RAINBOW SIX DOLLS (天海望月)
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民家
ラウンド1:防衛


 一つの小さな二輪のラジコンが、民家の階段を下っていく。

 

 ドローンと呼ばれる軍用品で、無線で遠隔操作できる、動くカメラのようなものだ。

 

 ドローンはそのまま地下室の様子を捉えようと進んでいき、

 

 そして数回の発砲音がした後にシグナルを失った。何者かに破壊されたのだ。

 

「急いで!壁を補強するわよ!」

 

 足音だけが聞こえていた空間に、一人の若い少女の声が響いた。周りの様子はずいぶん緊迫した様子で、このような少女がいるというのはずいぶん場違いである。

 

 ――とはいっても、この場にいるのは全て女性なのだが。

 

 彼女たち五人はとある一軒の民家を占拠している。そこに生物兵器が格納された爆弾を配置し、起爆させようとしている。いわばテロリスト集団だ。

 

 その五人を倒して爆弾を解除するため、これから特殊部隊が乗り込んでくるという情報が入った。自分たちの目的を果たすため、なんとしても爆弾を守り抜かなければならない。

 

 部隊は、薄い木製の壁程度なら爆発物を使って簡単に突破してしまうだろう。それを防ぐため、今からもろい壁を補強しに行くのだ。

 

 最初に発言した彼女を含めた三人は、ガレージに殺到し、鋼鉄製のプレートをガレージの木製のシャッターにあてがう。

 

 レバーを引いていくと、みるみるうちにプレートが縦に上がっていき、最終的には壁を覆ってしまった。

 

 計五枚を三人で分担して補強し、ガレージの守りを強固なものとした。これでここから敵が侵入することは無いだろう。

 

「アーマーを分配します!」

 

 その一方、一人は人数分の防護服が入ったケースを配置した。この防護服があれば、銃弾からある程度は身を守ることが出来るだろう。

 

「ありがとうルーク」

 

「助かるわ」

 

 その防護服を、集まった他の四人は口々に礼を言いながら着用していく。ルークと呼ばれた少女も着々と着ていく。

 

 まだすべき準備は山ほどある。五人の中で一人だけアサルトライフルを持った彼女は、部屋の入り口の近くに機械を配置した。

 

「もうグレネードの心配はいらないわ」

 

 これらは“アクティブディフェンスシステム”、通称ADSと呼ばれる装置で、飛んできた手りゅう弾などの爆発物を空中で撃ち落として無力化するという優れものだ。

 

「流石イェーガー。ところで、よんご……じゃなかった、パルス。私はどこを塞いでおけばいいかなぁ」

 

「ちゃんとコードネームで呼びなさい、キャッスル。外から直接入れる適当な入り口でも塞いでおいて」

 

「おっけー」

 

 そういってキャッスルと呼ばれた彼女は階段を上がり、民家の一回へと向かった。

 

 玄関や裏口に、黄色のバリケードを張っていく。一般的なバリケードは木製だが、このバリケードはアーマーパネルと呼ばれる特別製で、耐久性や防弾性、ともに高水準の優秀なものである。しかし、やはりというべきか、爆発物には弱い。

 

 そしてパルスと呼ばれた少女は、他にドローンが入り込んでいないか走り回って探していた。

 

「スモーク。爆弾と爆弾の間の壁、開通させておいてくれるかしら」

 

「分かりました」

 

 最後の一人、スモークと呼ばれた彼女は、パルスの指示を受けて近くの壁へと向かう。

 

「それっ」

 

 スモークは何やらボールのようなものを投げつける。すると、それが壁にぶつかった瞬間、爆発を起こして大きな穴を開けた。インパクトグレネードと呼ばれる着発式の手りゅう弾を投げつけたのだ。

 

『敵部隊が爆弾を発見』

 

 無線機に、指揮官の声が流れる。作戦開始の合図だ。これから、敵部隊も攻め込んでくるだろう。

 

 五人は各々配置に付き、敵がやって来るのを待ち構える。今一番警戒すべきなのは、二つある階段だ。そこから敵が下りてくる可能性が非常に高い。

 

 戦場に沈黙が訪れる。

 

「――よん……パルス。センサーにはなんか映った?」

 

「全く。本当に攻めてきているのかしら」

 

 パルスはまるで一眼レフカメラのようなものを構えていた。心拍センサーと呼ばれるこの装置は、一定範囲内にある心臓の動きを察知して視覚化する、革新的なものだ。

 

 しかしそのセンサーをどこに向けても反応がない。その様子を、パルスは怪訝に思っていた。

 

