愛里寿と僕と戦車道。 (suryu-)
しおりを挟む

彼女との出会い。です!

 初めましての方は初めまして。いつも私の作品を読んでくださる方は、ありがとうございます。

 どうも、suryu-と申します。

 久しぶりに小説が何も書けないという事態に直面したので、息抜きも兼ねて直近で一番ハマったものを、文にしてみようと考えた結果ガルパンになりました。
 ヒロインは愛里寿です。彼女の可愛さをしっかり表現できたらな。とは思うのですが、難しさも理解してます。
 そんな私の作品ですが、閲覧なさってくださったら幸いです。


 __砲弾の着弾する音がする。人の息遣いが聞こえる。世界が回る。

 

 

 

 幼いと自分で理解している僕が感じたのは、その一言。自分で言うのもなんだけど、一桁の年齢である僕がそんな感想を出すのは、普通ならおかしいと言われるだろう。でも、感じたのはその通りのままなのだから。

 僕は今、母さんに連れられて、一人の少女が行う戦車道を見に来ている。少女、かぁ……僕が使うにはまだ早い。そんな気がする。やっぱり、嫌な子供だな。僕は。

 

「見なさい。あれが”島田流”を小さな体で受け継ぐ子の戦車よ」

 

「分かった」

 

 その動きはとても俊敏で器用に、かつ華麗に敵を落としていく。戦法を相手に合わせて変えながら、全てをこなしていく姿はとても美しく感じる。僕はその”島田流”を受け継ぐ子が、どんな存在かとても気になっていた。少女。とは僕が言ったものの、どれくらいの年齢かは聞いていない。大体、歳上だと思うけど。

 

「それにしても、敵陣は完全に崩れてるわね。どうしてそうなったか、分かる?」

 

「うん、分かるよ」

 

 僕は、そのまま指を順番に指していく。その先にあるのは、暴れる三両の戦車があった。暴れる。というのは比喩だ。でも、それが正しいと僕は思っている。臨機応変な対処をする戦車が三両も居たら、こうなるだろう。

 

「お相手さんは、完全に退路を無くしている。おまけに、パニックを起こしてるよね。一両一両のレベルが高くて、なおかつひいていても攻めてくる。普通なら深追いせずに退陣するところを、圧倒的な攻めで退陣という言葉を無に返している。相手を背水の陣に無理やり追い込んでるように見えて、自分達が背水の陣を敷いている。けど、後詰はきっかり残してる」

 

「正解よ。さすが私の息子ね。……そこまで理解してるなんて」

 

 戦場で戦車が舞う。この光景を見ている僕は、とても感銘を受けている。戦車道がこんなに綺麗だなんて。だから、隊長を務めているその女の子の戦車ばかりを、僕は見つめていた。

 

「ふふ、お熱ね。今までそんなに興味を示さなかったのに」

 

「……だってあの戦車達。生命を吹き込まれてるんだもん」

 

「生命を?」

 

「うん、生命を」

 

 だから、僕は挙動の一つ一つを眺める。ここまで夢中になれるのは、初めてかもしれないから。試合はその間にも目まぐるしく動いて、ついに決着がついた。”島田流”の女の子の勝利だ。

 

「母さん。あの戦車の女の子の所に行っていい?」

 

「あら、気になるのね。貴方から戦車道に関わるのは、本当に今日が初めてね」

 

「うん、そうだね。だからこそ、かも」

 

 こういうお願いをするのは初めてだ。前々から母さんは、僕に戦車道の道を進んでほしそうにしていたのは、僕がよく知ってる。でも、女ばかりの園に僕が入っていいのか。とか、子供らしくない理由ばかりを自分の中で並べて、今までそこまで興味を持てなかった。でも、今日は違う。

 

「ほら、出てくるわよ。あの子が」

 

「……あの子が」

 

 戦車から出てきてのは、体格も小さくて僕と同じくらいの身長の女の子。服装はその年頃らしく、フリルのついた制服を着ている。なんというか、可愛い。という感情を初めて感じた気がする。そして同時に__

 

「えっと、すいません。少しいいですか?」

 

「……誰? お母さんのお知り合いさん?」

 

 母さんが見守る中、僕はこの女の子に声をかけた。少し緊張するけど、大丈夫。今の僕なら何とかできる。そんな意味の分からない自信があった。

 

「初めまして。僕は神田裕翔。えっと、母さんのお友達? が島田流の師範なんだ」

 

「お母さんの……そっか。私は島田愛里寿。今日は、見に来てくれたの?」

 

「うん、そうなんだ。僕の母さんに連れられて。……それで、一目見て……えっと、そう。ファンになったんだ。君の」

 

「私の?」

 

 普段女の子とは、そんなに話すわけじゃないからかなり緊張する。けど、感触は上々。好感を持って貰えたら重畳。……相変わらず自分の子供らしさの無さに嫌気を覚えるけど、今はそれはそれ。これはこれ。

 

「そっか、私のファンか……一個聞きたいんだけど、その、西住流は見た事ある?」

 

「うん、あるよ」

 

 これは嘘じゃない。僕は母さんに連れられて、各地の戦車道の試合を見ることになっている。西住流の娘。かなり歳上の西住まほさんの試合を見たけど、あれはあれで凄かった。でも、僕は物足りなさを感じたのは確か。だから。

 

「たしかに、戦車道では西住流は有名だね。でも、僕は君の戦車道の方が好きだよ。……あ、ごめん。いきなりこんなこと言われたら、嫌かな?」

 

「! ……うん、大丈夫。ありがとう。裕翔君。そっか、私の……ねぇ、裕翔君は何歳?」

 

「僕? 六歳だよ」

 

「そうなんだ……私も六歳だよ。同じだね」

 

「うん、そうだね」

 

 いつの間にか、母さんの隣には母さんの友達? の島田千代さんが来てるけど、気にしない。気にしたら恥ずかしくなって負けるだけだ。

 

「ねぇ、裕翔君。これからも私の戦車道、見に来てくれる?」

 

「うん、きっと。でも__」

 

「でも?」

 

 こればかりは、夢物語のような話かもしれない。けど、僕だって努力すればきっと。頑張ればできるかもしれない。だから。

 

「僕はいつか、君の__愛里寿の隣で、戦車道をやってみたいな」

 

「っ……うんっ、できたらいいな!」

 

 

 

■■■

 

 

 

「……ふふ、まさか息子の成長がこんな所で見られるなんて、思わなかったわ」

 

「由利。これ、狙ってたの?」

 

「まさか、そんなことは無いわ。でも……そうね、愛里寿ちゃんに惚れ込んだのは、確かみたいね」

 

 早速打ち解けて、仲良く遊ぶ愛里寿と裕翔の背中を見ながら話す母親二人は、なんとなく嬉しそうな。それでいて楽しむような顔をしている。まるでこの二人が、こうなる事を望んでいたような。特に、裕翔の母親である由利は、まさにこれを求めていたと言っても過言ではない。愛里寿の母……島田千代もそうだろう。

 

「……男の子が戦車道、か。由利、昔から言ってたわね」

 

「ええ、私も旦那と戦車道がしたかったもの。それはちよきちも、しぽりんも言ってたでしょ?」

 

「ちょっと、人が居るんだからその呼び名は……まあいいか。ゆりっぺ。それだけじゃないんでしょ?」

 

 「分かっちゃう?」なんて笑う由利を見て、千代は本当に変わらないわね。と長年付き合っている友人の顔を見て、苦笑いした。けど、それが不味い意味という訳では無い。

 

「ゆりっぺ。やっぱり今の戦車道は」

 

「うん、ちよきち。お上が固すぎるし、それに闇も深くなってきている。だから私達が変えていかなきゃいけないのは、確かね」

 

「しぽりんも言ってたわね、だから革命を起こさなければならないって」

 

「そうね。だから、これがその一歩になるかもしれない。……そもそも、誰が決めたのかな、戦車道は女の武道って」

 

「さあ。それは昔の人だからわからないわ。大方思想でも絡んでるんでしょうけど 」

 

 小難しい話は、子供に聞かせず自分達で処理する。そこは大人の務めだろう。千代も由利も、楽しそうに話をする裕翔と愛里寿に幾らかの安心感を覚える。たとえ由利は自分の子供が大人びていようと、子供としての幸せはしっかり、教えるつもりでもあるからだ。千代も千代で、愛里寿の嬉しそうな顔が見られるなら、母親としてはそれ以上の満足はない。

 

「それにしても、愛里寿ちゃんの隣で戦車道……なんて、裕翔。愛里寿ちゃんの戦車の乗り手になるのかしら」

 

「ゆりっぺの子供だから、有り得なくないかしら。絶対能力は持ってるはずだから」

 

「ふふ、それは嬉しいわね。今日なんか試合の流れをあの歳で解説してくれたわ」

 

「そうなの? これは将来有望ね……愛里寿にとっても」

 

「あら。親が先に裕翔にマーキング?」

 

「ふふ、有力株でしょ。”神田”の息子は」

 

「そうねぇ、自慢の息子だから、簡単には渡したくないわ」

 

 千代の言葉に含みがあるのは、二人の子供にほとんどが夢中になってるために、由利以外の誰もが分からない。”神田”という苗字は彼女達にとって、とても大きなものだ。まあ戦車道の人間なら、彼女達周辺のわかる人はわかるだろう。

 

「……まあでも、近い未来愛里寿も満更ではなくなるかもね」

 

「あら、どうして? 島田流の娘なら、引く手数多でしょ」

 

「だからこそ、よ。ふふ、まぁいずれ分かるわ」

 

「そうね。それじゃあこれから私は、裕翔の訓練を積んであげなきゃね」

 

「ふふ、楽しみね。ほんとに愛里寿の隣に来たがるんなら……一緒に革命を起こしてもらわなきゃ」

 

 母親二人は、そんな未来に思いを馳せる。この二人なら、何かやってくれそうな。そんな気配を由利と千代は、幼き裕翔と愛里寿に感じているのであった。

 

 

 

■■■

 

 

 

”いいかしら? 裕翔。貴方は愛里寿ちゃんの隣で戦いたいのよね?”

 

”うん、そうしたい。僕が初めて……惚れ込んだ戦車道だから”

 

”なら教えましょう。私の技術の全てを”

 

 

 

 

■■■

 

 

 

「裕翔君。整備まだしてるのー?」

 

「ええ、まぁ。僕と”彼女”の大事な戦車ですから」

 

 あれから数年。僕は母さんから戦車道のイロハを教わり、父さんからは整備の技術を沢山仕入れた。そして今日も訓練で使った戦車を、自分の手で整備していく。オーバーホールなんかもできるようになって、今では車の整備もたまにするくらいだ。将来免許をとったら、スポーツカーに乗りたいものだ。

 

「いいの? ”隊長”ほっといて。裕翔君と大学行けるの、楽しみにしてるんだよ。だから今日は早く練習終わらせたのに」

 

「分かってますよ。でも、こいつを整備しとかないと……大学初戦で勝つ。なんてことできないですから」

 

「まあ、そうだけどねぇ。非公式戦に何もそこまでしなくとも」

 

「何をせずとも嘗められる。そんな僕ですから、手だけは抜かないようにしておこうと」

 

「はぁ、ほんと真面目ねぇ」

 

 僕達の部隊の隊員は、そんな僕の様子に苦笑いしたりはするけど、止めたりはしない。だから、好きなように僕は戦車の整備を黙々と進める。こいつは僕と”彼女”を結ぶ、大事な存在だから。そんなことを考えていると、影ができる。誰か来たのかな? と振り返ると”彼女”がそこに居た。

 

「やっぱり、整備してると思った」

 

「ああ、愛里寿。ごめんね。いや、大学戦車道の初陣のために、少し微調整をさ」

 

「そっか。でももう少し一緒に居ても良いよね。私、楽しみにしてるんだから」

 

「あはは……どうにも癖がついちゃってさ、こいつをいじるの」

 

「……もうっ」

 

 そう、僕は愛里寿が隊長を務める部隊で、愛里寿と同じ戦車に乗っている。僕の役目は砲手。一応ありとあらゆる状況の砲撃をこなせると、自負しているのは悪いことなのだろうか。

 愛里寿は僕の脇に歩いてくると、ぽすりと僕の隣に座る。初めて愛里寿に会った時は、僕と同じくらいの身長の筈だったが、今では僕の方が高くなっている。体つきに関しては、男らしくなった……つもりだ。相変わらず、考えていることは年齢に比例してないけど。

 

「裕翔。大学ってどんな感じなんだろうね」

 

「んー、僕らは飛び級して、中学と高校を知らないからなんとも言えないけど……そこら辺より開かれた場所。かな、多分。でも勉強はしっかりしないとだけど」

 

「だよね。サークルってどんなものがあるのかな? 私、楽しみ」

 

「僕もだよ。大学だからこそ、割と自由で尚且つ面白いサークルなんか、あるかもしれないからさ」

 

 実際、そこら辺は楽しみにしてないわけじゃない。けど、まずは大学の初戦。そればかりを気にするのを分かっているのか、愛里寿は僕の肩をぽんぽんと叩いた。

 

「考えすぎ。大丈夫。……私と裕翔なら絶対勝てる」

 

「……そうだね。そうかもしれない。なら、やるしかないよね」

 

「うん、だから楽しみ。裕翔と一緒に楽しむ」

 

 こんなことを言ってくれる女の子が僕の隣に居るんだから、これからが楽しみにならないわけがない。まあ、恋人とかそういうのじゃないんだけど。

 

「それじゃあ、明日の用意をしようか」

 

「整備、もういいの?」

 

「うん、微調整終わったから」

 

「分かった。それじゃあ、用意。しよ!」

 

「ふふ、了解」

 

 とりあえず僕と愛里寿の大学生活と大学戦車道は、今。始まったばかりだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大学生活開始。です!

