超時空要塞マクロス ガールズ&ヴァルキリー そのニ (ノザ鬼)
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部室にて

 ついに、決まった初対戦!

 その会場は、リゾート惑星。


 語られる四人目の部員。


 何故か…。

 超時空要塞マクロス ガールズ&ヴァルキリー そのニ

 です(笑)
 


 

 扉の開く、

『ドン!』

 音が部室に響く。

 

 察知。

 

 いつもとは違うと、扉の開く音で感じる二人。

 

 椅子に座ったまま、

『ギィィィィ。』

 体重を背もたれに預け、

「何かあったか?」

 首を巡らせ聞くリクノ。

 

 その側に立っていたヒョウカは、

「何か…。」

 首だけ巡らせ、

「ありましたか?」

 視線も送り問う。

 

 先程の音よりも、

「決まりました!」

 鼻息荒く答えるカケル。

 

 困る、

「ん?」

 リクノ。

 

 困惑する、

「えっ?」

 ヒョウカ。

 

 顔の前で右の拳を握る力と、

「だから!」

 同じ強さで、

「決まったんですよ!」

 もう一度繰り返すカケル。

 

 言葉の選択に、

「いや…。」

 困るリクノ。

 

 ゆっくりと、

「カケルさん。」

 諭す、

「主語が抜けてます。」

 口調のヒョウカ。

 

 ヒョウカのその言葉に、

「あっ…。」

 気が付くカケル。

 

 間を取り、

「で…。」

 優しく、

「何が決まったんだ?」

 聞くリクノ。

 

 質問の代わりに、

『ニコリ。』

 笑顔を向けるヒョウカ。

 

 

 上下。

 

 カケルの握られた右手が、

「そ、そうなんですよ!」

 起こした高速運動。

 

 自然に、リクノとヒョウカの目線が追う。

 

 両手の平を広げ、

「落ち着けって。」

 カケルに向け、軽く前後させるリクノ。

 

 両手の指を伸ばし、

「落ち着いて下さい。」

 カケルに向け、軽く上下させるヒョウカ。

 

 二人の動きは、相手の感情を静める時のお約束の動き。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 それは二人の動作が自分に、

[落ち着け!]

 そう言っているのに気が付くまで要した時間。

 

 停止。

 

 高速で上下していた手が動かなくなる。

 

 そして…。

 

 気が付いた事により、照れる気持ちがカケルの頬を桜色に染める。

 

 そして、体も止まる。

 

 

『・』

 

『・・』

 

『・・・』

 

 それは静寂が奏でた音。

 

 ばつが悪いカケル。

 

 それに優しく無反応で返したリクノとヒョウカ。

 

 

 頃合い。

 

 もう一度、切り出す、

「で、何が決まったんだ?」

 リクノ。

 

 続き、

「そうです。何が決まりましたの?」

 ヒョウカも気になっていたようだ。

 

 

 頭からトゲトゲの、

『はっ!』

 フキダシで我に返るカケル。

 

 気を取り直し、

「あのですね。」

 切り出し、

「対戦が決まったんですよ!」

 嬉しそうに主語を付けたカケル。

 

 一気にテンションが、

「おーっ!」

 上がるリクノ。

 

 驚きと共に、

「まぁ!」

 喜びの声を上げたヒョウカ。

 

 二人の嬉しそうな声に、自然と笑顔になるカケル。

 

 今度は、

「ついに、対戦かぁ。」

 右の拳を握り、顔で喜びを噛み締めるリクノ。

 特に、目は固く食いしばられていた。

 

 右と左の手の平を合わせて握り、

「来ましたね…。」

 顔の前に持ってくるヒョウカ。

「この時が…。」

 そして、軽く上目遣いになる姿は祈りのポーズ。

 



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対戦相手

 

 一頻り。

 

 対戦の喜びに浸ったリクノとヒョウカ。

 

 

 ゆっくりと首を巡らせ、

「どの学校なんだ?」

 聞くリクノ。

 

 ゆっくりと視線を向け、

「何処の船団ですか?」

 質問するヒョウカ。

 

 思い出し、

「えっと…。」

 胸の前で、腕組み、

「ですね…。」

 記憶を探り、目を瞑り、

「あっと…。」

 検索し、首を捻り、

「ですね…。」

 ついに!

「どこでしたっけ?」

 忘れた事を思い出したカケル。

 

 リクノは、

『ズコッ!』

 肩から…。

 

 ヒョウカは、

『ズルッ!』

 足から…。

 

 コケた。

 

 そのシンクロ率は120%。

 

 そう、同時に。

 

 

 乾いた、

「ハッ、ハハハ…。」

 笑いを上げ、

「忘れちゃいました。」

 右手で後頭部を掻くカケル。

 

 ゆっくりと、

「カケルぅ〜。」

 伸ばした語尾に笑いを込めるリクノ。

 

 右手の甲を口元に、

「カケルさんたら…。」

 語尾に笑顔を乗せるヒョウカ。

 

 交互に二人の顔を見て、

「ごめんなさい。」

 頭を下げ、

「もう一回聞いてきます。」

 上げると同時に振り返るカケル。

 

 上げた右手が、

「行かなくて、いいぞ。」

 カケルを制するリクノ。

 

 その言葉に踏み出す足を、

「えっ。」

 止め、また二人へ振り返るカケル。

 

 目尻は下がり、口角は上がる、

「大丈夫ですよ。」

 俗に言う、笑顔で、

「その内、正式な文書が送られてくるでしょうから。」

 フローしたヒョウカ。

 

 ゆっくりとリクノからヒョウカへ視線を移しながら、

「本当に、ごめんなさい。」

 頭を下げ謝るカケル。

 

 

 見計らう。

 

 カケルの頭が上がり切るタイミングに、

「それで、なんですか?」

 更に質問するヒョウカ。

 

 驚きの表情を、

「えっ?」

 ヒョウカへと向けるリクノ。

 

 ヒョウカの二つのメガネのレンズが、

『キラリ!』

 光る音を出し、その奥の瞳に浮かぶ表情を隠す。

「初対戦の事で相手の名前を忘れるとは思えません。」

 次は、お約束の左中指でメガネのブリッジ(レンズの間のフレーム)を軽く持ち上げ、

『クイッ』

 位置を直す効果音を出すヒョウカ。

 

 何とか、

「さ、流石…。」

 復帰し、

「名推理のヒョウカだ…。」

 まだ驚かさせると思い知っるリクノ。

 

 カケルも、

「あっ…。」

 気を取り直し、

「その対戦なんですが…。」

 肩掛け鞄に手を入れ、

「場所がですね…。」

 タブレット端末を取り出し操作した。

 

 お目当ての情報が表示されたのを確かめ、

「ここなんですよ!」

 リクノとヒョウカへと画面を差し出したカケル。

 

 差し出されたタブレット端末に天井に取り付けられたライトの光が二人の影を落とさせる。

 

 頭を突き合わせ覗き込んだ状態である。

 

 一瞬の間。

 

 上げた顔を、見合わせるリクノとヒョウカの二人。

 

 それは、何の打ち合わせなどなく、ごく自然に行われたお約束。

 

 そして…。

 

 テンションが、

「おーっ!」

 上がるリクノ。

 

 喜びの声を、

「まあ。」

 上げるヒョウカ。

 



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惑星(ほし)

 

 溢れる笑顔で、

「凄いでしょ!」

 二人の顔を交互に見るカケル。

 

 また、目を固く食い縛り、

「リゾート惑星モンティカ…。」

 しみじみと口に出すリクノ。

 

 頬の緩みは、

「別名アナザーアース…。」

 魅惑されたとヒョウカ。

 

 鼻息荒く、

「そうなんですよ!」

 力強く、

「星全体が、まるでリゾート艦!」

 興奮し、

「行ってみたかったんですよ。」

 夢見心地なカケル。

 

 直後。

 

 カケルの背中が、

『ゾクリ!』

 予知した。

 

 冷ややかな、

「カケルさん。」

 目線のヒョウカ。

 

 その言葉に体を固くし、

「はぃ…。」

 小声のカケル。

 

 

 氷の微笑。

 

 見る度に、そう思うカケルとリクノの二人。

 

 そのままの微笑で、

「リゾート艦みたいと言うのは…。」

 メガネの奥の瞳が見えなくなり、

「間違いです。」

 否定し、

「正確には、リゾート艦がリゾート惑星を模して造られてます。」

 訂正するヒョウカ。

 

 思わず、

「あっ…。」

 出た言葉に自分の間違いを認めた意味を込めるカケル。

 

 それは、

「確か…。」

 話題を変える切り出し、

「この惑星(ほし)って…。」

 いつの間にか自分のタブレット端末を取り出し、

「テラホーミング無しだったよな。」

 操作しているリクノ。

 

 答える、

「ええ。」

 ヒョウカ。

 

 カケルの、

〘ホッ。〙

 心の声。

 

 組んだ両腕から、

「発見した時から…。」

 右腕を立て人差し指で、

「そのままのはずです。」

 頬に当てるヒョウカ。

 

「やっぱり…。」

 更に思い出し、

「プロトカルチャーのリゾート惑星だったとか言われてたよな。」

 タブレット端末の画面に食い入るリクノ。

 

 タブレット端末を取り出し、

「そうです。」

 操作、

「ありました。」

 確認し、

「間違いないです。」

 画面を目で、

「えっと…。」

 読み、

「惑星(ほし)の命名時に、地球の有名リゾート地から付けた…。ともありますね。」

 口にするヒョウカ。

 

 タブレット端末を両手でもて遊び、

「そこなんだよな…。」

 疑問を口にするリクノ。

 

 リクノの台詞に、

「えっ?」

 短く疑問を口にするカケル。

 

 視線をリクノに、

「なるほど…。」

 移すヒョウカ。

 

 こちらも視線を、

「そうなだよな…。」

 ヒョウカに移すリクノ。

 

 頭の上に、

『?』

 浮かべ、

「リゾート惑星が何か問題なんですか?」

 口にするカケル。

 

 タブレット端末から視線をカケルに移し、

「リゾート惑星ってのがね…。」

 含みのある言い回しのリクノ。

 

 カケルの視線の端に、

『チラリ。』

 映るヒョウカは、顎を右手を当て固まっている。

 

 リクノの言葉に、

「えっと…。」

 更に混迷し、

「リゾート惑星が問題なんですか?」

 聞き返すカケル。

 

 両手でタブレット端末を顔の高さの上げ、

「うーん。」

 角度を変えながら、

「なんで、わざわざリゾート惑星でやるのか?」

 画面を見詰めるリクノ。

 

 両の眉を上げ、

「言われれば…。」

 同じく自分のタブレット端末の画面に視線を向けたカケル。

 

 三人が其々のタブレット端末の画面を食い入る。

 



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青春の星

 

 生まれた静寂。

 

 暫時。

 

 顎に付けた右手を離し、

「おそらくは…。」

 目線を上げ、

「私達はリゾート惑星を楽しむ側ではなく…。」

 ひと呼吸、

「楽しませる側になる…。」

 纏めた考えを口にするヒョウカ。

 

 二人の半開きの口から、

「あっ…。」

 納得の声が漏れた。

 

 右の人差し指が画面を上へスクロールさせ、

「多分、間違ってないと思います。」

 今度は下へスクロールさせ、

「この惑星に進出している全ての企業が協力会社として名前を連ねてますから…。」

 確かめたヒョウカ。

 

 右の人差し指をコメカミへ、

「そう言う事か…。」

 目を瞑り、

「見世物になれってか…。」

 愚痴ぽく言い放つリクノ。

 

 傾げる首、

「見世物ですか…。」

 腕組み、

「でも…。」

 明るく、

「リゾート惑星へ行けるなら我慢です!」

 笑顔になりながら、言い放ったカケル。

 

 その明るさに、

「そ…。」

 少し引き気味に、

「そうだな。」

 賛同するリクノ。

 

 増す笑顔で、

「リゾート惑星と言ったら!」

 力強く、

「ランカ・リーの出世作【BIRD HUMAN −鳥の人−】!」

 夢見る少女の顔になるカケル。

 

 その勢いに、更に更に少し引くリクノ。

 

 

 カケルの心は体を抜け出し、大空へ舞い上がる。

 

 暫時。

 

 その夢に浸る。

 

 

「カケルさん。」

 にこやかに、

「映画みたいな事は起きませんよ。」

 否定したヒョウカ。

 

 図星。

 

「えっ!」

 同時に制服の襟元から首へと桜色が駆け上がり、

「そ、そんな事。」

 顔を染め、

「考えてないです。」

 頭頂部が、

『ポン』

 音を出し小さく噴火したカケル。

 

 その時、両手の平をヒョウカに向け左右に高速で振っていたのは言うまでもなく。

 

 ヒョウカの、

「それに…。」

 その単語は前触れ、

「リゾートを楽しむ時間は無いはずです。」

 カケルの希望を追い打ちし砕いた。

 

 カケルの両肩と首が、

『ガクン!』

 激しい効果音を出し落ちる。

 

 そんな音など聞いてないと、

「私達は本当の空を飛んだ事がないので…。」

 一応、カケルの反応を見ながら、

「慣れる時間が必要と思います。」

 説明したヒョウカ。

 

 

 落ち込む肩に、

「カケル。」

 そっと、

「俺達の青春はヴァルキリーで大空を翔ける飛行機道だ。」

 左手を掛けるリクノ。

 

 落ちた首をゆっくりと、

「はい…。」

 上げリクノへと向けるカケル。

 

 

 掲げる。

 

 リクノの右の人差し指が、

「あの一際輝く星が何か知っているか?」

 部室の天井へ向けられた。

 

 首と共に視線が、

「コーチ…。」

 人差し指の指す方向へ、

「あれは【飛行機道の星】です。」

 向くカケル。

 

 人差し指は天井を指したまま、

「そうだ。」

 顔をカケルへ落しながら、

「あれは【飛行機道の星】だ!」

 頷き、

「あの星が輝く限り、俺達の青春も輝き続ける!」

 背後に燃え盛る炎の演出を出すリクノ。

 

 天井から、

「はい!」

 リクノへと首を巡らせ、

「コーチ!」

 強く頷き、瞳の奥に燃え盛る炎の演出を出すカケル。

 

「カケル…。」

 間を取り、

「お前は、あの【飛行機道の星】になるんだ!」

 また、天井へ向くリクノ。

 

 タイミングを合わせ、

「はい。コーチ!」

 天井へと向くカケル。

 

 二人は、一気に燃え上がる炎の演出を出した。

 

 

 しばらく、そのままのポーズ。

 

 

 天井から、

「って!」

 視線を移し、

「何やらせるんですか!」

 突っ込んだカケル。

 

 掲げていた右手を、

「いやぁー。」

 後頭部に移し、

「ちょっと前に、昔のスポ根ドラマ見ちゃってさ。」

 左手も添えて、

「やってみたかったんだ。」

 組みながら笑うリクノ。

 

 返しは、

「アハハハ。」

 笑い声のカケル。

 

「にしてもよ。」

 笑いながら、

「カケルもノリ良かったじゃん。」

 肩に乗せたままの左手で、

『ポンポン』

 音を出すリクノ。

 

 同じく、

「ほら、こういう時は…。」

 右手を後頭部に移し、

「やっぱり、ノルでしょう。」

 掻くカケル。

 

 そんな二人のやり取りを、楽しげに見詰めるヒョウカの左手の甲は口元へ。

 

 いつしか部室に、

「アハハハ。」

 谺(こだま)する笑い声は、三人が上げていた。

 

 

 そして、それは…。

 

 これまでの話の流れの終わりを告げる合図。

 



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回想

 笑いのテンションが徐々に下がり一段落。

 

 

 カケルに、

「ところでよぅ…。」

 向き、

「ヒビキは行けるのかな?」

 質問するリクノ。

 

 カケルは、

「あっ…。」

 もう一人の部員を思い出した。

 

 ヒョウカは、

「そうですね。」

 静かに、

「折角の対戦ですから…。」

 冷静に、

「部員全員で行きたいですね。」

 残念そうに。

 

 腕組みから、

「ヒビキ…。」

 目を閉じ、

「ちゃんか…。」

 首を撚り考えるカケル。

 

 

 

 

 カケルが考えている間に、時間を巻き戻し【ヒビキ】なる人物の事を説明しましょう。

 

 

 遡る…。

 

 《初フライトの日》から、一番近い学園へ行く日。

 

 まあ、早い話が月曜日。

 

 

 カケルの自宅。

 

 部屋にて。

 

 朝。

 

 気怠さ。

 

 そこは、ベット。

 

 上半身を起こし、

「何だか、体が重い…。」

 首を、

『コキコキ。』

 鳴らし、

「【月曜は学校へ行きたくない病】じゃないよね。」

 自分に言い聞かせるカケル。

 

 初フライトの後から体が少し重いと感じていた。

 シミュレーターと本物の違いから疲れたのだろう。

 そう、思い込んでいた。

 

 それは、

「はぁ…。」

 行きたくないとの意思表示の溜息。

 

 そんな事を、考えている間にも、朝の貴重な時間は費やされていった。

 

 自分に、

「やば!」

 喝を入れ支度。

 

 そして、学校へ向かった。

 

 

 

 教室にて。

 

 扉を潜り、

「おはよー。」

 皆に挨拶し、席に付くカケル。

 

 

 勢いよく開かれた扉、

「聞いて!」

 駆け込み、

「聞いて!」

 慌てた様子の女子生徒。

 

 ……。

 

 そうですね。

 

 彼女を仮に【Aさん】としておきましょうか。

 

 何故って?

