レミリア・スカーレットは百合百合暮らしたい (名無しのメイド)
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八雲紫は平穏が欲しい

 幻想郷。現世より失われし神秘や魔術、妖怪たちが集いし知られざる世界。

 その人あらざる者たちの楽園の管理者たる八雲紫は、自身の住居たるマヨヒガにて式神の藍からの報告を聞いていた。

 

「吸血鬼?」

「はい。霧の湖付近に館ごと転移してきたのを確認しております」

「随分とダイナミックな来訪ね」

 

 冗談めかしながら、紫は内心で頭を悩ませる。曰く、面倒な連中が来た、と。

 この幻想郷に吸血鬼が来るのはこれが初めてではない。以前、時代遅れの貴族主義と力による支配を信条とした馬鹿な吸血鬼の一派が、幻想郷の支配を掲げて侵略に乗り出した事があった。

 

 あれは幻想郷始まって以来の危機であった。下級妖怪は軒並み吸血鬼の軍門に下り、日和見を決め込む妖怪もいた。

 その時は結局、紫が直々に討伐に出る事によって収めたが、今度の吸血鬼もその類いかと思うと頭が痛くなる。

 

「それで、その吸血鬼は今何をしているのかしら」

「はい。件の吸血鬼、レミリア・スカーレットですが……」

 

 レミリア・スカーレット……スカーレット家か。かの一族は確か外の世界でも極めて高名な吸血鬼だったはず。この幻想郷でしか存在を保てない忘れられた妖怪たちと異なり、ここに来る理由などないはずなのだが。

 

「妖怪の山や人里に対してメイドを派遣し、菓子折りを渡して回っているそうです」

「……ごめん。何て?」

「妖怪の山や人里に対してメイドを派遣し、菓子折りを渡して回っているそうです」

 

 主人の問いに対して藍は一言一句同じセリフを繰り返して答えた。どうやら紫の耳がおかしくなったわけではないらしい。

 

「その菓子折りの中身は?」

「はっ。調べましたところ特に不審な点は見られなかったようです。それどころか外の世界では最高級の代物のようでした」

「何か……随分と低姿勢ね……」

 

 以前幻想郷の支配をしようとしたような、傲慢で暴虐な吸血鬼のイメージからは掛け離れた行動だ。プライドに凝り固まった人物ではなさそうだ。少なくとも侵略者のやる事ではない。

 

「となると単なる移住者なのかしら」

 

 外の世界で栄華を極めているスカーレット家が今さら幻想郷に移住してくるとは考えにくいのだが、何か事情があるのかもしれない。

 

「会って話してみるのが一番かしら」

「本当に友好的な人物かどうかはわかりません。くれぐれもお気をつけて」

「ええ」

 

 菓子折りを渡して回るというのが友好的に見せて油断させるポーズの可能性も捨てきれない。そうなると厄介なのだがこればかりは本人に会ってみないとどうしようもない。

 

「あれね」

 

 霧の湖まで飛ぶと、全面真っ赤の館が目に入った。あれが件の吸血鬼の館だろう。なんというか、いかにも吸血鬼らしい外観で存在を誇示してくるような館だ。しかしその割にはやる事は菓子折り配りだし、どうにもちぐはぐだ。

 

「さて」

 

 紫はスキマを館内部に向かって開く。最初からそうしなかったのは、一度館を目で見ておいた方が良いと思ったからだ。

 館の内部、恐らく廊下であろう場所にスキマが開かれたのを感覚で確認し、スキマから出た瞬間──

 

(なっ!?)

 

 ──強大な妖力を放ち、微笑みを浮かべる幼げな吸血鬼に出迎えられ、周囲を多数のメイド服を着た妖精たちに取り囲まれていた。

 

(察知されていた!? そんな、ありえない……!)

 

 紫は今までスキマを察知された事など一度もなかった。彼女に匹敵するような大妖怪であっても、スキマが開かれる瞬間を気付く者は誰もいなかったのに。

 

(それに、なんて凄まじい妖力……! 日中でこれなの!?)

 

 

 吸血鬼が最も力を発揮するのは夜間、特に満月の夜だ。だが日中の吸血鬼は本来の力よりいくらか妖力が弱まる。だが眼前の彼女から感じられる妖力は自分のような大妖怪クラス。日中でこれなら夜はどうなるのかなど想像もしたくない。

 

 そんな件の吸血鬼、レミリアは突然の不審な来訪者である紫に何かする素振りもなく、先ほどからただ微笑みを浮かべながら紫を見つめているだけだ。

 観察されているようで薄さ寒いが、敵意を持たれるよりはマシだ。紫は目だけで周囲の妖精たちを見回し──思わず声を上げそうになった。

 

(冗談でしょ? この娘たち全員、大妖精クラスじゃない!)

 

 主人の命令がないからか、先ほどからこちらに愛想良く笑っているだけのメイドたちだが──全員大妖精クラスの力を持っている。

 特に力のある妖怪が大妖怪と呼ばれるように、妖精と大妖精の間にも隔絶した違いがある。基本的に妖精は力が弱く、頭もあまり良くない。気まぐれかつ脳天気で、当然ながらメイドなど務まるような種族ではない。

 

 しかし大妖精ともなれば一般妖怪と同等の力と人並みの知性を得る。妖精によく見られる気まぐれさや適当さは薄れ、確固たる意思を持った個体が現れる。そう、たとえば明確な忠誠を他者に捧げる個体が。

 

 ふと思い立って、紫は抑えていた妖力の一部を解放してメイド妖精たちにぶつけてみる。数人のメイド妖精が眉を顰め、何人かがスカートに潜ませているナイフに手を伸ばしたが、一番年長らしいメイド妖精に目配せされてすぐに先ほどの笑みに戻る。

 

(やはり……この程度じゃ動じもしないわね)

 

 普通の妖精が紫クラスの妖力に当てられれば気絶するかパニックを起こして暴れるかが当然だというのに、彼女らは単に不快そうにしただけだ。主人がこれだけの妖力を持っているのだ、慣れているのだろう。目配せで意思疎通可能なレベルで統率も取れているようだ。

 

(というかあのナイフ、銀製じゃないの)

 

 銀といえば吸血鬼の弱点として有名な金属だ。それをわざわざ自分のメイドに持たせるとは……相当な自信家らしい。

 

(これだけ大妖精が集まっていて統率も取れてるとなると……マズいかもしれないわ)

 

 単なる妖精ではなく、一般妖怪クラスの力はある大妖精がこれだけ集団で組織的に動いているとなるとかなりマズい。何がマズいかって、彼女らが妖精だからだ。

 妖精は死なない。自然現象そのものである彼女たちに死はない。たとえ滅びてもすぐに同じ記憶、同じ肉体を持って再生する不滅の種族。それが妖精だ。

 

 そんな妖精がなぜ幻想郷のカーストの底辺クラスに甘んじているのかといえば、妖精同士の協調性が全くないこと、単純に弱いことが原因だ。不滅の存在であってもそれを活かせるだけのスペックがないし、本人たちにもその気がない。

 しかし妖怪と同等の力を持つ妖精が集団で明確な意思を持って行動するとなると話が変わる。死の概念がない妖精は永遠に戦える不滅の兵士になり得る。なり得てしまう。

 

 紫がそんな懸念を抱いていると、ついにレミリアが動いた。

 

「私としたことが、礼を失していたわ。皆、お客様におもてなしの準備を」

「「「畏まりました、お嬢様」」」

 

 レミリアの言葉に従いメイド妖精たちが即座に動き出す。全く無駄のない動きだ。

 

「咲夜」

「はい」

 

 レミリアが呼びかけると、先ほどまで影も形もなかったメイド服を着た銀髪の少女がレミリアの真横に現れる。

 

(今のは……まさか、時間停止? なんて馬鹿げた能力者がいるのよ……!)

 

 紫が察知できなかった事を考えると超スピードだとかそんなチャチなものでは断じてない。妖力を感じないところから人間のようだが、とんでもない人材がいるものだ。

 

「お客様をご案内して?」

「畏まりました。お客様、こちらへどうぞ」

 

 レミリアの言葉に何の疑問もなく、明らかに不審者である紫を案内しようとするメイド。イマイチ彼女らの意図が読めないが、敵対を避ける為にもここはついていく事にする。

 

「席へどうぞ」

 

 促されるまま案内された席に座ると、レミリアもその対面へと座った。即座に咲夜というメイドからお茶と菓子が差し出される。完全に客人として扱うつもりらしい。

 

「ようこそ紅魔館へ。私はこの館の主でありスカーレット家の現当主、レミリア・スカーレットよ」

「丁重なおもてなしありがとうございますわ。私は八雲紫。この幻想郷の管理をしているしがない妖怪ですわ」

 

 紫がそう言うと、レミリアは両手を叩いて笑顔を見せる。

 

「ほう、あなたが! 幻想郷に移住するにおいていずれご挨拶に伺おうと思っていたのだけれど。私たちのような新参者に対してまさか管理者自ら御足労頂けるとは嬉しい限り」

「いえいえ、幻想郷は誰であろうと受け入れますわ」

 

 噂通り妙に腰の低い態度を取るレミリアに紫は決まり文句で返答する。

 

「ひとつお尋ねしたいのだけど、今回はなぜ幻想郷に移住しようと」

「そうね、友人が欲しくなったからかしら」

「友人?」

 

 紫がおうむ返しにそう呟くとレミリアは頷く。

 

「外の連中は私たちが嫌いらしくて。この幻想郷でなら友人が作れるのではないかと思ってね」

「それは良い考えですわね」

「そうでしょう?」

 

 つまりはこの幻想郷には交友関係の拡大を求めてきたということだ。幻想郷の侵略を行う気はなさそうだ。あくまで彼女の言い分を信用するなら、だが。

 

「そうだ、賢者殿。あなたは我々が幻想郷に来て初めてのお客様よ。これも何かの縁。どう? 私の友人になってくれない?」

 

 レミリアが紫にそう語りかけてくる。実際のところ、今後幻想郷で有力者になり得るであろう彼女と友人になっておくというのは悪い話ではない。

 

「ええ。是非、お友達にして下さいな」

「そう! では、今から私とあなたは友人よ」

 

 演技なのか本心なのか、レミリアは紫の言葉にはしゃぐように喜ぶ。

 

「ただ、せっかくお友達にしていただいて難なのですけど、私も忙しい身。そろそろ帰らないといけませんわ」

「あら残念。また遊びに来て頂戴ね?」

「ええ、もちろん」

 

 そこでレミリアはポンと手を叩く。

 

「そうそう、お近づきの印に幻想郷の皆にお菓子を配っていたのよ。咲夜、紫にも差し上げて?」

「はい。どうぞお受け取り下さいませ」

「あら、ありがとう」

 

 紫は噂の菓子折りをメイドから手渡される。確かに不審な点はなさそうだ。

 

「それじゃあ、また会いましょうね? 紫」

「ええ、また」

 

 そうして紫はスキマを開くと、自身の住居であるマヨヒガへと帰還した。レミリアへ警戒と興味を抱きながら。しかしこの時、紫は思いもしなかった。まさかレミリアがあんな事を考えているなど。

 

 そう、いかにも大物な雰囲気のカリスマ溢れる強大な吸血鬼が、

 

(綺麗なおねーさんとお友達きたぁーーーー!!)

