蔓延る中で一人で野宿するんだから、尚のこと気を抜くわけにいかないし。

 いや、俺の場合は根絶やしのついでで依頼が達成してるようなものだし、正確には仕事とは違うのか?

 

 今更な疑問に首を傾げていると、アストリッドさんが懐から何かのスプレーを取り出すと無言で俺に近づけてきた。・・・えっ?

 

 「あの、アストリッドさん?」

 「なんだ?」

 「いやあの、その手に持ってるのは一体・・・?」

 「気にするな」

 

 それは無理では?いや怖いんですけど。逃げあっダメだロロナがまだ抱き着いたままだった。ロロナさーん、いったん離してくれないかなー?だめだ離れねぇ・・・。

 

 プシュッ

 

 そんな音と共に霧状の液体が俺の顔に掛けられると、唐突に猛烈な眠気に襲われた。

 なんだ?・・・これ・・ね・・・・・む・・・・ZZZ

 

 そうして、俺は意識を手放した。

 

 

 

 ・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・

 

 ・・・

 

 ・・・・・・・はっ!?

 

 不意に目が覚めると、俺はアトリエのソファで横になっていた。眠らされてからかなりの時間がたったようで、窓の外はすっかり暗くなっている。

 スプレーの効果なのか身体は少し軽くなっている。どうせならこのまま二度寝してやろうかと考えていた時、ふと奥の方から物音が聞こえてきた。そちらに顔を向けると、明かりの点いたアトリエの奥でロロナが一人窯で錬金を行っている最中だった。集中しているようだったため、なるべく物音を立てずにソファから身を離すとゆっくりロロナの元へと近寄っていく。

 窯の中を覗き込める程度まで近寄った所で、ロロナは窯の火を消すと中の物を取り出そうと手を差し入れる。どうやら錬金が終わったらしい。何を作ったのか気になる俺は足を止めて、ロロナの様子を見守る。そしてついに・・・

 

 「できたーー!」

 

 嬉しそうな声でロロナは今しがた窯から取り出した物を頭上へ掲げる。どうやら出来の良いものが作れたらしい。ロロナがちゃんと錬金術師として成長していることに嬉しく思いつつ、俺はロロナが頭上へ掲げた物へ目を向けた。それは素人の俺でもわかるほどに綺麗に作られて、いっそ輝いて見える程に高い完成度を誇るパイだった。

 もう一度言おう。パイだった。

 

 ・・・・・・なぜ?

 

 いや早まるな俺。いくらロロナがパイ好きだからって、錬金術で自分の趣味のためにパイを作り出す程ぶっとんではいない筈だ。きっと依頼の一つなんだろう。ほらその証拠に、自分で作ったパイをキラキラした目で眺めていたロロナがおもむろに口へ運び・・・運び?あ、食べた。

 

 「いや待てや」

 「むぐっ!?おにゲホッゲホッ」

 

 俺が急に声を掛けたからかロロナはビクッと肩を震わせると、拍子でのどを詰まらせたようでせき込んでいる。とりあえずロロナが落ち着くまで待っていると、復活したロロナは少し涙を滲ませつつ俺に抗議してきた。

 

 「お兄ちゃん!起きてたなら教えてよー!」

 「ロロナが集中してたみたいだったからな。頑張りを見守っていようと思ったんだけど・・・何してるの?」

 「何って・・・パイ作りだよ?」

 

 俺が聞きたいのはそうじゃないんだ妹よ。

 

 「いやそうじゃなくて。依頼の方は?」

 「それなら、全部作り終わったから明日渡せば終わりだよ!」

 

 その言葉に俺はとりあえず一安心した。流石に依頼ほったらかしにしてパイ作りに励むほど抜けてはいないようだ。というかそこまで抜けてたら流石に俺ではどうにもできないからな・・・。

 そこで、ロロナは何か思い出したようで「あっ!」と声を上げると、内心安堵していた俺に声を掛けてくる。

 

 「ねぇお兄ちゃん。もしよかったら、明日外の採集に着いてきて貰える?」

 「採集?」

 「うん。鉱山まで行きたいんだけど、クーちゃんもイクセくんも用事があるみたいで・・・」

 

 どうやら「アーランド国有鉱山」の採集に着いてきてほしいらしい。確かにあそこは弱いとは言え魔物はいるし、なにより明かりがあるとは言え薄暗い場所のため足元が悪い。ロロナ一人ではさすがに少し心配だ。

 ん?ちょっと待て。

 

 「なぁロロナ。クーデリアはボディーガードがいるからまだわかるが、なんでイクセルも出てくるんだ」

 「えっと、外の食材を直接見て料理の参考にしたいって」

 「まぁアイツらしい考えだけど・・・。どうやって魔物と戦うんだ?」

 

 一番の疑問はそこだ。クーデリアはボディーガードの人たちがいれば何とかなるだろうし、ロロナも攻撃できる道具を調合できるみたいだからまだ分かるが、イクセルってどうやって戦うんだ?

