碧色のライバル (妖魔夜行@)
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レポート:1『グリーン』

 レッドの転生、憑依ものはよく見るけどグリーンの転生、憑依ものは見ないよなぁと思ったので書き起こしました。基本的にTHE ORIGINのストーリーをなぞっていくつもりです。


 目が覚めると知らない天井が見えた。

 

 『ここはどこなんだ?』とか、『自分はさっき車に轢かれそうになったのでは?』とか、疑問なら山ほど出てくる。

 が、それより先に頭に思い浮かんだのは『違和感がない』、『いつもの日常』だった。

 

 理解しえない神話的恐怖のような違和感と同時にこの状況に自分が違和感を抱かないこと(・・・・・・・・・・)に恐れつつ、部屋を出る。部屋を出た右方向に階段があり、手すりに手を添えながら降りる。

 

 トントントントンと包丁がまな板を叩くリズミカルな音がリビングから聞こえる。

 朝起きればいつも聞いている音、しかし普段の自分の家なら絶対に聞こえるはずがない音。

 リビングに顔を覗かせてみれば自分の母親が料理をしていた。母親が冷蔵庫から食材を取り出そうとした際に目が合う。

 

「あら、おはようグリーン。アンタが朝早いなんて珍しいわね」

 

 彼女は自分を見て、珍しいものを見る顔でそういった。

 

 

 

 

 

 アレから情報を集めてみた結果、何の因果か、自分はどうやらポケットモンスターの世界に転生してグリーンになってしまったようだ。

 理由としてはまずこの世界にはポケモンと呼ばれる生物が存在すること、隣家の子供の名前、そして自分の名前と家族構成。

 

 一つずつ確認していこう。まずポケモンと呼ばれる生物について。これはテレビや新聞などに載っているし、自分の昔の記憶ではポケモンという単語を聞かない日はないくらいだ。前世で言う動物がポケモンの立ち位置なのだろう。

 豚肉、鶏肉、牛肉といった肉類やマグロに秋刀魚、鮭やメダカなどの魚類の名前も聞いたことがなかったので、こちらの世界では肉類や魚類は全てポケモンが代替わりしているようだ。

 

 次に隣家の子供。表札を見てみれば子供が書いたような下手っぴな字で【レッドの家】と書いてあった。家におじゃましてみればレッドのお母さんが居間でお茶を飲んでテレビを見ており、レッドは不在であることを教えてくれた。

 

 最後に自分の名前と家族構成。

 朝聞いた通り、自分の名前はグリーン。家族構成は祖父、父、母、姉、そして自分。

 姉の名前は『ナナミ』で祖父の名前が『ユキナリ』。加えて苗字が『オーキド』なので確定だ。

 

 

 何故自分がグリーンになってしまったのか、最後の記憶が車に轢かれかけていることと考えれば答えは単純。何故かは分からないが転生か、憑依か、どちらかをしたということになる。と言っても自分はポケットモンスターは初代しか知らないしガチガチにハマりこんでいた訳でも無い。だから原作の知識で俺最強、などといった事は出来ない。そもそも覚えている前世の記憶は酷く断片的なのでやろうと思っても無理である。

 

 なら何をするか?ゲームでのグリーンは最初から最後まで主人公であるレッドのライバルとして存在していた。なら自分もそれに沿うのが道理だろう。

 だが、どうせやるのなら勝ちたい。

 

 自分のこの記憶が正しければ、確かゲームでのグリーンは一瞬チャンピオンになったが、後から来たレッドに負けて直ぐにチャンピオンの座を奪われてしまった…はずだ。

 

 そんな噛ませ役みたいなのは御免蒙りたい。

 

 グリーンの記憶に感化されているのか、レッドには負けたくないという想いがフツフツと沸き上がってくる。

 そうだ、自分はもう『グリーン』なんだ。

 なら、やってやる。誰にも負けない、最強のトレーナーになってみせる。

 

 

 

 

 

 そうと決まればまずはポケモン選びからだ。幸いにも身内にポケモン研究者がおり、研究所もある。少し遠いが自転車に乗ればすぐの所にトキワの森も存在している。

 それからというもの、片っ端から書物を漁った。家にある本、研究所にある本、オーキド博士が書き記した研究日誌、あらゆる本を読んだ。

 

 ちょっと危険だったが夜にはトキワの森に出向くこともあった。道中コラッタやポッポなどといった野生ポケモンに見つかることもあったが、こちらが敵意を見せなければ襲ってくることもなかった。

 肝心のトキワの森だが、ポケモンの代名詞とも言えるピカチュウは見つからず、ビードルやキャタピーといった虫ポケモンしか見れなかった。

 そこでふと気になったのがこの世界での虫ポケモンの立ち位置だ。毛虫や芋虫と同じ扱いなのだろうが害虫などと言われている様子もなく、自分自身も見た目の愛くるしさから嫌悪感が生まれるはずもなかった。

 

 話を戻して、ピカチュウもいなかったので仕方なく家に帰ることにして自転車に跨ろうとすると近くの草むらが突然揺れた。驚いて自転車を倒してしまいその音で揺れが更に大きくなった。

 

 飛び出してきたのは───

 

「ブ…イ……」

 

 傷ついたイーブイだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「この大馬鹿者がぁ!!」

 

 事の顛末を話すとオーキド博士は激怒した。

 

 イーブイを自転車のカゴに載せて博士の研究所に向かい、事情も話さずに回復してくれと頼んだ。自分の慌てぶりが伝わったのか、面食らっていた博士がすぐに頷き、助手と一緒にイーブイを治療してくれた。

 

 それから事情を説明すると物凄く怒られた。

 

 まず深夜に1人で出歩いた事。自分が子供ということを自覚しろと言われた。次にポケモンを持たずにトキワの森へ言ったこと。これは姉に泣かれるレベルで怒られた。

 トキワの森にはビードルやキャタピーだけではなく、スピアーなどの危険なポケモンも存在する。今回はたまたま出くわさなかったが、もし出会っていればポケモンも持たない非力な子供である自分は死んでいたかもしれない。そう言われた。

 

 少し命を軽く見積もりすぎていたのかもしれない。いや──軽く見ていた。

 2度目の人生、死を1度経験している、どうせ自分はグリーンなのだから死にはしない、と。

 

 余りにも愚かな考えだった。

 

 

 志半ばで死んでしまった前世に──

 

 望んでもないのに憑依してしまった今世に──

 

 投げやりになっていたのだ。

 

 切り替えよう。

 

 自分はグリーン。マサラタウンに住む九歳の少年。オーキド・グリーン。

 

 夢はポケモンマスターとして頂点に君臨すること。

 

 そう強く、再認識した。

 

 

◇◇◇

 

 

 3日も経てばイーブイの傷もすっかり癒えた。しかしイーブイが自分達に心を開くことはなかった。

 

「あの傷はポケモンに付けられたものもあったが人間に蹴られたような傷もあった。恐らくこの子のトレーナーがバトルに負けた腹いせか何かでイーブイに暴力を奮ったのじゃろう」

 

 オーキド博士はそう言うと視線を窓の外に向ける。研究所の外にあるポケモンの遊び場で様々なポケモン達が思い思い過ごしている中、イーブイだけが隅っこで蹲っていた。

 それを見て、どうしようもなく悲しい気持ちになった。イーブイがあんな悲しそうにしているのなら、自分がイーブイを助けたのは間違いだったのではないか?不安で眠れなかった。

 

 イーブイを助けてから一週間程たったそんなある日、レッドがボロボロのピカチュウを拾ってきた。マサラタウンの道中にある草むらで倒れているのを見つけたらしく、コラッタやポッポに追われながら研究所(ここ)まで逃げてきたらしい。

 

「馬鹿者!何故そんな無茶をした!」

ピカチュウ(こいつ)が倒れてるのが見えたんだ!あのままじゃピカチュウは……」

「……レッドよ。お主の考えや正義感は正しい、正しいがそういう時は大人を呼ぶんじゃ。お主が思っているより子供というのは弱く脆い、そしてポケモンというのは強く恐ろしいのじゃ。お主もグリーンもなんでも1人で解決しようとしないで、もっとワシら大人を頼ってくれ」

 

 自分もレッドも九歳、まだまだ大人が気にかける歳だ。手も足も短いし、体も小さい。ポケモンの攻撃なんか喰らえば一発で致命傷だろう。

 博士の話を聞いて、レッドは俯きながら頷く。その拍子に涙がポタポタと落ちて研究所の地面を濡らした。

 

 

◇◇◇

 

 

 数日後、ピカチュウが回復した聞いて研究所へ行くとそこにはお互いに朗らかな笑みを浮かべているレッドとピカチュウがいた。

 出会ってから一週間もたってないはずなのに、その信頼関係はまるで長年連れ添った相棒同士のようだった。

 

 自分とイーブイは絶縁状態なのに何故、何故アイツらだけ───

 嫉妬と羨望が混ざりあった汚い感情が胸の内で渦を巻いていた。

 

「え?どうしてピカチュウとそんなに仲良くなれたかって?」

 

 つい勢いで聞いてしまった。自分の問にレッドは顎に手を当てて「うーん」と数秒唸ると口を開いた。

 

「ピカチュウが俺を認めてくれたから……かな?」

 

 その認められるまでの過程が気になるというのに……そんな簡単に言わないで欲しい。

 不満を表してみせるとレッドは「そんな事言われてもなぁ」と困り顔になる。

 

「あ、でもそうだな。一日中話しかけたこともあったな。そしたらピカチュウのやつうんざりした様な顔になってさー」

 

 成程、と納得する。レッドは根気強く振り向くまで話しかけ続けたのか。しかしまあ、ピカチュウがうんざりするのも分かってしまう。

 

「そのあと笑って鳴いてくれたんだよ。『ピカッ!』ってな」

 

 レッドが言っていたピカチュウの返事がどういう意味なのか、馬鹿でもわかる。でも納得がいかない。

 自分だってイーブイには毎日会いに行っている。一日中ではないが1時間以上は話しかけている。なのにイーブイは心を開いてくれない。

 

 庭へ出向き、イーブイに話しかける。返事はない。

 触れてみようと手を差し出す。首に指が触れるとイーブイの体はビクリと跳ねる。やはりダメか、と手を離して庭をあとにする。

 やはり自分ではレッドのようになれない。

 帰る途中、イーブイの方を振り向いてみたが、イーブイは自分のことを見ていなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 そうこうしている間にあっという間に1年が過ぎ、自分とレッドが旅に出る日となった。あれからも毎日イーブイに会いに行っていたが結局心を開いてくれることはなかった。

 

「おおよく来たなレッド、グリーン。さて、今日はいよいよお前たちがトレーナーとしてマサラタウンを出発する日じゃな」

 

 そう言って机の上に3つのモンスターボールを並べていく。

 

「この3匹のポケモン中から1匹をやろう。さあ選ぶといい」

 

 3匹のポケモン。それはくさ、みず、ほのおの3タイプに分けられた言わゆる御三家と呼ばれるポケモンのことである。

 

 たねポケモン『フシギダネ』。大きな種のようなものを背負う、四足歩行のポケモンだ。

 とかげポケモン『ヒトカゲ』。こちらは二足歩行をするポケモンで、尻尾の先っちょに炎が灯っている。

 かめのこポケモン『ゼニガメ』。ヒトカゲと同じ二足歩行をするポケモンで、甲羅を背負っている。

 

 ゲームのグリーンはレッドが選んだポケモンに対してタイプ相性がいいポケモンを選ぶ。自分はどうすればいいのだろうか。そう悩んでいるとレッドが机の前に出て、モンスターボールを掴んだ。それを見て博士が声をかける。

 

「ふむ、レッドはほのおタイプのヒトカゲにするんじゃな?」

「はい!出てこいヒトカゲ」

 

 レッドがモンスターボールを拡大してボタンを押す。するとボールが開いて中からヒトカゲが出てきた。

 

「ヒトカゲ、これからよろしくな!」

「ピカ、ピーカ!」

「カゲッ!」

 

 レッドとピカチュウがヒトカゲに手を差し出すとヒトカゲは元気よく鳴いて2人の手を掴んだ。

 

「さて、グリーン。お前はどのポケモンにするんじゃ?」

 

 ゲームなら自分はほのおタイプに強いみずタイプのゼニガメを選ぶべきなんだろう。しかしグリーンという名の通りフシギダネを選びたい。というか自分はこの御三家の中で1番フシギダネが好きなのだ。

 けど好きだからという理由で『ライバル』の原型を崩していいのだろうか?

 それに名前の理屈で行くと、海外版はグリーンではなくブルーと呼ばれている。

 

「どうしたんじゃグリーン?早く選びなさい」

 

 博士に急かされる。自分は、グリーンは──

 

 

◇◇◇

 

 

「え?ポケモンバトルをしないか?別にいいけどこっちはピカチュウとヒトカゲだぞ?」

 

 それでもいい、バトルするぞ。

 多少強引にレッドの手を引き、外へ連れ出す。お互い距離を取ってポケモンを繰り出した。

 

「これが初めてのバトルだな。いけっ!ヒトカゲ!」

「カゲェ!」

 

 モンスターボールが投げられて、ヒトカゲが出てくる。こちらもボールを振りかぶり、投げた。

 

 ゆけっ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼニガメ

 

「ゼニィ!」

 

 結局自分はゼニガメに決めた。だって自分はグリーンだから、ライバルだから。

 

 レッドに勝ちたいから───

 

「グリーンはゼニガメか!ヒトカゲッ!睨みつける攻撃!」

「カゲッ!カー…」

 

 『にらみつける』、相手の防御力を下げる攻撃。その理屈としては、目と目が合うことで生物の本能的な恐怖を呼び起こされて防御意欲が薄れるかららしい。

 なら目を合わせなければいいだけだ。

 

 ゼニガメ、甲羅にこもれ。

 

「カメ!」

「ゲー!カゲッ!?」

「甲羅に隠れて『にらみつける』を躱した!?」

 

 そのまま滑って『たいあたり』。

 

「ガメェ!!」

「くっ、かわせヒトカゲ!」

「カァ、ガアッ!」

 

 甲羅で素早く移動するゼニガメをヒトカゲが捉えきれるわけもなく、脇腹に『たいあたり』をくらった。HPで表せばあと2、3発で気絶するだろう。

 

 畳み掛けろ、『なきごえ』。

 

「ゼニゼニィ!!」

 

 『たいあたり』はその名の通り身体全体を相手にぶつけて攻撃する。そのため威力は強いが隙も大きい、連続して放てる技ではないのだ。

 だから『なきごえ』を使った。

 

 『なきごえ』は突き詰めれば相手の攻撃力を下げるだけの技なのだが、大声によってレベルが低いポケモンなら動きを止めるし、距離が近ければ鼓膜にダメージを与えることが出来る。そうすればトレーナーの指示もよく聞こえなくなり、牽制にもなる。

 そして大きな隙も生まれる。

 

 『たいあたり』。

 

「ガッメ!」

「カグウ!?」

 

 今度は背中に『たいあたり』をくらったヒトカゲ。2回も『たいあたり』をまともに受けたヒトカゲはもう気絶寸前だ。それを見てレッドは堪らず指示を出す。

 

「ヒトカゲぇ!距離をとるんだ!」

「カ、ゲ?」

 

 残念だがその指示は『なきごえ』の影響を受けて聞こえていない。

 3度目の『たいあたり』。

 

 ヒトカゲは吹っ飛ばされ地面を2度跳ねたあと目を回して気絶した。

 

「ヒトカゲ…休んでてくれ。行くぞピカチュウ!」

「ピカァ!」

 

 レッドはヒトカゲをボールに戻すと肩に乗せていたピカチュウをバトルに出した。

 でんきタイプであらピカチュウとみずタイプであるゼニガメではどう見てもピカチュウの方が有利だ。けど、自分の手持ちはゼニガメ1匹だけなので、やるしかない。

 

「ピカチュウ!『でんきショック』だ!」

「ピィッ…!」

 

 ピカチュウが電気を頬に溜める。いくら威力の低い『でんきショック』だとしても『こうかはばつぐん』だ。しかも貰ったばかりのゼニガメでは2発も喰らえばノックアウトだろう。

 記憶が正しければ、『でんきショック』は『10まんボルト』とは違い威力も範囲も小さく、射程も短いはずだ。それに直線上にしか打てないという弱点もある。

 

 ゼニガメ、甲羅に籠ってランダムに走れ。

 

「ゼニ!」

「くっ!また甲羅……!」

 

 甲羅で滑るゼニガメがピカチュウの背後に回った。

 『たいあたり』。

 

「後ろだピカチュウ!跳んで躱せ!」

「ピィ、カッ!」

「ゼニッ!?」

 

 まずい、躱された。すぐ体勢を立て直せゼニガメ。

 そう指示を出すが上手くいかずゼニガメは前のめりに転んでしまった。こうなると幾らレッドといえ、その隙を見逃すことはない。

 

「ピカチュウ!今度こそ『でんきショック』だ!」

「ピィカ!!」

「ガメェー!?」

 

 ゼニガメはまともに『でんきショック』を喰らってしまい、大きなダメージを受けた。あともう一撃喰らえばきぜつ状態になってしまうだろう。

 

 立てゼニガメ。立って距離を取れ。

 

 しかしゼニガメの動きは鈍い。やはりダメージが大きくて思うように動けないようだ。

 

「ゼ、ゼニィ…」

「追い討ちをかけるんだピカチュウ!『でんきショック』!」

「ピカァ!ピッカ!」

 

 電撃がゼニガメに向かって放たれる。

 

「ガッ!メ……」

 

 『でんきショック』が直撃したゼニガメは目を回して倒れた。気絶してしまったのだ。

 ボールを取り出し、拡大させてゼニガメをボールの中に戻す。

 よく頑張ったな、ゼニガメ。

 

「この勝負、俺達の勝ちだなグリーン」

「ピカ!」

 

 ハッ、2対1で勝てない方がおかしいだろう。

 

「なにをー!そもそもお前からやろうって言い出したんじゃないか!」

 

 ハイハイ、強かったよレッド。

 ポケモンを回復させるために研究所に戻る。後ろを向かずに手をヒラヒラと振ってレッドと別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 負けた

 

 

 

 レッドに

 

 

 

 負けた

 

 

 

 ギリッ、と自分に聞こえるくらいの歯を食いしった。

 

 

 

 その後、研究所に戻った自分はボールを装置にセットしてゼニガメを回復させていた。

 

 椅子の背もたれに両手を乗せてその上に頬を乗せている。待っている間、暇なので先程のバトルの反省をしたいと思う。

 戦術的には問題はなかったはずだ。その証拠にヒトカゲをスムーズに倒している。やはりタイプ相性だろうか?それとも他になにか理由が?

 1人で悩んでも分からないので本職に聞いてみよう。

 

「なに?そんなこと、ゼニガメが疲れておっただけじゃろう」

 

 疲れる。誰が?ゼニガメが。何で?連戦したから。

 人間に例えるならボクシングの試合を連続で2回しているようなものだろうか?

 

「ポケモンも生き物なんじゃぞ。レベルも低く、戦い慣れてないポケモンが2連戦もすれば体力的にも精神的にも疲労は溜まるじゃろう」

 

 博士はそう言った。

 ゲームと違い、ポケモンも疲れるのだ。

 今度からはそのことも頭に入れなければ。

 

 

◇◇◇

 

 

 ゼニガメも回復して道具も揃えたので、そろそろ出発したいと思う。

 けど、最後に……研究所を出る前に庭へよる。隅の方でイーブイが寝ていた。

 

 寝ているイーブイに近づき、しゃがみこむ。柔らかい毛並みを手のひら全体で味わうように、ゆっくりと撫でる。

 二、三回撫でるとイーブイはくすぐったかったのか体を捩らせた。これ以上やると起こしてしまうので名残惜しいが手を離す。

 

 じゃあな、イーブイ。

 

 

 一陣の風が、前髪を揺らした。

 

 


 

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  0 こ┃

┃ポケモンずかん   3ひき┃

┃プレイじかん   0:50┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ ここまでの かつやくを       ┃

┃ ポケモンレポートに かきこみますか?┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━┓

はい ┃

┃ いいえ┃

┗━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ グリーンは             ┃

┃ レポートに しっかり かきのこした!┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 




テンポよく進めていきたいと思っているので全4話か5話くらいで終わらせたいなあと思っています。


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レポート:2『タケシ』

┏━━━━━━━━━━━━┓

つづきからはじめる  ┃

┃ さいしょからはじめる ┃

┃ せっていを かえる  ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  0 こ┃

┃ポケモンずかん   3ひき┃

┃プレイじかん   1:00┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 


 

 

 マサラタウンを出発してすぐ、草むらからポッポが現れた。ゼニガメを出して戦闘を始める。

 

「ポォッ!」

 

 『かぜおこし』を繰り出してくるポッポ。基本的に野生のポケモンは単調な攻撃しかしてこないのでゼニガメに出す指示も楽だ。

 右に跳んで躱せゼニガメ。そのまま距離を詰めろ。

 

「ゼニッ!ゼニゼニィ!」

 

 『たいあたり』だ。

 

「ガッメ!」

「ポウッ!?」

 

 『きゅうしょ』に当たったのか、ポッポは『たいあたり』一撃で既に気絶に近い。自分は素早くバックからモンスターボールを取り出してポッポに向かって投げつけた。

 

 ボールが当たり、開く。中から赤い光線が放たれポッポに触れる。ポッポは光線の一部にされたようにボールへ吸い込まれていき──1回、2回、3回揺れて、止まった。

 ポォン!と高い電子音が流れる。これはポケモンを捕まえたという証だ。

 

 早速図鑑で確認してみよう。

 

『ポッポ

ことりポケモン

 

たたかいを このまない おとなしい

せいかくだが へたに てを だすと

きょうれつに はんげきされるぞ。』

 

 図鑑に説明文が記載された。なるほど、こうやって図鑑を埋めていくのか。

 

 博士に頼まれた図鑑埋めをしつつ、自分は理想のパーティメンバーを集めることにした。

 

 

 1番道路を通ってトキワシティに着いた。手持ちにはゼニガメとポッポに加えて新たに捕まえたコラッタがいる。しかもなんとこのコラッタ、既に『ひっさつまえば』を覚えていたのだ。

 記憶を思い出してみれば、原作のグリーンの手持ちにも確か居たはずだし、コイツはパーティのエースになってくれそうだ。

 これから一緒に頑張ろうな、コラッタ。

 

 そう言うと、ボールの中にいるコラッタが頷いた。その眼には強い意志が宿っている気がした。

 

 トキワシティのポケモンセンターでポケモンの体力を回復させ、道具を補充したらニビシティへ向かうために2番道路……ではなく22番道路を出た。

 

 ここを超えるとチャンピオンロードへ辿り着く。チャンピオンロードに挑戦するためにはジムリーダーに勝つと貰える、バッジを8個集めなければならない。

 1つも手に入れていない自分にはまだ縁のない話だ。しかし、いつかここに挑戦するために戻ってくることになるだろう。わざわざここに来たのは決意表明みたいなものだった。

  もう満足したので帰ろうと踵を返すと、レッドがやってくるのが見えた。どうやらこちらには気づいていないようだ。

 

 よう、レッド。

 

「ん?あー!グリーン!?何でここに?」

 

 一々リアクションが大きやつだなと思いつつ説明する。話終わるとレッドは「へえ〜」と感心するように頷いた。

 

 ああ、そうだ。この前のリベンジをさせて貰おうか。俺とバトルしろ。

 

「は?いやいや何でそうなるんだよ!」

 

 『目と目が合ったらポケモンバトル』って言うだろ?さあ、バトルだ。

 そう言うがレッドは首を縦には振らず、両手を突き出してブンブン振った。

 

「いやいやいや!やらないって!俺のポケモンまだ回復させてないし!」

 

 レッドの肩に乗っているピカチュウを見る。少し泥に汚れており、何度か戦闘をしたのか小さな擦り傷や切り傷があった。

 確かにこれではフェアじゃない。仕方なく、今回は勘弁してやるとだけ言ってニビシティへ向かうことにした。

 

 道中、2番道路とトキワの森で図鑑を埋めるべくキャタピーやビードル、ニドラン♂、♀を捕まえた。

 2番道路を北に進むとトキワの森へ出る。トキワの森では虫取りの少年達とミニスカートの少女とポケモンバトルをした。

 主にむしタイプのポケモンを使ってくる者が多かったのでポッポが大活躍だった。かなり経験値を得たのではないだろうか。

 

 トキワの森を抜けてついにニビシティへ着いた。手持ちを回復させたらジムへ向かおうと思う。

 

 

◇◇◇

 

 

「はい、元気になりましたよ。またのご利用をお待ちしています!」

 

 ジョーイさんからモンスターボールを受け取ってポケモンセンターを後にする。そしてニビジムへ向かった。

 ニビジムに入るとグラサンをした男が笑顔で話しかけてきた。ゲームでもいた、アドバイザーだったはずだ。

 

「おっーす未来のチャンピオン。俺はトレーナじゃないがアドバイスができる。ニビジムのジムリーダー、タケシはいわタイプのポケモンを扱うジムリーダーだ。みずタイプやくさタイプのポケモンで戦うのをオススメするぞ!」

 

 アドバイスどーも。けど、必要ないぜそれ。

 

「お?やけに自信満々じゃないか!まあ頑張れよ少年!」

 

 アドバイザーの応援に手をヒラヒラ振ることで答えてジムトレーナーに会いにいく。近づくとボーイスカウトの少年が自分に気づきボールを突き出した。

 

「まちなー!子供がなんのようだ!タケシさんに挑戦なんて10000光年はやいんだよ!」

 

 ならお前が俺に勝つのは10万年早いな。つーか、光年は距離だ。

 

「うるさい!いけっ!ディグダ!」

「ドゥディディ!」

 

 ボールが割れてディグダが出てきた。毎度思うがディグダの体は一体どうなっているのやら。と、そんなことはどうでもいいな。

 出番だゼニガメ。

 

「ゼニィ!」

 

 ゼニガメ、左右に振りながら『みずでっぽう』だ。

 

「ゼニッ!ゼニッ!」

「え!?ディグダ避けろ!!」

「ディ、ディッ!?」

 

 左に向かって放った『みずでっぽう』を避けようと右に移動したディグダだったが、ゼニガメが首の向きを変えたことによりヒットした。

 

 畳み掛けろ、『みずでっぽう』。

 

「ガー、メッ!」

「ディッ!?ディ……」

 

 体力が少ないディグダが避けれる訳もなく、2度目の『みずでっぽう』を喰らったディグダは目を回して倒れた。

 

「戻れディグダ!くっそー!いけっサンド!」

「キシャー!」

 

 ボーイスカウトはディグダを戻すとサンドを繰り出してきた。ゼニガメに視線を送る、ゼニガメは『まだまだやれる!』と言わんばかりに元気よく鳴いた。

 

「ゼッニ!」

「サンド!『ひっかく』!」

「シャルァ!」

 

 甲羅に潜ってガードしろ。

 

「ガメッ!」

 

 サンドの爪はゼニガメの甲羅に阻まれて高い音を鳴らす。『ひっかく』も『たいあたり』同様、序盤でよく使われる技だが『ひっかく』の方が『たいあたり』より動作が少なく、その分早く攻撃出来る。

 

「くそぅ!後ろに下がれサンド!」

 

 逃すな、甲羅から出てしがみつけ。

 

「ガメ!」

「シャ!?」

 

 そのまま『みずでっぽう』。

 ゼニガメの口で水が収束されサンドの腹部に容赦なく放たれる。じめんタイプであるサンドにとってみずタイプの『みずでっぽう』は効果が抜群。それにこんな近い距離で喰らったのなら──

 

「ゼニー!」

「ジャアァ!?シャッ、ァ…」

「うわあ!サンドー!!」

 

 吹き飛ばされたサンドは岩にぶつかって気絶した。ボーイスカウトの少年はサンドをボールに戻すと賞金として220円をくれた。

 

「お前なかなかやるな!タケシさんほどじゃないけどな」

 

 そう言うと少年は道をあけてくれた。さて、いよいよジムリーダーのタケシに挑戦だ。気を緩めずに行こう。

 

 タケシの元へ着くと彼は不敵に笑いながら話し始めた。

 

「お前が挑戦者か?」

 

 ああ。

 

「今いくつバッジを持っている?」

 

 ゼロ。だから記念すべき最初のバッジを貰いに来たぜ。

 

「なるほどな、だがバッジはそう簡単に渡せるものでは無い。欲しければ俺を倒して見せろ!」

 

 そう言うとタケシは上着を脱いで上裸になり胸の前で腕をクロスさせる。……なぜ脱いだ?

 困惑しているのだが関係なしにタケシは話を続ける。

 

「俺の固い【いし】はポケモンにも現れる!硬くて我慢強い!そう!使うのはいわタイプばっかりだ!」

 

 ボールを拡大させたのを見て自分もボールを取り出す。

 初めてのジム戦が始まった。

 

「ゆけ!イシツブテ!!」

「グーガァー!」

 

 いけ、ゼニガメ。

 

「ゼニゼニィ!」

 

 壁にかけられていた大型モニターにイシツブテとゼニガメの体力ゲージが表示される。審判らしき青年がモニターの下に立ち、旗を掲げた。

 

「これよりチャレンジャー対ジムリーダータケシの試合を初めます!それでは、バトル開始!」

「イシツブテ!『たいあたり』だ!」

「ガアー!」

 

 イシツブテ、というかいわタイプの物理技をゼニガメの甲羅で受け止めるのは不安がある。ここは避けるのが無難だろう。

 右に跳んで避けろゼニガメ。

 

「ゼッニ!」

「逃すなイシツブテ!ゼニガメの尻尾をつかめ!」

「グガッ!」

「ガメ!?」

 

 『たいあたり』を躱そうとジャンプしたゼニガメの尻尾をイシツブテががっちりと掴んだ。そして勢いそのままにゼニガメを振り回して放り投げた。壁に叩きつけられそうになったゼニガメだったが、投げられた時に反射で甲羅に篭っていたのでダメージ自体は受けなかった。しかし衝撃は殺せなかったようで甲羅から頭を出したゼニガメはフラフラと前後に揺れている。

 

 不味いな……一旦戻れゼニガメ。

 

「いいのか?ゼニガメを戻して」

 

 ああ。いけ、ニドラン。

 

「ニドラン♂……なるほど、『にどげり』を覚えているポケモンを出てきたか」

 

 流石はジムリーダー、とでも言うべきだろうか。ここら一体のポケモンは熟知しているのかニドラン♂を繰り出しただけで狙いを当ててきた。だが、別にバレて困るものでもないので適当に頷いておく。

 さてバトルに戻るが、すばやさでは体重が重く鈍足なイシツブテよりニドラン♂の方が速い。それにタイプ不一致とは言えかくとうタイプの『にどげり』は2回攻撃をする技だ。いくら防御力が高いいわタイプと言えど低いレベルのイシツブテでは耐えることは出来ないだろう。

 

 ニドラン、近づいて『すなかけ』で視界を奪え。

 

「アー!」

「そう簡単に喰らうか!イシツブテ、『まるくなる』で目を守れ!」

「ガァー!」

 

 イシツブテが丸まったことにより目が隠される。『すなかけ』は失敗に終わった───が、『すなかけ(それ)』は囮だ。

 ニドラン、『にどげり』だ。

 

「キュア!」

「ガッ、グガー!?」

 

 モニターに移されているイシツブテの体力ゲージは『にどげり』の一撃目で黄色になり、二撃目で赤色まで削れた。『まるくなる』で防御力が上がってなければこれで決まっていただろう。『すなかけ』を防ぐだけではなく次に繋げるための起点として技を使ったタケシはやはり一流だ。

 しかしグリーンはそれ(・・)すらも見通していた。

 

 そこだニドラン、『つのでつく』。

 

「ギュアッ!」

「ガッ!?グゥ〜……」

 

 『まるくなる』を解いてこれから攻撃しようと顔を覗かせたイシツブテに『つのをつく』が炸裂する。こうかはいまひとつでも既に赤かったイシツブテの体力ゲージは無くなり、気絶した。

 『つのでつく』は『たいあたり』や『にどげり』に比べて隙が少ない。だから技の途中に差し込むことが出来るのだ。

 

「ほう……イシツブテを倒すとは中々やるな。だがこいつはもっと強いぞ!」

 

 タケシはイシツブテをボールに戻しつつもう一つのボールに手にかける。

 

「いけっ!イワーク!!」

「グルグゥ……」

 

 イワーク……イシツブテと比べると素早さは劣るが、代わりに攻撃力、防御力ともに高い。ニドランの『にどげり』一発で倒せるかと聞かれると頷けない。だからと言って攻撃しないわけにもいかない。

 

 ニドラン、『にどげり』だ。

 

「イワーク!『がまん』だ!」

「ギュア!ギュ!」

「グ、ググゥ…!」

 

 『がまん』か…。

 

 『がまん』は攻撃を二度耐えて喰らったダメージを倍返しにして相手に与える技だ。先程のニドランの『にどげり』で削れたダメージは3分の1程度。つまりあと1回『にどげり』をしても急所に当てない限りHPを削りきれないのだ。

 

 かと言って1度攻撃してしまったので今更ゼニガメに変えるわけにもいかない。ここはセオリー通りニドランの『にどげり』で削れるだけ削っておくのが正しいだろう。

 

 構うなニドラン、『にどげり』だ。

 

「キューア!」

 

 HPのゲージがギリギリ赤にならないくらいまで削れた。やはり倒しきれなかったか。

 

「ここだイワーク!解き放て!!」

「グルグァ!!」

「ギュッ!?キュ〜……」

 

 イワークが尻尾を振り回して攻撃する。ニドランはまともに攻撃を喰らってしまい満タンだったゲージは一瞬で無くなった。

 

 戻れニドラン。いけ、ゼニガメ。

 

「ゼニッ!」

 

 『みずでっぽう』でトドメをさせ。

 

「ゼー、ジュー!!」

「グルアァ!?」

「イワーク!」

 

 小柄で素早いゼニガメの『みずでっぽう』を巨体で鈍足なイワークが避けれる訳もなく、体力を削り取った。

 イワークが気絶したのを確認して、審判が旗をあげる。

 

「イワーク戦闘不能!よって勝者、チャレンジャー!!」

 

 最後は呆気なく終わってしまった。ジムバッジゼロ個の自分の実力に合わせてくれたと考えれば妥当なところだが。

 タケシはイワークをボールに戻しながらこちらに近づいてくる。

 

「キミのことを見くびっていたみたいだ」

 

 そう言ってバッジケースを懐から出して中のバッジを取った。

 

「俺に勝った証として、グレーバッジを渡そう」

 

 グリーンは グレーバッジを 手に入れた!