 

 ……そんな馬鹿な思考を巡らせているなどとは、妖怪の賢者である紫ですら思いもしなかったのである。



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レミリア・スカーレットは百合百合暮らしたい

「私を満たしてくれる日々はいつ来るのかしら(私の癒しはどこにあるの?)」

 

 大好物のトマトジュースをジョッキで飲み干しながら、紅魔館当主レミリア・スカーレットは呟いた。

 数多の雑多な吸血鬼たちが人々に忘れ去られ、伝承の中だけの存在となる中、スカーレット家は吸血鬼として栄華を極めたと言って良いだろう。堂々と人間社会にその名を広め、現代の人々に恐怖され、その生き血を啜りながら現世を謳歌しているのだから。まさしく吸血鬼のスーパーエリートと言って良い一族である。

 

 しかしレミリアにはある不満があった。

 

「諦めは彼らを殺すのであろうか?(代行者うざい)」

 

 そう。吸血鬼という怪物が現存している以上、それを退治する組織も当然ながら存在している。レミリアは性懲りもなく襲撃してくる代行者を返り討ちにする日々に飽き飽きしていた。毎日毎日、神の力とやらを振りかざして襲い掛かってくる連中を一秒でミンチにする作業もいい加減うんざりなのだ。

 

 ちなみに先ほどからレミリアの言葉が妙なのは、大昔に自らでかけた術が原因である。彼女は主に他者に舐められるのを避けるため、「言動がカリスマっぽくなる程度の術」を自分にかけていた。

 これにより口から出た言葉が妙に芝居がかった言い回しに翻訳される。……のだが、レミリアはとっくにこの術の存在を忘却しており、自分の言っている言葉が翻訳されているのに気付いていなかった。

 

「代行者たちは華がなくていけないね(毎日毎日むさい男ばっかり倒す日々は飽きたー! かわいい女の子かもーん!)」

 

 ……そう、このレミリア・スカーレットという吸血鬼は、三度の飯よりかわいい女の子が好きであった。これで襲撃してくる代行者が美少女だったら文句はないのだが、残念ながらごく一部を除いてオッサンばかりだった。ちくしょう。美少女だったら吸血して眷属にしてしまうのに。

 

 ちなみにどの程度美少女好きかというと、『みんなかわいいから』という理由だけでメイドに全く向かない種族である妖精をメイドにするぐらいには好きであった。そして後から妖精の役立たずぶりに慌てふためくぐらいには考え無しであり、その後に妖精が不滅の存在だと知って代行者の襲撃の被害がほぼ無くなったとはしゃぐ程度には脳天気であった。

 

「彼女も来ないしね(『弓』の人も来てくれないしー)」

 

 先ほどの『ごく一部』に当たる、レミリアの脳内美少女フォルダに保存している『弓』というらしい代行者の一人である美少女が最近めっきり来てくれないのも退屈な要因であった。そもそもレミリアは血生臭いやり取りがあまり好きではない……吸血鬼だけど。戦うにしても目の保養がないとやってられないと残念な思考を巡らせていた。

 

「どこかに飛び立ちたい気分だわ(遠くへ行きたい)」

 

 完全に引きこもりの現実逃避と同じ思考展開をしながら、レミリアはふと思い出す。そういえば、レミリアの祖父の兄の娘のいとこの叔父の息子に当たる吸血鬼が「幻想郷っていう忘れられた妖怪の楽園があるらしいから侵略してくるわ」とか言っていた気がする。

 別に自分は侵略なんぞに興味はないが、その幻想郷という場所には大いに興味がある。そこなら代行者どもも追っては来れないだろうし、ゆっくりできるのではないか。何より。

 

「新たな出会いを求めるのも悪くないわね(かわいい女の子がいるかも!)」

 

 そんな出会い系サイトで女漁りするニートと同レベルの極めて残念な動機で、レミリアは紅魔館の幻想郷行きを独断で決定した。何より人外の楽園というのが気に入った一因である。レミリアの経験上、人外には美少女が多い(自分や妹を含む)。レミリアの癒しになってくれる女の子がきっと沢山いるに違いなかった。願望だけど。

 

「行こうか、忘れられし者たちの楽園へ(そうだ、幻想郷、行こう)」

 

 そんなこんなで、まだ見ぬ女の子たちときゃっきゃうふふするべく、レミリアは友人であるパチュリー(美少女)に、紅魔館ごとの転移術の発動を依頼するのであった。



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パチュリー・ノーレッジは賢人でありたい

「パチェ。今いいかしら?」

 

 読書中の私──パチュリー・ノーレッジに話しかけてきたのは、この紅魔館の当主であるレミィことレミリアである。

 

「あら、レミィ。ええ、かまわないわよ」

 

 というより、本来ならこの館の住人がレミィの言葉を断る権限などないのだが。レミィに話しかけられたら何をしている最中でも応対しなければならない。私にこう聞いてくれるのは私がレミィの親友という立場であり形式的には対等だからだ。

 

「最近、酷く退屈でね。日常に変化が欲しいと思っていたの」

「それには同意するわ」

 

 いい加減、私も代行者の襲撃に煩わされながら本を読むのは飽き飽きしていたところだ。

 

「そうでしょう。退屈は我々長命種を殺す猛毒。だからここで一つ変化を求めて新天地へと旅立ちましょう」

「新天地?」

「幻想郷。忘れられた者たちの楽園よ」

 

 ああ、そういえばレミィの祖父の兄の娘のいとこの叔父の息子に当たる吸血鬼が侵略に行くとか言っていたわね。

返り討ちにあったようだけど。

 

「というわけで、パチェには紅魔館ごと幻想郷へ移住する為の転移魔術をお願いしたい」

「転移魔術ね。了解よ」

「頼むわね」

 

 レミィはそう言って図書館を後にした。さて、転移魔術ね……転移魔術……

 

「こぁー! こあぁー!! ヘルプミー!!」

 

 私が大声で叫ぶと、いかにも悪魔らしい容姿をした私の使い魔──こぁが現れる。

 

「お呼びですか、パチュリー様」

「こぁ! お願いがあるの!!」

「おや、先ほど命じられた本の整理がまだ終わっていませんが?」

 

 慇懃無礼にそう言ってくるが、彼女は大体わかっていてこういう受け答えをしてくるのだ。

 

「そんなの後でいいから! 手伝って!」

「かしこまりました。それで、何をお手伝いすればよろしいので?」

「レミィに幻想郷への転移を頼まれたのよ。だから転移術式を組んで頂戴」

「おや、私のような使い魔如きの手を借りずとも、パチュリー様の()()()魔力でどうにかできるのでは?」

 

 こ、こいつはもう……!

 

「こぁ、あなたわかってて言ってるでしょう!?」

「そんなの当たり前じゃないですか。ぷっくっく……」

 

 口元に手を当てながら嘲笑する悪魔がいた。ちくしょう。 

 

「全く、賢人と呼ばれる頭脳と馬鹿げた魔力を兼ね備えておきながら、なぜ術式ぐらい組めないんですか」

「仕方ないでしょ!! わからないんだから!!」

 

 そう。実は私、大魔女と呼ばれるほどの魔力がありながら術式が組めない。正確には組み方がわからない。術式に落とし込めるような魔術なんて使った事がないからだ。

 

「いつも感覚だけで魔術を使ってるからですよ。基本は論理派のくせになんで魔力制御は力任せなんですか」

「しょうがないじゃない。生まれつき『ググっとしてバーン』って感じで魔術が使えたんだもの。それが染み着いてるから今さら細かい魔力制御とか覚えられないのよ」

 

 何度か覚えようとはしたが、全くできる気がしなかった。そう言うと目の前の悪魔はやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 

「私もとんでもない主に召喚されたものです。まぁ退屈はしませんがね」

「そう。わかったら術式の構築を手伝って。主からの命令(オーダー)よ」

了解、我が主(イエス、マイマスター)

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「レミィ、転移魔術が完成したわ。いつでも発動可能よ」

「さすがパチェ、仕事が早いわね」

「これくらい朝飯前よ」

 

 やれやれ、どの口が言うのだか。まぁ、使い魔の手柄は主の手柄。別に文句はありませんがね。

 

 それに実は転移魔術ぐらいお嬢様も使える。だから正直にパチュリー様が「できません」と告白すればお嬢様がやるはずなのだ。

 なのにパチュリー様が私の力を借りてまで自分でやるのは親友であるお嬢様に見栄を張りたいからだ。なかなか可愛げがあるじゃないですか。

 

「じゃあ、近日中に発動させて幻想郷に転移しましょう。パチェ、今回はありがとうね」

「お礼なんていいわ。レミィこそもっと私を頼っていいのよ」

 

 パチュリー様、それはまた後日私に泣きつくフラグですよ?

 と、お嬢様が部屋を出て行く去り際、私──小悪魔に対してウインクが飛んできた。おっと……?

 

「どうしたの、こぁ? 含み笑いなんかして」

「いえいえ、なんでもございません」

 

 私はそうパチュリー様に返答し、また笑みを深めるのだった。



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十六夜咲夜は挫けない

咲夜さんファン注意


 パチュリーの転移魔術(実はほぼ小悪魔監修)を発動した紅魔館は、無事に目的の地──幻想郷へと辿り着いていた。

 

「ここが幻想郷ね。うんうん。美しくて良い所だわ」

 

 紅魔館の当主、レミリア・スカーレットはそう満足げに頷きつつ、本日の朝食の美鈴特製ニンニク増々焼き餃子を食べていた。「健康にはニンニクと日光浴が一番ね」とか内心で呟いていた。

 

「『蛇』も『教授』も逝ってしまったし、第十二位としてはいささか寂しいと思っていたところよ」

 

 チェスの相手もいなくなって久しい、と吸血鬼はそう語る。とても美少女とお近づきになりたいだけの残念な人物には見えない。

 

「私はこの幻想郷で交友を広めたい。というわけで咲夜、近隣の住人に私たちの存在を知ってもらう為に菓子折りを配ってきて頂戴」

「畏まりました、お嬢様」

 

 そんなわけで、「引っ越してきたら挨拶回りをするのは社会人として常識」とか考えて、レミリアは自身の側近であるメイド長にそう命じるのであった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 メイド長、十六夜咲夜はパーフェクトメイドである。紅魔館の全メイドを統括し、炊事、洗濯、清掃の全てを滞りなくこなすパーフェクトウーマンである。

 紅魔館が唯一絶対の主、レミリア・スカーレットの命を速やかに叶えるのが彼女の存在意義であった。彼女は主に言われた通り、空間操作を駆使しつつ大量の菓子折りを懐に収めた。

 

「よし」

 

 そして咲夜は主の命を果たすべく自室から廊下へと足を踏み出し──

 

『ズルッ』

 

 ──盛大に足を滑らせた。

 

「へ?」

 

 清掃担当の妖精メイドたちによって丹念にワックスがけされた廊下は非常に滑りやすくなっており──つまるところ、咲夜はそのまますっ転び──

 

「ぐふぅっ!?」

 

 ──派手に後頭部を強打した。打ち所が悪かったのか、頭部から激しく流血しておりピクリとも動かない。

 と、そこに数人の妖精メイドが通りかかる。

 

「ああっ!? メイド長!」

「た……大変だわ! 早く!」

 

 惨劇の現場を目の当たりにした妖精メイドたちは迅速な上司の救助──

 

「早く掃除しなくちゃ!」

「あーあ、せっかく掃除したのに血だらけだよー」

 

 ──ではなく血だらけの廊下の清掃を優先した。血塗れの上司は放置である。

 

「メイド長ー? 生きてますかー?」

「へんじがない。ただのしかばねのようだ」

「メイド長がまた死んでおられるわ!」

 

 そしてあっさり死亡認定した。文字通りの人でなしである。

 

「もー、メイド長のうっかりさん。どうせ死ぬならお嬢様の命を果たしてから死ねばよかったのに」

「次のメイド長は上手くやってくれるでしょう」

 

 そんなイカれた会話が展開されていると、咲夜の身体が輝き、みるみるうちに傷が治っていく。しばらくすると咲夜は完全に回復し意識を取り戻そうとしていた。

 