 

 それは、Aさんの次の台詞を聞いてからに。

 

 

 Aさんは、

「ねえ。」

 握った両手を、

「ねえ。」

 上下に振りながら、

「聞いて!」

 繰り返し、

「聞いてよ!」

 顔は言いたくて仕方ないと雄弁に語っていた。

 

 注目。

 

 注がれる全ての視線に高揚し、知らず知らず口角が上がるAさん。

 

 先ずは、

『コホン。』

 定番の音を出し、喉の調子を整え、

「あのね…。」

 教室内に行き渡る声で、

「うちのクラスにね…。」

 ゆっくりと教室内を見回すAさん。

 

 間。

 

 いや、これは…。

 

 勿体ぶらせる。

 

 集まる視線を楽しみながら、少しだけ優越感に浸るAさん。

 

 臨界、

〘今だ!〙

 Aさんの心が、その時を知らせる。

「うちのクラスにね…。」

 ため、

「また、転校生が来るのよ!」

 開放した。

 

 クラスの、

「おーっ。」

 幾重にも重なるどよめきは、

『ぅおん。』

 うねりとなる。

 

 

 ちなみに[また]の付かない転校生はカケルである。

 

 

 誰ともなく、

「どんな人?」

 聞く。

 

 Aさんの結んだ口が、

「…。」

 沈黙を出す。

 

 この次の言葉をクラス全員が待つ。

 

「えっと…。」

 また焦らすのかと。

 だが、全員が聞きたくて前のめりにる。

 

 左右。

 

 右手を後頭部に当て、

「わかんない!」

 目が泳ぐ。

 

 全員が、

『ドテ!』

 コケるのは当然の結果。

 

 そこへ、Aさんの、

「アハハハ。」

 乾いた笑いが木霊する。

 

 

 お気付きだろう彼女はクラスの情報屋である。

 

 どの時代の学校にもいる存在なのだ。

 

 時代が進み、情報の入手方法が変った為に、匿名とさせてもらったのだ。

 決して犯罪行為ではないと付け加えておく。

 ただし、[ギリギリ]は行為の前に付く事はある。

 

 

 そして…。

 

 扉の開く音と共に、

「こら!」

 大人の男性が、

「いつまで騒いでる!」

 教室へと入り、

「もう、チャイム鳴ってるだろう!」

 教壇に立った。

 

 このクラスの担任の教師である。

 

 

 ここまでがセットの御約束なのは、この時代も同じである。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 火曜日。

 

 デジャヴ。

 

 そう呼ばれる現象で、カケルの学校生活が始まった。

 

 勢いよく開かれた扉、

「聞いて!」

 駆け込み、

「聞いて!」

 慌てた様子の女子生徒。

 

 当然、Aさん。

 

 昨日とは違う展開、

「何?」

 誰ともなく、いきなり聞いた。

 

 動じず、

「件の転校生ってさ…。」

 やはり注目され、

「女子らしいよ。」

 喜びを感じるAさん。

 

「おーっ。」

 新たな情報にクラスが湧いた。

 

「で…。」

 先程とは違う誰かが、

「名前は?」

 聞いた。

 

 即、

「わかんない!」

 開き直ったAさん。

 

 昨日より小さく、

『カクッ。』

 全員が肩からコケる。

 

 この後は、教師も昨日と同じデジャヴを起こすのは、言うまでない事である。

 

 

 

 

 



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転校生

 翌日。

 

 水曜日。

 

 デジャヴ。

 

 また、そう呼ばれる現象でカケルの学校生活が始まった。

 

 勢いよく開かれた扉、

「聞いて!」

 駆け込み、

「聞いて!」

 慌てた様子の女子生徒。

 

 当然、Aさん。

 

 またも、教室内の注目を集め悦に入る。

 

 目の動きだけで教室を見回すと、〘今だ!〙

 そう心が叫んだ。

 

 

 離れる。

 

 上唇と下唇が名残惜しそうに互いと別れ、そこから喉を通って来た声を出そうとした。

 

 

 出鼻を挫(くじ)く。

 

 一人の女生徒が、

「今日来る転校生の事?」

 発言した。

 

 Aさんの見開かれた目と口は、

「えっ!?」

 驚きを目一杯体現していた。

 

 

 暫時。

 

 Aさんの硬直が解けるまでの時間。

 

 そして、

「な、なんで…。」

 自分の自己同一性が、

「それを…。」

 崩れる音を聞いた。

 

 *自己同一性だと解り難いですが、[アイデンティティ]の方が解り易い(笑)

 

「だって…。」

 先程の女生徒が、

「見慣れない車止まってたよ。」

 半笑いで答えた。

 

 そして、周りの生徒が、

「あれって高級車ってやつじゃないのか?」

「そうそう。ネットとかでしか見ないやつだよな。」

「運転手いたんじゃない?」

「だったら、お金持ちかな?」

 Aさんを忘れ、噂話に花を咲かせた。

 

 Aさんの自信喪失に、

「そんなぁ……。」

 続き、

『へなへなへな。』

 両膝が音を出し、

「みんな知ってたの…。」

 床へと崩れた。

 

 

 こちらも扉が開く音と、

「こら!」

 共に、

「もう、チャイム鳴ってるだろう!」

 いつもの台詞の教師。

 

 生徒それぞれが口にした台詞をまとめると、

「わーっ。」

 それが教室に響く。

 

 注目。

 

 席に着いた生徒の全ての視線を独り占めする存在が教師に続き入って来る。

 

 教壇から生徒全員に向かい、

「今日から、このクラスで一緒に学ぶ事となった。」

 紹介するが生徒の大半は聞いていない。

 

 何故なら…。

 

 生徒達は思い思いに、

「お人形さんみたい。」

「可愛い。」

「何処かで見たような…。」

 などと、小さく声を上げていた。

 

 視線を隣に立つ転校生へ向け、

「自己紹介を。」

 話をふる教師。

 

 

『…。』

 

『……。』

 

 静寂が音を出し、

『………。』

 転校生の台詞を待つ、皆の期待を煽る。

 

 そして、誰かが飲んだ固唾が、

『ゴクリ。』

 教室の静寂をより深みへと誘う。

 

 

 リアルタイムにして役一分程の静寂。

 

 限界。

 

 転校生へ頭を近付け、

「自己紹介を…。」

 もう一度促した教師。

 

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 四秒。

 

 五秒。

 

 誰かが計測していたわけではないから、それぐらい後。

 

「あっ。」

 反応し、

「私ですか?」

 答えた転校生。

 

 何とか、

『カクッ。』

 首だけでコケを止め、

「お願いできるかな?」

 優しく言えた教師。

 

 ちなみに、生徒も一斉に画面の外で軽くコケていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 



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正体

 

 

 

 教壇側から教室内の生徒を向き、

「今日から…。」

 第一声を発した転校生。

 

 

 零(れい)の感覚。

 

 それは、限りなく[無]に近いが[無]ではない。

 ちなみに、[ゼロ]は完全な[無]だそうです。

 

 

 第一声に、

『…。』

 体が反応していたカケル。

 

 何かを感じ取ったと言うわけではないが、何かを感じていた。

 

 正体不明のもの。

 

 しかし、嫌な感覚ではなかった。

 

 むしろ、懐かしいとも、心地良いとも思える何かであった。

 

 カケルの心が、

〘何だろう? この不思議な感覚…。〙

 転校生から反れ、

〘何処かで感じた気がする…。〙

 記憶を、

〘それも、最近…。〙  

 探り始めた。

 

 

 転校生は続け、

「皆さんと一緒に勉強する…。」

 ゆっくりと見回し、

「ヒビキって言います。」

 笑顔に続け、

「よろしく、お願いします。」

 頭を下げた。

 

 即、反応する、

「フルネームは?」

 男子生徒。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 四秒。

 

 五秒。

 

 またも、ヒビキの反応までの時間。

 

「あっ…。」

 驚き、

「私のですか?」

 声の出処方向へ聞き返すヒビキ。

 

 こちらは、

「そうそう。」

 即座に反応した男子生徒。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 今度の反応は早かった。

 

 にこやかに、

「個人情報なので…。」

 返したヒビキ。

 

 

 割り込み。

 

 突如、

「ヒビキくんは、仕事の関係でこの船団に越して来たそうだ。」

 教師が口を開いたのは、ホームルームのために使える時間の残りを心配しての事だと、生徒が思ったのは当然の流れ。

 

 だが、女生徒が聞いてしまうのは、

「ご両親のお仕事ですか?」

 人の性(さが)。

 

 少し俯(うつむ)き、

「いや、ご両親ではなく。」

 加減で、

「ヒビキくんの仕事だ。」

 答えた教師。

 

 

 噴火。

 

 それは一人の女生徒を起点に半径三席に影響を及ぼした。

 

 突如、

「あー!」

 立ち上がり、

「ヒビキちゃんだ!」

 指差した女生徒。

 

 驚き、

「うわ。」

 引き、

「な、何!?」

 立ち上がった女生徒に顔を向け視線を送る周囲の生徒達。

 

 突き出した人さし指を軽く上下させながら、

「ほ、ほらぁぁぁぁぁ!」

 取り乱し、

「あれよ! ほら!」

 興奮する女生徒。

 

 その余波は次第に広がり、

「あっ!」

「えっ!?」

「本当に!?」

 教室の生徒へと伝播(でんぱ)すた。

 

 転校生の正体を語る権利は、

「今…。」

 最初に気付き、

「全マクロス船団チャートで話題のアイドル…。」

 立ち上がった、

「ヒビキちゃんだよね…。」

 女生徒が得た。

 

 全ての生徒の声を、

「おーっ!」

 一言で表現できる程のどよめき。

 

 

 暫時。

 

 この間は、教師としての経験から。

 大声で対抗しても勝てないと解っているから、生徒達に与えた時間。

 

「ほら。」

 嗜(たし)め、

「ヒビキくんは、アイドルではなく。」

 説得し、

「いち生徒として、学びに来てるんだ。」

 生徒を見回した。

 

「はーい。」

 返事は良かったとしておこう。

 

 だが、生徒がそんなに聞き分けが良いとは…。

 本人達が一番解っているのである。

 

 



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昼休み

 

 人だかり。

 

 いえ、ここまでくると…。

 

 群集。

 

 

 少し時間を戻します。

 

 午前中の休み時間では、クラスメイトがヒビキに囲みを作っていた。

 

 それを、

〘私の時も、そうだったな。〙

 外から眺め思い出すカケル。

 

 

 そして、迎えた昼休み。

 

 それは、起きた!

 

 雪崩込む。

 

 学校全ての生徒が一気に、このクラスへ押し寄せた!

 

 そう思える現象。

 

 その圧力たるや、

〘潰されそう…。〙

 物理ではなく、迫力に圧倒され教室を出たカケル。

 

 

 濁流(だくりゅう)。

 

 流れる場所は、廊下。

 

 流れているのは、人。

 

 

 流れから、

『ぽん!』

 抜け出し、

「ふう。」

 安堵の溜息を上げたカケル。

 

 振り返り、

「ようやく…。」

 確かめる自分が、

「抜け出せた。」

 来た方向。

 

 そこに、

「カケルじゃねえか。」

 かけられた声。

 

 振り向き、

「リクノさん。」

 声の主を呼び、

「ヒョウカさん、まで…。」

 隣の人物の名も呼び、

「どうして、ここに?」

 疑問を投げかけた。

 

 両腕を後頭部で組み、

「そりゃあ…。」

 隣のヒョウカへ向き、

「よう…。」

 何かを求めるリクノ。

 

 リクノへ向き、

「無駄足でしたね…。」

 答えの先を口にしたヒョウカ。

 

『ピン!』

 頭から電球を出し、

「噂の転校生を見に来たんですね。」

 カケルが二人に確かめた。

 

 ご名答と、

「にひひひ。」

 笑い、

「そう言う事だ。」

 認めたリクノ。

 

 目的を当てた喜びより、

「意外です。」

 浮かぶ表情は、

「お二人がアイドルに興味あるなんて…。」

 驚きのカケル。

 

「俺はよ…。」

 軽く否定し、

「付き添いみたいなもんだ。」

 ヒョウカへと視線を送るリクノ。

 

 上がる口角は、

「彼女…。」

 軽い笑い、

「ヒビキさんは…。」

 ゆっくりと目を瞑るヒョウカ。

 

 カケルは知っていた、

『あっ!』

 ヒョウカのこの仕草。

 

 ヒョウカの軽く挙げられた右手は、

「アイドルではなく!」

 力強く握られ、

「ディーバです!」

 声も力強かった。

 

 そう、ヒョウカの強い思いを表に出す仕草だと。

 

 その意味を、

「ディーバって…。」

 考え、

「歌姫ですよね…。」

 返すカケル。

 

 

 フォルテシモ(極めて強く)。

 

 そんな記号が付けられていたようにヒョウカは、

「そうなんですよ!」

 声の圧と、

「アイドル活動をしていますが…。」

 体から発する圧は、

「彼女は歌うだけで十分なはずなのですよ!」

 カケルを少し仰け反らせた。

 

 当然、両手の平でブロックしていたカケル。

 

 圧に耐えながら、

「た、確かに…。」

 思い出す、

「自己紹介で、生声聞いた時に…。」

 感覚を、

「何か、『ビビッ』と感じるものが…。」

 口にするカケル。

 

 自分の第一印象を、

「やはり!」

 信じ、

「私の直感に間違いは無かったです。」

 答えとしたヒョウカ。

 