 

「ついでにこいつも渡しておこう。わざマシン『がまん』だ」

 

 CDROMのようなものを渡された。どうやらこれがわざマシンのようだ、何気に見るのは初めてなのでマジマジと確認する。

 そうしているといつの間にか服を着たタケシが話しかけてきた。

 

「この広い世の中に トレーナーは数多くいるんだろうな俺達ももっともっと強くなろうな!」

 

 

◇◇◇

 

 

 タケシから熱い激励を貰った後、フレンドリーショップやポケモンセンターで装備を整えてニビシティを出発した。

 

 旅はまだまだ始まったばかりだ。

 

 


 

 

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┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  1 こ┃

┃ポケモンずかん 15ひき ┃

┃プレイじかん  3:40 ┃

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┃ここまでの かつやくを       ┃

┃ポケモンレポートに かきこみますか?┃

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はい ┃

┃ いいえ┃

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┃ グリーンは             ┃

┃ レポートに しっかり かきのこした!┃

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レポート:3『シオンタウン』

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つづきからはじめる  ┃

┃ さいしょからはじめる ┃

┃ せっていを かえる  ┃

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┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  4 こ┃

┃ポケモンずかん  56ひき┃

┃プレイじかん  11:45┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 


 

 

 ニビシティのジムリーダー、タケシからグレーバッジを貰ってから、さらに旅を続けた。

 

 おつきみやまを超えてハナダシティに到着。

 ハナダジムではコラッタとキャタピーが進化したバタフリーで戦いを有利に進めることで、ジムリーダーのカスミを倒し、ブルーバッジを手に入れた。

 

 ハナダシティからクチバシティに向かう道中、今までの戦いで経験を積んでいったゼニガメがカメールに、ポッポがピジョンに進化した。

 

 クチバシティに到着して準備を整えたらサントアンヌ号に乗った。そこで様々なトレーナーとポケモンバトルをしてレベル上げに勤しんだ。船長に会いに行くとひでんマシン01『いあいぎり』をくれた。有難く使わせて貰おう。

 

 そしてクチバジムに挑戦。クチバジムのジムリーダー、マチスはでんきタイプのポケモンを扱う。なのででんきタイプのポケモンに相性のいいディグダを捕まえておいた。せっかく進化したカメールだったが、バトルには出さなかった。

 マチスとの戦いに何とか勝利してオレンジバッジを貰うと、経験を積んだコラッタがラッタに進化した。

 

 バッジも手に入れたので街を出ようとしたところをポケモン大好きクラブの会長に呼び止められた。仕方なく話を聞くとどうやらオーキド博士と知り合いだったらしく、好意で自転車の引換券を貰った。

 早速自転車屋に行き引換券で自転車を手に入れた。これで旅のペースも上がるだろう。

 

 自転車を漕いでイワヤマトンネルへ向かった。イワヤマトンネルはとても暗かったので、近くにあったポケモンセンターの通信でオーキド博士に頼み、ひでんマシン05『フラッシュ』を貰うと早速ポケモンに覚えさせ、虫除けスプレーを使いながらトンネルを横断した。

 

 イワヤマトンネルを抜けたあと、シオンタウンを経由してタマムシシティへ向かう。タマムシのスロット場にいた妙に怪しい男とバトルをして勝利をすると、男が逃げたのでそれを追った。するとカントー地方に君臨するマフィア【ロケット団】のアジトに到着した。

  そこでロケット団の幹部であるアダムと出会う。ポケモンバトルで勝利したあと警察がやってくるという放送が入りロケット団が逃げたので、自分も逃げようとした。その時に恐らく盗品であろう転がっていたシルフスコープという道具を拾ってバックに入れたのは内緒だ。

 

  ポケモンを回復させたり道具を揃えたりして落ち着いたあとタマムシジムのジムリーダー、エリカに勝負を挑んだ。くさタイプのポケモンにカメールを出すわけにもいかず、ピジョンやラッタ、新たに捕まえたガーディなどで弱点を突いて勝利した。

 

 レインボーバッジを貰い、今。何とか日が暮れる前にシオンタウンへ到着できた。

 

 シオンタウンはポケモンタワーで有名な街だ。ポケモンタワーというのは死んだポケモンのお墓がある場所で、墓参りなどでよく人が集まる。巷ではホラースポット扱いだが。

 

 街に入ってみると流石というべきか、霧が立ち込めており陰鬱とした空気が流れていた。街のはずなのに住人が誰一人として出歩いていないのだ。自転車を漕いでかいた汗が冷やされたせいで身体が震える。いつまでもこんな気味の悪いところにいたくないのでポケモンセンターへ急いだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「ポケモンの回復ですね。ではお預かりします。少々お待ちください」

 

 ジョーイさんにポケモンを預けている間、暇を潰すためベンチに座って新聞を手に取る。

 見開きにデカデカと『ポケモンリーグチャンピオンワタル!またもや挑戦者を退ける!』と書かれてあり、ワタルとカイリューが並んでいる写真が貼られていた。

 

 チャンピオン……いつか、自分が───

 

「ねえ、あの子大丈夫かしら?」

 

「あの子?ああ、赤帽子の子のことかい?」

 

 近くから赤帽子という単語が聞こえたので思考を中断して耳を傾ける。

 

「ええ……今はフジお爺さんの家に行ってるはずだけど、あの子無茶しそうな感じがしたから…」

「うーん確かに。熱血っぽかったしね、フジ爺さんがロケット団に捕まってるなんてことがあれば助けに行ってるかもしれない」

「心配だわ…」

 

 流石に誰のことを話しているか分かったので、新聞を置いて立ち上がり、話をしている男女のもとへ向かった。

 

 あの、もしかしてその赤帽子って俺と同じくらいの歳の男子じゃありませんか?肩にピカチュウを乗せた。

 

「え?ああ、そうだけど。キミは?」

 

 自分の名前を伝え、レッドと自分が幼馴染であることを話すと両者納得してくれたようで事情を話してくれた。

 

 数日前からロケット団がポケモンタワーを占拠してアジトにしていること、そのせいで自分のポケモンのお墓参りも出来ないこと、抗議に行ったこの街の代表でもあるフジ爺さんがポケモンタワーから帰ってこないこと、その話をしていたらレッド尋ねてきたこと、そして先程レッドがポケモンタワーへ向かったこと。話を聞いて考える。

 

 つい先日、自分はタマムシシティにあったロケット団のアジトを壊した。そのせいでロケット団はポケモンタワーをアジトにした?なら、これは、この事件は───自分のせいか。

 

 ……俺が行きます。

 

「え?けどキミもあの子と変わらないくらいの子供だ。大人しく警察を呼ぶのを待った方が……」

 

 俺はレッドのライバルなんで、何をするにしても負けたくないんですよ。それに。

 

 バッジケースを取り出して中身を見せる。グレー、ブルー、オレンジ、レインボーの4つのバッジが照明に照らされて輝いた。

 

「その歳でもう4つのバッジを……」

 

 ま、心配しないでくださいよ。腕には自信があるんで。

 バッジケースをリュックにしまいながら話す。

 

「そうかい……なら私たちは止めないけど、無茶だけはしないようにね」

 

 男性はそう言うと一歩下がった。すると隣にいた女性が自分の手を取り、訴えかけてきた。

 

「ねえキミ、幽霊っていると思う?」

 

 幽霊、この場合はゴーストタイプのポケモンではなくホラー映画などに出てくる悪霊とかのことだろう。正直自分自身が殆ど幽霊みたいな存在でもあるので答えとしてはYESだ。

 その旨を女性に伝えると彼女は意外そうに驚いたあと微笑んだ。

 

「ごめんなさいね、キミって何処か理屈っぽいように見えたから。そっか、幽霊はいると思う、か……。ねえ」

「ああ。いいんじゃないかな」

 

 女性が男性を呼びかけると、男性はなんの要件かも聞かずに同意した。彼女は満足そうに頷くとポーチから虹色のビー玉のようなものを取り出して自分に渡してきた。

 

 ……これは?

 

「お守り。きっとキミの役に立つものよ、じゃあ頑張ってね!」

「グリーンさーん。ポケモン達の回復が終わりましたよー!」

 

 ジョーイさんの声がする方に振り向くと彼女が手を振っていた。台の上にモンスターボールが並べられてあるのも見える。カウンターに戻る前にこの玉について聞こうと思い振り返った。が───

 

 そこには誰もいなかった。

 

 …………え?

 

「お待たせしました。みんな元気になりましたよ」

 

 お礼を言ってボールを受け取ると直ぐにポケモンセンターを出る。さっきのは果たしてなんだったのか。もしかしたら、あの二人は幽霊だったのか?なんて考えるが、幾ら考えても自分の脳では許容できない範囲に及んでいる。これ以上思考に没頭しないよう先程のことは頭からポカンと忘れておこう。

 

 

◇◇◇

 

 

 フジ爺さんの家に着いた自分は、ボランティアでポケモンの世話をしている少女からレッドの話を聞くことにした。

 

「レッドさん?ええ、フジ爺ちゃんの話を聞いたあと直ぐにポケモンタワーに向かいましたよ」

 

 あのバカ……。

 

 思わず額に手を当てて唸る。少女は「あ、でも」と話を続けた。

 

「バッジを3つも持ってましたし、ロケット団が相手でも大丈夫ですよ!ね、カラカラ」

「コッ…」

 

 少女に抱き抱えられたカラカラは興味無さそうに小さく鳴いた。

 

「けどもうすぐ日が沈んじゃうんで、あなたもポケモンタワーに行くなら気をつけてくださいね!幽霊さんが出てくるかもしれないですからね!」

 

 肝に銘じるよ。

 笑みを浮かべて返した。

 

 

◇◇◇

 

 

1F

 

 おどろおどろしい雰囲気が漂うポケモンタワーを徘徊する。電灯も無く、太陽も沈んだのでランプだよりで歩いているがここまで他の灯りを見ていない。どうやらロケット団の構成員達は1階まで見張りに来てないようだ。

 

 タマムシの時も思ったが、随分と抜けているよな。ロケット団も。

 

 軽口を叩きながら2階へ続く階段を上った。

 

4F

 

 2階、3階、共にレッドもロケット団もいなかったのであっという間に4階へ着いてしまった。ポケモンタワーは7階まであるのであともう少しで頂上に到着するだろう。

 

 ランプを持つ手を時折持ち替えながら当たりを照らして歩く。と、曲がり角から灯りと音が漏れているのが視認できた。ロケット団か、レッドか、それとも……

 迷っている暇などない、歩くスピードを早めて曲がり角を曲がる。するとそこでは─

 

「リザード!『りゅうのいかり』だ!」

「ガアア!!」

「ゴルガア!?」

「ゴルバット!?」

 

 曲がった先、階段前の通路でレッドとロケット団の男が戦闘をしていた。

 リザードの口から青白い光が放出され、光は龍の頭部のように形を変えてゴルバットに喰らいついた。ゴルバットの体に牙が刺さった瞬間、『りゅうのいかり』は炸裂した。

 

 『りゅうのいかり』とは相手に40の固定ダメージを与える技だ。発動までにかかる時間も短く、射程も長く当てやすいため序盤では重宝される技の一つと言っても過言ではない。

 

「くそっ!俺がこんなガキに負けるなんて…!」

「さあ、勝ったぜ!どいてもらおうか!」

「うるせえ!!さっきのは油断しただけだ、お前が勝ったわけじゃない!!」

 

 子供みたいな言い分に流石のレッドも呆れ顔になる。

 

「バトルに勝ったら退くって約束だろ?大人なんだからこれくらい守れよ。てゆーか、ポケモンバトルに油断して挑む方が悪い」

 

 こればっかりは正論である。

 

「うるせぇええええ!!!調子に、乗るなよガキがァああ!!」

 

 レッドにゴルバットを倒された男は、負けたことを認めず口汚く喚き散らす。男は懐からナイフを取り出すとレッドに向かってサイホーンのように突っ込んで行った。

 

 出てこいラッタ、『でんこうせっか』。

 

 ボールからラッタを出して男に向かって『でんこうせっか』をしろと指示を出す。

 

「ガガッ!」

「なに!?ぐああっ!」

「ラッタ!?てことは……あー!グリーン!?何でここに?」

 

 ラッタは男の土手っ腹に頭突きをした。『でんこうせっか』を受けた男は階段の横の壁に吹っ飛ばされぶつかり気絶した。

 

 ボンジュール、レッド。間抜けなツラ晒してどうした?

 

「会って早々悪口かよ!…グリーンこそなんでこんな所にいるんだ?」

 

 その問いに、理由を話すべきか話さないべきか悩んだ。しかしレッドに余計な心配をかけたくないし、ロケット団との戦闘のことを話すのも面倒なので、話さないことに決めた。取り敢えず適当に「シオンタウンに来たついでに立ち寄っただけだ」と答えておく。

 

「ふーん…じゃあこれからどうするんだ?俺はフジ爺ちゃんを助けるまでここから出ないつもりだけど」

 

 お前一人じゃ頂上までたどり着けそうにないしな、仕方がないから着いてってやるよ。

 

6F

 

「なあ……なんか寒くね?」

 

 時折現れる野生のゴースを倒しながら進んでいると、唐突にレッドがそう話した。そう言われると確かに寒いかもしれない。腕を見てみると気づかないうちにさぶいぼも浮き出ていた。

 しかしこの寒さは夜で建物の中ということを合わせても不思議な寒さだ。

 

 レッド、リザードを出せ。流石に寒い。

 

 そう言いながら自分もガーディが入っているモンスターボールを投げた。

 

「ガァウ!」

「そうだな。出てこいリザード」

「リザア!」

 

 ほのおタイプのポケモンを2匹連れてもまだ寒い。これは絶対に何かあるな。そう考えながら歩いているとガーディとリザードが同時に吠えた。

 

「どうしたリザード?」

 

 ガーディ?何かいるのか?

 

 2匹とも臨戦態勢になり、唸りながら前方を睨みつけている。目を凝らしてみると黒い(もや)のようなものがフワフワと漂っていた。

 

「な、なんだアレ……」

 

 レッドも存在に気づいたのか顔を青くする。一体アレはなんなんだ?ポケモンなのか?

 2人とも固まっていると黒い靄のようなものは声を発しながらこちらに向かってきた。

 

『……サレ』

 

『ココカラ、タチサレェエエ!!』

 

 ガーディ、『ひのこ』だ!

 

「ガァ!」

『タチサレェエ!!!』

 

 『ひのこ』は確実に当たったはずなのに黒い靄はダメージを喰らった素振りを見せない。もしかすると効いていないのかもしれない。

 

「リザード!『きりさく』攻撃!」

「リザァー!ガアッ!?」

「攻撃がすり抜けた!?」

 

 リザードの爪も黒い靄をすり抜け、レッドとリザードは驚く。物理攻撃も特殊攻撃も効かないのは少々まずい。こちらには有効打がないが、あっちにはあるかもしれない。

 冷や汗をかいているとレッドがあることに気づいた。

 

「なあグリーン。なんかこの靄、攻撃してこなくないか?」

 

 なに?

 

 そう言えばガーディが『ひのこ』を放った時もリザードが『きりさく』を使った時も、ダメージを受けないのなら無視して攻撃できたはずだ。

 

 もしかして……敵対する意思はないのか?

 

『タチサレ…ココカラ、タチサレ…』

 

 靄は中を漂いながらずっと同じ言葉を語りかけてくる。何か、何か忘れているような……思い出せ、これは前世の記憶似合ったイベントのはずだ。

 最近前世の頃の記憶が思い出せなくなってきている。恐らくこちらの肉体に慣れてきた影響なのだろうが……。

 必死に思い出そうとしていると、レッドが呟いた。

 

「もしかして、ポケモンの幽霊だったり……」

 

 幽霊……そうだ!幽霊だ!

 

「うわっ、なんだよいきなり大声出して!」

 

 悪い、と一言謝ってバックからシルフスコープを取り出す。

 

 レッド、これを使え。アレの正体を暴けるはずだ。

 

「なんだこれ?えっと…こう、か」

 

 帽子の鍔を逆にするように被り直し、その上からシルフスコープを装着する。スコープが靄を解析しているのか、時折「キュイン」と言った機械音が鳴る。

 

「あっ、見えた!見えたぞ!あれは……ガラガラだ!」

 

 ガラガラ……カラカラの進化系のポケモンだ。図鑑を開いてガラガラのページを確認する。

 

『ガラガラ

ほねずきポケモン

 

からだも ちいさく もともと よわかった。

ほねを つかうようになり せいかくが きょうぼうか した。』

 

 凶暴化、と書いてある割には随分大人しい。やはりあの靄…ではなくガラガラは何かを伝えようとしているのではないか?

 自分がそう思考していると後方から少女とポケモンの声が聞こえた。

 

「コー!!」

「待ってカラカラ!あっ、レッドさん!グリーンさん!その子を止めてください!」

「おっと。キミはフジ爺ちゃんの家にいた…」

 

 その様子だとカラカラが勝手に来たみたいだな。

 

 少女はレッドに抱き抱えられたカラカラを見て息を切らせながらもホッとしたような顔になった。それから話を始めた。

 

「はい、そうなんです。ついさっき、本当に突然あの子が騒ぎ始めて。ここに向かったんです」

「コー!コッ!!」

 

 カラカラはなおもレッドの腕の中でじたばたする。まるでずっと探していた大切なものをやっと見つけた子供のように。

 と、それは突然起こった。黒い靄が姿を変えてガラガラの姿になったのだ。

 

『ああ。なぜここに来たのだ。ここは危ない、早く立ち去りなさい!』

「コッ!!コー!コー!」

 

 イヤイヤとカラカラは激しく首を横に振る。涙を流しながらカラカラは再会を喜んで─いや、哀しんでいた。

 レッドと少女もカラカラとガラガラの再会を見て悲しそうな表情をしている。そんなレッドを連れていくのは少し酷かもしれない。

 

 ……じゃあレッド、お前はカラカラが落ち着くまでここにいてやれよ。

 

「え?グリーンはどこ行くんだ?」

 

 ゴミ掃除さ。

 

「え?」

 

 

◇◇◇

 

 

最上階

 

 ポケモンタワーの最上階では10数名のロケット団の団員達が屯していた。

 そして階の隅には縄で縛られている老人もいた。恐らくあの人がフジ老人だろう。

 階段を登りきると1人の団員と目が合う。

 

「ガキ?なんでガキがこんな所にいるんだ」

 

 敵を取りに来たのさ。あるポケモンのな。

 

 他の団員達も自分の存在に気づき、こちらに目を向けてくる。そして幹部らしき男が立ち上がり、近くにあった袋を持って前に出てきた。

 

「敵討ちねぇ、敵ってのはどいつのことなんだ?」

 

 袋の中身を無造作に落とす。中から出てきたのは──

 

 無数のガラガラの頭蓋骨だった。

 

「こいつらの骨は裏の世界じゃあ高く売れるのさ。だからポケモンタワー(ここ)をアジトにするついでにここら一体のカラカラ、ガラガラを狩ったんだが……一体どれが敵討ちの対象になるんだ?」

 

 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら話す男。それに同調するように周りの団員達も汚く笑う。

 

 不快、その一言に尽きる。

 

 ……カメール、ラッタ、ピジョン、ガーディ、出てこい。

 

「ガメェ!!」

「ガガガッ!!」

「ピシャア!!」

「ガゥウ!!」

 

 手持ちのポケモンを全て出す。ポケモン達もロケット団の愚行に腹を立てているのか、出てくると同時に吠えた。

 

「なんだあ?この人数差で俺らとやろうってのかあ?お前ら、痛めつけてやれ」

 

 団員達がボールを投げる。ボールから出てくるポケモンはアーボ、ズバット、ドガース、ユンゲラー、スリープ、サイホーン、スピアーなどだいたい10匹前後の数繰り出してきた。

 自分をどうやって痛めつけるか考えれるくらい余裕を持っていそうだが……。

 

 そんな余裕など直ぐに消してやる。

 

 ラッタ、手前のズバットに『でんこうせっか』をしながら右のドガースに『ひっさつまえば』。

 

「ガガッ!ガッ!!」

「ズ、ギャギャ!?」

「ドゥバア!?」

 

 最高速度での『でんこうせっか』、方向転換も兼ねられている前足を喰らったズバットは吹き飛び、ラッタの前歯はドガースに突き立てられた。

 

 カメールは『バブルこうせん』をサイホーンに向かって撃て、その後に『あなをほる』だ。

 

「ガー、メェエエ!!!」

「グルルガァア!」

「ガッメ!」

 

 いわ、じめんタイプのサイホーンにとってみずタイプの『バブルこうせん』は効果抜群である。カメールの口から放たれた『バブルこうせん』はサイホーンの頭部に全弾命中し、きぜつさせた。

 このままカメールは何かあった時の保険としていつでも援護できるよう、『あなをほる』をさせておく。

 

 ユンゲラーとアーボが近いな。ピジョン、『フェザーダンス』で視界を妨害したあと、飛び回りあの2匹に翼を当てるようにして『ブレイブバード』。

 

「クワッ!」

「ドゥ、ユー…」

「ボアァー!」

「キュワァー!!!」

 

 羽毛が目にかぶさり高速で動くピジョンを目で追えなくなった2匹に容赦なく『ブレイブバード』を当てる。

 

 ガーディはスピアーに近づいて『かえんぐるま』、そのまま移行してスリープに『ほのおのキバ』だ。

 

「ガウ!ガァアア!!」

「シッ!スィ、ズィッ!?」

「ガルルルゥ…ガゥアア!!」

「ウゴゥ〜!?」

 

 スピアーに向かって駆けていくガーディは途中でジャンプして体を縦に回転させる。『かえんぐるま』をぶつけたら、後ろ足でスピアーを踏みつけてスリープに灼熱を纏わせた『ほのおのキバ』を喰らわせた。

 

 さて、これで全滅かな?俺を痛めつけるって聴こえた気がしたんだが……どうやら幻聴だったみだな。

 

 挑発するように鼻で笑ってみれば、ロケット団の団員達は顔を怒りに染め、赤くする。中にはナイフやスタンバトンなどを持ち出している奴もいた。

 

 これからどうするか考えていると後ろの階段からから大勢の足音が聞こえる。もしかするとロケット団の増援か、と焦ったのも束の間。現れたのは警察だった。

 

 

◇◇◇

 

 

 その後、ポケモンタワーにいたロケット団達は全員お縄となりフジ老人も無事救出された。

 フジ老人は暴行を加えられた形跡などはなかったが、飲まず食わずの状態が長く続いたことにより酷く衰弱していた。

 しかし命に別状はなく、一週間ほど療養を続ければ回復するらしいとジョーイさんが言っていたので大丈夫だろう。

 

 あとのことはレッドに任せて、自分は次の街、『セキチクシティ』を目指して自転車を走らせた。

 

 今回の件で、完全にロケット団に目をつけられたと考えていいだろう。これからは用心せねばならない。

 

 ペダルを漕ぐスピードを早めた。

 

 


 

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  4 こ┃

┃ポケモンずかん 62ひき ┃

┃プレイじかん 12:50 ┃

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┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ここまでの かつやくを       ┃

┃ポケモンレポートに かきこみますか?┃

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┃▷はい ┃

┃ いいえ┃

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┃ グリーンは             ┃

┃ レポートに しっかり かきのこした!┃

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レポート:4『シルフカンパニー』

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┃ さいしょからはじめる ┃

┃ せっていを かえる  ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  6 こ┃

┃ポケモンずかん  81ひき┃

┃プレイじかん  15:01┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 


 

 

 シオンタウンを出発して、ポケモン図鑑を埋める旅をしながら、数々の冒険を重ねて行った。

 途中ポケモン大好きクラブのメンバーにカビゴンやピカチュウなどの珍しいポケモンを見せてもらったり、釣りオヤジと呼ばれている男から『すごいつりざお』を貰ったり。草むらで捕まえたケーシィをユンゲラーに進化させたりもした。

 

 途中、ロケット団の奴らと遭遇して戦闘になることも多々あった。その度に撃退してきたのだが。

 

 セキチクシティでは、どくタイプのポケモンを使うジムリーダー、キョウとの勝負に勝ちピンクバッジを手に入れた。どくタイプは時間経過でポケモンの体力をジワジワと削るどく状態にしてくる技が多いので、カメール達にモモンの実などを持たせて戦ったことが吉となった。

 

 セキチクを出てヤマブキシティに向かい、エスパータイプのポケモンの使い手でジムリーダーのナツメと勝負をする。エスパータイプに効果抜群のゴーストタイプのゴーストやむしタイプのスピアーなどを育てて試合を有利に運んだ。そのおかげで、見事ゴールドバッジを手に入れた。

 

 旅の途中にトレーナーのポケモンや野生のポケモンと戦い、経験を積んでいったピジョンがピジョットに進化した。

 

 そして次のバッジを手に入れるためにグレンタウンへ向かおうとしたところ、ポケギアに着信が入る。呼出先の名前を見ると、そこにはレッドの名前が書いてあった。

 

 レッドの話を聞くとシルフカンパニーをロケット団が乗っ取って研究員の人たちを無理やり従わせたり、ポケモン達に残虐な実験を行ったりしているらしい。そしてレッドはそこに乗り込んでシルフカンパニーを救うつもりらしいのだが、レッド一人では厳しいかもしれないから自分に手伝いに来て欲しいとのことだった。

 

 もちろん二つ返事で了承し、ピジョットに『そらをとぶ』を使ってもらいヤマブキシティへ飛んで戻った。

 

 

◇◇◇

 

 

 そして現在、レッドと共にシルフカンパニーに乗り込もうとしていた。

 

「いくぞピカチュウ!」

「ピカァ!」

 

 ラッタ、ピカチュウに合わせろよ。

 

「ガガッ!」

 

「『でんこうせっか』!」

 

 『でんこうせっか』だ!

 

 2匹の『でんこうせっか』により封鎖されていた扉は盛大に壊れたのを確認して、レッドと目を合わせて中に侵入した。

 

「俺は研究員の人を避難させるから、グリーンはポケモンを!」

 

 ああ、任せな!

 

 レッドと二手に別れてシルフカンパニー内を捜索する。片っ端からポケモンを探して逃がす。傷ついているポケモンにはキズぐすりなどの回復アイテムを使って応急処置をしてから逃げてもらった。

 途中、ポケモンと共にシルフカンパニーを脱出してもらった研究員に実験室の場所などを教えて貰いながら救出を続ける。中には廃棄場所(・・・・)にされている部屋もあり、そこには無理やり実験をされて亡くなったポケモンの死体が無造作に積まれていた。

 

 余りにも残酷な光景に吐き気が込み上げてきたが、何とか嘔吐しないように抑え込む。

 

 気休めにもならないだろうが、十秒ほど目を瞑り手を合わせる。

 

 

 ロケット団……許さねぇ…!!

 

 

◇◇◇

 

 

 あらかた救出が終わり、レッドと連絡を取ろうとポケギアを取り出したの同時に上の階から爆発音が聞こえ、建物全体が大きく揺れた。

 もしかすると、最上階でレッドが戦っているのかもしれない。ならば助けに行かなければ。

 そう思い階段へ向かおうとすると後方から複数人の足音が聞こえてきた。

 

「いたぞ!侵入者のガキだ!!」

 

 ちっ、見つかったか!

 

 急いで最上階へ行かなければと思ったのだが、階段からも複数人の足音が聞こえる。

 

「お〜っと、ここは通さないぜ」

 

 その男はシオンタウンのポケモンタワーで戦った幹部の男だった。部下も連れてきており、自分は前と後ろに挟みうちされてしまったようだ。

 

「あの時の借りはここで返させてもらおうか、お前ら!やれぇ!」

 

 ロケット団の団員達が一斉にボールを投げる。アーボック、スピアー、マタドガスと前回に比べると進化して強力になったポケモン達が出てきた。

 自分もポケモンを全て出して迎撃の準備をする。

 

 いけ、ラッタ、カメール、ユンゲラー。

 

「たった三体で何が出来る!アーボック!『どくどくのキバ』!」

 

 『まもる』だ、カメール。

 

「ガメ!」

 

 『まもる』という技は名前の通りの技で、どんな攻撃も一度は耐えてくれる。しかし連続で使用することは難しく、持続性もないのでこの技を採用しているトレーナーは少ない。

 アーボックの『どくどくのキバ』は噛み付いたポケモンをもうどく状態にする厄介な技なので先程、確実に防げる『まもる』を使わせたのだ。

 

 ユンゲラー、『サイコカッター』!

 

「ムゥン…ユゥン!!」

「シャルアッ!?」

 

  念動力で作られた刃がアーボックの無防備な横腹に突き刺さる。『こうかはばつぐん』だ。アーボックは一撃で戦闘不能になった。

 

 次!『サイコキネシス』でスピアーとマタドガスを押さえつけろ!!

 

「ユゥン!」

「シッ!?」

「ヘピドゥ!?」

 

 スピアーとマタドガスはユンゲラーが放った念動力によって通路の壁に押さえつけられた。どちらもどくタイプのポケモンなのでエスパータイプの技である『サイコキネシス』を受けたことによって少なくないダメージを受けただろう。

 

 ラッタはスピアーに『ひっさつまえば』!カメールはマタドガスに『バブルこうせん』!

 

「ガガッ!」

「ガーメッ!」

 

 2匹の攻撃を為す術もなく喰らったスピアーとマタドガスは目を回して気絶した。

 残りはサンドパン、マタドガス、ドガース、ゴルバットの4匹だ。

 

 おいおいそんなもんなのか?ロケット団ってのは。こんなんじゃ全然物足りないぜ。

 

 挑発するように話せば幹部の男がマタドガスとドガースを横につかせて前にでてきた。

 

「言うじゃねえか、ガキの分際でよぉ。マタドガス!ドガース!『スモッグ』でなぶってやれ!!」

 

 マタドガスとドガースは口から赤黒い煙を吐き出す。『スモッグ』は視界を遮られるし吸い込めばどく状態になりかねない厄介な技だ。しかもここは一本道の廊下と来たものだ。

 こういう場合は煙を押し返すのが1番得策だ。

 モンスターボールを拡大して素早く開ける。

 

 ピジョット!『ふきとばす』でスモッグを吹きとばせ!