「……はっ」

「おー、戻ってきた」

「何度見てもメイド長の時間逆行術式はすごいですねぇ」

 

 そう、咲夜の能力は『時間と空間を操る程度の能力』。

 任意の空間を無制限に拡張し、自分以外の時を静止させるその凄まじい力はしかし、当人の死すらも覆す規格外の力。

 

 それ即ち、自身限定の時間逆行により死の瞬間となった時から逃れる事による死亡からの完全蘇生。この力がある限り、彼女に外的要因による死は訪れない。

 

「私としたことが、みっともない姿を見せたわね」

「大丈夫ですかー?」

 

 妖精メイドからの問いかけに咲夜は髪をかきあげながら「安心して」と答える。

 

「前の私は駄メイドでしたが、今度の私は完璧です!」

 

 咲夜は妖精メイドたちに対してそう力強く宣言すると、今度こそ主の命を果たすべく一歩を踏み出し──

 

『ズルッ』「えっ」「あっ」

 

 ──先ほど流した自身の血に足を取られて再び盛大に転倒した。

 

「ぐふぅっ!?」

「メ、メイド長ぉーー!?」

 

 再び後頭部を強かに打ち付ける咲夜。絶叫する部下。血に塗れる廊下。

 

「……ダメみたいですね」

「……次の彼女はうまくやってくれるでしょう」

 

 ──パーフェクトメイド十六夜咲夜。彼女は非常に優秀であり、不死身だが、致命的に運が悪く、そして意外とドジであった。




十六夜咲夜

職業:紅魔館のメイド長
能力:時間停止、空間操作、オートリバイブ

HP:1
守備:1
幸運:0


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メイド長の粗菓贈呈記

「今度こそ出発よ!」

 

 再び蘇生した咲夜は三度目の正直とばかりに舘から出る事に成功した。しばらく飛行しながら辺りの景色を見渡し──

 

「あら?」

 

 ──眼前に何も見えない闇が広がっている事に気付いた。しかもあろうことかその闇が段々と接近してきている。明らかに異常事態であった。

 

「ちょっ!?」

「今日の晩ごはん、はっけーん!」

 

 闇から少女らしき声が聞こえたと同時に咲夜は時間停止を用いて大きく距離を取る。声の主が腕を軽く振るうと、その拳圧で辺りの木々が棒きれのように吹き飛んだ。

 

「あれ?」

 

 その声の主、闇の中心部に潜む赤いリボンをした金髪の少女は不思議そうに首を傾げた。目の前にいたはずの獲物が急にいなくなってしまった。

 

「えーと、そこのお嬢さん?」

「あっ、いた!」

「えー、私は紅魔館のレミリア・スカーレットお嬢様に仕えるメイド、十六夜咲夜と申します。貴女のお名前は?」

 

 メイドの鉄則はどんな時でも冷静沈着でいる事である。咲夜は闇の少女との対話を試みた。

 

「私はルーミア。闇の妖怪よ! お腹が空いたからご飯を探してたの。というわけで……」

「お待ち下さい。こちらはいかがですか?」

 

 会話早々に飛び掛かってこようとするルーミアを制し、咲夜は件の菓子折りを彼女に手渡す。

 

「お? 何これ、お菓子?」

「はい。我が主人から幻想郷の皆様へのお近づきの印です」

「へー」

 

 ルーミアは手渡された菓子折りの包装を乱雑に破って中からひとつを掴んで口へ運ぶ。

 

「おぉー! これすっごくおいしい!」

「気に入っていただけて何よりです」

 

 目を輝かせるルーミアに咲夜は安堵の息を吐いた。いくら生き返れるとはいえ、さすがに生きたまま体を貪られるのは勘弁願いたい。

 

「紅魔館だっけ? その主人のレミリアさんっていい人だね! 私みたいな野良妖怪にもお菓子くれるなんて」

「お嬢様はとても器の大きな御方ですので」

 

 ルーミアの好感度が上がったのを見て咲夜は内心でガッツポーズをした。この調子で幻想郷の住人たちの心を掴んでいかねば。

 

「では私はこれで。よろしければ紅魔館の事をどうぞご贔屓に」

「うん! ばいばーい」

 

 ご飯から友人にまで格上げされたのか、手を振って見送ってくれるルーミアに手を振り返し、飛行を再開した。

 

「あ、そーだメイドさん。私の能力で真っ暗だけどこの辺りは大木が多いからぶつからないように──」

「ぐふぅっ!?」

「あっ」

 

 時すでに遅しであった。ルーミアの忠告も虚しく、咲夜は今まさに大木に激突してそのまま地面に落下している真っ最中であった。

 

(あと五秒早く言ってえええぇ!?)

 

 そんな事を心の中で叫びながら、パニックでうまく精神の集中もできずに時間停止し損ねて落下していくメイドの姿があった。

 

 ──死因:前方不注意

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「メイドは滅びぬ! 何度でも蘇るさ!」

 

 どこぞの大佐のような台詞をのたまいながら起き上がる咲夜。彼女が辺りを見回すと、そこは霧に覆われた澄んだ湖のようであった。

 

「霧の湖ですか。しかしそれを差し引いても寒すぎるような」

「そいつは多分あたいの仕業ね」

「はい?」

 

 咲夜が声のした方に振り返ると、そこには仁王立ちする青髪の妖精とその隣に控える緑髪の妖精の姿があった。

 

「あたいはチルノ。この霧の湖の妖精のリーダーの氷妖精よ! で、こっちが」

「大妖精です。チルノちゃんの友達やってます」

 

 大妖精といえば妖精でも相当な上位クラスのはず(紅魔館には結構いるのだが)チルノと名乗った氷精は彼女を上回る力がありそうだ。成る程、この寒さは彼女の冷気の影響らしい。

 

「これはお初にお目にかかります。私はこの度幻想郷に越してきた紅魔館のレミリア・スカーレットお嬢様にお仕えするメイドの十六夜咲夜でございます」

「紅魔館? あー、あの最近急にできた真っ赤な舘ね!」

「なんか妖精がいっぱい見回りしてたよね」

 

 どうやら既に紅魔館の存在は知られているらしい。まぁ、この霧の湖からはすぐ近くのようなので当然かもしれない。

 

「それでそこのメイドがここで何してんの?」

「実は今、我が主人から幻想郷の皆様にささやかな贈り物をしていまして」

 

 説明もそこそこに咲夜は懐から菓子折りを取り出して二人に手渡す。 

 

「あ、これお菓子ですか?」

「へー、そのレミリアお嬢様とやら、なかなか殊勝な心がけね! 覚えとくわ!」

 

 謎の上から目線は気になるが、この一帯の強者らしきこの二人に紅魔館の名を覚えてもらったのは成果である。咲夜は「紅魔館をよろしくお願いいたします」と二人に向けて握手を求め、二人も手を重ねながら握手に応じ──

 

「げふっ!?」「え?」「へ?」

 

 ──いきなり血を吐いて仰向けに倒れる咲夜。そのまま起き上がる気配もない。

 

 ──死因:握手

 

 唐突な惨劇にフリーズする二人だったが、しばらくしてチルノは横目で大妖精を見る。 

 

「だ、大ちゃん……まさかうっかり」

「うええ!? ち、違うよ!? 私、()()()()()ないよ!?」

 

 大妖精は両手を振って否定するが、チルノの疑念は晴れない。昔よく()()()()()()を見たからだ。

 

「違うってば! チルノちゃんこそ冷気かなんかでやっちゃったんじゃないのぉ?」

 

 大妖精からすれば、チルノの能力だって人間には危険な代物である。一方的に疑いをかけられるのは納得できない。

 

「いやいや、最強のあたいが制御間違えるとか有り得ないから。そもそもあたいの冷気って吐血するような代物じゃないし」

「私だって今さら制御間違えないよ!」

 

 こうなると最早どちらも譲らない。『やった』『やってない』の押し問答に発展する。

 

 ちなみに真相はといえば、咲夜と二人が握手した際に二人の力がごく僅かに咲夜の身体に流れ込んだダメージによるものである。

 

 ──つまりは、咲夜が二人の想像を絶するほど脆いというだけであった。傍迷惑なメイドである。

 

「私じゃないって! チルノちゃんでしょ!」

「いーや、あたいじゃないから! 大ちゃんだよ!」

「うーん……」

 

 二人が言い争いを続ける中、元凶となった張本人は何事もなく蘇生していた。気がつくと、言い争いをしている二人の仲裁に入る。

 

「お二人とも、落ち着いてくださいませ。私はこの通りなんともありません」

「「えっ?」」

 

 咲夜に声をかけられた二人は言い争いを止めて目を丸くして咲夜を見る。

 

「あれ? メイドさん、大丈夫だったんですか?」

「ええ? すっごい血を吐いてたけど」

「お騒がせして申し訳ありません。しかし、私はメイドですので死んでも復活できるのです」

 

 謎の理論を展開する咲夜。紅魔館のメイドに限れば不死身の存在しかいないので一応嘘ではない。

 

「マジ? メイドって最強じゃない!」

「はい。メイドは最強なのです」

 

 こんな理論だがチルノは納得したらしい。目を輝かせていた。咲夜はすかさず「どうですか、あなたもメイドに」と勧誘にかかるが、大妖精から横槍が入る。

 

「確かにすごいけど、私たちは元々死んでも復活できるよね?」

「あ、そういえばそうか」

 

 そうである。仮にメイドが死んでも復活できる能力があったとしても、元から不死身である妖精には関係のない話であった。咲夜は「ばれましたか」と笑って誤魔化すが、気付かれなかったらそのままメイドに勧誘するつもりであった。

 

「さて、私はまだ贈り物を配らねばなりませんので、これで」

「おう! 頑張んなさいよ!」

「お菓子ありがとうございました~」

 

 飛んでいく咲夜を手を振って見送る二人。血を吐いた時は驚いたが、面白いメイドであった。

 

「でも、さっきはびっくりしたね~」

「全くね、力の制御はちゃんとしないといけないわ」

「うんうん、そうだよね」

 

 頷き合う二人の間に、ほのぼのとした空気が──

 

「大ちゃんは」「チルノちゃんは」

 

 ──流れていた時がありました。

 

『『────は?』』

 

 この後、霧の湖一帯がしばらくの間、並の人妖では近寄れない魔境と化すのだが──その原因は未だに判明していない。



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続・メイド長の粗菓贈呈記

「さーて、次は……」

 

 レミリアの命により菓子折りを配る咲夜はチルノたちと別れた後、飛行を続けながら幻想郷の住人を探していた。

 

「あら、誰かいるわ」

 

 ふと下を見ると、一面の向日葵畑が広がっており、その近くに人影が見えた。早速、菓子折を渡すべくその人物の下に降り立つ。その人物は虫のような触覚が生えた緑髪の少女だった。

 

「うん? この太陽の畑に人間が来るなんて珍しいわね。どちらさま?」

「こんにちは。私は十六夜咲夜。この度、幻想郷に住まう事になりましたレミリア・スカーレット様に仕えるメイドです」

 

 とりあえずお決まりの自己紹介から入り、妖怪らしき少女の反応を見る。

 

「へぇ、新しい住人さん? 私はリグル・ナイトバグ。蛍の妖怪よ。まー、一応虫たちのボスみたいなもんかな」

「なるほど……」

 

 さらっと言っているが、虫といえば世界で最も繁栄している種族だ。その虫のボスという事は結構な影響力の持ち主なのでは? これは是非とも友好的になっておかねばなるまい。

 

「こちら、レミリアお嬢様からのお気持ちです。よければどうぞ」

「へー、ずいぶん律儀なのねそのお嬢様。お、結構おいしそうかも」

 