 無関心と思われていたが、

「そんなに…。」

 二人に、

「凄い歌姫なのか。」

 割り込む、

「生声が聞いてみたくなったぜ。」

 リクノ。

 

「そうですね。」

 リクノの向き、

「是非にとも。」

 右の拳と共に頷くヒョウカ。

 

「でも…。」

 その台詞と共に、

「しばらくは…。」

 リクノの向けた視線の先は、

「無理だな。」

 廊下まで埋め尽くす群集。

 

 諦めの溜息と

「確かに…。」

 共に吐き出すヒョウカ。

 

 その切り出しは、

「んじゃあさー。」

 話題を変え、

「飯でも行くか。」

 二人を見るリクノ。

 

「それは、良いアイデアですね。」

 賛同し、

「今なら空いてそうですし。」

 群集へ目線を送ったヒョウカ。

 

 笑顔で、

「行きましょう。」

 答えるカケル。

 

 三人は、群集を尻目にお昼ご飯へ向かった。

 

 



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放課後

 

 時は、放課後。

 

 ところは、部室。

 

 真面目な顔さえ緩む、楽しい時間へ…。

 

 

 二人に向かい、

「今日は…。」

 切り出したヒョウカ。

 

 聞き慣れた、

『ガチャン。』

 部室の扉が開く音が割り込む。

 

 続き、

「お邪魔するわよ。」

 三人の視線を集める先頭の女生徒とお付の一団。

 

 お付の一団は、よく使われる表現なら【ゆかいな仲間たち】であろうか。

 

 その先頭の女生徒をカケルが、

「生徒会長。」

 肩書きで呼んだ。

 

 一瞥し、

「何(なん)か用か?」

 声と表情が不機嫌になるリクノ。入部の時以来、好きでは無いと言っていた事を体現していた。

 

 視線を送り、

「お珍しい。」

 観察し、

「今日は何か?」

 訝(いぶか)しげに対応するヒョウカ。

 眼鏡の奥の瞳が、生徒会長がここに来た訳を探り始めていた。

 

 満面の作り笑顔を、

「今日は…。」

 浮かべ、

「新入部員を連れて参りました。」

 微妙に傾げる首の生徒会長。

 

 驚き、

「し、新入部員ですか!」

 オウム返しするカケル。

 

 返す顔も、

「はい。」

 満面の作り笑顔の生徒会長。

 

 後頭部に両手をやり、

「また、犠牲者か?」

 組みながらリクノが目線を送る。

 

 [また]が付かない犠牲者は自分達の事なのだが…。

 今は楽しく部活動をやっているので、入部の時の事を恨みに思っての嫌味なのである。

 

 腕組みから、

「新入部員ですか…。」

 右手を立て、

「人数が増えるのは助かります…。」

 顎を触り、

「が…。」

 最後の言葉に力を込め、生徒会長の企みに探りを入れるヒョウカ。

 

 

 気にした風もなく、

「それは、良かったです。」

 髪をかき上げ、

「わざわざ、案内したかいがありました。」

 もう一度、満面の作り笑顔の生徒会長。

 

 その笑顔に禍々しさを感じ、その奥に未来の【政治家】を見る三人。

 

 

 右手を軽く握り口元へ。

 

 そこに作られた虚空へと吐き出す。

 

 それは、

『コホン。』

 喉の調子を整えるばかりか、始まりの合図でもある。

 

 オーバーリアクション。

 

 右腕を天へ掲げ、

「では…。」

 左腕は前に突き出し、

「新入部員さん…。」

 両腕で英字の【L】を作り、

『ドロロロットロロ〜♫』

 背後から、あのドラムの効果音をオーラで出す生徒会長。

 

 後、脚さえ上げればバレリーナに見えただろう。

 

 三人から見て左側へとステップする生徒会長。

 

 時を見計らい、お付の一団が作っていた人垣を開門する。

 

 合わせ、

「登場です!」

 見事なポーズで、

『ジャーン!』

 次の効果音を出し紹介した生徒会長。

 

 

「あっ!?」

 カケルの口が開いたままに。

 

「へっ!?」

 リクノの動きが固まったままに。

 

「えっ!?」

 ヒョウカの目が見開かれたままに。

 

 それぞれの表現方法は異なるが、現れた人物を見た反応は三人共に同じ…。

 

 驚き。

 

 そして、三人の時は止まった。

 

 

 堪能。

 

 三人の表情を見詰め、

〘なんて、良い表情なの…。〙

 愉しむ生徒会長。

 

 

 カケルが止まった時間を、

「ヒ…。」

 打ち破り、

「ヒビキ…。」

 口が、

「ちゃん…。」

 新入部員の名前を読んだ。

 

 続き、

「ほ…。」

 ヒョウカが、

「本人…。」

 停止の、

「ですか?」

 呪縛を破る。

 

 最後に、

「ま…。」

 リクノが、

「まさかの…。」

 動き、

「新入部員…。」

 出す。

 

 

 

 

 



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新入部員

 

 

 邪悪な満面の笑顔を浮かべ、

「驚きましたか?」

 勝ち誇り、

「では…。」

 ゆっくりと新入部員へ向かい、

「自己紹介を…。」

 促す生徒会長。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 四秒。

 

 五秒。

 

 無限とも思えた時の流れ。

 

 

「あっ。」

 気付き、

「私ですか?」

 確認するヒビキ。

 

 その場の全員…。お付の集団までが、

『ズコッ!』

 効果音を出しコケた。

 

 正確には、元を作ったヒビキと、反応を知っていたカケルの二人を除くである。

 

 

 きっかり、三秒。

 

 それは、皆が立ち直るまでに要した時間である。

 

 右足に力を、

「お…。」

 込め、

「お願い…。」

 踏ん張り、

「できるかしら…。」

 立て直した生徒会長。

 

 

 二秒。

 

 朝よりも、反応は早かった。

 

 首を、

「えっと…。」

 傾げ、

「新入部員の。」

 考え、

「ヒビキです。」

 思い出し、

「不届(ふとど)き者ですが。」

 頭を、

「よろしくお願いします。」

 下げた。

 

 当然。

 

『ガクッ!』

 効果音を出しコケる。

 

 否、

「ヒョウカと申します。」

 緊張の笑顔で、

「よろしくお願いしますね。」

 答えた。

 

 

 驚き!

 

 コケもせず、上と下を極限まで離す目と口。

 見開かれた目と、あんぐりと開いた口。

 

 そう表現される表情を作るカケルとリクノの二人。

 

 

 約四秒。

 

 カケルが、

「ヒョウカさんが…。」

 喉の奥から声を絞り出す。

 

 リクノの、

「ヒョウカが…。」

 肺が声帯を震わせる空気を送る。

 

 カケルとリクノが同時に、

「ツッコまない!」

 驚愕の真実を告げた。

 

 そして、静寂が部室内を占拠する。

 

 

 流石の肩書き、

「ヒビキさん…。」

 最初に我に返り、

「不届き者ではなく…。」

 ツッコミを、

「ふつつか者でしょう…。」

 入れた生徒会長。

 

 

 約三秒。

 

 頭からギザギザと尖った、

「あっ。」

 リアクションの効果線を出し、

「間違ってました…。」

 自らの間違いに気が付いたヒビキ。

 

 

 少し遅れ。

 

 口元を右手の甲で隠し、

「ヒョウカ、どうかしたのか?」

 そっとカケルの耳元へ囁くリクノ。

 

 ちらりと視線をヒョウカへと送り、

「変ですね…。」

 頷くカケル。

 

 

 緊張。

 

 それは、生まれて初めての感覚。

 

 自分自身でも何が起きているのか理解できていなかった。

 

 カケルとリクノのコソコソ話も耳に入らない程に、心臓の鼓動が早まり、視野が狭くなっていた。

 

 

 観察。

 

 リクノの目がヒョウカを解析、脳が状況を分析する。

 

 結果。

 

 また、

「なあ、なあ。」

 右手の甲で口元を隠し、

「ヒョウカってさ。」

 カケルへ、

「緊張してないか?」

 疑問とも同意とも思える問をするリクノ。

 

 今までのヒョウカを思い出し、

「まさかぁ…。」

 答え、

「そんな…。」

 目線を送り、

「………。」

 確認、

「あっ!?」

 発見、

「口元が僅かにヒクヒクしてる。」

 まさかの真実に驚くカケル。

 

 カケルが、

〘そう言えば…。〙

 思い出す、

〘お昼休みに転校生を見に来たのは…。〙

 あの時の、

〘ヒョウカさんが言い出したみたいな事言ってた…。〙

 会話。

 

 首を、

「えっと…。」

 傾げ、

「あまり、部活動に参加できないかもしれませんが。」

 ゆっくりと語るヒビキ。

 

「そうですか…。」

 残念そうに、

「お忙しいでしょうね。」

 一度、瞬きし答えたヒョウカ。

 

 

 この状況を堪能するように、

「後は…。」

 視線をだけで一瞥し、

「部員さん達に、お任せして…。」

 作り笑顔で、

「私達は帰りましょう。」

 支持を出す生徒会長。

 

 回れ右。

 

 足並み揃え、お付の人達が一糸乱れぬ団体行動。

 

 

 視線を巡らせ窓を確認し、

「あのよ…。」

 生徒会長の背中へ声を投げかけるリクノ。

 

 首を向け、

「何か?」

 対応する生徒会長。

 

 もう一度、

「動物避けの…。」

 窓の向こうを、

「電流柵、設置しても良いか?」

 見るリクノ。その声には、怒りの感情が乗っている。

 

 リクノの視線を追い、

「確かに…。」

 窓の外を確認し、

「必要そうですね。」

 『ニコリ』と対応する生徒会長。

 

 また、

「俺は見られるのは構わないが…。」

 窓を、

「覗かれるのは好きじゃない。」

 確かめるリクノ。

 

 

 野次馬。

 

 窓の外に群がる動物の名前である。

 

「その辺りは…。」

 またも、

「私の権限で何とかしましょう。」

 邪悪な作り笑顔の生徒会長。

 

 頭の後ろで、

「じぁ…。」

 両手を、

「任せたぜ。」

 組むリクノ。

 

「はい。」

 首を進行方向に戻し、

「参りましょう。」

 右手で髪をかき上げ、右足から踏み出す生徒会長。

 

 モーゼの十戒。

 

 それは、海を割る奇跡。

 

 ここで起きたのは、極小規模なもので割ったのも海ではない。

 

 その上、奇跡ではなく訓練。

 

 生徒会長の歩みに合わせ、お付の集団が順番に左右に別れる。

 

 人により作られた、出口までの【花道】。

 

 小さな、小さなモーゼの十戒である。

 

 それを見ていたカケル、リクノ、ヒョウカ。

 

 驚き…。

 

 否。

 

 呆れ。

 

 生徒会長が通り過ぎた割れ目役が、規則正しく左右から追従を始め行列を作っていく。

 

 その訓練された姿が三人の口から『あんぐり』の効果音を出させた。

 

 

 最後に出口となった扉を潜ったお付の人は女生徒。

 

 お辞儀の後に、

『バタン!』

 効果音を出し扉を閉める。

 

 

 

 



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約束

 

 残された四人。

 

 部室の格納庫を満たす静寂…。

 

 否!

 

 外で震わされた大気は、振動となり格納庫内へと伝わる。

 

 怒号。

 

「飛行機道部に関係のない人は速やかに帰って下さい。」

「そこ! 窓に貼り付かない!」

「離れなさい!」

 お付の集団…。生徒会長執行部の面々が動いていた。

 

 生徒会長が、権限で何とかしているようだった。

 

 

 公約…。

 

 ではなく、口約束。

 

 それでも守る。

 

 流石、この学園の政治家。

 

 そう、思うカケル、リクノ、ヒョウカの三人。

 ちなみに、ヒビキの表情からは何も読み取れない。

 

 

 尚も、聞こえる怒号。

 

 外では、取り締まる執行部と野次馬の群れのいたちごっこに発展していた。

 

 執行部が

「コラぁぁぁぁぁ!」

 怒れば、

「わーっ!」

 野次馬の群れが逃げる。

 

 その間に、違う群れが窓へと貼り付く。

 

 

 

 肩幅に開いた両足。

 

 右の爪先が刻む二拍子。

 

 [踏む]と[上げる]を繰り返し、

『コツ』

 靴と地面の共演で、

『コツ』

 音を出す。

 

 加え、腕組み。

 

 右の指が左肘の辺りを足のニ拍子に合わせ、

『コン。』

 軽く、

『コン。』

 叩いていた。

 

 苛立ち。

 

 そのポーズから読み取れる感情。

 

 そう、生徒会長は執行部の面々を見据えながら、不機嫌なオーラを立ち上らせる。

 

 

 突破。

 

 加え、左の目尻が、

『ピクピク』

 震える生徒会長。

 

 忍耐の…。

 

 いえ、我慢の限界を超えた。

 

 

 ちなみに、我慢の慢は、慢心でも使われる良い意味の言葉ではないそうです。

 だから[忍耐力]はあっても、[我慢]に力の付く言葉はないとか。

 

 

 生徒会長の切り出しは、

「あなたたち…。」

 低く、

「何をもたもたしているのですか…。」

 ゆっくり。

 

 それが自分たちに向けられ、

『ビクッ!』

 頭からトゲトゲの反応を出す執行部の面々。

 

 無言。

 

 それの反応が、執行部の面々の全てを表した言葉だった。

 

 

「私を待たせると…。」

 間をはさみ、

「あなたたちも。」

[も]にアクセントを付け、その前の単語を強調し、

「反省文を書かせるわよ!」

 

 早い、

「直ちに!」

 反応で返した執行部の誰からだが、全員から発せられ伝わって来るのは…。

 

 恐怖。

 

 【本気】が【超本気】になる。

 

 こちらも、

「悪質な生徒は捕まえて…。」

 本気の、

「反省文を書かせない!」

 生徒会長。

 

 

 反省文。

 

 それは、この学園に伝わる伝説の一つ。

 

 内容が生徒会長独自の審査基準を満たすまで、書かされる。

 

 そんな事が、生徒達の間にまことしやかに囁かれている。

 

 勿論、噂であった。

 

 そう、今までは[噂であった]。

 

 が!

