流星のロックマン 水希リスタート (アリア・ナイトハルト)
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キャラ紹介

今回はオリ主とオリキャラの紹介をさせていただきます。
原作とかけ離れた設定にしてるため苦手な方はブラウザバックしてください。
それでも良ければ、ゆっくりしていってね!( ̄▽ ̄)/


7/21追記: ストーリーの進行に問題があり、水希の年齢を18歳から20歳に変更。



10/23追記:リヴァイアのイメージCV、音柱の中の人でも全然アリな気がしたw


オリ主&オリキャラ紹介

 

星河(ほしかわ) 水希(みずき):168cm/52kg/20歳 男【本作の主人公】

 

個人的だが合いそうなCV:下野紘さん

 

 

お昼寝が好きでのんびり屋だが、自己中かつワガママな性格。茶色のタレ目に黒髪短髪が特徴。

一人称は「僕」「ウチ」と使い分けている……というより人称が安定してない方が正しい。

裸眼で電波世界を見ることができる特殊体質を持ち、家族や友人を除いた周囲の人から煙たがられていた。

自分の存在意義に疑問を持った頃、FM星からやってきたリヴァイアと出会い、紆余曲折を経て共に行動することになり、その頃に電波変換ができるようになった。

中学生になり、大吾の理想であった「宇宙と交流しキズナを広げる」という考えに共感し、力になりたいと自ら護衛することを志願したが、不慮の事故に遭った際に大吾から「二人を守れと」言われ涙ながら帰還。

いつか、彼を迎えに行けるようにと準備を進めている

現在はスバルの家に居候しており、パートで働きづめの姉の負担を軽くしようと家事をやっている。

星河あかねの実の弟で、スバルとは甥と叔父という間柄。スバル本人は実の兄のように接してくれている。

 

中性的な見た目で男らしくない体型なので友人からは「ナヨっちい」と言われているが、中学生の頃、部活でバドミントンをやっていたので意外と運動好きなタイプ。

 

リヴァイア改め――電波生命体特有の能力により体は電波化され、普通の人間ではなくなってしまった。

 

 

「必ず迎えに行くから…もう少しだけ待ってて………」

 

 

リヴァイア:2m/80kg/30歳 男 【水希の相棒】

 

【挿絵表示】

 

 

個人的(以下略)なCV:鈴木達央さんか、小西克幸さんのどっちか

 

FM星育ちの電波生命体。ある理由で地球にやって来た際、自分と似通った境遇を持つ水希と共に行動するようになった。

一人称は「俺」で、普段口数が少ないが、気が合うと「俺っち」になり、おしゃべりになる。

宇宙船での事件以来…笑うことが少なくなった水希に対し、顔には出さないが心配している。

某パズルRPGの○レ○オスのような見た目に、純水のように透き通った菱形の鱗と緑色の目が特徴。

また背中は、乗っかかろうとする者をダメ人間にする破壊力を持つ。(主に水希がだがw)

水希と電波変換することでリヴァイア・コキュートスになる。

 

 

「俺は水希を裏切ろうと思ったことは一度もないよ」

 

 

リヴァイア・コキュートス

【別名、体力お化け】

 

【挿絵表示】

 

 

リヴァイアとの融合による電波変換時の名称。

水属性。

全身が踊り子のような見た目に、雪の結晶を象った髪飾りと菱形の鱗を模した腕輪とブーツ、リヴァイアのエンブレムが施された胸当てが特徴。また、目の色がエメラルドグリーンに、髪色は薄暗い水色になる。

変身体でお馴染みとされるヘッドギアやバイザーは無く、素の防御力はかなり低い(恐らくハープ・ノートよりも下回る)

名前の通り…水と氷を自在に操り、水を鞭状にして叩きつける攻撃や、全てを飲み込む渦潮、口から凍結効果のあるブレスを放つ。また、ロックマンのようにバトルカードを駆使した戦いができ、水属性のカードを使うと威力が上がる。

 

電波変換した時の戦闘能力は、現時点ではスバルを軽く凌ぐレベルだか、本人は余程のことがない限り、スバルと戦う気はないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

宇田海(うたがい) 信武(しのぶ) 179cm/70kg/20歳

 

個人的(以下略)なCV:細谷佳正さん

 

水希の幼馴染で唯一…同い年のブラザーだったが、無理矢理切られたことに憤り、今も探し回っている。

 

性格面に関しては委員長と同様、根が真面目で頑固。そして良くも悪くも真っ直ぐな一面がある。

(学生時代は生徒会長を担っていたという設定を、後付けしようか考えてました)

 

容姿の特徴は、スポーツ刈りの茶髪(前髪は逆だっている)と黒い瞳(ツリ目)。

服装はジャージ姿などスポーティな感じ。

剣道を嗜んでいるため筋肉質な体躯をしており、水希からは影で、某日本語を学ぶ教育番組のように「妬ましや〜」と呪詛を唱えられているらしい(笑)

 

 

スカル・ヴァンキッシュ

【別名、筋肉バカ】

 

【挿絵表示】

 

 

クラウンとの融合による電波変換時の名称。

電気属性。

(イメージ元は、ロックマンエグゼのカーネル)

 

軍服を模した紺色のボディスーツと深緑のマントを着用し、そのうえ両手足と両肩に金の装甲を纏う。

頭全体を覆うヘルメットは白骨化した頭蓋骨をモチーフとしており、一部は牙を連想させるほど刺々しくなっている。

 

「ロール○ンナちゃんやん」とか「卵の殻被ってるやん」とか言った奴はもれなく、インパルス・ブレードでぶった斬るそうですのでご注意を。

 

本家と同様に雷を操り、お供となる幽霊を召喚できる上、剣術を用いた近接戦闘が可能。

(詳しくは【固有能力&技名紹介】にて紹介)

 

作者談:実力的に素でEXクラスだから、めちゃんこ強いよ。クラウン・サンダーなんか屁でもないレベル。

実質、最強枠の一人。

 

 

 

 

 

 

 

レティ:160cm程/年齢不詳(笑)【鍵となる存在】

 

個人的(以下略)なCV:赤﨑千夏さん

 

容姿の特徴は肩まである長さの白髪に紅く濁った瞳(タレ目)に、漆黒のワンピースを身に纏っている。

どこか星河あかねを彷彿とさせる顔立ちをしており、体型も互角を張るレベル。

 

ふとしたきっかけで(常日頃ではないが)水希と行動をともにする電波体。

数ある電波体の中でもノイズに汚染された空間(ノイズウェーブ)を自由に行き来し、また…水中以外のあらゆる場所からノイズゲートを開く力を持つ。

旅好きで放浪癖のある性格なため神出鬼没。

 

「誰にも水希達の邪魔はさせないわ……」

 

 

 

 

 

飯島(いいじま) 隆介(りゅうすけ) 182cm/35歳

 

イメージCV:山寺宏一さん

 

大吾さんとは中学からの付き合いがあり、サテラポリスに務めていた頃は同僚という関係。

筋肉隆々とした体格に加えコワモテな見た目だが、それに相反して温厚な性格。いわゆる優男みたいな感じ。

水希からはたまに「リュウさん」とあだ名で呼ばれることがある。

 

職場内での服装は流星3のサテラポリスの隊服を参照。

名前の由来→流星3の依頼イベントに出てくる

「よこげり リュウスケ」さんの名字をモジった

 

 




どうも初めまして!(  ̄▽ ̄)
作者のアリア・ナイトハルトと申します
今作は「作者である自分自身が流星のロックマンのキャラだったらどんなことを言うだろうか」をテーマに書いていきます。
※転生モノじゃないです
実際に流星のロックマン3だけですがプレイしていたので、どうせならと思い、1~3までの物語を書くことにしました
原作は中途半端にしか知らないため動画でストーリーを見返しながら書いていくつもりです。( ̄ー ̄)

前書きには書きませんでしたが、自己満足で書いてるので、内容薄くなるどころかストーリーそのものがごちゃごちゃになるんじゃないかと不安になっております((汗))
まぁそんな感じですが、とりあえずはまともな文章書けるように頑張らないとですね!

という訳で今回は自分が考えたオリ主紹介はここまでとさせていただきます。
次回は何を書くか考えてませんwwwごめんねwww
原作に登場したキャラはこの物語に合わせて一部改変すると思います
それでは次回またお会いましょう
(☆ゝω・)ノシばいちゃ~


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キャラ設定(原作キャラ)

唐突なキャラ紹介(一部改変アリ)

ほとんどが自己解釈でテキトーすぎる説明文
ホントすんません


星河スバル: 143cm/39kg/11歳 【我らがヒーロー】

 

ブラザーバンド計画が白紙になるまでは、人懐っこいわんぱく坊やだったが、父親の喪失が原因で内気な性格になり、人との交流に嫌悪感を抱き、3年ほど引きこもりになってしまう。

 

だがある日の夜、展望台で星を眺めていると地球へやってきたFM星人"ウォーロック"と出会い、紆余曲折を経て電波変換ができ戦場に立つこととなるが当の本人は非好戦的。

 

しかし仲間がピンチに陥ったりすると、何が何でも助け出すほど、意思の強さが見られる。

 

クラスの委員長こと白金ルナから何度も学校へ来るよう催促されるも拒絶する日々だったが、登校するようになってから、クラスメートと徐々に打ち解け、心を開いていく。

 

水希とは叔父と甥の間柄だが、実の弟のように接してくれる水希を「兄さん」と呼び、彼を慕っている。

 

「兄…さん…?」

 

 

 

ウォーロック:178cm/【スバルの相棒】

 

FM星育ちの電波生命体。

元々は地球を侵略する側の立場だったが、FM星人が持ちうる兵器のパーツ「アンドロメダの鍵」を持ち去ったため、追っ手を撒く際に地球へ訪れ、スバルと出会い、電波変換ができるようになってから彼と共に行動するようになった。

 

大吾と水希のことを知っている人物であり、大吾のことに関してどこか黙秘してる様子が見られる。

 

 

星河あかね:165cm/32歳【スバルの母】

 

水希とは一回り離れた実の姉であり、リヴァイアの存在と電波変換して戦えることを知る人物の一人。

 

性格面はフェアリーテイルのミラさんとアクエリアスを足して2で割った感じなので、一度キレたら泣いて逃げるほどに怖いそうだ……。

もしQ&Aで「あかねさんも電波変換できたらどうなりますか」の質問に、水希は迷わず「この世の終わり」と答えるくらい。

 

電波の可視化を知った日から、両親と共に水希を気にかけながらも、内心嫉妬する一面が見られるが、根底から嫌ってはいない様子。

 

最愛の夫、大吾が行方不明になったことを知り、落ち込むも、水希は「まだ大吾さんは生きてるよ」と励まし、今も帰りを待っている。

 

「水希……また無理してないかしら……?」

 

 

 

星河大吾(旧姓:志野原)181cm/82kg/35歳 【スバルの父】

 

水希とスバルが宇宙に興味を持つ切っ掛けとなった人物。

 

水希が電波変換をするところを見かけ、それを機に水希は、電波世界及び電脳世界で起こる犯罪や事件の解決に協力することになる。

 

原作ですら公表されていない(もしくは作者が知らないだけだろう)が、こちらの作品では星河家に婿入りをした設定づけている。

 

元々サテラポリスの隊員だったが、「宇宙と交流し、キズナを広げる」という理想を諦めきれず、NAXAに入るという異色の経歴を持ち《惑星間ブラザーバンド計画》においては副司令官兼搭乗科学技術者(ペイロードスペシャリスト)として参入。

 

水希と共に宇宙へ飛び立って二年後。突如として起こったFM星人の襲撃により、行方が分からなくなった。

 

「二人のこと、頼んだぞ……」

 



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固有能力 & 技名紹介

この作品に登場する技名を記します。

※一部だけ技名に元ネタありです。

他にも何個か技はあるので、後に追記します。

2/15追記:威力の数値を修正

クリスタルバレット 攻撃力60→45

ディザスター・クロール 攻撃力500→400



 

〈リヴァイア・コキュートス〉

【固有能力】

 

・水と氷を自在に操る能力

 

・透視能力によるブラインド無効化

 

・ダブルアタック(固有技限定)→5話ウイルス戦を参照

 

【使用武器】

 

《レヴィアワンド》

2話のウイルス戦にて初登場。

リヴァイア・コキュートスの武器で、形はリレーのバトンだが…それをリヴァイア本人に言うと、めっちゃ怒られる。

因みに、ソード系統のバトルカードを使うと剣柄になる。

 

作者談…。イラスト書くときに素材としてサランラップの芯を使いました。

 

【固有技】ゲーム版での威力も記入

 

特徴:・単純に威力が高ぇ…(アホ丸出しなせいで、ゲームバランス崩壊レベル)

 

・大半が掃討戦向きだと思う。

 

・年甲斐なく厨二病全開。

 

《ハイドロウィップ》

攻撃力:80

範囲:前方の縦3マス×横1マス

 

レヴィアワンドの空洞から出る水を鞭状に硬質化させ、相手を叩きつける。

相手の体を巻きつけたり、先端を球状に凍らせ打撃力を上げることも可能で、応用性と汎用性が高い。(でも出番なくて不憫)

 

《ハイドロ・クロー》

攻撃力:100

範囲:前方の縦2マス×横3マス

 

リヴァイア専用の固有技。

手ヒレに纏わせた水を鉤爪状に硬質化させ、相手を切り裂く。

 

 

《クリスタルバレット》

攻撃力:45×5~8回ずつ(ヒット数はランダム)

範囲:後方の3×3マス

 

大粒の雹を具現化させ、相手に向けて放つ。

ゲーム版で言うブレイク性能を持ち、ウイルスの掃討戦ではこれ一つで撃退することができる。

 

 

《ブレス・オブ・コキュートス》

攻撃力:350

範囲:縦4マス×横1マス

 

ディザスター・クロールの次に強い技。

相手に強裂な猛吹雪の咆哮を放ち、触れた相手を瞬時に凍結させる効果を持つ。

横に凪ぎ払うように放つこともでき、応用次第では戦況を有利に立ち回れる…と思う。

 

 

《ディザスター・クロール》

攻撃力:400

範囲:4×3マス(全体攻撃)

 

2話と5話ではカウンターを取ることで発動させたが

普通に発動させることはできる。

 

渦潮を相手の足元に発生させ中心へと吸い寄せたり、手元に集約させ、◯め◯め波の要領で放ったりして一掃する。

他のどの技よりも威力が高く広範囲だが、消耗の激しさは攻撃範囲に比例するというデメリットがある。

例え一人で発動しても、ダブルアタックを使用しても同じ。

 

元ネタは『フロム・ジ・アビス』というゲームの風魔法スキルで、竜巻を起こす魔法ですが、あえて水属性に置き換え、渦潮を生み出すという発想に至りました。

 

 

 

〜サブ使用の能力〜

 

言霊の陣(ことだまのじん)

 

絶対条件をクリアのもと、発動可能な技。

 

〈絶対条件〉

 

1…()()()()()()()()()()()()()であること。

2…展開した魔法陣に直接、口頭で命令を与えること。ただし、簡素なものであれば無詠唱でもOKとする。

3…命令を与える際、《出力》《効果範囲》《展開する魔法陣の数と大きさ》《術者の想像力・記憶力》《思考の言語化》といった

総合的なキャパシティーの許容範囲内で発動させること。

(一つでも外れてしまえば、ディザスター・クロールと同様に体力を消耗してしまう)

 

 

現時点で登場しているのは

氷壁を出して行動を制限させる〈阻害(そがい)〉と、鎖と縄による〈捕縛〉といった妨害系だが

 

陣を照準代わりにホーミングミサイルを発動させたり、雷撃を弾く〈遮蔽(しゃへい)〉と、用途次第では迎撃と防御に転用可能。

 

いずれも、イメージを現実に形造る〈想造〉を基盤にしている。

 

唯一のデメリットは、イメージしたものを言語化出来なければ使えないところか…。(単純に勉強不足なのもあるので)

 

 

作者コメント「この力を極限まで扱える者がいるとしたら……国語力が高く、柔軟な思考ができる計算高い人と…あとは妄想癖がある人ですかね…」

 

 

 

透視(ビジブル)

 

リヴァイアが持つ本来の能力。

電波変換時は、遠くを見渡す以外に、ウェーブホールに触れることで電脳世界の様子を見れるので、もはや千里眼とも言える。

この力の恩恵により視覚封じ(ブラインド)を無効化させる。

ただし!ブラインド(物理)。お前はダメだ。

 

 

 

【基本的な戦術】

 

・中~遠距離戦闘がメインだが、用途に応じハイドロウィップとバトルカードも使用するため、オールラウンダー寄りになっている。

 

・固有技を同時に発動させるダブルアタックは、デリートされる危険性を考慮して、掃討戦のみで使っている。

それ以外の場面では、ほとんど切り札扱い。

 

・戦闘での座右の銘は「ゴリ押しこそ正義」

 

 

 

 

 

 

 

〈スカル・ヴァンキッシュ〉

【固有能力】

 

・雷を自在に操る(体全体に纏うことも可能)

 

・召喚術に属する能力 (個体差によってステータスの変動有り)

 

・流ロク界のバランスブレイカー

 

 

【使用武器】

 

《カリブルヌス》

 

歴史上の伝説に残る聖剣を模した物。

 

柄は白く、黒い刀身には金色の稲妻模様が描かれている。

 

雷を放出したり刀身に纏うことができ、威力の底上げや斬撃として放つことが可能。

 

 

【固有技】

 

《フォール・サンダー》

 

クラウン・サンダーの放つそれと同じだが、威力は割増になっている。

 

 

《センチネル・ゴースト》

 

槍・ボウガン・ハンマー・盾と…各々、武具を持つドクロの霊を召喚し、兵として使役する。攻撃力は120程度

 

 

原作にて登場した各兵の総称を作ってみただけ。

 

盾兵はオリジナルアバターとして追加。

 

 

《アンデッド・リバース》

 

召喚術の類。デフォルトで使用可能。(条件つき)

 

登場予定なので入れないかも。

 

 

《インパルス・ブレード》

 

全体攻撃 攻撃力 400

 

眼前の敵を、雷を纏った斬撃で討ち倒す必殺の剣技。

 

ブレイク性能持ち

 

モーションは某約束されたっぽい勝利の剣を参照に。

 

 

【基本的な戦術】 

 

・水希とは対照的に剣術を用いた接近戦を得意とする。

 

・戦闘での座右の銘は「ゴリ押しこそ正義」



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第零章 水希プリミティブ
プロローグ ~星河 水希の誕生~


注意!

この作品は原作とかけ離れた設定にしてるため
苦手な方はブラウザバックしてください。
それでも良ければ、
ゆっくりしていってね!( ̄▽ ̄)/


22XX年、世界は技術の進歩と電波テクノロジーの発達により、人々に大きな繁栄をもたらしていた____

 

そんな中、とある病院の分娩室で苦痛に耐えながらも産まれ出てきた子に涙する母の姿があった。

 

「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ。」

その場に居合わせたナースがそう言った。

 

産まれてから数時間後__

病院の一室に移動し、仕事の都合で遅れて来た父と少女の姿が見えた

 

父「遅れてすまない、本当はずっと一緒に居てあげたかったんだか……。」

母「気にしないで、お仕事お疲れ様♪」

父「ああ!」

少女「お母さん、早く赤ちゃん見せて~!」

母「はいはい、そんなに急かさないの。赤ちゃんを抱き上げるには、あかねはまだ早いから、今回は見るだけにしておくのよ?」

あかね「はーい!」(^^)/

 

あかねにとって産まれてきた子と触れ合うのは初めてなので緊張していたが、臆することなく触れてみた。

 

あかね「_! 赤ちゃんが私の手を握ってくれた!」

母「きっと、初めましてってご挨拶してるのかもね。」

父「良かったな、あかね!……でも娘より先に触れられないとか…お父さん悔しい(涙目)」

母「変なところで、嫉妬しないの。」(-_-;)

 

何気ない会話が続いた___

 

母「ありがとう、産まれてきてくれて。」

父「そろそろ、この子の名前を考えないとな。」

母「フフ、そうね~。」

父「名前は君が決めてくれ」

母「いいの?」(・_・)

父「あかねは俺が考えたんだ。今度は君が決めてもおかしく無いだろ?」( ̄▽ ̄)

 

あかねの頭を撫でながらそう言った

 

あかね「えへへ~」(*^-^*)へ

母「ありがと。それじゃあ、お言葉に甘えて……」

 

しばらく沈黙が続いた。

 

母「水のように絶えることなく、希望に満ち溢れた子に育って欲しいという願いを込めて……水希なんてどうかしら?」

父「ミズキ…、水希か。うん!とてもいい名前だ!」

あかね「これからよろしくね、水希!」

 

水希と名付けられた子は満面の笑みを浮かべた

 

あかね「あっ!笑った!」( ・∇・)

父「はぁ~、ヤバい可愛すぎて鼻血でそう……」

母「あなた、はしたないわよ。まったく……」

父「そうだ!もう少しで給料入るし、母さんが退院したらみんなでお祝いしよう。あかねの入学祝いを兼ねて。」

母「いいわねそれ! あかね、欲しいものがあったらなんでも言いなさい。お母さんも奮発するから♪」

あかね「やったー!!!」\(*≧∀≦*)/

 

 

 

 

こうして、一日は幕を閉じた___

 

to be continued




どもども~作者のアリア・ナイトハルトです~

今回は主人公である水希くんが誕生した日をテーマにプロローグを書かせていただきました。
元々水希くんはスバルの兄という設定にするつもりでしたが、個人的にあかねさんに対して「お母さん」よりも「お姉ちゃん」と呼ぶ方がしっくり来るな~と思ったので、あかねさんの弟という設定に決めました!
プロローグの方はあと、2つか3つ書くので、本編に入るまでもう少しかかりますが、気長に待ってくださると助かります。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます
次回もまたお会いしましょう
(ゝω・)ノシばいちゃ~


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2話 二人が出会うまで

注意!この作品は

・原作とかけ離れた設定 ・下手くそなストーリー構成
・キャラ改変 等があります
これらが苦手な方はブラウザバックしてください

それでも良ければ、
ゆっくりしていってね!( ̄▽ ̄)/


前回のあらすじぃ~
作者「風景とか様子を文章で表現できなくて力尽きたハイ終わり」
水希「身も蓋もねぇなオイ………。」




水希side

 

星河水希が3歳を迎えた頃__

 

普通の子と変わらず、友達と遊び、退屈することなく日々を過ごしていた

そんな水希には、"普通じゃない"部分がひとつだけある。

 

家族がそれを知ったのは、舌足らずだが会話ができた頃だった。

 

 

とある一日の昼下がり

昼食を食べ終え、母は乾いた洗濯物を畳み、水希は窓の近くに椅子を置き、雲ひとつない空を眺めていた。

 

母「どうしたの水希~、ずっと窓の外眺めてるけど何か見えるの?」

水希「あのね~、そらにおふねみたいなのがあちこちとんでるの~。」

母「舟?」

 

訳の分からないことを言う息子に少し疑問を抱くが、一旦作業を止め、本当かどうか確かめるため窓の外を眺める………結果は、一目瞭然だった

 

母「何おかしなこと言ってるのよ水希。何も見えないじゃない。」

水希「ほんとにみえるんだってば~」

母「…………。」

 

意味不明な言動に困惑するまま、夜を迎えた。

 

父「ただいま~。もうくったくただよ~。」

 

時刻は9時を過ぎていた

 

母「あら、お帰りなさい……少し話したいことがあるんだけど、この際あかねにも話しておかなくちゃね。」

父「?」

母「あかね~、少し話があるから降りてらっしゃ~い。」

 

しばらくして部屋のドアが開き、階段を降りてくる音がした__

 

あかね「どうしたの、お母さん?こんな時間に呼び出すなんて……」

母「とりあえず、二人ともこっちに来て座ってちょうだい。」

父・あかね「?」

 

母の言うとおり、二人はリビングにあるソファーに座った

 

父「それで、何を話そうとしたんだ?」

母「……………水希がね、空に舟が飛んでいるって言ってたの。」( ̄ー ̄)

父・あかね「・・・。」

沈黙が続いた。

 

父「は…、はい…?」(-_-;)

あかね「え…、どういうこと…?」(-_-;)

母「流石に困惑しても無理ないわね。言葉のとおりよ……今日のお昼、水希が窓眺めてたと思ったら、空に舟があちこち飛び回ってるって言いだしたの。」

父・あかね「状況が全く理解できないんですが、それは……」( ̄▽ ̄;)

 

二人が混乱する中、母は話を続ける。

 

母「今日に限ったことじゃないわ……。この前なんか、近くを散歩したら、壁にぶつかるわ川に溺れかけるわで大変だったのよ……?」

父・あかね「………………………。」

父・あかね「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」Σ(゜Д゜)

母「声が大きい。水希が起きちゃうわよ?」

父「いやいやいやいや…、ちょっと待て。壁にぶつかるならまだしも川に溺れかけただってぇ!?」(゜Д゜)

あかね「一体何が水希をそうさせたって言うのよ!?」(*_*;)

母「それがね~、理由を聞いたら『道があったから渡ろうとしたんだよ?』って言ってきたのよ。」

(-_-;)

あかね「………ねぇ、一度病院で診てもらった方がいいんじゃない?」

父「………だな。土曜は会社休みだからその時に診てもらおう。」

母「そうね……、重い病気じゃなきゃいいけど。」

あかね「不吉なこと言わないでよ、お母さん…。」

 

三人に不安と焦りが募る。

そして当日…診察が終わり、待合室でナースが水希に絵本の読み聞かせをしている最中、診察室にいる三人は医師から結果を告げられた。

 

医師「診察の結果ですが…どうやら息子さんは裸眼の状態で電波そのものが見えると思われます…。」

母「それは何か病気だったりするんですか…?」

 

母は不安げに質問するが、医師からの返答は意外なものだった。

 

医師「その可能性はないと思われます。ある研究者によると、10億人に一人…程度によりますが見える人はいると言われています。かつて、この地に存在した民族もその力を使い、国の発展に活かしたと過去の文献にも書かれていたので…。」

父「そう…なんですね…。」

 

医師「でも安心してください!息子さんの状態は非常に稀ですが、病気の類いじゃない以上それが原因で身体に影響が出ることはないので…。」

あかね「でも、この先どうなるんですか? 水希にもしものことがあったら、私達……。」

医師「…わかっています。この場合、息子さんが一人でも外出できるように慣れさせるしかないです。まだ小さいので最低でも二年は一緒に居てあげてください。」

父「……わかりました。」

母「……ありがとうございました。」

医師「お気をつけて」

 

診察室を出て、待合室にいる水希と合流する。

安心してくれと言うのは無責任過ぎではないかと心の奥底で憤慨する父と母。

水希をただ心配そうに見つめるあかね。

三人の心に靄が残ったまま、病院を後にした。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

リヴァイアside

 

 

 

 

FM星にある漁村に住む男…リヴァイアがいた。

 

リヴァイアは今、海に潜り、網を器用に使いながら魚を獲る作業をしていた。

しばらくして作業が終わり、一段落つけようと陸に上がる。すると、亀のような見た目をしている一人の老人が男に話しかけた。

 

??「作業は順調に進んでおるか?リヴァイア。」

リヴァイア「どうも。お散歩ですか村長?」

村長「ああ、今日はよく晴れとるからのぉ」

(* ̄▽ ̄)

リヴァイア「そうですね~。あ、そうだ。」

 

力いっぱい網を引き上げ、村長に成果を見せる

 

リヴァイア「見てくださいよ村長~!今日はいつにも増して大漁ですよ!」

村長「おぉ~!よくやったリヴァイア!」

リヴァイア「いや~、俺っちも頑張った甲斐がありましたよホントに!新鮮なうちに魚屋へ届けに行かないと。」

村長「そうと決まれば善は急げじゃ!」

 

その後、魚屋に顔を出し、魚を届けた。

漁師達もリヴァイアの成果を聞き、大喜びした。

そして夕方、リヴァイアは村長宅のテラスでひとり、海を眺めていた。

 

村長「あれから随分と時が経ったのぉ。」

リヴァイア「村長……。」

 

いつからそこにいたのか?……

考え事をしたせいか、村長の気配に気付くことすらできなかった。

 

村長「村の皆も、お前さんが来てからいつも助かってると言うておったぞ?」

リヴァイア「村に住み始めた頃は大変でしたが、いつも皆には世話になっていたので、こういう形で恩返しが出来てよかったと思ってます。」

 

夕陽が半分まで沈み、東の空は徐々に青く染まる。

そしてリヴァイアは今まで考えていた事を口に出した。

 

リヴァイア「村長……。俺……そろそろこの村から離れようと思ってるんです。」

村長「いつかそう言うと思っておったが、どこか住めそうなところは見つかったのか?」

リヴァイア「いえ…、まだ見つけてないです。」

村長「……ワシに心当たりがある。」

リヴァイア「?」

 

村長の言う"心当たり"に疑問符を浮かべる。

 

村長「地球という星へ行ってみるといい。」

リヴァイア「地球…ですか…?」

村長「ワシも若い頃に一度行ったことがあってな。今はどうなっとるか知らんが、ここと同じように電波テクノロジーの発展が進んでおる。美味い料理もたくさんあるから、お前さんもきっと気に入ると思うぞ?」

リヴァイア「俺、少し興味が湧いてきました!」

 

そして、一週間後。

村長から話を聞いた村の住人や漁師達が駆け付け、最後の挨拶をした。

 

村長「地球に馴染めなかったら、いつでも戻ってこい。ここはお前さんにとって"もうひとつの故郷"でもあるんじゃから。」

リヴァイア「はい!村長、皆さん、今までお世話になりました!」

 

いつかまた戻れる日が来るなら、お土産話をたくさんしよう。

そう思いながら、リヴァイアは宇宙へ飛びたった。

 

地球に到達するまで丸二日はかかった

 

◆◆◆

 

 

水希side

 

 

 

 

 

星河水希、現在5歳。

水希の普通じゃない部分(電波の可視化)が判明して二年

訓練の甲斐あって一人でも外へ出歩けるようになったが、物心ついたばかりの水希は耐え難い苦痛に苛まれていた。

 

見えないものも見えてしまうため、水希のことを良く思ってない連中を筆頭に馬鹿にされ、煙たがられていた。

 

幸いにも暴力を振るわれておらず、周りから白い目で見られても、変わらず優しく接してくれる家族や友人達がいてくれたことが救いだろう。

 

それでも、心に空いた穴は塞がらなかった。

 

自宅から歩いて数分のところにある河川敷_

水希は地べたに座り込み、虚ろな目で遠くの景色を眺めていた。

 

水希「なんのため……なんのために生きてるの……?」

 

水希は悩んでいた。

自分はなんの為に生きているのか?

周りから煙たがられている自分に生きる意味や価値なんてあるのか?

目に見える状況に言葉では表し切れないほどの苦痛を抱くも、どうすればいいか……どうあればいいのか………分からなかった

川を覗き込む。

 

水希「僕に生きる意味ってあるのかな?」

 

鏡の如く写し出された自分に問いただしたところで、返事が来るはずがない。

しばらく川を見ていると、淡い水色に輝く光が写し出されていることに気付く。

 

水希「ん?」

 

水希は顔を見上げ、空に浮かんでる光が何なのか確かめた。

 

水希「星?」

??「ぅぉぉ…………」

水希「何の声……?」

 

淡く光る星が、徐々に大きくなる………。

こちらに向かって急降下してくる光の正体は、見たことのない生物だった。

 

 

リヴァイア「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉどぉぉいぃぃてぇぇくぅれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

水希「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」Σ(゜ロ゜ノ)ノ

 

ズドォーン

落下の衝撃で砂煙が舞う。

 

リヴァイア「あぁぁぁぁマジ怖かったぁ~……途中あんなに加速するとは………」

水希「うぅぅ………」(×A×)

リヴァイア「はっ!!」

 

水希の上にのし掛かってたリヴァイアは慌てて起きる。

 

リヴァイア「おい!大丈夫か!?(汗)」

 

リヴァイアの呼び掛けに気付き、起き上がる

 

水希「うぅ酷い目にあった…って、え……?」

 

目の前にいる生物を凝視する水希。

 

リヴァイア「(えっ……この子俺が見えてんの?……と、とりあえず挨拶してみるか…)

……コ、コニチワ。ワタシ、リヴァイアッテイウネ。ヨ、ヨロシク、アハハ…(汗)」

 

思わず片言で喋るリヴァイア。

 

水希「………」

リヴァイア「………」

水希「う……」

リヴァイア「う…?」

 

水希「いやぁぁぁ!!!オバケが喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

リヴァイア「えぇぇぇぇぇぇぇ!!?」Σ(゜Д゜)

水希「えっ、ちょ待って…は?!…何なの急に僕より体がおっきいオバケが出た思ったら喋りだすし、しかも日本語ペラペラだしもう訳わかんないんだけどぉ!!」

リヴァイア「いいからとりあえず落ち着けぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

~しばらくお待ち下さい~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴァイア「…落ち着いたか?」

水希「うん、…もう大丈夫。」

 

自身の姿が見えると言う水希に、未だ驚きを隠せないリヴァイア。

 

リヴァイア「それにしても俺のことが見えるやつが、この星にいたとはな…。」

水希「正直、この力は要らなかったけどね。」

リヴァイア「何でだ?」

水希「物心つく前から見えてて、病院で診察を受けた日から皆に無視されるようになったの。持ってても良いことなんてないよ……」

リヴァイア「……お前の家族からも無視されてるのか?」

水希「お父さんとお母さん、お姉ちゃんはいつもと変わらないくらい優しくしてくれた。数少ないけど、友達も同じように」

リヴァイア「そうか…」

水希「でも、時々分からなくなるの。生きる意味があるのか……」

 

とても5歳とは思えないくらい、うまく会話できていることに感心すると同時に、虚しさが伝わってきた。

 

水希「ごめん、こんな話するつもりなかったのに」

リヴァイア「気にすんな、それだけ誰かに聞いて欲しかったんだろ?……そうでもなきゃ自分から話そうとしないって」

水希「……。」

 

しばらく沈黙が続くが、リヴァイアは水希にある提案をした。

 

リヴァイア「居場所があっても満たされないなら……俺と友達にならないか?」

水希「え?」

 

リヴァイアの大きな手が水希の頬に触れた。

 

リヴァイア「これも何かの縁だ、俺も一緒に探してやるよ。お前はまだ…何も見出だせてないんだろ?」

 

生気を失った水希の目に光が入る。

 

水希「…………うん!」

 

水希に笑顔を向けるが、顔は少し赤くなっていた。

 

リヴァイア「そう言えば、まだ名前を聞いてなかったな。」

水希「……星河水希(ほしかわみずき)。水のように絶えることなく希望に満ち溢れた子に育って欲しいってお母さんが名付けてくれた。」

リヴァイア「いい名前だな。」

水希「ありがと…」(^^)

リヴァイア「水希、良かったらお前の持ってる"それ"見せてくれないか?」

水希「…これのこと?」

 

水希はズボンのポケットからスマホを取り出す。

200年も前から普及しており、今も変わらず販売されている薄型の携帯端末。

一人で出掛ける時は、いつも持ち歩いてる貴重品だ。

リヴァイアは体を粒子化させスマホの中に潜り込んだ。

 

水希「うわっ!いつの間に…」

リヴァイア「悪いな驚かせて。地球に来たばかりだから分からないことが多くてな、良かったらこの近くを案内してくれないか?」

水希「うん!」

リヴァイア「それじゃ、早速…」

 

ビリ…

耳に障る不快な音が微かに響いた。

 

リヴァイア「……」

水希「どうしたのリヴァイア?」

リヴァイア「いや、なんか変な音が聞こえないか?」

水希「さぁ?」

 

ビリ…ビリビリ…

ビリビリビリ!

ビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!

 

不快な音は断続的に勢いを増し、辺り一帯が騒音に襲われる。

 

水希「な、何!?」

リヴァイア「やっぱりな……水希、電波塔の方を見てみろ!」

 

リヴァイアの言われた通り河川敷の向こう岸にある電波塔を見上げる。

電波塔からわずかに電気が流れ出ている。

 

水希「どうなってるの⁉」

リヴァイア…「恐らく"内側"でウイルスが悪さしてるんだろうな。水希、手を貸してくれ!」

水希「リヴァイア一人じゃどうにもならないの?」

リヴァイア「悪い話、この星だと俺は上手く力が出せない。そこで俺とお前が一つになれば、俺のチカラを使って戦うことができる。」

水希「僕なんかにできるの?」

リヴァイア「大丈夫だ。変身の仕方や戦い方は俺が教える。まずは端末に俺の電波を浴びせて変身できるようにするぞ……ハァッ!!」

 

突如、スマホの画面が光りだす。

 

リヴァイア「これで準備は整った。そしたら水希、電波変換!って叫べ。」

水希「ちょっと待って、いきなりそんなこと言われても……」

リヴァイア「今は時間が惜しいんだ。早くしないと後々大変なことになる。」

水希「……わかった、とりあえずやってみる!」

一か八かだ。と覚悟を決め、スマホを空に掲げた。

 

水希「電波変換! 星河水希、オン・エア!!」

 

 

辺りが白い光に包み込まれる。

水希が着ていた服が消え、顔と体全体が水色の薄い膜に覆われる。リヴァイアの鱗はブーツと腕輪に変形し、

頭部に雪の結晶を象った髪飾り、上半身はリヴァイアのエンブレムが施された胸当て、下半身は前後に半透明の布が取り付けられた。

髪色は薄暗い水色に変色し前髪は後ろに流れ、目の色は茶色からエメラルドグリーンに変化した。

辺りを包む白い光が消え、視界が開ける。

 

水希「すごい……これが電波変換……!」

 

普段見ない自分の姿に驚きを隠せない水希。

エンブレムが光り、中からリヴァイアが出てきた。

 

リヴァイア「感心してるとこ悪いが次だ。」

水希「うん!」

リヴァイア「真上にあるウェーブロードに向かって思い切りジャンプしてみろ!」

 

リヴァイアの言われた通りにすると、突然二人の姿が消える。気が付くと二人は上空にあるウェーブロードの上に立っていた。

 

リヴァイア「ここは電波世界。電波化した状態でここに来ることをウェーブインと呼び、ここと現実世界を自由に行き来できる。」

水希「歩ける…。変身する前はできなかったのに…」

リヴァイア「当然だ。今みたいに電波変換でもしなきゃ、普通の人間には触るどころか見ることすらできない。………まさかとは思うが渡ったりしてないよな?」

水希「い、一度だけ川で溺れかけたことが……。」

 

予想の斜め上を行く回答に絶句するリヴァイア。

 

リヴァイア「と、とにかくあの電波塔まで走れ!近づけばどこかに入り口があるはずだ。」

水希「わかった!」

 

向こう岸まで一直線だったため、電波塔に着くには時間はかからなかった。

電波塔にある円盤状のアンテナを見ると、小さく渦巻いているウェーブホールがあった。

 

リヴァイア「あそこが入り口か…」

水希「どうすればいいの?」

リヴァイア「あそこにある小さい渦…ウェーブホールに飛び込めば、アンテナを制御している電脳世界に入れる。」

水希「飛び込めばいいんだね………そりゃ!!」

 

体が引き寄せられ、一瞬だけ視界が真っ白になる。

リヴァイアの大丈夫という言葉に水希は、心なしか安心感を抱いていた。

 

目を開けると、紺色に染まった見慣れない景色があり、オレンジ色に光る無数の電波が流れ星のように行き交っていた。

ウェーブロードも景色と同じ色だが、よく見ると明るく、両端にも青白く光るラインが引かれているため、どこに道があるかがはっきりとわかった。

 

水希「ここが電脳世界……」

リヴァイア「正確には電波を送受信するアンテナの電脳世界。このエリアのどこかにウイルスがいるはずだ。急ぐぞ!」

水希「うん!」

 

二人は足を進め、奥地にたどり着く。

案の定、制御装置の近くにヘルメットを被ったウイルス…メットリオが三体いた。

 

突然リヴァイアの体が粒状に分散し始める。

何事かと驚くが、分散した体は小さくまとまり、真ん中に空洞のある筒状の棒に変形した。

手に取ると空洞から水が溢れ、細長く、鞭の如くしなるように形状を保っている。

 

リヴァイア「ウイルスと戦うには武器が必要だと思ってな。最初は扱い辛いが慣れれば気に入ると思うぜ?」

水希「ありがと!」

リヴァイア「よし、打ち合わせ通りに行くぞ!!」

 

ツルハシを取り出し、臨戦態勢に入るメットリオ達に続き、水希も構えた。

 

水希「ウェーブバトル!ライド・オン!!」

 

メットリオ達がツルハシで地面を叩きつけると、こちらに向かって衝撃波が襲いかかる。

一つは鞭を使い衝撃波を打ち消したが、残り二つは横にジャンプし回避する。

 

リヴァイア「まずは敵の攻撃を躱すことに専念しろ。距離を詰めてから攻撃だ。」

水希「わかった」

 

次々襲いかかる衝撃波を躱し、間合いを詰め、鞭を横に凪ぎ払う。

思いのほか威力が高く、三体まとめて一撃で沈めることができた。

一段落つき息を整えようとするが、真後ろから新たにウイルスが三体、出現した。

 

リヴァイア「…っ!水希、まだいけるか?」

水希「大丈夫!」

 

体勢を立て直し、再び構える。

一体が攻撃に入ろうとすると

 

水希「……そこっ!!」

 

いち早く気付いた水希は突進し、運よくカウンターをヒットさせる。

すると、水希の手元に一枚の赤いカードが出現した。

 

水希「これは…?」

 

バックステップで敵との距離を置き、手に取ったカードが何なのかを確認する。

カードには「ディザスター・クロール」と表記されていた。

聞いた話によると、元々はリヴァイアが所有していた大技の一つだという。

 

強く握るとカードはパリンと音が鳴り呆気なく砕け散る。

敵の周りが渦を巻くように水で囲われ、中心に沿って旋回しだす!

 

渦の中心に吸い寄せられたウイルス達は、幾度も互いにぶつかり合い霧散した。

しばらくして、水は干上がるように消えていく。

 

リヴァイア「初めてにしては、なかなかだったな!」

水希「つ…疲れたぁ~……」

リヴァイア「あとはパネルを操作すればOKだ。言い忘れたけど、現実世界に戻る時はウェーブアウトって叫べ」

 

お疲れ様とリヴァイアに労いの言葉をかけてもらい、制御装置のパネルを操作すると騒音は収まり、一息つくことができた。

現実世界に戻り電波化を解除(ウェーブアウト)した水希は、河川敷に置いてあるベンチに座り、隣にいるリヴァイアに今後について聞いてみた。

 

水希「リヴァイア、これからどうするの?」

リヴァイア「これからどうするか?…決まってる。」

 

そう言うと、リヴァイアは再び水希のスマホの中に潜り込む。

 

リヴァイア「お前さえ良ければここに居させてくれないか?」

水希「うん!ずっと一緒にいてくれるならいいよ!」

リヴァイア「それじゃ、水希の家にお邪魔させてもらおうかな。流石に俺っちも疲れてきたよ。」

水希「俺っちって、変わった口調だね?」

リヴァイア「心を開いた相手にしか使わない癖だ!」( ̄▽ ̄)b☆

水希「何それw」

 

他に誰もいない河川敷で二人の笑い声が響いた。

 

水希「それじゃ、帰ろっか?」

リヴァイア「だな!」

 

立ち上がり、家に帰る水希は笑顔を取り戻していた。

だが、この頃の水希は、まだ知りもしなかっただろう。

 

 

 

長く、辛い戦いが待っているということを__

 




ども!第二話やっと完成しました。
相変わらずの低クオリティですが、ここまで読んでくださった方ありがとうございます。

次回もお楽しみに!





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3話 決意と覚悟

注意!この作品は

・原作とかけ離れた設定 ・下手くそなストーリー構成
・キャラ改変&キャラ崩壊 ・自己満足 等があります
これらが苦手な方はブラウザバックしてください

それでも良ければ、
ゆっくりしていってね!( ̄▽ ̄)/

※今回はちょっと長めです



前回のあらすじ


周りから煙たがられ、落ち込む水希の元に現れたリヴァイア。

生きる意味がわからないと嘆くも、リヴァイアの説得により、水希は少しずつ心を開いていく。

突如起こった異変に気付き、リヴァイアの力を借り電波変換した水希は、異変の原因であるウイルスを撃退し、事無きを得た。
その後リヴァイアは水希と共に行動することになる。

それから9年が経ち、水希に待ち構えていた戦いが、迫っていた。





~1

 

これまでの9年間について語ろう。

 

 

リヴァイアが我が家で暮らすことになり、そのことを家族に説明したは良いものの、ウイルスが入り込んでるだの…殺されてしまうだの…と、まさに絶叫のオンパレードだった。

そう反応してしまうのは仕方ないのだろう…(汗)

 

しかし、その拒絶反応も何処へ行ったのやら…すぐ打ち解けるようになり、今や家族の一員となった。

 

電波変換が使えるようになってからの毎日…ウイルス討伐明け暮れていたお陰で、力も着実についていった。

 

ある日、電波変換するところを巡回していたサテラポリスの隊員――大吾さんに見られ、素性がバレてしまうが、隊員達が介入できない電脳世界での異変を解決するのに力を貸して欲しいと懇願され、まだ小学生なので、お手伝いさんという形で協力することになる。

 

三年後、8歳になった僕は、忙しくも充実した日々を過ごしていた。

当時そんな僕にも微笑ましいニュースがあった。

 

水希「結婚おめでとう、お姉ちゃん!」

リヴァイア「おめでとうございます!あかねさん!」

あかね「ふふ、ありがとう二人とも」

 

周波数を変え実体化したリヴァイアと一緒にお祝いの言葉を言った。

 

僕らにとって微笑ましいニュース……それは、

20歳を迎えた姉が結婚することになったということ

相手はもちろん大吾さんだ。

星河家に婿入りする形で入籍し、苗字は志野原から星河となった。

 

リヴァイア「俺っぢ、感動のあまり……涙が止ばりばぜん~」(つд;*)

大吾「おいおい…結婚式はまだ始まったばかりだぞ?」

水希とあかね「あはは!」( ≧▽≦)

 

終始嬉し涙と笑顔が絶えない結婚式。

二人にとって幸せな1日だったろう。

 

翌年の春頃に姉は子を授かり、冬本番を迎える11月に子供を産んだ後、父となる大吾さんは子供を「スバル」と名付ける。

 

 

スバルが2歳になってから、毎年夏休みに(自分も含め)大吾さん一家とリヴァイアとの五人で海へ行くことになり、おおはしゃぎだった僕とスバルは、これでもか!と言うほど遊び尽くした。

 

そして現在、中学2年になり始業式を終えた日。

部屋でくつろいでいたところ、スマホから一通のメールが届く。

 

水希「?…大吾さんだ…」

 

スマホを取り出し、メールを読む。

 


 

4月6日

 

from:星河大吾

to:星河水希

Re:朗報だ!

 

水希、ついに俺は宇宙へ飛び立つことになった。

まだ当分先のことだが、宇宙飛行士としてこれほど嬉しいことはない!

 

実は前に、リヴァイアと同じ電波で出来た生命体に会ってな。今はその三人を筆頭に「宇宙と交流して絆を広げる」ための準備と計画を進めているんだ。

 

今度良かったらNAXAに来てみないか?

局長もお前達に会いたがってるんだ。

もし来るなら、話を通しておく。

 

なるべく早めに返信してくれ。

 

-END-

 


 

 

この頃の大吾さんはサテラポリスとしての責務を果たしていながらも、自身が掲げていた理想を諦めきれず、NAXAへ転職し働いていたのだ。

大吾さんの提案に乗るどうかは、一人で決めるのもアレなのでリヴァイアに聞いてみることにした。

 

水希「リヴァイアはどうする?」

リヴァイア「俺っちと同じか……あんま気乗りしないが、行ってみる価値はあるんじゃないか?」

水希「わかった。大吾さんにそう伝えてみる」

 

メールを返信し、大吾さんに話を通してもらうことにした。

 

◆◆◆

 

~2

 

当日、電波変換を使ってNAXAまでたどり着く。

見た限りでは、横幅が広めの10階もある高い建造物だった、

地面に着地すると、真正面からビジライザーを掛けた大吾さんの声がした。

 

大吾「よう、来たか」

水希「…予定より遅れちゃいました?」

大吾「全然。むしろ早かったぞ?」

水希「そうですか……ふぅ…」

 

少し急ぎ気味だったので、一旦呼吸を整え、電波変換を解く。

水希「それじゃあ、案内お願いします」

大吾「任された!」

 

という言葉と同時にビジライザーを外し、胸ポケットにしまう。

その場でリヴァイアが実体化し、僕らは中へ入る。

自動ドアを通り過ぎ、フロアを歩きながら大吾さんと雑談した。

 

水希「相変わらず凄いですね、そのゴーグル」

リヴァイア「俺っちのことも見えるなんて、とんだ優れものですね!」

大吾「そうだろう!そうだろう!!……これはな…後輩である天地と宇田海の三人で、試行錯誤を重ね開発したんだ。そうしたらNAXAに限らずサテラポリスの職員も欲しがるほどの代物になったんだよ!」

リヴァイア「でも、お高いんでしょう?」

(´_ゝ`)

大吾「ご心配なく!今ならお買い得の超特価!!2万9…」

水希「おいコラやめろ!」ouch!>(゜o゜)\(-_-#)

 

唐突に某通販番組のノリでボケ始めた二人にツッコミを入れると、シュンと寂しそうな犬の顔をしている。

 

水希「はぁ……、帰りたい…」

リヴァイア&大吾「ん?何か言ったか?」(・ε・)

水希「…別にぃ~」(-""-;)

 

何でこういう時だけ息ピッタリなの?…と一々ツッコむ余裕はなく

むしろ僕は、早く用事を済ませてお昼寝したいという気分でいっぱいだった。

 

??「ハハハ。相変わらず元気だな、星河!」

 

気づくと目の前に、白髪の大柄な体型の男性がいた。

見た目は30代くらいで若々しく見える。

 

大吾「局長、改めて紹介します。……隣にいるこの子が水希です。」

水希「は、初めまして…」

局長「ほう……もっと逞しい子かと思ったが、想像より随分と可愛いじゃないか?」

 

僕は他の男子と比べて貧相な体型なので、そういう意味合いで可愛いと言ったのだろう。

………腹立たしいが。

 

大吾「水希、この人が局長の沢田さんだ。NAXAで30年勤めてて、最も偉い方だから失礼の無いようにな?」

水希「へー、見た目よりずっとお爺ちゃんなんだね~(棒)」(・_・)

大吾「おい!?」

 

真っ黒な笑みを浮かべた局長が僕の方へ近付き、

両手の拳でグリグリとこめかみにめり込ませてきた!

仕返しのつもりで言ったが、地雷を踏んでしまったのだと後悔した。

 

沢田「お・に・い・さ・ん・だ・ろ?

(#^ω^)

水希「痛い痛い痛い痛い!!ごべんなざいぃぃぃ!?」

 

男でも歳のことに関して弄られると、怒る人はいるんだな…と思い知る。

 

大吾「水希、ドンマイ」

水希「いっだぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!」

 

 

◆◆◆

 

~3

 

入り口の近くにあるガラス張りのエレベーターに乗り、最上階まで向かうご一行。

その中の一人、水希は隅でうずくまり、頭を押さえていた。

 

水希「うぅぅ…まだ頭ズキズキする~」(T_T)

リヴァイア「まぁ、仕方ないだろ?…吹っ掛けたのお前なんだから」

水希「そりゃ、遠回しに人のこと貧相な体だな~って言われたら怒るでしょ普通!?」

沢田「そ、そのつもりは無かったんだが…、誤解を招いてしまい、申し訳ない…」

水希「自分も早とちりした上に、局長のこと悪く言ったからお互い様ですよ…でも流石にお兄さんは無いでsy」

沢田「あ"ぁん?」(#´ΦωΦ`)

水希「ナンデモナイデス」

 

本当は"ちゃんと鍛えるべき"なんだろうけどなぁ…と思い、中学校に入ってから部活はバドミントン部に所属していたが、何故か筋肉が付きにくいため、仲の良い友人からはよくイジりの対象となっていた。

 

顧問の部活に対するモットーは"個人のレベルに合わせつつ、徐々にスキルと体力を伸ばす"だったので、筋力は相変わらずだったが、持久力は向上しメリハリが付きやすく、とても居心地が良かった。

そう思っている間に表示灯が10に到達し、最上階に着く。

エレベーターを降り向かって左側の会議室と書かれた一室に入ると、パソコンでデータの整理をしてる人…設計図を広げ、どの部品が足りないかを話し合いする人など…色々と作業に追われて忙しそうだった。

恐らくこの広間で行われる会議まで時間があるのだろう。

 

??「…あ!、先輩!来ましたよ!」

??「おお!もしかしてあの子が……」

大吾「うん?…ああ!」

 

二人の声に気付いた大吾は、水希を連れ、二人がいる方へ案内した。

 

大吾「紹介するよ水希。右にいる太っちょな男が天地、左にいる不健康そうに見えるのが宇田海だ。二人とも同じNAXAの職員で俺の自慢の後輩だ!」

宇田海「ちょっと大吾先輩!?…そんな紹介の仕方は無いじゃないですか!これでも僕、健康には気を遣ってるんですよ?」((( ̄へ ̄井)

天地「宇田海くんの言う通りです!自慢だって言ってる割に酷すぎますよ!」((( ̄へ ̄井)

大吾「まぁまぁ、そう熱くなるなって~♪」

(^皿^)

 

適当かつディスるような紹介に憤慨する二人とただ楽しそうにしてる大吾を見て、呆れ果てていた。

 

水希「はぁ、なんか大吾さんらしい……」

リヴァイア「同感…」

 

天地「初めまして。天地 守です。エンジニアとしてここで宇宙に関する研究と技術開発を担当しているんだ。よろしく!」

宇田海「同じく、エンジニアの宇田海 深祐です。主に装置の開発と設計を担当してます。久しぶり、水希君!」

水希「お久しぶりです!姉が通ってた高校の文化祭で会って以来ですよね?」

宇田海「そうだね!ところで、あかね先輩は元気にしているかい?」

大吾「当たり前だろ?水希が産まれてから色々と大変そうだったが、変わらず仲良く暮らしてりゃ、元気でいても可笑しくないからな!そうだろ?水希!」

水希(__ )コクッ

 

そう…大吾さんの言う通り、色々と大変だった。

煙たがられていたのは僕だけに限らず、お父さんやお母さん、お姉ちゃんにも飛び火していたのだ。

それでも仲良く暮らして行けたのは事実だし、理解してくれる人も近所にたくさんいた為、唯一それが心の支えだった。

今はもうほとぼりが冷め、穏やかに暮らしている。

 

沢田「もう少しで会議を始める。作業を進めてている職員は手を止めてくれ!」

 

マイクを片手に喋りだした局長の声を合図に、職員達は片付けに入る。

 

水希「あの~局長、僕ら外で待ってた方がいいんじゃ…」

沢田「君たち二人は会議に参加してもらうよ?お付きのリヴァイア君にとって大事な話でもあるんだから。」

リヴァイア「……。」

 

局長の発言に黙りこくるリヴァイアは、どこか敵意に満ちたような表情を浮かべていた。

 

水希「……大丈夫?」

リヴァイア「…ああ、大丈夫だ」

 

窓がカーテンで覆われ、暗くなった部屋の中央にあるテーブルが青く光りだした。

 

沢田「それでは会議を始める。まず最初は新たに開発される携帯端末のことについてだ。」

 

手元のリモコンを操作して、一際目立つようにホログラムが映し出された。

そこで目にした物は、腕に装着するタイプの携帯端末で赤・青・緑と三種類あり、それぞれ特徴的なマークが施されていた。

 

沢田「前回も紹介した通り、トランサーの運用を試みることにした。従来の端末…スマホやPETとの大きな違いは、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ」

 

次のページへ移ると、今まで倒したことのあるウイルスと二つの端末が写し出された。

 

沢田「スマホにはAIが搭載されており、PETのようにあらかじめナビを入れなくても自動で検知してデリートできるのが便利だったが、ウイルス達がそこを狙うようになり、近年では[セキュリティを強化しても全く意味を為さなくなってきた]…という事例がいくつもあった。…そこでだ、」

 

次のページには、いくつものカードが写し出された。

 

沢田「トランサーのスロットにカード型PGM(プログラム)ことカードフォースを読み込ませることで、大抵のウイルス相手なら攻撃できることが分かったが、場所によって強いウイルスが発生するため、デリートしたウイルスをバトルカード化する機能を新たに搭載した。水希君。君にとってこの機能のメリットが何か分かるかな?」

水希「基本的にリヴァイアが所有していた技のみでデリートしてきたので、電波変換した状態でもバトルカードが使えれば攻撃の幅が広がる…というのが一番のメリットだと思います。」

沢田「その通り。電波変換しない我々でも簡単にデリート出来るのが売りだ。他にもPETの技術を応用し、一つの行動に特化したナビを組み込んだナビカードも実装する予定だ。」

 

次のページに切り替わる。

 

沢田「ナビカードの主な役割は空調操作、ドアの施錠と解錠など用途に応じたナビをカード化することで、日常生活のあらゆる場面で役に立つだろう。どれも実用的で持ち運びも便利になるのがメリットだ。」

リヴァイア「でも、お高いんでしょう?」(ΦωΦ)

水希「またかよ…」

沢田「本体は3万ゼニーぐらいで、ナビを入れるのに必要な空のカードフォースは標準で5枚セットするが、追加購入でひとつ150ゼニーで販売するように考えている。」

水希「意外とお得……」(・_・)

大吾「あまり高過ぎると買いづらいからな。」

沢田「…トランサーにまつわる話は以上だ。」

 

画面が切り替わる。

 

沢田「そしてここからが本題だ。星河!去年の8月に発見した三体の宇宙人が我々の計画に賛同して貰えたのは覚えているな?」

大吾「はい」

沢田「宇宙と交流し、キズナを広げる…星河の描く理想は、まさに我々NAXAが求めていた物だった。彼らも同様にそれを望んでいた。元々家族や友達、恋人などの親密度を示すものだったブラザーバンドを、宇宙へ発信させ規模を広げる"キズナプロジェクト"…実現できる日はそう遠く無いだろう。」

 

また画面が切り替わる。今度は3つの衛星が映っていた。

 

沢田「トランサーは日本に限らず世界にも普及させるが、規模が大きいと制御しづらい面もあったため、彼ら三人をモチーフにしたサテライト…ペガサス、レオ、ドラゴンを打ち上げることに成功し、それぞれのサテライトを管理してもらうことになった。今日は彼らに来て貰っている…入ってくれ。」

リヴァイア「何だと…?」

 

プロジェクターの映像が消え、かわりに影で覆われた三体の電波体が現れた。

 

ペガサス「お初にお目にかかる。我はAM3賢者が一人、ペガサス・マジック」

レオ「同じく3賢者のレオ・キングダム」

ドラゴン「同じく3賢者のドラゴン・スカイだ。」

 

ペガサス「本体はそれぞれが管理するサテライトから離れられぬ故、このような姿で現れたことを許して欲しい…」

レオ「我らは元々AM星と呼ばれる星で生まれ育ったが、ある日を境に住処を失い、いつしかAM星は、死の惑星と呼ばれるようになったのだ…」

 

会議に居合わせた人達がざわつく。

 

リヴァイア「なっ!?……どういうことだよ!?」

水希「知り合いなの?…リヴァイア?」

ドラゴン「久しいな、我らが友よ…残念だがレオが言ったことは本当なのだ…」

ペガサス「我らの住まう故郷、AM星の略奪は突如として始まった……。それはもう地獄を絵に描いたようなものだった。」

レオ「生い茂っていた緑は枯れ、海や川は干からびてしまい、星を埋め尽くす程の民達は…ほとんどが葬られた。…辛うじて生き残った者もいるが、そやつらは今、FM星人達に兵隊として使わされているだろう」

 

リヴァイア「…そんな……」

ペガサス「恐らくだか、FM星の王はいずれこの地球を侵略しに来るだろう…だからこそ戦いに備えなければならぬ。」

レオ「今回の計画で宇宙へ飛び立とうと考えている者は、相応の覚悟を決めて参加してほしい。そして無事に帰還出来るよう尽力してほしい。」

ドラゴン「そなたらに、我ら3賢者の加護があらんことを……」

 

影を纏った電波体は遥か空へ、もとある場所へ帰って行った

 

沢田「……現在彼らが管理者としての役割を果たしてくれたお陰で、トランサーの普及と我々の計画を実行に移すことが可能になった。天地、宇田海、例のロケットの件を」

天地「はい」

宇田海「…はい」

 

打ち上げるであろうロケットの画面に切り替わる。

 

天地「大吾先輩やその他乗組員が利用する宇宙ステーション「キズナ号」…これはもう実用段階に入っています。」

宇田海「実際に打ち上げても、問題なく正常に作動すると思われます。」

沢田「うむ、ありがとう。次にキズナ号に搭乗する乗組員の数についてだか、日本側は星河を中心に10人を搭乗させる。他にも外国から計画に協力したいと要請が入っている。なるべく少数がいいためアメロッパとヨーリカに絞り、それぞれ5、6人程度で乗せることにした。」

 

テーブルのライトが消え、カーテンが開かれる。

 

沢田「何か質問があれば言ってくれ。」

 

周りを見るが、誰も挙手する様子はない。

 

沢田「…良いか?では、これで今日の会議は終了とする。各自休憩を取るなり、持ち場へ戻り、準備を進めるなりしてくれ。」

 

会議が終わった直後、水希は局長の元へ駆け寄る。

 

水希「局長。少しお時間ありますか?」

沢田「何か聞きたいことが、あったのか?」

水希「はい、でもここだと言い出しにくいので…」

沢田「わかった。ならこの階にある屋上で話を聞こうか?」

水希「はい!」

 

場所を移して屋上に来た二人はベンチに座っていた。

この日の空はやや曇り気味で、4月だが肌寒かった。

 

沢田「ここなら大丈夫だ。いったい何を聞こうとしたんだ?」

水希「僕も宇宙へ行くことができるんでしょうか?」

沢田「…資格がなきゃ到底無理な話だが…なんでそう思う?」

水希「僕は昔、生きる意味を見出だせずにいたんです。でもリヴァイアが来てから僕は少しずつ変わることができた。生きる理由を見出せた。大吾さんと出会い、戦うための力を付けることができた!…守るべきものができたんです!その切っ掛けを作ってくれた二人を今度は僕が守る。それが今僕にできる恩返しなんです!」

 

沢田「立派な心構えだが、正直に言うと今の君には重荷だぞ?」

水希「覚悟はできてます。僕にしか出来ないことだって、きっとあるはずですから!」

沢田「しかし…」

大吾「良いじゃないですか、局長」

水希「…いつからそこに?」

大吾「ほとんど最初から聞いてた。コイツと一緒にな。」

 

二人の元へ歩み寄る大吾とリヴァイア

 

リヴァイア「局長さん、水希を危険なところへ行かせたくないのは分かるよ。でもそこまでして思い詰める必要は無いんだぜ?」

大吾「まだ俺がサテラポリスに勤めてた頃、この子は我々のために尽力してくれました。彼のこと、信じてみてもいいんじゃないですか?」

沢田「!」

水希「二人とも…!」

 

水希「僕だって本当に嬉しかったよ?リヴァイアが友達になろうって言ってくれて…、大吾さんも僕を必要としてくれて…、だからこそ…恩返しができればそれでいい…」

リヴァイア「水希……」

沢田「……負けたよ。」

水希「え?」

沢田「そこまで言うなら君も参加してもらうよ?但し無事に生きて帰ることを前提に……だけどね?」

水希「…!ありがとうございます!」

大吾「良かったな水希!」

水希「うん!二人や他の乗組員の皆も守れるように頑張るね!」

大吾「はは!こりゃ頼もしいな。」

 

そして一年後。

予定よりも滞在期間が長くなることを想定して、高校受験を受けず、早い段階で中学を卒業した。

その日の夜、コダマタウンに新しく建った姉夫婦の自宅から近くにある展望台に星を眺めていた。

 

あかね「本当に宇宙へ行くつもりなの?水希、大吾さん。」

水希「お姉ちゃん…」

大吾「コイツが恩返しがしたいって聞かなくてな。」

あかね「…どうしても行かなきゃならないの?宇宙なんて危険なところ、わざわざ二人じゃなくても…」

 

大吾「悪いな、あかね。どうしても行かなきゃならない。水希にしか出来ないこと…俺にしか出来ないことがあるんだ。」

水希「ごめんね、お姉ちゃん。身勝手で……でもやっと、生きる意味を見出だせたからこそなの。それに、僕自身で決めたことだから。」

スバル「水希兄ちゃ~ん!」

水希「うおっと!」

 

こちらに向かってダッシュしてきたスバルを抱き止めるように構えるが、勢いが良すぎたせいか尻餅をついた。6歳になったスバルはすくすくと成長していた。

 

 

水希「いてて、相変わらずわんぱく坊やだな~スバル!」

スバル「エヘヘ~」(*^ー^*)

あかね「こらっ!お兄さんを困らせるんじゃないの!」

スバル「いたっ!」(;o;)

水希「お姉ちゃん!僕は平気だから(汗)」

スバル「水希兄ちゃん!僕応援するから、上手く行くように!フレー!フレー!お兄ちゃん!」

水希「ありがとうスバル!」

あかね「そろそろ帰りましょう?明日は早いから。水希、今日は泊まって行きなさい!」

大吾「そうだな今日は家でゆっくりしていけ!」

水希「うん!お姉ちゃん家に着いたら荷物取りに一旦帰るね」

あかね「わかったわ!」

 

明日は、いよいよ宇宙へ飛び立つことになる。

不安は大きいが、水希にとって楽しみで仕方なかった。

 

水希「ホラ、手」

スバル「うん!」

 

スバルと手を繋ぎ、帰路につく。

家に着いたあと電波変換をし、急いで荷物を取りに戻った。

 

そして、当日。

 

 

大吾「じゃあ、行ってくるぞ…」

水希「行ってくるね」

あかね「………」

スバル「行ってらっしゃい!!父さん!!水希兄ちゃん!!」

 

大吾「……あかね、笑顔で見送ってくれよ。スバルみたいにさ」

水希「心配なのは、分かるけどね…」

あかね「…そうね、ごめんなさい二人とも。大吾さんと水希の念願だった宇宙への旅立ちだもの…喜んで、送り出さないとね。」

大吾「ああ、その通りだ」

スバル「父さん!!帰ってきたら、宇宙の話いっぱい聞かせてね!!」

大吾「ああ!楽しみにしていろ!!」

スバル「水希兄ちゃん!!夏休みになったら、またみんなで海に行こうね!!」

水希「うん!約束!!」

 

家の前にタクシーが到着し、乗車するのを待っていた。

 

あかね「大吾さん…水希…、必ず…必ず、無事に帰ってきてね」

大吾「もちろんだ」

水希「わかってる」

大吾「大事な家族を残して、俺達がいなくなるわけが無いじゃないか……スバル!すぐに帰ってくるから、母さんのこと頼むぞ!」

スバル「うん!安心していいよ!!二人が留守の間、母さんは僕が命懸けで守るから!!」

水希・あかね「「スバル…」」

大吾「頼もしいな…それでこそ俺の息子だ。何の心配もなく宇宙へ行けるよ。」

あかね「気をつけて…大吾さん…水希…」

大吾「ああ…それじゃあ、行ってくる」

水希「行ってきます…お姉ちゃん」

 

バックドアを開け、二人は中に荷物を乗せた後、後部座席に乗りNAXAへ向かう

 

大吾(俺にもし、何かあってもスバルがいる…スバルがあかねを守ってくれる。キズナの大切さを広めるという俺の夢、必ず引き継いでくれる………おっと、俺らしくもなかったな……。)

 

水希(あの時、二人を守りたいって言ったけど、実際、上手く行かないんじゃないかと考えたら…………らしくないか。)

 

大吾(…また、ここに帰ってくるんだ!…「ただいま」って、いつも通りに…あかねのうまい飯を食いつつ、スバルと一緒に宇宙の話をして…)

 

水希(みんなでまた海に行って、色んな思い出、作ったりして…)

 

 

 

 

 

「幸せ」ってものを、噛み締めるんだ!

 

 

 




宇宙へ飛び立つまでのストーリーが長い!とにかく長い!!

ひとまず前編は完成といったところでしょうか。
後編完成するのは9月になりそう……。

できるだけ早くできるよう頑張ります


次回!流星のロックマン~水希リスタート~
第4話「リヴァイアの過去」

次回もお楽しみに!


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4話 リヴァイアの過去

RPGアツマールなどで公開されている「東方異想符」というゲームにハマり、二週間以上も小説書くのサボってました。
ごめんなさい。

でも本当に夢中なるくらい、面白いので是非プレイしてみてくださいね!
水希「開き直んなや…」(-_-;)



前回の後書きで、4話は「リスタート」と題名を決めていましたが、物凄く長くなったので、
3話(前編)・4話(中編)・5話(後編)と区切らせていただきます。
本当に申し訳ない。

11/18追記:一部修正しました。

2/27追記:相変わらずの文章ですが、手直ししときました。



 

―キズナ号 船内―

 

 

 

寝室代わりに使う小部屋に日記が置かれ、開いたままのページには、こう(つづ)られていた。

 

 

11月6日

 

 宇宙にて、本格的に計画を進めてから二年が経過し、昨日17歳の誕生日を迎えた。

 

 お姉ちゃんから「私達も元気に過ごしてます!」とスバルとの2ショット写真を添えたメールが届く。

 勿論、大吾さんにも写真が届いており、大喜びする姿を見て微笑ましいなと感じた。

 

 二年前に決断した ()()()()()()()()()()()()()()()()() については、今のところ後悔はしていない。

 宇宙の旅を満喫しているのもあるし、何よりも…この力を、誰かのために使えて嬉しいと思えたから。

 

 また時間がある時に、し――と お父さん達に連絡を取るか。

 

 

……長々と書かれたページの片隅に一言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早く、みんなに会いたい…。と、

 

小さく書き記されていた。

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

~1

 

 

 

水希「これで終わりっ、と」

 

キズナ号での滞在期間…電波世界と電脳世界を巡回し、リヴァイアと共にウイルスバスティングすることを日課としていた。

 

水希「もう、だいぶ片付いたでしょ…?」

リヴァイア「そうだな。当面はウイルスを拝まなくて済みそうだぜ。お疲れさん!」

水希「リヴァイアもね!」

 

左腕を覗き込む。

電波変換により腕輪はトランサーと一体化していた。

 

時刻は午前 11時45分を過ぎている。

 

水希「デリートし始めて、かれこれ30分以上もかかったんだね……」

リヴァイア「この船自体…作られたばっかで滅多に湧かなかったから、滞在中に外から流れ着いたんだろうな…」

水希「あ~、なんか納得。…にしても結構強かったよね、あのウイルス達…」

リヴァイア「そうだとしても、今の俺らにはそんなの関係ねぇけどな」

水希「確かにね」

 

この時は、歯応えのある敵と戦えて満足だ。と能天気に語り合っていた。

 

 

 

後に、己の身に不幸が訪れると知らずに……

 

 

水希「ウェーブアウト!」

 

と叫び、現実世界の船内へと戻る。

テクノロジーの進歩により、船内は重力制御装置(ニュートライザー)のお陰で、地球にいた頃と変わらず普通に歩くことができていた。

実体化した状態で歩くと、ヒールの付いたブーツが、カツ…カツ…、と床の金属音を鳴らす。

ほどなくして変身を解いた。

 

生身での服装はというと……

 

グレーで半袖のジップアップパーカーに、部活で愛用していた膝上丈の黒いハーフパンツと緑みのある迷彩柄のスリッポンを着用。

 

…とても、宇宙を探索する人らしからぬラフな格好だった。

 

水希「…さ~てと、お昼なに食べよっかな~」

リヴァイア「珍しくカップ麺とかどうだ?」

水希「う~ん…今日はそういう気分じゃないかも」

リヴァイア「えぇ、何でさ?」(´△`)

水希「今日は手軽な料理でがっつきたい気分だからカツサンドにしようと思ったわけ。カップ麺なら別に明日でも良いっしょ?」

リヴァイア「水希がそう言うなら良いけどさ~」

 

??「おーい、水希、リヴァイア~」

水希「…大吾さん?」

 

雑談に花を咲かせていると、僕らを呼ぶ声の主へ向く。

 

大吾「よっ!ここで二人して何やってたんだ?」

水希「見ての通り。用事済ませたから、二人で雑談してただけだよ」

 

目上の方には敬語を使うように…と家族から言われてきたが、大吾さんがまだサテラポリスで働いていた頃からタッグを(正確にはリヴァイアを含め三人だが)組むことが多く、いつしか本当の兄弟のように気遣うことなく話すようになっていた。

 

大吾「ってことはもう巡回終わったんだな。お疲れ!」

水希「今回はウイルスがうじゃうじゃ居たから、だいぶ手間取っちゃったよ…」

 

労いの言葉と共に頭をわしゃわしゃと撫でられ、思いのほか気持ち良さそうな顔をしていたと思う。

 

(―ω―*)←こんな感じで

 

リヴァイア「おやおや、相変わらず仲が良いですな~お二人さん。あかねさんが見たら妬くんじゃねぇかな?」

水希「いやいや、お姉ちゃんに限ってそんなこと……………………あり得るーーーー!!!!!」

 

茶化すリヴァイアに慌てふためくと

「お前ら…あかねのことを何だと思ってんだよ…」と呆れ顔で聞かれ

 

水希「裏の顔は般若」

リヴァイア「この世で一番怖い人」

 

二人揃ってNGワード(禁句同然の悪口)を言い放つ。

 

大吾「それこそ言っちゃ駄目なやつだし、頭撫でてんのと関係ねぇだろ……」

水希「ねぇ大吾さん、お昼はまだ食べてない?」

大吾「無視かよ!? ……ちょうど今、食堂に向かおうとしてたが、お前らもか?」

水希「うん。……そうだ!どうせなら一緒にご飯食べようよ!ここで立ち話も難だし」

大吾「へえ、へえ…」

 

食堂へと足を運ぶ、ご一行。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。地球にて………

 

 

 

「ぇ"っくしぃっ!!!」

 

とてつもなく大きなくしゃみをしたあかねに

体が跳ね、びっくりするスバル

 

 

スバル「っ!?……大丈夫、母さん?」

あかね「えぇ、大丈夫よ。…もしかしたら、誰かさんが私のこと噂してるんじゃないかしら?」

スバル「……何でそう思うの?」

あかね「フフ、女の勘よ♪」

スバル「ふ~ん…」

 

 

女(の勘)って、コワい……

 

 

もしこの場に()()()()が居合わせたら、そう思っただろう。

 

 

 

 

 ―キズナ号船内 食堂―

 

 

ザクッ、とカツサンドを頬張る。

 

水希「はぁぁ、美味ぁ~♪」

 

一方、大吾さんは生姜焼きを、リヴァイアはチャーハンと餃子を食べていた。

 

リヴァイアの場合、地球の電波世界にも食べ物を売っている店はあり、食事に困ることはなかったが、発明家でもある宇田海さんに相談した結果…。

空気みたくそこら中に散る電波を集め、ひとつの料理に作り上げる装置こと、フードディスペンサーが開発され、その試作機が船内に設置されていた。

 

僕たち人間は勿論、リヴァイア改め電波体は実体化することで食べることができる。

 

大吾「確かに、アレで作られる料理はどれも美味いよなぁ。…でも、あかねが作った料理はもっと上を行くけどな~♪」

 

そう言いながら付け加えの味噌汁を啜る。

 

リヴァイア「いいな~、俺っちもあかねさんが作った料理食べてみたい……」

水希「案外そう遠くないかもよ。宇田海さんから聞いたけど、だいぶ前から電波体について研究してたみたいだし」

リヴァイア「ほんとか!?」

大吾「勿論ほんとだ。いずれ地球で食事を囲う日が来るかもな」

リヴァイア「よっしゃー!!俄然やる気出たー!!」

 \(≧▽≦ )ゞ

水希「はしゃぎ過ぎだっての」( ^▽^)

大吾「ハハハ」

水希「あっ!そう言えば今日お姉ちゃんに仕送りする日だったの忘れてた…」

大吾「そうかそうか~。水希も親孝行ならぬ姉孝行を…って………、え?」

 

大吾さんは思わず箸を落としかけ、唖然とする。

 

大吾「仕送りって…お前、お金いくら持ってんだ?」

水希「ちょ~っと耳貸して♪」

 

大吾さんの隣に座り、耳元で話し掛ける。

 

水希「……は超えてる」

大吾「は!?マジかよ!?」

水希「そりゃ、5歳からアホみたいにウイルス倒しまくりゃ、コツコツと手に入るでしょ?」

大吾「…仕送りと貯金以外の使い道は無いのか?」

 

と聞かれたが、目線を反らしながら

 

水希「……今のところ、無いかな~…」(¬¬;)

 と言った。

大吾「oh……no…………」

 

「それはもったいないだろう…」と呆れ果てる大吾さん。

欲しいものはあるっちゃあるけど、無駄に消費して後悔したくないのが本音だ。

 

水希「そうだ……リヴァイア、前から聞きたいことがあったんだけど」

リヴァイア「何だ?」

水希「リヴァイアってさ、地球に来る前は三賢者と仲良かったの?」

リヴァイア「…………」

 

水希「……リヴァイア?」

リヴァイア「悪い……ここで話したくない…」

水希「そっか。じゃあ食べ終わったら、場所を変えよっか?」

リヴァイア「………大吾さん。研究室借りていい?」

大吾「いいけどその代わり、俺にも聞かせろよ」

リヴァイア「わかった」

 

 

昼食を食べ終え、場所を移す。

 

 

 

◆◆◆

 

~2

 

 

大吾さんの実験室に着くなり、僕と大吾さんは椅子に座り、リヴァイアは窓に寄った。

他の人に聞かれたくないと…体を電波化させ、大吾さんはビジライザーをかける。

 

リヴァイア「…今から27年も前のこと………俺は元々、FM星の兄弟星であるAM星生まれの電波体だった」

水希「……」

大吾「………」

 

窓の外を見つめたまま話すリヴァイア。

僕らはただ静かに話を聞き入れていた。

 

リヴァイア「覚えてる限りだが、俺は海の中で産まれ、その後もずっとそこで…育ってきた―」

 

脳裏に過去の話を(もと)にした映像を浮かび上がらせた。

 

同じ海に住む生き物と群れを為し、泳ぐ姿。

陸に上がり、木陰で昼寝をする姿。

悠々自適に過ごす日々。

 

どれを取っても楽しそうだった。

 

リヴァイア「―でも穏やかな生活は、そう長く続かなかった」

水希「え…?」

大吾「………」

 

その一言で顔を強張らせる中、大吾さんは頑なに眉ひとつ動かさず聞いていた。

 

リヴァイア「7歳を迎えた頃。想像を絶するほどの力を得たが、ある日を境に制御もままならず暴走した挙げ句、突発的な災害で多くの人を巻き込んじまったんだ…。

そしていつしか〈海原の悪魔〉と呼ばれ、誰も寄り付かない洞窟でひっそりと暮らすことになった。

でもその時、こんな俺を…師匠達は良くしてくれたんだ。少し厳しいとこもあったけどな…」

 

望んでもいない災厄を前に、悲しみに暮れるリヴァイアの前に現れ、手を差し伸べようとする三人の姿が映される。

 

リヴァイア「レオは、苦しいことがあっても挫けず前に進めといつも勇気づけてくれた。……ドラゴンは、まだ幼かった俺を背中に乗せて空を飛ぶ楽しさを教えて貰ったりしたな。……そして、俺と似通った力を持つペガサスから、力を制御できるようにと稽古を付けてもらったんだ。……でも、遅すぎた…」

水希「……どういうこと?」

リヴァイア「…10歳になって、まともに制御が出来たと思った矢先、AM王から直々に追放の刑を食らったんだよ……」

水希「嘘…そんなのって……!」

 

あまりにも悲惨すぎて口を挟むが「いいんだ、水希」とリヴァイアは未だ冷静に、少し落ち込んだ声で話を進める。

 

リヴァイア「……どのみち俺は、王の命令で処刑されても可笑しくはなかった。"俺自身に悪意はなく、ただ罪悪感だけが募っていた"と…三人の説得で周りも理解してくれたから………追放で留めてくれたんだ」

水希「ごめん………僕、もう…」

 

この場に居たくない…。

そう思い、扉に向かおうと席を立つが

 

大吾「話はまだ終わってないだろ…!」

水希「!?……なんでっ…」

 

咄嗟に大吾さんが、腕を掴む。

振り払おうとしても、力強く掴まれているため無駄な抵抗に過ぎなかった。

 

大吾「なんでって……わざわざ話してくれたのに、今ここで逃げんのはおかしいだろ?

パートナーなら尚更…知っておくべきことだってあるんだから、最後まで聞いてやれよ…」

水希「………わかったよ…」

 

いつになく真剣な表情を前に抵抗を諦め、へたり込むように座ると、リヴァイアは僕達の方へ向く。

 

リヴァイア「……話を続けてもいいか?」

大吾「ああ」

水希「……うん」

リヴァイア「…追放されたあとの5年間は、FM星の小さな漁村で過ごし、15歳で地球へ来て水希と出会い、今に至る。…これが、今話せる俺の過去の全てだ。水希…あの日、俺に会えて良かったと言ってくれたよな? 俺だって同じなんだぞ?」

 

リヴァイアはそう言うが、心の奥底では自責の念で溢れているはずだった。

 

リヴァイア(……本当は生きてる間に故郷で償うつもりだったが…いなくなった途端に滅ぶことになったとはな。……ほんと、最低だな……俺)

 

 

 

水希「ねぇ、リヴァイア……」

リヴァイア「なんだ?」

 

気だるそうにゆっくりと立ち上がり、リヴァイアの元へ歩み寄る。

そして僕は、リヴァイアを手放すまいと、強く抱擁した。 リヴァイアは少し驚いたが、それに応えるべく、優しく包むように抱き返してくれた。

 

そんな僕らを大吾さんは見守っていた。

 

水希「…………しばらく、こうしててもいい?」

リヴァイア「………ああ」

 

リヴァイア(…こんな俺を、受け入れてくれたからこそ……あの日からお前のことを守ろうと思えたんだ……。ありがとな……水希!)

 

リヴァイアはいつかの記憶を思い返しながら、心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

一方、そのころ

 

 

 

ある城の玉座の間にて、王の元に少数の兵が集っていた…

 

??「…余が治めるこの地に…近付こうとする愚か者どもが、今も尚……彷徨(うろつ)いておる。………お前達に命ず。……………そやつらを見つけ次第、早急に報告せよ…」

 

??「「「「はっ!!」」」」」

 

 

兵は皆、その場を後にし、王は拳を強く握りしめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「愚か者共は……余が纏めて蹴散らしてくれる………!」

 

 

 

 

 

 

 




今回の小説で出た電波フードメーカーの件ですが
アニメ見て、名前がフードディスペンサーだと気付いた瞬間、心の中では
「これが書きたかったんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」
と叫んでましたww
(形状が大きめの電子レンジに近く、電波の擬似物質化で食べ物ができる装置のことです。)


読者の皆様、お待たせしてすみません。
5話は、まだ完成しきってないのでいつ投稿するかわかりません。

メタイ話、内容やネタは浮かびあがっても文章にするには時間がかかると思います。


次回
第5話「リスタート」
お楽しみに!


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5話 リスタート

お待たせしました
やっと5話(後編)が完成です!

この次でようやく本編に入れます。

…今更ですが僕の書いた小説で流ロクのイメージがゲシュタルト崩壊(って言うんですかね?間違ってたらすいません)しそうで我ながら益々不安になってきました。



水希side

 

 

リヴァイアが過去を打ち明けて2週間後。

 

この二週間はいつもと変わらず。リヴァイアと共に船内を巡回をし、ウイルスを見つけてはデリートを繰り返す日々だった。

 

そして今日。

 

キズナ号の最上層に位置する、第二実験モジュールの観測室にて、ブラザーバンドの交信による、他の知的生命体とのコンタクトが始まろうとしていた。

 

観測室の構造はシンプルで、部屋の中央に円盤状の大きなアンテナがあり、それを囲うように十数台のデスクと、その上にモニターとタッチパネル式のキーボードが設置されていた。

 

アンテナの真上には、数学で習うはずの【二進数】ってやつかな……[0]と[1]の数字のみが表記されていて、実際にFM星人と交信をするために必要不可欠な、飛距離と座標などといったデータの集合体らしい。

それらが一箇所に密集され、淡く光り、大きく円球を描くように行き交っている。

 

……彼らの仕事を見守っている身としては、そうとしか例えようがなかった。

 

クルー1「…チェックC2(ツー)。A40に誤差補正……A40に補正終了。――続いてC3(スリー)。フェイズ B・C、共に27…――」

 

観測室で作業をしていた十数人のクルーと大吾さんは、最後の調整に取りかかっていた。

 

水希「上手く行くといいね!」

リヴァイア『そうだな!』

 

そして僕とリヴァイアは、邪魔にならない程度の声量で成功を待ち望んでいた。

 

 

 

 

 

しばらくして光が強まり、円球がフラフープ状の大きな輪に変化した瞬間、アンテナから無数の細い光線が現れ、植物のように枝分かれしながら昇っていく。

 

大吾「……今までの俺達の頑張りは、無駄じゃなかったんだ!」

 

……どうやらブラザーバンドの接続(リンク)に成功したらしく、観測室内は歓喜で溢れていた。

僕は飛び付く勢いで大吾さんの元へ駆け寄り、互いに肩を組みながら空いた手でガッツポーズを取った。

 

水希「すごい!やったね大吾さん!!」

大吾「あぁ!!」

 

計画は順調、後は相手からの返事を待つのみ。……そう思ったのも束の間。

予想と相反して断続的にサイレンが鳴り響き赤灯も点滅することで、一気に静まり返ってしまい……。

 

クルー2「大変です!!」

大吾「何が起こった!?」

クルー2「ブラザーバンドが逆流しています!!」

 

その一言で場の空気は一気に凍りつく。

そんな時、突然トランサーから飛び出てきたリヴァイアが、何かを確信するように言った。

 

リヴァイア「……やっぱり、FM星人の仕業か」

水希「嘘でしょ!? 何でアイツらが……」

 

リヴァイアは苦い表情のまま、何かを思い出したように語った。

前にも聞いたが…本来、FM星は好戦的で気性が荒い輩が多い惑星だ。

尤も、友好的である漁村の村人達を除いての話だが……。

 

リヴァイア「そりゃ、俺の故郷を滅ぼすほどの連中だからな…。何でこうなったか解らないが、恐らく俺達のやっていること(ブラザーバンドの交信)が敵対行動と見なされたかもしれない…」

水希「そんな…!」

大吾「クソッ!…通りでこんなことになった訳か……」

 

僕はただ呆然とし、大吾さんは怒りをぶつけるようにデスクを叩いた。

 

ここにいる人達は全員、危険を伴うと理解した上で参加している。だからこそ、今回の計画ではFM星以外の知的生命体とコンタクトを取ろうとしたが、あともう少しの所でこのザマだ。

アイツらに感づかれた以上、避けて通ることはできないだろう……。

 

水希「やっと、ここまで来たっていうのに。……ん?」

 

突然トランサーから電話の着信音が鳴り、タッチパネルに表示された通話ボタンを押す。

電話の相手は、キズナ号のクルーを率いる船長だ。

 

水希「……水希です。どうされましたか?」

船長『理由は後で話す。今すぐ発電モジュールまで来てくれ!』

水希「了解。すぐに向かいます」

 

通話を切り「ごめん、ちょっと行ってくる」と言い残し、後のことは大吾さんに任せることにした。

 

大吾「気を付けろよ!」

水希「わかってる!」

 

僕とリヴァイアはそのまま観測室を出て、発電モジュールへと向かった。

 

 

 

 

 

数分後。

船長は、発電モジュールに併設された重力制御装置(ニュートライザー)の前で待っていた。

 

 

 

水希「船長ー!」

船長「……来たか」

 

急いで来たため、息を切らしながら「いったい…何があったんですか?」と船長から今の状況を確認する。

 

船長「昨日…ニュートライザーの点検で電脳に異常が無いか調べてる最中に、ウイルスが数体ほど紛れ込んでいるのを発見したんだ。…その時は俺一人でデリートして、念のために"防壁"を張った。…けど……」

リヴァイア「……けど?」

 

船長は眉間に皺を寄せた…。

 

船長「…気になって様子を見たら、昨日以上にウイルスが大量発生していたんだ…」

水希「っ!?」

 

毎日巡回してたとはいえ…ウイルスと遭遇することが滅多にない環境下だったため、流石に驚きを隠せなかった。

……もし電脳からウイルス達が分散し、キズナ号にある全ての機器を攻撃されてしまうとどうなるか……容易に想像がつく。

 

水希「大体のところは把握しました! 今から電脳に行って、状況を確認してきます!」

リヴァイア「その間に船長は、他の電子機器に異常が無いか確認してくれ!」

船長「こっちは任せろ!…お前達も気をつけるんだぞ!!」

水希&リヴァイア「「はい!」」

 

上着の胸ポケットから変身用のカードフォースを取り出し、それをスキャナーに差し込む。

 

水希「電波変換!星河水希、オン・エア!! ……よし、行こう!」

リヴァイア「応!」

 

数秒で換装し終え、リヴァイアと共にそのまま電脳世界へとウェーブインした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球にある野球場みたく、広く平らなニュートライザーの電脳世界にたどり着く。……が

 

 

水希「……っ!?、…何……これ…」

リヴァイア「体が……重てぇ…」

 

来て早々、未だ体験したことのない重圧がのしかかり、少し息苦しくなった。

そんな矢先、数えて200を超すウイルスの大軍が目の前に現れ、苦笑いを溢すも気力を振り絞って立ち上がる。

 

水希「……こりゃもう…出し惜しみする必要無いかもね。……リヴァイア、バックアップよろしく!」

リヴァイア「あぁ、遠慮は要らねぇ!お互いとことんぶつけてやろうぜ!!」

 

常に気を張っている僕達と比べ……ウイルス達は不気味な程に平然としており、今か今かと狩る気満々の獰猛さが滲み出ている。

 

しかし幸いなことに、制御装置の周辺には緊急時に使われる防壁が張られていた。

僕ら二人の攻撃も通さないほど超強力なので、本気で戦うには申し分ない配慮に今日ほど感謝したことはないかもしれない。

 

水希「そっちがその気なら………こっちも本気で叩きのめすまでだ!!」

 

その言葉を合図に、ウイルス達が襲いかかる!

 

僕らは一旦距離を取り、リヴァイアは即座に前屈みになって長い首を左へと捻らせた。

 

リヴァイア「ブレス・オブ・コキュートス!!」

 

ありったけの空気を吸い込むと、ウイルス達に向けて猛吹雪の咆哮を右へ凪ぎ払うように放つ。

 

本人より多少威力は劣るが、僕も特訓により技を扱えるようになった。

 

眼前の雑魚ウイルスは瞬く間にデリートされるが、空中を飛翔するクロッカー(鳥型ウイルス)達は即座に軌道を変えたため攻撃は届かない。

更に、敵の後方から強力な個体のG(ジャイアント)ウイルスが進軍してくるが、真上に大きく飛び回避すると同時に両手を広げた。

 

水希「さっきので終わりだと思うなよ!!」

 

周囲に冷気を漂わせると無数の氷塊が形成され、やがて一つ一つが大粒の雹に変化する。

 

水希「クリスタルバレット!!」

 

両手を真下に降り下ろした瞬間、弾幕の雨と化した雹はウイルス達の頭上に降り注ぎ、蹴散らしていった。

 

腕輪のパネルを操作し、バトルカードの項目から一枚を選択……具現化され、スキャナーに差しデータを読み込ませると、上空に雨雲が現れた。

 

水希「バトルカード、ネバーレイン!!」

 

一枚目に選んだのは、広範囲に雨を降らせる効果を持つ水属性のバトルカード。元の攻撃力に「+50」と表示されているので、威力は高い。

怯んでいる隙に追い討ちをかけ、ウェーブロードに着地した。

 

水希「…これで半分は削れたはず…って、あぶなっ?!」

 

雨がやむと同時に、複数のクロッカーがあらゆる方向から突進してくることに気付く。

先程放った攻撃を辛うじて避けたのだろう。

重い体を必死に動かし、焦りつつ紙一重で回避するが……

 

リヴァイア「水希!後ろだー!!」

水希「!――がぁっ?!」

 

背後からの攻撃に気付けず、そのままもろに食らい数メートルほど吹き飛ばされた。

しばらく倒れ伏すが、背中の痛みに耐えながらゆっくりと体を起こす。

 

リヴァイア「……まだ油断すんなよ?」

水希「…ったく、やってくれんじゃん」

 

すかさず二枚目を具現化させ、スキャナーに差す。

 

水希「バトルカード、レーダーミサイル!!」

 

周囲に、小型ミサイルが次々と出現する。

使っているうちに分かったが、このカードの効果は、ウイルスが無属性だと頭上に〇印が現れ、逆に火・水・電気・木のどれか一つでも属性があれば、必ず×印が現れる。

 

クロッカー達に目を配ると、頭上に〇印が現れ

こちらに向かって来るのと同時に狙いを定めた。

 

水希「……行け!!」

 

と言った瞬間ミサイルが放たれ――全弾命中。次々と一網打尽にしていった。

偶然にもカウンターを取ることに成功し、具現化した赤いカードをスキャナーに差した。

 

リヴァイア「一気にケリをつけるぞ!」

水希「おっけー!!」

 

僕とリヴァイアは手元に水をかき集め、それをウイルス達の足元に向けて放つ。

 

水希&リヴァイア「「ディザスター……クローールッ!!!!」」

 

水は大きな渦潮に変化し残党達を囲った。渦に呑まれ、中心へたどり着く頃には皆…粒子化し霧散していく。

そして数分後。完全にデリートした瞬間、水は干上がった。

……思った以上に体力の消耗が激しく、肩で息をする。

 

リヴァイア「いやぁ、流石にキツいわ~…これ」

水希「はぁ、やっと終わった…」

 

重圧は既に消え去っており、ようやく制御装置に張られた防壁が解除された。

攻撃された形跡は無く安堵するが、僕ら二人は先程起こった謎の重圧に対し、疑問に思った。

 

リヴァイア「しっかし、さっきの重苦しさは何だったんだ?」

水希「さぁ?……防壁は張られてたから、ニュートライザーが誤作動を起こしたとは思えないけど…」

 

原因が解らず、頭を抱えていたその瞬間…。

 

 

 

 

ジジジジジジジジ…

 

 

耳に障るような雑音が響く。

 

リヴァイア「……何の音だ?」

水希「……リヴァイア、あれ!!」

リヴァイア「…なっ!?」

 

視線の先にあったのは……深緑色の靄。雑音を放ちながら暗雲の如く浮かんでいた。

靄が小さく分裂した途端、赤黒い球体に変わり、音は止んだ。そして…球体はそのままゆっくりと上昇し、電脳世界から消え去った。

 

リヴァイア「何だったんだ、いったい……」

水希「…戻ろう。大吾さん達が危ない」

リヴァイア「…そうだな」

 

 

僕たち二人は現実世界へウェーブアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

大吾side

 

 

時は遡り、水希とリヴァイアが観測室を出て数分後のこと…

 

 

 

 

 

??「……貴様らか?…余の星に攻撃を仕掛けた愚か者共は…」

大吾「何者だ!?」

 

天井を見上げた先には、人間(俺達)に近い容姿で緑色の体を持つ電波体が宙に浮いていた。

体は、黒の装甲に赤のマントで覆われ、頭には、金を三つの棘状にあしらった王冠を被っていた。

身なりから察するに王族だろう…。

 

ビジライザーを掛けなくても見えるため、一目で『リヴァイアと同様、実体化している』と気づいた。

 

??「……余はケフェウス。FM星を統べる王だ…」

大吾「…まさか、ブラザーバンドを逆流させたのは…」

 

俺は目の前にいる男に問うが、一向に否定しない。

リヴァイアやAM三賢者から話は聞いたが「ここまで拒絶をするか…?」と冷や汗を流しながら、そう思っていた。

 

ケフェウス「……そうだ。『何者かがこの星に、攻撃を仕掛けに来ている』と、側近のジェミニから報告があったのでな…」

大吾「待ってくれ!! 俺達はただ、友好関係を結ぼうとしてるだけで…」

ケフェウス「黙れっ!!」

 

突然の激昂に、俺達は気圧される。

モニターの画面が砂嵐のように荒れだした。

 

ケフェウス「理由はどうであれ、余に害を成す存在である以上……貴様らには処罰を下さねばならぬ。………まずは…」

 

男は扉の方向へと指を差す。

この時、微かに悪寒が走った。

 

ケフェウス「こちらに向かっている……余の星の住人だった奴と、その宿主に制裁を下そう…」

大吾「なんだと!?」

 

室内に稲妻が迸った途端、…扉の開く音がした。

 

水希「大吾さーん」

全員「「「!!?」」」

リヴァイア「そっちは大丈夫かー?」

 

扉の方へ振り向くと、リヴァイア・コキュートスに変身したままの水希と現実世界に実体化しているリヴァイアがこちらに向かってきた。

 

大吾「ダメだっ!来るなぁぁぁぁ!!!!!」

水希「…えっ?」

 

 

ケフェウス「…………やれ」

 

轟音と共に、稲妻が水希達の頭上へと落ちていく。

回避は間に合わず、直撃した。

 

水希&リヴァイア「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」」

 

大吾「水希ぃぃぃぃ!!!、リヴァイアぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

稲妻により、体を貫かれた衝撃で電波変換が解けてしまった。

俺はすぐさま、床に倒れた水希達の方へ慌てて駆け寄った。

 

大吾「おいっ!、おい大丈夫かっ!? しっかりしろ水希っ!!、リヴァイアッ!!…頼む、目を開けてくれっ!!」

水希「う…ぁっ………だ…いご……さん。…リヴァイアは?……みんな…だいじょぅ…ぶ?」

 

生身の方は見た感じ…外傷は無いが、電波変換が解けるほんの僅かな時間に気絶していたのは事実。……少しは自分の心配もしてほしいくらいだ。

リヴァイアも目を覚まし、体を起こす。

 

リヴァイア「……俺は……なんとか無事だ。電波変換してたとはいえ、ダメージは水希の方がデカいだろ…?」

 

……本人が無事と言ったわりに、身体中焼け焦げた痕が数ヵ所あり、端から見りゃボロボロの状態だったが俺は軽く息を吐き安堵した。

 

大吾「とにかく…良かった。本当に……」

 

特に水希の場合、生身の状態で受けていたら………考えただけでも背筋がゾッとしてしまう。

最悪…水希の両親や、あかねに会わせる顔がないと思ってしまうほどに………

 

男は冷酷に、淡々と話を進めた。

 

ケフェウス「今のはほんの序の口だ。どちらにせよ…貴様らにも処罰を下す。

それまで精々、辞世の句を考えておくんだな…!」

 

そう言うと、男は姿を消した。

……いや、元の場所へ戻ったと言った方が正しい。

荒れていた電波も弱まり……何事も無かったかのように、静かになった。

 

水希「……だいご…さん」

大吾「……何も心配するな。今は体を…休ませておくんだ……」

水希「うん………」

 

水希は意識を手放した。

 

大吾「コイツを医務室に運ぶ。誰か担架を持ってきてくれ!!」

「「はい!!」」

 

数分後。

担架を持ってきた部下達が、水希を運ぶ際に「よく耐えた!」「もう大丈夫だよ!」など声かけをしていた。

一方…他の者は、計画を中断するための後始末をしていた。

 

 

大吾「……リヴァイア。後で実験室に来てくれ」

リヴァイア「………わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

 

 

 

??(…………水希…)

 

誰かが僕を呼んでいた…………夢だ。

重く閉じていた瞼を上げると、微かな光が差す。

そこで意識がハッキリとし、目を見開いた。

 

水希「?……あれ……寝てた?」

??「……目が覚めたか?」

 

顔を左に向けると椅子に座る大吾さんがおり、ゆっくりと起き上がり、向かい合うように座った。

 

水希「……大吾さん、みんなは?……僕はどのくらい寝てた?」

大吾「……ざっと一週間だ。……今はみんな無事だ」

水希「そっか。…………ごめん、大吾さん。……またヘマしちゃった」

 

みんなが無事だと知り安心するが、結果的に迷惑をかけてしまったことに変わりない。

 

前にも死にかけたことが一度だけあり、きっと怒るだろう………と内心思っていたが

大吾さんは自分の右手を、ポンと僕の頭に置き「…誰だって失敗はあるんだから、仕方ないさ…」と言った。

 

大吾「……まぁ、生身(いま)のお前も、電波変換(へんしん)したお前も、危なっかしい所はあったけどな…」

水希「…言えてる」

 

最後の一言にぐうの音も出ず苦笑いし、俯く。

 

水希「これから……どうなっちゃうんだろ……」

 

意識を失う前、あの男から「処刑だ」という言葉が聞こえ、不安を拭いきれなかった。

 

大吾「心配すんな水希。たとえ何があっても、お前だけは守ってやる!」

 

一瞬だけ目を見開くが、すぐにジト目になった。

 

水希「………それ」

大吾「『僕が言う台詞じゃん』って思ったな?……でも、たまには誰かに言われるのも悪くないだろ?」

水希「フフッ…そうだね!」

 

大吾「………水希。今から話したいことがある。場所を変えたいんだが、…歩けるか?」

水希「うん。…もう大丈夫」

 

ベッドから立ち上がり、医務室を出た。

 

 

 

◆◆◆

 

大吾side

 

 

俺達二人は今、とある場所へ向かっていた。

ようやく着いたそこは、緊急用の脱出モジュールだ。

 

水希「ねぇ、大吾さん。ここって…」

 

右隣にいた水希は、何故ここに?と困惑している。無理もない。

なぜなら…緊急の時以外マスターキーを使わない限り、扉は開かないように設定されているからだ。

 

 

 

……俺は構わず、ある人物にメールを送った後、一時の別れを告げた。

 

大吾「水希。お前は充分、役目を果たしてくれた。……お前には悪いが、もうここにいる必要はない…」

水希「え?…何言ってんの、大吾さ…?!」

 

突如、水希を包むように灰色のバリアが張られた。…勿論、そうしたのはリヴァイアだ。

右手を見ると、指の第二関節から先が消えかけていた。……電波化が始まったのだ。

 

水希「…何してんだよ……リヴァイア!」

リヴァイア「……悪い、水希。……今はこうするしかないんだ……」

水希「…電波変換っ!!……うそっ、なんで!?」

 

変身用のカードを差すが、あらかじめ細工を施しているため何も起こらず、水希は混乱していた。

 

こうしてる間にも、水希の体は電波化していく。

 

 

 

 

 

 

 

**

 

 

一週間前。研究室にて

 

 

 

以前…俺はNAXAで、電波生命体について研究をしていた。

研究を進めるうちに、リヴァイア改め…電波体から放たれる強力なゼット波は、触れたものの周波数を変化させ『物質に限らず人をも電波化させる』ことが可能だと知った…。

その能力を、水希を地球へ送り返す時に使って欲しいと頼んだが、当の本人はまだ納得がいかなかった。

 

リヴァイア「なぁ、本当にそれで良いのか?」

大吾「あぁ。俺はそうした方が良いと思っている。今のままじゃ、きっとダメなんだ……」

リヴァイア「……最後の最後で、何もできないとか悔しいよ。…こうするしか方法がないなんて…!」

 

体を震わせ、悔し涙を流すリヴァイアの頭を撫で、抱擁した。

 

大吾「…俺達は必ず帰る。それまでの間でいい、あかねとスバルを……頼む」

リヴァイア「ごめん…、大吾さん…」

大吾「いいんだ。…これくらい、何てことない……」

 

何てことない。

 

そう言ったが、正直…大事な家族に会えなくなるのは辛いし、何より水希とリヴァイアに酷な選択をさせて申し訳ないと思っていた。

 

リヴァイア「…みんな、きっと悲しむと思うぞ?」

大吾「…そうかもな」

 

 

 

 

 

**

 

 

 

……過去を思い返していた矢先、水希は既に電波体となったので、俺はビジライザーをかけた。

 

大吾「水希、ごめんな。お前にウイルス退治を任せっきりにしてた分、少しでも良いところ見せようと思ったのに……結局、何もかも無駄になっちまった。

…今の俺らに、地球へ帰る資格なんて無い。だから俺らは残ってアイツらと…「バトルカード!、ブレイクサーベル!!」

 

…諦めの悪い水希はバトルカードを差し、具現化した剣を手に取り、バリアを叩き切ろうとした……。

 

水希「…僕だって、頭ん中じゃ『自分の意見と価値観を、他人に押し付けてまで同行する必要はない』って分かってたよ!

でもあの時…大吾さんや局長がワガママを聞き入れてくれたから、その分恥じないようにと頑張れたんだ!…だから最後まで役目果たさせてよ!!

今更置いて帰るわけないっ!! お願いだからバカな真似はやめてよ!! 大吾さん! 大吾さんってばぁ!!」

 

水希は必死にバリアを壊そうとするが、頑丈に作られているためビクともしない。…いくら戦えるとはいえ、リヴァイアがいなければ電波が見えるだけの一般人だ。

何せ水希は、本来ここに居られる立場ではない。

だからこそ……こんな所で死ぬより、今以上に強くなって、地球にいる人達を脅威から守ってくれればいい。…そう願っていた。

 

すると突然、剣にヒビが入った。

最後の一振りで脆く崩れ去り、もう一度バトルカードを差そうとしたが、俺は首を横に振り…手を止めさせた。

そして……

 

大吾「…二人のこと、頼んだぞ……水希」

水希「っ、……いやだ………やだよ………大吾さん…!」

 

水希を包むバリアが浮くと、少しずつ上昇し……

 

水希「大吾さぁぁぁぁ――――…」

 

……壁の向こうをすり抜け、水希とリヴァイアはキズナ号を脱出した。

それを確認し終えた俺はビジライザーを外したが、しばらく立ち尽くしていた。

 

大吾「…すまない、…あかね、スバル。……今はまだ、帰れそうにない」

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

 

 

 

 

水希「………ん……………」

 

いつの間に意識を失っていたのか…と思いつつ目を開き、体を起こした。

辺りを見渡すと、目に映るのは見慣れた場所。よく星を眺めに来る展望台だった。

時計を見なくても夜だとわかるほど空は暗い。

 

水希「……ここって、確か―――っ! 大吾さんっ!!」

 

 

いくら呼び掛けても大吾さんはいない。…解りきっていた。

リヴァイアはというと…脱出の際、出せる分の力を使い果たしたのか……トランサーの中で寝息を立てながら静かに眠っていた。

 

水希「……結局、戻ってきたんだ………地球に…」

 

仰向けに倒れ、苦笑混じりに自嘲する。

 

水希「……何が『恩返しできれば、それでいい』だよ。……あれだけ大口叩いておきながら、結局最後は何にもできなかったじゃないか。………なんのために……僕は………」

 

一人落胆していたその時。

 

「ねぇ、あそこにいるのって…」

「水希ぃーーーー!!!!」

 

こちらに向かってくる足音がした。

聞き覚えのある声………聞いた瞬間に誰なのか分かった。

 

スバル「大丈夫、水希兄ちゃん!?」

あかね「ケガは?…どこか痛い所はない!?」

 

……他にない、お姉ちゃんとスバルの声だ。

 

水希「……お姉ちゃん、スバル……僕は…大…丈夫……だよ……」

 

自分の不甲斐なさに涙が溢れ出た。

 

水希「…ごめん……お姉ちゃん、スバル。…やっぱり…ダメだった。……約束…したのに……結局……何一つ守れなくて……」

 

もっと強くなっていれば、みんなを守るための力があれば、こんなことにならなかったはず……

そう思うと、涙が止まらなくなった。

 

涙を流していたのは、二人も同じだった。

 

あかね「馬鹿っ!…あんたこんな時に何言ってるの!?…大吾さん達のために頑張ってたあんたのことを責める姉がどこにいるのよっ!?」

スバル「母さんの言う通りだよ…無事に帰ってきてくれて良かったのに、そんな悲しいこと言わないでよ!!」

水希「ごめん…二人とも………」

 

三人は抱き合うように泣いた。

どうしようもなく溢れ出る涙を抑えるのは…今の三人には無理な話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分ほど経ち、涙は止まり…だいぶ落ち着いた後、僕らは姉夫婦が住む自宅へ戻った。

僕はスバルを部屋に運び寝かしつけた後、リビングへ戻る。

時計を見ると、夜の10時を過ぎていた。

 

あかね「スバル…もう寝た?」

 

無言で頷く。

すると、お姉ちゃんは食卓にある椅子を引いた。

 

あかね「ねぇ、水希……こっちで話しましょう。立ったままじゃ辛いでしょ?」

水希「………うん」

 

お姉ちゃんと向かい合うように座り、顔を俯かせた。

 

あかね「……水希が帰ってくる前、大吾さんからメールが届いてたの。水希を地球へ送り帰すって………正直、驚いたわ。…本当に帰ってくるんだもの……」

水希「………」

あかね「……何があったのかは聞かない。でも、なんで地球(ここ)に戻ってきたのか……教えて…?」

 

お姉ちゃんは、多分…分かっていたんだと思う。

心を押し潰されそうになりながら、"最悪の事態に巻き込まれていたこと"を……察していたんだと思う。

 

僕は絶え絶えに事の説明をした。

 

水希「二人のこと、頼んだぞ。…って言われて………ここに帰って来た」

あかね「……そう、そうなのね……」

 

お姉ちゃんはとても苦しい顔をしながら聞いていた。

本当に無力だ………

 

あかね「……これからのことは明日考えましょ。今日はもう遅いから、泊まって行きなさい」

水希「うん……わかった。ありがとう、お姉ちゃん」

 

お姉ちゃんは椅子をずらし、立ち上がったと思ったら突然……

 

あかね「……ところで水希ぃ。前に大吾さんからもう一通送られたメールで、あんたが私のこと悪く言ったような内容が書かれてたんだけど。………どういうわけ?」

水希「…………え?」(○○;)

 

トランサー本体と腕に取り付けるバンドを外し、画面を僕の方へ向けた…。

内容を見た瞬間、顔が青ざめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつぞやのNGワード(禁句(以下略))についての密告文(メール)だった。

……おのれ大吾さんめぇ…許すまじ…!

 

 

水希「(うわあぁぁぁヤべェェェ!!バレたぁぁぁぁぁ!!!……つーか、このタイミングかよっ!?……クッソぉ、大吾さんめぇぇ!!!)

 

………………えっと~、その~……

 

 

 

 

 

 

 

…………ごめんね、お姉ちゃん!」☆(ゝ▽・)

 

 

 

……微かに拳を握る音がした。

 

 

あかね「やっぱり野宿の方がいいかしら?」(^▽^)

水希「嘘です!ごめんなさい申し訳ございませんお姉様!!ほんっとそれだけは勘弁してください!!お慈悲をくださいお姉様!!ホントはめっちゃ体痛いんです!!超眠いんです!!今冬で僕薄着なんでマジ寒過ぎて死にそうなんですぅぅ!!!」(超早口)

 

即座に死に物狂いで土下座した。

勝手に自爆しといてアレだが、全身に冷や汗がだらだらと流れている。

 

 

 

 

 

 

………実は前にも…姉が大事に持っていたお気に入りのCDをうっかり踏んでしまったことがあり、バレた時の凄まじさは今の比にならないくらいでした…。

 

 

 

普段は温厚で優しいお姉ちゃん……ですが、

本気で怒ったお姉様は……………滅茶苦茶怖いんです。(((・д・|||)))ガタガタガタガタgtgtgtgtgtgtgt……………………

 

 

あかね「まったく、何よ『裏の顔は般若』って。………軽く風評被害じゃない!」

水希「いや事実でしょ……

あかね「なんか言った?」(・_・)

水希「何でもないですっ!!」

 

あかね「はぁ~、もういいわ。…さっさと風呂入ってきなさい。部屋と布団は用意しとくから」

水希「ありがとうございますお姉様ぁ~」

あかね「………とりあえず、お姉様って呼ぶのやめて…」(;´д`)

 

 

 

 

 

 

その後空き部屋を借り、適当に布団を敷いた後、僕は窓を開け月を眺めていた。

 

そして……空を見上げ、月明かりに手を伸ばした。

 

水希「……いつか必ず、迎えに行くから。もう少しだけ待ってて……大吾さん」

 

僕はただ、今も宇宙をさまよい続けているであろう…大吾さんに向けて誓いを立てた。

 

 

たとえそれが長く辛い戦いでも、今の僕にとって再出発(リスタート)を切り出す一歩でもあるから。

 

窓を締め、布団に入る。

体が暖まった頃、ようやく眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今宵の満月

 

 

 

それはもう、酷く…美しく……輝いていた。

 

 

 




書いていくうちに思いましたが、…軽いノリで書くもんじゃないですね、これ(汗)

NGワードがバレた件はおまけ程度で書きましたが、「…正直、この話要らなくね?」と思われてるかもしれません。今後もなんかの気まぐれで、お姉様が再登場すると思います…多分(笑)



6話は早ければ新年辺りで完成させます。

では!( ̄▽ ̄)ノシ


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第一章 スバルエンカウンター
6話 空虚


新年、明けましておめでとうございます。
今年も(こんなノリで書き続けますが)よろしくお願いします。

読者の皆様、お待たせ(・ω・)ノ
というわけで本編始まります。

注意! この作品は……

・原作とかけ離れた設定 ・低クオリティかつ駄文
・露骨なキャラ崩壊 ・視点が多スギィ‼

等があります。

あと、他の作品と比べたら「原作知らない人には、余計伝わりにくい作品」となっておりますが、
「読者が原作を知っている」ことを前提に書いていくので、そこだけ注意してくださると助かります。

それがOKな方だけ、ゆっくりしていってね~

1/24追記:今回のスバル視点の文に関してですが…どう見ても書き足りないので、7話の水希視点と噛み合うように追々編集し直します。



…当時、僕がまだ中学生だった頃。

 

AM三賢者をモデルに構築された

世界のあらゆる電波・通信を管理する三機の人工衛星《ペガサス》・《レオ》・《ドラゴン》が完成し、打ち上げられてからたったの数年間…

世界に更なる進化をもたらした…。

 

人類の生活に長年、重宝されてきたスマホ、PET(ペット)、トランサーなどの無線通信端末。

それらの製造で要となる電波テクノロジーが発達し、通信環境を向上させた。

僕が思うに、扱う機器の処理速度が上がり、負荷が少なくなることで使いやすくなったと思う。

 

それに加え……いつしか地球が、電波を利用した無公害エネルギーで溢れかえり、地球に存在するあらゆる物……ましてや食べ物でさえも擬似的に物質化させ、無尽蔵に生み出すことが可能となる時代へと進歩した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、尤も…直接的な関係が無くとも、多くの犠牲の上に成り立ったに過ぎなかったが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球へ戻ってから数日後にNAXA(ナクサ)へ向かい、局長と職員の人達に事情を説明した後、クルーの捜索に協力したのだが、キズナ号の一部と見られる破片を回収し、奇跡的に3人のクルーを見つけ出せたのが唯一の成果だった。

……以降はこれといった情報さえ見つからず、大吾さん達の安否がわからぬまま捜索は打ち切られてしまい、惑星間ブラザーバンド(異星人との交流を夢見ていた)計画……

《キズナプロジェクト》はその日を以て永久凍結された。

 

まだ幼かったスバルにとって、相当なショックを受けたも同然。

それ以来、人と関わりを持つことに恐怖を感じたのか…スバルは不登校児となり、そのまま三年の月日が経って行くのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

あかねside

 

 

4月初旬

 

 

AM 8:57 星河家のリビングにて……

 

 

あかね「あら? おかしいわねぇ……」

 

 

パートが休みである今日、私は家事を手早く終わらせ、テレビを見るつもり……だったのだが

リモコンの電源ボタンを押しても反応がないので、仕方なく本体のボタンも押す。

 

あかね「う~ん、…ダメね」

 

どうしたものかと頭を抱えていたら、亀みたくノロノロとリビングに入る水希を見かけた。

今日は珍しく寝坊助だ。

 

あかね「おはよう水希」

水希「おはよ~…」

あかね「…スバルは?」

水希「まだ寝てると思うよ…」

 

水希はキッチンへ向かい、やかんで炊いた麦茶をコップに注ぐと、寝惚け(まなこ)のままこちらに振り向く。

 

水希「…で、どしたの? そんなとこに突っ立って」

あかね「それがね? テレビを見ようとしたら、全然つかないのよ…。ちょっと見てきてもらってもいい?」

水希「オッケー。……え~っと、確かここに……お、あったあった…」

 

水希は食卓にコップを置くとズボンのポケットを漁り、変身用のカードを取り出す。

 

……弟よ、何故そんなとこに入れるのだ?(汗)

 

水希「でんぱへんかーん…」

あかね「妙にやる気無さそうだなぁ、おい」

水希「いってきまぁーす…」

 

呆れ顔でツッコミを入れるが逆にスルーされ、

水希はテレビの電脳にウェーブインした。

 

 

……が

 

水希「ただいまー」

 

ほんの数秒後に帰ってきた。

 

あかね「あらおかえりーって、早ぇよっ!!

水希「…驚いてるところ悪いんだけど」

 

展開の早さについていけない私を見た水希は、苦笑いしながら解き、トランサーから連絡先のフォルダを開いていた。

 

水希「電脳に入ろうとしたら、なぜか追い返されてさ…本体がヤバイことになってんじゃね?」

あかね「……マジで?」

水希「マジで。…とりあえず、天地(あまち)さんに連絡してみるね?」

 

 

 

 

 

水希が天地くんと連絡を取り合い、事の説明と修理の依頼をしてから30分後…。

インターホンが鳴ったので玄関へと向かう。

 

 

あかね「はぁーい。…あら、いらっしゃい天地くん。朝早くにごめんなさいね?」

 

出迎えた先で待っていた天地くんに詫びを入れるが、彼は工具箱を片手に愛想笑いで返した。

 

天地「いえ、お気になさらず。水希君から聞きましたよ? テレビの調子が悪くなっていると…」

あかね「そうなのよ。…まぁとりあえず、上がって」

天地「お邪魔します」

 

リビングに招き入れていると、買い物袋を持ち

出掛ける準備をしている水希がこちらに気づく。

 

水希「あ、おはよう天地さん」

天地「おはよう。これから出掛けるのかい?」

水希「はい。散歩がてら夕飯の買い出しに行こうかと。そんじゃ行ってくるね~…」

 

水希は足早に家を出て行き、玄関のドアはパタリと閉じる。

 

あかね「…さてと、じゃあ早速、お願いしてもいいかしら?」

天地「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

……時計が11時を過ぎる頃。

 

 

天地「…これを……こうして…と、よし。 あかねさん、終わりましたよ!」

あかね「お疲れ様、天地くん。…はい、これ」

 

作業を終え道具をしまう天地くんに労いの言葉をかけ、麦茶と、茶菓子が入ったお盆をテーブルに置き、近くの座布団に座るよう促す。

 

天地「ありがとうございます」

あかね「こちらこそ。今回は水希でも手に負えなかったから、助かったわ…」

 

私も座り、お礼を言うが……

彼はどこか、複雑そうな表情をしていた。

 

天地「いえ…、むしろ助かってるのは、僕らの方だと思います…」

あかね「え?」

 

少しだけ目を見開く。

 

天地「この前、サテラポリスで働く知り合いから聞いたんです。水希君がウイルス討伐を続けているお陰で、町の被害が少なくなっていると…」

あかね「…そう。あの子、まだ戦ってたのね」

 

近頃…出掛ける頻度が多くなった理由に納得し、考えてみたら、水希本人には適当な理由ではぐらかされていたなと、ため息をついた。

 

あかね「昔から変わらないわね。私達の前では平気なフリして無理をするのは…。

何も…一人で全部、背負わなくてもいいのに…」

天地「同感です…。でも…水希君からしたら心配をかけたくないんですよ…きっと…」

あかね「……あのバカ

 

ふと私は…テレビの近くに立ててある、海へ行った時の写真を見た。

 

綺麗な海を背景に砂浜にしゃがむスバルと水希を、私と大吾さんで挟むように撮り、みんな揃って満面の笑顔を浮かべていたが

()()()以来、笑うことが少なくなった水希とスバルを見る度、ズキリと胸が痛んでしまう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

三年前…どしゃ降りの雨が続く日。

 

 

 

ドアの開く音に反応し、私とスバルは玄関へと向かった…。

 

 

 

 

スバル「…おかえり、兄ちゃん」

あかね「……大吾さんは…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…傘も差さずに帰ってきた水希は、首を横に振り

 

 

 

 

水希「これ以上は無理だって…」

 

その一言で希望は打ち砕かれた。

 

 

 

 

あかね「そんな…」

スバル「父さん、もう帰ってこないの?」

水希「………」

 

…頭の中では分かりきっていたが、私の心は抉られるように痛み、この出来事がただの悪夢であって欲しかった。

ショックで呆然と立ち尽くしていたスバルに、水希は感情を押し殺し、大吾さんのビジライザーを渡そうとした。

 

 

水希「スバル。これ…渡しておく」

スバル「これって…、父さんの!?」

 

驚くスバルにそれを持たせ、その手を両手で握り締める。

 

水希「絶対…失くさないように持ってて……。………お父さんの為にも…」

スバル「……うん

 

 

嗚咽を漏らし、次第に涙でくしゃくしゃになるスバルと

己の無力さを噛み締め、やつれた顔でスバルを抱き締める水希。

 

 

 

 

 

 

 

…その光景が頭から離れることはなかった。

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

 

 

あかね「…大吾さんが帰らなくなってから、もう三年か。…ほんと、時間が経つのは早いわね…」

天地「全くです。今でも信じられませんよ…。

…一つお聞きしたいんですが、スバル君は今日から五年生でしたよね?」

 

彼の問いに無言で頷く。

 

あかね「でも、人と関わりを持つことを避け続けているから、学校には…まだ行けないみたい」

天地「…けど、そうなると勉強の方は…」

あかね「大丈夫よ…。今は、通信教育と学習用のナビカードを使って勉強しているから……」

 

 

水希も、暇な時に勉強を教えているから大丈夫

……だと思いたいが、いずれスバルが進む将来に私は不安が募るばかり。

たとえ止めようとしても、大吾さんと水希みたく意志は揺らがないだろう。

 

…私は何を思ったのか、天地くんに愚痴を溢すように呟いた。

 

あかね「……スバルね、宇宙飛行士になって大吾さんを捜しに行くって言ってたのよ。

でも怖いの………スバルまでいなく…」

 

最後まで言いかけた瞬間リビングのドアが開くと、スバルがドア越しにこちらを覗いていた。

一向に出てくる様子がないので、私は一声かけた。

 

あかね「……今日も展望台に行くの?」

スバル「うん。…兄さんは?」

あかね「さっき、夕飯の買い出しに行ったわ。

…そろそろ戻ってくるはずだけど、遅いわね?」

天地「お昼も近いので、どこかで食べてるんじゃないですか?」

 

「あり得るわね」と言う私を横目に、スバルが「どうして天地さんがここに?」と聞くので、「テレビが故障したから、直してもらったのよ」と答える。

 

 

天地「久しぶり、スバル君。見ないうちに大きくなったな!」

スバル「ど、どうも…。それじゃ母さん、行ってきます…」

 

 

スバルは玄関へ向かい、外に出る。

ドアが閉まった後、しばらく沈黙が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

天地「彼の頭に着けていた物、もしかして…」

あかね「えぇ、そうよ。寝る時以外ずっと持ち歩いてるの。…ビジライザー(アレ)を使って、大吾さんを見つけようと毎日ね…」

 

天地「…もしかして、話したんですか?リヴァイア君のことと、水希君の身体のことを…」

あかね「…電波化したことは話しているけど、それ以外はまだ…。

でも、いずれ知る時が来るでしょうね…」

天地「…そうですか」

 

リヴァイア君の存在を知られているのは、ごく一部の人だけなので、水希から話したり…下手に実体化したりしない限り、バレることはないが…、時間の問題としか思えなかった。

 

天地「……」

あかね「? 天地くん…?」

 

名前を呼ぶが反応がない。

顔を俯かせる彼は強く拳を握っており、どこか思い詰めた表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天地 (……もっと力があれば…大吾先輩やクルーの皆を見つけることだってできたのに。…誰も辛い思いを抱えなくて済んだはずなのに…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…私はもう一度、彼の名を呼んだ。

 

あかね「…天地くん。あまり自分を責めるようなことはしないで。

…あれは事故だった。……仕方なかったのよ…」

天地「…あかねさん…すみません。僕達が無力なばかりに…辛い思いをさせてしまって…」

 

俯いたまま謝る彼に、返す言葉が見つからない。

 

 

 

 

 

 

 

私自身、現状を受け入れ強く生きなければと思っていた。……けど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…やっぱり…辛いわね……大吾さん。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

AM 11:16

 

 

 

今日はよく晴れているため、星がよく見える。

 

そう思って家を出たが夜までだいぶ時間があるので、どこで時間を潰そうか…と考え込んでいると、帰宅する同い年の子達の姿が見えた。

 

スバル「……どこでもいいか…」

 

人目を避けるようにバス停へと移動し、ベイサイドシティ行きのバスに乗る。

 

 

夜になるまでの数時間、デパートにある飲食店でお昼を済ませてから…本屋、カードショップなど欲しいものがありそうな店を転々とした。

小遣いは多くなかったので、基本的に買わずに見ていくだけだが暇潰しには充分。

適当に時間を潰し、16時過ぎに帰りのバスに乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM 17:00 コダマタウン バス停

 

 

バスに揺られて一時間。ようやく町に着いた…。

周りを見渡すと、まだ公園で遊ぶ子達がいたが、町内にチャイムが鳴り始め一斉に帰宅していく。

 

僕も、日が落ちる前に展望台へ向かう。

 

 

 

 

 

そして18時。日が沈むと同時に星が瞬きはじめた。

今日はカシオペア座が綺麗に見える。

 

あの日からずっと、一人で展望台(ここ)に来ては星を眺めることが多くなった。

もしかしたら父さんが見つかるかもしれない。そう思いながら…

 

スバル「今日、天地さんが家に来たんだ。

なんでも、テレビを直してくれたみたいだけど…」

 

誰もいない空間で独り言を呟きながらビジライザーを掛け、一瞬だけ閉じていた目を開けた。

 

スバル「……見えるわけないか」

 

ここに来て、星空を見ては落ち込むの繰り返し。

精神面は…三年前より落ち着いてきたが、依然として寂しさは残ったままだ。

 

スバル「…兄さん、やっぱり『宇宙飛行士になって父さんを捜し出す』ことが…僕の生きる意味なのかな…?」

 

目を閉じ、父の形見であるペンダントを握りながら、いつかの記憶を想起する。

 

 

 

 

 

**

 

―父と兄が宇宙へ行く一週間前―

 

 

その日の昼。兄さんと二人で散歩し

この町の河川敷にあるベンチで談笑していた…。

 

スバル「…ねぇ、水希兄ちゃん」

水希「ん、どした?」

スバル「水希兄ちゃんは宇宙飛行士じゃないのに、どうして宇宙へ行けるようになったの?」

水希「ブフッ!!…ゲッホゲッホ!!!」

スバル「え、ちょっと大丈夫!?」

 

そういや…飲んでたお茶吹きこぼしてたっけ…

聞いちゃマズいことかなと思いながら背中をさすっていたと思う。

 

水希「あ"~…ごめんごめん。んとね」

 

少しの間、言葉を詰まらせるが「…スバル。お父さんがどこでお仕事しているか知ってる?」と聞かれ「NAXA!」と元気よく返事し、兄さんは頷く。

 

水希「そのNAXAで最も偉い人に、ちゃんとした理由を言って頼んだらOKしてくれたの。

あーでも…実際、宇宙飛行士になるためには体を鍛えたり、たくさん勉強しなきゃダメだからね?」

スバル「いいな~」(^▽^*)

水希「…まぁその理由ってのが、ただ宇宙が好きなだけじゃないんだよね…」

スバル「そうなの?」

 

兄さんは静かに頷く。

 

水希「僕にとっての"生きる意味"を見出だせたから。かもね…」

スバル「…生きる意味?」

水希「そう。『自分の得た力で、大切な人を守るために戦う』……それが今の僕にとっての生きる意味なんだ」

 

"それ"が宇宙に行く理由とどう関係するのか…

今でもよく分からないが、当時の僕には凄いねと一言かけるくらいしかできなかった。

 

スバル「……僕にも、あるのかな?」

水希「…それは自分で見つけない限り分からないよ。でもきっと…スバルだったら簡単に見つけられるんじゃないかな?」

スバル「ほんとに!!」

水希「ほんとほんと!」

 

 

 

**

 

 

 

目を開け、もう一度空を見る。

 

スバル「…ねぇ、今どこにいるの…父さん。

…お願いだから早く帰ってきてよ。母さんも、兄さんも…ずっと会いたがってるんだよ?」

 

父さんに会いたい。

その一心で本音をぶつけていると、トランサーから妙な音が鳴り響き、何事かと思いつつ画面を見る。

 

スバル「……?!」

 

音の正体は、父さんからの通信だった。

やっぱり生きてたんだ!と、喜びのあまり気が動転する中、スポットライトを浴びるかの様に周りが明るくなる。

顔を上げたときは遅く、青い光が目の前まで近づいてきて

 

スバル「うわあぁぁぁぁぁぁぁ――」

 

雷に打たれるような感覚に襲われ、意識が途切れそうになったその時――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「………ここが地球か……」

 

聞き覚えのない低い声が耳に入った…。

 

 

 

 

 

 

 

 




機械トラブルを起こした時の対処の流れ

1、各機器の電脳にウイルスが紛れ込んでいた場合、水希君が電脳の中に入りデリート。
スバル君が家にいる間は、彼をこき使……頼みを申し入れる。

2、1でも対処しきれなければ、天地さんを(攻撃表示で)召喚する。

ってな感じです。

水希君は戦えるけど、機械を感覚的に使い慣らすタイプに設定しており、知識は全くと言っていいほどないです。
あと、スバル君に頼む理由は後に説明します。
(……ヒントは、5話のあのシーンです)



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7話 二人目

お ま た せ

やぁっと完成したよ疲れたよォォ~

改めて他の話を読み直したけど
ゲテモノ料理感が半端なくてボロボロになっちまったよ。うん…(特に4話のフードディスペンサーのくだりとか)
あと急にタメ口になったのは許して…ほんと…

注意! この作品は……

・原作とかけ離れた設定
・キモい文章&日本語が変
・露骨なキャラ崩壊 (特にあかねさん)
…等の成分があります。

それらが大丈夫な方だけどうぞ

それと、後書きにアンケートを設けたので、良ければ読者様の意見をお聞かせください。

3/14 追記

新たにお気に入り登録者が一人増えたこと
この小説を評価してくださったこと
いつの間にUA数が1500を越したことに驚き。
(その一割を作者が占めておったのは内緒でw)

ダメ出しされそうな点が多いですが、何だかんだ読んでくださり、ありがとうございます。
原作の1~3までのストーリーをグタグタ書いてますが、最後までお付き合いいただければと思います。



 

 

 

 

大吾さん達の捜索が断念されてから三年たった。

 

現在、居候の身となった僕は今日…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起きて早々、姉にこき使わされてました。

 

 

 

 

話を聞くと一向に点かないテレビと格闘しているようで、見てきてくれと頼まれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…しかし

 

 

水希「ただいまー」

あかね「あらおかえりーって、早ぇよ!!

 

いつものように電脳へ入ったものの、悉く追い返され…故障だと判明してすぐ、天地さんに連絡を取ることになったのです…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

~1

 

 

AM 9:30

 

 

水希「――そんじゃ行ってくるね~」

 

あとの事は任せ、夕飯の買い出しをしようと出た途端にメールの着信音が鳴り、内容を確認する。

 

『各地で発生する電波ウイルスを、デリートしてほしい』と、サテラポリスからの依頼が送られ

更に一通、位置情報を印したメールが届いた。

 

先に依頼(そっち)を済ませようと物陰に隠れ、呼吸を整えてからカードを差し……変身体となる。

 

 

 

 

 

 

水希「…行きますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウェーブロードを伝い、指定された場所にて

ウイルスバスティングをすること2時間…。

 

あらかた片付いたところで一息つこうと河川敷へ立ち寄り、周辺を確認してから解除した後ベンチに座る。

 

水希「ん~…はぁぁ。とりあえずはこんなもんかな」

リヴァイア『だいぶお疲れのようだな』

水希「まぁね…」

 

陽気に当てられながら体を伸ばしていると、スピーカー越しに話しかけられ、反応するように画面を覗いた。

 

水希「今何時?……いちだいじ~⤵」

リヴァイア『怒られるからやめい』

 

時刻は11時半。ちょっとマズいなと焦りだす。

 

普段は長くても1時間以内に済ませていたが、今回は時間をかけ過ぎた上、討伐のことは一切話していなかったので()()()()()は今お冠だろう…。

100%自業自得だが(涙目)

 

水希「姉ちゃん怒ってるだろうなぁ…」

リヴァイア『まぁ、今回は派手に動き回ったし、多少はな?』

水希「帰りたくねぇよぉ~」

 

リヴァイアのフォローに愚痴を溢しながら、トランサーを弄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

依頼人に討伐完了の報告をしていた。

 

 

 

 

 

水希「…大体こんな感じです。あの…飯島(いいじま)さん。

やっぱり…5年前と比べて、ウイルスの発生が多い気がしますよね…?」

 

前に聞いた話、サテラポリスの人達は掃除機に似た装置で捕獲するという…僕とは別の手法で対処しているらしいが、数の多さに骨が折れるのは変わらないようだった。

 

飯島『あぁ。世の中便利になる分、タチの悪い輩が現れるのは必然的だからな。

俺も隊員と共に捕獲しているが、範囲が広すぎて参ってたから、助かってるよ…』

水希「僕に出来ることはこれくらいなので、お役に立ててよかったです…」

 

しばらく沈黙が続くと、飯島さんの表情が重くなる。

 

飯島『…こんな時に言うのもなんだが、疲れたら遠慮なく休んでいいからな? もし倒れたりしたら、お姉さん…物凄く心配するだろうから』

水希「…わかってます。…飯島さんも気をつけてくださいね。危険な個体に出くわして…もしものことがあったら、奥さん達が悲しむはずですから…」

飯島『ハハ、用心するよ。それじゃ、上には報告しとくから。報酬の件はまた後でな

 

若干ひきつるように笑う彼に笑みを返す。

 

水希「はい。宜しくお願いします」

 

一通り話し終え通話を切る。

 

リヴァイア『あとは買い物だけだな』

水希「だね。まだのんびりしてたいけど…」

 

駄弁っている間にメールを見ようとした途端、また着信音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

電話の相手? それはもちろん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……例のあの人でございます。はい…。

 

 

イヤダァ!!出たくない(◯にたくない)!!出たくなぁ~い(◯にたくなぁ~い)!!!(切実)

あ…でも出なかったら出なかったで、お先真っ暗な未来へ直行になりそうだしトランサーから真っ黒いオーラ出てるぅ!!(※幻視です)

しかも髪の長いお姉さんが井戸から出てくる映画の曲流れてるぅ!!(※幻聴です)

あーもう! どうとでもなれ!!

 

 

 

 

 

…ってな感じで人差し指と訳のわからん格闘して通話ボタンを押したとさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかね『み~ず~きぃ~? 「ひっ…」 アンタ今どぉこほっつき歩いてんのかしら…?』(⌒⌒)

 

案の定、お姉様はお冠でした。

普段見せる愛想の良い笑顔からドス黒いオーラが漏れ出ている辺り…

電話越しでも分かる。ヤバいやつやん!!!

多分これ、買い物サボって遊び歩いてると誤解してるパターンだわ。

とりあえず弁明しよう!そうしよう!!

