瑠弾のネモ (ホウカ)
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1巻
第1話 暗殺の時間


どうも、ホウカです。緋弾のアリアと暗殺教室が好きだったので、混ぜてみました。キンジが少し強化されています。よろしくお願いします。


 

空から超生物が降ってくると思うか?

映画やドラマだったらいい出だしかもな。その超生物が地球を脅かし、地球を救うために主人公が立ち上がる。そして超生物を倒し、英雄になってハッピーエンド…。いい流れじゃないか。

だが俺、遠山キンジはそんな役割はごめんだ。なぜなら現実のそれはきっと残酷で、大変に違いない。そんな役回りをするくらいなら力を出し惜しみしてでも影でひっそりと生きていたい。なので俺は、超生物なんか見たくもないし、戦いたくもない。

なのにこのクラスは……

 

 

 

「起立!」

 

日直の潮田の声が教室に響き渡る。それと同時に生徒たちが立ち上がり銃を構える。

 

「気をつけ!!礼!」

 

ーーーバババババババババババババッ

 

礼と同時にクラス全員による先生を狙う一斉射撃が始まった。

 

「おはようございます」

 

それらの弾を全部高速で避けながら挨拶するのは俺らの担任の先生だ。黄色くて丸いふざけた顔、フニャフニャで曖昧な関節。そして2メートルを超える大きい体。これを超生物と呼ばずしてなんと呼ぶだろうか。

 

「発砲したままで結構ですので出欠を取ります。磯貝君」

 

ーーーバババババババババババババババッ

こう言いながらも、クラス全員の一斉射撃を避けているのである。

 

「すいませんが銃声の中なのでもっと大きな声で」

 

そう言って名簿順に名前を呼んでいく。

 

「…遠山君」

 

「はい」

 

俺はみんなの銃の技量に合わせながら発砲する。あくまで初心者っぽく、バレないように。

なにせ俺はーーー

 

「遅刻なし…と、素晴らしい!先生とても嬉しいです」

 

「速すぎる!!」「クラス全員の一斉射撃でダメなのかよ…!!」クラスメイトが先生がやってのけたことに対して阿鼻叫喚している。

 

「残念ですねぇ。今日も命中弾ゼロです。数に頼る戦術は個々の思考をおろそかにする。目線、銃口、指の動き。一人一人が単調過ぎます」

 

一斉射撃が終わった後は先生からのアドバイスタイムだ。

 

「もっと工夫しましょう。でないと…最高速度マッハ20の先生は殺せませんよ」

 

「本当に全部避けてんのかよ先生! どう見てもこれただのBB弾だろ?」

 

前席にいるやんちゃ系イケメン男子、前原が文句を言った。

 

「当たってるのに我慢してるだけなんじゃねーの!?」 「そーだそーだ」

 

前原の言い分に便乗してクラスメイトが責め立てる。だが、そんなものは、次の一瞬でかき消されるのであった。

 

「では弾を込めて渡しなさい」

 

そう言って前原の隣の席、岡野さんの銃を取る。

(…こいつはさっき、全て避けていた。一発も当たっていない)

それはきっと俺だけがわかる、スーパースローモーションの世界だ。

 

「言ったでしょう。この弾は君たちにとっては無害ですが…」

 

引き金に手をかけ、引く。

ーーーブチッィィ

被弾した触手は床に落ち、ピチピチと動いている。

 

「国が開発した対先生特殊弾です。先生の細胞を豆腐のように破壊できる。ああ、もちろん数秒あれば回復しますが。だが君たちも目に入ると危ない。先生を殺す以外の目的で室内での発砲はしないように」

 

そう言うと、顔の色を緑と黄色のボーダーにして(っていうか顔の変色?きっも!)言うのであった。

 

「殺せるといいですねぇ。卒業までに。それでは銃と弾を片付けましょう。授業を始めます」

 

椚ヶ丘中学校3-Eは暗殺教室。始業のベルが今日も鳴る。

 

「そこで問題です木村君。この四本の触手のうち仲間はずれは?」

 

今は英語の授業中。この怪物先生は触手を使い、分かりやすく授業を進める。今は木村に問題を投げかけていたところだ。

なんで俺らがこんな状況になったのか。

 

「ね…キンジ。昼だけど出てるね、三日月」

 

今話しかけてきたのは隣の席の根本さん。髪は青色のツインテール。そして顔はお人形さんのような美少女である。

そして俺は…このようないわゆる『美少女』が苦手だ。

根本さんに言われた通り指の先を見てみると、三日月がくっきりと浮かんでいた。

 

ーーー3年生の初め、俺らは2つの事件に同時にあったーーー

 

「月が!!爆発して7割方蒸発しました!!我々はもう一生三日月しか見れないのです!!」

 

そんな世界的なニュースが流れた。そして驚くことに…

 

「初めまして。私が月を爆発させた犯人です。来年には地球もやる予定です。君たちの担任になったのでどうぞよろしく」

 

まず5・6ヶ所ツッコませろ…クラス全員がそう思ったに違いない。

 

「防衛省の烏間という者だ。まずはここからの話は国家機密だと理解頂きたい。単刀直入に言う、この怪物を君たちに殺してほしい!」

 

………は?

みんな目が飛び出たようなリアクションをしている。もちろん俺もだ。

 

「…え、なんすか?そいつ攻めて来た宇宙人か何かすか?」

 

クラスメイトの男子(三村って言ったっけ?)が質問すると、怪物は真っ赤になって怒った。

 

「失礼な!生まれも育ちも地球ですよ!」

 

「詳しいことを話せないのは申し訳ないが、こいつの言ったことは真実だ。月を壊したこの生物は、来年の3月、地球をも破壊する。この事を知っているのは各国首脳だけ。世界がパニックになる前に…秘密裏にこいつを殺す努力をしている」

 

俺たちにも分かりやすく説明してくれた後、ポケットからナイフのようなものを出した。

 

「つまり…暗殺だ」

 

そしてそのナイフを怪物の頭めがけて振るうが、当たらない…。一瞬で移動したように見える。

 

「だが、こいつはとにかく速い!殺すどころか眉毛の手入れをされている始末だ!丁寧にな!」

 

確かに烏間さんの眉毛がどんどん整っている…。

 

「満月を三日月に変えるほどのパワーを持つ超生物だ。最高速度は実にマッハ20!」

 

なるほどね…少なくとも銃弾よりは遥かに速いと…。

 

「つまり、こいつが本気で逃げれば、我々は破滅の時まで手も足も出ない!」

 

「ま、それでは面白くないのでね。私から国に提案したのです…殺されるのもごめんですが…椚ヶ丘中学校3年E組の担任ならやってもいいと」

 

何で!?

 

「こいつの狙いはわからん。だが政府はやむなく承諾した。君たち生徒に絶対に危害を加えないことが条件だ。

理由は2つ、教師として毎日教室に来るのなら監視ができるし、なによりも、30人もの人間が…至近距離からこいつを殺すチャンスを得る!」

 

 

パァン!

 

「!」

 

どうやら俺がこの怪物との出会いを思い出していたら、誰かが発砲したらしい。

 

「中村さん…暗殺は授業の妨げにならない時にと言ったはずです。罰として後ろで立って受講しなさい」

 

「すいませーん。そんなに真っ赤になって怒らなくても」

 

中村さんはいたずらがバレた子供みたいに謝っていた。

 

何でこの怪物がうちの担任に?どうして俺等が暗殺なんか?そんなみんなの声は、烏間さんの次の一言でかき消された。

 

「成功報酬は百億円!…当然の額だ。暗殺の成功は冗談抜きで地球を救う事なのだから。幸いなことにこいつは君たちをナメきっている」

 

烏間先生がそんな事を言っていると、この怪物の顔が緑のシマシマになった。

 

「見ろ!緑のシマシマになった時はナメている顔だ 」

 

どんな皮膚だよ!?

 

「当然でしょう。国が殺れない私を君たちが殺れるわけがない。最新鋭の戦闘機に襲われた時も…空中でワックスをかけてやりましたよ」

 

だからなぜ手入れする!?

 

「その隙をあわよくば君たちについて欲しい。君たちには無害でこいつには効く弾とナイフを支給する」

 

烏間先生が支持をし、防衛省の人たちが多種多様な銃と、ナイフを持ってきた。好きな型でも選べと言う事だろうか。

 

「君たちの家族や友人には絶対に秘密だ。とにかく時間がない。地球が消えれば逃げる場所などどこにもない!」

 

「そういうことです。さあ皆さん、残された一年を有意義に過ごしましょう!」

 

これが俺たちとこの怪物の出会いだった。

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

どうやら俺が回想している間に、授業が終わったようだ。

 

「昼休みですね。先生ちょっと中国行って麻婆豆腐食べて来ます。暗殺希望者がもしいたら携帯で呼んでください」

 

ドシュッ!

 

マッハ20だからええと…四川まで10分くらいで行けるのか…確かにあんなものミサイルでも落とせないわな。

どうやらそう思ったのは俺だけじゃないらしく、クラスメイトもどよめいている。

 

「しかもあのタコ飛行中にテストの採点までしてるんだぜ」

 

「マジ!?」

 

「うん。俺なんてイラスト付きで褒められた」

 

「てかあいつ教えるのうまくない?」

 

「わかるー。私放課後暗殺に行ったついでに数学も教わってさあ。次のテスト良かったもん」

 

「ま…でもさ。しょせん俺らはE組だしな。頑張っても仕方ないけど」

 

そう。タコ型の超生物で暗殺のターゲットなのに、あの先生はなぜか普通に先生してる。俺らも同じ。即席の殺し屋であるのを除けば普通の生徒だ。

けど…俺らE組は少しだけ普通と違う。

 

「…おい渚」

 

俺が飯の準備をしていると、前の席の潮田が寺坂に声をかけられていた。

 

「ちょっと来いよ。暗殺の計画進めようぜ」

 

「…うん」

 

何か引っかかるな。しかも寺坂と後ろの吉田、村松は授業に対してもやる気を示さない。いわば不良ってやつだ。潮田と仲が良いとは思えないな。

 

「キンジ!ご飯食べよ!」

 

隣から根本さんが誘ってくれるが、俺はそれを承諾してからトイレに行くフリをして潮田と寺坂たちについて行った。

 

裏庭を出た階段のところで、「暗殺の計画」とやらの作戦会議をしていた。俺はバレないように近づき、言質をとっていた。

 

(こいつら…マジかよ…)

 

どうやらこいつらの作戦は、渚に改良したBB弾のグレネードを持たせて、ナイフを持って近づかせて、爆発させるらしい。そんなことしたら潮田は火傷する上に吹っ飛ばされた影響でどこか痛める可能性が高い。

 

話の途中に、E組に来たことへの絶望や、他のクラスへの嫉妬もあり、何とまあここまで捻くれたもんで。

だがその後に潮田は先生と遭遇し、少し話した後、様子が変わっていた。どうやら本気でやるらしい。

 

昼休みは終わり、午後の授業がスタートして約5分ほど経った。

 

「お題にそって短歌を作ってみましょう。ラスト七文字を『触手なりけり』で締めてください。書けた人は先生のところへ持って来なさい。チェックするのは文法の正しさと触手を美しく表現できたか。出来た者から今日は帰ってよし!」

 

「先生しつもーん」

 

「何ですか茅野さん」

 

「今さらだけどさあ、先生の名前なんて言うの?他の先生と区別する時不便だよ」

 

俺の隣の席の根本さんに引けを取らず背の小さい茅野楓…だっけ?確かに気になるな。呼びずらいし。

 

「名前ですか…名乗るような名前はありませんねぇ。なんなら皆さんでつけてください。今は課題に集中ですよ」

 

「はーい」

 

そう言い終え、先生の顔が薄いピンク色になったその刹那。

 

ガタッと音を立てて、潮田が席を立った。

 

後ろの席から確認できたが、こいつは紙の後ろにナイフを隠し持っていた。

 

(なるほど…ナイフでカモフラージュか…)

 

おそらくそのまま接近して爆発する手はずなんだろう。

一歩、また一歩と、潮田が足を進めるにつれて、クラスの奴らが持っているナイフに気づく。

 

殺る気かーーーと

怪物の目の前にたち、ナイフを振るう…がしかし、当たり前のように手首を掴まれ止められてしまう。

 

「…言ったでしょう。もっと工夫を」

 

潮田はそのまま先生に抱きつくように体重をかける。

 

(やめろ潮田…!そんなことをしたらお前は…!)

 

気がついたら俺は席を立って走っていた。そして潮田の首飾りのグレネードをちぎり、潮田と先生の間に入り、グレネードを俺と先生の間に挟みーーー

 

バァァァン!

 

グレネードをが爆発し、耳が痛くなるような爆発音が響いた。

 

「ッしゃあ!やったぜ!!百億いただきィ!」

 

「ざまぁ!!まさかこいつも自爆テロは予想してなかったろ!!」

 

「ちょっと寺坂!渚に何持たせたのよ!」

 

潮田の隣の席の茅野が焦ったように寺坂に聞く。

 

「あ?おもちゃの手榴弾だよ。ただし、火薬を使って威力をあげてる。三百発の対先生弾がすげえ速さで飛び散るように」

 

「なっ…!」

 

「人間が死ぬ威力じゃねーよ。俺の百億で治療費くらい払ってやらァ。何故か突っ込んでいった遠山の分もな」

 

痛てててて…。あれ?そんなに痛くない?火傷もない?それになんだ?俺と潮田をおおうこの膜。先生とつながって…

 

「実は先生月に一度ほど脱皮します。脱いだ皮を爆弾にかぶせて威力を殺した。つまり月一で使える奥の手です」

 

そう言って天井に張り付いている先生の顔は、顔色を見るまでもなく…真っ暗。ど怒りだ!

 

「寺坂、吉田、村松。首謀者は君らだな」

 

「えっ、いっ、いや…!渚が勝手に…!」

 

その瞬間、ボッっと教室に強い風が吹いたと思ったら先生がみんなの家の表札を手に持っていた。今の一瞬で持って来たっていうのか…!

 

「政府との契約ですから先生は決して君たちに危害を加えないが…次また今の暗殺方法できたら…君たち以外には何をするか分かりませんよ」

 

持っていた表札をバラバラと落とし、真っ暗の顔を強張らせて言った。

 

「家族や友人…いや、君達以外を地球ごと消しますかねぇ」

 

5秒間でみんな悟った。地球の裏でも逃げられないと。どうしても逃げたければ…この先生を殺すしか!!

 

「なっ…何なんだよテメェ…!迷惑なんだよぉ!いきなり来て地球爆破とか暗殺しろとか…迷惑な奴に迷惑な殺し方して何が悪いんだよォ!!」

 

寺坂はさっきの威勢は何処へやら…腰が抜けたようで泣きながら訴えていた。

違う寺坂。こいつが言いたいのはそうじゃない。

寺坂の訴えに対し、先生は顔に○のマークを浮かばせて

 

「迷惑?とんでもない。君達のアイディア自体はすごく良かった」

 

そう言って渚の頭に触手を置いた。

 

「特に渚君。君の肉迫までの自然な体運びは百点です。先生は見事に隙をつかれました」

 

確かに、俺も少し寒気がした…。それくらい潮田はうまかったんだ。

 

「そして遠山君。君はおそらく寺坂たちの作戦に気づいていて渚君を守った。その正義感も大したものです」

 

先生がそう言うと、潮田を含め、クラスのみんなは驚いていた。

 

「ただし!寺坂君達以外は渚君を、渚君と遠山君は自分を大切にしなかった。そんな生徒に暗殺する資格はありません!」

 

今度は顔を紫にして×のマークを顔に浮かばせて言った。

そして全員の方を見て

 

「人に笑顔で、胸を張れる暗殺をしましょう。君達全員、それが出来る力を秘めた有能なアサシンだ。ターゲットである先生からのアドバイスです」

 

マッハ20で怒られて、うねる触手で褒められた。異常な教育が俺達は嬉しかった。この異常な先生は…俺らの事を正面から見てくれたから。

 

「さて問題です遠山君。先生は殺される気など微塵もない。皆さんと3月までエンジョイしてから地球を爆破です。それが嫌なら君達はどうしますか?」

 

俺らには他にすべき事がたくさんある…が、この先生なら殺意さえも受け止めてくれるだろう。

 

「その前に先生を殺します」

 

「ならば今殺ってみなさい。殺せたものから今日は帰ってよし!」

 

俺らは殺し屋。標的は先生。

 

「殺せない…先生…。あっ!名前!『殺せんせいー』は?」

 

名前で悩んでいた茅野が大きな声で提案する。

殺せんせーと俺らの暗殺教室。始業のベルは明日も鳴る。

 

「遠山君…!ありがとね。本当は嫌だったんだ。大丈夫だった?」

 

「ああ…無事だ。潮田こそ大丈夫か?」

 

「あ…うん、大丈夫!ところで名前…色々と家庭の事情があって…『渚』って呼んで欲しいな。無理にとは言わないけど…」

 

「あ、そうだったのか。分かった。これからもよろしくな、渚」

 

「うん!こちらこそよろしく!」

 

にっこり笑顔で言う渚の顔は…うーん、女にしか見えん。髪も長いし。まあそこら辺も含めて『家庭の事情』なのかもしれないしな。

 

「ところで、殺せた人から帰ってよしって…あれ見てよ」

 

席に戻り、前の席の渚が殺せんせーを指差して言った。

それに対して、俺も苦笑いするしかなかく…。

 

「今撃っても表札と一緒に手入れされるだけだな。帰れない…」

 

きっとクラス全員が思った事だろう。

そして今日渚と仲良くなることが出来て、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第2話 野球の時間

 

 

俺らに与えられた任務は…来年までにこの先生を殺すこと。成功報酬は百億円!

 

「ね、渚。杉野、今朝暗殺失敗したんだって?」

 

「うん」

 

1限開始前、前の席の渚とその隣の茅野。そして俺の隣の席の根本さんとグレネードの一件で話すようになり、今は4人でだべっている。

杉野は確か自己紹介の時に野球が好きって言ってた、元気のいいやつだったっけ。

話を聞くと、野球のボールに対先生BB弾を埋め込んで、庭の椅子に座って新聞を読んでいた先生に投げたらしい。しかし殺せんせーはボールが届くまで暇だったらしく、用具室までグローブを取りに行ってそのボールをキャッチしたらしい。

いやいや化け物すぎるだろ。

 

「それからあいつすっかり元気なくしてさ」

 

「あんなに落ち込むことないのにね。今まで誰も成功していないんだから」

 

渚と茅野が心配そうな顔で杉野を見る。

殺せない先生。ついたあだ名が「殺せんせー」

 

 

 

今日の授業が全て終わり、放課後。座りっぱなしが疲れて背伸びをしていると、烏間さんが入ってきた。

 

「どうだ。奴を殺す糸口はつかめそうか?」

 

どうやら殺しの算段がついたか聞きにきたらしい。

 

「無理ですよ烏間さん」

 

「速すぎるってあいつ」

 

学級委員の磯貝と、その後ろの席の三村が交互に言う。

 

「今日の放課後の予定知ってる?ニューヨークまでスポーツ観戦だぜ。マッハ20で飛んでくるやつなんて殺せねっすよ」

 

三村が半分愚痴のように言っていた。

 

「その通り、どんな軍隊にも不可能だ。だが君達だけはチャンスがある。奴はなぜか君達の教師だけは欠かさないのだ。放っておけば来年の3月、奴は必ず地球を爆発させる。削り取られたあの月を見れば分かる通り…その時は人類は1人たりとも助からない」

 

烏間さんはみんなの方を向き、強い口調で言った。

 

「奴を生かしておくには危険すぎる!この教室が奴を殺せる現在唯一の場所なのだ!」

 

落ちこぼれクラス俺らE組に与えられたのは…地球を救うヒーローになるチャンス。けど分からない。なんで先生が地球を爆破しようとしているのか。どうしてそんな時に…俺らのクラスに担任としてやってきたのか。

 

 

 

次の日の放課後。

 

俺は殺せんせーからの課題が遅れてしまい、居残ってやっていたら、もう教室は俺と隣の席の根本さんだけになってしまった。根本さんはこんな美少女で、かなり頭がいいのになんで俺と仲良くしてくれるのか。あとなんでE組にいるのか。

だが分からないところがあったら親切に教えてくれるので、とても助かっていた。俺の勘違いじゃなければ、俺が課題に目を向けているとき、ずっと顔を見られていた気がするが…。

 

先生に課題を出しに行くと…何やら杉野と話している様子だった。邪魔したら悪いので、校舎の陰に隠れて話が終わるまで待つことにした。

 

「磨いておきましたよ杉野君」

 

そう言って昨日の対先生野球ボールを渡していた。

 

「殺せんせー。何食ってんの?」

 

「昨日ハワイで買っておいたヤシの実です。食べますか?」

 

飲むだろ普通。

 

「飲むだろ普通」

 

杉野も俺と同意見のようだ。

 

「昨日の暗殺は良い球でしたね」

 

どうやら昨日の朝の時の話をしているようだ。

 

「よく言うぜ。考えてみりゃ俺の球速でマッハ20の先生に当たるはずがねー」

 

「君は野球部に?」

 

「前はね」

 

「前は?」

 

「……部活禁止なんだ。この隔離校舎のE組じゃ。成績悪くてE組に落ちたんだから…とにかく勉強に集中しろってさ」

 

「それはまたずいぶんな差別ですねぇ」

 

杉野は3年に進学する前までは野球部にいたらしい。だが、エンドのE組に来てしまったら、部活をさせてもらえない校則だ。

 

「…でも、もういいんだ」

 

杉野は持っていた対先生用ボールをポンポンとお手玉しながら、自分を哀れむように語る。

 

「昨日見たろ?遅いんだよ、俺の球。遅いからバカスカ打たれてレギュラー降ろされて、それから勉強にもやる気なくして、今じゃエンドのE組さ」

 

「杉野君」

 

杉野の言葉を遮るように、殺せんせーはキメ顔をして言った。カッコよくない。

 

「先生からアドバイスをあげましょう」

 

先生は「ヌルフフフフ」と笑い、杉野に襲いかかっった。

おい!生徒には危害を加えないんじゃねーのか!

一応証拠に使えると思い、ケータイのカメラで撮っていると、反対方向から渚が来た。

 

「思った以上に絡まれてる!?」

 

渚は急いで近づいて行った。

 

「何してるんだよ殺せんせー! 生徒には危害を加えない契約じゃなかったの!?」

 

渚は俺が思った事をそのまま言うが、殺せんせーはスルーし

 

「杉野君。昨日見たクセのある投球ホーム。メジャーに行った有田投手を真似ていますね」

 

「…!」

 

杉野は驚いた表情になって殺せんせーを見る。(口を触手で巻かれているため声が出せないが…)

 

「でもね、触手は正直です」

 

そう言って触手をほどき、杉野を地面に下ろした。

 

「彼と比べて君は肩の筋肉の配列が悪い。真似をしても彼のような豪速球は投げられませんねぇ」

 

なるほど。それでさっき襲ってるように見えて杉野の筋肉を調べてたのか。

 

「な…なんでそんな事断言できるんだよっ…」

 

渚が不思議そうに言うと…

 

「昨日本人に確かめて来ました」

 

そう言って渚に新聞を見せていた。

確かめたんならしょうがない。

 

「その状態でサイン頼んだの!?そりゃ怒るよ!」

 

おそらくさっき杉野にしたような感じの絡まり方でサインを頼んだのだろう。そりゃ怒られるわ。

 

「…そっか。やっぱり才能が違うんだなぁ…」

 

「一方で」

 

先生は杉野の発言を切り裂くようにピシャリと止める。

 

「肘や手首の柔らかさは君の方が素晴らしい。鍛えれば彼を大きく上回るでしょう」

 

「…!」

 

「いじくり比べた先生の触手に間違いはありません。才能の種類はひとつじゃない。君の才能にあった暗殺をしてください」

 

「殺せんせー…」

 

そう言い残して職員室に戻るため歩き出した。

 

「肘や手首が…俺の方が…俺の…才能か…」

 

杉野は自分の手首や肘を見たり触ったりして感銘を受けている。

 

おそらく先生は…杉野を思ってわざわざニューヨークに行って来たのだろう。

渚も同じことを思ったのだろうか、先生に確認しに駆け寄っていった。

なので俺もすっかり忘れていた課題提出のため、近づくことにした。

 

「先生はね、渚君。ある人との約束を守るために君たちの先生になりました。私は地球を滅ぼしますが、その前に君たちの先生です。君たちと真剣に向き合うことは…地球の終わりよりも重要なのです」

 

お…?なんか珍しく真面目な話をしてる…?

 

「…殺せんせー」

 

「採点スピードを誇示するのは分かるけどさ、ノートの裏に変な問題書き足すのやめてくんない?」

 

「にゅやッ!ボーナス感あって喜ぶかなと…」

 

いやいやむしろペナルティだろ。

渚も課題の提出をしていたらしく、課題のノートを受け取っていた。

 

 

「そんなわけで、君達も生徒と暗殺を真剣に楽しんでください、渚君と遠山君」

 

渚がハッと振り返る。

 

「…バレてたのか」

 

「ええ、君が来た時から分かっていましたよ。課題の提出ですねぇ」

 

俺もノートを提出すると5秒ほどで帰ってきた。とても5秒で書いたとは思えないほどの文字の量だ。なんか変な落書きあるし。懲りてないなこの生物。

 

「それと…先生の危害として証拠が取れなくて残念でしたねぇ」

 

「…!」

 

「先生動画撮られて恥ずかしかったので遠山君のケータイにタコのシールを貼っておきました」

 

…化け物め!とてつもなくダサいシール貼りやがって!

 

「だが君の先生を社会的に殺す作戦は他の生徒とは違い面白かった…君は証拠集めなどに向いていますねぇ」

 

ふん。そう思ってくれるならありがたい。そっちは俺の本命じゃないし、そう思わせておくのが得策だ。

 

「そうなんですよ。俺こういう風に気配消すの得意なんですよ。陰が薄いから」

 

多少自虐ネタも含めて言ったが、先生が笑いもせずにこっちをまっすぐ向いた。

 

「…いいえ。君の技術はそういう類のものではありません。君はE組で唯一…足音がない。その上君の先生への銃撃も明らかに手を抜いている」

 

俺の心臓が跳ね上がった。

 

「渚君の手前、これ以上は何もいう気はありませんが…先生としては本気できて欲しいですねぇ。君が生まれてから何をしてきたのかも、気になるところです」

 

なるほどな、なんもかんもお見通しってわけか。

こいつは、思った以上に化け物だ。スピードもそうだが洞察力、そして今渚の前で中途半端に言うことによって、渚に俺のことを聞かせようとしてるのだ。要は交渉術、そして頭も回る(普段はバカだが)。

何故だ。どうしてそこまでして本気で殺して欲しい?

 

「ま…君達じゃまだまだ暗殺の方は無理と決まっていますがねぇ」

 

ーーー俺らの先生は

超スピードと万能の触手、そしてキレる頭を備えていて、正直殺せる気がしない。

ーーーでも不思議と俺らを殺る気にさせる、殺せんせーの暗殺教室はちょっと楽しい

 

 

 

 

 

「ところで遠山君…! さっき先生が言っていたのは、どういう事なの?」

 

…この問いに、俺はなんて返そうか迷っている。だが、今はまだ知らせる時じゃない。いや、実は俺自身もよく分かっていないことの方が多い。

だから俺はーーー

 

「ああ。実はウチの親が武偵をやってて、昔銃を持たされてたんだ…」

 

武偵ーーー 武装探偵、通称「武偵」

武偵とは犯罪に対抗して設立された国家資格で、武偵免許を持つものは武装を許可される。警察とは違い、金さえ貰えばなんでもするいわば「便利屋」だ。そして武偵を作り上げるために学校も存在する。

 

「えっ!それって僕らの中でかなりの即戦力なんじゃ…」

 

「いや。俺は射撃も格闘も下手くそだったし、もうそんなことはしてないから、今は関係ない」

 

そう。ここはきっぱりと否定しておく。

 

「烏間さんに言っておいた方がいいんじゃ…?」

 

「わかった。そのうちそれとなく言っておく。だが渚。このことはクラスのみんなには内緒にしておいてくれないか。不用意に目立つこともしたくないし、銃を持った過去があるなんてみんなに知られたら、野蛮な目で見られるだろ?」

 

目立ちたくないとか言いつつ渚を助けた時は思いっきり目立っちまったがな。

 

「うん。わかった、約束する。僕は凄いと思うし、他のみんなもそう思うだろうけど、そこは遠山君の意見を尊重するよ」

 

「ああ、助かる」

 

「そっか。でも、いいな〜。僕も射撃とかナイフ術とか、もっと上手くなりたいなぁ」

 

「何言ってんだ。ーーーお前は…っ…!」

 

暗殺の才能を持っているだろ。だが決して言わない。

何故なら、さっきもらったノートの付箋に…『君も気づいているでしょうが、渚君には暗殺の才能があります。ですが言わないように!! 言ったら課題を10倍に増やします!!』と書いてあったからだ。

おそらくあのタコに考えでもあるのだろう。課題が10倍になるのもやだし。

 

「…?」

 

「お前は、上手くなると思うぞ、射撃。というか、誰でも練習すれば上手くなる」

 

「あはは。そうだね、練習頑張るよ」

 

なんかフォローになってないことを言っちまった。

 

出来ることなら捨ててしまいたい俺の戦闘の才能。そして、隣を歩くこいつは暗殺の才能。そして、この場を見ていたもうひとつの才能が、これから活躍することを俺たちはまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 




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第3話 サービスの時間

第3話になります。読んでくださりありがとうございます!


 

 

 

「いたいた」

 

「今日のおやつは北極の氷でかき氷だとさ」

 

「コンビニ感覚で北極行くなよあのタコ」

 

「行くぞ」

 

「百億円は俺らで山分けだ!!」

 

「殺せんせー!!」

 

「かき氷俺らにも食わせてよ!!」

 

今、目の前で起こっている状況を説明すると、磯貝、前原、片岡さん、岡野さん、矢田さんという陽キャ集団と何故か陰キャの俺の6人で、庭でシート敷いて北極かき氷を食べているあのタコを殺すために笑顔で近づいているところだった。

 

「おお…」

 

うわぁ、キモォ。なんか号泣しだしたんだけど!

なんでこいつは俺ら殺気に気づいているくせに嬉しがってんの?ドMなの?

 

「でもね」

 

その一言を言っている間に俺たちが持っているナイフが全て奪われた。

 

「笑顔が少々わざとらしい。油断させるには足りませんねぇ。こんな危ないナイフは置いといて…」

 

ハンカチでつかんでいた6本のナイフをボトボトと地面に置いて

 

「え…!」

 

「花でも愛でて、良い笑顔から学んでください」

 

手には花壇に埋めていたであろうチューリップが手に握らされていた。

おい!これって!俺が大事に水あげてたやつ!俺これ大事に育ててたのに!

 

「ん? ていうか殺せんせー!!この花クラスの皆で育てた花じゃないですか!!」

 

学級委員の片岡さんが俺の気持ちを代弁してくれた。そうだそうだ。イケイケ片岡さん。

 

「ひどい殺せんせー。大切に育ててやっと咲いたのに」

 

そんな他力本願の俺の横では、ポニーテールの矢田さんが嘘泣きをしていた。

 

うわぁ。この手はこのタコには効くだろうなぁ。俺も今度可愛く泣いてやろうかな。キモいからしないけど。

矢田さんの嘘泣きに案の定「すいません!今新しい球根を…!」とか言って焦りつつ、女子たちにガミガミ怒られていた。

 

それを見た磯貝と前原は

 

「なー…あいつ地球を滅ぼすって聞いてっけど」

 

「お、おう…。その割にはチューリップ植えてんな」

 

とか言ってる。全くその通りだ。

そんなことはしてるから今後ろにいる寺坂に「…チッ、モンスターが」とか悪口を言われるんだよなぁ。

隣では何やら渚がせっせとメモ帳になんか書いてるし。

 

「渚。何書いてるんだ?」

 

「先生の弱点を書き溜めておこうと思ってさ。そのうち暗殺のヒントになるかもって」

 

ほー。意識高いなぁ。いいことだ。

 

「…で、その弱点役に立つの?」

 

こら茅野さん!そんなこと言っちゃダメだよ。確かにメモの内容は『カッコつけるとボロが出る』だけどさァ!

 

 

 

 

 

 

 

俺らは、殺し屋。椚ヶ丘中学校3年E組は暗殺教室。そしてーーー

 

「防衛省から通達済みと思いますが…明日から私も体育教師でE組の副担任をさせていただきます。奴の監視はもちろんですが…生徒たちには技術面精神面でサポートが必要です。教員免許は持ってますのでご安心を」

 

「ご自由に。生徒達の学業と安全を第一にね」

 

ーーー椚ヶ丘中学校の俺ら以外は…名だたる新学校。極少数の生徒を激しく差別する事で…大半の生徒が緊張感と優越感を持ち頑張る仕組み。合理的な仕組みの学校。隔離校舎も極秘暗殺任務にはうってつけ。だが、切り離された生徒達は…たまったものではない。

 

「烏間さん。こんにちは」

 

「ああ、こんにちは」

 

今長い坂を登ってE組のグラウンドに来たこの男は防衛省の烏間さんだ。俺たちに暗殺の指導をしてくれる。

 

「明日から俺も教師として君らを手伝う。よろしく頼む」

 

「そうなんですか。じゃあこれからは烏間先生ですね」

 

「ところで奴はどこだ?」

 

「それがですね…。あの怪物がクラスの花壇を荒らしたんですけど、そのお詫びとして…」

 

「おーい!棒と紐持ってきたぞーー」

 

そう叫んだのはクラスの変態隊長岡島だ。どうやら持って来たようだ。

 

「ハンディキャップ暗殺大会を開催しています」

 

ハンディキャップ暗殺大会とは…木の枝に殺せんせーをぶら下げてロープで両手を縛り、吊るしてみんなで暗殺を行うことである。

みんなは「そこだ!刺せ!」「くそ!」などと大いに盛り上がっている。

 

「ほら、お詫びのサービスですよ?こんなに身動きできない先生そう滅多にいませんよぉ」

 

「どうだ渚」

 

「うん…完全にナメられてる」

 

くっ…これはもはや暗殺と言えるのか!!

かくいうあの生物は顔を緑のシマシマにして完全にナメきっている。

 

「ヌルフフフフ。無駄ですねえE組の諸君。このハンデをものともしないスピードの差。君達が私を殺すなど夢のまた…」

 

バキ。ボトッ。

 

 

木 の 枝 が 折 れ て タ コ が 落 下 し た

 

「……………」

 

「「「今だ殺れーーッ!!」」」

 

「にゅやーーーッ!しッしまったァ!!」

 

アホだ。アホすぎる。

 

「………弱点メモ。役に立つかもな」

 

「…うん。どんどん書いていこう」

 

「ちょっ…ちょっと待って!な…縄と触手が絡まって!」

 

この間にも皆はナイフで先生を攻撃している。

 

ドシュッ!

ついに違反とも言える上空移動をしだした。そして必至に屋根にしがみつく。

 

「ここまでは来れないでしょう。基本性能が違うんですよ、バーカバーカ!」

 

「ぬー、あと少しだったのに」

誰からともなく声が漏れた。

 

「ゼエゼエ…ハアハア……フーー………明日出す宿題を2倍にします」

 

「「「小せえ!!!!」」」

 

その後またどこか彼方に飛んでいき、見えなくなってしまった。

 

「逃げた…」

 

「でも今までで1番惜しかったよね」

 

「この調子なら必ず殺すチャンスが来るぜ!」

 

生徒達は何か感覚をつかんだように口々に言っていた。

 

「やーん、殺せたら百億円何に使おー♪ 遠山君は何に使いたい…?」

 

さっき一緒に先生に襲いかかったうちの1人、ポニーテールの矢田さんが俺にそんなことを聞いてきた。実はさっきの暗殺に誘ってくれたのも彼女なのだ。もしかしたら陰キャを1人にさせまいという天使のような優しさかもしれん。あ、美少女だから俺にとっちゃ悪魔か。

 

「んーそんな額考えた事もないな。でもやっぱりそんなに多くならない程度にみんなで山分けしないと生活狂いそうだしなぁ…奨学金と高校の入学金と授業費だけもらって後は返金でいいんじゃないか?」」

 

いけね。何真面目に答えてんだ俺。つまんない奴だと思われるだろ。

だがそれを聞いた矢田さんは感心したような態度だった。

 

「遠山君て…すごく考えが大人っていうか…なんていうか、すごくかっこいいね」

 

…なに? …大人?…カッコいい…?オーマイゴット。

 

「あ?…そそそうかな?優しいんだな矢田さんは」

 

やばい、めっちゃパニクって噛みまくってしまった。

俺がそう言うと、矢田さんもなぜか顔を真っ赤にしてとても恥ずかしそうに俯いた。

そして絞り出すように

 

「そ…そんなことないよ。遠山君はかっこいいって言われ慣れてるかもしれないけど…」

 

そう言って、そそくさと去っていった。その後を目で追っていたら、人気のないところで胸を押さえていた。顔が赤いまま。

え?俺と喋ったせいで気持ち悪いってこと?だとしたら萎え

 

「いてっ」

 

誰だ俺が考えている間に対先生用ナイフを俺の頭に当ててきた奴は。成敗してくれる。

 

「って、根本さん!?」

 

「もー…キンジのスケコマシ」

 

ドクっと心臓が跳ね上がった。ん…なんでだ?ああ…彼女が可愛いからか。

 

「え…それってどういう」

 

「ふん!」

 

可愛らしくそう言って去ってしまった。まずい、なぜか一気に2人の女子から嫌われた気がする。なんで!どうして!

 

「どう?殺せんせーは殺せそう?」

 

またじょ…しに似てるけど実際は男子の渚が聞いてきたので、俺は迷うことなく言い放った。

 

「殺すさ。殺す気じゃなきゃあの先生とは付き合えない」

 

 

ーーー不思議だ。生徒の顔が最も活き活きしているのは…標的が担任のこのE組だ

 

 

 




誤字脱字、感想意見等ありましたらよろしくお願いします!


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第4話 基礎の時間

今回からカルマ参戦です


 

 

いっちにー。さーんし。ごーろっくしっちはっち。

そんなありきたりな掛け声が響き渡る。ここは椚ヶ丘中学校3年E組…暗殺教室だ。

 

「四方八方からナイフを正しく触れるように!どんな体勢でもバランスを崩さない!」

 

烏間先生からの的確なアドバイス。俺たちは暗殺のためのナイフ術を教わっていた。

 

「晴れた午後の運動場に響くかけ声。平和ですねぇ」

 

なぜか体操服を着ている殺せんせーが、グラウンドにやって来た。ターゲットの目の前で暗殺の練習をしてるってどうよ?

 

「この時間は何処かに行ってろと言っただろう。体育の時間は今日から俺の受け持ちだ。追い払っても無駄だろうがな。せいぜいそこの砂場で遊んでろ」

 

烏間先生がそう言うと殺せんせーは涙を滝のようにダバダバ流し始めた。きもい。

 

「ひどいですよ烏間さ…烏間先生。私の体育は生徒に評判良かったのに」

 

「嘘つけよ殺せんせー」

 

呆れながら言ったこの男は菅野。あまり話したことがないが、高身長で暗殺にも積極的な男子だ。

 

「身体能力が違いすぎるんだよ。この前もさ…

 

『反復横跳びをやってみましょう。まずは先生が見本を見せます』

 

!?

 

『まずは基本の視覚分身から。慣れてきたらあやとりも混ぜましょう』

 

できるか!!!

 

的なことあったし…」

 

「異次元過ぎてね〜」とギャルっぽい中村さん。

「体育は人間の先生に教わりたいわ」と杉野が口々に言った。

 

生徒の声に先生は『ガーーーン』とショックをうけてから、シクシク砂場に移動していった。

 

「やっとターゲットを追っ払えた。授業を続けるぞ」

 

「でも烏間先生、こんな訓練意味あるんスか?しかも当のターゲットの目の前でさ」

 

やんちゃなイケメン、前原がごく自然な質問をした。

 

「勉強も暗殺も同じことだ。基礎は身につけるほど役立つ………例えばそうだな。磯貝君、前原君、そのナイフを俺に当ててみろ」

 

「え…いいんですか? 2人がかりで?」

 

「そのナイフなら俺たち人間に怪我はない。かすりでもすれば今日の授業は終わりでいい」

 

「え、えーと…そんじゃ!」

 

そう言って前原も磯貝もナイフを振るうが…当たらない。

 

「さあ」

 

「くっ!」

 

バッ ヒュ ガッ ヒュ ビシ

ナイフは全て空を切るか、さばかれていた。

 

「このように多少の心得があれば素人2人のナイフ位は俺でもさばける」

 

「おお」「すげー」クラスメイトからも感嘆の声が漏れる。

 

最後は2人同時に優しく投げ技を決めて倒した。

 

「俺に当たらないようではマッハ20の奴に当たる確率の低さが分かるだろう。見ろ!今の攻防の間に奴は…砂場に大坂城を造った上に着替えて茶まで立てている!」

 

「「「腹たつわぁ〜」」」

 

烏間先生は2人を起こしつつ

 

「クラス全員が俺に当てられる位になれば少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々。体育の時間で俺から教えさせてもらう」

 

キーンコーンカーンコーン。

そう言って授業が終わったのであった。

 

「烏間先生ちょっと怖いけどカッコいいよねー」

「ねー!ナイフ当てたらよしよししてくれんのかな〜」

 

前からはクール美女速水さんと、ゆるふわ天然美女の倉橋さんがそんな会話をしていた。なんかこのクラス可愛い人多くないですか?