 どうやら気に入ってもらえたらしい。なかなかの好感触である。

 

「それにしても綺麗な向日葵畑ですね。これはあなたが?」

「いやいや、違うよ。ここの主は私なんかとはそれこそ格の違う大妖怪だからね」

「あら、そうなのですか。その方はどちらにいらっしゃるのでしょう」

「こちらにいらっしゃるわよ」

「────え?」

 

 背後から声が聞こえて咲夜が振り向くと、そこには凄まじい妖気を放つ女性が立っていた。そう──凄まじい妖気を。

 

「げふっ……」「えっ」「は?」

 

 そして案の定、吐血して昏倒する咲夜。妖精の力ですらああなのだから、大妖怪の妖気に彼女が耐えられるわけがなかった。

 

 ──死因:ショック死

 

「ちょ、メイドさん息してないんだけど!? え、死んじゃったの……? いや、確かに人間が幽香さんの妖気を直に浴びたらそうなる可能性もあるけどさぁ」

 

 リグルが咲夜の状態をチェックするが彼女は既に息絶えていた。……この後すぐに生き返るのだが。そんな事とは知らないリグルはどうしたものかと頭を抱える。

 

「うーん、どうしますか幽香さん──」

 

 リグルが件の大妖怪、この太陽の畑の主である風見幽香にそう訪ねる。一方、その幽香は──

 

「やばいやばいやばいそんなつもりじゃなかったのよ事故なのよでもそんな言い訳通じるわけないやばい私危険妖怪認定されちゃう霊夢に退治されるどうしようどうしようあばばばばば」

「──ってすごくパニクってるぅ!?」

 

 ──とてつもなく錯乱していた。それはもう錯乱しまくっていた。

 

「そ、そうだ……そういえばこの人こういう人だったわ。普段はまさしく大妖怪だからすっかり忘れてた」

 

 幻想郷で一、二を争う実力者であり、肉弾戦ならば鬼をも上回るかもしれない大妖怪、風見幽香はしかし、メンタルの方は凄まじく雑魚いのをリグルは思い出した。

 彼女は純粋な力比べは好きでも死闘は大嫌い──というか血を見るのがかなり苦手で、うっかりそこらの野良妖怪とか間違って殺したりするとパニクってしばらく帰ってこないのだ。

 

「……私にどうしろってのよこの状況」

 

 メイドの死体と錯乱する大妖怪に挟まれ頭を抱えるしかないリグルであった。 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「はっ……いっけなーい、蘇生蘇生」

 

 本日何度目かの死から舞い戻ってきた咲夜。そんな彼女が目にしたのは──

 

「私は無実私は潔白私は安全私は善良私は強い私は偉大私は美人」

 

 ──何やらぶつぶつと自己暗示し続ける大妖怪であった。面食らった咲夜だが、とりあえず自分が無事な事を伝えようとする。

 

「いい加減にしろやこの──」

 

 しかし、それより先にリグルの我慢が限界に達した。地面を蹴りバッタの如き跳躍力を発揮して数十メートル飛び上がると、未だに呟き続ける幽香めがけて突進する。

 

「──お花畑女がぁ!!」「うぐえっ!!???」

 

 跳躍の勢いのままリグルが幽香に蹴りを入れると、明らかに人を蹴った音ではない轟音が響き、冗談のような軌道を描いて幽香が吹っ飛んで行った。

 

「あー、スッキリした。あれ? メイドさんじゃない。なんだ、生きてたのね」

「え、ええ……まぁ。それよりあのお方は大丈夫ですか? 凄い音がしましたが……」

「んー、多分大丈夫でしょ。あれでも最強クラスの妖怪なんだし」

「は、はぁ……」

 

 明らかに大丈夫な威力ではなかった気がするが、まぁ妖怪の頑強さなら平気なのだろうか。

 

「まぁ、私はこれで……あぁ、挨拶しそびれましたがよければ先ほどの方にもこちらをお渡し下さい」

「ん、おっけー。預かっとくわ」

「お願いいたします。それでは、リグルさんもお元気で」

 

 そう言って飛び去る咲夜をリグルは菓子折を手に見送った。

 

「はー、なんか色々あったわね。さて、そろそろ幽香さんも戻ってくるでしょ」

 

 多少荒っぽい事をしたが、幽香ならあの程度どうという事はないはずだ。そう考えて待ち続けるリグルだったが──

 

「…………来ないわね」

 

 ──いくら待っても幽香が戻って来ない。いやいや、なぜに。確かにイラっとして全力攻撃してしまったが、あの程度なら問題ないはず。

 

「え、なに? もしかして威力高すぎた?」

 

 まさか、あの風見幽香が自分の攻撃で死んでしまったのだろうか。

 

「そ、そんな……そんな事になったら……」

 

 そうだ、もしもそんな事になったら。

 

「この私が幻想郷最強の大妖怪になってリグル大勝利じゃない!?」

 

 そう、そうなれば周囲の妖怪や人間も皆自分に平伏すに違いない。

 

「ふふふふ、この太陽の畑もいただきだわ!」

「へぇー、それで誰がこの風見幽香の代わりにお花を育てるのかしら?」

「えっ……」

 

 油が切れた機械のような動作でリグルが振り向くと、そこには笑顔の風見幽香の姿があった。

 

「いや、あの……幽香さん、私はほんの冗談でですね……」

「さっきの蹴り、見事だったわよ。私にもできるように練習させて?」

「あ、ハイ、生きててスイマセン」

 

 その後、太陽の畑から時折悲鳴が聞こえたとかそうでないとか。



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終・メイド長の粗菓贈呈記

「ふふ、これで大分配ったわね」

 

 レミリアの命により菓子折りを配る咲夜は幻想郷の人間たちが暮らす人里を訪れて菓子を配っていた。人間たちだけでなく、寺子屋の教師らしい半獣から、人形劇をする魔法使いや偶々里に来ていた白狼天狗まで結構な人数に菓子を渡していた。

 

「あら? なにかしら」

 

 ふと咲夜が目をやると肉屋らしき店に人だかりができていた。どうやら特売セールというやつらしい。

 そうしてのんびり店を眺めていた咲夜であったが──次の瞬間、背後から迫り来る集団に突飛ばされていた。

 

「ぐええっ!?」

「どきなさい!」

「邪魔よ!」

 

 咲夜を突飛ばした集団の正体は、人里の主婦軍団であった。肉屋で特売セールをやっていると聞き近隣の主婦たちがこぞって押し寄せたのである。肉屋の真ん前という邪魔な場所につっ立っていた咲夜がそうなるのは当然の流れであった。そして貧弱な咲夜が戦士と化した奥様方のパワーに耐えられるわけもなく。

 主婦軍団が肉屋に殺到する中でひっそりと倒れ伏す哀れなメイドの姿があった。 

 

 ──死因:主婦パワー

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「酷い目にあったわ」

 

 いつも通り生き返った咲夜はそう一人ごちた。ここ最近の中でも一番酷い死に方だった気がする。奥様パワー恐るべしね、などと珍妙な思考を巡らせていた。

 ふと件の肉屋の方に目をやってみると、客は誰もおらず店主もくつろいでいた。どうやら咲夜が死んでいる間に肉は売り切れてしまったらしい。

 

「ああああ!! 終わってる!?」

 

 突如、誰かの叫びが聞こえて咲夜がそちらを向くと紅白の衣装に身を包んだ巫女らしき少女が、空となった肉屋の商品棚を見て愕然とした表情で立ち尽くしていた。

 

「嘘でしょ……特売の時間から30分しか経ってないじゃない……無くなるのが早すぎるわ……これはもう異変でしょ……」

 

 何やらぶつぶつと呟き始める巫女の少女。特売に間に合わなかったのが余程ショックらしい。

 

「やっぱり初動が不利すぎるんだわ……神社からここまで来るのに時間がかかりすぎるのよ……ああ、私のお肉が……」

「あのー」

 

 絶望的な雰囲気を醸し出す少女がなんだか不憫になってきた咲夜はとりあえず菓子配りも兼ねて声をかけてみる事にした。

 

「ん? 見ない顔ね。どちらさま?」

「私は紅魔館のレミリア・スカーレットお嬢様に仕えるメイド、十六夜咲夜と申します。以後お見知りおきを」

「ど、どうもご丁寧に……私は博麗霊夢。博麗の巫女、妖怪退治の専門家よ。本業は結界の管理だけどね」

「ああ、管理人さんでしたか」

「あーうん、それでいいわ……いや、よくないけど」

 

 あまりの咲夜のマイペースぶりに呆れ顔な霊夢。まぁ、幻想郷の住人は大体こんな感じであるので、彼女からすれば馴れているのだが。

 

「それで何だったかしら?」

「実は今、幻想郷の皆様にお嬢様からのお気持ちとしてお菓子をお配りしておりまして……霊夢さんにも差し上げようかと」

「え!? ホントに!?」

「こちらです」

 

 咲夜が霊夢に菓子折りを手渡すと暫し霊夢の視線が手元の菓子と咲夜を行き来した。

 

「いいのね? すっごい高そうなお菓子だけど」

「お嬢様のお気持ちですので」

「そういう事ならありがたく頂戴するわ! いい人ね、そのレミリアお嬢様って!」

 

 霊夢は感激した。彼女はタダでもらえる物と美味しい物は大好きであった。あっさり会った事もないレミリアへの好感度を上げる。

 

「いやー、得したわ。1つと言わず50個ぐらい欲しいわね」

「そうですか? でしたらどうぞ」

「へ?」

 

 冗談で言ったのに袋ごと更に菓子を手渡され、霊夢は目を丸くする。

 

「え? いいの? こんなにもらっちゃって?」

「欲しいと言われるのでしたら」

「じゃあもらうわ! 後で返せって言っても返さないからね!」

 

 そう言って霊夢は大事に菓子入りの袋を抱えると、空を飛んでその場を後にした。手を振ってそれを見送る咲夜を見下ろしながら、霊夢は考える。

 

「うーん、やっぱり私が博麗の巫女だから好感度を上げておこうって事かしら?」

 

 そう思う霊夢だが、しかし咲夜としては別にそこまで考えていない。単純に50個ぐらい欲しいと言われたので渡しただけであった。基本的に紅魔館の住人はその場の流れで行動しているのである。

 

「……ま、レミリアお嬢様とやらの思惑が何かは知らないけど、難しい事は紫に考えてもらいましょ。私は高級お菓子をゲットして得したんだからそれでいいわよね!」

 

 特売を逃した事などすっかり忘れ、上機嫌に神社に帰還する霊夢であった。

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

「あらっ、3つ残ってる」

 

 霊夢に殆どの菓子折りを渡した咲夜だったが、懐を調べるとまだ3つ残っていた。しかし辺りはもう暗くなってきている。

 

「うーん、どうしたものかしら……おっ」

 

 飛行する咲夜が地上を見下ろしてみると、屋台らしき物が目に入った。少しだが人影も見える。

 

「丁度いいわ。あそこの方々に配ってしまいましょう」

 

 咲夜が屋台の側に降りると、妖怪の少女が鰻を焼き、その鰻を食べながら女性二人が飲んでいた。

 

「大体ねえ、幻想郷の皆は自由すぎるんです。私だってもっと羽目を外したいですよ、ええ」

「はぁ……四季様もそう思う事があるんですね」

「当たり前じゃないですか、機械じゃあるまいし。毎日毎日、白黒つけるのも飽きてますよ。別に灰色だっていいでしょうに」

「いや、四季様がそれ言ったらダメでしょう!?」

「何ですか、私に意見するんですか? 小町のくせに生意気ですよ」

「あれ、もしかして四季様って酒癖悪い?」

 