 

水希「…ちょ、ごめんって! 野暮用で時間かかったんだよぉ」

あかね『何が野暮用よ!! ったく…罰としてお昼ご飯買ってきなさい!』

水希「…うっわ、そう来たかー…」

あかね『え、何か声に出てるけど文句あんの?』

水希「めめ、滅相もないっすよ~ hahaha!」

あかね『声震えてんぞ?』(¬_¬)

水希「キノセイダヨキノセイ」

 

まぁ…()()に比べたらだいぶマシな方か、と

過去に経験したトラウマ同然の記憶がフラッシュバックするが、なんとか会話を繋げようと口を開ける。

 

水希「…ご、ご要望は?」

あかね『久々にハンバーガーが食べたいからよろしく。あと買い物…ちゃんと済ませて頂戴ね?』

水希「りょ~か~い。…はぁぁぁぁ…」

 

通話を切り、重く溜息をつく。

心無しか…メンタルがだいぶすり減った気がしてまた溜息をついた。

 

リヴァイア『お~い、大丈夫か?』(;¬_¬)

水希「うん? あぁ……まぁ、うん…」

リヴァイア『ダメだこりゃ…』

 

心を落ち着かせようと川を眺めていたら…

向かって真後ろの土手から、子供達のはしゃぐ声が聞こえ…振り向く。

確か今日は始業式が行われたはず…だとしたら今は帰る途中で、帰ったあとに何して遊ぶのか話し合っているのだろう。

 

水希「…ここも変わんないなぁ」

 

いつかの記憶を思い返しながら、そう呟く。

 

この町(コダマタウン)で育って20年。

変化が著しい時代、人より刺激的な人生を送ってきたが、この町の景色はほとんど変わらなかった。

今居る河川敷もその一つで、リヴァイアに出会ってからも、事あるごとに立ち寄るほど思い入れのある場所になった。

対岸を繋ぐ車道橋や、いつかの電波塔は…年季を感じる見た目になっていたが、定期的に行われる点検で今でも現役を張っている。

 

変わらず平和な日々が続けばいいのに…と、

心の中で独りごちる。

 

水希「…よいしょっ、と」

 

もうひと頑張りしますか!と立ち上がり、橋の下に隠れ、トランサーを構えた。

 

 

水希「電波変換!―――

 

 

…が、この時は全く気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「?……(もしかして、水希なのか!?)」

 

かつての友人である男に、変身する瞬間を目撃されたことに…

 

水希「…っしゃ、行きますか!」

リヴァイア『おう!』

 

 

??「っ、待ってくれ水希!!」

 

 

 

焦りながら土手を下ろうとしたが時既に遅く

ウェーブロードに飛び移る際、電波化させたので男からしてみれば見失ったも同然。

男は橋に近づくと、顔を見上げる。

 

 

 

 

??「……お前、生きてたのか…?」

 

その一言が、僕の耳に届くことはなかった…。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

~2

 

 

PM 17:50 星河家のリビング

 

 

肘をつき録画したアニメを見ていると、廊下に繋がるドアが開いた。

姉がこちらを凝視している。

 

あかね「…ねぇ。夕飯まだ作ってなかったの?」

水希「……え?」

 

恐る恐る時計を見て、青ざめる。

 

水希「ごめん、今すぐ作るわ…」

 

アニメの視聴を止め、準備に取りかかろうと冷蔵庫を漁りはじめる。

 

あかね「ま、今日は休みだから私が作ってもよかったけどね」

 

クスクスと笑いながらリモコンを取る姉に

 

水希「いいよ、今日は簡単なものだから」

 

と返した。

 

鯖三切れをグリルに入れ、適当にあった具材で味噌汁を作っていると、セットしておいた炊飯器から音が鳴る。

この工程で10分ほどかかり、鯖がいい感じに焼き上がったところで火を消した。

 

水希「……?」

 

冷蔵庫から作り置きの金平を取ろうとした時、急に悪寒が走る。

表情が曇るなか、窓に寄り外の様子を確認するが

…特に何の変化もなく

 

水希「…気のせいか」

 

カーテンを閉めようとした瞬間…

一筋の光がある場所へと落ち、目を細める。

 

水希「…リヴァイア、今の光見た?」

リヴァイア『あぁ。師匠…ペガサスの言った通りなら、ヤツらのお出ましだろうな。…恐らく展望台付近にいる』

水希「…マズいな。あそこには「どうかしたの? さっきからブツブツと」…お姉ちゃん」

 

いつの間に隣にいた姉の方へ振り向く。

 

水希「いや…なんかさ、妙な周波数……人でいう気配を感じて胸騒ぎがしたんだ」

 

胸騒ぎ?と姉が聞き返すとリヴァイアは頷く。

 

リヴァイア『はい。そのわりには妙に懐かしいなと思いましたが…』

あかね「リヴァイアくんまで…」

水希(…懐かしい周波数…か。だとしたらあれは…今は考えても仕方ない…)

 

二人がやりとりしている間、右手でエプロンを脱ぎ捨てる。

まだ彷徨(うろつ)いているなら、波長の合う器を探しているはずだ…。

 

あかね「どこ行くの?」

水希「展望台。…スバルが心配になってきた」

あかね「待ちなさい水希、私も行くわ」

水希「でも」

あかね「いいから行くわよ」

水希「あ、ちょっと!……はぁ、しゃーない」

 

姉の同行はかなり危険だが、今は揉めてる場合ではないため、展望台へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

その道中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あかね「天地くんから聞いたわよ、アンタが影で戦っていること」

水希「…まぁ、遅かれ早かれ知られるわな…」

 

急に問い質されて口ごもるが、素直に返答することにした。

 

あかね「今のままじゃダメだと思って、鍛え直そうとしてるんでしょ?」

水希「…わかっちゃった…?」(; ̄▽ ̄)

あかね「そりゃね。…私とアンタの立場が逆なら尚更、同じことを考えてたわよ。きっと…」

 

呆れ顔の姉にそれもそうか、と苦笑している間に階段へ差し掛かる。

 

あかね「…一つだけ聞かせて。アンタ…ケジメをつけるために捜しに行こうと考えてるの?」

水希「…うん。でも僕らだけじゃ、不安要素ありまくりだし、頼れる人達の協力が必要だろうけどね…」

 

一段ずつ…ゆっくりと上り進めながら淡々と話す僕を他所に、姉は顔を(しか)めた。

 

あかね「だからって…また失敗したら、余計辛くなるだけじゃない。

それを嫌ほど痛感したなら誰しも、心は折れるはずよ。アンタだってそうでしょう…?」

水希「…まぁね…」

 

小さく呟き、途中の踊り場に立ち止まる。

 

水希「確かに。何だかんだ言っても本当は、もう関わりたくないって嘆いてるのかもね…」

あかね「だったら…!!「でもさ」…?」

水希「自ら首を突っ込んだ以上…このまま何もしないクズに成り下がるより、抗えるだけ抗った方が何倍もマシだと思ってる。…それに――」

 

何年も一緒にいたから分かるんだ…。

 

水希「――僕なんかじゃ、大吾さんの代わりにはなれない」

あかね「……は?」

 

姉は目を見開いた。

 

居候してから二人の表情や精神は多少マシになったが心に穴は空いたまま……否、誰しもがそうだ。

 

大吾さんのような人間は、掲げた理想(生きる意味)の為に相応の努力と実績を積んできたからこそ、付いてきた人だっていた。

…そして(およ)そ関わりのある人は皆、悲しんだ。

 

逆に自分はどうだ。

変に力を見せつけ、出来る人間と勘違いして

その癖…肝心な場面で足を引っ張ってるだけのお荷物だ。

…結果、誰も彼もに恨まれる存在となり、大吾さんに危なっかしいと言われたのも頷ける。

 

 

 

 

自分の愚かさに気づいたからこそ、なおさら大吾さん達のことを諦めきれなかった。

 

 

 

 

水希「…ごめんね。ワガママばっか言って…」

 

姉は片手で頭を押さえ、やれやれと言わんばかりに首を振る。

 

あかね「ほんっと、大吾さんに似てきたわね。 一度決めたら曲げない所とか…」

 

おう、分かってんじゃねぇか。( ̄▽ ̄)

そう心の中で呟くと、つめた~い視線を感じたが気にせず歩を進める。

 

水希「…険しい道とわかった上で、自分の願いのために努力は惜しまなかったからね…あの人は」

あかね「…何を言っても退く気は無いのね?」

水希「当然。…何年かかるか分からないけど、それでも僕なりに償おうと決めたから…」

あかね「そう…。…ならせめて、私達の元へ帰れるように努めなさい。

もし途中で泣き言吐いたら、一発ブン殴ってやるから覚悟しときなさいよ…?」

水希「善処するよ。…出来る限りだけど」

あかね「出来る限りじゃなくて必ずよ! …リヴァイアくん。このバカのお()りはお願いね?」

リヴァイア『はーい、任せてくださーい!』

水希「…ねぇバカとか酷くね? ウチ泣くぞ…」

あかね「勝手に泣いてれば?」

水希「ひっでぇ…」(-_-;)

 

ようやく階段を上りきり、展望台の手前にある広場へと出た。

 

あいつ(スバル)のことだから、星を見る時は見晴らしのいい所にいる筈…と思いつつ歩いた矢先…

 

水希「うわっ?!」

あかね「キャッ?!」

 

急に地面が揺れ、よろめいていると

 

リヴァイア「危ねぇ!!!」

 

実体化したリヴァイアに抱えられ、来た道を引き返すように飛ぶ。

すると、先程いた場所に黒い物体…広場に展示されていた機関車が現れ、一歩遅ければ今頃…突き飛ばされていただろう。

心臓に悪いったら、ありゃしないなぁホント…。

ある程度距離をとると、心配そうな顔をしながら僕らを踊り場に下ろした。

 

リヴァイア「大丈夫か? 二人とも…」

水希「…なんとかね」

あかね「ありがとう。でも、どうして急に…」

リヴァイア「多分、ウイルスの仕業かと…ッ!」

 

リヴァイアが話している最中、汽笛の音に遮られる。

 

水希・あかね「「うるさっ!!」」(**)

 

あまりの五月蝿さに一同は耳を塞ぐが、すぐに止んだ。

原因が何であれ事態が悪化する前に対処すべきと判断し、姉にここから離れるよう伝えると

気をつけてと言われ、姉はその場を去った。

 

水希「……さてと」

 

本日三度目の変身を済ませ階段の頂上付近を見つめると、車両が顔を覗かせるように向き直している。

嫌な予感をしつつ、上空に飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

~3

 

ふと見下ろすと、煙突からは橙色の光が渦巻いていた。

あれが電脳世界の入り口なら、ウイルスがおイタをしているのも納得がいく。

空中でクルリと方向転換し広場に着地する。

 

水希 (…まずはここら一帯を囲んで、こっちに誘き寄せるか…)

 

右手を階段に向けて掲げると、胸当ての紋章と同じ模様をした水色の魔法陣が現れ、広場を囲うように複数…遅れて展開される。

何かを察知したかのように車両が後退した瞬間…

 

水希「阻害せよ!」

 

発した言葉に応えるように魔法陣が光ると…氷の壁が生え、囲い尽くす。

特に階段側を分厚くしたので、強行突破されない限り町に進入されることはないはずだ…。

そして挨拶代わりに、左手にかき集めた水塊を車体に投げつけた。

 

水希「鬼さん、こちらァッ!!!」

 

勢いよく当たるも、音を立てて弾けただけだが

挑発のつもりなので何ら問題はない。

 

すると機関車は此方へ向き直し、怒り狂うように汽笛を鳴らす。……やっぱうっさい。

 

そう思うのも束の間。

お構い無しに突っこんでくるが、所詮はただの鉄の塊だ。

 

水希「よっ、と…」

 

体の周波数帯を変えて電波化させ、すり抜けることで難なく回避。

少し距離を取ったのちに実体化し、急停車するタイミングを狙って地面に展開させた。

 

水希「捕縛せよ!」

 

そう叫ぶと今度は、氷の鎖と水の縄が射出され、いとも容易く雁字搦(がんじがら)めにする。

一瞬…青い光が煙突に入った気がするが、構わず捕縛に集中を注ぎ、一分も経たぬ間に静止する。

先程の暴れぶりが嘘みたいだか、しばらくは発動した方が良いだろう。

 

リヴァイア『やっと鎮まったか。ったく、一時はどうなるかと思ったぜ。…とりあえず、壁だけ解除しとくぞ?』

水希「うん、お願い」

 

壁が消えていく合間、車両に近づく。

傷はついてないと分かり、ホッと息を吐いた。

 

あとは電脳にいるウイルスを倒せば解決だが、件の青い光のことが気になった。

 

水希(……まさかね?)

 

散々僕達を敵視していたFM星人達(アイツら)が、ここに来て協力するだなんて……普通はあり得ない。

そう考え込んでいると…ポフッ、と左肩に手ヒレが乗せられ、険しくなっていた顔は少し緩んだ。

 

リヴァイア「……どうする?」

 

そんなの…決まってる。

 

あるフォルダから隠密用アイテムことステルスボディを使い、気配を消した。

 

水希「行こ」

リヴァイア「りょーかい!」

 

様子見の為、後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

―機関車の電脳世界―

 

 

 

水希「…お、戦ってる戦ってる」

 

青を基調としたバトルスーツを身に纏う子供を発見した。

子供は今ウイルスを討伐する最中で、オドオドしながらも順当に退治してるようだ。

…よく見ると髪は鶏冠(とさか)のように逆立っており、聞き覚えのある声でバトルカードを使用している。

 

 

水希「…リヴァイアぁ、アイツ…もしかしたらスバルじゃないかと思うんだけど…」

リヴァイア『だろうな。大吾さんと似た周波数を持つとしたら…現状、一人しかいないしな』

 

念のため相棒にも聞いてみたが、同じように勘づいてたようだ。

こうしている間にも倒している。

 

水希「…にしても随分と飲み込みが早いな。まぁ何にせよ、これから上手くやれるかどうか……心配になってきた」

リヴァイア『確かに。…俺も流石に予想外だったわ。いきなり二人目が現れたと思えば、乗っ取られてる様子もねぇし…』

水希「――しばらくは様子見しときますか」

リヴァイア『だな』

 

一足先に現実世界へ戻ったあと、機関車をレールの上に戻してから変身を解いた。

何時になく疲れが溜まりすぎて満身創痍だ。

…早く風呂入って寝たい。

 

水希「…あ、そうだ。メールしとこ」

 

思い出したかのようにメールで

『こっちはもう終わった。それと、スバルは無事だったよ』と打ち、送信する。

 

??「兄さん…?」

 

後ろから呼び掛ける声に反応し振り返ると、戦い終えてウェーブアウトしたであろうスバルが驚いた表情で走って来る。

僕達の存在に気付いてるか否か…考えるのは後。いつも通りに接しよう。

 

水希「おぉスバル! 展望台から変な音が聞こえて、心配で来たけど…大丈夫だった?」

 

対するスバルは肩で息をしたまま、ゆっくりと返答した。

 

スバル「う、うん。実はその時、機関車が暴走してたけど…踊り子みたいな格好をした人が止めてくれたから大丈夫…」

水希「…そっか。無事で良かったよ」

 

丁度いいタイミングで着信音が鳴る。

 

水希「?…メールか」

スバル「誰から?」

水希「お姉ちゃんから」

 

『お疲れ様。ご飯は各自で温めなおしといて』と書かれた文に

『おっけー (*^ー^)b』と返信した。

 

水希「ご飯、各自で温めなおしといて…ってさ」

スバル「ふ~ん…」

 

キュルルと腹の虫が鳴り響く。ワタシチャウデー

 

スバル「もう少し星を見ていたいけど、お腹すいちゃった…」

水希「そんじゃ帰りますか」

スバル「うん!」

 

この後、極度の疲労に耐えながらも夕食と風呂を済ませ、真っ先に布団へダイブしたのであった。

 

 

 

 




機関車の暴走を止めるシーンについて

4話にてリヴァイアが「力を制御するためにペガサス自身が稽古をつけてくれた」と言ったのをヒントに

魔法陣から生成された氷と水を、自在に操る力の併用で出力 威力 形状化の調整を行う技を半ば強引に作りました。


飯島さんのプロフィールを簡潔に書きます。

飯島(いいじま) 隆介(りゅうすけ) 182cm/35歳

大吾さんと同い年で元同僚。若干強面
職場内での服装は流星3のサテラポリスの隊服を使用。
名前の由来→流星3の依頼イベントに出てくる
「よこげり リュウスケ」さんの名字をモジった。
以上

飯島「もう少し詳しく…」
作者「ごめん、無理(燃え尽きた的な意味で)」
飯島 (´・ω・`)


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8話 変わりゆく日

水希視点中心で行くか、間を挟むように他の視点も入れるか迷う……。

2020 7/31追記。脱字を書き足して修正


 

水希side

 

AM 7:30

 

展望台での一件から次の朝。

 

 

水希「ねぇ~、スバル~ちょっと起きてくんね?」

スバル「う~ん…」

 

こんな朝早くに何故スバルを起こそうとしているのか……まぁ、ちょっとした理由があったんすよ。

 

キッチンにて朝ご飯を作っている時のことでした。

 

 

**

 

 

昨晩はいろんなことが起こった。

某所にて機関車に轢かれかけるわ、スバルが異星人とご対面し合体(なかよく)してるわ、戦えてるわでもう散々。

しばらく依頼は控えた方がいいかもな…と悩まされながらも、フードディスペンサーにレシピを送信する。

品目はスバルの大好きな(苦手な)オートミールだ。

悪意はないです。         …たぶん。

 

設置した皿の上に粒子のようなものが纏まり、ひとつの料理に変わる……はずだったが、急にバチバチと静電気が起こり、ボンッ! と破裂。

プシュ~と中から煙が漏れ、鼻を摘まんだ。

 

水希「…くっさ、なんなの急に…」

 

故障を疑っていると、3体の引っつき虫がメットー♪とハモってやがった。ま た お ま え か !!

 

リヴァイア『ん…、みずきぃ、なにごとー?』

水希「メッt――じゃないわ…。実はさ…」

 

寝起きのリヴァイアに状況を説明中…。

 

水希「…ってなわけ」

リヴァイア『とんだ災難だな』

水希「まったくだよ」

 

まぁ、この程度なら…と〈ソード〉を差し込むが何故かレヴィアワンドが現れ、反射的に掴む。

わざわざ変身せずとも、()()()()()ならカードを通すだけで倒してくれるが、電波体になった影響か……?

呆気に取られていると杖から剣が生えた。

 

水希「どうしよ、これ…」

リヴァイア「別に難しく考える必要ねぇと思うぞ」

水希「どゆこと…?」

リヴァイア「試しにカード抜いてみ?」

 

リヴァイアの指示通りに抜くと、剣が粒子となって消え、杖は端末の中へと戻ったと思えば

 

リヴァイア『ほらな!』( ̄▽ ̄)b

水希「お、おう…」

 

このドヤ顔である。

しかも手ヒレに纏った水で親指たてる様に形作っておるし。…どんだけ器用なんだよお前。

 

リヴァイア『…ん? どうした?』

水希「いや、なんでも。……こうなりゃ猫の手借りるしかないか~」

リヴァイア『……使い方間違えてねーか?』

水希「言わんでいいのー」

 

 

**

 

そんなこんなで今に至るってわけです。

…おっ、やっと目が覚めたか。

 

水希「おっはースバル」

スバル「…もぉ~なんだよ朝っぱらから。…学校なら行かないよ?」

 

ムクリと起き上がり、目を擦るスバルに苦笑をこぼす。

 

水希「そうじゃない。フードディスペンサーの調子がおかしくなったから、見てほしいんだよ」

スバル「…忍法、タカザワジュンノスケの術!!」

_(:3」∠)_

 

と、訳のわからんことを言い、布団にくるまろうとする。何してんだか。

 

水希「なーに露骨に嫌がってんだよ。ほら起きろ! おぉ~い!」

 

 

 

~しばらくお待ち下さい~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

布団でくるまるスバルともみくちゃして数分後。

キッチンまで強制連行した。

 

水希「朝ごはん、オートミールに設定したんだけど…」

スバル「またオートミールなの?」

水希「なにさガッカリしちゃって。毎朝同じメニューにしてないだけマシと思えばいいじゃん」

スバル「むー」( ´_ゝ`)

 

頬を膨らせブーたれながらレシピを送るが、結果は変わらず。

一歩下がり、ビジライザーをかけたと思いきや、何かを確信したように言いだした。

無論、わかりきったことだけど。

 

スバル「やっぱり電波ウイルスの仕業か」

水希「もしかして、レシピを送る時に紛れ込んだんかな…」

スバル「多分ね。…ていうか、これくらい兄さんでもどうにか出来るでしょ?」

 

…随分と痛いとこ突いてくれるねぇ、スバル…

 

水希「あー…その事なんだけど、電波体になってからか、バトルカード差しても反応しなくてさ…」

スバル「メールと電話使えるのに? …な~んかあやし~」

水希「ホントだってばー…」

 

勿論苦し紛れの嘘だ。

最悪、虫共をソードでぶった斬るという選択肢もあったが、場合によっては誰かさんの◯意の◯動が目覚めるので却下。…壊す気でやるのもどうかと思うが。

 

水希「頼むよ! この通り!」

スバル「…はいはい」

 

懇願する姿に呆れられたが、その後なんとか退治してもらい、やっと料理が……あれ?

レシピ通りならオートミールのはずだが、目の前にはホットケーキが3枚…重なっていた。

…まさかとは思ったけど

 

スバル「いっちょあがり!」

 

コイツが犯人でしたぁー!!

 

水希「こら、勝手にメニュー変えやがったな?」

スバル「えへへ~」(^‐^)♪

 

半目で睨みつけ、こめかみをつつくが悪びれる様子もなく効果は今一つだ。

 

水希「…ったく」

 

…まあいっか、ちゃんと手助けしてくれたし。

先ほどのことは水に流し、調理台に置いてあるサラダを渡す。

 

水希「じゃ、これもテーブルに運んどいてー」

スバル「わかった」

 

一通りテーブルに並べ、椅子に座ったところで合掌する。

 

水希・スバル「「いただきます」」

 

ホットケーキを一枚取り、切り分け、口に運ぶ。案外悪くないなと食べ進めるなか、スバルは誰か探す様にキョロキョロさせていた。

 

スバル「…そういえば、母さんは?」

水希「ん? あぁ、ふぁーほにひっへるよ(パートに行ってるよ)。…今日は早朝からだって」

スバル「そうなんだ」

 

急な質問に口元を隠しながら答え、納得したスバルはホットケーキを頬張り…満足そうな表情を浮かべる。

その顔を見れて頬が緩む。大吾さんにも見せたいくらいだ。

 

水希「最近見れてないけど、勉強は進んでる?」

スバル「…まぁまぁかな……多分、他の子に遅れはとってないよ」

水希「そっかそっか…。それを聞けて、お兄ちゃんは安心だゾ!」

スバル「…………」

水希「…あ、あの~…、急にだんまりとかやめてくれません…?」

スバル「……兄さんは、何も言わないの?……学校に行けとか…」

 

……さっきは行かないとか言ったくせに……解らなくもないけど。

フォークを置き、スバルの方を見つめる。

 

水希「なんなら、今日から通ってみるか?」

スバル「っ……」

 

我ながら意地悪な返しにスバルは一瞬固まり、項垂れる。

やり過ぎたと反省してはいるが正直な所、先の長い人生……どう歩むかをスバル自身で考え決めなければならないし、何より、誤った選択をしたと後悔して欲しくなかった。

だからと言って、あーしろと指図するなんて以ての外だしね…。

 

水希「別に無理しなくても、スバルがその気になるまででいいんだよ。お姉ちゃんだって、そう思ってるはずだし…」

スバル「ごめん、兄さん」

水希「…おかわりするか?」

スバル「する」

水希「おっけ!」

 

立ち上がろうとしたとき、室内にピンポーンと鳴り響く。宅配か?

 

水希「…珍しいな、こんな早くに」

スバル「僕が出よっか」

水希「いいの?」

 

キョトンとする僕に大丈夫と言ったスバルはそのままリビングを離れ、廊下の扉が締まったあと座り直す。

 

水希「……。やっぱり、スバルのトランサーに居座ってたね…」

リヴァイア『もう気づいてるかもな、俺のこと』

水希「こんだけ近くにいればね…」

 

電波体となった今、昨晩の少年がスバルだと知ったように、個々の周波数を感じとるのは簡単だった。

警戒されていようと、味方として立ち回れるなら手助けしたいけど、下手すりゃ拗れるしな……どうしたものか。

マグカップに手を伸ばし、コーヒーを啜る。

 

水希「……にしても、今頃どこ彷徨(うろつ)いてんだろ――――()()()

リヴァイア『…さぁな。なんかありゃあすぐ飛んでくるし、今んとこ問題ないだろ?』

 

だと良いけど…と呟き、少し間をおいて窓の外に視線を移す。

 

水希「ねぇ、ひとつ聞いていい?」

リヴァイア『何だ?』

水希「…昨日、青い光を見て『懐かしい』って言ってたじゃん。それってどういう意味なの?」

リヴァイア『ん~……なんと言うか、どことなく()()()()って感じがするんだよ…』

水希「…アンタと同じねぇ…」

 

一旦考えるのをやめ、コーヒーを飲み干した直後…

 

スバル「ちょっと離してよ!」

??「ぜ――っったいに離すもんですかっ! なにがなんでも学校に来てもらうわよ!」

 

少女?の強迫してそうな声とスバルの拒絶してそうな声がここまで届き

 

リヴァイア『なーんか騒がしくなったなぁ』

水希「だね…」

 

確認の為、玄関へと向かう。

 

水希「スバル、どうかしたのー?」

スバル「兄さん助けてぇ!」

 

どうやらスバルは玄関にて少女と揉めていたらしい。ドリr……スバルとはまた違った特徴的な髪型をしてらっしゃる……。

 

??「えっと…、お兄様でいらっしゃいますか?」

水希「えぇ、一応は…」

 

なんか、口調変わってね…? (・_・;)

 

??「はじめまして。私、白金(しろがね)ルナと申します。星河君とは同じクラスで学級委員長を務めさせております」

水希「…はぁ。ご丁寧にどうも」

スバル「いや、何しれっと話進めちゃってんのよ…」

 

ごめん、思わず口走っちゃった☆

 

ルナ「星河君のことは、どうかこの私にお任せください! ――さぁ、行くわよ」

スバル「ちょっ! まっ、兄さ~ん」

 

スバルが悲しそうな目でこちらを見ている。

……連れ戻しますか?

 

はい

いいえ 

 

水希「スバル… Good luck」( ̄▽ ̄)b

スバル「こんの裏切り者がぁぁあぁ!!!」

 

とりあえず、スバルをあたたか~い目で見守ることにした。

 

何の接点もない筈のスバルに接する少女の姿が、電波を視れること以外何もない自分に声をかけてくれた友人と似ていた。

端から見て半ば強引そうな所が、アイツとそっくり……でも、その手を振り払ってたら前に進めなかったと思う。

だからかな……無理矢理にでも連れ出すのは、手段としては悪くないって思えたのは――

 

感傷に浸るなか、二人の影は小さくなる。

 

水希「スバル…」

リヴァイア『……心配すんなよ』

水希「でも…」

リヴァイア『人間だろうがそうでなかろうが、生きてる限り…きっかけがあればいつだって変われるもんさ。……だから、今はスバルを信じようぜ』

水希「! …………そうだね」

 

少しずつでもいい。スバルには、またあの頃のように笑っていてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、僕の願いでもあるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

…それから数日後に起こった実家での出来事。

 

 

ある人物が呼び鈴を押そうとする。

 

母「はぁい。どちらさ………**君…」

 

??「…お久しぶりです。……水希のことについて、お聞きしたいことがあるんですが――」

 

この時から事態が悪化していくなど、知る由もなかった。

 

 




アンケートで紹介した水希の友人(←名前はまだ未公開)との話は、ミソラ編と同じ時間軸として書く予定です。
形として

〈ミソラ編〉
・内容は原作通りなのでほとんど省略するかも…
・水希の介入は少なめ。

〈友人編〉
・作中オリジナルシナリオ
・登場キャラは水希と友人中心(原作キャラも登場予定)
・むしろこっちがメインになる

4/3追記: 名前は次話辺りで公開する予定。


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9話 変わらぬ日

地の文の文字数が少ないのもあり、結構短めです。



〜1

 

水希side

 

 

AM 11:08

 

 

スバルが例の少女に連れ出された後のこと

 

洗濯物を干し、食器を片し、合間にテレビ見ながら掃除したりと、大体は普段通り。

でも今日はいつもより早く、風呂場で汗を流していた。

 

電波体といえど、依然、人としての習慣は抜けることはないし、五感や欲求などは人として生きた頃となんら変わらることはなかった。

天地さんから聞いた話『リヴァイア君と同様、生き物であることに変わりないからだろう』と言っていたが、()()()()()()()()()()()()()()

 

ともあれ、日常生活においては当たり前だったことも、生きてくうえで大事なものなんだと改めて実感するようになった。

変に誇張しすぎたかな…まぁいいや。

 

レバーを〘止〙に回し、目元を拭う。

 

水希 (スバルは……帰ってないか)

 

レーダー探知機みたくスバルを探るように念じてみるが…それらしい気配は全く感じない。

本当に学校まで連れて行かれたとしたら、今ごろ…相方はひどく退屈そうにしてるだろう…。

現に()()()()もそうだったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ぬあぁぁぁあぁぁぁぁもうだりい!

ガッコーだりいよ!帰ろうよ!水希ぃ〜!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁ、当時は僕以外見えないのをいいことに…いつも教室内で喚いていたものだ。

 

今でも頭ん中で木霊するぐらいだしね。

コダマタウンだけに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…湯冷めしそう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湯煙に曇った鏡を拭き、覗くと……いつかのように目が死んでるようで、隈も薄っすらと浮きでている。

いつにも増して不気味さを感じてしまい

 

水希「……ひっどい顔…」

 

と、憐れむようにほくそ笑み、風呂場を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

髪を適当に乾かしたあと、6畳ほどある部屋に戻り、ローテーブルにお茶を置いて胡座をかく。

 

物置として使う予定だったのか…他と比べ狭いが、過ごせなくはないし、使わせてもらってる以上散らかすわけにもいかず、布団と衣服と…あとは家から持ってきたマンガくらいしか物を置いてない。

…とは言ったものの、所々ごちゃごちゃしはじめている。後で掃除すっか…。

 

そう思っていると、テーブルに置いたトランサーからリヴァイアが飛び出てきた。

 

リヴァイア「…やけに長風呂だったな」

水希「考え事。それでちょいと時間食っちったわ…」

 

ひとまずお茶を飲む。

風呂上がりなのもあり、コップ半分ほど飲み干してテーブルに置いた。

 

リヴァイア「…まーだスバルが心配か?」

水希「まぁね」

 

内心、スバルへの行いに対する反省半分

叔父(あに)としての意見で二の舞になって欲しくないという思い半分…複雑に入り混じっていたが

 

リヴァイア「無理すんなっつっても説得力ねーし、あのまま籠もりきりじゃアイツのためにもならん。どっかの誰かさんみたく、自信なくしてりゃなぁ…。だろ?」

水希「…きっびし〜」

リヴァイア「事実だから言ったまでだ」

 

バッサリと切るような辛口評価に苦笑いしていると、急に声のトーンを落としはじめる。

 

リヴァイア「…この先、お前の敵がいつ現れても可笑しくねぇ状況になる…。気ぃ抜くなよ」

水希「……うん」

 

『気を抜くな』……リヴァイアの言い分だと、弟が敵になることもあり得るが、正直…勝ち負け以前に戦える気がしない。雑魚ウイルスを相手にするのと訳が違うのだ。

 

だからといって臆病風を吹かれるままじゃ、先が思いやられるだけ。あの人に笑われるのが目に見える。

 

 

そうして、不安に煽られるまま机に突っ伏し…目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リヴァイア (……いずれ水希を、本気で殺しにかかるやつだっている。…ヤバくなりゃ俺が守ればいいが…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

〜2

 

 

ガチャン!

 

ドタドタドタ……バタン!

 

 

 

水希「……………んあ?」

 

下の階から物音が響きわたり、それに連られて、重くまばたきをしてから大きく欠伸をかく。

 

いつの間に寝ていたのか…。

でも何故かお布団の上で横になってるし、それに…抱き枕にしては大きいような…って、リヴァイア?

なんで横腹に頭置いてんの?

なんで上半身を長い首で囲ってんの?

 

頭がこんがらがる中、おもむろに体を起こすとリヴァイアの片目が開いた。

が、心なしか睨まれてる気がした…。

 

リヴァイア「…漸くお目覚めか。この抱きつき魔め」

水希「…どうしてこうなった」

 

とりあえずリヴァイアから離れると、寝ぼけ気味な頭でも分かるように解説してくれた。

……どうやら布団まで運んでくれた際に無理矢理引っ張ったらしく、気持ち良さそうに寝てたから動けなくて今に至るんだとさ。解説終わり。

 

水希「……その…、なんか、ごめん…」

リヴァイア「…今回限りにしてくれよ? ただでさえ、スバルに見つかったらマズいんだし…」

水希「肝に銘じておきます…」

リヴァイア「せめて寝る時にしてほしかったんだけどな…

水希「なんて?」

リヴァイア「何でもねーよ…///」

 

訊き返したら何故かそっぽ向かれた。

なんか顔赤くなってっけど大丈夫か?

 

リヴァイア「と、とにかく…。もうスバル、帰ってきたんじゃねーのか?」

 

その言葉に( ゚д゚)ハッ!と驚き…時計を見る。

時刻は15時前。4時間も寝てたのか…。

 

体を伸びほぐしてから下の階へ向かう。

 

階段を降りた先の扉に手をかける。

 

水希「…おかえりスバ――うわっ?!」

スバル「に〜い〜さ〜ん…?」

 

呼びかけに反応したスバルは笑っていたが、目が笑っていない…。むしろ声が殺意増し増しになっている。

 

あれぇ…この光景なんか既視感を覚えるなぁ。

体中にドス黒いオーラを纏って……

 

その僅か数秒後。スバルの左拳は顎に狙いをすました。

 

 

 

 

あ、これ死んだわ… ( ╹▽╹ )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 拝啓、大吾さんへ 〜

 

どうやらスバルは、あなたとお姉様の子であるんだと…

今日、身を持って思い知らされるそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水希「ぎょえぇぇええぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

アッパーを繰り出され意識が飛びそうになったが、倒れた矢先に背中と腰を強打。激痛のオンパレードに思わず横たわり、顎と腰を押さえる。

 

 

すごく…、痛いです…。

 

水希「お"あ"ぁぁあぁぁ……」

 

 

 

悶えるなか、スバルは知らん顔のままリビングを出て2階に上がった。

 

 

 

 

…解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《その後の会話》

 

 

 

 

 

 

あかね「……で、ずーっとリビング(そこ)で唸ってた訳ね…」

水希「…はい」

あかね「そりゃさすがに怒るでしょうよ…。慰めてくれた矢先にあんな事されちゃ、たまったもんじゃないわよ…」

 

 

あかね「? 何よ、私の顔になんか付いてんの?」

水希「いや……血は争えないなーってね」

あかね「…思い出に一発貰っとく?」

水希「遠慮しとくわ〜」

あかね「…少しは悪びれなさいよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

Noside

 

場所は変わり、天地研究所。

 

所長の天地が使う研究室にて。

 

 

 

 

??「なぁ、いい加減教えてくれよ深祐(しんすけ)。…本当は生きてんだろ、水希は…」

 

助手改め――研究員として従事する宇田海は、目の前にいる男に問い詰められていた…。

 

宇田海「…お前だって知らないはず無いだろ? 水希君は既に…3年前に交通事故で――ッ!」

 

言葉を遮るように胸倉を掴まれ、怯む間に男は喋りだす。

 

??「…あのなぁ…仕事場の都合上、話せないんだろうけどよ。事実を包み隠すための嘘ってことくらい分かんだよ…!」

宇田海「…信武(しのぶ)…」

 

信武は掴んだ手を離し、俯く。

 

信武「確かに俺も…あのニュースを見て、親父のことは諦めようと思ったよ…。…でも、アイツ生きてたんだよ……」

 

涙の滲むような声。悲痛な訴えに、宇田海は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

途端に顔を上げる信武の目は…どこか、寂しげだった。

 

信武「この目でアイツを見たんだよっ!! だから――」

 

ピンポンパンポーン

 

《…まもなく、閉館のお時間となります。ご来館のお客様は―――》

 

突如としてアナウンスが響き渡り、信武の言葉を遮る。

 

宇田海「……悪いけど、もう帰ってくれないか? …生きているかはともかく、お前に話せることは何もないんだよ……」

信武「………クソっ!!!」

 

信武は怒りに震えたまま研究室を去る。

 

宇田海「……褒められたことでもないけど、『何も話さないでくれ』って頼まれているんだ。だから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……力になれなくてごめんね、信武。

 

 

 

 

 

 

 

 




12/2追記。信武に対して「キミ」だと他人行儀っぽいので「お前」へ変更。

最後辺りは久々の三人称視点……割と頑張った方だとは思います。

最近は、物語の結末と信武編をどう作るか悩んでおり、なかなか進まず、続きを待ってくださってる方には申し訳ないと思っております。
…ですが、作者個人のペースで…なるべく上手く物語が繋がるように努力するつもりです。

それでは、次回もお楽しみくださいませ。


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10話 遭遇、そして…

原作を見返したのもあってか、意外と筆が進みました。
結構重ためです。

どうでもいい話、主は「魔法少女☆俺」が好きです。



5/4追記: 最後辺りに吐瀉表現ありなので、苦手な方はブラウザバックしてください。




◆◆◆

 

 

水希side

 

〜1

 

4/11 pm.17:00

 

――あれから、3日後の夕方。

 

部屋で音楽番組のラジオを聴く最中、ニュースに切り替わり、流れ始める。

 

〘…ニュースをお伝えします。えぇ近頃…コダマタウンにて、器物損壊事件が多発しているそうです…〙

水希 (…知らない間にそんな事があったのか)

 

続きが気になり、そのまま聞き耳を立てる。

 

〘住民の話によりますと…今日未明、市内にある郵便ポストが破壊されているとの通報があり…、また、今日に限らず…自動車や道路標識など……いずれも赤い物が共通して壊されていることが判明しました〙

 

…赤い物ねぇ。赤い物……なんか胸騒ぎがする。

 

〘これを見て警察側は『ポストを破壊した人物が関係しているのではないか』と、あくまでも人為的なものであると指摘しており…明日から市内を巡回し、厳戒態勢を取るそうです。

住民の皆様も…お出かけの際は十分、お気をつけください。…続いて、交通情報です。――〙

 

大方把握したところでラジオを止めた。

 

水希「…サテラポリスの人達、相当てこずってんのかな…?」

リヴァイア『犯人の目撃情報がないとしたら、どうしようもないんだろう、きっと…。…! 水希、○INEが来たぞ!』

 

瞬間…某SNSアプリの通知が届き、トランサーを見る。送り主は飯島さんからだった。

 

〈こんばんは〉

〈最近、コダマタウンで事件が起こってるけど…そっちは大丈夫か?〉

 

返事を書こうと指を動かす。

 

《こんばんは》

《もしかして、ポストが壊されたり…のやつですよね?》

 

〈そうそう〉

 

《さっきラジオで聞きました》

《特に巻き込まれたりはしてないので、こっちは大丈夫ですよ》

 

〈よかった (^^) 〉

〈…実はな。その事件のことで、君が犯人じゃないかって…一部の人間が噂してたんだよ…〉

 

《マジっすか… (−_−;)》

 

〈無論、ただのでっち上げだとは思うけどね〉

 

水希「………」

 

必死なフォローは嬉しいが、正直不安でいっぱいだった。

 

《疑われても仕方ないですよ》

《力の使い道を誤ったらロクなことが無いって、嫌ほど思い知ったし…》

 

〈そんなに悲観するな。俺も…署長も、君ではないとわかってるから〉

 

《そう言ってくれるだけでも嬉しいです》

 

〈俺も明日、そっち(コダマタウン)に向かう予定なんだ〉

 

《そうなんですね》

 

〈ああ。…もし、君が良ければだけど…、犯人の調査を手伝ってくれないか?〉

 

《もちろん、お安い御用です》

《あっ、それなら報告はメールの方がいいですかね?》

 

〈どっちでもいいよ〉

〈何か分かったら連絡してくれ〉

 

《わかりました》

《あの…、飯島さん》

 

〈どうした?〉

 

《ひとつ…お願いしたい事があるんですが、l――》

 

 

 

 

内容を書く途中、勝手な判断はだめかな…と、打つのを躊躇った。

 

でも、このままクヨクヨ悩んでても仕方ないと…全文を打ち終え、送信ボタンを押すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《――しばらくの間…討伐依頼は、お休みしようと思ってるんです》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして……署長に話を通してもらうことになり、アプリを閉じてホーム画面に戻る。

 

 

 

水希「…さて、夕飯の準備でもすっか」

 

部屋を出た瞬間、スバルと鉢合わせする。

 

水希「およ?」

スバル「あ…」

水希「…出掛けんの?」

スバル「うん…」

 

今日のスバルはなんか気まずそうにしている。

 

水希「気を付けなよ。最近、妙な事件が起こってるらしいから」

スバル「そうだね」

 

共に階段を降りたあと、スバルは玄関へ、僕はキッチンへと向かい

 

水希「あんま遅くなるなよ〜?」

スバル「わかってるー」

 

互いに言葉を交わすのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

〜2

 

扉を開けると、既に姉が夕飯の支度をしていた。

フライパンで何かを焼く音がここまで聞こえ、おまけに肉の香りが鼻孔を擽らせてきた。

 

水希「あちゃー、先越されたか」

あかね「そりゃあ私だって主婦だもの。あんたに楽しみを取られたんじゃ、生き甲斐がなくなるのと同義よ」

水希「さいですか」

 

パートタイムで働きに出ているとはいえ、時間があれば家事も(こな)すのだから、もうほんと尊敬しかないです。

 

今日のメインディッシュは大好物のハンバーグだと匂いでわかった。どうでもいい話、ソースはおろし醤油派だ。

付け加えの炒めた野菜と一緒にご飯をかき込みたい!

 

お姉様、早ぉっ!早ぉっ!

 

あかね「そんなに急かさなくても、もうすぐ出来るわよ…」

水希「ヘッヘッヘッヘッ」(* ̄(エ) ̄*)

あかね「ヨダレ垂らすな! はしたない!」

 

( ゚д゚)ハッ! いかんいかん…。

机にしがみつくほど興奮したせいか、姉の叱責も右から左へと流れたが、急いで口元を拭う。

あ〜ヤバい。お腹空きすぎてヤバい。腹の虫鳴りすぎてヤバい。

 

そうこうしているうちに料理は完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして…。

 

 

水希「ごちそうさまー!」

あかね「お粗末様」

水希「はぁ〜美味しかったぁ……――!?」

 

姉が食器を流しに置きに行く瞬間、不吉な気配を察知。

電波体だからこそ、余計に肌で感じやすくなるから困ったものだ。

 

水希 (もう来やがったか…!)

 

なんかもう狙ってるとしか思えないんだけど…。

無いわー。マジ無いわー。

 

スバルはまだ帰ってこないし、ニュースじゃ確か赤い物が………あれ? かなりマズくねーかこれ?

 

水希 (――御免!)

 

何も言わず電波化(ドロン)するのだった。

 

あかね「……あら? 水希…って、食器くらい片付けなさいよ…」

 

 

 

***

 

屋根へと転移し、着地。

 

クラクションが鳴り響き、現在進行形でスバルが車に追われていたが、途中で公園へと逃げたことでやり過ごした。

一方…軽トラは道路上を爆走するのみ。

 

リヴァイア『…独りでに暴れてるとは思えねぇな…』

 

リヴァイアがそう言うと同時に実体化する。

 

水希「…状況は?」

リヴァイア「――能力で確認したところ、車内に子供が二人いる。原因はウイルスの時と変わらん。…どうする?」

 

わざわざ確認を取るように話すが、どうするも何も、…んなの決まってんじゃん。

 

水希「電波変換! 星河 水希、オン・エア! ――

……行くよ!」

リヴァイア「応とも!」

 

変身を済ませ、屋根から強引に荷台へと乗り込む。

 

??「ウヒャッ!?」

??「もう! 今度は何よ!!」

 

風に煽られながらも立ち上がる。

 

リヴァイア『…平気か?』

水希「なんとかね」

 

後ろの窓をノックして、こちらに振り向かせる。

着地の衝撃で怯えさせているが、ひとまず指示を送る。

 

水希「安心して!今から車を止めるから。舌噛まないよう何かに掴まっといて!」

??「は、はい!」

??「あ、あなたは一体……」

 

少年と思わしき子から返事が聞けたので荷台を降りる。

 

とりあえず、向かい合わせにそびえ立つ大木に水を貼り付け…格子状のネットを形づくり硬質化させていると、猛スピードのまま突っ込んできたので離れる…。

そして路面の両脇に魔法陣を数個セット。

 

【挿絵表示】

(※くっそテキトーなイメージ像です)

 

水希「捕縛せよ!」

 

合図と共に鎖で捕えたまま…車両はネットへ突っ込んだ。

 

中から少女の悲鳴が聞こえるなか、上手くせき止めることはできたので、車に近づくが…

 

水希 (――!? さっきまでいたはずなのに……まさか?!)

 

肝心の子供らがおらず慌ててしまうが、一度呼吸を整えて車体に触れる。

 

水希「…〈透視(ビジブル)〉…」

 

そう唱えると一瞬視界が真っ暗になるが、その後すぐに開ける。先程リヴァイアが状況確認に使ったのもこの力だ。

見えた先は……恐らく、この車の電脳空間。

 

水希 (………いた!)

 

最奥部と思わしき所に子供二人と、いかにも元凶でありそうな牛男を見つけ、能力を解除。

 

リヴァイア『……見つかったか?』

 

頷く。

 

水希「助けに行こう。ウェーブ…」

??「あの!」

水希「…?」

 

声のする方に振り向くと、変身体に換装したスバルがこっちに向かってきた。

いつもの調子で話したい所存だが身バレ防止の為、あえて演技をする。

 

水希「驚いた…。キミも電波変換(変身)できるんだね?」

スバル「は、はい…。 そんなことより、車の中にいる人達は無事なんですか…?」

 

軽トラに指差しながら話すスバル。

リアクションを見る限り…正体が僕であることに気づいてなかった。

そのことに安堵するのと同時に首を横に振る…。

 

水希「…此処にはいないよ。厳密に言うと、あの子達は今、電脳世界に引きずり込まれてる…」

 

スバルは目を見開いて驚く。

 

水希「どうする? キミも助けに行く?」

 

しばらく口ごもるが、ようやく口を開けたと思えば…

 

スバル「…行きます。一応、クラスメイトでもあるんで…」

水希「…そう」

 

うおぉぉおん!。:゚(;≧Д≦;)゚:。

よくぞ言ったスバルぅ!

お兄ちゃんめっちゃ感動したぞ!うおぉぉおん!

 

心の声を聞かれないよう必死に押し殺す。

一応言っとくけど…スバルに対して、どこぞのショタコンピエロみたく変態的思考はしてないからね? ね?

 

??「お話のとこ悪ぃが、さっさと行かねーと大変なことになるぜ」

スバル「…! ごめん、ウォーロック…」

 

スバルの左拳にいるウォーロックこと、ライオンか狼か…はたまたブッサイクな熊かもわかんない…なんかの頭が、歯切れ悪く喋りだす。

 

ウォーロック「…スバル。もっかいコイツぶん殴ってもいいぞ? 俺が許可する」(#^ω^)

スバル「どうしたの急に!?」

水希「気のせい、100パーセント気のせいだから!」

 

そう笑って誤魔化すが、心なしかすんげー形相で睨まれてる気がした。

 

水希「……」

 

逃げるように一足先に電脳世界へ乗り込む。

またアッパーを食らうのはごめんだからね。

向かう途中…リヴァイアの顔だけが画面の外に出てきた。

 

リヴァイア「お前さぁ…さっきロクでもねぇこと考えたろ?」

 

とジト目で睨まれても、なんのこと?とでも言うようにあっけらかんとした態度を取ると、リヴァイアは呆れ果てるように顔を顰めた。

 

リヴァイア「……まぁ、安心しろ。後で骨は埋めといてやるから」

水希「逆に不安だし、勝手に殺さないでくれる!?」

 

そうやり取りをするうちに電脳世界へと辿り着く。

スバル達も遅れて到着したし、いつものようにさっさと終わらせよ〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時期もありました…。

 

 

 

水希「はぁ…ハァ…、手こずらせやがってぇ…!」

3人 (((…何でかな 凄い寒気を 感じたよ )))

スバル (この後戦う敵が不憫になりそうな意味で…)

ウォーロック (子供の教育によろしくない意味で…)

リヴァイア (モラル的な意味で…)

 

今までに無いギミックの量に半ば精神的に疲弊しておりました。

人生初のロデオ騎乗体験は激しすぎだわ、あちこち回りながらカードキー回収しなきゃならんとかで疲れるわ…。

……おいリヴァイア、なに色々と哀れむような目ぇしてんだよ。むしろ意識だけでもバトンタッチしろやしてくださいお願いします。

 

どうにかなってしまっている僕と比べ、スバルは……意外にもケロリとしてらっしゃる。

変なとこでタフなのが逆に怖いんだけど…。

 

水希「時間かかったけど、やっと辿り着いたね」

スバル「そう…、ですね」

水希「…別に敬語で話さなくてもいいよ?」

 

だって…今ここにいるのは、あなたのお兄ちゃんですから。

 

ここで画面越しの皆様に朗報!

今「気持ち悪」っとかボヤきやがった方限定!全員に素敵な商品をプレゼントする(問答無用でクリスタルバレットを食らわせる)キャンペーンを実施しております!詳しくはHPをチェック!

 

需要と供給がクソみてぇだって?

気にしたら負けだ(・∀・)

 

 

 

そんなこんなで最奥部にやってきました!

ここまで大きい敵を見たのは初めてなので、ちょっと圧され気味です。

ってか、近くで伸びてる子達って確か巻き込まれた…いや、今できることは

 

考えるより早く、少年と見覚えのある少女…確か白金さんだったな。

二人を抱え、攻撃が当たらないよう離れた。

 

水希「悪いけど、牛さんの相手しといてくれない?」

スバル「えぇ?! 僕がですか!?」

水希「二人を抱えてるし、何しろ…キミ達がどこまでやれるか見たいしね」

 

狼狽えていると、ウォーロックがスバルを見て

 

ウォーロック「大丈夫だ。オレを信じろって!」

 

と自信あり気に言い放った。

 

スバル「でも…」

水希「――構えろ!スバルッ!!」

??「オックスタックルッ!!!」

スバル「ッ!?」

 

牛男の放つタックルをなんとか回避し、そのまま戦闘がはじまった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後。

一時は押され気味だったものの…、ウォーロックとの融合で得た力を駆使し、無事引き剥がすことができた。

 

……が、元凶である牛は諦めが悪く、駄弁っているタイミングを狙い、スバルに攻撃を仕掛けた。

 

オックス「こんのヤロォ…!!」

ウォーロック「スバル!!」

水希「……はぁ…」

 

瞬間。オックスの喉を鷲掴み、床に叩きつけた。

 

スバル(…すごい! 今の一瞬でアイツを…それに今、僕を守るように動いて……)

ウォーロック (やっぱこいつ只者じゃねぇわ……)

 

スバルには驚かれ、ウォーロックに呆れられてるのを他所に、感情のない笑みをこぼした。

 

水希「お家に帰る前にさ…ひとつお願い聞いて欲しんだけど。いいかな? いいよねぇ?」

オックス (……嘘…だろ…!? このオレ様が…、こんな…貧弱そうなヤツのどこに力が!?)

 

動揺している姿に思わずクスッと笑ってしまい、耳打ちする様に小声で話しかけた。

 

水希「――高みの見物してる王様と、アンタの同僚達によろしく伝えといてくれる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今後一切…スバル達に危害を与える者は全員、この〈海原の悪魔〉が直々に葬ってやる。言っとくがこれは宣戦布告だ。お遊びじゃねえぞ』ってな…」

オックス「……あ…あ…」

 

オックスは何も言い返さず、真っ赤な見た目が嘘な程に青ざめる。

呆気なさに興が冷めたので、鼻で笑いながら放り捨てる。

 

水希「わかったらさっさと消えてくんない? じゃないと……夕飯用にアンタを捌いて冷凍保存するけど…?」

オックス「テ、テメェ…!! オレ達FM星人に逆らったら……」

水希「暴れたきゃ好きにしていいよ。あっ、そうだ! 見せしめに角もいで体にぶっ刺すのもアリかもね〜。キャハ♪」

オックス「ヒィッ…!!?」

 

臆病風に吹かれたまま、その場を去った。

 

 

水希「さぁて、そろそろお暇させてもら――」

ウォーロック「待てよ…」

 

ウォーロックの言葉に引き止められる。

 

ウォーロック「…立ち去る前に教えろ。だいたいテメェは何者なんだ? 俺達の――」

水希「《――味方をして、何を企んでんだ…?》ってか? 別に大したことじゃ無いよ。大抵は気まぐれでやったことだから…」

スバル「……」

ウォーロック「……」

水希 (…ま、簡単な自己紹介くらいならいっか…)

 

スバルの方へ向き直り、片手を胸に当てる。

 

水希「この姿での名前は〈リヴァイア・コキュートス〉。本名は明かせないけど、()()()()()()()()()とだけ言っておくよ」

 

吐き捨てるように言ったのが癪に障ったのか、ウォーロックは ハッ…と鼻で笑った。

 

ウォーロック「こりゃまた、随分と白々しい態度取りやがるな?」

水希「お互い様でしょ。そっちから仕掛けてこない限り、襲ったってなんのメリットもないしね」

ウォーロック「そうか…。引き止めて悪かったな」

水希「納得してくれて何より。んじゃ、これから頑張ってね…新米君♪」

 

スバルにそう言い、ウェーブアウトした。

 

 

 

ウォーロック「…ったく、いけ好かねえ野郎だぜ」

スバル「でもさ、これでもう襲われる心配はなくなったってことでしょ? 結果オーライだと思うけど…」

ウォーロック「どうだかな…。まぁ、でも……(…大吾の言った通りか。…オックスを追っ払ったときはヴァルゴが潜んでいのるかとヒヤヒヤしちまったが…、下手に警戒すんのは野暮だったな…)」

スバル「――でも…何?」

ウォーロック「何でもねぇ。俺達もさっさとずらかろうぜ?」

スバル「うん…」

 

三人を一箇所に集めてから退散するのだった。

 

 

 

 

 

一方、その頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水希「……はぁ、はぁ…、!…おぇっ……」

リヴァイア『…大丈夫か?』

水希「大丈夫……でもないや…」

 

いつもの河川敷にて、胃の中のものを戻してしまった。

変身はとっくに解除している。

弟がいる前であんな醜態を晒すとか……、最悪。

 

リヴァイア『ほら、これ…』

水希「…ありがと…」

 

リヴァイアが造ってくれた水塊で口を濯ぎ、ヨロヨロとベンチに向かい横になる…。

 

水希「…ちょっと休むわ…」

リヴァイア『………あぁ』

 

 

 

 

 

『ごめん。ちょっと訳あって帰れない。夜中に戻るから家空けといて…』

 

 

と、姉宛てに送信するのだった。

 

 

 

 

 




日に日に増していくカオス臭…。

Q.作者は普段、ネタづくりにどんなものを読んでおりますか?

A.率直に申すとBL小説でございます。最悪…タグに「腐女子&腐男子ホイホイ」を追加すると思いますねww

ここでのショタコンピエロは○ソカのことです。


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第ニ章 水希デクラレーション
11話 "彼"の憂い 〜迷い(それ)は晴れるものなのか?〜


 
何時にもなく(怖いくらい)主は絶好調でございますww
でもしばらくかけないと思います。(体力的な意味で)

今回は妙にタイトル長めにしました。
4話の「リヴァイアの過去」同様…重要な伏線が多めです。

あと新たにオリヒロが増えます。
個人的におすすめなのは赤崎千夏さんですが、
推しの女性声優さんの声でも当てて読んでみてください。

では、スタート。

5/5追記:UA2000突破!ありがとうございます。


 

 

水希side

 

ウォーロックを除けば、第一の刺客であるオックスと遭遇して2時間後のこと…。

 

 

河川敷付近の上空にあるウェーブロードにて……僕ら二人はそこにいた。

 

水希 (……ウチってば、どんだけメンタル弱すぎるんだよぉ…)

 

道の端に座り込み、雲一つない空を照らす満月を見ては、溜息をこぼすの繰り返し。

リヴァイアはただ……そんな僕の隣に寄り添い、ずっと…背中を擦ってくれていた。

 

 

僕にとっての憧れである…大吾さんみたく、強くなろうとは思っても、心の中でわけもなく怯えてしまうことが多かった。

自分が自分で無くなるのが怖いと思うこともある。

叶えたい目的を掲げたと言うのに……途中でブレて、道を踏み外してしまうのではないかと思ってしまうと、とてつもなく怖いのだ…。

 

ふと…、アルバムに残した写真から、ある一枚を触れる。

中学を卒業する時、学校に咲いた桜の木の下に……友達と二人――肩を組んで撮った写真だった。

 

水希「ねぇ…、信武(しのぶ)…。もしかして、まだ怒ってる? それとも……もう、僕のこと忘れたんかな…?」

リヴァイア「――どうした? そんな捨て猫みてーな顔しちゃってさ…」

 

心配そうに顔を覗かせるリヴァイアを見たあと、項垂れながらも口を開いた。

 

 

水希「大吾さん達を置き去りにしたあの日…、この手で…()()()を絶ち切ったことが頭から離れなくてさ…。いきなりされたらどんな思いするか…分かってるってのに…、目的を達するまで会わないって決めたことが…信武(アイツ)を…苦しめてるんじゃないかって思うとね…」

リヴァイア「…水希…」

水希「…それに、信武の見る世界に、自分すらも映らなくなってんじゃないかって思うの。――余計なこと考える前に動きゃいいってのにさ。…つくづくバカだよね、ウチって…」

 

淡々と喋り始めたが、リヴァイアは頷くことも、そんなことないと遮ることもなく、ただ…静かに聞いてくれていた。

 

リヴァイア「……俺的には、アイツ…かなり心配してるはずだと思うぜ? そうじゃなきゃ…何年もお前の親友やってねーだろうし、簡単に裏切るのなら俺が一発ブン殴ってやるがな」

 

そう笑い飛ばしつつ…空いた片手を丸め、ボクシングで言うジャブのモーションを取ろうとする相棒を見て、思わず笑ってしまった。

 

水希「アハハ。リヴァイアらしいね。そういうとこが」

リヴァイア「まぁな。お前の親父さんに充てられたんだよ、きっとな」

水希「ほんとにね。産まれたのが、あの人達のもとで良かったよ……本当に」

 

もう一度月を見る。さっきまで落ち込みぶりが嘘みたいに軽くなった気がした。

 

リヴァイア「…少しは落ち着いたか?」

 

首を横に振る。

 

水希「…まだ。もう少しだけ、このままでいてくれる…?」

リヴァイア「――フッ…。はい、はい。うちのご主人様は本当にワガママで甘えん坊さんですなぁ…?」

水希「エヘヘ…///」

 

リヴァイアはそう言うけど…特段嫌そうにはせず、むしろ頭も撫でて貰い、思わず赤くなる。

そして、特に理由もないままリヴァイアに抱きつき、顔を覗いた。

 

リヴァイア「…? どうした?」

水希「……大きなペットを飼った気分」

リヴァイア「嫌味か?」

 

ニヤつきながらも、キッと睨むのは忘れない…リヴァイアさんであった。

 

水希「ウソウソww ……ただ、お姉ちゃんとはまた違って……そこに居てくれるだけで安心するんだよね…。なんと言うか……そう! 頼り甲斐のあるお兄ちゃんができたみたいでさ…」

リヴァイア「ッ!…そ…そうか。そりゃよかったな、うん…///」

水希「なぁに照れちゃってんのぉ〜?」

 

リヴァイアの頬を突く。

見た目の割にプニプニとした感触で気持ちがいい。

それにしても熱いですねぇ?ww

 

リヴァイア「うっせぇな! ただ顔が熱くなっただけだよ…」

水希「ふーん…」(・∀・)ニヤニヤ

 

 

姿形が別でも「兄弟ですか?」と言われたら「はい」と答える自信はあると思う。

その証拠に…たまたま通りかかったデンパくん達にまで

 

どぅえぇきてるうぅ…(  ̄ ³ ̄)b

 

と巻き舌風に(からか)われる始末。

 

水希「ゔぶっ!…くっそ…ww」

 

どこぞのアニメのキャラが言ってたのを思い出し、不覚にも…笑いのツボを押されてしまう。

それに対してリヴァイアは、訝しむように僕を見つめた。

 

リヴァイア「まぁたイヤらしい妄想でもしたのか?」

水希「誰が妄想癖ある変態じゃボケ!……まぁでも、久々に笑ったお陰か……なんかもう、スッキリしちゃった」

リヴァイア「ハハ…、やっぱお前…笑ってる方がずっと似合うよ。…うっし! そんじゃ家に戻るとすっか…」

水希「…。そうしたいけど、()()()()がまだ帰してくれそうにもないよ?」

リヴァイア「……だよなぁ」

 

心底嫌そうな顔をされた中、突如としてこちらに向かってくる気配を察知。

 

少し離れた位置にノイズが迸り、まるで異空間の扉でも開かれるように空間は裂かれ……やがて、それが現れるのだった。

 

??「おっ久ぁ、水希〜! って…アンタ、見ないうちにひっどい顔になってるわね…?」

 

背丈は凡そ160cm台。はっきりと言えねぇが…これまた【だいなまいとぼでぇ】なお姉さんが紙袋を下げながら、ずいぶんなご挨拶をしてくれやがった。

そして出たと同時に扉は閉まり、ノイズが止んだ。

 

 

 

水希「余計なお世話だっつーの。――それよりも、レティ…。今後の事について、話し合いをしたいんだけど……」

レティ「勿論。そのためにここに戻ってきたんだし」

 

ふむ、なら話は早い。

 

レティがこちらに近づき…同じように座るが、特に体が痺れたりとかはないので安心して話し合いができる。

 

 

 

水希「……そんじゃ、まずは近況報告から始めましょうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

スバル達はというと……

 

◆◆◆

 

スバルside

 

展望台でウォーロックと出会ってから、奇妙な出来事が起こるばかりの日々だった。

 

以前、展望台にある列車が暴走したところを……僕と同じように変身できる〈リヴァイア・コキュートス〉が、一人で止める姿を間近で見て、正直…すごいとしか言いようがなかった。

 

今回の件もそう…。

 

委員長とつるんでたゴン太という少年が、FM星人に取り憑かれ…暴走するときもその人は現れたが、僕の実力を見たいと言われ慌てたところで……

 

 

 

 

 

 

『――構えろ!スバルッ!!』

 

その時なぜか、居るはずのない兄さんにでも叱られたのかと思った。

 

 

 

 

 

 

 

もし…もしもだ。

あの人と兄さんが、3年前の()()()()と関係しているのなら……。

 

色々考えさせられるまま家へと入るのだった。

 

スバル「ただいま…」

あかね「お帰り。今日も星を見に行ったの?」

スバル「うん…」

 

ちょうどお風呂上がりだったのか、寝間着姿で出迎えられる。

そして僕は、率直な疑問を母さんにぶつけた。

 

スバル「…ねぇ、母さん」

あかね「何?」

スバル「僕に…なにか隠し事とか……して無いよね?」

 

母さんは一瞬固まると、何か思い出したかのように濁しながら話し出す。

 

あかね「ん?……あぁ…実は、また通販でお買い物しちゃったことかしらね…」

スバル「…誤魔化さないでよ母さん。父さんの件だって――」

あかね「スバル」

 

話を遮るように僕の名前を呼ぶ。

その時の母さんの顔は、どこか苛ついているように見えた。

 

あかね「……隠し事があるからって、何でも無理に問い詰めるのは辞めなさい…。話そうにも、気持ちの整理がつかないから困っている人はいる。…後の反応が怖いからと、話せない人だっている…。

アンタは…答える内容そのものが…例え残酷なものだとしても、お互いが傷付くとわかっても、聞こうとする覚悟があるって言うの?」

スバル「それは…」

あかね「アンタだって、いずれ理解しなきゃならないことよ? ……だから、今は話してくれる時が来るまで待ちなさい…」

スバル「〜〜……」

 

悔しさのあまり…涙がこぼれ、拳を強く握りしめる…。

 

スバル「母さん…」

あかね「…ごめんね、柄にもなく怒ったりして…。…ご飯の前に、お風呂でリラックスしなさい…」

 

母さんは僕を宥めるように言うと、自分の部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

ウォーロック『――オフクロさんの言う通りだ、スバル。俺も大吾のことについてはまだ話せねぇが、皆がみんな、お前が傷付くのを見たくないんだよ…。だから…今はその思いだけでも理解してやれ。…な? スバル…』

 

スバル「………兄ちゃん

 

一人ポツリと立たされた空間で、嗚咽を漏らしながら兄さんを呼ぶことしかできなかった…。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

水希side

 

 

 

 

 

 

水希「で…どうだった? この星を巡った感想は」

 

 

会話の内容的にほとんどレティの旅自慢だったが、長い時間聞いても飽きはしなかった。

自分も地元以外に遊びに行くことはないくらい…ヒキニートじみた生活してたうえ、まるで宝物を見つけた子供のように心底楽しそうに話してくれたのだから、こっちも内心ウキウキして仕方がない。

 

レティ「…何もかもが新鮮としか言えないわね…。これ以上ないくらいに貴重な時間だったわ」

水希「でもごめんね? ウチ…旅に関して情弱だからか…ロクに案内はできないけど、楽しんでくれて良かったよ」

 

謝罪を述べるとレティは打って変わって「そうよ!」と、いい事思いついたとばかりに手を合わせた。

 

レティ「だったら今度は三人で国外旅行(かんこう)しに行きましょうよ? きっと楽しいはずよ!」

水希「レティ、それ名案ちゃう。軽く不法入国(はんざい)やで…」

(; ̄▽ ̄)

レティ「……普通、交通機関すら無視してる人が言うかしら? それ…」

水希「いや…、お互い様でしょ…。…それに…」

 

少しばかり気を引き締めながら言う。

 

水希「生憎と今、忙しいの…。海外旅行はまた落ち着いたらでいい?」

レティ「あ、結局行くのね…。でも連れないわねぇ…。それじゃ女の子にモテないわよ?」

水希「リヴァイア(カレシ)がいるからだいじょーぶで〜す!」

 

と、思い切り抱きしめながら言った。

 

リヴァイア「…〜〜!!」

レティ「まぁ、お熱いこと…。結婚式はいつの予定で?」

水希「ん〜とねぇ?……真面目な感想、FM星の漁村に行ってみよっかな〜………なんてね☆」

レティ「そ、そこまで言われると逆に清々しいわね…」

水希「おい!何引いとんねん。おい!」

リヴァイア「お、お前らなぁ…人が何も言わねえからって…///」

デンパくん「どぅえぇきて…」

リヴァイア「あ?」

デンパくん「何でもありませーん!お幸せにいぃ〜!!!」

リヴァイア「……ったく」

 

デンパくんが去った後も、頭ナデナデは忘れない…リヴァイアさんであった。

 

…可愛い奴め。(*´ω`*)

 




ここに来てようやく…自分が書きたいと思えるような文章をかけるようになるとは…。
BL小説さまさまです(笑)

それにしてもリヴァイアくんが、ソロと肩を並べそうなツンデレキャラに転身しちゃうなんてね…誰が予想したでしょうな?ww
作者も全く予想しませんでしたよ。ホントに。

それと、何も知らないスバルへ。
作者からひとつ言わせてもらいます。

「…ごめんね」



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12話 あかねの苦悩

久々のあかねさん視点です。
かなり短めですが、また追々追加予定ですので続きを待ってください。


あかねside

 

あかね「……………はぁぁ」

 

大吾さんと使っていた寝室で入浴後のスキンケアをする中、なぜか…ため息を吐いてしまう。

そして化粧台に置いた写真立て……大吾さんとの結婚式の写真を見た。

 

あかね「…ねぇ、大吾さん…。私、水希(あの子)の姉として…、スバル(あの子)の母親として…、ちゃんとやれてるのかな……」

 

隠し事の件……見透かしたであろうスバルには…酷なことを言い放つ上、今でも意思を持って戦い続ける水希を…ただ見守ることしかできないと思うと、心が締め付けられてしまう。

 

 

私には、水希のような体質や力は持っていない。

大吾さんのように、大きな理想を叶えようとする野望は持ちあわせていない。

そして…

 

――話そうにも、気持ちの整理がつかないから困っている人はいる。…後の反応が怖いからと、話せない人だっている…。

アンタは…答える内容そのものが…例え残酷なものだとしても、お互いが傷付くとわかっても、聞こうとする覚悟があるって言うの?

 

――母さん…。

 

 

スバルと同じ様に、真実を聞き入れる覚悟すらない…。

 

全く、どの口が叩くんだと…己を侮蔑するしかできなかった。

 

 

私だって知りたいけど、すぐに気持ちの整理がつくとは限らない。

だから…お互いに時間がくるまで待つしかできないのだ。悔しいことこの上ない。

 

そうして退屈に時間を過ごし、ベッドに入って眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

『返してよ! 私の夫を返しなさいよ!!』

 

『何がみんなを守るだよ!! 一人だけノコノコと帰りやがって!!』

 

『やめんか!! 大の大人が寄って集って…

この子も好きでやった訳じゃないんだぞ!』

 

『ならどうしろって言うんだよ!?』

 

『結局自分が可愛いだけじゃねぇか!!』

 

『あんたが死ねばよかったのに…』

 

 

『とっとと消え失せろよ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『この疫病神がっ!!!!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

あかね「……みずきっ!!………夢か…」

 

慌てて飛び起きたが、夢であるとわかり、片目を伏せる。

 

 

大勢の大人達が、一人…蹲っている水希に石をぶつけようとする夢を見た。

 

 

あかね「水希……また…、無理してないかしら……」

 

すると突然、トランサーから振動が鳴り手を伸ばす。

 

どうやらメールが届いたらしい。

 

あかね「誰から…………」

 

しばらく固まってしまう。

 

『話したいことがあるの。時間の都合がいい日にこっちに来て頂戴…。』

 

あかね「……お母さん…」

 

 

メールの差出人は、私と水希の母親――【星河 すみれ】からだった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

4/12 朝

 

リビングにて…。

 

 

水希「――それでオカンから呼び出しを食らったと?」

あかね「えぇ…」

 

姉からの予想外の言葉に、額から汗が流れてしまう。

 

あかね「…ここまでかしらね。うまく隠し通したってのに…」

水希「仕方ないよ。いずれバレるもんなんだし…。それなりに罰は受けるつもりだったから……」

あかね「水希……!」

 

姉は悲しそうな目をして、僕の名を呼ぶ。

傍から見りゃ罪人同然なのだ。

最悪、僕の夢をスバルに託したいけど……

 

噂をすればなんとやら…スバルがリビングに入ってきた。

 

水希「おっはー、スバル!」

スバル「………母さん、ちょっと出掛けてくるね」

 

そう言うと、リビングを去った。

 

水希「……スバル?」

あかね「………」

 

スバルの行動に目を丸くする僕を他所に、姉は苦虫を噛み潰すように顔を顰めた…。

 

あかね「私、明日はパート休みだから…一度、実家に戻ってみるわね」

水希「……もし、僕のことで何かあったら、後でメールしといて」

あかね「えぇ、わかったわ…」

 

 

 

 

◆◆◆

 

NOside

 

― 日本宇宙科学局【NAXA】 局長室 ―

 

 

沢田「…………」

 

 

***

 

 

 

 

《…星河 大吾。保護者として、彼等を守り抜くよう責務を果たせ。道を踏み外さぬよう導くのが、我々…大人達の使命なのだから…》

《…重々承知の上です…。この命に変えても、アイツらを……………》

 

 

***

 

 

 

 

沢田「――私は…、つくづく愚かな人間だな。後に悲劇が起こると想定していながら、彼らを苦しめたに過ぎぬというのに……」

 

 

 

 

◆◆◆

 

あかねside

 

4/13

 

 

…そして、翌日の朝。

私は電車を伝い…実家にたどり着き、呼び鈴を押して引き戸を開けた。

 

あかね「母さ〜ん、約束通り来たわよ〜」

 

そう言うと、奥から足音が聞こえ、やがて顔を出す。

 

すみれ「…急に呼び出してごめんねぇ、あかね。さ、中に入って?」

あかね「うん…」

 

いつか住み馴染んでいたリビングへと向かい、ソファに腰掛ける。

 

あかね「どうしたのよ、いきなりメールを寄越すなんて…」

 

母も向かい合わせに腰掛ける。

 

すみれ「単刀直入に聞くわ。…ねぇ、あかね。水希は今も生きてるんでしょ?」

あかね「……だったら何? 証拠でもあるの?」

 

と、肯定も否定もなく、そう言い返すしかできなかった。

 

すみれ「実は、この前。…信武君が家を訪ねに来てね…」

あかね「信武君が…!?」

 

思わず驚く私を見た母は、大きく溜息を吐く。

 

すみれ「…どうせ嘘つくなら、もっと演技を嗜んだら良かったんじゃないの?」

あかね「うぐっ……」

 

その言葉…すんごく心にグサリと刺さる…。

 

すみれ「今更触れるのもあれだけど、あの子が交通事故で亡くなるとか……よくそんなわかりやすい嘘つけるわよね?」

あかね「まぁ、あの時は焦りまくってたからね…。多少はね?」(;^ω^)

 

全く。と言わんばかりに首を振る母。

 

すみれ「……。あの子も結局、諦めきれなかったみたいよ? 水希のことを話すとき、すごく辛そうにしてたから…」

あかね「信武君……」

すみれ「それに、あの子も馬鹿よね。何も、ブラザーバンドを切ってまでしなくても良かったのに…」

あかね「原因が原因だからよ…。アイツ、信武君のこと…ずっと引きずってるから、見てるこっちは痛々しくて溜まったもんじゃないわ…」

すみれ「…星河家(うち)の男どもはみーんな揃ってわかりやすいのに、口だけは硬いわよねぇ」

あかね「ほんと。少しくらい頼ってくれたっていいのに」

 

途端に母が笑い出す。

 

あかね「どうしたの?」

すみれ「なんか久々に話が弾んじゃった。あかね、折角来てくれたんだし、ここらで世間話でもしましょうよ!」

あかね「……そうね。帰るのも野暮だし、湿っぽい話はやめにしましょっか」

すみれ「じゃ、紅茶淹れてくるから待ってて」

あかね「は〜い。……」

 

母がキッチンへ向かってる間。

私は水希にメールを送るのだった。

 

 

 

 




やっとこのサイトの使い方(主に編集作業)に慣れた気がする。

章ごとにデアラっぽくしたのは許してください。
m(_ _)m


5/8追記:12話はこれで終わりです。

次回も楽しみに待っていてください。

新たにお気に入りしてくれる人が増え、こちらも書いた甲斐があったものです。


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13話 ホントの気持ち 前編

今回は長過ぎるから分けました。


 

 

《……俺、今でもずっと…悔やんでるんですよ。水希が闘ってるとき、そばに居てやれなくて…。後ろで…ただ見守ることしかできなくて…》

 

 

それはノイズ混じりに途切れ途切れに続いた。

 

《無意識のうちに利用してきたせいで…水希の心を壊してるんじゃないかと思うと…俺、怖くなって…》

 

 

《だから言うたじゃろうに! 今のあの子達では、荷が重いと!》

 

 

《責任は必ず取ります。たとえ…俺達が帰れなくとも、あの二人だけは…ここに…》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

―――目が覚める。

 

 

 

 

水希「……荷が重い…か…。よくよく考えたら…全部、独り善がりの選択だったのにね……」

 

雀のさえずりが聞こえる中、見知った天井を見つめ…ポツリと呟くのだった…。

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

〜1

 

4/13 AM 8:30

 

今日はちょっとした用事があり、さきほど準備が整ったところだ。

理由については後ほど話す。

 

玄関にて靴を履いたとき、二階からスバルが降りてきた。

 

スバル「…あれ? どこか出かけるの?」

水希「うん。ちょっと用事が出来てね…」

スバル「そう……」

 

なんかよそよそしいなと思っていると、スバルが重たげに口を開いた。

 

スバル「…兄さん」

水希「何?」

スバル「――父さん、まだ生きてると思う?」

水希「………」

 

履き直し、立ち上がったところでスバルを見つめた。

 

水希「勿論、信じてるよ。大吾さんは…皆は、そう簡単に諦めきれるほどヤワじゃない…」

スバル「じゃあ、兄さんはなんであの時、宇宙に行くことが出来たの?」

水希「……悪いけど、今は答えられない」

スバル「兄さん!」

水希「仮に答えたところで、アンタに何が出来んの?」

 

詰寄るスバルを睨みつけ怒気を含んで言う。

 

スバル「…! それは…」

水希「……確かに、アンタにはまだ教えてない事が沢山ある…。でも、正面から向き合ったあとで、嫌われるのが怖いんだよ。自分勝手なのはわかってる。

…だから、もう少しだけ…時間を頂戴…」

スバル「…なんだよ、それ…」

 

玄関の戸を開け、もう一度スバルの方へ振り向く。

 

水希「いつかアンタも、前向いて歩けるって信じてるから…。今のうちにちゃんと鍛えときなよ?」

スバル「! 待って、兄さ――」

 

最後まで聞かずに家を出たあと……そのままウェーブロードに乗り移り目的地へと向かう。

 

リヴァイア『……良かったのか? これで…』

 

心配そうに聞くリヴァイア。

 

水希「バカみたいなエゴを突きつけたせいで、結果的にみんなを傷つけたんだよ…。いい加減、腹括んないと…身が持ちそうにないよ…」

リヴァイア『……そうか』

 

それ以上は何も言ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後。目的地に近づいたので人目につかない所に一旦降り、徒歩で現地へと向かう。

 

ようやく着いたそこは、天地研究所。

 

門をくぐり、しばらく歩いた先で

 

天地「――お、ちょうどいい時に来たね!」

 

入り口の近くにいる天地さんに出迎えられた。

僕らが来るまで、隣で腕を組んでいる男性――私服姿の飯島さんと雑談していたのだろう。

 

水希「どもー。飯島さんもおはよ〜」

リヴァイア『挨拶がなってないのは許してな』

飯島「いいさ。そんなに畏まらなくても」

 

申し訳なさそうに言うリヴァイアに対し、笑って返す。

 

水希「…でも珍しいね、今日は私服だなんて」

飯島「まぁ、いっつも制服じゃ堅苦しいからな」

水希「確かに…」

 

飯島さんの私服姿は、短い英文をプリントアウトした白地のシャツとその上に黒の革ジャンを羽織り、下は紺のデニムジーンズと黒のスニーカーを着用。

体格の良さとマッチした着こなしをしていた。

 

特に腕を組んでいるのもあって、服越しでも腕周りと胸元の筋肉の盛り上がりが増しており、市民の安全管理を担う役職柄、どれほど鍛え上げて来たかを物語らせている。

自分もそれなりに戦いに馳せ参じているから、多少付いてきてると思うんだけどなぁ〜。

 

……別に悔しいとか1mmも思ってねぇからな?

…………思ってねぇからな?(迫真)

 

飯島「どうした? そんなジロジロ見て…」(-_-;)

水希「ううん、何でも♪」

 

天地さんの方へ向く。

 

水希「ところで、天地さん。前に頼んだ()()()()()……もう完成した?」

飯島「…あのカード?」

 

疑問符を浮かべる飯島さんに得意気に語りだす。

 

天地「実は僕…密かにバトルカードの開発と製作をしていたんですよ。彼には、その性能実験に手伝って貰おうかと…」

飯島「なるほどな」

 

「…それでだ、水希君」と、今度は僕の方へ向く。

 

天地「あれにはまだ問題点が多くてね…。特にレーダーミサイルの様な【属性の有無の判別】は、調整して無視できるからいいとして…【照準を単体と全体に、任意で切り替える】というのが、どうにも難しくてな…」

水希「――透視(ビジブル)との相性を考慮した結果だけど、やっぱ無理難題だった…?」

天地「そうとも言えるけど、これくらいで諦めたらエンジニアの名が廃るもんだよ。…これ、渡しておくね」

 

差し出されたカードを受け取る。

渡されたそれは、従業員専用区画の通行許可証だった。

どちらかと言うとスバルが喜びそうな品ではあるが…。

 

水希「良いの? これ貰っても?」

天地「今後も実験で呼び出すことが多い筈だから、予め用意しておいたんだ。早々に無くさないでくれよ?」

飯島「頑張れよぉ? 前科持ち〜」

水希「う"っ…」

 

意地悪にニヤつく二人に、思わず耳を押さえる。

 

水希「拙者…なんだか耳が痛いでござるな…」

リヴァイア『サムライか』(°o°)\(−_− )

 

まるで呼吸でもするかのようにツッコミを入れる…リヴァイアさんであった。

べ、別にサテラポリスの入所許可証をヘマして紛失(なく)した過去有りなわけないんだからね?

二人が勝手におちょくってるだけだからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すんません嘘です。

その時は、大吾さんとリュウさんに挟まれて滅茶苦茶怒られてました。

 

 

天地「…それじゃ、僕の研究室まで案内しますね」

飯島「あぁ、よろしく頼む」

 

飯島さんも同じような電子パスを持って館内へと入り、二人の後を追うように歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天地「どうぞ。しばらくの間、待っててください」

 

場所は変わり、研究室…。

天地さんがノートパソコンを起動させている間、淹れたてのコーヒーを飲みつつ室内を見渡すと、壁に飾ってある…大きな翼のようなものに魅入られる。

 

水希「ねぇ、あれ見て」

飯島「? ……ほぉ…。こりゃまた迫力ある作品だな…」

天地「――あぁ、あれはフライングジャケットといって、宇田海君が魂を込めた力作なんです。僕もあまり、うかうかしていると先を越されそうですよ。ハッハッハッハ!」

 

どこか…部下の成長を喜ぶように話す姿を見て、なんだかほっこりしてしまう。

最近見ないけど元気してんのかな…。徹夜のしすぎで身体壊してなきゃいいんだけど…。

 

水希「…ってことは、もしかして! アレを背負えば空を飛べるとか!?」

リヴァイア『まぁ、お前くらいの軽さなら余裕だろ』

 

トランサーにいる住人を睨みつける。

 

水希「……それ褒めてんの?」

リヴァイア『そりゃあ…悪い意味じゃねぇよ? うん』

水希「じゃあなんで目ぇ泳がせてんだよ、おい?」

リヴァイア (;−³−)〜♪

 

明後日の方を向いて、下手な口笛を吹く…リヴァイアさんであった。

怒らないからちゃんとこっち見て話そうか。なぁ?

 

飯島「…フフ。相変わらず仲いいな、君達は」

天地「――水希君、準備が整ったよ」

水希「ほーい」

 

相棒を睨み続けている最中、ようやく起動が完了したらしい。

…そんな中、今更ながらの疑問をぶつける。

 

水希「…そういや、どうしてリュウさんも呼ぶことになったの?」

天地「それは順を追って説明するよ…。とりあえず、これを見てくれ」

 

そう促されるまま見る。

見た感じ……赤線で3✕5マスに区切られた何かのフィールドらしきものが、モニター越しに表示されていた。

 

水希「…あれ? これって、大吾さんが作ってくれた、訓練場と似てない…?」

飯島「だよな。『特訓に持ってこいだろ?』って、得意気に語ってたっけな…アイツ」

水希「何気に凄いもん作るよね〜。あの人」

 

途端に天地さんが咳払いをする。

 

天地「――本題に戻るよ、水希君。キミにはこの訓練場にて…試作中の〈ホーミングミサイル〉でウイルスを討伐してもらう。万が一取りこぼしても気にせず攻撃してくれ」

水希「…なるようになるって訳ね」

 

件のバトルカードが数枚組み込まれたフォルダを受け取る。

 

天地「では飯島さん。事前にお伝えしたように、回収したウイルスのデータを、このパソコンにインストールしてください」

飯島「…種類は何でも良かったんだったよな?」

天地「はい。それぞれ属性が違うウイルスを相手にし、何回か休憩を挟みつつ…最低30回を目安に検証していきます」

 

「ハイ質問!」と勢いよく挙手する。

 

天地「どうしたんだい?」

水希「パソコンにウイルス入れたら、後々大変なことにならない? そんなPC(装備)で大丈夫か?」

天地「大丈夫だ、問題ない。これはあくまでも『余計なものは入れない。天地のサブ端末』だからね」

水希「…なにその食パンのCMっぽいキャッチフレーズ…」

天地「――と言う訳で、飯島さん。お願いします」

飯島「……了解。では早速…」

 

ちょっと引き気味な飯島さんが、懐からUSBメモリを取り出すと、パソコンに差してデータを送信した。

 

「そろそろ準備しますか…」と、まだ半分ほど残っていたコーヒーを飲み干し、デスクに置いた。

 

 

水希「コーヒーご馳走さま。……電波変換!」

 

 

 

 

 

 



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14話 ホントの気持ち 後編

 
目次に載せてある挿絵は作者のページから【その他】の画像一覧でも気軽に見れるので、イラストのみ見るならそっちの方がオススメです。

余談、pixivに掲載されたアシッドの擬人化のイラストがモロにタイプな件について


◆◆◆

 

水希side

 

〜2

 

pm 12:00

 

電脳に入ってだいたい3時間ほど経過した。

 

検証の結果……【属性の有無の判別】については発動条件に加えないことで、属性持ちが相手でも効いたのだが…照準の切り替えがうまく行かず弾道が不安定なため、何度も苦戦を強いられていた。

そんな中、僕はというと……

 

水希「あぁぁぁやっぱ落ちつくわぁ…」( ̄▽ ̄)

 

現実世界に戻り、リヴァイアに呆れられながらも背中に乗っかかっては(くつろ)いでおりました。

こういう時だけ何故か、生きた心地するなと思える自分もおりました。

 

リヴァイア「お前さ…俺のことを()()()()()()()()()と勘違いしてねーか? つーかここお前ん()じゃねぇんだからよぉ…」

天地「まぁまぁ。水希君も頑張ってくれたんだから、今日くらいは…」

リヴァイア「…家主の心がタイヘーヨーな件について…」

 

朗らかな雰囲気とは打って変わり、腕を組んで暗い顔をする飯島さんに突然問いかけられる。

 

飯島「…急に話を変えて悪いが、水希君。この前の事件で何か思い当たる節はあったか?」

 

「事件…?」と首を傾げる天地さんに、コダマタウンでのニュースを話し、納得したところで

「それで昨日、3人の子供達が修理にあたったらしくてな。話を聞く限りじゃ、ただの暴動とは思えん…」と、目を伏せて言う。

 

水希「…その件の犯人は、ウチらのように変身できてたみたい」

天地「そうなのか!?」

飯島「……たとえ水希君でも暴れた過去なんざある筈が……いや、考えてみれば想像がつくな…」

 

片方は見開いて驚き、片方は眉をひそめて俯く。

そんな二人を前に、おもむろに身体を起こす。

 

水希「…そう、例外なんてない。最悪…自分もその子と同じになってたかもしれないからね…。…ぱっと見、自分の意思でそうなった訳でもなさそうだったし…」

天地「…もう少し、詳しく説明して貰えるかい?」

 

立ち上がり、リヴァイアと目を合わせる。

 

リヴァイア「…何も知らないよりはマシだと思うぞ?」

水希「そうだね。…それでは、1から話しますね。―――()()()()()も含めて、全部…」

 

レティに怒られる覚悟で真実を話すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

NOside

 

一方、その頃…。

 

都内にある大学の食堂では、それぞれ学年の違う生徒で溢れかえるなか…窓辺の隅にいる男は、誰とも会話せず昼食をとる真っ最中だった。

その男に近づく者が一人…カレーを乗せたトレーを置く。

 

??「よっ、信武! ここ座ってもいいか?」

??「…恵輔(けいすけ)…」

 

「もう空いてるところが少なくてな」と了承を得る前に、恵輔は信武の向かい側にある席へ腰掛ける。

 

恵輔「…にしても相変わらずシケた面してんなぁ。たまにゃ誰かと食えばいいのに」

信武「うっせえな。どうしようが俺の勝手だろうが…。お前も毎度毎度、飽きねえと思わねーのかよ…」

恵輔「ハハッ。そんなぶっきらぼうにしてちゃ、この先の人生、損しちゃうぜ?」

信武「ハッ、余計なお世話だっつーの」

 

目の前でニヤつくながら茶化す男の言動に…信武はアホらしく思え、鼻で笑う。

そんな時ふと、箸を止めた信武はトランサーに保存してある写真を見つめだした。

 

信武「……水希」

恵輔「ん? 誰だ、お前の元カノ?」

信武「違ぇよ…」

 

素っ頓狂な顔で見当違いな回答をする恵輔を訝しげに睨むが、途端に俯きだす…。

 

信武「…俺の親友。…だった奴の名前さ…」

恵輔「親友、だった? ――ってことは今」

信武「死んだよ、3年前に…。親父の行方がわからなくなった日に、交通事故に遭ったらしくてな…」

恵輔「……っ」

 

その事実を聞いて…恵輔は一瞬目を見開くが、申し訳なさに眉が釣り下がる。

 

恵輔「…ごめん。流石に無神経だったよな…」

信武「いいさ。素直になれねぇアイツに比べりゃ、まだマシな方だよ…」

 

「……苦労人なんだな。お前」と、恵輔は気まずそうに苦笑いする。

 

信武「まぁな。振り回されっ放しなこともあったが、今ではそれが懐かしくも思えるよ…」

恵輔「そうか」

 

表面上では笑っていても、心の奥底では沸々と…負の感情で煮えたぎり、それを抑え込むので精一杯な信武。

そんな事も露知らず。恵輔はただ黙々とカレーを食べ進めるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

〜3

 

 

天地「――それは…本当なのか…!? 水希君…」

水希「…はい。今言ったこと全てが真実です。実際、間近で見ましたからね…」

 

この前の事件の真相、変身できる仕組みと謎、レティの存在と目的、そして…身を削ってまで叶えたいことをすべて話した。

 

飯島「孤独を抱える者の心に付け入る、か…。眉唾物としか思えんな…」

天地「……やはり、彼らの予言は間違ってなかったか…」

水希「えぇ。ここ数年間、特に目立って無かったので、これから始まるんだと思います…」

 

「何ともはた迷惑な話だ…」と飯島さんは苛立ちを見せながら言い出した。

 

水希「…お話した内容全て、できる限りで良いので他言無用にしてもらえると助かります」

飯島「…理由はなんだ?」

水希「…今の段階だと、何の予告もなく現れるせいか…対策しづらく、公にすることも難しいんです…」

天地「…だから、今は少数精鋭で挑むべきだと言いたいのかい…?」

 

頷く。

二人は互いに目を合わせ、苦渋の決断をするように頷く。

 

飯島「…わかった。この件は署長にも話しておいて損はないと思うが…」

水希「…今後、もしかしたら、僕らのように戦える子が増えるかもしれない。…もう、僕一人では抱えきれない問題に直面するかもしれない…」

 

二人は顔を顰めながら傾げる。

 

水希「身勝手なのはわかってますが…お願いします…。どうかもう一度、僕たちに力を貸してください」

 

懇願するように頭を下げる。

 

飯島「……勘違いすんなよ…」

水希「え? ――い"っ!」

 

頭を上げた瞬間、いきなり頬を打たれ、尻もちをつく。

 

飯島「……傍から見りゃ、君ひとりで戦っていると……そう思ってしまうのも仕方ない。けど君には、リヴァイアがいるからこそ戦えているだろ! それだけじゃない。君達で出来ないことは、俺達が今まで支えてきただろうが! 今の発言は…身勝手以前に否定してるようなもんだぞ! 違うか!?」

水希「それは…」

 

天地さんは崩れ落ちたままの僕に近づくと、しゃがみ込む。

 

天地「――君が何を言いたいのか、少なくともわかってるつもりだよ。でもね? 何でも一人で抱え込んだら、いつか君自身が潰れてしまう。そうならない為に家族や友達といった仲間がいるんだよ? 僕らだって同じさ」

水希「……!」

飯島「なんと言おうと、元々俺達は協力する立場にあるんだ。だからそんなに悲観すんなよ。そういうとこが、お前の悪い癖だぞ」

水希「…飯島さん。…天地さん。ありがとうございます」

 

立ち上がり、涙混じりに感謝を述べる。

 

水希「…一旦、顔洗ってきてもいいですか? このままだとなんか恥ずかしくて…」

天地「いいよ。気持ちが落ち着いたら戻っておいで」

 

軽くお辞儀してから、手洗場へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飯島「……」

 

――もう少しで宇宙へ行くんだな。

 

 

 

***

 

大吾「あぁ。ついに夢が叶うと思うと、楽しみで仕方がない。けど…」

飯島「…けど?」

大吾「…不安なんだよ。水希のこと」

飯島「――噂には聞いたが、彼……高校は行かないんだよな?」

大吾「あぁ…。だからか俺、アイツの時間を奪ったんだと思うとな…」

飯島「…大吾」

 

***

 

 

飯島「…信じろ、大吾。俺も隣で見てきたんだ。お前が思っているほど、あの子は弱くない…」

天地「どうしたんです? 急に…」

飯島「――大吾も所詮はひとりの人間…。完璧と言えるわけでもないってことさ。水希君が正しい道へ進まなかったら、敵になってたかもって弱ってたからな…」

天地「…先輩…」

飯島「――頼られたからには、あの子を全力でサポートしよう」

天地「……はい!」

 

 

 

 

 

 



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第三章 宇田海ミスギビングス
閑話 矛盾と綻び


 

 

『お前、オバケが見えるんだろ?』

『きもちわりぃ』

 

 

俺がまだ子供の頃の話だ。

 

剣道の習い事が休みになった日。町内でも唯一残された公園で遊ぼうとしたら、虐めっ子といえる風貌の3人組が、ブランコに乗る少年を取り囲んでいた。歳は当時の俺と同じくらい。

少年は何も言い返さずに俯いていた。

 

『ほら、どっか行けよ妖怪』

『『よーかい、よーかい、よーかい』』

 

3人組の一人が少年の肩を掴み、振り落とそうとし笑い飛ばす状況。見るに耐えかねた俺はずかずかと歩み寄った。

 

??「やめろ、お前ら!!」

『うげ、妖怪の仲間か…?』

『…もう行こーぜ。もしかしたらコイツの姉にチクられるかもしれねぇし』

『『さんせー…』』

 

何かに怖じ気づいたのか、3人組はそそくさと去っていく。できれば最初からそうして欲しいものだ。

 

??「…ったく、…おい、大丈夫か?」

 

そう呼びかけると、少年は顔を上げる。

 

少年「…大丈夫……ありがとう…、助けてくれて…」

??「なぁ、お前やり返そうとか思わねぇの?」

少年「……別に」

??「嘘つけ。めっちゃ嫌そうな顔してるじゃねぇか」(¬_¬)σ)´ ο`)

少年「うぅぅ…」

 

そっぽ向く少年の頬をつつくが言うまでもなく図星のようだ…。

未だに暗い顔をする少年に、俺は手を差し出した。

 

 

??「俺、信武って言うんだ。良かったら俺と友達になってくれよ」

少年「…いいの? 妖怪の僕なんかと…」

信武「気にすんな! どんなやつが相手だろうと、俺がまとめて蹴散らしてやる! なんたって、俺は強いからな!」

 

エッヘンと鼻を鳴らしながら言う。

今思うと大見得切るようだったろうが…、少年はそんな俺の姿を見て笑い出した。

多分、今まで俺が見てきた中で一番の笑顔だった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

水希「……僕の名前は水希。よろしくね、信武!」

信武「――あぁ!」

 

これが、俺達が友達になるきっかけだ。

 

 

 

 

互いに握手を交わすその時、周りが暗く染まりだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信武「何だよ……これ……」

 

 

 

子供だったはずの俺達の身体と声は、()の姿になっている…。

 

目の前でトランサーを弄る水希。

 

 

信武「…水希…?」

水希「………」

 

ブツンッ!

…トランサーから何かが断ち切られる音がした…。

 

それを確認し、呆気にとられる…。

 

信武「っ! なんて事するんだよ! 水希!!」

 

怒りに震える俺を無視して回れ右すると、そのまま歩みを進めた。

 

 

水希「…皆を助けだすまで、アンタとは会わない。…お願いだから、これ以上は関わらないで…」

 

信武「待てよ! おい、待てって――!?」

 

水希の手を掴もうとした瞬間、砂のように崩れ散り、何もない空間に独り――取り残されるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

信武「水希っ!!!」

 

がばっ、と勢いよく飛び起きる。

 

信武「………夢か」

 

だいぶ(うな)されたのか、体中汗がまとわりついて気持ち悪い。

ひとまず替えの服とシーツをまとめ、汗を流しに風呂場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

…改めて自己紹介をさせてもらう。

俺は、宇田海(うたがい) 信武(しのぶ)。ごく普通の大学生として過ごしている。

 

夢で見た少年――水希とは腐れ縁の親友で、小学校から中学校まで同じ所に通っていたが、卒業とともに俺は都立高校へ、水希は他県の全寮制高校に進学。

本来なら高校も卒業して自分なりの人生を歩むはずだろうが、ある日を境に連絡は途絶え、今どこで何をしているのかさえ…わからずじまいだった。

 

 

 

アイツは一人でいることを好む性分なのか…。昔から他人に対し…無神経なところが垣間見えており、人当たりが良いように接してはいるが、大抵どうでもいいような振る舞いをしている。

 

つまるところ、心を許した相手以外は()()()()

そして心を許したからと言って、たまに疑り深くなるわ、素直じゃないわと…、従兄弟の深祐とそっくりだから困りものだった。

…まぁ、幼少期に負った"心の傷"が原因である以上、無理矢理に治すことなどできないのだろう。

 

周りの奴らは、それを少なからず理解していたと思う。

その中に気味悪がっていた奴もいたくらいだしな。

 

アイツも時折、何かに怯えているような目をすることがあった。

なんでそんな目をするかは…俺自身、未だにわかっていない。

 

 

高校時代は…部活での愚痴、行事ごとの思い入れ、そして…大学のことも…。

色々な話をお互いメールでやり取りすることは少なくなかった。

 

だがどうにも、水希の書く内容は中身が薄いというか…興味のなさに拍車がかかったというか…色々と怪しく感じることもあった。

 

 

そして…大学受験に無事合格し、高校を卒業する前日

俺の心にヒビが入る出来事が起こる。

 

 

 

船長として…親父も搭乗していたキズナ号。その消息が絶たれたというニュースと水希の訃報を聞いて愕然とし、お袋もストレスに耐えきれなくなったのか……俺のいない時間を狙うように自決し、その時は時間が止まってるように感じた。

 

中退して安いアパートに住もうとも考えたが、深祐の父親からの提案で養子縁組に入れてもらう事になり、水希が死んだ事実を嫌々受け止め…、大学生活を淡々と過ごす日々が続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日のこと。

偶々授業がなく、気まぐれで散歩していた時に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水希「電波変換!―――」

 

 

 

アイツを見かけたんだ。

 

少し離れてはいたが、姿形も…声でさえも本物なのだ。間違いない。

ただひとつ、違う点があるとすれば……謎の光に包まれた後の姿だ。

見るからに踊り子のような格好をしている。

普段見ない姿のその異様さに呆気にとられ…

 

水希「…っしゃ、行きますか!」

 

 

信武「っ、待ってくれ水希!!」

 

慌てて駆け出したときはもう…水希は()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。俺は水希が住んでるであろう自宅へと向かった。

今アテがあるとしたら、この家とあの河川敷くらいしかない。

 

意を決し、呼び鈴を鳴らす。

 

すみれ「はぁい。どちらさ……信武君…」

信武「…お久しぶりです。……水希のことについて、お聞きしたいことがあるんですが…」

 

 

居間へ案内され

俺は仏壇に飾られた写真に指差す。

 

信武「おばさん。あの写真、本当はただ飾ってあるだけですよね?」

 

「…どうしてそう思ったの?」と、彼女は目を細めながら問い返す。

 

信武「実はこの前…、河川敷を歩いていたときに、橋の下で水希を見かけたんですよ」

すみれ「…人違いとかじゃなくて?」

信武「えぇ。姿形も声も…水希そのまんまでした。

その時…確か…電波、へんかん?とか叫んでいたそうですが」

すみれ「…っ」

信武「…お言葉ですが、俺に何か隠してませんか?」

 

おばさんは半ば諦めたように言う。

 

すみれ「………水希が変身するってのは本当だけど、交通事故で亡くなった話は本当かどうかわからない。……いや、内心信じたくないだけかしらね…。誠俟(せいじ)さんも、いつかの快活さが嘘みたいに減退していたし……」

信武「……そうですか……」

 

その話が嘘だとしても、この人は何も知らないの一点張りを繰り返すだろう。

これ以上は時間の無駄と思った俺はお暇することにした。

 

 

 

 

 

 

その後すぐに深祐に尋ねることにしたが、結果は同じ。

 

ただ時間を費やすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、多くの疑問が浮かんだ。

 

水希は…本当に高校を卒業したのか?

そもそも通ってすらいないんじゃないか?

そして、親父達の件と関わりがあるんじゃないか?

と。

 

 

受験していたはずの高校を調べようかと思ったが、面倒だし…直接本人に確かめた方が早いと思い、再び河川敷へと向かうと、アイツは都合よく姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信武「……やっと見つけた」

 

 

 

 

 

 

 




※誠俟さんは水希のパッパです。


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15話 古傷は癒えない

宇田海さんの回は一部だけアニメ寄りになってます。

三章タイトルの英語の意味は疑念。
何となく響きがかっこいいなと思いつつ調べたら、現在進行中の出来事に対する不安を意味するのだと…。
多少、信武君にも当てはまりますね。


スバルside

 

4/13 pm 14:00

 

 

兄さんが用事で出掛けたあと…今日もまた、展望台に来ていた。

のんびり景色を眺めていると、トランサーから欠伸をするような声が聞こえた。

 

ウォーロック『お前、ここ数日間…ず〜っと空を眺めてばかりだな。いい加減飽きねーのか?』

スバル「うん、飽きないよ。ここに来れば星とかがよく見えるし、もしかしたら…父さんに会えるかもしれないからね」

ウォーロック『はぁ…。そろそろ別のモン見させろよな。オレもう退屈で仕方ねえぜ…』

 

む、…居候の癖して生意気な。

とは言え、せっかく手にした力を無駄にするのはもったいないし、…それに

 

――いつかアンタも、前向いて歩けるって信じてるから…。今のうちにちゃんと鍛えときなよ?

 

ただ、何もしないままでいることに気が引けた。

 

スバル「わかったよ。そこまで言うなら――電波変換! 星河スバル、オン・エア!」

ウォーロック「うおっ!」

 

特に理由もなく変身し、ウォーロックには呆れた目で見られる。

 

ウォーロック「…どうしたんだよ。いきなり…」

スバル「…別に、気が変わっただけ。少しでも電波体(このカラダ)に慣れておかないとね」

ウォーロック「なるほどなるほど、そう来なくっちゃなぁ……で、どこ行くスバル!!」

 

と思えば、目を輝かせるウォーロックさん。

 

スバル「ん〜、手当たり次第?」

ウォーロック「んじゃ、飛ばしてくぜぇ!!!」

スバル「あ! ちょっと!?」

 

ウォーロックに引っ張られるがまま、駆け回ることになった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

同時刻。実験が終わったあとの帰り…、道なりを歩いた時にメールが届く。

 

 

『お母さんから聞いた話、信武君、何日か前に家に来たみたい…。出歩く時は見つからないよう注意しときなさい』

 

「了解」と、落ち込みながらも返信したあと、今度はレティに『15時までに、いつもの場所に来て』と送信。

 

地図アプリに登録された座標を、目的地にセット。

その後、裏路地に移動しウェーブロードを伝って行く。

 

水希 「………」

 

 

 

 

 

それから数分後…。

 

着いたそこは、目視で20階はありそうな廃ビル。

長年使われなかったせいか…所々ヒビはあるが、その割には頑丈なため、呼び出す時はここに集まることになっている。

 

時間は……14時30分。まだ余裕はあるので、ひとまず降りた。

 

 

しばらく…フェンスに背もたれていると、少し離れた所から赤黒く…ノイズが迸り、それらが空間を裂く。

そこから顔を覗かせ、こちらを見ては「あれ、もう着いてたの?」と驚くレティ。

 

慌てなくても待ってるのに。そう言いながら出た瞬間、ゲートは閉じられた。

予定より早くに集合できたので、早速本題に入った。

 

水希「実は、謝っておきたいことがあってさ。…話しちゃったんだよね、ウチらの目的とか諸々…」

レティ「……そう…」

 

レティは驚かず、むしろ分かっていたような反応をする。

 

レティ「…水希がどうしようと、私はアンタが決めたことに賛同するわ。無理強いさせてるのは私だし、味方はいてくれるに越したことはないわよ…」

水希「そう言ってくれると助かるよ。…ありがとう」

 

お礼を言った瞬間、レティの表情は一気に険しくなり、思わず後退る。

 

レティ「それで、誰に話したのよ?」

水希「い…今は、天地さんと飯島さんだけ。今後のために目的の一つは話しても問題ないっしょ?」

レティ「今はね。本来の目的は話してないわよね?」

水希「…当然だよ。まだ先のことだからね」

 

「そう、ならいいわ…」と肩を竦めるレティ。

 

水希「…ねぇ、うまく行くと思う? FM星人(アイツら)による乗っとりを利用して人員を増やすなんて……些か危険が高まると思うけど…」

レティ「少しでもアンタの負担が減ると思えば、そんなリスクは安いものでしょう。

だから今は、自分のことに集中しなさいな」

水希「……わかった」

 

要件が済んだとばかりに、開かれたゲートへ歩いて行く手前、こちらに振り向く。

 

レティ「私、しばらくは日本に滞在するから。もしもの時は援護するわね」

水希「うん、その時はよろしく」

 

レティは中に入り、やがてゲートは消え去る。

 

水希「…帰ろっか?」

リヴァイア『ああ…』

 

僕らはそのまま帰路につくのだった。

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

pm16:00

 

ベイサイドシティ付近を飛び回る途中、大勢のウイルスを相手することになったが、ウォーロックによる助言のお陰でスムーズに事が進み、気づけば都心から離れた…緑生い茂る山地に辿り着き、そこでようやく変身を解くのだった。

 

疲れを吹き飛ばすように深呼吸する。

 

スバル「…だいぶ遠くまで来たね」

ウォーロック『どうだ、少しは慣れてきたか?』

 

首を横に振る。

 

スバル「…あの人に比べたら、まだまだかな。でも、最初の時よりは戦い方がわかった気がする」

ウォーロック『なら、その調子で頑張れよ〜』

スバル「…。……?」

 

やけに上から目線なのが癪に触るが、そうも言ってられないかと聞き流す。

西日が照りつけるなか…遠くの崖から人影があり、今にも飛び降りそうに佇んでいた。

いったい誰なのかと、目を凝らす。

 

スバル「あれって…宇田海さん? 何して…まさか!?」

 

ほとんど髪型でわかったが、問題はそこじゃない。

急いで止めに入ろうとした瞬間、意を決したように飛び降り、その光景に慌てふためく。

 

スバル「うわあぁあぁあ!! 宇田海さん!!?」

 

もう手遅れかと無念に思ったが…

 

途端にジャキン!と、機械的な音がここまで響き

 

 

宇田海「――フハハハハハハ!! やった! やっと完成したぞ! これは誰にも渡さないぞー!!!」

 

 

何やら背負っている何かから翼が生え、鳥のように自由自在に飛び回っていた。

何気に凄い発明をするなと感心しつつも…さっきまで心配してたのに、まさかのどんでん返しに呆れて物も言えなかった。

しばらくはほっといてもいっか。と思ったが

 

宇田海「…なっ!? まさかのバッテリー切れ!? ――わあああああああああ!!!!」

スバル「宇田海さあぁぁぁん!!?」

 

驚く間にどんどん落ちていく。

ウォーロックはというと、もう変身する気力がないらしく、無事を祈りながら急いで下山するのだった。

 

 

 

時間はかかったがようやく下りきり、なんとか見つけ出すことはできた。

 

スバル「宇田海さん。大丈夫?」

宇田海「あれ、スバル君かい? どうして此処に…」

スバル「たまたま通りかかっただけ。怪我は?」

宇田海「大丈夫。あちこち痛いけど、幸いにも骨折してないから」

 

らしい。

とりあえずは無事で何よりだ。

ふと、さっきまで背負っていたものに目をやる。

 

スバル「ねぇ、宇田海さん。これって…」

宇田海「触らないでくれ!!」

 

我が子を守るように、それを抱きしめる宇田海さん。

ほんの少ししてから我に返り、顔を俯かせた。

 

宇田海「ご、ごめんね…スバル君。いくら君でも、これは見られたくなかったんだよ…。もう、奪われるのはごめんなんだ…」

スバル「……何があったの?」

 

本当は話したくないんだろうが、宇田海さんは少しづつ、話してくれた。

 

スバル「……そんなことがあったんだね。酷いや…」

 

過去に発明した作品を前職の上司から、理不尽にも手玉に取られたらしく、今でもそのトラウマを引きずっていたそうだ。

憔悴しきっていた時、天地さんに「一緒に働かないか?」と誘われ、今に至るのだとか…。

 

 

そして、夜。

 

宇田海「本当に送らなくていいのかい?」

スバル「うん。大丈夫だから。…元気出してね?」

宇田海「…ありがとう。夜道には気をつけてね」

 

そう言うと、宇田海さんは車を発進させ、あっという間に姿がみえなくなった。

 

天地さんなら絶対に盗むような真似はしない。

わかってはいても、本人がその人を信じれない以上……そう簡単に古傷は癒えないものだ。

 




短編を削除した件についてですが、一括りにするとややこしく感じたので、別枠として投稿し直すことにしました。
読者の皆様には迷惑をおかけしますが、何卒ご理解のほど宜しくお願いいたします。


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16話 ひとりの親友として

 
またお気に入り登録者が増えて嬉しいです。
欲を言うなら感想も欲しいんですけどね(笑)
これからも思いつく限りに書いて、早めに投稿できればと思っております。




 

 

 

水希side

 

4/15 am 9:12

 

…休日。

 

水希「行ってらっしゃーい。……さて」

 

スバルは今日…アマケンへと向かうらしく、姉に留守を頼まれてはいたが、どうにも胸騒ぎがしてならなかった。

という訳で

 

水希 (……9時半を過ぎてから出るか…)

 

時計を見て、ひそかに準備を進めようとした。

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

am 9:20

 

不必要に変身しても体力がなくなるだけ。

という事で、バス停のベンチに座って時間を潰していたその時だった。

 

??「――やっぱりここに居たのね。星河くん」

スバル「げっ…」

 

あからさまな態度をとったせいか、委員長には凄みのある目で睨まれる。

蛇に睨まれた蛙とはこのことか。

 

ルナ「何が「げっ…」よ。しばらく家に訪ねても反応がないから、この際プランを変更したの。何と言おうと同行させてもらうから、そのつもりでね?」

スバル「うへぇ…」

 

有無を言わさない言動に半ば諦めがつく所でバスが到着し、乗車を余儀なくさせられる。

歩調がおぼつかないまま一番後ろの端に座れば、隙間を埋めるように座られ溜め息をこぼす。

 

スバル「なんでそこまでして付いてくるのさ?」

ルナ「言ったでしょ? 私達のクラスにはあなたが必要なんだって…。そうよね、ゴン太? キザマロ?」

 

いつも僕に付き纏うとしてるストーk……いや、委員長がそう言うと、

メガネをかけたチb…いや、低学年と見間違えてしまいそうな少年ことキザマロは「はいですとも!」と便乗し

体型が小学生版横綱ァな少年ことゴン太は「逃げられると思うなよ、登校拒否!」と、相も変わらず言い放った。

 

ルナ「どうしてかしら? 今すんごく悪口を叩かれた気がするのだけど…」

キザマロ「奇遇ですね、委員長」

ゴン太「それな〜」

 

スバル「ア、アハハ……」(; ̄▽ ̄)

 

 

 

訂正しよう。

今の僕は【猛獣共に睨まれた子鹿ちゃん】であった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

NOside

 

am 10:09

 

 

 

 

場所は変わり、研究室。

カタカタと、無機質な音が断続的に響き渡る。

 

宇田海「……昔使われていた人工衛星がこんなにも…。…これにするか。……アクセス完了。これでようやく、僕をコケにしてくれたクズに罰を…!…フフフ…」

 

パソコンを弄ってはハッキングを行使する宇田海。

不敵な笑みを浮かべては、復讐の準備に取り掛かる。

その時、研究室の自動ドアが開かれた。

 

 

??「ここにいたか、宇田海」

宇田海「げ! 天地さん…?!」

 

上司である天地に声をかけられ慄く宇田海。

 

天地「スバル君から聞いたよ。フライングジャケットの完成おめでとう! この際だから、君の成果を学会に発表しても問題ないとは思うんだが…」

宇田海「そんな! 前にも言った筈じゃないですか!! もう誰かに横取りされるのはごめんだって…」

天地「……君の気持ちは、痛いほど分かってるさ。だけどこのまま、なにも功績を残せないんじゃ…せっかくエンジニアになった意味をなせないと――っ!」

 

途中、だんまりしていた宇田海の顔は険しくなり、思わず口を噤んでしまう。

 

宇田海「…そうか、あの時…僕に手を差し伸べようとしたのも、最初から裏切ろうと謀っていたからなんですね!? あなたまでもが!!」

天地「違うんだ! 話を聞いてくれ!!」

 

必死の説得を遮るように…宇田海のトランサーから禍々しい光が灯され、そこから言い聞かせるように声が響き渡る。

 

――そうだ、人間はみぃんな嘘つきで愚かな生き物さ。自分の利益の為に、平気な顔して他人を陥れるんだからね…。

さぁ…今こそ、裏切り者に復讐する時だ!!

 

天地「っ!! そいつに耳を貸すな!! 宇田海!!」

宇田海「もういい、黙れ…! 私の発明を盗むのならば、例えあなただろうと容赦はしない!!!」

天地「なっ!?……うわあぁぁあぁぁぁあぁあああ!!?」

 

研究室を禍々しい光に浴びせられ、天地は目元を覆いながら怯む…。

ようやく光は晴れたと思った天地は、衝撃のあまりに言葉を失う…。

 

目の前にいたのは…言うなれば、白鳥を模した何か。

いつかの青年と照らし合わせるが、その青年みたく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そう思い込んでいると、重たげに口を開け、普段の彼では信じられないような発言をするのだった。

 

宇田海「天地さん。…あなたには、感謝していますよ。こんな僕に、もう一度、光を与えてくれたのだから…。けれど、もう…遅いんですよ…」

天地「う…たが、い…。なぜだ………」

 

その場で立ち尽くす天地を無視し、窓をぶち破って外へと出るのだった。

 

 

設計の途中であろうロケットの先端に立ち、研究所を見下ろしながら言う。

 

 

宇田海「…あのクズに制裁を下す前に、まずはあなたに罰を与える。研究所諸共、滅びるがいい! ―――ハアァッ!!」

 

復讐に燃えた白鳥は、怒りまかせに破壊し尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

結局、散策するにも付きまとわれ、諦めてグループとして溶け込もうとした直後。…突如として研究所全体に、謎の衝撃が襲いかかる。

 

所々に爆発音が轟き、所内にいた人達は錯乱状態のまま外へ逃げるのだった。

 

そんな時。男性職員に肩を借りていた天地さんが僕の方へ歩み寄る。

 

天地「スバル君!無事か!?」

スバル「天地さん、いったい何が…うあっ!」

 

何とか体勢を立て直し、事情を聞き入れた。

 

スバル「――宇田海さんが変身?!」

天地「あぁ。この目で見たんだ…。――ぐっ!!」

 

こうしている間にも爆発は止むことはない。

 

スバル「…宇田海さんを止めなきゃ…!」

天地「っ、スバル君…?!」

 

僕は一目散に駆け出し、物陰に隠れ…

 

スバル「ウォーロック! 電波変換だ!!」

ウォーロック『言われるまでもねぇ…ヤツには貸しがある。やれぇスバル!!』

 

彼を止めるべく、ウォーロックと一つになった。

 

 

 

スバル「やめろ! キグナス!!」

 

そう叫ぶと、宇田海さんにとり憑くキグナスが視線を合わせる。

だが、僕ではなく、左手にいるウォーロックにだ。

 

宇田海「君は……ウォーロック!?」

ウォーロック「よう。感動の再会だなぁ? キグナス…」

 

皮肉めいた発言に宇田海さんは苛立ちを見せた。

 

宇田海「キグナス・ウィングと呼んでもらおうか。会えて嬉しいよウォーロック。さぁ、大人しくアンドロメダの鍵を渡し給え!」

ウォーロック「断る! たとえ刺し違えてでも、FM星人(お前ら)はこの手で倒すと決めたんだ! オレ達にしてきた事、忘れたとは言わせねぇぞ!!」

宇田海「……ならば、裏切り者の巣食うこの星諸共、葬ってくれる!――〈キグナス・フェザー〉!!」

 

翼をはためかせ、放たれたるは無数の羽。

それらを身を捩って躱し、宇田海さんにバスターを放つがあっさりと回避され、空中で助走をつけて迎え撃とうとする。

僕も対抗すべく、建物を利用し高く跳躍して、宇田海さんに詰め寄る。

 

スバル「たあああああああああ!!!」

宇田海「はあああああああああ!!!」

 

互いに衝突し、着地すると同時に左肩の装甲が傷つく。

感覚で理解したが力の差は、今のところ互角と言えるだろう。

ゴン太(あの子)の時みたいに無力化できればいいのだが…。

 

ウォーロック「踏み込みが甘ぇぞ!何を躊躇ってる!?」

スバル「だって、この前みたいには行かないんじゃ…」

ウォーロック「逆だ、逆!」

宇田海「何をごちゃごちゃと――ハァッ!!」

 

羽による攻撃は右に飛んで回避。

 

ウォーロック「…FM星人にとり憑かれた以上、戦って引き剥がすしかないんだ。気持ちで負けんな!」

 

そう叱責され、自分もようやく覚悟を決めることにした。

 

スバル「バトルカード、プレデーション!――ガトリング!」

 

データを読み込ませた左手は機関銃のそれに変わる。

咄嗟に繰り出したことで反応が遅れ、もろに食らってしまうが、もう一撃放ったら、今度は体全体を翼で覆い隠し、銃弾は跳ね返される。

 

宇田海「今度はこちらの番だ!〈ダンシングスワン〉!!」

 

攻撃が止むと同時に上空にてひとり、踊り回った宇田海さん。回転が早まり風を纏うと突進してきた!

 

スバル「! ……ぐぁ!!―――――がはっ…!!」

 

あまりの速さに回避は間に合わず、空に打ち上げられ…そのまま地面へ叩き落された。

その隙きに宇田海さんは、両手を合わせようとする。

 

宇田海「〈ワタリドリ〉……行け!お前達!」

 

ピヨー!!

 

宇田海さんによって召喚された白と黒。

それぞれ色の違うアヒルに襲われそうになり、すぐ立ち上がって身構えていたが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「全く…大人気ねぇ奴だな。たかだか、力で押せるからって、いい気になりやがって………――――――――〈ハイドロ・クロー〉!!」

 

 

目の前に立ちはだかる物体が薙ぎ払うような一撃でアヒル達を鎮め、断末魔をあげさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「ナイスガッツ。リヴァイア…」

スバル「…!」

 

開いた口が塞がらずに固まっていると、後ろから労う声が聞こえ、振り返ると……兄さんがそこに立っていた。

 

水希「…大丈夫? スバル…」

スバル「兄…さん…?」

 

安堵の笑みを浮かべた途端に申し訳なさそうな面を見せた。

 

水希「ごめんね、スバル。認めたくはないけど…3年前に罪を犯しておいて…その癖傷つくのが嫌で、ずっと隠してばかりしてきた。だけど、僕なりに向き合う覚悟が出来れば……その時は全部話すから」

スバル「…兄さん…」

宇田海「やっぱりね、来ると思ってたよ。水希君…」

 

あくまでも想定内だという主張に動じず、兄さんは面と向かい合った。

 

水希「……いくら宇田海さんでも、これ以上、弟に手ぇ出すつもりなら許さないよ?」

 

そう告げる目から途轍もないほど怒りが込もるが、

 

宇田海「―――ふ、ふふ、アッハハハハハハハ―――」

 

宇田海さんは挑発ともとれる発言に退くどころか盛大に笑い飛ばし、ウォーロックは訝しげに目を細めた。

 

ウォーロック「テメェ、何が可笑しい!?」

宇田海「なぁに、水希君らしいなと思うと笑いが止まらなくさ。……けれど、はっきり言って似つかわしくないセリフだがね」

リヴァイア「ハンッ、言うようになったじゃねぇかよ」

 

そんな彼の直接的な罵倒をものともせず、兄さんは一歩前へと踏み出そうとした。

 

水希「……宇田海さん。どんなに辛い過去があったとしても、八つ当たりしたって良いいことなんか無いよ。……それでも、納得できないって言うのなら――」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水希「――ひとりの親友(ブラザー)として、あなたを止めさせてもらいます!!」

 

拳を握りしめ、声高々に宣言した瞬間。

兄さんの隣でフヨフヨと浮かぶリヴァイアが体中に纏わりつき、いつか見た姿へと変わっていくのだった…。

 



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17話 綺麗事を吐いても汚れは消えない

久々に水希が本気出します。
宇田海さんも初っ端からEXかSPクラスの強さです。

アニメのキグナスの声した人がまさかのランサーニキだったのには驚き。

一部の戦闘シーンはデアラをパク…いや、参考にさせていただきました。

変に視点が切り替わるから、そこだけ注意。


追記:お気に入り登録者が着々と増えて嬉しい限りです〜。
別枠で短編集も作ってますので見ていってください。

「忘れたとは言わせねぇ…」のくだりがウォーロックのセリフだったのに、うっかりスバルのセリフにしちゃって
『うっわ、やっべーww』って焦りましたwww(もう直したけどね)
祝!嬉しくねぇけど、短編のNGシーンに追加しました。



 

 

 

 

この3年間。ただひたすら…僕とレティの願いの為に、周りを欺き、自分を偽り、全てを捨てるような真似をした。

いつか報われ、皆が救われると信じて…。

 

 

だけど、どれだけ綺麗事を吐いても、汚れは…完全には消えやしない。

…事実。現状を見れば、悲しむ姿が目に浮かぶだけ。

 

 

それでもまだ、当事者としての責務を果たす為にも、欺き、偽り続けなければならない。

 

 

だけど…正直、これ以上はもう辛い。

演じたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――誰か…、誰でもいいから……助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

スバル「やっぱり、兄さんだったんだね…」

 

僕を見て、腑に落ちたとばかりに呟くスバル。

僕はそのまま、空中で見下ろしているキグナス(クソ野郎)に目線を合わせ、再び宣言した。

 

水希「おい、キグナスとか言ったか…? 前に忠告はしたからな。それでもまだ…籠絡(ろうらく)するつもりなら、こっちも遠慮なく殺してやる…」

リヴァイア「…ま、そういうことだ。今のコイツに手加減なんか期待すんなよ?」

水希「バトルカード、スキャニング――スイゲツザン!」

 

レヴィアワンドを手に取り、絵柄より細い刀身のスイゲツザンが具現化された。

一方、宇田海さんはというと…、不快感に満ちた表情をして目を細める。

 

宇田海「ブラザーとして、僕を止めるだと? 笑わせないでよ…。…所詮、『裏切りこそがこの世の本質』。僕にはもう、要らないものだよ」

スバル「宇田海さん…」

水希「――()のあなたなら、そう言うと思いましたよ…」

宇田海「何だと…?」

 

顔色変えずに言い捨て、鋭く睨まれる。

 

水希「宇田海さん。僕は、今のあなたが嫌いです。人との繋がりや、信じれるものが周りにありながら、それらをすべて、力で否定しようとした。…だから――」

 

握る力をこめ…指差すように剣を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水希「本気で(たお)しに行きます。―――――簡単にくたばんなよ! 深祐!!」

 

…と、怒りのままに吠えた瞬間。

宇田海さんはしばらく固まるが、次第に嫌悪と憎悪でぐちゃぐちゃになっていた。

 

宇田海「―――――言わせておけばぁ!!!!

水希「っ!…――ハァッ!!!!」

 

拳を突き出す形で猛突進してくるが、それを剣の面で受け止め勢いつけて振放すと、今度は羽を投げつけようとする。

恐らく…力も速さも段違いだが、()()()の時に比べたら存外マシなレベルだ。

 

スバルに当たらぬよう、剣ひとつで捌き落とす。

 

 

水希「スバル、援護して!」

スバル「…!! わかった!」

 

準備に入らせる間は自分が突進し…剣を振るうが、相手もそれで殺られるほど弱くない。

気づいた時には飛翔し、剣に触れた箇所に僅かなクレーターが出来た。

そしてまた、〈ダンシングスワン〉を繰り出そうとするが、こちらは難なく回避する。

 

以前――信武から聞いた話。宇田海さんの家系にいる人達は、種目と年数がそれぞれだが武道を嗜んでいたらしく、近頃はする機会が無くとも、無意識に身体に染みついていれば、相手をするに厄介極まりない。

…だから何だって話だけどね!

 

宇田海「――流石だね。そう簡単には行かないか…」

水希「ごめんね? 負けてやるつもり無いから」

 

形勢は不利だと思える状況に、彼が焦るのも無理はない。

相手は腐っても古株。伊達に絞られて来てはいないのだ。

 

とは言え…自分にとって、ある意味初めての対人戦。

戦闘スタイルは能力頼りなため、近接戦に不安はあれど、…今の自分なら…

 

宇田海「――考えてる暇あるのかい?」

水希「…っ!? しまっ―――がぁっ…?!」

スバル「兄さん!!」

 

 

電波体のみが扱える基礎的な技の一つ【ワープ】。

完全に出遅れてしまい、左ストレートを打たれ、吹き飛ばされる。

 

スバル「この野郎っ…!!!」

 

スバルはガトリングで牽制しようとしたが、宇田海さんは食らうことも防ぐこともせず…

 

宇田海「……遅いよ…」

スバル「う"っ……!?!?」

 

スバルの眼前…それも弾が当たらない位置に転移し、腹部に掌底を浴びせた。

それなりに加減してくれているはずだが…スバルからしたら痛恨の一撃に等しく、突然の衝撃に目を見開き、倒れ…腹を押さえて悶絶する。

追い打ちをかますかと思ったら、上空へと駆け上がる。

 

宇田海「…悪いが、君達を相手してられるほど、暇じゃないんだ…。しばらくは、この子達と遊んで貰うよ!! ――〈ワタリドリ〉!!!」

 

100を優に超える数のアヒルが召喚され、そのまま何処かへと消えて行った。

 

すかさず、周りに被害が及ばぬように魔法陣を生成し、〈縄で捕縛〉するよう命令を与え、スバルのもとへ駆け寄った。

 

 

 

 

 

***

 

その頃、戦場から少し離れた所では……。

 

ゴン太「…水色の兄ちゃん、スゲェな…。さっきまで、あの鳥野郎にも負けてなかった…」

ルナ「………」

キザマロ「………」

 

常人でも時折、目で追えぬ速さで繰り広げられた戦闘。

特撮物のそれと見紛う迫力に、フェンス越しから眺めても息が詰まるものだと痛感させられてしまう。

特に、感心するゴン太を除いた二人なら尚更。

 

――安心して! 今から車を止めるから。舌噛まないよう何かに掴まっといて!

 

いつかの夜。車窓越しでも微かに見えたシルエットから確信づいたキザマロは、視線をルナへと向ける。

 

キザマロ「委員長。もしかして、あのとき僕たちを助けてくれたのって…」

ルナ「……あなたの考えは、きっと間違ってないと思う。でも今は、あの人達を見守りましょう…」

 

ロックマンが現れてからの熱狂は何処とやら。

冷静に見やるルナの返答に、視線を戻し「……はい」と答えるほかなかった。

 

 

 

***

 

 

息つく間もなくしゃがみ込み、腹をさするスバルの肩に触れた。

 

水希「スバル、大丈夫…!?」

スバル「ゲホッ……なんとか。宇田海さんって、結構、強かったんだね…」

水希「………うん……」

 

とても大丈夫そうにないが…他の言葉をかけてやれるほど余裕はない。……がスバルは、腹に残る圧迫感にむせ返りながらも、体を起こせるだけの余力はあったようだ…。

その様子に、内心胸を撫でおろす。

 

しかし、アヒルを召喚した後だって…訳もなく逃げたと思えなかったし、居場所を掴めないからこそ、油断ならない現状にある。

 

水希「……ねぇ、どこにいるの……深祐さん」

 

空を見上げてから数秒待たずして、研究所からサイレンが鳴り響く。

 

水希「何事…?」

天地『―――皆さん、一度しか言わないので、聞いてください。……たった今、この研究所に人工衛星が墜落して来ると判明しました…』

水希&スバル「「――ッ!!?」」

 

館内放送を通じて、聞き捨てならない事態に体は強張り、思考もうまく働かず呆然としていた。

 

天地『慌てるのも無理はありませんが、ご安心ください。緊急時に備え、館内と正門付近の2箇所に地下シェルターを設けていますので、まだ研究所にいらっしゃる方は急いで向かってください!』

 

『緊急事態発生の為、地下シェルターを開放します。研究所に居られる方は、職員の指示に従い、すみやかに避難してください。――繰り返します……』

 

ひとしきり通達を終えたのか、気づけば避難勧告の放送に切り替わっていた。

 

スバル「ちょっと…いま、人工衛星って…?!」

水希「まさか……深祐さんが…?」

 

――信じらんない……何でこんな……

 

いくら否定したくとも、天地さんですら動揺を隠せないのだから、刻一刻と危機が迫っていることは確かだ。

 

程なくして着信音がうるさく鳴る。

 

リヴァイア『水希、天地さんから電話だ!!』

水希「応答して!」

 

左腕のガントレットに視線を落とし、画面越しにいる天地さんと対話する。

 

天地『…聞いての通りだ、水希君。宇田海のやつ…使われなくなった人工衛星をここに落とすつもりだ』

スバル「はぁ!?」

水希「何考えてんの、あの人!?」

天地『…宇田海のパソコンからようやく状況を理解した時点で遅かった…。こちら側でもハッキングを試みたんだが、外部からの干渉が不可能になってるんだ。… 現状、止めるためにも頼れるのは君達しかいないと思う。どうか…宇田海を頼む!』

水希「………」

 

どういう経緯があって暴走したかは分からないけど……でもきっと、少なくとも、深祐さんはこう思ってるはずだ。…僕を止めてくれと。

だが上空にはアヒルの大群がいるため、二人して止めに行こうものなら、その隙に研究所を破壊しつくすのは容易だろう。

 

押し付けがましいのは承知だが、止める手立ては一つしか浮かばなかった。

 

水希「スバル、まだ動ける?」

スバル「うん…。痛みも少し引いてきた…」

水希「そう。…出来れば一緒に行きたいけど、まだコイツらを片付けないといけない。だから、スバル。深祐さんを助けてあげて…」

 

スバルは一瞬戸惑うが、時間がないと判ってから立ち上がる。

 

スバル「……わかった。全部話すって約束、忘れないでよ!」

水希「…上等。さ、早く行って! 足止めしてるうちに!」

 

スバルはそのままウェーブロードへ飛び移り、宇田海さんを止めに行った。

多分ウォーロックがいるから大丈夫なはず。今は彼を信じよう。

指を鳴らすと同時に縄が解かれる。

 

アヒル達は皆、慌ててスバルを追うつもりだが、そうなればこちらから立ち塞がるまでだ。

勢いをつけてウェーブロードに飛び移る。

 

水希「アヒルさ〜ん。スバルを止めたいんだったら、まずはウチを倒してからにしなよ!………つっても、まぁ…アンタら程度じゃ足しにならなそうだけどね」

 

案の定…挑発した甲斐あって、アヒル達は一斉に攻めかかってきた。となれば、後はこっちのもんだ。

すかさず一枚のバトルカードを通し、気づかれにくい額の位置に小さく…照準代わりに陣を貼り付ける。

 

水希「――撃ち落とせ…〈ホーミングミサイル〉!!!」

 

命令を下すとともに背後から魔法陣が現れ、彼らの下へ暴虐の雨が降り注がれるのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

兄さん達に託された以上…早急に止めければならないが、宇宙まで到達するための通路が見当たらず焦り始めた時。相棒が機転を利かせるように一点を指し示した。

 

ウォーロック「スバル、あそこにあるアンテナを使え!」

スバル「……あれか!!」

 

言われるままに目をやると、アマケンにとっての顔でもある通信塔を見つける。

他のウェーブロードとは違い、空に向かって一直線状に繋がれているため、好都合と踏んで…ようやく彼と鉢合わせる。

 

宇田海「もう追ってきたのか…。今さら君が何をしようと…僕の復讐の邪魔はさせないよ!」

 

なんと言おうが関係ない。それに…兄さんは助けてあげてと言ってた。

なら、力ずくで行くよりも…今は説得に専念すべきだと己を奮い立たせた。

 

スバル「宇田海さん……この前話したように、悪い人だって確かにいるよ。…でも、同じくらい、天地さんみたいに優しい人達だっているじゃん! どうしてそれを分かっていながら、誰も信じることが出来ないの!?」

宇田海「……確かに天地さんは優しいよ。あのクズにしてやられて、ヤケになった僕に『科学者としての夢を諦めないで欲しい』…って、笑顔でそう言える人なんだからね」

スバル「だったら!」

宇田海「でもね、スバル君…『世の中…どれだけ綺麗事を言っても、汚れは消えることはない』って。…皮肉なことに、君のお父さんがよく口にしていたんだよ…」

スバル「え……」

 

僕の知る父さんは、そんなネガティブなことを吐く人だと思えなかった。

驚きを隠せないでいる僕に構わず、宇田海さんは話しを続ける。

 

宇田海「水希君だってそうさ。目的を果たす為なら…友情も思い出も、平気な顔して捨てられる人間だと、あの時になって思い知ったんだよ。

信武ともあんなに仲良くしておいて、よくも…!」

スバル「宇田海さん…」

宇田海「仮に、君の言う良い人間がいたとしても…中身が腐ってるなら尚更、信じる必要性なんてどこにもないんだよ!!」

スバル「そんな……」

 

何を言っても通じる気配はない。

実際、兄さんがいたら少しは変われたかもしれないのだ。…たかが一人にできることが限られてるのなら、悔しいことこの上ない。

 

――どうしよう…このままじゃ……

 

ウォーロック「じゃあお前…今まで関わった奴ら全員が、お前にしてきたこと全部…裏切りに入るってのかよ?」

 

言葉が見つからずにうろたえる僕を、見かねたウォーロックが宇田海さんを睨みつけ、物申した。

 

宇田海「……何が言いたい?」

ウォーロック「忘れたとは言わせねぇぞ…。スバル(このバカ)は…お前が実験中にヘマして落っこちた時も、辛い過去を…傍らで聞いてた時も、ずっとお前を気にかけてただろうが!」

宇田海「……ッ」

ウォーロック「水希だってそうだ。お前らにどういう事情があったかは知らねぇけど、数少ない親友だからこそ……誰よりもお前を助けたいと思ったはずだ!

だが状況が悪くて、俺達に託すほかないと悔やしがってたんだぞ!

……それとも何だ? テメェにとっての絆は、繋がりは……些細なコトで崩れ去っちまうほど脆いもんなのかよっ!!」

 

怒気をはらんだウォーロックの叱責には、さすがの僕も圧倒されてしまった。

普段はぶっきらぼうに見えて、意外と情の深い奴なんだなと認識を改める。

だけど、今の宇田海さんには、何者の声も届かないようだった……。

 

宇田海「……あぁ、そうさ! 脆いよ、脆いとも! 今まで屈辱を味わってきた分、今度はこっちが壊してやればいいんだよ!!」

ウォーロック「それが間違いだっつってんだバカ野郎がっ!! おいスバル、もうコイツに遠慮なんかするな!!」

スバル「……わかった…」

 

言われるがまま…無力感に押しつぶされたまま…【キャノン】をプレデーションし、構える。

 

当然…止めに入るが、距離が縮まったことで運良く撃つことは出来た。

その傍ら、僕の耳に宇田海さんの優しい声が届いた。

助けてくれてありがとう…と。

 

 

……が、安心していたのも束の間。

 

周囲に舞う白羽根が、宇田海さんの体をを突き刺すように入り込み、それに伴って宇田海さんが苦しみだした!

 

宇田海さんっ!! と呼びるがとうに遅く、変身体に戻ったということは、だ。

――()()()()()は、完全にキグナスに乗っ取られてしまった。

 

キグナス「フフフ…。この体は僕と相性が良くてね。もうしばらくは使わせて貰うよ」

スバル「…! 待って――」

 

そそくさと去ろうとする彼を追うつもりでいたが、ダメだ!と、声を荒げるロックに止められた。

 

ウォーロック「アイツを止める前に、やらなきゃいけねぇコトが残ってるだろ!!」

スバル「そうは言っても……宇田海さんは?!」

ウォーロック「最悪…地上にいる水希に任せりゃ良い。……とにかく今は、人工衛星をどうにかすんのが先だ!」

スバル「ッ、……あーもう!」

 

その後、衛星本体に繋がれた太陽光パネル――そのうち一つを破壊し、軌道をずらすことによって墜落を阻止できた。

 

結果がどうあれ、今は宇田海さんの安否を祈りながら、急いで帰還することにした。

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

スバルが深祐さんを止めに行って数分経った頃。

大多数はミサイルで仕留めたが、撃ち損じた残党にはスイゲツザンで切り伏せていった。

 

ある時は刀身に水を纏わせ斬撃のように飛ばし、ある時は刃先を鋭利に凍らせ突撃しては斬りかかって行き……残るは一体のみ。

 

間髪入れず一気に間合いを詰める。

 

水希「……これでッ!」

 

喉を穿かれたアヒルは呻くことなく霧散していった…。

 

水希「……はぁ、……はぁ…」

 

……正直、誤算だった。

切っても切っても絶えずして襲って来られるのだから、100体なら余裕だと高をくくっていた自分を殴りたい。

 

いっそのこと、言霊の陣を惜しまず使えば楽だったが支払う体力(コスト)もバカにならないので、結局の所『ムダな消耗を抑えるなら白兵戦が無難』なのだ。

 

とは言え……休みなく動けば、さすがに疲労は溜まってくる。

刀を地面に突き立て、深く息を吐き出した。

 

リヴァイア『おいおい、お前まだ20代だろ。もうそんなにヘバってんのか?』

水希「…んな時に、…冗談、止してよ…」

リヴァイア『……はぁ。いっちょ前に挑発すんのは構わねぇけど……ちったぁやせ我慢も程々にしとけよ? お前ほんっと危なっかしいんだからさぁ…』

 

心配なのはわかるが…こうも言い諭されては、反論のしようがない。

いつからリヴァイアは、親みたいな感じになったのやら。

 

水希「……ったく。――!」

 

訂正。背後にまだ一体残っていた。

ソイツは隙を見計らったと思い上がり、そのままつっかかってくるが……

 

水希「遅いっ!!」

 

片手を背後に上げ、魔法陣を展開しきったと同時に雹弾で迎え撃つ。

 

「―――――――」

 

腹を穿たれ力無く呻き、灰のように散り逝く姿を見届け、討伐は完遂した。

 

――そういや…もう、避難は済んだんかな。

 

雑魚処理で騒しかった分、余計に静けさが増していき、気がつけば空を見上げ…スバルを呼んでいた。

 

その時、天地さんからの呼び出しに気づき、すぐさま応答ボタンを押した。

 

天地『水希君、朗報だ。スバル君が軌道を反らしてくれたお陰で…どうにか難は逃れたよ』

 

確かに。上空からは、人工衛星らしきものが熱を帯び、パラパラと散っていくのがわかる。

上手いことやってくれたスバルに感謝したいが、今はグッと押し留め…深祐さんの安否を問う。

 

水希「……それは良いとして、深祐さんは…」

天地『残念だけど、運悪く仕留め損なったのか……現場から200メートル離れた先で生体反応が途絶えた。よって今のところ、宇田海を見つけだすのは厳しいんだ。すまない……』

水希「……わかった。とりあえず、一度スバルと合流してからそっちに向かう」

天地『了解した』

 

通話を切る。

 

 

 

……本当なら、自分が行くべきだった。

 

けれど、勝手に連絡を断って…遠避けておいて、今更仲直りだなんて都合が良いだけだし、説得を聞き入れてもらえないのは明白なこと。

……だからあの時、スバルに押し付けるほかなかった。

 

水希「……くそ……」

 

誰にも咎められぬが故、虚しく独りごちるしか出来ずにいた。

 

そんな今だからこそ…無条件で得られるのなら、どんな苦境にも立ち向かえる……勇気が欲しいと(こいねが)っていただろう。

 

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

夕方…。

騒動の後、委員長らと出会すことはなく、そのままトボトボと…兄さんと二人並ぶように家路を辿っていた。

 

スバル「ごめん、兄さん。僕じゃ…宇田海さんを止められなかった…」

 

落ち込む僕を宥めるように、兄さんは頭を撫でてくれた。

 

水希「……いいよ。誰だって失敗はあるんだし…それに、まだチャンスはあるはずだって…」

スバル「……そうだね」

 

怒ることもなく、慰めようとするところが兄さんらしいなと思った…。

 

二、三歩早く進んで…回り込むように兄さんと顔を合わし……

 

スバル「宇田海さんは、絶対に助けよう!」

水希「……うん!」

 

何があっても諦めないという意志を、互いにぶつけ合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

NOside

 

その夜。とあるマンションの一室。

ちょうど風呂上がりだったのか、青年は頭を拭きつつ部屋に戻る。

ドアを開けると同時に着信音が鳴り響いた。

 

??「?……なんだ?」

 

ベッドに置いてある端末から、応答ボタンを押すと、見知った顔に呆けてしまう。

 

 

??「……深祐?」

 

画面越しにいる男は、怪しげにニヤつきながら青年に囁く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇田海『信武。……真実を知りたくはないかい?』

信武「……!?」

 

青年――信武は、驚きのあまりタオルを手放しそうになるが、難なく掴みとると眉間にシワを寄せだした…。

 

信武「……やっぱり隠してたじゃねーか、水希のこと…」

 

 

 




本来の自分と水希君とじゃ…性格が真反対過ぎて、ただ自分の理想を詰め込んでる感が半端ないなって思います。

自分を基準に主人公を作り上げると必然的になってしまうんでしょうね…。

こんなご都合主義満載な作品ですが、最終目標として伏線回収ができるようにしていくつもりですので、今後とも水希リスタートの応援よろしくお願いします。



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第四章 信武ディボース
18話(前) 予期せぬ再会


 
原作版の話だと…だいたい、ミソラちゃんがヘルプシグナル使って、スバルと会ってる時間と同じくらいだと思います。

6/29追記:一部分のみ、内容に沿うよう修正を施しました。


 

 

 

――星河 水希。お前はスバルのことで憂いているだろうが……我等がいる限り、その心配は無用だ…。

 

 

――ウォーロック自身に自覚はないが…我々を受け入れる程の特別な力を持っている…。彼奴(あやつ)なら、きっと……スバルを強くする鍵になるはずだ…。

 

 

――だからお前も、リヴァイアが長年をかけて封じ込めた……〈海原の女神(アクエリアス)〉の力を…存分に引き出せるよう、強くなれ。

 

 

――我々は、お前達とともにある。だが今は、そっと……見守らせてもらうぞ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深祐さんを止められないまま、数日が経つ。

あの後スバルとは別行動をとり、できる限り探し回ったが…見つかるわけもなく、今日もまた、街中をうろつくのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

水希side

 

4/21 正午

 

ベイサイドシティ ビル群

 

 

〜♪

《この世界中溢れてる まだ知らない風景 すべては…》

 

街中に流れつく女性シンガーの曲。

音の出の方向から、ビルの壁に目をやる。

大画面のディスプレイからは、スバルと同い年くらいの少女こと響ミソラが、ギターを弾きながら歌っていた。

 

水希「すごいね。周りの人も足を止めるほどなんだ…」

リヴァイア『調べた限りじゃ、子役からデビューして、今では人気アイドルらしいぜ。…でも、あんな歳で仕事量は相当だったからな。…逃げ出す気持ちも分からなくないよ…』

水希「…確かにね…」

 

地元民(地球人)である自分より物知りなリヴァイアに、内心「あっぱれ…」と感心してしまう。

 

水希「それにしても…よく知ってるね?」

リヴァイア『まぁな。俺も暇だから、たまにネットとかを漁ってるんだよ』

 

通りで近頃の通信量が多かった訳だ…。

でも、そうせざるを得ないからこそ、余計に息を詰まらせてるも同然か…。

 

水希「……ごめんね。いっつも窮屈な思いさせて…」

リヴァイア『いいって、いいって。時間は有意義に使わなきゃ…だろ?』

水希「………」

 

気にすんなと宥めるリヴァイア。

この件が落ち着いたら、羽を伸ばすのに良さそうな所へ連れて行こう。

そう心に決め、歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、いつものように河川敷へ来ると…決まってベンチに座り、のんびりと川を眺めるのだった。

 

水希「最近は全く見ないね…。取り憑かれて暴走するの…」

リヴァイア『そうだな…。あの女の計画に必須とは言え…本来なら、起こらなくて当然。スバルが戦えるようになったのが唯一の救いだったからな…』

 

リヴァイアは不安を和らげるように言うが……それでも、あんなに苦しんでる姿を見るのは初めてだった。

ウチの時はスバルみたいに洗脳される感覚も無ければ、普通に家族として何年も一緒に過ごしてきた。

だからか、無理やり操られるのを見て、自分も同じようになるのかと思うと……正直、怖い。

 

水希「…本当に、これで良かったんかな…?」

リヴァイア『…どうした?』

水希「――この3年間、約束通り…二人の傍にいてやれたけど。真実を話したら、また…独りぼっちになるんじゃないかって…」

リヴァイア『…全部が正しい訳でもないが、あの二人と信武には、余計な心配をかけたくなかったんだろ? 仮にお前が独りになったとしても、俺が傍にいてやる。だから安心しろ…』

水希「…。ありがと…」

 

しばらく…ぼんやりと空を眺め続けては、ふと呟く。

 

水希「深祐さん……何処に居るんだろ…」

リヴァイア『……無理に探そうとしなくても、いずれ現れるかもしれねぇ…。その時に止めてやりゃあいいさ。

……親友として…な?』

水希「うん……」

 

そのまま目を瞑ろうとした時だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「―――やっと見つけた」

 

水希「…!!」

 

聞き覚えのある声に恐る恐る振り返り、言葉を失った。

なぜなら――

 

信武「…よう。3年ぶりだな、水希…」

水希「信武…!? なんで此処に…!?」

 

今一番会うべきではない人物との、予期せぬ再会を果たしまったのだ…。

 

信武「やっぱ、あの話は嘘だったんだな……」

 

「…あの話って?」…ボソリと言うと、目を鋭くさせ…顔を顰めだした…。

 

信武「とぼけんなよ…。お前、3年前に事故で死んだはずなのに……何で嘘ついてまで身を隠そうとしたんだよ?」

水希「それは…………」

 

会わせる顔がなくて、どうしようもなかったからだよ…。

口には出せず、その言葉が脳内を過る。

 

いきなり現れたことに焦りだす僕を見て、せせら笑う。

 

信武「…前からおかしいと思ったよ。学生が宇宙に行くなんざ、マンガや物語でだけでの話だし。第一、お前がそれに適してるとは思えねぇ…。……この前みたいな事があるなら、少しは腑に落ちるがな…」

 

何もかもお見通しと思わせる物言いに、頬から汗が滲みだす…。

 

水希「………何が言いたいの?」

信武「誰もいないと思って変身したんだろ? …偶然にも見ちまったんだよ、ここでな…」

水希「ッ!?」

 

今までに無いくらい…感情の籠もらない冷めた目で見下ろされ、ゾクリと背筋が粟立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

信武「なぁ、あのあと親父達はどうなったんだよ?」

 

 




7/25追記。
漫画や物語だけでの話のくだりで、無意識に中の人ネタを発露したことに気づいたww
まさに『ア○メが斬る』ならぬ『○方のアス○ラ主人公が語る』やんww


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18話(後) 欺瞞は愛すべき者達の為に…

◆◆◆

 

信武side

 

信武「………」

水希「………」

信武「逃げられると思うなよ。お前には聞かなきゃならないことがあるんだからな」

水希「……わかった」

 

バツの悪そうな顔で俺を見る水希に釘を刺すと、観念したのか…水希はベンチの左端に寄り、ここに座ってと言わんばかりに促され右端に、互いが距離を取るように座った。

 

水希「もしかして、深祐さんから聞いたの? この3年間のことも全部…」

信武「あぁ、大体な。――それでだ……なんであの時、ブラザーバンドを切る必要があった?」

 

単刀直入に疑問をぶつけると、水希は顔を俯かせながら言いだす。

 

水希「…信武に、心配をかけたくなかった…」

信武「……は?」

水希「…僕なりのケジメとして、皆を見つけるまでは会わないことにした。それが、信武の為になるかもって…思ってたの…」

信武「…なにが、…何が俺の為になるんだよ…」

水希「……」

信武「それを聞いて、納得するとでも思ったのかよ…」

 

的を得ない言い訳に…俺の腸は煮えくり返り、咄嗟に胸倉を掴みとる。

 

信武「ふざけんな!!! 散々黙っておいて、今更探したところで何になんだよ!!! あの事故がきっかけで…お袋も死んだんだぞ…。仮に救えたとして、親父にどう顔合わせりゃいいんだよ……」

水希「え……?」

 

――そんな事…聞いてない。

そう言いたそうな目で訴えかけるように見え、怒りは頂点に達した…。

 

信武「……その様子じゃ、なにも知らなかったんだな…。……そうだよな、…お前は昔から、自分のことで精一杯だったもんな? 「終わり良ければ全て良し」って言うように…自分さえ良けりゃ他はどうとでもなると思ってたんだろ!?」

水希「違う!…そんなこと…」

信武「嘘つけよ! じゃあ、この状況はなんだ? 自分勝手な判断で親父達を見捨てて、俺とも縁を切って、保身と言う名のぬるま湯に浸かってるだけじゃねーか!!」

水希「――んなこと…」

信武「わかってねぇだろ何も!! …お前が生きてると知ってから、どんな思いして過ごしたかも知らねぇ癖に。よくもそんなに、いけしゃあしゃあとしてられるな?!」

水希「………」

 

――必死に否定したと思えば、今度はだんまりかよ…。

ムシャクシャして仕方ないのは同じなのか…気づけばギリギリと歯ぎしりしていた。

 

水希「だったら…」

信武「…?」

水希「だったら…話したところで、アンタに何ができたの? 他の奴らみたいに黙って見ることしかできないだけだってのに!!」

信武「なんだと…!?」

リヴァイア『水希、お前…』

 

「黙ってて!」とトランサーから聞こえる声に、水希は猛反発する。

 

水希「…こっちだってもうウンザリだよ! 願い下げなんだよ! 大体何なの!? やれる事はしたってのに、人の気も知らないで偉そーにイチャモンばっか付けてさぁ? 好き勝手言っておいて、何もしない奴の言葉なんか聞くわけねぇだろ…。…せめて、同じ立場に立ってから文句言えってんだよっ!!!!!」

 

怒り任せに放った言葉は、俺の心を砕くに容易なものだった。

アホらしさに呆れ果てた俺は手を放し、右頬に一発…お見舞いしては、地面に蹲るバカを見下ろすのだった。

 

信武「俺、お前と一緒に居られたら、他は何も要らなかったんだぞ。…それでも、何一つ信じてくれないんだな…。…見損なったわ…」

水希「…だろうね。こんなクズ相手に…よく仲良くしてくれたなと思ったよ…」

 

立ち上がると同時にトランサーにカードを通し、辺り一帯が光に包まれ……収束した時には、いつか見た姿に変わっていた。

 

信武「……なぁ、水希。俺にも、その力を扱えれば、親父を助けに行ける思うか?」

 

一点を見つめたまま、水希は首を横に振った。

 

水希「……無理だよ。アンタの心が弱ければ、奴らの思う壺。洗脳されて暴君と化すだけ。――はっきり言って邪魔でしかない」

信武「なっ…!?」

 

顔を俺に向けた時の水希の顔は、涙で溢れていた。

 

水希「じゃあね、信武…。出来ればもう、二度と会わないようにしとくよ…」

信武「! おい待――てよ……」

 

水希の手を握るよりも先に、また…どこかへ消えてしまった。

 

別に、お前に責任取れとか言うつもりはないんだよ…。

俺はただ、理由もなしに居なくなってほしくなかっただけなんだよ…。なのに…!