 

「キィー!ひょっとして私から生徒の人気を奪う気でしょう」

 

「ふざけるな。『学校が望む場合…E組には指定の教科担任を追加できる』 お前の教員契約にはそういう条件があるはずだ」

 

後ろからはこんな会話が聞こえてきた。へぇー。って事はもしかしたら暗殺にかこつけて教師が増えたりするって事か。

 

「俺の任務は殺し屋達の現場監督だ。あくまでお前を殺すためのな」

 

「『奴』や『お前』ではありません。生徒が名付けた『殺せんせー』と呼んでください」

 

どうやら教師同士もバチバチのようだ。

 

 

 

「6時間目小テストかー」

 

「体育で終わって欲しかったよね」

 

一緒に戻っている渚に愚痴をこぼしながら帰っていると…

 

「…!」

 

「カルマ君…帰ってきたんだ」

 

校舎の入り口には赤髪の好青年とも言える見た目の少年が紙パックを飲みながら立っていた。

 

「よー渚君久しぶり。隣は…?」

 

「遠山キンジ君だよ」

 

「わ、あれが例の殺せんせー?すっげ本当にタコみたいだ」

 

どうやら俺の名前を聞いたにもかかわらず、興味はないらしい。

こいつの名前は赤羽業。業でカルマと読む。俺は関わりがないのであまり知らないが、かなりやんちゃして停学になったらしい。すぐに俺たちに興味を失い、殺せんせーの元へと向かっていった。

あいつ…殺る気か…?いや、おちょくりの方が正しいか。

 

「赤羽業君…ですね。今日が停学明けと聞いていました。初日から遅刻はいけませんねぇ」

 

「あはは。生活リズム戻らなくて」

殺せんせーが顔色を紫にして×印を浮かべた。

 

「下の名前で気安く呼んでよ。とりあえずよろしく先生!」

 

そう言って手を差し出した。

 

「こちらこそ。楽しい一年にしていきましょう」

 

先生もガッチリと触手で手を繋ぐ。

すると…

 

ドロォ。先生の手の部分が溶け出した。先生が動揺したその隙に、赤羽は隠し持っていたナイフを出し、思い切りぶち込んだが…先生は超スピードで距離をとった。

どうやら先生はマジでびびったらしい。その証拠に避けるんじゃなくて、超スピードでとにかく距離をとった。

 

「…へー。本当に速いし、本当に効くんだこのナイフ。細かく切って貼っつけてみたんだけど」

 

そう。すれ違う時に気づいたがこいつは手に対先生用ナイフを仕込んでいた。

 

「けどさぁ先生。こんな単純な『手』に引っかかるとか…しかもそんなところまで飛び退くなんてビビり過ぎじゃね?」

 

…初めて殺せんせーにダメージを与えた生徒。

 

「殺せないから『殺せんせー』って聞いてたけど…あッれェ?せんせーひょっとしてチョロイひと?」

 

ピキピキピキ。先生の顔が高揚して怒っているのがわかる。

 

「渚…俺、学校に来てから日が浅いからよく知らないんだが…赤羽ってどんなやつなんだ?」

 

「うん…1年2年が同じクラスだったんだけど、2年の時に続けざまに暴力沙汰で停学食らって、このE組にはそういう生徒も落とされるんだ。でも…今この場じゃ優等生かもしれない」

 

「…?というと?」

 

「凶器とか騙し討ちとかの『基礎』なら…多分カルマ君が群を抜いている」

 

赤羽はニヤリと不敵に笑いながら校舎に入っていくのであった。

 



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第5話 カルマの時間

 

 

 

ブニョン。ブニョン。

 

「さっきから何やってんだ殺せんせー?」

 

「さぁ…」

 

今は6時間目。体育での眠気を抑えながら歴史の小テストをやっている。殺せんせーはというと、さっきの赤羽のやつが悔しかったのか壁にパンチしている。

 

「壁パンじゃない?」

 

「ああ…さっきカルマにおちょくられてムカ付いているのか」

 

「触手がやわらかいから壁にダメージいってないな」

 

小テスト中なのに会話が聞こえてくる。今それを注意できないほどこの超生物は凹んでいるわけだ。強いんだか弱いんだか。

 

「ブニョンブニョンうるさいよ殺せんせー!!小テスト中なんだから!!」

 

「こっ!これは失礼!!」

 

ついに最前列の岡野さんにキレられてしまう始末だ。

 

「よォ、カルマァ。あのバケモン怒らせてどうなっても知らねーぞー」

 

「またおうちにこもってた方がいいんじゃなーい?」

 

こらこら、後ろも私語が激しいぞ。そして何やら寺坂組がカルマを煽っている様子だった。

 

「殺されかけたら怒るのは当たり前じゃん。寺坂、しくじってちびっちゃった誰かの時と違ってさ」

 

「な!ちびってねーよ!!テメ!ケンカ売ってんのか!」

 

先に煽った寺坂が逆にカルマに煽られて、机をドンっと叩いていた。やめろっちゅーに。

 

「こらそこ!!テスト中に大きな音立てない!!」

 

あんたは自分の触手にも言ってくれ。

 

「ごめんごめん殺せんせー。俺もう終わっちゃったからさ。ジェラート食って静かにしてるわ」

 

カルマがどこからかジェラートを出してペロッと舐め始めた。

 

「ダメですよ授業中にそんなもの。全くどこで買って来て……」

 

!!!

 

「そっ!それは昨日先生がイタリア行って買ったやつ!!」

 

 

お前のかよ!

 

「あ、ごめーん。職員室で冷やしてあったからさ」

 

「ごめんじゃ済みません!!溶けないように苦労して寒い成層圏を飛んで来たのに!!」

 

「へー……で、どーすんの?殴る?」

 

「殴りません!!残りを先生が舐めるだけです!!」

 

いやそこはあげないんだ。

先生はさっきから冷静さを失っている。今もカルマの方にズンズンと近づいて行っている。そのまま進むと…

 

バチュッ!!!

 

「!!」

 

対先生用BB弾が床にばら撒かれていた。

 

「あっはーまァーた引っかかった」

 

パンパンパン

 

先生が床に驚き動じている隙にカルマは3発発砲する。もちろん全て避けたが、もしや…という感じだったぞ

 

「何度でもこういう手使うよ。授業の邪魔とか関係ないし。それが嫌なら…俺でも俺の親でも殺せばいい」

 

持っていたジェラートを殺せんせーの服にベチャっとつけて押し付け

 

「でもその瞬間から、もう誰もあんたを先生とは見てくれない。ただの人殺しモンスターさ。あんたという『先生』は…俺に殺されたことになる」

 

そう言ってテスト用紙を先生に投げ渡したのだった。

 

「はいテスト。多分全問正解。じゃね『先生』〜明日も遊ぼうね!」

 

 

 

 

 

渚に聞いたところ、赤羽は頭の回転が凄く速い。

今もそうだ。先生が先生であるためには超えられない一線があるのを見抜いた上で殺せんせーにギリギリの駆け引きを仕掛けている。

けど本質を見通す頭の良さと、どんな物でも扱いこなす器用さを人とぶつかるために使ってしまう。

 

今までは相手が良かったかもしれない…だが今回は違う。次元が違いすぎる。きっと赤羽は近いうちに先生に『手入れ』されてしまう。そんな気がした。

 

 

 

「じゃーな渚!遠山!」

 

「じゃあな杉野」「うん!また明日〜」

 

椚ヶ丘駅前北口。杉野は電車通学ではないが、帰り道が駅まで同じため、俺と渚と杉野の3人で一緒に帰っていたところだった。

 

「…おい。渚だぜ」

 

「!」

 

2人組が渚に声をかけてきた。

渚の反応を見る限り知り合いらしい。

どうやら他クラスの友達らしい。

 

「なんかすっかりE組に馴染んでんだけど」

 

「だっせぇ。ありゃもぉ俺らのクラスに戻ってこねーな」

 

「しかもよ、停学明けの赤羽までE組復帰らしいぞ」

 

「うっわ最悪。マジ死んでもE組落ちたくねーわ」

 

こいつら、友達でもなんでもなく、ただ単に突っかかってきただけか。

 

ガシャッ!

 

「えー死んでも嫌なんだ。じゃあ今死ぬ?」

 

俺が何か注意しようとしたら赤羽が現れ、空き瓶をコンクリートの柱にぶつけて割った。おいおい、一応駅だぞここ。

 

「あっ赤羽!!」

 

「うわぁっ!」

 

どうやら俺が瓶の後処理について考えている間に逃げてしまったらしい。恐るべし赤羽。

 

「あはは。殺るわけないじゃん」

 

「…カルマ君」

 

「ずっと良いおもちゃがあるのに、また停学とかなるヒマ無いし。でさぁ渚君。聞きたいことあんだけど。殺せんせーの事ちょっと詳しいって?」

 

「…うん。まあちょっと」

 

「あの先生さぁ、タコとか言ったら怒るかな?」

 

「…タコ?うーん、怒りはしないと思うけど…どう思う遠山君」

 

「タコか…むしろ逆なんじゃないか?自画像タコだし。ゲームの自機もタコらしいし」

 

この前なんて校庭に穴掘って…顔だけ出して「タコつぼ」っていう一発ギャグやってたくらいだからな。くそ寒かったけど。

 

「先生にとってちょっとしたトレードマークっていう感じじゃないか?」

 

「…ふーん…そ〜だ!くだらねー事考えた」

 

「赤羽…次は何を企んでるんだ?」

 

「ん?…ああ、カルマでいいよー。それより俺さぁ嬉しいんだ。ただのモンスターならどうしようかと思ってたけど、案外ちゃんとした先生で……ちゃんとした先生を殺せるなんてさ。前の先生は自分で勝手に死んじゃったから」

 

「…?」

 

勝手に死んだ?自殺したって事か…?

赤羽…いや、カルマの中で死んだってことか…?

 

 

次の日。俺がトイレから出たら目の前に殺せんせーがいた。なんかブツブツ言ってるぞ。

 

(……ここからなら…殺れるか……?」

 

いや、今はよそう。まだ、な。

 

「…計算外です。ジェラートを買う金がないとは……給料日まで収入のアテも無し。自炊するしかありませんねぇ。調理器具なら校舎の倉庫に揃ってるし」

 

……バカなの?なに?昨日出て行ったけど結局お金がないのに気づいて戻ってきたってこと?行く前に確認しないの?

しかもなんで地球を破壊する超生物が「給料日まで…」みたいな社畜まがいなこと言ってんの?

ホント抜けてるというか、アホというか。

 

「おはようございます。殺せんせー」

 

「ああ遠山君。全く気が付きませんでした。おはようございます」

 

「ジェラート買うお金もない給料日まで水飲み百姓のカルマにおちょくられた殺せんせーが、自分の接近に気がつかないほど落ち込んでるなんて」

 

「ヌルフフフフ。ついに遠山君まで私をバカにしてくるとは。君もそろそろ『お手入れ』が必要ですねぇ」

 

「冗談ですよ。勘弁してください」

 

HRに向かう先生とそんな世間話をしながら教室に入ると、何やら雰囲気が…。

 

「おはようございます。…ん?どうしましたか皆さん?」

 

「…!」

 

なんか教卓に本物のタコが乗っかんてるんだが。しかもナイフで頭を貫通され、机にぶっ刺さっている。

 

「あ、ごっめーん!」

 

やっぱお前かカルマ。大胆というかなんというか。

 

「殺せんせーと間違えて殺しちゃったぁ。捨てとくから持ってきてよ」

 

やめろよ!タコうまいじゃん!もったいないって!

そんなコジキを発動した俺をよそに、殺せんせーは何秒か沈黙した後、タコをつかんだ。

やめとけ、赤羽。どうせナイフでも隠し持っているんだろうけど、こいつの前では無意味だ。

 

先生は触手の先端をドリルの形状に変え、何やら高速で動き出した。

 

「見せてあげましょうカルマ君。このドリル触手の威力と、自衛隊から奪っておいたミサイルの威力を!」

 

さらっとやばいこと言うなって!ミサイルって奪って手で持つものだっけ?

 

ドリュ ドッドッド ドリュ

 

「先生は、暗殺者を決して無事では帰さない」

 

「!!」

 

次の瞬間、赤羽の口にはタコ焼きが突っ込んであった。

 

「あっつ!!」

 

「その顔色では朝食を食べていないでしょう。マッハでタコ焼きを作りました。これを食べれば健康優良児に近づけますね」

 

「…!」

 

「先生はねカルマ君。手入れをするのです。錆びて鈍った暗殺者の刃を。今日一日本気で殺しに来るがいい。その度に先生は君を手入れする」

 

カルマを負けじと殺せんせーを睨んだ。

 

「放課後までに、君の心と身体をピカピカに磨いてあげよう」

 

どうやら今日はこの2人の面白い戦いが見れそうだ。

朝飯を食ってないのを見抜いて俺にタコ焼きをくれた先生を応援してやろうかな。

 

 

 

 

ーーー1時間目・数学ーーー

 

「どうしてもこの数字が余ってしまう!そんな割り切れないお悩みを持つあなた!! でも大丈夫。ピッタリの方法を用意しました!!黒板に書くので皆で一緒に解いてみましょう」

 

シュッ!

殺せんせーの触手がいつの間にかカルマの手を掴んでいた。どうやらカルマが不意打ちしようとしたらしいな。

 

「……………で、これを全部かっこよくまとめちゃって、それから………すると、あらびっくり………となります。ああカルマ君。銃を抜いてから撃つまでが遅すぎますよ。暇だったのでネイルアート入れときました」

 

「…!」

 

 

 

ーーー4時間目・技術家庭科ーーー

 

「不破さんの班は出来ましたか?」

 

「…うーんどうだろ。 なんか味がトゲトゲしてんだよね」

 

ちなみに不破さんというのはおかっぱで前髪ぱっつんの、ごく普通の女子だ。昼休みに俺がジャンプを読んでいた時(まあそれもどうかと思うが)、不破さんもいつも読んでいるらしく、好きな漫画で盛り上がった事があった。それ以来よく話すようになったのである。

その不破さんと俺は同じ班でスープを作っていた。

 

「どれどれ」

 

2メートル以上の体に対応したおそらく自家製の給食着をきた殺せんせーが、不破さんの鍋の味見をしていると…

 

「へえ。じゃあ作り直したら?」

 

カルマがそう言って、鍋を床に放ってしまった。だからやめろって!マジでもったいないから!

 

「…!」

 

カルマがプリキュアみたいに一瞬で変身した。ピンクの可愛いエプロンに。ハートなんてついちゃってるし。

 

「エプロンを忘れてますよカルマ君。スープならご心配なく。カルマ君着替えさせた後、全部空中でスポイトで吸っておきました。ついでに砂糖も加えてね」

 

「かわいー」「プッ」

 

こんな恥ずかしい格好をさせられたカルマはと言うと周りに笑われ、顔を赤くし、ご立腹の様子で去っていった。

 

「どうだ不破さん、味の方は」

 

「あ!!マイルドになってる!遠山君も飲んでみなよ!おいしいよ!」

 

そう言って不破さんは自分が飲んだスプーンでスープをすくい、俺に差し出してきた。

 

「え……あっ……」

 

え?これって間接キスになっちゃうじゃん!

でも当の不破さんはなんも気にした様子がない。

まあ家庭科の授業の味見だし、意識するだけ子供なのか?

しかしそれでも恥ずかしいもので、変に意識しながらも、頑張ってスプーンを咥えた。

その瞬間、キラッと強い視線を感じたぞ、二方向から。

 

「おっ!確かにうまいな、これ。何杯でもいける」

 

あの先生料理もできるのか。今度頼んでみようかな。

 

「だよねだよね!私も スプーンでなら何杯もいける気がする!」

 

そう言ってまた不破さんがスープをすくい飲んだ直後…何かを思い出したように静止してから急に顔が真っ赤になった。

え、なに。そんな辛かった?

 

「どうした不破さん。顔が真っ赤だぞ」

 

「あ、あはは〜いや〜これは気づかなかった。ちょっとトイレ行ってくる〜」

 

顔を真っ赤にしながら出て行ってしまった…。

あ…また感じたぞ、視線。2つも一緒に。どうやらこちらをチラチラ気にしていたっぽいな。

1つ目の視線は……根本さん。何故だろうか。席が隣で積極的に話しかけてくれるお人形さんみたいに可愛い子…だから正直苦手だ。

だめだ。考えても分からん。

もう1つの視線………矢田桃花さんについてはもっと分からない。不破さんと2人でジャンプの話をしていた時も矢田さんはジッとこっちを見ていたことがあった。

 

(ま…いっか)

 

今急にトイレに行った不破さんの事を含め女子のことは相変わらず分からないなと思った家庭科の授業だった。

 

 

 

 

 

 

ーーー5時間目・国語ーーー

 

 

殺せんせーは結構弱点が多い。ちょいちょいドジ踏むし、慌てた時は反応スピードも人並みに落ちる。…けど、どんなにカルマが不意打ちに長けていようが…

 

「私がそんな事を考えている間にもーーー赤蛙はまた失敗して戻ってきた。私はそろそろ退屈し始めていた。私はいくつかの石を拾ってきてーーー」

 

ガチで警戒してる先生に前では…この暗殺は無理ゲーだ。

今も先生が朗読しいる間にカルマは先生に触手で抑えられ、髪の毛を手入れされていた。

 

 

ーーー放課後ーーー

 

 

俺はついに声をかけてみることにする。

 

「カルマ。焦らずにみんなと一緒に暗殺やらないか?あいつに個人マークされたら…どんな手を使っても1人じゃ殺せない。普通の先生とは違うんだぞ」

 

「……やだね。俺が殺りたいんだ。変なところで死なれんのが一番ムカつく」

 

「さてカルマ君。今日はたくさん先生に手入れされましたね」

 

「殺せんせー…!」

 

来たのか…?いや、カルマが呼んだのか。俺は尾行してここまで来たが、殺せんせーは呼ばれたらしい。ここは校舎から少し離れた森林だ。崖が近くにあって危ないため、ここに訪れる生徒はいないだろう。

ここで暗殺をするつもりなのか。

 

「まだまだ殺しに来てもいいですよ?もっとピカピカに磨いてあげます」

 

「……確認したいんだけど、殺せんせーって先生だよね?」

 

「…?はい」

 

「先生ってさ、命をかけて生徒を守ってくれるひと?」

 

「もちろん。先生ですから」

 

「そっか、良かった。なら殺せるよ……確実に」

 

こいつ…!やりやがったか!

カルマは片手に銃を持ち崖から飛び降りたのだ!先生を殺すために。

助けに来れば、救出する前に撃たれて死ぬ。見殺しにすれば、先生として殺せんせーは死ぬ。

 

さあ…どっちの『死』を選ぶ!?…とでも思っているのだろうか。

 

ドシュシュシュシュシュ!!

 

「えっ…」

 

先生は蜘蛛の巣の要領で触手をつかい、カルマを受け止めた。

 

「カルマ君…自らを使った計算づくの暗殺、お見事です。音速で助ければ君の肉体は耐えられない。かと言ってゆっくり助ければその間に撃たれる。そこで、先生ちょっとネバネバしてみました」

 

「くっそ!なんでもありかよこの触手!」

 

どうやら予想以上にネバネバしているらしく、力ずくで動こうとしても動けないらしい。

 

「これでは撃てませんねぇ。ヌルフフフフフフフフ……ああちなみに、見捨てるという選択肢は先生には無い。いつでも信じて飛び降りてください」

 

「……はっ」

 

その言葉に…カルマは心を打たれたような…何か吹っ切れてスッキリしたような晴れやかな表情になった。

 

「カルマ…会話の途中で飛び降りることは何となく察してたけど、平然と無茶したな」

 

「別にぃ…今のが考えてた限りじゃ一番殺せると思ったんだけど。しばらくは大人しくして計画の練り直しかな」

 

「まあ、場所と会話の内容で俺でも飛び降りることは予想できたからな。あいつにもある程度予想されて、対策されてたという事だ」

 

「じゃあ聞くけど遠山ならどんな手を使ってたの?」

 

「そうだな…俺がもしカルマの立場で同じ度胸を持っていたら…お前がナイフを細かく切って手に貼っつけたみたいに、それを全身に細かく貼って…飛び降りる瞬間までコートかなんかで隠してるかな。そうでもしなきゃ先生から『命がけで生徒を守る』という言質を取ったのに普通に助けられるしな。それに飛び降りるなら片手に銃じゃなくて両手にナイフだったな。今のだって、銃を壊して落下スピードに沿って助ける…という選択肢もあったしな。ナイフだったらナイフごと触ることができない上に近くだったら銃より当てやすいからな」

 

俺のアドバイスにカルマは目を丸くして驚いていた。

 

「ほへぇ〜。なんだ、E組にもいるじゃん。面白いやつ。全然思い浮かばなかったよ」

 

「おやぁ?もうネタ切れですか?報復用の手入れ道具はまだたくさんありますよ?君も案外チョロいですねぇ」

 

イラッ。ああ、確かにこれは殺意沸くわ。カルマも同じようにイラッとしたっぽいが、さっきまでと違う。

 

「殺すさ。明日にでも」

 

健康的で爽やかな殺意に変わっていた。

 

「帰ろうぜ、遠山。帰りメシ食ってこーよ」

 

「ちょッ!それ先生の財布!」

 

「だからぁ教員室に無防備に置いとくなって」

 

「返しなさい」 「いいよー」「中身抜かれてますけど!?」

 

見事にカルマに手玉に取られているが…。

暗殺に行った殺し屋は、ターゲットにピカピカにされてしまう。それが俺らの暗殺教室。明日はどうやってやろうかな。

 

 

 

カルマが大人しくなったと思ったら今度は意外な生徒が毒を使った暗殺をしようとしていた。彼女の名前は奥田さん。メガネに三つ編みという昔ながらの外見だ。一回メガネを落としたところを拾ってあげたところがあるが、メガネを外すと化ける。つまり美少女化する油断ならないタイプだ。暗殺内容は先生に毒を飲むようにお願いするという正直なものだ。そのため軽く看破されてしまった。

 

「君の理科の才能は将来みんなの役に立てます。それを多くの人に分かりやすく伝えるために…毒を渡す国語力も鍛えてください」

 

「はい!」

 

理科の問題にも国語力が必要だと知った奥田さんは、思い切りのいい返事をした。

また1人と手入れされてしまったな。

殺せんせーの力の前では…猛毒を持った生徒でもただの生徒になってしまう。

まだまだ、先生の命に迫れる生徒は出そうにないな。

 

 

 

放課後。俺は日直なので最後まで残り、学級日誌を職員室まで出すところだった。

 

「…新しい暗殺者?」

 

おっ?

烏間先生か。どうやら誰かと電話しているようだ。

それより今聞き捨てならない言葉を聞いたぞ。

 

「……しかしながら本部長それは。生徒たちに不安を与えはしないでしょうか」

 

んー話の流れからして新しく派遣される暗殺者、生徒か教師が入るらしい。

 

「…それでその人物とは?」

 

どうか可愛い女じゃありませんように。お願いします神さ

 

「ハニートラップの達人?」

 

ガビョーン。

 

「…ええ。分かりました。世界各国の言葉を喋れる彼女は英語の教師をしてもらいます」

 

教師役で来るのか。俺ら暗殺の素人ではなく…正真正銘のプロの暗殺者が。

 

 

 

 

 

 

Go For The NEXT ‼︎

 




これで1巻分終わりです。お読みくださり、ありがとうございます。


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2巻
第6話 大人の時間


今回からイリーナ先生参戦です!


「もう5月かぁ。早いね1ヶ月」

 

殺せんせーが地球を爆破するという3月まで…残り11ヶ月。暗殺と卒業の俺らの期限だ。

俺は今登校中に不破さんと合流し、コンビニに寄っているところである。

 

「あっ…そういや俺今週のジャンプ読んでなかった…!」

 

「あ!私もだ!ちょうど予定があって買えなかったんだよね」

 

どうやら不破さんも買っていなかったらしく、足は自然と本棚の方へ向いた。

 

「おっ!デカい先生!久しぶりだねぇ」

 

「ええ。やっと給料が入りまして」

 

この声はまさか…。

 

「ねえねえ、あれって殺せんせーだよね?」

 

「ああ、めちゃめちゃ下手くそだけど一応人っぽい変装してる」

 

俺らはジャンプコーナーから見ていると、殺せんせーはここの店員と仲良く話していた。国家機密が何やってるんだか。

その後、読みたかった某忍者漫画の最初の3ページくらい見てコンビニを出た。

すると、何やら殺せんせーがガラの悪そうな人3人組から女性を助けているところだった。

なんかナンパしてた3人とも車に詰めて、リボンで車をぐるぐる巻きにしてた。ちょちょ、国家機密が目立つことするなって。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あっ……ありがとうございました!! 素敵な方!このご恩は忘れません! ところで、椚ヶ丘中学への行き方をご存知ですか?」

 

うわぁ。マジかよ。目眩がするぜ…。あれって100パー俺らの先生になるやつだろ。めちゃめちゃ美人じゃんか。しかも今のシチュエーション、中学近くの通学路で平日の朝っぱらからナンパとか、ありえねーから。

おそらくあの女教師の差し金だな。なんか目的があったんだろうが。

 

 

 

 

「今日から来た外国語の臨時講師を紹介する」

 

HRが始まり烏間先生が紹介したその女性は、殺せんせーにベタベタしていた。朝のナンパ黒幕女だ。

 

「イリーナ・イェラビッチと申します。皆さんよろしく!!」

 

「そいつは若干特殊な体つきだが、気にしないでやってくれ」

 

烏間先生は俺らに申し訳なさそうにそんなことを言っていた。確かにボンキュッボンを体現したような体つきだからな。中学生には刺激が強いぜ。

そんな烏間先生の言葉に、クラス中がヒソヒソと話し始める。

 

「…すっげー美人」「おっぱいやべーな」「…で、なんでベタベタなの?」

 

ちなみに「おっぱいやべーな」は変態・岡島だ。

 

「本格的な外国語に触れさせたいとの学校の意向だ。英語の半分は彼女の受け持ちで文句はないな?」

 

「…仕方ありませんねぇ」

 

俺ら席の近い渚、茅野さん、根本さんプラス俺の4人のだべり組も例に漏れずヒソヒソと話し合っていた。

 

「…なんかすごい先生来たね。しかも殺せんせーにすごく好意があるっぽいし」

 

「…うん」

 

「でも渚。もしかしたらこれは暗殺のヒントになるかもよ?」

 

渚はよく殺せんせーの弱点をメモしているのでそんなことを言っておいた。

 

「確かに」

 

渚はそういってメモ帳を用意した。

 

「タコ型生物の殺せんせーが…人間の女の人にベタベタされても戸惑うだけだ。いつも独特の顔色を見せる殺せんせーが…戸惑う時はどんな顔か…」

 

にっやあぁぁぁ。

 

「「「「普通にデレデレじゃねーか」」」」

 

「なんのひねりもない顔だぞ…キンジ」

 

「ああ。人間もありらしいな」

 

イリーナとかいう先生の100倍くらい可愛い根本さんもそう言って呆れていた。

 

「ああ…見れば見るほど素敵ですわぁ。その正露丸みたいなつぶらな瞳、曖昧な関節。私、とりこになってしまいそう♡」

 

「いやぁお恥ずかしい」

 

「「「騙されないで殺せんせー!!そこはツボの女なんていないから!!」」」

 

…このクラスはそこまで鈍くない。この時期にこのクラスにやって来る先生。結構な確率で…只者じゃない。

 

 

「ヘイパス!」「ヘイ暗殺!」

そんな声がグラウンドに響き渡る、昼休み。

 

「いろいろと接近の手段は用意してたけど…まさか色仕掛けが通じるとは思わなかったわ」

 

「…ああ、俺も予想外だ」

 

俺がトイレのため暗殺サッカーから抜けていると、イリーナ先生と烏間先生の声が聞こえて来た。

イリーナ・イェラビッチ。職業・殺し屋。おそらくその美貌に加え、10ヶ国語を操る対話能力で数々のターゲットに近づき、魅了して殺して来たのだろう。

 

「だが、ただの殺し屋を学校で雇うのはさすがに問題だ。表向きのため教師の仕事もやってもらうぞ」

 

ボッっとタバコに火をつけ余裕の表情でイリーナ先生は言う。

 

「…ああ、別にいいけど。私はプロよ…授業なんてやる間もなく仕事は終わるわ」

 

仕事は終わる、ねぇ…。どうだか。カルマもそうだったが、あいつは国家機密なんだぞ。烏間先生は賢いが、この先生はダメだな。少なくとも今日までに決着がつかないことは断言できるって。

 

俺は再びグラウンドに戻り暗殺サッカーに勤しんでいると、イリーナ先生が校舎を出てきた。

 

「殺せんせー!烏間先生から聞きましたわ。すっごく足がお速いんですって?」

 

「いやぁそれほどでもないですねぇ」

 

「お願いがあるの。一度本場のベトナムコーヒーを飲んでみたくて。私が英語を教えている間に買って来てくださらない?」

 

「お安いご用です。ベトナムに良い店を知ってますから」

 

相変わらずデレデレな表情でそういうと、ドシュッと飛んでいってしまった。

キーンコーンカーンコーン。

ちょうどよく授業のベルが鳴る

 

「…で…えーとイリーナ先生?授業始まるし、教室戻ります?」

 

「授業?…ああ、各自適当に自習でもしてなさい。それと、ファーストネームで気安く呼ぶのやめてくれる?あのタコの前以外では先生を演じるつもりもないし、『イェラビッチお姉様』と呼びなさい」

 

「………」

 

「……で、どーすんの?ビッチねえさん」

 

「略すな!!」

 

イリーナ先生のせいで気まずくなった空気を打破したのは、意外にもカルマだった。

 

「あんた殺し屋なんでしょ?クラス総がかりで殺せないモンスター。ビッチねえさん1人で殺れんの?」

 

「…ガキが。大人にはね、大人の殺り方はあるのよ」

 

そう言ったビッチねえさんは俺の方に前まで来て…

 

「遠山キンジってあんたよね?」

 

そう言ってキスしようとしてきた。

ひえええ。

 

「!」

 

いきなりのことに驚くが、全然かわせそうなので、スウェーで後ろにのけぞった。

 

「「「なっ」」」

 

この行動には流石に俺を含めクラス中が驚いた。特に根本さん、矢田さん、不破さん。3人は異常だ。めちゃめちゃ怖い顔してるじゃねーか。

 

「なんで避けるのよ。私からのサービスだったのに」

 

「すみません。ついとっさに。でもここは一応学校なので」

 

女性に恥をかかせたと思い謝ったが、この女はそんなことを1ミリも思わなそうだな。

 

「ふーん。まあ良いわ。後で職員室にいらっしゃい。あんた、奴に詳しいらしいじゃない」

 

「えぇ…」

 

嫌だなぁ。この人美人だし。

 

「ま…強制的に話させる方法なんていくらでもあるけどね。その他も!!有力な情報持っている子は話しに来なさい!良い事をしてあげるわよ。女子にはオトコだって貸してあげるし」

 

ザッザッザッ

今日の朝にナンパ役をしていた3人組が大きな荷物を持ってグラウンドに入ってきた。どうやら暗殺の準備をするらしい。

 

「技術も人脈も全てプロの仕事よ。ガキは外野でおとなしく拝んでなさい。あと…少しでも私の暗殺の邪魔をしたら…殺すわよ」

 

圧倒的な美貌に従えてきた強そうな男達。『殺す』という言葉の重み。彼女がプロの殺し屋なのだと実感した。

でも同時に、クラスの大半が感じたこと。この先生は…嫌いだ!

 

 

 

 

 

「さて、遠山キンジ。あなたに聞きたいことがあるわ」

 

空き部屋に連れ込まれ、ずいっと顔を寄せてきたので俺は一応持ってきたノートを顔と顔の間に挟み、盾代わりにした。

 

「殺せんせーの事ですよね。どこから話せば良いですかね」

 

「それももちろんだけど、気が変わったわ。あなた、この学校には最初からいた?」

 

「……どういうことですか?」

 

「あなたが入った学校にたまたまあのタコが来たという解釈でいいのか聞いているのよ」

 

「その解釈で合っていると思います。俺がこの学校に入ったのは2年生の3学期からですけどね」

 

「タイミングがいいわね。まさかあの怪物がくることは知ってた?」

 

「いや、知りませんでした。偶然入ったところに偶然あの怪物が来ました」

 

そう…きっとこれは偶然だ。

 

「…名簿であなたの名前を見たときは半信半疑だったけど、顔を見て確信したわ。あなた…相当強いわね?」

 

は?何を言ってるんだ、この女。俺をあの怪物を倒すために雇われた生徒だとでも勘違いしてるのか?

 

「意味が分かりません。多分戦闘で言えばカルマの方が強いと思うし、暗殺で言えば渚がずば抜けていると思います」

 

「いいえ…違うわ。あなたの昼休みの『遊び』を見て思ったけど、手を抜いているわね。きっと普段から」

 

「そんな事ありません。俺はいつだって本気です。今日の昼休みだけ見て何がわかるっていうんですか?」

 

「分かるわよ」

 

イリーナ先生は少し考え込み…数秒間の沈黙の後、口を開いた。

 

「あなた、武装検事ってわかる?」

 

「…?はい。まあ簡単に言うと戦闘ができる検事ですよね。かなり強くないとなれないっていう」

 

「そうね。その武装検事に、あなたに顔と雰囲気がそっくりだった人がいるのよ。そして…彼は私が知る限り最強の武装検事だったわ」

 

「…!まさか…!」

 

「そのまさかよ。彼の名はトオヤマコンザ。サイレント・オルゴ(静かなる鬼)の二つ名を持つ男よ。この男、あなたの父親なんじゃなくて?」

 

まさかここで父さんの話を聞くなんてな。

検事とは、ようは検察官。つまり武装を許可された検察官ということだ。

 

「そうですね。遠山金叉は父さんです。俺が覚えてないうちに死んでしまいましたがね」

 

「…そう。あなたは彼のことを何もわかっていないのね」

 

「……?」

 

「その遺伝子を継ぐあなたなら、あの程度じゃないって思っただけよ。彼も手を抜いて弱く見せていた時があったから、そこは親子で似るのかしらね」

 

いや…それはきっと違う。なんとなくだが分かる気がする。条件が整えば強くなる。そういう体質だ、俺の家系は。

 

「だから暗殺のためにあなたも派遣されたのかと思った。以上、私が聞きたいことでした。で?その答えを聞いてないのだけれど?」

 

どうやら質問を質問で返してたっぽいな。ちょっと反省。

 

「俺は遠山金叉の息子ですが、強くないです。もう一度言いますが戦闘で言えばカルマが上、暗殺で言えば渚が上です。暗殺のこともここに来てから知りました。なので『偶然』です」

 

「そう…ま、あなたにも色々と言えない事情があるでしょうから、話半分くらいに聞いてあげるわ」

 

参ったな。厄介な奴に目をつけられちまった。

 

「ところであなた、いい顔立ちじゃない。やっぱりサイレント・オルゴの息子だわ」

 

「何言ってるんですか。そういう先生こそ…そんなに綺麗なのにタバコをお吸いになるんですね」

 

「あら、いいこと言うじゃない。気に入ったわ。あなた、私からハニートラップ習ってみない?きっと才能あるわ」

 

「い、いや!それは大丈夫です」

 

そう言ってこの場を締めくくったのであった。

 

 

午後始めは英語の授業。

だがビッチ先生は授業をせずに、教壇の椅子に座って端末をいじっているだけだ。

 

「なービッチねえさん。授業してくれよー」

 

それに腹を立てたのか最前列のやんちゃイケメンの前原君が授業をするように促した。

 

「そーだビッチねえさん」「一応ここじゃ先生なんだろビッチねえさん」「ビッチねえさん」「ビッチさん」

 

それに賛同するように、クラスメイトの声が飛び交う。

 

「あー!!ビッチビッチうるさいわね!!まず正確な発音が違う!あんたら日本人はBとVの区別もつかないのね!」

 

どうやら俺たち日本人のBとVの発音がおかしいらしい。

 

「正しいVの発音を教えてあげるわ。まず歯で下唇を軽く噛む!ほら!」

 

やっと授業をしてくれる気になったらしいな。みんな言われた通りに下唇を噛んだ。

 

「…そう。そのまま1時間過ごしていれば静かでいいわ」

 

前言撤回。なんだこの授業。

結局、まともに授業にならないまま英語の時間が終わってしまった。

 

 

「イリーナ先生!」

 

ドン。

マッハで上空から着地し、殺せんせーがベトナムから帰ってきた。

 

「ご所望してたインドのチャイです」

 

「まぁ。ありがとう殺せんせー!午後のティータイムに欲しかったの!」

 

うっわぁ。先生が来た瞬間この態度の変わりよう。嫌な女だな。

 

「…それでね殺せんせー。お話があるの。6時間目倉庫に来てくれない?」

 

5時間目は体育で暗殺の授業。烏間先生が担当するのでこの2人にとっては管轄外だ

 

「お話?ええいいですとも」

 

そして先生が背を向けた直後、烏間先生に目配せした。まるで、ガキどもは邪魔だからお守りしておいてーーーとでも言うように。

その後の暗殺の授業ではさっきの英語でのフラストレーションもあり、みんな気合い十分だった。

今俺の目の前にいる速水さんも例に漏れず、クールながらも黙々と銃を撃っていた。

 

「速水さん、もしかして射撃とか得意なのか?」

 

速水さんが他の人よりも比較的射撃がうまかったので、そんな事を聞いてしまった。

 

「どうだろう。私はナイフがからっきしだから、ほぼほぼ射撃をやっている。だから他の人よりはうまいかも」

 

それにしてもだぞ、このうまさは。きっと黙々と作業ができる集中力過剰型なんだな、速水さんは。間違いなく狙撃手タイプだ。

 

「センスはあるんだと思う。だけど撃つときに肩と手首に力が入りすぎてるんだ。あとはもっと目線を照準に合わせて、こういう風に…」

 

パン パン パン

おー当たった当たった。反動ないし狙いやすいな。

速水さんはというと、全部真ん中に当てた俺の射撃の腕に目を丸くして驚いている様子だった。

 

「凄い。今まで何回もやってるけど、この距離から的に当たる事はあっても真ん中になんて当たった事ない。遠山君こそ何か習っていたの?」

 

いけね、つい遊び心でやっちまった。そりゃいきなりこんな事されたら驚かれるに決まってるじゃん。

 

「まあ、ピストルは何回も使ったことあるからな」

 

「へー。遠山君って大人っぽいのに、そういう遊びもするんだ。少し意外かも」

 

ま、俺の場合BB弾じゃなくて実弾だけどな。ピストルっていうこと自体嘘じゃないし、いちいち言わないけど。

てか俺全然大人っぽくないと思うんだが。

 

「そんな遠山君にお願いがある。暇な時に私に射撃を教えてほしい」

 

「別にいいけど…いいのか?教わるのが俺なんかで」

 

「全然なんかじゃない。でも疑問がある。なんでいつも射撃の手を抜いているの?」

 

す、鋭い。

でもいつも申し訳ないと思いつつみんなにレベルを合わせているのは事実。今、それがバレてしまったのは確実に俺の落ち度だ。

 

「手を抜いているわけじゃない。今のはマジで出来過ぎだ。あんまり買い被らないで欲しい」

 

「そんな風には見えなかったけど」

 

じー。速水さんはクールな表情で凝視してくる。疑ってるんだろうなぁ。

 

「その…速水さんみたいな美人に見つめられるとちょっと恥ずかしいんだが…」

 

俺がそう言っても速水さんは全く動じることなく俺のことを見てくる。

ぽろっ。あっ、銃を落とした。反応遅ッ。

 

「そそそそそんな適当言ってもダメ。騙されたりしないんだから」

 

「全然適当じゃないって。E組の中で一番美人なんじゃないか?いつも自分で鏡とか見た時にそういうのって思わないもんなのか」

 

カアァァァァ。

 

「そそ、そ、それ、嫌味?」

 

俺を見る目が鋭くなるが、顔がどんどん真っ赤になっている。耳まで真っ赤だ。あのクールな速水さんが取り乱したところは初めて見たな。

 

「いや…思ったことをそのまま言っただけなんだが…」

 

「は、はいはい。もういいから。とにかく、不用意にバラされたくなかったら射撃を教えること。そうしたらこの『秘密』は守ってあげる」

 

そう言って離れていってしまった。

なんだったんだよ…マジで。

 

「遠山君〜私も射撃の的使ってい〜?」

 

「あ、倉橋さん。いいぞ、今ちょうど速水さんがいなくなったし」

 

「あ…やっぱ今使ってたの凛香だったんだ…。なんか顔をものすごく真っ赤にして何処かに行ったから…遠山君がいたんなら納得だね〜」

 

え?どういうこと…?俺ってそんなに嫌われてるの…?

 

「全くも〜。顔がかっこいいと大変ですな〜。それにしてもあの凛香のポーカーフェイスをいとも簡単に崩すなんて、やるね遠山君」

 

顔がかっこいいとは…? その定義を見失いかけていた横で、倉橋さんは銃に弾を入れてポコポコ撃っている。お世辞にも上手いとは言えず、的にすら当たっていない。

 

「今日初めて遠山君と喋ってみたけど、やっぱり緊張するなぁ。緊張しすぎて的に弾が当たらないや」

 

倉橋さんがなんで緊張するのかは分からないが、俺も緊張している。話すのは初めてだし、こんな美少女と話してたらそりゃ緊張する。

 

「多分、銃が悪いんじゃないか?ほら、こっちの方が小さくてブレが少ないから撃ちやすいと思う」

 

倉橋さんはアサルトライフルを使っていたので、ハンドガンを使うように言ってみる。これはワルサーPモデルだな。

 

「おお〜確かに的に当たるようになった。なんだ、ちっこい銃の方が当てやすいんだ」

 

「近くの場合は、だけどな。もちろん遠い時は大きい銃の方がいい」

 

「おお〜なるほど。遠山君って銃に詳しいんだ?」

 

「まあ……少し好きでかじってた程度だ」

 

「じゃあじゃあ、今度暇な時でいいから私の射撃練習に付き合ってよ。遠山君射撃うまそうだし、1人でやってもつまらなそうだし…」

 

速水さんに続きそんなことを言ってくる。2人して仲よすぎかって。

 

「俺とやってもつまらないと思うぞ。それでもいいのか?」

 

「え〜?そんなことないよ〜。実際今楽しいし、やりましょうよ先輩〜」

 

誰が先輩だ誰が。こう言う感じで誰とでも仲良くなるのが倉橋さんの良いところだよな。俺もその点は学ばないと。

 

「分かった。暗殺も成功させたいしな、頑張ろう」

 

「やった〜。よろしくね遠山君」

 

うーん、美少女2人と射撃訓練か。嫌だなぁ。

 

「あ!見て見て遠山君!先生とイリーナって人、体育倉庫に入っていくよ」

 

倉橋さんに指さされた方向を見ると…殺せんせーがだらしなく笑いながらイリーナ先生について行くところだった。

 

「…私、あの女のこと好きになれないよ〜」

 

「そうだな。まあそれについては烏間先生も謝ってたしな。プロの彼女に一任しろって言う指示らしい。だが…わずか1日で全ての準備を整える手際…殺し屋として一流なのは確かだろう」

 

大方ハニートラップで誘い込んでプロの奴らに撃たせるつもりだろう。

 

「どうなるんだろう。もしこれでやられちゃったら殺せんせーにがっかりだよ。あんな見え見えの女に引っかかって」

 

「いや…それはない。断言できる」

 

「なんで?」

 

「なぜならあの3人組は…」

 

ーーードドドドドドドドドドドドドドドド

とても大きな銃声がグラウンドに鳴り響いた。生徒のみんなは心配そうに倉庫を見ている。

 

「殺せんせー…」「まさか…」

 

大丈夫だみんな。あのタコは絶対に生きてるぞ。

1分ほどして銃声が鳴り止み、シン…と静まり返る。

 

ヌルヌルヌルヌル。

「いやあああああああ!!」

 

「「「!!」」」

 

「な、何!?」

 

「銃声の次は鋭い悲鳴とヌルヌル音が!!」

 

なんだよこのヌルヌル音。

ヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌルヌル。

 

「めっちゃ執拗にヌルヌルされてるぞ!」

 

「行ってみよう!」

 

大方予想できるが、念のため確認を取りたくて、体育倉庫に生徒が集まる。

何人かが集まったあたりで、キィーーとドアが開いた。

 

「殺せんせー!!おっぱいは?」

 

ブハッ。誰今言ったの!?渚か!