 何やら性質の悪い絡み方をしている上司らしき女性と困り顔の部下らしき女性。まぁ、よくある光景である。咲夜はとりあえずその光景をスルーし店主に声をかける。

 

「あの、よろしいでしょうか」

「あら、お客さん?」

「いえ、少し用件がありまして」

 

 そして咲夜はいつもの用に自己紹介を始める。

 

「私、紅魔館のレミリア・スカーレットお嬢様に仕えるメイドの十六夜咲夜と申します。この度はお嬢様からのお気持ちとしてお菓子を配っておりまして」

「へー。随分律儀なこと」

「それで、店主さんにも受け取っていただければと」

「あ、うん」

 

 咲夜はそのまま返答を聞かずに菓子折りを手渡す。こういうのは勢いでそのまま受け取ってもらうのがいいのだ。

 

「そちらのお二人も」

「お、おお? ありがとう?」

「そのお嬢様とやらは中々できた方ではないですか。それに比べてまったく……」

 

 まだ酔いが醒めないのか愚痴を言い続ける女性。部下の女性はやや呆れ顔である。と、そういえば彼女らの名前を聞いていない。

 

「そういえば、皆様のお名前は?」

「あー、私はミスティア・ローレライ。見ての通り屋台をやってる夜雀です」

 

 そう翼をはためかせながら、人当たりの良い笑顔を見せる女将。

 

「私は四季映姫。幻想郷の最高裁判長なんですよ。どうだ、すごいでしょう」

「は、はぁ……」

「気にしないでおくれ。この人、普段はもっと威厳のある方なんだよ」

 

 子供っぽく胸を張る映姫という女性に困惑する咲夜にフォローを入れる部下らしき女性。

 

「あたいは小野塚小町。この四季様の部下の死神だよ。死神って言っても渡し守の方だけどね」

「なるほど、閻魔様と死神ですか」

 

 これまた大物である。咲夜は内心で小躍りした。

 

「メイドさんはうちで飲んでいかないので?」

「あいにく、私達はこの幻想郷に来たばかりでして。こちらの通貨の持ち合わせがないのです」

「あら、残念。じゃあ、お金ができたら是非うちに来て下さいな」

「もちろんです」

 

 女将に礼儀正しく頭を下げ、飛びさって行くメイドの後ろ姿を眺めながら、小町はふと思った。

 

「持ち合わせか……四季様、あたいら結構飲み食いしてますけど、支払いは大丈夫ですよね?」

「あら小町、私の稼ぎがいくらあると思ってるんです? お金ならここにちゃーんと……」

 

 小町の指摘に手を腰にやった映姫であったが、不意にその言葉が途切れる。 

 

「えーと……四季様?」

「……財布、忘れてきたかも」

「えぇ!?」

「いや、今日は結構バタバタしてましたから……」

 

 気まずげにそう漏らす上司に小町は仕方なしにため息を吐いた。

 

「しょうがない。あたいが出しますよ」

「す、すいません小町。帰ったらお金を渡しますので……」

「まぁまぁ、そんな気にしないで下さい。四季様には日頃世話になってますしこのくらいは……」

 

 と、そこで小町の言葉が途切れる。先の映姫と全く同じ動作で。

 

「こ、小町? まさか……」

「すいません四季様。あたいも財布忘れたかも……」

「えええ!?」

「そういや、朝から財布を手に取った覚えがないような……」

 

 焦りを滲ませる二人に、後ろから声がかかる。

 

「お二人とも?」

「「ひぃ!?」」

 

 二人が油のきれたブリキのような動きで背後を振り向くと、そこには包丁を片手にギラついた眼光を放つミスティアの姿があった。

 

「まさか、これだけ飲み食いなさって、持ち合わせがないなんて戯れ言はおっしゃいませんよね?」

「いや、あの……」

 

 下級妖怪とは思えない迫力にたじろぐ二人に対し、ミスティアは包丁をなぶりながら続ける。

 

「たまにいるんですよ、故意かそうでないかはともかく、無銭飲食する輩が。まぁ、うちは商売始めて一度も無払いは許していませんが」

「ち、ちなみに無銭飲食した客は……」

「もちろん、私が()()()()()()

 

 包丁を片手にそう笑うミスティアは控えめに言って怖かった。

 

「それでなくとも、こちとら実力主義の幻想郷で屋台なんてシケた商売やってるわけでして。おかげさまでうちのお客様には妖怪の賢者様やら花妖怪様やら大がつくような妖怪も色々いるのです」

 

 そこまで語ってから、ミスティアはわざとらしくため息を吐く。

 

「そんな方々を相手に商売してる以上、強気でいなきゃいけない訳でして。持ち合わせがないからと言って、『ツケで払いますぅー』なんて舐めた真似をしてもらっては困るんですよね」

「そ、そう言われても……」

 

 たじろぐ二人に「ええ、無い袖は振れませんから」と女将は笑う。

 

「なら、稼いでもらうしかないですよね?」

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 後日。

 

「こんばんは、女将さん」

「あら、メイドさん。そちらがお嬢様ですか?」

「はい。我が紅魔館の当主、レミリアお嬢様であらせられます」

 

 咲夜に紹介されて笑顔で手を振るレミリアを見てミスティアは頷く。そして後ろに声を飛ばす。

 

「ほら、お客様をお待たせするんじゃないわ! ちゃっちゃと動きなさい新入りども!!」

「「す、すいません女将!!」」

「どうですかお嬢様、こちらの屋台は」

「そうね。とても安らげるお店ね(美少女女将と美人店員きたー!)」

 

 その後、閻魔様が働いてる屋台としてますます有名になり、女将も大層機嫌がよかったとか。



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紅美鈴は通さない

 紅魔館当主、レミリアの朝は遅い。元々が夜行性であるし、執務中に寝てしまうことも多々ある。今まさに彼女は微睡みの中にいた。

 

「Zzz……」

 

 気持ちよく眠っていたレミリアであるが、突如として外から爆音が響く。それは彼女を夢の世界から現実に引き戻すのに十分だった。

 

「騒々しい(うっさいなぁ)」

 

 せっかくの安眠を唐突な爆音により目覚めさせられたレミリアが文句を溢す間にも外からは断続的に爆発音が響いていた。

 

「誰かしら、この私の神聖な眠りを妨げるのは(もー、誰よ私のお昼寝タイムを邪魔するのは)」

 

 レミリアは爆発音の原因を確認すべく、しぶしぶ自室を出るのだった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 妖怪、紅美鈴は紅魔館の守護者である。主人であるレミリアにより、彼女は紅魔館の門番として館の警備の全権を与えられている。

 そんな彼女の仕事は単なる番兵に留まらない。館の周囲を取り囲む花壇の管理も彼女の役目であった。

 

「うんうん、みんな元気に育ってますね」

 

 ヒガンバナ、フクジュソウ、ドクダミ、スズラン、マンドレイク、トリカブト、ジギタリス、ベラドンナ……花壇に植えられた様々な花を眺めて、美鈴はうんうんと頷いた。

 

「環境が変わったせいで枯れたら一大事ですからね」

 

 花にとって環境の変化は大きな要因であるので、状態には常に気を配らねばならない。最も、紅魔館の花々は当主であるレミリアにより魔力を与えられている故、通常の花よりタフであるが。

 

「…………」

 

 と、美鈴が花の様子を見ている最中、館の上空を飛んでいた低級な鳥の妖怪が突如として館の敷地内に侵入し──

 

「────!!」

 

 ──花に食われた。

 

 比喩ではない。文字通り、花壇の花が鳥妖怪を食べたのだ。

 

「あっ、もー駄目ですよ! 変なもの食べたら」

 

 めっ! っと鳥を食べた花を叱りつける美鈴。花は口を大きく開けて美鈴に返答した。

 ……紅魔館の花のいくつかは、レミリアの妖気に当てられた結果、得体の知れない食人植物と化していた。館をぐるりと取り囲むように設置された花壇には、()()()を待ち焦がれる食人花たちが大口を開けているのであった。

 

「ふあぁ……」

 

 ふと、美鈴が大きくあくびをする。彼女はそのまま、門に寄りかかると直ぐに寝息を立ててしまうのだった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 それから暫し経ち、美鈴が気持ちよく惰眠を貪っている中、そこに先の鳥妖怪の同族が接近していた。

 

「Zzz……」

 

 すっかり夢の住人と化している美鈴の横を鳥妖怪は素通り──

 

「────ふっ!」

 

 ──できずに、美鈴の正拳により叩き潰されあっけなく絶命した。不届き者を排除した美鈴は大きくあくびをする。

 

「もう……目が覚めちゃったじゃないですか」

 

 快眠を妨害された美鈴は腕を組んで愚痴った。拳法家として『気』を極めた彼女は、自身に接近する気配を無意識でも感知してしまうのだ。それは睡眠中でも例外ではない。よって、寝ていても怪しい気配が自身の側を通ろうとすれば攻撃の為に目覚めてしまう。

 見知った気配ならば安心して寝ていられるのだが……と、美鈴がふと気配を感じて空を見上げると、先の鳥妖怪が集団となって紅魔館に迫っていた。

 

「なっ! なんですかこれは!?」

 

 美鈴は知らなかったが、この鳥妖怪たちは低級であるが群れで行動し、一度定めた目標に対して死をも厭わず突撃していくという低俗だが極めて面倒な存在であった。

 そんな事を知る由もない美鈴に鳥妖怪の集団が突撃を開始する。

 

「数が多ければ突破できるなんて舐めた考えをしてんじゃないですよ!!」

 

 美鈴は向かってくる鳥妖怪の集団を気功によって迎撃する。時折撃ち漏らしが出るが、それらは花壇の食人花に食われていた。

 

 本気ならば代行者もねじ伏せられる美鈴にとって、この程度の低級妖怪は雑魚同然であった。が、いくら倒しても一行に数が減らない。段々と美鈴は苛立ってきた。

 

「あああああ!! もう面倒です!!」

 

 ストレスが頂点に達した美鈴は、鳥妖怪たちより更に上空に飛び上がり、一気に気を集中させる。

 

「消し飛びなさいっ!!」

 

 某漫画を彷彿とさせる巨大な気功弾により、夥しい鳥妖怪の集団は肉片の一片も残さずこの世から消滅した。

 

「はぁ……全く、散々手こずらせてくれましたね」

 

 ようやく事態が片付き、やれやれ、と息をつく美鈴の目に入ってきたのは、美味そうに鳥妖怪を貪る食人花。そして──

 

「これでゆっくり休めます……ね……?」

 

 ──自身の気功弾により、滅茶苦茶になった紅魔館の中庭であった。

 

「し、しまったああああぁ!?」

 

 ──絶叫する美鈴のところに、戦闘音により安眠妨害されたレミリアがやって来るまで、あと五秒。



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射命丸文は特ダネが欲しい

 ──妖怪の山。人あらざる者の楽園たる幻想郷の中でも特に秀でた勢力を誇る種族『天狗』たちが住まう山。

 排他的で内輪での明るい生活の維持を好むこの種族にも、安定より変化を求める変わり者はいた。

 

「うーん、何も思い浮かぶネタがない! これは所謂スランプというものかしら」

 

 そう言ってガシガシと自身の髪を掻くのはその変わり者の筆頭、鴉天狗の『射命丸 文』。輪の内より輪の外へと興味を示し、人里でも新聞記者として広く名を知られた異端児であった。

 

「ネタがないってことは騒動がないってことですよ、文さん。平和で何よりじゃないですか。もぐもぐ」

 

 菓子を頬張りながら生真面目な科白で文に話しかけたのは、山の監視と警備を担う下級天狗、白狼天狗の『犬走 椛』。彼女は奔放で何かとトラブルを起こしがちな文をいつも気にかけていた。