 

 

 

――しのぶ〜! 帰ったらまたどっか遊びに行こ!

――あぁ。次会った時にな!

 

やりきれない気持ちに押し潰され、地面に崩れ落ちる。

 

信武「……やっとの思いで会えたってのに、なんでまた……俺を突き放そうとするんだよ…!」

 

 

 

 

――皆を助けだすまで、アンタとは会わない。…お願いだから、これ以上は関わらないで…

 

 

 

信武「…畜生ォォォォ―――――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空。ウェーブロードにて。

 

リヴァイア『……こんなところで立ち止まっても、なんも意味ねぇぞ……』

水希「……わかってるよ、そんなことくらい……」

 

顔を俯かせ、自身の手を見つめた…。

 

水希「……"自分の得た力で大切なものを守るために戦う"…。そう決めたってのに、結局…空振りしまくって……もうほんと、何がしたいんだろうね…」

リヴァイア『………今日はもう休め。さすがの俺でも、波長が乱れまくってるのがわかる……』

水希「……………そうする」

 

 

 

 

 

 

 

――ブラザーとして、僕を止めるだと? 笑わせないでよ…。…所詮、『裏切りこそがこの世の本質』。僕にはもう、要らないものだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深祐さんが言った言葉。今なら…よく分かる。

あの人にとって、弟同然に大事な存在である信武を裏切ったから。きっと…そのことで怒ってたんだと思う。

 

信武の気持ち、理解したつもりでいた。

…でも、思い違いだった。

 

結局…目的の為にエゴを突き通すしか出来なくて、傷つけ、悲しませてしまうだけ…。

 

こんな……心の乾いた奴が親友だなんて…笑っちゃうよね。…幻滅するはずだよね。

 

でも、仕方ないって思ってる。

今更引き返せないんだって……そう割り切らないと、この先やってられないから。

 

だから…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんね……信武。



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19話 孤独を嗤う者

 

信武side

 

水希と別れて数分。

ベンチに座り込み、やるせなさに項垂れたままでいた。

やはり深祐の言う通り…()()()()()()()()()()()()

……それでも

 

信武「親父達は助けるから、今は関わんな……か…。あぁーくそっ! わけわかんねぇ!」

 

アイツも…強情なのは変わらないせいか、俺との絆を絶っておいて「助けに行く」とほざきやがった。

――あのバカ、真実を知るまでの間…どれだけ心細い思いしたと思ってんだ…。ふざけんなよ。

なんとも言えない歯痒さからイライラを振り払えず、粗雑に頭を掻きむしるしか出来なかった。

 

 

俺には…水希や深祐のように、戦う力はない。

 

信武「……俺だって、あんな力さえ手に入れば……今すぐにでも助けに行けるかもしれねぇってのに…!」

 

無力さに落胆するなか、突如として耳にする。

 

 

 

 

 

『お主、そこまでして力を欲するのか?』

 

…と。

 

信武「――!? 誰だっ!?」

 

立ち上がった途端、目の前にフヨフヨと浮かぶ何かが現れた。

白く…綿菓子のようにフワフワとしたシルエット。そしてその頭には、王冠らしきものを被っている。

とても…この世のものとは思えない。一目見るだけでそう感じた…。

 

??「…申し遅れた。余の名はクラウンじゃ。…よもや、王である余と波長が合う者がもう一人おったとはなぁ。数奇なことじゃわい…」

信武「何モンだテメェ…!」

 

見た目とは裏腹に、老人臭い口調で話すそれに唆される。

 

クラウン「お主に力を与えに来たんじゃ。今のままでは満足できんのだろう? ワシなら、お主の願いを叶えてやらんでもないぞ?」

 

一瞬、誘惑に乗せられそうになるも踏みとどまり、怒気を含んで言い放った。

 

信武「……お断りだね。だいたいそれを受け入れた所で、操られてハイ終わりなんだろ? だとしたら、俺に何のメリットもありゃしねぇよ…」

クラウン「良いのか? もしここで拒否すれば、お主が望む夢すら遠のいてしまうぞ?」

 

それでも食い下がるコイツに呆れて物も言えなくなるが、実際…コイツの言う通り、せっかくのチャンスを無駄にするも同然な話だ。

……ならば、利用してやる。騙されていようと…それで親父達を救えるのなら………何にだってなってやる!

ただ、感情任せになっても、コイツのペースに乗せられるだけ。咄嗟の判断により交渉に出る。

 

信武「一つだけ約束しろ。水希と戦う間は一切洗脳するな。じゃなきゃ、…俺の気が抑まらねんだよ…」

クラウン「…構わん。もし其奴に負けるようなら、さっさと乗り移ればよい話じゃ」

信武「上等だ。そん時はテメェの良いように使われてやるよ!」

 

俺は、王冠の紋章が描かれたカードを手に取り、いつか見聞きしたように…その言葉を発した。

 

 

 

信武「電波変換。宇田海 信武、オン・エア…」

 

そして、俺の体は光に包まれる。

 

 

 

クラウン「ククク……交渉成立じゃのぉ…」

信武「………」

 

力を取り込んだ際、身体の変化に違和感を覚えた。

肩や手足に重々しい装甲を纏っているにもかかわらず、普段と比べて何倍も軽い。

こんな力…俺たち人間が容易に扱って良いものなのか?と、寒気すら感じてしまいそうだった。

そう呆けている内に、左腕の手甲からクラウンが飛び出て来た。

 

クラウン「ふむ、中々悪くはないのぉ。お主の名を挙げるとするなら……【スカル・ヴァンキッシュ】が妥当じゃろうな…」

信武「なんだっていい…。これで、俺も…」

クラウン「……さて、お主の姿も拝見したことじゃ。早速、あの〈海原の――」

 

話の途中で変身を解く…。

 

信武「生憎と今は、そんな気分じゃねんだよ…。いつ、あのバカに灸を据えるか…。決めんのは俺の勝手だろ?」

クラウン「フン。つまらん男じゃ…」

信武「言ってろクソジジイ」

 

 




スカル・ヴァンキッシュ

電波変換時の名称。電気属性。

軍服を模した紺色のボディスーツと深緑のマントを着用し、そのうえ両手足に金の装甲を纏う。
ヘルメットは白骨化した頭蓋骨をモチーフとしており、目元を覆うバイザーも白く…牙を連想させるほど刺々しくなっている。


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20話 本音

先にEX-3話が完成してから出す予定でしたが、こっちの完成が早いので出しておきます。

シリアスな場面だと決まって言い回しが下手くそになるから、そこが課題点なんですよね〜(知るか)
ある意味重要な回かもね…今話は。


 

何年も前の話…。

 

僕は…人生で二度、死にかけたことがある。

 

一度目はドジを踏んだことで川に溺れかけた。

今ではなんともないが、当時は軽いトラウマとしてぶり返すことはあった。

 

二度目は―――かつて存在した研究施設にて暴動が起こり、それを止めるべく戦陣に赴いたが、圧倒的な力を前になす術もなく、ただ打ちのめされるだけだった。

 

水希「――がはっ!! …うぅ……」

 

耐え難い激痛に苦悶するなか、不動の如く佇んでいた彼に憐れまれる。

 

??「――お前は弱い。弱いが故に…無謀と知っておきながら挑もうとするから、容易く弄ばれるんだ」

水希「……かぁ…」

 

その時はもう…視界もボヤけてはいたが、淡々と言葉を並べる彼は…声色といい、話し方といい、どこか辛そうに思えてしまった。

あの日、大吾さんから別れを告げられたように…。

 

??「覚えておけ…水希。弱肉強食が世の常である限り、優しさだけでは全てを救うことなど叶わん。

己に刃を向く輩に対し…時に非情にでもならねば、実物なり言葉なり刺されて朽ちるのみ。渡り合う為にも…生涯、闘い続ける他はない。

強くなりたいなら…それを踏まえたうえで、私と対等になれ……」

 

水希「待…、て…。じょぉ……か…ぁ…――」

 

手をのばしても、その手を掴むことは叶わず…彼はどこかへ消え去り、そのまま意識を手放してしまうのだった……。

 

 

 

いくら呼び続けても…()()()()()()は戻らない。

何度願おうと…再会は果たされることはなかった。

 

 

 

 

それでも………願わくば、会いたい。

彼に一言…謝りたい…。

 

 

***

 

 

重たい瞼を開け、時刻を確認すると20時を過ぎている。

どおりで部屋全体が暗闇に包まれていた訳だ。

あの後帰ってからすぐに、ふて寝してたっけな。

しばらくは横に寝そべるままでいた。

 

水希「……あの時も救えたはずなのに…またかよ…」

 

目元を拭い…下へ降りようと起き上がった瞬間、相棒は欠伸(あくび)をかき…後に目を覚ますのだった。

 

リヴァイア『起きたか…。お前、さっきまで魘されてたぞ』

水希「――そうなんだ…」

 

トランサーから飛び出るように現れる。

 

リヴァイア「……今更言うのもあれだけどさ。信武とは、ちゃんと向き合って謝れば許してくれたはずだぜ。俺、今のお前等を見てると…苦しすぎて目も当てられねぇよ…」

水希「……ごめん…リヴァイア」

 

と、他に返せず謝ることしかできなかった…。

 

――お前は昔から、自分のことで精一杯だったもんな? 「終わり良ければ全て良し」って言うように…自分さえ良けりゃ他はどうとでもなると思ってたんだろ!?

 

――お前が生きてると知ってから、どんな思いして過ごしたかも知らねぇ癖に。よくもそんなに、いけしゃあしゃあとしてられるな?!

 

信武の言う通り、昔から周りが見えなくなることはあった。

他人の意見なんか、気にし過ぎても得にはならないし時間の無駄。……って決めつけて、肝心な部分を取り入れようとせず、それどころか開き直ってると自覚はしていた。

やること成すことが偽善であるからこそ……結果を残しても、みんな揃って喜ぶとは限らない。そう理解した上でだ。

 

傍からみりゃ救いようが無いって思われても仕方ないのにね…。

 

 

そうして自己嫌悪に浸っていると扉が開かれた。

 

??「……らしくないわね。いつもの空元気はどこに行ったのよ?」

水希「…お姉ちゃん……」

 

途端に腹の虫が鳴り顔を赤くすると、姉はそれを見越していたのか…片手に抱えたお盆を僕に見せつける。

 

あかね「これ。お腹空いてるだろうから、作っておいたのよ」

 

そう言って部屋に入ると、おにぎりを乗せた皿とお茶がローテーブルに配膳される。

 

水希「ありがと」

 

被せたラップを剥ぎ、おにぎりを一口食べる。

 

――…うん、美味しい…。

 

程よい塩加減にくわえ、米粒もふっくらと立っており……気つけば夢中になって食べすすめていた。

 

(* ̄mm ̄) 〜♪

 

あっという間になくなりもう一つを取ろうとしたら、姉がニコニコとこちらを見ておったとさ。

まだ口に含んでいたので、訴えかけるように半目で睨む。

 

あかね「…なぁにジロジロ見てんの…って?」

 

頷く。

 

あかね「いやぁ…食事をする時のアンタは決まって静かだけど…美味しそうに食べる姿は昔から変わんないなぁと思っただけよ。私も作った甲斐があったもんだわ…」

 

雄弁に語りだすのを見送り、咀嚼したものを嚥下(えんげ)すると、途端に話題を切り替えた。

 

あかね「アンタが帰ってきてから…スバル、ずっと心配してたわよ。「元気ないよね?」って…」

水希「………」

あかね「この際…溜め込まずに、全部ここで話しちゃいなさいよ…。私でよければ相談に乗るから…」

 

一息ついてから事の顛末を語った。

 

あかね「……それで、このザマってわけね…」

水希「……うん」

あかね「はぁぁ…。アンタもつくづく強情よね? 変に意地張ったって、余計拗れるだけなのに…」

水希「…じゃあさ、お姉ちゃんならその時…どう行動したと思う?」

あかね「私? ……多分、焦って…アンタと同じ選択を取ると思う。勇気すら無けりゃ、尚更…」

水希「…やっぱり」

あかね「――でもそれなら、本当のこと話して謝る方がマシよ。それでもし、絶交を言い渡されたなら、信武君とはその程度の仲ってことでしょ?」

水希「……簡単に言ってくれるねぇ…」

あかね「あくまでも『私』としての意見よ。…『アンタ』はどうしたいの?」

水希「…………」

 

…自分の気持ちが、よく分からない。

…自分がどうしたいのか…分からなくなってきた…。

 

頭ではわかってはいるけど、体が言うことを聞かないような…

 

『おこがましくてもいいから仲直りしたい』

『赦してもらえなくてもいいから謝りたい』

『あの日のように一緒にいたい』って結論づいてるのに、自信がなくて……すごくモヤモヤする。

 

――俺、お前と一緒に居られたら、他は何も要らなかったんだぞ。…それでも、何一つ信じてくれないんだな…。…見損なったわ…。

 

水希「……バカだな…。普通に考えりゃわかることなのに…」

 

そう。リヴァイアも言ってたように、ただ一言……絶縁を覚悟で謝ればよかったんだ。

無駄に強がったところで、目の前の事から逃げてんのと変わんないってのに…。

 

水希「……一緒にいたい。あの時、素直に謝れなかった分…赦してもらえるまで…償って、仲直りがしたい……」

あかね「…それでいいじゃない。大丈夫よ、アンタの図太さを理解した上で付き合ってたんだから、信武くんは」

水希「……褒めてんの、それ?」

あかね「事実じゃない。別に褒めるなんて一言も言ってないでしょ?」

 

用事が済んだ途端立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

あかね「後は自分でよろしくやりなさいな。どう転んだとしても、絶対に根を曲げちゃダメよ?」

 

そう言い残し、部屋には二人だけになった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

翌日。河川敷にて…

 

水希「ねぇ、リヴァイア…」

リヴァイア『何だ?』

水希「やっぱウチって、要らなかったんじゃないかな。皆に迷惑かけてばっかで…――」

リヴァイア『お前ほんとウダウダ悩むの好きだよな。普段は無神経貫いてる癖してさぁ。俺、お前のそういうところ嫌いだわ…』

水希「ちょっ! それは関係……」

 

ないでしょ!? と叫ぶより先に現れ、いつになく険しい顔で見交わそうとする。

 

リヴァイア「関係なくないだろ。いくら言い訳したところで、結果を残そうと動かなきゃ誰も目を向かねぇんだよ。お前だってよく解ってんだろ?」

水希「そう……だけど……」

 

事実である以上…何も言い返せず俯くが、リヴァイアは気にも留めるどころか溜息を吐く。

 

リヴァイア「……いいか水希。お前は内心…嫌われるのに怯えても尚戦おうと必死なんだろ? ならもう…甘ったれた考えは捨てろ。それでもまだ泣き言をほざくなら、お前から離れさせてもらう。頭を冷やすにはちょうどいい機会だろうな?」

水希「やだっ! …行かないでリヴァイア…」

リヴァイア「〜っ、あぁもう、鬱陶しいんだよ!!」

 

嫌気がさしたのか、肩を掴んで盛大に怒鳴り散らす。

 

リヴァイア「俺だってなぁ、何も考えずに言ってるんじゃねぇんだぞ! 他人(ヒト)の指図を無視してまで選んだなら、今はひたすら突き進むしか無いんだよ! いい加減はっきりと言え! どうしたいんだお前は!?」

水希「〜〜」

リヴァイア「…泣いても何も変わりゃしねぇぞ。現実から目ぇ反らすな! 男だろ!!」

水希「うっ…、だってぇ……」

 

前を向いて生きようと必死な人達と違って、仮面を被ってるだけなのは自覚してる。

ウジウジ悩んでちゃ、先が思いやられるのはわかってる。

だけど…どっちにしろ、うまく行かなきゃ水の泡なんだよ?

今度こそ失敗したら、もう……居場所すらもなくなるかもしれない……何よりもそれが、怖いんだよ…。

涙を拭おうとしたその時。

 

??「昼間っから喧嘩たぁ、随分呑気だなぁ?」

水希「……しのぶ…」

 

土手から見下ろすように眺めては皮肉じみたコメントをする信武。

薄っすら笑っていても、目元はあからさまに冷めきっていた。

 

リヴァイア「…今はお前に構ってられねぇんだよ。痛い目に遭いたくなきゃ消えろ」

信武「だから何だ? 水希(コイツ)に裏切られるのと比べりゃ…、お前なんざ1ミリも怖くねぇよ」

リヴァイア「――抜かせ、ガキが…」

 

言い争いが終わると無表情になり、今度は僕に視線を向ける。

 

信武「事実とはいえ、昨日は散々言ってくれたな。水希…」

水希「それは、……ごめん。信武のことも考えずに勝手なことばっか言って…」

信武「気にすんなよ。結果的に力さえ手にすりゃ、俺としても張り合いがあるってもんだからな。そうだろ? ――――【リヴァイア・コキュートス】」 

水希「えっ…どういうこと…?」

信武「………電波変換」

 

…刹那。辺り一面が眩しくなり、目を伏せ……ようやく収まった頃に見返し、愕然とした。

 

水希「信武、なんで…!?」

??『ククク……いい表情をしておるな。絶望と焦燥に満ちたその顔。久方ぶりに(たぎ)るわい』

 

陽炎の如く…揺らめくように現れたそれは、どう見てもFM星人の連中と見ていいだろう…。

 

リヴァイア「やっぱり、お前等の仕業か…!」

??「お初にお目にかかる。余の名はクラウン…。FM王より兵役を(たまわ)りし者じゃ。しかと目に焼きつけておけ―――〈海原の悪魔〉よ…」

水希「テメェ…! 信武に何唆した!?」

 

怒りに満ちた僕らを、目の前のクソ野郎は喉を鳴らして嗤う。

 

クラウン「言わずとも知れた事じゃろう。王である余の心が広い故に此奴に力を貸してやったまでよ…。無論、のちに傀儡(くぐつ)として扱われると知った上で…じゃがなぁ?」

水希ゲスがッ…!!

 

変身を済ませ、双方ともにウェーブロードに転移する。

 

クラウン「あれだけ大口叩いたんじゃ。後々、退屈にならねば良いがの?」

水希「安心しろよ、エセ大王…。信武からテメェを引っぺがした後で完膚なきまでに八つ裂いてやる。死ぬまでの間に辞世の句でも考えてろ!」

 

――もう、なんだっていいや。……今は、目の前のクズを………殺す!!

 

思考を放棄し…ブレイクサーベルを構える。

 

同時に信武も、右手を空に掲げ…

 

信武「―――来い…。〈カリブルヌス〉!!」

 

戦火の火蓋を落とすが如く、雷鳴を轟かせた。

 




一部シーンを初期のデアラでいう、狂三を攻略するのに迷いがある士道を十香が説得するシーンを参考にしてみました。

目標はそのままで士道(信武)と立ち位置が逆になった狂三(水希)に対して十香(あかね)が説得するって感じになってます。(一番のパートナーも含めてね)

感情がコロコロ変わる割に、うだうだ悩むとこは善逸と似てるからか「あなた人をイラつかせるの得意ですね」って言われそうな回になってて、作者も辛いわ。ほんと…。


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21話 Farewell to dear friends

 
流星のファイナライズの続きが見たいでござる。

※一部吐血描写あり。


 

 

信武「―――来い…。〈カリブルヌス〉!!」

 

快晴である筈の空から雷が落ち、右手に集約。後に得物として顕わになり、信武はそれを固く握りしめる。

自分もすかさず身構えると、お互い睨み合う状態が続いた。

……緊張のせいか、息が詰まって仕方がない。

 

水希「………」

信武「………」

 

……ほんの数秒。間が空いたところで地を蹴り、剣と剣がぶつかり合うが、ある意味愚策かもしれない。

何せ…振り下ろした剣は受け止められ、あっさり弾かれるのだから、これだけで技量と経験の差があると痛感させられる。

やはり単純な力比べとなれば分が悪いか。

 

水希「―――〈クリスタルバレット〉!!」

 

後退する際…牽制として雹弾を放ったが、それでやられる程甘くはない。

信武は前進しながら弾き落とし、間合いを詰められた瞬間に剣戟を繰り出され、防御と回避に専念するほかなかった。

 

――…やりづらいな。

 

信武の(はや)さに辛うじて追いつけているけど、一撃が軽い癖して狙いが的確すぎるせいか、時間が経つにつれて浅い傷を負うが、隙を見ては剣をいなし、バックステップで後退した。

 

少し息が乱れるなか、常に仏頂面だった信武の表情が一層曇る。

 

信武「……理解できねぇな」

水希「何が?」

信武「『好き放題言うだけで、何もしない奴の言葉は聞かない』って話だ。お前だって大概当てはまってるようなもんだろ。今のお前を見てると、(てい)の良い言葉だけ並べて逃げてるとしか思えねぇよ……」

水希「わかってるよ……。だけど!」

信武「――じゃあ何で、すぐ助けに行かなかった? そのつもりならさっさと行動に移せただろ!

結局、単にやる気がないって思われるだけだろうが……」

水希「………」

 

そう簡単に行けたなら苦労はしないと反論したいが、信武の主張が正論である以上……ぐうの音も出やしない。

結局自分は、自分を偽る(正当化する)ことしかできない最低野郎だと、改めて思わされる。

 

信武「……つまりあれか? 好き放題やって、都合の悪いことは全部無視すりゃいいって魂胆か? だとしたら相当クズい思考してんな、お前……」

水希「――そりゃどうも。……捕縛せよ!」

信武「……!」

 

自分で撒いた種だからこそ、口論は無駄でしかない。

信武には悪いけど眠ってもらうしかないと思って、いつか言われた苦言を反芻(はんすう)しつつ捕らえた。

 

水希「……悪く思わないでよ? 他に方法が思いつかなかったんだからさ……」

信武「この野郎……!!」

 

無理やり引き剥がそうとする信武に構わず、息を吸い込み――

 

水希「〈ブレス・オブ・コキュートス〉!!!」

 

―― 一切の妥協もなしに、信武めがけて咆哮を放つ。

直接触れずとも、冷気によってウェーブロードは凍りついていたが、現実世界への影響は然程少なかった。

しかし……この技自体、元々の威力の高さから二次被害を視野に入れたら、尚のこと末恐ろしいと感じさせられる……。

 

被弾して、冷気の煙幕が晴れるまでの合間にそんなことを考えつつも、警戒を怠らないよう凝視する。

 

 

リヴァイア『……やったか?』

水希「いや……わからな…――!?」

 

ようやく煙幕が晴れたと思ったら、前に何かが阻まっていることに気づく。――どうやら見た感じ、円盤状の盾のようだ。

ひとりでに浮遊する盾が真っ二つに割れ、青い炎に包まれた髑髏の幽霊ごと消え去る。

 

そして案の定、()()()()()()()()()()()

 

水希「うそ…?! 全力で撃った筈なのに…!!」

信武「いやぁ…正直俺も後一歩遅れてたら危なかったわ〜。にしても凄まじい威力だったな…。どうでもいいけど」

 

不敵な笑みを浮かべながら、信武は鎖を断ち切る。

拘束が甘かった関係なしに予想外だと、驚きを隠せずにいた……。

 

信武「これではっきりした。やっぱお前じゃ駄目だ。……だからさ――今から殺してやるよ」

リヴァイア『水希、避けろぉ!!』

水希「え…? ――ぐぁっ!!?」

 

突然のことで混乱するが、右半身が痛む。

理由は後にわかった。

 

ハンマーを持った霊に打ち上げられたのだ……。

そして……槍、弓と、武装した幽霊達によって、ラリーの応酬みたく幾度となく追い詰められてしまう。

 

全身に痛みが走る頃に幽霊が消え、重力に任せるように落ちるその時だった。

 

信武「まだ終わってねぇぞ、水希ぃ…!」

 

憎悪で歪んだ信武が真上から現れ、雷を纏った剣を振り落とそうとした!

 

信武「〈インパルス・ブレード〉ォォ!!!!」

水希「――っ! 遮蔽、せよっ……!!」

 

回避するにも時間が足りず、防壁を張るために両手をかざすことしかできなかった。

魔法陣が白く光ると同時に水膜に覆われ――衝突。圧される勢いに負けじと食いしばった。

 

水希「く、ぉおぉぉ…っ!!」

 

いくら雷撃を消せるとは言え水膜は薄く、効力は付け焼き刃そのもの。

対して信武の放つ威力は凄まじく、恐らく〈ディザスター・クロール〉と同等と思える。

その証拠に、ピシリ…と悲鳴が上がりはじめる…。

 

水希「う……、…くっ……―――ああぁぁぁ!!!」

 

やがて破られ、猛スピードで墜落。

 

水希「――ゲホッ! ゲホッ! …うぇっ……」

 

背中に強い衝撃に受け、むせ返るように吐血した。

横向けて吐き出すも…口の中に鉄臭さが混じり、気持ち悪いことこの上ない…。

 

リヴァイア『おい…大丈夫か…?』

水希「――これが、平気に見える…?」

 

流石にダメージは大きく息も絶え絶えだったが、痛みに堪えて起き上がろうとするなか、一歩一歩…信武は踏みしめるよう迫りくるのだった。

 

信武「ザマァねーな、ある程度加減してやったってのによぉ……。

ほんっと笑えるわ。お前みたいなヤツがあの計画に同行できるほど……立案者はさぞ盲目なんだろうな?」

水希「くっ……」

 

信武は全くの真顔で淡々と呟く。

 

――まだ、終わっちゃいないんだ。…こんなところで、倒れて…たまるかっ……!!

 

必死の形相で睨みつけるも、信武は憐れむどころか、心底どうでもよさそうに剣を突きつけるのだった。

 

信武「長く戦ってきた以上…流石のお前でも判るだろ? 単純な力量差と相性の悪さに加え、リアルでも剣の扱いには慣れてる。

この時点で負けは確定してんだよ…」

水希「…ウチはただ…信武に…」

 

遮るよう舌打ちをかまし、眉間に皺を寄せて睨んだ。

 

信武「まだ言うのかよ…。こうしてモタモタしてるせいでもう手遅れかもしれねぇんだぞ! よくも半端な覚悟で護衛しようと思ったな!! 笑えねぇんだよクソがっ!!」

水希「しのぶ……」

 

手に持った剣を両手に握りなおし、高く振り上げる。

その目は獲物を狩らんとばかりに血走らせており、これから何をされるのか…想像がつく。

リヴァイアは逃げろと叫ぶが、もう…ろくに足も動かせず万事休す。

 

――嗚呼。今から手酷く嬲られるんだろうな。

 

今までのツケが回っただけの事。いつかこうなるとは思ってたけど、やっぱり怖い。

恐怖に竦むまま俯けた。

 

水希「ごめん…。最期まで、迷惑かけて…」

信武「……安心しろ。お前の意志は継がせてやるよ。俺が今まで受けた苦痛……そして、お前の抱える…無念を晴らせなかった悔しさを、全部…!――――その胸に刻みこんで死ねぇ!!!!」

リヴァイア『みずきぃいぃいいい!!!!』

 

目を瞑り、そのまま剣を振り下ろされると思った次の瞬間…。甲高い金属音に鼓膜を打たれた。

 

信武「なにっ…!?」

 

突然のことで戦慄する信武に続き、目を開けると……信武の振るった剣を素手ひとつでせき止める()があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿は間違いなく

 

水希「――レティ!?」

リヴァイア「お前、いつの間に!?」

レティ「……この子は私の計画に必要な存在なの。生憎とまだ、死なせる訳にはいかないのよ…」

 

そう言い放つと、信武が掴んでいた剣ごと片腕のみで押し退けさせた。

軽く数メートルは飛ばされるくらいなので、あんなバカ力で殴り倒されたとしたら一溜りもないだろう。

考えただけでも背筋が凍りつき、信武も見開いて動揺していた。

 

しばらく固まっていると、レティはこちらに振り向く。

 

レティ「早く逃げなさい。どの道、今のアンタじゃ太刀打ちできないでしょう?」

リヴァイア「っ、…礼は後だ!」

 

リヴァイアに抱きかかえられ、戦線離脱。

 

信武「…! 待ちやが…」

 

慌てて追おうとするも、ノイズゲートから大量のメットリオが飛び出て、信武の前に立ちはだかろうとする。

 

信武「退()けオラァ!!!」

 

瞬時に雷撃を浴びせ、全滅させるも…

 

信武「……しまった!? アイツは」

レティ「もう水希ならどっか行ったわよ」

信武「ッ!……クソっ…」

 

完全に見失い…苛立ちを隠せず歯ぎしりするが、レティにとっては、さして気にすることでもなかったようだ。

 

レティ「でも驚いた…。まさか、意識を(たも)ったまま変身していられるなんてね…。――アンタの事情はあの子から直接聞かせて貰ったけど、今は関係ない。…どっちにしろ、誰にも水希達の邪魔はさせないわ…」

信武「そうかよ…。なら、一つだけ聞かせろ」

レティ「なにかしら?」

 

未だに飄々とするレティに苛立ったまま、一歩詰め寄り怒鳴り散らす。

 

信武「テメェが水希のこと操ってんのか!? 逆らえねぇよう影から仕組んで――」

レティ「誤解は止して頂戴な。あの子とは利害が一致した上で協力してるのよ? 第三者のアンタにどうこう言われる筋合いはないの。分かったらさっさと失せなさい」

クラウン『……この女の言うとおりじゃ、信武。今は…』

信武「うるせぇ!! 邪魔するつもりならテメェをぶっ倒すまでだ!」

レティ「聞き分けのない子ね。ま、いっか…。殺すなって言われてるけど、ぶっちゃけ気絶させりゃいいだけだしね…」

 

空間を裂くようにゲートが現れ、そこから鋼一色の軍刀を取り出しては切っ先を信武へと向けた。

 

レティ「精々、後悔しなさいな…」

信武「――ほざけぇ!!」

 

そうして、容赦の欠片のない殺し合いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、僕達は…

 

 

 

 

 

水希「……どうしよ、リヴァイあ…。アイツに、信武に……嫌われた…。もう、これからどうすりゃいいの……」

 

抱きかかえられたままウェーブロードを走るなか、色々と耐えきれなくなり…泣き顔を見られまいと胸元にしがみついた。

 

リヴァイア「……心配すんな。たとえ周りが敵だらけでも…俺がいる…。だから…」

水希「もうやだ…。たすけて、だいごさん……!」

リヴァイア「……水希…」

 

いるはずの無い彼に助けを乞うことしか出来ず、ただただ咽び泣くばかりだった…。

 




 
今回は珍しく、タイトルは英語でしたが
訳すと「親愛なる友人への別れ」となります。

W.mistさんの書く作品に感想を書いて思ったのですが、
スバルは「たった一人では力は及ばないけれど、たくさんの人間の手を借りて自己を強くする」ことが出来たから、困難を乗り越えるだけの精神力はあった。

逆に水希は、スバルと同様の恩恵を受けても「失えば、結局は無意味になるだけ」と思い込んでるから弱いんじゃないかなって…。
考えても、もう遅いんですけどね…。
なんというか…今の自分に刺さりまくりな気がします。

三章に続き…四章は、あまり救えない結果に終わりましたが、水希と信武くん…二人の今後の行く末を見届けて頂ければ幸いです。

次回、22話で信武編は終わりです。
活動報告にも記載しましたが、今月辺りで執筆と投稿を一時休止させて頂きます。

それでは!


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22話 行き先は何方(どちら)まで?

 
無神経さなら信武くんも多少なりとあるのかも?
作者の腕の無さが露呈してるから仕方ないか。

余りに短くて伝わりにくいと思うので、書き直すかも…


 

信武との一戦の後、レティの介入によって戦線離脱し、廃ビルの屋上に着くまでリヴァイアに泣き縋る始末だった。

キズナ号での事件以来、信武にどう顔合わせりゃいいかも解らなかったのに、こんな状態では大吾さん達に顔向けすらできない…。

 

何もかもが間違っていても、今さら後には退けないっていうのに…悔しいよ…。

 

リヴァイア「…少しは落ち着いたか?」

水希「うん、……ごめんリヴァイア。本当なら目を背けたくなるくらいなのに…」

 

嗚咽混じりに返答すると、リヴァイアはいつもみたく、慰めるように頭を撫でてくれた。

 

リヴァイア「ばーか、今更だろうが。何に変えてもお前だけは守るって誓ったんだ。生半可な覚悟じゃ、お前のパートナーは一生務まらねぇよ」

水希「…ありがとう、本当に…」

 

厳しい時もあれど、なんだかんだで傍にいてくれるのが僕の知るリヴァイアなのだ。

半ば共依存になりがちな関係だが安心感は別格で、むしろ居心地が良いと思えてしまう。

それだけ、リヴァイアのことが大好きなんだと思う…。

 

あと数分ほど抱きついていると、ウェーブロードから降り立とうとするレティと目が合う。

 

水希「レティ…。…信武は?」

レティ「……話で解決出来そうにないから気絶させた」

水希「……!?」

レティ「――あの後ベンチに寝かせたけど、しばらくは戦えないでしょうね」

 

 

衝撃のあまりに言葉を失うが、レティはその上。辛そうに顔をしかめていた。

 

レティ「…気持ちはわかるけど、こうでもしないとアンタ…殺られていたのよ? …お願いだから、もっと自分を大切にしてよ……」

水希「……ごめん…」

 

信武を止めるほどの力が無いのは事実。

形容し難い悔しさを噛み締めながら謝る。

 

謝罪を聞き取ったレティは、腕を組んだまま手すりにもたれかかり、表情はより気難しくなった…。

 

レティ「予定よりだいぶ狂ってきたわね…」

リヴァイア「ま、それ解った上で行動してる以上、いずれ衝突し合っても可笑しくは無ぇはずだぜ…」

レティ「……そうね」

 

視線を僕の方へ移す。

 

レティ「私が責めるのはお門違いだけど…現実を受け止めきれなかったアンタが悪いのよ。そのせいで余計、事態は悪化するだけになった…」

水希「……」

 

もっと言われるかと思ったが、途端にリヴァイアが制止に入る。

 

リヴァイア「理屈を捏ねたって無駄だろ。それにコイツはまだ迷ってんだよ…。身の周りで色んなことが起こったから――」

レティ「知ってる。私が言いたいのは覚悟がどうのこうのじゃなくて、自分の気持ちに素直になれってことよ」

 

リヴァイアは煙たがるように目を細める。

 

リヴァイア「……本当に今更だな…」

レティ「だからこそよ。私のワガママに付き合わせた分、水希の意思は尊重したいけど、いい加減はっきりさせたいの…」

リヴァイア「…アホくさ」

 

どいつもこいつも…と、呆れて物も言えなくなったのか、鼻で嗤いだした。

 

レティ「どうしたいのよ、アンタは?」

水希「………」

 

不意に質問を投げかけられるが、しばらくは俯き…黙り込んだ。

 

――今更言うのもあれだけどさ。信武とは…ちゃんと向き合って、謝れば、許してくれたはずだぜ…。俺…、今のお前等を見てると…苦しすぎて、目も当てられねぇよ…

――ごめん…リヴァイア…

 

自分一人では手に負えなかった……なんて、言い訳が通じるはずも無い。

 

――こうしてモタモタしてるせいでもう手遅れかもしれねぇんだぞ! よくも半端な覚悟で護衛しようと思ったな!! 笑えねぇんだよクソがっ!

 

結果がわかりきったとしても、助けたいという一心に囚われ過ぎたから、周りに目を向ける事ができなかった。

…自分自身がどっちつかずになってるせいで、信武を怒らせてしまった。

失うのが怖いからと尻込みしたせいで……

 

リヴァイア「水希…」

 

拳を握り締めてた所で呼ばれ、顔を見上げた。

 

リヴァイア「…お前のやりたいようにやればいい。なにも…無理して一遍に片付けるより、少しづつでいいんだ…」

 

そうだよね…。焦っても、また何処かでミスをする。…それならいっそ…

 

水希「………ありがと…」

 

レティの方へ向き直る。

 

水希「皆を助けることも大事だけど……先にやりたいことがある」

レティ「………」

 

――どう転んだとしても、絶対に根を曲げちゃダメよ?

 

あの時も姉ちゃんに言ったんだ。

やる前から諦めるより、やってから後悔する方が数倍マシだって…。

 

水希「信武を…助けたいの。大好きな親友だから…」

 

小さい頃はいつも…何かと信武に助けて貰ってばっかりだったから、今度は自分の番。

間違ってることをするバカを止める為に、もっと強くなりたいと、心から願った。

勝手な事を言って怒られると思ったけど、レティは安堵するかのように笑っていた。

 

レティ「……だったら、ちゃんと気持ちをぶつけて来なさい。だんまりを決めてちゃ、前には進まないわよ?」

水希「わかってる。あぁでも……んん〜…!」

 

締まりのなさに、苛立ったレティは肩を掴んだ途端、前後に揺さぶって怒鳴り始める。

 

レティ「もぉ〜、締まらないわね!! やる前から諦めムード出してどーすんのよ! 男ならシャンとしなさい! ホラ!」

水希「うぅ……」

 

途中でリヴァイアに引き離して貰ったが、乗り物酔いに近い感覚に追われ気分が悪くなる。

 

レティ「はぁ、……アンタも大変よねぇ?」

リヴァイア「はは、全くだぜ…。コイツについて行こうとする俺自身も、馬鹿の一人に変わりねぇって訳だ」

水希「ぐぬぅ……。何も言い返せないからってぇ…」

 

二人同時に毒を吐かれたのはショックだが、やり直す切っ掛けを作ってくれたレティには感謝している。

繋いでくれた道に一矢報いる為に、信武も、そして…深祐さんも……

 

 

救ってみせる…。




以上で信武編は終わりです。
どちらか一方を切り捨てられずにいたせいで状況は悪化したので、これから時間をかけてでも清算しようとする…水希の動向を見守ってくだされば幸いです。

6月辺りから新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いて頂いた時任さんと星弥さんのお陰で、こうして折れることなく書き続けることができました。

基本的に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()(端的に言えばキャラ崩壊)という意味合いでアンチヘイトを付け足したので、見る人にとっては不快に感じる人もいますが、なるだけ曲げず思うままに書き、ついてきてくれる人さえいれば良いやという方針で書き続けて行こうと思います。

それでは引き続き、ミソラ編をお楽しみください。


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閑話 俺が望むのは…

アイネクライネって曲聞いた時、EXTRAも含めて四章に合いそうな歌詞だな〜って思った。



 

ぼやけた視界に映るのは、いつか通い慣れた教室。

ずらりと整列された席に一人。窓の外を眺める影があり、俺の意志とは関係なしに歩み寄ろうとした。

覚えてる限り…そいつは他の生徒と混ざらず、生返事と無口を貫く木偶だったが、俺と一緒のときは変わらず反応を――色んな表情(カオ)を見せてくれるのだ。

 

「どうした? そこで黄昏れてさ。やな事でもあったか?」

「ううん。別に…」

 

今よりも幾分と高い声に懐かしさを覚えさせられる。

 

「…そっか、ならいいけど」

 

人によって態度を変えようとする故…周りは不愉快に感じ、お互い必要以上に関わろうとしなくなったのだ。

親友としても、もっと自分を出して欲しいと切に願うばかりだが、こうも定着してるんじゃどうしようもない。

 

「なぁ…お前って、高校どこ行くか決めてんの?」

「えっ…?」

 

そいつにしては珍しく…困った顔を見せ、考え込むよう俯くが、即座に首を振った。

 

「……俺らまだ中二だけどさ、早くにオープンキャンパスに行ってる奴もいるんだぜ? お前もそんなにグズグズしてられねーだろ?」

「まぁね……」

 

そして、相変わらずの生返事。

どこにいても仮面のように張り付く笑みを見せられる度…息が詰まりそうだった…。

 

 

もう一度だけで良いから、笑ってくれよ。水希…。

 

 

 

 

 

***

 

 

目が覚める……と言っても辺りは暗くなっており、時刻は20時を回っている。

 

――そうか、俺…ここで…。

 

倒すつもりで挑んだ相手に抵抗虚しくやられ、ベンチの上で寝転がらされてたのか…。

何時間も同じ体勢で寝てたせいか体が軋むが、気を振り絞り時間をかけて起き上がると、クラウンが現れた。

 

クラウン『起きたか…』

信武「…敵の癖して、やけに心配そうだな…」

クラウン『悪いか?』

信武「いいや、別に…」

 

あの女と戦う前もそう。俺ら人間を利用しておいて……ましてや、正気を保ったままでだ。

普通、己の保身に走ってもおかしく無いはずだろ…。

 

信武「なぁ…お前って、ただ俺らを利用したいが為に契約を交わしたんじゃないだろ?」

クラウン『なぜそう思う…?』

 

人差し指を立てて言う。

 

信武「理由は一つ。敵同士である以上…用済みにしろ、生存本能が働くにしろ、見捨てるのは容易い。だかそうしなかったのには別の目的や理由があるから。…違うか?」

クラウン『……仮に、知ったところでどうする?』

 

圧をかけるよう問い質したが、変に反論しない辺り…図星らしい。適当にはぐらかされるよりはマシか…。

両手を頭の後ろに回し、仰向けに寝転ぶ。

 

信武「さぁな。ただ…内容次第ではお前を殺すと思う」

クラウン『力を行使できないと知った上でか?』

信武「あぁ。それに…親父が生きてる保証なんて、もう無いだろうしな……」

クラウン『………』

 

無論、生きているのなら嬉しいが、コイツらを信用できないからこそ…過度に期待する気にはなれない。

 

何よりも今、俺が望むのは、水希の……幼い頃から変わらず見せてくれた無垢な笑顔をもう一度見たい。

ただ、それだけなんだ。



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四章EXTRA ミソラアチューメント
EX-1話 邂逅


過去最高レベルに文章がまとまった気がする。
会話シーン作るとき、めっちゃウキウキしてしもうたわ〜ww


 

 

『本当にそれで良いのかよ』

 

『あぁ。地球のことはアイツに任せてるからな』

 

『……死ぬほど辛ぇぞ?』

 

『わかってる。だが、アイツはそれ以上に苦しんでんだ。アイツに頼りきりのままじゃ、大人として示しがつかんからな…』

 

『……わかった…』

 

『どっちにしろ…地球へ行くつもりなら、水希を頼れ。アイツなら、事情を話せば…きっと、お前を守ってくれる筈だ…』

 

 

 

 

 

***

 

 

 

……天上の一面が雲に覆われる日の朝。

数度寝返りを打ち、もそもそと起き上がる。

 

スバル「……変な夢だったな…」

 

内容を思い返そうとするも、ほとんどがあやふやになり…そのまま考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

4/20 am 9:56

 

適当に朝食を済ませ…ニュース番組を見ている最中、突然呼び鈴が鳴り、玄関へと向かう。

 

スバル「は〜い、今出まーs…」

??「御用だ! 御用だ! 御用だ! 御用だぁ!」

 

ドアノブに手をかけるより先に勢いよく開かれ、猪突猛進を体現するかの如くズカズカと侵入される。

なんとか避けるも「うぇい!」と素っ頓狂な声を上げてしまい、思わず赤くなる。

 

??「ふむ…。やはり、ここから発せられるZ波の数値は異常だな。悪い方向に影響が出なきゃいいが…」

 

人が驚いているにも関わらず…顎に拳を当ててはブツブツと何かを呟いており、いい加減イライラしてきたので…不機嫌混じりな声で呼びかけるのだった。

 

スバル「あの〜、強盗かなにかですか? 靴履いたまま勝手に上がらないで欲しいんですが…」

??「ん? ………あああ!またやっちまったー!!」

 

天を仰ぐように頭を抱え、慌てふためく中年男性。

見た感じ、前時代の刑事と思わせるような服装をしており、左腕には腕章代わりとして、サテラポリスの印が施された端末を取りつけていた。

 

??「す、すまない、ボウヤ! 私は捜査のことになると周りが見えなくなる癖があってな、決して強盗ではないから安心してくれ! な! な!!」

スバル (土足のままで言われてもねぇ…)

 

グイグイと必死に説得する男性に、呆れて物も言えなくなるどころか引いてしまう。

それに気づいたのか、今度はいきなり敬礼し始めた。

 

??「ほ、本官は五陽田(ごようだ) 平次(へいじ)。近頃コダマタウン周辺にて起こった事件を調査しているんだ」

スバル「…もしかして、トラックの暴走とかですか?」

五陽田「あぁ、詳しいことは言えないが…研究所で起こった事件と共通点があってな…」

 

共通点というワードで大体察した。

どうやらZ波とやらが原因らしく、五陽田さん(この人)を含めた総動員で、根源となるものを撲滅するのだとか…。

粗方説明したところで、嵐のように去って行く。

 

 

 

スバル「そういや、ウォーロック…って、いない…」

 

咄嗟にトランサーを覗くも肝心の居候が居らず、探しに行こうと家を出るが、居所がつかめない今…とりあえず展望台へと向かい、階段を昇る際…これまでのことについて振り返ることにした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

4日前のこと…。

 

この日は珍しく早起きし、3人揃って朝食を摂る最中…トランサーから着信音が鳴った。

どうやらメールが届いたようで、内容は………

 

あかね「……? スバル、どうかした?」

 

向かいに座る母に呼びかけられ、焦りだす。

 

スバル「! いや、何でもない」

あかね「…そう。気が済んだなら早く食べなさい。見ながらは、お行儀が悪いわよ?」

スバル「は〜い…」

 

僕の右隣にいる兄は、何食わぬ顔のまま食べ進めるのだった。

 

 

 

 

そして、数十分後。

母がパートに行ってる間…兄さんから話があるらしく、僕の部屋へ来ることになった。

 

スバル「…留守番?」

水希「そう。しばらく家を空けるから、できれば家にいて欲しんだよね…」

 

と言った瞬間、ウォーロックが飛び出てきた。

 

ウォーロック「……口出す義理はねぇが、やめたが方が賢明だと思うぜ。…つっても、探しに行くつもりなんだろ? あの宇田海って奴を」

水希「……うん」

スバル「だったら、二人で手分けした方が…」

水希「――確かに効率はいいよ? でも、手当たり次第に探したところで見つかる保証なんてないしぃ…スバルだってまだ学生なんだから、勉強に励まなきゃ…でしょ?」

 

頬をポリポリとかき、バツが悪そうな顔で説得する兄さん。

 

スバル「――で、本音は?」

水希「後々、お姉様にシバき倒されたくないからです」

(6 o 6 )

スバル「だと思ったよ…」

 

昨日のことについては…原因のほとんどが兄さんの自業自得であり、こればかりは仕方ないとしか言いようが無かった。

…にも関わらず、ここまでキッパリと言われて逆に清々してしまうのはなぜだろうか…。

そう考えこんでる時、トランサーから兄さんの相棒ことリヴァイアが現れ、頭をガシガシと撫でだす。

 

リヴァイア「…ったく、そうやってお前一人で抱え込まなくても、少しくらい頼りゃいいじゃねーか。せっかく協力的になってくれてるのに…意地張ったって何も変わらねーだろ」

ウォーロック「――そうそう。十中八九、スバルがやられねーか気が気でないんだろうけどよぉ。俺がいるんだから何も心配いらねぇよ」

 

「そんなにオレのことが信用できねーってのか?」と茶化され…黙りこくるが、考えるまでもないかとばかりに溜め息を吐くのだった。

 

水希「……わかった。それじゃあスバルには、コダマタウンの周辺を探して貰うよ。その代わり、無理はしすぎないこと!」

スバル「わかった。兄さんもね…」

 

 

 

 

***

 

と言った経緯もあり…勉強に励みつつも、時間があればにコダマタウンとアマケン周辺を探すことになったが、一向に見つからない。

 

スバル「今のところ進展はなし。か…」

 

そうこうしている内に階段を昇りきる。

どうせ来たのだから、気晴らしに景色でも眺めようとしたその時…。ふと、弦を奏でる音と心地よい歌声が耳に入る。

この頃…重苦しい雰囲気に晒されたのもあり、無償に聴き入りたい気分が湧き溢れた。

 

見晴らし台まで上がると演奏は止まり、少女と目線を合わせる。

 

??「…? この場所に用事?」

スバル「ううん、大したことじゃないよ…」

??「そっか…、良かったらこっち来てよ。さっきより楽しめると思うから!」

スバル「…うん」

 

少女の声に導かれ、一歩一歩足を踏みしめ…近づくにつれ少女は再び歌いはじめる。

 

??「〜♪、〜♬」

 

緩やかに流れる歌を聴き入っていると、雲の隙間から光が差し込み、スポットライトの如く…観客を魅了させる歌姫の元へ照らされる。

それにより、輝きを増すように感じさせ、いつの間にか魅入られていた…。

 

ひとしきり歌い終わったと同時に後光は弱まり、少女は大きく息を吐く。

 

??「…フー! 終わり! …どうだった?」

スバル「うん。とても良い曲だったよ」

??「良かった〜。 …実はこれ、新しく作った曲なんだけど。これならきっと、ママにも喜んでくれるかもね…」

 

誇らしげに語る姿を見て、つられるように笑みを浮かべた。

 

スバル「今の曲…お母さんに聴かせるの?」

??「うん。女手一つで育ててくれたお礼がしたくて…。前にも沢山の曲を作ったけど、どれも喜んでくれたんだ。『流石は自慢の娘ね!』って…」

スバル「そっか」

 

少女は帰り支度をすませようと、ギターをしまう。

 

??「今日はありがと! またここに来ると思うから、良かったらまた聴きに来てよ!」

スバル「うん!」

??「それじゃ、もう行くね…」

 

少々、名残惜しいが、彼女を見送ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「勿体ねーなぁ。そのまま告っちゃえば良いってのによぉ」

スバル「いやいや、まだ会って数分なんだよ? いきなりは無いでしょ、いきなりは〜…………」

??「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつから()ったんじゃお前ぇ!?!?」

 

ウォーロック「ぐお"ぉあぁぁあ耳がぁ! みみがァ!!!」

 

 

しばらくお待ちください……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバル「もぉぉ…寿命が縮んだと思ったじゃん!」

ウォーロック「うん? あぁ……まぁ、うん…」

スバル「……ねぇ、反省してる?」

ウォーロック「あ〜う☆」v(^q^)v

スバル (#^ω^)

 

げ ん こ つ

 

スバル「…お前ほんまええ加減にせぇよ。なぁ?」

ウォーロック「はい…。以後、肝に銘じさせてもらいます」

 

なんやかんやありつつ展望台を後にするが、階段を下りきるタイミングで委員長達と出くわす。

 

 

 

 

 

 

スバル「あれ? どうしたの、こんなとこで…」

ルナ「どうしたもこうしたも無いわよ! もう!」

 

見るからにご立腹な様子。

出来ればあまり関わりたく無いのだか…。

 

ルナ「何か言いたそうな顔ね?」

スバル「いえいえ、滅相もございませぬ。…何かあったの?」

ルナ「……キザマロ、説明お願い」

キザマロ「はい…。実はサテラポリスの人から簡単な事情聴取をされたんですが…」

 

オブラートに包むような説明にある程度は納得した。

現に、僕も被害を(こうむ)るハメになったし。

 

スバル「何と言うか…災難だったね…」

ルナ「災難どころじゃないわよ! 嫁入り前の女の子を相手に………最っ低ーー!!!」

 

怒り心頭なまま声を荒げては何処かへ去って行き、ゴン太とキザマロの二人も後を追った。

って言ったそばから五陽田さんおるんやけど!!

 

ウォーロック「…どうやり過ごす?」

 

木に隠れてやり過ごす。

壁に立って石像の真似する。 ←

石ころみたく地面に丸まってみる。

ゴン太くんに生贄になってもらう。

 

スバル「いやこれ木に隠れる一択やろ…」

 

ここから先は尺の都合上…ダイジェストでお送りさせて頂きます。

 

スバル&ウォーロック「「メメタァ…」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、某展望台にて…五陽田さんをひきつけて気絶させる作戦を実行することにした。

決して殺人事件を起こそうとか考えてないのでご安心ください。

 

スバル「えぇ〜っと、スピードは140kmに……OK!」

ウォーロック「全然良くねーよ、うん」

 

検証結果…。

 

ピッチングマン「YOU は SHOCK!!!」

五陽田「――ぐぇっ!!??」

 

豪速球は頭を狙い撃ち、五陽田さんは倒れた。

 

作者「ストルァーィクッ!! ピッチャーノックアゥト!!!」

ウォーロック「誰が上手いこと言えと言った!? あとなんで出てくる必要あるんですかぁ!?」

 

そして急に、ピッチングマンが彼に向かって指を差す。

 

ピッチングマン「お前は既に…死んでいる…」

ウォーロック「いやデッドボールだけども! 一応死んでねぇから!! ……おいスバル、もう出てきて大丈夫だぞ…」

スバル「…危うく水希リスタートから火○サス○ンスにタイトル変わりそうだったね?」

ウォーロック「勝手に殺すな! メタいわ! つかこの状況でボケてんじゃねーよお前等!」

スバル「ごめんごめん」

 

 

彼が気絶………している内に、トランサーの中を覗く。

 

ウォーロック「今の間は何だ!? 今の間は!?」

 

 

 

 


 

五陽田 平次 捜査メモ

 

【Z波について】

 

宇宙から流れついたとされる特殊な周波数。

発生の主な原因として、電波の体を持つ宇宙人とされる。

ある研究者の話によると…身体に悪影響を及ぼす危険性があるらしく、根源となるものを撲滅すべく、我々サテラポリスが総出で巡回にあたっている。

…が、根本的な解決に至っては難航と言える状況だ。

 

【周波数観測結果】

 

三箇所に網を張った結果、各地点ごとのZ波の観測値は1700hzを優に越した。

これほどまでに高い数値を出したのは、一部地帯を含め…コダマタウン周辺のみ。

引き続き警戒し、調査にあたる。

 

 

 

 

 

【要注意人物】※危険度の高低は文字色で組分け

(黒→青→黄→赤(低―――――――――高))

 

〈白金ルナ〉

器物損壊事件の後に起こった軽自動車の暴走に巻き込まれ、それ以来微量な数値(推定200hz)を観測。現時点での危険性は低い。

 

〈最小院キザマロ〉

白金ルナと同文。現時点での危険性はかなり低い。

 

牛島ゴン太

刑法41条に則り。逮捕されはしないものの…器物損壊事件に大きく関わりのある人物なため、今後も注意する必要がある。

 

(※以上3名は総合的に危険度が低い)

 

 

 

 

星河スバル

天地研究所での事件以来…体内に蓄積されたZ波の数値が異様に高く(見積もって1600hz程度)…最悪の場合、身体に影響を及ぼす可能性も見られる。引き続き監視する必要性アリ。

 

 

星河水希

星河スバルとは比較にならないほどの数値を記録(推定3000hz以上)。また、過去にサテラポリスに従事していたとの噂もあり、今後の動向も踏まえ…重要参考人兼要注意人物として監視対象と認識。

 

 

 


 

 

 

 

 

スバル「兄さんが…サテラポリスに…!?」

ウォーロック『あのヤローがなぁ…。にわかには信じられねぇぜ…』

スバル「て言うか数値高すぎでしょ…」(; ̄▽ ̄)

 

 

その後はウォーロックに証拠隠滅してもらい、そそくさとその場をあとにするのだった。

 

 

 




ちょいと先行公開

ウォーロック (拝啓…大吾様へ。FM星は殺伐とした星として有名ですが、この家族の方がよっぽどヤバく感じるのは気のせいでしょうか…?)
大吾 (…………元からこうなんだと思います)
ウォーロック (でしょうね)

なんでこのタイミングで大吾さんが…って?
聞くな…。解れ…。

(*•∀•(あかね))•∀•(スバル))•∀•(水希))「無理〜サファリパーク♪」
ウォーロック (朝から元気がいいね…うん…)


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EX-2話 救いを乞う者

定期的に自分のUA数確認してたら
捜索一覧の下に『ここすき一覧(仮)』ってのがあった。

え? ここ掘れワンワン? ○ーイフレンド(仮)?
(難聴以前の問題についてww)


 

 

スバルside

 

おぼろげな視界に紅くノイズが迸るなか、目の前に見える光景にあるもの……それは、放たれる無数のミサイル弾。

 

縦横無尽に舞いつつも、一人の少年を捕らえては追従を成し、少年もまた…否応なしに食らい続け、仰向けるように地面へ叩きつけられてしまう…。

 

『――がはっ!! …うぅ……』

 

そして、少年の身につける手甲から陽炎の如く現れた…海蛇に似たナニカは、少年を庇うように抱き抱える…。

 

『水希っ!! お前……いったいどうしちまったんだよ!?』

 

目先の男に対し…怒りを露わにするが、男は動じるどころか…寧ろ、冷めた目で彼らを見下ろしていた。

 

『見れば分かる。私を否定しようとする者に鉄槌を下しているのだ。生きる意味を取られるくらいなら、こちらが奪うまでだ…』

『だからって、そんな無差別に襲って良い理由にはならねーだろ!』

『……お前には一生分からん話さ。無論、理解してもらわなくて結構…』

『テメェ…!』

『な、んで……なん、でなの……』

 

気力を振絞り…どうにかして男を止めようとするが、そんな少年を追い詰めるように皮肉じみた言葉を投げかけるのだった。

 

『――お前は弱い。弱いが故に…無謀と知っておきながら挑もうとするから、容易く弄ばれるんだ』

『………かぁ…』

 

男は背を向け…歩きだすが、途中立ち止まり、僅かに振り向く。

 

『覚えておけ…水希。弱肉強食が世の常である限り、優しさだけでは全てを救うことなど叶わん。

己に刃を向く輩に対し…時に非情にでもならねば、実物なり言葉なり刺されて朽ちるのみ。渡り合う為にも…生涯、闘い続ける他はない。

強くなりたいなら…それを踏まえたうえで、私と対等になれ……』

『待…、て…。じょぉ……か…ぁ…――』

 

悲痛な声色で呼び止めるも…一切叶わず。

そのままパタリと意識を閉ざし、やがて…映像は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

4/21 am 7:32

 

 

数度寝返りを打ち、もそもそと起き上がる。

昨日と比べ大半は覚えているが…、あまりの現実味の無さに「…変な夢…」と独りごちるのだった。

 

そんな時、突然呼び鈴が鳴り響く。

今日…パートはない日である為、まだ寝てるかもしれないと思い、寝間着のまま…仕方なく玄関へと向かう。

 

 

 

 

スバル「は〜い、どちらさまで…――うぇい!」

??「ミぃソラァァァ!!!」

 

ドアノブに手をかけるより先に勢いよく開かれ、猪突猛進を体現するかの如くズカズカと侵入される。

なんとか避けるも…また素っ頓狂な声を上げてしまい、思わず赤くなる。

 

??「おぉい! ミソラァ!! どこに居るんだ!! ミぃソラァァ!!」

 

人が驚いているにも関わらず…近所迷惑上等な声量で叫ばれ、いい加減イライラしてきたので…不機嫌混じりな声で呼びかけるのだった。

 

スバル「あの〜、強盗かなにかですか? 靴履いたまま勝手に上がらないで欲しいんですが…」

??「ん? ………あああ!またやっちまったー!!」

 

うん、自分も昨日と同じこと言っちゃってるよ。うん。

 

天を仰ぐように頭を抱え、慌てふためく中年男性。

見た感じ…カッチリとした服装をしていながら、ガラの悪そうなグラサンをかけている。

……センス悪〜。

 

??「す、すまない、ボウヤ! おじさん、実は人を探しててな? 決して強盗ではないから安心してくれ! な? な!?」

 

妙な既視感はそっちのけで質問する。

 

スバル「もしかして、ミソラって子を探してるの?」

??「何でそれを知ってるんだ!! …さては、お前がミソラを匿ってるのか!?」

スバル「違うって! おじさんが勝手にミソラミソラって叫んでたから…」

??「ごちゃごちゃうるさいな!さっさとミソラを…」

 

取り繕うとする彼に呆れ果てていると、後ろから肩を掴もうとする手が見え…同時に、ツンドラ気候も我が家に到来と思わせるほどの悪寒が漂う…。

 

??「いだダっ! 何だよこの忙しい、と…き……」

 

なんということでしょう…。

ちょうど真後ろに般若の面を被った母がいるではありませんか…。

 

皆様お待ちかね…お姉様の、お成〜り〜(°q°)

 

あかね「おうコラ、ピザデブ。テメェなんの断りもなく土足で上がりこむわ、朝っぱらからうっせーわ。挙げ句の果てにはスバルに何晒してくれとんじゃボケが…。終ぇにゃそのツラ拝めねぇくれぇに張っ倒したろか? あぁ?

スバル&ウォーロック((ヤベェ…超逃げたいんだけど…))

 

顰めっ面もさることながら声色から、底なしの殺意だけがひしひしと伝わり、冷や汗がダラダラと流れてしまう。

無論、そこのオッサンも同様。

 

オッサン「す、すすす、すみませんでしたァァ!!」

あかね「一昨日来やがれ〜。―――…はぁ、今どき礼儀知らずな大人がいるなんて…。嫌な時代よねぇ?」

スバル「あ、アハハ………」

 

 

……その日、僕とウォーロックは心に誓った。

星河あかね(この人)だけは不用意に逆らうべからず。…と。

 

 

 

 

 

 

突然、トランサーからアラームが鳴る。

 

スバル「…っ!――母さん…ちょっと出掛けてくる」

 

「どうしたの?」と聞かれるより早く部屋に戻る。

 

あかね「……スバル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身支度を済ませ、ヘルプシグナルの発信源を頼りにある場所へ向かい、そして……

 

??「君は…! 昨日の…」

スバル「……また会ったね…」

 

展示された機関車に隠れて、啜り泣く子。――昨日会った少女と再会を果たす。

 

スバル「…もしかして、君が響ミソラ…?」

ミソラ「…うん。良かった、また会えて…」

 

「ミィィソラァァァ!!!!」と怒鳴り散らすような叫び声が下から聞こえ、慌てて機関車の裏に隠れる。

 

オッサン「………ったく、どこ行きやがったんだ! こっちはライブの中止で死活問題だっつーのに!」

スバル (…何が死活問題だよ…。この子は今にも辛そうにしてるのに…!)

 

自分の都合しか考えない人間の言葉に、怒りを覚えるなか…ミソラちゃんは悲痛な声色で話しだす。

 

ミソラ「お願い…。どこか、匿ってほしいの…。もう、私…歌いたくない……

スバル「………」

 

『………行ったみたいだぞ。階段下に車を停めてるから、恐らくは他を当たるかもしれねぇ…』と、ウォーロックは電波化しつつも聞こえる声量で耳打ちする。

しばらく黙っていると、ミソラちゃんはうるうるとした目で僕を見る。

 

ミソラ「……やっぱり、迷惑…かな?」

 

なんでここに? なんで歌いたくないの? …なんて、今はどうでもいい。

余計な詮索をせず手を差し伸べた。

 

スバル「…着いてきて。多分、家なら大丈夫だと思う」

ミソラ「……ありがと」

 

少女はなんの迷いもなく手をつなぎ、そのまま家路につくと、母は

 

 

あかね「おかえり…って、ちょっと! どうしたのよ? いきなり…」

スバル「話は後。とにかく、この子を上がらせて?」

あかね「え、えぇ。わかったわ…」

ミソラ「…すみません、お邪魔します…」

 

リビングに案内して数分後。

少しずつ…彼女の口から説明してもらうのだった…。

 

 

 

 

 

 

am 8:23

 

あかね「――じゃあ、さっき家に来た礼儀知らずが、あなたのマネージャーって訳ね…」

ミソラ「…はい」

 

母は突然、怒り任せにテーブルを叩きだす。

 

あかね「信じらんない!! 何よ、歌はお金のためって! アンタみたいなヤツが生きられるのは、ミソラちゃんの頑張りがあってこそなのに!! やっぱ憂さ晴らしに一発打っときゃ良かったかしらねぇ? あんのブタ野郎に――」

スバル「ちょっと、母さん! 落ち着いてったら! ミソラちゃんが恐がってるから…」

 

必死に宥めるなか、ミソラちゃんの啜り泣く姿に思わず硬直する。

 

スバル「ご、ごめんね! 恐がらせちゃって…」

あかね「ごめんなさいね! 驚かせちゃって…」

 

と二人して慌てふためき、被るように謝るが…両手で覆ったままのミソラちゃんは首を横に振る。

 

ミソラ「違うの…。見ず知らずの……とは言えないけど、こんな…私の為に…怒ってくれて、なんか、嬉しくて…」

 

母は、涙混じりに話すミソラちゃんの頭を撫でた。

 

あかね「大丈夫よ。さっき来たときは追っ払ったんだから! 次来た時だって――」

??「朝から何事〜?」

スバル「あぁ、おはよう兄さん。実は……」

 

あくびをしながらリビングに入る兄さんに、事の顛末を話す…。

 

水希「……そんなことがね…。――しばらくはゆっくりして行ってよ。大したものは置いてないだろうけど…」

ミソラ「ありがとう…ございます」

 

「それじゃ、行ってくるね…」と兄さんは母に向かって、そう伝える。

 

あかね「…気をつけなさいよ? 最近、物騒なことが相次いでるんだから」

水希「わかってるよ。夕方までには戻るから…」

あかね「えぇ…」

 

兄さんはそのままリビングを後にする。

 

スバル「………」

 

ここ数日間…。ずっと宇田海さんを探すことに集中していたためか、疲れが顔に出ている気がした。

長年の経験を基に「電波化してるなら…周波数はある程度増幅する筈だし、何かしらの反応はあってもおかしくないのにね……」と推察してはいたが、奇しくも探し当てることはできずにいた。

 

たまに考え無しな部分はある癖して変に意地を張るもんだから、この際、待った方がいいんじゃ…? と、兄を見送りながら思い直すのだった。

 

 

 

ミソラ「……ちょっと意外だったなぁ…」

スバル「何が?」

ミソラ「スバルくんにお兄さんがいたこと…」

スバル「いや、あぁ見えても、僕の叔父さんなんだよ。わかりやすく言うなら…母さんの弟なんだ…」

ミソラ「はぇ〜…」(°o °)

 

 




 
ども、久々に次回予告します。

5月辺りから投稿ペースが早かったのもあって、今月(2020年6月)の累計UA数が絶好調に伸びて600超えたから良き。

合計UA数は……努力量に見合う数値として見りゃ楽か…

とりあえずは読者に飽きられないように頑張りますね。

次回、水希リスタートEX-3話「避けられぬ戦い」
20話「本音」も現在製作中ですので乞うご期待!

18話も内容に沿う形に修正しておきました。

それでは!ばいちゃ〜(☆ゝω・)ノシ


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EX-3話 避けられぬ戦い

地の文から既にキャラ崩壊っぷりが激しい件について…。
だけど過去最高に書けた気がする。


 

スバルside

 

4/21 pm 13:30

 

ミソラちゃんを家に匿ってから数時間が経つ…。

重苦しい状態が続くと思うと気が滅入り、お昼を食べた後、気分転換にとゲーム機とソフトをリビングに持って来るのだった。

 

持っているソフトのほとんどが兄さんからのプレゼントで、ジャンルは豊富そのもの。

二人でよく遊んでいたのもあり、今や僕にとっての宝物だ。

 

そして現在…

 

ミソラ「あぁ、もう! また負けた〜!」

 

みんな大好き【ダリ男かぁ〜と】で対戦したはいいものの…ほとんどが僕の圧勝で終わったが、余程の負けず嫌いなのか……もう10回以上も連戦していた。

 

スバル「…ん〜でも、さっきよりは上達したと思うよ?」

ミソラ「よく言うよ! 涼しい顔して余裕で勝っちゃうんだから。あぁもう悔しいぃ〜!」

 

咄嗟のフォローも効果なく、むくれたと思えば寝転がり、ギュっと丸まるよう縮こまってしまった。

何と言うか……忙しい子だ。

当時の僕も兄さんにボロ負けして泣きついた記憶しかなく、今思えば子供相手に容赦ねーなと苦笑混じりに呆れ果てるのだった。

 

ミソラ「よ〜し、もう一戦!」

スバル「え"っ? そ、そろそろ別のゲームに…」

ミソラ「やだっ!」

スバル「えぇ…」

 

勘弁してくれ…と眉がハの字に吊り下がりそうな時。

 

あかね「はいはい、盛り上がってるのは良いけど休憩は大事よ?」

 

取り分け用の小皿とフォークと一緒に、深皿に盛った苺がテーブルに置かれた途端ゴクリと喉を鳴らし、目線を苺の方へロックオンしだすミソラちゃん。

一方…僕は、注がれた麦茶を飲み干す。

苺と合うかはともかく、喉を潤せたので無問題(もうまんたい)

機転を効かせた母さんマジGJ。

 

ミソラ「ちょっと聞きたいんだけどさ…」

スバル「?」

 

既に2、3個ほど食べてるミソラちゃんから、急に話を振られる。

 

ミソラ「お兄さんって、普段何してるの?」

 

一瞬、自分にだけ雷に打たれた気がした……と思ったが、母も同様らしい。

どう考えても地雷発言です。本当にありがとうございました。

 

スバル「ね、ねぇ、母さん…? 兄さんって今日、大学で講義…?があったっけ?」

 

何故だろう…。一見張り付くような笑顔で「こっちに振るんじゃねーよ!」と目配らせてる気がする。

 

あかね「……エェ、ソウヨ。確か今日は講義の後にアルバイトがアッタハズヨ。うん…」

 

若干片言じみていたがミソラちゃんは気に留めず、それどころか目を輝かせているではありませんかヤダー。

 

ミソラ「大学か〜、いいなぁ。オシャレしてる人多いだろうし、私なら…友達とカフェ行ってみたり…音楽仲間とバンドを組んでみたりして……いいなぁ」

 

なんということでしょう…。

あれやこれやと妄想(ゆめ)を膨らませているではありませんか。

僕も聞いてて、なんだかほっこりしちゃいます。

 

 

まぁ嘘だけどね。

本当は兄さん…最終学歴が中卒で、僕と同じヒキニートじみた生活を送っておったのです…。

 

って誰がヒキニートじゃ! 偶にだけどちゃんと出歩いとるわ! 最近になってだけども!

兄さんはどうなんだって? ……そりゃ兄さんは、必要以上に語らないから知らなかったんだもん! 僕な〜んも悪くないもん!(汗)

 

……いや、割とマジで家事するぐらいしか知らなかったんです。はい。

 

 

ミソラちゃんには悪いけど、素性がバレたら色々とまずいのだ。咄嗟の対応力に圧巻だよ。

母さんマジGJ。

妄想に浸るミソラちゃんを他所に、二人して親指を立て合うのだった。

 

 

そうこうしてるうちに戸の閉まる音がした。

 

あかね「あれ、もう帰ってきたのかしら?」

スバル「ちょっと見てくるよ」

 

様子見がてらリビングを出れば予想通り。

靴を脱ごうとする半ば、いつに無く落ち込んでいるのが目に見えた。

 

スバル「おかえり、兄さん」

水希「……ただいま」

スバル「どうだった? 宇田海さんは…」

 

見つかった?と聞く前に、兄さんは首を横に振る。

 

スバル「……そっか…」

 

――やっぱ、そう簡単には見つからないか…。

状況を理解した上で兄さんに提案を促す。

 

スバル「…思ったんだけどさ、もう…向こうから現れるまで待つしかないんじゃない?」

水希「……そうだね。この話はまた今度でいい? ちょっと…つかれた……」

 

疲弊しきったまま階段を上がる兄の背を呆然と眺めていると、ウォーロックが急に口を開けた。

 

ウォーロック『相当参ってるようだな。波長がありえねーくれぇに荒れまくってる…』

スバル「……わかるの?」

ウォーロック『あぁ。()()()()()()以上はな。俺達FM星人でも…お前ら人間にも、孤独の周波数を持つように、喜怒哀楽といった感情にも含まれるんだ…。笑顔を見せても腹の(うち)は笑ってねぇように、感情の起伏すらも読めてしまう。だからFM星人は互いを信じようとしねーのさ。()()()()()()()()()だがな。全く…何度聞いても皮肉な話だぜ…』

スバル「兄さん……」

あかね「スバルー、水希もう帰ってきた?」

 

きりの良い所で母さんが現れるが、何やら買い物袋を肩に提げている様子…。

 

スバル「うん。…でも、しばらくはそっとしてあげた方がいいかも。なんか元気無いし…」

あかね「……そう。アンタが言うならそうしとく。母さん、これから買い出しに行くから、留守番よろしくね」

 

スーパーへ向かう母を見送った後、ひとまずリビングへと戻るのだった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

ミソラside

 

pm 22:30

 

スバルくんの家に匿ってもらってからだいぶ経つ…。

お風呂を借りた後、ママさんが使っている部屋に居させてもらい、ベッドの上で横になっていた。

 

今の今までミュートに設定していたが、トランサーを開けば、着信履歴やメールの受信欄はマネージャーで埋め尽くされていた。

内容(中身)は開かずとも連れ戻す気満々に尽きるだけ。

 

……正直、帰りたくない。

 

役職柄…人と触れ合う時間があろうと、プライベートとなれば話は別。

口煩いアイツと居るくらいなら、いっそ……

 

あかね「まだ起きてたのね」

ミソラ「ひゃい!!」

 

トランサーを覆い隠したまま振り返る。

 

あかね「全く…、夜ふかしは肌に悪いわよ」

ミソラ「ご、ごめんなさい……」

あかね「…やっぱり、マネージャーのことで気がかりなんでしょ?」

ミソラ「……はい…」

 

無論、悪い意味でだが肯定するほか無かった。

 

あかね「どうしても寝付けないなら……アイツには悪いけど、昔話でも聞かせましょうか」

 

そう言うとベッドにのしかかり、私の隣に寝転んだ。

 

あかね「……昼間、水希が普段何してるか…聞いてたわよね」

ミソラ「大学に通ってたって話…でしたっけ?」

あかね「そうなんだけど、アレね、実は嘘なのよ」

ミソラ「え…?」

 

まさかの事実に驚きを隠せず、目を見開く。

 

あかね「ごめんなさいね。本当はあの子…中卒で、スバルに寂しい思いをさせない様にって、()()()()()()まで居候していたのよ」

ミソラ「……どうして私に…」

あかね「ん〜、なんて言うか……今の貴女を見てると、昔のスバルにそっくりでさ…」

ミソラ「昔の…スバルくん……?」

 

気がつけば、話に夢中になっていた。

 

あかね「三年前…。私の夫である大吾さんが、ある日を境に行方がわからなくなってね…。スバルにとって…受け容れたくないことだから、その日以来……人と関わろうとしなくなったの」

ミソラ「……そんな事が」

あかね「うん。その時…水希が居てくれたからこそ、スバルは徐々に笑顔を取り戻して行った…。水希からしたら、大吾さんの代わりになれないみたいだけどね……」

 

それでも、誰かの為に頑張れるのは凄いと思う。

私も…大好きなママの為にと歌い続けて来たけど…それすら霞むほどだ。

正直、恵まれた環境にいるスバルくんが羨ましいと思えてしまう。

 

あかね「……ミソラちゃんはまだ若いから、やり直すチャンスは幾らでもあるわ」

ミソラ「…?」

 

黙り込んでた矢先、突然喋りだされて困惑するなか、頭を撫でられた。

 

あかね「どんなに頑張っても、投げ出すほど嫌になった時こそ…一度だけ手放してみてもいいと思うよ。そこから自分を見つめ直して、本当にやりたい事を見つけるまで、ひたすら探し続ければ良い…」

ミソラ「……!」

あかね「……ごめんね。貴女がどれだけ辛い思いしてきたか…少ししか知れなかったから、こんな事言う資格なんて無いと思う」

ミソラ「…それでも…嬉しいです…」

あかね「そう。なら良かった…」

 

今までは周りからの期待とアイツからの罵詈雑言の嵐だったから、こうして面と見てくれる人がいると思うと安心するのだ。

……そうか、これが人の温もりか…。

失いかけたそれが思い出され…胸がポカポカと温まり、凍りついた筈の心が溶け……癒えて行く。

 

あかね「…もう寝ましょうか?」

ミソラ「はい…」

 

灯りが消された後…互いにおやすみの挨拶を交わし、眠りにつくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝…。

 

いつもと変わらぬ時間に目を覚ます。

……と言っても大抵、5時より前に起きる習慣が身についており、ママさんは未だ…傍らで寝息を立てていた。

 

ミソラ「……」

 

物音を立てないよう部屋を出て身支度を済ませ…去り際に振り返り、深くお辞儀をする。

 

ミソラ「…お邪魔しました……」

 

匿って貰っておきながら薄情ではあるが、これ以上迷惑をかけられないと思い…薄明るい空の下、トボトボと歩く。

そして辿り着いたのが、展望台。

 

スバルくんとの出会いが印象深いせいか、ここに立ち寄らずにはいられなかった…。

 

ミソラ「………」

 

その時ふと、ギターに手を伸ばし……ピックを添え、鼻歌混じりに弦を弾く。

 

ミソラ「〜…、〜〜。〜〜〜……」

 

…が、そう長く弾けなかった。

 

ミソラ「……ママ。私、分かんなくなってきた。生きてく為にもお金は必要だけどさ…。アイツの言いなりになってまで、歌いたくないよ……」

??『そうよねぇ。意地汚い大人のせいで、大好きな歌を穢されたんですもの。いっそのこと、その誰かさんが居なくなればいいのにって思ってるんでしょ?』

ミソラ「――誰っ!?」

 

突如、ポロロンと和らげな音が響き渡り、脳に語りかけてくる声に気づく。

 

??「ポロロン……――こっちよ…」

 

一瞬…ママに似た声に導かれ姿を表すが、人間と思える姿をしておらず。寧ろ、楽器に魂が宿っている様にも見えた。

 

ミソラ「誰なの…あなた……」

??「ワタシの名前はハープ。貴女の奏でる音に導かれた…音楽の女神よ」

ミソラ「音楽の…女神……」

ハープ「そうよ、ミソラ。貴女は運がいいわ…。だって貴女は、音楽を力に変えることが出来るのだから……」

ミソラ「でも私…歌いたくない……」

 

私は、大好きなママの為に歌い続けたい。……けど、お金に汚い人間の為に歌いたくない。

それでも、彼女を受け入れなきゃ何も変わらない。

本当の自分を殺したまま歌い続けなければならない。

それだけは嫌だ。

 

入り交じる葛藤に狼狽えていると、ハープと名乗る女は手を差し伸べる。

 

ハープ「大丈夫よ。ワタシを受け入れてくれたら、貴女の音楽を穢す輩はいなくなるわ。だって…貴女の音楽は、貴女の為にあるもの…。そうでしょう?」

ミソラ「……私は…」

 

もう…何もかも、ワカラナイ…。

 

***

 

『いい、ミソラ…。歌はね、傷ついた人達の心を癒やし勇気づけるためにあるの。いついかなる時もそれだけは忘れちゃダメ。母さんとの約束よ?』

 

『はーい! 指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲〜ます! …それじゃ行ってくるね!!』

 

『フフフ、行ってらっしゃい。母さんはここで応援してるから精一杯頑張りなさい!』

 

『うん!!』

 

***

 

 

ミソラ「ごめんね、ママ…。約束、破っちゃって…」

 

差し伸べられた手を取り、光に呑み込まれるのだった…。

 

 



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EX-4話 私怨

学科試験受ける直前なのにのうのうと書いておりました(笑)

ミソラが完全に闇落ちして暴言吐きまくります。

あと、男性の方にとって…この上なく想像したくない程の暴力を振るうので、そこだけ注意していただければ…。


 

ミソラside

 

彼女の力を取り込むとき、さっきまでの身震いも収まるどころか、むしろ隅々まで馴染む感覚に高揚感で満たされる。

この時を待っていた。そう…湧き上がる力に歓喜すら覚えてしまいそうなほどに…。

 

ハープ「フフ…嬉しいわ。ワタシを受け入れてくれて」

ミソラ「……」

 

アイツの下についてから…影で怯えるだけだった毎日も、この力さえあれば終わる。

これ以上苦しむことも無いんだ…。

 

ミソラ「………フ、フッフフ……フフッフフフ…………アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!

 

考えば考えるほど笑いがこみ上げてきて仕方がない。

やり場の無かったこの怒り…さてどうしてくれようか。そう頭に過り…颯爽と駆出すのだった。

 

 

 

――アイドルとして育ててくれた恩…今からたぁっぷり返してあげるから。待っててね? マネージャー♪♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「はい……はいぃ…申し訳ありません。ミソラは必ず……はい、それでは。……あぁ〜もう、何処にいるんだぁ…!」

 

大体、ニ時間ほど彷徨った頃だろうか…。

湾岸部にある運動公園の駐車場にて一台の車を見つけ、その真横で慌てふためく男を見て、嘲笑いながら歩み寄る。

 

ミソラ「いいザマだね……少し老けた?」

 

即座に振り向くと表情すべてが怒りに染まる。……無理もない。丸一日でも失踪すれば大騒ぎ。

それを分かった上で歯迎ったのだから、もっと酷い仕打ちを受けるはずだろうけど、そこにスバルくん達を巻き込んでしまっては目覚めが悪いのだ…。

本当、よく決心がついたよな…と胸の内で鼓舞していた。

 

ピザデブ「ミソラ、お前…! 何処に行ってた!! お前がバックレたせいで、どれだけ損害が出たと思ってんだ!!」

ミソラ「知らないし。…大体さぁ、人使いが下っ手くそなアンタに説教される(いわ)れなんて無いんだけど」

 

つもりに積もった不満をぶつけただけで既に、眉間には青筋をおっ立てている。

逆ギレされても…腹立たしいのはこっちなのに…。

 

ピザデブ「拾ってやったってのに何だその態度は! アイドルとして活躍する為にどれだけ苦労かけたか忘れたか、この恩知らずが!!

どうせお前は…歌うことしか芸が無いんだから、ひたすら稼ぎの為に歌やぁいいんだよ!!」

 

…何よそれ、結局はアンタの自己満足じゃない…。

 

来る日も来る日も、稼げ稼げってさ……私はアンタの良いようにされる為に生まれたんじゃないのよ?

私が求めていたのは、傷ついた人達を勇気づけられるような……そんな歌を創りたいし歌いたい!

どんなに綺麗事だろうと、それを貫こうと頑張ってきたっていうのに……アンタは…っ!!

 

仕事が出来ていようがいまいが、クソみたいな人間性が邪魔してるに過ぎないと言うのに……お金に対する執着心は相変わらずのようで、今までの行いも霞むくらい尊敬してしまいそうだった。

……まぁでも、手遅れだから仕方ないか…。

これと言った言葉を投げかける気も起きず、肩を竦め溜息を漏らす。

 

ミソラ「……いつも通りだね、なんか安心したよ」

ピザデブ「知るか! ホラ、さっさと――ぐぁっ!」

 

アイツが腕を掴むより先に怒り任せに急所を蹴り上げる。

容赦のない一撃に悶絶し、崩れ落ちる姿を見て…あまりの弱々しさにほくそ笑んでしまった。

つい先日まで、この男に隷属されていたなんて…我ながら哀れとしか言い様がない。

 

ピザデブ「て、め…こんなことして、タダで済むと…!」

ミソラ「形としては、今まで世話になったけどさ……正直もう、アンタは要らないのよ…」

 

ほんの一瞬。辺りは光に包まれ……

 

ピザデブ「な、何だその姿は…!?」

 

一度解いた力を再び纏わせた。

傍から見て得体の知れない姿を見れば、誰だって驚くのは当然のこと。

未だ恐怖に固まっている男に構わず、ギターを弾くよう携えた。

 

ミソラ「…ママとの思い出を穢したんだ。それがどれ程の罪か――思い知れっ!!!」

 

断末魔を上げ…倒れる姿を見ても、特に罪悪感といった感情が湧くことはなかった。

全てはこの男の自業自得。人を蔑ろにする奴に情けなんざ不必要に等しい。

 

それなのに、胸にぽっかりと穴が空いた気がしてならなかった。……なんで?

 

自問自答するなか、ハープも何を思ったのか…クスクスとせせら笑う始末。

 

ハープ『貴女の邪魔をするやつは片っ端から消しちゃいましょう』

 

ママの為にも頑張らなきゃ……って。本当の自分を押し殺してまでアイドルを続けてきたというのに…。

 

何してんだろ…私。

 

 

 

◆◆◆

 

スバルside

 

4/22 am 6:42

 

 

スバル「ミソラちゃんがいないって…!?」

 

母に叩き起こされたと思えば、あまりに唐突すぎる事態に驚きを隠せなかった。

母が言うに…『私はもう大丈夫なので、後は自分でなんとかしてみせます。お世話になりました』と書き置きが残され、起きた頃には見失ったらしい…。

 

スバル「嘘だよ…」

 

事情を知った僕達からしたら、絶対に無理してるとしか思えないし、最悪…この前の宇田海さんみたく標的にされるに違いない。

 

見つかる確証もないまま、探しに行こうと家を出る。

 

 

 

町内を駆け回る間に、すれ違いざまにミソラちゃんの失踪に関する話ばかりが耳に入った。

昨日開催されるはずだったライブの中止に加え、行方も知らぬのだから…ファンは当然落ち込み、中には怒りや失望に(まみ)れた言葉を投げかけるかもしれない。

 

そんな状態で彼女にかけてやれる言葉などあるのか?

……否。見つかる筈もない。

 

少し飛ばしすぎたのもあり、一度足を止めた。

 

ウォーロック『……どうした? もうヘバッたのか?』

スバル「…いや、大丈夫。ただ…」

 

息を整えるせいか、少しばかり沈黙する。

 

ウォーロック『…何だ?』

スバル「ミソラちゃんのこと…まだ何も知れてないから、どう接したらいいか分からないんだ」

 

ぶっちゃけ言い訳に過ぎないが、偶然にも出会うその日まで…名前すら知らなかったのだ。

何を話そうにも受け容れてもらえる自信がなく、むしろ拒絶されそうで怖い。

拳を握りしめ、無力さに打ちひしがれていたが…

 

ウォーロック『…良いじゃねーか、別に』

スバル「え…?」

 

ウォーロックは顔色一つ変えることはなく、続けざまに語り始めた。

 

ウォーロック『何の関わりが無いまま、最初からそいつの全てを知ることなんて出来やしねぇよ。…ちょっとずつで良いんだ。お互いを理解していく心が大事なんだぜ、スバル』

スバル「ウォーロック……」

 

似合わない台詞だと思う反面…彼なりに恐れることはないと励まされた気がして、今一度…自分がすべき事を見つめ直す。

 

あの日…展望台で見せてくれた彼女の笑顔は、陰鬱な空気も払い()くほど眩しく、歌う時こそ…とても楽しげだった。

 

…が、()()()()()()()()()()()…と、家に上がらせた時の彼女を見れば、おのずとわかる。

かつての自分も…父の喪失が原因で、生きる気力すら失くしていたから、なんとなくでも辛いのがわかるのだ。

 

それでも、何故か……殻に閉じこもってた頃とは違うんだと言い切れてしまう。理由は単純。

 

――いつかアンタも、前向いて歩けるって信じてるから…。

 

世界で一人。たった一人でも良い。

自分を信じてくれる人がいれば、救われると……

 

――しばらくここに住むことになったから、よろしく。

 

――お待たせ〜、今日はオムライスだよ。ちょっと型くずれしちゃったけど…味は保証する!

 

――…大丈夫。この先何があっても、兄ちゃんは居なくならないから。もう、スバルには…寂しい思いさせないから…。

 

支えてくれる人がいれば、どんなに辛いことでも乗り越えられると、父さんが教えてくれた。

 

なんだ…思ったより簡単じゃないか。

 

考えていくうちに答えは見い出せた。

 

今の僕にできることはただ一つ。

悲しみに暮れ…気が触れていた僕の隣で、ずっと寄り添ってくれた…兄さんのように……

 

少しでも力になれるなら、助けたい。

 

スバル「……うまく行く保証は無いよ?」

ウォーロック『大丈夫さ。見た目が違えど、お前は大吾の息子だ。信じる勇気さえ持てばなんとかなる』

スバル「…なんか、そのセリフ似合わないよね」

ウォーロック『辛辣(しんらつ)ぅ〜』

 

美のカリスマを謳う何処ぞのオネェタレントみたく、人差し指を左右に振るウォーロックさん。

最初会った時はどこか素っ気なく感じたが、意外とそうでもないかも…と、短い付き合いなりに彼の一面を知れた気がした。……急にボケられて対応に追われるけど…。

懐からカードを取り、彼と向き合う。

 

スバル「冗談だよ。…ありがとう、ロック」

ウォーロック『…おう!』

スバル「……電波変換!」

 

僕が未熟なばかりに宇田海さんを止められなかった。

 

無知なばかりに、彼女を独りにさせてしまった。

 

でも、それはただの言い訳でしかない。……だから、戦うほか無いんだ。

 

たとえ…何度苦しもうと、苦痛に打ちのめされようと……必ず、救ってみせる!




 
正直なところアニメ版のマネージャーは不遇なキャラ扱いで案外憎めないと感じてるので好きですね。
ただし! 原作版(ピザデブ)、オメェは駄目だ。

次回も(戦闘ありだけど上手く描写できる自信ありませんが)お楽しみに〜( ̄∀ ̄)ノ


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EX-5話 衝突

編集でミソラと文字打つ時、たまに水希と打ち間違える癖がでてきたので早々に直さないと17話の配役ミスる事件が再発してしまうww


スバルside

 

スバル「電波変換! 星河スバル、オン・エア!」

 

時間を忘れるほど走り回っても、町中にいないなら探す範囲を広げるほかないと、そう決断せざるを得なかった。

変身を終え、光が晴れた頃。ロックは伺うように僕の顔を覗き込む。

 

ウォーロック「スバル。変身したはいいが、どうやってミソラを見つけ出すんだ?」

スバル「……効率悪いけど、とりあえず、地上とウェーブロードを行き来しながら探すしかないと思う」

 

浅くとも考えついた案を述べた、その時…。

 

「うわーー!!」

「キャアアア!!!」

「ありがとうございますっ!!!」

「もっと強く…っ!」

 

けたたましく響く轟音と、もがき苦しむような断末魔によって話を遮られた。

てか下半分のテメェら、やめろや。

 

スバル「なに…? いまの…」

ウォーロック「……イヤな予感が的中したかもな。行くぞ、スバル」

スバル「わかった」

 

ウェーブロードに飛び移り、音の発生源――展望台付近まで向かったはいいが、視線の先の光景はとても悲惨なものだった。

地面を見下ろせば、遠目でも分かるくらいに人が伸びており、起き上がる気配はない。

それに…ロックマンに変身した僕みたく、足場の上に立つ者達でさえ…動きは鈍っているようだ。

 

牛島くんと宇田海さんの時とは、また違った形で実害が及んでいるのだから、あまりにも…

 

スバル「――酷い…」

 

こう呟いてる間にも、轟音が鳴り止むことはない。

 

FM星人が地球人にとって、いかに危険な存在なのか。

これだけ間近で見てくれば、さすがにもう…理解に苦しむはずがない。

 

何しろ、前にロックが言ったように、地球上では人間を依り代にしないと力を引き出せないのだから、余計に質が悪い。

……だが、逆にだ。

彼らが母星にいる間。それも、宇宙空間でなら単体でも力を十二分に発揮できて何らおかしくはない。

 

だとしたら兄さんはどうだ?

一時的でも宇田海さんを退け、オックスの不意討ちにも動じず、逆に蹴散らすほど実力はあったはずなのに…。

 

「3年前に罪を犯しておきながら、それを隠し続けた」と、妙に引っかかるような言い方もそうだ。

 

兄さん一人では手に負えなかったから?

多くの人の命がなくなるくらいなら、むざむざと死地に行く必要性なんてあったのか?

ここに戻ってきた本当の理由は、単に怖気づいて逃げただけなんじゃないのか?

 

考えていくほど、頭の中で疑念と矛盾が生まれ、信じていいのかすら危うい。

 

スバル「もういっそ、力ずくで聞くしか…」

ウォーロック「危ねぇ!!」

スバル「――ッ!」

 

轟音とともに襲いかかろうとする青白い……音符のような物体が視界に入る瞬間のことだった。

 

左腕がバスターを放つよう持ち上がったと同時に、緑の彩光を放つ盾が現れ、そのおかげで難を逃れた。

だが反動は大きく、わずかに靴底が擦れる音がした。

 

ウォーロック「ボーっとすんな! オレが咄嗟に気づいてなきゃ、今ごろ攻撃食らってたんだぞ…」

スバル「っ、……ごめん」

 

……そう。彼の言う通り、今は考え込んでいる場合じゃない。

早く見つけ出さないと――――その心配も杞憂に終わってしまう。

 

??「まさかとは思っていたけど、あなたもここの住人を飼いならしていたのね」

ウォーロック「人聞きが悪いにも程があるだろ――ハープ」

 

どこからともなく聞こえてくる女性の声。

ロックが大袈裟に反論しだすと同時に、眼前のそれは擬態を解いたカメレオンみたく徐々に姿を現し始める。

 

スバル「……?」

 

背丈は僕と同じくらいだが、ピンクを基調としたワンピースのようなボディスーツを纒っており、見た目から女の子だと分かったが、胸がザワつくほど…嫌な気がしてならなかった。

 

ハープ「お久しぶりね、ウォーロック。みんなあなたの帰りを待ってるってのに、ひとつも連絡を寄越さないんだから、こうして迎えに来てあげたのよ?」

ウォーロック「けっ、誰も頼んじゃいねぇのに殊勝な奴らだぜ。…だがな、ハープ。オレにだって…譲れねぇ理由があるからここに留まってんだよ。これ以上、お前らの好きにさせてたまるかってんだ!」

ハープ「困ったわねぇ…」

 

手元に携えたギターのような物。――もとい、怪しげに嗤う彼女こそが声の主(ハープ)らしい。

…なるほど。個体差によって、ロックと同じように宿主と独立しているということか…。

……が、今はそこが問題じゃない。

 

ハープ「ワタシはただ、アンドロメダの鍵(あなたが盗み出したモノ)をFM王に返してくれれば良いだけなの。そうすれば、お互い痛い思いをせずに済むんだから、結果オーライでしょうに…」

ウォーロック「寝言は寝て言え! こちとら端から話し合いで解決する気なんざねぇんだよ。取り返してぇなら、殺す気で奪ってみろやっ!!」

 

問題は寧ろ…同族に恨みを買ったロック自身にあるということ。

正直…身内同士の荒事に巻き込まれるのはゴメンだが、地球に危機が迫っているなら話は別。

結局…抗うには、戦うしかないのだ。

 

ハープ「そう…宿主のことも考えれば、普通は自分の命を優先するものだけど、仕方ないわね…」

 

一時は落胆するが諦める気は毛頭ないらしく、彼女の眼光に鋭さが増した…。

 

ハープ「――――殺りなさい、ミソラ!」

 

薄々感づいてはいたが、いざ相手にすると…やはり堪えてしまう。

ハープの指令を聞き入れたミソラちゃんの周りから四機のギターアンプが召喚された。

 

スバル「…てことは、やっぱりミソラちゃんが…!?」

ミソラ「〈ショック・ノート〉!!」

スバル「――くっ!」

 

攻撃が来るとわかった瞬間に真横へ飛び、バスターを駆使して反撃したが、当然のごとく躱された。

 

ウォーロック「随分と手荒い歓迎だなぁ、ハープ!!」

ハープ「当然じゃない。こっちだって、嫌でも従うほか無かったんですもの。だから今更、手ぶらで帰るわけにはいかないのよ!」

 

二人が言い争う間に攻撃が来る…!

 

ミソラ「〈マシンガンストリング〉! ――うおォオラアァァッッ!!!

スバル「ちょ、まっ、力強っ……!!!」

 

彼女の口で唱えられてからは一瞬に近かった。

ギターの弦に捕まれ身動きできないまま空中へ投げ飛ばされた。

どうやら年頃の女の子はみんな、腕っぷしが強くなってきているのですね。――て、ちゃうわ!

 

ウォーロック「どうなってんだよ、あの女の腕力ぅ!!?」

スバル「こっちが聞きたいんですけどぉぉ!!!」

 

重力に従って地面に叩きつけられるには、そう時間はかからなかった…。

 

ハープ「…ミソラぁ、もうちょっと丁寧に扱ってよ……」

 

さすがのハープも、これには苦言を吐かざるを得なかったそうな。

……トホホ。

 




次回をお楽しみに


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EX-6話 悲壮するが故の発露

辺り一面が暗闇に覆われ……そこに立っているか分からない空間のなか、重たげな(まぶた)をようやく開ける。

 

「―――? ……ここは?」

 

彼女――ハープを受け入れてからの記憶が無く、どれほど時間が経ったのかもあやふやになっていた…。

それに加え…体中、水に浸かる感触に包まれながら、まともに呼吸できる違和感から、現実世界では無いと悟る。

 

「…わたし…いったい…………――ッ!!!」

 

しばらく呆けていたら、唐突にフラッシュバックが起こり、鮮明に見えはじめた時には目を疑い、絶句してしまう。

 

…それもその筈。今の今まで、彼女によって操り人形へと仕立てられ、行き場のなかった怒りを…不満を…、ひたすら相手にぶつけていたのだから。

しかし、目覚めて早々…こうも悪夢を見させられて、堪えられる訳がない。

 

「な、によ…これ……。ぜんぶ…わたしが、やったっていうの……!?」

 

マネージャーに飽き足らず、ライブを心待ちにしてる人達にも攻撃をしたという事実が、――人の苦しむ様を見て、嘲笑う自分がいるという事実が、良心をえぐり取るには十分すぎた。

 

……何より、認めたくなかったのだ。

あんなに楽しかったはずの音楽(モノ)が、私の……唯一の生きる希望が、一瞬にして凶器に成り果てて行くのを……。

 

――…うそだ……信じたくない…。

 

そうしてずっと…頭の中で否定の言葉が羅列(られつ)されていく。

いくらドス黒い感情を押し殺そうと、目の前の自分(ハープ・ノート)にやめてと懇願しようと、一度火が付けば…勢いは止まらない。

 

 

――………わたしがしたかったのは…こんなことじゃ、ないのに…。

 

 

もう、目を向けることすらできず、そのまま崩折れてしまったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

〜♪

 

 

……スバルです。今回こそはと…助けようとした子に思いっきりブン投げられたとです。

それでも何とか生きてるので、主人公補正A+(己の運の良さ)に…感謝しきれません。

 

……スバルです。電波変換した上でとはいえ、女の子に腕力で負けてしまったとです。

ショックのあまり…乾いた笑いだけがこみ上げてきます。

 

……スバルです。顔から着地したのちに、某青狸みたく、直立不動の如く、胸の辺りまでブッ刺さったとです。

 

【挿絵表示】

 

 

悲しみの果てに…マンドラゴラになっちまいそうです。

 

……スバルです。結構、悲惨な目にあってんのに…肝心の相棒ときたら、わりと無事で済んだとです。

 

理不尽です……理不尽です……理不尽ですっ!

 

 

ウォーロック「おうおう、なんとも可哀想になぁ……。――じゃねぇー!! 自虐る暇あんなら、はよ起き上がれや! これじゃ尺の無駄遣いじゃねぇかよぉぉ!!」

スバル「ちょっと引っこ抜いておくんなまし…」

 

その後はなんとか、バスターから分離して現れたロックに、引っ張り上げてもらいましたとさ…。

 

 

 

ウォーロック「生きてっかぁ? スバルさんよ…」

スバル「死んだら今頃ボケちゃいねぇさ。ウォーロックさんよ…」

 

格闘ゲーム並みに投げ飛ばされたから、これを生身で受けたなら余裕で死ねるけど、電波変換のおかげで助かったと……そう信じたいものだ。

ようやく立ち上がると、ロックは恨めしそうな眼差しで遠くを見つめた。

 

ウォーロック「今回はよっぽど相性が良いんだろうな…。キグナスの頃と変わらねーぐらいに厄介だぜ……」

 

……確かに。今のミソラちゃんの手強さは、宇田海さんとそう変わらない。

それこそロックが言ったように、電波変換した後の強さは、人間(うつわ)との相性に左右されるそうだ。

 

……が、幸い。相手は同年代。

 

臆せず攻め入れば、まだ勝機はあるか…?

――と、思考を巡らせた時。

 

 

 

 

ウォーロック「……すまなかった…」

スバル「え…?」

 

突然の謝罪に、思わず気の抜けた声を上げてしまう。

 

ウォーロック「本来、オレたちは敵同士だ。いつ…お前の兄貴に殺されても、おかしくは無かった…。

それと、ろくに事情も話せずに、お前を戦場に巻き込んじまったこと……少しだけ、後悔してんだ……」

スバル「……僕が、父さんの息子だって……わかってたから…?」

 

最初会った日のことを踏まえて、声を震わせながら彼に問う。

 

ウォーロック「………」

 

返答はない。――が、何かしら思い詰めていることだけは、表情から見て取れた。

自分から聞いておいて勝手に幻滅しそうだったが、人に悪く言えるような立場でもないから、その辺はお相子だろう。

 

一度視線を反らし、顔を俯けた。

 

スバル「……前に母さんに叱られたこと、今ならわかる。兄さんが(うち)で過ごしてる間…ずっと疑問に思ってた。なんで兄さんだけ、無事なんだって…。――でも…問い質したらきっと、僕の前からいなくなるかもって思って……」

 

大切な人が消え去る恐怖を味わうくらいなら、いっそのこと平穏に暮らせればそれでいいや。…って。

楽な道を選んで、逃げたのだ。

 

そうやってズルズル引きずらせたのは、他の誰でもない…僕自身なのだから。

 

スバル「やっぱりさ、僕には資格が無かったってことでしょ? 聞いたところで、現状を変えられるだけの力は無かったから」

ウォーロック「スバル……」

 

あの夜、展望台にいなければ、父さんのことについて知る機会を失って、何も変われずにいたかもしれない。

だからこそ、ロックのおかげで、今こうして…兄さんと同じ土俵に立てているようなもんだ。

 

複雑そうな面を見せるロックと顔を合わせ、思うことを直接述べる。

 

スバル「君のおかげで、戦う為の力を得られたことは感謝してるけど、僕は……君を許せないと思う。どっちにしろ父さん達に危害を加えたんだから」

ウォーロック「――それで良い。…だが信じてくれ。オレも…この戦いが終われば、大吾のことも全部話す……」

スバル「わかった。後になって忘れたとか、言わせないからね」

ウォーロック「あぁ。――行くぞ、スバル!」

 

無言で頷き、再びミソラちゃんのもとへ急ぎ足で向かった。

 

 

 

 

いつか兄さんからも、事情を聞き入れなければ前には進めないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえ、殺し合うことになったとしても。




ミソラ編はあと2、3話増えると思います。


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EX-7話 思いは行き違う

通信制限まで1GB切った状況で、久々にミソラ編更新だで。


ウェーブロードに飛び移り、さっきミソラちゃんに投げ飛ば………ミソラちゃんと先程まで戦ったところに戻ったが、やはり見渡しても居らず、落胆してしまう。

 

スバル「いったいどこに…――ッ、いた…!」

 

ほんの一瞬。薄桃色の光を帯びたシルエットが展望台へ向かうと確信づいたが……

 

スバル「追わなきゃ…」

ウォーロック「――スバル」

 

後を追う間際でロックに呼び止められ、その一歩を踏みとどまる。

 

スバル「……どうしたんだよ急に?」

ウォーロック「オレもあまり強く言えねぇがな、助言くらいはさせてもらうぜ。……あの女――ミソラと戦う間は気ぃ抜くなよ。今まで戦った奴らと同じように生半可な説得は一切効かねぇんだからな……」

スバル「……、……わかってる…」

 

ロックのもっともな主張に反論もままならず、無意識のうちに拳を握りしめていた。

 

ゴン太の時は、出会うきっかけが悪いうえ、兄さんの指示通りに倒しただけ。その後だって、間を割って入ること自体……できるわけが無かった。

宇田海さんの時はたまたま居合わせ、話すうちに彼の側面を知れたけど、いつぞやの戦闘でキグナスを引き剥がせず、逃してしまった。

 

ただでさえ自分は『誰かを救えた』という実感は無いのに。

いつになく諦めがつかない自分を見ても、傍から滑稽だと思えてしまうというのに……。

 

スバル「――それでも、放ってはおけないでしょ……」

 

たったそれだけで理由が事足りているから、……だから、彼女を助けたくて躍起になったんだ。

 

だったら尚更、自嘲してる暇なんてないだろう。

かけてやれる言葉など、追々考えればいいだけだ。

 

 

 

スバル「……行こう、ロック……」

 

気合いを入れ直し、展望台へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

ミソラside

 

一瞬、バチっと視界が白く点滅しだす。

 

ミソラ「……く、ぁっ……」

 

高速移動を解いて早々…立ちくらみに見舞われ、耐えきれず膝をついては動悸の激しさに胸元を押さえつける。

そんな私を見かねていたハープが元の姿に戻っかた思えば……やんわりと背中を撫でてくれた。

どうにも怪しそうな(なり)をしてる癖に。意外すぎて驚く半ば、ママと似たような安心感を心なしか抱いていた。

 

ハープ「……立てる?」

ミソラ「大丈夫…」

 

呼吸が楽になってから立ち上がろうとした途端……不意に目眩がぶり返し、それに伴って頭がぼんやりとしだした。

 

ミソラ「あれ……わたし、何してるんだっけ?」

 

言葉にしたように…ここ数時間の記憶がなくなっていると自覚する。

 

なんで、こんな見知ったところにいるのか。

なんで、宙に浮くような場所に佇んでいるのか。

なんで、見慣れない格好をしているのか。

 

はっきり言って見当もつかない。

 

ミソラ「…………、……ッ!!?」

 

思い出せ…思いだせ…と次第に見えてくる景色が(むご)たらしいモノだと知りもせず、何度も頭をひねったのが間違いだった……。

鮮明なるにつれ、粟立つ全身をきつく抱きしめ、しゃがみ込んだ。

 

 

嫌だ、何も、思い出したくない!

 

いやだ、やめて……やめて…やめてやめてやめてやめてやめてヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ―――

 

 

 

ハープ「全部、あなたが望んだことじゃない。このチカラさえ手にすれば、邪魔なものが取り除けるって」

ミソラ「違う……違う…、ちがう、ちがう…――」

 

ハープの追い詰めるような言動に、いくら否定しようがもう手遅れだ。

 

真っ先に記憶から手放そうと、人々が絶叫し倒れ伏す姿が脳裏にこびりついては、最早どうにもならないのだから……。

 

ミソラ「あ……あぁ…、あぁぁぁ………」

 

……もう、だめ……カラダが、意識が、沈んでいく。

このままだと……暗闇に、呑まれ―――

 

??「ミソラちゃん!!」

ミソラ「……!」

 

不意に誰かに呼ばれた気がした。

 

聞き覚えのある声に恐る恐る顔を上げると、私と同じ背丈の少年が一目散に駆けつけてくるのがわかる。

 

―――ひょっとして……

 

ミソラ「スバル、くん……?」

 

何故彼だと思ったのかはイマイチ自分でもわからない。

だけど、この状況において…マネージャーやファンとはまた違って、純粋に気にかけてくれる人は他にいないと感じていたからだろう。

ますます詰め寄ってくると思えば、目の前でブラックホールと似た空洞が生まれ――

 

??「スバルッ、少しだけ時間を稼ぐ。その間にミソラを説得しとけ!」

ハープ「ちょっと、ウォーロック…………」

 

異形の男がハープ諸共暗闇に引きずり込まれた後、程なくして門は閉ざされた。

 

スバル「……ミソラちゃん、どうして……」

ミソラ「キミ以外に…頼れそうだと思う人が、他に見当たらなかったからだよ……」

 

私自身…回復を待つまで動けないと悟り、観念するかのように地面を見つめ、素直に白状した。

 

◆◆◆

 

NOside

 

辺り全体が暗く淀んでいるように思えるのは、内にある憎悪や憤怒が煮えたぎってドス黒く染まりきっていたから。――此処は、言わばウォーロックの精神世界となる。

どうにかハープを宿主から突き放し完全に二人きりとなったわけだが、未だ一触即発と言えるほどいがみ合うのは相変わらずのようだった。

 

ハープ「つくづく理解に苦しむわね…。私達を(たぶら)かしておいて、そのうえ地球人と馴れ親しむなんて……いったいどういう神経してるのよ、アナタ…」

ウォーロック「お前が言えることか、それ。

……つーか、よりによってあの陰険爺もお出ましだったとはな…」

ハープ「……さすがに気づいていたのね?」

ウォーロック「そりゃそうさ。じゃなきゃ、向こうから馬鹿でけぇ周波数(チカラ)が感じられるわけないしな。

……リヴァイアとはまた違って気味悪ぃぜ、まったく」

ハープ「――癪だけど、こればかりは同感だわ……」

 

二人の知る限りではクラウン個人の実力は芳しくないため、敵に回ろうが脅威にならないと各々評してはいた。

……だがどうだ。現時点において、クラウンの持つ周波数とは裏腹に一際強く禍々しいナニかが押し寄せており、王とはまた違ったプレッシャーに焦るハープはおろか、御国の反逆者ですら肩を強張らせているではないか。

 

……しかし。

そんな状況下でウォーロックは歪ながら強大な周波数がせめぎ合っている事に気づき、そのうちの一つがリヴァイアのものだと看破していた。

同胞であるが故、数日も経てば判別に苦労しないレベルまで。

 

だとすると、水希は戦っていると予想がつく。

……奴の事だ。スバルと比べ実力はあるのだから、余程運が悪くなければ負けることは無いだろう……と半ば期待を抱きながら、長年抱えていた疑点を問うた。

 

ウォーロック「なぁ、ハープ。お前もケフェウスのやり方に疑いを持ったことねーのかよ? 大した理由もなしに星ごと殲滅するなんて、トチ狂ってると感じねーのかよ?」

ハープ「そうね。後継ぎとして代替わりされてから、おかしなコトは多々あったけど……正直、ケフェウス様の目論見に興味ないし、鍵さえ取り戻せば後はどうだっていいのよ。

……そもそも、あんな殺伐とした星に希望を抱くこと自体、どうかしてるじゃない」

 

ハープの的を得た持論にこれ以上言及する気を失せると同時に、あくまでも生きるためと(かこつ)けるのが実に利己的でFM星人(お前ら)らしいと鼻で笑った。

その様子が気に食わなかったのか…ハープは苛立ち混じりに鍵を返せと促す。

 

ハープ「……もう一度言うわ、ウォーロック。ケフェウス様から大目玉を食らう前にアンドロメダの鍵を返しなさい!」

ウォーロック「ハッ、お断りだ。そうやって威勢良く吠えてるヒマあんなら、殺してでも奪い取るんだな!」

 

傍から無意味な事を繰り返すばかりでは誰も救われやしない。――その事をあのガキは理解していないのだから、朽ち果てるのを覚悟に目を覚まさせてやると決心していたのだ。何と言われようが結論を変える気など無かろう。

無論、彼とてタダでやられるつもりは毛頭ないが。

 

言い争う最中、空間に亀裂が生じるのをハープは見逃さなかった。

 

ハープ「そう……なら、まずはここから脱出すべきかしらね!」

ウォーロック「させるかっ!!」

 

動いたのはほぼ同時。

お互い衝突するに伴って力は拮抗する。

 

……ほんの数分だけでいい。少しでも彼女(響ミソラ)を救えるのならば、と望みを賭け、脱出を謀るハープを全力で止めに入った。

 



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EX-8話 この世界が大嫌い

スバルside

 

――キミ以外に…頼れそうだと思う人が、他に見当たらなかったからだよ……。

 

スバル「どういう、こと……?」

 

話してくれた言葉の真意が解らない、と声に出す。

 

とても人を襲う動機に当てはまると思えな……いいや、宿主の事情に関係なく付け入れるのだから、こうして容易く手を下していただろう。

そんな中で正気を取り戻せたとはいえ、ミソラちゃんも傷口を抉られたに違いない。

 

そう思わせる状況だからか非常にムカついていた。

 

寄生虫紛いに弄ばれ、足掻こうが無駄だと(わら)われるような錯覚に。

そして何より、目の前で膝をつく彼女にかけてやれる言葉すら見出せない己自身に……。

 

ミソラ「私ね……3歳の頃に両親が離婚して、そのあともずっと、ママと二人で暮らしてたの」

 

俯いたままではあるが…ミソラちゃんが沈黙を破ってくれたおかげで、どうにか平静を取り戻せた。

 

ミソラ「ママは…私を養うためにいつも必死に働いてて、帰ってくると疲れきった顔をしていたから、少しでも力になりたくて、ご飯も作ったりしたんだ。

もちろん、最初はへったくそが極まって…黒焦げにしちゃうのなんてザラだった。

今思えば、とにかく何でもいいから喜ばせたい、恩返しがしたいって、子供ながらに思ったんだろうね……」

 

そういや、あの時はこっぴどく叱られてたっけな。と、ミソラちゃんはどこか懐かしむように呟いた。

こと料理に関してはおいそれと口出しできないが、内容を聞くだけでも随分微笑ましいことだ。

 

そういや、三年前の兄さんも当初は色々やらかして母さんに……――止そう、これ以上思い出してはいけない。

あんな地獄絵図ごときに耽る暇があるなら、今はしっかりと傾聴しよう。そうしよう。

 

ミソラ「そんな何気ない日々を送っていた中で、テレビに映るアイドルの歌を口ずさんでたら「見込みあるんじゃない?」って言ってくれて、誕生日にギターを買ってくれたの。

その日からたくさん練習しては、出来上がった歌をママに聴かせてた。

……「上手ね」って褒めてくれたし、「もっと多くの人に聴いてもらうべきよ」って、背中を押してくれた――」

 

直後。間を置くように顔を上げる。

しかし、僕を見据えるその目からは、以前のハツラツとした面影が消え失せ不気味さを醸し出していた。

足が竦み怯んでしまいそうだったが、進んで助けに来たのなら話を聞き入る義務がある。

逃げる訳にはいかないんだ。

 

ミソラ「――だから、ママに買われた才能をムダにしたくなくて、ほとんど成り行き任せだけどオーディションへ向かったの」

スバル「……それで、ミソラちゃんは……」

 

無言で頷く。

 

ミソラ「無事に合格したことを伝えたら、めちゃくちゃ褒めてくれて……こんな私でも、歌うことで人を喜ばせられるんだって思ったら、すごく嬉しかった――」

 

それは、紛れもなく本心からくる言葉。

僕自身が宇宙を好いて、父さんと二人で趣味を分かち合い、喜ぶを噛みしめているのと似通っている。そんな気がした。

 

ミソラ「――だけど、デビューするのと同時にママもお仕事が忙しくなって、お互い顔を合わせる日は少なくなったわ。

去年のクリスマスライブにも合間を縫ってメールを送ったけど、一向に返事は来なかった。……なんでか分かる?」

スバル「……いや」

 

彼女の目が細まる。

 

ミソラ「家に帰ったあと、そのまま風呂場で溺れ死んだんだってさ。信じられないでしょ?」

スバル「……!」

 

返ってきた言葉に耳を塞ぎたいくらいだ。

一時感じた幸せは呆気なく消え、父を喪った絶望と重ね合わせたら余計息苦しくてたまらない。

 

ミソラ「……やっぱり辛い? お父さんがいなくなった時を思い出して」

スバル「いま、なんて……」

ミソラ「昨日の夜、キミのお母さんから聞いたのよ。大切な人を喪う苦しさを分かってくれる人が――って期待してたけど、よくよく考えたら、まだ身近にいるじゃない。

正直、羨ましいよ……。私にはもういない。生きてる筈のパパだってどうせ助けに来てくれない! だからこうしてバケモノになるしかなかったのに……っ!!」

 

泣き叫んでいた。

何を訴えかけているか判らなくなるほど荒みきった姿は目に見えている。

けれど――憎悪、寂寞、嫉妬、羨望。それら全てが今のミソラちゃんを衝き動かしていることは確かだろう。

 

スバル「――!」

 

距離の空いた僕らを割り込むように黒い渦が現れ、身を引くと同時にロックが吐き出された。

 

ウォーロック「ぐぁ…っ!」

 

体勢を立て直せず背中を強打。……うん、痛そう。

心なしか息も上がっているようだった。

 

ウォーロック「わりぃ。思ったより時間稼げなかったな…」

 

それでも身を案じてくれる彼に、これ以上無茶な要求はさせられまい。

 

スバル「十分だよ。後はなんとかする」

ウォーロック「あぁ、そうしてくれ……」

 

ロックの体が光に覆われ、再び左腕に宿る。

向こうも同じく肩で息をしているが、根気強く立ち上がった。

 

ハープ「……手こずらせてくれたわねウォーロック。けど、もう同じ手は食わないわよ!」

ウォーロック「無論だ。女に手ぇ出す趣味なんざねーけど、今回は例外だぜ。この俺を相手にしたことを後悔するんだな、ハープ!」

ハープ「世迷い言を……。ミソラ!」

 

ハープも再びギターへと変化し、ミソラちゃんはそれを握りしめる。

 

ミソラ「……私は、お金にうるさい奴が嫌い。ママとの思い出を踏みにじる奴が嫌い。どこにいても独りだって思わされる――この世界が大嫌い!!」

スバル「ミソラちゃん」

ミソラ「……これが私の答え。それでもまだ私と戦うっていうの? スバルくん……」

 

既に結論はついている。

 

――何が正解かは判らないけど、止められるのはここにいる自分ひとりだけ。ならば――

 

スバル「戦うよ。少しでも気が晴れるならね」

 

彼女に負けじとバスターを構えた。




まだまだミソラ編が続きますが、最後までお付き合いしていただければ幸いです。

そして、UA数も無事に5000を突破することになりました。
本当に嬉しい限りです。

正直なところ……同じ書き手で僕よりも一年後に投稿したあの人に色々と先を越され、ここにくるまで荒れ気味ではありました。

ですが、自分の今の実力に見合う数値だと割り切り、頻度はともかく投稿意欲さえ失せなければ続けられるんだとしみじみ思っています。
お気に入り登録者が増えて、ちゃんと作品として成り立っているんだなと実感出来ますからね。(^^)

それでは引き続き、水希リスタートの応援のほど宜しくお願い致します。

アリア・ナイトハルト


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EX-9話 告白

今回の戦闘シーン。かなりの暴力描写があり、見るには相当堪えるかもしれません。


ウォーロック「一つ言っておく。変身が解けるまでそう長くはないが、10分は保たせる。そのうちにあの女を倒せ」

スバル「……ミソラちゃんは、死なないよね?」

 

戦う意志を見せた途端に”倒せ”と告げられて恐怖心が先走り、改まって確認を取るが

 

ウォーロック「当然だ。オックスを倒した後、ゴン太って奴は消えちまったか? ……違うだろ。ちゃんと生きてる」

 

四の五の言ってられないからこそ、ロックは依然として冷静さを欠くことなく、あまつさえ腹をくくれと諭されてしまった。

 

そうだ。ずっと右も左も分からず戦っていて、それでも…非力だとしても、匙加減を間違えたらと怖気づいていたのは確かだ。

けれど、確実に死んだという事案はなかったじゃないか。

 

スバル「……わかった」

 

決意を固めたいま、ロックに問うことはもう無い。

迷いを振り払うように深呼吸して、眉根を寄せながら身構えるミソラちゃんを正視した。

 

スバル「ミソラちゃん。何が何でも君を止める。これ以上…苦しむ姿は見てられないから」

ミソラ「……うるさい!」

 

助けたいという率直な願いすら拒むように、ミソラちゃんは力任せにギターを掻き鳴らす。

 

ミソラ「《ショックノート》!!」

 

さっきと同じく音符を飛ばしてくるが、初撃は後ろへ飛んで回避し追撃が放たれる度にバスターで相殺。

容易く凌いでいるように見えたのか、苛立ちに乗じてアンプの数が増していく。

 

ミソラ「このっ!」

 

いくら攻撃が単調とはいえ、弾道がバラバラな上に物量的で近づく隙が全くない。

現に避けきれない弾を撃ち落とすのが精一杯な為、冷や汗が吹き出て止まらなかった。

 

こうなれば一か八かだろうか。

状況が長引くのは不利と見て、ダメージ覚悟で反撃に出る。

 

スバル「ロック、前に出るよ!」

ウォーロック「了解だ!」

スバル「バトルカード、プレデーション!――《エアスプレッド》!」

 

実の所。「だいぶ持て余してたし…よかったら使ってよ」と、以前兄から多種多様なバトルカードを譲り受けていたのだ。今使ってるカードもそのうちの一つで、全方向に誘爆する効果があるらしい。

銃身が形成され次第、迫ってくる音符に狙いを定めた。

 

スバル「行っけぇ!」

 

放った空気弾は音速に等しく、難なく命中。

着弾地点を中心に衝撃が拡散され、軌道も逸れたことで視界が開けた。

続けてバルカンシードを投入し、前進しつつ撃ち込めば、まだ多数残ってはいるが運良くアンプを破壊。

そして…ミソラちゃんは一瞬目を逸らし、すぐさま僕を睨みつけて、手に持ったギターを銃のように構えだした。

 

ミソラ「私の邪魔しないで!」

 

声を荒らげ、技名も唱えずに弦を放つ。

……が、既に動作を見切っていたため、這うように身を屈んで躱してからソードを投入し、地を蹴って肉薄していく。

 

ミソラ「……ッ」

 

鈍い金属音が重なり合う。

一瞬躊躇ったものの、(すんで)の所でギターを盾にしたそうだ。

……確かに。バケモノになるしかなかったと自嘲していたが、その喩えは間違ってないと思う。

戦う際の身の熟しや動体視力諸共、ぶっちゃけ人間辞めてるレベルだなと、尚の事受け止めていた。

 

けれど皆、僕や兄さんと違ってFM星人達に付け込まれ、挙げ句好き勝手に操られて苦しんでいるんだ。

そんなの、黙って見過ごせる訳ないだろ!

 

スバル「邪魔しに来たんじゃない。助けに来たんだよ! もう止めようよ。こんなことしたってなんの意味も――」

ミソラ「私のことは放っといて!」

スバル「……放っといてって、本当に大丈夫なら匿ってほしいなんて言わなかった筈でしょ! 一人じゃどうにもならないから助けを求めたんじゃないの?!」

ミソラ「うるさいって言ってんのよ!!」

 

力ずくで突き離されようと懲りずに言葉を投げかけたが、撃ち合いは更に激化していくため、こちらも全力を以って払い除け、ミソラちゃんに当たらぬよう注意を払いつつ撃ち落とす。

 

ミソラ「アンタに何が分かんの! お父さんが居なくなったからって…まだ当たり前のように家族が居るのに、何がそんなに嫌だって言うのよ?!

私だって……ママがいなくなってもずっと一人で頑張って、アイツに振り回されても耐えてきたってのにぃッ!!」

スバル「……確かに、君と比べたら大したことじゃないと思う。だけど皆、違う形で辛い思いして、それでも…泥臭くても生きようと足掻いてる人だっているんだよ!!」

 

猛スピードで迫る音符をソードで薙ぎ払う。

 

ミソラ「何よそれ、意味分かんない。……じゃあ何、みんな苦しんでるなら、たかが一人の苦しみは…取るに足らないって言いたいわけ?

…………ふざけないでよっ!!

スバル「――うわっ!!!」

 

どうせわかって貰えないと吠え猛ていた。

ただ叫んだだけで衝撃波が生まれ吹き飛ばされてしまうが、辛うじてウェーブロードを掴み、体勢を立て直す。

 

スバル「………この、分からず屋がっ!!」

 

……正直。助けに来た奴が吐くセリフじゃないだろうし、言葉選びが悪かったのは反省しているけれど、綺麗事を並べた所でどのみち反感を買うのがオチだと判ってはいた。

ならば……と考えた末に出た結論は、ただ正論をぶちかますという事のみ。彼女にとって残酷で無神経極まりない選択を取ったが、今の僕にはそれくらいしか出来ないと思っていたのだ。

 

 

 

――だいぶ離されたから、少しでも間を詰めなくちゃ――

 

スバル「…………っ!?」

 

突如思考が鈍り、目に映る色が反転する感覚に襲われた。

踏ん張りをつけるため腰を落とそうとしたところ、いきなり体の自由が効かず困惑する。それどころか転びそうではないか。

 

――え? …うそ…なんで?

 

原因は手元。――普段着の赤い袖と変身後の青い姿が入れ替わるように見えたから。

つまり、限界が近づきつつある。という事だ。

 

スバル「マズっ…!」

 

そのまま抵抗虚しく倒れてしまった。

 

ウォーロック「……わりぃ。足、引っ張っちまった……」

 

ロックは不甲斐なさそうに謝るが、こちらとて無理を承知で動いてるので仕方ないと割り切る。

ミソラちゃんも横たわる僕を見てさぞ不思議がっただろうがお構いなしに近寄り、肩を掴んで仰向けに押し倒すと

 

スバル「……ミソラちゃ、…ぐぅ?!」

 

なんの躊躇もなく、両手で首を締める。

振り解こうと必死に抵抗するが、力が入らず軽く手首を掴むことしかできない。非常に不味い状況だった。

 

ミソラ「……じゃない……」

 

しかし。ほんの一瞬聞き取れない声量で呟くと、握る力が弱まる程に手元が震え、頬の水滴が伝い落ちた。

 

ミソラ「ママは私の全てだった。パパが居なくても、その寂しさをいつも埋めてくれてた。……だから、ママが居れば何でも頑張れる気がした。……なのにっ、なんで私を置いて行ったの、ママ……」

スバル「ミ、ソラ……ちゃん……、!」

 

薄っすら目を開けば……泣いていた。

 

得も言われぬ絶望に屈するようで。

深い嫉妬に駆られるようで。

何もかもすべてが憎らしいと口にしそうで。

 

声が掠れようと名前を呼ぶが、今のミソラちゃんには届かずもどかしい。

 

ミソラ「ずっと、そばに居てくれるって約束してたのに……結局ママも嘘つきじゃない!!」

スバル「がぁっ?!」

 

再び、激痛と強い圧迫感に苛まれる。

 

スバル「あ……が……っ!」

 

あ、やばい、目眩がする……。

負けてられないってのに。まともに息も吸えないから、何もできずにやられちゃうのか……?

視界の端から黒い靄に覆われかけている。もう意識が保てないのだろう。

 

やだな……こんなとこで死ぬのは……。

 

ウォーロック「いい加減、スバルから離れやがれ!!」

 

ドスッ!!

 

ミソラ「かは……っ?!」

 

気絶しかける半ば、ロックの意思で左手が動きミソラちゃんのお腹に軽く一撃を負わす。怯ませるには十分な威力――いや、さすがに容赦無さ過ぎだろ…。お腹擦って後ずさりしてるし。

 

スバル「……ゲッホッゲホッ!! ……ハァ…ハァ…」

 

ともあれ、息苦しさから解放されたのが不幸中の幸いと言えるだろう。

時折噎せながらも肺に酸素を取り込み体が楽になる頃に再び立ち上がった。

 

スバル「話を聞いて分かったけど、君も案外、自分のことしか見えてないんだね……」

ミソラ「……なに、言って」

スバル「君のお母さんも、ミソラちゃんと同じこと思ってたんじゃないかな? お父さんに棄てられたとしても、君の存在が何よりの支えだったなら、生きる希望を持てたんじゃないかって……」

ミソラ「……!」

 

思い当たる節があるのか、ミソラちゃんは黙って俯いた。

 

ミソラ「……だとしても、もう遅いでしょ。死んじゃったのに。……これから誰を信じて生きて行けば……」

スバル「いるだろ、ここに!」

ミソラ「え……?」

 

少なくとも存在してるだろうと訴えかければ、不信な面持ちのまま窺うように顔を上げた。

 

スバル「偽善だって笑い飛ばしても良い、バカにされたって別に構わないよ。でも…理由とかきっかけが何であれ、君を助けたいって心から思った!

だから僕は戦うって決めたんだよ!」

ミソラ「……やめて。それ以上、言わないで……」

スバル「頼りになれるか分からないけどさ、こんな僕で良ければ――」

ミソラ「やめてってば!!」

 

説得を試みるも、食い気味に吠える姿に気圧されてしまう。

 

ミソラ「どうせ全部嘘なんでしょ? スバルくんはアイツの怖さを知らないからそう言えるんだよ。抗ったところで返り討ちにされて、終いには見捨てるかもしれないじゃない……っ」

スバル「まだそうなると決まってないだろ!!」

 

柄にもなく怒鳴ったせいか、ミソラちゃんの肩が一瞬竦んだ。

 

スバル「アイドルとして生きていくのがどれだけ大変か……そりゃ想像つかないよ。けど、それ以前に君は母親の為に生きてきたんだろ!

それに、君自身が悲しんだように…なんの前触れもなく居なくなったら、君の歌に胸を打たれたファン達がきっと悲しむ。

それが嫌だったら、精一杯育ててくれた命を粗末にするな!」

 

伝えられることを告げて懐に手を伸ばす。

 

――それ、御守りとして持っときな。大丈夫。絶対に失望させたりしないから。

 

……限界が近づいたいま、派手に動くことが適わないと悟り、やむを得ず切り札を取り出した。

 

スバル「ロック。もうちょい辛抱してて」

ウォーロック「わかってらぁ、行けスバル!」

スバル「――バトルカード、プレデーション!――」

 

他と違ってサイズが3割増しているそれを投入する。

するとどこからとも無く光の粒子がひとかたまりに集い、電波変換した兄が眼の前に召喚された。

 

スバル「兄ちゃん、お願い!」

 

必死にそう叫ぶと、兄ちゃんは任せなと言いたげに笑みを浮かべすぐさま両手に水をかき集めた。

当然、これだけでは終わるはずがない。

 

スバル「――《プラズマガン》!」

 

逃げられることを想定した上で撃ったから、反応に遅れを取ってしまったミソラちゃんは為す術なく攻撃を受けてしまうだろう。

 

……ごめんね。もっと他に方法があったと思うのに、結局痛めつけることになって。

 

「《ディザスター・クロール》ッ!!」

 

兄ちゃんが両手を前へ突きつけた瞬間。おびただしい量の流水が渦を巻いて猛進した。

その勢いはさながら海に住まう龍の咆哮に等しく、しかし頼もしいと思えるその後姿が悍ましいとも思えた。この場に居る兄が本物でなかろうと、全力となる攻撃を目の当たりにしたのだから自分が食らうとなると同情を禁じ得ない。

 

ミソラ「きゃあああァァァ!!」

 

やがて勝敗は決した。

 

「………」

 

水色の光を纏い、粒子となって消える間際に後は頑張りな。と背中を押された気がした。

そして最後の一仕事を終えるべく己の体に鞭を打ち、気を失ったまま落下していくミソラちゃんとギターを抱えたあと、無事地上へと降り立つ。

 

スバル「…う、ぐ…っ」

 

すぐ近くのベンチへ寝かせた途端に二人して変身が解け、溜まりに溜まった疲労が押し寄せてくるのだが、ロックに支えてもらう半ばどうにか持ちこたえた。

 

ウォーロック「……大丈夫か、スバル……?!」

スバル「……うん。もう平気。ありがとう」

 

後にハープが現れる。

 

ハープ「……どうやら、ここまでのようね……」

 

深手を負ってなお息も絶え絶えだからか。死を受け入れるように目を閉じ、頑なに動こうとしなくなったが…… 

 

ウォーロック「なぁにそこで瞑想してんだよ、お前」

ハープ「え…?! …いや、だって…今回ばかりは例外って…」

 

ロックの能天気な対応にハープの緊張が一瞬解かれ、逆に戸惑いも見せはじめた。

僕も同様に耳を疑ったが、いつまで経ってもロックはとどめを刺そうとせず、茫然自失な僕らを見て溜息まで溢しやがった。

 

ウォーロック「……気が変わったんだよ。暴力振るっておいてなんだがな…お前が無害とわかりゃ、端から殺す必要は無かったのさ。第一、殺したって後味が悪いだけだしな」

 

腕を組んで気怠そうに答えると、拍子抜けねと言いたそうに呆れるも…どこか安堵を含んだ笑みを浮かべた。

 

ハープ「ハッ、やっぱり根は甘ちゃんのままね。貴方」

ウォーロック「なんとでも言え。その分ありがたく思えばいいのさ。――んで、どうするよ? 今戻っても他の面子から総スカンを食らうと思うぜ」

ハープ「結構よ。後で仲直りを言い渡されても、どうせ願い下げだし。……負けた。降参するわ、私」

 

えっと……とりあえず一件落着、と言っていいのかな?

まだ根幹から解決した訳じゃないけど。

 

ミソラ「……う、んぅ…」

スバル「!」

 

二人が勝手に話を進めたなか、ミソラちゃんがようやく目を覚ました。

 

ミソラ「……あれ? ……わたし、さっきまで……」

スバル「ミソラちゃん! 大丈夫!?」

ミソラ「っ、来ないで! …お願い、だから来ないで…スバル君…」

 

安心して駆け寄ろうとするが、ミソラちゃんから突っぱねられてしまい踏みとどまった。

 

ミソラ「…酷い、こと…沢山しちゃった…。スバル君にも、ファンかもしれない人たちにまで…攻撃しちゃった。嫌ってた、マネージャーにだって。

私、あんな事…したく、なかった筈なのに……」

 

まぁ…恩を仇で返されたと憤っていそうだが、それは単に自業自得なだけだし。気にすることではないが……それでも、罪悪感は少なからず持っていたのだろう。

 

スバル「ミソラちゃん。それはハープに取り憑かれてたから――」

 

原因は他にあると主張すると、ミソラちゃんは首を振って否定した。

 

ミソラ「違うよ。……スバル君も見てたでしょ? …私、大好きな音楽で…人を、傷つけたんだよ。本当に歌うことが好きなら…聴いてくれる人達の心を癒やしてあげなさいって。ママとの約束すら破っちゃったんだよ……。

なのに、私のせいじゃないってどうして言い切れるの?!」

 

……バカだな。自分で言ってたじゃんか。”頼れそうな人が他に見当たらない”ってさ。

 

スバル「だって、ミソラちゃん。…今、泣いてるじゃん」

ミソラ「―――っ」

スバル「それは、自分が悪いことしたと自覚してる証明だって事。だからきっと、同じ過ちを繰り返したくないって思うはずよ」

 

ミソラちゃんは図星を指されたように押し黙るが、やはりまだ信じられないと口にしそうな面持ちのようだった。

 

ミソラ「適当な事言わないで! スバルくんだってホントは怒ってるんでしょ?! なのに、なんで悪くないって……」

スバル「そうだね。ミソラちゃんのした行いは許されない。それは当然だよ。正体を知られたら、数日足らずでファンが去ってしまうかもしれないしね」

ミソラ「だったら!」

スバル「……けどさ。ミソラちゃんだって…今まで辛くても、お母さんのためを思ってアイドルを続けてたんでしょ?