なんだよおっぱいは?って吹いちまったじゃねーか。

 

「いやぁ…もう少し楽しみたかったですが。皆さんとの授業の方が楽しみですから。6時間目の小テストは手強いですよぉ」

 

「…あはは、まあ頑張るよ」

 

殺せんせーが生きていたら次はイリーナ先生だ。どんな風に手入れされているか…しばらく体育倉庫の方を見ていたらフラフラとした足取りで出てきた。

 

「「「健康的でレトロな服にされている!」」」

 

フラフラな足取りのイリーナ先生はブルマの格好をしてハチマキを巻いている。さらに無様によだれをダラダラ垂らしており目の焦点は合っていない。

 

「まさか…わずか1分で…肩と腰のコリをほぐされてオイルと小顔とリンパのマッサージされて…早着替えさせられて…その上まさか…触手とヌメヌメであんな事を…」

 

「「「どんな事だ!!?」」」

 

「殺せんせー、何したの?」

 

「さぁねぇ。大人には大人の手入れがありますから」

 

「悪い大人の顔だ!!」

 

「さ、教室に戻りますよ」

 

はーい。大半の生徒が教室に戻る中、俺はイリーナ先生を見ていた。

 

「遠山君…?どうしたの?」

 

「いや。イリーナ先生が少し気になってな。このままだと可哀想だから、せめて運んであげることにする」

 

「さすが遠山君。優しいね」

 

見下していた生徒の前で這い蹲り、恥をかかされたイリーナ先生の表情は…殺意に満ち溢れていた。

そんな彼女に俺は手を差し伸べる。

 

「イリーナ先生。一つ言い忘れていたことがありました」

 

「なによ…?」

 

「いやぁ、実は昨日殺し屋たちを見たときに、鉛の弾をたくさん持っていたので、使うだろうとは思っていたんですが。効かないということを伝え忘れてました。その事はもう試して知っていたので」

 

「…!なんで言わなかったのよ…?」

 

「伝え忘れたって言ったじゃないですか。でも、あれだけ偉そうにしてたみんなの前でこんな醜態を晒した。もうみんなも気が晴れたと思うので、どうか俺らの先生をやっていただけませんか。今ならみんなも認めるはずです」

 

もちろこれを狙ってあえて言わなかったんだけどな。

 

「みんなで一緒に暗殺を進めていきませんか。俺だって、倉橋だって、クラスのみんなだって外国人の人と授業できるのは嬉しいはずです」

 

俺は隣にいる倉橋指してそう言った。

 

「…気にくわないわ!私は殺し屋よ!次に新たな殺し屋を雇って今度こそ殺すわ」

 

俺が差し出した手をパシィ、とはじいて睨んできた。

 

「大丈夫ですよ」

 

ハアとため息をついてこの頑固な先生をおぶってやった。

 

「…なっ!何を!」

 

「ただ保健室に運ぶだけですよ。きっともうハニートラップも効きません。なので必然的に他の殺し屋を雇おうと思ったんでしょうが、他の生徒の目にも安全にも良くないのでやめてください。俺らは暗殺者の前にただの受験生ですから」

 

そして次の言葉に俺は怒気をはらんで言った。

 

「もし俺以外のクラスメイトをE組のことで馬鹿にしたり、あなたの身勝手な暗殺の被害に合わせたら…許しませんから」

 

「ーーーっ!」

 

そう。今回は運良く密室でやったが、この女の暗殺は危険なのだ。もし仮にも危なかった場合は殺せんせーが助けるだろうが万が一もある。

 

(もう嫌なんだ…仲間が傷つくところを見るのは…)

 

俺のその言葉にイリーナ先生は俺の背中に預けていた身をビクッと震わせた。

どうやら少しはビビってくれたらしい。

 

「あなた…やっぱりあいつの息子だわぁ」

 

なぜか顔を赤くしながらそう言うのであった。隣に倉橋さんがいるので是非そういう発言は慎んでほしいところだ。

 

 

 

それにしてもさっきなんだか…さっきなんだか曖昧な記憶のようなモノが……。

まあいっか。そのうち思い出せるだろ。

 

 



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第7話 プロの時間

根本さん出番少なめです…


 

 

イリーナ先生が手入れされた次の日。俺の言った言葉が少しでも効いたのか、ちゃんと授業をしてくれるらしい。どうやら心配事は一つ消えたようだな。

俺と倉橋さんは事情が分かっているが他の生徒は受け入れてくれるかどうか。

倉橋さんには昨日のことは俺の事も含めて秘密にしてもらったのだ。なぜか嬉しそうに許諾してくれたから助かったぜ。

 

(さて…授業の方はどうなるか…)

 

 

「「「出て行けクソビッチ!!」」」

 

「なっ…何よあんたちその態度!殺すわよ!?」

 

「上等だ!やってみろコラァ!!」「殺せんせーと代わってよ!!」「出てケェ!」「巨乳なんていらない!!」

 

ギャーギャーギャーギャー。

 

(やっぱりこうなったか…)

 

何故こうなったか簡単に言うと、イリーナ先生の授業は初めてと言うこともあり、少しぎこちなかった。その上会話術しか出来ずに、しかもその内容が破廉恥なものばかりで、文句が殺到したのである。

最初は学級委員の片岡さんの一言だったーーー

 

「先生。もう少し真面目に授業してもらえませんか?」

 

「な、何よ。私だってあんたらガキどものためにやってるんじゃない。文句言うんじゃないわよ」

 

「どこに『ベットの君は…』なんて文章を読ませる先生がいるんですか。受験で使えるとは思いません」

 

「そーだそーだ!」

 

女子の生徒からはやはり気持ちの悪い内容らしく、女子からの批判が多かった。

 

「真面目に授業してくれないなら殺せんせーと交代してくれませんか?一応私ら今年受験なんで…」

 

学級委員としての責任感の元、片岡さんが手厳しい言葉を言った。どうやらまだイリーナ先生のことを許してないらしい。

イリーナ先生的には真面目にやっているんだろうが、他の生徒には伝わっていない。イリーナ先生が片岡の一言でムッとした顔つきになった。

 

「はん!あの凶悪生物に教わりたいの?地球の危機と受験を比べられるなんて…ガキは平和でいいわね〜。それに聞けばあんた達E組って…この学校の落ちこぼれそうじゃない。勉強なんて今さらしても意味ないでしょ」

 

それを言った瞬間イリーナ先生はハッとなって口を押さえた。そしておずおずと俺の方を見てくる。どうやら俺との約束を破ってしまったという自覚はあるらしい。

また、聞いたクラスメイトの表情も一変した。俺らが一番言われたくない事を言われたのだ。そりゃ怒るわな。なんかカルマは笑ってるけど。

 

「出てけよ…」

 

「「「出て行けクソビッチ」」」

 

ーーーと言うものだった。

 

 

 

その後イリーナ先生は出て行き。授業は途中で終わってしまった。

 

「マジでありえねーよな、あいつ」「もう顔も見たくないわ」「まず殺し屋ってだけで無理」「そんなに可愛くもないのに威張っちゃって」

 

よくもまぁこんなに罵詈雑言の数々を言われるものだ。あの先生も。

だが…俺は今は悪口を言ってる奴にイライラしている。

 

「ねえ遠山。あの先生と何とか上手くやれないもんかな?」

 

根本さんもこの状況もに戸惑っているらしい。

 

「ああ…だよな。ぶっちゃけ今回は俺はE組のみんなが悪いと思うし」

 

「え…」

 

俺がそれを言った直後ーーークラス全体が静まり返った。

 

「それってどう言う意味?遠山君」

 

この喧嘩を起こす火種となった片岡さんが口調を強めて聞いてきた。

いけね。イライラしてて声が少し大きかったか。

E組のみんなの視線が俺に集まる。目立ちたくないのに。けど、今どうしても言いたいことがあった。

 

「そのままの意味だぞ、片岡さん」

 

「だから、その理由を聞いてるの」

 

「じゃあ聞くけど、さっきの授業…なんで真面目にやってないって思ったんだ…?」

 

「それは…!あんな汚い言葉…授業で言うもんじゃないからでしょ!普通!」

 

「イリーナ先生は殺し屋だぞ。多分教師なんてやった事ない。それなのに昨日の事を反省して今日初めて授業をしてくれた。その意味が分かるか?」

 

「…!」

 

聡明な彼女のことだ…気づいたに違いない。

 

「最初の授業なんてイリーナ先生に限らずみんなぎこちないに決まってる。そりゃあ、内容は良くなかったかもしれないが、あれは彼女の経験したきた事だ。それを否定したって事は、彼女の人生を否定したも同然なんだぞ。自分たちと境遇が違う…だからと言って、それを頭ごなしに否定してみんなで石を投げる。本校舎の生徒のやってる事と何が違うって言うんだ…」

 

俺がそう言うと、片岡さんは俯いてしまった。

 

「まあこれは俺の意見だから、イリーナ先生に授業をしてもらうかどうか、多数決を取るなり意見を聞くなりしたらいいんじゃないか?」

 

しばらく沈黙が訪れる。

 

「………ごめんなさい。確かに私が間違ってた」

 

どうやら片岡は分かってくれたらしい。

他のクラスメイトも反省した様子で

「言いすぎたよな」「決めつけてたわ…」「確かに全然ふざけた感じじゃなかった…」

などと言っている。

良かった…分かってもらえたようで…。

 

「…っ!…」

頭に痛みが走った。

 

(なぜ分からないんだ…!こいつは、お前が思ってるような奴じゃない!アリア…!)

 

たまに起こるんだよな。この曖昧な記憶っぽいのを言葉で思い出すやつ。きっと夢だな。

 

 

その後俺はイリーナ先生を説得すべく、教室を出ていった。さっき外に出ていくのを見たので、きっと庭のどこかに…

 

(いた…)

 

「イリーナ先生!」

 

ビクッ。木の下で体育座りになって泣いている様子だった。

 

「遠山キンジ…なによ…授業やれっていっておいて、あんたまで文句を言いにきたの!?」

 

どうやらさっきみんなに言われたことが予想以上に刺さっているらしく、涙を流しながらひどく落ち込んでいた。文句を言うつもりなんてない。だが励ますつもりもない。

 

「なんなのよあのガキ共!!こんないい女と同じ空間にいれるのよ?有難いと思わないわけ!?」

 

「有難くないから軽く学級崩壊したんでしょうに。いいから彼らにちゃんと謝って来てください。このままここで暗殺を続けたいなら」

 

「なんで!?私は先生なんて経験ないのよ!?暗殺だけに集中させてよ!」

 

「……仕方ないですね。ついて来てください」

 

 

 

 

 

 

シュパッ シュバババ バシュ

 

「何してんのよあいつ?」

 

俺は殺せんせーがいつもテストを採点したり作ってるところに連れてきた。そこは校舎から少し離れた茂みの中で、机と椅子があるだけだった。

 

「テスト問題を作っています。 どうやら水曜6時間目の恒例らしいです」

 

「…なんだかやけに時間かけてるわね。マッハ20なんだから問題づくり位すぐでしょうに」

 

「ひとりひとり問題が違うんです」

 

「えっ…」

 

「他の友達に見せてもらって驚きました。苦手教科や得意教科に合わせて…クラス全員の全問題を作り分けています。高度な知能とスピードを持ち、地球を滅ぼす危険生物。そんな奴の教師の仕事は完璧に近い」

 

イリーナ先生も当然驚いていた。

 

「他の生徒たちも見てみてください。暗殺など経験のないみんなですが、もちろん賞金目当てとは言え、勉強の合間に熱心に腕を磨いてます。暗殺対象と教師、暗殺者と生徒。あの怪物のせいで生まれたこの奇妙な教室では…誰もが2つの立場を両立しています。イリーナ先生はプロであることを強調しますが…暗殺者と教師を両立できないなら、ここではプロとして最も劣るという事です」

 

イリーナ先生も片岡さん同様、何かを悟ったように黙っていた。

 

「ここに留まって殺せんせーを狙うつもりなら、見下した目で生徒を見ないでください。生徒たちがいなくなればこの暗殺教室は存続できない。だからこそ、生徒としても殺し屋としても対等に接してください。それができないなら…」

 

「殺せるだけの殺し屋なんていくらでもいる。順番待ちの一番後ろに並び直さないといけないということね…」

 

「そういう事です」

 

「ふう…まさかこんなガキに説教垂れるなんてね。あ、ガキじゃなくて生徒ね。分かったわ。ありがとう、キンジ。肝に命じておくわ」

 

この先生も分かってくれたようで何よりだ。

 

 

ワイワイガヤガヤ。

クラスのみんなが談笑してる中、扉が開いた。

 

「「「!」」」

 

カツカツっと教室に入って来たのは、言うまでもないイリーナ先生だ。

教壇に立ち、俺たち全体を見渡している。そして、本当の授業が始まった。

 

「外国語を短い時間で習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのよね。

私は仕事上必要な時…その方法で新たな言語を身につけてきた。だから私の授業では…外人の口説き方を教えてくれる」

 

言ってる内容はトンチンカンかもしれない。イリーナ先生も自信が無い様子だ。だが、それでいい。頑張れ、先生。

 

「プロの暗殺者直伝の仲良くなる会話のコツ。身につければ実際に外人とあった時に必ず役に立つわ。受験に必要な授業なんて、あのタコに教わりなさい。私が教えられるのはあくまで実践的な会話術だけ。もし…それでもあんた達が私を先生と思えなかったら、その時は暗殺をやめて出て行くわ」

 

さっきした事を心から詫びているからこそ言える事だ。

 

「……それなら文句ないでしょ?あと、色々悪かったわよ」

 

「………ふっ、あはははは」

 

「何ビクビクしてんだよ。さっきまで殺すとか言ってたくせに」

 

クラスの中の1人が吹いてからまた1人、1人と笑いがこみ上げてくる。

 

 

「なんか普通に先生になっちゃったな」

 

「もうビッチねえさんなんて呼べないね」

 

前列の前原と岡野もそんな話をしている。

 

「先生。私からも…ごめんなさい!」

 

 

席を立って謝ったのはさっききつい言葉を浴びせた片岡さんだ。

 

「…! あんた達…分かってくれたのね…」

 

イリーナ先生は感動して泣いている様子だった。殺し屋の生活ではあまり経験のない事だろう。案外情にもろいのかもしれない。

 

「考えてみりゃ先生に向かって失礼な呼び方だったよね」「うん、呼び方変えないとね」「じゃ、ビッチ先生で」

 

!!?

 

「えっ…と。ねえ君達。せっかくだからビッチから離れてみない?…ホラ、気安くファーストネームで呼んでくれて構わないのよ」

 

「でもなぁもうすっかりビッチで固定されちゃったし」「うん」「イリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくりくるよ」

 

先生はオロオロしながら視線を俺に寄せて助け舟を求めてくるが俺はやれやれと言った感じで小さくお手上げのポーズをした。

 

「そんなわけでよろしくビッチ先生!!」「授業早く始めようぜビッチ先生!」

 

「キーーーッ!!やっぱりキライよあんた達!!」

 

こうして平和に授業が始まるのであった。

 

 

 

 

 

放課後

俺は根本さんに帰りを誘われて、帰ろうと教室を出たら殺せんせーが立っていた。

 

「イリーナ先生。すっかりなじんでますねぇ」

 

「はい、そのようですね」

 

「………ありがとうございます遠山君。やはり生徒には生の外国人と会話をさせてあげたい。さしずめ、世界中を渡り歩いた殺し屋などは最適ですねぇ」

 

こいつ…ここまで見越した上で?

殺せんせーは…このE組の教師になった理由を頑なに語らない。だが、暗殺のために理想的な環境を整えるほど、学ぶために理想的な環境に誘導されてしまっている。

みんなが踊らされているようだ。このモンスターの触手の上で。



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第8話 集会の時間

今はまだ書き溜めていた話を出せますが…ここから詰まっていくのでしょうか…?


 

月に1度の全国集会。俺らE組には…気が重くなるイベントだ。

 

「渚く〜〜ん」

 

そう声をかけて来たのは、この前駅で渚を馬鹿にしてきた2人組みだ。

 

「おつかれ〜」

 

「わざわざ山の上から本校舎に来るの大変でしょ〜」

 

「「ぎゃはははははは」」

 

E組の差別待遇はここでも同じ。俺らはそれに長々と耐えなければならない。

校長のお話でも…

 

「…要するに、君たちは全国から集められた選りすぐられたエリートです。この校長が保証します…が、慢心は大敵です。油断してると…どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ」

 

あはははははは。

 

こんな胸糞悪い話の何が面白いのか、E組以外の生徒は大声で笑いだす。

 

「こら君達笑い過ぎ!校長先生も言い過ぎました」

 

校長もおちょくってるようにしか聞こえないように言うし。

 

「渚、そういやカルマは?」

 

「サボり」

 

「は?」

 

「集会フケて罰食らっても痛くもかゆくもないってさ。成績良くて素行不良ってこういう時羨ましいよ」

 

た、確かに!?

ま…悔しいことにこの差別待遇は効果的なんだと思う。3年E組以外の一流高校大学の進学率はめっぽう高いらしいからな。

悲しいかな、人間は…差別し軽蔑する対象があった方が伸びるのかもしれない。

この手を考えた校長…いや、理事長は相当いい性格をしてやがる。

 

ガララッ。

 

生徒会からの発表の途中で烏間先生が入ってきた。

全校の前では紹介していないため、他の生徒に「誰だあの先生?」「シュッとしててカッコいい〜」などと言われている。

確かに烏間先生ってかっこいいよな。内面もさ。俺もああいう風になりたいなぁ。

烏間先生は教員のところへ行くなり、他の先生に挨拶している。

 

「「烏間先生〜」」

 

E組のパツ金美女中村さんと、ゆるふわ天然美女の倉橋さんが烏間先生にナイフケースを見せていた。

 

「ナイフケースデコってみたよ」

 

「かわいーっしょ」

 

それを見てギクリとした烏間先生は青ざめた表情で2人に近寄っていった。

 

「…ッ! 可愛いのはいいがここで出すな! 他のクラスには秘密なんだぞ暗殺のことは!!」

 

「「はーい」」

 

これを見た他のクラスからは嫉妬の声が聞こえてくる。

『可愛いのはいい』これを否定せずに怒ってくれる。本当に良い先生だと思う。

こんな人が防衛省にいたら日本の未来は明るいな。

 

「なんか仲よさそー」「いいなぁー。うちのクラス先生も男子もブサメンしかいないから」「しかもE組って遠山君いるし」「噂によるとモデルやってるらしいね」「イケメンだよね〜」

 

は…?俺…?じゃないよな?でもE組の遠山って俺しかいなよな?モデルとかイケメンとか言ってるからきっと人違いだ。前原あたりと間違えたんだろう。それか磯貝か。

 

 

ガララッ

 

烏間先生に引き続きビッチ先生も入ってきた。あんたら入るんなら2人一緒に入れよ。

 

「ちょ…なんだあのものすごい体の外人は」「あいつもE組の先生なの?」

 

他のクラスからはビッチ先生の入場によりどよめきがが聞こえた。

そして何をするつもりなのかこっそりと渚のところに近づいてきた。

 

「渚。あのタコの弱点全部手帳に記してたらしいじゃない。その手帳おねーさんに貸しなさいよ」

 

「えっ…いや、役立つ弱点はもう全部話したよ」

 

「そんなこと言って肝心なとこ隠す気でしょ」

 

「いやだから…」

 

「いーから出せってばこのガキ。窒息させるわよ」

 

ビッチ先生はそう言うと、渚の顔を自分の胸に押し当てた。

 

「苦しっ…胸はやめてよビッチ先生!!」

 

この行為に他クラスの男子がびっくり仰天だ。男子中学生には刺激が強いっちゅーに。

 

 

「…はいっ。今みなさんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です」

 

なんか生徒会から出し物でもあるのか?というか俺にまだプリントがきてないんだが。

 

「え?」「俺らの分は?」

 

他のE組もそのようだ。

 

「すいませんE組の分まだなんですが」

 

学級委員の磯貝君が生徒会にプリントを要求する……まさかと思うがこいつら…。

 

「え?無い?おかしーな…。ごめんなさーい!3-Eの分忘れたみたい!すいませんけど全部記憶して帰ってくださーい!ホラ、E組の人は記憶力も鍛えた方がいいと思うし!」

 

ははははははははは

 

校長に引き続き今度は生徒会のやつの言葉に全校が爆笑の渦に包まれた。だからこんな胸糞悪いことの何が面白いんだか。

 

「何よこれ…陰湿ねえ」

 

ビッチ先生がそう言った時だった。

 

ブワッ!

ババババババババババ!

 

俺らの手にはプリントが握らされていた。

こんなことができるのは…

 

「磯貝君。問題ないようですねぇ。手書きのコピーが全員分あるようですし」

 

「殺せんせー…」

 

「あ、プリントあるんで続けてくださーい」

 

「え…あ…うそ、なんで!? 誰だよ笑いどころ潰したやつ! あ…いや、ゴホン。では続けます」

 

どうやら予定外だったらしく、生徒会のやつはつまらなそうだ。

案の定殺せんせーは烏間先生にクドクド怒られている。

 

「あれ…あんな先生さっきまでいたか?」「妙にでかいし関節が曖昧だぞ」

 

他のクラスも殺せんせーの存在に気付いた様子だった。あんな奇妙な体の人がいたらそりゃ驚くだろうに。

 

「しかも隣の先生にちょっかいを出されてる」「なんか刺してねーか?」

 

もちろん暗殺は人に見られてはいけないので、ビッチ先生は烏間先生に連れていかれた。

 

「はは、しょーがねーなビッチ先生は」

 

今のやりとりが面白かったらしく、前原を起点にE組の生徒が何人か笑った。

他クラスの生徒の様子を見てみると、E組みのくせに気にくわない、そんな感じだった。

 

 

 

「先行ってるぞ、遠山!」

 

薄情者杉野はそう言って先に行ってしまった。

 

「えっ…あ…待っ…」

 

「ねえねえ遠山君って誕生日いつ?」「今週暇ならカラオケ行かない?」「あーじゃあ私とはカフェ行こうよ」「とりま、連絡先交換しよー?」

 

どうしてこうなった?まさか集会直後、他クラスの女子にこんなに…写真を一緒に取るように言われたり、盗撮されたり、買い物や遊びに誘われたり、連絡先を交換するように言われるなんて。

 

(参ったなぁ…勘弁してくれ…)

 

俺はそこにいたみんなに謝りながらその集団を無理やり抜けて、本校舎を出た。

 

(よし…これでもう追ってこれまい…)

 

「!」

 

出た先で、渚がまたあの2人組みに絡まれていた。全く、ここの生徒は。ガツンと言ってやろうか。

 

「殺そうとした事なんてないくせに」

 

ゾクッ。

なんだ今のは…?殺気…?

渚が出したのか…?

ちょうどこの光景を見てた烏間先生も驚いている様子だった。

 

 

 

 




E組の差別待遇ひどい…


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第9話 支配者の時間

少し遅くなってしまいました。
少しずつですが、読んでくださる方が多くなって嬉しい限りです!!


 

 

 

 

 

「「「「「さて、始めましょうか」」」」」

 

………何を?

 

「学校の中間テストが迫って来ました」

「そうそう」

「そんなわけでこの時間は」

「高速強化テスト勉強を行います」

 

殺せんせーが謎に何体にも分身してたのはそう言う理由か。しかも国数社理英のハチマキまでしちゃって…テストねぇ。

 

「先生の分身が1人ずつマンツーマンで」

「それぞれの苦手科目を徹底して復習します」

 

「くだらね…ご丁寧に教科別にハチマキとか……なんで俺だけNARUTOなんだよ!!」

 

「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」

 

殺せんせーはどんどん速くなってると思う。国語6人、数学8人、社会3人、理科4人、英語4人、NARUTO1人。クラス全員分の分身なんて、ちょっと前までは3人くらいが限界だったのに。

 

ぐにゅん。

 

「うわっ!!」

 

殺せんせーの顔がCの字に歪んだ。

 

「急に暗殺しないでくださいカルマ君!!それを避けると残像が全部乱れるんです!!」

 

意外と繊細なんだこの分身!?

 

「でも先生こんなに分身して体力持つんですか?」

 

「ご心配なく。一体外で休憩させてますから」

 

「それむしろ疲れない!?」

 

この加速的なパワーアップは…1年後に地球を滅ぼす準備なのか…?何にしても殺し屋にはやっかいなターゲットで…テストを控えた生徒には心強い先生だ。

 

(うっ…!)

 

俺の頭に痛みが走る。

これは今までで一番きつい頭痛かもしれんな。

 

(くるぞ…断片的だが…記憶のカケラが…)

 

『ふふ。うふふ。数式と図で分かったぞ。こんな易しい事を学んでいるのか』

 

『や…易しいか? 難しいだろ。お前、分かったフリして分かってないんだろう』

 

『遠山キンジ。貴様の浅知恵などすぐ見抜けるぞ。そう言って挑発し、教えてもらおうとしているのだろう。私が教えてやると思ったか?』

 

「ーーーっ!」

 

なんだ、今の会話は。今のもちょうど勉強について教えてもらっていたな。

もしかして、その時の状況と似たようなものがフラッシュバックするってことか…?

 

「おや?どうしましたか遠山君。ペンが止まってますよ?」

 

「いえ…」

 

とにかく、今は勉強に集中だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら殺せんせー」

 

「ヌルフフフフ。明日は殺せるといいですねぇ」

 

テスト勉強を終え、教室を出ると…

 

「…?」

 

この学校の理事長先生が職員室入っていくのが見えた。

 

「にゅやッ。こ、これはこれは山の上まで! それはそうと私の給料プラスになりませんかねぇ」

 

無様にゴマ擦っていた。見たくなかったぜ。渚に報告だな。殺せんせーの弱点、『上司には下手に出る』ってな。

 

「こちらこそすみません。いずれご挨拶に行こうと思っていたのですが。あなたの説明は防衛省のこの烏間さんから聞いていますよ。まあ私には…全てを理解できるほどの学はないのですが…なんとも悲しいお方ですね。世界を救う救世主となるつもりが、世界を滅ぼす巨悪と成り果ててしまうとは」

 

……?救う…?滅ぼす…?

 

「いや…ここでそれをどうこう言う気はありません。私ごときがどうあがこうが地球の危機は救えませんし。よほどのことが無い限り私は暗殺にはノータッチです」

 

「……助かっています」

 

烏間先生もこの先生には立場的に頭が上がらないようだ。

 

「この学園の長である私が考えなくてはならないのは…地球が来年以降も生き延びる場合。つまり、仮に誰かがあなたを殺せた場合の学園の未来です。率直に言えば…ここE組はこのままでなくては困ります」

 

「………このままと言いますと、成績も待遇も最底辺という今の状態を?」

 

「はい」

 

殺せんせーの問いに理事長は何のためらいもなく答える。

 

「働き蟻の法則を知っていますか?どんな集団でも20%は怠け、20%は働き、残り60%は平均的になる法則。私が目指すのは…5%の怠け者と95%の働き者がいる集団です。『E組のようになりたく無い』『E組にだけは行きたく無い』95%の生徒がそう強く思うことで…この理想的な比率は達成できる」

 

「…なるほど、合理的です。それで、5%のE組は弱くて惨めでなくては困ると」

 

「今日D組の担任から苦情が来まして。『うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた』『殺すぞ』と脅されたとも」

 

……絶対渚だな、それは。多分かなり内容は捻じ曲げられているが。

 

「暗殺をしてるのだからそんな目つきも身につくでしょう。それはそれで結構。問題は、成績底辺の生徒が一般生徒に逆らう事、それは私の方針では許されない。以後厳しく慎むよう伝えてください」

 

理事長はポケットからジャラっと知恵の輪を出して殺せんせーに投げた。

 

「殺せんせー。一秒以内に解いてくださいッ」

 

「え!いきなりッ…」

 

急な事でテンパり、知恵の輪にさらに触手が絡まっていた。

なんてザマだ!!

 

「…噂通りスピードは凄いですね。確かにこれなら…どんな暗殺だってかわせそうだ。でもね殺せんせー、この世の中には…スピードで解決出来ない問題もあるんですよ」

 

知恵の輪を解こうと這いつくばっている殺せんせーを哀れむように、理事長は言った。

 

「では私はこの辺で」

 

「!」

 

いけね。つい話を聞いていたら扉から出て来た理事長にバレてしまった。

 

「やあ!中間テスト期待しているよ。頑張りなさい!」

 

「………」

 

とても乾いた『頑張りなさい』は…聞く人によっては一瞬で暗殺者からエンドのE組へ引き戻すだろう。聞いたのが俺でよかった。

ターゲットとしての殺せんせーはほぼ無敵だ。暗殺を完全にコントロールして支配している。

だが教師としては無敵ではない。この学校にはあの強力な支配者がいる。

 

 

 

 

 

 

 

椚ヶ丘学園理事長、浅野學峯。創立十年でこの学園を全国指折りの優秀校にした敏腕経営者。

成功の要因はその冷徹な合理主義。代表的な例がこのE組だ。この学校で理事長の作った仕組みからは逃げられない。たとえ殺せんせーでも。

 

 

「さらに頑張って増えてみました。さぁ授業開始です」

 

その残像の数は、とてもじゃないが数えきれない。

増えすぎだろ!!残像もかなり雑になってるし…雑すぎて別キャラになってねーか?

 

「…どうしたんだ殺せんせー?気合い入りすぎじゃない?」

 

「んん?そんな事ないですよ」

 

隣の根本さんが心配するほどの気合いの入りようだった。

きっと、『この世の中には…スピードで解決出来ない問題もあるんですよ』 という言葉が効いているんだと思う。

そのせいかおかげか、殺せんせーは動き続けて、チャイムがなった頃にはゼーハーと瀕死状態だった。

 

「さすがに相当疲れたみたいだな」「なんでここまで一生懸命先生をすんのかね〜」

 

「…ヌルフフフフ。全ては君達のテストの点を上げるためです」

 

「…」

 

…?どうしたんだ?クラスのみんなは何か言いたげな感じで目配せする。

 

「…いや勉強の方はそれなりでいいよな」「うん…なんたって暗殺すれば賞金百億だし」「百億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしさ」

 

「にゅやッ!そういう考え方をしますか!!」

 

「俺らエンドのE組みだぜ殺せんせー」「テストなんかより…暗殺の方がよっぽど身近なチャンスなんだよ」

 

その考えはいけないな。

この言葉を最後に、殺せんせーは何かを閃いたっぽいし。さあ殺せんせー、腕の見せ所だぞ。

 

「なるほど。よくわかりました。

 

「?何が?」

 

言ってる意味が分からず俊足の木村聞く。

 

「今の君達には…暗殺者の資格がありませんねぇ。全員校庭へ出なさい。烏間先生とイリーナ先生も呼んでください」

 

「…?急にどうしたんだよ殺せんせー」「さあ…いきなり不機嫌になったよね」

 

E組のシステムの上手い所は…一応の救済処置が用意されている点だ。

定期テストで学年186人中50位に入り、なおかつ元の担任がクラス復帰を許可すれば差別されたこのE組から抜け出せる。だが…もともと成績下位のうえこの劣悪な環境ではその条件を満たすのは厳しすぎる。殆どのE組生徒は救済の手すら掴めない負い目からエグい差別も受け入れてしまうそうだ。

 

「何するつもりだよ殺せんせー」「ゴールとかどけたりしてさ」

 

校庭に集められたみんなは殺せんせーの一連の行動が謎のようだ。

 

「イリーナ先生。プロの殺し屋として伺いますが」

 

「…何よいきなり」

 

「あなたはいつも仕事をする時…用意するプランは1つですか?」

 

「…?…いいえ。本命のプランなんて思った通りに行くことの方が少ないわ。不測の事態に備えて…予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ。ま、あんたの場合規格外すぎて予備のプランが全部狂ったけど。見てらっしゃい、次こそ必ず」

 

「無理ですねぇ。では次に烏間先生」

 

言葉を遮られたビッチ先生は殺せんせーを睨みつけるが、殺せんせーは無視して烏間先生に質問した。

 

「ナイフ術を生徒に教える時…重要なのは第一撃だけですか?」

 

「……第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では第一撃は高確率でかわされる。その後の第二撃第三撃を…いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」

 

なるほどね。つまり俺らの今の事態もこれに当てはまると…。

 

「先生方のおっしゃるように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して君らはどうでしょう。『俺らには暗殺があるからそれでいいや』…と考えて勉強の目標を低くしている。それは…劣等感の原因から目を背けているだけです」

 

殺せんせーは駒のようにくるくると回りだし、数秒のうちに風が起こるほどの速さで回転する。

 

「もし先生がこの教室から逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先に先生を殺したら?暗殺という拠り所を失った君達には、E組の劣等感しか残らない。そんな危うい君達に…殺せんせーからのアドバイスです」

 

もはや竜巻とも言えるほど風が強くなり、校庭が吹き荒れていく。

 

「第二の刃を持たざる者は…暗殺者を名乗る資格なし!!」

 

ドドドドと音を立てて校庭が平らになっていく。

 

「……校庭に雑草や凸凹が多かったのでね。少し手入れしておきました」

 

「!!」

 

そこは整備されて、すっかり綺麗な校庭になっていた。

 

「先生は地球を消せる超生物。この一帯を平らにするなどたやすいことです。もしも君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にはいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります」

 

俺は答えを分かりきっていながら思わず口を開いた。

 

「第二の刃…いつまでに?」

 

「決まっています、明日です。明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい。

 

「「「!!?」」」

 

クラス中が驚く。今までとった事も、取ろうと思ったことのない順位なのだろう。

 

「君達の第二の刃は先生がすでに育てています。本校舎の教師たちに劣るほど…先生はトロい教え方をしていません。自信を持ってその刃を振るってきなさい。ミッションを成功させ、恥じることなく笑顔で胸を張るのです。自分達が暗殺者であり…E組であることに!!」

 

中間テスト前日。俺たちE組は殺せんせーからこれ以上ない喝をいれてもらったのだった。




殺せんせーの授業受けたい…


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第10話 テストの時間

テストは憂鬱ですね。


 

 

 

 

中間テスト。

全校生徒が本校舎で受ける決まり。つまり、俺らE組だけアウェーでの戦いになる。

 

コツコツコツコツ。

大野先生だっけか。

うるさいな。咳をするなり机を指で突いて露骨に集中乱しにきてやんの。

 

「E組だからってカンニングなどするんじゃないぞ。俺たち本校舎の教師がしっかり見張ってやるからなー」

 

コツコツコツコツコツコツ。このクソ教師め…。

 

他のクラスメイトは音など気にせずテストに集中出来ているだろうか。分かっちゃいたけど、うちの学校のテストは凶悪だ。

攻略のとっかかりが掴めないと…この問題たちにやられてしまう。

殺せんせーが言った全員50位以内。確かにこの間まで底辺だったこのクラスでは厳しいだろう。だが、今は殺せんせーの生徒たちだ。ピンチの時にもちゃんと我が身を守ってくれる、そういう武器を授けてもらったはずだ。

 

一ヶ所ずつ問題文を見極めて、それらをつないで全身を見れば、なんて事ない。

 

カリカリカリカリカリ。周りから鉛筆を走らせる音が聞こえる。

よし…どうやら順調に解けているようだな。殺せんせーのマッハの授業だ。まるでこの間とは違う自分が解いている感覚だろう。

この問題なら、殺れる!次の問題も…次の問題も…!そう思ってたに違いない。

 

(……っ!……)

 

俺は舌打ちをする。そうきたか、と。

 

ーーー次の瞬間E組は背後からの見えない問題に殴り殺されたーーー

 

 

 

 

テスト返却日。

 

「…これは一体どういう事でしょうか。公正さを著しく欠くと感じましたが」

 

テストが返却されたE組の教室では烏間先生が本校舎の教師と連絡を取っていた。

 

「伝達ミスなど覚えはないし、そもそもどう考えても普通じゃない。テスト2日前に…出題範囲を全教科で大幅に変えるなんて」

 

烏間先生の言い分に対し、本校舎の教師は『新学校だから』の一点張りらしい。また、本校舎では理事長自らが教壇に立って授業の変更部分を教えていたらしい。

あの理事長…自分の主義のためにそこまでやるか…!

 

「先生の責任です…この学校の仕組みを甘く見過ぎていたようです。君達に顔向けできません」

 

殺せんせーは背を向けて黒板の方を向いている。その背中からは俺たちが上位へ食い込めなかったことへの悔しさがにじみ出ている。

 

「………」

 

ガァン!

その後頭部に向かって対先生用のナイフが飛んでいった。

 

「にゅやッ!?」

 

後ろを向いていたが、ナイフに気づきとっさに避ける。ナイフを投げたのは…カルマだった。

 

「いいの〜?顔向けできなかったら、俺が殺しにくんのも見えないよ」

 

「カルマ君!! 今先生は落ち込んで…」

 

バサッ…カルマは殺せんせーに向かってテスト用紙投げた。それをキャッチした殺せんせーは…驚いた様子だった。

 

「俺問題変わっても関係ないし」

 

なんとカルマのテストは英語98点、社会99点、数学100点、国語98点、理科99点だった。

 

「俺の成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。だけど、俺はE組出る気ないよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし。で…どーすんのそっちは?全員50位に入んなかったって言い訳つけて、ここからシッポ巻いて逃げちゃうの?」

 

カルマが殺せんせーに顔を近づけていき挑発するように言う。

 

「それって結局さぁ、殺されんのが怖いだけなんじゃないの?」

 

ここまで言って他のクラスメイトもようやく理解できたようだ。今、カルマのしたいことが。

 

「なーんだ、殺せんせー怖かったのかぁ」「それなら正直に言えばよかったのに」「ねー」「怖いから逃げたいって」

 

ナイスカルマ。殺せんせーにはここで逃げられたら元も子もなく、この教室にいてもらわないと困る。そのための挑発行為とは…やっぱりあいつは頭一つ抜けてるな。

 

「にゅやーーーッ!逃げるわけありません!期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」

 

無事引っかかってくれて何よりだ、このタコも。

中間テストで俺らは壁にブチ当たった。E組を取り囲むブ厚い壁に。それでも俺は胸を張った…自分がこのE組であることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

3年E組一学期中間テスト総合点(500点満点中)

 

5位ーーー神崎有希子、357点。

 

4位ーーー片岡メグ、364点。

 

 

3位ーーー磯貝悠馬、367点。

 

 

 

 

2位ーーー赤羽業、494点。

 

 

 

 

 

1位ーーー根本リンカ、500点。

 




テストは憂鬱だ。


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第11話 旅行の時間

 

 

 

 

「遠山君!班の人数揃った?」

 

「片岡さん?」

 

班?人数?はて…?

 

「決まったら学級委員の私か磯貝君に伝えてね。もし良かったら…」

 

「班?」

 

「忘れたのか?来週の修学旅行のだ」

 

隣の席の根本さんにつっこまれてしまう。

クラスではその話題で持ちきりで、みんなして京都のガイドブックを開いている。

 

「まったく…3年生も始まったばかりのこの時期に総決算の修学旅行とは片腹痛い」

 

そう言いつつも殺せんせーは学校にどデカイバックを持ってきている。まだ1週間前なのに。

 

「先生 あまり気乗りしません」

 

「「「ウキウキじゃねーか!!」」」

 

「たかだか修学旅行に荷物でかすぎ!!」「明らかに必要ないもの入ってるし!」

 

「…バレましたか。正直先生、君達との旅行が楽しみで仕方ないです」

 

テストの次は修学旅行。暗殺教室でも行事の予定は目白押しだ。

 

 

「知っての通り来週から京都2泊3日の修学旅行だ。君らの楽しみを邪魔したくないが、これも任務だ」

 

「…てことは、あっちでも暗殺を?」

 

岡野さんの問いに、烏間先生は首を縦に振って答えた。

 

「その通り。京都の街には学校内と段違いに広く複雑。しかも…君達は回るコースを班ごとに決め、奴はそれに付き添う予定だ。狙撃手を配置するには絶好の場所。既に国は狙撃プロ達を手配したそうだ。成功した場合貢献度に応じて百億円の中から分配される。暗殺向けのコース選びをよろしく頼む」

 

「「「はーい」」」

 

内容は暗殺といった残酷なことだが、校庭に響き渡る返事の声はとても無邪気なものだった。

 

「遠山君!同じ班にならない?」

 

「矢田さん…!いいのか?」

 

未だに誰とも班になれていないぼっちの俺もついにこれでぼっち脱出だ。

顔を赤くして頼んできた矢田さんもホッとしたような表情だ。

 

「うん!今陽菜乃ちゃんも同じ班なんだけど、あと3人必要なんだよね」

 

陽菜乃ちゃん…? ああ、倉橋さんのことか。仲よかったもんな、この2人。

 

あと3人か…ん?…キョロキョロしてたら根本さんが近寄ってきたぞ?

 

「キンジ…!今神崎さんと2人なんだけど…一緒の班にならないか?」

 

「ああ、いいぞ。俺らも今のところ3人なんだけど、他の2人にも聞いてくる」

 

「他の2人…?」

 

根本さんは不安げな感じだが両方女子なので大丈夫だろう。

矢田さんと倉橋さんに伝えにいったら速攻でオッケーが出た。

 

「矢田さんと倉橋さんも分かったってさ。よろしくな根本さん、神崎さん」

 

「ああ!」

 

顔は人形のように可愛く整っている、男口調の根本さんと

 

「よろしくね、遠山君」

 

真面目でおしとやかな美人。目立たないけどクラスみんなに人気がある黒髪ロングの神崎さんが班に加わった。

 

「それよりも遠山君…班は7人班か6人班なんだけど、どうするの?」

 

「その辺はどっちでもいいんじゃないか?」

 

「どっちでもいいって…もし6人班で最後の1人も女子だったら、男子遠山君だけになるんじゃないかな」

 

「えっ…あっ…ああ!!」

 

まずいまずいまずい。ただでさえ可愛い人とか美人はダメなのにこの班そういうのばっかじゃねーか!

 

「急いで男子誘った方がいいよ。今こっちを見てる片岡さんや、不破さんも遠山君と同じ班になりたがってるだろうから先越されちゃうよ」

 

こういう事が全然分からない俺とは違い、神崎さんは勘が鋭いぞ。

 

「渚ーー!頼む!同じ班になってくれぇ!!」

 

「いいよー!僕からも頼もうと思ってたんだ」

 

渚はカルマと2人だったらしく、事情を説明し班に入ってもらった。

 

「でもさすが遠山君だ…僕ら以外女子だったなんて」

 

渚は若干引き気味でそんなことを言ってきた。ん?何でそこでさすが俺、なんだ?

 

「どういうことだ?」

 

「まあ…それでこそ遠山君だよね」

 

意味がわからん…がこれで7人班の完成だ。男性陣は俺、カルマ、渚。女性陣は矢田さん、倉橋さん、根本さん、神崎さん。

良かった、わりと男女のバランスが取れて。

 

「よし、じゃあどこ回るか決めちゃおっか!」

 

この班を発足させた矢田リーダーの元、話し合いが始まったのであった。

 

 

 

ワイワイガヤガヤ。

すべての班が無事に決まり、今は班ごとに計画を立てている。

 

「フン、みんなガキねぇ。世界中を飛び回った私には…旅行なんて今更だわ」

 

ったく。そんな見え見えの見栄なんか張るなっての。本当は楽しみのくせに。

 

「じゃあ留守番しててよビッチ先生」「花壇に水やっといて〜」

 

案の定生徒に留守番頼まれてるし。

そう言われたビッチ先生は唖然としてしまう。

 

「ねー2日目どこ行く?」「やっぱ東山からじゃない?」「暗殺との兼ね合いも考えると…」「でもこっちの方が楽しそ〜」

 

「何よ!!私抜きで楽しそうな話してんじゃないわよ!!」

 

「「「行きたいのか行きたくないのかどっちなんだよ!」」」

 

行きたいんだろうな、きっと。と…そんなツッコミをしている間に殺せんせーが広辞苑のようなものを大量に持って教室に入って来た。

 

「1人1冊です」

 

「重っ…何これ殺せんせー?」

 

「修学旅行のしおりです」

 

「「「辞書だろこれ!」」」

 

「イラスト解説付の全観光スポット、お土産人気トップ100、旅の護身術。入門から応用まで。昨日徹夜で作りました。初回特典は組み立て紙工作金閣寺です」

 

「「「どんだけテンション上がってんだ!揃いも揃ってうちの先生は!」」」

 

「大体さぁ、殺せんせーなら京都まで1分で行けるっしょ?」

 

「もちろんです。ですが移動と旅行は違います。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。先生はね、君達と一緒に旅できるのが嬉しいのです」

 

3-Eは暗殺教室。普通よりも盛りだくさんになるだろう修学旅行に、やっぱり俺もテンションが上がっていた。

 

 

 

 

 

東京駅…椚ヶ丘中学校の修学旅行の出発地点だ。

 

「うわ…A組からD組まではグリーン車なんだ」

 

「E組だけ普通車。ま、いつもの感じだな」

 

俺と矢田さんが喋っていると、後ろから声をかけられた。

 

「うちの学校はそういう校則だからな。入学時に説明したろう」

 

こいつは…テストの時にやたら音を立てて邪魔をしてきた大野とかいう教師…!