 

 それが[現実]となり、対象者を恐怖させた。

 

 総合すると、

「わーっ!」

 その声と共に野次馬が全力疾走で逃走。

 

 後に、静寂を残して…。

 

 

 執行部の面々を、

「まあ…。」

 一瞥し、

「あなた達の努力だと…。」

 口元は不満げな、

「して、おきましょうか…。」

 生徒会長。

 

 項垂れ、

「はい…。」

 声を重ねる執行部の面々。

 

 腕組みを外し、

「では。」

 右手で髪をかき上げ、

「帰りますよ。」

 右足から踏み出す生徒会長。

 

 返事の、

「はい。」

 そこには感情はなく忠実であるとの意志を乗せる執行部の面々。

 

 

 そして…。

 

 収まった喧騒。

 

 帰ってきた静寂。

 

 その中でカケル、リクノ、ヒョウカの三人は、自分たちの間違いを知った。

 

 生徒会長は、この学園の【政治家】ではなく…。

 

 【独裁者】だったと…。

 

 

 

 この事を裏付けるかのように、後日出されたのは…。

 

 

 

 お願い。

 

 飛行機道部へのヒビキさん目当ての見学は控えてください。

 部活動の迷惑になります。

 

 お願いしますね。

 

 生徒会長

 

 

 

 当然、あの時の野次馬が[反省文]の事を周囲に漏らしている事を計算済みの文書であった。

 

 生徒達には、怪文書であったかもしれない…。

 

 

 



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理由(わけ)

 

 収まった喧騒。

 

 帰って来た静けさ。

 

 暫時。

 

 そして…。

 

 その間に耐えられず、

「ハハハハ…。」

 カケルの乾いた笑い。

 

 続き右手で、

「生徒会長…。」

 頭を掻き、

「有言実行したな…。」

 苦笑いのリクノ。

 

 ため息で、

『はぁっ…。』

 自分を落ち着かせ、

「これで野次馬の心配は無さそうですね。」

 微妙な笑顔のヒョウカ。

 

 

 思い出し、

「オス!」

 軽く右手を上げ、

「俺は、リクノな。」

 挨拶にする。

 

 続き、

「私はカケル。」

 頭を、

「同じクラスのね。」

 軽く下げる。

 

 

 間。

 

 それもゆっくりとした。

 

 

 先に挨拶した側の方へ、

「リクノさん。」

 視線を送り、

「よろしくお願いします。」

 頭を下げるヒビキ。

 

 次は、少し驚きの、

「カケルさん。」

 表情から、

「同じクラスなんですね。」

 笑顔で、

「よろしくお願いします。」

 返すヒビキ。

 

 思い出し、

「まあ、あれだけ…。」

 複雑な表情の、

「人だかりできてれば、私見えないよね…。」

 カケル。

 

 暫時。

 

 何か、

「あっ。」

 思い付き、

「これからは…。」

 首を、

「クラスでも…。」

 傾げ、

「よろしくです。」

 笑みを向けるヒビキ。

 

 返すは、

「よろしくね。」

 勿論、笑顔のカケル。

 

 

 決意。

 

 いえ、それ程では無いので…。

 

 思い切って。

 

 切り出しは、

「ねえ…。」

 普通に、

「ヒビキちゃんは…。」

 疑問を、

「何で、この飛行機道部に入ろうと思ったの?」

 ぶつけるカケル。

 

 リクノが、

「それ。俺も聞きたい。」

 続き、

「私も、是非。」

 ヒョウカも乗った。

 

 

 いつもの間。

 

 そろそろ慣れたとばかりに気にしなくなっていた三人。

 

 考え、

「えっとですね…。」

 首を、

「人は…。」

 軽く、

「陸を走る、海を泳ぐ…。」

 傾げ、

「でも、空を飛ぶ…。」

 更に頬を、

「それは、唯一生身でできない事…。」

 右の人差し指で、

「だから、惹かれ…。」

 挿しながら、

「憧れるからです。」

 笑顔で答えたヒビキ。

 

 返すは、

「生身でできない事への憧れですか…。」

 笑顔のヒョウカ。

 

 左の目尻と口元を、

「カッケー答えだ。」

 上げ『ニヤリ』と返すリクノ。

 

 目と頬が作る、

『おーっ』

 表情は驚き、

「私、そんな風に考えた事無かった…。」

 そして、目から鱗を落とすカケル。

 

 それは、

「って…。」

 ヒビキの発言が、まだ途中だと言う台詞。

 

 三人同時に、

「?」

 疑問の表情を投げかける。

 

 その通り続け、

「私の公式プロフィールに書いてありました。」

 『ニコリ』とするヒビキ。

 

 

『ガクッ!』

 カケルは首。

 

『ズルッ!』

 リクノは足。

 

『カクッ!』

 ヒョウカは肩。

 

 それぞれが違う形で、同じコケを表現する。

 

 

 追い打ち。

 

 今度は首を、

「後…。」

 反対に傾げ、

「マネージャーさんが…。」

 思い出し、

「マクロス船団時代のアイドルは…。」

 目を瞑り、

「ヴァルキリーとセットだから飛行機道部に入っておいて損はない。」

 ゆっくり開き、

「って言ってました。」

 やはり、しめは『ニコリ』のヒビキ。

 

 

 衝撃波。

 

 今のヒビキの発言をまともに食らい、

『ドテッ!』

 派手な音を出し、コケた三人。

 

 

 暫時。

 

 

 探る。

 

 無意識に、手が掴まる場所を求め宙を泳ぐ。

 

 掴むは、

「ヒ…。」

 机、

「ヒビキちゃん…。」

 抜けた力を支えながら立ち上がるカケル。

 

 掴むは、

「ヒ…。」

 棚、

「ヒビキよう…。」

 抜けた力を支えながら立ち上がるリクノ。

 

 掴むは、

「ヒ…。」

 ロッカー、

「ヒビキさん…。」

 抜けた力を支えながら立ち上がるヒョウカ。

 

 その様子を見た者がいたら…。

 

 出産直後に立ち上がる子牛を想像させるだろう。

 

 それ程に両の脚は『ぷるぷる』していた。

 

 気付き、

「あら…。」

 三人を、

「どうかしましたか?」

 心配するヒビキ。

 

 支え。

 

 掴んだ手に更に加えた力で、次の衝撃に耐えた三人。

 

 まだ震える脚を、

「そ…。」

 踏ん張り、

「そういう事だったのね…。」

 ゆっくりと、

「ヒビキちゃん。」

 顔を上げ視線を送るカケル。

 

 体重を棚に、

「やるのは…。」

 預け、

「本人か…。」

 両足に、

「マネージャーか…。」

 力を入れるリクノ。

 

 手のひらと、

「アイドルは…。」

 ロッカーの摩擦で、

「イメージが大切って…。」

 体を引き上げ、

「言いますからね…。」

 立て直すヒョウカ。

 

 

 肩で息をし、ダメージから回復する三人。

 

 暫時。

 

 

 支えた手を、

「と、とりあえず…。」

 離し、

「部員が増えるのは嬉しいね。」

 喜ぶカケル。

 

 重心を、

「そうだな…。」

 体へ戻し、

「増えるのは、いいことだ。」

 複雑な表情だが、喜ぶリクノ。

 

 離した手は、

「喜びましょう…。」

 自らの脚に、

「生徒会執行部に貸しもできた事ですし。」

 体重を戻し、微笑むヒョウカ。

 

 少し、

「よく…。」

 困った顔から、

「解りませんが…。」

 変わり、

「部員として、頑張ります。」

 『ニコリ』の表情を浮かべるヒビキ。

 

 

 耐えた。

 

 三度目の衝撃は堪えた三人。

 

 心の中で、

〘ふーっ。〙

 深い深呼吸し、

「じゃあ…。」

 ヒビキへ視線を送り、

「今日は…。」

 ゆっくりと助けを求める様にヒョウカを向くカケル。

 

 釣られ、ヒョウカへ視線を送るリクノ。

 

 気付き、

「そうですねぇ…。」

 腕組みから、

「今日は…。」

 右腕を立て、曲げた人差し指で唇を触るヒョウカ。

 

 静寂。

 

 それは、ヒョウカの考える時間が作り出した。

 

 そこに、注がれるカケルの期待の眼差し。

 

 

 それは、突如。

 

 唐突に。

 

『〜♫』

 

 響き渡る音。

 

 それを、

「これって…。」

 知っていたカケル。

 

 それは、

「こりゃあ…。」

 リクノも知っていた。

 

 当然、

「これは…。」

 ヒョウカも。

 

 同時に、

「【私の彼はパイロット】」

 それは音ではなく音楽。

 

 ポケットを、

「あっ…。」

 探り、

「私です。」

 携帯端末を取り出したヒビキ。

 

 そう、音楽の正体はヒビキの携帯端末の着信曲。

 

 画面を操作し、

「はい…。」

 三人に背を向け、

「何でしょう?」

 出るヒビキ。

 

 やり取り。

 

「そんな…。」

「はい。」

「はい…。」

 

 そんな背中を見つめる三人は、邪魔しないように無言である。

 

 そして通話を切り、

「解りました。」

 振り向くヒビキ。

 

 気が付く三人。

 

 ヒビキが浮かべる、その表情の意味に。

 

 裏切らない、

「ごめんなさい…。」

 その顔で、

「今日は、オフの予定だったから…。」

 皆を見回し、

「皆と過ごせると…。」

 肩を落とし、

「思ったのに…。」

 全身で残念だと語るヒビキ。

 

 一番に、

「し、仕方ないよ。」

 口を開き、

「ヒビキちゃんは人気のアイドルなんだから!」

 フォローするカケル。

 

 腕を後頭部で、

「仕事じゃあ…。」

 組み、

「仕方ねぇな…。」

 残念そうなリクノ。

 

 少し首を傾げ、

「それは残念…。」

 直に戻し、

「でも!」

 握る、

「学業とアイドル家業の二足の草鞋(わらじ)…。」

 右の拳は、

「ヒビキさんなら両立出来ます!」

 ヒョウカの応援の現れ。

 

 いつもの時間の後、

「あ…。」

 反応し、

「ありがとう。」

 頭を下げ、

「では…。」

 左足は振り、

「また…。」

 向く準備のヒビキ。

 

 意識せず、

「行ってらっしゃい。」

 その言葉が、

「ヒビキちゃん。」

 口を突くカケル。

 

 

 見開かれた目。

 

 連動し上がる眉。

 

 それは、驚きの表情。

 

 右手を、

「おう。」

 軽く上げ、

「ヒビキ、行ってきな。」

 挨拶にするリクノ。

 

 肩の高さに、

「ヒビキさん。」

 振る右手で、

「行ってらっしゃいませ。」

 別れを惜しむヒョウカ。

 

 その言葉の意味に、

「はい。」

 気付き、

「行ってきます。」

 今日、一番の微笑みで答えるヒビキ。

 

 その後。

 

 振り向いたヒビキに浮かんだ表情は、こみ上げる何かが嬉しくてたまらないと語っていた。

 

 

 

 これが、飛行機道部とヒビキのファーストコンタクトである。

 

 



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予定日

 

 現在。

 

 長かった回想シーンを終え戻る。

 

 

 カケルは考えている…。

 

 首を捻り唸るカケルへ、

「授業には出てるんだろう?」

 リクノが問いかける。

 

 複雑な表情で、

「はい…。」

 答えるカケル。

 

 そして、思い出す教室での事を…。

 

 今だ、休憩時間になると形成させるヒビキを中心とした人垣。

 

 あの堅く守られたヒビキという、天守閣へ近付くのは容易ではないと。

 

 表情を、

「何か…。」

 読み取り、

「問題でも?」

 推察するヒョウカ。

 

 その言葉に、

「教室じゃぁ…。」

 素直に、

「ヒビキちゃんに近寄れない…。」

 右手で頭を掻き、

「なって…。」

 話すカケル。

 

 納得し、

「なるほど…。」

 少し呆れ気味な、

「今だ、人気者ってか…。」

 リクノ。

 

 読み取れない、

「ヒビキさんなら…。」

 表情の、

「当然でしょうね…。」

 ヒョウカだが、その声は推しヒビキの人気が嬉しそうだった。

 

 

 腕組みを解き、

「よし!」

 顔の高さで、

「明日…。」

 握った拳は、

「頑張って聞いてみよう!」

 カケルの決意の現れ。

 

 リクノは少し、

「お、おぅ…。」

 驚き、

「まあ…。」

 戸惑い、

「無責任に、頑張れとは言えないが…。」

 両手を後頭部で、

「無理はするなよ。カケル。」

 組みながら。

 

「まだ、先の事ですから…。」

 微笑み、

「折を見てでも…。」

 無理はするなとヒョウカの表情。

 

「やっぱり…。」

 揺るがぬ、

「早い方がヒビキちゃんも予定し易いかなって…。」

 気持ちのカケル。

 

 開いた口は、

「……。」

 出かかった声を止め、温かい目でカケルを見るリクノ。

 

 上がった口角は笑みを湛え、瞳の奥は暖かさを映すヒョウカ。

 

 そう、カケルの決意を二人は見守る。

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 教室にて…。

 

 授業の終わりを告げるチャイム。

 

 同時。

 

 カケルの、

〘今だ!〙

 心の叫び。

 

 それは、作戦開始の合図。

 

 昨夜、ベットの中で考えていた作戦。

 

 

 心の中で反復される作戦。

 

 

 ☆作戦その一。

[午前中の休み時間を狙うべし!]

 昼休みは他からも人が来るので、ごった返す。だから、人が少ない時間を選ぶ。

 

 

 立ち上がり、

「ヒビキちゃん!!!」

 大声で叫ぶ。

 

 牽制(けんせい)の意味を込め。

 

 集まる視線。

 

 その場の全員が、一瞬にしてカケルに注目する。

 

 

 

 ☆作戦そのニ。

[部活動を強調するべし!]

 生徒会執行部から…。いえ、絶対に生徒会長個人からの通達で、飛行機道部のヒビキちゃんには絡み難いはず。

 

 

 

 歩き、

「部活動の事で話があるの!」

 ヒビキの方へ。

 

 ヒビキの所へ行こうとしていた全員が、

『ピタリ!』

 効果音を出し動きを止めた。

 

 心の中での、

〘やったー!〙

 叫びは、

〘作戦成功!〙

 同じく心の中で、握った拳と共にガッツポーズとなった。

 

 独り占め。

 

 この休み時間をヒビキと二人で使える。

 

 陣取る。

 

 当然、ヒビキの正面。

 

 顔を見ながら、

「ねえ…。」

 切り出す、

「ヒビキちゃん。」

 カケル。

 

 ゆっくりと目へ視線を声の主へ移し、

「あっ…。」

 気付き、

「カケルさん。」

 口角を上げ、

「何か?」

 笑顔を作るヒビキ。

 

 

 最近、飛行機道部で仲良くなったおかげなのか、ヒビキのカケル達への反応速度が早くなっていた。

 時間にして、約二秒程短くなっていた。

 

 

 聞こえる。

『チラチラ』

 音を出し、周囲からの断続的な視線。

 

 見える。

 峙(そばだ)て、こちらの会話に注意する周囲の人達の巨大化する耳。

 

 そんな周囲の注目を浴びながら、

「えっとね…。」

 少し緊張しつつ、

「今度ね。」

 普通を心がけ、

「部活動での対戦試合があるの…。」

 話始めるカケル。

 

 見開いた目は、

「お…っ。」

 驚きと喜び、

「やった…!」

 しかし、話す速度は、

「初対戦だ…!」

 ゆっくりのヒビキ。

 

 反応に、

「でね…。」

 こちらも嬉しくなり、

「一緒に行けないか…。」

 緩む、

「なって…。」

 口元のカケル。

 

 驚き、上がる瞼(まぶた)は、

「あ…っ。」

 見開く目と、

「皆と一緒に…。」

 連動し、

「行きたい…。」

 笑顔になるヒビキ。

 

 答えるカケルの

「うん!」

 表情は、

「一緒に行こう。」

 嬉しいと語る。

 

 何かに、

「あ…っ。」

 気付く、

「それって…。」

 表情で、

「いつですか?」

 聞くヒビキ。

 

 カケルに浮かぶは、

「えっとね…。」

 本題を、

「この船団の時間で、○月✕日からだよ…。」

 忘れていた表情。

 

 傍らの鞄から、

「確認…。」

 携帯端末を取りだし、

「してみます…。」

 操作するヒビキ。

 

 パネルを、

『ピッ…。』

 タッチし、

『ピッピ…。』

 流れる電子音。

 

 聞くカケルの、

〘どうか…。〙

 心の中では、

〘空いてますように…。〙

 祈る言葉が繰り返され、期待と不安が、時間を引き伸ばす。

 