――でも、徐々に歌うことが楽しくなくなって、マネージャーに強く当たられ、その捌け口がないまま過ごしたから、限界を超えてしまった。

僕からすれば、プロとして限界まで活動し続ける粘り強さが…羨ましいと思ったんだよ」

ミソラ「え……」

スバル「僕も…父さんを失ってから凄く辛かった。三年間、ずっと不登校だったのも…失うくらいなら作らなきゃ良いって思い込んで、逃げてたんだ。

だけど、母さんや兄ちゃんからも、落ち着くまで家に居たらいいって言ってくれたのが救いだった。いつか学校に通ってくれるって信じてもらえてるから」

 

ミソラ「……それが、私とどう関係が……」

 

あるよ。とキッパリ答える。

 

スバル「ミソラちゃんも知っての通り。兄ちゃんは不器用なりに支えてくれてたよ。…だけどまだ立ち直れたわけじゃない。恐がってばかりで前に進もうとしなかったから。

でも、失う痛みを理解してるからこそ、同じ痛みを抱える人の支えになりたいって、戦ってから初めて思えた。

……歌うのが嫌なら一旦辞めて、また歌いたくなったらステージに戻れば良い。大丈夫だよ、本当に好いてるなら、ちょっとやそっとの事で離れていく筈がないんだから」

 

ミソラちゃんと、面と向かう距離まで歩み寄る。

 

嫌なことから逃げ出したいって気持ちは痛いほど分かる。けれど…それ以上に僕は、大切な人との思い出を壊したくなかった。

きっと君自身にも“守りたいと思う心(その気持ち)”が芽生えて、失くしたくないって思うはずだよ。

 

―――だから、どうか生きる事を諦めないでくれ。

 

 

頭を下げ、そっと手を差し伸べた。

 

スバル「ミソラちゃん。―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― 僕と、ブラザーになってください。―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めての、あまりにも強引と言えるような告白だった。

すました顔を決めたつもりでいたが、実際は火が吹き出るほど焦り、内心羞恥で荒れ狂っており必死こいてそれを抑えていたのだ。

 

ミソラ「……やっぱり、親子は似るもんなんだね」

 

そんな僕を、ミソラちゃん迷わず受け入れてくれた。

握手を交わす時でさえビビり散らかし、おずおずと顔を覗いたというのに、

 

ミソラ「嘘ついたら、針千本飲〜ます。だからね?」

 

涙に濡れていようと、屈託のない笑みを見せてくれたのが何よりの証明となった。

 




ミソラちゃんを中心とした話を作るにあたって、できるだけ被らないように書き進めることは至難の業でしたが、ようやく一つの答えとして導き出せたなら悔いはありません。

あともう一話挟み、別枠で違うキャラの視点の話を投稿すればミソラ編は終了となります。

そしていよいよ! 第五章に向けて本格的に再開する予定ですのでもうしばらくお待ち頂けたらと思います。

ここまで読んで下さった読者様、そして…数あるお気に入り登録者様共々にありがとう〜って伝〜えた〜くて〜♪

……失礼、おふざけが過ぎました。

それでは次回もまた、お楽しみ下さいませ!


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EX-10話 再び前へ。 〜抗戦の兆し〜

暴動事件が解決して3日後に至るまでの話をしよう。

病み上がりのまま裁判に挑むと聞いて不安だったが、大丈夫!と迷い無く意気込むミソラちゃんは、結果的に勝訴を獲得したそうだ。

今まで伏せられた悪業も、芸能関係者やスタッフ達に暴かれ反論の余地すら与えられず、事務所側から賠償金や解雇通知を提示された時は泣く泣く受けつけたらしい。

 

その後どうなったかは知る由もなく、ミソラちゃんの苦労が報われたと思えば、その苦痛は痛くも痒くもなかったが。

 

 

 

―――そして現在、展望台にて。

 

あかね「まさか、あの子から直々に特等席を譲ってくれるだなんてね」

水希「実際に来るのは初めてだけど、すごい人だかりだよね」

 

助けてくれたお礼にと三人分のチケットを受け取り、せっかくなら家族連れで観に行こうと思って、母と兄を誘った。

二人には、珍しいこともあるなと誂われるが満更でもなさそうで提案した甲斐があったものだ。

 

強い日差しの下。群衆から発せられる熱気に耐えつつ主役の登場を待ち構えていると、程なくして歓喜が湧き上がる。

 

ミソラ「みんなー! 今日も集まってくれてありがとー! ……それと、この前行うはずだったライブを中止にしちゃって、本当にごめんなさい。迷惑をかけてしまった分、時間いっぱい歌って盛り上げていくから、楽しんでねー!」

 

ミソラちゃんなりに誠意をもって謝罪した後、声援を贈るファン達に励まされながらギターを構えると、感謝の意を歌にして返す――アイドルとしての“響ミソラ”を取り戻そうと奮闘し始める。

 

〜♪ 〜♪

 

聴いていくうちに…日が浅いなりにだが、ファンの心が掴まれる理由が解ったかもしれない。

 

軽快で、歌詞一つ一つに活気が溢れていて、ミソラちゃん本人の心情が描かれる世界観にみんな惹き込まれていって……。

それらが人気となる要因なのだろう。と。

 

……ただ、色々と振り返ってみれば、商魂逞しそうな元マネージャーとは方向性と価値観が違い過ぎていて、芸能界に入って間もない頃からギャップを抱えたのなら逃げ出したくなるのも頷ける。

 

ミソラ「続いて新曲行っくよー!――ハートウェーブっ!!」

 

そうして一人考え耽っている間にも、ミソラちゃんは観客達の威勢に負けじと盛り上げていき、熱狂は一際強くヒートアップしていく。

 

――本当に、良かった。

ミソラちゃんも言ったようにライブを中止にされて怒ったかもしれないけれど、むしろ引退を聞いて悲しみつつも楽しんでくれたようだ。

 

だが時間はあっという間に過ぎていくもの。

ライブはいよいよ終盤に差し掛かるのだった。

 

ミソラ「これが、引退ライブ最後の曲となります。皆さん…聞いてください。

……『グッナイ、ママ』」

 

タイトルコールを済ませた直後。比較的落ち着いた前奏が会場を包み込み、それに伴い皆静まった。

 

 

 

あのね 気がついたの

私 一人じゃない ってね

寂しさはまだ 癒えないけど

泣いてばかりじゃ 笑うかもね

 

だけど 怖気づいて 

前に 進めなくなれば

涙 拭って 一歩ずつ行くよ

振り返らずに 未来へ

 

グッナイ、ママ。 愛しているよ

いつか逢う日を 祈らせて

グッバイはもう 伝わらずとも

天国(そら)に 届くと 信じてるから

 

 

 

揺るがない決意を母へ手向けた歌。

まだ序盤を歌いきったばかりなのに、胸を締めつけるような想いが込められて、中には涙ぐむ人もいただろう。

 

……隣で観賞していた兄のように。

 

スバル「兄ちゃん、目が…」

水希「え? ……あれ、おかしいな、なんで急に…」

 

初めて見る姿に一瞬呆けてしまうが、居ても立っても居られず背中を擦った。

 

スバル「兄ちゃん、大丈夫?」

水希「うん、ありがと。なんかさ、急に昔の事を思い出しちゃって。…はぁ、ダメだなぁ…大の男だってのに…」

あかね「ふふふ、やっぱおっきくなっても涙脆いわねぇ。み・ず・き・ちゃん?」

水希「うっせ、あとちゃん付けで呼ぶなっ」

 

肩を震わせながら誂う母を小声で諌め、すぐさま落ち着きを取り戻してステージを見やる。

 

水希「あの子の歌…凄いね。初めて、ライブに来たってのに……聴いているだけで、こんなにも心が温まるなんて…思いもしなかった…」

 

感極まったと述べたその後。トイレに行ってくると告げて途中退場したきり、兄は戻ってこなかった。

 

 

 

***

 

時刻は午後3時過ぎ。

公演も無事に終え、ファン達が各々帰っていくのを見送り、二人きりになる頃には日が傾き始めていた。

 

スバル「ミソラちゃん、本当にお疲れ様。今日のライブ凄く楽しかったよ。ありがとう」

ミソラ「こちらこそ! 来てくれてありがとね、スバル君。……そう言えば、お兄さん途中から見なくなったけど大丈夫なの?」

 

不安げに訊くミソラちゃんと同様に思う所は確かにあった。

強いて言えば…歌に感動した反面、一人きりになりたがっているようにも見えたが。あまりストレートに言っても不安を煽るのは分かりきったことだ。

 

スバル「大丈夫。特に体調を崩したわけじゃないし、多分…今は母さんがついてると思うよ、きっと」

ミソラ「……そっか。なら、心配ご無用ってわけだね」

 

そうなるね。と小声で返した。

 

スバル「それに兄ちゃん、君の歌を聴いて心が温まったみたいで気に入ってくれたんだ。だから――」

ミソラ「えぇ〜、スバル君はどうなのさ?」

 

自信持ってと言う前に訊かれちゃ困るんですがそれは……。

 

スバル「ぼ、僕だって気に入ったよ。なんたって、今まで知らなかったことを後悔するくらいだったし」

ミソラ「ふふっ、よろしい!」

 

不意打ちに慌てつつも正直に答えたからか。ミソラちゃんの機嫌は損なわれずに済んだが、打って変わって神妙な面持ちのまま手すりにもたれ掛かり、夕日の差す景色を眺めていた。

 

ミソラ「ママが溺れ死んだって……この前話したよね」

スバル「……うん」

ミソラ「当時のこと、まだ断片的に覚えてたの。『自殺にしては不自然な点がある』って言葉が妙に引っかかると思ったけど、裁判が終わったあとにママの上司だった人が謝りに来たの。

『君のお母さんが死んだ原因は私の采配ミスによるものだ』って聞いて、やっと納得できた。……できたんだけどさ。悲しいのにどこか安心してたんだよね。私」

スバル「ミソラちゃん……」

 

母の死が自ら望んだものとすれば、今みたいに立ち直ろうと奮起したとは思えない。

力になりたいと告げたあの時もあっさり断られてたかもしれないが、少なくとも自分の行いが間違ってないと信じたい。

 

信じたいのだが……傍らで啜り泣く声が聞こえて、あたふたしてしまうのだった。

 

スバル「だ、大丈夫…!?」

ミソラ「ごめん、情けない姿、見せて…。泣かないって決めてたのに、ぶり返しちゃった…」

 

どんなに虚勢を張ろうと、事実を受け容れるためには時間が要る。

僕だって…当時は泣き崩れてばかりで兄ちゃんに世話を焼かせたんだから、その気持ちは痛いほど分かる。

 

――“男だから泣くな”ってのはさ、自分の感情を殺すようなもんだと思うよ。だから――

 

スバル「情けなくない。辛いならちゃんと泣けば良い。無理に強がらなくても、時間がかかってでも前に進もうと思えるなら、良いんだよ」

 

泣く度にいつも掛けてくれた言葉が過り、気がつけばそっくりそのまま口にしていた。

 

ミソラ「うん……ありがとう、スバルくん……」

 

以前の自分を思うとありえないセリフを吐いたものだと自嘲しただろう。……けど今は、なんの恐れも後悔も感じなかった。

 

あるとすれば…本当の意味で救えたという実感と初めて友人を得た喜びに、心が満たされていった。

 

 

 

◆◆◆

 

〜2

 

 

眠りについてからそれほど時間は経ってないのに、瞼越しに光が漏れ、しばらくして目が冴えた。

 

スバル「……なんということでしょう……」

 

いつもなら見慣れた天井と壁を目にしますが、今居る場所は一面真っ白で敷いた布団すら無いではありませんか。

それに加え、普段着の赤い袖もチラッと見えて

 

スバル「………あれ? ロックも?」

 

お隣さんはぐーすか寝息を立てているではありませんか。

 

スバル「―――――フフフ」(ΦωΦ)

 

塾寝(うまい)する ロックの腹を コチョコチョと

くすぐってたら 頬抓られたぁ……!

 

ウォーロック「てんめ、この期に及んで地味な嫌がらせしてくれやがってよぉ? 悪いのはこの手か? この手か、おぉ?」

スバル「ひょめん、ひょめんなひゃいぃぃ……」

 

Oh No! 呆気なくカウンターを貰うとは不覚だ。

 

『うふふ……お二人とも、随分と睦み合っていらっしゃいますわね?』

 

何処からともなく女性の声が聴こえ、ようやく解放されたがロックはまだ怒りが収まってない様子。……はぁ、痛ってぇ。

 

ウォーロック「それ男女間で使う言葉だしイチャついてなんかねーっての! つかお前誰だよ、ここ何処だよ、教えろYO!」

スバル「落ち着けロック、血圧が上がるぞ」

ウォーロック「そりゃそうだろうな! ハマザキ初夏のボケ祭りのツッコミ対応に追われりゃあ必然的に血が上っちまうわなぁ!!」

『……此処は、アナタ方の意識の中。言い換えてしまえば夢の中でもありますわね……』

 

まさしくカオスとも言えるような状況だろうと、天の声は華麗にスルーなさるようで。そりゃそうなるわな。

 

スバル「夢の、中……?」

『えぇ。にわかには信じ難いでしょうけれど、まったくの嘘ではなくてよ?』

 

なら痛覚あるのは何故に?とツッコミを入れたい所存だが、偽りではないと吐露した途端、目の前から光の粒が集まり数秒待たずして天の声らしき者が形を成す。

だが全身がシルエットみたいに黒く覆われ、ハッキリとした姿は視認することが出来ないようだ。

 

『改めましてご機嫌よう。星河スバル。…そして我が同胞、ウォーロック…』

スバル「どうして僕の名前を…」

ウォーロック「俺まで知ってるなんて……何なんだよお前…」

『わたくしは彼等と同様。長きの間を渡ってアナタ方――地球人を見守ってきました。そしてこれからも。ずっとね……』

スバル「……何を言ってるの、この人……?」

 

状況が掴めないまま独りでに呟かれるため、ちんぷんかんぷんになる僕に対し、ロックはあからさまに青褪めて怯えているようにも見えた。

 

スバル「どうしたの?」

ウォーロック「……気をつけろスバル、コイツかなりヤバい。間違いなくリヴァイアよりも遥かに強ぇ周波数放ってやがる……」

スバル「え、……てことは、まさか敵?!」

『……ふ、ふふ、あっははは』

ウォーロック「な、何がそんなに可笑しいんだ?!」

 

ロックに続いて警戒心をむき出しにすると、予想に反して笑われてしまい呆気にとられる。

 

『いえ、失礼。やはりこの状況ですから、そう捉えてしまうのも無理ありませんわね。……ですが、あまりそう睨まないでくださいな。元よりアナタ方を攻撃する意思も理由もありません。ましてや今は封印された身ですもの……』

スバル「なら、どうして……」

『アナタ方はいずれ、大きな存在として名を轟かすと期待の元。今しがたお伝えしたいことがございまして、わたくし自らお招きした次第です。

現に、周りから見ても矮小(わいしょう)でしょうけれど、彼等のチカラを我が物とすれば……きっと、あの子達の負担が和らぐと信じておりますので……』

 

あの子達って、ひょっとして……。

 

ウォーロック「ちょ、ちょっと待て! そもそもテメーは何モンなんだ?! 彼等とかあの子とか、イチイチ言い方がまだるっこしいんだよ!! 誰なんだソイツらは!」

『申し訳ありませんが、わたくしの口からお答えすることは叶いません。急いては事をし損じますわよ、ウォーロック?』

ウォーロック「コンニャロ…っ!」

『……ではそろそろ、本題に移らねばなりません……』

 

話が進まないのもあってロックと同様に気が立っていたが、女性の柔和な雰囲気が一転して剣呑となり、思わず息を飲み込んでしまう。

 

『今後…ご自身の意志で戦うと望むのならば、ご忠告致します。

一つ。今のアナタ方は他の者よりも脆弱であります。優越に浸って自惚れてはなりません。

二つ。その身に降りかかる数多の試練を乗り越えなければ、まず間違いなく地球人の大半は滅びてしまうでしょう。

三つ。アナタ方の行動次第によって、関わりのある者の命運が左右されます。

今仰ったことを全て、胸の内に留めておいてください。いつか必ず、その真意を理解する日が訪れるでしょうから……』

スバル「――地球人、が……滅び、る……っ?!」

 

淡々と告げられて焦るなか睡魔に襲われ、気持ちを整理する時間すら与えられず視界が揺らいだ。

 

『……これにてお開きとさせて頂きます。

眠りから覚めるまでの間。アナタ方の勇姿を見届け、再び語らえる日を心待ちにしておりますわ……』

 

その言葉を最後に女性は消え去った。

 




うまいって単語を連想するとしたら「上手い(↓これ)」と「旨い(↓これ)」と「美味い(↓これ)」くらいしか思い当たらなかったというw

実質的に今回でミソラ編は完結となりますが、前回お伝えした通りもう一話挟みます。
出来栄えは70%程ですので、近い内に投稿致します!

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます!
次回もどうぞお楽しみくださいませ!


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閑話 度し難いって言うんだろうな…。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き、第五章も読んでいただければ幸いです。


淀みない快晴の(もと)。見も知らぬ展望台へ訪れていた。

しかし、群衆から湧き上がる熱狂はどうにも収まりがつかない模様である。

何せ人気(ひとけ)の少なさそうな此処も、今日に至ってはライブステージへと様変わりさせたのだから、窮屈だと感じてしまうのも無理ないだろう。

 

『ミソラ! ミソラ!! ミソラ!!! ミソラ!!!!』

 

最後列の右端から一人静かに見守るなか、皆は一丸となって手拍子とコールを繰り返していた。

思うに、この盛り上がりようも今回の主役――響ミソラに期待を寄せてこそ得たものとなる。

かくいう俺自身も、度重なる凶事に心を病んだ頃から彼女の歌に救われた身だ。今まで観に行く余裕はなかった分、今回の引退ライブを機に勇姿を見届けようと出向いたのだ。

 

 

 

 

 

隣にストーカーもどきがいなきゃ、もっと楽しめたんだけどな……。

 

「いやぁ、相変わらずスゲー人だかりだな。もうこれ収まりきらないんじゃねーのか?」

信武「……なんでテメーまで居るんだよ……」

「……むむ! その声、信武か? 奇遇だな!」

信武「その台詞はもう聞き飽きたよ」

 

実は今日。フードを被ってサングラスを掛けるという、普段と違った装いだったのだが。

左に居るこの男――狭山(さやま) 恵輔(けいすけ)に向けて口を滑らせてしまい、誤魔化そうにも手遅れな訳だ。

 

身内と親友を喪って傷心していた俺は、誰に対しても深い関わりを持たず…せいぜい会話する程度の仲に留めてきたのに、コイツは何度も俺に近づいてきた。

学校以外でも所構わず出会すことが多いし、実害が無いだけマシだけど……正直に言うと、親の顔より見てるだけあって鬱陶しいんですよね〜これが。

 

信武「…運命感じる前に○コムと契約しようかね…」

 

溜息と共に嫌味を吐くと、恵輔もムキになって、にゃにおう!と俺を睨みつけた。

 

恵輔「仮にも学友の俺を疎むなど失敬な奴め。まぁ何にせよ、ライブに来るかどうかは俺の勝手だけどな〜♪

……どうよ、お前の口癖をマネた感想は?」

 

なぜ得意げにドヤるのかは置いといて…コイツに放ってやれる言葉はせいぜい一つに限る。

 

信武「シンプルにうぜぇ」

恵輔「シンプルに酷ぇ!」

「――ちょっとチミたち〜、せっかくのいい気分が台無しじゃないの。騒ぐなら他所でやってくれないかね?」

 

恵輔の野郎…場の空気も考えず騒いでくれたから、お隣さんも嫌そうな眼差しを向けてきたじゃねーかよ。

てか俺、巻き添え食らっただけなんですけど?!

 

恵輔「あっ…すんません、俺達はっちゃけ過ぎちゃって…」

信武「俺達言うなや、俺達って…」

恵輔「お前の場合、不機嫌オーラダダ漏れなんだから雰囲気ぶち壊してんのはお互い様だろ」

 

ちょっとした言い分が癇に障り、一言多いと小突いたのだが…今にも雨が振りそうなほど諭され、絶句させられてしまう。

ハァァ、釈然としねえわ〜。

 

恵輔「――それよりも、ほら! 来ましたよ!」

「む!? ……オォォ!ミソラちゃーん!」

 

恵輔が指し示すように舞台袖から主役が現れた途端、野郎どもの目がハートになるくらいに歓声は高鳴りを増していった。

 

これがライブというものか。

……すごく、暑苦しいです……。

 

ミソラ「みんなー! 今日も集まってくれてありがとー!!――」

 

マイクを手にとっては観客に感謝とお詫びを述べ、同時に時間いっぱい歌うと彼女は誓った。

 

 

 

しばらく静観していた俺を除き、周りは意気揚々と声をかけ、中にはヲタ芸を披露して熱烈にアピールしてる者もいた。

いつもなら一人で、イヤホン越しから元気を貰い受けてきたが、老若男女問わず歓びを共有し合えるこの時間も悪くない、と改めて実感させられる。

 

ちなみに…暑さに耐えきれず腕()くったのはここだけの話な?

 

 

「これが最後の曲になります。聞いてください。……『グッナイ、ママ』」

 

ライブはとうとうクライマックスを迎えたのだが、俺は一瞬、表情が少し固くなったと自覚する。

 

文字通り、母親を題して作詞したのだろう。

先日亡くなったお袋が脳を過り、歌詞と照らし合わせて聴くほど胸の奥がむず痒くなる。

葬儀の最中も涙は出なかったけど、悲しくないと言えば嘘だ。三年経った今でも、黒い靄が俺のナカに這いずり回って漂い続けるのだから。

 

しかし、もしかしたらだ。

彼女も……俺と似通った境遇にあるのなら、俺よりもずっと早く、何倍も気張っているのではと考えてしまうのだ。

そうでなきゃ、わざわざお披露目する筈がない。

 

恵輔「……ったな、ミソラ」

信武「? なんか言ったか?」

恵輔「いいや、別に」

 

ボソッと独り言ちていたため聞き取れなかったが、目を閉じつつ穏やかな笑みを浮かべた恵輔を見て、疑問に思った。

 

―そういや、コイツの目って……。

 

信武「ぐ……っ!」

 

不意に右半身に衝撃を受けつつ踏ん張るが、

 

「す、すみません…!」

 

視界の端に捉えた途端……気をつけろと叱る気にもなれず、ぶっかったソイツはそそくさと走り去った。

 

信武「……興醒めだな…。帰るわ、俺」

恵輔「え? ちょ、まだ曲終わってねーだろ」

信武「お目にかかれただけでも腹いっぱいだよ。じゃあな」

恵輔「お、おい!」

 

居心地悪くなった俺は踵を返し、恵輔と目を合わせず、突き当たりにある階段を下った。

 

***

 

人工衛星の墜落を目論むも、あえなく失敗に終わった日の晩。俺は、知る限りの真実を聞かされた。

捜索を打ち切った翌日。深祐の研究室に訪れた水希は、存在がバレないよう口止めを要求したそうだが、そのとき深祐はえらく食い下がったようで反対を申し出たらしい…。

 

水希『……宇田海さん。今回の件は、今まで通りに許して貰えると思ってない。明らかに度が過ぎてるんだよ。

それに、大抵の人間はみんな、こんな犯罪者モドキを相手に仲良くなりたいと考えないでしょ……』

深祐『それでも…!』

水希『――悪いけど、もう決めたことだから』

 

俺も含めて、何の脈絡なく縁を切られたら悲しむと悲痛に訴えかけていたが、それすら聞き入れる気はなかったそうだ。

断りもなく一方的に方針を固めるということは、俺達に向けて絶交を言い渡すようなもんだってのに……。

 

深祐『……最後に言わせてくれ。意固地になっても良いことなんて何もない。いつか必ず、君は間違った選択をしたと後悔する。

それでもし孤立してしまったら、誰も、君のことを……』

水希『……だからこうして伝えに来てんじゃん。信武がウチと同じ道を辿らないように……』

 

最後まで引き留めようとする深祐をも突っぱね、それ以降は互いに連絡を取り合うことはなかったらしい。

……だが、再会した時の反応を見て分かるように、水希はただ俺と距離を置いて気を紛らそうとしただけだった。

 

まったく、どいつもこいつも……テメェらのお為ごかしに振り回される身になれってんだ。

 

 

水希を誑かした、あの女だって……!

 

レティ『あれだけ容赦なく奮っておいて、実に無様ね。まだ日が浅いのもあるから仕方ないか』

 

屈辱的な敗北は、今でもハッキリと覚えている。

 

水希を相手にした時ですら、動揺していたアイツは解ってないだろうが、こちとら慣れない力を制御するにも一苦労だったのだ。

それに加え、俺の動きに合わせて対処する身の熟しは凄まじかったし、拘束された後に放たれたブレスも、盾を張るのが遅かったら間違いなく喰らっていた。

 

悔しいが、あの女も指摘したように、そんなギリギリの状態でまともに戦える筈がなかったのだ。

 

レティ『アンタに足りないものが何だか判る? ……どんな結末を迎えようと構わず茨の道を選び、進んで行く覚悟よ。水希だってね、自分の本心から目もくれずに私達の目的を優先としたのよ。

それなのにアンタと来たら、正直呆れたわ。ズケズケと土俵に踏み入るわ、頭ごなしに貶してくるわ…不愉快極まりないっつーの』

 

不愉快極まりないのはこっちのセリフだバカ野郎。

俺だって、そう簡単に心の整理がつくわけ無いのに……気怠そうに腕を組んで勝手なことばかり抜かしやがって。

本当、殺してやりたいほどムカつく。

 

レティ『私がここに来る手前、殺す間際に水希の意志を継いでやるとか……よくもまぁ、大見得を切ったものね?

言わせて貰うけど、それは只の妄言よ。アンタ程度に代わりは務まらない。

たとえ強大な力を得ようとね、あの子の覚悟を踏み躙った時点で、戦いの場にお呼びじゃなかったんだから……』

信武『おまえ に……れの、なに が……っ!』

レティ『……これは命令。今抱えている問題を解決しきるまで、水希に近寄らないで頂戴ね。

それでも大人しくできないのなら……せめて、あの子の目が届かない場所で殺してあげる』

 

去り際、次は無いと告げられた直後に俺は意識を手放した。

 

***

 

『まさかお前、いじめられてるのか!』

『違う、いじめられてなんか無い!』

 

……信じられないし、信じたくなかった。

俺は日々がむしゃらに頑張って、水希は割と楽に過ごしていると思っていたのに。

 

『じゃあ何なんだよ? ここんところ変だぞ、お前…』

『それは……』

 

……言及し辛いと思う半ば、気づいてはいた。

歳を追うごとに表情が陰っていることを。

 

……けれど、知りたくもなかった。

目の入らない所で、俺以上に生き苦しんでいたことを…。

 

『昔から、偶にだけど…嫌な夢を見るようになったの。好きな人が突然消えて、最後に自分だけが取り残されて、目の前が真っ暗になるような夢……。

目が覚める度に安心してたけど、不安の方が大きく(まさ)ってたの』

 

……だから怖いんだ。

子供の頃より幾分と強くなった俺でも取り除けない闇を、水希はずっと抱え続けているんだと知るのが。

 

『……信武と、このまま友達で居続けられるのかなって…』

 

 

 

信武「……なぁ、ジジイ」

 

踊り場に差し掛かった途中、左から啜り泣く声が微かに聞こえたが、視線を階段へ向けたまま立ち止まり、トランサーに住み憑くジジイに今一度問う。

 

信武「キズナ号を襲撃したあとに、親父達を捕らえられなかったなら……水希が必死こいて探しても見つからないなら、今頃野垂れ死んでるかもしれないのに……。3年経った今でも、水希はまだ助かると信じ込んでる。

こういうの、度し難いって言うんだろうな…」

クラウン『……知らん。ワシに聞くな。あとジジイ言うな』

信武「あっそ」

クラウン『あっそ言うな!!』

 

再び階段を下るが、足取りがどうにも重く感じる。

 

クラウン『……信武。ワシとてお前の意思を汲み取ってやったんじゃ。協定を無下に出来ぬ今、勝手を抜かすようなら真っ先に主導権を握らせてもらうぞ』

信武「……わかってるよ……」

 

今の俺じゃ、アイツに何を言っても響かないだろう。本来ならそこで諦めがつく筈なのに、端から見てもどうかしていることは判りきっていた。クラウンのチカラを利用してFM星人諸共、住処をぶち壊てやろうと企てていたんだから。

当然コイツは許さないだろうし、俺とて討ち倒すべき相手を見誤るつもりも毛頭ない。

 

(水希。死ぬのが怖いなら俺が代わりを務めてやるよ。今更失うものなんて俺には残ってないからな)

 

 

未練を断ち切るべく、この町から去ろうと停留所へ向かった。

 

遠くから呼び止めるように「……のぶ」と聞こえようと。

 



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第五章 アポカリプス
23話 俺達にできること


先にこっちが完成したので投稿します。
毎度の如く、段取り悪くてすんません…。

時系列で言うと22話から少し後の時間帯になります。

ミソラ編の累計閲覧数が信武編より越えるとは…作者的に嬉しさ半分、ちょっとショック…。

今考えたら、大吾さんの役職が変わるのも現実的に無理あったから、最初から科学者として動かせば良かったと後悔してる主です。(宇宙飛行士になるための道のりを調べた限りでは、ギリギリ行けそうな気がしたんですがね)


飯島side

 

飯島「…という訳なんだ。これからしばらく…水希君は奴等と戦わざるを得なくなる…」

 

場所は市街地から離れた廃ビルの屋上。所々ヒビが入った塔屋の中にいる。

なぜこのような経緯に至ったか、順を追って話そう。

事の発端は巡回中。

車載した索敵用のレーダーから膨大な力を感知し、原因究明のため足を運んだはいいが…その正体が水希君と知って腑に落ち、同時に安堵した。

実際、ウイルスも元をたどれば電波生命体に過ぎないし、彼の身体はリヴァイア改め電波星人が持ちうる()()()()()によって突然変異したから誤って認識してしまうのも合点が行く。

 

そして、信武君のことやこれからの事を一通り聞き、大吾の妻こと――あかね君にも説明をして今に至る。

普通なら口外できない内容だが、彼女も身内として知る権利があるため避けられようがなかったのだ。

 

あかね『…そう、ですか…。少し、驚きましたけど…可能性として見れば、納得が行きます…』

 

そう細々と呟き俯くあかね君は、明らかに不安で押し潰されていた。

当然、彼女からすれば弟が夫に続いて居なくなるのは御免だろうし俺も同意見だが。脅威とされるFM星人との干渉は厳しく、結果的に力を行使できる水希君しか頼れない。

その事実を、現状を、誰よりも受け止めなければならないのが証拠だった。

全く…市民を守る立場に居ながら情けない…。

 

飯島「すまない。本来なら、我々が対処すべき問題だが…」

あかね『こればかりは仕方ないですよ。言い方は悪いですが…今の私達にできる事なんて、たかが知れてる。でも…その分だけでも、あの子を支える事はできるはずです』

飯島「……そう、だな。そうだよな…」

 

それでも…ただ傍観しているだけでなく、真剣に向き合おうとする姿勢は称賛物と思える。

並大抵の精神力では見向きもしないだろうから尚の事だ。

 

あかね『もし、また……弟が、何らかの事件に関与することがあれば……――その時は、弟のこと…よろしくお願いします』

飯島「任せてくれ。どんな事があろうと、あの子は絶対に死なせない…」

 

通話を切り、錆びついた鉄扉(てっぴ)を開けて屋外へ出る。

 

視線の先。――夕暮れ時の陽射しを背に受け、手すりにもたれかかって街一帯を見下ろす青年がいる。

その隣に、俺は寄り添った。

しばし沈黙に包まれるなか、しょぼくれている雰囲気だけは目を合わさずとも感じ取れた。

 

飯島「コダマタウンからZ波が過多に流れ出てるって…署内で大騒ぎだったから、まさかと思ったがな……」

 

宇田海の件に加え…甥である信武君でさえも取り逃し、いかに助けだすのが困難か…、敵がどれほど強大かを思い知らされた。

…が、相手の実力が未知数でありながら、水希君は本音を押し殺してでも戦うことを望んだのだ。

友を救いたい。その一心で。

 

水希「すみません…。いつも嫌な役目を押し付けて…」

飯島「過ぎたことは仕方ない。今後、失態をどう巻き返すかを考え…動いて行けば良い。

それにな、お前一人でどうにかできる問題じゃないんだから。もう少し、周りに頼ることだって大切なんだぞ?」

水希「……はい」

 

俺からすればこの子には、戦士として…当事者として、背負うべき覚悟も、責任も、重たすぎる。

叶わぬと知っておきながら、何度替わってやりたいと願ったことか…。

 

水希「リュウさん」

飯島「何だ?」

 

不意に呼ばれ、手すりを握る力が弱まる。

 

水希「以前…スバル――弟から聞いたんだけど、ある警官が『御用だ!御用だ!御用だー!』って言いながら、僕達のこと…嗅ぎ付けていたらしくて…」

 

やけにドスの効いた声マネには驚いたが、お侍さんがタイムスリップしたかのような口調に心当たりがあった。

と言うか…、その人に対して思うことはあったのよ。

――あんた、時代考証ズレてね? …って。

 

飯島「? ――…あぁ、五陽田さんね。うちの部署に配属されたのも最近のことだから、お前達のこと…知らないのも無理ないだろうな…」

水希「通りで…」

飯島「つーかモノマネうますぎやろ」

水希「よく言われます☆」( ̄▽ ̄)b

リヴァイア『○ォーナンスッ!!』(≧∇≦)ゞ

飯島「ブフォw…鼻水出たじゃねーかよこんにゃろ…」

 

そしてまさかの二段構えと来たよ。

長年、苦楽を共にしてるからこそ…一朝一夕では成し得ないこのコンビネーション。

コイツら、できる…ッ!

 

ってか、今そんなことどうでもえーわ!!

 

水希「はい、ティッシュ」

飯島「おう、サンキュ」

 

一礼して鼻を噛んだ。

 

水希「ねぇ…、リュウさん」

飯島「どうした?」

水希「今まではさ……僕らの存在が公にされないように配慮してきたけど、そろそろ限界なんじゃないかな…」

飯島「……多分な」

 

突然にしてFM星人が襲来されるまで――水希君がサテラポリスの補助要員(アシスタント)として、(主に、悪行を働く輩への物理的教育だったが…)サイバー犯罪の解決に足を踏み入れてから…約十年。

彼自身の日常生活に支障がでない為に……マスコミ関係に漏えいしないのは勿論のこと、同業者にも口止めを施すなど事後処理は欠かさず行った。

 

……しかし、だ。

 

ここ最近の騒動の全貌が明らかになり始めたことで、暴挙を起こす者が…それらを食い止める者が誰であれ、いずれ存在を知られることは確実。

それこそ、水希君の言い分はもっともだった。

 

飯島「でもまぁ、お前を晒し者にしようとするバカが現れたところで、是が非でも殴り倒すヤツがいるから心配いらないだろ」

リヴァイア『へへッ、言ってくれるじゃねぇか…』

水希「いや…それだと、かえって事態を悪化させるだけだからね…」

飯島「冗談だよ」

 

どの口が言うかと叱るべきだが、あのまま「アンタそれでもサテラポリスかよ…」と真面目に返される前に断っておいた。

俺も大吾の隣にいた影響か、少しばかりふざけてしまったのだろう。アイツのせいにする罪悪感は………余程のことじゃなけりゃ多分、一生湧いて出ねぇだろうな。うん。

 

飯島「あの娘――レティと話してから、決意は固まったか?」

水希「……どうだろ。正直、信武とは戦いたくなかったから、自信が無い…」

飯島「そっか…」

水希「でも、実際に戦って…いかに自分が弱いかを知れたから良かったのかも。痛い目見なきゃわかんない性格(タチ)を見越して、護衛役を推薦したんだろうしね」

飯島「…だとしたら、アイツのアホさ加減が移ったのかもな」

水希「言えてる」

 

お互い思う所は一緒なのか。二人して笑ってしまった。

 

水希「…けどさ、大吾さんが…――ううん。リュウさんも、天地さんと深祐さん、お姉ちゃんとスバル、そして…信武も。

――リヴァイアが与えてくれた、このチカラで……守りたいなって思える人が居なかったら、今よりもっとヘコたれてたと思う。

だから、戦うきっかけを作ってくれた事と、他の何より、脆く壊れやすい絆を守り抜く大切さを、教えてくれたことには感謝してるんだ…。

……迷惑かけてばかりの自分(ヤツ)が、こんなコト言える資格なんて無いけどね」

リヴァイア『水希…』

飯島「それでいいじゃねぇか。あの船(キズナ号)に同乗した人達だって並大抵の覚悟じゃ務まらんと分かってるから、真っ向から立ち向かえたんだ。

その人達から、地球のことを託されたからには、絶対に無駄にはしちゃいけねぇ」

水希「わかってる…。元より、僕自身で決めたことだから、少しずつ…できる事をしていくだけだよ」

飯島「……」

 

――不安なんだよ、水希のこと…。……アイツの時間を奪ったんだと思うとな…。

 

飯島「……今なら、大吾が怯えてしまうのもわかる」

水希「え…?」

飯島「こっちの話だ。気にすんな」

 

たった一つの出会いで、ここまで事が大きくなると誰が予想したんだろうな…。

偶然見かけたと思えば拾い上げ、危うく処分されかけた所で人々に貢献できる可能性を見越して、彼は死なずに済んだ。

 

そんなことも露知らず……当時の彼は、戦うことを生き甲斐としており、目の前の敵に怖れるどころか…むしろゲーム感覚でバッサリとなぎ倒していったのだ。

新しいおもちゃを片手にはしゃぎ回る姿を見て、俺は内心「こいつイカレてるな」としか思えなかった。

 

だが…それは、ただ彼なりに傷つかないようやり過ごしていたのだと…今更になって気づかされた。

 

その証拠に、一つの事件が終息したあと、大吾はこう呟いたのだ。

 

『人としての心を殺してしまった』…と。

 

俺達の知らない所で、ずっと…見えないプレッシャーに打ち負かされそうになってたんだろうな。

 

それでも、めげずに肩を並んで歩こうとした。…正しい道へと導くのが、俺たち大人の務めだと、よく口にしていたから。

 

なぁ…大吾。

 

その役目――今だけでも俺に背負わせてくれ…。




飯島さんが水希に「お前」って呼ぶとき
東方での永琳が、輝夜に対して「姫様」って呼ぶが、二人きりだと名前で、それも敬語を使わずに親みたいに接する感じを意識して書きました(* ̄▽ ̄)

5章のタイトルはミソラ編が終わったら公開します。


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24話 予想外の来客

最近、アニメ好きの父が録画していた「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」ってアニメが最高でした。劇場版も見に行こうか考えているところです。

不器用なりに、ひたむきに生きるヴァイオレットちゃんの姿を見て、この作品のいいネタ…ゲフンゲフン。

水希君の生き様と多少なりとも共通点がある気がしたので、参考にと。

水希「おーいディレクター? まるでいい事言ってるようだけど、テメェの下心は丸見えだかんな?」
アリア「そーなのかー?(すっとぼけ)」


水希side

 

pm 17:00

 

街中に明かりが灯される薄暮時。

 

水希「そろそろ帰るね。スバル達が心配だから」

飯島「……その前にひとつ、いいか?」

 

家へ帰ろうとした途端、リュウさんに呼び止められ、振り返った。

 

飯島「署長に話は通しておいた。――この一件が片付いたら、本格的に動くらしい…」

 

つまりは、僕とレティの企てに協力してもらえるということだろう。

そうでなきゃ話が進まないようなもんだから、正直助かる。

 

水希「……そっか。じゃあ今は、そのための準備期間なんだっけ?」

飯島「あぁ。あの人『何故もっと早く言わなかった!?』ってキレてたが、お前のことだ。…どうせ一人で、全部片付けるつもりだったんだろ?」

水希「……」

 

何も無ければ、今頃…ウェーブロードに飛び移ってただろうが。

反論する余地もなく…再び、前のめりにもたれかかった…。

 

 

 

***

 

 

水希「なんでそこまでして止めるんだよ! アイツらのせいで何もかも台無しにされたのに!!」

リヴァイア「落ち着けっての! ヤケになって復讐したところで何になる!? それこそ住人の怒りを買って戦争になりかねないんだぞ!! 冷静になれバカ野郎!」

水希「じゃあ何? 村の人たちのことがよっぽど大切だから? 大吾さん達はどうでもいいって言うのかよ?! ――うぐっ…!!」

リヴァイア「…んなこと一つも言ってねぇだろ…。ただでさえみんな苦しんでるのに、お前まで死んだら余計悲しむに決まってんだろ! いつか耐えられなくなって、後を追うかもしれねぇだろうが…!

――少しは残される側の気持ちも考えろよっ!!」

水希「〜〜、………こんな…は、ずじゃ…なかったのに……なんで……なんでだよぉおおお…」

 

最初こそ、腹いせに復讐してやるつもりだった…。

捜索が打ち切られた日の夜。リヴァイアと何時間も揉めて、打たれた挙げ句に泣き崩れて…色々とヤケクソになってたよ。

…レティから直接『人質は一人もいない』って聞かされるまで……ずっとね…。

 

実際…聞いた限りじゃ、連中どもの縄張りに容易く侵入できて…兵士になりすまして情報収集してたんだと思う。

その情報が嘘であろうと、真実を聞かされた以上……受け入れるしかなかった。

 

***

 

 

水希「前は、みんなが生きてる可能性を信じて…鍛錬に集中したって話したけど、…ぶっちゃけ、そうであって欲しくて…逃げてた。

当てが外れた時こそ…どうにかなりそうで怖かったから…」

飯島「………」

リヴァイア「――正直…俺はこれで良かったと思ってる」

 

唐突に姿を現す相棒に顔を向けた。

 

リヴァイア「そりゃあ確かにちゃんとした策を練れば、犠牲を払わずに済んだが、でも、どっちみち動かなきゃ…もっと多くの命が奪われてたかもしれねぇ…。

――だから、時間に追われていた中で…大吾さんは、ここにいる人達の…今ある幸せをブチ壊したくなかったんだよ。きっと…」

水希「リヴァイア…」

 

震えるその背中を擦ると「悪いな」と言い、頭を撫でられた。

 

飯島「……何を選んでも報われないもんだな…。大勢の命を優先した結果がこれだなんて…」

水希「報われないのはレティだって同じだよ。長い間…誰からも理解されず、誰にも助けを求められなかった辛さは、僕と比べたら到底計り知れないもんだったからね。

過去の話を聞いた時は、他人事とは思えなくて放っとけなかった」

 

淡々と語るうちに、リュウさんは悲しげに目を細める。

 

飯島「……だから、戦い続けるってのか。…そんなことしたら、お前…死ぬんだぞ?」

 

――身近な人に心配してくれるだけで、こんなにも嬉しいって感じるなんてね……。

 

たった20年でも…生きてて辛い事は沢山あった。思い出したくないのに(かたく)なに焼き付いて消えないほどに。

でも……それでも、いろんな人達に巡り会う度に、世の中…辛いことばかりじゃなかったんだなって……。

本当の意味で恵まれてるんだなって実感させられて、ボロボロになりかけた心も完全に壊れずに済んだ。

 

だから護りたいんだ。この日常を、この世界を…。

 

水希「いいよ。この体が、記憶から生まれた人形(ニセモノ)である限り…結局、最後には消えるしかないんだから。

――あるべき所へ(かえ)すことが、僕の役目だからね」

飯島「……そうか…」

 

 

 

どう足掻こうと覆すことすら許されない運命ならば、この命、果てるまで戦い続けるとしよう。

そう心に誓ったのだから…。

 

 

誰に何と言われようが、すべては自分で決めたことなのだから。

 

 

 

◆◆◆

 

〜2

 

その後解散し、帰路につく途中。すっかり暗くなったはずなのに、何故か視界がホワイトアウトし始める。

足を止めた頃にはもう遅く、白一色のまっさらな空間に取り残されてしまった。

 

リヴァイア「いったい何がどうなんてんだ…?」

水希「――わからない。…さっきまでウェーブロードにいたのに…なんで…?」

 

幸い…リヴァイアがいてくれて心強かったが、一刻も早くこの空間から抜け出さないと…。

不安と焦りが見え始めたその時。

 

――星河 水希…。

 

リヴァイア「っ、…今の声……」

 

二人しかいないはずの空間に影が生まれ、次第にそれは姿を現す。

 

リヴァイア「――ッ!…ペガサス…!!」

ペガサス「久しぶりだな、リヴァイア。見ないうちにまた力がついたのか…。師としてこれ以上喜ばしいことはない…」

 

終始…顔が張り詰めるリヴァイアに対し、表情はさほど変わらずとも、その穏やかな声色から嬉しげな感情が伝わってきた。

 

水希「それより、どうして急に…。何で僕達だけしかいないんですか…?」

ペガサス「……ここは所謂…お前自身の精神世界なのだ。――最悪、敵に聞かれると思い…手荒ではあるが、現実世界から意識のみを引き剥がしたのだ。すまない…」

水希「へ? ……てことは今、ぶっ倒れてるってこと……?!」

 

不意に問いかけたが、何も言い返さない辺り、どうやら図星のようだった…。

――てか無理矢理引き剥がすて…、普通に考えたらどんな怪奇現象よりもよっぽど怖いんですけど…。

 

こうして言い合ってる間に、タイムリミットが迫っているのか、ペガサスの体は透けはじめていた。

 

ペガサス「……急に呼び出して悪いが、今は時間が惜しい。手短に要件だけ伝えさせてもらう。――リヴァイア。今こそ、力を開放するときだ!」

リヴァイア「なに……!?」

ペガサス「自覚は無いだろうが、お前にはもう…強大な力を行使するだけの器は備わっている。それこそ、アクエリアスの力を取り入れさえすれば、この先の戦いも有利に事が進む」

 

それはつまり、まだ強くなれる見込みがあるということか。

むしろ好都合だ。うまく行けば……

 

ペガサス「――だが忘れるな。星河 水希(この男)自身に素質がなければ、いずれ体は蝕まれ、再び災厄が訪れてしま…う、から、な……」

リヴァイア「待ってくれ師匠!! 師匠――!」

 

……時間切れのようだ。

ペガサスが去っていくと同時に瞼が重く閉ざされた。

 

 




原作のシナリオ書くの手間取っておいてオリジナルシナリオ書くときだけ割とスラスラと行く矛盾よ…。


最近起こった、ささやかな悩み
光ブライトさんの配信に参加するたび、なんの因果か「おかえりなさいませ、アリアお嬢様」と、男なのに女のコ扱いされること。
……って言っても、執事カフェ感あって面白そうとコメントしたのは自分というw


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25話 大好き

誰かさんが熱弁してくださるおかげか、物語を書く度…スバル愛がより一層…増した気がします。

スバル「キモっ」
アリア「グハッ……?! 何もそんなストレートに言わなくたって良いじゃんかよスバルさぁぁん!!」(;ω;)

追伸。
時任さんが宣伝してくださったことも相まって、UA数も無事4000を突破致しました。
新規の方を含め、ここまでご愛読してくださり本当にありがとうございます。
正直、回を追うごとに、原作で語られてきた設定すら全否定してしまう所はありますが、最後までお付き合いしてくださると幸いです。

それでは、本編の方…お楽しみください!




水希side

 

水希「―――――、んぅ……」

 

視界が横転してると判るくらい目が冴えてきた頃。

意識は徐々に回復するが、寝起きなせいか…起き上がるには時間がかかってしまう。

 

リヴァイア「……気がついたか?」

水希「あれ…りゔぁいあ? なんで出てきて………ああ、そうか…。思い出した…」

 

原理まではわからないが、ペガサスによって連れ込まれた以上…ここで寝転んでても無理ないわな。と、目を擦りつつ溜息をこぼした。

いくら現実味が無かろうと…精神世界(ゆめのなか)での会話は出来事として刷り込まれてるため、ぶっちゃけ頭から離れないと比喩する方が正しいっちゃ正しい。

 

足を放り投げるよう座り込み、街を見下ろした。

その右隣にリヴァイアが寄り添うと、互いに目を合わせないまま、僕は独りでに語りかけるのだった。

 

水希「いつか…アンタが話してくれた、過去のこと。ホントだったんだね…」

リヴァイア「…あの状況下で、俺がお前らに嘘つけるとでも思ってたのか?」

水希「っ、――自分から聞いておいて、逃げ出すくらいだったしね…」

 

不機嫌な声色に一瞬息を飲むが、言葉は濁さず、思いのまま伝えると、リヴァイアは気怠げに頭を垂らす。

 

リヴァイア「はぁーあ、俺ってそんなに信用されてなかったんだなー」

水希「だからごめんって――ばぁっ!?」

 

棒読みで拗ねだす相棒をなだめようとすると、急に抱きつかれ、声も裏返ってしまっていた。

 

水希「えっ、ちょ…、ど、どしたの……?!」

リヴァイア「いつかお前にされたことへの仕返し。たまにはされる側も悪くねぇだろ? 事あるごとに、抱きつこうとする癖だけは治らねぇからな。お前」

水希「………」

 

不敵にニヤつく姿を見てムキになり、がら空きだった腕を背中に回せばあら不思議。

今度は気恥ずかしそうに頬を真っ赤にさせたではありませんか。

リヴァイアよ、こんなことされて嫌がるとでも思ったのか? 残念だったな!(*´ω`*)

 

鼻歌を口ずさむほど上機嫌になりながら、リヴァイアの首元に頬を寄せる。

 

水希「……あったかい」

リヴァイア「そうか?」

水希「うん…。人間(ひと)と同じように、体温を感じられる気がしてさ。ちゃんと生きてるんだなって判るから。なんか嬉しくてね…」

リヴァイア「……そんなもんかねぇ」

水希「そんなもんなの」

 

………その姿を見て、黙ってられる連中はいないのだろう。

 

「「「どぅえぇきてるうぅ」」」(  ̄ ³ ̄)b

リヴァイア「〜〜っ ///」

 

不意打ちのバックコーラスは異様にハモり、リヴァイアの耳に向かってダイレクトに響き合う。

瞬間。背筋をむず痒そうに震わせ…目をしかめるリヴァイアは未だ、頬を赤らめておったとさ。

 

水希「ふふふ…、可愛い奴め♪」

リヴァイア「うっせ、バカヤロ……ッ///」

 

更に追い打ちをかませば、うわずった声で狼狽え、そっぽを向いてしまったそうな。

やはり相棒をからかうとなると、どうにも反応が面白くて仕方ないから、止めようにも止められない。

それに、何気に相棒から抱きつかれるのは初めてだったが、別に悪い気はしないからこのままでいよう。

 

デンパくん達の煽りじみたバックコーラスを添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野次馬どもからの声援がようやく収まった頃。

お互いまだ腕を離さずにいたが、いい加減姿勢がキツくなったので腕をおろし、リヴァイアの肩に体重を預けた。

 

水希「……ごめんね、リヴァイア。いっつも巻き込んでばっかなのに…」

リヴァイア「言うな。過ぎたことを嘆いたところで何も変わりゃしねぇ。――もう同じ後悔を繰り返さないようにって……強くなろうと頑張ってきただろ。俺達…」

水希「――うん…」

 

あまり言い訳にしたくはないが、ここ一番でドジを踏み後々いじけたり、一度の失敗を引きずってしまう性格は、どう足掻いても治りようがなく。今こうして近くに慰めてくれる人がいなければ、より一層…落ち込んでいたと思う。

……それでも

 

――もっと、強くならなきゃ…。

 

単純ながらその強迫観念に気圧されてからは、自らの自我(ほんね)を押し殺すことで、愚直に戦えるほどには虚勢を張っていられたのだ。

 

……それが間違いだと気付けずに。

 

 

 

しばらく感傷に浸っていたが、リヴァイアによって沈黙が破られる。

 

リヴァイア「俺の力を際限なく扱えるだけでも…十分素質はあったんだがな。

でも師匠は、俺達の失態を…見透かしていたんだろうな……」

水希「……そうかもね…」

 

首が長いことを煩わしくさせていたが、片目だけでも…と。リヴァイアは僕と目線が合うよう首をくねらせた。

 

リヴァイア「なぁ、水希。師匠はああ言ったけど……それでもお前は、力が欲しいか?」

水希「…………」

 

思うように口が開かず、即決できない。

本当なら今すぐにでも欲しいが、後のことが気がかりで仕方ないのが理由だった…。

 

力の解放がトリガーとなり、理性も保てないケモノに成り下がるのは嫌だが、今のままでは信武にも……――ましてや、怨敵と相対した所で敵うかどうかもわからない。

 

……矛盾しているが、言い表すならそれが最適解なのだ。

 

しかし。返答するための言葉が見つからず、視線を落とす。

 

水希「……僕は…」

 

正直、迷っていた。

 

それ以上に自分は、何を一番恐れていたのか。

一度見つめ直そうと脳をフル回転させる。

 

――何が怖い?

 

目の前で大切な人が死ぬこと?

縁を切られ、もう二度と…会うことすら許されなくなること?

住処だけでなく、心の在り処を失くしてしまうこと?

 

…………いや、違う。それだけではない。

 

僕が一番恐れているのは……多分、自分が自分で無くなってしまうことだ。

 

明白なはずの答えなのに、今まで知らん顔をしていたから……余計、困惑しだした。

 

 

――――覚えておけ…水希。弱肉強食が世の常である限り、優しさだけでは全てを救うことなど叶わん。

己に刃を向く輩に対し…時に非情にでもならねば、実物なり言葉なり刺されて朽ちるのみ。渡り合う為にも…生涯、闘い続ける他はない。

 

 

 

水希「……ユリウス……」

 

不意にその名を呼んでしまった。

 

実力が及ばなかっただけに、道化へと堕ちた男を救えず……逆に助けてくれた恩を返せずにいたことを、今でも後悔していた。

 

もう一度…過去に戻れるとしたら、自分(おまえ)はいったい何がしたかったんだと……怒鳴り散らして、一発ぶん殴ってやりたいくらいだった。

 

水希「―――――リヴァイア」

 

面を上げる。

 

水希「今…僕が言えるのは、すぐに結論づけるのは、無理なの。不用意に力を解放させたくないから……」

リヴァイア「……あぁ」

水希「――でも、本当に必要だと思った時は……その時はまた、力を…貸して欲しいの……」

 

弱々しく、途切れ途切れになりながらも、なんとか目を向けて伝えられたが、終始心許ない表情を見せたのは、鏡越しでなくともわかっていた。

それでもリヴァイアは、さして気にするどころか……口元を緩ませ、宥めるよう頭を撫で回したのだった。

 

リヴァイア「ようやく素直に言えたな、水希。良く出来ました」

水希「もう、茶化さないでったら…」

リヴァイア「茶化してない。褒めてんの」

 

笑顔のままキッパリ言い捨てられると、余計恥ずかしいのだが…。

何も言い返せずにいると、続けざまに語り始めた。

 

リヴァイア「普通の人間(ヒト)なら(さじ)を投げるはずのことを、お前は逃げずに立ち向かおうとした。

周りの人達はよく理解しているから、お前に力を貸そうとしてくれたんだぜ。――それに、飯島さんも言ったろ? 『人に頼ることも大切だ』って……」

水希「そうだけど…」

 

最後まで言い切ろうとしたが、リヴァイアの腕が背中に回されたことで遮られてしまう。

 

リヴァイア「……元より俺は、お前を置いて逃げるという選択肢はとっくの昔に捨ててきたんだ。だからもう…遠慮なんかすんな。辛くてどうしようもねぇなら、ガキの頃と変わらず…俺に甘えろよ。……いいな?」

 

甘く胸を締めつけるような苦痛に、顔を歪ませてしまう。

 

水希「……めんどくさいよ。結構」

リヴァイア「知ってる。たとえお前が、嫌と言っても……離れねぇからな。俺は…」

水希「――――っ」

 

……あぁ、やっぱダメだ…。

 

 

堪えなきゃ…、ダメなのに……。涙が、止まらない。

 

水希「……そんなこと、言われたら…………そんな風に…っ、言われたら、余計…断れないじゃん……!」

 

……でも、嬉しい。

こんなどうしようもないバカを相手に、一喜一憂して……時に叱ったりして……稽古をつけてもらったりして、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも一緒だったから、もう知ってるよね。

『誰ひとり欠けることなく、みんなが笑顔でいられる世界を作りたい』って、大吾さんにも負けないくらい…強い理想を抱いていたこと。

 

僕ひとりで愚直に戦い続けていれば、みんな安心して暮らしていけるんだって……ずっと、信じてたの。

その考え自体に、根幹から履き違えているって気づこうとせずにね…。

 

一人ひとりが違う悩みを抱えていて、その人にとっての正解を言い当てられるほど、出来た人間じゃないからさ。

……だから人よりズレてるってバカにされるんだろうね。

 

今までしてきた事は、ただ居心地の良い空間を作ってただけ。

そして……自分にとっての幸せは、自分の手で掴み取るものなんだって……今になってようやく理解したんだ。

 

 

本当、何も知らない他人みたいに…さっさと見捨てておけばよかったのに。それでもまだ、離れずにいてくれる…優しい人だ。

 

その強く逞しい彼に、すがりつくよう抱き返した。

秘めていた想いを一言一句、聞き逃させない為に。

 

水希「…ありがとう、リヴァイア。――大好き」



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26話 不穏な夜明け

……目は開いてるのだろうが、何処もかしこも暗い。

 

そこに地面があるのか……そもそも自分の足で立てているのかも分からないし、ましてや指一本、ろくに動かせやしない。

 

 

 

そんな、外界との隔たりを感じさせる状況なのに……

怖いという感情すら、特に湧くこともなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈………… ・・ …… --・- -・ ……〉

 

 

辛うじて、聴力だけが残っていたのだろう。

はじめは耳鳴りかと疑ったが…時たまに音が途切れるため、少なくとも違和感を覚えた。

 

 

もっと簡潔に言い表すなら、テレビなどで耳にするノイズに混じって、脳に直接信号を送りつけてくるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈……  ・・-・- ---・- ・・ -・-・・ ……〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度…よく耳をすませてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…… -・・ --・-・ ・-・・ -・- ・・-・- ---・- ・・ -・-・・。 ……〉

 

誰かに……呼ばれている、のか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…… -・- --- ・・・ ・-・・ ・・ -・ ・・ ・- --・-・ ・・ ・-・ --・-・ ---・ ・-・-・ --。 ……〉

 

ちゃんと耳に届いているはずなのに、全く内容が掴めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…… -・-・・ -・-・- -・・- -・-・ ・-・ ・-・・ ・・ --- -・--・ ---・ ・・-- ・・-・ -・・・ -・-- --・-・ ・-・--、 -・ ・-- --・-・ ・-・-- -・・・ ・-・ ・・・ ・・・・。 ……〉

 

実際に喋っている訳じゃないから、どのような意図があって語りかけてくるのか、理解が追いつかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…… -・- ・-・・ ・・ ・- ・・-・ ---・ ・・ ・・・- ・--- ・-・-・-

--・・ -・ -・ --・・- ・・、 ……〉

 

けど一つだけ。

確かなことがあるとしたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…… -・・・ ・-・-・ -・--- ・- ・ ・・-・・ ・・-・- ・・-・ --・・- ・・ ・・・- ・・-- -・ ・・!! ……〉

 

呼びかける誰かが、僕がそこへ訪れるのを…

待ち望んでいるのではないか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…… ・---・ ・・ ・--・ -・ ・- -・-・ -・ ・-- --・-・ ・-・-- -・・・ ・-・ ・・・ ・-・-・ ……〉

 

 

思い浮かんだのは、たったそれだけだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

夜明けが訪れ、狭い室内に時計のアラームがけたたましく鳴る。

 

水希「………ぅ、ん…んぅ〜〜ッ、ふんッ!!」

 

うるさいあまり手が伸びては床を叩くが…手元に届き、やっとこさ鳴り止んだ。

腕を戻し、窓側に寝返りを打ってようやく目が覚める。

 

ぼんやりと眺める景色の先で、スズメ達のさえずりが聞こえ…その心地良さに荒んだ心が洗われるような気もした。

ただの気休めにしかならないとしても。

 

水希「………」

 

信武と戦闘を交えてから、今日で一週間ほど経つ。

あれ以来…信武の方から姿を現さないが、油断するには早過ぎるというものだ。

レティにも『軽い打撲程度で済ませてるから、近いうちに再戦する可能性はある。だから用心しときなさい』…と、去り際に告げられた。

 

彼女なら迷わず殺せたのだろうが、僕にはそれほどの意志も覚悟もなく、そうなるくらいなら絆の証を断ち切るという愚行を犯した方がマシだった。

当然…信武からすれば望んでないことだろうが、もう遅いのだ……。

レティも…当時の心境を理解しているからこそ、ケジメをつけられるように配慮してくれたのは嬉しいが、どうにも不安は拭えない。

 

3年かけてやっと準備が整ってきたというのに、不測の事態が相次いだから………――いや、単に向こう見ずなまま事を進めた僕の落ち度だ、言い訳がましいわな。

はぁぁ……頭が痛くてしょうがない。

 

水希「……朝ご飯、作るか……」

 

時計を見ると、とうに5時半を過ぎている。

考え込むのを止め、まだ寝ている二人を起こさぬよう、そっと階段を下りる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

あかね「ごちそうさま」

水希「お粗末さま〜」

 

朝食が出来上がる頃に姉が下りてきて、ちょうど今食べ終えた所だ。姉が食器を片す間、コップに注いだ麦茶をちびちびと飲んでいた。冷蔵庫から出して少し経っているから、適度にひんやりしていて……んめぇ。

 

水希「――――」

 

スバルはまた夜ふかしでもしたのか、部屋から出てくる気配が全くない。ふとリビングの戸を見ては、いつも通りの光景に肩をすくめてしまう。

いくら自宅学習で教養を得ていても…あまりに生活リズムが不規則だと、いつぞやのクラスメイトが黙ってないのにな〜…と。

連行された日のことを思い返すたび、今にも吹きこぼしそうになり、頬も若干引きつっていた。

そもそもの原因は僕にあるんだけどねww

 

あかね「どうしたの、またいつもの思い出し笑い?」

 

……あ、見られてた。

とは言え、そこまで(やま)しくはないはずだ。

姉が椅子に腰掛けるのと同時に、話題に上げてみるとするか。

 

水希「いや…最近の怠け気味なスバルを見て、白金(しろがね)さんが黙ってないだろうな〜ってね」

あかね「白金さん? …あぁ、こないだスバルを連れ出そうとした」

水希「……そ。わざわざ家に来てくれてるんだから、通う気になるのもそう遠くないんじゃないかな。きっと」

あかね「確かにね」

 

頬杖ついて聞き入る姉は、どこか憂いていながら嬉しそうに微笑んでいた。

あの子と同様。通ってほしいと切に願うことは、母親として持って当然の感情だと、顔を見ずとも伺えるのだから。

それでも僕は、スバルの意思を汲もうと思っていた。後悔してほしくないのは同じだけど、選ぶのは自分の気持ち次第だと内心結論づいていたから。

 

水希「ってか、ウチってそんなに顔に出やすいの…」

あかね「うん。信武君でも気づくわよ。――ほら、今度は嫌そうにしてる」

リヴァイア『だってよー?』

 

この期に及んでリヴァイアも便乗したので、余計気恥ずかしくなったのは言うまでもない。

 

水希「あのさぁ……二人して、おちょくらないでくれる」

あかね「ふふ、ごめんごめん」

リヴァイア『わりぃわりぃ』

 

思ってもない癖に。悪びれてねぇのは判ってんだからな、コンニャローめ…。

眉根を寄せて睨みつけていると、姉は突然思い出したかのように話題を変えだした。

 

あかね「そうだ。私ね、今日のお昼頃に学校へ行くとこだったのよ」

水希「…学校? 何でまた?」

あかね「スバルのクラスに、新しく赴任してきた先生がいてね。私から日を改めて挨拶に伺うって、昨日連絡を取り合ったのよ」

水希「あぁ、そゆこと…」

 

理由を聞いて納得はするが、担任の先生か…。どんな人だろ。

絵に描いたようなスパルタ教師だったら、当然スバルは嫌がるだろうしなぁ…。

 

水希「ねぇ、お姉ちゃん……」

あかね「ん、なに?」

水希「もし……もしもだよ? スバルも、ウチと同じように戦うことができたとしたら……不安?」

 

不意に問いかけたら、キョトンとしたまましばらく固まっていた。……話の内容だって(なか)ば尋問みたいなものだ。眉がハの字に下がるほど困るのも無理ない。

しかし、やっぱ何でもないと発言を撤回するより先に、姉が口を開こうとした。

 

あかね「……水希の目が普通じゃなくなって、リヴァイア君が家に来て、いつしか力をつけるようになった。

その有様を…ずっと近くで見てきたんだから、もう今更驚きもしないわよ」

水希「………」

 

予想外の返答に驚き呆けていたが、…でもね。と、続きがあるようなので、我に返りすかさず耳を傾けた。

 

あかね「家族の一員としては…誰か一人が欠けたら悲しいし、辛い思いをしてまで無理することはないってのが本音なのよ、結局は。

……この際だから言っとくけど、そこにアンタとリヴァイア君も含まれてるってこと……忘れないでくれたら、お姉ちゃんは嬉しいんだけどね」

リヴァイア『………あかね、さん……』

 

母は強し……と言ったところか。

人生の先輩である故か、言葉に並々ならぬ重みを感じ取り、それだけに迷惑や心配をかけてきたのだから、言い返す気にもなれまい。

 

…が、ひとつだけ、伝えておくべきことはある筈だ。

 

水希「もちろん……ちゃんと生きて帰れるように、努力はするし。スバルが戦えるなら、兄貴として…しっかり面倒をみるよ」

あかね「……そうして頂戴。それじゃ…私、部屋に戻るわ」

 

そうして、姉は自室へと戻った。

 

水希「……頑張ろ、リヴァイア」

リヴァイア『あぁ』

 

――ごめん、お姉ちゃん…。約束、守れないかもしれない。

 

口では鼓舞するように振舞えたが、先のことが不安なばかりにリヴァイアとは目を合わせられずにいた。

 



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27話(前) 誘導尋問

本作『水希リスタート』を閲覧していただきありがとうございます。
今回は読者様の中で栞を挟んでいただいた方へ、お伝えしたいことがあります。

ミソラ編を制作した当初から、既存の23話〈俺達にできること〉との間に割り込み投稿を繰り返しておりました。
そのせいか(最新話と最初回に挟まれた分を除き)栞の位置がズレる現象があったのではと思い、保存された栞一覧から本作へ飛ぶ際に何らかのエラーが発生するのではと考えておりました。

もし心当たりがある場合、一度栞一覧から削除するか、別の話に差し直す等を試みてくだされば幸いです。

身勝手な行いにより、ご迷惑をおかけしたことをお許しください。


被害者は、信武を含めて4人に増えたか……。

 

『原因不明の落雷!異常気象の前触れか!?』とネットニュースの文面に載せられ、近隣住人から不安の声を募らせたのは反省点と言える。それにミソラちゃんが暴走した件もあるから神経を尖らせても不思議ではないだろう。

……今更そう考えても、逐一住民を気遣えない状況は変わらない。

 

何しろ電波変換に至るまでの行程上、こちらが後手に回ってしまうのがネックだけど、レティとの話し合いで戦闘データを測るのに有効と見なし、サテラポリスのお偉方に公認して貰おうと動いたから変えようがないのだ。 

 

水希「……リヴァイア、何度もごめん。あの力は……」

リヴァイア『お前の判断に任せるよ。11年前の時みたく暴走したとしても、ユリウスがそうしたように命懸けで止めてくれる奴がいるだろうし。あの女(レティ)ならあっさりやってのけそうだけどな』

 

しつこく問いかける姿に煙たがられても、軽口を叩く寛容さは健在なようで。……さっすが、それほどの胆力がなければパートナーは一生務まらないと打ち明けてくれただけのことはある。

そんな世話焼きなリヴァイアの優しさに付け込んで、縋って、甘えてばっかだってのに。

自覚があっても治りようが無さすぎて、泣けてくる。

 

水希「もう一度聞くけど……リヴァイアは、僕なんかと一緒に居て良かったの?」

リヴァイア『……。“なんか”じゃねえって。“だからこそ”なんだよ』

 

間を置いてからリヴァイアは姿を現した。

 

リヴァイア「力を手にしたからには、その都度壁を越えてかなきゃ強くなれない。その辛さは俺だってよく理解してるさ。

それにお前、俺以外の奴から慰めの言葉を受けても薄っぺらく感じてたんじゃねーの?」

水希「………」

リヴァイア「アイツの言葉を真に受けすぎて、自分の殻に閉じこもっちまって……他人の悪意には敏感なのに、親しい人からの好意には疎くなった。

今のお前にとって、最も致命的な短所だ」

 

聞く耳を持てない点にも自覚があるから頷くほかなかったが、リヴァイアは怒りもせず…かと言って嗤いもせず…真剣な顔つきを崩さぬまま見据えられた。

 

リヴァイア「……けどな。どんな絶望にも屈せず、落ちぶれず、お前なりに前へ進もうと努力する姿は大好きだ。

だからこそ俺は、お前の選んだ道が間違いじゃないって信じてる。そこは今も昔も変わらねぇ」

水希「リヴァイア……」

 

飴と鞭が絶妙な発言を淡々と述べて、それでいて最後に笑みを見せられては何も言い返せない。

 

水希「……また、気を遣わせちゃったんだね」

 

俯きながら申し訳ないと告げたら、リヴァイアに頭をわしわしと撫でられたのちにポンと軽く叩かれた。

 

リヴァイア「判ってんなら聞かなくたっていいんだよ。お前は一生、人に迷惑かけ続けてりゃいい。その分、償おうという意志さえ貫いて行きゃいいのさ。だろ?」

 

……やっぱバレてたか。信武と対等に戦うにも、禁忌を犯してでも力を解放しなきゃダメってことを。

だから昨日の夜に”力が欲しいか“って聞いてきたんだもんね。

 

水希「……じゃあ、もう少しだけ付き合って。リヴァイア」

 

変身体へと換装し、戸を開けずにそのまますり抜けていく。

 

 

 

スバルの自室へ何度も訪れているが、入るたびに時間が止まったままようにも思えた。理由は言うまでもないだろうが。

 

リヴァイア「…水希、どうした?」

水希「……何でもない」

 

いけない、脱線しちゃった…。

一度ウォーロックと話をつけるために部屋まで来たのに、ボーッと突っ立っていたせいで、リヴァイアに急かされてしまった。

 

物音を立てぬよう心がけ、寝床へと向かう。

 

水希「……まだ寝てんのな」

 

年相応の寝顔を見て思わず笑みをこぼすが、被害を受けた三人と違って、信武と同様に自我を保ったまま戦う力を得たことにも憂えていた。

今はまだ大丈夫だとしても、遅かれ早かれ力に飲まれたらと思うと、尚更。

 

スバル「うぅ〜ん……」

 

所々うなされている様子から、じきに目が覚めそうにも見える。これ以上は長居できないか。

 

水希「ウェーブイン」

 

枕元にあるトランサーに触れ、電脳世界へとダイブした直後。思わず目を見開くことになる。

 

水希「……すっご、電脳(ここ)にも宇宙好きが反映されてんだな……」

 

大吾さんがカスタマイズした特注品なだけあって、足場を除いた周り全てが星空で埋もれ、流れ星をも一望できる内観となっていた。

あまりの綺麗さに見惚れるなか、スバルがこの景色を観られないという意味で勿体なく思ってしまう。

 

……って、また脱線しちゃってるじゃん……。

 

水希「ちょっとウォーロック。…ウォーロックってば!」

ウォーロック「……んぅ、なんだぁ…。オレぁまだ飲み足りてませんぜぇ…グヘヘへへ……」

 

大の字に仰向けて寝てるウォーロックを揺するも、起きる気配がない。それどころか呑気に寝言まで……。

 

水希「……ったく。ちょっと付き合って!」

ウォーロック「んぁ? ――って、うおぁっ?!」

 

スバルと似て寝坊助なコイツを強引に引っ掴み、電脳世界から引きずり出してはウェーブロードに放り投げた。……のだが、

 

水希「………あ」

 

ゴォォーーン!

 

誤って頭から降ろしてしまい、梵鐘(ぼんしょう)の効果音まで付け足されそうな気がして笑い堪えていたのは内緒ねw

 

ウォーロック「痛っでぇぇぇッッ!!!」

 

頭を押さえながら転がり痛みにのたうち回っておるなか、リヴァイアから呆れ果てるような眼差しを向けられた。

 

リヴァイア「おいおい……言うたそばからこれかよお前……」

 

『人に迷惑かけ続けてりゃいい』って言うたそばからこの有様だからね。耳が痛いけど当然の反応だと思うよ、うん。

 

水希「ご、ごめんね? ウォーロック…。朝っぱらから手荒なマネしちゃって……」

 

手を合わせて許しを請うたが、ウォーロックが立ち上がってすぐに怒り増し増しな顔で詰め寄られた。

 

ウォーロック「手荒どころか物ぐさに投げ捨てんじゃねぇよアホぉ! 頭割れたかと思ったぞ!!」

水希「反省はしている。だがスバルに聞かれちゃマズい話が盛り沢山なんだ。許せ☆」

ウォーロック「反省する気あんのか己はぁ!!」

 

一応、全身にかけて周波数帯を弄ってるから近所迷惑にはならないけどさ……ウォーロックの怒鳴り声の方がよっぽど頭割れそうなんだけど。

 

リヴァイア「まぁ落ち着けっての。水希だってわざとやった訳じゃないしよ」

 

リヴァイアが間に入ってウォーロックを宥めようとするも、効果は今ひとつのようだ。

 

ウォーロック「あぁ?! どう見たって悪気有る無しの問題じゃねぇだろうが! お前も保護者ならもうちょいちゃんと躾けとけよ!」

リヴァイア「無理。多分もう手遅れ」

ウォーロック「諦めんなよお前ぇ!!」

 

躾けとけて……ウチぁペットちゃうぞウォーロックさんよ……。

手短に済ませようとしたのに、これじゃあ踏んだり蹴ったりで埒が明かないな。

 

水希「……ねぇ、ウォーロック。アンタ、これからもスバルと行動を共にする気でいるの?」

ウォーロック「あぁ? なんだよ藪から棒に……」

水希「これまでの戦いから思うことがあったの。アンタをここへ連れ出したのも、それが理由……」

 

自ら話を切り出したことで、おちゃらけた雰囲気が一変して静まり返った。

 

水希「奴等と戦う時に、アンドロメダの鍵の事で揉めてたらしいけど…それって本当に、奴らにとって大切な代物なワケ?」

ウォーロック「っ、盗み聞きしてやがったのか…?」

リヴァイア「盗み聞きも何も、オックスの件で間近に居ただろ?」

ウォーロック「あぁ、そういえば確かに。……ここまで来ると、隠し通すのも野暮だよな……」

 

横やりを入れるリヴァイアの言い分を聞いて、ウォーロックは眉根を寄せながら溜息をこぼした。

 

ウォーロック「……大切な代物だってことは間違いねぇよ。何せ連中どもはスペアキーすら作ってなかったらしくてな。俺が持ち逃げたことで、奪い返しに襲ってくるのも頷けるだろ?」

水希「そりゃあ、ねぇ……」

 

もちろん面識のある奴――その誰も彼もが鍵返せと催促してくる様子は、遠目に見ても明らかなものだったが「けどまぁ…ミソラの時を除いて、俺らのピンチに駆けつけてくれて助かったけどな」と苦笑いするウォーロックから賛辞を呈された。

 

リヴァイア「なら、鍵さえ取り戻せばアンドロメダっつうのは何の支障もなく起動しちまうのか?」

ウォーロック「いいや……前提として、誰かが所持した上で鍵本体に燃料を蓄える必要がある。言ってしまえばアレは動力伝達の(かなめ)だからな。

()()()()()()()()()()()()()()以上、前述(それら)と相反するチカラ。―――絆とか、誰かを思う心。つまりは善意を宿して消滅させようと企てたのさ……」

 

……なるほどね。車のワイヤレスキーでいう電池を必要とするから、供給さえ絶てば持ち帰ったところで用を成さないってことか。

幸いなことに鍵単体では全く機能しないらしいけど、所持者の感情とリンクした場合、善意が多けりゃ多いほど負のエネルギーは溜まらないだろうし。

逆に悪意が強けりゃ吸収力も高まるわけだから、フルまで溜まり次第起動されてしまうのだろう。

ここまでは流れとして分かること。

 

なら何故スペアキーを作らないのか? ……口揃えて『あえて予備を作らない』とほざくなら笑えないが。

ウォーロックの話から推察するに、あらゆる機能を詰め込んでコンパクトに仕上げた結果、極めて精密だから複製(コピー)できないということになる。

 

まぁ、あくまでも根本的な話とは別問題だけどね。

 

水希「理屈としては納得行くけど、どうしてスバルに?」

ウォーロック「さぁな。……強いて言えば、大吾の息子だからじゃねーの」

水希「何それ……考えなしに近づいたって言ってるも同然じゃん……」

 

それは違う。と呆れた矢先に発言を否定された。

 

ウォーロック「もちろん俺は大吾の指示に従って、お前らに協力を仰ぐつもりだった。それに、スバルと変身できたのだって成り行きに沿って動いた結果でしかないんだ」

水希「……そう」

 

ウォーロックとて、スバルとの変身は本望だと思ってなかったらしい。

むしろ、意識を乗っ取られてないだけありがたいと受け取るべきなんだけど、面と向かってハッキリ言われても複雑としか言えない……。

 

水希「まぁいいや。スバルの安否がわかった時点で殺る気も失せてたし、何にせよ都合がいいだけだしね」

ウォーロック「……おい、それはどういう意味だ」

水希「至って単純だよ。今後の戦いに向けて、こっちも戦闘要員を増やそうとしてたから」

 

退屈げに両手を頭の後ろへ回したら、ウォーロックは訝しげに睨みつけた。

 

ウォーロック「正気かよテメェ……自分が今何を言ってるか、分かった上でやってんのか?」

水希「当たり前でしょ。今もリヴァイアとタッグを組めてるけど、寿命がある限り、いつまでも体張って戦える訳じゃない。だから今のうちに頭数を増やすべきだって結論づいたワケ。

もちろん僕の独断上じゃなくて、サテラポリスのお偉方にも容認してもらったから、しばらく奴らの動向については泳がすことにしたの」

ウォーロック「……なら質問を変えるが、お前と同じ地球人がアイツらのいい様に操られてるのを見て、何とも思わねぇのか……。

スバルと同じくらいの子供が取り憑かれようと、心が傷まねぇってのか?」

 

普段見せる無愛想さから打って変わって、表情と声色にも、あからさまに怒気をまとっていた。

気持ちは判らなくもない。確かに心は傷むけど、自分も5歳からなったからね。

結局のところ、実力行使になるのは変わらないんだよ。

 

……だからごめん、あえて言わせてもらうね。

 

水希「……だから? あくまでヒーロー役を演じて、それらしく倒せばいいってだけじゃん」

 

端的に、淡々と述べたら、ウォーロックに胸ぐらを掴まれた。

 

ウォーロック「何がヒーローだ、ふざけんなよ! それじゃあスバルを守るとカッコつけときながら、人をモノ扱いしてるも同然じゃねーかよ!」

水希「どの口が言うんだか…。どっちみち人手が足りてないんだから補充するに越したことはないでしょ」

ウォーロック「んだとテメェ!!」

 

怒りに乗じて腕を振り上げられ、思わず目を瞑ったが……いつまで経っても殴られる気配がなく、様子見とばかりに片目を開ける。

……どうやらリヴァイアがウォーロックの腕を掴んで、睨み合っていたようだ。

 

リヴァイア「あのな、ウォーロック。水希はただ回りくどく言い過ぎてるだけで、端から強制させるつもりで言ってないんだよ。そこは解かれ」

ウォーロック「解かれ、って……信用ならねぇ奴の心情をどう理解しろと…」

リヴァイア「信用がどうのこうのの話じゃねぇ。お前にも覚悟があってやってるかを訊いてんだよ、こっちは」

 

引っ掴まれた腕を振り払って、バツが悪そうに顔を俯かせた…。

 

ウォーロック「正直、迷ってる。……けどスバルとは、俺の知る限りのことを話すと約束した。だから、少なくとも今は、アイツを一番に守るつもりだ……」

水希「……大吾さんから何を託されたかは聞かないでおくけど、スバルの命は、アンタの持つ鍵と同等だってことを忘れないで。それが協力を飲む最低条件だから」

ウォーロック「いいのか、それで……?」

水希「そりゃあ戦場に放り出したくないけど、スバルもそれなりに覚悟を決めたなら話は別。甘やかす気は毛頭ない。

言ってしまえば、この戦いも目的を果たす前段階に過ぎないんだよ。半分は自分の力でだけど……いつかの僕みたいに迎えに行きたいと願うなら、それに応えてあげるのが兄貴の務めだしね」

ウォーロック「それはどういう……?」

 

あまり詳しくは言わないけど、ヒントくらいならいいか。

 

水希「……選定は、時期が来れば下される。せいぜい4人ほど確保できれば上出来だろうね」

ウォーロック「…ちょっと待て……選定って何なんだ? もしそれでスバルが選ばれなかったら、俺はどうすれば……」

水希「それはスバルが決めること。アンタに出来る事は、せいぜい手を差し伸べるか…無理やりにでも戦場から下ろすくらいじゃないの?」

ウォーロック「だけど……!」

 

こっちの要件はもう済んだが、家に戻る前に立ち止まり、

 

水希「喧嘩振った側の()()に意見はない。抗いたいなら黙って受け入れな」

 

煮え切らない様子の彼に釘を刺した。

 



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27話(中 i) 内なる声、打ち明ける。

ただそこで虚無感に苛まれて立ち尽くす彼。――ウォーロックを差し置いて、水希は二階にあるベランダから屋内へ戻っていった。

もちろん水希も、FM星人達と融和的な関係を結ぶ前に徹底抗戦へもつれ込んでしまったこと、先程のように拒否権すらない交換条件を言い渡したことを心底悔いていたのだ。

 

微かな希望を頼りに茨の道を選んだスバル。

孤立を恐れ…甘言に乗せられた、スバルの同級生。

今もなお、憑かれたまま生存不明となった元ブラザー。

敵でありながら自我を持ち、交戦した後は行方知れずの幼馴染み。

しかし、ただ一人。……スバルと同い歳の少女が、紆余曲折の末、味方についてくれたことがせめてもの救いだろう。

 

それでも、力に飲まれた後の苦しみを味わうのは、せめてリヴァイアと二人だけに留めておくべきだったのに……。

なりふり構ってられない状況を作りだした、己の無力さを憎むしか……。

――――それくらいしか、残されていなかった。

 

スバル「あ、おはよう兄ちゃん!」

 

不安が募って気分は沈みがちだったが、リビングの戸を開けた先――冷蔵庫の前にいる弟に迎えられ、かつての快活さを取り戻したかのような姿を見て、少しばかり笑顔がほころぶ。

 

水希「おはよ。やっと起きたか」

スバル「うん。でも今日は早いと思うよ、お茶を飲みに下りてきたばっかだけど」

 

口ぶりから察するに、既に冷蔵庫から麦茶ポットを取り出したらしい。

 

水希「…てことは、ずっと部屋にこもってたワケか」

スバル「そうなるね。……そうだ、ロック見なかった?」

水希「いや、見てないけど」

スバル「そっか…」

 

お茶を注ぐ途中…気落ちするように呟かれて、水希もつられるように苦笑してしまうが、ところがどっこい。

 

ウォーロック『――俺がどうかしたか?』

スバル「ウェッ!!? ……い、いつの間に?!」

 

いま一瞬、危うくポットを落としそうになり、それを目にした水希も軽く肝を冷やした。

 

ウォーロック『幸いにも近くに気配がねぇから、眠気覚ましにぶらついただけさ』

スバル「そうなんだ……」

 

スバルも言うようにウォーロックの登場はいきなりの事で、おまけに欠伸までかきながら、それらしい理由をつけて無理にでも納得させたようだ。

 

水希「ねぇ、スバル」

 

驚きに面食っているなか構わず声を掛けたのも、すぐに戻ると分かっていたからこそ。

水希は時刻を確認しつつ提案を促した。

 

水希「もうすぐ12時になるけど、ごはん食べる?」

スバル「うん、食べる。……あとさ、兄ちゃんに聞いて欲しいこと…あるんだよね」

水希「聞いて欲しいこと?」

スバル「うん……」

 

なんだか歯切れが悪そうに頷いて、そのままお茶を口に含んで飲み込もうとしたのだが、

 

水希「……恋バナ?」

スバル「ブ―――ッ!!」

 

その寸前で的外れな回答を聞き、たまらず吹きこぼしたではないか。

 

スバル「ゲッホ、ゲッホゲッホ……っ!」

水希「きったな、床までこぼしてんじゃんよ……」 

スバル「兄ちゃんが変なこと聞くからじゃんかよ! なんでそう解釈すんのさ?!」

水希「いやぁ最近、妙に表情豊かだし、案外満更でもなさそうだな〜と思ったからさ〜。ヘヘッ」

スバル「とりあえずニヤニヤすんな。ムカつく」

水希「はいは〜い。ノロケ話は後で聞いたげるから、ちゃんとお掃除済ませといてね〜♪」

スバル「だから違うっての!!」

 

その後。水希がルンルン気分で調理する傍ら、スバルは赤面してむくれながらも掃除に励んでおったとさ。

 

◆◆◆

 

水希side

 

昼ごはんを食べ終えた頃、スバルが体験した摩訶不思議な出来事を聞いておりました。

 

スバル「……ていう事があって、目が覚めたら何故かペンダントが光ってたんだ……」

水希「そうかそうか、それでスバルもとうとう恋に目覚め…」

スバル「殴るよ?」

水希「……ごめんちゃい」

 

きゃあ、暴力反対! マジな顔で腕上げないでー!

……と言うかどうしましょう。家庭内カースト(割と平和)と力関係が現在進行系で危ぶまれているじゃないですか、やだぁ〜…。

あぁ、()()()()()()()()誰が一番上かは……お察しの通りだと思います。

 

水希「でも変だね。アンタも同じように夢の中で遭遇するなんて」

スバル「え…?」

 

当然思いもしない発言に、スバルは目を見開いた。

 

スバル「その言い草じゃあ……兄ちゃんもなの?」

水希「そうだけど、アンタらと違って相手はペガサスだった」

ウォーロック『ペガサスだと……!?』

 

思いもしない発言に、ウォーロックも驚きを隠せない様子だ。

 

水希「3つの動物を模した人工衛星(サテライト)が打ち上げられてる事は知ってるでしょ。あれが開発された当初、ペガサスの他にレオ、ドラゴンが地球へやってきたの。『何もしなければ、この星はいずれ滅ぶ』と予言まで残してね……。

その後は各々が管理者を買って出て、今もずっと地球の電波環境をまかなってくれてるんだよ」

スバル「初めて知った……」

ウォーロック『まさかとは思ったがな……』

 

ずっとトランサーに潜んでいるから声しか聞こえないけど、スバルと二人して呆気にとられる姿が想像できるから苦笑してしまった。

 

水希「やっぱ複雑? リヴァイアに飽き足らず、地球(こっち)側に加担してる人が他にいると思うと」

ウォーロック『そりゃそうとしか言えねぇだろ。あれでもAM三賢者の肩書きを持ってんだぞ…? 実力だって確かなはずなのに』

スバル「……三賢者…?」

 

スバルは半分ほど理解が追いつかず首を傾げていたが、奴等のことは追々話す、とウォーロックがあらかじめ断ってから話を戻した。

 

ウォーロック『で、ペガサスは、お前らになんて言ったんだ』

水希「……話せる範囲ならだけど、『リヴァイアの内に潜み続けたチカラを開放しろ』って。でも開放には、かなりのリスクが伴うの」

ウォーロック『何…?』

水希「具体的に言うとね。僕自身が、そのチカラを十全に扱い、尚かつ反動に耐えきれるほどの器じゃなきゃ意味が無いってこと。器として相応(ふさわ)しくなければどうなるか……大体は予想がつくんじゃない?」

スバル「それって…暴走する、ってこと……?」

 

しばらく口を(つぐ)んでいたスバルだったが…か細い声で途切れ途切れに答え、僕は無言で頷く。

 

水希「前に一度だけ開放したけど、思った以上に負荷がデカすぎてさ。…そこから数年間、ずっと鍛え続けてタイミングを伺ってたの。

でもさすがに2回目となると、賭けに出るようなもんだと思う」

スバル「………っ」

 

ただでさえ苦々しい表情をするスバルの目が、涙を流さずとも悲哀に満ちていた。

 

スバル「なんで、そんな事を話したの…?」

水希「……情報として知った上で、戦う以前に逃げる……スバルにとって最善の選択を取って欲しいからだよ。

いくら無謀と言っても、()()()()()()がちゃんと務めを果たしてくれるから」

スバル「もういい、やめて……」

 

スバルはとうとう耐えきれず俯いてしまった。

心中察するに、宇宙へ行くと決意した頃の大吾さんと重ね合わせてしまったからだと思う。

僕自身…場慣れし過ぎて感覚が狂っているとはいえ、この落ち込みようも無理ないことだろう。

 

ウォーロック『……解らねぇな』

 

そう呟いた途端、ウォーロックは実体を現して訝しむように僕を睨んだ。

 

ウォーロック「お前、本当は一体何がしたいんだ?」

水希「……別に? なんも変わんないよ。目的も、過程も、信念もね……」

 

……そう。今も昔も、何も変わることはなかった。

 

今や不可能とされた計画を再興するため、一日でも早く大吾さん達を地球へ送還させるという“目的”も。

選定の日に向けて、否が応でも戦力増強を試みるという“過程”も。

普通の人生を捨ててまで費やしてきた日々。取り返しのつかない過ちによって築かれた報われぬ半生を、自分にしかできない償いを以て清算したいという“信念”も。

 

何一つとして、変わるはずがなかったのだ……。

 

ここまで来て今更引き返せると思うか?

無論、答えはノーだ。

 

やり方が蛮行そのものだとしても、行く末が“無”となろうと、それが星河水希(ぼくじしん)の存在意義だと信じてやまなかったのだから……。

 

リヴァイア『……そろそろ、あかねさんが帰ってくる頃だ。続きはまた後にしようぜ』

水希「だね。……スバル、最後に言っておく」

スバル「……なに?」

 

椅子から立ち上がり、両手を胸に当ててスバルを見やる。

 

水希「私のことは嫌いでも、天地さんやサテラポリスの人たちは嫌いにならない――どぅえェッッ!?!?」

 

が、しかし……ものの見事に左フックを食らい、そのままぶっ倒れてしまうのだった。

 

スバル「今更…嫌うわけないじゃん、バカ……

 

スバルは泣きそうな声で、恋仲となった人にデレて内心フラれたくないと嘆くヒロインみたいに囁くが。

言動とのギャップを大いに感じた直後、足音が近づいてきた。

 

あかね「ただいま……? 何よこれ……」

スバル「おかえり、母さん」

水希「お姉ちゃん、おかえり……」

あかね「いや、だから、何なのよこの状況……」

 

元気のないスバルの声とヨボヨボな僕の声を聞いて、姉はますます困惑する。

 

水希「いやぁね? ちょっとした、兄弟喧嘩ってやつですよ……うん…」

あかね「ちょっとした喧嘩でこうなる? て言うかアンタ死にかけてるじゃない」

 

帰ってきて早々状況が飲み込めないのはわかるが、確かに死にそうだけども、そこは指摘しないでくれよ……。

 

水希「……それよりもさ、お姉ちゃんに確認したいことがあって」

あかね「何よ、急に?」

 

一旦起き上がってから説明に入った。

 

水希「スバルが預かってるペンダント……大吾さんのことだから、ただのアクセサリーじゃないとは思うけど、特殊な細工がされてるとかなんとか、知らない?」

あかね「知らないわよ。第一、主婦の私に聞くコトなの? ……あぁでも、たしか若い頃から身につけてたわね」

スバル「その話なら、さっき兄ちゃんから聞いたよ」

あかね「そう? ならいいんだけど」

 

目が覚めたらペンダントが光ったらしくてさ〜、とか言おうとしたけど信じて貰えそうにないから、あえて黙ったのは内緒だ。

 

スバル「ところで、母さん、今までどこに行ってたの?」

あかね「……学校よ。新しく担任になった先生からスバルの様子を聞きたいって。ご挨拶も兼ねて行ってきたの」

スバル「………」

 

学校というワードを聞いて押し黙るスバルに引き下がることなく、続けた。

 

あかね「母さん、先生とは初めてお話ししたけど、とても感じのいい人だったし、スバルもきっと…好きになると思ったの」

 

少し気まずそうに打ち明けたものの、スバルは視線を反らしながら俯いていた。

未だ人と触れ合うことに躊躇いがあるのは仕方ないが、その様子に姉は溜息を漏らしつつも息子の頭を撫でながら諭そうとした。

 

あかね「今更無理を言うつもりはないけどね、スバル。変わりたいと思うなら学校に行ってみればいいのよ。

たとえ辛くても、私と水希がいるんだし、ミソラちゃんや天地くんだって……。

アンタは、一人じゃないんだから。ね…?」

スバル「かあさん……」

 

気恥ずかしそうに照れながらも、スバルは抵抗を見せず…むしろ甘んじて受け入れてる様子だった。

 

あかね「ペンダントのことは天地くんにでも聞いてみたら? 父さんとは古くからの付き合いだし、そういった分野に詳しいだろうから」

スバル「じゃあ、そうしてみる」

水希「スバル、一緒に付いてってもいい?」

スバル「いいよ」

 

話がまとまったと思われたが、その前に…と、まだ何かあるようだった。

 

あかね「スバル、水希と少し話があるから外で待ってて頂戴?」

スバル「……? うん、わかった…」

 

何で?と言いたげにしていたが、大人しく玄関へと向かう。

戸の閉まる音が聞こえた所で、姉はようやく口を開いた。

 

あかね「一応訊いとくけど、あのペンダントが何なのか……判っててスバルを騙したんじゃないわよね?」

水希「んなワケないでしょ……」

 

そんなに睨まれても、見当違いも甚だしいから堪ったもんじゃない。

 

水希「いくら当事者だからって、大吾さんは教えてくれなかったから詳しくないの。

それに乗船してから任されたのは、ほとんど雑用と掃除だけだったし…」

あかね「そんなかに物騒なモンが混ざってるのは気のせいかしらねぇ…」

水希「否定はしない。でもまぁ、変に知ったかぶるよりマシじゃね?」

あかね「……それもそうか」

水希「要件はもういい?」

 

何時までも待たせては気の毒だからと伝え、姉も頷いた。

 

あかね「行ってらっしゃ〜い」

水希「うい〜」

 

互いに気の抜けた挨拶を交わし、スバルに続いて家を出た。




皆様、お久しぶりでございます。
以前はニートライフを謳歌しておりましたが、8月中旬よりパートスタッフとして業務に追われておりました。
……が、合間を縫って編集、投稿する分には問題ありませんでした。
(投稿ペースが変わるわけではないですけどね(汗))


【中編 ii】を書いてから後編を出す予定ですので、次回の更新をお待ち下さいませ。


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閑話 過去は二度と戻らない

……その日はまだ、桜が花開いて間もない頃だった。

 

とある首都圏に位置する駅にて。それぞれ番号の分かれたホームには、出張と思われるサラリーマンやOLの他、帰省かはたまた観光目当てか……目的は定かではないが、大小なりと荷物を抱える老若男女など。行き先が違えど県境を(また)ぎに訪れていることは確かだ。

アナウンスから通達の(のち)。立て続けにリニア新幹線が入線し、時刻通りに発車されるなか、階段を登ってくる二人の少年が見えた。

そのうちの一人。小柄な少年は目的地へ向かおうとしており。

そのうちのもう一人。頭一つ分ほど背の高い少年は、親友である小柄な少年を見送るため付き添ったらしい。

 

――ただ、そばに居たいから。

 

胸の内に潜む恋情を押し殺してまで、見送ろうとしたのだ。

 

『本当に大丈夫なのか?』

『だいじょ〜ぶ。都心の学校と比べりゃ、学業もまだ緩いほうだってお爺ちゃんも言ってたんだし』

『そうじゃなくて、向こうに行っても友達作れんのかって話だろーが』

『んー、そこはまぁ、作りたいと感じりゃなんとかなるんじゃね?』

『つってもなぁ…。ぶっちゃけお前、コミュ障でドジ踏むし、(ふた)を開けてもアホだから余計不安でしかねぇわ』

『ぐうの音も出ねぇですコンチキショー……!』

 

予定よりも30分早く着いたため、その間は互いに他愛のない会話を繰り返し、退屈しのぎに飲み物を買うなどして列車が来るまで二人はベンチに座って待ちかねていた。

 

『……ねぇ、――』

『ん?』

『初めて会った日のこと、覚えてる?』

『……。少しだけどな』

『そっか……』

 

背の高い少年は不意の質問に言い淀みつつも率直に答え、小柄な少年もまた、親友の真摯な受け答えにどこか安堵していた。

 

『じゃあ、質問を変えるね。――はさ、どうして僕なんかと、友達になってくれたの?』

『……“俺なんか”と友達になるのに、理由が要るのか?』

『それは……』

 

小柄な少年はあくまで卑下していたつもりだったが、同じように返されて言い淀み、俯いてしまう。

背の高い少年は構わず続けた。

 

『みんなにハブられても気にしねぇ癖に。俺だと怖いんだな?』

『……怖いよ。たった1人でも、居なくなったら……』

 

そう呟く小柄な少年はベンチの上で体育座りになり、顔を(うず)めてしまったようだ。

下手に茶化して傷つけたことを反省するが、鬱屈な雰囲気に耐えかねて少しだけ溜息を吐いた。

 

『お前が今なに考えてるか判んねーけどさ…前にも言っただろ。何があってもダチ辞める気なんかねぇって。それにな、俺にとっちゃ、他の奴といるよりもお前と一緒にバカやってる時が何倍も楽しいに決まってる。

じゃなきゃ今の今まで、お前とつるんだりしなかったろーが』

『オカン並みにいっつも小言多いけどね――さんは』

『うっせ。黙って見送られてろ』

『ふふ、はいはい』

 

〜♪

《―――お待たせ致しました。まもなく6番線にて、○○方面行き【リニア・アストラル】が、16両編成で参ります―――》

 

到着の報せを受け、小柄な少年は乗降口を通過したが、

 

『しのぶー!』

 

名残惜しさから来た道を振り返った少年、水希はその名を呼ぶ。

 

『帰ったらまたどっか遊びに行こ!』

『あぁ。次会った時にな!』

 

背の高い少年――信武も快く見送ろうと、水希の顔が見えなくなるまで笑顔を崩さずにいた。

 

ある意味、これが分岐点でもあると知らずに。

 

 

 

***

 

 

ベッド横のトランサーにかけたアラームが鳴り止んだ頃、ようやく目を覚ます。

 

信武「……みずき」

『ようやっと起きたか』

 

随分と懐かしい夢を見た気がする。

かと言って特別目覚めが良いわけでもなかったが。

 

信武「……おい、ジジイ。今何時だ?」

『誰がジジイじゃボケ! ワシにはちゃんとクラウンという名前があるじゃろうが! ……ちなみに今は8時過ぎじゃ。早ぅ起きろッ!』

信武「あいよ」

 

キレてんのに変に律儀だなぁオイ。

 

おもむろに体を起こし、そのままベッドに座り込んでいると、扉をノックする音に気付く。

 

「信武くん? 起きてる?」

信武「はい。今起きたところです」

「そう……入るわね」

 

ドア越しに話しかける女性に向かって少しだけ声を張って返事をすると、心配そうな面持ちで部屋に入ってきた。

この際だから紹介しよう。

彼女の名は宇田海 真希絵(まきえ)さん。

夫の拓朗(たくろう)さん共々、母の葬儀を終えてから俺の身元引受人となってくれた人だ。

 

信武「真希絵さん。おはようございます」

真希絵「おはよう信武くん。今朝はやけに騒がしかったわね?」

信武「あぁ、それはですね……、たぶん俺の寝言かと……」

真希絵「そう? 内容まではわからなかったけど、リビングにまで声が響いて思わず笑っちゃったわよ」

信武「は、はは……そうなんですね……」

 

俺を見て微笑む真希絵さんにジジイ(クラウン)の存在がバレてないと切に願いたいが、一瞬ギクッと肩を揺らしてしまった。

だってこの状況で宇宙人のせいでーす♡とか言ってみろ。クスリでもやってんのかと疑われちまうぞ普通に…!

 

真希絵「……思い違いじゃなければ、最近の信武くん、一人で頑張り過ぎだから……。休学届を出して正解だったんじゃないかって、昨日旦那と話し合っていたのよ」

 

真希絵さんも言うように先週辺りに休学届を提出し、またバイト先のオーナーにも1ヶ月ほど休ませてほしいと頼んだら、どちらもあっさり承認してくれて逆にビビったが……。

何にせよ理由に関しては騙してるも同然なので、あまりの気まずさから顔を背けてしまった。

 

信武「すみません。ただでさえ厄介になってるのに、いきなり我儘を押し付けて……」

真希絵「いいのいいの。家のバカ息子と違ってしっかりしてるんだから、休める時に休まなきゃガタが来ちゃうでしょう?」

信武「……ありがとうございます」

 

目線を戻して礼を言うと、真希絵さんは一層穏やかに微笑んだ。

 

真希絵「そうそう。迷惑かけてるのは当たり前なんだから、謝られるよりお礼を言ってくれた方が気も晴れるわ♪

朝ごはんはもう作ってあるから。顔を洗ってらっしゃい」

 

温め直してね。と告げて退出した途端に、俺は頭抱えながらうずくまった。

 

信武「あっっぶねぇぇぇ……‼︎」

 

とっさにごまかしたとはいえ、俺の声あんなに甲高くないですよ真希絵さん……(汗)。

 

クラウン『くく…ッ』

信武「…おい、何笑ってんだテメェ…?」

クラウン『いや、先のやりとりを寝言と騙るとは。にしては中々の大根っぷりじゃったのう?』

信武「黙れクソジジイしばくぞ……!!

クラウン『まぁたジジイ言うたなクソガキぃ!』

 

人が不安に煽られてんのに、呑気にトランサーごとカタカタと震わせやがって。マジで叩き割る5秒前だったぞ。

 

 

 

………それにしても、

 

 

――信武くん、一人で頑張り過ぎだから……。

 

 

信武「頑張り過ぎ、か…」

 

言われるまでもなく自覚はしている。

人と比べて何倍も、己を鍛え続けていることには。

 

なにせ家系の都合上、エリート街道を歩むために「当たり前のことが出来て当然」と迫られていた為、幼少期から手厳しい教育を施されてきたのだ。

無論、深祐とて例外ではない。

 

けれど、嫌々させられる剣道と勉強漬けの日々は、当時の俺にとってどうにも退屈で仕方なく。

“神童”としての俺を羨む、普通の家庭で生まれ育った人間を見て、俺よりも自由に生きれてる癖に…と勝手に妬んでいた。

だからか、いつどこに居ても不機嫌面だったので上手いこと人間関係を築けずにいた。

 

水希と出会って、自分の認識が間違っていると気づくまでは。

 

自分の事を「妖怪」だと卑下するほど、俺とは違った経緯があって周りと馴染めずにいたのに。

いじめる奴らを追っ払ったあとに見せてくれた笑顔が眩しいとさえ思えた。

 

――だってしのぶは、ボクをむかえにきた“はくばのおうじさま”なんだもん! さっきはめちゃくちゃカッコよかったんだもん!

 

今となりゃ、少女漫画みてーな世界観に(ふけ)るアホにもっと他に例えるもんがねーのかよとツッコみたい所だが……。

 

アイツに褒めてもらえることが嬉しかった。

アイツに認めてもらえることが嬉しかった。

アイツと親友でいられることが嬉しかった。

 

我ながら単純ではあるが、その喜びがいつしか俺にとっての生きる原動力となったのだ。

 

だから、とにかく何でもいいから、アイツの笑顔に応えたくて頑張ろうと思えた。

 

こと剣道においては、同年代はおろか上の学年に遅れを取らないほど実力を上げ、都大会で何度も優勝を飾ってきたし。

また学問においては、人より先立って勉強し続けたことがアドバンテージとなり、最低でも90点を下回ったことはなかった。

ぶっちゃけた話。実力差を前に妬かれても、水希が相手ならどうってことなかったしな。

 

――勉強とスポーツは負けてるけど、その他の分野ならまだ負けてないんだからよーだ。

 

親と剣道の師を除けば、俺にはっきりと物申す奴は後にも先にも水希しかいなかったから。正面から向き合ってくれるからこそ友達になれて良かったと思えたのだ。

 

だからどうか…その笑顔を絶やさないでくれと誰よりも願っていた。

 

もっと褒めて、俺という人間が存在して良いと認めて貰いたかった。

 

中学を卒業した時に結んだ、絆の証(ブラザーバンド)

その証が、いつまでも残っていて欲しかったのに。

 

 

(そんな願いですら、あっけなく散ったがな…)

 

クラウン『信武』

 

感傷に浸りきっていた最中、ジジイに呼ばれて我に返った。

 

クラウン『休む口実を作ったところで、むしろこれからもっと忙しくなるぞ』

信武「……だろうな」

 

全く、どうしてこうも…現実というものは鼻で笑えてしまうほどに皮肉が過ぎる。




続きをお楽しみに!


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27話(中 ii) 来訪。コダマ小学校へ

姉との会話を済ませ、すぐさま靴を履いて表へ出る。

 

水希「お待たせスバル。そんじゃ行こっか」

スバル「うん」

 

(ひさし)(玄関口で見かける屋根)の下でトランサーをいじっていたスバルに出発を促し、一先ずバス停へと向かうことにした。

ちなみに何をしていたか聞いたところ「いきなり押しかけるのもどうかと思って…」と言って自らメールでアポを取り、天地さんも快くオーケーしてくれたらしい。

確かに連絡することは大事だし、了承して貰えたなら尚良しですな。

 

水希「ねぇ、スバル」

スバル「ん?」

水希「ふと思ったんだけどさ……この世でさ、僕らが生きてる間でも、ぜっったいに電波変換させちゃダメな人がいると思うんだよね……」

リヴァイア『奇遇だな水希。俺も一人だけなら心当たりあるわ』

 

手を後ろに組んだままスバルと横並びに歩いていた道中、リヴァイアと二人して度々思っていたことを口に出した。

 

スバル「……一応訊くけど、誰なの?」

「お姉ちゃん」 / 『あかねさん』

ウォーロック『即答…』

スバル「…で、兄ちゃん達はどれくらい嫌なの?」

『「さすがの僕(俺)でも泣いて逃げたくなるレベル」』

スバル「だよね〜…」

 

こればかりはリヴァイアも同意見だった。実際2回もハモってたし。

隣で聞いていた二人も、姉の脅威的な側面をなんとなく察していたようだった。

 

水希「それになんたって、夜中無理やり叩き起こされては組手のサンドバッグにさせられてたし」

スバル「いや物騒だろ!! マジで言ってんの!?」

水希「うん、至極(しごく)大マジ。今じゃだいぶ落ち着いてるけど身内の中でも一際頭ぶっ飛んでるしね、あの人」

スバル「誤解を解く余地すらないとか可哀想じゃん……」

水希「あんま気にしなさそうだけどね」

 

さっきは殴られたとはいえ、スバルにも脅威的な側面が現れないでほしいと願うよ、本当に。

 

(そういやボッコボコにやられた後、お姉ちゃん…オカンから説教受けてたよなぁ〜たしか)

 

もちろん良い意味ではないが。

過去の出来事を思い返していたところ、ぱったり喋らなくなったスバルに視線をやる。

 

水希「今言ったら完全に「お前が言うな」なんだけどさ。……そんなしっぶい顔をしてくれるなよ」

スバル「無理だっての」

 

微妙な空気のなか、バス停まで目前の所だった。

 

「――見つけたわよ!! 星河くん!!」

 

突如遠くから声高々に呼び止められ、名指しを受けたスバルは渋そうな顔を色濃くさせたという。

自分もスバルと同じ苗字なのはこの際ツッコまないこととしよう。

 

声のする方へ向くと、件のドリ……特徴的な髪型の少女こと白金さんを筆頭に、体格差が著しい男の子二人が白金さんの後に続いて僕達のもとへ歩み寄って来たではないか。

 

スバル「……うっわ」

ルナ「何が『うっわ』よ! 腫れ物みたいに見てくれちゃって、本当に失礼ねアナタって!」

スバル「そういう君は妙にモノマネ上手いね。逆に感心しちゃうよ」

ルナ「そこツッコむとこなの? まぁ別にいいけど。……あ、お兄様こんにちは!」

水希「あぁ、ども…」

 

ツンケンとした態度でスバルに突っかかった矢先、ついでとばかりに挨拶をしてくれたのはいいとして、

 

水希「…お兄様呼びはちょっとむず痒いな……」

 

と、呼ばれ慣れてないから余計むず痒く思ってしまう今日この頃である。

 

ルナ「ゴン太!キザマロ! あなた達もご挨拶なさい!」

「はい!」

「おう!」

 

白金さんの先導のもと、男の子二人が前に出た。

 

「はじめまして。僕は最小院 キザマロです。僕のお供であるマロ辞典の知識量は委員長にも負けてないと自負しています。どうぞお見知りおきを」

 

声の主は僕から見て白金さんの右隣。身長がひと際小さい子だった。途中に眼鏡を掛け直して、なぜか得意気にニヤリとしながら自己紹介してくれた。

 

「俺は牛島 ゴン太だ! 主に美味いモンを食うことが生きがいなんだぜ。よろしくな、兄ちゃん!」

 

対して左隣にいる声の主は言っちゃ悪いが横の面積が広い子。道理で食べ盛りなワケか。

 

水希「うん、よろしくね。二人とも」

 

さっきの険悪なムードも晴れて、挨拶してくれたのは素直に嬉しかった。

だがしかし、未だスバルさんの表情は曇っているようである。

 

水希「そういやこっちの紹介がまだだったよね?

僕は星河 水希。気軽に下の名前で呼んでくれて構わないよ。それとスバルとはよく兄弟と間違われるけど一応はスバルの叔父なんだよね」

「「「え? ………ええぇぇぇぇ!!?」」」

 

ポリポリと頬をかきながら関係を打ち明かした結果、三人とも息が合うようにそろって間の抜けた声を出して、僕とスバルを交互に見ては驚愕していた。

 

ゴン太「ってかさ、“おじ”ってなんだよ? おじやのことを言ってんのか?」

キザマロ「ここに来てなぜ食べ物の話になるんですか、ゴン太くん……」

ルナ「あ、あの、非常に失礼極まりないですが、今おいくつでしょうか?」

 

ゴン太くんの勘違いぶりにキザマロくんが呆れながら指摘しているなか、白金さんからいきなりな質問を受けた。

 

水希「歳? 今年で二十歳だよ。因みに僕、お姉ちゃん……スバルのお母さんの弟で12歳も離れてるんだよね」

ルナ「そんなにも離れているんですか…?!」

キザマロ「マロ辞典に載せてしまうほどの衝撃です…!」

 

白金さんはあんぐりと口を開け、若干引き気味な様子。

てかマロ辞典て何さ、造語?

 

ルナ「でもそうよね。さっきお姉ちゃんって言ってたし。でもその割に水希さんって…ブツブツブツブツ………」

ゴン太「どうしたんだよ委員長。腹壊したのか?」

ルナ「何か言ったかしら、ゴン太?」

ゴン太「イエ…ナンデモナイデス」

 

最後のあたりが聞き取れなかったが、白金さんから鋭く睨まれるゴン太くんの様子を見て、気が逸れてしまった。

 

ルナ「…ていうか話が逸れてるじゃない!」

 

そう言って、スバルに向かって指を突き出した。

 

ルナ「今日という今日は来てもらうわよ学校に! ちょうど祝日なんだから人目を気にすることも無いでしょう?」

スバル「そういう問題なの!? 授業もないのに!?」

ルナ「そりゃそうよ。要件はね、今度やる学芸会にあなたも参加することが決まったの。今回は授業と全く関係ないんだし、何しろ1番大事な役を()()()()()()()んだから断る理由もないと思うけど?」

スバル「はぁ? 別に頼んだ覚え無いし。大体、大事な役をやらせるなら他当たってくれない?」

ルナ「何よその言い方……」

 

(……白金さん、スバルもたぶん心ん中で同じこと言ってるかもよ。二人とも言葉にトゲありまくりでギスギスしてるし)

 

いつになく強く出るスバルに臆せず、白金さんは強引に腕を引っ掴んだ。

 

ルナ「ならセットだけでも見に来ればいいじゃない。 そこまで時間取らせるつもりじゃないんだし」

スバル「だとしても行・か・な・い! それに先約があるから今日は無理なの。分かったらもう放っておいてよ……」

 

嫌悪感を剥き出しにして振り払られれば当然、白金さんも眉間が皺寄るほどに苛立っていた。

 

ルナ「アナタねぇ、ここまで親切にしてるのになんたって強情張るつもりなのよ!」

スバル「だ〜か〜ら〜! 行かないって何度も言ってんの!! いい加減しつこいんだよ!」

ルナ「しつこいのはアンタだっておんなじでしょうが!! 毎度毎度、時間を割いてまで説得しに来てる苦労がわからないの!?」

スバル「あぁわからないね! そんな風に恩着せがましく言われりゃ誰だって願い下げだよ!」

ルナ「なんですってぇ……!!」

 

驚いた。

まさかあのスバルが声を荒らげてまで反論するとは…。

蚊帳の外になりがちな二人を見ても、僕と同じような反応してると取れる。

 

よし、ここは年長者としてこの場を収めなければ!

 

水希「まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」

ルナ「そんなこと言わずに! 水希さんもこの分からず屋を説得してくださいよ!」

スバル「……兄ちゃんは僕の味方、だよね?」

水希「あ、あはは……」

 

はぁい全然ダメでしたー……。

ごめんね。ゴン太くん、キザマロくん、しゃしゃり出ておいて普通に役立たずだったわ。

 

ルナ「水希さん!」

スバル「僕の味方なんだよね? お兄ちゃん」

 

すごく…怖いです…、二人の眼差しが。

特にスバル。いつも僕がお姉様の機嫌を信号機で例えるように、糸目っぽくニッコリとした表情から見て『赤信号(レッドゾーン)』と断定したわけよ。

なんせ組手してる時さ、あんの憎たらしい笑顔でタコ殴りにされてガチのトラウマになったからね。

 

……ね? だからさっき電波変換させちゃダメって言ったっしょ?

この世終わるよ、マジで。

 

水希「まあでもなんだ、僕も偉く言える立場じゃないからスバルにはあまり強要しようと思ってないの」

ルナ「私は説得をしてほしいと言って……」

水希「黙って最後まで聞きな。……強要しないというか、する資格がないのはね、学力不足で高校受験落ちたせいで両親から勘当されて家を追い出されてんのよ」

 

当然真っ赤な嘘ではあるが、白金さんはどこか思い詰めたような顔をしだす。

 

ルナ「そうなんですか…?」

水希「そうなんだよ。だから今お姉ちゃんに匿ってもらって、バイトしながら適当に食いつないでるし、正直なとこ説得力無いと思うよ?」

ルナ「そんな……」

スバル「そのわりに厳しく当たられることもあるけどね」

 

スバルはそう言いつつ勝ち誇った顔をしている。

ていうか厳しくなるのは当たり前でしょ。アンタ、得意とする分野以外じゃいつまで経ってもだらしないんだから。

 

水希「ただし、今回はセットを見たうえで参加するかはスバルの選択に委ねることとする。これくらいの条件がなきゃ張り合いがないでしょ」

スバル「そうそう行くかどうかは僕が決め…はァ!?」

 

や〜いや〜い、口車に乗せられてやんの〜ww

m9(^Д^)

 

スバル「なんで見に行く前提で話進めてんのさ?!」

水希「だって〜もし行くとしてどんな役をやらされるか、気になるじゃん? 晴れ舞台になるかもだし」

スバル「……兄ちゃんのバカ……」

 

一度決めたら曲げない性格を知ってるからこそ、スバルは観念しつつも文句を垂れるしかないだろうが、

 

(ヘソ曲げんのも無理ないけど、別に考えなしに言った訳じゃないんだよ、スバル)

 

内心ひっそりと諭し、白金さんに向かってこちらの要望を言い渡した。

 

水希「そういう訳だから。今言った条件を飲めないなら、悪いけど君の提案は受け付けられないかな」

ルナ「ですが…」

水希「用事がある以上こっちも暇じゃないの。分かってくれる?」

 

強く言い過ぎた感じはするが、この際致し方ない。

 

ルナ「……わかりました。それでは案内します」

キザマロ「っ、委員長…!」

ゴン太「置いてくなよ二人ともー!」

 

渋々了承してくれたことで一段落ついたが、不服ながら先導する姿を見た二人は焦って白金さんの後を追う。

 

(やっぱあの子、信武と似てるかも。委員長と呼ばれるだけあって皆をリードしたりする積極性の良さとか。

大吾さんもそうだったけど……本気で変化を起こそうとする人の強引さって何だかんだで強みになるんだよね。その分、反感を買うこともあったけど……)

 

スバル「やっぱり、兄ちゃんも学校に行けって思ってるんだ…?」

水希「言ったでしょ、スバルの判断に委ねるって。ほら行こ、兄ちゃんが付いてるからさ」

スバル「……うん」

 

そっぽ向いてふて腐れるスバルの手を取り、僕らも後に続いて校内へと向かった。

 

スバル「あとさ、さっき僕のこと煽ってなかった?」

水希「100%気のせいだよきっと」

スバル「こっち見てから言おうよ、ねぇ?」

水希「……ごめんちゃい」

 

いずれ姉以上に怖い人と化すのを、僕はまだ知る由もなかったのだった。




水希談。
あかねさんの危険度レベルは「青信号(セーフゾーン)」「黄信号(グレーゾーン)」「赤信号(レッドゾーン)」の3つとなる。
赤信号(レッドゾーン)」の大まかな判断基準は「表情」「声色」「キレられる原因」によるらしい。

***

ご無沙汰しております。
相変わらずの投稿頻度ではありますが、今年中にお出しできるのはこれで最後となります。
来年も忙しくなりますが、10話以上は投稿するという目標のもと活動していく所存でございます。

読者の皆様、今年も残りわずかですがどうか良いお年をお過ごし下さい。
そして来年も、お身体に障りがないことを心からお祈り申し上げ致します。


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27話(後) 侵入者

(ここが、スバルが通っていた小学校か……)

 

昇降口をくぐり抜けた先で三人が待っていたにも関わらず、初めて訪れるのもあってあちこち視線を投げていた。

トロフィーと表彰楯が飾られるのは分かるけど……三人の背後に佇む博士帽をかぶった銅像やKODAMAと大きく書かれたカーペットがよう目立つ。

 

水希「校内は初めて見たけど、結構綺麗だね」

スバル「確かに、前と雰囲気が変わってる気がするけど……」

 

久々に母校へ来たはずのスバルも僕と同様に周りを見回しながら言うと、白金さんが率直に問いかけてきた。

 

ルナ「どう? 3年ぶりの学校は」

スバル「どうって…、さっき兄ちゃんにも話したけど雰囲気が変わったなぁとしか……」

ゴン太「最近改装したんだぜ。なんでも、校長先生の意向とかでよ」

「お〜い、なにやってるんだお前ら〜」

 

ゴン太くんの話を遮ってまで皆に呼びかけた、白衣を着た先生らしき男性がこちらに近づく。

それぞれ中身が違う2本のフラスコを首に下げ、髪から顎髭に至るまで実験に失敗したかと思わすボンバーヘアが何とも特徴的である。

 

キザマロ「先生、こんにちは!」

「おう、昨日ぶりだなキザマロ。……で、お前ら何で学校にいるんだ? 今日は祝日だろ?」

キザマロ「それがですね……」

 

キザマロくんが僕ら2人に視線をやるが厳密にはスバルに対して向けられており、先生も気がついて近づくのだが……スバルは即座に僕の後ろに隠れたようだ。

それも人を盾みたく扱うようにな。

 

水希「ちょっとスバル、失礼でしょ……」

スバル「だって……」

「はは、構わないよ」

 

何も気にすることは無いと言って、先生はスバルと目線を合わそうと膝をつき自己紹介をしてくれた。

 

「初めましてスバルくん。私は育田(いくた)道徳(みちのり)。ここにいる委員長達も含めて、君の担任を受け持っているんだ。よろしくな!」

スバル「ど、どうも……」

育田「君の事はお母さんから聞いているよ。なんでも星を眺めるのが好きなんだってな?」

スバル「は、はい……。いつも学校裏にある展望台の上で見ているんです………」

育田「確かに、あそこなら見晴らしも良いからな。ところで君は……スバルくんのお兄さんなのかい?」

 

急に話を振られてしまえば返答せざるを得まい。

 

水希「初めまして、星河水希と申します。厳密にはスバルとは叔父と甥といった関係なんです」

育田「なるほど。思い出したよ、確かにスバルくんのお母さんから弟が面倒見てくれていると聞いてね。

……いやぁでも、こうして並んでると兄弟にしか見えないな」

水希「よくそう言われて驚かれてます。僕もここに来る前、姉から先生のことについてお聞きしたんです。人当たりが良くてとても話しやすい方だと」

育田「そう思っていただけて光栄だよ。それで、どうしてうちの学校に?」

ルナ「私からお誘いしたんですわ、先生」

 

ここぞとばかりに自己主張する白金さんである。

 

ルナ「今度やる劇のセットを見てもらいたいと頼んだら、星河くんが来る気になってくれたんです!」

スバル「あのさぁ……さっきから水差すようで悪いけどさ、僕一言も行きたいなんて言ってないからね!? ()()ッ!!」

 

事実3割、虚偽7割の説明をする白金さんに対し、スバルも黙ってられなかった様子。

 

ルナ「あら心外ねぇ、でもなんだかんだで付いてきてくれてるじゃない? 本当はアナタも満更じゃないんでしょう?」

スバル「うぐっ、元はと言えば兄ちゃんが行くって聞かないから! ……そこぉ、口笛吹くなッ!!」

水希「なっハァッ……!?」

 

何でだろう。不穏なSEが突然脳内に流れて、その上タイキック〜♪ と幻聴さえも聞こえたんだけど……。

そして予告通りに制裁されて奇声上げちまったんやけど……。

挙げ句、体勢を崩してしまい目の前にいた先生に支えてもらう羽目になってしまったという。

 

水希「すみません、スバルは嫌がってましたけど僕自身興味があってここへ来たもので……」

育田「……どうりで。とすると委員長も半ば()()()連れてきたということか」

ルナ「そ、そんなことありませんわ先生! 私はただ、星河くんのためを思って……」

 

ウォーロック (嘘だろ…)

リヴァイア (嘘くせぇ…)

ゴン太 (嘘だな)

キザマロ (嘘ですね)

水希 (嘘だよね…?)

スバル (嘘だッ!!!)

 

先生に図星を突かれながらも言い繕っている時点でボロが出てるようなもんだよ、白金さん。

……それに多分、白金さん以外全員考えてることは一緒だろうし、スバルもスバルで不意にキャラ変わる某少女並にキレてる気がしなくもないんだけど……。

 

育田「事情は分かった。委員長の気持ちも分からなくないが、別に無理をしてでも来ることはないと思うんだ」

ルナ「いいんですか? 教師である貴方がそんなこと言って」

育田「百も承知さ。確かに学校でしか学べないこともあるけど、それを理由に強制させてもスバルくんは喜ぶと思うのかい?」

ルナ「それは……」

 

先生に諭されて、何も言い返せずに口を噤んでしまう。

 

育田「スバルくん。すぐに結論づけられることじゃないが、君が本当に行きたいと思うのなら我々は安心して通えるように迎え入れるつもりだ。今はまだ考える時間がいるが、答えが出たらいつでも連絡してくれ」

スバル「……は、はい……」

 

先生はそう言い残して、職員室へと戻った。

 

話を聞けば聞くほど、本当はお姉ちゃんと同じ心境なんだと理解した。

その証拠に、スバルの意思を汲み取った上で猶予を与えた。選ぶのは君次第だと前置きを残して。

 

お姉ちゃんとの会話を思い出し、いかに生徒思いな人物なのかがよくわかった。

 

ルナ「チッ。あともう少しだってのに…

スバル「いまなんか言った?」

ルナ「別に。……とにかく、先生の話も一理あるけど、あなたはちゃんと学校に来た方がいいと思うの。私としても、クラスメイトが全員揃わないなんて居心地が良いと思えないわ……」

 

 

◆◆◆

 

 

体育館に入った途端、準備が整うまで待ってほしいと指示する白金さんに従い、ステージの手前で背を向けて待つこと数分。

 

ルナ「良いわよ。上がって」

 

僕とスバルは階段を伝ってステージに上がる……のだが、

 

スバル「……なに、これ……」

ルナ「……? なにって、見ての通り劇に使うセットじゃない」

 

上がって早々絶句するスバルに首を傾げて、訝しげに返す。

 

ルナ「どうしたのよ…何か問題でも?」

スバル「い、いや、何でもない……」

 

まぁね、あんまり大きな声で言えないけど問題しかないのよ。

 

スバルの態度から見て取れるように不穏になっちゃうのも無理ないと思う。

ステージに置かれてある小道具に既視感しかないのだって、三人は知らないだけで当事者がここに二人もいるんだからね……。

僕もスバルにつられて焦っているが顔に出さないよう気張っておりました。

 

水希「ちなみに、何をテーマに劇を作ってるの…?」

ルナ「それはですね、ズバリ!――」

 

白金さんは良くぞ聞いてくれましたと言いたげに目を輝かせているが、なぜか勿体ぶらして返事待ちの様子。

 

水希「……ズバリ?」

ルナ「『ロックマン&水使いvs牛男』ですわ!」

水希「水使い、ね……」

ルナ「えぇ、忘れもしませんわ! 二度に渡ってピンチの時に駆けつけてくれたロックマン様を陰から支える、いいえ! あの方はもはや水神様と言い表すべきですわ!!」

水希「す、水神……?!」

リヴァイア『……いっつも悪魔とか畏れられてたが、まさか神と崇められるなんてな、俺たち……』

 

ほんとねぇ。彼女の説明でようやく納得したわ。

 

要するに、劇の内容はオックスに巻き込まれた事件に基づいていて、その時救出された感動とヒーローが実在することを知ってもらいたい、と言ったところだろう。

他に気になる点があるとすれば、ヒーロー役二人の衣装のみ気合が込められているくらいか。

 

腰に巻き付けてあった布も再現するとは、洞察力凄まじいね。

 

ゴン太「なんと言っても驚きなのは2回目のアマケンの時なんだぜ!」

キザマロ「そうですそうです! ロックマンが敵にやられそうになるタイミングで水使いさんが現れて……」

ルナ「水神様よ、キザマロ。でも本当、遠くからしか見えなかったけれど、あれは間違いなく変身しているようだったわ」

水希「へぇ…そうなの……」

 

そうかあの時か……君達もいたのねアマケンに。

 

不意にメールの通知音が鳴る。

 

スバル『兄ちゃん、アマケンの話に関しては本当にごめん…。あの時無理矢理ついて来られて』

水希『そう気に病むな、弟よ。遠くで見てたんだから絶対身バレしてないって』

スバル『だと良いけど……』

 

盛り上がっている三人を他所にメールでやりとりしている最中だった。

 

リヴァイア『水希! 上!!』

水希「!? ――危ないっ!!」

 

慌ただしくなるのには理由がある。

頭上を見てすぐスバルの肩を掴み、後ろへ飛び退いたのと同時に照明が落下してきたからだ。

落ちた衝撃で散乱した破片が当たらないよう覆い被さるようにして庇った。

 

水希「――スバル、怪我は!?」

スバル「大丈夫。兄ちゃんは?」

水希「ぜんぜん平気。……そうだ皆は!?」

ルナ「私たちも無事ですわ…!」

 

近くにいた三人へと視線を投げたが、幸いにも落ちた場所から離れていると知って軽く息をつく。

 

それにしてもなんで……?

 

不審に感じたので再度見上げたところ、ウェーブロード上にいる輩がこの惨状を嗤いながら見下ろしていた。

 

水希「あの野郎…!」

 

用は済んだとばかりに去ろうとする奴を犯人と見做し、後を追おうとステージから降りる。

 

水希「いいスバル? 三人と一緒に行動して安全そうな場所に避難して!」

スバル「兄ちゃんはどうするの?」

水希「先生を呼んでくる。みんなも早く体育館から出て!」

キザマロ「ちょ、ちょっと…!」

 

急かすように促し、一足先に体育館を出た。

 

ゴン太「……お前の兄ちゃん、足速いな」

スバル「うん。それに、あんなに怒った顔見るの、初めてかも」

ゴン太「そうなのか…?」

 

 

ルナ「あの人、やっぱり……」

 

 

 

◆◆◆

 

体育館から出て生身のまま周波数帯を変えウェーブロードに飛び移るが、玄関先まで移動し周囲を見回しても姿が見えない。……というより、あえて姿を眩ませているだけだと確信を持てる。

 

たった今、背後に回った敵が繰り出すパンチを魔法陣によって防いだからだ。

 

「……何!」

水希「ごめんごめん。殺るからにはちゃんと変身しとかなきゃダメだもんね?」

 

動揺する敵、――スバルを殺そうとしたジャミンガーに蔑むような言葉を投げて臨戦態勢に入り、間髪いれずハイドロウィップで胴体を縛りつける。

 

ジャミンガー「……しまっ、―――うぶッ!!」

水希「……だっさ」

 

そのまま真上へ放り投げ容赦なく振り下ろせば、運悪く地面ならぬウェーブロードとキスしたようで。あまりの無様さに思わずほくそ笑んでしまう。

 

水希「何処の差し金かは予想がつくけどまさか弟を狙うとか、いい度胸してんのな」

ジャミンガー「ケッ、ロックマンが現れるかと思えば海原の悪魔が直々にお出ましとはな……!」

リヴァイア『やっぱ俺ら、あの二人に並んで有名人になったらしいな』

水希「名が売れるのはこの際どうだっていいよ…。ところでアンタ、なんでスバルを狙った?」

 

茶々を入れるリヴァイアはさておき単刀直入に聞くと、ジャミンガーはクツクツと笑いながら言う。

 

ジャミンガー「聞いて驚け。依頼主が言うにはお前らへの歓迎の挨拶ってやつさ。王に挑発をかましてくれた御礼にだとよ」

水希「挑発? ハッ、笑わせんなよ。品性に欠けたおもてなしにクレームを付けただけだろうが。人がせっかく丁寧に教えてあげてるのにほんっと器がちっさいんだね王サマってのは」

 

皮肉めいた発言を返せば、彼奴の嘲るような表情は厭悪へと変わる。

 

ジャミンガー「……テメェ、王に向かって不敬と知っての発言か?」

水希「どう言い直そうたって事実だからね」

ジャミンガー「バチ当たりな野郎だぜ……」

水希「なんとでも言えば? どのみち襲って来るならアンタもろとも消す。それだけだから」

ジャミンガー「……だったらその減らず口、叩けなくしてやらぁ!」

 

吠え猛るジャミンガーの周りをドス黒いオーラがまとわりつくと、ひょろ長な図体がみるみると大きくゴツくなるほど変わり果て、その腕力をもって拘束をぶち破った。

恐らくはその余波だろう、この空間の大気が震えているように感じる。

 

水希「リヴァイア。もし力を開放するとしてどのくらい持つの?」

リヴァイア「リスクを控えたくば、30秒。……やれるか?」

 

()()と似て心配性なリヴァイアに充分とだけ伝えた。

 

水希「ねぇ、思ったんだけどさぁ」

ジャミンガー「あぁ?」

水希「わざわざ子供を狙うんだから、そんなに殺られんのが怖いんだ?」

ジャミンガー「〜〜ッ、ほざけ!」

水希「遅い」

 

拳を振り下ろされるよりも先にジャミンガーの懐に潜り、ガラ空きな腹に掌底を浴びせ吹き飛ばす。

 

わざわざ遊んでやる義理はない。速攻で片付ける…!

 

水希「モードチェンジ【リンドヴルム】」




投稿から3年目になってようやく、リヴァイアが授かった力の正体が明らかになりましたよ。
今回は名前だけの登場ですが、今後も出番が増えるかも。(それよりもっとハイドロウィップさんの出演頻度増やさなきゃですがw)

次回も気長にお待ちくださいませ。


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28話 食い違い

「……お、どうやら始まったみたいだな」

 

同時刻。コダマタウンの展望台に一人の青年が双眼鏡を片手に立ち、付近にある校舎のウェーブロードを見ていた。

だが双眼鏡のレンズはサーモグラフィーと同規格のものに置き換えられており、見えた先にいる二体のシルエットのみが赤く反応し、様子からして戦闘中だと推察する。

 

『報告。レーダーから膨大なエネルギー波を検知。……解析結果ですが、二つのうち一つは星河水希とリヴァイアの二人から発せられたものと思われます』

 

事の詳細を伝える彼の声は、左腕につけているトランサーから発せられていた。

 

「もう一つは多分、ジャミンガーのようだな。見た目かなりゴツいけど……」

『はい。ですが実際の戦闘能力は彼らの方が優れている。それだけでも十分脅威に感じます』

「確かに、ジャミンガーに隙を与えない辺りちゃんと戦い慣れてるよな。 ……? あれって、翼か…?」

 

水希を相手にしている敵の予想も合致し、体格差をものともしない軽快な身の熟しを目の当たりにして青年は感心するのだが、突如訝しむように水希を注視すると彼も遅れてその異変に気づく。

 

『これは……かなりまずい状況にありますね』

「何かわかったのか?」

『えぇ。わたしの見解が間違っていなければですが、恐らく禁忌を破ろうとしたのでしょう。それも上の許可もなしに』

「マジかよ……。 聞いた話じゃ、おいそれと破れないもんなんだろ?」

『そのはずですが……いや、もしくは承知の上で実行したとしか……』

 

考えられませんと言うのを遮るように、ジャミンガーを倒す瞬間を二人は見逃さなかった。

 

『対象、沈黙。星河水希はウェーブアウトしたようです』

「みたいだな……それで、さっき言ってた禁忌を破ってからどのくらい経った?」

『20秒も経過していません。あの方の言う通りなら、力を使用する時間が長いほど負荷が増すものですから。今回は試し打ち程度に留めた、と言ったところかと』

 

彼の持論を聞いて、表情を険しくさせたまま双眼鏡を下ろす。

 

「試し打ちで敵を瞬殺か……お前から見て勝算はあるのか?」

『本来の彼らの実力は未知数。故に、今のわたし達ではまず勝機は薄い。ですが奇襲を仕掛けるか、本気を出される前から短期決戦に持ち込めば済む話です。 機動力なら彼らにも後れを取らないはずでしょう』

「ハハハ! 俺も随分と買われてるな! パートナーのお前にそう評価して貰えると尚更」

『無論、まだまだ課題点は多いですが』

「仰る通りです、はい」

 

用件も済んだところで二人は展望台を後にするが、

 

『わたしからすれば彼はまだ、殺すには惜しい存在だと思いますがね。散々使い潰しておいてこの仕打ちとは……上の意図は心底理解しかねます』

「まぁな……」

 

水希について思うところがある彼に同感し、青年は苦笑してしまうのだった。

 

◆◆◆

 

展望台での出来事から少し遡る。

 

水希がジャミンガーと交戦している一方で、スバル達四人は校内にある購買部へと避難して尚そこに留まっていた。

……というのも、体育館を出た直後。水希から事情を聞いて駆けつけた育田と鉢合わせ「勝手な行動はしないようにな」と鬼気迫る顔をして念押しされたからだ。

当然。一人を除けば、妙な真似はしないはずだが。

 

スバルが急にトイレに行きたいと言い出し、引き止める間もなく走り去る様子は三人からすれば呆れたものだったろう。

 

ルナ「……ゴン太、キザマロ、ちょっといいかしら?」

キザマロ「なんですか急に?」

ゴン太「どうしたんだよ、いきなり……」

 

二人はなんやかんや言いながらルナに視線を向ける。

 

ルナ「あの人は覚えてないと思うけど。……私、過去に会ったことがあるかもしれないの」

ゴン太「……あの人って……」

キザマロ「水希さん、ですか…?」

ルナ「そう。二年前、3年生の冬休みに誘拐事件に巻き込まれてね」

ゴン太「誘拐…?」

キザマロ「そんなことありましたっけ…?」

 

ルナの発言に対して理解が遅れるのは、生徒に不安を煽りすぎないためでもあり、また被害者であるルナの傷口を抉らないようにと教師等があらかじめ配慮していたからだ。

二人の様子からあまり知れ渡っていないと察して、続ける。

 

ルナ「私としても良い思い出じゃないから、墓まで持っていくつもりだったのよ」

キザマロ「じゃあ、どうして急に?」

ルナ「誘拐犯から私を助けてくれた人と水神様、ひょっとしたら水希さんがそれに当てはまるんじゃないかと思ってね」

ゴン太「……つまり、どういうことだよ委員長?」

ルナ「だ〜か〜らぁ! 水希さんが水神様かもしれないってことよ! まったくもう、少しは人の話をちゃんと聞きなさいよね!? アンタいっつも食べ物のことしか頭にないんだから!」

キザマロ「まぁまぁ落ち着いてくださいよ委員長…。 ゴン太くんだって悪気があるわけじゃあ……」

ルナ「悪気がない方が余計タチ悪いわよ!!」

キザマロ「否定はできませんけども……」

 

要点を掴めなかったゴン太にルナは怒鳴り散らし、キザマロが割って入って宥める始末であるが、一度咳払いをして話を戻そうとした。

 

ルナ「つまり、水希さんはロックマン様と接点があるかもしれないと思うのよ」

キザマロ「もしそうだとしても委員長、どうするおつもりで…?」

ルナ「うふふ、決まってるじゃない。ロックマン様にサインを書いて頂けないか聞いてみようと思うのよ!」

ゴン太「……なんというか……」

キザマロ「……委員長らしい、ですね……」

 

目を輝かせ、さも当然とばかりに愛しのロックマンへお近づきになろうと企てる傍ら、その場でズッコケそうになり呆れ果てる二人であった。

 

 

◆◆◆

 

その頃、スバルとウォーロックはというと……

 

スバル「ひとまず誤魔化したけど、どうすんのさ?」

ウォーロック『アイツらの加勢に決まってんだろ!』

スバル「言うと思った」

 

人目につきにくそうな男子トイレへ駆け込み、相方から変身を促されるところだったが、

 

「その必要はないよ、ウォーロック」

 

そう言った直後、閉まっていた個室のドアが開く。

出てきたのは水希だった。

 

スバル「兄ちゃん……ちゃんと流したの?」

水希「どう考えても違うよねさっきまで上で戦ってたんですけど!? 流石のアンタでも想像つくはずだよね! ねぇ!?」

スバル「ちょっと何言ってんのかわかんない」

水希「いや分かれよ?! ……ちゃんと使ってはないな、よし!」

リヴァイア『なんか誤解を生みそうな言い回しになってますぞ、水希さんよ……』

 

唐突にボケ散らかす水希(アホ)スバル(ポンコツ)の会話よ……。

兎にも角にも5分と経たずに戻ってきたということは、

 

ウォーロック『その様子じゃ、もう終わったのか?』

水希「まぁね。さっき仕留めたとこ」

ウォーロック『相変わらず仕事が早いことで……つーかそれよりもよぉ、さっき馬鹿デケぇ力を二つほど感じたんだが、ひょっとしなくてもお前か?』

水希「半分当たり。急に敵がパワーアップしてこられたから、こっちもそれなりにね」

ウォーロック『……目には目をってか?』

水希「そういうこと」

 

回りくどい会話の意味を何となく察したスバルは、動揺を隠せないまま水希に問い詰めた。

 

スバル「大丈夫なの兄ちゃん? 言ってたじゃん、前は負荷が大きかったって」

リヴァイア『そこら辺の(さじ)加減は考えてるさ。だから長くても30秒程度に留めたんだよ』

スバル「30秒? ……え、30秒?!」

リヴァイア『うん。30秒』

水希「何回同じこと言うねん……。んで、この後どうする? 早いとこアマケンに行かなきゃだし」

スバル「あぁ……どうしよう……」

リヴァイア『もういっそのことバックれたら良いんじゃね?』

ウォーロック『オレも賛成』

水希「それはダメ。まず不審がられるでしょうが……」

リヴァイア『冗談。で、やるべきことは』

水希「一つしかないっしょ」

 

……その後。

 

ルナ「あ、あの! 水希さんは……」

水希「あーあーなんかお腹痛いから病院行かなきゃなー(棒)」

ルナ「え…!?」

スバル「悪いけど失礼するね!」

ルナ「ちょ、ちょっと!!」

 

帰り際、サインくれくれ星人に足止めを食らうが上手いこと切り抜けて学校を後にする。

 

ルナ「う……ぐぬぅ……なんなのよぉ……!」

ゴン太「……大丈夫か委員長?」

キザマロ「今日はもう帰った方が――」

ルナ「うるっさーい! 絶対に、絶対に正体を暴いてやるんだからぁ!」

 

みすみすスバル達を見送り、チャンスを逃してしまう羽目になったせいか、苦悶に満ちた顔を浮かべていたが、ここで諦めきれるほど彼女は折れていない。と、長い付き合いであるゴン太とキザマロは再認識するのだった。

 

 

 

 

場所は移り、天地研究所。

水希達はロビーの受付に立ち寄る。

 

「あらこんにちは。いつも通り所長に御用ですか?」

 

何度も通い詰めているため受付嬢には顔を覚えられていたので、やや砕けた口調のまま出迎えられる。

 

水希「そんなとこですね。今回はスバルと一緒なんですよ」

「でしたらゲストパスを二枚お渡ししますね」

水希「いや、一枚でお願いします」

「? ……成程。では所在を確認しますので少々お待ちください」

 

天地から受け取った通行許可証を提示すると受付嬢も自ずと納得し、受話器を手に取る。

 

「萩山です。お客様が二名お越しになられましたが今どちらに……ええ、そうです。畏まりました、それでは失礼します」

 

思ったよりも手短に終わり、受話器を戻した。

 

「お待たせしました。所長は今、研究室におられます。お帰りの際もう一度こちらにいらして下さい」

水希「わかりました、ありがとうございます。それじゃ行こ」

スバル「……うん」

 

職員専用区画へと続くゲートに向かい、付属のパネルに許可証をかざして通り抜けてからエレベーターに乗り、水希は入って右奥の壁に背を預けたまま腕を組み、スバルは左奥の壁にもたれかかり俯いていた。

 

スバル「……いいよね、兄ちゃんは何でも持ってて……」

水希「どうした? また不機嫌そうにしちゃってさ」

 

目的の階まで上がる途中、スバルは羨ましがるように呟くが、二人きりで静まり返っていたせいか水希の耳にも届いた。

 

実際、ゲストパスを手渡した時もスバルが不貞腐れているのに気づいてはいた。わかった上で口に出すまで自然体を装っていたのだ。

 

スバル「だってさ、いつの間にそんなもの持ってると思わないじゃん。科学の話とか興味ない感じなのに」

水希「実験体として付き合わされてるし、良く言えば持ちつ持たれつの友ってやつよ。って言ってもほとんど大吾さん絡みの縁だけどね」

スバル「実験って…もしかして危ないやつじゃ!?」

水希「違う違う。バトルカードの性能を試すためにウイルスと戦って調整してんのよ」

スバル「あぁ、そっち……?」

 

水希の身に危険が及んでいるのかと心配するが、拍子抜けすぎてそれ以上は言う気も失せたらしい。

エレベーターの扉が開き、スバルは水希の後をついていく。

 

水希「なんなら自分から頼んでみたら? 天地さん優しいしすんなりOKしてくれるかもよ」

スバル「……なら、そうしてみようかな」

 

程なくして研究室に着き、ノックをすると扉越しから「どうぞ」と言われたので入る。

 

水希「来たよ、天地さん」

天地「やぁ、待ってたよ。それで、どのようなことを聞きに来たんだい?」

スバル「……これの事、なんだけど……」

 

スバルは大吾の形見であるペンダントを外す。そしてある日を境に光ったこととその原因が分からずじまいであると告げて差し出した。

受け取った天地も神妙な顔を浮かべつつ調査に取り掛かるのだった。

 

 

それから一時間後。

結果として分かったのは、このペンダント自体が小型の通信機で損傷はあれど機能し続け ており、また光った原因については身につけた状態でブラザーバンドを結ぶことを条件に通信機能が作動した。

以上を踏まえ、ごく稀にだが誰かと交信している可能性が見られるとのことだった。

 

そんな緻密なものを作り上げる大吾の力量には、天地はおろか聞いていた二人ですら息を呑むものだっただろう。

 

天地(仮に大吾先輩が生きてるとして、捜索の手がかりとなるために作ったのなら辻褄は合うはずなんだがな……)

 

スバル(父さんからのアクセスシグナルはロックが現れてから全く感知しなくなったけど、今日のはまた別なら、一体誰が……?)