 

「学費の用途は成績優秀者に優先される」

 

「おやおや君たちからは貧乏の香りがしてくるねぇ」

 

教師に便乗して、Dクラスの生徒も言ってくる。

全く…こいつらは。

 

 

「ごめんあそばせ……ごきげんよう生徒達」

 

サングラスにネックレス。ヒョウ柄のコートに……有名ブランドのカバン……誰だよ。いや、知ってるけどさ。

 

「ビッチ先生。何ですかそのハリウッドセレブみたいなカッコは」

 

思わずに俺がツっこむと、不敵に笑い出した。

 

「フッフッフッフッ…女を駆使する暗殺者としては当然の心得よ。狙っている暗殺対象にバカンスに誘われるって結構あるの。ダサいカッコで幻滅させたらせっかくのチャンスを逃しかねない。良い女は旅ファッションにこそ気を遣うのよ」

 

「目立ちすぎだ着替えろ」

 

明らかにビッチ先生対して怒っている様子の烏間先生が注意する。こっちはすっかり見慣れたスーツ姿だ。

 

「どう見ても引率の先生のカッコじゃない」

 

「堅い事言ってんじゃないわよカラスマ!ガキ共に大人の旅の…」

 

「脱げ。着替えろ」

 

 

 

 

のちに電車は出発し、E組のみんなは班ごとに席に座り談笑している。ビッチ先生はというと地味な格好でシクシク泣いていた。

 

「誰が引率だか分かりゃしない」

 

「金持ちばっか殺してきたから金銭感覚ズレてんだろうな」

 

ビッチ『先生』を見ているとあることにに気がつく。

 

「あれ…?電車出発したけどそういえば殺せんせーは?」

 

どうやら倉橋さんも気がついたようだ。

 

ベタァ。

 

「うわっ!!」

 

なんか電車の窓に張り付いているんだが、国家機密が。

 

「何で窓に張り付いているんだ殺せんせー!」

 

美少女ながら男口調全開の根本さんがツッコんだ。

 

「いやぁ…駅中スウィーツを買っていたら乗り遅れまして、次の駅までこの状態で一緒に行きます。ああご心配なく。保護色にしていますから、服と荷物が張り付いているように見えるだけです」

 

「それはそれで不自然だ!」

 

根本さんの顔と口調も一致しなすぎて不自然だ!!

ギャップがあってむしろ不味いんですって!

 

 

 

「いやぁ疲れました。目立たないように旅するのも大変ですねぇ」

 

「そんなクソでかい荷物持って来んなよ」

 

「ただでさえ目立つのに殺せんせー」

 

岡島と速水さんは言うが…確かにその通りだ。だがな岡島…お前もエロ本持ってくるなよな。さっきカバンの中がチラッと見えたぞ。

 

「てか外で国家機密がこんなに目立っちゃヤバくない?」「その変装も近くで見ると人じゃないってバレバレだし」

 

「にゅやッ!?」

 

いやいや自分の姿見て気づけよ…どう見たってこんな関節の人間いないだろうに。

 

「殺せんせー、ほれ」

 

そう言って菅谷が殺せんせーに何か小さい物を投げた。

 

「まずそのすぐ落ちる付け鼻から変えようぜ」

 

「おお…すごいフィット感!」

 

「顔の曲面と雰囲気似合うように削ったんだよ。俺そんなん作るの得意だから」

 

凄いな菅谷。あんまり関わった事ないけど、これで殺せんせーの鼻が焼き石に水くらいには自然になった。

 

「あはっ、面白いね遠山君。旅行になるとみんなのちょっと意外な面が見れるね」

 

「ああ…これからの旅の出来事次第で…もっとみんなの色んな顔が見れるかもな…」

 

俺たちは今班のみんなでトランプのババ抜きをやっている。そして今、話しかけてきた神崎さんと俺はタイマン張ってるところだった。

 

「そうだね…まずは遠山君がババ抜き弱いって事が見れたしね」

 

「なぬ」

 

うまく二分の一を引かれてしまい、俺の手元にはジョーカーだけが残った。

 

「あはは、表情に出すぎだよ遠山君は」

 

神崎さんに指摘されながらコロコロと笑われた。くっ…なんて可愛いんだ!

しかも最下位はみんなにジュースを奢る約束だった。俺の小遣いが…シクシク…。

 

「みんな、飲み物は何がいい?貧民の俺が買ってくるけど」

 

「あ…私も手伝うよ。遠山君の次に貧民だし…」

 

うーん。さすが気がきくなぁ神崎さんは。

俺たちはジュースを買いに車両を移動しようとした時、他校の生徒とすれ違った。別の学校も修学旅行が被ってるらしいな。

 

「あっ…ごめんなさい」

 

どうやら神崎さんはぶつかったらしい。今すれ違った5人くらいの集団は高校生だろうか…?とてもガラの悪い服装だった。そしてみんな神崎さんに目が釘付けだったなぁ。さすが神崎さんだ。

 




旅行行きたい…。


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第12話 台無しの時間

そういえば緋弾のアリア最新刊激アツ…。
ネモが出てきて嬉しい。


 

 

 

修学旅行暗殺計画。

2日目と3日目の班別行動時にプロの狙撃手が狙撃を行う。殺せんせーはそれぞれの班を順番に回って付き添う予定。各班は狙撃手の配置に最適なスポットへ誘い込むべし。

 

「…1日目ですでに瀕死なんだけど」「新幹線とバスに酔ってグロッキーとは…」

 

殺せんせーはロビーのソファーで真っ青になってぐったりとしている。こんな弱点があったとは。渚に報告だ。

 

「大丈夫?寝室で休んだら?」

 

ナイフを顔に向けて振り下ろしながら岡野さんが言った。若干発言と行動が合ってないぞ、岡野さんよ。

 

「いえ…ご心配なく。先生これから1度東京に戻りますし。枕を忘れてしまいまして」

 

「「「あんだけ荷物あって忘れ物かよ!!」」」

 

全く…なんで今だにこの先生を殺せないんだか…ん?

何やら神崎さんもカバンを漁っているぞ?

 

「どうした神崎さん。忘れ物か?」

 

「実は…日程表を無くしちゃって」

 

「神崎さんは真面目ですからねぇ。独自に日程をまとめてたとは感心です。でも安心を。先生手作りのしおりを持てば全て安心」

 

「それ持って歩きたくないからまとめてるんでしょうが」

 

思わずツッコんでしまった。

 

「確かにバックに入れてたのに…どこかに落としたのかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

「え」

 

移動日の今日は新幹線とバスで京都に着き、後はこの『さびれや旅館』に泊まるだけの予定だ。旅館での手続きを終え、みんな部屋に移動し始めていた時…根本さんの声が聞こえた。

 

「ん…どうした根本さん。この資料は殺し屋のリストだからあまり生徒には見せたくないのだが…」

 

資料を見ていた烏間先生の後ろを通った時、根本さんが思わず声を上げたようだった。

 

「ああ…すまん烏間先生。す、凄い殺し屋がいるな…って」

 

なんか咄嗟に出たような言い訳を言って誤魔化している。

普段男口調だがクールな根本さんが驚くなんて。そっちの方が気になったので、見てみることにした。

 

「烏間先生、俺も興味があるので見せてもらってもいいですか?」

 

それを聞いた瞬間根本さんの顔色がサァーと真っ青になる。

 

「全く君達は…まあここで見ていた俺も悪い。あまり口外しないように」

 

「はーい」

 

(どれどれ…一体何を…)

 

「!」

 

レキという名前。ドラグノフ狙撃銃。絶対半径2051m。気になる点はたくさんあるが、一番驚いたのは年齢だ。

 

(…俺と同い年じゃねーか…!)

 

まさかE組以外の同い年でもう国家機密レベルの依頼を頼まれる奴がいるなんて。

別の資料のせいで顔写真が隠れていたため、その資料をどかそうとするが、根本さんに抑えられる。

 

「なんだよ…根本さん」

 

「キンジもう部屋に行こう。烏間先生も忙しそうだし、もうみんな移動してる」

 

見渡すと、ロビーにいるのは俺たち3人だけだった。

 

「それもそうだな。すみません烏間先生。興味が湧いたので是非また見せてください」

 

「ああ…あまり見せたいものではないのだがな…」

 

それはそうと根本さんは何であんなに焦っていたのだろうか。気になるな…。

 

「根本さん、さっきなんであんなに驚いていたんだ?やっぱり年齢が俺らと一緒だったからか?」

 

「あ…ああ、そうだ。本当にすごいよな。もうその歳で殺し屋やってるなんてさ」

 

ん?…また誤魔化したっぽい…?

 

「だよなぁ…ドラグノフ狙撃銃って確か対先生用の銃の中にモデルにしたやつがあったよな…?それにしても絶対半径2051ってやばくないか?」

 

「………どういう意味だ?絶対半径って」

 

「ん?ああ、確実に当てれる距離って意味だろ。E組もそのうちそのレベルの狙撃手になったりしてな」

 

「確かE組で一番射撃がうまいのは…千葉君だっけ」

 

「ああ…男子の中じゃ圧倒的だ。女子は速水さんが上手い」

 

「ああ、速水さんね。キンジがよく射撃教えてる子ね。なんで千葉君じゃなくてキンジなんだろうな」

 

そうだ…発端は俺が速水さんの前で抜群の射撃をやったことだった。俺としては遊びでやったことだけど。凄いって思われちゃったんだよな…。

 

「ああ…ちなみに本気を出せば射撃が一番上手いのはキンジってことは…知ってるぞ。もしかして速水さんにそれを知られたのか?」

 

「知ってたのか…。もう全くおっしゃる通りでございます。根本さん…どうかこのことは内密に…」

 

「ああ、分かっている。キンジが暗殺も勉強も手抜きなことは、誰にも言うつもりはない。でもあの中間テストはふざけすぎだろ…」

 

暗殺も…?勉強も…?

 

「何のことだ…?暗殺は射撃以外苦手だし、勉強は中間テストの合計点はクラスでワースト3に入るくらいだぞ?」

 

「言う気がないなら別にいいけど…」

 

「…?」

 

中間テスト…まさか俺が出題の変更された範囲だけを解いて、残りは適当に埋めて全教科50点に揃えた事を知っているのか、根本さんは。

まあ隣の席だし、見えたのかもしれないな。

いくら理事長にムカついたとはいえ、真剣にやってる生徒がいる中、あんな事やるもんじゃなかった。

 

 

 

 

 

 

修学旅行2日目・3日目は班別行動だ。依頼者した狙撃手に各班は最適なスポットへ誘い込む計画だ。

 

「でもさぁ〜京都に来た時くらい暗殺の事忘れたかったよね〜。いい景色じゃん、暗殺なんて縁のない場所でさぁ」

 

俺ら7人班が町の商店街を歩いている中、倉橋さんが周りを見渡して言った。

 

「そうでもないぞ、倉橋さん」

 

「遠山君…?」

 

「ちょっと寄りたいコースがあったんだ。すぐそこのコンビニのところ…」

 

そこには坂本龍馬と書かれた看板があった。

 

「坂本龍馬…ってあの?」

 

「あ〜、1867年龍馬暗殺。『近江屋』の跡地ね」

 

さすが優等生カルマ。年も覚えてるなんてな。

 

「さらに歩いてすぐの距離に本能寺もあるぞ。当時とは場所は少しズレてるけどな」

 

俺の下調べに女子のみんなは驚いていた。

 

「…そっか。1582年の織田信長も、暗殺の一種かぁ」

 

優等生のカルマに続き、神崎さんも納得した様子だった。

 

「このわずか1キロぐらいの範囲の中でも、ものすごいビックネームが暗殺されてる。知名度が低い暗殺も含めれば数知れず。ずっと日本の中心だったこの街は…暗殺の聖地でもあるんだ」

 

「なるほどね〜。言われてみればこりゃ立派な暗殺修行だね〜。さすが遠山君だよ」

 

暗殺を忘れたがってた倉橋さんもご満悦の様子で良かった。

そして、暗殺の対象になってきたのは…その世界に重大な影響を与えるだろう人物ばかり。地球を壊す殺せんせーは典型的なターゲットだ。

 

(……っ!…また頭痛か…!)

 

来るぞ…形容しづらい、記憶っぽいものが…!

 

 

『俺も別に見たい場所なんかないけどな。初日は寺とか神社を最低3つは見て回って後でレポートを提出しなきゃいけないんだ。だからこれから結構歩くぞ。いいな』

 

 

『今のサイレント・オルゴの任務は、その情報を元に、ある人物を暗殺することだ』

 

 

『それだけじゃ済まない気がするのよ。×××やモリアーティのやろうとしている事は。もっと取り返しのつかない…その文明後退とセットになって、世界を激変させてしまうような事になるわ、きっと…………まあ、これはあたしのカンだけど』

 

(……っ……やっと治ったか)

 

また断片的だったが…今回は3つとも今までとは違った感覚だった。だが、3つとも今の話の流れとマッチしてる気がする。本当によくわからない。

それに……いや、今はもういい。旅行を楽しもう。

 

 

 

 

あれからしばらく歩き、今は神崎さんが提案した暗殺場所、祇園にいる。

 

「へー、祇園って奥に入るとこんなに人気ないんだ」

 

確かに今矢田さんが言った通り、静まり返っているな、この場所。

 

「うん、一見さんのお断りの店ばかりだから。目的もなくフラッと来る人もいないし、見通しが良い必要もない。だから私の希望コースにしてみたの。暗殺にピッタリなんじゃないかって」

 

「さすが神崎さん下調べ完璧!」

 

「じゃ、ここで決行に決めよっか」

 

カルマも賛同し、満場一致で神崎さんのコースに決まった。

 

「ホントうってつけだ」

 

「なんでこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」

 

「…!…え?」

 

突然の事に矢田さんが声を上げる。

こいつら…電車ですれ違ったあの集団か?

それに今の『拉致』って言葉。俺たちをさらう気か?

 

「………何お兄さんら?観光が目的っぽくないんだけど」

 

さすがカルマ。体格が一回りいいのでおそらく高校生だろうが、物怖じせずに出ていった。

 

「男に用はねー。女置いておうち帰んな」

 

ガァン!

 

「ホラね渚君。目撃者いないとこならケンカしても問題ないっしょ?」

 

おいおい…今とんでもないことしなかったか、こいつ。

いきなり1人潰したぞ。しかもやり方がエグい。下から顎を掌底し、両目の中に人差し指と中指を引っ掛け、電柱に後頭部をぶち当てる。明らかにケンカ慣れしてんな。

 

(カルマ一人で乗り越えれるか…?)

 

そう思ったのもつかの間、カルマは後ろから鉄の棒のようなもので後頭部を殴られ、気絶してしまった。

 

「ホント隠れやすいなココ。おい、女さらえ」

 

「ちょ何…ムググ」

 

根本さんが口を押さえられ捕まってしまった。隣を見ると渚が殴られて気絶している。

残りは俺、矢田さん、神崎さん、倉橋さんか。

 

「倉橋さん、矢田さんちょっといいか」

 

俺は相手が神崎さんを囲んでいるうちに位置的に逃げやすそうな2人に指示を出す。

 

「2人はここから逃げろ。10分ほどしたらまた戻って来てくれ。戻る時はよく注意してな。絶対に2人一緒に行動してくれ。あと殺せんせー連絡しておいてくれ」

 

状況が状況のため早口で簡潔に説明する。

 

「えっ…じゃあ根本さんと神崎さんは…?」

 

「そこは大丈夫だ。俺に任せ…」

 

「何コソコソ喋ってんだ!」

 

そう言って1人のやつが俺に襲いかかってきた。

 

「2人とも!早く行け!」

 

矢田さん倉橋さんはそれと同時に走り出した。

 

暗殺で鍛えたからきっと追いかけられても逃げれる筈だ。ま、そんなことはさせないがな。

 

「逃すかよっ!」

 

そう言って走ろうとしたやつのテンプルに意識を刈り取る一撃を放つ。

そいつは壁に衝突し、気絶してしまった。

 

カルマが気絶させたやつが1人、俺が気絶させたやつが1人、根本さんと神崎さんを押さえてるやつで2人…あとは1人。一対一のタイマンになった。

 

「お前、今の動き…相当つえーな?」

 

どうやら動きが良かったらしく、向こうのリーダーらしいやつに褒められてしまった。

 

「……」

 

「何シカトこいてんだ……よ!」

 

そう言いながら襲いかかってきた。ったく…喋りながら攻撃するなよな。舌噛んだらどうすんだ。

相手は休む暇なく俺に拳や蹴りを繰り出すが…俺はそれを全て避けるかいなすかして回避した。

防戦一方に見せて、途中途中相手の胸に軽く拳を当てる。これはいつでもカウンター出来るという合図だ。

 

「テメェ…この状況で遊んでやがるな…?」

 

どうやら相手も圧倒的な力の差に気づいたらしい。

さて、どうやって女子を助けようか。

 

「は…ハッハッハッハッ。テメェがつえーのはよく分かった。だがな…先に女を捕まえた時点でこっちの勝ちは決まってるんだよ」

 

「やっぱり持っていたのか…」

 

リーダー格の男はポッケから光り物を出した。ナイフだ。それを女子2人に近づけて言う。

 

「こいつらを傷つけられたくなければ、今すぐ後ろを向け」

 

うわぁ。出たよまさに人質を取った犯人が言いそうな常套句。

俺は言われた通り後ろを向く。どうやら殴り合いをしている間に10分経ったらしいな。2人が気配を消してこちらの様子を伺っているのがわかる。

 

「そいつの後頭部に思い切りいいのぶち込んでやる。流石に頭をやられたら起きてられないだろう」

 

 

 

リーダー格のやつはカルマを叩いた鉄の棒を持って…

 

バキィッ!

 

俺の後頭部を殴ってきた。

 

「ぐっ…」

 

俺は前のめりに倒れてしまう。

突然目の前に現れたのは……高校生だ。

俺らより一回り大きい身体。未知の生物の襲撃だった。

 

 

 

 

 

「みんな!大丈夫!?」

 

矢田さんと倉橋さんが帰ってきたようだ。

俺が殴られて、気絶したフリをした後…やつらは車に乗って逃げた。車のナンバー隠してやがったな。多分盗車だし、どこにでもある車種だ。犯罪慣れしてやがる。

旅にトラブルはセットとはいえあまりにでかすぎるトラブルに、矢田さん倉橋さんが涙目で途方に暮れているが…俺には助ける手立てが浮かんでいた。




トラブルはつきものですよね。


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3巻
第13話 しおりの時間


ちょっと間隔空いてしまいました…
お気に入りなどありがとうございます!!


 

 

 

 

月を壊した超生物が、あろう事か俺らのクラスの先生に。でも困った事にこの生物は…限りなく暗殺不可能なターゲットだ。

 

 

 

 

 

 

修学旅行の判別行動中、俺たちはトラブルにあった。男子2人は気絶させられ、女子2人は拉致されてしまった。

 

「遠山君!隠れて見てたけど、さっきの、大丈夫だった!?」

 

どうやらさっき俺が鉄の棒で打たれた事を心配しているらしい。

矢田さんが泣きそうな、というかもはや泣きながら心配してくる。倉橋さんも涙目だった。確かに女子は男子よりもこういう場面は縁遠いからな。心底怖かったのだろう。

 

「どうしようどうしよう…!殺せんせーには連絡つかないし…!」

 

あのタコ…!どうせ観光楽しんでやがるな…こんな大事な時に。

 

「矢田さん、倉橋さん、一旦落ち着いて」

 

俺はそう言って2人の顔に手を当て涙を拭き取ってあげた。

 

「遠山君…」

 

「まず、俺は昔から石頭でできていて、さっきのは全く痛くなかったから大丈夫だ。だけど渚とカルマは気絶してる。下手に動かさずにここで2人が起きるまで一緒にいてあげてくれ」

 

「石頭…?よかったぁ…とにかく大丈夫なんだね」

 

「ああ…俺はいいから渚とカルマを頼む」

 

「分かった…遠山君は…?」

 

「俺は根本さんと神崎さんのいるところへ向かう」

 

「場所がわかるの!?」

 

「ああ…実はさっき、神崎さんにGPSをつけておいた。殺せんせーに使えるかと思って買ったんだが、思わぬところで役に立った」

 

「じゃあ、通報してそこに向かえば…!」

 

「いや…それだと時間がかかる。殺せんせーも電話に気づいていない。だから俺1人で行ってくる。このしおりには『拉致られた時の対処法』が載っているから殺せんせーに連絡がつけば後は秒読みなんだけどな…」

 

「そんなの危険だよ!あいつら刃物まで持ってたし…人数も…」

 

「矢田さん…俺を信じてくれ」

 

俺は矢田さんの頭に手を置き、安心させるように撫でた。すると矢田さんはカアァァァァ。一瞬で顔を真っ赤にしてしまった。

 

「…ぅん…じゃあ…信じる…絶対に無事に帰ってきてね…」

 

俯きながらもそう言ってくれた。

 

「ああ…!ありがとう、行ってくる!」

 

あれ、この感じ…まさか。

 

(…奪い返せ…)

 

マジかよ、入ってやがる。あのモードに。参ったな。

 

 

 

 

 

奴らは車で移動したにもかかわらず、どうやら2キロほどしたところで止まったようだ。よかった、タクシーを使わなくても済む。

こいつらは土地勘のない修学旅行生だったな…そうなれば必然的に近場で人目につかない場所を選ぶ。

あとはGPSに向かってダッシュするだけだ。

 

(よし…ここだな)

 

なるほど。閉店した店を選んだか。看板は錆びだらけで、『ダーツ・ビリヤード』と書いてある。拉致にはもってこいだな。

入り口に見張りが1人いたのでとりあえず赤子の手をひねるようにボコし、ギィ…と重く錆びた扉を開いた。

 

「お、来た来た。うちの撮影スタッフがご到着だぜ」

 

「誰が撮影スタッフだって?」

 

「!?」

 

俺はさっきと同じポカをしないよう、入ると同時にダッシュし、根本さんと神崎さんを守れる位置につく。

俺の登場からのダッシュに不意をつかれたようで、こいつらは動かないから楽勝だったぜ。これで2人が人質に取られることはない。

 

「遠山君!」「キンジ!」

 

「なっ…テメェ!なんでココが分かった…!?」

 

「さあ、教える義理はないな。それよりも…どうすんだ?こんだけの事してくれたんだ。あんたらの修学旅行はこのあと全部入院だよ」

 

俺はあのモードに入ってるせいもあってか、口調が荒くなる。

 

「………フン。中坊がイキがんな。呼んどいたツレ共だ。これでこっちが10人。お前みたいな良い子ちゃんはな。見たこともない不良共だ」

 

扉からは新たに5人ほど部屋に入ってきた。

俺は根本さん達を後ろにし、10人を相手にしなければならない。これから何が起ころうとしてるのか、女子も含めこの場の全員が肌で感じる。

 

「退路はなくなった、か。これで思う存分お前らの望む展開ができるな」

 

「まずその澄ました顔を恐怖に変えてやる」

 

「また暴力か」

 

「暴力はこの世で最も強い力だ。どれだけ小細工しようが、暴力の前には屈さざるを得ない。お前ら優等生もな」

 

今にも仕掛けてきそうな状況になったところで、俺は一度ここにいる全員に視線を送った。

 

「お前の無様な姿を目に焼き付けて、それで手打ちにしてやるよ。その後は後ろの女の調理に入る」

 

「確かに人は暴力の前には屈する…けどな、それを貫き通すには常に相手の力量を上回る必要がある。そのことを分かっているのか?」

 

「あ?」

 

「この場にいる10人だけじゃ、俺は止められないってことだ」

 

「ク、ククク。クククククククク」

 

よほどおかしかったのか、リーダー格の男は腹を抱えて笑った。

 

「よしお前ら…このバカに教育してやれ」

 

ひとしきり笑った後、ついに指示が出された。

 

「ナメたこと言いやがって!」「ふざけんな!!」

 

4人が一気に殴りかかってくる。手に瓶を持ってるやつもいる。

 

「ふざけるな?」

 

俺は4人全員の顎を強打し、ダウンさせる。

 

「俺のセリフだ。そんな汚い手で、俺の仲間に触れるなんてふざけるんじゃない」

 

残りのやつも襲いかかって来たので、死なない程度に意識を落としてやる。

その俺の強すぎる姿に…神崎さんは絶句し、根本さんは笑っていた。

残るはリーダー格1人だけだ。

 

「ケ…テメーも肩書きで見下してんだろ?バカ高校と思ってナメやがって」

 

「エリートじゃない…」

 

「…?」

 

「確かに俺らは名門校の生徒だが…学校内では落ちこぼれ呼ばわりされ、クラスの名前は差別の対象になっている。だが、お前らのように他人を水の底に引っ張るようなマネはしない。学校や肩書きなんて関係ない。清流に棲もうがドブ川に棲もうが前に泳げば魚は美しく育つもんだ」

 

そう。結局のところ、そいつ自身の問題なんだ。俺はそう信じたい。

 

「……!」

 

俺はこいつに言ったつもりだったが、神崎さんも何か心当たりがあるようで目を見開いていた。

 

「さて遠山君…最後に彼を手入れしてあげましょう」

 

やっと到着か、殺せんせー。

声の方向から広辞苑のようにブ厚いしおりが投げられた。それを頑張ってキャッチするが、マジで重いなこれ…。

 

「修学旅行の基礎知識を…体に教えてあげるのです」

 

言われた通り、その鈍器と化したしおりをリーダーの男の頭にゴスッーーと食らわせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠山君、よく頑張りました。ありがとうございます」

 

「たまたまうまくいってよかったです」

 

「それにしても遠山ぁ、あの人数を1人でやったの〜?もしかして君ケンカ強い〜?俺と勝負しない?」

 

カルマと渚は気絶からすっかり回復したらしい。よかったよかった。だがカルマは元気になりすぎだ。

それにしても…

 

「何かあったのか神崎さん」

 

「え…?」

 

「ひどい災難にあって混乱しててもおかしくないのに…なんか逆に吹っ切れた顔をしてるぞ」

 

「……特に何もないよ遠山君。ありがとう」

 

頰を染めながらお礼を言われちゃった。

 

「おう」

 

これにて、一件落着だな。

 

「ところで、遠山君って喧嘩強いんだね」

 

全然落着してなかった。見られちゃったんだよな。

 

「どうしてその力を普段も見せないの?絶対に暗殺で役に立つと思うのに。もしかしたら烏間先生より強いんじゃ…」

 

「神崎さん」

 

俺はそう言って神崎さんの肩に手を置いて引き寄せた。

 

「今回はたまたまうまくいっただけだ。それに俺は平和主義なんでな。あんま人に知られたくないんだ。今日助けたことを少しでも恩に感じたのなら、秘密にしてくれないか」

 

言い方がずるい気がするが、これでいいや。こう言えば神崎さんも黙っていてくれるだろう。

 

「……分かった。でも1つだけ言わせて」

 

そう言うと神崎さんは俺に顔を近づけて来て…

 

「遠山君、凄くカッコよかったよ」

 

「!」

 

耳打ちしてきた。なんか石けんみたいないい匂いしてきてドキドキしてしまった…が、どうやら秘密にしてくれるらしい。良かった、今度こそ一件落着。

 

それにしてもまさかこんなトラブルに遭うなんてな。しかもこれを想定してしおりに対処法が書いてあるとか…うちの先生は正気か?

もし俺がいなかったらこのしおりは大いに役に立ってただろうな。

困ったことに俺らのターゲットは…限りなく頼りになる先生だ。

 




緋弾のアリアでどのキャラが好きですか?
自分はネモカツェとライカです!
暗殺教室だと速水さんと倉橋さんです!
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第14話 恋バナの時間

今度緋弾のアリアと暗殺教室のキャラで人気投票とかやりたいな…


 

 

 

 

2日目の班別行動が終わり…俺たちは今旅館にいる。今ちょうど温泉を出たところだ。ボロい旅館のくせに割には温泉の質最高だったぜ。

男湯の暖簾をくぐると、何やらゲームコーナーに人が集まっていた。

 

 

 

「うおお…どーやって避けてるのかまるでわからん!」

 

「恥ずかしいななんだか…」

 

「おしとやかに微笑みながら手つきはプロだ!!」

 

そこで意外にもゲームをしてたのは神崎さんだ。相当な腕らしく、杉野が大げさにリアクションをとっている。

 

「すごい意外…神崎さんがこんなにゲーム得意だなんて」

 

画面を見ていた矢田さんも感心している様子だった。

 

「…黙っていたの。遊びができてもウチじゃ白い目で見られるだけだし…でも、周りの目を気にしすぎてたのかも。服も趣味も肩書きも逃げたり流されたりして身につけていたから自信がなかった」

 

神崎さんは過去の自分を哀れむように言った。

 

「でも、今日遠山君に言われて気づいたの。大切なのは中身の自分が前を向いて頑張ることだって」

 

どうやら今回の件が自信につながったようだな。

頰を赤くしてうっとりした表情で言った神崎さんだが、相変わらず手先はプロだ。

 

「すっげ〜…」

 

根本さんは画面に近寄り開いた口が塞がらない状態だ。

神崎さんの意外な一面。さらわれた時根本さんと何か話したのか?なんか2人の空気が軽い。

さらわれて災難にあった2人だったが、それを通して仲良くなったようだな。

 

 

 

 

 

烏間先生の話によると、ほとんどの狙撃手達は仕事の難度を見て断り、唯一受けた腕利きも途中で辞退したそうだ。なので京都での狙撃計画は今日で終わりらしい。

 

「そういえば君の班は今日トラブルに遭って暗殺ができなかったらしいな」

 

「はい…神崎さんと根本さんが不良の高校生に拉致されました」

 

「ああ、大方の事情はヤツから聞いている。全員無事で何よりだ」

 

「はい、暗殺者なのにターゲットに助けられちゃいましたね」

 

「悔しいが…ヤツには感謝しなくてはな」

 

そんな俺と烏間先生のやりとり。

どうやら殺せんせーは俺がやったことを烏間先生に言っていないらしいな。一応その場にいたみんなには俺がやっつけた事は他言無用にしてもらったが、バレるのは時間の問題だな。

烏間先生は突然「そういえば…」と、何かを思い出したように言った。

 

「君は殺し屋に興味があると言っていたな。本来よくないことがだが、特別だ。今回依頼した者の資料でよければ見るか…?」

 

あー。なんか疲れててすっかり忘れてた。そう言えばそんなことも言ってたな。

実際どちらでも良かったが、ここで断るのは気が引けるので、見せてもらうことにした。

 

「これが今日依頼した人物だ」

 

昨日見そびれた写真を見ると……

 

「えっ」

 

(…私は…一発の銃弾…)

 

エメラルドの髪色。ヘッドホンをつけたショートカット。無感情、無表情が似合う顔の少女。

 

(また、記憶が……?)

 

頭がズキンと痛む。

 

「どうした?」

 

「いえ…こんな女の子もやっているんですね、殺し屋」

 

「ああ。彼女の腕は凄いぞ。世界の狙撃手の中でも五本の指に入る。だが、それほどの腕前を持ってしても…奴には敵わなかった」

 

「……」

 

「本当に奴を殺せる殺し屋などいるのだろうか…」

 

「……きっとE組なら殺れます。なので烏間先生、帰ってからも指導お願いします」

 

それだけはE組が殺ると思う。いや、絶対に殺ってみせる。

 

「ああ…今までよりもビシバシ行くぞ。とりあえず修学旅行はこれ以上君らに負担はかけられん。ここから先は自由時間だ。思う存分楽しむといい」

 

「烏間先生!卓球やりましょうよ!遠山も!」

 

どうやらここには卓球台があるらしく、磯貝と三村が卓球をやるよう誘ってきた。

 

「いいだろう…強いぞ俺は」

 

烏間先生も乗り気なようで、俺らは温泉卓球に勤しむのであった。

 

 

 

 

「しっかしボロい旅館だよなぁ。寝室も男女大部屋2部屋だし。E組以外は個室だそーだぜ」

 

温泉卓球で見事俺から勝利した三村が旅館を見渡しながら愚痴をこぼした。

クッソ…トランプに引き続き卓球も負けるとは…また奢るはめになってしまった。

 

「いいじゃないか。賑やかでさ」

 

さすがクラス委員の磯貝。良いこと言った。

俺らが大部屋に着くと、中では何やら小さい円になって紙とペンを持ってはしゃいでいた。

 

「おお!磯貝、三村。そして目玉の遠山!やっときたか!」

 

目玉…?何俺、そんなあだ名つけられてんの?

泣きそうだわ。

それにしても、なんだ?前原のやつ。嫌な予感しかしないんだが。

 

「お前ら、クラスで気になる奴いる?」

 

うげぇ。俺の苦手な話題じゃん。

俺らが来る前にみんなで投票かなんかしたらしく、堂々の一位は根本さんだった。理由の欄には顔・性格・男口調によるギャップなどと書いてある。

まあ可愛いよな…そりゃ。ちなみに2位は神崎さんだ。

 

「大丈夫、この事は俺らだけの秘密だ。みんな言ってんだ。逃げらんねーぞ」

 

でしょうね!

 

「気になるやつか…ま、好きとかじゃないんだけどな、女子の中だったら1番いいと思うのは片岡かな」

 

磯貝君? い…言うの!?

 

「2人は学級委員だしな。そこは大体予想ついてたわ。問題はお前だよ、遠山!」

 

「え…何が…」

 

「分かってんだろ、女子も気になってるやつ多いと思うぜ?」

 

「あー確かに!」

 

木村君まで…?

 

「班決めの時よォ、こいつ女子にばっか誘われてやんの。俺の班の不破さんも遠山入れたがってたし」

 

「「「マジでか!!?」」」

 

前原を含め他の男子からは驚きの視線を向けられる。

 

「しかもお前の班、矢田に倉橋に神崎に根本って…全員優良物件じゃねーか」

 

紙をもう一度見たらランク順に上から根本さん、神崎さん、矢田さん、倉橋さんだった。俺の班の女子ってこんな猛者だったのか。

 

というかなんだ…?みんなして座布団持ってきて…?

 

「「「死ねェ!」」」

 

男子全員から座布団を投げられた。理不尽…!

 

「なんだってんだっ!」

 

「このモテ男め…!」「イケメンめ!」「女泣かせめ!」

 

こいつらァ…寄ってたかって投げやがって。痛い痛い!今日のヤンキーのやつよりも痛い!主に心が!

渚や磯貝は苦笑いで混じってるけど、前原や岡島はガチじゃねーか!あと何故か竹林も!

 

しばらくしてみんなゼエゼエ息を切らし…座布団集中砲火は収まった。殺せんせーは普段こんな気分なのかね?

 

「で…誰なんだよ…気になってる奴は…?」

 

前原っ!しつこッ!

 

「えーっと、気になってる奴は…正直いないッ…!」

 

これでどうだ…?

 

「…………あ?」

 

え?

 

「そりゃあ遠山……自分に見合う女子がいないってことかァ!」

 

「あがっ」

 

再び座布団を投げられた。もうなんなのよ今日は!顔面に当たって痛いし!

 

「分かった。百歩譲ってその意見は許してやろう。じゃあ1番可愛いと思う女子は誰だ…?」

 

可愛い女子だと…?

 

「正直E組の女子は全員可愛いと思うが…強いて言うなら…」

 

俺がそれを言おうとしたちょうどその時

 

「ちょ〜っと待ったぁぁ!」

 

襖が全開に開いた。そこに立ってるのは根本さんと神崎さんだ。ランキングツートップのお二方が何の用だろうか、男子部屋に。

 

「どうしたんだ?2人とも」

 

「遠山君。ちょっと時間いいかな?今日回ったところのまとめで、聞きたいことあるんだけど…」

 

「女子の大部屋に来てくれキンジ。女子にはもう許可取ってあるから」

 

「え…あ…分かった」

 

若干断ろうか迷ったが、今の状況からすれば助け舟なので、乗る事にしよう。

 

「すまん前原、また今度な」

 

2人に腕を引かれるようにして、部屋から出るのであった。前原の表情が怒りに変わっていたことはきっと勘違いだと信じて。

 

「今日回ったところのまとめだっけか…何か俺もプリント持ってきた方が良かったか…?」

 

「いや…必要ない。さっきの嘘だから」

 

「え……」

 

「ごめんね遠山君。女子部屋で満場一致で遠山君を拉致することが決まってね」

 

なんで?今日自分たちがされた事を俺にもやろうと…?

助け舟のつもりが泥舟だったか…?

 

「それはだいぶタイムリーな話だな…。そういえば、拉致された時本当に何もされなかったか…?」

 

「ああ…キンジがやっつけてくれたしな」

 

「うん…凄くカッコ良かったよ、遠山君。何で普段本気を出さないのかな?」

 

「え…それは…」

 

しまった…今更ながら口止めだけして言い訳を考えていなかった。

 

「ま…神崎さん。それについては今度たっぷり聞かせてもらおうよ。とりあえず今は…」

 

根本さんが襖を開ける。

 

「おっ、来たね〜王子様」

 

「ごめんね〜遠山君。ちょっとだけ顔貸してね」

 

ちょうど目の前にいる中村さんと片岡さんが喋りかけてきた。

女子も男子と同じように円になって話している様子だった。

俺は円から少し離れたところに座る。

 

「どうしたんだ?みんなして」

 

「ああ…今みんなで恋バナしてたんだ」

 

男女ともに全く同じことをしていたので俺はつい笑ってしまう。

やっぱりこの時期は恋愛が盛んな思春期だからしょうがないのか。

 

「ぶっちゃけ、遠山君は好きな子とかいないの?」

 

「ブッ」

 

いきなりなんて事聞きやがるんだ中村さん。ぶっちゃけすぎだ。

 

「男子からもしつこく聞かれたが、何でそんなに俺の好きなやつに興味あるんだ?」

 

「そりゃあ、遠山君がテレビに出てる俳優とかよりもカッコいいからでしょ」

 

「何言ってんだか…」

 

殺せんせーに勉強と一緒に眼も診てもらった方がいいんじゃないか。マジで。

 

「好きな奴だっけか……男子にも言ったが、いない」

 

俺のその言葉に、様々なリアクションをとる女子たち。

つまらなそうな中村さん。ホッと胸をなでおろす矢田さん倉橋さん不破さん。チラリと目を逸らす速水さん。微笑む神崎さん。期待はずれという顔の根本さん。

 

「じゃあ、1番可愛いと思う女子は?これなら答えれるっしょ?」

 

ふむ。

まあそれなら答えてやってもいいか…?

 

「誰って言うと思う?」

 

「え〜どうせ根本さんか神崎さんでしょ?なに…まさか私とか…?」

 

中村さんは半分ふざけ、半分期待という様子で言う。

 

「そのまさかだ。中村さんだよ、俺が1番可愛いと思ってるのは」

 

「「「!!!」」」

 

「えっ…ちょ……はぁ?」

 

よし。予想通り中村さんは顔を真っ赤にしてテンパっている。

女版前原、撃破。

 

「って言う冗談はさておき……やっぱりそれも決められない。可愛い人多すぎるんだよな、この教室」

 

男子の時は言おうとしたが、やっぱりここでは言えない。本人の目の前だからな。

それを聞いて各々ホッとしたようなリアクションを取っている中、中村さんが睨んできた。

 

「てめぇ、遠山!そんなの嘘って分かってたのに騙されちまったじゃねーか!」

 

中村さんは自分の下に敷いていた座布団を手に取り、投げた来た。

痛い!

 

「確かに、今のは遠山君が悪いよね」

 

片岡さん!?

 

「乙女の心を弄ぶなんてサイテー」

 

岡野さん!?

 

「この際だから、たっぷり痛めつけておくべき」

 

速水さんまで!?てか君そんな事言っていいの?射撃教えてあげないよ?

と思う俺の心の声は届かず…みんなして俺を囲んで……ま!まさか!

 

「「「殺れぇ!」」」

 

また座布団の集中砲火。もう勘弁してくれ…。

 

 

 

 

 

「明日最終日かぁ。楽しかったな修学旅行。みんなの色んな姿見れて」

 

女子にこってり絞られた後、俺は男女から食らった座布団集中砲火の傷を癒すべく、廊下の窓からから月を見ていた、根本さんと一緒に。

 

「………」

 

「どうしたんだ?さっきの事なら悪かったって」

 

 

「そう思うんなら座布団を投げないで欲しかったよ。ま、それはともかくちょっと思ったんだが、修学旅行ってさ、終わりが近づいた感するじゃんか。暗殺生活は始まったばかりだし、地球が来年終わるかどうかは分からないけど、このE組は絶対に終わるんだよな。来年の3月で」

 

来年の3月。そこまでには絶対に地球が爆発するか殺せんせーが死ぬ。

 

「……そうだな」

 

「みんなの事もっと知ったり、先生を殺したり。やり残す事ないように暮らしたいって思ってな」

 

だが先生を殺す、と言うことは単純なことではないはずだ。

大量のお金がもらえる達成感?いやいや違うな。

今日の拉致だって俺の介入がなかったら殺せんせーが助けてたはずだ。つまり殺せんせーといるのが楽しく感じたり、感謝してからでは危ういんだ、この暗殺は。

きっと時間が経てば経つほど、殺した時に残るものは……

 

「なんだ?キンジのくせに。ま、とりあえずもう一回くらい行きたいな、修学旅行」

 

「………ああ」

 




次回、転校生が…!?


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第15話 転校生の時間

天気の子面白かった…


 

「あーあ。今日から通常授業か」

 

修学旅行も終わり、休み明けの月曜日。憂鬱だ、マジで。

 

「修学旅行からの休み明けだもんね。やる気でないよね」

 

確かにその通りなんだけどな。俺の言う憂鬱は今、神崎さんと2人で登校してるこの状況も含まれている。

何でこんな美少女と登校せにゃあかんのだ。

 

「そういえば遠山君、昨日烏間先生から一斉送信メールきた?」

 

「おう」

 

メールの内容は『明日から転校生が1人加わる。多少外見で驚くだろうが…あまり騒がずに接してほしい』との事だった。

 

「…うーん、この文面だとどう考えても殺し屋だよね」

 

「ああ、ついに来たな、転校生暗殺者」

 

「転校生名目って事は…ビッチ先生と違って私たちと同い年って事かな?」

 

「さあ…どうだろうな」

 

女子だけは勘弁して欲しいな、切実に。

何やら前を歩いている岡島たちがはしゃいでいるぞ…。今日の転校生の話題だろうか。

殺し屋であろうとなかろうと、『転校生』には期待と不安が入り混じる。

どんな人で、どんな暗殺をするのか。とても興味が湧くもんだ。

 

「来てるかな、転校生」

 

神崎さんがワクワクしながらドアを開けるとそこにあったのは…

 

「………箱?」

 

縦長の真っ黒な箱が最後列の後ろに置いてあった。

俺たちよりもはやく登校して来た生徒も不思議に思って黒い箱を囲っている。

 

「おはようございます。今日から転校してきました。"自立思考固定砲台"と申します。よろしくお願いします」

 

なんか画面のところから女の子が顔が映って喋ったぞ。

…………そうきたか。

 

 

 

「みんな知ってると思うが、転校生を紹介する。ノルウェーから来た自立思考固定砲台さんだ」

 

HRの時間。念のため、烏間先生が転校生の紹介をしていた。

うん、なんて言うか…。烏間先生も大変だなぁ。

そのシュールな姿に殺せんせーも爆笑してるし。

 

「お前が笑うな!同じイロモノだろうが!」

 

思わず突っ込んでしまう烏間先生だった。

 

「言っておくが…『彼女』はAIと顔を持ち、れっきとした生徒として登録されている。あの場所からずっとお前に銃口を向けるが、お前は彼女に反撃できない。『生徒に危害を加えることは許されない』それがお前の教師としての契約だからな」

 

「……なるほどねぇ。契約を逆手にとって…なりふり構わず機械を生徒に仕立てたと。いいでしょう!自立思考固定砲台さん。あなたをE組に歓迎します!」

 

こうして自立思考固定砲台が俺らの仲間に加わったのであった。名前が長いから茅野あたりに名付けてもらわないとな。

 

「でもどーやって攻撃すんだろ」

 

「何が?」

 

HRが終わり1限の国語の授業。根本さんが俺に話しかけて来た。

 

「固定砲台って言ってるけどさ、どこにも銃なんて付いてないだろ?」

 

「ああ…多分だけど…」

 

カッーガシャガキィン ジャキ!