 

「クワッ!クワァア!!」

「ちっ。何してるマタドガス、ドガース!近づいて『どくどく』を浴びさせろ!」

 

 マタドガスとドガースは『スモッグ』を吐くのを止め、『どくどく』を当てるために近寄ってきた。

 

 『どくどく』、これもまた厄介な技だ。喰らえばどく状態ではなくもうどく状態になり、身体を蝕んでいく。毒の周りは早く、気がついたら気絶している、なんてことも多々ある。

 実際の事例としては、トレーナーがもうどく状態を軽く見てしまったせいで、野生のポケモンの『どくどく』を受けたポケモンを死亡させてしまうということがあった。

 

 話を戻して、自分のポケモン達に『どくどく』は喰らわせたくない。ひとまずピジョットをボールに戻してカメールに『まもる』で防いでもらおう。

 

 戻れピジョット。

 

 ボールから赤い光線が放たれてピジョットに当たる。ピジョットは光線に取り込まれるようにしてボールに吸い込まれていった。

 

 カメール、『まもる』で防げ!

 

「ガメッ!」

「横ががら空きなんだよ!サンドパン、『きりさく』!」

 

 『まもる』が丁度解けるタイミングでサンドパンが爪を振りかぶる。

 カメールに知らせようとするが、現在カメールは『どくどく』を防ぐので必死だ。

 

「シュアー!」

「ガッ、ラガッ!」

 

 ラッタ!?

 

 サンドパンの攻撃からカメールを守るために、2匹の間にラッタが身体を滑り込ませた。前足でサンドパンの体を押しているのでラッタが『きりさく』をまともに喰らうことはなかったが、それでもダメージを受けなかったわけではない。

 ラッタの顔には斜めに切りつけられた爪痕が出来てしまった。

 

 くっ、カメール!『バブルこうせん』で押し返せ!おいラッタ!大丈夫か!?

 

 マタドガスをカメールに押し返してもらってる間にラッタに駆け寄る。ラッタはこんな傷がどうしたと言わんばかりに頭を振った。

 

 この調子なら大丈夫そうだな……。カメール、ラッタとスイッチだ。

 

「ガメ!」

「ガガッ!」

 

 ラッタとカメールの戦う相手を入れ替える。つまりラッタがマタドガスとドガースを、カメールがサンドパンを相手にするのだ。

 そして後方を確認する。ユンゲラーがゴルバットを念力で締め上げていた。

 

 いいぞユンゲラー。そのまま『サイコカッター』でトドメを刺せ!

 

「ユゥン!」

「ゴルガァッ!?」

 

 身動きが取れないゴルバットに念力の刃が刺さる。ゴルバットは目を回して地面に落ちた。これで残りのポケモンはあと三体。ラッタの傷やカメールとユンゲラーの体力が少々心配だが……キズぐすりやきのみを使って凌ぐしかないな。

 

 まだ行けるか?お前たち。

 

「ガメッ!」

「ガガッ!」

「ムゥン」

 

 よし。ユンゲラーがフリーになったからラッタのサポートが出来るな。

 ラッタ、マタドガスの背後に回り込んで『でんこうせっか』。ユンゲラーはその間ドガースの動きを『ねんりき』で抑えろ!

 

「そう何度も攻撃を喰らうと思うか?マタドガス!体全体から『どくガス』を出してやれ!」

「ヘェピ!!」

 

 なっ!?

 

 マタドガスの体から紫色のガスが放出される。『どくガス』はじめんタイプとどくタイプ以外が吸うと必ずどく状態になってしまう技だ。いくらすばやさが高いラッタでも突然やられては躱しようがない。

 

「ラッ!?ガッ…」

「ひゃはは!吸い込んだな!!マタドガス!!毒で鈍っている今がチャンスだ!『ヘドロばくだん』!!」

「ドゥエ!」

 

 くそっ、ラッタ!後ろに跳べ!

 

 指示を聞いたラッタが攻撃を回避した。が、かなり傷に加えて毒のこともある、かなり辛そうだ。呼吸が荒い。

 

「ガァ……」

 

 休んでろラッタ。頼むガーディ!

 

 ラッタをボールに戻してガーディを出す。いつまでもこんなヤツらの相手をしている暇はない。早くバトルを終わらせてどくけしかなんでもなおしを使わなければ……。

 そう考えていると階段付近から多数の足音が響く。

 

「ラムダ様!増援に駆けつけました!」

「いよぉし、お前らもこのガキを囲め!袋叩きにしろ!」

 

 更にロケット団の団員達が集まってきたせいで無事にここを出れるかどうかも怪しくなってきた。増援部隊の団員達もポケモンを繰り出す。

 カメールもユンゲラーも疲労の蓄積が激しい、それにラッタも戦える状態ではない。ピジョットとガーディだけではこのまま数で押し切られてしまう。

 

 畜生……!

 

「グルル…!」

「ムゥ……!」

「今まで散々邪魔してくれた礼を今からしてやるぜ、やれお前ら!」

「ドガース!『ヘドロ─」

 

 ドガースが『ヘドロばくだん』を繰り出そうとしたその瞬間、凄まじい爆発音と振動が自分達を襲った。

 

「な、何だ!?何が起こっている!?」

「大変ですラムダ様!!最上階でサカキ様が侵入者と戦闘をした衝撃で壁が吹き飛んでしまったようです!」

「なんだと!?」

 

 最上階にはレッドもいる。最悪のケースを想像してしまったせいでツーっと背中に冷たい汗が流れた。

 

「このままでは崩壊の危険もあるかと!」

「ちっ、仕方がない。テメェら!ここは一旦撤退するぞ!!」

 

 幹部、ラムダは団員にそう告げると下り階段の方へ向かって走り出してと思ったら、急に立ち止まる。そしてこちらの方を向いていつか見た厭らしい笑みを浮かべた。

 

「その前に、だ。お前には散々を邪魔されたからなぁ……ここでくたばっとけや。おいお前ら、ドガース、マタドガスを出せ」

 

 ラムダの言葉に団員達が一斉にドガースとマタドガスを出す。数はドガースが4匹、マタドガスが2匹、合わせて6匹だ。一体何を狙っているのだろう?

 

ニヤリと笑い、ラムダが口を開く。

 

「『じばく』させろ」

 

 なっ───

 

「了解!ドガース『じばく』だ!」

「マタドガス、『じばく』だ!」

 

 まずっ─カメール!『まもる』を!

 

 間に合わ────

 

 

 辺りを銅鑼を鳴らしたような轟音と、サンダーの雷のような閃光が包み込んだ。

 

 


 

 

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┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  6 こ┃

┃ポケモンずかん  82ひき┃

┃プレイじかん  16:10┃

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┃ここまでの かつやくを       ┃

┃ポケモンレポに かきこみますか?  ┃

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はい ┃

┃ いいえ┃

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レポート:5『イーブイ』

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┃ せっていを かえる  ┃

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┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  6 こ┃

┃ポケモンずかん  94ひき┃

┃プレイじかん  20:05┃

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 ロケット団がシルフカンパニーを占拠した事件から数週間がたった。

 多数の団員達が捕まったが、ボスのサカキは見つからなかった。レッドの話によると、ヘリコプターに乗ってどこかへ飛んで行ったらしい。そのレッドは手持ちのポケモンと一緒にポケモンセンターに入院中である。ではグリーンはと言うと。

 

 現在、マサラタウンの自宅で療養中である。

 

 あの時、マタドガス達の『じばく』から命からがら逃げ切れたのはグリーンの手持ちポケモンのおかげだ。

 

 まずガーディが『とっしん』で壁に穴を開けて、カメールの『まもる』で爆風から身を守りながらシルフカンパニーの9階から飛び降り、ピジョットの『そらをとぶ』でポケモンセンターへ飛んだ。その際にガーディとカメールをボールに戻すのは忘れていない。

 

 しかし無傷で生還したわけでは無い。爆発の衝撃で降ってきた瓦礫の破片による傷が幾つか出来た。

 カメール達も浅くはない傷を負っていた。しかしポケモンセンターに入院せずグリーンと共にマサラタウンにいるのは、ロケット団に捕まえられたポケモン達の多数が即入院しなければいけないほど危険な状態であったからだ。

 それによりヤマブキシティだけでなく、隣りのシオンタウン、タマムシシティ、クチバシティ、ハナダシティのポケモンセンターもポケモンで一杯になってしまう事態になったので、仕方なくグリーンは研究所がある自宅へ戻った。

 

「グリーン、調子はどう?」

 

 姉のナナミがうさぎりんごを5つ、フォークとともに皿に乗せて部屋に入ってきた。

 

 もうすっかり元の調子だよ。

 爺さんと姉さんの処置が大袈裟すぎるんだって。

 

「嘘おっしゃい、まだ辛そうじゃない。ほら、りんご。兎さんにしたから食べて」

 

 子供じゃないんだけどな…ありがと。

 

 礼を言いながらりんごに手を伸ばすがナナミに手を叩かれた。なんだよ、とグリーンが零すとナナミの目が「フォークを使って食べなさい」と語っているのを理解し、渋々フォークを持ってりんごを刺した。

 りんごはよく冷えていて、シャリシャリとグリーンがりんごを咀嚼する音と時計が秒針を刻む音が部屋に響く。

 

 2つ目を食べ終わり3つ目のりんごを取ろうとグリーンがフォークを刺したところでナナミが口を開いた。

 

「ラッタちゃんの、事なんだけどね」

 

 ドクンと心臓が跳ねる感覚がした。しかしそれを悟らせないため何事もないようにうん、と返事をする。りんごがふたつ乗った皿をテーブルに置くと、ナナミはポケットから4つ折りにされた紙を取り出した。

 

「これ、おじいちゃんとおじいちゃんの知り合いのお医者さまが書いてくれた、手紙」

 

 手紙、カメールやガーディ達と共にそれぞれの傷や手当について書いてある手紙は貰ったがラッタだけはまだ貰っていなかった。

 そのことにグリーンは不安を覚えていた。もしかしたらラッタだけ、何か大きな怪我か病気かなにかしらにかかってしまったのではないか。そう考えると悪い想像しか出来なくなり、体が震えた。

 知らずのうちに溜まっていた唾液を飲み、ナナミの手から手紙を受け取る。

 

 恐る恐る、震える手を抑えながら開いた。

 

『グリーン・オーキド 様へ

 

 療養中のところ、恐れ入ります。お手持ちのラッタさんの事ですが、額に付けられた傷から毒を受けてしまったことにより、視神経に障害を起こしておりました。大変心苦しいのですが、現在のトキワ病院の医療技術では完全に視覚を元に戻すことは厳しく、これ以上の回復の余地はございません。申し訳ございません。

 

 しかし、海外の地方ではこちらよりも医学が進んでいるらしく、そちらなら治療の見込みがあるかもしれません。

 この度は、その提案をするためお手紙を出させて頂きました。ご検討の程、宜しくお願い致します。』

 

 グリーンは目の前が真っ暗になった。

 

 

◇◇◇

 

 

 グリーンが部屋に引きこもってから1週間がたった。初めの頃はご飯を食べにも風呂に入りにもトイレに降りにも来なかった。流石に3日も経てば危ないと思ったナナミが無理やり連れおろしてきた。

 

 その時のグリーンの様子はと言うとそれはもう酷かった。

髪はボサボサ、顎に無精髭、目には隈が、生きる気力など無くした老人のようだった。

 ナナミがグリーンの体と髪を洗い無理やり食事も取らせたことで大分回復したはいいが、依然としてグリーンの目下から隈が消えることは無かった。

 寝ても悪夢で魘されてるだけで碌に睡眠を取れるわけでもなく寝汗をべっとりとかいて飛び起きる。それで寝るのが怖くなり睡眠をとっていないらしい。

 

 時折レッドが様子を見に来ることもあった。が、グリーンの部屋から出てきたレッドの顔は暗く、浮かない様子だった。

 

 グリーンの部屋から出てきたレッドに、ナナミが「どうだった?」と聞くとレッドはこう言った。

 

「何か話に要領がなくて、まるでグリーンじゃない誰かと話しているみたいでした」

 

 それはナナミも思うところがあった。部屋からでてきたグリーンが虚空を見つめながら、どうすればグリーンになれるのか、何故どこで間違えた、などと呟く姿を何度も見ている。

 

 別にラッタは死んだ訳では無い(・・・・・・・・)。確かに失明してしまったが回復の可能性もあるのだ。

 自分のポケモンを持ったことがないナナミが分からないだけで、手持ちのポケモンが重症になるのは計り知れないショックがあるのかもしれない。

 

 どうしようかとナナミがグリーンの部屋の前を行ったりきたりしているとドアが開き、グリーンが部屋から出てきた。

 

「グリーン、もう大丈夫なの?」

 

 ああ、もう大丈夫。思い出したんだ、チャンピオンになった時のパーティにラッタがいなかったことを。

 

「グリーン…?」

 

 いつものグリーンと違う雰囲気を感じ、困惑するナナミを置いてけぼりにグリーンは着替え始める。

 着替え終わり旅の支度を済ませた後、口を開いた。

 

 姉さん、イーブイってまだ研究所にいる?

 

「え?グリーンがちっちゃかった頃に助けたイーブイ?」

 

 ああ。

 

「あの子なら…おじいちゃんの研究所のお庭で寝てると思うけど」

 

 研究所の庭ね、ありがとう。

 

 それだけ言うとグリーンは家を出ていった。この1週間で一体グリーンは何を思ったのか、どんな考えに至ったのか、湧いてきた不安感を少しでも払拭するためにナナミは思っていることを口に出した。

 

「大丈夫だよね、グリーン…」

 

 返事をする相手は、いなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 よおイーブイ、久しぶりだな。

 

 場面は変わりオーキド研究所の庭へ。グリーンは現在、庭で寝ていたイーブイの元にいる。

 イーブイの傷はすっかり治っているようで、毛並みも元の美しいものになっていた。

 

 イーブイはまだ眠たいのかパチパチと瞬きをしたあと大きな欠伸をして首を振った。それからようやくグリーンに気づいたらしく、体を跳ねさせた。

 

 俺だよ、覚えてないか?

 

 手を差し伸ばしてみればイーブイは一瞬怯える。まだ人間への恐怖心が残っているようだった。

 恐る恐ると言った様子でグリーンの指先の匂いを嗅ぐ。すると、自分に会いに来てた人間だと分かったようで額を擦り付けてきた。

 

 ……自分から触れるくらい人間不信は回復したのか?それとも、俺だから触れたのか?

 

「ブイ?」

 

 首を傾げる。その愛嬌のある動作は普通の人が見ればさぞかし癒されるだろう。

 

 なあ、イーブイ。俺の、パーティに入ってくれないか?

 

 震える声でそう話しかける。イーブイはなんの事か分かってないのか瞬きをして再び首を傾げた。

 

 だからさ、俺のポケモンにならないか?

 

 今度は理解したのか、イーブイは小さく鳴いた。そして、ゆっくり首を横に振った。

 

 どうしてもダメか?

 

「ブイ……」

 

 そう鳴いて項垂れる。自分はあなたにはついていけない。そう言われたような気がした。

 

 そうか……悪かったな、じゃあなイーブイ。

 

 

◇◇◇

 

 

 じゃあラッタとイーブイのことは任せたから。

 

「ああ、ワシの推薦状も一緒に送ろう。あとお前が言ってたポケモンじゃ」

 

 サンキューじいさん。

 

 モンスターボールを受け取り礼を言う。

 

「しかしこれから7つ目のジムに挑むというのに何故今更レベルの低いそやつが欲しいなどと言ったんじゃ?」

 

 オーキドの言葉に、グリーンはモンスターボールを見つめながら答える。

 

 イーブイに断られたからな。せめてコイツだけでも…。

 

「イーブイじゃと?」

 

 なんでもない、こっちの話だよ。んじゃなじいさん。

 

 そう言うとモンスターボールをしまってピジョットを出す。そのままグリーンはピジョットの『そらをとぶ』で飛んで行った。

 

 グリーンを見送ったあと、オーキドは研究所に戻りある番号に電話をかける。数コールで電話は繋がった。

 

『もしもし?どうしたんですか、博士?』

「おお、ちと頼み事があるんじゃが頼まれてくれるか?

 

 

 

 

 

レッドよ」

 

 


 

 

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┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  6 こ┃

┃ポケモンずかん  95ひき┃

┃プレイじかん  21:46┃

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┃ポケモンレポートに かきこみますか?┃

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┃ いいえ┃

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レポート:6『サカキ』

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┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  7 こ┃

┃ポケモンずかん 109ひき┃

┃プレイじかん  31:50┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 


 

 

 マサラタウンを出た後、手持ちのポケモンのレベル上げをしながら旅を続けた。

 すると、シルフカンパニーで経験値を積んでいたカメールが遂にカメックスに進化した。

 

 カメックスに『なみのり』を覚えさせ、航路を辿り、グレンタウンに上陸した。そこでポケモン屋敷と呼ばれるところに立ち寄った。以前はたくさんのポケモンがいたらしいが、今ではその面影はなく、廃屋同然になっていた。

 

 そこに残されたいたある研究員の研究日誌らしき本には、新種のポケモンについて書かれていた。

 

 探索を済ませ、ジムへ向かう。ほのおタイプのポケモンの使い手であるジムリーダー、カツラと戦った。

 進化したカメックスの力は凄まじく、苦戦することもなく勝つことが出来た。勝利した自分は、カツラから7個目のバッジ、クリムゾンバッジを貰った。

 

 最後のジムはトキワシティにあることをカツラから教えて貰い、トキワシティに向かう道中、ガーディにほのおのいしを使いウインディに、ユンゲラーを通信交換してフーディンに進化させた。

 

 そしていよいよ、トキワジムに挑む日となる。

 

 

◇◇◇

 

 

 トキワシティに着いた自分は街の入口に立てられている看板に目を向ける。そこには封鎖されていたトキワジムが再開したという張り紙が貼られていた。

 

 張り紙を見ていると声をかけられる。顔を上げてみると、そこには自転車を押しながら歩くレッドがいた。

 

「グリーンじゃないか!」

 

 レッドか。久しぶりだな。 

 

 そう言うとレッドは「だな」と返す。

 

「グリーンもジムバッジを手に入れるためにここに来たんだろ?」

 

 ああ……ってまさかお前。

 

 鼻を鳴らしながらレッドはジャケットをめくる。そこには自分が持っている7個のバッジに加え、8個目のバッジが付けられていた。

 

「そのまさかさ。これで俺は8個のバッジを手に入れた…これで、ポケモンリーグに挑むことが出来る。そこでグリーン、お前との決着を付けるからな!」

 

 そう言ってレッドはチャンピオンロードへ続く22番道路へ向かって自転車を走らせていった。

 しかしまずい流れになっている。本来ならグリーンである自分はレッドより早くバッジを揃えてチャンピオンとして待ち構えてないといけない。

 

 自分も早くバッジを揃えなければ。焦燥感に追われながらトキワジムへ向かった。

 

 ジムにつくとスーツを着た中年男性が出迎えてくれた。どこかで見た覚えがあったが、それはすぐ思い出された。

 

「ようこそトキワジムへ。私がジムリーダーのサカキだ」

 

 ロケット団ボス、サカキ。ゲームでもトキワジムのジムリーダーでありながらロケット団の首領をしていた。会うのは初めてだったのですっかり忘れていた。

 

 ロケット団のボスが何でジムリーダーなんかやってんだよ。

 

 いつでも逃げれるようにジムの入口に気を配りながら話しかける。が、意外にもサカキは柔らかい口調で応えた。

 

「私はもうロケット団のボスではない。ロケット団はつい先程解散したからな。今はただのジムリーダーで、ただのいちトレーナーに過ぎない」

 

 ロケット団が解散だと!?

 

 話を聞いてみれば先日ジムに挑戦しに来たレッドと本気の勝負をしたことにより幼い頃の純粋な気持ちを思い出し、勝負に勝ったレッドが「ロケット団のボスから貰ったバッジなんかいらない」と言ったのでその場でロケット団解散の宣言をしたそうだ。

 今は後釜が見つかるまでジムリーダーを続けようと思っているらしい。

 

「と、言うわけだ。では始めようか、チャレンジャー。ジャッジマン!」

「はっ!これよりトキワジム、ジムリーダーサカキ対チャレンジャーグリーンの試合を始めます!お互いボールを出してください!」

 

 サカキがボールを構えたのを見て、自分もボールを取り出し拡大させる。それを確認したジャッジマンが旗を大きくあげた。

 

「バトル開始!!」

「いけ、サイホーン!」

 

 行くぞカメックス!

 

「グオオ!!」

「ガメェ!!」

 

 ボールが開きお互いのポケモンが出てくる。じめんタイプのポケモンの使い手であるサカキにカメックスは相性がいいが、別に相手にも有効打がないわけじゃない。サイホーンやサイドンなど攻撃力が高いポケモンが多く、あの巨大な角から繰り出される『つのでつく』や『つのドリル』などを喰らえば幾ら耐久力のあるカメックスでも一溜りもないだろう。

 だがその反面、サイホーン。というよりはサカキの手持ちのポケモン全体に言えるのだがすばやさがそんなに高くない。

 

 だから、ここでの最適解は先手必勝だ。

 

 カメックス!『なみのり』!

 

「ガメッ!!」

 

 カメックスの両手に水が集まり、ちょうど顔と同じくらいのサイズの水の玉が出来る。それは地面に打ち付けられると収縮し、拡散される。(ビッグウェーブ)がサイホーンに襲いかかった。

 

「サイホーン、『つのドリル』で突破しろ」

「グルル……グォオオ!」

 

 サイホーンの角が回転し、渦をまいていく。サイホーンはその勢いを殺さずに『なみのり』に突貫してきた。

 

 突破してきたところを狙え、『みずのはどう』!

 

「ガァメ!」

 

 背中に背負った二つの砲身から水の波紋が打ち出される。『なみのり』で隠されていたことにより、反応出来なかったサイホーンは自ら当たりに行ったように『みずのはどう』を受けた。

 

 いわタイプ、じめんタイプ、どちらにも効果抜群な『みずのはどう』をモロに受けたサイホーンの体力はごっそりと削れた。スタジアムのモニターを見ればゲージの色は赤色、瀕死寸前だった。

 

 しかも幸運なことに、サイホーンは怯んで動けないようでいた。このチャンスを逃してたまるか、カメックスに指示を出す。

 

 もう一発叩き込め!『みずのはどう』だ!

 

「ガメェ!」

 

 再び放たれた波動がサイホーンに直撃する。数秒静止したあと、ゆっくりと前のめりに倒れた。

 それを確認したサカキはサイホーンをボールに戻し、次のポケモンを繰り出す。

 

「ゆけ、ダグドリオ」

「ドルル!」

 

 ダグドリオか……。

 

 先程のサイホーンなどの通常のじめんタイプのポケモンとは違いすばやさが高く、まずカメックスでは先手を取れない。かと言って守りに専念してもダグドリオには一撃必殺の『じわれ』がある。

 

 どう攻めるか思考していると、サカキがダグドリオに指示を出そうとしていた。

 

「ダグドリオ、『きりさく』だ」

 

 『まもる』だカメックス!

 

 『きりさく』は攻撃範囲が広く、急所に当たりやすい。この後に控えているニドキングやニドクイン、サイドンのことを考えると今カメックスにダメージを与えさせたくない。だから『まもる』を使わせたのだが。

 

 ミスったか?

 

 貴重な防御手段をここで使ってしまった。つまり───

 

「次の攻撃は避けれない、という事だ。ダグドリオ!『じしん』!」

「ドルッル!!」

 

 地面が激しく揺れ、カメックスの身体を衝撃が襲う。巨体のカメックスが吹き飛ばされてしまった。

 

 まだ行けるか?カメックス。

 

「ガメェ!」

 

 声に応えると同時に起き上がり吠える。モニターを見たところゲージは4分の1が削れ、緑色だったので、カメックスの体力はまだ余裕がありそうだ。

 

 だったらここで交代だ。お前にはサイドン戦に備えてもらわなきゃならないからな。

 

 カメックスをボールに戻し、次に繰り出したのはピジョットだった。

 

「ほう。じめんタイプの技が効かないひこうタイプのピジョットを出してくるか」

 

 サカキはピジョットを警戒してかダグドリオに指示を出そうとしない。なら好都合だ。

 

 ピジョット!『たつまき』!

 

「クルォ!!」

 

 ピジョットが羽を振るえば風が巻き起こり、交差して竜巻となる。それはダグドリオの元へ一直線で向かっていった。

 

「『あなをほる』で躱せ」

「ルッ!」

 

 サカキはすかさず指示を出す。『あなをほる』で『たつまき』をスカさせたあと、ピジョットの出方を見てなんの技を出すか決めるつもりなのだろう。

 

 ダグドリオが『あなをほる』をしている間、ピジョットは上空を旋回するように飛行する。ダグドリオがいつ現れて攻撃してくるか分からないから、背後を取られぬように旋回させているのだ。

 

 しかしサカキはそれを笑って看破する。

 

「その程度で対策したつもりなら、笑わせてくれるな。ダグドリオ!土煙を巻き上げるように走れ!!」

 

 サカキの声がスタジアムに響くと、突然スタジアムの地表が捲れた。するとダグドリオが地中の中で走り回っているのか、土煙が巻き上がり地面全体を覆ってしまった。

 

 ちっ、ピジョット!『ふきとばす』で土煙を払え!

 

 指示に応えたピジョットが『ふきとばす』をしようと旋回を止め、翼を大きく広げる。

 

 それを待ってたかと言わんばかりにサカキが指示を出す。

 

「そこだ!『いわなだれ』を放て!」

「ドルゥ!!」

 

 『あなをほる』をやめて飛び出てきたダグドリオがピジョットに向かって雪崩のように岩を飛ばす。

 土煙を吹き飛ばそうと構えていたピジョットはこれに反応することが出来ず、翼や体に岩を喰らってしまった。

 

「クルワァ!?」

 

 ピジョット!!

 

 叫びつつも、ダグドリオの位置を確認する。ダグドリオが技を放ったおかけでそこら一体の土煙は晴れている。また『あなをほる』で地中に逃げられないよう、グリーンはまだ口を開かない。

 ピジョットが地面スレスレに落ちる、その時に口を開いた。

 

 今だ、12時の方向に『ブレイブバード』!!

 

 カッ、と目を開き凄まじいスピードで指示された方向に向かうピジョット。その翼がダグドリオにぶつかった。

 

「ドルゥ!!?」

 

 ダグドリオはサカキの方へ吹き飛ばされ、目を回して気絶した。サカキはそれを見てダグドリオをボールに戻すと、ため息をついて話し始めた。

 

「まさか土煙を利用されるとはな、流石というべきか…」

 

 そう。通常ならダグドリオは躱していただろう。それにダグドリオは決してピジョットから目を離さなかった。が、ピジョットが『ブレイブバード』の構えに入った瞬間、ピジョットの姿が土煙に隠れてしまったのだ。そのせいでダグドリオは焦ってしまい、結果『ブレイブバード』を喰らってしまった。

 

「だが、コイツにはそんな小細工は通用しないぞ」

 

 ボールから出てきたのはニドキング。硬い皮膚に覆われており、頑丈な身体を生かした接近戦が得意なポケモンだ。覚える技の種類も多く、サカキの言う通り小細工など通用しないだろう。

 

 上等だよ!戻れピジョット、出てこいフーディン!

 

「ほう。今度はどくタイプに相性のいいエスパータイプのフーディンを出してくるか」

 

 だが、と続けて話す。

 

「私が対策していないと思っていたか?『じならし』」

「グォオオ!!」

 

 ニドキングが足を上げる。

 

 『テレポート』で上空に逃げろ!

 

 フーディンはニドキングの上へ瞬間移動した。その位置から『サイコキネシス』を放たせるため指示を出そうとした、その瞬間、ニドキングの目がフーディンを捉えた。

 

 なっ!?

 

「ニドキング、『はかいこうせん』」

「グルル…ガァアア!!」

 

 灼熱の光線が渦を巻きながら収縮される。避けろ、と命令する前にソレは放たれた。

 木を、岩を、街すらも破壊しつくせそうな、全ての存在を蹂躙するような光がフーディンを襲う。

 

 衝撃と閃光がスタジアムを支配する。風圧から顔を守るため腕を回した。

 

 風が収まり、煙が晴れるとそこにはボロボロになったフーディンがいた。

 

 フーディン!!

 

「一撃、か。まあそれも当然だろう。恥ずべきことはない。このニドキングの『はかいこうせん』はあの四天王最強のドラゴン使い、ワタルのカイリューのそれにも劣らない。防御力の低いフーディンでは万に一つも耐えられないさ。防御に徹していれば防げる可能性もあったろうが……」

「グルゥオオオオ!!」

 

 敵を倒した高揚からか、ニドキングは高らかに吠える。

 

 威圧感に飲み込まれぬよう、フーディンを戻して手持ちを確認する。残りのポケモンはカメックスとウインディ、ピジョット、そして█████。

 █████はサカキとの戦いに出せるほどレベルは高くない。

 仕方ない、気持ちを切り替えて再びピジョットを出す。こうなれば最大火力で押し切るのみだ。

 

 いくぜピジョット!

 

「クワァ!!」

 

 ピジョットの体力は先程の『ブレイブバード』で多少削られている。ニドキングの攻撃は耐えれて1発だろう。2発目を喰らえばダウンだ。

 『はかいこうせん』の反動でニドキングは今技を出せないはず。仕掛けるなら速攻あるのみ。

 

 ピジョット、力を溜めろ!

 

「クルル……!」

 

 白い光がピジョットの身体を包み込む。風がピジョットを中心にして集まり、象っていく。

 これが決まれば如何に防御と体力が高いニドキングでも一溜りもないだろう。

 

 ニドキングが再び動き始める前に溜まりきるはず。

 

「やらせると思うか?」

 

 思考に割り込んで入り込むサカキの声。サカキに視線を向けると既に彼はニドキングに指示を出していた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「『いわなだれ』」

「グルガァア!!」

 

 ニドキングが腕を振るう。砕けた岩石が技となってピジョットに襲いかかる。このままでは直撃する。その寸前、透明な壁が現れ岩雪崩を阻んだ。

 

「何っ!?」

 

 サカキの顔が驚愕に染まり声を上げる。

 

 仕込みの説明は後でしてやるよ。これで溜まりきった(・・・・・・)

 

 ピジョットの身体を包んでいた光は溢れ返り、ピジョットの一回りも二回りも大きな身体を象る。風は巨大な身体を纏うように集まり、羽を包み込む。さらにそれは形を変えていき、ピジョットの姿を神鳥へと変貌させる。

 

 神鳥が羽ばたけば暴風が巻き起こり、ジムの石像が倒れる。かく言う自分も吹き飛ばされないように踏ん張るので精一杯なのだが。

 

 今度はお前が味わいな!『ゴッドバード』!!