 

水希(……なんか無性にドーナッツ食いたくなったわ……)

 

一人、間抜けな顔をしているが、三者三様に思案する様子が窺える。

 

スバル「ねぇ、天地さん、誰かと通信できるのは稀だって言ってたよね?」

天地「そうだけど……もしかして試すつもりなのかい?」

スバル「うん、相手が父さんかもしれないなら、やってみる価値はあるんじゃないかって思ったんだけど、どうすればいいかまでは……」

天地「単純だよ、通信環境の整ったところまで行けばいいだけ。せっかくここに来たんだ、あそこのロッカーの近くにある非常階段から屋上へ行けるから、そこで試してみるのもいいと思うよ」

スバル「分かった、ありがとう天地さん」

 

天地の提案のもと一人屋上に向かった直後、水希もまた沈黙を破るように口を開いた。

 

水希「……ひとつ聞きたいんだけど」

天地「何だい?」

水希「ここまでの流れから、大吾さんの意図は読み取れたの?」

天地「そうだねぇ…。言うなれば三賢者が地球に居座ることになったのもある種の保険でしかないのかもね、先輩の仕組んだ思惑通りなら」

水希「じゃあ、アクセスシグナルの送り主がもし大吾さんじゃないとしたら……」

天地「間違いなく今回は彼らの仕業としか思い当たらないね。さっきペンダントを解析して分かったが…スバル君に交信したのが複数人、それも同じタイミングで、位置的にサテライトから発信されたということになる。

だから……あの子には悪いけど、現時点では確実に大吾先輩とコンタクトが取れるわけじゃないんだよ……。可能性があるってだけでね」

水希「……だから、あえて誰かと繋がってるって話したわけ……」

 

天地はそれ以上は何も返さなかった。

 

水希(……どうせアンタのことだからペンダントやビジライザーが見つかったのは偶然にしろ、いずれ僕の隣にスバルも立つと見越していた。そのつもりで僕を地球に帰そうとしたんでしょ? 大吾さん……)

 

天地「それはそうと気がかりなのは君の方だ。困るんだよ、そう易々と()()()()()()()()()()()

水希「……なんで分かったの?」

 

全て見透かされているような発言に顔を顰め、誤魔化さずに訊ねた。

 

天地「悪いね。名前は明かさないけど、いつどこでも君を監視できる人から情報を得ているんだよ。……で、話を戻すが使っただろリンドヴルムを。

再三注意したはずだよね? 万が一の出来事に見舞われたらもう誰も助けることができないって。下手したらどうなるか、君が一番理解してるんじゃないのか?」

水希「けど……それでも最終的に力をコントロールできなきゃ、修行し続けた意味すらないんだよ」

 

当然ながら水希自身、過去に起きた事故を経て力を開放しても碌なことにならないと身に染みて分かっていた。けれど、どれだけ鍛えても敵わない輩がこの先居てもおかしくはない。だからこそ、強くなる為にはリスクを顧みずリンドヴルムを制御すべきなのではと、ペガサスに推されてからずっと考えていたのだ。

 

天地の他にも反対を申し出る者は多くいるはずだろうが、いずれ克服しなければ何も変わらない。

力に飲まれ自我を失うかも知れない、最悪加減を間違えて殺すかも知れないという恐怖と葛藤しながら……。

 

水希「知ってるでしょ? 深祐さんを相手に後れを取って信武にだって勝てなかった。何もできなかったんだよ……。今のままでも勝てる自信ないのにどうしろって言うのさ?」

天地「甘えたことを言うな。君は単に怯えていただけだろう。その力で友達や家族を傷つけてしまうのが何よりも嫌だから、そう思う気持ちはわかるけど、その弱さが以前の戦いでの敗因となった。忘れたのか?」

水希「わかってるよそんなこと……」

天地「本当に理解しているのなら、つべこべ言わずに向き合え。ここに帰ってきた時点で打つ手なんかなかった。どのみち君には逃げるという選択肢は無いんだから見つけ次第戦うしかないんだぞ。それとも自分の手を汚したくありませんとかほざくつもりか?」

水希「………」

 

天地は水希に対して、着実と力をつけ、それこそ禁忌を破らずとも十分に戦えると評価しているが、三年前の件で深祐と信武の二人を遠ざけたことによる負い目が水希を弱くさせているかもしれないと危惧していた。

 

事実、居場所を突き止めるのも容易なはずだが、それを延々と引き伸ばしている時点で決心しきれていないのが分かる。

 

本当に守りたいのなら、友を助けたいのなら、意地でも心を鬼にして向き合え(たたかえ)

そう説得したつもりだが、ついに黙り込んで俯いてしまう。その隣にリヴァイアが姿を現した。

 

リヴァイア「……もうその辺にしてやってくれ、天地さん。水希だって戦わなきゃダメだってのは分かってる。だから……」

天地「ほら、そうやっていつも甘やかす。大体ね、君が水希君と出会わなきゃ、こんな悲劇に見舞われることも、ブラザーを捨てる決断に至ることも無かったはずだ。

戦いとは無縁の生活を送れたかも知れないのに……そもそもの話、この子を追い詰めているのが君自身だと自覚していないのか?」

 

珍しく怒りを露わにする天地だが、リヴァイアは否定せず、バツが悪そうに視線を落とした。

 

リヴァイア「してるよ、そりゃ申し訳ない気持ちで一杯だったさ。よくよく考えりゃここにいる地球人(みんな)と安易に接触するべきじゃなかったかもしんねぇ。……けど、今までバケモン扱いされてきた分、初めてここに来て、いの一番に俺という存在を認識してくれて友達として受け入れてくれたのがめちゃくちゃ嬉しかった。

だから……ユリウスと生き別れたその時から誓ったんだよ。この先何が起こったとしても絶対に水希だけは見捨てねぇって。それが唯一、俺にしかできない償いだからな」

水希「リヴァイア……」

 

不意に肩を抱き寄せられ顔を見上げると、リヴァイアもそれに気づき心配するなと言いたげに微笑みを浮かべ、水希はどことなく安心感を覚える。

そんな二人を見て、呆れたように溜息を溢した。

 

天地「カッコつけてるつもりかい? はっきり言ってダサいよ。結局の所、水希君から離れたくないんだろ。一人でいると心細いから」

リヴァイア「そう捉えてくれても構わない。俺だって、一度はリンドヴルムの野郎を打ち負かしたさ。俺に出来てコイツに出来ないのなら、とっくの昔に故郷へ帰ってた」

天地「……好きにしなよ。殺されても知らないからね……」

 

これだけ言っても聞かないんじゃ時間の無駄でしかない。

天地は説得を放棄し、屋上へ向かおうとする二人を見送るしかなかった。

 

水希「元からそのつもりでいたから、そいつに伝えといて。殺せるもんなら殺してみなよ、返り討ちにしてあげるって」

 

非常階段の扉が閉まった直後、天地は二度目の溜息を吐いた。

 

天地「……宇田海や信武君を相手に善戦できなかったくせによく言うよ。君がそうやって躊躇しているから事態を悪化させているって、なんで気づこうとしないんだ。これじゃ、犠牲者となった全員が浮かばれないじゃないか……」

 

 

◆◆◆

 

 

非常階段に入った途端に地響きが起こるが、すぐ体勢を立て直して階段を駆け上がり、勢いよく扉を開けた。

 

水希「スバル、無事!?」

スバル「兄ちゃん…!無事だけど…… 」

水希「?……まさかとは思ったけどさ……」

 

スバルが指差す方向、上空に見知った顔ぶれが三体もいる、というか地響きが起こった際に予感はしたけどいきなり過ぎでしょう、アンタら。

 

「久しぶりだな、相変わらず息災であったか、リヴァイア」

 

中央にいるペガサスが、見開いて驚くリヴァイアに声をかける。

 

リヴァイア「あぁ、久しぶり、師匠」

スバル&ウォーロック「『師匠?!』」

 

二人が師弟関係であることをスバル達には話してなかったから、驚かれるのも無理ない。

本来は再会を喜ぶはずだけど、ペガサスから顰めっ面を向けられているような気がしてならなかった。

 

ペガサス「以前とは見違えるほどのチカラが感じられるのだが……お前、まさかリンドヴルムを?」

リヴァイア「そうなんだよ。ここに来る途中チカラを解放して30秒と経たずに敵を倒しちまったけど、確かに手応えはあったんだ。それもこれも師匠が背中を押してくれたお陰かもな」

 

リヴァイアが意気揚々と経緯を話すが、ペガサスだけでなく聞き耳を立てたレオとドラゴンの二人も表情を曇らせた。

 

ペガサス「待て、リヴァイア。先程の話、我は皆目見当もつかんぞ?」

水希「……は?」

リヴァイア「え? いや言ってたじゃん、アクエリアス(あの女)が持ってた強大なチカラを使えるだけの器が俺にはもう備わってるって!」

ペガサス「聞こえぬのならもう一度言うぞ。我はそのように進言した覚えは――」

リヴァイア「嘘に決まってる! だって、一週間前の夜!水希の精神世界に引き摺り込んでまで俺たちに会っただろ! なぁ!? ……、嘘だろ……」

 

声を荒げて「俺の意見は間違ってない」と主張しても、ペガサスは首を縦に振ろうとしない。

終いには崩れ落ち、澄んだ水色の肌が淀んだかのように青褪めてしまうが、少しでも不安が和らぐようにと傍に寄る。

 

水希「どうなってんの、一体……?」

レオ「我々も状況は掴めんが消去法で考えるとリンドヴルムの仕業やも知れんな。しかし、彼奴の口車に乗せられようとは情けない」

ドラゴン「これではAM星にいた頃の二の舞になるではないか……」

 

彼ら三賢者にとって凶報なのは明白だ。レオの言い分が間違ってなければリンドヴルムの野郎に都合良く誘い込まれたってことだから。

 

リヴァイア「ごめん、水希……俺、散々言っておいて、またお前に迷惑を……」

水希「謝らないで。まだそうなるって確定した訳じゃないじゃん」

リヴァイア「だけど……!」

水希「忘れた? あの野郎が言うに僕の素質次第でチカラをコントロールできるかもって話してた。ならもう後戻りなんて出来ないでしょ?」

 

今にも泣きそうなリヴァイアの額を、自分の額と合わせる。

 

水希「迷惑かけてるのはこっちも同じ。たとえ地獄へ行くことになったとしても、リヴァイアと一緒なら怖くない」

リヴァイア「水希……本当にごめん……」

ウォーロック『おい、俺やスバルにも分かるように説明しろ』

 

トランサー越しから説明を要求するウォーロックと、戸惑いや焦りといった感情がないまぜになっているスバルに要点を伝える。

 

水希「要するに、チカラを開放するタイミングを完全に見誤った。……けど、諦めるにはまだ早いってこと」

スバル「そんなこと言ったって、下手したら死ぬかもしれないでしょ。嫌だよ、もう誰も失いたくないのに……っ」

 

死んでほしくないと嘆くスバルに返してやれる言葉が見つからない。

 

ドラゴン「少々予定が狂ったが、致し方あるまい」

レオ「水希。今後の戦いにおいて頼みの綱となるのは、スバルを除いてお前以外にいない」

ペガサス「よって、スバルが我らのチカラを与えるに相応しいか、戦った上で見極めてもらいたい」

水希「え、嫌なんだけど」

ペガサス「嫌だと…! お前いま嫌だと言ったのか?!」

水希「うん言った☆」

ペガサス「うん言った☆ じゃないだろう!!」

ウォーロック『これシリアスな場面だよな…?』

 

地味にノリツッコミする天馬さんに慄く一同である。

なにこのカオス。

 

水希「大体なんで? アンタらが戦えばいいじゃん」

ドラゴン「確かにな、我らが直々に相手をするのが筋だろうよ」

レオ「しかし、だ。その役目はお前が適役だからこそ提案したまで。お前とて悩んでいるだろう、スバルを戦場に立たせるべきかと」

水希「そこまで思考読めるとか、アンタらもしかしてストーカーなん?」

 

「断じて違う!」と三賢者達は鬼気迫るようにハモりだす。

 

ペガサス「せめて、もっとマシな言い方をだな……まあ良い。とにかく、スバルが我らのチカラを授かるに相応しいか、証明して見せろ」

スバル「兄ちゃんと、僕が……?」

 

とうとう強引に持ってこられたではないか…‥。

スバルは僕と戦う理由がない為、未だに困惑してしまっている。

尤も、自分も同様に躊躇っているけれど、この場の雰囲気から逃れられそうにない。

やむを得ないか。

 

水希「1分だけ。倒すことが目的じゃないなら充分だと思うけど?」

ペガサス「……良かろう、では試練を開始する」

スバル「待ってよ! 急に決められても困るって!」

水希「――スバル、先に謝っとく」

 

スバルの発言を遮るように謝罪を言う。

 

水希「僕らの戦いにアンタまで巻き込んじゃったのを後悔してるの。あの時ペンダントを渡した時点で今みたいな未来になるって分かってたら、真っ先に破壊してた。 でも大吾さんの形見を預けるのなら、僕やお姉ちゃんにじゃなく、スバルにすべきだと思った。唯一の心の支えになればって勝手に思ってた……」

スバル「……兄ちゃん」

水希「だから一つ賭けをしない? もし三賢者達に見込み違いじゃないって証明できたら、三年前のこと、知る限りのことを全部話すって約束する」

 

しばらく考え込むが、半信半疑と言える視線を向けられた。

 

スバル「本当に、話してくれる?」

水希「じゃなきゃ釣り合わない。――リヴァイア、やれそう?」

リヴァイア「大丈夫」

 

決心がつかないなら、不本意だけど取引してでもその気にさせればいいだけだ。

再び、電波変換してハイドロウィップを手に持つ。

 

水希「準備ができたら来な。遊んであげる」

 

そう言ってウェーブロードに上がる。

 

ウォーロック『どうする、ハッタリかもしれねぇぞ?』

スバル「確かにいつもはぐらかしてばかりだったけど、兄ちゃんの目を見て本気だってのが伝わった」

ウォーロック『フッ、なら一泡吹かせるか!』

 

スバルも覚悟を決めたようだ。

 




ペガサスと意見が食い違う場面にて、昨日の夜→一週間前の夜に修正。
過去話を見返しながら書かなきゃだめだってのにこの体たらくですよ……。


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29話 兄ちゃんを許すつもりは無い

場の雰囲気に流され、結局は戦うことになってしまった。

 

――【自分の得た力で、大切な人を守るために戦う】……それが今の僕にとっての生きる意味なんだ。

 

いつか話した通り、信武や深祐さん、お姉ちゃん達と同じくらいにスバルは僕にとって本来は守りたい人、守るべき人だと今でもそう認識している。

けれど…天地さんから指摘された通り、嫌でも戦わなきゃダメな時だって来るものだ。

 

水希「……来たか」

 

ただ、今回は殺し合う必要がない代わりに、一分と限られた時間で実力を測らなければならないことになる。

尤も、チカラを受け取るに相応しいかは三賢者達が直々に見極めてくれるだろうから、その辺は問題ないはずだ。

 

水希「覚悟はできた?」

スバル「……正直、気が乗らないけど、兄ちゃんのことだから本気は出さないんでしょ?」

水希「よく分かってんじゃん。もちろん攻撃はするけど武器はハイドロウィップとクリスタルバレットだけ。いつも愛用しているバトルカードは一切使わない」

 

右手に持った鞭と左手から生成された魔法陣と雹弾を、それぞれ見せつけるように胸元まで上げて一旦下ろす。

 

水希「ただし、スバルはどんな手を使ってでも攻撃してくれて構わない。まぁ、ハンデはこんくらいかな」

スバル「……分かった」

 

ルール説明を終えたところでようやく互いに構えを取るが……心なしか、ここ数日でスバルの顔つきが変わっているように感じた。

最初こそ、敵を前にしてたじろいでいたのが嘘みたく、今となっては果敢な眼差しを向けられている。

三年前の話をするって言ったことが思いのほか効いたのかもな。

 

スバル「行くよ! 兄ちゃん!!」

水希「来な。初手は譲ってあげる」

ウォーロック「舐めやがって…! スバル!」

スバル「わかってる!」

 

小手調べのつもりか、スバルはロックバスターで狙い打つが、前方に魔法陣を展開して一歩も動かずに対処。

 

ウォーロック「な、ズリィぞお前!」

水希「誰も防御しないとは言ってないけど?」

 

彼からは気に食わなさげに言われるが、意に介さぬままハイドロウィップを振るう。

スバルは一瞬目を見張りながら飛び退いて回避し、再び攻撃を仕掛けようとするも、追撃で放った雹弾に気づいてシールドを張ったが、しかし……

 

 

ピシッ……!

 

スバル「?! 当たっただけでヒビが…!?」

ウォーロック「……手加減されてるとはいえ、こりゃ予想以上だな」

スバル「マジか……」

 

雹弾を弾いた箇所に亀裂が入って肝が冷えるような寒気を覚えただろうが、ウォーロックの言う通り加減はしている。

射出速度を遅くしたことで威力をだいぶ抑えているのだ。

盾の耐久性にもよるけど、仮に通常の速度で打つとしたら、障子に穴が開く感じに容易くぶち破ってたはずだからね。

 

水希「そらっ!」

 

勢いよくハイドロウィップを振るうと盾は呆気なく破れた。

 

スバル「ッ! バトルカード、プレデーション!」

 

さて、次は……左腕をソードに変形させたようだ。

 

(……来る)

 

接近戦に切り替えてくると予想した通り、突進してくる。

鞭の特性上、剣とは相性が悪いと見られがちだけど、そんなの僕からしたらどうってことない。

形状を垂直に保ったまま瞬時に硬質化させ、金属同士がぶつかり合うような音が甲高く響いた。

 

スバル「ッ! うっそ…?!」

水希「嘘じゃないんだなぁ、これが。水ってさ、やりようによっては変幻自在で、こうして受け止めることくらい訳ないのよ」

スバル「……もう何でもありじゃん……」

水希「そ、何でもありなの」

 

そう言った直後に突き飛ばし、魔法陣を四つ召喚する。

 

水希「上手く避けてみな。――〈クリスタルバレット〉!」

スバル「……くッ!」

 

速度は落としたまま、且つマシンガンの如く立て続けに放った。

 

初撃を躱した後もワープを駆使し、あらゆる方向にあるウェーブロードを転々と移って回避。

時折ソードではたき落とす動作も見られた。

 

スバル「バトルカード、プレデーション! 〈ジェットアタック〉!!」

 

そうして見事攻撃を潜り抜けたスバルは、反撃に出ようとバトルカードをウォーロックの口に入れる。

ソードの時と同様に、左腕に鳥型ウイルスの頭が取り付けられ、それを僕に向けた瞬間。助走もなしに急接近しにかかる。

 

水希「…………」

 

普通なら避けるという選択肢以外はないが、目前まで迫られるその時になって、理由もなく賭けに出ようという考えに至った。

片脚を後ろに伸ばして踏ん張れる体勢を取り、硬質化したままだった鞭の先端と柄を握りしめ、クチバシと噛み合わせるようにした結果、難なく受け止めることに成功した。

 

ウォーロック『うっそだろお前?!』

 

無茶極まりない行動に驚くウォーロックと同様、スバルも目を見開いて驚きつつ、拮抗する力に耐え忍ぼうとするけれど、そう長くは持たなかった。

 

水希「おおらああああ!!!」

スバル「……! っ……うぁ……!」

 

ジェットアタックの推進力が弱まったのを機に強く押し返し、硬質化を解いた鞭を横薙ぎに振るうと、スバルはシールドを張って防御できたが、着地が間に合わず尻もちをついてしまった。

 

スバル「ぅっ、痛ったぁ……」

 

……ここまで戦えれば、頃合いだろうか。

 

水希「……スバル、立てる?」

 

武器を仕舞い、地べたに座り込んだまま腰をさする弟のもとへ寄り、手を差し出して引っ張り上げた。

 

スバル「兄ちゃん、殺す気…? まるで容赦の欠片もなかったんだけど」

水希「この程度で音を上げられてちゃ困るよ。まだこっちは半分も力出してないんだからね」

スバル「それは分かってるけど……」

ペガサス「両者、そこまでだ」

 

僕らの間に割って入ってきた三賢者達に目を向ける。

 

水希「で、結局どうすんのさ?」

ペガサス「無論、答えは一つしかあるまい」

レオ「一分と短い中で、予想を上回る戦いぶりを見せただけで充分だ」

ドラゴン「元より望んで力を与えに来たに過ぎん。スバルに相応の素質が見られる以上、我らとて何も文句はない」

スバル「……僕も、できることなら、チカラは欲しいかも……」

 

彼らのお眼鏡にかなったとはいえ決断に迷うどころか自分の口から「欲しい」と言い出すとは思いもよらなかった。

 

水希「いいの? スバル。そんなに決断を急いじゃって」

スバル「兄ちゃんだって言えた義理じゃないじゃん。それに、ここまで来ておいて、後の事を全部任せきりになんてできるわけないでしょ」

水希「……フッ、生意気だっつうの」

ペガサス「では改めて……スバルよ、受け取るが良い、我らの力〈スターフォース〉を!」

 

三賢者の胸部からそれぞれ青、赤、緑に光る球体が現れ、スバルの体内に取り込まれたと同時に光の柱に包まれていく。

 

 

 

 

 

その夜、夕飯を済ませて30分経った頃。食器を洗う最中の姉に一声かける。

 

水希「お姉ちゃん」

あかね「何?」

水希「スバルと話がしたいから、二人で展望台に行ってくる」

 

外へ出る旨を言うと、蛇口の水を止めこちらに首を回した。

 

あかね「……今日はやけに外へ出たがりね、どういう風の吹き回しよ?」

水希「まぁその…自室より落ち着いた場所で話す方がやり易いかなって思っただけ」

あかね「はいはい、行ってらっしゃい」

水希「うん、行ってくる」

 

作業を続ける姉に挨拶を返して、家を後にした。

 

 

◆◆◆

 

水希「ここなら邪魔される心配もないでしょ」

スバル「確かにそうだけど、それよりもわざわざ変身する理由は何?」

 

展望台に訪れて早々、僕から電波変換するように促し、今現在ウェーブロードの上にスバルと向かい合うように座っている状態だった。

 

水希「これからスバルに、五年前から今に至るまでの記憶を見せながら事の経緯を話そうと思ったからだよ。けど、この技……手順を踏む前提として、変身した後じゃないと使えないの」

スバル「記憶を…見せる? ……出来るの、そんなこと」

水希「フィクションだから、出来たこと」

スバル「急なメタ発言やめてもらえます?」

水希「――時間がないからもう始めるよ。いいよって言うまで絶対に目を開けないで」

 

某デジタル教材のキャッチコピーっぽいメタはさておき、頭部を覆うヘルメットに手を当てた後、スバルは言われるがまま大人しく目を閉じた。

それに伴って、一度目を閉じ、呼吸を整えてから開けた。

 

水希「――〈透視(ビジブル)記憶の回帰(レミニセンス)〉――!」

 

詠唱した瞬間、額に当てた手が光を放つ。

 

今から五年前。キズナ号に搭乗する前の準備段階と、搭乗後のウイルス討伐を主とした活動の事。

その二年後に受けた惨劇と大吾さんと別れるまでの経緯。

それからの三年間。

 

キャパオーバーにならない程度に、要点を絞り込んだ記憶をスバルの脳に流し込んでいく。

 

スバル「――!? ―――――ッ!!!」

 

それでも、いきなりと言えるほど大量の情報を脳内に送りつけているのだ。

自分からやっておいてアレだが、時おり顔を歪ませては声にならなそうに呻く姿が、痛ましくて堪らなかった。

 

その苦しみも、数十分後にようやく解放される。

 

スバル「ふぅ…ふぅ……」

水希「――お疲れ、スバル」

 

汗を垂らし息を乱しているスバルの肩に触れ、そっと囁くように労う。

 

水希「これで分かった? 今まで隠してきたこと、全てを」

スバル「うん。……良い思い出があっても、ほとんど絶望に上塗りされてるようで、辛いってのが分かった。だけど……」

 

ほんの少しの間、沈黙するが、息が整ったところで口を開けた。

 

スバル「例え、それら全てが真実だとしても、決して悪意があってやったわけじゃないとしても、兄ちゃんを許すつもりは無い。置いて帰った事に変わりないんだから……」

 

怒りを滲ませた声色で許さないって言われたのに。……こう考えるのは不謹慎だってのに、

 

スバル「……だけど、チカラをもらって三賢者達から色々言われた後に、真っ先に思い浮かんだ守りたい人が……他でもない、兄ちゃんなんだ」

水希「……え?」

 

面と向かって言われ驚きを隠せなかったが、同時に心が軽くなった気がした。

こんな感情、本当は抱いちゃダメだってのに……。

 

スバル「父さんがいなくなって辛かったけど、仕事でバタバタしてた母さんの代わりに兄ちゃんがいてくれたから、少しだけ立ち直れた。

それに、家では何かと、兄ちゃんに頼ってばっかだったから、こんな僕にも恩返しってものができるのか、考えてたんだ」

水希「スバル……」

スバル「……ロックと出会って、戦えるようになれた今が、その時じゃないかって……!」

 

途端に見開いて驚かれるのも無理はない。だって……

 

水希「もっと……罵ってくれれば、嫌われる覚悟ができてた、のに……」

 

涙が止まらなくてどうしようもないのだ……。

 

水希「正直、嫌だった。……スバルには、普通の男の子として育って欲しかった。 友達連れて遊んだりだとか、争い事とは無縁の生活を送ってくれればそれでよかったの。……でも、自分が追い詰めた以上、許されなくて当然だってのに……なんで……」

 

なんで、嬉しいとか思えたんだろうか。

 

親の気持ちになれたわけでもないけど、普通の男の子として生きてくれる事を望んでたのに、優しい一面が消え去る事なく育ってくれたからかな?

 

スバル「大丈夫、この先何があっても、兄ちゃんに心配されないくらいに強くなってみせるから。それが、今僕にできるかもしれない恩返しだと思うから……」

 

ボロボロと涙溢して俯いている自分を抱きしめてくれる弟に言えるのは、

 

水希「……スバル、ありがとう……」

 

感謝の一言に尽きる。



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30話 前進

ここ数日の殺伐とした出来事から一転、スバルに記憶を見せた後も仲違いする事なく、むしろ何気ない日常を今でも送れているのは本当に嬉しい事だと思う。

 

だって、今まで誰かに頼ること自体、罪悪感を持ってた僕がだよ?

頼ろうとしても別に悪い事じゃないかもって思うようになれたんだから。

 

そう意識したってだけで口下手なもんだから、まだ上手く口には出せなかったんだけどね……。

 

◆◆◆

 

4月下旬、例年より早く初夏を迎えた朝。

珍しく早起きしたスバルは朝食を食べ終えてすぐ、自室で身支度を整えていたところだ。

寄ったついでに、開いたままのドアを軽くノックする。

 

水希「忘れ物はない? スバル」

スバル「うん、昨日のうちに用意したから大丈夫…かな」

水希「ほんとに? ちょいと拝借」

スバル「ちょっと……いつの間にメモ書きを……?」

 

準備万端だから何も問題ないと言いのけるが、確認は怠るべからず。

スバルの近くまで寄って座り込み、メモに記した持参物のリストと照らし合わせながら一つずつ横線を入れていった。

 

水希「……うん、オッケー。全部揃ってるよ」

スバル「ほら〜、ちゃんとやったって言ったじゃん。もう、過保護すぎるんだよ」

水希「そうは言っても肝心な時になかったら困るでしょ」

スバル「その時は持ってきてもらうから平気です〜」

水希「はいはい。そん時はちゃんと連絡しなよ」

 

疑いをかけられ拗ねるだけでなく図々しさを仄めかしたりする年端の反応に笑って返した。

……が、のんびりお喋りしていても、今日に限ってはあまり悠長にしていられなかったのも事実。

 

あかね「スバルー、もう時間来ちゃってるわよー?」

スバル「え?……うわヤバッ!」

 

1階にいるお姉ちゃんに呼び出され、トランサーから時間を見ればなんと8時を過ぎており、より慌ただしそうにして荷物をまとめ、ついには「行ってきます」と玄関から活発な挨拶が耳に届いた。

 

***

 

あの夜のことを思い返しても、絶縁を覚悟した身としては信じられない。

 

スバルに泣かされてからはずっと、ウェーブロードの上に座り込み、暗がりのコダマタウンを二人で見下ろしていた。

 

スバル「……もう落ち着いた?」

水希「……うん。もう大丈夫…って言っても、らしくないよな。まさかアンタに泣かされる日が来ると思わなかったし」

スバル「僕も、兄ちゃんが泣く所を拝む日が来ると思わなかったよ」

水希「言ってくれるね。ほんと生意気なんだから」

 

互いを揶揄い合うなか、少しして落ち着いた頃。

 

水希「スバルはさ、みんなから結構言われ続けてるけど、結局のとこどうしたいと思ってるの?」

スバル「何が?」

水希「学校。まだ決心しきれてないって顔してる」

 

当時、昼間に学校へ訪問した後、アマケンに向かう最中も悩んでる様子が伺えたから、改めて聞き出したのだ。今後の身の振り方についてを。

図星をつかれたスバルは、不穏な顔つきのまま睨み返してきた。

 

スバル「逆に聞くけど、兄ちゃんは家に篭りがちだった僕を見て、どう思ってるの?」

 

弟へ向けていた視線を自宅の方へ移し変えて、口を開けた。

 

水希「……言わずもがな、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。大吾さんや皆を守るつもりだったのに……逆に守られてばかりで、そんな自分の不甲斐なさと無力さを悔いてた」

スバル「うん……」

水希「……でもね、ここへ帰ってきた時、身を案じてくれたアンタとお姉ちゃんのことを頼むって、大吾さんに頼まれたからね。面倒見る事になった理由があるとすれば、居候になる負い目から使命感に駆られてたってだけ。特別深い意味なんてなかったの」

スバル「……そうなんだ……」

 

勿論、過ごしてきた三年間は、決してネガティブなことばかりではなかった。

 

水希「だけどね、暇つぶしにゲームを二人で遊んだ時、鉄仮面が剥がれ落ちたように笑ってくれたスバルの顔を見てさ、本当に自分がしたいことを思い出したんだ。

誰かさんから託された願いでもある『あらゆる種との共存を望める世界を作る』ために『みんなの笑顔が絶えないよう強くなりたい』ってね」

リヴァイア『言ってたな、そんなこと』

水希「うん、言ってた。……今までの行いを省みりゃ矛盾してるし、ほとんど空振りしまくってるけど、今の今まで戦場に立ち続けられた理由はそこにあると思う」

スバル「……辛くはなかったの?」

水希「辛いよ。辛いに決まってる……。でもやるっきゃないって割り切るしかなかった。何にも出来ないまま後悔するのが一番嫌だったからさ……。

何しろ、被害者面していられる立場でもなかったから、どっちみち楽に生きられると思えなかったしね……」

スバル「そんな……」

水希「……でさ、話戻すけど、スバルはどうしたいの?」

 

問い質されたスバルはほんの数秒、考え込むように目を閉じて、再度真剣な眼差しを向けてきた。

 

スバル「兄ちゃんの意見を聞かせて。今なら、兄ちゃんの言葉に納得できる気がするの」

 

本当に自分でいいのかと聞くよりも先に言われて仕方なく、思うことを述べる。

 

水希 「そうだねぇ……率直に言うと、行きたきゃ行きゃいいし、嫌なら行かなくたっていいって思ってる」

スバル「まさかのどっちつかず…?」

水希「だってそれは、元はアンタが決めなきゃならないことでしょ。それで聞いてきたってことは、自分の考えに自信を持てないから。違う?」

スバル「違わないけど……」

 

怒りもせず、咎めもせずに指摘したら、語尾が小さくなるにつれて俯いてしまう。

そんなスバルの様子に、手を頭の後ろに組んで仰向けに寝転びながら続けた。

 

水希「……スバルの気持ちは共感できる。何せウチも中卒だからね。ただ、スバルと違った理由で学校に行く時間すら無駄だと感じてたけど、過ごしてきた時間を思い返せば、無駄じゃなかった。

部活に励んでた頃は同じ部の人達にも良くしてくれてたし、楽しかった。

心苦しいと感じる時も、リヴァイアの他に親身に寄り添ってくれる幼馴染がいたから、そんな寂しくもなかった。

案外悪いことばっかじゃないんだよね、学校に行くことって」

 

スバル自身の行く先を、僕如きが決めきれることじゃないことは分かっている。

唯一できることは、似通った境遇にあった者として、同じ戦士としての資格を持つ者として、何より…叔父として、アドバイスするくらいが丁度いいと思ったから。

 

水希「だからさ、いっそのこと、流れに身を任せてみたら?」

スバル「とうとう発言がアバウトになってきたね」

 

半目開きになって呆れ全開に言われたが、特に気にすることでもなかった。

 

水希「いいの。どう転ぶかなんてわからないもん。それに、何事も立ち止まってちゃ始まりやしないんだから。

……ただ言えるのは、ウチはアンタの思いを否定しない。それだけだよ」

スバル「……。……ふ、ふふふ……やっぱり、兄ちゃんのそういう所は相変わらずだね」

 

しばらくポカンとしていたが、途端に吹き出しては一人だけわかるような物言いをするスバル。

 

スバル「なんかもう、変に考えるのもバカらしくなっちゃった。ありがとう兄ちゃん。決めた、そこまで言うなら行ってみるよ。学校に!」

 

***

 

水希「ねぇ、リヴァイア」

リヴァイア『ん?』

水希「少しでも、スバルの力になれたかな」

リヴァイア『なれたんじゃねぇの。未だに弟離れできてない過保護なお前を反面教師として見て育ったんならな』

水希「ちょっとぉ、それ聞き捨てならないんですけど?」

リヴァイア『それでも事実だろ?』

水希「否めないけども……」

 

誰かに頼ることが悪い事じゃないと思えても、根幹は頼られたいって思う辺り、スバルやリヴァイアの言うように過保護だから、弟離れする日が来るのはまだ先かもしれない。

ほんの僅かでも成長したその背中を見届けられるのは喜ばしいことだけど、同時に昔の自分と重ね合わせてしまうせいで不安がチラつくから、尚の離れ難い。

 

何より、大吾さんが父として一番に見たかったであろう景色を独占しているから、妬いた視線を向けられる気がしなくもなかったが。

 

リヴァイア『水希。こんなこと聞くべきじゃないとは思ってるけどさ、スバルにまで見放されてたらどうするつもりだったんだ?』

水希「相変わらずいきなりだね」

 

突拍子もないことを聞かれるが、考えるまでもなく結論は出た。

 

水希「どうするも何も、自ら敵地に赴いて憂さ晴らしに奴等を根絶やしにしようと思ったよ。リンドヴルムをフルパワーで使ってでもね。

……ま、どうせ実現しないと思うよ? レティがそれを許さないからまず間違いなくブチギレるかもね。なんせ今の体じゃ制限かけられてるし、それに顔がお姉ちゃんそっくりだから怒ると怖いし……」

リヴァイア『できない理由は明らかに後者だろ……』

水希「当たり」

 

理由のほとんどが私情でしかないのは否定するつもりはない。

だって……あれはもう何年経っても身が縮こまりそうなんだもん。

お姉ちゃんに楯突くなんて無理ゲー過ぎるよ。

 

水希「でも本当、スバルに嫌われなくて良かったよ。まだ全て話せてなくても今までと関係が変わらなかったからね」

リヴァイア『……それ程、お前にとって大きな存在になったんだな』

水希「だって、スバルにとってペンダントがそうであるように、お姉ちゃんと僕にとっては大吾さんの忘れ形見だもん。底抜けに優しい一面がそっくりそのままだったしね。悪い虫が付かなきゃいいけど」

リヴァイア『今しばらくは見守ってやれよ。アイツにはウォーロックがついてるんだしさ』

水希「だね」

 

言い分に納得はいく。いざという時に心強い味方がスバルにもできたから。

尤もスバルは、僕よりもしっかりしている方だからこそ、優しさにつけ上がる人間が周りにいたとしても根負けして欲しくない。

僕にとっての心強い味方がリヴァイアとかつての信武だったように。お姉ちゃんやウォーロック、ミソラちゃんの他にも、学校内で支えとなる人が居てくれたら安心だ。

 

(そしていつか胸張って生きられる日が来るまでは、過保護な兄貴でいさせてね。スバル)

 

しばらくの間、気を落ち着かせてから1階へ降りた。

 

 

 

 

 

 

時計の針が15時を過ぎた頃。

頬杖つきながらテレビを見て時間を費やしていたけど、時たま窓の外に視線を移しがちだった。

 

あかね「まだ気にしてんの? 学校で上手くやってるかって」

水希「……お姉ちゃんこそ、ずーっと心配してたじゃん」

あかね「ありゃ、バレちゃったか」

水希「バレバレ」

リヴァイア『なんだかんだ言って、お互い気にしてるよな』

あかね「何よ。リヴァイア君はそうでもないの?」

リヴァイア『別にそうとは言ってないですよ。あかねさん』

 

相棒からも指摘されるほどウチら姉弟は顔に出てたとさ。

そりゃ当然だもん。あり得ない話、復学して早々イジメに遭うってなったら黙ってられないでしょ。

……尤も、ものすんごい偏見だけれど、お姉ちゃんなら主犯を半殺しにしかねないんだよね。経験上「赤信号(レッドゾーン)」にでもなれば妥協も容赦もしない人だからさ……。

 

あかね「……ねぇ、ひょっとしなくてもだけど、アンタ今私のことディスった?」

水希「とんでもございませんわ、お姉様。貴女様を貶すなど、わたくし命知らずではありませんもの」

あかね「嘘おっしゃい。そうやって無駄にお上品な口調で誤魔化して、ご機嫌を取ろうとしてんの知ってんだからね?」

水希「だ、だから言ったじゃん! 別にお姉ちゃんならイジメの主犯を半殺しにしかねないって、そんな物騒なこと考えてないよ。ほんとだよ?!」

あかね「よぉし決めた。夕飯前の運動に組手してあげるから覚悟しな!」

 

余計な口滑らせたせいで指鳴らしはじめたんですけど。

 

水希「いやあああああああ!! リヴァイアお願い助けてぇぇぇ!!!」

リヴァイア『お、おう任せろ!』

 

半べそかいてる僕に助太刀すべく姿を現したが、姉の目の前でゴマをするようにヒレをこすり合わせながら立ちはだかったという……。

心なしか、絵面がちょっと情けなく見えた。

 

リヴァイア「あ、あのぉ…あかねさん? そ、そのですね……このバカも故意に貴女を貶したわけではありませんので、ここはどうか気を鎮めて頂けたらと思うのですが……」

水希「さりげなく人のことバカって言いやがったよコイツ……!」

あかね「冗談よ。ていうか何で【スバルを傷つける奴絶対殺すマン】が私のこと暴君呼ばわりしてんだか」

水希「……言っちゃ悪いけどブーメラン刺さってない?」

あかね「前言撤回。面貸せコラ」

水希「いやあああぁぁぁ謝るから許してぇぇ……!」

あかね「断じて許さん」

水希「そんなぁぁ……」

 

せっかくのリヴァイアのフォローを無下にしてしまい、最終的には首根っこを引っ掴まれ、密かに(地獄の)訓練場として利用している展望台へと引きずられていくのだった。

 

あかね「それにしても、今頃どうしてるのかしらね、スバル」

水希「さぁ、何事も無く帰ってきて欲しいけど。遅くない?」

リヴァイア『確か今度、学校で劇をやるって言ったような』

水希「それだ!」

 

 

 

後に水希が、己の身に起こる災難を受け入れようとしていた、その頃……。

 

◆◆◆

 

僕、星河スバル。

ただいま学校にいますが復学初日から心がボッキリと折れそうになっておりました。

日中、授業に関してはついて行けてるから大丈夫だけど、問題は放課後。体育館にて劇の練習に付き合わされた次第であります……。

 

 

ルナ「さぁ、次のテイクに行くわよ。ロックマン様と水神様の登場シーン、スタート!

……キャー! 誰かー!!」

 

総監督兼ヒロイン役の委員長が合図した瞬間から、スイッチが入れ替わるようにセリフを言い放つ。

そして、

 

??「そこまでだ!」

ゴン太「ッ、誰だ、お前ら!?」

 

牛男役を演じるゴン太が見た先にある舞台袖から颯爽と現れ立ちはだかったのは、まさかの水神様を任された僕と、ロックマンらしいお面を被ったクラスメイトなのでした。

 

??「誰だお前らと聞かれたら」

スバル「な、名乗り上げて進ぜよう」

??「平和を乱す者、裁くため!」

スバル「人類の安寧を絶やさぬため……」

??「悪事働く所現れる!」

スバル「ゆ、勇猛果敢な味方役!」

??「ロックマン!」

スバル「水神……です……」

 

ルナ「カッットォォ!!」

 

程なくして芝居モードは終わり、委員長が苛立ちMAXの顔になって詰め寄ってきた。

 

ルナ「ちょっと星河くん、なんで急にぎこちなくなってるのよ! 本番でも堂々としなきゃならないんだからアナタもっとハキハキ喋りなさいよね? 前にも言ったけどロックマン様と同じように一番大事な役を任せてるんだから!」

スバル「うん、それは分かってる。けどこれ、ほとんど(カタキ)役の人達が言いそうなセリフじゃない?」

ルナ「何よ、私の脚本にケチつける気?」

スバル「そうじゃないってば……」

ルナ「なら何だって言うのよ?」

スバル「それは……その……」

 

いや、ツッコミたい所ではあるよ?

なんで僕が一番大事なポジションとなる水神様(兄ちゃん)の役になる必要があったのか。

腰に付けたスリットスカートも含め、再現度高過ぎじゃないかとか。

セリフをもっとシンプルにして登場するだけで良くないかとか、ありまくりだよ?

 

確かに兄ちゃんはたまに先輩風吹かしてくるから、キザっぽいイメージはなくも無いけど、ここまで重症だとは思えないんだけどな……。

 

と、各々の目に映る印象の食い違いに頭を抱えていたのだった。

 

ルナ「いい? 本番まで迫ってるんだから、帰った後もちゃんと練習しなさい! いいわね?」

スバル「わ、分かったよ……」

ルナ「みんなも! 大丈夫とは思うけど、セリフと役回りはきちんと予習しておいて頂戴ね? それじゃあ解散!」

 

本番に向けての練習は、今日のところはお開きとなった。

 

 

スバル (はぁ、疲れた……。早く帰ろ……)

 

続々とランドセルを背負って帰る子達に続いて靴に履き替え、帰宅しようとする途中、

 

??「ちょっと待ってくれるかい?」

 

その一歩を踏み留まらせた声の主、同じクラスメイトの双葉ツカサ君と顔を合わせる。

彼は今回、主役であるロックマン役を務め、僕と同じように劇での重要なポジションにいるということになる。

 

スバル「どうしたの、双葉くん?」

ツカサ「いや…スバルくんでさえ良ければ一緒に帰ろうかと思ったんだけど、大丈夫かい?」

スバル「うん、大丈夫だけど」

ルナ「珍しいわね? ツカサくんから誰かを誘おうとするだなんて」

 

偶然通りかかったのか。鍵を返しに職員室へ向かっていたはずの委員長が、僕らのやりとりを不思議そうに見ながら双葉くんに問いかけてきた。

 

ツカサ「確かにそうだけど、スバルくんとは仲良くなれそうな気がしたんだ」

キザマロ「それって、ダブル主人公の(よし)みだからですか?」

ゴン太「結構目立つもんな。二人が登場する時のセリフとかよ」

 

双葉くんの意味深な発言にキザマロは興味深そうに問い、ゴン太は腕を組みながら劇のことを話題に上げてきた。

 

スバル「言わないでよ。あれ言うの結構恥ずかしいんだから……」

ルナ「ほらやっぱりケチつけてるじゃない」

スバル「だって……」

 

あんなカッコつけ全開のセリフ……思い出すだけでも顔が火照ってしまう。

 

ルナ「まぁ、早いことクラスに馴染んでもらうことに変わり無いわね。それじゃ二人とも、また明日」

キザマロ「明日もお迎えに行きますからね」

ゴン太「寝坊すんなよ〜?」

ルナ「アンタも寝坊するんじゃないわよ?」

ゴン太「は、はい。気をつけます……」

 

帰宅する委員長達を見送った後、双葉くんと一緒に帰る事となった。

 

スバル「そう言えばさ、双葉くんも帰り道は同じなの?」

ツカサ「ツカサでいいよ。……帰り道は別だけど、一度話してみたいなって思ったから」

スバル「そっか。じゃあちょっと寄り道してもいい?」

 

僕の提案にツカサくんは快く頷いてくれ、早速、僕にとっての憩いの場である展望台へ向かったが……。

 

「ぎゃああああァァアアア!!!!」

 

階段を登りきる最中、聞き覚えのある人からの断末魔に『今すぐ引き返せ……!!』と念を送られた気がしてならなかったので、

 

スバル「……場所移そっか?」

ツカサ「う、うん……」

 

素直に従って近くの公園へと向かい、二人してベンチに座った。

 

スバル「なんかごめんね。ここまで付き合わせちゃって」

ツカサ「平気だよ、元は僕から誘ったんだし」

 

先のことを水に流してくれて良かったけど、逆に気まずく思った。

 

ツカサ「それはそうと、久しぶりの学校はどうだった?」

スバル「うーん、教室に入った時から賑やかだなって思ったし、いつの間にか緊張が和らいだんだけど変かな?」

ツカサ「そんな事ないよ。なんとなくだけど君が教室に入ってしばらくしたら、安心して通えるってことを実感したように感じ取れたんだ」

スバル「そうなの?」

 

いまいち実感が湧かない僕を見て、ツカサくんは微笑んで頷いた。

こう言っちゃ悪いとは思うが、ツカサくんは意外と人のことをよく観察していてて、どのように感じたか言葉で明確に表せる。

一見のんびりとした雰囲気も、どことなく兄ちゃんと似ていると、そう感じ取れた。

 

スバル「言われてみたら、そうかもね。でも、それだけじゃないの」

ツカサ「……と言うと?」

スバル「ついこの間まで悩んでてさ。母さんだけじゃなくて、委員長からも学校に来ないかって迫られてもその時は全然決心がつかなかったの」

 

ツカサくんは相槌もせず、ただ静かに聞いてくれた。

 

スバル「だけど、兄ちゃんから「流れに身を任せてみたら?」って言われて、その時になって行こうって思えたの」

ツカサ「……流れに身を任せる、か。なかなか出ないよね? その言葉」

スバル「うん。でも、とても兄ちゃんらしいなって思う」

ツカサ「僕兄弟がいないから、スバルくんの意見と向き合ってくれるお兄さんがいて羨ましいよ」

スバル「確かに兄ちゃんって呼んでるけど、実は僕の叔父なんだ」

ツカサ「へぇ? 意外だな」

スバル「訳あって居候してるの。その人から諭されるとは思わなかったでしょ?」

ツカサ「うん。とっても」

 

気がつけばツカサくんと打ち解けて、和気藹々(あいあい)と話に花を咲かせるとは思わなかった。

久々の学校で気を張っていたのが嘘みたいに。

 

それだけに吐き出したい気持ちがあったから、スッキリした。

 

まだ日は浅いけど、ツカサくんの他にもクラスメイトと仲良くできるかもしれない。そう考えると本当に、

 

スバル「兄ちゃんの言った通り、悪いことじゃないのかもね、学校へ行くことって」

ツカサ「その言葉、委員長が聞いたらきっと喜ぶよ」

 

思ったことを口にしたら、ツカサくんは一層微笑んで言い、トランサーから時刻を確認したらマズそうな表情をチラつかせた。

 

ツカサ「ごめん! うち門限厳しいんだ!」

スバル「そうなんだ? じゃあ、また明日学校で!」

ツカサ「うん。また明日!」

 

ツカサくんはいそいそと、来た道と反対方向へ走っていった。

やっぱり気を遣ってくれてたんだな。

 

 

◆◆◆

 

その後……。

 

スバル「ただいま」

水希「スバルぅおかえり……」

スバル「なんで疲れた顔してるの…?」

水希「組手でお姉ちゃんにボコされた」

スバル「……まぁ、ドンマイ?」

 

帰宅して早々、やつれた顔して伸びてる水希を見て、スバルは憐れむ以外に言葉が見つからなかったとさ。

 




やっとこさツカサくんが出てきましたね。
スバルが言うように水希とは似て非なる雰囲気を醸し出してますからね、彼は。
学校での出会いからその後の動向について、これからも見守って頂けたらと思ってます。


話を変えますが、二年前に描いた電波変換した信武君のリメイク絵が完成したのでアップしました。(ツイッターにも載せてます)
一部が○滅感が拭えないですが(笑)、手書きで描くとより出来映えがよくなった気がしますね。


【挿絵表示】


投稿して早3年、ようやくUA数(閲覧数)も7000を越えて感無量です。
たまに感想を書いてくれる人がいたり、中にはお気に入り登録してくれる人もいて励みになっているので、また少しでも増えてくれたら頑張れる気がします。

それでは、次回をお楽しみに
ここから更に核心へと向けたストーリーを展開していく予定です!


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31話 本当の意味での決別

一人の男の子が今日から復学してきた。

 

名前は星河スバル。

僕と同じクラスメイトで、いつもガラ空きだった席に彼が座ることでやっと、パズルのピースがはまったように満ち足りたような思いがあった。

 

その証拠に、自己紹介をした後は僕も含め皆がスバルくんを歓迎しており、時間が経つにつれて彼の不安とも取れる表情が和らぐ様子が伺えた。

 

 

『ついこの間まで悩んでてさ。母さんだけじゃなくて、委員長からも学校に来ないかって迫られてもその時は全然決心がつかなかったの』

 

……以前、先生から聞いたところによると、お父さんを失くしたというトラウマがあったせいで登校しづらかったそうだ。

 

厳密にはそれが原因で人と関わるのが嫌だったとは言え、将来のことに関して思い悩んでいたというジレンマを抱えていたのも、決断しかねていた要因だったらしい。

幸いどの学校でも通信教育を導入してるはずだから学力面に関しては問題ないのも事実だ。

 

しかし、

 

『だけど、兄ちゃんから「流れに身を任せてみたら?」って言われて、その時になって行こうって思えたの』

 

兄と呼び慕う叔父から生き様を否定をされなければ強要もされず、むしろスバルくん本人の判断に委ねるというその一言一句が彼の背中を押し、復学を決意するきっかけとなったそうだ。

 

……親に捨てられ孤児として生きてきた僕にはそういった経験がまるでない。

 

だからずっと、血の繋がりがある人との日常を欲していたせいか、彼が恵まれているように見えて余計に羨ましくてたまらないと思った。

何故かと問われようと僕だって人間なんだ。何も考えていない訳がない。

 

悟られたかはわからないが、そういった羨望や嫉妬を彼に向けてしまっていたのかもしれない。

 

ごめんねスバルくん。話を聞いているうちに居た堪れなくなったんだ。

 

もちろん本音は言えないままそれらしい理由をつけ、走り去るように家路に就こうとしていた。

 

しかしまぁ、柄にもなく全力で走ったもんだから息切れどころでは済まず、途中からバスに乗って帰宅する。

 

ようやく孤児院に着いた頃に門を通り抜けると、中に居た保母さんが僕に気づいて窓を開けた。

 

「おかえりなさいツカサくん」

ツカサ「……ただいま。帰ってきて早々なんですけど、お風呂借りてもいいですか?」

「それは構わないけど……何か困ったことがあったら相談して頂戴ね? 一瞬思い詰めている様に見えたから……」

 

流石は保母さんだ。職業柄、よく人を見ているだけの事はある。

悟られたことへの戸惑いを隠せずに、ただただ気遣ってくれたことへの感謝を伝えて中へ入った。

 

 

替えの服を取りに自室へ向かう間も、浴室で頭から被るようにシャワーを浴びている間も、本当に彼と友達になれるのか? そのことで頭がいっぱいになっていた。

 

少しでも期待していたのだ。

境遇が似ているから。その痛みを彼となら分かり合えると思っていた。

 

――否、思い込んでいた。

 

でも違っていた。まだ彼には血の繋がった家族が身近にいるから。

僕と違って愛情を受けて育っているから。

 

ツカサ「――――――」

 

……僕も愛情を受けてるって実感があれば、スバルくんのように強くなれたのかな。

 

◆◆◆

 

次の朝――

 

水希「うぅぅ……まだ体中が痛い……ハムエッグ美味しい……」

あかね「まったく、食べるか悶え苦しむかどっちかにしなさいよ」

水希「……と、張本人が申しております」

 

先日から響く筋肉痛に堪えながら朝食を食べ進めた挙句、自分だけのせいではないと言い張る水希に、あかねは肩を竦めて物申した。

 

あかね「ほとんどアンタの自業自得じゃないの。それに、男の癖になんでか腕っ節弱くて相手してるこっちがヒヤヒヤしちゃうわ」

水希「確実に息の根止めにきておいてよく言うよ」

あかね「大袈裟ねぇ。あれでも結構加減したつもりよ?」

スバル「……あのさぁ、朝から物騒な話題出さないでくれる? 聞いてるこっちも気が滅入るんだよ」

 

その傍ら、味噌汁を啜っていたスバルが文句をつけてくる始末だ。

反論の余地もなく、二人は口を慎もうとするが咄嗟に水希が話題を振ろうとしてきた。

 

水希「ごめんて。でさスバル、昨日聞きそびれたけど今度の劇でどんな役になったの?」

スバル「……さま」

水希「へ?」

 

そっぽ向いてボソッと呟くスバルだが、水希が聞き取れないとばかりに返すと気だるそうな表情を全面的に見せた。

 

スバル「だから、水神様だよ。いきなり主役に抜擢されるなんて普通思わなくない?」

水希「うーん、まぁそうだね。キザな役は似合わなそう」

 

水希からそう指摘され、スバルの表情をますます重くさせた。

 

スバル「……母さん、今日休んじゃダメ?」

あかね「駄目に決まってるでしょう。病気じゃないなら行きなさい」

スバル「……は〜い」

 

不貞腐れたように返事をして、支度が整ったところで学校へと向かう。

 

そして、

 

水希「……行くか」

リヴァイア『あぁ』

あかね「どこへ行く気?」

 

あかねが行手を阻むように呼び止めたが、散歩と誤魔化して家を後にした。

無論、勘の鋭さなど関係なく見破られていたが、

 

あかね「……ほんと、嘘ばっかり。ただの散歩ならそんな険しい顔しないでしょうに」

 

悲痛な面持ちを浮かべて弟を見送ることしかできずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

水希にとって憩いの場であり、もう一つの始まりの場所。

スバルがよく訪れる展望台沿いに位置する河川敷へ向かうこと数分。

ふと足を止め、ベンチにもたれかかって座る待ち人を土手から見下ろしながら溜息をこぼした。

 

水希「……『着いてから連絡を寄越せ』って言っといて、自分から待ち伏せとはね」

「――――――」

 

ただ川を眺めるだけで何も答えない待ち人に痺れを切らし、水希は土手を降りて歩み寄った。

 

水希「そんなに僕と会いたかったの? ――信武」

信武「……敵対してる時点でノコノコと顔を出すお前も大概だけどな」

水希「で、用件は何?」

 

勿体ぶらずさっさと言え。とばかりに本題に入ろうとする水希に信武も溜息をこぼし、単刀直入に申し立てた。

 

信武「お前の本当の目的を教えろ」

水希「はぁ、目的? んなもん決まってるよ。大吾さん達を探し出すって目的が――」

信武「本当にそれだけか?」

 

急に立ち上がった信武の周りを金色の光が覆う。

 

信武「例の件について無知でも状況を整理して考えりゃわかるさ。クルーの皆を見つけて終わり、なんてもんじゃねぇだろ。

それにさっきも言ったよな?()()()()()()()()()()()()って」

 

光が晴れたと思えば既に換装した状態でカリブルヌスを携え、誤魔化しは通用しなさそうだと悟った水希に切っ先を向けた。

 

水希「……答えた所でどうするつもり?」

信武「お前の回答次第だ。そこで方針を固める」

水希「っそ、じゃあ結論から言わせてもらうわ。()()アンタに答える義理はない」

信武「……何だと?」

水希「敵対関係である以上は、ね……」

 

睨みつけてくる信武を前に無防備同然の水希も、対抗すべくして換装した。

 

水希「でも敵味方関係なくアンタにだけは聞いてほしくなかった。むしろすべて解決するまでウチの事は死亡者として認識したままでいてほしかった」

信武「だからなんでそうなるんだよ…!なんでいっつもそうやって抱え込もうとするんだよ! 何がお前をつき動かさせるんだ? 誰がお前をそうさせた!?」

 

御託を並べられるあまり怒りを剥き出しにしてまくし立てようと、水希は何も言い返そうとしない。

 

 

ただ、いつも笑顔でいてほしいと思った。

できることは何でもしたつもりだった。

でも次第に、笑わなくなった。

 

元からあった人を疑う性格が、より強まったからか?

俺の行動すべて、ありがた迷惑だったから気を遣ったのか?

だったら……その笑顔は全部作り笑いだったのか?

 

募る不信感が信武の神経を逆撫でさせる。

 

信武「……そんなに俺が邪魔ならハッキリ言えよ!!」

 

水希の相変わらずな強情っぷりに怒鳴り散らすのだが、信武の分からず屋ぶりに苛立っているのはリヴァイアも同様だった。

 

リヴァイア「……お前、いい加減に……!」

 

しかし水希は、姿を見せたリヴァイアを諌めるように前へ出るのを制した。

 

水希「確かにそうだよ。信武は良くも悪くも真っ直ぐだから、目的を話せばきっと、引き離そうとするほど追ってくるって思ってた。それが嫌で仕方なかったってだけ」

信武「ッ……」

リヴァイア「水希……」

水希「これだけ言えばわかるでしょ。もう昔のような関係には戻れないんだよ、ウチらは」

 

修復不可能にまでなっている。

そんな分かりきった事を言い切ると、信武は換装を解いて無表情のまま光すら失せた目で水希達を見やる。

 

信武「次会った時は遠慮なく殺す」

水希「好きにすれば。タダで殺られるつもりないし」

信武「言ってろ負け犬」

 

吐き捨てるように罵り、そのまま去っていった。

 

 

そして、足音が遠のいた途端に換装が解かれ、力無く崩れ落ちる水希をリヴァイアは抱き抱える。

 

リヴァイア「……大丈夫か?」

水希「……こんなこと、言うべきじゃないのはわかってるけどさ。なんでこうなっちゃったんだろうね……?」

 

信武とはおやつの取り合いなど、いつも些細なことでしか喧嘩したことがないから尚更、恐怖で震えが止まらなくなり、終いには涙を堪えきれず、己の過ちによって悪化していく状況に嘆くばかりだ。

そんな水希の泣き虫な一面を近くで見てきているリヴァイアも、いつもなら優しく励ますか叱咤するだろうが……今ではかけてやれる言葉すら見出せず、抱きしめる腕の力を強めるしかなかった。

 

学校から漏れ出ている不吉な電波を感知するまで、ずっと――――




閲覧していただきありがとうございます。
長い間格闘していたミソラ編の制作から解放されて筆が少し進んだ気がしますが、今回は短くなりましたね。
ともあれ次回につなぐ分には十分ですので、更新ペースを早められるように取り組んでいこうと思ってます。
それでは!


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32話 禁忌とされたチカラ 露見する憎悪

本文一部に挿絵あります。
スマホと指で描いて2年、やっとこさ公開ですよフフフ……。


一方、その頃。

 

スバルが所属するクラスの一同は、揃いにそろってもがき苦しむという惨状に見舞われた。

ただ二人を除けば。

 

うち一人はスバル。先程までクラスメイトと同様、頭痛に悶えながら頭に流れ込む数式やら国語の詩を読み上げていたが、トランサーに居住まうウォーロックから左ストレート(愛のムチ)を受けて目が覚めたようだが。

 

問題は育田の方だ。

温厚かつ生徒思いな性格から一転し、朝から様子がおかしいと思われたがその予感は的中した。

現に彼はリブラというFM星人に取り憑かれ、生徒達を苦しめた元凶となる“学習電波”を最大出力になるまで弄り、一足先に放送室へ向かう。

 

そしてスバルも()()()()()()()()ツカサからの助言を得て、左頬の痛みに耐えて後を追うのだが、放送室に入った時点で既に人気(ひとけ)はなく、慌てて変身してウェーブロードに飛び移ったが、

 

??「止まれ。それ以上は進ませねぇぞ」

スバル「誰だ!?」

 

放送室に向かう途中ジャミンガーに行く手を阻まれたものの、生憎とスバルは存在自体を知らないため困惑しながらも身構える。

 

ジャミンガー「忘れたか? 体育館のステージで照明が落ちた時のことを」

スバル「! まさかあれはお前の仕業だったのか!?」

ジャミンガー「そうさ。だが海原の悪魔にすぐ勘付かれて、その後戦って負傷したのはムカついたがな」

 

ジャミンガーが忌々しそうに言い放った【海原の悪魔】が水希だと察してようやく事情を把握したスバルだが、構ってられるほど時間はない。……しかし、

 

ジャミンガー「お前には悪ぃが鬱憤晴らしに付き合ってもらうぜ!」

 

どうにかして切り抜けられるかと模索するよりも先に、敵は目前へと迫ってきた。

 

スバル (まずい、出遅れた……!)

 

怯んでいたその時。

 

ジャミンガー「ぐ、あああああっっ!!?!?」

 

拳大の氷塊が弾丸並みの速さで射出され、大っぴらに広げてスバルに掴みかかろうとしたジャミンガーの両手に風穴を開けた。

更には撃たれた箇所から内部に侵食していくよう凍りつき、あまりの耐え難い激痛に発狂してしまう。

その様子に驚愕しつつ後退したスバルも、放たれた攻撃から兄がやったのだと、むしろ兄以外にいないと確信していた。

 

水希「本当に懲りないねぇ、死に損ないの癖に」

 

射抜くような殺気をジャミンガーに向けて言い放つ水希へ振り向くが、見慣れない顔を迂闊にも見たスバルは身が竦んでしまっていた。

 

ジャミンガー「て、テメェ! よくも……ぉッ!?」

 

怒りで喚き散らすジャミンガーだが、黙れと言うようにどこからともなく現れた氷槍に両脚を貫かれて膝をつく。

やがて下半身も氷漬けにされ感覚が無くなっていくが、それすら気にも止めずに、怯えているスバルを見やる。

 

水希「行きな、時間がないんでしょ?」

スバル「ッ! うん!」

 

我に返ってからの行動は早く、育田を止めに向かうスバルを見送って、水希は視線を戻す。

 

水希「……呆れを通り越してむしろ清々しいよ。こっちとしても殺すのを躊躇わなくて済むからさ」

ジャミンガー「く、こんなはずじゃあ! まだリベンジを果たせてねぇのに!」

水希「いいこと教えてあげる。ウチの大事な人を傷つけようとするってことはさ、どうぞ殺してくださいって懇願してるようなもんだよ。

つってもどうせ死ぬから関係ないことだわな、ごめんね口走っちゃって?」

ジャミンガー「ク…ソォ……!」

 

何度倒しても湧いて出てくるほどのタフさ、ストーカー並みの執拗さと狡猾さ、今まで多種多様のウイルスに対峙しては退治を繰り返した中でも厄介な部類と言えよう。

 

……先に断っておくが、今のはダジャレではない。

 

ともあれ、抵抗虚しく逃げることもままならないジャミンガーを目の前にしてブレイクサーベルを手に取る。

 

水希「慈悲はない。死ね」

 

氷像と化したそれを薙ぎ払い、排除したところでスバルの後に続いたが、進んだ先で待ち構えていたのは10体のジャミンガー。

それも以前のようにゴツい姿で立ちはだかっているようだ。

 

「バカめ! 単身で攻め込むとでも思ったか?」

 

先頭にいたジャミンガーが挑発をかまそうと、後ろの連中も下卑た笑みを見せつけようと、今の水希に動じる素振りは一切ない。

 

水希「……ふ、ふふふ、あははははは!!!」

リヴァイア『水希……?』

 

それどころか、所構わず大声で笑いだす水希にリヴァイアは軽く引いてしまい、ジャミンガー達の中には首を傾げる者もいた。

 

「……そんなに可笑しいことでもあったのか?」

 

連中の一人が睨みながら問うと、笑いが収まったところで視線を合わす。

 

水希「いやぁごめんごめん。前にアンタらみたいなのと戦ったのを思い出してね、その時は加減出来なくってさ。でも憑依された本人は運良く死ななかった。なんでか分かる?」

「はぁ? んなもん知るかよ」

水希「だろうね。だってもう11年も前の話だし」

「なに……?」

 

連中の一人が問いに対して気怠そうに答えるが、分からなくて当然と言い返し、おかしな発言に訝しむ連中を他所に話を戻そうとする。

 

水希「で、正体を隈なく調べた結果、まれに人間が電波ウイルスと合体するらしいの。でもウチらと違って不完全体だから、倒しても人殺しにはならない」

「……何が言いたい?」

水希「たかが一回りデカくなったところで別にどうってことないし、正直悼まないんだよね。どうせ死なないから」

 

つまりは、ジャミンガーはサンドバッグにしても問題ない物体としか見ていないのだろう。

 

リヴァイアですら止めようがないほど水希は今むしゃくしゃしていたのだから。

 

◆◆◆

 

遡ること数分前。

 

兄ちゃんの手助けがあったからよかったけど、電脳に入ってから足が震えて思うように動けない。

 

怖かった。

殺意以外は全く感じ取れなくて、血走った目をして敵を睨みつけ、近づいてくる兄ちゃんに初めて恐怖心を抱いた。

あんな顔で襲われると思うと戦意が削がれていくけれど事が事だけに撤退は許されず、痺れを切らした相方にも急かされる。

 

ウォーロック「急ぐぞ。時間がねぇ」

スバル「わかってる」

 

時間を稼いでくれているうちに行こう。

催促されてやっと気持ちを切り替えることができた。

 

 

◆◆◆

 

そうして何事もないまま、スバル達二人は最奥部へたどり着く。

 

スバル「今すぐ学習電波を止めてください、先生!」

育田「……その声、星河か?」

 

コントロールパネルの前に佇み、呼びかけに応じた育田。

たとえ変身していようと声だけで教え子と察知する洞察力は凄まじいものだが、流石のスバルも感心していられるほど余裕じゃないのも確かだ。

 

スバル「ツカサくんから聞いたんです。学習電波は人体に悪影響を及ぼすって。それなのに一体どうしてこんなことを」

育田「……クビになりそうだったんだ」

スバル「……え?」

 

前述の通りに結論を述べ、困惑するスバルに構わず経緯を話す。

 

育田「復学したばかりだから判らないだろうが、うちのクラスは授業がやや遅れ気味だったんだ。授業の途中で道徳的な話ばかりしていたからな。それでも遅れた分を取り戻せるよう根回ししてきた。いずれ君達にも体感してほしいと思いながらね……」

スバル「それって、勉強だけしかできない人になって欲しくない、から……?」

 

返答に、育田はそうだと言って返した。

 

育田「けれど理想を掲げて生きるのにも限界はある。先生も教え子達には皆平等に育ってほしいと思ってるけど、いざ選択を迫られるとそうも言ってられないのさ。家族を養うためなら尚更ね」

スバル「先生……」

??『無駄話はその辺にしておけ、リブラ』

 

どこからとなく響く声に皆が固まっていた時だった。

育田の頭上に雷が落ちてきたのは。

 

育田「がああああああ!!?」

リブラ『ジェ、ジェミニ……貴様ァ……!』

 

眩さに目を覆ってしばらく経ったら既に跡形もなくなり、その凄惨さに二人は戸惑いを隠せない。

 

スバル「そんな、先生が……!?」

ウォーロック「今の攻撃、まさか……」

??『そのまさかだぜ、ウォーロック』

 

 

◆◆◆

 

その頃、水希は10体のジャミンガーを相手に猛攻の末、半数にまで減らして優勢を保っていたが、最奥部にて雷が落ちる瞬間を目視し、遅れて轟音が鳴り響いた。

恐らくスバルもそこにいるはず、と早急に向かいたいところだが戦いを放棄するわけにはいかず、攻め入る半ばスバルの安否が気掛かりでほとんど集中できずにいた。

 

それが仇となり、よそ見していたばかりに隙を突かれてしまい、呆気なく倒れ伏す。

 

「おいおいどうしたぁ? さっきまでの威勢よかったのによぉ」

水希「ぐぅっ?!」

リヴァイア『水希!?』

 

苦痛にもがいて立ちあがろうとするが、肺から息が押し潰すような勢いで背中を踏みつけられ力が入らない。

 

(……はは、悪癖もいいところだな……お姉ちゃんと約束したからって、集中できなくてどうするよ……)

 

噛ませっぷりもここまでくると自嘲するほかないだろう。

力さえ失わない限り誰かを救える、守れると思い、ユリウスという友と生き別れた頃から鍛えてきたのに現実はどうだ。

こうもあっさりやられていては面目など立つ筈もない。

 

ジャミンガー「ジェミニ様も今頃奥に向かってるだろうから、ロックマンは為す術もなしに死んじまってるだろうな。ヒャハハハハ!!」

水希「……死……?」

 

寄ってたかって笑いだす連中の一人の言葉に、消え入りそうなほどか細い声が漏れた。

 

ジェミニという奴が、スバルを……?

まだ幼い命をそんないとも容易く?

お姉ちゃんのたった一人の息子を、なんの躊躇いもなく奪えると言うのか?

 

大吾さんを見つけ出して、家族の元へ送り返して平穏を取り戻す。

罪滅ぼしとして与えられた役割すら、お前らは奪うつもりか!?

 

 

(許せない……!!)

 

リヴァイア「テメェ、いい加減水希から離れやがれ!」

 

怒りで我を忘れそうになりかけた時、踏みつけていたジャミンガーを得意技のハイドロクローで引き離そうとするが、その腕を掴まれて残りの連中達に投げ渡される。

 

水希「リヴァイア!」

「おっと動くな、こいつがどうなってもいいのか?」

 

左腕をバスターに形状変化させ、いかにも悪役らしくその銃口をリヴァイアに向けている。

抵抗できない水希を見てニタニタと顔を歪ませ、挙句、リヴァイアも不覚を取ったと言いたげに苦笑しだした。

 

リヴァイア「相棒が過保護なことに腕が鈍っちまったかもな、これじゃウォーロックをいびれねぇや」

水希「こんな時に冗談はやめて! 一旦退却を」

リヴァイア「ダメだ! まだスバルとウォーロックを放っておけねぇだろ」

水希「だって!!」

「うるせぇぞガキ。撃ち抜かれてぇのか?」

 

カチャリ、と頭部に突きつけられているせいで身動きが取れない。

 

「お前はそこで仲間がやられるのを眺めてな。なぁに退屈はしねぇさ――おい、殺れ」

「……言われなくとも」

 

そう言うが、一向に打つ気配はなく、バスターにエネルギーを溜めている。

それを見て確信した。こいつらは見せしめのつもりで殺る気だと。

速攻で片をつけるのは勿体無いとばかりに、ジワジワと精神を追い詰める気でいると。

 

いやだ…。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!!

 

ユリウスや大吾さんだけじゃなく、信武もいない今、もうリヴァイアしかいないのに……っ、

 

殺さないで……お願いだから!

 

 

水希「――――やめろぉぉぉおお!!!」

 

そんな時だった。

 

撃つはずのバスターごと凍りついており、皆一斉にして固まっていたなか、

 

《憎イカ? 人ノ子ヨ》

 

不意に、男の掠れた声が聞こえてきた。

 

リヴァイア「……今の声、まさか……あ、ぐぅッ!?」

 

真っ先に異変を感じたリヴァイアだが、しかし既に遅い。

膨れ上がる力を抑えようという意思に反して増長していくようだ。

 

《憎イカ? 汝ヲ仇ナス奴等ガ。ソレトモ…チカラ及バズ、無様ニ倒レ伏ス 汝カ?》

 

あぁ憎いとも。

人情の欠片もない、人の死を嗤っているクソ野郎共が。

何より、対抗手段を有していながら肝心なところで足手まといでいる――自分自身が!

 

水希「……どっちも、だよ……!!」

リヴァイア「!? 水…きっ、ソイツに耳を貸すな!!」

「なにゴチャゴチャ騒いでんだ、よっ!」

水希「がは―――ぁ」

 

踏みつける力が増しても、声は途絶えない。

 

《汝ノチカラ…(もとい)、我ガ厄災ノチカラノ本質ハ〈憎悪〉ヤ〈殺意〉ニ()ルモノ》

 

リヴァイア「だめだ…水希ぃ……!!」

 

まだ死んでいるとは限らないのに。

聞いたこと全て鵜呑みにしてしまった水希を、呼び止めても応じないとわかっていて声をかけ続けた。

今にも主導権を握られそうになっていると知りながら。

 

けれど、そう都合よく立ち直れるほどの余力は、どこにも残っていない……。

 

《憎イノナラ、今一度、我ヲ呼ビ起コセ…》

 

(殺す……殺す…………殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロス―――ッ!!!)

 

水希「……こ…す……」

「あぁ? 声ちっせえなぁ。もうちょいハッキリ言えや」

水希「――――殺してやるッ!!」

 

《チカラヲ欲スルナラ叫ブガヨイ。ソシテ、ヒト思イニ――仇敵ヲ(ほふ)レェェ!!!》

 

水希「モード、チェンジ……――リンドヴルム!!」

 

明確な殺意を露わにし、忌避していた真名を名告る。

 

直後。極度の冷気が周りにいたジャミンガー達を吹き飛ばし、後になって身体中にまとわりつくよう収束し始め、よろよろと立ち上がった。

 

《……我に身を委ねろ、人の子よ。さすればこのチカラ、汝の物とせん……》

 

そう促してくるリンドヴルムに従って体を預けると、より深く感じ入られる。

以前とは比べ物にならないほど圧倒的な力に満たされていく感覚を。

 

水希「よくも…僕の大事なリヴァイアを可愛がってくれたね。そのお礼にだけど……確実に、徹底的に甚振ってから殺してあげる」

 

今まで抑え続けてた分、タガが外れたからか。もう奴等をどう料理してくれようか、それしか頭にないくらい、どうしようもなく狩猟本能が疼いて仕方ない。

ここまで来ると、もう後戻りはできないだろう。

 

水希「フフフ、楽しみぃ……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

俯瞰的に見れずとも、姿形ですら根底から作り直されていくのがわかる。

 

 

 

……憎悪を糧に暴れまわる、怪物へと……。

 

 

それなのに、段々と視界が白んでいった。

 

 

 

水希「――――?」

 

気がつくと、霧で覆われた空間に立たされていた。

 

しかも今度は、力を解放した後の姿でだ。

 

「……水希……」

 

眼前にいる、僕の名前を呼んだ人が誰なのか、すぐにわかった。

 

水希「お姉ちゃん……?」

 

なぜ自分と同じ空間にいるのか、そもそも戦闘中だったはずなのに……。

 

ひとり困惑するなか、姉の背後からジャミンガーが現れる。

 

水希「危ないッ!」

 

拳を振り下ろすよりも先に、爪を立てて横薙ぎに振るうと、ジャミンガーは断末魔を上げずに消え去った。

 

水希「大丈夫? お姉、ちゃん……?」

 

振り向いたが姉はいない。

しかし、代わりに佇んでいたのは大きな黒い影だった。

 

??「久しぶりだな、水希」

水希「!? ……うそ……」

 

体格から見てリュウさんかと疑ったが、今の声を聞き間違えるはずがない。

底知れない安堵から頬を緩ませ、いつの間に独り言をボヤいてしまう。

 

水希「ねぇ、見てくれた…? やっとだよ、僕…強くなれた。誰が相手でも負けない力を手に入れたんだよ! これさえあれば…もう……」

??「だからどうした?」

水希「……え?」

 

どうでもいいと言わんばかりに返され、言葉が詰まる。

 

??「強くなれたから何だ? それで犯してきた罪が消えるとでも?」

水希「そんなこと思ってない!」

??「嘘だな。思ってなかろうと、他人を巻き込んでいると自覚しているんじゃないのか?」

水希「判ってるよそんなこと! ……あの時だって、自分が弱かったせいでアンタと生き別れて、今まで信じてくれてた大吾さんにまで見限られて……」

??「そうだ、お前は弱い。そして弱虫で臆病者のまま何も変わっていない。

信頼と称して依存している者でさえも疑い、その癖して不要となれば捨て、また違う誰かに依存し、気が変わればまた勝手に遠ざけていく。

そんな体たらくだから、お前は誰も守れないんだよ」

水希「違う……!!」

??「違わないだろ。お前と関わるやつは皆、笑ってくれてるか? 少しは現実を見ろよ」

 

 

水希「待って!」

??「もう、オレなんかに構うな……」

水希「嫌だ、お願い待って!」

 

突っぱねられてでも駆け寄ろうとするが、彼は益々遠ざかっていく。

 

 

 

 

水希「待ってユリウス! 待ってってば!!」

 

どんなに追い縋ろうと、彼の元に辿り着くことは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

その後のことは、はっきりと覚えていないが

 

水希「兄…ちゃん……?」

 

スバルの怯えた声に気づき、ようやく我に返る。

 

水希「ん〜?どしたの、スバル?」

スバル「どうしたのって……、兄ちゃんこそ、どうしちゃったの…?」

水希「決まってるでしょ、目の前の敵をやっつけたんだよ。正直手こずったけど、チカラを解放したらみんな逃げてったから万々歳よ!」

 

(……え、今なんて、言った? 覚えてないのに勝手に口走っちゃてるの?)

 

スバル「……じゃあ……その手に持ってる物は、何なの?」

水希「何って、そりゃあ…………え?」

 

手に持っていたものがジャミンガーの頭だと知って、一瞬言葉を失った。

 

何故か? ……愚問だろう。

 

自分以外にやったという証拠がどこにもないのだから……。




少しネタバレになりますが
挿絵に出た姿こそが第2形態(真の姿)で、言わずもがな闇堕ちしちゃってます。
どうなっちゃうんだろうねホント。
次回を待て!


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33話 海原の悪魔たる所以

前回の猛省点は先生の話を掘り下げられなかったこと。
書くと全体的に長くなるから早いこと展開を進めたい、という衝動に駆られたこと。
推しのアイドルで言う「穏やかじゃない」くらいの投稿ペースだから尚更よ……。


注意、骨折及びグロ描写あり。


今から語られるのは水希の意識が精神世界(うらがわ)にいる間、身に覚えのない事実。

 

リンドヴルムを開放する余波で生まれた冷気は渦巻いて、水希の身体を覆い尽くす。

苛烈に、何者をも拒む殻のように。

 

「いったい何がどうなってやがる…?」

「考えるな。奴は今動けねぇ筈だ、撃て!」

「つってもこの腕じゃ……」

 

目の前の光景を見て、ジャミンガー達は半ば取り乱しながらも銃口を構えるが、未だに腕が凍りついた状態では応戦すら厳しいところ。

 

《邪魔立てするな、外郎》

「ぐぁ――?!」

 

その挙げ句、数十もの魔法陣に囲われた直後に迎撃を受けてしまう。

弾速を遅くした事で致命傷にならずとも、もろに食らえば鈍器で殴られたような威力だ。最悪、当たりどころ次第では脳震盪で倒れてもおかしくない。

 

「……!? 見ろ、あれ…!」

 

弾幕が止み、ようやく冷気が晴れて露わになる瞬間を、体を強張らせつつも皆揃って見入る。

 

踊り子らしき衣装はボンテージ風に様変わり。付け襟に銀のブローチがあしらわれ、水瓶座の記号が刻まれている。

鮮やかな緑色をした両目も、今や左目はくすんだ暗緑色に。対する右目の角膜は赤黒く、黒く変色した結膜には充血したような紋様が光っていた。

後ろに流された水色の髪も下ろされ艶めきを増し、両側頭部に一対そびえる紫黒の角と背中から生えた翼が、怪物(それ)らしさを際立たせている。

 

しかしこうも容姿が変わるだけで、平伏してしまうほどのプレッシャーを感じさせるか。

もしや、人の身に余るくらいの“何か”が、水希()の身体に棲みついているのではないか?

 

その疑問は正しい。

 

リヴァイアもかつて語ったように、リンドヴルムの力は想像の範疇を超えて強大だということ。

何しろ同郷の者からも畏れられ、怪物として忌避され続け、自身も疎ましく思うくらいの醜悪さを体現しているようなものだから。

 

(まこと)の姿こそ、まさしく海原の悪魔たる所以だろう。

 

 

水希「――捕縛せよ」

 

5体のジャミンガーの足元に展開する魔法陣から水の縄が何本も射出され、絡みつくように手足が拘束されていく。

 

水希「ねぇ、聞きたいことあるんだけどいいかな〜?」

 

ろくに身動き取れずにいる彼らの中から一人選んで近寄り、不敵な笑みを浮かべて問いかけた。

 

「くっそ、解きやがれ!!」

水希「ユリウスっていう名前の、黒人男性で、アンタらと同じ体格で、眼鏡かけてた友達を探してたんだけど……どこかで見かけなかった?」

「知らねぇよ! それより拘束を解きや――がァァ!?!?」

 

質問に答えないどころか、命令口調で訴えられて黙っていられなかったか。

手始めに右腕をあらぬ方向へ曲げ折り、発狂じみた悲鳴をあげながら睨まれようと、意に介すことなく問い続けた。

 

水希「もう一度聞くよ。ユリウスが何処にいるか知らない?」

「だから…そんなの、知るわけ――ぎゃぁぁああ!!!」

 

膝から下を()がれて倒れようと、脂汗をかかれても、納得いく答えが出るまで終わらない。

 

水希「嘘つかないの。判ってるんだから。アイツらみたいにどこかへ隠してるんでしょ?」

「お、おれ本当に知らない! 知らない――でぇぇ!!?」

水希「……ホントに? しらばっくれてんじゃないの?」

「ほんどだっでばぁッ!!」

 

頭を引っ掴まれたジャミンガーからすれば意味不明な質問に対して、泣きじゃくりながらも正直に知らないと答えていたが、

 

水希「ふぅん。あっそ、じゃあいいわ」

「―――ガ、ハ……ッ!? ………」

 

白を切っていると思い込む水希は、本当に役立たずだなと見下げて、終いにはジャミンガーの土手っ腹を突き破り、まるで興味を失せたように放り捨てた。

 

水希「しらみつぶしに聞いてもやっぱ無駄か。じゃあもう用済みだね、アンタら」

 

残党達に向けて、頬を歪ませて言い放った。

 

彼らはもうとっくに抵抗心を失せ、早いこと逃げ出したいとすら思っていたけれど、縛りつけている縄が全く解けず、焦りまくる。

 

水希「逃さないよ? 人が大事にしてるものをブチ壊そうとする奴はさ、誰だろうと、どこへ逃げようたって関係なく殺すんだからさぁ!!」

 

もはや慈悲を与えることは許されない。自業自得だろう。結果的に手を出したのは彼らなのだから。

ここまでコケにされれば怒り狂って当然だ。

 

亡骸となった男のようにじわじわと追い詰め、執拗に(なぶ)り、一人…また一人と倒れ伏す。

 

水希「――いよいよアンタで最後だね」

 

立場を分からせるべくしてわざと残そうと、例外なく狩り尽くすつもりらしい。

「そんじゃバイバーイ」とさぞかし愉快に嗤いながら詰め寄って―――

 

「や、やめろっ! 来るな、来るなァァ!! ……やめ」

 

 

一人も残さず、心ゆくまで嬲り尽くし、殺し尽くした。

 

 

 

 

 

 

水希「……なぁんだ、さっきまで威勢良かったのに、結局のところ大したことないんだね」

 

ジャミンガー達の最期は呆気ないものであった。

 

過去何度も電波ウイルスの討伐に赴き、何百と超える程見てきた光景だが、今回は極めて凄惨。

 

部位欠損が著しく、中には原型を留めないものまで転がっており、いくら彼らが死なないとはいえ今の状況では説得力に欠けるものだ。

 

水希「フ……フフフ……、アハハハハハッハハハハハハハハハ―――――!!!!!」

 

その惨たらしい空間のど真ん中にいながら笑っていた。

 

長年の苦悩が報われたような錯覚に喜びを見せ、声高らかに笑っていた。

 

水希「ねぇ、見てる? ユリウスぅ……。やっとだよ、強くなったんだよ……!

これさえあればもう誰が相手でも負けることは無い! これ以上ユリウスを失望させることはないんだよ!

……だからさぁ、早く、帰ってきてよ……。もう何年経ってると思ってんの……?」

 

必ず帰ってきてくれると信じて、待ち焦がれていた。

生き別れた日からずっと。

 

自分を高めるべく鍛え続けた。

ユリウスに心配かけられないよう強くなると誓い、いつかの約束を果たすその時まで。

 

だというのに、彼はまだ帰ってこない……。

 

いつしか期待することを諦めかけた。それでもただ待ち続けるより何かできないかと考えた。

 

ほとんど電波ウイルス相手に戦うことでしか己の価値を見出せなかったけれど、構わなかった。

相棒と一緒に大好きな人達を守れたらいいなと、その一心で戦い続けてきたのだから。

 

だから今は、守らなきゃ……

 

弟を―――スバルを、守らなきゃ……

 

水希「……行かないと」

 

既のところで本来の目的を思い出し、安否を確認すべく早急に最奥部へと目指す。

 

 

 

 

その頃……。

 

コントロールパネルの前に立ちはだかっていた育田だが、ジェミニが落とした雷を受けて姿形を無くし、立っていたところが今は黒焦げになっている。

 

呆気なくも無惨な散り様に、スバルとしては怒り半分怯え半分といったところか。

逆にウォーロックは、未だ姿を見せず高みの見物をしていたジェミニの行動に不可解だと言い放つ。

 

ウォーロック「分からねぇな。仲間討ちまでして手柄が欲しいのかよ、テメェ?」

ジェミニ『否定はしないさ。こちらとしても予定が変わったもんだからな』

ウォーロック「何だと……?」

ジェミニ『()()がいない今、我が王は近々地球に攻め込む気だぜ。()()()()()を引き連れてでもなぁ!」

ウォーロック「……!?」

 

ジェミニの発言はさすがに聞き捨てならない様子。

ウォーロックとて元は敵側で、捕虜として投獄する話は認知していたが、いないとなれば安否確認は絶望的。

そもそも生きているかも怪しい時点でどうにもならないが、この際置いておく。

 

問題は、襲撃を仕掛ける目的の根幹は今まで対峙してきた同胞と変わらないことだ。

 

ウォーロック「そりゃ残念だな。引き連れるにしても鍵がなきゃ、うんともすんとも言わないだろ?」

ジェミニ『だからこそだよ、ウォーロック』

 

殺気が膨れ上がるのをいち早く察知するが、攻撃を繰り出される方が僅かに早かった。

 

「『―――ジェミニ・サンダーーー!!!!』」

 

育田にも放たれた一撃が、頭上に迫りくる。

 

……対処法などあるか?

 

無理を承知で避けるか? ――正直なところ厳しい。スバルの反射神経をもってしても、思考が追いつかなければ回避不可だ。

シールドはどうだ? ――前に水希と戦った際、FM星にいた頃よりシールドの効力が衰えていると判り、恐らくだが攻撃が止むまで凌ぎきれない。

 

ウォーロック「――――ッ?!」

 

気がつけば目前まで迫っていた。

死を直感した際に起こりうる、目にした景色が遅くなるといった現象。

まさに今、体感している。殺られると。

 

打つてなし、と思考を放棄した。

 

 

……が、しかし

 

「遮蔽せよ」

 

直撃間近で魔法陣が展開され、雷を阻んだ。

鼓膜が破れそうな炸裂音に怯みそうになりながら、雷撃が徐々に打ち消されていく様を見逃せず、ただただ呆然としてしまう。

 

「……誰の許可なく弟を痛めつけてんの?」

 

背後から感じる殺気。ジャミンガーに通せんぼされた時より強く、スバルもたまらず硬直してしまい。

ジェミニも訝しんで尋ねる。

 

ジェミニ『誰だ、お前?』

水希「……海原の悪魔、とだけ言っておく」

 

水希の返答に『……そうか。お前が』と間をおいて、一人納得したように言う。

 

ジェミニ『今回は退く。だがロックマン、次会った時がお前の最期だ』

 

気配が無くなってから、恐る恐る振り向く。

 

スバル「兄…ちゃん……?」

水希「ん〜?どしたの、スバル?」

スバル「どうしたのって……、兄ちゃんこそ、今まで何してたの……?」

水希「決まってるでしょ、目の前の敵をやっつけたの。正直手こずったけど、チカラを解放したらみんな逃げてったから万々歳よ!」

 

調子づいたように返答する水希だが、殺気とはまた違った雰囲気が漂い、スバルはおろかウォーロックですら警戒心は増していった。

 

スバル「……じゃあ……その手に持ってる物は、何なの?」

水希「何って、そりゃあ…………あれ?」

 

スバルが指差すブツを見て呆けたかと思えば、途端に顔を青ざめさせる。

 

水希「……これでもまだ…ダメだっていうの?」

 

完璧にコントロールした気でいた。

今度こそ正気を保てると思ったのに、()()()()()()()()()()()()のか。

 

水希「大丈夫だと思ってたのに――何なんだよッ!!」

 

何をしても無駄、努力は水の泡、全てが無意味で終わったのか……。

 

水希「まだ目的は果たせてないのに! まだ死ねないのに! どれだけやってもダメって言いたいの? ざっけんな!!

―――ああぁ、ああああァァああ!!!!」

 

ついには癇癪(かんしゃく)を起こし、怒り任せに手にしたものを投げ棄てた。

 

スバル「……何が、どうなってるの…?!」

ウォーロック「わからねぇ……ただ、水希は今、力に飲まれそうになってるかもしれねぇ…!」

スバル「そんな……」

 

水希「……は、ははは……あ〜ぁもういいや。どうせ皆からバケモン扱いされてるし、そのうち処分されるんだからいっかぁ。

……でも、安心して? スバルを傷つける奴はね、兄ちゃんがみぃんなまとめて消してあげる。もう戦わなくたっていいよ。その分頑張るからさ……()()()()()()()()()()()?」

 

……先程から震えが止まらない。

あんなに怒ってる兄を止めようにも、どうにもならない。

怖くて足が竦む。一体どうしたら……。

 

水希「ねぇ、なんとか言ってよスバル? こっちも辛いの。お姉ちゃんにアンタの面倒見るって約束したけどさ、勝手だって分かってても戦場に立ってほしくないの。ねぇ答えて? 『後は兄ちゃんに任せる』って」

 

笑みを浮かべて言いのけるが、その実、脅迫されてると本能で悟って、空いた右手でウォーロックを覆い隠した。

意地でも渡さないとばかりに。

 

水希「答える気がないなら、もう力ずくでやる気削ぐからね?」

スバル「―――――?!」

 

表情が消え失せる。

最後通告を言い渡されたと取るスバルだったが、恐怖のあまり腰を抜かして尻もちをつき、後退りをしてしまう。

 

水希「怖がらなくても大丈夫。相手がスバルだから加減できる」

 

いつの間に水鞭を携え、振り上げようとする。

 

スバル「だれか…誰か助けて!」

 

そんな時だった。

 

??「させない!!」

水希「がぁッ!? ――――バ、ル……」

 

一瞬のことだった。

女性の声がした途端、水希の体から電流が迸り力無く倒れてしまったのは。

 

スバル「ッ、兄ちゃん!! ねぇ起きてよ兄ちゃん! ねぇってば!!」

 

慌てて駆けつけ、気絶する水希を揺すって起こそうとするが、苦しげに呻くだけで全く起きる気配はない。

 

??「……ったく、世話焼かせんじゃないわよバカ……」

 

呆れ果てたように言う女性と顔を合わす。

肩までの長さの白髪、燃えたぎるような紅い瞳、容姿は外国人を思わせるが、どこか母と似た雰囲気を感じさせるようだ。

 

??「ところで君、大丈夫? 見た感じケガはなさそうだけど」

スバル「ぼ、僕のことは良いですから、兄ちゃんが……」

??「……そう。君が水希の、弟くんなのね……」

 

水希の身内と知って目を見開くが、神妙な面持ちをしながら納得したようだ。

 

??「私の名前はレティ。立場上は水希の味方…なんだけど、強引に眠らせたのはこの際目を瞑っててほしい。私にできる精一杯だったから……」

スバル「は、はぁ……」

ウォーロック「ところでよ」

 

レティと名乗る女性からの申し開きに狼狽えるスバルだが、ウォーロックが割って入る形でレティに話しかけた。

 

ウォーロック「間違ってなきゃ、お前のことをストッパー扱いしてたそうだぜ……力が暴走しかけた際の保険としてな」

レティ「はぁ何よそれ? ほんっと人使い荒いわね、コイツ……」

ウォーロック「だろうな…」

 

両者とも水希に協力する姿勢は見せど、変に振り回されるのは不本意らしい。

 

レティ「悪いけど退いて頂戴。水希は私が預かる」

スバル「待って……兄ちゃんを、どうする気?」

レティ「封印を施す。終わったら家に送り返すだけよ」

 

簡潔に対処法を伝え、水希を横抱きに抱えて立ち上がったが、ふと留まり、へたり込むスバルに事の次第を述べようとした。

 

レティ「君にも知ってもらうべきと判断した上で言うわ。力の開放は段階的に早すぎたのよ。早くても2、3ヶ月後に執り行う予定だった。

……でもこうなった以上、是が非でもコントロール出来てもらわなきゃ、この先の戦いはもっと不利になるでしょうね……」

スバル「――――」

レティ「それよりいいの? 学習電波ってやつは止めなくて」

 

ハッと我に返って、すぐさまシステムを停止したから、もう下手に暴走はしないだろう。

それはそれとして、育田の安否について気がかりだったが、

 

レティ「先生なら無事よ。今教室で生徒達に囲われてるわ」

スバル「よかった……ってどうしてそれを?!」

レティ「この目で見通せるから♪……って、そんな顔しなくていいじゃない」

 

なんだそれ、と呆れ全開に見つめられ、得意げな笑みは苦笑へと早変わり。

 

レティ「とにかく、封印でき次第家に返すから安心して」

スバル「……よろしくお願いします」

 

各々退却し、学校の一件はひとまずのところ解決した。

 




水希の体に電流が走った理由、以前に人形(にせもの)呼ばわりしたのと大きく関わってます。
暴走は抑えられたとはいえまだ根本的解決には至っていない。
どうなるかは水希次第といった感じになりますね。

次回を待て!


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34話 事件のその後

今回は2000字と少なめです。


レティさんとは一旦別れて、ウェーブアウトをして換装を解いた直後。放送室で一人、虚脱感から膝をついてしまう。

 

ウォーロック『……立てるか?』

スバル「少し、休ませて……」

 

自分を卑下するつもりはないけど、懇切丁寧に事情を説明してくれたとしても、年端のガキ風情が状況の全てを受け止めきれるとは限らない。

兄の変貌ぶりを間近に見たせいか、まだ震えが止まらないのだ。

 

ロックを寄越せとせがまれた時の目つきが、完全に飢えた怪物そのものだったから。

レティさんの助けがなければ……最悪、唯一とも言える捜索手段を失くしたショックでもう二度と、本当に立ち直れなかったかもしれない。

 

(それを言うなら、二年前の誘拐事件よりもっと酷い気もするけどな)

 

スバル「……はぁ」

 

できることなら今すぐにでも帰って休みたい。保健室よりも自室の方がよっぽど楽になれる。そう直感して一度教室に戻ったが「そこまで体に障ったなら、気絶していた先生と一緒に検査を受けるべきよ!」と委員長に指摘され、教頭の谷塚(たにづか)先生に同伴してもらうことになった。

 

その帰り道。

 

谷塚「良かったな二人とも。検査結果に異常がなくて」

育田「はい」

スバル「……すみません、帰りも乗せてもらうことになって」

 

後部座席で肩を縮めるほど申し訳ない気持ちを打ち明けたけど、運転中の谷塚先生は「構わないよ」と気さくに笑って返してくれた。

 

スバル「でもこれで学習電波を使う必要がなくなった、ってことになりますよね?」

 

自分もつい先ほど体感したが、左頬をロックに殴られた痛みとは違い、両手で直に脳を鷲掴みにされたような鈍痛が今でも響いてるから、過度な濫用は以ての外だし、早いこと撤廃してほしいところだ。

 

谷塚「当然だな。私も育田先生と同じ心境で運用ついては反対派だったが、立場上逆らえずとも法的に追い払う理由さえ作れば都合がいい」

育田「――――」

谷塚「あの男も憐れなもんだ。進学校として栄えるつもりが、欲をかいた末にその夢も遠ざかるようではな」

 

途中、赤信号の交差点に差し掛かった頃。

ルームミラー越しにほくそ笑む谷塚先生と、後部座席の隣で複雑そうな面持ちで口を噤む育田先生を見過ごせなかった。

 

スバル「……それって、単に自ら、事を荒げたくなかったからじゃないんですか?」

育田「おい、星河……」

谷塚「否定はしない。育田先生に悪役を演じろと命じたのは私だ。どのみち誰かが動かなければ何も変わらなかっただろう?」

スバル「ッ! そのせいで先生は苦しんでたのに! 何とも思わないんですか?!」

谷塚「座りなさい。舌を噛むぞ」

 

身を乗り出しそうになった僕を(いさ)め、アクセルを踏み直す。

 

谷塚「……私も、コダマ小の在り方をあの男に全否定されて黙っていられなかった。

各々が伸び伸びと育つ自由さが本来の校風だからこそ、あの男の管理下に置けないと確信した。それだけだ。

無論、後始末はするさ。人を扱き使った罰としてね」

 

本質的に頼もしい味方だとしても、やり方はきっと褒められたものじゃないはずだ。

罰を甘んじて受け入れるにしても、それまでの言動に軽薄さが入り混じっているようでは、谷塚先生に対する不信感が拭えない。

 

谷塚「どうせこの事を打ち明けられるのなら、子供達全員に私のような人間になるなと言いたいね」

スバル「……なりたいとも思いませんよ。貴方みたいな腹黒い人には」

谷塚「腹黒か、私にお似合いの評価をありがとう星河君」

 

こうも皮肉で返されては世話がないが反論する気も失せ、家に着くまでの間、雨粒が流れ落ちる窓の外を眺めていた。

 

そしてようやく着いた頃。先生達に軽く礼をして家に入る。

 

自室に入る前に兄ちゃんの部屋に立ち寄り、そっと扉を開けた。

 

……どうやらまだ帰ってない。

レティさん、封印に手間取ってるのかな?

 

兄の心配もそうだが、母に検査結果と帰宅したとメールをして、自室の寝床に蹲った。

 

……いつにも増して静かだと感じる。屋根に打ち付けるような雨音が鮮明に聞こえるくらいに。

 

スバル「ねぇ、ロック。兄ちゃん大丈夫かな?」

ウォーロック『思うに、封印を施すにしろまたいつ暴走してもおかしくねぇはずだ』

スバル「どうして」

ウォーロック『リヴァイアと二人して背負うものが大きすぎるんだよ。そうだな……前に体育館のステージの照明が落ちた事あっただろ。その後トイレで合流するまでの間、強大な力を感じた』

スバル「その強大な力の正体が……」

ウォーロック『恐らくな。容姿が変わったのも、禍々しさが加わったのも、力を解放したのが原因なんだろうさ』

 

レティさんが「段階的に早すぎる」と焦る理由がようやく分かった。

僕にも与えられた三賢者からの恩恵(スターフォース)もきっと制御が効かなきゃだめな代物だと思う。

誰かを守りたいという気持ちがなければ、扱うこともままならない。

 

けれど、力を手にした状態で勝てるか?

 

……無理だ。どうやっても勝てるビジョンが見えてこない。

兄ちゃんからすれば実力的に本気を出すまでもなく、なす術なく負けるのがオチだ。

 

どうすればいい……。

 

一体、どうすれば……。

 



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35話 それでも兄ちゃんを助けたいんだ

5ヶ月前から組み立てた話をようやく繫げることができて万々歳。
そして何より、読者さんに勧められた2曲すべて作風に合っててびっくり。


寝返りを打つ度に唸りながらも、ようやく瞼を開けた。

 

……あれこれ悩み倒してた間に眠っていたのか。

しかし、依然として雨雲に覆われた空はまだ明るい。

 

トランサーから時刻を確認……ちょうど14時か。

家に着いたのが確か11時頃だから、かれこれ3時間近く寝てたのか。

 

「起きた?」

 

不意に声をかけられて目が冴える。

呼んでくれたのは母さんだ。起きるまでずっと座り込んでいたのかと疑いそうになるが、押し留めて無難な受け答えをする。

 

スバル「……母さん、もう帰ってたの?」

あかね「えぇ、13時過ぎにね。なんだか魘されていたようだけど、大丈夫?」

スバル「今は平気、かな。寝たら落ち着いた」

あかね「ならいいわ。お昼ごはんまだなんでしょ? いれば作るけど」

 

返事待ちの母さんに向かって、首を横に振る。

 

スバル「いいよ。それより兄ちゃん見かけなかった?」

あかね「……水希は今部屋で寝てる。あんたよりも酷く魘されているようだから、最悪病院で診てもらおうかと思ったけど……」

 

兄ちゃんが心配だと物憂げに言う母さんだが『きっと寝ている間もリンドヴルムを抑え込むので手一杯なんだ』と口が裂けても言える訳がなく、他に気の利く言葉は見つからない。

 

あかね「母さんこれから夕飯の買い出しに行くから。起きて早々に悪いけど水希の側にいてくれる?」

スバル「もちろん。兄ちゃんのことは任せて」

あかね「ふふ、頼もしいわね。それじゃ行ってくるわね」

 

部屋を出るまで見届けた直後に通知音が鳴り、今一度トランサーを手に取った。

 

スバル「メール、誰から?」

 

メアドは兄ちゃんのものだけど、開いてすぐ送り主がレティさんだと一目で分かった。

 

《弟くん。急でごめんなさいね。水希のトランサーを拝借した上で貴方に伝えたい事があるの。

結論から言うと封印は成功した。でもそれはその場凌ぎにしかならないわ》

 

最初の文面のみでは話が見えて来ず、困惑しながらも読み進める。

 

《リヴァイアが長年封じていたリンドヴルムの力がね、水希自身の成長度合いに比例して強まっていたみたい。

何より三年前に私が関与したせいかしら…、断定できないから詳細は話せないけれど、リンドヴルムとはまた別の力が宿っていると見てるわ》

 

ウォーロック『……おい、ちょっと待てよ、リンドヴルムって……』

 

意味深過ぎる文面にツッコミを入れたいところだが、同じく読み進めては唖然としたように言い放つウォーロックに問う。

 

スバル「ひょっとしなくてもFM星人なの? リンドヴルムって」

ウォーロック『……あぁ、その通りだが、今や逸話の存在として扱われてんだよ』

スバル「どういう意味?」

 

首を傾げていると、水希の部屋に行くついでに話すと言われ、したがって部屋に向かうことにした。

 

ウォーロック『オレが生まれる前にあった話だ。

FM星には城を構えた都市部とは反対に、農業と漁業で栄えた村落があるんだ。そしてリンドヴルムは村落の住民から護り神と讃えられ崇められていた。自然災害を自在に操る能力で、津波とかの水害が多い村落を守り続けていたのさ』

スバル「自然災害を、自在に――?」

ウォーロック『けどな、都市部の重鎮らが水害対策の手助けをして間もなく、リンドヴルムの必要性が問われた。

――で、結果。排除すべきと唱える奴を筆頭に徒党が組まれたが、嘆かわしい事にほとんど都市部出身だそうだ』

スバル「そんな……」

ウォーロック『あまりにも理不尽だと怒り狂い、都市の半分が壊滅状態になるほど暴走したが、一人の女によって封印されたことで解決した。もっとも、誰が封印したかまではわからねぇ』

 

リヴァイアが言ってたあの女ってのと関係ありそうだがな、と最後まで釈然としなかったが、封印と聞いて的外れは承知の上でウォーロックに訊ねる。

 

スバル「……流石にレティさんじゃないよね?」

ウォーロック『当たり前だろ、あんな見た目で年増だったら逆に怖ぇよ……』

 

当然のごとくツッコまれたよ。

てか年増て……本人がいたらタダじゃ済まされないよ、きっと。

 

スバル「兄ちゃん、入るよ」

 

部屋に続く扉の前で話を切り上げ、ノックをしてからようやく中に入る。

 

 

……間近でなくとも魘されている。

張り詰めた表情から見て取れるが、いつまでも扉の前で突っ立ってはいられない。

 

少しでも気が楽になればと手を握ったが、異様に冷たくて、思わず離しそうになった……。

もしかしたらと思って、兄の胸に触れ心音を確かめるが正常に脈を打っている。

 

スバル「よかった……」

 

めくった毛布を掛け直し、もう一度メールを見返す。

 

《最悪の事態を迎えたら、覚悟を決めておいて》

 

文末にある最悪の事態。

その意味は間違いなく、リンドヴルムの封印が解かれ再暴発してしまうこと。

下手すれば、二次被害が巻き起こる可能性は高い。

 

去り際に彼女が言ったように、是が非でも制御せねばと()くものだから、時間が無いことは流石に理解しているつもりだ。

 

それ以前に戦えるかと問われたら、自信は全く持てないが……。

 

スバル「…………」

 

手を握っていたのもあってか、いつの間にか呼吸を楽にして眠っているようだ。

 

(これで少しは、兄ちゃんの力になれたのかな?)

 

 

◆◆◆

 

買い出しを終えた母が帰ってきて、夕飯を二人で済ませた頃。

なんの突拍子もなしに呼び鈴が鳴り、玄関に出向く母の後に続いた。

 

 

気難しい顔をする天地さんの隣に、サテラポリスの隊服を着た男性がいた。

 

あかね「天地くん、飯島さんも一緒だったの?」

天地「えぇ。夜分遅くに申し訳ありませんが、水希君に用があって来ました」

あかね「水希なら今部屋で寝てるけど、とても応対できる状態じゃないから、日を改めて貰いたいのだけれど」

 

サテラポリスの人こと飯島さんが、やはりか、と一人納得したように呟く。

 

天地「手短に経緯をお話ししますが、今から言うことは他言無用でお願いします。……もちろんスバルくんもね」

 

釘を刺す物言いに、息を呑む。

 

天地「我々は水希君の保護監査を担う身として、行動を追っていました。

そして3日前。禁忌とされたチカラを解放した挙句、今日に限って暴走しかけた。よって彼は我々の元に回収した後に検査を行いますが……最悪の場合、彼を殺処分することになります……」

 

間を置いて言われた言葉に、僕も母も呆然としてしまっていた。

 

あかね「ねぇ、ちょっと…冗談でしょう…。いくらなんでも、そこまで…」

飯島「いや、すべて本当の事なんだ…。暴走を抑えきれない今…野放しにするのは危険すぎる。今回は運悪く、死期が早まってしまったんだ」

あかね「ふざけないで! 水希は絶対に死なせないって前に言ってたじゃない! なのにどうして?!」

天地「あかねさん」

 

声を荒げて飯島さんに物申す母を、天地さんは静かに、だが顔を険しくさせて制した。

 

天地「いくら貴女でも、記憶に無いとは言わせませんよ。

11年前に起きた暴動。それも死者が出てもおかしくない状況を水希くんが引き起こしたとは言え、被害を最小限に抑えられたから最も軽い罰で済んだんですよ?

無意味に匿ったところで現状は変わらない。

だとしたら、今ある大事な命を守ることが、貴女にとっては先決なんじゃないんですか!?」

あかね「うるさいっ!! じゃあどうしろって言うのよ?! このまま、言われるがまま水希を見殺せと? 嫌に決まってるじゃない!

……たとえ周りから疎まれても、生意気なほど空元気だったのに……、望んで嫌われていったわけじゃないのに……どうしてよ……」

飯島「あかね君……」

あかね「……帰りなさい」

天地「ですが…」

あかね「帰って!! ……お願いだから…もうこれ以上、私達から何も奪らないで……」

天地「……ッ」

 

それでも退き下がろうとしなかったが、飯島さんが肩を掴み首を横に振るのを見て、天地さんは怒りを押し留めた。

 

天地「判りました。今回は退きます。あまり騒ぎ立てては近所迷惑になりますから」

あかね「……」

 

母の返答を待たずに、天地さんは玄関の取っ手を掴んだ。

 

天地「……正直、水希君が羨ましいですよ。僕だって、大事な部下である宇田海には拒まれたのに……。

貴女のように迷い無く、世間体よりも家族を選べる方が身近にいるんですから……」

スバル「天地さん…」

天地「ですが忘れないでください。彼が再び目覚めれば、また同じように今度は街中で暴れだすかも知れない。その時になってからでは遅いんですよ。

確実に止められる術が無いのなら、こちらも無いなりに手を打たせてもらいます」

 

母を諌める際にも振り返ることなく去り、飯島さんも僕たちに一礼をして立ち去った後、ドアの閉まる音だけが虚しく響いた。

 

スバル「母さん。兄ちゃんが、僕らの目には見えない何かと戦ってるって事、知ってたの?」

あかね「ッ! ……かれこれ15年も前から、ね。でも大丈夫よ。水希を、信じましょう……」

スバル「……そうだね」

 

あかね「スバル。悪いんだけど、少し一人にさせて? 母さん、ちょっと疲れたみたい…」

スバル「いいよ。僕も、しばらく一人になりたいから…」

あかね「えぇ。気をつけて……雨が降る前に帰ってきなさいね?」

スバル「うん、わかった」

 

お互い気持ちの整理がつかないだろうから、今は一人になる方が最適だと思う。

そう感じて、一度自室に戻って身支度をしてから憩いの場に向かおうとした。

 

 

辺りはすっかり夜闇に覆われ、静まり返っていた。

 

一旦は止んだものの、まだ5月上旬なせいか、雨上がり特有の湿った夜風が肌寒く、それでいて呑気にあちこち鳴く雨蛙共を鬱陶しく思いながら、歩みを進めた。

 

――11年前に起きた暴動。それも死者が出てもおかしくない状況を水希くんが引き起こしたとは言え、被害を最小限に抑えられたから最も軽い罰で済んだんですよ?

 

何度も頭の中でリピートする言葉が受け入れ難く、理解を拒むばかりだ。

兄が幼い頃、死刑囚になり損ねたという話自体まったく現実味がないのに、変貌した姿を目の当たりにしたせいで嫌でも納得させられたのだから、とてつもなく憂鬱な気分だ。

 

――お願いだから…もうこれ以上、私達から何も奪らないで……。

 

許しを請う母の姿は、見ている僕も胸を締めつけられそうなほど、心苦しいものだった。

何しろ、慰めの言葉すらかけられない自分が情けなくてたまらない。

 

 

ふと歩みを止める。

 

 

――答えたところで、アンタに何が出来んの?

 

いつか、兄ちゃんが僕に言ってたっけ。

父さんが乗っていたキズナ号に同伴したんじゃないかって考えてたのも、兄ちゃんのことだからすぐに見抜いていたと思う。

 

何しろ、真実を見せてくれた時、リヴァイアと協力してFM星人達への対抗手段として出向いたんだと知ったから納得できたけど、

 

スバル「……わかってるよ……そんなこと」

 

力を開放して、おかしくなった兄ちゃんを見て、一度は止めようと思った。

 

……思ったのに、何にもできなかった……。

 

 

 

――大丈夫だと思ってたのに……何なんだよッ!!

 

――安心して? スバルを傷つける奴はね、兄ちゃんがみぃんなまとめて消してあげる。もう戦わなくたっていいよ。その分頑張るからさ……答えて? 『後は兄ちゃんに任せる』って。

 

――答える気がないなら、もう力ずくでやる気削ぐからね? ……怖がらなくても大丈夫。相手がスバルだから加減できる。

 

恐怖心を煽る立ち振る舞いを目にした途端、足が竦んでしまった。

敵わない相手だと本能で悟って、ゆくゆくは助けを求めるしかなかった……。

 

そんな自分に、何ができると……?

 

(父さん、どうすれば兄ちゃん助かるの? もうわかんないよ……。あの時、兄ちゃんに心配されないくらい強くなるって約束したのに……)

 

思えば、家族以外の人たちと関わる機会が少なかったためか、その弊害がどの局面にも現れてたな……。

 

それこそミソラちゃんを除けば、心身にこびりつく傷を癒し救えたことなどない。

その歯痒さが、余計に胸を締め上げてくるのだから堪ったもんじゃない。

 

ウォーロック『スバル!……おい、スバル!!』

スバル「っ!! ……びっくりさせないでよ……」

 

『ったく、やっと反応したか』と些か不満気に言うけれど、何度も呼びかけていたことに全く気づけなかった。

 

ウォーロック『んで、大丈夫か? お前顔色悪いぞ』

スバル「……これが大丈夫そうに見える?」

ウォーロック『……見えねぇよ。悪かったな、考えなしに言っちまってよ』

スバル「平気。悪気がないのはわかってたから」

ウォーロック『そうかい』

 

再び、歩みを進める。

 

スバル「独り言なんだけどさ。兄ちゃんのこと、知ってるようでなんも知らなかった。

さっき二人が言い争ってた時も一切割って入れなかったし」

ウォーロック『………』

スバル「でもさ、そんな僕にも、できることはきっとある筈だよ。……ロック。君が地球に――ううん、仲間として隣にいてくれる限りはね」

ウォーロック『……!』

 

出会ってまだ一ヶ月も満たないのに、いつもの調子だったら一言でも返してくれるんじゃないかと期待してしまっていたけれど。

悲しきかな、ロックは何も言い返してこなかった。

 

スバル「……なんでかな。ミソラちゃんを助けて、ブラザーになってから変に自信が湧いてきちゃってさ」

 

道行く先で人に会わなかったのが幸いだが、ロックの返答を待たずに呟く姿は、もっぱら変人そのものだと思う。

実際、宇宙人を相手にしてるから尚の事不気味だろうが。

 

ウォーロック『……お前、ぜってー無理してるだろ』

 

……そうくると思ってた。

あっさり見抜かれる程強がっていたから、こうもスッパリ言い当てられては元も子もないよ。

 

スバル「自覚はしてるけどさ、いつまでもウジウジしてたら父さんに笑われるじゃん?」

ウォーロック『スバル……』

スバル「それにね、兄ちゃんが記憶を見せてくれた時、父さんにまつわること以外の記憶も微かに見えたんだ」

ウォーロック『?……それって、どんな?』

スバル「信武(しのぶ)って名前の男性と駅で別れた記憶。見て分かったのは、その人と会えなくなる寂しさを押し殺してまで、必死に笑って取り繕おうとしてたってこと。そしてその人は多分、兄ちゃんが前に言ってた幼馴染」

 

そんなことまで分かるのか、って?

わかるよ、そりゃ。だって大好きな人と離れ離れになる辛さは痛いほど理解しているんだよ。

僕にとって、3年経った今も行方不明の父さんを想う度、傷心していたから。

 

スバル「兄ちゃんが今みたいにヤケになったのも、思い通りに行かない人生に絶望しきっていたからじゃないかって思ったんだ。

……じゃなきゃ、記憶を見せてくれたあの時、あんな悲しそうな顔するはずないもん……」

 

今までは無力で、今はまだ非力だとしても、ロックのおかげで僕は戦う資格を手にして、父さんを探し出す手立てを見つけたんだ。

ミソラちゃんと出会って、彼女なりに強く前向きに生きる姿勢を見習って、学校へ行く決意ができたんだ。

 

そんな二人と会う前だって、何もかも不安でいっぱいだったけど、そんな時は兄ちゃんが必ず傍にいてくれて、学校に行くか迷った時も答えが出るまで一緒に悩んで、いなくなった父さんの代わりに面倒見てくれて支えてくれた。

 

ブラコン拗らせ過ぎている残念なお兄ちゃんではあるけれど。

 

(それでも抗えるなら、助けたいんだよ!)

 

こんな僕でも、誰かを守れたらって思いが芽生えたんだ。

絶対に、無駄にはしたくない。

 

 

 

いよいよ、展望台へと続く階段が見えてきたのだが。

 

スバル「……あれ?」

 

手前の横断歩道を渡りきると、自販機の灯りに照らされた天地さんを見かけた。

それと同時に、僕達の気配に勘づいたか、天地さんはこちらに向かって一瞥した。

 

天地「やぁ、さっきぶりだね。もしかして、星を眺めに来たのかい?」

スバル「……そうだけど。天地さんも?」

天地「うん。気晴らしには丁度良いかもなってね……」

 

偶然にも鉢合わせると思わず、互いに会話がぎこちないせいで気まずい雰囲気に晒されていたが、しばし間を置いて、天地さんが申し訳無さそうな顔で沈黙を破ろうとする。

 

天地「確かに僕は、帰り際、水希君を止める為に手を打つって言い捨てたよ。

……だってのに、ここに来るまでずっと、自分のやっている事が本当に正しいのか判らなくなったんだ。威勢よく振る舞っておいて、情けないよね……」

スバル「天地さん……」

 

しかし、決意を固めたような視線を向けてこられた。

 

天地「だからせめて、あかねさんには悪いけど、君にもちゃんと水希君の事について話しておくべきなんだろうね……。まだ幼い事もあって、ずっと蚊帳の外だったと思うから」

 

そう言ってトランサーを決済端末にかざすと、軽快な音に伴って商品が出てきた。それも2回ほど。

 

天地「はい、スバル君の分」

 

と言って、そのうち一つを僕に手渡そうとする。

 

スバル「そんな、悪いよ」

天地「いいからいいから。なんせ今夜は冷え込んでるし、長話に付き合ってくれるお礼として受け取ってくれ」

スバル「……それじゃあ、お言葉に甘えて、頂きます……」

 

天地さんからココア缶を受け取るが、もう5月なのにまだ温かいのがあるとは思わず、少しだけ目を見張った。

 

 

◆◆◆

 

スバル「ちょっと待ってて」

 

見晴らし台まで登り切った後、ポケットからタオル地のハンカチを取り出し、手すりに張り付いた雨粒を拭う。

一応、天地さんも触れるだろうから拭き取っておいた。

 

スバル「はい、お待たせ」

天地「ありがとう。随分と気が利くね」

スバル「前にも似たようなことがあったから、雨の上がった日は決まって持ち出してるんだ」

天地「……そうか」

 

改まって真剣な眼差しを向けられた。

 

天地「まずは、水希君と大吾先輩が出会った経緯について話すよ。先輩から聞いただけだから所々うろ覚えだが……二人共、大丈夫かい?」

スバル「うん」

ウォーロック『あぁ』

 

間を開けずに頷いて、天地さんが体を預けるように前のめりになって凭れた時。ようやく本題に入った。

 

天地「今から15年前の事。リヴァイア君と行動を共にして半年経った秋頃に、大吾先輩と出会ったらしい。

先輩はね、科学者になる前はサテラポリスの職員として日夜働いていたんだよ。飯島さんとペアを組んでパトロールをしていた日、未知の存在を感知して正体を探るべくして動いた」

スバル「その正体が、兄ちゃんとリヴァイア?」

天地「そう。電波変換するところを偶然見かけたそうでね。まぁ大吾先輩の性格上、半分は好奇心で動いてそうだけど」

スバル「否定できないかも……」

 

天地「そして、11年前に起きた暴動を経て、保護観察対象となった水希君の監視と世話を先輩は責任を持って全うしたんだよ。

あかねさんと結婚したのも、監視を怠らない為のカモフラージュに過ぎなかったんだ」

スバル「その経緯があって…僕が、生まれたの…?」

天地「まぁ…ある意味間違ってないのかもね」

 

否定のしようが無いと答える天地さん。

 

ウォーロック『ちなみに暴動と言っても、具体的に何をしでかしたんだよ?』

天地「リンドヴルムの暴発による突発性の自然災害。それが水希君を死刑にまで追いやった発端なんだよ」

 

法に明るくない僕でも、被害を最小限に抑えられたなら死刑になどならないんじゃないかと思うし、改善案もなしに殺処分(こたえ)を急ぐことに納得いかなかったが、危険性の高さから考えるまでもなく処分に徹してしまうのは理解できる。

 

言ってしまえば僕らにとってロックとハープ、リヴァイア以外のFM星人が皆 友好的とは限らず、むしろ排他的な考えを持ってるはずだから、地球人にとって兄ちゃん達の存在がイレギュラーなものでしかないのだろう。

 

天地「確か、聞いた話によると、リヴァイア君にリンドヴルムの力を与えた者の名前はアクエリアスだそうだ」

ウォーロック『おい、今アクエリアスっつったか、天地…!?』

スバル「知ってるのロック?」

 

そう訊ねたら、額に汗を滲ませ顔を強張らせながら言いだした。

 

ウォーロック『知ってるどころの騒ぎじゃねぇよ…。

そいつは英雄と慕われていたらしいが、その本質はまさしく厄災の女神だ。

リンドヴルムと同じくして、水に属する自然災害を意のままに操る力を保有していた。

……かつてのFM星でも無類の強さを持つ女だって、同胞からも畏れられたんだぜ…。

そんな奴が……リヴァイアに何年も棲み憑いてるだなんて、信じられるかよ、普通……』

 

『にわかに信じ難いことでしょうね』

 

会話に割って入る女性の声が聞こえ、白く発光したシルエットが僕達を見やる。

 

スバル「貴方は…?」

『御二方、お久しぶりでございます。 そう、わたくしこそリヴァイアに力を与えた元凶ですわ』

 

前に夢の中で、これから先の戦いに向けて3つ忠告をしてくれた人。

それがまさかのアクエリアスとは思わなかった。

 

ウォーロック『じゃあ、FM星での戦いで封印した女ってのも?』

アクエリアス『えぇ。わたくしが自身の体内にリンドヴルムを封印しましたわ。

しかし彼の力は、わたくしの身体をFM星人のそれに書き換えるほど強大なもの』

ウォーロック『書き換える? って、まさか…!?』

アクエリアス『そう。わたくし、元々はAM星の住人だったのです。

ですが封印も、保って数年しかないと悟って、すべてを息子に……リヴァイアに託すしかなかった』

ウォーロック『それを聞いてようやく辻褄が合うがな。息子に全責任をなすりつけて何を思った?』

アクエリアス『……後悔と遣る瀬無さ、そして罪悪感。それ以外にございません……』

 

リヴァイアの実母だというカミングアウトに呆然とするが、ロックの質問には、どこか怒りと似たような感情が込められているように思えた。

 

アクエリアス『現に寝たきりの状態だろうと、お構いなしに精神は侵食され続けています。 最悪、あと数日足らずで星河水希の人格そのものが消え失せる。

時間はそう待ってはくれないもの。決断は急ぐべきと思われますわ』

 

そう言い残して、彼女は消え去った。

 

天地「君にも、あかねさんにも……酷いことを言ってしまったけど、どうか信じてくれ。

僕は少なくとも、水希君を殺すような真似はしたくない。その気持ちだけは本当なんだ……」

スバル「わかってる。けど、兄ちゃんにもしもの事があれば、謝っても許さないからね?」

 

 

天地さんが展望台から去った後の帰り道。

 

スバル「ねぇ、ロック……」

ウォーロック『なんだ?』

スバル「自分の気持ちに嘘をつき続けながら生きるのって、苦しいんだね」

ウォーロック『あぁ、そうだな』

 

足取り重くなりながら階段を下り、自宅に戻ろうとした。

 

◆◆◆

 

その頃。

 

あかね「……ねぇ、大吾さん。私、いつまでこの状況に耐え続けなきゃならないの。無理よ、もう……」

 

寝室のベットに蹲りながら、弱音を吐いてしまう。

そんなあかねを慰め、背中をさすってくれる人は、今や存在しない。

 

 



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36話 覚醒

『速報です。昨日、都内各地に電波障害が相次いでいる、と電波管理局から情報が入りました。

当局、最高責任者のコメントによりますと【サテライト当機、及び中継機のいずれかに不具合があると見ており原因究明に努めている】と述べ、また【現段階での復旧の目処は立ってない】との事。

これを受け、住民に不安の声が上がっています』

 

学習電波での一件から5日経つ朝。報道された内容通りの事案が多発しているそうだ。

中には交通面でも支障をきたしているとネット上でも騒がれていて、穏やかとは縁遠い日々を送っている。

 

そんな状況におかれながらも、未だに水希は目を覚まさない。

あかねが仕事の日は看護特化のナビに任せているとはいえ、ろくに何も食べられず寝たきりの状態にスバルも気が気でなく、用意された朝食が喉を通らないようだ。

 

あかね「……心配なのは分かるけど、ちゃんと食べなさい。せっかくの料理が冷めちゃうじゃない」

 

そんなスバルに気遣いながら悪態をつくあかねも今日に限って量が少なく見えるが、指摘する暇もなくトーストをかじった。

ご飯の時にしても、こんなにも静かなのは滅多にないから余計寂しく思う二人である。

 

あかね「今日は確か、学芸会なんだっけ?」

スバル「そうなんだよ。まさかたった一週間の練習で本番迎えると思わないじゃん?」

あかね「そうね、普通なら一ヶ月は必要ね。でも、学校に戻るタイミングが悪かったと思いなさい。あとは悔いの無いようにやりきればなんとかなるわ」

 

苦笑しつつ意見に賛同するあかねだが、発言がどこかの誰かさんを思わせる。

 

スバル「なんか兄ちゃんに面と向かって言われてるみたい」

あかね「そりゃあ血を分けた姉弟ですもの。似てた?」

スバル「かなりね」

 

雰囲気だけなら似ていてもおかしくないと、スバルは内心感じた。

 

 

 

 

 

朝食を済ませ、玄関にて靴を履き替える頃。

 

あかね「悪いわね、せっかくの晴れ舞台を見に来られなくて」

スバル「仕方ないよ。兄ちゃんを放ったらかしにはできないだろうし」

 

あかねも見送りをする体で立っていたが、開口早々に詫びの言葉をかけ、スバルも易々と受け止める。

 

(……本当は僕も休みたいところだけど)

 

学校へ行かず付きっきりで看病したいが、それでは学校に戻るきっかけを作った水希の為にならないし意味がない。

 

もっと言えばレティに全て任せようと思ったが、あかねがいる手前、下手に会わせても得策じゃない上、連絡先も知らないのだ。

 

色々と段取りが悪すぎるから、消去法で頼れるのはもう天地くらいしか思い当たらないが。

 

スバル「やっぱり、天地さんに任せるしかないのかな……」

 

ふとした発言に、あかねも同じ考えを持っていた。

天地と飯島が家に訪問した後日に送られてきた『サテラポリスの面々が黙ってない』というメールでの脅し文句を、説教された時の言葉と重ねる。

 

――今ある大事な命を守ることが、貴女にとっては先決なんじゃないんですか!?

 

あかね「わかってるわよ、そんなの……」

 

夫に続いて弟もか。

 

憔悴していたあかねがギリギリ平静を保てたのは、言わずもがな息子の存在だ。

元気に……とまで行かなくとも通ってくれるだけで充分。高望みが行き過ぎてもお互いを苦しめる。そう割り切っているのにも関わらず…弱音をこぼしてしまいそうな気分だった。

 

スバル「母さん…大丈夫?」

あかね「! ごめんね、取り乱しちゃって。何でもないから」

 

本音を言うと、逃げたい。

自分を取り巻く環境から。

子育てと仕事の両立から。

 

それを今、頑張ってる息子の前で言えるわけがない。

 

――確実に止められる術が無いのなら、こちらも無いなりに手を打たせてもらいます。

 

「行ってくるね」と言って、玄関の戸が閉まった直後にボソリと呟いた。

 

あかね「何でもない、か……」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

スバル「ツカサくんが休み!?」

ルナ「そうなのよ、困ったことにね」

スバル「そんな……」

 

聞くところによると、本番当日を迎えたこの時に限って風邪を引いたそうだ。

何とも心細いものだとスバルは内心思うが、ルナは既に代替案を編み出していたらしい。

 

ルナ「だからもう、星河くんにはセリフを一つだけに絞って、残りは私達でカバーすることになったの」

スバル「それなら助かるけど、本番でなんて言えばいいの?」

ルナ「そうねぇ……」

 

 

 

 

耳打ちされた台詞にむず痒くなりながら迎えた本番。

 

ルナ「キャー! 誰かぁー!」

 

牛男を目の前に、助けを求める台詞を言い切ったタイミングでスバルが登場する。

ここまでは順当に行ったが、

 

スバル「そこまでだ!」

 

猛々しく声を上げて舞台袖から登場した姿に、ルナは目を剥いてしまっていた。

 

ルナ「あ、あなたは……?」

スバル「僕はロックマン! 君を助けに来た」

 

味方と称する台詞の後半にはスバルのアドリブが含まれ、劇に沿って作った簡易的な衣装でなく、いつか見た御姿が勇ましさをより強調させている。

 

しかし、夢見る瞬間も束の間。

 

突如視界が暗転するというアクシデントに見舞われ、気がつけば自分が作った衣装になっており、単なる見間違いかと呆気に取られるなか、スバルが再びセリフを言う。

 

スバル「君は、僕が必ず守る」

ルナ「……!」

 

――もう大丈夫。僕が絶対守るから――

 

何故かは分からないが誘拐事件のことを思い出させる。

似ても似つかないのにまるでそっくりだと錯覚させられる。

 

頬が熱くなるのを感じながら、ルナはしばらく固まっていた。

 

 

 

◆◆◆

 

スバル「……兄ちゃん、まだ寝てるかな……」

 

時刻は午後3時を過ぎ、劇が無事終わった後の帰り道。

兄を(おもんぱか)るなか、ロックが急に慌てふためいて言い放った。

 

ウォーロック『スバル、マズいことが起きた!』

スバル「どうしたの?」

ウォーロック『遠くからでも微かに感じ取れたんだ、水希の気配が。恐らくもう目を覚ましたかもしれねぇ……!』

スバル「ロック、方向はわかる?」

ウォーロック『一応な。急いで電波変換だ』

スバル「わかった」

 

今はとにかく、ロックの指し示す方向を目指して後を追うしかなかった。

無事を祈りながら、兄が向かう先へと。

 



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37話 帰ってきた男

dova-syndromeの曲「stand up」が流星3の序盤OPっぽいイメージが湧いた。
フリーBGMでここまで作風に合いそうな歌詞があると創作意欲が高まります。


話は水希が覚醒する数分前のこと。

 

場所は研究所内。かつて宇田海が使用していた一室だ。

しかし当の本人がいない今、大した理由もなく立ち寄ってしばらく経った頃に入口の自動ドアが開き、その音で振り返る。

 

天地「……萩山君か」

萩山「やっぱり、此処へいらしていたのですね…所長」

 

萩山と呼ばれた女性も今は受付嬢として勤めているが、元は宇田海と同じ技術開発担当であるため専用区間を行き来するのは容易だ。

もっとも、進入禁止エリア以外に規制する場所はまず無いが。

 

萩山「……申し訳ありません。未だ御心が優れないと知っていながら……」

天地「大丈夫。わざわざ探しに来たってことは、あのサテライトの進捗についてだろう?」

萩山「はい」

 

天地が口にした題に萩山は即答し、近くまで歩み寄った。

 

萩山「開発途中の後継機は、現時点で8割方完成しております。……ですが、今代の通信環境をまかなう3つのサテライトの性能を一つにまとめるには、我々もかなり骨が折れましたが……」

天地「ここ数年の進歩で、魔法じみた仕掛けによって物作りができたとしても、完全無欠の永久機関なんてものは実在しないからね。

いくら便利な時代になっても常々アップデートしなきゃならないから大変だよ」

萩山「まったくですね……」

 

後継機を制作する理由については、三賢者のレオから『地球の通信環境を保った上で稼働し続けられる限度は長くても5年だ』と言われ、WAXA職員の協力の下、ようやく試用段階まで来ているところだった。

 

だが二人にとって、気がかりな点はそれだけに限らない。

 

萩山「私、宇田海君の気持ちはよくわかるんです。彼との共通点は、前の上司から不当な扱いを受けたのが原因で、今の職場でもまた貶められるんじゃないかという恐怖が拭えなかったと思うんです……」

天地「……君は、僕がそんなに横暴な人に見えたのかい?」

萩山「見えませんよ。でなければここに何年も勤めてませんもの」

 

部下にそこまで信用されてないのかと不安げに尋ねるが、萩山も天地の優しい人柄を理解しているからこそ、辞職は考えてないと断言し話を戻す。

 

萩山「アマケンが今もこうしてあり続けられたのも、彼が率先して設計開発に携わってくれたお陰だったんですが……」

天地「あぁ。本当、僕にはもったいないほど優秀な人材だよ。それこそ、大吾先輩に劣らないくらいにね」

萩山「……一つ、お聞きしたいのですが」

天地「なんだい?」

 

ここにいない人物を想いながら胸中を明かす天地に、萩山は一度俯いてから恐る恐る聞き出す。

 

萩山「貴方にとって、星河大吾はどんな方でしたか?」

 

聞かれた直後、天地はパソコンの隣に倒れてある写真立てを直し、学生服を着ていた頃の深祐が両端にいる信武と水希の手を繋いだ写真を見て、彼の人物像について思うことを述べようとした。

 

天地「……言ってしまえば、敵わない存在だよ。もし大吾先輩と立場が逆だったら、11年前に水希君を殺す選択をしてたはずだからね」

萩山「……だとしたら、あかねや彼の両親が黙ってないでしょうね」

天地「だと思う。それで今以上に宇田海にも信用されず、辞職して路頭に迷った際に声をかけても、僕の言葉に振り向いて貰えなかったかもなって思ったりしていたんだ……」

 

萩山も言うように水希の親族に不信を買うだけでなく、深祐が快くアマケンに来て貰えなかったという展開は読めていた。

 

視点を変えれば大吾は水希を利用しているようにも見えたが、結果的に生かす道を選んで今がある。

未知なる生命体との交流と共存(何度も諦めかけていた夢)】の実現が、あの二人が“可能”だと証明してくれたから。

いつか叶えてやる、と悲願の達成に縋る理由はそれで事足りると大吾の心意気に畏怖してしまう。

 

そんな天地だが、名目上は大吾に継いで保護監査をやっていながら、いつ暴発するか判らない不発弾を背負っていけるほどの胆力が備わっていないことを何年も前から自覚しており、歯痒さを感じていた。

 

要は、自分の手を汚す事に躊躇いがあったから。大吾ほどのお人好しには敵わないと自嘲するのはそこにある。

 

萩山「それでも私は、宇田海君が必ず戻ってきてくれると信じています。ここに残ってくれたスタッフも総意です」

天地「そうだな、彼らが生きている限り、まだ希望は絶たれてない」

 

彼を待っているのは貴方だけじゃない。

そう言葉にしてもらえるだけでも心が軽くなり、僅かばかり調子を取り戻す。

 

天地「頼んだよ。もうじき僕もそっちに向かうから」

萩山「畏まりました。引き続き作業場に戻ります」

 

それでは後ほど、と言い残した萩山は研究室を後にした。

 

天地「――――」

 

萩山のお陰で落ち着きを取り戻したが、足音が遠退いたのを境に、写真に映り込む水希へと視線を落とす。

 

――俺たちの望む結果じゃなくとも、アイツらが死んだその時は、嫌でも受け容れるべきなんだろうな。

 

天地「……本当、嘘をつくのが下手ですね、貴方は。あの時だって水希君と似て不器用なことしかできなくて、今にも涙を溢しそうなくらい悲しそうな顔をしていたじゃないですか……」

 

自分が今、取るべき選択……いずれが有益だろうか。

 

ニュース等で目にする世間体の保持か?

研究者としての立場か?

それとも、近しい者達の存命を望むべきなのか?