 今回も見てくださった皆様、ありがとうございます。どうも、suryu-です。

 戦車道描写に関して不安が未だに多く残るのですが、なんとか更新致しました。もう少し上手くなりたいなぁ……

 そんな感じですが、今回も閲覧なさってくださったら幸いです。


 大学の入学式は、それなりの長さで終わるもの。僕はとりあえず愛里寿の隣で校長の話を聞いたあと、寝そうになっていた愛里寿を起こして閉式。外に出てみると、サークル勧誘をする先輩方がたくさん居た。

 

「愛里寿、凄いね。小学校とは全然違う」

 

「うん。裕翔と一緒に居るから怖くないけど、一人だったらちょっと大変だったかも」

 

「だね。因みに愛里寿は気になるサークルとかはあるの?」

 

「まだ考え中だよ。裕翔は?」

 

「んー、自分の趣味と合うものがあれば、かな?」

 

「裕翔の趣味って広いから、色々できそうだよね……サッカーにゲームに、その他もろもろ」

 

「まあね。色々な人と話しが合うようにってしているうちに、いつの間にか」

 

 大学のサークルは部活と違って、制約がなくて面白いなんて聞いたことはある。だからなんだろうけど、サークルの数は沢山だ。僕と愛里寿が通う大学も、人が多いしたくさんの種類がある。これは選り取りみどりで、選ぶ甲斐が有りそうだ。サークルの人の性格が自分と合うか、しっかり吟味して選ぶことにしよう。この際だ。僕の考えが子供らしくなくても、受け入れてくれる人が一番だ。

 

「……サークル活動するなら、裕翔と色々やってみたい。裕翔が居ると安心だから」

 

「そう? そう言ってくれると嬉しいけど、好きなのやっていいんじゃないの?」

 

「やだ。裕翔と一緒に」

 

「……まあいいけど」

 

 愛里寿はたまに、こういう時がある。千代さんは微笑ましそうに見てくるけど、男相手だと勘違いしかねないから僕はハラハラしてる。まあ、色々あるし。

 

「とりあえず、裕翔。この後大学戦車道の非公式戦だね。先輩達に勝てるかな?」

 

「勝てるよ、僕と愛里寿なら。いつも通りやればいい」

 

「それなら安心。裕翔と一緒なら、どんな相手でも勝てる気がするから。西住流が相手でも」

 

「ふふ、だよね。……それじゃあ行こうか、愛里寿。今日の戦場も、とても面白くなりそうだね」

 

「うん。知らない人との連携、どうなるかは分からないけど楽しみ」

 

 とりあえず僕と愛里寿は、ゆっくりと戦車道の会場へと歩いていく。大学戦車道の実力はどんな物かは分からないが、こうして愛里寿と歩いているとどんな相手でも戦って勝つことができる。そう信じることができるから。

 

 

 

■■■

 

 

 

「島田流の子ならともかく、まさか男子が戦車道。しかも島田流の子の砲手。大学戦車道は男子なんかで勝てるほど、甘くないのよ?」

 

「まあ坊やは坊やらしく、可愛がってあげましょう。逆に島田流の子。愛里寿さんは最大に警戒させてもらうけど」

 

 私、島田愛里寿は、完全に怒りの一歩手前まで来ていた。裕翔は小さい頃、私の戦車道を見てからずっと一緒に居てくれる。そして、砲手としても最高の部類なのに、この先輩達は完全に裕翔をバカにしてる。それがとても許せない。そもそも、戦車道が女の子だけのものなんて、誰が決めたんだろう。自衛隊とか軍で乗る人は、男だって沢山いるのに。

 

「まあ、念の為ハンデを貰いましょう。いくら男子がいようと? 相手は島田流の次期継承者。こちらの方が戦車が多くても、構わないわね?」

 

「……構わない。それでいい」

 

「そう、それじゃあ準備をしておいてね。自前の戦車を使うらしいし、用意は少しかかるでしょうし」

 

 そう言うと、敵になった先輩達はどこかに歩いていった。恐らく自分の戦車の所だろう。裕翔はやれやれと苦笑いしながら、”私と裕翔の二人分の”インカムを取りだした。私と裕翔の二人で、ということなのだろう。なら、しっかりとそれに乗ることにした。インカムを受け取ると、装着する。

 

「なによあの先輩達! 嫌味ったらしく言った上に、私達は、ハンデ背負った状態で戦うことになったし。だいたい、男の子が戦車道やったっていいじゃない!」

 

「そうそう。あんな言い方しなくていいわね」

 

「全くね。弱いものの遠吠えなのかな?」

 

「……あなた達、裕翔の事。認めてくれるの?」

 

「勿論よ! あんな人達の言うことは気にしなくていいわ!」

 

「……だよね」

 

 この三人はなんとなく、仲良くなれる気がする。裕翔の事を認めてくれたんだから、私もこの三人の為に頑張らないと。だって、裕翔の味方なら私の味方にもなってくれるはずだから。

 

「三人の、名前は?」

 

「メグミよ。愛里寿さん。いえ、隊長と呼ぶべきかしら?」

 

「私はアズミ。よろしくお願いするわ!」

 

「ルミです。今回はよろしくね」

 

「分かった。……島田愛里寿。今回の隊長。ほら、裕翔も」

 

「分かってるよ、愛里寿。僕は神田裕翔です。愛里寿専属の砲手をしてます」

 

 私専属。そう言うように、今まで何回も裕翔に言ってきた。だからなのか、こうして最近は裕翔も言ってくれるようになった。これだけでもかなり嬉しい。三人は三人で、面白そうとでも言いたそうな顔をして裕翔と私を見る。まあいいけど。

 

「私達は今回、隊長さんのチームの各戦車の車長をするから、なんなりと、ね? さすがに頭にきてるし、本気で戦うわ」

 

「そういうわけだから、任せてくれると助かるわ!」

 

「ふふ、大丈夫。味方はちゃんと居るからさっ」

 

「分かった。……部隊コードはどうしよう。裕翔、何かある?」

 

「んー、そうだな。……”スカル小隊”にするか。僕と愛里寿の戦車が、スカルリーダー。メグミさんがスカル1。アズミさんがスカル2。ルミさんがスカル3」

 

「わ、結構古いアニメのやつを持ち出してきたわね」

 

「でも、悪くないわね。負けなさそうって感じで!」

 

「だね。私も好きかなー」

 

「一応そのシリーズの続編でも使われた小隊名だし、僕も良いかなって」

 

 三人の反応を見て、裕翔は少し得意げだ。やっぱり昔のアニメが好きだからなのかもしれない。それを知らない私からしたら、ちょっと三人はずるい。まあ、私より歳上なんだから仕方ないといえば、仕方ないんだけど。

 

「裕翔、戦車に乗るよ。早くあの先輩達を討ち取ろう」

 

「ん、了解。愛里寿。それじゃあ楽しいパーティーといこうか」

 

 とにかく、裕翔をバカにした先輩達には、悪いけど自信を完全になくしてもらう。私と裕翔の全身全霊をもって、あの先輩達を完全に”潰す。”私の怒りに触れた事を身をもって後悔してもらう。島田愛里寿を。島田流を。そして、神田裕翔を。”裕翔の技”を。全てを知らないあの人達はこれから地獄を見る。いや、地獄を見せる。

 

「あなた達もこの紙に書いた通りの周波数で、連絡を取れるようにして」

 

「分かったわ、隊長さん」

 

「やるとしましょう」

 

「本気出してくかぁ」

 

 アズミ。メグミ。ルミの三人も、楽しそうに紙を受け取る。案外気は合いそう。まあ、裕翔の事も認めてくれたもんね。だから頑張らないと。

 

「裕翔。”本気”でお願い」

 

「分かってるよ、愛里寿。僕もバカにされたままじゃ、ね」

 

「ふふ、だよね」

 

 そうして、私と裕翔は同じ戦車に乗り込む。やるべきことはただ一つ。あの先輩達を討ち取って、裕翔と私の名前を刻み込む。絶対に、許しはしないんだから。

 

「こちらスカルリーダー。これから”私と裕翔で”指揮をとる。各車両準備完了なら伝えて。You copy?」

 

《スカル2 I copy! 戦車の調子もご機嫌だし、頑張るわ! 司令塔が二人なんて初めてだから、楽しみね!》

 

《スカル1 I copy! ま、あの面倒な人達に痛い目見てもらおうかしら。どんな指示も頑張るわ》

 

《スカル3 I copy。 こちらも同じく。よろしくね、隊長さん》

 

 アズミ。メグミ。ルミの順番で、私の質問に答えてくれた。裕翔に目配せすると頷いてくれる。それじゃあ作戦コードを、裕翔に発表してもらおう。

 

「あー、愛里寿から目配せをもらったんで、僕が作戦名を発表します。作戦名はbroken heart。先輩達の心を壊しちゃいましょうって。You copy?」

 

《あら、良い作戦名じゃない。ふふ、裕翔の実力を見せてもらうから。 スカル1 I copy》

 

《島田流専属の砲手。楽しみねっ。スカル2 I copy!》

 

《裕翔君、楽しんでいこう!スカル3 I copy!》

 

 

 

■■■

 

 

 

「いくら島田流と言えど、相手は新入生。調子づいてきたら困るのよね」

 

「ほんとほんと。男子なんか連れちゃってさ」

 

「おまけに私達に勝つつもりだから、余計に笑っちゃうわね」

 

 その件の先輩と呼ばれた人達は、今現在裕翔と愛里寿のチーム。スカル小隊の、二倍の量の戦車で向かっていた。これくらい量があれば、押し切ることも出来ると思っているのだろう。だが。

 

「さて、そろそろ索敵を……!?」

 

《て、敵弾命中……!》

 

《立て続けにこちらに命中していきます! どこから撃たれているのかわかりません!》

 

「ど、どういう……」

 

 いきなり、見えないところからの砲撃を受けて、驚きを覚えるのだが、対処する前に混乱を起こしている。そして、気づいた時にはすでに車両は五分までに。意味がわからない。そう言おうとした時だ。

 

《て、敵隊長車両が現れました! そして、我々の砲弾は当たらず、敵隊長車両の砲撃が、我々の戦車のウィークポイントを的確に攻めて、行動不能にさせています!》

 

「砲撃? ……砲手って、あ、あの、男子!?」

 

「嘘でしょ!? 男子があんな的確に狙ってこれるわけ!?」

 

《ありえない……こちらの方が量は多いはずなのに、簡単に無力化されている……向こうの戦車の動きは、隊長車両しか見えないのに、他の車両からの砲撃もしっかりとくらっている……なんで……》

 

「い、一度退却! 対抗策を……」

 

「ダメです! 後ろから戦車が……敵車両が現れました!」

 

「なんですって!?」

 

《……万事休すです》

 

「私達が、こんな簡単に、負ける……?」

 

 もはや、先輩としての顔はそこにない。混乱して慌てふためき心を折られ、圧倒的な敗北者となった事により先程のような笑みはない。そして裕翔に対する認識も、戦車道をなぜかやっている生意気な男子というものから、自分達の届かない所にいる島田流に与する砲手と変わる。

 

「……私達は、最初からこんな化け物をバカにして、相手しようとしてたと言うの?」

 

「こんなの……一方的な蹂躙じゃない……」

 

《……完全に、私達の負けです》

 

 負け。最後に無線からその言葉が聞こえたあと、数秒もたたずに先輩と呼ばれた者達の戦車は行動不能になる。彼女達は何を間違えたのか? それは__

 

 

 

■■■

 

 

 

「あれから、何年かしらね」

 

 私。島田流の家元である島田千代は、友人の子供と自分の娘の非公式の試合を観戦し終えた。あれは、戦いなんてものではなかった。おそらく愛里寿は裕翔君の扱いに対して怒って、裕翔君も”それなりに”本気を出したんだろう。

 

「それにしても、さすがにゆりっぺの息子ね。砲撃は相変わらず完璧。味方が当てやすいように、敵の動きも止めた」

 

 戦場の空気を支配するのは、愛里寿と裕翔君の二人で十分。それなのに、裕翔君ほどでは無いとはいえ、正確無比な攻撃をする味方がいるからこそ、成り立つ戦術だと思われる。裕翔君と愛里寿はどこまで読んでいたのか。

 

「……”神田”の技術。彼はしっかり受け継いでいるわね。そして、それをしっかり私達の”島田”に合わせている。でも、あれは”全力”じゃない」

 

 私が知る限り、”神田”というのは……だからこそ、あの戦い方は裕翔君ならでは。本来なら、愛里寿と同じポジション。全力の司令塔は二人もいらないのが”基本”だけど、あの二人ならきっと。戦法に関してだってそうだ。今の島田流に足りないものを、きっと彼は。

 

「そう、確かに臨機応変と言われるような戦法を、島田流は重視している。けど__」

 

”裕翔君が新たな風を発して、島田流に何をもたらすか、知りたいわね。”




■【後書きのコーナー】■



愛里寿「……それで、後書きでは何を話すの?」

裕翔「うーん、なんだろうね?」

suryu-「一応その話に関係する事とか、基本的には自由です」

愛里寿「それじゃあ今後、ここで話す事を作るって事で」

裕翔「了解。因みにあの先輩達はどうなるの?」

愛里寿「……聞かぬが花」

suryu-「コノココワイ」

愛里寿「とりあえず、次回もお楽しみに」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大学での日常。です!