 

 うねりを上げてニドキングに神鳥の翼が、嘴が、怒りが降り注ぐ。

 抵抗なのかニドキングが『はかいこうせん』を打とうと力を溜めていた、が、間に合わない。

 

 神鳥の一撃がニドキングを貫いた。

 

 光と風が収まると、ニドキングは目を回して倒れていた。モニターを見てみれば体力のゲージは黒。やはり一撃だったようだ。

 

「……凄まじい威力だな」

 

 まあな。こいつはカメックスの次に古い古参だからな。鍛え方も違うっつの。

 

「鍛え方とやらも気になるが、それよりも気になるのはあれだ。ニドキングが『いわなだれ』を打った時、あれは完全にピジョットに当たるはずだった。が、当たらなかった。いや阻まれた、という方が正しいか」

 

 なんだ、もう分かってるんじゃないか。

 

 答えは単純。フーディンが『はかいこうせん』を喰らう直前に『リフレクター』を貼っておいてくれたのだ。フーディンはこのまま何もしないで気絶するのが許せなくて、咄嗟に行った未来予知でピジョットが『ゴッドバード』を使用する場所を特定したのだろう。

 その結果、『リフレクター』は見事に『いわなだれ』を防ぎニドキングを倒すことが出来た。

 

 お手柄だぜ、フーディン。

 

 そうフーディンが入っているボールに語りかけてやると突然サカキが拍手をしてきた。

 

「ニドキングを倒すとは、見事だ。だがあと2匹、私の手持ちは残っているぞ」

 

 ニドキングをボールに戻して新しいボールを取り出す。投げられたボールから出てきたのはニドクインだった。

 

「クルゥオオ!!」

 

 ニドキングとは違った美しい空色の肌をしており、外見からは恐ろしさは感じない。しかし、流石と言うべきか、闘争心や威圧感はニドキングにも引けを取らない。

 

「『れいとうビーム』」

「クルァアア!!」

 

 ニドクインの口から氷の光線が放たれる。だがこんな直線的な攻撃、ピジョットなら簡単によけれる。

 そう思っていた次の瞬間、『れいとうビーム』がピジョットを追尾するように曲がった。

 

「クワッ!?」

「『10まんボルト』」

「クルォオオ!!」

 

 追い打ちをかけるように電撃を放つ。

 

 ピジョット!避け───

 

 先程の『れいとうビーム』を受けたことによりピジョットの翼が凍りついていた。そのせいで上手く飛ぶことすら出来なくなったピジョットに、『10まんボルト』が炸裂した。

 

「クワァアアア!!?」

 

 既に『ブレイブバード』の自傷ダメージに加え、『れいとうビーム』のダメージもあるピジョットが効果抜群の『10まんボルト』を喰らって耐えれるわけもなく、気絶した。

 

 戻れピジョット。よくやった。

 

 次に出すポケモンだが……ダメージを受けてるカメックスか相性の悪いウインディか。

 カメックスは次に控えてるサカキの切り札のために取っておきたい。ここでカメックスを出してニドクインを倒したとしても、体力が削られてた状態でサイドンと連戦になれば勝ち目はほぼ無いだろう。

 

 だからここは、頼んだ!ウインディ!

 

「ガルルォオ!!」

 

 ウインディを見たサカキの眉がピクリと上がる。

 

「ウインディだと?残りの1匹を見越してカメックスを出さないのは分かるが、何故じめんタイプに不利なほのおタイプのウインディにした?お前の手持ちにはカメックスとウインディ、それにあともう1匹いるはずだろう」

 

 ……悪いけど、そいつはまだレベリンク中でね。出すわけにはいかないんだ。ウインディ、『りゅうのいかり』!

 

 わざマシンで覚えさせた『りゅうのいかり』。固定ダメージを与えるドラゴンタイプの技で、みずタイプやじめんタイプなど不利なタイプのポケモンと戦えるように覚えさせた技だ。

 

「グルルゥ……ガァアア!!!」

 

 ウインディの口内から溢れる青白い光が龍の形を成す。解き放たれたエネルギーが風を切り裂きながら、ニドクインの首元を噛みちぎらんばかりの勢いで駆ける。

 

「『メガトンパンチ』」

「クルオオォ!!」

 

 超重量の拳が龍の怒り(エネルギー)を打ち破る。弾けたエネルギーが飛散して青白い衝撃波となった。

 

 仕掛けろ!『こうそくいどう』!

 

 ウインディがジムの地面を、壁を、天井を、自慢の脚力を活かして駆け巡る。壁を蹴ったと思えば全くの逆方向から足音が聞こえ、ニドクインがその方向を振り向けば天井を蹴る音が響く。

 いつ、どのタイミングでどこから攻撃されるか分からないニドクインは攻撃に移ることも出来ず、しかし迂闊に隙を見せないために防御に入ることも出来ない。

 

 ニドクインの集中が途切れるその瞬間を待つために、焦らし、焦らし、攻撃に移るタイミングを見つける。

 

 …………そこだ!『すてみタックル』!!

 

「グルォオオ!!」

 

 不意を突いた死角からの捨身の一撃。完全に入った。

 

「と、思っているだろうが」

 

 サカキがこちらの思考を読んだのか、話し始める。というかウインディの『すてみタックル』をまともに喰らった筈なのに、ニドクインは吹っ飛ぶどころか微動だにしていない。

 まさかと思いモニターの体力ゲージを見てみると、ニドクインのゲージはやや半分のところまで削れており、色は黄色だった。

 

「私のニドクインはその程度でやられる程ヤワじゃあない。ニドクイン!」

 

 逃げろウインディ!

 

「グルゥ!?」

「クルォ!」

 

 離れようとしたウインディの身体を、ニドクインが左手で押さえ込んだ。そして右手には拳大の大きさの水の玉が浮かんでいる。

 

 『かえんほうしゃ』!!

 

「『なみのり』」

 

 炎と水がぶつかり合い、ウインディとニドクインの中心に煙が発生する。数秒経つと煙からウインディが飛び出て来て、ニドクインが腕を振るって煙を吹き飛ばした。

 

 ウインディ、まだいけるか?

 

「ガウッ」

 

 ゲージの色は赤色になっているが、ウインディは小さく吠え、頷いた。

 ニドクインの体力も赤色になってるので『すてみタックル』と『かえんほうしゃ』はちゃんとダメージを与えていたようだ。

 

 お互いあと一撃と言った状況。すばやさが高い方が勝つ。サカキもそれを分かっているみたいで、タイミングを見計らっている。

 

 ウインディ!

 

「ニドクイン!」

 

 『りゅうのいかり』!!

 

「『れいとうビーム』!!」

 

 両者の指示通り、お互い技を出す。しかしドラゴンタイプの技である『りゅうのいかり』とドラゴンタイプに効果抜群のこおりタイプの技である『れいとうビーム』では相性が悪いのか、ウインディがやや押され気味になっている。

 

「ウインディに効果抜群の『なみのり』を撃たせると思い、相性不利の『かえんほうしゃ』を撃たせなかったのだろうが。それは悪手だったな」

 

 サカキの言う通りだ。タイプ一致とは言えニドクイン自体に効果がいまひとつの『かえんほうしゃ』では決定打にならないし、そもそも『なみのり』にパワー負けする可能性が大きかった。だから『りゅうのいかり』にしたのだが……今回はそれを見越して『れいとうビーム』を指示したサカキが一枚上手だった。

 

 だが!『れいとうビーム』じゃあ、ほのおタイプのウインディには効果はいまひとつ!そっちも決定打にはならないハズだろ!

 

「ああそうだな。が、『れいとうビーム』には追加効果がある」

 

 『れいとうビーム』の出力が上げられる。それと同時に『りゅうのいかり』の勢いが落ちていく。元々『りゅうのいかり』は大砲のように一撃を放つ技だ。『れいとうビーム』の様に放出を続けるタイプの技ではない。

 暫く拮抗したが、遂に『りゅうのいかり』が解け、『れいとうビーム』がウインディに当たる。

 

「グルァ!!」

 

 効果はいまひとつのため気絶には至らなかったが、『れいとうビーム』の飛沫がウインディの足に触れたことによりウインディの足は地面ごと凍りついてしまった。

 

「さあこれで終わりだ。『なみのり』」

 

 『なみのり』なら発生までに時間がある!ウインディ、『かえんほうしゃ』で足元の氷を溶かせ!

 

 ニドクインが水を集めている間、ウインディが炎を吐いて氷を溶かす。ギリギリだが、果たして間に合うか…。

 

「クルォオオ!!」

 

 ニドクインが『なみのり』を放つ。ウインディも丁度氷を溶かしきったタイミングだった。

 『こうそくいどう』で回避しようにも今回の『なみのり』は点ではなく面、避けようがない。

 

 なら、突き破れ!『すてみタックル』!!

 

「ガァウ!!ガァアアア!!!」

 

 待ってました言わんばかりに吠えて『なみのり』に突貫するウインディ。

 正直賭けに近い、何しろ『すてみタックル』を当てても当てなくてもどのみちウインディの体力はゼロになるのだから。

 

 波がウインディを押し潰そうとうねりをあげる。だがウインディは『なみのり』を突き破り、ニドクインに『すてみタックル』を喰らわせた。

 

「クルゥ!!」

「ガァッ!!」

 

 ニドクインの体力はゼロに、そして反動でウインディの体力もゼロになった。ウインディをボールに戻して労いの言葉をかける。

 

 よくやってくれたな、ウインディ。

 

 ニドクインをボールに戻したサカキがボールを見せてきた。恐らく最後のポケモンだろう。

 

「まさかほのおタイプのウインディでここまでやるとは、驚いた。さあ、こいつが最後のポケモンだ。出てこいサイドン!」

「ゴァアア!!」

 

 ボールが開き、サイドンが現れる。サイホーンの進化系であるサイドンは、その巨体と角を活かして戦うことを得意としている。近距離で戦うのはあまり得策ではない。

 

 頼んだぞ、カメックス!

 

「ガメェ!」

「既にダメージを負っているカメックスでどこまで戦えるかな。サイドン!『じしん』!」

「ゴァア!!」

 

 サイドンが大きく足を上げて地面を踏みつける。それにより起こった振動と衝撃波がカメックスを襲う。

 

 カメックス!『まもる』だ!

 

「ガメ!」

 

 カメックスを中心に障壁が展開される。一度だけ絶対に攻撃を防ぐ『まもる』をここで使うのは多少持ったい無い気がしなくもないが、一撃も与えてないこの状態でこれ以上体力差をつけられたくはない。

 

 反撃だカメックス!『みずのはどう』!

 

「ガメッ!ガメェ!」

 

 背中の2つの砲身から水が波動となって発射される。

 

「『10まんボルト』だ」

「ガアア!!」

 

  サイドンの角に電撃が纏わり、カメックス目掛けて放たれる。防御をせずに攻撃してくるということは、さっさとカメックスを倒して█████を引きずり出したいのだろう。

 しかしみずタイプの技である『みずのはどう』はいわ、じめんタイプのサイドンに4倍のダメージが入る。だがカメックスにでんきタイプの技である『10まんボルト』はキツイ。もう一撃は耐えれそうにない。

 

 モニターの体力のゲージはサイドンが半分まで減って黄色になっており、カメックスはまだ黄色だったが3分の1を下回っている。

 

 もうひとふんばり、いけるな。カメックス。

 

「ガァメ」

 

 身体の痺れを紛らわすためにブンブンと首を振って返事をする。

 

 よし、もう一撃だ!『みずのはどう』!

 

「ガメ!!」

 

 再びサイドンに向けて砲身を構える。しかしサイドンはそんなの知ったこっちゃないと言った様子でカメックスの元へに向かってくる。

 

「ガァメ!ガメッ!」

 

 『みずのはどう』が発射される。このままではサイドンに直撃するが……。

 

「『メガトンパンチ』」

「ゴゥウ!!ゴアア!!」

 

 力押しかよ!?

 

 サイドンは2発の『メガトンパンチ』で『みずのはどう』を打ち消した。距離を詰められたせいで、もう一度『みずのはどう』や『なみのり』を打つには近すぎる。

 

 くそっ、カメックス!来るぞ!

 

「遅い!サイドン、『みだれづき』!」

「ガァ、ゴォオ!」

 

 左腕でカメックスを掴み、右腕で殴りかかる。一発、二発、三発、四発と喰らわせると五発目に思い切りカメックスを殴り、ジムの壁にふっ飛ばした。

 

 カメックス!

 

「貴様のカメックスも今ので終わりだろう……何?」

 

 ガラガラと瓦礫が落ちる音がして、目を向けるとそこにはカメックスが立っていた。どうやら最後の攻撃を喰らう寸前に『まもる』を使っていたらしい。

 

 ナイス判断だぜカメックス!そんでこれで、終わりだ!『ハイドロポンプ』!!

 

「ガァァ…メァ!!メァア!!」

 

 みずタイプの技の中でも最高峰の威力を持つ『ハイドロポンプ』が二発、サイドンに向かって放たれる。サカキは瞬時の判断でサイドンに技を出すよう指示する。

 

「『つのドリル』で迎え撃て!!」

「ゴゥアアア!!!」

 

 サイドンの角が猛回転して体全体がドリルになったかのような勢いで『ハイドロポンプ』にぶつかる。が、それで止めれるのは一発目だけで、カメックスが放った『ハイドロポンプ』は二発だ。つまり───

 

 もう一撃は、かわせない!!

 

 サイドンの腹部に『ハイドロポンプ』が直撃する。その勢いは収まることなく、サイドンを壁にぶつかるまで吹っ飛ばした。

 この一撃でサイドンの体力はゼロになり、モニターにチャレンジャーが勝利したという文字が現れた。

 

 サカキはサイドンをボールに戻すとこちらの方へ歩いてきた。

 

「見事だ。まさかサイドンまでやられるとは……トキワジムのジムリーダーに勝利した証のグリーンバッジだ。受け取れ」

 

 葉をモチーフにしたグリーンバッジをサカキから受け取る。これで漸く8個のバッジが揃った。

 

「ついでだ、これもやろう。『じしん』のわざマシンだ」

 

 わざマシンを受け取る。『じしん』は凡庸性が高い技なので純粋にありがたい。

 バッジとわざマシンを受け取るとサカキが再び話し始める。

 

「これで8個のバッジが揃ったようだな。これからポケモンリーグに挑戦するんだろう?四天王は強者しかいない。覚悟して挑むんだな」

 

 それだけ言うと満足したのか背を向けてジムの奥へ行ってしまった。

 先程のバトルはかつてロケット団のボスだったとは思えぬほど正々堂々としたバトルだった。いやむしろ、アレがサカキ本来の戦い方だったのだろう。

 

 

◇◇◇

 

 

 ポケモンセンターで一夜を明かし、ポケモンの体力も回復させたあとピジョットに『そらをとぶ』をしてもらい22番道路の目の前に来ていた。

 

 チャンピオンロードを超えればいよいよポケモンリーグに挑める。

 

 さ、行くか。

 

 


 

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  8 こ┃

┃ポケモンずかん 113ひき┃

┃プレイじかん  36:31┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ここまでの かつやくを       ┃

┃ポケモンレポートに かきこみますか?┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━┓

はい ┃

┃ いいえ┃

┗━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ グリーンは             ┃

┃ レポートに しっかり かきのこした!┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛



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レポート:7『ポケモンリーグ』

┏━━━━━━━━━━━━┓

つづきからはじめる  ┃

┃ さいしょからはじめる ┃

┃ せっていを かえる  ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  8 こ┃

┃ポケモンずかん 128ひき┃

┃プレイじかん  37:09┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 


 

 

 チャンピオンロードを抜けた先、セキエイこうげんに辿り着いた。

 

 ポケモンセンターで傷ついたポケモンを回復させ、ポケモンをポケモンリーグ用に入れ替えて、ショップで回復道具を充実させれば。いよいよポケモンリーグに挑む。

 

 待ってろよ四天王……世界で一番強いのは

 

 この俺だ!

 

 

◇◇◇

 

 

 部屋に入ると紅色の髪を一つに縛り眼鏡をかけた美しい女性が真向かいに立っていた。

 女性はこちらが部屋に入ってきたことを見ると口を開いた。

 

「ようこそ挑戦者(チャレンジャー)!私は四天王のカンナ!貴方を歓迎するわ」

 

 御託はどうでもいい。さっさと始めようぜ。

 

「あら威勢がいいわね。久しぶりに来た挑戦者だから、どう戦おうか迷っていたのだけど……最初から全力でいいわね。来なさいジュゴン!」

 

 カンナが投げたボールが開き、ジュゴンが現れる。こおりタイプと侮ることなかれ、みずタイプも持っているので安易にほのおタイプで挑めば速攻で倒されてしまう。

 

「こおりタイプの強み、相手を凍らせることなんだけどそれってとっても強力よ!

だって凍ちゃったら貴方のポケモン、全然動けないんだから」

 

 はっ、その氷。アンタのプライドごと木っ端微塵にしてやるよ!出てこいフーディン!!

 

 ボールを投げフーディンを繰り出す。遠距離に強いカンナのポケモン相手に有利に立ち回れるのは、手持ちの中ではフーディンしかいないからだ。

 

 さあ、始めようぜ!

 

 ポケモンリーグ、第一戦が始まった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ラプラス!『れいとうビーム』!」

「クアア!」

 

 一際強力な冷気の光線が地面を這いながらフーディンに迫る。

 

 フーディン!『ひかりのかべ』だ!

 

「ムゥン」

 

 特殊攻撃を防ぐ光の壁で『れいとうビーム』を防ぎ、そのまま念動力でラプラスを持ち上げた。

 

 『サイコキネシス』。

 

 ラプラスの体を反転させて頭を地面に叩きつける。当たりどころが悪かったのかラプラスの体力はゴリゴリと減っていきゼロになった。

 

 見たか?俺は天才なんだよ。

 

「……いいわ、この先に進みなさい」

 

 カンナの話を聞いてフーディンをボールに戻してから扉を開ける。

 

 

◇◇◇

 

 

 次の部屋に入ると半裸の男が立っていた。その鍛え抜かれた上半身を見るに、かくとうタイプの使い手なのだろう。かくとうタイプを使うトレーナー達はポケモンと一緒に何故か己の肉体も鍛え上げるやつが多い。

 

「俺は四天王、シバ。お前が鍛えたポケモン、俺に見せてみろ。ウー!!ハー!!!」

 

 シバが雄叫びをあげると、バトル開始のブザーが鳴り響く。フーディンが入ったボールを取り出しながら、ボールを構えるシバを見つめた。

 

 少しは手応えあるんだろうな?

 

 2回戦が始まった。

 

 

◇◇◇

 

 

 ピジョットの『ブレイブバード』がカイリキーに迫る。カイリキーは4本の腕でピジョットの翼を掴み、どうにか止めようとするがタイプ相性もあってピジョットが競り勝った。

 高火力の技を受けたカイリキーは吹っ飛ばされ、後ろで指示を出していたシバ諸共壁に激突してしまう。

 

「ガハッ!ま、まさか…この俺が負けるとは……」

 

 ピジョットをボールに閉まって次の部屋に進む。順調に進む一方で、どこか物足りなさを感じていた。

 

 俺のポケモン達は、まだ本気を出せちゃいないぜ。

 

 

◇◇◇

 

 

 次の部屋ではゴーストタイプの使い手、四天王キクコとの勝負になった。ゴーストタイプに相性のいいポケモンはいないのでウインディやピジョットの力押しで最後の一体まで追い詰めた。

 

 アーボックをボールに戻しながら、キクコは笑みを崩さずに話し始める。

 

「やるねぇ、流石はここまで勝ち抜いて来ただけはある」

 

 当たり前だろ。俺はそこらのトレーナーとは違うんだ。

 

 強気に返してやるとキクコは笑い声を上げながら話を続けた。

 

「いうねぇ!ジジイの孫のことだから、チマチマ図鑑集めてるだけかと思ったら、どうやら違うみたいだ」

 

 じいさんは関係ないだろ。それに、俺は図鑑集めと並行して最強のポケモンを集めてきた!

 

 その言葉を聞いて、キクコはしゃがれた声で答える。

 

「そうかい……アンタのジジイは昔は強くていい男だった!今じゃ見るかげもないがね!……さあ、これが私の最後のポケモンさ。いけぇゲンガー!」

 

 ボールが開き、ゲンガーが飛び出てくる。

 

 迎え撃てサイドン!

 

「グォオオ!!」

 

 『がんせきほう』!!

 

 

◇◇◇

 

 

 キクコとの勝負に勝利して、最後の部屋に進む。

 部屋に入ると最後の四天王であり、現チャンピオンであるワタルが待ち構えていた。

 

「まさかここまで来るとは……」

 

 俺は、アンタを倒してここの頂点に立つ。

 

「面白い、俺は四天王のワタル。使うポケモンは…最強のドラゴン軍団達だ!」

 

 そう言ってワタルはボールを投げた。ボールが開き飛び出てきたのは翼を持つ、橙色の竜。カイリューだった。

 

 いけっ!カメックス!

 

「ガメェ!」

 

 こいつは強いぜ。

 

「言うじゃないか、カイリュー!」

 

 カメックス!

 

「『はかいこうせん』!!」

 

 『ハイドロポンプ』!!

 

 灼熱の光線と水の大砲がぶつかり合う。流石は四天王のポケモン、かなりの高火力だった。

 

「中々のパワーだ」

 

 挨拶代わりさ。

 

 さあ、始めようぜ!

 

 

◇◇◇

 

 

 ポケモンリーグ、チャンピオンの間にある玉座に座って挑戦者を待つ。

 

 端的に言えば、グリーンはポケモンリーグを制覇して新しいチャンピオンになった。ワタルとの戦いは他の四天王に比べるとかなり長くなった。が、試合を制したのはグリーンだった。

 そしてチャンピオンとなったグリーンは、ある少年を待っていた。

 

 早く来い……。

 

 扉が開かれる音が部屋全体に聞こえる。挑戦者が部屋に足を踏み入れた瞬間、部屋の明かりがつく。それで気づいたのか、挑戦者の赤い帽子を被ったこげ茶髪の少年は、グリーンを見て驚いた。

 

 よお、レッド!お前も来たか!ははっ!

 

 嬉しいぜ!

 

 

◇◇◇

 

 

「まさか、お前がリーグチャンピオンだったとは」

 

 レッドは笑みを浮かべながらそう話す。そう言えば少し気になることがあるのだが、まあそれはバトルが終わってからでいいだろう。

 そんなことより───

 

 当たり前だろ。俺はいつもお前の1歩先を歩いてきたんだ。

 

 俺はポケモン図鑑を集めながら完璧なポケモンを探した!

 

 色んなタイプのポケモンに勝ちまくるようなコンビネーションを探した!

 

 そして今!俺はポケモンリーグの頂点にいる!

 

 レッド!この意味が分かるか?

 

「意味?」

 

 教えてやる!この俺様が!世界で一番!強いってことなんだよ!!

 

 チャンピオン防衛戦が、今始まった。

 

 

◇◇◇

 

 

「いけ!ピカチュウ!」

「ピカピィカ!」

 

 レッドの先発がピカチュウに対して、グリーンの先発はピジョットだった。

 相性で見ればピジョットが不利だが、どうやらグリーンはポケモンを変えるつもりはないらしい。

 

「ピカチュウ!『かみなり』!!」

「ピーカ!ヂュウゥー!!」

 

 電気が体全体から溢れ出るように流れ、ピジョットに向けて撃たれる。電撃で出来た槍のような技を、ピジョットは飛翔することで躱す。

 

 やりかえせ!『ふきとばし』!

 

「クワッ!クワァ!!」

「ピカ!?」

 

 『ふきとばし』とは相手のポケモンを吹き飛ばして無理やりボールに戻す技だ。ルール上、相手ポケモンの技で自分のポケモンが戻された時も自分の意思でポケモンを変える時と同じ扱いなので、レッドはこれからピカチュウ以外のポケモンを出さなければならない。

 

「くっ!頼んだカビゴン!」

「ゴォー」

 

 繰り出されたのはカビゴン。その巨体から見て取れる通りかなりのパワーを持つポケモンだ。

 

「『こわいかお』!」

「グォーン…!」

 

 直視するなピジョット!

 

「クルル、クワッ!?」

 

 『こわいかお』は一瞬でも目が合えば恐怖で足が竦み、動きが鈍くなる。素早いピジョットをカビゴンと同じ土俵に持ってくるために選択したのだろう。

 旋回して避けたのたが、その避けた先を予測してか、カビゴンが体を倒して『こわいかお』を見せた。

 すばやさが下がってしまった今のピジョットは、カビゴンと同じくらいのすばやさになってしまっている。

 

 まずい!『ふきとば──

 

「遅い!『メガトンパンチ』!!」

「ググオオオオ!!!」

 

 鈍重な拳がピジョットに向かって振り下ろされる。羽を思うように動かせないピジョットは防ぐすべもなく、まともに喰らってしまった。

 

「クルォオ!?」

 

 ピジョット!

 

 地面に叩きつけられたピジョットは気絶した。モニターにピジョットが戦闘不能になったと表示され、ピジョットのアイコンが暗くなる。

 

 出てこいサイドン!

 

「グオオ!!」

「サイドンか…だったら、カビゴン!『ばくれつパンチ』!」

「グゴォオ!!」

 

 かくとうタイプの技である『ばくれつパンチ』を繰り出してきた。しかし、『ばくれつパンチ』は『メガトンパンチ』とは違い、勢いが強すぎてかくとうタイプのポケモンでもコントロールが難しい技だ。確かに鈍重なサイドンでは躱すのは厳しいかもしれないが、当たらなければどうってことは無い。

 

 受け止めろ!

 

「オオオ!!」

「何っ!?」

 

 カビゴンの拳ではなく、腕を掴んでサイドンは受け止めた。そして───

 

 この距離なら外れることはない!『つのドリル』!!

 

 サイドンの角が猛回転して、カビゴンに迫る。角をカビゴンの腹に押し付けたまま突貫して、壁に押しやった。

 

「グルオオオ!!ゴオオッ!!」

「ゴォ、ンー…」

「カビゴン!」

 

 一撃必殺。カビゴンの体力は一瞬でゼロになり、戦闘不能になった。これでお互いの手持ちは5体ずつになる。

 

「強いな、そのサイドン」

 

 不意にレッドがそんなことを言ってきた。

 

 当たり前だろ。なんたってこの俺が鍛え上げたんだからな!

 

 このサイドンは、サカキとのジム戦が終わったあとにサファリパークにいき捕まえたサイホーンをチャンピオンロードで鍛えて進化させたサイドンだ。

 手持ちの枠を埋めるため、強いポケモンは何かと考えた。その時に思い浮かんだのがサイドンだったのだ。

 実際にサイドンはサカキのサイドンを思い出すくらい強靭な角と体を持っている。

 

 ポケモンリーグに挑むために、鍛えたのだから当たり前と言ったら当たり前かもしれないが。

 

「そっか。けど、俺のこいつも強いぞ!出てこい、ラプラス!」

「キュアーン!」

 

 ラプラスか。いいポケモン持ってんじゃん。

 

 ラプラスはみず、こおりタイプのポケモンで、四天王カンナも使用しているポケモンだ。特殊攻撃が強く、弱点であるはずのでんきタイプの技も覚えられるのでみずタイプのエキスパートから羨まれるポケモンでもある。

 なんと言ってもラプラスは他のポケモンに比べてとても賢いらしい。その反面、トレーナーを選ぶらしく、自分に似合わないトレーナーとラプラスが認識したら頑なに言うことを聞かないと言われている。

 

 グリーンもまさかレッドが持っているとは思わなかったが。

 

 さてバトルに戻るが、いわ、じめんタイプのサイドンにとって、みずタイプを持つラプラスは天敵だ。かと言って対策をしていない訳では無い。

 

「ラプラス!『ハイドロポンプ』!!」

「キュアー…」

 

 サイドン!自分の目の前に『いわなだれ』!

 

「ゴアア!」

「アアー!!」

 

 『ハイドロポンプ』が放たれる、その瞬間。サイドンとラプラスの間に岩石が挟まれる。そう、サイドンが撃った『いわなだれ』の岩だ。

 これで防壁を作り出し、みずタイプ特有の遠距離攻撃を防ぐのが対策のひとつだった。

 しかし完全に防ぎきること出来ず、多少のダメージは受けてしまったが想定内の範囲だ。すぐに立て直せる。

 

 サイドン!『じしん』!

 

 サイドンが踏みつけた足から、振動とともに衝撃波がラプラスを襲う。

 

「ラプラス!!」

 

 ちっ、まだ耐えるか。

 

 一撃で戦闘不能になるまではいかなかったが、半分を下回った。だが、あともう一撃当てれば倒せる。サイドンもそれを察してか、果敢に攻めようとしている。

 しかしレッドも負けじとラプラスに指示を出す。

 

「『あまごい』だ!」

「キュ、キュァアー!」

 

 ラプラスが鳴き声をあげ、天井に向かって水を噴出する。あっという間に部屋の天井を隠す雨雲を作り出した。

 

 これでみずタイプの技の威力をあげるつもりか……だが逆に利用されるとは考えなかったのか?

 

「なんだと?」

 

 サイドン!『かみなり』!

 

「グルォオオオ!!!」

 

 サイドンの角から雨雲に向かって電撃が打たれる。雨雲はゴロゴロと唸るような不穏な音を鳴らし、時折光る。

 

「このままじゃ…!もど───」

 

 間に合わねーよ。

 

 『あまごい』の力も借りた『かみなり』がラプラスを狙って落ちる。雨が降って体が濡れていたこと、それと電気を通しやすいみずタイプであること、どちらもラプラスの体力を削るのには十分な理由となり、ラプラスは倒れた。

 

 レッドの手持ちポケモンの数、残り4体。

 対してグリーンの手持ちはサイドンを含んで五体。しかもサイドンはほとんど無傷ときている。

 

 レッドが冷や汗を流すには十分だった。

 

 レッド!今日の俺は、本気の本気だぜ!!

 

 お前に

 

 勝つ!!!



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レポート:7『ポケモンリーグ』

 ある事情により、レッドはポケモンリーグに挑戦するのが遅くなった。それを終わらせて来てみれば、グリーンがチャンピオンになっているではないか。

 

 初めは驚いたが、予想より遥かに強くなっていたグリーン(ライバル)に、レッドはワクワクしていた。

 一進一退の攻防とはまさにこのことを言うのだろう。

 

「ストライク!5度目の『れんぞくぎり』!」

「シュアッ!」

 

 ストライクの刃がサイドンに迫る。グリーンはサイドンに避けるのではなく受け止めるよう指示を出した。しかしレッドは、受け止められることを想定していた。

 

「そこだ!『はかいこうせん』!」

「シュアアァー!!」

「ゴオオォ!?ゴ…」

 

 『れんぞくぎり』で何度も切りつけられていた場所に『はかいこうせん』を喰らえば、流石のサイドンも耐えきれず戦闘不能になった。

 グリーンはサイドンを戻すとウインディを繰り出してきた。『あまごい』の雨が止んでからウインディを出してくるあたり、徹底していると言っていいだろう。

 

 むしタイプ(ストライク)に有利なほのおタイプ(ウインディ)を出されてしまうとレッドとしては少々苦しい。

 かと言ってウインディに有利を取れるラプラスは既に戦闘不能。もう一度出す訳にはいかない。

 

「『かげぶんしん』で撹乱しながら『れんぞくぎり』!」

「シェア!」

 

 ストライクの体がブレると幾つものストライクがウインディを囲むように現れる。そして一斉にウインディに襲いかかった。

 

 ウインディを甘くみんなよ!

 

 ストライクの刃を躱しながら蹴りで分身を消していく。しかしウインディが最小限の動きで対応しても、隙が生まれてしまう。

 その隙を狙って本物のストライクが『れんぞくぎり』をウインディの背中に喰らわせる。

 

 攻撃を受けて苛立っているのか、ウインディは低く唸る。グリーンが一旦落ち着けと宥めても興奮は覚めない。どうやら『かげぶんしん』と『れんぞくぎり』の間に『ちょうはつ』を組み入れていたらしい。これで暫くの間、ウインディは『こうそくいどう』などの補助技が使えなくなってしまった。

 

 ちっ、せこい技使いやがって…!落ち着けウインディ!

 

「グルルゥ…ガアァ!!」

 

 グリーンの声を聞いてもウインディは落ち着くどころか吠えたてる。興奮冷めやらぬ状態のままストライクに突貫していった。

 

 あ、おい!!くそっ、扇状に範囲を広げて『かえんほうしゃ』!!

 

「ガァアウ!!」

 

 ウインディの口から炎が吐かれる。しかし、グリーンが指示した扇状に広がる炎ではなく、いつもの直線的に放射するものだった。頭に血が上って指示をまともに聞いていないのだ。

 

 もちろんそんな攻撃がストライクに当たるはずもなく、攻撃後の硬直をレッドは見逃さない。

 

「『れんぞくぎり』!」

 

 刃がウインディを切り付ける。切られた痛みで硬直が解け、すぐに距離をとった。今の攻撃で冷静さを取り戻したようだ。それを見てグリーンはホッと一息つく。そしてすぐに集中し、切り替える。

 

 いいかウインディ、『かげぶんしん』で作られた分身には影がない。次にストライクが『かげぶんしん』をしてきたら地面に目を向けて影を見ろ。いいな?

 

「ガウ」

 

 あともうひとつ、『れんぞくぎり』は使用すればするほど威力が上がっていく技だ。さっきのが二回目、次にくらうのが三回目と考えると今のウインディの体力じゃ四回目の『れんぞくぎり』は耐えれない。だから、次で『れんぞくぎり』以外の技を使わせて集中を解かせるんだ。できるな?