 

(事態を悪化させているのは僕も同じなのにね……)

 

深祐と信武相手に戦う気力すら失せていた水希の優柔不断さを指摘し、嫌でも戦えと諭したが、まさかその言葉が自分の首を締めるとは微塵も思っていなかったようだ。

 

それとも単に、認めたくないという気持ちがあったのかもしれない。

 

――来る日の為に生身の人間でも扱える武器を用意しておくが、出来そうにないなら代理人を雇え。

 

懐にある半自動式(セミオート)の小型拳銃を取り出す。

それも、抹殺対象(星河水希)と行動を共にしてきた大吾が開発した、対電波生命体処刑器具。完成を機に預かり受けた物だった。

しかし言動の裏に潜む矛盾を抱え、作るのにどれほど執念が込められているかは、流石の天地でさえ理解に苦しむことだと思う。

 

アクエリアスから時間がないと差し迫るように言われても、仲の良かった二人を近くで見続ければ尚の事、まだ殺せない。

 

天地「……先輩、僕は一体、どうしたら……」

「――仕事熱心な貴方が、まさかこんな所で油を売っているとは……珍しい事もあるものですね」

 

誰もいなかったはずの空間に、紺のスーツにグレーのトレンチコートを身に着ける男が突如現れ、物珍しそうに言い放つ彼の声に安堵した天地は目を張ってしまう。

本来なら再会を喜ぶところだが、()()()()()()今は下手に近づけない為、すぐさま心を無にして背後を振り向いた。

 

天地「……何をしに、此処へ来た?」

「冷たいなぁ……()()()()()が戻ってきたんですよ? そんな険しい顔をして出迎えなくてもいいでしょうに」

天地「どのツラ下げて“ただいま”なんて言ってるんだよ……。街中、各地で相次いだ電波障害事件、今回は規模を少しづつ拡大させ都民を混乱に陥れるケースだった。

そんな回りくどい悪事……いくら水希君がやれるとしても肝心の動機が無いからね。

けれど、君の技量と電波世界に干渉する力を持ってすれば容易い芸当だろう。……違うか、宇田海?」

 

飯島から渡された情報によると、中継機を介して無線化を導入した信号機にもハッキングの痕跡が見られ、意図せず渋滞が引き起こされるケースも数件あったそうだ。

……が、同じく電波世界に介入できる水希でも、リンドヴルムの暴発がない限り赤の他人相手に害をなすことなどありえない。

よって犯人は……消去法で考えても、宇宙に投棄された旧型の人工衛星を落とした者しか当て嵌まらないことを淡々と冷徹に物申したが、深祐は毅然とした態度を変えずにいた。

 

深祐「違わない、と言ったら……どうするんです?」

天地「別にどうもしないよ。自らの意思でその力を手放してくれるのなら何も文句はない。

加えて復興作業に協力してくれるのなら、上に直談判して処遇を改めてもらおうと考えていた所だからね」

 

これに関しては本心であるものの、今の深祐にも話が通じるほど大人しければ良かったのだが。

 

深祐「ッ……強がらないでくださいよ。分かっているんですよ? どうせ僕を謀ったあの男のように! 水希君が信武を見捨てたように! タイミングを計らっているのは見え透いてますからねぇッ!!」

 

あからさまに動揺し敵意を剥き出しにする深祐に、処刑器具の照準を合わせた。

 

天地「……失望したよ、宇田海。君もずいぶん臆病が行き過ぎて、水希君の気持ちを何一つ理解しようとしないんだね?」

深祐「黙れっ!!」

 

しかし、引き金を引くよりも先に目の前まで詰め寄られ、胸倉を掴まれたままデスクの上に押し倒される。

 

深祐「なら貴方に何が分かる?! 裏切られた者の痛みも知らない貴方に!」

 

振り解けずにいる天地も苦し紛れに打ち明けようとした。

 

天地「……そうだね。正直、君が最も望む裏切りのない(めぐまれた)環境にいたからほんの一欠片しか分からない。

……それでも、変わらないんだよ。君に声をかけたあの時だって別に憐んでいたわけじゃない。同じ研究者として君自身の才能が潰れて欲しくなかった!」

深祐「そんなもの全て嘘だ!」

天地「嘘なんかじゃない! 宇田海、水希君とブラザーバンドが切れた日を思い出せ! なんとも思ってないように見えたか? 辛いと感じたのは君だけじゃなかったんじゃないのか?」

深祐「うるさい!! もう今更、何を言っても遅いんですよ!!」

天地「宇田海……」

 

「ちなみに、なぜ此処へ戻ってきたかと言うとですね」と言って、コートの胸ポケットから円柱型の電球と似たフォルムの部品を取り出した。

 

天地「それって…、レディオ・コンポーザー…?」

深祐「ええ、僕が必要としていた部品ですのでわざわざ足を運んだんですよ。できれば誰とも会わずに回収したかったんですが」

 

デスク裏のボタンに手をかけ警備隊を呼びつけるが、

 

深祐「抵抗しても無駄ですよ、天地さん。

―――これから貴方には、大物を釣り上げる生き餌になってもらうんですからね」

天地「――――ッ」

 

警備隊が研究室へ辿り着いた頃、既に二人の姿はなく窓も破られていた。

 

萩山「……遅かったか」

 

一足遅れて到着する萩山は窓の外を見遣って、目を細めた。

 

萩山「……所長。どうかご無事で……」

 

◆◆◆

 

その頃、星河家では

 

あかね「本当……なんで、こうなったのかしら……」

 

寝込んでいる水希に寄り添うように座るあかねは、心労が絶えない現状に溜息を溢してしまう。

 

あかね「気づいてないのなら構わないけど。私ね、ほんとはアンタの事が大嫌いだった。生まれてから両親に気をかけられて、私が二十歳を迎えた頃にいきなり結婚を押し付けられて、それが今ではこの有様とは……誰も思ってないでしょう。

これでもね、もっと自由に生きたかったのよ。今までどれだけ我慢を強いられてきたか、アンタにわかる?」

 

水希は目を覚まさないとわかっていても、溜まりに溜まった愚痴を吐かずにはいられない。

 

あかね「前に、スバルも戦えるとしたら不安かって訊いたわよね? 当たり前でしょう、だって私の…たった一人の息子なのよ?

兄貴として面倒見るって言葉を信じてたのに、なのになんで無様に倒れてんのよ…? 肝心な時にスバルを困らせてどうすんのよ……!?」

 

怒りをぶつけようと全く起きる気配がなく、余計腹立たしく思う。

 

あかね「……正直、悔しくて堪んないわよ…。

勝手気ままなアンタを止める力も無くて、ただそこで見ていることしかできなくて、どうしようもなくムシャクシャしてるのよ? 今だって……」

水希「――――」

あかね「こんなにも憎んでるのに、それこそ鍛錬と称してアンタに手を上げてきたってのに、そんな私を姉として見てくれていた。……それがね、ちょっと嬉しかったのよ……。だから皆、こぞって甘やかしちゃうんでしょうね」

 

その辺はスバルと同様、ただ憎んでいたわけじゃない。

自覚している当たりのキツさに、水希はなんやかんや言いながらも出て行く事はなく、大吾を含めたクルーの捜索を諦めず、スバル自身が抱いた寂しさを埋めてくれたお陰で少しづつ平穏が戻っていた事に感謝していた。

 

あかね「だから……もしものことがあっても、スバルのことは任せて。母親らしいことはちゃんと果たさなきゃ」

 

部屋を後にして階段を降りる音が遠ざかった瞬間。ゆっくりと瞼を開けた。

実のところ数分前から意識が覚醒していたが、言い訳のしようがない話を、寝てるふりをして聞いていたのだ。

 

水希「……心配しないでよ、お姉ちゃん」

 

(今までの所業もすべて清算して、その上でお姉ちゃん達が望むなら、喜んで死んでやるつもりだったからね。ずっと前から考えてたの)

 

寝床から上空にまで転移して、ウェーブロードに足をつける。

 

――家族の輪の中(そこ)にアンタとリヴァイア君も含まれてるってこと……忘れないでくれたら、お姉ちゃんは嬉しいんだけどね。

 

(……だからごめん。あの時『ちゃんと生きて帰る』って約束したけど、もう守れないや)

 

水希「……モードチェンジ、リンドヴルム……」

 

熱の籠もらない声で、気に病んでくれた者達への冒涜を紡いだ。

 




ここまで話を練るのに三年はかかり過ぎだろとツッコミたいところ。
次回をお楽しみに!


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38話 ありがとね、最期まで

天地は今、ジャージの襟を掴む腕を除く体全体を電波化させた深祐に攫われている。

ビル群の間を通り抜け、一時モノレールにぶつかりかけたが、風に煽られているせいかとても目を開けられない様子。

とは言え、あちこち振り回されながら飛行している状況は、並みの絶叫マシンよりも質の悪いアトラクションだと錯覚させられ、堪ったもんじゃないとぼやいてしまいそうだった。

 

そして数分後。ようやく恐怖の飛行体験は終わり、目を開けてすぐに現在地がセントラルシティにある都庁、その頂上だと気づく。

 

しかし、電波化を解いた深祐が端の方に降り立ったせいで天地は未だ宙吊りにされたまま。いつ振り落とされてもおかしくないため、とても真下を見れたもんじゃない。

 

と、その時。近づく足音に深祐は右方を見やる。

 

「……遅かったな、深祐(しんすけ)

深祐「ごめんね信武(しのぶ)、長居しちゃったよ」

 

軽く詫びを入れた深祐。

天地も遅れて視線を向けては、状況が飲み込めないとばかりに見開いて驚く。

 

天地「どうして君が此処に!?」

信武「……どうも。うちの深祐が世話になってるようで」

深祐「それよりもどうですか、FM星人の力は? 水希君だけが独占するには惜しいほど、素晴らしい能力(もの)だと感じませんか?」

 

何故ここにいるのかと訊ねたが、無愛想にはぐらかされた挙げ句、深祐からも口を挟まれてしまう。

 

深祐「こちらが欲しいと願えば分け与えてくれる……簡単に人を裏切り見捨てる地球人よりもよっぽど信用出来ます」

天地「目を覚ませ二人共! 君達はバケモノに操られているんだ!」

 

この期に及んで世迷言を吐く深祐に呆れ、切羽詰まった形相になりつつ説得を試みたようだが、二人の表情から察するにまったく聞き入れる気はなさそうだと悟った。

 

信武「ふん…生憎だがな、俺らは自分の意思で手を組んで力を得たんだよ。それをどう使おうがこっちの勝手だろ」

深祐「その上、僕らをバケモノ呼ばわりですか…天地さん。それを言うなら…水希君だって十分染まりきっているじゃないですか。バケモノに」

信武「そしてそのバケモノを…道具として運用する連中が、いかにクズなのかがよく判るぜ。犠牲があっての進化とかほざきやがって、無用になるまで扱いやがるんだからな」

天地「信武君……」

 

二人のあんまりな言動に、堪らず目を細める天地。

 

信武「そうなりゃ当然…水希も小4に上がったのを境に口数が減るわ、周りの連中もそりが合わねぇからって煙たくするわ、終いにゃ俺の前で笑うことも減ったんだぞ……」

 

血が滲みそうなほどに拳を握りしめる信武の表情は、幼馴染であり親友という立ち位置ながら何もしてやれなかった事への憤りとやるせ無さが綯い交ぜになっていると見て取れる。

 

何も知らされてなかった分、余計に、水希は悲劇のヒロインだという認識しか出来ないのだろう。性別云々は置いといて、表現としてはあながち間違ってはないが。

 

信武「……なぁ、答えろよ……」

 

すると突然、信武の全身を負のオーラが纏わりつくように鈍色の光が覆い、やがて換装体へと姿を変えた。

 

信武「あいつを、俺の唯一の親友だったあいつを、あんな風になるまで追いやったのは星河大吾だろ!?

絶対に許さねぇ………たとえ地の底だろうと(そら)の果てだろうと、見つけたら必ず、俺の手でズタボロにしてやるッ!! もう二度と、水希がクソ野郎どもなんかに泣かされねぇように……!!」

 

そんな悲劇のヒロインを救う英雄を気取っているのか、受難を抱え生きてきた親友を労わるところ悪いが勘違いも甚だしい。

水希が何より望むのは、大吾の帰還によってスバルとあかねの二人に心の安寧が戻ってくること。

 

だがどうしてか、信武の言動は、お前にその望みを叶える権利すらないと高慢に語っているようにしか聞こえない。

 

天地「いい加減にしろよ……! 君は、あの子が今まで、どんな思いを抱えて戦いに興じてきたと思ってる?!」

 

11年前の暴動を経て、頑なにリヴァイアから離れようとせず共に鍛錬を積んできた水希の並々ならぬ覚悟を、まるで理解していない信武を見て堪忍袋の緒が切れてしまったが、当の本人は動じるどころか不貞腐れた態度を取る。

 

信武「さぁな……ただ、昔の俺と同じように、水希は星河大吾(そいつ)に対しての存在価値を示したかっただけだと思うぜ。

そもそも、戦闘だけが取り柄の道具にならざるを得なかったのだって、紛れもなくお前らが原因だろ?」

天地「そんなことは…………っ」

 

……思い当たる節しかない。

 

どんなに危険物だろうと、使い方次第で替の効かない便利な物になる。

かつて裁定を下そうとしていた際に老年の男性が言い放った言葉を思い出す。

そしてある者は実験材料として、片や戦場の駒として飼い慣らすなどと宣った者まで。各々、利己的な欲望を彼一人にぶつけたのだ。

 

たとえ水希本人が強くなる為にと望んで、『扱われ慣れた』と割り切っていたとしても、本来あったはずの選択肢(みらい)を奪い取ったのは否定できない事実なのだから。

 

バツが悪そうに目を伏せる天地を、信武はより鋭く睨みつけ悪態をつく。

 

信武「ほら見ろ、あるんじゃねぇかよ……。大体な、腐っても幼馴染みだから分かんだよ。心配かけさせまいと一人で抱え込んで、ずっと悩み倒して苦しんでたことくらい顔見りゃ分かんだよ、俺にだって!」

天地「……だったら尚更、なぜ宇田海の味方につく?」

信武「………水希がどれだけ痛い思いをして来たのか理解はできても、やる事なす事に納得いかねぇから、どうすりゃいいか分からないんだよ…!

もう今更、親父が生きていようが帰って来ようがどうだっていい! どいつもこいつも何でそこまでして死人に執着するんだ? もう3年も経ってんだぞ、ますます意味わかんねぇよ……」

 

遂には我関せずとばかりに聞き流していた深祐だが、不意に前方を見て、確信を得た途端に怪しく笑いだす。

 

深祐「ほら、噂をすれば現れましたよ。バケモノが僕ら二人を屠りにね」

天地「な、に……ッ!!?」

 

部下の口車に乗るように前方を見た瞬間、此処へ来る前に言い放たれた生き餌の意味がようやく理解したのと同時に、唯一の頼みだった命綱は呆気なく振り解かれた。

 

天地「――う、あああぁあぁぁあああぁぁぁ!!!!」

信武「…………お……おい、深祐! いま、天地さんを?!」

深祐「まぁ黙って見てなよ。この後、彼がどう動くか気になるし」

 

叫び声を上げて為す術もなく落ちていく様を目の当たりにした信武は目を剥くが、この状況を見て悪びれもせず、むしろ面白がっていた深祐の肩を掴みかかって、血の気が引いた顔を険しくさせた。

 

信武「そうじゃねぇ! 仮にもお前の上司だろ?! なんで取り返しのつかねぇことをやってのけんだって聞いてんだよ!!」

深祐「何だよ……お前まで僕を非難する気なのか?」

信武「ッ、だから――!」

 

剣呑とした眼差しに怯みかけ、そういう意味で言ってるんじゃねぇんだよ、と声を荒げそうになったが、途中遠くで天地を呼びかける声に遮られた。

 

深祐「……まったく、最後まで堕ちぶれていないのか、君は。よっぽど受け入れ難いんだね? 昔の自分の愚かさを思うと。どのみち手遅れだろうに…………でも安心したよ。君はいま何をするべきか、誰を守るべきなのか……本能から見失ってなかったんだからさ。……ここにいる僕ら二人を除けば、だけど」

信武「水希……」

 

意味深な発言をする深祐に倣って下方を見下ろし、バケモノらしからぬ親友の行動に安堵する半ば、複雑そうな面持ちで見やるのだった。

 

◆◆◆

 

 

重力に則り急降下。

風圧をもろに受けようが関係ない。

 

落ちる、落ちる、真っ逆さまに。

 

だが抗う手立てがなく、無情にも落下速度は増すばかりだ。

このままでは確実に……!

 

迫りくる現実に耐えきれず、目を瞑って逃避してしまいそうだったが、

 

水希「天地さんッ!!」

天地「!? ……なんで!?」

 

自身の置かれている状況すら顧みず、声のする方を見上げては、あり得ないと口にしそうなほど呆然とした。

 

暴走してその後、寝たきりの日が続いたというのに、こうして助けに来るあたり、理性を保てていると見て取れるからだ。

 

水希 (お願い……間に合って……!!)

 

もう誰も失いたくない……。

 

それは…何度もその虚しさを嫌ほど理解してきたからこその願い(本音)だった。

 

しかし今、3km離れた上空から透視(ビジブル)を活用し、天地が落下するのを目撃してから全速力で向かったのだ。

このままだと間違いなく衝撃波に押し潰され、天地の手を握るどころか建物にも被害を及ぼすだろう。

そう予感し、空気抵抗を無くすため全身を電波化させ、真下に回り込んでから解除。

そうして難なく天地を横抱きに受け止めることができ、時たまに翼をはためいて減速し始める。

 

天地「その姿……まさかリンドヴルム?!」

水希「ちゃんと掴まって!」

 

水希の平然とした様子に驚いたが、言われた通り振り落とされぬようにしがみつく。

地面が近づくにつれ、より緩やかに降下し……着地。

 

水希「怪我は無いようだけど……大丈夫?」

 

いつもの調子の良さは失せつつも、たまに見せる真剣な顔つきは相変わらずだ。あまつさえ気を遣われる始末である。

 

天地「あぁ、助かったよ……ってそうじゃない! 力を使ったらダメじゃないか?! たとえ自我が残ってるとしても、まだ君の精神は蝕まれて…」

 

一方的に水希を責め立てる途中、早く上がって来いと言いたげに落雷に撃たれるが、一切食らうことはなく、バシュッ! と弾くような音に伴い視界が白んで行く。

それも一瞬の出来事。じきに収まった。

 

天地は、困惑しきったまま頭上を見て絶句する。

 

(……水の、バリア……?)

 

目を凝らすと、魔法陣らしきものが中で光っていた。

傘開くように覆い尽くすそれが、二人を落雷から守ったということだ。

 

普通は通電するはずなのに、いつの間にこんなものを用意したのか、と諸々考えるのはこの際どうでもいい。

 

天地はただ、何事も無いかのように面と向かう水希に恐れを抱いていた。

襲ってこないと分かってはいても、内部から漏れ出るような殺気に近い何かが、深祐が言うように"もう既に染まりきっている"のかもしれないことを指しているのだから。

 

……しかし、予想と違って平静を保ちながら、口を開いた。

 

水希「言いたいことはわかってる。まだ完全には呑まれてないよ。……それでも結局は、時間の問題だろうけど」

天地「……その言い草じゃあ、はじめからこうなると見越して……?」

 

悲痛な表情を浮かべる天地に心配される心苦しさから、水希は背を向けた。

 

水希「……11年前の件で極刑は免れても、そろそろ潮時だと思うけどね。何せ過去に災害をも引き起こしたんだ、今更言い逃れなんてできないでしょ?」

天地「だけど……それでも……!」

 

君のせいではない、と言い切れる事態では無いことは流石に理解していながら、他に言葉をかけてやれないか考えるも、答えが出ず言いあぐねてしまう。

そんな天地の心境を悟る間も無く、水希は続けた。

 

水希「あの日……ユリウスが居なくなってから、リヴァイアと大吾さん以外の誰にも期待しない生き方が楽なんじゃないかって、馬鹿なこと考えてた。特にさ、もうバレてるってのに、信武とスバルの前だと弱い自分を曝けたくなくて、ずっと意地張ってたんだよね。

……でも、何やかんや今があるのは…皆がいてくれたからって実感できたから。情けないこと、今になってやっと理解したよ」

天地「水希君……?」

 

翼を開き腰を落とした時点で予感はしたが、もう遅い。

 

水希「――ありがとね。最期まで」

天地「え……うわ!?」

 

跳躍の反動で吹き荒れる風に耐えきれず尻餅をつく。

 

天地「! ダメだ、行くな! 戻ってこいっ!!」

 

静止を促す天地を無視してまで、水希は上へ上へと翔けあがって行く。

 

このままでは最悪、殺されてしまうかもしれない。

 

そう直感した天地はとっさに立ち上がって、端末へと手を伸ばし、電話帳にある名簿をタップする。

 

『――天地さん、どうかした?』

 

数度のコール音が途切れてようやく繋がったが普段と違い、画面上には青いヘルメットを被るスバルが映っていた。

 

天地「……()()()()()()()のなら話は早い。 たった今セントラルシティにある都庁、その頂上付近で水希君は二人の敵と遭遇している……そのうち一人は、宇田海だよ」

ウォーロック『やっぱりな。ところで天地、宇田海の奴と水希の容態はどうなんだ?』

 

ウォーロックは最悪の事態――キグナスに憑かれてから数週間経過した宇田海とリンドヴルムのチカラを誤用し半暴走状態の水希。双方ともに手遅れになる前に倒さねば()()()()()()()()()と危惧していることを話した。

 

深祐の場合キグナスと心身の同化によるものだが、水希は言わずもがなリンドヴルムに精神を掌握され、結果。人間としての人格を失くす。

そうなると、先程の質問にしても、上記の通りに事が起こり得ると見越して何を仕出かすか分からない二人だ。地球の命運が危ぶまれるのも納得がいくだろう。

 

天地「宇田海のことは把握していないが、水希君の容態については、本人も時間の問題だと言ったんだ。

とにかく、水希君にとってかなり不利な状況だ。急いで助太刀に入ってくれ!」

スバル『わかった!』

 

通話はそこで途絶えた。

 

 

 

――FM星人の力を利用する気なのかい?

 

宇田海がキグナスに取り憑かれる前の出来事。

飯島と水希の三人が揃った日の会話をふと思い返す。

 

***

 

水希『……そう。少し癪だけど、今後の戦いを勝ち抜くためにも、人員を確保するからには避けて通れないと思うの』

飯島『そうは言っても、お前らの時とは訳が違って、奴等は悪意を持ったまま子供にだって取り憑くかもしれんだろ?

それでも、最悪のケースを想定した上で実行に移すつもりなのか?』

水希『……勿論、手順を間違えれば死ぬかもね。けど、そうならないように、こちらの体力が持つまでに無力化して引き剥がすしか方法はないと思う』

 

この頃はまだ殺さずして勝ったという事例が少なく、確証がないなりに策を練ろうと必死だったが、

 

天地『じゃあもし君より強い敵が現れたら、その時はどうするんだい?』

 

いくら電波変換してもその力が必ずしも敵に通用するとは限らない。

そうとも取れる質問に、水希は眉一つ動かさず答えた。

 

水希『極力控えたいけど禁忌を犯してでも止めるんじゃないかな。……目には目をって言葉があるんだしさ』

飯島『お前な、そういった冗談は休み休み言うもんだぜ? 普通はよ』

水希『ごめんて』

 

***

 

ただ一つの誤算は、あくまで使うつもりはないと態度で示す水希を信用しきっていたこと。

それが仇となり、この有様だ。

 

天地「……頼むから死なないでくれよ。水希君」

 

後悔先に立たず。もはや水希が無事であることを願うしかなかった……。




第五章のタイトル、今まで無題(英語力皆無ゆえ放ったらかし)でやってきましたが、災厄の意味も含めて【アポカリプス】に決定しました。
本当はサテライトの後継機の名前として決めてたんですが、意味合い的にアカーン!とわかって、急遽別の名前を考えてるところです。
良案がございましたら是非とも感想欄に……!

お気に入り登録および感想、お待ちしております。
して頂けると執筆の励みになりますのでどうかよろしくお願い致します。m(_ _)m

次回、満を持しての戦闘が巻き起こりますのでお楽しみに!


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39話 性根が腐ってる

UA8000突破ありがとうです〜!

重たげな作品であることは承知ですが、感想やお気に入り登録をしていただけると執筆の励みになりますので、何卒宜しくお願いします。



それでは本編、どうぞ!


戻ってこいと必死に呼び止める天地さんを差し置いて死地へ行く……そんな時になっても考え込んでしまう。

 

本当はわかっていた。さっきは誰も彼に期待しない生き方が楽だとほざいたが、天地さんだけじゃなくてお姉ちゃんも、最後まで味方でいてくれていたことをちゃんと理解していたつもりだった……けれど、いい加減頼りっぱなしじゃ駄目だと感じていたのだ。

 

たかが一人の為に、中には己が身を投げ打ってまで奮闘し尽くしてくれる皆の姿を、何度も、何年も見ていながら、心苦しくて耐えられなかったから……。

それこそ、地球(ここ)にいる皆を巻き込んでしまったが、自ら引き起こした過ちは自分だけで……いいや、リヴァイアと二人で解決すべき問題だってのに、とやかく言いつつも協力してくれる人の良さがとても嬉しいのに……同じくらい心苦しくて申し訳なく思う。

 

死を以てして、こんな疫病神の柵から解放されれば周りもどれほど楽になるだろうかって、考え続けていたんだよ。

所詮は独り善がりのエゴに過ぎないというのにね……。

 

水希「――――」

 

――弱音を吐く暇があるなら、いい加減覚悟を決めろ。甘さを捨てろ。

袂が分かたれた今、目的を第一にしてきたなら引き返すまでもないだろ。

 

そう言い聞かせ、やがて二人の元へ辿り着く。

 

上昇しきったところでスピードを落とし、近くのウェーブロードに着地するまでの間、都庁の天辺に立っている二人を見下ろしながら下降する。

 

深祐(しんすけ)さんと信武(しのぶ)は既に電波変換をして臨戦態勢は整ってるようだが、向こうから攻めてくる感じはない様子。

しかし、こうも空が暗雲に埋め尽くされていると二人の佇まいに不気味さを際立たせるもんだ。

 

深祐「フッ……見ていて滑稽だよ。そんな醜い姿を晒しておいて、理性を保っているとはね」

水希「自ら地に堕ちた奴に言われりゃ世話が無いね。お互い」

 

対面して早々、鼻で笑いだす深祐さんと罵り合ったからか良い気はしない。

 

深祐「でも好都合だよ。あのとき君から手を切ってくれたお陰で、こうして気兼ねなく戦えるんだからさ。お前もそう思うだろ?」

信武「…………」

 

隣にいる信武にも同意を求めるが、こちらを睨みつけたまま頑なに口を開こうとしない。

 

深祐「言うまでもないか――それでだ、水希君」

 

急に名指しを受け、再び深祐さんと目線を合わせる。

 

深祐「僕らはこれから王命に従い、この星を壊すつもりだ。けれど君がいては円滑に事が進まないだろうね。もう何を言いたいかは、判ってくれるかい?」

水希「……本当にいいの? 天地さん言ってたよ。深祐さんが作ったフライングジャケットを見て、すごい出来栄えだって……同じ研究者としてうかうかしてられないって、闘志を燃やしながらも称えてたよ。いつかアンタが暴走して行方知れずになった後だって、ずっと心配してくれてたのに……」

 

挑発とも取れるような発言を投げてこられるが、誘いに乗る手前、彼に改めて訊ねた。

これで少しでも揺らいでくれたら、と淡い期待を抱きながら。

 

水希「それに何しろ、()()()()()()の人生に挫折しかけた所を助けてくれたんでしょ? その恩を、仇で返すつもりなわけ?」

 

語れるだけ語りかけたけど、取り憑かれてからだろうか……人を見下すような視線は変わらないが、嘲笑うように歪んだ表情はとうに消え失せていた。

 

深祐「……黙って聞いていれば何だ。君だって人に物言えた口じゃない癖に、よく人を説教をする気になれるね。相変わらず羨ましい思考回路をして―――」

 

言い終える直前に放った雹弾が、深祐さんの頬を掠めて生々しく血は滲みだすが、やがて顎にまで伝い落ちようと気にも留めず無表情を貫いていた。

 

水希「二度は言わない。答えて」

深祐「……分かりきったことを……退くつもりはないと言っている。力を手放した所でもう戻る場所なんてないんだから、今更君が気に病むだけ無駄なんだよ」

水希「……そう、本気なんだ」

 

交渉の余地も無ければ結構。

討伐を請け負った身として都合のいい理由ができた以上、最早多くを語ることはないだろう。

 

水希「だったらここで、いつぞやの借りを返すとしますか……」

 

右手を前へ掲げ、氷のように冷たく透き通った三叉槍(さんさそう)が顕現する。

その三叉槍から只ならぬ気配を感じ取った信武は警戒心から目を細め、逆に深祐さんは研究者らしく興味深そうに槍を見つめてくる。

 

深祐「見た目のわりに禍々しいチカラを感じるね。なんて言うんだい?」

水希「……神話に出る海神の武具をモチーフに――名をトリアイナ。本来の姿で戦う以上、まとめて始末するには十分過ぎる代物だよ」

信武「……言ってろ、負け犬」

 

憎々しげに言って、曇り空へ掲げた右手に雷が落ち…信武もカリブルヌスを握る。

 

無謀にも開放してしまったが、奴はまだ暴れる気配はないし、乗っ取られるまでの時間なんて気にしていられない。

ただ二人を殺さない程度に倒せばいいんだ。相手がどれだけ強敵でも。

 

(……スバルだって、ミソラちゃんを上手いこと助け出せたんだもん……大丈夫だよ、できる……)

 

己を奮い立たせた矢先、状況は一変する。

 

「バトルカード! プラズマガン!」

水希「!……なんで来たの……スバル」

 

背後から弟が助太刀に来てくれているものの、僕からすれば本当に間が悪いとしか思えず振り向くことができなかった。

 

スバル「兄ちゃんから離れろッ!!」

 

怒声をあげながらプラズマガンを撃つが、信武は手に持った剣を迫りくる雷弾に向けてかざす。

 

……するとどうなるか。

 

バチィッ! と弾くような轟音を立てるが、しかしそのエネルギーは消えておらず、刀身に纏わりついて滞電している。

恐らく雷は通用しないと見せしめてるつもりなんだろうけど。目の前の元親友が大胆なことをされれば流石に驚くってのに。

まったくもう、一々肝を冷やすような真似しないでよ……。

 

スバル「うそ…弾かれた!?」

ウォーロック「いや違う、エネルギーを吸収してるんだ!」

 

(成程ね……あの剣自体、避雷針の役割を果たしているもんだからプラズマガン程度じゃ屁でもないってわけか)

 

水希「どうりで、わざと避けなかったんだ……」

 

やりとりを聞いてウォーロック達が取り乱すのも分かる。

たった数日、たかが数日程度でここまで力を使いこなせるなんて……スバルや深祐さんもそうだけど、信武の順応性の高さは目を見張るもの。

何しろ単純なステータス(攻撃力、守備力、危機察知・回避能力)だけなら、この場にいる僕らより明らかに群を抜いている。剣道有段者としての戦いぶりを試合で、応援しながら見てきたから分かるのだ。

 

スバルだったら速攻でやられる。その辺はもう考えるまでもなく確信しているからね……。

 

信武「深祐、ガキの相手をしてくれ。乱戦になると気が散る」

 

視線を一方向に定めて淡々と用件を述べる信武を尻目に、深祐さんは喉を鳴らして笑いだした。

 

深祐「いいよ、譲ってあげる。お互い積もる話もあるだろうしね」

信武「さっさと行け……」

深祐「はいはい」

 

茶化したせいで邪険にされても気に留めず、らしくないほど軽々しく二つ返事であしらい、翼をはためかせて猛進する。

来ると思って即座に身構えたが「信武と遊んでなよ」と、すれ違い様に言って通り過ぎていった。

 

そこでようやく気づいたが、振り返ればとっくにスバル目掛けて拳を突き出そうと構えているではないか。

 

水希「! ――スバル!?」

ウォーロック「来るぞ!」

 

相方に言われるまでもなく、直前で左腕をソードに変えて、深祐さんの正拳突きを受け止め、全力で払い退けた。

 

スバル「兄ちゃん! 絶対、自分に負けないで!」

 

切羽詰まりながら激励を掛けてくれたのを皮切りに、深祐さんと交戦し始めたスバルの姿は徐々に遠ざかっていく。

 

それ以降は風の音しか聞こえないくらい静けさが増し、特に喋ることもなかったのだが……、

 

信武「……見ねぇ間に随分と力をつけたんだな」

 

先に口を開けたのは信武だった。

 

必然的に二人きりになってしまい非常に気まずいが、事が事だけに黙り続けているわけにもいかない。

未だ戦闘中であるスバルの無事を祈って、視線を戻す。

 

水希「……そうじゃない。元から備わっていた力を今まで封じてたってだけ。開放させたとはいっても制御は不完全なままだし、リヴァイアも言っていたように望んで手にしたわけでもないんだよ」

 

今でも引きずっている。

こんな力があったせいでユリウスを、ユリウスと共に過ごした時間すら失った。

あの時の自分の無力さをどれだけ恨み、嘆いたことか…。

 

水希「開放する余波で災害が訪れてないだけ、マシかもしんないけどさ……正直、名前を口にすんのも忌々しいくらいだもん……」

信武「……気の毒なことで」

 

当然ながら他人事っぽく返す信武にその心情を理解されなくとも、愚痴をこぼさずにはいられなかった。

 

信武「ところでよ、あの女はどうしたんだ? こないだ『水希(お前)に近づいたら俺を殺す』とかほざいといて姿を現さねぇから気になってな」

水希「?……あぁ、レティのこと? タイマン張るからしゃしゃり出んなって釘刺しといたのよ。端からアイツが介入できる問題じゃないしね。要はね、これ以上()()()を増やす前にさっさと大人しくやられてろって言いたいわけ」

信武「面倒事か……大元を辿れば、お前らが好き勝手した結果だってのにか?」

 

物事をすべて面倒事で片付ける僕に、どの口が言うんだと鋭い眼光で訴えてくるが、

 

水希「文句ある?」

 

それでも尚、だから何だと一蹴する。

 

信武「…………そうかよ」

 

そんな僕に呆れながら、竹刀を握るように構える信武に続いて、矛先を向けるように握り直し………数瞬、間を置いた直後。

 

ほぼ同時に地面を蹴り、剣と槍が交える。

 

そこから生じる衝撃波と力が拮抗したが押され気味になり、一度距離を取ろうとしたその時だ。

足場となるウェーブロードへ転移した信武は、間髪入れずに技を名告る。

 

信武「〈センチネル・ゴースト〉」

 

薬缶(やかん)のフタ大の盾を持つドクロ兵の霊が一体、主人を守るべくして現れ、立て続けに槍、ハンマー、ボウガンを持つドクロ兵の霊が20を越えて召喚され、一斉に宙を舞いながら襲い掛かろうとした。

一見可愛らしいマスコットと侮ると、以前のように最後は手も足も出なくなるから脅威――――とはいえ舐められたものだ。こっちは飛行できるからどうってことないのに。

 

水希「……今更小手調べのつもり? だったら……」

 

攻撃を避け続けた末、ドクロ兵達の眉間に魔法陣を貼り付け、

 

水希「撃ち落せ――〈ホーミングミサイル〉!!」

 

また自身の両脇に出現した魔法陣からミサイルが降り注ぎ、ことごとく撃破していくが、守護を担う兵は手に持つ盾を主人ごと包み隠すよう変形させ、全方向から降り注ぐミサイルを余すことなく防いで無傷。

お見事、前回拘束されて身動きできなかった信武を、絶対零度のブレスから守り抜いただけの事はあるなと感心してしまう。

 

爆煙が晴れ、盾が縮小した頃に間合いを詰めて、今度はこちらから仕掛けた。

 

初手。胴体目掛けての中段突きは上に流され、そのまま勢いを殺さんとばかりに振り下ろす剣を、槍の柄で即ガード。

 

二手。剣を押し返し、左から右へ薙ぐように槍を払うが、信武も片手持ちに同じ動作で払い退け、打ち合った拍子に激しく火花が散る。

 

三手。……こればかりは卑怯だけども、かざした左手に魔法陣が浮かび上がり至近距離で雹弾を射出させるが、信武の元々の動体視力が優れているからか、真横に飛び退くことでマントに穴が開く程度で済んだらしい。

 

信武「チッ――――来い!」

 

しかし、回避はしたが足場までの距離が縮まらず、舌打ちしながらも盾の兵を踏み台代わりに呼び寄せ、飛び移る。

 

クラウン『……ワシの自慢の駒達なのに、足場じゃないのに、雑にしおってから……』

信武「うるせぇな……そんくらい我慢しろよ―――!」

 

わなわなと声を震わすクラウンに悪態をつく信武だが、お喋りしている二人に構わず急接近し、槍を振り下ろすのだが………腹立たしいことに、既の所で受け止められてしまう。

 

水希「……ムカつく。お喋りしてられるほど余裕なんだ?」

信武「まぁ余裕だな。前よりか動きはマシだろうが、力を開放した以前に本気じゃねーのが見え見えだ。どうせお前のことだからな……怖いんだろ? 誤って人殺しになるのが。

そんな心持ちじゃあ、いつまで経っても俺に一撃入れられねぇぞ」

水希「ならさっさと仕留めたら? 剣道の試合でも、ましてや稽古ですら無いのに、律儀に打ち合ってるアンタも大概怖がってんじゃないの?」

信武「お前にだけは言われたかねぇわ!」

水希「あ、っそ!」

 

言い放たれた皮肉にムキになりながらも煽り返し、翼を前方へはためかせて後退したものの魔法陣を展開させる間もなく間合いを詰められ、互いの得物を用いて攻防を繰り広げた。

 

……嫌でも理解させられる。たとえ力を開放したとしても、剣一つで互角どころか…攻撃を受け流し、反撃の一手となる隙をうかがってくる信武の強さは決して揺らがないことを。

場数の多さはこちらに分があると思いたいけれど、こと戦場において信武は剣道で得た経験(自身の持ち味)をフルに活かせているのが何よりの証拠だから、対人戦経験や基礎の面では負けていると痛感させられる。

悔しいけど、そこは認めるべきだろう。

 

(……けどね、信武。アンタには心底理解できないだろうけど、こっちにも意地があるんだよ。こんな所で負けてちゃ、大吾さんにも……ユリウスにだって一向に顔向けできないんだよ……!!)

 

数手打ち合って、信武が剣を横薙ぎに払うところを上空に飛び退いて躱した直後。バク宙で身を翻しつつ、足場代わりに展開させた魔法陣に着地。

 

水希「――〈ミラージュ・ドール〉」

 

その名を告げ、すぐさま着地の反動を使って獲物を突き刺すように構えながら肉薄する。

傍目から一直線に突っ込むだけと思い込んだか、信武は避ける素振りもなく剣を振るうが、しかし……

 

信武「……ッ!?」

 

刹那、剣先に触れた箇所から霧と同化した。

技名にもあるように蜃気楼を意図的に発生させ、残像を作った上で姿を眩ませたという事だ。一瞬の隙をつく布石にしては我ながら上出来と言える。

 

現に信武は動揺を隠せず硬直してしまっているようだ。

それを見逃してやるつもりは無く、矛先を脇腹めがけて猛突進する………が、甲高い金属音が交わるのと同時に、押し返される程の衝撃が接近を阻んだ。

無理もない。本来〈ミラージュ・ドール〉は隠密行動に限定すれば持続時間は無限に等しいが、先程のように残像を併用していると極端に短くなるのが致命的欠点。

故に接近の際、透明化が解かれたのを視界の端で捉え、とっさに三叉槍の隙間に剣を引っ掛けて防いでみせた。ということになる。

 

想定内とはいえ、どこまでも油断ならないから厄介だ。

 

水希「……何も、真正面から討つなんて言ってないからね。今更卑怯もクソもないでしょ?」

信武「無駄打ちだがな……」

 

互いに口では余裕こいていたけど、冷や汗を滲ませている事だろう。

 

信武「……本当にお前がしたいことってさ、今みたいに俺といがみ合って殺し合うことか? それに親父達が助かる可能性があるって、本当に思ってんのか?」

 

こうして今、刃を交えているにもかかわらず藪から棒な質問を投げかけられるが、こちらの返答を待たないで続けた。

 

信武「前にも言ったが深祐から聞いたぜ。例の計画に加担したのも、誰一人欠けることなく笑顔に満ちた世界を作りたかったんだってことを。

けど現実はどうだ? 奴等の襲撃から命辛々(からがら)と逃げ、一人じゃ立ち向かえなくて、この星にいる人間全てを戦争に巻き込んでおいてこのザマだ。そんな体たらくで夢叶える気あんのかよ?」

水希「うる、さい……!」

信武「……思わねぇなら、いい加減認めろよ―――お前如きが、誰一人として救えねぇってことをよぉ!!」

 

うるさい……うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!

 

黙って聞いていれば……アンタなんかにわかるのか?!

本当ならすぐにでも探したいのに、動こうにも動けないもどかしさが!

理解して貰えると限らないからこそ、話そうにも話せないやり切れなさが!

やる事なす事全てが独り善がりだとしても、もう他に方法が思いつかなかったのに―――

 

水希「なんにも…………なんにも知らない癖にっ!!

 

―――平和ボケしきってる連中と同レベルの、お前如きが知った口叩くなァッ……!!

 

 

……抑えきれず溢れる冷気が、怒りをぶつけるように信武もろとも吹き飛ばすけれど、信武は身を丸めながらのバク宙で衝撃を逃し、屈んだ体勢で両足の踏ん張りを利かせ後退りしたのちに立ち上がる。

 

信武「あぁそうさ! 被害者面してる臆病者の気持ちなんざ分かるわけねぇだろ! 今でもバカみたいに抱え込んで、俺に何一つ話そうとしないんだからな!!」

水希「つい最近、力を得たばっかで、なんの打開策もなくキレてた癖に! しゃしゃり出ておいて何ができんだよ?!」

信武「出来るだろ! たとえ力が無くたって、お前の傍に寄り添うことくらい出来ただろ、昔からそうしてきたように!」

 

一言一句、癇に障る。聞くに堪えない。

大体話した所で何ができた? ただの傍観者風情が同情する他にできることなんかないだろ。

 

水希「だったらどうした!? 同じ立場になれてもいない奴なんかに最初から話すことあると思ってんのかァ!!」

 

頭に血が昇ったせいで二次被害を考える暇もなく、両脇から龍の頭と思しき氷像を二体生成し、開いた口から絶対零度のブレスを放つ。

 

「ありまくりだ、ボケ!!」と声を荒げ、真っ向から対抗せんと放った雷撃とぶつかり合う。

 

信武「口出しする権利くらいあったっていいだろうが! 当事者の息子として! ……お前の、たった一人の親友としてッ!!」

水希「この期に及んでお涙頂戴? くっだらな……」

信武「〜〜ッ! テメェ!!」

 

言い争う最中、()()()()()()()言葉ですら反吐が出る。そう囁いたのが信武の耳に届いていたようだ。

 

力と力の衝突は激しさを増すがやがて限界を迎え、互いの攻撃が行き届くことなく爆ぜた。

 

 

 

信武「……じゃあ聞くけどよ、ほんとは他人なんかどうでもいいんだろ? その性格故に、お前嫌々やらされたんじゃねぇのか?

第一、お袋が死んだ今、親父を助け出せば喜ぶとでも思ってんのかよ……なぁ?」

水希「…………」

 

信武「――――黙ってねぇで答えろッ!!!

 

曇天から怒号が降り落つ。

そして次第に雨脚が強まるにつれ、ゴロゴロと不気味に奏ではじめる。

 

……やっぱり、何も分かっちゃいない。

どうして、同い年の中でたった一人の親友を、戦争に巻き込まないよう深祐さんにも協力を仰いで裏工作を重ねて来たのか。

話さなかったこっちが全面的に非があるのは認めるけどさ……どうせ信武のことだから、たとえ力がなくても付いてくるかも知れなかったでしょ?

 

何よりそれが、()()()()()()だっていうのに……。

 

水希「アンタさ……さっきから、所々勘違いしてない?」

信武「――――は」

 

眉間に皺寄せてブチギレてた信武も、武器を下ろして突拍子もない言動をする僕を前に、困惑の色を見せた。

 

水希「この際だから教えてあげる。あの計画はね、元々は他国と不可侵条約を結ぶように形だけでも抑止力を作ることが第一目標だったわけよ。ウチを護衛役として投入させたのも非常時に備えての保険でしかないしね」

 

他種族と仲良し小好しなんて、あくまで聞こえの良い表向きの理由(たてまえ)に過ぎないけど、その建前も蔑ろにせず計画を成し遂げることが一番の理想だったからね。

 

水希「確かに、他人なんて所詮どうだっていい存在だよ。でもそんな私情に(かま)けてばかりだとさ、身を粉にして搭乗してきたクルー全員を侮蔑(ぶべつ)してるようなもんだよ。これまでもそうやって諭してきたんだから、尚更退けるわけないじゃん」

信武「だったら……お前も親父達も、星河大吾に利用されてるって、わかった上で計画に賛同したのかよ?」

水希「そうだよ。ぶっちゃけ、揃いも揃って物好きで、むしろその状況を面白がるような変態ばっかだったよ。特にアメロッパ出身のオッサンがね」

信武「オッサンて……」

 

それこそ侮蔑に値するだろ…と呆れながらツッコミを入れそうな信武だが、構わず続ける。

 

水希「ねぇ、信武。なんでこの星の周りがサテライトに囲まれているか、疑問に思ったことある? ……地球の通信環境をただ良くする為の道具としてじゃない。AM三賢者達が頑張って結界の役目も果たしてくれてるの。

それもこれも、リヴァイアや()()()()()()()()のような電波生命体が地球という環境下においても馴染みやすく、ひいては活動しやすくするため。その分、雑魚ウイルスもゴキ並みに湧いて出るから鬱陶しかったけどね」

クラウン『AM三賢者……彼奴ら、死に損なっておったというのか』

 

クソジジイもやっと誘い込まれていることに気づいたか、目を見張るほど驚きを隠せずにいる信武と同様だ。

 

ていうか、どっちが死に損ないだよ。

 

クラウン『それはそれとして、じゃ……誰がクソジジイだ言うに事欠いて失礼じゃろうが!! ワシぁこれでもまだアラフォーじゃぞ! ア・ラ・フォ・ぉー!!』

水希「ふ〜ん、あっそ」

クラウン『ぬぅ…?!こんのクソガキめがァ……!!』

 

心が砕け散る音が聞こえそうだけど、そこまで歳行ってないって抗議されても興味ないんだよね、全くもって。

 

水希「まぁ不幸中の幸いか、他のFM星人達も依代となる人間がいなきゃ力が出せないみたいだけど、そもそもの時点で戦う前にこっちが弱ってたら公平(フェア)じゃないしね」

信武「……何だよ、それ、聞いてた話と全く違うじゃねぇかよ。

その口ぶりじゃあお前、事の全てをわざとやってのけたって言うつもりか? 多くの犠牲者を生んでおいてまだ懲りねぇのかよ!?」

水希「そ。ぜぇんぶわざと。つーかさ、一から十まで教えるバカが先導者だったら、それこそ実行する以前に計画自体がパーになっちゃうじゃん」

信武「だとしてもだろ?!……親父の野郎……わざわざそんな危険地帯に出向くよりも先に自分の身を案じるだろうが、普通……」

水希「それが勘違いだっつってんの。人を怖がり扱いしてくれちゃってさぁ…そんなんだから深祐さんとクソジジイの良いようにされるんでしょうが」

クラウン『まだ言うか貴様ぁ!!』

 

血相変えて怒鳴る爺はさておいて……普段そういう素振りは見せないし、僕自身の事を棚に上げてしまうけれど……、時折見せる幼稚な一面――主観に囚われがちな発言は、見ていて本当に嫌気が差してしまうものだった。

今更、何をどう説明した所で釈然としてなさそうだから。

 

水希「ここまで言っても判んないの? 元より全員が決死の覚悟で臨んできたんだよ。

むしろ自分を大切にしろとか無理な話でしょ。出来てりゃ最初から、誰も、なぁんにも苦労してこなかったんだよッ!!」

信武「………水希、俺はただ……お前に苦しんで欲しく――」

水希「信武はさ、もっともらしい事を訴えてるつもりなんだろうけど、こちとら一々私情を挟んでらんないし。そうやってガキみたいに駄々こねられてもさ……正直見るに堪えないんだよね」

 

これ以上は聞いてられないと吐き捨て、敵味方関係なしにかけてくれた温情すら突っ返し、ついに信武は俯いてしまったが、

 

信武「…………もういっぺん、言ってみろよ」

 

剣を強く握り締めた途端、刀身に纏わりつく雷が憎しみを帯びたかのように黒く変色しだした。

 

信武「この―――クソ野郎がァァアッ!!!

 

両脇にいる氷像を通して再度ブレスを放とうとした瞬間。信武の姿が一瞬消え、気づいた頃には空中から剣を振り下ろそうとした。

 

剣から発せられる強大なエネルギー波にあの構えは―――間違いなく、必殺技……!

 

辛うじて見逃さずにブレスで迎え撃つが、やはり二体召喚して火力を補っているとはいえ押され気味になってしまう程、信武の力が圧倒的なんだ。

 

信武「お前が……お前なんかがいるから、親父達がぁ!!

水希「はぁ……マジうっざ。あのさ、アイツらみたいに全責任をなすりつけるの止めてくんね?」

信武「うるせぇッ!!!

 

吠えると更に威力は増して止むを得ず、一瞬の速さで後退すれば、さっき立っていた所にだけ道を分断するように崩れた跡が見られた。

下手に応戦して事故らなかっただけマシか、と息つく間も無く間合いを詰める信武に槍を構えたものの、ほとんど防戦一方となってしまっていた。

 

信武「人が必死こいて訴えかけてる姿がそんなにも見苦しいか!? 見捨てておいて責任をなすりつけんなだと!? どの口叩いてんだテメェは!!

 

怒りで我を失った連撃は荒っぽさが目立つが、しっかり握っておかないと腕が持ってかれるくらい非常に重たく、より一層殺意が込められている分、反撃はおろか……今の自分にはそれを受け止めることしかできない。

 

疫病神として背負わされた罪禍を、まくし立てるように責める連中の顔が浮かんで、身をすくんでしまいそうだったから……。

 

信武「死ね、死ねっ……死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!――――――死にやがれぇぇええ!!!!

 

自分はいつから傲慢で、薄情で、無神経で、人を慮ることもできないゴミクズに成り下がったのだろうか。

 

行き場のない責め立てにも、なんとも思わないなんてね。

どれをとっても努力が報われないなら、何のために頑張ってきたか、もうわかんなくなってきた……。

 

信武「アアアアァァァァァァ――――」

(は、ハハッ……やっぱどこまでも、性根が腐ってるわ……)

 

被っているヘルメット越しから泣きっ面を見せる信武を見て、内心…一人でに嘲るのだった。

 

水希「――ぐァッ!!」

 

自慢の槍も信武の一太刀で呆気なくへし折られ、耐えず尻餅をつくと、前回の最後みたいにまた喉元に剣を突きつけられたが……目に見えて震えており、あと数ミリが届かないままだ。

 

信武「――――――」

水希「…………トドメ、刺さないの?」

 

痺れを切らし、殺らないのかと聞くが、震えたまま剣を納め……背を向けた。

 

信武「失せろ……もうお前の顔なんか拝みたくもねぇよ……」

 

さっきまでの戦意を失くし、消え入りそうな声で言われたのを最後に戦線離脱した。

 

もし、この場に深祐さんもいたら、彼直々に「君は親友としての責任を放棄した。そのツケはもう払うことすらない。自業自得だよ」って皮肉めいた説教を受けたのかもね……きっと。

 




三機のサテライトの存在について、通信環境を良くするだけに留まらないんじゃないかと思い、サテライトの恩恵でAM星人とFM星人達が、母星にいた頃と同じとまではいかなくても、最大で60%までの力を引き出すのを助長するのではないかという自己解釈のもと、地球を覆う結界の役割も担っているという設定を作りました。

執筆を重ねる度にここまで後味の悪すぎるお話を作ることになったことは、書き始めた当時の自分からすれば想像がつかないことでしょう。
ややネタバレですが次回、心折られてしまった信武が、水希の過去について触れます。

そこで心境の変化が訪れればいいんですけどね。では!


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閑話 監視者達の目論み

水希(みずき)信武(しのぶ)が死闘を繰り広げているその頃。

レティは水希の意志を尊重した上で横槍を入れず、戦場から遠く離れたビルの屋上から見届けている最中だ。

 

せっかくの封印を解かれてしまうのは想定済みだが、スバル達の前で封印と称したのは、不安を軽減させるためのフェイクに過ぎない。

 

ダメ元でリンドヴルムを引き剥がせないか試すつもりが、リヴァイアの身体に長年棲みついているせいで馴染み過ぎた為、最悪水希が二度と戦えなくなる可能性も否めなかったのだ。

 

リヴァイアは過去に支配から克服した身だが、水希は根本的な体質の違いから感覚が掴めない状態だからこそ、いつか克服してくれるだろうと期待も込めて、封印という決断に至った。

 

しかし結局は、どれだけ鍛えてこようが過ぎたる力でしかなかった。

その成れの果てが信武と対峙している真の姿だ。

 

そんな手遅れの状況で彼女が施したのは、()()()()()()()()()()のノイズを体内に巡らせ、リンドヴルムからの干渉を抑制し、人格を乗っ取られるまでの時間稼ぎが本当の理由である。

 

しかし、ノイズを浴びた後の影響は、放射線と同レベルで悪質。

電子機器全般はもちろん、人類や電波生命体にも尚のこと害をもたらすもの。

であれば宿主の生命維持を顧みない限り、下手打って自滅などまずないだろう。と痛いとこを突いたつもりだが。

 

レティ(……その辺は、()()()()()()()時間をかけてでも除去すれば問題ないけれど、どう見ても明らかにおかしいのよね。

いくら死なないとは言っても、本来なら四肢が麻酔してとても動けない筈だったのに)

 

彼女が不可解に感じたのは、なんの前触れも無しに悪影響を受けた状態から脱していること。それも予想以上に早く。

 

通常、リンドヴルムを解き放つ際にノイズを振り払ったと考えられるが……もしくは、()()()か。

 

水希と会った当初の記憶から、今まで気にも留めなかったことをふと思い返す。

 

レティ(そういえば……私が能力で抑え込んでても、ゲートから現実空間に出入りする時にノイズが放出されているけれど……よくよく考えればアイツら何食わぬ顔で立っていられたわよね?)

 

それが当たり前だと誤認していたのなら、もしかしなくとも水希はノイズを吸収し糧にしていることになるが……それは余程の特異体質でなければ、の話だ。と切って捨てようとする。

 

そんななか、

 

レティ(……幻聴じゃなきゃ、さっきから隣でスナック菓子を口に運んでいるような気がしなくもなさ過ぎて無理なんだけど……)

 

左耳から嫌でも届く咀嚼音に内心うんざりしつつ、レティは表情を崩さずに恐る恐る向く。

どうやら隣にいる青年が手に持つ棒状のスナック菓子、うまい棒が発生源らしい。

 

白いジャケットの二の腕にある紋章を見てサテラポリスだと分かったが、それ以前にこれでもかと詰められたビニール袋に引き気味ながら目が行ってしまっている様子。

 

「? 良かったら食べるか」

レティ「要らないわよ……」

 

それを横目で見た青年は、レティがてっきり欲しがっているように見えたのか、袋にある一つを手渡そうとして速攻でお断りされてしょんぼりな様子。

そんなに落ち込まれてもねと念押しして断り、視線を戦場へと戻しながら口を開けた。

 

レティ「……アンタ、名前は?」

「俺は暁シドウ。星河水希の動向を監視し、並びに処刑を受け持ってるんだよ」

 

青年――シドウは、食べかけのうまい棒を口に放り込みながら自ら敵対者と名乗るが、打って変わって気さくに振る舞う姿が不思議でならないと、レティは怪訝に思った。

 

レティ「その割には随分と呑気ね。わざわざこの私に面会する理由があるのかしら?」

シドウ「まぁね。君の存在も依頼主を通して調査済みだけど、どんなナリしてるか気になっただけさ」

 

要するに半分は好奇心で動いていると言いたいのか。

ある意味図太い神経をしている彼にほとほと呆れ果ててしまっていた。

 

レティ「……ていうかアンタ()、どうやってここまで来たのよ?」

 

傍目で見て二人だけの場では違和感しかない発言だが、シドウはそれを訂正せずに神妙な面持ちでレティに問いを投げた。

 

シドウ「分かるんだ? 俺以外にもいるってのが」

レティ「当然よ。伊達に長生きしてないもの」

 

レティの勘の鋭さに苦笑しつつあるシドウは、内ポケットから取り出した物を見せつけた。

 

シドウ「これ。警察手帳を見せて「不審者らしき人影を探してる」って言ったら通してくれたんだよ」

レティ「私が言えた義理じゃないでしょうけどね……ここ警備甘すぎだし、職権濫用してる不審者モドキに言われたくないわ」

シドウ「はは、ごもっとも……出てこいアシッド、自己紹介してやれ」

アシッド『畏まりました』

 

溜息を溢すレティの悪態を受け流すシドウの呼び出しに応じて、現実空間に出現する。

その段階で微弱ながらノイズが発せられていると見抜く。

 

アシッド「――お初にお目にかかります。私はアシッド。シドウのアシストを担うウィザードです」

レティ「ご丁寧にどうも。他と違ってメカメカしい見てくれね。リヴァイアのような天然モノと違うって所かしら」

シドウ「流石。同類は目の付け所が違うな」

レティ「……その言い草、どこまで知っているの?」

 

妙に引っかかるような発言に怪訝な顔で物申すと、その問いにアシッドが代わって返答しだす。

 

アシッド「推測が間違っていなければ、貴女の全身はノイズの集合体であるクリムゾンに塗れていながら完全にその力を制御しきっている。それも私以上に何重にも封印を施して一割以下に抑え込んでいるかのように……」

レティ「……御明察。私はアンタのような御人形を生み出した元凶みたいなもんよ」

シドウ「元凶、ね……自分で言ったら悲しく思うよ。普通」

レティ「慣れっこ。誰に言われるまでもなく疫病神として生まれた私にはお似合いよ……それで、アンタらここで油売ってて大丈夫なわけ?」

 

自らを自嘲する様に何も言い返せないままでいた二人だが、レティが問いを投げた時、アシッドか再び声に出す。

 

アシッド「依頼主への報告はまだですが、現段階で星河水希と当たった場合、勝率は低過ぎる。そう判断した上で流れに任せています」

レティ「たった今、向こうは殺伐としているのによく平然と言えるわね……」

アシッド「勿論、理由もなしに決断した訳ではありません。実力的に星河水希と渡り合えて、同時に彼を 殺せる(救える)のは、宇田海 信武ただ一人。元より我々の出る幕ではないと言う事です」

シドウ「……本当なら俺らが対処しなけりゃならないけどさ、正直実力不足だから戦うなって小言の多い誰かさんに止められてんだよ」

 

その誰かさんを指差しながら文句を垂れるが、「でしたらあまり無茶はしないで頂きたいのですが」と苦言を呈され、バツが悪そうに項垂れながらも、シドウは話を切り替えてこようとした。

 

シドウ「それにさ……本来君は、俺らと相容れない存在だろ? なぜ星河水希と手を組む必要があったのか、それも問い質そうとしに来たってだけ」

レティ「そう。ならそれを話したら、早急にお引取り願おうかしら?」

シドウ「どことなくアイツに似てるよな……まぁいいか」

 

一時、間を置くと、シドウの顔つきが険しくなる。

 

シドウ「改めて聞くが、君は何者で、何を目的として動いている?」

レティ「……私の目的はただ一つ」

 

取り調べるような発言に対し、レティは一呼吸入れ、無感情のままにシドウを見遣る。

 

レティ「水希達の協力の下、私という存在を破壊(デリート)してもらうことよ」

 

落雷の後に雨粒が降り注がれているが、無音に包まれていると錯覚させられるほどに発言は重苦しく、一言一句聞き漏らさなかったシドウとアシッドは表情を曇らせた。

 

シドウ「……本気なのか?」

レティ「そうよ、願ってもない事だもの」

 

淡々と述べていたレティだが、次の瞬間、街一体を見渡す顔はどこか憂いを帯びさせていた。

 

レティ「……まぁ、最期にここへ訪れたのは良い意味で人生一の誤算だったわ。たった三年でも居座ってたら名残惜しいと思うもの……」

アシッド「貴女は、一体……」

 

正体を突き止めようと言及するものの、それについての返答はない。

 

やがて、信武と殺し合っていた筈の水希が戦線離脱したと察知したレティは、再びシドウと視線を合わせる。

 

レティ「近いうち、貴方にも協力を仰ぐかもしれないけれど……自分の身を犠牲にしてまで、その子との共闘は勧められないわよ」

シドウ「わかってるさ……だけど、俺だって半端な理由で力を得たんじゃないんだ……」

 

全て見透かされるような忠告を聞いて、シドウは苦し紛れに答えたのを最後にその場を後にする。

 

レティ「さて、行きますか」

 

人気がないことを確認してからゲートを開け、ノイズで溢れかえった世界へと戻るレティであった。




次回、スバル対キグナスの行方を投稿した後に、40話を投稿いたします。


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39.5話 ロックマンVSキグナス・ウィングの行方





兄ちゃん達が今頃戦っているかもしれない状況下、こっちはこっちで苦戦を強いられている所だった。

 

一見互角でも僕の方が押され気味だし、スターフォースが未だに使えない上、前回と違って本気で仕留めに来られているのに……何故だか向こうの動きについて行けているのだ。

 

自分でも不思議に思うけれど、今の僕を突き動かさせるのはきっと……微力ながら兄ちゃんを守りたい、助けたいって気持ちでいっぱいだから。

その想いが背中を押すように感じさせられるものだ。

 

ウォーロック「――スバル、よく聞け」

 

その合間、宇田海さんとの距離を取ろうとしながらロックの話を聞き入る。

 

ウォーロック「水希がリンドヴルムに侵されているのと同様に、宇田海のやつもキグナスとの同化が進んでるからな。……一心同体と言える状態じゃあ、恐らくは――」

スバル「……死ぬかもしれないんでしょ?」

 

思い当たる節、現状を見れば兄ちゃんと同じく深刻なのはわかる。

言い分から察するに、()()()()で前回より更にパワーアップしていると感じ取ったのだろう。

 

答えを言った途端に黙り込んでしまったロックの反応が、猶予がないということを証明しているから。

 

大体、ゲームでよくある呪われた装備のように、パワーアップの対価が不釣り合いなんだよ。

宿主の人格権を奪うなんてふざけんなって話だろ。

 

スバル「なら尚更、早いこと倒さないと……ッ!」

 

攻撃に移ろうとして振り返ると、瞬時に間合いを詰めてきた宇田海さんが拳を突き出される。それを両腕をクロスさせて防ぐが、しばしせめぎ合った。

 

深祐「二人で仲良くお喋りとはね、気楽なもんだねぇ」

スバル「そう見える? こっちは結構焦ってんだけ、ど!」

 

勢いをつけて振り払い回し蹴りで応戦するも、身長差が相まってか体を仰け反らすだけで簡単に避けられた。

 

そこからは、僕はバトルカードを、宇田海さんは持ち前の能力と武術を駆使して、攻防を繰り広げるのだが……どれも互いの決定打とならず、時間が過ぎていくばかりだ。

 

……しかし、その時。不意に起こった出来事によって流れが変わる。

 

スバル「―――――」

 

呆気に取られたのは、放たれたキグナスフェザーをガトリングで撃ち落とした直後、煙幕が晴れた瞬間だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()のにも関わらず、さっきまで変身体だったのが、()()()()()()()()()()姿()で怯えた眼差しで対面してこられた。

 

宇田海「たすけて、助けてくれ、スバルくん……!」

 

それもこれも、同化が進んでしまっているからこそ為せる芸当だと思うが、実際目の当たりにして驚かない方がおかしい。

 

ウォーロック「躊躇うな、攻撃しろ」

スバル「待って、少し話をさせて」

ウォーロック「……正気か?」

 

当然、僕なりに一旦頭を冷やそうとしたつもりだ。

兄の手解きがなきゃ、きっと動揺したまま攻撃できなかったと思う。何せさっきから『人間(かれ)を撃てない』と思って左腕は震えてしまっていたから。

 

その様子に耐えかねたロックが攻撃を促し、即刻拒否して別の行動をとる僕を見て訝しんでいたけど、構わずに宇田海さんと対話を試みるのだった。

 

スバル「そんなんで誤魔化せると思ったの? 宇田海さん。いや……キグナス」

 

眼前の宇田海さん(キグナス)に問い詰めると、不敵な笑みを浮かべながら彼の声で言いだす。

 

キグナス「まあ、既に正体がバレてるから仕方ないけど…驚いたよ。意外にも平然としているなんて」

スバル「御託はいいから、宇田海さんを解放しろ!」

 

逆に本気で騙せるとでも思ったか。

だとしたら無性に腹が立って仕方がない。

 

キグナス「……そんな睨まないでくれよ。せっかくそのつもりでいるってのに」

ウォーロック「ハッタリだな。良心の呵責すらもねぇテメェらがそんな真似する道理がねぇ。……一部を除けばな」

キグナス「ふん、善人ぶってるキミ如きに言われたくないね」

 

ハープは違うと補足するロックに苛立ちながらも、鼻で笑い飛ばした。

 

キグナス「スバルくん。一つだけ、いい事を教えてあげるよ。そこにいるウォーロックはね、君のお父さんが乗ったキズナ号を攻撃したんだよ」

 

その時、間をとるように雷が落ち、次第に雨粒が降り注がれていく。

 

キグナス「彼から何を吹き込まれたかなんてどうでもいい事だけど、所詮は侵略者である僕らとおんなじって訳さ」

 

突拍子もない発言に硬直しかけたが、何も知らされていないと思い込んでいる奴を見て、ついほくそ笑んでしまう。

 

確かに。記憶を見て事情を知ったとはいえ、兄ちゃんの視点での事だから真偽はわからない。

……だがどうにも、キグナスの言動は動揺を誘うための罠だとしか思えなかった。

 

スバル「……兄ちゃんのお陰かもね。何も気負わなくて済んだから」

ウォーロック「スバル、俺は……」

 

キグナスに聞こえない程度での独り言に、ロックが不安げな顔でこちらを覗うけれど、

 

スバル「大丈夫だよ」

 

何も憂いはないと諭して、僕の反応を待っている宇田海さんを見据えた。

 

スバル「……人を馬鹿にするのも大概にしてよ、キグナス」

キグナス「ほう?」

スバル「ロックがそんな悪どい事を、なんの罪悪感もなしにできる奴だったなら……初めから信用なんかしていない!」

 

声を荒げているその時、胸元のエンブレムが輝きだしたので目元を覆った。

 

キグナス「なんだ……あの光……?」

 

眩しさに怯んでいる僕を、キグナスもまじまじと見ながら呆然としていた時、

 

いつか夢で見た白一色の異空間に飛ばされた。

 

 

◆◆◆

 

 

地面を踏んでいる感触はなく、浮遊するかのような感覚はあった。

それどころか、よく見たら私服姿に戻っていた。

 

スバル「うそ、こんな時に…?!」

『――スバル』

 

動揺する僕を差し置いて、三賢者が黒いシルエットを取り払った姿で目の前に現れる。

そしてそのうちの一人――ペガサスに名前を呼ばれ、見上げる。

 

ペガサス『今一度問おう。お前は何のためにスターフォースを獲た?』

 

……なんの為? それはもうとっくに決まっている。

 

スバル「僕は、このチカラで、兄ちゃんと宇田海さんを助けたい!」

ペガサス『その(こころざ)し、本心ならば迷うことはない。

……だが、今のお前の実力では、両方は助からない。我等の力を持ってしても、だ』

 

要は、どちらかを選べと言いたいのだろうか。

 

無理だ。そんな風に片方を見捨てたくない。

 

兄ちゃんだって、宇田海さんだって、帰るべき場所があるのに、それを切り捨てるくらいなら、両方助けたい!

 

スバル「それでも、助けられるなら……力を貸して!」

 

必死に絞り出すように答えると、ペガサスの両隣にいる二人が前に出る。

 

レオ『元より、星の試練を突破したお前だからこそ託したのだ。貸さない理由はない』

ドラゴン『だが忘れるな。我等のチカラの基盤は【絆】。守りたい絆が多ければ多いほど力は増すが、ふとした瞬間に崩れ去るものならば相応に弱体化してしまう代物だからな』

 

スバル「わかった。大切に使わせてもらうよ」

 

ドラゴンの忠告を最後に視界はブラックアウトした。

 

 

◆◆◆

 

一方、宇田海に扮したキグナスはというと、スバルを囲い尽くす光が弱まる隙を見て、攻撃に出る算段がついた途端に突進するが。

 

その光が、如何なるものの侵入を拒む吹雪と化し、やむを得ず後退するキグナスが苦い顔で見やった。

 

やがて吹雪が晴れ、戦場へと舞い戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿こそ――

 

スバル「スターブレイク――【アイスペガサス】」

 

真にスターフォースを覚醒させたスバルがそこに立っていた。

 

 

スバル「……ロック、速攻で終わらせるよ」

 

「ああ、やってやれ!」と後押しするウォーロックだが、

 

キグナス「させるか――〈ダンシングスワン〉!」

 

我に返った彼も同様にケリをつけようと、再び突進攻撃に入る。

 

……が、背中に翼が生えた今では、軽く飛ぶだけで避けることは容易い。

 

スバル「――〈捕縛せよ〉!」

 

そうして攻撃が止むと同時にキグナスの両脇から魔法陣が展開され、そこから射出された氷の鎖が彼をがんじがらめに縛り付けた。

 

なぜ使えたかと問われれば返答に困るものだが、言えるとすれば「僕にもできる」とイメージしながら、無我夢中でやってのけた。それだけだ。

 

キグナス「なに……?!」

 

ほんの一瞬で身動きが取れなくなり、動揺を隠せない彼を他所に、足元から新たに巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 

スバル「S.F.B(スターフォース・ビッグバン)――」

 

下準備は整った。

あとはこれで倒しきればと、その一心で言い放った。

 

スバル「〈マジシャンフリーズ〉!!」

 

 

 

……手応えは感じた。

 

彼の断末魔を聞いて、効果てきめんだとスバルは確信した。

 

その証拠に、スーツ姿に戻った宇田海が気絶した境に落下している。

 

当然見過ごすことなく、瞬時に彼の下へ向かい受け止めようとした。

 

 

 

その後、都庁前で偶然居合わせた天地に宇田海の保護を頼み、了承を得てから付近のウェーブロードに降り立つが……いくら見渡しても姿が見えず、

 

スバル「ねぇ、どこにいるの……兄ちゃん!!」

 

何度呼ぼうとしても、スバルを呼ぶ声が返ってくることはなかった。

 




アニメ版より早く、原作より少し遅れて遂に覚醒しましたね、スターフォースが。

そして本来、言霊の陣でおなじみの技〈捕縛〉。
実際は水希専用のアビリティですけど、スターフォースの覚醒を経てスバルも(アイスペガサス換装時限定で)使えるようになる展開って個人的に好きなんですよ。
なんの手ほどきもなく使えると知ったら、嫉妬しそうでもあるんですがねw

予定より2話挟んでお送りしましたが、次回は信武(しのぶ)メインのお話しになります。

それでは!


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40話 追憶

【2023,2月8日】日記の(おもた〜い)一部分を追記。



激戦を中途半端に終えて、水希が立ち去ったあと。

地上へ降り立つと同時に電波変換を解くが……それまでに色々あったせいか、泣き崩れそうになるのを堪えながら雨の中を彷徨(さまよ)っていた。

 

その間にトランサーから着信音が鳴り響く。

画面を見ずに予想するなら、相手はきっと叔母である真希絵(まきえ)さんだと思う。

傘も持たずに出ていった俺を心配してのことだろうが、正直応答する余裕がないので、簡潔なメッセージを残して 消音(ミュート)にした。

 

 

◆◆◆

 

 

しばらく歩き続け、夕立が止んだ日暮れ頃。

 

通りかかった場所に目を向けると、水希と初めて出会った公園の入り口前だと気づかされる。

 

後に知った話。都内の発展に伴い、老朽化の問題も兼ねて撤去が相次ぐなか『ここだけは残してくれ』と住民からの声が後を絶たなかったらしい。

 

その甲斐あってこそだろうな。

比較的新しく設置されていたとはいえ、今じゃ塗装色が変わった遊具や自販機の配置も含め、憩いの場としての面影は15年前のまま残ってくれている。

それが嬉しくもあるけど、現に無意識のままここまで来た俺の行動が、まさしく『未練がましい元彼』っぽくて複雑なんだよな……。

 

信武「――――」

 

そうして考え(ふけ)ってやっと足を踏み入れ、その先にあるブランコへ近づくと、不意に苦笑してしまっていた。

 

信武「……やっぱ、間近で見てるとかなり錆てんな」

 

持ち手の鎖は全体的に、柵の方も点々と剥げた所から目立っているようだ。

それだけ年季が入っているから、あと何年かすればここも撤去されちまうのかな……と、ネガティブに考えるのはアウトだとしても、そう考えてしまう。

 

止んでからまだ数分後だから、座面は濡れたままだが、

 

信武「まぁ、どの道ずぶ濡れだから関係ねぇか」

 

ズボンの湿り気が増すことに苦笑しつつも柵を越え、夕日を背にブランコに腰を落として項垂れていると、誰もいないことを機にクラウンが話しかけてきた。

 

クラウン『先程までの 彼奴(きゃつ)の様子がアレじゃと、和解は厳しいじゃろうな』

信武「……そうだな」

クラウン『本当なら、今の段階で復縁なぞ諦めるのじゃろうが……その様子じゃと、踏ん切りをつけられんのじゃろ?』

信武「あぁ。ここで出会ってからずっと、俺にとっての生き甲斐だったからな。アイツは――」

 

耳の痛いことを言うクラウンと会話を交え、広場を見据えた。

 

 

 

……忘れもしない。ここでの思い出は、絶対に。

 

互いに『初めての友達』になった日から、季節ごとに桜とかイチョウを眺めたり、雪が降った日なんかは『雪合戦で負けた奴がジュースを奢る』って罰ゲームを設けたりしてたな。

 

特に夏は、よく虫取りしてたっけ。

けどアイツ……見るだけなら平気だけど、触るのは無理だって本気で嫌がってたんだよな。

そんで一度、ウリウリと強引に近づけて、案の定泣かせてしまって……たまたま通りかかったお姉さんに『弟に何してくれてんの?』って言いたげにガン飛ばされてよ……。

どうにか誤解を解くことはできたけど、あん時ゃどんな肝試しよりも冷えっ冷えだったんだよな……。

 

四季関係なく雨の日は、俺か水希の家に遊びに行くこともあった。

前住んでいた実家に招いた当初、まだ生きてたお袋には驚かれたものの、水希を友人として認知してくれたことで気兼ねなく遊べたんだよな。

 

いくらエリート街道を歩ませようったって『レベルの低い人間と付き合うな』と制限かけてくるほど頭でっかちじゃなかったから、その辺は感謝している。

 

だからこそ、そんな当たり前の日々(幸せな日々)が続いてほしいと強く思っていた。

 

……でも、土台叶わない願いだった。

 

アイツ自身の何もかもが変わってしまったのなら、俺も必然的に変わってしまっていた。

お互い、不安な気持ちが表情に出るほどに。

 

だからもっと、水希に喜んで貰うために『出来ることを今以上に全力で取り組もう』とした。

勉学でも剣道でも好成績を残すたび、決まっていつも自分のことの様に喜んでくれたから。

 

他の誰よりも、アイツは笑顔が一番似合うから。

自己満足は承知の上で、もう一度……もう一度でいいから、心の底から笑ってほしかった。

 

……だけど、薄々感づいていたんだ……。

 

誰にでもある“嫉妬”という感情。

笑顔が少なくなった理由はそれかと疑ったけど、実際違っていた。

 

 

***

 

それが判ったのは、中学二年生の冬。

 

終業式を終え、雪が降る帰り道。この公園で二人きりの時だった。

真剣な眼差しで俺と向かい合う水希が胸の内を明かそうとしたのだ。

 

水希『―――高校、別の所に行こうと思ってるの』

 

『どうして?』とすぐに言い返せないくらい言葉が詰まってしまった。

いつも苦手科目を中心に勉強を教えたから、学力に関しては俺と同じ高校にギリ受かるだろうと見込んでいたけれど、進路先が別だという事実を耳にして、言葉を発するまで狼狽えていた。

 

信武『……別の、所って……どこへ?』

水希『県外にある全寮制。そこへ受験するつもり』

信武『……どうして……そこに?』

 

おぼつかない俺の疑問に、水希は清々しそうな笑みを浮かべてこう答えた。

 

水希『やりたいことが見つかったから。その為にも、いつまでも信武に頼りきりじゃダメだって思ったんだ』

信武『何を、見つけたんだよ……?』

 

率直に問うと、水希は首を横に振り『今は言えない』と濁すように返す。

 

信武『俺が一緒だと、駄目なのか……?』

水希『ダメ。信武(しのぶ)は剣道強豪の都立受けるんでしょ? 段位上げるんだーって張り切ってたじゃん!』

 

水希が言うように、都立高校の受験は目標を立ててこその決断だった。

……でも、剣道大会で勝ち続けられたのは、水希の応援があってこそだから。……だから何度も『行くな』って言いかけたのだが……。

やりたいこと――――つまり、時期的にブラザーバンド計画を実行に移す一年前だから、どのように説得されようと引き返す理由も意志さえも、あの時点で既になかったんだろうな……。

 

何故分かると? そりゃ当事者の息子なんだぜ?

親父もかつて『船長として出向く以上、責務を果たさなきゃならない』と、決意を固めた面構えで俺とお袋に事情を話したから。

 

そんで、俺と同じ学生だからこそ、相応の資格を持たない水希が同行するだなんて考えられねぇよ、……文字通り、()()()()()()として生きてたらな。

 

高校生活での三年間、メールのやりとりで感じた違和感がこれかと思うと本当にやりきれない……。

 

水希『それにね……信武みたいに何もかも完璧にできるわけじゃないけど、僕なりに()()()()()()()()()()()()()()って思えたの。

だって信武は、僕にとって目標でもあるからね』

 

正直、別の高校選ぶなら都内にしてくれってワガママをぶつけてしまおうかと思ったけど、言えなかった。

……言えるわけがなかった。

 

けどその代わりに、寂しさを埋めるようにして抱きついていた。

 

水希『―――え!?』

信武『……俺はただ、目標だとか関係なしに、お前が隣にいてくれるだけでも良かった……』

水希『……信武』

 

最初こそ驚かれたものの、俺の背中に手を回してくれて……互いに互いを(すが)りつくような状態が続いてたんだ。

 

水希『こんなこと言っておいてあれだけどさ、僕だって寂しいし辛いんだよ。ずっと一緒だったから、環境が変わるとなると受け入れ難いもんだと思うよ。

……でも、信武から進路先聞かれる前から考えてたの。本当にこのままで大丈夫かなって。でも最近になって決心ついたの』

 

その直後、水希は一歩引いて、俺の顔を伺うように見上げて言うのだった。

 

水希『だからさ、お互い頑張ろうよ。別々の道に進んでも胸張っていけるようにさ!』

信武『………ああ!』

 

俺の頑張りを見守ってくれて、更には目標として見てもらえる分ガッカリさせるわけに行かないな。……って思いながら、水希の主張に圧されてしまっていた。

 

当時を思い返すほど、我ながら水希に甘過ぎるなぁと改めて思わされる。

 

いざ決めたら突き進む頑固者である以上、意見を通せない時は決まって、最終的に根負けしてしまうのは俺だったからな。

 

 

***

 

 

当時は、別々の道に進みたがる意図を理解できずとも、並々ならぬ覚悟があるんだと感じて、水希の言葉を信じきっていた。

 

だからこそ、今ならよくわかる。

なんで俺を突き放そうとしたのか―――結局のところ邪魔でしかないから。

 

『なんにも……何にも知らない癖に!!』

 

バカ野郎が。

話してくれなきゃ、知らなくて当然だろうが。

 

そりゃ気にかけてたさ……だけど、いざ聞こうとすれば、お前が居なくなるかもしれないと思ったから……そのせいで踏み出せなかったんだよ。

 

なのに……リヴァイアって野郎が、俺の知らない場所で水希の隣に立っていて……言ってしまえば俺は、ずっと蚊帳の外なんだぞ?

 

そんな俺が……お前に、何をしてやれたって言うんだよ……?

 

信武「はじめから邪魔だって言ってくれりゃ、清々したのに……」

「それ本気で言ってんの、アンタ。はっきり言われたら言われたで、今みたいに不貞腐れると思わないの?」

 

いつの間に、水希につきまとっていた類人猿が目の前にいた。

名前は……レティだったか。

 

信武「……もうわかってるさ。どうせ俺は、都合の良い存在でしかなかったんだろ……?」

レティ「バカね。本当に都合が良いだけなら、別れ話を切り出す前にフェードアウトするでしょ? かと言って何も話さずにサヨナラするのもどうかと思うけど。

どちらにせよ、端から見ればお互い馬鹿よね。わざと嫌われようとしてる水希も。それを真に受けていじけてるアンタも」

信武「黙って聞いてりゃ、好き勝手言ってんじゃねえよクソアマ」

 

ついカッとなって睨みつけたが、呆れ顔で吐き捨てたレティは次の瞬間、並の人間を怯ますほどの殺気を放ちながら言った。

 

レティ「減らず口は変わらずねぇ……また半殺しにしてやろうかしら?」

信武「上等だ。その前にテメェの首を刈り取ってやるよ」

レティ「ならせめて一分は立ってないとねぇ?」

 

文字通りに瞬殺された時を、嫌でも思い出させやがる。

 

腕を組みながら余裕の笑みで挑発するレティを殴りたい気分だったが、今はそれどころじゃないと、拳を握りながらも堪えるしかなかった。

 

信武「……俺を、殺しに来たのか……?」

レティ「違うわ。……その様子じゃ、水希から聞かされたんでしょ? 私達の行動の真意を」

 

俺の問にノーと答えたところで、レティは殺気を押し留め、事の次第を話した。

 

レティ「時間の許す限り、戦闘員を増やすためなら何もかも利用する気でいたわ。この先の戦いを乗り越え、目的を完遂するにしても水希一人じゃ重荷だろうし、最低でも三人、確保出来れば誰でも構わなかった」

信武「……お前も、わざとやってるってことを否定しねぇのな?」

レティ「当たり前じゃない。人を弄んでおいて「わざとじゃない」って開き直るのはクズだけよ。でもアイツは、悲劇に見舞われてから立ち止まってばかりだと思う? ――何をどう間違えようと、アンタ達が生きるのを辞めないのは、前へ進むしか方法が無いと自分に言い聞かせてたから。違う?」

 

レティの発言には、何の言葉も返せなかった。

 

そりゃそうだ。あれだけ多くの犠牲者がありながら、アイツの口から『自分は関係ない(わざとじゃない)』なんて吐かしやがったなら、あの時確実に仕留めただろう。

 

けれど、アイツ自身も被害者の一人だと思うと、殺せなかった。

行方不明のクルー達全員を助けられなかったこと、そして力及ばず泣く泣く帰ってきた後の絶望感を深祐から聞いて、それでも俺を突き放したことに納得できなかっただけ。

 

そのくせ中途半端に八つ当たりばっかしてるんじゃあな……。

 

信武「……そりゃガキくせぇよな、俺って……」

 

仮に事情を話してくれたとしても、下手すりゃ絶縁を言い渡してもおかしくない状況だったからな。

ただ早いか遅いかの話でしかないんだ、と一人で納得してる俺を見て、レティは溜息をこぼしながら言った。

 

レティ「私ね、アンタらの戦いを見て思ったのよ。アンタは強いわ、水希よりもずっとね。でもどうしてアンタじゃなくて星河スバルを選んだのか。……案外、想像に(かた)くないのよ」

 

そう言いながら、話を続ける。

 

レティ「あの子は単に、リスクが少ない方を取っただけ。子供だから扱いやすいし、ちゃんと説明してやればわかってくれるって信頼もあったからでしょう。

それに、私が思うに、アンタが悪い方向へ変わってしまうことを恐れてたのよ。綺麗なままでいて欲しいって言ってたしね。

だから、私が前言った通り、アンタはお呼びじゃなかった」

信武「だったら何だよ……今更俺に何ができるって言うんだよ……!」

レティ「あるじゃない。水希(あのバカ)を止める力が」

信武「……っ」

レティ「リンドヴルムは元々、水希が忌み嫌っても尚求める強さそのもの。それを手にするために封印を解くことは、避けて通れない道でもあった。

……でも結局は半暴走状態に陥って、今じゃ人類の脅威と見做されかけている。――そんな悪い状況を乗り越えるには【仲間】が必要不可欠なのよ」

信武「……つまり、何が言いたい?」

 

話の要点が掴めずにそう言うと、何もない空間に穴が開き、レティはそこからノートらしきものを取り出して突きつけた。

 

信武「……それって……?」

レティ「水希の日記。こっそり拝借したのよ。水希の事で思い留まってるなら、これを見た上でどうするかを決めて頂戴」

 

視線を日記の方へずらし、手に取ろうとした瞬間。

 

レティ「……言っとくけど、途中で投げ出すなんてことしないでよね?」

 

念を押す彼女の言葉に頷いて、手渡された日記を恐る恐るめくる。

 

 


 

9月1日

 

今日から、はじめて日記を書くことになった。

夏休みの分はとっくにやったけど、わすれられないことがあれば書いて、思い出せるようにしたい。

毎日は無理だから、気が向いた時に書こうと思う。

 

 

ユリウスがいなくなってから一週間がたった。

あの時の事件でぼくがむやみに力を使ったせいで、大吾さんにも、ヨイリーおばあちゃん達にもめいわくをかけたから、またぼうそうしないように強くならなきゃ……

もうだれも、何も、うしないたくないから……

 

ただうれしいことに、しんだわけじゃないから、帰りを待てば……きっとまた会える。

今はそうしんじたい。

 

それにリヴァイアも、最後まで一緒にいてくれるって言ってくれたから、あきらめたくない。

 

なきたくなるほど辛くても、あきらめてたまるもんか。

 


 

 

 

書き始めが夏休み明けか。

……たしか、遊ぶ約束しようと電話したら『しばらくは無理』って初めて断られたことあったんだよな。

声色も、どこかしら思い詰めた感じがして不安だったけど、まさかな?

 

過去に力を暴走させたのもあって、リンドヴルムを解放する際、水希自身も()()()()()()()()()を嫌がってたみたいだからな。

 

書き記された出来事が原因だとすれば、ユリウスという奴がまだ帰ってこないのだとすれば、自責の念に駆られたまま暗い性格へと変貌するのは考え()る展開なのかもな。

そう思考を巡らせながら、ページをめくった。

 

俺の様子を静観するレティだが、気にせず読み進む。

 

信武「――――」

 

確かに、本当に気が向いたらだから、何日も日を跨いだりしてるな。

 

ただただ帰りを待つことに関して書かれてるかと思いきや、俺が都大会で優勝したこと、リヴァイアとマンツーマンの特訓でのハードさに意気消沈しかけてたりと、思ったことを書き連ねているようだ。

 

しかし、ページをめくるたびに不穏な気がしてならないのは何故だろうか……?

 

 


 

11月5日

 

今年で11才になった。

お父さんとお母さん、お姉ちゃんやリヴァイアにも、おいわいしてくれてうれしかった。

もっと言うなら、ユリウスにもいわってほしかったな。たん生日を。

 

 


 

1月6日

 

ユリウス、まだ帰ってこない……。

 

ちゃんとご飯食べてるかな。

 

 


 

 

次のページを見た瞬間、思わず目を丸くした。

 

 


4月5日

 

明日から、中学生になるんだ……実感わかないや。

 

でも、新たに通う中学校に信武も来るみたいだから、なんか安心かも……。

 

 

 

はぁぁぁぁ…………好き。

しのぶが好きすぎてマジつらい。

もうさ、女の子として生まれてたら絶っ対ラブレターの文末に一生愛してるー♡って書いてるって絶対!

 

………でも、同じ男だから、信武にとっては親友としての好きで、それ以上でもそれ以下でもない関係なのかな……。

 

それに、恋人でも作ったりしたら………許せないかな。

 

信武に告白する女が、のちに信武をアゴで使うやつだったら……どうしてくれようかな。

二度とそんな真似できなくなるくらいに教育でもしてやろうかな……。

 

 

なんちゃって!

もう…ガラにもないわぁ、フフフフフ……。

 


 

 

…………なんだよ、これ。

 

つまり俺と水希は最初から両想いだったのかよ。

 

あぁよかった…!

喜べ、当時の俺! 全然嫌われてねーぞ!!

 

レティ「……気味悪いわね、なにさっきからニヤけてんのよ……」

信武「……読んでみる?」

 

怪訝そうな顔をするレティに日記を渡すが……愛の重たさが垣間見える字面に顔を青ざめさせ、秒で手元に戻った。

 

なんとも言えぬ空気の中、ページをめくった。

 

 


 

9月14日

 

 

クラスのみんなを見てると、あの大人たちと同じなんじゃないかって、かん違いしてしまう。

 

……こわい。

誰かと目を合わせるのがこわい。

誰かにうらぎられるのがこわい。

何もかも疑いそうで、自分から声をかける勇気すら持てない。

 

部活仲間のみんなは優しい人だけど、やっぱり怖い。

試合を棄権したのだって、色んな場所から目線を感じてて怖いから。

 

 

 

ねぇ、いつになったら帰って来るの?

あの時のことを謝りたいのに。

 

 

 

おねがい 帰ってきて ユリウス……

 


 

……文末に、涙が滲んだ跡が残っていた。

 


 

4月1日

 

今年で中学2年か……

今この時に至るまで、大切なものが増えすぎた。

なら、守らなきゃ……。

 

僕が持てるすべてを使ってでも、みんなを守らなきゃ……。

 

もっと強くならなきゃ……。

 


 

4月10日

 

ここ数年で体調を崩す様子は見られないけど、気づかないとでも思ってんのかな?

 

信武、中学に入る前からずっと無理してる。ほとんど僕絡みの事が原因なんだろうけど。

 

浮かない顔すると、信武は僕を喜ばそうとしてくる。

でもそれ、空回ってるよ。

 

なんたって、誰もが憧れる優等生様が僕一人に構ってるせいで、クラスの女子に睨まれてるんだよ。

まぁぶっちゃけそいつらが何思っていようがどうでもいいけど……『お願いだから、僕なんかのために無理しないで』ってちゃんと言えたらどれだけ楽なものか。

 

そう悲観的に思ってるから、うまく笑えないんだろうね。

 

変わらず優しくしてくれる信武が大好きなのに、いつも素直になれない自分も人に言えないか……。

 

 

 

4日前に大吾さんからのメール見て、今日NAXAの局長さんにキズナ号の同行許可を貰えたのは大きかったな。

 

信武と離れ離れになるのは嫌だけど、急な申し立てを受けてくれたからには、腹をくくらないとね。

 

 


 

12月18日

 

終業式の帰り道、信武を公園に連れて行って、進路先を変えるって話した時に見せた悲しそうな顔……言葉にするのは不謹慎だけど、初めて。

 

でも、同じ状況にあったら自分だってそうなるよ。

当然、だよね。

 

 


 

2月20日

 

今日、大吾さんを含め、クルー全員が地球を飛び発った。

キズナ号での生活はどんなものかは想像つかないけれど、ともかく事が上手く運んでくれれば何も言うことはない。

 

僕も中学を卒業して数日後に合流する予定だ。

 

 

進学……考えてなかったわけじゃない。

それでも、周りからの反対を押し切ってでもついて行きたかった。

大吾さん、人に言えてないレベルで危なっかしいから余計心配だし、何しろ……戦う他に取り柄がないからこそ、この命に変えてでも守らなきゃと思うから。

 

ごめんね、信武。勉強教えてくれたのに、全部無駄にしちゃった。

本当は一緒に都立へ行きたかったけど、やるべきことが出来たの。

 

だから、待ってて。

必ず、良い土産話ができるように頑張るから!

 


 

1月31日

 

NAXA及び、宇宙飛行に携わる関係者と共に行方不明者を捜索して一ヶ月。

鳴田(なりた)さん、ロイドさん、フレインさんの三人と、大吾さんの所持品であるビジライザーとペンダントが見つかったけど、それ以外の成果は1割にも満たなかった。

 

……言葉にできないし、信じたくない。

 

その気持ちは、行方不明者の親族もみんな一緒。

ましてや船長……信武のお父さんまでも見殺しにしちゃったなんて……。

 

どの面下げて会えと? 無理だよ……。

信武から嫌われるくらいなら、いっそのこと自分は死んだことにすればいい……。

 

もうそれしかない……。

 

 


 

2月7日

 

誰かに言われた。疫病神だって。

でも不思議と自分に合ってるなと嘲てしまいそうだ。

 

スバルには学校に行けなくなるくらいのトラウマを植え付けて、信武と深祐さんと縁を切る羽目になり、悲しみの連鎖を生んでばっかりだから。

 

けど、何もできない訳じゃない。

まだ出来ることはある。

 

引きこもりがちのスバルの心を埋められるように接したい。

たとえお節介でしかなくても、唯一できる償いだと思うから。

 

そして、必ず……大吾さん達を助ける。

だって今、レティっていう心強い味方ができたから。

 

問題は今以上に鍛錬する必要があるけれど、いい加減リンドヴルムを扱えるようにならないと面目立たないからね。

 

……もう誰も失いたくない。

 


 

それから先は、まっさらな白紙だから、日記はこれで最後だと思う。

 

そっと閉じて、レティに改めて問い質す。

 

信武「なぁ……水希は、お前がやれば早いんじゃないのか?」

レティ「無理ね、私の能力でリンドヴルムからの精神支配を阻害してる、つまりは生き長らえさせてるから、解除した時点であの子は文字通り()()()()()()わ」

信武「………!?」

レティ「共に戦える仲間ができたとしても、生きて帰れる程の実力と素養があるって確証がなければ、水希は絶対にソイツを戦場に出向かせず、一切信じようとしない。

星河スバルはその段階を乗り越えてるけれど、水希を倒せる実力者じゃない。だから私直々に申し出てるワケ」

 

だからもう一度言うわ。と一呼吸おいて、悲痛な顔つきになりながら声を発した。

 

レティ「お願い、水希を、助けてあげて……」

 

……そう、救いを求めるようにして頭を下げるのだった。




信武(しのぶ)の過去回想編は以上です。

アニメ版でのスバルvsキグナス戦は長引いてましたが、前回で一区切りついたのでもう一息ですね。

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次回もお楽しみに!

アポカリプス編、40話〜最終回までのイメージED曲「四季刻歌」


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41話 追憶 ⅱ

一方、日没が過ぎたその頃。

 

激戦の果てに深祐を打倒し、天地と共にセントラルシティの病院へ運んだスバルは今、院内個室のベッドで眠る深祐(しんすけ)に付き添っている。

 

その間、天地は数分前から席を外しており、主治医から深祐の容態を聞いている次第だ。

 

スバル「……これで本当に、宇田海さん、助かったのかな……?」

 

ポツリと発した問いに答えてくれる者は、今ここにいない。

 

いつもならトランサーに居座るウォーロックも、医療機器に支障が出ることを懸念して『屋上で待ってる』と一言残したから、今頃退屈を持て余している所だろう。

 

それをわかっていて声に出してしまったが、また何か考え込むように沈黙する。

 

スバル「―――――」

 

ミソラと対峙した時より苦戦を強いられたものの、土壇場でスターフォースを開放させ、確実に倒せた。

 

そしてその後、ウォーロックが『キグナスの反応が潰えた』と確信を持った時点で、一心同体の呪縛から解放されたことになるが……後一歩遅ければと思うと気が気でなくなりそうだ。

 

しかし、スバルが不安がる問題はそれだけじゃない。

 

起きて、その後……どのようにして罰せられるのか?

 

その不安が拭えないからこそだとも思われる。

 

 

……と、その時。ノック音に振り向くと、天地が戻ってきたようだ。

 

天地「先生から聞いた話、幸いにも後遺症は無いらしい。それと、あかねさんには連絡を入れといたよ」

スバル「うん、ありがとう。天地さん」

天地「……今日はもう遅いから、早く帰ってあかねさんを安心させないと。あとは僕が見ておくから」

 

礼を言うスバルの肩に手を置いて帰宅を促した矢先、

 

「――その必要はありませんよ、天地さん」

 

会話を遮った発声源が二人のものでなければ、他に誰がいよう?

 

スバル「宇田海さん……!」

天地「良かった。目が覚めたか! どこか痛む所はないか?」

深祐「……いえ、まだ起き上がれないですが、特には。……正直、今でも信じられません……僕が助かったのは事実だというのに」

 

天井を見やったまま現状を受け止めきれない様子。

しかし深祐は微笑して、首を回してどうにかスバル達と目を合わせようとした。

 

深祐「でもこうして無事なのは、スバル君のおかげだね。ありがとう」

スバル「……もしかして、覚えてるの……?」

深祐「うん……」

 

彼の口振りにはスバルだけでなく天地ですら目を見張り、深祐はスバルの問に頷いて言葉を発した。

 

深祐「信武(しのぶ)や他の子達がどのような状態かは分からないけれど、僕の場合【現実世界での様子をテレビ越しに見る】ような感覚だったから、ほとんど記憶しているんだよ」

 

そうして天地にも、バツが悪そうな面持ちで視線を向けた。

 

深祐「天地さん……今回の件なんですが――」

天地「待て。――スバル君。悪いが席を外してくれないか。ここからは二人で話したい」

スバル「……わかった」

 

声音を変えて話す天地に、スバルも状況を把握してすぐ退室し、ドアが閉まって静まり返った頃。

 

天地「所長命令だ。自首は許可しない」

深祐「!?」

 

突拍子もない発言に目を丸くする深祐だが、天地は構わず続けた。

 

天地「自首して逃げるなんて選択肢はないよ。被害を受けた中継機の修復作業――退院次第、すぐに取り掛かってもらうよ。はっきり言って人手不足だから、君の選択と行動によってサテラポリスの上層部の目の色が変わるかもね」

 

「もちろん良い意味で」と付け加え、我ながら完璧な作戦だと言いそうな程したり顔になっている天地だが、

 

深祐「…………たった、それだけで、償えると?」

 

戸惑う深祐を諭すように真面目な顔付きになる。

 

天地「償えるかどうかじゃない。反省の意を示すなら行動するしかないだろ。水希君があの事件を経て11年、眼中にもない人達にも尽くしてきたようにね」

 

そこで水希の話を持ちかけられても深祐としては返答に困るものだが、身近な人がどんな形で道を誤っても見捨てず更生させ、時に道を示そうとする……その性根はやはり、かの星河大吾に影響されているのだろう。

 

前職の上司に裏切られて心身共に荒くれた頃も。道を踏み外してしまった、今この時でさえも。

ことごとく思い留まらせた人間は――深祐の知る限り、この男以外にいない。

 

深祐「本当……貴方らしいやり方ですね。逃げ場を無くすように外堀を埋めてから決断を後押しする。貴方くらいですよ、ここまでのお人好しは……」

 

救いの手を差し伸べることを惜しまない姿勢に、相変わらず優しい(甘過ぎる)人だと苦笑してしまう深祐は次の瞬間、天地に頼み込むように言った。

 

深祐「世話焼かせてばかりで申し訳ないんですが、……少し、一人にしてもらえますか?」

 

その時。二人の会話を扉越しに聞いたのか、微かながら駆けてく足音が遠のく気がした。

 

天地「構わないが……逃げるなよ」

深祐「承知しました」

 

どの道動けない以上、大人しく寝る他ないが。

観念したように受け答える深祐を背に、天地も病室を後にした。

 

 

◆◆◆

 

 

病室から出て、スバルは相棒が待っている屋上に向かい、着いて早々ビジライザーをかけ直して周囲を隈なく見渡すが、

 

スバル (……やっぱり、見つからない。僕と宇田海さんより激しい戦闘をしてたはずなのに、途端に二人ともいなくなるなんて、不気味過ぎるよ……)

 

スバルは、途中まで激戦区だった都庁から消息不明の兄を探している模様。

 

心配する半ば見つかればラッキーなものだが、それらしい姿が未だ見当たらず、より一層不安を掻き立てられる。

 

そんな時だった。

 

「……一段落ついたのか?」

 

と、背後からの声に息を吐いて、振り向いた。

 

スバル「とりあえずはね。ただ……驚いたことに、天地さんの話を聞いた限りじゃ、宇田海さんを償わせるつもりで『自首は許可しない』って言ってたんだ」

ウォーロック「……なるほどな。まぁ、今回は騒動の首謀者なんだから無理ねぇよ。自首したところで根本的な問題が解決するってワケじゃないしな」

スバル「だよね……天地さんも、それなりの考えがあってのことだろうけど……」

ウォーロック「だろうな。なんにせよ、無事に越した事はねぇさ」

 

一連の事情に納得したウォーロックの意見に頷くスバルだが、そんな彼に今一度、件の話を問い質そうとした。

 

スバル「……でさ、キズナ号を、攻撃したって話なんだけど……あれって本当なの?」

 

質問の内容が内容なだけに言葉にするまで時間を要したが、じきに口を開けて答えるのだった。

 

ウォーロック「その話に関しては、あながち間違ってない。俺はその時FM王から攻撃隊長を任せられたからな。だから俺は……、……止そう、この話は――」

スバル「逃げないでよ」

 

目を逸らしてはぐらかそうとすれば、スバルの一言で退路を塞がれ、頭を掻きながらも面と向かおうとする。

 

ウォーロック「わかってるのかスバル。元々俺達は敵同士なんだぞ?」

スバル「でも今は仲間でしょ。……違う?」

ウォーロック「それは……」

スバル「状況が掴めないままだったら絶交を言い渡してたかもだけどさ、正直今はそれどころじゃないじゃん」

 

記憶の回帰(レミニセンス)を介して見た過去はすべて水希視点のみの出来事である為、主観で物事を測ることができないからこそ、彼の口から聞きたいと思っての発言だ。

 

スバル「だから知りたいんだ……お願い……」

 

頭を下げられてまでせがまれては、いよいよ拒否することもできず、肩を竦めながらも順を追って話そうとした。

 

ウォーロック「最初は躊躇って反対を申し出たが、他の連中は言わずもがな賛成派で多勢に無勢だった。そうして言われるがままキズナ号を占領し、FM王が乗組員達に下した判決は――――全員死刑」

スバル「そんな……」

ウォーロック「で、猶予が1ヶ月の間、俺自ら世話役を買って出た。そん時に大吾が俺にちょっかいかけたのさ」

 

 

***

 

 

本当に変な男だった。

 

出会った直後の第一声がまさか『すげー!人生で二度目の宇宙人だ!』って、俺を前にして怖気付くどころかガキみたいにはしゃぎやがってよ。

そこは嘘でも人生初って言ってほしかったが、リヴァイアと水希の存在と二人の関係性を後に聞かされて嫌々納得した。

 

そんで、ジェミニの放った雷のせいで意識を失っていた水希がようやく目覚めた時。

俺は脱出モジュールから一番遠い階層に身を潜めて、リヴァイアと脱出するのを見届けた。

 

心なしか、今更キズナ号に戻れやしねぇのに……必死に手を伸ばして大吾の名前を連呼する、水希の泣き叫ぶ声が聞こえた気がしたんだ。

 

一応、様子を見ようと思って探し回って、実験室にまで来たら案の定ヘコんでてな。

見かねた俺は背後から声をかけたんだ。

 

ウォーロック『――二人はもう、だいぶ離れたと思うぜ』

大吾『……そうか』

 

振り向かずに窓の外を見る大吾が、浮かない顔をしてるのは雰囲気でわかった。

水希とは家族同然とも言える関係だからこそ、大吾自ら別れを切り出すのは辛いに決まってるはずだから、余計にな。

俺如きが口出しなんて差し出がましいにも程があるんだろうが、どうにも問い詰めずにいられなかったんだよ。

 

ウォーロック『本当にそれで良いのかよ? 水希はきっと、お前らを守れなくて悔やみきれないと思うぜ?』

大吾『あぁ……わかってる。人生を棒に振ってでも付いて来たアイツの覚悟を踏み躙ったことくらい、ちゃんと理解してるさ……。だから地球のことはアイツに任せてるからな。俺の代わりに家族を守ってくれるのなら、間違った選択じゃないという証明にもなる』

ウォーロック『だからって……―――』

 

それでも、いくら物申した所で、向こうが勝手に納得してるようじゃ何とも言えねぇけどな……。

 

大吾『問題は――どうやって地球に帰るか、だな……』

ウォーロック『待て待て。流石に無理があるだろ。仮に脱出を試みたとして船ごと落とされちまうのがオチだぜ?』

大吾『……普通の手段で行くならな』

ウォーロック『何?』

 

訝しんでいる俺をよそに、大吾は言葉を続けた。

 

大吾『人間ってのは、お前ら宇宙人と勝手が違って酸素がなきゃ簡単に死ぬモンなんだ。だからいつ宇宙に放り出されても問題ないように、防護服や脱出ポッドにも酸素ボンベを投入して、この船内にも酸素発生装置が置いてある。……だが水希は、防護服と脱出ポッドを使わずにリヴァイアと離脱した』

 

言われてみれば確かに、思い返せば不自然な光景だと思う。

生身の水希を包み込んだ球体のようなバリアを張った上で離脱した。

そこまでは納得がいくけれど、まだ引っかかる点はあった。

 

その手段と、実行に行き着くまでの過程だ。

 

ウォーロック『じゃあ、どうやって?』

大吾『リヴァイアやお前が放つ強力なZ波を、水希の体に浴びせて電波化させた』

ウォーロック『電波化させた、だと……!?』

大吾『あぁそうだ。その過程があって、俺達にもチャンスはあると見ているんだが、問題はどうやって奴等の目を掻い潜るかなんだよなぁ……』

 

大吾の奴、状況が理解できないワケでもない癖に妙な発言をしやがって、無駄な足掻きだって思うだろ?

でもまぁ、俺も同じ立場だったら似たようなこと考えついたんだろうがな。

 

ウォーロック『……今回成功したとして、次成功する保証なんてねぇし、最悪ウイルスみたいに変質しちまったら……死ぬほど辛ぇぞ?』

大吾『わかってる。けど、アイツはそれ以上に苦しんでんだ。それを間近で見てるからこそ、最後の最後までアイツに頼りきりじゃ、大人として示しがつかんからな』

ウォーロック『……お前、変に頑固だよな?』

大吾『よく言われるよ。それにどの道、奴等に殺されるくらいなら、小さな可能性に命懸けてでも生き延びたいと思うぞ――ここにいる全員が』

 

指し示す方向に目を向ければ、乗組員達が聞き耳立ててるようでな。

頭掻きむしりながらも、そいつらにも言ってやったんだ。

 

ウォーロック『一度電波化しちまえば二度と元の状態に戻れねぇぞ。それでも良いのか?』

 

決行を渋りつつも注意を呼びかけたら、皆して異存はねぇって言うもんだから、もはや拒否権なんてものはなかった。

 

 

***

 

ウォーロック「……そうして、連中にバレないよう計画を練り、決行したのは死刑執行が間近になった頃だ」

スバル「――――」

 

ここまで、スバルは口を挟むことなく耳を傾けてきたが、話はいよいよ終盤に差し掛かろうとしていた。

 

ウォーロック「色々あってアンドロメダの鍵をくすね、奴等に勘付かれる前にキズナ号へ向かい、全員にZ波を浴びせた結果、俺の心配はどこへやら、電波化は問題なく成功した。けど……」

スバル「……けど?」

 

言い淀んでいるところで、ようやくスバルは言葉を発した。

 

ウォーロック「その直後、オックスの野郎がここぞとばかりに襲撃を仕掛けてきて、大吾達が逃げる時間を稼ごうと応戦したが……結果的に全員とはぐれてこのザマさ……」

スバル「そう、だったんだ……」

 

「――けど、まだ希望が潰えたワケじゃない」

 

と、二人の間に生まれた沈黙を破った声の主が、徐々に近づいてきた。

 

……天地だった。

 

スバル「いつから居たの?」

天地「君が彼に、過去の事を聞きたいって頼み込んでる時からね」

ウォーロック「てことは、会話は全部筒抜けってことか」

天地「ごめんね、盗み聞きするつもりは無かったんだけど」

 

と、些か気まずそうな顔で謝る天地は話を一旦戻そうとした。

 

天地「確かに、君の故郷に踏み入れようとした代償はデカ過ぎたけど、行方不明者の捜索中に三人も助け出せたなら、僕としては上々だと思うけどね。お陰でアマケンに電波塔を建てようと思えたから」

スバル「……みんながみんな、諦めきれないもんね……」

天地「そうだね」

 

この地球(ほし)にいる誰もが、抱えている未練。

 

解決に至らない限り、その想いが風化することなど一生ない。

 

 

 

 

 

 

病院を後にして、ウェーブロードを伝いながら家路につくこと、はや5分。

急に立ち止まって街を見下ろすスバルを、ウォーロックは不思議そうに見遣って問う。

 

ウォーロック「どうしたんだよ?」

スバル「いや、考えてみたらさ……最近になってモノレールとかバスに乗らなくなったなって」

 

つい先日まで移動手段として馴染み深いはずが、電波化しての移動が()()()()と認識してしまうと忘れてしまいそうだと感じているようだった。

とは言え、交通費が浮いて時間に縛られない分、デメリットが限りなく無いので悪い気はしないと思う自分もいたり。

 

……それ以外にも思う所があると見られるが、

 

スバル「何でもない。帰ろ」

 

言葉で表せるほどにまとまっておらず、足早に帰宅するのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

そうして、ようやく玄関のドアを開けたら、待ち伏せていたように母が立っていた。

 

あかね「おかえりスバル。宇田海くんを助けたのね?」

スバル「?! ……母さん……その――!」

 

出迎えてくれた後の第一声を耳にして、しどろもどろになる僕の肩に手を置きながら、いつにも増して優しく言った。

 

あかね「早く中に入りましょう。今日はやけに冷え込むから、先お風呂入っちゃいなさい」

 

……と。

 

 

 

 

 

長いこと湯船に浸かり、髪も乾かさずタオルで拭いたままリビングに入ると、食卓の方でパソコンを操作する母さんの視線がこちらに向く。

 

あかね「アンタ、ちゃんと髪乾かしてからにしなさいよ」

スバル「それよりも聞きたいことがあるんだけど」

 

単刀直入に言うと、母さんはまた小言を吐き捨てるかと思いきや、向かいの席に座ってと無言で指し示し、それに従って対面する。

 

あかね「――それで、聞きたいことって、何?」

スバル「……天地さんから聞いたの? 宇田海さんのこと?」

 

要件は言わずもがな、出迎えの時に訊ねられた話の事である。

すると、重い溜息を溢し、閉じたパソコンを隅に置く。

 

あかね「私から直接聞いたの。誰が助けたのって。そしたら水希だって言いかけたけど……その後に『スバル君が率先して動いてくれたお陰です』って、馬鹿正直に訂正してくれたのよ……」

スバル「天地さん……」

 

いつか話せる時が来るまでにしてくれと愚痴りそうなのを堪えるが、何とも頭を抱えてしまう話だこと。

ただ、頭を抱えそうなのは母さんも同じだと思う。

 

あかね「皮肉なことに、いつかの水希みたいに、敵対してるはずの宇宙人の力を借り受けて、その上で戦ってきて…………どれだけ心配かければ気が済むのよ、うちの男どもは……!」

 

だって、途中から息を荒くして、積もりに積もった不満を吐き出したい気持ちはよく分かるから。

たとえ今、戦場に立つ身だとしても、本質的には置いてけぼりな立場であることに変わりないのだから……。

 

あかね「――ねぇスバル、一つだけ答えて?」

 

ポツリと言い放ち、そしてまじまじと見つめながら、母さんは僕に問い詰めた。

 

あかね「あなたは今、何のために戦おうとしてるの? 何を思って戦場に立とうとしているの?」

 

今にも泣きそうな声で、そう問いかけられて少し言葉が詰まりそうだったけど、答えはとっくにある。

 

スバル「与えられた力だとしても、守りたい人がいるからだよ」

あかね「……水希、を……?」

スバル「兄ちゃんだけじゃない。母さんも、ミソラちゃんも、学校のクラスメイトや先生も。家に帰る途中で見かけた街の住人の生活も。兄ちゃんのように、僕らの平和を保とうと戦ってくれたヒーローみたいな人になりたいの。……たとえそれが、誰かにとってありがた迷惑だとしてもね」

あかね「……どうしても、そのつもりなら、今はあまり言うことはないわ。……ただ」

 

途端に席を立ち、僕の横にしゃがみ込んで……僕の手を握り、涙ながら言った。

 

あかね「生きて。必ず生きて帰ってくるって約束して。でないと安心して眠れないわ……」

スバル「……もちろん、約束するよ、母さん」

 

瞬間、縋りつくように抱いて、嗚咽を漏らす母の頭を撫でた時に誓った。

 

何が何でも生きて帰ると。

 

そして、力及ばずとも、兄を探して――今度こそ救ってみせる、と。




皆様、お久しゅうございます。

今現在、私は、仕事と創作活動を続ける傍ら、転職に向けた準備をアドバイザーさんと共にしております。

次回の投稿は遅くて2ヶ月後の予定ですが、投稿次第ツイッターにて報告致します。

この作品を楽しみにしていただいている読者様、大変申し訳ありませんが何卒ご理解のほどよろしくお願いします。


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42話 一途な騎士様

皆様、お久しぶりでございます……。
投稿が遅れた理由についてですが、正月過ぎた辺りにコロナを患い、回復してから陰性確認後も、転職先の面接を受けに行ったりなどバタバタしておりました。

ですが、少しずつ執筆の時間も取れた今、残り数話書いてもうそろそろ新章に突入したいところ。
(OP曲のイメージは、スカイアリーナのお空の曲です)


相変わらずのペースではありますが、お付き合いしていただければ幸いです。




 

水中に放り込まれたかのような感覚に身を委ね、微かな音を拾っていた。

 

全身はろくに動かせず、抵抗虚しく海の底へ沈んでいっている気がする。

 

そして暗い。何処もかしこも暗い。

どれだけ見渡そうとしても何もないし、何も見えなくて当然だ。

 

……けど、わかる。

 

視線の先にいる人達が爪先から微細な泡と化し、(ことごと)く海の一部となりゆく様を眺めることしか出来ず、手を伸ばそうにも届かない歯痒さに打ちひしがれそうだった……。

 

(……ユリウス、大吾さん――リヴァイア、信武(しのぶ)……)

 

大好きな人がみんないなくなる。

疫病神である自分と関わったせいで。

 

天地さんも、リュウさんも、深祐(しんすけ)さんも、両親も、お姉ちゃんも………スバルも。

 

いつかまた、いなくなる。

 

どうせまた、いなくなる。

 

他ならぬ星河水希(やくびょうがみ)がそこにいるだけで、目の前から消えていく。

 

大切な物全てが、記憶ごと奪われそうで、気が気でない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱いから、誰一人として救えないって言いたいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なら……もういっそ、死んでしまいたい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

毎度のごとく見る、変わり映えのない悪夢。

 

その苦痛から疾く逃れるように瞼を開けたが、伝い落ちた涙を拭う手を見て、自分の意思で変身が解けなくなったことを憂えていた。

理由は勿論、リンドヴルムの解放によって心身もろとも同調が完全になりつつあるから。

 

こんな時、いつもならリヴァイアが頭を撫でてくれるけど。今じゃ現実世界(おもて)に出てくる気配すらなく、きっと主導権を握られているんだと思う。

 

 

もはや救いの無いバッドエンドしか辿れないのかと自嘲気味に笑ったが、連想したところで虚しいだけだった。

 

水希「………」

 

あの時『顔も見たくない』と拒絶され、居た堪れずに戦場から逃げ……気がつけば、どこともしれず陽も差さない森に降り立ち、そびえる木の幹に背を預けて眠っていた。

 

そのせいか、身体の節々が寝違えたかのように強張り、立つことさえやっとの状態だが、虚ろになりながら森の中をトボトボと歩き続け、徐々に明かりは増していく。

 

やがて開けた場所に出て、その場にへたり込んだ瞬間、細波(さざなみ)の音を聴き取り我に帰る。

 

水希「……いつの間に……」

 

森を抜けた先にビーチがあるとは思いもよらず、夏真っ盛りなら人で溢れそうなほど景観が良い場所なのだが……愚かにもネガティブ思考に耽っていた。

 

何故、こんなにも己の心を映し見るものなのか。

仄暗い雲が空全体を覆ったせいで、浅瀬から先が暗く淀んでいるように見え、それがまるで黄泉の世界へと誘き寄せられるような……そんなおぞましさに宛てられて、夢で見た光景と重ね合わせてしまい、途端に目も当てられずに俯いてしまう。

 

 

……思えば、空回ってばかりの人生だった。

 

最初はただ、年齢的にもお遊び感覚でしかなかったけれど、【身近にいる大切な人を守りたい】と意識してから二度と失うもんかと負けん気で戦い続けてきた。

 

どんな形でもいいからと躍起になって、ひたすら強さを追い求めていた。

 

すべては、11年前。

()()()()()()から助けてくれたユリウスの恩義に報いるため。

 

それだけじゃない。

 

『僕とリヴァイア』、『スバルとウォーロック』という関係性のように、異星人と手を取り合い共存しやすい理想郷を――大吾さんの夢が実る瞬間をどうしても見届けたかった。

 

幼い頃、成し得なかった約束が果たせるかもしれないと、チャンスが巡ってきて嬉しかったから。

 

……けれど、一歩及ばず無に帰した。

 

そうして泣く泣く地球に戻ってから、誰も彼に恨まれ、疎まれ、スバルにもまだ完全に許してもらえたわけじゃない。

 

本当ならとっくに処刑されてるんだろうけど、FM星人への対抗策――要は、天敵として。

半ば捨て駒として生かされてるもんだから、楽に死ねるとは思ってなかった。

 

……なのに、結局負けて、生かされてる。

 

戦士として15年にもなるのに、信武が相手じゃ敵わない。

 

そりゃそうだ。

 

剣道で数々の功績を積むほど鍛錬を重ねたからこそ、応戦できて当然だ。

 

洗練された身の熟しを崩すイメージが湧かなくて当然だ。

 

憧れと同時にコンプレックスを抱かせる存在だから、望まぬ形での再会からずっと煩わしく思っていた。

 

 

 

(……本当に、生きてる価値あんの?)

 

何度も思った。

生き恥をさらし続け、抗うだけ抗ってもつまずく奴に存在価値があるのか? と。

 

(……どうして、誰も殺してくれないの?)

 

何度も思った。

自分で死ぬ勇気がないから、他人になすりつけようという浅はかな考えを持ってもいた。

 

頼んだところで御免被ると断られるだろうに。

 

 

何をしても思い通りに行かないのなら……もう、諦めた方がいいのかな……?

 

……なんて考えていた、その時。

 

「―――やっと見つけた」

 

砂浜を踏みしめる足音に気づき、そして聞き覚えのある優しげな声に、恐る恐る振り返る。

 

「どうした? そんな泣きそうな顔してさ、やな事でもあったのか?」

 

()()()()()()は、笑いかけながら白々しいことを言ってくれやがった。

 

誰のせいでこうなったんだよ。誰の、せいで……。

 

水希「……なんで? どうして、ここがわかったの……。今更、何しに来たの?」

「ここに来れたのはレティのおかげ。そんでここに来たのは、親友として、バカやってるお前を止めるため」

 

困惑気味に問う僕に真剣な眼差しを向けながら端的な理由を述べ、その上「それだけじゃ不満か?」と問いかけられた。

 

――そうだ。コイツはそういう男だった。

 

理由の有無に関わらず、リヴァイアと同様に厳しくも優しく接してくれる。本当に大嫌いで大好きな人。

 

だからなのか。締めつけるような胸の痛みが、少しだけ和らいだ気がする。

 

水希「……別に。アンタらしいと思ったよ。今も昔も変わらず、僕を優先して駆けつけてくれる所が―――ねぇ、信武?」

 

涙を堪えながら信武の名前を呼ぶと、心苦しそうに見つめ返された。

 

信武「悪かったな。お前の気持ちを考えずに色々と責めてよ。……でもさ、お前の傍に寄り添えたのが俺じゃなくてリヴァイアだってこと……長いこと気づけなかったのは悔しいし、それと同時に寂しく思ったことを判ってほしかった……」

 

謝罪を交えて複雑な心境を聞いてから、返す言葉は見当たらなかった。

 

(一方的に振り回して、身勝手なままに突き放したっていうのに。どうして?)

 

どういう風の吹き回しかは知る由もないし、大切なヒトをぞんざいに扱ってるクズなんて嫌われて当然なのに……。

こんな最低なヤツを、どうしてまだ気にかけてくれるの……信武。

 

信武「でも当時は『水希(おまえ)の心を満たせないんじゃないか』と思って、それ以上考える気もなかったけどさ………結局、今までのお前に対する気遣いは、言っちゃえばお節介でしかなかったんだよな」

水希「だろうね。ここにいる星河水希(だれかさん)のおかげで、ずっと振り回されっぱなしだもんね、アンタ」

 

そう言いのける僕を見て、信武は言葉が詰まるほど動揺するのだが、実のところ自分も内心驚いていた。

本当は『そんなことない』って否定できたはずなのに、意図せず口を滑らせていた。

 

水希「お節介どころか……信武だけじゃ足りないよ。深祐さんも、リヴァイアも、お姉ちゃんも、スバルも……みんないてくれなきゃダメ。だって失いたくないし。

つまるところ。欲張りなんだよ、どこまでも」

信武「……フ、フフッ、それを欲張りって可愛すぎだろ」

水希「………どう言う意味?」

 

一瞬呆けたかと思えば可愛いと誂われ、不服な態度を取ると、信武は微笑ましげに返答した。

 

信武「いや何、存外可愛らしい悩みだと思ってな。そういった人間味がまだ残ってくれてホッとしたのさ」

水希「人間味、ね……」

 

僕自身が何を発言しようと、否定せずポジティブに捉えて受け入れようとする。

そんな信武の優しさにいつも鼓舞されてきたけど、今の状況では胸がつっかえるほどで、視線を逸らして声を発した。

 

水希「まぁでも、そんな人間味があったところでヒーローの真似事なんて 烏滸(おこ)がましかったんだよ。結局……弱けりゃ何も、誰一人も守れないんだからさ」

信武「水希、それは――」

水希「だからもう、()()()()()()()()()

 

その発言を最後に、両手を真横に広げた。

 

 

◆◆◆

 

 

悪寒が走ったのは、水希が諦めると言った後だった。

 

周りの空気が張り詰めるほどの殺気に、森の木々に身を預けていた鳥達が逃げ、海も些かざわめくように波打つなか、嫌な予感が的中した。

 

水希「――〈天と地、生ける命に恵みを与えし水よ。集え。我が意思に呼応せよ。我が糧として纏え〉――」

 

年甲斐もなく中二病漂う……いや、なんだか物々しい雰囲気を漂わせて詠唱した瞬間。

水希の声に引き寄せられるように海水が身体中を纏わり、バリアを張るような球体へと形状変化。

加えて、季節外れも甚だしいほどに寒気を帯びた潮風が荒れ狂い、水希と距離を離すように吹き飛ばされた。

 

……だが見る限り、詠唱は終わっていない様子。

 

水希「――〈我は海原を統べ、災厄を司りし悪魔なり〉――」

 

次第に球体が凍りつき始めたその時。

水希自身が力の解放を躊躇い、力そのものを忌み嫌う理由を、改めて理解することとなる。

 

水希「――〈賜りし水の恩恵よ、今一度、仇敵を裁く力と化せ〉――」

 

潮風が吹雪へと変貌し、その猛威が存分に振るわれたことで瞬く間に銀世界と変わりゆく。 

 

なるほど、これ程とは……。

相対した誰もが危険視する理由がよく分かる。

 

暴力的なまでに吹き荒れる寒波。それをもろに受けた身体が末端から凍りつき、徐々に中心部にまで至り始めたから。

 

深祐から聞いた話。一部の人間から【生ける災厄】と怖れられたのも納得がいく。

 

水希「――〈象徴せし真名は【リンドヴルム】〉――!」

 

終いに、声高々と名告(なの)ったせいか、勢いが激化したように感じた。

 

クラウン『信武、変身せい!!』

信武「……電波、変換――宇田海 信武、オン・エア!!」

 

いよいよ身の危険を感じたクラウンに急かされ、やむなく変身してすぐさまシールドを張るが、この凄まじい寒気にある程度耐えられるとしても油断ならないのは確かだ。

 

あの女にも注意されたしな……。

 

 

***

 

公園での出来事に遡る。

 

頭を下げてまで協力を仰ごうとするレティの必死さを見て呆気に取られながらも、平静を取り戻してから訊ねた。

 

信武『一つ、確認したいことがある』

レティ『……何?』

信武『水希自身が躊躇うことなく全力を出そうとして、俺に勝算があるのか?』

 

その問に、レティは頭を上げて『あるにはある』と告げた。

 

レティ『極端な話。隙を作って、殺す気で大技を当てればいいだけ。粗方体力が削られたら、後は私に任せて』

信武『任せろったって……具体的にどう対処すんだよ?』

 

半信半疑な俺の反応を見越して、控えめに差し出された手が()()()()()()()途端、発せられた不快音に伴ってモザイクでもかけたかのように型状が乱れる。

その有様に驚く俺を、レティは気にも留めず説明し始める。

 

レティ『持ち得る能力の一つである【ノイズ】。これを水希の体内へと流し込み、意図的且つ強制的に拒絶反応を起こしてリンドヴルムを引き剥がす』

 

“拒絶反応”を起こすと言う時点で、作戦として最善策とは思えないが、そうでもしなきゃもっと酷い事態になり得るから、形振り構わずに行くのだろうか。

 

そうなると、頭を抱えそうでならない。

 

レティ『……苦しんで欲しくないのは、私も同感。でも手段は選んでられないのよ……』

 

色々と考えを巡らせていると、手を引っ込めたレティが苦し紛れの言い訳をして、沈黙する俺を差し置いて続けた。

 

レティ『水希が本気を出せない理由は一つ。それはね、人的被害を及ぼす危険性を理解した上で、闇雲に攻撃できないからよ。人の集まりやすい街中だと特にね。

故に、敵と1or1(タイマン)だろうが、複数を相手取ろうが、戦況的有利でいられる条件は()()()()()()()()()()()()()

もっと良ければ()()()()()()()()()()()であることよ。

だからこそ、戦いの場における憂いを取り払ったその時が、正真正銘の全力と思いなさい』

 

 

***

 

……現に、レティの指摘通り、水希にとって憂いを取り払った環境下だとしても、周囲への二次被害を考えたら全然そうでもない。

 

だが、問題はそれだけじゃない。

 

以前よりパワーアップしているのなら、やっと本気を出そうとしてるのなら、前回のようにお互い慢心できないだろう。

 

それは分かりきったこと。

 

ただ今は、俺なりのやり方でアイツを倒せば(救えば)いい。

 

もう一度、あの頃の関係に戻れるのなら……。

 

決意を胸に秘め、剣の柄を強く握った瞬間。

吹雪が収まる頃にシールドが消え、やがて視線の先にある球体にヒビが入り、殻を破るように砕け散る。

その余波で霧が立ちこめるなか、怒りを募らす声が聞こえ、一歩ずつ進んでくる影が見えてきた。

 

水希「……希望に縋るだけ無駄なら、もう何も望まないし何もいらない。疫病神らしくFM星人(アイツら)を根絶やしにすれば、少しは気が晴れるのかもね。所詮、憎たらしい存在だってことに変わりないし、意識乗っ取られて嫌々戦わされる心配も無いからね……」

 

霧が晴れた時。歩みを止めて、光を宿さない眼で正視する水希に警戒すると同時に、言動一つ取っても呆れたものだと感じていた。

 

たった数回負けたくらいで酷く落ち込むバカに、無力感で押しつぶされそうなのはお前だけじゃねぇんだぞ。と叱ってやりたい気分だから。

 

水希「ごめんねユリウス。約束はもう果たせないみたい。だからもう―――全部壊れちゃえばいいんだよ」

信武「お前!」

水希「ほんっと笑えるわ。何が『みんなと仲良く』だよ反吐が出る。そんな絵空事なんて叶うわけないし、異端者を排斥するゴミ共と馴れ合いなんざクソ喰らえだわ!」

信武「……それ、お前が言えたセリフかよ?」

 

本音を曝け出す水希にそうぼやくと、ギロリと鋭く睨まれるが、臆せず睨み返した。

 

信武「さっきから黙って聞いてりゃ……絵空事だの、叶わねぇだの、馴れ合いなぞクソ喰らえだの。

人生賭けてでも叶えたいがために縋ってたお前が、そこまで悲観してりゃユリウス(待ち人)も安心して帰れねぇだろうよ。

そうやっていつまでも、ガキみたいに塞ぎ込んで、弱音吐いてばっかだから!」

 

積もりに積もった怒りをぶつけた、その瞬間。

 

水希黙れッッ!!!

 

滅多にない剣幕で激昂する、水希の眼前に魔法陣が複数展開され、砲撃とおぼしき威力と速度で放つ〈クリスタルバレット〉が着弾するたび、雪に混って砂煙が荒々しく舞い上がる。

 

しかし、来ると予感して猛攻を潜り抜けるが、砂浜を覆った雪化粧が抉り取られるように、見るも無惨なクレーターと化していた。

 

(……下手に食らえば、死ぬかもな)

 

試合と勝手が違う、正真正銘の――親友との殺し合い。

 

そう思うだけでかつてないプレッシャーを感じるが、握った剣を構え直すほど嫌に冷静な俺を、水希は心底恨めしそうに睨み、声にする。

 

水希「……あぁそうだよ。弱いよ。弱いから、根本的に分かり合えないんだよ。いつも誰かの期待に応えてこれたアンタに。

一人で、誰よりも高みに登って行けたアンタと、生き様が違うから……!」

信武「生き様がどうこう以前に分かり合えないって、本気で思ってんのか?」

 

絞り出すように怒りをぶつける水希に、剣先を下ろして問い質し、同時に諭そうとした。

 

信武「それに誰しも、最初から一人で強くなれねぇだろ。お前も……俺も」

水希「………はぁ?」

 

突飛なこと言い出せば無理ないけど、あからさまに訝しまれながらも続けた。

 

信武「俺だって、竹刀を握り始めた頃から強かったわけじゃねぇし、かと言って強くなっても“単に力を付けたい”って理由じゃあ、きっと続けられなかった。

……けど、そんな状況から脱したのは、お前と出会ってからなんだよ!」

水希「……なにを、言って……」

信武「忘れたワケじゃないだろ。俺が勝ててんのは、お前が欠かさず応援に来てくれるおかげだって」

 

……少しは、思い出してくれたかな?

 

水希は目を丸くして硬まるが、俺にとってはなんてことない話にすぎないのだ。

 

神童。天才。

 

周囲の人が持つ俺への評価は、大抵この2つ。

そのイメージが拭えなくて、常々強者として見られがちなんだろうけどな。

どの試合においても勝てるイメージが湧く時は、自分の事のように喜ぶ水希に応えたいと思う気持ちが、いつも俺の背中を押して奮い立たせてくれたから。

 

【常勝無敗の神童】と謳われる由来の一つはきっと、それなんだと思ってる。

 

お前がいてくれなきゃ、腐り果てたかも知れない。

 

お前がいてくれたから、めげずに頑張ってこれた。

 

 

それにさ……本っ当は寂しい癖に、変に強がって気負ってる部分も俺とそっくりで、放っておけないと感じさせるから。

 

だからこそ言えるんだよ。

メンヘラ拗らせたお前にどんだけ振り回されようたって、―――今でも守りたい大切なヒトだって、心底思うから!

 

一途な思いも、ここまで来ると狂信的と見られがちなんだろうけど、ずっと昔から水希への独占欲強いなって自覚はあったんだよ。

 

どうせなら同じ剣道部に入れたかったのに、水希のやつ中学上がってバドミントン部に入部(うわき)するわ。高校生活も一緒に謳歌するかと思えば県外に行くって建前言うて、星河大吾(類人猿)&リヴァイア(クソ蛇)と宇宙行くわ。その挙げ句、勝手に連絡先ブロックしてくれるわ。

 

あ〜クッソ、なんで俺を選んでくれないんだよチキショー!

思い出すだけでも超ムカつく……。

 

 

……ムカつくけど、皮肉にも水希を好いた時点で、すでに手遅れだったんだ。

 

信武「出会ったその時から……なりたかったんだよ。お前を守れる騎士(ナイト)に」

水希「………っ」

 

思いを伝えたら、困惑と驚愕が綯い交ぜになるような、そんな表情を向けられた。

 

信武「……でも、騎士(ナイト)としての役目はリヴァイアに横取りされたし、逆を言えば、他ならぬ水希に守ってもらってる立場だから、あんまし格好がつかないんだろうけどな……」

 

水希はなにも答えようとしないけど、俯きながら拳を握る様子が窺えた。

 

信武「俺がいつも…お前の力になりたいと思ったように、お前も…強くなろうと努力してきたのは――形が違えど一緒に闘ってくれる仲間や、俺よりもずっと近くにいたリヴァイアに報いたかったんじゃねぇのか?」

水希「……ッ、今更、そんなこと言ったって遅いんだよ。ようやく物にできると思ってた! なのにまた、11年前(あの時)みたいにおかしくなりそうで……。その前に全て終わらせるんだよ!! もう生きる意味も価値も無いんだから――」

 

信武「それが人を悲しませるってのに、なんで分からないんだ馬鹿野郎!!

 

水希「――――遮蔽せよ」

 

言っても聞かぬバカ目掛けて雷撃を放つが、展開された魔法陣が障壁となり、案の定無傷だ。

 

だが、そんなこともお構いなしに接近し、帯電する剣を――脳天を割く勢いで振り下ろす。

しかしそれでも、堅牢な障壁の前ではダメージを与えることすらままならない。

 

水希「……力になりたいと思った? ……騎士(ナイト)に、なりたかった? そんなの、誰も頼んでない」

信武「頼まれてなくても、俺がそうしたいと思った!」

水希「っ、そんなこと、言ったって、無理だよ……。もう遅いよ、無駄なんだよ……!」

信武「無駄じゃねぇ! ちゃんと俺の目を見て聞け!!」

 

か細い声色で弱音を吐く水希は、怒声を上げた俺に一瞬肩をビクリと震わせ、おずおずと顔を上げてくる。

互いが一歩も退かんとばかりに剣と障壁がせめぎ合うなか、視線が合うタイミングで問いかける。

 

信武「なぁ水希。……本当の意味で、俺達は嫌々戦わされてると思ってんのか?」

水希「…………」

信武「最初は、思うだろうな。――お前は、守りたいという使命感から、今は復讐心に駆られてる。……逆に俺は、最初こそ復讐心で動いてたけど、その考えが改まって、お前を救う為にここにいる。

それ以外は皆、最初は訳も分からず、意識を乗っ取られた半数は手駒にされるようにして――――それぞれ戦場に立たされてる」

 

経験則に基づいて言うなら、【目標が定まっている奴】と【すべてにおいて中途半端な奴】の戦績は、比べるまでもなく雲泥の差。

 

要するに、どの分野において、自己を高めていく為に必要なもの――――熱意。気概。理由。

そのうちどれか一つでも欠落しては、一生変われないということだ。

 

水希自身が()()()()()()()()()のは、きっと……戦う理由があるとしても、他二つが段々と薄れてきてしまったからだと思う。

 

誰にも理解できない苦しみを抱えて、心を殺し続けたせいで疲弊し、病んで、挙げ句は自信も自尊心も失くして。―――今までそうやって生きてきた結果だから。

 

それでも、まだ遅くはない。

 

言っただろ。お前には、どんな形でも一緒に戦ってくれる仲間がいるって、ちゃんと話しただろ。

助けられてばかりじゃダメのは分かるけど、辛いんだったらもっと周りを頼れよ。迷惑なんて掛けて当然の事だってのに、今になって自分から遠ざけて誰の為にもならねぇだろ。

 

攻撃の手を止め、後退して距離を取るが、説得するのを止めなかった。

 

信武「昨日のことを思い出せよ。俺と深祐の二人と戦う直前に横槍入れてきた、あのガキのこと」

水希「――スバルだよ。小5の時に話したの忘れたワケ?」

 

ってことは俺達が11歳の時、水希が若くして叔父になった話か。そういえば日記にも書いて…………あっ。

 

素っ頓狂な声が危うく出かかったが、既の所で堪え、わざとらしく咳払いをして誤魔化した。

 

信武「………。それはすまん、普通に忘れてた」

水希「……今の間は何。もしかして変なこと考えてた?」

信武「大丈夫。気にすんな」

水希「余計気になるヤツじゃん……」

 

あんまし触れるべきじゃない、よな?

俺のこと一生愛してる♡って日記に書いてた話は。

いやまぁ……俺のこと想ってくれて嬉しいよ。嬉しいけど、殺伐とした状況下ではタブーだろうなきっとそうだ。

 

水希には訝しまれながらも俺は、気持ちをリセットするように話を戻す。

 

信武「ま、とにかくだ。スバルが助太刀しに駆けつけたのだって、力になりたいと思ってたかもしれねぇだろ?

仮にお前からして迷惑だと思っていても、必死に闘ってくれてんだろ! ――お前を気遣ってくれる皆が、必ずしも戦場に立ってなかろうと!」

水希「……だから嫌なんだよ。……みんなそう言って、近づくたびに消えてくんだよ! ユリウスと大吾さんみたいに!!」

 

すべてを拒むように嘆き、無数の雹弾が一面に降り注ぐ。

先程と同様、砲撃とも言える威力と速度でだ。

 

“当たれば死”と認識してるこの身体に攻め入るという選択肢は無く、ドクロ兵を100体もの大群で召喚し告げた。()()()()()()と。

 

この上なく残酷な主命に、反発も後退もせず、全うせんと各々が弾幕の雨に飛び込んだ。

 

だが紙を破くような容易さで、無慈悲に、ことごとく射貫(いぬ)かれていくばかり。

 

いよいよ全滅となった時。舌打ちしながらも縦横無尽に動き回って回避するほかない状態だった。

 

……どうする。どうすれば……?

 

雹弾を避けながら打開策を練るが、着地した足元が光るのを視界に捉えた瞬間、飛び退くよりも先に爆風に煽られ、若干宙に浮いて体勢が崩れた所を、右手にかき集めた水をグローブ状にさせた水希が間を詰めてきた。

 

水希「―――ハァァァアアァッッ!!」

信武「……くっ! ―――うぁっ?!」

 

渾身のストレートパンチを剣の側面で防ぐも、踏ん張りが効かないせいで衝撃を逃がせず吹き飛ばされた。

 

地面を転がった末、口元に付いた砂を吐く。

 

正直、水希のことを弱い弱いと罵っていたけど、実際の実力は互角以上と見ている。

 

俺の場合、身体的ステータスは水希より分があり、大抵は剣術でカバーできているけど、能力の扱いには慣れてなく、単調な所はあると自負している。

ただ、〈センチネル・ゴースト〉で召喚されるドクロ兵は皆、簡単な指示でも俺の意思に沿って動いてくれるのが救いだ。

 

対して水希は能力を駆使する戦術に長け、その熟練度に関しては俺より軍配が上がっていて、尚の事【手加減の要らないフィールド上なら存分に戦える】という厄介さも兼ね備えている。

 

牽制として落雷を放っても、さっきみたいに防がれては意味がない。

 

 

水希「……お願いだから、もうこれ以上、何も期待させないで……」

 

体感で10メートルも殴り飛ばされた筈なのに、泣き崩れそうな声音で囁いているような気がして、

 

水希「―――――〈ディザスター・クロール〉!!」

 

多量の海水を手元にかき集めて数瞬と経たずに、大技をぶっ放してきた。

 

 

 

このまま、手も足も出ずにやられちまうのか……?

 

もう何一つ、俺の言葉は届かないのか……?

 

もう二度と、笑いかけてくれないのか……?

 

クラウンが力を貸してくれたおかげで、やっと同じ土俵に立てる気がしたのに……。

 

またとないチャンスを逃せば、一生会えなくなるかもしれないのに……。

 

どうすればいい……?

 

 

――――考えろ。

 

迷う暇があるなら、逆境を覆せる妙案を考えろ。

 

もう一度、アイツが心の底から笑ってくれるようになる為に……!

 

(……そうだ、アイツが体の一部のように水を纏ってたなら、やりようによっては俺にも出来るんじゃ……)

 

いつか、水希の家に遊びに行った日。

その時勧められて一緒に見たアニメのなかで、俺のように雷を自在に操るキャラ自らが、全身に雷を浴びせ、身体強化へと応用した場面を思い返す。

 

今の俺に足りないものは――俊敏性と機動力。

 

それを補う要素として前述の通りにやれば、可能性があるのでは……?