 同じ言葉だが、

「あーっ。」

 発音が違い、

「その日は…。」

 落ちた肩と表情が、

「……。」

 口を噤(つぐ)ませたヒビキに表示された結果を語らせた。

 

 

 フル回転。

 

 カケルの思考の、

〘えっと…。〙

 回路が、

〘こんな時は…。〙

 必死で、

〘どう言えば…。〙

 考える。

 

 体ばかりか、

「その日からは…。」

 声も、

「お仕事が…。」

 落ち込むヒビキ。

 

 意識して、

「そ、そうなんだ…。」

 明るく、

「お仕事は大切だよね。」

 元気に心がけるカケル。

 

 携帯端末の画面を、

「あ…っ。」

 見詰めたまま、

「イベントのお仕事みたいです…。」

 表示の内容を口にするヒビキ。

 

 その声には、

「ヒ、ヒビキちゃんは…。」

 残念な気持ちを、

「皆のヒビキちゃんだから…。」

 隠す明るさを持たせるカケル。

 

 続け、

「えっと…。」

 目は画面を追い、

「リゾート惑星の…。」

 思考が要約し、

「大きなイベントにゲスト参加…。」

 口に語らせるヒビキ。

 

 隠しきれない感情で、

「そっか…。」

 ヒビキの話を、

「リゾート惑星のイベントか…。」

 反復するカケル。

 

 そして、生まれる何か。

 

 それは…。

 

 カケルに脳裏に、浮かぶ小さな何か。

 

 それは昇華され、

「ん?」

 疑問となり、

「リゾート惑星で大きなイベント?」

 質問となる。

 

 ゆっくりと、

「あ…っ。」

 疑問を投げ掛けたカケルへ、

「そうです…。」

 視線を、

「それが、何か?」

 移すヒビキ。

 

 カケルが胸の前で、

「それって…。」

 組んだ腕と、

「何処かで…。」

 瞑った目は、

「聞いたような…。」

 記憶検索の始まり。

 

 その姿を首を傾げ見詰めるヒビキ。

 

 カケルの唸る、

「うーん…。」

 声は、

「うーん…。」

 苦悩の証。

 

 

 暫時。

 

 開くは口、

「あぁぁぁぁぁ!」

 開けるは目、

「思い出したぁぁぁぁぁ!」

 それらが作る表情は明るい、

「それって!」

 笑顔で伸ばしたカケルの両手がヒビキの右手を、

『ガシッ!』

 効果音を出し掴む。

 

 カケルの豹変に、

「あ…っ。」

 驚き、

「えっと…。」

 戸惑うヒビキ。

 

 上下。

 

 握った手と握られた手が、残像を残しながら動く。

 正確には、握った側のカケルが動かしている。

 

 満面の、

「ヒビキちゃん!」

 笑顔で、

「やったね!」

 喜びを伝えるカケル。

 

 頭の上から出た、

『?』

 マークがヒビキの今の状況を表していた。

 

 

 気付き、

「ごめん…。」

 手を止め、

「えっとね…。」

 話の持って行き方を考えるカケル。

 

 カケルに浮かぶ表情から、

「あ…っ。」

 推察し、

「大丈夫…。」

 笑顔で返すヒビキ。

 

 多少の不安が滲む表情で、

「イベントの行われるリゾート惑星って…。」

 恐る恐る、

「モンティカだよね…。」

 聞くカケル。

 

 ヒビキに浮かぶは、

「そうです。」

 何故の表情。

 

 一気にテンションが、

「やっぱり!」

 上がるカケル。

 

 その圧に少し、知らず知らず体を引いていたヒビキ。その距離約2センチメートル。

 

 続け、

「で…。」

 前のめりに、

「イベントは【船団対抗!空中大決戦!】じゃない?」

 聞くカケル。

 

 高まる圧に、

「そ、そうです…。」

 更に2センチメートル下がるヒビキ。

 

 

 【船団対抗!空中大決戦!】

 それは、カケル達が参加するヴァルキリーの試合に付けられた名前だった。

 

 思い出すリクノが言った事…、

「確か、初代マクロス艦が落ちて来た少し前の時代の怪獣映画みたいな題名だな…。」

 言われれば、そんなタイトルを見たような気もする。

 頭の片隅に記憶が再生が行われていたカケル。

 

 

 満面の笑み、

「それって…。」

 それどころか、普通では見えないはずのオーラまで、

「私達の出場する大会だよ!」

 全身全霊で喜びを表現するカケル。

 

 ゆっくりと、

「あ…っ。」

 口角が上がり、

「それって…。」

 瞳が喜びを湛えるヒビキ。

 

 自然と音量が、

「そうだよ!」

 上がり、

「一緒には、行けないけど…。」

 握った拳は、

「一緒に、同じ場所へ行くんだよ」

 嬉しさを離さないカケル。

 

 ヒビキの目一杯の、

「やったー。」

 喜びはゆっくりと発せられる。

 

 二人の喜びは、笑顔の花をさかせる。

 

 そして…。

 

 チャイムが、二人の会話と休憩時間を終わられる。

 

 慌て、

「詳しい事は…。」

 早口に、

「後でね。」

 伝え、席に戻るカケル。

 

 早口に、

「あ…っ。」

 慌て、

「はい。」

 返すヒビキは、離れるカケルを見送った。

 



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報告

 

 

 放課後。

 

 飛行機道部部室の扉の前。

 

 ノブを見詰めるのはカケル。

 

 鼻から息を、

『すーっ。』

 吸う軽い深呼吸。

 

 そして心の中で、

〘よし!〙

 気合を入れ、両の拳を握り決意のポーズ。

 

 ノブに手を回す音が、

『ガチャリ』

 いつもよりも大きく感じるのは緊張が、カケルの五感を鋭くしているからかもしれない。

 

 潜り、

「遅くなりました。」

 中の二人に声をかける。

 

 座っていた椅子の背もたれに体重を預け、

「何か、あったのか?」

 反り返りカケルの方を向くリクノ。

 

 近付きながら、

「今度の大会の事を詳しく聞いてきました。」

 返すカケル。

 

 納得の顔で、

「ご苦労さまです。」

 労うヒョウカ。

 

 カケルの緊張が、

〘落ち着け。〙

 高まり頂点に

〘私。〙

 心の中で、

〘で、頑張れ!〙

 自分を鼓舞するカケル。

 

 リクノのそれは、

「で?」

 世界一短い質問。

 

 予想していた質問に、

〘きたーー!〙

 カケルの心は躍る。

 

 漂わせる([せる]の上からには〔・〕が付きます。)、

「残念ながら…。」

 悲壮感に、

「ヒビキちゃんは…。」

 声のトーンは、

「一緒には…。」

 低く、

「行けないようです…。」

 ゆっくりと語尾は小さく言ったカケル。

 

 リクノの、その表情が、

「まっ…。」

 語るのは、

「仕方ないか…。」

 予想通り。

 

 二つのレンズが、

『キラーン!』

 音を出し光り、

『クイッ。』

 右の中指で、眼鏡の位置を修正するヒョウカ。

 

 そして…。

 

 腕を、

「一緒に行けないのは…。(語尾の[のは]には当然〔・〕が付く)」

 組み、

「残念ですね…。」

 二つのレンズの奥の瞳から、射抜く視線をカケルに放つヒョウカ。

 

 背筋を、

『ゾクリ。』

 駆け上がる音が、

〘ば、バレてる…?〙

 カケルの心を焦らせる。

 

 ヒョウカのゆっくりと上がる口角は、獲物をもて遊ぶ猫を背後にオーラとして浮かび上がらせる。

 

 それを、

「ん?」

 感じ、

「何か引っかかる言い方だな。」

 視線をヒョウカに向けるリクノ。

 

 お返しにと言わんばかりに、

「あら?」

 視線をリクノへ、

「私、そんな言い方でしたか?」

 向けるヒョウカ。

 その表情は、

〘ご名答。〙

 そう言いっていた。

 

 そのやり取りに、カケルの第六感が、

『ドキッ!』

 五感へ告げた。

 

 ゆっくりと視線を移し、

「カケルさん…。」

 ゆっくりと名前を呼ぶヒョウカ。

 

 その意味に、

「はぃ…。」

 声は素直に反応し語尾が小さくなるカケル。

 そして、自分の居る場所を確信した。

 

 そこは…。

 

 【袋小路】

 

 そう呼ばれる場所。

 

 カケルの脳裏に浮かぶ感覚を例えるならば…。

 

 推理ドラマのラストシーン。

 

 犯人が追い詰められる山場。

 

 心が、

『ザワザワ…。』

 そんな効果音を出し波立ち、揺れ始める。

 

 揺れは増し、更に心を揺さぶる。

 

 そして…。

 

 ついに、

『ボキッ!』

 折れる音を出し、真っ二つになった。

 

 苦しくなった胸の奥の肺から送る空気で、

「あ、あの…。」

 喉を震わせ、

「ヒビキちゃん、なんですけど…。」

 話し始めるカケル。

 

 首と共に視線を、

「ん?」

 カケルへ移し、

「一緒に行けないんだろ?」

 不思議な顔で先程の報告を繰り返すリクノ。

 

 右手で後頭部を掻き、

「そうなんですけど…。」

 一瞬、

『チラリ。』

 ヒョウカへ視線を送り確認するカケル。

 

 視線は、

『ギラリ。』

 光るレンズに阻まれ、その奥の瞳の表情を覗(うかが)う事はできなかった。

 

 カケルの背中を、

「ヒビキちゃん…。」

 流れる、

「お仕事で、一緒には行けないんですけど…。」

 自らが作り出した幻影の汗。

 

 その言葉の、

「さっきも、聞いたぞ?」

 意図が解らないと聞き返すリクノ。

 

 決意。

「はい…。」

 いえ、

「お仕事の場所が…。」

 覚悟。

「私達の出る大会なんです…。」

 そして、白状したカケル。

 

 見開く、

「まっ。」

 目と口は驚きのヒョウカ。

 

 勢いよく、

「なっ!」

 椅子から立ち上がるリクノ。

 そのまま、ゆっくりとカケルに、

「それ…。」

 歩み寄り、

「って…。」

 ではなく、詰め寄る。

 

 苦し紛れの笑い、

「へへへ。」

 そして、右手は後頭部を掻くカケル。

 

 リクノの回す右腕で、

「カケル〜ぅ。」

 カケルの頭をヘッドロック。

 

 それは、リクノがカケルのやろうとした事を理解した証と言っていた。

 

 リクノの右腕が、

『グリグリ。』

 効果音を出し、

「この!」

 痛く無い、

「この!」

 締め付けを繰り返す。

 

 それは反応し、

「ごめんなさい!」

 カケルの口から、

「ごめんなさい!」

 繰り返し出る言葉。

 

 繰り返される。

 リクノの、

「この! この!」

 カケルの、

「ごめんなさい!」

 それは、二人の対話。

 

 それを見詰めるヒョウカの視線は口角を軽く引き上げ、楽しげな表情を作る。

 

 

 暫時。

 

 そして…。

 

 不意。

 

 外れたヘッドロック。

「でもよ…。」

 疑問。

「なんで…。」

 右脇に挟んでいたカケルへ、

「白状したんだ?」

 視線を落とすリクノ。

 

 ヘッドロックにより、

「えっと…。」

 前屈みになっていた姿勢を戻し、

「ヒョウカさんに…。」

 『チラリ』視線を向け、

「バレてたみたいだから…。」

 表情を探るカケル。

 

 ヒョウカの見開いた目、

「あら?」

 口の前に持ってきた右の親指を除く四本の指は、

「私…。」

 驚きを、

「気が付いてませんでしたよ。」

 表していた。

 

 今度は、

「えっ!」

 カケルが驚き固まった。

 

 その呪縛を、

「ニャハハハ。」

 解く笑い声に、

「慣れない事すっからだよ。」

 続き、

「だから、ヒョウカの事が必要以上に気になって、バレたと思ったんだろう。」

 解説した。

 

 右手で後頭部を、

「へへへ…。」

 掻きながら上げた笑い声は、

「慣れない事は、駄目ですね…。」

 照れたカケルから上がる。

 

 そんな、二人を優しい視線で見詰めるヒョウカ。

 

 

 暫時。

 

 切り出しは小さく、

「でも…。」

 そして、視線を送るカケル。

 

 リクノは、

「でも?」

 声で聞き返す。

 

 ヒョウカは、傾げた首と目の表情で聞き返す。

 

 カケルの力強い声に、

「二人にも…。」

 握られる拳。

「ヒビキちゃんと…。」

 次に向けた視線も、

「会場に行けるのを…。」

 力強く、

「驚いてもらいたくて!」

 熱い思いが乗っていた。

 

 それを受け止め、

「そう言う事か。」

 笑顔で返すリクノ。

 

 続き、

「そう言う事ですか…。」

 含みのある語尾。

「なら…。」

 間を取り、

「かっこ悪いところは見せられませんね。」

 含みのある笑顔を二人に向けるヒョウカ。

 

 だが、その含みに気付かず…。

 

 元気よく、

「はい!」

 賛同するカケル。

 

 普通に、

「そうだな。」

 同意するリクノ。

 

 ヒョウカの瞳の奥に、

「では…。」

 点るのは、

「特訓の内容を、猛特訓に変更ですね。」

 サディスティックな火。

 

 頬が、

「えっ!」

 引きつるカケル。

 

 口が、

「げっ!」

 半開きで固まるリクノ。

 

 満面の邪悪な笑顔(二人には、こう見えたらしい。)に、

「さあ。」

 声は、

「始めましょう。」

 楽しげなヒョウカ。

 

 軽く握った右手を、

「おう!」

 上げ、賛同とするカケル。

 

 後頭部で、

「まっ…。」

 組んだ手は、

「かっこ悪いところは見せられないからな。」

 いつになく熱くなっていた自分を恥ずかしと誤魔化していたリクノ。

 

 

 

 これが、始まる猛特訓の初日だった。

 



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ターミナル

 

 星の瞬きを、虹に彩られた空間が切り取る。

 

 造られた異次元のゲート。

 

 そこを通り現れた巨大宇宙船。

 

 この世界で、フォールド航行と呼ばれる一般的な空間跳躍である。

 

 

 艦内に流れるアナウンスは、目的地にフォールドアウトし到着した事を告げていた。

 

 

 宇宙旅客船アイボリークイーン号。

 

 船内客室にて。

 

 並び座る三人は、右からカケル、ヒョウカ、リクノの順番。

 

 声と共に

「ふぁーっ。」

 両手を掲げ伸び、

「あたたたた…。」

 そのまま、

「長かった…。」

 右肩に左手を起き揉むリクノ。

 

 首を左右に、

「長旅でしたね。」

 捻り解(ほぐ)し同意するカケル。

 

 左右の指を互い違いに通し、

「本当に。」

 腕ごと下へ向け伸ばし賛同するヒョウカ。

 

 解す肩を、

「早いところ…。」

 変え、

「新技術を導入してくれれば良いのにな…。」

 愚痴るリクノ。

 

 解した首を、

「新技術ってなんですか?」

 リクノへと向けるカケル。視線の奥の瞳は興味津々と言っていた。

 

 リクノは解す左手を、

「ほら…。」

 首へと移しながら、

「今のフォールド航行ってさ…。」

 『チラリ』ヒョウカに、

「フォールド断層の宙域は通常空間を移動だろ?」

 向けた視線は「知ってるだろう?」と聞いていた。

 

 ヒョウカの軽く笑った口元は無言で「はい。」と答える。

 