 

「!」

 

音がした方向を見てみると案の定自立思考固定砲台が箱の側面から機関銃やらショットガンやらを出していた。

うわぁ。やっぱり。武器は箱の中にしまってあったんだ。

 

ババババババババババババババババ

 

大量の玉が先生に向かって発射される。

だが、うちの先生はマッハ20で避けるか、チョークで弾をはじいていた。

 

「ショットガン4門、機関銃2門。濃密な弾幕ですが、ここの生徒は当たり前のようにやってますよ」

 

「…っ…」

 

痛い!痛い!黒板から弾かれた弾が俺らに被弾するんだが。

 

「それと、授業中の発砲は禁止ですよ」

 

「気をつけます。続けて攻撃に移ります」

 

どこが気をつけてるんだよ。このAIコミニケーション能力が欠落してるだろ。

だけど、ここからが本領発揮らしいな。

 

「弾道再計算。射角修正。自己進化フェイズ5-28-02に移行」

 

彼女は進化する。頭も体も自らの手で。

 

「…こりませんねぇ」

 

殺せんせーが顔を緑と黄のシマシマにした。これは舐めきっている時のサインだ。

あのバカダコ。相手はAIなんだぞ。

再び弾が発射され……

 

「!?」

 

バチュッと殺せんせーの指がちぎれる。

 

(やりやがった…)

 

さすがAIだな。

今のは隠し弾だ。つまり全く同じ射撃の後に…見えないように1発だけ追加していた。

 

「右指先破壊。増設した副砲の効果を確認しました」

 

暗殺対象の防御パターンを学習し、武装とプログラムに改良を繰り返し、少しずつ逃げ道を無くしていく。

 

「次の射撃で殺せる確率、0.001%未満。次の次の射撃で殺せる確率、0.003%未満。卒業までに殺せる確率、90%以上」

 

え?100%じゃないの?

ま、ここにきて初めて俺らは気づいた。彼女ならひょっとして殺るかもしれないことに。

 

「よろしくお願いします殺せんせー。続けて攻撃に移ります」

 

プログラムの笑顔で微笑みながら、転校生は次の進化の準備を始めた。

 

 

 

 

甘く見ていた…というより、認識を間違っていた。

殺せんせーにこんなあっさりと弾を当てるなんて。

今もなお発砲は続いている。

 

「2発の至近弾を確認。見越し予測値計測のため主砲を4門増設し、続けて攻撃に移ります」

 

目の前にいるのは…紛れも無い殺し屋だ。

烏間先生から聞いた話だが、この自立思考固定砲台のシステムはれっきとした最新の軍事技術らしい。

確かにこれならいずれは…と思うのだろうが、そんなに上手くいくはずがないに決まってる。

もしこの教室がそんな単純な場所なら、烏間先生やビッチ先生はここで先生なんてやっていないだろう。

 

1時間目の時間ずっと砲撃を続けたこの教室の床は…BB弾がぐっちゃりと散らばっていた。

これ…俺らが片すの?

 

「掃除機能とかついてねーのかよ。固定砲台さんよ」

 

村松が語りかけるが、応答がない。

固定砲台は節電のつもりなのか、画面を真っ暗にしている。

2時間目…3時間目…その日は一日中ずっと…機械仕掛けの転校生の攻撃は続いた。

俺たちからしたら授業もできない上に…あのタコがやられたら全部手柄が持って行かれるので迷惑この上ない。

そして殺せんせーも弾を避けながらも…もう攻略済みの顔をしていた。

じゃあよろしく頼みました、と。

 

 

ーーー翌日

 

「朝8時半。システムの全面起動。今日の予定、6時間目までに215通りの射撃を実行。引き続き殺せんせーの回避パターンを分析」

 

そんな事をしても無駄だぞAI。

 

「…殺せんせー。これでは銃を展開できません。拘束を解いてください」

 

そう。この固定砲台にはガムテープがぐるぐる巻きにしてあったのだ。おそらくもう銃が飛び出ないように。

 

「うーん、そう言われましても」

 

「この拘束はあなたの仕業ですか?明らかに私に対する加害であり、それは契約で禁じられているはずですが」

 

「ちげーよ、俺だよ」

 

そう言ったのは…寺坂だった。手にはガムテープが握られていた。

 

「どー考えたって邪魔だろーが。常識くらい身につけてから殺しに来いよポンコツ」

 

ポンコツ…お前が言うか。

…ま、わかんないだろ、機械に常識は。

そりゃこうなるよな。昨日みたいにずっとされてちゃ授業にならないしな。

 

拘束された固定砲台は画面に『通信中』の文字を浮かべた。本部に連絡でもするつもりだろうか。

 

「ダメですよ。保護者に頼っては」

 

「!」

 

それを見かねた殺せんせーがこの固定砲台に近づいた。

 

「あなたの保護者が考える戦術は…この教室の現状に合っているとは言い難い。それに、あなたは生徒であり転校生です。みんなと協調する方法はまず自分で考えなくては」

 

「……協調?」

 

「なぜ先生ではなく…生徒に暗殺を邪魔されたか分かりますか? 彼らにしてみれば、君の射撃で授業を妨害される上君が撒き散らした弾の始末に労力を使う。しかも君が先生を殺したとして…賞金は多分君の保護者に行くでしょう。あなたの暗殺は他の生徒にはなんのメリットも無いわけです」

 

「………そう言われて理解しました殺せんせー。クラスメイトの利害までは考慮していませんでした」

 

「ヌルフフフフ。やっぱり君は頭が良い。ところで…これをあなたに作ってみました」

 

「……?」

 

殺せんせーはそう言うと、ビデオのような形のものをケーブルで固定砲台に接続した。

 

「アプリケーションと追加メモリです。ウイルスなど入ってないので受け取ってください」

 

「………!……これは…!!」

 

「クラスメイトと協調して射撃した場合の演算ソフトです。暗殺成功率が格段に上がるのが分かるでしょう」

 

「………異論ありません」

 

「暗殺における協調の大切さが理解できたと思います。どうですか?みんなと仲良くなりたいでしょう」

 

「方法がわかりません」

 

「お任せあれ。すでに準備をしてきました」

 

さすが殺せんせー。もう手入れの準備はできてるってことか。

 

「……それは何でしょう」

 

「協調に必要なソフト一式と追加メモリです。危害を加えるのは契約違反ですが…性能アップさせる事は禁止されていませんからねぇ」

 

すげぇ…!スパナやペンチなど、様々な道具を駆使して改造してやがる。パソコンを固定砲台に繋げながらデータを取っている。なんて知識量だ、この怪物は。

 

「……なぜこんな事をするのですか。暗殺対象であるあなたの命を縮めるような改造ですよ」

 

殺せんせーは自分のことなんて二の次だからなぁ。俺たちには分かりきっているが、固定砲台にはその理由がわからないらしい。

 

「当然です。ターゲットである前に先生ですから。昨日1日で身に染みて分かりましたが、君の学習能力と学習意欲は非常に高い。最新の人工知能と比べても突出しています。その高性能は、君を作った保護者のおかげ。そして君の才能を伸ばすのは、生徒を預かる先生の仕事です」

 

本当、呆れるほどの教師バカだ、うちの担任は。

 

「みんなとの協調力も身につけて…どんどん才能を伸ばしてください」

 




お読みいただきありがとうございます!


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第16話 改良の時間

1ヶ月ぶりです!
遅くなってしまいすみません!


 

 

 

 

 

 

「ねぇ…今日もいるのかな」

 

おう。今日もいるぞ、君が隣に。なんで俺は毎日神崎さんと登校する事になってるんだろうな。昨日同様学校の最寄駅で待たれてたし。

まあ神崎さんが言ってるのは固定砲台のことだろうけどさ。

 

「多分…」

 

「烏間先生に苦情言いたいよね。固定砲台と一緒じゃクラスが成り立たないって」

 

教室に入り、固定砲台を見ると……何か違和感を感じる。

 

「……ん?なんか体積が増えてるような…」

 

「おはようございます!遠山さん神崎さん!」

 

「「!!!」」

 

なんか箱全体に制服姿の女の子が映っているんだが。

しかも昨日のように無表情・無感情ではなく、仕草、笑顔など可愛らしいものがある。

 

「親近感を出すための全身表示液晶と体・制服のモデリングソフト、全て自作で8万円!」

 

なんか後ろにタコが現れたぞ。

殺せんせー…あんたいらん機能までつけてるんじゃ…しかも8万て…。

 

「今日は素晴らしい天気ですね!!こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです!!」

 

「豊かな表情と明るい会話術。それらを操る膨大なソフトと追加メモリ。同じく12万円!!」

 

転校生が…おかしな方向へ進化してきた。

 

「先生の財布の残高…5円!!」

 

このエロダコ…!やっぱり頭おかしいわ…!

 

 

 

 

 

 

 

「庭の草木も緑が深くなっていますね。春も終わり近付く初夏の香りがします!」

 

なんかムード音楽流れてるし。

 

「たった一晩でえらくキュートになっちゃって…」

 

その100倍くらいえらくキュートな根本さんが言うなって。

クラスの大半はこの固定砲台の変貌に驚いているようだ。

 

「何ダマされてんだよおまえら。全部あのタコが作ったプログラムだろ」

 

「寺坂…」

 

「愛想が良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろポンコツ」

 

寺坂がそう言うと、液晶に移った女の子の背景は暗くなり、俯いてしまった。

 

「………おっしゃる気持ち、分かります。寺坂さん。昨日までの私はそうでした。ポンコツ…そう言われても返す言葉がございません」

 

あーあ。泣いちゃった。これも殺せんせーのプログラムだろうが、なんか可哀想に見えてきたな。

 

「あーあ、泣かせた」

 

「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」

 

「なんか誤解される言い方やめろ!!」

 

ぱっつん前髪学級委員の片岡さんと、ぽっちゃり系原さんも可哀想だと思ったようで、寺坂を責めていた。

 

「いいじゃないか2D…Dを1つ失う所から女は始まる」

 

竹林それ初ゼリフだけどいいのか!?

 

「でも皆さんご安心を。殺せんせーに諭されて…私は協調の大切さを学習しました。私の事を好きになっていただけるよう努力し、皆さんの合意を得られるようになるまで…私単独での暗殺は控える事にいたしました」

 

おお…さっきの悲しい表情から一変、いい笑顔だ。

 

「そういうわけで仲良くしてあげてください。ああもちろん、先生は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手をつけていません。先生を殺したいなら、彼女はきっと心強い仲間になるはずですよ」

 

なんでもできるな殺せんせーは。機械までちゃんと生徒にするとはな。

その後、固定砲台は菅谷が答えられなかった問題を表示してあげたり、体の中で芸術品を作ってみせたり、

矢田さんに花を作る約束をしたり、千葉君を将棋で倒したりと…思いのほかクラスで人気だった。

 

「…しまった」

 

ん?何やら殺せんせーが焦った顔をしている。

 

「?何が?」

 

「先生とキャラがかぶる」

 

「「「被ってないよ1ミリも!!」」」

 

その後、片岡さんの提案で、呼び方について議論されて、不破さんが『律』と名付け、安直ながら満場一致となった。さすが不破さん、また今度ジャンプについて語ろう。

 

 

 

 

改めて、律もクラスに加わった放課後。

俺は速水さんと射撃訓練をやっていた。速水さんは静かなので俺と似たような部分があり、存外一緒にいて居心地が良いのである。

 

 

「それにしても、律、上手くやっていけそうだね」

 

「まあ人気だったな、変わってからは。だけど、どうかな…」

 

「…?」

 

「寺坂の言う通り、殺せんせーのプログラム通り動いているだけだろ?機械自体に意思があるわけじゃない。律がこの先どうするかは…あいつを作った持ち主が決める事だ」

 

「それってどういう……ん?」

 

速水さんが言葉を途中で紡いだのは、見たことない人たちがE組の校庭に上がってきたからだ。

おそらく生徒が全員下校した時間を見計らってきたのだろう。

現に今いるのは俺と速水さんだけだ。

 

「行ってみよう速水さん。音を立てずにな」

 

奴らは教室に入っていき、俺らは廊下で聞き耳をたてる事にした。

 

「こんばんはマスター!おかげさまでとても楽しい学校生活を送っています!」

 

「…ありえん」「勝手に改造された上に…どう見ても暗殺と関係ない要素まで入っている」

 

「今すぐ分解だ。暗殺に不必要なものは全て取り去る」

 

責任者のような人がそう言うと、律の解体作業が始まった。やっぱりこうなったか。

 

「こいつのルーツはイージス艦の戦闘AI。人間より早く戦況を分析し、人間より速い総合的判断であらゆる火器を使いこなす。加えてこいつは卓越した学習能力と、自分で武装を改造できる機能を持つ」

 

「こいつがその威力を実証すれば…世界の戦争は一気に変わる…と」

 

学者たちが律の機能や利便性について語り合っていたが、1つ気がかりな言葉があった。

 

(戦争だと…?)

 

なるほどね。その規模のことに山を合わせてるなら百億円なんてついでで、この教室は最高の実験場というわけか。なんせもし律が殺せんせーを殺した場合…世界中のテロリストが喜んで律を買いにくるだろうからな。

それは困るが…今は律が前の状態に戻ることの方が困る。なので、俺は前に出て行くとしよう。

 

「ちょ…!遠山!」

 

「戦争が何だって?」

 

速水さんが止めようとするが、無視無視。

 

「……!何だね…君は!」

 

「ああ、ここの生徒ですよ。それより…なんだかやばい話をしていましたけど…」

 

「君には関係ない事だ。気にしなくていい」

 

「でも…この話が表に出回ったらやばいですよね?言っちゃおうかな」

 

「ふっ…こんな子供の言う事なんか誰が信じると言うのかな」

 

「ちゃんとケータイで録音してたので…言質はあるんですけどね…」

 

「!」

 

もちろんこれはブラフだ。都合よく録音なんてしてるわけない。

 

「その言質を使ってに私たちに何がしたいのかね?」

 

「その固定砲台をこのままにして欲しいんです」

 

「それは乗れない相談だ。どう見ても暗殺に不要な要素が多すぎる。今後は改良行為も危害と見なしてもらう。それに…本当は録音なんてしていないのだろう?」

 

気づかれたか…。

 

「録っていますよ」

 

「じゃあその音声を流してみたまえ」

 

「………」

 

「はっはっは。やっぱりか。子供が大人をからかうものじゃないよ」

 

相手にブラフもばれたところで、研究者はまた解体作業を進めた。これで律はバキバキと部品を取られ、元の体積に戻ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます皆さん」

 

次の日の朝、律の表情は最初と同じ無表情になっていた。

 

「生徒に危害を加えないという契約だが…『今後は改良行為も危害とみなす』と言ってきた。君らもだ。彼女を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ」

 

烏間先生はそう言って寺坂からガムテープを取り上げた。

 

「開発者の意向だ。従うしかない」

 

「開発者とはこれまた厄介で…親よりも生徒の気持ちを尊重したいんですがねぇ」

 

烏間先生のその言葉に…殺せんせーも困り顔だ。

 

「攻撃準備を始めます。どうぞ授業に入ってください殺せんせー」

 

ダウングレードしたってことは…また始まってしまう。あの一日中続くハタ迷惑な射撃が。

そして箱が光りーーー

 

「「「!」」」

 

また機関銃が出てくると思ったが、出て来たのは綺麗なピンク色の花だった。

 

「花を作る約束をしていました……殺せんせーは私にボディーに、計985点の改良を施しました。そのほとんどは…開発者が『暗殺に不必要』と判断し、昨日の夜に削除・撤去・初期化してしまいました」

 

計985点て…よく殺せんせーの給料でそれだけできたな、逆に。

 

「ですがそこで遠山くんに助けられて、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠すことができました」

 

「…素晴らしい」

 

これは殺せんせーにも予測できなかったらしく、珍しく驚いている。

 

「ちなみに遠山君はどのようにして律さんを助けたのですか」

 

わざわざ聞く必要ないって殺せんせー。恥ずかしいから。

 

「殺せんせーが改良した律に俺と律がチャットできるように接続したんだ。そうすればいざという時俺が律に何か頼めるからな」

 

「はい…そして昨日の解体中、『開発者たちから時間を稼ぐから、お前が必要だと思うデータは消される前に隠せ』と送られてきて、実行できたのです」

 

「そうだ。昨日偶然学校に遅くまで残っていたからな。開発者たちを見かけてやばいと思ったんだ」

 

「なるほど。つまり律さん、あなたは仲間の助言とともに、自分の意思で産みの親に逆らったということですね」

 

「はい。こういった行動を『反抗期』と言うのですよね。律は悪い子でしょうか…」

 

「とんでもない!中学3年生らしくて大いに結構です!」

 

殺せんせーは顔に丸のマークを浮かばせた。

こうして、E組の仲間が1人増えた。これからは29人で殺せんせーを殺すんだ。

 



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第17話 仕返しの時間

やっと涼しくなってきましたね〜。
アリアの新刊まだかなぁ。
よう実はあと少し!楽しみ!


 

 

 

 

 

 

雨の季節だ。

梅雨の6月。殺せんせーの暗殺期限まで残り9ヶ月。

 

(…大きい…)

 

マジで、なんか大きいぞ、あのタコの顔が。

 

「殺せんせー。33%ほど巨大化した頭部について説明を」

 

おお…さすがAIの律さん。みんながイマイチ突っ込めなかったところを積極的に言っていった。

そうなのだ…今律が言った通り、先生は朝からずっと顔がパンパンに膨れているのだ。

 

「水分を吸ってふやけました。湿度が高いので」

 

生米みてーだな!

 

「雨粒は全部避けて登校したんですが、湿気ばかりはどうにもなりません」

 

そう言いながら下のバケツに向けて顔を絞っていた。

まあ、E組のボロ校舎じゃ仕方ないな。エアコンでベスト湿度の本校舎が羨ましいぜ。

 

「先生、帽子どうしたの?ちょっと浮いてるよ」

 

「よくぞ聞いてくれました倉橋さん。先生ついに生えてきたんです」

 

倉橋さんが言うように、殺せんせーがいつも被っている学者の帽子のようなものが浮いていた。

てか生えてきたってなに、髪が?

 

「髪が」

 

そう言って帽子を取ってみせるが、帽子の下にあったのはキノコだった。

 

「「「キノコだよ!」」」

 

「湿気にも恩恵があるもんですねぇ。暗くならずに明るくじめじめ過ごしましょう」

 

ーーーそう。

梅雨はじめじめ。人の心もちょっぴり湿る。今回はそんな出来事。

 

「なー。上に乗ってるイチゴくれよ」

 

「ダメ!!おいしいモノは1番最後に食べる派なの!!」

 

杉野…さすがに1番おいしい部分をせびるのはどうかと思うぞ。

まあ、傘をさしながらでもパフェを食べる茅野さんもどうかと思うがな。

帰り道、俺たちは雨が降っているため傘をさして下校していた。

俺、杉野、渚、茅野さん、岡野さん、根本さん、神崎さんの大世帯だ。

ちなみに神崎さんは傘を忘れたらしく、俺が入れてやってる…つまり相合い傘だ…!

最近神崎さんは俺への距離感が、前よりも近くなっている気がする。ボディタッチや今みたいに距離が近い時が多いからだ。仲良くなった証だろうか。

神崎さん可愛いし、せっけんみたいないい匂いするし、嫌だなぁ。

 

「ねぇ、あれ」

 

岡野さんが何かに気づき、指をさす。

 

「あ、前原じゃんか」

 

お、女子と一緒にいるぞ。しかも相合い傘で。よく出来んな、俺も今してるけどさ。

 

「一緒にいんのは誰だ?」

 

「確か…C組の土屋果穂ってやつだ」

 

「はっはー。相変わらずお盛んだね、彼は……っていうかなんで遠山が知ってるんだよ!」

 

しまった。つい反射的に答えてしまった。

でもあの女子のことは確かに知っていた。

 

「集会の時って俺ら本校舎に行くだろ?その時に連絡先を聞かれたんだ。だから知ってる」

 

「うっはー。さすがは遠山君だね」

 

渚よ。それじゃあ何がさすがなのかわからんし、褒めてるのか貶されてるのかもわからん。

 

「ほうほう。前原君、駅前で相合い傘……と」

 

げ…いつのまにか隣に殺せんせーが。なんかメモ帳にメモってやがるし。

 

「ふふっ、相変わらずゴシップに目がないんですね、殺せんせー」

 

殺せんせーのバカっぷりに、神崎さんも呆れた様子で言っている。

 

「ヌルフフフ。これも先生の務めです。3学期までに生徒全員の恋話をノンフィクション小説で出す予定です。第1章は、『神崎さんの遠山君への届かぬ想い』

 

「あは、それは何としても出版前に殺さないとです」

 

神崎さんもこんな茶番に付き合ってあげてるし。

 

「俺のはともかく…前原のは長くなりそうですね」

 

俺は自分の話題を払拭すべく、前原の話に戻した。

 

「モテるから。結構しょっちゅう一緒にいる女子変わってるし。カッコいいですしね」

 

スポーツ万能の行動的イケメン。普通の学校なら成績も上位でもっと人気者だっただろうな。

 

「それ…遠山君が言う?」

 

「え…」

 

何故か神崎さんに突っ込まれた。

 

「キンジはすぐに嫌味を言うからな」

 

根本さん…?

 

「確かに…でもきっと無自覚なんだよね」

 

岡野さんまで…。マジで何のことか分からん。

 

「あはは、やっぱりさすがは遠山君だよ」

 

あははじゃねーよ渚。分かってるなら説明してくれ。

 

 

「あれェ?果穂じゃん。何してんだよ」

 

どうやら俺が謎のツッコミをされている間に、前原と土屋が男子3人くらいのグループと話していた。

 

「あっ!!せ、瀬尾くん!生徒会の居残りじゃ…」

 

「あー、意外と早く終わってさ。ん?そいつは確か…」

 

「ち、違うの瀬尾くん。そーゆーんじゃなくて…たまたまカサが無くてあっちからさして来て…」

 

「今朝持ってたじゃん」

 

「が、学校に忘れて…」

 

すげーな。よくそんな言い訳がポンポン出てくるもんだ。てか今の状況を客観的に見ると、前原といるところを見られちゃまずかったという感じだな、あの女。

 

「あー、そゆことね」

 

どうやら前原は何か合点が生き、察したようだ。

 

「最近あんま電話しても出なかったのも、急にチャリ通学から電車通学に変えたのも。で、新カレが忙しいから俺もキープしとこうと?」

 

「果穂!お前…」

 

「違うって!そんなんじゃない!!」

 

出た!これが修羅場ってやつだ!前見た映画でもこういう場面あった!

 

「そんなんじゃ………」

 

そこから急に土屋果穂の表情がきついものになった。

 

「あのね、自分が悪いってわかってるの?努力不足で遠いE組に飛ばされた前原君。それに、E組の生徒は椚ヶ丘高校進めないし、遅かれ早かれ私達接点なくなるじゃん」

 

なんだこの女……性格悪ッ!

 

「E組落ちてショックかなと思ってさ、気遣ってハッキリ分かれは言わなかったけど、言わずとも気づいて欲しかったな……けど、E組の頭じゃわかんないか」

 

この言葉には前原も怒り浸透だ。表情が険しくなる。

 

「お前なぁ…自分の事棚に上げて…」

 

前原がそう言って詰め寄った瞬間、瀬尾とか言う男が前原の事を蹴っ飛ばした。

 

「わっかんないかなぁ。同じ高校に行かないって事はさ、俺達何したって後腐れ無いんだぜ」

 

瀬尾とその連れのような2人で前原を囲み、何をするかと思いきや、尻餅をついた前原を蹴り始めたのであった。

 

(あいつら…!)

 

 

 

「やめなさい」

 

 

 

俺が飛び出そうと思ったら、そんな言葉が聞こえて来た。やたら重量のある、重い言葉だ。

声の発信源はーーー理事長だった。

 

「りっ…理事長先生!」

 

「ダメだよ暴力は。人の心を…今日の空模様のように荒ませる」

 

「はっ…はい」

 

理事長は前原に近づき、道路が濡れているにもかかわらず片膝をつき、ハンカチを差し出した。

 

「これで拭きなさい。酷いことになる前で良かった」

 

なんだ…いいところあるじゃねーか理事長。

 

「危うくこの学校にいられなくなるところだったね……君が」

 

……は?

 

「じゃあ皆さん足元に気をつけて。さようなら」

 

「は、はい!さようなら」

 

この理事長の姿に、本校舎の生徒もペコペコのようだ。

 

「あの人に免じて見逃してやるよ間男。感謝しろよ」

 

「……嫉妬してつっかかってくるなんて、そんな心が醜い人だとは思わなかった。二度と視線も合わせないでね」

 

この女……生まれて初めて女を殴りたいと思ったわ。

と、そんなことより。

 

「前原、平気か」

 

「遠山…!…お前ら、見てたんかい」

 

前原は見られたく無いものを見られたようで、恥ずかしそうに言った。

 

「うまいよな、あの理事長。事を荒立てず、かと言って差別も無くさず。絶妙に生徒を支配してる」

 

「そんな事よりあの女だろ!とんでもねービッチだな!」

 

俺だけでなく、杉野もあの女が許せない様子だった。

 

「いやまぁ…ビッチならうちのクラスにもいるんだけど」

 

「それは違うぞ」

 

「どういうことだ?遠山。違うって」

 

「ビッチ先生はプロだから…ビッチする意味も場所も知ってるが、あの女はそんな高尚なビッチじゃない」

 

俺が杉野にそう説明するが、前原が遮った。

 

「いや…ビッチでも別にいーんだよ」

 

前原!?いいの?

まあ、前原なら分からなくもないが…。

 

「好きな奴なんて変わるもんだしさ、気持ちが冷めたら振りゃあいい。俺だってそうしてる」

 

中3でどんだけ達観してんだよ。

 

「けどよ…さっきの彼女見たろ?一瞬だけ罪悪感で言い訳モード入ったけど、その後すぐに攻撃モードに切り替わった。『そーいやコイツE組だった。だったら何言おうが何しようが私が正義だ」ってさ」

 

確かに…さっきの女は前原を責め立てる時、表情が180度変わり、とても見下した顔になった。

 

「後はもう逆ギレと正当化のオンパレード。醜いとこ恥ずかしげ無く撒き散らして。なんかさ…悲しいし恐えよ。ヒトって皆ああなのかな。相手が弱いと見たら…俺もああいう事しちゃうのかな」

 

「……」

 

それについては一概に答えを出せない内容だが、E組なら誰しもが思ったことがあるのかもしれない。

もし自分がE組じゃなかったら、E組の皆にどう接していただろうか、と。

 

ぷくううううううううううううぅぅぅ。

 

うわ!殺せんせーの顔がさらにデカくなってる!?

 

「殺せんせー!膨らんでる膨らんでる!!」

 

殺せんせーの少し大きかった程度の顔が、2倍以上に膨れ上がっていた。

 

「仕返しです」

 

「なるほど…」

 

納得だ。

理不尽な屈辱を受けたんだ。力なき者は泣き寝入りするところだが…

 

「君たちには力がある。気づかれずに証拠も残さず標的を仕留めるアサシンの力が」

 

「……ははっ。何企んでんだよ殺せんせー」

 

前原はあの屈辱を受けたにもかかわらず、その発想はなかったらしい。

 

「屈辱には屈辱を。彼女たちにはとびっきり恥ずかしい目に遭わせましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「へー、果穂。お前いい店知ってんじゃん」

 

「パパの友達が経営してるの。私のとっておきの場所だよ」

 

「そんな事言ってよぉ。昨日の前原とも来たんじゃねーのか?」

 

「そ、そんなわけないじゃん!瀬尾くんが初めてよ!!」

 

そんな会話が響く雨の日のカフェ。俺たちは昨日の件の仕返しを試みようと、昨日の瀬尾と土屋を尾行したのであった。

実は律が2人のケータイにハッキングし、ここに来る予定を把握できたので、そこから計画が立てられた。

今はいつ出ようか、神崎さんと2人でその機会をうかがっているところだ。

 

「ごめんね昨日は前カレがみっともないとこ見せちゃって。あんな見苦しい人だとは知らなかったの」

 

「あー。E組に落ちるような奴相手にすんなよ。しかし雨の中のカフェもいいもんだな。ここだけ濡れてない優越感?昨日のアレとは大違いだな、ははははははは」

 

「きゃははは、ひっどーい!」

 

よし、今だ!遠山・神崎、いざ出動!

 

「あんのー…そこ通ってもいですかいのう。奥の席座りたいので…」

 

「その足ほんの少し引っ込めて…」

 

「はぁ?」

 

ちなみになぜ俺と神崎さんがこんな口調なのかというと、菅谷に変装マスクを描いてもらい、おじいちゃんとおばあちゃんに変装しているからである。

たった今、通ろうとした道を瀬尾が足をかけて妨害していたため、声をかけることができた。

俺たちのミッションは、瀬尾たちの視界に入ることだからな。

 

「通ろうとすりゃどきますよおじいちゃん。嫌味ったらしく口に出して言わなくても、ホラ」

 

「ど、どうも…」

 

「なんだあれ、老いぼれがこんな店来るんじゃねーよ」

 

「だーめ聞こえる〜」

 

それにイラついた瀬尾が、俺らに聞こえるように悪口を言っていた。

今ちょうどこの場面を近くの家から杉野たちが見ているはずだ。家主を矢田さんと倉橋さんがうまく抑えているらしい。ビッチ先生直伝の接待テクだな。

 

『準備OK タイミングはそっちに合わす』

 

きたな。俺らも実行するとしよう。俺は神崎さんに目で合図を送る。

 

「あなた。この近所にトイレあるかしら。100m先のコンビニにはあったけど…」

 

神崎さんがそんなトンチンカンな事を言ってきた。無論、瀬尾たちに聞かせるためだ。

 

「おいおいここで借りりゃいいじゃろが。この店の客なんだから」

 

「そうでしたそうでした。ちょっと行ってきますよっと」

 

俺らの会話はしっかりと聞かせられたようで、「やーだボケかけ」などと悪口を言われている。よし、第1段階クリアだ。

次は…

 

ガシャッ!

 

俺は机に置いてあったグラスをそれっぽく机から落とした。

その刹那、俺は目を凝らして見た。瀬尾と土屋のコーヒーカップに何かが入っていくのが。

 

「いー加減にしてよさっきから!!」

 

「ガチャガチャうるせーんだよボケ老人!!」

 

「すいませんのう…連れがトイレから帰ったら店を出ますので…」

 

よし、これで俺たちはミッションクリアだ。神崎さんからも連絡が来た。

 

「な…なんかお腹痛くなってきた」

 

「え…お、俺も……おまえ、ここのコーヒー本当に大丈夫か?」

 

「バカなこと言わないでよ!私の行きつけに!」

 

きたきた。俺がわざと食器を落としたのには理由があって…あいつらの視線を2つ一度に集める必要があったのだ。その隙に、奥田さん特製の強力下剤が千葉と速水さんから奴らの飲んでるコーヒーに向かってスナイプされたのだ。

 

「お、俺、トイレ!!」

 

「ずるい!私が先!」

 

やつらはそう言ってトイレに駆け込むだろうが…無駄だ。この店にトイレが1つしかないのも下調べ済み、そしてその1つも神崎さんが入っているからだ。

 

「ちょっ!なんで空いてないのよぉ!」

 

「ああっ、さっきのババア!」

 

やつらは焦り、店員に絡んでいるが、そろそろ頭に浮かんでくるだろう。さっき神崎さんが言った『100m先のコンビニ』という言葉が。

それに気づいた2人が傘を持って店を飛び出した。

やつらが半分くらい進んだ頃…上から木の枝が落ちてきて潰されているはずだ。

これはナイフ成績1位の磯貝、2位の前原。女子ナイフ成績1位の岡野さんたちが上で枝を切り落としたものである。

やつらは状況を把握する余裕もないまま、無我夢中でコンビニへと駆け込んでいった。

 

「ま…少しはスッキリしましたかねぇ。汚れた姿で大慌てでトイレに駆け込む。彼らにはずいぶんな屈辱でしょう」

 

確かに…殺せんせーの言う通り少しスカッとしたかな。

 

「……えーと、なんつうか、ありがとな。ここまで話を大きくしてくれて」

 

「どうだ前原?まだ自分が…弱い者を平気でいじめる人間だと思うか?」

 

俺は前原が抱いていた疑問について聞いてみた。

 

「………いや。今のみんなを見たらそんなことできないや。一見お前ら強そうに見えないけどさ、みんなどこかに頼れる武器を隠し持ってる。そこには俺が持ってない武器もたくさんあって」

 

「そう言うことだ。強い弱いなんて…ひと目見ただけじゃ計れない。それをE組で暗殺を通して学んだお前は…この先弱者を簡単に蔑むことはないだろ」

 

「ああ…ありがとな遠山。俺もそう思うよ」

 

良かった良かった。これであいつはこれから先強くなっても安心だな。いい心を持ってる。

 

「あ、やばっ!俺これから他校の女子と飯食いに行かねーと!じゃあ皆。ありがとうな!また明日!」

 

「「「・・・・・」」」

 

みんなの目が点になったことは言うまでもない。

そして後で烏間先生からは殺せんせー含めめっちゃくちゃ怒られた。




読んでいただきありがとうございます!


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第18話 LRの時間

よければお気に入りの方をよろしくお願いします 


 

 

 

「分かったでしょ?サマンサとキャリーのエロトークの中に難しい単語は1コも無いわ」

 

今はビッチ先生による英会話の授業。かなりエッチな海外のドラマを見せられている。

 

「日常会話なんてどこの国もそんなもんよ。周りに1人はいるでしょう?『マジすげぇ』とか『マジやべぇ』だけで会話を成立させる奴。その『マジで』に当たるのがご存知『really』木村、言ってみなさい」

 

マジでか。そんなマジすげえやついるのか。

 

「リ、リアリー」

 

「はいダメー。LとRがごちゃごちゃよ。LとRは発音の区別つくようになっときなさい。私としては通じはするけど違和感はあるわ」

 

しかしすごく分かりやすいなこの授業。これはビッチ先生を入れて正解だったなあのタコ。

 

「言語同士で相性の悪い発音は必ずあるの。韓流スターは『イツマデモ』が『イチュマデモ』になりがちでしょ。日本人のLとRは私にとってそんな感じよ。相性が悪いものは逃げずに克服する!これから先発音は常にチェックしてるから」

 

そしてビッチ先生は一呼吸置いてから言うのであった。

 

「LとRを間違えたら…公開ディープキスの刑よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかしヒワイだよなビッチ先生の授業は」

 

隣の席の根本さんがそんなことを呟いた。

6時間目の授業を終え、今は放課後の時間。本当は早く帰りたいが、速水さんの射撃訓練に付き合うため教室に残っている。まあ帰ってもやることないしな。

 

「下ネタ多いし、アレ中学生が見るドラマじゃないよな、キンジ」

 

「だな」

 

俺もそういう系の話題は苦手なので、あんまり直視できなかったんだよな。

 

「でもアレはアレで分かりやすいよな。海外ドラマはいい教材だって聞いたことあるし」

 

というか海外ドラマを見た時…もうほとんど違和感なく理解できた。恐るべきビッチ先生の授業。

 

「潜入暗殺専門だから話術も上手いしな。だけど間に挟む経験談で絶対にキンジがモデルとして使われるのはなんでなんだ?」

 

「それな…マジで勘弁してほしいわ」

 

実は毎回ビッチ先生の体験談が挟まれるたび、俺が前に立たされ、誰かを抱いたり、お姫様抱っこさせられたりするのだ。今日は矢田さんが俺の犠牲となり、というか俺も犠牲となり、お姫様抱っこをさせられた。

そのあと矢田さんは顔を耳まで真っ赤にして授業中ずっと突っ伏せてたし。

 

「あと正解でも不正解でも男女関係なく公開ディープキスされるし」

 

そういえば今日前原がされてたな。ほぼ痴女じゃんか、あの先生。

ま…そういう問題点はたくさんあるが…生徒たちに興味を持たせる技術に長け、経験を活かした実践的な授業は実にお見事なもんだ。

彼女が殺しに来てくれて殺せんせーもさぞ嬉しいことだろう。

 

「遠山。今日は山の奥の方でやろうと思う」

 

いけね。どうやら速水さんをだいぶ待たせてたらしい。少し不機嫌だ。

 

「じゃあな根本さん。これから速水さんと射撃の練習に行ってくる」

 

「あ……うん。じゃ…」

 

ん?何か言いたげだったか?まあいいや。

根本さんが下校し、教室は俺と速水さんの2人きりとなった。

 

「ねえ遠山。あなた、根本さんと付き合ってるの?」

 

「はい…?」

 

いきなり何言っちゃってくれてんのこの子は。

 

「な、な訳あるかッ!」

 

「そう。彼女とっても可愛いし、好きになったりしないの?」

 

どうしたんだ今日の速水さんは。普段こういう系の会話しないのに。

 

「可愛いとは思うが…俺は顔で判断しない!それ以前に付き合うとか付き合わないとか分からないし!」

 

「ふーん。さすが遠山。前原くんと大違い」

 

「なんでそこで前原が出てくるんだ」

 

「彼…顔がいいからって女子を食べ物みたいにして。少し苦手なのよ。前に元カノとのいざこざがあった時、殺せんせーに言われたから仕方なく協力したけど、本当はやりたくなかったわ。遠山はそうならないでね」

 

怖ッ!意外と毒舌なのか…。

 

「ところで…」

 

なんだ?さっきの冷徹な表情から一変、今度は顔を少し赤くして照れた表情になったぞ。

 

「前々から言おうと思ってたけど、なんで私だけ遠山のことを呼び捨てにしてるの。よければ遠山も…私のことを呼び捨てにしてくれない…?」

 

「別になんだっていいだろ呼び方なんて」

 

「じゃあ呼び捨てで呼んでよ」

 

「分かったよ…速水、これでいいか?」

 

「凛香……」

 

はい?

 

「凛香って呼んで」

 

「そんなのどっちだっていいだろ」

 

「じゃあ凛香って呼んで」

 

さっきもこの作戦引っかかんなかった?俺。

 

「分かったよ…凛香。よろしくな」

 

俺がそう呼ぶと速水…いや、凛香はパアァァと表情を明るくし、とても嬉しそうにした。

可愛すぎだろ…そんな笑顔できたのか…!

 

「ところで…なんで根本さんって遠山のことキンジって呼んでるの?」

 

ふむ。

確かに、言われるまであまり意識はしなかった。

廊下を歩きながら、考えてみる。

 

「呼びやすいんじゃないか、キンジって」

 

そういえば、彼女の下の名前も『りんか』確か書き方はカタカナで『リンカ』だっけか。

 

(根本…リンカ……)

 

俺は何か頭に引っかかりのような違和感を感じる。

 

(なんだ…?)

 

だが、心当たりがない。思い出せるようで思い出せない、そんな感じだ。

俺が思い出せない嫌な感じに見舞われている中…目の前の職員室からビッチ先生が出てきた、ーーーと思ったその瞬間ーーー

 

「ーー!」

 

ビッチ先生がいきなりワイヤートラップで吊るしあげられた。それも首を巻いている、相当危険な体勢だ。

なんで学校に…どうしてビッチ先生を…?

そんな考えは一旦置いておき、今はビッチ先生を助けなければ。

そう考えた瞬間ーーー俺の視界が、鮮明になる。脳の回転スピード上がるのが分かった。そして、力が湧いてくる。

 

「!」

 

この教室に来てから、本当に不思議なことだらけだ。月の破壊から始まり、謎の超生物。この学校の制度も…暗殺教室も。

 

(……だが、1番は自分についてだ……)

 

俺はビッチ先生を助けるべく、思い切り駆けていき、手に持っていた『モノ』でワイヤーを切断し、ビッチ先生が落下しないように抱きかかえた。

 

「ほう。まさか本物のナイフを持っている生徒がいるとは…いい動きだ。それにしても…驚いたよイリーナ。教師をやっているお前を見て」

 

(…英語…?)

 

「子供相手に楽しく授業。生徒たちと親しげな帰りの挨拶。まるで…コメディアンのコントを見てるようだった」

 

そう言ったのは、ビッチ先生の知り合いっぽい外国人だった。

 

「……!師匠……」

 

師匠ときたか。

 

「何をしている」

 

この騒ぎを聞き立てて、職員室から烏間先生が出てきた。

 

「女に仕掛ける技じゃないだろう」

 

「……心配ない。ワイヤーに対する防御くらいは教えてある」

 

「何者だ?」

 

「…これは失礼。別に怪しいものではない」

 

見た目からして十分怪しいと思うが。

 

「イリーナ・イェラビッチをこの国の政府に斡旋した者…と言えばお分かりだろうか」

 

「…! 殺し屋屋ロヴロ!」

 

「烏間先生、知ってるんですか?」

 

「遠山君…。彼は腕ききの暗殺者として知られていたが現在は引退。後進の暗殺者を育てるかたわら、その斡旋で財を成している殺し屋屋だ」

 

なるほど、それで殺し屋屋か。暗殺者になんて縁が無かった日本にとって貴重な人脈な訳ね。それでなんでここに?

 

「ところで殺せんせーは今どこに」

 

ロブロはどうやら殺せんせーに用事があるらしい。

 

「上海まで杏仁豆腐を食いに行った。30分前に出たからもうじき戻るだろう」

 

「フ…聞いてた通り怪物のようだ。来てよかった、答えが出たよ。今日限りで撤収しろイリーナ。この仕事はお前じゃ無理だ」

 

「…?ずいぶん簡単に決めるんですね。彼女はあなたが推薦したんじゃないんですか?」

 

「ガキが…現場を見たら状況が大きく変わっていた。もはやこいつにこの仕事は適任ではない。正体を隠した潜入捜査ならこいつの才能は比類ない。だが一度素性が割れてしまえば、一山いくらのレベルの殺し屋だ」

 

確かに…ビッチ先生はいわゆる初見殺しのスタイルだ。そして大抵の場合は初見で殺れるのだろう。

 

「挙げ句の果てに見苦しく居座って教師のマネゴトか。こんなことさせるためにお前を教えたわけじゃないぞ」

 

「…そんな!必ず殺れます師匠!私の力なら…」

 

「ほう。ならば…こういう動きがお前にできるか?」

 

…速い!