 

「またそんな事を言って、真面目の権化ですかあなたは。そも安定と言えば聞こえはいいですがそれは停滞でもあって……」

 

 と、椛に自説を展開しようとしていた文であるが、椛が食べている菓子に目を止めるとその動きが停止した。

 

「椛」「はい?」

 

 文は椛の肩を掴むと真剣な顔で彼女に詰め寄った。

 

「その御菓子、一体どこから盗ってきたんです? 記事にはしませんから正直に話して下さい」

「はぁ!?」

 

 いきなり窃盗犯疑惑をかけられた椛。心外な様子で文に反論する。

 

「真剣な顔で突然何を言い出すんですか! これは盗んだものじゃありません!」

「いやいや、白狼天狗の稼ぎでそんな高級そうな御菓子を買えるわけがありません。日々の仕事のストレスで魔が差してしまう事は誰にでもありますから……」

「だから違いますって!!」

 

 からかっているとかではなく何やら本気で心身の心配されている事に、椛は慌てて菓子の出所を説明した。

 

「この御菓子はこの前、里に降りた時にもらったんですよ。断じて盗んだわけじゃありません」

「もらった? そんな高級品を配ってる奇特な方がいるんですか?」

 

 文の見立てでは、椛が食べている菓子は天狗社会で各部署の管理職を任される大天狗でもそうそう口にしたことはないであろう一品だ。天魔様ならば日常的に食べているかもしれない、というレベルである。

 そんな品をタダで配るなどどんな金持ちだろうか。

 

「最近幻想郷に入ってきたという新参の方々ですよ。お近づきの印に、と配ってたんです」

「へえ、新参の……新参!?」

 

 何気なく流しそうになった文だったが、椛の言葉を理解し驚愕した。

 

「幻想郷に新しい住人が入って来たんですか!?」

「え、ええ。つい先日。あれ、文さん知らなかったんですか?」

 

 椛としては、てっきり文は既に知っているものだと考えていた。いつも新鮮なネタを探して幻想郷を飛び回っている文のこと、数日前に幻想入りしてきた住人のことなどとうに把握しているものだと思っていたのだ。

 

「初耳ですよ! ここ最近は山の中の調査にあたってたので外の変化にまで目が行かなかったんです」

 

 こうしてはいられない。幻想郷に新しい住人が移住して来たなどまさしく文が探していた記事のネタではないか。山に篭って愚痴っている場合ではない。

 

「どんな方なんです? その新しい住人というのは」

「そう聞かれても、私はこの御菓子を配っていたメイドさんに会っただけですので……」

「メイド! メイドがいるということは個人ではなく団体……それなりに大きな住居を構えていそうですね」

「じゃないですかね。なんでも館ごと幻想入りしてきたらしいので」

「なるほどなるほど」

 

 椛からの僅かな情報から文は来訪者のことを推察する。まず、館ごと幻想入りして来るということは、それができるだけの実力の持ち主だということ。次に、メイドがいるということは社会的かつ文化的な集団であること。そしてわざわざ先住民に菓子を配るなどしていることから社交性のある友好的な存在であるということだ。

 

「ちなみに名前とか聞きました?」

「はい。館の名前が紅魔館。当主がレミリア・スカーレットお嬢様だそうです。なんでも吸血鬼だとか」

「なるほど、吸血鬼のお嬢様……吸血鬼!?」

 

 文は椛の口から放たれた当主の種族に自分の耳を疑った。吸血鬼といえば、西洋の鬼であり天狗に比類するか下手したら上回りかねない大妖怪ではないか。以前幻想郷の支配を目論む吸血鬼の一派が幻想入りして侵略に乗りだし妖怪の賢者たる八雲紫が鎮圧しなければならなかった大異変である『吸血鬼異変』は記憶に新しい。……がしかし。

 

「ええと……椛、それ本当に吸血鬼です?」

「メイドさんはそう言ってましたよ?」

「まぁ確かに、吸血鬼なら館ごと幻想入りするだけの力は持っているでしょうけど……」

 

 意図的に館ごと幻想入りするなど余程の魔力か妖力が無いと不可能だ。その点、強大な力を持つ吸血鬼ならばそんな芸当もあっさりやってのけるだろう。だからそれはいいのだが。

 

「あの傲慢が服を着て歩いているような吸血鬼が、御菓子配って挨拶回りなんて殊勝なことをするとは思えないんですが……」

「た、確かに……」

 

 文が知る限りでは吸血鬼という種族は、傲慢でプライドが高く、他者を力で支配することを好む存在だ。これは文に限らず吸血鬼異変を知る者なら皆が抱いているであろう共通認識である。間違っても先住民に菓子を配って回るような精神の持ち主ではない。今幻想入りしてきたというレミリアお嬢様とやらは、はっきり言って吸血鬼のイメージと違いすぎた。

 

「……ええい、まどろっこしい! こんなところで顔も知らないお嬢様の人物像を推察していても埒があきません! 会って話してみればいいんです!」

「あっ、文さーーん!?」

 

 言うが早いか、文は椛が制止する間もなくその場を飛び去った。幻想郷最速のブン屋のジャーナリスト魂は真実の探究に動かずにはいられないようであった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 「むむむ、あれが紅魔館ですか」

 

 妖怪の山から飛行すること数刻、文は霧の湖のほとりにそびえる真紅の館を発見した。文の記憶ではつい先日まではここには何もなかった為、館ごと幻想入りしてきたという情報はどうやら正しいらしい。

 

「いかにも吸血鬼が住んでます! って感じの雰囲気の館ですね。ここはイメージ通りです」

 

 カメラで紅魔館を撮りつつそんなことを考える。自己主張の激しい紅一色の館は自身の力を誇示することを好む吸血鬼の印象と合致する。ますますお嬢様とやらがどういう人物かわからない。

 

「どれ、もう少し近くで……おっ?」

 

 高度を下げた文は館の庭園に多数の影があることに気が付いた。よく見てみると、何やらチャイナドレスの人物が十字架に磔にされており、その周囲をメイド服を着た妖精たちが取り囲んでいる。それを少し離れた場所で日傘の下の椅子に小さな影が腰かけていた。

 

「あややや、何やらただ事ではない雰囲気ですね……」

 

 文の脳内に磔にされた聖女が火あぶりにされるイメージが浮かんだ。庭園での会話を拾うべく、文は耳を澄ませてみた。

 

「お、お嬢様ぁ~! どうかお許しを! お嬢様の安眠を妨害するつもりは無かったんですぅ~!」

「あら美鈴、あなたは意図的でなければ私の眠りを妨げても良いと考えているの?」

「そ、そういうわけでは……!」

 

 磔にされている人物……紅美鈴は小さな影……レミリア・スカーレットに許しを乞うが、笑顔でばっさりと切り捨てられて反論を封じられる。自身に降りかかる運命を変えるべく美鈴は主の横に控えている影に声をかける。……自分の主がどういう能力の持ち主かも忘れて。

 

「咲夜さん! 咲夜さんから何とかお嬢様にお口添えを……」

「うーん、美鈴、あなたが転移早々に面倒な襲撃者に当たってテンパってしまったのは理解できるけど」

「で、ですよね!? 咲夜さんと私の仲じゃないですか! どうかお嬢様の説得を」

 

 咲夜の言葉に希望を見いだす美鈴だが、しかし。

 

「でもね美鈴? それこそ『あなたと私の仲』なのだから、私がこういう時どう答えるのか当然わかっていると思うけど?」

「うっ! ……レ、『レミリアお嬢様のお言葉は』」

「そう。『全てに優先する』のよ」

 

 にべもなくそう言われ、がっくりと俯く美鈴。この場に彼女の味方はいないらしい。

 

「そういうことよ。さぁお前たち、やりなさい」

「「「畏まりました、お嬢様」」」

「いやあぁ~~!!」

 

 レミリアの命令に一斉に動き出す妖精メイドたち。もがく美鈴。観察している文はごくりと息を飲んだ。そして──

 

「そ~れ、こちょこちょ~♪」

「ここか? いや、ここかしら?」

「あっはははは! や、やめ、うひはははは!」

 

 ──鳥の羽やら馬の毛やらの道具を取り出し一斉に美鈴をくすぐり始める妖精メイドたち。文はその光景を見て空中に留まったまま器用にずっこけた。

 

「そ、そこは拷問とかじゃないんですか!? い、いや、くすぐりの刑も確かに拷問の一種ですが……」

 

 文としては火あぶりとか串刺しとかもっと凄惨な拷問を想像していた。『くすぐりの刑』も確かに拷問ではあるが、あの傲慢で暴虐なイメージの強い吸血鬼が部下への制裁として行うにしてはシュールすぎる。

 

「うーん、噂通りに穏やかな人物なんですかね? しかしそれならそもそも拷問とかしないような……」

 

 レミリアの人物像を図りかねる文だが、何分レミリア・スカーレットという吸血鬼は外面と内面が違いすぎる人物である。内心で突拍子もない思考をしていてもそれが全く表に出ない人物なのだ。そう今も。

 

「なるほど、ここですね? ここが弱いんですね?」

「ほらほら、悶えろぉ~♪」

「い、いひははは! お、お嬢様、も、もう許し、へはははは!」

「あら、ダメよ美鈴。私の眠りを妨げたのだから、しっかり贖わなくてはいけないわ」

 

 美鈴にそう笑顔で返答するレミリアが『うーん美鈴の悶え姿、眼福♪』とか考えているなど、この場にいる者は気付きもしないだろう。いかにもカリスマ性のありそうなお嬢様吸血鬼が実は安眠妨害にかこつけて部下にアレコレしたいだけのセクハラ上司とは誰も思うまい。

 

「あら?」「あっ」

 

 と、レミリアが何気なく上に目をやった拍子に目を合わせてしまう文。ヤバいと思った文は早急にその場を離脱──

 

「うぐえっ!?」「うふふ」

 

 ──しようとした瞬間、自身の真上から現れた鎖に拘束され、強制的に地面に引きずり降ろされた。

 

「つかまえた。こんにちは、鴉さん」

「あ、あはは、こんにちは……」

 

 上空から館を観察していた不審者に穏やかに挨拶してくるレミリアを不気味に思う文。なおレミリアは内心で『美少女ゲットぉ~♪』などとお花畑な思考を展開していた。

 と、ここでレミリアが不審者を捕らえたのを察知した妖精メイドたちが一斉に文の方を向く。

 

(ひっ……!?)