 

 

しかし、実行に移すよりも先決なのは、刀身に雷を溜め、

 

信武「―――〈インパルス・ブレード〉!!」

 

最大の技を以て、対抗すること!

 

水希「……ッ?! なんの!!」

 

すべてを薙ぎ払う一閃と、超速度で旋回する水撃が、地鳴りを轟かせながら衝突し――――拮抗した後、爆ぜた。

 

砂煙が舞うこの瞬間を狙って、雷を纏った。

 

耐性があれど、必要以上に流し込まないよう調整しながら全身に駆けめぐらせ……、やがて温かみを帯びた光が、……冷たく、無機質な銀世界を煌々と照らして行く。

 

 

 

 

 

信武「〈雷師(らいし)―――光耀(こうよう)〉!!」

 

 

 

 

 

 

――――獅子奮迅たる覇王に、後光が差した。




新技紹介
雷師光耀(らいしこうよう)

全身に雷を帯びたオーラをまとう、ステータス強化技。
発動後のステータス【全身体能力、及び電気属性の与ダメージ上昇率が1.5倍】
その反面、不慣れなため、一時期までは【発動後に体力半減】のデメリット付き。




今回投稿して思ったことは、メンヘラな水希とヤンデレ予備群な信武の関係性って一歩間違えると、割れ鍋に綴じ蓋なんですよね。

互いに両想いなのが共通点だけど、
片や、欠けたピースが埋まらなくて一向に満たされず。
片や、一途が故に、向けた愛が届かないたび、もどかしいと嘆く。

そのモヤモヤを抱えながらいがみ合ってた二人も、ようやく……なのかな。

次回、第43話「死闘のち和解」

どうぞお楽しみに!


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43話 死闘のち和解

アクセス数9000突破、ありがとうございます。


 

―――〈ディザスター・クロール〉。

 

数ある技の中でも、最大威力を誇る必殺技。

 

名前の後半の通り、渦潮のように旋回させ、使い方次第では敵めがけて直線状に放射する事もできる。

 

何しろ、普段能力で水を生成するのとワケが違い海水(自然のチカラ)を取り込んでいるから、威力が段違いに上がっていることは明白だった。

 

 

今度こそ、信武(しのぶ)に一矢報いることができる。

 

 

三度目の正直だと、そう思い上がっていたけれど、

 

 

信武「―――〈インパルス・ブレード〉!!」

 

 

……やっぱり、そう易々と諦めてはくれなかった。

 

内心、分かりきったことだと受け止める半ば、大人しく眠ってほしいと願ってもいた。

 

信武が諦めの悪い性格をしているのは、親友である自分が一番よく理解していたから、尚の事ね。

 

 

強大な力がぶつかり合い、地鳴りと伴うように大気を震わせながら拮抗し、程なくして相殺されてしまうも間髪入れず攻めようとしたその時だ。

 

信武「〈雷師(らいし)―――光耀(こうよう)〉!!」

 

技名(それ)らしき発動を、声高々と宣言する直後。

 

神々しさと温もりを感じさせ、一面の雪景色を溶かすのではと錯覚するほどの光が、世界を染め上げていく。

 

 

無闇に動けまいと攻めあぐねていると、舞い上がる爆煙から光が漏れ出て、堪らず目を伏せてしまい、

 

 

水希「―――、……?!」

 

 

光が収まる頃。顔を上げれば、あまりにも突然すぎて絶句した。

 

一度(ひとたび)瞬きする刹那、金色のオーラを纏う信武が目前まで間合いを詰めてきたから。

凄まじい勢いで振り下ろされる剣を、障壁を使って寸前の所で受け止める。

 

……()()()()()()()()()()と知る由もなく。

 

水希「ぐ―――ぁッ!!?」

 

砂地に立つ足が沈みそうな衝撃を、歯を食いしばって耐え忍ぶ。

 

……一体なぜ? ――どうして、ここまで強くなれるの?

 

簡単な話。元々高い攻撃力を速さで上乗せして、剣を振るう遠心力も加われば、一撃が重くなって当然……ということだろう。

 

下手すれば武器はおろか身体を壊しかねない無茶を、信武自身もそれを理解した上で―――本気で、僕を止めようとしている。

 

 

………そんな温情、願い下げだっつーの!

 

 

水希「…………ふざ、けんなっ!!」

 

両脇に龍の頭を模した氷像を召喚し、極寒のブレスを零距離で放つ。

 

だが手応えは感じず、気づけば背後を取ろうとしてる信武が再び剣を振り、攻撃が届く前に障壁で防ぎながら、再び問いかける。

 

水希「……ねぇ、信武。なんで今になって邪魔すんの? どうして引き止めようとすんの? もう何も希望が持てないから終わらせるって、本望で言ってんだよ。

――そんで、死ねば、みんなまた笑ってくれるでしょ……? 『疫病神が消えて清々した』って」

 

みんなが思ってそうなことを言っただけなのに、信武は酷く悲しげに歪めている。

 

信武「こ、んの―――分からず屋が!!」

 

衝撃波が押し寄せ、今にも障壁を破られそうなため、信武と対面するよう向き直す。

 

水希「分からず屋なのは信武もでしょ!」

 

前回の戦いでへし折られた三叉槍――トリアイナを新たに生成して、障壁を破いてなお迫りくる剣をせき止めた。

 

水希「関わっても碌な目しか遭わないし、好意を向けるメリットなんてこれっぽっちもないんだから、いっそのこと嫌われたまま、忘れてくれればよかったよ……。

そうなりゃもう、とっくの昔に死ねたのに……!」

 

恥も外聞もかなぐり捨て、感情任せに喚き散らす。

 

確かに、信武が来てくれて嬉しいと思ったけど、色々と蔑ろにしたツケが回ってきて、そのストレスから解放されたいという気持ちも、まったく嘘じゃなかった。

 

だから……何もかも終わらせたかったのに……。

 

ユリウスと大吾さんがいない世界なんて、もう消えちゃえば良いのに……。

 

信武「……そうやって、自分を追いやることしか出来ないってんなら……尚更守ってやりてぇよ。罪も(しがらみ)も…何かも一緒に背負えるなら、そうしたい。そうすれば、少しは負担が軽くなるだろ?」

水希「だから、そんな温情いらないっての!」

 

救いの手を突っぱねるように槍を突き、信武がその一撃を防ぐことで攻守が逆転する。

 

水希「さっきも言ったでしょ、無理なんだよ。だって……今まで背負ってきてる罪と柵(モノ)は、そんな生易しく分け合えないんだから!!」

信武「ったく……いい加減にしろよ駄々っ子が!」

 

聞く耳持たない僕に苛立ちながら、意地でも止めにかかろうと攻てきた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

剣と槍。互いの得物を交えて激しい攻防を繰り広げてはいるが、この勝負の目的は、水希を殺すことではなく止めること。

気絶まで持ち込み、元凶であるリンドヴルムを叩き潰すのが理想的だが……相手が相手だ。

今も尚、俺とまともに打ち合えてるだけに、決して楽なことじゃない。

 

それでも、試合での立ち回りを戦いに活かしてるお陰で、対処は出来ている。

わざわざ俺に合わせて白兵戦なんてしなきゃ良いだろうに……。そこんところ詰めが甘いから、攻撃が届かないんだろ。

 

武器のリーチを逆手に受け流し続け、ガードの固さに水希からは苦い顔をされながらも、ひたすら決定打を放つ機会を伺い、程なくその時が来た。

 

槍での一突きを真上に払い退け、勢いのままに弾き飛ばす。

 

水希「……ッ、この――」

 

体勢を立て直される前に懐に潜り込み、

 

信武「遅ぇ!!!」

水希「――ご、ぁあ……ッ!!?」

 

……幾分加減はしてるつもりだが、ガラ空きの腹を胴打ちの要領で殴りつけ、骨が軋むような鈍い音が嫌に響いた。

 

身体をくの字にさせ、苦悶に歪ます水希を空へ投げ飛ばす。

 

水希「っ……んの野郎ォ!!!」

信武「ぐぅっ!?」

 

間髮入れずに距離を詰めれば、怒り任せに蹴り上げた脚が俺の顎にヒットして、痛みに仰け反った隙を狙うように魔法陣を展開してきた。

 

水希「〈クリスタルバレット〉!!」

信武「ち――!」

 

放たれた雹弾を盾で凌ぐ間に、今度は俺の背後を取ってきた。

 

信武 (……いつの間に!?)

水希「せァァアアアッ!!」

 

下手に防御せず、いつの間に携えてある槍を投射される前にワープで回避。

空打ちになった槍は、海に向かって豪速で下降した後、豪快に水しぶきを立てる。

 

近くのウェーブロードに着地した後、髪をかき乱しそうなくらいに腹立たす水希と面と向かう。

 

水希「あーもう鬱陶しい!! いい加減ブッ倒れろよこの筋肉バカっ!!」

信武「うっせえなぁ! オメェもとっととくたばれやこの体力オバケがッ!!」

 

互いに小学生じみた言い争いになり、しょうもない悪口に揃って顔を真っ赤にさせる。

 

水希「うるさいこの堅物!」

信武「お前こそ黙れよ薄鈍(うすのろ)!」

水希「お節介焼き!」

信武「意気地なし!」

水希「ええかっこしい!」

信武「蓋開けてもアホ!」

 

水希「小言幸兵衛(こごとこうべえ)!! ――誰が木偶の坊だコラ!!」

信武「木偶の坊!! ――誰が小言幸兵衛だコラ!!」

 

最後は微妙にハモってしまったけれど、遠回しに口喧しい奴と言われてカチンと来た俺も、木偶の坊と呼ばれてムキになってる水希も、ホントにもう……幼稚臭いったらありゃしない。

 

それくらい、滅多なことで喧嘩することがない俺等からすれば、鬱憤晴らしのようなもんだ。

 

ただ……方や雷の斬撃やらドクロ兵を飛ばし、方や凍結ブレスやら雹弾などをぶっ放し。

 

規模のデッカい攻撃を見境なく放ちながらじゃなきゃ、ただの口喧嘩なんだがな……。

 

信武「……なあ、水希」

 

激しい攻撃が止んだところで、水希の名を呼びかけた。

 

信武「もう一度聞くけど……本当に、全部諦めて、何もかも壊せば気が晴れるのか?」

 

水希「……何度も同じこと言わせないで。命尽きてでも復讐が果たせるなら、家族も、友達も、その人達との思い出も………要らないんだよ!!」

 

信武「……だったら、なんで――なんでそんな悲しそうに答えんだよ、バカ野郎!!」

 

きっと水希も、俺と同じくらいに感情がぐちゃぐちゃになって、なりふり構わずにいられなかったんだと思う。

 

互いに負傷するのを省みない攻撃を浴びせ、それでも尚、どちらかが倒れるまでその手を止めようとしないから。

 

水希「ずっと……ずっっと気に入らなかった。昔から何でも器用に出来て、頭が良くて、みんなから慕われる存在であれたことが! 自分に無いものをたくさん持ってるアンタが!」

 

信武「……あぁそうかよ。俺もお前のこと気に食わねぇって心底思ったよ。

人の好意に鈍感で、ろくに話も聞かない偏屈者で、身近にある絆をも簡単に捨てちまう薄情っぷりがな!」

 

水希「だからもう、これ以上、アンタの言葉に絆されないように――」

 

信武「だからこそ、これ以上、お前が一人で苦しまずに済むように……」

 

 

 

「「――今度こそ消して(止めて)やるッッ!!」」

 

 

 

限界寸前まで力を出し切らんと必殺技を放つ直前。

 

信武「――――――が、ぁっ?!」

 

全身を纏うオーラが消えた一瞬、締め上げるような激痛に耐え切れず膝をつくが、すぐ立て直そうとして、顔を上げたら、

 

信武「………え」

 

口や目から血を垂れ流す、衝撃的な姿に身の毛がよだつ。

 

水希「……う、そ―――ぶはッ!!」

 

本人も信じられないとばかりに狼狽えていると、大量に吐血し、身体を震わせながら、終には真っ逆さまに海へ落ちていった。

 

信武「水希!?」

 

状況こそまさに、トドメを刺せる絶好の機会。

 

―――でありながら、気がつけば後を追うように飛び降り、勝敗を決する戦いは打ち切りとなった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

天と地を逆転する視界が、真っ赤に染まっていた。

 

ズキズキと頭が痛み、全身が筋肉痛みたく凝り固まったようで上手く動かせず、藻掻くこともままならない。

 

原因は考えるまでもなく、無理が祟ったに過ぎなかっただけ。

 

リンドヴルムをフルパワーにまで解放させれば勝てると思い上がった結果、このザマだ。情けないことこの上ない。

 

(そ、んな……まけた? ここまで、きて……?)

 

抵抗虚しく落ちるなか、悔しさが込み上げ、視界が潤んでボヤけだす。

 

二度あることは三度ある。と言うけれど、復讐を遂げる前に、何度も立ち塞がろうとする信武に捨て身で挑んでも勝てなければ―――この世に留まる意味も、存在価値すらない。

 

(……何も、果たせないなら、もう……)

 

《――見るに堪えんほど無様だな、人の子よ》

 

いい加減諦めるべきなのか。そう思い悩んでいたら、とんだ有様に憐れむ声が聞こえてきた。

 

(その声、リンドヴルム……?)

 

《左様。――戦えぬのなら、もう眠れ。これ以上、汝が手を汚すまでもなかろう》

 

(…………なら、そうする)

 

身を案じていながらも、見切りをつけるような話に応じると、脱力感が増すと同時に、取り憑いたものが剥がれ落ちる感覚があったのだか、何故だろうか………()()()()()()()()()()()を受け入れようとしていた。

 

最早このまま死ねたら楽だと感じ、完全に戦意を失くした今、諦観し卑下する他にしてやれることなかった。

 

 

所詮、人の身に余る力を以て戦うこと自体、烏滸がましかった。

 

共存共栄の未来を築き上げることは、過ぎたる夢でしかなかった。

 

……信武の言う通り、努力した所で何も成し得ない、木偶の坊だった。

 

 

それを実感して、嗚咽が止まらなくなる。

 

 

(ごめん……リヴァイア……。何年もずっと、一緒に戦ってくれたのに……ッ)

 

未だに姿を見せない相棒に向けて、無念な思いを残したまま身を投じた、その時。

 

 

 

信武「水希ーーーー!」

 

(…………え?)

 

 

 

無様に落ちていく自分に続いて、無我夢中に叫びながら手を伸ばす男と、()()()()()()()()()の姿が、不意に重なり合う。

 

『――よかったら俺と友達になってくれよ』

 

『……いいの? “ようかい”の僕なんかと……』

 

『気にすんな! どんなやつが相手だろうと、俺がまとめて蹴散らしてやる! なんたって、俺は強いからな!』

 

『……僕の名前はみずき。よろしくね、しのぶ!』

 

『ああ!』

 

だが、視界が完全にホワイトアウトする前に腕を持ち上げようとしても、差し伸べられた手に触れることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、今いる場所が違う所だと気づかされる。

 

 

右往左往に反響する蝉の(こえ)

窓の外で昇り積もる入道雲。

四角の箱の中に収まり、整列しきった学習机。

 

どこもかしこも見慣れた景色。間違っていなければ、中学校の教室だったはず。

 

(――でも、どうして……こんな所に?)

 

その疑問はすぐに解けた。

俗に言う走馬灯だろう。

 

何せ、自分が居座る窓辺の席から一歩も動くことができないのだから、理解に苦しむことはなかった。

 

………そして、

 

??『どうした? そこで黄昏れてさ。やな事でもあったか?』

 

意思に反して、声の主へと顔を向ける。

自分を呼んでくれる人なんて、先生以外だと信武くらいしか思い当たらないから、すぐに判った。

 

水希『……ううん。別に……』

信武『……そっか、ならいいんだけどな』

 

いつの間にか口を開いて……いや、違う。

単に声変わりする前の自分が信武と話してるだけなんだ。

 

信武『なぁ……お前って、高校どこ行くか決めてんの?』

水希『えっ?』

 

窓にもたれかる信武に心配そうな面持ちで訊かれ、素っ頓狂な声が上がってしまう。

 

水希『……ううん、まだ……』

 

その時は宇宙へ飛び立つことも伝えられずにいたから、ただただ首を横に振り、そんな反応を見て溜息をつかれる。

 

信武『……俺らまだ中二だけどさ、早くにオープンキャンパスに行ってる奴もいるんだぜ? お前もそんなグズグズしてられねーだろ?』

水希『ま、まぁね……』

 

時期的に受験シーズンなこともあり、信武のような意識高い系の子も、そうじゃない子も視察はしていたけれど、皆が真剣に考えるなか一人だけ無関心でいるから、諭されても苦笑いばかりする僕に呆れていたと思う。

 

その何気ない日常(けしき)を見返した上で、勉強を教えてくれた信武に対する罪悪感が、より一層強まりだした。

 

 

 

 

場面が切り替わる。……今度は、駅だ。

それも改札を通り過ぎてから、ホームに入った後だった。

 

信武『本当に大丈夫なのか?』

水希『だいじょ〜ぶ。都心と比べりゃ学業もまだ緩いって、お爺ちゃんも言ってたんだし』

信武『そうじゃなくて、向こうに行っても友達作れんのかって話だろーが』

水希『んー、そこはまぁ、作りたいと感じりゃなんとかなるんじゃね?』

信武『つってもなぁ…。ぶっちゃけお前、コミュ障でドジ踏むし、蓋を開けてもアホだから余計不安でしかねぇわ』

水希『ぐうの音もでねぇですコンチキショー……』

 

さっきの言い争いでも言った通り、小言幸兵衛な信武だけど、その一言一句が的を得たものだし、何より心配してくれているからこそ反論できなかった。

 

水希『しのぶー! 帰ったらまたどっか遊びに行こ!』

信武『あぁ。次会った時にな!』

 

……今でも覚えている。

 

この掛け合いの後、列車が発進してからずっと、今生の別れになるかもしれないと思い、トイレの中で声を殺して泣いていたこと。

 

「後悔したくなきゃ、泣くな」って、心を鬼にしてまで叱咤してくれたリヴァイアに申し訳なく思ったこと。

 

地方の全寮制に通うという嘘を信じ、見送ってくれた信武との約束を反故にした自分を呪ったことも、忘れられる訳がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

……一つ、勘違いをしていた。

 

こんなの、走馬灯と一括りしていいものじゃない。

 

むしろ……自分の中に残る記憶が、信武を思う度に呼び覚ましたのだろうと思うと、腑に落ちる。

 

 

 

 

 

 

『まさかお前、いじめられてるのか?』

『違う、いじめられてなんかない!』

 

……あれ?

 

『じゃあ何だよ、ここんところ変だぞ』

『それは……』

 

服装と身長から見て、小学生の頃の記憶だ。

でもこれって、いつ頃の………

 

水希『昔から、偶にだけど…嫌な夢を見るようになったの。好きな人が突然消えて、最後に自分だけが取り残されて、目の前が真っ暗になるような夢……。 

目が覚める度に安心してたけど、不安の方が大きく勝ってたの。

……信武と、このまま友達で居続けられるのかなって……』

 

発言しようにも不安が滲み出てるが、話を聞いている信武は呆れ果てたかのように息をつく。

 

信武『何アホくせぇ言ってんだよ。ちゃんと目の前を見ろっての。

ここにいるだろ、俺が。何があってもお前とダチを辞める気は更々ねぇよ』

水希『信武……』

信武『……ったく、小っ恥ずかしいこと言わせんなよな』

水希『でも、そう思ってくれて嬉しい……。ありがと』

 

……。そうか、思い出した。

 

どんな時でも、そばに居てくれてたんだ。

片時も離れずにいてくれたリヴァイアと同じように。

 

けど信武、アンタの言う通りだよ。

大吾さんとユリウス……二人が居なくなったショックが大きくて、大切な人を失うのが怖かったんだ。

 

あぁ、思えばずっと、嘘ついてばっかだったな……。

こんな自分なんかが、もう……親友と名乗れる資格なんて、どこにもあるわけが無いっていうのに。

 

それでも信武は、どこまでも優しい人だな。

 

……最期に、また会えて良かったよ。

 

ありがとう。

初めて会ったあの時、『友達になろう』って言ってくれて……嬉しかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信武「死ぬな水希ッ! 起きろ、頼むから起きてくれ!!」

 

後は死を待つのみ。そう思っていたのに、叫び声に反応して目が冴え、それに気づいた信武に身体を起こされ、強く抱きしめられる。

 

まだ思考が追いつかないけれど、気絶している間に雪を掻き分けられた砂浜の上で寝ていたようだ。

それに、どうやら毛布代わりにマントに包まれていたみたい。

 

そんな些事なことに驚く気力すら無く、時折響く嗚咽と頬に伝わる体温が、霞んでゆく意識を繋ぎ留めてくれた。

 

(しのぶ……泣いてるの……?)

 

水希「……のぶ……な、んで……」

 

か細く…絞り出すように問うと、抱擁する腕の力が増し、信武は肩を震わせながら弱々しく囁いた。

 

信武「勝手に、逃げて……また、置き去りにして、なんになるんだよ……。誰もが…お前が死んで、喜ぶと…本気で思ってんのかよ……!」

水希「……だって、しのぶは……!」

 

呆けていたら信武の腕の力が緩み、そのまま肩を掴まれ面と向かうようになる。

 

信武「……あぁ、恨んでたよ。のうのうと生きてるように見えて憎らしかった! ……けどな、それ以前に、事故で死んだ話が嘘だと知って、安堵した! めちゃくちゃ嬉しかったんだぞ!!

……なぁ、教えてくれよ。俺が抱くこの気持ちは、お前にとって、そんじょそこらの塵みたいに掃いて捨てられる程の感情(モノ)なのかよ?」

 

真っ直ぐな言葉を受け、顔を俯いてしまう。

 

おぼつかない頭で必死に絞り出した答えは、

 

水希「…………ちがう」

 

否定の一言。それ以外にない。

 

信武と立場が逆だとしても、3年間ほっぽり出されたとしても、生きてると分かれば嬉しいに決まってる……。

 

水希「ちがう、けど……残された人からしたら、自分だけ……帰ってくることを、望まないんだよ……!」

信武「………」

 

ここで意地張ったって、無意味なだけだ。

だったらもう、隠し通していた自分の思いを伝えよう。軽蔑されるのは覚悟の上だ。

たとえ声が震えようと、思いのままに話せ。取り繕うな…!

 

水希「それに……怖かった。信武から、嫌われたくなかった……。何度も、謝りに行こうと思ってた……だけど、本当のこと話して、また失うかもって思ったら、すごく怖かった……」

信武「……だから、いっそのこと、自分から突き放せばいいとでも思ったのか……」

 

無言で頷く。

 

傷つけたくないと言って、その実、傷つきたくないだけだったから。

だから、長年の縁を捨て『最初から居ないかのようにフェードアウトを』と企て、実行に移した。

 

それで3年間も、お為ごかしを振りかざしてきたのだから、首を横に振ることなど到底できまい。

 

そんな独りよがりな話を聞いて、ほとほと呆れたように息を溢す信武だったが、その後発した言葉は意外なものだった。

 

信武「……お前ってさ、つくづく馬鹿だよな。悪い事してるって自覚してんなら、初めから素直に謝ってくれりゃいいのにさ。

いつの日から、何もかも一人で抱え込むようになって……やっぱ、俺なんかじゃ心許なかったか?」

水希「―――そんなわけないッッ!!!」

 

声を荒げて全否定する。

 

頼りないだなんて思ったことは一度たりとも無い。

 

むしろ、いつだって心の支えだったんだよ?

 

リヴァイアが現実世界(おもて)に出られない時も、ずっと……!!

 

水希「まだ小さかった、あの頃だって……信武に会えなかったら、きっと何にも変われなかった……」

 

信武という初めての友達に会えて。

何年も相棒でいてくれたリヴァイアに会えて。

いつも道を示してくれた大吾さんに会えて。

返しきれない程の恩があるユリウスに会えて。

 

初めてリヴァイアを家に招いて、驚かれても徐々に家族として受け入れてくれた両親にも会えて。

 

何かと小言吐くわ、たまに暴力振るうわ……横暴さが垣間見えても、性根は優しいお姉ちゃんにも会えて。

 

もう一度、誰かを守りたいって。

折れかけた心を持ち直してくれたスバルに会えた。

 

それだけじゃない。

 

天地さん。飯島さん(リュウさん)。深祐さん。レティ。

 

周りには、いつも気にかけてくれる人達がいた。

 

そんな巡り会わせがないまま生きていく自分など到底想像がつかないくらいだから。

 

水希「でもこれ以上一緒にいたら、絶対不幸になるから、信武を悲しませたくなくて……でも失いたくなくて、もうわけわかんなくなって……」

信武「そんなの、俺だって嫌だよ!」

 

声を荒らげる信武に、話を遮られた。

 

信武「お前と立場が変われば、俺もきっとそうしたかもしれねぇけど……、別れ際に告白してたかもしれないんだよ。お前のことが好きだって」

水希「え……?」

 

理解が遅れ、うまく返答できずにいると、信武は気恥ずかしそうに赤らめながら言った。

 

信武「その……お前には悪いけど、日記を見ちゃって……。人と関われない理由が、小さい頃に負ったトラウマ――力を暴走させたのが、原因の一つだって分かって、やっと腑に落ちた」

水希「え……嘘でしょ……ねぇ!?」

 

見られたくない黒歴史を覗かれたと知って、血の気が引いた。

嘘であって欲しかったのに「ごめん…嘘じゃない」と謝られた挙げ句、「それに…」と照れ顔のまま続けた。

 

信武「俺のことが好きすぎて超ツラいって話も見ちゃった……それに何より、一生愛してるって――」

水希「あぁぁ〜〜〜〜っ!」

 

……なんてこったい。

 

これでもかと畳みかけられ、両手で顔を覆い隠したいくらいに火照り、今にもぶっ倒れそうな程に脱力しかけたが、信武に強く抱えられた以上、本当にぶっ倒れたりはしなかったけどね。

 

信武「……兎にも角にも、お前がしてきたことは、決して赦されねぇだろうな。生きてる限り、罪過として背負わなきゃならないから。

……そのことを、ちゃんとお前なりに、受け容れようとしてんだろ。それさえわかりゃ、おれ、充分だよ……」

 

……何でだろ。震えが止まらない……。

 

信武「どうせ死ぬくらいなら、生きろよ。――悲しませたくねぇなら、せめて死ぬ気で(あがな)うと誓って生きろよ!!

俺だってもう、前だけ向いて生きようと決めた! 俺の前で見せてくれた笑顔を、絶やさないでくれと誰よりも願ってた! お前もそう思ったんだろ!?

………今度また妙な真似してみろ? 一生許さねぇからな。たとえ死んだあとに謝られたって、絶対に許さねぇ………」

 

信武が、ちゃんと間近に居るってのに……涙で霞んで、よく見えない。

 

水希「……生きてたって、どうせ皆から、疎まれてるんだよ……」

信武「お前に関わった全員が、そう見えるのか?」

水希「……じゃあ……しの、ぶは、許してくれるって、いうの? あんなに苦しめてきて……なのに」

信武「……あぁ、許すよ。ちゃんと前を見て、生きると約束してくれるなら」

 

真っ直ぐな発言に答える前に、今一度問いかける。

 

水希「こんな……疫病神…なんかが、…っまだ……信武の、となりにいても…良いって言うの?」

信武「当たり前だ!! ヒーローでも疫病神でも道具でもねぇよ! お前はお前だろ!! ―――俺の幼馴染で親友の星河水希だ!!」

 

胸の内にある不安を払拭するように、声高々と告げ、一拍置いてから続けた。

 

信武「俺はな、どうしようもないくらいバカで、不器用で、臆病者で、意気地なしの癖に意地っ張りで、泣き虫で……。

それでも強く生きようと、一生懸命で。努力家で、他の誰よりも優しい……。

―――そんなお前が、ずっと前から大好きだったんだよ…!」

 

その言葉を聞いて、長年募らせた思いを伝える。

 

水希「僕も、好きだよ……。卑屈だった僕にいつも笑顔をくれた。太陽みたいに温かく包んで、寄り添ってくれた信武が―――誰よりも大好きだった!」

 

最後まで言い切った瞬間。

 

信武「だったら、生きてくれ……。頼むからもう、俺を一人にしないでくれ!」

 

再び抱きしめてくる信武に耳打つように囁かれ、それに応えようとマントから腕を出し、抱き寄せてからずっと、泣きじゃくりながらごめんなさいと何度も口にした。

 

そうやって、僕が謝る度に信武は宥めようと頭を撫でてくれるが、その手付きがリヴァイアと酷似して、泣き止むのに十数分もかかったと思う。

 

しばらくして、泣き止む直前、嗚咽混じりにこう答えた。

 

水希「……死にたくない。まだ、生きていたいよ。もう勝手に、いなくならないから、嫌いにならないで、しのぶ……!」

信武「……それで良い。今は苦しいけど、もう一人じゃないんだから、少しは俺を頼ってくれよな」

水希「……うん」

 

どうにか落ち着きを取り戻し、信武と顔を合わせ、唇と唇が軽く触れる。

 

目を閉じていても驚かれている気配がしたが、信武がそっと後頭部に手を這わせ、抱き寄せられてから時間だけが過ぎていく。

 

もっと早く、こうしたかったけど、お互いのことを知った上で一緒に居てくれるなら、なんてことない。

 

……けれど、一つ言いそびれたことを言うために、口を離して面と向かう。

 

精一杯の笑顔を向けながら、告げるために。

 

水希「信武……。助けに来てくれて、ありがとう」

信武「………あぁ」

 

今度はどちらともなく、もう一度口づけを交わす。

両者とも、二度と離すものかとばかりに抱き寄せながら。

 

(……大好きだよ、信武……)

 

 

雲り空がやがて晴れ渡ると、暖かい陽の光が差し込む。

 

 

やっと和解できた僕ら二人を、優しく包むように。

 




長かった……本当に長かった。

まだ半分どころか6分の1なのに、ここまで来るのに4年も費やしているのは、反省してもしきれないです。

ただ、作り込み的に無理矢理感も否めなかったり、もう少しバトルシーンを設けるべきかと、課題点がまだまだありますけれど、本当の最終話に至るまでの年数……ワン○ースと○ナン並と言っても過言じゃないです。

そんなノロマで後先考えずな作者ですが、水希と信武だけでなく、ストーリーに関わる全員の行く末を見守っていただければと思います。


次回「一難去ってまた一難」

アポカリプス編は残り3話で終結します。多分。


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44話 一難去ってまた一難

今までの所業は、決して赦されるものではない。

 

死刑じゃ済まされないことは判りきっている。

 

実際、本来なら絶縁されて当然のことだと諦観し、信武と向き合うことに怖気付いて逃げていた。

いつまでもそうしてばかりじゃいられないと、頭では理解していながら。

 

……それでも、許してくれた。

 

信武を好いていながら、気に入らない所もあったけど、信武もそれ以上に不満を抱えていたようで、戦闘中は互いに本音をぶちまけたわけだが、

 

スバルに過去の記憶を見せた時と同じように、事情を知った上で許すと言ってくれた。

……まぁ、無断で日記を読まれたのは不本意なんだけどね。

 

生きてくれとせがまれた時は戸惑ったものの、こんな自分を必要としてくれるのなら、諦めるには早いなと思わされると同時に、何年も辛い思いをさせた自分を心底恥じた。

 

そんなこんなで、結局は信武の言葉に絆されしまい、今に至る。

 

 

 

それにしても……まさか男同士で、こんなに密接するとは。

 

まぁ、いつか恋人みたいな関係になれたらなと夢見ていたし、かと言って、未だに信じられないとも思っている。

 

ただ、いきなりのことでも拒絶してこない信武の寛容さに、もう少し甘えていたかったのだけれど、

 

『いつまで戯れ付いておるのだ、人の子よ』

 

誰の目も無く2人っきりだから、時間が止まっているようにさえ感じる雰囲気だってのに、エコーの掛かった声に水を差され、慌てて離れてから信武と顔を合わせられずにいた。

 

水希「い、いや、その……出来心といいますか、なんかちょっとそういう気分だったと言いますか……」

信武「そうそう! だから今のは大目に見て貰いたいと言いますか……」

 

『誰が、顔を火照らせながら惚気けろと言った……』

 

人差し指を合わせながら俯く僕も、目を泳がせながら頬をポリポリと掻く信武も、言い逃れしようとするけど、語尾に連れて弱々しくなるくらいの気まずさに、声の主からは煙たがられ、ぐうの音も出ねぇですコンチキショー……。

 

うん。言ってなかったね。頼んでもなかったよね。

惚気話好きだから我も聞かせて〜、だなんて。

 

実際に口にしたら殺されそうなので胸の内に押し留める。

 

……そう言えばまだ、綺麗さっぱりに解決したんじゃないよなぁと、横槍入れてくる声の主が姿を見せてから、思い知ることとなる。

 

水希「――って、でっかぁぁーーー!!!」

信武「おいおいマジかよ!?」

 

二人して目をかっ開いてドン引きする理由がね、そもそもとしてデカすぎんのよ。

 

体長はパッと見15メートルくらいあって、外見はリヴァイアと同じ。

角の生えた首長竜と似て、全身を水で構成したかの様に流麗だが、体色が明るいリヴァイアと違って彩度の薄い群青色であり、切れ長の両眼は鮮血の如き赤く、顔から背中にまで埋め尽くす菱形の鱗は目を凝らすと黒ずんでいた。

 

水希「……これが、リンドヴルム……」

 

初見ながら噂に違わぬ禍々しさだと感じ、同時に悟った。

太刀打ち出来る相手ではないと。

 

信武「……あんなデカブツの力を何年も封じてたんだろ、改めて思ったけどスゲーなお前……」

水希「いや、封印に関してはリヴァイアに任せっきりなんだよ。こっちから任意で解放できるだけでね。……そうさせる為の権限を譲って貰えなきゃ、そもそもとして力を行使できなかったでしょ」

信武「なるほどな」

 

どうやら信武も眉間を寄せて警戒する辺り、リンドヴルムの底知れ無さを勘付いたらしいが、一部誤認している所を訂正したら納得してくれた。

 

クラウン「――よもや、再び相見えるとはな……」

 

そう言って眼前に実体化するクラウンは、どこか感慨深そうに見遣るリンドヴルムと対面した。

 

リンドヴルム『久方ぶりだな。幼子だった頃は遠く昔のことだが……、相変わらずちまっこいなぁ』

 

クラウン「ヒトのコンプレックスを言うな!」

 

全身を跳ねてキレるクラウンだが、ちまっこいのは否定しようがないし、再開して早々にそれはねーだろとツッコミを入れてくて仕方ないけれど、藪から棒に尋ねた。

 

水希「ねぇ……いきなりなんだけど質問いい?」

 

リンドヴルム『何だ……?』

 

水希「二人って、ひょっとしなくても知り合い……なの?」

クラウン「知り合いも何も、FM星に現存する漁村の生まれじゃったワシは、物心がつく時に奴と知り合っただけのことじゃ」

信武「ふーん。それはそうと……どう見ても凸凹コンビだよな」

水希「言えてる」

クラウン「ほっとけ!」

 

話を聞く限りじゃ、リヴァイアと同じ故郷に住んでたってことになる。

意外っちゃ意外だが、今はそんな話をしている場合ではなかった。

 

水希「……ッ、そうだ、リヴァイアが……!」

 

ほぼ強制的に変身を解かれて尚、リヴァイアの気配が感じられないことに焦りを抱き、慌ててトランサーの画面を見たけど、……やっぱりいない。

 

原因は突き止めるまでもない。他ならぬ自分が蒔いた種だから。

 

……けれど、動悸が収まらず、真っ白になった頭では事実を受け止めるどころの話じゃなかった。

 

水希「……リヴァイアを、返して……!」

 

リンドヴルム『我が力を返上しておきながら、言えた台詞か?』

 

いくら懇願したとしても、奴からすれば被害者面もいい所。

怒気を含ませた物言いに身を退いてしまいそうになる。

 

リンドヴルム『――我は未だ、あの屑共には生涯を以てしても殺し足りんと思うておる。……だが、汝は復讐の念があろうと、裡にある望みを棄てようとせん。その理由は、言うまでもなかろう』

 

水希「……それは……」

 

……返す言葉もない。

 

ブラザーバンド計画における建前であり、夢である、異種族との共存。

その実現を夢見ていたからこそ、『お前が優柔不断だから、やること成すことが中途半端になるんだぞ』って、遠回しに怒ってるんだと思う。

 

でも、それとこれとは別問題でしょ?

 

水希「もう二度と戦えないなら、それでいい。……けど、リヴァイアがいないと……」

 

リンドヴルム『その隣にいる男が、汝と共に生きようとしておるのに……図々しいものだな』

 

そんな、吐き捨てるような物言いに狼狽えていると、

 

信武「………それが、“星河水希”だから。だろ?」

 

突然、信武が沈黙を破るように口を挟み、続けて言いだした。

 

信武「まぁ図々しいのは否定しねぇよ。コイツはいっつもワガママで、自分の意見を曲げない頑固者だしな。その癖して寂しがり屋だから、心の拠り所がなきゃ生きられない。

そんな弱虫が、俺と一度縁を切っても生きて来られたのは、俺の代わりに寄り添った奴が、待ち人の安否に気を遣る水希と一緒に帰りを待とうとしていたから」

 

傍らで聞いていたが……心なしか、段々と怒りがこもっているように感じ取れる。

 

信武「俺だけじゃダメだって打明けたように、築き上げてきた絆をそう易々と失えねぇんだよ!!」 

水希「信武……」

 

怒鳴り声を上げる信武とて気持ちの整理がつかない筈だけど……なんやかんや理解を示し、目の前の悪魔に猛抗議まで……。

 

……本当に、友達になれたのが奇跡としか思えない。

 

 

けれど奴は、信武の言葉に全く意に介すことはなく、せせら笑う。

 

リントヴルム『……ならば、お望み通り、汝の元へと返上してくれよう。――ただの傀儡(くぐつ)をな』

 

その上、聞き捨てならない発言をされて、顔が強張りながらも問いかけた。

 

水希「……何が言いたいの?」

 

リンドヴルム『汝が扱ってきた力は、基より我が力だ。……故に、此奴を生け贄に復活を遂げられるのならば、その残滓をくれてやると言っておるのだ。

……尤も、抜け殻如きに自我が宿ると思えんがな』

 

水希「そんな……」

信武「ゲスが! どのツラ下げて言いやがんだ!」

 

リンドヴルム『アクエリアスの子として産まれたリヴァイアはな、謂わば我を(かたど)った転生体なのだ。……そして月日を経て、表裏一体の存在となった我らが完全に独立するためには、片方の自我を取り込むことで成される。

……酷ではあるがな、どの道こうなることは必然。早いか遅いかの違いよ』

 

水希「そんなの、いや……リヴァイアまで……!」

信武「ッ、まだそうなると決まったワケじゃねぇだろ! しっかりしろよ、おい! ……クソ」

 

生まれた経緯にも驚く部分はあったけれど、それ以上に最も聞き捨てならない話に打ちひしがれていた。

 

……リヴァイアが、消える? これからなのに……?

 

唯一無二の理解者を、信武に次ぐ親友を、実の兄のように慕っていた人を、自分が怒り任せに力を解放したせいで戦うための力すら失くしてしまう。

 

考えれば考えるほど……恐怖で身が竦み、かつてない絶望を感じて目の前が真っ暗になる。

 

それ程までに憔悴し、信武の呼び掛けに反応できなかったが、気がつけばまるで親の仇でも見るように睨みつけていた。

 

水希「なんで……そんなことを平然とできるの……?」

 

リンドヴルム『……我は、汝のような腑抜けと生涯を共にする気は毛頭ない。それだけだ』

 

「それだけの理由で、水希の大切な人を奪おうだなんて……横暴すぎじゃないかしら?」

 

突然割って入ってくる女性の声。聞き覚えも何も、レティだとすぐに気がついた。

この場にいる全員の注目を集めながら、天女の如く舞い降りるなか、酷く冷淡な眼差しをリンドヴルムに向けていた。

 

水希「―――レティ」

 

か細い声音で名前を呼びかけると同時に、レティもこちらの方へ一瞥する。

 

信武と戦ってる間は全く気配を感じなかったけれど、協力関係であるからこそ、今この状況を黙って見過ごす筈がないだろうなと、彼女の心中を察する。

 

レティ「アンタに聞きたい事は山程あるけど、まず先に問題を片付けてからよ」

 

先程と打って変わって妙に穏やかな口調であっても、表情から見るにキレているのは明白なこと。

後々されるであろう説教から逃れたいと考えていたら、レティは視線を戻してリンドヴルムに問いかけようとしていた。

 

レティ「水希の体のことも考慮して()()()()()()しかできなかったわけだけど、まさか自分から出ていくなんて驚きね。一体どうやって抜け出せた?」

 

リンドヴルム『汝の言うておる妨害は、人の子が床に伏しておる合間に消え失せておったぞ』

 

レティ「……なんですって?」

 

リンドヴルム『何、簡単な話よ。汝が人の子の体内に流し込んだノイズを、人の子自らが悪影響を取り除いた上で取り込んでおったのだ』

 

……え? いつの間にそんな、◯キジェット吹きかけられるようなことされてたの?

まぁ確かに、これと言った弊害もなく動き回れたわけだけど……自分で自分を虫扱いしちゃってなんか悲しくなるんだけど。

 

レティ「口ではどうとでも言えるでしょうけどね……理論上は不可能よ。並の電波星人はおろか、人間如きに成せる技能じゃない。ノイズの悪影響だけを除去して身体に馴染ませるなんて話……そもそもとして土台無理なコトなのよ?」

 

リンドヴルム『だが、それに適した道具が既に作られておれば、果たしてあり得ないと言い切れるのか? 現に、それを人の子が証明しておるだろう』

 

レティ「………随分と自信満々に言えるのね」

 

リンドヴルムの発言に対し、訝しげに眉を顰めるレティ。

その2人のやりとりを傍で聞いて、悪影響を取り除くという点で一つだけ思い当たる節はあった。

 

水希「もしかして、“ジョーカープログラム”のことを言ってるの?」

 

リンドヴルム『そうだ。最初の暴走にて、あの男は汝の体にプログラムを埋め込み、我が無理矢理にでも主導権を握ろうとするものなら、システムが作動し迎撃するよう仕掛けられておったのだ。

しかしそれも……晴れて自由の身となれば、脅威にすらならんがな』

 

体に埋め込まれた、か。

たしか、ヨイリーおばあちゃんからもそう言われたような……。

 

だとしたら、封印を解いた後でも、自我を乗っ取られるまでの時間が長引いていた理由にもなる。

 

水希「また、助けてくれたんだね……ユリウス」

 

別れた後も知らぬ間に見守ってくれたんだと勝手に解釈し、胸に手を当てながら彼の名を声に出した。

 

レティ「どうやら、聞くべき事が一つ増えたようね……」

 

その発言は、ジョーカープログラムの存在を知らず、レティの妨害が裏目に出る可能性に気づけなかったのを指しているんだと思う。

何しろ、自分の口からレティに伝えてなかったからね。

 

しかし、不意に笑みを浮かべ「でもまぁ」と声に出したレティは、手の平サイズのゲートから軍刀を取り、切っ先を突きつける。

 

レティ「ここでアンタを消滅させれば、リヴァイアも復帰できて一石二鳥よね?」

 

形容しがたい威圧感に身が縮こまりそうではあるが、軍刀以外の武装もせずに戦線へ立つ姿はむしろ、頼もしさすら感じ取れた。

 

リンドヴルム『それは不可能と断言しておこう。我を斃せば、人の子は戦力外になるぞ』

 

その瞬間。海面から水で創られた龍の頭が無数に召喚され、開いた口から咆哮を放とうとしているが、これと言って動じないレティも対抗すべくして、スパークの迸る音に伴って発生するノイズを切っ先へと凝集させた。

 

レティ「お生憎様。不可能ならコンタクトを取ろうと思わないけど」

 

放たれる超高水圧のブレスを、たった一筋の赤黒いレーザーが迎え討とうとする。

 

そうして、衝突の後に爆煙を起こしてから……本格的な戦闘が始まろうとしていた。

 

◆◆◆

 

水希との戦闘でボロボロだったから、この際助太刀してもらえるのはありがたい……なんて呑気に思っていたら、

 

信武「マジか……!?」

 

目の当たりにした光景に、驚愕のあまり声が出てしまっていた。

 

リンドヴルムが追撃で放ったブレスを、レティは軍刀一本で、いとも容易く叩き切ってみせたのだ。

わざわざ攻撃を受けるにしても、衝撃が凄まじいのは想像つくだろうに……。

()()()じゃなくて()()()()ゴリラを超越するレベルの腕力じゃないですかヤダわぁ〜。

 

実際に口にしたら殺されるので胸の内に押し留める。

 

……しかし、注目すべきなのはリンドヴルムもだろう。

 

レティの保有能力であるノイズ。

かつての戦闘を思い返しても……まともに立てないレベルの船酔い感覚と、呼吸困難になる程の息苦しさを同時に受け、開始から10秒足らずで惨敗してしまったという苦い経験しかない。

 

現に今も、原因がレティによるものなのか判らないけれど、時折目眩がして気分が優れないのだ。

 

だからこそ、水希から離れたのなら、何かしらの悪影響が出てもおかしくない筈だが……デカい図体をしていながら、レティの攻撃には物ともしない様子。

恐らくは、水希が言ってた【ジョーカープログラム】なる物の効果によって耐性が付いた……となれば、平然としてられるのも納得できる。

 

……でもぶっちゃけノイズの使用よりも、拳一つで鎮められそうな腕力の方が厄介だけどな。

 

クラウン「相変わらず規格外じゃのう……あの女もじゃが」

 

確かに。言ってしまえば両者とも本調子じゃないにも関わらず、それでいて互角に()()()()()()()

 

出せる全力を以て攻撃を仕掛けて尚、どちらとも被弾せず、大した疲労も見えない。

 

水希「リヴァイア……」

 

その一方で、不安で押し潰されそうな……思い詰めた顔をする水希の肩を抱き寄せ、慰めになるかわからないまま言葉にした。

 

信武「今は、信じるしかない。レティが……お前の為に頑張ってくれてるんだから」

水希「……そう、だよね……」

 

もし、コイツらが全力を出そうものなら……レティが完膚無きまでにすると思うが、はっきり言って見たくもない。

 

ただ言えるのは……今は戦いの行方を、水希と二人で見守るしかなかった。

 

水希「小さい頃から、ずっと一緒だからさ。考えたことも――ううん、考えたくもなかった。……でも、確かにレティならなんとかしてくれるって、そう思えるの」

信武「――――」

水希「少しだけ、信じてみようと思う」

 

その言葉に、思わず笑みを溢してしまう。

 

和解を経てようやく、意識を変えてくれるのかもなと、内心期待しているその時。

 

信武「………!?」

 

リンドヴルムの野郎が、雹弾を全方位に……それもデタラメに掃射するもんだから、当然こちらにも流れ弾が来る。

 

しかしまだ変身を解いてないおかげで、水希を抱えながら動くための余力は残っていた。

 

水希「な、何故お姫様抱っこ……!?」

信武「口閉じてろ。舌噛むぞ!」

 

顔を赤らめる水希に構っている暇はなく、流れ弾を避けながら来た道を引き返すように森へ向かう。

 

 

 

 

あの二人の視界から外れることができて、尚且つこっちからは充分に見渡せる場所となると……森の入口付近しか思い浮かばない。

 

……だが、雪に覆われながらも生い茂る草木が身を隠すのにはうってつけだと、己の判断に従って進み行く。

 

信武「……。……ここまで来れば大丈夫か」

 

そう言って、水希を抱えたまま、休息も兼ねてその場に座り込む。

地面にも雪が積もってるから、凍えさせるわけにもいかないしな。

 

水希「……重くないの?」

 

俺の顔を見るなり訊ねてくるが、正直言って5キロの米袋を持つより断然軽いと感じている。

それもこれも電波変換した恩恵だろうけど、変身を解いても平気だと言える自信はある。……なんてったって、

 

信武「鍛えてるからな。これくらいで音を上げちまうなら騎士(ナイト)にすらなれねぇよ」

水希「……バカ」

 

不安を押しのけるように笑って返すと、照れ隠しのつもりなのか、罵りつつも俺の胸元に顔を埋めた。

 

あのさぁ……いちいち可愛い反応しないでくれる?

お前から、その……キ、キス、されて……今にも限界突破して襲いかかりそうで理性失いかけてんのよ。わかる?

 

……っと、いけないいけない。

あの2人の攻撃が来ても対処できるように警戒しとかなきゃと気を張った時。

 

気怠げな視線を俺たちに向けながら、クラウンが質問しようとしてきた。

 

クラウン「イチャつく所悪いが……水希よ。訊かせてくれぬか?」

水希「……何を?」

クラウン「彼奴(きゃつ)は、同族であるFM星人……主に都市部の連中から疎まれた被害者なのじゃ。じゃから連中への復讐心に関しても、同情を禁じ得んのだ」

水希「……」

 

腐れ縁的な関係だからなのか、あのデカブツに対して不憫に思うのが伝わってくる。

それこそ、俺だって……学生時代に皆から距離を置かれてる水希を捨て置けなかったように、クラウン自身も同郷の者として何とも思わない訳がないだろうしな。

 

などと考えていると、いつにも増して真剣な面構えをしながら、言葉を発した。

 

クラウン「だからこそ今一度聞く。お主は、本当にFM星人(ワシら)と友好的になれると思うておるのか?」

 

そう問われてから少しの間、考え込んだ末に水希は答えた。

 

水希「僕個人としては、ただの絵空事だと思うけどね。アンタの言う連中らに警戒されたら尚の事。……でも、リヴァイアみたいに優しい人もいる筈だし、大吾さんが叶うって言ったなら、なんとかなりそうだと思える。……妄信的かもしれないけど、あの人の思想に感化されたからこそ、学業を疎かにしてでも護衛として付いて来たワケだしね」

信武「おうコラ、お前に費やした勉強時間返せよ」

水希「にゃにおう。都立に合格したって余裕かましてたクセに」

信武「首席合格目指してたけど、トップ2止まりだったの。その後の模試で追い越してやったけどな」

水希「うわ出たぁ、マウント発言」

 

心底煙たがるように言われ、拳骨食らわしたろかと思ったが……クラウンめ、微笑ましげに眺めてんじゃねぇよ。

 

クラウン「……“ガクギョウ”とやらについては言及せんが、彼奴が指摘したように望みを棄てきれんのじゃな」

水希「そういうこと。我ながら未練がましい性格してるからね。……だから今は、リヴァイアの無事を祈るしかないんだよ」

 

戦場と化した海辺へと視線を向けて、不安気にそう呟いた。

 

この場にいる誰もが、元通りになって帰ってくるという確証があるかどうかなど、知る由もないのだから……。

 




次回「時代の終わり」


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45話 時代の終わり

水希「でもさ、アンタはそれで良いの? リンドヴルムとはそれなりに付き合いはあるんでしょ」

 

唐突に野暮なことを訊きだそうとする水希。

目と鼻などの容姿を表すパーツが無いながらも、クラウンはわずかに表情を曇らせていた。

 

信武「おい水希――!」

クラウン「構わん。……むしろ好都合じゃよ。彼奴(きゃつ)の、生き地獄とも言える生涯に終止符を打てるのなら、言うこと無しじゃ……」

 

しかし、その行動を(たしな)めようとする信武を制して、クラウンは自らの胸の内を吐露し、訊いた本人もバツが悪くなり、詫びを入れようとした。

 

水希「……ごめん。気を使わせて……」

クラウン「謝るくらいなら訊くでない」

 

あるべき居場所と存在意義。その二つを失くしてから復讐を生き甲斐とする姿など……見るに堪えなくて当然のこと。

それを判っていて尋ねるなど以ての外だろう、と悪態をつくのだった。

 

信武「……ところでさ、前から気になってたけど、ユリウスって結局何者なんだ?」

 

一区切りついた所で話題の切り替えも兼ねて尋ねたのだが……水希の口から答えるまでに時間を要した。

 

何しろ部外秘とされている情報だが、日記に名前も記してあるから……そろそろ潮時だろうか。

 

しばしの逡巡(しゅんじゅん)を経て、意を決して語り始めた。

 

水希「……世界中でも類を見ない実績を持つ、名高い科学者。ヨイリーおばあちゃんが生み出した――最初であり、最強のバトルウィザード」

信武「バトル、ウィザード? ……って、ちょっと待て! お前、あのヨイリー博士と面識があんのかよ?!」

 

途切れ気味にその単語を復唱し、意外すぎる人物との交流を知って愕然とする。

製作者であるヨイリー博士に関しては、歴史や科学の教科書にも載る程度に知れ渡っているのだが……肝心の〈ユリウス〉については皆目見当もつかない。

 

そんな信武の反応を見て、無理もないと心中を察して話を進める。

 

水希「そう。バトルウィザードはおろか、トランサーですら世に出回ってない頃の話だよ」

 

一拍を置き、本題に移った。

 

水希「今から13年前……小学一年の夏休みに、とある研究施設に訪れてね、そこでおばあちゃんとユリウスに出会ったの。

面会の理由は、リヴァイアの力を借りて、電波変換して戦える僕の存在を知ったことで、おばあちゃんの興味を引いたんだと思う。

もちろん僕自身も、()()()()()()()レベルの人工生命体だと聞いてから子供心をくすぐられて、面会に応じたの。

 

―――その裏で、他の科学者から実戦データを取られてると知らずにね……」

 

信武 (いつからか他人に無関心だったとはいえ、まだ小さい頃なら、そこまで酷くはなかった。

――とはいえ、そんな水希でさえ好奇心に駆られるなんて、よっぽどなんだろうけどな……)

 

幼少期から共に過ごしたからこそ、知り得なかった過去を聞く上で、水希本人の人となりについて腑に落ちる点が浮かび上がった。

……というのも、水希がまだ()()()()()()()()()()

 

幼かった頃の信武を相手に『オバケみたいなものが見える』と誤魔化したが、実際はビジライザーといった道具無しに、電波世界を肉眼で視認できる力を保有していた。

 

それ故に、リヴァイアやユリウスといった()()()()()()()()()()に惹かれやすいのも、言ってしまえば親近感によるものだと思われる。

 

そのように考察する最中、水希はある能力が使えない事実に内心もどかしく思った様子。

 

―――〈透視(ビジブル)記憶の回帰(レミニセンス)〉。

過去を呼び起こし、条件付きながら相手にも水希の過去を見せることが可能な力。

 

ただ使うにあたって、内容次第で絶望に陥れかねないが、口頭で説明できない部分を補足しやすいメリットもあるにはあるのだ。

 

水希「もう少し、詳しく説明できればいいんだけど………落ち着いた時に良い? ちゃんと話すと約束する」

 

リヴァイアが戻ってくることを信じた上で、過去と向き合う機会を設けたい旨を伝え、信武は首肯し質問を変える。

 

信武「……それじゃあ、そのユリウスとは、レティと何か関係が――――!?」

 

その刹那。不穏な気配を感じてか、質問を中断して水希を押し倒したかと思えば、覆い被さるように庇おうとした。

 

水希「……しのぶ? ―――ッ!?」

 

行動の意図を知る直前に鼓膜を破るほどの音が炸裂して、堪らず目を瞑ってしまう。

それと同時に衝撃波が迫るのだが、事前に信武が身を挺して庇ったおかげか、吹き飛ばされずに耐え忍んだ。

 

クラウン「巻き込まれ損でヤな感じー!」

 

……悪役の退場シーンよろしく、叫び声を上げてふっ飛んでいったクラウンを除けば。

 

 

そうして衝撃波が止んだかと思えば、間髪入れずに地鳴りが発生。

それと同時、盾を持つドクロ兵が独りでに顕現し、傘開くように盾を変形させ、木の枝からの落雪を防ぐ。

 

 

……やがて地鳴りが止む頃。

雪を払い落としてから姿を消すと、水希達は体を起こしてすぐさま戦況把握のために海辺を見渡し……驚愕のあまり絶句してしまう。

 

視線の先にあるのは……苛烈さを増す戦闘によって生じた、加減も容赦もない爪痕。

それに加え、激戦を経てなお息を切らさず、平然とした佇まいで睨み合う両者。

 

推定でも半分以下の実力しか見せていない両者が、全力を発揮しようものなら……まず間違いなく、ニホン全土を中心に地獄と化している事だろう。

 

想像すればするほど、脅威的存在だと再認識させられる。

 

水希「……ねぇ、信武。二人の(もと)へ連れて行ってくれる?」

 

そんなことを考え耽るなか、水希から名指しで呼ばれ、顔色を窺いながら尋ねられたものの……流石の信武も困り顔になってしまっている。

 

信武「……今の惨劇を見て、危険だってことくらい判るだろ」

水希「そうだけど……お願い……」

 

状況を鑑みずに頼み込む水希に、無謀すぎるぞと諭そうとしたのだが……、いつか進路について打ち明けた時と似通った、真剣な眼差しを向けられて口をつぐんでしまう。

 

信武 (……あぁ、この調子じゃ、どうせ言っても聞かなそうだな……)

 

水希が相手だと押しが弱くなる性格を、悪癖だと自覚しているが、腐れ縁であるが故に止めても無駄だと悟り、妥協できる範囲内の提案をした。

 

信武「前線に出られたとしても、退却すべきかは俺が決める。……異論は?」

水希「無い。その辺は任せるよ」

信武「へいへい……」

 

向こう見ずな水希の無茶振りに、なんやかんや応じてしまう自身の甘さに心底呆れながらも、溜め息混じりに了承するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水希達が話をまとめる数分前に遡る。

 

 

途轍もないスピードで一面に降り注がれる雹弾を、不快音を発する無数の赤黒い球が応戦する。

 

雹弾は球に引き寄せられるようにして、衝突。――否、触れた一瞬にて粉々に掻き消され、速度を殺さず肉薄。

 

しかし、レティの攻撃が届く前に、凍ったはずの海が螺旋を描くように上昇し………激流に飲まれ、相殺。

 

その流水が六本に枝分かれしたと同時、ドリル状に変化。

旋回させながら追撃として放たれる………だが、レティは眉一つ動かさず、既に軌道を見切ったかのように難なく躱す。

 

よって、明後日の方向に飛来した流水。その内一つは山沿いの崖に激突。

向こうの空が見えるほど大きな風穴を開けたが……その合間に気配が消えた事に勘づいて、口頭で告げず瞬きの(のち)に【透視(ビジブル)】を発動させる。

 

……紅い瞳が、微かに輝きを増した。

 

何故それを扱える? ――リヴァイアを己の()()()と称したならば、先天的に付与された能力だろうから。

 

何より、本来の使用法と逸脱して、()()()()()を使い道としていたから。

いくら天災を打ち消せるとは言えど、迅速に対処するに越したことはない。

 

それもこれも、生まれ育った故郷で護神(まもりがみ)としての役目を全うした所以だからだろう。

 

……ともあれ、用途は言わずもがな、索敵だ。

 

ゲートを介して異空間へ潜んでいるとすれば、視野を全方位に広げることで、どこから来られても対応可能。

 

そう踏んで、次の行動を練ろうとした刹那。

 

レティ「―――はァッ!!」

 

リンドヴルムの背後に回り込み、両手に握り直した軍刀を、雄叫びを上げながら豪快に振り下ろす。

 

その余波で生じる斬撃が、水平線にまで向かうように砂地と海面を割いていく。

そんな現象を〈奇跡〉と喩えるには些か惨いものだ。何しろ地響きが伴っているのだから。

 

紛うことなき怪物同士の争いによって、人気(ひとけ)のない海辺は本来の景観が損なわれるまでに荒れ果ててしまったが……未だ決着がつかない模様である。

 

レティ「チッ……デコイか」

 

その証拠に全く手応えが感じられなかったのか、苛立ちを隠さずに顔を顰めるレティ。

 

リンドヴルム『的が大きいから狙いやすい。……などと思い上がってるようでは話にならんな』

 

大気中に凝集させた霧から姿を現して嫌味ったらしく(なじ)るリンドヴルムを睨みつけ、どのような手法で回避できたのか?

それを理解するために思考を巡らせる。

 

まず、撹乱させる為の(デコイ)として残像を生成した原理だが……恐らく、水希が編み出した〈ミラージュ・ドール〉と酷似している。

 

それも、斬撃が当たる数瞬前にて発動するものだから。

機転を利かせて回避行動を取れる辺り……やはり戦い慣れている。

 

レティ「フン、小賢しい真似を……大人しく殺られてなさいよ老害」

 

不機嫌じみた口調で貶すと、尋常じゃない速度で雹弾が放たれたが、紙一重のところで回避する。

 

レティ「……いくら更年期だからってそこまでする?」

 

リンドヴルム『減らず口の多い羽虫を顔ごと吹き飛ばすつもりだったがな……。やはり腕は鈍っておるか……』

 

レティ「乙女の顔を傷モノにするどころじゃないわね……」

 

至極物騒な返答に苦笑を禁じ得なかったが、途端に真剣な顔付きへと切り替わる。

 

レティ「一つ、訊いてもいいかしら?」

 

リンドヴルム『…………いいだろう』

 

不意に攻撃の手を止めたものだから、怪訝そうに睨まれても仕方のないと内心思い、彼からの了承を得たことで問を投げた。

 

レティ「同胞に恨み辛みがある気持ちは判らなくもないけど、もし仮に復讐を遂げたとして……その後どうするつもり?」

 

リンドヴルム『――支配だ。あの愚王に代わって、我が新たなる王となり、民を統べる。……その為にも、障害となるものを排除するのが先だがな』

 

レティ「そう。その心意気は確かなんでしょうけどね……止めておきなさいよ。今更そんな悪足掻きをしたところで、心が擦り減るだけじゃない」

 

……そんなこと、言われるまでもなく理解している。

恐怖を植え付けての統治こそ、悪足掻きに過ぎないことを。

それを成し遂げたところで、根本的な解決に至るはずも……心の傷が癒えることすらない、と。

 

なら、他にどうしろと言う? 世界の行く末を、指を咥えながら眺めていろとでも?

 

だが一切、忠告に耳を貸すまいと雹弾を放つ。

………かと言って、相殺させられるだけの力を有するレティに攻撃が届くわけでもないが。

 

レティ「かく言う私自身も、生まれて間もない頃から忌避される存在だったからこそ言えるのよ……。

頼んでも無いのに勝手に生み出されて、役割を与えられて、気が狂いそうな程の苦痛から逃れられず……誰にも理解されないまま孤独に生き続けてきたから。

―――でもそれら全てを、割り切るしかなかった。たった、それだけしかできなかった……」

 

表現するには曖昧で、具体的でなかろうと、レティの言葉には重みを感じられる。

一部分だけ違っていたとしても、過去の自分と重ね合わせるだけの苦痛を受けてきている。

 

そう確信めいて、同情の言葉を投げかけた。

 

リンドヴルム『……随分と難儀な生き様だな』

 

レティ「お互い様。……でしょう?」

 

リンドヴルム『そうであろうな。……だが、だからと言って、今更意見を変える気は毛頭無い』

 

レティ「あっそ。なら――」

 

身を竦ませてしまうほどに重苦しい殺気を向けて、告げる。

 

レティ「精々、後悔しなさいな……」

 

勝手な都合で御払い箱にされ追放されようと、望郷の念を捨てきれずにいるのは無理もない。

 

……だが、だからといって、復讐の果てに心の傷が癒えるとは限らない。 ―――成し遂げたとして、空しいだけだ。

 

それを早くに理解し、無駄な足掻きだと悟ったが故に、彼の行いを徹底的に否定する。

 

無論リンドヴルムも、彼女なりの説得を拒絶し続けるのだが……抵抗虚しく、勝敗は呆気なく決した。

 

リンドヴルム『――ぐ、うっ――!』

 

一際強く打たれる鼓動を聴いた瞬間。内臓が灼けるような痛覚と圧迫感を感じて、動きがあからさまに鈍ってしまっていた。

 

レティ (やっと効いたか……。そんな猿芝居で誤魔化そうたって無駄よ。ノイズを浴び続ける悪影響を、その身をもって思い知ったのならね)

 

呻き声を上げて瞠目するリンドヴルムを他所に、レティは勝ち誇ったかのようにほくそ笑む。

 

 

異変の原因は、攻撃する際に放った()()()()

―― 名称、【クリムゾン】。平たく言えばノイズの集合体である。

 

その球体を放つ際にハッキングプログラムを織り交ぜ、耐性の基盤となる【順応化】を消し、加えて【ノイズ侵食促進化】を付与するよう体内を(いじく)った。

……となれば尚更、満足に身動きも取れないことだろう。

 

要するに攻撃はあくまでフェイクであり、先の質問においても、効果が現れるまでの時間稼ぎに過ぎなかった……という訳だ。

 

レティ「数十年振りに目覚めたばかりだもの。無理ないわ。どんなに力を蓄えた所で、()()()()()じゃ勝てる相手に敵う道理がない」

 

リンドヴルム『…………ぅぐ、だが、良いのか? 汝が、我を殺そうものなら……リヴァイアも道連れになるぞ?』

 

レティ「別に問題ないわよ。虚勢を張るなら張るだけ、甚振(いたぶ)り甲斐があるだけだから。

――楽に死なせてあげるほど優しくないのよ。私」

 

嗜虐的な発言をして、それでいて殺す気は毛頭ないと宣う。

 

薄々気づいていたとはいえ、はじめからレティの掌の上で踊らされたことを、改めて理解した。……嫌でも理解させられた。

 

リンドヴルム『〜〜ッ、おのれぇぇえええ!!!』

 

悔恨と厭悪が入り混じった視線を向け、声を荒げながら苦し紛れに高水圧の咆哮を放つが、身軽な動作で躱されてしまい……とうとう戦えるだけの余力は失せ、万策尽きてしまったようだ。

 

レティ「これはあくまで経験則に過ぎないけれど……どんなに辛い出来事に遭遇したとしても、時間が解決してくれることだってある。

だからこそ、行く末を見届けるのだって、別に悪いことじゃないのよ?」

 

リンドヴルム『知ったような、口を、……ぐッ』

 

レティ「……それでもまだ納得できないんだったら、何度でも言ってあげる」

 

軍刀を突きつけた瞬間。

火、水、雷、風の属性を宿した四色の光と、万物をも無に帰す【クリムゾン】。――それら五色のエネルギー弾を展開し、スパークを迸らせながら点と点を結ぶように、円を描いていく。

繋がれて、光度が高まりだした時。各色のエネルギー弾から光線が……軍刀の切先へと流れついて、すべての属性が混ざり合うように凝集させる。

 

殺せば道連れ? だからどうした。それで脅しのつもりなど片腹痛い。

そこまで往生際が悪ければ、こちらも形振り構わず滅してくれようではないか。

 

そう言わんばかりに冷酷な眼差しを向けて、死刑宣告する。

 

レティ「……老害。アンタの時代は終わったのよ」

 

水希「待って!!」

 

直前になって戦場に戻ってきた水希が制止を促す。

 

しかし、既に最大限にまで集まった力を暴発しようものなら――

 

レティ「NFB(ノイズフォースビッグバン)――〈カラミティ・レイ〉」

 

―――聞き入れる以前に判断を誤るな。

 

そう自己暗示を掛けるように、切先に集うエネルギーを躊躇なく放射した。




次回「災厄の日(アポカリプス) 終結」


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46話 災厄の日(アポカリプス) 終結

海水をも蒸発させ焦土と化すほどのエネルギー量を持った光線が、広範囲に照射される。

 

レティが無慈悲に放ったそれは、恐らく数億の大群を滅するためにある必殺技(切り札)の一つ。

 

故に、範囲内であれば即死は確実。

掠ったとして、火傷どころか部位欠損は免れやしないだろう。

 

尤も。あくまで()()()()()()という前提での話だ。

 

水希「…………え」

 

閉じきっていた瞼を恐る恐る開け、視界がクリアになる。

そうして、目の前の光景に驚きを隠せず声が出てしまう一方で、声には出さないが信武も、水希と同様に呆気に取られてしまっていた。

 

それもそうだ。まともに攻撃を受けていれば跡形も残らない筈だが……現に満身(まんしん)創痍(そうい)とはいえ、原形を保てている方がおかしいのだから。

 

それこそリンドヴルムが死なば諸共(もろとも)と宣言通り、リヴァイアを道連れに消滅すれば面子が立たないからこそ、意図して加減をしたと見受けられるが。

 

レティ「言ったでしょう? 楽に殺してあげられるほど優しくないって」

水希「レティ……やりすぎじゃね?」

 

いつの間に、爪先が海面に触れる寸前まで降下したレティがしたり顔で言いのけた。

おまけにウィンクまでするものだから、いくら責め咎めようと取り付く島がない。

 

レティ「細かいことはいいの。ほら行きなさい。ケリをつけに」

水希「……うん!」

 

しかし結果がどうであれ、またとない機会を作ったレティへ謝意を示すように笑みを向け、信武に横抱きにされたままリンドヴルムの元まで近寄る。

 

水希「信武。少しの間、降ろしてくれる?」

信武「……ホントに立てるのか?」

水希「大丈夫――っと……ごめん」

信武「ったく言わんこっちゃない」

 

砂地に足を付けた途端よろけてしまう。

どうも見る限りでは、水希の足下はフラついており、一瞬意識も途絶えかけてはいた。……しかし、悟られまいと必死に笑って誤魔化す姿を、信武が見過ごすはずもないが……無茶を承知で対話をする気でいる水希の意思を汲み取るように、呆れながらも体を支え、ようやく本題に入ろうとした。

 

水希「クラウンから話は聞いたよ。アンタもアンタで、苦労してきたんだね」

 

リンドヴルム『……この期に及んで、同情のつもりか? ……要らぬわ。小僧一人に憐れまれるなど、我とて一生の恥でしかない』

 

か細く弱々しい声音で、疎ましそうにして言い放つ。

リンドヴルムの相変わらずな反応に、水希はまったく歯牙にもかけず肯定した。

 

水希「……そうだね。否定はしないよ。アンタの境遇を聞いてから可哀想な奴だと思ってる。異端であるが故に、孤独を強いられる所とか……ユリウスとそっくり」

 

リンドヴルム『そうやって、汝は今も昔も変わらず、不憫に思うてから声をかけるのか……?』

 

水希「さぁ、どうだか。単に仲良くなりたいな〜って、我ながら年相応のことを思ってただけだよ。

だからこそ、もっと早くアンタのことを理解できたなら……僕達、変われたのかな?」

 

それは、あり得たかも知れぬ【未来】であり、水希の語る理想の一つ。

 

それは、あり得てほしかった【過去】でもあり、話を聞いていたリンドヴルムも、確かに内心()()()()()()

 

……しかし、それはもはや、叶いもしない願望となっている。

 

こうして【現在(いま)】。互いに『決して相容れぬ存在』と本能的に察知しているからこそ睨み合っているのだから。当然だが和解は厳しいと思われる。

 

リンドヴルム『………御託はもう良い。本音を言え』

 

戯言になぞ付き合ってられるか。

そう吐き捨てるリンドヴルムに辟易としながら、水希は「わかった」と前置きをして本音を告げた。

 

水希「……やっぱり、諦めたくない」

 

リンドヴルム『だが復讐は諦める、とでも?』

 

その瞬間。場を凍てつかせる程の殺意を向けるのだが、冷静を装いながらも強張ってしまう信武を他所に、水希は場数を踏んできているだけあって全く臆すことなく正視する。

 

水希「掌返すようで悪いとは思ってるよ。殺してやりたい気持ちも抜けてないしね。……だからといって、ずっとFM星人(アイツ)らとイタチごっこなんてしてられないし。

それこそ、()()()の理由であっても、親睦を深めた上で“絆”を体現しようとしてきたんだから」

 

リンドヴルム『事が運ぶ寸前で追い返された上に、皆殺しにしてやるとほざきおって何が絆だ……矛盾しておるではないか』

 

水希「バーカ。んなもん理解してるっつーの」

 

まるで三年前の惨劇を見透かした上で、水希に物申すリンドヴルム。

 

内心驚きはしたが、眠る最中に夢見のごとく眺めていたならば、お見通しだと言われること自体想像に難くない。

 

水希「それでも、立ち向かうしか方法がなかったから……大吾さんの言葉を、願いが現実となる日が来ることを信じて、今まで生きて来られたの。

……でも、アンタは逆。何もかも諦めて、自分が変わろうとすることを放棄してる。……それってさ、虚しいって思わないの?」

 

この上なく耳障りな綺麗事を並べられた挙句、憐れみの視線を向けられては、流石のリンドヴルムも憤慨してしまう。

 

リンドヴルム『ならば貴様に何が判る? 思い入れ深き住処を、唯一の居場所を奪われ、あの忌まわしき屑共に厄介者扱いされる苦しみが! 貴様如きに判るか!?』

 

水希「判らなかったら、理解を示そうとしなければ、とっくの昔にリヴァイアと縁を切ってる」

 

リンドヴルム『何を、訳の判らんことを……』

 

狼狽える暇を与えずに、水希は話を続ける。

 

水希「確かに僕は、アンタと違って居場所を失わずに済んだけど、大抵の人間からやっかみを受けてきて、本当に生きる意味あるのかって、不安になる日は多かった……。だから、アンタの苦痛がわかるから、こうして立ってるの」

 

置かれた環境が似て非なるものであっても、他者からの非難を受け疎まれ続けてきた境遇が、リンドヴルム(リヴァイア)と水希の最たる共通点だ。

 

水希「……どうせアンタのことだから、全部見てたんでしょ? 最初の暴走から今に至るまで。

過ぎたる力を以て人を傷つける以上に、大切な人を失うのが何より怖くて嫌だから……、一生離れないでってワガママ言って、一緒に強くなろうって誓いを立てたことも。そうでしょ?」

信武「水希……」

 

不安げに声をかける傍ら、水希は次第に声を荒げながら胸中を明かした。

 

水希「どんなに凶悪な力を持っても、忌み子として生まれてきたとしても、関係ない!

それくらいに、リヴァイアはかけがえない存在なんだ!!」

 

だが、いくら共感できるからといって、結局はリヴァイアを返せと強要しているに過ぎず、そのくどさが益々リンドヴルムの不興を買うこととなる。

 

リンドヴルム『笑止……戯言が過ぎるぞ青二才! そんな綺麗事を吐きおって、我が怒りと憎しみが風化するとでも思うておるのか!?』

 

水希「思わない。……だから言ったでしょ、どう転ぼうと立ち向かうしかないの。やられたらやり返すし、和解できそうなら善処する。それだけだよ」

 

先程までの弱り具合から一転して、己の行動理念を一切迷いなく告げる姿勢に、流石のリンドヴルムも困惑し圧倒されてしまう。

 

リンドヴルム『……なんとも、無茶苦茶ではないか……』

 

水希「それが僕だから」

 

……同時に、悟った。

 

発言に迷いが失せたのは、仲間の存在を認知して、心を持ち直したからであると。

 

リンドヴルム『………ならば、悔いの残らぬよう精々抗え。そうして、汝の夢が実現しようものなら、我自ら和解(負け)を認めよう………』

 

風景に溶け込むように存在が薄れていく。

かつて護神として崇められ、程なくして忌避されてしまった哀れな怪物は……無念晴らす間もなく、未練を残したまま消滅していった。

 

水希 (……終わった、んだ……)

 

虚脱感に襲われ、そのまま眠りにつく直前。

 

「兄ちゃん!」と、聞き覚えある声に呼ばれ、再度意識を繋ぎ止めた。

 

声のする方へ向くと、ロックマンに変身したスバルが駆けつけたようだった。

 

水希「……スバル? どうやって、ここまで?」

スバル「あぁ、それなんだけど……」

 

『ワシが案内をしたのじゃ』

 

スバルが説明するより先に登場したクラウンが、妙に誇らしげにして事の次第を簡潔に述べる。

 

水希「へぇ、戻んの早いね」

クラウン「軽っ! 他に言う事くらいあるじゃろ!? そうじゃろう信武??」

信武「いつもの事じゃん」

クラウン「誠に遺憾じゃボケェェ!!」

 

変わらず雑な扱いを受けキレ散らかすクラウンを他所に、スバルは水希の無事を知って、心の底から安堵の声が出た。

 

スバル「本当に、無事でよかった」

 

水希「うん。来てくれ、て……あり………」

 

しかし、限界まで保っていた意識を落としてしまい、世界から切り離された今、声や光も届きはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

夢を見た。

 

取り返しのつかない罪を犯した過去(ゆめ)を、大切な人達が消え失せるという悪夢(ゆめ)を、常日頃見続け……目を背けそうになってしまうことは幾度とあった。

 

だがそれは、己の罪を忘れ、償いの意志すら風化させてしまうのではないか。

 

その恐怖が勝り、然と焼き付けろと自戒するべくして、何度も……何度も何度も、嫌というほど見てきた。

 

罪を認め、受け容れるということは、それだけに過酷なものだと知って……。

 

 

 

だけど、今回はまったく違うらしい。

 

まるで闇に飲まれているようだ。

そう呟いてしまいそうなくらい、果てなく黒一色の何もない空間に、自分だけが立っている。

世界から自分という存在が切り離され、幽閉されているような感覚だ。

 

スバルと言葉を交わしたのが最後。その後の記憶なんて、意識が途絶えているのなら確かめる術もない。

 

『……死んじゃったのかな……』

 

ふとそんな思いが過り、声に出してしまう。

 

信武に勝ちたい思いも加味して早まった結果、無茶な戦い方をした反動が凄まじいのだから。人の身に余る力だということを身に沁みて理解できたが、果たして戦線復帰が可能なのか。

 

その不安が、心を埋め尽くそうとする。

 

 

だけど今、戦える人材が、心強いと感じる味方がいてくれるから夢を託すのも悪くない……のだろうか。

 

……だとしたら、引き際、なのかな……?

 

問いに対する答えを待たずに、目を瞑ろうとした。

 

その時だった。

 

 

 

――諦めんのか? お前らしくもねぇな。

 

 

 

懐かしい声がして思わず目を見開くと、白く発光する人型の――体格差のあるシルエットが2つ、向かう先に存在していて、途端に目頭が熱くなる気がした。

 

 

 

――早くしろよ。みんなが、お前を待ってるぞ。

 

 

 

頬に伝い落ちるモノを拭う暇もなく、一目散に走り出す。

 

 

(……そうだよ。やっと変わり始めたのに悲観してどうするよ!―――今度こそ、叶えてやるんだ……大吾さんの、願いを!)

 

 

嗚咽で息切れしそうになろうと、今はただひたすら光の射す方へと。

 

 

果てもない空間を駆け抜ける最中、二人の他にもう一つのシルエットが顕現する。

 

 

 

 

――どうか、どうかこの先も、リヴァイアをお願いします。あの子は、貴方が…居……れば……―――

 

 

 

視界が光に包まれていくその時。

語りかけてくる女性の言葉は途切れていき、やがて途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……気がつくと見知らぬ天井を眺めていた。

 

灯りの点かない部屋の窓辺から朝焼けの空がちらつき、徐々に意識を回復させていく。

 

水希「―――……ここ、は……?」

 

これが夢なのかは定かではないが、仰向けに寝そべる身体が重く感じる辺り、長い眠りから覚めたのだとようやく理解する。

 

そして視線を、寝台の隣にある椅子に腰掛けている人影へと向けたら、思わず目を奪われる程のイケメンだと知った。

 

それこそモデル顔負けな相貌なのだが、それ以上に印象深いものがある。

 

リンドヴルムの表皮のようなくすんだ青髪に相反して、宝石と見紛うほど澄んでいる翡翠色の(まなこ)

 

「よう、お目覚めか? お姫サマ」

 

まるで異世界に住まう王子様かのような美丈夫が、柔和な笑みを浮かべながら僕に訊ねた。

 





【挿絵表示】

イラストは平素よりお世話になっております、はちのす様に描いて頂きました!(実のところ二年前に描いて貰って、満を持してなのですよ)



第六章【ルナトゥルース】、乞うご期待!


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第六章 ルナトゥルース
47話 眠り姫と王子様


宙に浮いているのだろうか?

 

地に足を付け、そこから動かず佇んだままなのか?

 

はたまた海底へと沈んでいっているのか?

 

……それらは、現時点では判明しがたい。

 

 

加えて、情報源となる景色や外音すらも、五感が絶たれているせいで一切把握できやしない。

 

正確な日時が判らずとも、かれこれ3日以上は過ぎている筈だろうが……しかし、それらを確かめる気力も湧かず、途方に暮れていた。

 

 

『……俺が、見誤ったせいで……』

 

一度目の暴走から11年が過ぎ、修練を重ね続けた上でなら力の使用は問題ないだろうと判断した。

 

――俺でも乗り越えられたんだから、きっと水希だって乗り越えてくれるはず。

 

…………そう信じて、本人の成長を誰よりも祈っていた。

 

だが結果、その選択(あやまち)によって二度目の暴走に繋がるトリガーとなり本末転倒なのだから、本当に世話がない。

 

やがて暴走し、主導権を握られ、五感を頼れないまでに陥ってしまっているからこそ、この状況から脱け出す策も……当然浮かぶ訳もなく打つ手無しだと悲観するほかなかったのだ。

 

 

いつものことであれば、己の抱える不安や恐怖心を殺してでも……兄として弟の隣に立ち、不安を和らげようと気丈に振舞えたと思う。

 

……そう。同じ心の傷を持ち、互いにその痛みを分け合える存在だから。

 

 

 

 

…………だから今、独りでは、とても心細く思う。

 

 

 

 

けど今は、常に孤独であることの辛苦を感じる以上に、水希が今どんな状況に置かれているのか……頭の中は、そういった心配事で埋め尽くされていた。

 

 

思い当たる節はただひとつ。――きっと心細くて、どこかで泣いている。

 

 

実の家族と大吾さん、そして俺を除く、水希と最も付き合いの長い男――宇田海(うたがい) 信武(しのぶ)

 

ソイツに隠し通していた秘密がバレた後も、それ以前の過去でも、……不安でどうしようもなかった時、水希はいつも俺以外の誰にも目の届かない場所で泣くことが多々あった。

 

……でもまぁ、幼少期に一度、信武に見つけられる時もあってな。

下手なタイミングで現実世界(おもて)に出られなかった当時、思わぬ登場に安心しつつもなぜかムカついたんだよな。

 

『――泣き止むまでそばにいてやるからな』

 

本当なら俺が言って、気休めでも安心させてやりたかった言葉。

 

それを他ならぬ信武に言われた事で、役目を取られているような気がしてならなかった。

 

その複雑な感情の正体が【嫉妬と独占欲】によるモノだと知ってからは、たとえお門違いだとしても信武を疎ましく思っていたけれど……信武と居る時にだけ見せる朗らかな笑顔を……そして年々増していくぎこちなさを見て、二人の尊い友情が壊れていく瞬間を想像したくないと強く思わされた。

 

だからせめて……俺の前では素の自分を、弱い所を沢山見せてくれ。

そしてそんなお前を宥める役目を担わせて欲しい。

その苦しみを理解できるのは俺だけの特権なんだから。

 

………といった感じで、しょうもない嫉妬心を抱きながら、水希との繋がりが絶たれない事を切に願っていた。

 

 

それに、こんなこと思うのも厚かましいんだろうけど、もし人間として生まれて来れたなら……なんて考える日は少なくなかった。

さっきも言ったように俺は元々宇宙人だから、下手なタイミングで外には出られない。

だからこそ、人目を気にせず外に出られたら良いのになと、密かに思い続けて………そうして年月を重ねていくうちに俺は、()()()()()()()と強く思い始めたのだ。

 

ユリウスが人型だったように……大吾さんや信武のような人間の体を得て、水希と一緒に日常生活を送れているって実感が欲しかった。

水希とゲームしたり、作ってくれた手料理を食べたり、一緒にお風呂入ったり、とにかく人間らしい事を体感したくてたまらなかった。

 

それもこれも、悪魔だの化け物だの貶され蔑まれてきた……そんな俺を受け入れてくれた水希が心の底から大好きだから。

 

……地球に移り住んで15年も過ぎた今。遠くから眺めてばかり、隠れてばかりなのは嫌なくらい、俺にとっての居場所になったから……。

 

 

 

……けれどもう、お役御免なのだろう。

 

(叶いもしない願いに縋るくらいなら……もういっその事、眠ってしまえばいいか)

 

諦めの言葉が脳を(よぎ)る。

だがその行動によって、水希を戦場から遠ざけ、呪いとも呼べる柵から解放させてやれるのならば……、相棒としても、兄としても、悔いは無いと思ってもいる。

逆にどの面下げて会えって話だしな……。

 

解放に至るまでの結末が悲惨であろうと、その選択肢が自己満足に過ぎないとしても、誘惑に負けてしまいそうな程に心が折れかけていた。………だと言うのに。

 

《―――また同じ選択(あやまち)を繰り返すの……?》

 

思い止まらせようと呼びかける存在に気付いてしまった。

 

脳内から語り掛けているのか。それとも一時的に聴力が回復してきたのか。

そんな事は些事に過ぎず、少年の声に懐かしさを感じながらも答える。

 

『……天地さんが俺らに説教した時のこと、覚えてるならお前もわかってるだろ?……俺達は、出会うべきじゃなかったんだ。だって、俺のせいでずっとお前を苦しませてるってのに……』

 

《それでも責任を感じて、何年もずっと付き添ってくれたでしょ?》

 

『ッ、だけど俺は、本望じゃなかった! 正直逃げたいと思ってた!!』

 

《知ってる。僕だってそこまでバカじゃないもん。……それに、『男なら、現実から目を反らすな』って、アンタもそう言ってたじゃん》

 

返す言葉が見当たらないまま、途切れ気味に聞き出した。

 

『……俺は、いったい、どうしたら……』

 

《迷ってる暇があるなら、前に進んで。アンタが諦めてちゃあ、向こうで待ってる僕が悲しむ……》

 

『…………』

 

その選択が、果たして正しいのかはわからないけれど、ここで立ち止まるくらいなら従う方が最良……なのだろう。

 

悩みに悩んだ末、意を決して前に進んだ。

方向感覚が掴めてなかろうと、ただひたすらに、前へ前へと突き進んだ――。

 

 

《……僕は、リヴァイアを恨んでなんかないよ―――》

 

 

……途中、背後からの声に振り返ったら、手を振って見送ろうとしてくれる、少年時代の水希が優しく微笑みかけていた。

 

 

《たまに手厳しいこと言われた時もあったけど、その分いつも優しく接してくれた―――そんな()()()()()と出逢えたことが、僕にとって唯一の誇りであって、失くしたくない居場所なんだよ》

 

 

 

 

 

 

………たとえ夢の中のことであっても、今までの苦悩が報われるように、胸につっかえたモノが取れた気がした………。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

頑なに閉ざされた瞼がようやく開かれ、視力と聴力が回復した頃。半月の佇む夜空が見え、静かに打たれる細波の音が聴こえた。

 

リヴァイア「―――――、ん?」

 

普段は起こり得ない現象。――地面に背中を付け寝そべる仰向けの状態に違和感を覚え、思わず困惑してしまう。

 

寝て起きて、体に異変が出るなんて思わないしな。

 

試しに腕を持ち上げてみたが、人間の手と似ている五本指を視認する。

ぎこちない動作で握ったり開いたりを繰り返し……『密かに抱いていた願いがこうも容易く実現するのか』と、歓喜と驚愕が入り交じりながらも、確かにその瞬間を目の当たりにした。

 

……それは一旦置いとくとして、だ。

 

リヴァイア「……どこだ、ここ……?」

 

体を起こして、月明かりを頼りに周囲を見渡すと、海辺の砂浜に寝転がっていたのだと理解する。

 

「―――やっと起きたのね」

 

艶のある白髪の少女。レティが声をかけたのは、現在地を把握したのと同時だった。

 

リヴァイア「……俺は、たしか……」

レティ「えぇ。つい最近まで心を乗っ取られてたわよ。アンタらが忌み嫌う奴にね」

リヴァイア「ッ!? 水希は、水希は大丈夫なのか!?」

レティ「落ち着きなさい。順を追って説明するわ」

 

水希の安否について問い詰める俺を鎮めてから、レティは事の次第を話そうとした。

 

レティ「5日経った今も、水希は病院のベットで眠ってるけど命に別条はない。

……それでも疲労が溜まった上で、人の身に余る力をフルに開放させたもんだから……まだ人間だった場合、最悪植物状態になってたでしょうね」

リヴァイア「そんなっ?!」

レティ「ま、あくまで『()()()()()()()()()()』が前提だし、“ご利用は計画的に”って話よ。――話を戻すけど……幸いにも、アンタが水希を電波体に変質させたおかげで、私の方でいくらでも治しようがあったワケ」

 

落ち着けと言った割に内容がもう深刻すぎなんですがそれは……。

だけど、本人がそう告げた通りに、水希の容体に関して回復の兆しが見えるのならば、

 

リヴァイア「ともかく……今のところは無事、ってことで良いんだな?」

 

再確認として訊ねると、レティは無言で頷いて話を切り替える。

 

レティ「――ところでアンタ。その身体になってから違和感はない?」

リヴァイア「……。元の体と勝手が違うから慣れない、くらいか。……もしかしなくても、お前が?」

レティ「そうよ。勿論加減はしたけど……不覚にも、リンドヴルムを消滅させるに足る一撃を放ったことで、本来表裏一体の存在でもあるアンタも危うく巻き添えになるところだった」

 

「……そこで、よ」と、レティは補足を入れた。

 

レティ「倒すついでにアンタの人格を回収して、新しく作った身体に宿したのよ」

リヴァイア「出来るのかよ、そんな人間離れしてること……」

レティ「心外ね。私を誰だと思ってんのよ」

リヴァイア「剛腕オンナ」

レティ「死にたいの?

リヴァイア「ウソデスゴメンナサイ」

 

顔立ちがあかねさんとそっくりだから……というか、それを抜きにしてもレティを怒らせたらアカンわ。絶対に。

 

ちなみに、やんわりとしたトーンと笑顔で脅迫されたのか、低めのガチボイスで死刑宣告されたのかはご想像にお任せします、はい……。

 

レティ「フン、まぁどのみち殴るからいいとして――」

リヴァイア「あぁ。結局殴られるのね……?」

レティ「耐久性を測るテストと思えば聞こえはいいでしょ」

リヴァイア「ごめん微塵も感じられないわ」

レティ「自業自得よ。甘んじて受け入れなさい」

 

「うえぇ…」と間抜けな声をあげてしまった直後。

間違いなく人殺せるほどの拳骨が、脳天にのしかかるのであった。

 

 

 

 

 

 

――場所は変わって、病院の屋上。

 

リヴァイア「でもさ、ホントに病院に立ち入って良かったのかよ? 俺達の身体の構造上、医療機器に影響を及ぼすはずだろ?」

レティ「当然。その辺も抜かりないわよ」

 

一つの疑問点を訊ねると、自信あり気な返答が返ってくる。

 

レティ「擬人化状態なら、今みたいに実体化しても電波やノイズが漏出されないように設計してる。……といっても、主成分はノイズ100%なわけだけど」

リヴァイア「果汁100%みたいな表現やめて?」

レティ「揚げ足取るのもやめて。……まぁとにかく、なんで私しか入れない空間(ノイズウェーブ)にアンタも入れるのか。これで分かってくれた?」

 

元居た場所から病院(ここ)に来るまでの移動手段として、ノイズゲートを潜るのには躊躇ったが……「黙って付いてきなさい」と言って先に進むものだから、ええいままよと覚悟を決めたものの……、レティの背を追って歩く道中。異空間内部が不気味だと思う以外、特に異変を感じなかった。

 

……多分だけど、いずれそういった場面が起こり得る事を想定して、俺の身体は根本的な部分が変化したのだろう。

そんな懸念を抱きながら進み続け、出口に辿り着いた次第だ。

 

リヴァイア「……さっきやった耐久性のテストも含めて、不具合が無いか試した次第か?」

レティ「正解よ。でもその様子じゃ、心配は要らなそうね」

 

……よくよく考えてみたら水希も電波体だから、例外なく入院なんて出来やしないけれど、病院側も何かしら対策してくれていることを願って、レティの後を追った。

 

 

 

そういった経緯があって今、水希が眠っている病室にまで来れたわけだが……洗面所の照明を点けた上で【新たなる俺の姿 〜腫れぼったいたんこぶを添えて〜】を鏡越しに見ても今一つ実感が湧かなかったのだ。

 

リヴァイア「……本当に、俺なのか……?」

 

人間の部位でいうほっぺたか?

試しに指で押すと、わずかに弾力を感じられ、浅黒い褐色肌とは裏腹に滑らかな触り心地なのに……やっぱり実感湧かない。

 

リヴァイア「つーか、なんで変な服装なんだよ……オーバーオールかこれ?」

レティ「つなぎでしょ……」

 

実のところ人間のファッションには疎い俺の背後で、壁にもたれかかって腕を組むレティに即ツッコまれる始末である。

 

レティ「そういえばアンタ、確かFM星(向こう)では漁村出身だったのよね?」

リヴァイア「……あぁ」

レティ「多分だけど、望郷の念が服装にも反影されたんじゃないかしら? 知らんけど」

リヴァイア「知らんのんかい」

 

創造主がそんなテキトーでいいのかよ……と。内心そう思いながらも、着用しているつなぎ服を再度見返した。

 

生まれ故郷のAM星から追放され、その後FM星の漁村で育ったこともあり、確かにそういった面影は無きにしもあらず……なのか。

 

地球(この星)にいる数多の漁師が着るような作業着。一見シンプルだが、腰回りのベルトにふと目が行った。

……簡素な形をした魚がベルトの中心部に飾られ、何万通りもある服装からこれを選出する辺り、『もしや遊ばれているのでは?』と内心疑問に思った。

 

鏡越しに視線を移し、呑気に口笛吹くレティを見て『黒だな』と確信する。

 

リヴァイア「……それでも、ありがとな。わざわざ俺なんかのために、ここまでしてくれて」

レティ「いいの。私のワガママに付き合ってくれた謝礼と思って貰えば、こんなのぶっちゃけ朝飯前よ?」

リヴァイア「お前の言うワガママって、内容がショボい癖にスケールは馬鹿デカいんだよな……」

レティ「それを知ってなお普通に接してくれるアンタらも、傍から見りゃ相当イカれてるけどね」

 

俺の言葉に笑って返すレティとは、あと数ヶ月後も経てば殺し合う関係ではあるのだが……、

 

リヴァイア「地球の未来を考えれば、無理もない話だがな」

レティ「……そうね。当然のことだわ」

 

そうと判って接触する時点で、俺達はとうの昔から割り切っているのだ。

今こうやって冗談交わすことが出来たとしても………。

 

 

 

 

ひとしきり会話を済ませた後、レティは去り際『しばらく顔を出さないつもりだけど、用があれば都度連絡して頂戴』と言い残して病室を出た。

 

そこから特にやることもなく、ベッドの横に座椅子を置いて、前のめりにもたれかかるように腰掛ける。

しばらく寝顔をジッと眺めるだけの筈が、気づけば水希の髪をかきわけるように撫でたり、指で頬を突いてみたりしたら………反応こそすれど、全く起きる気配がない。

 

リヴァイア「……フフッ、こんだけイタズラしてんのに起きねーのか?」

 

普段何気なくやっていたことも、以前のヒレみたいな手と勝手が違ってより細やかに動かせるので、心なしか口元が緩んでしまっている気がする。

 

 

飽きることなく続けていくうちに、夜明けを迎える。

正月を除けば、上空の暗い時間帯から日の出前の空を見るのは初めてかもしれない。

 

それを抜きにしても……このシュチュエーション、水希が小さい頃好いていた童話とそっくりなんだよな。

 

***

 

……出会った当初のことを、昨日のことのように思い出していた。

 

リヴァイア『――【ネムリヒメ】ぇ?』

水希『そうそう! ぼくこれ大すきなの! マジョのノロイで100年もねむらされたおひめさまをね、おうじさまがキスをしてめざめさせるんだよ!』

 

何が何だかわからない俺に遠慮もなく、手に取った絵本のあらすじを語ってくれやがってさ。

多分だけど、あかねさんの幼少期に読まれた物を大切に保管して、時折読み聞かせていたのだろうが……それはそれとしてツッコミどころしかなかったわけだが……。

 

リヴァイア『……なぁ、これ、どっちかと言えば女の子向けなんじゃねーの? 俺が言うのもなんだけど、趣向が変わってんだな、お前……』

水希『えへへ〜、そうでしょ〜?』

リヴァイア『うん、全然褒めてねぇからな』

 

前から人の話を聞かない奴だと思ったけど……幼少期の方がよっぽど質が悪かったと改めて思う。

それこそ、幼少期のスバルをヤンチャ小僧だと揶揄していた水希も、ご立派にクソガキやってた頃があってな。

 

ユリウスと出会った時も同様。…………思い返してもホント色々と酷かったぜ。

 

 

 

 

***

 

それでも、悪夢に魘されてない日の寝顔が可愛いのは、子供の頃とまったく変わんなかったけどな。

 

リヴァイア「いつもお前のワガママに付き合ってやったんだ、今更こんくらいの事で嫌がんなよ?」

 

眠り姫に悪態をつきながら、そっと……口づけをしてやった。

 

…………男の癖に柔らけぇとか反則だろ。と思った直後。

 

水希「…ん……ん〜ぅ……ッ」

リヴァイア「あらら、本当に起きちまうとはな……」

 

俺がそう呟いた後、わずかに身動(みじろ)ぎをしながら、十数秒かけてようやく目を覚ました。

 

水希「―――……ここ、は……?」

リヴァイア「よう、お目覚めか? お姫サマ」

 

こちらに顔を向けた水希に軽く挨拶すると、寝ぼけ眼をさらに細め、怪訝そうに見つめ返されてしまう。

 

水希「……あの……どちら様?」

リヴァイア「んだよつれねぇな……。小さい頃から一緒なのにわからねぇのか? ――俺だよ。お前の相棒、リヴァイアだよ!」

 

八つ当たりとして水希の頬をつっ突きながら、改まって自己紹介したわけだが。

 

水希「……………はぁぁあああああ?!?!」

 

数回瞬きして、飛び起きてからのこの仰天っぷりですよ奥さん。

 

水希「い、いや、確かに声は似てるけど、なんで?! なんで知らぬ間に擬人化してんのよ?!」

リヴァイア「端的に言ってレティが根回ししてくれたおかげだよ」

水希「……あぁ、なんか納得――じゃないよッッ!! 端的にーつったってアンタもう、こんなイケメンさんに大変身とかシンデレラじゃん! レティ完全に魔女ポジじゃん!!」

 

イエーイ! 水希がイケメンって言ってくれたー。やった〜!

 

リヴァイア「まぁ細かいことは抜きにして、今は休めよ――ってうわ!」

水希「ばかっ……本当に……本当に死んだかと、思ったのに……」

 

俺の胸元に顔を埋めながら、嗚咽混じりにそう言った。

 

……そりゃそうだよな。意識を奪われてから水希の顔を拝むまで、俺は数時間越しでも水希からすれば何日もかかったんだよな……。

 

リヴァイア「……あぁ、本当にな。心配かけてごめんな。もう二度と離れねぇから安心してくれ」

水希「よかった……よかった……ッ!」

 

いつまで経っても泣き虫な水希を真正面から抱き寄せ、あやすように頭を撫でた瞬間。

 

 

……本当に戻ってこれたんだなと、身に沁みて実感できた。

 

 

これから先……何年も一緒に居ていいのなら、もう離したくない。

気兼ねなく外に出てもいいのなら、もう隠れることなく、今みたいに抱き締めてやりたい。

そんでもって戦える力が残っているのなら……もう水希一人で負担せずに済むよう協力し、守ってやりたい。

 

 

それが、今の俺にできることだと思うから……。

 




イメージ曲「Not alone」「エゴイズム」
どちらもdova-syndromeの曲です

感想、お気に入り登録、していただけたら創作の励みになります!

次回もどうぞお楽しみに!

2023年7月4日:病室に入るまでの流れで少しだけ追記しました……。


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閑話 シリアスってホント、起こりやすいし壊れやすいよね

……本当に、何日振りの再会だろうか。

戻ってきてくれたことに安堵し、泣きつく僕の頭を撫でてくれたリヴァイアの優しさは、どんな姿だろうと関係なかった。

 

リヴァイア「レティから聞いた話じゃ、お前5日も眠ってたようだけど、体の調子はどうだ?」

水希「……うん、大丈夫みたい。力を使い過ぎたってのに、体力ごっそり持って行かれたのが嘘みたい」

 

やっと泣き止んで落ち着いた頃。

二人で窓の外を眺めようとして横並びに腰掛けたら突然聞かれたので、平気だと答えたらリヴァイアは「なら良かったよ」と、優しく微笑みかけて言った。

 

リヴァイア「……正直、もうお前に会えないかと思ってたよ」

水希「ホントにね……、本当に、ごめんなさい……」

 

もっと他に言うことがあるのに、いざ言葉にするのにも戸惑い、子供っぽい謝罪しかできなかったわけだが。

 

リヴァイア「いつまでもショボくれんなよ。お前は、笑ってる顔が一番似合ってるんだから」

 

責められるどころか、昔以上に甘やかされている気がするけど。

 

水希「………ありがとう」

 

感謝の言葉を告げた時、久方ぶりに上手く笑えた気がした。

 

 

 

 

……ただ、このままイイハナシダナーって展開で終わって欲しかった……。

数分後の自分がそう思う事態に見舞われましてな……。

 

 

 

 

信武「――水希。見舞いに来た、ぞ………誰だお前?」

リヴァイア「俺か? ……普段なら“相棒”だって答えるけど、あえて言うなら“彼氏”ってやつだ」

 

ノックした後に入室する信武も、反応に個人差があれど……リヴァイアを見て訝しんでいるのが声音から察せた。

 

てかちょっと待って、今なんか不穏な空気に満たされてんですがそれは。

 

リヴァイア「そういうワケだから、お前なんかに水希は渡さねぇ」

 

そんでもって呆気に取られてる信武へ、リヴァイアが振り向きざまに宣戦布告した瞬間。

 

信武「……………は?」

 

戦場や日常でも、かつて感じたことのない殺気に戦慄してしまう。

 

てか彼氏って、あれ冗談半分で言ったつもりなんだけど!?

 

信武「……水希、ストーカーに迫られてるんならもっと早く相談してくれりゃあいいのに。何なら今すぐにでも八つ裂きにしてやれるけど……どうして欲しい?」

リヴァイア「ストーカーじゃなくて彼氏だ」

信武「喋んな。水希に聞いてんだよ俺は」

 

ヤバいヤバいヤバい……もしかしなくても信武の顔、きっとお姉ちゃんの何倍も怖い……!

殺気が凄まじくて後ろ振り向けないよ!!

 

信武「……何も答えてくれないんだ? 悲しいなぁ、俺のファーストキス奪っておいて浮気なんてさぁ、さすがに酷くね?」

リヴァイア「……ふぁー、すと……?」

水希 「ッ?! リ、リヴァイア、これには理由(ワケ)が――」

リヴァイア「――え、ちょっと待って、嘘だろ俺が最初じゃないの?? ねぇ水希、なんかの間違いだよね!? 俺が最初だって言ってくれぇぇ!!」

 

肩揺すられながら尋ねられてもこっちが困るんですけどっ?!

 

信武「ブハハハハ、アハッハハハハ! おいおいダサすぎんだろ……ひぃぃ〜腹痛ぇ。全部テメェの勘違いで済んでいい気味だわ」

 

青ざめながら困惑するリヴァイアを見て爆笑する信武が、どこか勝ち誇ったかのように見えるんだけどさ……僕からすれば『張り合うとこなの?』って疑問に感じちゃうんだけど。気のせい?

 

信武「ちなみに言っとくけど、俺との時は水希からしてくれたんだぜ? それも二回もな」

 

あ、あれ……おかしいな、知らぬ間に地雷踏んじゃってる僕?

さっきからずっと『早くここから逃げろ…!!』って本能に囁かれてる気がしなくもないんだけど。

 

リヴァイア「………ふーん、そっかぁ………」

 

でもそんなの、肩を掴まれてる時点で脱出不可なんだよね。

(ことわざ)をモジッて例えるなら【前門の修羅(しゅら)、後門の海蛇(うみへび)】状態なわけだから。

 

リヴァイア「なぁ水希……怒らないから、どういうことか説明してくれる?」

 

水希「……誰か助けてください……」

 

病院内じゃなきゃ、今のセリフ思いっきり叫びたいところだよ。まったくもって。

 

 

 

 

 

それからというもの……窓際にリヴァイア、その反対側に信武が立っており、僕はその間を挟む形でベッドの上に正座して事情聴取されておりました。

 

信武「―――つまりコイツは、お前にいつも付きまとってるクソ蛇で、人間の姿になれたのはレティのおかげってわけか?」

リヴァイア「そんでこの青二才と和解出来てから、嬉しさのあまり“二回も”キスしやがったのか?」

水希「……左様でございます……」

 

萎縮ながらも肯定すると、二人してデカい溜め息を……いやこっちが溜め息吐きたいんですけどいいですか? 駄目ですかごめんなさい黙ります。

 

リヴァイア「くそったれ……奥手なヤツだと高くくってたのに先越されてたなんて……おのれ許すまじぃぃ!」

信武「ホントうるせぇなコイツ……」

 

悪態をつく信武に先を越されたと知って、この上なく悔しがっているリヴァイアについさっき言われた言葉が過ぎった。

 

《――よう、お目覚めか? お姫サマ》

 

……もしかして、寝てる間にキスされてたの?!

 

そう考えると余計恥ずかしくて赤面してしまうのを他所に、二人の口論は続いていた。

 

信武「相棒だか何だか知んねぇけどよ、たかだか水希のペット風情が無理して彼氏ヅラすんなって話だろーが」

リヴァイア「んだとテメぇ!!」

信武「ハッ、殺んのか? まぁ俺に勝てる奴なんて、レティ以外に早々見当たる筈ないだろうけど」

リヴァイア「面白え、表出ろクソガキ」

信武「上等。ボロ雑巾にしてやるよ」

 

火花散らして睨み合う両者だが……まさか恋愛モノの三角関係あるあるな展開を繰り広げて、こうして間近に見るなんて夢にも思わないよ……。

 

水希「男の嫉妬ってホント醜い……」

クラウン『同感じゃ。そばで聞いてるワシも耳栓が欲しいくらいじゃわい』

 

「「誰のせいだと思ってんの?」」

 

水希「そこは息ピッタリなんだね……」

 

どのみち僕はいま入院患者なわけだから逃げられないが、撒いた種だとしてもこの殺伐とした空間から逃げ出したいと思っていると、再びノックの音がしてすかさず入ってくる足音がした。

 

……しかも、複数人?

 

スバル「兄ちゃん、お見舞いに来た……失礼しました」

水希「待って待って! 見捨てないでスバルぅ!!」

 

縋るように手を伸ばすなか、今度はお姉ちゃんが入ってきたようで……修羅(信武)海蛇(リヴァイア)よりもただならぬオーラ放ってない?

ねぇ気のせいだよね?!

 

あかね「アンタ、やっと起きたのね」

水希「………ひょっとしなくても、怒ってらっしゃいます?」

あかね「……、病み上がりだから我慢しようと思ったけどやっぱ無理ね。一発打ちたいからとりあえずツラ貸しなさい? リヴァイア君もね」

リヴァイア「俺も巻き添えなんですか!?」

あかね「弁解の余地はない。覚悟しな」

 

皆の者、恐れおののけ。畏怖の権化(お姉様)、満を持してのご登場じゃ。

……いやちょっと待ってお姉ちゃん! ひと目見てリヴァイアだって分かったの!? いま擬人化状態なんだけど!?

 

「止しなさい、あかね。仮にもここ病院なんだから、殺るなら外で殺りなさいよ」

水希「いやもっと言い方あるんじゃない? 他の患者さんにご迷惑でしょう。とかさ――って、おかん?! てことはまさか……!?」

「み〜ず〜き♡」

水希「ひぃッ!?」

 

そのまさか。僕の母親、星河すみれがわざわざ足を運んだワケだから、当然の如くセットで来られるわけよ。

 

「会〜いたかったぞぉぉーー!!」

水希「むしろ来んな来ないで下さい!ついでに早く死ねぐえェッ!!

 

ダッシュで駆け寄り勢いよく抱きつき、挙げ句は頬ずりまでしやがるこの人こそ、僕の実の父であり、今一番色んな意味で会いたくない変態(ひと)……その名も、星河誠俟(せいじ)容疑者。

大事な事なので二回言いますが、実の息子に欲情する変態クソ親父です。歩く残念危険物です。

 

水希「ア"ァ"ァ…!ぐぅるぅじいィィいいい…!

誠俟「もぉおなんで一つも連絡寄越してくれなかったんだよぉぉ……親子だってのに水臭いじゃねーかよ!」

水希「ぐえぇええ!?!?

 

抱きつくにしても加減してよ死ぬって流石に……!!

 

誠俟「お父ちゃんマジでめっちゃ心配してたんだからな? このっ、このっ!」

水希「ぢょ、おとんギブっ…。マジ、でぇ……ぎぶぅぅぅ!!」

 

意識が朦朧とした矢先、姉が手際良く引き剥がし、母が追い打ちのコブラツイストをかましたことで九死に一生を得た。

 

水希「ゲホッゲホッ……は〜あっぶね。危うく天に召されるところだったわ……」

 

咳き込んだが、今はもうちゃんと呼吸できるくらいには回復したから大丈夫。状況はだいじょばないけど。

 

スバル「ねぇ兄ちゃん……あの人、本当に僕のおじいちゃんなの……!?」

 

何度か軽く肩を叩かれ振り向くと、青ざめているスバルにそう尋ねられた。

 

誠俟「何を言うんだ初孫よ! じいじはなぁ、これでも我慢してたんだぞ……せめて赤ん坊の頃の姿と生でご対面したかったのに、すみれなら良いのになんで俺だけぇ!」

水希「過去を振り返ってから文句言ってくんない?」

誠俟「過去……そうだな、お前とはいつも楽しい思い出を――」

水希「こちとら苦い思い出ばっかなんだよもう喋んなッ!!」

スバル「……この人キモい」

誠俟「グッ……ぅッ、実の孫になじられるなんて……最高」

 

そんでもって初見だからこそ、おとんの奇行を目にして、スバルのみならず誰もがドン引きのあまり嫌悪に満ちた顔をする一方で、姉と母だけは見飽きたような反応をしていた。

つーかスバルになじられてんのに鼻の下伸ばすんじゃねぇよ気色悪ぃ。

 

水希「腐ってもコイツがおじいちゃんなんだよスバル……。わかってくれた? アンタが生まれてからずっと、おじいちゃんと会わせたくなかったと思ってた僕とお姉ちゃんの苦悩が……」

スバル「身に沁みて理解できたよ。本当にありがとうね」

 

まぁ、道中共にしたのなら襲われる心配もあったんだろうけど、大丈夫だよ。すぐ近くにスバルの専属ボディーガード【アカネ】が控えてるんだから、おとんも弁えてるよそれくらい。

まぁね、根はいい人だけど……3年も行方くらませながらお姉ちゃんの家に居候した僕の選択、間違ってなかったでしょう?

 

すみれ「せめて病室にいる時くらい静かにしなさいよ、ねぇ?」

誠俟「ずびばぜんでじだぁ…」

 

しかし、愛する夫にコブラツイストかますとか……。星河家の女共はどうしてこうあからさまに粗暴なのだろうか。

……謂わば〈子は親に似る〉ってヤツかしら?

 

あかね「ねぇ、水希。一応聞くけど私のことディスってた?」

水希「いいえとんでもございませんわお姉様」

あかね「大丈夫よ。私全然怒ってないから♪」

 

嘘つけ顔に出てんだよっ!!と、心を覗きやがる姉に向かって思い切り叫びたい気分だった。

 

 

 

 

……数分経って、ある程度収まりがついた頃。おとんが涙ぐみながら言う。

 

誠俟「……本当に、お前が死んでるって嘘を間に受けてから毎日、夜が明けるまで何度お前のおパンツで涙を拭いたことか……」

 

前言撤回。コイツがいる限り自重してくれないし収集つかないわ。

 

水希「拭くならせめてハンカチにしろよ! ……ねぇ、おかん! なんでコイツと離婚しないのさ!?」

 

ん〜とね、と顎に手を当てて思案顔をする母だが、

 

すみれ「ぶっちゃけ言うとね……収入面だけなら優良物件だから、お母さんダメになっちゃったのよ」

水希「もうヤダこの人達……。誰か親変えてよマジでさ……」

 

途端に悟りを開くような顔で(のたま)われてもさ……下品な理由聞かされるこっちの身にもなって欲しいんだけど……。

 

あかね「そう悲観しなくていいじゃない。お父さんが入院費全負担するらしいんだから」

誠俟「らしいって、俺何も聞いてないんだけど?!」

あかね「あら、水希相手に前科多犯が口出しできるとでも?」

誠俟「み、耳が痛いですなぁ……」

 

頭抱えてうなだれる僕を宥めた姉がわざわざおとんを連れて来たのも、今みたいに一泡吹かそうとしてのことだと思う。

でも正味な話、払って貰いたいのは全面的に同意見だし。それくらいの償いはしてもらわないとやられ損だしね。

 

誠俟「何にせよ無事で良かったよ。これから毎日お見舞いにきてやるから安心してくれ」

水希「むしろ不安だわ来んな黙れ死ね変態」

誠俟「黙ります」

 

…………はぁぁああ……子供がいる前でもお構い無しだから迷惑この上ないんですけど。

 

信武「水希、お前もお前で苦労が絶えなかったんだな……」

水希「ホント聞くに堪えない会話でごめんね。信武……」

 

顔を上げた途端に、信武に気遣われる始末であった……。




以上、初投稿から4年も経って久々のカオス回でした。

第1話以降から空気扱いされた水希のお父さん、『可愛いすぎて鼻血出そう』とか言う時点で変態キャラに格付けされて不本意でしょうけど、これから何かと登場されるかも。もちろんお母さんもね。

水希とあかねさんの両親のキャラ設定をここで書き記します。


【星河誠俟(せいじ)

ご覧頂いた通りの変態です。これに尽きます。
そうなった原因が、【若かりし頃にショタコンに目覚めていて、水希の誕生を境に溺愛度と変態度が増し増しになった】のです。

こんなアホ作者でごめんね、水希。

【星河すみれ】

性格面では(夫という名の収入源は失くしたくないという下心を差し引いても)まともな方です。

結婚後になって夫の奇行種ぶりを知って幻滅しつつも、下心あるせいで離婚できないから…せめてもの救いとして(コイツ)のストッパーになるかって思考になったそうな。

ちなみに、あかねさんの美貌は母譲りということで、キレイな御方として描いております。


6章のタイトル通りに進行するのは次回からになります。
どうぞ気長にお待ちくださいませ。


P.S.
一部の方から聞いた話。サイト内にある感想欄の書き込みエラーが発生しておりますが、そういった事態があれば、僕のTwitter(@Aria34563463)のDMに感想をお寄せ頂ければ幸いです。


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閑話 命日

梅雨明け間近の六月下旬。雲行きの怪しい、湿っぽい風が吹く日のことだった。

 

街外れに建てられた教会の離れにある、十字架連なる墓地へ、喪服を着る夫婦が花を手向けに訪れていた。

理由はおそらく、故人の命日だからだろう。

 

しばらく歩み進めていた足を止めた時。妻は抱え持っている供花の白いカーネーションの花束、そして故人が生前好いていた一輪の向日葵の花束を、それぞれ隣り合うよう供えた後に黙祷をする。

 

故人の死を悔やむように下唇を噛みながら……。

 

「……もう、11年も経つんだな……」

 

妻の一連の動作を眺める夫も立ったまま黙祷をするが、終えた途端にボソリと呟いた。

 

「そうね……正直、今も実感が湧かないわ……」

「私もだよ。ここまでショックが大きかったのは、ルナの誘拐事件の時と同じだったからな……」

 

夫婦そろって墓石に視線を投げ、英字で掘られた名前を見つめる。

 

――()()()()()。若くして生涯を閉じた者の名だ。

 

 

「だからこそ私達は、親失格よね……。ミノルが亡くなってからずっと、仕事を理由付けにしてまともに家に帰れないんだから」

「……そうだな。それこそきっと、ルナは私達を恨んでいるだろうな」

 

……話から察するに、ミノルとルナは、二人の間に出来た子供。そしてミノルの死に立ち直れずにいる。ということだろうか。

 

「ミノル。あなたさえ生きてくれれば……私達は、ちゃんとした親で在れたのかしらね……?」

 

問いに対して、返ってくる言葉などありはしないが、不甲斐なさを自覚してこそ確認をしたかったのだろう。

 

親として、子と接するに値するのかを。

 

「……ごめんなさい。こういう時こそしっかりすべきなのに……また貴方に愚痴を吐いちゃって」

 

妻の言動を眺める夫も、失くした痛みを知っているからこそ、戯言だのと口出しすることはなく。

ましてや、妻に続いて愚痴をこぼしそうな様子が覗える。

 

「でも、約束するわ。……貴方が生きている頃にしてやれなかった分、ルナがこれからも不自由なく生きられるように、立派な人間に育てるから。……だから、こんな不器用な生き様を、どうか見守ってて頂戴」

 

想いを伝えきったと同時に立ち上がり、夫婦はやがて、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰路につく道中のこと。

 

「ねぇ、あなた。ルナの進路についてなんだけど」

「転校させるかどうか、だったか?」

「えぇ」

 

相変わらずの曇り空のなか、車内の雰囲気や話題ですら、お世辞にも明るいとは言い難いものだった。

 

助手席で腕を組みながら物憂げに話す妻に、運転中の夫もハンドルを操作したまま悩ましげな顔を浮かべてしまう。

 

「今はあんな公立の学校に通わせているが、ここのところ事件が多発しているらしいしな。私もおおむね同意見だよ」

「もしまた何か起こりさえすれば……転校させるのは早い方が良さそうね」

「あぁ、そうだな。転校先の候補に関しては、お前に一存しても良いか?」

「問題ないわ。貴方が手を焼くまでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すべては、あの子が将来、エリートとして不自由ない人生を歩めるように」

 

 

 

誰から見ても一方的で身勝手な願い。

 

その願い通りに動いてくれと子に求めた所で、吉と出るか凶と出るかは……誰も知り得ない。





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次回は水希sideのお話になります。お楽しみに!


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48話 病室での会話

誠俟「お前がなんと言おうと、父ちゃんまた来てやるからな〜!」

水希「さっさと帰れ変態ッ!!」

 

ま〜たおとんが抱きつこうとするから突き飛ばしたら、「あぁん♡」って……うわずった声出すんじゃねぇよ!

 

誠俟「もぉ素っ気ないな。でも父ちゃんキライじゃないよ、お前のそういうところ」

水希「無駄にイケボで言うなやキモいんだよ死ね」

誠俟「うぅ〜〜ッ……いつになればまともに会話してくれるんだ息子よ……グスン」

水希「テメェの頭がまともになれば相手してやるよ。まぁ一生来ねぇと思うけど」

誠俟「ひっどい! それが親に物言う態度ですか!?」

水希「テメェこそどの口叩いてんだよ!!」

すみれ「はいはい帰るわよ、あなた」

誠俟「あー待ってぇ! せめてハグかチューさせて! ワンモアプリーズ! 泣きのもう1か――ぐふぉえッ!?!?

 

泣くほど名残惜しそうなおとんに、せめてもの情けで鋭い蹴りをお腹にプレゼントしてあげたら、運の良いことにピクピク震えつつも気絶してくれてホッとする。

やっぱ手遅れになる前に仕留めるのが吉だわな。

病み上がりでここまで動ける程に快復してくれたレティに後日お礼を言わなくっちゃ。

 

水希「おかん、GO」

 

無言で頷くおかんに首根っこ掴まれながら引きずられるように帰るもんだから……出来ればもう二度と来ないで欲しい所。

 

だけど、何故かお姉ちゃんは嬉しそうに微笑みながら、僕に話しかけてきた。

 

あかね「良かったじゃない。お父さんは相変わらずだけど、ちゃんと心配してくれてるみたいだし」

水希「だとしても当分実家には帰りたくないけどね」

あかね「それは同感……」

 

ただ、一日くらいなら帰省してもいいかなと思って………いやごめん、やっぱ無し。日帰りの方が断然良さげだわ。

いつにも増したおとんの拗らせっぷりに翻弄されたまま寝泊まりなんて、悪夢どころか地獄でしかないわ……。

 

スバル「兄ちゃん、耳貸して」

水希「ん…?」

 

再び訪れる災難にうなされていると、まるで内緒話でもするように両手を筒にしたスバルが、僕の耳元を覆い隠して囁いた。

 

スバル『僕、これから頑張るから。いつか兄ちゃんに認めてもらえるように』

 

認めるも何も、復学を決めた時から立派に育ったと思ってるんだけどね。

 

それでも、頑張るって言ったスバルの健気さに笑みがこぼれ、今度は僕の方から耳打ちした。

もちろん他のみんなに聞こえないように、両手を筒にした上でね。

 

水希『……焦らず、少しずつでいいの。でもこれだけは言わせて――信じてるからね。アンタなら大丈夫だって』

スバル「ありがとう。頑張るね!」

水希「ついでに言うけど、無理は禁物だよ?」

スバル「わかってるって」

あかね「……無事退院して帰ってきたら、アンタの好きな料理。なんでも作ってあげる」

水希「じゃあハンバーグ、また作ってよ。数ある献立の中で一番好きだし」

あかね「ふふっ、了解!」

 

退院後の楽しみとして期待しつつ、姉とスバルの退室を見届けた。

 

 

 

そうして、入院5日目になって目覚めた日の午前中、おとんを筆頭に騒がしかったのが一転して、昼食を終えてからの午後は静まり返っていた。

 

でも、リヴァイアは勿論のこと、信武もしばらく病室内に残ってくれたのは嬉しかったな。

 

信武「ちょっくら売店に寄るけど、何かいるか?」

水希「う〜ん……大丈夫、かも」

信武「ホントか? 別に遠慮しなくていいのに」

リヴァイア「じゃあカフェオレ。水希と俺の分買ってきて〜」

 

ここぞとばかりにつっかかろうとするリヴァイアに呆れ、信武も煙たそうに舌打ちをした。

 

信武「そんくらい自分で行けよ。……あぁ、もしかして方向音痴かテメェ?」

リヴァイア「はぁぁあ案内板ぐらい読めますけど〜。勘違いしないでくれます?」

信武「そうかそうか。問題ねぇならさっさと行けよクソ蛇」

リヴァイア「べっつに〜そんな急ぐことでもないから、お前こそ早く買いに行けば? つーかもうお家に帰っておねんねしたら?」

 

シッシッと追い払おうとして小馬鹿にするような態度に、流石の信武も堪えきれない様子。こめかみに青筋立ててるし。

 

信武「……水希、コイツ殺して良い? 虫の居所悪過ぎんだけど……」

 

聞いてるこっちからすれば、二人の小競り合いなんて正味どうでも良いしマジうるさいけど……滅多に見ない光景だからか、妙な考えが頭に浮かんだ。

 

水希「……“ケンカするほど仲が良い”ってヤツ?」

リヴァイア「違うし! コイツとなんてぜってーありえねぇし!」

信武「冗談でも気持ち悪ぃこと言わないでくれよマジで……」

 

ふと声に出したがキッパリ否定され、思わず苦笑いしてしまう。

 

水希「まだケンカするんなら外でやってよ、僕寝るから」

 

意識が回復したからといって当面やることもないので、適当にベッドで寝転がろうとした。

 

 

……だけど、再びノックされ、僕からの応答もなしに初老の男性が入室する。

 

水希「アンタは……たしか……」

 

10年以上経つとはいえ顔立ちに見覚えがあり、スーツの胸元にあるバッジから公安警察の者だと理解し、リヴァイア共々警戒心を強めた。

 

彼こそ、11年前の事件において裁定に携わった人物の一人だから。

 

水希「まさか、アンタ程の大物が来るなんて思わなかったよ。……ねぇ、長官サマ?」

信武「なぁ水希、俺にもわかるように説明してくれ」

水希「忘れてたけど、公安からも危険視されていたんだよ。リンドヴルムのことで」

信武「ッ、……そういうことか……」

 

その一方で信武は面識がないから、状況が掴めなくて当然だと思ってもいたが、僕の話を聞いてやっと把握した様子。

 

話を戻すが、あまりにも不自然な流れで面会に来られる理由はきっと、遠くで見張っている人からの(しら)せだと思う。……というより他は考えにくいだけだった。

 

突然の来訪を訝しむ僕らを見て、鼻で笑った長官は見下した態度を隠すことことなく声に出す。

 

「……相変わらず死に損ねているな、疫病神」

 

(さげす)みきった言葉を聞いた瞬間。

リヴァイアと信武の二人が、敵意と殺意の籠もった視線を向けるのだが……長官はさして気に留めていない様子。

 

「そんなに殺気立つことか? 私が相手しているのはそこの重罪人なんだがな」

 

しかし……いくらこちらに非があっても、彼の態度は目に余るものだった。

 

水希「相変わらずの憎まれ口だこと」

「貴様もそう大して変わらんだろう。……ただ、見ない間に背だけは伸びきっているようだが」

水希「御託はいいよ。要件は……言うまでもないわな」

 

何度も禁忌を破っていながら、たった一度でもフルパワーにまで開放させた余波で地球環境にまで影響を及ぼしたこと。

下手すれば近隣住民にも被害を被る規模だと思われるから、尚のこと見過ごせる問題じゃなくなっているのだ。

 

それを踏まえて、二度はないと宣告しに来たのだろう。どうせ避けられやしないのだから。

 

特に今……頭に来ていそうな信武には悪いが、殺気を抑えてもらうほかないと思い、僕の方から止めに入った。

 

水希「信武、リヴァイア。お願いだから抑えて」

 

逡巡の末、僕の言葉に従い殺気を引っこめてくれたが……未だ険悪な雰囲気は収まらないなか、表情の失せた長官が話を切り出した。

 

「言ったはずだぞ。万が一があれば、その責任はすべて貴様一人にのしかかると」

水希「……無論理解しています。戦う(すべ)と力を得た信武と敵対していた頃、リスクを度外視してでも力を開放すれば勝てると思ったからです。……要は焦っていたから、まともな判断がつかなかった。――」

 

そもそもの元凶として罰せられるべきと判っている以上、罪を軽くしてもらおうなど思わないが、口を開けばその時の心境を語りだしてしまった。

 

長官から冷めた目で睨まれていようと、喋る間に冷や汗を垂らそうと、どんなに声が震えていようと。

 

水希「――リンドヴルムに人格を奪われ、体を乗っ取られる事態も、地球(この星)にいる人達を……見境なく殺してしまう、最悪の事態も……リヴァイアを殺すことになることも(かえり)みれませんでした……。

それを踏まえて、今回の件は許されることではない………どのような重罰でも――たとえ、極刑だとしても、受け入れる覚悟はしています」

信武「水希、お前……!」

リヴァイア「口出しすんな青二才」

信武「ッ、けど水希が!!」

リヴァイア「判んねぇのか? なんの権力も持ってねぇお前如きが、一切関与できねぇっつってんだ。

現に力で屈服させるんじゃなくて、法で裁かれる事態だってことを理解しろ」

信武「……くそっ」

 

そばで聞いていた信武からすれば「生きていて欲しいのにまた勝手に死のうと考えてるのか?」って思う筈だ。不安で仕方ないだろうしね。

 

それでも裁判沙汰になれば、どうにもならないんだよ……信武。

 

「死んで詫びれば済むとでも言いたいのか?」

水希「極刑であればの話ですが……あながち間違ってはいません。極少数の方に生きてくれと望まれても、今回のことが公になれば民衆も看過できないはずでしょう……」

信武「水希……」

「……言っておくが、まだそうなると決まってないぞ」

水希「え……?」

 

呆けている間に長官が近寄ったかと思えば、手提げ鞄から取り出したタブレットを手渡そうとしてくる。

 

「裁判長殿からのお言葉だ。心して聞け」

 

恐る恐る受け取り、画面の通話ボタンをタップすると、急に画面が切り替わる。

どうやらビデオ通話だったらしい。

 

水希「――あなたが、裁判長?」

『こうして対話するのは初めてかな、星河水希君。前回の裁決では保護観察に留めたとはいえ、厳罰を下せなくて甚だ遺憾だよ』

 

さぞかし残念そうに言う辺り、本気で裁くつもりだったってワケか……わかってはいたけど、いざ言われると心苦しく思う。

 

水希「その節は大変失礼しました……。それで、今度こそ本気で裁くおつもりですか?」

『いいや、そういう要件じゃないんだ』

 

途端に神妙な顔つきになりながら、裁判長は事の次第を話そうとした。

 

『君が目を覚ます前、ある人物が私の所にまで来訪してね。()()()()()()()だよ』

 

人物の特徴からして間違いなくレティだろうと確信を得てはいたが、尋ねるよりまず話を聞くことに専念した。

 

『聞いた話では、先程述べた彼女と君は、ある目的を果たす為に同盟を結んだ。それで間違いないな?』

水希「……はい」

『――()()()G()……だろう?』

 

おかしな話もあるものだ。今もなお門外不出とされている機密情報なのに……。

ニヤリと口角を上げる裁判長に目的の根幹を言い当てられ、冷や汗を垂らしてしまう。

 

水希「……レティからお聞きした、ということですか」

『その通りだ。そして彼女に脅されたんだよ』

 

画面内に小さなウィンドウが現れ、そこに記載されていたのは……録音履歴?

一体なぜかと問うより先に、裁判長側から操作され、再生される。

 

《――もし、メテオGの破壊、及び私の討伐に成功した場合。水希の罪を無かったことにして。――それが不可能だと言うのなら、すぐにでも地球を滅ぼす》

 

長官を除いて、この場にいる全員言葉を失いそうになるが、妙に引っかかる点があると気づく。

 

水希「……これ、脅しにすらならないじゃん」

『ほう。なぜそう思う?』

水希「簡単な話でしょう。もしレティを討伐できたとして、貴方一人の判断で無罪にはできないことくらい知っています。

そもそも公安から、保護観察という名目で生殺与奪を握られていた時点で期待できないと思うはずです」

信武「……そんなことって……」

 

そう。信武が顔を真っ青にして膝をつくのも無理はない。

 

一度目の暴走から負傷者が多数出るほどの規模だったからこそ、酌量の余地もなければ今頃地獄で詫びているのが想像できる。

つまり本来であれば、危険の芽を摘もうと極刑にする気でいたのだ。

 

信武との和解で浮かれていたけど忘れちゃダメだったんだ、今回ばかりは正直……望み薄だと思う。

 

水希「ごめん信武、ちゃんと話せなくて……」

 

それでこそ説明しなかった自分の責任だから、謝罪するしかできなかった。

 

『……話は最後まで聞きなさい』

 

重苦しい雰囲気のなか裁判長はそう言って、一時停止されていたボイスデータを再生する。

 

《無論、タダでとは言わないわ。そのための取引だもの》

 

水希「……取引?」

 

《まず、長らく行方不明扱いされてきたキズナ号の乗組員は私が保護しているから、命の保証ができるかは貴方達の返答次第ってワケ。だから水希を無罪放免にしてくれるのなら、彼らを解放した後にメテオGの破壊に協力するつもりよ。……無論、今話したことに嘘偽りはないわ》

 

信武「だとしたら、親父も……?」

 

《先に断っておくけど、事が片付いた後を狙うなんて考えない方が良いわよ?

それを見越して、ある条件を満たした瞬間、地球上に存在するすべてのサーバーをダウンさせるよう解除不可能なプログラムを組み込んであるの。

故に、()()()()()()()()()()()()()はいかなる条件をも無視して作動するから、極刑なんて無意味に等しい。

……まぁ、無期懲役にされたら施しようがないけどね……》

 

そういった処遇を受け入れる以外の選択がある筈もないワケだが。

レティを信用できるようになるまで、ここまで手厚くサポートしてくれるなんて思いもしなかったからこそ痛感させられるのだ。

 

助け舟が一つもなければ今頃、より一層お先真っ暗な人生だっただろうと。

 

《あぁ、言い忘れてたけれど……公安の長官サマにも聴いてもらおうと思って、通話回線を開いてるの。だから事の経緯(いきさつ)をちゃんと聞いている筈よ。

……それとね、リンドヴルムは、私自らの手で殺した。――この意味、判るわよね?》

《………それが真かはともかく、何故そこまでして、彼に肩入れをするんだね?》

《危険因子なんてさっさと取り除くに限るでしょ? ……それに》

 

わずかな間を置いて、レティは迷いなく告げる。

 

《私の苦悩を誰よりも理解してくれたから。それだけよ》

 

取引の真意は、最終決定権を持つ裁判長を相手に、物事を都合良く働きかける為の印象操作だと理解した。

だがいくら脅威が薄れたと知らしめても、それだけで「はいそうですか」と頷いてもらえるとは到底思えないけど……今なら認識を改めてくれるのではといった期待が芽生えつつもあった。

 

《じゃあ逆に聞くけど、水希と同じ状況に遭ったとしても、アンタら黙って受け入れられるの?》

 

長い沈黙を経て、深い溜息を溢す裁判長はレティの質問に答える。

 

《すぐに結論が出る話ではないが、処遇について話がまとまり次第報告をする。……異論はないか?》

《それで結構よ。色好い返事を期待しているわ》

 

 

 

 

 

 

 

リヴァイア「あの剛腕オンナ……判ってて黙ってやがったのか……?」

 

レティが聞いたら絶対殴られるよ。本人が近くにいなくてよかったけどね……。

 

『……以上が、事の顛末だ』

 

裁判長の言葉に、緊張感が高まる。

 

『現時点で判決を下すに至らないという見解から、君には執行猶予を設けようと結論づけた。無罪を助長するにも、まず乗組員の送還が完了してからになるからな。

いずれにせよ、メテオGの破壊に向け手段を問わずして人材を確保する件には言及しないが、被害者の命を脅かす事態が起こりさえすれば取引は無効となる。

その場合は、星河水希を無期懲役に、リヴァイアを国外追放に処すのが妥当と判断した。

……以上の内容を彼女に伝え、渋々承諾したよ』

 

じゃあ、本当に最悪な事態に陥れば、今度こそ一生会えないってことか……。

 

『選ぶがいい。我々の提案を蹴ってでも死刑執行を待つのか。それとも再び戦場に身を置くのか』

水希「――――」

 

……答えなんて、とうに決まっている。

 

水希「愚問です。この身を犠牲にしてでも成し遂げると誓ったからには、引き下がるなんてあり得ません」

『……その意気や良し。……だがな』

 

裁判長の険しい視線を浴びた時、画面越しにでも威圧感を感じて息が詰まりそうになった。

 

『三年前の時点で貴様を裁けなかったのは、星河大吾と宇田海(おさむ)。その両者からの進言があったからこそ、我々は黙認し続けていたに過ぎん。でなければ即刻処罰を下していた筈だ』

 

理由が理由なだけに怒られて当然だけど、同時にますます己の不甲斐無さを痛感させられた。

大吾さんや信武のお父さんといった頼れる人達からの助け舟もなしに尻拭いできる程、人間出来ちゃいないのだから。

……でも、だからこそ、こうして何度もチャンスを作ってくれたからには、応えるのが筋ってもんでしょ。

 

『それとだな……私が先程述べた“被害者”というのは、地球上の全人類に当てはまる、ということだ。それだけ責任重大だということを忘れるな』

「承知致しました。ご忠告痛み入ります、裁判長」

 

通話が途切れた直後、タブレットを返した際に長官から尋ねられる。

 

「時に、水希君。――君にとって大切なものを守る為に力を振るうが、私達の平穏など二の次だとか。生意気な発言をしてくれた日のことを覚えているか?」

水希「あぁ〜……たしかに言った、かもです……」

 

過去を振り返って尚更気まずいと感じた僕の肩に手を置いた瞬間。柔和な顔つきになって発言する。

 

「裁判長殿も先程は厳しく言っておられたが、君達の今後に少なからず期待を抱いているのは言動から感じとれた。だから私からも、これだけは言わせてもらおう。

―――やるからには一切悔いを残さず、必ずやり遂げろ」

 

意外な言葉に驚きつつも、彼なりの激励に悪い気はしなかった。

 

水希「お心遣いに感謝します。長官様」

 




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次回もお楽しみに。


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49話 決意を新たに

夕日が沈みかけている頃。

信武とリヴァイアの間を挟むように、屋上のベンチに腰掛けていた。

 

……これからずっと三人で――厳密にはクラウンも含めて4人なんだけど、固まって行動する時のお決まりになるのだろうか?……なんて、緊張感とかけ離れたことを考えている間にコールが途絶え、画面に【SOUND ONLY】と表示される。

 

レティ『……珍しいわね、アンタから電話を寄越すなんて』

 

レティとの連絡は、普段はメールが主だから不思議がられても無理ないが、理由があって屋上にまで来てるわけだし。信武にも聴いてもらうつもりでスピーカーにしているのだ。

 

水希「まぁ、ちょっと聞きたい事があったからね」

レティ『そう。……それで、何を聞きたいのかしら?』

水希「その前に、いい? ――教えてもらったの。僕が寝ている間、レティが色々と根回ししてくれたことや、取引のこともね。……話を戻すけど、本当にレティが乗組員(クルー)の人達を保護してたのかって聞きたかったの……」

レティ『だからあの時言ったじゃない。心配しないでって。場所までは言えないけど、今も安全なのは確かよ』

水希「それじゃあ、信武のお父さんも生きてるんだよね……?」

 

安否について訊ねたら、しばしの沈黙を経てレティは答えた。

 

レティ『前にも話したと思うけど、FM星人が襲撃したタイミングで私が回収できたのは、()()()()()3()()を除いて10人近く。

数は覚えてても、名前までは把握しきれてないわ」

 

ロイドさん。フレインさん。鳴田(なりた)さん。

この3人とはしばらく面識がないが、今もなお無事で、レティが回収しそびれた乗組員(クルー)の捜索に当たっていると聞いたことがある。

たった3人でも見つかれば、少しだけ希望が持てるだろうし……それこそ断念されたとしても、諦めたくない気持ちは誰にでもあるんだから。

 

その思いと裏腹に、多くの不安が()ぎってしまうのもあるが、結局のところ滞りなく全員救出することに変わりはない。

 

レティ「……ただ、ニホン人らしき顔立ちで、50代前半っぽい見た目の男性なら、一人だけ心当たりあるわ』

水希「!――それじゃあ……!」

レティ『でも、あえて言わせてもらうけど、私に対してそんな過度に期待されても困るのよ。さっきも言ったように、名前までちゃんと把握できちゃいないんだから。

……それこそ、もし当てがハズレたらアンタ、今まで通りに信武と顔合わせられると思う?』

水希「……それは――ッ!」

 

淡々とした口調で諭され返す言葉が見つからずにいると、信武が僕の右手を握ってくれた。

そのことに驚いて振り向くと、信武は『心配すんな』って言いたげに笑いかけ、すぐさまレティに返事を返そうとした。

 

信武「どんな結果でも受け入れる覚悟はできてる。だからもう平気だ。

それに……そもそも保護されてないなら、お節介な誰かさんのことだから、意地でも探しに行こうとするだろ?」

水希「信武……」

レティ『……無論、私も、自分の役目を終えるまでに間に合わせようと3年前から手を打ってるのよ』

水希「え? どうやって?」

レティ『クローンを生み出したの。私と瓜二つのを5000体以上』

水希「……はい?」

 

そう説明さてれも、今ひとつ理解が及ばない僕に対してレティは、キレ気味に言う。

 

レティ『だーかーら、保護し損ねた人達を探そうにも、私一人じゃ無理だっつってんの』

水希「ゲート使えるのに?」

レティ『うっさいわね……第一、情報もなしにだだっ広い宇宙を行き来するなんて、私ですら骨が折れることなのよ? そこら辺わかってんの?』

水希「……なんかごめん」

レティ『ったく、ボケてないでしっかりしなさいよね』

 

まぁ、そうだよね……実際に宇宙の広さを体感した身でもあるから、捜索に関しては“海中に落としたコンタクトレンズを的確に拾い上げるほどに難しいこと”でもある。

それに裁判長との取引で『()()()保護した』だなんて言ってないからこそ、間に合わせようにも一人じゃ手に負えないわな。

 

リヴァイア「……剛腕オンナが何体も……」

 

「あたしレティさん。いまアンタの後ろにいるの」

 

「「「「ッ!!?」」」」」

 

お分かり頂けただろうか?