 

「ガウ!」

 

 よし、まずは『こうそくいどう』で翻弄するぞ!

 

「ガァウ!」

 

 ウインディが地面を蹴り、目で追うのが難しい速度で部屋中を駆け巡る。壁を蹴り、天井を蹴り、また壁を蹴る。次第に加速していくスピードに、ストライクは目で追い切りなくなっていく。

 そして完璧に背後をとったとグリーンもウインディも確信した瞬間、ウインディが地面を蹴りつけてストライクに迫る。

 

 『すてみタックル』でぶっ飛ばせ!

 

「ガァアアウ!!!」

「っ!後ろだストライク!『れんぞくぎり』!」

「シェア!」

 

 『こうそくいどう』に何とか反応したレッドが指示を出したことで、ギリギリのタイミングでストライクの刃がウインディの牙を受け止める。しかし、加速を加えた超威力の『すてみタックル』を『れんぞくぎり』で押し返すのは厳しい。その証拠にストライクの体が徐々に後退していく。

 

「グルォオ!!」

 

 そしてウインディの力が勝り、ストライクを吹き飛ばした。しかしストライクは倒れることはなく、吹き飛ばされても空中で羽を広げてバランスをとり体勢をたて直す。

 

 『かえんほうしゃ』!

 

「グルガァア!」

「『かげぶんしん』!」

「シャア!」

 

 分身ごと全部燃やしちまえ!!

 

「グガァア!!」

 

 首を振って炎の向きを右に左に振り回す。それにより、ストライクの分身は炎に焼かれ次々と消えていく。遂には全てのストライクをやき尽くした。が、肝心の本体のストライクが見当たらない。

 

 ちっ、どこ行きやがった。

 

 グリーンが目を右、左と向けるが見つからない。ならばと上を見るが、いない。

 

 そうか、下か!ウインディ!!

 

 『かえんほうしゃ』、と口に出す前に、レッドが笑った。

 

「『はかいこうせん』!」

「シャアアア!!」

 

 光線がウインディを飲み込む。天井に叩きつけられたウインディは着地の体制をとることも無く、地面に落ちた。戦闘不能だ。

 

 戻れウインディ。

 

 ボールにウインディを戻して手持ちを確認する。グリーンの残りのポケモンの数はこれで三体、対するレッドは四体残っている。

 

 不味い。

 

 グリーンは焦っていた。初めは自分が有利だったはずなのに、今は逆転されている。このままいけば確実に自分は負けるだろう、そう考えていた。

 

 出てこいフーディン!

 

 「ムウン!」

 

 むしタイプのストライク相手に相性の悪いフーディンを出すのは正直愚策だが、仕方がない。

 

 フーディン!『サイコキネシス』!

 

「ムゥ!」

 

 念動力が空間を支配する。空間が歪み、軋み、古めかしい扉を開くような音を立てながら圧縮される。すると直径30cm程の球体が生まれた。念力で造り出された球体は、周りの空間をねじ曲げながら浮かんでいる。引力を帯びているのか、砂埃や小石などが球体(それ)に吸い寄せられていた。

 

 いくら効果はいまひとつと言っても体力の少ないストライクがあんなものをくらっては一溜りもない。すぐさまレッドは指示を出した。

 

「させるか!『かげぶんしん』から『れんぞくぎり』!!」

「シェアッ!」

 

 ストライクの体がブレると幾つもの分身が生み出される。どのストライクも凶刃をかざしてフーディンに迫ろうとするが、『サイコキネシス』によって地上から攻めたストライクの分身が消されていく。それを見て壁や天井にルートを変え、『サイコキネシス』を突破したストライクが『れんぞくぎり』をフーディンに繰り出す。

 空気を切り裂きながら迫る刃は───突如沈んだ。

 まるで重石でも落とされたように、刃はフーディンを逸れて地面を切りつけた。突然の事に驚きを隠せないストライク、そこに大きな隙が生まれてしまう。

 そしてフーディンが隙をみすみす見逃す訳もなく、保持していた『サイコキネシス』をストライクに撃つ。防御する暇もなく体で受け止めたストライクは数メートル飛ばされると球体が弾けて生まれた衝撃波によって壁まで吹き飛ばされた。

 体力は赤を突っ切って黒に、ストライクは戦闘不能となった。

 

「…よくやった。ありがとうストライク」

 

 ボールに戻ったストライクにそう語りかけるレッド。帽子を被り直すと次のボールに手をかけた。

 

 さあ!こいよ!

 

「いくぞ!!出てこいドードリオ!!」

「グワァ!グワッ!!クォオ!!!」

 

 ボールから出てきたのはドードリオ。ノーマル、ひこうタイプのポケモンだ。3つの首を持っており、その鋭い嘴から繰り出される攻撃はどれも強力だ。嘴に気をつけながら立ち回らなければならない。と言ってもフーディンは遠距離からの攻撃が得意である。

 遠距離のフーディンと近距離のドードリオ、この対決はどちらが先に間合いを制すかによって決まるだろう。

 先手必勝と言わんばかりにグリーンが腕を振った。

 

 フーディン!『10まんボルト』!!

 

「ムゥウ!」

 

 フーディンが両のスプーンをかざせばその間に電撃が発生する。ひこうタイプに効果抜群のでんきタイプの技で一気に優位を持っていくという、作戦とも言えない技選択だった。

 

「空気を蹴って避けろ!『そらをとぶ』!」

「グワグワッ!」

 

 おいおい…なんだそりゃ。

 

 レッドの言葉通り、ドードリオは地面を蹴って宙に跳ぶと更に何も無い空間を蹴りつけて電撃を躱した。

 これはひこうタイプでありながら翼を持たない唯一のポケモンであるドードリオにしかなせない技だ。翼がない代わりに、強靭な脚力を持つこのポケモンは、嘴だけでなく蹴り技も強い。

 故に繰り出される蹴りは、鋼鉄をも砕く。

 

「『メガトンキック』!!」

「クワァ!!」

 

 轟轟と風切り音を鳴らしながら蹴りがフーディンに迫る。

 

「念力で逸らすんだ!」

「ムウン!!」

 

 フーディンの胸元を捉えていた脚が念力で無理やり動かされる。しかしドードリオの3つ首はフーディンを睨みつけていた。

 

「『ドリルくちばし』!」

「クワァ!グワッ!クォ!!」

 

 3つの嘴が重なり合う。首を捻り、回転を加えた嘴がフーディンを捉える。咄嗟にスプーンを盾替わりに突き出すが、意味をなさなかった。

 

「ムゥッ!?」

 

 勢いに押され、フーディンは地面に押さえつけられる。そのまま片足でフーディンの胴体を踏みつけると、もう片方の足を振り上げた。

 

「『メガトン───」

 

 させてたまるかよ!『サイコキネシス』!!

 

「ムウウウン!!」

「グワァ!?」

 

 念動力でドードリオの体を持ち上げる。壁に向かって投げつけるが、やはりひこうタイプ、翼はなくとも空中には強いらしく、空中で一回転することで体制を建て直した。それどころか壁を蹴りつけてまたフーディンに襲いかかってきた。

 3つの嘴が迫る───はずだった。

 

「グワァ!?クォ!?クワッ!?」

「何!?」

 

 弾丸のように迫っていたはずのドードリオの体は、地に堕ちていた。

 

 『じゅうりょく』。

 

 ただ一言、グリーンはそう言った。フーディンに目を向けるとフーディンのスプーンが妖しく輝いているのが分かる。一体何が、と呟くレッドを見てグリーンは話始めた。

 

 今言っただろ。『じゅうりょく』だ。これでひこうタイプのポケモンはもう飛べない。もちろん跳べもしない。ストライクの刃が急に逸れただろ?それもフーディンの『じゅうりょく』だ。今回のは一部だけじゃなく部屋全体に張り巡らせた。もう自慢の脚力の披露はおしまいだ。

 

 薄い笑みを浮かべながら話していたグリーンだが、スゥと息を吸うと目付きが鋭くなる。

 

 言ったろレッド、俺はお前に勝つってな。『10まんボルト』!!

 

「ムン……!」

 

 バチバチと電撃が音を鳴らして弾ける。鞭のようにしなった電撃はドードリオの急所を正確に穿った。効果抜群であるでんきタイプの技、そしてそれを急所に受けてしまったドードリオは崩れ落ち、戦闘不能となった。

 

「ドードリオ!」

 

 さあ、お前の残りの手持ちは2体だ。そのうちの一体はピカチュウ。対する俺の手持ちはフーディンを含めて残り三体。

 降参してもいいんだぜ!

 

「誰がするか、いくぞピカチュウ!!」

「ピカァ!」

 

 ドードリオをボールに戻してピカチュウを繰り出す。ピカチュウは頬の電気袋を放電して威嚇する。ピジョットの『ふきとばし』で戻されてから1回も変わることがなかったので体力は満タンで、スタミナも万全だろう。

 

「ピカチュウ!『でんこうせっか』!」

「ピッカ!」

 

 左右にステップして動きを見切らせないように加速する。フーディンの左側に回り込むと、再び電気袋から電気が漏れる。

 

「『でんじは』!」

「チュウッ!!」

 

 バチィと鞭で打つような音がすると、フーディンの体に異変が起こる。錆び付いたブリキの玩具のようにぎこちない動きをしているのだ。

 

 当たれば100パー、マヒ状態にさせる『でんじは』。そんな技、お前が覚えさせてるとは思ってなかったぜ。

 

 苦々しい顔で舌打ちするグリーン。その顔にはしてやられたという悔しさが滲み出ていた。

 

「俺だって、ポケモンリーグに挑戦して、チャンピオンになるためにここまでやってきたんだ。お前だけが強くなってるはずないだろ?」

 

 そう言ってレッドは不敵に笑う。しかし冷や汗を流しながら言っては説得力も半減だろう。

 二人の会話を挟みながらもピカチュウとフーディンは戦っていた。ピカチュウが電撃を放てば、フーディンが念力で壁を造り防ぐ。逆にフーディンが念力でピカチュウを捕まえようとするが、マヒ状態で体が痺れている今のフーディンでは、トップスピードを維持しているピカチュウを捕らえられないでいた。

 

 ピカチュウが壁や地面をグルグルと駆け回る。けれどフーディンはその速度に目を回すことなく追っている。

 フーディンが念動力でピカチュウが足を踏み出す位置に穴を開けるが、ピカチュウは焦ることなく冷静に判断する。尻尾を使い、足の代わりにすることで走行を続け、『でんこうせっか』の速度を維持する。

 

 いつまでも追いかけっこが続く───はずもなく、レッドが仕掛けにいく。

 

「ピカチュウ!『かげぶんしん』!」

「ピィ!カッ!」

 

 高速で地面を駆けるピカチュウの姿が、20、30と増える。このスピードでこの分身の数だと、どれが分身でどれが本物なのか見分けを付けるのは不可能に近い。

 

 壁や地面を走る音以外に、バチバチと電気が鳴る音がする。それはピカチュウが走った後に帯となって残る。

 

 警戒しろフーディン!なにか来るぞ!

 

 グリーンの言葉を聞いてフーディンが身構える。タイミングを測っているのか、レッドはまだ指示を出さない。

 

 そしてその時がきた。

 

 フーディンの動きが、痺れで一瞬止まったのだ。

 

「今だ!『かみなり』!!」

「ヂュウー!!」

 

 溜めていた電気を解放し、槍のような電撃を放つ。雷は、念力の壁を容易く打ち破りフーディンに降り注いだ。

 でんきタイプの技の中でも最上級の威力を誇る『かみなり』を受けた中でも、フーディンは意識を保っていた。ここを耐え凌げば、次はこちらの番だ。と目が語っていた。

 

 だからこそ、レッドもピカチュウも決して油断しなかった。

 

「たたみかけるんだ!『でんこうせっか』!」

「ビィ、カッ!!」

 

 なっ!?『かみなり』を打ってる状態で『でんこうせっか』だと!?

 

 ピカチュウは雷を放出しながら地を蹴り加速する。フーディンは電撃を受け続けているせいで、まとももに防御もできない状態でいる。

 ピカチュウがフーディンに近づくにつれ、電撃がピカチュウの方へ移っていく。そして、電気を纏う量が段々と増えていく。

 加速が最速に達した時、フーディンに『かみなり』を纏った『でんこうせっか』をくらわせた。

 その威力は凄まじく、『すてみタックル』にも劣らない強さだった。

 

 吹き飛ばされたフーディンは痺れる身体で必死に立ち上がろうとしたが、膝をつき前のめりに倒れた。

 

 戻れフーディン。

 

 ボールに戻してポケモンを労う。残りの手持ちはお互い2匹ずつ。次に出すポケモンは決まっている。

 

 いけっ、ナッシー。

 

「ゲケケケ」

 

 3つの顔を持つ樹木型のポケモン、それがナッシーだ。このナッシーはサイドンと同じくサファリパークで捕まえたタマタマを進化させ、チャンピオンロードで鍛えたポケモンだ。本来なら他のポケモンが手持ちにいたのだが───そのポケモンをポケモンリーグで戦わせるほど、グリーンの心に余裕はなかった。

 

 ピカチュウの進路を塞ぐように『たまなげ』、最初の1発は前方3メートルに、最後の1発はピカチュウの頭上を狙え。

 

「ゲケッケ!」

 

 身体をふるえばナッシーの顔と同じサイズの球体が飛んでいく。ピカチュウが進む右に、左に、前に、玉を飛ばす。まるで詰将棋のように的確にピカチュウの行動範囲を狭めていく。

 そろそろピカチュウでも避けるのが難しくなってきた時、ピカチュウの頭上を掠めるように玉が発射された。

 もちろん当たらない。少し伏せればかわせる1発だ。

 

 『じしん』。

 

「ゲッケ!!」

「ビイッ!!?」

 

 地面に伏せていた故に、衝撃はダイレクトに伝わる。軽いピカチュウの体は浮き上がり、その浮いた先には玉が置かれていた。

 

「ピガッ!」

 

 『たまなげ』を止めさせたとは言ってないぜ!

 

「ピカチュウ!くそ、『たまなげ』か……厄介な技だな」

 

 厄介な技と言わせるのはグリーンの手腕によるものだ。野生のナッシーが攻撃に使う『たまなげ』は目の前にいる相手に向かってバカ正直に玉を投げるだけだが、グリーンのナッシーは違う。どこに投げれば相手が困るのか、またどこに投げると相手は自分の思い通りの場所へ移動するのが自分で思考して『たまなげ』を繰り出す。もともと頭が3つもあるのだ、分割思考による演算などおちゃのこさいさいに決まっている。

 

 どうしたぁ!このまま何もしないんならただ詰んでいくだけだぜ!

 

 その言葉と共に攻撃の激しさが増す。ピカチュウも息を切らし始めた。

 

「くっ!どこか、どこかに弱点があるはず……!」

 

 ナッシーの動作を見逃さないよう、必死に目を動かす。ピカチュウも足を使って玉を避け、尻尾で玉を弾くことで耐え凌いでいる。

 疲労が足に来たのか、ピカチュウが前のめりに転げる。予期せずナッシーの懐に潜り込むことになった。

 不味い、ナッシーには『ふみつけ』や『じしん』がある。足元に近づくのは得策ではない。レッドがすぐに退避するよう指示を出そうとするが、あることに気づく。ナッシーが反応しないのだ。グリーンからも死角になっているのか、技の指示をすることもない。

 このチャンスを逃してたまるかと、すぐに技を言う。

 

「ピカチュウ!『でんじは』!」

「ピッ、カァ!」

「ゲケッ!?」

 

 な、いつの間に…!?

 

 ナッシーには3つの顔がある。しかし、ドードリオのようにそれぞれが自由に動ける首を持っていない。全てが同じ首にくっついているのだ。なので体を動かして見ない限り死角というものが生まれてしまう。そしてさっきは『たまなげ』を繰り出していた最中、当然攻撃と演算に集中しているわけなので足元に目を向ける訳にもいかない。ナッシーの視点から見るといきなりピカチュウが消えたように見えただろう。

 

 マヒ状態になったナッシーの動きは緩慢になる。こうなると今、体力もスタミナも削られたピカチュウよりすばやさは劣るようになる。

 

「ここが正念場だ。ピカチュウ!『かみなり』!」

「ピッカ!ピィィ…ッカアァァ!!」

 

 ピカチュウが繰り出せる最大火力の技。跳んで空中で一回転をして雷撃を放つ。元々巨体なナッシーはそこまですばやさが高いわけでもない、加えて今はマヒ状態だ。避けれるわけもなく、雷は直撃───

 

 『まもる』!!

 

 しなかった。薄い壁がナッシーの体をすっぽりと覆い、雷撃を阻む。弾かれた電が尾を引きながら壁や天井に突き刺さる。

 最大の技(かみなり)を防がれたことにレッドは顔を顰めるが、同時にグリーンも顔を顰めていた。何せこちらも切り札(まもる)を使ってしまったのだから。

 

「くっ…!(勝ちを急ぎすぎた…!)」

 

 ちっ…!(『かみなり』を見て咄嗟に『まもる』を使わせちまった…!)

 

 お互いにポケモンは満身創痍、そして今出しているポケモンを除けば互いに残りの手持ちは一体。ここで先にポケモンを倒された方が不利になるのは明白だ。

 

「(マヒでナッシーの動きは鈍くなっている、相手が攻撃を仕掛けてきてもピカチュウのスピードならかわせるはずだ…つまり)」

 

 (ナッシーはくさタイプ、でんきタイプの『かみなり』を喰らっても一撃は耐えれるが次に『でんこうせっか』を喰らえばアウト…つまり)

 

 次にナッシーの体が痺れで止まれば───

 

「ピカチュウの勝ちだ」

 

 ナッシーの負けだ。

 

 だからその前に───

 

「だからそれまで」

 

 倒しきる!!!

 

「耐えてみせる!!!」



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レポート:7『ポケモンリーグ』

「ビカァアアアア!!!」

「ギャオオオオオ!!!」

 

 凶弾を尾で弾き飛ばし肉薄するが、踏み鳴らして衝撃波を起こすことで接近を防ぐ。お互い体力は既に赤色になっている。一撃当てれば勝ち、当たられたら負け、しかしその一撃が遠く、長い。

 

 ナッシーは痺れで満足に動かせず、痛むはずの身体を、歯を食いしばりながら我慢し、動いている。

 相対するピカチュウも体力は既に尽きているはずなのに、限界を超えて走り続けている。

 一つのミスが負けに繋がってしまうこの状況で、2匹のポケモンは勿論、2人のトレーナーも神経を集中させていた。

 

 一挙一動を見逃さないよう、瞬きもせず目を見開いている。

 と、駆け回っていたピカチュウの足がもつれた。

 

 そこだっ、『たまなげ』!!

 

「ゲギャオオ!!」

 

 もつれた先に玉を放つ。5m、4m、ピカチュウに迫る。1m、50cm、まだピカチュウの体制は変わらない。30cm、10cm、ここでピカチュウの身体が静止した。

 ピタッとまるで時が止まったかのようにピカチュウは停止する。それと同時に玉が鼻先を掠めて通り過ぎる。

 

「『でんこうせっか』!!」

「ピィ……ッカァ!!」

 

 再び地面を蹴って加速する。しかしその勢いは戦い始めた時に比べるとかなり衰えていた。さっき急停止したことで体に負荷をかけてしまったのだろう。既にボロボロだったピカチュウの身体が更に傷ついていく。

 

 遅いんだよ!蹴り飛ばせ!!

 

 グリーンがそう指示すればナッシーがゆっくりと足を振りかぶる。

 

「オオオ!!」

 

 丸太のような足がピカチュウに迫る。しかし、ピカチュウの身体を捉えたと同時にそれは消滅した。

 

 ちっ、『かげぶんしん』か!

 

 見回してみれば10匹前後のピカチュウがナッシーを取り囲んでいた。序盤に比べると分身の数は大分少なくなっている。

 

「ピカチュウ、仕掛けるぞ。このままじゃお前の体力の方が先に尽きる」

「ピ、カァ……」

 

 いつの間にか『かげぶんしん』を囮にしてレッドの元へ戻っていた。作戦会議中のようだが、わざわざ狙わない必要は無い。大地を踏みつけて『じしん』を起こす。衝撃がピカチュウを襲うがそれを跳ぶことで回避する。

 

「速攻だ!『でんこうせっか』!」

「ピィ……カッ!!」

 

 力を振り絞ってピカチュウは加速する。しかしスピードは落ちており、先程の『でんこうせっか』よりも遅かった。

 

 遅えっつってんだろ!!『たまなげ』!!

 

「ギャオオ!!」

 

 ピカチュウの正面から5発の玉が投げられる。それぞれ避けなければ直撃するコースと、避けた先を想定して投げられたコースを作っている。

 

「かわせ!!」

「ビィィッ…!」

 

 ピカチュウは跳ぶわけでもなく後ろに下がるわけでもなく、身体を捻ることで玉を掠らせながらも最低限の動作で躱した。

 

「ピカチュウ!『かみなり』!!」

「ピカピカピカァー!!」

 

 ナッシー!『まもる』だぁ!!

 

「ギャオ!!」

 

 雷撃が再びナッシーを襲うが障壁に阻まれる。先程の『かみなり』と比べるとやはり威力は落ちていた。

 それとは別にナッシーが『まもる』を発動させたのを見て、グリーンは密かに安堵していた。

 

 (『まもる』が使えるかどうかは正直賭けに近かったが……)よくやった、ナッシー。

 

 一方のレッドは焦っていた。

 

「(このままじゃ『かみなり』が切れたタイミングに『たまなげ』を喰らって負けてしまう…)くそっ!」

「ピィィ……!!」

 

 ピカチュウも汗を流している。蓄積されていた疲労が一気に吹き出してきたのか、足も震えている。レッドがどうすればいいのか、考えていると、ピカチュウがナッシーの方へ向かって1歩、踏み出した。

 

「ピカチュウ…?」

「ビッ、カァ!!」

 

 ピカチュウは吠えると『かみなり』を撃っている状態のまま、『でんこうせっか』を繰り出した。フーディンを倒した時に使った方法だが、あの時と比べてピカチュウの体力はほんの雀の涙程しかない。仮に『まもる』が解けたタイミングで攻撃が当たったとしても自傷ダメージでピカチュウも戦闘不能になるだろう。

 

「ビィィ…!!!」

 

 しかしピカチュウの目は闘志に燃えており、諦めの感情などは微塵も感じられない。あくまでピカチュウは勝つために技を繰り出したのだ。

 

「そうか……頼んだピカチュウ!!『でんこうせっか』!!」

「ピカッ!!ピィ、カァ!!」

 

 また加速しただと!?ナッシー!『まもる』を解くな!

 

「ギャオ…!!」

 

 『まもる』は連続性、持続性が不安定な技だ。しかし研究はされており、平均展開持続時間はだいたい30秒と言われている。ナッシーは『まもる』を発動してからもう既に30秒近く経っている。

 

 タイムリミットはあと何秒だ?今度はグリーンが焦る番となった。その間にもピカチュウは距離を詰めている。遂に射程距離に到達し、『かみなり』を纏った『でんこうせっか』を喰らわせようとするが、『まもる』の障壁に阻まれる。激しい閃光と電撃が弾け、スパークする。

 

 ガリガリと残り少ないピカチュウの体力を削りながら障壁にぶつかり続ける。

 

 この戦いの勝敗は、自傷ダメージで先にピカチュウが倒れるか、『まもる』の時間が切れてナッシーが倒れるかのどちらかとなる。

 

「ピカチュウ!!!」

「ビィィイイイイ!!!!」

 

 ナッシー!!!

 

「ギャオオオオオ!!!!」

 

 2匹のポケモンが奮起するための雄叫びを上げながらぶつかり合う。手に汗握る戦いとはこのようなバトルのことを言うのだろう。

 

 さてここで突然だが『まもる』について説明したいと思う。『まもる』というのは先程説明したとおり、連続性、持続性が不安定な技だ。しかし、博士たちの研究によると持続時間は短くて5秒、長くて80秒程らしい。ここでの秒数の違いだが、ポケモンの体力、気力に関係しているのではないかと言われている。それが真実かどうか定かではないが。

 

 戦いに戻る。

 

 やはり体力が尽きかけているのか、ピカチュウが纏っている電気の勢いが段々と弱くなっていく。たが同時にナッシーを覆っている障壁も薄くなっている。堪らずグリーンとレッドは声を上げる。

 

 耐えろナッシー!!

 

「破るんだピカチュウ!!」

 

 2人の声に呼応して弱まっていた勢いが再び強くなる。

 

「ギャオオゥルルァアア!!!!」

「ビィィィィ〜〜〜カァアアアア!!!」

 

 そしてそれは突然、いや遂に起こったと言うべきだろうか。『まひ』の痺れがナッシーの動きを止める。それと同時に『まもる』の障壁が消失し、ピカチュウがナッシーに向かって体当たりする。

 

「ギャ、オ!」

「ピッッカァ!!」

「ギャオッ───グオ、ア……」

 

 ピカチュウがナッシーの身体に触れるとピカチュウが纏っていた電撃がナッシーを襲う。しかし、それでもピカチュウを睨みつけ、一撃を喰らわせようとするが、彼はそれを許さなかった。体当たりした反動を上手く使い、電撃ごとナッシーの巨体を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたナッシーは壁に激突し、その後静かに倒れた。

 

「よしっ!!やったなピカ───」

 

 名前を続けることが出来なかった。何故ならピカチュウも倒れていたからだ。モニターを見てみれば2匹の体力を表すゲージは無くなっており、『Double Knockout !!』と表示されていた。

 

 それを見てグリーンはナッシーをボールに戻す。そしてゆっくりと深呼吸をした。

 

 さあ、お互い最後のポケモンだ。これで勝者が決まる……!

 

「……」

 

 レッドは何も言わない。ピカチュウを戻して静かにボールを撫でた。そして最後のポケモンが入っているボールを掴み、掴んだまま胸の高さまで腕を上げる。グリーンに突きつけるように見せるボールの中には、炎が轟轟と燃え盛っていた。そう、闘志の炎が。

 

 全力で行くぜ!!レッド!!!

 

「…ああ!これが俺達の最後のバトルだ!!」

 

 いけっ───

 

「いけっ───」

 

 

カメックス!!!「リザードン!!!」

 

 投げられたボールが開き、ポケモンが姿を現す。

 

 グリーンのボールからは、正面に大砲を向けながら咆哮するカメックス。

 

 レッドのボールからは、翼を羽ばたかせ尾の炎を激しく燃やすリザードン。

 

 

 最後の戦いが始まる。

 

 

◇◇◇

 

 

「リザードン!!『メガトンパンチ』!!』

「グァアウ!!」

 

 宙を舞い助走の意味で一回転する。勢いをつけ、滑空しながらカメックスに向かう。

 ドズンと重く鈍い音が部屋中に響くがカメックスは倒れるどころか後退すらしなかった。

 

 俺のカメックスは、生半可な攻撃じゃビクともしないぜ!!

 

「何!?」

 

 カメックス!!『ハイドロポンプ』!!

 

 ギラリと砲身がリザードンに向けられ光る。巨大なエネルギー、もとい水がどんどん蓄積されていく。

 

「逃げろリザードン!」

「グァウ!」

「ガァァ、ガメッ!!ガメェ!!!」

 

 水の大砲が2発、放たれる。

 レッドの指示を聞くと直ぐにリザードンは飛翔する。しかしそれは飛沫を撒き散らしながらリザードンを追尾する。一撃は何とか躱したが体勢を崩された。そのせいで二撃目をモロに喰らってしまった。堪らずレッドはリザードンの名を呼ぶ。

 

「リザードン!!」

 

 白煙をかき分けてリザードンが着地する。しかし、やはりと言うべきか効果抜群であるみずタイプの、しかも最高の火力を持つ『ハイドロポンプ』をマトモに受けてしまったのは不味かったらしく、モニターのゲージはギリギリ赤にならない程度の黄色まで減っていた。

 

 ちっ、しぶといな。

 

「まだいけるな、リザードン」 

「ガウ」

 

 完全に仕留めたと思っていたグリーンは吐き捨てるように呟き、反対にレッドは己とリザードンを奮い立たせるために鼓舞する。

 

「『ほのおのうず』!!」

 

 尾を振ることでカメックスに炎を飛ばす。炎はカメックスに当たる前に地面に着火し、渦を巻くように燃え始めた。

 『ほのおのうず』というのは厄介な技で、一度囚われてしまえば何かの拍子で抜け出すまで延々と熱によるダメージを受け続けてしまうのだ。

 

 当然グリーンはそれを喰らった時の対策をしている。

 

 カメックス!水を撒け!

 

「ガメェ!」

 

 二つの砲身からシャワーやスプリンクラーのように水を撒く。

 元々みずタイプであるカメックスにほのおタイプの『ほのおのうず』は効きにくい。が、身体を熱されればその後の展開に響いてしまう。なので砲身からシャワーのように水を噴出させることで熱くなった体を冷やすことと周りの炎を消すのを同時に行えるのだ。

 しかしレッドもそれをただ見ているだけでは無い。すぐにリザードンに次の指示を出していた。

 

「今だ!『ちきゅうなげ』!」

「グァウ!!」

 

 カメックスが『ほのおのうず』を破っている間にリザードンはすぐそこまで接近していた。

 

 しまっ───カメックス!

 

「遅い!!」

 

 消火に気を取られすぎた結果、接近に気づくのが遅れてしまった。指示を出そうとするが、レッドの言葉通り遅すぎた。リザードンはカメックスの懐に潜り込むと両腕でカメックスの体を持ち上げ、翼を使い天井近くまで飛び上がると勢いそのままに地面へ叩きつけた。その衝撃は凄まじく、クレーターが出来る程の威力だった。

 

 カメックス!!

 

 グリーンは自身のポケモンの名前を叫ぶ。呼ばれたカメックスは立ち上がろうとするがやはりダメージは大きいらしく、膝をついてしまった。

 

「畳み掛けるんだ!!『ほのおのうず』!!」

「グルァア!」

 

 再びリザードンが尻尾を振りかぶる。

 

 そう何度も喰らうかよ!『まもる』!!

 

「ガメェ!!」

 

 障壁が炎を阻む。弾かれた炎は燃えることなく消滅する。カメックスは『ほのおのうず』を防いだのを確認するとすぐさま『まもる』を解く。リザードンの体勢は尾を振り切った状態で、素早い動きを取れそうになかった。

 

 これで終わりだ、『ハイドロポンプ』!!!

 

「ガァァ……メァアア!!!」

 

 二つの砲身から水の大砲が撃ち放たれる。それはしっかりとリザードンを捉えていて、その場にいようが左右に避けようが確実に直撃するコースと空を飛んで避けようと考えた時のコースに別れていた。加えて、リザードンの残りの体力を考えると一撃でも当たれば戦闘不能になるはずだ。

 

「リザードン!!飛ぶんだ!!」

「グァウ!!」

 

 地面に尻尾を叩きつけ、その反動で宙に浮き翼を広げる。これで一発目の『ハイドロポンプ』のコースからは逃れることが出来た。

 

 ちっ!だが、もう一発は完全に当たるぜ!!これで、俺の(・・)勝ちだ!

 

「まだだ!まだ俺達は(・・・)諦めない!!」

「グォオウ!!」

 

 今更リザードンがどうしようと『ハイドロポンプ』は直撃する。空中に飛んだことで地上の『ハイドロポンプ』は躱すことが出来るがもう一発は避けようがない。

 遂に『ハイドロポンプ』がリザードンの眼前にまで迫り、当たる。グリーンが勝利を確信した、その瞬間。

 

 リザードンが口を大きく開ける。口内は爛々と紅蓮に燃えていた。

 

「『だいもんじ』!!」

「ガルアアア!!!」

 

 打ち放たれるはほのおタイプ最強の技(最高火力の切り札)『だいもんじ』。しかし炎は大の字に開いておらず蕾が閉じているようだった。あえて言うなら炎弾、そう表した方がいいだろう。

 

 炎弾は水の砲撃とぶつかり衝撃波を生む。水が炎を消火しようと、炎が水を蒸発しようと、お互いがお互いを打ち消しあっていた。

 

「グルォオオオ…!!」

「ガメェエエ!!!」

 

 リザードンとカメックスも唸りながら技の出力をあげる。既に一発『ハイドロポンプ』を外したカメックスは残りの一撃に全ての力を注いでいる。対するリザードンも火力をあげるために炎弾に火炎を放射している。

 

 そんなちんけな炎、貫いちまえ!!カメックス!!