 

 瞬間、文は怖気が走った。自分を見る妖精たちの目があまりにもギラついていたからだ。文は奔放でいい加減な妖精がこんな目をするのを見た事がなかった。

 しかしそんな妖精たちは不審者に対し何もしない。敵意すら向けない。主が文を敵として扱っていないからだ。

 

「鴉さん。どうしてうちを観察していたのかしら?」

「あ、あの、私こういう者でして……!」

 

 返答を間違えれば自分がただでは済まないと思った文は、レミリアに名刺を手渡し自身の素性を知らせた。

 

「『妖怪の山所属、鴉天狗。「文々。新聞」記者、射命丸文』? あら、新聞屋さんなのね」

「そ、そうです! この度幻想郷に紅魔館の方々が来られたと聞きまして、取材をしようと思ったところ、お取り込み中のようでしたので……」

 

 決して不審者ではないと必死に弁明する文。なおレミリアとしては文が不審者だろうが美少女ならなんでも良いのだが、文にはそんなことはわからない。

 

「新聞か。私たちはここに来たばかりで情勢に疎い。ちょうど情報源が欲しいと思っていたのよ」

「え、ええと…、それはうちの新聞と契約してくださるということでよろしいでしょうか……?」

「そう言っているのだけど?」

「あ、ありがとうございます。あははは……」

 

 全く真意の掴めないレミリアとの、ほぼ強制的な契約に喜んでいいのか反応に困る文であった。

 

 




「ところで、新聞はいかほど御入り用でしょうか」
「そうね。まぁ300部もあればいいかしら」
「さんびゃくぶ……!?」
(美少女の困り顔いいわぁ~~♪)


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河城にとりは発明したい

 妖怪の山の麓。そこには幻想郷一の技術者集団にして変人集団、河童が住んでいた。彼の種族は閉鎖的な幻想郷という世界においては間違いなく天才的な革新派である。しかし全く協調性がなく、各々が好き勝手に別々の研究発明をしたがる上に気分屋ですぐに当初の目的と別の物を作ってしまうという、一流の技術力があるにも関わらず種族的気風によってあまりそれを活かせていないのが実情であった。

 

「う~ん、色々とアイディアは浮かんでくるんだけど……」

 

 そう一人ごちたのは、『河城にとり』。河童の中でも、特に優れた技術力を持ち、ついでに変人度も高い人物である。とにかく発明好きな彼女はしかし、現状新たな発明に着手する事が出来ずにいた。その理由は。

 

「金がない!!」

 

 何の事はない、単なる資金不足であった。人間だろうが河童だろうが、研究開発となれば元手がなければどうにもならないのは同じなのである。

 

「なんということだ。先日はあれだけあった私のお金はどこへ消えてしまったんだ……?」

 

 気付いたら金を使いきっていた人間のお決まりの台詞を言うにとり。現状の彼女の手持ちでは、新たな発明に着手するなど到底不可能であった。となれば、稼ぐしかない。

 

「こうなったら人里に下りて私の研究成果を売りに出すしかないな。まぁ、私の発明だ。高値が付くことは間違いないね」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 かくして、新たな開発資金を手に入れるべく、人里へと下りたにとりであったが、その成果はというと。

 

「う、売れねぇ~~!!」

 

 全くもって売れていなかった。それもそのはず。外の世界、現世と比べて文明レベルの落ちる幻想郷である。そんな幻想郷において、現世にも通用する物すら作り上げる河童の技術は革新的すぎて、人里の人間たちには理解不能な代物にしか見えないのだ。金を出してまで欲しがる酔狂な輩はそうそういなかった。

 

「買わないまでも興味ぐらい示してくれてもいいじゃないか! 話も聞いてくれないなんて世間が冷たすぎる! 河童と人間は盟友じゃなかったのか!?」

 

 なお、盟友とは河童が一方的に人間に対して思っているだけであり、人間からすれば河童は多少人間に友好的な妖怪の一種でしかなかった。悲しい片想いである。

 そんなにとりであったが、天が彼女の願いを聞き届けたのか、彼女の発明に興味を示してくれる人物が通りかかった。

 

「あら、河童さんは人間と仲が良いのね。それは素敵なこと」

「はい?」

 

 よく通る声が聞こえてにとりがそちらを向くと、傘を差し優雅に微笑む少女の姿があった。にとりの発明品を興味深げに見つめている。

 

(え~と、この人もしかして)

 

 にとりはなんとなく目の前の人物の正体を察した。というか誰でもわかるレベルだ。

 

「お客さん、見ない顔だね。私は河城にとりって言う河童だよ」

「ご丁寧にどうも。私はレミリア。見ての通りただの幼女よ」

 

(嘘つけ!! どう見ても吸血鬼じゃないか!!)

 

 どこの世界にそんな禍々しい翼を生やした幼女がいるというのだ。蝙蝠の翼といい、真っ昼間から傘を差していることといい、どう見ても最近幻想入りして来たという吸血鬼その人だった。というかレミリアと名乗っている時点でまず隠す気がない。菓子折り配りの影響で幻想入りして来た吸血鬼の名前がレミリアだということは知れ渡っているのだ。

 

「そんな事より、河童さんは何を売っているの?」

「よくぞ聞いてくれました! ご覧あれ、私の発明した便利グッズの数々を」

 

 にとりとしては、買ってくれるなら幼女だろうと吸血鬼だろうと構わない。意気揚々と並べられた発明品を紹介する。

 

「お客さん、家の落ち葉の掃除なんかに困ったことは?」

「あるわね。うちの庭は広いから」

「そんな時はこちら!」

 

 現世の通販番組のノリでにとりが見せたのは小さな車のような形をした機械だった。

 

「こいつはその名も『全自動落ち葉掃除機』! こいつを庭に置いておくだけでなんと! 周辺の落ち葉の量を感知して、自動で移動して落ち葉を吸い込んでくれるのさ! しかも電源は太陽光なので燃料も不用!」

「あらすごい」

 

 河童の技術力を存分に発揮しただけあり幻想郷の文明レベルを考えるとかなりのオーパーツな代物であった。その技術力を使ってやるのがただの落ち葉掃除でいいのかはともかく。

 

「もちろん、集めた落ち葉の処理も完璧。吸い込んだ先は小型の焼却炉になっていて、自動的に燃やしてくれる。さらにその火力を利用して焼き芋も作れちゃう!」

「まぁ素敵」

 

 そうして焼いた芋がこちら、とあらかじめ用意していた掃除機の火力で作った焼き芋をレミリアに渡すにとり。もう完全に現世のテレビ番組のノリである。

 

「こんなに美味しいお芋が焼けて、お庭の掃除もしてくれるなんてすごく便利ね」

「そうでしょう! お客さん話がわかるね」

 

 上々の反応に機嫌がよくなってきたにとりは他の商品も売り込めないかとレミリアにトークを仕掛ける。

 

「他に日常でお困りのことはないかなお客さん?」

「そういえば、こっちに越して来てからやけに館にネズミが出るの。おかげでメイドの仕事が余計に増えてしまって」

「なるほど、ネズミの駆除だね。それなら丁度いいのがあるよ!」

 

 そう言ってにとりが差し出したのは、高さ1メートル程度のロボットらしきものであった。

 

「こいつはネズミを駆除するために生み出された対ネズミ用決戦兵器! 自律起動型窮鼠抹殺機(ネズミネーター)さ!」

「よくわからないけどすごそうね」

 

 ネズミを駆除するだけなのにやたらと物々しいネーミングのロボットである。まずネズミと決戦する機会があるのだろうか。

 

「まずこいつの燃料はただの水。一月に水1リッター補給するだけで、面倒なメンテナンスは一切不要で動き続ける」

「ほうほう」

「そして機能はシンプル。指定した場所を巡回し、ネズミを見つけたら駆除する」

 

 にとりの解説中にもネズミネーターはにとりの周囲を巡回していた。発声機能がついているらしく、何やら機械音声で『死んだ鼠だけが良い鼠だ』などと喋っていた。

 

「駆除方法として、最高時速70キロで対象に接近しアームで絞殺、撲殺が主だ。接近できない場合に備えて肩には小型の銃を搭載している」

「なるほど」

「ネズミが反撃してきても銃撃にも耐える事が可能な装甲を完備。半径500メートルまで焼き払う事が可能な火炎放射と、最終手段として自爆機能もついている!」

「素晴らしい」

 

 にとりの解説にパチパチと拍手するレミリアだが、どう考えても過剰戦力である。一体どんなネズミを駆除対象に想定しているのだろうか。

 

「注意点として、定期的に反鼠プロパガンダを喋るのでちょっとうるさいので気を付けてくれ」

『鼠は悪疫ゆえに粛清せねばならぬ』

 

 ネズミへの謎の殺意に溢れる機械だがレミリアはお気に召したようで、興味深げにネズミネーターの挙動を観察していた。

 

「でもお高いんでしょう?」

「とんでもない。この2つでお値段なんとたったの1000円!」

 

 そう言うにとりだが、1000円というのは「たったの」などとつくような金額ではない。現世と異なり幻想郷において円という通貨は非常に価値が高い。何しろ「文」が未だに流通している世界であり、厘や銭でも高額貨幣とされている。一般人では円など見た事もない人間がほとんどであろう。

 幻想郷では富裕層の部類に入る鴉天狗が情報を買うのに出す単位が1円であり、2円となれば高すぎると顔をしかめる程度には円の価値は高かった。ではそんな世界でなぜにとりは1000円などと言ったのか。

 

(まぁ1000円はジョークとして、実際いくらで売るべきかな? セットだから割り引きとかすべきだろうか)

 

 そう、なんの事はない。単なるジョークである。現世の駄菓子屋の店主が100円の品を100万円と言うのと同じノリで言っただけの話であった。実際はどの程度の値で売るべきか、頭の中で算盤を弾いていたのだが……ここでにとりはひとつ失念していたことがあった。

 

「あら、それだけでいいの?」

「へっ……?」

 

 そう。ジョークはそれがジョークと認識できる相手にしか通じない。何しろレミリアは普段の買い出しは全てメイドに任せており、幻想郷の一般的な金銭事情を知らない。そしてレミリアは、最近まで現世で暮らしていた新参である。そう、円が日常通貨として流通している現世で暮らしていたのだ。よって、その反応はある意味当然だった。

 

「はい。これでいいかしら?」

「は……? はあぁっ!?!?」

 

 レミリアが事もなげににとりに渡したのは、1000円札。現世では日本人なら誰でも持っており──幻想郷ではとんでもない価値となる紙幣であった。

 

(えっ……ちょっ……せ、1000円札うぅ!!? 私そんなの生まれて初めて見たんだけど!? というかなんで普通に1000円で買おうとしてるの!?)

 

 にとりとしては当然パニックである。ジョークとして言った金額をそのまま渡されてしまったのだ。駄菓子屋の店主が本当に100万円渡されたようなものである。

 

「ちょ、待った! ほ、本当に1000円で買う気かい!?」

「? だって、それらの値段は1000円なのでしょう?」

(そりゃそう言ったのは私だけどさあぁ!!? いいの!? いいのかこれ!?)

 

 自分で言ったとはいえ、本当に1000円で売ってしまっていいものか狼狽するにとり。一方でレミリアはなぜにとりが急に慌てだしたのか全くわかっていなかった。彼女としては価格1000円だと言われたから1000円出しただけなのだから当たり前だが。そして、にとりの出した結論は。

 

「お買い上げありがとうございました(う、売っちゃった……)」 

 

 商品を持ったレミリアを見送るにとりの手にはしっかり1000円札が握られていた。結局、彼女は目の前に降ってわいた大金を見逃すことができなかった。

 

「ま、マジで売っちゃったけど……大丈夫だよな? 後で殺されたりしないよね?」

 

 あの商品の出来には自信はあるが、どう考えても1000円の価値はない。にとりの見る限りレミリアは終始穏やかな人物だったが、後で価値を知られたら怒り狂うかもしれない。そうならないことを祈るばかりである。

 

「で、でもやったぞ。これで私は幻想郷有数の大富豪だ。この1000円札があれば……1000円『札』?」

 

 震える手で1000円札を見つめるにとりであったが……ここで彼女はとんでもない事に気付いてしまった。

 

「し、しまったああぁ!? 1000円札なんて貰っても、こんなとんでもない金額、どこの店でも支払いに対応できないから使えないじゃないか!」

 

 そうである。レミリアが1000円を持っていたように、そもそも幻想入りしてきた外来人は現世の通貨を持っているのだから、彼らがその通貨を幻想郷で使えば今頃幻想郷の経済はとんでもない事になっているはずなのだ。ではなぜそうなっていないのか。事は単純で『使えないから』。

 そもそも1円ですら、高額すぎて日常で使うにはやや不便な部類なのである。では、そんな世界で1000円札で買い物しようと思ってできるだろうか? まず無理である。現世の感覚で言えば、コンビニで買い物するのに一億持っていくようなものだ。当然、店側が釣り銭など払えるわけがない。結果、幻想郷において1000円札を始めとする紙幣はとんでもない価値を持つだけのただの紙と化す。

 

「いくら大金持ちでもそのお金が使えないんじゃ意味ないじゃないか! ど、どうしよう……」

 

 頭を抱えるにとりであったが、ふと思い付く。

 

「そうだ! あのレミリアって人、1000円札を持ち歩いてたってことはそれを管理するだけの能力があるはず! 彼女に普通に使える額に両替を頼んでみよう!」

 

 ここに他人がいれば商売人が客に両替を頼むのはどうなんだとかお前そもそもさっきまでレミリアに殺されないか不安がってただろとか突っ込みが入っただろうが、今の彼女は色々と冷静ではなかった。

 思い立ったらすぐ行動、にとりはレミリアが歩いていった方へと走る。幸いにもお嬢様らしく優雅に足を進めるレミリアの歩みは遅く、にとりはすぐに追い付くことができた。

 

「あら、河童さん。どうかしたの?」

「レミリア嬢、ものは相談なんだけど、この1000円札、もう少し下の通貨──銭とかに換えてもらえないかな? もちろん後日で構わないから」

 

 そう言ったにとりだったが、ふと思う。

 

(あれ、私なんかかなり失礼な事言ってない?)