ドン引きを禁じ得ずにいるリヴァイアがうっかりと口を滑らせたその時………未だ通話中にもかかわらず、背後からの声を鮮明に聞きとれてしまうという不気味な現象に、ベンチに座り込む僕らも、信武のトランサーに潜んでるクラウンでさえも、ビビり散らかしているのは言うまでもない。

 

リヴァイア「ヒッ?!――な、なにすんだよ……?!」

 

そうして背後を振り返る間もなく、レティはリヴァイアの両肩をしっかりと掴み、快活に笑いながら言った。

 

レティ「あたしレティさん。今からアンタの凝り固まった肩をたぁ〜っぷり揉みほぐしてあげる♪」

リヴァイア「いやマジで勘弁してくださイギャアアアアアアアア――――!?!?

 

やがて日が沈む頃。リヴァイアの断末魔がきっと、街中に響いていることでしょう……。

 

 

 

 

 

 

レティ「……で、マッサージの感想聞きたいんだけど?」

リヴァイア「……た、大変不謹慎な発言をしたことを、お詫び申し、あ……、……」

 

す、座ったまま魂が抜けてる……!!

 

こういう所を見るとやっぱりレティは……見た目はお姉ちゃん、握力はゴリ――それ以上はいけないと警告が来てそうだからやめとこ〜っと。

 

クラウン『ケンカ売るにしても無謀が過ぎるじゃろ……』

信武「同感」

レティ「失礼ね。私だって理由なしに暴力振るってんじゃないのよ? ………ねぇ、何で黙ってんの? ちょっと、返事ぐらいしなさいよ」

 

とてもじゃないけど、今でもレティと目線を合わせられないというか、なんと言うか……気まずいです。

 

レティ「……これじゃまるで、私が悪者みたいじゃない……」

 

皆一同黙り込むせいかご機嫌斜めになるレティだったが、気まずい空気を変えようと口を開ける。

 

水希「慰めの言葉も出なくて悪いけど、レティがここまで支えてくれたことには感謝してる。――してるからこそ、いつか本気で戦い合う時に向けて鍛えるべきだけど……もっと言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だったよね?」

レティ「そう。それが、私が水希にメテオGの破壊を頼み込んだ理由の一つだったしね。……まぁ、尤も。今の今まで、そういったプログラムの存在に気づけなかったわけだけど」

水希「うん。話すの遅くなってごめん……」

レティ「いいわよ。どうせすぐ聞けそうにないと思ってたし」

 

謝罪に対して呆れ気味に返答するレティだが、彼女の性格上、僕自身がそれを打ち明けるまで無理な詮索はしなかったから、それに甘えて待たせてしまったこちらに非があるだけの話。

 

最初こそ胡散臭い女だと思って信用しきれなかったが、味方でいるうちに段々と頼もしく思えて、ようやく……彼女が果たすべき役割に最後まで付き合おうと、今この時を以て決心がついたのだ。

 

そういった心境をいま、ちゃんと自分の口から告げようとした。

 

水希「正直、ヨイリーおばあちゃんからはリンドヴルムを抑制するために体内に埋め込んだことしか聞いてないし、所詮は複製品(レプリカ)にすぎないけど……それでも、もし力を引き出せるんだったら………可能性に賭けてみたいと思ってる」

 

埋め込まれた場所である胸元に手を当てた。

微かにだが、鼓動とはまた違った波長が全身に張り巡らされていると感じ取れる()()()()()()

 

普段からそういった実感がないからこそ、リンドヴルムが言ったように『条件を満たした場合に発動する』システムだったそうだ。

 

そのシステムがあるお陰で、11年間ずっと意図しない暴発がなかったワケだし、ノイズの影響すらなんてことなかった。

もしかしたら、あの重力制御装置(ニュートライザー)の電脳空間で200の大群を相手する直前に受けた重圧感や息苦しさにも……微力ながら守ってくれたのかな……?

 

何にせよ、レプリカごときがオリジナルに遠く及ばずとも、可能性に賭けるのも悪くない選択だと思うでしょ?

現にリンドヴルムの力を失った状態だから、戦線復帰に向けて使えるものは使っていきたい所だしね。

 

レティ「いいの? これからもっとハードな特訓になるわよ?」

水希「ハッ、断われないの知ってるくせに……。そこまで言うならやってやるけど、それまでにちゃんと全員見つけ出しといてよ?」

レティ「当然よ。お偉方と取引成立させたからには必ず成し遂げるし、絶対にアンタを死なせないと約束するわ」

 

自己犠牲の激しさが玉に(きず)だけど……本当に、頼もしい味方ができてよかったと思う。

 

……けど、頼もしいのは、別にレティだけに限った話じゃない。

 

信武「水希……お前のやってること全部、要らぬお節介だと思ってたけど、それだけ本気だってことをようやく理解できたよ。

だから、その……俺にもできることがあれば、頼ってくれ。今度こそ力になれる気がして、嬉しいしな」

 

力になれる、か……。

そんなの、ただそばに居てくれるだけでも心強いのに。本当にどこまでも真っ直ぐだね。

 

水希「色々と我慢させてごめん。……でも、必ず見つけ出すから。それともし、FM星人と和解できそうなら……あまり責めないでほしいの。無理なお願いだって、わかってはいるんだけど……」

信武「……お前に言われたら断れそうにないな。いいぜ、約束する」

 

信武と同様に、不満と憎悪が抜けきってない。……ないからこそ、こうしてまたエゴを押し付けているのに。

信武は嫌な顔をせず……否。怒りを押し殺すように取り繕った笑みを浮かべながら、無理なお願いを聞き受けようとしてくれた。

 

……無論。立場が逆なら、自分も決断に迷ってしまうだろうが、信武の頼みであれば聞き入れたいと思ったはずだろうから。 

 

そんな複雑な心境を抱えながらも協力を惜しまない信武に、今一度「ありがとう」と感謝を述べたその瞬間。

気絶していたはずのリヴァイアが不機嫌面で、僕の右肩に手を回したかと思えば、信武から引き剥がすように抱き寄せてきた。

 

リヴァイア「なぁに良い雰囲気出してんだよ。俺も混ぜろよ」

信武「別に減るもんでもねぇだろ? むしろお前の方が長く付き添ってんだしよ」

水希「そうだよ。だってリヴァイアは最高の相棒(パートナー)なんだし。これからもずっと、そうであって欲しいと思ってる」

信武「最高の………婚約者(パートナー)、だと……?!」

 

何をそんなに狼狽えているのか……信武の心境についてはさておき、リヴァイアとは付き合いが長いからこそ、今さら僕の下から離れるなんて想像がつかないのだ。――なんてことを思っていると、不意にアゴをクイッと持ち上げられ、にこやかに微笑むリヴァイアと向かい合う。

 

リヴァイア「ねぇ水希、もう一回キスしても良い?」

水希「うぇ?!」

信武「ざっけんなテメェ横取りすんじゃねぇよクソ蛇!!」

リヴァイア「はぁ!? テメェこそ鏡見てから言えや間男野郎!」

信武「ハッ、まだ根に持ってんのかよ。女々しすぎんだろお前……あ〜あ〜まったく、こんな世話の焼けるペットだと飼い主も大変だろうな」

リヴァイア「んだとコラァ!!」

 

気づけば息をするように口喧嘩し始め、なんならベンチから立ち上がり取っ組み合っている所だ。

というかさ、どっちかって言うと、皆に世話焼かせてるのは僕の方なんだけどね……。

 

信武「殺んならケリつけたろか? 今ここで」

リヴァイア「ならハンデくれてやるよ、電波変換(へんしん)しやがれジャリガキ」

信武「言ったな? だったらお望み通りにしてやるよ!」

 

そう言った次の瞬間。信武の身体に光がまとわりついたかと思えば……本当に電波変換しちゃってるよ……。

リヴァイアも軽くストレッチをして殺る気満々だし……。

 

クラウン『まったく……痴話ゲンカに付き合わされる身にもなって欲しいものじゃ……』

 

多分これからも傍観者になるだろうし、そこはもう許してくれとしか言えそうになかった。

 

リヴァイア「言っとくが、俺ぁ水希と違って甘くねぇぞ?」

信武「じゃなきゃ張り合いがないだろ? 後で泣きを見ても後悔すんなよ」

水希「……おっ始める前にちょっと良い? 大丈夫なのリヴァイア? ただでさえ変身してる信武を相手にして……」 

 

実際に手ぶらの状態だから余計不安でしかないけど、逆にリヴァイアは得意げに笑い、ワシワシと僕の頭を撫でながら答えた。

 

リヴァイア「だいじょーぶ! この身体になってからすこぶる快調だし。簡単に負けはしねぇよ!

それにほら……別に素手で戦うなんて言ってないし!」

水希「いやどっから取り出してんのそれ?!」

 

いかにも魚を突きそうな()の長い(モリ)を、手品師みたいな手捌きで服の中から取り出すなんて……ワケガワカラナイヨ……。

 

信武「さすがに俺だけ武器持ちじゃ気が引けるしな……まぁ心配すんな。ガチで殺しはしないさ。そうなったらなったで後が怖いしな」

レティ「そうそう。痴話喧嘩も程々にしなさいよ、アンタ達?」

 

……とまぁ、そんなこんなで、止めても無駄そうな二人の戦いを見守ることにした。

 

 

 

 

信武「お前なんかに水希を渡してたまるか!!」

リヴァイア「こっちのセリフじゃボケぇ!!」

 

……といっても今、屋上ではなくウェーブロードに転移しており、それなのになぜか二人の叫び声が聞こえる気がしてならないんですがそれは……。

 

レティ「ホント、呆れちゃうくらい両手に花よねぇ?」

水希「茶化さないでよ……もう」

 

空いた所に座り込んだレティにもイジられるが、確かに二人とも、僕なんかじゃ不釣り合いなくらいカッコいいし、実力だって充分あるし、背丈もあって体格も良いし、筋肉付いてるし…………不平等じゃん。

なんだよ格差社会かよ、ふざけんな。

 

レティ「これから忙しくなるわね。色々と」

 

内心不満をこぼしていると、レティのおかげで羨んでいる暇なんてないことを嫌でも思い出させてくれた。

 

水希「そう、かもね……レティの見立てで、次の襲来はいつだと思う?」

レティ「遅かれ早かれ1週間後、ってところかしらね。……実際、今の実力でもFM星人と戦えそう?」

水希「戦えなきゃ、負けてばっかじゃ、面目丸つぶれでしょ」

 

襲来の予測を立てたレティからの質問に対して、迷いなく答えると、『その意気よ』とでも言いたげに口角を上げだした。

 

レティ「なら、私が責任持ってアンタを鍛え直すわ。……それとね、思い違いじゃなきゃ、まだリヴァイアにはリンドヴルムの力が若干残ってるはずよ」

水希「え、それホントなの!?」

レティ「そう。だからこそ、まずは実戦で扱えるくらいに感覚を取り戻せるかが課題かしらね」

水希「……そうなんだ。なら尚更、頑張らないとね」

 

予想とは外れ驚きはしたが……リヴァイアとは表裏一体だったからこそ、その繋がりが途絶えた状態だろうと……力が完全に失われてないのなら、死にものぐるいでも取り戻してやるまでのことだ。

 

今の自分に足りない物を補うためにも、絶対必要なことだから。




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次回もどうぞお楽しみに!


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50話 もう一人との和解

最近オリキャラの掛け合いばかりで本来の主人公(スバルくん)が空気と化してしまうという……。
出番増やさねば…!


漢と漢の戦いは……結果引き分けとなって、帰り際に「浮気なんか許さねーからな!?」とキレられたが……返す言葉も見当たらず、うなだれたまま帰っていく信武を見送ることしか出来ずにいた。

 

 

それから2日後の昼。

検査を終えて、無事に退院手続きも済んだのは良いが……リヴァイアが変にソワソワしてるなと思ったら、どうやら受付の反対側にあるパン屋に興味を向いていて、行こうか悩んでいるらしい。

外から見た感じ、店内はイートインスペースを広く設けていて、平日ゆえにまだ空いてそうだから、羽を休めるには持ってこいな気がした。

 

それだけじゃなく、入口付近に厨房が見える設計だから、手作りにこだわってそうにも見て取れる。……どうりで目が惹かれるわけだ。

 

水希「……せっかくだし、入ってみる?」

 

問いを投げると、ぱあっと笑みを咲かせてコクコクと頷くのだが、自分より背丈あるのに子供みたいに目を輝かせちゃって……可愛いやつめ。

 

そんなわけで付き添うように入店し、リヴァイアが商品を取っていってる間、僕は一足先に壁際のベンチシートに腰掛ける。

無論。あらかじめトランサーを預けており、電子マネー決済の手順も理解してくれてるから、これと言って心配はなかった。

 

……そうして目を閉じて待つこと数分。段々と足音が近づいたなと思い、目を開けたと同時に種類豊富なパンを乗せたトレーが置かれ、リヴァイアが隣に腰掛けてくる。

 

リヴァイア「お待たせ。はいこれ、流石に喉が渇いたんじゃねーかと思ってさ」

 

そう言って、グラスに注がれたアイスカフェオレを差し出すだけじゃなく、トレーを机の真ん中に寄せようとする。

 

リヴァイア「よかったら一緒に食おうぜ? 元々お前の金だから一人で食うんじゃ気が引けるしな」

水希「別に気にしなくてもいいのに……ありがとね」

 

気にすんなと言いつつもリヴァイアの厚意に嬉しく思い、ありがたく受け取ったカフェオレをストローで飲んだが、確かに喉が渇いてるせいか……気がつけば半分も飲み進めてしまっていた。

 

ストローから手を離し、一息ついてパンを手に取ろうとした時。

一口食したサンドイッチ片手にたまげた顔をするリヴァイアへと視線が行った。

 

リヴァイア「俺さ……実際に買って飲み食いすんの、人生で初めてなんだけど、ちょっと感動したかも……。想像以上に美味いよこれ」

 

元々宇宙人なだけあるだろうし、キズナ号にいた頃の食事なんて基本フードディスペンサーから出力されたデータだったから、実物を食しての感動ぶりに納得行くし、同時に誇らしく思えた。

 

人間にとって何気ないことを、これから体感するたびに感動を覚えるリヴァイアの姿が目に浮かび、笑顔が零れたのは言うまでもない。

 

水希「ねぇ、リヴァイアでさえよければ、なんだけど……」

リヴァイア「ん? どうした?」

水希「家に帰ったらさ、僕が作る手料理……食べて欲しいの。お姉ちゃんが作るご馳走より、味が劣るかもだけど………だめ?」

 

いざ言うとなると気恥ずかしいものだが、最後まで言い切ったその時。

心の底から喜んでいるリヴァイアに抱き寄せられた。

 

リヴァイア「ダメなわけねぇって。むしろ、俺の方から頼みたかったくらいだよ。い〜っつもスバルに手料理振る舞ってばかりで、こちとら羨ましかったんだぜ?」

水希「それじゃあ尚更、ガッカリさせないために頑張るから」

リヴァイア「あぁ。期待してるよ。……本当に、俺にとっても最高のパートナーだよ、お前は」

 

照れくさそうに笑いながら頭を撫でてくれて、相も変わらず優しい手つきにうっとりしていると、ふと妙な問いを投げかけられる。

 

リヴァイア「でも良いのか? 信武を呼ばなくてよぉ」

水希「そうしたいのは山々だけどさ……二人とも犬猿の仲なのに呼べると思うの?」

リヴァイア「確かに気に食わねぇ恋敵だけどさ、今回くらいは誘ったって文句ねぇよ。なんてったって俺は寛容だからな♪」

水希「嘘つけ」

 

リヴァイアの冗談には呆れたものだ。どうせ火花散らして睨み合うのが目に浮かぶというのに。

そんなことを内心思った矢先、我ながらハッとして声に出した。

 

水希「そうだ! レティも誘おうよ! 日頃の感謝を込めてって理由付けしてホームパーティーとか!」

リヴァイア「いいかもな。二人もきっと喜ぶと思うぜ」

 

ふと思い浮かんだ提案に乗り気な反応をしてくれて、「でしょー!」と自信満々に返して話が弾んだその時だった。

 

「おいおい、惚気ける暇があんなら待ち合わせ場所変えますって連絡くらい入れろよな……」

 

呆れじみたツッコミに、またもやハッとして振り向くと、苦笑を浮かべる私服姿のリュウさんがそこにいた――というか、来ると知ってはいたんだよね。

 

冒頭で言った検査は昨日行われたんだけど、結果は異常無し。翌日に退院しても問題ないだろうと医師にも言われ、お姉ちゃんとおかんだけじゃなく、知り合いの人、そして信武にも報告を入れたの。

 

……その時リュウさんが〈早めに健康診断を受けようと思って休暇取ったから。終わったら会えるか?〉って訊ねてくるから、OKとだけ返事して今に至るってワケ。

 

水希「あ、ごめんリュウさん! ていうか、もう健診終わったの?」

飯島「そんなところだ。相席、いいかな?」

水希「もちろん! 座って座って!」

 

断る理由なんて特に無いし。リヴァイアも、信武の時と違って邪険にはしないから大丈夫だとわかっている。

実際リュウさんは、強面な顔とは裏腹に愛妻家で家族思いな人だからね。

 

そんでもって相席してくれたけれど、ここテーブル席だから余計に三者面談っぽい構図になっちゃうんだよね。

 

飯島「お偉方から話は聞いたよ。お前の処遇に関連することすべて。……それと、お前の隣にいるイケメンがリヴァイアだってこともな」

リヴァイア「フフン。イケメンと言われて悪い気はしませんなぁ」

 

誇らしげに笑むリヴァイアを差し置いて、処遇のことで一昨日(おととい)の裁判長とのやり取りを思い返し、不安な気持ちが声音からも滲み出る。

 

水希「僕が戻って来てると知った時点で、裁かれても何らおかしくない状況、だったんだよね……」

飯島「まぁな。お偉方からすれば『青二才ごときが出しゃばっておいて、護衛任務を放棄するなんて言語道断だ』っていう風に見られても仕方ない話だしな」

水希「そうしてまた、色んな人に守ってもらってる……。誰から見ても救いようがないのにね――痛って!」

 

俯いた瞬間を狙ったかのような、不意打ちのデコピンを食らってしまい、額を押さえている間にリュウさんは溜息をこぼして言った。

 

飯島「あのな……救いようがないなら、そもそも連れて行こうとも思わないだろ。

それでも同行を許して、一足先に地球へ送り帰そうとしたのは、たとえ何年かかろうと、お前達が簡単に諦めたりしないと確信を持ってるから。――そういう風に、信頼してくれてると考えたこともないのか?」

 

リュウさんに諭されるなかで“信頼”というワードが出ると思わず面食らうが、言うほど肯定的に捉えたこともないため、即座に首を横に振った。

 

水希「正直な話。自分に課せられた使命だからとしか、考えてないよ。……そうしたいと、そうすべきだと思ったから、動いたに過ぎないよ……」

飯島「要は……償いのつもりで、か?」

 

静かに頷いて、話を続ける。

 

水希「出しゃばってることに変わりないし、間違った選択じゃないって言い切れないけど………もう二度とバッドエンドで終わらせたくなかったから……」

飯島「それでいいじゃねぇか。ごちゃごちゃ考えるより先に動けりゃ、どうとでもなるさ」

水希「うん……」

飯島「今だからこそ言うが……確かに俺達みたいな大人は、お前達を“利用価値のある道具”だと見なしていたよ。

……でも、出会ってから時間が経つにつれて、お前達が育んできた絆に感化された奴だっている。イカれた計画を立てやがった大吾がいい例だ。

だからこそ、計画に携わった連中は皆思ってるはずだ。断念されたとして諦めきれないし、是が非でも成し遂げたいという気概が失せるはずもないんだから

だから前にも言っただろ? 戦ってるのは、お前達だけじゃないって」

水希「おとんにもぶたれたことないのに〜」

飯島「まだ根に持ってんのかよ。ここぞとばかりにおちょくりやがって」

水希「おちょくるも何も、ほんとに痛かったんだからね?」

 

過去を掘り返されたことに苦笑を浮かべるリュウさんだけど、心中を話すと「そりゃ悪いことしたな」と悪びれのない謝罪が返ってきた。

 

飯島「なぁ、この後予定はあるか?」

水希「ん〜……あると言っても、お姉ちゃんの家に荷物置くくらいだけど。他はないかな」

飯島「なら、それ食べ終えたら行こうか。ちょっとだけ席を外すよ」

 

引き止める間もなくリュウさんは退店して、釈然としないままリヴァイアと顔を見合わせるが、

 

リヴァイア「あんまり待たせるのも悪いし……残ったパンは持ち帰りにした方がいいかもな」

水希「そうだね」

 

戻ってくる前に店員さんに一声かけ、貰ったレジ袋に未開封のパンを詰めた後、食べかけと飲みかけの物を胃に収めてから退店し、合流すると「もう食い終わったのかよ?!」と目を見開くリュウさんにツッコミを入れられたので、レジ袋を見せたら納得がいった様子。

 

 

 

 

 

……そうしてリュウさんの車に同乗し、雑談を交えながら走らせること数十分。

路肩の駐車スペースに停めたと同時にエンジンも停止した。

 

飯島「着いたぞ」

 

その一言を聞いてシートベルトを外し、後に続くように降車する。

 

目的地とされる場所は、都内のビル群に(そび)える全面ガラス張りのオフィスビル。

そんな所に訪れる理由なんて見当もつかないが、先導するリュウさんに続いて中へ入ると、エレベーター付近で待ち構える人影があった。

 

水希「――天地さん?」

天地「退院おめでとう水希君。……リヴァイア君も、無事で何よりだよ」

リヴァイア「……本当なら、天地さんにそう言ってもらう資格もないけどな……」

天地「まったく、人が心配しているというのに……そうやって卑下する所も水希君とそっくりなんだね」

 

見知った人物だと知って尚更、リュウさんに付き添う理由は分からずじまいだが、ひとまずは謝罪すべきだろう。

 

水希「心配かけてばっかでごめん。……正直言うと、もうダメかもって思ってた」

天地「……君達からすれば、生きた心地がしないんだろうけど……今は素直に喜ぶべきだと思うよ。

何しろ、信武君とちゃんと仲直り出来たんだろう?」

水希「そのつもり……だけど、本当の和解は、信武のお父さんを、ちゃんと救出できてこそだと思ってる」

 

途切れ途切れに答えると、気遣ってくれた天地さんの口から「そうか」と気を落とすような返事が返ってきた。

 

飯島「それは一旦置いておくとして、だ。……まだ、もう一人いるんじゃないのか?」

 

“もう一人”が誰なのか、会話の流れからようやく理解する。……というより忘れちゃダメなことなんだ。

 

水希「――深祐(しんすけ)さんも、ここに来てるの……?」

 

僕の問に、天地さんは笑みを浮かべながら静かに頷いた。

 

天地「君と宇田海のことだから、こうでもしないと後々引きずるかもしれないと思ったんだよ」

飯島「そういうコト。……お前の、数少ない友達なんだろ?」

水希「でもさ……ごめんじゃ済まないことをしてきて、今更なんて言えばいいか――ッ!」

 

分からない。

そう言い切る直前、左肩に手が置かれ、振り向くと、リヴァイアが不安を払拭してくれそうな優しげな微笑みを向けて言った。

 

リヴァイア「思ったことをそのまんま言えよ。――大丈夫。俺も付いてるから」

 

その言葉にようやく決心がついてエレベーターに乗るのだが、屋上階まで滞りなく上る最中、二人の見えないところでリヴァイアの手を握ると……強く握り返され、その安心感に包まれながら『いざ深祐さんと面会しても臆するな』と自分に言い聞かせた。

 

そうして屋上階に着いてエレベーターを降り、外に設置されたアンテナの近くまで歩み進める。

 

深祐「戻ってくる間にチェックは、済ませ、ましたよ……」

 

足音に気づいて作業の手を止めた深祐さんが、振り向きざまに目を見開いて驚いた。

 

深祐「……水希君……?」

 

……実際、何日も眠ってたし、目覚めてから数日は絶対安静だろうけど、回復が予想以上に早かったから驚かれるのも無理ないと思う。

だからこそ、普段通りに微笑んで答えた。

 

水希「思う所はあると思うけど、体調ならもう大丈夫だよ。現に歩けるまでに回復したし」

深祐「あぁ……それはいいんだけどさ、なんでここに?」

水希「それを話す前に……、二人っきりにしてもらっても良い?」

天地「あぁ。大丈夫だよ。作業の方は丁度ここで最後だったから」

 

本題に入る前に確認を取り、天地さんがOKしてくれたところで視線を移すと、リヴァイアは何も語らず頷いてくれた。

 

そうしてアンテナから離れた所にまで来て、しばらくは屋上からの景色を眺めたままだったけど、長引く沈黙を破ったのは深祐さんだった。

 

深祐「信武から聞いたよ。仲直り出来たんだってね」

水希「……うん。勝手にブラザーバンドを切ったりして、何年も苦しめてきたのに……それでも、許してくれたの」

深祐「そっか」

 

傍らで聞いてくれるなか、手すりを握る力を強めながら胸の内を明かし続ける。

 

水希「でもそれは、深祐さんに対しても同じことだったのに……深祐さんには何の落ち度もないのに……、二人を傷つけておいて、それが正しいことだって言い聞かせて、責任逃れしてた……」

深祐「――――」

水希「それもこれも、自分が望んだことだから。――だからこそ、一生二人の親友であり続けられる資格がなかった……許して貰えるなんて、許して貰おうだなんて、考えもしなかったから……」

深祐「………それでも、判っていたよ。どうしてあの時、僕達を突き放そうとしたのか」

 

話すたびに段々胸が苦しくなって、言い淀んでしまったのを境に、話し手と聞き手が切り替わるように深祐さんが話かけてきた。

 

深祐「……たしか、信武には同じ道を進んでほしくなかったんだよね……?

心無い人間からの非難を受けたり、大事な人や物を奪われるような過去を持つ限りは誰も信じられないし……本当に辛い時、頼りたくても頼れないと思う。僕も似たような経験をして来たから、痛い程わかる。

それに……いくら信武が強くても、君が立っている戦場(ばしょ)に居続けられる胆力があるかもわからない。

それを見越して突き放していたことを、理解できてた、はずなのに、キグナスに取り憑かれてから憎悪に駆られて……君一人に怒りをぶつけるのは筋違いなのに、酷いことを沢山――」

水希「違う!」

 

心底辛そうにして話す深祐さんを、声を荒らげて遮った。

 

水希「……当然の報いなんだよ。それでいて、信武と口論になった時だって被害者ぶってた。

だってのに……みんな揃って甘すぎるんだよ、どこまでも」

 

俯いてしまったその時、さっきまでの辛い感情はどこへやら優しげな口調で深祐さんは言った。

 

深祐「そりゃあ甘くなるよ。不器用なりに、必死に頑張ってる姿を見れば、誰だって甘くなるはずだよ」

 

「それにね」と付け加えて、続ける。

 

深祐「僕らからすれば、君はいくつになっても子供のままだから。誰もが君を放っておけないと思うし、簡単に命を捨てそうで危なっかしいと思うから、世話焼いてでも守りたかったんじゃないかな。

特に大吾先輩は、タフそうに見えてその実、君の人生を変えてしまったことに罪悪感を抱えてたよ」

水希「……そうだとしても、強くなりたかったから。だから自分の意志でその人生(みち)を選んだんだよ。そうすれば認めてもらえると思ってたから。

……でも結局、思い上がりに過ぎなかった。弱い頃からずっと変われてなかった……だから、クルーの皆を守れなかった…………だけど、これだけは言わせて」

 

声を震わせながらも、視界が涙でぼやけながらも、深祐さんと顔を合わせてから発言した。

 

水希「今度こそ、クルーの皆を助け出すよ。

そしていつか、もう一度()()親友(ブラザー)として、やり直させてほしいの……もう二度と、なにも間違えたくないから……」

 

この期に及んで、復縁なんて虫が良すぎる。

 

そう言えるほどの身勝手な都合を押し付けて、二人に辛い思いをさせたことは、決して許されることじゃない。

 

それを承知の上で伝えたら、不意に抱きしめられ、耳元で囁くように深祐さんは言った。

 

深祐「うん。見放されたかと思って、すごく辛かったよ。だからいつか、元通りになれるまで待ってるから。……でも、無理はしすぎないでいいから、焦らずにね」

水希「……うん」

 

信武に抱きしめられた時とはまた違う温もりを感じて、胸の苦しみが和らいだ気がした。

 




仲違いした状態から元通りになるまでの流れ作るのって本当に難しいですが、やりがいというか書き甲斐があるからやめられないです。

あと、一部の読者に言いますが、冒頭の浮気についてはアナタのことじゃないので。ホントですよ?(ーωー)


ここまで読んでくださりありがとうございます。
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次回もお楽しみに。


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51話 戻ってきた日常

夕暮れ時になって、車を走らせること数十分。

 

都市から外れた郊外のコダマタウンに差し掛かり、同乗者である水希君とリヴァイアが住んでいる家、もとい大吾の持ち家に辿り着く。

 

飯島「忘れ物はねぇか?」

水希「うん、大丈夫。ありがとね、家の前まで送ってくれて……リヴァイア? どうしたの?」

 

ハザードランプを点滅させてすぐ路肩に停め、バックミラー越しに水希君と視線を合わせたら笑顔で礼を言ってくれたのだが……リヴァイアに目が行った途端に脈絡のない質問を投げたので、続けて後ろを振り返った瞬間、呆けた顔の彼が返答しだした。

 

リヴァイア「……俺思ったんだけどさ、車を運転できるようになれば、デートも兼ねてドライブに連れて行けるんじゃねぇかと思って……」

水希「……ふ、ふふ……なんか意外」

飯島「お熱いねぇ。お前らいつの間にそういう関係になったんだ?」

 

元々宇宙人である彼の言葉にますます人間味を感じて、これには水希君も笑いが込み上げてしまった様子。

 

まぁ俺としては、同性愛への理解はあれど抵抗は無く無いが、この二人の親密度から何となく予感し、“そう”だと知った所でおちょくり甲斐があるもんだ。

 

リヴァイア「なんだよ二人して! そんなに可笑しいことなのか?!」

 

小っ恥ずかしく感じたのか頬を赤らめながら訊ねるリヴァイアに対して、水希君は「ううん、違うの」と否定して続けた。

 

水希「むしろ逆。もしそうなったらって思うと楽しみで仕方ないよ」

リヴァイア「ほんとか!?」

飯島「あぁ、その……盛り上がってる所すまんが……教習を受ける以前にさ、住民票とか戸籍はどうするつもりなんだ?」

水希「あ…」

リヴァイア「………あぁ、そうだよね……いくら見た目が人間だろうとそうは問屋が卸さないもんね。知ってたよ? うん、知ってた………」

 

二人の会話に水を差すようで申し訳ないが、後々(のちのち)知って後悔されるより先に現実を突きつけると、テンションだだ下がりになって苦し紛れの嘘をつく始末なのだが。

 

水希「まぁまぁ、移動手段なんて他にもあるんだし。デート自体が楽しければいいんだから。……ね?」

リヴァイア「ッ、水希ぃ……!」

 

落ち込んだかと思いきや嬉し泣きかよ。忙しい奴だなぁおい。

 

水希「そろそろ戻るね、お姉ちゃんやスバルも心配するだろうし」

飯島「あぁ。二人にもよろしく伝えといて。困ったことがあればいつでも相談してくれって。……無論、君達もね」

水希「うん! その時はお願い」

 

長い会話を経て二人はようやく車から降り、「じゃあね!」と手を振ってくれる水希君に手を振り返した。

 

 

 

 

飯島「――――」

 

……すぐ車を発進させればいいものを。

 

しかし視線は、手を繋ぎ合って帰宅する二人へと行ってしまい、いっそのこと玄関にたどり着くまで見届けようとしていた。

 

……本当に、人生って不思議なもんだな。

 

宇宙人である彼と交流を持ったあの子が、まさか戦場に立てるほどの力を得るようになって、数々の挫折と後悔がありながらもドン底から這い上がろうとする。

 

そのような姿勢に影響されていった大人達が、何人もいるなんて……。その内の一人でもある俺ですら、当時はこれっぽっちも思わなかっただろうしな。

 

ただ……天地から聞いた話によると、信武君を相手に負け続きで自信を失くしたそうだが……その敗北を知ったからこそ、持ち前の負けん気があれば成長の余地はあるだろうし、今に至るまでの経験は、決して無駄じゃないはずだと確信を得ているのだ。

 

無様だろうと、泥臭かろうと、強くなるための努力を惜しまなかった彼だからこそ、報われるべきだと思っているから。

 

飯島「……。――フッ…」

 

ふと笑みがこぼれてしまった。

日頃の険しい表情から一変して、綻ぶように笑う水希君の横顔が見えたから。

 

 

そうだ……それで良いんだよ。

 

 

愛されることに喜びを抱いて

 

不条理な現実に怒りを覚えて

 

報われぬたびに哀しみに暮れて

 

そんな日々でも楽しい思い出を作れたはずだろ

 

 

そういった感情を持ってるお前が、人形(ニセモノ)なわけねぇんだから。

 

……だから、

 

飯島「もう二度と、手放そうとすんなよ」

 

そう呟いて、彼の早い復帰を願いながらその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

一方、その頃。

 

信武「……なにか、ものすごく妬ましいことが起きそうな気がする……」

 

居候先で借りている部屋の窓辺から夕焼け空を眺めながら、誰かさんのことで胸騒ぎを感じたがゆえに独りごちる信武だが。

クラウンは内心『どうせ色恋沙汰じゃろうが……』と、思い当たる節しかなかったが聞かぬフリをするのであった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

スバル「お帰り兄ちゃん。リヴァイア」

あかね「遅かったわね。どこか寄り道でもしてたの?」

 

玄関に入った矢先、お姉ちゃんとスバルの二人が出迎えてくれたことに驚きはしたが、ただいまと挨拶を返すより先に説明する。

 

水希「古い友人に会いに行っただけ。一応仲直りはしたけど、完全に和解できるまでにやることが増えちゃったみたい」

あかね「……そう。頑張れとしか言えないけど、せめて悔いのないようにね」

水希「うん。頑張るよ。……というか、ずっとここで待ってたの?」

 

湿っぽい話から一転して呆れ気味に問うたが、二人してニコニコと笑うだけで返答はなく、その様子に訝しんでいたのだが。

 

『―――おいおい、忘れてもらっちゃ困るぜ』

 

スバルの腕にあるトランサーから声がしたと同時に、居候してるウォーロックが出現するもんだから……リヴァイアも僕と同様に身体が強張ったことだろう。

 

ウォーロック「お前らが帰ってくるだろうと気配で感じてな。そのことを二人に教えてやって、ここで待ち構えてたんだよ」

リヴァイア「いや………お前出てきて大丈夫なん?」

 

それ、言おうと思ってた……。

なんの躊躇もなしに出てこられても反応に困るってのに。

 

だが、焦りと驚きを禁じ得なかった僕らとは裏腹に、お姉ちゃんに至ってはまったく動揺せず、苦笑するスバルですら現状を受け止めてる様子が窺えた。

 

あかね「アンタらがいない間に色々あってね。まぁ何しろ、リヴァイア君の存在を知っていれば、今更一人増えても驚きはしないわよ」

ウォーロック「そういうこった。これでもう心置きなく出てこられるってわけだ」

スバル「僕としては、バレたらマズいなぁとは思ってたけどね……」

 

……ですって。心配して損したわ。

 

 

(まぁ何はともあれ、隠れてコソコソする必要も無いならそれに越したことはないけど、ただなぁ……戦場に立つと知ったからには、お姉ちゃんにとって不安の種にもなり得るんだよなぁ……)

 

……なんてことを内心考えていた最中、ウォーロックが訝しげな視線と質問をリヴァイアに投げかけようとした。

 

ウォーロック「つーかオメェ……本当にリヴァイアなのかよ? つい先日まで如何にも宇宙人な見てくれだったってのによ……」

リヴァイア「クフフ……ごめんな兄弟。俺、生まれ変わったんだ」

ウォーロック「ホント何に対しての謝罪なんだよ……」

 

満面の笑顔で意味不明な返しをされて、こればかりはウォーロックも呆れ全開であった。

 

でもまぁ、色んな人にイケメンって言われて浮かれない方が無理なのかもしれない。

実際自分も、同じ男でありながら見惚れてしまうほどだからね。

 

水希「そういえばさ、スバル。この青髪のイケメンがリヴァイアだって判ってた?」

スバル「いいや、その辺はまだ全然理解が追いついてない」

水希「あぁ、そっちか……見舞いに来てくれた時、妙に大人しかったから気になってたんだよね……」

あかね「ま、ここで長話するのもなんだし。とりあえず夕飯にしましょう?」

 

姉の言葉に従って、靴を脱いでダイニングに向かう。

 

 

 

……そうして、夕食は、先日の約束通りにハンバーグが出されたが、3人分しか作られなかったので僕の分を二つに分け、それを口に運んだら、

 

リヴァイア「……ッ!!!―――俺……生きてて良かった」

あかね「大袈裟ねぇ。そんなに喜んでくれるならもっと作れば良かったわ」

 

たしかに、いつか自分で言ってたもんな。

あかねさん(お姉ちゃん)の手料理を食べてみたい』って。

 

その念願が叶ったからこそ、感動しているリヴァイアを見てお姉ちゃんも満更じゃない笑みを浮かべており。

僕自身も弟として誇らしく思うと同時に、腕が劣るとしてもお姉ちゃんには負けられないと思ってもいた。

 

いつかリヴァイアと信武、そしてレティの口から「美味しい」って言葉をもらえるように頑張んなきゃ…!

 

 

その“いつか”が訪れるまでに何を作ろうかと悩み倒しつつ、ハンバーグを口に運び入れ、噛むたびに広がる肉汁を堪能した。

 

 

 

 

 

そうして夕食を済ませた後、借りている部屋のドアノブに手をかける直前だった。

 

スバル「ちょっといい? 話したいことがあるんだけど」

 

神妙な顔をするスバルに呼び止められ、何事か問う前にスバルの自室に来るよう促された。

 

水希「そんで、話って何?」

 

部屋に入って、適当な場所に座り込む僕とリヴァイアと向かい合うように座り込むスバルが言葉をかけた。

 

スバル「……この前、病院でさ、兄ちゃんに認めて貰えるように頑張るって言ったじゃん?

でもさ、具体的にどう頑張ればいいのか、まだわからないから……」

水希「要は、実力をつけるにはどうすれば良いかが悩みなの?」

 

その質問にスバルは首肯し、解決方法があれば知りたいと言わんばかりに僕の返事を求めているのが見て取れた。

 

水希「まぁ、端的に言うとね……ひたすら実践あるのみなんだよ。もちろん自分より強い人に稽古をつけてもらうことも大切だけど、そこで学んだことを実践で活かす方がよっぽど――って、大丈夫?」

リヴァイア「……説明の仕方が悪いんじゃねーのか?」

 

つい話に夢中で、スバルが目を伏せたまま困り顔になっていることに気づけず、相棒にも呆れ気味に指摘される始末だ。

 

スバル「ううん、大丈夫。兄ちゃんが話してることは何となくわかってるつもり。……だけどもっと、具体的に、どんな方法で強くなったのか……その話が聞きたいんだよ」

リヴァイア「そういうことなら、俺から話しても大丈夫か?」

スバル「お願いします」

 

説明が下手な上に早とちりしてしまう悪癖が出て、居心地悪いと感じていた所だが、畏まるように願い出るスバルに「了解」と返答をして、説明が始まった。

 

リヴァイア「まず、お前も知ってるように、俺達が何度も使ってきた水と氷を操る能力……それを用いた戦い方を極めたのが俺達の強みってわけだ」

水希「でも今じゃ、だいぶ弱体化してるからスバルにすら負けちゃいそうだけどね」

スバル「それは絶対あり得ないね。弱体化してるのが本当だとして、兄ちゃんそもそも本気出してくれなかったじゃん」

水希「切羽詰まる程じゃなきゃ本気出せないってだけ。それに弟をイジメて(よろこ)ぶほど落ちぶれちゃいないもん」

リヴァイア「脱線してる所悪いが続けるぞ。……今さっき言った強みについてだが、なにも、能力に限ったことじゃねぇんだ」

 

一拍置いて、続ける。

 

リヴァイア「例えばの話。変身してない生身の状態で体力作りしたり、水希が言ってたように、強い人から稽古をつけてもらうのも手段としてはアリなんだ。

そういった経験を積んで行きゃ、いざ実践となった時に役立つ時だってあるんだよ。

それこそ水希が、剣術に長けている信武と初めて戦った時だって……そうだろ?」

 

急に話を振られた所でリヴァイアとバトンタッチし、思い当たる節を語る。

 

水希「何度も負け続いてたけど、まったく手も足も出なかった訳じゃないの。

信武と剣を交えた時も、試合の時の動き方を観察したおかげで少しでもまともに打ち合えた。

だからこそ、相手の動きをよく見ることも、強くなる為に必要なことなんだよ」

 

対人戦経験が少ない分の穴埋めとして、能力の扱いについては言わずもがな。剣術は信武の動きを見様見真似で。体術は……お姉様直々に叩き込まれたおかげであって……。――その経験を活かそうと、街に潜む電波ウイルス相手に幾度も実践を重ねた。

……結果。信武との戦いを経て改善の余地があると気づき、もう二度と負けないよう鍛え直す必要性を見い出せたわけだ。

 

スバル「じゃあさ、もう一度戦ってよ」

 

そんな時。スバルの口からそんな言葉が出て驚きはしたものの……リハビリも兼ねてなら問題無いか。と、スバルの提案に乗ろうとした。

 

水希「模擬戦なら構わないけど……お手柔らかにね」

スバル「どの口が言うんだか」

 

苦笑交じりに悪態をつくスバルに続いて、僕も立ち上がり――

 

「「電波変換!」」

 

意気揚々と唱えた瞬間。青い光と水色の光が各々の身体を包み込んでいく。

 

 




色々書きた過ぎて長くなりそうな予感しかないというw

次回もお楽しみに!


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52話 再戦

「「電波変換!」」

 

二人同時に唱え、各々の色を象徴とする光粒子が全身を駆け巡るようにまとわりつき、やがて換装を終える。

 

スバル「……うぇ?!」

 

何をそんなに動揺させるのか疑問に感じていたが、リヴァイアが「なんじゃこりゃあ!?」と声を荒げ、視線を変えると……その疑問も呆気なく解けた。

 

さっきまでのツナギ服は何処へやら、いかにもファンタジーっぽさを匂わすような戦闘服らしい装いへと変貌しているではないか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

いや、そこは一旦置いておこう……。

 

なんだテメェこの胸筋はよぉ!

ピッチピチのノースリーブ越しから自己主張しやがってふざけんじゃねぇぞ当てつけかコラぁ!?

 

スバル「兄ちゃん……目が怖いし、顔も怖い……」

ウォーロック「いやいや、俺を寄越せって脅してきた時よりまだ可愛い方だぜ……」

 

その節は本当に申し訳ない……今思い返しても完全にどうかしてたわ。

 

リヴァイア「は?………寄越せって何? まさか俺と信武(青二才)を差し置いてコイツと付き合おうとしてたのか?」

水希「違うし! なんでそんな曲解すんのよ!?」

リヴァイア「だよなぁお前に限ってこれ以上男増やすとかあり得ないし後々増えてこられても潰せば良いだけだし大丈夫大丈夫」

ウォーロック「おい待て命の保証はどこ行った!?」

水希「……もうその話は置いとこうよ」

 

 

 

 

そんなこんなで。スバルと二度目の模擬戦……と行きたいところだが、すっかり夜も更けているので明かりがある場所じゃないと落ち着かない。

 

そんなちっぽけな理由で、時間帯的に夜景スポットへと様変わりした都心にまで移動し、適当なビルの屋上へと降り立った。

 

無論。姉にはあらかじめ一言伝えたので心配かけることはないだろうが、たかが模擬戦だろうと集中しやすい環境が良いと判断して、消去法で都心にまで来た次第だ。

 

水希「見えにくいならもう少し低い建物目指す?」

スバル「いや、ここでも十分見えるよ」

 

僕の質問に答える間に準備運動をしていたので、こちらも準備に取り掛かることにした。

 

右手を差し伸ばし、目を閉ざした後に水蒸気をかき集めるようなイメージを描く。

 

蒸気をさらに凝集させて水に変えるイメージを描いて、大きさがバレーボールと同程度の水塊を造り出せた。

 

水希「……出来た」

 

自分でもわかるくらい弱体化したから不安だったが、【水を生成する】という単純な工程を多少時間がかかってもできたことに安堵する。

 

それと、水塊を先の尖った円錐(えんすい)状や棒状など様々な変形ができる辺り、コントロールと精度はそこまで鈍っておらず、戦うには申し分ないと知れたから充分だ。

 

水希「今回の模擬戦なんだけど、僕は水塊(コレ)一つでどこまでできるか試したい。でもスバルは前回同様どんな手を使ってもいいから攻撃をしてきて」

スバル「わかった。それじゃあ……行くよ!」

 

水塊をサーベル状に変形。硬質化が済んだと同時に、初手はスバルから仕掛けてきた。

 

ロックバスターからエネルギー弾を射出、狙いすました攻撃だったが少ない動作で危なげなく回避し、そのまま攻守交代。

 

眼前まで近づいてサーベルを振り下ろす。その行動に対してスバルはシールドを展開して対処。

 

水希「……少しずつギアを上げてくよ」

 

一度後退して構え直し、スバルも武器をソードに変えて、どちらともなく助走をつけて剣を交えた。

アバウトな言い草になるが、前回よりも遥かにスバルの動きが良くなっている気がして、もしかしてと思って質問を投げる。

 

水希「こんな短期間で太刀筋が良くなるくらいだから……ひょっとしてさ、信武に手解きしてもらったの?」

スバル「少しね。滅多にない機会だから勉強になったよ」

水希「そりゃそうだ。信武教えるの上手いから良い事づくめだしね。――続けるよ」

 

軽い談笑で緩んでいた気を引き締めて、再び打ち合う。

 

ただ惰性に剣を交えるのみならず、時折フェンシングの要領で突きを繰り出したりして変化を付けるが、どの攻撃も加減してるとはいえ、目視で追いつけるスバルの成長に感心してしまい、

 

水希「どんな手を使ってもいいって言ったんだから使ってみてよ、三賢者のチカラ」

 

我ながら魔が差して、変な提案を言葉に出したものだ。

 

一瞬戸惑いを見せたスバルだったが、それなら……と前置きをして、真剣な面持ちになりながら、懐から一枚のカードをチラつかせた。

 

スバル「兄ちゃんも、まどろっこしいのは止めて本気で来て」

 

瞬間。スバルの左腕に装着されていたソードが消え、普段身につけているトランサーとそっくりの端末が見えたと同時、

 

スバル「スターブレイク――アイスペガサス」

 

そこにカードを読み込ませて、合言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

……三賢者の力の一端を見た第一印象は、綺麗の一言だった。

 

憎悪など負の感情に満ちたリンドヴルムの力とは対極的で、淀みも穢れも全く感じられず、それでいて強大な力を内包しているように見て取れるから。

 

本当になんとなく思ったことだけど、スバルを使い手として選んだ三賢者はお目が高いのかも。

 

呑気なことを考えていた矢先、バスターを構えるスバルが仕掛けてきた。

 

スバル「〈アイススラッシュ〉!」

 

僕の十八番と似つかわしい氷の(つぶて)が迫ってくるが、サーベル状に型取っていた水塊を円盤状に広げていき、触れた瞬間に氷の礫が蒸発するが、スバルの表情に動揺は見られない。

 

むしろ遠距離が無駄だと悟って即座に間合いを詰めてきたものだから、近接戦闘になると予感して水塊を引っ込めて応戦した。

 

僕よりもバトルセンスがあるだけに身の熟しは悪くないけど、それなりに経験している身として簡単に隙を作らせるほど、甘くはない。

 

そう思い知らせるように、胸部目掛けて蹴りを放つ。

 

不意打ちで放ったからスバルも当然目で追えず、為す術もなく吹き飛ばされ、すぐには起き上がれそうになかった。

 

水希「もう終わり?」

スバル「…………そん、なわけ、ない!」

 

吐き捨てるように挑発すると、流石のスバルも苛立ちを隠せはしなかったようで、高く飛び上がってすぐさま両手を空へ掲げた。

 

スバル「SFB(スターフォースビッグバン)

 

リヴァイア「ッ! 水希!!」

水希「止めないで」

 

足元を照らす巨大な魔法陣に、危機的状況と見たリヴァイアが止めに入ろうとする前に抑制させて、スバルと視線を合わせて言った。

 

水希「来な。アンタのすべてを見せて」

スバル「――〈マジシャン・フリーズ〉!」

 

 

足元に冷気が漂う。

 

そう感じた直後に巨大な氷柱が生え、文字通り氷漬けにさせられるのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

兄ちゃんの挑発に乗せられたが故に、完全に血迷ってしまっていた。

 

地面に降り立って、我に返るけど……僕を叱りつけたい気持ちと兄ちゃんの安否が気になって仕方ない気持ちが入り混じったリヴァイアの顔を見て思った。

 

(や ら か し た !!)

 

そこからはもう頭が真っ白になって、呆然と立ち尽くすまま時間が過ぎるのだが、

 

水希「融けよ」

 

兄ちゃんの声が聴こえたその瞬間、みるみると氷が融けていき、余裕の笑みを浮かべる兄ちゃんと目が合った。

 

水希「まさかとは思ったけど、リヴァイアとの特訓がここで活きるなんてね」

リヴァイア「まさかってお前な! ホントにやられてたらどうする気だったんだよ?!」

水希「そりゃ腐っても能力の扱いを極めてきたワケだし。今のでやられるくらいなら、その程度だったって話じゃん」

 

呆れた……。

極めてる云々以前に、すぐ調子に乗って、挙げ句無茶ばかりする所もここまで来ると呆れてしまうもんだ。

 

スバル「だからってさ……僕が言えたセリフじゃないけど、何もそこまで体張ることなくない?」

水希「いいのいいの。あくまでも自己責任ってやつだし」

 

なんにも良くないんですけど?

むしろアウトだって理解してもらわなきゃ困るんですけど?

 

リヴァイア「……まぁさ、いざという時のために対策して損は無いって言ったの俺だけど、見てるこっちは肝冷えっ冷えで堪ったもんじゃねぇんだぜ」

水希「でも、無駄にはならなかったでしょ」

 

どれだけ(なじ)っても悪びれもしない兄ちゃんに呆れ果て、リヴァイアと共に重い溜息を吐いてしまうのだが。

 

水希「さっきのような大技が必ずしも通用するとは限らないから。どんな奴が相手でも、決して最後まで油断しないよう気をつけて」

スバル「う、うん……?」

 

兄ちゃんからアドバイスを受けたにもかかわらず、釈然としないまま、二度目の模擬戦は終了となった。




リヴァイアの戦闘服は、推し絵師である、はちのす様より描いて頂いたものです。マジ神作です大好きです。



【挿絵表示】

あと、本編でまったく触れませんでしたが水希の新衣装で、こちらは自(信)作です。
ロックマンシリーズ特有のメカメカしさ皆無ですが、デザインは好みの寄せ集めです。


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53話 成長の余地

読者様……お久しぶりです……。

体調管理を疎かにしたせいか、喉風邪が長引くなど……ここ最近は執筆のモチベーションがだだ下がりになっておりました。

上記の他にも、今後掲載する予定のシナリオに向けてストーリー構成の見直しがあるため、投稿頻度は落ちると思います。




模擬戦を終え帰宅した後のこと。

 

5日も眠ってたとはいえ入らないと不潔だし、何より疲れを癒やしたいなと思い、身体を洗い流して湯船に浸かっていた。

 

水希「ねぇスバル、こうして一緒に入るの久々だよね」

 

ふうと一息ついて話を振ると、肝心のスバルは俯いたまま不貞腐れており、その原因が自分であると知りながら再度尋ねた。

 

水希「どした、のぼせた?」

スバル「違うよ……兄ちゃんってさ、つくづく嘘つきだよね。弱い弱いって自分を下げてるけど全然そんなことないし、ますます勝てる気がしなくて自信失くしそうなんだよ……」

水希「何言ってんだか。そもそもアンタまだ子供なんだし、いくら素質ある原石だとしても経験が浅くて当然でしょ」

スバル「でもさ、あの時僕が放った攻撃を真正面から受けるなんて無茶して、本当に氷漬けのままだったらどうしようもなかったのに」

水希「そうだね」

 

確かに、放った必殺技をわざわざ受けるだなんて、傍目から見てもトチ狂ってるしリスク激高だったから、スバルの苦言はとても否定できやしなかった。

 

水希「でも、攻撃がまったく効かなかったわけじゃないよ」

 

目を見開きながら顔を上げたスバルに、必殺技を受けた時のことを話した。

 

水希「あらかじめ全身に水をまとわせて、氷漬けにされる前に動けるスペースを確保したから、そのおかげで手とつま先が霜焼けになる程度で済んだんだよ」

 

元より水と氷を自在に操ってこれたから、弱体化したとしてもひょっしたら出来んじゃね?と軽い気持ちで試した結果、氷漬けの状態から抜け出せた。

 

そうやって機転を利かすことも能力を極めるには大切なことだから、実際成功したことでリヴァイアとの特訓は無駄にはならなかった。

その代わり、スバルに嘘つき呼ばわりされる羽目になっちゃったワケだけどね。

 

スバル「簡単に言ってくれるけど無茶苦茶すぎるじゃん」

水希「まぁね。何にせよ、本当ならそんな回りくどいことする必要なかったしね。やっぱ、そうせざるを得ないほどに弱くなってんだよ。……でも」

 

自嘲するように言葉を紡いだけど、前とは違って、不思議と心苦しさは感じなかった。

 

水希「スバルが頑張るなら僕も、今まで以上に頑張るよ。いつまでもスバルにとって誇れる存在になりたいから」

スバル「……うん、兄ちゃんなら大丈夫だよ。だからもっと、自分を信じてあげて」

 

スバルに気遣ってくれながらも「善処しとく」と返事したが、今はまだ、「自分を信じて」という言葉を素直に受け取れそうにない。

 

本気で鍛えだしてからずっと『自分はまだこんなものじゃない』って言い聞かせて、追い込める所まで追い込んできた。

 

それでも越えられない壁は必ずしもある。信武に惨敗してしまった時が良い例だ。

だからこそ、スバルと同様に自信喪失してる身としては、挫折を味わいながらもその壁を越えようともがき続けていると思いたかったのだ。

 

そう思えなくなれば、どんなに心強い味方がいても、怖気づくたびに背中を押してくれようと、もう二度と困難に立ち向かえそうにないから。

 

……でも今は、ショボくれている暇なんかない。

 

いわば、某RPGゲーム特有の()()()1()()()()()()()()()()()()だけど、慢心せずに鍛え直せるし、スバルと肩を並べて戦える日も遠くないだろうから楽しみだ。

 

『――なぁ、俺も入っていい?』

 

その時。脱衣所から物音がして、浴室のドアをノックした声の主はリヴァイアだった。

 

ドア越しでも既に服を脱いでいるみたいだし、追い返すのも野暮かもな……。

 

水希「……どうする?」

スバル「いいんじゃない? 僕もそろそろ上がろうと思ったから」

水希「そう? なら――いいよ、入っても」

 

『んじゃ、お言葉に甘えて〜♪』と鼻歌を歌いそうなほど陽気な声を上げ入ってきたが、スバルもろとも度肝を抜かれる。

 

リヴァイア「どうしたんだお前ら? 顔真っ青じゃねぇか」

水希「だって……不公平じゃん! 僕だって成長の余地が、あった筈なのにぃ……ガルルルルッッ!!

リヴァイア「え、なんで発作起こしてんの? 怖っ……」

 

だってさぁ、均等良くて引き締まった筋肉美に加えて……男としてこの上ない敗北感と屈辱のダブルパンチを食らうと思わないじゃん。

 

スバル「成長の余地、か……」

 

ふと言葉にするほど気になってるようだけど、兄ちゃんとしては正直な所、筋肉の方に焦点を当てての発言だと思いたい……。

 

リヴァイア「ほーら! 犬みてぇに威嚇してないで身体洗うの手伝って」

水希「え、ちょっ!?」

 

子供を抱えるように容易く持ち上げられ、湯船から出された挙句ボディソープとスポンジを手渡されるが、今日ほどタワシじゃなくて残念だと思う日は無いことだろう。 

……いや、リヴァイアと一緒に入る度に嫉妬心全開になってしまうのが想像に難くないけど。

 

(チェッ、恨みをぶつけるべくしてタワシでガシガシ擦ってやりたかったのに……)

 

内心舌打ちしながらも怒りを鎮め、軽く濡らしたスポンジにボディソープを馴染ませ泡立てる。

 

水希「洗うにしても背中だけだからね?」

 

先に断っておくと「ほ〜い」と陽気な返事が返ってきて、蚊帳の外だったスバルも「ごゆっくり」と一言残してから浴室を出た。

 

水希「……てか、替えの服はどうすんのさ?」

リヴァイア「さっきあかねさんが大吾さんの服を用意してくれてさ、折角だし一緒に入ったら?って言われてな」

水希「ふーん。はい、これで自分の身体洗って」

リヴァイア「あれ、背中は?」

水希「スポンジ無くてもできる。ほら座った座った」

 

スポンジを渡してからバスチェアに腰掛けるよう促し、両手にもボディソープを塗って泡立たせ、ようやく取り掛かったのだが……背丈がある分、座高も高いから膝立ちじゃないと洗いづらい。

 

にしても、胸筋に負けず劣らず発達してる背筋に、我を忘れて爪を立ててしまいそうだったが……魔が刺して5本指を立て、脇腹をこちょこちょしてやった。

 

リヴァイア「んふぅえ〜〜ぃ?!」

 

思いもよらぬ刺激に身をよじる姿を見てほくそ笑みながら、『いいぞもっとやれ』と囁いてくる己の声に従って、おいたはやめたげな〜い♪

 

リヴァイア「くふふっ、こ、このっ……やめろコラ!!」

水希「んぶぅ?!」

 

すると反撃とばかりに顔面にあっつ〜いシャワーをかけられ、終いには両頬をつねられてしまう。

 

リヴァイア「もうしない?」

水希「しにゃい、しにゃいからゆるひて……」

リヴァイア「よろしい」

 

案外すんなりと離してくれたが、おー痛え痛え。

 

水希「ねぇ」

リヴァイア「なんだ?」

水希「ついでに頭も洗おっか?」

リヴァイア「頼むわ」

 

脱衣所からドライヤーの音が聴こえる最中に身体を洗い流し、リヴァイアが髪を濡らす間に手の平でシャンプーを泡立て、髪の毛に馴染ませてから指の腹でマッサージするように洗ってあげた。

 

水希「痒い所ない?」

リヴァイア「全然。むしろ、想像以上に気持ちいいよ」

水希「そっか……また今度一緒に入る?」

リヴァイア「喜んで。その時は俺が背中流すよ」

水希「お願いね」

 

次々と【人間らしいこと】を実感できて満足する姿を見ていくうちに怒りは失せていく。

それどころか、これからのことを思うと楽しみでしかない。

 

オシャレな服を着させてみたり、美味しいものを二人で食べ歩いたり、映画館とか水族館とか、温泉街に連れて行ったりだとか。

五感をくすぐるような物事に触れながら、リヴァイアには心の底から楽しんで貰いたいと思うと、妄想が膨らんでやまない。

 

デートプランも同然のことを考え耽けながらシャンプーを洗い流していると湯冷めしてしまい、再び湯船に浸かるとリヴァイアに後ろからハグされ、子供扱いされているようで複雑だったが、「こういうの一度やってみたかったんだよなぁ」と楽しげに言ってくるものだから怒る気にもなれなかった。

 

水希「ねぇ、リヴァイア」

リヴァイア「なんだ?」

水希「見捨てないでくれて、ありがとね」

 

その代わりに振り向きざまに感謝を告げたら、慈しむような笑みを向けるリヴァイアは言った。

 

リヴァイア「約束しただろ。絶対にお前を独りにしないって。俺達はずっと一蓮托生だ」

水希「リヴァイア……」

 

 

その優しさに触れる度に思う。

 

本当に、リヴァイアがパートナーで良かったと。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

太陽系より遥か遠くに位置する惑星。

その周囲におびただしい程の電磁波が漂いながらも、地球と大差なく、しかし星座をモチーフとしているのか、特徴的な見てくれの生命体が幾つも存在していた。

 

名はFM星。もとい、敵地だ。

 

 

 

「ケフェウス様。地球へ進軍した件でご報告に上がります」

 

本拠地となる城の最上階。玉座の間にて。

玉座に腰掛けたまま退屈を持て余している王――ケフェウスの元に、何処からともなく現れた者がその場で跪く。

 

「オヒュカスか……申せ」

 

王の許可を得たのちに進捗状況を述べ始めた。

 

オヒュカス「現在潜伏している6名ですが……キグナス、リブラ、オックスの3名は生体反応消失。ハープとクラウンは……恐らく離反したかと思われます」

 

ケフェウス「そうか。……制圧は、予想以上に難航しているようだな」

 

オヒュカス「ご期待に添えられず申し訳ありません。ですが――」

 

座して待つだけの王に失望されながらも、沸き立つ殺意と怒りを顔に出すことなく、詫びを入れたのちに話を続ける。

 

オヒュカス「ジェミニからとある情報を預かっておりまして……あのリンドヴルムが完全消滅したと」

 

ケフェウス「……それは(まこと)か?」

 

訝しむ王に対して「こちらをご覧ください」と促した直後、二人の間を挟むようにガラス板が現れ、映像が流れる。

 

封印されたはずのリンドヴルムを白髪赤眼の女が無傷で撃破するという一部始終が確かに映り込み、事の大きさを把握して渋面になってしまう。

 

オヒュカス「この女、映像を見る限りでは本領ではないらしく、もし全霊をかけて攻めてくるとなると……アンドロメダを以てしても敵わないだろうと推測しているようです」

 

ケフェウス「成程な。かつて危機に陥れてくれた悪魔がこうも呆気なく倒されるくらいだからな……尚更捨て置けん」

 

ジェミニの推測を聞くまでもなく、この女こそ間違いなく我々にとって最大の敵であると。既に確信づいていた。

 

それもそうだ。

地球側にこんな隠し玉が存在していたのかと疑念を抱くだろうし、何故もっと早くに知れなかったのかと焦燥してしまうのも、なんら無理はないのだから。

 

オヒュカス「ですが、彼女は基本的に海原の悪魔のサポートに徹しているとの事です。それどころか、我々への対抗は海原の悪魔に一任しているとも取れます」

 

ケフェウス「ならば出し惜しむ必要もないか………オヒュカス。待機している兵と共に転移ポータルに向かいジェミニと合流しろ。そして可能な限り鍵の回収を急げと伝えよ」

 

新たに王命を受け「御意」と一言残して去った直後、突きつけた指から光弾が放たれ、ガラス板は粉砕され霧散するように消失した。

 

ケフェウス「舐められたものだな……」

 

この場に居やしない敵の実力を認めなければならない事実に、少数精鋭で持ってしても容易く攻め落とせない事実に、憤りを禁じ得ずにいた王は吐き捨てるようにそう言った。

 

 

◆◆◆

 

 

二度目の模擬戦を経て、次の朝。

目が冴えるとリヴァイアの寝顔が視界に入った。

 

水希「……ムカつくけど眼福」

リヴァイア「男冥利に尽きるな」

 

寝ても覚めても変わらぬ美貌に見惚れていると、心底嬉しそうにして抱き寄せられ、瞼を開けるリヴァイアと視線が合う。

 

水希「なんだ、起きてたんだ」

リヴァイア「おはよ、水希」

水希「うん、おはよう」

リヴァイア「こんな風にお前と沿い寝するの今までなかったから逆に新鮮なんだよな」

水希「だよね。……でも、悪くない。むしろ安心感すらある」

リヴァイア「可愛いヤツめ」

 

互いに照れくさくなりながら言い合っていた直後、ノックの音がした。

 

『水希、起きてる? 入るわよ』

 

ドア越しから尋ねるお姉ちゃんが、こちらからOKを出す前に入ってこられたが……ぽか~んとした顔を向けながら黙られると反応に困るんですけど。

 

水希「……何? 入ってきて早々固まんないでよ」

あかね「………」

水希「お〜い、もしも〜し?」

あかね「ッ、あぁごめん! 朝ごはん出来たから冷めないうちに下りてきて。リヴァイア君の分も用意してるわよ」

 

その瞬間。寝転がっていた身体を持ち上げられる。

 

リヴァイア「ほら早く行こうぜ水希」

水希「わかった、わかったから下ろして!」

 

用が済んだのならさっさと行けばいいものを。

ニヨニヨと笑いながら「あ、そうそう」と、ついでとばかりに言い放った。

 

あかね「今度お赤飯炊くわね」

水希「余計なお世話だよ!」

 

なんてツッコミを入れたけど、顔赤くなってないよね……?

 

 

 

 

 

 

リヴァイア「お赤飯か、どんな味なんだろうなぁ」

水希「普通に炊いたご飯と大差ないけど、炊きあがった小豆の甘みと食感がアクセントって言えば伝わる?」

リヴァイア「わからん。でも、超楽しみ!」

 

期待を膨らますリヴァイアと会話をしていると、階段を降る直前にスバルが部屋から出てきた。

 

水希「おはよ、珍しく早起きじゃん」

スバル「だって今日、月曜だよ」

 

気怠げに受け答えるスバルから曜日を聞いて納得がいった。

そりゃ確かに嫌でも起きるわな。

 

水希「そっか。朝ごはんもう出来てるって」

スバル「……うん」

リヴァイア「いつも通り元気ねぇじゃん。もしかして昨日のことでまだ凹んでんのか?」

スバル「いつも通りは余計だよ」

 

(からか)うリヴァイアに膨れ面で言い返し、みんなそろって1階の食卓に向かい、着席したところで食べ始めた。

 

今朝の献立は、トーストとオムレツとウィンナーの三品に加え、コーンスープまで付いているとは。

 

それをリヴァイアの分まで作るなんて、お姉ちゃんどんだけ気前良いのよ。

 

リヴァイア「ッ〜〜♪」

 

しばらくは黙々と食べ進めていたが、僕の隣に座ってるリヴァイアに視線を向けると、お姉ちゃんが作ってるのもあるんだろうけど心底幸せそうに食べる姿がもうね、眼福の域を越えてるわ。

 

リヴァイア「食事するだけで生きた心地するなんて……人間になれるのってスゲェ良いんだな。レティには頭上がらねぇわ」

あかね「リクエストがあれば何でも作ってあげるわよ」

 

「ホントですか?!」と子供っぽくはしゃいでみせるリヴァイアだが、僕としてはあまり黙ってられるほどのことじゃない。

 

水希「胃袋を掴むのは百歩譲るけどさ、いくらお姉ちゃんでもリヴァイアを盗ったら許さないから」

あかね「おぉ怖い怖い。にしても今の言葉、信武君が聞いたらゲンナリしそうね」

リヴァイア「ですね。まぁだからといって、あんな青二才如きに男として負けるつもりありませんけど」

スバル「はぁ〜、朝っぱらから何話してんだか」

 

聞くに堪えないと、呆れを隠すことなく溜息を溢す。

そんな様子のスバルに話を振った。

 

水希「ところでスバル、学校にはもう慣れた?」

スバル「誰かさんのおかげで波乱万丈だよ……それに」

水希「それに?」

スバル「……き…ほ…かった」

 

俯きながらボソッと呟かれたからよく聞き取れなかったが、次の瞬間やけに真剣な眼差しを向けられる。

 

スバル「今度は負けないから。もっと強くなって一泡吹かせるから」

水希「……じゃあ、昨日よりももっと楽しませてよ? 本気出しても差し支えないと思えるくらいに」

 

その時。僕らの会話に横槍を入れるかのようにインターホンが鳴り響き、席を外した姉がモニター越しに来客対応する。

 

あかね「スバル〜、みんなが迎えに来てくれたわよ〜」

 

お姉ちゃんの呼び掛けに対して、不機嫌度メーターが上がりゆくのが見て取れる。

なにせまだ朝ごはんの途中だしね。

 

だが不機嫌ながらも(せわ)しなく食べ進め、やがて支度を整えてから玄関に向かう。

 

 

ここ数日、色々あって時間が長く感じたけど……通い始めてからまだ一週間程度か。

 

あれから上手くやれているか、少し気になったので後を追おうとするが……その寸前、姉に呼び止められる。

 

あかね「リヴァイア君がさっき言ってた、レティって人……ひょっとしなくても」

水希「協力者だよ。リヴァイアの容姿が変わったのもレティが絡んでるけど、心強い味方だよ」

あかね「……そう」

 

納得はしてくれたけど、どこか複雑そうな面持ちになっているお姉ちゃんに向けて、続けて言った。

 

水希「僕を嫌ってたこと、薄々分かってたよ」

あかね「ッ、聞いてたの?」

 

動揺を隠せない姉に対し、首肯する。

 

水希「知らない所で沢山、我慢させてばかりだったんだよね……。それでも家族として見放さないでくれた。……本当に、感謝してもしきれないよ」

あかね「水希……」

水希「だから、何年かかるとしても、必ず大吾さんを連れ戻す。それ以外に償えることはないから」

 

伝えられることを伝えて、スバルの様子を見に行く。

 

 




レベル1からリスタートのくだりは

○ァイナル○ァンタジー4を参考元にしてます。

それ以外に思い当たる作品を知らないので(汗)


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54話 約束事

あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ、この作品もろとも、よろしくお願いいたします。

相変わらずの投稿頻度ですが、お時間ある時に読んで頂けると幸いです。


 

「毎回毎回遅いわね。もう少し早く出られないの?」

 

梅雨の時期にしては珍しく晴天に恵まれていたが、玄関先で待ち伏せていたルナによってスバルの心は曇りゆく。

 

スバル「頼んでないって毎回言ってるのに……いい加減ほっといてほしいんだけど」

ルナ「クラス委員長として見過ごせないんだから仕方ないじゃない」

スバル「どうせ点数稼ぎのくせに」

ルナ「ふぅん……言ってくれるじゃない」

 

曇るどころか雷雨に見舞われそうなのでは?

そう感じるほど険悪なムードのなか、ルナの後ろに控えていたゴン太とキザマロが前に出る。

 

 

キザマロ「今の言葉、訂正してください! 確かに点数稼ぎのためだとしても、委員長は根っから仲間思いなんですよ」

ゴン太「そうだぞ! 確かに委員長は強引だし当たりキツイけどよ、なんだかんだ心配してくれてんだぞ」

ルナ「アンタ達、褒めてるのか貶してるのかどっちかにしなさいよ……!」

 

男友達二人から上げて落とされるようなフォローをされて怒り心頭なルナだったが、

 

水希「朝からやけに騒がしいね」

あかね「本当、つい最近まで見れなかった光景よね」

 

様子見がてらスバルを見送ろうとする水希を見た瞬間、怒りが薄れながら頬に熱を帯びてしまう。

 

その変貌ぶりを見るより先に、スバルの視線は身内の方へ向いていた。

 

スバル「母さん、今日休んでいい?」

水希「せっかくみんなが来てくれてるのに薄情だねぇスバル」

スバル「だから頼んでないってば!」

 

声を荒らげて否定するスバルだが、級友と過ごす姿は身内からすれば微笑ましい光景に他ならない。

 

あかね「……ごめんね。いつも来てくれてるのに、うちの子がだらしなくて」

 

茶化す水希に猛反発するスバルを見て苦笑しつつ、訪問してまで気遣ってくれた三人に詫びを入れると、いつものことだと笑い飛ばした。

 

キザマロ「いえいえ、気にしないでください」

ゴン太「俺達がいるから寂しくないしな。だよな委員長?」

ルナ「……え? そ、そうね」

 

一瞬反応が遅れたルナに、今度はキザマロが尋ねる。

 

キザマロ「どうしたんですか委員長? 顔真っ赤じゃないですか」

ルナ「なんでもないわよ……ほら、早く行きましょう。遅れたら大変よ。おばさま、水希さん、行ってきます」

水希「うん、行ってらっしゃい。車には気をつけてね」

ルナ「は、はい!」

あかね「ほらスバルも、行ってきなさい」

スバル「はーい……」

 

ルナの心境はさておき、母に背中を押されたスバルも渋々、後を追うように登校していく。

 

 

 

登校する4人の姿が遠くなっても、二人は未だに立ち止まっていた。

 

水希「行っちゃったね」

あかね「そうね。……()()()()()とはいかないけど、少しずつでも、笑顔を取り戻してくれたらいいのにね」

 

再び登校してくれる姿を笑顔で見送るべきと分かっていても、どうしても欲を言ってしまうが、水希もあかねと同意見だった。

 

片や、不登校になる原因を作った事を抜きにしても寂しい青春時代を送って欲しくない、という心境から。

片や、幼き日の無邪気さを少しづつでも良いから取り戻して欲しい、という心境から。

 

再び心の底から笑ってくれる日が来ることを、何よりも望んでいた。

 

しかし、そうなるにはまだ時間が要るため、無理に急かさないことじゃないと理解しているからこそ、復学して間もない時期は心のリハビリと割り切るしかなかった。

 

水希「大丈夫だよ。スバルなら」

あかね「言わずもがな信じてるわよ。でもやっぱり、大吾さんが居てくれた方があの子も安心だし。帰ってくる日を信じて、この家を守るわ。それが母としての務めだから」

 

空を仰ぎ見ながら思いを綴るあかねに、水希も誠意を見せようとした。

 

水希「なら僕も、スバルが望むなら、一人前の戦士になれるよう助力するよ」

あかね「たったそれだけ?」

水希「もちろん、この先何が起ころうと、命に代えてでもスバルを守るよ。それが兄としての務めだから」

 

 

◆◆◆

 

 

リヴァイア「なかなか戻ってこねぇから、なんかあったのか?」

水希「ちょっとね。それより何飲んでんの?」

リヴァイア「ブラックコーヒー。前から気になってたんだけど……うぇッ、にげぇ」

あかね「そりゃあ砂糖を加えないんだから苦いわよ」

 

スバルの見送りを済ませ戻ってくると、食後の一服を嗜もうとするリヴァイアが予想通りに渋い顔をしていて、普段見ない間抜けっぷりに呆れながらも微笑ましいと感じた。

 

あかね「ていうか、しれっと洗い物を増やしてくれるわね」

リヴァイア「ッ!? ご、ごめんなさい……!」

あかね「いいわよ、別に叱ってる訳じゃないんだし。……そうよね水希?」

水希「――はいっ!!」

 

そうそう、反射的に詫びを入れるのは、お姉ちゃんが相手だとよくあることだから………申し訳ございませんどうかその素敵な笑みを向けないでください心覗こうとしないでください。

 

水希「ちょっと貸して」

リヴァイア「いやだって、もうこれ飲めそうにねぇし」

水希「せっかく淹れたのに捨てるの勿体無いじゃん」

 

失敗しても工夫次第でカバーできることを知ってもらおうと、中身が残ったカップを手に取り、冷蔵庫を開けて中を探る。

……お、ラッキー、牛乳まだ残ってるからカフェオレ作れそう。砂糖も入れて、っと。

 

水希「騙されたと思って飲んでみて」

 

出来上がったのを渡すと、不安げになりながらも一口飲んだ瞬間、眉が一瞬ピクッと上がった。

 

水希「ね、捨てなくて正解だったでしょ?」

 

得意げに言うと、リヴァイアは返事代わりにゴクゴクと飲み干して、満面の笑みを浮かべながら親指を立ててみせた。

よかった〜お気に召してくれて♪

 

あかね「ほんと妬けちゃうわねぇ」

水希「ごめんね〜惚気ちゃって」

あかね「はいはい。さっさとご飯食べちゃいなさい」

水希「はーい。あ、そうだ、言い忘れてたんだけど……レティに鍛え直してもらう間は留守になるから」

あかね「わかったわ。こっちの心配は要らないから、アンタはアンタでやるべき事に専念なさい」

水希「ありがとう。頑張るね」

 

 

 

 

 

 

朝のくだりから、数時間後。

リハビリも兼ねての修行場として活用するため、しばらくぶりだが河川敷へ足を運んでいた。

 

現に換装体の姿であり、全身を電波化*1させているため心置きなく集中できたものの、やはり懸念点はあった。

 

水希「思った以上に減っちゃってる……」

 

自ら生成するのとは逆に、川の水を手元に集めようとしていたが、その許容量が全盛期よりかなり劣っているから、当然ヘコんでしまうものだ。

 

以前なら、リンドヴルムを開放しない状態でも、その気になれば50mプールの水すべてを頭上に集められたけど、今では精々バランスボール並の大きさまでが精一杯なものだから、いつか訪れる決戦までに間に合うか不安だったけれど、

 

リヴァイア「昔と比べりゃ、ここまで出来るだけでも上々だけどな」

 

その不安も、励ましの言葉をかけてくれるおかげで気が楽になる。

 

水希「うん。後は集める時間をいかに縮められるか、今より集める量を増やせるかが課題だね」

リヴァイア「それも必要だけど、昨日の模擬戦みたいな戦い方を意識出来れば問題ねぇよ。あ、もしかしたらさ、やり様によって信武を倒せるんじゃね?」

水希「やだよ。もう信武とは敵同士じゃないんだし」

 

味方と認識すれば戦う気出ないってわかってるくせに。

リヴァイアにしては珍しく笑えない冗談を言ってくるが、気を取り直して修行を再開する。

 

川などの水辺から集められる許容量は知ったので、後は集めた水をどのように加工するか……というより、どの程度まで加工できるか試すべきか。それが終わったら言霊の陣を併用した修行も……

 

あれこれ考えているなか、リヴァイアが拗ねた顔をしながら隣に寄ってきた。

 

リヴァイア「なぁ、俺も一緒に修行していいか? 換装体(このすがた)での力量を知りたいし、何しろ動かないのは性に合わないしな。……それに、俺だって戦えるんだからいい加減活躍させてくれよ。少なくともあんな青二才より頼り甲斐はあるだろ?」

水希「自分で言っちゃうの、それ」

 

頼れるのは否定しないけど、もしケガしたらって思うと怖いし。

 

リヴァイア「嫌って言っても聞かねぇから」

 

さすが、お見通しかよ。……反論の余地も無いみたいだから、せめてこれだけは言わせてもらおう。

 

水希「じゃあ、死なないって約束してくれる?」

リヴァイア「する。最高のパートナーであり続けるために、お前を守れるよう強くなるし、自分の命も疎かにはしないと約束する」

 

即答だった。まったくブレないね。

 

「水希を守るのはお前だけの特権じゃねぇけどな」

 

橋の方から声がして振り向くと、換装した姿の信武がこちらに向かって飛び降りてきた。

 

水希「あれ? まだ休学中だったっけ?」

リヴァイア「どうせアレだろ。寂しいから水希に構ってもらいたくて来たんだろ?」

信武「……なんでわかるんだよ」

リヴァイア「お前と立場が逆なら俺だってそうするさ。四六時中恋敵と一緒だと目が離せないしな」

信武「癪だけど納得行く説明どうも」

 

話に割って入れなかったけど、信武の反応を見るにどうやら図星みたい。そっちもまったくブレないね。

 

信武「それでさ、水希。話したいことが、あるにはあるんだけどさ……その、なんだ、帰ったらどこか遊びに行こうって約束、まだ果たせてないじゃん?」

水希「あぁ確かに、約束してたよね。もう無理かと思ってたけど……まだ間に合う?」

信武「それ、先に言おうと思ってた」

 

考えてることも一緒だと気づいた瞬間、互いに顔を真っ赤にしてしまっていたけど、ほんわかな雰囲気から一転。真顔になった信武がリヴァイアに尋ねる。

 

信武「どうせならお前も来るか?」

 

その言葉を聞いて、リヴァイアは目を真ん丸にさせた。

 

リヴァイア「……てっきり付いて来んなって言われるのかと思った」

 

不覚にも同感だ。リヴァイアと信武の関係って[水と油]すぎて喧嘩が絶えなそうだもん。

 

信武「嫌なら別に良いんだよ。二人っきりでも存分に楽しめるだろうし。お前が居なくたって水希を守るくらい余裕だしな」

クラウン『誰のおかげで力を得たか判っておるのか、信武』

信武「無論。奴等が襲撃する時には世話になるぜ、相棒」

クラウン『ふん、調子の良い奴め』

 

……久々に見たかもな。信武が、僕以外の誰かに気さくな笑顔を向けたのを。

覚えてる限りじゃ、信武の部活仲間やクラスメイトにも笑顔を向けていたから。

 

リヴァイア「そもそも遊びに行くとして、具体的にどこへ行くとか日時とか決まってんのかよ?」

信武「え?」

水希「……え?」

リヴァイア「……おい」

信武「実を言うとまだ全然決まってなかったんだよ。だから水希にも意見を貰おうかと思ってたり……あはは」

リヴァイア「あははじゃねぇだろお前……なら普通にメールとかでも良くね?」

信武「それこそ何でここに来たんだって話だろ」

 

信武の気持ちは考える間もなく理解できる。

立場が逆ならきっと、寂しさを埋めてほしいという衝動に駆られて会いに行く、そんな自分の姿が目に浮かぶからね。

 

ともあれ行き先と目的についてだが、一つ提案を思いついたので信武に訊ねてみた。

 

水希「じゃあさ、お願いがあるんだけど」

信武「おう、遠慮なく言ってくれ」

水希「二人で話し合いたいからこっち来て。リヴァイアはそこから動かないで」

リヴァイア「……?」

 

状況を掴めなさそうなリヴァイアから少し距離を置くと、信武から話を振ってきた。

 

信武「そんで、お願いって何なんだ?」

水希「……リヴァイアの服を買いに行きたいんだけど」

信武「え? お前じゃなくて?」

水希「うん。今は大吾さんの服を借りてるんだけど、ツナギ服だけじゃなくて、オシャレ着と普段着を買い揃えた方が良いかなって思ったの」

信武「……たしかに、最初に見たツナギ服がトレードマークって言えば、聞こえは良さげだろうけどなぁ」

 

話の途中で信武は後ろへ振り向いて、すぐさま視線を元に戻す。

 

信武「俺だって、そこまで服のセンスが良いって訳じゃねぇぞ」

水希「店員にお任せって手もあるじゃん」

信武「……それもそうか。じゃあ一つ、交換条件はどうだ?」

 

詳しいことは耳打ちで話してくれたが、その条件を断る理由を探るどころか秒でOKした。

 

リヴァイア「話はまとまったのか?」

信武「ヤシブタウンへ行って適当にぶらつくって感じだ。今度の日曜日、10時頃にバス停付近に集合ってことで。異論は?」

水希「特に予定なかったから大丈夫だよ」

リヴァイア「以下同文」

信武「決まりだな」

 

滞りなく予定を立てたところで、信武は去り際に「寝坊すんなよ」と一言残して行った。

*1
全身の周波数帯を変える事により、肉眼での視認は不可能となる。(簡単に言うと、生身の人間が幽霊を見れないのと同じ状態)




他作品と被らぬようにと頑張ったつもりが、冒頭の会話を見て「これ小学5年生の会話かよ」って自分でツッコむくらいに違和感しかないというww

次回はスバル視点でお送りします。


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55話 午後に取調べ のちに敵襲

味気ないサブタイトルですんません


とても不謹慎なことを言うが、今こうして()()()()()一日を過ごせていることに実感がなかった。

 

これでもまだ子供だけど、平和ボケしすぎるのって良くないんだな〜って悟りを開くとは夢にも思わなかったし、立て続けに大事(おおごと)が起こったせいでもある。まだ学校に復帰して一ヶ月も過ぎてないのに……。

 

特に兄ちゃんの場合、他二件と比べ物にならないくらい大変だった。

 

リンドヴルムの封印が解けて能力(ちから)を暴走させた時は肝が冷えたし、入院中も合わせて10日も眠った時なんか本当に死ぬんじゃないかと思って、まともに眠れなかったからね……。

 

だからといって過ぎたことを蒸し返すのも難だけど、せめて一日、ズル休みしてでも兄ちゃんのそばにいたかった。

 

眠ったまま(うな)されていた兄ちゃんの手を取って、少しでも安心してもらうために。

 

……僕自身も、抑えきれず膨れていく不安を、少しでも和らげたいがために。

 

 

 

 

そう思うと余計に、平穏な日常を取り戻せたことが奇跡だと思えてしまうし、僕の手に負えなかった兄ちゃんを救ってくれた信武さんとレティさんには感謝してもしきれない。

 

それに……二度と失いたくないものだからこそ、もっと強くならなきゃという焦りが生まれ、余裕ないくせに余裕ぶっこいてる兄を一泡吹かせたいという闘争心も芽生えてくる。

 

そしてゆくゆくは、肩を並べられるように……。

 

 

 

 

複雑な感情を抱えながら今日一日の授業を終え、帰りの会も済んで放課後に差し掛かっていた頃だった。

 

育田「星河、少し話があるから来てくれないか」

 

帰り支度をする最中、担任の育田先生に呼ばれ、後に続いて教室から廊下の窓辺に移動すると質問をされた。

 

育田「あっという間に2週間過ぎたが、学校にはもう慣れたか?」

 

反応を伺おうとしてるけど、ひょっとして顔に出ちゃってたのかな。

 

正味ありがた迷惑な朝のお出迎えがくっっそ嫌なだけで、学校で過ごすこと自体はさほど問題じゃない。クラスメイトは皆優しいから居心地良いしね。

 

ただ問題はこの前の、学習電波暴走事件が解決した後の二週間なんだよね……本当に憂鬱極まりないって。

できればだが、こんな思いをするのは最初で最後であって欲しいよ。切実に。

 

スバル「ぼちぼちって感じですけど、まだ通えると思います」

育田「……そうか。それを聞けて安心だよ」

 

声に出かかった不満を引っ込めて無難な受け答えをするが、安堵を含んだ返事が返ってきた割に、先生の表情はあまり穏やかじゃなかった。

 

育田「それでだな、呼び出した理由なんだが……」

スバル「もしかして、この前の事件のことですか?」

 

言い当てられると予想していたのか、先生は驚くこともなくそのまま話を続ける。

 

育田「あぁ。実はその件で取り調べがあって……無理なら私だけでも行くが」

スバル「いや、大丈夫です。それに、あまり待たせない方がいいと思います」

 

 

 

 

 

 

育田「お待たせしてすみません」

 

先生に続いて放送室に入ると、見覚えのある面々を見て頭が痛くなりそうで仕方ない。

 

たしか、五陽田さんと……その隣にいるサテラポリスの制服着てるゴツい人。

名前忘れたけど、天地さんと一緒に家に来た……あの〜……!

 

「とんでもございません。むしろこちらから押しかけたようなものですから」

 

ええと、誰だったっけ? 忘れてるのバレたら怒られそう……。

 

「そんなしかめっ面しなくても大丈夫だよ、スバル君。会う機会が少なかったから覚えがなくて当然さ」

 

考えを見透かされてしまって焦ったけど、怖そうな見た目の割に口調は穏やかだから意外と優しい人なのかな?

まぁあの兄ちゃんとも付き合い長そうだし、あり得るな。うん。

 

育田「つかぬことを聞きますが、星河とは面識があるんですか?」

「えぇ。この子の父親とは古くからの付き合いでしたので」

育田「なるほど……どうりで」

 

2人の会話を遮るように、五陽田さんが咳払いをする。

 

五陽田「飯島警部。そろそろ本題に……」 

 

五陽田さんナ〜イスッ!!( ̄ー ̄)bグッ!

 

……いけないいけない。少々取り乱したがようやく名前が分かって一安心だ。

 

飯島「失礼。脱線しました」

 

雰囲気がガラリと変わって緊張するなか、ようやく本題に入った。

 

飯島「ここに呼んだのは、例の事件でもう一度確かめたいことがあったからなんだ」

スバル「確かめたいこと、ですか」

飯島「あぁ。暴走した直後はろくに身動き取れなかったはずが、君と双葉くんだけが難を逃れた。そのことに間違いないね?」

スバル「はい……途中まで頭痛が酷かったのは覚えてます」

 

その辺りは包み隠すこともないため、飯島さんの質問には難なく答えられた。

 

五陽田「そして、育田さん。貴方は前校長に脅迫を受けた末に装置を起動をしたそうですが、暴走する事態は予測できなかったそうですね?」

育田「えぇ。不幸中の幸いにも、全員後遺症は残りませんでしたが子供達に危害を加えた事実がある以上、尚の事教育者として失格です……」

スバル「先生……」

 

嘆かわしいことに、取り憑こうとした FM星人(リブラ)のせいでもあるし、あの腹黒教頭の指示で悪者扱いされただけなのに。

当事者であるがゆえに、そう簡単に罪悪感を拭えないのか……。

 

五陽田「心中お察しします。ですが今から話すことは、スバル君や貴方にも関わりがあるかもしれない話なんです」

育田「私にも……それは一体?」

飯島「コダマタウンでトラックが暴走する事案と他ニ件が、先日起きた事件と共通点がありまして。我々で調査した結果、解決後の数日間にわたって事件現場から残留Z波が検知されました」

 

……ひょっとして、五陽田さんの捜査メモに書かれたこと……トラックの暴走を阻止した時やミソラちゃんや宇田海さんを止めようとした後のことだったりするのかな?*1

 

にしても残留Z波か……長い間地球にいるリヴァイアも無関係とは言いがたいよな。

 

飯島「そもそもZ波とは、言うなれば放射能と同じぐらい厄介でして、浴び続けると病気になる――ということはありませんが、人体に影響を及ぼすほど悪質な電磁波なんです。

その発生源となる宇宙人達の悪巧みによって被害を受けた可能性が、先程お伝えした共通点の一つです」

育田「とてもユニークな発想をされてますが……そう裏付ける根拠があると?」

 

不吉なことを真顔で言い放つものだから、冷や汗を垂らしつつもカマをかける先生の反応は何ら不思議なことではない。

 

……ただ、先生の記憶に残らなかっただけで、残念ながらすべて真実に過ぎないわけだが。

 

飯島「どうせフィクションだろうと(うたぐ)るのも無理ありませんが、実際はあまり公表されていないだけで15年前にも前例があったんですよ」

育田「そんなに前から?!」

飯島「無論。私もその一部始終を目撃しておりましたので、証拠として挙げるには充分あり得るのです」

 

やっぱり。思ってた通りだ。

ロックと出会うこともないまま何も知らなければ、未だに半信半疑な先生と同じ反応をしたが、僕が生まれる前の話だから間違いなく兄ちゃんとリヴァイアのことだろう。

 

先生が操られていた時と、リンドヴルムの力を暴走させた時が被ってるわけだから……下手すればみんな浴びてしまっているってこと……?

 

五陽田「その前例を元に、宇宙人は皆、孤独に苛まれ弱り果てた人間に取り憑き、暴力的にさせ悪事を働かせるよう(そそのか)す。そう記述された過去のデータと、もう一つの共通点が噛み合うんです。

……それは、図らずして装置の出力を上げてしまった貴方と、難を逃れたスバル君と双葉君が、すでに宇宙人に憑かれてしまっていたという可能性があることだ」

育田「それこそあり得ませんよ! 確かに私自身、途中からおかしくなった記憶はありましたけど、それが宇宙人と関わりがあるだなんて」

スバル「――なら、これでどう?」

 

声を荒げる先生を差し置いて変身をすると、先生と五陽田さんは言わずもがな驚くが、その一方で飯島さんは……さすがに何度も見慣れているのか無反応だ。

 

ウォーロック「バカ野郎、何してんだスバル!?」

スバル「正直もう話を長引かせたくなかったし。それに、誰かさんが殴ってくれたから正気でいられたって証明できるんじゃないの?」

ウォーロック「オレのお陰で頭痛に悩まされずに済んだんだし別に良ぐぇっ!?

 

自重してくれなかったので拳一発で許してあげることにした。

ただ石頭なせいか、こちらもダメージを負ってプラマイゼロになってしまった。

 

飯島「……成程。要するにショック療法で難を逃れたのか。確かにそれでも辻褄(つじつま)が合うな」

五陽田「何をそんなに落ち着いていられるんですか警部殿?! コイツがコダマタウンで起きた事の発端ならば、ただちに身柄を拘束すべきでしょう!」

飯島「それこそ不可能ですよ。事の発端どころか、むしろスバル君は数々の暴動を食い止めようと動いてくれた。

貴方が単に知らないだけで、上層部にも知れ渡っている事実です」

 

五陽田さんは慌てて手錠を用意するが、その手を止めた飯島さんは至って冷静だった。

 

飯島「それとですね、スバル君を味方だと明言した人物は、貴方が独自調査で要注意人物と見なしていた子なんですよ?」

五陽田「何!? では彼がサテラポリスに従事したという噂も……?」

飯島「仰る通り、先程の前例がほとんどあの子にまつわる話ですので。宇宙人との協力があってこそ、学習電波の悪影響から逃れることも、事件の解決に勤しむことも可能でしょうね」

 

他ならぬ飯島さんが、兄ちゃんという前例を知っているからこそ、一概にも僕を犯人だと決めつけずに話を進めてくれると信じて行動に移した。その結果誤解が解けて何よりだが忘れてもらっては困る。

 

僕の場合誰かさんに殴られたんですけどねっ!!

 

大事なことだから2回言ってやりたい気分を押し留めながら変身を解き、現状を受け止め切れずにいる先生に言葉をかけた。

 

スバル「先生……覚えてないかもしれないけど、先生が宇宙人に取り憑かれたことは、この目で見たから本当なんだよ。

だからといって生徒を傷つけたことへの罪悪感は消えないと思うけど、そんなに自分を責め過ぎないで」

育田「星河……」

飯島「悪事を働く宇宙人に対抗できるのも、スバル君や彼のような存在しか見当たらない。そう踏んだからには、上層部もある程度黙認しているんです。

……無論。度を越すような事態が起これば、その限りではありませんがね」

五陽田「ですが警部殿、今回の件は……」

飯島「死者が出ていない以上不問にせざるを得ません。何しろ既に片付いた後ですからね」

 

まだ納得が行かない様子の五陽田さんにこれ以上の言及はするなと促して、飯島さんは先生に敬礼しながら言った。

 

飯島「我々はこれで失礼します。それと、スバル君が変身できることについては、くれぐれも口外なさらぬようお願いします」

育田「……わかりました」

飯島「スバル君も、下手に正体を明かさないよう気を配ってくれ。さっきみたいに誤解を解くためであってもね」

スバル「……はい。気をつけます」

 

当然、飯島さんのように理解のある人以外の前では決して、断じて、自ら進んで身バレする気はこれっぽっちもない。

 

 

 

……とはいえ、どうにも胸騒ぎしてしまうのは、気のせいだろうか……。

 

 

 

 

育田「そういえば、Z波だったか? それを浴びてしまった時の悪影響がどんなものか、聞いてなかったな」

ウォーロック『俺で良ければ説明するぜ』

育田「是非。よろしく頼む」

 

放送室は大抵、用がなければ誰も立ち入らないし場所だから、ロックが堂々と声を出すには申し分なく、先生も決して気分の良い話ではないと知った上で聞こうとした。

 

ウォーロック『結論から言うが、Z波を浴び過ぎた場合、良くても電波化――幽霊のような体へ変化するだけだが、浴びる量次第では最悪死ぬ。サテラポリスの連中が危険視する理由の一つだ』

育田「……他にもあるというのか?」

ウォーロック『あぁ。それ以上にマズいのが、俺と同じFM星人が人間に取り憑いた後なんだ。寄生虫がゆっくりと確実に宿主の体内を食い荒らすように、奴らは人間(やどぬし)の同意もなしに精神を乗っ取とろうとする。手遅れになる前に助かる方法はたった一つ。FM星人と協力して電波変換した姿の時でしか、太刀打ちできない』

 

寄生虫のくだりから青ざめてしまう辺り、事の深刻さを理解した様子がうかがえる。

 

育田「つまり、君達のように協力できさえすれば、人間にはなんの害もないってことで合ってるか?」

ウォーロック「そうだ。矛盾してるけどな」

育田「――――」

 

ロックの話を一通り聞いてなお信じ難そうな反応をするが、しばし考え込むような仕草をしながら言った。

 

育田「まやかしかと思ったが、宇宙人が絡んでいたというのは本当だったんだな」

スバル「はい。ただ、先生と違って、取り憑かれた後の記憶が残った人も、いたんです……」

育田「そうか。そんな状況下で、星河は巻き込まれた人を助けようとしたんだな」

 

先生の時だけ、本当は助ける間もなく敵に仕留められたけど、記憶に無ければ必要以上に語るべきじゃないと判断して、先生の質問には首肯するだけに留めた。

 

育田「星河。今はありがとうとだけ言わせてくれ。それでもし、今後困ったことがあれば遠慮なく相談してくれ。力になれるかはともかく、な?」

 

サテラポリスの二人が去ってからしばらく気まずかったが、緊張が解かれたおかげかようやく先生の表情が柔らかくなった。

 

スバル「ありがとうございます。先生」

 

先生の厚意をありがたく受け取って放送室を出たその時。つんざくような悲鳴が響き渡り、胸騒ぎの正体がまさかのね……次から次へと事件現場にされるのはごめんだっての……。

 

育田「今の声……白金か!?」

スバル「先生はここで隠れてて。僕が何とかする」

育田「無茶はしないでくれよ?」

スバル「もちろん!」

 

本日二度目の変身をして、委員長がいると思われる教室へ駆けつけ勢いのまま扉を開けると、教室の隅にまで追いやられ怯える委員長の眼前に、影のように真っ黒な人型が二体。――心なしか、知り合いの面影がある気がしなくもないが。

 

そいつらが両手を上げたことにより、攻撃を仕掛ける動作だと理解したからには、

 

スバル「バトルカード、〈ロングソード〉」

 

その手が振り降ろされる寸前に立ちはだかり、剣を横薙ぎに振るうと、人型は音も立てずに後退る。

 

ルナ「ロックマン様?! 助けに来てくれたのね!」

スバル「話は後! 一旦ここから離れよう!」

ルナ「はい♡」

 

まったくもう……飯島さんと約束したばかりなのに、早くも言いつけを破ることになるとは……つくづく厄日だ。

 

内心愚痴りながらも、委員長の手を引いて教室から脱け出した。

 

 

 

 

 

 

その後。奴らの視線を掻い潜って、どうにか1階の正面玄関まで来れたものの……もう一体が待ち伏せていたので、ひとまず下級生が使う教室に身を潜めて一息ついているところだ。

 

けど、何時間も立て篭もるばかりでもいられず、事情を確かめる為に委員長から説明してもらうことが先決だった。

 

スバル「――なるほど、さっきの黒い影みたいなのが君の友達だったんだね」

ルナ「そうなんです。正直信じられないですけど……」

 

ショックな出来事を目の当たりにして、それも被害者が自分の親友(ブラザー)となると……辛さは計り知れない。

 

だが一つだけ、気がかりな部分がある。

 

育田先生以外の教師がまだ残ってるはずなのに、正面玄関の近くに職員室だってあるにもかかわらず()()()()()()()()()()ことだ。

……考えたくはないけど、ゴン太やキザマロと同じ目に遭ってるとすれば、職員室は今頃危険区域と化している

だからといって日和ってちゃあ、兄ちゃんに一泡吹かせるどころか一生足元にも及ばないからなぁ。

 

スバル「委員長、お願いがあるんだ。しばらくはここで隠れてて。二人は僕がなんとかする」

ルナ「なんとかって……どうやって?」

 

具体策がなければ、消去法でも元凶を倒して解決(お決まりのパターン)で行くしかない。

 

スバル「少し乱暴になると思うけど、できる限り早く終わらせるから」

ルナ「待ってくださいロックマン、さま……行っちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

来た道を引き返すように5-Aの教室へと足を運び、引き戸の小窓越しに覗き見ると、さっきの影二体がまだ教室内をうろついていた。

 

スバル「アレについて心当たりある、ロック?」

ウォーロック「……正直言って、アレを見るのは初めてだ」

スバル「やっぱりか」

ウォーロック「ただ分かるのは、あんな得体の知れねぇのを生み出した親玉がまだ近くにいるくらいだろうな。教室に入ってまで相手するより親玉を倒した方が手っ取り早そうだぜ」

 

ロックの提案に乗り、真上にあるウェーブロードに飛び移って親玉を見つけだそうとするが、そう時間はかからなかった。

 

壁をすり抜けて教室に入ったその瞬間。

退屈げな顔から薄気味悪い笑みへと変えたジャミンガーと睨み合う。

 

「ようやくお出ましか、ロックマン」

 

違和感があるとすれば、配色がモノクロなだけでなく、兄ちゃんや信武さんのような強者(つわもの)のオーラが感じ取れてしまうが……兄ちゃんと比べたら怖気づく程じゃない。

 

あの無表情で放たれる殺気と比べたら、全然マシな方だ。

 

スバル「ゴン太とキザマロをあんな風にしたのはお前の仕業か?」

「いかにも。丁度いい実験体がいたものだからな。それに、アイツらをただの人質として利用するだけじゃつまらないだろ?」

スバル「ふざけるな! 早く二人を元に戻せ!」

「もちろんそうしてやるつもりだが……その前に取引と行こうか」

ウォーロック「取引だと……?」

 

この期に及んで悪どいことをしてくれるものだ。

 

「単刀直入に言おう。人質の解放条件はアンドロメダの鍵を渡すことだ」

 

話の途中で指を鳴らした瞬間。

真下にいる二体の影が動きを止め、身体中に電流が走りながらも声を出せずに苦しむ様を目の当たりにする。

 

「断る気なら、人質の命はないと思え」

 

冗談キツいっての。大人しく渡したところで解放してもらえないのは見え透いてんだよ。

 

すぐに終わらせるから、もう少し耐えてて、ゴン太、キザマロ……!

 

奴の提案を蹴って、間合いを詰めて切り掛かるが、

 

「それが答えか。なら精々後悔するんだな!」

スバル「しま――っ!?」

「――〈ショックノート〉!!」

 

気づけば背後を取られてしまい、顔面に銃口を突き付けられて撃たれると思ったその時、ギュイーン!とギターを弾く音に伴って、音符弾の雨が振り注がれる。

 

どうやら間一髪の所で、ハープ・ノートに変身したミソラちゃんが助けに来てくれて、とても頼もしく思う。

 

しかし、ジャミンガーは並外れた反射神経を以て全弾回避しており、これには流石に目を奪われる。

 

ミソラ「スバルくん! 大丈……ひっ!?」

 

怯えるように息を詰まらせ、僕もつられて背筋が震えだす。

 

教室中に漂う殺気は、言わずもがな兄ちゃんが放ったものだ。

 

水希「捕縛せよ

 

回避後の着地を狙ったかのように、足元を照らす魔法陣から氷の鎖を射出。ジャミンガーの四肢を拘束……というよりギチキチと鈍い音がしてるから、引きちぎりそうな気がしなくもない。

 

無論それだけで終わらず、手の平サイズの魔法陣を数十枚展開して、立体の円を描くようにジャミンガーを囲った次の瞬間。

 

水希「死ね

 

鋭くとがった氷柱(つらら)によって串刺しにされた……はずだったが。

その寸前、赤黒い光粒子がジャミンガーの全身に絡みつき、絶対防御の鎧となって直撃を拒んだ。

 

「予定より早いけど種明かしと行こうかしら」

 

次の瞬間。氷柱や氷の鎖、魔法陣に至るまで侵蝕され、剥がれ落ちる鎧ごと砕けて虚空へ還っていくと、聞き馴染みのある声の正体が発覚した。

 

水希「ヘルプシグナルを頼りに来てみれば……いったいどういうつもりだよ、レティ」

レティ「何も言わずに独断でやったことは謝るわ。けど今回のことは、今のスバルには必要なことだったのよ」

 

鋭い眼光を向ける兄ちゃんに臆すことなく、レティさんは言葉を放った。

どういった意図があって必要だと判断したかは判りかねたが、すぐに理由を話してくれた。

 

レティ「今回の模擬訓練において、人質がいる状況下で、なおかつ一人でも冷静に対処できるかを試そうとしたの。

もちろん人質って言っても、私の分身が姿変えただけで、弟くんのクラスメイトは今頃お勉強中だから無事よ。その証拠に、ほら」

 

促されるままに下を見ると、苦しんでたはずの人型が()()()()()()()()()()姿()へと変わり、なんなら笑顔でこちらに手を振ってくる。

 

ただでさえ強いってだけじゃなくて分身まで……規格外過ぎて呆れてくる。

 

水希「え? ……じゃあひょっとしなくても、今回ばかりはお邪魔虫だったり?」

レティ「100%ね。まぁ必ずしも、一人で背負い込む必要性なんて微塵もないわけだけど……ただ、敵もそろそろ本気で鍵を奪い返しにくる頃だと思うのよ」

水希「そっか。必ずしも助太刀できるとは限らないから、レティなりにスバルを見定めようとしたんだ」

レティ「そういうこと」

 

得意げにウィンクするレティさんに「それなら前もって言ってよ」と悪態をつく一方で、ミソラちゃんはまだ困惑しきっていた。

 

ミソラ「……ハープ。わたしイマイチ話が掴めないんだけど、何かわかる?」

ハープ「ポロロン。どうやら、私たちの出る幕じゃなかったかもしれないわね」

スバル「そんなことないよ。むしろ来てくれて助かったよ」

 

助けに来てくれた二人を(ねぎら)うと、表情から見て取れるように安心してもらえた。

 

だが確かに、仮に一人で解決しなきゃダメな時が訪れるとして、今回の訓練はある意味いい機会になるはずだった。

 

でも、成長の機会を奪われたと思ってはいない。

むしろピンチの時に駆けつけてくれる人達へのありがたみが勝っているし、助けられるばかりじゃなく支え合える存在になるよう強くなるという目標を見いだせたから。

 

そのためにも、時間さえ取れれば信武さんに剣術の稽古をつけてもらってるわけだしね。

いざ実戦となった時に活かせるかどうかは自分次第だから。これからが大事なんだと思う。

 

水希「もうここに用はなさそうだから、先帰っとくね」

 

去り際にそう言って、兄ちゃんが教室を後にした直後。今度はミソラちゃんから話しかけられる。

 

ミソラ「ねぇ、スバルくん、話したいことがあるから展望台に来てほしいの。先に行って待ってるからね」

 

話したいことが何かを訊く前に展望台へ向かわれてしまったので、放送室で身を隠してる先生に「もう終わったよ」と報告して、残るは下級生の教室へ再び向かうだけだった。

 

 

スバル「――委員長、もう大丈夫だから鍵開けてくれる?」

 

ノックをして、声を少し張り上げながら呼びかけると、すぐさま扉が開いたのだが……

 

ルナ「流石ですわ、ロックマン、様じゃない……」

 

ご想像(おわかり)いただけただろうか。

愛しのロックマン様にだけ向ける笑顔が瞬時に消え失せてしまう委員長を。

 

なぜホラーチックに語るのかは置いといて。何せ今は変身を解いた普段の姿だから、ガッカリされる予感はあった。

 

スバル「落ち込んでる所悪いけど、ロックマンから伝言だよ。ゴン太とキザマロは家で勉強してたから無事だって」

ルナ「え? ……じゃあ、さっきのバケモノは、いったい?」

スバル「話を聞くにバケモノが二人になりすましてたみたい。どうしても心配なら確かめに行きなよ」

ルナ「だ、だれが心配なんか――」

スバル「二人のブラザーなんでしょ? なら尚更、(ないがし)ろにしちゃダメだよ」

 

お説教まがいなことを言う僕だって、今頃展望台で待ちぼうけているであろうミソラちゃんを蔑ろにできないしね。

 

 

 

 

 

 

……ちなみに、一足先に僕が学校を出た後のことだが、

 

ルナ「何よ、星河君のくせに偉そうにして……別に行かないなんて言ってないわよ……」

 

委員長の言葉から、根っからの親友思いな一面が垣間見えるのだった。

*1
詳しくはEX-1話を参照




Q.正体バラすにしては早すぎじゃね?
A.上層部には知れ渡っているし、理解者が増えるのならそれに越したことはないと信じて書いております。

Q.戦闘シーン短すぎじゃね?
A.レティとて本気でスバルを傷付ける気はなく、あくまで演技をしたまでです。
(撃たれても全くダメージがないように調整してましたし、またボツ案になりますが、マジックショーみたく銃口から花が飛び出るシーンも考えてはいたんですよ。場違い感半端ないけど)

Q.原作や他の作品では五陽田さんが再び教室に来てたシーンあったけど、ないの?
A.レティによって観測も検知もできないように根回しされてるので、大丈夫だ問題ない。いやなんもだいじょばねぇけど。


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56話 約束事 展望台にて

夕暮れ時。

校門を抜け、持てる全速力で展望台へ向かったが、道中の長い階段を一段飛ばして駆け上がったせいか、前屈みになり肩で息をしていた。

 

スバル「……あれ、いない……?」

ウォーロック『いや、確かにハープの気配がするからミソラもいるはずだぜ』

 

息を整えてようやく周辺を見渡してもミソラの姿が見えず、もしや怒って帰ってしまったのではと不安に駆られながら、展示されている機関車に目をやる。

 

スバル「もしかして……」

 

機関車の裏へ周ろうと、やはりミソラの姿はないが、もしやと思ってビジライザーをかけたその時。ちょうど眼前にいたものだから、思わずギョッとしてしまう。

 

スバル「ミソラちゃん。もしかして、その姿ままずっと待ってたの?」

 

ビジライザーのレンズを通して見える辺り、どうやらまだハープ・ノートの姿のまま変身を解いていないようだ。

 

ミソラ「えへへ。なかなか来ないから脅かそうと思って。それに、スバルくんなら見つけてくれそうかなと思ったんだ♪」

 

悪戯な笑みを向けたミソラはそう言うが、一度目は元マネージャーから撒くための隠れ蓑として使っていたのに、まさかの二度目に隠れんぼをするだなんて。

お茶目も程々にしてほしいところだが、何はともあれ探す手間が省けたことと、ミソラの寛容ぶりを見て一安心する。

 

スバル「まったくもう……それで、話って何なの?」

ミソラ「あぁ、そのことなんだけど、誰かに聞かれたくないから場所移そうよ?」

 

空の方へ指し示したあたりで本日三度目の変身を促していると理解し、他人に話を聞かれたくない点はスバルとて同感であった。

 

 

そうして二人は、空中にあるウェーブロードに座り込んで、お互いにここ数日間どう過ごしてたかを話した。

 

先に切り出したミソラの話は、主に引退ライブ後のこと。

自分を見つめ直そうと様々な国へ旅をして、昨夜帰国したそうだ。

ただ、答えを見出すにはまだ時間が必要だそうで、スバルもそれには賛成だった。

何より、数あるファンの中でも唯一のブラザーとして、彼女の気持ちを誰よりも尊重したいからこそだろう。

 

対してスバルは、ほとんど学校や水希絡みのことに加え、信武という心強い味方が増えたこと。

もちろんレティも例外ではないが、水希とはどんな関係性なのかはまだ知らないということも、知る限りのことを話した。

 

ミソラ「そっか。でも聞いた限りじゃ、悪い人じゃないんだよね?」

スバル「うん。信武さんと一緒に兄ちゃんを助けてくれたから、根っからの悪人なわけないと思うけど」

ハープ「どうだか。正直あまり信用できないけどねぇ」

スバル「どうしてそう言い切れるの?」

ハープ「女の勘よ。ウォーロックも薄々気付いてるんじゃないの? 彼女が私達をも利用しているって」

ウォーロック「………」

 

―――言ってしまえば、この戦いも目的を果たす前段階に過ぎないんだよ。

半分は自分の力でだけど……いつかの僕みたいに迎えに行きたいと願うなら、それに応えてあげるのが兄貴の務めだしね。

 

ウォーロック「さぁ、どうだろうな。利用されているとしても、別に悪いことばかりじゃないと思うぜ」

ハープ「あら、どうしてそう思えたのかしら?」

ウォーロック「正味な話。同胞の奴らよりよっぽど信用できるしな」

ハープ「……否定しようがないけど、こうも面と向かって言われると腹が立つわね」

 

ハープの言い分に心当たりしかないのも、厳密にはレティからではなく、水希に利用される立場に置かれているが、ウォーロック自身それをあまり否定的に捉えなかったのは、レティと水希の二人に少しずつ信頼を寄せている節があるから。

 

 

―――スバルの命は、アンタの持つ()と同等だってことを忘れないで。それが協力を飲む最低条件だから。

 

 

水希の話を要約すると【スバルの命を粗末にしないと約束すれば、こちらもお前を利用こそすれど悪いようにはしないぞ】と言っているようなもの。

 

何よりの証明として、スバルがピンチの時。どんな形でも守ろうとする姿を何度も見ているからこそ、水希の誠意に応えよう(水希に利用されてやろう)という意思が芽生えたということだ。

 

ウォーロック「何しろ、いずれ強大な敵と戦う日が来るだろうし、そのために力をつけても何ら損はないだろ」

 

故にまず、水希が以前言った()()()()()までに、スバルのような子供は特に多くの経験を積ませることが先決だが、あえてその部分は伏せて話した。

おのずと理解する日が訪れるという確信があるからだ。

 

スバル「それに、正直僕も、兄ちゃんや信武さんに負けないくらい強くなって、大切な人を守れるようになれたらって思ってるんだ」

ミソラ「すごいねスバルくんは。それに比べて私は、全然決まってないんだよね。これからどうしたいか……」

スバル「僕だって、たくさん悩んで、迷った末に出した答えだからね」

 

俯きながら自嘲するような言い草になり落ち込むミソラに、スバルも同調しながら続けた。

 

スバル「ミソラちゃんの場合、そんなに答えを急がなくて大丈夫だと思うよ。

復帰を待ち望んでるファンの人達の気持ちを無駄にできないとしても、きっとわかってくれるよ」

ミソラ「……うん。ありがとう。スバルくん」

 

再会するまでの間に見違えるほどたくましくなると思わなかったが、変わらず寄り添ってくれるその優しさに、惚れ直さないわけがなかった。

 

ミソラ「それでね」

 

顔を赤らめながら、スバルに尋ねる。

 

ミソラ「来週の日曜日、空いてる?」

スバル「? 特に決めてないから大丈夫だけど」

ミソラ「じゃあ! もし良かったら、わたしと……その、……」

 

その続きが声に出かかったものの、気恥ずかしさが勝り、スバルに限って無いと信じたいが、もし断られたら………。

 

そういった不安がミソラの脳内を占め、躊躇うこと数十秒。意を決して告白する。

 

ミソラ「一緒に、お買い物、行こう……ッ!」

 

日が沈んでからしばらく、ミソラが言い放った言葉を理解するまで時間を要したが、

 

(……初めて、同い年の女の子から誘われた?……僕が……女の子、から!?)

 

後々スバルもミソラに劣らず、茹だりそうなほどの赤面になる。

 

スバル「……いいの? 僕なんかと?」

ミソラ「なんかじゃない! スバルくんだからいいんだよ!!」

 

相手は、今は一時的に引退したとはいえアイドルだ。

自分なんかが釣り合うわけないと言いたげなスバルに、ミソラはきっぱりと断言した。

 

ミソラ「仲の良い男の子とお出かけするの、スバルくんが最初って決めてたんだから」

 

本当に、僕でいいの?――とか。

 

緊張しすぎてお出かけを楽しむどころじゃなくなりそう。――だとか。

 

脳裏を掠めてくる迷いや躊躇いはとうに消え失せた。

 

 

 

何しろ、彼女の口からここまで言わせたのだ。

 

ここで断れば、応えてやらねば、男が廃る。

 

 

 

 

 

 

 

スバル「……僕でよければ、一緒に」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

もうすっかり暗くなった空の下。

門限はないとしても心配かけまいと、スバルは急ぎ足で家路につく最中だった。

 

ただ、急がねばと焦る半ば、ミソラとお出かけする約束を取り付けてから内心舞い上がっており、

帰りが遅くても許してくれるだろうと、()()()()()()()()

 

戸を開け「ただいま」と挨拶して早々。

 

あかね「おかえり。帰りが遅いなら連絡しなさいよ」

 

両手を後ろで組んでいるあかねと視線が合う。

 

スバル「ごめん母さん。実はさっきまで展望台にいたんだ」

あかね「ふぅん、そうなの。――ところでスバル」

 

見る者を魅了しそうな素敵な笑みを浮かべながら、あかねは手に提げている物を息子に突きつけて問う。

 

あかね「これ、なぁんだ?」

 

何だと問われてもそれは、通学用のカバン……あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして、手ぶらのまま学校に()()()()()……?

 

 

 

 

 

あかね「ようやく理解したみたいね」

スバル「……ッ?!?!」

 

そうと判った瞬間。未だ素敵な笑みを崩さない母から放たれるドス黒いオーラを感じ取ったがゆえに、身も心も凍りつくほどに血の気が引いていく。

 

あかね「ルナちゃんがわざわざ届けに来てくれただけじゃなく、帰りの遅いアンタを気にかけてくれたってのに……どういうつもりかしらねぇ?」

スバル「あ、……いや、その……」

 

身体中の水分が抜かれ干からびそうなほどに、スバルの全身は滝のような汗に塗れてしまい、左腕のトランサーもカタカタと恐怖に震えていた。

 

あかね「なにか申し開きがあるなら聞いてやらなくもないけど?」

スバル「滅相もありませんわお母様……」

 

申し開きと書いて命乞いの間違いではなかろうか。

デートのお誘いで浮かれ気味だったのが一転。顔は真っ青を通り越して真っ白となり、どうしてあの水希ですら恐れ慄くのか……今日この日、身を以て知るスバルであった。

 




次回もお楽しみに。


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57話 子の心親知らず

リハビリの最中にヘルプシグナルが鳴り、胸騒ぎを感じて発生源に向かった結果。レティが仕組んだと知るまでは憤っていたけれど、敵が本腰入れてアンドロメダの鍵を奪還しに来る頃だと聞いて、ようやく冷静になれた。

 

確かに、奪還を企てる輩を倒すか、あるいは降参させたりもして、今もなおウォーロックが肌見放さず所持しているままである。

 

しかし今後、敵単体ではなく複数、もしくは強大な戦力を地球(ここ)に送りつけられようものなら、想像できるはずだ。

 

建造物の損壊のみならず、最悪の場合は誰かが人質にされるか、戦場にて巻き込まれ損で死ぬ可能性だって否めない。

 

そういった二次被害は免れにくくなり、取引を無効とされた時点から僕の……いや、間違いなく家族全員の命も危ぶまれるし、大吾さんに代わって保護監査を担う天地さんやリュウさんの立場も悪くなるということだ。

 

 

――私が先程述べた“被害者”というのは、地球上の全人類に当てはまる、ということだ。

 

 

裁判長のお言葉に対する僕の解釈が間違ってなければ、

【FM星人に憑かれた本人に限らず、巻き込まれた人達も対象であるから、死者は絶対に出すな】と言われてるようなもの。

必ずしも守れるとは限らないが、最善を尽くすことに他ならない。

 

 

 

 

 

話は逸れたが、リンドヴルムを除くFM星人の討伐は()()()()()()()()()()しない代わり、

 

・選定の日に向けての戦力確保と育成。

・行方不明とされている乗組員(クルー)の捜索と保護。

・僕自身の罪を清算させるためのお膳立て。

 

などといった裏方作業に専念していたがゆえに、今回のレティの行動は、ただ役目を全うしたに過ぎなかった。

 

特にスバルやミソラちゃんのような子供達は、体力も経験も著しく不足してるしね。

一人でもある程度修羅場を切り抜けられるように基礎的なトレーニングを積んだり、電波変換時に備わっているであろう固有能力を活かした戦法を会得する必要性が大いにあるってわけ。

 

 

 

つまるところレティに「いい加減弟離れしたら?」と呆れられているようなものだった。

 

 

 

……無論わかっている。過保護が過ぎればスバルにとって毒だと。

だけど、せめてものわがままでも、スバルの成長を見届けるくらいはさせてほしいと思う。

 

 

 

 

水希「……入るよ。スバル」

 

軽くノックをして部屋に入るが、照明も点いてないため真っ暗で、寝床の方からブツブツと声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スバル「許してください……許してください……許してください……許して――――――」

リヴァイア「……ありゃあ、かなりの重症だな」

水希「だね……」

 

お姉ちゃんにみっちり絞られたであろうスバルの様子は、リヴァイアの言う通りだった。

 

布団に包まりながら膝を抱えて座るスバルの震え具合を顔文字で表すと

 

((((( ; _ ; ))))) (ユルシテ…ユルシテ…) ←まさにこんな感じなのよ。

 

枕元に置かれてるトランサーもカタカタと小刻みに揺れ、ウォーロックですらも声が出ずに震え上がっているのが見てとれた。

 

ただ、本人たちには直接言えまいが、思うところはある。

 

 

二人は、まだ運が良い方だ。

こっちは昔から幾度となく、言葉より先に()で説教されてるからね。

 

そうされても仕方ないことをしでかしたのが前提だが。

 

お姉ちゃんのお気に入りだったCDを踏んづけて壊した時だったり。他数件もあって、お姉ちゃん……いやお姉様の気が触れる行為を無くそうと努力はしてるのよ。

努力してはいるのよ?……空振りしまくってるとしてもね。

 

……忘れちゃダメだけど思い出したくない過去を一旦頭の片隅に置いて、スバルの隣に座って抱きしめる。

 

スバル「ッ、兄ちゃん……」

水希「今回ばかりは怒られてもしゃあないし、ウォーロックも巻き込まれ損みたいだけど、ドンマイ」

 

頭を撫でてあげた。これで少しマシになればいいけど。

 

スバル「きょう、今日だけでいいから、一緒に寝て……一人じゃ心細すぎる……」

 

あらま、添い寝してほしいのか……。

ズビズビ鼻を啜りながら頼み込むのは幼い頃にホラー番組観て以来だけど、断る理由はない。むしろスバルなら何歳でもウェルカムよ。

 

……ただし、星河誠俟(クソオヤジ)。テメェはダメだ。

何度も夜這いを仕掛けてきては返り討ちにしたけど、おもっクソ機嫌悪い時はたしかハイドロウィップで尻百叩きの刑に処したっけ? あれは爽快だったなぁ。

また何かの拍子に襲って来ようものなら、喜んで調教(かんげい)しようそうしよう。

 

リヴァイア「俺も一緒にいいか? 一人は嫌だし」

スバル「いいよ……布団、持ってきてね」

 

スバルの許可を得て、布団を運んでから各々が入浴を済ませた後。

僕を中心に左隣にリヴァイア、右隣はスバルという形で川の字になって寝たのはいいとして……

 

水希「……なぜ二人して抱きつくのよ?」

 

天井から見て顔文字だとこんな感じ。

表現するにしてもくどくてごめんね。

 

スバル→(´⁠・⁠_⁠・⁠( ᄑ_ᄑ;(=ω⁠= )←リヴァイア

 

リヴァイア「なんだよ、お前だっていつも俺に抱きついたり背中に乗っかったりしてたくせに」

水希「だって、居心地良すぎるのが悪いんだもん」

リヴァイア「お前……もう一回信武に怒られろ」

水希「なんで?」

スバル「僕も怒られた方がいいと思うよ。兄ちゃんの男タラシな(そういう)所は治しようがないから」

水希「何を指して言うとるのか分からぬがそっくりそのまま返すぞ、弟よ」

 

人聞きの悪いことを……スバルだってきっと思うはずだよ。擬人化する前のリヴァイアの背中に乗った時の心地良さ。夏だとひんやりして最高なんだよ?

まぁでも擬人化(イケメンチェンジ)した今だと目の保養だからな〜んの問題もないけどね。hahaha!

 

水希「……にしてもまた、こうやって一緒に過ごせると思わなかったな」

 

天井を眺めながら呟く。

 

水希「あまり言うべきじゃないけど、暴走する時点で死を覚悟してたから、生きてるっていう実感が無いんだよね」

スバル「正直僕も、授業中に似たようなこと考えてたよ。兄ちゃんが退院して、またここに戻ってきてくれた時から、穏やかな一日を過ごせることが当たり前じゃないんだなって感じるようになった……」

リヴァイア「それを言うなら俺もだよ。姿形が変わっても、変わらず水希の相棒で居続けられるのが奇跡だと思ってる」

水希「それもこれも、大切な人を失う痛みを知ってるからこそ、なんだろうね……。それを知っていて同じミスを繰り返すもんだから、我ながら救いようがないよ」

 

自嘲気味に言うと、右腕にしがみつくスバルの力が強まった。

 

スバル「たしかに、暴走した姿を見て、最初は腰が抜けるほど怖かったよ。……それでも、兄ちゃんがどんな姿であっても僕を守ってくれた。……だから、この前は許すつもりはないって言ったけど、取り消したい」

水希「……無理に許そうとしなくても、その気持ちだけで充分だよ。でも言わせて。ありがとう。

絶対に大吾さんを見つけて、この家に連れ帰ってみせるから」

スバル「父さんのことなら一緒に探させてよ」

水希「もちろん」

 

 

もう絶対に間違えない。絶対に失くしたくない。

 

だからお願い。

 

 

 

大切な人と過ごす幸福をもう少しだけ噛み締めさせて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

時刻は22時前。

常日頃から両親が家を開けている白金家にて。

 

ルナ「――え……転校、ですか……?」

 

『そうよ。勝手であるのは承知の上で決めたことなの』

 

トランサーの画面に表記されている【白金ユリ子】。

 

つまり電話の相手は、ルナの母親だった。

 

話の大筋はルナの転校にかかわるが、突然なこともありルナとしては受け入れがたいことだが、その思いを汲み取らずにユリ子は淡々と話を続けた。

 

ユリ子『来週から全寮制の女学院へ通えるように編入手続きをするから、貴女も心の準備をしておきなさい』

 

ルナ「でも……そんな急に言われても……」

 

ユリ子『まさか忘れたわけじゃないでしょう? 貴女が昔、誘拐された日のことを』

 

ルナ「っ、……はい」

 

ユリ子『無理にとは言えないけれど、いずれ判る時が来るわ。私達が貴女の身を案じて決断したということをね』

 

返答を待たずして通話が途絶えた瞬間。

 

底知れぬ絶望を感じながら、先程の話が夢であってくれと現実逃避するように、顔を枕に埋めながら眠りについた。




次回はデート当日。各々の朝の支度からお送りします。


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58話 デート当日の朝

皆様こんにちは。この作品の作者です。

前5話(53〜57話)の月曜日から時間が進みすぎて、待ちに待った日曜日。

デート当日の朝の様子を以下の順で、各視点でお送りします。 

【信武視点】
 ↓
【ミソラ(三人称視点)】
 ↓
【水希視点の星河家】



「―――? ……あれ?」

 

たしか寝ていたはずだが……気づいたら俺は、仮住まいの寝室とはかけ離れた場所にいた。

 

身なりはなぜか礼服姿になっており、周囲にもタキシードやドレスを着飾った人達が多くいて、数々のテーブル席に座っているのが見受けられる。

 

会場の華やかさも加味して結婚式場にいるとは、夢にも思わない。

なぜなら誰の結婚式であるか、誰からの招待に応じて来たか。それすらも把握できていないのだから。

 

 

呆然とする俺を他所に談笑する人達の声は、やがて照明が暗くなるとともに止み、スポットライトが1箇所にあてられた瞬間。

 

「大変長らくお待たせしました。新郎新婦のご入場です」

 

アナウンスのあとにBGMが流れ始め、扉は開く。

 

程なくして、式の主役となる新郎新婦の入場に皆が一斉に拍手を送って迎え入れるなか……俺だけは、その主役二人を目にして膨れ上がる殺気を抑えられそうになかった。

 

信武「…………はぁ?

 

それもこれも……白いウェディングドレスに身を包む水希の横に立っているのは、言わずもがな白のウェディングスーツを身につけた恋敵なのだから。

 

(は?何で水希が花嫁でクソ蛇が花婿(むこ)なんだよふざけんなじゃあ俺はどうなるんだよ――――許すまじ恋敵ユルスマジコイガタキユルスマジコイガタキィッッ!!!)

 

ギリギリと歯軋りして怒りを顕にした顔にも、血で滲みそうなほどに握る拳にも、至る所まで青筋が浮かんでいるのがわかる。

 

 

水希「……信武」

リヴァイア「……青二才」

 

信武「誰が青二才だコラァ!」(<○><○>#)

 

キレ散らかす俺に対して二人は言った。

 

「「僕たち(俺たち)、幸せになるから」」

 

信武「ど、どうしてだよ……?!」

 

「「だって(そりゃあ)()にとって最高の婚約者(パートナー)だもん(だしな)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信武「……………(#¤д¤)んなことあってたまるかぁああああぁぁァァァァァァァァァァッッ!!―――あ? 夢?………ぅっ、よかっだぁぁぁ(T〜T)………」

 

とんだ悪夢を見せられて心底不愉快だが、どうか願わくば、正夢でありませんように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月の第2日曜。時刻は7時を過ぎている。

 

普段から早起きを習慣づけている身としては、いつもと変わらぬ朝だろうが、今日に限って話は別だ。

ようやく迎えた、約束の日だから。

 

信武「……よし、忘れ物はないな」

 

大学入ってから今なお愛用している、機能性に富んだトートバッグに必要なものを入れ、中身の再確認をしているところだ。

 

今わかる範囲で、ウェットティッシュ、キャッシュカードの入ったケース、家の鍵。

他にも色々あるが、そこは割愛させてくれ。

 

キャッシュカードは、バイト代の振込み用に口座開設した時の付属品だ。

電子マネーの残高が心許ない時に必須だから、持ってて損はないが盗難には気をつけねばならない。

無論、家の鍵も貴重品だしな。

 

ウェットティッシュは主に食事中に手が汚れた時、乾いたやつより拭き取りやすいからかな。

 

こういうちょっとした気遣いで、水希に「スパダリだぁ…!」とか言われて惚れ直されたいわけじゃないぞ。断じて他意はない。

 

信武「……ふ、ふふ、フヘヘヘヘ……」

『何をそんなへにゃっとした顔しとるんじゃ……』

信武「あ、いっけね」

 

枕元にある携帯端末、トランサーのスピーカー越しから、俺の相棒ことクラウンに気味悪がられて我に返る。

 

信武「実はさ、剣道の試合で勝って水希に褒められるたびに、家でいつもこんな顔してたんだぜ。そういや親にも気味悪がられてたんだよなぁ」

クラウン『あっそ』

 

素っ気ない返事も気にならないほど浮かれつつ、持ち物の確認を続ける。

 

 

 

 

先週の月曜、河川敷で鍛え直している最中だった水希と約束を交わしてから、今日に至るまでずっと、俺の胸は高鳴っていた。

 

いつか再会したら、二人でどこかへ遊びに行くという……なかなか果たせずにいた約束が念願叶うのだ。これが浮かれずにいられるかってんだ。

 

 

欲を言えばもっと早く実現したかったけど、何も知り得なかった頃の俺は何度も水希に騙され続けて、約束を果たすどころの話じゃ無かったからな。

 

深祐から話を聞き、すべてを知ってから悲しさやもどかしさで胸が苦しかったけど……今思えば俺も、水希と立場が逆なら間違いなくそうするだろうと確信している。

 

駅のホームでの別れ際、『たとえ互いに遠く離れるとしても、他の誰かと笑顔で居続けてくれたら……』と願ったはずだ。それが外面(そとづら)を良くするための仮初めの笑顔だとしても。

 

何も成せないまま仲間を失い、自責の念に駆られたまま自分を死亡扱いして一方的に突き放したはずだ。親友として立つ瀬がないからな。

【騙すことの後ろめたさ】と【友を捨てる覚悟】を天秤にかけても後者が(まさ)るからこそ、自分の気持ちさえもフタをして、平気なフリをして騙し続けたと思う。

 

水希の日記に書き記された心境を顧みれば、それが間違った選択だと理解していながら、それが正しい選択だと言い聞かせ続けて、苦しんできたと思うから。

あとは水希が好きすぎて超ツラいと書き記すほどに拗らせたと思うから。

 

信武「……ごめん、なんか日記見られて取り乱した水希の顔思い出してお腹痛くなってきたわww」

クラウン『いや怖ぇて……』

 

だが何にせよ、今日この日をもって、水希と楽しい時間を過ごせるのなら文句はない。

青春の再来。とでも言えば聞こえは良いだろうか。

 

クラウン『しかし、本当に良かったのか? 水希と二人きりじゃのうて』

信武「……嫌に決まってるさ。でも有事の際にあの()()()がいなきゃ水希は戦えねぇし。何よりこの前の取引の話を聞いた以上、下手に引き離す方が酷だしな」

 

悔しいけど、水希はリヴァイア(クソ蛇)がいなきゃダメになるほど、俺よりもアイツに依存(しんらい)し縋っていた。

今までそれを知らないままずっと、俺は水希の期待に応えたいというのは建前であって、己の承認欲求を満たすためにお為ごかしをし続けた。

するだけ虚しいとわかっていながら、水希にとっての俺の存在価値を示す方法が他に考えつかなかった。

 

考える余裕すらなかったんだろうけどな。

何でも器用にこなせるクセに、こと恋愛には……いいや、愛する人の前だと、とことん不器用だったから。

 

 

 

……それでも水希は、俺に会えなかったら何も変われなかったと言ってくれた。

 

『僕も、好きだよ……。卑屈だった僕にいつも笑顔をくれた。太陽みたいに温かく包んで、寄り添ってくれた信武が―――誰よりも大好きだった!』

 

水希には不器用だとか言ったけど、負けず劣らずな俺を何年も恋い慕ってくれたことが判って、胸の痛みが取れたような気がして報われた。

 

嫌われるくらいなら突き放せばいいと思い立って、自らを死者扱いしたのは褒めがたい行動だけど、そんな水希を赦そうと思えるようになった。

 

俺だって水希に会えなきゃ変われなかったし、最早いてくれなきゃダメになるくらいに依存してるからな。

 

クラウン『……で、本音はどうなんじゃ?』

信武「クソ蛇の監視に決まってんだろいい加減にしろ」

 

そう。何を隠そう、クソ蛇に同伴を促したのは俺だ。

 

クソ蛇からしたら、恋敵からまさかの提案をされて驚かない方が無理だし、それに当日になって水希と二人きりのはずが、コソコソと後を付けてくるだろうしな。

アイツのことだから彼氏面しながら張り切って『今日一日、水希のSPを務めるぞ〜』とか吐かしやがるだろうなぁ……あぁ胃が痛ぇ、マジ斬り殺してぇ……。

 

クラウン『ハッ、妬いてやんの』

信武「妬くに決まっとるわボケ。最高の婚約者(パートナー)だかなんだか知んねぇけどよ、俺だって水希と両想いな時点で幼馴染から恋人に進展してるだろ絶対!

だからこそ、男としても、あんなヘビ野郎ごときに負けられねぇんだよぉぉ……!!」

クラウン『朝から喧しい奴じゃのう。まったく……』

『―――信武くん、起きてる?』

信武「あ、はい! 起きてます!」

 

対抗心に火がつく最中、ノックの後にドア越しから呼びかける声に応じると、叔母の真希絵さんが入室してくる。

 

信武「お、おはようございます真希絵さん!」

 

どうしよう……鏡見なくてもわかるくらい引きつった笑み浮かべてるわ俺……。

 

真希絵「ええ、おはよう。またなにか騒がしかったようだけど、大丈夫?」

信武「えぇ、大丈夫です! ちょっと友達と電話をしてまして! ――すまんまた後でかけ直すわ!」

 

さながら大根役者並みにぎこちない演技だったが、真希絵さんにクラウンの存在がバレずに済んだか? いや済んでくれお願いします。

 

真希絵「……どうやら間が悪かったかしらね?」

 

反応から見るにセーフかな。

 

信武「いえいえお気になさらず! あの、そろそろ着替えようと思うんでドアを……」

真希絵「わかったわ。今日お友達とお出かけするんでしょ? しっかり楽しんでらっしゃいね」

信武「ありがとうございます。帰りが遅くなりそうな時はその都度連絡しますね」

真希絵「それも大事だけど……この前みたいにずぶ濡れで帰ることがないように、折り畳み傘も忘れずにね?」

信武「わかりました」

 

部屋を出た真希絵さんの足音が遠のくと、変に疲れが押し寄せ、ゼェ…ゼェ…と肩で息をしてしまう。

 

クラウン『……お主に友達呼ばわりされると震えが止まらんわい』

信武「誰も好き好んで呼んでねぇよ……くそったれが」

 

こんな調子ではデートも楽しめそうにないが、服のセンスが無いなりに無難そうな服に着替え、髪をセットしに洗面所へ向かった。

 

 

◆◆◆

 

 

――同時刻。ミソラの自宅にて……。

 

ミソラ「……」

 

ベッドサイドに置かれたカレンダーを見ては布団から出られず、うずくまっている。

しかし既に目は冴えているため、単に眠気によるものではない。

 

ハープ『――ミソラ。もうそろそろ起きないと、支度するための時間減っちゃうわよ?』

 

愛用品のギターのヘッド部分に小さなモニターがあり、そこからミソラの様子をうかがいながら、あまり悠長にしている暇はないぞとハープは指摘する。

 

ミソラ「わかってるけどさ……ハープ。スバルくんのような男の子とお出かけするの初めてだから、不安なの……」

ハープ『大丈夫よ。そういう時ほど、会ったら意外と吹っ切れちゃうものよ』

ミソラ「だといいんだけどなぁ……」

 

緊張と不安に苛まれながら布団に包まること数分。

いつまでもウジウジするヒマはないと内心喝を入れてようやく支度に取り掛かるのだった。

 

 

◆◆◆

 

水希「リヴァイア。スバル。準備はできた?」

リヴァイア「問題なーーし!」

スバル「……朝っぱらから何なの?」

 

午前8時半。星河家の朝は僕とリヴァイアを筆頭に賑やかだが、その一方でスバルは引き気味にこちらを見ている。

 

水希「良いから良いから。とりあえず合わせてよ――忘れ物はぁ?」

リヴァイア「なーし!」

スバル「……なーし」

水希「身だしなみはぁ?」

リヴァイア「良ーし!」

スバル「……良ーし」

 

気乗りしないスバルから『うわぁまた始まったよ急に変なテンションになるやつ〜……』って内心言われてる気がする〜。けどそこはあえてスルーしよう。

 

水希「ほらスバル、そんなつまんなそうな顔しないの。いつまでもそんなテンションじゃ楽しめるものも楽しめないでしょ?」

ウォーロック『よく言うぜ。お前だってこないだからずっと辛気臭ぇ顔してたくせによぉ……』

スバル「ホントね。それに、ちゃんとアラームもセットしたのに叩き起こしてさぁ。いい迷惑だよ」

水希「お客様がお望みならいつでも駆け――」

スバル「それ以上は怒られるからやめて!」

水希「自動目覚人形。コールの――」

スバルだからそれ止めろっつってんだろうがいい加減にしろッ!!

 

声を荒げるスバルに圧されたので自重します。

 

水希「ごめんて。……にしてもまさか、スバルもヤシブタウンでお出かけかぁ……」

リヴァイア「そうと知るまで俺達と行き先が被ると思わなかったもんな」

スバル「なに二人してニヨニヨしてんのさ……」

 

リヴァイアの言う通り。先週の月曜の昼頃と夕方で、それぞれ約束を取り付けてるって知って驚きだったんだよね。

 

水希「いやぁね、スバルにもやっと春が来たかと思うと……兄ちゃん感激でさ」

スバル「気持ち悪っ。なんか今の視線、おじいちゃんみたい……」

水希「いやアイツと一緒にしないで。反吐が出る」

ウォーロック『……いくら血を分けてるとはいえ、真顔でアイツ呼ばわりって……』

水希「もうその話は終わりにしてそろそろ出ようよ。バスに乗る時間も迫ってるだろうし」

スバル「言い出しっぺがよく言うよ……」

 

なんて悪態をつくスバルだけど、行き先もバスに乗る時間も同じだから、どの道一緒に行動することになる。

その直前。お姉ちゃんが見送りに来た。

 

あかね「水希、ちょっと耳貸して。――信武くんのこと、蔑ろにしちゃダメよ? リヴァイアくんに負けず劣らず、アンタを好いてくれる子なんだから

水希「言われるまでもないっての

あかね「ふふ……それじゃ、楽しんでらっしゃい。アンタたちの土産話、楽しみにしてるわね」

 

そう言う姉に、僕ら三人は「行ってきます」と答え、外に出る。

 

リヴァイア「にしても、あの青二才……何を思って俺も誘おうとしたんだろうな?」

水希「さぁね。―――ん?」

 

妙な視線を感じ、後ろを振り返るが……確かに気配はあるはずなのに、気のせい……?

 

スバル「どうしたの兄ちゃん、忘れ物あった?」

水希「いや、確認したから大丈夫……だけど」

 

不審に思うなか、リヴァイアが耳打ちするようにして訊いてきた。

 

リヴァイア「……もしかして、敵か?」

水希「わかんない。でもしばらくは様子見しよう」

リヴァイア「わかった。ま、いざとなりゃ俺が居るんだし大丈夫だろ」

 

視線の正体がわからない限り不安が絶えないけど、気さくに笑いかけてくれる相棒に「心強いね」と返して、バス停へと向かう。




信武視点のお話が長い割にミソラちゃんのは少なすぎる……いや本当にミソラファンの方には申し訳ないんですが引き出しが少なすぎました。(;n;)


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