今の一瞬でビッチ先生の背後に回り押さえつけた。

 

「お前には他に適した仕事が山ほどあり…この仕事に執着するのは金と時間の無駄だ。ここの仕事は適任者に任せろ。2人の転校生暗殺者の残る1人が…実戦テストで驚異的な能力を示し、投入準備を終えたそうだ」

 

相性の良し悪しは誰にでもある。それこそまさにさっきのビッチ先生の授業のLとRなのだろう。

 

「半分正しく、半分は違いますねぇ」

 

そう言ったのはビッチ先生とロブロの間に割って入った殺せんせーだった。帰ってくるの速いなぁ。

 

「何しに来たウルトラクイズ」

 

「ひどい呼び名ですねぇ烏間先生。いい加減殺せんせーと呼んでください」

 

ちなみに今殺せんせーの顔は◯と×のマークが入っている。だからウルトラクイズなのだろう。

 

「確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません。クソです」

 

「誰がクソだ!!」

 

「ですが、彼女という暗殺者こそがの教室に適任です。殺し比べてみればわかりますよ。彼女とあなた、どちらが優れた暗殺者か」

 

どうやって比べるかは分からないが、ビッチ先生が適任なのは俺も同意なので、なんとかE組の教師を続けて欲しいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程、ロブロ対イリーナ先生の暗殺勝負のルールが殺せんせーにより説明された。期間は明日いっぱいだそうだ。

今、俺と速水さんは狙撃の練習をするため山に入るところだ。

 

「ところで遠山」

 

「なんだ、はや…凛香」

 

「あなた、なんで本物のナイフなんて持っているのよ」

 

そうだった。いかんいかん、そういう設定だった。

 

「ああ…殺せんせーの暗殺に役立つかと思ったんだ」

 

「………」

 

「どうしたんだ?ナイフはもう危ないから持ってこないようにするって」

 

「…なんで嘘つくのよ」

 

「嘘?何が嘘なんだ…?」

 

「私、さっき見えたんだけど、あなたがカバンから取り出したものは対先生用のナイフだった。そうでしょ?」

 

「!」

 

カマかけられた。速水さんは狙撃の目だけではなく、動体視力もいいらしい。

 

「さっきのワイヤー、もしかしてそれで切ったの?」

 

「……そうだ」

 

見られていた以上、変に嘘つくのも逆効果だ。なので正直に言うことにした。

今言われた通り、俺は対先生用ナイフで、普通のロープを切断したのだ。ロブロからは勘違いされていたが。もちろん、普段からできるわけではないが。

 

「どんだけ化け物なのよ…」

 

やってのけたことがおかしすぎて呆れられてしまったようだ。

 

「遠山は確か2年生の後半に編入してきたよね。射撃の腕といい、今日の動きといい、もしかして殺せんせーの暗殺のために派遣された殺し屋なの…?」

 

「いや、それは断じてない。本当にただの『偶然』だ」

 

確かビッチ先生が来た時も同じこと聞かれたっけか。

それについては本当に身に覚えがないので、きっぱり否定した。

 

「本当…?」

 

「本当だ」

 

凛香が疑り深い目で俺を見てくる。さっき嘘をついてしまったから信じれないのだろう。

しばらくの間沈黙が訪れる。

 

「それは本当ですよ速水さん」

 

「「!」」

 

俺ら2人は第三者の声に驚き、その声のした方を見ると、そこには殺せんせーが立っていた。

 

「殺せんせー…」

 

「彼にも人に言えない事情がある。なので多くは言えませんが、その話については先生として責任を持って言えます。彼は殺し屋でもなんでもない、3年E組の生徒です」

 

「殺せんせーは遠山の事を知ってるんですか」

 

「ええ、もちろんです。教師ですから」

 

生徒一人一人の事をしっかりと調べてあるってことね。それについて今度聞かないとな。どこまで知っているか。

 

「じゃあ、なんで遠山はこんなに強いの。それだけは教えてほしい」

 

「それは今はまだ、言えませんねぇ。遠山君の口から聞けるまで待ってみてはどうでしょうか。でもね速水さん…ひとつだけ言っておきましょう。今までの彼の行動を振り返ってください。渚君のグレネードを使った暗殺の時に彼を助け、イリーナ先生が来た時はクラス内がいい方向に動くように発言し、修学旅行の時は拉致された生徒の現場に1人で向かい…さっきも迷うことなくイリーナ先生を助け出した」

 

「………!」

 

「つまり、遠山君は正しい力の使い方を知っているという事です。暗殺には消極的であるものの、彼は本校舎の生徒とは程遠い内面を持っています。どうかそれをお忘れなく」

 

そう言うと殺せんせーは俺の近くまで寄って来た。

 

「ヌルフフフフ。それにしても遠山君、君の力に気付くものがまた1人として気づきましたねぇ」

 

ほっとけ。

 

「渚君、イリーナ先生、修学旅行の時に拉致された根本さんと神崎さん、そして速水さんと言ったところでしょうか」

 

「渚に関してはあんたが口を滑らせたんだろ…」

 

とはいえ確かにまずいな。着々と増えてしまっている。

 

「私からすればE組で1番怖くない生徒は君ですがね。いつか前線に出てくる日が来るといいですねぇ」

 

そう言うと、殺せんせーはマッハのスピードで飛んでいってしまった。

本当、騒がしい先生だな。

何はともあれまたさっきのような沈黙になってしまった。どうしようか。

 

「遠山…色々疑って悪かった」

 

「いや…大丈夫だ」

 

「私…もっと強くなりたい。遠山みたいに、かっこよくなりたい。だから、射撃を教えて」

 

速水凛香の進路はこのとき決まった。

そしてーーー

この日を境に覚醒し始めるのであったーーー




読んでいただきありがとうございます。


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4巻
第19話 克服の時間


よければお気に入りの方よろしくお願いします!


 

 

 

 

 

 

「イリーナ先生が師匠に認めてもらうための2人の勝負。烏間先生にもご協力頂きましょう」

 

 

 

 

 

「先生…あれ…」

 

「気にするな。続けてくれ」

 

今は丸太の上に乗ってバランスをとる訓練中。ゆるふわ女子の倉橋さんが、丸太の上でしゃがみながらある方向を指した。

狙ってる……狙ってるぞ。

 

「「「なんか狙ってるぞ」」」

 

その方向を見てみると、茂みでこちらを伺ってる殺せんせー、ビッチ先生、ロヴロさんの姿が見えた。

この状況はロヴロさんとビッチ先生による師弟対決のルールが関係しているらしい。

 

 

 

 

 

「ルールは簡単。イリーナ先生とロヴロ氏のうち、烏間先生を先に殺した方が勝ち! イリーナ先生が勝ったら…彼女がここで仕事を続ける許可をください」

 

「おい待て!なんで俺が犠牲者にされるんだ」

 

「烏間先生なら公正なターゲットになるからです。私がターゲットになっては…イリーナ先生に有利なように動くかもしれませんし、第一私じゃだ〜れも殺せないじゃないですか」

 

「くっ」

 

「使用するのは人間に無罪な対先生用ナイフ!期間は明日1日!どちらか先にこのナイフで烏間先生に当ててください」

 

なるほど、それで『殺せ』ってことか。

 

「互いの暗殺を妨害するのは禁止!生徒の授業の邪魔になっても失格です」

 

「なるほど…要するに模擬暗殺か。 いいだろう、余興としては面白そうだ」

 

ロヴロさんの方は乗り気なようだ。

 

「チッ…勝手にしろ!」

 

烏間先生はルールを聞くなり、扉の音を立て出て行ってしまった。

 

「フッフッフ。殺せんせー。なかなかできるなあの男」

 

「それはもう。この私の監視役に選ばれるくらいですから」

 

「あいつに刃を当てるなどお前には無理だイリーナ。お前に暗殺の全てを教えたのはこの俺だ。お前に可能な事、不可能な事。俺が全て知っている。この暗殺ごっこでお前にそれを思い知らせ、この仕事から大人しく降りてもらう。そして…誰も殺れない殺せんせーよ。お前を殺すに適した刺客、もう一度選び直して送ってやるさ」

 

ロヴロさんはそう言うと出て行ってしまった。

 

「………私をかばったつもり?」

 

「?」

 

「どうせ、師匠が選ぶ新たな手強い暗殺者より、私の方があしらいやすいと考えてんでしょ。そうはいくもんですか!!カラスマもアンタも絶対に私が殺してやるわ!!」

 

………………と、これが昨日の出来事だ。

 

「迷惑な話だが君らの授業に影響は与えない。普段通り過ごしてくれ」

 

苦労が絶えないな烏間先生は。

 

「今日の体育はこれまで、解散!!」

 

ありがとうございました、と号令が響き渡り、授業を終えた時だった。

 

「カラスマ先生〜お疲れ様でしたぁ〜♡」

 

え…?ビッチ先生…?どないしたん…?

 

「ノド乾いたでしょ?ハイ、冷たい飲み物!!」

 

絶対なんか入ってるよな…あれ。

 

「ホラグッといってグッと!美味しいわよ〜」

 

「おおかた筋弛緩剤だな。動けなくしてナイフを当てる……言っておくがそもそも受け取る間合いまで近寄らないぞ」

 

どうやら図星らしいな。なんかギクってしてたし。てか殺し屋なら悟らせるなっての。

 

「あ、ちょまって!じゃ、ここに置いておくから…あっ」

 

地面に置いた瞬間、ビッチ先生はコケてしまった。どうやったら屈伸運動でコケるのか。おそらくわざとだな。

 

「いったーい!!おぶってカラスマおんぶ〜!!」

 

「………ビッチ先生…流石に俺らだって騙せないですよ」

 

「仕方ないでしょ!顔見知りに色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ!」

 

俺が起こしてやると、クワッと言ってきた。

 

「キャバ嬢だって客が偶然父親だったらぎこちなくなるでしょ!?それと一緒よ!」

 

「「「知らねーよ!!」」」

 

「まずいわ…師匠は凄腕…その気になれば一瞬でターゲットをやってしまうわ…」

 

「大丈夫です。きっとあの人では烏間先生を殺れませんよ」

 

「なんであなたにそんな事わかるのよ」

 

「おそらく格が違います。無警戒ならともかく、警戒している烏間先生なんてそうは殺れませんよ。それよりもビッチ先生…先生は確か授業で、『相性が悪いものは逃げずに克服する』とおっしゃいましたね」

 

「そうよ。それがなんだって言うの」

 

「先生の得意とする暗殺が通じない今、苦手な暗殺スタイルで勝負しないといけませんよね?」

 

求められるのは卓越した技の精度とスピードだ。それこそがビッチ先生の暗殺スタイルに最も欠くものであり、殺せんせーを殺すのに不可欠なものだ。

 

「先生がその課題を克服するために頑張ってた事は、知ってます。頑張ってください」

 

「あんた…なんで知って…?」

 

実はビッチ先生は、自分のスタイルが通じない時のための訓練を行っていたのだ。凛香と居残り訓練をしている時に、よく見かけるのだ。

やはりその努力こそが、彼女の殺し屋としての才能なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ん?)

 

昼休みの時間。俺は凛香と射撃の訓練をしようと教室を出ると、ちょうどロヴロさんが教員室の前で構えていた。どうやら烏間先生の様子を伺ってるらしいな。

 

「凛香…ちょっと見ていかないか?」

 

その矢先ーーーロヴロさんが扉を開け放ち…教員室からはバンッと大きな音がなった。

俺たちの角度からは見えないので、走って教員室まで行くと…ロヴロさんが机の上で這いつくばっていた。

 

「熟練とはいえ年老いて引退した殺し屋が、先日まで精鋭部隊にいた人間を、随分と簡単に殺せると思ったもんだな」

 

その言葉を吐く烏間先生の表情は…まるで鬼だ。

あの怖そうな人がこうも一瞬でやられたのだ。

ビッチ先生が今日中に殺れるのだろうか。

 

「フッ…相手の戦力を見誤った上にこの体たらく、歳はとりたくないもんだ」

 

どうやらロヴロさんは手を怪我したらしい。ひどいあざだった。

 

「戦力差を見極め…引くときは素直に引くのも優れた殺し屋の条件なのだ。イリーナにしても同じこと。殺る前に分かる。あの男を殺すのは不可能だ…どうやらこの勝負引き分けだな」

 

ロヴロさんの言う通りかもな。なぜか烏間先生はやたらやる気を出してるし。

だが…そう思っていないタコがいるようだ。

 

「そうですか…あなたが諦めたのは分かりました」

 

殺せんせーはそう言ってイリーナ先生の肩に手を置いた。

 

「ですがあれこれ予測する前に…イリーナ先生を最後まで見てください。経験があろうがなかろうが、結局は殺せた者が優れた殺し屋のなんですから」

 

まさに殺せんせーらしい言葉だな。

 

「フン…好きにするがいい」

 

そう言ってロヴロさんは教員室を出て行くのであった。

 

「ビッチ先生」

 

俺は師匠にきつめの言葉を言われて俯いていたビッチ先生を呼びかけた。

 

「ビッチ先生の力を見せてあげてください。烏間先生に、師匠に、何より俺たち生徒に」

 

俺の言葉に殺せんせーも同意するように、にっこりと笑うのでであった。

その後、時間も微妙だったので、昼休みの訓練は中止にして俺たちは教室に戻ることにした。

 

「あ、遠山君!見てみてあそこ」

 

席に着くと、神崎さんが寄ってきて、窓の外を指した。

 

「ああ…烏間先生よくあそこでご飯食べてるよな」

 

「その烏間先生に近づいてく女が1人」

 

今度は凛香が言ってきた。なんか神崎さんを少し睨んでいるのは気のせいだろう。

そんなことより…やる気だなビッチ先生。

 

「ナイフを持ってる…どう思うキンジ」

 

そう言いながら根本さんも椅子を寄せてきた。うん…とりあえず今思うことは女子離れてくれない?

 

「正面からいっても烏間先生には通じなのは承知のはずだよな…だから結局は…」

 

俺が言いかけると同時にビッチ先生はジャケットを脱ぎ出した。やっぱり、色仕掛けか。

しょせんこの程度…と烏間先生も、みんなもそう思うだろう。

見せてやれビッチ先生。あなたの努力を。

 

「じゃあ、今そっちに行くから待っててね♡」

 

そう言ってビッチ先生が木の裏に回り込んだ瞬間ーーー

脱いだ服が引っ張られ、見事、烏間先生の足をとった。

これは…ワイヤートラップ。

烏間先生も予想外という表情で、倒れている。その隙を見逃さず、ビッチ先生はマウントをとった。

つまり、倒れている烏間先生に対し、馬乗りの状態…圧倒的優位な立場だ!

 

ビッチ先生が勝った、おそらくみんな、本人でさえもそう思っただろう。

だがしかし…

 

(……甘い……)

 

勝ちを確信してナイフを振り下ろすが…簡単に烏間先生に手首を掴まれ止められてしまった。

 

「!」

 

ビッチ先生万事休す…と思ったが…意外にも烏間先生が力を抜き、ナイフに当てられてしまった。

その瞬間、教室は大歓喜。

烏間先生が諦めたからとは言え俺も少し嬉しくなってしまった。

 

苦手なものに一途に挑んで克服して行く彼女の姿。俺たちがそれをみて挑戦を学べば、1人1人の暗殺者としてのレベルの向上に繋がる。

だから、殺せんせーを殺すなら彼女はこの教室に必要なのだ。

 

「良かったですね!ビッチ先生!」

 

「あ…遠山っ…!」

 

俺を見るなりビッチ先生は頰を赤らめて、恥ずかしそうにした。

どうしたんだ?いきなり。

 

「今回はあなたのおかげで勇気が出たわ。ありがとう。また、あなたには助けられたわ…」

 

そう言ってぎこちなく笑って見せた。

 

(うおっ…この笑顔は反則…)

 

作り笑顔でも魅了するのだが、ナチュラルなこの笑顔は…予想以上に可愛かった。

俺が照れていると、キラッと鋭い視線を感じた。根本さん、神崎さん、矢田さん、あと、凛香。他にもいた気が…?

まあいいや。これにて一件落着ーーーと。




速水さんはこれから急成長します。


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第20話 映画の時間

かなり久々です。
時間を空けてしまってすみません。
たまたま書き溜めていたものを見つけたので投稿します。


ビッチ先生が烏間先生の模擬暗殺に成功した日から時が経ったある日の放課後ーーー

 

 

 

「ごきげんですね殺せんせー。この後何かあるの?」

 

パンッと殺せんせーを撃ちながら磯貝が質問した。

この行動にはもはや誰もツッコまないが、よく考えたら異常な光景である。

それほどまでに、この『暗殺教室』は暗殺を日常にしたのだろう。

それはともかく今磯貝が言った通り、殺せんせーは雑誌を見ながらとても分かりやすくらんらんムードだった。

 

「ええ。ハワイまで映画を見に行くんですよ。先にアメリカで公開するので楽しみにしていたんです」

 

「うそぉずるーい先生」

 

中村さんが驚いたように言ったが、俺も全く同じことを思った。やっぱりマッハ20は色々便利だなぁ。

 

「ヌルフフフ。マッハ20はこういう時のためにこそ使いのです」

 

「ソニックニンジャ…?」

 

「ーーーっ!」

 

中村さんが殺せんせーの読んでいた雑誌を見て読み上げた瞬間、俺の心臓が跳ね上がる。

 

「あ〜あのヒーロー物ね。明日感想聞かせてー」

 

そう言って取り巻きの生徒たちは帰っていった…。

ソニックニンジャ……俺も続編出るのずっと待ってたんだ!雑誌も今読んでたし!

これはもう………

 

(…行くしかないッ!)

 

「待って!殺せんせー!」

 

「どうしたんですか?そんなに慌てて。珍しいですね」

 

「殺せんせー、お願いがあります。俺たちも連れて行ってくれませんか?ちょうどその映画早く見たいって話していたんです」

 

「おや、好きなんですか?」

 

「大好きです。映画観賞は趣味なんですけど、ソニックニンジャは続編が出るのをずっと楽しみにしてました」

 

「矢田さんがヒーロー物とは意外ですねぇ」

 

………本当は一人でお願いしたかったんだが、実はさっきまで矢田さんと2人でこの話をしていたのだ。

矢田さんもこの監督が好きらしく、話があった感じだった。

 

「そうなんですよ〜。この監督、アメコミ原作手がけるの珍しいんですよ!」

 

「いいでしょう」

 

「!」

 

「映画がてら…君達にも先生のスピードを体験させてあげましょう」

 

俺と矢田さんは先生の服の中に入れられ、先生の首もとから顔を出す体勢となった。

 

「遠山君……軽い気持ちで頼んでみたけど…私たちひょっとしてとんでもないことしてるんじゃ…」

 

「確かに…身の安全までは考えてなかったな…」

 

確かにそこまで気が回らなくて、今俺たちは青ざめている。

 

「ご心配なく。君達に負担がかからないようゆっくり加速しますから」

 

「「うわぁぁぁっぁぁぁぁ」」

 

「はっ速っや…!」

 

すげえ。もう太平洋が見えてきた。

 

「あれ…風も音もあんまり来ないね殺せんせー。ほとんど先生の頭で弾かれてる」

 

「良いところに気がつきました矢田さん。秘密は先生の皮膚にあります。普段は柔らかい先生の頭ですが…強い圧力を受けると硬くなるます。そうするとマッハの風圧にも負けないのです」

 

ん…なんか服から色々物を取り出したぞ…?

 

「音速飛行には君達の知らない高度な物理法則が絡んでいますが、先生の皮膚と同じ原理なら君達の身近にもありますよ。そのひとつ、『ダイラタンシー現象』について学んでみましょう。まず片栗粉と水を混ぜて…」

 

飛行中に授業始まっちゃった!!

 

「暗殺しないのですか遠山さん?密着した今はチャンスかと思われますが…」

 

俺のケータイから律がそんなことを言ってきた。

 

「無茶言うなよ律。今殺れても俺らまでマッハで太平洋にドボンだよ。完全に殺せんせーの思うツボだ。大人しく授業を受けるしかないな」

 

数分後、よく写真で見るハワイの光景が近づいてきた。海も綺麗だ。

 

「…とまぁそのように、最新の防弾チョッキにも応用されている技術なのです。1つ賢くなったところで、映画館はこの下ですよ」

 

「……!」

 

………着いてしまった。軽く授業をしている間にハワイまで!

殺せんせーの案内の元、俺たちは下の映画館に入った。

 

「寒っ!冷房効きすぎじゃないかこの部屋」

 

「ハワイの室内はとにかく冷房が効いています。皆さんちゃんと防寒の準備をしてください、はい」

 

うんうん。膝掛けくれるのはありがたいが、デザインがものすごくダサいんだよな。

 

「でも…ここアメリカだから日本語字幕無いんだよね。スジわかるかなぁ…」

 

確かに。電車感覚で来たけどここはアメリカだった。

 

「大丈夫ですよ。矢田さんは英語の成績は良好ですし、2人ともイリーナ先生に鍛えられているでしょう?」

 

俺は英語50点だもんな!そりゃお世辞でも良好なんて言えないわな!

 

「それと、先生の触手を耳に」

 

「?」

 

「習っていない単語が出たら解説します。あとは頑張って楽しみながら聞き取りましょう!はい、コーラとポッポコーン」

 

やばい……かなり幸せだ…!

映画の内容としては、人類の味方の主人公に対し、人類の醜さを見せることで組織へと勧誘する的、アダム。

悩みながら世界を救う孤独のヒーロー。俺らの年頃ならみんな憧れるキャラクターだ。

 

(…正義のヒーロー…か…)

 

 

「面白かった〜あそこで引かれると続編めっちゃ気になるよね!」

 

1時間半で上映が終わり、俺らは映画館の外でソニックニンジャの余韻を満喫していた。特に、矢田さんは興奮が冷めない様子だ。

 

「けど、ラスボスがヒロインの兄だったのはベタだったよな」

 

「え、あ、確かに」

 

「ハリウッド映画一千本を分析して完結編の展開を予想できます。実行しますか?」

 

「いやいいよ、冷めてるなぁ遠山君も律も」

 

矢田さんはそんな俺らに呆れていたが、俺は目の前のタコに呆れていた。

 

「生き別れの兄と妹!!なんと過酷な運命なんでしょう!!おーいおいおいおい」

 

「かと言ってこれもどうなんだ、いい大人が」

 

殺せんせーは映画が終わってから泣きっぱなしだ。

泣く要素あったかアレ…?

 

「さて、向こうはもう真っ暗のはずです。帰りますかねぇ」

 

ひとしきり泣いたあと、涙声で殺せんせーがそう言った。

 

 

 

 

その時ーーー

「おにい…ちゃん…?」

 

「?」

 

目の前で栗色の髪の毛をした少女が俺に向かってそう呼んできた。

もちろん俺に妹なんていないし、この少女を見たのも初めてだ。

 

「違うよ。人違いじゃないか…?」

 

あれ?言ってて気づいた。この子が喋った言葉は、日本語だ。

 

「人違いじゃないよ。遠山キンジ。私のカッコいいお兄ちゃんだよ!」

 

「「「!」」」

 

これには全員が驚いた。

殺せんせーでさえも前まん丸にしている。

どういうことだ?なんで俺の名前を…?

 

(ーーっ!頭が…)

 

きたぞ。曖昧な記憶のカケラ。

 

「剣は銃より強し」

 

「やっと見つけた。お兄ちゃん。もう行こうよぅ」

 

「呼ぶな……その名前で私を呼ぶなああああッ!」

 

(…痛ッ…!)

 

今回のはかなり痛かった。

 

「遠山君、大丈夫でしょうか?今とても頭が痛そうに見えましたが…」

 

「ええ。ちょっと混乱して。大丈夫です」

 

今のでも十分驚きだが、次の一言でさらに凍りつくことになる。

 

「それにしてもお兄ちゃん。なんでそんな第一級危険生物なんかと一緒にいるの?」

 

これは確実に殺せんせーのことだ。

この驚きの連続で先々を見通せる殺せんせーが動揺している。それもその筈だ。

俺の名前を知っていて、国家機密である殺せんせーのことも知っている。

今俺たちが思っていること。それは…

 

(この少女は一体…何者なんだ…?)

 

「ねえお兄ちゃん、なんで…」

 

「フォース!なに道草食ってやがる!行くぞ!」

 

「待ってよサード。今ここにお兄ちゃんが!」

 

少女が向いた先からは、男の声がした。まずい、さらにややこしくなる。殺せんせーがバレたのもまずい。

そう思った矢先…俺の体が浮いたのがわかった。

 

「何!?それは遠山キンイチか?それともキンジか?」

 

「キンジお兄ちゃんの方…ってあれ?」

 

「どこにもいねえじゃねえか」

 

「おかしいなぁ。さっきまでいたのに…」

 

「本当にキンジだったっていうのか?」

 

「うん。何故かあの巨大生物と一緒にいた」

 

「巨大生物…?」

 

「ほら、例の三日月事件のやつ」

 

「フン、ありえねぇ組み合わせだな。くだらねえこと言ってねーで行くぞ、時間だ」

 

「ちょっと待ってよ〜」

 

こいつらとはまた会うことになる。この時の俺は、そのことを知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せんせー!どういうことですか!あれは一体…!」

 

「あれはおそらく人工天才、ジニオンです」

 

「ジニオン…?」

 

「ええ。彼らはアメリカで育てられた軍隊です。そして、先ほど少女に呼び掛けられたサードという人は、Rランク武偵。先日アメリカ大統領の護衛についてました」

 

「Rランク…? Sランクまでじゃないんですか?」

 

「ええ…Sよりさらに上。Sランク武偵が世界で700人前後に対して、Rランクは世界で7人です」

 

「なっ…!」

 

それは単純に考えたら世界で上位7人に入る強さの持ち主ということ。

 

「ここからが問題なのです。彼らは『HSS』という特性を持っています。君達は知る由もないでしょうが、私にとっては最悪の相性なのです」

 

「…!」

 

「私1人ではなんとかなると思いますが、君達にまで被害が出るかもしれない。だからこうやってマッハで逃げてきたわけです」

 

「ねえねえ、さっきから2人はなんの話をしているの?」

 

会話の内容が映画と全く違うものだと思い矢田さんがついに質問してきた。

 

(バカか俺は…!)

 

こんなブッ飛んだ会話をしていたら何も知らない人は疑問を抱くに決まってる。俺も先生も気が動転してて配慮できなかった。

 

「いやぁ矢田さん。次回作の映画の予想ですよ…」

 

先生も焦っていたようで、苦しい言い訳しか出てこない。

こんなに焦るなんて。それほどの奴らということか。

殺せんせーの性格上、正直に話すかと思ったが、よほど矢田さんのような一般人をこっち側の世界に来させたくないらしい。まあ、俺もその方が好都合だが…。

 

「とにかく矢田さん、遠山くんも。今回のことは内緒ですよ。もし言いふらした場合は今日の感想を英語で10000文字書いてもらいます」

 

「えぇ…10000も…」

 

矢田さんがげんなりしたように言う。

 

「はい。なのでぜひ内密にお願いします」

 

そう言われ、不承不承ながら了承した。

気になったようだがしっかりと空気を読んでこれ以上言及してこなかった。さすがは矢田さんだ。今度色々聞かれるかもしれないのでそこはうまく言っておこう。

 

(…それにしても『お兄ちゃん』って…確か記憶でも同じようなことを…)

 

話している間に、太平洋を抜け、日本に帰ってきた。

人生初の体験だ。5時間の間にハワイ行って帰ってくるなんて。

 

「とりあえず、今日はお疲れ様でした。帰り道気をつけて帰ってください」

 

「はい、さようなら」

 

そんな挨拶を交わし、殺せんせーと別れる。

またこれで1つ謎が増えてしまった。それに『HSS』…。

聞き覚えのある言葉に頭を悩ませながら、矢田さんと2人で帰路に就くのであった。



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第21話 転校生の時間・二時間目

書き溜めてたストックがなくなりました。笑
読んでくださり本当にありがとうございます!


6月15日。

 

「みなさん、今日は転校生が来ることは知っていますね?」

 

朝のホームルーム。挨拶を終えると殺せんせーがそんなことを聞いてきた。実は昨日、一斉送信で烏間先生からメールが着たのだ。内容は今日、転校生が来るということ。

 

「あーうん。ぶっちゃけ殺し屋だろうね」

 

前席の前原がだるそうに答えた。

 

「律さんの時は少し甘く見て痛い目を見ましたからね。先生も今回は油断しませんよ。いずれにせよ、皆さんに仲間が増えるのは嬉しいことです」

 

また律の時みたく厄介なことにならなければいいけどな。

気になった俺は律に聞いてみることにした。

 

「なあ律、何か聞いていないのか?同じ転校生暗殺者として」

 

「はい、少しだけ」

 

律がそう言うとみんな気になったみたいで律に視線を送る。

 

「初期命令では・・・私と『彼』の同時投入の予定でした。私が遠距離射撃で彼が肉薄攻撃し、連携して追い詰めると。ですが・・・2つの理由でその命令はキャンセルされました」

 

「なんでだ?」

 

「ひとつは彼の調整に予定より時間がかかったからです。もうひとつは・・・私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたからです・・・」

 

マジか。

皆同じことを思ったのか、殺せんせーも含め固唾をのんだ。

律以上の性能の暗殺者なんているのか?こいつは戦争に利用されそうになってたやつだぞ?

 

「私の性能では・・・彼のサポートをつとめるには力不足だと。そこで、各自単独で暗殺を開始することになり重要度の下がった私から送り込まれたと聞いています」

 

律がその扱いとはな。いったいどんな怪物がやってくるんだか。

 

ガララッ

 

「「「!!!」」」

 

静まり返った中で急にドアが開いた。

みんな驚いてドアの方へ振り向く。

 

「・・・!」

 

以外にもそこから入ってきたのは、全身白装束の男だった。

 

「ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者・・・まあ白いし、『シロ』とでも呼んでくれ」

 

「いきなり白装束の人が入ってきたらビビるよな、キンジ」

 

びっくりした胸を押さえながら根本さんがそう言ってきた。

 

「ああ・・・殺せんせーでもなきゃ誰だってビビるに・・・」

 

「「「!?」」」

 

殺せんせーは教室の角の方に逃げていた。

奥の手の液状化まで使ってやがるし。

 

「い、いや・・・律さんがおっかない話をするもので・・・」

 

渚も渚で『殺せんせーの弱点15 噂に踊らされる』ってメモってるし。

気を取り直した殺せんせーは液状化を解除し普通形態に戻った。

 

「はじめましてシロさん。それで肝心の転校生は?」

 

「はじめまして殺せんせー。ちょっと性格とかが色々特殊でね。私が直で紹介させてもらおうと思いまして」

 

恰好からしてそうだが、つかみどころのない人だ。

 

(・・・ん?)

 

なんだ?このシロとかいう人。俺の目の前の渚・・・いや、その隣の茅野さんを凝視して。

 

「皆いい子そうですなぁ。これならあの子も馴染みやすそうだ。席はあそこでいいのですよね殺せんせー」

 

そう言うと空いている業の左の席を指さした。確かに後ろの席で律にも近いから連携が取れて都合がいいのかもしれない。

 

「ええ、そうですが」

 

「よし、では紹介します。おーいイトナ!!入っておいで!!」

 

新たに加わるクラスメイトがどんな生徒なのか。みんなドキドキしながらドアを見ていると・・・

 

ドゴオオオオオオオッ

 

なんと転校生はドアではなく後ろの壁から入ってきた。

 

「「「ドアから入れ!!!」」」

 

「俺は・・・勝った。この教室の壁よりも強いことが証明された。それだけでいい・・・それだけでいい・・・」

 

「「「なんかまた面倒臭そうなのが入ってきた!!!」」」

 

殺せんせーもリアクションに困ってるし!笑顔でも真顔でもない・・・なんだその中途半端な顔は!!

 

「堀部イトナ。名前で呼んであげてください。ああそれと・・・私も少々過保護でね。しばらく彼のことを見守らせてもらいますよ」

 

それだけ言ってシロは教室から出て行った。

白ずくめの保護者と話が読めない転校生。今まで以上に一波乱ありそうだ。

 

「ねえイトナ君。ちょっと気になったんだけど」

 

なんとなく気まずい空気の中、カルマがイトナに話しかけていた。

 

「今、外から手ぶらで入ってきたよね?外・・・土砂降りの雨なのになんでイトナ君一滴たりとも濡れてないの?」

 

「・・・」

 

イトナはカルマの質問をスルーし、クラスをきょろきょろと見始めた。

 

「お前は・・・このクラスで多分このクラスで2番目に強い」

 

そう言うとカルマの頭に手を置いた。

おいおい、カルマ絶対にイラっときてるだろ。頼むから喧嘩だけは勘弁してくれよ。

 

「けど安心しろ・・・俺より弱いから・・・俺はお前を殺さない」

 

いや安心できねーよ。駄目じゃねーか。

 

「俺が殺したいと思うのは、俺よりも強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせー、あんたとそこの昼行灯、お前だけだ」

 

そう言って俺の方を指さしてきた。

 

「弱い強いって喧嘩のことかイトナ。力比べでは殺せんせーと同じ次元には立てないぞ?」

 

変なこと言ってきたからこっちは正論で返してやる。

だがその矢先俺たちは驚きの事実を知ることになる。

 

「立てるさ・・・」

「何を根拠に・・・」

「だって俺たち、血を分けた兄弟なんだから」

 

「「「!!!!!!!」」」

 

「「「き」」」」

 

「「「兄弟ィ!!!???」」」

 

「負けたほうが死亡な、兄さん」

 

殺せんせーの弟。顔も形も全く違うのに。

転校生のとんでも発言により一層騒がしくなる教室であった。

 



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第22話 まさかの時間

イトナくん・・・


(兄弟・・・だと?)

 

先ほどのイトナの兄弟発言。そのせいで教室内はとても騒がしくなっていた。

それもそのはずである。まさか地球を脅かす超生物に兄弟がいただなんて。

 

「兄弟同士小細工はいらない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する」

 

そんな某忍者漫画の一族の生き残りのようなことを言うイトナ。

 

「時は放課後、この教室で勝負だ。今日がアンタの最後の授業だ。こいつらにお別れでも言っておけ」

 

そう言って壊した壁から出て行った。

予想してたけど壊したまま行くんかい。

いや・・・今はそれよりも大事なことがある。

クラスのみんなに質問攻めされている殺せんせーだ。

 

「ちょっと先生兄弟ってどういうこと!?」「そもそも人とタコで全然違うじゃん!!」

 

みんなとても気になっているらしく、普段は弾が飛び交うこの教室で今日は多くの質問が飛び交っている。

 

「いや・・・いやいやいや!全く心当たりがありません!先生は生まれも育ちもひとりっ子ですから!!両親に兄弟が欲しいってねだったら、家庭内が気まずくなりました!」

 

そもそも親とかいるのか!?

ま、それはともかく・・・兄弟とは真実なのか。それとも殺せんせーを動揺させるための作戦なのか。

 

「なあキンジ・・・兄弟だって。どう思う?」

 

根本さんも気になるらしく聞いてきた。

 

「おそらくだが・・・血がつながっている兄弟とかではない気がする。でも機密事項中の人物だ。普通の人間じゃないんだと思う」

 

「となると?」

 

「そうだな・・・例えば触手を埋め込まれた人間兵器とか、かな」

 

「え」

 

「おぉ。ありえる!」

 

「殺せんせーとの共通点で、暗殺に使えそうで1番はっきりしているとしたらそんなとこだろ。ま、予想だけどな」

 

根本さんはなるほど!といった風に手をたたく。

それよりなんだ?いま茅野さんが「え」って言って固まった気がするが・・・?

まあいいか。

 

 

 

昼休み。

モグモグモグモグ。

 

「おい・・・すごい勢いで甘いもの食ってんな。甘党なところは殺せんせーと一緒だ」

 

「表情が読みずらいところとかもな」

 

今日来たばかりの転校生、堀部イトナを観察しながら前原と磯貝がそんな話をしている。

 

「にゅや。兄弟疑惑でみんなやたら私と彼を比較してきますね。ムズムズします」

 

教壇でお菓子の詰め合わせを食べながら殺せんせーがそんなことを言っていた。

いくら昼休みだからって教師が教壇でお菓子食うのはどうなのよ。

 

「気分直しに今日買ったグラビアでも見ますか。これぞ大人のたしなみ」

 

アホ!

俺が苦手なやつ!!

っていうか、中学生の教室でなんてモン読んでるんだこのタコ。

俺が注意しようと席を立った瞬間―――。

 

「「「!!」」」

 

なんとイトナまで同じグラビアの本を読み始めた。

これには俺も、クラスのみんなもびっくりだ。

 

「「「巨乳好きまでおんなじだ!!」」」

 

「・・・これは、俄然信憑性増してきたぞ・・・巨乳好きはみんな兄弟だ!」

 

カバンから同じグラビアの本を出しながら変態・岡島も叫んだ。

 

「「「3人兄弟!?」」」

 

「もし本当だとして・・・なんで殺せんせーは分かってないの?」

 

茅野さんがそんな当たり前の疑問を投げていた。

不破さんに妄想で説明されて「肝心なところが説明できてないよ!」と突っ込んでいたが・・・。

なんにしても兄弟のことを語るなら、過去についても必ず触れる。

殺せんせーの隠した過去が分かるかもしれない。

転校生暗殺者、堀部イトナ。あいつは俺らに何を見せてくれるのだろうか。

 

 

 

 

放課後。

 

「机のリング・・・!?」

 

騒ぎを聞きつけた烏間先生とイリーナ先生が教室に来た。

 

「ただの暗殺は飽きたでしょう。ここはひとつルールを決めないかい」

 

そしていつの間にか戻ってきたシロがルールについて打診していた。

内容はいたってシンプル。机で囲ったリングの外に出たらその場で死刑らしい。

 

「なんだそりゃ!誰が守るっていうんだそんなルール!」

 

男口調全開の根本さんがそう言うが・・・・そうじゃない。

 

「皆の前で決めたルールは・・・破れば先生としての信頼が落ちる。殺せんせーには意外と効くんだよ、この手の縛りは」

 

「・・・なるほど」

 

「いいでしょう受けましょう。ただしイトナ君。観客に危害を与えた場合も負けですよ」

 

あのアホエロタコ・・・ニヤニヤして舐め腐ってやがる。律にやられたのをもう忘れたのか。

先生にそう言われ無言でコクリとうなずくイトナ。

 

「では、合図で始めようか」

 

嫌な予感がする中、いよいよ始まるようだ。

シロが右手を上にあげ、音頭をとる。

 

「暗殺・・・開始!」

 

シロが右手を下ろした時だった。

 

 

 

 

ザシュッ!!!

 

 

 

「「「!!!」」」

 

今起こった出来事に、先生含めクラスのみんなは唖然とていた。

そして・・・俺らの目は、ただ一か所に釘付けになった。

斬り落とされた先生の腕に・・・ではなく・・・。

 

「・・・まさか・・・」

 

ガラにもなく先生が焦ってるのが分かる。ハワイに行った時にジニオンと遭遇したと並みに焦っている。つまりおふざけなしの本気の焦りだ。

 

(・・・やっぱりな)

 

イトナの兄弟という発言。小さいフィールドでのデスマッチ。舐め腐っていた殺せんせー。

十中八九最初のイトナの攻撃は当たると思っていた。なぜなら今、俺たちの前にいるイトナの頭から生えてきているものは

 

「触手・・・」

 

ヒュンヒュンと、音を鳴らしながら鞭のように己の触手を回している。

 

「良かったな、カルマ。疑問、解決できて」

 

「ああ・・・そりゃ雨の中手ぶらでも濡れないわ。全部触手で弾けるんだもん」

 

そんな俺らの会話をよそに、殺せんせーは震えながら顔を真っ黒に変化させていく。

 

「・・・・・・・・・こだ」

 

「!」

 

なんて殺気だ。グレネード事件の時よりもさらに強く、ヒリヒリした殺気が俺たちを襲う。

真っ黒。ド怒りだ。

 

「どこでそれを手に入れたッ!!その触手を!!」

 

普段めったに見せないような口調に、俺たちはたじろぐ。泣いている女子もいた。

そんな殺せんせー相手に、シロは淡々と答える。

 

「君に言う義理はないね殺せんせー。だがこれで納得しただろう。両親も違う、育ちも違う。だが・・・この子と君は兄弟だ。しかし・・・怖い顔をするねぇ。何か、嫌な事でも思い出したのかい?」

 

殺せんせーは数秒黙り込み、考えるそぶりを見せた。

 

(何か過去に・・・嫌なことがあったのか・・・?それも、触手がらみ・・・)

 

そう思わずにはいられない沈黙だった。

 

「どうやら、あなたにも話を聞かないといけないようだ」

 

真っ黒になった殺せんせーがシロの方を向くと、シロも挑発するように言った。

 

「聞けないよ、死ぬからね」

 

 

ピカッ

 

 

刹那、シロから紫色の光が放たれる。

 

「!?」

 

なんだ?殺せんせーがブルブルしながら固まっているが・・・?

 

「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイラタント挙動を起こし、一瞬体が硬直する・・・全部知っているんだよ、君の弱点はね」

 

「死ね、兄さん」

 

―――直後、イトナの頭から4,5本の触手が出てきて

 

ザザザザザザッ

 

殺せんせーの体、正確に言うと頭、首、心臓、に向かってーーー

 

 

 

ーーー貫通するのであったーーー

 




読んでいただきありがとうございます。
ぜひ高評価とお気に入りをお願いします!
何卒よろしくい願いします!


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第23話 苦戦の時間

殺せんせーが・・・


ザザザザザッ

 

先生の体を貫いたイトナの触手。

 

ドドドドドド

 

なお手を緩めずに、地面で這いずり回っている先生に向かって容赦のない攻撃を続けるイトナ。

 

「・・・っ!」

 

ドドドドドドド

 

「うおおおっ」「殺ったか!?」

 

ギャラリーの生徒たちが気になり、身を乗り出している。

地面がえぐれるのとともに砂ぼこりが舞い、先生の状態が見えていないようだ。

 

「いや、上だ」

 

先生が高速で上に逃げていくのが見えた俺は、そう言いながら上を向いた。

 

「・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

「脱皮か。そういえばそんな手もあったっけか」

 

殺せんせーをかつてないほど追い詰め、余裕な態度のシロが思い出したように言う。

殺せんせーのエスケープの隠し技。まさかこんなに早く使わせるなんてな。

 

「でもね殺せんせー。その脱皮にも弱点があるのを知っているよ」

 

「はっ!?」

 

ヒョンと音を鳴らし、イトナの触手が天井にぶら下がっている殺せんせーを襲う。

 

「にゅやッ」

 

その攻撃をスレスレで躱す殺せんせー。

 

「その脱皮は見た目よりもエネルギーを消費する。よって直後は自慢のスピードも低下するのさ。常人から見れば速いことに変わりはないが、触手同士の戦いでは影響はでかいよ」

 

シロのいう通り、俺の目から見て殺せんせーは明らかにスピードが落ちており、完全に防戦一方だった。

 

「加えて、イトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね。それも結構体力を使うんだ。二重に落とした身体的パフォーマンス。私の計算ではこの時点でほぼ互角だ。また、触手の扱いは精神状態に大きく左右される」

 

確かに・・・殺せんせーはテンパるのが意外と早かったりする・・・今までの経験からいくつか思い当たる節があった。

 

「予想外の触手によるダメージでの動揺。気持ちを立て直す暇のない狭いリング。今どちらが優勢か、生徒諸君にも一目瞭然だろうね」

 

「お、おい!」「マジかよ!」「マジで殺っちゃうんじゃないの」

 

そんな生徒からの心配の声も飛び交う。

 

「さらには、献身的な私のサポート」

 

 

ピカッ

 

 

「うっ・・・」

 

特殊な光により殺せんせーの動きが固まる。

そして・・・

 

 

バシュッ!