 

 よくよく考えてみれば1000円という金額を銭などに両替するとなるとかなりの手間だし、そもそも払った側の客にそこまでしてやる謂われはない。段々と冷静になってきたにとりは「あれこれ無理じゃね?」と思い始めていた。

 

「よくわからないわ」

「ああ、そうだよね。こっちこそ無理を言ってすまない」

 

 そう言うにとりに、レミリアは首を振った。

 

「あぁ、そうではないのよ」

「えっ?」

 

 にとりとしては冷静になった今、断られて当然だろうと思っていた。しかしそれに対するレミリアの返答は彼女にも想定外のものだった。

 

「不勉強でごめんなさいね。円より下の単位があるなんて、初めて知ったものだから」

 

 ──あまりにも住む世界が違いすぎる発言に、絶句するしかないにとりであった。



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八雲紫は平穏が欲しい・裏

(やれやれ、お嬢様のご趣味にも困ったものね)

 

 妖精メイドの中で最も古参の副メイド長は、自らの主を先導しながらそう考えた。事の発端は、門番である紅美鈴が外敵を撃退する為に少々規模の大きい気効弾を放ったことだ。敵の撃退は成ったものの、美鈴の攻撃によって紅魔館の中庭が盛大に破壊され、おまけによりによってレミリアの睡眠も妨害されるという自体になった。

 結果、ここ一週間ほど美鈴はレミリアの命により毎日、妖精メイドによる拷問(くすぐりの刑)にあっている。一日一時間程度、笑い死にしないように休憩を挟みつつ。これはそれほどレミリアが美鈴に対し怒っているから……ではない。レミリアは基本的に部下の失態には寛容で、意図して紅魔館に害を成したのでもなければ大抵のことは軽いお小言程度で済ませるのだ。

 ではなぜ美鈴への責め苦が一週間も続いているのかと言えば、レミリアの趣味が関係している。

 

(お嬢様は美しい女性ならなんでも好きな御人だから……美鈴さんみたいなタイプは特に好みなんでしょうねぇ)

 

 副メイド長はレミリアのことは蝙蝠の羽が生える前から知っており、その性格も嗜好も熟知している。カリスマ的な言い回しと威厳ある態度からわりとみんな誤魔化されているが、レミリアは可愛い女の子を見ると愛でずにはいられないという割とアレな性格の持ち主なのだ。要するに、今回は美鈴の失態にかこつけて彼女に対して悪戯をしたいだけだろう。

 

(まぁ、それを察していない他の子達にしてみればただのお仕置きにしか見えないんだろうけどね)

 

 レミリアは異常に外面を取り繕うのが上手いため、彼女の本性を知っている者はほとんどいない。最も信頼されている咲夜や親友のパチュリーですら知らないだろう。知っているのは、単純に仕えた時間の長い自分を含めたメイド数人と、異様に頭の回る小悪魔。それから実の妹でありレミリアに溺愛されているフランドールぐらいだ。

 

「そろそろ終わりにしてあげるべきかしら」

 

 副メイド長の背後を歩くレミリアがそう呟いた。美鈴へのお仕置きのことだろう。開始してから一週間が経っているし、レミリアとしても満足できたのであろう。

 

「そうでございますね。美鈴さんも反省されたでしょうし、そろそろ──」

 

 解放して差し上げてもよろしいかと、と続けようとした副メイド長の言葉は最後まで続かなかった。レミリアに無礼の無いよう振り返った彼女に妙な光景が目に入ったからだ。

 

(……何、この『スキマ』は?)

 

 ちょうど副メイド長とレミリアが挟むようにして、廊下に妙な亀裂の入った『スキマ』とでも形容すべき空間が出現していたのだ。副メイド長の目線を辿ったレミリアも気が付いたようでそれに目をやってから微笑んだまま首を傾げ、周囲で廊下や花瓶の掃除を行っていた妖精メイド達もそれに気付くと瞬時に掃除を止め『スキマ』を取り囲むようにぐるりと整列した。

 そして、『スキマ』の中から誰かが姿を現した。金色の長い髪を持った見たことのない服装の長身の女性。妖気を感じられることから妖怪であろうとその場の皆が察する。しかし、現れた女性の気配からは少しの動揺が感じられた。

 

(……あぁ、なるほど)

 

 あの『スキマ』は彼女の能力で、何らかの目的があってこの紅魔館の廊下に『スキマ』を開いたのだろう。そしてレミリアほどの妖怪が副メイド長が目をやってから初めて存在に気付いたことから、相当に隠密性の高い能力のようだ。恐らく今まで『スキマ』の存在を察知されたことなど無いのだろう。しかし、今回偶然にも会話の為に振り返った副メイド長が『スキマ』を察知してしまい、瞬時に部下の妖精メイドたちが反応して『スキマ』を包囲した。

 

 これを彼女の視点から見ると、見破られないはずの能力をあっさり看破して完璧に対応され、現れた瞬間いきなり包囲網が形成されているという状況になるわけだ。それはまぁ動揺もするだろう。

 そしてそんな女性はというと、自身を包囲している妖精メイドたちを見回して驚愕したように目を見開いていた。恐らく、妖精メイドたちの練度の高さに驚いたのだろう。そもそも妖精という種族自体がメイドには全く向いていない。そんな妖精が異様に統率の取れた動きで自身を取り囲んでいるのだから驚くのも無理はない。すると、

 

(……おっと? 威圧かしら)

 

 その女性が妖力を周囲に放ったのを感じ、副メイド長は部下の妖精たちを見回した。普通の妖精がこのレベルの妖力に当てられれば気絶かパニックを起こすかだが、あいにく主人の闘争の為に兵士としての役割を与えられることも多い妖精メイドたちは、たかが格上からの威圧程度で怯えるような軟弱さは持ち合わせていない。むしろ何人かは眉を潜め、スカートに潜ませているナイフに手を伸ばしていたりする。

 が、主人であるレミリアが敵として扱っていない相手に攻撃を仕掛けるのもあまりよろしくないので、副メイド長が視線で部下たちに待機の指示を出すと、皆がメイドとしての愛想笑いを浮かべてその場に直立不動の姿勢を取った。

 

 その一連の様子を見てから、ますます謎の女性の焦燥感は強まったようである。一方で、さっきから全く動きの無いレミリアは何をしているのかといえば……。

 

(うーん、あれは内心で相当はしゃいでおられるわね)

 

 外見こそ淑女らしい微笑みから変わっていないが、大きな瞳が爛々と輝いているし、何より、この女性が現れてから普段は抑えているはずの妖力がだだ漏れになっている。テンションが上がると無意識に妖力が溢れ出てしまい、本人の意思と無関係になんか凄そうなオーラを纏うのがレミリアの体質だと副メイド長は知っている。動きが無いのは、自分好みの美女が現れたことで見とれているだけだろう。

 

「私としたことが、礼を失していたわ。皆、お客様におもてなしの準備を」

「「「畏まりました、お嬢様」」」

 

 ようやく起動したレミリアがそう言うと、副メイド長以下メイド一同は即座に頭を下げてその場を辞した。残されたのは、未だ呆然と立ち尽くす謎の女と、それを愉快そうに見つめながら傍に立つ吸血鬼の少女のみ。

 

「咲夜」

「はい」

 

 レミリアに呼びかけられて、先程までいなかったはずのメイド長、十六夜咲夜が音も無く現れる。女性が驚きに目を見開くが、この程度のことはメイド長にとっては朝飯前だ。

 

「お客様をご案内して?」

「畏まりました。お客様、こちらにどうぞ」

 

 恭しく一礼してから、咲夜が女性を先導して歩き出す。完全なる不審者である自分を客人扱いしていることに、レミリアの意図が読めずにますます困惑した気配を強める女性だが、レミリアの内心はというと。

 

(謎のミステリアス美人さんきたあああ! 私の理想通りぃいいいっ!! これはもう運命よねっ!? 絶対逃がさないんだからぁ!)

 

 好みドストライクの美女を前にして完全にテンションがおかしなことになってお花畑な思考回路になっていた。速攻で女性を食堂に通し、咲夜にお茶菓子を出させて対面に座る。

 

「ようこそ紅魔館へ。私はこの館の主でありスカーレット家の現当主、レミリア・スカーレットよ」

 

 レミリアはウキウキしながら優雅に名乗りを上げ、女性は一瞬戸惑いながらも口を開く。

 

「丁重なおもてなしありがとうございますわ。私は八雲紫。この幻想郷の管理をしているしがない妖怪ですわ」

 

 八雲紫と名乗った女性の自己紹介を聞いて、レミリアは思わず手を叩いて笑顔になった。

 

「ほう、あなたが! 幻想郷に移住するにおいていずれご挨拶に伺おうと思っていたのだけれど。私たちのような新参者に対してまさか管理者自ら御足労頂けるとは嬉しい限り」

「いえいえ、幻想郷は誰であろうと受け入れますわ」

 

(なるほど、これがバブみって奴ね!)

 

 謎の納得をするレミリアの脳内では早くも『八雲紫=母性の象徴』という謎の方程式が出来上がっていた。実際、幻想郷の生みの親のようなものなのである意味間違ってはいないのだが。それから紫に移住の理由を訊ねられたので、レミリアは素直に答えた。

 

「この幻想郷でなら友人が作れるのではないかと思ってね」

(美少女の友人がねっ!)

 

 紅魔館による幻想郷の侵略を警戒していた紫はこの答えに安堵して息を吐いた。レミリアの内心が聞こえていたら、それはそれでまた別の意味で心配していたことだろう。

 

「そうだ、賢者殿。あなたは我々が幻想郷に来て初めてのお客様よ。これも何かの縁。どう? 私の友人になってくれない?」

「ええ。是非、お友達にして下さいな」

「そう! では、今から私とあなたは友人よ」

 

 この時、申し出を快諾したことに対してはしゃぐレミリアの姿を見て紫は演技なのか本気なのか測りかねていたのだが……。

 

(綺麗なおねーさんとお友達きたぁーーーー!!)

 ……などと心の中で盛大にガッツポーズを取るレミリアの心中を紫が覗いていたなら、その威厳も何も感じられないあまりの子供っぽさに脱力していただろう。

 かくして、外面だけは完璧な天然大ボケ吸血鬼レミリア・スカーレットは、妖怪の賢者こと八雲紫にすら自身の本質を誤認させる事に成功したのである。そしていかんせんレミリアの実力自体は本物のため、こうした認識が正される事はほぼ無いのであった……。



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