 カケルの少し上に向けた視線は、

「そうですね。」

 虚無に向けられ、

「引っ越しの時にも、通常空間航行に時間かかってました。」

 記憶を探っていた。

 

 いつになく真剣な、

「そのフォールド断層を」

 眼差しで、

「一気に飛び越える新フォールド航行の技術!」

 熱く語るリクノ。

 

 その話は、

「それ…。」

 カケルの瞳を、

「凄ーい!」

 感動で輝かせた。

 

 リクノの強く発した声は、

「だろ!」

 カケルに同調。

「しかしだ…。」

 俯き加減なのは悲しいと無言で語る。

 

 無意識に、

「しかし?」

 繰り返すはカケル。

 

 カケルの視線を浴び、

「技術の開発には一定の目処が立った…。」

 嬉しそうに語るリクノ。

 

 カケルの鳴る喉が、

『ゴクリ。』

 間を埋める。

 

 リクノの切り出しは強く、

「が!」

 少し弱く、

「普及には至らない…。」

 普通に、

「諸々の事情ってやつだな。」

 笑いを含んで。

 

 『カクッ!』効果音を出し、

「なんですか!」

 肩が軽くコケ、

「それ!」

 笑いと共に突っ込むカケル。

 

 口元に当てた右手の甲は、

「その諸事情は、噂レベルの話では…。」

 軽い笑いを含み、

「あのバジュラも関係しているとか…。」

 解説を引き継ぐヒョウカ。

 

 マクロス船団に生きる者としては、

「えっ!」

 他人事ではない話題に驚くカケル。

 

 後頭部で、

「まっ…。」

 腕を組み、

「我々庶民の知る事では無いってことさ。」

 冗談ぽく笑うリクノ。

 

 返すは、

「確かに…。」

 今の発言を受けいる笑顔のカケル。

 

 

 感じるは、軽い揺れ。

 

 収まるタイミングに、

「着岸したみたいですね。」

 揺れの正体を語るヒョウカ。

 

 そう、カケルとリクノはリゾート惑星の宇宙側ターミナルへの到着アナウンスを聞き逃していた。

 

 惑星の衛星軌道上に造られた巨大ターミナル。

 ここから専用のシャトルで行き来する。

 

 

 二人を、

「降りましょうか。」

 促すヒョウカ。

 

 返す、

「はい。」

 カケル。

 

 返す、

「おう。」

 リクノ。

 

 

 三人は荷物を持ち出口へ向かう。

 

 

 不意に、

『この扉って不思議だよね…。』

 出口を見詰め思うカケル。

 

 思い出す乗船の時。

 

『乗る時は入口…。』

 そして今、

『降りる時は出口…。』

 

 その考えに一人おかしくなり、自然と口元が笑っているカケル。

 

 

 見付け、

「おっ!」

 頬が、

「カケルが笑ってら…。」

 目が、

「リゾート惑星のロマンスの始まりってか?」

 からかうリクノ。

 

 思い出し、

「もう!」

 首から桜色が、

「違いますよ!」

 頭頂部へ駆け上がるカケル。

 

 その様子を、

「はい。はい。」

 楽しげに、

「二人共。」

 見詰め、

「降りますよ。」

 笑うヒョウカは、まるで引率。

 

 少し、

「はい。」

 恥ずかしげなカケル。

 

 してやったり、

「おう。」

 そんな顔のリクノ。

 

 

 

 上陸。

 

 正確には、陸ではないのだが…。

 

 船から降りるのだから、そう言われる。

 

 宇宙側ターミナルへ降り立った三人。

 

 

 【ロビー】。

 

 そう呼ばれる場所。

 

 雰囲気。

 

 演出。

 

 それは、紛れもなくリゾート惑星の港。

 

 素直に、

「わーっ!」

 驚き、

「凄ーい!」

 感動するカケル。

 

 見回し、

「おーっ!」

 上げた声も、

「すげーな!」

 驚きと感動のリクノ。

 

 見開いた目に、

「まあ!」

 トーンの上がった声も、

「凄い!」

 驚きと感動が混ざるヒョウカ。

 

 

 三人が見上げた天井部分に作られた巨大なガラス越しに見える、生のリゾート惑星。

 スクリーンではなく、本物を見せる演習は訪れた客を魅了する。

 

 

 

 



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コテージ

 

 吐き出した声と、

「ふう…。」

 共に手荷物をテーブルに置くカケル。

 

 足元に落とした手荷物で、

「やっほーい!」

 反動を付け、

『ドサッ!』

 ベットへうつ伏せにダイブしたリクノ。

 直後、

『ボヨン。ボヨン。』

 ベットの出した音は、ふかふかだと主張した。

 

 手荷物を持ったまま、

「はい。」

 携帯端末の呼び出しに答えるヒョウカ。

 

 

 ここは割り当てられた、この惑星(ほし)での部屋。

 リゾート地から少し離れた場所に建てられたコテージ。

 

 

 

 少し時間を戻して…。

 

 

 空に燦々と耀く三連太陽の元で、優雅にリゾートを満喫する人々。

 

 それを移動中のオープンカーから無言で、

「……。」

 残念そうに眺めるカケル。

 

 同じく、

「あーぁ…。」

 見詰めるのだが、

「良いなぁ…。」

 後頭部で腕組みして愚痴るリクノ。

 

 見ていた風景から視線を移した先の、

「…。」

 二人に対して楽しげな口元は、反応がカケルとリクノらしかったと思うヒョウカ。

 

 ただ…。

 

 走るオープンカーが切る風は誰にでも平等なのが、不平等であった。

 

 

 そして、約三十分後。

 

 冒頭に繋がる。

 

 

 

 テーブルに備え付けの椅子に、

『ドシ』

 座るカケル。

 その後は…、

「疲れた…。」

 お約束の背もたれに反り返り、両腕を垂らす。

 

 両腕を伸ばし、

「俺は…。」

 ふかふかの枕を引き寄せ、

「うにゃうにゃ…。」

 顔に押し当て、何かを言ったリクノ。

 しかし、枕は声を変換してカケルとヒョウカに伝えた。

 

 無言で聞いていたが、

「はい。」

 返事し、

「解りました。」

 了承したヒョウカ。

 器用に携帯端末を持った右手でボタンを押し通話を終了。

 

 ひと呼吸。

 

 向き直り、

「二人共…。」

 切り出すヒョウカ。

 

 背もたれにあずけた頭を、

「はい?」

 お越すカケル。

 

 枕に埋もれた頭を、

「あん?」

 掘り出すリクノ。

 

 集まる視線を待ち、

「連絡がありました。」

 携帯端末を顔の横にかざし、

「貨物の引き取りに行きますよ。」

 軽く揺らすヒョウカ。

 

 体を戻し、

「貨物ですか…。」

 体制を整え、

「早いですね。」

 立ち上がるカケル。

 

 『ゴロリ』うつ伏せから、

「手際良いじゃん。」

 仰向けへ、

「明日ぐらいになるかと思ってたぜ。」

 そして、体をお尻を支点に回転させ上半身を起こし、足はベットの下へ下ろし立ち上がるリクノ。

 

 携帯端末をポケットに、

「この惑星(ほし)には大勢の人が来ますから…。」

 入れ、

「その対策は講じられているかと。」

 考えられる事から推測するヒョウカ。

 

「確かに…。」

 思い出し、

「上も下もターミナルは人がいっぱいでした。」

 同意するカケル。

 

 ベットに座った状態から、

「まっ…。」

 怠そうに、

「早いに越した事はないな。」

 立ち上がるリクノ。

 

 交互に視線を、

「では…。」

 送り、

「参りましょうか。」

 促すヒョウカ。

 

 後頭部で、

「折角、ここまで来て…。」

 腕を組みながら、

「また、元の地上側ターミナルへ逆戻りか…。」

 少し不服そうなリクノ。

 

 口角が、

『ニコリ』

 効果音を出し、やんわりと否定。

 続け、

「貨物の引取は、専用のターミナルになるみたいたですよ。」

 目が、

「そこから、駐機する軍の施設へ移送です。」

 優しく愚痴を聞き流すヒョウカ。

 

 言い聞かせるのは、

「それなら…。」

 自分の、

「少しは景色も気分も違うか…。」

 リクノ。

 

 手荷物を、

「そろそろ…。」

 テーブルの上の、

「行きましょうか。」

 カケルの手荷物の横に置くヒョウカ。

 

 握る、

『ぐぃ!』

 両の拳と、

「はい!」

 元気な返事のカケル。

 

 両手で両の頬に、

『パチン!』

 音を出させ、

「うしゃ!」

 気合を、

「行くか!」

 入れるリクノ。

 

 

 

 三人は扉を潜り、また燦々と耀くリゾートの三連太陽の下へ。

 

 お約束の、

『キィ!』

 ブレーキ音。

 

 自動操縦のオープンカーが止まり三人が乗り込む。

 

 

 ちなみに、コテージに来る時のオープンカーは運転手付きだったが…、運転していたかは不明である。

 運転手付きと言う車は、時代を問わず贅沢の象徴である。

 

 

 直ぐ様、モニターに現れたCGのナビゲーターの女性が、

『目的地を、入力してください。』

 合成音声で問う。

 

 返すは、

「貨物ターミナルまで、お願いします。」

 ヒョウカ。

 

 一瞬の間は、

『了解しました。』

 目的地検索に要した時間。

『発車しますので。』

 笑顔で、

『シートベルトをお締めください。』

 ナビゲーターの女性がアナウンスする。

 

 

 三人が、シートベルトを締め終えるのを待ち、ゆっくりとオープンカーが発車した。

 

 



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貨物ターミナル

 

 カケルの、

「広っ!」

 

 リクノの、

「広れぇ!」

 

 ヒョウカの、

「広い!」

 

 三人が口にしたのは、驚きの声。

 

 

 自動操縦のオープンカーが辿り着いた、この場所は貨物ターミナル。

 

 最初に降り立った旅客ターミナル等比べ物にならない程に広い敷地。

 

 

 入念なチェックの元に中へと入る三人。

 

 『キョロキョロ』と、

「何処へ行けば…。」

 見回すカケル。

 

 同じく『キョロキョロ』と、

「どっちだ?」

 見回すリクノ。

 

 手にした携帯端末をいじり、

「貨物ターミナルのナビゲーションとリンクさせました。」

 さり気無く作業していたヒョウカ。

 

 カケルとリクノが向けたヒョウカへの視線は、〘なるほど!〙と無言で語る。

 

 スワイプ、

「こちらですね。」

 読み取り、歩き出すヒョウカ。

 

 後に、

「はーい。」

 続くカケル。

 

 同じく、

「おう。」

 続くリクノ。

 

 

 

 迷宮。

 

 そんな言葉が脳裏に浮かぶ道程。

 

 携帯端末のナビゲーションが、

『ピッー。』

 音で到着を伝えた。

 

 それを受け、

「ここのようですね。」

 目の前の大型貨物シャトルに視線を送るヒョウカ。

 

 周囲を、

「にしてもよ…。」

 見回す、

「貨物シャトル多いな…。」

 リクノ。

 

 釣られ、

「本当に…。」

 周囲を、

「貨物シャトルが多い…。」

 見回すカケル。

 

 二人に視線を、

「それは…。」

 移し、

「この惑星(ほし)の生産性が皆無だからだと思われます。」

 答えるヒョウカ。

 

 後頭部で、

「なるほど…。」

 腕を、

「全部、持ち込み…。」

 組み、

「ってか。」

 少し呆れ気味のリクノ。

 

 

 不意。

 

 それは、話題の切り替わり。

 

 いえ、本題に突入。

 

 右手の、

「あっ!」

 人差し指で、

「降りてきました。」

 指すカケル。

 

 その声に反応し、リクノとヒョウカが向く。

 

 そこには、牽引車に引かれた台車が、ソレを乗せていた。

 

 

 それは、

「あれ?」

 驚く、

「うちのヴァルキリーじゃない…。」

 反応のカケル。

 

 続き、

「そうですね…。」

 驚くヒョウカ。

 

 この時、二人はリクノの反応に気が付いていなかった。

 

 

 カケルとヒョウカを驚かせたものは…。

 

 飛行機。

 

 ヴァルキリーが流線型なのに対し、この飛行機は先端から細部に至るまで、直線の組み合わせで形成されていた。

 

 簡単な言葉で表現するなら、角張っている。

 

 そして、纏う雰囲気は紛れもなく【戦闘機】であった。

 それも、初代マクロス時代のものである。

 

 

 無言。

 

 観察。

 

 カケルとヒョウカは、角張った戦闘機に魅入られていた。

 

 そして、

「あれって…。」

 見付け、

「ヴァルキリーですよね?」

 導き出したカケル。

 

 視線は、

「ええ…。」

 角張った戦闘機から、

「確かに…。」

 外さず、

「細部にヴァルキリーの特徴が見て取れますね…。」

 カケルの意見に賛同するヒョウカ。

 

 観察は、好奇心へと昇華される。

 

 切り出しは、

「でも…。」

 否定から、

「あんなヴァルキリー見た事ないです。」

 始めたカケル。

 

 傾げる、

「当時の…。」

 首は、

「資料にも…。」

 疑問の上に、

「ありませんでしたねぇ…。」

 語尾は小さくなるヒョウカ。

 

 

 不意。

 

 唐突に、

「まさかな…。」

 口を開くリクノ。

 

 二人が、同時にリクノへ向く。

 

 目を、

「知ってるの?」

 見開くカケル。

 

 目を、

「知ってるのですか?」

 丸くするヒョウカ。

 

 前で組んだ腕を右だけ立て、顎を掴む親指と人差し指は思い出す仕草のリクノ。

 

 間を取り、

「ああ…。」

 最初は、

「俺の気が確かなら…。」

 ゆっくりと、

「アレは…。」

 切り出すリクノ。

 

『ゴクリ』

 

 カケルの飲んだ固唾の音が周囲の作業音よりも、この場を支配した。

 

 

 そして、

「アレは…。」

 繰り返すリクノ。

 

 興味が引力となり、カケルとヒョウカを惹き付ける。

 

 その距離、約五センチメートル。

 

 無意識に、

「アレは…。」

 繰り返すカケル。

 

 同じく、

「アレは…。」

 繰り返すヒョウカ。

 

 

 

 リクノにより作られる、作為的な間。

 

 テレビならば、ここでCMだろう。

 

 だが…。

 

 これは小説なので、次の話へと飛びます。

 

 

 

 

 



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アレは

 

 リクノの結んだ口が、

「アレは…。」

 ゆっくりと、

「多分…。」

 開かれ、

「【デストロイド・ヴァルキリー】だ…。」

 その正体を語った。

 

 前半を、

「デストロイド…。」

 カケルが担当。

 

 後半を、

「ヴァルキリー…。」

 ヒョウカが引き継ぐ。

 

 浮かぶカケルとヒョウカの表情は、興味と疑問が入り混じる少し複雑なものだった。

 

 アレから目を、

「ああ。【デストロイド・ヴァルキリー】だ…。」

 離さず、

「俺の気が確からだけどな。」

 念押ししたリクノ。

 

 そのまま、【デストロイド・ヴァルキリー】から目が離せなく三人。

 

 

 それは、

「ほほぉ…。」

 称賛を、

「まさか…。」

 含む、

「【デストロイド・ヴァルキリー】を知っている者と出会うとはな。」

 感嘆の言葉。

 

 それが、背後から投げかけられた。

 

 驚きの、

「はっ!」

 カケル。

 