 

 

「・・・!」

 

足も何本かちぎられてしまった。

 

「フッフッフ。これで脚も再生しなくてはならないね。なお一層体力が落ちて殺りやすくなる」

 

「安心した・・・兄さん、俺はお前より強い」

 

そう確信したイトナの発言。

殺せんせーが追い詰められている。あと少し・・・地球が救えるんだ。

 

(―――と、普通なら思うんだろうが)

 

今、E組のみんなは悔しいはずだ。後だしジャンケンのように次々出てきた殺せんせーの弱点。本当なら、みんなでこの教室で見つけたかったはずだ。

みんなで・・・殺したかったはずだ。

 

(なにしてんだよ・・・あのタコ・・・)

 

みんな、俯いちまったじゃねーか。あんたが不甲斐ないばっかりに。

 

「脚の再生も終わったようだね。さ、次のラッシュに耐えられるかな?」

 

「・・・ここまで追い詰められたのは初めてです。一見愚直な試合形式の暗殺ですが、実に周到に計算されてる。あなた達には聞きたいことは多いですが・・・まずはこの試合に勝たねば喋りそうにないですねぇ」

 

そう言って立ち上がり、指の関節をぽきぽきと鳴らす殺せんせー。

―――良かった。やっと本気か、心配させやがって。

その様子を見た俺は即座に対殺せんせー用ナイフの刃の先っぽを持った。

サービスとして、手で持つ部分にハンカチをかけてな。

 

「・・・?なにやってるの?遠山」

 

俺の意味不明な動作にカルマは眉を寄せている。

 

「いや、一応な、念のためってやつだ」

 

そう言って殺せんせーの方を見る。

 

「まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね」

 

「シロさん。この暗殺方法を計画したのはあなたでしょうが、ひとつ計算に入れ忘れていることがあります」

 

「無いね。私の性能計算は完璧だから。殺れ!イトナ!」

 

その指示通り、イトナは殺せんせーに向かって触手を振り下ろした。

皆が心配そうに見つめる。

そして俺はさっきまで持っていたモノが手元から消えたことを確認し、にやりと笑う。

なんと攻撃したはずのイトナの触手が溶けていたのだ。

 

「おやおや、落とし物を踏んだしまったようですねぇ」

 

「床に・・・対先生用ナイフ!?」

 

先生は俺がお膳立てしたことに気づき、そのナイフをイトナの攻撃の落下地点に置いたのであった。

 

「同じ触手なら、対先生用ナイフが効くのも同じ。触手を失うと動揺するのも同じです。でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です」

 

先生は先ほど脱皮した皮でイトナを包み窓の外、つまりフィールド外に投げ飛ばした。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージはないはずです。ですが君に足はリングの外に落ちている」

 

先生はそれを確認すると、顔の色を黄色と緑のボーダーにして宣言するのであった。

 

「先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生を殺せませんねぇ。生き残りたいのなら、このクラスでみんなと一緒に学びなさい。性能計算ではそう簡単に計れないもの、それは経験の差です。君よりも少しだけ長く生き、少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、それを伝えたいからです。この教室で先生の経験を盗まなければ・・・君は私に勝てませんよ」

 

ったく。よく言うよ、ギリギリだったくせに。

 

「勝てない・・・俺が・・・弱い!?」

 

「!」

 

そう呟いたイトナの触手が黒色に変化した。

 

「ま、まずい!」

 

シロが急に焦りだした。先生も驚いた様子だ。

この状況、考えられることはひとつ。

 

(・・・暴走か?)

 

 

 

ただちに暴走を止めなければいけない。そうしなければ・・・

 

 

―――ジェノサイドが吹き荒れるぞーーー

 



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第24話 絆の時間

「黒い触手!?」「やべぇ!」「あいつキレてんぞ!」

 

暴走したイトナの触手の色は先生が怒った時と同様、真っ黒だった。

イトナの触手が暴れ狂っている。相当まずい状態だと見える。

イトナが暴走状態のまま一瞬で窓の外から教室まで戻ってきた。

 

「俺はッ・・・強いッ!この触手で!誰よりも強くなったッ!」

 

「は、速い!」

 

そのまま暴れようとするイトナを殺せんせーがマッハで止めた。

 

「にゅやッ!イトナ君・・・!お気を確かに!」

 

殺せんせーの言葉は届いていないようで、体を押さえられながらも、暴れている。

そして最悪の事態が起こる。

イトナの真っ黒の触手が生徒の方に向かってきたのである。

 

「はっ」

 

これは殺せんせーでも防げなかったらしく、完全に対応できてない。

真っ黒で歪な形をした触手が向かう先は・・・窓際にいた中村さんだ!

 

「にゅやッ!まずい!」

 

 

 

 

殺せんせーが叫んだその瞬間、俺の視界がスーパースローモーションの世界になった。

筋肉、体重移動を余すことなく使い、落ちているナイフを拾って中村さんのもとへ駆ける。

そして、左手で中村さんの肩を持ち、右手でーーー

 

 

 

(・・・やっちまった)

 

状況が状況とはいえ、派手にやっちまった。

中村さんを襲った触手は、細切れにされ床でぴちぴち動いている。

 

「えっ・・・遠山君!?なんで・・・」

 

「ナイスです遠山君!助かりました!」

 

殺せんせーはそう言うと、自身の触手でイトナを触手含め完全に抑えた。

どうやらさっきの1本だけ逃してしまったらしい。

 

 

プシュ

 

 

「!」

 

直後、イトナの首もとに、シロが発射した針のようなものが刺さる。

 

(麻酔針か・・・?)

 

イトナは気を失い、倒れてしまった。

 

「すみませんね殺せんせー。どうもこの子は、まだ登校できる状態じゃなかったようだ」

 

シロは机をどけ、イトナに近づきながらそう言った

 

「転校初日で何ですが・・・しばらく休学させてもらいます」

 

「待ちなさい!担任としてその生徒は放っておけません!一度ここに入ったからには卒業まで面倒を見ます。それにシロさん、あなたにも聞きたいことは山ほどある」

 

「嫌だね、帰るよ。力ずくで止めてみるかい?」

 

シロに向かって触手を伸ばした殺せんせーだが、肩に触れたとたん、溶けてしまった。

 

「対先生繊維。君は私に触手一本触れられない。心配せずともまたすぐに復学させるよ殺せんせー。3月まで時間はないからね。責任をもって私が・・・家庭教師を務めた上でね」

 

そう言って出て行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。恥ずかしい恥ずかしい」

 

殺せんせーはシロが帰った後、顔を赤くして手で押さえている。

 

「何してんの殺せんせー?」

 

「さぁ?さっきからああだけど」

 

殺せんせーがどうしてああも恥じらっているか、片岡さんと岡野さんは気になるようだ。

ちなみに今俺たちは机や椅子を片している最中だ。

 

「実は先生、シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どちらかというとギャグキャラなのに」

 

「「「自覚あるんだ!!」」」

 

「カッコよく怒ってたね~。『どこでそれを手に入れたッ』だって」

 

「いやあああ言わないで狭間さん。改めて聞くと逃げ出したい!!」

 

そう言ってまた顔を隠す。

 

「つかみどころのない天然キャラで売っていたのに、ああも真面目な顔を見せてはキャラが崩れる」

 

自分のキャラを計算してんのが腹立つな。

 

「でも驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんてね」

 

「ビッチ先生・・・」

 

確かにその通りだ。あれにはみんな驚いただろう。

 

「ねえ殺せんせー説明してよ。あの2人との関係を」「先生の正体いつも適当にはぐらかされてたけど、あんなの見たら聞かずにはいられない」「そうだよ私たち生徒だよ」「先生のことをよく知る権利はあるはずでしょ」

 

みんな今日のやりとりが気になるらしく、また質問が飛び交っていた。

 

「・・・仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ。実は先生・・・」

 

ついに知れる殺せんせーの正体。俺たちは唾をのんで次の言葉を待った。

 

「実は先生、人工的に造り出された生物なんです!!!」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

「だよね、で?」

 

「にゅやッ、反応薄っ!!これ結構衝撃的な告白じゃないですか!?」

 

って言ってもなぁ。自然界にマッハ20のタコとかいないだろ。宇宙人でもないのならそんくらいしか考えられないわな。

 

「知りたいのはその先だよ殺せんせー」

 

「!」

 

珍しく渚が先陣を切って話を進めた。よっぽど気になるらしいな。

 

「どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て」

 

この質問に先生もさっきまで騒いでいた生徒も静まり返ってしまった。

 

「殺せんせーはどういう理由で生まれてきて、何を思ってE組に来たの?」

 

ポタポタと、雨の降る音だけが聞こえる教室。

沈黙が続くこと数秒、殺せんせーは笑って答えた。

 

「残念ですが今それを話したところで無意味です。先生が地球を爆破すれば、皆さんが何を知ろうがすべて塵になりますからねぇ」

 

「「「・・・!」」」

 

「逆にもし君たちが地球を救えば、君たちは後でいくらでも真実を知る機会を得る。もう分るでしょう。知りたいなら行動はひとつ。殺してみなさい。暗殺者と暗殺対象、それが先生と君たちを結び付けた絆のはずです。先生の中の大事な答えを探すなら・・・君たちは暗殺で聞くしかないのです。質問がなければ今日はここまで、と言いたいところなのですが」

 

そう言うと殺せんせーは俺の方を見てきた。

 

「限界ですねぇ、遠山君」

 

「・・・?」

 

「君自身も気づいているでしょう」

 

「!」

 

「皆さんはきっと、先生の正体と同じくらい遠山君の正体についても気になっているはずです。これ以上は今後の生活に支障をきたしますよ」

 

「・・・」

 

そうか。さっきあれだけのことしてしまったんだ。気にならないほうがおかしいか。

みんなが気を遣って言いづらそうなので、俺から言おうかと迷っていると意外にもカルマが口を開いた。

 

「なあ遠山。君が転校してきたのは2年生の3学期。さっきの高速移動からの触手斬りもそうだけど、俺がいなかったグレネードの件、修学旅行で10人の高校生をボコした件、後は着眼点のヤバさ。どれもイカれてるよ」

 

俺らE組は暗殺者。銃とナイフで答えを探す。ターゲットは先生。

 

「ずばり、あの怪物が来るのを見越して送り込まれた殺し屋だろ?」

 

どうやら暗殺の前に、解決しなければいけない問題があるらしい。

 




〇6月の野外射撃テストの総スコア(200点満点)

男子
1位 122点 千葉龍之介
2位 103点 磯貝悠馬
3位  97点 赤羽業
4位  90点 村松拓哉
5位  84点 潮田渚

女子
1位 200点 速水凛香
2位 101点 根本リンカ
3位  91点 原寿美鈴
4位  84点 狭間綺羅々
5位  79点 中村莉桜 


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第25話 実はの時間

「にゅやッ」

「どうしたルルーシュ!?」

すみません。本編どうぞ。


「ずばり、あの怪物が来るのを見越して送り込まれた殺し屋だろ?」

 

E組のみんなの前でカルマがそう言う。

言われた相手他でもない、俺だ。

実はこの質問、速水さんにも一度聞かれたことがある。あの時は殺せんせーが上手くはぐらかしてくれたが・・・

 

「ほらほら、無言は肯定って捉えちゃうよ?」

 

俺が黙っていると、カルマはさらに言葉を投げてきた。

 

「ぶっちゃけさ・・・クラスの大半が気づいて、おかしいと思ってるよ、君の力。あんな動きができる人間なんて普通いないから。他のやつらもそう思わないの?」

 

「ま、まあ」「確かに」「さっきの動きはやばかったよな」

 

先ほどの一連の流れを見たクラスメイトが共感してく。

もしかしたら普段手を抜いていることを知られ、不快に思ったのかもしれない。

渚や根本さんなど、秘密にしてくれている友達からも、実は気味悪がられていたのかもしれない。

だから

 

(・・・本当のことを言おう)

 

そう思った俺は全員に目を配り、頭を下げた。

 

「まずはみんな・・・ごめん!」

 

「・・・キンジ」

 

根本さんが心配そうな表情でこちらを見ている。

 

「普段、みんなが暗殺に対して積極的に参加し、頑張っている中・・・俺は手を抜いていた。まずはそのことを謝らせてくれ」

 

俺は精いっぱいの気持ちを込めて、頭を下げる。

 

「本当にすまなかった」

 

クラスに再び静寂が訪れ・・・根本さんがその様子を見て口をわぐわぐとさせている中、横にいた渚が前に出てきた。

 

「謝ることないよ、遠山君」

 

「渚・・・」

 

「僕だけじゃない。根本さんだって、カルマだって・・・君に救われている人は逆にみんな感謝してるんじゃないかな」

 

「そんなこと、感謝なんて・・・」

 

「いや、少なくとも僕はしている。それに普段の訓練でも、常に周りに目を配っているよね?何をするにしても物足りなさそうな顔をしながら、誰かが怪我をしそうになったらすぐに支えて、助けてくれるよね」

 

「・・・」

 

「僕は、そんな遠山君に感謝してるし、とても尊敬している。だから、謝ってほしいんじゃなくて、知りたいんだ」

 

渚がそう言うと、今度は杉野が前に出てきた。

 

「そうそう、だいたいいつも何するにしても自分よりも周りばっかり。心配になるくらいだ」

 

「ああ、俺も接近戦の訓練で倒れそうなときに、何度支えてもらったか」

 

磯貝まで・・・。

 

「私も修学旅行の時、助けてもらったことはとても感謝してるんだよ」

 

神崎さん・・・。

 

「そうだよ遠山、これで分かっただろ?俺らは君がやってきたことを否定するつもりはない。むしろ感謝してるくらいなんだ。だから、教えて欲しいわけ。君の正体を」

 

「カルマ・・・」

 

やっとカルマの意図が理解できた。やっぱりカルマは頭がいいな、俺なんかよりよっぽど。

 

「正体なんてそんな大げさなものではないけど、分かった。言うよ」

 

その言葉に歓喜するクラスメイトと、殺せんせー。

 

「やっとですか遠山君。ヌルフフフフ。待ちわびましたよ」

 

そういえば初めにこの話に誘導したのは殺せんせーだったな。

この状況まで見えてたってわけですかい。

観念したように俺は息を吐いた。

そしてーーー

 

「みんな、実は俺―――」

 

なんていい先生とクラスメイトを持ったのだろう。

その『偶然』に感謝しつつ、俺は語り始めたのであった。

 

 

 

 

 

放課後。

 

「烏間先生!」

 

E組の訓練のために、防衛省の人たちと外で建設作業中の烏間先生に向かってクラス委員長の磯貝が声をかける。

 

「君たちか、どうした大人数で」

 

磯貝以外にも、今日心打たれた人は多いだろう。

E組の大半がここに集まっていた。

 

「あの・・・もっと教えてくれませんか。暗殺の技術を!」

 

「・・・?今以上にか?」

 

「はい!」

 

そう元気よく返事をする俺らのリーダー。

 

「今まで真剣にやってきたつもりでしたが、心のどこかで『結局誰かが殺るんだ』とどこか他人事でした。ですが、今回のイトナの件を見てて思いました!」

 

磯貝、そして他のE組の生徒が真っすぐ烏間先生を見る。

 

「誰でもない、俺らの手で殺りたいって」

 

もしも今後、強力な殺し屋に先を越されたら、何のために頑張ってたか分からなくなってしまう。

 

「だから、限られた時間で殺れる限り殺りたいんです!」

 

そう言って前に出てきたのは女子学級委員長、片岡メグだ。

 

「私たちの担任を、殺して、自分たちの手で答えを見つけたい」

 

意識が変わったな。いい目だ。

烏間先生もそう思っただろう。他の防衛省の人も微笑ましくこちらを見ている。

 

「分かった。では希望者は放課後に追加で訓練を行う!より一層厳しくなるぞ!」

 

「「「はい!よろしくお願いします!」」」

 

「では早速・・・新設した垂直20mロープ昇降。始めッ!」

 

「「「厳しッ!!」」」」

 

 

 

 

 

椚ヶ丘中学校3年E組は暗殺教室。雨も止んで、始業のベルは明日も鳴る。

 




〇烏間先生への模擬暗殺演習

男子
1位 6点 磯貝悠馬
2位 5点 前原陽人
3位 4点 杉野友人
4位 3点 木村正義
4位 3点 岡島大河

女子
1位 12点 速水凛香
2位  3点 岡野ひなた
2位  3点 片岡メグ
4位  1点 矢田桃花
4位  1点 倉橋陽菜乃


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第26話 球技大会の時間

「やっと梅雨明けだ~」

 

イトナが転校して休学した次の日、下校中の杉野が嬉しそうに言った。

 

「アウトドアの季節ですなぁ~どこか野外で遊ばねー?」

久々の晴天となり、いつもよりも元気が良い杉野。

授業で疲れた俺はあくびを噛み殺しながらそんな風に思った。

 

「うーん、何しよっか」

 

そんな杉野を見て微笑ましく思ったのか、渚も可愛らしい笑顔をしている。

ちなみに今日は速水さんが用事のため放課後の訓練はなしで俺、渚、カルマ、杉野の4人で下校している。

くう。友達4人で下校だなんて最高じゃないか。そして直接家には帰らず道草を食う。しっかり青春してるな、俺も。

 

「じゃ、釣りとかどう?」

 

「おお、カルマが釣りなんて意外だな。いいな。今だと何が釣れるんだ?」

 

俺も釣りは昔から好きなので、ついつい反応してしまう。

するとカルマは悪戯顔になってこんなことを言ってきた。

 

「夏場はヤンキーが旬なんだ。渚君を餌にカツアゲを釣って、逆にお金を巻き上げよう」

 

「・・・ヤンキーに旬とかあるのか」

 

そうツッコまずにはいられない俺だった。

 

 

 

 

 

 

カキーン。スパーン。ズバーンズバーン。

 

「ナイスボールキャプテン!!」

 

本校舎のグラウンドの横を通ると、ちょうどそこでは野球部が練習中のようだった。

 

「そういやうちの野球部って強いんだっけか」

 

確か前に椚ヶ丘中学校新聞で見た気がする。

俺らが立ち止まって練習の様子を見てると、さっきまでピッチャーをしていた生徒がこちらに近づいてきた。

 

「なんだ、杉野じゃないか!久々だな」

 

「・・・・・・おう」

 

「おお杉野~」「なんだよたまには顔出せよ~」

 

そういや杉野は元野球部だったよな。今も親しげなところを見ると、それなりに人望はあったようだ。さすが杉野。

 

「はは。ちょっとバツが悪りーよ」

 

確かにE組の生徒の杉野からすると、来たくないと思うよな。

 

「来週の球技大会、投げるんだろ?」

 

「お?そーいや決まってないけど投げたいな」

 

「楽しみに待ってるぜ」

 

はたから見ると仲がよさげなやり取りだった。

 

「・・・しかし、いいよな杉野は。E組だから毎日遊んでられるだろ?俺たち勉強も部活もやんなきゃだからへとへとでさ」

 

ここまでは。

杉野の顔色が変わる。だが、意外にも注意してきたのは先ほどまでピッチャーをしていた男だった。

 

「よせ、傷つくだろ」

 

なんだ、まともな奴もいるじゃないか。そう思ったのもつかの間

 

「進学校での部活との両立。選ばれた人間じゃないならしなくていいことなんだ」

 

案の定くそ野郎だった。

 

「へーえすごいねぇ。まるで自分らが選ばれた人間みたいじゃん」

 

挑発するようにカルマが言うと

 

「うんッ!そうだよ!」

 

と、自信満々に返事するピッチャー。

 

「気に入らないか?なら来週の球技大会で教えてやるよ。上に立つ選ばれた人間とそうでない人間―――この歳で開いてしまった大きな差をな」

 

そう言って練習を再開するのであった。

 

 

 

 

 

次の日。

今は来週行われる球技大会に向けて、話し合いをしているところだ。

 

「にゅや~。クラス対抗球技大会ですか・・・健康な心身をスポーツで養う!大いに結構!ただ、E組がトーナメント表にないのはどうしてです?」

 

「E組はさ、本戦にはエントリーされないんだ。1チーム余るっていう素敵な理由でさ」

 

三村の説明で俺も初めて知った。そのかわり、大会の締めのエキシビジョンには出なきゃいけないらしい。

 

(要するに、見せ物か)

 

全校生徒が見てる前で、男子は野球部の、女子は女子バスケットボール部の選抜メンバーと戦らされるらしい。

 

「一般生徒のための大会だから部の連中も本戦には出れない。だからここで、みんなに力を示す場を設けたわけ。トーナメントで負けたクラスもE組がボコボコに負ける姿を見てスッキリ終われるし、E組に落ちたらこんな恥かきますよって警告にもなる」

 

「なるほど、いつものやつですか」

 

「そ」

 

一般生徒向けの大会ならE組は圧倒的に有利、とは言え出してもらえない上に戦う相手が部活に所属している生徒とはな。

だが、俺はそれでも五分五分だと見てる。俺らは殺せんせーのおかげで勉強がすごい勢いで伸びているが、烏間先生の指導のおかげで身体能力も信じられないほど伸びている。

 

「でも心配しないで殺せんせー」

 

そう言ったのは片岡さんだった。

 

「暗殺で基礎体力がついているし、良い試合して全校生徒を盛り下げるよ!ねー皆!」

 

「「「おおー!」」」

 

スポーツは勝つばかりがすべてじゃない。負けるときは負け方も大事だが、片岡さんは責任感がありリーダーシップも抜群。女子チームはこの逆境も良い糧にできるだろうな。

 

「俺らさらし者とか勘弁だわ。お前らで適当にやっといてくれや」

 

「寺坂!・・・ったく」

 

寺坂、吉田、村松のいわゆる寺坂組がダルそうに教室を出て行ってしまった。

まだうまくクラスに馴染めないらしい。

 

「野球となれば頼れるのは杉野だけど、何か勝つ秘策とかないのか?」

 

俺が聞くと、杉野はため息を吐いて俯いてしまった。

 

「無理だよ・・・。最低でも3年間野球してきたあいつらと、ほとんどが野球未経験者のE組。勝つどころか勝負にもならねー」

 

杉野の話によると野球部はかなり強く、特に今主将の進藤とかいうやつは剛速球で強豪校からも注目されているらしい。

 

「勉強もスポーツも一流とか、不公平だよな人間って。 ・・・けどさ殺せんせー。だけど、勝ちたいんだ殺せんせー!善戦じゃなくて勝ちたい!好きな野球で負けたくない。野球部を追い出されてE組に来て、むしろその思いが強くなった。E組のみんなとチームを組んで勝ちたい!!・・・まあでも、やっぱ無理かな殺せんせー」

 

野球でも負けて勉強でも負けて。昨日もあんなにバカにされて、悔しかっただろうな杉野は。

 

(・・・どうにかして勝たせられないもんかな)

 

その思いが届いたのか、殺せんせーはいつの間にか野球のユニホームを着ていた。

 

「先生一度、スポ根モノの熱血コーチをやりたかったんです。殴ったりは出来ないのでちゃぶ台返しで代用します」

 

「「「用意良すぎだろ!!」」」

 

「最近の君たちは目的意識をはっきりと口にするようになりました。殺りたい。勝ちたい。どんな困難な目標に対しても揺るがずに。その心意気に応えて、殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう!」

 

 

 

 

 

『試合終了―!!3対1!トーナメント野球は、3年はA組が優勝です!!』

 

球技大会どうやらトーナメントはA組が優勝したらしい。

 

『それでは最後に・・・E組対野球部選抜のエキシビジョンマッチを行います!』

 

そうアナウンスされ、俺たちE組と進藤率いる野球部が準備にかかる。

 

「・・・おいおい、なんであんなに気合入ってんだよ」

 

死に物狂いで素振りを始めた野球部を見て、つい漏らしてしまう。

 

「野球部としちゃ、全校生徒にいいとこ見せる絶好の機会だしな」

 

E組相手じゃコールド勝ちで当たり前、最低でも圧勝が義務らしく、情け容赦なく本気で来るらしい。

 

 

「整列!」

 

 

審判から声がかかり、双方ホームベースの前で一列に並ぶ。

 

「学力と体力を兼ね備えたエリートだけが・・・選ばれた者として上に立てる。それが文武両道だ杉野。お前はどちらも無かった。選ばれざる者がグラウンドに残っているのは許されない。E組共々、二度と表を歩けない試合にしてやるよ」

 

進藤にそう言われ、動揺を隠せない杉野。

試合開始のアナウンスがなり、ベンチへ戻るのであった。

 

「そういや殺監督はどこだ?」

 

モノ作りが得意な菅谷に尋ねられた俺は、ライトのポールの下に指をさす。

 

「烏間先生に目立つなって言われてるから、遠近法でボールに紛れてる。顔色とかでサイン出すんだと」

 

「そう・・・」

 

殺せんせ・・・いや、殺監督の方を見ていると、ちょうどサインが出されてた。

 

「あれ、どういう意味だ?」

 

サインも無駄に凝っていて、色で見分けれければならない。

俺は殺監督からもらったサイン用のメモをパラパラとめくり、今出されたサインを探した。

パターンが多すぎるし、見分けるの面倒だし、ケータイとかで良かっただろうに、と思う。

 

「① 青緑②紫③黄土色だから・・・みんな!殺せんせーからの指示だ」

 

そう言って全員の視線を集める。

俺らにはもっとでかい目標がいる。こいつら程度に勝てなきゃあの先生は殺せない。

 

 

 

 

「・・・『殺す気で勝て』ってさ」

 






「ここから先は一方通行だ!!」

「「「どうしたカルマ!?」」」


暗殺教室の声優さんで、このキャラ同じだというのがありましたら是非感想欄にお願いします。


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第27 先行の時間

読んでいただきありがとうございます!


球技大会エキシビジョンマッチ ルール

 

〇男子野球

・3イニング制(3回裏まで同点の場合、最大5回まで延長)

・10点差でコールドゲーム

※ハンデとして、E組は守備と攻撃を分担できる

 

〇女子バスケットボール

・3ピリオド30分(同点の場合、フリースロー対決)

・50点差でコールドゲーム

※ハンデとして、E組は何人でも交代できる

 

 

 

 

 

ズドン

 

「ストライーク!!」

 

おおおお、と進藤のボールに多くの歓声が上がる。

なんと140km出てるらしい。プロ並みだ。

身長も180cmはあるだろう。まさに『選ばれたもの』という言葉を体現したかのような人物。

野球部の監督の様子を見ると、呆れたように他の部員と話している。よっぽど眼中にないんだろう。

そんな中、殺監督によるサインが1番打者、木村に出される。

ヘルメットのつばを触り、承知の合図を送る。

そして進藤が2球目を投げる。

 

 

コン

 

 

「何ッ!?」

 

今木村がやったことは、野球の試合では良く見る光景、バントだ。本来ならランナーを進めるために行う技。だが、木村が1番打者なのでもちろんランナーはいない。

つまり、セーフティバントだ!

うまく一塁側に転がし、ピッチャーとファースト、どちらがとるか迷う。

だが、E組一番の俊足を持つ木村はその隙があれば十分だった。

 

「セーフ!」

 

楽々セーフとなり、幸先のいいスタートを切ることができた俺たち。

 

「チッ、こざかしい・・・」

 

一番最初の打者をいきなりランナーに出してしまう。点は取られていないが、進藤を動揺させるにはちょうどいいだろう。

 

『2番 キャッチャー 潮田君』

 

そうアナウンスされ、打席に入る渚。

すると先ほどとは違い、内野陣が前進守備をしてきた。さすがは強豪。もう見抜いてくるとは。

だが、こちらとしてもその展開は読んでいた。

 

 

コッ

 

 

今度は先ほどよりも鈍い音が鳴り、前進してきた内野陣の意表を突いた。

プッシュバントだ!

三塁線に抜け、渚も楽々セーフ。強豪とはいえ中学生。バント処理はプロ並みとはいかないようだな。

この想定外の変な流れに観客もざわざわし始める。

さっきまで余裕の表情をしていた野球部の監督も唖然としている。

監督は知っているからだ。一見簡単そうに見えて進藤級の速球を狙った場所に転がすのは至難の業だと。杉野では練習相手にならないはずなのに、と。

 

「こちとら・・・あれ相手に練習してるもんなぁ」

 

俺は苦笑しながら練習の日々を思い出す。

 

 

 

 

 

「殺投手は300kmの球を投げ!!殺内野手は分身で鉄壁の守備を敷き!!殺捕手はささやき戦術で集中を乱す!!」

 

 

 

 

3日間ほど竹林に偵察にいてもらい、9割方ストレートだということが分かる。

確かに中学生レベルじゃストレート一本で勝てるのだろうが、逆に言えばそれさえ見極めればこっちのものだ。

後は殺監督が進藤と同じフォームで投げ・・・それを繰り返してバントを極めるという練習だ。

先生の300kmの球を見た後だと

 

(・・・止まって見えるぜ)

 

3番の俺も三塁線にきっちりバントを決め、これでランナー満塁だ!

そして4番はもちろん・・・

 

「くッ・・・杉野!」

 

進藤はこの状況に完全にうろたえていた。

そして杉野はバントの構えに入る。

きっとこいつは今、普段とは一風変わった光景を見てるだろう。

まるで獲物を狙うよな躊躇ない目・・・今やっているのは野球なのか、と。

確かに杉野は武力では進藤に勝てないのかもしれない。

だが、たとえ弱者でも、狙いすました一刺しで、巨大な武力を仕留めることができる!

 

「なっ!」

 

杉野が滑らかにヒッティングに変え、バットを振りぬく。

打球は深々と外野に刺さり、走者一掃のスリーベースヒットとなった。

 

「ナイスバッチ!杉野」

 

E組のベンチは大盛り上がりである。それもそのはず。こうも狙い通りの展開になったのだから。

全校生徒に力を見せつけるはずだった進藤が、逆に屈辱を受けている。

そのようすを見かねたある人物が、グラウンドに入ってきた。

 

「「「り、理事長先生!?」」」

 

早速現れたラスボスに、E組のベンチも狼狽えてしまう。

 

 

 

―――その後タイムがかかり、理事長先生が指揮を執るとのアナウンスが流れるのであったーーー

 



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5巻
第28話 円陣の時間


キンジかっこいいな・・・


「お、来たか女子」

 

ベンチの後ろに片岡さん率いる女子が来た。どうやら女子は終わったようだ。

確かバスケットボールだったよな。結果はどうなったんだろうか。

 

「凄い!!野球部相手に勝ってるじゃん!!」

 

女子はテンション高く、そんなことを言ってくれる。

 

「おいキンジ!男子もやるじゃねーか!」

 

根本さんも、手をメガホン替わりにして可愛く男口調で言ってくる。

 

「あーまあ、ここまでは」

 

「なんだよ、ここまでって」

 

見てもらったほうが早いと思い、俺はグラウンドを指さす。根本さんの視線もそっちへ向くと、納得した様子だった。

 

「なるほど・・・1回表からラスボス登場ってわけ」

 

理事長からすると、ここで俺たちを勝たせてはいけない。

俺らの目には自信が漲りつつある。それでは良くない。『やればできる』と思わせてはいけない。常に下を向いてもらわねば、と思ってるはずだ。

秀でるべきでない者たちが秀でると・・・理事長の教育理念が乱れるからな。

理事長はマウンドに生徒を集めて、何かを話している。

そして円陣を組んだ後、野球部全員の目つきが変わっていた。

 

「「「なッ!」」」

 

そして驚いたことに、外野手も全員内野にやってきた。内野手は超前進守備と言ってもいいくらいだ。

 

「ダメだろあんな至近距離で!!目に入ってバッターが集中出来ねぇよ!」

 

と、岡島が文句を言うがルール上、フェアゾーンならどこを守っても自由だ。審判がダメだと判断すれば別だが。

 

(・・・審判の先生はあっち側だ、期待できない)

 

目つきを変えた野球部の前に、あえなく俺らは三者凡退に終わった。

進藤は完全に復調だな。

ベンチに戻った進藤に対し、理事長は何かをささやいている。

あの男もまた教育の名手だな。生徒の顔と名前をよく覚えていて・・・教えるのもやる気を引き出すもの抜群にうまい。

うちのタコと理事長のやり方はよく似ている。なのに何故、教育者としてこうも違うんだろうか。

選手とし出ているにも関わらず、この2人の采配対決に興味がわいてきた。

一回の裏となり、俺らは守備についた。ピッチャーはもちろん、杉野だ。

ちなみに俺はファーストだ!

 

 

バシィ!

 

 

「ストライーク!バッターアウト!」

 

それにしてもすごいな杉野は。進藤の前にエースをやっていただけあるな。特にカーブボール。なんて曲がり具合だ。今度教えてもらおう。

俺らは打撃に時間を注いだ分、守備はかじる程度にしかやっていない。平凡なあたりならまだしも、強いあたりがきたらまず取れないだろう。暗殺で鍛えているとはいえ、守備は完全に努力がモノを言うしな。

 

「ストライーク!バッターアウト!チェンジ!!」

 

「「「おおお!!」」」

 

杉野は鋭い変化球を活かして三者三振だった。この光景に、E組のベンチにいる男子と応援席にいる女子から歓声が聞こえた。

さすがだ杉野。

 

二回の表、E組の攻撃。

相変わらず鉄壁のバントシフトだった。

バッターのカルマはネクストバッターサークルから出てはいるものの、打席に入ろうとしない。

 

「どうした?早く打席に入りなさい!」

 

審判に注意されるが、全く聞く耳を持っていない様子だ。

 

「ねーーーえ。これズルくない理事長せんせー」

 

「「「!」」」

 

カルマのいきなりの無礼な態度に、周りが固まる。

 

「こんだけ邪魔な位置で守ってんのにさ、審判の先生も何にも注意しないの?お前らギャラリーのやつらもおかしいと思わないの?」

 

カルマはギャラリーで見ていた生徒に向かい、いつものような悪戯顔で言う。

 

「あーーーそっかぁ。お前らバカだからぁ、守備位置とか理解してないんだね」

 

「「「・・・・・・・」」」

 

「小さいことでガタガタぬかすなE組が!!」「たかがエキシビジョンだぞ!!」「守備にクレームつけてんじゃねーよ!」「文句あるならバットで結果出してみろや!」

 

E組の生徒に『バカ』と侮辱された本校舎の生徒たちからは、罵声が飛び交う。

カルマはその様子を愉快そうに見て笑っている。その強靭なメンタル、欲しい。俺とかあんな風に言われたら悲しすぎて泣いちゃう。

カルマはライトのポールの方に向かってベロを出した。そこにいるのは今の指示を出した我らが殺監督だ。

 

『ダメみたいよ殺監督』『いいんですそれで。口に出すことが大事なんです』

 

とでも言うように。

なすすべなく3アウトとなり、その後、二回の裏で集中打を受け、2点を返された。いよいよ俺らも追い詰められてしまった。

 

(とは言え・・・守備はほぼ杉野便りというこの状況で、よく2点で抑えたもんだ)

 

後1点取られたら実質負けみたいなもんだからな。

その表、E組は三者凡退してしまい・・・いよいよ最後に野球部の攻撃を残すのみとなった。

さて・・・どうくるか。

この回1番打者からで、3人で押さえないとあの進藤にまで打順が回ってしまう。

なんとかして押さえてくれよ、そう思った矢先―――

 

 

コッ

 

 

「「「!」」」

 

なんといきなりバントをしてきた。俺ら未経験者が処理なんてできるはずもなく、ランナーを一塁に許してしまう。

なるほどね・・・。

野球部が素人相手にバントなど、普通なら見てる生徒も納得しないだろう。だが、俺たちが先にやったことで大義名分を作ってしまった。『手本を見せてやる』というな。

小技でも強いという印象を与え、しかも確実に勝てる。

あっという間にノーアウト満塁になってしまい、迎えるバッターは、怪物・進藤だった。

 

「踏みつぶしてやる・・・杉野!!」

 

理事長に何か言われたのか、目つきが尋常じゃないほど怖いものになっていた。

もとは野球部で競い合った二人。しかし方やE組に落ちて野球部を追放された杉野。やはりここでも待つ運命は負け・・・

 

(と、普通なら思うだろうなぁ)

 

ここで殺監督が俺の足元に出てくる。踏みつぶしてほしいのかな、このタコは。

まあ冗談はさておき、殺監督から指令が入る。

 

「了解」

 

相変わらず無茶をさせるなぁ。この監督は。

俺は指示通り、前に出る。

 

「こ・・・この前進守備は?」

 

俺は進藤のバットの間合いギリギリまで近づいた。

 

「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってますけど、さっきそっちがやった時、審判は何も言わなかった。文句はないですよね?」

 

あの理事長のことだから即座に理解しただろう。さっきのカルマのは文句を言わせないために布石だったということに。

明確に打撃妨害と見なされるのは、守備側がバットに触れた時のみ。前進守備が集中を乱す妨害行為と見なすかは・・・審判の判断次第だ。

さっきのクレームを却下した以上、今回も黙認するしかない。観客たちも同様だ。

 

「ご自由に。選ばれた者は守備位置くらいで心を乱さない」

 

俺はそれを聞いた瞬間、笑みがこぼれてしまう。

 

「言いましたね、理事長先生。では、遠慮なく」

 

そう言って俺は、進藤の目の前・・・つまりバットを振れば確実に当たる位置まで前進した。

前進どころかゼロ距離守備。振れば確実にバットが当たる。

 

「・・・・・・は?」

 

さすがの進藤も困り顔のようだ。

 

「気にせずに打っていいぞスーパースター。杉野のボールは邪魔しない」

 

「フフフ、くだらないハッタリだ」

 

俺の行動が面白かったのか、理事長は鋭い目で笑ってきた。

 

「構わず振りなさい進藤君。骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組の方だ」

 

その理事長の言葉を聞いた進藤は、危険がある俺よりも明らかに動揺してる。当たり前だ。自分の商売道具で人に大けがを負わせてしまうかもしれないからだ。

だが後には引けないこの状況、おそらく最初は大きく振って俺をどかせようとしてくるだろう。

 

 

ボッ

 

 

杉野の1球目、予想通り明らかに大きく乱れたスイングをしてきた。

そのバットを俺は、ほとんど動かずに躱す。

イトナが転校してきた日、俺が皆に打ち明けた力。そしてマッハ20のターゲットへの暗殺で鍛えられた動体視力。バットを躱すだけならバントよりも簡単だ。

 

「・・・進藤。それじゃだめだぞ。もっと、殺す気で振らないと」

 

この時点で進藤は理事長の戦略に体がついていけなくなった様子だ。ランナーも観客も、野球の形をした異常な光景に吞まれていた。

そして杉野の2球目。

 

「う、うわああぁ」

 

恐怖により腰が引けた進藤のスイングは、俺でも取れるほどの凡打となり、それをすかさずキャッチしてホームベースへ。

 

「渚!」

 

「!」

 

まずは1アウト。

 

「渚!そのボールを三塁へ!」

 

「う、うん!」

 

俺の指示通り渚は三塁へボールを投げセカンドランナーもアウト。

これで2アウト。

 

「木村!次は一塁だ!バッター走ってないから焦らなくてもいいぞ!」

 

「りょーかいっと」

 

木村が投げたボールはポーンポーンとツーバウンドし、無事一塁へ届いた。

進藤は腰が抜けて走っていなかったので、その送球で十分だった。

 

「ス、スリーアウト・・・ゲームセット・・・」

 

予想できなかったであろう展開に、審判も戸惑っている。

観客も呆然としている。

ただ、それとは裏腹に

 

「「「よっしゃああああ」」」

 

「キャー!」「男子すげぇ!」「やったやった!」

 

E組サイドは大はしゃぎ、大喜びであった。

見せ物とするはずだったのにこの幕切れで、観客も散り散りと帰ってしまう。

 

(・・・まあ、それも当然か・・・)

 

見てた人達は知る由もないだろうな。試合の裏の、2人の先生の戦略のぶつかり合いを。

中間テストと合わせて1対1だな。次は期末試験かな。

 

「進藤」

 

俺は座り込んで俯いている進藤に向かって話しかける。

 

「・・・?」

 

「すまなかったな。ハチャメチャな試合をやっちまって。お前は予想以上の怪物だったよ」

 

「なんで・・・ここまでして勝ちに来た・・・?」

 

「んー。例えば・・・お前がよく知る杉野。あいつの変化球凄かったろ?お前には無理だったけど他のやつらから三振とって」

 

「・・・!」

 

「それに、その変化球を捕れるように、キャッチャーの渚だったり、他のE組のバントの成長具合だったり」

 

「確かに・・・完璧なバントだった・・・」

 

俺はスーパースターからその言葉が聞けてついつい頬を緩ませてしまう。

 

「だろだろっ! ・・・そのE組の凄さを、結果を出してうまく伝えようと思ってな。もちろん杉野は野球でお前に勝っただなんて思ってないだろうし、お前が1番凄いやつってことはみんな知ってる」

 

「・・・」

 

「けど、いくら自分が努力して強くなったからと言って、弱者を悪く言うなんて間違ってる」

 

「そうだな・・・現にその貶めてた奴らに負けたんだ。今の俺には何かを言う資格はない」

 

「そういう意味じゃない」

 

「・・・?」

 

じゃあどういう意味だ、と言わんばかりの進藤の表情。

 

「今回は正式なルールが適用されなかっただけだ。お前は負けてないよ。これを糧にして、頑張ってほしいだけだ、純粋にな」

 

そう言って進藤に手を差し出す。

 

「応援してるぜスーパースター。いつか『俺にはプロ野球選手の知り合いがいる』って自慢させてくれ」

 

「・・・!」

 

そう言って、進藤を引っ張って立たせてやるのであった。

 

 

 

 

「杉野――!覚えとけよ!次やるときは高校だ!!」

 

「―――?お、おう!!」

 

進藤はもう、杉野を見下してなんていない。まっすぐとした純粋な目だった。

 

(いけね・・・杉野の高校野球のライバル、増やしちまったか・・?)

 

そう不安になるが、きっと杉野はそのことを喜ぶだろう。

 

「あ」

 

俺ははっと思い出す。

そして苦虫を噛み潰したように苦笑する。

 

 

 

 

―――まず来年、地球があるかどうかだなーーー

 

 

 

 

そんな出来事。

彼らの高校野球のためと、殺監督・・・いや、殺せんせーを殺す動機がまた一つと増えたのであった。

 




「レディを守るために潰れるのならッ!この脚も本望だ!! ・・・・エクスッ!カリバー―――!!!」

「「「烏間先生!?」」」


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第29話 訓練の時間

か~なし~みの~

「酷いよ・・・自分だけ・・・桂さんと幸せになろうなんて!!」

ぐさっ

「「「速水!?」」」


本編どうぞ


球技大会が終わり7月に入ったある日のこと。

 

「視線を切らすな!!」

 

ヒュ ザザッ グッ

体育の授業。俺たち3年E組の授業内容は・・・暗殺訓練だ!