 

 「それはね、フライパンでドカーンって」

 「 はい? 」

 

 俺の聞き間違いだろうか。今この娘何て言った?

 

 「ごめん、もう一回聞いてもいいか?」

 「うん。フライパンでドカーンって」

 「フライパンで」

 

 聞き間違いじゃなかったわ。いや聞き間違いであって欲しかったわ。え、あいつ何料理人の商売道具武器にしてんの?バカなの?

 というかなんでフライパンで魔物とやりあえてるんだよ・・・。

 

 「えーと、何でフライパン?」

 「一番手に馴染むからだって」

 「だろうな」

 

 そりゃ料理人なんだから手に馴染むだろうよ。

 ・・・なんか頭痛くなってきた。イクセルの話は一旦忘れよう。とりあえず今度あったら一発殴る。

 

 「あー、とりあえず、採集の件は別に構わないよ。丁度暇になってたからな」

 「ありがとう!明日の朝に出ようと思うんだけど、お兄ちゃんは大丈夫?」

 「さっきまで寝てたから体調の方は問題ないよ。むしろ絶好調な位だ」

 

 強制的とはいえ久しぶりにぐっすり眠ったからか、本当に身体が軽い。武器も昨日のうちに手入れしておいたから、問題なく使えるだろう。

 そこでロロナがふぁっと小さく欠伸をした。こんな遅くまで錬金術をしていたこともあって疲れが出てきたのだろう。今にも眠ってしまいそうな程だ。

 俺は少し大きな声で、ちゃんとロロナに届くように声を掛ける。

 

 「ロロナー。俺はもう家に帰るけど、お前はどうするー?」

 「んー・・・。依頼のこともあるし、今日はここで寝るー・・・」

 「分かった。寝る前に、ちゃんと戸締りはしておけよー?」

 「はーい・・・」

 

 まぁアストリッドさんもいるし、そこまで心配することも無いだろう。アトリエを出る前にもう一度ロロナに声を掛けてから、すっかり暗くなった路道を歩いて家へと向かう。

 

 「まさか、ロロナと一緒に外へ出かけるなんてな」

 

 少し前までなら想像すら出来なかったことだ。それくらい、俺がいない間にロロナも成長したんだろう。それを誇りに思うと同時に、成長していく様を間近で見守れなかった事に若干の悔しさを感じた。

 そこまで考えて、自分の甘さについ笑いが込み上げた。

 ーーー見守るなんて考えすら、一度も思い浮かばなかった癖にな。

 依頼をこなすことに夢中になり、実の妹のことでさえ気にも留めなかったのに、今更妹が知らない間に成長したことを悔しがるとはなんて滑稽だろうか。

 自分のどうしようもなさに頭をガシガシと掻くと、両手をズボンのポケットへと突っ込み家へと急いだ。

 

 「少し、依頼の頻度下げるかぁ」

 

 前回のである程度、魔物討伐関連の依頼は減ったとエスティさんも言っていたし、早々緊急性の依頼は出てこないだろう。それなら、しばらくはロロナと一緒に過ごす時間に設けてもいいはずだ。

 知らぬ間に口元はニヤけ、歩いていた足もつい駆け足となっていく。自分でも浮かれていると自覚出来たが、今はこの衝動にただ身を任せていたかった。

 なんてことは無い。俺はただ、

 

 

ーーーーーーロロナがまだ俺を家族として見てくれたことが、たまらなく嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 




というわけで、社畜精神が染みついたオリ主でした。
このキャラクターは基本ツッコミで無自覚ボケの役割としています。

同い年の双子という設定にしたのは、そっちの方が幼馴染組と絡みやすくなると思ったからです。

所々主人公の言動に ん? となるような場面が今後も出てきますが、どれもが前世で染みついた誤った常識からくるものです。

最後に主人公の過去の一端となる描写があります。章の中で改めて解禁するつもりですが、基本的には『報われない・温かみがない・後味が悪い』をモットーに作るので、楽しみに気が向いたら覗きに来てください。

それでは、今宵はここまで。


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