 驚く、

「おぉ!」

 リクノ。

 

 驚いた、

「えっ!」

 ヒョウカ。

 

 同時に三人が頭の上から驚きのトゲトゲを出す。

 

 

 カケルは右。

 

 リクノは右。

 

 ヒョウカは左。

 

 それぞれの振り向き回転方向。

 

 

 三人は、声の出処へ振り向き見たものは…。

 

 最初は、

「誰も…。」

 カケル。

 

 続き、

「居ない…。」

 リクノ。

 

 締めは、

「ですね…。」

 ヒョウカ。

 

 込もるは、

「おい!」

 怒り、

「貴様ら!」

 声に十字路の様な怒りマークが見える程に…。

 

 三人の、

『キョロキョロ』

 首が音を出す行為。

 

 それは、辺りを探す。

 

 怒りは、

「下だ!」

 更に強く、

「し!」

 アクセント、

「た!」

 アクセント、

「だ!」

 アクセント。

 

 一文字ずつ、区切りながら強調した。

 

 

 誘導。

 

 その言葉と通りに、ゆっくりと視線を落とす三人。

 

 そして…。

 

 見上げた人を見付けたリクノ。

 

 見上げた人を認識したヒョウカ。

 

 見上げた人と目が合うカケル。

 

 リクノの、

「おっ!」

 

 ヒョウカの、

「えっ!」

 

 カケルの、

「わっ!」

 

 そして、無意識に…。

 

 見た出立ちを、

「軍服?」

 リクノが。

 

 見た感想を、

「制服?」

 ヒョウカが。

 

 見た姿を、

「子供?」

 カケルが。

 

 

 では、ここで…。

 

 それぞれの口から出た単語を纏め、その人物をモンタージュ合成してみよう。

 

 

 先ずは、リクノの見た出立ちの【軍服】から…。

 

 全体が濃い緑…。俗に言うネイビーグリーンの上下。上はシャツ、下はズボンに膝下までの黒のブーツ。

 目深に被った、黒のつばの制帽も全体は濃い緑。はみ出た金色の髪は、軽いウェブを描く。

 

 

 次に、ヒョウカの見た感想の【制服】。

 

 リクノの言った【軍服】も、イメージしたのだが…。

 細部を飾るものが、【制服】に感じるものをシフトさせていた。

 先ずは、制帽に付けられているのは、どう見ても学校章。

 肩口に付けられた刺繍(ししゅう)のワッペンは、デフォルメされた可愛い《うさぎ》であった。

 更に、シャツの細部にさり気なく付けられた縁取りが見た印象を柔らかくしていた。

 

 

 最後に、カケルが見た姿の【子供】。

 

 これについては、カケルの言った事が全てである。

 身長は百四十センチメートルは無いぐらいの[少女]よりも[幼女]と呼ぶ方が正しいと思える。

 そこに付いた顔は幼く。目の大きな可愛さが見て取れた。

 しかし、その表情は怒りに満ち、滲み出る雰囲気は軍人そのものであった。

 

 これが、三人が見たものを総合した姿である。

 

 

 その舌打ちは、

「ちぃ!」

 明らかに、

「どいつもこいつも…。」

 苛立ちの現れ、

「同じ反応をしおって…。」

 それを右の顔だけが上がる表情で後押ししていた。

 

 右手にしていた棒状の短い鞭を、

『バシッ!』

 左の手の平へ打ち付け、握り込む。

 

 そして、

「特に…。」

 共に、

『ビシッ!』

 鞭で、

「貴様!」

 カケルを指す。

 

 体が、

『ビクリ!』

 音を出し、

「えっ!」

 反応するカケル。

 

 指していた鞭で、

「私は子供ではなく!」

 また、左の手の平を、

「18歳のレディだ!」

 打ち、

『バシッ!』

 音で強調した。

 

 その圧に、

「ご、ご、ご…。」

 押され、

「ごめんなさい。」

 慌てるカケル。

 

 少し、

「私だってな…。」

 横を向き、

「元のサイズに戻れば…。」

 視線を外し、

「[ボン・キュ・ボン]なのだぞ!」

 悔しそうに、言葉を噛みしめる。

 

 二つのレンズが、

『キラーン!』

 音を出し、

『クイッ』

 メガネのブリッジ(レンズの間のフレーム)を左中指で上げる仕草。それは、ヒョウカの推理の始まり。

 

 ゆっくりと、

「失礼しました。」

 頭を下げた、

「その身体的特徴は、ゼントラーディの方でしたか…。」

 後に、[幼女]を見据えるヒョウカ。

 

〘言われれば…。〙

 納得が、カケルとリクノを[幼女]から余計に目を離せなくさせる。

 

 右人差し指で、

「確か…。」

 こめかみに、

『トントン』

 音を出させ、

「フロンティア船団に…。」

 記憶を、

「同じ様な【不器用なDNA】を持った女性がいたはずですよね。」

 再生させたヒョウカ。

 

 

 無表情。

 

 それは、通過点。

 

 怒りを驚きが上塗りし生まれた表情。

 

 そして、

『ニィッ!』

 左の口元が起源の表情へ。

 

 更なる、

「まさか…。」

 驚嘆は、

「【デストロイド・ヴァルキリー】に続いて…。」

 昇華され、

「【不器用なDNA】まで知っているとは…。」

 愉快の高みに[幼女]を登り詰めさせる。

 

 右手の鞭を、体に沿わせた左腕の脇に挟むと、

『ビシッ!』

 同時に、

「こちらこそ。」

 決める正式な《空軍式敬礼》に、

「後ろから、声を掛けるなど…。」

 謝罪の言葉だが、

「大変、失礼をした。」

 その目は愉しさを湛え笑っていた[幼女]。

 

 突如の、

「あの。」

 事に、

「あの…。」

 慌て、

「あの…。」

 ふためき、

「こちらこそ…。」

 頭を、

「ごめんなさい。」

 下げるカケル。

 

 続き、

「俺達も…。」

 頭を、

「悪かった。」

 下げるリクノ。

 

 伸ばした背筋から、

「大変…。」

 丁寧な、

「失礼しました。」

 礼を行うヒョウカ。

 

 三人が頭を上げるのを、

「では…。」

 待ち、

「チャラって事だな…。」

 笑う[幼女]。

 

 笑みで、

「はい。」

 返すカケル。

 

 笑いで、

「おう。」

 返すリクノ。

 

 微笑みで、

「えぇ。」

 返すヒョウカ。

 

 真顔。

『バシッ!』

 右足を地面で鳴らし、

「自己紹介させてもらう。」

 敬礼の右手を体に添わせ、

「私は!」

 気を付けの姿勢に、

「挺黒(テイコク)学園の飛行機道部所属の軍人。」

 少し顎を、

「名前は[タニヤ(峪矢)・アオイ]。」

 引き、

「階級は[部長]であります!」

 決め、

「以降は、【タニヤ】とお呼びください。」。

 名乗った。

 

 唖然は、

「はぁ…。」

 カケル。

 

 呆然は、

「おぅ…。」

 リクノ。

 

 茫然は、

「はぃ…。」

 ヒョウカ。

 

 暫時。

 

 わざと、

「で…。」

 切り、

「そちらは?」

 ゆっくりと問うタニヤ。

 

 我に、

「あっ!」

 返り、

「ごめんなさい。」

 慌て、

「私達は…。」

 気を付けの姿勢を取り、

「BW学園の飛行機道部で…。」

 自己紹介を、

「名前はアマノ・カケルです。【カケル】って呼ばれます…。」

 始めた。

 

 同じく、

「俺は…。」

 気を付けを、

「ダイチ・リクノ。【リクノ】で良いぜ。」

 しながらの自己紹介。

 

 締めに、

「私(わたくし)は…。」

 背筋を伸ばし、

「ウミノ・ヒョウカと申します。【ヒョウカ】とお呼びくださいね。」

 姿勢を正しながら自己紹介。

 

 

 丸くした目は驚いの表情。

 

 軽く俯き、

「いやはや…。」

 左右に、

「対戦相手だとは…。」

 振る首は、

「神は悪戯が過ぎるようだな。」

 呆れたと言うタニヤ。

 

 賛成する、

「本当…。」

 カケル。

 

 同意する、

「だな…。」

 リクノ。

 

 賛同する、

「ですね…。」

 ヒョウカ。

 

 四人の間に流れる静寂。

 

 直後。

 

 タニヤの少し上げた顎が、

「ゥハハハ。」

 天へ声を放つ。

 

 カケルの少し下げた顎が、

「ゥプププ。」

 地へ声を放つ。

 

 リクノの押さえた腹が、

「ゥガガガ。」

 宙へ声を放つ。

 

 ヒョウカの口元へ上げた左手が、

「ゥホホホ。」

 空へ声を放つ。

 

 そして、四人の笑い声が、暫くの間辺りを埋め尽くす。

 



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一人舞台

 

 暫時。

 

 笑いが収まるタイミングを見計らう。

 

 右手に鞭を、

「ところで…。」

 持ち直し、

「リクノ殿…。」

 向き直るタニヤ。

 

 右の親指で、

「俺か?」

 自分を指すリクノ。

 

 タニヤが向けた、

「どの程度…。」

 視線の、

「【デストロイド・ヴァルキリー】をご存知か?」

 愉しそうな事。

 

 リクノの右手が、

「噂程度かな?」

 掴み、

「それも、端っこの薄い奴だ。」

 もて遊ぶ耳は、記憶を探る仕草。

 

 口が作るは、

『ほう。』

 感嘆の形。

「それで…。」

 視線を一度、

「アレの正体を…。」

 【デストロイド・ヴァルキリー】に向け、

「判断したと…。」

 ゆっくりとリクノへと戻すタニヤ。

 

 視線を、

「確かに、その程度しか知らない…。」

 同じく【デストロイド・ヴァルキリー】に向け、

「でもよ…。」

 強い口調と、

「俺には解るぜ!」

 共に両の拳に、

「これを創った奴は本気で…。」

 込める力が、

「本物だってよ。」

 リクノの身体を感動を上乗せし軽く震わせた。

 

 上げた左手は、

「そうか…。」

 親指と中指で、

「リクノ殿は…。」

 両の目頭を押さえ、

「解ってくれるのか…。」

 熱くこみ上げるものを押し止めようとするタニヤ。

 

 リクノの心の奥から、

「あぁ…。」

 こみ上げる熱い思いは、

「解るさ!」

 タニヤと同調する。

 

 押さえられなくなった、

「リクノ殿!」

 左の指を離し、

「感涙である!」

 そのままスライドさせ、

「機体に宿る思いまで…。」

 手首で目から流れ出す熱いものを、

「解ってもらえるとは!」

 受け止めるタニヤ。

 

 

 熱い二人の様子を見ている、こちらの二人は…。

 

 蚊帳の外だと感じるカケル。

 

 疎外感を感じるヒョウカ。

 

 

 左手を目から離し、

「私は、今…。」

 リクノに向き直り、

「数十年来の友と再開した気分だ!」

 熱い視線を送るタニヤ。

 

 口角が、

『ニコリ。』

 音を出し、

「俺もだ。」

 サムズアップで同意するリクノ。

 

 答えるは、

『ニィ。』

 上がる口角とサムズアップのタニヤ。

 

 

 右手でツバを、左手で上部を持ち左右に揺する。

 それは、制帽の位置を再度決め直す仕草。

 相手に非礼無き様にとの最大限の計らい。

 

 下がる口角は、

「リクノ殿。」

 真顔を作り、

「是非、この機体の事を知ってもらいたい!」

 熱い眼差しを送るタニヤ。

 

 見開いた目は、

「えっ!?」

 驚きの、

「良いのか?」

 表情で、

「対戦相手に情報を漏らして…。」

 聞き返すリクノ。

 

 顔の左側が、

『ニヤリ。』

 音を出し、

「大会は、戦争ではなく…。」

 上がり、

「試合…。」

 目は、

「互いの力量を、試し合うのが目的である。」

 愉しさに笑うタニヤ。

 

 反応は、

「おぉ…。」

 驚きを、

「流石…。」

 含み、

『ニヤリ。』

 こちらも愉しいと表情が語るリクノ。

 

「それに…。」

 一瞥、

「そちらの、お二人も興味津々のようだ。」

 これまた、愉しいと口元が笑うタニヤ。

 

 右手で後頭部を、

「えへへ。」

 掻くカケル。

 

 右手で口元を、

「おほほ。」

 隠すヒョウカ。

 

 二人は、知らず知らずにリクノとタニヤの会話の引力に引き寄せられ身を乗り出していた。

 

 

 タニヤが、

「では…。」

 三人を、

「聞いてもらおう。」

 ゆっくりと見回す。

 

 

 そして…。

 

 優雅に舞う。

 

 

 先ずは足元から…。

 

 左足を引き、右足の後ろへ交差させる。

 

 合わせ、腰を曲げ頭を下げる。。

 

 左手は、腰の後ろへ回し添える。

 

 右手は、胸の前にそっと当てる。

 

 それは、見えない翼を折り畳む様な動き。

 

 全てが一連の動作として、拝礼となる。

 

 瞬の静。

 

 そして、動へ。

 

 伸び。

 

 ゆっくりと身体を起こしながら、目を閉じたままに天へと仰ぐ。

 

 胸から掲げる右手の指先は、天の虚空を指し示す。

 

 空いた胸元には、腰の後ろから持って来た左手が優しく当てられる。

 

 陰に隠れていた左足は、右足の横に並び立ち、両足は肩と同じ幅の距離を取る。

 

 その時、幼女はステージに立つ歌手となり、三人を特等の観客席へと誘う。

 

 満を持して開かれる幼き口。

 

 始まる幼女の一人舞台。

 

「聞かせよう…。」

 

 ゆっくりと身体を揺する。

 

 

「数奇な運命の機体の話を…。」

 

「ある時…。」

 

「ある開発者が…。」

 

「ある発想を思い付いた…。」

 

「それは…。」

 

「デストロイドに機動性と汎用性を持たせては?」

 

「と…。」

 

 

 言葉と言葉に挟まれる絶妙の間は、聞くものを惹きつける緩急となり、我を忘れさせた。

 

 

「基本となるのは、デストロイドの頭部と腕部を除く、胴と脚を中心とした機体のベース…。」

 

「それにヴァルキリーと同じ機構の[ファイター][ガウォーク][バトロイド]の三つのモードへ可変。」

 

 これが三人が見た角張った飛行機の正体であった。

 

「そして…。」

 

「ここからが、この機体の最大の特徴。」

 

「ここに、デストロイドの武装をセット。」

 

「臨機応変、変幻自在、千差万別…。」

 

「何と飾る言葉の多き色々な組み合わせを実現。」

 

「例えば…。」

 

「ファランクスの腕である、ミサイルポッドを右腕にセット。」

 

「ディフェンダーの腕である、二連装砲を左腕にセット。」

 

「そこに、制御とセンサーを兼ね備えた頭部を取り付ける…。」

 

「こんな夢の機体…。」

 

 語り部のタニヤが合わせる両手は、天に祈りを捧げる殉教者。

 

「この発想に上層部は、直ちに開発のゴーサインを出しました。」

 

「その嬉しさのあまり、開発者は寝食を忘れ没頭…。」

 

 軽く左右に振る首は、

「いえ…。」

 否定。

 

 瞑る目は、

「その姿は、まるで何かに取り憑かれたかの様…。」

 哀れみ。

 

 ゆったりと取る間。

 

「情熱が作らせたのか…。」

 