 

「次にターゲットがどう動くか予測しろ!!全員が予測すればそれだけ奴の逃げ道をふさぐことになる!!」

 

今は烏間先生による接近戦の訓練を行っている。

 

(それにしても・・・みんな凄まじい成長ぶりだ)

 

暗殺訓練4か月目に入るにあたり、『可能性』がありそうな生徒が増えてきた。

 

 

磯貝悠馬と前原陽斗。

この2人は運動神経が良く、仲がいいためコンビネーションも抜群だ。

2人がかりなら・・・烏間先生にナイフを当てられるケースが増えてきた。

 

「よし!2人それぞれ加点1点!次ッ!」

 

どうやら2人はナイフを当てたらしく、点数が上がったらしい。烏間先生に1発当てるにつき、1ポイント加点という仕組みだ。

 

 

赤羽業。

一見のらりくらりとしているが、その眼には強い悪戯心が宿っている。

どこかで烏間先生に決定的な一撃を与え、赤っ恥をかかそうなんて考えていそうだ。

ま、烏間先生相手にそう簡単にはいかないけどな。

 

「チッ」

 

今ちょうど攻撃が躱されたらしく、舌打ちをしている。

 

女子は体操部出身で意表を突いた動きができる岡野ひなた、男子並みのリーチと運動量を持つ片岡メグ。この二人がアタッカーとして非常に優秀だ。

 

そして、男女合わせた中で体育の成績トップ・・・

 

「はっ!」

 

今ナイフを振っている生徒、速水凛香。

鋭い目つきで烏間先生を追い、何発もナイフを当てている。

 

「くっ・・・銃といいナイフといい、恐ろしい成長ぶりだ、速水さん」

 

「いえ、烏間先生と・・・遠山の教えがいいので・・・ふっ!」

 

褒められても決してポーカーフェイスを崩さず、果敢に攻めている。

凛香は放課後、俺とほぼ毎日自主練習をしている。

たまたま射撃とナイフの腕前を見られてしまい、教える羽目になってしまった。

やる気◎、センス◎、身体能力◎なのはいいが

 

(顔まで◎じゃなくていいのに・・・)

 

そう思ってしまうほどの美人なのだ。美人が苦手な俺は、正直照れてしまって教えづらいところだ。

俺がそう思っている間も、また一発と当てる。さすがの身のこなしだ。

 

「速水さん凄いね」

 

「うん、最初は私の方が成績上だったのに・・・」

 

さきほど訓練が終わった片岡さんと岡野さんの会話が聞こえる。

 

「きっと、あの王子様の教えがいいんだろうね~」

 

む?

 

「私たちにも、教えてくれないかな~」

 

そう言うと、二人で顔を見合わせながら同時にこちらを振り向いてきた。

 

「「ね、王子様」」

 

こいつら、わざとか。

可愛らしく言いやがって・・・。

さっき凛香のことを顔◎と表現したが、この2人も負けず劣らず可愛いのだ。

本当このクラス、顔面偏差値高すぎませんかね、男女ともに。

 

「ねえ遠山君、真面目な話私にもナイフ教えてもらえないかな」

 

クラス委員の片岡さんがさっきの表情とは一変、今度は真剣な顔で頼んできた。

 

「あ、私もお願いしたいな。凛香に追い越されて、悔しいし。そして何より・・・元武偵さんだしね」

 

「・・・」

 

『椚ヶ丘中学校に編入してくる前までは武偵附属中学校にいた』この前俺がクラスのみんなに明かした内容だ。

そのせいかおかげか他の人に色々と聞かれ・・・結果、教える側に回ることが増えた。

教えるのは大変だが、その分友達が増えたので俺としちゃ万々歳だ。

 

「俺なんかで良かったら」

 

「充分充分!早速今日からよろしくしたいんだけど、いいかな・・・?」

 

「ああ、分かった」

 

そう言うとキャッキャと喜ぶ2人。可愛いからそういう仕草やめて欲しいんだが。

キラッ

 

「!」

 

また恒例の鋭い視線がいくつか。

もう怖いので誰が向いてるとか考えないことにした。

気を取り直して訓練の方に集中すると、今度は寺坂がやっていた。

だが、やる気がない態度でナイフを投げるなりどこかに行ってしまった。

 

「なんとか、あいつらもやる気を出してくれないかなぁ」

 

「じゃあ遠山君が教えたらいいんじゃないかな?」

 

「ん?」

 

声の方向を見ると、神崎さんがすぐ横に立っていた。

凄い眩しい笑顔で。

 

「いやいや、俺なんかに教わりたくもないだろうし・・・」

 

「遠山君が教えてあげればいいんじゃないかな?」

 

「いや、だから・・・」

 

「遠山君が教えてあげればいいんじゃないかな?」

 

俺はここで悟ってしまった。

 

(・・・目の奥がッ・・・笑っていないッ・・・)

 

全然眩しくなんてなかった。

てか怖い、怖いよ神崎さん。

なんか怒ってないか・・・?なんで・・・?

 

「(女子ばっかりじゃなくて、男子にも)遠山君が教えてあげればいいんじゃないかな?」

 

なんか心の声も一緒に聞こえた気がする・・・。

 

「すみません・・・もちろん頼まれたらそうさせていただく所存です・・・」

 

俺は知ってる限り丁寧な言葉遣いを選び、そう言うのであった。

 

(ま・・・それはともかく・・・)

 

寺坂竜馬、吉田大成、村松拓哉の3人・・・いわゆる寺坂組は、未だに訓練に対して積極性を欠く。3人とも体格はいいだけに、本気を出せば大きな戦力になるのだが。

全体を見れば、生徒たちの暗殺能力は格段に向上している。この他には目立った生徒はいないものの

 

「!」

 

バシッ

 

「渚!」

 

烏間先生が予想以上に強く防ぎ、渚がふっ飛んでしまった。

 

「うっ!」

 

良かった。セーフだ。

俺は何とかすぐ反応し、スライディングをするように渚のクッションになった。

なんとか頭を打たずに済んだようだ。

 

「すまん!強く防ぎ過ぎた・・・立てるか?」

 

烏間先生もハッとした様子で駆け寄ってくる。

 

「あ・・・へ、平気です!遠山君がクッションになってくれたので・・・」

 

渚も状況を理解したようで、無事なことを伝える。

 

「遠山君も、助かった。さすがの動きだ」

 

「いえ・・・無事で何よりです」

 

 

 

 

潮田渚。

小柄ゆえに多少はすばしっこいが、それ以外に特筆すべき身体能力は無い温和な生徒。

だがこいつには、恐ろしい才能がある。

烏間先生も何かを感じ取ったのか渚のことを凝視している。

俺もいまだに・・・鳥肌がおさまらない。

今感じた得体のしれない気配に。

 

 

 

 

 

「それまで!今日の体育は終了とする!」

 

「「「ありがとうございました」」」

 

「烏間先生~!放課後にみんなと一緒に遊び行きません~?」

 

挨拶が終わった後、チャラ男イケメンの前原がそんなことを言う。

 

「ああ。誘いは嬉しいが、この後防衛省からの連絡待ちでな」

 

烏間先生はそう言い残し、校舎に戻ってしまった。

 

「・・・訓練中もそうだけど、私生活でも隙がねーな、あの先生は」

 

「というより、俺たち生徒との間に壁のような、一定の距離を保っているんだと思う」

 

俺は誘いを断られてしょんぼりしている前原に対して、そう言う。

 

「でもさ、厳しくて優しくて、俺たちのこと大切にしてくれてるけど、それってやっぱり、ただ任務だからにすぎねーのかな」

 

「そんな事ないって。確かにあの先生は、殺せんせーの暗殺のために送り込まれた工作員だけど・・・まっすぐとした目で俺たちを鍛えてくれる、人情に厚い良い先生だと思う」

 

「へへっ、違いねーや」

 

前原も同意したようで、はにかんで見せた。くっ、チャラ男イケメンめ。かっこいいな。

ひとしきりだべった後、俺たちも教室に戻ろうと歩いていると、大きな段ボールを抱えて手には沢山の小袋をもった体格のいい男の人がグラウンドに向かってきた。

 

「よっ!!」

 

身長は2メートル近くあるだろうか。オールバックにツーブロックの髪型が特徴的な男だった。

 

「俺の名前は鷹岡明!!今日から烏間を補佐してここで働く!よろしくなE組のみんな!」

 

そう言いながら持ってきた段ボールを開ける鷹岡という男。

 

「「「!!!」」」

 

中には大量のケーキが入っていた。

 

「・・・!これ、『ラ・ヘルメス』のエクレアじゃん!こっちは『モンチチ』のロールケーキ!」

 

ケーキを見るなり子供のように大はしゃぎしているのはスイーツ系女子、茅野さんだ。

良くわからんが、見るからに高そうだということだけは分かる。

 

「いいんですかこんな高いもの?」

 

磯貝が聞くと鷹岡という男は笑顔で頷いた。

 

「おう!食え食え!俺の財布を食うつもりで遠慮なくな!モノで釣ってるなんて思わないでくれよ。お前らとは仲良くなりたいんだ。それには・・・みんなで囲んでメシ食うのが1番だろ!」

 

その言葉にE組の生徒たちは次々とお菓子を開封していった。

数分が立つ頃にはみんなと自然に談笑し、E組に溶け込んでいた。

 

「同じ教室にいるからには・・・俺たち家族みたいなもんだろ?」

 

そう言って生徒と肩を組む始末だった。

まだ、極めて危険な異常者であるということを知らずに。

 




読んでいただきありがとうございます。
つい先日、合計文字が100000字を突破し、通算UAは10000を超え、お気に入りも100を超えました。
感想なども含め、本当にありがとうございます。


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第30話 親愛の時間

「白皇学院生徒会長、桂ヒナギク!」


「サンデー読みながら何言ってんすかビッチ先生」



すみません、本編どうぞ


「明日から体育の授業は鷹岡先生が?」

 

「ああ!!烏間の負担を減らすための分業さ。あいつには事務作業に専念してもらう」

 

そう言って教務室の方に親指を立てる鷹岡先生。

 

「大丈夫!さっきも言ったが俺たちは家族だ!!父親の俺を全部信じて任せてくれ!」

 

ドンと強く胸をたたく鷹岡先生だった。

 

 

 

鷹岡明。

烏間先生が空挺部隊にいた頃の同期。教官としては、烏間先生よりはるかに優れているらしい。

 

「どう思う?キンジ」

 

そう聞いてきたのは根本さんだった。

なにか事が進むたびに根本さんから『どう思う?』って聞かれる気がする。

 

「あー。こういうのもなんだが・・・俺は烏間先生の方がいいな」

 

「お、なんでだ?」

 

「・・・なんとなくだな」

 

「なんとなくねぇ」

 

確かに烏間先生はいつも厳しい顔してるし、ご飯とか軽い遊びも誘えばたまに付き合ってくれる程度だ。

その点鷹岡先生は根っからのフレンドリー。こちらの方が良いという人もいるかもしれない。

 

 

 

 

放課後、俺は凛香とともに差し足で教務室の前で盗み聞きをしていた。

ちなみに差し足は俺が教えた。最初は上手くできていなかったが、今はもう完璧に近いほどできている。

 

「さっきお前の訓練風景を見ていたがな烏間」

 

お、この声は鷹岡先生の声だ。しかも会話の流れからさっそく俺たちへの評価が聞けそうだぜ。

 

「3ヶ月であれじゃ遅すぎる。軍隊なら1ヶ月であのレベルになってるぞ」

 

あらら。どうやら低評価らしい。隣にいる凛香もムッとしちゃったよ。

しかしさっそくだが鷹岡先生は凛香のこともちゃんと見ていたのだろうか。そこは素直に気になるところである。

 

「職業軍人と一緒にするな。あくまで彼らの本職は中学生だ。あれ以上は学業に支障が出る」

 

ああ、なんていいことを言うんだ烏間先生は。

 

「かぁ~っ。地球の未来がかかってるのに呑気だな!いいか烏間。必要なのは熱意なんだ。教官自ら体当たりで教え子に熱く接する!多少過酷な訓練でも、その熱意に生徒は答えてくれるもんさ」

 

「・・・」

 

なんだろう。聞いてて無性にイライラしてくるな。

 

「首洗って待っとけよ殺せんせー。烏間より全然早く・・・生徒たちを一流の殺し屋に仕上げるぜ」

 

そう言うと鷹岡先生はわざわざ玄関に戻るのが面倒なのか、窓から出て行ってしまった。

 

「ヌルフフフフ。考えの甘い先生ですねぇ」

 

鷹岡先生からもらったお菓子で餌付けされてる殺せんせーが言えないと思うが・・・。

 

「体育に関してはあなた方が譲らないので任せています。ですから担当の交代にとやかくは言えませんね。では、私もこれで失礼します。にゅやッ!」

 

殺せんせーも鷹岡先生同様、窓から出て行ってしまった。下に降りた鷹岡先生と違って上に飛んで行ったが。

そのタイミングを見計り、俺は教務室に入っていく。

 

「烏間先生・・・」

 

「む。どうした遠山君」

 

「すこし聞いて欲しいことが」

 

「なんだ?」

 

「俺らが修学旅行に行った時の2日目の夜、烏間先生は俺らの旅行に負担をかけないよう、配慮してくれました」

 

「・・・?」

 

「先ほども俺たちの本職は中学生だ、学業に支障をきたさないようにとおっしゃってくれました」

 

「・・・聞いていたのか」

 

「はい。大人の事情とか、担当の交代とか、俺みたいな子供が何言ってんだって思われるかもしれないですけど・・・E組の体育教師は烏間先生、あなたしかいないと思います」

 

「・・・」

 

地球存亡の危機や賞金獲得が懸かってる中、鷹岡先生のよう『熱意』などと言う人が出るのは当たり前の話だ。

そんな中で俺たちのことを最優先に考え、気遣い、限られた時間の中で教えてくれる。こんな先生、この人以外でいないと思うんだが。

 

「そうよ烏間。アンタはこれでいいの・・・?」

 

どうやらイリーナ先生も鷹岡先生のことを好きになれないようだ。

 

「とりあえず、以上で失礼します」

 

少しでもこの言葉が響いて欲しいと思い、教務室から出る。

餓鬼のたわごとかもしれない。そんな、生徒の一意見を残して。

 

 

 

 

次の日

 

「よーしみんな!集まったな!今日から新しい体育を始めようか」

 

ついに始まった鷹岡先生の授業。

 

「ちょっと厳しくなると思うが・・・終わったらうまいもん食わしてやるからな!」

 

「そんなこと言って自分が食いたいだけじゃねーの?」

 

「まーな。おかげでこの横幅だ」

 

ギャハハハ。

生徒にツッコまれ、爆笑の渦ができる。

 

「あと気合入れの掛け声も決めようぜ!俺が『1・2・3』と言ったら、お前らみんなでピースを作って『ビクトリー!』だ」

 

「うわ、パクリだし、古いです」

 

「やかましい!パクリじゃなくてオマージュだ!」」

 

またまたグラウンドに笑い声が響き渡る。

見事にE組の心を掴んでいる。軍隊とちゃんと区別もできているようだ。

 

「さて!訓練内容の一新に伴ってE組の時間割も変更になった。これを皆に回してくれ」

 

紙が全員にわたると同時に周りがざわざわと騒ぎ出す。

 

「嘘…でしょ?」「10時間目・・・」「夜9時まで・・・訓練?」「休日も・・・?」

 

(やっぱりこうなったか・・・)

 

その配られた紙に書かれた『新時間割』とは普通の中学生では到底考えられない内容だった。

まず、平日は毎日10時間目まである。終わる時間が夜の9時だ。そして土曜日も授業がある。授業内容もひどいものだ。どの日も3時間目まで普通の授業があるのだが、午後からは夜の9時まで訓練だ。これでは体が壊れてしまう。

 

「このぐらいは当然さ。理事長にも話して承諾してもらった。『地球の危機ならしょうがない』って言ってたぜ。このカリキュラムについてこれればお前らの能力は飛躍的に上がる!では早速・・・」

 

「ちょっ・・・待ってくれよ!無理だぜこんなの!!」

 

「ん?」

 

時間割を指さし、前原が文句を言った。

 

「勉強の時間これだけじゃ成績落ちるよ!理事長もわかってて承諾してんだ!」

 

その言葉に他のE組の生徒もうんうんと頷く。

 

「遊ぶ時間もねーし!できるわけねーよこんなの!!」

 

その瞬間―――

 

ズドッ!!

 

「かはっ!」

 

信じられないことが起きた。文句を言っていた前原の元まで近づき、腹部に向かって膝蹴りをしたのだ。軍隊にいた人間が、中学生に対して。

 

「『できない』じゃない。『やる』んだよ」

 

そう言って前原を投げ捨てた鷹岡先生の目は

 

(・・・狂っている・・・)

 

そうとしか思えないような目だった。

 

「言ったろ?俺たちは『家族』で、俺は『父親』だ。世の中に・・・父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」

 

そんな奴どこにでもいると思うが・・・というツッコみはさておき、やりやがったな。

鷹岡先生・・・いや、鷹岡は烏間先生に対して強い対抗心があるようだった。おそらく完璧な烏間先生に同期として劣ってきたのだろう。

中学生相手に無茶はしないと踏んでいたが、甘かった。

 

「さあ、まずはスクワット300回だ!」

 

パンパンと手を鳴らし、笑顔で指示を出す。

E組の生徒の大半は、今の光景を見て逃げ出そうとしている。

 

「抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。俺が手塩にかけた屈強な兵士は何人もいる。1人や2人入れ替わってもタコは逃げ出すまい」

 

「「「・・・!」」」

 

「けどな・・・俺はそういうことはしたくないんだ。父親としてひとりでも欠けてほしくない!家族みんなで地球の危機を救おうぜ!なっ!」

 

教え子を手なずけるために与えられる『親愛』と『恐怖』。

 

(・・・なるほどな)

 

延々と『恐怖』に叩かれた兵士たちは、一粒の『親愛』をもらうだけで泣いて喜ぶようになる・・・ってことか。

手始めに、逆らえば叩き、従えば褒める。

鷹岡は生徒たちの間をゆっくりと歩き始めた。

そして神崎さんの後ろで止まる。頭を掴まれた神崎さんは恐怖で震えていた。

 

「な?お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」

 

「あ・・・あの・・・わたし・・・」

 

恐怖により顔色が真っ青になる神崎さん。声も震えているようだった。

 

「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」

 

震えながらもいつも通り笑顔で、そう言い切った。

 

(・・・よく言った!神崎さん)

 

直後、鷹岡が右手を引き、ビンタのモーションに入る。

そして

 

ガシッ

 

「「「!」」」

 

俺は鷹岡の後ろに立ち、腕をつかむ。

 

「遠山君・・・!」

 

「おい、どういうつもりだ」

 

鷹岡が腕を押さえてる俺に対して聞いてきた。

どういうつもり・・・?笑わせるな。

 

「父ちゃんに逆らうなって言ってるのが分からないのか?」

 

「父ちゃん?DVオヤジの間違いでしょ?」

 

つかんでいる指に力を入れ、鷹岡を睨む。

その俺に対して、鷹岡はニヤリと笑った。

 

「・・・お前らまだわかっていないようだな。父ちゃんの言うことには『はい』以外ないんだよ」

 

俺の手を強引にほどき、向き直る。

 

「文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃんは得意だぞ!!」

 

ははははは、と悪魔のような笑い声を上げてーーー

 




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第31話 指名の時間

「堀北・・・ちょっと黙れよ」

「磯貝!?そのセリフまだアニメで言ってないよ!?」


 

 

「やめろ鷹岡!!」

 

俺たちの様子を見ていたのか、烏間先生が走ってグラウンド内に入ってくる。

 

「大丈夫か前原君!怪我は!?」

 

「へ・・・へーきっス」

 

腹部を押さえている前原君に向かって烏間先生が確認をとる。

 

「ちゃんと手加減してるさ烏間。大事な俺の家族だ。当然だろ」

 

「いいや・・・」

 

鷹岡の肩を触手が抑える。

その後ろにはブワァ、と真っ黒にって激怒している殺せんせーがいた。

 

「あなたの家族じゃない。私の生徒です」

 

「「「殺せんせー!」」」

 

この状況で殺せんせーが来たことにより、全員が安堵の声を漏らす。

だが、鷹岡は殺せんせーを前にしても余裕の表情だ。

 

「フン。文句があるのかモンスター?体育は教科担任の俺に一任されているはずだ。そして、今の罰も立派に教育の範囲内だ」

 

政府との約束を盾に、鷹岡はそんな詭弁を垂れる。

先生がルールを破ってしまっては信頼が落ちる。この前イトナに嵌められた時と同じだ。

 

「短時間でお前を殺す暗殺者を育てるんだぜ。厳しくなるのは常識だろう?それとも何か?多少教育論が違うだけで・・・お前に危害を加えてない人間を攻撃するのか?」

 

他人のことを価値観の違いや見解の相違で否定してはいけない。そう言っていた殺せんせーは黙り込んでしまう。

怒りながらも・・・その言葉を聞き入れるしかなかったのだった。

 

 

 

 

「12!13!14!15!おいお前ら!妥協するなよ!!!」

 

殺せんせーと烏間先生が言いくるめられてしまい、鷹岡による授業が始まった。

お菓子をくれていた時とは打って変わり、鬼のような顔つきだった。

 

(・・・これでは生徒が潰れてしまう・・・)

 

殺せんせーが超生物としてコイツを消すのは簡単だが、それでは俺たちに筋が通らない。

誰もが間違っていると思っていても、鷹岡には鷹岡なりの教育論がある。

この問題を解決する方法は・・・烏間先生に同じ体育の教師として鷹岡を否定してもらうことだ。

 

「そもそもこんな時間割!放課後に生徒と遊べなくなるじゃないですか!!」「そーよそーよ!私の買い物で荷物持ってくれる男子がいなくなるわ!!」

 

ギャーギャーと、グラウンドの端こちらを見ている殺せんせーとイリーナ先生の声がする。

・・・・・・間違いだらけだな、ここの教師は。

 

「じょっ・・・冗談じゃねぇ・・・」「初回からスクワット300回とか・・・死んじまうよ」

 

もうかなり息を上げながら菅谷と岡島がぼやく。

当然の話だ。もうスクワットの数は50を超えている。普通の中学生であればに厳しいに決まっている。

 

「烏間先生~」

 

倉橋さんが涙目でそう言ったとき、鷹岡が睨みながら詰め寄った。

 

「・・・!」

 

鷹岡が目の前に立ち、怯えた表情になる倉橋さん。

 

「おい。烏間は俺達家族の一員じゃないぞ。おしおきだなぁ・・・父ちゃんだけを頼ろうとしない子はっ」

 

鷹岡はそう言うと、右手で握りこぶしを作った。

俺が止めようとしたが・・・俺よりも適任な人が動き出していたので任せることにする。

 

ガシッ

 

「それ以上・・・生徒たちに手荒くするな。暴れたいなら、俺が相手を務めてやる」

 

「烏間先生・・・!」

 

恐怖で怯えてた倉橋さんの表情が一変する。

やっぱり頼りになるな、この先生は。

烏間先生に手を掴まれた鷹岡は一瞬焦った様子を見せたが、また余裕の表情に戻る。何か手段がある・・・そんな顔だ。

 

「言ったろ烏間?これは暴力じゃない、教育なんだ。暴力でお前とやり合う気はない。やるならあくまで教師としてだ」

 

そして俺たちの方に振り向く。

 

「お前らもまだ俺を認めていないだろう。父ちゃんもこのままじゃ不本意だ・・・そこでこうしよう!こいつで決めるんだ!」

 

「・・・ナイフ?」

 

こちらに振り向いた鷹岡は対先生用のナイフを持ちながらそんなことを言ってきた。

 

「烏間。お前が育てたこいつらの中でイチオシの生徒を一人選べ。そいつが俺と戦い一度でもナイフを当てられたら・・・お前の教育は俺より優れていたのだと認めよう。その時はお前の訓練に全部任せて出て行ってやる!男に二言はない!」

 

その言葉を聞いて嬉しそうにするE組。

だが次の言葉を聞いた瞬間、その表情が一瞬で消えた。

 

「ただしもちろん、俺が勝てばその後一切口出しはさせないし・・・使うナイフはこれじゃない」

 

対先生用ナイフを地面に落とし、出してきたのは本物のナイフだった。

 

「「「ほ・・・本物!?」」」

 

「殺す相手が俺なんだ。使う刃物も本物じゃなくちゃなァ」

 

こいつ、間違いなく狂っている。俺たちはただの中学生だぞ。

俺がそう言う前に烏間先生が先に口を開く。

 

「よせ!彼らは人間を殺す訓練も用意もしていない!本物を持っても体がすくんで刺せやしないぞ!!」

 

「安心しな。寸止めでも当たったことにしてやるよ。俺は素手だし、これ以上ないハンデだろ」

 

(なるほど、いかにも鷹岡が使いそうな手だ)

 

おそらく軍隊で教えていた時もこのやり方で、始めてナイフをもってビビりあがる新兵を素手の鷹岡が叩きのめしてきたのだろう。

『ナイフでも素手の教官にかなわない』

その場の全員が格の違いを思い知り、鷹岡に心服するようになるはずだ。

 

「さぁ烏間!ひとり選べよ!嫌なら無条件で俺に服従だ!生徒を見捨てるか生贄として差し出すか!どっちみちひどい教師だなお前は!」

 

「「「・・・!」」」

 

ほらよ、とナイフを渡された烏間先生が俺達を見まわす。

どうやら迷っているようだ。

仮にも鷹岡は精鋭部隊に属していた男だ。

訓練3ヶ月の中学生の刃が届くはずがない。

その中のわずかに『可能性』がある生徒を、危険にさらしていいものかと。

烏間先生の視線に大半が目をそらしている中、俺のほかに2人ほど目をそらさなかった人物がいた。烏間先生がその人物のもとへ歩み寄る。

 

「・・・速水さん、殺る気はあるか?」

 

「「「!!!」」」

 

妥当だった。凛香は射撃、ナイフともにダントツの成績だ。

 

「返事の前に俺の考えを聞いて欲しい。地球を救う暗殺任務を依頼した側として・・・俺は君たちをプロ同士だと思っている。プロとして君たちに払うべき最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保障することだと思っている。だからこのナイフは、無理に受け取る必要はない。その時は俺が鷹岡に頼んで、『報酬』を維持してもらうよう努力する」

 

「・・・?」

 

ナイフを差し出された凛香はその刃の先を見るなり、ブルブルと震えだした。

もしかしたら自分が頼まれるかもしれない。話を聞きながらそう思っていただろう。

ナイフを差し出されるまでは殺る気だったと思う。

だが、いざナイフを目の前にして全身に走る緊張感。吹き出す汗。真っ白になる頭。

その様子を見かねた烏間先生が、静かにうなずく。

 

「当たり前だ。本物のナイフを見て・・・そうならない方がどうかしている」

 

烏間先生はそう言うと、俺の方を見る。

 

「できるか、遠山君」

 

「・・・」

 

誰よりも真っすぐ見てくれる目。俺はこの目が好きだ。こんなに真っすぐ目を見てくれる人はそうそういない。

立場上、俺らに隠し事もたくさんあるだろう。けど、この先生が渡すナイフなら信頼できる。

前原に暴力をふるったこと。神崎さんと倉橋さんにも危害を加えようとしたこと。俺は目を閉じて先ほどの光景を思い出す。せめて一発返さないと気が済まない。

 

「やります」

 

ナイフを受け取り、鷹岡のもとへ向かう。

昔から俺はこうだった。武偵中の時も、友達の身に何かある度に突っかかって。何度も怪我をしたし、何度も死にかけた。だが、それでも憧れのあの人のようになりたい。

 

(・・・昔、俺を助けてくれたあの女性のように・・・)

 

ある日爺ちゃんに、いきなり武偵をやめるように言われて必死に勉強してこの中学校に来たけど、まさかこんなことになるとはな。

全員が見守る中、鷹岡の前に立つ。

 

「おやおや・・・さっきの生意気なやつか。お前にはどっちみち説教をする予定だったんだ、ちょうどいい」

 

鷹岡は俺を見るなりそう言うのであった。

 



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第32話 才能の時間

「折木さん!私、気になります!!」

「神崎さん・・・」


「遠山君。鷹岡は素手対ナイフの闘い方も熟知している。全力で振らないとかすりもしないぞ」

 

ナイフを渡されたとき、烏間先生から言われたアドバイスを思い出す。

この目の前の男を倒すための。

本物のナイフを人間に向けた時、素人はそこで初めてその意味に気づき、委縮して普段の力の一割も出せなくなる。

普通なら、鷹岡が目を瞑っても勝てる勝負だろう。

 

(ナイフを当てるか・・・寸止めすれば勝ち・・・)

 

それが鷹岡の決めたルールだ。

だがこの勝負、俺と奴の最大の違いはナイフの有無じゃない。

いずれにせよ、勝負は一瞬で決まる。

 

「さぁ来い!!」

 

鷹岡が笑いながら手招きをする。完全に勝利を確信したような、そんな顔だ。

すべての攻撃をかわしてからいたぶり尽くすつもりだろう。生徒全員が恐怖し、鷹岡に従うようにするために。

俺が鷹岡にナイフを向ける。

全体に緊張が走り、静まり返る。

俺は目を閉じ、先ほどクラスメイトがされた仕打ちを思い出す。

 

(・・・良かった・・・ちゃんとあの状態に入ってる・・・)

 

戦って勝たなくたっていい。

―――殺せば勝ちなんだーーー

 

俺は出来るだけ殺気を漏らさずに近づいた。俺のことをなめている鷹岡は相変わらず余裕の表情だ。これが渚だったらそのまま勝てそうな気がするが、俺にはその才能はない。

 

(その代わり・・・)

 

俺はゆっくりと鷹岡の顔面に向かってナイフを投げる。

 

「!」

 

とっさによける鷹岡。

良かった。これくらいは流石に避けてくれて。

一度ナイフに気を取られた鷹岡の目の前に、もう俺の姿はない。

 

「!?」

 

その刹那、俺は後ろに回り込み自分で投げたナイフをキャッチする。

そして鷹岡だけに聞こえるよう耳元で冷たく囁いてやった。

 

「動くと殺す」

 

普通の学校では、絶対に発掘されることのない才能。

それは渚のような殺気を隠して近づく才能でもなければ、殺気で相手を怯ませる才能でもない。

暴力の才能でも、暗殺の才能でもない。

戦闘の才能。

 

 

「そこまで!!」

 

 

聞きなじみのある声が響き渡った。

 

「勝負ありですよね、烏間先生」

 

そう言って俺からナイフを取り上げたのは殺せんせーだ。

 

「全く、本物のナイフを生徒に持たすなど正気の沙汰ではありません。怪我でもしたらどうするんですか」

 

フン。怪我しそうならマッハで助けに入ったくせに。

 

「やったぜ遠山!」「いまのすげー!」「忍者みてーだった!」「ホッとしたよもー!!」

「さすが遠山!」

 

見ていた他のクラスメイトが次々と寄ってくる。

 

「いや・・・烏間先生に言われた通りやっただけで。鷹岡先生強いから、殺す気でいかなきゃ勝つことできないって思って」

 

「サンキューな遠山!今の暗殺スカッとしたわ!」

 

チャラ男のイケメン、前原がそう言った。

思えば前原に暴力をふるったあいつを許せなくて力を出せたようなもんだからな。

 

「「「!!!」」」

 

俺らが楽しそうに話していると、俺の後ろか荒い鼻息が聞こえてくる。

諦め悪いなぁ。

 

「このガキ・・・父親の俺に刃向かって、まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか!」

 

俺は自分の状態を確認し、あの状態が収まっていることが分かる。

 

「確かに・・・次やったら俺が負けると思います。でもはっきりしたのは、俺達の『担任』は殺せんせーで、俺達の『教官』は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押し付けるあんたよりも、プロに徹する烏間先生の方が俺はあったかく感じます。なので・・・出て行ってください」

 

「黙っ・・・て聞いてりゃ、ガキの分際で、大人になんて口の利き方を!」

 

鷹岡が俺に対して猛威を振るったその時―――

 

ゴスッ!

 

烏間先生がすぐ駆け付け、ほんの一ひねりで倒してしまった。

やっぱり化け物だなこの人は。

 

「俺の身内が、迷惑をかけてすまなかった。後のことは心配するな。君たちの教官を務められるよう上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」

 

「「「烏間先生!」」」

 

か、かっこいい。かっこよすぎる。

その後、理事長が来て鷹岡に解雇通知を渡していった。

来たときはE組を消耗させるため続投を望むかと思ったが違うらしい。

 

「暴力でしか恐怖を与えることができないのなら、その教師は三流以下だ。自分より弱い暴力に負けた時点でそれの授業は説得力を失う」

 

と言って、鷹岡を帰らせてしまった。

理事長もたまにいいことするなぁ、と思ったが、これは警告だろう。

鷹岡を切ることで誰が支配者か明確に示すための。

 

「ところでさ烏間先生」

 

金髪ギャルの中村さんがカルマを彷彿とさせる悪戯っぽい笑みで言う。

というかカルマは!?

一応新しい先生が教えに来てくれたんだからサボるなよ。

 

「生徒の努力で体育教師に返り咲けたし、なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」

 

「そーそー。鷹岡先生そーいうのだけは充実してたよな」

 

それに前原も乗っかった。

 

「フン、甘いものなど俺は知らん。財布は出すから食いたいものを街で言え。だがそれも・・・今日の放課後の訓練に参加した生徒だけだ!」

 

それを聞いたE組は無邪気に叫ぶ。

もしかしたらこの先生も殺せんせー同様、熱中しているのかもしれない。迷いながら人を育てる面白さに。

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

「にゅやッ。では、今日の授業はここまでですねぇ」

 

「「「ありがとうございました」」」

 

6時間目が終わり、放課後になった。

 

「あと遠山君。君は職員室へ」

 

「・・・はい」

 

殺せんせーはそう言って教室を出て行ってしまう。

一体なぜ?という野暮なことは聞かない。大方予想はついているからだ。

 

「おいキンジ!呼び出し食らったぞ!」

 

いつものように男口調全開の根本さんが言ってくる。

 

「それにしても、今日の鷹岡先生との対決、凄かったな」

 

「ああ、たまたまうまくいって良かった」

 

「はいはい、たまたまね。その内ナイフで銃弾を切ったりしそうで怖いよ。たまたまとか言いながら」

 

「あ、はは。それは流石に・・・」

 

とか言いつつ、あの状態ならできるかもしれない。今度やってみるか。

 

「遠山君!殺せんせー呼んでたね!」

 

「神崎さん・・・」

 

いつものようなおしとやかな笑顔で前の席の渚がどいたのを確認し、その席に座る。最近なんだか明るくなった気がする。いや、以前から暗かったわけではないが、よく話すようになってからより一層そう感じる。

 

「それよりも今日は本当にありがとね。あたしが鷹岡先生にぶたれそうになるのを防いでくれて」

 

「それは全然いいよ。俺もあいつにムカついたしだけだし、神崎さんがぶたれるところなんて見たくなかったし」

 

「え・・・?今なんて・・・?」

 

ん?何かおかしなこと言ったか、俺。

 

「だから、神崎さんがぶたれるところなんて見たくないって」

 

「な・・・なんで?」

 

逆になんでそんなことを聞いてくるんだ・・・?

 

「なんでって。そんなの可愛い顔がもったいないからに決まってるじゃんか」

 

キラッ ギラギラ スパーン

 

「あがっ」

 

俺は痛みを感じた後頭部を押さえながら悶える。

今なんか一瞬でいろんなことが起こったな。

準を追って理解しよう。

まず神崎さん。俺が聞かれたことに対して答えるとぼぼぼぼぼぼぼと顔を真っ赤にして顔を手で覆う。

次に恒例の鋭い視線。最近は怖いから見ないようにしてるけどすぐ近くにいた凛香と矢田さんから向けられて分かったし、何より隣の根本さんからも感じた。

そして最後に根本さん。持っていた教科書を丸めて俺の後頭部を叩いてきた。この一瞬でなんて早業だ。彼女はきっとすごい暗殺者になるだろう。

 

「も、もう。い、嫌だなぁ遠山君は。とりあえずき、今日は帰るね!ホントありがと!」

 

真っ赤な顔でものすごいテンパっている神崎さん。急にどうしたんだろうか。というか放課後の居残り訓練には出ないのだろうか。

神崎さんはそれだけ言うと急いで立ち上がる。だが、焦って机に引っ掛かってずっこけてしまった。

 

「痛ッ!」

 

火照っている顔を冷やすよう、首筋に手を置いていたため顔から床に落ちて行った。割とマジで心配になるレベルだ。

 

「大丈夫か?」

 

俺はすぐに駆け寄って抱き上げる。

 

「だだだだだ大丈夫。遠山君、ほんとっ。大丈夫だから」

 

抱きかかえられた神崎さんはこれでもかってくらい顔が真っ赤だ。

というか、確かに今のは相当恥ずかしかっただろうな。こけたことによって、クラスメイトからの視線が集まる。

神崎さんの顔を見ると、おでこに腫れたような跡があった。おそらく今ぶつけたところだろう。かなり痛そうだ。

 

「でもここ、痛そうだけど」

 

俺はそう言って神崎さんのおでこに触れる。

 

「ひゃっ」

 

俺に触れられた神崎さんは、目をぎゅっと閉じてブルブル震えだした。

 

「遠山君・・・遠山く・・・ん」

 

「え!」

 

俺の名前を連呼しながら気絶してしまった。脈を一応確認したが良かった、死んではいないようだ。一応頭をぶつけたから頭を動かさないようにしないと。

それにしてもなんて珍しい光景なんだ。あのおしとやかな神崎さんがこんなに取り乱した挙句気絶するなんて。

神崎さんをお姫様抱っこで持ち、俺のカバンを枕代わりにして床で横にさせる。

その時に気づいた。色々な人から向けられた殺気に。なんて殺気だ。こんなにもすごい殺気、一体どこから!!

 

「キ~ン~ジ~!!」

 

まず俺の前に立ったのは根本さんだ。艶のあるツインテ―ルを揺らしてドスドスと近づいてくる。

 

「お前はッ!本当に!いっつもいっつも!女たらしで!スケコマシで!どこへ行っても女ばっかり!」

 

ギャーギャーギャー。

文句を言いながら殴ってきた。言い方が途切れ途切れだったのはその間に一発殴っているからである。

 

「なんで根本さんが怒るんだよ!!」

 

俺は殴られるので逃げ回っていると、不注意である生徒にぶつかってしまう。

 

「ご、ごめ・・・!?」

 

その相手は猛烈に眉をつり上げて怒っている凛香だった。

よく一緒にいるため最近分かるようになってきた。凛香の表情が。

 

「凛香・・・ごめん・・・大丈夫か?」

 

「・・・・・・」

 

無言で睨むのやめて!怖いから!

やばい、マジで怖い。睨んだまま俺の手をガシっとつかんでくる。

そして反対側の手を根本さんにつかまれる。2人ともなんていう馬鹿力だ。この時だけ烏間先生の指導の良さが恨めしいぜ。

 

「速水さん・・・この男どうする?」

 

「どうしよっか」

 

恐るべし、Wりんか。

 

「ヌルフフフ。両手に花ですねぇ、遠山君。いやらしい展開に入る前にひとつ。早く職員室に来てくれませんかねぇ?」

 

「殺せんせー!」

 

ナイスタイミングすぎる!もう一生タコなんて呼びません。尊敬します!

断じていやらしい展開など入らないが、この状況は渡りに船だ。いや、渡りにタコだった。

 

 

 

 

 

 

「わざわざ教室にまで迎えこさせてすみません、殺せんせー」

 

「いえいえ。だいたい事情は分かってましたから。大方今日の勝負のことについて質問攻めされたのでしょう」

 

んー。途中まではそんな感じしたんだけどな。途中から神崎さんが気絶する上にWりんかが暴走したのでそれどころではなくなった。

 

「しかしモテモテですねぇ。先生といい勝負です」

 

「ははっ。先生にはかないませんよ。だいたい俺なんてモテてないですし」

 

そんな会話をしているうちに職員室につき、中に入る。

そこには烏間先生とビッチ先生が座っていた。いつもの光景だ。

 

「遠山君。折り入って君に話がある」

 

そう言ってきたのは烏間先生だった。

 

「何ですか?今日の鷹岡の件ですか?」

 

「それもある。まずはよくやってくれた。先ほども言ったが俺の身内が迷惑をかけて本当にすまなかった」

 

「烏間先生が謝ることじゃないです。悪いのは鷹岡ですし」

 

そう、悪いのは鷹岡だ。烏間先生には何も非がない。むしろ助けてもらったのは俺たちの方だ。

 

「そう言ってもらい感謝する。早速本題だが単刀直入に言う。遠山君、本格的に俺と一緒に教える側に回らないか」

 

「俺が教える側・・・ですか?」

 

「そうだ。君の強さが気になり、調べさせてもらった。君はもともと武偵中にいたと聞く」

 

「はい」

 

烏間先生にはまだ話していなかったのでいつかは話そうと思っていたが、先に調べてしまったらしい。

 

「こいつに各生徒の評価として聞いたのだが、君は暗殺に対して消極的らしいな」

 

こいつ、とは俺の隣にいる殺せんせーのことだ。あらら、どうやら殺せんせーによる俺の暗殺の成績は低いらしい。

 

「武偵法9条。気にしているのか、遠山君」

 

武偵法。武偵が守らなければならない法律だ。まだ中学生なので任務に出るのは本当に成績上位の精鋭たちだけだ。武偵法をちゃんと覚えていた生徒は少なかったと思う。

その中のひとつ。

武偵法9条 武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない

 

「武偵という資格を取った君は、武偵法が適用されてしまう。中学生で資格を取れる生徒はほんのごく一部だ。流石と言うほかない。だが、そのせいで君自身がこの暗殺で力を出せない。だから俺が政府に特例として改定の手続きを試みることにした。その間だけでも教える側に回ってくれないだろうか」

 

烏間先生はまっすぐと俺の目を見ながら言う。

 

「速水さんに聞いたんだが、君は放課後いつも彼女と居残り訓練しているらしいな。彼女の成長ぶりはとても凄まじい。先生としてこんなことを頼むのは非常に情けない話だが、どうか、お願いしたい」

 

「・・・」

 

俺は、黙ってしまう。

 

「もちろん、無理なら断ってくれて構わない。頼んでいる方がおかしいというのは承知の上だ。今日の勝負のようにな」

 

何秒か沈黙が流れる。俺は迷っていた。俺なんかが教えていいものかと。

考え、結論を出す。

 

「烏間先生。確かに俺は凛香に教えていますが、それは強引に頼まれたからです。もし公式に俺が教えてしまったら、俺と烏間先生の関係や、他の生徒との間に亀裂が入ってしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたいです」

 

これは、俺が嫌だとかそういう話ではない。

俺たちはあくまで先生と生徒だ。武偵法があるからと言って優遇されるのは違う気がする。仮にもし俺が教える側に回ったらもちろん全力でするつもりだが、他の生徒から見れば違うのだ。

こうやって先生に頭を下げて頼まれているのでさえ、本当は見られたら危うい。

 

「何より、俺なんかが何も教えれないほど、烏間先生の指導は凄いと思います。学ぶことが多いです。烏間先生が教えている限り・・・この暗殺は完遂できると思います。なので、これは俺からのお願いです」

 

俺はこの先生のようにまっすぐと見据え、頭を下げる

 

「これからもどうかご指導のほど、よろしくお願いします」

 

そう言われた烏間先生は驚いた表情を見せ・・・フッと笑って立ち上がった。

なにかが解決した、そんな顔だ。

 

「分かった。これからもビシバシと鍛えさせてもらう。それと・・・」

 

何故か急に歯切れが悪くなり何か言いずらそうな様子を見せる烏間先生。

 

「どうしたんですか?」

 

「・・・昨日のこともそうだが礼を言う。ありがとな、遠山君」

 

昨日とは、ちょうどこの場で俺が言った言葉のことだろう。

 

『E組の体育教師は烏間先生、あなたしかいないと思います』

 

礼を言われた俺は嬉しくなってしまい、思わず笑ってしまう。

―――このクラスは強くなるぞーーー

そう確信せざるを得なかったのであった。

 



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