 その時だった。

 

『やられたっ!ガレージから、敵が来ます!』

 

「ガレージから!?」

 

 無線機から、スモークの焦った声が届いた。それを聞いて、イェーガーが真っ先にガレージ方面へ飛び出した。

 

「どういうこと?詳しく説明しなさい」

 

『奴ら、壁を溶かして……!ああっ!?』

 

 無線機を通さずとも分かるほどの爆音が、ガレージ方面から鳴り響く。そしてほぼ同時に、複数の銃声が聞こえてきた。

 

 大きな穴が鋼鉄の壁に開いていた。そこから、外の景色が丸見えになっている。

 

 敵は、考えうるあらゆる防壁も破壊可能だという高性能爆薬を使ったのだ。それにより、瞬く間に風穴を開けられてしまった。

 

「喰らえ!」

 

 スモークが黄色い筒を開いた穴に向けて放る。そのまま彼女がリモコンを押すと、その筒から黄色い煙が漏れ出た。

 

「っ!退避しろ!」

 

 外から、女性の怒声が聞こえてくる。

 

 そう、彼女が投げつけたのは、有毒のガスが凝縮されて詰まった、遠隔起爆式のスモークグレネードだったのだ。

 

 だがこれは一定の時間が経てば消えてしまう。少しの時間稼ぎにしかならないだろう。

 

 念押しに、スモークは煙の向こう側へとマガジン一本分の弾を適当にばらまく。

 

「がぁっ!」

 

「……ついてますね、今日は」

 

 ガスをもろに吸って弱っていたのか、弾を数発当てて一人を倒す。

 

 ラッキーな出来事に、スモークはニヤリと笑ってしまった。

 

「上の階から爆発音!敵が来ると思います!」

 

 ルークが報告を入れる。敵はあの一か所から攻め込んでくるとは限らないのだ。その報告を聞いて、キャッスルが階段を上がっていく。

 

『裏口のアーマーパネルが壊されてる!たぶんここから来る……うあーっ!?』

 

「キャッスル!?」

 

 一階から複数の発砲音が聞こえてきた。それは一秒弱ほど続くと、

 

「ぎゃーっ!」

 

 キャッスルの悲鳴によって再び静かになった。

 

「キャッスルがやられたわ……!私はここを見ておくから、ルークはもう一つの階段をお願い」

 

「分かりました!」

 

 だが仲間の死を弔う暇はない。今すぐ敵が攻め込んできて、撃ち殺されてもおかしくないからだ。

 

 そうしているうちにガレージではスモークが放ったガスがそろそろ消えようとしていた。

 

「そろそろ切れますが、もう一個追加しておきましょうか?イェーガー」

 

「いえ、大丈夫よ。煙が晴れたら、私が何人か持っていくから」

 

 車の後ろで、イェーガーが銃を構える。身体の上半身だけを右に傾けて車の影から覗き、極力被弾面積を減らす試みをしていた。

 

 そして、黄色のガスが薄くなりゆき、晴れた瞬間――

 

 彼女は車の影から飛び出し銃を咆哮させ、幾発もの銃弾を放った。

 

「なっ……」

 

 咄嗟のことに反応できなかった敵の一人は、そのまま頭に鉛球を直撃させ倒れる。

 

「ワンダウン!」

 

 そのまま彼女は風穴の空いた壁へ進んでいく。そしてガレージの外にいた、同じく部屋の中へ進もうとしていた敵と鉢合わせし、同時に撃ち合うこととなる。

 

「ぐっ!」

 

 イェーガーは身体に何発か銃弾を食らったが、戦闘不能寸前のところで先に相手を負傷させ、地面に這いつくばらせた。

 

「ぐあっ!?」

 

「運がなかったわね、私と鉢合うなんて」

 

「よ、よせ……」

 

 イェーガーは腰に吊ったハンドガンを抜くと、それを負傷した敵に向け、躊躇もせず引き金を引いた。悲鳴も上げず敵は息絶える。

 

「二人目やったわ!」

 

「容赦ないですね」

 

「敵に容赦できるほど私は甘くないの」

 

 彼女は銃の弾倉を交換する。

 

『うわあっ!?敵です!多分あれは“アッシュ”でした!』

 

 突然無線機からルークの声が流れる。

 

 アッシュとは、テロリストたちの中でも悪名高い、攻撃的な者である。

 

 特別製のグレネード弾をランチャーから発射して壁を突き破り、混乱に乗じて強引に攻め込んでくる。

 

 彼女の通った道には何一つ残らないと形容されるほどで、残っていた四人には少しの動揺が生まれていた。

 