 早め早めの三話目投稿。これがいつまで続くのやら……

 どうも、suryu-です。今日もガルパン投稿をしています。
 とりあえずなかなかスランプが抜けきらないのですが、こうしてまだ形になってるだけマシなんだろうなと思ってます。
 また、評価をくださった方や感想をくださった方が居てくれて、本当に嬉しいです。もっと貰えたら嬉しいな……と思うのが作者の性ですね。

 そんな感じですが、今回も閲覧なさってくださると幸いです!


 非公式でありながら、その試合は有名なものになった。名門大学のチームが、新入生の島田流の娘とその少女の専属の砲手に圧倒された。と。その専属の砲手は”少年”でとても高い技術を持つ。とも聞いた。現在黒森峰に通う私の二人の娘とその仲間に、その少年の居る試合を見せるべきかはまだ迷っていた。島田流でありながら、”島田流では無い動き”を時折見せる事がある為だ。それは決まって、その少年が指揮をとった時に起こる。中途半端にはならないように、島田流にきっちり合わせて動いているのも確かだ。あの砲撃は参考にもなる。だがそれはそれだ。

 

「ちよきちがこれを認めている。というの? 家元が流派を曲げてまで?」

 

 私には、それが何故かはわからない。だからちよきちの所に一度行くべきだとも思っている。だというのに、体は思った通りに動かないし仕事は積もっていく。まったく、こんな時くらい休ませてくれたっていいだろう。

 

「……この戦い方。どこかで見た事があるのよね。昔。そう、遠い昔だけど」

 

 その”島田流”と違う動き方を垣間見せた時に、そんな感情を思い出す。私がかつて、ちよきち達と相対して戦車道をしていた時の事かもしれない。だからこそ気になるし、早くその疑問を解消したいのだが……

 

「はぁ。こういう時に限って、役職は面倒ね。まぁ、私が望んだ生き方だけれども」

 

 まあ、今すぐでなくともいずれ分かると思う。だって、ちよきちは島田流家元なのだ。どういう意味であれ、私が関わらないなんて訳は無いのだから。

 

 

 

■■■

 

 

 

「それにしても……まさか僕と愛里寿が、こんなに有名になるとはね」

 

「ん……裕翔。あの時、ちょっとやり過ぎちゃったかな?」

 

「まあ、あれでいいんじゃない? あの人達自分を過信してた訳だし。問題は、見られてたってことだけど」

 

「確かに。見られてなかったら、ここまで有名には……ならないかも?」

 

「何その間……」

 

 僕と愛里寿は、現在大学で昼食をとることにしていた。料理はそれなりにしたりするから、愛里寿にせがまれてたまに弁当を作る事になった。千代さんの微笑ましそうな視線が、たまになんとも言えなくなる。そういう関係では無いんだよなぁ。確かに相方という位置にはなってるけど、恋人ではない。それは今の現状だ。

 

「裕翔、相変わらず料理が上手い。……私の好きな目玉焼きハンバーグを、お弁当に詰め込むなんて」

 

「まあ、それなりだよそれなり。趣味でやってるものだし」

 

 そんな愛里寿は僕の作った弁当を、ハムスターのように頬張りながらも食べている。その様子を、アズミさんやメグミさん。ルミさんが興味深く見ている。あの試合の後から、この三人とは絡むようになった。愛里寿の事もよく見ていてもらっている。実際気も合うし、話していて苦にならないのは、歳上しかいないこの学校では貴重だ。とりあえず、気になったことを聞いておこう。

 

「……もしかして、三人は料理をしないの?」

 

「え? な、なんの事かしらね。アズミ、分かる?」

 

「さ、さあ? ルミは?」

 

「わ、分からないかなーって」

 

 なるほど、僕の想像は当たっているらしい。仕方ないなぁ。と自分の好物だから、多めに作ってあるだし巻き玉子を三人に渡す。

 

「それ、食べてみてくれるかな。一応自信作」

 

「あら、いいの?」

 

「それじゃあ遠慮なく貰うわ」

 

「いただきます」

 

 三人は同時に、僕の作っただし巻き玉子を口に入れる。こんな時ですら仲良いなぁ。なんて思ったりはする。だいたいこの三人はワンセットだから。そして崩れ落ちるのも同時だった。やっぱり。

 

「……なにかしら、この敗北感」

 

「……美味しいのが困るわね」

 

「うわぁ……うん、うわぁ……」

 

「やっぱり料理できないんだ……」

 

 僕の言葉にがっくりと三人は項垂れる。やっぱり料理ができる女性は、戦車道の中には少ないのかもしれない。いや、偏見かもだけどね。

 

「裕翔は、料理の上手な人が奥さんがいいの?」

 

「んー、どうだろ。僕自身作るのは楽しいけど、作ってもらうのも好きだから。気分にもよるかな? 一般的には作って欲しい人の方が多いけど」

 

「……じゃあ練習する価値アリ、だね」

 

「そうだね」

 

 愛里寿からこんな質問をされる事は最近多い。なぜだか分からないけど、思春期なのだろうか。僕に奥さんがいたら○○な奥さんってどうなのか。と聞かれても、僕は確かに思考がまともじゃないけど、経験がないからよく分からない。だから、その聞かれた質問については、自分の感覚で答えることにしている。

 

「そういえば、裕翔のお母さんって何をしてるのかしら?」

 

「確かにそれは気になるわ。裕翔君の腕前に関わりそうだし!」

 

「うんうん。どんな人かな?」

 

「母さん? そうだなぁ、なんと言えばいいか。全国の学園艦と高校を巡りながら、技術を教えこんで高校戦車道の強化をしてるみたいだね。講演会もしてるらしいし」

 

「へぇ……凄いわね。私も受けてみたいかも!」

 

 実際母さんが育てた生徒は多いらしいけど、僕に勝る子はいない。なんて言ったりしてくれる。最近は僕の妹も連れていってるらしく、戦車道を早い時期から教えこんでいる。夫婦仲も良好で、母さんと父さんは一緒に戦車道に関わってる。僕の整備の技術は、父さんから教わったものだ。母さんの講義を受けたいとアズミさんは言うけど、母さんの訓練は優しくないんだよなぁ。思いやりはあるけどね。

 

「因みにそのお母さんの名前は? そんな事してるなら、有名な人かもだし」

 

「んー、有名かは分からないけど、母さんにその仕事を渡したのは、千代さんだからなぁ。戦車道連盟も受け入れるくらいだし。となると、知る人ぞ知るって所かな? ……神田由利って名前なんだけど」

 

「……神田、由利?」

 

「それって確か、よね?」

 

「だ、だよね……”神田流ここにあり”と言わしめて、戦車道界隈では”軍神”と呼ばれた……」

 

「?」

 

 三人は顔を見合わせて、ヒソヒソ声で話す。母さんはなんとなくだけど、昔有名な戦車道の選手だったと言うことは分かった。というか、母さんが軍神と呼ばれてるなんて思いすらしなかった。いや、確かに訓練とかはしっかりしたものだったけど、訓練の時以外の母さんって、そんな雰囲気を微塵も見せなかったからなぁ。

 

「まあ、僕としては母さんが有名でも関係ないかな。確かに僕に、技術を教えてくれたのは母さんだけど、今は愛里寿専属の砲手だから」

 

「そう。裕翔は私専属の砲手だから。私のモノだもんっ」

 

「モノって愛里寿……」

 

「ふふ、隊長に気にいられてるのね、裕翔君は」

 

「いやぁ、羨ましいわ」

 

「微笑ましいかな?」

 

 なぜだろう。愛里寿関連になると、本当に皆から暖かい目で見られる。だから僕と愛里寿は恋人じゃないんだってば。と、何度説明しても皆からの目線は消えない。なんだろう、僕は愛里寿には自由な恋愛をして欲しいから、僕に括り付けるのはやめて欲しいなとは思うんだけどね……それはともかく。

 

「とりあえず愛里寿も気をつけてね? 男相手だと勘違いするからさ」

 

「……勘違い? 裕翔、どういうこと?」

 

「男相手だと、好意を持ってると勘違いされる言葉だからさ」

 

「……そう?」

 

 毎回こう言うと、なぜか愛里寿は不機嫌になってその後の訓練で、憂さ晴らしをしている。僕は間違ったことを言っていないつもりだが、理解ができないのかもしれない。まあ愛里寿はいくら天才といえど、まだ十二歳だし。いや、僕も同い歳なんだけれどもさ。

 

「裕翔は本当にいつもこうよね……」

 

「隊長、本当に裕翔君でいいの?」

 

「こんな鈍感なかなか見ないよ……」

 

「平気。いつもの事だし……それでもいいの」

 

 なんだかひそひそ話をしていて、聞こえないけどまあいいか。それにしても愛里寿は、この三人に敬語を使わないでとお願いしたらしい。なんでも、隊長だとしてもプライベートの時は、堅苦しいのは好きではないとか。そういえば前に僕が敬語を使った時は拗ねられて、どうやって機嫌を直したかというのを覚えてないなぁ。まぁ、使わない方がいいのは分かるけどね。

 

「まあいっか。とりあえず戦車道の練習を色々しないと。あと、整備もね」

 

 難しい事は考えるとエネルギーを使うし、まずはやりたい物からやっていこう。愛里寿の視線が痛いから、逃げるって意味もあるし。怒った愛里寿は怖いからね。さて、今日はどんな調整をしようかなーっと。

 

 

 

■■■

 

 

 

「ふふ、やっぱり裕翔は私の息子ね。大学戦車道で相手に圧勝するなんて。愛里寿ちゃんと一緒に指揮してる姿は、とっても楽しそうね」

 

 私。神田由利は現在北の方に居る。プラウダと聖グロリアーナの練習試合で審判をしつつ、高校戦車道強化という役を担っていた。それにしても、私の名前は未だに残ってるなんてね。すっかり忘れられたと思ってたけど。

 

「それで、神田教官。あなたの息子さんとその相手の恋愛話とか何かないの? ダージリンも聞きたいでしょ」

 

「同士カチューシャ。さすがに我々よりもかなり下の学年なのに、それは無いと思われますが」

 

「あら、ノンナさん。私も乙女だし、カチューシャさん同様聞きたい方ですわ。それに、恋に年齢なんて関係ない。そうは思わなくて?」

 

「ふふ、がっつかないのよ。と言っても話してもいいけれど。裕翔と愛里寿ちゃんの話はね」

 

 現在私は、裕翔と愛里寿ちゃんの試合をプラウダの隊長副隊長と、聖グロの隊長に見せていた。”島田流”の動きだけをするあたり、裕翔も自重してるのかしらね。とは思うけど。

 

「これだけ戦車の整備と砲手としての腕が良くて、尚且つ懇意にしてくれる男の子。私カチューシャも憧れるわね」

 

「確かに、同士カチューシャの言う通りです。戦車道は男子もやっていいものだと、常々思っていました」

 

「あら、気が合いますわ。私も古臭い考えは、そろそろ撤廃すべきだと思いますの」

 

「お、貴方達もそう思うのね、ふふ。気が合うわね。私もそう考えていたのよ」

 

 私自身は昔から勿論。ちよきちとは前々からそんな事を考えていたし、裕翔がもっと満足に愛里寿ちゃんと戦車道をできるようにしたい。確かに、今でも戦車道はできている。けど、まだまだこれじゃ足りない。その裕翔を、愛里寿ちゃんと共に大舞台に立たせたいから。

 

「実は私、”面白いこと”を考えておりますの。興味はありませんか? 神田教官」

 

「あら、ダージリンさん。何を考えてるのかしら?」

 

 そして、聖グロ隊長のダージリンさんは私の考えに、とても似ている気がする。こう、古臭い戦車道や、聖グロのOB達の考えを変えようとしている。そんな彼女だから、私の思考をよく理解している。そんな彼女が言う”面白いこと”は、とても愉快なのだろう。

 

「あら、簡単な話ですわ。私達と同い歳くらいの男の子を、来年から執事として招き入れようと思ってますの」

 

「あら、それは楽しそうね! お嬢様学校に執事は、乙女漫画には付き物だし」

 

「……ノンナ。それ、私も採用してみたいわね」

 

「同士カチューシャ。確かに悪い考えではありませんね」

 

 この子達はいずれ、私の考える新しい戦車道に必要になる。だからこそ、こうして一緒に色々な事を話しているのだ。私の考えに賛同する彼女達は、私にとってはとても貴重なのだから。

 

「とりあえず、話を戻すけど神田教官。その裕翔って子と愛里寿って子の恋愛話、聞かせなさいよ!」

 

「っと、そうだったわね。ふふ、あの子はね、小さい頃__」




■【後書きのコーナー】■



裕翔「で、この後書きのコーナーも二回目だけど」

愛里寿「元々は初回もやる予定。そう聞いてたよ」

suryu-「……あの時忘れてたんでしょうね、うん。疲れてましたし」

愛里寿「それは仕方ないね。因みに今回裕翔がお弁当を作ってくれたけど」

裕翔「僕は一応料理を覚えたんだ。役に立つかなと思って、色々とね」

suryu-「その理由に関しては……まあ君らしいですよね」

裕翔「うん。愛里寿の隣で戦車道をやるからには、色々な技術を得ておくべきだってね。そしたらいつの間にか趣味になったんだよね」

愛里寿「本当に裕翔は趣味の範囲が広い」

裕翔「まあね。さて、そんな感じですが、次回も閲覧なさってくださると幸いです!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

弟子が出来ました。です!