 

「ここが正念場だ!堪えろリザードン!!」

 

 二人のトレーナーも自分の相棒達の競り合いを見て声を出す。しかしやはりと言うべきか、相性差というものは存在しており、初めは水砲を中間まで押し返して拮抗状態に持ち込んだ炎弾が徐々に押し戻されている。カメックスが水砲に集中し始めたからだろう。このまま行けば『ハイドロポンプ』がリザードンに当たり、カメックスの勝利となるはずだが、グリーンはどこか違和感を感じていた。

 

 (なんだ、このモヤモヤとした感じ……そうだ、何でレッドは『堪えろ』なんて言ったんだ?ここでカメックスを倒さなきゃ勝ち目はないはずだろ…?)

 

 そう思考していたグリーンがふと顔を上げるとあることに気づいた。炎弾の勢いが先程より衰えているのだ。リザードンが火炎を放射し続け着いたはずなのに何故、とグリーンが考えようとした矢先、レッドが叫んだ。

 

「今だ!!『だいもんじ』!!!」

「グゥアウアアア!!!」

 

 大の字に開いた紅蓮の炎が水砲に押されている炎弾にぶつかる。すると閉じていたはずの炎弾が『だいもんじ』と接触したことにより大の字に開いた。二つの『だいもんじ』が重なり合い巨大な大の字を空中に描く。その火力は凄まじく、押していたはずの水砲が押され始めていた。

 

 くっ……そぉ…!!カメックス!!もっとだ!!もっと『ハイドロポンプ』を出すんだ!!

 

「ガメェ!ガメ…!?」

 

 グリーンの指示通りもう一つの砲身から『ハイドロポンプ』を出そうとしたカメックスだったが、どうやら『ハイドロポンプ』にさける水量を既に使い切ってしまったらしく、もう一撃『ハイドロポンプ』を撃つことも出来なければこれ以上威力をあげることも叶わない。

 

「どうやら、技の限界に達したみたいだな」

 

 レッドはこれを狙っていたとばかりに笑うと帽子を深く被り直す。

 

 勝利から一変、脳内に浮かぶ敗北の二文字にグリーンは焦り始める。

 

 くそ、くそ、くそ!!ふざけんな!!!こんな所で、こんな所で───

 

「リザードン!!!トドメの『だいもんじ』!!!」

「ガアウ!!ガァアアア!!!」

 

 三発目の『だいもんじ』、三つの『だいもんじ』が重なるとまるで太陽のような炎が『ハイドロポンプ』を打ち破りながらカメックスに迫る。

 

 あと、もう少しだったのに───

 

 巨大な『だいもんじ』がカメックスを包み込み、炸裂した。

 

 


 

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  8 こ┃

┃ポケモンずかん 128ひき┃

┃プレイじかん  38:00┃

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┃ここまでの かつやくを       ┃

┃ポケモンレポートに かきこみますか?┃

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はい ┃

┃ いいえ┃

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┃ グリーンは             ┃

┃ レポートに しっかり かきのこした!┃

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レポート:8『ミュウツー』

┏━━━━━━━━━━━━┓

つづきからはじめる  ┃

┃ さいしょからはじめる ┃

┃ せっていを かえる  ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう グリーン  ┃

┃もっているバッジ  8 こ┃

┃ポケモンずかん 130ひき┃

┃プレイじかん  41:25┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 


 

 

 レッドがグリーンを倒し、新チャンピオンとなった次の日のことだった。

 レッドに負けたグリーンは己を見つめ直し、ポケモン達を鍛え直すという名目である場所へ向かった。その場所とは『ななしのどうくつ』。ハナダシティにある大きな洞窟だ。同時に危険な洞窟でもある。まず一般人が入ることは出来ない。入れるとしたら各ジムのジムリーダーか、四天王、チャンピオン。もしくは前者で上げた人物たちと同等の力を持つ、バッジを8個集めた者のみだ。

 

 だが『ななしのどうくつ』に入るにはもうひとつ必要なものがある。それはハナダジムのジムリーダーであるカスミの許可だ。

 グリーンはハナダシティに到着するとカスミに会いに行き、事情を話した。

 

「なるほど、そういうことね。なら分かったわ、許可を出しておくわね。本来なら本当に実力があるか私とバトルしてもらうんだけど……チャンピオンになったことがある人にそれは不要よね?」

 

 悪戯っぽく笑うカスミに、グリーンは苦笑で返した。

 その後、許可証を発行してもらったグリーンは洞窟へ向かった。手持ちは通常の6体編成ではなく、七つめのボールを腰にかけていた。

 

 そして最深部の1歩手前のところで、グリーンは修行を始めた。

 

 ゴルバットを初めとしたどくタイプのアーボック、クサイハナ、モルフォン達やスリーパー、ユンゲラーといったエスパータイプ、レアコイルやライチュウのようなでんきタイプのポケモンに、ゴローンやサイドンといったいわタイプのポケモン達、ラッキー、プクリンなどといった珍しいポケモン達もいた。そしてどのポケモンにも共通しているのが、強いということだった。

 まず普通の野生ではありえない強さを持つのが『ななしのどうくつ』のポケモン達だ。グリーンの手持ちは負けたとはいえポケモンリーグを勝ち抜きチャンピオンになっていた時の手持ち、そのポケモン達が瀕死になりかける程の強さを持つポケモンがゴロゴロいるのだ。

 

 もうすっかり薄れている前知識がなければ、とっくの昔に全滅していただろうと胸を撫で下ろす。

 

 図鑑を開いて手持ちポケモンのレベルを確認する。最高レベルはカメックスの83で、最も低かったのは51レベルの█████だった。█████は手持ちに加わってからの時間が短いのでレベルが上がるのが遅くて仕方ないのだが、未だに進化しないのは何故なのか。疑問ばかりつのる。

 

 グリーンが頭を捻って考えても分からない。こういうのは祖父であるオーキド博士くらいでもなければ解明できないはずだ。

 

 まあ、それはまた今度でいい。それよりも、そろそろ挑みにいくか。

 

 ミュウツーに。

 

 

◇◇◇

 

 

 ミュウツーとは、最強のポケモンである。

 

 グレンタウンのポケモンやしきに残っていた研究日誌には、そう書かれていた。

 

 そのポケモンを、ミュウツーさえ手に入れれば、今度こそ勝てるはずだ。レッドに、勝てるはずなのだ。

 

 そのためにここまで来たんだ。

 

 最深部に降りると妙な威圧感を感じた。前方に目を向けると薄紫色の肌と紫色の尻尾を持つ細い人型のポケモン、ミュウツーがいた。

 

 ミュウツーはグリーンを視界に捉えると咆哮を上げ、襲いかかってきた。

 

 いけっ、フーディン!ナッシー!

 

 グリーンは2体のポケモンを繰り出す。これは公式戦でもトレーナーとの勝負でもなく、野生のポケモンとの戦闘なのでルールは存在しない。しかも相手はミュウツーなのだ、全力で行かなければ此方がやられてしまう。

 

 フーディン、ナッシー、『サイコキネシス』で動きを止めろ!!

 

「ムゥン!」

「ゲケケ!」

 

 2体の念動力でミュウツーの動きが止まる。しかし、ミュウツーが一度吼えると念力は打ち消されてしまった。

 

 なに!?

 

「バァウ!!」

 

 繰り出されるは闇色の光弾、禍々しさから考えて『シャドーボール』だろう。二つの『シャドーボール』がフーディンとナッシーに迫る。2匹は念力で壁を作り防ごうとする、が───

 

「ムゥウン!?」

「ゲキャアアア!?」

 

 フーディン!ナッシー!?まさか、一撃だと……!?

 

 ミュウツーの『シャドーボール』は壁をいとも簡単に突き破り2匹に直撃した。それだけでなく、2匹はその一撃だけで戦闘不能となってしまった。

 ありえない、驚愕と困惑が交わり今起こった出来事を理解出来ないでいた。しかしミュウツーは待ってくれない。再び闇色の光弾を作り出し、両手から射出する。

 

 くっ!戻れお前達!!いけっ!サイドン!ウインディ!!

 

「グオオオ!!」

「ガルルゥゥ!!」

 

 サイドン!『まもる』!!

 

「グオオ!ガオアッ!?」

 

 サイドンとウインディを繰り出し、『シャドーボール』を防ぐためにサイドンに『まもる』を指示する。が、ミュウツーの技は障壁ごとサイドンを吹っ飛ばした。ダメージは受けてないようだが強い衝撃を受けたのだろう、巨体を支える足が震えていた。

 

 ウインディ!『りゅうのいかり』!!

 

「グルォオ!!」

 

 龍を模した藍色のエネルギーが口を開いてミュウツーに襲いかかる。

 どれだけ防御力が高かろうが固定ダメージを与える『りゅうのいかり』なら通じるはずだ。

 

 しかし、そんな甘い考えは一瞬で打ち砕かれた。ミュウツーは『サイコキネシス』で『りゅうのいかり』を打ち消すと念力の刃を生み出して放つ。高速で放たれたそれはウインディの急所を撃ち抜き、ウインディの体を壁に叩きつけた。

 もちろんウインディは戦闘不能だ。すぐにボールに戻し、サイドンも呼び戻そうとしたが、5発の『シャドーボール』がサイドンに撃ち放たれ、サイドンも戦闘不能になってしまった。

 

 サイドン…ウインディ…!!

 

 残りの手持ちは三体、だが最高レベルのカメックスでも敵わないかもしれないミュウツー相手にたった51レベルの█████を出すわけにはいかない。

 

 頼んだ!カメックス、ピジョット!

 

「ガメ!」

「クワァ!!」

 

 カメックス、『ハイドロポンプ』!

 

「ガメェ!!」

 

 水の砲撃が撃たれミュウツーに降り注ぐ。カメックスの攻撃は他の奴らとは違うと感じたのか、ミュウツーも防御耐性を取った。可視化出来るほどの分厚い壁、おそらく『バリアー』だろう。『バリアー』を『ハイドロポンプ』の射線上に配置し、攻撃を防ぎきられた。 

 今度はこちらの番とばかりにミュウツーは星を象ったエネルギー弾を生み出す。『スピードスター』だ。

 

 カメックスが再び砲撃を撃つ、ミュウツーはそれを『バリアー』で防ぎながら接近する。『スピードスター』を維持した状態でだ。

 射程圏内に入ったのかミュウツーが『スピードスター』を放つ。『スピードスター』はノーマルタイプの技の中でも威力は高くない技だ。『まもる』を使わせるほどではない。

 

 カメックス、『スピードスター』を耐えて『れいとうビーム』を喰らわせろ!

 

「ガメ!」

「バァアアウ!!」

 

 なっ、持ち上げただと!?

 

 砲身に冷気を充填しているところを念力で持ち上げられる。身動きが取れないカメックスに星のエネルギー弾が直撃した。着弾した箇所から煙が上がるがカメックスは何とか意識を保っている。ミュウツーがカメックスに意識を向けている間にピジョットに指示を出す。

 

 ピジョット!『ブレイブバード』!!

 

 翼を折りたたんで低空飛行をしながらミュウツーに接近する。己のポテンシャルを全て出した速さだ。ミュウツーが気づく頃には既にピジョットが激突していた。

 

 『ブレイブバード』を喰らったミュウツーは吹き飛ばされる。初めてまともに当たった攻撃に与えたダメージだ。このチャンスを逃してはいけない。カメックスを縛っていた念力も無くなり、解放されている。

 

 カメックス、『ハイドロポンプ』!!

 

 体勢を建て直したカメックスに指示を出す。カメックスは二度頭を振り標的を睨みつけると、2発の水の砲撃をミュウツーに放った。

 

「グオオ……バォオオオウ!!!」

 

 攻撃を受けたことでか、ミュウツーの咆哮には怒気が含まれている。両手には漆黒のエネルギーが球体となり収縮されており、ミュウツーが腕を振るうとそれ(・・)は手から射出され砲撃とぶつかり、相殺される。

 

 本命はこっちだ!『うずしお』!

 

「ガァア!!」

 

 砲身から吹き出した水がミュウツーを中真に渦を巻き、その身体を捕らえる。これで少しは時間が稼げるだろう。その隙にグリーンはピジョットに掴まりミュウツーに接近する。

 

「バオオ……!」

 

 大人しくしてくれ、ほらよ!

 

 バックから取り出したハイパーボールを拡大させてミュウツーに投げる。ボールの開閉スイッチがミュウツーに当たり、吸い込まれる。

 地面に落ちたボールは一度揺れる。二度揺れた直後、爆発して砕け散った。どうやらまだまだミュウツーの力は有り余っているようだ。

 加えてミュウツーの体が若葉色の光に包まれる。光が消えるとピジョットが付けたはずの傷が癒えていた。

 

 『じこさいせい』も覚えてたのか……!

 

 ミュウツーは体力を回復させると此方を睨みつけ、咆哮と共に念動力で持ち上げた岩石を飛ばす。

 

 撃ち落とせ!『ふぶき』!

 

「ガァアメ!!」

 

 砲身から水ではなく激しい吹雪を吹き付ける。攻撃範囲が広いこの技を防ぐのは難しかったのか、みるみるうちにミュウツーの身体は凍りついていきあっという間に氷像と化した。

 

 『ハイドロポンプ』!

 

「メェッ!!」

 

 水の砲撃が再び撃たれる。『こおり』状態になっている今のミュウツーには避けることも防ぐことも出来ないはず。

 そう考えていたのだがミュウツーを覆っていた氷に亀裂が生まれ、どんどん剥がれ落ちていく。『ハイドロポンプ』が着弾する頃には既に『バリアー』を張られていた。

 

 ちっ…中々ダメージが稼げない。それにボールを投げても捕まえられる気がしない…これが伝説のポケモンか……!

 

 グリーンは伝説の強さに打ちひしがれるどころか、改めて確認したミュウツーの強さに震えていた。

 

 だからこそ、必ず手に入れたい。戻れカメックス!

 

 カメックスをボールに戻して空中で待機していたピジョットを自分の元へ呼び戻す。そしてピジョットの背に飛び乗るとミュウツーに指を突きつけた。

 

 今回は一旦退く、が!次は必ずお前を───

 

 その続きを言い終わる前にこの階層から脱出した。

 

 

◇◇◇

 

 

 洞窟から出たグリーンは、ハナダジムに行きカスミに「危険なポケモンが生息していた」と伝えた。するとカスミは直ぐに各ジムのジムリーダーに応援を頼もうとしたが、グリーンがそれを制す。「あのポケモンは俺が何とかするから安心してくれ」、「これも修行の一環なんだ」と言って説得するとグリーンの熱意が伝わったのか、カスミは渋々頷いた。

 

 ミュウツーの存在を他の奴らに知られたりでもしたら、俺がミュウツーを捕まえられなくなっちまう。

 

 グリーンがそんなことを考えているとは露知らず、カスミはグリーン以外の人物が『ななしのどうくつ』に入らないようにするために警備員をつけると告げた。

 

 それは好都合だ、と表情には出さずにほくそ笑む。グリーンは話を切り上げてポケモンセンターに向かい、そこでポケモンの体力を回復させた後、ピジョットの『そらをとぶ』でシルフカンパニーまで飛んだ。

 

 

◇◇◇

 

 

 マスターボールがない?

 

「はい。開発してたマスターボールは、以前ロケット団に襲撃された時に試作品、設計図ともに紛失してしまい……」

 

 正面のソファに座るシルフカンパニーの社長がハンカチで額の汗を拭いながら話す。

 ここに来ればマスターボールが手に入ると思ったのだが、どうやら宛が外れたみたいだ。

 

「ロケット団の残党か、もしくは行方をくらましたボスにでも会えれば何か分かるかもしれませんが……」

 

 ボス……ッ!社長さん、今日はお忙しい中ありがとうございました。

 

「いえいえ、力になれずすみません。ああ、そうだ。代わりにと言ってはなんですが、秘書クン。例のものを」

「はい」

 

 社長が脇に待機していた秘書の女性に声をかけると、秘書が部屋の奥に置いてある金庫を開けて中からアタッシュケースを取り出してきた。

 テーブルの上にアタッシュケースを置き、ゆっくりと解錠する。

 

 これは……?

 

 白いビー玉のようだが、中に青と茶色で構成された不思議な紋様がある。どこかで見た覚えがあるのだが、思い出せない。

 

「地下深くから発掘された石です。特殊な素材で出来ているのか、何をしても傷つかず、壊れません。我が社の研究員に確認させてみたところ恐らくポケモンの道具ではないかと……」

 

 なるほど……。

 

 マジマジと石を見つめて、記憶と照らし合わせる。

 

「これをぜひグリーンさんにお譲りしたいのです」

 

 記憶がふっとんだ。

 

 お、俺に!?そんな大事なもの、頂けませんって!!

 

 まさかの答えに驚き、手を突き出して断りの意思を表明する。しかし社長は首を横に振りアタッシュケースから石を取り出し、グリーンに差し出した。

 

「研究員総出で調べて殆ど成果がなかったのです。グリーンさんのようなトレーナーの方に持っていてほしい。ポケモンの道具なら尚更です。もしかしたら、バトル中に何か起こるかもしれませんしね」

 

 社長の意志が固いことに気づき、グリーンが折れた。石を受け取り光に照らしてみるが、何も起こらない。とりあえず今はバッグの中に閉まっておく。

 

 今日はありがとうございました。

 

 ソファから立ち上がり礼を述べる。

 

「いえいえ。では秘書クン、お見送りを」

「はい。グリーン様、どうぞこちらへ」

 

 秘書に連れられて会社の入口まで案内される。

 

「ではグリーン様、お気をつけて」

 

 はい。見送りありがとうございました。ピジョット、『そらをとぶ』!

 

「クワァ!」

 

 

◇◇◇

 

 

「それで、私の元へ来たというわけか……」

 

 ああ、あるんだろ?マスターボール。 ロケット団、元首領『サカキ』さんよぉ。

 

 ピジョットに捕まって空を飛んだ先はトキワジムだった。今グリーンはトキワジムのジムリーダー専用の部屋でサカキと対面している。

 

 グリーンの言葉を聞いて、高価そうな椅子に腰掛けているサカキは表情を変えずに話す。

 

「確かにマスターボールはあの時奪った。が、設計図はデータ諸共存在しない」

 

 あ?なんでだよ。

 

「あの小僧と約束したからな。もう悪事はしない、と」

 

 思い返すように顔を上げて微笑む彼は元マフィアのボスとは思えないほど穏やかな表情をしていた。

 

 てことはアンタはレッドに言われたから設計図を破棄したんだな?

 

「ああ」

 

 ……あんの大バカ野郎。

 

 原因が幼馴染である少年だと気づいたグリーンは頭を抱える。その様子が気になったのかサカキが首を傾げる。

 

「何故そうまでしてマスターボールを欲しがる?お前ほどのトレーナーなら大抵のポケモンは手に入れることが出来るだろう。伝説の三鳥だろうが弱らすことが出来ればハイパーボールで事足りるはずだ」

 

 ……ただの伝説じゃないんだよアイツは。知ってるだろ?アンタなら…ミュウツーの強さを。

 

 『ミュウツー』の単語を聞いてサカキの眉が動く。そして背もたれに深くもたれて息を吐いた。

 

「成程な。そうか…やつならば確かに、捕獲するのは難しい。そもそも弱らせることも出来るかどうか……」

 

 だからマスターボールが欲しかったんだ。けど、まあ、無いなら仕方がない。どうにかするさ。

 

 そう言ってみせるがミュウツーを捕まえる算段など全くついていない。ただの強がりである。

 これからどうするか、グリーンが思案していると突然サカキが立ち上がった。

 

「ついてこい」

 

 そう言って部屋の隅へ向かう。その先は行き止まりのはずだろうとグリーンが困惑していると、サカキが壁のタイルの一つをスライドさせた。するとハイテクな機械が現れた。

 その機械にサカキが数秒手を当てるとジム内に巨大な歯車が動くような音が響き、サカキが手を当てていた部分の壁が縦に裂けた。すると地下へ続く階段が出現した。

 

 な、なんつー仕掛けだよ……。

 

 思わず頬を引き攣らせた笑みが浮かぶ。そんなグリーンを後目にサカキは階段を降りながら淡々と説明する。

 

「この通路は以前私が緊急用に造らせたものでな。何かあった時にはここを通じて地上へ脱出することが出来る」

 

 ……そんなこと俺に話してもいいのか?

 

「言っただろう。私はもうロケット団の首領ではなく、ただのジムリーダーだ、と。ならば隠す必要もない。さあ着いたぞ」

 

 階段を降りきり、正面にある堅固な扉を開く。中に入ると先程までグリーン達がいた部屋と変わらない広さの部屋があった。しかし上層の部屋とは打って変わり、無骨なデザインの机と椅子、その奥に巨大な金庫、その他必要最低限のものしか置いていない、いかにもそういう(・・・・)部屋だった。

 

 サカキはグリーンを中に招き入れると金庫に近づいて行き、また細かい操作を始める。1分か2分そこら経つと金庫からピッと音がなる。鍵が開いたようだ。

 金庫を開け、中から黒く塗装された頑強そうなケースを取り出しグリーンの元へ持ってきた。

 

 これは?

 

「中を開けてみろ」

 

 そう言われケースを渡される。ここまで厳重に保管しなければならないものとは一体なんなのだろうか。ゆっくりとケースを開き、中身を確認する。

 

 こ、れは……

 

 上部分は紫色に塗装され、捕獲したポケモンを逃がさないプログラムが詰まっている桃色の補助パーツがついている。そしてボタン開閉部の少し上の辺りに刻まれたMのマーク。

 紛れもない、これはまさしく───

 

 マスター…ボール…!

 

 そう理解するとケースを握りしめる力が自然と強くなる。が、直ぐにハッとなりサカキを問いつめる。

 

 これはどういうことだ?さっきお前は確かにマスターボールの設計図はないって言ったよな?

 

 そう言うとサカキは頷き、口を開いた。

 

「ああ。確かに言ったな」

 

 ならなんでここにあるんだよ。しかもこんな厳重に保管されてよ。

 

「思い出してみろ。私は確かにマスターボールの設計図は用紙、データともに破棄したと言った。が、誰もマスターボール自体を破棄したとは言っていないぞ」

 

 なんともまあ屁理屈のような答えだ。しかしモノがモノであるため、グリーンも強く言い返すことができない。それに今、自分はマスターボールを欲している。

 

「それに、予期せぬ出来事が起こった時に必要になると思っていたからな。それがまさに今、というわけだ」

 

 ……受け取っていいのか?

 

「お前が今、必要としているのなら持っていけばいい」

 

 目線で受け取れと言ってくるので恐る恐るマスターボールに手を伸ばす。触れてみるとボールの表面は冷たく、そして想像していたより軽かった。

 本当に貰っていいのだろうか、自分は私利私欲の為にこれを使おうとしているのに。その考えが頭から消えず、思わずサカキに聞き返す。

 

「くどいぞ。それはもうお前のもので、私の所有物ではない。それに私はもう、そのボールに興味が無い」

 

 「面倒なやつだな」と呆れた顔で言われる。むしろ何故そこまで関心を持たずにいられるのかグリーンには不思議でならなかった。

 

 会話をしている最中にもサカキは金庫を閉じる作業をしていた。それが漸く終わり、金庫が大きな音を立てて閉まる。

 

「ああ、言い忘れていたがそれは試作品で、在庫はない。ミュウツーを捕まえるのなら壊されないように気をつけるんだな」

 

 そう言うともう話すことはないのか、サカキが階段を登り始めた。もうここにいる理由もないのでグリーンもその後ろに着いて行った。

 

 ところでこのケースどうしたらいいんだ?

 

「そのまま持っていけばいい」

 

 いやいらねえよ……。

 

 

◇◇◇

 

 

 さて、と。

 

 サカキの協力の元、マスターボールを手に入れることが出来たグリーンは再び『ななしのどうくつ』へやって来ていた。

 ただし前回とは違い、パーティーが変わっている。今回は公式のバトルで使っている六匹だけではなく、今まで捕まえたポケモンの中でもよりすぐりのポケモンを追加した九匹で挑むつもりだ。

 

 今度は逃がさないぜ、ミュウツー……!!



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レポート:8『ミュウツー』

 二度目となると、案外道のりは楽なもので。スイスイと最下層へ進めた。

 最深部に降りると、グリーンの気配を察知していたのか、既に戦闘状態に入ったミュウツーが襲いかかってきた。

 

「バォオオオオウ!!!」

 

 いけっ、ゲンガー!ストライク!

 

 同時に二匹のポケモンを繰り出す。どちらもゴーストタイプ、むしタイプと、エスパータイプのミュウツーに対して効果抜群をとれるポケモンであり、前回は連れていなかったポケモンでもある。

 ミュウツーはグリーンが繰り出したポケモンを見ると手の平から闇色のエネルギー弾を出現させる。『シャドーボール』だ。

 

 ゲンガー!距離を取ってミュウツーの『シャドーボール』を『シャドーボール』で相殺しろ!ストライクは接近して『れんぞくぎり』!

 

「ゲゲケ!」

「シェアッ!」

 

グリーンの指示を受け、ゲンガーも両手の間に闇色のエネルギー弾を生み出す。ミュウツーが『シャドーボール』を撃ったのと同時に撃ち放ち、ぶつかり合ったエネルギーが炸裂し、爆煙を巻き起こした。

 

 ポケモンが自身のタイプと同じタイプの技を使う時、その技の威力は通常よりも高くなる。それなのにミュウツーの『シャドーボール』はゲンガーのソレに劣らなかった。自分が苦手とするタイプの技なのに、だ。

 つくづく格の違いを思いしらされる。だが諦めるつもりは毛頭もない。

 

 『シャドーボール』が相殺された今、ストライクを遮るものは何もない。刃を鈍色に輝かせながら振り下ろす。

 

「バウ!!」

 

 しかし刃はミュウツーには届かず、透明な壁に阻まれてしまった。

 

 『バリアー』か。構うなストライク!続けて『れんぞくぎり』だ!

 

「シャアア!」

 

 『れんぞくぎり』は使えば使うほど威力が上がっていく技だ。いくらミュウツーとはいえ相性の悪いむしタイプの技を受け続けることは難しい、それが『れんぞくぎり』なら尚更だ。

 

 二撃、三撃、四撃と刃を振るうと流石のミュウツーの『バリアー』にも亀裂が入る。それを見て今の状況が不味いことに気づいたのか、ミュウツーは『バリアー』を解除してストライクから距離を取ろうとする。

 

 逃がすなゲンガー!『シャドーボール』で進路を塞げ!

 

「ゲケッ!」

 

 再び闇色のエネルギー弾を撃ち出す。しかしミュウツーは慌てることなく手を振るう。するとエネルギー弾は空中で静止し、向きを反転してゲンガーに跳ね返された。

 加速したソレを防ぐすべもなく、ゲンガーは顔面で受け止める。効果抜群の技であり、なおかつミュウツーの力が加わった『シャドーボール』に耐えきれず、ゲンガーは気絶した。

 

 ちっ、戻れゲンガー!いけっ、フーディン!ナッシー!

 

「ムウン…」

「ギャオオ!」

 

 気絶したゲンガーをボールに戻して素早く2匹のポケモンを繰り出す。ストライクがミュウツーに攻撃を仕掛け続けているがストライクだけでは攻めきることは厳しいようで、逆にミュウツーに押されていた。

 

 アイツの動きを止めろ、『かなしばり』だ。

 

 エスパータイプ2体がかりで動きを封じる。前回とは違いレベルも上がり、動きを制限することに特化した『かなしばり』だ。いくらミュウツーと言えどもちょっとやそっとでは振り解けないだろう。

 

 そこをストライクが刈り取る。

 

 身動きが取れないミュウツーに『れんぞくぎり』を繰り出し、繰り出し、繰り出す。効果抜群のこの攻撃を何度も喰らえば、ミュウツーの身体にも傷がつく。どうやら痛みで顔を歪ませるくらいにはダメージが与えられているようだ。

 

「グウゥゥ……ォ、ォオオオオオオオ!!!!!」

 

 唸り、咆哮をあげる。一見力任せに念力の拘束を振り解こうとしているように見えるが、フーディンとナッシーの念動力に自身の念動力を通して中和を働きかけている。

 

 マジでバケモンだな…ナッシー、『かなしばり』をやめてミュウツーの足元に『やどりぎのたね』。

 

「ギャオオ!」

 

 ナッシーの体から発射された数発の種がミュウツーの足近くに打ち込まれる。すると種が急激に成長して蔦となり、ミュウツーの身体に巻き付く。

 身体の縛りが軽くなったと思えば蔦に絡め取られる。ミュウツーのストレスは溜まる一方だ。

 

 ストライク!『れんぞくぎり』!

 

 ナッシーが『やどりぎのたね』を打つためにミュウツーから離れていたストライクに三度指示を出す。斬撃を振るい続けたストライクの刃は研ぎ澄まされており、今なら鋼鉄でさえ斬り裂けるだろう。

 ストライクが刃を振り下ろす。ミュウツーはダメージを和らげるために『バリアー』を使い攻撃を阻もうとするが、限界まで強化された『れんぞくぎり』は難なく壁を斬り裂き、ミュウツーに太刀を喰らわせた。

 今の一撃でかなり削れたようで、ミュウツーの顔に疲労が見える。

 しかし『れんぞくぎり』が『やどりぎのたね』の蔦ごと斬ったせいで拘束が弱まり、念力を使われ強引に破られてしまった。

 

 ミュウツーはストライクの首を掴んで身体を持ち上げる。逆の手には漆黒のエネルギーが渦をまいており、ミュウツーを中心にクレーターが出来ていることからその威力が凄まじいものだと分かる。

 

「バオオオオオオォ!!」

 

 空間を圧縮させ生まれた時空の歪みを撃ち放つ超念動力(サイコキネシス)。それを喰らったストライクは身体をくの字に曲げて吹き飛ばされる。隕石のような速さで壁に激突して身体をめり込ませた。

 

 『やどりぎのたね』を使わせたのは失敗だったか、クソ…戻れストライク!

 

 伝説のポケモンの怒りを実感したグリーンは冷や汗を流し、恐怖を覚える。それと同時にこのポケモンを捕まえれば必ずレッドに勝てると期待がうまれる。

 

 何がなんでも捕まえてやる……!いけっ、ウインディ!

 

「ガァウ!」

 

 フーディンとナッシーはもう一度『サイコキネシス』でミュウツーを抑えろ!ウインディは『かえんほうしゃ』で牽制!

 

 再びミュウツーの身体が念力で縛られる。が、パワーが足りていないのか簡単に振りほどかれてしまう。時間をかけて念力を掛け続けない限りミュウツーの動きを封じることは出来なさそうだ。

 ストライクが与えたダメージは『じこさいせい』でもそう簡単に癒しきれないはずだ。付け入る隙はそこにある。

 

 ウインディが火焔を吐き飛びかかる。ミュウツーは火焔を念力で打ち消しながら『バリアー』でウインディをいなす。空いている右手の掌には闇色のエネルギーが渦をまいており、球体に形をなしていく。そしてミュウツーがそれを放とうと右手を掲げる。

 

 もどれウインディ!

 

 ウインディはボールに戻っていく。その瞬間、先程までウインディがいた場所にエネルギー弾が通過していく。あのままボールに戻さずに戦わせようとしていたらウインディは戦闘不能になっていただろう、まさに間一髪だった。

 自分の攻撃が透かされたことに戸惑いながらもミュウツーはグリーンを睨みつける。その視線を受けながらもグリーンは次のボールを手に取る。

 

 次はコイツだ。サイドン!

 

「グルォオオ!!」

 

 重戦車のような巨体が地面を抉りながら現れる。前回ミュウツーにダメージを与えることすら出来なかったからか、その目には闘志が爛々と燃えていた。

 

 さあリベンジマッチだサイドン、『いわなだれ』!