『了解。あなたは引き続きそこを押さえておきなさい』

 

『分かりました!』

 

 だがパルスは冷静に指示を出しながら、足音を立てないようにしながらゆっくりと階段を上がっていく。

 

 銃を構えながらキッチンの方面へと向かおうとすると、

 

「がっ!」

 

 突如横から撃たれることになった。

 

 パルスは左肩に一発受けつつも、横になったキャッスルの身体を飛び越えながら、角を曲がって退避する。

 

「間違いない!アッシュが一階にいる!使用武器は――“G36C”!」

 

 そう無線機に叫びつつ、パルスは左半身だけを出してすぐに応戦する。

 

 だがアッシュはそれを物陰に隠れてやり過ごすと、間髪入れずに発砲して対抗する。

 

「ぐうっ!ああクソッ、当たらない!」

 

 そう愚痴を漏らしながらも、心拍センサーを取り出す。

 

 センサー越しにモニターを覗くと、壁の裏にバッチリとアッシュのものと思われる鼓動の反応があった。

 

 音をよく聞けば、カチャカチャと何かを操作する音が聞こえた。

 

「おそらくリロード中ね、なら!」

 

 彼女は手慣れた動きでセンサーをしまうと、代わりに緑色の箱のような物体を取り出した。

 

「吹き飛べ!」

 

 そしてそれを反応があった方向に投げ、すぐに携帯電話を取り出し発信ボタンを押した。

 

 ――箱を中心に、大きな爆発が起こった。

 

 彼女が投げた物は“ニトロセル”。C4とも呼ばれる爆発物で、殺傷能力は非常に高い。ニトロセルに取り付けた携帯電話に着信を入れることによって信管に電流が流れ、爆発を起こすという仕組みだ。

 

 ニトロセルはあたり周辺のものを吹き飛ばす。人間がそれに直撃しようものならひとたまりもないだろう。

 

「よし、負傷させたわ!」

 

『ナイスです!』

 

 すぐさま報告を入れると、ルークから返事が返ってきた。

 

「とどめを刺す。ルークは念のため待機してなさい」

 

『任せてください』

 

『――あー、ところでパルス、ガレージ側から敵が来る様子がないから、もしかすると……』

 

「――がぁっ!?」

 

『パルス!?』

 

 イェーガーが推測を報告しようとした瞬間、その無線機からパルスの悲鳴が発砲音とともに聞こえた。

 

「クソッ、もう一人も上か!」

 

 今まで発見できなかった最後の一人は、どうやらアッシュとともに一階に突入してきていたようだ。

 

『私が行きます!』

 

「ルーク!?無茶よ、あなたはまだ経験が薄いんだから!」

 

『パルスさんがやられるよりは、私がやられた方がましです!』

 

「ルーク!」

 

 幸い、パルスは負傷するだけで済んだようだ。だがこのままだと、イェーガーがやったようにとどめを刺されてしまうだろう。そう考えたルークは、イェーガーの制止を振り切り飛び出してしまう。

 

「パルスさん!……きゃあっ!?」

 

 だがルークは走って飛び出してしまったがために、接敵した際に銃を構えるのが遅れてしまった。そのためろくな抵抗もできず、彼女はハチの巣にされてしまった。

 

「クソッ、スモーク、行くわよ!――スモーク!?」

 

 ルークがやられたのを確認して、イェーガーはスモークとともに救援に赴こうとする。だが呼びかけたときには、すでにスモークは周りにはいなかった。

 

「ぐっ……はぁ、はぁ――ここまでか」

 

 治療しなければ戦闘不能なほどの傷を負ったパルスは、意識が遠のいていくのに必死に抗っていた。

 

 気を緩めれば今にも意識を手放してしまう。だがその前に敵に息の根を止められてしまうかもしれない。

 

 彼女は絶望していた。

 

「ああ、来た……」

 

 足音が聞こえてくる。恐らく敵のものだろう。

 

 部屋から自分を撃った忌々しい女が出てくる。

 

 彼女は自分に対して銃口を向けた。

 

 あとは引き金を引くだけ――。パルスは、目を閉じて死を覚悟する。

 

 そして、連続的な発砲音が聞こえて、

 

『敵部隊を排除。ミッション成功だ』

 

「――え?」

 

「助けに来ました、パルス」

 

 目を開けたとき、目の前にはスモークが立って、自分に手を差し伸べていた。




今回の犠牲者。


キャッスル「確認しに行ったらやられるとか、あー沼!!!!」

ルーク「アーマーパック置いたので大丈夫ですよね!ね!?」


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