 皆様どうも。書き溜めをどんどん放出しててらこのままでいいのかと思ってるsuryu-です。

 一応続きも少しずつ書いてるので、書き溜めがあるうちはハイペースに更新するつもりです。それにしても、お気に入りが着実に増えてきましたね。皆様のおかげです。ありがとうございます。とりあえず、話が動き始めたり?

 そんな感じですが、今回も閲覧なさって下さると幸いです!


 戦車道。それは女性の武芸として有名な、戦車を扱う競技。最近その競技では、とある男の子が有名だ。女性の武芸なのになんで男の子なのかと言うと、戦車道二大流派の島田流の継承者である、島田愛里寿の専属砲手だからだ。

 私はこの大学に戦車道をやりに来て、初の試合をその目で見た。愛里寿さんと専属砲手の裕翔君は、二人で同時に指揮を執る。普通なら無理だと思うけど、息のあった二人は普通にこなしていく。裕翔君は、戦車の整備や運転などもできると聞く。だから、どんな感じに動かすのか見てみたい。そう思って、影から見学に来ていた。

 

「で、愛里寿。このセンチュリオンはどうしたの?」

 

「先輩達に勝ったから、支給されたの」

 

「なるほど。それで僕に動かして欲しい。と?」

 

「うん、テストだよ。裕翔が一番だからねっ」

 

 ちょうど今から、あのA41センチュリオンを動かすみたいだ。自慢じゃないが、私は戦車道のドライバーとしては腕が良い方と思っている。だからこそ、裕翔君の腕前をしっかり見てみたかった。裕翔君が乗り込んで戦車のエンジンをかけたことが分かると、その運転の技術をしっかり見るために注目する。

 

「裕翔。いつも通りお願いっ」

 

「了解」

 

 そんな会話が聞こえたかと思うと、戦車が急発進する。そしてパイロンをスラロームしながら抜けるのだが、その間隔は狭い。針の穴を通すかのような動きと、スピードをなるべく落とさず走るあたり、ドライバーとしてもトップの技術を持っている。その動きに、私は完全に見惚れていた。

 

「……凄い」

 

 愛里寿さんは、裕翔君に細かな指示を出している。そして、裕翔君もそれをこなしていく。愛里寿さんも裕翔君も年下なのに、こんなことができるなんて。そう思えば私はいつの間にか近づいていた。

 

「……あなた、誰? 今は、危ない」

 

「すいません。……でも、少し神田裕翔君に話があって」

 

「裕翔に?」

 

「ん、僕の事呼んだ?」

 

 愛里寿さんと話していると、裕翔君が戦車から顔を出す。そして、私は決めた事を伝えるために、頭を下げた。

 

「神田裕翔君。私を弟子にしてください!」

 

「……ゑ?」

 

 

 

■■■

 

 

 

 弟子にしてください。なんて言われるのは人生初だ。しかも相手が歳上の女性だから、どう答えればいいか分からない。けど、僕の戦車道の腕前を見て、頼み飲んできてると思うと、少しばかり嬉しいな。なんて思ってしまったり。

 

「えっと、とりあえずあなたの名前は?」

 

「花田結衣です! 戦車道では操縦手。ドライバーをしています!」

 

「ドライバー……」

 

「はい。裕翔君……いや、裕翔さんには運転技術を教えて欲しいんです!」

 

「まあ、悪くは無いけど……」

 

 とりあえずどうしよう。結衣さんは本気だなぁと言うことはわかってる。だから、弟子? にするのは悪くない。なら、ここはまずは腕を確かめてみるのも一つだ。

 

「それじゃあ、そうだな。結衣さんがどんな運転をするか、一度見せてくれるかな?」

 

「はい、勿論です!」

 

「それじゃあこのセンチュリオン、使ってよ」

 

「は、はい!」

 

 愛里寿はそんな僕と結衣さんのやり取りを見て、何かを考えている。何を考えているのかは分からないけど、今のところ不機嫌になってないからいいだろう。戦車に乗り込む。結衣さんの肩口程の黒髪が揺れて、少しばかり綺麗だなーとか思った僕は悪くない。愛里寿が一瞬むっとした顔で僕を見た気がするが、そこは気にしないでおこう。

 

「それじゃあパイロンを避けつつ動かしてみて」

 

「はい!」

 

 そのまま結衣さんが、センチュリオンを動かし始める。そして僕は目を見開く事になる。僕よりスピードはかなり遅いものの、正確な動きでパイロンの間をすり抜けていく。おそらく先程の動きを見ていたのだ。それでも再現は難しいから、こうして真似できる才能があるのなら、育ったらとても強い存在になる。そう理解すると、少し考えてみる。僕は確かに母さんから”母さんが持ち得る技術”を学んでいて、母さんもいつかは弟子を取りなさいと言っていた。僕自身のポジションは、”砲手だけじゃない”のはそういうことだ。でも、僕が愛里寿の専属砲手をしているのは、愛里寿と__

 

「ど、どうですか? 裕翔さん!」

 

「うん、良かったよ。多分僕の動きを見てたんだろうけど、まさかそこまでモノにできるなんてね」

 

 彼女の声で、僕は現実に戻される。この思考をするとたまにこうして見えなくなるのは、良くないんだけど。それはともかく、弟子にとるかどうか。というのは決めた。

 

「……よし、それじゃあ僕もできる限り、僕の知る”母さん”の技術を結衣さんに教えることにするよ」

 

「え、それじゃあ!」

 

「うん、弟子って言うのを認めようかな」

 

「やったぁっ!」

 

 まさか僕に弟子ができるなんて思わなかったけど、これは大きな一歩になる気がする。男の戦車道をしっかりと認めた人が、僕の目の前にいるという事になるから。因みに愛里寿は若干不機嫌だ。僕、悪いことした覚えないのに。

 

「裕翔。とりあえず、私も見て」

 

「……あのー、愛里寿?」

 

「わ、愛里寿さんは裕翔さんにくっついて……もしや」

 

 何故か知らないけど、愛里寿は僕の腕にくっついている。いやまぁ、柔らかいし役得ではあるんだけど、どうすればいいかよく分からないのは、いつもの事だ。前々から僕に抱きつくことは、それなりにあったから。だからいつの間にか、意識しすぎる事はなくなった……はず。

 

「とりあえず、裕翔さん。これからよろしくお願いします!」

 

「え、あ、うん。よろしく」

 

 結衣さんはそれだけ言うと走っていく。とりあえず愛里寿と二人だけになったから、頭を撫でる。少し笑顔に戻った。

 

「……ねえ、裕翔」

 

「どうしたの? 愛里寿」

 

 なんとなく、愛里寿の意図を読む事が出来ない。何かを考えているような、そんな表情なのは分かる。でも、何を言いたいのかは見当がつかない。

 

「裕翔。前から気になってたけど……私の事、どう思ってる?」

 

「どう思ってる、か」

 

 僕としてはかなり難しい質問が、愛里寿から飛んでくる。この質問の意図は、僕には経験がないから分からない。愛里寿と出会ってから約六年。今まで一緒に居る事は多くても、なかなか聞かれない言葉ではあったから、なんと答えればいいかわならない。勿論秘めてるものはあるが、それはともかく。だから、正直に行こう。

 

「んー、今まで一緒に居た時間が長いから、そんなに考えてなかったよ。どうなんだろうね?」

 

「……そう」

 

 そして答え方を間違えたのか、愛里寿は寂しそうな顔をしている。僕は何を言えば良かったのかは分かっていないし、愛里寿が何を求めているのかもわからない。

 

「それじゃあ……裕翔は、私の事、好き?」

 

「ん? そりゃあね。じゃなきゃ専属砲手なんてやらないし」

 

「……そっか」

 

 好きかどうかなんて決まっている。それはどういう意味であれ、即答できる。そもそも僕は、昔から。だからこそ、どうしてか切なそうな顔をする愛里寿を見て、僕が何を間違えたのか気づけなかった。

 

 

 

■■■

 

 

 

「ゆりっぺ、少しいい?」

 

『なによ、ちよきち。厄介事でも起きたの?』

 

 現在島田流家元である私。島田千代は、とある事案に対しての対応におわれていて、昔からの友である神田由利……ゆりっぺに電話をかけていた。彼女が私に息子を預けるくらいには仲がいいとも思ってるし、ライバルだとも思っている。もう一人の”西住しほ”も含めてだ。

 

「いやまぁ、困ったことが起きたのよ。それをどうしようかって」

 

『ちよきちが困るなんてかなりの事よね。やっぱり愛里寿ちゃん絡み?』

 

「……相変わらずの推察ね。その通りよ」

 

 昔からゆりっぺには、私達の考えがとても読まれている。戦車道の試合の中で、それを何度も痛感していた私からしたら、これくらいはもう驚かない。

 

『まさか上役達がなにかやってきたの? 愛里寿ちゃんに無理矢理政略結婚しろとでも?』

 

「……その通りよ」

 

『……あのジジババどもめ』

 

 そう、私の悩みは戦車道の一部の上役が、愛里寿に政略結婚を求めてきた事。何を考えているんだ。ふざけるなと言いたいが、「とりあえずは本人の意思があります」と答えておいたけど、あの上役達が認めるとは思えない。そしてそれは当たった。夏休みの時期に、相手を連れてくる。と一方的に押し通してきた。一体誰が何の目的で、今になってこんな事をしてきたのか。ゆりっぺと仲がいいから? 彼女の息子が私の娘の専属砲手だから? ……どちらもありえるから困る。あのジジババ共は、私達をなんだと思ってるのやら。恐らく、男子を戦車道に持ち込む事に対して。そして愛里寿が可愛いのもあって、純粋に嫌がらせしたいのだろう。

 

「……一応愛里寿にも伝えましょう。ゆりっぺは、対策たてられる?」

 

『分からないわ。現状高校戦車道を底上げしてるから、昔同様に名は売れてる。けど、あの一部の腐ったジジババどもが、工作をしないとは思えないわ。私に対する嫌がらせでもあるんだからね』

 

「そうよね……」

 

 ゆりっぺでも難しいなら、もう何も手はないのだろうか。裕翔君に頼るのは、大人としては良くないことだ。とりあえず愛里寿にも、夏休みにそういう事があるというのは伝えておこう。

 

「……ゆりっぺ。これは早い所動かないとならないわね」

 

『そうね、革命を起こせるように頑張らないと。そういう意味では聖グロの隊長を巻き込めたし、これはかなり大きくなるわ』

 

「聖グロの隊長……今代はかなりの切れ者と聞くけど、実際は?」

 

『チャーチルとマチルダとクルセイダーしかOBは認めてないのに、それでもかなりの戦果を出す名手よ。今までの中で一番とも言っていいわ。もし革命が起きたら、真っ先に戦車を提供したいくらいよ』

 

「ゆりっぺがそこまで気に入るなんて、驚いたわね。因みに他に優秀な子は居た?」

 

『たとえばプラウダ。あそこの隊長は性格が少し幼くても、カリスマもあり戦術もしっかりしてる。副隊長のサポートも良くて、黒森峰には絶対に劣らないわ。そしてアンツィオ。ノリと勢いがあるだけかと思えば、面白い戦術も利用するから、色々教えたわ。そしてサンダースなんかも良かったわね』

 

「次世代はきっちり育ってるのね……これは面白くなりそうね」

 

『ええ。そして皆男子の戦車道も好意的だった。だからこそ、私は彼女達にも協力してもらうつもりよ』

 

「それは名案ね。今の戦車道を担う子達が発言権を強めれば、今の戦車道を変えられるわね」

 

 ゆりっぺと私の想いは、裕翔君があの時愛里寿の隣に居ることを決めた時から、ずっと変わることなく続いている。二人の戦車道を途切れさせたくなんかないし、こんな形で関係を終わらせたくない。だから、難しい事はあの子達には背負わせず、私達であの上役共をどうにかする。それが私達大人の仕事だから、絶対になんとかしてみせる。裕翔君は子供ながらに私達にも気を使うけど、そうさせないようにしていくのが私達の務めなんだ。

 

「ゆりっぺ。しぽりんにも言っておくべきかしら?」

 

『私としてはしておくべきと思ってるわね。”西住流”も協力してるとなれば、上役達にもダメージは大きいわ』

 

「そうよね。西住流だから。島田流だから。というのは抜きにしても、しぽりんは協力して欲しいわね」

 

 しぽりんも。私達戦車道に関わる存在が、三人揃って共に戦った日のことを思い出す。あの時は島田流も西住流も、”神田流”も関係なく、三人で相手を倒すために戦った。高校戦車道対大学戦車道の試合だったか。

 

「あの日みたいに戦えれば、きっと。よね?」

 

『ええ、そうね。きっとそうよ。だって私達は__』




■【後書きのコーナー】■



愛里寿「……なんか、恋愛なのに雲行き怪しいのはなんで?」

suryu-「そりゃああれですよ、簡単にくっついたら面白くないですから、うん」

愛里寿「……」

裕翔「しかも僕の考えとかも影響してるね。これ、シリアス成分多くない? 甘々じゃないの?」

suryu-「適度なシリアス……にできたらいいなぁ。それと愛里寿さん。センチュリオン使おうとするのはやめてください」

愛里寿「……イチャイチャさせてよ」

suryu-「こ、このあとのはなしではきっと……」

愛里寿「……次回も閲覧なさって下さると幸いです」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

実家での出来事。です!

 皆様どうも、suryu-です。書き溜めが消費されてきてかなり焦ってます。スランプだから早く書けないし……まあでも、できるだけ最初はなるべく早く投稿したかったり。

 そろそろお話も動き始める形になるので、早く原作時期に行きたいなぁとも思わなくもなかったり。まあ、やりたいことが沢山だから詰め込んじゃうんですけどね!