「はたまた、取り憑かれた何かが作らせたのか…。」

 

「作製が困難と思われた機体は、開発者の理想から抜け出た様に形になりました。」

 

「そして…。」

 

「始まる運用試験…。」

 

「…。」

 

 ここからが山場だと無言が語る。

 

 ゆっくりと、

「結果は、御三人が…。」

 一人ずつに視線を送り、

「この機体を知らないと言う事が、十二分に物語っている…。」

 

 心の中で、

〘確かに…。〙

 呟き、

『うん。うん。』

 首を立てに振る三人。

 

 タニヤの項垂れる頭(こうべ)に、瞑られた目は、不幸な機体に向けられた悲哀。

 

「この機体が、如何に御(ぎょ)し難(がた)いかったか…。」

 

「機体の汎用性以上に、操縦者の汎用性が問われた…。」

 

「そう…。」

 

「当時は戦時中…。」

 

 込められた力が、

『ギリギリ』

 右の拳に音を出させ、

「パイロットの育成に、必要以上の時間はかけられない!」

 一気に感情と、

「開発の即時中止の決定!」

 共に吐き出した。

 

 緩めた拳は、

「上層部の判断に反発する開発者…。」

 言葉と共に、

「機体を複座にすれば…。」

 力を失う。

 

「立ち塞がる、上層部の壁は高く…。」

 

 俯き、

「この機体の開発中止は覆らなかった…。」

 ゆっくりと首を左右に振る。

 

「開発中場で消えた…。」

 両手が見えない翼を広げるが如く、

「それが、この機体なのだ!」

 身体を向け、全身で【デストロイド・ヴァルキリー】を指し示す。

 

 

 カケルの、

「おーっ。」

 

 リクノの、

「へーっ。」

 

 ヒョウカの、

「ほーっ。」

 

 言葉は違えど、表現は同じ三人。

 

 

 タニヤの俯き握る右の拳は、周囲の光を奪い、暗い帳(とばり)を降ろす。

 

 

 暫時。

 

 

 開き、

「しかしだ!」

 肩の高に掲げられた両手。

 

 それは、

『光あれ!』

 脳内に響く声。

 

 空耳とも言う。

 

 

 降り注ぐ光が、暗い帳を舞台袖へと追いやり、タニヤをその中で浮かび上がらせる。

 

 見上げた頭(こうべ))は、

「この機体の開発は無駄では無かった。」

 天を仰ぐ。

 

「デストロイド・ヴァルキリーの変形機構は、元来複数人での操縦を想定されていたモンスターへと受け継がれ【ケーニッヒモンスター】へと昇華された。」

 

「そして、汎用性は外付けパーツとして…。」

 

「【アーマード・ヴァルキリー】、【スーパー・ヴァルキリー】へと進化した。」

 最後にアクセントを付け強調したタニヤ。

 

 それは、余韻を残し耳に木霊する。

 

 三人の中に、

〘まさか。〙

 渦巻く、

〘そんな秘密が…。〙

 思い。

 

 ゆっくりと込める力が、

『ギリギリ。』

 左手から音を出し、

「そう…。」

 俯いた額の前に、

「この機体は!」

 掲げられ、

「時代に愛されなかった!」

 一気に開放するが如く、左腕と共に横に振られた。

 

 少し天を仰いだ顔の、

「だからこそ!」

 噛み締める口元に、

「私は…。」

 食いしばる目元は、

「この機体に、日の目を見せてやりたいのだ!」

 今にも泣き出しそう。

 

 

 圧力。

 

 それは、心からも発せられる。

 

 改めて思う三人。

 

 

 緩む口元と目元に、

「そう思うだろ!」

 反し、

「リクノ殿!」

 高まる圧力。それは、熱い思い。

 

 押され、

「あぁ…。」

 呆気にとられるリクノ。

 

 だが!

 

 リクノの胸の奥から、

「解るぜ!」

 こみ上げる熱い何かが、

「その思い!」

 両の拳に固く握られる。

 

 ちなみに、カケルとヒョウカは反応できずに呆然としているのは、言うまでもない。

 いえ、書くまでもない。

 

 返すタニヤの

「うん。」

 振られる、

「うん。」

 首に、

『ニィッ。』

 満面の笑み。

 

 同調するリクノも

『ニィッ。』

 満面の笑み。

 



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そして…

 

 それは、

『ひょい。』

 タニヤの足の裏が地面から離れる音。

 

 眼下だったタニヤの視線が、三人の並び立つ高さへ上がる。

 

 カケルは無意識に、

「えっ。」

 顔と目線がタニヤを追い、

「えっ!?」

 後ろに持ち上げた人物を見る驚き。

 

 タニヤの左側から首を回し、

「こんな…。」

 ゆっくりと、

「所にいた。」

 発した、

「探したんですからね。」

 声は怒りのはずだが、

『ぷんぷん。』

 何故か恐ろしさは感じず、寧ろ諭していると思える。

 

 

 擬音なら、

『だら〜り。』

 描写なら、

〘後ろから脇を抱えられ、持ち上げられた猫。〙

 そんな状態のタニヤ。

 

 当然、本人の意志とは感かけなく、

『ニャ〜。』

 口から出される効果音。

 

 

 首を、

「こら!」

 後ろへ、

「離せ!」

 両手と、

『バタバタ』

 両足は、

「副部長!」

 暴れさせるタニヤ。

 

 きっぱりと、

「駄目です。」

 言い放ち、

「離したら、また何処かへ行っちゃうでしょ…。」

 持ち上げたタニヤを少し前に出し、攻撃範囲から遠ざける副部長と呼ばれた女性。

 傍目にも『こんな状況に慣れている。』と思わせる対応である。

 

 

 少し遅れたが、ここで副部長を描写しておこう。

 

 

 年齢はカケルと同年代か、一つ二つ上といったところ。

 

 軍服に見える制服を着ているのはタニヤと同じだが、二人には決定的な違いが見て取れる。

 それは、隆起。制服を内側から持ち上げるものの違い。

 タニヤ風に言うなら『ボン・キュ・ボン』の見事なボディは、制服では隠しきれない。

 

 少し赤みがかった茶色い髪は、腰の辺りまで伸びる。

 

 髪の毛に縁取られた顔には、目尻の下がった大きな目。ふっくらとした頬。筋の通った鼻。その下に、唇が艷やかに並ぶ。

 

 美人ではなく、可愛いと表現されるタイプである。

 

 

 タニヤの、

「離せ!」

 バタつかせる手足は、

「離せ!」

 駄々っ子。

 

 有無を、

「駄目です!」

 言わせぬ、

「皆、待ってるんですからね。」

 強さなのだが、

「行きますよ。」

 何故かおっとりと聞こえる。

 

 嘘の様に、

『しゅん…。』

 大人しくなり、

「そうか…。」

 項垂れ、

「つい、楽しくて話し込んでしまったのだ…。」

 カケル達を一瞥するタニヤ。

 

 その動きに釣られ、目で追う副部長。

 

《トゲトゲ!》

 

 効果線を出し驚く副部長。

 

 そして、カケル達を、

「ごめんなさい…。」

 ゆっくりと見ると、

「気が付かなくて…。」

 タニヤごと頭を下げた。

 

 

 呆れ。

 顔に表示するカケル。

 

 呆然。

 顔に表示するリクノ。

 

 茫然。

 顔に表示するヒョウカ。

 

 

 そう、副部長と呼ばれた女性はカケル達三人に気が付いてなかった。

 

 

 カケル達三人の、

「アハハ…。」

 乾いた笑い。

 

 

 首を、

「リクノ殿!」

 向け、

「それに、カケル殿。ヒョウカ殿。」

 口元が、

『ニィッ。』

 笑い、

「楽しい時間だったぞ!」

 愉しそうな表情を作るタニヤ。

 

 

 突然のフリ。

 

 反応が、

「は、はい。」

 遅れるカケル。

 

 反応が、

「お、おう。」

 遅れるリクノ。

 

 反応が、

「え、えぇ。」

 遅れるヒョウカ。

 

 タニヤの熱い視線が、

「また…。」

 放たれ、

「語り合いたいな…。」

 伸びる先に、

「リクノ殿。」

 刺さる。

 

 反応した、

『ニィッ。』

 口元が効果音を出し、

「あぁ…。」

 右の親指も、

『グイッ!』

 音出し、

「また、話そうぜ!」

 サムズアップとなるリクノ。

 

 語るのは、

『グイッ!』

 タニヤのサムズアップ。

 

 

 首だけ振り返り、

「何を!」

 強い、

「もたもたしている!」

 口調で、

「行くぞ!」

 副部長に命令するタニヤ。

 

 その顔は、

「はい。」

 受け流す、

「はい。」

 余裕を見せ、

「解りました。」

 笑顔で答える副部長。

 

 首を向け、

「またな。」

 口元で、

「御三人。」

 笑い、

「さらばだ!」

 左手で、

『ビシッ!』

 敬礼し挨拶とするタニヤは、今だ副部長の両手で持ち上げられたまま空中であった。

 

 タニヤを抱えたまま、

「どうも…。」

 頭を下げ、

「失礼します。」

 機械的な美しさで、

『カッ。』

 向きを変える副部長。

 

 

 小さくなる二人の足音。

 

 大きくなる三人との距離。

 

 

 今だ持ち上げられたままのタニヤへ、

「よろしかったのですか?」

 正面を向いたままの副部長が、

「部長。」

 囁(ささや)く。

 

 目だけが、

「何だ?」

 後ろを、

「副部長。」

 鋭く見るタニヤ。

 

 今度は、

「さっきの三人って…。」

 副部長の目が、

「今度の対戦相手ですよね。」

 後ろの三人へ向く。

 

 愉しそうな、

『ニィッ。』

 口元に、

「よく判ったな。」

 目は、

「副部長。」

 獲物を狙う捕食者。

 

 副部長の斜め上を、

「そんな人達に…。」

 見る目は、

「こっちの情報を渡して良かったのかなぁ〜って。」

 何かを考える仕草。

 

 目を、

「聞いていたのに、気付いて無いフリとは。」

 細め、

「やるではないか。」

 わざと、

「副部長。」

 ゆっくりと呼んだ。

 

 負けじと、

「お褒めいただき…。」

 目の奥に、

「ありがとうございます。」

 現れるしたたかな光。

 

 笑う、

『フッ』

 口元に、

「たかが、機体の情報…。」

 寄る、

「そんな些末な事で、我々が負けるとでも?」

 眉間の皺は、副部長の台詞が不満だと語るタニヤ。

 

 副部長は、

「あら…。」

 ゆったりと、

「考えていたのですね。」

 驚いた。

 

 不意に、

「当たり前だ!」

 歪めた、

「それにな…。」

 口元が、

「全てを知り、全力で戦う相手を倒してこそ…。」

 副部長に、

「本当の勝利だ!」

 〘まだまだ、解っていない。〙と説教するタニヤ。

 

 開いた口は、

「失礼しました。」

 驚き、

「おっしゃる…。」

 ゆっくりと瞬きは、

「通りです。」

 副部長の敬服の現れであった。

 

 タニヤの胸の前で組んだ腕に、

「解れば良い。」

 瞑った目は、

「副部長。」

 どことなく満足げであった。

 

 

 

 

 不意に、

「あの人達…。」

 遠くなる二人の背中を見詰めたまま、

「手強そうですね…。」

 独り言だが、リクノとヒョウカへ話しかけるカケル。

 

 後頭部で、

「ん?」

 腕を組み、

「何でだ?」

 カケルへ頭を向けるリクノ。

 

 反応し、

「はい?」

 カケルへ、

「何故?」

 向くヒョウカ。

 

 二人へ、

「だって…。」

 頭を向け、

「機体の情報を教えてくれるなんて…。」

 疑問を話すカケル。

 

 視線を遠くなる二人の背中へ、

「まっ、そうだな。」

 戻すリクノ。

 

 戻した視線で、

「本当に、そうですね。」

 離れて行く二人の背中を追うヒョウカ。

 

 頭の上に、

『ピコン!』

 電球を出し、

「あっ!」

 右手で、

「私…。」

 左手のひらを打つカケル。

 

 また、

「ん?」

 カケルへ視線を移すリクノ。

 

 再度、

「えっ?」

 カケルに視線を向けるヒョウカ。

 

 カケルが、

「分かりました!」

 リクノとヒョウカへ向けた満面の笑顔。

 

 カケルの反応に、

「げっ…。」

 左の頬を、

「まさか…。」

 引きつらせるリクノ。

 

 上げる、

「えっ…。」

 左手の甲が、

「まさか…。」

 驚く口元を隠すヒョウカ。

 

 カケルの握った両の拳は、

「私達の戦いは!」

 声と共に力強く。

 

 さらに、

「げっ!」

 右の頬も引きつらせるリクノ。

 

 上げた左手の圧は、

「はっ!」

 身体を仰け反らせるヒョウカ。

 

 声と握り拳の強い力は、

「ここから始まるんですね!」

 全身を震わせるカケル。

 

 予想通りの、

「あちゃぁ。」

 答えに、

「言っちまった…。」

 半ば諦めのリクノ。

 

 ため息混じりと、

「やはり…。」

 共に、

「言っちゃいましたね…。」

 諦めを吐き出すヒョウカ。

 

 二人の反応に、

「何か、マズかったですか?」

 今の言葉が気になるカケル。

 

 浮かべるのは、

「いや…。」

 苦笑いのリクノ。

 

 浮かんだのは、

「まあ…。」

 苦笑のヒョウカ。

 

 苦笑いを、

「大丈夫だろう!」

 打ち消す笑顔になるリクノ。

 

 苦笑を、

「大丈夫でしょう。」

 上書きする微笑みのヒョウカ。

 

 

 全身に漲った力を、

「頑張るぞぉーーー!」

 ジャンプと共に開放するカケル。

 

 その後ろには…。

 

 後頭部で腕を組むリクノ。

 

 メガネのブリッジを左の中指で上げるヒョウカ。

 

 

 その瞬間(とき)。

 

 

 この音で、

『カシャ!』

 切り取られた三人の一瞬は、永遠となる…。

 

 

 

 これは…。

 

 彼女達【飛行機道部】の青春を駆け抜け、大空を舞う物語である。

 

 

 そして、始まる空中大決戦。

 

 それぞれの思いを乗せて。

 

 

 

〜 終劇 〜

 

 

 

 




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


 昔に考えたネタを思い出したところへ…。

 某映画を見て…。

 このキャラに語らせれば!

「ネタを組み込める!」

 そう、思い立ち…。

 軽い気持ちで書き始めたのですが…。

 前作の伏線を少し回収しようとしたところ…。

 ネタよりも、伏線回収の方が長くなってしまいました(笑)




 あっ…。

 読んでいただいた方は、当然お解りでしょうが…。

 念の為に…。

 【デストロイド・ヴァルキリー】

は、私の妄想が生んだ機体です!

 そこからの派生も当然、妄想ですので…。


 えっ?

 言われるまでも無い。

 はい。

 解っております…。

 あくまでも、念の為です。


 もしかしたら…。

 もう出ているネタかもしれませんが、ネタって事でお許しを。



 後…。

 前作から時間があったにも関わらず…。

 元ネタにした某作品は全く…、

 見たり…

 読んだり…

 関われて無いです…。



 これで!

 書いていた小説の完成を目指して…。

 まあ、書いてるとネタが浮かんで、浮気して書きたくなるのは…。

 私の悪い癖。

 ですが(笑)




 次回作を、気長に待っていただけると、喜びます(笑)




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