 

「グオオオ!!ルァアッ!!」

 

 拳を振り抜き岩石を砕き飛ばす。飛ばされた烈石はさながら散弾銃のようにミュウツーに降りそそぐ。

 しかしミュウツーも幾つもの『シャドーボール』を出現させて撃ち放つ。烈石に闇色のエネルギー弾がぶつかり爆発と衝撃波がおこる。白煙がもうもうと立ち込めるが、その煙を裂いてミュウツーが攻め込んできた。ミュウツーの周りには星型のエネルギーが漂っている。『スピードスター』だ。

 

「バウアアアァ!!!」

 

 至近距離で放たれるエネルギー弾を、サイドンは最低限の動きで弾き、躱す。ミュウツーがすれ違うその瞬間にサイドンが腕を振るう。

 

「グルォオ!!」

 

 『カウンター』!!

 

 ミュウツーの身体に超重量の拳が突き刺さる。そのまま拳を振り抜いて殴り飛ばした。吹っ飛ばされたミュウツーはダメージを受けすぎたのか、顔を歪ませる。しかしここで回復する隙を与えれば、また振り出しに戻ってしまう。グリーンはすかさずサイドンに指示を出した。

 

 『いわなだれ』で追撃しろ!

 

「グオオ!!」

 

 再度拳を振るい、岩石を飛ばす。ミュウツーは『バリアー』で防いで『いわなだれ』の射程圏から外れる。

 

 そこだ!『じしん』!!

 

「ガォオオ!!」

 

 サイドンが地面を踏み鳴らすと大きな揺れが起こり、振動と衝撃波がミュウツーに襲いかかる。ミュウツーは降りかかってくる岩石に意識を集中させていたようで、衝撃波を防ぐことが出来なかった。

 前回とは違い、着実にダメージを与えていってるバトルを見て、グリーンは拳を握る。

 

 いける……いけるぞ……!

 

 ヨロヨロとミュウツーが立ち上がる。腕を上げて闇色のエネルギーを収縮しようとするが、その身体が突然ワイヤーで縛り付けられたように動かなくなる。

 

 フーディン、ナッシーの『サイコキネシス』だ。そんでもって───

 

 サイドンが駆けてくる。右腕を大きく振りかぶり、ミュウツーの腹部を撃ち抜く。

 

 『メガトンパンチ』だ!!!

 

「グルォオオオオ!!!」

「バ、ォ───」

 

 拳を振り切りミュウツーを吹っ飛ばす。今の一撃でミュウツーの体力はかなり削ったはずだ。砂埃で見えないが、恐らく瀕死に近い体力だと思う。

 

 数秒後、砂埃が吹き飛ばされる。姿を現したのは、疲弊したミュウツーだった。

 

 『じこさいせい』を使われたか…けど、完全に回復は出来なかったようだな。

 

「オオォ…………バオオオオオオォォ!!!」

 

 ミュウツーの咆哮が洞窟内に響き渡る。その目は怒りに染まっており、最早グリーンしか映っていない。ミュウツーが腕を突き出すと、十を超える数の『シャドーボール』が出現する。それらを全て、グリーン(・・・・)に向かって放った。

 

 なっ!?

 

 勿論そんなことポケモン達が許すわけもない。フーディンは同じく『シャドーボール』を撃ち相殺させようと考え、ナッシーとサイドンはグリーンの前に立ちグリーンごと覆うように『まもる』を展開させる。

 これでなんとか防ぎきれるだろう。そう考えていた。

 

 しかし甘かった───怒り狂った伝説のポケモンはこんなことでは止まりはしなかった。

 

 まずグリーンを狙った『シャドーボール』が急激に上昇し、吸い込まれるようにフーディンへ着弾した。残りの『シャドーボール』はそのまま真っ直ぐ『まもる』にぶつかり、内部を衝撃が襲う。

 防ぎきったと思い、『まもる』を解除させたら直ぐにフーディンをボールに戻す。

 

 フーディン、よくやってくれた……すまない。

 

 ボールをしまい、辺りを見回すがミュウツーの姿は見えない。一体どこに───と警戒していると背後から『スピードスター』の強襲にあう。ナッシーが身体を張って防いでくれたが、この一撃で体力がかなり削れてしまったようで膝を着く。

 振り向くと念力で辺りに散らばっていた無数の岩石を持ち上げたミュウツーが空中を浮遊していた。

 

 まずっ、『まもる』だ!!

 

「グオオ!」

 

 大量の瓦礫がまるで滝のように降り注ぐ。いくら『まもる』の障壁が防いでくれているとはいえ、障壁内部の衝撃と振動までは防いでくれない。しかもその中でグリーンとナッシーを守らなければならないサイドンの精神力はガリガリと削れていく。

 一分か、もしかしたら三十秒かもしれない、長く短い攻撃の時間が終わった。ようやく止まったのかとサイドンに『まもる』を解かせグリーンが安堵していると突然ナッシーが『タネばくだん』を撃った。

 するとグリーンのすぐ数メートル後ろで『シャドーボール』とぶつかり爆発した。

 

「ギャオオ!!ギャ───」

 

 助かったナッシー、と言う暇もなくナッシーの胴体に三発の『シャドーボール』が突き刺さる。

 

 ナッシー!?くそっ、ウインディ!頼む!!

 

 戦闘不能になったナッシーをボールに戻してウインディを繰り出す。ウインディは牙を見せてミュウツーを威嚇する。

 

 ウインディ!ミュウツーの視界を隠すように『かえんほうしゃ』!

 

「ガルァアア!!」

 

 扇状に広がる火焔がミュウツーを飲み込む。ミュウツーの姿が見えなくなるが、それはほんの僅かな時間でウインディの炎を切り裂いて姿を現す。

 ミュウツーが腕を掲げると手のひらを中心に空間が渦を巻き圧縮される。『サイコキネシス』の応用だろうか、放たれる圧力(プレッシャー)が桁違いだ。まともに受けては無事ではすまないのは火を見るより明らかである。

 

 サイドン、もう一度『まもる』だ。

 

「グオウ!……ガ、オ?」

 

 サイドンが技を使おうとするが、何度やっても『まもる』は発動しない。

 

 なんで……PP(エネルギー)切れには早いだろ!?

 

 困惑しているグリーンを後目に渦を巻いた漆黒のエネルギーが周囲の空間を歪めながら飛来してくる。それに気づいたサイドンがグリーンを守るために身体を挟み込ませる。

 

「グォオオ!?」

 

 しかしあまりの威力にサイドンが吹っ飛ばされる。その余波も凄まじく、砂塵が巻き起こり、衝撃波と一緒にグリーンを襲う。

 

 サイドン…!うわあっ!?

 

 余波を受け、数メートル転がされ幾つか擦り傷を作る。吹き飛ばされた際に瓦礫にぶつけたのか身体中が痛む。

 

 ぐ………もどれ、サイドン。頼むピジョット。

 

「クルワァ!!」

 

 俺を背中に乗せて、飛んでくれ!

 

「クワァ!」

 

 ピジョットの背に捕まり飛翔する。そろそろミュウツーを捕獲する動きに切り替えないとこちらが全滅してしまいそうだからだ。

 

 ウインディ!『ほのおのうず』でミュウツーの足を止めろ!!

 

「ガウ!ルルォウ!!」

 

 ウインディの口から吐かれた火炎がミュウツーを取り囲み渦と成る。『まきつく』や『しめつける』と同じくバインド効果のある『ほのおのうず』だ。これで少しは時間が稼げるだろう。その隙にとグリーンは残りの2体のポケモンを繰り出す。

 

 あともう少しだ!頼んだ、カメックス!!ライチュウ!!

 

「ガメガメェ!!」

「ヂュヂュイ〜」

 

 残った手持ちを総動員して勝負を決めにかかる。グリーンを乗せているためピジョットは攻撃に参加出来ないがその代わりに身軽なライチュウがいる。

 

 カメックス!渦ごと撃ち抜け!『れいとうビーム』!!

 

「ガァ、メエ!!」

 

 二つの砲身から冷気を纏った光線が射出される。光線は渦を貫いてそのまま壁を穿つ。それと同時に炎が消え右肩の上部が凍りついたミュウツーが姿を現す。ミュウツーが放つプレッシャーは更に激しさを増しており、ここにいる全員を殺さんばかりの目で睨みつけてくる。

 

 スゥ、と息を吸い、止める。

 

「───オオオオオオオ!!!」

 

 ビリビリと鼓膜と身体が打ち震える。そして咆哮とともにミュウツーの傷が癒えていく。『じこさいせい』だ。しかし傷は癒せてもスタミナを回復することは出来ない。『じこさいせい』を使うにはかなりのスタミナも消費する。回復できるのはあと二、三回が限界だろう。

 

 さあ、正念場だ。気張れよ!ライチュウ!『10まんボルト』!!

 

「ヂュッ!ラ〜ヂュ〜!!」

 

ライチュウの頬にある電気袋がバチりと火花を散らし、電撃が放たれる。ミュウツーはその電撃を念力で受け止めこちらに向かってきた。

 そこにウインディが立ち塞がる。

 

 左側から回り込んで『すてみタックル』だ!!

 

「ガァウ!!」

 

 凍りついている右肩では攻撃に対応することが出来ず、念力は今『10まんボルト』を受け止めている。

 完全に入った!グリーンの予想は簡単に覆された。

 

「ガウゥ!?」

 

 ウインディとミュウツーの間に透明な壁が差し込まれており、攻撃が届かなかった。それどころか空中で身動きの取れないウインディに、今まで念力で受け止めていたライチュウの電撃をぶつけた。

 

「グルオォ!!」

「ヂュイ!?」

 

 ウインディ!くっ、『10まんボルト』を止めるんだライチュウ!

 

 指示通り放電を止めるが、ウインディにかなりのダメージが入ってしまった。しかもミュウツーにダメージは与えられていない。

 

 やっぱりあの念力、厄介だな…それに素早い動きも止めたい……ライチュウ、近づいて『でんじは』を当てるんだ!

 

「ヂュイ!」

 

 鳴き声とともに電気袋を鳴らして地を駆ける。ミュウツーは近づかせないために念力で周囲の岩を持ち上げて放り投げてきた。

 

 ウインディはライチュウのカバーだ!『りゅうのいかり』!

 

「ガウ!グルオォ!!」

 

 ウインディの口内から青白い光が溢れ、吐き出される。それは龍の形を模して岩石を噛み砕きながらミュウツーへ迫る。が、ミュウツーはそれを『シャドーボール』で相殺させた。

 

 その間にライチュウが『でんじは』を当てられる距離にたどり着いていた。バチバチと音を鳴らして細い電撃がミュウツーの体に当たる。

 

「ヂュッ!」

「オォ…!?」

 

 まひ状態になったミュウツーは力が入らないのか地面に膝を付いた。それを体力が減っているからと勘違いしたのか『じこさいせい』で身体の傷と痺れを癒そうとするが、傷を治すだけで麻痺は取れない。

 

 まひで自由に動けない今がチャンスだ!カメックス!!最大出力の『ハイドロポンプ』を撃てぇ!!

 

「ガァ…メァア!!」

 

 二つの水の砲撃が放たれる。とてつもない水量はエネルギーと比例し、その威力は最強の技と言わしめた『はかいこうせん』すらも凌駕する。

 飛沫を散らしながらミュウツーに迫り、砲撃が身動きの取れないヤツに直撃───しなかった。

 

「バオォォ……!!!」

 

 ミュウツーは『バリアー』で砲撃を防いでいた。しかし薄い防壁は激しい水の砲撃に耐えられないのかピキ、ピキ、と罅が入っている。

 

 カメックス!もっとだ!もっと力を出せ!!

 

「ガメェ……!!」

 

 グリーンの言葉を聞いて更に出力を上げるカメックス。ミュウツーはその勢いに押され地面を削りながら後退していく。しかしまだ、まだ足りない。もう一押し何かがあれば───

 

「ヂュウゥ〜!!」

「ガルゥオオ!」

 

 近くで待機していたライチュウとウインディが電撃と火炎をミュウツーに放つ。左右それぞれ逆方向から放たれた二つの攻撃がミュウツーを襲う。

 水の砲撃を防御するのに精一杯なミュウツーは二匹の攻撃を防ぐことが出来ず、雷炎を喰らった。そのせいで『バリアー』の力が弱まり、砲撃が防壁ごとミュウツーを貫く。

 

「バオ───」

 

 これでおしまいだ…!吹っ飛べミュウツー!!

 

 三タイプの攻撃をそれぞれ喰らいながら吹き飛ばされたミュウツーは身体が埋まるほどの勢いで壁にぶつかった。

 

 ………終わった、のか?

 

 グリーンは警戒しながらピジョットにミュウツーに近づくよう頼む。

 距離にして5メートル程の位置で確認するが、目は閉じられており意識がないように見える。「今ならいける」と思ったグリーンはピジョットから降りると、バッグからマスターボールを取り出して構える。

 

 これで…おしまい、だっ!!

 

 ボールを振りかぶり、投げる。ポケモンにぶつかるとボールが開き、ミュウツーが収納される。地面に落ちて、一度大きく揺れると「カチッ!」とポケモンを捕まえた時の音が聞こえた。

 そう。あのミュウツーを捕まえたのだ。

 

 あれだけの激戦を繰り広げてきて最後がこんなあっさりしたものなのか、とグリーンは拍子抜けする。

 ボールに近づき中を確認する。そこにはミュウツーが体を丸めて眠っている姿があった。それを見て、やっとミュウツーを捕まえた実感が湧いてきた。

 

 捕まえた……ミュウツーを、捕まえた………!はははっ!!やった!やったぞ!!ミュウツーを捕まえたんだ!!

 

 ボール片手に暫く喜んでいたグリーンは落ち着いたのかジッとボールを見つめる。

 

 これで、レッドに勝てる……。

 

 そう呟くとミュウツーをボールから繰り出した。先程まで寝ていたミュウツーは驚き辺りを見回す。そんなミュウツーをよそにグリーンは話し始める。

 

 これから俺がお前のトレーナーだ。俺の手持ちとして戦ってもらうぜ。

 

 その言葉を聞いてミュウツーはゆっくりと立ち上がる。そしてグリーンに向けて、右手を突き出した。

 瞬間、頭が割れるような痛みがグリーンを襲う。のたうち回る自分のトレーナーを見て、ライチュウとピジョットはグリーンに駆け寄り、カメックスとウインディはミュウツーに攻撃しようとするが、全員金縛りにあったように身体が動かなくなる。

 

 痛む頭の中、グリーンは脳内に送られてくるテレパシーに耳を傾ける。

 

 

 

 

 

『ニンゲンガニクイ』

 

 

 

 

 

『ジブンヲクルシメタニンゲンガニクイ』

 

 

 

 

 

『コロサナケレバ』

 

 

 

 

 

『ニンゲンハコロサナケレバナラナイ』

 

 

 

 

 

『ソノタメニ』

 

 

 

 

 

『オマエハドウグトナレ』

 

 

 

 

 

 その言葉を最後に、グリーンの意識は暗転した。

 

 


 

 

┏━━━▪━━━-━━━━┓

つづ■からぴザジる  ┃

さ縺、かょAじパんズ ┃

ボーて× 9ュツー  ┃

━━━━━━━━━◼━┛

 

━━━━━━━━━━━┓  ┃

┃しゅじ

んこう B■uル ー ┃

┃もってジギズA  5f こ┃

┃イ゛びまギず8Oん ◼き┃

┃ぷれいジカン  00:00┃

┗━━━おわり━━━━━━━━━┛



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レポート:9『レッド』

┏━━━━━━━━━━━━┓

つづきからはじめる  ┃

┃ さいしょからはじめる ┃

┃ せっていを かえる  ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう   レッド ┃

┃もっているバッジ  8 こ┃

┃ポケモンずかん 149ひき┃

┃プレイじかん  60:00┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 


 

 

 レッドがチャンピオンとなり、図鑑を完成させてからしばらく経ち、グリーンと連絡がつかなくなってから一ヶ月が過ぎた。

 幼馴染であり生涯のライバルでもあるグリーンのことをレッドが心配に思わないわけもなく、レッドはチャンピオンとしての業務もこなしながらカントー地方中をくまなく探した。

 しかしグリーンを見つけることは叶わなかった。それもそのはず、グリーンはハナダにある『ななしのどうくつ』でミュウツーを捕獲しようとしていたからだ。同時にミュウツーを捕獲するためのレベリングも行っていたので滅多に外に出ることは無かった。しかもハナダジムのジムリーダーであるカスミには「自分の特訓の邪魔をされたくない」と言った理由で誰にも話さないように頼んでいる。

 

 もちろんそんなことをレッドが知る由もなく、今日も見つからなかったと落ち込みながらマサラタウンにあるオーキド博士の研究所に向かっていた。

 

 研究所に到着し、『そらをとぶ』を使わせていたリザードンをボールに戻して扉を開ける。パソコンに向かい合っているオーキドの姿を見つけた。オーキドは扉が開いたことに気づき椅子に腰掛けたまま振り向く。

 

「おおレッドか。どうだった?」

「すいません博士。今日も見つかりませんでした」

 

 項垂れながら先日と同じ言葉を話す。最近はここに来て話す第一声が謝罪になりつつある。

 オーキドはレッドの様子から察していたのか労いの言葉を掛けて椅子に座るよう促した。

 

 カップを取り出して自分とレッドの分のコーヒーを注ぐ。

 

「ほれ、これでも飲みなさい」

「あ、ありがとうございます」

 

 両手で受け取り「あちち」とこぼしたレッドはカップに息をかけて冷ましながらチビチビと啜る。

 頃合いを見てオーキドが口を開いた。

 

「それで、今日はどこを探したんだ?」

「はい。今日は目撃情報があったトキワシティを初めに『トキワのもり』を探しました。まあ、見つからなかったんですけど…」

「そうか……ふーむ、あのバカ孫は連絡もよこさずにどこで何をしているのか」

 

 呆れ顔でオーキドはマグカップに口を付ける。コーヒーのほろ苦さが口に広がり思考をクリアにしていく。

 

「警察にはまだ話さないんですか?」

「ん?ああ。あいつは『鍛え直してくる』、と言っていたからな。もし今もそれを続けていたら邪魔をするだけになるだろう?」

「それは、そうですけど……」

 

 博士はグリーンのことが心配じゃないんですか?

 

 喉まで出かかったその言葉を飲み込む。レッドがオーキドの目下にくっきりとついていた隈に気付いたからだ。

 自分の実の孫が行方知らずになっているのだ、心配にならないわけがない。

 レッドは膝の上で拳を強く握り自分の浅い考えを責めた。

 

「おや、コーヒーが無くなってしまった…む?」

「誰でしょう?俺が見てきますよ」

「おおすまんな」

 

 扉が叩かれる音が聞こえオーキドが向かおうとするのを制してレッドが代わりに出る。オーキドは腰を上げてコーヒーメーカーの前まで移動してカップに新しいコーヒーを注ぐ。

 

「は、博士!」

 

 丁度注ぎ終わったところでレッドが慌てた声でオーキドを呼んだ。何事だと振り向くとそこには───

 

「傷だらけのライチュウが!」

 

 気を失ったボロボロのライチュウを抱えたレッドがいた。

 

 

◇◇◇

 

 

 直ぐに回復装置を起動させてライチュウの傷を癒す。ただしボールが見当たらなかったのでポケモンセンターのように完全に回復させることは出来ない、応急処置程度である。

 

「ライチュウの容態が安定したらポケモンセンターに連れていこう」

「はい………博士、このライチュウは一体誰の手持ちなんでしょう?」

 

 初めは野生のポケモンだと思い緊急事態のため捕まえようとしたのだがライチュウはボールを受け付けなかった。これは既に誰か他のトレーナーに捕まえられていることを示している。

 しかしそこで分からないのが『ライチュウがここまで傷ついている』ということだ。

 通常、ライチュウはピカチュウに『かみなりのいし』という特定のポケモンを進化させる進化石を与えないと進化しない。進化石はとても特殊な鉱石でフレンドリィショップでは販売されておらず、『おつきみやま』などと言った特殊な山や洞窟でしか手に入らないものだ。だから野生のピカチュウがライチュウに進化することは限りなくゼロに近い。

 それに先程図鑑で確認したところ、Lv70と非常に高いレベルだった。今までレッドが見てきた野生のポケモンは高くても精々50レベル前後といったものだった。例外として伝説のポケモンがいたが、それは割愛する。

 これらのことからこのライチュウが誰かの手持ちであり、尚且つそのトレーナーの実力がかなり高いことが読み取れる。

 

 オーキドはライチュウの身体に付いている傷をまじまじと見る。

 

「この傷は岩をぶつけられて出来た傷だな。…これはツタか?いやこの感じはエスパータイプ特有の念力で締めつけた跡……レッド、図鑑は完成してたな?」

「は、はい。カントー地方の伝説を含む全てのポケモンを記録してあります」

「うむ、ならいわタイプとエスパータイプのポケモンを調べてくれんか?このライチュウがどんなポケモンと戦ったのか、どこから来たのか分かるかもしれん」

 

 レッドは言われた通り図鑑で検索をかける。まずいわタイプで絞り、次にLvが高いポケモンが生息している分布に絞る。

 図鑑に表示されたのは3匹のポケモン。ゴローン、ゴローニャ、サイドンだ。レッドはオーキドにこの検索結果を見せる。

 

「うーむ……でんきタイプの技を無効化できるゴローニャ、サイドン辺りと戦闘になったと考えるのが妥当だろうか?次はエスパータイプを調べてみてくれ」

「はい。えっと……あ、出ました。どうぞ」

 

 検索するタイプをエスパータイプに変えて再び検索をかける。するとスリーパー、ヤドラン、ナッシー、フーディンの4匹のポケモンが出てきた。図鑑を見て渋い顔でオーキドは唸る。

 

「どのポケモンもこのライチュウにここまでダメージを与えられるようには思えんな…」

「エスパータイプで強いポケモン……」

 

 その時、レッドの頭の中で既視感が現れる。ふと呟いた言葉をどこかで見た気がしたからだ。

 

「なんだったっけ……」

「レッド、どうした?」

「ああいえ、なんでもないです。それより、ライチュウの意識が戻ったら図鑑を見せてみましょう。もしかしたら何か分かるかもしれません」

「うむ、そうだな。暫く待ってみよう」

 

 オーキドと会話しながらもレッドの思考は別のところにあった。

 

 

◇◇◇

 

 

 結局ライチュウが目覚めたのは翌日だった。それでも完全回復とはいかず、最低限歩けるようになったくらいだった。ボールを通せばボール内部にある生命維持装置がポケモンセンターの役割を果たして回復してくれるのだが…ボールがなければ意味が無い。

 

「なあライチュウ、目が覚めたばっかで悪いんだけど、ちょっと俺の話を聞いてくれないか?」

「ヂュ?」

 

 レッドが声をかけるとライチュウは首を傾げた。

 

 それからレッドはライチュウに何故ここに来たのか、何故あんなに傷ついていたのか、トレーナーは誰なのかという質問をした。しかしやはりというか、人間とポケモンでは意思疎通の限界があり明確には分からなかった。

 

「うーん……こんなところかなあ」

 

 ここに来たのは無我夢中で走っていたから覚えてない。

 

 傷ついていたのは強いポケモンと戦ったから。

 

 トレーナーは男で、レッドと同じくらいの年齢。

 

 その情報を纏めたはいいがやはりこれと言った手がかりは得られなかった。

 レッドが考え込んでいると、オーキドが受話器を下ろした。どうやら通話が終わったようだ。

 

「レッド、どうだった?何か分かったか?」

「いえ…これと言ったものは特に……そっちはどうでした?」

 

 聞かれてオーキドは頷いてコピー用紙を差し出す。

 

「これは?」

「うむ。グリーンのポケモン預かりシステムの使用履歴だ。マサキに頼んで調べてもらった」

 

 ポケモン預かりシステムとはトレーナーがポケモンを預けて管理できるパソコンのシステムのことで、マサキというのはそのシステムを管理している管理人だ。

 

 使用履歴は一ヶ月前から止まっており、その時グリーンが連れ出したポケモンはゲンガー、ストライク、ライチュウの3匹。預け入れしたのは█████だけ。

 

「ってライチュウ……?まさか!?」

「恐らくお前の考えてる通りだろう。ライチュウ、君のトレーナーはこの少年ではないか?」

 

 そう言って懐からグリーンの写真を取り出してライチュウに見せる。するとライチュウは驚いた顔をしてコクリと首を縦に振った。

 思わぬ形でグリーンの手がかりを見つけた。が、ここで疑問が生まれる。

 

 残りのグリーンの手持ちはどこへ行ったのか?

 

 ライチュウは逃げてきた。あのグリーンが育てたポケモンが逃げなければならなかった。それほど強いポケモンと戦ったのだ。

 

「強いポケモン……敵わない……手に負えない……」

「ふむ、とりあえずライチュウをポケモンセンターに連れていかなければならんな。レッド、トキワシティまで連れて行ってくれんか?」

「あ、はい。分かりました、っと」

 

 バッグを肩にかける際に口が開いていたらしく、いくつか道具を落としてしまった。顔に手を当てて「あちゃー」と漏らし、直ぐに拾おうとしたところをオーキドに呼び止められる。

 

「む?レッド、その石はどこで手に入れた?」

「え?これは確か……ポケモンタワーでお爺さんを助けた時にお礼として貰いました」

「その老人の名前は?」

「ええと、確かフジじいちゃんとか、フジ老人とか呼ばれてました」

「何!?フジ老人だと!?」

 

 ポケモンタワーでの出来事を思い出しながら話すとオーキドが驚く。レッドが首を傾げるとオーキドは説明を始めた。

 

「フジ老人とはかつてポケモン研究の第一人者であったフジ博士のことじゃ。彼は特にポケモンの遺伝子や進化について研究していたのだが、ある日ポケモン研究の分野から姿を消した……」

「なんでですか?」

「人為的に強いポケモンを作ろうとしたからじゃ。しかしそれから音沙汰がなくなっての、調査隊がフジ博士の屋敷を尋ねた時には既に屋敷は何者かに壊されておりもぬけの殻だったようだ」

 

 屋敷。その単語を聞いて点と点が繋がったように閃く。

 

「博士、そのフジ博士の屋敷ってグレン島にあったんじゃないんですか?」

「おお、よく知ってるな。そうだ、彼はグレンタウンを拠点にしていた。しかしレッド、何故お前がそのことを知っている?」

「前にグレンタウンに行った時、ポケモン屋敷と呼ばれる所に寄ったんです。そこで俺はある研究者の日記を見つけました。その日記には、ミュウとミュウツーと呼ばれるポケモンについて書かれてありました」

 

 それからレッドは日記の内容について話し始めた。

 

『7月5日

ここは南アメリカのキアナ。ジャングルの奥地で新種のポケモンを発見』

 

『7月10日

新発見のポケモンを、私はミュウと名付けた』

 

『2月6日

ミュウが子供を産む。産まれたばかりのジュニアをミュウツーと呼ぶことにした』

 

『9月1日

ポケモン、ミュウツーは強すぎる。ダメだ、私の手には負えない』

 

 レッドが話し終えるとオーキドは顎に手を当てて「うーむ」と唸り、それから口を開いた。

 

「もしかしたらグリーンはそのミュウツーを捕獲しに行ったのかもしれんな……一ヶ月前くらいにハナダシティの近くで強いポケモンが現れたという噂がたったのを知っているか?」

「いえ、今初めて聞きました」

 

 レッドはチャンピオンとしての仕事がありつい最近まで業務に追われていた。ハナダによることもなかったので知らなくても仕方ない、とオーキドは思い噂について話し始めた。

 

 話を聞いたレッドは表情を変えた。笑顔だ、グリーンと戦った時のような血が滾り心が荒ぶる時に見せる、挑戦的な笑み。

 チャンピオンの業務には勿論ポケモンリーグで行うポケモンバトルもあった。しかしレッドの元まで勝ち上がってくるものはおらず、レッドは未だにチャンピオンとして戦ったことがない。

 

「ハナダシティですか……ライチュウをポケモンセンターに送ったら行ってみます」

「ああ、頼んだぞ。そうだ、ハナダに行く前にまたここに戻ってきてくれんか?この石について少し調べてみる。もしかしたらポケモンに深く関わるものかもしれんからな」

「分かりました」

 

 オーキドは青と黒の大きな石と虹色のビー玉のような石を抱えて研究所の奥へ歩いて行った。それを見送ってレッドはライチュウに話しかける。

 

「じゃあライチュウ、これからポケモンセンターにいくためにリザードンに乗るんだけど、うっかり放電なんかしないでくれよ?」

「ヂュウ〜」

「ハハハ、冗談冗談。ごめんって」

 

 『そんなことしないよ』と不満そうになくライチュウにレッドは笑いながら謝る。

 そうしてレッド達はトキワシティに飛んで行った。

 

 

◇◇◇

 

 

 ポケモンセンターに到着したレッドはリザードンをボールに戻してセンターの中に入り、ジョーイさんに話しかける。

 

「すいませーん。ライチュウの治療をお願いしたいんですけど」

「はい。では一旦ボールに閉まってもらってもよろしいですか?」

「あ、すみません。このライチュウ……他のトレーナーのポケモンらしくて、昨日傷だらけでやってきたところを保護したんです。でもボールが見当たらなかったので完璧に治療することが出来なくて……」

「そうでしたか……分かりました!ボール外での治療をさせていただきますね!その代わり少々お時間を貰うことになるのですが、よろしいですか?」

「はい、大丈夫です。じゃあライチュウ、大人しくするんだぞー」

「ヂュ〜」

 

 係のジョーイさんがタンカを押してラッキーとともにやってきた。タンカの上にライチュウを乗せて見送る。ライチュウは恐らく肯定の意味合いの鳴き声を返してくれた。

 治療の時間などれくらいかかるのか聞こうとレッドが再びカウンターの方を向こうとした時、センターの入口から慌てた大きな声が聞こえた。

 

「どいてくれ!急患なんだ!!」

 

 青年、風貌からエリートトレーナーであることが分かる。青年は手持ちらしきカイリキーとともに傷だらけのフーディンを抱えていた。

 それを見たジョーイさんが慌てて駆け寄る。

 

「ど、どうされたんですか!?」

「歩いていたら倒れているのを見つけたんだ!かなり衰弱してる!直ぐに治療を!!」

「分かりました!タンカを持ってきます!それまで座席に横にさせておいてください!」

「分かった!」

 

 ジョーイさんはタンカを取りにセンターの奥へ行き、青年とカイリキーがフーディンをそっと座席に寝かせる。周りのトレーナーは邪魔しては悪いと思って遠巻きに様子を見守っている。

 そんな中、レッドはフーディンに歩み寄っていた。

 

「フーディン、もしかしてお前……グリーンのフーディンか?」

「………!」

 

 フーディンがレッドの声に気づく。直後、レッドの脳内に肯定の意思が送られてくる。フーディンのテレパシーであろう。

 

「やっぱりか…グリーンはどうした?」

「………」

 

 風景が映る、洞窟だ。その次に映るのは見たことも無いポケモン。そして次々とやられていくフーディン達。最後に映されたのはグリーンだった。

 

「今のは───いや、今のがミュウツーか」

「……」

 

 肯定。

 

 

「フーディン達はミュウツーと戦い、敗北した」

 

 否定。

 

「え?じゃあ───」

「お待たせしました!タンカの上に乗せ変えます!!」

 

 話を遮ってジョーイさんがタンカを持ってやって来た。そう言えばフーディンは瀕死の状態なんだと思い出す。

 青年と息を合わせてフーディンを移し替える。そしてラッキーとジョーイさんがタンカを押しながらやって来た道を戻って行く。

 

「あ!フー───」

 

 頭の中にある地形が映される。洞窟だ。フーディンが最後に場所を教えてくれたのだ。

 

 洞窟、ミュウツーがいるであろう洞窟を思い浮かべる。その最中にエリートトレーナーの青年が話しかけてきた。

 

「さっきのフーディンはキミの知り合いのポケモンなのかい?」

「え?あ、そうです。フーディンを助けてくれてありがとうございます」

「いや、礼には及ばないさ。ただそれなら他の街のセンターも見に行った方がいいかもしれない」

「なんでですか?」

 

 青年はカイリキーをボールに戻して話を続けた。

 

「最近、高レベルのポケモンが何匹もポケモンセンターに担ぎ込まれることが多いんだ。しかもそのどれもがさっきのフーディンみたいに瀕死の重体で、トレーナーのポケモンらしい。けどそのトレーナーもトレーナーのボールも見つからなくて困ってるようなんだ」

 