 そんな感じですが、今回も閲覧なさって下さると幸いです。


「……それで、ちよきち。なんで電話をしてきたの?」

 

『しぽりんには、色々話しておこうと思ったのよ』

 

 今日は久しぶりに、ちよきちが私に電話をかけてきた。前々から自分も聞きたいことはあったし、丁度いいタイミングであるのは確かだ。だからこの電話はそういう意味でも利用しようと、沢山ある書類からは目線を逸らした。

 

『多分噂で聞いてるでしょ? うちの娘に政略結婚を持ちかけてきた、あの上役達の話』

 

「知ってるわ。私達にも肩を持てなんて言われたけど、丁重にお断りしました。幾ら私が西住流で、あなたの娘である愛里寿が島田流でも、私は間違った事に肩を貸すのは嫌いなの。あなたの娘はまだ小さいし、そんな話をいい大人が持ちかけて。なんてね」

 

『ほんとよね、愛里寿にも私にもいい迷惑よ』

 

 実際良い大人が小さい女の子に寄って集ってなんて、何を考えているのか意味がわからない。噂で聞いているあの子も、黙っていない気がする。あくまでも気がするだけど。

 

「それで、ちよきち。貴方が手を尽くしている娘さんの専属砲手は、どんな子なの?」

 

『どんな子って?』

 

 とりあえず、その男の子について質問をする事に決めた。私の中ではその子について、様々な疑問が渦巻いているのだから。

 

「決まっているわ。なぜ彼が”島田流”と違った動きを指示する時があるのを、黙認してるの?」

 

『まあ、そこは気になるでしょうね。間違いないわ』

 

「ええ、だからなぜ?」

 

 私の質問を聞いてちよきちは、少しの間答えない。私がまるで答えを知ってるかのような、間の開き方だ。知らないならマウントを取りにでもくるだろうし。ただ、なんとなく気になる。確かに私もあれは、どこかで見覚えがある。むしろ近かったような。そして、ちよきちの吐息が漏れる音が聞こえた気がした。

 

『……しぽりんなら少しだけ、教えてもいいかもしれないわね。あの子の名前は神田裕翔。”神田”を受け継ぐものだもの』

 

「そう、神田を……え?」

 

『そう、あの子は”軍神”神田由利の息子よ』

 

 その言葉を聞いた私は、心の奥底からしまってあった記憶を思い出す。自分が共に戦った、戦友の名前を思い出せたのだ。

 

「まさか、あの男の子は”神田流”を継いでるの!?」

 

『ええ、そうよ。それでいて愛里寿の隣に居る。基本的に砲手をしてるけど、あの子は弟子として全ての技術を詰め込まれている。つまりは……分かるわね?』

 

「どのポジションであろうと、こなす事ができる……そんな、まだ十二歳の男の子が!?」

 

『ええ、そうね。元々才能があったのでしょう。それにゆりっぺ曰く、自分の技術をしっかりと伝えた。熱心に覚えようと、努力を繰り返したとも言ってたわ』

 

「なるほどね……」

 

 それならば合点はいく。ゆりっぺの息子なら、あれほど戦車道が上手くなる訳だ。そしてゆりっぺは常々私達に、”男の戦車道”の価値を話していた。だからこそ読めた。彼女達はなにかしようとしている。

 

『そこで、しぽりん。貴方にも言っておきたい事があるの』

 

「……何かしら」

 

 ちよきちは珍しく、真面目でかつ真剣な声色だ。きっと重大な内容が含まれている。だからこそ、彼女が言う事にしっかり耳を傾け、その真意を確かめることにした。

 

『私は、近いうちにゆりっぺと共に戦車道連盟に、革命を起こすつもりよ。しぽりんにも参加して欲しいの』

 

 その言葉を聞いた途端、私の中であの時の事を思い出した。そして同時に、笑みを浮かべただろう。何故なら。

 

 ”面白そうじゃない。それ__”

 

 

 

■■■

 

 

 

 夏休み。僕と愛里寿は島田流の本拠地である場所に、二人で帰郷していた。僕としては幼い頃全国を転々としていたから、腰を落ちつけた此処は故郷みたいなものだ。

 

「それにしても愛里寿。実家に戻ってくるのは久しぶりだね」

 

「……うん、そうだね。大学に行ってからは、なかなか戻ってなかった」

 

 今日の愛里寿の顔は、何故か優れない。何かあったのかとは思うものの、なかなか聞き出せずにいた。何かあるのかそれとも。そんな事を考えているうちに、いつの間にか島田家に着いていた。愛里寿が鍵を開けて、二人で扉の中に入ると靴を脱ぎ、相変わらず大きい家だなーと思う廊下を歩く。

 

「とりあえず千代さんは、まだ仕事かな?」

 

「……分からない。お母さんは多分、今日は家に居るかもしれないけど」

 

「そうなの? んー、愛里寿が言うならそうかもね」

 

 とりあえず僕は、久しぶりの休息に心を休ませようと思った。愛里寿と一緒になにかやろうかな?とも思う為に、ゲームなどのハードが動くか確かめようかなと思えば、自分の部屋に向かおうとした時だ。

 

「……だめ、裕翔。行かないで」

 

「愛里寿?」

 

 急に愛里寿が僕の腕を掴む。そして、強く抱きついてきている。今日は本当にどうしたんだろうと、首を傾げてみたけど答えは出ない。一体何が愛里寿をここまでさせるのか、僕には全く分からない。でも、多分千代さんは知ってるんだろうなぁ。

 

「あら、裕翔君。愛里寿。もう帰っていたのね」

 

「あ、お母さん……」

 

「千代さん、ただいま戻りました」

 

 そんな事を考えているからなのか、千代さんは僕の前に現れた。そして何時もより、険しい表情にも見える。きっと何かがあった事はすぐに分かった。愛里寿は、僕の腕を抱きしめる力を強くする。これは、僕も腹を括るべきだろう。

 

「とりあえずこの後は、愛里寿も大事な話があるんだけど、裕翔君は大丈夫?」

 

「……裕翔」

 

 愛里寿は僕の腕を離さない。ここまで弱々しい愛里寿は久しぶりだ。だからこそ決めた。多分この後にある”話”とやらに、ついて行くことを。

 

「千代さん。僕も行きます。それでいいですか?」

 

「……裕翔君」

 

 多分、愛里寿に関わることだからこそ、自分で解決したいという意思がある千代さんの気持ちは、とてもよく分かる。だからこそ僕は、一人で抱え込むなという意思を込めたつもりだ。千代さんは、それについて何を言おうか迷っている筈だから、僕の腕を離さない愛里寿を見ながら、もう一つ押してみる事にした。

 

「一応これでも、僕は愛里寿専属の砲手です。男で戦車道をやっているのは、戦車道関連の人からしたら、疎ましいかもしれません。が、逆に言えばそれ関連なら、実力を見せればいい。”戦車道をやる人間なら戦車道で語れ。”ですよね? まあ、愛里寿の付き人だから、こう言えるんですけど」

 

「……裕翔君」

 

 千代さんは、呆気にとられたという表情をしつつも、真剣な瞳で僕を見る。”戦車道をやる人間なら戦車道で語れ。”これは、僕の母さんが、よく使っている言葉だ。簡単に言えば、戦車道をやっている人間がいざこざを起こす時、自分には戦車道という武芸があるのだから、それで決めなさい。との事だ。でも、母さんの場合は大抵かなう人が居ないし、強権みたいなものだと思っているのは、内緒にしている。まあ、それを使う僕も僕だが。

 

「……それなら、あとでその話が始まる時に、一緒に来てもいいわ。愛里寿も安心するでしょうし。と言っても、もうすぐだけど」

 

「分かりました」

 

「裕翔……」

 

 とりあえず、不安そうな顔をしている愛里寿を撫でれば、ここ一番の大立ち回りをどう動くか、脳内でシュミレートする。考えられる要素は何か。何が愛里寿を苦しめるのか。僕にできることは。それら全ての可能性がある事を、僕は理解している。そのうえで、今度の敵についても考える。そうだ、僕は母さんのような推察力を受け継いでるんだ。だからこそ、僕は愛里寿の為にもそれを全力で使う。何をすれば、愛里寿と千代さんを助けられるか考えるんだ。

 

「それじゃあ用意だけしましょうか。裕翔君。正装は今ある?」

 

「一応フォーマルスーツなら。それが必要なんですね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「では、一旦自分の部屋で着替えてきます」

 

 とりあえず念の為に持ってきていた正装が、こんな時に役に立つなんて思わなかった。けど、あるならあるだけで重畳だ。愛里寿を助けるためなら、それに着替えるくらいは容易だろう。とりあえず僕は、部屋に向かうことにした。が。

 

「私も行く」

 

「あのー、愛里寿?」

 

「大丈夫、昔なら見てた」

 

「いやあの、そうじゃなくてね?」

 

 そんな僕の着替えにも、愛里寿はついてきたいと言っている。今日の愛里寿はやっぱり変だから、どうすればいいかなとは思っている。受け入れてもいいが、年頃の男女が二人で密室で着替え。とか、物語の中の出来事だ。いやまぁ、たしかに昔はしてたけど。倫理的にも良くないだろう。だから、僕としてはそれは良しと言えない訳なのだが。ただ、今日の愛里寿は何かが変だ。この状態の愛里寿を放っておくのも、なにか危険な気がする。それならば。

 

「はぁ、分かった。着いてきていいよ」

 

「……やったっ」

 

「あらあら。ふふ」

 

「っ、行くよ!」

 

 愛里寿はなんとなく嬉しそうにしているし、千代さんの暖かい眼差しがなんとも恥ずかしい。とりあえずその恥ずかしさから逃げるためにも、僕は愛里寿の手を引いて自分の部屋に向かっていく。自分にもそういう部分が残っていたのは、喜ぶべきかそうでないかはわからない。

 そうして、部屋まで歩いていくと扉を開けて入る。いつもと変わらない、島田家での僕の部屋だ。いつもと変わらない様子で、少し安心する。

 

「んー、やっぱりいつもの僕の部屋だ」

 

「そうだね。裕翔と私が一緒に遊んだ部屋」

 

 母さんが島田家に僕を預けたのは、千代さんと二人で話したから。と僕は聞いている。なんでも、僕が愛里寿の隣にって言った時に、母さんは僕に戦車道の事を教えつつ、愛里寿とのコンビネーションを強化する目的で、僕を島田家に預ける事を決めたとか。父さんも父さんで、僕に整備の経験を積ませながら技術を教えるのは、島田家が適切だと思ったとか。だから、こうして部屋がある。

 

「それじゃあ着替えるから、愛里寿。少し別な方向いてて」

 

「分かった」

 

 着替える時間はそんなにかからない。フォーマルスーツに関しては、着るのになれてしまったからだ。島田家のパーティーに出席する時は、基本的フォーマルスーツだったから。

 

「……ねぇ、裕翔」

 

「ん?」

 

 いつものように早着替えしていると、愛里寿は声をかけてくる。どうしたのかな。と思ったりするが、まずは言葉を待つ。

 

「……大丈夫、かな? この後」

 

 いつになく声は震えている。愛里寿はいくら天才と呼ばれようと、少女であることには変わりがない。だからこそ、僕は。

 

「大丈夫だよ、愛里寿。僕も居るんだからさ」

 

「……ん、ふふ」

 

 着替え終わると同時に、いつものように愛里寿の頭を撫でる。信頼してくれているのも知っているし、僕も少しばかり頑張らないといけないな。今回何が起こるか。とか、誰かがいるならどんな人か。とかは知らないけど、僕は愛里寿の為に戦うだけだ。

 

「それじゃあ、行こうか愛里寿」

 

「うん、分かった」

 

 着替えたからには千代さんのところに戻る。愛里寿の手を引いて廊下を歩くと、応接室の前に千代さんが立っていた。

 

「それじゃあ裕翔君。覚悟は良い?」

 

「今更聞き直すことじゃないですよ。千代さん。僕は何時でも良いですよ」

 

「ふふ、頼もしいわね。……愛里寿は良い?」

 

「……裕翔と、一緒なら」

 

「分かったわ。それじゃあ行きましょう」

 

 千代さんが扉を開けると、その先にはそれなりに歳をとっている五十代近くの男と、付き人らしき女性が居た。

 

「ほう、ようやく来たか。島田の娘は。それと、羽虫も居るようだが、な」

 

 男は偉そうな態度を見せながら、僕達を見る。とくに、愛里寿をじっくりと観察するように見ているのを感じると、僕の中でスイッチが切り替わる音が響いて__




■【後書きのコーナー】■



愛里寿「……作者」

suryu-「は、はい。なんでせう?」

愛里寿「イチャイチャがなんでないの」

suryu-「そ、そう言われましても、愛里寿さん……作者さんはこれでも頑張ってるです事よ?」

愛里寿「でも、これ。恋愛もの。イチャイチャ足りない」

裕翔「あ、あはは……これは大変な事になりそうだね」

suryu-「だ、大丈夫ですから。ちゃんと今後ありますから、安心してください。ね?」

愛里寿「……」

裕翔「そ、それでは次回も閲覧なさって下さると幸いです!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

テスト。です!

 今日も今日とて更新しませう。どうも、suryu-です。

 この話を書き始めてから、だいぶ前より愛里寿を好きになったのですが、しかしまあなかなかイチャイチャが書けないところ。本当はもっとイチャイチャ書きたいのにシリアスしちゃうんです。誰かいい方法知らないでしょうか……

 そんな感じですが、今回も閲覧なさってくださると幸いです!


「それじゃあ話をしようか、島田流家元」

 

「……ええ、そうしましょう」

 

 私、島田愛里寿は現在政略結婚の縁談を、裕翔と共に乗り越えようとしていた。お母さんは相手らしき人と話をするみたいだけど、とても乗り気ではなさそう。裕翔はまだ、沈黙を貫いているみたいだけど。実際、私も乗り気な訳がない。

 

「それで、縁談の話は戦車道連盟が持ちかけたと言うのに、なぜ了承しない。家元」

 

「お言葉ですが、戦車道連盟の重役である貴方の意思はともかく、愛里寿の意見を聞いていませんので」

 

「だから今日連れてきたのだろう? なぜか羽虫も居るがな」

 

 羽虫って、多分裕翔の事なんだと思う。それに対して怒りは湧くけど何か言うのは怖い。いくら普段戦車道で、大人相手に指示を出していたとしてもだ。何をされるか分からないのは、とても読めなくて嫌だ。

 

「愛里寿には愛里寿の意思がある。そう思わないのですか?」

 

「ふん、政略結婚などよくある事であろう。家元の娘ならば尚更だ。それを理解してない。などと言わせるのか?」

 

「嫌がる相手と結婚するなんて、そんな真似はできませんわ」

 

「何? ワシとの結婚が嫌だと?」

 

 お母さんの言葉を受けると、この大人の人が私に視線を向ける。怖い。そしてジリジリと近づいて、なにかしようとしているのは分かる。

 

「言え、娘。ワシとの結婚が嫌か?」

 

「わ、私は……」

 

「言うのだ」

 

 怖い。怖い……! 何をされるか分からない。お母さんが止めようとするけど、男女の力の差がある事を分かっているのか、上手く動けないでいる。どうしよう、どうしよう!

 

「止まってくださいな」

 

「……何?」

 

 その時だった。いつの間にか扇子を持った裕翔が、あの人相手に扇子を突きつけて、鋭い眼光で睨んでいた。裕翔は、私の前に立って庇うようにしている。大人の人も、睨み返している。

 

「愛里寿が怖がっているじゃないですか。そんな状態で聞くのは、脅迫みたいなものですね。大人のする事ではないと思われますが」

 

「……羽虫が言いよるわ。で、なんだ? 貴様はワシの納得する答えを出せるのか?」

 

「ええ、出せますとも」

 

 お母さんも私も動けない。この大人の人が何をするか分からないからだ。そんな中裕翔は、扇子をポケットの中にしまうとやれやれと首を振る。

 

「どうやら貴方にはこの情報が行き届いてないんですね。愛里寿は既に婚約者が居るんですよ」

 

「……なんだと?」

 

「!」

 

 お母さんは、裕翔が何を言うか分かっているみたい。私は裕翔が何をするのかは全く分からないし、どうすればいいかも分からない。婚約者は居るって、私そんな話し聞いた事……

 

「羽虫。言ってみろ。貴様の言う婚約者とは何者か」

 

「それは勿論……私ですよ」

 

「っ!?」

 

 瞬間、私は驚きに飲み込まれた。私はお母さんから、縁談を持ち込まれたとしか聞いてないし、裕翔はそれを知らないと言っていた。じゃあまさか、これは。

 

「ほう、羽虫。貴様が島田家の娘の……」

 

「ええ、そうです。私。神田裕翔が島田愛里寿の婚約者なのです」

 

「……神田? ……ふむ」

 

 裕翔の名前を聞いた途端に、大人の人が何も言わなくなった。何かを考えているかのような、そんな仕草を見せる。もしかして。

 

「……良かろう。ならば羽虫。貴様、ワシの納得する力を見せてみろ。貴様は何が得意だ?」

 

「それは勿論、戦車道ですよ」

 

 その戦車道という言葉を聞いた途端、大人の人は初めて挑戦的な笑みを見せる。裕翔を見て面白いものを見たと言うような、期待するかのような。……期待?

 

「なるほど、貴様が噂の”軍神”の息子か。このワシ。花田源三の目に叶うか見せてみろ。貴様が島田家の娘に似合うか、テストする」

 

「テスト、ですか。ふふ、望むところですよ」

 

 そしてそのまま裕翔は、あの人の言う通りテストを受ける事にした。裕翔は、本当に私の事をどう思ってるんだろう。こんな事まで引き受けて。私は。私は__

 

「明後日だ。明後日、ワシの用意したチームと貴様のチームで戦え。ただし、島田の娘には頼るな。いいな?」

 

「ええ、分かりました」

 

 それだけ残すと、付き人の女性が頭を下げて、二人で出ていく。裕翔の顔は、珍しく熱いものになっていた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「……裕翔君。ごめんなさいね、こんな役目を背負わせてしまって」

 

「良いんですよ、千代さん。これは僕がやりたかった事ですから」

 

 あの後、千代さんと僕は二人きりになった。千代さんは僕の目の前で頭を下げる。本当に僕のやりたかった事だから、頭をさげられる程の事じゃないと思うんだけどね。まあ、とりあえずこれで何とかできそうだ。僕はいくらか引っかかる事もあるけど、愛里寿の婚姻は僕が勝てば暫くは来ないはずだ。まあ、愛里寿を縛るみたいで良い策略ではないんだけどね。

 

「それで裕翔君は、本当にこれで良かったの?」

 

「ええ、僕の望んた事ですから。愛里寿が縛られてしまうのは、良いとは思えません。ですが、あの爺に愛里寿をやる訳にはいかないので。ま、気になる事は幾つかははありますが」

 

「縛られるって……」

 

「僕が婚約者と発表されたら、愛里寿がその事実に縛られてしまうでしょう。僕みたいなのより良い人は、他に沢山居るし」

 

「……そうね」

 

 千代さんは何か言いたそうだが、言えないような顔をしていた。まあ、千代さんからしたら僕達子供には、重いものを背負わせたくないという意図があるだろう。相変わらず優しいのは、とても分かるんだけれどもね。

 

「まあ、僕が愛里寿を守る手段として選んだだけですから。さーて、アズミさんとメグミさんとルミさん。そして結衣さんや、他のメンバーたちにも声をかけるか。愛里寿には頼れなくとも、心強い味方が居るからね」

 

 そのままメンバー達に、僕はメールを送信する。副官の中で僕を除きリーダー格の、メグミさんは直ぐにOKが来た。アズミさんとルミさんもOKを出した。結衣さんも近くに居るし、すぐに行くと答えてくれた。僕の乗る戦車は恐らくA41センチュリオン。メグミさん達は多分いつものM26パーシングだ。

 

「さて、久しぶりに他の人相手の戦車道。今回は僕が隊長、か。なら楽しむしかないよね」

 

「裕翔君。一応聞くけど隊長なんてできるの?」

 

「できますよ、千代さん。……僕は母さんの技術を、きっちり受け継いでるので」

 

 さて、どんな勝負になるかは分からないけど、やるとしますか。”砲手をやりながら隊長”だなんて、なかなかにやりがいあるよね。事の発端はよくないけれど、またとない機会を楽しまないわけには行かないでしょ!

 

【発信者:メグミ】

 

OK裕翔。私たちも手伝うわ。

______________

 

【発信者:アズミ】

 

隊長のために戦う。熱いわね!

______________

 

【発信者:ルミ】

 

裕翔君。了解。隊長の為に、

頑張るね。

______________

 

【発信者:結衣】

 

師匠の頼みならドンと来い!

私も頑張りますよ!

______________

 

 こんなメールを貰ったんだ。ひと暴れしなきゃならないよね。そんな訳だから、僕も久しぶりにテンション上げていこうかな。ってね!

 

「花田源三の偏屈さは随一で、同じ上役でも扱いが難しいって聞くのに……ふふ、裕翔君ならやってくれそうって思えるのよね」

 

「ん、どうしたんですか? 千代さん」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 気になることを言ってた気もするけど、まあいいや。とりあえず明後日の試合は、とても楽しみだ。どんな風になるかなってね!

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 そして、試合当日になった今日。今僕は副隊長組と結衣さんの五人で、試合開始前のブリーフィングタイムで協議していた。具体的には僕の指示が出た時、どのような動きをするか。とか、相手に対する本命の作戦とか。

 

「で、相手に西住流らしき人がいるのは本当なの? アズミさん」

 

「ええ、そうね。裕翔君。まあ幸い技術はそこまで高くないみたいだけど。ね、メグミ」

 

「多分それなりの部隊を用意して、様子を見たいってところかしら。ルミの意見は?」

 

「まぁ、やっぱり相手の司令塔は潰したい。かな。それだけで有利になるし」

 

「なるほど……」

 

 ルミさんの意見は、確かにと思うところがある。どれ程の実力か分からない時は、司令塔から潰しておくとあとが楽だろう。ただ、問題はどうやって潰すか。そこについてを考えていると、結衣さんが手を挙げた。

 

「闇討ちなんていかがでしょう!」

 

「闇討ち……それだ!」

 

 実は今回のフィールドは、森に面していて死角がとても多いと言うことから、闇討ちが正解択だと思われる。勿論相手が西住流だし上手くできるかはわからないが、考えた結果はゴーサイン。相手の技術が高くないという事ならば、闇討ちの確率は上がる。

 

「よし、作戦ができた。部隊コードはいつも通りスカルリーダー。スカル1。スカル2。スカル3でいこう」

 

「了解、裕翔っ。任せなさい!」

 

「分かったわ、裕翔君!」

 

「裕翔君。了解だよ」

 

「頑張って運転しますね!」

 

「では。各自戦車に乗り込め!」

 

”了解っ”

 

 そのまま僕達は戦車に乗っていく。いつも通りインカムを装着して、結衣さんの方を見る。準備OKのグッドサインをだしてくれた。僕のポジションは砲手兼”司令塔”だ。

 

「それじゃあ全車両。Panzer vor! 第一段階! 僕がおって指示を出す! まずは三両で敵を誘き寄せて! スカルリーダーは、先程の作戦通りに動く!」

 

《I copy! ”隊長”、勝つわよ!》

 

《I copy。派手に行こうじゃない、”隊長”!》

 

《I copyっ。”隊長”、楽しく行くよ!》

 

 メグミさん。アズミさん。ルミさんの順でいつものように答えてくれた。そのまま僕達の試合は動き出す。僕の読み通りなら、今向かわせた三両が必ず敵と、鉢合わせすることになる。そして数分後。その読みは当たった。

 

《スカル1 隊長の言う通り、しっかり敵とあったわ!》

 

《スカル2。このまま応戦に入りつつ引きつけるわ!》

 

《スカル3同じく。スカルリーダー。闇討ちよろしくっ》

 

「I copy! それじゃあロックと行こうじゃないか!」

 

「師匠、まもなく敵の後ろにつきます。砲撃準備を!」

 

 そのまま僕は三人と違うルートを進んで、そのまま結衣さんの運転で敵陣後ろに現れる。そして見つけた敵の司令塔を見ると、僕は相手が見えない位置からゆっくりと砲身を向ける。そして狙いを定めてから、砲撃を行う事にした。

 

「狙い目は装甲の薄い部分……狙って外さず勝負しろ……」

 

 その言葉を呟いて息を吐く。狙撃する時に自分を落ち着かせる、ルーティンになっているからだ。そしてしっかり狙った後は、撃つだけだ。

 

「……ここだ!」

 

 そして砲弾が相手司令塔に当たる。ここからは僕らの独壇場だ。部隊の動きの指示は、作戦コードとして教えておいた。ここからは圧倒する。口調を変えろ。荒々しくなれ。統率を取れ。そして__

 

「スカルリーダーより各車両へ! これよりスカルリーダーの車長兼砲手の僕……いや。俺の呼称はボスだ! 派手に行くぞお前達! 全車両。PLANET DANCE!」

 

 ”勝て!”

 

《I copy! OKよボス!》

 

《I copy。気分はマクロスFね!》

 

《I copyっ。殲滅だねっ》

 

「結衣、俺には影響ないから、派手に暴れろよ! ドラテク見せてやれ!」

 

「了解です師匠! 飛ばしていきますよ!」

 

 

 

■■■

 

 

 

「まさか、ここまで圧倒されるとはな。……レベルもそれなりのものを揃えたが。あの羽虫……いや、神田の坊主はやりよるわ」

 

 ワシ。花田源三は別に馬鹿ではない。島田家の娘と政略結婚は、確かに自分には美味しい話だ。だが、嫌がる娘と結婚した所で長くは続かないし、なにより周りからの反応が良いとは思えない。そして、あの縁談の場所についてきたあの少年は、何も出来ない羽虫と当初は思っていた。だが、あの少年は自分を犠牲にしてまで、島田家の娘を救おうとしている。名前を聞いて気づいたが、戦車道の強さも”噂通り”だ。島田流とは違うものを持ってるからこそ、”西住流”の末端も完全に読み違えた。

 

「あの坊主。放っておくには惜しいな。男の戦車道、か。……ワシも昔は夢見たものだ。おかげで自衛隊にも行って戦車に乗ったくらいだしな」

 

 だからこそ、あの少年は島田家の娘の隣に居る事こそが、幸せなのだろう。さて、どのような褒美をやろうか、考えておく事にしようか。こうしている間に試合は終わる。あの坊主のチームが、”一両も落とされず”試合に勝つのだからな。

 

「ふ、戦車道もかなり変わりそうだな」

 

 この風がどう動いてくるかは、ワシにはまだ分からん。だが、面白そうだとは思えるな。なぜなら__




■【後書きのコーナー】■



愛里寿「そういえば裕翔って戦車道を、どれくらいの頃から見ていたの?」

裕翔「んー、はっきりとは覚えてないかな。愛里寿と出会う少し前な気もするけど」

愛里寿「なるほど。西住流とかしっかり知ってたもんね」

裕翔「最初はかなり興味は無かったんだけど、母さんが連れ歩いてね。で、愛里寿と会ってそこからかな」

愛里寿「……ふふ」

裕翔「とりあえず時間だね。それじゃあ次回も閲覧なさって下さると幸いです!」

愛里寿「感想も、お待ちしてます」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

認める時間。です!