 青年の話を聞いてレッドは驚愕する。そして青年に詰め寄った。

 

「担ぎ込まれたセンターってどの街ですか!?教えてください!!」

「あ、ああ。ええと確かヤマブキシティ、シオンタウン、タマムシシティだったかな?」

「ヤマブキにシオンにタマムシ……あの、ハナダシティにはいないんですか?」

「ああ。この一ヶ月で今言った街を回ってきたから言えるんだけど、ハナダシティでは聞かなかったな。もしかしたら僕が旅をしている間に担ぎ込まれたポケモンがいるかもしれないけどね」

「そう、ですか。ありがとうございました!」

 

 レッドは青年にお礼を言うとダッシュでポケモンセンターを飛び出して行った。その姿を見て、青年は不思議そうに首を傾けた。

 

 

◇◇◇

 

 

 それからレッドはタマムシシティ、ヤマブキシティ、シオンタウンのポケモンセンターを回った。そこには青年の話通りトレーナー不明の高レベルのポケモン達が入院していた。

 

 タマムシシティにはナッシー、ヤマブキシティにはサイドンとストライク、シオンタウンではウインディとゲンガー、どのポケモンも一度戦ったことのあるグリーンのポケモン達だった。

 ゲンガーとストライクに関してはグリーンのポケモン預かりシステムの使用履歴に書かれていたポケモン達と一致するので、十中八九グリーンのポケモンだろう。

 

 しかしレッドは彼らを連れて帰ることはしなかった。

 各センターのジョーイさん達に聞いてみたところ、グリーンのポケモンは回復したのだが、そのポケモンのトレーナーでなければ引き取ることが出来ないことが規律で決められているらしく、グリーンの本人確認も取れない状況なのでレッドにポケモンを預けることは出来ないということらしい。

 

 仕方が無いのでレッドはリザードンの『そらをとぶ』でマサラタウンに帰った。

 

 オーキドの研究所に入るとオーキドと助手の女性がレッドに気づき、手を挙げた。

 

「おおレッド。してどうじゃった?」

「はい…実は色々あって……」

 

 そしてレッドは事のいきさつをオーキドに話した。話を聞いたオーキドは渋い顔で事実確認をしてくる。それに対してレッドは頷いて答える。

 

「本当ですって。ただカメックスとピジョットは見ませんでした。まだハナダシティにある洞窟で身を潜めているのか、それともまだグリーンの元にいるのかどうかは分かりません」

「そうか……レッド、年寄りのわがままをもうひとつ聞いてもらってもいいかの?…グリーンを連れて帰ってきてくれるか?」

「はい!任せてくださいよ」

 

 溌剌とした笑顔で胸を叩くレッドにつられてオーキドもまた笑顔を浮かべた。

 

 

◇◇◇

 

 

「そう言えば、あの石って結局なんの道具なのか分かりました?」

 

 レッドの言葉を聞いてオーキドは思い出したように返事をする。

 

「おおそうじゃった。あの2つの石についてなんじゃがなんとも不思議なものでのお。まず青と黒の石の方はリザードンの遺伝子があることが分かった。そしてリザードンに近づけると強く反応する。うろ覚えじゃが、フジ博士の研究のひとつに確かそんなものがあったようなはずなんじゃ……」

「はあ……」

「そういうわけだから、この石のひとつはリザードンに持たしておきなさい」

「もうひとつは?」

 

 石をレッドに渡し、もうひとつの小さめな虹色の石も渡してオーキドは再び話す。

 

「虹色の石の方はあまり分からなくてのお…取り敢えずはレッド、お前が持っていればいいだろう」

「分かりました」

 

 青と黒の石をリザードンに持たせて、自分はポケットに虹色の石を入れておく。重要な話はだいたい話し終えたと思い、ミュウツーに挑むパーティを変える。

 オーキドからパソコンを借りてポケモン預かりシステムを起動させる。今回の相手は伝説のポケモンで、未知の相手だ。なので公式戦のパーティではなく伝説のポケモンを含めた変則的なパーティにする。

 

 しようとしたところで今ボックスに送ろうとしていたボールが揺れる。レッドが不思議に思い見てみると、中のポケモンがボール越しに強い意志を込めた視線をぶつけてきた。

 

「お前も戦いたいのか?」

 

 レッドの問いに、コクリと頷き返事をする。

 

「…そうか、分かった!一緒にグリーンのやつを連れ戻そうな!」

 

 「任せろ!」と言わんばかりにガタガタとボールが揺れた。

 

 パーティを整えていざハナダへ、と研究所を出ようとしたレッドをオーキドが引き止める。

 

「そうだレッド、こいつらも連れて行ってやってくれんか」

「これは……」

 

 2つのモンスターボールを渡され中のポケモンを確認する。

 

「博士、こいつらって───」

「頼んだぞ、レッド」

 

 そう言うとオーキドはレッドに背を向けて研究室へ戻って行った。

 残されたレッドは困惑しながらもバッグにボールをしまって研究所を出た。

 

 それからレッドは150番目のポケモン、ミュウツーをを捕獲するため、そしてグリーンを連れ戻すためにハナダシティへ向かった。

 

 

◇◇◇

 

 

 一方、『ななしのどうくつ』では1人の少年が洞窟には似合わない石造りの立派な椅子に腰をかけていた。手持ち無沙汰なのか、片手でボールを投げてはキャッチする動作を繰り返している。

 

「早く来い……レッドォ……!!」

 

口元に、三日月のように裂けた笑みを浮かべた。

 

 


 

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう   レッド ┃

┃もっているバッジ  8 こ┃

┃ポケモンずかん 149ひき┃

┃プレイじかん  61:00┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ここまでの かつやくを       ┃

┃ポケモンレポートに かきこみますか?┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 

 

┏━━━━┓

はい ┃

┃ いいえ┃

┗━━━━┛

 

 

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ レッドは              ┃

┃ レポートに しっかり かきのこした!┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛



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レポート:10『ブルー』

┏━━━━━━━━━━━━┓

つづきからはじめる  ┃

┃ さいしょからはじめる ┃

┃ せっていを かえる  ┃

┗━━━━━━━━━━━━┛

 

┏━━━━━━━━━━━━━┓

┃しゅじんこう   レッド ┃

┃もっているバッジ  8 こ┃

┃ポケモンずかん 149ひき┃

┃プレイじかん  61:00┃

┗━━━━━━━━━━━━━┛

 

 

 


 

 

 

 洞窟の中は、当然だが光が届かない。しかし『ななしのどうくつ』内部は明るかった。洞窟のあちらこちらに発光する石や、苔などが自生しているからだ。

 レッドはラプラスに乗って水上を進む。視線上にはぼんやりと人の影が見え、岸が近づくにつれてその姿はハッキリとしたものになった。

 岸に辿り着き、レッドはラプラスの背から飛び降りた。そしてラプラスをボールに戻して正面に座っている人物に話しかける。

 

「よおグリーン……久しぶりだな」

 

 洞窟には不似合いな装飾が施された石造りの椅子。それに腰掛けたグリーンは口を開かずただ薄らと笑みを浮かべているだけだった。

 

「お前が連絡をよこさなくなってからこっちは色々と大変だったんだぞ?それにどうしたんだよその椅子、王様のつもりかー?」

 

 冗談半分のつもりで笑いかけるが、グリーンの表情は変わらない。

 いつまでも黙りなグリーンにレッドはムッとして少し声を荒らげる。

 

「おいグリーン!」

「オレは、グリーンじゃない」

「……はあ?」

 

 やっと口を開いたと思ったら話す内容は自分はグリーンじゃない。一体どういう意味だとレッドが首を傾げるとグリーンは話を続けた。

 

「オレの名前は………ブルーだ」

「ブルーって…何言ってんだよグリーン。お前はグリーンだろ…?」

 

 グリーン、いやブルーは腰掛けていた椅子から立ち上がると腰にかけられているボールを手に取る。様子がおかしい幼馴染や初めて見るボールにレッドは困惑した。

 

「おい、どうしたんだよグリーン!」

「その名前はもう捨てた。オレの名前はブルー……レッド、貴様のリーグチャンピオンの称号を賭けてバトルだ」

 

 そう言って紫色のボールを投げるブルー。繰り出されたポケモンは───

 

「お前は!」

「そう。こいつは最強のポケモン……ミュウツー」

 

 薄紫がかった白い身体に、腹から背に向かって生えている紫色の尾。放たれる圧力(プレッシャー)は同じ伝説のポケモンであるファイアー、サンダー、フリーザーよりも強く、その瞳は恐ろしく冷たい。

 ミュウツーに対抗するため、自らを鼓舞する意味も含めてレッドもポケモンを繰り出す。

 

「いけっ!ピカチュウ!」

「ピッカァ!!」

 

 繰り出されたのはピカチュウ。頬の電気袋から電撃を出してミュウツーを威嚇する。しかしこれはピカチュウが少しでも自身の恐れを誤魔化そうと強がっているにすぎない。ミュウツーとは、旅立ち前からリーグ優勝以降も戦い続けてきた最古参であるピカチュウですら恐れる程のポケモンなのだ。

 そんなピカチュウの虚勢を見抜いてか、ブルーが提案する。

 

「レッド、ピカチュウ以外のポケモンも出していいんだぜ」

「何?」

「こいつはタダのポケモンじゃあない。伝説の、最強のポケモンだ。まさか(・・・)……ピカチュウ1匹で渡りあえるつもりでいるのか?」

 

 その言葉にレッドは沈黙する。そんなレッドを叱るようにピカチュウが鳴く。

 

「ビィカ!!」

「ピカチュウ………そうだよな、最初から負けるつもりで挑む戦いなんてないよな」

「ピカピ!」

 

 恐れを堪えて笑みを浮かべる。力強く見据えた先にはブルーが親の仇でも見るかのようにレッドを睨みつけていた。

 

「また…そうやってお前は……いつもいつも…」

「ぐ、グリーン…?」

 

 ブルーの言葉の節々には怒気が纏われている。怨嗟、嫉妬、憤怒、これでもかと言うほどのマイナスの感情が込められていた。

 

「その名前で───呼ぶんじゃねえよ!!!ミュウツー、『サイコキネシス』!!」

「バオォ」

 

 気だるげな鳴き声、けれども放たれた念動力はレッドを巻き込みかねない程の威力で地面を抉るものだった。すんでのところでピカチュウに助けられたが、先程まで自分が立っていた場所が削れているのを見て心臓の鼓動が早くなる。

 顔を青白くしたレッドを見てブルーは底冷えするような声のトーンで言葉を吐く。

 

「なんだ…?オレがお前を殺すのに躊躇するとでも思ったか?」

「ぐ、グリーン……お前、本気で…!!」

「だからオレはもうグリーンじゃない。ブルーだと言っているだろ。おいピカチュウ、お前のトレーナーは随分と理解力がないらしいな」

「ビカァ!?」

 

 主人を攻撃された怒りか、愛らしいその見た目からは想像出来ないほど低い唸り声を発する。それがどうしたと言わんばかりにグリーンは指示を出した。

 

「やれ、ミュウツー」

「オオ」

 

 ミュウツーが腕を挙げると無数の禍々しい黒い闇が球体となりピカチュウに襲いかかる。ピカチュウはそれを跳んで、屈んで、弾き返すことで耐えていた。

 

「どうした!避けてばかりではミュウツーは倒せないぞ!」

 

 そんなことは分かっている。だが考えなしに攻撃すれば返り討ちに合うのが目に見えている。だからレッドはピカチュウに指示を出せずにいた。

 

「ビィ、カッ!?」

「っ!ピカチュウ!!」

 

 捉えきれなかった『シャドーボール』がピカチュウの身体を掠める。何とか体勢を立て直したが、このままではあっという間に体力とスタミナは尽きてしまうだろう。

 

「意地張ってる場合じゃないな…!いけっ、サンダー!!!」

「ギャーオ!」

 

 刺々しい金色の羽根に、避雷針を彷彿させる鋭い嘴、雷を体現させた伝説の鳥ポケモン。

 

「サンダー、だと……!?」

「グリーン…お前だけが伝説のポケモンを持ってると思うなよ!サンダー、『かみなり』!!」

「ギャギャーオ!!」

 

 バチバチと弾けるような音に合わせてサンダーの翼が金色に光る。徐々に激しさを増していき、胸元に集められた電撃がミュウツーに降り注がれる。その威力はまさに神鳴の怒槌、まともに受ければ伝説のポケモンであろうと無事では済まない一撃であった。

 

「うそ…だろ…?」

 

 そう、普通なら(・・・・)

 

 煙が晴れ、そこにいたのは傷一つ付いていないミュウツーだった。掌からは薄い壁、『バリアー』だろう。あれでサンダーの『かみなり』を防いだのだ。

 

「『シャドーボール』」

「ギャオ、オ……!」

「サンダー!?くそっ!」

 

 六発の『シャドーボール』がサンダーの身体に炸裂し、戦闘不能になる。レッドはサンダーを

ボールに戻す。目を見開いて驚きを隠せずにいた。

 

「ハッ、なんだ。伝説って言っても大したことないな」

「……いくら『バリアー』でも完全に防ぎきれるわがない。その光、『じこさいさい』だな」

 

 淡い緑色の光がミュウツーの体全体を覆っていた。『かみなり』を受けて出来たであろう裂傷も癒えている。

 このままでは勝てないと考えたレッドはボールを3つ構えてポケモンを繰り出した。

 

 


 

 

「カビゴン、ラプラス、そしてファイヤーか……」

 

 前者の二匹はリーグで優勝したことがあるレッドの手持ちで後者の一匹はかの伝説の三鳥の一羽、ファイヤーだと言う。

 流石に四対一で勝てるかと言われれば幾らミュウツーでも断言できない。しかも相手は普通のトレーナーではなくあのレッドだ。

 

「残しといて正解だったな」

「なに?」

 

 ブルーはそう言うとおもむろに腰に手を伸ばし二つのボールを取る。それを見てレッドの表情が厳しいものに変わる。

 

「まさか…!」

「そのまさかさ、いけ。カメックス、ピジョット」

 

 ボールが開き二匹のポケモンが繰り出される。青い巨体に巨大な甲羅を背負い一対の砲身を持つカメックス、雄々しい鶏冠と翼を持つピジョット、どちらもこれまでの戦いやポケモンリーグで相対したことのあるポケモンだった。

 ただひとつ違うとすれば、二匹の目に自分の意思が宿っていないという所だろう。

 

「グリーン……お前…そいつらに何をしたんだ!!」

「何をしたと言われてもな…ミュウツーに攻撃を仕掛けてきたから少し催眠で自我を封じ込めただけだ」

「なんだと…!お前、まさかライチュウやフーディン達にも!」

「そうさ。まあコイツらが邪魔したせいで逃げ出したがな。けど、敵を前に尾を丸めて逃げるような奴らに興味はない」

 

 コイツらというのはカメックスとピジョットのことだろう。古参である二匹は最後までミュウツーの力に取り憑かれたグリーンの目を覚まそうとしたのだ。

 ……仲間を守りながら。

 

 それを吐き捨てるように言い放ったブルーにレッドは激高した。レッドだけではなく、レッドのポケモン達もそれぞれ怒りを顕にしている。

 

 

 

 

 

 

グリーン…!!

 

お前ぇええええええええ!!!!!

 

 

 

だから

 

その名前で

 

呼ぶんじゃねえっ

 

つってんだろうがぁあああ!!!

 

 

 

 

 

 二人の声に呼応して一斉に動き出すポケモン達。カビゴンはカメックスを、ラプラスはピジョットを、ピカチュウとファイヤーはミュウツーを相手にそれぞれ戦い始めた。

 

「カビゴン!『メガトンパンチ』!!」

「受け止めろ、カメックス。『ハイドロポンプ』」

「ゴオオン!!!」

 

 岩をも粉砕する拳をカメックスは軽々と受け止めると砲身をカビゴンに向け、反撃する暇も与えずに吹き飛ばした。

 

「大丈夫かカビゴン!」

「グオオ……ゴオ!」

「休ませる暇を与えるなカメックス。続けて『ハイドロポンプ』だ」

「くっ、よけろカビゴン!カビゴン!?」

 

 再び水流が放たれるがカビゴンは避けようとせずに身体で受け止めた。技の威力は凄まじく、カビゴンの巨体が仰け反るほどだった。

 

「なんで避けなかったんだ!」

「ゴォ……」

「お前、まさか俺を守るために……?」

 

 『ハイドロポンプ』の射線上にレッドが重なっていたのだ。もしカビゴンが指示通り避けていたら今頃レッドの体はバラバラになっていただろう。

 カビゴンの傷を癒すために、キズぐすりを使いきのみを持たせる。

 

「頼むぞカビゴン!」

「ゴオオ!!」

 

 大声で吠えてカメックスに向かっていく。これでカビゴンは大丈夫だろう。レッドは他の戦いに目を向ける。

 水上ではラプラスが空中を飛び回るピジョットに冷気を纏った光線を放っていた。

 

「それじゃダメだラプラス!ピジョットの動きは素早い、先読みして当てるんだ!」

「キュアー!」

 

 ピジョットの動きは確かに素早い。しかしその動きはポケモンリーグで戦った時と違い、ロボットのようにどこか規則性のある飛行だ。

 

「それなら……!ラプラス、次にピジョットが旋回したらその数メートル前に向かって技を打つんだ」

「キュ!」

 

 『ふぶき』を避けながら攻撃の体制を整え、ピジョットが旋回をした。

 

「今だ!『れいとうビーム』!!」

「アアァー!!」

 

 光線に吸い込まれるように直撃し、ピジョットは白煙に包まれる。しかし白煙を切り裂いて飛行を再開させる。

 

「いいかラプラス、今みたいにパターンを読んで技を当てるんだ。頭のいいお前なら出来るはずだ」

「キュア!」

「よし、頼んだぞ!」

 

 水上の戦いもこれで大丈夫だろう。残すはミュウツーと戦っているピカチュウ、ファイヤー達だ。

 ファイヤーはピカチュウを背に乗せミュウツーの攻撃を撃ち落としている。ピカチュウは隙を見てミュウツーに電撃を放っているのだが中々攻勢に出れていないようだった。

 

「ピカチュウ!ファイヤー!」

「ピカ!」

「クワァ!!」

 

 レッドが声をかけると二匹は嬉しそうに応える。再びブルーと相対することで拳に力が入るがゆっくりも息を吐いて緊張を解く。

 

「なあ、なんで、あんなことをしたんだ」

「何の話だ?」

「さっき言ってた……お前のポケモン達のことだ」

 

 オーキド研究所に助けを求めにきたライチュウ、ポケモンセンターに運び込まれたフーディン、ウインディ、ナッシー、サイドン、ゲンガー、ストライク。

 そして、操られたカメックスにピジョット。

 レッドはグリーンがしたとは思えなかった。あんなにポケモンに一生懸命で、ポケモンを想っていたグリーンが、相棒とも呼べる自分の手持ちポケモンを痛めつけるなんて信じられなかった。

 

 なにかの間違いなんじゃないか、そう淡い期待を持って話しかけた。

 

「言っただろ、ミュウツーの邪魔をしたからだ」

 

 期待は、期待に過ぎなかった。淡々と吐き捨てるブルーを見て「信じられない」とレッドは顔を歪ませた。

 

「お前もそんなつまらない(・・・・・)ことをいつまでも引きずるなよ。集中しろ、今は戦いの時間だ」

「つまらないこと、だと……?」

「そうだろう?ミュウツーがいればどんな奴にも勝てるんだ。そう、最強なんだよこいつは。アイツらはそんなこいつの邪魔をしたんだ。あまつさえ倒そうとした」

「お前を助けようとしたとは考えなかったのかよ」

 

 怒りを抑えきれず、震えた声で問いかける。

 

「ねえよ」

 

 バッサリと、心底興味がないように言い切ったブルーを見て、レッドの中で何かが切れた。

 

「……ファイヤー、ミュウツーを取り囲め。『ほのおのうず』」

「グワァオ!」

 

 ファイヤーがひとたび翼を羽ばたかせれば炎がミュウツーを燃やし尽くさんと取り込んだ。その火力はリーグ戦の時のリザードンとは比べ物にならず、流石は伝説と言った火力だった。

 

「熱っ…レッド、お前なにを───」

「───分からせてやる」

「なに?」

 

 熱風で髪が焼き付くことも意に介さずレッドは炎の渦に囲まれたミュウツーの横を通り、ブルーの目の前に立つ。そして───

 

「ふんっっ!!」

「がふっ!?」

 

 拳を握りしめ、親友(グリーン)の顔を殴った。

 

「こいつがどんなに強くても、俺達は負けないと、分からせてやる!!」

 

 口元から流れる血を拭い、レッドを睨みつける。

 

「……やってみろよ

 

 

これが本当に、

 

 

最後の戦いだ」



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レポート:10『ブルー』

 レッドとブルーが『ななしのどうくつ』で戦っている一方で、シオンタウンのポケモンハウスではある少女が慌てた様子で廊下を走っていた。

 

「フジじいちゃん!レッドさんが、ハナダシティの洞窟に向かったって!」

 

 書斎の扉を勢いよく開き、フジ老人に伝える。フジ老人は読んでいた本から目線を外し、思い当たる節があるのか少女の話を黙って聞く。

 

「レッドさん、大丈夫かしら?ポケモンリーグチャンピオンになったとは聞いたけど…」

「うむ……」

 

 本を閉じて窓の向こうのハナダシティの方向に目を向ける。

 

「恐らく……レッドくんのポケモン達は、奴には敵わないだろう」

「そんな!」

 

 よく知った人物が傷だらけになっている姿を想像して、少女は悲痛な叫びを上げる。

 

「勝機があるとすれば……」

 

 

◇◇◇

 

 

「ファイヤー、フリーザー、タイミングを合わせるんだ!!『だいもんじ』『ふぶき』!!!」

「クワァオ!」

「クルァア!!」

 

 右から大地を焼き焦がす業火が、左からは海を凍てつかせる氷河が、それぞれミュウツーに降り注ぐ。

 

「『サイコキネシス』で受け止めろ」

「オォ」

 

 両手から念力が放出され炎と氷を空中に制す。

 

「反転させてぶつけてやれ」

 

 ファイヤーに『ふぶき』が、フリーザーに『だいもんじ』がぶつけられる。普通なら効果は今ひとつであるこおりタイプの技でも、伝説のポケモンであるフリーザーが放った『ふぶき』は相性不利などお構い無しにファイヤーのHPを削り取った。効果抜群である『だいもんじ』を食らったフリーザーもその翼を地に落とした。

 

「ファイヤー!フリーザー!」

「これでお前が持っていた伝説の三鳥も戦闘不能だな」

「けど、まだ負けたわけじゃ……!」

「負けだよ」

 

 後方で爆発音が鳴り響く。振り返るとカビゴンが瓦礫に身体を埋まらせて倒れていた。その近くではカメックスが砲身を向けている。

 直ぐにボールを取り出してカビゴンを戻す。あともう少し戻すのが遅ければカビゴンはどうなっていたのだろうか、そう考えるとレッドの背筋に冷たい汗が流れる。

 

「そうだ、ラプラスは───」

「ちっ、相打ちか」

 

 ブルーの言葉通り、ピジョットが放った『ブレイブバード』を受けたラプラスは戦闘不能になっていた。ピジョットも自傷ダメージを受けて気絶していた。

 

「戻れラプラス!」

 

 ラプラスをボールに戻したレッドはブルーを睨みつける。

 

「……おい、ピジョット…戻さないのかよ」

「さっき言っただろ。弱いやつに、負けたヤツに興味はねえって」

「グリーン!!」

「うるさいんだよ」

 

 ブルーの声に合わせてミュウツーがレッドに向けて『シャドーボール』を放つ。それをレッドの横で控えていたピカチュウが『10まんボルト』を撃つことで相殺させた。

 

 

 

 

 

 ように見えた。

 

「ピィ───」

 

 『シャドーボール』は電撃を押しのけてピカチュウに当たり、炸裂した。

 

「ピカチュウ!!ピカチュウ!大丈夫か!?」

「ピィ…カ……」

 

 急いでピカチュウを抱き上げる。レッドの腕の中で弱々しく鳴き、ぐったりとしたまま動かなくなった。

 

「ピカチュウ……?おいピカチュウ!?しっかりしろ!ピカチュウ!!」

 

 必死に声をかけ続けるとピカチュウが抱き上げているレッドの手に触れた。「自分は大丈夫。だから心配しないで」そう言っているようだった。

 

「ゴメン…!ゴメンな、ピカチュウ……!!ゆっくり休んでくれ……」

 

 ピカチュウをボールに戻し、零れていた涙を拭って立ち上がる。

 

「次のポケモンを出せよ」

「………言われなくても、出してやるよ。いけっ!!!」

 

 仲間を傷つけられ、かつての戦友を貶された怒りを闘志に、炎に変換えて、竜は飛び出した。

 

「リザードン!!!」

「グルオオオオォ!!!」

「来るか、リザードン」

 

 リザードンは間違いなくレッドの手持ちの中で最強のポケモン。しかしミュウツーは態度を変えない。

 

「その余裕、すぐに無くしてやる!リザードン、『メガトンパンチ』!!」

「グアウ!!」

 

 翼を羽ばたかせ、助走をつけて飛び上がる。そのまま地面スレスレを飛行し、大きく拳を振りかぶった。

 

「防げミュウツー」

「バオォ」

 

 ミュウツーが手を振るうと半透明な壁がリザードンの拳を阻む。『バリアー』だ。もう片方の手には闇色のエネルギーが収束している。反撃を悟ったリザードンは直ぐに離れようとするがミュウツーの動きだしの方が早かった。

 

「『シャドーボール』」

「オオォ」

 

 一発、エネルギーに撃たれリザードンの身体が仰け反る。二発、翼と肩を撃ち抜かれ更に後退する。三発、胴体部分に放たれた『シャドーボール』が炸裂し、リザードンの身体を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた先にはレッドがいた。リザードンの身体を受け止めようとしたのだが、勢いに負けて一緒になってふっ飛ばされたてしまった。

 

 土煙が晴れる。レッドはリザードンの下敷きになっていた。

 

「いつっ……だ、大丈夫か?リザードン」

「グルゥ…」

「終わりだな」

 

 冷徹な声が響く。現在レッドは仰向けでリザードンに潰されているため身動きが取れず、ブルーのことを見上げることしか出来ない。

 

「何か言い残すことはあるか?」

 

 ブルーがレッドと目を合わせて話しかける。思えば二人がこんなに長い時間目を合わせ続けるのは初めてかもしれない。そしてレッドは気づいた。ブルーの瞳の奥に光がないことに。

 

「グリーン……お前…まさか……」

「ないみたいだな。じゃあなレッド、さよならだ」

 

 その言葉と共に、ミュウツーが闇色のエネルギーを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 パカン

 

 

 

 ボールが開き、出てきたポケモンが『シャドーボール』とレッドの間に身体を割り込ませた。

 ポケモンが『シャドーボール』を身体で受け止めると、エネルギーは霧散し、消失した。

 『シャドーボール』はゴーストタイプの技、ノーマルタイプのポケモンにはゴーストタイプの技が効かない。

 

「なんで……」

 

 二本の耳をピンと立たせ、その小さな身体でレッドとリザードンを守るように立ち塞がる。そしてつぶらな瞳でミュウツーを睨みつける。

 

「なんで、お前が」

 

 恐怖で、圧力で潰れてしまいそうな心を奮い立たせる。

 

「ここにいるんだよ」

 

 グリーン(・・・・)の問いに答えるようにポケモンは吠えた。

 

「ブイッ!」

「なあ……イーブイ」

 

 

◇◇◇

 

 

 リザードンの身体を起こしてレッドも立ち上がる。そしてグリーンからイーブイへと目線を変えて話し始めた。

 

「イーブイは、俺が育ててたんだよ」

「……あ」

「ポケモンリーグに遅れたのはそれが理由だったんだ。博士に頼まれて、あとイーブイ自身にも───」

「そういう事かよ」

 

 俯いてた顔を上げると、グリーンの瞳からは涙が流れていた。そして自嘲めいた笑いを零しながら口を開いた。

 

「そりゃそうだよな、レッドは主人公で俺はライバル。ピカチュウに次いで人気のあるイーブイ(お前)が選ぶのはそりゃ主人公だ。俺みたいな半端モンに着いて来るわけが無い」

「おいグリーン、それは違う!イーブイはグリーンの───」

「ブイ!」

 

 イーブイが体当たりしてレッドのことを押しのける。すると先程までレッドがいた場所が陥没していた。ミュウツーがクレーターを作る威力の念力を使ったのだ。

 

「グルアァ!!」

 

 レッドの身体を後ろに押しやり自身は火炎を吐くことでミュウツーとグリーンを追い払う。

 

 先程のミュウツーの攻撃をレッドは不可解に思う。自分とグリーンの会話を遮るように、グリーンに聞かれると都合の悪いことでも起こるのだろうか。

 やはり───

 

「ミュウツー……お前がグリーンを洗脳したんだな!」

 

 ミュウツーを指さしてそう言い切る。対してミュウツーはつまらないものを見るように鼻を鳴らした。

 

「グリーンがイーブイに対して深い感情を持っているから、その話を聞いたことで催眠が解けるのを恐れたんだろ!!」

「バオォ…」

 

 『黙れ』と言っているように聞こえた。しかしレッドは構わずに話し続ける。

 

「グリーン!目を覚ませ!イーブイはお前の為に強くなったんだ!!助けてくれたお前の力になるために成長したんだ!!それにイーブイだけじゃない、こいつらだって───」

「バオォ!!」

 

 ミュウツーがレッドに向かって『シャドーボール』を撃つが、それをイーブイが受け止めたのを見てミュウツーは苦々しげな顔を浮かべる。

 

「目を覚ましてくれ!!催眠なんかに、洗脳なんかに負けないでくれグリーン!!」

「お、俺は……オレは……」

 

 これまでの自分と今の自分が重なり合い混乱しているのか、グリーンは頭を抑えて地面に蹲った。イーブイがその様子を見てグリーンの元へ行こうとするのだがミュウツーがそれを許さない。

 

「『サイコキネシス』で岩石を持ち上げて投げるつもりか……!」

 

 40や50を平気で超える数の岩を念力で持ち上げレッド等に向けて投擲する。恐らくリザードンとイーブイだけでは防ぎきれないだろう。

 

「くっ……!ここまでか……」

 

 顔を俯かせ諦めるレッドを見てミュウツーはニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

「なーんて、言うと思ったか!」

「!?」

「頼む!力を貸してくれ!!」

 

 2つのボールを拡大させ宙へ投げる。ボールが開き、中から現れたポケモンが『サイコキネシス』によって投擲された岩石を砕き、叩き落とす。

 

「『つるのむち』で叩き落とせ!」

 

 そのポケモンの姿を、グリーンは知っている。旅立ちの日に受け取らず、心の奥底で後悔していた自分がポケモンリーグに挑む前に、自分の存在に償う為、博士から譲り受けたポケモン。

 

「フシギダネ!!」「……フシギダネ」

 

 奇しくもレッドとグリーンの声が重なった瞬間であった。

 

「だけど……俺にはフシギダネに顔を合わせる資格がない…」

 

 グリーンじゃなく、【自分】の存在を消したくないがために無理を言って連れていったのに、ポケモンリーグやレッドとの戦いには着いて来れないと勝手に決めつけボックスに送ったのだ。しまいにはミュウツーの力に溺れてしまう始末……これでどうしてフシギダネの顔を見れるだろうか。

 

「ダネダネ!」

「グリーン!目を背けるな!!フシギダネもイーブイと同じなんだ!お前の力になりたくて、お前を助けるために、ここに来たんだ!!」

「そう……なのか…?」

「ダネ!」

 

 恐る恐る顔を上げると、朗らかな笑みを浮かべるフシギダネと目が合った。グリーンは思わず涙が流れそうになった。

 

「フシギダネだけじゃないぜ、ほら」

 

 そう言って目線を上げるレッドを見習ってグリーンもその方向に目線を向ける。そこには先程まで投げられていた無数の岩石が一つもなかった。全て砕き、叩き落とし、防ぎきったのだ。

 

 そして砕き落とした岩が積み重なり出来た山の上で、グリーンは信じられないポケモンを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラッタ……!」

「ガガッ!」

 

 『ただいま』と言われたような気がして、グリーンの瞳から涙が零れた。



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