 皆様お久しぶりです。久々のガルパン投稿ですね。どうも、suryu-です。

 実は既に話は完成していたのに投稿やらなんやら忘れてるのと、書きだめを作ってたという理由で投稿が遅れました。因みにこの話から恋愛成分がシリアスになっていくような……イチャイチャさせたいんですけど、ね。

 では、そんな話ですが今回も閲覧なさって下さると幸いです!


 僕達のチームの圧勝で、試合は終わった。こちらは一つも被害なし。久しぶりに母さんの教えとそのアレンジだけで戦ったけど、まあ思ったよりも上手く行ったものだ。ぶっちゃけ、相手のレベルが僕達より低かったのはあるけど、作戦が上手くハマったとも思う。指示命令は念の為相手に聞こえてもいいように、僕が予め用意した命令系統を使ったりも出来て、満足だった。まあ、コードは知る人ぞ知るマクロスのだけど、ね。

 

「神田の坊主。少しいいか」

 

「……何用でしょうか、花田源三氏」

 

 終わったところで一息つこうとしたら、あの花田源三がやってきた。僕に用があるらしいけど、どういう事だろうか。まあ、僕の勘が正しければ悪いことでは無いはずだが。

 

「まずは流石だ。末端とはいえ、西住流を降すに十分の実力だ」

 

「そうですかね? 私はまだ精進の身分ですから」

 

「それでもだ。しっかりと気持ちが入っていた」

 

 いつの間にか来ていた千代さんと愛里寿も、それを聞いて驚いている。まあ、ここまで認められるなんて、誰も思ってすらなかったんだろう。

 

「神田の坊主。……いや、神田裕翔。お前の覚悟、しかと見届けた。何があっても島田の娘を守るという気迫をな」

 

「ありがとうございます。まぁ、貴方は最初から気づいてたんでしょうね、花田源三氏」

 

「源三で良い。坊主。……ワシの考えた通りなら、虫除け。とでも言う所だろう? お前は」

 

「あはは、やっぱりお見通しでしたか。……では、源三さんで」

 

 愛里寿は分からないという顔をしているが、千代さんは僕の意図に気づいていたし、源三さんの言葉に思う所はあるのだろう。だからこそ、千代さんは驚き続けているのかもしれない。

 

「さて、神田の坊主には褒美をやらなければな。大学戦車道のチームで使える戦車を、お前のところへ回そうと思う。それと……時間はかかると思うが、ワシも男の戦車道を認めて貰えるよう、手伝おう。なに、ワシも昔はそれを夢見ていた」

 

「源三さんも、だったんですね」

 

「ああ。おかげで懐かしいものを、思い出せた気がするな」

 

 やっぱり僕の思った通り源三さんは、気難しいだけの人だった。認めた相手にはとても甘いという事なんだ。だからこそ認められて、少しだけほっとした。やっぱり戦車道は、人を繋ぐ力があると思うから。

 

「……あれ? 伯父上? なぜ伯父上がここに?」

 

「ん? 結衣こそなぜここにいる。なぜ神田の坊主の戦車から出てきた」

 

「だって、師匠ですから!」

 

「……ほう? これは姪が世話になっていたのか」

 

「……め、姪!?」

 

 そして僕の目の前で、衝撃の事実が披露される。いや、まさか結衣さんが源三さんの姪だなんて、僕は知らなかったんだ。まさかこんな事になるなんて。まあ、これはこれで味方が強力になるし、良いのかな?

 

「裕翔さん。もしかして今回の件の、政略結婚の相手って……」

 

「源三さんだよ。大方、一部の上役に言われたんだろうね」

 

「そういう事だ。まぁそもそも嫌がる娘とは、結婚なぞする気は無いがな」

 

「伯父上……」

 

 戦車道の重役だからこそ、そんな面倒事に絡まれているのか、源三さんはやれやれと言った様子だ。まあ、そりゃあ歳も離れていて、なおかつ嫌がる女の子と一緒になったら、何を言われるかはわからないしね。まあ、源三さんはやっぱり思った通り、切れ者だったって所かな。

 

「とりあえず、ワシは帰るとする。久しぶりに良い物が見られたからな」

 

「あ、はい。伯父上。また会いましょう!」

 

「源三さん。お気をつけて」

 

 そうして源三さんは、用意されていたのかいつの間にか来ていた車に乗って、そのまま帰っていった。なんというか、頑固そうなところはあるけど、しっかり話してみると優しい所がある。という事が分かったから、普通に収穫はあった。僕の味方になるのも、約束してくれたしね。ああいう人は約束を破らないから。

 

「さて、それじゃあ打ち上げでもする? こうしてみんな揃ってるんだし」

 

「良いですね、師匠! あ、でもその前に……」

 

「ん?」

 

 結衣が何かを言おうとして僕は止まる。もしかして、まだ何かあったかな? と思うと、それを聞くことにした。本当に何かあったっけ?

 

「行ってきてあげてくださいよ。隊長の所に。何か言いたいみたいですし」

 

「ああ、了解。ありがとう、結衣」

 

「いえいえ」

 

 なんの事か考えている僕を見て、結衣はクスッと笑うと愛里寿の事を教えてくれた。確かに、さっき来てたもんね。そのまま僕が愛里寿の方へ向かうと、愛里寿はむしろ走って近づいてきて、僕に抱きついた。

 

「ありがとう、裕翔!」

 

「どういたしまして、愛里寿」

 

 少なくとも、愛里寿は政略結婚についてはかなり怖かったと思う。だから、それを止めてくれて。という事なのは分かる。まあ、僕が”虫除け”という事は理解してないみたいだから、そこは触れないだろうけど。まあ、正式な婚約者じゃないのは確かかな。だってきっと、愛里寿も好きになる人が居るはずだから。

 

「……裕翔。本当にかっこよかったよ。啖呵をきった時も、今日の戦車道も」

 

「ん、ありがとう。まぁ愛里寿の為だって思ったら、ね?」

 

 勿論僕が司令塔をやるのは楽しみだった。でも、ちゃんと愛里寿の為に。というのは考えていた。まあ、源三さんは愛里寿に似合うかテストするって言ってたけど、それは多分虫除け役として、人から見た時に手を出しにくいか。という事だと思う。流石に、僕が愛里寿の砲手になろうとした理由も知らないだろうし、ね。

 

「……ほんと、裕翔ってずるいよね」

 

「ん、そうかな? 愛里寿」

 

 珍しく愛里寿が小声で呟いた事が聞こえたから、僕は聞き返す。すると、僕の胸に顔を埋めてから、ふふっと笑った。

 

「うん、ずるい。そういうのは女の子にやったら、勘違いするからね?」

 

「なるほど。これはいつも僕が言ってる事だから、一本取られたね」

 

 多分愛里寿は、してやったりって顔をしてると思う。確かに、いつも僕が言っている事だから、それで返されたからには僕も認めるしかない。うーん、そんなずるいって事をしてる気は無いんだけど、ね。

 

「……裕翔」

 

「何かな? 愛里寿」

 

 そんなことを考えていると、愛里寿は僕に声をかけてくる。どうしたのかな。と思っていると、僕の体をぎゅっと抱きしめてきた。

 

「……今回、裕翔が居なかったらもっと大変になってた。怖かった」

 

「そう、かな。千代さんも居たし、なんとかなったかもしれない。……僕はまあ、まだ子供だからこれくらいしか」

 

「それでも、だよ。私にとっては、裕翔が助けてくれた事が嬉しいの」

 

「……愛里寿」

 

 まあ、僕としても愛里寿を助けるのは、本望だったりする。それが僕の役目だとも思っているから。まあ、自惚れない程度にはね。愛里寿に好きな人ができるその日までは、きっと僕は愛里寿を守り続けるだろう。それくらいの覚悟はある。僕はそれでいい。それでいいはずなんだ。

 

「……裕翔ってさ、私に優しいよね。なんで?」

 

「なんで、か」

 

 だからこの質問も、いつものように返す。愛里寿には基本的に本音を伝える。そして僕は”はぐらかす”んだ。

 

「そうだね、僕は愛里寿の戦車道に惚れ込んでるから。昔から、ね。だからそれを守る為ってね」

 

 僕の想いは隠していい。それがきっと正解だから。最善をいつも尽くして、愛里寿には素敵な人を見つけて欲しいから。

 

「……そっか」

 

 でも、愛里寿の顔は優れない。嬉しい部分もあるけど、なんというかそれだけじゃない。というのが見えた気がする。僕はまた、答え方を間違えたらしい。こういう時に愛里寿の質問に答えるのは、なんとなく難しい気もする。だから、この雰囲気を誤魔化すことにした。

 

「さて、とりあえず久しぶりに本気出したら、お腹すいちゃったなぁ。愛里寿、家に戻ろっか」

 

「……うん」

 

 

 

■■■

 

 

 

「って感じなのよ、ゆりっぺ」

 

『なるほどねぇ、ちよきち。裕翔が愛里寿ちゃんの”虫除けの婚約者”に、かぁ』

 

 現在私島田千代は、裕翔君の母親であり友人である、ゆりっぺこと神田由利に電話をかけていた。内容に関しては、ゆりっぺが呟いた通り。裕翔君は愛里寿の為に、”偽りの婚約者”になったのだ。

 

「愛里寿の事を思って、なんだろうけど。あまりにも皮肉よね」

 

『そうね。あの時裕翔は愛里寿ちゃんの隣にと宣言して、その言葉の通りに専属砲手と彼女に言わせてる。それなのに、ねぇ。自分からそれを認めてるなんてね』

 

 あの子の鈍さは父さんに似たのかしらね。とゆりっぺは苦笑いをしたと思う。実際ゆりっぺもゆりっぺで、今の愛里寿と同じ悩みを抱えていたから、共感できるのだろう。

 

「多分、裕翔君は愛里寿に素敵な人が見つかるまで。とかなんとか思ってるのかしらね、きっと」

 

『でしょうね。虫除けを買って出て、愛里寿ちゃんが旦那を見つけて。と考えてるんでしょうけど……ほんと裕翔も素直じゃないわね』

 

「素直じゃない?」

 

『そうよ』

 

 裕翔君が素直じゃない。というのは少し気になる。私の想像が正しければ、そういう事なのだろうが。その答えをゆりっぺはきっと知っているはずだ。

 

『多分ちよきちの考えた通りね。愛里寿ちゃんの隣に。といったあの時から、裕翔はきっと愛里寿ちゃんの事が好きだもの』

 

「……そうなのね。でもそれを表に出せない、か。何が裕翔君を戸惑わせるのかしら?」

 

『多分、あの子の事だから子供らしくない理由を、いつものように並べてるんでしょうね。年齢が年齢だし教えた訳でもないのに、裕翔は大人びているから。まあ、そこも魅力の一つなんだけど』

 

「……子供らしくない理由を、か。愛里寿は、子供らしくもあるけど、しっかりアピールしてるのよねぇ」

 

『ほんとよね、どうしてあそこまで気付かないのかしら』

 

 裕翔君はもしかすると、きっと線を引いているじゃないかと思う。愛里寿とはある程度以上、進んではいけないと感じている。

 

「もし裕翔君が線を引いているなら、愛里寿の為にどうやって取っ払えばいいのかしらね」

 

『どうにかして外してあげたいわ。このままじゃ愛里寿ちゃんが不憫だもの。いっその事、無理矢理にでも前に進ませる方法を、とか……』

 

「まあ、私達でもなんとかできるように、考えていきましょうか」

 

『ええ、そうね。……裕翔にしっかりと愛里寿ちゃんの気持ちが伝わるように、行動しましょうか』

 

 私としては、娘が結婚する相手はきっちり好きな人であって欲しい。政略結婚なんかじゃなくて、両想いになった末の結婚。その相手が裕翔君なら、私は全力でフォローしていく。

 

「それにしても、裕翔君はそんなに愛里寿の事が好きなら、ゆりっぺの言う通り素直になればいいのに」

 

『そうね。まあ、愛里寿ちゃんが何故裕翔を好きになったのか、気付いてないのもあると思うけど』

 

「そうなんでしょうねぇ。だって愛里寿はあの時から__」




■【後書きのコーナー】■



愛里寿「作者」

suryu-「な、なんでしょう?」

愛里寿「……イチャイチャあるって言ったよね、本当に?」

suryu-「……ありますよ、多分」

愛里寿「嘘つき」

suryu-「だ、大丈夫。今後あるから。あるから。ね?」

愛里寿「……ぐすん」

千代「お話しましょ?」

suryu-「ちょ、やめ、くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」

裕翔「え、えーっと……次回も閲覧なさって下さると幸いです!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

”イツワリ”と、”ホンモノ”。です!

 私は……私は帰ってきた! この世界に!


 ……どうも、お久しぶりです。忘れちゃった人は多いんじゃないでしょうか? 愛里寿と僕と戦車道。今回が終わればようやくイチャつきが加速します。今回は本当に重要ですね。さて、久しぶりの更新、Panzer vor!


「裕翔君。ちょっといい?」

 

「はい、なんでしょうか千代さん?」

 

 夏休みも半ばの八月中旬にて、いつもの様に戦車の整備をしようとしていた僕は、千代さんに声をかけられていた。なにか今日は予定があったか思い返すが、今の所は見当たらない。だからどうしたものかと首を傾げるが、答えは出ない。

 

「ああ、裕翔君にはまだ言ってなかったわね。この後海に行くのよ」

 

「はぁ、海。ですか?」

 

「ええ、だから裕翔君も連れて行こうって。水着はあるでしょ?」

 

「ええ、まぁ一応。……しかし急ですね。愛里寿は?」

 

「もう用意してあるわ」

 

「なら、用意してきます」

 

 まあ、確かに急な話ではあるが、僕としては受け入れられるものではあるので、即座に用意することに決めた。愛里寿も行くんだから僕も行かないと、”虫除け”としては成り立たない。”イツワリ”だとしても、僕は愛里寿の”婚約者”という事に変わりはないのだから。

 

「それじゃあすぐ用意してきますね。愛里寿も待ってるでしょうし」

 

「ええ、分かったわ」

 

 そのまま僕は急いで部屋に戻る。水着は大学では使わないけど、念の為買っておいたからだ。多分愛里寿が行きたがるからとかそんな理由で。それが功を奏するとはおもってなかったけど、結果は良いからそれで良いだろう。……こうして考えると、僕の生活は愛里寿ありきになっているな。”この先の事”を考えたら良くない気もするけど。だって愛里寿は僕よりもきっと”いい人”が__

 

「……なんて、考えない方が良いよね今は」

 

 考えるだけで自分の気持ちが暗くなる。そういう話は良くないって分かってるから、僕は頭の思考を切り替えることにした。今やれることは、愛里寿と海に行くことだ。それ以上でも以下でもない。

 

「よし、用意は終わり。それじゃあ行くか」

 

 そのまま僕は、水着と水着を入れる鞄。着替えた時に入れるビニール袋。ついでに愛里寿と僕の好みのおやつと、僕のお小遣いを入れた財布も持って、愛里寿の元に向かう。長い廊下を歩いた先に、愛里寿は居た。

 

「あ、裕翔。裕翔も、もしかして一緒に海に行くの?」

 

「うん、そうだよ愛里寿。まあたまにの気分転換にはいいかなって」

 

 それもあるけど、やっぱり”虫除け”が僕の役目だからそれを果たす。それを愛里寿には悟られないようにするのが、僕の役目の難しいところだ。そもそも愛里寿は、僕の事を”婚約者”として見ているのか、それとも。

 

「それじゃあ楽しみ。裕翔と一緒に海に行ったことがないから、どうなるかな?」

 

「確かに長い事愛里寿と一緒だけど、海はないね」

 

 これは本当だ。なかなか僕は愛里寿と海などに行った事がない。行く暇がなかったのか、それとも単純に僕が整備や練習ばかりしていたのか。まあ、おそらく後者だろう。愛里寿の隣に立つために、僕はこの六年間練習に費やしてきたつもりだ。見せ場のみの字すらないくらいには、鍛錬の日々だった。その過程で、愛里寿専属の砲手になる事はあったけども。それはそれ。

 

「あら、もう用意が終わったのね」

 

「はい。……千代さん。今日の車は?」

 

「そうねぇ、今日は34GT-Rかしら。裕翔君スポーツカー好きだし」

 

「配慮ありがとうございます。確かに僕は、スポーツカーが好きですね」

 

 口調には現れてないけど、割と嬉しかったりする。僕は確かにスポーツカーが好きだ。唸るようなエンジン音。普通では味わえない加速とG。戦車とは違う魅力がそこにあるから、僕はスポーツカーに乗りたいと思う。自分で言うのもなんだが、将来スピード狂になりかねないなと思っていたりする。とりあえず千代さんのGT-Rに乗れるのは、個人的にはとても嬉しかったりする。

 

「それじゃあ行きましょうか。愛里寿。裕翔君」

 

「うんっ!」

 

「お供させていただきます」

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 照りつける太陽。白い砂浜。そして。目の前に広がる青い……

 

「海だぁ!」

 

「ふふ、久しぶりねぇ。海に来たのは」

 

「こうして遊びに来るというのは、僕も久しぶりですね」

 

 海に着いた。久しぶりに来た海は、とても砂浜が熱く感じる。まあ、サンダル履いてるからまだマシだけど。とりあえず水着に着替えなくては。

 

「とりあえず更衣室に行きますか。愛里寿と千代さんも、着替えないとですよね?」

 

「ええ、そうね。行きましょうか、愛里寿」

 

「うん。裕翔。またあとでねっ」

 

「そうだね、男子と女子は反対だし。それじゃあまた後で」

 

 僕は荷物をしっかり持って、男子更衣室に向かう。僕の着替えはそんなにかからない。なぜなら、ほとんど脱いでからひとつ着るだけだからだ。そんな訳だから早歩きで更衣室に入ったあと、その一連の行動を終える。そして、先程の場所に戻ると、愛里寿と千代さんを待つ事にした。

 

「……まさか、海とはなぁ」

 

 予想していなかったのは確か。愛里寿の柔肌を見るのは初めてなはずだから、変な意識をしないように気をつけなければ。

 

「ゆーうーとー君っ」

 

「あ、千代さん戻りました……かっ!?」

 

 そして僕が意識しないようにとしてる傍から、千代さんは僕が振り向く前に抱きしめられた。女性の肌が僕に当たるのは、相手が人妻であろうと恥ずかしい。いや、本当にどうしてこうなった。思考は冷静に見えるようで、絶賛僕は今混乱中です。ダレカタスケテ。

 

「あらあら、裕翔君可愛いわねぇ。そんな混乱しちゃってぇ。ふふ」

 

「あの、千代さん。その、ね? 離れてくれませんか? その、恥ずかしいですから、ね?」

 

「もう少しこのままかしら? ふふっ」

 

 とりあえず離れるように言うものの、千代さんは面白がって離れてくれない。本当に冷静に口を回してるように思考する僕は、なんとか理性を保ってるという事だろう。やめて、密着しないで。胸を当てないで。僕、ヤバイ。

 

「……裕翔」

 

「ふぁ? え、あ?」

 

「……あっ」

 

 その時、底冷えするような声が響く。千代さんのやってしまったみたいな声が出たあと、僕は我に返る。そこには可愛らしいが露出もちゃんとある水着を着た、とても不機嫌な愛里寿が僕を目線で射抜いて立っていた。

 

「お母さん、離れて」

 

「は、はい」

 

 愛里寿の鶴の一声で、千代さんは僕から離れる。ここまで怒った愛里寿を、僕はだいぶ久しぶりに目撃している事になる。何が愛里寿をここまで怒らせたのか、僕には分からない。けど、下手するとやばいのは確かな事だ。

 

「裕翔。お母さん相手にデレデレして鼻の下を伸ばしてるし、ダメ」

 

「え、あ、うん。ごめん」

 

 傍から見たらデレデレしてるのかな? と疑問はあるのだが、ここは素直に謝っておく。じゃないと僕が死ぬと直感したから、愛里寿には逆らわない事にした。断ったら僕はどうなるか分からない。

 

「だから、こうする」

 

「うん、どうす……あの、愛里寿?」

 

 そしたら、今度は愛里寿が僕に抱きついてきた。発達途中の体は柔らかい。しかもさっきの千代さんより密着しているから、僕はとても困惑を覚えていた。意識しないようにしているのに意識させられている。そんな気分だ。

 

「……私でもしっかり反応するんだ。良かった」

 

「……愛里寿? あの、なんでそんな密着して」

 

「良いでしょ。私達は”婚約者”なんでしょ」

 

 イツワリの。とは言えなかった。今の愛里寿は、それを言わせてくれるような雰囲気じゃない。まるでこれを狙っていたかのように、普段より肌色が多い格好でで僕に体を押し当ててくる。

 

「と、とりあえず愛里寿。海で遊んだりしよう。ね?」

 

「分かった、そうしよっか。裕翔。遊ぼ!」

 

 どうやら、機嫌は直ったのか頷くと海に走っていく。抑揚がなかった口調から、いつもの愛里寿に戻る。安心した為にふぅと溜息をつくと、愛里寿と遊ぶために歩き出した。

 

「裕翔っ。海だよ、ざぶんと波打ってるよ!」

 

「ん、そうだね。深いところに行かないように気をつけてね?」

 

「うんっ」

 

 

 

■■■

 

 

 

 あの後、愛里寿は遊び疲れて昼寝している。僕は浜辺にたてたパラソルの日陰。地面に敷いたレジャーシートの上で、愛里寿の隣で休息を取っている。千代さんは何か考えた様子で僕を見たあと、はぁ。と一息。その後、僕を見る。

 

「ねぇ、裕翔君」

 

「なんですか? 千代さん」

 

 千代さんは、普段と違って真面目な顔をしている。難しいをする時の顔だ。どういう意図があるのかは分からないが、僕は千代さんの目をしっかりと見て反応する。

 

「愛里寿の”婚約者”の件、本当にありがとね」

 

「良いんですよ。僕に出来る仕事は、こんなのしかないんですから。”イツワリノコンヤクシャ”でもね。……なんだか、僕の好きなマクロスみたいですね」

 

「……裕翔君」

 

 僕の返答には、千代さんは何か納得出来ない様子だ。千代さんからしたら、僕ら子供に難しい話を持ち込むのは嫌なはずだ。多分、それによるものだろう。

 

「ねぇ、裕翔君。裕翔君は”偽り”で良いの?」

 

「……千代さん?」

 

 そう思っていた僕の考えが、違うとすぐに理解する。千代さんは”偽り”からその先の”本物”にならないのか。と聞いているのだ。その答えに対して、僕の気持ちは決まっている。

 

「良いんですよ。愛里寿にはきっと”いい人”が見つかる。それは僕じゃない」

 

「どうしてそう言いきれるの?」

 

 千代さんの目は、僕に嘘を許さないと語りかけてくる。勿論嘘なんて言う気は無い。僕は。だって僕は。愛里寿の事を__

 

「僕は確かに、愛里寿の専属砲手です。ですが、逆に言えば”それだけ”なんです。家柄に関しても、確かに母さんは昔有名な選手でした。でも、やっぱり”それだけ”なんです。見合う人は他に居る」

 

「そんな事は__」

 

「ありますよ。僕は、愛里寿はまだ恋愛をした事がないと思っています。だから、愛里寿がこの先好きな人を見つけるまで、僕は”虫除け”となって支えていくのみです。隣で戦車道を出来ているのなら、僕は……」

 

 満足だ。とは言いきらない。言いきれない。けれど、それでも千代さんはそう解釈してくれるだろう。だからそれでいい。

 

「……そこまで決意してたのね」

 

「はい。そうですね」

 

 そう、こうすればきっと上手くいく。愛里寿に見合う人は僕よりも居るだろう。だから、こうして僕は愛里寿の”土台”になる。上に物が建てば僕は見られなくなるけど、これが正解択。最適解なんだ。

 

「千代さん。僕は愛里寿の為なら、”礎”になる覚悟はあります。愛里寿が幸せになるのなら、僕が傷ついてボロボロになっても良い。ただ、愛里寿と戦車道が出来ていれば、それで良いんです。有名な戦車乗りとかにならなくても……ね」

 

「裕翔君……」

 

「とりあえず飲み物を買ってきます。欲しいのありますか?」

 

「……じゃあ、コーラで」

 

「了解です」

 

 だから、僕の気持ちを騙すのはもう慣れた。それがきっと__

 

 

 

■■■

 

 

 

「……裕翔。あんな事考えてたんだ」

 

 私は、裕翔が飲み物を買いに行ったのを見計らって、体を起こした。お母さんは分かっていたかのように頷く。多分、嘘寝って事に気づいてなかったのは裕翔だけな筈。

 

「……裕翔君は、愛里寿に見合わないと思ってるから、愛里寿に好かれてる事にすら気付かないのよ」

 

「うん。そんな気はしてた。”偽りの婚約者”っていうのも、ほんとは分かってた」

 

 私だってそこまで馬鹿じゃない。裕翔が私を守るために、盾になってくれているのも。でも。

 

「だからこそ、私のせいでボロボロになんてなってほしくないよ……私、本当に裕翔が好きだから」

 

 だから、気づいて欲しい。恋愛した事ないなんて言われたけど、とっくの昔から私は裕翔が好きだ。あの時、まだ無名の私のファンと言ってくれた時から。私の隣で戦車道をしたいと、言ってくれた時から。

 

「……気づいて貰えないのが、こんなに苦しいなんて知らなかった」

 

「……愛里寿」

 

 だから私は、裕翔の”イツワリ”にはならない。絶対に。

 

「絶対に、本物の婚約者になるんだから。だからお母さん、協力して」

 

「……ふふ、ええ。勿論よ」

 

 そんな話をしていると、裕翔が帰ってきたのが遠目に見える。だから私は、サンダルを履いて駆け出した。

 

「お帰り、裕翔っ!」

 

 この恋、絶対に成就させるんだから__!




■【後書きのコーナー】■


愛里寿「……ようやく、ようやくイチャイチャが始まる」

裕翔「いや、本当にようやくだね」

suryu-「家元さんからきつく怒られましたので……」

愛里寿「……でも、投稿遅すぎ」

裕翔「結構放置されてたよね」

suryu-「申し訳ございませんでした」

愛里寿「でも、これからも続けて、完結まで絶対お願い」

裕翔「一応僕らも幸せを願ってるからね」

suryu-「勿論ですよ。次回も、閲覧なさってくださると幸いです!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。